第二次銀河内戦 (Eitoku Inobe)
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帝国の進撃
戦いの鐘は鳴り響いて


-平和は今日崩れ去った-


昔はもっと長く平和が築かれていた。

 

100年、1,000年。

 

今となって憧れすら感じる程だ。

 

 

人は戦い過ぎた。

 

人は求め過ぎた。

 

人は争い過ぎた。

 

人は失い過ぎた。

 

 

秩序が必要だ。

 

かつてと同じくらいの秩序が。

 

新共和国”を名乗るテロリストの殺戮者どもでは不可能だ。

 

やはり“帝国”ないと。

 

それに連中には貸しが多すぎる。

 

少し返してもらわないと。

 

痛みと共に。

 

この名前も変えてしまおう。

 

Imperial Remnant(残存帝国)などと言う名前はもうやめだ。

 

新しき過去から数えて“()()()()()()”が誕生する。

 

今までのどの帝国よりも強く、敗北など知らない程の帝国にならねば。

 

必要であるなら私はいくらでも言葉を振りかざそう。

 

昔のようにブラスター・ライフルを手に持ちあの泥まみれの戦場で戦おう。

 

命すら捧げよう。

 

我々は立ち上がる。

 

屈辱はほんの一瞬で、立ち上がるバネにすればいい。

 

その最初の一歩である言葉を今放とう。

 

-首都を取り戻すべく我々は“コルサント臨時政府”に宣戦布告する-

 

歓声と共に蘇った強大な艦隊が宇宙を埋め尽くす。

 

ここからスタートだ。

 

序章を告げる言葉が銀河中の誰にも気付かれず響き渡った。

 

 

 

 

-コルスカ宙域 コルサント星系 コルサント-

銀河共和国”、“第一銀河帝国”の首都だった惑星は今もなおこうして大都市の光を放っていた。

 

今では首都としての役割は奪われ過去の栄光だけが残る哀れな惑星になってしまった。

 

経済的に困窮し市街地では平然と犯罪が行われ治安も悪くなった。

 

更には至る所に新共和国の監視の目が光っており政治的にももはやゆっくりと朽ちていくだけだった。

 

だが帝国にとっては今でもこの地は聖地なのだ。

 

栄光の首都でありその輝きはまだ多くの者の目に焼き付いている。

 

だからこそ彼らは再び来た。

 

大軍を従え聖地を取り戻す為に。

 

ハイパースペースから帝国軍の大艦隊が出現したのだ。

 

 

 

最初にその一報を聞いたのはコルサント本国防衛艦隊の旗艦“ベネフィット”からだった。

 

旧共和国から続くこの防衛艦隊は銀河協定後臨時政府の管轄下へと入り帝国とは切り離された。

 

だが使用している殆どの艦船は帝国のものだ。

 

三十六隻近くあるインペリアルⅡ級スター・デストロイヤーがその表れだろう。

 

尤も熱心な将校からしたらこのインペリアル級が新共和国の傀儡として戦わされる光景は屈辱以外の何者でもないだろうが。

 

当然中には違うものもあった。

 

特に旗艦“ベネフィット”がそうだ。

 

この艦は新共和国より秘密裏に配備されたスターホーク級バトルシップ・マークⅠだ。

 

インペリアル級よりも強力で正にバトルシップという名が相応しい。

 

帝国の軍備増強を受けてそれに対抗する為新共和国の支援の一環としてこの艦は配備された。

 

他にもCR90コルベットEF76ネビュロンBエスコート・フリゲートがそうだ。

 

「敵艦多数接近!インペリアル級と思われます!」

 

平常心を失ったブリッジの下士官は報告した。

 

「インペリアル級二十七隻確認、これは…」

 

今度は別の士官が青ざめた。

 

報告が済むまでもなくブリッジの全員が理由を理解した。

 

敵艦隊の中央にインペリアル級より遥かに巨大な物体が出現する。

 

「バカな…あの(ふね)は…()()()()()()()()()()()()()()()()は全滅したはずだ!」

 

指揮官であるリヴァー・サリマ司令官は声を荒げた。

 

目の前には帝国最大の艦種であるエグゼクター級スター・ドレッドノートが確かに存在していたのだ。

 

全長が19キロメートルもある超弩級戦艦を目にすれば誰だって動揺したり繊維を喪失するだろう。

 

姿だけで敵を屈服させるこの艦はその姿通りの破壊力を示した。

 

ベネフィットと周囲の艦が黄緑色のレーザーに直撃し爆発を起こす。

 

ブリッジに揺れが生じた。

 

「…被害報告!」

 

「コルベット二隻轟沈、フリゲート艦三隻中破、クルーザー二隻中破!」

 

一瞬の砲撃であっという間に戦列が崩された。

 

敵はエグゼクター級を中心に楔形の突撃隊形を取っている。

 

インペリアル級とエグゼクター級の火力を尤も活かせる隊形だ。

 

この隊形の集中砲火は凄まじく並みの艦船なら偏向シールドを展開していても数分も持たないだろう。

 

「封鎖線を展開しろ!包囲を取れまばまだ勝機は…」

 

「ですが既に妨害電波の影響で新共和国にも周辺防衛軍にも救援は望めません!」

 

「孤立してしまったのか…」

 

サリマ司令官は絶望的な表情を浮かべた。

 

この艦隊の指揮権は自分の親族から長く受け継いで来た。

 

クローン戦争では連合軍の艦隊すら凌いだ。

 

しかし今はどうか。

 

兵の練度は低く、援軍は望めず、敵は強大だ。

 

絶望するのも無理はない。

 

だがそれでも彼は司令官としての職務を果たさなければならないのだ。

 

暗雲立ち込める中新たなる戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

 

 

 

つづく

 

 

 




ハーメルンオンリーのお話ですね(たぶん)
今後もぼちぼち投稿していくので暖かい目で見守ってやってくだせぇ


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コルサントの奪還

-争いの種に当事者は気づく事はない-


インペリアル級スター・デストロイヤー(ISD) アークセイバー-

フューラー・フォース親衛隊

 

帝国では亡き皇帝の栄誉を遵守し指導者をあくまで“()()()()”という位置付けにした。

 

そして通常の正規軍に位置付けられる帝国軍とは違い総統の直轄部隊、私兵軍的立場であるのがこの親衛隊だ。

 

初期は銀河協定で大幅に制限された軍事力の抜け道として設立されたのだが今では完全に独立した別の組織となっていた。

 

そしてこのインペリアルⅡ級スター・デストロイヤー“アークセイバー”は親衛隊宇宙軍の総旗艦であり主軸の第一親衛艦隊の旗艦も務めている。

 

Ⅱ級と言ってもこの艦は様々な点に改修を受けている。

 

例えば武装面で言えば砲塔が増やされミサイル発射管や魚雷発射管が設置された。

 

人員面でも大幅な改修が加えられた。

 

以前は運用に将校、下士官合わせて数万名が必要だったがオートメーション化が進みわずか数千人の人数でも艦を完璧に運用できるようになったのだ。

 

とは言え積載能力が衰えたわけではない。

 

今まで通りTIEシリーズ72機、ウォーカー数十機を搭載可能で無補給で3年も航行可能になった。

 

わずか数年で帝国は技術的にも大革新を果たしたのだ。

 

「中佐!シュタンデリス中佐!」

 

若い男の声がアークセイバーのハンガーベイに響いた。

 

広いハンガーベイのはずだがかなり声が響く。

 

尤も男の方はかなり声がデカいというせいでもあるのだが。

 

「なんだヴァリンヘルト中尉、指揮官の招集か?」

 

親衛隊特別の軍服を着たその青年“ジークハルト・シュタンデリス”中佐は帽子を弄りながら振り返った。

 

彼は来年で28歳だ。

 

一方こちらのもっと若い士官は“ニコラツ・ヴァリンヘルト”中尉。

 

年齢は20歳。

 

帝国アカデミーに入学したはいいが終戦で強制退学させられてしまい露頭に迷っていた所ジークハルトに拾われ親衛隊に入隊した。

 

「いえ、そろそろハイパースペースを抜けるので中佐には着替えていただこうかと」

 

「アーマーを上から着るだけだまだ時間はある、それより連隊の方は大丈夫なんだろうな?」

 

ジークハルトは第六親衛連隊と第二十一飛行大隊の直接的な指揮官だった。

 

地上と航空隊を2つも指揮しているなんておかしな話だが人手不足の帝国では、特に親衛隊ではよく見る光景だった。

 

「全員準備万端です、新しいアーマーを試せると喜んでいましたよ」

 

「そいつは結構だ、ウォーカーの方は?」

 

「ゼールメン曹長がいうには準備良好だと」

 

「それは結構、これで準備万端というわけだ」

 

「ついに反撃の時ですね」

 

ヴァリンヘルト中尉は感慨深そうに言った。

 

彼に取っては初めての戦闘だ、感慨深くなるのも無理はない。

 

「だが総統閣下が言ったようにこの戦いはまだ始まりに過ぎない、次なる戦いはまだ先にある」

 

「その為にも勝たねばなりませんね」

 

「そうだ中尉、そして生き残らねばならない…先の戦いで散って言った者達の為にもな」

 

ヴァリンヘルト中尉は深く頷いた。

 

長く話し込んでしまった。

 

ジークハルトはアーマーを取ってくる為にハンガーベイを後にした。

 

 

 

 

 

ハイパースペースから第一親衛艦隊が出現する頃既にコルサント本国防衛艦隊は壊滅しかかっていた。

 

見た所どうやら予定通り防衛艦隊の半数は“()()”したようだ。

 

流石帝国情報部は優秀だ。

 

結果陣形が崩壊しエグゼクター級“リーパー”を主軸とする陽動艦隊に隙を突かれてしまったという体だろう。

 

それでも組織的行動を取り応戦し続けているのだからやはり敵将も強者だ。

 

だがやはり陽動である為無意味な抵抗なのだが。

 

三十隻近くのインペリアル級がコルサントの大気圏に降下した。

 

防衛用のTIE/ln制宙スターファイターやTIE/sk大気圏用戦闘機、通称TIEストライカーが防衛のため出撃した。

 

インペリアル級も対空砲火を展開しつつTIE/INインターセプターやTIE/eb重スターファイターが応戦に出た。

 

TIEストライカーはともかくTIEファイターとTIEインターセプターやTIEブルートの性能差はかなり大きい。

 

練度も相まって防衛部隊のファイター隊は悉く撃破されてしまった。

 

他にも対空兵器やウォーカーが防戦しているが巨大なインペリアル級には意味をなさない。

 

ギリギリまで接近しインペリアル級はそれぞれウォーカーを接続したゴザンティ級クルーザーを発進させた。

 

文字通り封鎖され地上には猟犬のような部隊が放たれた。

 

もはや運命は決した。

 

 

 

 

 

ゴザンティ級の中にはジークハルトを乗せたAT-ATも含まれていた。

 

対空砲火を潜り抜けながらゆっくりとAT-ATを地上に近づける。

 

中々にスリル満点だ。

 

「ストライク・フォース、予定通りBルートでパレス区画を占拠する」

 

『ストライク2了解』

 

『ストライク3先行します』

 

地上に降り立った第六親衛連隊に所属するストライク・フォースのウォーカー群がゆっくりと進撃した。

 

兵士達が勇敢にも小火器を持ってこの巨大なウォーカーに立ち向かう。

 

放たれた弾丸はAT-ATの走行に傷一つ付けなかった。

 

「雑魚どもは無視しろ、なるべく最短距離で進むぞ」

 

『連隊長、前方のビル奥より敵軍のAT-ATです、距離は230』

 

「ストライク9は砲撃準備、ストライク2と私で攻撃を抑えておく、踏ん張れよパイロットども」

 

「もちろんです」

 

AT-ATパイロット達はレバーを引き機体を動かした。

 

正直AT-AT同士の戦いは勝率が五分五分と言った所だ。

 

「見えました前方210メートル地点、どうします中佐」

 

「なるべく首と頭の部分を狙え、一射目はストライク9からやれ」

 

『了解、よく狙えよ』

 

後続のウォーカーは砲撃体制へと移った。

 

敵のAT-ATがゆっくりと顔を出す。

 

後衛のストライク9が顎の重レーザー砲を発射する。

 

パイロットは腕がいい。

 

一撃で的に直撃を当て頭を吹き飛ばした。

 

「よしよくやった…もう一台出てきやがったか…」

 

撃破したAT-ATの煙の先からまた1機AT-ATが現れた。

 

思ったより所有しているウォーカーは多いのか。

 

「各機集中砲撃、なるべく外すなよ、市民がいる」

 

AT-AT特有の歩行音と共に5〜6機のAT-ATが重レーザー砲を放った。

 

反撃として敵のAT-ATも重レーザー砲を撃ち返してきたが焦ったせいか一発も当たらなかった。

 

逆にジークハルトの部隊は1〜2発ほど外してしまったが殆ど砲弾を的に当てた。

 

AT-AT全体から見れば小さなコックピット部分に直撃させられるなどかなりの腕前だ。

 

実際彼のストライク・フォースと第六親衛連隊は殆どが戦闘に参加した事のあり練度は高い。

 

「流石にもうないだろうな…」

 

『こちら先行部隊ストライク3、敵ウォーカーを2機撃破』

 

「恐らくそれで終わりだろう、ストライク3はそのまま先行部隊を展開して周辺を制圧しろ」

 

『了解!』

 

「我々も駆け足で向かうぞ」

 

通信を切るとジークハルトはウォーカーの速度を上げた。

 

AT-ATは最高時速60kphも出る為の程度の距離ならあと数分で着く。

 

見た目に反して意外と速いのだ。

 

ウォーカーを2機も撃破された敵兵はチリジリになって逃げ始めた。

 

「前方、ハインズマン大尉のストライク3です」

 

「既に地上砲塔は陥落しています」

 

『連隊長、ヴィアーズ元帥の本隊が旧連邦管区と司令本部を陥落させたと』

 

伝令役のAT-STから通信が届いた。

 

「早い…流石はあのブリザード・フォースの指揮官だ…我々も“()()()()()()()()()”を展開するぞ」

 

「了解」

 

パイロットの2人が機体のコンソールを操作し後部のハッチを解放する。

 

後続のAT-ATも同様にハッチが開かれた。

 

「ダーク・トルーパーの設定をキルモードへ」

 

ダーク・トルーパーというのは通常の生身の兵士ではない。

 

戦うためだけに生み出されたバトル・ドロイドなのだ。

 

全身を黒銀色で固めた恐ろしい殺戮兵器は背中のロケット・ブースターを起動し一斉にインペリアル・パレス目掛けて発進した。

 

こんな恐ろしいドロイドをキルモードで投入したのだからパレス内の兵士達はさぞ気の毒だろう。

 

10分後ダーク・トルーパーのコマンダーから『制圧完了』のメッセージが転送された。

 

その3分後コルサント臨時政府は完全に白旗を上げた。

 

 

 

 

 

-新共和国首都 ホズニアン・プライム 艦隊情報部本部-

臨時政府への襲撃と降伏をいち早く入手し議題に挙げたのは新共和国の元老院でもなく艦隊情報部だった。

 

新共和国元老院はもはや帝国を脅威と見ておらず完全に放置気味であった。

 

一部の議員は危険性を必死に訴えていたが殆ど議題にされず逆に『無意味に不安を煽るな』と非難される始末だった。

 

だが軍部は少なくともそうはいかない。

 

軍備縮小法でかつてよりも弱体化したとは言え国の危機にはいち早く対応しなくてはならない。

 

「中将!中将!!」

 

本部の廊下をタブレット片手に全力疾走する“ジェルマン・ジルディール”中尉は上官の階級を呼びながら走っていた。

 

他の士官からは明らかに不審な目で見られていたが。

 

「中将!中将ー!」

 

「おい止まれ!」

 

「危ないぞ中尉!」

 

中将の執務室を守る衛兵の士官2人に止められジェルマンはようやく一息つけた。

 

「至急…中将に…伝令を…」

 

「わかった中尉、今開ける」

 

パスコードを打つと分厚そうな扉は解除され開かれた。

 

息を整えると室内に入っていった。

 

「やけに急いでいたようだがどうしたのだ中尉?」

 

彼の上官である“ブリーズ・ストライン”中将はデスクでコンソールを打ちながらジェルマンに尋ねた。

 

ジェルマンはしっかり息を吸うとゆっくり話した。

 

彼自身未だ半信半疑なのだ。

 

「コルサントが…コルサント臨時政府が帝国軍に降伏しました、堕ちたんですコルサントは」

 

ジェルマンの報告を聞くとストライン中将は唸り声を上げ指を組んだ。

 

「やけに早いな…後1時間くらいは報告が後だと思っていたが…」

 

「スパイの報告によると我々が予測していたよりも帝国艦隊の戦力は大きかったそうです」

 

「具体的にはどのくらいだ?」

 

鋭い眼差しがジェルマンを貫いた。

 

彼は右手に持っていたタブレットを読み始めた。

 

「少なくともインペリアル級は五十隻以上、さらにはスーパー・スター・デストロイヤーも確認されたと」

 

「スーパー・スター・デストロイヤーだと…バカな、あれは全部内戦中に沈んだはずだ」

 

「となると新に建造したか…」

 

「いやそれは不可能だ、あれほどの超弩級艦は分割して造ったとしても必ず監視の目に引っ掛かる」

 

「では一体どこから…」

 

ストライン中将は記憶を掘り起こした。

 

「…一つだけ…心当たりがある」

 

不確かだが一番確証がデカい。

 

ならこの中尉に任せてみるとするか。

 

「中尉は至急クワットに飛んでもらえるか?」

 

「クワット…ですか?」

 

「ああ、スーパー・スター・デストロイヤーに関しては唯一心当たりがある」

 

ストライン中将の読みは正しかった。

 

しかし既に遅いのだ。

 

もう帝国側の準備は万端だ。

 

戦争は避けられない

 

 

つづく




投稿頻度がクソ早かったり薄鈍だったりしますが暖かい目で見てやってください()

(5作近く同時進行だもんなぁ)


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勝利の後

-遺産を食い潰す者は遺産を遺した者を愚弄するも同じである-


-帝国領 コルサント インペリアル・パレス-

かつて皇帝の住処であったインペリアル・パレスは帝国の奪還と共に今度は総統府と名を変え蘇った。

 

以前はジェダイの住処だったのだがもはやそれは過去の産物だろう。

 

誰もジェダイなど覚えていない。

 

確かに存在したとしてもただ銀河の裏切り者として片付けられた。

 

今日はコルサントが再び帝国の首都になった事を記念して総統が民衆の面前に出て演説をしていた。

 

計り知れぬ歓喜と熱狂がインペリアル・パレスの周りを包んでいた。

 

扇動者としての総統の技術では右に出る者はいなかった。

 

どんな相手であろうと演説が始まればその心を掴んでしまう。

 

それほど魔術めいた恐ろしさが総統の放つ言葉には存在していた。

 

当然後ろには帝国の高官達も並んでいた。

 

左側の最も総統に近い席に座っているのはマクシミリアン・ヴィアーズ大将軍。

 

帝国が勝利を収めたホスの戦いでの功労者であり現在の銀河帝国では一二を争うほど優秀な指揮官だ。

 

彼は長らく死んだものと思われていた。

 

何せ1年近くエンドアの戦いから音信不通だったのだから。

 

実際はエンドアに取り残された友軍を出来る限り救出し新共和国軍と幾度か戦闘しつつ彼の息子と共に故郷デノンへ戻っていた。

 

そこでヴィアーズ大将軍は帝国の敗北を聞いた。

 

その後帝国に帰還したヴィアーズ大将軍は完全に廃れた地上軍の元帥となった。

 

だが運気は巡ってきた。

 

代理総統の登場により帝国は今のような力を取り戻したのだ。

 

今回のコルサント戦では圧倒的な大勝利を収め元帥から大将軍に昇進した。

 

その隣に座っている男はケナー・ローリング大将軍。

 

彼も同じく大将軍でありエンドア戦後の混乱を生き延びていた。

 

エンドア戦後の帝国は指導者を失いそれぞれ軍将として分裂した。

 

ローリング大将軍もその一派を率いておりほぼ本流であったガリアス・ラックス元帥の一派と対立していた。

 

かつての仲間同士で争うなどおかしな話だが混乱時の帝国では仕方がなかった。

 

彼はアカデミーからの仲間であるヴァレント司令官と共にラックス元帥を暗殺しようとした。

 

だが結果は悲惨な結末に終わった。

 

ヴァレント司令官は返り討ちに合い逆に暗殺され、ローリング大将軍もしばらくは動けなくなった。

 

幸運と呼ぶべきかジャクーの戦いでラックス元帥の一派と彼は死亡しローリング大将軍は何とか帝国に帰属出来たのだ。

 

そしてその反対側にいるのはバロー・オイカン元帥。

 

彼はあのクローン戦争時代から旧共和国宇宙軍の士官として戦っていた。

 

帝国誕生後も支え続け彼はスター・デストロイヤーの艦長になりやがて提督になった。

 

エンドアでの敗北を聞いた彼は自分の艦隊を率い故郷ハンバリンでコルサントなどの防衛線を築いていた。

 

銀河協定後は艦隊を率い帝国に帰還。

 

帝国宇宙軍の長官となった。

 

オイカン元帥の隣、右側で最も総統近い席に座っている親衛隊の軍服を着たこの男はパウティール・シュメルケ上級大将。

 

親衛隊の最高司令官で第一親衛艦隊の指揮官でもあった。

 

彼の経歴は不明な点が多い。

 

帝国軍に在籍していた事は確かなのだが総統との接点などはまるで不明だ。

 

ただ一つ言える事は彼の采配に敗北はないという事だけだろう。

 

その能力を認められシュメルケ上級大将は親衛隊の中で一番最初に上級大将になった名誉ある人物だ。

 

そんな彼も総統の演説に耳を傾けていた。

 

「そう言えば親衛隊保安局長官が見えんぞ?」

 

「今頃牢屋でお楽しみタイムだ」

 

さらに背後の座席に座る評議員達がこそこそ話していた。

 

当然親衛隊にも不必要な虐殺や軍規に反する者を取り締まる為の保安局が存在していた。

 

その長官であるヴェラントール・ディールスの姿が見えないのだ。

 

帝国に内に属する者ならそれがどういう事か容易に検討がつく。

 

そうこうしていると代理総統の演説は終了し今までにないほどの感性が響いた。

 

「それでは国歌斉唱」

 

進行役の将校が控えている帝国お抱えの合唱団に合図を出した。

 

かつての帝国国歌はGlory of the Empire(帝国の栄光)だったが新帝国ではこれを変更した。

 

新たな新時代を促すその国歌は「忌まわしき日に別れを告げて」という題名だった。

 

歌詞の内容も栄光を称え不幸を呪い新時代への希望を載せていた。

 

後にコルサントの復活と呼ばれる一連の演説は第三銀河帝国にとってとても重要なものとなった。

 

 

 

 

 

-コルサント 第七収容所-

「ほら早く吐け、じゃないとお前の目ん玉は2つともサイボーグになるぞ」

 

メリケンサックで独房に捕まっている男を殴りながら件の親衛隊保安局長官ヴェラントール・ディールスは男を脅した。

 

「本当に知らない…だが…知ってそうな奴はいる…」

 

「じゃあ言ってみろどんな奴だ、運が良ければお前は解放されるかもしれんぞ」

 

ディールス長官は眼力で圧を掛けた。

 

疲れ切っているのか男はゆっくりとしか喋れなかった。

 

「帝国宰相…マス…アミダ…」

 

ディールス長官は控えさせた白い親衛隊保安局員の軍服を着た男と目を合わせた。

 

客観的な意見が欲しかったからだ。

 

そして保安局員は嘘はついていないという意味で頷いた。

 

読み取ったのかディールス長官はニヤリと笑い独房を出た。

 

「帝国宰相か、あり得そうだ」

 

「ですが流石にあのような尋問は出来ませんよ」

 

保安局員は付け加えた。

 

「なぁに尋問しなくたって宰相殿はもう限界だ、放っておけばベラベラ喋り出す、“()()()()()()()()()”までな」

 

皮肉と共に大宰相の今の状態を口に出した。

 

実際コルサント臨時政府の指導者であったマス・アミダの精神力はとうの昔に限界であった。

 

「よおフリシュタイン、こっちに来い」

 

ディールス長官は同じく保安局員で信頼の厚いフリシュタイン大佐を呼んだ。

 

フリシュタイン大佐は元々帝国保安局の将校であった為経験は大きい。

 

「お前はベック長官にも伝えておけ、詳細は後で伝える」

 

「承知しました」

 

そういうと保安局員は去って行った。

 

「彼奴の拷問はもうよろしいのですか?」

 

「ああ反応がつまらない上にもう吐きやがった」

 

「本当ですか?」

 

彼はディールス長官に尋ねた。

 

「やはりあのような小役人じゃあ知らないらしい、帝国宰相なら知ってると」

 

「なるほど、では処刑しますか?」

 

「いや独房から出してやれ、もう彼奴には何も出来ない」

 

「わかりました」

 

2人は歩いて行きエレベーター前まで到着した。

 

長官はエレベーターのスイッチを押すと運が良かったのかすぐに来た。

 

出来る限り時間を節約したいディールス長官にとってみれば好都合だった。

 

2人はエレベーターに乗り込み最上階へと向かった。

 

「喜べフリシュタイン、もしかしたらドレッドノートがもう一隻手に入るぞ」

 

「それは素晴らしい、以前海賊のクズどもからタッグ大将軍のアナイアレイターを取り返してこれでようやく3隻目ですね」

 

「出来ればエクリプスラヴェジャーも欲しかったんだがな、特にアービトレイターはモフパンディオンが憎くなる」

 

「ハハ、どうせならエグゼクターもですね、それもピエット元帥ごと」

 

「ああ彼は優秀な参謀だった、我々は失う者が…多過ぎた…」

 

「同感です」

 

2人はもの悲しい顔で天井を見上げた。

 

雑談も束の間もう目的地の階層へ着いてしまった。

 

この監獄は上に行くほど独房の設備が良くなって来る。

 

そしてマス・アミダが監禁されている独房は最も質の良い部屋だった。

 

アミダがいる独房にはすぐについた。

 

40秒も掛からなかったと思う。

 

2人は真っ直ぐアミダの牢屋を目指して歩いた。

 

「私だ衛兵、大宰相と話がしたい、2人が出て来るまで絶対に誰も入れるな」

 

衛兵は頷きドアのロックを解除した。

 

2人はそのまま真っ直ぐ室内に入っていった。

 

「やあ宰相殿、ご機嫌はどうですか?」

 

「もう殺してくれ…私はもう不必要だ…」

 

帝国誕生の立役者は虚な表情で2人を見つめた。

 

肌も荒れ目の下には深いクマが出来ている。

 

元々肌は青かったが肌艶は悪く色も良くなかった。

 

見るからに心も身体も限界だ。

 

「いけませんな大宰相、そんなこと言っちゃ、あなたにはまだ役立つ事がある」

 

腰を低くするとディールス長官は大宰相に耳打ちをした。

 

「コルサント秘密の基地、大艦隊、大量の兵器群、そしてスター・ドレッドノート」

 

最初の一文字を聞いた瞬間からアミダはギクッとした。

 

その様子をまじまじ見ていたディールス長官は邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「あるんでしょう?場所を話してくれるととても助かる」

 

「だっだが…」

 

「話せばこんな所ともおさらばだ、貴方は解放される、悪くないでしょう?」

 

アミダは狂った笑い声を発した。

 

狂ってしまったか。

 

「話すさ…コルサントの氷山地帯…ポイントZ-EX地区…そこにある」

 

「ありがとう帝国の立役者よ、それでは」

 

2人は牢屋を後にした。

 

邪悪な微笑みを浮かべて。

 

 

 

-惑星クワット クワット・ドライブ・ヤード社資料室-

ジェルマンはここで数名の仲間と共にストライン中将から受けたスーパー・スター・デストロイヤーの情報を探っていた。

 

今のところ順調とは言えない。

 

資料にはそういった類のものは載っておらず可能性もある物は全部データが改竄されていた。

 

しかもかなり昔に。

 

おかげで復旧は難しそうだ。

 

ジェルマンは経過報告をする為に腕に付けたブレスレット型のコムリンクを開いた。

 

「中将、今の所は何もありません」

 

『そうか…やはりデータは改竄されているか』

 

「ええ、そもそもスター・ドレッドノート関連の資料自体が少ないです、別のマンデイター級などもほとんどありませんし」

 

『クワット社には今一度問い詰める必要があるな…』

 

それが出来る国家であったらどれほどいいものか。

 

ジェルマンはこっそり心の中でそう思った。

 

いくら下っ端の士官とはいえそれくらい世の中の事は知っている。

 

新共和国の生まれながらの腐れ具合自分で仕えておいて何だが酷いものだ。

 

中将もそれは把握している事だろう。

 

「その為にも確定的となる資料をもう一度探してみます」

 

『頼んだぞ中尉、それでは』

 

コムリンクの前で敬礼をすると通信は切れた。

 

建前とは言え中将にあんな事を言ってしまった。

 

正直これ以上新たな資料が見つかるとは思えない。

 

だが任務なのだからやるしかない。

 

何度目か分からないため息を胸に仕舞い込むと再び資料探しに戻った。

 

 

 

 

 

クワット全体の会長であるヴァティオン・クワットは窓の外から工業都市を見つけた。

 

新共和国が誕生し帝国が敗北して以降クワット社も他の軍事企業同様に厳しい状況に追い詰められた。

 

だが帝国の復活と“()()()()()()()”のお陰でクワット社にも再びチャンスが巡ってきた。

 

あのエグゼクター級をくれてやったのもその為だ。

 

もっとクワット社を、この惑星を繁栄させなければならない。

 

それは会社と惑星の指導者である責任だ。

 

その為には帝国に勝ってもらわなければ。

 

「失礼します、会見場の用意が出来ました」

 

「そうか、では行くとしようか」

 

役員の方に振り向きヴァティオンはスピーチの原稿をもって歩き出した。

 

彼は完全に帝国側に付く事をコルサント戦から決めてた。

 

あのリーパーを譲渡した時からそう言う約束だった。

 

「…そうだ、あの新共和国の犬は始末書しといてくれ」

 

ヴァティオンは役員に告げた。

 

新共和国の犬。

 

確かジェルマンとか言ったか。

 

可哀想だが新共和国はお断りだ。

 

ヴァティオンは無表情で会見場に向かった。

 

 

 

 

-コルサント Z-EX地区-

コルサントの中でも特に何もないこの場所に帝国軍、親衛隊の高官達は集まっていた。

 

地上軍からはローリング大将軍、ヴィアーズ大将軍にその部下のアイガー准将とコヴェル少将、アンダール・ロット将軍。

 

宇宙軍からはオイカン元帥にクリス・パワー提督、タイタス・クレヴ少将、キラヌー中将。

 

帝国保安局のアレシア・ベック長官まで居た。

 

親衛隊からはシュメルケ上級大将にクリープル・モーデルゲン上級大将、フェリー・シュテッツ上級大将。

 

他にもディールス長官や国防大臣のヴィルヘルム・ブロンズベルクもいた。

 

「本当にあったのか…コルサントの秘密施設が」

 

「ああ、アミダが言った通りだ、彼自身中身は知らなかったらしいがな」

 

ディールス長官はブロンズベルク大臣に付け加えた。

 

外から見ればただの無価値な場所だ。

 

だが中身は巨大な秘密基地だった。

 

「この奥には一体何が…」

 

パワー提督は目の前の大きな扉を見つめた。

 

「今技術士官に解かせている…まあすぐに開くだろう」

 

言った瞬間扉は大きな音を立てて開いた。

 

あまりのタイミングの良さにディールス長官はニヤニヤしていた。

 

よく整備されているのか扉はすぐに開いた。

 

「この先はなんだ?」

 

「メインコンピュータによると艦船の造船所と停泊所だとか」

 

「…行ってみるか」

 

ブロンズベルク大臣は誰よりも先に奥へ入った。

 

続いてヴィアーズ大将軍や他の高官達も入った。

 

そして入室した瞬間彼らは言葉を失った。

 

それ程の物が彼らの瞳に映っていた。

 

「嘘だ…いや噂には聞いていたがほんとに…」

 

「ああほんとにあった…幻なんかじゃない…」

 

「艦名は…」

 

オイカン元帥はど真ん中に佇む超弩級戦艦の名前を聞いた。

 

「…ルサンキア、沈んだと思っていた幻の十四隻のエグゼクター級だ」

 

エグゼクター級スター・ドレッドノート。

 

この艦はネームシップのエグゼクターやジャクーの戦いで沈んだラヴェジャーなど含めて十三隻存在していた。

 

しかし殆どのエグゼクター級は先の銀河内戦で殆ど失われてしまった。

 

リーパーやアナイアレイターなどはほぼ奇跡的に生き残っていた。

 

このルサンキアもそうだ。

 

「フリシュタイン奥も見て来い、まだ何かあるかもしれん」

 

「わかりました、お前達一個分隊は私に続け」

 

「こいつは動かせるのか?」

 

「多分外装がこんなんだから大丈夫だろう、最悪バラして資源にすればいい」

 

ブロンズベルク大臣とディールス長官は会話を交わした。

 

「これで三隻か…」

 

「この艦は親衛隊に回そう」

 

「そうしてくれると助かる、我が艦隊もまだ戦力不足なのでな」

 

シュメルケ上級大将はルサンキアを見つめながら話した。

 

「ひとまず親衛隊を動員しよううごかすにしても人は必要だ」

 

「親衛隊?待ってくれ大臣、なぜ親衛隊なんだ」

 

その言葉にローリング大将軍は反応し噛み付いた。

 

帝国軍の一部将兵は親衛隊の存在をあまり快く思っていない。

 

大半はぽっと出の連中がなぜ偉そうにしているのだとか対抗意識や自尊心を傷つけられたからであろう。

 

一部の将校はその暴走も指摘していた。

 

「正規軍でも良いだろ、そうだろうオイカン元帥」

 

「一応集めは出来るが…」

 

「出来る限り隠密に動かしたい、正規軍の方は恐らく動向を新共和国のスパイが監視している」

 

「俺の部下達が信用できないっていうのか?」

 

ローリング大将軍は不機嫌の一歩手前まで来ていた。

 

大将軍クラスの将校を蔑ろに出来ないのでブロンズベルク大臣もディールス長官も罰の悪い表情を浮かべていた。

 

他の将校は完全に関わらないようにしていた。

 

「そうではないさ、正規軍は総統も我々も信頼を置いている、ただこの艦は親衛隊に預ける、だから正規軍よりも親衛隊の方が望ましい」

 

「貴重なドレッドノートを親衛隊に割くのか?何のために」

 

「これからの戦いは正規軍だけじゃ勝てない、その為にも親衛隊の強化が必要なのだ」

 

「ハァ…皇帝陛下が生きていたらな…じゃあ私は正規軍強化に戻らせて頂くよ、さようなら!」

 

ローリング大将軍は部下を2人引き連れ早々に帰って行ってしまった。

 

国防大臣も保安局長官も他の将校も皆苦笑を浮かべていた。

 

皆彼のことは嫌いではないし親衛隊嫌いであってもしっかり命令に従ってくれるのだからこうするしかなかった。

 

おかげでローリング大将軍はこの後の発見を見逃してしまった。

 

フリシュタイン大佐と一個分隊が発見した更なる宝、インペリアル級の大艦隊と大量の地上兵器を。

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

その頃ジェルマンは逃げていた。

 

彼がスーパー・スター・デストロイヤーについて調べている頃この惑星政府は帝国へ転向した。

 

つまりクワットは再び銀河帝国領となったのだ。

 

しかもクワット政府は造船所の攻撃などを例題に上げ新共和国を痛烈に非難した。

 

当然そんなクワットに新共和国の軍服を着て情報を調べている将校がいたらどうなるか分かるだろう。

 

拘束され拷問まがいの尋問を受ける事となる。

 

実際クワット側の対応はもっとひどいものだった。

 

拘束どころか最初から存在を揉み消そうと暗殺に打って出たのだ。

 

そのせいでジェルマンは仲間数名と乗ってきた輸送機を失った。

 

命からがらクワット社を抜け出せたが追っ手は今も彼を探しているだろう。

 

クワットの大使館を目指そうにも恐らく封鎖済みだ。

 

全員拘束されているに違い無い。

 

「何とか船を…見つけないと…」

 

ブラスターの弾丸は残り数発しかない。

 

しかも毒ガスを途中で放出され少し吸ってしまったのか体が痺れる。

 

満身創痍といった状態だ。

 

だが生き延びねば。

 

「通信は封鎖され援軍は呼べない…呼べたとしても援軍なんて…」

 

いけない。

 

物事を後ろ向きに考えては助かる命も助からない。

 

ともかくこの星を脱出する為に行動を起こさねば。

 

物陰から飛び出た瞬間大声が響いた。

 

「いたぞ奴だ!」

 

クワットの警官数名がジェルマンにブラスターの弾丸を浴びせかけた。

 

何とか寸前で反撃し数名倒す事に成功した。

 

だがおかげで弾丸は残り一発となってしまった。

 

「クソっ!」

 

「追え!」

 

仕方なくジェルマンは再び走った。

 

意識が朦朧としかけているがそれでも走るしかなかった。

 

何とか警官達を巻いたと思った瞬間物陰から人の腕が飛び出した。

 

ジェルマンは首を掴まれこめかみの部分に銃口のようなものを向けられてしまった。

 

ここまでか。

 

彼はブラスター・ピストルを捨て降伏のポーズを取る。

 

「ジェルマン・ジルディールだな?」

 

その男の声は彼のフルネームを言い当てた。

 

「何で僕のフルネームを…」

 

「それは俺がお前と同じだからだ」

 

「同じ…?」

 

ジェルマンは首を傾げた。

 

この男が敵ではない事は分かったが同じとはどういう事なのだろうか。

 

男はジェルマンを離すと警官と同じヘルメットを脱いだ。

 

ジョーレン・バスチル、艦隊情報部のスパイだ」

 

彼は素顔を見せジェルマンに名前を告げた。

 

思いがけない味方にジェルマンは困惑の表情を浮かべていた。

 

 

つづく




いやぁデータ消えた時はどうなるかと思いましたで(絶叫)
一応3日連続で投稿したし次はお休みで…


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新世界の緊張

-民主主義の砦はすでに朽ち欠けていた-


-コルサント 親衛隊本部-

親衛隊の本部はかつてのCOMPNORアーコロージーの隣に位置付けられた。

 

アーコロージーには以前のように保安局、情報部、親衛隊上層部、親衛隊保安局、親衛隊情報部が入っていた。

 

ジークハルトと彼の麾下連隊の1/3はこの本部に移動した。

 

「それにしてもコルサントにお引越しとは…うちの連隊も連隊長のご家族もびっくりだ」

 

彼の親友であり第六親衛連隊の副隊長であるフリーツ・アデルハイン少佐はカフェテリアでカフを飲みながらふと漏らした。

 

ジークハルトの方はブラック・スパイア・ブリューを飲んでいた。

 

「ああ…そろそろだな…」

 

「ちゃんと休暇は取ってありますよね中佐」

 

「当たり前だ中尉、戦勝休暇という事でまあいいだろう」

 

「仕事は任せといてくれ」

 

「助かるよ」

 

2人の信頼の大きさをヴァリンヘルト中尉はソーダをちびちび飲みながら見つめていた。

 

すると誰かが中尉の肩を掴んだ。

 

「よお連隊の皆さん、ティータイムか?」

 

「ハイネクロイツ…パイロットスーツの方がキマって見えるよ」

 

「褒め言葉として受け取っておきますよ」

 

見るからに大きいこの男はランドルフ・ハイネクロイツ少佐。

 

第二十一飛行大隊の副隊長でありシュワルツ中隊の中隊長でもあった。

 

アカデミーを少尉で卒業した彼はスカリフ軌道上のシールドゲートに配属になった。

 

そこで彼はスカリフの戦いという歴史上重要な意味を持つ戦闘が初戦となった。

 

孤立無援の中ハイネクロイツは己の機体を操り3機のXウィングと1機のYウィングを撃破した。

 

その後母艦であるシールドゲートが破壊されてしまい彼は4時間ほど寒く孤独なTIEファイターの中で過ごした。

 

救援は来たがほとんどが反乱軍を追う為に去って行ってしまい結局救出されたのは戦闘が勃発してから4時間後になってしまった。

 

だがここでの熾烈な戦いが後のハイネクロイツにとって重要な意味を成した。

 

その後マコ=タ戦、ホス戦後の追撃戦、エンドア戦、フォンドア戦、ガリタン戦などを戦い抜いた。

 

結果彼は少佐となり撃墜スコア33機という戦果を残した。

 

そして親衛隊に移籍し親衛隊のTIEパイロットという職を手にれたのだ。

 

「…そろそろだな」

 

「何だ連隊長閣下は用事でもあるのか」

 

「知らないのか?ほらユーリアが…」

 

「あぁ…ふーん…久しぶりの時間楽しめよ連隊長」

 

理由を察するとハイネクロイツ少佐はニヤニヤ笑っていた。

 

ヴァリンヘルト中尉も何を思ったのか同じように笑みを浮かべていた。

 

アデルハインは苦笑を浮かべていたが。

 

「それじゃあ行って来る」

 

 

 

-コルサント宇宙港-

一隻のテイランダー・シャトルが宇宙港のドックに入った。

 

乗客のほとんどはコルサントへの移住者だった。

 

以前は移住者よりも旅行客が多かったのだが銀河内戦、帝国の敗北後は減少傾向にあった。

 

治安の悪化や惑星内で勃発した内戦が主な理由だろう。

 

実際の所あのまま臨時政府に任せていたら今頃コルサントは見る影もなかったはずだ。

 

ある種復活した新たな帝国に救われた事となる。

 

『間も無く本船はドックに入船します、お荷物のお忘れなきようお願い致します』

 

ドロイドの声が船内に響き乗客たちはそれぞれ荷物を持ちシートベルトを外し始めた。

 

「お母さん、今日から僕たちここに住むんだよね?」

 

「そうよ、きっとコルサントはいい所よ」

 

背が高く美しい顔の母親はそう息子を宥めた。

 

少年はワクワクしながらずっと窓の外を眺めていた。

 

そんな時間も瞬く間に過ぎシャトルはドックに入船した。

 

「さあ行きましょう」

 

母親は手を繋ぐとシャトルを降りた。

 

他にも多くの乗客が一斉にシャトルから降りた。

 

その中で母親と少年はキョロキョロ誰かを探していた。

 

「あっお父さんだ!」

 

探していた相手はすぐに見つかったようだ。

 

何せ親衛隊の軍服を着ており誰よりも目立っていたからだ。

 

「マイン!元気にしていたか?」

 

「うん!」

 

少年マインラート・シュタンデリスはシャトル内では見せなかった眩しい笑顔を父ジークハルトに向けた。

 

そんな様子を彼女の妻でありマインラートの母親であるユーリア・フリズベン・シュタンデリスは微笑ましい気持ちで見つめていた。

 

「お元気そうで何よりですわ貴方」

 

「必死ぶりだユーリア、君とマインこそなんともなさそうで嬉しいよ」

 

「今日からお父さんと一緒に暮らせるんだよね?」

 

「そうだよ、明日も明後日も休暇を取っているから一緒だ」

 

「やったー!」

 

マインラートは無邪気な笑みを浮かべた。

 

この笑みほど親が嬉しいものはないあろう。

 

「でもいいの?そんなに休暇を取って」

 

「連隊には他のメンバーもいるし当分戦いもないだろうし大丈夫さ」

 

妻を安心させる為にジークハルトは微笑んだ。

 

「それより早くお家に行こうよ!」

 

「ああ…そうだね」

 

久しぶりにジークハルトは家族3人で手を繋いで歩く事が出来た。

 

 

 

-ジャプレイル宙域 帝国軍事境界線-

コルサント戦、クワット、コレリア、フォンドアの声明発表後各地の境界線には大きな緊張が走った。

 

さらに関係が悪化し戦闘状態に陥るかもしれないからだ。

 

それに緊張状態の中では両軍の艦が1cmでも境界線を破ったら大変な事になる。

 

その為にも両軍は巡回艇を回し両国を監視していた。

 

帝国軍は主にレイダー級コルベットやアークワイテンズ級司令クルーザー、グラディエイター級スター・デストロイヤーなどが巡回任務に回されていた。

 

以前のようにインペリアル級を回せる程帝国宇宙軍は豊かではない。

 

それでも主要な造船所地帯が帝国に味方してくれたおかげで時期に艦船不足も解消されそうだ。

 

「こちら帝国軍レイダー級“ハウンド”、新共和国所属の前方コルベットに次ぐ」

 

レイダー級コルベットのハウンドは徐々に前進してくる目の前のCR90に通告した。

 

このままでは後3分もしない内に境界線を飛び越え帝国領に侵入されてしまう。

 

その為にもまずは警告からだ。

 

「このままでは軍事境界線に突入する、反転し引き返せ」

 

警告はハウンドの艦長が直接行っていた。

 

言葉はあまり乱暴ではなかったが内心とっとと失せてくれと言った心情だった。

 

しかしコルベットは減速も反転もせず巡航速度を維持したまま真っ直ぐ進んでいた。

 

流石に艦長も腹が立ってきた。

 

「聞こえているかコルベット!このままでは軍事境界線に侵入する、侵入した場合こちらは相応の処置を取るぞ」

 

遠回しにコルベットを脅したがコルベットは引き返そうとしなかった。

 

そこで艦長は威嚇射撃としてターボレーザーを放つよう命じようとした。

 

しかし予想外の出来事が起こった。

 

「艦長、コルベット艦から爆発を確認!これは…新共和国のXウィングに追われています!」

 

「馬鹿な!?となると亡命か…?」

 

コルベットは小爆発を起こしそのすぐ近くを3機のT-65 Xウイング・スターファイターが通り過ぎた。

 

Xウィングは何度もコルベットを攻撃する。

 

辛うじて偏向シールドで防いでいるようだが時々ダメージを負っている。

 

後方にはCR90とブラハトック級ガンシップがコルベットを追っている。

 

「どうしましょう艦長…」

 

副長の中尉が心配そうな表情を浮かべている。

 

後もう少しで境界線に入れそうなのだがこのままでは攻撃を受け沈んでしまう。

 

「言った通り威嚇射撃だ…」

 

「えっですが…」

 

艦長は今にも吐き出しそうな表情をしていた。

 

威嚇射撃とは言え一発でもXウィングに当てては大変な事になる。

 

だが一番有効な策である事は間違いない。

 

「全砲門を使って威嚇射撃だ急げ!」

 

「はっはい!」

 

ハウンド”の艦内が一様に慌ただしくなる。

 

これは乗組員達にとっての一世一代の大博打だ。

 

「全砲門用意完了!」

 

「よし…」

 

艦長は頷き自分を落ち着かせる。

 

「撃てー!!」

 

レイダー級の最大火力が発揮された。

 

全ての砲弾が無事威嚇射撃として効力を発揮した。

 

一発も当てずXウィングを追い払ったのだ。

 

お陰でコルベットは無事境界線内に入れた。

 

「トラクター・ビームを!コルベットを引っ張れ!」

 

ハウンド”のトラクター・ビームが起動しゆっくりと引き寄せた。

 

しかし追っ手のCR90の砲撃がハウンドに直撃した。

 

幸い偏向シールドで防いだが微弱な衝撃が艦内を襲った。

 

だが何をしようにもコルベットはもう帝国領に完全に入っていた。

 

新共和国の追撃部隊は仕方なく撤退していった。

 

直後“ハウンド”とコルベットは近くの駐留ステーションまで撤退した。

 

 

 

 

 

このコルベットの亡命は帝国、新共和国において大きな波乱を呼んだ。

 

帝国は亡命して来た者達をどう扱うか考え新共和国は今後の亡命対策を考える緊急会議を開いた。

 

帝国としてはまず疑いや懸念を持った。

 

「新共和国が非常時に備えてスパイを潜り込ませているのでは」とか「何かの陰謀ではないか」など様々だ。

 

実際は本当に亡命されていてそれらの懸念や疑いはまるで意味などなかったのだが。

 

亡命に対する衝撃は新共和国の方が大きかった。

 

誰がどのくらい亡命したのか、一体何が持ち逃げされたのか、亡命理由は何だったのか、どうして発見が遅れたのか。

 

軍部でも官僚の間でも元老院でも同じような議題が持ち出されていた。

 

当然両国の境界線には今まで以上の緊張が走った。

 

それだけには留まらず他の惑星政府も戦争になるのではという不安が過っていた。

 

特に新共和国軍の駐留地がある惑星では重苦しい中会議が開かれていた。

 

最悪戦闘に巻き込まれ基地のみならず市街地や公共施設にも被害が及ぶ危険があるからだ。

 

基地がない惑星もほとんど同じ状態だった。

 

戦果に巻き込まれなくても経済面などでは被害を被るだろう。

 

民衆もそうだ。

 

ある者は街中で危機を訴え、またある者は酒場で陰謀論を唱え、ある者は有識者ぶって持論を酒の匂いと共に展開したりした。

 

だが誰も亡命による真の影響に気付いていなかった。

 

逃亡の一連劇でどんな影響が出るか。

 

そして亡命者たちは恐ろしい物を持ち逃げしたのだ。

 

特に宇宙軍にとっては選曲を一気に覆せる程の物だった。

 

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-コルサント 旧連邦管区 帝国評議会ビル-

既に評議員たちに召集がかかっており全体の9割近くの評議員が議会ビルに集まっていた。

 

残りの1割の評議員達は忙しさ故かホログラムでの参加や到着の遅れが主な理由だった。

 

「どいてくれ、すまない、おいブロンズベルク!」

 

評議会の大臣席に向かう外務大臣マティアス・ゼールベリックは一向とともに席に着くと防衛大臣の名を呼んだ。

 

耳のいいブロンズベルク大臣はすぐ振り返った。

 

「どうしたマティアス、亡命の件については私も知らん」

 

「ああやるなら少なくとも大臣メンバーと帝国軍全体にある程度の通達を出すだろうからな」

 

ブロンズベルク大臣はあまり秘密主義を由としないタイプであった。

 

秘密主義を貫いた結果何処かで混乱が生じたり自身に対する信頼や信用が落ちてしまう事を知っているからだ。

 

また亡命の手引きなどは軍部というよりは情報部の仕事である為大臣のブロンズベルクが計画するなどあり得ない。

 

「じゃあ誰がやったんだ…?こっちは各惑星政府や新共和国からの対応に忙しすぎる」

 

「外交関連に関しては今の帝国で右に出る者はいないだろう、これも一つの試練だ」

 

「そう思うとする…その為にも軍の情報が欲しい、対応に当たったコルベット艦を今すぐ」

 

「もう召還を掛けている、一連の報告書は既に送ったさ」

 

2人が頷いていると総統府長官ハインレーヒ・ルイトベルンと総統が議会に現れた。

 

全員が拍手で出迎える。

 

形式的な物だが中には本当に感極まった表情をしている評議員もいた。

 

2人がそれぞれの席に座ると早速議会は始まった。

 

「今回の緊急事態に際して議会を招集した、まず亡命者だが…」

 

帝国の役人が数名出て来た。

 

「軍部の協力により現在はクワット経由でコルサントに護送中です」

 

「亡命者は元老院議員アルセン・バレム、保安評議会ルイズビット・チェコスタ、セフ・コンドレクス・ホウブレン」

 

役人の1人がファイルを読み始める。

 

どれも重役ばかりだ。

 

「元老院情報委員会ルーズ・イルセ、艦隊司令部クリティス・ジュノール、そしてコルベットの艦長ダリック・ネイツと乗組員46名、その他50名です」

 

どれも重要な部門の役人だ。

 

しかも元老院議員まで亡命しているとは。

 

評議員達が騒然となった。

 

「他にも新共和国の内部資料などを奪取し亡命しました」

 

議員や官僚の汚職や新共和国の密約など公には出来ない資料が大半だが中には新共和国軍の新型スターファイターや兵器の設計図も存在していた。

 

どちらにせよ帝国にとっては有益な物ばかりだ。

 

ハインレーヒが合図を出し役人達を下がらせる。

 

「総統閣下や我々としては彼らの勇気と決断力を称賛し亡命者を向かい入れる事を提案する、賛成者は投票を」

 

大臣や評議員達が賛成の立場を露にする。

 

結果は満員一致だった。

 

「では満員一致という事で次の議題に移行する」

 

 

 

-新共和国首都 ホズニアン・プライム 元老院評議会ビル-

同刻、新共和国元老院でも議会が開かれていた。

 

しかしこちらはよく言えば活発な意見交換、悪く言えばヤジの応酬で全く進展を見せていなかった。

 

「ですから亡命者を取り締まる為にも警備を活発にすべきです!現在の防衛艦隊や警備隊の規模では足りません」

 

「軍拡しろと言うのか!」

 

「この軍国主義者め!」

 

さっきからこの有様だ。

 

批判ばかりで互いの意見には耳も貸そうとしない。

 

「静粛に」

 

遂には議長の静止すら聞かなくなった。

 

現在の議長はモン・モスマから別の最高議長になっておりそのせいなのか議長の権威や威厳は損なわれていた。

 

元老院は2つに分かれ始めた。

 

モン・モスマの思想や政策を引き継ぎ守ろうとする勢力。

 

情勢下を心配し軍備の増強を求める勢力。

 

どちらの信念立派なものだがそれに準じる元老院議員達は殆どがお世辞にも有能だとは言えなかった。

 

おかげで亡命者や帝国の再興なども放置され今のような状態に陥ってしまったのだ。

 

当然まともな元老院議員も何人かはいる。

 

しかしそうじゃない議員によってその言葉は圧殺され何も活かされていなかった。

 

「帝国軍は日に日に勢力を拡大しつつある!親衛隊だって存在している!連中は再び脅威となったのです!」

 

「そうだ!」

 

「何もせずに殺されるぞ!」

 

「では偉大なモスマ前議長の政策を破棄しろと言うのか!」

 

「帝国の二の舞だぞ!」

 

「辞めちまえクソ野郎!」

 

「帝国の二の舞?()()()()()()()()()()()()()()()!その為にも軍備は必要だ!」

 

それぞれ品のないヤジと共に理論を展開していた。

 

そんな様子を新共和国の元老院議員で前内戦の英雄的存在であるレイア・オーガナ議員は呆れて頭を抱えながらため息を吐いた。

 

新共和国の誕生以前から関わって来た者からすればため息の一つや二つくらい出るだろう。

 

「ひどいもんですな…相変わらず」

 

「ええ、批判ばっかり…どちらの主張も現実的じゃない」

 

レイアの発言に同じく元老院議員のタイ=リン・ガーは苦々しい表情で頷いた。

 

新共和国創設当時から元老院議員となっていたレイアとガー議員の親交は深かった。

 

互いに主義や主張が似ていると言った理由もあるだろう。

 

そしてお互いに現在の新共和国の有様を見てため息を吐いていた。

 

「あなたはどう思う、帝国がいて元老院はバラバラ、こんな状態でもし戦争でも起きたら」

 

「クローン戦争の再来になるかそれとも新共和国は何も出来ず滅びるかのどちらかでしょうね、少なくとも前者は奇跡が起きない限りあり得ない」

 

「今の防衛軍では防ぎきれないとお思いで?」

 

「防ぎきれはするでしょう、でもいつかはきっと守れなくなる」

 

レイアは悲観的な表情を浮かべていた。

 

その気持ちがわからないガー議員ではない。

 

どうしようもない思いを抱えながら2人は元老院議員としての職務を果たす他なかった。

 

 

 

 

昔はコルサントに、特にコルサントのギャラクティック・シティに住むという事はそれだけで大きなステータスになった。

 

当然新共和国時代の到来によってそれはもう過去の物となった。

 

再び変革を遂げたコルサントがどんな未来を辿るのか期待される所だ。

 

「ほんといいマンションを見つけましたわね貴方」

 

「コルサントにしてはいい家賃の家だしね、設備もいいし」

 

「新しいうちは広いね」

 

マインラートは家の中をキョロキョロしながら感想を述べた。

 

「キッチンも広くて腕が捗ります、マインご飯出来たわよ」

 

「はーい」

 

マインラートが席に着く頃には豪勢な料理がずらりと並んでいた。

 

彼女の作る手料理はどれも美味しいと評判だ。

 

昔は料理人だった事もあった。

 

「あなたもお酒飲むでしょう?何にします?」

 

「君が決めていいよ、なるべくウォッカとウイスキーは勘弁で」

 

ジークハルトは酒を嗜める程度には飲めるのだがウォッカやウイスキーなどは流石に酔い潰れてしまう。

 

一方のユーリアはかなりの耐性がありウイスキーだろうとウォッカだろうと平気で飲んでいた。

 

「じゃあメレイゼン・ゴールドにしましょうか」

 

そう言うと彼女はメレイゼン・ゴールドのボトルを2本持ってきた。

 

「おいおい流石に一本はきついぞ?」

 

「まあいいじゃないですか、それじゃあいただきます」

 

「いただきまーす」

 

「いただきます」

 

ユーリアにメレイゼン・ゴールドを注いでもらうと主食のパンと主菜の肉料理を食べた。

 

味も見た目も何もかも素晴らしいの一言に限る。

 

そしてメレイゼン・ゴールドを一杯口に含む。

 

酒とも合う。

 

「君の手料理は本当に美味しいよ」

 

「あらお世辞でも嬉しいですわ」

 

「お母さんのご飯は美味しいよ?」

 

「ありがと」

 

「そうだよなぁマイン」

 

3人は幸せそうにニコニコ笑っている。

 

久しぶりの家族の時間だらだろうか。

 

でも理由なんてどうでも良かった。

 

人並みの幸せが死と隣り合わせの職業においては最高の幸せだった。

 

特に家族と共にいる時は。

 

軍人である事を忘れてこのままこの幸せな時が一生続けばいいのにと思うほどに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。

 

寂しく悲しい夢だ。

 

ジークハルトは何故か親衛隊ではなく昔の、()()()()()()を着ていた。

 

そして何もない荒野をただひたすらに歩いていた。

 

なんの為かはよくわからない。

 

だが雑草しか生えておらず自然の美しさなどまるでない荒れた大地をひたすら歩いていた。

 

すると彼の足が突然止まった。

 

右足を出したジークハルトはまるでその場面だけ切り取ったかのようにピタリと動かなくなった。

 

彼は見てしまったからだ。

 

それを一部だけでも見た瞬間ジークハルトの目には涙の光が映っていた。

 

嗚咽慟哭の唸り声が響き彼はその場に座り込む。

 

もうこんな光景は見させないと誓ったはずなのに。

 

言葉ではなく動物のような唸り声だけが荒野に響き渡った。

 

悲しみと恐怖の入り混じった声は誰に聞こえるわけでもなくただ静かな荒野に響いた。

 

目の前のあたり一面は死体だらけだ。

 

それも敵ではなく味方の死体でいっぱいだった。

 

ストームトルーパーから将校まで、若者から上官まで死体と成り果て転がっていた。

 

綺麗な顔のまま死んでいった者もいれば悲痛な顔をして惨死した者もいた。

 

腕がない者もいれば足がない者もいた。

 

奥先にはそれらが集まり山のように高く積み重ねられていた。

 

昔見た光景だ。

 

それも遠くの昔に。

 

ジークハルトにずっと残り続けているトラウマというべき瞬間だ。

 

彼の大きな心の傷であり同時に弱点でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。

 

まだ真夜中だった。

 

ベットの隣では息子のマインラートが気持ちよさそうに眠っている。

 

その様子を見るとほんの一瞬だけ穏やかな気分になれた。

 

ジークハルトは顔中についている汗を拭い取った。

 

あの夢か…

 

長らく見ていないからてっきりもう見る事はないのだろうと思っていたが…

 

気持ちをもっと落ち着かせる為にも彼はベランダに出た。

 

コルサントの夜景と共に微風が靡いてとても気持ちがいい。

 

でも脳裏にはずっとあの光景が映っていた。

 

「はぁ…」

 

情けなさと疲れにジークハルトはため息を吐いた。

 

「あなた…?」

 

窓の方からユーリアの声が聞こえた。

 

彼は振り返り罰の悪そうな表情を浮かべた。

 

「ユーリア…すまない起こしてしまって」

 

「いいんです、またあの夢を見ましたの?」

 

彼女はすぐにジークハルトのことを察した。

 

本当に彼女には頭が下がりっぱなしだ。

 

「ああ…こんな日に見るなんてな…」

 

「疲れているんでしょう、こないだだって戦いがあったのでしょう?」

 

「でも私がいなければ彼らは…」

 

「そうやって自分を追い詰めないで、貴方もあの人達もきっと大丈夫ですから」

 

そういうとユーリアはジークハルトの顔を引き寄せ優しくだが力強くキスをした。

 

妻の温もりを感じたのかジークハルトは少し心が落ち着いた。

 

銀河が緊張状態に陥り揺れ動く中この2人の夫婦だけは変わらずにいた。

 

きっとこの先もずっと。

 

 

つづく




実に実に馴染むぞぉフハハハハハ

このままどんどん書き進めていざ飽きた時のための保険をとっておかねば(小並感)


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開戦の準備

-平和を望む者が大多数とは限らない-


-惑星クワット首都 クワット・シティ-

クワットの首都にはマンションや住宅街があり彼はそこに潜伏していた。

 

側から見ればただの住宅だが実際は地下室が存在しておりその中には大量の武器や通信機があった。

 

「すごいな…ずっとここに住んでいるようだ…」

 

「ずっとここに住んでるんだよ、多分忘れ去られてる」

 

皮肉混じりにジェルマンを助けたジョーレン・バスチルは答えた。

 

彼は医療箱から包帯のようなものを取り出している。

 

「俺は昔反乱同盟軍の特殊部隊でね、階級は軍曹だった。まあすぐ尉官に上がらされて大尉になったが」

 

ジョーレンは包帯で怪我をしている箇所を優しく手当てした。

 

その中で彼はふと自分の昔話を語り出した。

 

「よく戦ったんだが所属していた部隊が壊滅しちまって1人取り残されちまった」

 

「それは気の毒に…」

 

「戦いだからな、それはしょうがない事だし“()()()()()()()”。俺は情報部の将校に拾われて新たに大尉となった、まあ今も大尉のままだがな」

 

ここで初めて階級が分かった。

 

一応上官だったのか。

 

風貌から察するに先輩だとは思っていたが。

 

「ちょうどこのクワットに同盟軍が攻撃を仕掛けた時俺は潜り込んだ、そこからずっと潜んでいる」

 

「それは長い…どうして誰も君を迎えにこないんだ?」

 

「だから言っただろ?俺は忘れられている。その情報部の将校が死んじまってね、その将校しか知らないもんだから俺含め何人かは行方不明者だ」

 

「そんな事が…」

 

「多分みんな生きてるだろうが今の新共和国にはどうでもいい事だろうよ。何せ俺は特殊部隊にいた時既に死んだ身だ」

 

話は悲しげだったがジョーレンの口調にはその悲しさはなかった。

 

本当に諦めているのだろうか。

 

そんな話をしている内に傷の手当ては終わった。

 

「さて内に帰るのは当分先になりそうだ中尉、どうする?」

 

「とりあえずストライン中将に連絡を、通信傍受の可能性は…」

 

「ないな、あったらとうの昔に俺は捕まっている」

 

ジェルマンは頷きコムリンクを開いた。

 

本当に妨害電波などはなくコムリンクは繋がった。

 

『中尉…無事だったか…!』

 

「クワットの…スパイに助けられました、この状況だとやはりクワットは…」

 

わざとらしくジェルマンはジョーレンを引っ張り顔を見せた。

 

ジョーレンはバツの悪そうな表情を浮かべて敬礼した。

 

ストレイン中将も軽く敬礼していた。

 

『ああそうだ…新共和国の大使館のメンバーは全員拘束されてしまった』

 

「救出の見込みはあるんですか?」

 

『正直なところ無い…クワットは新共和国と完全に断交した、もはや大使館メンバーが解放される事はないだろう』

 

「なら昔みたく腕づくでやるしかありませんね」

 

ジョーレンはジェルマンの肩を叩きながら言った。

 

『まさか…やるならなるべく静かにやれよ…』

 

「さすが情報部だ、任せてください、元同盟軍特殊部隊の実力見せてやりますよ」

 

ジェルマンが何もしないうちに事がとんとん拍子で進んでいた。

 

『新たな任務だ中尉、その隣にいる元特殊部隊の…』

 

「ジョーレン・パスチル大尉」

 

『…大尉と一緒に囚われの大使館メンバーを救出せよ、作戦の方は大尉に一任する、責任は全部私が取る』

 

「わかりました中将」

 

ジョーレンの名前を一発で言えなかったのか中将の言葉は少し詰まっていた。

 

だがストレイン中将は漢気を見せジョーレンとジェルマンに救出任務を命じてくれた。

 

無論最初からそのつもりだ。

 

「では中将」

 

『気をつけてな』

 

そう言うとジェルマンは通信を切った。

 

ジョーレンは早速立ち上がって壁掛けからブラスター・ライフルを取り出していた。

 

「そのパスチル大尉…」

 

「ジョーレンでいい、階級は上官でない限り気にしない」

 

「じゃあジョーレン」

 

「なんだ?」

 

ブラスター・ライフルを首に掛け他の武器も取り出すジョーレンは振り返った。

 

もうやる気が感じられる。

 

「穏便にな…?」

 

一応ジェルマンからの忠告だった。

 

だがジョーレンはお手玉のようにサーマル・デトネーターを弄びながら言った。

 

「ああ、穏便にやるさ」

 

その顔は明らかに穏便とは程遠い顔だった。

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部-

世間は新共和国からの亡命者と現在の緊張状態について有る事無い事騒いでいた。

 

ホロネット・ニュースも日夜これを取り上げたニュースばかりやっていた。

 

コメンテーターは適当な事を並べたて、専門家達はそれらしい事を言って誤魔化していた。

 

何が専門家なのか。

 

当事者であるシュメルケ上級大将などからして見れば滑稽な人形劇のように思えた。

 

真実を知っている者は僅かしかいない。

 

彼や代理総統、総統府のハインレーヒなどほんの僅かだ。

 

大臣や長官すらこの事実は知らない。

 

今回の亡命は彼ら親衛隊の一部が手引きしたと言う真実はほとんどの者が知らない。

 

『閣下、親衛隊特殊部隊のフューリナー上級大将が面会を希望しています』

 

「入れてくれ」

 

扉が開き親衛隊特務作戦実行部隊の長官のハンス・オットー・フューリナー上級大将が執務室に入ってきた。

 

シュメルケ上級大将とフューリナー上級大将は古くから親交があった。

 

通称FFSOU(Fuller Force Special Operations Unit)は親衛隊の中でも謎が多い。

 

親衛隊保安局や情報部よりも規模や作戦内容などが不明なままになっている。

 

特殊部隊やコマンドー部隊、ダーク・トルーパーなどはここの管轄だがそれだけなのかまだ他にいるのかすらわからない。

 

その規模は総統やシュメルケ上級大将のような者しか知らないのであろう。

 

「どうしたハンス、最後の大隊( Last battalion)が何か問題を起こしたか」

 

「そうではない、あれは総統閣下の命令しか聞かない恐ろしい連中だ、お前に用があるのはまた別だ」

 

「亡命者の件だな、リデンタール中佐の働きは見事だった」

 

彼はすぐに友の要件を読み取った。

 

特に笑うわけでも何かを言うわけでもなくフューリナー上級大将は話し始めた。

 

「収穫は思いの外大きかった、今や開発部ではスターホークを無力化しようと躍起になっている」

 

「戦いは後三ヶ月…いや二ヶ月もすれば始まるな、それまでに艦隊は完成する」

 

「お前に聞きたいのはその事だ、この戦争勝てるか?」

 

「急にどうした?お前だって既に勝つと決め込んでいるだろうに」

 

フューリナー上級大将は「まあな」と一言で答えた。

 

今の帝国軍と親衛隊なら十分新共和単一なら打ち破れるだろう。

 

敵のスターホーク級も解析が進められ徐々に脅威は薄れていった。

 

更にはエグゼクター級三隻に秘密施設で見つけた艦隊もあれば十分だ。

 

だから敢えてフューリナー上級大将は尋ねた。

 

「結論から言えばあの戦術を使えば勝てるだろう、それも3週間以内にな」

 

「確かにヴィアーズ大将軍やオイカン元帥の戦術は効果的だろう」

 

「だが危険をあえて一つ挙げるとすれば新共和国と周辺国家の防衛軍が一斉に攻めてきた場合の事だ」

 

「逆に我々が手薄になり敗北する可能性があると」

 

「そして新共和国が防衛に回った場合も同様だ、そこは囮の艦隊に任せれば良いが」

 

「それだけか?」

 

「いや、敵将もそうだ」

 

シュメルケ上級大将はもう一つ付け加えた。

 

彼は冷静に物事を分析している。

 

味方への贔屓もなしにして。

 

「艦隊司令官のアクバー元帥は手練れだ、それにライカン将軍やメイディン将軍もいる」

 

「確かにどれも新共和国一の名将だ…が、本当に恐れているのはそれではないだろう?」

 

シュメルケ上級大将は静かに頷いた。

 

近年の戦いでは一騎当千とまではいかないものの大きく戦局を覆す事が多々あった。

 

無論そんな小さな危険に全霊を持って怯え、対処する必要はないのだが否定出来ないのも事実だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()…どれも危険な存在だ、早いうちに取り除いておかなければ必ず反撃される」

 

「…少し早いが彼らを投入しようと思う」

 

「誰をだ」

 

驚く事もなく彼は誰を送るかを尋ねた。

 

上級大将程になると滅多な事では驚かない。

 

()()()()…奴ならスカイウォーカーすら倒せる見込みがある、陛下の遺産は効率よく使わねばな」

 

「流石だハンス、この復讐戦勝利は近いぞ」

 

シュメルケ上級大将は一転して意見を変えた。

 

それは友への信頼の証であり皇帝の手の者への信用の証であった。

 

「ようやくなのだな…エンドアからもう3年か…早いな」

 

「戦いの始まりは近い、常に最後に勝つのは我々帝国だ、ヤヴィンの後もそうだったように」

 

「亡き陛下と総統閣下の為に」

 

指を組みフューリナー上級大将を見つめるその視線は鋭かった。

 

まるで盃を捧げるかのようにシュメルケ上級大将も同じ言葉を述べた。

 

「亡き陛下総統陛下の為に」

 

捧げられたその言葉が具現化する時はそう遠くはなかった。

 

 

 

-コルサント ギャラクティック・シティ アパートメント街-

ちょうどコルサントは朝方だった。

 

美しい朝日がビルを照らし神秘と人工物が入り混じった光景を生み出していた。

 

だがコルサント市民にとってはなんら珍しい事ではない。

 

感じ方としては美しさというより慣れ親しんだ安心感という方だ。

 

長い間住んでいればそうなるだろう。

 

また時間が時間で朝の忙しさに追われ感傷めいた事を思っている暇はなかった。

 

『我が帝国政府としては真の賢さと勇気を持った亡命者達を迎え入れるとゼールベリック外務大臣は発表しました』

 

シュタンデリス家は朝食を食べながらそのホロネット・ニュースを眺めいていた。

 

帝国ホロネットは時折プロパガンダめいた事も発表するが市民の中では一番人気を誇っていた。

 

『またゼールベリック外務大臣は亡命時に新共和国側が帝国軍側の艦船に誤射した事について『これは意図的な可能性があり厳しく対応する』と言っていました、次のニュースです』

 

アナウンサーが再び原稿を読み始める。

 

このニュースに関しては軍関係者のジークハルトも無視は出来ない。

 

「貴方は戻らなくていいの?」

 

ユーリアは亡命事件に関して親衛隊から招集が掛かっているのではと心配した。

 

しかしジークハルトはカフを一口飲むと微笑を浮かべて彼女を宥めた。

 

「大丈夫、今のところそう言ったのは来ないし私の連隊は今の所コルサントの守備がメインだ」

 

「じゃあパパはお仕事行かなくていいの?」

 

「そうだよマイン、まだお休み中だからね」

 

「そうなら良いのだけど…」

 

「ひとまず今のところは大丈夫さ」

 

爽やかな顔でそう言ったが実の所ジークハルトも結構この事を気にしていた。

 

遠からず新共和国と帝国が戦争になる事は帝国側の軍人なら誰でも知っている。

 

何せ総統府や評議会はそう仕向けているのだから。

 

今回の亡命だってもしかしたら誰かの手引きがあったのかもしれない。

 

一部隊の指揮官でしかないジークハルトが考える事ではないが少なからずそう言った可能性はある。

 

今回の事件が開戦の導火線になるかもしれないのだ。

 

「平和な時代ももう終わりだな…尤も誰しもが平和な時代を望んでいるわけではなかったがな」

 

敗北した者達の心には平和程煩わしいものはなかった。

 

ジークハルト含め新共和国を憎んでいる将校はたくさんいる。

 

彼はともかく他のその将校達からして見れば理由などどうでもよかった。

 

復讐心に駆られた彼らが望むのはただ一つ。

 

新たな復讐戦だけだった。

 

 

 

-ホズニアン・プライム 新共和国防衛軍本部-

今日この日、この場所にはかつてから名を連ねる将校が集まっていた。

 

皆新共和国がまだ反乱同盟という名だった頃から支えている名将達だ。

 

優れた戦術的才能は帝国側も一目置くほどだった。

 

円形のホロテーブルをその名将達は囲んでいた。

 

「帝国艦隊の大まかな戦力は不明ですが協定で制限された戦力にコルサント戦で得た情報を合わせるとこの規模になると予想されます」

 

クリックス・メイディン将軍はホログラムを起動してテーブルの上に帝国艦隊を出現させた。

 

彼は元々帝国軍の軍人だった。

 

しかし亡命し前身の反乱同盟に加わりやがては将軍の地位を得た。

 

エンドア戦などで特殊部隊を指揮し新共和国に貢献したメイディン将軍だったが実は死亡したという噂も流れていた。

 

彼はシャンドリラ攻撃時に死亡したという噂が流れていたのだ。

 

実際彼は攻撃を生き延びておりこうして今もピンピンしていた。

 

「いや実際の艦隊戦力はそれ以上と見るべきだろう、今やクワットやコレリアまで帝国側なのだからな」

 

新共和国防衛艦隊最高司令官のギアル・アクバー元帥はホログラムの帝国艦を増やした。

 

モン・カラマリの名将は帝国の力を誰よりも知っていた。

 

故郷モン・カラは帝国軍に占領され10年以上を帝国との戦いに費やしてきた。

 

そこで培われた艦隊指揮能力は新共和国一だろう。

 

「地上部隊もきっと相当強化されているだろう、相手はあの名将ヴィアーズだからな」

 

「ライカン将軍、率直に伺いたい、ヴィアーズ大将軍が再び最前線に現れた時我々は勝てるだろうか」

 

カーリスト・ライカン将軍にタイベン将軍は尋ねた。

 

ライカン将軍は特にこのヴィアーズ大将軍を警戒し同時に認めていた。

 

惑星ホスでヴィアーズ大将軍のブリザード・フォースと死闘を繰り広げたのは何を隠そうこのライカン将軍なのだから。

 

彼の部隊運用の高さは誰よりも認識しているつもりだった。

 

タイベン将軍はジャクーの戦いでシャンドリラにいながらも見事な式で辛くも新共和国地上軍を勝利に導いた戦術の秀才だ。

 

彼の隣にいるブロックウェイ中将が前線で地上部隊を率いておりタイベン将軍はいまだにその事を気に病んでいた。

 

ブロックウェイ中将からすれば無用な心遣いなのだがタイベン将軍はそうは行かなかった。

 

だが2人とも優秀な地上部隊の指揮官だ。

 

「勝てるかは不明だ…彼の戦術は多岐に渡る、防衛戦術を取ればこちらは相当苦戦するだろう」

 

「ですが現在の戦力では防衛策を取る以外方法は…」

 

「艦隊戦力も同様だ、だが今の状態では戦力の増強は望めない」

 

アクバー元帥の発言は正しく元老院では今も軍備増強は叶わずにいた。

 

彼ら軍人としてみれば腹立たしい話だがだからと言ってクーデターを起こし軍事政権にする訳にもいなかい。

 

そんな事をしてしまえば独裁政治になり帝国となんら変わりなくなる。

 

「…防衛策を取る上で有効的な戦術が一つだけある」

 

防衛艦隊のナンツ提督は言葉を上げた。

 

「帝国艦隊は必ずこのホズニアン・プライムを狙ってくる、だがジャンプの長さには限界がありこの周辺で必ずジャンプアウトするはずだ」

 

ホログラムを星図に移し替え帝国艦隊の予測進路を移した。

 

「ここで敵に奇襲攻撃を掛ける、かつて我々がエンドアで受けた時のようにな」

 

「あの戦術を使うと言うのか、しかし敵に悟られる可能性があるぞ」

 

アクバー元帥は驚きつつも懸念を露わにした。

 

最初に使ったのは帝国側でありそれに察知するのは簡単な事だ。

 

「陽動の部隊を展開して誤魔化しましょう、帝国から奪取した重力井戸の技術を使えばルートを絞るのにも役立つでしょう」

 

「となると戦場は限られてくるな…」

 

ナンツ提督が差した周辺の惑星や衛星をスライドし調べる。

 

なるべく人々が住んでいる惑星は避けたい所だ。

 

「ここだ」

 

ナンツ提督はある一つの衛星を選んだ。

 

居住可能な惑星で大きさも申し分なくあまり人も住んでいない好都合な場所だった。

 

「衛星マジノ…ここから防衛戦を築き帝国を迎え撃とう」

 

「地上部隊の配置を急がねば」

 

ライカン将軍が顎に手を当て部隊配置を考え始めた。

 

その隣でタイベン将軍はメイディン将軍やブロックウェイ中将と戦術について吟味し始めた。

 

アクバー元帥も他の参謀将校や提督達と共に艦隊の配置を考えている。

 

悲しい事に軍部だけが唯一まともに機能していた。

 

 

 

-クワット 首都収監所-

僅か1日でジョーレンは武装を整えジェルマンと共に収監所の近くに待ち伏せていた。

 

エレクトロバイノキュラーで中の様子を覗く。

 

「あの牢屋の衛兵はざっと144人、一個中隊くらいだ」

 

「他の武装は?」

 

アーマーや装備を付けたジェルマンは装備をいじりながらジョーレンに尋ねた。

 

「軽いレーザー砲がざっと三十基くらい、ドロイドが二個中隊くらいだ」

 

「すごいな、なんで全部知ってるんだ」

 

「数年あればそれくらいすぐ分かる、ケーブルで行くぞ」

 

あえて理由を濁しジョーレンはA300ブラスター・ライフルにアセンション・ケーブルを取り付けた。

 

ジェルマンもジョーレンから借りたA280Cブラスター・ライフルにケーブルを取り付ける。

 

スコープで檻の中の様子を見る。

 

警備兵は殆どいない。

 

「さて任務だぞ」

 

ケーブルを発射し監獄の壁にしっかりと射し込む。

 

まるで恐怖を感じないのかジョーレンは一気に進んだ。

 

ジェルマンもそれに続きケーブルを射し壁に張り付いた。

 

「いい腕だぞジェルマン、このまま壁をよじ登る」

 

「僕はパスファインダーじゃないんだぞ?」

 

「そんなん知ったことか行くぞ!」

 

ジョーレンは壁を蹴りケーブルを安全縄にしながらゆっくりと進んだ。

 

ジェルマンもそれの後に続く。

 

まるで蜘蛛みたいだ。

 

「音を立てるなよ、聞かれるかもしれんぞ」

 

「無茶言わないでよ…!」

 

「ハハ、あの窓ガラスから侵入する」

 

ジョーレンは足で窓ガラスを蹴破ると振り子のように勢いを付け侵入した。

 

あんな事ジェルマンだったら不可能だろう。

 

だが最初にジョーレンが破ってくれたおかげで入りやすくなった。

 

慎重に窓の淵に手を掴み監獄内に飛び込む。

 

思いっきりスライディングしたせいか頭を壁にぶつけてしまった。

 

「遅いぞジェルマン、こっちはもう温まってる」

 

「あっ?ああ…仕事が早いな…」

 

ジョーレンの周りには2人くらいの衛兵が倒れ込んでいた。

 

さすが元パスファインダーだ。

 

ジェルマンも思わず苦笑を浮かべていた。

 

「どこにぶち込まれてるかメインコンピュータを使って調べる必要があるな」

 

「なら何処でもいいから端末を見つけないと、幸い機材は持ってる」

 

「そこは情報部将校殿に任せる、俺もそうだったか」

 

「あんたは敵をぶっ倒しまくってくれ」

 

「よし決まりだ」

 

彼の肩を叩くとジョーレンはA300を構え慎重かつ大胆に進む。

 

ジェルマンも同じように後に続いた。

 

道中で出会う衛兵や職員の数は少なかった。

 

恐らく重要施設からは離れているのだろう。

 

「端末を見つけた、バックからタブレットを!」

 

「自分で出せ、俺は見張りをしてる」

 

バックパックからタブレットを取り出すと端末に差し込んだ。

 

青白いモニターが浮かび上がりメインコンピュータの情報を映し出す。

 

キーボードを打ちコンピュータのアクセスを開いていく。

 

ジョーレンもびっくりするほどの速さだ。

 

「はっ早いな…」

 

「まあな、よしアクセス完了!思ったより簡単だったな」

 

「急げよ、何処にいるんだ?」

 

「待ってろ…E-2違う…E-3違う…E-5…E-6…いた、E-9の監房区画だ、ここから行けばかなり近い」

 

「わかった、なら強行突破だ、ドロイドにシャトルの用意をさせる」

 

「後少し手品の種を仕掛けておく」

 

「一体何するんだ?」

 

ジェルマンは一瞬のうちに何かプログラムのようなものを作っていた。

 

そして彼の言った通り本当に少しの合間で出来上がってしまったようだ。

 

端末からタブレットを抜き取ると急いでバックに仕舞い込んだ。

 

「おい何してる!」

 

直後衛兵1人に見つかったがジョーレンがすぐに撃ち殺した。

 

あまりの早撃ちだった為断末魔などはなく崩れ落ち倒れた音しかしなかった。

 

「さっさと行こう、バレんうちにな」

 

爽やかな顔のままジョーレンは走り出した。

 

 

 

-コルサント 統合本部ビル-

今日この日、帝国軍、親衛隊の高官達が集まっていた。

 

「情報部のスパイが新共和国の戦術を入手した」

 

周りを取り囲む将校達が驚きの声を上げた。

 

小声だが「どうやって…」とか「どう入手したんだ」などの独り言も聞こえた。

 

だがそれらは軽く無視され話は次に進む。

 

「新共和国軍は衛星マジノを基準に防衛戦を築く予定であり我々に対する奇襲攻撃が計画されている」

 

進行役の帝国宇宙軍作戦部長ミリッツ中将は淡々と説明した。

 

「恐らくここでの戦闘は避けられないと予測している、今回は諸将の意見を聞きたい」

 

「総統閣下はなるべく短期決戦を望んでおられる、その事も考慮して欲しい」

 

シュメルケ上級大将は一つ付け加えた。

 

彼の周りには彼を除いた12人の上級大将が並んでいた。

 

「では大将閣下」

 

親衛隊大将のアフレート・フェルベーリンが最初に手を挙げた。

 

シュメルケ上級大将は無言の合図で話す事を許可した。

 

彼は立ち上がり自分の戦術を話し始めた。

 

「初期の三方向からの同時侵攻ではなく戦力を集中させ一点突破を提案します、エグゼクター級を一度の戦いに三隻使用すれば自ずと勝利は見えてくるでしょう」

 

「だがそんなに艦隊を一まとめにしてしまえば指揮系統が複雑になる」

 

「では大まかに艦隊を3つに分け波状攻撃を行うのはどうでしょうか、指揮系統も分散が可能です」

 

「敵は我々の重力井戸技術を使用した兵器を開発中だと聞く、分散した艦隊を各個撃破されたら終わりだ」

 

フェルベーリン大将の戦術はいい案だったのだが現在の帝国の戦力ではあまり有効的ではなかった。

 

如何せん以前とは違い戦力が少なすぎる。

 

現在の帝国艦隊は親衛隊の宇宙艦隊を合わせても半分以下なのだから。

 

「…一つだけ私に考えがある」

 

次に声を上げたのはヴィアーズ大将軍だった。

 

将校のほとんどの目線がヴィアーズ大将軍の方を向いた。

 

「まず部隊は二つに分け二方向から攻撃する」

 

大将軍はテーブルのコンソールをタップしホログラムを浮かび上がらせた。

 

「マジノを攻撃する部隊はオナガー級や発見された特殊艦を中心とした高火力の艦隊でなるべく防衛艦隊を引き付けてさせる」

 

2つに分かれた帝国艦隊が衛星マジノの防衛艦隊と交戦する。

 

「そしてもう一方の機動艦隊が手薄になったホズニアン、シャンドリラを一斉に攻撃する」

 

迂回ルートを取ったもう一つの帝国艦隊がホズニアン・プライム、シャンドリラに攻め込む。

 

そして2つの惑星にはバツ印がつけられた。

 

「だが迂回はどうする?敵は重力井戸を使用して必ずマジノ方面に引き寄せるぞ」

 

1人の将校から懸念が挙げられた。

 

他の将校もあまりに綺麗に行き過ぎて机上の空論ではないかとも考えていた。

 

「以前ターキン・イニシアチヴが発見したディープ・コアを通るハイパースペース・ルートがあったはずだ」

 

「なっ…あれを使うというのか…」

 

「確かに総督の麾下艦隊は無事に通り抜けられたが…」

 

将校達は頭を抱えた。

 

ディープ・コアは未知領域と同じくまだわかっていない事が多い。

 

何故なら恒星と惑星が密集しており航行には危険が伴う為探索があまり進んでいないからだ。

 

その為ディープ・コア特別警戒区なんてものも存在する。

 

そんな場所を通ろうとするなど誰しもが自殺行為だと考えるだろう。

 

だが上級大将は違った。

 

「あのルートなら帝国艦隊は余裕で通り抜けられる、エグゼクター級だろうとな」

 

ヴィアーズ大将軍にとっては以外な賛同者だった。

 

彼はずっと直属の部下であるフェルベーリン大将の戦術を採用すると思っていたからだ。

 

「新共和国はマジノに全戦力を回す予定で首都の防衛力はほぼ空だ、エグゼクター級が2隻もいれば陥落させられるだろう」

 

「私も賛成です、少なくとも秘密施設で手に入った艦を使えば防衛艦隊とも対等に、いや打撃を与えられるでしょう」

 

オイカン元帥は珍しく興奮した面持ちでヴィアーズ大将軍の意見に賛同した。

 

親衛隊はともかく帝国軍側は後ローリング大将軍だけだ。

 

若干の不安がよぎる中ローリング大将軍はすぐに賛成の立場を取った。

 

「俺も賛成だ、どうせなら防衛艦隊も壊滅させる勢いでやらねばな」

 

「ならもう決まったな、ヴィアーズ大将軍の戦術を採用し陽動艦隊と攻撃艦隊による電撃戦を主軸と細部を考える」

 

ヴィアーズ大将軍は席に着いた。

 

全員の顔を見合わせシュメルケ上級大将は確認を取る。

 

「我々は2年近く屈辱の日々を耐え抜いてきた、ついに反撃の時だ」

 

たった2年だがそれ以前にここにいる者達は多くを失ってきた。

 

親衛隊の者も親衛隊ではない者もシュメルケ上級大将の言葉の重みは痛烈に感じていた。

 

屈辱などでは表せない感情が今も胸の中にある。

 

「帝国に勝利をもたらそう」

 

 

 

「止まれ!うっ」

 

「クソッグァッ!」

 

弾丸に2人の衛兵が斃れた。

 

素早く正確な銃撃に衛兵達は反撃すら叶わなかった。

 

「うっうおおおおお!」

 

半狂乱状態に陥った1人の衛兵が警棒を持って突進してくる。

 

この距離だと狙いはうまく定まらない。

 

ジョーレンはバックルからナイフを取り出すと衛兵が繰り出す警棒の一振りを避け腹部にナイフを刺し込んだ。

 

苦悶の表情を浮かべながら衛兵の息は途絶えた。

 

「こいつで最後か…」

 

死体を横に捨てると彼はあたりを見渡した。

 

ジョーレンの見事な腕前は誰にも警報を鳴らさせず援軍を呼ばせなかった。

 

おかげで他の生きている衛兵達はまだ彼らの存在に気付いていない。

 

「ジェルマン、牢屋は開きそうか」

 

「待ってくれ後少しだ…よし開いた!」

 

一斉に監房の扉が開いた。

 

中からは突然扉が開いて驚く声が聞こえた。

 

「帝国の務所と比べてずいぶん簡素な作りだな」

 

「帝国の刑務所も十分簡素だけどね」

 

軽口を叩きつつジェルマンはしっかりと仕事をこなした。

 

「我々は艦隊情報部のメンバーです、あなた方を救出しにきました」

 

「おぉ…!」

 

あちこちから歓声が聞こえる。

 

どんな声や姿でも自分を期待してれる感性は嬉しいものだ。

 

すると1人の初老の男が監房から出てきた。

 

「私はニルメス・セルヴェント、クワットの大使だ、助けてくれて本当に感謝する」

 

「いえとんでもない」

 

「私からもお礼を言わせてください」

 

セルヴェント大使の隣に美しい金髪をした美人が立っていた。

 

「えっと貴方は?」

 

ヘルヴィ・セルヴェント、大使の娘です」

 

「そうでしたか…私は情報部のジェルマン・ジルディール中尉です」

 

「ありがとうございます中尉さん」

 

「ハハハ…皆さんも早く監房から出てください!ジョーレンあれを吹っ飛ばせ」

 

「わかった、全部か?」

 

「全部だ、なるべく引き付けたい後船の用意も頼む」

 

「OKまかせろ、L8シャトルを出せ、起爆したら急いで近くの発着場に停めるんだ」

 

機械オンの返事が聞こえるとジョーレンは「いい子だ」と言ってコムリンクを切った。

 

そのままブレスレッドのスイッチを押し夜のうちにジョーレンが仕掛けておいた爆弾が起爆シークエンスが始まる。

 

「爆発の連鎖反応でこの施設は一時的に停電に陥りますが迷わずついて来て下さい」

 

「どこへ行くんだね」

 

大使館の1人が訪ねてきた。

 

とても心配そうな表情をしている。

 

「発着場まで向かいます、そこに迎えの船が来ているので急いで脱出しましょう」

 

「君たちに全て任せる」

 

セルヴェント大使はジェルマンに信頼の眼差しを向けた。

 

彼は無言の頷きでそれに応えた。

 

「そろそろ吹き飛ぶぞ…3…2…1…今だ」

 

収監所の動力パイプや動力区画に設置した爆薬が一斉に吹き飛ぶ。

 

あまりの衝撃の大きさに建物全体が一時的に揺れ直後エネルギーを失った為建物は全て停電に陥ってしまった。

 

しかしすぐに予備電源が回され消灯だけは復旧した。

 

「これでお前の手品が上手くいけば隔壁は閉じないんだな」

 

「非常時だけの監房ブロックの隔壁のプログラムを弄ったから多分」

 

数秒後ジェルマンの目論見は成功し隔壁は全て閉まらなかった。

 

よくやったという意味を込めてジョーレンは彼の頭をポンポンと撫でた。

 

「さあ行きましょう」

 

ジョーレンを先頭にして一行は走り出す。

 

衛兵のほとんどは消化活動や他の囚人達の監視活動に移った為大勢で移動していてもバレることはなかった。

 

しかも施設職員は皆混乱しており正常な判断が出来ておらずドロイドを起動することすら忘れていた。

 

「ちゃんと近いところに止めてくれたんだよな?」

 

「ああ、あの先だ!」

 

「塞がれてる!」

 

「爆薬で吹っ飛ばす」

 

ジョーレンはインパクト・グレネードを投げて隔壁を無理矢理こじあげた。

 

あまり頑丈ではないのかインパクト・グレネードの一撃で隔壁は粉微塵に粉砕されてしまった。

 

きっと帝国軍の施設だったらそうは行かなかっただろう。

 

「よし全員急いで!」

 

「足元にも気をつけて」

 

ジェルマンとジョーレンが大使館のメンバーを誘導する。

 

扉の先にはジョーレンが呼んだテイランダー級シャトルが停泊していた。

 

本当はもっと頑丈で武装がついているやつが欲しいのだがそんなこと言っている暇はない。

 

なるべく早く逃げなければならないのだから。

 

「おっと、大丈夫ですか?」

 

破片に躓きそうになったヘルヴィをジェルマンは優しく支えた。

 

「ありがとう」

 

「さあ急いで」

 

彼女を送り届けるとジェルマンは他に遅れた人がいないか確認した。

 

「これで全員だな」

 

「ああそうだな!」

 

ジェルマンに返答しながら彼はブラスターの引き金を引いた。

 

たまたま通りかかった衛兵が彼らのことを発見したのだ。

 

しかもかなり大勢いた。

 

「逃げよう!」

 

「侵入者だ!待て!」

 

衛兵達数人は警備用のブラスター・カービンで攻撃してきた。

 

しかし元パスファインダーと情報部将校の敵ではなかった。

 

放たれたブラスター弾はほとんど当たらず返り討ちに遭うばかりだ。

 

「ストームトルーパーよりも歯応えがないぜ!」

 

「えっ?戦ったことあんの?」

 

「当たり前だ、パスファインダーの仕事はストームトルーパーを殺す事と変わりない」

 

2人はまだ1日足らずの縁だったがいつの間にかかなり親しくなっていた。

 

ゆっくりと退き下がりながら確実に追手を始末する。

 

テイランダー級の近くまで退いた頃には数十人いた衛兵はもう2人程度しか残されていなかった。

 

その生き残り達も抵抗虚しく瞬殺されたが。

 

「クリア、ドロイド船を出せ!」

 

2人が乗り込むとドロイドが操縦するテイランダー級はゆっくりと浮上し収監所を離れた。

 

エネルギー不足なのか砲塔やレーダーは全く反応を示さない。

 

その中を悠々とジェルマン達を乗せたテイランダー級は空高く進んだ。

 

施設はまだ混乱しているのか追手が来る事はなくそのまま一気にハイパースペースまで突入した。

 

実際大使館メンバーの脱走に気づいたのはこの30分後の事であり彼らは追手の心配なく逃げ延びる事が出来たのだった。

 

シャトルはハイパースペースの中を進んだ。

 

首都ホズニアン・プライムを目指して。

 

既に帝国の牙が喉元まで迫っているとも知らずに。

 

 

つづく

 




知ってますかね皆さん
明日は帝国の日なんすよ(Twitterの一部のみ)
祝いましょう(強制)


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帝国の日

-復讐戦の炎は誰にも止める事は出来ない-


-コルサント 総統府-

今日は帝国にとって重要な1日となった。

 

コルサントだけに留まらず他の惑星でも同様に慌ただしかった。

 

最近加わったコレリアやクワット、フォンドアもだ。

 

飾り付けや式典の準備などで政府も軍も慌ただしかった。

 

市街地のあちこちではホロネット・ニュースの人気キャスターが身振り手振りを交えて話している。

 

『今日は今は亡き皇帝陛下がクローン戦争を終結させ我が祖国を建国した記念日です』

 

ニューオーダー宣言の行われクローン戦争が終結した日。

 

今日こそが世に言う帝国の日だった。

 

『今は亡き皇帝陛下に哀悼の意を捧げ、今日という日に想いを馳せましょう、帝国の為に』

 

まだ朝方だと言うのにその盛況さは他と比べ物にならない。

 

半ば強制されている面もあるがそれだけではこれほどの盛り上がりにはならないだろう。

 

だがその裏ではある事が行われていた…

 

 

 

 

コルサントに住んでいる誰しもが帝国のことを歓迎しているとは限らない。

 

銀河内戦末期にはコルサントでも内戦が起きていたので当然今の状況を心良く思わない者もいるだろう。

 

だがそのような考えが現在の帝国で許されるはずなかった。

 

古いアパートの一角に帝国保安局や親衛隊保安局のITTが停泊しアポーとの周りをパトロール・トランスポートが囲んでいた。

 

兵員輸送機から数十名の保安局員が姿を表す。

 

黒いコートを着た指揮官と思われる男が全員に指令を出す。

 

「すべての住民を一斉逮捕しろ、反抗するようなら射殺して構わん、さあ行け」

 

保安局員達が一斉にアパオートに突入し散開していった。

 

突入時に既に銃声が聞こえていたがそんなの誰も気にしない。

 

今この場で殺すか刑務所に入れてから殺すかの違いだ。

 

数日延命するだけに過ぎない。

 

エレベーターや階段に白い軍服を着た保安局員達が駆け上がる。

 

ターゲットの部屋を見つけるとまずは扉を叩く所から始まった。

 

「開けろ保安局だ!」

 

当然ドアは開かず部下に命令して無理矢理解錠した。

 

数名の保安局員が容赦無く家を踏み荒らす。

 

「全て探せ」

 

「はい」

 

足音を思いっきり立てドアを壊す勢いで開ける。

 

テーブルをひっくり返し棚と言う棚を物色した。

 

その間にも上階や下から銃声と悲鳴が響いた。

 

痛みに悶絶する声や慈悲を懇願する声まで聞こえた。

 

ちょうど寝室の部屋を開けると中には男女が2人逃げる支度をしていた。

 

「ようやく見つけた、捕まえろ」

 

2人の手を保安局員が乱暴に掴み引き離す。

 

「やめろ!」

 

「お願いやめて!何も知らない!」

 

「いいから来い!行くぞ!」

 

手錠を填め外へ連れ出す。

 

また別の所ではターゲット達が諦めたのかぞろぞろ外に出ていた。

 

「案外多いな」

 

「ああ、輸送機の手配を頼まねば、なるべく早く出せ!」

 

外に連れ出された住民達は皆輸送機に載せられるかその場で射殺されるかだった。

 

アパートメントの端には死を選ばされた哀れな住民達の亡骸が積み重なっている。

 

手錠をはめられたま住民達は乱暴に輸送機に放り込まれた。

 

「一旦出せ!もう詰め込めん」

 

ドライバーが頷き数台の輸送機が発進した。

 

その背後では当然のように銃声が鳴り響いていた。

 

輸送機が発進した後も大勢の住民が外へ連行されていた。

 

このアパートメントに住む者達は皆かつてコルサント内戦で帝国側に反旗を翻した者だという確定的な情報がある。

 

なので帝国の日の盛況に乗じて一斉逮捕を行っているのだ。

 

結果逮捕による混乱はほぼ0であった。

 

「このままパレードまでには終わりそうか?」

 

「ああ、後3軒回れば終わりだ」

 

「大尉殿子供はどうしましょう」

 

少尉が数人の子供を引き連れて尋ねた。

 

大尉は副長の上級中尉と顔を見合わせると少尉に命令を出した。

 

「子供は貴重な人的資源だ、別ルートでアカデミーに送らせろ」

 

「了解いたしました、さあみんなこっちへ来るんだ」

 

子供達は虚な表情のまま静かに少尉に連れられた。

 

後に第一次コルサント一斉逮捕と名付けられた一連の事件は帝国の日の盛況さの雲に隠れ闇に消えた。

 

 

 

ジークハルトは珍しく緊張していた。

 

彼は今帝国の日の為だけに用意された総統の演説を連隊の全員と共に聞いている。

 

周りには他の帝国軍や親衛隊の部隊や師団、兵団などが同じように綺麗な隊列を作り聞いていた。

 

今日は帝国の日に合わせたパレードがあった。

 

連隊を率いて総統府の周りを凱旋し帝国の力を見せつける。

 

とまあ理由は色々あるのだが問題はパレードなのだから一般人が大勢いる事だった。

 

人に見られるのは緊張するしジークハルトにはパレードに関して軽いトラウマがあった。

 

まだ彼が中尉の階級だった事だった。

 

マコ=タの戦いを受けて行われた凱旋パレードで先頭を歩いていた彼は凱旋途中何故か道に巻かれていた謎の滑りに足を取られすっ転げてしまった。

 

後から聞いた話によれば凱旋を行なった場所に清掃用の洗剤が溢れっぱなしだったと言う事らしい。

 

そんな事あるのかと耳を疑いたくなる出来事だが確かにあった。

 

結果ジークハルトが処罰される事はなかったが大恥を掻いた事には変わりないだろう。

 

それ以来彼はパレードに対して謎の恐怖感を抱いていた。

 

そんな事を考えていると総統の演説が終わりパレードの開始を合図する軍楽隊の音楽が流れ始めた。

 

先頭を行進する親衛儀仗中隊と帝国儀仗中隊が半回転し綺麗な隊列のまま行進曲と共に進み始めた。

 

一番先頭にはヴィアーズ大将軍とシュメルケ上級大将がそれぞれスピーダーに乗り敬礼していた。

 

勇ましい行進曲と共に儀仗中隊は一糸乱れぬ隊列のまま軍靴の音を響かせ大衆が歓声をあげる中進み続けた。

 

ジークハルトの第六親衛連隊とストライク・フォースの行進は六番目であり今進んでいる二個中隊が終わればすぐだった。

 

『親衛連隊行進、第一親衛連隊ルテマン・アルブレート上級大佐』

 

渋い声の進行役の士官が連隊名と連隊長の名前を淡々と読み上げた。

 

しかし声のせいか不思議と気にはならなかった。

 

アルブレート上級大佐が敬礼し連隊の先頭に立って行進する。

 

副連隊長と連隊旗を持った大尉が彼の背後に続く。

 

さらにその背後にはフューラー・ストームトルーパーが数千人ほど続いた。

 

親衛隊のストームトルーパーは通常のインペリアル・ストームトルーパーとは少し違う。

 

最新技術を積極的に取り入れた親衛隊のストームトルーパーはより頑丈なアーマーに高性能な装備を身に付けている。

 

ヘルメットには強化感知ギアと小型のライトが常備された。

 

武装は新型のE-11Fブラスター・ライフルやDLT-19F重ブラスター・ライフルで今までのブラスター・ライフルより頑丈で汎用性が高い。

 

