妖精の尻尾と水の姫 (さいはて)
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序章 運命の分岐点
プロローグ


2021/09/04 本文内容を大幅に修正しました。


「けほ、けほっ……ッは」

 

 ぱちぱちと視界が明滅する。肺がじくじくと焼けるように痛んで、上手く呼吸が出来ない。

 きゅうと喉が軋んで、ああ、また吐いてしまった。色褪せたシーツの上に真っ赤な血がベとりと付着したのを横目に見ながら、また咳を一つこぼす。注射をされた後は毎回こうだ。

 私は水の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)だから溺れたことは無いけれど、きっと溺れたらこんな感じなんだろうなあ。痛い波が襲ってきて、苦しい。

 『あくあまりん』は助けを呼んだら誰かが助けに来てくれるって言ってたけど、結局誰も助けに来てはくれなかった。

 寂しい、苦しい、痛い、イタイ、いたい、逞帙>、繧、繧ソ繧、、縺?◆縺。

 

 だれか、たすけて。わたしがわたしじゃなくなるまえに。

 

 

「……この子は」

「あの事件の唯一の生き残りです。評議会からの通達で、身柄は妖精の尻尾(フェアリーテイル)に一任すると」

「分かった。彼女の身柄は責任をもって妖精の尻尾(フェアリーテイル)が預かろう。評議会にもそう伝えてくれ」

「ハッ! ではこれにて失礼します」

「うむ、ご苦労じゃった」

 

 

 気が付いたら知らない場所に居た。ここはどこだろうか。

 ふわふわの白いベッド、動かしやすい身体。もしかしたらここが『あくあまりん』が言っていた天国かもしれない。

 そっと身体を起こして、地面に降りる。

 と同時に小っちゃいおじいさんと綺麗な女の人が私の方に駆け寄ってきた。何だかよく分からないけれど、真っ直ぐな目をしているこの人たちは多分良い人だ。

 綺麗な女の人は私の身体を治療してくれたらしい。お礼を言うために声を出そうとしたけれど出るのはひゅうひゅうと空気の抜ける音ばかり。綺麗な女の人――『ぽーりゅしか』さん曰く、喉を痛めている所為だから、無理に出さない方がいいらしい。

 

 これからも定期的にここに来ることを約束して、外に出た。小っちゃいおじいさん――『まかろふ』さんは私をどこかに連れて行きたいらしい。

 『まかろふ』さんは私の車いすをぐんぐん押して往来を進む。

 段々と人が多くなってくる。みんな同じ場所に向かっているようだ。『まかろふ』さんが唐突に口を開く。

 

「妖精には尻尾があるのかないのか……」

 

 私が暇にしているのを見兼ねてのことなのかと思ったが、どうやら違うらしい。特にすることも無いので大人しく耳を傾ける。

 

「もっとも本当にいるのかどうかさえ誰にもわからない。だからこそ永遠の謎…永遠の冒険」

 

 『まかろふ』さんはある建物――さっきみんなが向かっていた場所の前で立ち止まり、扉を開けながらこう告げた。

 

「ようこそ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ!」

 

 建物の中は暖かい騒音とお酒の匂い、それから人々の笑顔で満ちている。

 

「エリス。今日からここが家であり、ここにいるみんなが家族じゃ」

 

 この日、私の運命は急速に回り始めた。




こんな駄文ですが、どうぞよろしくお願いします。

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第一章 鉄の森(アイゼンヴァルト)
邂逅


鉄の森編開始。閲覧は自己責任。

2021/09/04 内容を一部変更しました


 今日も今日とてがやがやと賑やかな妖精の尻尾(フェアリーテイル)ギルド内。

 金髪巨乳の美少女――ルーシィは、銀髪巨乳の美人――ミラジェーンに魔法界の組織図についての説明を受けていた。

 

「知らなかったなぁー。ギルド同士のつながりがあったなんて」

「ギルド同士の連携は大切なのよ。これをおそまつにしてると…ね」

 

 ミラジェーンが意味深にほほ笑む。

 

「?」

黒い奴等が来るぞォォォ

「ひいいいっ!」

 

 ナツがルーシィを脅かす。

 ハッピーがルーシィにビリィーという愛称をつけるのを微笑ましく見ていたミラジェーンはルーシィに忠告する。

 

「でも黒い奴らは本当にいるのよ。連盟に属さないギルドを闇ギルドって呼んでるの」

「あいつ等法律無視だからおっかねーんだ」

 

 ナツが笑いながら言う。

 

「じゃあいつかアンタにもスカウト来そうね」

 

 ナツもよく器物損壊罪を犯しているので人のことは言えない。このギルド実は闇ギルドなんじゃないかと思ったルーシィだった。

 

「つーか早く仕事選べよ」

「今度はルーシィの番だよ」

「チームなんて解消に決まってるでしょ。金髪の女だったら誰でもよかったんだから」

 

 ナツがきょとんとする。

 

「何言ってんだ……その通りだ」

「ほら!」

「でもルーシィを選んだんだ。いい奴だから」

 

 ニコニコと満面の笑みを浮かべてそう言うナツ。

 ルーシィはナツをちょっとだけ見直した。

 

 

 

 

 