最近では帝国軍の特殊部隊などにも配備されている優れ物だ。

 

第一親衛連隊の後ろをAT-AT(全地形対応装甲トランスポート)の一個中隊が歩行している。

 

よく整備されていて走行は日の光を受けて光り輝いていた。

 

このAT-ATには背後にミサイルランチャーや対空用のブラスター・タレットが備わっており今までのAT-ATよりも敵を寄せ付けない装備になっていた。

 

そしてその後ろを第二、第三、第四、第五親衛連隊が行進している。

 

そろそろジークハルトと第六親衛連隊の番だ。

 

「ふぅ…」

 

「中佐緊張なされてるんですか?」

 

連隊旗を持ったヴァリンヘルト中尉が小声で話しかけてくる。

 

逆にヴァリンヘルト中尉はまるで緊張していない。

 

羨ましい限りだ。

 

「ああ少しな…」

 

「昔のあれだな…大丈夫コルサントはそんな事ない」

 

「そっそうだな…」

 

長い付き合いのアデルハイン少佐は覚えていたようだ。

 

大きく深呼吸して誰にもバレないよう目を瞑り心を落ち着かせる。

 

『続いて第六親衛連隊』

 

ついに名前が呼ばれた。

 

落ち着いて彼らは進み始める。

 

観客のいる右側の方を敬礼しながらジークハルトは向いた。

 

緊張で変に笑ったり硬い表情にならぬようあえて微笑を浮かべていた。

 

もともと容姿端麗な彼だ、優しそうな表情を浮かべられたら観客席は多少ざわつくに決まってる。

 

『連隊長ジークハルト・シュタンデリス上級中佐』

 

士官の紹介が終わりより一層ジークハルトに注目が集まる。

 

これではさらに緊張してしまう。

 

幸いド緊張のせいか微笑の表情は崩れる事なく連隊の出番は終わった。

 

最後に笑顔で手を振る息子マインラートと妻ユーリアを発見して緊張がほぐれたままジークハルトの出番は幕を閉じた。

 

 

 

-新共和国領 惑星オンダロン-

オンダロンが新共和国側に引き入れられたのは単に“お情け”と言う面が大きい。

 

インナー・リムに属するオンダロンは帝国領でも良かった。

 

しかしここの出身で故郷の自由の為テロリストにも等しい戦い方を選んだソウ・ゲレラや全滅したパルチザンの遺志を汲み取って新共和国側にしたのだ。

 

結果的にゲレラは目標を達成したと言えよう。

 

自由を得た故郷の姿をその目に焼き付ける事はできなかったが。

 

大使館の一行を乗せたテイランダー級シャトルはなんとかここまで逃げ延びた。

 

道中帝国の巡視艇に追われかけたりしたが誰1人死傷者は出ていなかった。

 

そして今はオンダロンの宇宙港では羽を休めていた。

 

「今オンダロンに到着しました、ひとまず帝国領は抜け出しています」

 

『わかった、迎えのフリゲートを出す、それまでオンダロンで待機していてくれ』

 

「わかりました」

 

『1時間ほどで着くだろう、それまでの辛抱だ』

 

「はい中将、ホズニアンで」

 

敬礼しコムリンクを切るとジョーレンのそばに寄った。

 

ジョーレンは自販機で買ったカフを飲みながら暗殺者がいないか目で見張っていた。

 

「後1時間で迎えがくる、フリゲートだそうだ」

 

「そうか、じゃああの船はどうすんだ?」

 

「もったいないけど処分だろうな、足がついちゃ困る」

 

「あれだけやっといてそりゃもう手遅れだろ」

 

「まあそうなんだが…」

 

2人がそんな話をしてるとヘルヴィが紙コップを2つ持ってきて手渡してくれた。

 

「あのよかったら…」

 

「あぁ…いやどうも」

 

「俺はもうあるからあんたが飲みなよ、気持ちだけ受け取っとくさ」

 

ジョーレンは断りジェルマンは照れ臭そうに受け取っていた。

 

心の中で「コイツ童貞臭いなぁ」とジョーレンは思っていたがクールな表情を作りなんとか口に出さないようにしていた。

 

「ヘルヴィさんはお父さんについて行ったのかい?」

 

ジョーレンはカフを一口飲みながら彼女に事情を聞いた。

 

「はい、父のような大使になりたくて勉強も兼ねて大使館に勤めていました」

 

「そうだったんですか」

 

「そうしたらあんなことになってしまって…本当にお二方は命の恩人です」

 

「いえいえそんな」

 

「まあそれくらいの働きはしたんじゃねぇの?とりあえず大使館メンバーが全員無事でよかった」

 

ジェルマンが少しムッとしたのを彼は確認した。

 

やっぱり童貞くさいなぁと思いつつジョーレンはこれからそんな相棒をからかっていく事に決めた。

 

 

 

-コレリア 軌道上ステーション-

コレリアの軌道上には数百隻以上の帝国艦が集まっていた。

 

造船所では久しぶりに全施設がフル稼働で動いており続々と失われた分の艦隊を取り戻していた。

 

続々とハイパースペースからインペリアル級やアークワイテンズ級などの主力艦が出現する。

 

「テルマー准将の第二十四機動艦隊到着、第二十五、第二十六機動艦隊も同様に到着」

 

「ローリング大将軍とオイカン元帥のリーパーが間も無くジャンプアウト、第一艦隊もです」

 

「ようやくか」

 

ステーションのブリッジから司令官はリーパーの到着を待った。

 

彼が副官と共にブリッジに立った瞬間リーパーと取り巻きの帝国第一艦隊はハイパースペースからの長旅を終えた。

 

帝国の威信を示したこのスター・ドレッドノートは周りの艦の何十倍も大きくそして強力だ。

 

ブリッジからその姿を見るだけでも鳥肌が立つ。

 

その反面もし自分がこれと戦う事になったらと思うと背筋がゾッとする。

 

こんな超弩級のスター・ドレッドノートを倒せるだろうか。

 

周りの付属艦を潜り抜けTIEの軍集団を掻き分け敵の砲火を躱しこの艦を撃破することが果たして可能なのであろうか。

 

否不可能だ。

 

死ぬに決まっている、やはり帝国艦隊に立ち向かおうなど自殺行為に等しい。

 

昔は出来たとしても今は違う。

 

再び帝国軍は進化した。

 

昔のようにむざむざと破れるような事はない。

 

その証拠に次々とハイパースペースから新型のインペリアル級が姿を表した。

 

昔のようにオナガー級スター・デストロイヤーやインターディクター級スター・デストロイヤーもいる。

 

「司令官、ローリング大将軍のシャトルがまもなく到着します」

 

「出迎えるぞ、こちらも渡す物がある」

 

司令官は部下を数名引き連れてブリッジを後にした。

 

艦隊の集結を最後まで見届ける事はなかったが司令官には確証があった。

 

帝国は必ず勝つ。

 

もはや敗北の屈辱は遠い過去のものだ。

 

集まり続ける帝国艦隊を背に司令官はそう思った。

 

 

 

-コルサント軌道上 ルサンキア-

続々とハイパースペースに突入していく帝国艦隊をシュメルケ上級大将とヴィアーズ大将軍の第一軍と第二軍は見守った。

 

囮部隊とは言えしっかりやってもらわねば。

 

尤もローリング大将軍がいる限り手柄を立てようといやでもしっかりやってくれると思うが。

 

昨日は帝国の日だった。

 

各地で帝国軍のほとんどをフル装備のままパレードに出していた為都合がいい。

 

そのまま兵器や兵員を艦に詰め込んで前線に運搬する事が出来るので迅速な展開が可能だ。

 

「閣下、後六個艦隊のハイパースペースジャンプで第三軍の編成は完了します」

 

「相当の声明発表まではあと何時間だ」

 

「3時間ほどです、それまでに第三主力艦隊の編成は完了するでしょう」

 

「なら我々も急がねばな、攻撃用の地上部隊は全て搬入済みだな?」

 

「はい、ホズニアン・プライム攻撃の第一軍四十五個兵団、シャンドリラ攻撃の第二軍三十個兵団、マジノ攻撃の第三軍四十五個兵団全軍準備完了です」

 

今回の戦いは400万人以上の大部隊が投入される。

 

新共和国の首都でありホズニアン・プライムを攻撃する為の第一主力艦隊と第一軍。

 

指揮官はシュメルケ上級大将で主に親衛隊が主軸となり迅速な首都陥落を目指す。

 

そして旧首都であるシャンドリラを攻撃する第二主力艦隊と第二軍。

 

ヴィアーズ大将軍が指揮を取り主に帝国軍や帝国地上軍が主力となる。

 

そしてマジノの防衛線から新共和国の主力軍を引き付ける第三主力艦隊と第三軍。

 

先程の通りローリング大将軍とオイカン元帥が指揮を取る。

 

第三軍が最も規模が大きく新共和国防衛艦隊と互角に渡り合える程の戦力を有していた。

 

「全艦に通達、ジャンプ隊形のまま待機だ」

 

「はい閣下」

 

士官はブリッジを後にしシュメルケ上級大将はブリッジから眼前に広がる帝国艦隊を見つめた。

 

インペリアル級が密集しその隙間を埋めるようにアークワイテンズ級やグラディエイター級が集まる。

 

真横を見つめれば同型艦のアナイアレイターが並んでいる。

 

これだけ見れば昔の帝国軍が復活したように思える。

 

だがまだ足りない。

 

追いつき追い越さねば。

 

もう二度と負けない為に。

 

すぐ先の戦いを見つめる彼の瞳はいつにも増して鋭く険しかった。

 

 

 

-アークセイバー ブリッジ-

ジークハルトとアデルハイン少佐、ハイネクロイツ少佐などの指揮官達はアークセイバーのブリッジに召集をかけられていた。

 

親衛隊宇宙軍の副旗艦となったこの艦は総旗艦であるルサンキアを守るべく目を光らせているように見えた。

 

付属艦としてグラディエイター級を二隻引き連れる姿はまさしく過去の姿を想起させた。

 

哨戒機のTIEファイターが艦隊の周辺を哨戒しインペリアル級のような巨艦が時折TIEファイターを影に隠してしまう。

 

帝国の偉大さを表す素晴らしい光景だ。

 

「そろそろ総統閣下の声明文発表だな…」

 

アークセイバーの艦長、リードリッツ・オイゲン准将はブリッジのモニターを見つめながら軽く深呼吸をした。

 

相当の演説が終わればすぐに戦場へジャンプしなければならない。

 

負けるつもりも死ぬつもりもないのだがやはり緊張はする。

 

彼の背後にいるジークハルトも同様であったように。

 

「哨戒行動中の全TIE部隊を収容しろ、なるべく全員に見せたい」

 

「了解しました」

 

ブリッジの下士官がTIE部隊に通信を繋げる。

 

他にも艦に異常がないか最終チェックをする下士官達がブリッジに溢れていた。

 

大幅なオートメーション化が為され整備などもたやすくなったのだがやはり最後は人間の手で行わなければ。

 

みようによっては完全にドロイドを信用出来ない滑稽な姿がそこにあるのだろう。

 

「総統府声明発表開始されました、モニターに映します」

 

下士官がコンソールを操作しブリッジのモニターに総統府の会見を映す。

 

大勢のホロネット・ニュース関係者に囲まれ会見を受けていた。

 

記者だけでなく軍人や民衆もその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

壇上に代理総統が立ち静かに周りを見渡す。

 

帝国を率いる者としての威厳が確かにそこにはあった。

 

見えなくともその圧に襲われジークハルトは身震いした。

 

まるで何十何百の激戦を潜り抜けてきたようだ。

 

総統はまだ喋ろうとしない。

 

何故なら人々の歓声がまだ収まらないからだ。

 

彼がいつも口を開く時は静まり返った状況だけだった。

 

その事をもうみんな理解しているのか口を閉しじっと総統の方を見つめていた。

 

『かつての皇帝はは20年以上も我が帝国の舵取りをする立場にありそれだけの期間、我が国に与えられた試練を全て乗り越えてきた』

 

ついに演説が始まった。

 

落ち着いた声のトーンで総統は演説を続ける。

 

『だが皇帝の死後帝国はどうなった?あの後の権力者は皆己の欲求に必死になった、皇帝の為にという意志は有ったものの彼らが成し遂げた唯一の功績というのは新共和国相手に無意味な戦いを続けこの帝国を存続させたという事だけである』

 

総統は真実を隠さなかった。

 

皇帝の死後彼のいう通り帝国は分裂した。

 

各地のモフは軍将と成り下がり己の欲求と亡霊じみた意志だけを原動力に戦っていた。

 

結果同胞同士の醜い争いが勃発し本来勝てるはずの新共和国に次々と敗北を重ねていった。

 

それは確かに愚かな行為だ。

 

『銀河協定を諸君らは覚えているだろうか?彼らは平和を誓い協定に愚かにも帝国のサインを押した、結果どうなった?』

 

市民達は俯いた。

 

その後のことは誰しもが知っている。

 

経済も治安も崩壊し全員が貧しくなった。

 

息詰まった感覚を覚えてもそれを吐き出す所はどこにもなかった。

 

この時初めて帝国市民は帝国の有り難みを知った。

 

だがもうその時はすでに手遅れに思えた。

 

『全て破壊されてしまった、人も建物も経済も栄光も生活も、これ以上に破壊された国がどこにあるというのだろうか?僅かな時で民衆はすっかり痩せ細り無気力な時をすごさる終えなくなってしまった』

 

まさに悲劇だ。

 

しかも実話でもある。

 

『私は悲しく思う、我が帝国は確実に崩壊の道を歩んでいる、そして新共和国は今にも我らを嘲笑いまやかしの平和に足を浸し優雅に酒を嗜んでいる』

 

総統の演説は嘆きから怒りに変わった。

 

『我々をこんな姿にしたのは誰だ?権力者か?軍人か?それとも民衆か?いや違う、平和を慈しみ平和を愛していた我々の国に奇襲を掛けその残忍な刃物で我々を引き裂き帝国を掻き殺した新共和国、延いては反乱軍にある!』

 

これもまた真実だった。

 

反乱軍は今までテロに近い行為を起こし力を蓄え奇襲により多くの命を奪った。

 

銀河を救った英雄達も蓋を開ければテロリストに変わりはない。

 

家族や親友を失った者達からすれば憎むべき敵だ。

 

『何故我らがそんな連中を前に屈辱の涙を流さなければならないのか、本来は彼らが我らの前に屈するべきである!その代価を支払い無惨な姿に成り果てたまま!』

 

総統はこの時特徴的な身振り手振りを交えて演説していた。

 

だがこの姿は見る者により感情的な一面を与え、聞く者の心を完璧に支配した。

 

そして両腕を前に広げこう宣言した。

 

『我々は今日復讐を開始する!銀河帝国は新共和国に対し戦線を布告する!』

 

言葉と共に民衆の歓喜の声が広がった。

 

あちこちで総統を称える声が聞こえ熱気と大歓声がコルサント中を包んだ。

 

涙を流し喜ぶ者もいれば大声をあげ戦いを待ち望む者もいた。

 

そして上空に位置する帝国艦隊にとってはそれは出撃の合図だった。

 

「全艦ハイパースペースへ、航路DC-E、“ターキンの跡に続け”」

 

オイゲン准将の命令と共にブリッジでは座標計算が行われ始めた。

 

ルサンキアやアナイアレイター、他のインペリアル級やクルーザーなどでもそうだ。

 

遠く離れたコレリアに駐留する第三軍は既に出撃していた。

 

艦隊は一瞬にして忙しくなった。

 

「ハイパードライブ座標セットDC-E、イニシアチヴのデータを使用」

 

「ドライブ正常に稼働中、1分後全艦ハイパースペースへ突入します」

 

下士官達の報告でブリッジはいっぱいだ。

 

独り言のようにジークハルトが言った。

 

「ついに始まるんだな…」

 

「ああ、総統の言う通り復讐戦だ」

 

「新時代の戦いでもある」

 

アデルハイン少佐もハイネクロイツ少佐も同じように続いた。

 

遂に艦隊の準備は整った。

 

そしてタイミングよく総統のこの言葉と共に艦隊は旅立つ。

 

『空を見上げて欲しい、栄光ある帝国の大艦隊が反逆者を討伐しに行く!皆手を振って見送って欲しい、帝国の意志が再び銀河に轟く姿を!!』

 

「全艦ハイパースペースへ!」

 

市民が手を振り声援を送る中軌道上の艦隊は皆ハイパースペースへ突入した。

 

青白い光に包まれ帝国艦隊は戦地へと出向いた。

 

始まってしまった。

 

再び銀河系に戦乱がもたらされた。

 

第二次銀河内戦の火蓋はこうして切られたのだ。

 

 

つづく




昨日言った通り今日は帝国の日!
さあみんなで祝いましょう!


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マジノ線戦戦闘中/新共和国壊滅中

-祖国の崩壊は前線の兵士達には聞こえずまた見えないものである-


-新共和国領 衛星マジノ マジノ絶対防衛線-

衛星マジノを基準とした新共和国の防衛戦はマジノ絶対防衛線、通称マジノ線と呼ばれた。

 

衛星に艦隊と地上軍を集結させ帝国艦隊を待ち伏せていた。

 

ハイパースペースのジャンプアウト予測地点に改良しより進歩した重力井戸搭載のビーコンを設置する事で確実にマジノへ引き寄せる事が可能だ。

 

名目上は帝国軍に対する防衛である為あくまで防衛線と名付けられているが実際は帝国軍殲滅用の要塞網だ。

 

そして遂に帝国は宣戦布告した。

 

間も無くこのマジノを戦場とした戦いが始まる事だろう。

 

先端はもはや秒読み段階であった。

 

『こちら情報収集艦コルベットL-2、周辺およびビーコン展開地点に艦影なし…敵、来ないね』

 

若きコルベット艦の通信士官がふと漏らした。

 

すると同期の通信士官が同期のよしみもあってか答える。

 

「来るさ…きっとそのうち、L-2は気管支艦隊に合流せよ」

 

『了解、ただち…敵艦!?そんなバカな!こちらL-2帝国艦を発見!現在応戦中!このままでは…うわぁ!!』

 

悲鳴やノイズ混じりの爆発音と共に情報収集艦L-2との通信は途絶えた。

 

一瞬にして士官の顔は青ざめた。

 

爆発音や向こうの通信士官の言葉からしても生存の確率は低い。

 

せめてこのことを伝えなければ。

 

「元帥!!アクバー元帥!」

 

士官は階段を上った先のアクバー元帥に叫んだ。

 

元帥と新共和国防衛艦隊総旗艦ホームワンの艦長は振り返った。

 

「どうした少尉、何かあったのか」

 

「たった今…情報収集艦L-2との交信が切れました…恐らく戦闘が勃発し…撃破されたものかと…」

 

「なんだと!?それは確かか?」

 

「元帥!前方フィールド47に敵艦隊!」

 

その言葉を裏付けるようにモン・カラマリのセンサー士官が叫んだ。

 

3人がブリッジの外を向くと今まで何もなかった宙域に数十、数百隻の帝国艦が姿を表した。

 

「バカな…なぜあそこまで陣形が整っているんだ…」

 

「重力井戸でここに来たのなら少なくとも陣形は多少崩壊するはず…」

 

参謀将校達が敵艦隊のあまりに綺麗な陣形に驚いていた。

 

その隣でアクバー元帥は完全に状況を理解していた。

 

「また…我々は罠に嵌まったのか…」

 

その姿を嘲笑うかのように帝国艦隊は一斉に砲撃を開始した。

 

ホームワンも艦全体が振動に包まれた。

 

「くっ…戦闘開始だ!プランBに変更、中央にバトルシップと装甲艦を集め防御力を高めろ!」

 

激しい砲撃の中新共和国艦隊は応戦しつつ陣形を転換し始めた。

 

プランBとは中央にバトルシップや装甲艦を集め中央の防御力を高め、両翼にクルーザーや空母を展開しスターファイターなどで敵の戦列を崩しながら各個撃破を行うものだ。

 

元々防衛策として生み出されたものなのだが今の状況ではこれ以外策がない。

 

突撃陣形や密集隊形を取ろうものなら帝国艦隊の集中砲火を受けて各個撃破される。

 

また散開し機動戦術を取ればそれこそ格好の的だ。

 

少しでも時間を稼ぎながら包囲して殲滅するしかない。

 

厳しい戦いになるだろうとアクバー元帥は覚悟を決めた。

 

「スターホーク級のトラクター・ビームを使用して帝国艦隊の陣形を崩せ、その間に全艦はイオン砲やターボレーザー砲で攻撃開始!」

 

数十隻のスターホーク級がずらりと並び艦首のマグナイト・クリスタル・トラクター・ビームが放たれた。

 

このトラクター・ビームはインペリアル級すら行動の自由を奪い捕らえる事が可能だ。

 

結果帝国軍ではこのバトルシップを危険視しておりそのための対抗策がいくつも生み出されてきた。

 

そして遂にそのうちの1つが効力を発揮した。

 

「ダメです、スターホーク級のトラクター・ビームがまるで効果を示していません!」

 

「なんだと、それは本当か?」

 

「はい!帝国艦が一隻たりとも動いていません!」

 

「原因を探せ、その間にも砲撃の手を絶やすな」

 

技術士官達が血眼になって原因を探す。

 

まさかトラクター・ビームが打ち破られるなんて想像もしていなかった。

 

「わかりました、敵のクルーザーからトラクター・ビームを無効化する妨害周波のようなものが発せられています」

 

「敵はこちらの技術を知っているのか…」

 

「バカなあり得ない!あれは最高機密だぞ!」

 

技術士官の1人が怒り気味に叫んだ。

 

「ならば仕方ない…包囲陣形のまま爆撃隊を展開する」

 

冷静なアクバー元帥はすぐに適切な命令を下した。

 

有りとあらゆる物が使えない新共和国軍にとってこの戦いは厳しいものとなった。

 

 

 

一斉にジャンプアウトした帝国艦隊は30秒も経たないうちに集中砲火の楔陣形を作り出した。

 

中央を防御力の高いテクター級と対空能力の高いグラディエイター級で固めそれを囲むようにインペリアル級が集まっている。

 

しかも艦と艦の合間には必ずと言って良いほどアークワイテンズ級やレイダー級が敷き詰められており対空防御も万全だ。

 

その中央には旗艦リーパーが堂々と姿を表していた。

 

「集中砲撃しつつスターファイター隊を準備しろ、連中に戦い方を教えてやる」

 

ローリング大将軍はこれまでになく自信に満ち溢れた顔をしていた。

 

その横でオイカン元帥は各艦に細かな指示を伝達する。

 

背後には大勢の参謀将校が細かな敵陣形と味方の状況を見つめて作戦を練っていた。

 

「敵艦隊は後退しつつ陣形を転換しています」

 

「敵両翼に集中砲撃、恐らく包囲陣を作り出すはずだ」

 

オイカン元帥の指示は功を奏し陣形転換中の新共和国艦隊はまともな応戦など殆ど出来ず損害を出していった。

 

そして元帥の読みも当たっていた。

 

新共和国艦隊は起用にも損傷艦と偏向シールドを展開した艦を入れ替えつつ包囲陣を完成させた。

 

「敵艦隊は主力艦を中央に集めて防御力を高めているようです」

 

「同様に空母とクルーザーを両翼に展開し包囲するつもりでしょう」

 

参謀将校の2人はそう説明した。

 

放置しただひたすらに進撃すれば見事に敵の包囲網に嵌り大打撃を受けるだろう。

 

かと言って進撃せずその場止まり続ければ司法からの砲撃を受け戦力をすり減らされてしまう。

 

「中央にオナガー級と例の新型艦を投入し一斉砲撃、両翼の空母群は…ローリング大将軍」

 

「TIEパニッシャーとTIEディフェンダーを投入してスターファイター隊も空母群も殲滅してやる」

 

オイカン元帥は頷いた。

 

帝国軍の迅速な対応は新共和国に更なる被害をもたらした。

 

ターボレーザー砲で攻撃するテクター級やインペリアル級が徐々に左右に分かれ中央に数十隻の特殊艦が出る。

 

両翼を固めているのはオナガー級スター・デストロイヤー。

 

別名シージ・ブレイカーとして知られ超重合成ビーム・ターボレーザーと巨大粒子砲を搭載しており安全圏からの長距離軌道上爆撃を行う事が出来る。

 

出力源はあのデス・スターのスーパーレーザーにも利用されたカイバー・クリスタルであり当然艦隊戦にも使用できた。

 

そしてその中央に君臨するのはコルサントの秘密施設で見つけたインペリアルⅠ級アキシャル・スター・デストロイヤー

 

この謎が多い艦はⅠ級の船体をベースとしていながらも下船部に巨大な砲門のようなものが備え付けられている。

 

データによるとアキシャル・シージ・レーザーキャノンと呼ばれオナガー旧よりもより精密で強力な軌道上爆撃に似た攻撃を繰り出せるそうだ。

 

これもまた動力源はカイバー・クリスタルでありクルーザー程度ならたった一撃で撃破出来るらしい。

 

実際この艦を運用するのは今回が初で帝国側としても若干の不安感があった。

 

そしてそんな超兵器艦隊を指揮するエドワルド・マークハイン提督も同じような感情を抱いていた。

 

「射線軸に友軍艦艇なし」

 

「エネルギー充填率87%、100%重点まで後120秒」

 

「全艦砲撃位置に着きました、どうなされますか?」

 

「まずは中央の艦列を分断する、それが不可能なら各個撃破に移行するぞ、中央二隻を拡散モードへ移行させろ」

 

艦長のエルゴール・バルツァー大佐は頷き各艦に命令を出した。

 

この艦隊の能力が吉と出るかはたまた成果を出さず凶と出るか。

 

不安感と期待感が全員の胸の中でごちゃ混ぜになっている。

 

「充填率100%、砲撃可能です」

 

「よし、全艦砲撃開始!」

 

オナガー級とインペリアルⅠ級のアキシャル・シージ・レーザーキャノンが一斉に光を放った。

 

火力はデス・スターより低いらしいが艦隊に大打撃を与えるには十分だという。

 

数十隻集まればあのデス・スターと同じく惑星さえ破壊できるそうだ。

 

流石にそこまでは期待しないが艦隊くらいには打撃を与えて欲しいものだ。

 

直後どれも恐ろしいエネルギーを解き放ち新共和国艦隊に牙を向く。

 

そして誰しもが予測しない事が起こった。

 

 

 

ホームワンのブリッジの将校が皆唖然としていた。

 

状況の理解が出来ていない。

 

唯一正常な判断をしているのは険しい表情で帝国艦隊を見つめるアクバー元帥だけだった。

 

「…ッ!状況今日報告を!」

 

ピクリとも動かない将校達にその視線を向けた。

 

ハッとして蘇った将校達は言われた通り報告を開始した。

 

「損害は…スターホーク級一隻撃沈、二隻中破、九隻小破、MC80十二隻轟沈、十五隻中破、二十四隻小破…」

 

「総合的な被害は?」

 

「全て合わせると…五十七隻です…」

 

気絶しそうになる程の大損害だ。

 

この戦いには現在の新共和国防衛艦隊の8割以上が参戦している。

 

総数はおよそ三百六十隻。

 

数だけでは今の一撃で15%以上が撃破されてしまった事になる。

 

はっきり言って今の一撃で中央の艦隊はほぼ壊滅状態だ。

 

ギリギリの所でホームワンは回避し無傷なままだったが他の艦はそうは行かなかった。

 

「元帥!このままでは…」

 

「惑星に退却用意!このままでは全滅してしまう!」

 

「元帥、両翼の艦隊が独自行動を!」

 

「何!?今すぐ辞めさせて退却するんだ!このままでは更なる被害を被るだけだ!」

 

「既にスターファイター隊を発艦させています!もう手遅れです!」

 

「くっ…」

 

アクバー元帥は厳しい表情を向けた。

 

 

 

「よし急げ!全機発艦させろ!」

 

MC80スター・クルーザーの甲板士官がハンガーベイの中で叫んだ。

 

大勢のパイロットが自機のコックピットに乗り込みヘルメットを被る。

 

一方技術兵は機体のソケットにアストロメクを差し込み機体の最終確認をした。

 

これで出撃態勢は万全だ。

 

『全中隊発艦用意、戦闘開始後は各艦隊司令官の命令を第一優先とする』

 

XウィングやAウィング、Yウィングが高く舞い上がる。

 

偏向シールドを飛び抜け宇宙に出た新共和国軍のスターファイター中隊は編隊を組み機体を調整した。

 

静かな宇宙に機体のエンジン音だけが響いた。

 

『フォイル中隊全機、Sフォイルを戦闘ポジションへ』

 

「了解フォイルリーダー」

 

若きパイロットが機体を操作しXウィングの両翼を戦闘モードに切り替える。

 

ちょうどX字なったその翼はいつでも戦えそうだ。

 

隊長が先行しその後ろに部下のXウィングやAウィングが続く。

 

『フォイル8、敵機を確認、TIEの群れです』

 

『フォイル12、スキャンしろ、何がどのくらいいる』

 

中隊長は冷静に機体を操作しつつ尋ねた。

 

支援機を操るフォイル12がスキャンを開始する。

 

UT-60D Uウィング・スターファイター/支援船は数は少ないが使い勝手はいい。

 

『スキャン完了!TIEインターセプターが五割前後でTIEボマーが三割、しかし…前方に1個中隊ほど見慣れない機があります』

 

『どんな機体だ』

 

『データ転送します』

 

全機にUウィングからのデータが転送された。

 

それをみて中隊長は驚愕した。

 

「これは…TIEディフェンダーだと!?」

 

正式名称TIE/Dディフェンダー

 

TIEシリーズ最高の機体であり偏向シールドにハイパードライブとかなりの高級品だ。

 

火力もTIEファイターやTIEインターセプター以上で一撃を喰らっただけでも機体は破壊されてしまう。

 

それがまさか1個中隊もあるなんて。

 

中隊長は驚愕しつつも冷静に指示を飛ばした。

 

「後方のYウィング中隊にイオン砲の用意を、シールドを剥がして攻撃する!」

 

『了解!』

 

『中隊長!敵機が!!』

 

「何!?」

 

一瞬のうちにTIEディフェンダーの中隊が恐ろしいスピードで接近してきた。

 

もう目と鼻の距離だ。

 

TIEディフェンダーは翼についている全てのレーザー砲を展開し次々と友軍の機体を鉄屑に変えていった。

 

『隊長!隊長!!』

 

『バカな!ウワァァ!!』

 

断末魔の叫びと共に通信が途切れていった。

 

たった一瞬の攻撃で中隊の半分が撃破されてしまった。

 

後方で応戦する友軍機もシールドの前には敵わず無意味なまま散っていた。

 

中隊長はただただ唖然とするしかなかった。

 

「馬鹿な…」

 

『隊長、敵機が来ます!』

 

部下の報告と共に大量のTIEインターセプターの群れが襲い掛かって来る。

 

黄緑色のレーザーは回避しきれなかった味方の機体を次々と殲滅していった。

 

一瞬のうちに新共和国軍のスターファイター隊は壊滅状態に陥った。

 

前衛の中隊は1機残らず全滅し生き残った機体は母艦に撤退する他なかった。

 

戦意喪失し失意の中戦い続ける新共和国軍に更に不幸が訪れた。

 

「艦長!帝国軍の爆撃機中隊が!!」

 

「対空防御だ急げ!」

 

しかしそれすら今の帝国軍には意味がない。

 

なにせ先行する爆撃機はシールドを装備したTIE/caパニッシャー・スターファイター、別名TIEパニッシャーなのだから。

 

TIEパニッシャーとTIEディフェンダー。

 

いくら帝国軍再軍備を進め親衛隊が誕生しようとこの2機を中隊規模で再生産するなど不可能だ。

 

可能であったとしてもその分他の機体や艦船に予算を回す方が合理的だ。

 

この2機もコルサントの秘密施設から手に入れたものだ。

 

何故保管されていたか、理由は全くの不明だが使う他ないだろう。

 

お陰で帝国軍のスターファイター隊は再びかつての力を取り戻した。

 

そしてその力を証明する様に獲物を狩るようにTIEパニッシャーの中隊は爆撃を開始した。

 

プロトン魚雷とプロトン爆弾の雨がMC80や周辺の艦船を攻撃した。

 

シールドを貫き大爆発を起こす。

 

他のTIEボマーも次々と爆撃に成功していく。

 

新共和国の両翼艦隊も大打撃を受けた。

 

数隻の艦船が爆発し沈んでいく。

 

誰がみても新共和国の不利は明らかであった。

 

 

 

アクバー元帥は別働艦隊を指揮するストライキング・ディスタンスと通信回線を開いていた。

 

現在の所新共和国艦隊は不利な状況で損耗が激しいが別働艦隊との連携が取れれば十分勝機はある。

 

厳しい撤退戦の末アクバー元帥とその艦隊はなんとかマジノの大気圏内まで撤退した。

 

『そのような兵器が…』

 

「恐ろしい兵器だが戦わねばならない、出なければあの兵器が今度はホズニアンや新共和国領の惑星に向けられてしまう」

 

『…兵の士気は』

 

「高いはずがない…辛うじて戦線を維持出来るほどだ、いつ脱走兵が出てもおかしくはない」

 

『直ちに急行します』

 

「頼んだぞ、地上も危険になってくる」

 

通信を切りライカン将軍のホログラムが途切れた。

 

あのような兵器が存在していたとは。

 

惑星を破壊出来るデス・スターのような超兵器の類だが数がいて拡散砲撃まで出来るとなればデス・スターよりある意味脅威だ。

 

あれを有効活用されてはこちらが手を出す前に全滅させられてしまう。

 

対抗策を考えなくては。

 

「各前哨基地に通達、全装備を持って要塞司令部に撤退せよ」

 

「元帥、帝国艦隊に高熱原体を探知!これは艦隊を攻撃されたものと同じエネルギーです!」

 

「なんだと!?全艦偏向シールドエネルギーをフルパワーで展開しろ!各基地も惑星シールドを急いで展開するんだ!」

 

「熱原体発射されました!!」

 

士官の報告と同時くらいに白い雲を貫き地上に降り注いだ1本の光球が見えた。

 

直後地表で大爆発が起こり轟音と共に艦が少し揺れた。

 

「まさか…各前哨基地と通信を繋げ!」

 

アクバー元帥は最悪の事態を考え急いで部下に命令を出した。

 

通信士官のほとんどは基地との通信を繋ぎ無事に回線が繋がった事を安堵していたがそうでない者もいた。

 

青ざめ絶望に満ちた表情を浮かべ震えた声でアクバー元帥に報告した。

 

「ダメです…第六基地からとの回線が繋がりません…基地も応答無し…」

 

「第八補給基地と第十六前哨基地もです…前哨基地3つからの応答がありません…」

 

「…元帥…」

 

ブリッジにどんよりとした重たい空気が流れる。

 

各前哨基地には少なくとも数百人以上の兵士がいたはずだ。

 

「元帥…友軍の哨戒機から映像が…」

 

「流してくれ…」

 

士官は恐る恐るモニターに哨戒機の映像を流す。

 

その光景を見た瞬間ブリッジの誰しもが絶句した。

 

あまりの光景に感情や脳の処理が追いついていないのだろう。

 

それだけ凄惨な光景だからだ。

 

「ここは確か…」

 

「第六基地があった…」

 

後退りし自分にその気がなくとも目を背けようとする。

 

逃れられない絶望的な真実を前にして誰しもが言葉を紡ぎ怖れをなした。

 

「場所は…第六基地設置区画です…現在生命反応はないとの事…」

 

大きく抉り取られ荒地と成り果てた荒野は新共和国軍が基地を設置した場所だった。

 

跡形も無くなり元々何が存在していたのかさえ不明だ。

 

大きなスプーンで抉られたような大穴と草木が吹き飛び精気がまるでない光景が広がっている。

 

恐らく第六基地にいた人員は既にもう。

 

誰しもが絶望感に襲われ気付かないうちに恐怖に屈し涙を流した。

 

そして悟った。

 

帝国軍には勝てないと。

 

こんな強大な力を持った敵に敵うはずがない。

 

「急いで各地の前哨基地を放棄して要塞司令部に撤退させるんだ!これ以上の損害は出せん…」

 

アクバー元帥は諦めず指示を飛ばすが士官達は完全に敗北ムードだ。

 

これが歴戦の猛者と一兵卒の違いだろう。

 

敗北するしかない。

 

全てのそう士官達は思った。

 

かつて遠い昔に反乱軍が思い知った事を新共和国もまた思い知った。

 

 

 

新共和国軍の前哨基地の消失は無論帝国軍によるものだった。

 

新共和国艦隊を攻撃したインペリアルⅠ級とオナガー級の機動艦隊が再びその力を奮ったのだ。

 

元々両艦ともカイバー・クリスタルを用いた軌道上爆撃がメインであり艦隊への攻撃など副産物に過ぎない。

 

ようやく本領発揮といった所だ。

 

オナガー級は元々その力は知れていたがアキシャル・シージ・レーザーキャノンの方は未知数だった為将校達から感嘆の声が響いた。

 

惑星シールド展開中の基地をたった一撃で殲滅してしまうとは。

 

帝国軍としても予想外の結果だった。

 

無論嬉しい誤算としてだが。

 

「すごいな…まるで小さいデス・スターだ…」

 

ローリング大将軍は嬉しそうにそう評価した。

 

彼の評価は見事にその状態を言い当てていた。

 

たった一撃で基地を破壊出来、カイバー・クリスタルを動力源としている。

 

正しくミニチュアデス・スターであり実際この艦は“そんな艦隊のプロトタイプであった”。

 

「エネルギーチャージと冷却にあと3時間ほどかかりますが」

 

「今の一撃で十分だ、全艦で衛星を包囲するぞ」

 

「カタログスペックだとシージ・キャノン搭載の艦艇数十隻で二時間以上一斉に照射し続けると惑星すら破壊出来るそうですが」

 

「それでは新共和国艦隊に逃げられるだけだ、波状攻撃をメインとして使え」

 

ローリング大将軍は首を振りその作戦を却下した。

 

オイカン元帥も非現実的だとして快く思っていない。

 

衛星を破壊しなくとも十分新共和国軍には打撃を与えられるしあくまで彼らの仕事は陽動だ。

 

出過ぎた真似は帰って本隊の邪魔になるだけだろう。

 

特にあの悪魔のような親衛隊最高司令官に何を言われるか分からんからなとローリング大将軍はこっそり思っていた。

 

「惑星には近づき過ぎるなよ、アクバー元帥は強敵だ、反撃を被るかもしれん」

 

「了解致しました」

 

オイカン元帥の命令に参謀将校は頷いた。

 

全く油断を見せないのも今の帝国艦隊の強みだろう。

 

こうして衛星マジノの包囲戦が始まった。

 

 

 

「間も無くライカン将軍の別働艦隊が到着します」

 

「これが最後の賭けか…」

 

アクバー元帥はホームワンの自室で遠くを見つめていた。

 

その言葉はいつにもなく重たかった。

 

「帝国軍の動きは?」

 

「以前変わりありません、地上部隊を展開する訳でもなく艦隊戦に出るわけでもなく…」

 

「軌道上爆撃のみか?」

 

「はい、包囲網は突破できないのですが…」

 

「妙だな…電撃的に地上攻撃いても良さそうなものを…」

 

アクバー元帥は妙に思った。

 

ホスの戦いでは容赦のないAT-AT部隊に苦しめられたと聞く。

 

彼は一種の不信感すら抱き始めていた。

 

ここまで巧妙に一手一手を進め確実に両軍に打撃を与えている敵がこんな初歩的なミスをしないだろうか。

 

既に基地の守りは万全だ。

 

今の新共和国地上軍なら十分帝国地上軍を撃退出来る。

 

それを知らない敵ではないだろう。

 

となるとまだ強力な一手があるのだろうか。

 

デス・スターのように衛星ごと破壊出来るような一手が…

 

しかしそれらは思考の領域だけで止まってしまった。

 

何故なら通路の遠くから全力で走ってくる足音が聞こえたからだ。

 

しかもアクバー元帥の名前を呼んでいる。

 

「元帥!!アクバー元帥!!」

 

「どうしたんだ少尉!」

 

先に連絡をくれた中佐が若き少尉を止めた。

 

息切れを起こしている少尉はなんとか顔を見て話をしようとする。

 

「どうしたのだね少尉」

 

「はい…新共和国ホズニアン・プライムからです…」

 

「首都から?」

 

アクバー元帥は不思議に思った。

 

何を今更ホズニアンから連絡を受ける事があろうか。

 

しかし次の言葉を聞いた瞬間アクバー元帥は顔色を変えた。

 

「帝国艦隊の奇襲を受けたホズニアン・プライムおよびシャンドリラは…抵抗虚しく陥落したとの事…現在()()()()()()()()()()()!」

 

「バカな!!」

 

中佐の言う通りだ。

 

今帝国艦隊と戦っているのはアクバー元帥達だ。

 

しかもホズニアン・プライムと新共和国領を守る為に。

 

そのホズニアン・プライムが陥落したと言うのか。

 

言葉が出なかった。

 

「元老院は壊滅…一部議員や官僚達がなんとか撤退したとの事…シャンドリラではモン・モスマ殿下含め数千名が捕虜に…」

 

「戦っていた新共和国軍は?惑星防衛軍はどうした」

 

「この伝達が来た頃にはすでに損耗率78%…もはや…」

 

もう言わなくてもわかる。

 

少尉の報告は真実だ。

 

ホズニアン・プライムは陥落し帝国の旗が今頃ホズニアンのあちこちに靡いているのだろう。

 

出なければここまで正確な情報が届くはずがない。

 

「では我々が戦っていた艦隊は陽動だと言うことか…」

 

中佐は絶望した。

 

あれだけの艦隊が陽動だと言うのか。

 

まだ帝国は首都を陥せるほどの戦力を隠していたと言うのか。

 

そんな連中に勝てるのかと定型文に似た弱音を持ち始めていた。

 

当然アクバー元帥も心の中では悔しさと怒りが溢れている。

 

だが最高司令官が感情をむき出しにするべきでは無い。

 

もう新共和国はなくなった。

 

守るべき首都は堕とされた。

 

ならばやることは決まっている。

 

「…全地上部隊を撤収させ撤退の準備だ」

 

「元帥…?」

 

「急げ!一兵でも多くこのマジノから撤退させるのだ!新共和国の…()()()()()()()()()()!!」

 

アクバー元帥が弱音を吐く時間はなかった。

 

彼には大きな責任がありそれをまっとうする義務がある。

 

それはこの危機的状況の今だ。

 

歴戦の猛将による銀河史上最大の撤退戦が今始まった。

 

 

つづく

 




ふいー投稿
不定期更新の割には根気よくやってんな()

そしてBefore

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新共和国の崩壊/前編

-銀河から再び民主主義の日は消えた-


 

-帝国領 ディープ・コア特別警戒区-

ハイパースペースから二隻のエグゼクター級と数千隻の帝国艦が姿を表した。

 

ナイフのような姿をしたスター・ドレッドノートに率いられた帝国艦隊は前方の小さな白色の衛星まで進んだ。

 

データによればここに帝国軍の施設があるらしく仮にそれが機能していないにしても一旦の補給地点にしようとしていた。

 

帝国艦隊が現在保有しているインペリアル級はおよそ6,210隻。

 

今回はそのうちの4,200隻が戦線に投入された。

 

現在マジノ線で敵の主力艦隊を攻撃しているのは2,000隻。

 

恐らく敵艦隊はアクバー元帥の主力数百隻を筆頭にライカン将軍やメイディン将軍などの艦隊含めて2,000隻以上が参戦しているだろう。

 

単純な戦力で言えば互角、現在帝国艦隊がほぼ全戦力をマジノ本隊に向けているので実質的には帝国有利だ。

 

だがいつ他の防衛線から敵艦隊が参戦してくるか分からない。

 

そうなれば有利は不利に変わるだろう。

 

その為にも早急にホズニアン・プライムとシャンドリラを陥さなければならない。

 

「第一軍は現在マジノ線の敵艦隊と交戦中、アクバー本隊への攻撃に成功し衛星内まで撤退させたとの事」

 

「早いな…アクバー元帥なら後3時間は持ち堪えると思ったのだが」

 

「例の砲艦隊の効力が凄まじかったそうです、やはりあれは量産し全艦に設置すべきでしょう」

 

ルサンキアのブリッジに数名の高級将校のホログラムの姿があり会議を開いている。

 

ホロテーブルにはマジノを攻撃する帝国艦隊の姿があった。

 

「周辺艦隊が動き出しているようですがプラン通り応戦するとオイカン元帥が」

 

「そうだな…例の砲艦で軌道上爆撃を開始し新共和国の地上軍を殲滅しろ」

 

『上級大将…その…』

 

『アキシャル砲の軌道上爆撃は未だ未知数な点が多く…』

 

『今使用するのは危険です…』

 

参謀将校達は少し躊躇いシュメルケ上級大将に進言した。

 

実際の所その場の全員がアキシャル・シージ・レーザーキャノンの事を疑っていた訳ではなかった。

 

あの兵器の力は凄まじくそれはアクバー元帥の艦隊に対して証明済みだ。

 

だからこそだった。

 

あの兵器は理論上惑星シールドを展開していようとたった一撃で基地を丸ごと消し炭にする事が可能だ。

 

どんなに艦隊や基地が抵抗しようと砲撃している艦を撃破しない限り止める事は出来ない。

 

一方的なワンサイドゲームの戦場すら作り出す事ができる。

 

だからこそ将校達は躊躇いを覚えた。

 

戦場での一方的なワンサイドゲームはただの虐殺だ。

 

あの軌道上爆撃はそれが可能であり無抵抗の敵を痛振り弄ぶ事となる。

 

以前なら良かったが現在はその事が明るみに出た場合何を言われるか分からない。

 

「それは初めてデス・スターを使った時もそうだ、どんな物も最初とは危険が付き物だ」

 

「ですが…」

 

「そうまでいうなら多少出力を落とすのもいいだろう、だがやらねばならない」

 

シュメルケ上級大将は断固として退く事はなかった。

 

むしろ将校達の方が退き気味だ。

 

「再び帝国の秩序と威信を銀河に広く渡らせる為には痛みが必要だ、馬鹿げた国家を起こす新共和国がまず最初の痛みを知る事となる」

 

「つまり…新共和国はその先駆けで今後も同様の事を行うと?」

 

「当然だ」

 

隣で話を聞いていたモーデルゲン上級大将は彼に尋ねた。

 

即答だ。

 

「帝国に逆らう愚か者には痛みで教えなければならない、そして痛みを教え立ち直らせるのが我々の義務だ」

 

「その為に親衛隊と帝国軍が存在している」

 

フューリナー上級大将がそう付け加えた。

 

「この戦いはその一連の作業のうちに過ぎん、我々が目指す“恒久的な平和”のな」

 

シュメルケ上級大将は諭した。

 

そして会議をじっと聞き続けたヴィアーズ大将軍はそんな彼をみてふと思った。

 

彼の姿はどこかターキンに似ていると。

 

 

 

-第一親衛艦隊副旗艦 アークセイバー艦内-

「余った弾薬は全て厳重に保管しておけ、艦隊戦の時引火したら大変だ」

 

「わかりました」

 

「第12中隊の砲撃と第四連隊の突撃が始まったら我々も進軍する、それまでは砲撃中隊の支援だ」

 

「了解」

 

「あっそれと今回はダーク・トルーパーはなしだ、通常のトルーパーを乗せていく」

 

「了解しました」

 

ジークハルトは部下の数人に指示を出していた。

 

いよいよ戦闘の時まで数時間を切っている。

 

「連隊長、ファイター隊の装備だがやっぱシグマ=トゥエルヴの方がいいか?」

 

「いや制圧戦ならオメガ=トゥエルヴの方が役立つだろう、ボマーにはちゃんとイオン魚雷も」

 

「分かってる、インターセプターともこれでおさらばだな」

 

アドバイスを貰いに来たハイネクロイツ少佐はしっかり固定されている愛機を見つめそう言った。

 

ジークハルトはタブレットで物資を確認しながら疑問に思い尋ねる。

 

「おさらば?どうしたんだ急に」

 

「いや親衛隊から新型のインターセプターに乗り換えるよう言われてな」

 

「そうか…だがそれなら上官である私に一言あるはずだが?」

 

「まだ極秘なんだよ」

 

あえてジークハルトの顔を引き寄せ彼は耳打ちした。

 

それを聞いた瞬間ジークハルトは目を補足し不審な顔を作った。

 

「そういう事言っちゃいけないんじゃないのか?」

 

「いいんだよ大隊長閣下だし、それに明日にでも連絡が来るだろう、生きてればな」

 

「冗談きついっての、お前こそ堕とされて一緒おさらばすんなよ」

 

「言ったな?任せとけって、それじゃあな」

 

明るい声のままハイネクロイツ少佐は手を振り愛機の元へ去って行った。

 

ジークハルトも軽く手を振り返した。

 

すると反対側からヴァリンヘルト中尉とアデルハイン少佐がやって来た。

 

「中佐、後1時間後に出発だそうです」

 

「それと全兵器の収容及び整備が整いました、いつでも戦闘できます」

 

「分かった、出発まで兵士たちをなるべく休ませておけ」

 

「わかりました」

 

ヴァリンヘルト中尉は頷き走って伝えに行った。

 

タブレットを近くの棚に置くとジークハルトはアデルハイン少佐を引き連れてブリッジの方へ向かった。

 

ハンガーベイを離れると2人は軽く雑談を始めた。

 

「そういえばお前が結婚してもう7年か?」

 

「大体それくらいだな、どうした急に?」

 

「いやふと昔のこと思いだしてな…縁起が悪いって言われそうだが」

 

「全くだ」

 

2人は苦笑いしながら通路を歩いていた。

 

彼らにとってはある種懐かしい光景だ。

 

「…ようやくだな」

 

「ああ、これでようやく()()()にも顔向け出来る」

 

「新共和国に仇討ちを誓ったって誰かが還ってくるわけじゃないさ…だが」

 

「言わないでいい、そんな事百も承知だ」

 

「そうだったな」

 

アデルハイン少佐はあえてジークハルトの言葉を区切った。

 

彼にそんなこと言わせたくはない。

 

誰だって分かっている、その上で我々は戦うのだ。

 

「今日で新共和国は…終わりだ」

 

それは過去の亡霊たちに誓った復讐戦の言葉だった。

 

 

 

-ホズニアン・プライム軌道前哨基地-

惑星軌道上の新共和国艦隊はいつもより閑散としていた。

 

それでも六十隻余りの艦が駐留しているのだから大したものだ。

 

いずれはこの艦隊ももっと規模が縮小するであろうが。

 

ちょうど惑星の時間帯でいえば今は昼間だ。

 

そのせいか民間の船舶の動きは活発になっている。

 

あと少しすれば帝国艦隊が来るとは知らずに。

 

最初に異変に気づいたのは到着の約5分くらい前だった。

 

「中佐、ハイパースペース内に1,000m級の大型船舶の艦影を検知しました」

 

「艦識番号は?幸い艦隊がいないもんだから軌道上はスカスカだが一応聞いておこう」

 

「それが…探知できません…確かに存在はしているのですが…」

 

「存在しているのに探知不能とはどういう事だ、待ってろ今問い合わせる、あぁもしもし?」

 

中佐は回線を開き地上の管理所まで連絡を取った。

 

その間にも士官達は熱心にコンソールを操作し艦影を探知していた。

 

「ああ…分かった、管理所だと今日は1日大型の船舶の到来はないそうだぞ」

 

「ですが確かに艦影は…」

 

「機器の故障かもしれん…後は記入漏れ、不法侵入…」

 

司令官の中佐は指で思い当たる節を数え考え始めた。

 

その間にも技術士官達が機器の不調がないか整備し始めた。

 

「中佐、機器には異常はありません、正常に稼働中です」

 

「となると記入漏れか不法侵入か…とりあえず警戒レベルを引き上げよう、全哨戒機に忠告しておけ」

 

「了解しました」

 

「記入漏れだと管理所に報告する事となっていますが」

 

下士官の言葉に中佐は唸り声をあげ帽子を取り頭を掻いた。

 

入出船舶管理所の連中は記入漏れの事になると物凄くうるさい。

 

「そんな事はあり得ない、そちらの間違いだ」だの「そんなミスあるわけがない」だの絶対に間違いを認めようとしない。

 

さっきだってものすごい不機嫌な対応をされた所だ。

 

もう一度かけ直して記入漏れを指摘したら怒鳴られるのがオチだろう。

 

「…軍本部に連絡して対応を待つか」

 

「ですが後30秒で出現します」

 

「なんだと…急がないと…」

 

あたふたする中佐を完全に無視した形で彼らは現れた。

 

「これは…帝国軍のスター・デストロイヤーです!!」

 

「バカな!?今元帥の艦隊が抑えているはずだ…とにかく惑星を封鎖し全ファイター隊を展開しろ!!」

 

中佐は焦り取り敢えず命令を出した。

 

基地では警報が鳴らされ数百機のスターファイターが飛び立った。

 

だが一歩遅かった。

 

「中佐!敵艦隊が砲撃してきます!」

 

「シールド展開!急げ!」

 

「間に合いません!ブリッジに直撃します!」

 

「嘘だぁ!!そんなバカなぁ!!」

 

中佐の情けない声と共にブリッジにターボレーザーの一撃が貫きブリッジの全員を跡形もなく消し飛ばした。

 

 

 

ハイパースペースから出現した帝国、親衛艦隊の動きは迅速を極めた。

 

たかが六十隻程度の艦隊で数千隻の大艦隊の足止めを出来る訳が無い。

 

僅かな時も稼げず親衛隊地上軍の降下を許してしまった。

 

既にセキューター級スター・デストロイヤーを旗艦とした降下揚陸隊がホズニアン・プライムのあちこちで戦闘を始めている。

 

本来なら軌道上爆撃で更地にもでしてもいいのだが代理総統の意向でそれは却下された。

 

ジークハルトとストライク・フォースや第六親衛連隊も降下し支援を開始した。

 

「あそこに砲火を集中しろ!対空砲を潰すんだ」

 

『了解、座標セット』

 

AT-MPマークⅢ数機がミサイルを三発発射する。

 

この最新鋭機は顎の部分にAT-STのようなレーザー砲を備え付けられ近距離にも多少対応出来るようになっている。

 

だが以前から問題になっていた装甲の脆さはまだ解決されておらず課題は残っていた。

 

ミサイルが友軍を狙うターボレーザーを全て破壊した。

 

徐々に対空砲網が薄まり代わりに煙火が立ち込めていた。

 

『連隊長、友軍のセキューター級が支援を求めています』

 

「ポイントはどこだ」

 

『エリア-22です、ここからざっと1200メートル前後です』

 

「現地の地上部隊は」

 

『苦戦中です』

 

「持ち場を離れる訳にもいかん…ストライク2と3は共に来い、後付属機のAT-STもだ」

 

『了解』

 

ジークハルトを乗せたストライク1とアデルハイン少佐を乗せたストライク2が後ろに続く。

 

他にも親衛隊使用のAT-STマークⅢが続いた。

 

上空ではTIEインターセプターやTIEファイターとXウィングやAウィングが戦闘を開始している。

 

だが堕とされるのはどれも新共和国側のXウィングやAウィングばかりだ。

 

パイロットの練度や機体性能の前に物量が違いすぎる。

 

それは地上でも言える事だ。

 

まともな防衛線も展開出来ぬままウォーカーの機甲師団や機甲兵団に戦線を蹂躙されチリジリになって逃げている。

 

元々新共和国軍の地上戦力はお世辞にも高いとはいえない。

 

その上軍縮までなされているのだから今までの何倍も弱体化しているだろう。

 

「あれだな…戦闘中の中隊を下がらせてウォーカーで潰すぞ、AT-ST隊は先行しろ」

 

『了解連隊長!行くぞ!』

 

6機のAT-STマークⅢがノシノシと音を立てながら先行する。

 

その間にジークハルトは機体のコムリンクを開いた。

 

「戦闘中の地上中隊聞こえるか?」

 

『こちら指揮官マインツ大尉だ、どうされたか』

 

「今すぐ前方の対空基地を破壊する、一旦後退して再度攻勢に備えてくれ」

 

『了解した、全隊後退だ!』

 

物分かりのいい指揮官だ。

 

こういう場合意地でも撤退しない指揮官もいる。

 

手柄を横取りされたくないからだとか任務がどうとかそういう理由を並べて悪戯に兵力に損失を出す。

 

敵よりもこう言った無能な味方の方が100倍厄介だ。

 

その間にもAT-STマークⅢは戦果を挙げていた。

 

両耳に相当する部分に付いているツイン・レーザー砲の火力で敵兵は鎖のように連なりバタバタと倒れていった。

 

ブラスター・ライフルで応戦するがそんなもの効くはずがない。

 

ツイン・レーザー砲の餌食となりその命を散らすだけだった。

 

『間も無く敵の掃討が完了します!』

 

「よくやった、こちらもも砲撃態勢に移る」

 

コックピットの天井から双眼鏡のようなターゲットスコープを取り出し覗き込んだ。

 

 

 

 

AT-ATの主兵装であるMS-1連動方式重レーザー砲が放たれる。

 

この強力な重レーザー砲は輸送船程度ならたった一撃で撃破する事すら可能だ。

 

対空基地を破壊することなど雑作もない。

 

基地は木っ端微塵に破壊された。

 

『…よくやった中佐!今降下する!』

 

「バエルンテーゼ大将、貴方でしたか」

 

ジークハルト直属の上司であるゴットバルト・バエルンテーゼ上級大将から通信が入った。

 

彼は帝国時代からの上官だ。

 

今でも多くの部下から“バエルンテーゼ将軍”のあだ名で慕われている。

 

彼はジークハルト達だけでなく周辺の全部隊に通信を繋げていた。

 

『喜べ我が師団の到着だ!諸君と共に戦いに来たぞ!』

 

あちこちの部隊から歓声が上がる。

 

彼の声と彼の師団の名だけで一気に士気が跳ね上がった。

 

それもそのはずだ。

 

彼の師団、延いては彼の兵団とその附属連隊はあのコルサント戦で最も戦果を挙げ最も勇猛に戦った部隊として帝国軍や親衛隊中に名が知れている。

 

親衛隊は嫌いでもバエルンテーゼ上級大将と彼の部隊は好きだという将校すらいる。

 

セキューター級から展開された彼の師団は撤退する敵を掃討しつつ確実に一歩ずつ前進していた。

 

『連隊長、第四連隊の攻撃が始まりました、どうしますか?』

 

控えさせた他の連隊員から通信が入った。

 

このまま第四連隊の打撃力で中央の防衛を突破しバエルンテーゼ上級大将の師団と共に突撃すれば多大な戦果と共に首都を陥せるだろう。

 

「全隊、バエルンテーゼ師団を護衛しつつ前進する、どうですか将軍」

 

『なら先に行くのは君達だ中佐、第六連隊の連隊旗を立ててやれ』

 

「ですが…」

 

『支援の中隊は他にもいる、むしろ先行して我が師団を導いてくれ』

 

「要は露払いですね」

 

『確かにそうとも言うな、さあ行け!』

 

「わか利ました、第六親衛連隊全隊に次ぐ、予定通りこのまま首都を突っ切るぞ」

 

コムリンクの先から威勢の良い返事が聞こえた。

 

バエルンテーゼ師団の到着より第六親衛連隊の到着の方が早かった。

 

数十機のウォーカーとタンク、ジャガーノートが隊列を組み前進する。

 

防御陣形を取りつつもいつでもジャガーノートの機動力を活かせるようにしていた。

 

「トルーパーをいつでも展開できるようにしておけ」

 

『了解』

 

「距離後120メートルです、前方に第四親衛連隊を発見」

 

パイロットが報告しジークハルトもエレクトロバイノキュラーで確認していた。

 

敵は四方から打撃を受けて次々と戦線を破棄し内へ内へと撤退している。

 

既に惑星の80%以上は親衛隊が制圧した。

 

もはや逃げ道などない。

 

「センサーを起動して探知して伏兵を確かめる、ミサイル・ランチャーの用意もだ」

 

「はい中佐、センサー起動」

 

「ミサイル装填」

 

2人のパイロットが機体を操作し命令をこなす。

 

AT-ATドライバーと呼ばれるこの鋼鉄製の化物のパイロット達は皆精神的にも肉体的にも屈強な兵士達だ。

 

仮に時期が破壊されても過酷な環境を生き延びる事が出来るような装備を身につけそうならぬよう血の気が引くほど訓練を重ねてきた。

 

この2人もそうだ。

 

何度も戦いを経験し訓練だけでなく実戦の経験もあるエリートだ。

 

「センサーに反応ありません」

 

「わかった、全機ミサイル斉射の後一斉突撃、親衛隊の力を思い知らせてやれ」

 

ジークハルトは柄にもなく味方の士気を上げる為わざと強気になった。

 

AT-ATから放たれたミサイルの流星群はそんな彼の言葉を体現するかのように破壊と殲滅の先兵を担った。

 

 

 

最も白熱した戦いを繰り広げているのはスターファイター隊だった。

 

もはや軌道上での防衛は不可能だと悟った新共和国のスターファイター隊は次々と大気圏に降下した。

 

当然帝国軍のスターファイター隊も追わないわけにはいかず両軍は軌道上で、大気圏で、ホズニアン・プライムの空中で戦い続けた。

 

ハイネクロイツ少佐のシュワルツ中隊もそうだった。

 

飛行大隊所属の各中隊をそれぞれの中隊長に任せ彼はシュワルツ中隊と共に遊撃に打って出た。

 

元々バランスの良いこの中隊だ。

 

遊撃は功を奏し次々と戦果を挙げた。

 

今も友軍機の背後に着いた敵機を撃破し味方を救うハイネクロイツ少佐の姿があった。

 

「ボマーとブルートは前方のコルベットをやれ、他は露払いだ」

 

『了解!』

 

中隊機が各々編隊を保ったまま散開しそれぞれ獲物を狙い始めた。

 

コルベット艦に狙いを定めるTIEボマーとTIEブルートは対空砲火を避けながら艦に近づく。

 

当然足の遅い爆撃機を狙おうとXウィングやAウィングが攻撃に出るが全て他のTIEインターセプターに撃破されてしまった。

 

トップスピードで敵機を狙い撃破するハイネクロイツ少佐の機体は長い飛行機雲を作っていた。

 

飛行機雲を彩るように破壊され爆発した敵機の火球が連なり線を作り出す。

 

「このぉ!」

 

ペダルをさらに踏み込み両翅のレーザー砲を放つ。

 

回避や防御が間に合わず両翼とコックピットにモロに攻撃を喰らったXウィングが爆発し爆ぜた。

 

これでコルベット艦を護衛する敵機はあらかた片付いたはずだ。

 

『シュワルツリーダー、間も無く爆撃開始します』

 

「敵の砲火に気を付けろ、ボマーと言えど喰らったらただじゃ済まんぞ」

 

『わかってます、攻撃開始します』

 

3機のTIEボマーが一斉にプロトン爆弾やブロトン魚雷を放った。

 

偏向シールドが消えたコルベット艦に対して爆撃は有効だ。

 

更にTIEブルートのフルバーストも相まってコルベット艦は大きな爆発を起こし跡形も無くなった。

 

『コルベット艦を撃破しました!』

 

『敵部隊、散開して後退していきます』

 

「地上にだけは活かせるな、大勢の味方がいる…いやこのまま第六連隊を支援するぞ」

 

『なるほど、了解ですリーダー』

 

「さあ着いて来いよ坊主ども!」

 

再び機体のペダルを思いっきり踏み込み機体の加速度を全開にする。

 

それに続くように部下のTIEインターセプターやTIEボマー、TIEブルートが続く。

 

あちこちで爆発が起こり煙で空が濁っている。

 

どれもよく見れば物量に押し潰されぐちゃぐちゃになった新共和国の機体だ。

 

可哀想とは微塵も思わないが恐ろしいとはちょっとだけ思う。

 

「大隊長閣下、聞こえてるか?」

 

ジークハルトのストライク1に彼は通信を繋げる。

 

『そっちはどうだ少佐、我々は今中央に向かって進軍中だ』

 

「オーケー支援する、空も大気圏も更に上の宇宙も新共和国はもう負け気味だ」

 

『だろうな、こっちも敵は次々と撤退している」

 

「そいつは結構、見えてきたぜ、ついでに敵機もな!」

 

引き金を引き友軍を攻撃しようとするAウィングやYウィングの編隊を蹴散らす。

 

「全機、敵スターファイター隊と地上部隊をウォーカーやタンクに近づけるな、全部蹴散らせ」

 

『了解!』

 

再び中隊が散開し対空砲や敵のジャガーノートをスクラップに変えていく。

 

ハイネクロイツ少佐もギリギリの低空飛行で地上の敵兵に機体のレーザー砲を浴びせていく。

 

オーバーキルもいい所だ。

 

肉片と成り果てた敵兵は大きく宙に舞い上がり最期思いっきり地面に叩きつけられた。

 

だからといって地上のウォーカーの方がもっと恐ろしい。

 

空爆はまだ生き延びる余地がある。

 

しかしAT-ATやAT-STマークⅢのようなウォーカーはそうはいかない。

 

何処へ逃げようと追ってくるしスターファイターの何倍も恐ろしい火力を浴びせてくる。

 

どんなにブラスター・ライフルを持っていようと意味を成さない。

 

火力を打ち出す前に絶命するか仮に攻撃出来たとしても焦げ目すら付かない。

 

そんな絶望的な戦いの中それでも新共和国軍の兵士達は戦っている。

 

『前方、新共和国元老院複合施設です』

 

AT-ATのパイロットがコックピットの中で指を指して言った。

 

第六親衛連隊の第一目標だ。

 

『ハイネクロイツ、対空砲の面倒を頼む、その間に我々が突っ込む』

 

「任せろ、全機聞こえたな?」

 

『了解!』

 

『はい!』

 

『ええ!』

 

『隊長、複合施設より敵機です!』

 

目を抜けると十数機のスターファイターが複合施設の格納庫から姿を表した。

 

完全に防衛しに来たようだ。

 

「片付ける、中央に火力を集中して敵を分断する」

 

『了解!』

 

中央に集まりしっかりと編隊を組んだシュワルツ中隊が一斉に攻撃する。

 

回避しきれなかった敵機が爆発を起こした。

 

「各個撃破だ!」

 

中隊は全機反転して右に避けた新共和国軍機を狙った。

 

背後を取られてしまったAウィングやXウィングの編隊は次々と数を減らしていく。

 

なんとか逃げ切ろうとするがTIEインターセプターからは逃れられない。

 

エンジンが炎上し犠牲となった。

 

だがただでは連中もくたばらない。

 

『隊長敵機が!』

 

「なっ!?ジークハルト!」

 

ジークハルトのストライク1に1機のXウィングが激突する。

 

幸いギリギリのところでXウィングの耐久が限界になり少し逸れたが左の前足の部分に直撃した。

 

鋭いナイフで切った後のように足が斜めに切断される。

 

『足が切断されました連隊長!』

 

パイロットがAT-ATの状況を報告する。

 

コムリンク越しでわからなかったがこの時ジークハルトは相当焦っていた。

 

大きな振動と共に機体が滑り落ちる。

 

『不時着だ!残りの足で機体を支えろ、全員衝撃に備えろ!』

 

ストライク1が残った足で大地を踏み締めゆっくりと座ったような姿勢を取る。

 

その様子を戦闘も忘れハイネクロイツ少佐はじっと見守っていた。

 

それが仇となった。

 

『中隊長敵機が!!』

 

「なっ!」

 

炎上したAウィングが真っ直ぐハイネクロイツ少佐のTIEインターセプターに突っ込んでくる。

 

ギリギリのところで操縦桿を回し機体を逸らせたが左翼部分のパネルを大きく抉られエンジンも損傷してしまった。

 

「クソっ!しくじった!!」

 

警告音のサイレンが鳴り響く中彼は失敗に苛立った。

 

もうこの機体は長くは持たない。

 

屈辱的だが死ぬよりはマシだとなんとか機体を維持しながら武装や必需品を取り出した。

 

『隊長!』

 

部下の心配そうな声が聞こえる。

 

「大丈夫だシュワルツ3、シュワルツ2は残りの中隊の指揮を取る、俺は悔しいが地べたに張り付いて戦ってくる」

 

『りょっ了解!』

 

「俺以外もう堕とされんなよ!じゃあな!」

 

そう言うと通信機をパイロットスーツのポケットに仕舞いシートの左側に備え付けられたレバーを引く。

 

ハッチが開き座席シート毎ハイネクロイツ少佐は機体から弾き出された。

 

パラシュートが開きゆっくりと地上に落下していく。

 

機体はどうやら主人を失って真っ直ぐ敵のジャガーノートに突っ込んだようだ。

 

すまない事をしたなと彼は心の中で密かに思った。

 

普通ならこのまま落下にもを任せて地上に降り立つが彼は一味違う。

 

シートベルトを外しハイネクロイツ少佐は背中に付けたジェットパックを点火しシートを思いっきり蹴り更に加速度を付けた。

 

噴き出された炎が彼に再び空を操らせる。

 

彼は鳥のように空を駆けた。

 

「1機くらいは貰っとくか…」

 

独り言を挟むとハイネクロイツ少佐は両方のホルスターからブラスター・ピストルを引き抜いた。

 

ピストルを一回転させると1機のXウィングに狙いを定めた。

 

彼は真っ直ぐ進みXウィングと衝突しそうな距離まで接近した。

 

向こうのパイロットは視認が遅れ相当焦っている。

 

その隙を突きハイネクロイツ少佐はXウィングのコックピット部分に飛び乗った。

 

コックピットのキャノピーにピストルを押し当て引き金を引く。

 

何も出来ないパイロットはそのまま弾丸を喰らい絶命した。

 

再びジェットパックを点火しその場を離れると今度は近くのビルに着陸した。

 

ため息混じりに苦笑を浮かべる。

 

「たく…()()()()()()()()()()()()()()()()()だけで十分だっての…」

 

 

 

ほぼ崩れ落ちる形でなんとか機体を安定させたジークハルト達は機体の中で装備を漁っていた。

 

「白兵戦だ、2人とも武器は」

 

「我々にはこいつが、どうぞ連隊長も」

 

そう言ってAT-ATパイロットWD-210が特殊なE-11を投げ渡した。

 

しっかり掴むと彼は武器の状態を軽くチェックする。

 

「後部のトルーパー隊は大丈夫か?」

 

『全員異常なし、後命令を連隊長』

 

「先行して他の地上部隊と合流しろ、ストライク2」

 

『大丈夫ですか連隊長』

 

心配そうなアデルハイン少佐の声が聞こえた。

 

「全く問題はない…ウォーカー隊の指揮は君が取れ、全隊に命令、歩兵部隊を展開して前方元老院複合施設を制圧する」

 

『了解、トルーパーを下せ』

 

AT-ATやジャガーノートから大勢のフューラー・ストームトルーパーが降り立つ。

 

WD-211ともう1人のパイロットWD-212もブラスター・ライフルを構え命令を待つ。

 

ジークハルトはホルスターにピストルを仕舞いヘルメットを被り直すと2人に命令を出した。

 

「さあ、行くぞ」

 

そう言うと3人はコックピットから出て外の戦場へと移った。

 

弾丸が飛び交い建物や戦闘車両が爆発する戦場では命など儚いものだ。

 

放たれたたった一発の弾丸が命を奪い取り死をもたらす。

 

痛みに悶えながら、あるいは死んだ事すら気付かないまま一生を終えてしまう。

 

そんな戦場に彼らは飛び込んだ。

 

「雑魚に構うな!一気に施設を陥すぞ!」

 

「了解中佐!みんな続け!」

 

連隊旗を持ったヴァリンヘルト中尉がブラスター・ライフルを打ちながら味方を誘導する。

 

勇猛果敢に進み続ける旗手を見たストームトルーパーや士官達は勇気付けられ旗に続いて彼らも進んだ。

 

ジークハルトもライフルで伏兵を倒しつつ部隊を統率した。

 

本来連隊長のような指揮官が前線で戦うなど稀だが帝国や親衛隊ではよく見かける光景だ。

 

特に非常事態が重なるとこうなる。

 

その為にも指揮官達は高度な訓練を受け一般兵以上の練度を保つ必要もある。

 

まあこれはジークハルトの持論だが。

 

1人の敵兵士を撃ち倒すとアデルハイン少佐のストライク2の砲撃で複合施設のバリケードが破壊された。

 

「いいぞ!進め!」

 

ブラスター・ライフルを撃ちながら、ブラスター砲を運びながら多くの兵士達が進んだ。

 

敵の砲撃をシールドなどで防ぎつつ持ってきたブラスター砲を組み立てる。

 

何度も訓練を受けている為さほど時間はかならないはずだ。

 

改良された親衛隊仕様のEウェブ重連射式ブラスター砲はやはりわずかな時間で組み上がった。

 

この兵器の火力や連射力は今まで多くの反乱軍、新共和国軍の兵士の命を奪ってきた。

 

それはこの時代とて変わりはない。

 

逃げる敵兵や瓦礫を盾にして戦う敵兵をEウェブは次々と蒸発させていった。

 

たった一発だけで撃たれた者はピクリとも動かず文字通り血液が蒸発してしまったのか血すら滴らない。

 

だが奥から重火器を持った数個分隊規模の歩兵隊が集まってきた。

 

互いに引き金を構える。

 

相手の重火器ではこちらも少しばかり被害を食らうだろう。

 

覚悟の上かと全員が思ったその時空から新共和国兵の足元に何かが投げ入れられた。

 

数秒後その球体状の何かは爆発を起こし兵士達のほとんどを巻き込んだ。

 

爆発の煙が煙幕のように立ち込め視界が一気に悪くなったがその向こうの何者かは一発ずつ確実に生き残った敵兵を仕留めていた。

 

連隊の数人が振り返ると彼らの背後には黒い人影が宙に浮いていた。

 

「なんとか間に合ったようだな」

 

「なんだハイネクロイツか…脅かしやがって、全隊!前進しろ」

 

ジェットパックを巧みに操りハイネクロイツ少佐はストンと砂煙すら立てず降り立った。

 

ジークハルトが軽く苦笑いしている頃ヴァリンヘルト中尉とストームトルーパーの一団は施設内に突入した。

 

「コマンダー地図を見せてくれ、要人はなるべく捕縛しろ!殺すなよ!」

 

後続のトルーパー達に命令を出した。

 

連隊のストームトルーパー・コマンダーは彼にホログラムでの地図を見せた。

 

「このまま連隊を突入させて施設を制圧する、第一に用心の確保、第二に発着場の確保だ」

 

「バエルンテーゼ上級大将の師団が既にありますが」

 

「まだ足りない、他の師団や兵団も更に展開する必要がある、この大きさなら少なくとも一度に一個大隊並の兵力は降ろせる」

 

「物資も必要だしな、補給地点は必要だ」

 

ハイネクロイツ少佐はジークハルトの言葉に付け加えた。

 

「平らに作られていて物資を置く倉庫にもなりそうだ、コマンダー上級大将に連絡を」

 

「わかりました、通信を繋いでくれ」

 

コマンダーは近くの下士官やストームトルーパーに命令を出し2人の将校はジッと複合施設内を見つめた。

 

「この戦いは勝ちだな」

 

「ああ…残りの部隊は私に続け、まだ足りないはずだ」

 

ブラスター・ライフルを構え直しストームトルーパーの部隊を率いた。

 

そこには冷酷な指揮官の姿しかなかった。

 

 

 

新共和国元老院複合施設の制圧は思った以上に体力と時間を消費した。

 

元々この施設は特権的だとかそう言った不公平感を無くす為に平屋建ての建物になっている。

 

おかげでオフィス間の行き来には時間がものすごく掛かる。

 

何せ横幅1キロメートルを超しているのだから。

 

だが今回はそれが良いように働いた。

 

広い施設を全て制圧するのに少し手間取りその間に新共和国の兵士達は逃げる時間が出来た。

 

それでも逃げられなかった兵士が大半でもう施設の八割を制圧化に置いているのだから第六親衛連隊の練度の高さを示している。

 

だが不思議なのはどこを探しても元老院議員がほとんどいなかったという点だ。

 

逃したにしても船が逃げ出したという報告は受けていない。

 

「このまま直進だ!進め!」

 

ブラスター・ライフルで敵を攻撃しつつヴァリンヘルト中尉は旗を振った。

 

彼に率いられた2個分隊ほどのストームトルーパーが後に続く。

 

まだ銃声や小爆発の音があちこちから響いているが突入した最初の頃よりはだいぶ少なくなっていた。

 

それは市街地や他の施設でも同様で爆発や戦闘の煙は少なくなっていた。

 

もう新共和国軍は組織的な行動を行えない現れだろう。

 

事実新共和国の敗残兵達は降伏するか再集結して撤退戦を行うかの二択に絞られていた。

 

最初からこの戦いに勝ち目などないのだ。

 

数ヶ月前から帝国が勝つ事はもう決まっていた。

 

ただ単純に真実が見えなかっただけだったのだ。

 

そして遂に銀河中がその真実を知る決定的な瞬間が来た。

 

「ここだ!ここを登れば屋上だ!」

 

ヴァリンヘルト中尉とストームトルーパー達が建物の屋上に登った。

 

敵はおらず彼らを狙うスターファイター類もとっくの昔にみんな撃墜されていた。

 

ヴァリンヘルト中尉は連隊旗の旗を取り替えた。

 

これは連隊だけの勝利ではないからだ。

 

旗を帝国の紋章が入った旗に付け替えると中尉は一番高い屋根に登りアンテナのようなものに括り付けた。

 

その光景が誰もの目に入った。

 

風に靡かれ旗は翻る。

 

帝国の紋章は新共和国の元老院を完全に押さえ付けたように見えた。

 

あちこちから歓声が響き渡る。

 

きっと目にした帝国軍や親衛隊の将兵達が勝利を喜び歓喜の声を上げてくれているのだろう。

 

これは勝利だ。

 

2年の屈辱を経て銀河帝国は新共和国に勝利したのだ。

 

今日は新たな記念日となる。

 

新共和国はこうして崩壊した。

 

今日民主主義は再び敗北し泥水の中に叩き落とされたのだ。

 

 

つづく




ようやく新共和国が崩壊しましたね(ニッコリ)
まあ本当の戦いはまだまだこれからだということで

Eitoku Inobeの次回作にご期待ください(大嘘)


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新共和国の崩壊/中編

-希望は絶たれ絶望にすり替わる-


-アナイアレイター 第一作戦室-

かつてこのエグゼクター級スター・ドレッドノートは帝国地上軍の大将軍カシオ・タッグの所有物だった。

 

帝国軍内部でも保守的な彼はこの艦を眺めてはいつも「ターキンの道楽に付き合わなければスーパー・スター・デストロイヤーを後何隻建造出来たんだろうかな」と不満を漏らしていた。

 

そんな彼もやがては命を落としこの艦は名前を変えられ海賊の物となっていた。

 

誠実だったタッグ大将軍の旗艦が不誠実極まりない海賊の船になるなんてなんという皮肉であろうか。

 

当然そんな事を第三銀河帝国が許すはずがない。

 

アナイアレイターは親衛隊や帝国軍の特殊部隊によってすぐに取り返された。

 

そして新たに大将軍となったマクシミリアン・ヴィアーズ大将軍のものとなったのだ。

 

現在このアナイアレイターはシャンドリラの軌道上にいた。

 

銀河内戦時代では活かしきれなかった己の力をフル活用しシャンドリラ駐留艦隊と防衛艦隊を蹂躙していた。

 

やはりエグゼクター級の有用性はまだこの時代においても大きい。

 

無敵の帝国艦隊は未だ健在だ。

 

やはり帝国に勝とうなど自殺行為だったのではないかと死にゆく者達は最期目に焼き付けられた閃光と共に思うだろう。

 

そして無敵の帝国地上軍も同じく健在であった。

 

 

 

-シャンドリラ 旧新共和国防衛軍本部-

大量のターボレーザーやレーザー砲、ミサイル発射管に囲まれシールドで完全に守られた旧本部には同地に駐留する新共和国軍のほとんどが籠っていた。

 

すでに首都周辺は陥落し残された残存兵員は要人達の脱出する時間を稼ぐ為要塞と化した旧本部に立て篭もった。

 

電撃的に展開された帝国軍の大攻勢をこの兵力ではもう止める事は出来ない。

 

防衛艦隊は1時間掛からぬうちに壊滅し地上もあっという間に制圧された。

 

なんとか本部まで撤兵するのが精一杯で撤退中に反撃など到底出来るものではなかった。

 

「センサーを起動し周囲を警戒しろ、いつ敵がきても…おかしくない…」

 

前線でエレクトロバイノキュラーを手に持った軍曹は部下達に命令を出した。

 

彼が率いる部隊も手痛い損害を受けてきた。

 

兵士の1人が土嚢で固めた塹壕の中からバイノキュラーで遠くを覗き込む。

 

センサーだけでなく目視での警戒も重要だ。

 

そして彼は異変に気がついてしまった。

 

バイノキュラーの倍率を上げ画像をより鮮明に写す。

 

その姿を見た瞬間彼は青ざめた。

 

「軍曹!敵のスノーウォーカーです!!」

 

「ついに来たか…警報を鳴らせ!戦闘準備だ!」

 

「こちらディフェンスライン57、敵のAT-ATウォーカーを確認、これより防衛戦に入る」

 

通信兵が司令部に伝達し警報を鳴らした。

 

銃器を持った兵士達が一斉に塹壕の中へ飛び込みブラスター・ライフルを構える。

 

ジャガーノートやリパルサー・タンクが砲台と同時に一斉砲撃を始めた。

 

ホスの戦いではこちらの攻撃が全く通用しなかったが今回ばかりはそうはいかない。

 

また射程圏外の歩兵隊はブラスターを構えたままだった。

 

「よし撃て撃て!敵を近寄らせるな!」

 

「軍曹、状況はどうか」

 

軍曹が命令を出すと前線指揮官の大尉が姿を表した。

 

軍曹と副官の伍長は敬礼した。

 

「敵のウォーカー機甲師団です、数はおよそ10台ほど」

 

「このまま防衛線は維持できるか?」

 

「難しい所です…敵が…」

 

「軍曹!敵の砲撃です!」

 

3人が振り返り上を見上げると赤色の光が大きく空へ舞い上がっていた。

 

「一体何をするつもりだ」と大尉は不思議に思った。

 

砲撃しようにもこちらには分厚い鉄壁の惑星シールドを展開している。

 

波の攻撃で打ち破る事など不可能だ。

 

それなのに何故…と思っていると誰も予測出来ない事が起こった。

 

「敵の攻撃が!うわぁ!!」

 

塹壕内で大きな爆発が起き多くの兵士が吹き飛ばされた。

 

奇跡的に生き残った兵士も肉が抉れ出血している。

 

爆風が辺りを包み一時的に戦場を包んだ。

 

軍曹も大尉も伍長も目を手で覆い被せた。

 

「なっ何が…」

 

「シールドを突破したのか…」

 

大尉の引き攣った声を完全無視する形で次々と塹壕やシールドの内側にエネルギー弾は降り注いだ。

 

装甲の脆いタンクなどは一撃で破壊されジャガーノートのような硬い機体であっても無傷では済まされなかった。

 

轟音と土煙が辺りに漂う。

 

絶望的な状況の中兵士達は心が折れた者も多く塹壕から飛び出て撤退しようとする者まで現れ始めた。

 

指揮官達もそれを止めなければいけないのは分かっているがもうどうしようも無かった。

 

こうして第一の戦線が崩壊したのは最初の攻撃から僅か5分後の事だった。

 

 

 

 

攻撃の最初の一手は大成功だった。

 

軌道上爆撃をしようにもあの惑星シールドは到底敗れるものではない。

 

しかしこのウォーカーは一味違った。

 

AT-ATの背中に大きなキャノン砲のようなものを備えたこのウォーカーの名前は全地形対応メガキャリバートランスポート。

 

通称AT-MTやAT-MT1と呼ばれるこれまたコルサントの秘密施設で発見した幻の新兵器だ。

 

このAT-MTの背中を覆い被すほどのメガキャリバーキャノンは単一だと少し強力なだけな大砲に過ぎない。

 

シールドも突破出来ないし威力としても顎の重レーザー砲とあまり変わりはない。

 

しかしこの機体にはある特性があった。

 

それはAT-MT3機のメガキャリバーキャノンの制御システムを1機にリンクし合成ビーム・キャノンを作り出す事だった。

 

合成ビーム・レーザーの亜種であるこのキャノンは3機のエネルギーを一まとめにするだけではない。

 

一点に纏まった砲弾はシールドすら強引に打ち破る程の威力を誇った。

 

通常のターボレーザー砲よりも威力は上だ。

 

しかも専用のエネルギータンクが備わっている為補給やエネルギー切れの心配はない。

 

『閣下、砲撃の第一次が終了しました』

 

「了解准将、このまま進撃と同時に散開し防衛網を突破する」

 

『了解です』

 

長年の部下であるアイガー准将からの通信が切れた。

 

彼はブリザード・フォース所属でエンドア戦では基地の司令官と宇宙軍との合同部隊であるテンペスト・フォースを任されていた。

 

しかし思わぬ攻撃で敗北を受けた後彼はなんとかエンドアに残っている全ての戦力を集めた。

 

軌道上の艦隊は撤退し地上にポツンと彼らは取り残されてしまった。

 

その為一時期は捨て身の特攻戦術でせめて反乱軍に打撃を与えようとしたアイガー准将だが彼にも希望の光が見えた。

 

救援に来た上官のヴィアーズ大将軍のおかげでエンドアに取り残された全員が救出されたのだ。

 

結果新共和国軍はそんな彼らの存在を全て忘れ今日に至る。

 

当然屈辱的な敗北を彼らが忘れるわけないだろうが。

 

ヴィアーズ大将軍が直接指揮を取るエリートAT-ATのブリザード1は退却する敵兵を掃討しながら徐々に進んだ。

 

彼らの第一目標はホス戦と同じくシールドジェネレーターだ。

 

あれを破壊すれば軌道上爆撃も更なる部隊の展開も可能になる。

 

地上の四方八方も、宇宙も全て帝国軍が塞いでいる。

 

もはや孤立無縁の状態で本部を直接叩く事は二の次でもよかった。

 

「閣下、ラクマー将軍とロット将軍の部隊が防衛ラインの突破に成功、現在第二防衛ラインで戦闘中です」

 

「ジア将軍の501軍団は?」

 

「南側の対空砲網を全て無力化したとの事です、現在同様に進軍中」

 

どの部隊も破竹の勢いで進んでいるようだ。

 

少なくとも第一の防衛ラインは突破に成功したらしい。

 

「距離的に最もジェネレーターに近いのはどの部隊だ?」

 

「それに関してはやはり我が部隊です、戦線が完全に崩壊しているのも同様」

 

「そうか…各部隊は敵の殲滅を優先させろ、ジェネレーターと敵本部には我々が乗り込む」

 

揺れる機体の中ヴィアーズ大将軍は確実に命令を出した。

 

横を見渡せばアイガー准将のテンペスト1やフレジャ・コヴェル少将のブリザード2が見える。

 

後方にはホスの戦いで戦死したスターク大佐の親族のブレス・スターク少佐が指揮するブリザード4もいた。

 

ホス戦は帝国側の完全勝利だったわけではない。

 

ネヴァー准将やスターク大佐と言った勇猛な将兵達を失ってしまった。

 

軍人として死は見慣れているが見慣れていると言って悲しさがまるでない訳ではない。

 

借りは返す、ただそれだけだ。

 

「ジェネレーターまでの距離は」

 

「172.8です、しかしこのままいけば敵の防衛ラインと衝突します」

 

「構わん、全隊隊形変更」

 

漆黒の機体に真紅のコックピットアイが光るエリートAT-AT数十台が距離を取り適切な位置へ移動する。

 

その合間を埋めるようにAT-STマークⅢやAT-MPマークⅢが隊列を作る。

 

「フォーメーションを取る、“()()()()()()()”だ!」

 

正式に命令を受けたブリザード・フォースの全隊が隊形を一瞬のうちに作った。

 

ヴィアーズ隊形。

 

その原型はやはり彼を一躍有名にしたホスの戦いにあった。

 

ウォーカー戦術の中でも防衛砲塔群を撃破するのにこれほど有効的なものはない。

 

結果ホスの戦いでは不利な状況下で勝利を収め今日まで受け継がれて来た。

 

その立案者たるヴィアーズ大将軍が再びこの戦術を使う。

 

それはきっと壮絶な戦いになるだろう。

 

『閣下、敵の防衛部隊を発見しました!』

 

勇気に溢れた若きスターク少佐の声が響いた。

 

まずは彼にやらせるのもいいだろう。

 

「よし少佐、戦列を崩さず敵を制圧しろ、このまま面の攻撃に移る」

 

『了解です!さあ仕事だ!』

 

「無茶はするなよ…」

 

聞こえるが若干小さめの声でヴィアーズ大将軍は忠告した、

 

彼としては前任のスターク大佐のように若き彼を失いたくはないという思いがあるのだがこのスターク少佐は全くそんな事を気にしていなかった。

 

ブリザード4の砲撃が敵部隊を吹き飛ばす。

 

やはり顎の重レーザー砲は様々な地上兵器を凌駕している。

 

当たったら即死どころの話ではなく、当たらなくても死亡や重傷は避けられない。

 

新共和国兵士やビークルやロケット弾で応戦するがエリートAT-ATの装甲に傷一つ付かない。

 

とはいえ隙間に入られ弱点を攻撃される可能性もあるので先行したAT-STマークⅢが歩兵を掃討しAT-ATの進路を切り開く。

 

数分も掛からずに新共和国の歩兵部隊は全滅してしまった。

 

所詮はテロリストから成り上がった正規軍擬きだ。

 

いくら指揮官が優秀でも練度差などはどうしようもない。

 

「敵の主力部隊です、戦力的には3個大隊ほど」

 

「タンクやジャガーノートも数十台以上あります」

 

2人のパイロットは冷静かつ的確に情報を提供した。

 

以前のパイロット達とは違うがこの2人も相当優秀なベテランパイロットだ。

 

「全てのAT-ATを先行させ防御を取る、AT-STとAT-MPは対空戦闘準備だ」

 

「はい閣下」

 

レバーを引きウォーカーを前進させる。

 

他のウォーカーも大体同じ速力で進んでいた。

 

「全AT-MPは命令と同時にミサイル一斉発射、我々も一斉射で戦列から弾き出すぞ」

 

『はい閣下』

 

『了解大将軍、全機第一群発射容易』

 

ブリザード・フォースを支援するイージス・フォースから通信が入った。

 

ブリザード・フォースとテンペスト・フォースのAT-ATも顎の重レーザー砲をチャージしている。

 

「敵部隊砲撃を開始」

 

タンクと砲台が一斉に砲撃を始めた。

 

エリートAT-ATの装甲はやはり破れないが少しぐらつかせた。

 

しかもある一点を集中的に攻撃しなるべく致命的なダメージを与えようとも努力している。

 

なるほど少しはやるらしい。

 

しかしそれすら無意味だ。

 

「ミサイル一斉発射、全機フルパワー斉射!」

 

放たれたミサイルとレーザー弾が爆炎を作り出し砲塔やビークルを破壊する。

 

顎のレーザー砲がチャージされている合間にも両耳に値する部分からブラスター弾が放たれ敵に休む隙を与えない。

 

次々と砲塔が破壊され兵士たちも死んでいく。

 

元々これ程の戦力差があるのだ。

 

むしろこれがあるべき姿で今までが異常というべきだろう。

 

テロリストの弱小組織にしてはよく頑張った方なのだ、反乱同盟も新共和国も。

 

結局最終的に勝つ事など不可能なのだ。

 

希望はいつか断たれる。

 

それは2年か30年かの違いでしかなった。

 

新共和国が滅び去る運命は既に決まっていたのだ。

 

「敵部隊が退却していきます」

 

「なるべく逃さず殲滅だ、敵ビークルを破壊しAT-STを突入させる」

 

「了解、目標を敵ビークルへセット」

 

破損し煙を上げたタンクやジャガーノートが応戦しつつ後退して行く。

 

それでも優秀なパイロット達の砲撃には敵わず一台つづスクラップに変わっていった。

 

それだけでは飽き足らずエリートAT-ATのミサイルランチャーが敵を掃討する。

 

あっという間に新共和国のビークルは全て破壊されてしまった。

 

エリートAT-ATの真横からAT-STマークⅢが現れ逃げ遅れた敵兵や逃げる敵兵全てを蹴散らす。

 

また一つ防衛ラインが壊滅した。

 

ここまで一方的ではないにしても他の戦線も同様だろう。

 

四方八方から帝国地上軍は進撃しつつある。

 

「ジェネレーターを目視で確認」

 

「パワーチャージ、なるべく近づけるんだ」

 

ジェネレーターを必死に守ろうとする敵のジャガーノートがブリザード1に攻撃してきた。

 

「テンペスト支援を頼む、ブリザード・フォース全隊はこのまま進撃しろ」

 

『はい閣下、全隊ジェネレーター周辺の敵を狙え』

 

後方から現れたテンペスト・フォースのウォーカー部隊が次々と敵部隊を蹴散らしていく。

 

その間にヴィアーズ大将軍はコックピットのバイノキュラーを取り出し照準を合わせた。

 

ジェネレーター自体に攻撃能力はなく本体は無防備同然だ。

 

AT-ATの重火力なら余裕でその装甲も粉微塵に出来る。

 

「射程内に友軍なし」

 

「エネルギーチャージ完了」

 

パイロット達から次々といい報告が流れてくる。

 

ならもう躊躇う必要はない。

 

Target. Maximum fire power!(最大出力で撃て!)

 

放たれた二発の光弾がシールドジェネレーターを貫き一瞬で爆破させた。

 

吹き飛んだシールドジェネレーターの破片は地面に散らばり煙と共にシールドがどんどん消えていった。

 

『流石です大将軍!』

 

「気を抜くなアイガー准将、このまま地上部隊を展開する、パイロット敵本部までの距離は?」

 

「ここから60メートルほど先です、トルーパー隊を展開させましょうか?」

 

「頼む、出番だゼヴロン」

 

コムリンクに向かって彼は息子の名前を発した。

 

ホログラムが現れヴィアーズ大将軍の一人息子、ゼヴロン・ヴィアーズ少佐が姿を表した。

 

COMPNORの青年グループで教育を受けた彼は優秀な高級商工としての活躍を期待され大尉で卒業した。

 

その後父と共に幾つかの激戦を潜り抜け彼は少佐に昇進した。

 

一見英雄を父に持った若きエリートのように見えるがゼヴロンは父や他の仲間にも見せていない一面があった。

 

「部隊を率いて施設内を制圧しろ、捕虜の事は気にしなくていい」

 

『了解とうさ…大将軍』

 

「どっちでもいいさ、お前の活躍を楽しみにしているぞ、ウォーカーを降下モードへ」

 

エリートAT-ATが両足をゆっくりと曲げ地面スレスレまで近づけた。

 

無防備にならないよう他のウォーカーが警戒している。

 

後部のハッチが開き将校とトルーパーが一斉に飛び出した。

 

他のAT-ATからも40人ほどのトルーパーが次々と出ていく。

 

その先頭を突っ切り勇猛果敢に部隊を率いているのがゼヴロンだ。

 

父であるヴィアーズ大将軍はそんな息子を遠くから見る事しか出来なかったが彼を信じる事は出来た。

 

ゼヴロンの部隊がそのまま司令部を陥落させたのは僅か50分後の出来事だった。

 

そしてシャンドリラに再び帝国の国旗が漂った。

 

 

 

 

 

-コルサント 総統府-

ホズニアン・プライム陥落とシャンドリラ陥落の一方が通達されたのは丁度大臣や長官達による会議が開かれている頃だった。

 

丁度その時総統はコレリアから来た大使と会食を開いており会議には参加していなかった。

 

物静かな会議の中その一報を届けに来た士官は会議室のドアが開くと走って向かってきた。

 

あまりにすごい足音を立てていた為警備兵やその場の全員が彼の方を向いた。

 

最初に口を開いたのは防衛大臣のブロンズベルクだった。

 

「どうしたのだ少佐、何かあったのか?」

 

少佐の階級を持つ士官は一瞬間を置き呼吸を整えた。

 

全員の意識が集中する中彼はその全員に聞こえるようにはっきりと言った。

 

「帝国軍最高司令部と親衛隊最高司令部より報告です…」

 

理由を大体察した彼らは顔をこわばらせ耳を澄ませた。

 

十中八九この時間帯で軍司令部からの報告は新共和国攻撃の事だろう。

 

「帝国軍及び親衛隊第一軍、第二軍は本日…ホズニアン・プライムとシャンドリラを…攻略したとの事です」

 

その報告を聞いた大臣や長官達は安堵と歓喜の入り混じった声を上げ隣にいた者達と握手し始めた。

 

皆口を揃えて「よかった」や「これで一安心だ」などと口走っている。

 

警備兵達も若干表情が緩んでいた。

 

「それは素晴らしいニュースだ、早速総統閣下にも連絡せねば」

 

「既に別の士官を回しております、今頃報告し終わっている頃でしょう」

 

「それは手際がいい、よくやった少佐」

 

「君も早く歓喜を分かち合いたいだろう、報告ありがとう少佐、戻りたまえ」

 

少佐は敬礼すると会議室を後にした。

 

彼がいなくなると全員が一旦席を戻し落ち着いた。

 

「勝ったか…ひとまずは安泰だな」

 

「いや、我々に取ってこの後が正念場だろう、特に新共和国領や加盟国の処遇だ」

 

「勝利を聞いて我が国に服属する惑星も増えるだろう、さてどうするか」

 

政治家にとって戦後処理は戦時中よりも激務に追われる。

 

それは勝っても負けても同じ事だ。

 

特に敗北者にとっては死んでしまった方が楽なのではないかと思える事もある。

 

「何はともあれ諸君、まずは祖国の勝利に乾杯しようではないか」

 

ハインレーヒ長官は軽く水の入ったコップを持ち上げた。

 

他の大臣や長官も同じく持ち上げている。

 

「祖国の勝利と繁栄を祝い、prosit(乾杯)!」

 

高く上げられたコップは乾杯の音を立て勝利を感激する一杯とされた。

 

 

 

-クワット 会長執務室-

ホズニアンとシャンドリラの陥落は帝国に与するありとあらゆる惑星にいち早く伝わった。

 

高官達は秘書や情報員から耳打ちを受けこの後の仕事を切り替え始めた。

 

それはクワット社の会長であるヴァティオンも同様だった。

 

クワット社の会長でもあるし惑星全体の指導者でもある。

 

そしてクワットは帝国領の中でも随一の重要惑星だ。

 

当然情報は誰よりも早く来るだろう。

 

「そうか…もう陥ちたか…彼女に連絡を取れ」

 

「畏まりました」

 

秘書が命令を受け機器をセットする。

 

その間にもヴァティオンは今後の事や勝利の祝辞のメッセージを考えていた。

 

それと同時に自分がどう動くかも思考を練っていた。

 

「帝国が勝ち再び新共和国は敗れ去る、さて次に覇権を握る帝国は“()()()”か…見極めるとしようか」

 

「準備完了しました」

 

秘書は手馴れた手つきで大きなホロプロジェクターのようなものをセットした。

 

ヴァティオンは一言「ご苦労」とだけ言って彼女を労った。

 

自らしゃがみスイッチを押す。

 

青白い光がプロジェクターから吹き出し徐々に人の形を作り出した。

 

彼女と連絡を取るのは数日ぶりだ。

 

「ご機嫌はどうかな、最高指導者“レイ・スローネ”大提督」

 

ホログラムは銀河帝国の大提督だったレイ・スローネを作り出した。

 

彼女はジャクー戦、延いてはエンドア戦から変わらぬ硬くそして威厳に満ちた表情を浮かべている。

 

『久しぶりだなヴァティオン、君の子会社には世話になっている』

 

「それは結構、新型スター・デストロイヤーと例のドレッドノートはどうだ?」

 

『順調…と言った所だ、後数日で完成する』

 

ヴァティオンは金色の髭を揉みながら彼女の言葉に耳を傾けた。

 

『だがそんな定期報告をしに来た訳ではないはずだ、何があった?』

 

相変わらず鋭い。

 

流石は女性大提督にしてラックスから全てを受け継いだ者だ。

 

他の三下将校とは格が違う。

 

「これは君たちの今後に大きく関わる事だ、よく聞け」

 

スローネ大提督は頷いた。

 

「銀河帝国が今日、新共和国を倒した」

 

その言葉を聞いた瞬間スローネ大提督はハッとした。

 

あり得ないとも言った表情だ。

 

「ホズニアンもシャンドリラも陥落し防衛艦隊はマジノの戦線に籠っている、撤退したとしても打撃は大きいだろう」

 

『帝国は強くなったと聞いたがまさかそれ程とはな、新共和国を倒すだなんて』

 

「我々の支援もあるが…やはり例の総統とその親衛隊組織が大きい、おかげで今の帝国軍はかなり強大になった」

 

『中央政府がやられたのだからもう防衛艦隊はどうしようもあるまい、以前の私たちのようになるのがオチだろう』

 

彼女は遠くにいながらも言葉だけで的確に情勢を読み取っている。

 

そんなスローネ大提督にヴァティオンはわざとらしく言葉を投げかける。

 

「どうするスローネ?このままいけまお前達の存在意義は無くなりそうだ」

 

あの帝国が再び銀河全域を支配すればスローネの一派は必要なくなるだろう。

 

むしろ下手に姿を表しては妙な軋轢を生みかねない。

 

しかし彼女はそんなことすら大丈夫そうな表情を浮かべ鼻で笑った。

 

『我々の信念は変わる事はない、その総統が望むなら我々は喜んで支えよう』

 

「ではもし総統が君達を快く思わない場合は?」

 

『我々に死にゆくつもりは毛頭ないぞ』

 

彼女の目はこう訴えかけている。

 

-牙を剥くなら容赦はしない-

 

今の帝国と敵対する事も辞さない、そういう表情をしている。

 

流石だ、それでこそ()()()()()を実行する生き残り達だ。

 

思わずヴァティオンは笑い始めた。

 

スローネ大提督は表情ひとつ変えずその様子を見ている。

 

「いやぁ見事だ大提督、流石だよ」

 

拍手までしている。

 

ヴァティオンは深く笑みを浮かべ彼女に提案した。

 

「…なら君にプレゼントを用意しよう」

 

『それは興味があるな』

 

「素晴らしいものだよきっと、既に彼らは試している」

 

秘書に顎で命令し資料を持って来させた。

 

重厚感のあるロックが掛かったケースに入れられた特別なデータテープはヴァティオンの指紋により開いた。

 

彼は滑らかな手つきでケースを開けデータテープを取り出す。

 

外に出すと暗証番号を入力しテープを解除した。

 

近くにあったホロプロジェクターに挿入するとすぐにホログラムが浮かび上がった。

 

それはアキシャル・シージ・レーザーキャノンを装備したインペリアル級の設計図だ。

 

「これを君たちに送ろう」

 

新たな波乱を楽しもうとする狂気じみた表情がヴァティオンに浮かび上がっていた。

 

 

 

 

-ホズニアン・プライム 元老院会議ビル-

「そうか…モスマは死んだか…」

 

小さなため息混じりでシュメルケ上級大将は報告を聞いた。

 

すぐに「情報部に連絡だ」と指示を出した。

 

隣にいたフューリナー上級大将が少し心配そうな目で見ている。

 

大方彼の考えは予想がつくがひとまず待ってみる事にした。

 

「ダーク・トルーパーや私の部下の証言もある、間違いない」

 

「大将軍や正規軍はこの事をまだ知らないだろうな?」

 

「情報は止めている、知るはずがない」

 

2人は足早に歩き始めた。

 

傍ではストームトルーパーや士官達が通路を闊歩している。

 

もうすっかり帝国の施設のように感じられた。

 

「モスマが死んだ事はどうでもいい、だが法廷に立たせ処刑出来ないことが問題だそうだろう?」

 

「そうだ…そこは映像を加工してそれらしく見せるしかない、最後の最期まで厄介な女だ、死ぬ瞬間すら手間取らせるなんて」

 

シュメルケ上級大将は少し苛立ちを覚え皮肉を込めて吐き捨てた。

 

本来ならモスマや一部の元老院議員を捕虜にして壇上に立たせ見せしめとして処刑するはずだった。

 

あろう事か彼女は自ら命を断ち己の尊厳と民主主義を守り抜いたのだ。

 

恐らくこちら側の意図を知って。

 

そもそも彼女が事を起こさなければ反乱同盟は誕生しなかったし新共和国も生まれなかった。

 

帝国にとってはまさに悪魔のような存在だ。

 

そんな彼女を見せしめ出来たら相当の効力があっただろう。

 

「奴の死はしばらく軍内部でも内密にしろ、あくまで我々が捕虜に取ったという形にする」

 

「彼女は爆死し遺体すら残っていない、映像を使うにしてもかなり無理が表に出るぞ」

 

「以前の元老院一斉逮捕の時の映像を加工する、それが不可能ならもう文面だけでいい、とにかく奴を我々がこの手で処刑したという事実が必要なのだ」

 

「わかった、定配しておく」

 

すると一瞬だけシュメルケ上級大将は立ち止まった。

 

モスマともう1人思い当たる何かがあったようだ。

 

「…そういえばレイア・オーガナはどうした」

 

ふと思い出したようにシュメルケ上級大将は尋ねた。

 

あまりに唐突すぎた為フューリナー上級大将一瞬ポカンとしていた。

 

「まだ…発見はされていない…恐らく死んだとは思うが」

 

「…まさかな…捜索隊を展開しろ、それと急いで遺体も探すんだ」

 

「彼女が生きているとでも?」

 

「可能性はまだある、それに奴が生きていたら…厄介な事になる」

 

「わかった」

 

2人は別れそれぞれの仕事を始めた。

 

シュメルケ上級大将の嫌な予感はあながち間違ってはいなかった。

 

何せ彼女は、レイア・オーガナはホズニアン・プライムを脱出していたのだから。

 

涙を拭い再び希望を背負って。

 

あの2人、ジェルマン・ジルディールとジョーレン・バスチルを引き連れて。

 

まだ戦いは終わらない。

 

 

つづく




言った通り不定期更新になってきやしたね(他人事)

そんなことより首が痛い


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新共和国の崩壊/後編

-最後まで己の思いを貫いた者が真の勝者である-


時間は少しばかり前に遡る。

 

ハイパースペースを航行中の新共和国軍のフリゲート“プリダスタネーション”はクワットの一行を乗せホズニアンを目指していた。

 

艦長はブリンダー中佐で乗組員は他のネビュロンB系列のフリゲートと同じく850名まで搭載出来る。

 

クラス2のハイパードライブを持つこの艦は順調にホズニアン・プライムへ近づいていた。

 

「大使、長旅ご苦労でした」

 

「いや、君たちのおかげで助かったよ」

 

セルヴェント大使はふと後ろの2人に目線を向けた。

 

ジョーレンもジェルマンもやり切った顔をして互いの脇腹を突き合った。

 

「艦長、間も無くハイパースペースを抜けます」

 

「よし、それでは大使ご準備を」

 

「そうだな、さて2人とも行こうか」

 

セルヴェント大使が2人の肩を掴むと3人とも歩き始めた。

 

「ええ」

 

「ああ、久々のホズニアン・プライムだ」

 

「初めてだろ」

 

「そうだった、シャンドリラはこれでも1回はあるんだがな…」

 

キツい冗談を言いながら3人はプリダスタネーションの艦内を歩いた。

 

3人が居住区画に移動する頃には既にハイパースペースから脱していた。

 

ブリッジやモニターと繋いでいる部屋からは都市の光で輝くホズニアン・プライムの姿が見えた。

 

「皆様、間も無く地上の宇宙港に入港しますのでご準備をお願いします」

 

1人の下士官が報告に来た。

 

若干疲れている大使館のメンバー達はようやく一息つけると思い安堵の表情を浮かべていた。

 

中には大きく背伸びをして独房と旅の疲れを誤魔化そうとする者もいた。

 

一行は少ないながらも荷物を持ち歩き始めた。

 

「そう言えばあの大量の武器とかはどうしたんだ?」

 

「持って来れるものは持ってきたが後は売っ払っちまった、案外高く売れたぜ」

 

「高くってどのくらい」

 

「10,000クレジットポンとくれたぜ、おかげでオンボロだがあのテイランダーが買えた」

 

「確かにちょうどいい金額だな」

 

2人は微笑を浮かべながら降り口のハッチまで歩いた。

 

するとちょうどヘルヴィがセルヴェント大使と話をしていた。

 

その様子を見ながらジェルマンは黙り込んだままだ。

 

ジョーレンからすれば今すぐここで大きなため息を吐きたくなる。

 

しかも今ちょうどセルヴェント大使が他の要人に呼ばれ1人になったというのにジェルマンはまだ動かない。

 

こいつの体はカーボン冷凍でもされたのかと思うほど彼女を見つめたまま固まっている。

 

「…やるか」

 

「あっ?やるって何をっ!」

 

ジョーレンはポケットに手を突っ込んだままジェルマンの尻を軽く蹴った。

 

それでもびっくりした彼は軽く飛ばされてしまった。

 

しかもちょうどヘルヴィにぶつかった。

 

「あっ…すいません」

 

「いえ…この度は救出して頂き本当にありがとうございました」

 

彼女は礼儀正しく頭を下げた。

 

「その…ヘルヴィさんはこれからどうするつもりで?」

 

「私は今は父について行くつもりです、これからどんな世界になって行くかまだ分かりませんし」

 

「いつかまた会えますかね…」

 

なんという事を言ってしまったんだと思いつつジェルマンはじっと彼女の顔を見つめた。

 

「ええ、同じ新共和国の為に働く者ですから」

 

「そう…ですか…そうですよね!」

 

「ええ!」

 

そういうとちょうどハッチが開いた。

 

気圧差で風が舞い込んでくる。

 

『足元に気を付けてお降り下さい、ここまでお疲れ様でした』

 

アナウンスとともに一行はぞろぞろと階段を降りて行く。

 

「それじゃあ」

 

「お気を付けて」

 

味気ない挨拶を交わすと2人は艦を降りていった。

 

その後ろからジョーレンは満足げな表情を浮かべて歩いてきた。

 

「よくも後ろから蹴りやがったな?」

 

「タマ蹴ってない分マシだろう、全くウブな奴はこれだから…立派なアカデミーで一体何を学んで来たんだ?」

 

「うるさいなぁ…とにかく行くぞ」

 

ジェルマンは足早に階段を駆け降りた。

 

一方ジョーレンはそれに続くように急いだ。

 

「行くってどこへ」

 

「当然情報部の本部だよ、きっと今頃人手不足だ」

 

「なるほどな…ってお迎えが来たぞ」

 

ジェルマンの顔を無理やり指で刺した方向へ向けた。

 

2人の士官がこちらに向かってくる。

 

敬礼し2人を出迎えた。

 

「お疲れ中尉、ストライン中将がお呼びだ」

 

「そちらの大尉も御同行願う」

 

2人は顔を見合わせ向けのスピーダーに乗り込んだ。

 

この時点で帝国軍の侵攻まで後1時間を切っていた。

 

 

 

-艦隊情報部本部 ストライン執務室-

先程の士官2人に連れられジョーレンとジェルマンはストライン中将の執務室まで連れられた。

 

ジェルマンにとっては慣れ親しんだ施設だがやはりジョーレンにとってはそうは行かないらしい。

 

スピーダーに乗った時からどこか緊張して見えた。

 

「おい一体どうしたんだよさっきから」

 

彼に小声で理由を聞いてみる。

 

ジョーレンを引っ張り耳打ちをした。

 

「なんか硬いぞ、どうしたいつもの感じは」

 

「いやな…一応情報部員なんだが本部に入るのは初めてで…それに元々俺の存在は抹消されてるわけだし…」

 

「はぁ…大丈夫だたとえならず者でもストライン中将なら広い心で受け入れてくれる」

 

「そうだと良いんだがな…」

 

彼はどこか弱気でこれ以上掛ける言葉が無かった。

 

それにもうストライン中将の執務室の前だった。

 

「2人が来た開けてくれ」

 

いつもの衛兵2人がコードを入力し一行を中に入れる。

 

「失礼します中将、ジルディール中尉とバスチル大尉をお連れしました」

 

士官が横に逸れ2人を見せた。

 

2人とも敬礼している。

 

ストライン中将も椅子の上で敬礼していた。

 

「ご苦労、下がってくれて構わない」

 

「では失礼します」

 

連れてきた士官達はゾロゾロと執務室を後にした。

 

ドアが閉まった事を確認すると少し間をおいてからストライン中将は話し始めた。

 

「中尉ご苦労だった、突然辛い任務になってしまったがよくこなしてくれた、そして」

 

ストライン中将はジョーレンの方へ目線を向けた。

 

彼は今までにない程気不味そうな表情を浮かべている。

 

説教前の子供みたいだ。

 

「一応三本は調べて貰った、確かに君は元パスファインダーで亡きドレイヴン将軍から直接潜入の司令が出ている」

 

「ええ…まあ…」

 

ストライン中将はゆっくりと彼に近づいた。

 

身長自体はあまり変わらないが威圧感は中将の方が何倍も大きい。

 

だがストライン中将はそんなジョーレンの両手を握りして感謝の言葉を露わにした。

 

「本当によくやってくれた、君の行動のおかげで大勢が救われたよ!」

 

「えっ?あっああ!ええ!まあ!ありがとう…ございます…」

 

予想していた感じと違いジョーレンは別の意味で困惑していた。

 

大体こうなるだろうなと思っていたジェルマンは微笑ましい表情で見つめていた。

 

「ジルディール中尉の話によればまだ君のように潜伏中の情報員や特殊部隊員がいるという事だな?」

 

「ええ、同じパスファインダーのメンバーもいます、それが何か?」

 

「…我々新共和国と帝国は戦争状態に陥った…」

 

ストライン中将は表情を重くし結果だけを説明した。

 

ずっと艦内にいた2人は全く外の情報を知らなかった為驚いている。

 

「はっきり言って勝つ見込みは五分五分といった所だ、その為にも優秀で経験豊富な情報員が欲しい」

 

「では我々に潜伏中の情報員を見つけ出して連れ帰ってこいと?」

 

「その通りだ中尉、君たちへの新しい命令はそれだ」

 

ストライン中将はデスクから司令の入った小さいイメージキャスターを手渡した。

 

「この中に任務の内容は入っている、後は」

 

『警告、ハイパースペースより帝国艦隊出現!繰り返す、ハイパースペースより帝国艦隊出現!』

 

警報音とアナウンスが入りストライン中将の言葉を遮った。

 

室内の3人ともありえないと言った表情だ。

 

中将はすぐさまデスクのコムリンクを起動し通信回線を開いた。

 

どうしようもない2人はただ黙って見ているしか無かった。

 

「オービタルベースこれはどういう事だ、帝国艦隊が出現したのか?」

 

『はい中将…!帝国艦数千隻が軌道上に出現!現在戦闘中です!』

 

「司令官のファンゼン准将と代わってくれ、早く!」

 

ストライン中将が通信をとっている間に衛兵2人が室内に入ってきた。

 

「閣下!」

 

「本部に移動する、全員用意を!」

 

『中将!』

 

「ファンゼン准将か、帝国軍はどうなっている」

 

『我が軍は圧倒的に不利です!このままでは防衛艦隊は全滅してしまいます!』

 

「なんとか防衛線を展開しろ、せめて元老院議員を非難させるまでは耐えるんだ」

 

『はい!なっシールドを!!』

 

雑音と共に軌道上の基地との通信が途切れた。

 

最後の言葉から察するにファンゼン准将と基地はもう…

 

悲しいが今は嘆いている場合ではない。

 

少し目を閉じ心を鎮める。

 

「…退却だ、ホズニアン・プライムから急いで脱出するぞ!」

 

「ですが中将!首都を捨てては…」

 

「どうせ今の戦力では勝てん、それよりも今は生き延びる事を考えろ」

 

「中将の言う通りだ、またここに帰ってくる為にも今は逃げるぞ」

 

ジェルマンは悔しそうな表情を浮かべていたが彼とてわかっているだろう。

 

辛い決断を下すのは部下ではなく上官の役目だ。

 

「全施設に警報を出せ!脱出するぞ!!」

 

ストライン中将の眼光には鋭く決意に満ちた光が灯されていた。

 

 

 

-新共和国元老院複合施設 元老院会議ビル-

再び時は少しほど前に遡る。

 

ジェルマンとジョーレンがストライン中将の執務室に案内されている頃元老院会議ビルでは議会が開かれていた。

 

内容は主に現在マジノ線の状況と今後の対策だがこの状況でも相変わらず元老院は動物園状態だった。

 

互いに批判しかせず一向に対応策を編み出そうとしない。

 

違う点といえば開戦の影響で軍縮派やモスマ派の勢力の方が不利だと言う点だ。

 

軍拡派は鬼の首を取った勢いで反対派の勢力を攻め立てる。

 

「なら一体この戦争はいつまで続くんだ!ようやく銀河内戦が終結したばかりだと言うのに…」

 

軍縮派の議員が壇上で叫んだ。

 

それに対し軍拡派の議員達が次々と罵声に似た批判を浴びせかける。

 

「そもそも軍備を増強しておけば防衛戦に持ち込む必要すらなく、戦争すら起こらなかった!」

 

「これは貴方達の怠慢と傲慢さが招いた最悪の結果だ!」

 

「そうだ!」

 

「銀河市民の敵め!」

 

これに対し軍縮派の議員達は返す言葉がなく黙り込むしか無かった。

 

先程の議員も威勢を失い狼狽えている。

 

さらに軍拡派の議員達の勢いは増しつつある。

 

「今からでも遅くはないでしょう皆さん!軍備の拡張と徴兵制の実施を我々は要求する!」

 

徴兵制という言葉に保守派や軍縮派の議員達はざわついた。

 

クローン戦争だって独立星系連合も旧共和国も徴兵制は取らなかった。

 

銀河内戦期だってそうだ。

 

帝国も独裁政治を敷いていたが徴兵制までは行っていなかった。

 

近年の銀河系において徴兵制とはそれ程珍しいものだ。

 

無論個々の惑星防衛軍では変化してくるだろうが銀河規模の政府が徴兵制を取るのはほぼない。

 

せいぜい今の帝国の私立軍である親衛隊がやっているくらいだ。

 

それほどの事を今壇上に立っている議員は口に出したのだ。

 

裏を返せばそれほど逸められているという事だが。

 

「だが徴兵制など…それでは親衛隊の二の舞ではないか!」

 

「なぜ我らが敵国の真似をせねばならないのだ!」

 

「軍備拡張ともかくそれだけは納得しかねんぞ!!」

 

やはり猛烈に反対されている。

 

「ではどうやってこの戦いに勝つつもりで?いくら兵器を増産しようとそれを操る兵士がいなくては軍は成り立たない!」

 

「軍の崩壊はすなわち戦線の崩壊を意味する!それは我が新共和国の敗北でもあるのだぞ!」

 

「それともなんだ?ドロイド軍でも蘇らせるのか?」

 

「非人道なのはお前たちの方だ!」

 

「そうだ!」

 

軍拡派の勢いは衰えない。

 

逆にヒートアップしてきた頃だ。

 

熱心なのはいい事だが話や思考に中身がないのでは意味がない。

 

そして時間がやってきた。

 

突如議会の照明が落とされ出入り口が封鎖された。

 

赤いライトに切り替わると大きな警報音が議会中に鳴り響いた。

 

議員達は混乱し動揺の声を上げている。

 

非常口が照らされ数名の士官が入って来た。

 

全員に聴こえるように大きな声で士官の1人が叫んだ。

 

「皆様!帝国軍の襲撃を受けました!念の為避難をお願いします!」

 

「通路はこちらです!!」

 

手を振り非常口を議員達に教える。

 

直後警報音が響いた。

 

『警告、ハイパースペースより帝国艦隊出現!繰り返す、ハイパースペースより帝国艦隊出現!』

 

「帝国の襲撃…?」

 

「バカな…マジノ線は破られたのか…」

 

「とっとにかく避難しよう!」

 

「そっそうだ!早くみんな早く!」

 

ゆっくりとだが全員が非常口に駆け込んだ。

 

腐っても元老院議員の彼らは一般人のようにパニックになったりせず焦らずしっかり列を作って非常口に入っていった。

 

士官達の誘導も丁寧で下手な混乱を産まずに済んだ。

 

「こちらですさあ!」

 

「そのまま真っ直ぐ行けば新型の非常口です!」

 

「あの」

 

1人の議員が士官に尋ねた。

 

レイアだ。

 

背後にはガー議員もいる。

 

「どうされました?」

 

「避難する前に連絡を取りたいの、この非常時ではシャンドリラや他の惑星にいる将軍が来れば脱出出来る確率も高くなるだろうし」

 

「でしたら我々にお任せを、議員方に何かあっては大変です」

 

「いや前線でも戦った事のある彼女ならきっと大丈夫だ、私も同行しよう」

 

「無茶だという事は分かっています、ですが彼らならきっとこの混乱から私達を導ける」

 

士官は困った表情を浮かべていた。

 

すると部下の1人が彼に耳打ちをした。

 

小さく小刻みに頷き逆に士官の方が耳打ちをした。

 

部下は敬礼し内容を理解したようだ。

 

士官は表情を変え2人に近づいた。

 

「でしたら彼らに護衛させましょう、そうすれば危険も少なくなる」

 

「わかりました、わがままを言って申し訳ありません」

 

「いえ、それでは議員方お気をつけて!」

 

「行きましょうオーガナ議員、ガー議員」

 

別の士官に連れらて2人は議員団から離れた。

 

士官の妙な目付きに見送られて。

 

 

 

元老院議員達はそのまま真っ直ぐ地下の脱出通路を移動していた。

 

最近できた真新しい簡素な通路は僅かな照明しかなく避難施設までの一本道しかなかった。

 

逆に言えばわかりやすい避難通路であり変に迷う必要がない。

 

それに防音であり何が走って逃げようとも探知され攻撃される危険性がない。

 

しかし熱源探知などを恐れてかスピーダーなどのビークルの通行は認められておらず徒歩でしか移動出来なかった。

 

だがかなり大きく広い通路なので数千人の元老院議員が一斉に走っていてもなんら問題はなかった。

 

そう、皆殺しにするのになんら問題はないのだ。

 

「なっなんだ!」

 

先頭を走っていた元老院議員達が動揺し声を上げた。

 

その後ろを走る議員達は前がよく見えず何が起こっているかわからなかった。

 

が音でわかった。

 

「プローブ・ドロイド!一体どこから!?」

 

アラキッド・インダストリーズ社製品のヴァイパー・プローブ・ドロイドが数体、独特の浮遊音と共に近づいて来た。

 

議員達は後退りするがもう手遅れだった。

 

プローブ・ドロイドはブラスターを議員達に向けた。

 

「嘘だ…嘘だ!」

 

プローブ・ドロイド達は真実という冷たい弾丸を彼らに突きつけた。

 

無防備で無抵抗な議員達はバタバタとブラスター弾の前に鮮血を流し斃れていった。

 

無機質な壁には議員達の生き血が絵の具のように撒き散らされていく。

 

ドロイドの足元には光を失い血や肉を垂れ流した議員達の尸が転がっている。

 

ドロイドにも返り血が付き黒いボディがベッタリと彩られている。

 

それでもプローブ・ドロイドは止まらない。

 

彼らは無慈悲な殺戮を続けた。

 

議員達は反対側に逃げようと走ったがそれも絶望に終わった。

 

後ろからも大量のプローブ・ドロイドが出現した。

 

議員達の悲鳴が通路に反響しより大きく聴こえる。

 

それはブラスターの銃声も同様で撃たれて死んでいく分悲鳴の方がどんどん少なくなっていく。

 

逃げる事もできず抵抗する事も叶わない議員達は順番に痛みと死を待つしかなかった。

 

誰もが仲間や己の死に目を背ける。

 

これほど悍ましい殺戮は新共和国や帝国、親衛隊にすら気づかれず静かに幕を閉じた。

 

逃げ込んだ元老院議員達全てが死んだことによって。

 

 

 

一方情報部の本部では。

 

既に帝国軍の数個連隊に包囲され戦闘が勃発していた。

 

幸い自動防衛システムと新共和国軍兵士達の奮戦により辛うじて侵入は防いでいるが長くは元たない。

 

その間に情報将校達はデータ消去や撤退の準備をしていた。

 

「準備できた者は急いで輸送船へ乗れ!なるべく早く此処を去るんだ!」

 

ストライン中将は全員に命令を出した。

 

もう施設内にも流れ弾が飛んで来ており負傷者を出していた。

 

ジョーレンはその間にもブラスター・ライフルで応戦しジェルマンはデータ消去に急いでいた。

 

彼らの働きは凄まじかった。

 

おかげで脱出にだいぶ余裕が持てた。

 

「中将、あと少しでデータ消去は完了しそうです!」

 

「そうか…よくやったぞ中尉、大尉!」

 

「わかってます、あと少しやれば…」

 

正確な射撃で上空からストームトルーパーを1人ずつ仕留めて行く。

 

敵は狙撃されている事に気付いてもどこにいるかまでは気付いていない。

 

気づけばストームトルーパーの一段を片付けていた。

 

おかげで地上の味方は無事撤退出来たようだ。

 

「完了しました!」

 

端末を切り離し急いでブラスター・ピストルに持ち替える。

 

ライフルを持ったジョーレンも2人の元へ近づいてきた。

 

「撤退状況はどのくらいだ?」

 

「駐留している八割が無事撤退に成功、ですがその後の事は…」

 

「現在職員の七割が脱出に成功しました」

 

衛兵の1人がそう報告した。

 

「全員無事に友軍部隊のいる基地に辿り着けたでしょうか…」

 

ジェルマンが不安な声を上げた。

 

「今は無事脱出できたと考えておこう、さあ我々も急ぐぞ!」

 

「はい!」

 

5人はデータ管理室を後にし通路を急いで走った。

 

攻撃により時々建物全体が揺れるがそんなことを気にしている暇はない。

 

傍を見ると同じように退却している兵士が見えた。

 

助けてやりたい所だがジェルマン達にも余裕がない。

 

ただ無事を祈ってやる事くらいしか出来なかった。

 

「ん…?」

 

真ん中を走るストライン中将は何かに気づいた。

 

彼は一瞬にして青ざめた。

 

衛兵やジェルマン達はまだその事に気づいていない。

 

まずいと思った彼は咄嗟に近くにいたジェルマンとジョーレンに「危ない!」と声を掛け2人を突き飛ばした。

 

2人はかなり遠くまで飛ばされた。

 

次に衛兵2人を引き離そうと思った矢先それは来てしまった。

 

窓ガラスが割れる音と爆発音が響き爆風があたり一面に広がった。

 

熱や破片から顔を守ろうと2人は腕で顔を覆い被せた。

 

「くっ!」

 

爆風は10秒くらいで過ぎたが目を開けた瞬間最後に見た風景とは大きく変化していた。

 

壁やガラスは崩壊して散乱し瓦礫には誰かの血がついていた。

 

大体予測は出来る。

 

「中将!!」

 

引き攣った声を上げ瓦礫に埋もれていた中将のそばに駆け寄る。

 

まだ息はある。

 

呼吸もしていた。

 

「…っ…ちゅう…い…か…」

 

弱々しい声音と共に目を覚まし首をジェルマンの方に向ける。

 

後から急いでジョーレンも駆けつけた。

 

ジェルマンはあまりのショックで混乱していたせいか彼に似合わない涙を流しあたふたしていた。

 

「今助けます!きっとバクタ液で…」

 

ストライン中将は笑みを浮かべた。

 

「手遅れだ…多分、足も切断されてるし内臓もだいぶ抉れてる…生きてるのが不思議なくらいだ、ハハ」

 

中将の息は荒い。

 

このままでは彼のいう通り本当に死んでしまう。

 

さっきから血の匂いが漂っている。

 

恩人であり上官でもあるストライン中将をジェルマンはどうしても失いたくなかった。

 

それは出会って数時間のジョーレンだって同じ事だ。

 

同じ軍の仲間であるし何より敵でない限り命が失われるのは嫌だ。

 

単純な理由だが誰だってもの前で人が死ぬのは嫌なものだ。

 

助けたいと思うはずだ。

 

「しっかりしてください中将!」

 

らしくもない弱気な事を言うストライン中将にジェルマンは声をかけた。

 

「私の指令は続いたままだが…最後にいくつか…頼みたい事がある…」

 

「なんでもどうぞ!」

 

あまり損傷が少ない方の腕をなんとか持ち上げてジェルマンの裾を掴んだ。

 

彼は勇気づけるためしっかり手を握った。

 

「私には…兄弟がいる…兄は死んだが弟がまだ生きている…名前はディクス・ストライン…階級は准将だ」

 

「そのディクス准将を探せば良いんですね?」

 

「いや…私の家族全員を集めてくれ…きっと今後の戦いで活躍する…」

 

「他には誰が」

 

ジョーレンが後ろから尋ねた。

 

ストライン中将は無理をして笑みを作り話した。

 

彼らには託せると信じて。

 

「兄の子ラクティス・ストライン…そして私の子…ノヴァン・ストライン…」

 

「3人だけですか?」

 

「ああ…ノヴァンの母親は…私の妻はもうこの世にはいない…だから彼をひとりにしないでやってくれ…」

 

「彼らはどこにいるんです?」

 

ジェルマンとは違い至って冷静なジョーレンは彼に尋ねた。

 

「ディクスはマジノ線にいる…ラクティスはヤヴィンの航空基地にいる…ノヴァンは…」

 

言葉が途切れ中将の意識が消えかけた。

 

ジェルマンが名前を叫び揺すぶったお陰でなんとか目を覚ましたが相当疲弊している。

 

ジョーレンも口調に焦りが見え始めた。

 

「ノヴァンの居場所は?」

 

「レンディリのアカデミーにいる…あの子を…たった1人の息子を頼んだぞ…」

 

「もちろんです中将…!」

 

「君は本当に優秀な…私の自慢の部下だ…」

 

ストライン中将の目からはジェルマンと同じように涙が流れていた。

 

彼はもう痛みを感じず死の恐怖はずっと昔に何度も味わってきた為その感覚は麻痺していた。

 

涙を流す理由は一つしかない。

 

「これから君は苦難の日々を送るだろう…それでも生き続けてくれ…」

 

「中将…」

 

「最後まで生きた奴が…己の思いを貫き通した奴が…勝者だからな…」

 

「中将!」

 

ストライン中将の意識は完全に途切れた。

 

彼はそこからピクリとも動かなかった。

 

呼吸は止まり意識もない。

 

静寂が訪れ辺りにはジェルマンの啜り泣く音が木霊した。

 

それでもストライン中将は笑っていた。

 

全てをジェルマンに託したまま安堵の微笑を浮かべ苦しみひとつない顔で旅立った。

 

ジョーレンも目を瞑り哀悼を捧げる。

 

彼の方が死は見慣れている。

 

戦場で多くの仲間と敵の死を目にしてきた。

 

だからこそジェルマンの悲痛な思いとストライン中将の想いが伝わってくる。

 

涙を拭い取りジェルマンは静かに話した。

 

「中将は…僕がアカデミー時代から気に掛けてくれて…家族のいない僕に居場所をくれた…」

 

「そうだったんだな…」

 

「だから…」

 

ジェルマンは立ち上がった。

 

涙を堪えストライン中将に顔を向けた。

 

彼は静かに大恩ある上官に敬礼した。

 

曇りひとつないクリスタルのような瞳からはジェルマンの強い意志が伝わってくる。

 

彼の言葉の続きは心の中で唱えた。

 

(僕が必ず貴方の任務を、遺志を成し遂げます)

 

静寂の中彼は別れと新たな一歩を進む決意をした。

 

走り去る姿に涙はなかった。

 

ストライン中将はここに置いていく。

 

いつか帰ってくる為に。

 

いつかこの地を取り戻す為に。

 

遺志を未来に受け継ぐ為に2人は走った。

 

 

 

「なるべく人を乗せろ!」

 

ジェルマンやセルヴェント大使達を連れて来たプリダスタネーションの艦長ブリンダー中佐は艦の前で叫んだ。

 

この宇宙港は今現在的の攻撃が比較的に少ない場所だった。

 

恐らく首都攻撃に集中している為宇宙港攻撃は後回しなのだろう。

 

脱出しようにも上空の防衛艦隊は既に壊滅状態だし逃げても捕まるのがオチだ。

 

実際もう逃げ場はなかった。

 

しかし長年の航行と戦闘で得た経験を持つブリンダー中佐と乗組員たちはそうは思わない。

 

まだ逃げるチャンスがある。

 

「艦長!あれを!」

 

「なんだ?おいみんな避けろ!」

 

乗組員のバンシウス少尉とブリンダー中佐が頭を抱えしゃがみ込んだ瞬間1機のエアスピーダーが帝国軍侵入用のバリケードをぶち破り侵入してきた。

 

ほぼ不時着に近い形で減速しギリギリのところで停止したエアスピーダーは無理が祟ったのか煙が立ち込めていた。

 

「誰だあんな交通法違反したのは…」

 

ゆっくり目を開けブリンダー中佐は誇りを払った。

 

スピーダーのキャノピーがゆっくりと上がる。

 

コックピット内も煙たいのか咳き込む音が聞こえた。

 

「一体誰だ…?敵か?」

 

「帝国軍があんなスピーダー使うと思います?」

 

「いや全く、取り敢えず民間人か新共和国軍所属っぽいが…」

 

煙で機体の中は見えなかったがパイロットの2人が徐々に姿を表した。

 

その顔と服装を見た瞬間誰もがギョッとした。

 

片方も名前を知っているしもう片方なんて新共和国の超有名人だ。

 

英雄とかそう言う単語を並べ立てても言い表せないほどだ。

 

「おっオーガナ議員!ガー議員!」

 

ブリンダー中佐と周りの乗組員たちは慌てて敬礼した。

 

なんとスピーダーの中から出てきたのはレイア・オーガナとタイ=リン・ガーだった。

 

みんなびっくりしている。

 

突然スピーダーが突っ込んできた事もそうだし中から有名な元老院議員が出てきた事もだった。

 

しかしレイアやガー議員はいたって冷静だ。

 

「艦長はどなた?」

 

「小官であります!ブリンダー中佐です!」

 

「他にここにきた元老院議員は?」

 

「殿下とガー議員の御二方だけであります、元々ここに滞在していたクワットの大使館メンバーが数十人と」

 

「やっぱり…私たちだけ…」

 

「仕方ない、我々だけでも生き延びた事を今は感謝しよう」

 

「ええ…他にいるのは?」

 

「なんとか撤退してきた防衛軍部隊とスターファイター隊だけです、いつでも脱出はできますが」

 

2人は顔を見合わせた。

 

出来ればもう脱出したい所だがなるべく仲間達を多く連れて行きたいというのもある。

 

「わかりました…出港の準備を…」

 

「ちょっと待ってください!」

 

遠くから1人の女性の声がした。

 

ヘルヴィだ。

 

「まだあの2人が…!」

 

「ヘルヴィやめろ」

 

後ろから父親のセルヴェント大使が止めに来た。

 

彼女はずっとジェルマンとジョーレンを待っていたのだ。

 

とはいえ待ち続けるにしても時間には限りがある。

 

「ここで我々もやられてしまえば2人の行動が全て無駄になる…!今は逃げるんだ…」

 

「そんな!まだあのお2人は生きているかもしれないのに!」

 

「だとしてもだ…ここで大勢を私情で巻き込む事は出来ない」

 

ヘルヴィの気持ちも分かる分セルヴェント大使は苦痛に満ちた表情を浮かべていた。

 

ブリンダー中佐やバンシウス少尉も俯いている。

 

「さあ、船に戻ろう…」

 

ヘルヴィは目尻に涙を浮かべていたが泣く事はせず必死に堪えていた。

 

そんな彼女を父は優しく宥めた。

 

ブリンダー中佐が「出港だ!」と覚悟を決め言おうとした矢先、奇跡は起こった。

 

突如謎の爆発音と共に空から何かが降ってきた。

 

それにと叫び声が聞こえた。

 

「なっなんだあれ?」

 

全員が見上げると人のような形をしたものが2つ降ってきた。

 

徐々に近づき姿が見え始める。

 

そしてブリンダー中佐やヘルヴィの顔色がガラッと変わった。

 

「あれは…!」

 

「ああ!まさかそんな…!」

 

セルヴェント大使も空を見上げて興奮している。

 

だがどんどん近くなるに連れて何処からか聞こえる悲鳴のような叫び声もよく聞こえるようになっていた。

 

「まさか…みんな避けろ!」

 

ブリンダー中佐はレイアやガー議員を連れて大きく離れた。

 

他の乗組員達も円形に広がっている。

 

直後パラシュートを開いた2人の男が縁の真ん中に降ってきた。

 

1人は急いで付与運となったバックパックを剥ぎ取りブラスター・ライフルを構え周囲を警戒した。

 

もう1人は足を滑らせ地べたに座り込んでしまった。

 

「立てジェルマン!着いたぞ!」

 

「足首…足首を挫いた…」

 

「おいおい大丈夫かよ…立てるか?」

 

「ああ…軽傷だ…」

 

彼はブラスター・ライフルを持った男に支えられなんとか立った。

 

それでもまだ足を痛そうにしていた。

 

「ジョーレン、なんかみんなに取り囲まれてるぞ…」

 

「ああ、ちょっと派手に降りすぎたな」

 

「ジェルマンさん!!」

 

ヘルヴィは満面の笑みと共にジェルマンに抱きついた。

 

あまりの勢いと突然の出来事にジェルマンは混乱しよろけそうになった。

 

「ヘルヴィさん!?あの…」

 

「よかったな坊主」

 

ジョーレンは彼の肩を叩きニヤニヤしていた。

 

一方のヘルヴィはずっとよかったと涙を流していた。

 

「無事だったかね…本当によかった…」

 

「大使、どうやら迷惑をかけてしまったようですね」

 

ジョーレンは大使と握手し軽く抱き合った。

 

「よし!今度こそ出港するぞ!みんな急げよ!」

 

乗組員達がやる気に満ち溢れた表情でプリダスタネーションに入っていった。

 

微笑ましい様子を眺めながらレイアとガー議員も同様に艦内へ入った。

 

「我々も行きましょうか」

 

「ええ」

 

2人は微笑みのままプリダスタネーションに乗り込んだ。

 

 

 

ネビュロンBは形状から言ってお世辞にも衝撃に強いとは言えない。

 

しかし300メートルの船体に積み込まれたターボレーザー砲やレーザー砲の威力は強力だ。

 

対空能力が高くエスコート・フリゲートとして高い性能を誇っていた。

 

「それで脱出の方法は?」

 

ブリッジに居座るジョーレンがブリンダー中佐に尋ねた。

 

「地上の中でハイパースペースに入る」

 

「はっ!?んな馬鹿な真似したらみんな死んじまいますぜ!」

 

ジョーレンはブリンダー中佐の肩を掴んだ。

 

しかし他の乗組員もブリンダー中佐も全力でやる気だった。

 

「船体を出し過ぎれば帝国間に狙われる、ギリギリのところでやるしかない」

 

「そもそもそんなことできるのか!?」

 

「初めてこの艦に乗った時すでにやった、出来ない事はない…そうだろう大尉?」

 

「はっはい!」

 

航行士官のニーベル大尉が頷いた。

 

とはいえジョーレンの不安感は拭いきれない。

 

「大丈夫かよ…」

 

「艦長、後方より敵スターファイター!」

 

「対空戦闘とシールドの用意だ、急げ」

 

敵のTIEインターセプターが3機追ってきた。

 

編隊を組みエンジンが攻撃されている。

 

偏向シールドを展開しているのでダメージはないがいつまでも持たない。

 

すぐさま後部のレーザー砲が反撃する。

 

反応が遅れた中央の1機に直撃し撃破された。

 

残りの2機は対空砲火を掻い潜りながら両脇から攻撃しようと画策している。

 

「前方からさらに3機接近!」

 

「チッ!あと少しだってのに…」

 

「後方からも機影を確認…ですが…」

 

レーダー士官はその機影をマジマジと見つめていた。

 

5機のTIEインターセプターが同時に攻撃しようとした矢先それは閃光と共に牙を剥いた。

 

一瞬のうちに脇に張り付いた2機のTIEインターセプターを撃破し並々ならぬ速さで前方の1機を撃破した。

 

生き残った2機のTIEインターセプターは回避し反撃しようとしたが敵機を振り切れずケツに突かれ両方とも木っ端微塵に破壊されてしまった。

 

「なっ…いったい何処の機体だ?」

 

「確認しました…防衛艦隊のAウィングです」

 

「援護に来たのか…」

 

ブリッジの乗組員達は少し困惑していた。

 

『こちら防衛艦隊のメッサー中隊所属のレヴ・ヴィレジコフ中尉だ、貴艦のハンガーベイに今すぐ着艦したい!』

 

「艦長のブリンダー中佐だ、着艦を許可するが我が艦は撤退中の為減速出来ない」

 

『そんなこと構うものか、自力でなんとかしてみせる!』

 

「わかった、ハンガーの偏向シールドを解除しろ」

 

プリダスタネーションのハンガーベイの偏向シールドの力が弱められた。

 

これでヴィレジコフ中尉のAウィングにもハンガーにもなんの悪影響も無くなった。

 

彼は思いっきりエンジンを吹かしプリダスタネーションのハンガーベイまで近づいた。

 

慎重に機体を操作し更に近づける。

 

タイミングを掴んだ彼はプリダスタネーションに振り払われる事なく無事に着艦した。

 

『助かったブリンダー中佐』

 

「こちらこそ、君は命の恩人だ」

 

「艦長、座標計算完了しました!」

 

「よし、頼むぞ大尉…」

 

大尉は集中力を切らさないよう一言も喋らずじっとモニターを見つめている。

 

ジョーレンも今までないほど緊張していた。

 

異様な空気感がブリッジを包んだ。

 

「今だ!」

 

レバーを引きプリダスタネーションはハイパースペースへ突入した。

 

脱出する事に成功したのだ。

 

 

 

 

 

シャンドリラでも1人の者が気高い決意をしようとしていた。

 

名前はモン・モスマ

 

新共和国誕生の聖母であり先代の元老院議長でもあった。

 

彼女は十分己のやる事を成し遂げ故郷シャンドリラで隠遁の生活を送っていた。

 

今の新共和国なら十分穏和的に平和を生み出せると思って。

 

だが小さな脅威がそれを阻んだ。

 

牙を抜かれ戦う力を失ったかつての帝国が再び銀河に台頭したのだ。

 

彼らは蘇った力で再び銀河に争いを招いた。

 

その厄災はモスマ自身と故郷シャンドリラにも降りかかって来た。

 

国の至る所に忌々しい帝国の旗が掲げられ新共和国の兵士達が殺され都市は焼かれた。

 

遂には彼女が住まうこの館にも帝国の手が伸びて来た。

 

大量のバトル・ドロイドと特殊部隊の兵士を送り込まれすでに屋敷のほとんどは陥落したも同然だった。

 

そしてモスマの籠る部屋の前まで敵は迫っていた。

 

衛兵や使用人達はみんな殺され残すはこの部屋に籠る者達だけだ。

 

彼女は目を閉じ今までの事と新共和国の未来を思った。

 

色々な事があった。

 

思えば彼女の自由への戦いはクローン戦争から始まっていた。

 

2,000人の議員の1人に名を連ね抗議した。

 

帝国誕生後は一度は逮捕されたが屈辱的な忠誠を誓い故ベイル・オーガナ議員と共に助け出された。

 

それでもなお彼女の自由への意志は潰えなかった。

 

ゴーマンの虐殺を非難し元老院を去った。

 

ハンドオフ作戦を成功させ遂には反乱同盟宣言を成し遂げ帝国に対する同盟を組んだ。

 

反乱同盟誕生後も何度も苦難の連続だった。

 

それでも自由と民主主義の為にここまで戦い新共和国を立ち上げた。

 

しかし最後の最後で詰めが甘かった。

 

まさか帝国が再び蘇ってしまうとは。

 

これは帝国を残し軍縮に切り替えてしまった彼女自身のミスだ。

 

それを今深く痛感していた。

 

「本当によろしいのですか?」

 

長い間補佐官を務めてきたアースキン・セマージがモスマに尋ねた。

 

モスマとは違い現実主義のセマージは彼女と度々衝突する事があった。

 

それでも彼はモスマの安全を第一に考え忠実な従者として、信頼できる者としてここまでついて来たのだ。

 

「ええ、ここで囚われ公開処刑されては大勢の民とこれから立ち上がる戦士達が希望を失ってしまうでしょうから」

 

「わかりました…最期まで殿下にお供します…」

 

「本当に今まで苦労をかけっぱなしで申し訳ないわ」

 

「いいのです…それを覚悟で私達はここまで来たのですから」

 

セマージの覚悟はすでに決まっていた。

 

そんな彼らを巻き込んでしまうと考えるとモスマは酷く居た堪れない気持ちになった。

 

だがこれ以外に道はない。

 

モスマの言う通り彼女が囚われ戦争犯罪者として公開処刑されれば多くの新共和国軍や各地の防衛軍の兵士達が絶望するだろう。

 

民主主義の聖母は死んだ、どうせ立ち上がっても同じ運命を辿るだけだと。

 

そうさせない為にも彼女は己で命を絶つ覚悟を決めたのだ。

 

民主主義と新共和国を守る為に。

 

「爆薬のセット完了しました」

 

1人の衛兵が彼女にそう告げた。

 

生き残った他の従者達も彼女の元へ集まってきた。

 

全員がモスマを見て悲しい笑みを浮かべている。

 

最期までお仕えできて光栄だと。

 

「祈りましょう…民主主義が再び勝利する事を、他の仲間達がフォースと共にある事を」

 

「フォースと共にあらん事を」

 

彼女達は目を閉じた。

 

未来に祈りを込めて。

 

 

屋敷の一角は突然謎の爆発を起こした。

 

その原因は分からなかったがその場にいた親衛隊には確かに分かる事があった。

 

モン・モスマが自決したと。

 

 

 

 

ホズニアン・プライムとシャンドリラの陥落はアクバー元帥達マジノ線の部隊だけでなく銀河の至る所で知る事となった。

 

あまりの急展開に政治家や地方の軍人達は動揺し震えた。

 

それは惑星キャッシークでも同様だった。

 

美しい自然に囲まれ毛むくじゃらの巨大で愛嬌あるウーキーが住む惑星もついこないだまでは帝国領だった。

 

奴隷として働かされていた彼らだったが新共和国の手により以前の姿を取り戻したのだ。

 

まだ復興段階であるのでこの地にも新共和国軍の一部が駐留していた。

 

あえて新共和国はこの惑星に専門の基地を作らなかった。

 

美しい自然を汚したくはないしウーキー達の迷惑にもなるだろうと思ったからだ。

 

そのせいもあってか両者の仲はとても良好でまるで家族にようだ。

 

「将軍!将軍!」

 

1人の士官が外のテントでカフを飲んでいる将軍を呼んだ。

 

椅子に座っている男は古めかしい黒いジャケットに白いシャツととても新共和国軍の将軍に見えない格好をしていた。

 

()()()()()()()()()()()がいいところだ。

 

しかし彼は新共和国の将軍であり銀河内戦の英雄でもあった。

 

彼の名前と彼の愛船は帝国でも有名だ。

 

「たった今新共和国軍司令部から入った情報によりますと…ホズニアン・プライムが陥落しました!」

 

隣にいた相棒のウーキーも驚きあたふたしていた。

 

彼も相当意外だったのか振り返りじっと士官の方を見つめていた。

 

「元老院や司令部など全てが壊滅…脱出出来た生存者はほんの僅かだとか…」

 

「いつ頃の話だ?」

 

「27時間前です…ですが実際は妨害など含めて更に前かと…」

 

彼は唸り声を上げた。

 

「少将には伝えたか?」

 

「当然です、我々はこれからどうすれば…」

 

士官は不安な表情を浮かべていた。

 

彼の側により優しく肩を叩いた。

 

「少将に伝えといてくれ、俺はちょっとやる事があるから少将の命令を優先させろとな」

 

「わかりました…」

 

士官は深く頷き駆け足で去って行った。

 

彼は腰に手を当て歩きながら考えを巡らせていた。

 

「チューイ!今すぐあいつに連絡だ、それといつ帝国の連中が来ても良いようにもう一度ファルコンの整備だ」

 

相棒のウーキーは唸り声を上げ彼にわかったと伝えた。

 

彼は空を見上げながら砂浜を歩いた。

 

伝説のミレニアム・ファルコンハン・ソロ、そして相棒チューバッカに休む暇はなかった。

 

 

 

 

「そうか…わかった…」

 

そういうと青年は通信を切った。

 

相棒のドロイドが電子音で迎えてくれた。

 

同じ目線になるように青年は膝を突いた。

 

「また戦乱の時代になってしまったようだ…きっとこれからも」

 

青年は義手の右手でR2ユニットのドロイドを優しく撫でた。

 

撫でるのをやめると青年は立ち上がり愛機とその先に映る美しい空を見つめた。

 

「戻ろうR2、銀河がまた僕たちを必要としている」

 

青年の相棒であるR2-D2は「ああ戻ろう!」と力強く言った。

 

青年は微笑んだ。

 

ふと耳を澄ませると彼の声が聞こえた。

 

目を閉じ微笑みながら返答した。

 

「わかってるよ“()()()”」

 

ジェダイ、ルーク・スカイウォーカーは再び争いばかりの銀河に帰還しようとしていた。

 

時代は再び戦乱へと流れていった。

 

過去の英雄達を、これから生まれ出る英雄達の運命を巻き込んで。

 

第二次銀河内戦の歴史が紡がれようとしていた。

 

 

つづく




もう10話か…
早いな…
時の流れは早いっすねぇ()



そしてAfter

や っ た ぜ


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マジノ線からの撤退

-滅んだ国に対し捧げるのは命ではなく、想いだけで十分だ-



-旧新共和国領 ライン宙域 第十六艦隊駐留地点-

各戦線に配備された新共和国防衛艦隊は危機的状況に陥っていった。

 

前からは第三軍の追撃艦隊が、後ろからは第一軍と第二軍の追撃艦隊がそれぞれ押し寄せて来ている。

 

なんとか衛星マジノに籠る主力艦隊は無事包囲線を突破し別の場所に移動していた。

 

アクバー元帥は撤退の為に艦隊を集結させているが混乱した現在の新共和国軍ではそう簡単には行かない。

 

指示に従わない者や「このまま祖国の為に殉死した方がマシだ」と訳のわからないセンチメンタリズムを語り出し艦隊を止める者もいた。

 

よくて半数くらいがアクバー元帥の元に集結した。

 

そしてこの第十六艦隊はアクバー元帥の命令を拒否した側だった。

 

「ガーレメン少将、本当によろしいのですか?」

 

「ああ…全艦ハイパースペースへ!」

 

「少将!ハイパースペースより敵艦隊!」

 

命令を出した瞬間ブリッジの外には数十隻上の帝国艦隊が出現した。

 

艦列を並べたインペリアル級の一斉射撃が閃光を作り出し回避も防御も出来なかった友軍艦を破壊した。

 

アクセサリーのように爆発の連鎖を生み出し星とはまた違う瞬きを生み出した。

 

「GR-75輸送船三隻大破!被害拡大中!」

 

「少将!」

 

「構わん…ハイパースペースへ!」

 

ガーレメン少将は部下の言葉を遮り再び命令を出した。

 

艦隊はハイパースペース内に突入し危機を抜け出せたかに思えた。

 

実際は違った。

 

「なっなんだこれは!?」

 

「重力井戸です!ハイパースペースから弾き出される!」

 

引き攣った士官の声と共にハイパースペースから全艦弾き出されその無防備な船体を帝国艦隊の前に曝け出してしまった。

 

一斉に弾き出された第十六艦隊の艦船達は姿勢制御が取れずに僚艦と衝突し始めた。

 

それだけでは済まされない。

 

反撃も防御も出来ない無力な敵を獰猛な帝国艦隊が見逃すはずがない。

 

雨のようなターボレーザーとプロトン魚雷の数々がシールドを打ち破り艦にダメージを与える。

 

なんとか体制を立て直そうと身動きを取るが帝国艦隊の網の中に入ってしまったのではもう遅い。

 

四方から一斉に放火を浴びせかけられ次々と爆沈していった。

 

「反撃だ!敵に好き勝手させるな!」

 

「ダメです!陣形が崩壊して身動きが出来ません!」

 

「そんな…」

 

「砲撃来ます!」

 

反撃など何一つできないまま第十六艦隊は壊滅した。

 

 

 

 

-ケルク宙域 ケルク・マイニング・コロニー 新共和国防衛艦隊合流地点-

撤退した新共和国防衛艦隊は全てこのダンクルク宙域に集まっていた。

 

数百年程前までこのマイニング・コロニーでも盛んに採掘が行われていた。

 

今では採掘が非常に難かしく更には採掘していた資源もほとんど尽きてしまった為已む終えず放棄されてしまった。

 

そんなケルク・マイニング・コロニーには既に数百隻以上の新共和国艦が集結していた。

 

見渡すと損傷艦がかなり多く撤退戦の凄まじさが表されていた。

 

『アクバー元帥、ご無事で何よりです』

 

「メイディン将軍こそ無事で何よりだ、尤も他の部隊はそうではないがな…」

 

『はい…既に第八、第十一、第十四、第十六、第十七、第十九、第二十三、第二十四、第二十五、第二十六は既に壊滅したと』

 

無事撤退に成功したメイディン将軍の報告は深刻なものだった。

 

アクバー元帥やライカン将軍、メイディン将軍の艦隊も含めて新共和国軍は大きく27つの艦隊に分けられていた。

 

元帥の主力艦隊を除く残り26の一個艦隊の数は大体五十数隻。

 

報告だけで言えばそのうちの十個艦隊分が壊滅してしまった事になる。

 

「ヴェラック艦長、情報が途絶えている艦隊はどうなっている?」

 

アクバー元帥は同じくモン・カラマリで旗艦ホームワンの艦長であるヴェラック艦長に尋ねた。

 

彼は隣に佇むハシュン中佐からタブレットを受け取り読み始めた。

 

「壊滅した主力艦隊を除いて未だ連絡がつかないのは第四艦隊と第七艦隊、第十、第十三艦隊です」

 

「集結地点にはどのくらい集まっている?」

 

「第三、第五、第十五、第十八、第二十、第二十一、第二十二、第二十七の八個艦隊です」

 

『ライカン将軍の第二艦隊などは?』

 

「彼らには別働艦隊を率いてもらう事となった、第六、第九、第十二艦隊はライカン将軍に続いている」

 

最悪の事態と撤退出来る可能性を増やすべく元々あった別働艦隊をヤヴィン方面へ撤退させるようアクバー元帥は指示を出した。

 

今の所帝国艦隊はアクバー元帥の方ばかりに目がいっておりライカン将軍の艦隊には気づいていない。

 

うまくいけば無傷のまま五個艦隊以上を無傷で逃す事が出来るのだ。

 

『帝国艦隊は敗残勢力を掃討しつつ真っ直ぐ我々を目指しています』

 

通信の向こうからオランダー・ブリット中佐報告した。

 

メイディン将軍の第三艦隊は比較的無傷に近い状態だったが他の艦隊はそうではない。

 

今の新共和国防衛艦隊は士気の面でも戦力の面でも現状の帝国艦隊と戦うなど到底無理な状態だった。

 

それに敵には超兵器を搭載したインペリアル級がいる。

 

このまま追撃されては必ずあの艦が出現し再び大打撃を被るだろう。

 

最悪全滅するかもしれない。

 

『それに首都を攻撃した艦隊が戻ってくるかも』

 

「そうなれば我々の艦隊は前後から挟撃され全滅してしまいます!」

 

ハシュン中佐は声を荒げた。

 

アクバー元帥はそんな彼を宥めた。

 

彼の言い分も分かるし実際同じ気持ちだ。

 

そこで彼は提案した。

 

「…一つだけ策がある」

 

悲観的な状況の中アクバー元帥のその提案に誰もが目と耳を傾けた。

 

名将ギアル・アクバーは何度も新共和国を、反乱同盟を危機から救ってきた人物だ。

 

彼のためなら命は惜しくないという将兵は何万人もいる。

 

そんな元帥の策はこの状況で何か突破口になるかもしれないのだ。

 

いや、必ず突破口になるだろう。

 

「全艦隊をコロニーの裏側へ回してくれ、そしていつでも撤退できる準備を」

 

『何をするおつもりですか?』

 

「敵が超兵器を使用するなら我々はそれを利用するまでだ、このコロニーは“コアクシウム”を採取していたんだったな?」

 

 

 

「全艦俺に続け!!」

 

分艦隊旗艦イルージョニストのブリッジで男は叫んだ。

 

目の前には帝国艦隊が砲艦を並べて迫ってくる。

 

男のイルージョニストはスターホーク級なので多少の無茶には耐えられるだろうが他の艦はそうはいかない。

 

無茶に突っ込めば命を散らしてしまう。

 

既に本来の指揮官はそれと同じ事をやって戦死してしまったが。

 

元々五十数隻いた男の所属する艦隊は指揮官が元々頑固で柔軟性とは縁のない人物だった。

 

更には首都陥落を聞き絶望したのか古臭いセンチメンタリズムに陶酔し自殺行為とほぼ同義の戦いを繰り返し戦死してしまった。

 

1人で死ぬ分には勝手にしろと男は思う。

 

だがそれで部下を巻き込むのは許せぬ行為だと男はより一層強く思った。

 

だからこそ生き残った艦隊や周辺の機動艦隊を纏め全員を逃がそうとしていた。

 

多少無茶な方法を使って。

 

「准将!やはりこの戦術は無理だ!」

 

「無理だぁ?パーネメン中佐、今お前無理だと言ったな?それは敵艦隊の方だ」

 

「何を言い出すんだ准将!」

 

「敵艦隊が我々を阻止する事は不可能という事だ!」

 

幕僚のパーネメン中佐は頭を抱えた。

 

帝国艦隊のターボ〜レーザーが艦の偏向シールドに直撃し振動となって襲いくる。

 

「さて…敵はどこまで奇術に乗ってくれるかな」

 

「敵艦隊がファイター隊を展開して来ます!」

 

「掛かった」

 

男はニヤリと笑った。

 

今まで全速力で突き進んでいた新共和国艦隊は徐々に後退し始めた。

 

一見TIE部隊との戦闘に望む為かと思ったがそうではない。

 

准将の策略の一つだった。

 

「全艦今まで溜め込んでた分ぶっ放せ!フリゲートとコルベットは対空用意だ」

 

各艦が最大出力の砲撃を一斉に打ち出した。

 

特にフルパワーのスターホーク級の一撃は強烈でシールドを展開しているのにインペリアル級にかなりのダメージを与えた。

 

プロトン魚雷や振盪ミサイルも同時に放たれとても偏向シールドだけでは対処しきれない。

 

帝国艦隊は次々と被害を増していた。

 

だが帝国艦隊はこれといった反撃をして来ない。

 

して来ないというより出来ないのだ。

 

今ここで砲撃すれば味方のTIE部隊に直撃し被害を被る事になる。

 

敵艦隊攻撃の剣が逆に敵の盾とされてしまったのだ。

 

帝国艦隊はそうしない為に包囲陣形を作り出し敵を囲もうとした。

 

しかしこれも男の予測の範疇だ。

 

「包囲しての集中攻撃…得意の楔形集中砲撃をすれば勝てたのにな」

 

腕を組み敢えて敵側の目線に立って考えた。

 

が同情などは一切なかった。

 

「突撃陣形のまま敵の包囲網を突破する!」

 

スターホーク級はMC75装甲クルーザーが装甲の脆いフリゲートやコルベットを守るように取り囲む。

 

帝国艦隊は包囲陣形を取った為艦と艦の幅が広まっている。

 

これほどまでに薄くなった艦列を突破するのは雑作もないことだ。

 

懐に入られたインペリアル級ほど弱いものはないと男は思っていた。

 

下船部のソーラー・イオン化反応炉に放火を叩き込む。

 

数機の爆撃機がブリッジの偏向シールドを2つとも破壊し防御力を薄める。

 

叩き込まれた砲火の数々は反応炉を完全に破壊しインペリアル級を一気に大破まで押し込んだ。

 

僚艦のアークワイテンズ級やレイダー級も砲火に耐えきれず轟沈した。

 

一気に数隻の艦が行動不能になった為鮮烈には大きな穴が空いた。

 

この好機を逃す訳なく最大速度で新共和国艦隊は駆けた。

 

「全艦ハイパースペースへ!」

 

重力井戸搭載艦を持たないこの帝国艦隊はハイパースペースに逃げ込んだ新共和国艦隊をこれ以上追う事は出来なかった。

 

つまり彼らは無事脱出する事に成功したのだ。

 

ブリッジでは大勢の乗組員達が生き延びた事に安堵し喜びの微笑みを浮かべている。

 

「一時はどうなるかと…」

 

「なぁにどうにかさせない為に立派なアカデミーに通った将帥がいるんだろうが」

 

男は何故か皮肉を込めて自重気味に笑った。

 

部下を扱いその部下をなるべく生かし戦果を挙げる。

 

それが出来てこそようやく一人前の指揮官だ。

 

優劣はそこから付いて行く。

 

まだスタートラインに立っただけだと男は考えていた。

 

「少しは兄貴達に近づけたかな…」

 

「本当にいつもヒヤヒヤさせる…“()()()()()”准将」

 

ディクス・ストラインはやれやれと言った表情でブリッジの外を見つめていた。

 

 

 

獲物を目の前にして帝国艦隊が引き下がる事など有り得ない。

 

徹底的に追い詰め完膚なきまでに叩きのめす。

 

銀河内戦に敗北し蘇った彼らの同じ事だ。

 

むしろその苛烈さは屈辱を晴らそうとさらに大きくなっていた。

 

「敵艦隊はスターファイター隊を展開し我が艦隊を撹乱しようとしています」

 

「無意味な事だな、TIEディフェンダー、TIEパニッシャー隊投入!奴らに絶望を見せてやる」

 

ローリング大将軍は命令を出した。

 

彼は大将軍ではあるが地上軍というよりスターファイター部隊が担当だった。

 

以前はスターファイターの実力を昇進の為にしか使わなかったローリング大将軍だがその考えは内戦中変わった。

 

彼は理解したのだ。

 

戦況を大きく覆す可能性があるのは艦隊ではない。

 

スターファイターにあるのだと。

 

例を挙げるなら二度に亘るデス・スター戦などがそうだ。

 

帝国は変化したのだ。

 

従来の力を維持しつつより柔軟な方向へと。

 

その先駆けたるスターファイター隊が一斉に出撃した。

 

TIEディフェンダーにTIEパニッシャー。

 

後続に続く機体のほとんどはTIEインターセプターやバージョンアップしたTIEボマーなど新型ばかりだ。

 

物量と精鋭の2つを兼ね備えた帝国軍スターファイター隊に恐れるものは何もない。

 

『ジョナス大佐、敵スターファイター中隊が真っ直ぐ艦隊を目指しています』

 

「ミアンダ少佐撃撃を頼む、全機しっかり編隊を組んでおけ」

 

『了解ジョナス大佐、サイス中隊全機続け』

 

ミアンダ少佐とサイス中隊のTIEアドバンストv1とTIEインターセプターが先行する。

 

少佐のTIEアドバンストv1は尋問官や脱走したパイロット、リンドン・ジェイヴスが使用していたモデルとは少し違う。

 

武装が追加され各種の性能が倍以上アップしている。

 

ミアンダ少佐はさいす中隊を振り切ろうとする中央のYウィングに狙いを定めた。

 

「敵は爆撃機の中隊だ、機動性を活かして一気に畳み掛ける」

 

レーザー砲が放たれ回避が間に合わなかったYウィングが1機撃墜された。

 

爆散し破片となったYウィングの残骸の中を切り裂くようにミアンダ少佐のTIEアドバンストv1が駆けた。

 

回避の遅れた1機を撃墜し流れるままもう1機のYウィングの背後を取った。

 

強力な一撃が叩き込まれ一瞬のうちに3機のYウィングが犠牲となった。

 

他のサイス中隊機もTIEインターセプターの機動力を活かし鈍足で旧式のYウィング部隊を翻弄した。

 

『敵艦隊は完全に戦列が崩壊し始めています』

 

「各個撃破に移る、ハイスマン大尉、バルトホルン大尉、露払いは頼んだぞ頼んだぞ」

 

2機のTIEディフェンダーが先行し配下の中隊その後に続いた。

 

アイルフレート・ハイスマンゲイルハルト・バルトホルンは内戦後の帝国軍において右に出る者はいない程のエースパイロットなっていた。

 

互いに数百機以上の敵機を撃墜し現在の帝国ではパイロットを目指す若者の憧れとなっていた。

 

そんな2人はTIEディフェンダーよりも高性能のTIEディフェンダー・エリートを優先的に配備されその期待に恥じぬ戦いぶりを見せていた。

 

今も機体性能を活かし迫り来るXウィングやAウィングの編隊を狩り尽くす。

 

守るはずの味方艦隊を差し置いて新共和国軍機は逃げ出し始めた。

 

無論そんな臆病者達が戦場で生き残れるはずもなく次々とハイスマンとバルトホルンのスコアに加算されていった。

 

戦場にはそんな犠牲者達の亡骸の代わりに機体の破片が無造作に散らばっていた。

 

「道が開けた、全機仕事の時間だ!」

 

TIEパニッシャーやTIEボマーが突撃した。

 

この恐ろしいTIEシリーズの爆撃機は孤立した敵艦に牙を剥く。

 

魚雷や爆弾を投下し次々と破壊していった。

 

そのうちの1機は他の機体とは比べ物にならないほどの戦果を挙げていた。

 

ハンス・ウルリッヒ・ルーデル少佐のTIEパニッシャーだ。

 

彼の謎は帝国軍の中で最も深い。

 

まずどこで生まれたか、いつ頃帝国軍に入隊したかまるで不明だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

事実だけ述べるなら銀河帝国最強の爆撃王と言ったところだろう。

 

そんな彼はとんでもない逸話があった。

 

ある者は相棒と共にTIEストライカーに乗り込み迫り来る地上部隊を全て仕留めたと言う。

 

またある者はTIEボマーに乗り込み新共和国の機動艦隊をたった1機で殲滅したとも言われている。

 

多分これらは全部真実なのであろうが本人はいっつもぼやかしてばかりだから不明な点が多い。

 

そしてローリング大将軍は彼のことをいつもこう評価していた。

 

「奴はたった1人で一個兵団どころか一個艦隊以上の価値と戦果を挙げられる」

 

恐ろしい評価だが誰しもが納得し否定しようとしなかった。

 

先のマジノ線の戦いでは彼と僚機の3機でMC80一隻を含めた機動艦隊を殲滅するほどの戦果を挙げた。

 

既にコルベット艦を二隻ほど大破させ余力のある状態ですれ違い様にXウィングを1機撃墜する。

 

そして彼はある一隻の敵艦に目を付けた。

 

一応後から分かった事なのだがそれは旗艦のスターホーク級だった。

 

いくらTIEパニッシャーといえどスターホーク級にダメージを与えるのは難しいだろう。

 

だがそんな道理すら打ち破るのが彼だ。

 

「敵艦に急降下爆撃を仕掛ける」

 

『不可能です!いくらなんでもスターホーク級の装甲は打ち破れません!』

 

「よく見ろ敵は傷ついている、損傷箇所に魚雷と爆弾を撃ち込みまくれば少なくとも行動不能には出来る」

 

『ですが…』

 

「やらねばらなんのだ!」

 

『中佐!』

 

2機のTIEボマーを置いてたった1機で爆撃を敢行した。

 

護衛機や護衛艦の姿はなくルーデルの言う通りこのスターホーク級は少し損傷している。

 

しかし対空能力は健在だ。

 

レーザー砲を掃射しTIEパニッシャーを近づけんとする。

 

「それにしてもうるさい艦だな」

 

対空砲が彼の機体を狙う中ルーデル少佐は危機感などまるでない様子でぼそっと呟いた。

 

慌てる事なくターゲットをロックする。

 

プロトン魚雷やプロトン爆弾を装填し爆撃の時をまった。

 

最大加速度でギリギリの付近まで接近する。

 

慌てた部下の1人がルーデル少佐に通信を入れる。

 

『少佐!もう十分接近しています!爆撃を少佐!』

 

されどルーデルは一向に投下しようとしない。

 

部下はさらに慌てた。

 

『少佐の積み込まれている武装ではそれ以上行くと爆発に巻き込まれてしまいます!』

 

「そんな事分かっている、だがこうでもしないとこのデカブツは倒せん」

 

『ですが少佐の機体がやられてしまいます!』

 

「この機体はシールドも付いてるし頑丈だ、ストライカーのようなヤワな機体ではない!」

 

そう言うと少佐はさらに急接近した。

 

ついに彼の機体は限界点を超えた。

 

それでもなお彼は爆撃しようとしない。

 

しかもブレーキを踏む素振りは一切見せないのだ。

 

ようやくルーデル少佐が操縦桿のスイッチを押したのはスターホーク級の偏向シールド内到達した頃だった。

 

機体に搭載されている全ての魚雷と爆弾を解き放ちこれでもかと言うほどスターホーク級の胴体に食わせてやった。

 

損傷箇所に突き刺さった魚雷は即座に爆発を起こし何十もの爆弾はデュラスチールの装甲すら溶かして貫いた。

 

しかし大変な事も同時に起こった。

 

なんとルーデル少佐の機体がすっぽり爆発の中に埋もれてしまったのだ。

 

『少佐!!少佐!!』

 

部下が必死に叫ぶが通信は帰ってこない。

 

そんなまさかと思った矢先爆撃の魔王は蘇った。

 

無傷な状態のまま爆煙の中を切り裂きその機体と共に姿を表したのだ。

 

「前が見えなくて大変だったぞ」

 

『少佐大変です!戦艦が炎上しております!』

 

ルーデルが機体を反転させ振り返るとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

あのスターホーク級が真っ二つに切断され炎上している。

 

艦のあちこちから炎と煙が上がり小爆発を繰り返していた。

 

ルーデルはたった1人であのスターホーク級を大破まで至らしめたのだ。

 

新共和国の期待を背負ったバトルシップはゆっくりと沈んでいった。

 

それはリーパーのブリッジでも捉えていた。

 

「敵旗艦轟沈を確認!」

 

「おぉ…!流石ルーデル少佐だ…」

 

ブリッジの将校達から歓声が響いた。

 

「敵艦隊の損耗率およそ八割です」

 

「壊滅…だな」

 

「残存艦艇を掃討しつつ艦隊を再編成させろ」

 

オイカン元帥は冷静に命令を出した。

 

帝国軍は今も各所で勝利を収めており新共和国軍の全体の掃討率は4〜5割と言った所だ。

 

アクバー艦隊も帝国軍の必要以上の追撃でだいぶ戦力をすり減らしている。

 

他の艦隊だって無傷なものは殆どない。

 

特にアキシャル・シージ・レーザーキャノンの効力は絶大だった。

 

長距離から敵艦隊を一方的に攻撃し蹂躙することが可能だった。

 

数が少ないとは言えこれだけの被害の少なさであれだけの敵艦隊を殲滅出来たのは間違いなくあの砲のおかげだ。

 

「オイカン元帥、偵察隊より報告です」

 

下士官がオイカン元帥に報告しモニターに情報を移した。

 

「敵の残存艦隊はケルク宙域の旧採掘コロニーに集結しています」

 

「武装はないが補給や再編成を行うには都合の良い場所だろう、まだ資源が残ってるかもしれないしな」

 

「ホームワンも確認された為恐らく敵艦隊のほとんどが集結しているでしょう」

 

「なら次の目的地はそこだな、ケルク宙域の敵を殲滅する」

 

「了解、全艦艇は残存兵力を掃討しつつハイパースペースジャンプの用意を」

 

ブリッジが一様に慌ただしくなり始めた。

 

新共和国崩壊の最後の戦いにして“()()()()()()()()()()()”が今始まろうとしていた。

 

 

 

 

迫り来るリーパーと帝国艦隊を発見したのは艦隊の補給と撤退準備が完了した頃だった。

 

艦隊はコロニーの裏側に集結しケルク・マイニング・コロニーは簡易的な要塞というよりも盾のように扱われていた。

 

大小様々な小惑星がかなり均等に散りばめられインペリアル級では到底突破出来ない。

 

かと言ってグラディエイター級やアークワイテンズ級などを突撃されれば待ち構えられた敵の集中砲火を受け全滅してしまう。

 

抜かりない防衛網がコロニーの周りに張り巡らされていた。

 

これはアクバー元帥が帝国艦隊を足止めする為に用意したものだった。

 

帝国艦隊がたった一つのある戦法を行わせる為に。

 

まずは小惑星帯を退けようとインペリアル級が一斉に八連ターボレーザー砲を放った。

 

爆発を起こし小惑星の幾つかは砕けたが返ってデブリを増やす結果になってしまった。

 

それに目標のコロニーにはなんのダメージもなさそうだ。

 

新共和国艦隊はなんの攻撃も受けずに撤退を開始しようとしていた。

 

「今のうちに第一陣はハイパースペースへ!重力井戸の範囲外だ」

 

数十隻の艦船が一斉にハイパースペースへと突入した。

 

帝国のインターディクター級の重力井戸ではまだ新共和国艦隊の全てを範囲内に収めることは叶わなかった。

 

おかげでまず第一陣の艦隊が無事に脱出した。

 

「元帥!敵艦隊に例の砲撃艦を発見しました!」

 

「やはり来たか…全艦退却用意だ!発進の用意を急げ!」

 

ここまでは全て元帥の予測通りだ。

 

帝国艦隊は道を切り開く為コロニーごと破壊してしまおうと考えた。

 

普通の兵器ではそんな事は無理だがあれなら出来る。

 

数を束ねれば惑星すら破壊出来るアキシャル・シージ・レーザーキャノンなら朝飯前だ。

 

むしろこの兵器ならコロニーどころか艦隊すらそのまま吹き飛ばせる。

 

アキシャル砲を装備したインペリアルⅠ級が艦隊の前に姿を表した。

 

「敵砲艦、砲撃モードに移行しました!!」

 

「凡そ50秒後に照射開始します!」

 

「まだだ、まだ引き付けるのだ!」

 

下手に移動して敵に真意を悟られてはきっと別の手を試してくるだろう。

 

そうなっては無事に艦隊を撤退させる事が叶わなくなる。

 

全員を生かす為に危険を冒す必要があるのだ。

 

「残り30秒です!」

 

「発信しましょう!もう十分です!」

 

「いやもう少しだ…」

 

「元帥!」

 

危機感を覚えたヴェラック艦長がアクバー元帥に進言する。

 

だが元帥は鋭い眼光のまま微動だにしなかった。

 

「残り20秒です!」

 

敵のインペリアルⅠ級はいつ撃ってきてもおかしくない状態だった。

 

されどアクバー元帥と新共和国艦隊はまだ動かない。

 

その忍耐力が功を奏し帝国艦隊はまだ真実に気付いていなかった。

 

「残り10秒!!」

 

「全艦最大船速で発進せよ!!」

 

ついにアクバー元帥が命令を出した。

 

コンマ何秒も掛からずに新共和国艦隊はエンジンの光を灯し目にも留まらぬ速さで進んだ。

 

10秒後、新共和国の予測はブレる事なくアキシャル・シージ・レーザーキャノンは発射された。

 

数十隻のインペリアルⅠ級がコロニーの一点に集中して照射する。

 

ターボレーザーすら効かないマイニング・コロニーを一瞬のうちに溶かし始めた。

 

当然それだけの衝撃がコロニーに与えられたという事になる。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

アクバー元帥の言った通りこのケルク・マイニング・コロニーでは艦船の燃料となるコアクシウムを掘り出していた。

 

未精製なコアクシウムは僅かな刺激や温度変化だけでも次元の壁を引き裂くほどの爆発を起こす事がある。

 

このコロニーのコアクシウムはほとんど採掘されてしまったとはいえ完全に無くなった訳ではない。

 

まだ数隻分の艦船の燃料を補う程のコアクシウムは残されていた。

 

そんなものにこれだけの衝撃を与えたらどうなることか理学知識がなくても分かるだろう。

 

「コロニーに異常発生!埋蔵コアクシウムが間も無く爆発します!」

 

「帝国艦隊戦線より後退中!距離が離れて行きます!」

 

「全艦ハイパースペースへ!」

 

帝国艦隊との距離は更に離れた為完全に重力井戸の範囲外に脱した。

 

新共和国艦隊はこれで完全に帝国の手から抜け出したのだ。

 

全艦艇がハイパースペースに突入し急いで宙域から逃げ出すことに成功した。

 

直後限界を迎えたコアクシウムは大爆発を起こし周りの全てを飲み込んだ。

 

 

 

「…損害確認」

 

オイカン元帥は頭を押さえながら部下に尋ねた。

 

コロニーの異常に気付いた帝国艦隊は即座に攻撃を中止し全艦がなんとか爆発の範囲外まで避難した。

 

それでも超強力の余波が艦隊を襲い無傷の艦は少なかった。

 

「前衛艦隊の6割が小破及びシステムの異常です、それとアキシャル砲のシステムにも異常が発生したと」

 

「せっかくの兵器が…しばらくはクワット行きだな」

 

ローリング大将軍は残念そうに呟いた。

 

しかし彼はすぐに思考を切り替えた。

 

敵を逃したというのにブリッジの将校達は同様の色一つ見せていない。

 

それどころか至って冷静だ。

 

「追跡装置は正常に機能しているな?」

 

「はい、“()()()()()()()()()”はとても役に立っております」

 

「それは亡きターキン総督も喜ぶだろう」

 

追跡装置。

 

かつてターキン・イニシアチヴはとある追跡装置の研究を進めていた。

 

0BBY頃には関連する情報ファイルがスカリフでも確認されている。

 

まだ試験段階でその性能はお世辞にも高いとは言えない。

 

なにせ本来の時空では登場するのは3()0()()()()()()()()だ。

 

が今回のような場合においては画期的でとても有効だった。

 

その名は()()()()()()()()()()()()

 

ハイパースペースを航行するスターシップの特定が出来るアクティブ追跡装置だ。

 

精度は低く100%の性能を引き出すには途轍もない苦労が必要だったが今回はそれらのデメリットよりも逃げた敵を追えるメリットの方が大きかった。

 

「敵はおそらくこの星系にジャンプするつもりです」

 

「直ちに追撃だ、じっくりと敵を殲滅してやる」

 

「ローリング大将軍」

 

大将軍が悪い笑みを浮かべていると彼のそばに控えていたアスタロフ・べリューゲン親衛隊中将が彼の名前を呼んだ。

 

上機嫌だったローリング大将軍は親衛隊の彼に名前を呼ばれた途端少しムッとした。

 

「なんだ」

 

「総統府よりホズニアン・プライムへ集結命令です」

 

「後にしろ、眼前に敵を逃す訳にはいかん」

 

「ですがこれは代理総統直々の命令です」

 

その瞬間ローリング大将軍の表情をは変わった。

 

総統府の命令といえどどうせくだらぬ小役人が保身に走って命令したのだろうと思っていたからだ。

 

それに親衛隊の奴の言う事など彼は鼻から聞く気がない。

 

だが総統の名前を持ち出されれば別だ。

 

「…いくら総統の命令といえど敵を逃す訳にはいかん、直ちに許可を取れ」

 

『それはならん大将軍』

 

突如通信が開き総統府長官のハインレーヒ・ルイトベルンの姿がモニターに映った。

 

オイカン元帥含め諸将が敬礼する。

 

『これは総統閣下のご命令だ、それはつまり亡き皇帝陛下の命令も同然だ』

 

「では目の前の敵を放っておけと言うのか!また奴らはいつ勢力を拡大してもおかしくはないぞ!」

 

ローリング大将軍は言葉を振るった。

 

彼の意見は尤もだ。

 

新共和国は放っておけばきっと力を蓄えるあろう。

 

そうすれば再び戦乱が訪れてしまう。

 

敵は倒せる時に倒しておく必要がある。

 

それでもハインレーヒ長官は首を振った。

 

『その点については既に手を打ってある、とくかく君達の艦隊は今すぐホズニアン・プライムに向かうんだ』

 

「だがっ…!」

 

ローリング大将軍は尚も食い下がった。

 

それはハインレーヒ長官も同様で彼は冷徹な眼差しを大将軍に向けていた。

 

『これは絶対だ、従わななければそれ相応の処罰が下る…分かったな?』

 

その眼には「これ以上はないぞ」という強いメッセージが込められていた。

 

「…了解…全艦ハイパースペースへ突入だ急げ!!」

 

通信が切れ帝国艦隊はホズニアン・プライムへの座標計算を始めた。

 

アクバー元帥達の知られざる所で新共和国艦隊は存亡の危機に立たされそして救われた。

 

だが誰も理解していなかった。

 

新共和国の崩壊など始まりに過ぎなかったのだ。

 

戦争の時代は始まったばかりなのだ。

 

 

つづく




一旦ここで区切りかな?
それでもまだまだ続くんでご安心を(安心できるか)


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平生の時
次戦の準備


第三銀河帝国と新共和国の戦いは帝国の大勝に終わった。

銀河系は大きく揺らめき帝国は勝利の旗を掲げ新共和国は己の流血を垂れ流し短い歴史に幕を閉じた。

帝国軍は次々と各地を征討し新共和国軍は敗北を重ね続けた。

しかし歴史は新たな局面へと銀河系を巻き込んだ。

これは最後に与えられた束の間の平生の時なのである。


-旧新共和国首都 ホズニアン・プライム-

あの戦いから丸1日が経ち戦場には久々の静けさを取り戻していた。

 

銃声や爆発音はすっかりなくなり、戦火の炎もあっという間に消し去られた。

 

市民間の喧騒も軌道上に佇むインペリアル級の大艦隊により静けさを保ったまま抑えられていた。

 

ただコムリンク先から新共和国兵士達の投降を呼び掛ける声と重厚感溢れるウォーカーの歩行音だけが響いた。

 

時折現れるTIEの聴き慣れぬ飛行音が人々の恐怖を煽った。

 

『愚かな新共和国の兵士諸君、君達の国家はもう滅んだ、大人しく投降せよ』

 

AT-ATの両脇を挟むように帝国軍の兵員輸送機が進んだ。

 

周りには随伴のトルーパーがスリング付きのT-21B重ブラスターやDTL-19を肩に下げ街中を闊歩している。

 

ビルの窓越しから市民達はずっとその様子を見つめた。

 

もう二度と見ない光景だとばかり思っていた。

 

『繰り返す愚かな新共和国の兵士諸君よ、大人しく投降すれば命も権利も保障される、無為にここで命を散らす必要はない』

 

ストームトルーパー達は周りを見渡し敵を警戒する。

 

投降せず特攻紛いの攻撃をしてくる可能性もあるからだ。

 

戦闘は終結したとはいえ油断は出来なかった。

 

「そういえば新型のTL-50の話聞いたか?」

 

1人のストームトルーパーが同僚に声を掛ける。

 

「俺はまだ見ていないがそいつを使える奴はよほどのエリートだろうな」

 

「おい任務に集中しろ」

 

「すみません、分隊長」

 

たわいもない雑談も束の間上官の軍曹に注意され2人は黙々と歩いた。

 

あと少しで折り返し地点だ。

 

そこで別のストームトルーパーがある事に気が付きブラスター・ライフルを構えた。

 

「分隊長あれを!」

 

軍曹や他のトルーパー達が一斉に振り返るとすぐに武器を構えた。

 

しかし冷静な軍曹は直ぐに武器を降ろさせた。

 

「まだ発砲するなよせ!投降してる」

 

トルーパー達の目線の先には負傷し両手を高く上げた新共和国の兵士達がいた。

 

頭に包帯を巻いている者もいれば士官の制服を着ている者もいて、技術兵や通信士官中に混じっていた。

 

兵士とは思えぬほどおどおどした表情を浮かべている。

 

軍曹はコムリンクを起動するとAT-ATの中にいる中尉を呼んだ。

 

「投降してきた新共和国兵士です、どうしますか?」

 

AT-ATの頭はゆっくりと残党兵達の方を向いた。

 

一瞬で彼らはビク付いた。

 

流石に動揺の声までは出なかったが明らかに怯えている。

 

『今准尉を向かわせている、武器を奪って輸送機に乗せろ。くれぐれも丁重に扱えよ』

 

「了解」

 

コムリンクを切り輸送機の方を見つめると帝国軍の軍用コートを着た1人の下士官が姿を表した。

 

輸送機の中にいるトルーパー達も姿を表す。

 

軍曹は敬礼し指示を仰いだ。

 

敗残の新共和国兵士達に向かって准尉は命令を出した。

 

「全員武装をその場に置いてこっちに来い!少しでも下手な真似をした瞬間全員を射殺する」

 

手招きし上がってくるようジェスチャーした。

 

数名のトルーパーに見張られ弱った兵士たちはノロノロと武器をその場に起きゆっくりとトルーパー達の方へ向かった。

 

軍帽に隠れ准尉の目は見えなかったが彼はじっと投降してくる兵士達を見張っている。

 

ゆっくりと全員が准尉の下へ近づいてきた。

 

「では全員を左側の車両に乗せろ、言われた通り手荒な真似は控えろよ」

 

「わかりました」

 

「よし行くぞ、ほら」

 

トルーパー達に連れられ兵士達は兵員輸送機の中へ放り込まれた。

 

その様子は当然市民達も見ていた。

 

新共和国は敗北したという決定的な瞬間を彼らは目にしたのだ。

 

 

 

投降した大半の兵は中央からかなり外れた僻地に集められていた。

 

エグゼクター級の中にはプレハブ式の駐屯基地が2基備わっており、そのうちの1基がこの地に下されていた。

 

「士官と部隊長はこっち、一兵卒は向こうだ」

 

「将官以上のエイリアン種族は尋問に掛けたら射殺しろ、戦犯にかける必要もない」

 

「わかりました」

 

親衛隊保安局のフリシュタイン大佐は現地で直接親衛隊の指揮を執っていた。

 

冷酷な命令を次々と発する彼はまさに保安局員の創造された姿そのものだ。

 

白い親衛隊制服の上から彼は黒い軍用コートを着ておりベルトにはホルスターに入ったブラスター・ピストルが下げられている。

 

彼の姿は美青年という言葉がとても似合っており白髪に近い薄い銀髪を右に流した髪型の上には親衛隊の軍帽が被っていた。

 

「それとだな、殺した敵兵はなるべく丁重に扱え。それが敵に対するせめてもの敬意だ」

 

「全隊に伝えておきます」

 

去っていく士官を見送りながら彼は冷たい視線を捕虜となった幾万名の新共和国兵士達に向けた。

 

フリシュタイン大佐は我ながら己が先程放った言葉に苦笑を浮かべた。

 

()()()()()()()()()()()()”か。

 

元々正規軍でもないテロ組織の連中に随分情けをかけてやったものだと彼は思う。

 

それでもその言葉は彼の本心だ。

 

「やあフリシュタイン大佐」

 

「これはフューリナー上級大将ではありませんか、どうされました?」

 

上官に敬礼をしフューリナー上級大将もそれに返した。

 

親衛隊とFFSOUは組織の都合上かなり深いつながりを持っている。

 

「順調にどんどんやっているな」

 

「はい、総統閣下の理想郷が為我々は手足となって働かなければなりませんので」

 

「その為には多少手を汚しても構わないか」

 

「それはお互い様でしょう?閣下こそ先代議長はどうしました」

 

「ハハ、相変わらずだ。その話は…まあこれが答えだ」

 

フューリナー上級大将の僅かな沈黙からフリシュタイン大佐は大体の事を把握した。

 

深く口に出さないのが互いの為だ。

 

「シュメルケの機嫌が悪い…困ったものだ」

 

「なるほど、ところで私にはどういったご用件で?」

 

「そうだったな、ディールス長官と君を交えて話がしたい」

 

「私もですか?」

 

「ああそうだとも、君も必要だ」

 

「わかりました」

 

不思議だなと思いつつもフリシュタイン大佐はポケットからホロプロジェクターを取り出した。

 

ホログラムは起動したがディールス長官の姿はなかった。

 

相手が出ないとこの通話タイプのホロプロジェクターは起動しない。

 

数十秒経ってようやくホログラムに彼の姿が映し出された。

 

「どうしたフリシュタイン、それに上級大将殿」

 

「色々と積もる話が出来てしまってな」

 

フューリナー上級大将は周りを気にした。

 

流石に今から話す話は聞かれたら多少厄介な事になるからだ。

 

「向こうで話そう」

 

 

 

 

 

それから三日が過ぎた。

 

ホズニアン・プライムとシャンドリラの新共和国軍は完全に降伏し暫定政権が全新共和国軍に武装解除と降伏を呼びかけていた。

 

敗北を悟ったほとんど新共和国軍は言われた通り武装を解除し主人の座に君臨した帝国に対し首を垂れた。

 

だが呼びかけに応じない場所もあった。

 

まだ敗北していない、帝国には勝てると愚かにも見える抵抗を続けている。

 

当然そんな存在が許されるはずもなく徹底的に殲滅させられた。

 

その頃首都コルサントでは代理総統が高らかに勝利宣言を発表し総統自らが占領地であるホズニアン・プライムに赴くと宣言した。

 

銀河の情勢は一瞬のうちに大きく変わった。

 

この宣告を聞いた惑星エリアドゥの防衛軍は付近の新共和国軍を攻撃し独立を確保。

 

星系一体を掌握し帝国への服属を発表した。

 

皇帝の出生地である惑星ナブーでも軍事クーデターが発生し政治の実権は帝国支持派に委ねられた。

 

他にもコラルグやモントロス、プレフスベルト、ウイター、ライサルなど帝国の恩恵を受けていた惑星が次々と服属を表明。

 

たった一度の勝利で帝国は再び銀河系に影響力を持ち始めた。

 

逆に新共和国は政府から虐げられ愛玩具のように弄ばれていた。

 

新共和国を匿う事で帝国からの報復を恐れた惑星は徹底的に関係者や新共和国の役人を弾圧し惑星外へと追いやった。

 

ある惑星では手柄欲しさに新共和国艦船を手当たり次第に襲撃し多数の犠牲者を出していた。

 

その姿は海賊と見分けが付かないほど荒々しく獣のようだった。

 

また別の惑星政府は星系や宙域内の新共和国艦隊を出来る限り抑留し艦船や兵器を我が物としていた。

 

これからは再び戦いの時代だ。

 

帝国が勝利したとはいえ地方の残党は抵抗をやめないだろう。

 

その為にも影響力と自衛力を付ける為には更なる軍備が必要だった。

 

元々新共和国から多額の支援金を受けていた為かつてよりも軍事力は増加していた。

 

それでも帝国を相手にするとなればまだ足りない。

 

その為には新共和国防衛艦隊の豊富な艦船や兵器群が必要だ。

 

中には将校や士官達を引き入れようとする政府まであった。

 

こうして新共和国は弾圧され併合され分散していった。

 

だがそれだけが末路ではなかった。

 

先程も言及した通り新共和国は大きな軍縮をした代わりに各地の防衛軍を強化する対策を取った。

 

おかげで帝国時代よりも各地の惑星防衛軍は豊かな装備と戦力を持てるようになった。

 

防衛軍の指導者達は多大な利益と恩恵を受けただろう。

 

当然そんな指導者達が大恩ある新共和国を見捨てるはずなかった。

 

帝国に味方しようとする政府の官僚達を“粛清”し残存新共和国を引き入れ帝国と戦う事を決意させた。

 

独裁政治の帝国を倒す為に強権的で独裁的な軍事国家が誕生するのはおかしな話だが事実だ。

 

こうして銀河系は再び波乱に満ち溢れていた。

 

一方帝国では戦いの功績と栄光を讃え大々的な式典が開かれていた。

 

この式典では多くの者が昇進を言い渡され勲章と共に英雄となった。

 

まずホズニアン陥落の立役者であるバエルンテーゼ上級大将は総統から名誉銀十字勲章と名誉勲章が与えられ帝国領A管区の全指揮権が譲渡された。

 

帝国にはいくつか勲章や称号があり総統が帝国の指導者となった後その種類は大幅に増やされた。

 

以前からあったのは名誉勲章とさらに上の帝国殊勲名誉章などだ。

 

他にもクリムゾン・スターやエンペラーズ・ウィルなど様々だが総統は第三銀河帝国の権威を示す為に新たな章を生み出した。

 

それが十字勲章だ。

 

白や銀色の淵に象られた十字架の上に帝国の紋章が付け加えられ植物や花を模した装飾品が備わっている。

 

一応十字勲章自体は数千年ほど前の大戦争で活躍した“放蕩の騎士”がその勲章を受け取っている。

 

しかしデザインなどはほぼオリジナルだ。

 

二等から名誉章まで存在し最も名誉であるとされているのは名誉銀十字勲章であった。

 

シャンドリラを陥したヴィアーズ大将軍は同じく名誉勲章と銀十字勲章、そして帝国軍最高司令官の地位が与えられた。

 

事実上の帝国軍最高司令官だ。

 

これはカシオ・タッグ代将軍以来の地上軍出身の最高司令官だ。

 

同じくローリング大将軍も同様の栄誉を受け地上軍長官とさらに統合本部長、スターファイター隊長官などの職務を任された。

 

オイカン元帥は卓越した指揮能力を認められ上級元帥に昇進し宇宙軍長官と艦隊司令長官の職務が与えられた。

 

数十機以上のスターファイターを撃墜したハイスマンとバルトホルンはそれぞれ少佐に昇進し空戦十字勲章とフライト・バロンの称号を得た。

 

また単機でスターホーク級を撃破したルーデル少佐は中佐に昇進し帝国最高の勲章である帝国殊勲名誉章が与えられ総統からも直接名誉銀十字勲章が与えられた。

 

これで彼に渡せる最高の勲章はいよいよ両手で数えるほどとなってしまった。

 

だがそれよりも功績を称えられたのはやはり施設に帝国の御旗を掲げた第六親衛連隊だった。

 

ハイネクロイツ少佐は撃墜数と機体を撃墜されてもなお戦い続けた精神力を評価され中佐に昇進。

 

指揮官不在の中ウォーカー部隊を指揮したアデルハイン少佐もその能力が認められ同じく中佐に昇進した。

 

旗を掲げたヴァリンヘルト中尉は上級中尉に昇進し一等十字勲章の栄誉をその若さで獲得した。

 

そして連隊の最高司令官であるジークハルトは大佐に昇進し名誉白十字勲章の栄誉を手にしたのだ。

 

今までにないほどの歓声に包まれて。

 

 

 

 

-旧新共和国領 ヤヴィン星系 ヤヴィン4-

このヤヴィン星系は銀河史上最も重要だと言っても過言ではない一戦があった。

 

亡きグランドモフターキンはこのヤヴィン4に存在していた反乱同盟軍の秘密基地を攻撃する為あの超兵器を搭載したバトルステーションでこの地に向かった。

 

しかし結果は悲惨なものだった。

 

ステーションの弱点を突かれたった一発のプロトン魚雷でバトルステーションは一瞬で木っ端微塵となった。

 

ターキン始め50万人以上の将兵が一瞬でその命を散らしたのだ。

 

帝国にとっては悲劇と屈辱の場所であり新共和国にとっては自由の為の聖地であった。

 

やがてここには新共和国のコロニーが設置され退役した軍人などが住み着いた。

 

他にも新共和国の軍事基地が存在しており主に哨戒の為のスターファイターが大量に配備されていた。

 

「はぁ…いくらパイロットと言えどこれじゃ兵卒以下だな」

 

「まだ新兵ですし…」

 

「あのな、“()()()()()”という理由は前線では通用しない。新兵だから敵はそいつを見逃すか?」

 

隣にいた副官のタラソフ大尉は首を振った。

 

訓練場では若き新共和国のパイロット達が格闘訓練をしていた。

 

「撃墜された機体は仮にどんな名機や最新鋭機だったとしても戦いの役には立たなくなる。だが兵士は生き延びる義務がある、だからこそこう言った訓練が必要だ」

 

「ええその通りです…」

 

「まあこれから訓練を重ねれば少しはマシになるか…おいそこ何してる!」

 

彼は異変に気づき新兵の下へ走った。

 

1人の新兵が少し血を流して座り込んでいた。

 

他の新兵達が取り囲んで心配そうな表情で覗き込んでいる。

 

「どうしたんだ」

 

「パイロットスーツでの慣れない格闘戦で足を挫いて殴打しました」

 

「軽傷です…なんともありません…」

 

「そうは見えんぞ…ああお前達2人はこいつを医務室に運んでやれ、他は全員訓練再開だ!」

 

手を何回か叩き合図を取ると新兵達はそれぞれやる事を始めた。

 

やれやれと言った表情で彼は元いた場所に戻ろうとすると向こうから数人の将校が歩いてきた。

 

それに気づいたタラソフが彼に下に向かってくる。

 

「ラクティス!ちょっとラクティス!」

 

「ああ見えている…あれは軌道上の防衛艦隊の奴らだ…一体なんのようだ?」

 

先ほど話していた教官が彼らに敬礼した。

 

教官の階級は大尉であり向こうに見える将校達の階級は恐らく大尉以上だ。

 

「…マジノ線での戦闘で遂に俺たちにもお呼びがかかったか」

 

「じゃあ遂に出撃か?」

 

「かもな…もしそうだとしたら大変だ…よほど戦線が逼迫してるらしい」

 

2人は駆け足で向かいながら話した。

 

アカデミーで同期でありウィングメイトの2人は状況を把握してか深刻な表情を浮かべていた。

 

ちょうど出口に差し掛かった頃にはすでに数人の将校が教官と軽く会話をしていた。

 

彼は軍服の襟元を直しタラソフ大尉と一緒に敬礼した。

 

「あぁ…どうかされたか?ってウィルバンじゃないか」

 

「ラクティス大変だ…ホズニアン・プライムが陥落した」

 

ラクティス・ストライン中佐の叔父にあたるディクスの親友であるウィルバン・ゼロヴァー准将は淡々と彼に話した。

 

一瞬のうちにラクティスの表情はより深刻なものとなった。

 

目が一瞬泳ぎ動揺の意図が取れる。

 

「バカな…帝国軍はマジノ線で食い止めてるはずだ」

 

「だがこれは間違いない事実だ…既にマジノ線の部隊は撤退を開始し帝国は勝利を祝っている」

 

「じゃあ…じゃあブリーズ叔父貴とディクス叔父貴はどうなったんだよ!」

 

「まだ詳しい事は判っていない…お前を呼んだのはまた別の理由だ」

 

ゼロヴァー准将もラクティスと同じように思い表情を浮かべていた。

 

彼も心の底では親友であるディクスの事を案じているのだろう。

 

出なければ態々ラクティスにその事を伝えたりしない。

 

「新共和国の中枢が崩壊した今我々はこの星系を守らなくてはならない。その為にはお前達が必要だ」

 

「なるほどな、分かった行こう」

 

察しの良いラクティスはすぐに頷きゼロヴァー准将達の後に続いた。

 

「ラクティス…」

 

タラソフ大尉が彼の心境を察して声を掛ける。

 

しかし今のラクティスはもう指揮官の顔だ。

 

一点の迷いも曇りもない。

 

彼は新共和国や周辺領土の安全と国益を守る新共和国軍スターファイター隊指揮官なのだから。

 

真剣な弱みひとつない顔付で彼は司令室に向かった。

 

 

 

-ホズニアン・プライム 帝国軍プレハブ式駐屯基地-

大佐となったジークハルトはプレハブ式基地の司令室に呼び出されていた。

 

窓の外を見渡せばまだ多くの新共和国兵が捕虜として並ばされている。

 

可哀想に見えるがこれも戦争なのだし数年前までは新共和国だって同じ事をやっていた。

 

これも戦争の一環だ。

 

そんな風景を見つめながら歩いているともう目的の司令室だ。

 

トルーパー2人に保安将校が何か話をしていた。

 

流石にジークハルトも入室を躊躇った。

 

だが彼に気づいた保安将校が空気を読んで早めに会話を終わらせ敬礼と共に去っていった。

 

「モーデルゲン上級大将に呼ばれてきた」

 

「入室を許可します」

 

パスコードを解除しジークハルトは司令室に入った。

 

彼がかなり深くまで入るとドアは自動的に閉じた。

 

室内にはモーデルゲン上級大将の他にも幾人か佐官や将官の親衛隊将校がいた。

 

そんな彼らにジークハルトは直立不動の敬礼で挨拶する。

 

「ジークハルト・シュタンデリス大佐、参りました」

 

「ご苦労大佐、一旦休憩だ」

 

クリープル・モーデルゲン上級大将は参謀や幕僚将校達に合図をかけた。

 

彼らは皆バラバラと司令室を後にする。

 

全員が退出し終わった頃モーデルゲン上級大将は話を始めた。

 

「君の連隊は本当によくやってくれたよ。バエルンテーゼ上級大将も感謝している」

 

「それは是非とも部下に報告せねば」

 

「そうしてくれ、君を呼んだのは当然世辞を言う為ではない、君と君の連隊についてだ」

 

「私はともかく第六親衛連隊に何か不備でも?」

 

「いやそうではない。むしろ君の連隊は親衛隊の中でも最高峰の練度だと私は考えている」

 

どうやら説教や解任などではないらしい。

 

だとしたらなんの話であろうか。

 

上級大将はホロテーブルのホログラムを起動した。

 

「知っての通り我々は勝利を得た、だがそれと同時に少なからず損失はある」

 

ホログラムには親衛隊の各部隊の情報が映し出された。

 

数十の兵団や軍団、師団が並んでいる。

 

その下には連隊、大隊と細分化されていた。

 

「元から我々の戦力は少ない、そこで即時戦力の増強と戦闘訓練を主体としたとある計画が立案された」

 

モーデルゲン上級大将はホロテーブルからディスクのような物を取り出した。

 

それをジークハルトに優しく手渡す。

 

ディスクにはオーラベッシュで「外人部隊運用計画」と記されていた。

 

不可解な表情でジークハルトはディスクを見つめた。

 

「主に外人部隊を前線に送り込んでいち早く経験と帝国兵士としての基本を叩き込む。簡単に言えば親衛隊外人部隊の設立だな」

 

外人部隊の設立。

 

ジークハルトにとっては聞き馴染みのない言葉だった。

 

無論アカデミーで少し習った事はある。

 

主に傭兵や正規軍に入隊出来ないエイリアン種族などを組み込んだ部隊だ。

 

正直十分兵力にゆとりがある帝国軍ではその存在は稀、もしくは存在すらしていなかった。

 

あくまで地方の惑星防衛軍や過去の軍がその体制を取っていたというだけだ。

 

しかし親衛隊はそれを取るというのだ。

 

徴兵制といい外人部隊といい親衛隊はかなり異端児的な面がある。

 

存在自体協定の抜け目を掻い潜って生まれた組織なのだが仕方ないと言えば仕方ないのだが。

 

「三個中隊分の外人部隊が君の連隊に配属される、君は他の隊員と共に彼らを帝国の兵士に仕立て上げて欲しい」

 

「お言葉ですが上級大将、そんな連中信用出来ますか?」

 

これは重要な質問だった。

 

全隊員、そしてジークハルトにとっても是非とも聞いておきたい質問だ。

 

曲がりなりにも親衛隊はアカデミーを出た正規兵が大半だ。

 

しかし外人部隊はそんな連中じゃない。

 

言ってしまえばならず者や傭兵などが大勢だろう。

 

そんな連中と肩を並べ戦うなど言語道断だ。

 

しかし上級大将はこう述べた。

 

「信用…言葉が違うな大佐、こう言うべきだ。奴らは“使()()()()()()()”とな」

 

「捨て駒?」

 

「そうだとも、外人部隊など親衛隊と正規軍が戦力を増強するまでの時間稼ぎだ。やがては銀河規模での徴兵が行われる」

 