「なんだと、てめぇ」

「やんのか、てめぇ」

「「おらぁっ」」

 

 ナツとグレイは相変わらず喧嘩をしていた。

 その様子を呆れながら見つめるルーシィ。

 

 すると、さっきギルドを出て行ったはずのロキが戻ってきた。

 

「ナツ! グレイ! マズイぞ!」

「「あ?」」

エルザが帰ってきた!あとエリスちゃんとメアちゃんも」

「「は!?」」

 

 直後、ギルドが揺れる。

 ギルドに入ってきたのはでかい角を抱えた赤い髪の女性だ。その後ろに黒髪の少女とハッピーに似た桃色の猫がいる。

 

「今戻った。総長(マスター)はおられるか?」

「お帰りなさい! 総長(マスター)は定例会よ」

「そうか」

 

 急にギルドの空気が緊張に満ちる。

 その変化に驚きつつも、ルーシィは辺りを傍観することにした。

 赤髪の女性がみんなに説教をしている。風紀委員か何かなんだろうか。

 

「(そういえばさっきの黒髪の女の子と桃色の猫は何処に――)」

 

「あなた、新しい人?」

「……ッ!?」

 

 女の子は気配もなく後ろにいた。

 

「ほら~びっくりしてるじゃん。ちゃんと謝った方がいいよ?」

「ごめん。…怒った?」

「ぁ、いいえ。ちょっと吃驚しただけです。初めまして、最近ギルドに入ったルーシィです」

「そう、よろしく」

「初めまして、ボクはメア! こっちは相棒のエリス。ちょっと話すのが苦手なんだけど悪い子じゃないんだ。よろしくね!」

「エリスさんにメアさんですね! よろしくお願いします」

「敬語、いらない」

「え、あ、じゃあ、よろしくね、エリス!」

 

 ルーシィはエリスの存外冷たい手を握って握手をした。

 

「『るーしぃ』、瞳、綺麗」

「えっへへ、照れるなあ」

 

 急に瞳をほめられルーシィは照れる。

 母譲りの瞳はルーシィの自慢だ。ルーシィはエリスの評価を『可愛い子』から『可愛くていい子』に上方修正した。

 

 ふと、ナツは何をしているのかが気になりそちらを見る。

 そこには――さっきまで喧嘩していたグレイと仲良く肩を組んでいる姿があった。

 目の前ではエルザが仲良さそうな姿を見て満足そうにうなずいている。

 ルーシィは思わず二度見した。

 

「ええ!? ナツとグレイが肩組んでる!?」

「ナツとグレイは昔エルザにボコボコにされたことがあるんだよね~。それからというもの、エルザの目の前で喧嘩してると物理的に止められるからああやって仲良くしてるんだよ」

「え、エルザってあの妖精女王(ティターニア)のエルザ・スカーレット!?」

「知ってる、の?」

「もちろん! 『かっこいい女性魔導士ランキング』に載ってた人だよね! えー、かっこいいー! …ん? もしかしてエリスって、水姫(マーメイド)のエリス・アクアリウム?」

「そう、だけど」

 

 エリスが答える。メアの胸中では不安が渦巻いていた。

 というのも、水姫(マーメイド)の異名を聞いた瞬間に、自分より凄い人だと勝手に決めつけて――まあ、実際そうなのだが――離れていく輩がいるのである。

 友達になりたいのに肩書だけで勝手に敬遠されて悲しむエリスをメアは何度も見てきた。

 

 固唾をのんでルーシィの反応を待ち構える。

 

「え、すごーい!! 今週の週刊ソーサラ―『ミステリアスな女の子ランキング』1位だったあの『水姫(マーメイド)』だったなんて! どっかで見たことある顔だなって思ってたんだ~」

 

 ルーシィはエリスに綺麗と褒められたその瞳をキラキラと輝かせながら尊敬を彼女に向けていた。

 メアは目を瞠る。そして、期待した。ルーシィならばもしかしたらエリスの心を元に戻せるかもしれない。

 『()()()()』でボロボロに傷ついたままの彼女の心は直ぐに自分を犠牲にする。

 自分の心情はひた隠しにするし、辛い事や苦しい事があっても何も言わないのだ。

 

 メアは自分ではエリスの心を直すことはできないと気付いていた。

 メアとエリスは距離が近い。近すぎるため些細なことで相手の心情を理解して補ってしまう。

 そのせいでエリスが周りに助けを求める機会を奪っているのではないか、とメアはいつも考えていた。

 だが、メアが気づかなければエリスはきっと死んでしまう。

 

 ルーシィなら、先月評議会に聖十大魔道授与を検討されたというフィオーレ中に駆け巡った大ニュースを知らない世間知らずな彼女なら、

 

「『るーしぃ』も、ムキムキ傭兵ゴリラ、2体倒した、って聞いた」

「あはは、それ全部ナツだよ」

 

 メアの嫉妬に気づき、こちらを気づかわしげに見る彼女なら、と期待した。

 

「改めてこれからよろしく、にゃ~」

「うん! よろしくね!」

 

 わざとらしく鳴いて、顔を見る。その曇りなき眼をみて、これはエリスが初対面で気に入るわけだな、と感じた。




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