モーデルゲン上級大将の表情はどこか自嘲気味だった。

 

そんな方法でしか戦力を維持できない現状を思ってなのだろうか。

 

ジークハルトにはよくわからなかった。

 

「奴らにはそれまで貴重な正規兵の代わりに戦ってもらう。いっときでも帝国のために戦い死ねる事を誇りに思っていいくらいだ」

 

「…ですがそれはいくらなんでも…」

 

「当然使い方は君に任せる、これはあくまで私…いや“彼”の持論だからな。とにかくこれはもう決定事項だ」

 

「彼」とは誰の事を指してるのか不明だが恐らく親衛隊の人物なのだろう。

 

「君と幾つかの部隊にはそのディスクに記されている惑星に行ってもらう。詳細はまた別の時に話そう」

 

「…あまりいい任務ではありませんね」

 

ジークハルトは少し不満を漏らした。

 

モーデルゲン上級大将も笑っている。

 

「そう思うのは君次第だ、とにかく私は計画通り戦果さえ出してくれればなんでもいい。期待している…というのは烏滸がましいが頼んだぞ大佐」

 

「わかりました」

 

ジークハルトは敬礼して司令室を後にした。

 

ディスクをしっかりと握り締め悶々とした思いを胸に抱きながら。

 

 

 

プリダスタネーションはあれから数回のジャンプを繰り返し帝国軍から身を隠していた。

 

「帝国艦隊はホズニアンやシャンドラを取り囲んでいて警備は今のところ手薄です」

 

「不幸中の幸いね」

 

「このまま近くのヤヴィン星系に向かおうと思いますが」

 

ブリンダー中佐は隣で状況を見つめるレイアに尋ねた。

 

レイアは少し考えた。

 

「いえ、行き先はヤヴィンではありません」

 

「いやしかし…他にどこが…」

 

「惑星ディカー、以前私たちの仲間があそこの惑星に小規模な基地を作っていたはずです」

 

「確かに…ヤヴィン星系は敵も攻撃目標のはず」

 

「…帝国も当分捜索に手間取るだろうからな…進路をディカーへ急げ」

 

乗組員は頷き進路をヤヴィンからディカーに変更した。

 

ブリンダー中佐はふぅと息を吐いた。

 

「議員もお疲れでしょう、少し休まれてはどうでしょうか?」

 

「そうね…そうさせてもらうわ」

 

流石のレイアも疲労が溜まっていたのかブリンダー中佐の申し出をすぐに受け入れた。

 

ブリッジを後にしゆっくりと仮眠スペースまで足を運ぶ。

 

道中色々な人に敬礼や挨拶をされた。

 

レイアは挨拶をしてくれた1人1人にしっかり労いや励ましの言葉をかけた。

 

少なくとも議員であり過去の英雄であるレイアが出来る最大限のフォローだ。

 

疲れていても己の使命を怠る事はない。

 

そのおかげか彼女の言葉で何人かの人は表情が少し明るくなっていた。

 

少しでも未来に希望を持ってもらいたい。

 

レイアはそう思っていた、

 

するとちょうど仮眠スペースから2人の青年と中年の男が出てきた。

 

この艦が出港する前にパラシュートで飛び降りてきたあの2人だ。

 

聞いた話によるとあの2人は情報部所属でしかもこの艦に今も乗艦しているクワットの大使館メンバーを救出したのも彼ららしい。

 

しかも片方は元パスファインダーだそうだ。

 

2人は軽口を叩き合いながら談笑していた。

 

「仕方ないから酒に火をつけて野郎に投げたよ。そしたら野郎はビビって逃げちまった」

 

「絶対嘘だな」

 

「ほんとなんだって、あっ」

 

2人ともレイアに気づいたのか急いで敬礼した。

 

本当はもっと話していてくれてもよかったんだなと彼女は思った。

 

「あなた達の名前は確か…」

 

「えっと私がジョーレン・バスチルでこっちが」

 

「ジェルマン・ジルディール中尉です議員」

 

2人は戸惑いながら作り笑いをう浮かべ名前を話した。

 

レイアは2人に握手を求めた。

 

2人は更に戸惑いの表情を深めた。

 

「貴方達のおかげでセルヴェント大使ら大勢の命が救われました」

 

まずはジョーレンに力強く握手を込め次にジェルマンにも両手でしっかりと握手をした。

 

「きっとこれからも大変な戦いは続くでしょう。私から無茶な命令やお願いをする事があるかも知れません」

 

「お構いなく、我々はもう覚悟の上です」

 

「どんな死地に送り込まれたって文句は言いませんよ」

 

2人は簡潔に力強い覚悟を示してくれた。

 

その気高い意志が瞳に宿っている。

 

レイアはそのことを頼もしく思った。

 

これからも続く戦いにはこう言った人材が不可欠であろうから。

 

「私達の意志が報われるまで共に戦い続けましょう」

 

「ええ!」

 

「ああ!」

 

これはレイア自身の決意でもあり2人とっては新たな任務の始まりでもあった。

 

帝国との戦いという新たな任務の。

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー イリーニウム星系 惑星ディカー-

ハイパースペースからプリダスタネーションが出現しその後方に一隻のMC80スター・クルーザーが現れた。

 

ディカーの軌道上にも艦船は存在していた。

 

一隻だがCR90コルベットが軌道上を周回していた。

 

「ディカー駐留中の“タンティブⅣ”を確認、他の艦影は確認されておりません」

 

レーダー士官が端末を操作し報告する。

 

「それにしても災難でしたな、ディゴール准将」

 

ブリンダー中佐はモニターに映っている新共和国地上軍准将のシャール・ディゴールに敬礼した。

 

彼はプリダスタネーションの後方にいるMC80“クレマンソー”に乗艦していた。

 

『だが何とか私の師団とこの艦は離脱出来た。尤もあれだけいた部隊のうち私の師団だけ…なのだがな』

 

「今は生き延びまた明日も戦える事を喜びましょう。貴方の指揮のおかげで丸々一個師団とクルーザーが手元にあるんですから」

 

ディゴール准将は新共和国地上軍の軍人でホズニアン・プライム防衛次官を務めていた。

 

彼は絶望的な状況の中機甲師団を巧みに利用親衛隊の猛攻を防いだ。

 

そして彼は重火器をほとんど失う代わりにこのクレマンソーとハンガーベイに搭載されているCR90一隻と十個中隊、そして師団の全てを無事に撤退させたのだ。

 

プリダスタネーションを除くと彼らだけが唯一ホズニアン・プライムから脱出した者達となっていた。

 

『確かにないよりはマシか…我らにフォースが共にある事を信じよう』

 

「はい」

 

クレマンソーはCR90を切り離した後地上の前哨基地に降り立った。

 

プリダスタネーションも同じように基地の母港に入港した。

 

乗組員や兵士達は慌ただしそうに持ち込んだ機材や機体を基地に搬入し始めた。

 

元々基地にいた兵士たちも手伝い始めた。

 

そんな中パイロットのヴィレジコフ中尉とジェルマンとジョーレンは3人だけ呑気にてくてく艦を降りて基地内を散歩していた。

 

側から見たら羨ましいほど暇そうだ。

 

いくらパイロットと情報部員達といえど少しは手伝えよという声が飛んできそうだ。

 

「俺はこれでもナブーやコメナーの戦い、フォンドア戦にジャクー戦まで戦い続けてきたんだぜ?」

 

「んで撃墜スコアは?」

 

「さっきのも合わせて19機だ、TIEファイターは数が多くてスコアが稼ぎやすい。早くペイントしとかないとな」

 

「十分エースパイロットじゃないですか」

 

「ああだがアンティリーズとかファーレルとかソークーとかソームあたりには負けるな」

 

ジェルマンは空気を思うとしないジョーレンを睨みつけた。

 

ジョーレンは肩をすくめ苦笑を浮かべていた。

 

一方のヴィレジコフ中尉はそんな事全く気にしていなかった。

 

後ろ尊敬する英雄達の名が出されて少し嬉しそうだ。

 

「いつかは彼らのようなエースパイロットに俺も」

 

ジョーレンは「ほらな」と言った表情を浮かべていた。

 

するとジョーレンとジェルマンを呼ぶ声が聞こえた。

 

振り返るとレイアがいた。

 

3人は再び敬礼した。

 

「ジルディール中尉とバスチル大尉、少し司令室に」

 

3人は顔を見合わせた。

 

ヴィレジコフ中尉は「行ってこいよ」と言った感じだ。

 

2人は軽く頷きレイアについて行った。

 

司令室までの道のりは決して遠いものではなかった。

 

むしろ小さい前哨基地の為かなり早くついたし司令室も簡素な造りになっていた。

 

司令室のホロテーブルを囲むようにブリンダー中佐やディゴール准将、クレマンソーの艦長であるリジック大佐、基地司令官のクレーカー少佐がいた。

 

レイアと2人もその枠の中に入った。

 

「早速貴方達に任務を与えます」

 

ジェルマンとジョーレンは息を飲んだ。

 

一瞬だけ静けさがその場を包んだ。

 

「新共和国は崩壊しましたが各地の兵力は未だ健在です」

 

星図が浮き上がりいくつかの新共和国軍が駐留している拠点が映し出された。

 

「ですがここもいつ帝国に攻撃されるか判りません」

 

「それに兵力があるとはいえ我々が孤立した事に変わりはない」

 

ディゴール准将は重々しい表情を2人に伝えた。

 

「2人は各地の部隊を訪れてその指揮官達との確実な情報網を設置して欲しいのです」

 

「情報網…ですか?」

 

「ええ、何我々が反撃する為に仲間と連携を取る必要があります。その為にも連絡手段を確立する必要があるのです」

 

「帝国に攻勢を仕掛けるにしてもそれぞれがバラバラじゃ各個撃破されるだけだからな」

 

クレーカー少佐が付け加えた。

 

2人もそれは重々承知だ。

 

「これには情報部員と元特殊部隊の高い技量が必要とされます」

 

「つまり今の状態では我々しかいないと」

 

「その通り、君達が新共和国の希望なのだ」

 

冷静なディゴール准将の視線が2人を見つめていた。

 

プレッシャーはすごいがその分の期待はとても嬉しい。

 

ジェルマンとてここでただ時を待つのは御免だった。

 

あの人と交わした約束の為にも。

 

「まずは近くのヤヴィン、次にキャッシークやモン・カラなどをめぐってもらいます」

 

「多少の自由行動は許可する、必ず任務を遂行して欲しい」

 

「基地に来て早速こんな重い任務を託してしまって申し訳なく思うのだけど…」

 

レイアは2人心配を向けていた。

 

しかしジェルマンもジョーレンもとっくにやる気だった。

 

2人は顔を見合わせ微笑を浮かべた。

 

そして口を開いたのジェルマンだった。

 

「やります、必ず情報網を確立して帝国を倒します」

 

「何なら1人でコルサントにでも潜入してあの忌々しい代理総統殿を暗殺だってして見せますよ」

 

「頼もしいな、では引き受けてくれるのか?」

 

「当然です、我々に任せてください!」

 

将校達はほっとしたように顔を見合わせ笑みを浮かべていた。

 

レイアも重圧から解放されすっきりとした表情があった。

 

「では2人に任せました、貴方達にフォースがと共に在らん事を」

 

2人はキリッとした顔で全員に敬礼した。

 

 

 

2人に与えられたのは基地の格納庫に置かれていたUT-60D Uウィング・スターファイター/支援船だった。

 

このガンシップ兼営員輸送船はハイパードライブまで備えている為遠方まで兵士を展開する事が出来る。

 

今回の任務には打って付けの機体だ。

 

武器屋アーマーを2人は急いで詰め込んでいた。

 

「Uウィングか…乗った事ないな」

 

「俺は何度もある、ここから降下した事だってあるぞ」

 

「パスファインダーってのは落下傘部隊みたいな事までするのか」

 

「何でもやるし何でもやらされるのがパスファインダーだ」

 

サーマルデトネーターを詰め込んだケースを置くと彼はパイロット座席に座り込み機体を確認し始めた。

 

ジェルマンはその間にも予備のブラスター・ライフルやブラスター・ピストルを機体に搭載していた。

 

「かなり整備が行き届いてる、機体は問題なしだ」

 

「それはよかった、医療物資を運んだらいつでも…ってヴィレジコフ中尉!」

 

「医療物資だろ?持ってきてやったぞ、本当なら俺が操縦してやってもよかったんだけどな」

 

ケースをジェルマンに渡すと中尉は機体を覗き込んだ。

 

「インターセプター乗りにガンシップはきついんじゃないか?」

 

「何でも乗りこなすさ、でもパイロットの数が足りなそうだから俺は残るよ」

 

ヴィレジコフ中尉はジェルマンに微笑み優しく彼の肩を叩いた。

 

ジョーレンにも軽く敬礼をした。

 

それを感じ取った彼は顔を見せずグッドポーズを見せた。

 

それだけでヴィレジコフ中尉は十分だった。

 

「それじゃあ頑張れよ2人とも」

 

「中尉こそ頼みましたよ」

 

「ああ!勿論だ!」

 

手を振りながらヴィレジコフ中尉は機体を降りた。

 

するとすぐにハッチが閉まり機体が浮き上がり始めた。

 

いよいよ出発だ。

 

忙しいディカー基地を背にUウィングは浮き上がった。

 

ジェルマンは医療物資のケースを機体に置いておくとパイロット席に座った。

 

「まずはどこへ行く?」

 

「当然近場のヤヴィン星系だ、まあ帝国軍がもう来てるかも知れんがな」

 

「とにかく急ごう」

 

Uウィングは完全に浮上し空へと飛び立った。

 

2人とも気づいていなかったが手の空いていたディカー基地の兵士達が手を振って見送ってくれていた。

 

司令室では将校や議員達がUウィングの出発を敬礼と共に見送っていた。

 

「このまま加速して大気圏を出る、その間にハイパースペースの座標計算だ」

 

既にUウィングは雲を突き抜けさらにその上を行っていた。

 

飛行機雲を作りながらUウィングはさらに進みついには大気圏を飛び出た。

 

もう宇宙だ。

 

果てしなく広大な世界がコックピットの外から見えた。

 

美しくもあり恐ろしくもある。

 

2人はそんな果てしない世界を旅するのだ。

 

自由と民主主義の為に。

 

死んでいった者達の意思を引き継ぐ為に。

 

惑星を取り囲む小惑星帯を抜け安全地帯をそのまま進んだ。

 

そしてジョーレンは機体のレバーを引いた。

 

この果てしない宇宙を素早く移動する為の“世界”に入る為だ。

 

眩い光が機体を取り囲みUウィングはハイパースペースの中へと誘われた。

 

2人の新たな旅と任務が始まったのだ。

 

 

つづく




お久しぶりですねはい()

いや色々同時進行なもんで仕方なかったってやつですはい

はい(威圧)


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部隊育成

-物事の種は気付かぬうちに膨れ上がる-


-惑星カリダ カリダ・アカデミー-

カリダの帝国アカデミーも帝国の勝利により復活し以前のような活気を取り戻していた。

 

これこそこの惑星にとってはあるべき姿だ。

 

帝国がもたらしたのは何も害ばかりではない。

 

曲がりなりにも銀河規模の平和を一時でも生み出し様々な惑星に繁栄と利益をもたらした。

 

帝国が悪だとしても銀河系の人々から見た場合は少し変わるはずだ。

 

むしろ今敗者であり悪なのは新共和国の方だ。

 

カリダ・アカデミーに三個中隊、432名の外人部隊スワンプ・トルーパーが外の訓練場に整列していた。

 

普通のストームトルーパーの整列と見比べても彼らの列はあまり綺麗ではない。

 

しかもまだ制服や装備を与えられておらず各々全く別の服装であった。

 

余計に規則性が薄れてしまう。

 

そんな彼らに副連隊長であるアデルハイン中佐が全員に様々な紹介などをしていた。

 

「諸君らは第六親衛連隊の附属中隊として帝国の為に戦ってもらう。詳しい事は連隊長シュタンデリス大佐がこれから説明する」

 

アデルハイン中佐は敬礼してジークハルトに席を譲った。

 

指揮官の登場で外人部隊の隊員達から完成や拍手が湧き上がった。

 

調子に乗って口笛を吹く者もいた。

 

そんな中でもジークハルトは実直な表情と敬礼のまま全員の前に立った。

 

拍手喝采が鳴り止むとイークハルトは咳払いし冷徹な目を彼らに向けた。

 

「拍手は嬉しいが兵士である以上上官が前に立つ時は敬礼で迎えろ。これは帝国軍兵士としての絶対条件だ」

 

一瞬で気まずい空気がその場に流れた。

 

ジークハルトは気にせず話を続ける。

 

「諸君らの腕前は重々承知している、戦いの経験は個々の能力の優劣を上回る。だが帝国軍の一員として戦うには規律が足りない」

 

褒め言葉の次に彼はあえて厳し言葉を送った。

 

本来は1人1人に言いたいところだがそんな余裕も時間もなかった。

 

「まずこれだけは守ってほしい。仮にどんな状況に陥ろうと何が起ころうと“上官の命令は絶対”だ。上官に全てを預けろ、いいな?」

 

彼らは戸惑いながらもしっかりと敬礼をした。

 

全員が敬礼するのを見届けるとジークハルトは頷いた。

 

「では後の事は頼んだぞ大尉、キャプテン」

 

「はっ!ではまず装備と制服を支給する!第一分隊前へ」

 

別の将校に後の事を任せジークハルトはアデルハイン中佐を手招きして少し遠くのテントまで歩いた。

 

他の外人部隊のスワンプ・トルーパー達も続々と装備を受け取りソワソワしている。

 

2人は近くの椅子に腰掛けため息をついた。

 

「まさかあそこまで酷いとはな…規律どころか練度も怪しくなってきた」

 

「まだ時間はあるしこれから鍛えていけば…それに多少優秀なら規律や指揮系統が悪くても大丈夫なんじゃないか?」

 

アデルハイン中佐の考えにジークハルトは静かに首を振った。

 

そこで彼はちょっとした昔の話を彼にした。

 

「昔…ヤヴィンⅣ攻撃部隊に所属になった時、1人の兵士が錯乱したのか命令を無視して1人で拠点から単独突撃に出ちまった」

 

ジークハルトは苦々しい思いを押し殺して彼に話した。

 

「そしたら敵の特殊部隊に見つかりそいつは当然殺されしかも来た位置を発見され拠点も奇襲された」

 

「そんな事が…」

 

長い戦友であっても互いに別々の部隊に配属になることが多々あった為アデルハイン中佐も知らない事があった。

 

「強さはどうでもいい、命令違反を犯すようなトルーパーが1人いるだけで部隊が全滅の危機晒されるという事だ」

 

「確かにな…やはり精神面を主に鍛えるか?」

 

「ああ…少なくとも並のスワンプ・トルーパーや宇宙軍トルーパー以上の忠誠心が必要だ。そうでなければ外人部隊なんて3年で瓦解する」

 

「厳しい評価だな」

 

「あんな民兵の寄せ集めみたいの見せられたそうなる。他の兵士達に示しが付かん」

 

アデルハイン中佐は相槌を入れ2人とも立ち上がった。

 

そろそろ部隊員達がアーマーに着替え終わり装備の扱いに困っている頃だろう。

 

2人は他の部隊も見渡しながら状況をよく観察した。

 

少なくともアーマーや武器を持たせれば少しは形になっている。

 

既に射撃訓練に移っている部隊すらあった。

 

第六連隊に配属される部隊も全員がアーマーとヘルメットを着込み右手にブラスター・ライフルを持っていた。

 

「早速だベール軍曹、君の分隊で目の前のEウェブを射撃状態に組み上げてほしい」

 

「俺…いや小官の分隊がでありますか?」

 

「そうだ軍曹、まず何をするのか見せてくれ」

 

「はぁ…全員Eウェブを組み立てる、2人は隊を護衛せよ」

 

「はい」

 

駆け足で現れたスワンプ・トルーパー達がEウェブの周りに集まった。

 

2人はブラスター・ライフルを構え周囲を警戒した。

 

その間に残りの分隊員がEウェブの組み立てを始めた。

 

少しぎこちない動きはあったが新兵にしては早い方だった。

 

「まず三脚を立て…」

 

Eウェブの三脚が立てられ次に2人のスワンプ・トルーパーがEウェブの本体を持ち上げた。

 

「Eウェブ本体を固定する、固定がしっかりしていなければ射撃の反動で固定が外れてしまう」

 

三脚に本体を乗っけてしっかりと金具を固定した。

 

固定しすぎてないか砲手がEウェブを少し回して確認する。

 

「そして冷却装置を合体しさせる、これで完成だ。射撃時には冷却を管理する兵士1名と砲手が1名必要になる」

 

1人のスワンプ・トルーパー冷却装置の近くに腰を下ろした。

 

これが本当の戦場ならもう援護射撃を開始しているはずだ。

 

ここまでかかった時間は1分半くらいだった。

 

「見事だ軍曹、だが実戦ではこれよりも早く組みたて攻撃に移る必要がある。君たちには3週間で並の兵士以上の存在になってもらう必要がある」

 

ベール軍曹や彼の分隊員達が隊列に戻る。

 

既に目元はゴーグルで覆われマスクやヘルメットを装備している為表情は見えないがそれでも彼は連隊長として1人1人の眼を見て話した。

 

「出来なければお前達は皆使い捨てのドロイドのように前線で死ぬ事となる。それは君たちも私も望まないはずだ」

 

スワンプ・トルーパー達は頷いた。

 

「技能を付け帝国の為に勝利のその先まで戦い続けよう!」

 

外人部隊の隊員達から歓声が湧き上がった。

 

ジークハルトは少し苦笑いを浮かべた。

 

本来ならこんな言葉かける必要もないのだろう。

 

どう言いくるめようと使い捨ての兵士と言われてしまえばそれまでだ。

 

しかしジークハルトはそう思わないようにした。

 

非情に成れない彼の悲しい性がここに現れていた。

 

 

 

 

-帝国領 アウター・リム・テリトリー セスウェナ宙域 惑星エリアドゥ-

大セスウェナに位置するこの惑星は辺境に位置しているにも関わらず下手なコア・ワールド惑星よりも発展していた。

 

ロマイト産業による恩恵はこのエリアドゥを「アウター・リム界のコア・ワールド」と呼ばれるほどに栄えていた。

 

それは新共和国時代でも同じ事だった。

 

ロマイトを産出し続けるエリアドゥをいくら“()()()()()()()()()()”とはいえ無下には出来ない。

 

多少衰退したもののほぼ依然と代わりない発展と栄華を極めていた。

 

無論それだけで満足しているわけではないが。

 

またエリアドゥとある冷酷な支配者を産んだ事で有名だった。

 

帝国の初代グランドモフでありこの惑星を統べる一族が産んだまごう事なき悪魔の天才。

 

その名は“ウィルハフ・ターキン”。

 

様々な目線や感じ方で未だに銀河中の人々に鮮明に記憶されている。

 

彼と彼の一族はこのエリアドゥの支配者であり守護者でもあった。

 

エリアドゥの固有種には獰猛なネコ科や肉食性甲殻類の生物が存在し更にはヴィアモックと呼ばれる獰猛な霊長類すら生息していた。

 

端的に言って人が安全に暮らせる惑星ではない。

 

おかげで惑星への入植はだいぶ遅かった。

 

しかし人の開拓精神は抑えられない。

 

やがて旧共和国初期にはエリアドゥに入植が開始された。

 

そこで活躍したのがウィルハフ・ターキンの先祖達だ。

 

彼らはエリアドゥの黎明期に獰猛な生物やアウター・リムの悪党から開拓者を守り続けた。

 

彼は護衛や警察的な役割を果たす事で財をなしたのだ。

 

やがて人々はそんな彼らを求め、彼らの役割はエリアドゥが属す宙域全体へ広がっていき最後にはグランドモフとして銀河系へと広がった。

 

そしてその末裔である現在のエリアドゥ総督(知事と称される事もある)“ヘルムート・ターキン”がその役を引き継いでいた。

 

まだ彼は18歳にも関わらずエリアドゥの総督の他にも辺境保安軍の最高司令官などを任されている。

 

数年前は自分で部隊を指揮し大セスウェナを守っていた。

 

民衆からも軍からも政治家からも支持を集めた彼は“()()()()()()()”と呼ばれ持て囃されていた。

 

当人がそれを望んでいたわけではないにしても民衆達の熱狂ぶりは凄まじいものだった。

 

実際彼の手腕がなければウィルハフ・ターキンという戦犯を生み出しその一族が統治者である惑星がここまで衰退せずに栄え続けるなど無理な話だ。

 

その若き天才が大勢の辺境保安軍将兵に囲まれとある客人を待っていた。

 

客人を乗せたラムダ級T-4aシャトルが2機のTIEインターセプターに護衛されヘルムートの前に着陸する。

 

その風が彼の爽やかで美しい髪が靡いた。

 

音が聞こえラムダ級のハッチが開いた。

 

ハッチが完全に開くとまずは2人のショック・トルーパーが姿を表した。

 

儀仗用の銃剣が付いたDTL-19重ブラスター・ライフルを両手に持ちいつでも主人を護衛出来る体制にしている。

 

ショック・トルーパー2人の後に招かれた客は姿を表した。

 

立派な衣装を身につけ更に2人のショック・トルーパーを護衛に付けている。

 

「ようこそエリアドゥへ、ゼールベリック大臣」

 

第三銀河帝国外務大臣マティアス・ゼールベリックは微笑を浮かべヘルムートに近づいた。

 

ゼールベリック大臣は両手を差し出し握手を求めた。

 

当然これを断るわけはない。

 

同じく笑みを作り客人を歓迎した。

 

「あなた方の勝利を祝いたい、よくぞ新共和国を打ち倒してくれた」

 

「まだまだ戦いはこれからだよターキン知事、君達こそ彼らに反旗を翻した一番最初の勇気ある者達ではないか」

 

「反旗を翻すといえど我々は新共和国艦隊を抑留しているだけに過ぎません。帰る場所のない数万名の将兵をね」

 

「そこが恐ろしい所だ。敵を打ち倒すのではなく最小限の犠牲で敵をまるまる生捕にした」

 

2人は話を盛り上げる中ヘルムートはラムダ級から姿を表す帝国軍の将校達を見つめた。

 

普通の正規軍将校もいれば新しく出来た親衛隊の将校もいる。

 

だが階級章を見るに皆佐官以上だ。

 

本来ならヘルムートもあの軍服を着ているはずだったのになと消えてしまった未来を思い起こした。

 

「既に死に体の国の物だ、後は誰がどう使おうが勝手でしょう?」

 

「恐ろしい少年だ、さすがはターキン一族。そう思うだろう?ザーラ司令官」

 

ゼールベリック大臣は彼の後ろにいた女性将校を呼んだ。

 

名前はエリアン・ザーラ。

 

ゼールベリック大臣達を護衛して来た艦隊の司令官でありターキンと深い関係にあった人物だ。

 

彼女の旗艦である“ターキンズ・ウィル”からもその関係性は表れているだろう。

 

第一デス・スターの破壊で損傷を受け解体される予定だったインペリアルⅡ級をあえてその姿のまま旗艦とした。

 

新共和国に、反乱軍に対してその罪を思い起こさせる為に。

 

「彼女はエリアン・ザーラ、君の大伯父であるグランドモフターキンの…まあ弟子…と言った所だ」

 

「大伯父上の…」

 

ヘルムートとザーラ司令官は握手を交わした。

 

彼女はじっとヘルムートを見つめた。

 

まだ若い彼はあのターキンのような貫禄や風貌は持ち合わせていない。

 

一見ただの顔のいいおぼっちゃまだ。

 

しかしザーラ司令官には分かった。

 

彼のオーラとその青色の瞳から放たれる眼光は確かに彼女が憧れたターキンと同じ物だ。

 

絶対的な支配者、そして生まれながらの王たる威圧感がこの若さで放たれている。

 

畏怖の念を覚えるほどだ。

 

きっとターキン総督もお若い頃はこのような感じだったのだろうと容易に想像出来る。

 

「君たちはこれから帝国の一部となる。君には言ってしまえば大伯父の“()()()”だな」

 

「具体的には何を?」

 

「君には代理総統から第三銀河帝国“初代グランドモフ”の地位が与えられる、大セスウェナから隣の宙域まで全て君のものだ」

 

「それは身に余る光栄です」

 

なんらかの地位や名誉は与えられると思ったがまさか初代グランドモフとは。

 

亡き大伯父の跡を引き継いで現帝国の人柱になれというのか。

 

今ヘルムートがエリアドゥでやっている事と同じように。

 

しかし彼に能力はあっても断る力はなかった。

 

「それと同じく君に相応しい艦船をプレゼントしようと思う、名は“エグゼキュートリクス”。これも偉大なグランドモフターキンの所有物だった」

 

「それならついでに“キャリオン・スパイク”を頂戴したいですね。あの船こそ大伯父の意志と魂が込められた船だ」

 

キャリオン・スパイクというのはこれもターキンの船でありそれこそスター・デストロイヤーに引けを取らない高性能なテクノロジーが満載のコルベット艦だ。

 

バーチ・テラーの反乱などで強奪されたキャリオン・スパイクだったがやがては帝国の元へと戻ってきた。

 

どうせ大伯父の代わりを務めるならばと彼は少し無茶な要求をした。

 

するとゼールベリック大臣は笑声を立て彼にキャリオン・スパイクの事を話した。

 

「ハッハッハ、それも与えようと思ったのだがね。キャリオン・スパイクは残念な事に消息不明のままなのだ。破壊されたか強奪されたかも分からない

 

「なるほど…仕方ありませんね」

 

「立ち話も何だ、そろそろ移動しようじゃないか」

 

彼らは談笑を絶やさぬまま階段場所へと歩いた。

 

 

 

 

ミッド・リム コメル宙域 ナブー星系 惑星ナブー-

エリアドゥと同じく惑星ナブーは帝国にとって最も重要な人物を生んだ惑星だった。

 

平和で自然の美しいこの惑星が生んだ男の名は“シーヴ・パルパティーン”。

 

第一銀河帝国の銀河皇帝である。

 

平和を重んじる惑星から銀河史上類を見ない独裁者を生み出すなど何たる皮肉であろうか。

 

しかも旧共和国や新共和国と比べても曲がりなりにも平和を生み出したのだから更なる皮肉である。

 

美しい平和な星という評価は徐々に悪魔の帝国と皇帝を生み出した星に変わりつつあった。

 

平和を維持する為にはナブーもその評価を甘んじて受け入れるしかなかったのだ。

 

第三銀河帝国が再誕生し新共和国を打ち倒すこの時までは。

 

この評価を快く思わない者達にとってはこれは好機だった。

 

「女王陛下、私は残念に思います。貴女を拘束せねばならぬとは…」

 

「そう貴方の良心が訴えるなら今すぐにこんな事をやめるべきです。それは貴方を含めた誰しもが望まぬ事なのですから」

 

「ですが陛下、我々はやむ終えず立ったのです。祖国を守る為には他に道がない」

 

別の保安軍メンバーである若い兵士が本来守るべき女王にピストルの銃口を向け動けないようにしている。

 

他にも保安軍キャプテンであるコォロが彼の副官や部下に銃口を向けられていた。

 

ナブー王室保安軍も一枚岩ではなかった。

 

皇帝の死後、帝国はシンダー作戦の標的をこの惑星に選んだのにも関わらず帝国シンパの保安軍兵士が大勢いたのだ。

 

帝国が弱体化した後は一派の勢力は弱まっていた。

 

だが運命は彼らに味方したのだ。

 

帝国は知っての通り蘇りコルサントすら取り戻した。

 

それは帝国シンパの者達にとって立ち上がるべき時であった。

 

彼らは密かにクーデター派と身を改め祖国ナブーを守る為に決起を起こしたのだ。

 

結果保安軍の2/3が参戦したクーデター派は首都シードを陥落させこうして女王や要人を皆人質にとっていた。

 

「クーデターなど起こして徳をするのは我らではありません」

 

「そう、我らはただ安寧が約束されるのみ。されどそれで十分ではありませんか陛下」

 

階段をコツコツと音を立てながら1人の王室保安軍将校が現れた。

 

その姿を目にして要人達や女王ソーシャ・ソルーナは目を見開いた。

 

「クリース宙将…」

 

保安軍に新設されたナブー王室保安軍宇宙艦隊部門のトップであるネヴィー・クリース一等宙将が姿を表した。

 

新共和国の支援で遂に保安軍にも宇宙艦隊が設立されたのだが結果として己の首を間接的にではあるが締める形となったのはとてつもない皮肉だろう。

 

今や宇宙艦隊も宇宙戦闘機隊も地上の保安軍も殆どがクーデター一色に染まっている。

 

「三等宙佐、陛下達をお連れしろ」

 

「わかりました、さあ此方へ」

 

副官のハウント宙佐に連れられ女王やキャプテン達は軟禁場所へ連れられた。

 

その間にもシードや王宮の制圧は進んでいる。

 

クリース宙将が玉座の通信システムをオンにし首都全体に通達した。

 

『我々は今日祖国を守る為、更なる祖国の繁栄の為に決起した』

 

クリース宙将の声が戦闘中や連行中の兵士や市民達に広がる。

 

一瞬手を止め皆宙将の言葉に耳を傾けた。

 

『ホズニアン・プライムは陥落し今や新共和国は崩壊した。彼らが抑えてきた海賊やかつてナブー侵略時のような企業軍の攻撃がやがてこの星を襲うだろう』

 

呼吸の間を置き落ち着いて話す。

 

その間に出撃した保安軍のN-1スターファイターがシードの上空を飛行した。

 

『再び帝国に続くのだ!我がナブーが生み出した英霊シーヴ・パルパティーンが創りし帝国に!その為に我々は立ち上がる!』

 

クリース宙将の高らかな宣言はシード中に、延いては惑星中に響き渡った。

 

 

 

「よし行け!前進だ!」

 

訓練用のドロイド軍相手に外人部隊のスワンプ・トルーパーたちが勇ましく突撃を繰り返す。

 

模擬弾を喰らったドロイドたちがバタバタと塹壕の中に倒れていった。

 

頭上を何発か模擬弾が飛び交い地面で爆発が起こる。

 

これも殺傷能力が皆無の模擬弾だが実際の戦場とほぼ同じ雰囲気を作り出すには十分だ。

 

外人部隊指揮官のペルタリス上級大尉が前線で大声をはりトルーパー達を突撃させる。

 

ジークハルト達の予測通り外人部隊は決して低くはなかった。

 

大なり小なり戦いを潜り抜けてきたのだろう。

 

とはいえジークハルト達の想像していた練度よりはだいぶ低い。

 

中には候補生同然の動きをする者もいた。

 

おかげで隊列が少し乱れ隙が生まれいる。

 

だがその反面ずば抜けて練度の高い兵士もいた。

 

特にベール軍曹とその分隊は高いチームワークと戦闘能力を誇っている。

 

そして将校達の目を引く人物が1人いた。

 

「これじゃあ次の戦いはお留守番か物資護衛だな」

 

「ええ、流石に戦場に出すのは酷でしょう。まあ第224師団はすぐに戦場に突入させるそうですが」

 

「ゾデル准将は正規軍のはずだが…正規軍の部隊にも配属されてるのか?」

 

「ジークハルト、外人部隊は正規軍にも配属されるようになってる。まあ使い勝手はいい方が助かるからな」

 

連隊長としてしっかり模擬戦の様子をチェックしながらアデルハイン中佐やヴァリンヘルト上級中尉の言葉に耳を傾けた。

 

他にも外人部隊専用の督戦部隊隊長であるリーレンツ・ツヴァイク少佐などが視察していた。

 

新設の外人部隊はほぼならず者に近しい者まで入隊している為督戦隊のような秩序を保つ部隊が必要になってきた。

 

彼らは主に保安局や親衛隊保安局から選ばれ裏切り者や脱走兵を出さぬよう監視した。

 

「それにしてもゾデル准将はまたミンバン行きか…気の毒なこって」

 

パイロットスーツで左手にヘルメットを持ったままハイネクロイツ中佐が一行の中に割り込んだ。

 

「ああ…また地獄に戻るなんてな…スタッツは死んじまってるし、ボランディンは気づけば中佐だし」

 

「むしろあそこからよく生きて帰ってこれたな。まあ再度のミンバン配属は流石に気の毒だとは思うが…」

 

彼らは皆苦笑を浮かべ惑星ミンバンに再び配備される第224帝国機甲師団の面々に同情した。

 

銀河内戦期より前から続くミンバン戦役の地獄のような戦いは帝国内でも悪い意味で有名だ。

 

そもそもミンバン自体現地のミンバニーズ以外生存に適していない。

 

空気中にはカビの胞子が舞い水には危険な病原菌が存在し、惑星は高温体質で湿地と泥の平原しかない為脱水症状に陥る危険性もある。

 

何より大気には大量のイオンが含まれ常に霧が立ち込めている。

 

天候も最悪だ。

 

それでもなおこの地に眠る鉱山資源の為帝国やそれ以前の多くの企業はこの惑星と戦った。

 

当然戦いは激化した。

 

文字通りの泥沼の戦いが長期にわたって続いたのだ。

 

いつしかミンバンに派遣される事は懲罰的な意味合いを持ち合わせていた。

 

「それにしてもあの兵士は誰です?」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は1人のスワンプ・トルーパーに指を指した。

 

E-11に近接戦闘用の銃剣を装備し接近戦と銃撃戦で多大な戦果を挙げている。

 

あのような戦い方は帝国軍や親衛隊内でも珍しい。

 

「彼は…」

 

ジークハルトがタブレットをスライドした。

 

その兵士はすぐに見つかった。

 

「ランス・バルベッド伍長…元ヘル傭兵団の一員で二日前外人部隊に志願…」

 

「傭兵にしては動きがいいし規律が整ってる」

 

「期待の新人だな」

 

「そうなんだが…どこか見覚えが…」

 

ジークハルトはタブレットを見つめながら独り言のように言葉を漏らした。

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部-

親衛隊本部には親衛隊保安局の本部も同時に入っていた。

 

そして今日この場所にある高級将校が集まっていた。

 

1人はフューリナー上級大将。

 

もう1人は親衛隊保安局のフリシュタイン大佐だ。

 

彼は親衛隊保安局長官ディールスのそばに控えていた。

 

最初に口を開いたのはフューリナー上級大将だった。

 

「そういえばセフ・コンの件は片付いたのか?」

 

「ああ、例の部隊に入れる形で戦力の9割は回収出来た。残りの1割もそうするつもりだ」

 

「シュメルケは完全に使い潰す程でいたが」

 

「まあそれでも構わんさ、次の戦力が入ってくれば彼らは無用になるからな」

 

あまりの冷酷さにディールス長官は悪い笑みを浮かべた。

 

フューリナー上級大将も苦笑を浮かべている。

 

「さて特殊部隊の上級大将がわざわざ頼み込んだんだ、ちゃんと調べておいてくれただろうな?」

 

ディールス長官はフリシュタイン大佐の方に顔を向け頼まれた物を渡すよう合図した。

 

彼は小さく頷き後ろにいた情報部士官からタブレットを受け取りフューリナー上級大将に手渡した。

 

彼は書かれた文章にざっと目を通した。

 

「ギデオンにキャナディ…ダトゥー…グリス、エンゲル、ピーヴィー、ハックス…そしてジャージャロッドの一家か。中々多いな」

 

「ご要望通り内戦期終盤の帝国軍及び、官僚や総督、政治家、技術者などの行方不明者リストを制作しましたが…なにぶん数が多く…」

 

「エンドアの敗北でも十分な混乱だったからな。未だに明確になった戦死者よりも行方不明者の方がかなり多い」

 

「だがこれは今の帝国で一番質の良いリストだ。何故こんなものを欲しがった?」

 

ディールス長官は椅子に座り尋ねた。

 

フューリナー上級大将は少し間を起き、話すかどうか思考を重ねた。

 

彼の考える事は基本あまり公にしない方がいい事ばかりだ。

 

「…未だに帰属していない帝国の残党が独自の勢力を形成し身を潜めている」

 

フリシュタイン大佐もディールス長官も驚きはしたが表情や声には出さなかった。

 

それでは外部の者に漏れてしまう危険性があるし何より冷静に考えれば有り得る話だ。

 

帝国は帝国自身にすらわからないほど分裂し独自の勢力を形成した。

 

そのうちの幾つかがまだ残っていてもう存在しない新共和国から身を潜めていてもおかしくない。

 

「規模はどのくらいだ?いくつある?」

 

「規模は定かではないが複数あるだろう。それをこれから調べる必要がある」

 

「見つけてどうするおつもりですか?」

 

「もしもに備えて手は打っておく…同胞を打つのは心苦しいか仕方ないしもう“()()()”だ」

 

彼はそう評した。

 

そして冷酷な笑みを浮かべ彼はタブレットに再び目線を向けた。

 

いくら同胞を討とうとも総統と我々の進む道は決まっている。

 

皇帝の意志を継いだ第三銀河帝国は前進し続ける。

 

 

 

3週間という長いようで短い訓練期間が終わった。

 

ついに彼らは前線に赴く事になる。

 

わずか3週間で彼らの表情や動きはかなり良くなった。

 

少なくとも練度だけは一人前だ。

 

少し窶れハイライトが消えかかっている瞳を全員が指揮官ジークハルトの方へ向けた。

 

最初に会った時のような感性や拍手はもうなかった。

 

ただ物音と共にずらりと並ぶ敬礼だけだ。

 

「我々はこれからウェイランド防衛軍に協力し現地の抵抗勢力及び新共和国軍を殲滅する」

 

彼らは隣の者の顔を見合わせて声を上げた。

 

まだこの辺は一人前の兵士ではない。

 

「当然お前達も戦う事となる、だが恐れる必要はない。総統閣下と帝国の為にお前達の有用性と忠誠心を示すのだ!」

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

全員がブラスター・ライフルを持つ右手や左手を高く振り上げ熱狂的な勇ましい叫び声を上げた。

 

あえて彼らを静止するような真似はせず彼らの戦意を限界まで向上させた。

 

参戦する外人部隊の全員が基地内に駐留中のセキューター級に乗り込んだ。

 

兵は少なくアーマーのカラーは違えどその姿はかつてのクローン戦争を思い起こさせた。

 

セキューター級の形状が若干ヴェネター級やアクラメイター級に似ているのもその要因だろうか。

 

スワンプ・トルーパーやストームトルーパーが全員乗り込みセキューター級のハッチが閉じた。

 

艦の安全装置が解除され徐々に船体のスラスターが光を放ち起動する。

 

上空に何もないことが確認されついにセキューター級は出港した。

 

後部のメインエンジンが青白い光と共にゆっくりと空へと駆け上がる。

 

遂に戦いの時だ。

 

さまざまな思いを乗せながらセキューター級は次の戦場へと向かった。

 

 

つづく




久しぶりの投稿

そういやもう7月ですねぇ
早いもんだべ全く
歳とっちまう(一応Eitoku Inobeは7月生まれ)


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崩壊後の地方

-希望の光は絶望よりも小さくそして強い-


-ゴーディアン・リーチ 残存新共和国絶対防衛線-

マジノ線から撤退したライカン将軍らの艦隊はヤヴィン星系のあるゴーディアン・リーチへ逃げ込んだ。

 

元々存在していた兵力と合わせてこの場所の残存新共和国軍は現在一番の戦力を誇っていた。

 

当然残存軍は帝国軍の襲撃に備えてヤヴィン4を主軸とした防衛線を展開した。

 

新共和国にとっては聖地であるし帝国にとっては絶好の仇討ちをする為のポイントだ。

 

両者とも譲る事はない。

 

最初に動いたのは勢いに乗じて亡きデス・スターの乗組員達の敵討ちに打って出た帝国軍だった。

 

真っ先に先遣隊を派遣しヤヴィン星系の新共和国軍を攻撃した。

 

何度かの小競り合いを行い現在は帝国軍の第一攻撃目標となっていた。

 

そして今日もこの地では熾烈な戦いが繰り広げられる事となる。

 

 

 

 

数百機のスターファイターが小惑星を掻い潜り最大加速で突き進んだ。

 

AウィングやXウィングを先頭に疎らだが編隊を組み不足の事態にも備えていた。

 

その後方にはYウィングやBウィングのような爆撃機が続いた。

 

まだSフォイルは開いておらずなるべくエネルギーを節約している。

 

小さな小惑星がコツンコツンと1機のXウィングに当たった。

 

偏向シールドの影響で損傷は見られないが上官のパイロットから注意された。

 

このXウィングに乗り込むパイロットはまだ新兵でベテランや先輩達のような機敏な動きはこなせていない。

 

その為中くらいの小惑星は回避出来ても小型の小惑星は避け切れなかった。

 

基本的に新兵は扱い易いXウィングやYウィングを主に使用している。

 

後者の方はオンボロだとか新兵達からの評価は低いがBウィングやAウィングに比べて頑丈でとても扱い易い。

 

新共和国一高速なAウィングや重火力で低速のBウィングなどは新兵達にはまだ手の余る代物だ。

 

尤もXウィングやYウィングの方も手に余る代物と言っても過言ではないのだが。

 

強力で万能とも評価出来るこれらの機体を完璧に使いこなし十二分の成果を発揮するなど新兵にはまだ出来ない。

 

高い技術と経験が必要だ。

 

その両者を兼ね備え迫り来る次の戦いを、さらに次の戦いをと制していった者達が優れたパイロットとして名を刻むのだ。

 

「作戦通り散開、艦上からの爆撃を行う」

 

新共和国スターファイター隊が小惑星帯を挟みながら三方向に分かれた。

 

操縦桿を横に倒し速度を調節しながら確実に己の道先へと進んだ。

 

こう言う面でも新兵と先輩の練度差は浮き彫りになっていた。

 

何人かは機体を岩石に擦り当ててしまい減速し過ぎたせいで編隊から離されてしまった者もいた。

 

部隊長のラクティスはそんな光景に少し苛立ちを覚えつつも冷静になる為息を吐いた。

 

彼の乗り込むXウィングは他の機体と違い特別なペイントが許されていた。

 

赤いラインの代わりに灰色のラインが引かれており翼には今まで撃墜してきた敵機の数が記されていた。

 

他にもレーザー砲の先端などに黄色いラインが敷かれている。

 

「シールドの出力を正面に回せ、じゃないと対空砲ですぐにおじゃんだ」

 

命令を聞いたパイロット達が機体を操作し正面シールドの出力を上げた。

 

他にも個人の判断でレーザー砲のエネルギーチャージを行うパイロットも現れ始めた。

 

216機近くのスターファイターがそれぞれ3つの大隊に分かれ攻撃準備をしていた。

 

『隊長、先行Uウィングのサーチ9からの信号が途絶しました!』

 

あまり喜ばしくない報告が部下の機体から流れた。

 

敵に発見され件のUウィングは撃墜されてしまったのだろう。

 

悲しくはあるが嘆いている場合ではない。

 

これ以上の犠牲を出さぬよう努めるのが指揮官の務めだ。

 

「全機魚雷装填、Sフォイル戦闘ポジションへ!帝国艦隊に奇襲を敢行する!」

 

『了解大隊長(ウィング・リーダー)、スカイ中隊準備よし』

 

『ブラウン中隊準備よし』

 

『ネイビー中隊問題ありません』

 

『オウル中隊準備よし』

 

『ライト中隊問題なし!』

 

「サーベル中隊もいけるな?」

 

ラクティスが部下達に尋ねた所次々と異性のいい声が響いた。

 

指揮は問題ない、あとは仕掛けるだけだ。

 

「攻撃開始!」

 

操縦桿を前に倒し72機のスターファイターが一斉に降下し攻撃を仕掛けた。

 

他のスターファイター大隊も同様に攻撃を開始した。

 

だがそううまくは行かなかった。

 

『こんな数交わし切れ…』

 

『もうだめだ!やられた!』

 

悲鳴や叫び声と共に何機かの応答が途切れた。

 

両脇を見渡せば放火をもろに喰らい炎上し爆散する友軍機の姿があった。

 

ラクティスら生き残った部隊はなんとか攻撃を避け反撃に出ようとする姿があった。

 

「十字砲火に気をつけろ!この艦列隊形…我々の攻撃を予測していたか!」

 

ラクティスの予想通りスターファイターによる奇襲攻撃を予測した帝国軍はアークワイテンズ級やグラディエイター級などを多く配備し徹底的な対スターファイター用の防御陣を作った。

 

他にもレイダー級のような艦船が遊撃行動に移れるように間隔に幅がある。

 

見事に敵の罠に嵌ってしまった。

 

「作戦は失敗か…!」

 

苦虫を噛み潰しながらもラクティスは機体を操り次の指示を出した。

 

「全機予定通り爆撃を開始しつつ退路を形成!友軍艦隊の攻撃に合わせて退却する準備だ!」

 

『リーダー、全方位から敵機多数接近!』

 

冷や汗をかきながらラクティスは四方を見渡した。

 

空母のクエーサー・ファイア級やインペリアル級のハンガーベイから大量のTIEインターセプターやTIEブルートが出現している。

 

すでに戦闘は始まっており物量に押された味方機が次々と撃破されていった。

 

その様子を見た機体のアストロメクが悲鳴を上げる。

 

「編隊を保ったまま散開!爆撃機は敵機と極力戦闘を控え敵艦への爆撃に専念しろ!」

 

『了解!』

 

ラクティスは舌打ちしながら機体を一回転させ砲撃を避けながら2機のTIEインターセプターを撃墜した。

 

しかし取り残した機体により反応の鈍い新兵のXウィングが撃破されてしまった。

 

このままでは三個大隊全滅の危機だ。

 

既に大きな打撃と素早い舞台の展開により組織的行動が小規模なものしか出来なくなっている。

 

パイロット達にとって辛い戦いがこうして始まった。

 

 

 

 

-帝国領 デノン星系 惑星デノン-

この地は英雄マクシミリアン・ヴィアーズ大将軍の故郷でありコルサントと同様惑星全体の都市化が進んだエキュメノポリス惑星だった。

 

それこそコルサントと同等までは行かないでもインナー・リム内では十分豊かな惑星である。

 

コレリアン・ランやハイディアン・ウェイと言った航路と繋がっており戦略的にも重要価値は高い。

 

今後はハイディアン・ウェイも以前のように防衛部隊や警備隊が展開される事だろう。

 

「久しぶりの故郷はどうだったゼヴロン?」

 

父ヴィアーズは息子に尋ねた。

 

「久しぶりに友達と会ったよ、元気そうだった」

 

「それはよかった。明日は母さんのお墓と母さんの実家に行こうと思うんだがどうする?」

 

「僕も行くよ、父さんがしっかりやってるって所報告しなきゃね」

 

「ハハハ、それは困ったな」

 

2人は笑みを浮かべたままこないだの式で貰った勲章などの整理をしていた。

 

ゼヴロンとマクシミリアンの親子関係は以前ではもっと冷え切っていた。

 

ゼヴロンの母親、つまりヴィアーズ大将軍の奥さんが死亡し彼は父親としてゼヴロンを厳格に育てた。

 

彼をCOMPNORの青年グループに入れたのもそう言った所で母に敬意を示して欲しかったからだ。

 

だがヴィアーズ大将軍は妻を失った苦痛を帝国の為に戦う事で埋め合わせ息子に対する愛情が疎かになっていた。

 

結果ゼヴロンの心は父親から離れていき母親の愛情を求めるようになっていた。

 

いつしかそう言った感情はうねりにうねって帝国に対する不信感などにも変化していった。

 

両者が求めた姿から両者とも離れていってしまったのだ。

 

そんな悲しい親子が和解したのはやはりエンドア戦での動乱にあった。

 

帝国の敗北と皇帝の崩御を聞いたゼヴロンには3つの選択肢があった。

 

一つはこのまま現地の部隊と共に勝ち目のない戦いを行う事。

 

二つ目は失われた未来とあの世の母を思いながら自らの命を絶つ事。

 

最後の選択肢は帝国を捨て新共和国に亡命する事だった。

 

ゼヴロンの考えは後者2つの方にあった。

 

帝国と心中するくらいだったら自ら命を絶つし帝国から離れ帝国と戦うのも悪くないと思っていた。

 

彼も父親と同じく母を失い心は完全に希望を失っていた。

 

ついに彼が駐留する惑星にも新共和国軍が侵攻してきた。

 

そこでゼヴロンは新共和国へ亡命しようとした。

 

だが運命は変わった。

 

彼の部隊は新共和国軍の包囲から助け出され亡命することはなかったのだ。

 

ゼヴロンの父であるマクシミリアン・ヴィアーズ大将軍に助け出されて。

 

ヴィアーズ大将軍は先頭に立って指揮を取り息子を救い出す為に一番最初に駐留基地に乗り込んだのだ。

 

普段ならこんな無茶はしない。

 

されど彼は父親であり残された息子をどんな形であろうと愛していた。

 

それは妻の死とそれからなる互いの心情の変化によって見えなくなっていただけであり根本の気持ちは何も変わっていない。

 

COMPNORの青年グループに入れたのもゼヴロンの事を思ってだった。

 

それが本人に伝わっていたかはともかく。

 

そして息子の危機に立ち上がらぬ父親はいないであろう。

 

愛情がある限り父親は息子のために立ち上がる。

 

それは英雄であろうと軍人であろうと変わらない。

 

事実救援に来た部隊の中で一番最初にゼヴロンにその姿を見せたのはヴィアーズ大将軍本人だった。

 

そこで完全にとはいかないまでもゼヴロンとヴィアーズ大将軍の心の曇りは晴れた。

 

大将軍は息子の無事に人目も憚らず涙しこの青年を抱きしめた。

 

彼のその涙は大勢の将兵が目撃していた。

 

同じCOMPNORの大隊メンバーや連れてきたストームトルーパーやスカウト・トルーパーなど。

 

そして何より父の情に触れたゼヴロンに大きな変化があった。

 

彼は理解したのだ。

 

求めていたのは母親の愛情だけでなく父親からの愛情もそうだったと。

 

ずっと昔の幸せだった小さな頃の愛情をゼヴロンは求めていたのだ。

 

当時の父の階級はまだ低くとても若かったが活気に満ちており優しい笑みを持つ温かい父親だった。

 

もうあの光景には戻れないが父の思いは何も変わっていない。

 

ずっと欲していたものは身近にあったのだ。

 

ただお互いがすれ違ってばかりいたから気づかなかった。

 

だが本当に手遅れになる前に両者のすれ違いは終わった。

 

親子の絆を彼らは取り戻したのだ。

 

「…父さん実は…」

 

ふと決心したかのようにゼヴロンが口を開いた。

 

ヴィアーズ大将軍は首を傾げた。

 

「僕はこのまま親衛隊に入ろうと思うんだ…僕が親衛隊に入れば父さんはもっと評価されて母さんの為にも…」

 

「ゼヴロン、それはよせ」

 

ゼヴロンの考えはすぐに却下された。

 

あまりの速さとまさかの言葉にゼヴロンは唖然としていた。

 

流石にすぐ認めるとはいかないまでも少しは考えてくれると思っていた。

 

「でも親衛隊なら今の階級を保持したまま移籍できるし…父さんやみんなのためにもなるよきっと」

 

「ゼヴロン、お前の気持ちは私もきっと母さんも嬉しい。でも親衛隊だけはダメだ。お前は今のままで十分父さん達の誇りだ」

 

「…どうしてそんなに親衛隊を拒むの?」

 

「いずれ分かる…いや分からない方が幸せかもしれんな。親衛隊はお前が思っている以上に危険な組織なんだ」

 

ヴィアーズ大将軍は軽く頭を撫でると部屋を後にした。

 

ゼヴロンに大きな謎を残して。

 

 

 

-エリアドゥ 辺境域保安軍本部-

宇宙に浮かぶ三隻のインペリアル級を傍にラムダ級と数十隻のゴザンティ級が本部の軍港に降り立った。

 

ヘルムートや一部の保安軍司令官達は停泊しているインペリアル級の前で艦隊の指揮官を待っていた。

 

軍港付近にはインペリアル級の姿を一眼見ようと将兵が大勢集まっていた。

 

多くが「保安軍は帝国軍に吸収され自分たちも帝国軍人の一員となる」という噂から来ていた。

 

その為入港したゴザンティ級には自分たちようの帝国軍服があるのではとも言われていた。

 

ラムダ級がヘルムート達の前に着陸した。

 

ヘルムートは一足先に帝国軍の軍服に着替えていた。

 

4つのコードシリンダーを差し込み左胸にはグランドモフの青6つ、赤3つ、黄色3つの階級章を身につけている。

 

ラムダ級のハッチが開き3人の将校と6人のストームトルーパーが降り立った。

 

「閣下、搬入準備整いました!」

 

ラムダ級から降りたレーゲン少佐はヘルムートの事を閣下と読んだ。

 

年齢は向こうのほうが10歳ぐらい上だが階級で言えば彼は一介の少佐に過ぎずヘルムートはグランドモフだ。

 

圧倒的な階級の差がそこに存在していた。

 

ヘルムートと後ろの司令官達は敬礼し話し始めた。

 

「30分後に制服の配布を始めろ。その間に本部の改装を急げ」

 

「了解しました」

 

司令官達は頷きさらに後ろで控えていた副官と共に各部署に指示を出しに行った。

 

その様子を彼は目で見送った。

 

「貴方の旗艦、エグゼキュートリクスが上空でお待ちです」

 

その言葉に頷きヘルムートはレーゲン少佐に連れられラムダ級の船内に入った。

 

その間にゴザンティ級の周りでは宇宙軍トルーパーや士官達が忙しそうにコンテナを運んでいた。

 

コンテナの中は基本衣服などが大半だったが中にはブラスター・ライフルやブラスター・ピストルもあったので慎重に運ぶ必要があった。

 

あまりに大型のコンテナはゴザンティ級に積み込んだ輸送用の小型スピーダーで運んでいる。

 

「会場に直行だ、その場で開封するぞ」

 

「了解」

 

補給士官の大尉が命令を出した。

 

コンテナを運ぶ宇宙軍トルーパー達が彼の前を横切る。

 

「会場に集まるよう放送をかけるよう頼んでくれ」

 

「了解しました」

 

「混乱が起こらぬよう誘導を頼む。まずは制服から次に武器だ」

 

「両方一変に配ってしまえば?」

 

「それだと混乱が起こる。なるべくスムーズに行いたい」

 

「わかりました」

 

「さあ新たな同志達を歓迎する準備だ!」

 

大尉は珍しく張り切っていた。

 

いつもは黙々と部隊の食糧のカロリー計算をしたり補給の書類に目を通したりと本人としては比較的つまらない仕事をしていた。

 

その反面自分には能力がない事も理解しており今の状況を甘んじて受け入れていた。

 

だがこの仕事をスムーズに成功させれば少なくとも上級大尉や少佐に昇進させる上官から約束を受けたのだ。

 

張り切るのも無理はない。

 

逆に失敗すれば階級を下げるとも言われているので気を張らずにはいられなかったが。

 

その間にヘルムートを乗せたラムダ級はエグゼキュートリクスへと着艦した。

 

数十名のストームトルーパーや将校に出迎えられ自身の旗艦であり大伯父の旗艦に足を踏み入れた。

 

まだこの艦が自分のものになったという実感は湧いていない。

 

昔一度だけだが大伯父ウィルハフや父と共にこの艦に乗り込んだ事がある。

 

あの時はまだ幼くこの艦と一族の偉大さも重要さも理解出来ていなかった。

 

そんなヘルムートに彼の父も大伯父ウィルハフからも思想や理想なんてものをよく聞かされた。

 

それをいくら持ち合わせていても能力がなければ意味もないことも。

 

思い出に浸っているとすでにブリッジの中まで

 

「こちら艦長のヒンデイン・ダック准将です」

 

エグゼキュートリクスの艦長ヒンデイン・ダックが敬礼した。

 

他にも数十名の将校が力強く敬礼し新たな主人を出迎えた。

 

「お待ちしておりましたグランドモフターキン!再びターキンの名の指揮下に入れて光栄です」

 

「ああ…私も大伯父と同じ呼ばれ方をされて光栄だよ。早速鹵獲したスターホーク級をザーラ艦隊に送り届けるぞ」

 

「はいグランドモフ」

 

ヘルムートはそのままレーゲン少佐を背後に控えさせたままブリッジに立った。

 

じっとエリアドゥの市街地を見つめる。

 

姿その姿はどこか大叔父に似ていた。

 

 

 

-クワット 軌道上造船所-

数年前、旧反乱同盟から受けた奇襲攻撃によるダメージも月日が経てば元通りだった。

 

むしろ以前より生産力はアップし来るべき更なる軍拡に向けて大量の兵器を日夜製造中だった。

 

ドックには完成し今にも発艦出来そうなインペリアル級が並んでいた。

 

地上の工場ではウォーカーが大量に製造され次々と運搬用の輸送船に積み込められている。

 

クワット全体が一眼となって軍事兵器を作り上げていた。

 

「あのインペリアル級は新造艦の実験として改修するそうです」

 

「例のアキシャル砲か、何せマジノの戦闘で一部の砲が使えなくなったからな」

 

「今後新共和国軍の残党軍討伐に回されるとか」

 

「全く…軍備縮小法なんてやらずにクワットやコレリアやサイナーに手当たり次第に発注して軍拡してれば崩壊しなかっただろうにな」

 

「そんな事軍隊アレルギーで兵器アレルギーのモスマがやると思います?」

 

この区画の造船所所長は皮肉まじりに彼に疑問を投げかけた。

 

ヴァティオンも苦笑いだ。

 

笑い話で済ましているが実際の所クワットは新共和国に相当恨みを持っている。

 

造船所を奇襲され多くの社員が死亡した。

 

それだけには飽き足らず自社のスター・デストロイヤーを強奪し勝手に別物に作り替えるようなクズだ。

 

しかも商売相手の帝国を潰され大幅な軍縮により軍事産業は一気に衰退した。

 

あと10年も新共和国の時代が続いていたらクワットは大変な事になっていただろう。

 

まあこんな事言っているがクワット社も新共和国、反乱同盟にスターファイターやフリゲートを横流ししているのだが。

 

あくまで商売、されど恨みはまた別と彼らは独自の基準で割り切っていた。

 

「…一応新共和国に回す用だったフリゲートとAウィングは残っているな?」

 

「ええ、処分に困ったので工廠の隅の方に置いてあります。取り敢えず二十隻は確保してあります」

 

ヴァティオンは顎に手を当て邪悪な商売方法を考えた。

 

この世界の軍事産業は普通にシャトルや船を作って売るよりも何十、何百倍も利益がある。

 

何せまだ銀河系は安定しているとは言えず銀河規模の国家や地方の防衛軍がこぞって兵器を求めるのだ。

 

求められたら作るし売るしかないだろう。

 

何も売る為に誰かを殺したり、誰かを攻撃させたりはしていない。

 

求められたから売ってる、ただそれだけだ。

 

そして今新共和国の残党軍はきっと求めているはずだろう。

 

戦う為の力を。

 

「今でのルートは確保されているか?」

 

「ええ、一応重要拠点や新共和国の残党が籠りそうな場所には運搬出来ますが」

 

「連中が欲しがるなら完成品に少しばかり細工して残党どもに売ってやれ。それもなるべく高く売りつけるんだ」

 

「えぇいいんすか?帝国にバレたら即刻銃殺刑ですよ?」

 

「構わん。どう足掻いたってこの戦争は帝国が勝つ。いやもう勝ったな…俺達はその僅かな合間だけ一儲けするだけだ」

 

「分かりました」

 

工場長は軽く頭を下げ指示を伝えに行った。

 

建造されるインペリアル級を見下ろし彼はながら彼は一息付いた。

 

いつ見てもインペリアル級の造船ドックの光景は鳥肌が立つ。

 

しかもこれを人が足も付かない空の果てで造り上げたと思うと感慨深い。

 

「さて“()()()()()()()”の方を見に行くとするか」

 

ヴァティオンは幾人かの社員を引き連れてこれより更に地下の階層へ向かった。

 

この造船所のステーンションは通常の造船ステーンションよりも大きく一度に様々な艦船を建造出来る。

 

その為スター・デストロイヤーを造りつつスター・ドレッドノートも造る事が可能だった。

 

まあ帝国にくれてやる分のスター・ドレッドノートを造っているわけじゃないが。

 

エレベーターから降り彼らはドレッドノートの造船所区画に足を踏み入れた。

 

さっきの区画よりも何十倍も大きな造船所区画に三隻のスター・ドレッドノートが並んでいた。

 

若干だが同じドレッドノートでもエグゼクター級に似ている部分があった。

 

しかし大きさはエグゼクター級よりも小さい。

 

「これがか…」

 

「はい、正式な名前は“マンデイターⅢ級シージ・ドレッドノート”。マンデイターⅢ級スター・ドレッドノートのモデルチェンジバージョンです」

 

「マンデイター・ラインの復活というわけか」

 

ヴァティオンは嬉しそうにニヤリと笑った。

 

マンデイター・ラインの歴史を辿っていけばクローン戦争の数十年前にその起源を持っていた。

 

最も初期型のマンデイター級はクワットの防衛軍で使用された。

 

今でも記念艦となったうち一隻がクワットの兵器博物館に飾られている。

 

次のモデルであるマンデイターⅡ級は数千年ぶりに蘇った共和国宇宙軍で使用された。

 

主力のヴェネター級よりも遥かに強力なマンデイターⅡ級は当時の連合軍レキューザント級軽デストロイヤーが千隻束になっても勝てない程の力を誇っていた。

 

間違いなく共和国宇宙軍と戦線の維持に貢献しただろう。

 

そして時代は流れその技術と系譜は受け継がれて来た。

 

その末裔がこのマンデイターⅢ級であり現在のマンデイター・ラインの最高峰の艦であった。

 

ターボレーザーの数は流石にエグゼクター級と同等までは行かないまでもインペリアル級の50倍近い火力を誇っていた。

 

そして何より特徴的なのはこの艦にはあのアキシャル・シージ・レーザーキャノンの簡易型である試作型軌道機関砲が備わってる事だった。

 

威力や効力はアキシャル砲を下回るが十分な連射力とエネルギーチャージ時間の短さ、何より砲撃中も他の火器を使用出来る点が強みだ。

 

当然チャージ中、敵からの攻撃を守る為にTIEシリーズの機体が84機搭載可能だ。

 

他にも地上支援の為AT-AT12機、護衛ウォーカー24機、地上兵士二個師団を常時搭載している。

 

予定では将校、下士官合わせて10万9,000人が運用する。

 

「本当にこの艦をあの連中に渡すんですか?」

 

区画の責任者が不安そうな表情でヴァティオンに尋ねた。

 

彼の目はこう言っている。

 

「あのような不確定な組織ではなく現在の帝国に売り渡してはどうか」と。

 

確かに堅実な方法を取るとしたらそちらだろう。

 

しかしヴァティオンはあえて茨の道にも近しい方を選んだ。

 

「当然だ、この歴史ある艦を持つに相応しいのは彼女と彼女が率いる偉ばれし新の帝国だけだ」

 

「発覚すれば…少なからず第三帝国からは相応の制裁が…」

 

「そんなものに怯えて悪魔の軍事産業が務まると思うか?武器を欲する者に然るべき武器を与え望みを叶える。それが我々の仕事だ」

 

悪魔と神が入り混じったような笑みを彼は向けた。

 

彼女達は戦い意地でも生きる事を選んだ。

 

その為にヴァティオンは求められたのだ。

 

残党である彼女達がより高みへ向かう為に。

 

力が必要だ。

 

その望みを込めた三隻のドレッドノートをヴァティオンは見つめていた。

 

 

 

 

『大隊長もうダメです!我々しか残ってない!』

 

ラクティスは軽く舌打ちをした。

 

僅かなXウィングとYウィングが砲撃の間をくぐり抜ける。

 

216機近くいたはずのスターファイター隊は気付けばもう半数以下になっていた。

 

TIEの大軍と圧倒的な火力の前に編隊は崩壊しまともに爆撃すら喰らわせられなかった。

 

三個大隊の奇襲攻撃を持ってしてもまだ三隻のインペリアル級を中破させ、いくつかのコルベットやクルーザーを鎮めただけだ。

 

当初の予測された戦果よりも圧倒的に低い。

 

そればかりか大損害を被り続けている。

 

誰がどう見たって作戦は失敗だ。

 

「退却の用意だ!全機ポイントCに集結し敵部隊を突破する!」

 

『りょっ了解!』

 

「気をつけろチローニ!ケツにつかれてる!」

 

『目視出来ない!もうダメだ対空砲まで来た!』

 

「少し待て今助ける!」

 

『手遅れだ!!あぁ!!』

 

「チローニ!!」

 

ラクティスは炎上し爆散する部下の機体をただ見つめる事しか出来なかった。

 

また1人仲間を失った。

 

今のラクティスでは戦場だからと言う理由で割り切ることが出来なくなっていた。

 

深い悲しみを覚え一瞬のうちに怒りに変わった。

 

至って冷静なままだが敵を恨みそれを原動力とするエネルギーが更に増えたのだ。

 

徐々に生き残った友軍機が集まって来た。

 

生き残った機体はどれも少し煤の付いた今まで戦いを経験した事のある者達ばかりで新兵の生き残りは少なかった。

 

ざっと6割程度、4割程度というところだろうか。

 

損耗率が高く通信越しでももう新兵達の精神力は限界だということが分かった。

 

だが生き延びる為には無理でもやってもらうしかない。

 

「編隊を組んで最後の攻撃に移る。なるべく集中攻撃を喰らわせるんだ」

 

『了解ウィング・リーダー…!』

 

「ブラウ、爆撃隊の指揮を取れ。ジェスターは護衛の指揮を。タラソフと俺の中隊で敵のファイター隊を撹乱する」

 

『分かった!』

 

『ケツをぶち抜かれるなよ!』

 

「当然!」

 

数十機のAウィングとXウィングが散開し三個大隊の列を離れた。

 

部隊に近づくTIEブルートやTIEインターセプターの編隊をかき乱しつつ取り囲まれないよう加減速を続けた。

 

敵機を1機墜とせばすぐさまエネルギーをエンジンに振り分け最大加速で逃げ回り敵が背後に付いたら他の中隊員と協力して敵機を撃破する。

 

そして攻撃時は全エネルギーを火力に集中し一撃離脱の戦法を取っていた。

 

ラクティスもその中で戦果を挙げていた。

 

周りの様子を確認しつつ護衛部隊や爆撃部隊に取り付こうとする敵機をなるべく排除した。

 

予想外の動きに敵部隊の注意はラクティス達数名に集まっていた。

 

「このまま敵機をなるべく引き付けて仕留めろ!爆撃隊に近寄らせるなよ!」

 

彼の指揮するサーベル中隊は見事な操縦テクニックで帝国軍の一般パイロット達を翻弄した。

 

Aウィングが高速で敵部隊を見出し注意を集めたところを頑丈で強力なXウィングが堕としてく。

 

冷静に1機ずつ撃破しTIE部隊を味方の爆撃部隊から引き離していく。

 

通常の護衛部隊も損失を出しつつもクルーザーやTIE部隊の猛攻から爆撃部隊を守っていた。

 

『ポイントに付いた!魚雷でシールドとリアクターを沈黙させる!』

 

YウィングやBウィングの爆撃が始まった。

 

放たれたイオン魚雷やプロトン魚雷がインペリアル級のシールド発生装置を破壊又は無力化しその分厚い壁をぶち破った。

 

リアクターの攻撃部隊は下船部のターボレーザー砲を避けながらシールドの停止と同時にミサイルを撃ち込んだ。

 

十分な破壊力を誇る震盪ミサイル数十発が下船部のリアクターを粉微塵になるまで破壊しインペリアル級を沈黙させた。

 

ようやく一隻のインペリアル級を大破させたのだ。

 

『攻撃の手を緩めるな。周囲のクルーザーも片付けて道を開くんだ』

 

冷静な部隊長の判断でインペリアル級の爆発から逃れ散開した機体が次は護衛艦のアークワイテンズ級を狙った。

 

インペリアル級に比べたらアークワイテンズ級のシールドも装甲も大した事はない。

 

Bウィングがフルチャージの一撃と魚雷を一発撃ち込むだけで沈み始めた。

 

残り二隻だ。

 

後に席のインペリアル級と護衛艦隊を撃破すれば部隊は無事に撤退出来る。

 

「このまま出し惜しみせず攻撃だ!なんとしても無事に撤退するぞ!」

 

『中佐大変です!ハイパードライブから数隻の艦影を発見!』

 

「どこから来る!上か?下か?目の前か?」

 

部下は焦りながら計測した。

 

『うっ上からです!我々の頭上より45度真横に突っ込む形で来ます!』

 

「嘘だろ…シールドの出力をもしもに備えて頭上に展開しろ」

 

自らも回避しようと機体を旋回させる。

 

その10秒後にハイパースペースからその艦隊は現れた。

 

多くの“味方”を引き連れ到着と同時に砲撃して。

 

インペリアル級数隻に爆発が起こり閃光が灯された。

 

何人かが急いで出現した艦隊を確認すると思わず絶句し喜んだ。

 

『味方です!味方です大隊長!スターホーク級と新共和国艦隊です!損傷してるけど味方だ!』

 

「ああ分かってる准尉!作戦変更、艦隊をエスコートして脱出する!幸い敵さん友軍艦隊の出現で逃げ腰みたいだからな」

 

突如出現した友軍艦隊は砲火を一点の艦隊に集中し次々と大火力を浴びせていった。

 

徐々にインペリアル級や周囲の艦が散開し陣形を転換する。

 

そこにわずかながら隙が生まれた。

 

「同時に二隻のインペリアルをやるぞ!爆撃部隊も護衛部隊も全火力をブリッジとリアクターに集中しろ!」

 

『ですが現在の戦力では一隻が精一杯です!』

 

「やらねばならんのだ!ネヴァンの大隊に俺の隊の半分を組み込めば足りるはずだ!」

 

『チッ!無茶言う!』

 

「撃墜されないうちにとっとと決めるぞ。幸い敵の注意はあの艦隊に向いてる」

 

『了解大隊長殿!やってやる!』

 

「チャンスは一度、撃破出来なかったら射程外まで全力で逃げろ!それだけしかない…」

 

再び編隊が組み直され対空砲火が激しい中数十機のスターファイターが機体の何百倍も大きなスター・デストロイヤーへ突撃する。

 

最新鋭のインペリアル級にはミサイルや魚雷発射管も搭載されており新共和国のパイロット達はさらに苦戦を強いられていた。

 

対空砲火を交わし切れずシールドが限界に達した新兵のXウィングがラクティスの隣で爆発した。

 

仲間が死ぬ度に彼は苦虫を噛み潰した。

 

それと同時にそれだけでは収まらない苦々しい気分が彼の腹の中に充満する。

 

「タラソフ、先行するぞ!ターボレーザーを叩き潰す!」

 

『了解!!』

 

ラクティスとタラソフ大尉のXウィングが最大加速でSフォイルが非戦闘時の水平状態のまま近くのインペリアル級に突っ込んだ。

 

素早さと洗礼された無駄のない動きにより帝国軍の砲手達はこの2機を撃墜する事が叶わなかった。

 

また機体の面積も小さい為撃墜は更に困難だ。

 

「もう少し…もう少し…」

 

ラクティスはセンサーと主砲のチャージ状況を眺めながら機体の操縦桿を握った。

 

後少しでフルチャージ出来る。

 

「今だ!」

 

2機とも同じタイミングで同じようにSフォイルを開いた。

 

ちょうどSフォイルの合間をターボレーザーの砲弾が通り抜ける。

 

間一髪だった。

 

X字のスターファイターが遂にはインペリアル級に取り憑いた。

 

4つの翼から放たれる最大砲火をインペリアル級の砲塔に浴びせかけた。

 

シールドは破られ砲塔は次々と爆散して行った。

 

ターボレーザー砲はどうしても次の砲撃までに数秒ほどタイムロスを生んでしまう。

 

それだけ強力な一撃を繰り出せるのだがスターファイター相手だとどうしても大きな弱点となってしまった。

 

元よりターボレーザー砲は対空向きではないのだが通常のレーザー砲が少ないインペリアル級では致し方なかった。

 

その為に護衛用のクルーザーが常に存在しているのでその弱点は克服されているが。

 

だがここまで接近されてしまえばもう遅い。

 

一基ずつ破壊されてしまった。

 

「上下合わせて砲塔は60、イオン砲も合わせればざっと100。それが二隻分。なるべく潰すぞ」

 

『了解!1人五十基か…』

 

「TIEファイター144機よりはマシだ、さあ行こうか!」

 

砲塔の爆発を回避しながらターボレーザーや魚雷発射管を次々と破壊する。

 

すでに上部の軽ターボレーザー砲は1/4片付けた。

 

それでも攻撃の手は止まらない。

 

チャージと集中砲撃を繰り返しながら手早く砲塔を片付けていった。

 

敵はどうやら艦載機を使い果たしたのかTIEインターセプターやTIEブルートを放ってこない。

 

尤も敵機がいた所で何かが変わる訳ではないが。

 

『こちら攻撃グループ、爆撃を開始する』

 

「了解、タラソフ次の仕事だ」

 

『了解!』

 

味方の大隊に任せてラクティスとタラソフ大尉は再び水平状態のまま前方のインペリアル級に突撃した。

 

奥のインペリアル級は見た所出現した新共和国艦隊の砲撃を受け既に撃沈間近であった。

 

しかし最後の抵抗と言わんばかりか残りのスターファイターを全て発艦させてきた。

 

『ラクティス、TIEブルートが9機、TIEインターセプターが3機、TIEボマーが4機来るぞ!』

 

機体をセットしながらラクティスはヘルメットの通信機に手を当てる。

 

圧倒的な物量差の前には細かな連携で対応するしかない。

 

「インターセプターからやる。その次にブルートを堕としてボマーを仕留めるぞ」

 

『俺が引き付ける、お前は攻撃を』

 

「任せろ」

 

2機のXウィングは今度は互いに別々のスピードで敵の飛行群へ突っ込んだ。

 

戦艦クラスの速度とは違いスターファイター、特にTIEシリーズのスピードは凄まじくすぐに敵の戦闘群と衝突し戦闘が始まった。

 

タラソフ大尉はあえて敵機をTIEブルート1機のみ撃墜し敵戦闘群の中央をすり抜けた。

 

反転した全TIE部隊がタラソフ大尉のXウィングを追いかけようとする。

 

しかし旋回中に狙われたTIEインターセプター1機とTIEブルート2機がラクティスのXウィングから攻撃を受け撃墜された。

 

その間にタラソフ大尉は全エネルギーをエンジンとシールドに回し残りの12機のTIEから逃げ回っていた。

 

しかもあえて複雑な動きを取り敵の編隊を見出そうとしている。

 

逆に戦闘群の背後に付いたラクティスは容赦無く引き金を引き生き残った2機のTIEインターセプターを撃墜した。

 

ラクティスの危険性に気づいたTIEブルート数機が大きく旋回し背後を取ろうとした。

 

しかし今度はタラソフ大尉に狙いを定められ一度に3機のTIEブルートが失われた。

 

残り7機。

 

しかもパニックを起こしたのかTIEボマー1機が突如編隊から外れた。

 

この機を逃すラクティスではない。

 

まずはそのTIEボマーを追いかけようとした別のTIEボマー2機を撃墜し最後に余裕綽々のままパニック状態の敵機を己のスコアに変えた。

 

だが突然の狙いの変更は敵にとっても大きなチャンスだ。

 

残りのTIEブルート2機がラクティスの背後を取ったまま仇討ちを始めた。

 

流石のラクティスも少し厄介だ。

 

「タラソフ、X戦法をやるぞ」

 

『私の機体に当てるなよ…!』

 

「当然…お前は俺のケツについた2機を、俺はお前のケツについた2機をやる」

 

『一度旋回して始めるぞ!』

 

「オーケー、先に俺がやる。お前はその後にやれ」

 

『わかった…!』

 

敵機を後ろにつけたまま2機のXウィングが旋回しちょうど同じ位置にいた。

 

タラソフ大尉の方が少し速く、ラクティスの方が若干スピードを落としている。

 

X戦法とはクローン戦争期にある共和国軍のパイロットがこれに近い戦い方を行なったのが発祥と言われている。

 

クローン戦争時代、連合軍は大量のドロイドファイターで共和国軍を圧倒した。

 

その為技量で優っていても物量で背後に突かれてしまう事が多々あった。

 

なに分ドロイドは死の恐怖がないので多少無茶な戦術もやり遂げる。

 

そんな危機的状況を打ち破る為共和国軍のパイロットはある事をやった。

 

背後を取られた友軍機同士で接近し合い回避する寸前で片方に張り付く敵機を撃破する。

 

そして自由になった方が今度はもう片方に張り付く敵機を撃墜、もしくは肩代わりし敵機を撃破するといったものだ。

 

ちょうど友軍機が接近し散開する姿がX字を描いていた為X戦法と言われている。

 

ただこの戦術は背後に敵を抱えたままギリギリまで味方機と衝突寸前まで接近する必要がありかなりの技量を必要としていた。

 

だが長い間戦場を共にしてきた二人ならそれは可能だった。

 

今もこうして両機はゆっくりと近づいている。

 

「後少し…狙いをつけて…」

 

深呼吸しながらより正確に狙いを定める。

 

それも自機の後ろに張り付く敵機の攻撃を避けながらなのでかなり精神力を削っていた。

 

もう少しで予定された地点だ。

 

「こいつでくたばれソーラーパネル野郎!!」

 

引き金を引き強烈な一撃をTIEブルート達に食らわせた。

 

見事なタイミングとポイントのおかげで一度に2機のTIEブルートを撃破した。

 

敵機の撃破を確認したタラソフ大尉が今度はラクティスに取り付くTIEブルート2機を撃墜し破片に変えた。

 

一瞬のうちに16機のスターファイター戦闘群を全滅させたのだ。

 

それを祝福するかのように近距離でスターホーク級の最大火力を叩き込まれたインペリアル級が爆煙を上げ沈んでいた。

 

更に通信機からいい報告が飛び交う。

 

『中佐!敵のスター・デストロイヤーを撃沈させました!』

 

後ろを見るとブリッジや下船部が爆発し煙を上げながら崩壊していくインペリアル級の姿があった。

 

なんともいい眺めだ。

 

素晴らしいの一言に限る。

 

すぐにラクティスは命令を出した。

 

「全隊!このまま脱出するぞ!敵さんトンズラ来いて逃げるようだしな!」

 

帝国艦隊は残存艦艇をまとめ上げ撤退を開始していた。

 

予想外の反撃と敵艦隊の奇襲によりひとまずは不利と悟ったのだろう。

 

もう壊滅状態の新共和国スターファイター隊としてもちょうどいい頃合いだ。

 

お互いに引き時だ。

 

先行する2機に追い付こうと生き残った数十機のスターファイターがエンジンの光を放ちながら近づいてきた。

 

「周囲の全味方艦隊にも通達だ、撤退するとな」

 

『その必要はないぞストライン中佐』

 

ラクティスはハッとした。

 

聞き馴染みのある本来ここにはいないはずの男の声だった。

 

ラクティスにとってそれは相当馴染み深いはずだ。

 

なにせ自分が新共和国の、反乱同盟のスターファイター隊の一員となったのはこの声の主のおかげだし男は数少ないラクティスの親族であった。

 

よく見るとそのスターホーク級は他の艦とは違う特別なラインが引かれている。

 

男の指揮する艦には全て同様の印があった。

 

「ディクス叔父貴!」

 

『久しぶりだなラクティス。戦場での再会なんて女だったら通信機越しでも投げキッスをしてる所だぜ』

 

敗北と苦戦続きのラクティスに久しぶりの心からの笑みが表情に現れた。

 

重なった敗北よりも再会の喜びの方が大きく勝っていたのだ。

 

彼らはまだ希望を捨ててはいなかった。

 

 

つづく




今日ウルトラマンの日らしいっすよ(全く関係ないことを言うスタイル)


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戦闘の始まり

-帝国が滅んでも新共和国が滅んでも争いは続く-


-オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド-

夜明け。

 

惑星を照らす恒星の陽の光が惑星を照らし始めた。

 

まだ空は薄暗く美しい朝焼けとは無縁の景色であった。

 

静かな空には鳥の姿すらなく灰色の雲が空を覆っていた。

 

「はぁ…クーデターか…」

 

「おい、ぼやいてないで早く行くぞ」

 

2人の黄色い昇降ディスクを帽子につけたウェイランド防衛軍の哨戒兵があくびを垂れ流しながら収容所内を歩いた。

 

大きな壁に囲まれいくつかの重ブラスター砲の砲塔で守られたこの臨時収容所はウェイランド防衛軍ではなく、防衛軍を離反したクーデター軍の実質的支配下にあった。

 

機能としては収容所ではなく前線基地や前線司令部としての方が大きかった。

 

元々はこの地に逃げ込んだ新共和国残党軍の協力もあって惑星の五割と空軍司令部を制圧していたクーデター軍だが帝国軍の到着を受けここまで後退してしまった。

 

「敵なんて来ると思うか?」

 

「いやぁ、迂回するだろどうせ。そんなことよりも眠いぜ…」

 

「クソっ…バカな新任の将校のせいでこんなことさせられるなんて…もう負けそうじゃねぇかよ」

 

「だからってあの場で逃げ出そうとしてもどうせ公開処刑されるだけだ。はぁあ最悪だ」

 

2人は愚痴をこぼしながらライトのついたブラスター・ライフルを片手に壁を沿って歩いた。

 

もとよりやる気がなく、更に眠気もひどい為2人の哨戒行動はかなり雑だった。

 

その影響なのか2人は完全に身構えておらずそれが命取りとなった。

 

2人の後ろ姿を見つめる影があった。

 

その影は既に大きな壁を登り黒いアーマー姿のまま両手にブラスター・ピストルを持ち静かに佇んでいた。

 

広い収容所ではこの男を発見するのは近距離でないと難しい。

 

なにせ既にセンサーが破壊され目視での索敵以外が出来なくなっていたからだ。

 

その事に収容所全体がまだ気づいていない。

 

男はコムリンクを取り出し他の仲間に連絡を取った。

 

「…敵の目は悪いようだ」

 

『なら作戦結構だ、一発目を派手に打ち上げてくれ』

 

「了解だ」

 

男はコムリンクを切ると右手の特殊なアタッチメントの付いたブラスター・ピストルに足に巻き付けてあったグレネードを取り付けた。

 

安全装置を外し照星を壁の上の物資保管所に狙いを付けた。

 

この一発が戦いの狼煙となる。

 

男はふと壁の外にいる仲間達に合図を出した。

 

全員準備万端のようだ。

 

なら躊躇う必要はない。

 

そして今度は左のブラスター・ピストルにアタッチメントを取り付け息を吐いた。

 

目を瞑り心を落ち着かせた。

 

風の音すらない暗い夜明けの空が彼の心を落ち着かせ覚悟を決めさせた。

 

目を開き引き金を引き1mmもブレる事なくグレネードを保管庫に直撃させた。

 

報告通りか火薬や武器も入っている保管庫は大爆発を起こし壁の一部を崩壊させた。

 

そして左手のピストルに取り付けたアタッチメントの引き金を引き白い閃光弾が灰色の空に灯された。

 

先ほどあくびをしていた哨戒兵達は爆発音と閃光弾に驚き腰を抜かした。

 

兵士とは思えない表情を浮かべずっと閃光弾に目を盗られていて壁の上の男にはまだ気づいていない。

 

男は小さな声で壁の下の仲間達に放った。

 

ただ一言、「今だ」という言葉を投げ放った。

 

瞬間数十名以上のインペリアル・ジャンプトルーパー達がジェットパックを点火し一斉に壁よりも高く飛び上がった。

 

RT-97C重ブラスター・ライフルやバースト・シールド、ミサイル・ランチャーを装備したジャンプトルーパー達の姿を見てようやく哨戒兵は気付いた。

 

「…てっ敵兵!」

 

「おい!わっ!!」

 

2人の兵士は壁の上の男にピストルで撃ち抜かれ絶命した。

 

ミサイル・ランチャーを装備したジャンプトルーパー達が近くの砲塔や主要部署に向けてミサイルを放った。

 

空を駆ける音と共にミサイルは砲塔や見張り台を破壊し爆発を起こした。

 

破片が地面にパラパラと落ちて燃え盛る炎の音が空に消えていった。

 

それと同時に収容所の各所がミサイルとは違う何かが原因で爆発に巻き込まれた。

 

兵舎や物資保管庫、司令区画までもが爆発の中にあった。

 

「奇襲だ!帝国軍の奇襲だ!」

 

「ぶっ武装を!警報もだ急げ!うっうわぁ!!」

 

爆発は連鎖的に続き外に出た兵士たち巻き込んだ。

 

直後数分遅れて奇襲を伝える警報が鳴り響いた。

 

その頃にはもう収容所内の一部は火の海に包まれていた。

 

「今のでスカウト・チームが仕組んだ爆弾は全部です」

 

「敵が臨戦態勢を取る前に制圧する。全隊攻撃開始だ」

 

「了解ハイネクロイツ中佐。全員攻撃開始だ!」

 

ジャンプトルーパー隊のキャプテンがジェットパックを点火し他のトルーパーも同じように空へと駆けた。

 

その中に紛れて彼ハイネクロイツ中佐もジェットパックで空へと駆けた。

 

クーデター軍の兵士たちは負傷兵を守りつつブラスター・ライフルで応戦していた。

 

「ジェットパックをつけたトルーパーだ!」

 

「弾が当たらない!」

 

混乱した兵士達が皆上を向きながらブラスター・ライフルを放っていた。

 

優秀なジャンプトルーパー達は華麗に弾丸を躱しバースト・シールドで防ぎつつE-11やRT-97Cのような重火器で反撃した。

 

一度に何発も放てるRT-97Cの空中からの射撃はもうスターファイターのブラスター砲掃射とほぼ一緒だった。

 

しかもより小柄で精密な動きが出来るジャンプとルーパー達の方が遥かに手強い。

 

ブラスター・ライフルとは思えない大火力がクーデター軍の兵士達をバタバタと薙ぎ倒した。

 

連中が使っているブラスター・ライフルよりもRT-97Cは遥かに性能がいい。

 

命中精度や練度差も去る事ながら空戦というアドバンテージを保ったまま帝国軍は更に奇襲という圧倒的な優位な状況を作り出していた。

 

瓦礫や物影に隠れて小火器で応戦するクーデター軍だったが容赦無く掃射の餌食となった。

 

「ダメだ全く当たらねぇ!!」

 

「クソッ!クソッ!クソッ!クソーッ!!」

 

「誰か組み立て式のブラスター砲を!…爆発す!」

 

兵士の1人は言い終える前に爆発に巻き込まれて数名の兵士と共に命と身体を地べたに散らした。

 

ジャンプトルーパー達がインパクト・グレネードやサーマル・デトネーターを投げ込んできたのだ。

 

インパクト・グレネードはちょっとした衝撃でも爆発するので兵士1人1人にダメージを与えられるしサーマル・デトネーターの爆発範囲なら多くの敵兵を一度に倒せる。

 

恐ろしい爆撃のようなものを彼らは繰り出していたのだ。

 

そしてこれ以上増援が来ないようにミサイル・ランチャーを持ったジャンプトルーパーが兵舎や建物の中に次々とミサイルを撃ち込んでた。

 

圧倒的な破壊力で建物は崩れ中にいた兵士達も当然その命は消し飛ばされた。

 

そしてその様子を遠目から見つめる者達がいた。

 

外人部隊の新兵達だ。

 

スワンプ・トルーパーのアーマーを装着した彼らはまだ直接戦闘には参加せず輸送部隊や車両を護衛していた。

 

兵員輸送機から顔を覗き込み戦いをじっと見つめていた。

 

「あれがジャンプ隊の力…」

 

「あの要塞みたいな収容所がもう陥落寸前だ…」

 

「向こうでもう戦闘が…」

 

「無駄口の前に任務を遂行しろお前達」

 

中隊長の1人シュリッツ上級中尉がトルーパー達に忠告した。

 

彼は車両の中にいるペルタリス上級大尉に声を掛けた。

 

「ここで一旦部隊を展開しましょうか」

 

「砲塔が破壊されてるならもう少し近づけるはずだ。ギリギリまで接近するぞ」

 

「了解です。お前達そろそろ下車の時間だ!遂に初めての任務だぞ」

 

兵士達から煮え切らない歓声が上がった。

 

戦いを喜んでいるわけではないが恐怖しているわけでもなさそうだ。

 

少なくとも恐怖心のなさは2人の士官を安心させた。

 

恐怖で動けなくなった兵士ほど役に立たないものはない。

 

それがないならまだ安心出来る。

 

「さてジャンプトルーパー隊はどれだけ消耗しているのか…」

 

ペリタリス上級大尉には分からなかったが前線で己も戦うハイネクロイツ中佐にははっきり理解できた。

 

ジェットパックで華麗に宙を舞うハイネクロイツ中佐はどのトルーパーよりも無駄のない動きをしていた。

 

彼はピストルのアタッチメントを変え小型の銃剣を装着した。

 

より近接向きの先頭がこれで出来るようになったのだ。

 

ブラスター・ピストルで狙い撃ちつつ取りこぼした敵をピストルの剣先で確実に仕留める。

 

アーマーもまともに着ていないクーデター軍に対しては十分有効的だった。

 

地表ギリギリをスキーのように駆け到底人が真似できない機動を敵に見せつけた。

 

ハイネクロイツ中佐に気づいた2人の兵士が危機迫った表情で彼に銃口を向けた。

 

すでに気付いていた中佐は彼らの攻撃を許さなかった。

 

それぞれ一発ずつ脳天に弾丸を撃ち込みその勢いのまままだ中佐に気づいていない兵士の背中をピストルの剣先で貫いた。

 

「盾になってもらうぞ!」

 

兵士の背中から血がドバッと垂れて中佐のヘルメットにべったり染み付いた。

 

そんなことを気にしている暇はなく彼は地面を蹴り同時にジェットパックを最大で点火した。

 

2つの勢いで彼とすでに絶命している兵士は大きく空へと舞い上がった。

 

音と存在に気づいた壁の上の兵士4人が唖然とした表情のままブラスター・ライフルを構える。

 

最初の一発が放たれるよりも前にハイネクロイツ中佐は刺さったままの敵兵を壁の上の兵士たちに投げつけた。

 

1人の兵士に直撃しかなりの衝撃を与えた。

 

「…っ!敵がいないぞ!」

 

4人は辺りを見渡し警戒する。

 

「どこに…」

 

「後ろだ!!」

 

「えっ?」

 

直後脳天にブラスターの弾丸が撃ち込まれ彼は斃れた。

 

残りの3人がブラスターの引き金に指をかける頃には全員がさっきの兵士と同じように銃弾を喰らい絶命していた。

 

「全対空砲網を潰して司令部に突入する。ハンネルとトラインの隊は私に続け」

 

「了解!」

 

数十名のジャンプトルーパーがハイネクロイツ中佐に続いた。

 

戦闘は小1時間ほど続き収容所は降伏した。

 

 

 

 

制圧された収容所にはスワンプ・トルーパーの護送部隊と第六親衛連隊の兵士が集まっていた。

 

生き残ったわずか数十名のクーデター軍の兵士達が捕虜として広場に並ばされている。

 

外人部隊のスワンプ・トルーパー達は輸送機に積み込まれたスピーダー・バイクを潜入していたスカウト・トルーパー達に手渡す。

 

第六親衛連隊はジャンプトルーパー一個中隊、スカウト・トルーパー四個中隊、ストームトルーパー九個中隊、その他のウォーカーパイロットや将校など含めた二個中隊で構成されていた。

 

他にも状況に応じて現在のように外人部隊や特殊部隊が組み込まれたりする。

 

またストームトルーパー達は惑星の環境に応じてスノートルーパーやサンドトルーパーに武装やアーマーを変えたりする。

 

その為汎用性が高く親衛隊の中でも随一の戦闘能力を誇っていた。

 

そんな彼らの頭上に護衛のTIEインターセプター2機と兵員を乗せたセンチネル級が1機着陸する。

 

護衛の役を終えたTIEインターセプターが母艦のインペリアル級に戻っていった。

 

ゆっくりとセンチネル級は着陸しストームトルーパー54名と将校が3名降り立った。

 

その様子を見た士官の1人がこの場で一番階級の高いハイネクロイツ中佐を呼びに行った。

 

中佐はヘルメットを脱ぎ収容所の壁でドリンクを飲んでいた。

 

「中佐、シュタンデリス大佐とアデルハイン中佐が到着されました」

 

ハイネクロイツ中佐に敬礼し士官は端的に報告した。

 

中佐はドリンクをすぐに飲み干すとその辺に放り投げヘルメットを急いで掴んで立ち上がった。

 

「ここの司令官を連れて来い。ついでに捕虜も運んでもらおう」

 

「了解しました」

 

士官は頷きアーマーをガチャガチャ鳴らしながら走り去っていった。

 

ハイネクロイツ中佐も頭を掻きながらシャトルの方へ向かった。

 

すでにシャトルから降りてきたジークハルトと外人部隊のペリタリス上級大尉、ハンネル大尉と督戦隊のツヴァイク少佐が彼と話していた。

 

「外人部隊は問題なく機能しています」

 

「それはよかった、今後も頼むぞ。ジャンプとルーパー隊の損失は?」

 

「戦死者なし、負傷兵5名です」

 

「少ない、流石だ。これから来る着陸船に乗船して本隊と合流しろ。アデルハインとヴァリンヘルト中尉は彼らの指揮を頼む」

 

「了解」

 

「大佐、小官を大佐の護衛に就かせてください」

 

「君の技量なら私の護衛をするよりアデルハイン中佐の補佐をしてくれる方が助かる。頼んだぞ上級中尉」

 

「…わかりました」

 

「よお連隊長、見ての通り任務完了だ」

 

軽い敬礼と共にハイネクロイツ中佐はジークハルトに声を掛けた。

 

ヴァリンヘルト上級中尉のような下の階級の者達は皆敬礼し中佐を出迎えた。

 

「ご苦労」

 

「これでようやくスターファイター大隊に戻れるかな」

 

「そうしたい所だがもうひと働き頼む。君の能力は是非とも必要だ」

 

「おいおい俺はあくまでパイロットなんだぜ?なんたってそんな奴が愛機から離れて歩兵みたいな事しなきゃいけないんだよ」

 

中佐はジークハルトに冗談を含めた悪態を付いた。

 

彼の“出自”とその能力の高さはジークハルトが一番知っている。

 

そのせいかなのかハイネクロイツ中佐は収容所攻撃とジャンプトルーパー隊の指揮官を任された。

 

あくまでパイロットとしていたいハイネクロイツ中佐にしてみればあまり良い気分ではない。

 

それにジェットパックを付けて戦うのは“昔の記憶”を呼び起こす為あまり好きではなかった。

 

しかし指揮官としてのジークハルトは限りなく非情に近い。

 

生命が関わらない事なら大抵跳ね除け利用する。

 

その為ハイネクロイツ中佐もこうして地上で戦わされていた。

 

「優秀な機動力のある指揮官が必要なんだ。もう少し、私のそばで戦って欲しい」

 

「たく…わかったよ、で次はどこに行くんだ?」

 

ジークハルトはポケットからホロプロジェクターを取り出し起動した。

 

この周辺の地形が展開され敵味方の部隊配置や基地や駐屯地が事細かに記されていた。

 

「我々は収容所を陥したおかげでここまで前進する事が可能となった。そこで外人部隊全隊とトルーパー一個小隊で最前線のウェイランド軍基地に入る」

 

「四方を山で囲まれ敵の駐屯地が近くにある。厄介だな」

 

「同時にここがキーポイントでもある。この基地を死守し補給戦線を守りながら本隊で包囲網を敷けば確実な殲滅が可能だ」

 

「確かにこの基地を拠点に敵の中央司令部を挟み撃ちできますね」

 

ジークハルトは頷きホロジェクターをコートのポケットに仕舞った。

 

「まずは先行して先程の部隊を投入して防衛に備える。その間にアデルハイン中佐は本隊を率いて本隊はウェイランド軍と共同で周辺の駐屯地を制圧しろ」

 

「わかりました」

 

「機動力が重要となる。みんな頼むぞ」

 

各々から返答が聞こえみんなそれぞれ仕事に取り掛かり始めた。

 

ジークハルトも振り返りセンチネル級へと戻っていった。

 

 

 

収容所陥落を皮切りにウェイランド防衛軍と第六親衛連隊は次々と主要な駐屯地、敵基地を陥落させ包囲網を敷いた。

 

半ば強制的に参加させられたクーデター軍の士気や戦闘能力は低く次々と親衛隊の最新兵器の前に敗北を重ねていった。

 

それだけではなく大勢のクーデター軍兵士がウェイランドの正規軍と帝国軍側に投降したのだ。

 

軍の六割強を占めていたクーデター軍の戦力は大幅に激減した。

 

ただ不思議な点はいくつかあった。

 

攻略した駐屯地などには何故か新共和国軍の兵器が存在していたことだ。

 

また新共和国軍の軍服も駐屯地の保管庫などから発見されていた。

 

「クーデター軍が戦力増強の為に放棄された新共和国兵器を使用した」というのが防衛軍と帝国軍の見解だったがどうも不安感は拭い切れなかった。

 

またこの報告は発生した小規模なクーデター軍の抵抗によりジークハルト達へ伝わるのが大幅に遅れた。

 

その間にジークハルトと外人部隊はウェイランド軍基地に入った。

 

周囲にいくつかの小拠点が存在しレーダーや対空網などを万全な状態に保っている。

 

戦力としては既にウェイランド防衛軍地上部隊1,152名が駐留しスピーダーやホバータンクなども管理されていた。

 

強力な偏向シールドも備わっており軌道上爆撃はともなく並の砲撃ではびくともしない強度を誇っている。

 

「シュタンデリス大佐!お待ちしておりました!」

 

基地司令官のスクリール中佐が敬礼した。

 

ジークハルトとハイネクロイツ中佐も同じく敬礼を返した。

 

「状況はどうだ?」

 

「敵は既に山を占拠しすぐにでもこの基地を攻撃してくるでしょう」

 

「貴方達から頂いた偏向シールドを各防衛地に配備し防衛は万全を期しております」

 

「現在は冷却時間の為シールドは解除されております」

 

「冷却時間はあと何分で終了する?」

 

ジークハルト基地の指揮官達に尋ねた。

 

「20分後です、それまで全兵員を動員して警戒体制を敷いています」

 

「外人部隊も警戒に参加させましょうか?」

 

「そうだな…通路の守りはどうなっている?」

 

この基地までの大型車両を動かせる大きな道は一本しかなくそこを絶たれたら事実上孤立してしまう。

 

なんとしても守る必要がある。

 

「シュリッツ上級中尉が車両数台と一個小隊を率いて防衛中です」

 

「わかった、残りの外人部隊兵力を最前線やこの基地の防衛にまわそう」

 

「助かります大佐」

 

スクリール中佐がそう言った直後基地内全てに警報とアナウンスが入った。

 

『第二対空地で戦闘発生、クーデター軍の奇襲攻撃!繰り返す、第二対空地で戦闘発生、クーデター軍の奇襲攻撃!』

 

一瞬で基地内に緊張が走った。

 

すぐさまジークハルトが誰よりも早く命令を出す。

 

「基地内を封鎖、全砲塔を起動し全部隊出動準備だ!シールドの冷却も急がせろ」

 

「先行して基地の救援に向かう、いくぞペリタリス」

 

「了解です!」

 

2人は駆け足で外へ向かった。

 

ペリタリス上級大尉とハイネクロイツ中佐、ライツァー上級中尉の引き入る外人部隊二個中隊が戦場に急行した頃には既に銃撃戦が始まっていた。

 

クーデター軍が山から駆け降り奇襲したのだ。

 

既にウェイランド防衛軍側には何人か死傷者が出ている。

 

トルーパー達を乗せた兵員輸送機が停止し周囲を警戒しながら一斉にスワンプ・トルーパー達が飛び出した。

 

ハイネクロイツ中佐は輸送機から降りた瞬間ジェットパックを点火し再び空を戦場とした。

 

ブラスター・ライフルを構えながら200名以上のスワンプ・トルーパー達が最前線へと向かう。

 

「訓練でやった事をそのままやれ!所詮敵は紛い物の兵士だ!お前達は強い!お前達により帝国は再び勝利を手にする!」

 

ペリタリス上級大尉はブラスター・ピストルを持ちトルーパー達と同じように走った。

 

彼は叩き上げの前線指揮官だ。

 

他の将校よりも前線を理解している。

 

先に突っ込んだスワンプ・トルーパーの一部隊が最前線に到着し拠点を守るウェイランド防衛軍の兵士たちに加勢した。

 

僅か3週間の訓練だったがその効果は十分に発揮されている。

 

既に数人の敵兵を撃ち殺し訓練通りに攻撃と防衛を始めていた。

 

射撃や基本的な戦い方は元から経験していたり素質がある連中達だ。

 

それに帝国式の厳しく無駄のない教育が合わさりそれに当てはまれば直ぐに優秀な兵士の出来上がりだ。

 

即時戦力としても通常の歩兵隊としても親衛隊外人部隊は多くの軍よりも遥かに優れていた。

 

「重火器で敵を制圧しろ!」

 

スワンプ・トルーパー数名がEウェブの三脚を開き急いで本体と組み合わせる。

 

冷却機を固定し異常がないかを確認した彼らは直ぐに砲撃を開始した。

 

以前よりもこのEウェブの設置時間が大幅に短くなっている。

 

それは全ての兵士がそうだった。

 

圧倒的なEウェブの高火力が岩や木々などの障害物を吹き飛ばしそこに隠れる兵士を蒸発させる。

 

敵はに既に撤退を始めようとしていた。

 

その隙を彼が突いたのだ。

 

空を駆け抜けるハイネクロイツ中佐が。

 

彼はジェットパックのミサイルを放ち一撃で敵の一個分隊に打撃を与えた。

 

間髪入れずに次々とブラスターの弾丸を撃ち込み付け入る隙を与えなかった。

 

上空と地上からの攻撃や物量差に耐えかねたクーデター軍は直ぐに撤退を開始した。

 

流石に山の中を追って行くのは危険だし何よりこの拠点の体制を立て直す為にも一旦はこれだけの戦果で由とした。

 

ハイネクロイツ中佐はジェットパックを操作し簡易的な兵舎の屋根の上に乗っかった。

 

この宿舎の高さだとちょうど撤退していくクーデター軍の姿が捉えられる。

 

妙な動きをするようなら再び攻撃出来る様に見張っていた。

 

敵は完全に撤退しているようだ。

 

しかし中佐は妙だと思った。

 

「撤退するには早すぎる…そして威力偵察にしては兵力が大きすぎる…」

 

草木の動きから察するに現在の敵部隊の戦力ならまだ戦えるしこんな全問付近で苦戦するような数ではない。

 

普通にこの拠点程度なら抑えられるほどの戦力だ。

 

第一の目標が達せられたのは良かったが少し違和感が残った。

 

厄介なことにならなければ良いがと彼は心の中で思っていた。

 

すると隣の兵舎にケーブルを使ってペリタリス上級大尉が登ってきた。

 

彼もより念密な索敵の為になるべく早くなるべく高い所に行きたかったのだ。

 

直ぐにマイクロバイノキュラーを取り出しじっと山の方などを見つめていた。

 

「損耗の方はどうだ大尉、見た所かなり善戦していたが」

 

バイノキュラーを下すと大尉が頷いた。

 

「死傷者なし、初めてにしては素晴らしい戦果です。このまま行けば彼らで打撃を与える事も叶うでしょう」

 

「そいつは良かった。初っ端から使い物にならなきゃお先真っ暗だからな」

 

「ハハ、確かに」

 

苦笑まじりにペリタリス上級大尉は再び索敵に戻った。

 

中佐は念の為ブラスターを持ったまま周囲を見渡した。

 

一部を除いてスワンプ・トルーパー達が後退していく。

 

敵もいない状態じゃ数百人も前衛に人手がいては邪魔になるだけだ。

 

後方を担当するライツァー上級中尉の隊と合流しようとしていた。

 

兵力が徐々に均等に広まっていく。

 

するとペリタリス上級大尉が何か疑問に思ったのか声を出し中佐に尋ねた。

 

「中佐…あれは一体なんでしょうか?」

 

ハイネクロイツ中佐が振り向くとそこには点のような光が空に散らばっていた。

 

まだ昼前、昼時だというのに流れ星は妙だ。

 

飛行機雲だとしても少し形や様子がおかしい。

 

するとハイネクロイツ中佐の両脇を微かに何かの“音”が横切った。

 

その音を聞いた瞬間彼の様子は激変した。

 

ヘルメットで隠された表情は強ばり右手を出し直ぐに命令を出した。

 

「全員伏せてなるべく後退しろ!!」

 

そう言いつつ彼の目線は謎の光の方に釘付けにされた。

 

その光は僅か数秒のうちに明らかに大きくなりこちらに近づいているように見えた。

 

中佐は今の音を昔聞いた事があった。

 

とある戦場で同じようにジェットパックを付け戦っていた時の事だ。

 

同じように微かな風の音とは違う変な音が彼の両脇を横切った。

 

その瞬間別の後ろの塹壕が一気に吹き飛んだのだ。

 

あの音は間違いない。

 

彼が今僅かに感じ取った音は敵が放った砲弾の風を切る音だった。

 

「大尉!!お前達!!急いで逃げろ!!」

 

ハイネクロイツ中佐は屋根の上を走りながら前衛の兵士達と同じく別の屋根の上にいるペリタリス上級大尉に警告した。

 

急いで屋根から飛び降りジェットパックを点火し地面をホバリングした。

 

その直後それは来た。

 

彼にははっきりと見えたのだ。

 

大きな砲弾が先ほど立っていた兵舎の屋根を突き破り室内へと打ち破っていた瞬間を。

 

隣の兵舎に突っ立っていたペリタリス上級大尉の体を砲弾の一発が大きく抉り取り上半身を宙に飛ばした瞬間を。

 

彼の直ぐ後ろに砲弾の一発が降り落ちた瞬間を。

 

彼は全てその目で察知した。

 

直ぐに逃げたのだ。

 

味方を退却させる為に。

 

ジェットパックを最大で点火し最高スピードで入り組んだ拠点を駆けた。

 

その瞬間拠点に降ってきた全ての砲弾は爆発を起こしあちこちで建物や兵士達を破壊しその破片を宙へと撒き散らしていた。

 

爆発の大きな音と衝撃が逃げようとするハイネクロイツ中佐に降りかかった。

 

まるで落雷のような爆音がまだ鳴り響いている。

 

そして断末魔に似た兵達の悲鳴も同時に耳に入った。

 

耳を塞ぎたいような気分を振り捨て安全地点となった一番端に奇跡的に残った砲塔の上に着地した。

 

不時着じみた着地だったがひとまずは助かった。

 

砲撃一発のみでこれ以上轟音と爆発が起こる事はなかった。

 

急いでハイネクロイツ中佐は振り返り拠点の方の状況を確認した。

 

あまりの衝撃に彼は絶句した。

 

本当にここはさっきまでいた拠点かというほど変わり果てた姿になっていた。

 

兵舎や砲塔、司令部といった全てが破壊され瓦礫の山が積み重なりその幾つかには誰のかも分からない血が滴っていた。

 

遺体や腕や足の片鱗、アーマーやブラスターの破片が散らばり痛々しく恐ろしい光景を生み出していた。

 

辛うじて生き残った兵士達も皆腰を抜かしている。

 

「これは…こんなことが…」

 

ハイネクロイツ中佐は状況を正しく認識していただけに戸惑いを隠せなかった。

 

ヘルメットを脱ぎブラスター・ピストルを思わず落としてしまう。

 

それだけ衝撃的でショッキングだった。

 

第二対空地と外人部隊二個中隊は一瞬のうちに壊滅状態まで追い込まれたのだ。

 

 

 

 

「…というのが現在の損害です…」

 

「そうか…報告ご苦労」

 

「はい…」

 

小隊長の少尉が覇気のない表情のままジークハルトの元を離れた。

 

周りを見渡せば山野ような負傷兵や戦意を喪失した兵士達が横たわっていた。

 

皆虚ろな目をしており虚無感や無気力感に満ち溢れていた。

 

まともに立って動いている兵士は砲撃が少なかった場所の兵士や指揮官、ストームトルーパーくらいだろうか。

 

スワンプ・トルーパーも負傷していない兵士のほとんどは疲労を見せつつも動いていた。

 

むしろあれだけの惨劇時でも平然としていられるストームトルーパーの方が異常だろう。

 

「よう連隊長…ひどいザマだなお互いに」

 

「ああ、見事にやられてしまった…偏向シールドの冷却時間を見計った砲撃、我々にも深刻な打撃を与える為に陽動作戦…」

 

「全てにまんまと嵌ってこのザマだ…今じゃウェイランドの兵は腰を抜かしてやがる…それは外人部隊もそうだがな」

 

ハイネクロイツ中佐は悔しそうに歯噛みした。

 

ジークハルトは小さく相槌を打った。

 

彼は全く表情に感情を出さない。

 

実際は出していないだけで悔しいし死んで行った仲間の仇を討ってやりたいとも思っている。

 

その為には指揮官が冷静でなくては行けない。

 

冷静さを欠いた指揮官などなんの役にも立たない。

 

「しかも大通りを潰され大型車両の通行は不可能となった。我々は孤立してしまったわけだな」

 

「ああ…敵ながら見事な戦術だよ」

 

「ペリタリスとライツァー、ヒョートルが戦死、シュリッツも手負いだ。我が舞台でまともな指揮官は私と君だけになった」

 

「厄介なこった。クソ…」

 

中佐は明らかに悪態をついていた。

 

こんな状況であんなものを間近で体験しては無理もないだろう。

 

むしろこれでもある程度正気と冷静さを保っていられるのが不思議に思う。

 

「我々は敵がウェイランドのクーデター軍“だけ”だと思っていた。だが実際は違った」

 

「違った?どこが違ったんだよ。あれはクーデター軍の砲撃じゃないのか?」

 

ハイネクロイツ中佐はジークハルトの言葉に引っ掛かった。

 

彼はあの砲撃をクーデター軍のものだとばかり思っていたからだ。

 

「クーデター軍が、いやウェイランド防衛軍があれほどの距離を精密に攻撃出来る砲を持ってはいない。それにクーデター軍の総司令官のブラウンス中将はこのような作戦を思いつく人ではない」

 

「じゃあ敵は…」

 

なんとなく察しが付きながらもハイネクロイツ中佐は尋ねた。

 

「我々がつい先日まで戦っていた宿敵…新共和国軍…実際はその残党といったところだろう」

 

ハイネクロイツ中佐はため息を吐いた。

 

ようやくあの忌々しい連中を叩いたと思ったのにまた現れるとは。

 

しかも目の前で大勢の仲間を殺してきた。

 

ため息の一つくらい出るに決まっている。

 

「…それで次は何が来ると思う?教えてくれジークハルト」

 

「敵の砲撃は偏向シールドを突破する事は不可能だ。となれば意地でもこれを打ち破るだろう」

 

「無理やり押し進んでくる可能性もある。そうなればこっちは戦意喪失で全滅だ」

 

「こちらはまだ帝国軍の車両に比べれれば弱いがタンクがありこの基地以外にもまだ2つの前衛基地が稼働している。そうなれば敵もかなりの損害を喰らうだろう」

 

ジークハルトは冷静かつ望みを賭けてそう言った。

 

ハイネクロイツ中佐の言う通り今の士気の低さでクーデター軍に無理やり攻撃されたら恐らく勝てないだろう。

 

退路もない為撤退することも叶わず全滅してしまう。

 

それだけはなるべく予測としても避けたかった。

 

「逆に一番堅実で損害が低い戦術と言えば何者かを潜り込ませて再び砲撃で全てを吹き飛ばす事だ」

 

「となると怪しいのはウェイランド軍だな…」

 

「ああ、室内の警備を帝国軍の兵と変えよう。とは言え貴重なストームトルーパーを回すわけにもいかん」

 

「外人部隊の方を使うしかないな…あの連中もかなり手痛い打撃を受けたが」

 

「中佐…大佐…」

 

2人が話していると向こうから今にも消え掛かりそうな声が聞こえた。

 

シュリッツ上級中尉だ。

 

彼は松葉杖のようなものを左腕に抱え頭や足に包帯を巻いておりその上から帝国軍の軍帽を被っていた。

 

ボロボロでありながらも中尉は2人に敬礼した。

 

「大丈夫かよ…」

 

「今は休め、君にはいずれ働いてもらう。ただ信頼のおける兵士にシールドジェネレーターを守衛するよう伝えてくれ」

 

2人は優しく諭した。

 

中尉は納得していない様子だったが渋々戻っていた。

 

彼にも思うところはあるのだろう。

 

なにせ砲撃で頼れる先輩と同僚、部下達を一斉に失っているのだから。

 

とぼとぼ寂しそうに去っていくシュリッツ上級中尉を2人は目で見送っていた。

 

そして先程の話をジークハルトがまた振り返す。

 

「お前には一つ頼みたい事がある。出来ればお前1人でやってほしい」

 

より一層真面目で曇りのない瞳はハイネクロイツ中佐に任務を託した。

 

 

 

ジークハルトの読みは当たっていた。

 

この砲撃を繰り出したのはクーデター軍ではない。

 

クーデター軍に手を貸す新共和国残党軍のものだった。

 

砲撃は遠く離れた山の向こうのクーデター軍司令基地からであった。

 

新共和国が開発したこの重砲、正式名称BV1対ビークル砲は旧共和国軍が使用していたAV-7対ビークル砲をベースとしていた。

 

より精密な狙いと連射能力を持ち2つの砲を持ったこの重砲はAT-ATの装甲すらも場合によっては打ち破る事が可能で新共和国地上軍の切り札であった。

 

だがまだテスト中であり更には軍縮の影響で僅か一個中隊分しか作られなかったこの重砲は活躍を見せず新共和国の崩壊と共に歴史の中に消えて行くはずだった。

 

新共和国残党軍司令官アイッツ・パルベン将軍が残されたこの重砲を使うまでは。

 

パルベン将軍は元々地方防衛軍の砲術士官だった。

 

彼は昔から多角的な砲撃と波状攻撃、隙や奇策を用いた集中攻撃による殲滅を得意としていた。

 

反乱軍に加わった時も手土産として持ち込んだ重砲や迫撃砲を使用し当時の反乱軍地上部隊には勝つ事は不可能だとされていた帝国軍のウォーカー部隊を打ち破った。

 

それ以来反乱同盟、新共和国の優秀な指揮官として第一線で戦い続け崩壊後も自身の部隊を率いこうして帝国との戦いに全てを捧げている。

 

「敵部隊は前衛基地を2つ失い作戦通り退路を完全に破壊しました」

 

「BV砲、正常に稼働中」

 

士官からの報告はどれもいいものばかりだ。

 

すぐパルベン将軍が命令を出す。

 

「斥候に予定通りシールドを破壊させろ。これでチェックメイトだ」

 

「了解!」

 

「まさかここまで上手くいくとは…収容所が陥落した時はどうなるかと」

 

隣でブラウンス中将が胸を撫で下ろしていた。

 

度重なる味方拠点の陥落により動揺を隠せずにいたブラウンス中将だったが今では落ち着きを取り戻している。

 

「言った通りだ中将、我々の勝利はもう決まっている。やがて軌道上の艦隊も撤退していくだろう」

 

「それは素晴らしい事です…」

 

「このまま山の基地を殲滅し囮部隊の駐屯地を攻撃している帝国軍どもをこの砲で殲滅する。そうすれば再び首都への道も開けるだろう」

 

「ええ、帝国軍を打倒する戦線はこれからですね」

 

「君のような良き理解者がウェイランドにいて良かった。この地の“秘密”の為にもまずは目先の勝利を頂こう」

 

ブラウンス中将は力強く頷いた。

 

帝国軍は大勝利に浮かれているようだがいつまでもそれが続くと思わないことだ。

 

新共和国は、反乱同盟の頃から大敗を乗り越えその度に強くなり、最後には勝利を手にした。

 

最後に勝つのは毎回我らなのだ。

 

希望を持ち続けている我らが帝国軍に屈するものか。

 

狂信的な遠い先の希望が今のペルバン将軍を突き動かしていた。

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部-

ホズニアンから徐々に帰還した親衛隊や帝国軍はコルサントに戻ってきた。

 

多くが万雷の拍手でコルサントの民から迎え入れられ皆が勝利を喜び祝っていた。

 

だがそうではない者もいた。

 

今の勝利は次の勝利の糧でもある。

 

新共和国は崩壊したがその遺臣達はまだ生きている。

 

それにそんな敗北者達に同調した惑星や防衛軍の過激派が残党と手を組み帝国に対する反抗を始めた。

 

それら全てを討ち滅ぼし帝国に最高の勝利をもたらすまで親衛隊トップのシュメルケ上級大将は気を許す事はなかった。

 

今も歩きながら各地の対応を頭で練っている。

 

「ウェイランドはどうなった、まだ戦闘中か?」

 

後ろに控えるアストグラム大佐とリーゼヴェルデ大佐に尋ねた。

 

2人とも顔を見合わせアストグラム大佐が口を開いた。

 

「現在収容所を陥落させ包囲線を敷いているそうです」

 

「後数日もすれば敵は陥落するでしょう」

 

「なるべく急ぐよう伝えてくれ。我々としても“アレ”の確認を早めにしたいところだ」

 

「わかりました」

 

2人は妙に思っていた。

 

シュタンデリス大佐、つまりジークハルトの第六親衛連隊は最精鋭であり汎用性にも長けている。

 

また実績も申し分ない。

 

この部隊を展開すると言う事は余程の事だ。

 

それこそコルサント奪還やホズニアン陥落などどれも重要な戦線に第六連隊は展開されている。

 

なのに今回はウェイランドの言ってみれば大した事ない反乱の鎮圧にわざわざ出向かせたのだ。

 

人手が足りないわけではない。

 

他の適当な部隊ならいくらでもいる。

 

しかし何故だか今回だけは親衛隊の上層部は皆ジークハルトと第六親衛連隊に向かわせる事を決定した。

 

1人の参謀将校が「第六親衛連隊ではなく他の連帯を展開すべきでは?」と進言したがシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将がかなり念入りに却下した。

 

それにシュメルケ上級大将が現地の部隊を急かすなど滅多にない。

 

常に確実な勝利を得る為に時間に関してはある程度寛大であった。

 

よほど気になる物でもあるのだろうか。

 

ウェイランドには亡き皇帝陛下の宝物庫があるというのが専らの噂だがそれと何か関係があるのだろうか。

 

2人もそこまで考える力はなかった。

 

そこでリーゼヴェルデ大佐が思い切った事をした。

 

「あの閣下…どうしてそこまであの惑星に拘るのですか?」

 

シュメルケ上級大将に足が止まった。

 

その様子がすぐにわかったリーゼヴェルデ大佐は少し青ざめていた。

 

まずい事を聞いてしまったのではないかと。

 

「…大佐、かつての第一銀河帝国が“()()()()”だと思うか?」

 

シュメルケ上級大将の問いは意味不明だった。

 

しかし上官の問いに対し答えないと言う選択肢はない。

 

「ええ…エンドア後多少分裂はしましたが現在は総統閣下の名の下、形は違えど再び帝国は一つになったと…考えています…」

 

「そうか、ではその内の何人が帰って来た?あれだけ分裂し戦いを繰り広げたうちの何人が再び帝国に戻ってきた?」

 

「そっそれは…」

 

「分からない、その通りだ大佐。誰も“()()()()()”、誰が死に誰が今生きてるのかさえもな」

 

「つまり…未だ生存している残存勢力があるとおっしゃっているのですか…?」

 

リーゼヴェルデ大佐の代わりにアストグラム大佐が自分の考えを述べた。

 

「しかもそれは最悪の形として残っているかもしれんがな」

 

「ですがそんなこと…」

 

「閣下!」

 

向こうからフューリナー上級大将の部下であるリューケル中佐が駆け足で向かってきた。

 

すぐに敬礼しその姿のまま報告する。

 

一方シュメルケ上級大将はやっと来たかと言う表情を浮かべていた。

 

「暗号の解析完了しました!既にデータ化と映像化に成功しております!」

 

「そうか、なら今すぐ向かう。2人も来い」

 

「はっはあ…」

 

2人の大佐は困惑しながらもシュメルケ上級大将に続いた。

 

情報部の一角にそれはあった。

 

ここには第三銀河帝国のみならず以前の帝国、旧共和国の暗号や公文書の一部が保管されている。

 

その大半が機密情報や外に漏れたら困る物なのだが。

 

3人の目の前にはサイズ的には比較的中くらいのホロプロジェクターが置かれていた。

 

「起動します」

 

リューケル中佐と部下達がホログラムを浮かび上がらせた。

 

ホログラムは人の形を作り出しある1人の帝国軍元帥を表した。

 

アストグラム大佐にもリーゼヴェルデ大佐にも見覚えのある人物だった。

 

少し険しい表情でシュメルケ上級大将はその男の名前を呼んだ。

 

ガリアス・ラックス

 

帝国宇宙軍元帥にして先の内乱状態の帝国の実質的皇帝。

 

それこそがこのホログラムに写っているガリアス・ラックス元帥だ。

 

彼の生い立ちや功績は未だに不明な点が多い。

 

少なくとも幼い頃から皇帝の庇護下にあり皇帝の懐刀のような存在であった。

 

元帥に上り詰めた彼はエンドアで皇帝の死後帝国内で最も勢力の大きい残存勢力を指揮し事実上の皇帝となった。

 

その後彼はジャクーに兵力を集結させ新共和国との大激戦を繰り広げた後ジャクーの地表に墜落した旗艦ラヴェジャーと運命を共にした…

 

これが表向きの知られている事だ。

 

帝国敗北の確実な要因となった為ある者達からすれば一瞬の戦犯だ。

 

しかしそんなラックス元帥にはいくつか不明瞭な点が多くあった。

 

まず生まれや皇帝との接点、それから何故わざわざジャクーに兵力を集結させたのか。

 

多過ぎる謎が戦争から2年経った今でも彼を謎の存在のままにしていた。

 

そんなラックス元帥がこうしてホログラムとして浮き上がっているのだ。

 

正装なのか白い軍服に黒いズボンを履き、胸には元帥を示す階級章と彼が手にしたいくつかの勲章が付けられていた。

 

赤いマントを羽織り黒髪のオールバックの髪型をした姿の元帥は手には黒い手袋を付けていた。

 

そんな元帥が口を開く。

 

『私はガリアス・ラックス元帥だ。これは皇帝陛下直々の遺言である』

 

「シンダー作戦の事でしょうか…?」

 

「まだ分からん…それ以上の事かも知れん」

 

『陛下は陛下亡き後の銀河帝国を愚かな反乱分子と共に早急に滅ぼす事を望んでおられる。その任を陛下は私に御命じなされた』

 

ラックス元帥は身振り手振りを交えず淡々と話していた。

 

ただ一点を見てメッセージを告げている。

 

『両提督は早急に艦隊をまとめ上げ未知領域へと速やかに移動せよ。これも皇帝陛下の遺言である』

 

「皇帝の遺言…」

 

『未知領域にはお前達を導く者が必ず然るべき場所へと導くであろう。私もすぐに向かう』

 

主語が見えない為3人にはなんの話をしているのか理解が及ばなかった。

 

『遠くない未来で再び共に戦える事を望む。皇帝陛下万歳』

 

そう言ってホログラムは途切れた。

 

ここまでが解析出来た暗号の中身のようだ。

 

ずっと戦い続けてた彼らには驚愕の真実だった。

 

帝国はまだ分裂したままなのだ。

 

 

 

1人のスワンプ・トルーパーが基地内の通路をフル装備のまま歩いていた。

 

E-10を構え顔をゴーグルとマスクで覆ったそのトルーパーは迷わず通路を曲がっていた。

 

どうやらしっかりとした目的地があるようだ。

 

通路を歩いていくと負傷し包帯の上からも血が滲み出ているウェイランド防衛軍の兵士が何人も通路傍に横たわっていた。

 

それだけではなく帝国軍のスワンプ・トルーパーも何人かいる。

 

むしろスワンプ・トルーパー達の方が重傷の者が多い。

 

ぐったりしており傷が疼くのか時々唸り声を上げていた。

 

「おいバクタのポッドが開いたぞ!誰でもいいから使え!」

 

「こいつを運んでやろう…一番重傷だ」

 

1人の同じアーマーを着たスワンプ・トルーパーが担架に乗せられた。

 

「クッソ…まだ戦える…」

 

「明日戦うためにポッドにぶち込むだけだから安心しろ」

 

「クソ…クソォ…」

 

うっすらと聞こえる罵倒がさらに遠のいて行った。

 

尤も彼にそんな事を気にしている余裕はない。

 

与えられた任務の為急がなければ行けなかった。

 

真っ直ぐ行くとちょうど目的の場所だ。

 

この辺りからは負傷兵や通路傍に屯している兵士達はおらずとても静かだった。

 

エネルギーの供給がしっかりとしているのか電灯が途切れることはなく通路の壁もとても綺麗だった。

 

それは当然だ。

 

なにせこの先には基地の運命を左右する物が備わっているのだから。

 

数歩歩くと早速見えてきた。

 

ブラスト・ドアと2名のスワンプ・トルーパーの衛兵に守られ物静かに佇んでいる。

 

当然彼はスワンプ・トルーパー達から止められた。

 

「お前何しにここに来た」

 

「ここから先にはなるべく来るなと通達があったはずだ」

 

決まり文句を並べられ彼は衛兵に阻まれた。

 

そこでこちらも同じような定型文で返す。

 

「俺は中尉に言われて室内の様子を確認するよう言われだんだ。衛兵2人がやったら見張りの目が減るってな」

 

「そうか…わかった、入れ」

 

「気をつけろよ、一応あれは危険だ」

 

「分かってるさ、あっあと中尉からの命令でドアをしっかり閉めてくれだそうだ」

 

「了解した」

 

衛兵の1人がドアを開けた。

 

彼は静かに一礼すると入室した。

 

直後三重のブラスト・ドアが全てガチャンという音と共に閉まった。

 

これで当分人は入ってこない。

 

彼にとっては好都合だった。

 

一応誰もいない事を確認すると彼はヘルメットとマスクを取った。

 

最期の瞬間くらいはしっかり息を吸っておきたい。

 

彼は帝国軍の兵士ではない。

 

彼は新共和国の兵士であった。

 

ホズニアン・プライムにいた彼の家族は帝国侵攻により失われてしまった。

 

その報告を聞いたのは遠く離れたこの惑星でだった。

 

何もできない自分と敵である帝国を憎んだ。

 

自分にできることはただ一つ、己の命に変えてでも帝国軍に打撃を与える事だ。

 

彼のような世論に流され兵士になったような奴では何も変えられないことぐらい分かっている。

 

しかしせめて一矢報いたかった。

 

この特攻にも等しいシールドジェネレーター破壊任務に志願したのも彼だった。

 

成功してもジェネレーターの爆発に巻き込まれて死ぬし失敗しても捕まって処刑される。

 

どうせ捨てた命だ、最期に一矢報いて死んでやる。

 

彼はそう思い大きく息を吐くと帝国から奪ったE-10を捨て新共和国から支給されたDH-17ブラスター・ピストルに持ち替えた。

 

死ぬ瞬間は武器も心も新共和国と共にいたいという妙なセンチメンタルからだ。

 

しっかりピストルを構え震える手を誤魔化す。

 

引き金に指を置き彼は己から力が抜けぬうちに引き金を引いた。

 

直後ブラスターの弾丸はシールドジェネレーターに直撃し室内全てを巻き込む爆発を起こした。

 

 

 

「爆発…確認されました…」

 

司令室のウェイランド軍士官から不安な声色で報告した。

 

司令官のスクリール中佐も不安そうな表情を浮かべている。

 

そしてジークハルトに尋ねた。

 

「本当にうまく行くんでしょうか大佐…ほんとにこれで…」

 

「信じるしかない、掛けだが大当たりの可能性の方が大きい。計測班はこのチャンスを逃すなよ」

 

「了解です…!」

 

士官がモニターに目を張り付けヘッドホンに手を掛けた。

 

ジェネレーター室の爆発は基地の外からも聞こえた。

 

すると1体の軍用のプロトコル・ドロイドがコムリンクに自分のスピーカーに近づけた。

 

わざとこのドロイドはベーシックとは違う他言語でコムリンクに喋った。

 

それから約3分後二射目の砲撃が山の向こうから放たれた。

 

「敵部隊、二射目を確認!!」

 

「約30秒後に基地内に到達します!」

 

「一応に備えて全対空砲を起動させろ、防備は万全にしたい」

 

「了解です…!」

 

手慣れてないウェイランド軍の士官達がコンソールをタップし砲塔を操作する。

 

司令室に緊張が走った。

 

「…レーダーは…特定完了!砲撃地点はクーデター軍司令部のペルタ基地です!」

 

士官が慌てた様子で報告した。

 

一部の士官達から感嘆の声が上がる。

 

「これで反撃の糸口が掴めたな」

 

「砲弾間も無く到達します!」

 

「到達まで5秒前!5…4…3…2…1…来ます!!」

 

何十、何百発の砲弾の数々が全て“()()()()()()()()”何も見えない空中で花火のように爆発し消えていった。

 

閃光の光が空を覆い隠し一時的に全てを包む。

 

外にいた兵士達はあまりの眩しさに目を覆い被していた。

 

光は10秒近く光り続け徐々にその閃光は薄れていった。

 

一発も基地や周囲に直撃する事なく。

 

「全弾ロスト…防衛成功です!」

 

司令室や外からは歓声は聞こえずただ安堵しほっと一息付いたため息の音だけが響いた。

 

隣でスクリール中佐は人目も憚らず「よかったぁ」と独り言を漏らしていた。

 

「ハイネクロイツ…目標は捉えたか?」

 

ジークハルトは小声で誰にも悟られぬようにコムリンクに話した。

 

『ああ…当然だ』

 

ハイネクロイツ中佐はコムリンクを起動したままポケットに差し込んだ。

 

そして銃剣を装備したブラスター・ピストルを両手に持ち直し再びジェットパックで空に舞い上がった。

 

コムリンクからはジェットパックのエンジン音が聞こえる。

 

1体のドロイドにしっかりと目線を合わせ剣先を向け両手をクロスさせた。

 

エンジンを最大加速で飛ばし一気に急降下した。

 

そのままの勢いでハイネクロイツ中佐は先ほどコムリンクで誰かと連絡を取っていたプロトコル・ドロイドにアタックした。

 

このドロイドは今も誰かと連絡を取り合っている。

 

もうこれ以上はさせない。

 

クロスした腕を思いっきり振り鋼鉄の小剣でプロトコル・ドロイドの首を刎ね落とした。

 

同線は見事にプッツリ切れ火花が飛び散った。

 

いくつかの破片が地面に散らばる。

 

ボディとヘッドパーツも同じように地面に崩れ落ちたい。

 

ドロイドのカメラの部分から光が消え完全に機能が停止された。

 

そしてドロイドの首を思いっきり踏みつけハイネクロイツ中佐はコムリンクに宣言した。

 

「持ち帰れるのは首だけだがな」

 

『それで十分だ』

 

そういうとお互いにコムリンクのスイッチを切った。

 

ふとハイネクロイツ中佐はシールドが展開された空を見つめた。

 

数時間ほど前ジークハルトからある頼み事をされた。

 

その事を中佐は回想する。

 

 

 

《別のスパイを見つけ出せ?》

 

《そうだ、ジェネレーターを破壊する者とそれを監視し報告する物はまた別のはずだ》

 

ジークハルトの言葉にハイネクロイツ中佐は些か不安を覚えた。

 

彼の予測は常に的を得ているが確証が少ない。

 

それにもう1人いるとすれば数が多すぎる。

 

この基地内数百、数千人が全て容疑者だ。

 

ハイネクロイツ中佐が1人で調べるにはあまりにも多すぎる数だ。

 

《で俺はこの山のような人の中からそのスパイを見つけ出せと》

 

《人…というのは些か語弊があるな、敵は恐らく人間や生命体ではない》

 

《となると…ドロイドか?》

 

《そうだ、顔がバレて追い回される人よりもすぐに溶け込めるドロイドの方がスパイとしては向いている。特に冷酷な監視役としてはな》

 

《両方ともドロイドの可能性があるぞ》

 

《それはない。シールドジェネレーターの部屋には強力な対ドロイド用のフィールドがある。ドロイドでは破る事は不可能だ》

 

中佐は渋々納得した。

 

彼の言葉には説得力だけはあるのだから困った奴だ。

 

だから彼をどうしても彼を信じてしまう。

 

《出来るかハイネクロイツ》

 

彼にそんな事言われたら返す言葉は一つだ。

 

《やってみせるさ連隊長》

 

 

 

「まさか本当にやっちまうとはな…」

 

ハイネクロイツ中佐は自嘲気味に笑った。

 

出来ない、やれないといったネガティブな感情は完全に捨てていたがやり切れる自信も同時になかった。

 

ギリギリで発見出来て良かった。

 

これで今度は俺たちが反撃する番だ。

 

連中は最後に勝つのは我々だと盲信しているようだがそれは違う。

 

本当に最後に勝つものは決まっている。

 

それは-

 

「俺達だ」

 

自信に溢れた言葉とその眼は遠く離れた新共和国の残党達をしっかりと見つめていた。

 

 

つづく




今日僕の誕生日なんすよ(また妙なこと言い出すスタイル)

マジですマジ


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反撃の夜

-選択は時に残酷であり美しくもある-


-惑星ウェイランド 第七機甲基地-

アデルハイン中佐は急足で司令室に向かっていた。

 

表情はどこか固くいつもより険しい雰囲気を醸し出していた。

 

背後には直属の副官であるエルミス・ハストフルク中尉と借りたヴァリンヘルト上級中尉が続いてた。

 

現在部隊の最高司令官であるジークハルトとスターファイター隊の指揮官ハイネクロイツ中佐の部隊が敵の砲撃により孤立状態だという事は知っている。

 

そしてそんな彼らが籠る基地から通信が入ったと聞いて3人は急いでいた。

 

曲がり角を曲がり2人のウェイランド兵に敬礼されドアの中へ入った。

 

既に討伐部隊の最高司令官であるヨージェル准将と基地司令官のファウティ中佐が司令室にいた。

 

他にも第六親衛連隊の中隊長や大隊長が数名いた。

 

「状況は」

 

「変わりない、ただシュタンデリス大佐から通信が入っている」

 

「開きます」

 

士官の1人が通信回線を開いた。

 

モニターにジークハルトと向こうの基地司令官であるスクリール中佐、ハイネクロイツ中佐が写された。

 

背後には包帯を巻いたシュリッツ上級中尉が敬礼していた。

 

「大佐ご無事でしたか!」

 

ヴァリンヘルト上級中尉が表情を明るくして尋ねた。

 

『無事なわけあるもんか。連れてきた外人部隊は既に二個中隊が壊滅、今じゃ200人いるかも怪しい』

 

「たった一撃でそれほどとは…」

 

『あの砲の威力と射程距離なら恐らくこちらのAT-ATウォーカーも貫通出来そうだ』

 

モニターの先のアデルハイン中佐やヴァリンヘルト上級中尉達は唖然としていた。

 

AT-ATの装甲を貫通する砲など聞いた事がない。

 

それに長距離を攻撃出来るという事は移動中に場所を特定され攻撃される可能性があるということだ。

 

そうなったら鈍足のAT-ATにとって強敵となるだろう。

 

早めに排除しなければとアデルハイン中佐は思考を巡らせていた。

 

「どうするんだ大佐、このまま包囲を続けても各個撃破される」

 

『だからお前達の本隊が必要だ。砲撃位置はクーデター軍と新共和国残党軍の本拠地であるペルタ基地。ここを連隊で奇襲し敵重砲と指揮系統を完全に断て』

 

「簡単に言う…」

 

『残された戦力で我々が反対側の麓の敵駐屯地を奇襲し注意を引く。その間に基地を潰せ』

 

「だがそれじゃあもし砲撃された時防げないぞ?」

 

アデルハイン中佐は友を思い不安点を口にした。

 

しかしジークハルトはなんの不安もなさそうに答えた。

 

『シールドジェネレーターをいくつか基地に運ぶ。陥落と同時に展開し小規模だが偏向シールドを作り出す』

 

「道はどうする…獣道でシールド担いで通っていくのか」

 

『いや、クーデター軍が使用していた正規の道を使う。ハイネクロイツが見張りを仕留めその間に我々が進む』

 

聞けば聞くほど無茶苦茶で机上の空論もいいところだ。

 

それでもジークハルトの表情から察するにこれ以上損害を出さず早期に脅威を排除する策は思いつかなかったのだろう。

 

本人としては壊滅しても連隊が全滅するよりはマシだとか思っていそうだ。

 

「…わかった、それで作戦を進めよう」

 

「中佐!?本気ですか!?」

 

ハストフルク中尉が大声を出して聞き返した。

 

『頼んだぞ』

 

「こちらもそっちも準備が必要だろう。何日だ?」

 

『全兵が回復するのに1日、部隊の再編成と展開に1日だ』

 

「ならそれだけで十分だ」

 

『いいのか?作戦や部隊編成は』

 

「問題ないさ、そっちこそ頼んだぞ」

 

『わかってる、では頼んだぞ副連隊長』

 

ジークハルトはわざとらしく敬礼し彼を名前で呼ばなかった。

 

それは親友としてではなく同じ指揮官として彼を信頼してくれると言う事だ。

 

答えなければいけない期待が一気に増えた。

 

「今から作戦を伝達する、全ての指揮官を呼んで来てくれ」

 

「はっはい!!」

 

「頼みましたよ中佐!」

 

ハストフルク中尉とヴァリンヘルト上級中尉は急いで司令室を後にした。

 

「中佐…大丈夫なのかね…?」

 

ヨージェル准将は不安そうな表情を浮かべていた。

 

一見すればただ大口を叩いてしまったように見える。

 

だがアデルハイン中佐にはしっかりとした作戦があり勝算がついていた。

 

「准将、この基地の機構兵力を全て借りてもよろしいですか?」

 

「ああ…だが一体どうする?どうやってそんな短期でペルタ基地を陥すんだ?」

 

アデルハイン中佐は不敵な笑みを浮かべた。

 

帝国軍の力を舐めてもらっては困る。

 

たかが地方の防衛軍、しかも寄せ集めのクーデター軍とそれに群がる反乱分子の成れの果てと帝国軍では雲泥の差がある。

 

その力を見せつける時が今だ。

 

「帝国地上軍の、帝国軍のウォーカー部隊の力を連中に見せつけてやりましょう」

 

 

 

 

-帝国領 エクスパンション・リージョン 惑星アウシュ-

この惑星アウシュはクローン戦争時代、独立星系連合の刑務所として使用された。

 

当初は主に捕虜や国内の裏切り者やスパイを収監していた。

 

戦争終結後この地も当然帝国領となった。

 

当時の帝国軍はここに囚われていた同胞達を助け出した後この刑務所を再び再利用した。

 

旧連合の刑務所が今度は帝国の刑務所となったのだ。

 

敵のいなくなった帝国は主に政治犯を主に収容していた。

 

だが敵は現れた。

 

反乱同盟が誕生する前の反乱組織が各地で出現し帝国に対する反抗を始めた。

 

その多くがテロ行為に手を染め民間人を含めた大勢を大義のための犠牲とした。

 

それが良かったのか悪かったのかは帝国が敗北し新共和国が滅んだ今ではわかるはずがない。

 

当然最初はたかがテロリストに負ける帝国軍ではな勝った。

 

次々と連中を降しそれと同時に必要ない捕虜も大勢取った。

 

それでも次の隠れた反乱分子を燻り出す為になるべく生捕にするのが当時の方針だった。

 

この地にもそういった革命家達の成れの果てが集められ尋問を受けた。

 

最初は誰もしもが口を割らず強気な態度を見せていたようだがやがては尋問に屈し知っている事を全て話すか尋問に耐えきれず死ぬかのどちらかだった。

 

この刑務所で得られた情報は次の反乱分子逮捕へと繋がり更に多くの者がこの地で尋問を受けた。

 

またこの刑務所は今まで一度の脱獄者を出した事がなかった。

 

脱獄を図る多くが未然に察知されより強力な尋問を受けた。

 

なんとか計画を実行に移した者も大半が発見され殺された。

 

結果的にこの地は今もなお血塗られた生臭い歴史を隠し続けてきたのだ。

 

そう“()()()()”。

 

崩壊した新共和国はこの地にそんな刑務所があった事さえ知らない。

 

この地に流された者達は皆未だに行方不明者のままなのだ。

 

エンドアでの敗北後この刑務所の所長は急いでコア・ワールドへ帰還する為にとある事を決断した。

 

まず彼は刑務所に収監していた受刑者3,483人を全て殺害した。

 

虐殺の証拠が残らないように全ての遺体を焼却処分した後彼らは急いで刑務所の放棄し撤退した。

 

数十年の歴史を誇った刑務所は内から爆破され更にインペリアル級の軌道上爆撃によりほとんど跡形もなく吹き飛ばされた。

 

帝国内のありとあらゆる公文書からもこの刑務所の情報や言葉は全て抹消され文字通り闇に葬られた。

 

そんな暗黒の歴史の地に再び帝国は足を踏み入れた。

 

その歴史を繰り返す為に。

 

地上に降り建設を指揮する全ての将校が親衛隊保安局の軍服を着た保安局員だった。

 

護衛にAT-STやAT-MPマークⅢやストームトルーパーが周囲を警戒していた。

 

彼らに守られ建設用の重機が簡易的な建物をベースに建設を始めていた。

 

「建設は、順調かね?」

 

このアウシュ収容所の次期所長である親衛隊中佐フェンディット・ヘイスは建設中の収容所を遠くから見つめた。

 

数名の士官が後に続いた。

 

「1週間もすれば完成します。3日後には強制収容と強制移住が始まります」

 

「アイゼルケ大将と総統はなんと?」

 

「慈悲は無用だ、銀河系を“浄化”する為には必要な犠牲だと…」

 

「それは結構、市街地の増築も急げ」

 

「わかりました」

 

一行は高台から建設される市街地と収容所を見つめた。

 

昔ヘイス中佐は誰かに言われた事がある。

 

「この銀河で戦争がなくならないのは忌々しいエイリアンの種族達が我々を争わせ見せ物にしている」と。

 

それだけではなくあの汚れた種族は多種族を奴隷とし命で富を儲けている。

 

以前の帝国は黙認させてきたようだが我々はそれを脱却する。

 

この尊い命の犠牲で銀河は浄化されるのだ。

 

ホロコースト計画

 

一部エイリアン種族の浄化と粛清を目的としたこの計画の舞台がここに定められた。

 

不純な種族を無くすことで銀河系を穢れをなくし争いから解放する。

 

常に争いを起こし悪しき方法で人々を苦しめているのは奴らだ。

 

そんな癌的存在は訴求に排除しなくてはならない。

 

銀河を本当に平和にしたいのであれば。

 

狂った平和への血塗られた道が今生み出されようとしていた。

 

 

 

 

ハイネクロイツ中佐はふと基地内を歩いていた。

 

もう夜中で本来はしっかりと眠って体力を回復する必要があるのだがどうもその気分にならなかった。

 

死は見慣れているが受けれられると言われればそうではない。

 

目の前で顔も名前も知っている同僚が腹に砲弾を受けて胴体が千切れ爆発四散したのだ。

 

今でも彼の衝撃を受け歪んだ顔が脳裏に浮かぶ。

 

下手に考えないように、それを力に戦うと決めてはいたが簡単には割り切れない。

 

指揮官として、兵士として、戦士として失格だなと心の中で思った。

 

だが体力はだいぶ回復したしそこまで精神的なダメージもそこまで深刻なものではなかった。

 

人の死を間近で見て大したことないというのもそれはそれで異常だが。

 

手持ち無沙汰なので彼は基地内を散歩していた。

 

何も考えず通路を歩き気づいたら作戦室前まで来ていた。

 

しかもあまり人気のないはずの作戦室から光が漏れている。

 

誰かいるのだろうか。

 

興味本位で彼は室内に入った。

 

「誰かいるのかってお前かよ…」

 

彼の目の前には気絶したようにホログラムの中に思いっきり顔を突っ込み眠るジークハルトの姿があった。

 

周りにはいくつかの手書きの資料が散乱しておりジークハルトの格好も完全に疲れて限界が来たという感じだった。

 

鼾一つ聞こえず綺麗な顔のまま気絶したように眠っている。

 

だがいびきの代わりに唸り声が聞こえた。

 

ジークハルトの表情が徐々に苦痛に耐えるものに変わり歯軋りも聞こえてきた。

 

明らかに様子がおかしい。

 

何か小さな声でジークハルトが呟いていた。

 

「……すま…ない……私を…許さ……で…くれ……」

 

流石にまずいと思いますったのかハイネクロイツ中佐はジークハルトを揺さぶった。

 

それでも中々彼は起きない。

 

今度は揺さぶりながら声を発した。

 

「おい連隊長!起きろ!寝るなら仮眠室で寝ろ!」

 

ようやく声が届いたのかジークハルトの目はゆっくりと開き意識が戻り始めた。

 

目をパチパチさせゆっくりと起き上がった。

 

頭が少し痛むのか右手で軽く抑えていた。

 

「大丈夫か?疲れてるなら1時間でも寝た方がいい」

 

「いいや大丈夫だ…これから全員を死地に送り込む指揮官が呑気に休む訳にはいかない。少しでも勝率の高い作戦を考えなければ」

 

ジークハルトはそういい立ち上がったがふらつき蹌踉てしまった。

 

彼の言うような大丈夫からは程遠く見える。

 

息も荒いし顔色も悪い。

 

苦々しい表情を浮かべ再び途切れゆく意識を必死に繋ぎ止めている。

 

流石にこれは寝かせた方がいいに決まっている。

 

「休め、出ないと無理にでも仮眠室に連れて行く。そうなったら部下に見られて大変な事になるだろうな」

 

「それは困るな…なら仕方ない」

 

ジークハルトは苦笑いを浮かべながら壁を伝って司令室を後にした。

 

よく見ると彼の手は少し震えていた。

 

何か忘れられない恐怖を感じているかのように。

 

まさか“()()()()()”をまた思い出してたんじゃないだろうか。

 

少し不安になった為ハイネクロイツ中佐は仮眠室に行こうとするジークハルトに一言掛けた。

 

「なぁジークハルト」

 

彼は振り返り疲れ切った表情を中佐に向けた。

 

それにあえての名前呼びにも少し疑問に思っていたらしくキョトンとしていた。

 

「アイツらの分も勝ってやろうぜ」

 

その真意がわかったのかジークハルトは申し訳なさそうな表情を浮かべながら力強く頷いた。

 

これ以上敗北してやる必要はない。

 

それを上回る勝利を手にし奴らに永遠の敗北をくれてやればいい。

 

2人は固く誓っていた。

 

その為には彼は、ジークハルトは悪魔になることも厭わなかった。

 

 

 

 

-コルサント 総統府第一会議室-

総統府の大臣や長官達は新共和国崩壊後より一層忙しくなった。

 

今まで新共和国が支配していた広大な領土が再び帝国の手に戻り今まで従属していた惑星も帝国に戻ってきた。

 

そのせいで今までの倍以上の領土の管理までしなくてはならず休む暇などなかった。

 

軍を手配し要人と握手を交わし帝国の内政にも手を尽くす。

 

全部を1人でやっているわけではないがどれをとっても十分オーバーワークと言っても過言ではない程の仕事量だった。

 

とは言ってもここからがスタート地点なのだ。

 

新共和国に対する勝利などスタート地点に立つための前段階でしかなく本当の政策はここから始まる。

 

ようやく復讐を果たし前に進める。

 

帝国内の要人達にとってはそれが何よりの喜びに感じていた。

 

この総統府第一会議室でも毎日のように会議が続けられていた。

 

「このように初期目標である6つの収容所はもう間も無く完成し強制移住と強制収用がスタートする」

 

ディールス長官は端的にテーブルに映された収容所を説明した。

 

総統が理想とする世界を創るための第一歩でありそのための最初の小さく大きな政策だった。

 

これに反対しることは仮に大臣や評議会のモフや議員でも許されない。

 

たとえ計画の内容がどれだけ非人道的なものであったとしても。

 

「私の報告はこれで終わりだ。どうぞ次に移ってくれ」

 

長官が椅子に座りホログラムが別のものにすり替わった。

 

銀河系の星図が今度は映し出されている。

 

今度はハインレーヒ長官が報告を始めた。

 

「親衛隊と総統府より新たな出兵案が出された」

 

全員の机の前に資料が配布されホログラム状になって目の前に映し出された。

 

オーラベッシュで『第一次ミッド・リム、アウター・リム討伐作戦』と書かれている。

 

その下には主な作戦内容と予定されている兵力の数が記されていた。

 

どの宙域に派遣される部隊もかなり大きなものだ。

 

逆に言えば大きすぎる。

 

「未だ帝国に対する武力抵抗が発生している惑星への出兵案だ。ついでにこの戦いで大幅に残存新共和国軍の戦力も大幅に削る」

 

「第一次ということは無理に一度で終わらせる必要はないという事だな?」

 

「その通りだ、あの計画と同様これは長期的な見方で行う必要がある」

 

「だが兵力が大きすぎる。これでは帝国領内の警備が手薄になるぞ」

 

「そもそもこの案を防衛大臣は承諾されたのかね?」

 

目線が一部ブロンズベルク大臣の方を向いた。

 

大臣は彼らに目線を合わせる事なく答えた。

 

「賛成はしたが承諾はせざる終えなかった。この出兵案は既に総統閣下の絶対命令として配布されている」

 

総統の名が上がり一時的に会議室は沈黙した。

 

それでも他の長官や大臣が反対意見を口にした。

 

「私は反対だ。旧第一銀河帝国が皇帝陛下の崩御後あそこまで新共和国に敗北したのは戦力が大幅に分散していたからだ。その結果指揮系統が独立し互いの欲から争い敗北を重ねやがては本当に大敗を喫してしまった。今ここで戦力が分散されれば同じ轍を踏みかねない」

 

「そうでなくとも今戦力を遠方に配置すれば不安定な旧新共和国領に対する抑えがなくなる」

 

「今はまだ早い…あと少し戦力が増強された時でも…」

 

「だがこれ以上残党をのさばらせておくわけにもいかんだろう」

 

あくまで賛成派であるゼールベリック大臣はそう口出しした。

 

目線がゼールベリック大臣の方に集まった。

 

「各地の惑星の戦力ではもうクーデター軍や新共和国軍を抑えられない。外交官は皆口を揃えて「帝国の力が必要だ」と言っている」

 

「ゼールベリック大臣の言う通り銀河は再び帝国を求めている。ならそれに応えるべきではないか?」

 

産業大臣のバレティン・エイゼンレーベはゼールベリック大臣の意見に賛同した。

 

彼としては解放された惑星から出る資源などが目当てだったのだがそこはあえて言う必要はないだろう。

 

欲の為の戦争よりも大義のための戦争の方が心地よい。

 

会議室の意見は割れた。

 

賛成する者とあくまで反対意見や慎重な意見を浮かべる者。

 

実際は既に総統の絶対命令が出ている為結果は変わらないが彼らの底にある保身からこのように意見が分かれていた。

 

「一応君たちの意見を取り入れより精密な出兵案を作成する」

 

「取り消しはないのか?」

 

ハインレーヒ長官は頷きそれ以上は言わせなかった。

 

反対派は少し不満げな表情を浮かべていたが大きくは反抗しなかった。

 

会議はいくつか議題を変えて朝方から昼頃まで行われていた。

 

数日後帝国軍と親衛隊は正式に再編された『第一次アウター・リム討伐作戦』を発表した。

 

銀河系に再び平穏が訪れるのはまだ遠い先の話だった。

 

 

 

 

あれから二日が過ぎ遂にアデルハイン中佐との会話で交わされた約束の日になった。

 

きっと向こうでも既に戦闘の最終準備が行われている事だろう。

 

既にこちらの基地では戦闘準備が完了し聞くのも最後になるかもしれないジークハルトの演説を聞く為に全員が集められていた。

 

正直言って基地内の兵力の士気は絶望的だ。

 

さっきからあちこちで戦いを拒む声が聞こえる。

 

そのほとんどがウェイランド軍の兵士や精神が限界まで疲弊したスワンプ・トルーパー達だった。

 

彼らもよくやってくれているがもう限界のようだ。

 

ここまで文句ひとつなく続いてくれるストームトルーパー達の精神的な屈強さと有り難さがよく伝わる。

 

むしろ異常なのは彼ら帝国軍の将兵達だ。

 

見えない敵にどこからともなく砲撃されたった一撃で大勢がまとめて死ぬかもしれない。

 

その砲弾はいつ何時降ってくるか分からない。

 

そんな状況下にも関わらずそれでも両軍共に目立った規律違反などは見受けられずよく職務をこなしてくれていた。

 

おかげでここまで繋げる事が出来た。

 

そしてもう一押しだ。

 

その一押しが彼らにとっては地獄となる。

 

とっくに限界の彼らにジークハルトはシールドの外に出て戦う事を強要するのだ。

 

一度地獄を見た彼らに再び地獄に連れ出す。

 

第三者から見れば悪魔の所業としか言えずとても常人ではないだろう。

 

敵の拠点に辿り着く前に砲弾が降り注げば全滅だし仮に辿り着けたとしても生き残れる確証や保証はない。

 

むしろ確実に何人かは死ぬだろう。

 

それは1人2人かもしれないし10人20人かもしれないし100人200人かもしれない。

 

それこそ敵と共に共倒れ全滅するかもしれない。

 

勝利という僅かな希望を得る為には多過ぎるリスクが彼らに待ち受けていた。

 

それでもジークハルトは彼らを地獄へ引き戻す必要があった。

 

それが彼の勤めであり軍人として彼ら全員に与えられた責務を果たす為でもあった。

 

このまま彼らにウェイランドを譲ればなんの大義も政治的な力もない彼らは軍事的な力を行使してこの惑星をその力で蹂躙するだろう。

 

間違いなく自由や秩序、平和とは程遠い世界になる。

 

何せ既にウェイランドクーデター軍は市民の嫌われ者であり多くの都市や街で信頼を失っていた。

 

そんな連中が政権を乗っ取り好き放題すれば結果は誰しもが想像する形となる。

 

きっと数百、数千の犠牲では済まされない。

 

しかも死ぬのは民間人であり戦い命を差し出す事を躊躇わない軍人ではない。

 

ならばここで数百人、数千人の仲間の命を捧げこの惑星の秩序と平和を守る事こそが彼ら軍人に与えられた使命である。

 

使命を全うする為にはジークハルトは悪魔にでもなるしかなかった。

 

基地内の様々な所から多くの兵士達がとぼとぼと集まってくる。

 

俯き何も喋らない兵もいれば小声で雑談しながら歩いてくる兵士達もいる。

 

逆に大声を上げ反抗する兵もいれば己を奮い立たせる為に下手に言葉を振るう兵もいた。

 

皆それぞれ様々な軍服や装備を身に付け所属もバラバラの彼らが同じ場所に集まりつつあった。

 

「なあ…たい…軍曹、この戦い勝てますかね…?」

 

ベール軍曹の部下のスワンプ・トルーパーが1人ボソッと呟いた。

 

周りの数名の兵が彼の方を見つめる。

 

軍曹もどうやって答えようか困っているらしい。

 

彼は最前線の部隊長でしかない為戦い全体を見通す事は得意ではない。

 

だけど部下の不安を払拭する為に一言掛けた。

 

「分からん…が、勝つように戦うしかない。俺たちにきっと敗北は許されない」

 

「それは…死んでも…ですか…?」

 

部下の不安な声は誰にでも分かる。

 

怖いのだ。

 

目の前に迫ってくるように見える死がたまらなく怖いのだ。

 

それを覚悟の上でこの場に来たはずだがその覚悟が甘かったと彼は後悔している。

 

その心情が彼の泳ぐ目に現れていた。

 

「なら死なないように頑張るしかないだろ…それが兵隊ってもんだ…傭兵や武装集団とはまた違う」

 

彼と彼の部下数十名は元々とある辺境惑星で自警団として活動して来た。

 

その為組織的行動や武器の扱いには慣れており外人部隊の中では一際優秀な部隊として認識されていた。

 

だからきっと実際の戦場でも十二分に戦える、そう思って。

 

されど実際の大規模の戦場を目の当たりにして少し心変わりしていた。

 

若干の後悔と生への諦めが部下達数名に現れていた。

 

こう見えてもベール軍曹自体は昔あのクローン戦争で連合側の傭兵として戦った事がある。

 

その為誰よりも大規模戦には慣れている為もう後悔はなかった。

 

後悔は遠く昔の記憶に埋もれ今じゃ自分の目の前を縦断が掠めてもなんの気にもならなかった。

 

だからこそ彼らに少しばかりアドバイスが出来た。

 

「俺…隊長の言う通りにすればよかった…調子こいて体調にも迷惑掛けて…」

 

「そう思うなら生き抜いて見せろ。死体じゃなくてちゃんとしたお前としてな」

 

「はい…」

 

一行はようやく目的の演説会場へと辿り着いた。

 

場所は司令室のすぐ裏で後ろを振り返れば基地の正門が見えた。

 

これでいつでも出撃と言うわけか。

 

多くの者が背後に死の冷たい風を感じていた。

 

まだ演説をするジークハルトや指揮官達はいない。

 

既にストームトルーパーは全員集まっておりスワンプ・トルーパーやウェイランド兵はざっと半分くらいが集まっていた。

 

並びとしてはスワンプ・トルーパー達が一番前でその後ろにストームトルーパー、最後にウェイランド兵といった感じだった。

 

人数が一番少ないストームトルーパーが真ん中にいる為隊列としては少し歪な形をしていた。

 

先に来た兵士達は隣の者と少し雑談していた。

 

どんな作戦を言い渡されるんだとか、どれだけ過激な戦いになるだとか。

 

自分の命を互いに考えていた。

 

そんな事言われる前に考えても意味などないのに。

 

それでも下手に考え頭を抱えるのが人というものだ。

 

「連隊長中々来ないね…」

 

「まだ全員集まっていないからじゃないか…」

 

「逃げたんじゃ…」

 

「バカ言うなよ…!」

 

雑談の中にも不信感と不安感が芽生え始めていた。

 

それは仕方のない事だ。

 

兵士達が全員集まった頃スクリール中佐や外人部隊指揮官唯一の生き残りであるシュリッツ上級中尉、そしてジークハルトが彼らの目の前に立った。

 

しかしあれだけ戦果を挙げていたハイネクロイツ中佐の姿はなかった。

 

ウェイランド軍のいくつかの指揮官も壇上の下に立っている。

 

ジークハルトが壇上に立つと一気に緊張感が増した。

 

真夜中という事もあり周りは静かでその空気が緊張感を膨れ上がらせた。

 

全員の意識と目線が少なからずジークハルトの方を向いている。

 

彼は軍用のコートと軍帽を纏っており今までとは違う雰囲気を醸し出していた。

 

兵士達数千人の様子をざっと見渡し確認すると彼は一呼吸置いて演説を始めた。

 

「それでは麓の敵駐屯地への攻撃作戦を説明する」

 

鋭い電光のようなものが全員に痺れ渡った。

 

震いが彼らの体を襲い落ち着きを無くす。

 

帝国兵のみならずウェイランド軍の兵士達も静かになっていた。

 

「敵が設置した大型山道を通過し敵駐屯地まで一気に進軍する。山道の見張りは現在ハイネクロイツ中佐が掃討中である」

 

説明は更に続いた。

 

間髪入れずされど丁寧にゆっくりと。

 

時間に追われているがだからこそ焦りは禁物だった。

 

彼らにも心の余裕を持たせる。

 

「道中我々は重火器及びシールドジェネレーターを一基運搬する。駐屯地を制圧した際砲撃を防ぐ唯一の手立てだ」

 

兵士達にざわめきが走る。

 

そんな大きなものを運んで奇襲など出来るのかと。

 

「第一目標は敵司令部。此処さえ陥せば駐屯地を完全に陥落させる事が可能だ。そしてウェイランド軍の兵力で駐屯地を取り囲み敵兵を完全に捕縛する」

 

少し間を置き兵士達にジークハルトの言う事を飲み込ませる時間を与えた。

 

こちらの目標は奇襲による司令部の制圧。

 

言葉にすれば簡単だが実際には犠牲が出るだろう。

 

「その為司令部の制圧はストームトルーパー及び帝国軍外人部隊、ウェイランド軍精鋭部隊で行う必要がある。戦いは過酷なものになるだろう」

 

再び兵士達がざわついていた。

 

特に一番目の前にいる外人部隊のスワンプ・トルーパー達が一番ざわついているように見える。

 

何せこの人数で言えば主力は彼ら外人部隊になるだろう。

 

敵の中に飛び込み死を乗り越え戦わなければならない。

 

それは考えている以上の地獄に突き進むという事だ。

 

「だがこの中で再精鋭なのは君達だ。最も優れた兵士が君達なのだ」

 

スワンプ・トルーパー達を見ながらジークハルトは彼らを称えた。

 

だが小達に乗るほど彼らの精神は豊かではなかった。

 

「優れているから死ねというのですか…」

 

誰がか口走った。

 

それは先ほどベール軍曹に心配事を口にしていたベール軍曹の部下の1人だった。

 

隣にいたベール軍曹や仲間が「おい」と注意する。

 

しかし彼はもう止まらなかった。

 

「俺達が優秀な兵士だから死ねって言うんですか…!?」

 

震えた声が彼の心を表していた。

 

彼だって分かってるはずだ。

 

どうせ自分じゃ何言っても変わらないと。

 

するとジークハルトは壇上を降りてトルーパー達を掻き分け彼のすぐ目の前まで来た。

 

彼はすぐ近くに来たジークハルトを見て怯えていた。

 

叱られるのではないか、それ以上に恐ろしい目に合わせられるのではないかと。

 

ジークハルトは優しく彼に声を掛けた。

 

「君は死にたくないのか?」

 

ジークハルトの問いかけに困惑しながらも彼はしっかりとした意思で答えた。

 

「はい…死にたく…死にたくありません!」

 

「そうか…君の名前は?」

 

名前を聞かれた彼はすぐに答えた。

 

アーロ・ゼルテック二等兵です…」

 

「ではゼルテック二等兵、君にあえて聞こう。君は誰かに今君が抱いている同じ思いを味合わせたいのか?」

 

 

 

 

夜の山道はとても暗い。

 

両脇を見渡せば木々の先は真っ暗闇だ。

 

光など何一つなく暗闇がずっと続いていた。

 

一寸先は闇だというどこか知らない場所の諺があるがこれでは一寸どころか自分の足元すらおぼつかない。

 

その諺を考えた奴は多分相当明るい場所にいたんだろうなと皮肉りながら進んだ。

 

ライトは基本各分隊に付き1人しか照らしていない。

 

幾人もライトを点灯しては敵に見つかる可能性が高くなるからだ。

 

最小限の明かりで進む必要があった。

 

その数少ないライトも敵駐屯地が見えたら消す必要があった。

 

なるべく奇襲を成功する確率を上げるためだ。

 

「ジェネレーターは無事か?」

 

「はい。やはり慣れているストームトルーパー隊に運ばせて正解でした」

 

シュリッツ上級中尉がまだ痛む体を押さえながら報告した。

 

その様子を聞きながらアーロがライトで足元の方を照らした。

 

「おいこっちに灯り寄越せよ」

 

「分かってるって…でも一応…足元に何かあったら…」

 

独り言のように喋りながらライフルの先に付いたライトを別の方向に向けるとある者が露わになった。

 

最初は木か何かと勘違いしたがライトをもっと奥の方に向けるに連れてその姿はより鮮明に浮き彫りになった。

 

あまりに唐突であった為アーロは引き攣った声を上げた。

 

「ヒッ!…これは…」

 

ライトをそれの顔の方に向けていく。

 

ヘルメットを被りウェイランド軍の軍用規格であるブラスター・ライフルを持った男が血を流し斃れていた。

 

数名の兵士が前に出て確認する。

 

「見張りの兵士だ…気にするな、行くぞ」

 

「あっああ…」

 

一行はそのまま進んでいった。

 

死体自体は多少見慣れはしたが真っ暗闇の夜中、突然現れる死体は何を経験したって見慣れない。

 

ホラー要素が強すぎて死の恐怖とはまた別の恐怖が心の中に湧き上がった。

 

だが彼らは恐怖を乗り越え進んでいった。

 

「なあアーロ…お前本当に来てよかったのか…?」

 

ふと同僚の1人がアーロに言葉を掛けた。

 

アーロはライトを照らしながら顔だけ向ける。

 

「本当にって…やるしかないだろ…あんな事言われたら…」

 

 

 

 

 

時間は少し前に遡る。

 

「君にあえて聞こう。君は誰かに今君が抱いている同じ思いを味合わせたいのか?」

 

「えっ…?」

 

ジークハルトの真剣な眼差しがアーロを見つめていた。

 

アーロの方はもう訳がわからない状態だった。

 

なぜそんなことを聞くのかと全く別の事を考え始めている。

 

されどジークハルトは彼に向かって質問した。

 

「君と同じ思いを誰かがするのはどうだ?奴らを倒さなければ少なからず人々は死に怯えて生活する事になる。銃口が常に市民の背後に付くだろう」

 

クーデター軍の悪行はアーロも知っている。

 

すでに小規模の町や村が略奪や襲撃に遭い犠牲となった。

 

恐らく治安維持の名目で大都市に侵入した彼らは熾烈な虐殺を繰り広げるだろう。

 

自分たちが此処で戦わないせいで。

 

ジークハルトは彼の肩に優しく手を置いた。

 

アーロは今までにないほど困惑と怯えに苛まれた。

 

彼の言う事が分からないほどアーロは馬鹿じゃないし落ちぶれていない。

 

それでも心の底ではどこか納得がいっていなかった。

 

「そして今日まで戦い死んできた仲間を君はどう思う?彼らは平和の為に戦って死んだ。此処でやらなければ彼らの死は全て無駄になる」

 

「ですが…」

 

「君は逃げてもいい、敵に寝返ってもいい、私をその銃で殺し全てを無意味にしてもいいだろう」

 

鬼気迫る表情がアーロの顔に浮き彫りになっていた。

 

周りの兵達も少なからず同じだ。

 

「では全ては無駄なのか?平和も、人の一生も、人の努力も、全て無意味で無価値なのか?いいや違うはずだ。みんなも聞いてくれ」

 

今度はスワンプ・トルーパー達の中でジークハルトが全員に向かって叫んだ。

 

目には見えなくとも意識が集中しているのを彼は感じ取っていた。

 

「我々は此処で戦わなくてはならない。それは君達が兵士だからではない!それは目の前で死んだ多くの仲間達の為だ!生き残ってしまった我らが彼らの死を無駄にしない為に戦うのだ!帝国や祖国の為ではない。死んでいった者とこれからを生きていく者達の為に戦うのだ!」

 

ジークハルトの声はどこまでも響いた。

 

誰しもが彼の言葉に耳を傾け震える手を必死に隠そうとしている。

 

「私は君たちを地獄に導く。少なからず君たちは何人か死ぬだろう。だがその死は必ず無駄にはしない。必ず敵を倒し明日を生きるこの惑星の市民達の、延いては銀河系に生きる全ての民の為の平和となる。そして平和な未来を見たいのなら共に戦ってほしい!共に生き抜いてほしい!明日を生きる為に今日を犠牲にするのだ!」

 

「じゃっ…じゃあ……俺たちは他人の為に…死んだ奴らの為に……地獄へ行けって事ですか…?」

 

「そうだ。我々には生き延びた贖罪と戦う為の義務があり、そして我々自身も生きる義務がある。それは必ず果たさねばならない。それを果たす為には君の言う地獄へ、戦場へ向かうしかない」

 

此処で喚こうと彼らの運命は変わらない。

 

きっと彼らの思う通り兵士になどならなければ、此処に配属されなければこんな地獄味わう事なく一生を終えたのだろう。

 

だが彼らは一度選んでしまった。

 

兵士として戦う事を。

 

どんな安い理由であろうと、重い決意であろうとそれは彼ら自身の選択だ。

 

その選択の末の義務を果たす必要がある。

 

たとえそれが死を間近にした戦場であっても。

 

だからこそジークハルトは再び彼らに選ばせていた。

 

誰かに選ばされて地獄に向かうか、それとも自分の意思で再び地獄の戦場へ向かうか。

 

結果は同じだがそこで見える景色はだいぶ違う。

 

選ぶのは指揮官や上官ではなく兵士一人一人にあった。

 

「私は君達に頼む!この僅かな一戦に命を賭けてくれ。死んだ者に顔向け出来るよう、これ以上市民が死なぬよう、そして過去の自分を自分自身で恥じたくないなら、明日を誇れる自分自身でいたいなら戦ってくれ!どうかこれ以上後悔しない道を選んでくれ!」

 

全員に重たい選択を迫る言葉を並べながら彼は兵達の間を潜り抜け正門まで向かった。

 

その先に彼らの目指す参道と駐屯地がある。

 

この門を抜ければ偏向シールドの守りはなくなり敵の砲撃圏内へと足を踏み入れる事となる。

 

ジークハルトは彼らを横目になんの躊躇いもなく門を抜けた。

 

もしかしたら今砲弾が飛んでくるかもしれないのに。

 

恐怖はないのか。

 

数名の兵士達にその言葉が脳裏に過った。

 

恐怖がない訳ではない。

 

兵士を地獄に導くと言う罪の意識も当然ある。

 

だからこそ彼は先頭に立つ必要があった。

 

続いてくれる者を導く為に。

 

覚悟を示す為に。

 

そこには普段家族や同僚に見せるジークハルトはいなかった。

 

まるで多重人格のような変貌ぶりだったが間違いなく彼は1人だ。

 

指揮官としてのジークハルト・シュタンデリス大佐の面がただ前面に出ているだけだった。

 

そして彼は最初にして最後の一言を掛ける。

 

「これより敵駐屯地攻撃作戦を開始する。共に戦ってくれるものは私に続け!!」

 

風の僅かな音すら聞こえない静寂がその場を包んだ。

 

秒数で言えば十秒にも満たないがその場にいる全員には何分にも、何十分にも、何時間にも感じられた。

 

その僅かな間の時間で兵士達1人1人が考えていた。

 

自分は何を選ぶのか。

 

地獄か、恥に塗れた一生か。

 

死ぬかもしれない戦場で全力を掛けて他人を守るのか、自分だけ生き残るのか。

 

絶対はなくとも可能性は極端に分かれていた。

 

だが全員が、多くの者が後者を考えた瞬間脳裏には死んでいった仲間達の光景が浮かんだ。

 

生きていた間の彼ら、死んで死体となった無惨な彼らの虚無の表情がどうしても離れなかった。

 

だからどうしても後者を選ぶ事が出来なかった。

 

死んでいった者達の瞳が彼らに戦えと叫んでいた。

 

それは呪いかもしれないし或いはただの自責の念かもしれない。

 

だが決断の材料としては十分だった。

 

直後一番奥にいたはずのスワンプ・トルーパーとストームトルーパー達が集まって来た。

 

足取りはそれぞれそれでも全員がジークハルトの下に集まって来た。

 

恐怖を押し殺す表情はあっても後悔はなかった。

 

その後にウェイランド軍の兵士達が続いた。

 

誰1人として逃げなかった。

 

指揮官達もその様子を見送るとジークハルトの下に集まってきた。

 

シュリッツ上級中尉に至っては「待ってました」と言わんばかりの表情だ。

 

本当に彼らがいて良かったと思う。

 

恐怖に打ち勝てる彼らで。

 

贖罪が糧となる彼らで。

 

後は勝つだけだ。

 

「よく共に来てくれた。君達は今銀河で一番勇敢な兵士だ」

 

もう褒め言葉として受け取る余裕すらなかった。

 

それでもいい。

 

続いてくれるならなんだって良かった。

 

後の責任は全て自分に、ジークハルトにあるのだから。

 

「では我々は前進する。行くぞ!!」

 

兵士達全ての篤い大声が響いた。

 

こうして彼らは1人としてかける事なく戦場に向かっていった。

 

 

 

 

「見えたぞ!例の駐屯地だ!」

 

部隊の足が一時的に止まる。

 

エレクトロバイノキュラーやマイクロバイノキュラーで確認するスワンプ・トルーパー達を側にジークハルトは一番前に出た。

 

あの様子じゃハイネクロイツ中佐は全ての見張りの兵を倒し進路を切り開いたようだ。

 

駐屯地の方もこちらには気付いていない。

 

此処まではジークハルト達の勝ちだ。

 

「ウェイランド軍と運搬部隊は此処で待機。外人部隊とストームトルーパー全隊で予定通り攻撃する」

 

「了解」

 

「全隊、少し駆け足で行くぞ。我々の攻勢が始まったら全隊で包囲線をしけ」

 

「わかりました」

 

トルーパー達が一斉に進み出した。

 

下り坂だった為上りよりも時間は掛からず敵は1人として生かされていなかった為全員が無事に麓近くまで辿り着いた。

 

「早かったな。こっちはもう準備万端だ」

 

「ああ、何から何まで任せてすまない」

 

「こいつは勲章もんだよ全く…パイロットがやる事じゃないっての」

 

「全く面目ない。全隊、攻撃フォーメーションだ」

 

武器の安全装置を外し運んで来た重火器をセットしたりしていた。

 

いつでも先端は開かれる状態となった。

 

「向こうの索敵能力は?」

 

「どうも連中は目も耳も鼻も悪いらしい。多分だがセンサーがないに等しい。ほとんど目視確認だ」

 

「それは助かる、先行第一分隊はこのまま予定地まで前進しろ」

 

「はい大佐」

 

ストームトルーパー数名が草むらに身を隠しながらギリギリまで駐屯地へ進んだ。

 

これで大体用意は整った。

 

後は命令一つでスタートだ。

 

「中佐、まもなく開始する。準備を頼む」

 

『了解大佐。お気をつけて』

 

通信機を切ると後ろにいる外人部隊のスワンプ・トルーパー達、ストームトルーパー達に話した。

 

「これから戦いが始まる。必ず勝つぞ」

 

全員が力強い頷きを見せた。

 

全てにおいて問題はない。

 

後は戦うだけ。

 

「始めてくれ、ハイネクロイツ」

 

「あいよ」

 

ハイネクロイツ中佐はスイッチを手に持ちその少し硬めのボタンを押した。

 

直後信号が送られ駐屯地内のいくつかの見張り台や砲塔、倉庫などが一斉に爆破された。

 

静かな夜間の空に爆発音が響き渡る。

 

後ろを見ると状況を察したウェイランド軍と運搬部隊が下山し始めている。

 

前方では既に重火器を装備した先行部隊が敵に強烈な一撃を繰り出していた。

 

奇襲を受けた敵兵は混乱状態だった。

 

「全隊!進め!!」

 

全員が大きな掛け声と共にブラスターを前に構えて前進した。

 

彼らを傍にEウェブの高火力が応戦しようと姿を見せた敵兵を蒸発させる。

 

その間にハイネクロイツ中佐も何度目か分からないジェットパックによる空戦を始めた。

 

敵を上空から狙い撃ちアタッチメントに付いているグレネード弾を二発司令部近くに放った。

 

そしてジェットパックに備わっているミサイル弾を一発唯一残っていた砲塔に喰らわす。

 

これで敵は砲撃戦が不可能となった。

 

その間にも中佐は間髪入れず敵兵に銃弾を喰らわす。

 

相変わらずただのパイロットとは思えないほどの戦闘能力だ。

 

並の歩兵など軽く上回っている。

 

既に分隊規模の兵力が中佐1人に苦戦して壊滅状態だった。

 

そして地上では大勢のスワンプ・トルーパーやストームトルーパーの部隊が駐屯地内に突っ込んだ。

 

簡易的な駐屯地らしく建物が少なく視界がとてもいい。

 

と同時に自分の身を隠す場所も少ない。

 

その為目的の場所まで攻撃しながら突っ走るしかなかった。

 

「うぉぉ!!あぁぁぁ!!」

 

泣き叫びそうな声を上げながらアーロがE-10の引き金を引き進んだ。

 

自分の真横や足元に何度もブラスターの弾丸が掠め飛んだ。

 

敵兵や上空のハイネクロイツ中佐や他の部隊に気を取られておりこちらに全火力を叩き込む事は少なかった。

 

兵力差で言えば今の所自分たちが優っているように感じられる。

 

このままいけば勝てるという淡い期待がどんどん大きなものとなった。

 

だがそんなに戦場は甘くはない。

 

敵兵が組み立て式のブラスター砲を持ち出してきた。

 

それに気付いたアーロは急いで大声を上げる。

 

「敵のブラスター砲だ!!隠れろ!!」

 

アーロは急いで近くの瓦礫に身を隠した。

 

直後ブラスター弾が放たれアーロの隠れる瓦礫をいくつか粉砕したのち気付くのが遅れた仲間の兵士達数名を肉片へと変えた。

 

また仲間が死んだ。

 

また自分だけが生き残ってしまった。

 

彼の罪が一つ増えた気がした。

 

反撃しようにも敵の火力が強すぎてこちらではどうしょうもない。

 

「クソっ!此処まで来て足止めかよ!!」

 

苛立ちながらどう敵を倒すか大した知識のない頭で考え始めた。

 

次第に息が荒くなる。

 

すると何処かから声が聞こえた。

 

「しゃがんでろ!!」

 

聞き馴染みのある声だったし何よりその危機を伝える言葉に反応したアーロは急いで頭を抱え蹲った。

 

すると彼の上空を1人のスワンプ・トルーパーが駆けた。

 

直後ブラスター弾が一発聞こえそれ以上ブラスター砲が威力を示す事はなかった。

 

恐る恐る顔を出すとそこには敵を警戒する仲間の姿があった。

 

「お前は…ランスか…?ランス・バルベッドか?」

 

ランスは伍長でアーロはそれよりも階級は低いがタメ口だった。

 

彼がそれでいいと言ってきたのだ。

 

2人の仲はそれほど深くはないがかと言って悪いものでもなかった。

 

「アーロじゃないか!軍曹はどうした?」

 

「俺は別部隊に斥候を頼まれた。軍曹達は今頃反対側の兵舎を陥しにいってる」

 

「なるほど、じゃあアーロ、私について来い」

 

「ついて来い?どこへ行くつもりだよ!」

 

「最大目標の兵舎だ。此処からが一番近い!」

 

ランスはE-11で次々と敵兵を撃ち倒しながら更に奥へ奥へと進んだ。

 

仕方がないのでむしゃくしゃしながらもアーロはランスに続いた。

 

ランスが持つE-11はアーロのE-10より遥かに高性能で次々と正確な射撃で敵兵を仕留めていった。

 

それにランスとアーロの間にはとてつもない練度の差があった。

 

訓練した期間は一緒だがランスの方は最初から規律やらなんやらが整っている状態だった。

 

ともかく彼ら2人はどんどん進んでいった。

 

クーデター兵達は皆駐屯地全体を防衛しようと散開しており司令部までの兵力がだいぶ少なくなっていた。

 

「このまま真っ直ぐ行く!」

 

「でもどうやって司令部をやるんだよ!」

 

「大量の爆薬を突っ込む!そうすればきっと吹っ飛ぶ!」

 

「無茶苦茶だが簡単でいい作戦だな!わかった続く!」

 

アーロは元々は単純な奴だった。

 

自警団に入ったのも外人部隊に入隊したのも彼が単純で世界を知らなかっただけだ。

 

だからこそさっきは苦しんでいたのだが。

 

その為ランスの作戦にはすぐ賛同出来た。

 

下手に入り組んだものよりまとめて吹っ飛ばした方が分かりやすい。

 

「おいあれを見ろ!」

 

するとアーロが空を指差した。

 

その先には敵兵を上空から蹴散らすハイネクロイツ中佐の姿があった。

 

パイロットスーツの配色のせいで完全に真夜中の空と溶け込んで気付けない。

 

「中佐!!中佐!!」

 

「おい呼んでいいのかよ?」

 

「司令部を陥すには中佐の力が必要だ!中佐!」

 

ハイネクロイツ中佐は気づいたのかこちらに向かってきてゆっくりと着陸した。

 

そして2人に続く。

 

「どうしたお前達?」

 

「敵司令部を爆薬で吹っ飛ばします。協力できますか?」

 

「だとよジークハルト、どうする?」

 

既にコムリンクで繋がっていたジークヘルとに中佐は判断を仰いだ。

 

『敵兵の捕虜を取る必要はない、一気に吹き飛ばせ』

 

「だとよ、俺が上から援護するからアーロとランスはそのまま突っ込め!頼んだぞ2人とも」

 

「了解!」

 

「はい中佐!!」

 

余裕のない表情を浮かべながらアーロは前方の敵に銃撃して倒した。

 

周囲を見渡すと再びジェットパックを点火したハイネクロイツ中佐が空へと浮かび上がり敵兵を攻撃していった。

 

2人は言われた通り突っ込んだ。

 

どこから来るかも分からない敵兵の存在が2人を、特にアーロを追い詰めた。

 

彼の息は荒くなり足取りも乱れかけた。

 

何度も心の中で落ち着けと言っているのだが簡単には落ち着けない。

 

現れる敵兵のほとんどがランスのE-11の犠牲となっていった。

 

これではE-11が強いのかランスが強いのか分からないななんて思いながら心を落ち着かせる。

 

「見えた!敵の司令部だ!」

 

「どれが本丸なんだ!?」

 

必死に走りながらアーロは問い詰めた。

 

同じ形状の建物が3つ並んでいる。

 

どれか一つに敵の司令官がいるのだと思うがこちらではその様子が分からない。

 

「全部吹き飛ばすぞ!私は向こうをやる。お前はあれをやれ!」

 

爆弾の束を投げ渡されるとおぼつかない手でアーロは掴んだ。

 

危ないなと思う心の余裕すらない。

 

「起爆したら30秒で吹き飛ぶから急いで投げろ!」

 

「わっわかった!」

 

「それじゃあな!爆発にビビって小便ちびるんじゃないぞ!」

 

「お前こそ!」

 

アーロは爆弾を抱えながらギリギリまで司令部に近づいた。

 

すると司令部の警備兵が数人アーロに気づいた。

 

「敵だ!!撃て!!」

 

数発のブラスター弾が彼に降り注ぐ。

 

なんとかE-10で反撃しながら必死に走り抜ける。

 

一発あたり兵士が1人死んだがまだ敵はかなりいる。

 

仕方がないので爆弾の束から一つ引き抜きスイッチを押して敵兵に投げつける。

 

言われた通り爆弾は30秒後に起爆し敵兵全員を巻き込み大きな爆発を起こした。

 

凄まじい威力で敵兵は肉片一つ残らなかった。

 

またその様子に気づいた司令部の一つと思われる建物のドアが開いた。

 

きっと様子を見に来たのだろう。

 

これは好都合だ。

 

自分でドアを開ける手間が省ける。

 

急いで爆弾の一つを起動し全てをドアの向こう目掛けて投げつける。

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

彼の期待通り爆弾を抱え切れなかったドア近くの兵士ごと建物は木っ端微塵に爆発した。

 

その余波が隣の建物まで巻き込む。

 

それと同時に隣の建物も、更に隣の建物も爆発した。

 

きっと同じようにランスも成功させたのだ。

 

この時アーロの心には僅かながら成功の喜びが湧き出ていた。

 

自分はやり切ったのだと。

 

その一瞬の余裕が彼を危機へと誘った。

 

「あそこに敵がいるぞ!!」

 

「司令官の仇だ!!」

 

なんと生き残った敵兵が彼に気づいたのだ。

 

アーロがそれに気づいた時にはすでに敵の銃口は彼に向けられていた。

 

まずい。

 

これでは銃弾を喰らって自分も死んでしまう。

 

僅かな時が彼の脳をフル回転させた。

 

一瞬だけ走馬灯と呼ばれるものすら見えた気がした。

 

だが彼は死ぬ事はなかった。

 

上空を飛んでいたハイネクロイツ中佐が全ての敵兵を撃ち飛ばしアーロを守り切ったのだ。

 

ヘルメット越しで表情は見えなかったがきっと力強い笑みを浮かべている事だろう。

 

それはアーロも同じであった。

 

晴わたる生への喜びが彼らを包んでいた。

 

 

 

 

-ウェイランド クーデター軍及び新共和国残存軍領 ペルタ基地-

この駐屯地の陥落は戦闘開始から約12分後に伝わった。

 

1人の士官が慌てて司令室まで飛んで来たのだ。

 

当然報告する相手はパルベン将軍だ。

 

報告に来た士官も新共和国所属であるし情報を掴んだのも新共和国軍であったからだ。

 

「将軍!!友軍の偵察部隊からの報告によると…第六駐屯地は陥落しました…生存者はなしとのこと…」

 

その時パルベン将軍はレーションを食しホロテーブルに向かっていた。

 

コンマ何秒もかからずに振り返りすぐに命令を出した。

 

「駐屯地ごとBV砲で吹き飛ばせ。シールドから出てきた敵を殲滅する唯一のチャンスだ」

 

「分かりました!!」

 

士官は再び飛んで命令を伝えにいった。

 

すると隣でその様子を聞いていたブラウンス中将がパルベン将軍に駆け寄ってきた。

 

「将軍…まだ少し早すぎるのではないか…?捕虜の確認をしてからでも」

 

「そんな事をしていては敵に逃げられてしまう。今勝利に浮かれる敵をまとめて吹き飛ばすのが勝利への最善策だ」

 

「だがまだ味方の兵力がいる可能性が…」

 

「味方の兵力がいても撃つのだ。少数の犠牲で敵を殲滅出来る」

 

パルベン将軍は冷酷で非常な判断を下した。

 

その決断に納得のいかないブラウンス中将はパルベン将軍に食い下がった。

 

「あの駐屯地には確かにクーデター軍しかいない。だから撃つのか?」

 

「そうではない…必要な犠牲だから攻撃するだけだ」

 

「あそこにいるのは俺の部下だ!決定権は俺に…」

 

「BV砲の使用権は我々にある!どうか邪魔しないで頂きたい。急いで砲弾を詰めろ!」

 

それ以上ブラウンス中将に喋らせない為に彼の部下2名が間に入った。

 

どうにも解せない。

 

パルベン将軍ら新共和国残存軍は彼らクーデター派をまるで番犬のように扱っていた。

 

次々と犠牲になるのはクーデター軍であり新共和国側の流血は微々たるものだった。

 

まさかこのまま我々を使い潰すつもりなのではないか。

 

そんな疑念と不安がブランウス中将の脳裏に過った。

 

そう考えると目の前の新共和国将軍が堪らなく憎く感じる。

 

彼の冷徹さがまるで自分たちを嘲笑っているようだ。

 

だが彼に妙な疑念を抱かせる時間はなかった。

 

次の瞬間とんでもない報告が入って来たからだ。

 

「報告!!上空にインペリアル級三隻、ゴザンティ級数十隻を確認!!これは…帝国軍の降下部隊です!!」

 

報告を聞いた途端パルベン将軍の顔が引き攣った。

 

あり得ないと言った表情だ。

 

最悪の報告は立て続けに繰り返された。

 

「全方位よりウェイランド軍機甲部隊、帝国軍ウォーカー隊接近!!数は計り知れません!!」

 

「バカな…レーダーは何を…」

 

あのパルベン将軍が大きく狼狽している。

 

それほど衝撃的だったのだろう。

 

「ジャマーを検知…将軍…」

 

士官の1人が絶望的な表情でこちらを見ている。

 

将軍重同じ面持ちだ。

 

直後司令室に轟音が響き大きな振動に襲われた。

 

立っていられないほどの振動だ。

 

「なっなんだ…!?」

 

ブラウンス中将はらしくない声を上げ周囲を見渡した。

 

一方のパルベン将軍は全てを察知していた。

 

鋼鉄のバケモノ(ウォーカー)”が降下に成功してしまったのだと。

 

耳を澄ますと特徴的な歩行音が聞こえた。

 

その直後聴き慣れた重レーザー砲の音と爆発音が響き再び振動に襲われた。

 

兵達の悲鳴や逃げ惑う声がこの司令室からでも伝わる。

 

立ち上がり司令室の窓から外を見渡すとソイツはいた。

 

地を眺め血のように真っ赤な重レーザー砲を放ち地獄を作っていた。

 

誰が見ても敗北を想起させるものだった。

 

あのパルベン将軍でさえ青ざめている。

 

他の将校もこの世の終わりのような顔で基地から逃げ出そうとしていた。

 

するとパルベン将軍とヤツの目があった。

 

赤いあの無機質な目がこちらを見つめる。

 

すると将軍の息が突然荒くなってきた。

 

昔の事を思い出した。

 

あのデカブツに囲まれた地獄のような戦場を。

 

こちらの攻撃は何一つ通じずまるで虫けらのように仲間が殺されていく絶望感を。

 

そして彼はふとらしくもない事を言った。

 

「終わりだ…」

 

窓に映るAT-ATを見つめながら将軍は全ての終わりを悟ったのだ。

 

 

つづく




ご立派な演説ってのはなかなかに大変っすね()
そしてもう16話か
頑張って早く終わらせないと(もう次の話書きたい民)


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鋼鉄の巨人

-戦いの真の目的を知る者は少ない-


 

-ウェイランド軌道上 ISD アダプテーション-

時は2日ほど遡る。

 

あの後アデルハイン中佐は急いで連隊の指揮官達に作戦を説明した後味方の基地を一回経由して宇宙へと上がった。

 

敵の砲撃範囲がどれほどのものか分からない以上なるべく遠くから移動するのが望ましい。

 

移動中に砲撃されて戦死してはジークハルトにも連隊にも面目が立たない。

 

だがアデルハイン中佐の考えは正しく多少時間は掛かった物の彼らと彼らの運んだ兵器は無事に軌道上の艦隊まで辿り着けた。

 

彼らが移動した頃には艦隊の前に艦船の破片が散らばっており戦闘が行われた事を想起させた。

 

見たところ友軍艦隊に損害はなく一方的な戦いだった事が分かる。

 

ラムダ級でインペリアルⅡ級スター・デストロイヤー“アダプテーション”に向かったアデルハイン中佐一行は艦隊司令官の下へ急いだ。

 

司令官ラインス・ヴェルゼゲルト中将はアダプテーションのブリッジで素っ気なくも暖かく歓迎してくれた。

 

「ご苦労中佐。現状は理解している」

 

「では中将、急いで降下隊形に入りましょう。陽動部隊としてシュタンデリス大佐の隊が動き出す前に」

 

「そうしたいのは山々だがこちらも問題が発生している。君たちに与えられる艦は多くてインペリアル級一、二隻のみだ」

 

「十分ではありますが何故ですか?」

 

たかが基地の上空を封鎖しゴザンティ級と部隊を降下させるのにはインペリアル級が一隻いれば十分だ。

 

むしろ的基地にシールドさえなければインペリアル級の軌道上爆撃ですぐ方がつく。

 

既に敵基地に強力な惑星シールドが検知されている為その戦術は叶わないのだが。

 

それよりも不思議なのはインペリアル九一隻に限定する事だ。

 

アークワイテンズ九一隻やグラディエイター級一隻と言われれば流石に反論せざる負えないがこの場合はそうではない。

 

「道中見た通り先程艦隊戦が発生した。恐らくクーデター軍の分艦隊だとは思うが何かが妙だった」

 

「妙とは?」

 

「敵艦に数隻新共和国のマークを入れた艦があった。新共和国からの贈り物なら納得が行くがどうもおかしい」

 

それもそのはず、敵は新共和国の残存軍と結託しておりそのせいで地上部隊も損害を少し被ったのだから。

 

あの連中がいなければ今頃包囲殲滅戦で無条件降伏させている。

 

態々あのデカブツ達だって宇宙に運ぶ必要はなかった。

 

新共和国は常に我々の邪魔ばかりするとアデルハイン中佐は苛立っていた。

 

「それは敵が新共和国の残存軍と手を結んでいるからです」

 

「やはりか…ならば近い内に敵の反抗作戦が開始されるだろう。地上はともかく艦隊はな」

 

「そんな状況下でありながら何故我々にインペリアル級を?」

 

ヴェルゼゲルト中将は軍帽を被り直し彼に説明した。

 

「敵は恐らく地上と両方で総攻撃を開始するだろう。だから敵の攻勢が始まるより前に敵を引き摺り出す」

 

「つまりそのために陽動として我々が地上への攻撃し窮地に陥り敵が出現した所を艦隊で叩くと?」

 

「その通り、敵を殲滅するための囮部隊になってもらう。当然地上でも勝ってくれないとこちらとしても困るので宇宙の事は気にしなくていい」

 

中将の艦隊はインペリアルⅡ級八隻、アークワイテンズ級十四隻、グラディエイター級二隻、クエーサー・ファイア級一隻の編成だ。

 

またヴェルゼゲルト中将自身も五度の艦隊戦に今まで大勝した事があり能力も申し分なかった。

 

複雑な作戦ではあるが敵を殲滅するには理に叶っており何より味方を見捨てないという新共和国の弱点に漬け込んだ見事な策略だ。

 

確かにインペリアル級が友軍の基地を攻撃している様は絶望的であり憎悪を引き出させるだろう。

 

それにヴァルゼゲルト中将の作戦ならこちらの作戦も下手に変更する必要はない。

 

ジークハルトが作り出す陽動をさらに陽動に使い艦隊ごと新共和国軍を殲滅する。

 

複雑な戦いになりそうだが現状で一番良い策だろう。

 

「よければ奇襲で壊滅させそれでも無理なら挟み撃ちで完全に殲滅する。それで作戦はいつ行われる?」

 

「二日後です。急ぎましょう、早くこの惑星も解放してやりましょう」

 

「ああ、亡き陛下の宝玉ともご対面したいところだしな」

 

「陛下の…?」

 

微かな噂話だがウェイランドには故シーヴ・パルパティーン皇帝の巨大な宝物庫があると言う話だ。

 

真実かどうか帝国軍人でも不明な所だがおそらくそれのことを指しているのだろう。

 

「いやなんでもない…私は少しこう言うオカルトチックな話が好きなのでね。再び帝国に勝利を捧げよう」

 

「はい、亡き皇帝陛下の為にも!」

 

今戦いに乗り出そうとしている友の為にも。

 

彼は心の中でそう付け足した。

 

 

 

 

ゴザンティ級からのウォーカー降下というのは何も珍しい事ではない。

 

艦隊から部隊を展開する時は少なからずゴザンティ級や現在では使用例の少ないATホーラーに運ばれ降下したりする事はよくあった。

 

ジークハルトだってアデルハイン中佐だってよくやっている。

 

だが敵基地の直上から一気に降下する事は前例がほとんどない。

 

何せ敵の砲火に晒されて仕舞えばゴザンティ級やウォーカーが撃破されてしまう可能性が大いにある。

 

AT-ATだって無敵ではない。

 

特に腹部の装甲はコックピットや胴体と比べてさほど高くない。

 

基地のレーザー砲の威力なら腹部の装甲を貫き撃破する事も可能だ。

 

その為基本は基地のギリギリにAT-ATを降下させ前進し基地を制圧するという流れになっている。

 

だが今回は時間がなくそんな悠長に突進していてはジークハルトの言った砲にやられ何も出来ず全滅してしまう。

 

それだけ限られた状況下では多少無茶苦茶な戦術も使わざる負えない。

 

当然勝率を上げる為の細工は既にしてある。

 

だが不安感というものはどうしても払拭出来なかった。

 

「エリートAT-ATか…」

 

「先日のホズニアン・プライム攻撃でストライク1が破損し代理としてこの機体が…」

 

インペリアル級のブリッジの中でアデルハイン中佐と甲板士官のグリッジ中尉がゴザンティ級にドッキングされている黒いAT-ATを眺めていた。

 

中尉の言う通り本来ジークハルトが指揮するストライク1はこないだのホズニアン・プライム戦で敵機の特攻を受けて損傷した。

 

幸い前足一本が大破するだけで済み修復は比較的楽ではあったのだがどうしてもこの戦いまでには直せなかった。

 

その為戦力増強の意味合いも含めて補充としてエリートAT-ATが1機配備されたのだ。

 

通常機よりも装甲や火力が高く何より今まで培ってきたデータから足回りの兵装がだいぶ強化されてる。

 

ホス戦のようなケーブルで転倒させ撃破などはもう不可能だ。

 

と同時に貴重品でありアデルハイン中佐でさえも気の期待を見る事は殆どなかった。

 

「一応指揮官機ですので中佐がご登場していただく事になりますが」

 

「そうだな…私のストライク2はニーゼンエルクに任せよう」

 

「わかりました。パイロットは?」

 

「パイロットは変えなくていい、ありがとう中尉」

 

「中佐とエリートAT-ATの活躍期待してますよ!」

 

グリッジ中尉に見送られながらアデルハイン中佐は新しいストライク1へと向かった。

 

既に整備や弾薬の装填は完了しており数名の技師官が異常はないか外からチェックしていた。

 

隣には元乗機のストライク2が同じようにゴザンティ級にドッキングされている。

 

灰色の装甲を持つストライク2と違ってこのストライク1は誰でもわかるような威圧感を持たせた黒い装甲が印象的だ。

 

実際この黒色は敵に威圧感と恐怖を与える為に塗装されており新共和国軍ではこのウォーカーが戦場の幽霊や化け物の類として語り継がれていた。

 

そんなウォーカーが今から降り注ぐペルタ基地の敵はさぞかし不幸なことだろう。

 

いきなり空に隠れて降り立ったウォーカーに文字通り蹂躙される。

 

しかもこのゴザンティ級には少し工夫がされているので敵はギリギリまでこちらに気づく事はない。

 

気づいた時には死が迫っている。

 

可哀想ではあるが同情はしない。

 

既に敵は同じように仲間の命を奪ったし銀河の秩序を乱した奴らに慈悲を与える必要はない。

 

アカデミーの教官にも歴代の上官達にも同じ事を言われてきた。

 

「中佐、全隊降下準備完了しました!」

 

外でゴザンティ級の艦長達と連絡を取っていたハストフルク中尉が敬礼し報告した。

 

周りの数名の艦長達も同じように敬礼している。

 

ゴザンティ級の艦長は基本尉官や高くても少佐程度。

 

今の彼は名の通り中佐でありこの場の誰よりも階級が高かった。

 

その為敬礼と敬語で迎えられるのは当然の事だった。

 

「降下に備えて全員ウォーカーの中で待機。予定通りに作戦開始だ」

 

「了解」

 

艦長達はそれぞれの持ち場に戻りハストフルク中尉もアデルハイン中佐もそれぞれAT-ATの中へ入った。

 

機体の中には既に攻撃部隊のジャンプトルーパーいてコックピットに向かえばAT-ATパイロット2人が機体の状態をチェックしていた。

 

先に気づいたのはWD-211の方でその後にWD-212が敬礼しコックピットに彼を迎え入れた。

 

「新型機だが操作はどうだ?」

 

一応エリート2人に尋ねてみた。

 

慣れ親しんだ機体ではない為不調子なのかもしれない。

 

そう言った可能性も考慮してだった。

 

「問題ありません、以前のAT-ATより断然性能がいい」

 

「指揮能力も大幅に強化されています」

 

2人とも冷静に機体を見極め完璧に運用出来るという確固たる自信が湧き出ていた。

 

どうやら微かな不安は杞憂だったらしい。

 

なら後は実行に移すのみである。

 

「予定通りスカウト隊のジャマー配置を行い全部隊を展開する。ストライク・スカウトは?」

 

「配置完了です。ご命令でいつでも降下出来ます」

 

「ウェイランド軍の機甲部隊は?」

 

「全隊配備完了です」

 

知ってはいたがウェイランド軍の機甲部隊の動きは中々良い。

 

帝国軍ほどではないがそれに追随出来る程の練度を誇っている。

 

おかげで今回の作戦を遂行する事が出来そうだ。

 

「甲板士官並びにゴザンティキャプテンへ、出撃だ。降下準備に入る」

 

『了解中佐』

 

直後ゴザンティ級を止めていた安全装置が外れ薄い偏向シールドをゴザンティ級数隻が易々と突破した。

 

そうすればもう宇宙空間だ。

 

他の数隻のゴザンティ級はもうそれぞれの位置に待機している。

 

敵のセンサーを考慮すればこれがギリギリの距離だ。

 

これ以上踏み込むと敵のセンサー範囲内に捕まり作戦は失敗してしまう。

 

失敗しなくとも余計な損害を被るだろう。

 

せっかくの奇襲の効力も半減してしまう。

 

まあその心配は後少しすれば消え去るのだが。

 

「中佐、全スカウト部隊からジャマーの設置と一部シールドの破壊に成功したと」

 

ほら来た。

 

流石は第六親衛連隊のスカウト・トルーパー隊である。

 

予定から1秒たりとも遅れていないし早くもなかった。

 

これで最高の舞台が揃った事になる。

 

敵の索敵能力はほぼないに等しくシールドも一部機能していない。

 

今頃殆どの砲塔がジークハルト達のいる山の方へ向いているだろう。

 

何せ敵は山の方にいると思っており軌道上から降下してくるとは予想だにしていないはずだ。

 

制圧を手早く済ませれば強力な敵の放火を浴びずに済む。

 

特にジークハルト達を攻撃したあの重砲。

 

あれの威力を喰らわずに戦いを終える事が出来るのは好都合だ。

 

「ストライク・フォース全隊に命令」

 

これで全てが決まる。

 

この惑星の運命も、ジークハルトの運命も。

 

ならなるべく良い方向に進めなければ。

 

「作戦開始だ」

 

ウォーカーを乗せたゴザンティ級は次々と地上へと降下していった。

 

仇討ちとして地獄を作るために。

 

 

 

-ウェイランド ペルタ基地-

ペルタ基地は陥落した収容所や現在陥落した駐屯地とは違いしっかりとした索敵がなされていた。

 

センサーがあるのにも関わらずサーチライトが照らされ兵士達が目を凝らし周囲を警戒している。

 

その基地内を数名の新共和国将校が通った。

 

護衛の新共和国兵を数名連れており見張りを続ける他の新共和国兵やクーデター兵に多大なる威圧感を与えていった。

 

その様子を見てクーデター兵達は少し愚痴を溢していた。

 

新共和国残党軍とクーデター軍の仲は見かけよりもだいぶ悪い。

 

どうも新共和国軍は残党であるにも関わらず銀河系の防衛軍という肩書きもあってか地方のクーデター軍に対して高圧的であった。

 

無論そうではないものもいるのだが全体的にどこか下に見ている感触は否めなかった。

 

銀河系から民主主義を勝ち取ったという影響なのか完全な腐敗ではないにしても彼らはどこか傲慢だった。

 

高圧的な態度が両者の関係に軋轢を生むのは当然の事であり上層部はともかく現場の特にクーデター軍の指揮官達は協力体制が瓦解するのは時間の問題だと捉えていた。

 

元々新共和国軍、かつての反乱同盟軍自体ならず者や危険人物の寄せ集めである為お世辞にも立派な軍隊とは言えないが。

 

そして彼らはさらに慢心癖にも取り憑かれていた。

 

首都で新共和国が敗北したのはあくまで奇襲と物量差にあると考えた彼らはまだ士気や練度では勝っていると思っていた。

 

あのBV砲の存在も大きかったのであろう。

 

様々な要因が重なり彼らは帝国軍の事を脅威とは思わなくなっていた。

 

むしろ将軍の指揮に従えばいつでも倒せる、我々の勝利はすぐそこだと確信していた。

 

その為多少盲目になり慢心へと繋がった。

 

「敵が動いた。全BV砲を戦闘配置だ」

 

先程の将校がBV砲の砲兵に命令を下した。

 

彼はBV砲専門の砲術長でありパルベン将軍の信頼のおける部下であった。

 

砲術長の命令を聞いた砲兵達は一瞬戸惑った。

 

「よろしいのですか?それではクーデター軍の駐屯地ごと吹っ飛ばす事になりますが」

 

クーデター軍はこのウェイランドにおいて唯一の友軍である。

 

その友軍を攻撃して良いのかという疑問は一兵卒だと抱くことだ。

 

「構わん、駐屯地ごと更地にしてしまえ。既に駐屯地の部隊は壊滅している」

 

「了解」

 

「砲弾は炸裂弾を使え。確実に敵を殲滅するぞ」

 

命令通り砲弾を装填し砲撃目標をセットした。

 

砲塔が徐々に駐屯地の方に回転し狙いを定める。

 

基本的には電子操作だが僅かな調整は当然砲兵達がやる必要があった。

 

「全偏向シールドが一時的に解除されるからその間に砲撃しろ」

 

砲兵達がそれぞれ位置につきタイミングを待った。

 

緊張はしていない。

 

むしろ自らが放つ砲弾が敵を殲滅する事に対して高揚を感じていた。

 

多少サディスト的な面がないと戦場では心の均衡を保てない。

 

何せ人を殺したり殺されたりする場所だ。

 

優しすぎればすぐに壊れてしまう。

 

「…そろそろだな…全員用意しておけ」

 

近くの時計を見て砲術長が指示を出した。

 

すると1人の砲兵が何か異変に気づいた。

 

何か妙な音が聞こえるのだ。

 

その音は次第に大きくなり隣の同僚や将校達も妙な顔を浮かべていた。

 

明らかに何か妙な音がしている。

 

「砲術長…なんの…音でしょうか…」

 

「さあな…っ…!!」

 

砲術長がふと暗闇の空を見上げると違和感の正体に気づき絶句した。

 

どうして今までこれに気づかなかったのか。

 

暗闇に突如姿を表す強大な敵を見て言葉には出さなくとも心で思った。

 

周りの兵達も気付き始めた。

 

目を見開き後退りしようとしている。

 

顔は恐怖に引き攣り先程までの静かなる威勢は無くなっていた。

 

ただ一つ心の中に理解不能という文字を浮かべていただけだった。

 

当然それは基地内の全員がそうだった。

 

兵舎の前で、砲塔の前で、見張り台の前で、そして司令室の中で。

 

全員が理解不能といった表情を浮かべ武装を構えぬまま上空の物体に釘付けになっていた。

 

もちろんその中には絶望も含まれている。

 

様々な感情が渦巻きやがては恐怖へと変わった。

 

本来の職務を忘れてこの場から逃げ出そうとする兵士も何人か現れはじめた。

 

だが最悪は止まる事なく降り落ちた。

 

場所を厭わずその化け物は次々と基地内に降り立ったのだ。

 

轟音が響き兵舎や建物、逃げ遅れた人を潰し数十機以上のそれは宇宙から敵基地に足を踏み入れた。

 

第六親衛連隊のストライク・フォースが降下に成功したのだ。

 

恐怖に固まった兵士達はその様子をただ引き攣った顔で見つめるしかなかった。

 

そんな彼らをAT-AT数台がサーチライトを点灯し暗闇の中でギラリと光るコックピット部分の“目”で見つめた。

 

赤く光る目と眩いライトの光が彼らの恐怖をさらに刺激させた。

 

そして顎の銃口が明らかに赤く滲み始めているのも見えた。

 

瞬間彼らの精神は限界に達した。

 

絶望を浮かべた表情のまま冷や汗を浮かべ対して疲れてないのにヘトヘトの状態で逃げ出す。

 

恐怖で体が硬直しうまく足を動かせないのだ。

 

息も荒くなっており涙まで出始めた。

 

既に遠くでは爆発音や放たれるレーザー砲の音が聞こえた。

 

同時に斃れゆく仲間の悲痛な断末魔も。

 

それは彼らにも同じように降りかかった。

 

チャージされたAT-ATの重レーザー砲が放たれ必死に逃げようとする兵士達を容赦なく吹き飛ばした。

 

最期の瞬間掠れた声で助けを求めたがそれすらレーザー砲の中へ消えていった。

 

高エネルギーの塊が彼らの肉体を文字通り消し去り肉片や血液一滴すら残らず死を与えた。

 

きっと痛みはなかったのだろう。

 

そんなもの感じる前にあの世行きのはずだ。

 

でなければ熱で身体が焼かれる痛みを感じながら死んだ事になる。

 

想像するだけでも震えが止まらない。

 

自分だったらと想像すると恐ろしい。

 

尤もそれに見合うだけの理由があるからこうなっているのだが。

 

AT-ATは止まる事なく逃げたり応戦してくる敵兵を蹴散らしその四本足で大地を踏み荒らした。

 

だが彼らの動きには組織的な動きがあり目的があった。

 

まず優先してターボレーザーや砲塔を狙っている。

 

いくらAT-ATといえどこれらの兵器はある程度の脅威となりうる。

 

使いようによってはダメージを与える事も出来るし後続部隊にも厄介な敵となるだろう。

 

そして次に重火器を持った兵士だ。

 

理由は砲塔群と同じだ。

 

ミサイルランチャーやブラスター砲はあたりどころによっては十分脅威だ。

 

AT-ATはともかく護衛のAT-STなどにも十分ダメージを与えられる。

 

その為にも早めに排除する必要があった。

 

尤もそんな武装を持つ敵兵は少なかったが。

 

そして次に逃げ惑う敵兵とブラスター・ライフルなど雑多な小火器で戦う敵兵。

 

これらの脅威はウォーカーからすれば微塵もないに等しい。

 

踏み潰すだけで即死、両耳のブラスター砲を喰らっても即死、顎の重レーザー砲なんて即死どころか遺体すら残らない。

 

先程の敵兵士達と同じように。

 

連中の持つ武装ではAT-ATになんのダメージも与えられない。

 

凹みや煤すら付かない。

 

それでも敵は敵なので殲滅する必要があった。

 

こうしてペルタ基地は戦禍の火に包まれた。

 

「退却!!退却だ!!」

 

「もうダメだ!ワァ!!」

 

流れ弾を喰らった兵士が背を向けて斃れた。

 

破壊された兵舎や格納庫の瓦礫に隠れながら応戦していた隊長が斃れた兵士の遺体に近寄った。

 

彼の横では必死に退却する歩兵達が通り過ぎていった。

 

「おい!…あぁ…ああ…!!」

 

遺体を揺さぶる隊長だったが大きな足音と特徴的な銃撃音を聞き一歩後退った。

 

建物の路地裏から数十名の歩兵が溢れるように現れた。

 

表情には今すぐ逃げろと言った思いが込められている。

 

言われなくたって隊長は逃げ始めた。

 

次に姿を表したのはあのAT-STなのだから。

 

対歩兵戦ではAT-ATよりもAT-STの方がはるかに脅威となりうる。

 

俊敏で中々に強固なこの機体は見かけに似合わず強力な武装がたくさん備わっている。

 

顎の中型ブラスター砲は一撃で歩兵を絶命させられるし左右の震盪手榴弾ランチャーは数発撃つだけで分隊規模の歩兵を殲滅する事が可能だ。

 

しかも索敵範囲も広く歩兵の奇襲などもほぼ無効化してしまう。

 

これよりも進化したAT-STマークⅢがストライク・フォースでは使用されていたが今回は旧型のAT-STでの出撃となった。

 

旧型と言っても性能は十分であるしこのような基地内での戦闘ではツイン・レーザー砲よりも通常武装の方が効力を発揮する。

 

これも使い分けというやつだ。

 

どちらにせよ歩兵にとっては脅威である事に変わりはない。

 

そしてその力は遺憾無く発揮された。

 

「クッソ!!このバケモノめ!!」

 

「バカ!止まるっガハァッ!!」

 

忠告した兵士がブラスター砲の一撃を喰らい絶命した。

 

半狂乱状態の兵士は効きもしないブラスター・ライフルを放ちAT-STを攻撃した。

 

当然装甲は打ち破れずAT-STには無視されていった。

 

その間にもAT-ST全てのブラスター砲が逃げる味方を殺していった。

 

1人また1人と体に弾痕を残し死んでいった。

 

絶望で曇った表情に飛び散った血液が掛かり詰めた地面に転がっている。

 

兵士はまだAT-STの足元近くで戦っていた。

 

どこへ銃弾を放ってもAT-STの装甲に傷一つ付かない。

 

その事がどんどん焦りへと繋がり悲劇は起きた。

 

なんとAT-STの足元で足を挫き転んでしまったのだ。

 

当然AT-STのパイロット達はそんな事に気づいていいない。

 

全体から見れば小さいAT-STの足が兵士の目の前に近づいた。

 

この機体の重量で踏まれてはどうなるか誰だって分かる。

 

先ほどまでの威勢はどこかへ消え去り絶望にただ恐怖する声が響いた。

 

「クソッ!!クソっ!!あっ!!あぁあ!!わぁああああ!!」

 

バキバキという骨の砕ける音と、ブチブチという臓器や肉体が潰れる音が周囲に響き渡った。

 

断末魔の叫びは消え去り代わりに口から血を吹き出し踏み付けられた草のような格好になっている。

 

思いっきり踏み付けられたせいで胴体と下半身は千切れ別々に横たわっていた。

 

その様子を全く気にしないAT-STは残りの敵兵を掃討する為に進み続けた。

 

AT-STから逃げていた数名の兵士も退却を促していた隊長もとっくの昔に全員死んでいた。

 

一個中隊を数分で殲滅させられるこのスカウト・ウォーカーだ。

 

歩兵数名など1分も掛からずに殲滅してしまった。

 

近くを見渡せば他のウォーカーも同じように戦闘している。

 

数名の兵士達が迫撃砲をAT-ATに向けていた。

 

「撃てぇ!!」

 

指揮官の命令で砲弾が発射され一発だけ外したが残りの全弾がAT-ATの装甲に命中した。

 

兵士達は固唾を飲んで見守っていた。

 

直撃した部分から火薬の煙が晴れその装甲が浮き彫りになった。

 

そして兵士達は絶望した。

 

直撃した部分には傷一つ付いていない。

 

「次弾装填急げ!!一点集中攻撃で!!」

 

部隊長が言い終える前に反撃として強力な一撃を喰らい迫撃砲ごと吹き飛ばされた。

 

敵の殲滅を確認するとこのAT-ATは敵の最終防衛線に目を付けた。

 

迫撃砲や重砲が配備されバリケードのようなものも徐々に展開され始めていた。

 

車長が他のAT-ATや護衛のAT-STと連携を図り簡易的だがヴィアーズ隊形に似たものを作り出す。

 

「基地にある大砲全部もってこい!!砲弾もだ!!どんどん撃ちまくれ!!」

 

焦りながらも新共和国軍の隊長が指示を出している。

 

ウェイランド軍の装備に慣れていないのか若干砲撃までの動作が遅かった。

 

「撃て!!」

 

ドンドンと轟音を立てながら砲が強力な一撃を放った。

 

しかし数発がAT-ATに当たらずやはり当たったとしても目立った損傷はなかった。

 

それよりもあれだけの砲弾を撃ち込んだのに敵機を1機も撃破出来ずほとんど外しているというのが由々しき事態だ。

 

隊長が部下達を叱りあげる。

 

「ちゃんと狙え!!友軍に誤射したらどうするんだ!!」

 

「しかし隊長!コイツはクローン戦争以前のモデルでまともに的を狙える制度なんてありませんよ!!」

 

他の兵器もどれも新共和国軍からすれば旧式で威力不足だ。

 

それでも今ここにある武装の中では最も火力が高い。

 

そこで隊長はある事を思い出した。

 

「BV砲はどうした!!あれならスノーウォーカーの装甲だって…」

 

「応答がありません!それにこの狭い基地内じゃあれの真価は発揮されませんよ!!」

 

「なんて事だ…とっとにかく次の一撃をどんどん撃て…!!撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

焦りのせいなのか隊長の指示は雑なものになっていた。

 

再び砲弾が放たれたが結果は同じでまるで効果は薄かった。

 

それどころかウォーカー部隊の進撃の勢いは止まる事はなかった。

 

逆に顎の重レーザー砲が残りに少ない砲塔を破壊していく。

 

到底勝機など見出せなかった。

 

そして遂に兵士達は戦う事を諦めた。

 

「もうダメだ…逃げろ…逃げろ!!」

 

隊長の隣にいた1人の砲兵が武器を捨てて突然逃げ出した。

 

当然止めないわけにはいかない。

 

「おっおい待て!!逃げるな!!」

 

隊長は大慌てで静止しようとするがもう遅かった。

 

逆にそれに続こうとする者が続出した。

 

「そうだ…もう終わりだ!!」

 

「逃げろ…撤退だ!」

 

「お終いだ…」

 

1人また1人と兵達が離れていく。

 

隊長はただ大声を上げて止めるしかなかった。

 

それだけ絶望感がそこにはあった。

 

「もうダメです!防衛戦は!突破されました!」

 

「おっおい!」

 

遂には彼の副官までもが逃亡を始めた。

 

もうその場には隊長1人だけだった。

 

1人の孤独はそれは計り知れないものだ。

 

どんなに屈強な精神を持とうとその孤独に打ち勝つのは難しかった。

 

隊長は負けたのだ。

 

その恐怖に。

 

「撤退!!退却!退却だ!!」

 

詭弁のように撤退や退却の二文字を言いふらしながら情けなく涙を流し必死に走る。

 

だが天はそれを許さなかった。

 

なんと彼らの目の前でバリケードが完全に封鎖されてしまったのだ。

 

「おい!!開けてくれ!まだ味方がいる!!頼む開けてくれ!」

 

走りながら必死に隊長は扉の向こうへ語り掛けた。

 

無論その程度の言葉でバリケードは開かない。

 

彼らは取り残されてしまった。

 

「敵が!敵が来てるんだぞ!!」

 

今まで誰にも見せた事のない表情を浮かべながら隊長は走った。

 

そのせいで周りが見えていなかったのだ。

 

その敵が、AT-ATがどうなっていたかを。

 

何故逃げ惑う兵達をウォーカーがほとんど攻撃しないのか。

 

それはこのバリケードを最大火力で破る為だった。

 

必死に走る隊長の直上を赤いレーザー弾が横切った。

 

たまたま上を見上げていた隊長にははっきりとその閃光が目に映った。

 

その光弾が次にどこへ飛んでいくのかもよく理解していた。

 

最大火力の重レーザー砲はバリケードを完全に打ち壊しその破片を散らばらせた。

 

当然逃げる兵士達の方にもその破片は十分人を殺せる勢いで飛んで来た。

 

隊長が最後に見た景色はその破片が目の前にゆっくりと迫ってくるそんな景色だった。

 

 

 

「奇襲は成功!急いで部隊を…!」

 

突如アデルハイン中佐のストライク1を謎の大きな振動が襲った。

 

おかげで命令を完全に言い切れなかった。

 

恐らく装甲のどこかにダメージが入ったはずだ。

 

出なければこれほどの衝撃は出ない。

 

エリートAT-ATにここまでの衝撃を与えられる兵器はほとんどない。

 

あるとすればただ一つ。

 

「新型の重砲か…!」

 

中佐は軽く歯噛みした。

 

未だに新型の重砲の位置が判っていないが彼にとって少し気がかりであった。

 

降下時に踏み潰された事に期待を賭けていたがやはり存在していた。

 

確認すると僅かな砲兵達がこちらに砲身を向け次弾を装填しようとしていた。

 

ジークハルトの推測に間違いはなかった。

 

通常のAT-ATの装甲だったら今頃装甲を撃ち抜かれ大ダメージを喰らっていただろう。

 

エリートAT-ATに助けられたようなものだ。

 

それに今ので重砲の位置は割り出せた。

 

ある程度束になって置いてある為破壊は比較的簡単だ。

 

「ミサイルを敵銃砲群へ、ここで脅威を片付ける!」

 

「了解」

 

パオロットがミサイルを調整し確実に敵の銃砲を破壊出来るようにセットした。

 

その間にも敵の重砲はストライク1を砲撃する。

 

再び機体にダメージを喰らった。

 

AT-ATの速度じゃあの砲弾は回避する事が出来ない。

 

流石にこれ以上喰らえば無事では済まされない。

 

敵が砲を置いて逃げてくれてよかった。

 

あれが全部正常に稼働していたらAT-AT部隊とは言え壊滅的な被害を受けていただろう。

 

無論そうさせない為に奇襲を敢行したのだが。

 

「ミサイル発射」

 

冷たさを感じる声でパイロット達がミサイルを放った。

 

エリートAT-ATから放たれた数発のミサイルが宙に放たれ大きく楕円を描いた。

 

砲兵達は次の砲弾を装填しようとしていた為回避したり防ぐ事は出来そうになかった。

 

今装填された砲弾が散弾であったなら少しは防げたかもしれないが今装填された砲弾ではどうしようもない。

 

ミサイルは重砲とその周辺に着弾し爆発を引き起こし兵士共々吹き飛ばした。

 

威力に耐えられず破壊され地面に崩れ落ちた砲身が別の重砲に直撃し砲身をへし折った。

 

これでひとまず脅威は去った。

 

だが完全に脅威がなくなった訳ではない。

 

ジークハルトの報告から推察するにこんなのは僅かな物だ。

 

恐らく他にも存在していはずだ。

 

とはいえAT-ATのような図体では捜索に些か不便をきたす。

 

「ジャンプ隊で残りの重砲を全て破壊する!脅威を速やかに排除するんだ」

 

『了解中佐!』

 

ストライク7から返答が届いた。

 

各AT-ATのハッチから一斉にジャンプトルーパー隊が出撃した。

 

普通はAT-ATを一旦下ろしたりして部隊を展開させるのだが今回は時間もない為通常の状態で部隊を展開した。

 

元よりジャンプトルーパー隊の技能もあってか部隊の展開はとても素早く行われた。

 

収容所の時と同じように空を舞う兵士達が次々と建物を破壊し敵兵を打ち倒していった。

 

「全隊、このまま本部を攻撃する!ウェイランド軍と地上部隊は?」

 

「後3分後に到着します」

 

「全部隊で基地を封鎖し本部に突入させろ。残りの戦力は敵部隊の掃討に使え!」

 

まだ戦闘が始まって1時間も経っていないが既に帝国側の勝利は確定したようなものだ。

 

燃え盛る基地を見つめながらアデルハイン中佐は緩まぬ意志で敵を睨みつけた。

 

 

 

司令室がある本部もAT-ATやジャンプトルーパーの攻撃を受け被害を被っていた。

 

外側の通路は砲撃で穴が開き、瓦礫が散乱している。

 

無造作に倒れる兵士を横目に生き残った残りの兵達は必死に応戦を繰り返していた。

 

その間にも司令室では基地内や基地外の部隊に指示を飛ばしている。

 

ただこの状況に焦っているのは彼らも同じだ。

 

「本部を封鎖し地下の退路を守れ!今すぐ友軍艦隊に援軍を要請するんだ!」

 

「だが将軍、そんな事しては大攻勢の為の戦力が…!」

 

ブラウンス中将はパルベン将軍に対してかなり強めの声で咎めた。

 

新共和国艦隊は彼らにとって新型のBV砲と並んで最後の希望だった。

 

本来であれば予定通りBV砲を使って敵基地を潰し弱った所を艦隊と共に奇襲を仕掛け首都を奪取する算段だった。

 

ウェイランド軍の艦隊はお世辞にも強くない。

 

その為にはどうしても新共和国軍の豊かな艦隊戦力が豊富だった。

 

軌道上を封鎖し完全に退路を絶った所で新共和国地上軍とクーデター軍の全戦力を投入する。

 

これがパルベン将軍が持ち込んだ案であり息詰まっていたクーデター軍唯一の希望だった。

 

その為に多少の損害にも目を瞑ってきた。

 

全ては大義を叶える為だと信じて。

 

だがその希望は今立たれようとしている。

 

希望を持ち込んだ新共和国の手によって。

 

「今艦隊の支援がなければ我々は全滅する!司令部だけでも生き延びねばならんのだ!」

 

「ならせめて全地上部隊の回収を…!」

 

「時間があるならな、その為にも急いで脱出準備だ!」

 

パルベン将軍が意見を曲げる事はない。

 

今の僅かな会話や言葉の強さでブラウンス中将は確信した。

 

帝国の圧政から肩を並べて戦う仲間のはずだったのに今では全く他人に見える。

 

他人に自分達は仲間の殺生権を握らせていたのかと思うとどうにも不快な気持ちに陥った。

 

「将軍!!上空に敵スターファイターが!!」

 

「四方全ての敵機甲部隊が基地内に侵入!歩兵部隊を展開し本部に突入しようとしています!」

 

士官達の報告はどれも絶望的だ。

 

地上も空もその先(ルビ 宇宙)敵だらけ。

 

もう逃げ道などほとんどなかった。

 

「ここまでか…地下通路の退路を死守し我々が脱出するまでの時間を稼ぐのだ。行こう、再びこの地に返り咲く為にも今は耐えるのだ」

 

ブラウンス中将の力ではこの決定は覆せない。

 

今は逃げるしかなかった。

 

仲間を、故郷を見捨てでも。

 

「絶対死守命令を出した後全員撤退だ!急げよ!」

 

パルベン将軍とブラウンス中将は僅かな護衛を連れて司令室を後にした。

 

エレベーターはいつ緊急停止するかわからないので多少時間は掛かりはするものの非常用階段を使う事にした。

 

それでも一行は普通よりもかなり早い速度で移動していた。

 

道中建物全体が揺れ壁や天井が崩落しかけたがそんなこと気にしている余裕はなかった。

 

白いライトが点灯している階段を駆け抜け遂には地下通路まで辿り着いた。

 

通路には数名の新共和国兵とクーデター軍、新共和国軍の将校がいた。

 

顔色はあまりいいとは言えず聞き迫った表情のまままだ見ぬ敵を警戒していた。

 

彼らのすぐ後ろには数台の大型スピーダーが停まっていた。

 

小さなブラスター砲が一門だけのこのスピーダーが彼らの残された脱出手段だった。

 

「お急ぎください…いつ敵が来るかわかりません…!」

 

兵士に急かされ2人と将校達がスピーダーに乗り込んだ。

 

周囲を警戒する余裕もなくスピーダーは一斉に走り出した。

 

恐ろしいほどのスピードでスピーダーは進んでいる。

 

地下の車両用通路の移動したのだろうか。

 

無機質な壁に僅かに設置されているオレンジ色のライトだけが唯一の灯りだ。

 

スピーダー内もほとんど灯りがなく自分の暗闇に慣れてきた目だけが頼りだった。

 

耳を澄ませば何か呪詛のような声が聞こえてくる。

 

パルベン将軍の声だ。

 

いい歳をした大男が少し皺が寄った両手を顔に押さえて小言を垂れながら震えている。

 

「何故だ…何故いつも帝国に勝てない…」

 

中将の目線から見てもその光景は気味が悪かった。

 

動向は完全に開いておりハイライトはほとんどなく冷や汗がダラダラ出ていた。

 

あの冷静でこちらが冷や汗が出るほど冷酷な将軍は影も形もなかった。

 

ブラウンス中将は今更になって後悔する。

 

何もクーデターや自分の想いに後悔したわけではない。

 

帝国の圧政から市民を守るのは当然の義務であるし新共和国が敗北したからといって帝国に再び頭を垂れようとするウェイランド政府が許せなかった。

 

その為にこうして決起した事に後悔はない。

 

たとえどんな結果になろうと悔いは微塵もなかった。

 

ただ-

 

 

ただ、手を組む相手を間違えた…そのことが唯一の後悔だった。

 

新共和国はともかく新共和国軍に期待し過ぎた。

 

彼らもこのウェイランド軍と同じく寄せ集めの烏合の衆に過ぎなかったのだ。

 

帝国を倒したというのも所詮は過去の犠牲があってこそだ。

 

今の彼らは今や栄光に溺れる身分知らずの連中に過ぎない。

 

きっと第一線で戦った兵士などほとんどいないのだろう。

 

そんな彼らと共に戦ったって帝国に勝てるはずなかったのだ。

 

そこが唯一の失点だった。

 

多分このまま艦隊と共に逃亡し再起を図ったところでもう勝ち目はないだろう。

 

今のブラウンス中将は完全に諦めムードだった。

 

「もう少しで地上に到達します」

 

「急げ…そのまま近くの駐屯地まで向かうんだ…」

 

「了解…」

 

ドライバーの重たい声がスピーダー内に響いた。

 

数台のスピーダーはよりスピードを増し一気に通路を駆け抜け外に出た。

 

 

はずだった。

 

 

目の前を駆け抜けたスピーダーが突如爆発を起こした。

 

破片が散らばりいくつか小さなものが窓ガラスに衝突した。

 

これがオープンタイプのスピーダーだったら少なからず負傷者が出てたことだろう。

 

続け様に放たれた赤いレーザーが今度は次々と後続のスピーダーを破壊していく。

 

パルベン将軍は俯いたままだったがブラウンス中将は後ろを見つめていた。

 

破壊されるスピーダーの中には顔も知った同じ大義を抱いた同志たちがいた。

 

何故かこの時のブラウンス中将には悲しさも怒りも湧き上がらなかった。

 

突然スピーダーが大きく旋回し車内が大きく揺れ動いても何も感じなかった。

 

ただここで死ぬんだという事実が深く身に染みていた。

 

「ああ!!わあああ!!」

 

ドライバーが絶叫し直後スピーダーと何かが激突した。

 

スピーダーは大きく潰れぐしゃぐしゃになった。

 

小爆発も起きブラウンス中将達も巻き込まれてしまった。

 

彼はスピーダーから投げ出された。

 

最期の瞬間に見えたのは強靭なAT-ATの足で、最期に思った事は仲間への謝罪の言葉だった。

 

 

 

「…うぅ…」

 

何かが燃える音と自分が地を這う音だけが聞こえた。

 

AT-ATの足にスピーダーが激突し乗っていた全員が潰されるか爆発に巻き込まれるか外に飛ばされるかのどれかだった。

 

つまり残された道は死だ。

 

だが彼だけは奇跡的に生き残った。

 

負傷しながらも意識があり立ち上がる力も残っている。

 

パルベン将軍は偶々スピーダーから大きく飛ばされ奇跡的に一命を取り留めたのだ。

 

頭からは血が流れ意識もどこかぼやけるし体はあちこち痛いがそれ以外に異常はなかった。

 

「…急いで脱出を…っ…!!」

 

一気にパルベン将軍の表情が引き攣った。

 

息が荒くなり手足が震える。

 

急に立ち上がる力がどこかへ抜けてしまった。

 

急に過去ので季語をと思い出した。

 

初めて帝国に叛逆した日の事を。

 

まだ地方防衛軍の佐官クラスの指揮官だった彼は砲兵部隊を率いて帝国軍のウォーカー部隊を待ち伏せした。

 

まだとても若く不可能はないと思い込んでいた彼はその時現実を打ち付けられた。

 

待ち伏せたウォーカー部隊の恐ろしさを彼は分かってしまったのだ。

 

いくら砲を叩き込もうとなんのダメージもなく進み続けるあの無敵の軍団を。

 

反撃され彼は仲間を大勢失い自身すら死の恐怖をこれまでにないほど身近に感じながら這いつくばって逃げた。

 

初めてだ。

 

この世に勝てない相手がいるなんて。

 

それでも諦めなかった。

 

恐怖に耐え作戦を考えそしてやがては勝利を掴んだ。

 

初めてウォーカー部隊を打ち破ったのだ。

 

あの時の勝利は今でも覚えている。

 

初めてウォーカー部隊が自分たちの前に屈したのだ。

 

気分は爽快で勝利の喜びを噛み締めていた。

 

将軍となった今でもあの時のことは覚えている。

 

やはり勝てない相手など存在しないのだと。

 

それは今でも変わらなかった。

 

変わらなかったはずだが彼の前には今こうして過去からの恐怖がやってきた。

 

頑丈な装甲に冷酷な赤い一本の瞳がこちらを見つめている。

 

ああ、死ぬのか。

 

ふと周りを見つめると彼の近くにブラスター・ピストルが一丁落ちていた。

 

誰のかはもうわからない。

 

自然とパルベン将軍はブラスター・ピストルに手を伸ばしていた。

 

何故だかは分からない。

 

でももうどうでも良かった。

 

せめて最期に一矢報いれるのなら。

 

ピストルを構え頑丈なコックピット目掛けて狙いを定める。

 

パルベン将軍はここで終わりだがきっとその次を行く者達がいる。

 

昔自分が仲間の屍を飛び越え戦いに出向いた時と同じように。

 

その為の最期の抵抗だ。

 

完全に折れてはいなかった彼の心が今闘志を露わにしていた。

 

「しん…共和…国の……力を…」

 

震える腕を抑えながら引き金を引いた。

 

だがその瞬間に見えたのはAT-ATの両耳から放たれたレーザー砲だった。

 

パルベン将軍は最期の一矢を見届ける事なく死を迎えた。

 

 

 

-ウェイランド 軌道上-

宇宙では一足遅くクーデター軍や新共和国軍に救援が訪れた。

 

MC80が三隻、ネビュロンB六隻、CR90八隻に加えて地上への救援用のGR-75中型輸送船が七隻。

 

どの艦も真っ直ぐウェイランドに向かって進んでいる。

 

センサーに敵艦の姿はなくとても静かな宇宙(うみ)だった。

 

既に軌道上にはインペリアル級の影は見当たらず作戦は終了した後だった。

 

遅かったかと艦長達が歯噛みしながらも全巻最大船速で大気圏に降下しようとしていた。

 

帝国軍のウォーカー部隊と言えど今の新共和国艦隊に勝てるはずがない。

 

敗北し無様な残存兵力となった今もだ。

 

だがこの艦隊は地上に急ぐ余り気付けていなかった。

 

何故センサーに何も映らないのか。

 

どうやって敵が地上に降下出来たのか。

 

敵艦隊はどこへ行ったのかと。

 

味方を助けると盲目になり周りがよく見えずにいた。

 

その結果釣られてしまったのだ。

 

宿敵の宇宙艦隊に。

 

進み続ける新共和国艦隊の背後を黄緑色のレーザーが横切り数十発以上が新共和国艦船に直撃し爆発した。

 

シールドを展開する暇もなくいくつかのエンジンがレーザーによって破壊された。

 

当たりどころが悪く航行不能に陥ってしまった艦もいくつかあった。

 

そんな中でもこの攻撃は降り止まない。

 

偏向シールドが展開されなんとか防げるようになってきたがそれでも耐えきれず轟沈する僚艦がブリッジから見えた。

 

「バカな魚どもが網に掛かりやがった!全艦、このまま砲撃し敵艦隊を殲滅する!」

 

アダプテーションのブリッジの中でヴェルゼゲルト中将は興奮気味に命令を出した。

 

彼は戦闘時になると少し性格が変わる。

 

新兵や新任の士官ならともかく長い間彼と共に戦ってきた士官達からすれば慣れた光景だった。

 

それに誰がどう見てもこの状況は圧倒的に帝国艦隊側の有利だ。

 

背後からの奇襲に成功し敵に手痛い一撃を喰らわせてやった。

 

しかもエンジンが大きく損傷し艦隊が急速反転することが不可能になっている。

 

敵は大規模な反撃が出来なくなった。

 

砲塔がいくつか回転し虚空に向かって砲撃するがほとんど意味を成さない。

 

それにあんな攻撃、当たっても大した事はない。

 

一方こちらの最大火力のターボレーザー砲はMC80のような大型艦船はともかくコルベットやフリゲートのシールドなど用意で突破出来る。

 

完全に帝国艦隊の独壇場だ。

 

それでも新共和国艦隊は必死に地上へ逃れようとしている。

 

応戦しつつ残りのエネルギー全てをシールドとエンジンに回しなんとか進もうとしていた。

 

当然帝国艦隊も逃すはずがない。

 

より火力を一点に集中し敵艦のシールドを打ち破る。

 

間髪入れず打ち破られたシールドの先に黄緑色の光弾が叩き込まれた。

 

爆発の光が宇宙に灯されいくつかの破片を散らばしながら艦は逃れようと前に進んだ。

 

だがどの艦も逃げてばかりではなかった。

 

MC80一隻と数隻のCR90が突如反転する。

 

当然敵の目の前で反転するなど狙ってくださいと言っているようなものだ。

 

既に反転しきれず何隻かのCR90が轟沈している。

 

そして恐らくそれが彼らの狙いだった。

 

反転した艦隊の目的は献身的な護衛。

 

自らを盾として他の友軍艦隊を地上に直行させるつもりだろう。

 

その勇気は賞賛に値するが少しばかり厄介な事になった。

 

このまま反転する敵を攻撃し続ければ地上に向かう艦隊を逃す事になる。

 

かと言って反転する敵を無視すれば完全に反転され逆に反撃される恐れもあった。

 

しかも相手は死を覚悟した連中だ。

 

無理に突撃されたらこちらも陣形や艦列が乱れ大きく損耗するだろう。

 

その事はなるべく避けたい。

 

「待機させてある分艦隊を展開し脇腹を砕いてやれ。ここで敵を殲滅する」

 

アデルハイン中佐達を地上に展開したインペリアル級の艦隊は今頃艦隊を発見しこちらに向かっている頃だ。

 

敵艦隊はほとんどの艦が損傷している為これ以上の戦闘や奇襲には耐えられないはずだ。

 

船の前にきっと船員達の心が折れてしまうだろう。

 

まあどっちにしろ敵艦隊は崩壊する。

 

すると幕僚のミルニスク少佐が進言してきた。

 

「敵艦を拿捕しなくてよろしいのですか?潜伏中の他の新共和国軍を炙り出す可能性がありますが」

 

銀河帝国の士官らしいセリフだ。

 

次の敵に備えて必要もない捕虜を取っておく。

 

実際は必要は必要なのだがどんな場合でもこのセリフを言ってくる為流石に鬱陶しくなる。

 

何せ彼らは常に帝国には余裕がありいつでも敵を倒せると思い込んでいる。

 

その為すぐ捕虜を取り尋問を行いたがる癖があるのだ。

 

正直帝国の悪癖と言ってもいいだろう。

 

その結果敵に付け入る隙を与え肝心の敵を逃してしまう事すらあるのだから。

 

ヴェルゼゲルト中将はその事をよく心得ていた為逆にミルニスク少佐の意見がとても非現実的なものに思えてしまった。

 

敵は殺せるうちに殺す。

 

たとえそれが小さなコルベット一隻だったとしても。

 

その一隻に負ける可能性だって完全にないわけではないのだ。

 

可能性があるうちは油断出来ない。

 

「捕虜を取る必要はない。全艦この場で破壊せよ」

 

「いやしかし…」

 

「これは艦隊を預かる私の判断だ。それに…邪魔な虫がいたんじゃ彼らが財宝とご対面する時厄介だからな」

 

ヴェルゼゲルト中将は皮肉を浮かべ背後に控えている親衛隊保安局員数名を見つめた。

 

一方ミルスニク少佐は意味不明だという感じだった。

 

保安局員を見つめはするもののヴェルゼゲルト中将は決して目を合わせようとしない。

 

何が督戦隊だ。

 

言葉というのは本当に都合がいい。

 

外人部隊を見張るつもりなど一切ない。

 

最初からこの連中の目的は“皇帝の宝物庫”だ。

 

一体何をするつもりかは知らんが薄気味の悪い連中だと中将は思った。

 

あまつさえ帝国の最高指導者たる亡き皇帝陛下の宝物庫を漁ろうとするなどとんでもない連中だ。

 

しかもそれが身内の人間だというのだから余計苛立ちを覚える。

 

まるで敬意というものがないように見えた。

 

だが保安局のやる事などヴェルゼゲルト中将が態々首を突っ込む事ではない。

 

面倒事に巻き込まれるのは大嫌いだ。

 

「中将、分艦隊の攻撃に成功しました。敵艦隊、崩壊していきます」

 

悶々とした表情を浮かべるヴェルゼゲルト中将に再び良いニュースが飛び込んで来た。

 

モニターにもその様子が映され抵抗虚しく撃沈していく新共和国艦隊の姿があった。

 

得意のスターファイター隊も展開出来ず無様に蹂躙されている。

 

これで快感を覚えるほど中将は碌でもない人間ではないが少なからずやり遂げたという安堵感はあった。

 

反転し盾となったMC80とCR90コルベットももう撃沈間近だ。

 

残りの敵艦もインペリアルⅡ級の豊かな八連ターボレーザー砲により半数近くが撃沈している。

 

恐ろしいほど短時間で勝利は確定した。

 

これこそが本来の帝国艦隊の力だ。

 

年月が経とうとも、敗北が降り掛かろうとも、帝国艦隊は決して衰えない。

 

「敵艦隊を包囲し殲滅しろ、最後の一手まで手を抜くなよ!」

 

余裕に満ちた表情で中将は命令を出した。

 

新共和国艦隊が全滅したのはこれからわずか18分後の事であった。

 

 

 

 

-ウェイランド 旧クーデター軍駐屯地-

ペルタ基地での勝利と新共和国艦隊の全滅は陥落した駐屯地にもすぐさま届いた。

 

何せ帝国軍の地上部隊最高司令官は今この駐屯地にいるのだから。

 

あの後司令部が全て爆破され敵は完全に指揮系統を失い混乱状態に陥った。

 

一方でウェイランド軍の包囲は完全とは言えないが効力を発揮しクーデター軍を完全に駐屯地内に押し込めた。

 

結果駐屯地内の兵力の半数が撃破され残りの半数は完全に降伏した。

 

彼らは勝てたのだ。

 

無事ではないにしても勝利を得た。

 

死を無駄にしなかった。

 

駐屯地内は現在、ウェイランド軍と親衛隊の支配下にあり救援に来る可能性のある敵を警戒していた。

 

「そうか…勝ったか…」

 

「ひとまずは安泰…で良いのか?」

 

『ああ、司令部は完全に陥落して脱出しようとした指揮官達も全員死亡した。軌道上の艦隊も全滅だそうだ。もう再起不能もいい所だろう』

 

ホログラム越しからアデルハイン中佐は2人に報告した。

 

ジークハルトとハイネクロイツ中佐は顔を見合わせた。

 

この状況をどう見るかと。

 

ジークハルトは少し意識を集中させイメージを練った。

 

簡易的なものだが答えを導き出すのは十分だった。

 

「地上に残るクーデター軍が壊滅…もしくは降伏するまでは安心出来ない。ヘルデットとミーストファイトの隊を展開し防衛線を確立しろ」

 

『すでに降伏勧告は促してある。降伏するのも時間の問題だと思うぞ?』

 

「だとしても油断は出来ない。この戦いはまだ完全に終わったわけじゃないんだ」

 

アデルハイン中佐とハイネクロイツ中佐は互いに目を合わせ苦笑を浮かべていた。

 

ジークハルトの用心深さや先の先まで読むのは一流だと言っていいだろう。

 

だからこそ今まで敗北が少なかったのだが。

 

しかしここまで来ると苦笑を禁じ得ない。

 

『まあ展開するなら確かにその2人の部隊だな…何?ああ…わかった』

 

アデルハイン中佐は何か報告を受けたのか頷きながら了承した。

 

すると2人に、特にジークハルトに向けドヤ顔のような笑みを浮かべ話し始めた。

 

悪い話なのは間違いなさそうだ。

 

『なんでもクーデター軍は今さっき降伏したそうだ。完全に頼みの綱を失ったんだと。これでもう戦いは完全に終わったな』

 

ちょっとした冗談を含みながら2人に報告された事を話した。

 

「そうらしいな」

 

ジークハルトもこれには苦笑いだ。

 

彼の表情には戦闘が始まって以来久しぶりの笑みが映っていた。

 

 

 

 

-ウェイランド ???-

クーデター軍の降伏から2時間が経過した。

 

各駐屯地にはウェイランド軍や帝国軍が派遣され武装解除の真っ最中だ。

 

捕虜を乗せたゴザンティ級やセンチネル級が艦隊と地上を行ったり来たりしている。

 

その中で1機のラムダ級と2機のセンチネル級が妙な方向へと進んだ。

 

向かうべき駐屯地とは全く別の方向へと護衛機も付けずに最大速度で進んでいったのだ。

 

あの先にはタンティス山と呼ばれる山々しかないはずだ。

 

それなのにラムダ級とセンチネル級は迷うことなくそのタンティス山へ直行した。

 

3機の船は手頃な着陸出来る場所を見つけるとなるべく近くに停泊した。

 

ラムダ級のハッチが開き数名の保安局員が姿を表す。

 

センチネル級からは同じく保安局将校とストームトルーパーが大勢姿を表した。

 

その全員が督戦部隊長のツヴァイク少佐の指揮に従っていた。

 

彼の背後には1人黒いローブのような衣服を身に纏った初老の男が立っていた。

 

「第一小隊は周辺警戒、第二小隊は調査隊の護衛だ」

 

「了解」

 

「それで、本当にこの山に我々が目指す宝物庫はあるんだろうな?」

 

ツヴァイク少佐は大きな疑問を後ろの薄気味の悪い男に尋ねた。

 

男はにたっと笑い答えた。

 

「もちろんだとも、無論あるのは宝物庫だけではない。玉座も、知識の海もそこにある」

 

男は急に興奮気味になった。

 

薄気味悪い男が本格敵に気味が悪くなり出した。

 

表情も笑い方も喋り口調もどれもツヴァイク少佐にとっては好ましくないタイプの人間だ。

 

「なら早く導いてくれ。部下も私も時間がない」

 

「勿論だとも、さあこちらだ」

 

男の導きにより一行は奥へ進んだ。

 

思ったより男が進んでいく道は荒れておらずかなりの大人数で歩いても問題はなかった。

 

距離の方も停泊した船からは離れておらず程よい道のりだった。

 

「ここだ」

 

男は立ち止まり指を差した。

 

指の向こうには草木が全く生えていない広い場所と大きな崖が立ちはだかった。

 

よく見ると崖の真ん中に扉のようなものが隠れている。

 

崖とほとんど同じ配色をしている為遠くからだと見えずらかった。

 

しかもまだ夜間の為余計視界は悪くなっている。

 

「あの先に宝物庫があるのか?」

 

ツヴァイク少佐は男に尋ねた。

 

男の息は荒く興奮した面持ちで祈りの言葉を捧げていた。

 

やっぱり気味が悪い。

 

「おい早く答えてくれ。我々も時間に追われている」

 

流石に苛立ってきたのかツヴァイク少佐は少し強めの言葉で急かした。

 

「この先だ、我々が目指す聖地はこの先にある。早速鍵を開けるとしよう」

 

「だ…そうだ、指示通り突入するのは調査隊と第二小隊だけだ」

 

部下達に指示を出しつつ男の後に続く。

 

男は扉の前に立つと何か特殊な装置を取り出し扉のロックを一瞬のうちに解除した。

 

一瞬だけその扉の解除装置に“()()()()”が浮かび上がったのは気のせいだろうか。

 

ともかく気に掛ける暇もない彼らは中へと進んだ。

 

まず男とツヴァイク少佐を含めた21人の調査隊が中へと足を踏み入れた。

 

ライトを照らしていたが彼らが中に入った途端全ての通路に灯が灯された。

 

更に54人のストームトルーパー達がこの宝物庫の中へ入った。

 

「フューリナー上級大将が求めているものはこの奥にある。さあいくぞ」

 

「わかった…トライスロットとハイントクスは私に続け。他は貴重品を確保しろ」

 

「了解」

 

4人は他の調査隊と別れ奥へ進んだ。

 

道中さまざまな貴重品や見慣れない武具、武器があったせいで男の足が何度も止まった。

 

なんでも此処にあるもの全てが数千年前存在したとされている大戦期の遺品らしい。

 

よくは分からないが男にとっては足を止めてしまうほどの名品なのだろう。

 

その度その度にツヴァイク少佐のため息が響いたのは言うまでもないが。

 

そんな長くも短くもない道のりを歩いていくと遂に彼らは目的地に辿り着いた。

 

「これは…」

 

「そうだ、皇帝陛下の玉座…我らの求める全てだ」

 

目の前にはいくつかのモニターと黄金に輝く骨董品、それらに囲まれた一つの玉座があった。

 

ここがウェイランドの皇帝の玉座の間。

 

此処に皇帝が足を踏み入れたかは定かではないがこの玉座は確かに皇帝の為に創られたものだった。

 

そして彼らの目当ては此処に存在していた。

 

「では早速玉座を操作してくれ。操作すれば我らの求める情報が手に入るんだろう?」

 

「そうなのだが…私がやっていいのか…?光栄だ」

 

「ああお前がやれ、玉座を操作する栄光ある仕事だ」

 

ニパニパ笑いながら男は玉座のスイッチをいくつか操作し全てのモニターを映し出した。

 

モニターに映し出された映像は様々だったがそのほとんどが銀河系の星図やハイパースペース・レーンの地図だった。

 

しかも一般的に流通している星図ではない。

 

どれも未知領域やディープ・コアと言った未だ謎が多い場所の星図だった。

 

特に未知領域の星図の方が多く感じられる。

 

「ようやく見つけた…これで帝国艦隊は生まれ変わる…!」

 

ツヴァイク少佐はある一つのモニターを見つめながら笑みを浮かべた。

 

そのモニターに映っている星図はある一つの惑星への航路が記されていた。

 

惑星の名前はオーラベッシュでこう記されていた。

 

ーイラムー

 

かつて存在した騎士達(ジェダイ・オーダー)の聖地であり第三帝国が求める宝の惑星でもあった。

 

 

つづく




これでウェイランドと外人部隊はひとまず区切りですかね〜

しかし最近暑くてドロドロに溶けちまうよ
ここはタトゥイーンかジャクーかよ


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Unknown Regions

-帝国はまだ一つではない-


 

-Unknown Regions ESD Eclipse-

銀河は今まで様々な進化を遂げてきた。

 

一般から軍事に至るまで。

 

長い長い歴史と共に銀河系は飛躍的な進歩を遂げてきた。

 

例えばハイパースペース。

 

これが発見され実用化されると銀河系は一気に活動範囲を広げた。

 

その技術は時代と共に積み重なり今では遠く離れたコア・ワールドからアウター・リムに至るまで人は、銀河は手を伸ばす事が出来る。

 

人々は次第にこう思うようになっていった。

 

我々に不可能なんてないと。

 

やがては更に広い未開の地すら自らのものに出来る。

 

確固たる自信が大小少なからず銀河系の人々には存在していた。

 

だが未開の地を切り開くのはそう簡単な事ではなかった。

 

特に戦乱が続く今の銀河系では。

 

開拓よりも人々が求めるのは勝利と平和。

 

未知の場所への夢や希望への関心は次第に薄れていった。

 

だがこの男は違った。

 

男はいつか、やがていつかは銀河の果てに手が届くと考えていた。

 

多くの助力の元、男は未知の領域に研究所や通信ステーションを作った。

 

力の水源を求め、根源を求め続けた。

 

その成果は一般に触れる事はなくとも大きな遺産となった。

 

男の死後、男が作り出した未知への遺産は多くの者を生かす事となった。

 

戦いから逃れた者達は未知を場所を合流地点とし再起を図った。

 

残党と揶揄された彼ら、彼女らは今では昔に比べては遠く及ばないものの強大な力を手にした。

 

やがては残党という肩書きすら外れた。

 

新たな名が必要だ。

 

きっと遺産を遺した男の“()()()()()”と言う意味を込めてこの名前が相応しいのであろう。

 

 

     ファースト・オーダー

 

 

皇帝の命令と遺志を引き継ぐ者達でありもう一つの帝国の姿でもあった。

 

「クワットの支援でようやくリバイバル級の編成が整った。だがいいのか?あの艦はあくまでプロトタイプだ」

 

「テナント提督の言う通りもう少し技術が成熟するまで待っても良いのではないか?」

 

会議室の場でネール・テナント提督とエスク・タラッツ提督は少し慎重意見を口に出した。

 

ここはファースト・オーダー総旗艦エクリプスの会議室だ。

 

ファースト・オーダー軍の高官達が集められ今後に対する会議が開かれていた。

 

慎重意見を唱えた2人はかつて帝国軍では名のある指揮官の親族に持っていた。

 

ネール・テナント提督の伯父は統合本部にも所属していたニルス・テナント提督だ。

 

テナント提督は既に退役されたが彼の甥は現役であった。

 

そしてエスク・タラッツ提督の父は旧共和国宇宙軍最後の作戦部長であるタラッツ中将である。

 

アカデミー創設に大きく関わった彼の父はニルス・テナント提督同様退役し作戦部長の座を他の者に譲った。

 

帝国の敗北でエスク・タラッツ提督が父と同じ作戦部長の座につく事はなかったが父以上の指揮能力を秘めていると噂されていた。

 

「まあ良いのではないか?あの艦の設計なら解体も改修も簡単だ」

 

次に口を開いたのはイェール・カールセン提督だった。

 

彼はファースト・オーダーの現在指導者であるレイ・スローネ大提督が初めて艦長を務めた艦の先代艦長だった人物だ。

 

その縁もあってか軍歴を重ねたカールセン提督はスローネ大提督らに快く迎え入れられたのだ。

 

「即時的な戦力としては私も大歓迎です。現在我々の艦船不足は表面化していないだけで酷いものですから」

 

「確かに…自衛戦力はともかく、反撃する時のことを考えたら大きく戦力不足だ」

 

パーシル・ランパート提督の発言にピアーソン提督は賛同した。

 

ランパート提督は帝国初期のウォー・マントル計画で重要な役割を果たしたランパート中将を従叔父に持っていた。

 

提督自身も兵士の徴募や徴兵なども得意とし地上軍のハックス将軍と共にファースト・オーダーの戦力確保を担っていた。

 

一方のピアーソン中将はあのジャクーの戦いで総旗艦ラヴェジャーに乗船し艦隊の指揮を取っていた人物である。

 

彼もラヴェジャーの墜落で戦死したかと思われていたが脱出ポッドで逃げ延びた後他の艦に助け出され無事あの激戦を生き延びた。

 

そんな彼らの間に割ってはいる人物がいた。

 

「スローネの決定ならば私は無条件に賛同しよう」

 

「ボラム元帥…」

 

この老人の名前はホドナー・ボラム

 

ファースト・オーダー地上軍の元帥であり旧共和国軍からの軍歴を誇る為“オールド・マン”という異名を誇っていた。

 

その名に恥じることなく彼の軍歴は凄まじい。

 

クローン戦争を生き延びジェダイの大粛清中のある時は要塞に籠ったジェダイに対してクローン・トルーパーを率いて戦ったとまで噂されるほどである。

 

彼は結局様々な理由が重なり今では元帥であるものの大将軍になる事はなく当時は将軍のままだった。

 

エンドア戦後は帝国の現状を正しく認識していた貴重な上級将校だった。

 

その結果か彼は故ガリアス・ラックス元帥が設立したシャドウ・カウンシルのメンバーとして選ばれた。

 

しかしラックス元帥とボラム元帥の意見は対立する事が多くあった。

 

彼は鋭い洞察力を持つ思想家だ。

 

帝国が抱える問題やラックス元帥があえて生み出しているとしか思えない疑問点がよく分かった。

 

その為シャドウ・カウンシル内ではラックス元帥とよく対立し何方かと言えばスローネ大提督の側に着く事が多かった。

 

だがスローネ大提督はラックス元帥の罠に嵌り一時的ではあるが姿を晦ました。

 

シャドウ・カウンシルは事実上のラックス元帥の独裁状態となった。

 

当然ボラム元帥はその事に納得いくはずもなく度々反対意見を口にしていた。

 

無論そのほとんどは意味をなさなかったが。

 

結局彼の言いなりのままボラム元帥含めたシャドウ・カウンシルや残存勢力はジャクーへと向かい決戦に挑んだ。

 

ボラム元帥も当然この時は反対した。

 

ジャクーのような砂漠の惑星に戦略的価値はなく厳しい気候が兵士達の戦意を大きく削ぐだろうと進言した。

 

されど戦いの火蓋は切って開かれた。

 

それはラックス元帥が密命を受けていたからなのが理由であるのだがボラム元帥は知る由もなかった。

 

ボラム元帥はそんな過酷な状況下でも勝利する為に全力を尽くした。

 

かなり型破りな戦術を使い新共和国地上軍を多いに苦しめ上陸部隊の侵攻を大幅に遅らせた。

 

だが帝国の敗北を遅らせる事はできなかった。

 

ラヴェジャーは地上に墜ち司令部は大きく壊滅した。

 

この時点でボラム元帥は敗北を悟った。

 

急いで出来る限りの部隊を集めたボラム元帥は地上に隠されたインペリアル級や帝国艦船を半ば強奪する形で手に入れジャクーから脱出した。

 

その後様々な宙域を放浪した後スローネ大提督達に拾われ地上軍の総司令官として元帥に昇進した。

 

元よりスローネ大提督との関係は悪くなくまた彼女に恩義を感じたボラム元帥はファースト・オーダーに従く事を決めたのだ。

 

「この老耄が一つ言うとすれば我々は今、我々が思っている以上に危機が迫っていると言うことだ」

 

ボラム元帥は白い顎髭を撫でながら低いながらも渋い美しい声で現状を提示した。

 

他の高官達も少なからずその事については理解しており険しい表情を浮かべている。

 

「…リザレクション計画は半ば成功しつつある」

 

1人の将軍が声を上げた。

 

ファースト・オーダー地上軍のブレンドル・ハックス将軍だ。

 

一見するとただの官僚や幕僚タイプを思わせる顔付だが実際はそれだけでは表せないほどの能力と狂気にも感じられる発想力を持っていた。

 

彼もまた共和国軍時代からの士官でありエンドア戦の前までアケニス・アカデミーで司令官の任についていた。

 

ハックス将軍は他の司令官達とはまた違う考えを持っておりそのことがラックス元帥に評価され次世代の帝国を創る為に誰よりも重要視されていた。

 

それは今のラックス元帥亡き後の今でも変わらず、ファースト・オーダーの軍の基盤を作成を任されていた。

 

その一角が“リザレクション計画”と呼ばれる軍備拡大計画だった。

 

「既に第一次で集められた約120万人のうち29万4,000人の教育が終了した。いつでも兵士として配備出来る」

 

ハックス将軍は淡々と成果を説明した。

 

その様子を諸将達は其々感嘆や驚きの声を上げながら聞いていた。

 

だがスローネ大提督は少し険しい顔をしていた。

 

「このまま計画を続ければあと1年で120万…いや、200万人近い兵が誕生するだろう。より忠誠心の高い兵士がな」

 

ハックス将軍は最後の言葉を強めた。

 

それは過去の帝国が編み出した育成方針との決別でもあった。

 

「これはシュミレーションだが現在戦闘状態になった場合このペースでいけば少なくとも6年は耐えられると言う予想だ」

 

「だが信用出来るのかそんな兵達を…所詮は寄せ集めではないか…?」

 

今度は不安感や信じられないと言った声が聞こえてきた。

 

ハックス将軍はその返答に対して少し苛立ちを覚えた顔を浮かべたがスローネ大提督が宥めたお陰で両者とも静まった。

 

そこで彼女は口を開いた。

 

「ここで改めて全員に問いたい。我々が打倒すべき新共和国は斃れた…第三銀河帝国を名乗るかつての同胞達によってな」

 

ファースト・オーダーの使命は帝国の再建と新共和国の打倒。

 

どんな手を使ってでもこの2つを成し遂げるつもりであった。

 

だが2つともファースト・オーダーが成し遂げる前に彼らが成し遂げてしまった。

 

第三銀河帝国が。

 

元通りとは言えないが帝国を再建しあまつさえ宿敵新共和国すら打ち倒してしまった。

 

単なる逆恨みだと言う事は分かっている。

 

帝国再建も新共和国打倒も帝国軍人や帝国の人間であれば誰もが思い付くことだ。

 

ただ一番乗りを盗られてしまった。

 

それだけだがその事が彼ら彼女らに大きな無気力感を及ぼした。

 

我々が耐え忍んだこの時間は一体何の為にあったのだと。

 

だがスローネ大提督にはそんな事を思う時間はなかった。

 

託された遺志があり彼女自身の思いが大提督を突き動かしたのだ。

 

「かつては共に陛下に忠誠を誓った身、争いは望まない。だが」

 

だがもし第三帝国が戦争を望むなら。

 

かつての同胞すら滅ぼし喰らうのであれば。

 

彼女は既に決まっていた。

 

だが彼らはどうだろうか。

 

その事を問い詰めていた。

 

「もし仮に第三帝国が我らと戦う道を選んだ時、君達は同胞を討つ事が出来るか?かつての同胞達を殺す事が出来るか?」

 

第三帝国とはいえかつての同胞達だ。

 

共に戦った仲間もいればそれ以前の親友もいるだろう。

 

そんな彼らを殺せるのか。

 

だが現実は残酷そのものだ。

 

殺さなければ殺されるだけ。

 

スローネ大提督があの時決断し殺めた時のように。

 

「当然返り討ちにするまでだ」

 

一番最初に口を開いたのはハックス将軍だった。

 

彼は自信に満ちた笑みを浮かべている。

 

敵となるなら必ず殺してやるといった表情だ。

 

「生きる為には仕方あるまい…望まないとしてもな」

 

ボラム元帥も既に覚悟を決めていた。

 

「ああもちろんですとも!」

 

「その時は代理総統の首を取ってやりましょう」

 

「ファースト・オーダーの、真の帝国の力を見せてやる!」

 

他の諸将達からも勇ましい言葉が飛び交った。

 

少なくともこの様子なら敵となった第三帝国と戦う時躊躇う事はなさそうだ。

 

少し威勢が良すぎるのはそれはそれで問題だが。

 

だが躊躇わず敵を恐れていない点が現状においてはベストな状態だ。

 

「君達の心意気は嬉しく感じる、そして我々は敗北してはいけないのだ。死んでいった仲間達が託してくれた分までも」

 

スローネ大提督の言葉に諸将は感慨深そうに頷き決意をさらに固めた。

 

「再び銀河(我が家)に帰ろう」

 

遠く離れたこの地でまた新たな歴史が動き出そうとしていた。

 

死んだ者達の遺志を未来に進めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-Unknown Regions Csilla-

人が銀河に国を作りそこで繁栄していくように未知領域にも同じように国は存在していた。

 

だが銀河系の人々は長い間彼らの存在に気づけていなかった。

 

無論未知領域自体が不確定な要素ばかりで探索が進んでいないということもあるのだがそれだけではない。

 

極めて秘密主義の彼らはは自ら銀河との交流や接触を少なくしたのだ。

 

だが長い年月を経た結果彼らにも変化が生じた。

 

平和とは永遠ではない。

 

やがては、望まなくても危機が訪れる。

 

それも国家どころか生命全てを滅ぼしてしまうかもしれない危機が。

 

危機には立ち向かわなくてはならない。

 

恐怖を押し殺し勇気を振り絞って己と仲間の命を守らなくてはならない。

 

その為にはやはり仲間が必要だった。

 

銀河規模で強大な力を誇る同盟相手が。

 

彼らは数百年ぶりに銀河系へと人を派遣した。

 

当然全てが上手くいったわけではないが肝心の同盟相手は見つかった。

 

第一銀河帝国。

 

銀河規模の中央国家であり強大な軍事力とそれを完全に統率する能力を持っていた。

 

彼らの同盟相手には相応しい国だ。

 

惑星シーラを首都とする“チス・アセンダンシー”にとっては。

 

帝国が斃れ第二、第三の帝国が誕生した今でも彼らは未知領域でまだ見ぬ脅威に備えていた。

 

()()()()()”の力を借りて。

 

「フェルよ、卿の働き見事であった。我が祖国は卿らのおかげで更なる繁栄を遂げる事ができた」

 

帝国軍の黒い軍服に赤いマントを羽織ったインペリアル・ファミリーのヴィルヘルム・フェルは深々と玉座の青年に頭を下げた。

 

モフの階級章とチス・アセンダンシーの階級章、そして貰った勲章が重なり合い少し音を出した。

 

彼の階級の重さであり功績の大きさだった。

 

彼が頭を下げている人物はチス・アセンダンシーのロード・アリストクラ“ヴィサーリヴィリフ”。

 

チス・アセンダンシーの最高指導者にして彼らヴィルヘルムらを保護した恩人であった。

 

現在のチス・アセンダンシーはロード・アリストクラの座につく王家であるヴィサー家と彼の隣に控えるチェンセラー・アリストクラの宰相家であるヴォラク家に治められていた。

 

またそれを補佐する9つのルーリング・ファミリー・アリストクラ九家に支えられ帝国からの亡命者達インペリアル・ファミリーがアセンダンシーに尽くしていた。

 

チス・アセンダンシーは以前から大きな変化を遂げた。

 

9つの家々はそれぞれの利権と同盟関係をめぐり一種の冷戦態勢へと陥っていた。

 

そこに変革の風が流れた。

 

首都惑星シーラ一体を治めるヴィサー家とヴォラク家が立ち上がった。

 

元々存在した王家の末裔であり少なくとも影の影響力は大きかった。

 

ヴィサー家当主のリヴィリフはアセンダンシーの指導者になった後早速ヴォラク家の当主ヴォラクラストーレと共に改革を始めた。

 

彼らが目指す目標はただ一つ、立憲君主制の国へと変化させる事だった。

 

これには帝国からの特使達の支援もあり民衆の大きな指示を受けたリヴィリフは半ば形骸化したロード・アリストクラの座に就いた。

 

数百年、数千年ぶりに民衆の手から王が生まれたのだ。

 

民草を導き危機を退ける真の王が。

 

当然王の誕生に納得いかない者達もいた。

 

特に9つのうち7つのルーリング・ファミリーは猛反対しリヴィリフも抹殺まで計画した。

 

無論これを予期できないリヴィリフではない。

 

彼は9つの家全てを制圧する術があった。

 

リヴィリフの賛同者の中には9つの家の血縁者もいた。

 

彼らに兵力を持たせたリヴィリフは9つの家を乗っ取らせ完全にチス・アセンダンシーを掌握した。

 

そこでいくつかの内乱が勃発したが帝国式のより強力な国民軍を持つリヴィリフに敵うはずもなく次々と敗退。

 

彼の改革はこうして大成功で幕を下ろしたのだ。

 

それから数年後、エンドア戦後の動乱は新生チス・アセンダンシーにも無関係ではいられなかった。

 

領土を大幅に拡大し勢いに乗るチス・アセンダンシーだったが単独では新共和国と激突した場合敗北する危険性があった。

 

一方の帝国も皇帝亡き後は分裂し以前の姿を失った。

 

そんな中チス・アセンダンシー領まで大勢の帝国軍が亡命しようと押し寄せてきた。

 

彼らは選択を迫られた。

 

帝国軍を匿うか。

 

それとも見放すか。

 

選択次第では彼らも銀河内戦に巻き込まれる事となる。

 

だが彼らは決断を下した。

 

帝国軍の亡命者達を受け入れる事を。

 

この時のアセンダンシーの選択は大正解だったと言える。

 

帝国の人材と技術力を取り込んだチス・アセンダンシーは更なる発展と繁栄を遂げた。

 

特にインペリアル・ファミリーの二大勢力となったフェル家とタッグ家は新領土の治政において能力を遺憾無く発揮しアセンダンシーの発展に尽くした。

 

こうしてチス・アセンダンシーは今まで以上の力と技術を手に入れたのだ。

 

「有り難きお言葉…亡命者たる我々を受け入れて下さった陛下には頭が上がりませぬ」

 

ヴィルヘルムはさらに深々と頭を下げた。

 

黒髪のオールバックにカリスマ性を感じさせる表情と容姿端麗なその顔は男女問わず誰もを魅了した。

 

青き肌に紅い瞳を持つリヴィリフさえも彼に魅了されている。

 

彼はインペリアル・ファミリーの中でも特にこのヴィルヘルムがお気に入りだった。

 

能力は元より彼の性格や指導者たる風格に何かを感じ取ったのであろう。

 

リヴィリフは彼を重用し彼にアリストクラの地位と客将提督の称号を与えた。

 

ヴィルヘルムは今や帝国のモフだけでなくチス・アセンダンシーのアリストクラでもあった。

 

「アリストクラにしてモフフェルよ、卿に尋ねたい事がある」

 

玉座の隣に佇む宰相ラストーレがリヴィリフの代わりに尋ねた。

 

彼も同じく最高級のマントを羽織り白いチス・アセンダンシーの制服を身につけていいる。

 

アセンダシー内No.2の権力者という事もあってかまだ若いのにも関わらず彼から放たれるオーラはリヴィリフと同等のものだった。

 

彼の胸元の階級章や勲章が彼の力を表している。

 

冷酷に感じるほど深く赤色に染まった瞳がヴィルヘルムを見つめていた。

 

ヴィルヘルムも黄金色の瞳で見つめ返した。

 

「我々の情報網によるとどうやら卿らの故郷である銀河帝国は第三銀河帝国として再建を果たし宿敵新共和国を討ち果たしたそうだ」

 

「それは確かな情報でしょうか…?」

 

流石のヴィルヘルムその言葉を疑った。

 

彼が大勢の将兵を引き連れてこのアセンダンシーに亡命した時には考えられない出来事だ。

 

帝国が再建するなど。

 

しかしラストーレは深く頷き説明した。

 

「確かな情報だ。首都を失い元老院も指導者も死んだ新共和国は以前の卿らのように軍将と化し戦いを続けている」

 

「帝国の方は銀河系から多くの支持を集め支配体制を確立しているそうだ」

 

2人の言い方から察するに間違いなさそうだ。

 

帝国が蘇り新共和国が滅びた。

 

だとしたら指導者は誰であろうか。

 

ヴィルヘルムは知りうる限りの帝国の指導者や指揮官を思い起こしては理由を考え破棄していった。

 

生き残ったと思われるどの指揮官も指導者もわずか2年近くで新共和国打倒まで繋げられる能力はない。

 

誰が今の帝国を指揮しているのだろうか。

 

「なあフェルよ、予は思うのだ。再び…いや、新たに第三銀河帝国と同盟を結ぶのはどうかと。やはり脅威には卿ら帝国の力が必要だ」

 

リヴィリフ王は微笑を浮かべながらヴィルヘルムに提案した。

 

彼が呼ばれた本題はここにあった。

 

続いてラストーレがより詳しく説明する。

 

「仰られた通り我が王は帝国との同盟を考えておられる。とはいえ我々は卿らの帝国に関しては無知に等しい。だがら卿の忌憚のない意見を聞かせてくれ」

 

「予は卿の提案ならば受け入れよう、さあもうして見よ」

 

2人から言い寄られヴィルヘルムは少し考えた後自分の意見を口にした。

 

これは心からの本心も入り混じっていた。

 

「陛下、率直に申しますと今同盟を組むのは早うございます。知っての通り帝国は醜くも分裂を繰り返しもはやどれが本流なのかすら不明なほど衰退しました」

 

エンドア戦後の帝国はどの帝国軍人に聞いてもきっと地獄だったと答えるだろう。

 

軍将達が私欲から軍を引き止めなければあんなに敗北を重ねる事はなかった。

 

帝国を衰退させ滅ぼしたのは結局帝国の内部の人間達だ。

 

そのせいで新共和国にも大いに遅れを取った。

 

これは一生の恥だと言ってもいいだろう。

 

「新共和国に勝利した帝国も同じ事、信用を置くにしては危険過ぎます。それに向こうが我々を信用するかすらも怪しいと感じます」

 

新共和国を滅ぼした功績は確かに大きいがそれでも信用は置けない。

 

もしかするとアセンダンシーを敵と勘違いし攻撃するかもしれないし既にそう思っているかもしれない。

 

同盟を組むにしても戦力や情報が少な過ぎて全貌が掴めない。

 

とても信用は出来ないものだ。

 

「ここは様子を見てはいかがでしょうか?アセンダンシーの防衛軍の軍備もまだまだ発展途上にありますし相手を見極めましょう。今までのようにゆっくりと」

 

リヴィリフとラストーレは顔を見合わせ目で相談していた。

 

そこでヴィルヘルムはもう一つ進言する。

 

「ルーリング・ファミリーや議会とも相談しては如何でしょうか?時間はまだ充分にあります、焦る必要はありませぬ陛下」

 

優しくされど強い意志をヴィルヘルムは恩人に向けた。

 

聡明なチスの王はその意図が分かったようだ。

 

微笑を深め小さく頷いた。

 

「そうであったな、余には心強い民と家々がいたのだった…ありがとう我が友よ、これからも我らの為に頼むぞ」

 

「はい、貴方は我らの恩人なのですから」

 

再び跪くとヴィルヘルムは深々と頭を下げた。

 

彼の言葉に嘘偽りはない。

 

ヴィルヘルムにとってリヴィリフは命の恩人であり部下達の恩人であった。

 

その恩に報いるのが彼の務めだ。

 

仮にかつての同胞達に刃を向ける事になったとしても。

 

強い意志が瞳の奥に宿っていた。

 

銀河の中心から遠く離れた未知領域。

 

第三銀河帝国が勝利を重ねる中未知領域でも力を付ける組織と国家があった。

 

ファースト・オーダーとチス・アセンダンシー。

 

銀河系は未知領域を巻き込み次のステップへと駆け上がる。

 

その時世界がどうなるのか。

 

銀河はどう変革を遂げるのか。

 

戦禍は何を焼き尽くすのか。

 

誰が生き残り、誰が死ぬのか。

 

大戦争の火種は既にそう遠くない未来まで近づいてきた。

 

 

つづく




野郎ども!楽しい未知領域の時間だ!
おやつのスパイスは5gまでだぜ!()

最近ケッセルお嬢様っていう謎キャラが出来ちまって処理に困ってるんですよ(白目)
多分出てくるかも?(こんな所でいう事じゃない)


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北東戦線と抵抗の始まり
年末戦線


ホズニアンとシャンドリラが斃れ新共和国軍はバラバラに朽ち果てた今でも戦いは終わりを告げることはなかった。

ヤヴィン4、ウェイランドといった各地で新共和国は戦い続けていた。

なんの為に戦うのか、そんな目的などなく。

しかし帝国は彼らに容赦無く牙を剥いた。

ホロコースト。

裏で蠢く暗黒とまだ見ぬ別の何かを背に忠実な総統の僕達は敵を駆逐する。

それが進むべき道だと信じて。

ジェルマンとジョーレンが旅を続けるように。

ジークハルトもまた連隊と共に戦いを続けるのだった。


-帝国領 惑星タナブ 帝国軍軍事用ステーション-

惑星タナブも元は新共和国領だった。

 

かつてここでは同盟軍の将軍の1人が大胆な作戦で海賊を打ち負かした事で知られている。

 

だが残念な事に新共和国はこの惑星にいくつかのパトロール艦隊しか配備しておらずしかもほとんど他宙域の方までパトロールに向かっていた為タナブに置かれた戦力はないに等しかった。

 

おかげでタナブは再び海賊の被害を受ける事となってしまった。

 

当然パトロール艦隊しか持たないブレンタールⅣの新共和国軍は帝国軍に蹴散らされ帝国の実効支配に置かれた。

 

それはホズニアン・プライム陥落から僅か二日後の出来事であった。

 

僅か数日で帝国軍はタナブまで手を伸ばしたのだ。

 

それから数週間、この惑星はパーレミアン・トレード・ルートと繋がっておりヤヴィンⅣ攻撃の前線司令部として使われていた。

 

ヤヴィンⅣではあの後も一進一退の光芒が繰り広げられていた。

 

実際は帝国軍が優勢で毎回戦力や今後のことも考えて戦略的撤退を繰り返しているだけであって新共和国残党軍は毎回大損害を負いながら追い払っていた。

 

追い払ったかどうかすらも怪しいものだが。

 

それだけ銀河の主権を失った新共和国と勢いを取り戻した帝国とでは差が広がっていた。

 

士気の面でも兵器や艦船の面でも新共和国は劣勢だった。

 

ありとあらゆる新兵器が無効化され、あるいは破壊され逆に帝国軍の新兵器により味方が容赦なく消し炭にされていく。

 

そんな不条理な戦場が長い間続いていた。

 

当然帝国軍にとってはこれほど素晴らしい状況はないだろう。

 

味方の損害を少なく敵の兵力を大幅に削れるのだから願ったり叶ったりだ。

 

だが戦いはもう決着させなければいけない。

 

平和に突き進む為にも。

 

第一次アウター・リム討伐作戦、別名北東戦線の開幕であった。

 

新共和国残党軍の一大拠点であるヤヴィンⅣ、モン・カラそして旧独立星系連合出身の新共和国軍が半ば占領する形で集結したラクサス。

 

奇しくも新共和国軍のほとんどはこの3つの惑星に集まっていた。

 

無論それは単なる奇跡ではない。

 

帝国軍があえてこの惑星に逃げ込むよう仕込んだのだ。

 

新共和国の残党軍が生きていれば軍拡の口実にもなるし場所が分かっていれば敵を探す必要がなくなる。

 

ケルク宙域で新共和国艦隊を逃したのもそのためだった。

 

いつでも殺せるなら今殺す必要はない。

 

弱らせて、極限まで衰退させた所で殲滅すればいい。

 

かつてクローン戦争直後の帝国も同じように分離主義の抵抗勢力と対峙しそれを口実に軍備を拡大していった。

 

結果帝国軍はわずか数年で格段に進歩した。

 

敵まで利用し利益を得る。

 

帝国の、と言うより皇帝パルパティーンの十八番だろう。

 

そして現在の第三帝国は強者の余裕か、はたまた油断なのかは分からないが同じ事が出来るという確固たる自信があった。

 

既にクワット社やサイナー社、ブラスティック・インダストリーズ社やコレリアン・エンジニアリング社などに大量の兵器や艦船を発注している。

 

僅か数ヶ月で戦力は45%も増加するという予測だった。

 

親衛隊も徴兵制の制度を緩め多くの帝国市民を兵として教育していた。

 

当然作戦の方も抜かりはなかった。

 

帝国軍の艦隊や地上軍部隊がタナブに集結し徐々に新共和国領を包囲する準備をしていた。

 

作戦参加者の中にはジークハルトと彼の第六親衛連隊の姿もあった。

 

ウェイランドから大急ぎで向かった彼らは束の間の休息を取っていた。

 

特に連隊の幹部達はステーションのカフェテリアで珍しくスイーツを口にしていた。

 

大の大人が、しかも親衛隊の軍服を着た英雄とも呼ばれている男達がだ。

 

側から見れば随分可愛らしい光景だ。

 

「そういえばハイネクロイツ中佐は?」

 

口にクリームをつけたヴァリンヘルト上級中尉が他の将校に尋ねた。

 

ここにはジークハルトとアデルハイン中佐、ヴァリンヘルト中尉に連隊所属の大隊長であるギルク・ゼルフェルト少佐がいた。

 

「あいつは『疲れたから寝る』だって。どっかの連隊長が酷使し過ぎたせいだろうな」

 

アデルハイン中佐は皮肉混じりにジークハルトの方に目を寄せた。

 

彼はカフを飲みながら苦笑を浮かべていた。

 

実際かなり無茶をさせたと彼自身にも自覚はあった。

 

後で何か埋め合わせをしてやらんとなとカフの匂いを楽しみながら考えていた。

 

「まあなんか奢ってやるさ、遠からず軍の方からも勲章くらいはくるだろうし」

 

「宇宙軍のパイロットが地上軍から勲章をもらうんですか?変な感じっすね」

 

「まあ、そうなるな」

 

ヴァリンヘルト中尉の腑抜けた声を出しながらケーキを一口入れた。

 

他のメンバーもケーキやパフェを食べながらカシウス・ティーやカフを飲んでいた。

 

気苦労や肉体的疲労の多い指揮官たち至福の時だ。

 

ジークハルトもケーキを口に含むと隣の席の話し声が聞こえた。

 

恐らく正規軍の宇宙軍将校達だ。

 

「デノンの方でも攻撃艦隊の編成が終わったらしい。指揮官はデゴート提督とプリティック提督、カーメン提督だと」

 

するともう1人の将校が口を開いた。

 

「第二帝国時代の司令官ばかりだな。まるで左遷みたいだ」

 

「みたいじゃなくてほぼ左遷だろうな…ほとんどの新共和国軍は北東側にいるんだから」

 

名前が挙げられたプリティック提督とカーメン提督は第二帝国、エンドア後から代理総統が出現するまでの帝国であくまで中央の指示に従い続けた者達だった。

 

その為、銀河協定後の帝国でも艦隊司令官や宇宙軍長官などの座についていた。

 

代理総統が出現するまでは。

 

3人とも不満には思っていないにしても少なからずしこりは残っているだろう。

 

「ローリング大将軍とヴィアーズ大将軍は?」

 

「ヴィアーズ大将軍はこっちに来るらしい…ローリング大将軍もそうだ。流石に大将軍クラスの高官を辺境には置んだろ」

 

「主戦力もほとんどが親衛隊だし正規軍の不満は高まりそうだ」

 

「当たり前だ、俺の部下だって大勢親衛隊をよく思わない連中はいる」

 

少し苛立ちを含んだ声質で将校の1人は話した。

 

親衛隊と正規軍と呼ばれる本来の帝国軍の溝は少なからず存在していた。

 

同じ構造の組織がもう一つ存在しているのが気に食わないだとか親衛隊はあくまで“総統の私兵”である為活躍の機会が多いとか理由は様々だが溝は誰しもが少なからず持っていた。

 

今はまだ表面化していないがいずれ面倒な事になるだろう。

 

帝国とて完全に問題がない訳ではなかった。

 

むしろ敗戦からの問題は未だに多く残っている。

 

それに加えて度重なる勝利により新たな領土や反乱分子などの問題は増える一方だった。

 

それでも今日まで勝利を重ねてこれたのは間違いなく代理総統のカリスマ性と軍や政府機関の優秀さだろう。

 

「新共和国もいなくなったし残りの連中も倒せば親衛隊はお役御免で解散だろうよ。元々協定の抜け道だったんだからな」

 

「そうだな…そう言い聞かせておくか」

 

将校達は席を立ちトレイを両手に雑談を交わしながら去っていった。

 

ジークハルト以外の3人はその様子に気づいていないようだ。

 

ジークハルトはカップの中を覗きながら考え込んだ。

 

帝国の問題は多分このまま帝国が勝利を重ね敵を排除し続けたところで解決の見込みはない。

 

むしろ問題は増える一方だろう。

 

この先の未来帝国はどうなるのだろうか。

 

以前の姿に戻れるのだろうか。

 

将又このカフの色と同じように真っ黒のまま進み続けるのか。

 

唐突に垣間見えた不安がジークハルト気を重たくさせた。

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部 地下会議室-

地下会議室が使われることは滅多にない。

 

現在存在している12人の上級大将全員がその場に集結し明確な議題がない限りこの会議室の扉が開くことはない。

 

当然警備や防備は並の会議室とは比較にならず仮に軌道上爆撃を2回食らったとしてもびくともしない作りになっている。

 

これは総統府に建設中の緊急地下司令室も同様だ。

 

今日はそんな地下会議室が開放され重要な会議が開かれていた。

 

「全員も知っての通り我々はウェイランドに存在する陛下の宝物庫を開放した」

 

12人の上級大将に見守られテーブルにウェイランドと宝物庫の様子がホログラムとして映し出された。

 

続け様にフューリナー上級大将が12人に資料をホログラムで配り説明を始めた。

 

「惑星イラム、ようやく我々はこの惑星を発見した。ありとあらゆる帝国のデータベースから削除された宝の星だ」

 

「本当に資源は存在しているのか?やはりもう採り尽くしてしまったのでは」

 

宇宙軍のフェリー・シュテッツ上級大将が不安を口にした。

 

彼らが言う宝というのはあのデス・スターのスーパー・レーザーの原材料ともなったカイバー・クリスタルの事だった。

 

帝国が誕生する何千年も前からこの惑星は旧ジェダイ・オーダーの特別な通過儀礼の会場となっていた。

 

だが守り人のジェダイは愚かにも反乱を起こし全滅、帝国の手に渡った。

 

当然貴重な資源を帝国が見逃すはずもない。

 

帝国は大規模な採掘を行いイラムのカイバー・クリスタルを採り尽くした。

 

はずだった。

 

なんと実際には帝国が採掘したカイバー・クリスタルは本当に一部だけに過ぎずまだ倍以上のカイバー・クリスタルが埋蔵されていたのだ。

 

この情報が発覚したのは第三帝国が誕生してから僅か三ヶ月後の事であり親衛隊は長い間イラムの所在地を探っていた。

 

不思議な事にイラムの所在地は帝国軍の有りとあらゆる星図や公文書から抹消されていた。

 

その為苦労を重ねようやく親衛隊はこの惑星を発見したのだ。

 

「いいや、宝物庫のデータバンクにも確かに埋蔵されていると記されていた。何故そのまま放置していたか不明だが…」

 

結局彼らもイラムやカイバー・クリスタルの事全てを知り尽くしているわけではなかった。

 

まだまだ謎も多い。

 

「重要なのはそこにあるかどうかで謎など今はどうでもいい。あの惑星を、カイバー・クリスタルを手に入れた後調べようじゃないか…それよりも」

 

シュメルケ上級大将は上級大将達を宥め次の議題に移った。

 

若干穏やかな表情も一瞬で低い声質と共に変化しいつもの生真面目な表情に変わった。

 

上級大将達の意識と目線がシュメルケ上級大将に集められる。

 

「未だ各地に蔓延る帝国の残存勢力だ。今のところ我々は彼らをまだ同じ帝国の一員として見ており再び帝国に迎え入れるつもりでいる…が」

 

最後の一言で不満を浮かべる者も賛成だと頷く者も表情が変わった。

 

シュメルケ上級大将は腕を組み鋭い眼光で言葉を続かせた。

 

「それではいたずらに労力と時間を費やし結局得るものに対して釣り合わない。我々は少し冷酷になるべきだ」

 

そう言うと上級大将達のテーブルに別の資料が配られた。

 

現在確認されている帝国軍残存勢力と存在している可能性のある帝国軍残存勢力の資料だ。

 

指導者や関係者の名前が連なりその下に大まかな規模と予想図が記されている。

 

どれもこれもコルサントや帝国の情報施設で新たに発見されたものだ。

 

抱え込まれたエンドア後の闇が再び姿を表したと言うところだろう。

 

「既に総統閣下は我が第三銀河帝国への集結命令を無視する幾つかの勢力を“粛清”するおつもりだ。真の帝国が誰か分からない愚か者どもをな」

 

上級大将達に緊張が走った。

 

つまり総統は第三帝国の軍門に下らないかつての仲間達を切り捨てるつもりだ。

 

粛清と言葉を濁したが少なからず帝国同士の戦いになるだろう。

 

「だが我々は既に新共和国の残党、地方防衛軍の反抗勢力といった厄介な敵を抱えている…これ以上敵を作るのは望ましくない」

 

そう発言したのは宇宙軍のゲイリス・フリューデンベルク上級大将だった。

 

彼は親衛隊宇宙軍の副長官と親衛第三艦隊司令官を務めていた。

 

周囲を敵に囲まれる事を戦略上好ましくないと知っている彼は慎重意見を口にした。

 

しかしシュメルケ上級大将はそれをわかった上で言葉を返した。

 

「何も全面対決に臨もうと言う訳ではない。むしろ戦力は回収したいところだ。連中は未だにスター・デストロイヤーや兵器を大量に保持しているからな」

 

「ではどうやって対処するのだ」

 

フリューデンベルク上級大将の問い掛けにシュメルケ上級大将はフューリナー上級大将に促す形で答えた。

 

「既に残存勢力内に放ったスパイが抹殺するよう行動を開始している」

 

「本当に成功するのか…?」

 

「保安局と情報部から選んだ選りすぐりのエリート達だ。失敗するはずがないだろう」

 

そう断言するのは情報部実行隊長官のフリツハルト・ヴィスターリッヒ上級大将だった。

 

彼の反対側に座る保安局実行隊長官のハイスリート・ミューレンリーベ上級大将も静かに頷いている。

 

「成功しなければ力尽くでねじ伏せるまでだ」

 

シュメルケ上級大将は当然のように仲間の圧殺を口にした。

 

フリューデンベルク上級大将のような将校達は眉を細めた。

 

流石に過激すぎるしまだ交渉の余地があると思ったからだ。

 

だが彼らが反対意見を口に出せないようシュメルケ上級大将は圧倒的な圧を加えた。

 

不用意な議論は結束を大きく乱すからだ。

 

それに彼らは残存勢力の傲慢さをまだ知らないだけでいずれ落胆するはずだ。

 

でなければシュメルケ上級大将とてこんな方法はとったりしない。

 

「真の平和を勝ち取る為、我々は我々も血を流さねばならんのだ」

 

詭弁に似た彼の考えは上級大将達をひとまずは納得させた。

 

と同時にある者達の死も同時に決定してしまったのだ。

 

 

 

 

-アウター・リム 残存新共和国領 惑星ラクサス-

ラクサスの軌道上には数百隻の新共和国艦とクローン戦争で戦い滅んだ亡霊の艦隊が集まっていた。

 

名は独立星系連合。

 

大いなる自由と夢を抱き共和国と戦いそして誰も知らぬ最期を遂げた悲運の亡国。

 

強大な軍事力と工業力を誇り共和国相手に何度も勝利を収め名勝負を演じてきた。

 

後にクローン戦争と呼ばれる銀河系を一変した大規模な戦争だった。

 

連合を指揮したセレノーの伯爵やサイボーグの将軍、無敵を誇る恐怖の提督にニモーディアンの戦術家と言った多くの名将や英雄達もこの時に名を馳せた。

 

しかしそんな彼らの勇戦も虚しく連合は目的を達成する事なく滅び去った。

 

多くの指導者は皆ムスタファーで“()()”され残された連合は帝国にすり替わった銀河共和国に敗北の烙印を押され解体された。

 

当然反旗を翻したものもいた。

 

だがそういった連中の最期は大抵何一つ報われず残酷に死を迎えるだけだ。

 

このラクサスも帝国の手により陥落し制圧化に入った。

 

ウエスタン・リーチで必死の抵抗を見せた分離主義者達も再編された帝国軍によりほとんどが討ち果たされた。

 

特に衛星アンター4では最も悲惨な出来事が起こった。

 

後にアンターの虐殺と呼ばれる帝国の報復攻撃だ。

 

アンター4にはまだ多くの共和国忠誠派がいたのにも関わらずだ。

 

多くの分離主義者達が血を流し斃れていった。

 

生き残った者達は当然のように初期の反乱運動に加わった。

 

反乱軍の理念は受け入れられないものも多かったがともに戦う他なかった。

 

特に過激な彼らはドロイド技術を生かし工兵や工作員として活動した。

 

中には独自の戦力を率いて活動する者もいた。

 

やがてエンドアで勝利を収め新共和国が誕生した。

 

当然共和国を倒す為立ち上がった彼らはその結果に納得する事はなかった。

 

だが新共和国に反旗を翻すほどの力も同時に存在していなかった。

 

結果彼らは新共和国を離反しせめてかつての首都惑星ラクサスだけでも取り戻す戦いを始めた。

 

戦いは苦戦を強いられたがかっらはやがて首都ラクサスを取り戻し自治権を獲得した。

 

ラクサスや周辺の衛星や惑星といった僅かな領土だが連合の遺児達は最低限の独立を確保し彼らは自らを“ラクサス自治連合”と名乗った。

 

25年ぶりに連合は甦ったのだ。

 

儚き栄光と多大なる犠牲の上に。

 

しかし僅か二年でその平穏は崩れ去った。

 

第三帝国の勃興と新共和国の崩壊はラクサス自治連合も無関係ではいられなかった。

 

敗戦した新共和国軍の一部は彼らの下にもなだれ込んできた。

 

かつての反乱同盟時代の伝を辿って。

 

連合側はこれを受け入れる他なかった。

 

何せ現在の自治連合の戦力は微々たるものであり新共和国の残党にすら勝てぬ有様だ。

 

彼らを受け入れ従う他なかった。

 

当然新共和国の残党を受け入れたということは帝国と敵対するということだ。

 

現在帝国軍はラクサスやその他の星系に向け大規模な進軍計画を推し進めており再び危機がこのラクサスに迫っていた。

 

「帝国軍は現在、斥候のインペリアル級を三隻このラクサス星系の付近まで展開しています。いずれ我が軍の防衛艦隊と衝突するでしょう」

 

新共和国艦隊のジャステン中将はラクサス自治連合の国家主席アヴィ・シンに説明した。

 

元新共和国軍工兵隊大佐で連合の名目上の最高司令官であるスタル・リストロング司令官がジャステン中将に迫った。

 

「このままでは帝国軍の侵攻を受けてしまう!どうしてくれるんだ!」

 

「当然応戦します、既に防衛線の構築は完了しました。ヤヴィン4やモン・カラとの連携も万全であります」

 

「仮に防衛に成功したとしても我が領土は戦火の被害を受ける事となる。これに対する責任はどうとるつもりだ!」

 

リストロング司令官はかなり強めに彼らを非難した。

 

司令官は特に新共和国の受け入れを反対していた。

 

彼らを受け入れてしまえば再び帝国軍に侵攻される危険性があったからだ。

 

せっかくこの手で掴み取った平和を赤の他人達に踏み荒らされたくはない。

 

「よせリストロング司令官。客人に失礼であるぞ」

 

「しかし主席…」

 

アヴィ・シン国家主席に止められたリストロング司令官であったが彼はまだ食い下がった。

 

そんな司令官を国家主席は優しく諭す。

 

「彼らがいなくとも恐らく帝国軍は侵攻を決意したであろう。奴らはそう言った輩だ…」

 

過去を思い出しアヴィ主席は痛々しい表情を浮かべた。

 

リストロング司令官はこれ以上何も言えなかった。

 

新共和国軍が来ようとどのみち帝国軍が理由をこじ付けて侵略に来るのは目に見えている。

 

主席に咎められ言い返す事の出来ないリストロング司令官を見ながらジャステン中将はリストロング司令官を軽く鼻で笑った。

 

その様子に気づいたリストロング司令官は歯噛みしながら怒りを抑えた。

 

するとジャステン中将はアヴィ主席に進言した。

 

「どうでしょう主席、あなた方連合軍と我々新共和国軍が共同戦線を展開するというのは」

 

「断れば当然…」

 

「よせ、エンベル准将。あなた方も帝国に対して恨みを抱いているはずだ。それを晴らすチャンスは今だと私は考えます」

 

「貴様…図に乗るなよ…」

 

リストロング司令官が彼らに釘を刺した。

 

これは失礼にも程がある。

 

彼らからは敬意というものが全く感じられなかった。

 

しかも公然と脅しまでかけてくる。

 

だがそれを諌める力すらも連合側にはなかった。

 

「検討しておこう…ラクサスの民を守る為ならばな」

 

アヴィ主席は新共和国側の将校達に僅かながら睨みを聞かせた。

 

老練な主席の睨みにより新共和国将校達は少し目を逸らした。

 

その間にリストロング司令官の背後にいた幕僚の1人彼に耳打ちした。

 

数回小声で相槌を打つと同じく小声で「直ぐに向かう」とだけ伝えた。

 

「急用が入りました。席を外させていただきます首席」

 

アヴィ首席に頭を下げると司令官はその場を後にし数名の幕僚と共に急足で呼ばれた場所へ向かった。

 

無言の移動はそう長くは続かなかった。

 

待っていた相手は既に通路脇で数名の新共和国士官と共に佇んでいた。

 

あの面構えから察するに彼らは我々に味方する者であろう。

 

軽く手を振り敵意が無いことと待たせた事を謝罪した。

 

「緊急の命令だ将軍…なるべく新共和国の連中には悟られるな」

 

司令官は将軍の顔に値する部分を見つめて命令した。

 

彼は一言も発することなく命令を聞いた。

 

「アヴィ主席や連合の指導者を全て逃がせ、ラクサスはどの道陥落する…艦隊戦力と共に希望の光を僅かにでも残しておくのだ」

 

悲痛な表情でリストロング司令官は将軍に命令した。

 

後ろの将校達も悔しそうな表情を浮かべていた。

 

「再び…再びラクサスに帰ってくるためだ…頼んだぞ将軍!」

 

将軍の肩に手を乗せ強く訴えた。

 

すると将軍はようやく返答の言葉を返した。

 

「了解、必ず任務を遂行する」

 

冷徹なドロイドの声が響いた。

 

タクティカル・ドロイドのカラーニ将軍に新たな任務が下された。

 

 

 

上級大将達の階段から5日後、遂に帝国軍のアウター・リム討伐作戦が開始された。

 

投入される戦力はホズニアン・プライムを襲撃した時の1/3にも満たなかったがそれでも十分大規模な戦力だ。

 

既に銀河系は年末に差し掛かっており市民からは「来年で戦争が終わりますように」という細やかな願いが薄らと広まっていた。

 

それでも帝国は今まで勝利を収めてきた為人々の戦争協力度や士気はかなり高かった。

 

この戦いも帝国の大勝利になるだろうと多くの惑星で囁かれている。

 

当然帝国軍も同じ気持ちだ。

 

先方部隊として親衛隊のフーデル・エールリンク大将ら率いる三個師団と二個艦隊が展開された。

 

多くのスターファイター部隊が配備されている為大規模な爆撃による攻撃があるだろうと囁かれていた。

 

それに対して新共和国残党軍は惑星オッサスに艦隊と地上部隊を集結させ防衛線を展開。

 

主戦場はオッサス周辺になるだろうと誰しもが予想した。

 

帝国軍の主力はユーゲン・シュトームヘルゼン大将と正規軍のパリス・ジェイル将軍が前線で指揮を取り、司令部が後方で指示を出す事となった。

 

多くのウォーカーが配備され新共和国側は厳しい地上戦を強いられる事となるだろう。

 

非常時に備えた後詰めや遊撃部隊の後方部隊は正規軍のハネス・ドリヴァン提督が指揮下に置かれた。

 

そしてジークハルトの第六親衛連隊はこの後方部隊に組み込まれた。

 

最精鋭である彼らが何故後方部隊に配属になったか明確な理由は不明だった。

 

しかし連戦続きの彼らを休ませてやろうという心遣いが主な理由だろう。

 

これ以上彼らが損耗する事も望まれてはいない。

 

少しでも休養を与えてやる事が重要だった。

 

そして帝国軍の先行部隊は今日出立した。

 

惑星タナブの軌道上を数十隻のインペリアル級が次々と飛び立っていく。

 

他にも護衛のアークワイテンズ級や師団を運搬するセキューター級の艦隊がインペリアル級に続いていった。

 

その様子を軌道上のステーションで多くの兵士や職員達が見送っていた。

 

当然その中にはジークハルト達もいた。

 

後方部隊で出撃は当分先である為少しばかり暇になっていた。

 

「これで新共和国との戦いも終わるんだろうな」

 

ハイネクロイツ中佐が独り言のように呟いた。

 

「分からん…が、戦いが終わるまで少なくとも私達は戦い続けなければならん。どんなに長かろうとな」

 

アデルハイン中佐は腕を組みながら答えた。

 

新共和国のほとんどはラクサス、モン・カラ、ヤヴィン4に集中しているとはいえ全部ではない。

 

あそこの新共和国軍を殲滅しても戦争は続くだろう。

 

まだまだ帝国の敵は多い、きっと戦いは長くなる。

 

それでも中佐の言う通り自分達は平和になる日まで戦わなくてはならない。

 

仮に自分が死んだとしても、信じる者の為に。

 

だがそれも自分の代で終わりにしたいものだ。

 

あの子を、マインラートが戦う事がないように。

 

「戦いが長かろうと我々は進み続けなければならない…未来の子供達が地獄を見ずに済むように」

 

2人の中佐は頷いた。

 

深く彼の事情を知っている2人だからこそ伝わるものがあるのだろう。

 

北東戦線の開幕と共に彼らの切なる願いは儚い争いの宇宙に散っていった。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー 残存帝国領 惑星ケッセル-

ケッセルは間違いなく銀河系で最悪の労働環境であろう。

 

しかも誰もがその事について関わろうとしなかった。

 

結果ケッセルでの労役は帝国時代、銀河最悪の刑罰として知れ渡った。

 

送り込まれれば一年も持たないとの噂だ。

 

尤も送り込まれた者達が無事に帰ってきたかどうかは不明だが。

 

当然ここにも帝国軍は展開されていた。

 

ケッセルで採掘されていたケッセルストーンには艦隊の燃料となるコアクシウムも存在している為当然抑えておきたかった。

 

もう一つ、かなり昔からケッセルと手を組んでいた者達がいた。

 

それはパイク。

 

あの悪名高い犯罪組織のパイク・シンジゲートだ。

 

帝国が来る以前から彼らはケッセル王室と契約しこの地で採取される惑星半球側のスパイスを独占していた。

 

そしてそれは帝国が訪れてからも対して変化はなかった。

 

むしろ帝国はこういった組織を潰すのではなく見逃し傀儡としていた。

 

第一帝国が滅んだ今その選択が正しかったのかは不明だが少なくとも彼女らには多大な恩恵を与えていた。

 

ケッセルを防衛していた帝国軍残存勢力に多大な恩恵を齎した。

 

犯罪シンジゲートとの繋がりは辺境のこの惑星において間違いなく唯一と言っていい情報のパイプラインだろう。

 

彼女達は銀河から孤立する事なく、それと同時に誰にも気づかれる事なく力を蓄えていった。

 

ケッセルの資源をバックに、帝国の軍事力とパイク・シンジゲートの情報網を手にして。

 

「総督、哨戒艦隊が戻ってきました。なんでも第三帝国の特使を連れて来たと…」

 

報告に来た中尉は旗艦ディヴィエイトのブリッジに佇む総督に声を掛けた。

 

とてもケッセルの総督(この場合はGovernorでモフではない)とは思えない年齢と美しい容姿に澄み通った美しい金髪を靡かせ彼の方へ振り返った。

 

まるで宝石のように美しい金色の瞳を持った美少女が彼の方に近づいてきた。

 

目を細めまるで何かを疑うように。

 

彼女は小動物のように注意の匂いを嗅いだ。

 

普通にしてれば十分可愛らしくまた同時に美人で魅力的なのだが。

 

彼女は口を開き中尉は戦慄した。

 

「貴方、匂いませんわね。スパイスの匂いが全然しませんわ」

 

全く何言ってるか分からないと思うがこれでも十分中尉は理解していた。

 

大きく動揺してしまい余計疑いが強くなった。

 

「総督…何をおっしゃっているのやらさっぱり…」

 

笑って誤魔化そうとしたが完全に手遅れだ。

 

彼女は大きくため息を吐き、やれやれと言った表情を浮かべた。

 

「ホントに…どうしようもない人ね」

 

「意味がわかりま…っ…!」

 

中尉の頭にはブラスター・ピストルの銃口が突きつけられていた。

 

ピストルの引き金はすぐ引かれ流血と共に裏切り者の中尉は倒れた。

 

「第三帝国の連中でしょう、彼らは貴女のようなレムナントの指導者を一掃するつもりだ」

 

彼を撃ち殺した若き保安局員は何やら知った口調で中尉だった遺体に近づいた。

 

話し方もよそよそしく何かを伝えている感じだった。

 

しかもこの保安局員は中尉と同じく彼女風に言わせればスパイスの匂いが全くしかなった。

 

「貴方は…誰?もしかしてそこの彼が言ってた第三帝国の特使ってのも嘘なの?」

 

保安局員はその通りだと頷きこのケッセルの実質的な支配者であるクラリッサ・ヤルバ・パイクに自己紹介した。

 

「私の名はマルス・ヒルデンロード。大提督の命を受けファースト・オーダーの使者として参りました」

 

 

つづく




お久しぶりでございやす

一応新章?ですかねはい



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同盟の再起

「銀河帝国というのは崩壊後、単なる概念に過ぎなくなった。」
-銀河帝国史4 崩壊する帝国より抜粋ー


-ディープ・コア ソス・ビーコン 第三帝国軌道上ステーション-

三隻のインペリアルⅡ級スター・デストロイヤーと数十隻のゴザンティ級がハイパースペースから出現した。

 

ソス・ビーコンの軌道上には他にもインペリアル級やヴィクトリー級といった大量の帝国の軍艦がステーションを取り囲んでいた。

 

同じ帝国の軍艦ではあるが彼らは皆仲間ではなかった。

 

むしろ間柄は険悪といった方がよさそうだ。

 

出現したインペリアルⅡ級から1機のラムダ級と2機のTIEブルートが発艦しステーションに向かった。

 

他の軍艦からも同じようにシャトルが発艦しステーションを目指している。

 

また互いを牽制し合うようにスターファイターを発進させ艦隊の周囲を哨戒させた。

 

意味のない行為と言われればそれまでだが彼らには十分価値ある行為だと認識されていた。

 

シャトルはステーションのハンガーベイに着陸し機体のウィングを畳んだ。

 

コックピットのハッチが開き将校の一団がぞろぞろと姿を表した。

 

全員親衛隊の軍服を見に纏っており色は白、つまり保安局の将校達だった。

 

「パージチーム、作戦を開始せよ。なるべく悟られるなよ」

 

将校の1人がコムリンクに向かって命令した。

 

他の将校達は無言で会場に進んでいく。

 

戦闘を歩くのはディールス長官の懐刀であるフリシュタイン大佐であった。

 

彼の副官であるミシュトライン中尉とリッツァー中尉を従え無表情で通路を歩いていた。

 

「参加を拒否…または音信不通の勢力は?」

 

「モフギデオンの勢力は完全に沈黙、ケッセル勢力とアデルハード総督の勢力は参加を拒否し残りの13人の軍将は全員参加です」

 

ミシュトライン中尉はフリシュタイン大佐に報告した。

 

「シュメルケ上級大将は既に両勢力に対し武力行使に移ると」

 

「わかった…3つの勢力の事は箝口令を出しておけ」

 

「わかりました」

 

命令と返答の作業的な会話を幾つか繰り返した後彼らは会場へと辿り着いた。

 

ステーションの会議室だ。

 

2人のインペリアル・ショック・トルーパーがドアを守っており一行が到着すると2人はコードを要求した。

 

フリシュタイン大佐はコードシリンダーを一本彼らに手渡した。

 

コードシリンダーに入っていったコードは異常なく読み込まれドアが開いた。

 

「どうぞ大佐、そちらの方々は?」

 

ショック・トルーパーの1人が尋ねてきた。

 

「私と2人、それと警備を担当する6人を中に入れろ。その他は待機だ」

 

将校達は頷きフリシュタイン大佐に率いられた8人が会議室に入室した。

 

全員がそれぞれの位置につきフリシュタイン大佐はテーブルの一番はじに座った。

 

既に集められた13人の軍将達はそれぞれの席についた。

 

「まさか我らの席に佐官の者が居座るとはな」

 

軍将の1人がフリシュタイン大佐の階級を見つめて皮肉った。

 

「あいにく、シュメルケ上級大将もヴィアーズ大将軍もオイカン元帥もローリング大将軍も大忙しなので。暇なあなた方と違って」

 

余裕の笑みを浮かべたままフリシュタイン大佐は彼らに皮肉を言った。

 

この場にいる13人の軍将たちをこうして席につかせるのは至難の業だった。

 

そもそも第三銀河帝国を快く思っていない彼らが第三帝国の呼びかけに応じること自体以上なのだ。

 

これにはスパイ達もかなり苦戦したと聞く。

 

しかし彼らの助言と兵達の賛同も集まってようやくこの13人の軍将達を会議の席に呼び出すことが叶った。

 

無論嫌々参加というのが大きいらしく苛立ちながらもまた別の軍将が彼に尋ねた。

 

「それで我々を態々呼び出した理由はなんだ、第三帝国」

 

かなり悪態をついた様子だ。

 

その様子をものともせずフリシュタイン大佐はかなり太々しく答えた。

 

「当然今までと変わらず帝国に帰属していただくことにあります。我々とてあなた方と戦う事は決して望んではいない」

 

彼は要求を述べたがすぐ拒否の言葉が飛び交った。

 

「拒否する!貴様ら第三帝国と同盟を組む気なの毛頭ない!」

 

最初に言葉を開いたのはマルクフラ・ワイズ提督だった。

 

彼はディープ・コア第十五艦隊の指揮官を務めておりディープ・コアの領有権を巡って他の軍将達と争っていた。

 

次に拒否を述べたのはブリッツァー・ハースク提督だった。

 

彼は上位軍将という今までにない階級を名乗っており他の軍将達よりもかなり傲慢であった。

 

自惚れが強く権力の誇示や古い儀式などを好み自らが皇帝の後継者に相応しいとさえ考えていた。

 

その為第三帝国と代理総統に対する逆恨みは人一倍強い。

 

「何が第三帝国だ偉そうに。貴様ら紛い物の帝国に従属すると本気で思っているのか」

 

口調も荒々しくかなり暴言も混じっていた。

 

第三帝国のメンツを守る為にもフリシュタイン大佐は反論した。

 

「ですがその紛い物の帝国が新共和国すら下し、今では銀河系のほとんどを支配している」

 

「黙れ!保安局の大佐でしかない小僧が偉そうに!真に正しいのは我々の帝国だ!貴様らなんぞに従えるか!」

 

素早く反論したのはトルーテン・テラドク自称高位提督。

 

マルドルード宙域で活動している軍将の1人であり彼の率いられた勢力はグレーター・マルドルードと呼ばれていた。

 

テラドク提督は見るからに肥満体型でありしばしば赤ら顔で汗まみれになることが多かった。

 

特にヴィクトリー級のような小型で用途の広い艦で艦隊を編成する事を戦術哲学としていた。

 

しかしその艦隊を彼自身が直接指揮する勇気はなくテラドク提督は常に安全な要塞で指揮を執ることが多かった。

 

無論これは他の軍将達も同じ事だ。

 

ハースク提督も迅速な反撃や不意打ちといった残忍性はあったものの艦隊の安全な後方で指揮を執ることが多かった。

 

そのせいか彼らの残存勢力に使える将兵のほとんどは彼らを信用していなかった。

 

「新共和国を倒した功績はあったとしても仕える理由にはならん。代理総統など所詮は陛下を騙った下賤な指導者だ」

 

自称上位将軍であるサンダー・デルヴァードス将軍はフリシュタイン大佐を鼻で笑い第三帝国を貶した。

 

自らの自信を示す多くの勲章が胸に並べられている。

 

骸骨のように肌色が悪い彼はあのターキン家から嫁を貰っており実質的にターキン家の親族であった。

 

しかし彼の女癖は悪く妻がいるのにも関わらず「どこの宇宙港で彼を見かけてもそばには別の女がいた」と言われるほどだった。

 

それもそのはず、将軍の真の愛情は妻ではなく愛人の方にあったからだ。

 

同じ妻帯持ちであったヴィアーズ大将軍と比べてもえらい差だ。

 

「貴様らが若きターキンを唆したせいで私はセスウェナとエリアドゥを手に入れる事が出来なかった。本来ならあの場所は私の領土だ」

 

「デルヴァードス将軍、聡明なグランドモフヘルムート・ターキンは自ら我々に忠義を尽くして下さった。貴方がどうこういう立場にはないと考えます」

 

「なんだと小僧?私は彼の親族だぞ!あんな年少の者にエリアドゥを任せておくなどあり得ぬ話だ!」

 

「汚い小鼠がグランドモフターキンの遺産に集ろうとする姿は滑稽だなデルヴァードス将軍。どうせ領有権が欲しいだけのくせに」

 

ワイズ提督はデルヴァードス将軍を小馬鹿にした。

 

堪忍袋が切れかかっていたデルヴァードス将軍にとっては痛烈な一撃だ。

 

彼の怒りの堤防は一瞬にして断ち切れた。

 

「無礼だぞ!大した勢力も持たぬ艦隊指揮官が偉そうに!」

 

「ふん、帝国の名を借りた小鼠どもが何を偉そうに。所詮は同じ穴の狢だ」

 

「テラドク提督こそ、ご自身の愚かさを知っての言葉かな。亡き陛下もお前達のような愚かな配下を持って嘆いておいでだろう」

 

誰かが相手を貶めようとすればまた誰かがその者を貶めようとする。

 

愚かで醜い言い争いが始まってしまった。

 

フリシュタイン大佐から見れば皆平等に愚かな小鼠で同じ穴の狢だ。

 

結局彼らは自分の権威を守ることしかしていない。

 

「モラックの残存勢力の司令官とヴァリン・ヘス将軍は帝国への帰属を認めた。彼らは今不毛な言い争いを始めようとするあなた方より何十倍も時間を浪費せず懸命な判断をしていると思いませんか?」

 

皮肉まじりに大佐は真実を一つ付け加えた。

 

するとワイズ提督が鼻で笑った。

 

「バーニン・コンの愚か者も堕ちたものだな」

 

「ああ、言っておくぞ大佐。私は貴様らのような連中と手を組む事はないし栄光を分け合うつもりもない」

 

「どこかの誰かさんのように不意打ちでしか新共和国を滅ぼせない奴が我々と対等であるはずがない」

 

「帝座につくに相応しいのは私だ。お前達のような者に分け与える分はない」

 

ワイズ提督もデルヴァードス将軍もテラドク提督もハースク提督もこの意見に関しては同じようだ。

 

第三帝国に服属するつもりはない。

 

自分の小さな王国と権力が崩れなくなってしまうから。

 

無意味な傲慢さが彼らの仇となった。

 

フリシュタイン大佐はため息をついた。

 

するとリッツァー中尉が大佐に耳打ちをした。

 

フリシュタイン大佐は小さく頷くと手を二回叩き将校達に命令を出した。

 

その様子を逃さず問い詰めたのはテラドク提督だった。

 

「貴様、何を命令した?それはなんだ!」

 

テラドク提督の大声を無視しフリシュタイン大佐はテーブルの下からマスクのようなものを取り出していた。

 

軍将を除いた他の将校達も同じマスクを付けている。

 

軍将達はその様子に気付き慌て始めた。

 

「何をするつもりだ貴様ら!!」

 

怒鳴り声をたてハースク提督は立ち上がった。

 

ワイズ提督も冷や汗を流し深刻な表情を浮かべ床を見つめた。

 

すると彼は違和感に気づいた。

 

「なっなんだこの空気の色は!これは毒ガスではないのか!!」

 

その声に驚いた軍将達からどよめきの声が上がった。

 

フリシュタイン大佐はマスクの上から帽子を被り直すとニヤリと笑った。

 

「ええ、その通りですとも。それが何か問題でも?あなた方は我々の最後の慈悲を断った。ならば方法は一つです」

 

その意味を察したデルヴァードス将軍は急いで扉の方へ向かいドアを叩いた。

 

「おい!!衛兵!!開けろ!!今すぐ開けるんだ!!聞いているのかトルーパー!!開けろ!!」

 

しかしドアは開く事なく外にいるショック・トルーパー達からも応答はなかった。

 

密封された部屋に立ち込める毒ガス。

 

しかも武器は全て置いてきた為反撃は出来ない。

 

彼らはゆっくりと死を待つだけだった。

 

軍将達から恐怖に怯える悲鳴が聞こえた。

 

徐々に毒ガスは充満し防ぐ事の出来ない彼らを襲った。

 

「うっ!グァガア!かっ…!クソッ!苦しい…!」

 

「貴様っ…!よくも…!」

 

「ふざけるな小僧…殺す…!貴様を赦してなるものか…!」

 

「俺の部下が…時期にグっ…!駆けつけて…!お前達は死刑だっ…!銃殺され…無様に殺されるっ…!」

 

「その前にあなた方の方が先に死にそうですがね。それも私たちよりもっと無様に」

 

大佐は席を立ち苦しむ軍将達をじっと見つめていた。

 

全員もがき苦しみ喉を抑えていた。

 

手や顔に血管が浮き上がり苦しみの度合いを想像させた。

 

まあこんな連中に同情してやるつもりは一瞬たりともないのだが。

 

「悪いが我々は内戦を起こしている場合ではないのです。これから始まる北東戦線や平和への計画の為にも」

 

「計画だとっ…!ふざけるなっ!帝座の簒奪者がっ!」

 

「帝座帝座とうるさいですね…ハースク提督、貴方も十分皇帝であったではないですか。鳥籠のように小さい、愚者にふさわしい帝国のね」

 

「貴様っ…!青二歳の分際で!!」

 

フリシュタイン大佐を睨みつけるハースク提督だったがついに限界が来たのか倒れ込み瞳孔を開いたまま苦しそうに隣にいたテラドク提督の軍服を掴んだ。

 

テラドク提督はもう睨みつける力すら残っておらず喉を抑え大きく目を見開いたまま叫び声を上げていた。

 

ワイズ提督は既に床に倒れ込んでおりもう死にそうだった。

 

使われている毒ガスは通常の神経ガスの何倍も効力の強いものだ。

 

ここまでガスが充満してしまえばもう手立てはない。

 

しかも武器がなくガスマスクを被った将校達は皆ブラスター・ピストルを装備している為奪い取ることなど不可能だ。

 

それに彼らの戦闘力など高が知れている。

 

「デルヴァードス将軍、ワイズ提督、ハースク提督、テラドク提督、あなた方の帝国は全て頂く。無論この場にいる全員の帝国もだ」

 

「させるか……!我が帝国も…栄光も…誰とも分け合うつもりはない!」

 

デルヴァードス将軍は己の勲章を引きちぎり鋭い先端をまるでナイフか何かのようにフリシュタイン大佐に向けた。

 

なんとか大佐を勲章で刺し殺し一矢報いようとしているのだろう。

 

全く呆れるほど見事な強い意志だ。

 

ここにいる軍将達全員がそうだ。

 

ただ苦しみもがくだけで誰も命乞いをしない。

 

ここまで鋼の意志を持っているのならもっと別の方向で活かしてほしかった。

 

無論彼らにそんな知能があるとはこれまでの言動を鑑みてもあり得ないのだが。

 

とはいえここで放置しておくと面倒なことになるので始末しておこうとフリシュタイン大佐はブラスター・ピストルをテーブルの下から取り出した。

 

彼の右手に一発ためらうことなくブラスター弾を撃ち込んだ。

 

勲章は流血と共に床に落ち将軍は痛みを乗せた絶叫を放ちさらに毒ガスによって苦しめられた。

 

このまま撃ち殺してしまっても良かったのだがそれでは風情がないというものだ。

 

無論フリシュタイン大佐にそんな雄悦は持ち合わせてない。

 

こういうので喜ぶのはディールス長官あたりだろう。

 

「大佐、攻撃チームが到着しました。制圧を開始します」

 

「我々はしばらくここにいる。全員の死が確認されるまで誰1人室内に入れるな」

 

「了解」

 

ふとフリシュタイン大佐が窓の外を見つめると数十機のTIEリーパーがハイパースペースから出現した。

 

周囲を警戒していた第三帝国のTIE部隊が直様TIEリーパーの護衛に就く。

 

一方他の残存勢力の機体は状況が分からずただ右往左往していた。

 

TIEリーパー隊は真っ直ぐステーションの方へ向かっていった。

 

ステーションのターボレーザーは全く機能せず逆にTIEリーパー隊を出迎えるようにハンガーベイのシールドを解除した。

 

1機も撃墜されることなくTIEリーパー隊はステーション内に侵入した。

 

機体のハッチが開き一斉に黒いアーマーに灰色のラインの入ったカーマーとヘルメットを身につけたトルーパー達が機体から降り立った。

 

全員がDTL-19D重ブラスター・ライフルを装備しており何人かは背中にエレクトロスタッフを背負っていた。

 

彼らはフューラー・パージ・トルーパー。

 

本来パージ・トルーパーは大抵の場合元クローン・トルーパーで構成され旧ジェダイ・オーダーの反乱分子を掃討するのが役目だった。

 

そしてこれは親衛隊が運用するパージ・トルーパーの一種でり親衛隊保安局の突撃精鋭部隊として扱われていた。

 

選りすぐりのエリートトルーパーでありクローン兵のパージ・トルーパーと同等まではいかないものの高い練度を誇る無慈悲な粛清者達だ。

 

TIEリーパーを降りステーション内に侵入する。

 

目標は当然残存勢力の高官達だ。

 

歩兵や下士官、尉官以下の士官は放っておけば勝手に第三帝国側に着くだろう。

 

だが将官や佐官クラスの士官は放っておく事は出来ない。

 

急いで抹殺する必要があった。

 

「なっ何者だ貴様ら!」

 

当然武器を向けてくる相手も。

 

2人の残存勢力の士官がパージ・トルーパーにブラスター・ピストルを向けてきた。

 

反撃される前にパージ・トルーパー達はDTL-19Dの銃口を向け一瞬たりとも躊躇いを見せず引き金を引いた。

 

放たれる無数の光弾が2人の士官を貫き無慈悲に葬った。

 

抹殺を確認するとパージ・トルーパー達は止まる事なくさらに進んだ。

 

彼らが本当に抹殺すべき人物達は別にいるからだ。

 

ほとんどのストームトルーパーや将校達はパージ・トルーパーたちの一団を見て唖然とする他なかった。

 

またある者達はついに作戦が始まったのだと緊張感を持ち始めた。

 

このステーション自体は第三帝国の所有物であり他の勢力から送り込まれた将校たちを除いたほとんどが親衛隊や正規軍所属だった。

 

その為彼らの到着が何を意味するかよくわかっているのだ。

 

黒いトルーパーたちがステーションの通路を通り過ぎかなり大きいドアの前で停止しドアが開いたと同時に内部に入った。

 

各残存勢力の将官以上の将校が室内に集まっていた。

 

ここがちょうど待機室だ。

 

必要なのは戦力であって邪魔な老害思考の指揮官達は必要ない。

 

「なっなんだ貴様らは!!」

 

少将の階級章を持つ将校の1人がパージ・トルーパーに向かって怒鳴りつけた。

 

しかしパージ・トルーパー達は少将の言葉を無視し銃口を彼らに向けた。

 

「なっ何を……」

 

狼狽える将校達に向けられた銃口は容赦なく火を吹いた。

 

放たれる何十発ものブラスター弾が将校達の足や腕、胴体に頭を貫き流れ出る血飛沫と断末魔の叫びと共に床へと撃ち倒した。

 

粛清(purge)の名に恥じぬ行動によりあっという間に残存勢力の上級指揮官達に死が齎された。

 

パージ・トルーパーの部隊長はヘルメットのコムリンクを起動するとフリシュタイン大佐に作戦の成功を報告した。

 

「こちら第一分隊、待機室を制圧完了。生存者はなし」

 

コムリンクの先では他にも司令室を占拠した部隊や兵器コントロール室を占拠した部隊、ハンガーベイを制圧した部隊からも連絡が入っていた。

 

もうこのステーションは完全に第三帝国によって占拠された。

 

残りは残存勢力の部隊だ。

 

だがそちらも問題はないだろう。

 

なんて言ったって無数のスパイが既に残存勢力内に存在しているのだから。

 

「会談が始まってまだそう時間は経っていない…良い結果で終わるといいのだがな…」

 

ハースク提督の残存勢力に仕えるインペリアル級の艦長はブリッジで独り言をふと漏らした。

 

彼とて第三帝国と戦いたいわけではない。

 

かつては同じ帝国という家で同じ窯の飯を食い同じ軍の下で戦った。

 

仮に名前を知らなくとも彼らは仲間なのだ。

 

仲間と戦うのは心苦しい。

 

それにきっと指導者であるハースク提督は我々に戦わせるだけで自らは手を汚さないのだろう。

 

そんなことをふと思っているとブリッジの奥から銃声が響いた。

 

「なんだ!?」

 

隣にいた副長や士官達と共に後ろを振り返るとよろよろと1人腕を押さえながら倒れ込む士官が目撃された。

 

大丈夫かと声を掛ける間も無く彼を撃ったであろう士官や下士官達の集団がブリッジに上がってきた。

 

全員ブラスター・ライフルやブラスター・ピストルを所持ししっかり武装している。

 

当然艦長は彼らに声をかけた。

 

「貴様ら…何者だ…?」

 

しかし返答は返されず代わりに副長からもブラスター・ピストルを向けられた。

 

他の下士官や士官達も同僚に銃口を向けられ困惑したまま抵抗する意思はないというポーズを取っていた。

 

「…艦長、我々の仕えるべき方は……本当にあの方なんでしょうか…」

 

副長は弱々しい表情で尋ねてきた。

 

それでも銃口はしっかりと艦長の方に向いている。

 

「仇を…新共和国を討ち倒した第三帝国にこそ…我々は仕えるべきなのではないでしょうか…」

 

副長の言い分は館長もよくわかった。

 

このままハースク提督に仕え続けても未来はない。

 

せいぜい派手に無駄死にするだけであろう。

 

されど、されどここで第三帝国側につけば少なからず意味のある行動につながるのではないか。

 

大きな希望と無意味な死が彼の目の前に広がっていた。

 

人は当然のように希望を掴む。

 

それは艦長もそうだった。

 

「わかった…本艦はこれより第三銀河帝国に服属する!ハースクとはもうお別れだ!」

 

艦長の決意は艦内とステーション中に響いた。

 

既に多くの艦が半ば強制的に親衛隊の制圧化に置かれていた。

 

さっきのインペリアル級のブリッジを襲ったのもスパイに扇動されて立ち上がった残存勢力のクーデター派だった。

 

指導者達に不満を持つ彼らは帝国に帰属した時のメリットを聞いただけですぐ第三帝国側に寝返った。

 

彼らの懐柔の方が比較的簡単だったと言える。

 

「勢力のほぼ100%が制圧されました。艦隊の艦長達のほとんどは無条件で帰属に従ったようです」

 

「手に入った戦力はどれくらいだ?」

 

ガスマスク越しからフリシュタイン大佐は状況を尋ねた。

 

ミシュトライン中尉端的に彼に報告する。

 

「インペリアル級四十八隻、ヴィクトリー級百十四隻、アセーター級一隻です」

 

「アセーター級は大収穫だがインペリアル級が少し少ないな…まあいい、シュメルケ上級大将に報告しろ」

 

「了解」

 

それでも軍将達が持っているには多すぎる代物だ。

 

これは我々が有効活用させてもらう。

 

毒ガスにより息が途絶えた軍将達を眺めながらフリシュタイン大佐はそう思った。

 

「ずいぶん早く死んだな…本当なら彼女の仕事か…」

 

大佐はふと独り言のように彼らを眺め言った。

 

「彼女?どうされました大佐?」

 

たまたま独り言を聞き逃さなかったリッツァー中尉が彼に尋ねた。

 

フリシュタイン大佐はふと考え今自分が言った言葉を思い起こし自分でも理解不能に陥った。

 

「…わからない…誰の記憶だろう…いや……“()()()()”だろう…」

 

「大佐?」

 

「いや…変なことを言ったな中尉、すまない」

 

謎の疑問を浮かべながらフリシュタイン大佐は窓の外に浮かぶ無数の帝国艦隊と銀河を見つめた。

 

 

 

 

-残存新共和国領 ゴーディアン・リーチ ヤヴィン星系-

時は後に「帝国再編の大粛清」と呼ばれる軍将達の大粛清よりもかなり前に遡る。

 

ウェイランドの戦いよりも前、ちょうどホズニアン・プライムが陥落した直後あたりだろうか。

 

ヤヴィン4で行われたあの大規模な戦闘から僅か1日後の事だった。

 

Uウィングに乗り込み旅に出た彼らがようやくゴーディアン・リーチに辿り着いたのだ。

 

帝国軍に見つからぬようなるべく遠回りした結果給油など含めてかなりの時間が掛かってしまった。

 

ただその分得るものもあった。

 

帝国軍のパトロールに遭わず安全に進めたし何より確認されていない大勢の新共和国軍の残党を発見出来た。

 

そしてようやく目的地ヤヴィン4のあるゴーディアン・リーチに辿り着いたのだ。

 

「だいぶ長い旅になったな」

 

「まだ数日しかたってねぇだろ。これからもっと長くなるはずだ」

 

座席に座るジェルマンの言葉を聞きながらジョーレンは操縦桿を握り機体を操った。

 

機体の各系統は全て正常を示しており周囲に帝国軍がいない事を確認させた。

 

「ヤヴィン4の駐留艦隊があれば少しはマシな戦いが出来そうだ。クルーザーが一隻、フリゲートが一隻、コルベットが二隻じゃ話にならんからな」

 

「これでも初期反乱運動の頃よりはマシなんだろう?」

 

「まあな…状況はもっと酷かったしもっと酷い戦いばかりだったよ」

 

新共和国の、曳いては同盟の先輩からこういう話を聞くのは貴重だ。

 

特に打倒帝国を成し遂げる為の裏の戦いというのは。

 

誰も話そうとしないし話してはいけないのが暗黙の了解だからだ。

 

テロリズムにも似た戦い方は新共和国のクリーンなイメージを大きく損なう。

 

今更と言われればそれまでだが政府としてはそう言った意向があった。

 

そこに何百人、何千人といった人々の犠牲と想いがあったとしても語ることは許されなかった。

 

「友軍の哨戒機に信号を出しておきたい。そこのスイッチを押してくれ」

 

「これか?」

 

「違う」

 

「じゃあこれ?」

 

「違う」

 

流石にジェルマンはムッとした。

 

「じゃあどれだよ」

 

「その緑のスイッチだ、そう、それ」

 

不機嫌そうにジェルマンはスイッチを押した。

 

態とらしく悪態をつくように思いっきり背もたれに寄りかかった。

 

Uウィングの航行音だけが静かに聞こえる。

 

すると前方のキャノピーの前から何かが見えた。

 

先に気づいたのはジェルマンだった。

 

指を向けジョーレンに尋ねた。

 

「なあ、あれは友軍機か?Xウィングの羽のようなものが見えるぞ」

 

ジョーレンは操縦桿を握ったままジェルマンの指先を凝視した。

 

確かに小さいがXウィングのSフォイルに酷似していた。

 

だが不思議な事に機体のセンサーにはなんの反応もない。

 

まるで目の前にいるXウィングは幻想か将又亡霊のような扱いだ。

 

「センサーは反応していない…妙だな」

 

「ヤヴィン4で最新の…例えばステルス性の高いXウィングが開発されたとか?」

 

「じゃあ聞くがそういう噂を聞いたことあるのか?俺はともかくお前は中央に勤められるほどのエリート情報部員だ。そう言った類の噂は大なり小なり聞いた事あるだろう」

 

ジェルマンは記憶を必死に記憶を探ったが特にそう言った話は思い出せなかった。

 

彼はゆっくりと首を振った。

 

「だろうな…となると前方の機体は…おい待て…」

 

突然ジョーレンがUウィングのキャノピーにへばりつくように凝視した。

 

彼が邪魔で全く何も見えないが何があの先にあるのだろうか。

 

ジョーレンの感想を待つばかりだ。

 

「どうした?何があったんだ?」

 

「おかしい…急に機体が増えたぞ…ほらあれ」

 

今度はジェルマンがジョーレンが指す指の先を見つめた。

 

確かにYウィングのコックピットのようなものが見えるしAウィングのエンジンのようなものも見えた。

 

「…少し飛ばすぞ」

 

ジェルマンがしっかり座席に着くのを確認すると操縦桿を一気に前に倒しペダルを踏み込んだ。

 

機体のコントロールをシールドとエンジンに全て振り分け更に加速させる。

 

おかげで衝撃の実態とかなり早くご対面出来た。

 

確かに“亡霊”というのはあながち間違いではないのだろう。

 

Uウィングの目の前には戦いで散ったスターファイターの亡霊が散らばっていた。

 

2人ともあまりの光景に絶句した。

 

TIEファイターのパネルやポッドももちろん存在するがそれ以上に新共和国軍機と思われる破片が多く散らばっていた。

 

「一体ここで何が起こったんだよ…」

 

ジェルマンはかつてスターファイターの一部だった成れの果てを危機迫る表情で見つめながら独り言のように呟いた。

 

ジョーレンは機体に破片が当たらぬよう最大限の注意を払いながら破壊されたスターファイターのデブリ帯を通り抜けようとしていた。

 

所々艦船らしきものが混ざっているがそれ以上に新共和国軍のスターファイターの破片の方が多い。

 

TIEのパネルよりボロボロに焦げたXウィングの破片の方を多く見るなど奇妙な光景だ。

 

「大規模…出なくともかなりの大きな戦闘があったはずだ…そして新共和国側は大損害を被った」

 

「相討ちの可能性は?」

 

「…多分惨敗か辛うじて撤退した感じだろうな…相討ちにしては帝国軍の機体や艦船が少なすぎる」

 

悲しい推測だがこれだけの惨状を見るに確かにこの地の新共和国軍は大損害を被ったのだろう。

 

それだけ破壊された友軍機が戦いの苛烈さを物語っていた。

 

「こんな有様じゃヤヴィン4に残ってる部隊ももうガタガタかもな…」

 

「ヤヴィン4の航空戦力があれば以前のように奇襲攻撃がかけられると思ったのに…」

 

悲観的になるジェルマンにジョーレンは今考えた持論を投げかけた。

 

「多分だが…その奇襲攻撃をしたせいでこうなったんじゃないかな」

 

ジェルマンは唖然とした表情でジョーレンの方へ顔を向けた。

 

ジョーレンは機体を操縦しなければいけない為まっすぐ前を向いたままだった。

 

「なぜそう思うんだ?」

 

ジェルマンは下手に考えずジョーレンの意見をまずはしっかりと聞く事にした。

 

「ひどい有様ではあるがよく見れば新共和国軍の艦船は少ないように見える。船の破片が少ないからな」

 

確かに彼のいう通りスターファイターの破片や多くあっても船の破片は少ない。

 

むしろ一隻もないように見える。

 

「多分セオリー通りに艦隊が支援しつつスターファイターを展開して戦列を崩した後艦隊で仕留めようとして返り討ちにあったんだろうな」

 

「そう思う理由は」

 

「お前もホズニアンで見ただろ、あの帝国軍のTIEインターセプターやTIEブルートの大軍を。少なくとも俺がパスファインダーにいる頃はあんなものが大量に飛んでいなかった」

 

確かに第三帝国になってから帝国はスターファイター類にも力を入れている。

 

今じゃ本来主力であるはずのTIEファイターはすっかり見かけなくなりTIEインターセプターやTIEブルートといったより性能の良い機体がスターファイター隊を構成している。

 

ホズニアン・プライムの時も新共和国スターファイター隊は新しいTIE部隊に次々と返り討ちにあっていた。

 

「俺の頃は…まあまともな戦力がスターファイターしかなかったからあの部隊は地上であろうと宇宙であろうと何処にでも展開された。おかげで今程では無くても毎度損害は大きかった」

 

新共和国が反乱同盟だった頃、艦隊と呼ぶには見窄らしい部隊と僅かな歩兵部隊しか当時の同盟軍にはなかった。

 

その為唯一真っ向から帝国軍に対抗出来る戦力といえばスターファイターしかなく多くの機体が自由の尖兵として最前線で戦った。

 

結果同盟の英雄は比較的パイロットから多く選出されるようになった。

 

デス・スターを破壊したルーク・スカイウォーカーや彼の中退を引き継いだウェッジ・アンティリーズ、己の命すら捧げたアーヴェル・クライニッド。

 

新共和国市民は特に英雄的な働きをしたXウィングとそのパイロット達を愛し尊敬の眼差しで見つめていた。

 

だがここに多くの犠牲があった事はあまり知られていないだろう。

 

同盟時代に偉大な働きをしスカリフで散ったアントック・メリック将軍やレッド中隊を率い戦死したガーヴェン・ドレイスや同じくゴールド中隊を率いたジョン・ヴァンダー。

 

他にも数え切れないほどの多くのパイロットが戦場に散っていった。

 

「特殊部隊よりもアイツらの死亡率は高かったと思えるほどだ。だがその分戦術はずば抜けて効果的だった。連中の要塞を二つも吹き飛ばすほどな」

 

第一も第二もデス・スターはスターファイターの攻撃が致命的な一撃となった。

 

「連中は屈辱に思ってるはずだ。対抗策は多く生み出されただろう。それに反して…これは偏見だが…今の新共和国はそれに対して進歩が少ないように見える」

 

言い逃れできない。

 

新共和国がありとあらゆる点で進歩をやめてしまったのは拭い切れない事実だ。

 

ジェルマンもそれを痛感していたし亡きストライン中将もそれを時々嘆いていた。

 

政治だけではなく軍事の面でも新共和国は進歩というより大きく後退したように感じる。

 

それに対して帝国は一歩どころか百歩近く進歩を遂げたように感じた。

 

ずっと新共和国との関係が閉ざされていたジョーレンだからこそより客観的に見えたのだろう。

 

「多分このまま戦っても今の帝国には勝てない。むしろ敗北を重ねる一方だ…今の軍は艦隊もスターファイターも歩兵も特殊部隊も恐らく全て帝国に遅れをとっているだろう」

 

「つまり…従来の戦術ではもう帝国に太刀打ち出来ないという事か…?」

 

認めたくはない。

 

だが連戦連敗の状況を見るに避け難い真実なのだろう。

 

「あいつらはきっと俺たちを倒す為に俺たちをずっと研究してきたんだ。兵器だけじゃなくて戦術やら何やらもな」

 

確かにジョーレンの言う通りかも知れない。

 

新共和国は油断し過ぎた。

 

帝国を背に平和に浸かり過ぎたのだ。

 

聞いた話によれば帝国軍は新共和国艦対最大級の主力艦であるスターホーク級の特殊兵装である強力なトラクター・ビームを打ち消す方法を見つけたらしい。

 

新共和国軍のスターファイターを遥かに上回るTIEシリーズが戦場で多く見かけられたとか。

 

それだけではなくかのデス・スターを彷彿とさせる超兵器を保持したインペリアル級も戦場に出てきたそうだ。

 

元より帝国軍に劣っていた新共和国地上軍なんかは更にひどい有様だったそうだ。

 

ありとあらゆる兵器をそして戦術を帝国軍は研究し全てを乗り越えた。

 

そしてその集大成を新共和国は大敗と崩壊という代償で完成させてしまった。

 

「…なあジョーレン、僕達は…勝てるかな…」

 

ジョーレンは目線を落とし不安な表情を浮かべるジェルマンをチラリと見つめた。

 

無理もないだろう。

 

彼は本来平和な時代を生きていくはずだったのだから。

 

ましてやこの目で祖国が滅びる様など見るとは思いもよらないだろう。

 

この若さにして彼はこの過酷な世界で敗者側として生きている。

 

不安にならない方がおかしいだろう。

 

「確かにこのままじゃ勝てんだろうな。でも負けてもなお立ち上がり続けるのは俺たちの専売特許だろ?連中を上回る工夫をしてやればいいのさ」

 

「…そうか…そうだよな!」

 

彼の表情は段々元に戻ってきた。

 

ジェルマンの良さはこういった立ち直るスピードの速さだろう。

 

決して冷徹ではなく敗北や人の死を悼みそれをバネとして立ち上がる。

 

今まで心を押し殺して冷徹な兵士として戦ってきたジョーレンにはない取り柄だ。

 

「ほら、そうこうしてるとお出迎えだぞ」

 

Uウィングのセンサーが何かを検知しピーピー音を鳴らしている。

 

友軍を発見したときの音声だ。

 

前を見つめると哨戒機と思われるXウィングが2機前方にいた。

 

「彼らに英雄の地を案内してもらおうじゃないか」

 

 

 

 

ヤヴィン4の軌道上には思った以上の大艦隊が駐留しておりジェルマンたちを軽く驚かせた。

 

2人は地上のマサッシ族が創り上げた神殿とはまた別の司令本部に案内された。

 

司令部には現在最高司令官であるライカン将軍、駐留艦隊の司令官であるゼロヴァー准将、地上軍の師団長であるブレン・ダーリン准将などが揃っていた。

 

「つまりホズニアンの攻撃を無事に生き延びた者達がディカーに集結しているのだね」

 

「はい、オーガナ議員やガー議員、ディゴール准将など含めた僅かな生存者ですが…」

 

辛い表情を浮かべるジェルマンにライカン将軍は気持ちを察しそれ以上言わなくていいと無言で静止した。

 

他の将校や高官達は後ろでひそひそと話を始めていた。

 

小さなざわめきが司令室に響く。

 

「こちらもマジノ線から何とか脱出した新共和国艦隊がある。まあ無傷とは言えんが…」

 

「ですがディカーの戦力と比べればかなり強力で頼もしい味方です」

 

「ジェルマン、通信機のセットが完了した。ディカーとの通信を繋ぎます将軍、盗聴や傍受の危険性は?」

 

「ない、こればかりは断言できる」

 

助かりますと一言添えてジョーレンはホロテーブルに繋いだ通信回線を起動した。

 

見る見るうちにレイアの姿が映し出され英雄の無事に将校達から喜びの歓声が湧き上がった。

 

レイアも同じく彼らの無事を安堵したようで優しい柔和な表情で見つめている。

 

『ライカン将軍、それにみんな無事で何よりです』

 

「いえ、姫…いや議員こそご無事で本当に良かった。ホズニアンの陥落と元老院議員達の処刑を聞いた時に死んでしまったのではないかと心を痛めました」

 

レイアとライカン将軍は同じオルデラン出身でありその親交はとても深かった。

 

『亡くなった多くの同胞達に哀悼の意を評します…マジノ線で命を散らした大勢の将兵達も』

 

「同じ思いです議員、ですが泣いてばかりではいられません。帝国軍は既にヤヴィン4にも何度も艦隊を展開しています」

 

ヤヴィン4も危機的状況にあることは変わりなかった。

 

むしろ帝国軍に発見されていないディカーの方がまだ安全と言えるだろう。

 

既に帝国軍は北東戦線の一環としてゴーディアン・リーチへの大規模な侵攻計画を考えていた。

 

「ストライン中佐や、ストライン准将含めた優秀な指揮官やパイロット達が大きな犠牲を払い何とか防いでいる状態です」

 

『ストライン…?』

 

その言葉にレイアとジョーレンとジェルマンは反応した。

 

レイアはジェルマンとジョーレンがその名前を口にしているのを何度か小耳に挟んでおり名前を覚えていたのだ。

 

そしてレイアよりも反応の大きかったのは当然ジェルマントジョーレンだった。

 

仮に別人だとしても反応してしまう。

 

「えっとディクス・ストライン中将と甥っ子のラクティス・ストラインです…」

 

2人は困惑した様子でレイアに敬礼していた。

 

レイアも2人を戸惑わせてしまったという失敗の念が表情に現れていた。

 

だが間違いない。

 

あの2人こそストライン中将から遺言を託されたディクス・ストラインとラクティス・ストラインだ。

 

「2人とも、市民の受け入れや帝国への防衛戦で多大なる戦果を挙げてくれています」

 

ライカン将軍はそう補足を入れて2人のストラインを評価した。

 

ジョーレンはただ驚いた表情で見つめていたがジェルマンは思わず声が出てしまった。

 

「あんた今…ストラインって…」

 

2人は更に稀有怪訝な表情を浮かべジェルマンに近づいてきた。

 

ジェルマンはあまりの衝撃に今自分がしてることが正確に認識できていなかった。

 

「2人ともストラインだが…何か?」

 

「ああ事情は後で話す、あんたらの親戚から託された事情をな。今はダメだジェルマン」

 

「あっああ…すいません…」

 

ラクティスもディクスも困惑したまま元に戻っていった。

 

中断されてしまった話が再び再開された。

 

『あなた方のように今、新共和国の仲間達はかつてないほど危機に晒されています。だからこそかつてのような同盟が必要なのです』

 

「ですが軍は既に分裂し連携を取れる状態ではありません。辛うじてアクバー元帥の艦隊とは連絡を取れるほど我々はバラバラになってしまった…」

 

将校達は俯き状況の最悪さを感じ取らせた。

 

だがレイアだけは真っ直ぐ彼らを見つめ強い意志を灯した眼光で彼らに訴えかけた。

 

希望はまだ死んではいないと。

 

『ですが我々の希望は…先の戦いから繋がれてきた希望はまだ潰えてはいません。私も、ライカン将軍も、みんなもまだ死んではいない。希望を繋げる明日があるのです』

 

レイアは1人1人に伝えるようゆっくりと、それでいてはっきり彼らに言葉を伝えていった。

 

将校達の顔が上がりレイアを見上げている。

 

そこに希望があるかのように。

 

『我々はまだ戦える、だからこそ1人ではなく仲間が必要です。幸いにも我々は多くの仲間が未だ各地で戦い続けてる。私はジルディール中尉とバスチル大尉に同盟を構築する使いを頼みました』

 

2人は力強く頷く。

 

壮絶な旅になろうとも彼らはそれをやり遂げる義務があった。

 

『反乱同盟…新共和国…そして新たな自由のための組織を作るのです。三番目の“()()()()”を』

 

希望の灯火が息を吹き返した瞬間であった。

 

 

 

 

-旧新共和国首首都 ホズニアン・プライム 帝国総督府-

かつて元老院複合施設と呼ばれた民主主義の会場は今では帝国が統治する海上に成り果てていた。

 

ホズニアンのモフフィリン・ラヴァンタインは順調に占領を進めていた。

 

市民達は当初の予測よりも帝国の統治に抵抗せず逮捕者数も予測された数値より48%も低かった。

 

ホズニアン・プライム攻略作戦は大成功したと言えよう。

 

総督府の庭園には逮捕された新共和国のホロネット・ニュースで活動していた者達が集められていた。

 

彼らは再び中央政府となった第三帝国にとって不都合な存在でしかなかった。

 

下手なプロパガンダを彼らの放送技術で流されたら面倒な事になるし生き残った各地の残党新共和国軍に合流されたら諜報員としてプロパガンダ以上の効力を上げてしまうかもしれない。

 

それに一部のホロネット・ニュースの記者やキャスター達は帝国に対してかなり反対的だった。

 

やれ「報道の自由を守れ」だの「帝国には屈しない」だの「我々は最後まで戦う」だの使いもしない権利や自由を並べたて反発した。

 

当然帝国は親衛隊保安局や帝国保安局を動員しホロネットのニュース局を制圧。

 

ただ反発するだけで何かが変わるのは新共和国までだ。

 

時代はもう再び帝国の時代となった。

 

死ぬまでせいぜい見せ物として反発してくれば良いとフューリナー上級大将は庭園に集まる愚か者どもを見つめてそう思った。

 

彼は統治の視察も含めてホズニアン・プライムに訪れていた。

 

それと同時にとある秘密の命令も下そうとしていた。

 

「ホズニアンの統治は上々…未だ亡国の姫は見つからず、英雄達は散り散り…そして滅びた騎士の末裔は…」

 

この騎士を見つけるのに一体どれほどの時間が掛かったのか。

 

いつの時代においてもあの騎士は帝国の手を煩わせる。

 

この時代に現れた新たな最後の騎士にして、暗黒卿の息子。

 

皇帝の仇でもあるその人物は。

 

「最後の騎士は寺院を巡り時代を逆行させようとしている…だがそうはさせん」

 

通路の影から誰かが1人出てきた。

 

相変わらず驚くほど音がなく気配も感じない。

 

並の兵士では不可能な技量だ。

 

「既にパージ・トルーパーとデス・トルーパーの隊を派遣している。お前もあのダーク・トルーパー隊を率いて陛下の仇討ちだ。場所は…“伝令(センチネル)”が導いてくれる」

 

声すら発さない彼女は静かに頷き暗闇へと消えた。

 

全く少しは言葉を交わして欲しいものだ。

 

これでも私は彼女の上官なのだ。

 

これからは総統の手の者として役立ってもらうのだから。

 

まずはその最初の任務として時代の反逆者を討ってもらう。

 

あの騎士達を葬るのはいつの時代だって皇帝の名を受け継ぐ者だ。

 

そしてそれは今の時代において皇帝の手の者が最も相応しい。

 

「ルーク・スカイウォーカーを殺すのはお前だ、“マラ・ジェイド”」

 

皇帝の敵討ちだ、面白いことになってきた。

 

同じ特別な力を使う者同士が殺し合う。

 

せいぜい両方潰れてしまえばいい。

 

新世界にフォースなど不要だ。

 

悪魔に似た笑いが復讐の剣を最後のジェダイへ差し向けた。

 

 

 

 

 

 

「そうか…なんとなく嫌な予感はしてたんだがな…」

 

ストライン中将の弟であるディクス・ストライン准将は寂しそうに空を見上げた。

 

先程まで話を聞いていた彼の甥っ子ラクティス・ストライン中佐は途中で少し席を外すと言い残し去っていった。

 

彼も男で立派な戦士だ、涙はあまり見せたくないのだろう。

 

ジェルマンだってそれは同じで話している最中も必死に涙を堪えていた。

 

「たくよ…どいつこもこいつも勝手に逝きやがって…末っ子を1人にしちゃいけねぇって言われてたはずなのによ…」

 

涙ぐんだディクス准将の声が悲しく通路に響いた。

 

幸いここには彼らしかおらず彼の声は誰にも聞かれてはいなかった。

 

「…ありがとうな中尉、それと大尉。その事を伝えてくれなきゃ俺達は家族の死に気づけなかった。本当に感謝している」

 

准将は2人に深々と頭を下げた。

 

ジェルマンは黙って頷きジョーレンは軍帽を深く被った。

 

「で、兄貴はノヴァンを保護して欲しいと言ったんだな?」

 

「はい…レンディリのアカデミーにいると言っていましたが…」

 

ディクス准将は苦悶の表情を浮かべ顎に手を当てた。

 

「レンディリか…」

 

「何か問題でも?」

 

ジョーレンは俯くディクス准将に率直に尋ねた。

 

准将は「いや」ということわりを入れてから話し始めた。

 

「レンディリ・アカデミーは帝国軍の奇襲を避ける為に全生徒を連れてキャッシーク方面へと疎開したと報告が入っていた。既にレンディリは陥落済みだしそちらの方が可能性は高いかもしれん」

 

「なるほど…ありがとうございます准将」

 

「いや当然の事をしたまでだ。それでお前達は次どこへ行くつもりなんだ?」

 

ディクス准将はふと冗談半分に2人に尋ねた。

 

彼らの旅はまだここでは終わらない。

 

たとえ滅びたとしても新共和国のかつての仲間達は大勢いる。

 

バラバラになったとしてもそれを再び繋ぎ止めるのが彼らの役目だ。

 

危険で大変な役回りになるだろう。

 

それと同時に彼らの努力は全く見えないものとなる。

 

それでも彼らには使命が託され、彼らはそれを了承した。

 

今のディクス准将に出来る事は限られている。

 

それでも旅の行き先を聞いておきたかった。

 

宇宙を見つめた時に彼らの旅路を祈って置けるように。

 

「一応モン・カラに向かうつもりです。ですがラクサス方面へも向かうかもしれません」

 

「そうか…気をつけてな、頼んだぞ」

 

「はい!」

 

2人とも敬礼しディクス准将も同じく敬礼で返した。

 

すると1人の士官がジェルマン達に声をかけた。

 

「ジルディール中尉、バスチル大尉、ライカン将軍がお呼びです。第一作戦室までお越し下さい」

 

ジェルマンはディクス准将を見つめ軽い別れの挨拶を告げた。

 

ジョーレンも同じように軽い敬礼で別れを告げた。

 

一方の准将はただ静かに手を振るだけだった。

 

「全く…兄貴はいい部下を持ったな…」

 

残された者は託して逝った者達の遺志を更に未来へと繋げなくてはならない。

 

それはとても重過ぎるバトンだ。

 

だけれど決して離す事は出来ない。

 

ゴールに辿り着くまで、将又同じようにバトンを引き継がせるまでつかみ続けなくてはならない。

 

それはたった1人が受け継ぐだけかもしれないし大勢がその遺志を引き継ぐかもしれない。

 

ストライン中将が遺した遺志は後者にあった。

 

彼の残された家族と部下達がバトンを引き継いでいくだろう。

 

その為にジェルマン達の旅路はあるのだから。

 

ストライン中将の意志は死してなお勝利に向かって突き進んでいた。

 

 

 

つづく




ちょりーす

寿司屋っす(嘘つくなよ)

えぇついに20話らしいですが実感はないですねはい


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忘却の歴史の片鱗

「今日から私の任務は始まった。辛く厳しい任務になるだろうがそれ故に誇らしかった。胸の少尉の階級章が不思議と光って見えた。なにせ総統のご意志を私が実行しているのだ。これ以上に名誉な事はない。総統万歳!帝国に栄光あれ!」
-親衛隊青年将校の日記より抜粋-


幼さというのは時に残酷なものだ。

 

良いも悪いも判断が付かない。

 

過程を楽しむだけでその結果がどうなるか想像がつかない。

 

だからこそ危険なのだ。

 

人はみんな幼さを忘れ純粋無垢ではいられなくなる。

 

これは仕方のないことだ。

 

悲しい運命にして己を更なる高みに進める為の多大な犠牲、

 

だからこそ幼さを持ち合わせる子供は危険なのだ。

 

純粋さを忘れた人々に利用される可能性がある。

 

特にそれが大きな力となれば。

 

「マイン、少し買い物に……マイン…?」

 

ユーリアはバックを持ってリビングに戻るなり幼い自分の子に驚愕した。

 

何もマインラート自体に異常はない。

 

あるとすれば彼のやっている行動とその状態だ。

 

「お母さんどうしたの?」

 

マインラートは純粋な瞳でユーリアを見つめた。

 

どうやらマインラートは自分のしている事の重大さがわかっていないらしい。

 

彼はさも当然のようにその現象を引き起こしていた。

 

もし仮にユーリアが軍や過去に詳しくなければ反応はもっと大きなものになっていただろう。

 

ユーリアは愕然とした様子でゆっくりとマインラートに近づいた。

 

彼はじっと母親の方を見つめている。

 

ユーリアは今にも泣き出しそうな様子だった。

 

「お母さん悲しいの?どうしたの…?」

 

その状態を作り出したままマインラートは母親の方へと歩み寄った。

 

ユーリアに恐怖はなかった。

 

ただひたすらに悲しかった。

 

自分の子に迫る悲しい運命が。

 

母親ですら計り知れない運命が。

 

ユーリアはぎゅっとマインラートを抱きしめた。

 

そこで集中が途切れたのか“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「大丈夫…?」

 

自分の子供の声がユーリアの悲しさをさらに誘った。

 

彼女ではどうしようもない。

 

軍人である彼の夫、ジークハルトですらどうしようもない事だ。

 

人は運命と“力”には逆らえない。

 

非力さと悲しさと無力感が僅か一瞬でユーリアの心を包んだ。

 

「ごめんね…ごめんね…」

 

彼女は泣きながら謝った。

 

誰が悪いわけでもない。

 

ユーリアもジークハルトもマインラートも。

 

ただ悪いのはこの世界とその力だけだった。

 

だがフォースの意思はその様子を嘲笑うかのように幼いマインラートに力を与えそれを目覚めさせてしまった。

 

 

 

 

-ヤヴィン4 残存新共和国軍総司令部-

司令室では重苦しい雰囲気でディカーにいるレイアやディゴール准将を含め会議の間を開いていた。

 

議題はとても深刻なものだった。

 

「ですがあのような連中信用できるはずがありません。きっと何か企んでるに違いない」

 

「しかし戦力は必要だ…特に防衛戦での損失は埋めておきたい…」

 

将校達はそれぞれ意見を口にし議論を重ねていた。

 

ある種彼らの命運を左右する議題だ。

 

1日前“ベトレイアル・エンジニアリング社”を名乗る惑星企業が彼らに商談を持ちかけてきた。

 

それはクワット・ドライブ・ヤード社から譲り受けた艦船数十隻と今後生産される艦船やスターファイターを分け与えるというのだ。

 

敗戦続きでまるで助けるメリットのない自分達に手を差し伸べるなど俄には信じがたい話だ。

 

だが戦力は少しでも欲しいのは事実だ。

 

帝国軍相手に今の戦力ではまともに太刀打ちする事など不可能に近い。

 

それでも旧反乱同盟時代よりはだいぶマシな状況なのだが。

 

「ベトレイアル社には旧同盟時代からの信頼のおける人物が何人もいます」

 

「だが警戒はすべきだ、特に裏切り者には慎重にならんと…」

 

ダーリン准将は危険を促し慎重になるべきだと唱えた。

 

「亡命者の件もある。信頼のおける人物だとは言えダーリン准将の言う通り慎重になるべきだ」

 

ファール・マクォーリー将軍はダーリン准将の意見に賛同した。

 

確かにあの亡命者の件はさまざまな情報や人手を引き抜かれ手痛い打撃となった。

 

報告によればスターホーク級最大のトラクター・ビームも設計図を盗み出され妨害装置を作られてしまったらしい。

 

まだ帝国艦隊全隻に配備されてるわけではないとはいえかなりの打撃だ。

 

「ですが艦船もスターファイターも欲しいところです。ただでさえ先日の防衛戦であれだけのファイターを失ったと言うのに…」

 

ゼロヴァー准将が口を開いた。

 

彼はダーリン准将やマクォーリー将軍とは違い純粋な宇宙軍の艦隊司令官であり他の将校達よりも艦隊やスターファイター戦力の悲惨な状況を理解していた。

 

「敵のスターファイター戦力は以前よりも強大でもはや既存の戦力で圧倒することは難しいでしょう。その為にも艦隊戦力を強化し一部ではなく全体で敵を制するべきです」

 

「私も危険だとは思うが一応賛成だ…安定して艦艇やファイターの供給が受けられるのはありがたい」

 

ストライン准将はゼロヴァー准将の方に賛同した。

 

2人の旧共和国時代の付き合いもあるがそれ以上に艦隊の損耗率を知っての事だった。

 

『現状の戦力は重々理解している。私も出来れば彼らの恩恵に縋りたいところだ』

 

『ひとまず彼らを頼りましょう。今は疑心暗鬼になっている場合ではありません』

 

これで賛成派の勢力の方が大きくなった。

 

今のところ純粋な文官のレイアの賛成は大きいだろう。

 

「では念には念を入れて調査隊を派遣しましょう、なるべく手は打っておかないと」

 

ライカン将軍は慎重派の意見も含めてそう提言した。

 

彼もかつて故郷に訪れた惨劇以来より慎重に、新共和国では珍しい冒険的危険性を常に破棄した作戦を考えをする指揮官だった。

 

同盟時代の英雄達とは全く対照的な人物だろう。

 

『それがいいだろう、あのジルディール中尉とバスチル大尉も任務が終わり次第そちらに回すのはどうでしょうか?優秀な人材を今はフル活用しなければ』

 

ディゴール准将は隣にいるレイアに判断を仰いだ。

 

彼女は静かに了承の頷きを見せ他の将校達も納得した。

 

『そういえばあの2人はどうしていますか?』

 

レイアがふとライカン将軍尋ねた。

 

「間も無く次の地点へ、モン・カラへ向かう準備をしています」

 

モン・カラ。

 

水の星で反乱同盟勝利の一因となった立役者の惑星。

 

戦死された名将ラダス提督や今も戦い続けているアクバー元帥の生まれ故郷。

 

ジェルマンとジョーレンの到来をモン・カラマリの元帥は首を長くして待っていた。

 

 

 

 

 

-帝国領 エクスパンション・リージョン 惑星アウシュ 中央収容所-

閑散としたこの辺境の惑星に珍しく何百、何千の船が行き来していた。

 

宇宙港は常に大勢の人々で満員、船が一隻飛び立てば別のもう一隻が降り立つ。

 

人の流れは濁流のように外へと放出され新しい我が家の場所を探して無機質な街に放り出される。

 

その様子を武装した親衛隊保安局の将校や親衛隊のストームトルーパーが見張っているのはあまりに当たり前の光景すぎて誰も気にはしなかった。

 

ただ下手をすれば即座に銃殺される、それだけだ。

 

その証拠に時々怒声や喧騒が聞こえその度銃声が鳴り響いた。

 

銃声の後、怒声も喧騒も命と共に掻き消される。

 

武器も勇気もない彼らはそれに対し反旗を翻すこともできない。

 

せいぜい今日を生きられるように怯えて命令に従うだけだ。

 

その様子を人間というよりはドロイドに近い保安局員とトルーパー達は黙って監視していた。

 

銃声も死体も流血も気にしようとしない。

 

その間にも空を埋め尽くすほどの船が綺麗な艦列を生み出しながら行き交いしていた。

 

そのほとんどは帝国軍のものにしては珍しく輸送船ばかりだった。

 

時々軌道上や上空にインペリアル級やアークワイテンズ級が留まっているだけで行き来している艦の全てが輸送船や監獄船ばかりだった。

 

それもそのはず、この場所に運び込まれるのは兵器や兵員ではない。

 

ただの民間人なのだから。

 

いや、彼らに言わせればただの民間人ではないのだろう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()”と言ったところだろうか。

 

ここに運び込まれる市民達が何も全員犯罪者な訳ではない。

 

むしろ善良でなんの罪も犯したことのない者が大半だ。

 

だが彼らはこの血塗られこれから塗り直される悲劇の地に強制的に移住させられた。

 

理由はなぜか。

 

()()()()()()()()()()()

 

それが代理総統からの理由だった。

 

とぼとぼと暗い表情で移動する人々を見れば全員が人間ではないエイリアン種族だった。

 

クオレンやモン・カラマリ、ザラブク、デュロス、クリーヴァー、ニモーディアンなどなど。

 

人間の種族など軍人以外誰1人おらず監獄のような街を徘徊する人らしきものは全てエイリアン種族だ。

 

「ついに…ですね」

 

保安局員の中尉が収容所の司令センターから市街地を見つめて感動したように独り言を漏らした。

 

側から見ればこれのどこに感動する要素があるんだと言わんばかりの狂気の光景だが中尉の目は完全に染まりきっており見えてはいても盲目になっていた。

 

「総統閣下の理想郷を叶えるための第一歩がようやく始まる…尊い永遠の平和への第一歩だ」

 

ヘイス中佐が中尉の言葉に続いた。

 

彼らは本気でこのホロコースト計画が正しいと、平和をもたらせると信じている。

 

自分達がこれから彼らに何をするかも含めて信じているのだ。

 

「皇帝陛下は聡明で賢明であられたが…勇気と覚悟が足りておられなかった…自らの手をどれだけ血で染め上げても良いという覚悟が」

 

それは幻想で言い訳だ。

 

だがこの言葉を伝え反論しようとする者はこの場に誰1人としていなかった。

 

「中佐、フレインヘス総督がお呼びです」

 

「今いく」

 

ヘイス中佐は白い軍服の襟を正し軍靴の足音を立てながらその場を後にした。

 

血塗れの平和を生み出す惑星収容所は完全に稼働中であった。

 

 

 

 

 

 

-エグゼクター級スター・ドレッドノート 臨時会議室-

正規軍の数十個艦隊を引き連れ宇宙軍の総旗艦リーパーは前線を目指して航行していた。

 

大勢の高官たちを乗せて。

 

軍の会議の為多くの高官達がホログラムを返さず直接リーパーの会議室に集まっていた。

 

地上軍、宇宙軍、スターファイター隊、保安局、情報部問わず多くの高官がいた。

 

ただし親衛隊の軍服を着た非正規の兵は1人たりともいなかった。

 

「我々は総統の命令通り北東に群がるヤヴィン4、ラクサス、モン・カラの新共和国残党を殲滅する」

 

高官達のテーブルの前に北東の星図が映し出され前線の様子が露わになる。

 

まだ全部隊敵とは衝突していないようだ。

 

「恐らくこれが想定されているうちの最後の大規模戦になるだろう」

 

「長いようで短い戦いだったな」

 

「だがこれで新共和国や敵が全て滅びる訳ではない。戦いはまだまだ続く」

 

将校達は頷き長きに亘る新共和国や反乱分子との戦いの日々を思い出し感慨深く天井を見上げていた。

 

正規軍シウォード・キャス参謀長は報告を続けた。

 

彼はたまたま放棄されたダントゥーインの調査に戻っていた為ヤヴィン4での悲劇で命を落とさずに済んだ。

 

亡きカシオ・タッグ大将軍や現在も地上軍副長官として活動中のトレック・モロック上級将軍と並んで貴重な生存者となっていた。

 

「我々は主に南側の残党軍討伐及び捜索、そしてヤヴィン4の完全攻略にある。8年前の雪辱を果たし新たな時代への礎とせよ…と総統は仰られていた」

 

洒落た言い回しだが正規軍の将校達を煽るには十分だった。

 

将校達頷き予想通り戦意を昂らせていた。

 

と、同時に気になる点もいくつかあった。

 

それを口に出したのは宇宙軍司令部参謀のトーリウス・カイント提督だった。

 

「…しかし戦力が戦力が一曲点に集中しすぎている。現状の戦力ならもっと広範囲に展開してもまだ余力がある状態ですが」

 

大半の戦力がヤヴィン4に集中しており本来向けるべきであろう南側の戦力は北東側よりも半分以下となっていた。

 

これでも帝国軍の戦力は以前よりも豊かではない為展開できる部分も限りがあるのだが。

 

「絶対的な力を見せつける事為にはこれくらい必要でしょう。一兵たりとも逃さないほどの戦力で敵を絶望の淵に叩き落としてやるのです」

 

地上軍次席参謀のプライズ・デイツワインズ中将が持論を展開し推察しようとした。

 

確かに圧倒的な力からなる恐怖と絶望は一つの戦場には留まらないほどの効力を持っている。

 

しかし疑問点は別のところにもあった。

 

「では何故我々よりも親衛隊の方が主力なのですか。あんな私兵軍隊が国防を担うなど到底解せるものではない!」

 

スターファイター隊第四軍団長とスターファイター隊幕僚を兼任するカーゼル・シュタウント将軍は直属の上官のローリング大将軍や他の将校を見つめて苛立ちを吐き捨てた。

 

彼は他の正規軍人と同じく親衛隊を快く思っていない。

 

国家を守る使命は現在は正規軍と呼ばれ続けている帝国軍が全てを担うものだと考えているからだ。

 

それを他の存在に、ましてや私立組織に僅かでも担わせるのが我慢ならなかった。

 

「将軍の言う通りです、本来親衛隊の存在意義は軍の流出を防ぎ戦力を維持し続ける為の隠れ蓑の組織だったはず。それが何故今は本来母体となるべき我が軍より権威を拡大しているのですか」

 

ファイター隊次席幕僚スカイング・ストラナー少将はシュタウント将軍に続いた。

 

ローリング大将軍もそうだが特にスターファイター隊では親衛隊に対する不満が大きくなり表面化していた。

 

「今すぐにあの組織を解体すべきです!このままでは邪な考えを持つ私立軍に国防を完全に乗っ取られてしまう!」

 

不満を持つのはスターファイター隊だけではなかった。

 

宇宙軍作戦副部長のハイエス・ヘルステント中将が全員に向かって考えを述べた。

 

彼の憤怒を込めた発言は全員に響き渡り地上軍スターファイター隊問わず頷く将校が現れた。

 

宇宙軍長官オイカン上級元帥が無言で静止するまでヘルステント中将は怒りを露わにした表情を浮かべていた。

 

「この会議は今後の戦略、戦術を話し合う為の会議であり親衛隊や軍内部の事でくだらない口論を重ねる為のものではない」

 

第一方面軍司令官のエルゲナント・マーゼルシュタイン地上軍元帥は苛立ち本来の議論とは離れた事を言う将校達を諌めた。

 

彼はヴィアーズ大将軍と共に新共和国侵攻作戦で重要な役割を果たしたディープ・コアからの奇襲を考えた帝国勝利の立役者であり代理総統や市民達からの評価も高かった。

 

上級将軍から元帥に昇進した彼は方面軍司令官として様々な指揮権を得た。

 

また実直な帝国軍人としても知られており軍からの信頼も篤かった。

 

「マーゼルシュタイン元帥の言う通りだ。確かに親衛隊は我々としても忌々しくはあるが決して敵ではない。今行うべきは敵を如何に倒すかの議論だ」

 

ローリング大将軍は親衛隊嫌いの将校達の意見も汲み取りつつ脱線した議題を元に戻そうとした。

 

こう言う面が彼を大将軍へと押し上げた理由だろう。

 

他の将校みたくいっときの感情に押し流されてしまえば精々中将、将軍で止まっていた。

 

「宇宙軍としては長期的な包囲戦術を取るべきだと思います。これだけの艦隊を動員出来るなら物量を活かすべきだ」

 

オイカン元帥は先行して戦術を述べた。

 

それに続いたのはヴィアーズ大将軍だった。

 

「機甲兵力を使って電撃的に敵部隊を突破し戦線を崩壊させる。その間に宇宙軍が包囲網を完成させ撤退させる事なく崩壊した戦線を攻撃し続ける」

 

「機甲戦力だけでなくスターファイター隊との連携も必要になってくるだろう」

 

マーゼルシュタイン元帥はチラリとローリング大将軍らの方を見つめた。

 

ローリング大将軍は自慢げに微笑を浮かべ軽く頷いた。

 

ようやく会議は沈静化し元通りになり始めた。

 

彼ら実直な上級将校らのおかげで正規軍はひとまず我を忘れることはないだろう。

 

この場にいるほとんどがそう思っていた。

 

帝国の更なる勝利は小さな不満と共に近づきつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだとも、大変だったんだぞ?偽造も何もかも。少しは苦労を労って欲しいものだよ」

 

暗く明かりのない一室でヴァティオンは誰かに向かって話していた。

 

クワットの一室ではあるのだが彼がいつもいるオフィスではなかった。

 

とにかく明かりの少ないくらい場所だ。

 

手元から足元はライトで照らされている為よく見えるのだがその先は全く光のない完全な暗闇だった。

 

「だがまあこれでパイプラインは完全に繋げた…後は流し込むだけだ」

 

彼が話している人物は文章体でしか返答を示さなかった。

 

原理としては発した言語を読み取りオーラベッシュでヴァティオンの方へ送っている。

 

用心深さの現れかそれとも風情を出すためか。

 

どっちにしろ連絡が取れればどうでもよかった。

 

「…分かっている、微量な毒だがいっとき弱らせ隙を作るには十分だろう。少なくともお前達が入れ込む毒よりは致命的にはならない」

 

本当、微笑を浮かべているが冗談ではない。

 

あれを自分たちも食らったらと思うと思わずゾッとする。

 

これと言った良い対処法も思いつかないしもうお手上げだ。

 

「第三帝国の方は相変わらずだ。このままだと誰もが銀河に戻る前に銀河を支柱に収めてしまう」

 

モニターに文章が打ち込まれる。

 

-ならばそれを真に返すまで-

 

「返すってどうやって?軍はどうにかできてもあの代理総統と側近達は手強く、そして用心深い。きっと苦労する」

 

政策や軍事面ではまだ評価を断定するには厳しい面もあるが単純なカリスマ性だけなら無類の強さを発揮する。

 

本当にこの世に蘇った銀河皇帝みたいだ。

 

一瞬のうちにあの帝国をまとめ上げここまで引っ張って登ってきた。

 

ただの商売相手だがあの能力には単純に尊敬してしまう。

 

まあ多分これからあの総統がやる事は尊敬など到底できない事だろうが。

 

「その時はお前達が造り上げた力を解放するのみ…か。それは恐ろしいな。躊躇いなんてない君達にはお似合いの代物だ」

 

ジェダイにライトセーバー…ではないがとんでもない奴にとんでもない物をとんでもない場所で作って与えてしまった。

 

無論これも商売でその本来の役割は重々承知している。

 

でも恐ろしいものは恐ろしい。

 

ヴァティオンは自分じゃその引き金は引きたくないと心底思っていた。

 

「ファースト・オーダーも動きを見せ始めている。より一層信用できる軍将達を取り込むつもりだ。そうなれば質的には無視できない存在になるぞ」

 

スローネの技量もなかなかだ。

 

さすがは癖しかない大提督のうちの1人といったところか。

 

元帥すら殺し命を受け継いだだけの事はある。

 

彼女の行動一つ一つは仮に空回りに終わろうとも構わないという執念と覚悟が毎回感じられた。

 

だからこそ商売だけではない支援と感情を送りたくなってしまうのだが。

 

「既にケッセルは完全にあの勢力側だ。他の軍将がどうなるかは不明だが近いうちに衝突するかもしれない」

 

-もう手遅れに近しい状態だろう-

 

確かにそうだな。

 

ここまで帝国が分裂してしまった時点で側から見ても手遅れだ。

 

それでもなお大まかな原型は整っているのだからすごい事だ。

 

「…そう言えば第三帝国も最初から第三帝国ではなかったな」

 

ふと何かを思い出し語り始めた。

 

「コルサントの籠城戦…銀河協定…第二残存帝国の誕生…そう言えばあのRemnant(残党)に近しい帝国の指導者…名前は確か…」

 

一気に文字が打ち込まれ表示された。

 

なんだ、ちゃんと“()()()”じゃないか。

 

迂闊な発言は出来ないなと恐怖を背にヴァティオンは苦笑を浮かべた。

 

「悲しき最後の宰相よ、アミダから任を譲り受け厳しい状況下でスタートを切ったと思ったら彼含めた一家全員が不運にも事故に遭い死亡…」

 

そして副宰相のヤツがその穴を埋め今に至る。

 

まだ1年、2年前の話だと言うのに遠い過去のように思えた。

 

「…そう言えばその頃だな、スローネは亡きラックスに倣い優秀な…」

 

おっと話が逸れてしまったな。

 

向こうも完全に聞く気がなく要求を述べ始めた。

 

近直の歴史の話はまた今度秘書にでもしてやるとするか。

 

「パーツの横流しを増やせか…全く無茶を要求する…いいだろう、例の業者に頼んでおくとする」

 

文章はただ一言助かるとだけ書かれていた。

 

無愛想なモフだ。

 

「さて、銀河を制するのは第三帝国か、ファースト・オーダーか、新共和国か、いや…」

 

()()”か。

 

常人で計り知れない揺れ動く壮絶な未来は人が命を賭けるには十分なギャンブルだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は残酷だ。

 

残酷に嘆き残酷に怒り残酷に悲しみ残酷を喜び残酷を愉しみ残酷に翻弄される。

 

全てひっくるめて人は残酷な生き物なのだ。

 

もしその残酷さが己を蝕むならどうすればいいだろうか。

 

何もかも失い自分すらも壊しそれでも生きる為に。

 

生すら残酷だ。

 

これに抗う術はないだろう。

 

ではどうすればいいのか。

 

どうしようもないのか。

 

それは誰にもわからない。

 

抗い続けた者にしか。

 

昔とある軍人がこう言っていた。

 

「全ては仕方なかった」と。

 

世界は残酷で人は残酷なのも仕方のない事だったと。

 

祖国が破壊されそれでもなお祖国の象徴が死んだ民を裏切り続けたのも仕方のない事だと彼は思っているらしい。

 

友を失いもう何もないのに彼はただ一言言っていた。

 

「それでも、進み続ける」と。

 

僕も進み続ければ良いのだろうか。

 

どこまで?

 

誰のために?

 

なんのために?

 

復讐のため?

 

目の前で全てが奪われたことに対する復讐のために?

 

いや、理由なんてどうでもいいや。

 

もう残されたものは戦いしかない。

 

でも戦いでよかった。

 

悔しいまま同じ運命の道を辿らなくて済みそうだ。

 

見ててよその道の先で。

 

僕が別の道を辿るところを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

久しぶりに悪夢を見た。

 

あの時の光景だ。

 

返り血を浴びたまま走り命からがら逃げた日々。

 

ふと横を見ると彼女が寝ていた。

 

マルスには愛情が分からない。

 

彼は冷徹な保安局員に変えられてしまったからだ。

 

ましてやまだ来年で15歳の彼はその愛がどう言うものかよく分かっていなかった。

 

彼は今日人生の初めてをこのWarlord(軍将)に奪われてしまった。

 

話に聞いていたよりもおかしくて異常な変人だった。

 

それでも彼女の能力は本物で洞察力や軍の指揮能力、内政はどれも文句のつけようがなかった。

 

こんな目にはあったがここに来てよかったと思える。

 

少なくとも予想以上に好意的に迎えられた。

 

彼女、クラリッサのとち狂った異常な行動や狂愛には多少困惑したがそれでももう慣れたようなものだ。

 

マルスはふと寝ているクラリッサの方を見た。

 

彼女は何を選んで今に繋がったのだろうか。

 

そして僕は何を選べばいいのか。

 

人々を導くlord()となるのか、人々を導くroad()となるのか。

 

決めるのはこればかりはマルス自身だ。

 

ただ片方の命運はよく知っていた。

 

だから彼は道の方を選んだ。

 

何せ人々を導くlordはもう隣にいるのだから。

 

「銀河を制するのは…僕達だ」

 

すると隣から声が聞こえた。

 

暴君の目覚めだ。

 

「どうしたんですのマルス、まさかまだ足りなかったとでも?」

 

「いえ…少し…夢から覚めただけですよ…」

 

悲しく微笑を浮かべマルスは倒れるようにベットにダイブした。

 

そんな彼にクラリッサはどこかいい香りのする唇で口づけをした。

 

「ならもう一回夢を見させてあげますわ」

 

「…どうして僕なんでしょうかね」

 

「難しく考えないで、私は貴方を気に入り好きになった。それで十分ではありませんこと?」

 

本当に不思議な、変人だ。

 

端的にヤバい奴とも言える。

 

倫理観や考え方が常人とは大きく異なっている。

 

「ちゃんと愛のスパイスで貴方を漬け込んで差し上げますわ」

 

性格とかを考えなければ本当にただの美少女だったのに。

 

残念と言うべきか。

 

「ならそうなる前に僕は使命を果たします。クラリッサ、僕達ファースト・オーダーと手を組んでください。出なければ貴女は間違いなく死ぬ」

 

「あら、最初からそのつもりでしたわよ?第三帝国なんかと組んでもどうせつまらないですもの。それにファースト・オーダーには貴方がいますから」

 

結果は即答、マルスの使命は幕を閉じた。

 

ケッセルの帝国残存勢力はファースト・オーダーの側についた。

 

寝室の中で銀河系の勢力図が変わってしまった。

 

「なら…好きにしてください」

 

どこか何かを諦めた感じがした。

 

年の瀬に近づく銀河系。

 

戦いの神はこの少年に血の道を歩く事を望んでいた。

 

誰かが埋もれていった流血の道を。

 

求められているのは彼だけではない。

 

ジークハルトにも、ジェルマンにも、マルスにも、この銀河系の人々全てにも、そして歴史にも。

 

誰もが知らないだけで皆覚悟を決めなければならない時が来た。

 

流れ出る流血は既に足元まで浸りつつあった。

 

 

つづく




ウィーーーーーーーーース!どうもーーーsyamuでーーーーす!


はい(平常運転)

最後のところ「こいつらスパイスキメたんだ!」ってシーンがありますが気にしないで下さい。

…これがお嬢様クオリティなので…(1人だけ世界線が明らかに違う)


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亡国の旗は悲しく漂う

「戦争が始まったのはまだ19の時で軍隊に入ってまだ十ヶ月も経っていない頃だった。最初は民主主義の為に、国の為にとやる気に満ちていた。でもホズニアン・プライムが陥落して実際に帝国軍と戦ってから考えは変わってしまった。この日記を書いてる今も僕は前線の塹壕の中にいる。この戦争になんの意味があるのだろうか。新共和国とは一体なんだったんだろうか。戦う理由とはなんなのだろうか。」
-新共和国地上軍兵士の日記より一部抜粋-


-ヤヴィン4 マサッシ神殿発着場-

XウィングやYウィング、Aウィングと様々な機体が並びそれぞれ担当の整備士達が異常がないかチェックしていた。

 

以前に比べればこの発着場に留まるスターファイターもだいぶ減ってしまった。

 

毎回の激戦の末帰ってくるのは半数、半数以下といった状態だ。

 

そんな中でもパイロット達は戦意を失わず帝国との戦いに命を賭け続けていた。

 

そんな発着場を1機の機体が離れようとしていた。

 

XウィングやAウィングなどよりも大型のガンシップだ。

 

このUウィングにも多くの整備士が集まりパーツなどを交換し異常がないか破損箇所はないかと慎重にチェックを重ねていた。

 

もし航行中に少しでも異常が発生して爆発四散でもしたら大変だ。

 

この機体とこれに乗り込む2人は新共和国最後の希望なのだから。

 

希望は如何なる時でも失われてはならなかった。

 

「その弾薬は向こうに、予備パーツは奥の収納庫に入れてくれ。食料はなるべく飲料剤にして少しでも積み込めるようにするんだ」

 

ジョーレンは多くの整備士や手の空いた兵士達に頼んで次の旅の用意をしていた。

 

ジェルマンも隣でせっせと荷物を積み込んでいる。

 

「機体の整備完了です、積み込みが終われば今すぐにでも飛び立てる状態ですよ」

 

発着場の整備主任であるバルエッタ准尉がジョーレンに報告した。

 

積み込みもこれだけの人出があれば後5分も掛からずに終わるだろう。

 

そうなると出発は長くても10分後か。

 

「ありがとう准尉、いい整備士達に整備されるのは安心感が大きい」

 

「お褒めいただき光栄です。それでは」

 

准尉は敬礼し駆け足で他の機体の整備へと向かった。

 

整備士達も大忙しだ。

 

パーツも人手も以前より少ない中本当によくやってくれている。

 

彼らの為にもこの旅路は成功させなければいけないなとジョーレンは思っていた。

 

「なあ、デトネーターだがあと何ケース積めばいい?」

 

ジェルマンがサーマルデトネーターの箱をしっかりと固定を完了させ聞いてきた。

 

ジョーレンは少し考え彼に言った。

 

「多くて後1ケース…いや十分だ。それで他の積み込みは?」

 

「半ば終わったよ。後は予備のブラスターを」

 

ジェルマンは誰かが見えたのか機体から降りて敬礼した。

 

向こうに見える将校も同じように敬礼していた。

 

「ストライン中佐、どうされたんですか?」

 

ブラスター・ライフルを二丁ほど持っているラクティスにジェルマンはどうしたのか尋ねた。

 

「いや、武器がもっと必要だろうと思ってな。新型のA280を許可を取ってくすねてきたんだ」

 

細部に違いが見受けられる新型のA280ブラスター・ライフルをラクティスは手の空いているジョーレンに二丁とも渡した。

 

ジョーレンは若干の笑みを浮かべ二丁とも両手に取った。

 

そして少し揶揄うように尋ねた。

 

「いいんですか?こんな貴重品俺たちみたいなのに渡しちゃって」

 

「構わないさ。ひよっこの部下には毎回言ってる事だが仮に機体が撃墜されたとしても助けが来るまで生き延びる義務がある。それはあんた達も一緒だ」

 

ジョーレンは近くにブラスター・ライフルを立て掛けると彼の言葉に耳を傾けた。

 

「…それに叔父貴の形見みたいなあんたらには是非とも生き延びてほしいんだよ。ちょっとした私情さ」

 

「中佐…」

 

「気にすんな、何はともあれ新共和国の未来はお前達にかかってるんだ。頼んだぞ」

 

勇気と想いを託された2人の敬礼は先程のものより力強かった。

 

「さて、武器も物資も全て揃った。とっとと出立しようぜ」

 

「ああ!」

 

2人は勇気に満ち溢れた笑みでUウィングに戻っていった。

 

そんな様子をラクティスは静かに見守っていた。

 

機体のハッチを閉め名残惜しくはあるがこの場所を離れる準備をする。

 

スイッチをいくつか押し機体のシステムを起動させた。

 

最後に管制塔と連絡を取る為に通信機を起動した。

 

「こちらUウィング輸送船、管制室聞こえるか」

 

『こちら管制室、発進許可は既に最高司令部より出ている。いつでもどうぞ』

 

ライカン将軍やディクス・ストライン准将の働きだろうか。

 

ありがたい気遣いだなとジョーレンは思った。

 

「では発進する。短い間だが世話になった」

 

『Uウィングどうぞ、こちらこそ銀河系を頼みました』

 

相手には見えはしないがジョーレンは力強く頷いた。

 

直後ペダルを含み込み操縦桿をしっかりと握りUウィングを浮上させた。

 

ジェルマンもいつの間にかしっかりシートベルトを締め準備万端といった感じだった。

 

そのままジョーレンは操縦桿をぐっと押しUウィングを空の彼方、その先へと旅立った。

 

この時もまた2人は気づかなかったが発着場のラクティスやバルエッタ准尉ら多くの整備士やパイロット達が手を振りUウィングを見送っていた。

 

ディカーの基地と同じように。

 

彼らはどこにいても新共和国の新な希望となっていた。

 

 

 

 

 

-タイオン・ヘゲモニー サテライト・オブ・タンバー 新共和国連合軍絶対防衛線-

前防衛線を一旦放棄し連合の幹部の名がついた衛星まで退却した連合軍と新共和国軍は再び防衛線を展開していた。

 

マジノ線とホズニアンの悲劇がまだ鮮明に残る新共和国軍の戦意は並々ならぬ物で今度こそ鉄壁の守りをと連合軍の兵力より士気は高いはずだった。

 

だが帝国軍の柔軟で抜かりない戦術は防衛線の兵士達の不安を十分に刺激した。

 

そのせいで本来高いはずの士気は徐々に減少傾向にあった。

 

各戦線で抜かりは全くなく新共和国宇宙軍と連合宇宙軍は迫り来る帝国艦隊と各地で激戦を繰り広げていた。

 

ただこれに際して帝国軍は不思議な戦術を執っていた。

 

防衛線がここまで後退したのは帝国軍の大攻勢があったからだ。

 

最初はオッサス周辺で防衛線を展開していたが帝国軍親衛隊のエールリンク大将は全戦力を持って敵左翼を急襲し一点突破に成功。

 

そのまま大部隊を回避しつつ敵の補給部隊を攻撃しとにかく前進したエールリンク隊は戦力の再編が追いつかない防衛部隊を翻弄し防衛線を大きく翻弄させた。

 

補給部隊がいくつか壊滅した事により前線での不安は高まり新共和国軍と連合軍はオッサスの戦線を破棄し後退せざる追えなくなった。

 

流石のジャステン中将もこれには後退を許可せざる終えず防衛線をこの衛星まで引き下げざる終えなかった。

 

エールリンク大将も一旦全部隊を撤収させ本隊の到着を待った。

 

このまま進み続けても防衛線全体の戦力は未だエールリンク隊を大きく上回っている為後退してきた敵と前方の敵に挟み撃ちされ全滅してしまう危険性があった。

 

オッサスから防衛部隊を追い出し戦線を自治領のタイオン・ヘゲモニーまで後退させた事が一番の戦果だった。

 

これで大規模な主力部隊がタイオン・ヘゲモニーまで侵攻するルートが切り開けた。

 

しかしエールリンク大将はこの程度の戦果で満足するほど野心は浅くなかった。

 

「はぁ…こんな塹壕の中に篭ったってウォーカーがくればみんな殺されるんだ…」

 

1人の新共和国兵士がタバコを蒸せながら大きくため息を吐いた。

 

彼は元々地方の防衛軍兵士であった。

 

帝国にも比較的好意的でその後の新共和国にも媚を売り平穏を手にした彼の故郷は戦争とは程遠い場所だった。

 

彼自身兵士をやっていてもどうせ自分が戦争に駆り出される事はないだろうと括っていた。

 

そんな彼に転機が訪れたのは新共和国が完全に銀河の覇権を取った時だった。

 

大量の軍への支援金の代わりに地方防衛軍は優秀な兵士達を新共和国防衛軍の兵士として差し出したのだ。

 

一種の交換兵士だろう。

 

彼はそれなりに良い働きをしていた為その交換兵に選ばれた。

 

新共和国軍の方がはるかに給料や待遇がいいので彼は喜んで新共和国軍の兵士となった。

 

運命が彼を戦争に誘ったのはこの選択のせいだった。

 

彼が移籍したほぼ一ヶ月後第三帝国は新共和国に宣戦布告し彼の配属になった部隊はマジノ線の防衛部隊として回された。

 

そして敗北。

 

彼と彼の部隊は撤退時に少数だがウォーカーの偵察隊と戦闘し辛うじて退けたものの戦力の半分を失う大損害を被った。

 

なんとか生き延びてこの地で再び帝国軍を待ち構えている彼だがもう悟ってしまった。

 

自分たちじゃ帝国軍に勝てないことを。

 

どうして新共和国は帝国に勝てたんだろうか。

 

それこそ奇跡のような話だ。

 

長く新共和国にいる兵士はみんな「これでも以前より帝国は弱くなった」だの「新共和国の地上部隊ははるかに強くなった」だの話している。

 

今でさえ絶望的な状況なのにまだマシとはどういうことだ。

 

さては頭がもうおかしいんじゃないか。

 

そんな気分の悪くなるようなことを考えながらヘルメットを被り直しまたタバコに口をつけた。

 

こういう趣向品を使ってないと気がおかしくなる。

 

「よお…状況はどうだ?」

 

同僚の一等兵が隣に腰掛けた。

 

彼も同じように防衛軍から移籍した兵士らしい。

 

俺もこいつも本当に大馬鹿者だ。

 

現実を知ってたらこんな場所に来ていない。

 

「問題なし…敵さんだって馬鹿じゃないんだ。ウォンプ・プラットだってそこまで無茶に突っ込んでこないよ」

 

適当なことを言ってひとまず敵が来ていないことを教えタバコを欲しそうな顔をしていたので一本くれてやった。

 

ソイツは「サンキュ」と一言言うと何かで火を付け同じようにタバコを吸い始めた。

 

他の兵士も一応警戒はしているがなるべく体を休めようと努力していた。

 

ちゃんと睡眠は取れているはずなんだがそれでも体から疲れが取れていない気がした。

 

「この戦いいつ終わるんだろうな」

 

ふと独り言を漏らしてしまった。

 

それを聞いていた隣の一等兵が同じように呟いた。

 

「さあな…だがもうどうせ勝てるわけないだろう…この戦争俺たちの負けだ…もう何したって無駄だよ」

 

「…お前も…そう思うか…」

 

「お前だってそうなんだろう?出来る事なら故郷の防衛軍に戻りたいよ…」

 

そうだ、どうせ何やったって帝国に勝てるわけないんだ。

 

俺もコイツの言う通り防衛軍に戻りたい。

 

故郷に帰りたいんだ。

 

別に田舎臭くもかと言って都会チックでもないあの故郷に帰りたい。

 

どうして種族の母星の事をホームワールドって呼ぶかわかってきた気がした。

 

文字通り家だからだ。

 

星が我が家そのもので誰しも我が家には帰りたい。

 

だから遠くへ旅立った者達は母星をホームワールドって呼んだんだろう。

 

俺も彼らのノスタルジアと同じで故郷に帰りたい。

 

こんなくだらない戦争やめて故郷のどっかでメイルーラン・フルーツのパイを食べたい。

 

急に自分の選択を後悔し始めた。

 

「故郷に戻って軍隊を辞めたい…こんな仕事選ぶんじゃなかった。適当ないい女の子捕まえてとっとと結婚したい」

 

コイツも同じ考えだったらしい。

 

2人とも似た者同士だ。

 

馬鹿らしいことやめて早く星に帰りたかった。

 

こんな異国で死ぬ必要なんてない。

 

「俺もだよ…甘いパイが食べたい。気分が悪くなるほどの…果物が乗り切らないほど乗ったクリームだらけのパイが…」

 

「全くだ…隣見てみろよ。旧型だがクローン戦争時代のドロイドだぜ?あんなのが戦ってくれるなら俺たちの必要性ってなんだよ」

 

タバコを口から離しながら見ると確かにそこにはドロイドがいた。

 

細々としたドロイドが。

 

とても強そうには見えないが役には立つんだろうな。

 

ドロイドが勝手に戦争してくれれば俺たちがここにいる必要なんてないのに。

 

ほんと無意味な事をしている。

 

馬鹿げた戦争だしもうこれは戦争じゃない。

 

仕えてる国はとうの昔に滅んで今じゃ俺たちが反逆者のテロリストだ。

 

もうこんなの戦争じゃない。

 

ただ現実を認められない奴がもがいてるだけの殺戮ゲームだ。

 

そんな理由で俺たちは戦場に放り出されている。

 

「どうせ上は理由をつけてあいつらに戦いを任せたくないんだよ。その為に俺たちはこれから死ぬかもしれない」

 

「おい冗談キツいぜ。こんなクソみたいな戦争の為に死んでやる理由なんて…」

 

「敵襲!!敵襲だ!!ハイパースペースから敵艦が来るぞ!!全員戦闘配置につけ!!」

 

上官の大声が聞こえて俺たちはタバコを吐き捨て足で乱暴に火を消した。

 

ブラスター・ライフルを構えヘルメットを被りなおす。

 

大勢の兵士が塹壕に集まり同じようにブラスター・ライフルを構えていた。

 

「シールドを起動しろ!軌道上爆撃を防ぐんだ!」

 

上官の大声がまた聞こえた。

 

ほんとよくやってるよ。

 

一番大変そうなのはあんたなのに。

 

だが次に返ってきたのは技術士官の悲鳴だった。

 

「ダメです!シールドジェネレーターが妨害電波を受けて機能しません!」

 

「なっ馬鹿な……全員頭を下げろ!爆撃がくるぞ!!」

 

俺は、いや俺たちみんな絶望した。

 

冗談じゃない。

 

シールドもないのにどうやって軌道上爆撃を防げって言うんだ。

 

頭を下げろだ?

 

下げでどうする。

 

死ぬことには変わりないじゃないか。

 

どうしようもなかった俺はふと空を見上げた。

 

…出てきやがった。

 

1,600メートルの怪物…インペリアル級スター・デストロイヤーが…。

 

もう既に黄緑色の光弾を何発も放ってやがる。

 

爆撃の数々は真っ直ぐこちらに向かって突き進んできた。

 

ああ…死ぬんだな…。

 

こんなに呆気なく死ぬ事を理解して受け入れるなんてほんとどうかしてる。

 

もう叫ぶ心の余裕すらなかった。

 

不思議と全身が楽になった。

 

死ぬことに安堵でもしてるのかな。

 

ほんとは怖いはずなのにな。

 

やっぱりおかしいや。

 

「爆撃来ます!!」

 

降り頻るターボレーザーの音も、悲鳴も、爆発の轟音も耳を塞いでいないのに不思議と何も聞こえなかった。

 

 

 

 

 

 

「大将閣下、各戦線への奇襲攻撃完了しました」

 

若手の通信士官がエールリンク大将に報告した。

 

士官の報告を皮切りに次々といい報告が堰を切った後の濁流のように聞こえてきた。

 

「陽動部隊の展開は成功です」

 

「リーゼル中佐の機動部隊が補給艦隊の殲滅に成功しました」

 

「第一、第二、第三、機甲中隊は全隊地上網の制圧に成功。まもなく退却します」

 

「各戦線は奇襲攻撃により予測より10%以上の混乱を見せています」

 

「それは良かった、全部隊を撤収させ再度奇襲の準備だ」

 

エールリンク大将は旗艦のブリッジで報告を聞き安堵したように次の命令を出した。

 

ハイパースペースからの防衛線奇襲はとても効果的だった。

 

前もって備えていたジャマーの効力もあって軌道上爆撃はほとんどが成功し機動艦隊や補給部隊も多くが壊滅。

 

地上部隊も迅速な機動戦術により多くの敵軍を打ち破った。

 

これで新共和国とあの小さな連合軍にいつ敵が来るか分からないという恐怖を植えつけたのだ。

 

この恐怖は絶大な効力を発揮するとエールリンク大将は考えていた。

 

「連続して何度も奇襲攻撃をする事により徐々に敵の戦意を削ぎ弱体化させる。これもスター・デストロイヤーのような打撃力あってこそですね」

 

部下の1人が彼に話しかけてきた。

 

エールリンク大将は笑みを浮かべ小さく頷いた。

 

「その通りだ少佐、よく分かっていて嬉しいよ。とはいえやってる事はゲリラに等しい…こんな戦術を取らざる負えないのは屈辱的だがね」

 

以前は純粋な典型的な帝国軍人であったエールリンク大将はこの戦い方に苛立ちを覚えていた。

 

圧倒的な力をこんな小細工の為に使わなければいけないとは本当に恥だ。

 

「尤もこれも真の力を突き通すための布石にしか過ぎないが」

 

帝国の部隊はエールリンク大将だけではない。

 

本格的な侵攻は後続の本隊に任せればいい。

 

どんな強固な盾であろうと摩耗した状態で強力な矛の一撃を食らえば簡単に貫かれてしまうだろう。

 

防衛線だって前線の兵士が極限状態ならば帝国の力を持ってすればあっという間に突破する事が出来る。

 

先遣隊はその状況下を作ってやれば良いのだ。

 

その為に艦隊や地上部隊のゲリラ的な奇襲攻撃はとても効果的だった。

 

「年末年始までには堕とせるかな…せいぜい短い独立の期間を楽しむといいさ。永遠の敗北者め」

 

本隊の到着を待つエールリンク大将の心の淵はサディスティックな感情に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

-帝国領 大セスウェナ セスウェナ宙域 惑星エリアドゥ セスウェナ最高司令部-

大セスウェナ内の帝国化は他のどの領域よりも順調に進んでいた。

 

元々帝国が存在することで大きな恩恵が領域だ、その恩恵が再び戻ってくるとなれば帝国の占領政策は順調だろう。

 

それにヘルムートが第一次内戦末期に多くの帝国軍人や技術士や役人などを匿っていた為最初から帝国への支持率は高かった。

 

内戦末期でも軍将化の傾向が見られず残存帝国などとの接触もなかった為新共和国は大セスウェナを脅威とは考えず一つの中立国として放置した。

 

ロマイト産業など重要な産業を有していた面もあってか下手に手を出し辛かったのであろう。

 

それに新共和国としては本気になればセスウェナ程度ならば軽く制圧できる為仮に反旗を翻しても脅威とはなり得なかった。

 

油断と言えばそれまでだが軍備縮小法を導入した状態でもそれは事実だった。

 

大セスウェナ一個の軍事力では新共和国全体に立ち向かうのはかなり厳しい戦いになる。

 

それにこの機に乗じて媚を売ろうと各地の防衛軍も戦力を回してくる為勝ち目は薄かった。

 

結果エリアドゥ含めた大セスウェナは新共和国が崩壊するまでこれと言った大きな動きを見せなかった。

 

その為新共和国がセスウェナ内に軍を駐留させるのも甘んじて受け入れていた。

 

そう、新共和国崩壊までは。

 

新共和国が崩壊し生き残った残党軍ではこの大セスウェナが、エリアドゥが最大の脅威として君臨していた。

 

大セスウェナの新共和国軍はほとんど一掃され完全に帝国領となった。

 

セスウェナの資源や軍事力が丸ごと第三帝国のものになっただけには留まらない脅威が現れ始めた。

 

セスウェナ宙域に位置するエリアドゥは重要なハイパースペース・ルートの一つであるハイディアン・ウェイとリマ・トレード・ルートを繋ぐ惑星の一つだ。

 

アウター・リムまで勢力を伸ばしたい帝国にとってはこの地点はとても重要であった。

 

更には帝国領で同じくハイディアン・ウェイに位置するデノンのおかげで帝国はデノンからエリアドゥまでのハイディアン・ウェイを完全に確保したのだ。

 

同じくリマ・トレード・ルートもヘルムートの采配により半ば帝国によって制圧された。

 

この影響は周辺惑星に大きな影響をもたらした。

 

当初は中立を決め込む惑星政府も2つのハイパースペース・レーンが帝国の手に渡った事によりいよいよ第三帝国を残党ではなく再編された真の帝国だと思い始めた。

 

帝国には敵わないと嫌でも分かっている惑星政府達は皆揃って帝国に帰属した。

 

これにより各領域で帝国の影響力が広がっていった。

 

こうして新共和国の残党軍は徐々に居場所を失っていった。

 

更にはヘルムートやザーラ司令官の采配により残党軍に対するハイパースペース・レーンを中心とした包囲網が展開され今や残党軍は死の淵に立たされていた。

 

帝国軍の鉄壁の檻に愚かな残党は入れられてしまったのだ。

 

「グランドモフ、ヘイルダーン少将の偵察隊が残党軍の小基地を発見しました」

 

ヘルムートよりも8歳年上の士官が彼に敬語で報告してきた。

 

権威は常に年齢の上下関係を覆す。

 

どんなに年上の人物だろうとグランドモフという強大な階級を持つ者には基本敬語を使わなくてはならない。

 

特に軍人ならば尚更だ。

 

「少将の麾下部隊にそのまま奇襲させろ。軌道上爆撃を徹底して行い一兵たりとも生かすな。捕虜すら取る必要はない」

 

「捕虜も取らなくてよろしいのですか…?」

 

士官は彼に聞き直した。

 

大方「捕虜を取り次の残党を炙り出さなくて良いのか」という考えからだろう。

 

だがそんな事していてはいつかは背後から刺されるかもしれない。

 

大伯父が時にそうして小さな失敗をしたように。

 

「必要はない、徹底的に殲滅しろ。絶対的な力と死を奴らに思い知らせるのだ」

 

「りょっ了解しました。直ちにヘイルダーン少将に通達いたします」

 

士官は敬礼し恐る恐る地上司令部のブリッジを後にした。

 

確かにヘルムートはまだ若いが若いからという理由で舐めてもらっては困る。

 

むしろ彼は10歳年上の指揮官達よりも冷酷で的確な判断を下す。

 

そうしなければ生き残れないからだ。

 

この過酷なアウター・リムの地では。

 

彼にとってすれば敵に情けをかける理由など思い当たることすらなかった。

 

殺さなければこちらが死ぬだけ。

 

しかも愛する家族や人々すら守る事が出来ない。

 

冷徹になる事が自らと大勢を守る唯一の手段だった。

 

幼い彼は徹底してそれを家族から、そして大伯父のウィルハフから教えられた。

 

自らも何度も悟ったものだ。

 

だからこそ非道で冷徹だと言われようと成し遂げるしかなかった。

 

「失礼します。ターキン総督、親衛隊保安局より逮捕履歴の報告書が届いております」

 

「逮捕履歴?そんなもの届ける必要があるのか?」

 

ヘルムートはまた別の士官からデータタブレットを受け取り大まかに目を通し始めた。

 

士官も困惑したように説明し始めた。

 

「…先程親衛隊保安局の執行部から手渡されたものでして…なんでも大セスウェナで治安妨害罪に該当する人物を強制逮捕するとか…」

 

親衛隊保安局のみというのがどうも不可解だ。

 

こう言った類のものは親衛隊保安局だけでなく通常の帝国保安局や現地警察とも協力すべきだろうに。

 

それに親衛隊保安局はあまり良い噂を聞かない。

 

ついこないだ未だ帝国に帰属しようとしない軍将ら数十名を虐殺したと言う噂も流れていた。

 

「見たところエイリアン種族ばかりだな…リストの人物達に今まで逮捕歴は?警官や保安局から注意を受けたとか些細な事でもいい」

 

聞き慣れない罪状とあまりに多すぎる人物の数を不審に思ったヘルムートは士官に尋ねた。

 

当然士官は知るはずもなく険しい表情を浮かべながら謝罪した。

 

「いえ…わかりません…すいません」

 

ヘルムートは特に怒る事なく命令を出した。

 

「正規軍の情報部と保安局に調査を命じる。調査結果が出るまで逮捕は一旦中断しろと親衛隊保安局に通達しろ、これはグランドモフの命令だ」

 

「わかりました、直ちに伝えてきます」

 

士官は敬礼し駆け足で命令を伝えにいった。

 

その様子を見つめヘルムートは再びリストに目を戻した。

 

彼は、彼らはまだ知らなかった。

 

このリストの真の意味を。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろハイパースペースを抜けるぞ」

 

ジョーレンは機体の各種系統に目を通しながらジェルマンに伝えた。

 

ジェルマンは助手席を離れブラスター類の武器のチェックをしていた。

 

時々ジョーレンも同じように手入れをするのだが基本は機体を見ていなければならない為下手に移動出来なかった。

 

ジェルマンはしっかりブラスター・ライフルを元の場所に戻し器具を仕舞うと助手席に戻ってきた。

 

ジャンプアウトした瞬間何かあると大変だ。

 

それこそ小惑星にぶつかって機体が大きく揺れたり異常な状況に巻き込まれたりと。

 

そう言った危険を回避する為にもしっかり助手席のシートベルトを閉めてジャンプアウトを待つのは重要な事だ。

 

「このままだとジャンプアウト地点は…ラクサス……か…」

 

ジョーレンが独り言を呟いた。

 

ため息レベルの小さな独り言だったがジェルマンは聞き逃さなかった。

 

「ラクサス?ラクサスってあの連合の首都の?」

 

旧独立星系連合の首都惑星でありエンドア後誕生したラクサス自治連合の首都惑星。

 

大まかな歴史的知識しかないジェルマンだったがひとまず名前だけは知っていた。

 

「…あっああ…そうだ…クローン戦争後は帝国軍の占領下になっていたはずだが…」

 

「今じゃラクサス自治連合って国家がここを仕切ってるはずだよ。それにヤヴィン4で聞いた話だとこの地に逃げ込んだ新共和国の部隊もいるらしい」

 

長らく隔絶された生活を送っていたジョーレンにジェルマンは端的に説明した。

 

彼が得られる外からの情報はほんの僅かなものでこれから日々の生活に苦労するだろうなとジェルマンはふと思った。

 

「自治連合ね…まさか連合が蘇るなんて夢にも思わなかったよ…」

 

「まあ確かに、せっかくだし給油や友軍の確認も含めてラクサスに行かないか?一応連合と新共和国の関係性は良好だったはずだし」

 

その瞬間あのジョーレンの目が泳ぎ動揺した気がした。

 

操縦桿を握る手もどこか震え唖然とした表情を浮かべていた。

 

「ジョーレン…?」

 

ジェルマンはあまりのおかしさにジョーレンの名前を呼んだ。

 

耳はちゃんと聞こえていたようでジョーレンは自分の異変に気づいたのか一瞬で意識が戻った。

 

「あっああ…だな…!ラクサスか…となるとモン・カラへは少し遅れそうだな」

 

「ああ、でもモン・カラにも必ず行くさ。僕達が残された希望なんだから」

 

ジョーレンの表情はいつも通りに戻り軽く冗談も交わしてきた。

 

「まあ希望にしては少し頼り甲斐がないがな」

 

「なんだとぉ」

 

ジェルマンはむっとしジョーレンはケラケラ笑っていた。

 

「ほらそろそろだぞ」

 

ジョーレンは目線を前に向け意識を操縦の方に集中し始めた。

 

そろそろジャンプアウトするのだろう。

 

ラクサスか。

 

どんな場所か分からないが楽しみだ。

 

また新共和国の仲間達と会えるといいなと軽い期待を含んで。

 

…だがあの時ジョーレンの表情が曇ったのは気のせいなのだろうか。

 

少し複雑な考えを持ちながらジェルマンは目線を前に向けたその瞬間Uウィングはハイパースペースからジャンプアウトした。

 

刹那目の前に広がる景色は青白いトンネルから戦場に変わった。

 

突如Uウィングは旋回し機体の横を黄緑色のレーザーが通り過ぎた。

 

若干の余波がシールドに衝突し一瞬だけシールドが可視化された。

 

ジョーレンはさっきよりも険しい表情を浮かべていた。

 

当たり前だ。

 

一発でもこの機体に被弾させる訳にはいかないのだから。

 

「なっ何が起こってるんだ!?」

 

ジェルマンは思わず大声で叫んだ。

 

当然彼らはこの状況を知る由もなかった。

 

遂に帝国軍の本隊が到着した事も。

 

本隊の猛攻により各戦線が崩壊しかかってる事も。

 

もはやラクサス自治連合は崩壊寸前だと言う事も。

 

ジェルマンとジョーレンはこの一瞬の戦場で理解する事は出来なかった。

 

 

 

つづく




わ た し だ

そういや世間一般ではビジョンズは半ば成功した?みたいっすね

僕はあのゾルタン・アッカネンみたいな保安局のオッサンがどうなったか気になりますぞ


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連合の滅亡/前編

「誰が見ても敗戦は明らかだしこれ以上の戦いは全て無駄に見えた。だが上官達は常に戦えと怒鳴るし降伏や投降を選んでも命はない。故郷にだってもはや居場所はないだろう。だが私が幸いなのはこの地獄を自分で選んだというところだ。これだけが唯一後悔のない満足のいく事だ。明日にでも私は死ぬだろうが少なくとも満足感は薄れないはずだ」
-元惑星防衛軍所属、新共和国宇宙軍中佐の日記より抜粋-


「何が起こっているんだ!?」

 

ジェルマンの驚きの言葉を他所にジョーレンは操縦桿を右に捻りペダルを思いっきり踏み込んだ。

 

物凄い衝撃が真正面から全身を襲い身構えていなかったその体を思いっきり座席に叩き付けた。

 

幸い座席の材質が柔らかかった為それ程痛みはないがそれでも衝撃の痛みは未だ和らいでいない。

 

ジョーレンは無言で険しい表情のまま機体を変態飛行と言って良いほど不規則に無茶苦茶に操縦している。

 

最大加速度でシールドを全開にしたまま戦場を回避しようとしている。

 

「ジェルマン!多少荒っぽい運転になるが少し耐え抜いてくれ!この場を押し通る!」

 

「あっああ!だっだが戦ってるのは…味方だぞ!助けないと!!」

 

周囲を見渡すと明らかに不利な状況のまま戦うXウィングやAウィングなどの新共和国軍機の姿が目撃された。

 

帝国軍のスターファイター部隊は明らかに新共和国軍機よりも2倍3倍近くが戦っており到底勝ち目はないように見えた。

 

何せ帝国軍の空母が二隻、護衛の軽クルーザーが六隻もおり一方の新共和国側はCR90二隻で応戦していた。

 

このままでは帝国軍の物量に押し潰され全滅すらあり得るだろう。

 

しかしジョーレンは何処か躊躇しているようだった。

 

そんなジョーレンにジェルマンは迫った。

 

「ジョーレン…?どうしたんだよ…?早く救援に向かわないと…」

 

「ああ…だがこの状態じゃ最悪俺達もやられる…そうなったら全ておしまいだ…」

 

「…確かにそうだがせめて退却させる時間くらいは稼げるだろう!」

 

ジェルマンはあくまで共に戦う事を訴えた。

 

仲間を見殺しに出来るほど兵士に染まっていない。

 

若過ぎるが故の弱さとも言えよう。

 

「俺達の行動は新共和国の復活に直結する!こんな所で少しでも危険を犯せば新共和国の復活自体が危険になる!」

 

かなり強めの口調でジョーレンはジェルマンの申し出を断った。

 

自分たちは特別ではない。

 

ただ与えられた任務が特別なのだ。

 

その為には任務を完遂するまで自分達の命を最優先に考えねばならない。

 

そう思っての行動だった。

 

だがジェルマンは引き下がらない。

 

「だがやられる確率は100%じゃないしむしろ共闘した方が助かる確率が上がる!」

 

「危険が1%もある以上はダメなんだ!彼らが自力で助かるのを祈るしかない…」

 

「そんな…!敵が来る!」

 

落ち込むジェルマンはUウィングのセンサーを見て一瞬で判断した。

 

前方からTIEブルートが2機向かってくる。

 

それはコックピットからの黙示確認でもわかった。

 

TIEブルートがこちらにレーザーを向けながら向かってくる。

 

「チッ!仕方ない…ここで敵をやれば確実に敵に報告される、こうなったら近くの友軍に守ってもらうしかない!」

 

「ああ…!コルベットとファイター隊の隊長に通信を繋ぐ」

 

「そうしてくれ…!ああもうやるとなったら全力でやるしかない!」

 

仕方なさそうな表情でジョーレンはレーザーにもエネルギーを回し始めた。

 

TIEの攻撃はシールドが防ぎ逆に2機のTIEブルートをUウィングの強力なレーザー砲が敵機を2機とも撃破した。

 

特徴のあるエンジンを鳴らしながら敵機は爆散した。

 

その間に友軍部隊の指揮官と通信が繋がった。

 

『こちら第四補給隊…!Uウィング輸送船応答せよ…!』

 

ホログラムが浮き出てCR90コルベットの艦長が姿を表した。

 

「我々は軍最高司令部と元老院議員より特命を受けた特務部隊です」

 

『元老院議員だと…』

 

艦長は少し驚いている。

 

それもそのはず、帝国公式の記録では元老院議員は皆処刑されたか死亡したはずだ。

 

多少の誤りがあるとはいえ未だ元老院議員が誰一人として応答がない事から粗方真実として扱われていた。

 

すると時間がなさそうにジェルマンの代わりにジョーレンが返答をした。

 

「時間がないから手短に命令を出す。敵艦のエンジンかブリッジを潰して急いで退却だ、我々の命令は新共和国の存亡に関わる。どんな手段を使ってでも退却することを第一に考えるんだ」

 

口下手な感じはあるが命令は至極簡単なものであった。

 

全戦力を持って敵艦隊の足を止める、そして足が止まったうちに全戦力で退却する。

 

本当に簡素な命令だがこれで十分だった。

 

現状の戦力でも十分退却する確率の高い方法だ。

 

それに部隊の指揮官達が皆物分かりがいいのかすぐ命令に従ってくれた。

 

『了解Uウィング!レコード中隊全機攻撃隊形だ!』

 

「支援する、護衛機をよこしてくれ」

 

『今行きます!』

 

すると2機のXウィングがピッタリUウィングの背後にくっ付いた。

 

ひとまず背中は安心だ。

 

「最も危険な役回りだが…スターファイター隊の注意をこっちで引きつけるぞ、無茶な操縦になるが耐えろよ」

 

「ちょっと待ってくれ、自動攻撃タレットを立ち上げる!」

 

ジェルマンは機体にタブレットを接続し何かを打ち込み始めた。

 

さすがはというべきかかなり手際がいい。

 

しかし相棒のジョーレンにとってはなんのことやらさっぱりだった。

 

「そんな武装はUウィングには搭載されてないぞ!」

 

「内戦末期にスターホークプロジェクトに関わったスターファイター中隊がテストで使っていた自動タレットだよ。ヤヴィンに放置されていたそれを少し改良した。固定式で射出しなくても攻撃できる」

 

「そんな事してたのか…まあいい、とにかくソイツで敵を蹴散らせ。使える武器が増えるのはいい事だ」

 

そう言いながらジョーレンは迫るTIEブルートを1機撃墜して旗艦の砲撃を避けた。

 

最初のブルートの撃墜で敵はこちらに気づき部隊を優先して展開している。

 

きっとこんな場所にガンシップがジャンプアウトするなど何か不審に思ったのだろう。

 

本当はただたまたまジャンプアウトしただけの話なのだが。

 

「よし起動した!」

 

ジェルマンが報告するより先にタレットは敵機を攻撃した。

 

背後を取ろうとするTIEブルート1機を捕捉しXウィングよりも早くブラスター弾を連射し数を持ってTIEのパネルを打ち破り撃破した。

 

僚機のXウィングは完全に獲物を取られた形となった。

 

だが獲物を横取りされたとかそんな事を言っている場合ではない。

 

編隊を組みスターファイターの部隊が敵艦のエンジンを破壊しようと攻撃を仕掛けている。

 

その間残念な事に1機のXウィングがアークワイテンズ級の対空砲火にやられ旋回出来ずブリッジに激突した。

 

だがパイロットの犠牲は決して無駄ではなかった。

 

アークワイテンズ級のブリッジはXウィングの衝突を受け中破、艦長や多くの乗組員が重傷を負い指揮能力は完全に低下した。

 

CR90も敵艦の砲撃を引き付けながら反撃を喰らわせていた。

 

微々たる砲撃でほとんどダメージを与えられていないがそれでも引きつけ役と考えれば十分だ。

 

攻撃の主役は相変わらずスターファイターにあるのだから。

 

TIEブルートがCR90に取り付こうと攻撃を敢行しているが駆け付けたジェルマン達のUウィングや対空砲火に撃破されてしまった。

 

2機のXウィングが見事な連携でTIEブルートを1機撃墜する。

 

「チッ!このぉ!」

 

急旋回からの流れるような攻撃は流石の帝国軍パイロットすらも翻弄しまた1機のTIEを破壊した。

 

ジェルマンは少しフラフラになっているがこの際気にしてはいられない。

 

第一助けようと言ったのはジェルマンだ、これくらい覚悟の上だろう。

 

艦の上空から1機のAウィングがアークウィアテンズ級の右舷側のエンジンに震盪ミサイルを食らわせる。

 

偏向シールドと装甲を易々と貫通したミサイルはエンジンの内側で炸裂し若干の損傷を受けていたエンジンを完全に吹き飛ばした。

 

大爆発が起こり破片が僚艦のクエーサー・ファイア級に直撃する。

 

『敵艦隊撤収を始めていきます!』

 

中隊のパイロットの1人がそう全体に報告した。

 

ジェルマンもジョーレンも目線を帝国艦隊の方へ向ける。

 

ブリッジを中破したアークワイテンズ級とエンジンの片翼をやられたアークワイテンズ級をクエーサー・ファイア級が引っ張りTIEブルート各機が護衛しようと周囲に群がっている。

 

予想以上の攻撃にこれ以上戦闘を繰り返すことはできないと判断したんだろう。

 

退却が目的のジェルマン達にして見ればこの上ない好都合だ。

 

すかさずジョーレンが命令を出す。

 

「今のうちだ!全隊退却だ急げよ!」

 

無事とは到底言えない状態のまま両軍は背を向け引き返し始めた。

 

この宙域の新共和国軍にとっては久しぶりの痛み分けであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー フェルーシア星系 惑星フェルーシア-

帝国軍の主力はついぞ連合領のタイオン・ヘゲモニーへと侵攻し各戦線で勝利を重ねていた。

 

これも蘇った帝国軍の物量による人海戦術と先遣隊のエールリンク大将が行った防衛線への精神的圧迫が要因だろう。

 

何はともあれ各戦線では新共和国軍と連合軍は負け続け逆に第三帝国は勝ち続けていた。

 

後詰の部隊もタイオン・ヘゲモニーに限りなく近いフェルーシアまで進軍し備えを整えていた。

 

旧共和国のクローン戦争時代も共和国軍がラクサスを攻撃しようとこの惑星で覇権を争ったものだ。

 

今ではこんなにも簡単に大部隊を布陣出来る。

 

歴史は本当に大きく変わってしまった。

 

無論その善悪は誰も知ることはないが。

 

ジークハルトもステーションと共にフェルーシアに来ていた。

 

明後日彼らの第六連隊はタイオン・ヘゲモニーへと進軍する。

 

あくまで予備の穴埋めという感じだがそれでも前線に赴くことには変わりない。

 

多少緊張もするし身が引き締まる。

 

ウェイランドでの戦闘以来の前線だ。

 

「聞いたか?アミダ元宰相の部下が一斉に粛清されたんだとよ…」

 

「しかもエイリアン種族限定だってよ…代理総統はハイ=ヒューマン主義に相当ご熱心なようで」

 

「全く…コア・ワールド受けが良いからって少し限度を考えて欲しいものだな…」

 

2人の将校が雑談を交わしながらジークハルトの前を通り過ぎた。

 

話に夢中で恐らくこちらに気づいていない。

 

不用心な将校達だ、親衛隊の目の前でそんな話をするなんて。

 

この話を上官の誰かしらに密告すれば彼らはやがて何らかの処罰が下されるだろう。

 

あんな将校すぐ特定出来るだろうし。

 

親衛隊に対する総統の信頼度は正規軍のものより何倍も高い。

 

逆に総統に対する親衛隊の忠誠度は国家よりも高いものであった。

 

ちょっとした雑談や皮肉でも身を危険に晒す。

 

第一代理総統のハイ=ヒューマン主義に対する熱心さは異常なほどだ。

 

人気取りとかそう言ったものではまるで違う。

 

親衛隊のジークハルトでさえ恐怖に感じるくらいだ。

 

狂ってると言っても過言ではない。

 

一体何が総統をあそこまで作り上げたのか。

 

ひょっとして自分と同じなのではないのだろうか。

 

何らかの恐怖でエイリアン種族を憎むようになったとか。

 

それも考えられなくはない。

 

人間がエイリアン種族を攻撃するのと同じくエイリアン種族も人間を殺している。

 

どちらも悪い面がある。

 

ただその悪い面が強く浮き出るか浮き出ないかなのだろう。

 

「なあ、あんた」

 

ふと誰かに声をかけられた。

 

聞き馴染みのまるでない声だ。

 

ふと振り返るとベンチに1人の正規軍将校が座っていた。

 

服装は保安局の白い軍服で片目には義眼を、胸には中尉の階級章を付けている。

 

「どうしたんだ?」

 

ジークハルトはまずは疑問系で尋ねてみる。

 

もしかしたら具合でも悪いのだろうか。

 

例えば義眼の調子が悪いとか。

 

そういえば正規軍の保安局長官のアレシア・ベックも義眼だったはずだ。

 

いやそんな事は今はどうでもいい。

 

その保安局の中尉はジークハルトにまた声をかけた。

 

「とりあえず隣へ」

 

導かれるようにジークハルトは隣に座った。

 

何者なのだろうか。

 

若干紫色に近い黒髪が後ろで束ねられている。

 

「ジークハルト・シュタンデリス大佐だ」

 

「ヴァン・ブリーズ中尉…」

 

「どうしたんだ?具合でも悪いのか?」

 

ひとまず名前を聞くと容態を伺った。

 

「いやその点は大丈夫だ…ただ少し聞きたい事があってな」

 

「なんだ?」

 

保安局員とはいえ中尉なのにやけに馴れ馴れしい。

 

馴れ馴れしい割には声が低く何処か暗いので掴みどころがない。

 

「何であんたは親衛隊に入ったんだ?あんたほどの人物なら今からでも正規軍に戻って普通の将校としてやっていけるだろう」

 

「私を知っているのか?」

 

まあ知っていても何ら困ることはない。

 

むしろ多少軍部では有名な方だと一応自覚はしている。

 

コルサント戦、ホズニアン・プライム戦とこれまで重要な戦いにほとんど参加してきた。

 

武勲も名が通るには十分なものだ。

 

「ああ…昔帝国軍にいたこともな…あんたは出世したいからとか総統に媚を売りたいから親衛隊にいるわけじゃないはずだ。今からでも正規軍に戻れる」

 

「よく知ってるな…じゃあ逆に聞くがどうしてそこまで正規軍に戻って欲しいんだ?」

 

「これ以上親衛隊で汚れた仕事をして欲しくない。あんただって親衛隊の評価や噂は知ってるはずだ。それに隠れ蓑だったこの組織にもう長居する必要もないだろう」

 

もしかして忠誠心を試されているのだろうか。

 

保安局将校という点もあってかその線が濃くなってきた。

 

簡単な甘言に騙されて親衛隊を捨てるような者は総統も信用が置けないだろうし。

 

ならばそれを悟らせず最適の回答を導き出さなければいけない。

 

「私は既に総統に忠誠を誓った身だし連隊員の多くの部下がいる。今更全部捨てて正規軍には戻れないさ…もう遅すぎる」

 

「嘘じゃないが本心は違うはずだ…どうしてもう遅すぎるんだ?」

 

「何故だか君には本心がすぐ見破られてしまうな……遅すぎるんだよ、私の両手はとうの昔に血に染まってる…背後には多すぎる仲間の亡霊が縋ってる…全て私のせいで死んだも同然の者達だ」

 

「なら彼らの為にも正規軍に戻るべきなんじゃないのか?」

 

「いや逆だよ、そんな大罪人が神聖な神聖な軍隊(帝国軍)に戻って良い訳がない。だが償う必要がある…その為に私はここで戦い続ける。拾ってくれた総統には悪いが…」

 

そういうとジークハルトは立ち上がった。

 

精気のない空に近い片目でブリーズ中尉はこちらを見つめていた。

 

彼はまたジークハルトに尋ねる。

 

「市民を守るのが軍人の務めじゃないのか?」

 

ジークハルトは悲しく微笑を浮かべた。

 

そうだ、それが正しい。

 

それが本来の軍人だ。

 

でもそれじゃあ…

 

「それじゃあもう…戦う理由にならないんだ…その理由じゃ戦えない、戦意をもう保てない…昔はそんな理由で戦えたが今はそんなに純粋じゃない…贖罪でしか武器を手に取れないんだ…」

 

彼が忠誠心を調査していようともはや関係ない。

 

自分は自分の責務と罪を全うするだけだ。

 

既に自分は軍人ではないかもしれない。

 

ただの罪人の、ただの亡霊だ。

 

だがそれでもやらなければならなかった。

 

「私は進み続ける…二度と私のような人物を作らない為に、愛するあの子がこちらの世界に来ない為にも私は親衛隊に居続ける」

 

「それがあんたの自分で選んだ地獄か?」

 

「多分そうなんだろう…だが私は選んでなくとも地獄で構わない。それが私の罰だろうからな」

 

ジークハルトは微笑を浮かべると軍帽を深く被りその場を去っていった。

 

もう彼に伝える事も話す事も全部零した。

 

密告するならそれでいい。

 

自分の本心はこれ以上隠しきれない。

 

それでも戦い続ける、ただそれだけだ。

 

だからジークハルトは振り返らなかった。

 

彼がじっと見つめている事も気付かずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陣形を維持しトルーパー隊とAT-ST隊を突撃させろ、全AT-ATは砲撃支援だ!」

 

アイガー准将の命令によりAT-ATから一斉に重レーザー砲とミサイルの一斉射撃が放たれ塹壕や退却する兵士を吹き飛ばす。

 

友軍の退却を支援しようといくつかの砲塔が砲撃を繰り出してくるがAT-ATの重厚な装甲には全く意味をなさなかった。

 

されど今回の戦いには多少の脅威がまだ存在していた。

 

それは僚機のテンペスト6の報告からであった。

 

『准将、敵のドロイド歩兵部隊です。数は三個中隊ほど』

 

備え付けのエレクトロバイノキュラーで周辺の様子を目視で確認すると確かにドロイドの姿があった。

 

クローン戦争期に活躍したB1、B2タイプのバトル・ドロイド、そしてドロイデカと呼ばれる強力な偏向シールドを備えたバトル・ドロイドの隊列があった。

 

B1、B2のバトル・ドロイド部隊は報告通り三個中隊で間違いなかったがドロイデカは目視で二個分隊ほどであった。

 

このままではまずいとアイガー准将は考えていた。

 

このまま歩兵部隊を突撃させればドロイドの壁に阻まれてかなりの損害を出してしまう。

 

見かけの100倍は危険な軍団だ、最悪AT-STにも被害が及ぶだろう。

 

無意味な損失は避けるべきだ。

 

それにこの程度の旧式部隊ならAT-ATの火力で簡単に粉砕出来るし事前に対処する手はいくらでもある。

 

「テンペスト9、イオンミサイルを装填し待機しろ。全ウォーカーは敵中隊に集中攻撃、歩兵部隊は重火器を使用し弾幕射撃!」

 

准将の素早い命令とともにウォーカー隊が一時停止し一斉に砲撃を始める。

 

十二台のAT-ATと二十四台のAT-STの一斉射撃がドロイド軍を襲う。

 

偏向シールドも持たず手持ちの武装で反撃しようとするバトル・ドロイドは次々と砲火の巻き添えとなり吹き飛ばされた。

 

足や胴体が空中に撒き散らされドロイドが放つブラスターの光弾はウォーカーにかすり傷一つ付けなかった。

 

部隊の数が少ない故か将又時代の流れかドロイド軍はすでに壊滅状態だった。

 

だがドロイデカ隊は違った。

 

高速で回転するドロイデカの分隊はAT-ATやAT-STの砲撃を軽々とかわし歩兵部隊に近づきつつあった。

 

通常のドロイド部隊もそうだがドロイデカの火力と防御力は歩兵部隊に対し多大なる脅威となる。

 

しかもそれが二個分隊、十分に歩兵部隊を蹴散らせる。

 

だがアイガー准将はこれにも手を打っていた。

 

すでに歩兵部隊には弾幕射撃の命令を出している。

 

ドロイデカが回転し移動中では偏向シールドは展開できず攻撃は立ち止まるか避け切るかしかない。

 

ならば避けられない八日力をばら撒いてやればいいだけの事。

 

すでに歩兵部隊はEウェブを組み立てDTL-19などの重火器で火力を固め終え攻撃を開始している。

 

平面上にブラスターの火力を展開していた。

 

まだ武装が射程外のドロイデカは攻撃の火力を全て避け切り突っ込むしかない。

 

自ら火力の網に掛かってくれた。

 

回転する胴体に何発もの弾丸がめり込み火花を散らし始めた。

 

やがて被弾箇所が広がり火花だけでなく爆発を起こし破裂するように爆散した。

 

他のドロイデカも同じような有様だった。

 

「全ドロイド部隊、95%が掃討完了」

 

「十分だ、再びAT-ST隊と歩兵部隊を突撃させろ。両翼のウォーカー部隊を前進させ我々の中央のAT-AT隊は一旦停車だ」

 

「了解」

 

パイロットがウォーカーを停車させゆっくりと機体全体を地上に着ける。

 

その間にストームトルーパーやAT-STの部隊は前進し始めた。

 

「スピーダーバイクの偵察隊を前線に展開し索敵させろ、車長達を集めておくれ」

 

「わかりました」

 

AT-ATの格納庫から数台の74-Zスピーダー・バイクに跨ったスカウト・トルーパーが発進し偵察に出た。

 

同じようにストームトルーパーが数名姿を表し周囲を警戒している。

 

伏兵がこの機を狙って攻撃してくるかも知れない。

 

戦場でのトルーパー達はいつ如何なる時であろうと警戒心を張っていなければならなかった。

 

各ウォーカーから指揮官がトルーパー達に守られ降りてくる。

 

皆アーマーを着込んで腰のベルトにはブラスター・ピストルの入ったホルスターをぶら下げている。

 

ウォーカーの中でも身を守る武装はしっかりしておかねばならない。

 

いつ自機が破壊されて白兵戦になってもおかしくないからだ。

 

「司令官」

 

車長達が敬礼しアイガー准将を出迎える。

 

トルーパーの1人が野外用のホロプロジェクターを起動し周辺地図を出した。

 

「敵の戦線は完全に崩壊しました。ここは師団を結集させ一点突破を図りましょう」

 

「そうだな…ティルゲン少佐とホーヴィ少佐の砲兵大隊を左右に配置して敵司令部まで一気に突撃する。ヘンドラー大佐の連隊に退路を塞ぐよう命令を」

 

「はい准将」

 

ストームトルーパーの中尉が命令を受けてウォーカーに戻った。

 

このままテンペスト・フォースの機甲戦力を真正面にぶつけつつ左右両方の砲撃による支援突撃で司令部を制圧する。

 

しかも後方はヘンドラー大佐の連隊が、上空にはケルク准将の機動部隊が控えており退路は存在しない。

 

勝利はもう目前だ。

 

だが一つ気掛かりな事が目に付いた。

 

「あれは…親衛隊か?」

 

アイガー准将の目線の先には親衛隊保安局と思われる数名の兵士がスピーダーに乗り込み何処かへ移動しようとしていた。

 

彼らに索敵命令は出していないはずだ。

 

不審に思った准将は将校達の場を離れ保安局部隊に声を掛けた。

 

「待て、どこへ行くつもりだ」

 

発進しようとしていた部隊はスピーダーを止め部隊長と思われる若い新任の少尉がアイガー准将の前に現れた。

 

敬礼し少尉は説明を始めた。

 

「親衛隊保安局のハイドレーヒ大将からの特務命令です。周辺地区の敵性分子掃討を命じられました」

 

「具体的にはどのような勢力だ?ゲリラか?それとも敗残兵の掃討か?」

 

ゲリラ戦、敗残兵掃討にしては兵員数と武装が貧弱すぎる。

 

だが少尉は口を閉ざした。

 

「お答えできません、これは保安局の最高機密です。いくら将官と言えどお答えする訳にはいきません」

 

それを聞いていた1人の将校が少尉に詰め寄った。

 

「貴様!少尉の分際で!」

 

言い方は悪いが言葉そのものは尤もだ。

 

「それでは、出発だ!」

 

少尉は敬礼しスピーダーに乗り込んだ。

 

ああまで言われたら一介の准将でしかないアイガー准将では引き止める事など出来なかった。

 

尤も彼らの部隊などいなくとも戦闘は続行出来るし親衛隊保安局の命令を止める事など出来ないのだが。

 

「准将、どうかされましたか?」

 

去りゆく親衛隊を見つめるアイガー准将を将校の1人が名を呼んだ。

 

何か引っ掛かる点がある。

 

「いや…何でもない」

 

 

 

 

 

 

 

-惑星ラクサス 首都ラクサロン-

「重傷だ!早く手当を!」

 

「もう病床が残り少ない!少し待ってくれ!」

 

「待ってたら死んでしまう!!とにかく運ばないと!」

 

「おいおい待て待てソイツはもう死んでいる!」

 

「いや待ってくださいよ…!まだ生きてるでしょう!!」

 

「惑星に着いた途端これだ!相変わらずこの星は俺と全く合わない」

 

ジョーレンはUウィングの整備と補給を発着場の整備士たちに任せた後ジェルマンと共に上級将校に挨拶に向かっている。

 

ただどこかジョーレンの感情が不安定で怒りっぽくなっていた。

 

しかもこのラクサスの事を何か知っているようだった。

 

「ラクサスに住んでたのか?」

 

「ああかなり昔な…だがクローン戦争が始まる前に共和国派だった俺達は迫害されて父親はここの連中に殺された」

 

「…すまない」

 

ジェルマンは思わず謝罪してしまった。

 

ジェルマンがジョーレンのことを全て知らないようにジェルマンも相棒であるジョーレンの過去をまだ知らなかった。

 

クローン戦争は僅か数年の出来事ではあったが十分に銀河市民を傷つけ疲弊させるものであった。

 

ジョーレンのような迫害され親を国に殺された子供は数多くいるしそれは何も共和国派一方のものではなかった。

 

「いいんだ、誰が悪いわけでもないのが戦争だ。ただ…どうしても感情では理解できない部分がある…」

 

この時のジョーレンは言葉では言い表せないほど複雑な表情を浮かべていた。

 

悲しみ、あるいは憎悪、諦めと言ったいくつもの表情が折り重なっている。

 

こんなジョーレンは見たことがなかった。

 

すると1人の新共和国軍の士官がジョーレン達の前に現れた。

 

階級章は少佐を表しておりジョーレンやジェルマン達よりも階級は上だ。

 

「参謀将校のジェタック少佐だ」

 

「ジョーレン・バスチル大尉でこっちがジェルマン・ジルディール中尉。さっき説明した通り我々はとても忙しい。早くそちらの司令官と国家主席に合わせてほしい。これは新共和国の非常事態だ」

 

「それは出来ない」

 

「何故です?もう一度言いますが我々は非常に忙しい。ここの次はモン・カラへと旅立つ予定だ、早くして欲しい」

 

ジョーレンは苛立ちを隠さずジェタック少佐に詰め寄った。

 

彼の言う通り時間がない。

 

ヤヴィン4やこの惑星もいつ陥落するか分からないしディカーだっていつ帝国軍に発見されるか分からない。

 

現にディカー方面にも帝国軍の手は伸び始めている。

 

機動艦隊以下の戦力しかないディカーが奇襲されれば一時間と持たず陥落してしまうだろう。

 

そうなれば今度こそ新共和国は終わりに近づく。

 

その為には一秒でも早く残った新共和国軍との連携を気付きたかった。

 

「ジャステン中将ら軍司令部は今も各戦線を維持しようと司令室に篭り指揮をとっておいでだ。貴官らに割く時間などない」

 

はっきりとした物言いをするがその分苛立ちを煽る将校だ。

 

他の兵達と違い少し余裕そうな表情を浮かべているのがまた気に食わない。

 

だがジョーレンだって引き下がらない。

 

「それを組んで申し上げているのだ。ここの戦線も重要だが我々は新共和国全ての戦線を左右する重要な任務を背負っている。その重要さが分からないではないはずだ」

 

「我々の任務が達成されれば新共和国は再び組織的な反抗を行う事が出来、あなた方の戦いもかなり楽になるはずです」

 

ジェルマンはジョーレンの言葉をさらに付け加えた。

 

だが目の前の少佐はいくらメリットを並べ立てても通用せず聞く耳持たんと言った表情だ。

 

返される言葉も提携文のような決まったものだった。

 

「何度も言うが今は今は無理だ呼びがかかるまで待機していろ。それでは」

 

そう言うとジェタック少佐は二人に背を向けスタスタと歩き始めてしまった。

 

ここで彼を返すわけにはいかないとジェルマンとジョーレンは急いで彼の元へ走り出し説得を続けた。

 

「おい待ってくれ!少しでいいんだ!」

 

「離れろ!第一お前達の任務が達成されたところでこの戦線が変化する事はない…!我々はもうおしまいだ!」

 

突然悲観的なことを言うジェタック少佐にジョーレンは思わず溜め込んだ苛立ちを全てぶつけてしまった。

 

「おしまいだと?諦めるのか?せっかくここまで来たのに?冗談じゃない!それじゃあ死んでいった者達はどうなるんだ!」

 

特殊部隊として第一戦で戦い続けてきたジョーレンの言葉の重みは他の誰よりも重たかった。

 

だが彼の言葉は逆にジェタック少佐の怒りを煽った。

 

「諦めるだと?この様子を見てみろ!これでどう勝てるって言うんだ!既にラクサロンの病院は負傷者だらけだ。こんな状態でどう希望を持てと言うのだ!」

 

怒りをまるで隠さず小声で周りを見渡すよう指示するジェタック少佐。

 

痛みを叫ぶ兵士や死体を泣きながら運ぶ若い兵士。

 

絶望的と言っても過言ではないだろう。

 

ジェタック少佐の意見も尤もなものだった。

 

だがここまできて両者とも引き下がるわけにはいかない。

 

ジェタック少佐はさらに続けた。

 

「あと数週間もしないうちに戦線は完全に崩壊し首都に帝国軍が雪崩れ込んでくる。上だって薄々敗北を悟ってるはずだ。既に戦線の崩壊は目に見えている」

 

「だからって諦めるわけにはいかないでしょう!我々は新共和国の軍人ですよ!?」

 

「それこそ手遅れだ……新共和国は既に滅んだ!我々がいくら戦おうとその事実は拭いきれない。我々もこのまま負ける…近いうちに我々は皆死ぬ…もう無駄なんだ」

 

ジェルマンの返答すら全てを諦めていたジェタック少佐には通用しなかった。

 

「じゃあお前はどうするんだ。このままむざむざ死んでいくのか?」

 

「当たり前だ、それが上官の命令なら…死ぬしかない。部下も何もかも道連れにしてこの星を死守するしかあるまい…」

 

「ストームトルーパーとなんら変わらんな」

 

「兵として優秀な分ストームトルーパーの方がマシだ。とにかくお前達は待機だ。何を言おうと無駄だ、いいな?」

 

ジョーレンの皮肉を躱したジェタック少佐は指を差し二人を釘付けた。

 

これ以上は何を言っても無駄だと。

 

ジェタック少佐はそのまま唖然とするジェルマン達を背に去っていった。

 

「新共和国は…終わりか…」

 

「ほっておけ、最後まで諦めなかった奴が生き残れる。そう言うもんだ」

 

 

 

 

 

 

 

議論が紛糾…と言うより息詰まっていたのはジェルマン達だけではなかった。

 

連合の議会も帝国に対する対応に追われていた。

 

ジェタック少佐の言った事は間違いではなく既に防衛線は崩壊、帝国軍の侵攻を食い止めるのは不可能となっていた。

 

敗北は拭い切れない事実としてすぐそこまで迫っていた。

 

「第四軍、第五軍が既に壊滅し敗走…第十四分艦隊は戦闘不能の痛手を受け第十防衛線まで後退しました…」

 

「残す戦線は最終防衛線とこのラクサスだけか…どの道第九防衛線は長く持つまい…全戦力を最終防衛線まで後退させろ」

 

「それは出来ません…第九防衛線を後退させれば未だ第八線で戦う多くの兵士を見捨てる事となります…」

 

リストロング司令官の命令を新共和国の幕僚の1人であるペンディス大佐は反論し理由を述べた。

 

司令官は頭を悩ませながら彼に尋ねた。

 

「…具体的な兵員数は?何個師団が残っている」

 

「大体二個師団と一個連隊ほどが…しかし戦列の崩壊によりほとんどが小隊、中隊規模で回収は困難です…」

 

「ならば見捨てるしかあるまい…もはや手遅れだ…最終防衛線まで後退させろ、手遅れになる前にだ」

 

「承知しました…」

 

非情な決断だったが仕方ない。

 

少しでも時間を稼がねばならないのだから。

 

「おい!ジャステン中将らはどうした!」

 

議員の1人であるハルターン議員がペンディス大佐に怒鳴り散らすように尋ねた。

 

新共和国側総司令官のジャステン中将やエンベル准将、地上軍のタイダル少将らの姿が全く見えなかった。

 

こんな非常事態の会議の場にいないとは何事かと一部議員たちからの野次は止む事はなかった。

 

おどおどしたままペンディス大佐は答えた。

 

「中将達は司令室に…今も各戦線に指示を飛ばしており…」

 

「今すぐ連れてこい!!こうなったのは彼らの作戦ミスだ!この場で責任と次の手を進言する義務があるだろう!!」

 

議員はそのまま怒鳴った。

 

ペンディス大佐は怯えながら「わかりました!」と言い遅いで司令室に向かった。

 

彼の副官や部下達も同じようにその場を後にした。

 

「…寄生虫は消えたか…」

 

この部屋の警備を担当するグラット大尉は辺りを見渡しそう呟いた。

 

とても小さな声だったがそれでもその場の全員がその言葉を聞き安堵の息を漏らした。

 

()()()”は消えこの場にいるのは信頼に値する連合の者のみ。

 

「ああは言ったものの本当に大丈夫なのかリストロング…?いくら最終線を篤くしたとて持って…」

 

「十分です議員、既に脱出の用意は出来ている」

 

先程とは違い不安な表情を浮かべるハルターン議員をリストロング司令官は安心するよう宥めた。

 

他の同年代の議員からも「名演技だったぞ」とか「よく言った」など小声で褒められていた。

 

敗北は決まった。

 

だが希望はまだある。

 

それに敗北など慣れたものだ。

 

そして生き延びればまだ希望があると言うことも議員達は知っていた。

 

「主席、折角この地に戻ったと言うのに再び逃げるのはさぞかし無念だと言うことは重々承知です…しかし希望はあります。逃げましょう、逃げれば必ずまたここに戻って来れるでしょうから」

 

リストロング司令官はアヴィ主席をしっかりと見つめ言葉を述べた。

 

辛い、悔しいのは皆同じだ。

 

二度もこの地を背にして逃げなければならないのだから。

 

だが生き延びれば希望はある。

 

連合は、あの大戦で潰えたかに見えた夢はまだ残っている。

 

「ああ…もちろんだ。かつてこの地を抜け出した時は愉快なクローンの分隊に助けられた…今度はリストロング、君に託したぞ」

 

「はい!!」

 

諦めなければ希望はある。

 

それを頑なに信じ戦い続けていたのは新共和国だけでない。

 

彼らもまたその1人なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェルマンとジョーレンはそれでも客としてしっかり持てなされた。

 

いつ帝国軍の爆撃が来てもいいように彼らの部屋は地下壕に割り当てられた。

 

まあインペリアル級の軌道上爆撃なら普通に地下を容易に掘り起こしそうだが。

 

流石にずっと地下にいるのは退屈なので二人は地表の旧分離主義元老院ビルの庭園にいた。

 

本来は美しい草木や庭があるはずなのだが戦時中な為かデカデカと大砲が置かれ風情も何もなかった。

 

周りには数名の新共和国兵がいる。

 

だがその表情はどこか暗く活力があるようには見えなかった。

 

「なんかすまないジョーレン…僕が助けようと言ったせいでこんな所に巻き込んでしまって」

 

「いいんだ、お前のやった事は普通に見れば正しい。俺が少し焦り過ぎただけってのもある…一人生き残るのは辛いもんだからな」

 

そうやって励ましてくれるジョーレンにジェルマンは思わず申し訳なさを含んだ微笑を浮かべた。

 

彼の大人な対応に少なからず救われてきた。

 

軍人としても人としても頼りがいのある尊敬できる人物だ。

 

「ラクサスは相変わらず嫌な場所だが前よかマシだ。やっぱりお前みたいな愉快な奴がいると気分が楽だ」

 

「なんだよその反応に困る言い方は!」

 

「ハハすまんすまん、ほんと面白い奴だなって…っ……!」

 

急にジョーレンの言葉と足取りが途切れた。

 

それに気付くのが遅れたジェルマンはジョーレンを少し通り過ぎてしまった。

 

だが気づいた途端彼の様子のおかしさが目に見えて分かった。

 

慟哭は開き手が少し震えている。

 

どことなくラクサスに足を踏み入れた時と同じ感じだった。

 

「ジョーレン?どうしたんだ?ジョーレン?」

 

彼は一点を見つめたまま動かない。

 

ジェルマンがその先を見つめるとそこには歩兵の一隊があった。

 

歩兵といっても人間ではない。

 

ドロイド、バトル・ドロイドの歩兵隊だった。

 

ブラスター・ライフルを両手に持ち一糸乱れぬ行進で哨戒任務に出ているように見えた。

 

「……やっぱり戦争はまだ……」

 

「ジョーレン?おいジョーレン!」

 

彼の体を揺さぶると意識はこちらに戻ってきた。

 

本当に気が動転していたようだ。

 

ジェルマンは思い切ってとある事を尋ねた。

 

「なあジョーレン、無理にとは言わないし僕が何かできるわけでもない。だが話してくれないか、昔の事を。やっぱりラクサスに来てから…あのドロイド達を見てから少しおかしいよ」

 

ジョーレンの表情が少し曇った。

 

この事を話していいのかと言う顔だ。

 

だが決意を固めたジョーレンはジェルマンに話し始めた。

 

「…父が死に俺はなんとか親戚のいるアナクセスに逃げた。当然ラクサスから来た奴なんていい顔はされないだろう…ずっとスパイだと疑われ続けてきた。父が死んだのも嘘だとなじられた事がある」

 

ここまで来たらジョーレンの話はもはや止められない。

 

彼は全てを打ち明けるつもりでいた。

 

「親戚は俺の事を信じてくれたが周りはそうじゃない…親戚の立場すら次第に危うくなり始めた。スパイ一家だなんだと。だから証明する必要があったんだ。『スパイではなく共和国に忠誠を誓う市民』だと」

 

「つまり…」

 

「俺は当時設立されつつあった共和国軍…いやジュディシアル・フォースの情報部の特殊部門に入隊した。当然親戚達は反対したさ、そんな無茶する必要はないと。だがこれ以外道はなかった」

 

ただの歴史の授業では習わないクローン戦争のある一面の真実だ。

 

隠された歴史そのものだった。

 

「まだ15歳くらいだった。それでも俺は同い年の仲間達と共にクローンにも勝るとも劣らない情報部員の兵士に仕立て上げられた。俺の技術の殆どは同盟の特殊部隊よりもこっちで習ったやつが基礎だ」

 

「15歳って…そんな…!」

 

若すぎる。

 

いくらなんでもまだ幼すぎるだろう。

 

「クローンだって大半の連中は10歳くらいだった。俺達は情報部員として共和国の為によく戦った。だがある日…作戦に失敗した俺の部隊は俺を除いて全滅した…みんなあのバトル・ドロイドに捕まり容赦無く殺された。見かけはアレだが十分に脅威になる殺戮マシンだ。何十人いた俺の仲間はその日にみんな殺された。分かってる…悪い奴なんていない、ただ運が悪かった…だがやっぱりアイツらへの恨みは消えねぇんだ…!どうしてもこの星もここの連中もあのドロイドも全てが憎く感じちまう……俺の周りで死んだ仲間達がずっと見つめている…俺の戦争は……まだクローン戦争で止まったままなんだ…」

 

ジョーレンは大人だ。

 

行動の節々からそれは解見えていた。

 

だからこそこんなに苦しんでいる。

 

恨みたくとも、、赦したくともそれは許されない。

 

だから憎く感じる。

 

ただ怒りが湧き上がる。

 

どうしようもない苦しすぎるもどかしさが心を蝕む。

 

「結局反乱に加わったのだって単純に上官の命令だっただけだ。上官が反乱軍に加担したから部下の俺もそのまま流れ着いた…少佐にあれだけ言っておいて俺の帝国と戦う理由なんてこんなもんだ。今だって帝国よりも未だに連合の方が憎い…時々思うんだよ、俺の居場所はもしかして“ここここ(新共和国)”じゃなくて“向こう(帝国)”なのかもしれないな…」

 

「それは…」

 

「いや変なこと言ったな忘れてくれ…色々迷惑をかけて悪いが少し一人にしてくれ…じゃあな」

 

そう言いジョーレンは寂しく歩き去っていった。

 

彼だけがこの場に居場所がないかのように。

 

 

 

 

 

 

-コルサント 総統府-

総統府や各行政ビルでは日夜増え続ける帝国領の統治に大忙しであった。

 

わずか数ヶ月足らずで帝国領は何十倍にも膨れ上がった。

 

新共和国崩壊と度重なる勝利での影響で加盟惑星は次々と増加していった。

 

無論未だに中立を決め込む惑星政府や反抗の意志を示す惑星政府もある。

 

だが新共和国亡き今彼らの抵抗は殆ど無意味だ。

 

中立政府にも敵対勢力にも軍を派遣して侵略戦を行い強制的に加盟させるかもしくは直接併合していた。

 

その統治方法と領土拡大方法ははっきり言ってかつての第一銀河帝国より横暴で暴力的だった。

 

まだ大使を派遣したり加盟しない惑星を無視したりする旧帝国の方が良心的だという意見があちらこちらで広がっている。

 

何せ第三帝国は大使の代わりに軍を派遣し無視の代わりにスター・デストロイヤーの砲火を浴びせかけて来るのだから。

 

アウター・リムや余程の軍事力がある惑星でないと中立というのは難しい状態だ。

 

かつて第三帝国がコルサント臨時政府に対して密かに言ったとされている「コルサントか戦争か」という言葉があるが正にその通りだ。

 

-服従か戦争か-

 

これが第三帝国の今のやり方であった。

 

無論これみ全員が全員靡くわけではなかったが。

 

「コルサント本国防衛艦隊、親衛隊に管轄が移るんだってよ」

 

「事実上解体か…司令官は誰が?」

 

「フェルター大将かヴァンケル大将だろう…」

 

男の隣を二人の帝国軍将校が通った。

 

男が勝手に着ている親衛隊の制服とは違い古来から存在する正規軍の軍服だった。

 

軍帽を深く被りどこか早足のこの男は真っ直ぐある場所へ向かっていた。

 

口元しか正確に見えない上に無表情である為何を考えているか全くわからない。

 

元々人が多くそれぞれ他人にかまっている暇などない総統府の役人や将校達は当然男にも声を掛けなかった。

 

その為誰もこの男の正体と目的について知る由もなかった。

 

曲がり角を曲がると数名のトルーパーと将校が控えていた。

 

彼らの先には大型の探知機のようなものがありその先にも数名のトルーパーが待っていた。

 

これが総統府の総統執務室へつながる最後の検問所だ。

 

当然男は検問所の将校に止められた。

 

「待て、この先は総統閣下の執務室だ。要件がなければ入室は許可出来ん」

 

当然の決まり文句だ。

 

だが男は焦りひとつ見せずこう答えた。

 

「総統閣下に宇宙軍参戦報告書を提出しに来た。直に渡せとの命令だ」

 

男の返答に将校は首を傾げた。

 

彼の階級は少佐であろうか、赤二つ、青二つのバッジが段重ねにならず並んでいる。

 

「そんな報告は受けていないが…宇宙軍本部と執務室に問い合わせてみる」

 

そういうと将校は通信士官の近くへ向かった。

 

代わりに二名のストームトルーパーが男の前に出た。

 

両手にはブラスター・ライフルを所持し片方のトルーパーは肩にポールドロンを身に付けていた。

 

「ああ…そうか、わかった」

 

将校は相槌を入れ何かを確認していた。

 

軍帽でよく見えないが男はこの時かなりの汗を垂らしていた。

 

焦っている。

 

男の焦りと緊張はとうの昔に限界に達していた。

 

それはあまりに一瞬の出来事であった。

 

だから誰しもがその事に気づく事が出来なかった。

 

気がつくとストームトルーパー二名は男に突き飛ばされ倒れはしなかったものの男に道を開けてしまった。

 

男は真っ直ぐ検問所のすぐ奥、執務室を目指している。

 

他のトルーパーが銃器を構えようとするがもう間に合わないかに見えた。

 

既に男は検問所の探知機を越えようとしていた。

 

だが男は止められた。

 

「おい待て!止まれ!」

 

先程の将校がポケットからスイッチを取り出し急いで押した。

 

その瞬間検問所のガードシステムが作動し男は起動した装置によって思いっきり通路へ弾き飛ばされてしまった。

 

二回ほどボールのように跳ね転がり窓の側まで飛ばされた男は軍帽が脱げ容姿が見えた。

 

もはやこれまでかと男は何かのスイッチを取り出した。

 

察しの悪いトルーパー達はそれがなんなのか気が付いていなかったがその将校はその存在に気が付いていた。

 

まずいと将校は急いで走り出した。

 

男も同じように走り出している。

 

だが先に付いたのは将校の方であった。

 

将校は思いっきりタックルを繰り出し男を再び突き落とした。

 

だが男は突き飛ばされる瞬間スイッチを押していた。

 

男は窓を突き破り総統府の外へと突き出された。

 

刹那男は“爆発した”。

 

轟音が鳴り響き爆風と破片が辺りに撒き散らされ男自身は爆発に巻き込まれその肉片は一つも残らなかった。

 

爆発に巻き込まれた建物の部分が大きく抉れあちこちから動揺の声と叫び声、警報が響いた。

 

「…ぬぅ……隔壁を閉鎖しろ……早く…!」

 

「少佐!!」

 

ストームトルーパーが将校の元に駆け寄りすぐに検問所の隔壁が完全に閉鎖された。

 

後に代理総統暗殺未遂事件の“()()”となったこの爆破事件はこうして一瞬のうちに幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく来たかジャステン中将、それで此処から巻き返しの策はあるのか」

 

議員の一人が彼に威圧感を持って訊ねた。

 

それもそのはず、ここまで戦線が壊滅したのは彼らの作戦ミスでもあるし何より戦乱を持ち込んだのは彼らだ。

 

答える責任がある。

 

リストロング司令官はハルターン議員の隣でジャステン中将を一瞥した。

 

以前の少々傲慢な自信過剰な面影は一切なく目の下にはクマが出来、髪も少し乱れ肌艶も悪かった。

 

だが彼の声音だけは以前変化がなかった。

 

むしろ少し増強されたように思える。

 

「ええありますとも…ですがその為にはもう少し戦線を維持する必要がある」

 

声音だけでなく態度も全然変化がなかった。

 

悪い意味で安心出来る。

 

奴の態度が崩れればそれこそ終わりだろう。

 

まあもう手遅れなのだが。

 

議員達もこれからジャステン中将が話す事は詭弁にしか過ぎないと知っているはずだ。

 

彼も我らも本当に運が悪い。

 

「具体的にはどのような方法で反撃するのだ」

 

ハルターン議員がジャステン中将を問い詰めた。

 

不健康そうな顔で彼はニヤリと気味が悪く感じる笑みを浮かべ答え始めた。

 

「戦線を維持し帝国軍の足を止める…そして」

 

彼は息を吸い再び答えを始めた。

 

「数時間程前に到着したUウィングの特務部隊…彼らを使い各地に潜む新共和国軍に援軍を要請する。各宙域から結集した新共和国軍の力で帝国軍を包囲殲滅するのです…!」

 

「そんな事可能なのか?」

 

「そうだ!援軍に駆けつける確率も、それで勝てる勝率も不明ではないか!!」

 

議員達は憤慨し始めた。

 

それもそうだろう、いくらなんでも現実性がない。

 

大体新共和国の結束力がこれほどまでに高ければこんな事にはなっていないはずだ。

 

「もし援軍が来なかったら?」

 

リストロング司令官は彼に訊ねた。

 

すると彼は猟奇的な笑みを浮かべ何かの合図を出した。

 

すると彼の副官や部下達は一斉にブラスター・ピストルを構え扉からは重武装の新共和国兵士達が一斉に飛び出してきた。

 

皆ブラスター・ライフルの銃口をこちらに向けている。

 

この人数では反撃など出来ない。

 

「無礼だぞ!!何をするか!!」

 

ハルターン議員がジャステン中将に怒りをぶつけた。

 

しかし中将はそれには答えずリストロング司令官への返答を始めた。

 

「来なければ我々はこのままラクサスを枕に皆戦死するだけです。貴方達も道連れだ…あのUウィングパイロット達も全て…!」

 

狂気を孕んだ表情のままジャステン中将はその場を去った。

 

今のリストロング司令官にそれを止める力はない。

 

あるのはただ一つの希望だけだった。

 

 

 

つづく






酒が飲めるようになりたい、下戸は困る


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連合の滅亡/中編

Raise the flag high!
Remember the days of yore
We'll raise the flag again
No need to worry about being seen.
For our empire has risen again!
Accept my troops!
Under the leadership of the Führer.
Emperor's imperial army will raise its flag again.
Until the day we reclaim the galaxy!

-Bidding farewell to a day of abomination-


動乱は止まる事を知らなかった。

 

第三銀河帝国では代理総統暗殺事件の一例である総統府爆破事件が勃発した。

 

新共和国はこれ以前に滅び自殺行為に近い戦いを繰り返していた。

 

未知の暗雲で姿を見せぬ者が蠢き牢獄では罪なき者が次々と殺されていった。

 

だがこれがこの銀河系の、この世界の運命だ。

 

第二の内戦は既に始まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 総統府-

総統暗殺未遂事件は主犯格の上空での自爆によって市民み広く知れ渡ってしまった。

 

だがあの時の状況ではそうする以外方法がなく仕方なかった面もある。

 

無論静かにその衝撃は広がるだけで表立って噂される事はなかった。

 

一方の総統府では数名の負傷者を出し総統府の一角を破損するだけで自体は鎮圧していた。

 

警備主任のリデルト・ヒャールゲン少佐の咄嗟の判断により最悪の事態は免れたのだ。

 

それに不幸中の幸いと言うべきかその時代理総統は丁度親衛隊本部に向かおうと移動を始めており執務室にはいなかった。

 

結局犯人の行動は全て無駄だったわけだ。

 

爪痕は十分に残されたが。

 

三人の帝国保安局の制服を着た人物が総統府の通路を足音を立て歩いていた。

 

真ん中の一人は女性で片目に義眼を付けておりオールバックの如何にも威圧感を与える人物だった。

 

彼女こそ現在の帝国保安局長官アレシア・ベックである。

 

元々保安局員として戦績を重ねていた彼女は帝国崩壊の動乱もあって残存帝国の保安局長官の座を手に入れた。

 

義眼も保安局員としての名誉の傷だ。

 

「ベック長官、よく来てくれた」

 

彼女達の足が止まった。

 

目の前には同じような白い軍服を着た長身の男が立っていた。

 

だがその軍服は親衛隊のもので階級は大将を示していた。

 

「ハイドレーヒ大将、総統は無事か?犯人の身元は掴んだのか」

 

ベック長官は強い口調で目の前の男に問い詰めた。

 

トリスハルト・ハイドレーヒ親衛隊大将。

 

親衛隊保安局副長官、親衛隊情報部副長官ならびに親衛隊に所属しているのにも関わらず、帝国情報部長官を兼任しておりコア・ワールドの警察組織も監督していた。

 

帝国のほぼ全ての警察権力を手にしている為彼は“警察大将”とも呼ばれていた。

 

「総統閣下は親衛隊本部においでだ、犯人の正体は…情報部や保安局が総力を上げて調べている」

 

「聞いた話によると親衛隊の軍服を着ていたらしいが?」

 

ハイドレーヒ大将の言葉が若干詰まった。

 

親衛隊から裏切り者が出た可能性もまだ否めない。

 

そうなれば彼らの立場も危うくなるだろう。

 

「それは調査中だ、保安局からもいずれ人手を借りる事になる。まあひとまずは事件現場を見てもらおう」

 

ハイドレーヒ大将に連れられ一行は奥に進んだ。

 

事故現場は封鎖線が張られ専門の調査員達が護衛のストームトルーパーと共に事件現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはどこだ…

 

確か爆発を受けて…手当を…

 

あれ

 

腕がない

 

違う

 

腕がないんじゃない

 

腕が動かない

 

そうだ、あの時

 

まあ陛下が無事ならいいか

 

 

 

 

 

 

 

 

「目が覚めましたか」

 

無機質な空間が広がり痛む体を無理やり起こすと自分の体の上には毛布が被さっていた。

 

ここは医療室だろうか。

 

目の前の将校は軍服や佇まいから見て軍医で間違いないだろう。

 

自分の体には所々包帯などが巻かれておりあの爆発の壮絶さを思わせた。

 

そうだ、腕だ。

 

自分の腕はどうなった。

 

右腕を見てみると腕には何か補助装置のようなものが付けられていた。

 

「少佐の腕の損傷は神経まで傷つけており、それもバクタ・タンクですら治療不可能なものでした」

 

「なるほど…通りで…」

 

「率直に申し上げますと少佐の右腕はもう以前のようには動かせません。その為どうしてもそのサポーターが必要になってくるのです」

 

完全に動かせないわけではないが明らかに行動に支障をきたしている。

 

閣下をお守り出来た代償と思えば小さなものだが…それでも大きなものを失ってしまった気がしてきた。

 

このサポーターがない限りブラスターどころかスプーンもまともに握れないだろうし軍務に大きな支障をきたす。

 

最悪退役というのもあり得るだろう。

 

「私は今後どうなるのだ?」

 

小さな不安感から親衛隊保安局リデルト・ヒャールゲン少佐は軍医に尋ねた。

 

今はまだ退役せず軍務に復帰していたい。

 

まだ相当の役に立っていたいのだ。

 

「そのサポーターさえあれば少佐は以前と同じように腕や手を動かせます、多少頑丈な作りになってるので格闘戦なども問題はありません」

 

ひとまず軍医の話した内容にヒャールゲン少佐は安堵の息を漏らした。

 

「そして今後の少佐の配属についてですが…モーデルゲン上級大将!」

 

軍医は名ありの上官の名前を呼んだ。

 

すると医療室の扉が開きモーデルゲン上級大将ともう一人親衛隊の軍服を着た佐官の男が入ってきた。

 

どこかで見た事がある、確か地上軍の複合連隊の連隊長だったはずだ。

 

「総統閣下を守った英雄よ、気分はどうだ?」

 

「ああ、思ったより健康ですよ」

 

上級大将と握手するとそのまま隣の大佐とも握手をした。

 

首元には十字勲章がぶら下がっており戦果を思い知らせる。

 

穏やかそうな好青年だ。

 

「さて、今後のことを話そう。少佐、君には戦傷章と親衛隊英雄章が与えられる」

 

これほどの負傷なら確かに戦傷章に見合う代物だろう。

 

尤もそんなもののために戦ってるのではないのだが。

 

この傷も勲章より総統を護衛するという任務を果たした事の方が嬉しい。

 

「君は少しの間だがジークハルト・シュタンデリス大佐の新旅団の保安局及び憲兵隊総監になる」

 

「私もついさっき知らされたところだ。長い付き合い…ではないかもしれないがよろしく頼むよ」

 

再びシュタンデリス大佐と握手を交わす。

 

「総統府の人員再編成が終わるまでの辛抱だと思ってくれれば良い。上手く行けば中佐として再び警備長に戻れるだろう」

 

「そうなるよう全力を尽くします…他には?」

 

「いや、これで終わりだ。ゆっくり休んでくれたまえ。それでは少佐、あと大尉、失礼するよ」

 

ジークハルトとモーデルゲン上級大将は二人の将校に敬礼で見送られながら医療室を後にした。

 

そのまま歩きながら彼らは話を始めた。

 

軽い雑談などではなくかなり深刻な話だった。

 

「コルサントに呼び出されたからいよいよ解雇だと背筋を凍らせましたよ。まさか上級大佐に昇進して新旅団の指揮官とは…」

 

「君に連隊は小さすぎる。新しい旅団は第三機甲旅団と呼ばれ以前の連隊をベースに幾つかの砲兵部隊や機甲部隊を組み込み打撃力を強化した。無論歩兵の機動力もだ」

 

人員数はおよそ六千百九十二名、元の第六連隊に一個複合連隊と二個機甲大隊、三個砲兵中隊などを合わせた部隊だ。

 

指揮官はもちろん会話の通りジークハルトが担当する。

 

ジークハルトも連隊の指揮をアデルハイン中佐に任せてついさっきコルサントに到着し上級大佐への昇進と旅団の話聞かされた。

 

未だに信じられないし内心おどろきっぱなしだ。

 

それに疑問点が幾つかあった。

 

現状ジークハルト自身は連隊程度の戦力で満足しているし軍や親衛隊組織としても現状の状態で満足しているはずだ。

 

徴兵制度が大まかに軌道に乗ってきたとは言えそれなら態々旅団として設置する必要はない。

 

各戦線も順調そのものだと聞く。

 

なら急いで自分に旅団を与える必要なのあるだろうか。

 

一人悶々と考えてもどうせ答えは出てこないので思い切って聞くことにした。

 

それとなく会話を続かせながら。

 

「それほどの旅団、今私に任せる必要あるんですかね」

 

「ウェイランドで十分よくやってくれたじゃないか。それに君や君達に新しい部隊を与えるのは他に事情がある」

 

「…具体的にはどういった?」

 

ジークハルトは自分でも自覚があるが他の将校に比べて少しだけ従順ではない。

 

聞けるだけの理由は決して納得しなくとも聞いておきたかった。

 

でなければ兵士達を死地に送り出す時なんて声を掛けるべきか、どういう顔をすればいいか分からなくなる。

 

実際はそんなの建前で本当は自分を納得させるためのものだが。

 

モーデルゲン上級大将はジークハルトを引き寄せ通路の端に連れて行った。

 

「君だけに話そう、これは極秘事項だ」

 

極秘事項。

 

旅団を預けるだけでそんな重要なことが関わってくるのだろうか。

 

だが理由を聞いた途端ジークハルトは納得した。

 

衝撃的な一言によって。

 

「…近々、帝国は再び内乱状態に陥る」

 

モーデルゲン上級大将の一言はこの時点では全く信憑性の薄いものだった。

 

だが上級大将は続け様に話す。

 

「未知領域…惑星イラム、我々はこの惑星を制圧し埋蔵されているカイバー・クリスタルを確保する。その為には北西部と西側の確保が必要なのだ」

 

「それと帝国の内乱になんの関係があるんですか?」

 

「既にシュメルケとハイドレーヒが西側に偵察部隊を展開した所所属不明の帝国艦船を発見したそうだ。恐らくあの周辺には我々の呼びかけに応じなかった残存勢力がまだ残っている」

 

「その勢力と先頭になる可能性があると?」

 

「我々は間違いなく戦闘になると踏んでいる。その為周辺一帯の確保は兵站面から見ても必須だ」

 

さらにモーデルゲン上級大将は付け加えた。

 

「表向きには西方面の治安維持、新共和国残党の討伐だが実際には帝国同士の乱戦になるかもしれない。頼んだぞ」

 

ジークハルトは敬礼し頷いた。

 

モーデルゲン上級大将も敬礼で返し軽い雑談を投げかけた。

 

「時間はまだある、せっかくだから君の家族に会ってくるといいさ」

 

「ありがとうございます上級大将、それでは」

 

ジークハルトは微笑を浮かべ振り返った。

 

無論行く場所は決まっている。

 

今回ばかりはモーデルゲン上級大将の言葉に甘えるべきだろう。

 

いつも家族に会えるとは限らないのだから。

 

 

 

 

 

-惑星ラクサス ラクサロン 特別通信室-

「…というわけです。援軍の目処はつくでしょうか」

 

ジョーレンの報告にレイアとライカン将軍、ディゴール准将ら高官達は険しい表情を浮かべた。

 

それは隣にいるジェルマンも一緒だ。

 

彼らは数時間前、ようやくジャステン中将ら首脳部との面会が叶った。

 

彼らはラクサロンの第一会議室で戦略会議を開いておりその最中に呼ばれたのだ。

 

しかも会話や意見交換、こちらの要望などは殆ど聞かず命令を出された。

 

「各地に潜伏する全新共和国軍を呼び寄せよ」と。

 

無論無理だと反論した。

 

確かにジェルマンとジョーレンはヤヴィン4を筆頭とした様々な新共和国に与する惑星を巡ってきた。

 

だが全てではない、未だに一台拠点であるモン・カラやキャッシークなどには向かえていない。

 

呼び寄せるにしてはまだ準備が不十分なのだ。

 

それに救援を求めた所でこの状況ではリスクが大きすぎて来るとは到底思えなかった。

 

しかしジャステン中将らは命令だの一点張りでついには議会場を追い出されてしまった。

 

なので仕方なくディカーとヤヴィン4含めた今まで向かった残存新共和国領に通信回線を開いていた。

 

「既にラクサスは酷い有様です。現地の部隊は新共和国軍も連合軍も双方限界が生じている」

 

「来るにしても来ないにしても早めのご決断を。もう時間がありません」

 

そう、時間はもうない。

 

ジェルマンとジョーレンが言った通りラクサスを必死で防戦している各軍はもう限界が生じていた。

 

戦線は息を吹き返した帝国艦隊によって最も簡単に切り崩されラクサス内は負傷兵で溢れかえっている。

 

攻勢に出向く為に残された最後の部隊が残されてはいるがそれを投入した所でただの時間稼ぎだろう。

 

背後からの奇襲攻撃を行うにしても早い決断が必要だった。

 

『我々ヤヴィン4の軍は動かせない…帝国艦隊の攻撃を防ぐので手一杯だ。救援を送っている場合ではない』

 

『それは我々も同じです…ただでさえ辺境域は海賊との戦闘もあるのに…』

 

『我々は軍を動かす以前の問題だ。たとえ奇襲したとしてもクルーザーたった一隻とコルベット二隻、フリゲート一隻じゃ返り討ちに遭うだけだろう』

 

『無理に決まっている…!我々の宙域だって帝国艦隊は目と鼻の先なのだ…』

 

各将校から無理の声が上がった。

 

最終的にレイアが決断を下した。

 

『大尉、中尉…残念ですが今の状態では救援は送れそうにありません。本当に申し訳ない…』

 

ホログラム越しにレイアは頭を深々と下げた。

 

すかさずジェルマンが頭を上げてくれと頼み込む。

 

ジョーレンはだろうなという表情でどう報告するかを考えていた。

 

「こうなると惑星からの総退却を促すしかないな…中将閣下が頷いてくださるかは別として」

 

『自治連合の議会員達はどうした。まさか戦死されたのではないだろうな』

 

ディゴール准将が少し疑問に思い二人に尋ねた。

 

「いえ、ですが我々が会議室に呼ばれた時には新共和国軍の上級将校しかいませんでした」

 

ジェルマンは脚色なく答える。

 

あの会場は本来自治連合の議員や官僚が使うための会議場で新共和国軍にはまた別の部屋が用意されていたはずだ。

 

『少し…』

 

『ええ、気になりますね…そちらの軍の最高司令官は?』

 

レイアが二人に尋ねた。

 

ジョーレンが少し考えながら答える。

 

名前を聞いたのが一瞬で若干思い出せずにいた。

 

「えーっと…何ジャステン中将だっけ…」

 

「デリーズ」

 

「そう、デリーズ・ジャステン中将です」

 

ジェルマンとジョーレンの漫才仕立ての報告とは反対に軍の上級将校達の表情が若干険しいものになっていた。

 

するとホログラムに参加していたマクォーリー将軍が口を開いた。

 

『彼か…』

 

『辻褄が合ったというか…』

 

『最悪な事態になる前に彼らを撤退させましょう』

 

ディゴール准将は他の高官達に提案した。

 

「そこまで危険な人物なんですか?」

 

ジョーレンは彼らに尋ねた。

 

上級将校達は皆顔を顰め口を閉じた。

 

そんな中ライカン将軍は厳しめの声で語り始めた。

 

『…彼が……彼が新共和国軍に入ったのは三年前の銀河内戦期の頃だ…惑星防衛軍の編入でヴァー=シャー、オード・ディデル、オリンダ、コルサント戦で活躍した』

 

ライカン将軍の語り口調は無機質で淡々としていた。

 

だが彼はどこか嫌悪感があった。

 

『結果的に彼は中将に昇進、直属の一個艦隊を与えられ首都圏の防衛に回された。正にエリート…だが彼の経歴や戦績には少し不自然な点があった』

 

「不自然な点とは?」

 

『彼の経験と直属の部隊についてだ。基本経験が薄い惑星防衛軍の将校にしては彼はベテランと言えるほどの経験があった。尤も宇宙軍なのだから地上の治安維持よりも海賊相手な度で経験が高いのはよくある事だ。だがそれでも彼の経験値は群を抜けて高かった。そして彼の直属の衛兵や歩兵、士官達は皆彼に対する忠誠心が異常と言えるほど高かった。その動きはまるで…』

 

ライカン将軍次にこう言い放った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()”と。

 

『私や彼を不自然に思った中尉の上官のストライン中将達は密かに彼を調べた。結果的に彼の防衛軍以前の出自が分かった。彼は元帝国宇宙軍所属だったのだ。ロザルが解放された年、彼は惑星防衛軍の教育官として惑星防衛軍に移籍していた。長らく防衛軍で過ごし新共和国軍に転入した…全てに合点がいく。彼の経験の高さも、彼の部下の忠誠心も』

 

帝国軍から亡命した将校は時折その帝国で培った教育方針を部下に押し付ける傾向があるという。

 

その為亡命将校直属の部下は若干ストームトルーパーに似るという噂があった。

 

まさかその一例があったとは。

 

『一部の将校はその出自から「実は裏切り者なのではないか」という噂も広がったが新共和国での戦績から見てその可能性は低いだろ。ただ…危険であることは確かだ…』

 

『彼の悪い噂はかなりある…しかも元老院とも深い繋がりがあり咎める事はそう簡単な事じゃなかった…しかも本来なら彼はこの時期、提督に昇進し宇宙軍副参謀長になるはずだった』

 

「そうなのですか?」

 

ジェルマンは聞きかえした。

 

ディゴール准将は頷いた。

 

彼は元々地上軍次官を務めていたのでそういう事情に詳しいのだろう。

 

『ああ、だが我々は帝国に敗れ彼の昇進も白紙となった。色々な事情があって今の彼になったのだろう』

 

そう思うと少しばかり同情心が湧いてくる。

 

ディゴール准将は二人に命令と忠告を出した。

 

『君たちに新しい指令を与える。ラクサス自治連合の官僚達も含めた首脳部と軍を急いで退却させよ。この状況ではもはや勝てん。君達の見つけたハイパースペース・ルートでディカーまで連れてくるのだ』

 

『モン・カラには我々が別の部隊を派遣する。頼んだぞ』

 

「もし…もし首脳部が撤退を拒否されたら?新共和国軍や連合首脳部が退却を拒否なされるのであればどうします」

 

『時間がない、逮捕もしくは銃殺してでも構わん。連れてくるんだ。こうなった以上甘い考えや行動は命取りだ』

 

「わかりました」

 

ジョーレンの表情が鋭くなった。

 

冷酷という言葉で言い表せそうな感じだ。

 

彼は幼い頃からこんな顔をしてきたのだろうか。

 

いつか彼にも戦いがない日が訪れるのだろうか。

 

いつもはそう見えないジョーレンが今日はたまらなく悲しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国の進撃はようやく足を止めたかに見えた。

 

無慈悲にも思える一部部隊を放置しての戦線後退は防衛線の再構築を容易に行い士気は低いままでも戦線を強固なものとした。

 

この隙にラクサスは緊急避難命令と惑星総防衛体制令を発布。

 

多くの市民は強制的にシェルターなどに避難させられ一部の市民は特別志願兵として軍に徴収された。

 

市民の間には多大な反発があったが半数近くは迫り来る帝国軍の脅威と目の前に立っている武装兵の銃口の圧の中では少なくとも避難するしかなかった。

 

反発を募らせデモ行為を起こした者もいたが殆どが駆けつけた機動隊により鎮圧された。

 

ラクサスの状況はかつてのクローン戦争終戦後、帝国の統治時代より劣悪になっていた。

 

さらに宇宙港も軍によって抑えられラクサスは完全に封鎖状況にあった。

 

「市街地の武装化は80%が完了しました」

 

地上部隊の総司令官を務めるリステラー上級大佐はジャステン中将に各地の様子を説明していた。

 

最悪の場合このラクサスの首都(ラクサロン)は主戦場となるはずだ。

 

「市民の様子は」

 

「…およそ45%の避難が完了しました。残り15%は不明、その他の市民は現在もデモなどで抵抗を…」

 

「こんな時に無意味な損害を出す訳にはいかない。最悪市民の銃殺刑も許可する」

 

ジャステン中将のその発言に一部の将校達が凍りついた。

 

その中で一番最初に口を開いたのはジョーレン達を冷たく怒りであしらった比較的新人の参謀将校ジェタック少佐だった。

 

「中将…流石に市民に対しての発砲は…!」

 

「何処がまずいのだ。我々は民主主義の為に戦っている。個人の私欲を優先して我らの邪魔をするなど独裁主義者に味方しているも同然だ」

 

「ですがラクサスはあくまで他国で我々は市民を守る義務があります!それにデモ隊の市民はまだそれほど…」

 

「我らに逆らった時点で反逆者!犯罪者だ!」

 

ジェタック少佐はあまりの暴論に口を閉ざし気迫に押されてしまった。

 

他の将校は血の通わない表情で少佐を見つめるか同じように汗を流し黙っていた。

 

ジャステン中将は再び怒りを声に上げる。

 

「直ちに命令を実行しろ!市民の皮を被った暴徒どもを容赦なく蹴散らせ、各宇宙港の部隊司令官に通達しろ!」

 

「中将!いくらなんでも横暴です!」

 

「なんだ少佐?命令に逆らうのか?貴様叛逆だぞ、我々に対する重大な叛逆行為だ!」

 

ジャステン中将の発言にジェタック少佐は青褪めた。

 

中将は明らかに異常だ。

 

ジェタック少佐自身がひ弱だとかそういう理由ではない。

 

職業軍人として、民主主義の軍隊としてとても言ってはいけないことを言っている。

 

「まっ待ってください!」

 

「貴様は臆病者で裏切り者だ!反逆者だ!衛兵、奴を不服従で捕まえろ!」

 

周囲の衛兵がジェタック少佐を捕まえ無理やり外に引き摺り出した。

 

少佐は悲鳴に似た声を上げ必死に反論したがジャステン中将らには届くものではなかった。

 

ジェタック少佐はそのまま裏口を使い臨時のラクサロン元老院ビル内の監房室まで連れ去られた。

 

連れてかれる間にもジェタック少佐は必死に声を上げ考え直すよう迫ったがまるでストームトルーパーのように無機質な兵士達は何も返答しなかった。

 

「不服従の罪で拘束せよとの命令だ」

 

衛兵の一人がドアの警備兵に通達した。

 

兵士は頷き扉のロックを解除しようとコンソールを操作し始めた。

 

もう一人は未だに暴れようとするジェタック少佐を抑えようと衛兵たちに加勢しようとした。

 

だがそれは行われる事なかった。

 

青白いリングを浴び警備兵はばたりと倒れた。

 

残された衛兵達ともう一人の警備兵に緊張が走った。

 

がっちりと強めにジェタック少佐の腕を握りブラスター・ライフルを構えた。

 

弾丸の状態から察するにショックモードである為死亡してはいないだろう。

 

ただかなり強力な威力であった為警備兵は一撃で気絶してしまい当分起きることはないだろう。

 

放たれた弾丸の位置は全く見えなかった。

 

秘密の通路を通ってきた為敵は背後から来ることはないはずだ。

 

ましてや天井からなど…。

 

「来るわけがない。そう思っていただろう」

 

どこからか声が聞こえガコンと何がか外れる音がした。

 

天井の板が外れ黒い影のようなものが地面に降り立った。

 

全員がブラスター・ライフルを構え応戦しようとしたが遅すぎた。

 

降り立ったその影は一瞬のうちに五人分のブラスター弾を撃ち込み全員を気絶に追い込んだ。

 

二丁のブラスター・ピストルからは五発分の弾丸が離れる音と引き金の音しか残らなかった。

 

「…たまたま、助けただけだ少佐。俺は未だに貴方が嫌いだ」

 

ブラスター・ピストルをベルトについたホルスターに仕舞う姿は間違いなく彼だった。

 

ヤヴィン4から訪れた特使のような存在。

 

ジョーレン・バスチルだ。

 

「何で豚箱なんかに入れられかけたんだ?しかも仲間に」

 

若干痛む手首を押さえるとジェタック少佐はジョーレンの問いに不機嫌そうに答えた。

 

「市民にナマの弾をぶち込むのをやめろと言ったら反逆罪だー不服従だーと言われてここにいる。一時間後にはどうせ銃殺だ」

 

その発言を聞いて流石のジョーレンも絶句していた。

 

まさかと思い彼は再び問い直した。

 

「一体誰に…そんな事言う奴新共和国軍人では考えられないが…」

 

「ジャステン中将以外誰がいる…もはやラクサスの最高司令官も最高指導者も彼だ。新共和国軍も落ちたものだろう?」

 

自重気味に笑っていたがジェタック少佐にはまだ怒りが残っていた気がした。

 

ジョーレンはこの男を少し勘違いしていたのかもしれない。

 

最初は諦め喚き散らしていた情けない男かと思っていたがそうではないようだ。

 

その程度の男なら保身第一に中将に啖呵を切ったりしないだろう。

 

何故かは分からないが信頼できる気がした。

 

「だがまだ終わりじゃない。この星も、新共和国も、軍も全てだ」

 

「また…希望に満ちた事を言うのだな」

 

「悪いが俺は自分が出来る、可能だと思ったことしか口にしないんでな。まだ終わりじゃない」

 

終わりではない。

 

命令があり続ける限りは。

 

何が命令であろうと遂行しなければならない。

 

たとえそれが憎き仇を助け出す事だとしても。

 

それ以外の道を知らないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-帝国領 コア・ワールド 第二首都 惑星ベアルーリン 旧外務省本庁-

爆破事件があったとはいえ帝国の仕事に休みはない。

 

命が危ないからという保身的な理由で銀河の舵取りを休むわけにはいかないのだ。

 

それは代理総統も同じで彼はホログラムでコルサント中に姿を表した後に念の為地下壕に移動した。

 

市街地は一時的に外出禁止令が下され悶々とした雰囲気が立ち込めていた。

 

当然暗殺未遂事件は旧首都であり現在第二首都として地位を維持している惑星ベアルーリンにもその報告は入ってきた。

 

ちょうど同地に赴いていたシュメルケ上級大将とゼールベリック外務大臣は直ちに命令を出し念の為コルサントに戻る準備を進めていた。

 

同盟国や加盟国との会談が入っていた為当分は戻れそうになかったが。

 

だが形式的な会談もそろそろ終わろうとしていた。

 

『我々、ウォバニ星系諸邦国とブラッカ星系臣民共和国、サイムーン星系自治連合は第三銀河帝国の加盟国となる事をここに誓います』

 

「古き新しき同志よ、共に永遠の平和を目指し力の限りを尽くしていきましょう」

 

『ではまたコルサントでお会い出来る日を』

 

各国家の外交官のホログラムが消えゼールベリック大臣は一息ついた。

 

三人とも以前どこかで見たことあるような外交官だ。

 

それもそのはず、彼らは元々帝国の外交官達だ。

 

皇帝の死亡は帝国の空中分解の着火点となった。

 

帝国残存勢力が各地で誕生し銀河内戦末期を更に混乱させた。

 

当然その後の戦いで滅んだ勢力もあったが半分以上は戦いを生き抜き残り続けていた。

 

だが帝国の名を騙ったままでは流石の新共和国でさえ軍を派遣してくるだろう。

 

降伏を拒否した帝国の関係者の末路は誰もが知っていた。

 

その為彼らは名前を、その姿を変えた。

 

その地を治めていた軍将、総督、モフ達は様々な手を使い己の領土を国家に、己をその国家元首へと変えた。

 

ある者は形だけの選挙を行い大統領や議長に就任。

 

またある者は周辺の惑星、星系や同じような帝国の総督達と共に連邦国家を設立し中立を維持。

 

そしてまたある者は己の家や培った人脈を使い寡頭制の国家を作り上げた。

 

こないだ粛清されたデルヴァードス将軍ら13人の軍将達もそういった類の者が複数人いた。

 

当然その配下の帝国軍は新設された国家の惑星防衛軍となり総督やモフ達に吸収された。

 

こうして帝国の撒かれた種は新たな国家として姿を現したのだ。

 

その後の彼らの動きはやはりバラバラだった。

 

憎き敵とはいえ国内の安全や状況を鑑みて新共和国に加盟する国。

 

中立を維持し孤立主義を貫こうとする国。

 

同じような国同士で中小規模の共同体を作り再び勢力を拡大しようとする国。

 

密かに第三帝国の前身である残存帝国やクワットなどと手を結ぶ国。

 

新共和国と直接対立する事はなくとも殆どは新共和国を毛嫌いしていた。

 

だが当の新共和国はそういった国々を武力で攻めたり無視するような事はしかなかった。

 

平和的に交渉や加盟を促し新共和国に組み入れようとしていた。

 

無論殆どの場合は失敗する。

 

親の仇である新共和国に誰が手を貸すものか。

 

だが和平による解決こそが新共和国の理念でありモン・モスマの、いわば“モスマ主義”の形であった。

 

その結果が第三帝国の台頭を促してしまうのだが。

 

コア・ワールド由来の甘い思考回路では帝国には敵わない。

 

「加盟国は日に日に増えるばかり…だが所詮は元あった領土が返ってくるだけの事…」

 

「そして現在の我々ではそれらの領土を全て潤滑に統治するだけの余裕がない。人材、軍事あらゆる面を取っても」

 

彼の背後に控えていたシュメルケ上級大将がゼールベリック大臣に付け加えた。

 

大臣は「その通りだ」とため息をついた。

 

「…実際我らの人員に比べて領土の広がりが大きすぎたのだ。大使を展開するだけでも一苦労だよ」

 

元の残存帝国の領土は銀河協定の影響でコア・ワールドからインナー・リム、マラステア総督領やゴース伯爵領といった飛地を含めても本当に僅かなものだった。

 

これでも本来課せられる予定だった協定内容よりかなり緩和されたものだ。

 

どの道正攻法では今の有様には辿り着けはしなかった。

 

「私はつくづく感じる…かつての第一銀河帝国の成し得たことの偉大さを…並々ならぬ苦労と努力、そして才能がなければなし得ないものだ」

 

「ああ、だが我々も必ず成し遂げる。総統閣下と我々の力はかつての比ではない。一度立ち直り新共和国すら打ち倒しやがては第一銀河帝国の偉業すら超えてみせる」

 

シュメルケ上級大将は誇らしげにそう言葉を紡いだ。

 

彼にとって第三帝国と代理総統への忠誠はかつての帝国と皇帝よりも高い。

 

でなければ親衛隊最高司令官など務まるはずもなかった。

 

そのせいで正規軍や他の官僚達から多少冷ややかな目で見られることもあったが。

 

今のゼールベリック大臣のように。

 

そして大臣は冷ややかな諫言を彼に告げた。

 

「そう思うなら君たち親衛隊にはもっと真面目に国防と残党軍掃討に力を入れて欲しいものだな。“()()()()鹿()()()()()()()()()()()()”」

 

シュメルケ上級大将の飄々とした態度に若干の翳りが見えた。

 

微笑を浮かべたまま黄色の瞳でゼールベリック大臣を見つめていた。

 

だが大臣も退く事はない。

 

今回の事は誰の命令であろうとどうしてもはっきりと中止にすべき事だ。

 

あのような政策になんのメリットも現実性もない、人員と予算と土地と機密保持の為の努力全てが無駄だ。

 

それにあのような事を知られれば外交にも支障をきたす恐れがある。

 

第一、第三帝国は銀河を完全に掌握したわけではない。

 

ようやくコア・ワールドとインナー・リム全土の掌握を完了しミッド・リム、エクスパンション・リージョンに取り掛かれる程度だ。

 

そんな状況でこんなことをやっている場合ではない。

 

「これは総統閣下の命令だ。総統に忠誠を誓った我らは必ずやり通さねばならない」

 

「司令官閣下、我々はそれ以上に困窮しているのだ。それにこの広い銀河を維持していく為にはあんな事をやっている暇はない」

 

「だからだよ大臣。総統閣下は我々の行いこそがこの広い銀河系に永久の平和を齎す事が出来る。我々だけが銀河を救えるのだ」

 

ああ言えばこう言う。

 

総統の思想に染まり切ったシュメルケ上級大将にこれ以上何を言っても無駄だ。

 

「我らは確かに辛く厳しい。敗北の傷は未だに癒えてはいない。だが、我らが今ここでやらねばならんのだ大臣」

 

「犯罪の肩を担ぐのは御免だぞ」

 

「必要な犠牲だ。気に病む必要はない」

 

ゼールベリック大臣はあまりの冷酷さに恐怖を通り越して呆れ返っていた。

 

彼はふと思う。

 

一体いつからこんな国になってしまったのだろうかと。

 

一体いつから大罪人になってしまったのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサントの我が家に帰るのはいつぶりだろうか。

 

ホズニアン・プライム攻撃、ウェイランド攻撃、ラクサス進軍と長い間離れっぱなしだった。

 

ユーリアにも沢山迷惑を掛けただろうし何より大切な我が子をとても寂しがらせただろう。

 

マインラートは4歳でまだ親が恋しく感じる時期だろう。

 

本当ならそばにいてやりたいが戦いの中ではそう贅沢は言ってられない。

 

早いうちに彼が自分達と同じ轍を踏む事のない世界を作らねば。

 

「わざわざ送り迎えすまないな」

 

スピーダーの中でジークハルトは運転手の少尉にそう礼を述べた。

 

恐らく今年アカデミーを卒業した新任の少尉だろう。

 

軍服も真新しく表情も若々しかった。

 

「いえ、これもモーデルゲン上級大将の命令ですから」

 

少尉の声音はとても勇気や活気に満ち溢れており正に新任の士官と言った感じだ。

 

若いのにこのコルサント勤務という事はかなり優秀か上官からの受けが良かったのだろう。

 

「命令…か」

 

少尉の言葉を少し考えながら窓の外を見た。

 

ジークハルトはふと自分達が通っているスカイレーンの通りの少なさに気づいた。

 

まだ午後の昼だというのにスピーダーの行き来がかなり少ない。

 

せいぜい軍用スピーダーやガンシップが数台横切る程度だ。

 

「通りの車両の数が少ないな」

 

何気ない独り言に対して少尉は律儀に答えた。

 

「今日総統府で爆破事件が起こりましたからね…戒厳令が出ているんですよ」

 

「ああ…そうだったな…」

 

様々な出来事があった為失念していた。

 

しかし総統暗殺未遂か…。

 

たまたま総統が別の部門にいた為最悪の事態は免れたがコルサント、いや銀河中に多くの波紋を呼ぶだろう。

 

きっとこれから保安局と情報部は大忙しだ。

 

無論軍も親衛隊もそうだろうが。

 

パウルス宰相暗殺事件と言い今回の事件と言い皇帝陛下亡き我が国はやたら暗殺事件が増えたような気がする。

 

帝国の力が弱まっている証なのだろうか。

 

だがそんな事を考えている暇はなくなった。

 

「ご自宅はこちらでしょうか」

 

少尉がふと尋ねてくる。

 

「ああそうだ、どうせならこのまま降ろしてくれ。少しは歩くよ」

 

「よろしいのですか?」

 

「構わん、本当に数百メートルの距離だ」

 

「分かりました」

 

そう言って少尉はハンドルを切りスピーダーを地上に向けた。

 

スピーダーが地上に降り立った後ジークハルトは少尉に軽く礼を言いスタスタと我が家へ向かった。

 

街は閑散としており合う人と言ってもせいぜい街を警備しているトルーパーの部隊や保安局員だった。

 

マンション内にすら人は殆ど出ておらずゴーストタウンといった感じに近い有様だった。

 

若干の寂しさと家族に会える嬉しさを持ちながらジークハルトは家のインターフォンを押した。

 

奥の方から若干「はーい」という聞き慣れた声が響いた。

 

直後ドアが開き彼が最も愛した妻が現れた。

 

「ただいま」

 

「えっあっお帰りなさい…!」

 

ユーリアは口を押さえ少しびっくりした感じだった。

 

それもそのはず、本来帰ってくるのはまた当分先なのだから。

 

「偶々コルサントに呼び出されてね。モーデルゲン閣下が『帰りたまえ』と許してくれたんだ」

 

「そんな事が…まあ帰ってきてくれて嬉しいわ」

 

「ああ、私もだ」

 

二人は玄関先で軽くキスをし家の奥へと入っていった。

 

ジークハルトは来ていたコートと軍帽を脱ぎハンガーに掛けた。

 

「マインラートはどうした?」

 

「あの子なら新しく出来た友達と遊び疲れて寝てるわ。こっちに来て友達が出来るか心配だったけど案外平気なものね」

 

口ではそう言ってるもののジークハルトのはユーリアが平気そうには見えなかった。

 

微笑の影には何かを隠しているような感じだった。

 

手袋を脱ぎテーブルに置くと少しカマをかけてみることにした。

 

「それは良かった。家ではどうだ?ちゃんと君の言う事聞いてくれてるか?」

 

「ええとっても、嬉しいほどにね。ほんと貴方に似てとってもいい子よ」

 

「ハハハそれは良かった」

 

どうやらそちらの方面では問題はないようだ。

 

ではなんだ。

 

何がいつも明るい彼女を追い詰める。

 

探っていても埒が開かない。

 

ジークハルトは思い切って尋ねてみる事にした。

 

「……なあユーリア…何か隠している事はないか?」

 

その言葉は彼女の表情を凍り付かせ動きを止めた。

 

若干震えているのが分かる。

 

「無理にとは言わない。どんな事でも受け止めるつもりだ。だから話してくれないか?」

 

本当ならこんな事言う必要すらない。

 

長い事家庭から離れていた自分に大きな責がある。

 

だからこそ彼女一人に背負わせる訳にはいかない。

 

ユーリアはゆっくりと振り返った。

 

その目には若干の涙が滲み出ていた。

 

「実は…」

 

ジークハルトは覚悟していた。

 

しかしユーリアから発せられた事実はジークハルトの覚悟と予想を遥かに上回るものだった。

 

その言葉を聞いたジークハルトは同じように固まってしまった。

 

口は開き瞳孔も大きく見開き震えていた。

 

ユーリアは涙を抑えられず全力で啜り泣き始めた。

 

ジークハルトはそこで思考が元に戻り唖然としながらも泣き崩れるユーリアを抱きしめた。

 

「ありがとう…話してくれて…大丈夫、どうにかなる。きっと、どうにかしてみせる……!」

 

ジークハルトは彼女の頭を撫でながら震える心を抑えそう決意した。

 

常にこれだ。

 

運命とは最悪をいつも呼んでくる。

 

どうしてだ。

 

私だけならいい、こんな私などどうでもいい。

 

なのに、なのに何故。

 

何故ユーリアを、マインラートを巻き込む。

 

どうして余計なものを与える。

 

普通に生きていたいのに。

 

普通に生きていて欲しいのに。

 

ああ神様。

 

なんて酷い奴なんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクサスを守る防衛線はついに“()()()”。

 

再構築された防衛線はそれまで帝国軍の攻勢を防いでいた。

 

長くは続かないにしても時間は大いに稼げるだろうと前線の将兵達は思っていた。

 

しかし好転的な状況はそう長くは続かなかった。

 

ケルク宙域からホズニアン・プライムに戻り、更に一旦はコルサントに戻っていた帝国宇宙軍の第一艦隊が出現。

 

彼らは本来ヤヴィン星系攻撃に向けて進撃していたが総統府の命令を受けて進路を変更した。

 

エグゼクター級スター・ドレッドノート“リーパー”を含めた数十隻のスター・デストロイヤーが突如防衛線に攻撃を加えた事により戦線の一部が大きく崩壊。

 

防衛線は分断されその気に乗じて本来の攻撃部隊が残された防衛戦を徹底的に攻撃した。

 

結果防衛線は完全に崩壊し帝国軍がラクサス星系内へと続々と侵入し始めた。

 

残された防衛線の戦力は完全に孤立し残されたラクサスの戦力で何とか防いでいる状態であった。

 

ラクサスは完全に孤立した。

 

着々とラクサスを取り囲む包囲線はまで完璧ではなくとも完成しつつあり徹底的な攻撃と確実な勝利は時間の問題かに思われていた。

 

代理総統からの命令が届くまでは。

 

『敵防衛網の戦力の80%を掃討完了。もはや敵は組織的行動が完全に不可能です』

 

「このまま敵艦隊を殲滅しろ。なるべく一兵たりとも逃すな」

 

『はい閣下』

 

そういうと機動部隊司令官のホログラムが消えた。

 

『やはりエグゼクター級と手持ちの各師団を展開するのは正解でしたな。これでひとまず戦線は膠着せぬはずです』

 

「ああ、おかげで新共和国軍の退路は防いだ」

 

帝国軍最高司令部総長であるウィンヘルト・カイティス上級将軍はオイカン元帥にそう安堵の意を漏らした。

 

彼は完全な事務方の将校であり今まで直接部隊を指揮した事は片手で数えられる程度だった。

 

されどカイティス上級将軍の能力はとても重宝されており既に地上軍元帥への昇進も決まっていた。

 

『ローリング大将軍もご自身の旗艦“リベンジ・オブ・サイス”でヤヴィン星系に向かわれました』

 

「かなりの空母とスターファイター隊を持っていったはずだ。ヤヴィン星系ではおそらく最大規模の空戦が繰り広げられるだろう」

 

元よりスターファイター隊の指揮官であったローリング大将軍だ、ご自慢の空戦隊と空母部隊の力を見せつけるつもりなのだろう。

 

だが新共和国側も元よりスターファイター隊の練度や性能は高く特に近年のヤヴィン星系はそうだ。

 

オイカン上級元帥の言った通りの激戦が繰り広げられるだろう。

 

「しかし問題は前線ではない。総統閣下の暗殺についてだ。この事が兵達に今漏れれば要らぬ不安を煽る事となる」

 

「なんとか箝口令を出して防いでいますが…」

 

エグゼクター級“リーパー”艦長のゲルナー・ザーツリング少将はオイカン上級元帥の言葉に付け加えた。

 

総統は無論全くの無傷でありなんの影響もないが暗殺未遂があったという事実が十分兵士達の不安を煽るものだ。

 

しかも不安は噂の広まりを増大させ有る事無い事付け加えられていく。

 

最終的に「総統は暗殺された」と言うありもしない事実にねじ曲げられてしまう可能性すらあるのだ。

 

「ここは確実に勝利し前線、市民間への安心を得るべきだろう」

 

『それについて我が総統はこう命令を下されました。“直ちにラクサスへ向けて総攻撃を開始せよ”と』

 

「今総攻撃はまずい。まだ包囲線は不完全でこの状況で命令を下せば最悪敵の撤退を許す事となる」

 

『ですがこれは閣下の絶対命令です。もはや覆す事は出来ません』

 

見事な髭を生やしたカイティス上級将軍はそう付け加えた。

 

次は「命令に逆らえば元帥とて銃殺だ」など言うんだろう。

 

もはやこれ以上の議論や進言は無駄であり代理総統の命令通り全軍で総攻撃を掛ける他なくなってしまった。

 

総統が国家元首である以上一軍人でしかないオイカン上級元帥は従うしかない。

 

「わかった…」

 

『それでは御武運を』

 

従来の敬礼とはまた別の敬礼をカイティス上級将軍は浮かべホログラムは消え去った。

 

オイカン上級元帥は普通の敬礼を返しホログラムが消えるのを見送った。

 

上級将軍の姿がなくなるのを見るとオイカン上級元帥はため息を吐いた。

 

「…不服なのは分かりますが命令ですから仕方ありませんよ…」

 

ザーツリング少将も口ではそう言っていてもかなり不服そうな苦笑を浮かべていた。

 

オイカン上級元帥は再び溜め息を漏らした。

 

「全く“()()()()()()()()殿()”はいつも妙な所で辣腕を振るうものだ……各司令官に今の命令を伝えろ、ラクサスを陥落する!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-惑星ラクサス ラクサロン 第一応接室-

偵察に出たジョーレンと離れたジェルマンは新共和国軍の兵士達何名かに呼び出され応接室にいた。

 

室内に入れられるや矢先ドアはロックされ完全武装の歩兵二名がドアの前に立っていた。

 

手にはA280ブラスター・ライフルを持ち簡易的だがアーマーとヘルメットを身に付けていた。

 

まるで囚人を相手にしているかのようだ。

 

いや実際この時のジェルマンは虜囚だろう。

 

結果的に外部との援軍樹立の交渉を失敗したジェルマンはもはや用済みに近いのかもしれない。

 

だが彼にはなんの焦りもなかった。

 

若いとは言えジェルマンはあの新共和国艦隊情報部の情報部員だ。

 

たかが二名の、しかも新共和国軍の歩兵を蹴散らしドアを開錠しその先にいる敵兵を蹴散らして脱出するなど造作もない事だ。

 

これでも彼はストライン中将が手塩にかけて育てた優秀なエージェントなのだ。

 

「なあいつになったらその中佐は来るんだ?」

 

雰囲気を変える為に歩兵に話しかける。

 

流石に無視は出来ず歩兵の一人が軽く返答した。

 

「まだ時間が掛かります。何分司令部は忙しいものでして」

 

「そうかい…それでこの戦いは勝てると思うか?」

 

「我々は勝利を得るまで最後の一人になっても戦う覚悟です」

 

「流石だ、なら後は司令部に期待だな」

 

まるでドロイド、いやストームトルーパーに近いか。

 

何が何でも任務を遂行するという教えから彼らの気持ちは理解出来るが「たった一人生き残った勝利になんの意味があるか」という反発心も同時にある。

 

このまま戦っても恐らく彼らは勝てない。

 

兵の質や指揮以前の問題で彼らは負ける。

 

出来れば彼らも逃してやりたい、何処かにそんな温情じみた気持ちが湧き上がっていた。

 

最悪自ら打ち倒す相手だというのに。

 

だがそうするまでもなくジェルマンの解放者は現れた。

 

ドアの向こう側が何やら騒がしくなってきた。

 

何かが倒れる音も聞こえる。

 

そして男達の声も。

 

不思議がった歩兵たちは見えるはずのない外を見つめ通信機に手を当てる。

 

ジェルマンに聞こえないよう小声で通信機へ声を飛ばした。

 

「どうした?何があった」

 

すると通信機の向こうから悲痛な叫び声に近い応答が飛び交ってきた。

 

『攻撃だ…!味方が襲って来やがった!なんて強さ…グワァ!』

 

潰れた声と共に通信は途切れた。

 

ドアの近くで何かが倒れる音が聞こえる。

 

「どうした!何があった応答しろ!」

 

歩兵が通信機に声を掛けるが応答はない。

 

すると突然ドアの開錠音が聞こえ勢いよくドアが開かれる。

 

寸前で交わし切れなかった一人はそのまま壁際に弾かれもう一人はブラスター・ライフルを構えたが青白い光を数発喰らい気絶してしまった。

 

「なっなん!」

 

壁際の歩兵も青白い光を二、三発受けぐったりと寝込んだ。

 

ジェルマンにはその男の正体も自分に銃口を向ける事がないのも理解していた。

 

「こんな所にいたとはな。とっとと行くぞ」

 

「ブラスターの音が全くしかなかった」

 

「サプレッサーを付けてるからな。特殊部隊も装備は金が掛かるんだよ」

 

彼専用のA300ブラスター・ライフルを持ち上げると立ち上がったジェルマンにホルスターからもぎ取ったA180ブラスター・ピストルを投げ渡した。

 

「悪いがアーマーはないし渡せる武器はそれだけだ。なんならそこに転がってるのを使っていい」

 

「…連合首脳部を助けに行くつもりか」

 

その言葉と共にジョーレンは若干動きを鈍らせ少し遅れてから返答した。

 

「ああ…命令だからな。さあ急ぐぞ、時間がない」

 

ジョーレンは周囲を警戒しながら通路を確認する。

 

ジェルマンはブラスター・ライフルを拾い去ろうとするジョーレンに再び言葉を投げかけた。

 

「自分の心を殺してまでもか」

 

再びジョーレンの動きが止まった。

 

彼は、彼自身気付かなかった事だが指先が震えていた。

 

「本当はこの命令、従いたくないんだろ」

 

この言葉がジョーレンですら知らなかった彼の奥底に眠る爆弾への導火線だった。

 

「ああそうだよ!そうだとも!誰が好き好んで仲間を殺した奴らを!家族を殺した奴らを助けなくちゃならないんだよ!!」

 

初めて見るジョーレンの激昂だった。

 

彼はニヒルな笑みを浮かべたり揶揄って来たり悲しい微笑を浮かべたり感情を露わにする事はあった。

 

しかしここまで怒りを露わにする事はなかった。

 

「本当だったら今すぐこのて自らで殺してやりたいほど憎いよ!あいつらに…この星に攻め入って復讐出来るなら帝国にだって味方したい、それくらい憎い相手だ!だが……だが私は兵士だ…“Good soldiers follow orders(優秀な兵士は命令に従う)”…この言葉が全てだ…俺の人生の全てだ!今更感情で覆せるか!!」

 

ジェルマンはずっと彼を特別視していたのかもしれない。

 

ジョーレンは大人で、知的で、若干迷惑だがユーモアがある優秀な軍人だと思っていた。

 

兵士であってもものの判別が付く、まさしく優秀な兵士だと。

 

だが彼は同じだ。

 

彼が殺してきたストームトルーパー達と、今彼が打ち倒してきた新共和国の歩兵達と。

 

幼い頃からずっと。

 

彼は多くを経験した大人であると同時に兵士でありその根底は幼い少年なのだ。

 

己の感情、私情と叩き込まれた全てで己を削ってきた。

 

故に彼は鋭いナイフのように強くそしてもろく短い。

 

「俺は兵士だ…兵士でしかない。兵士には命令が必要だ、だが今の俺に正しいと信じられる命令を下してくれる奴はいない…みんな俺に命令を下した奴に殺された」

 

「ああ…兵士としてならそうだろう、だが君は兵士である前に一人の人間のはずだ」

 

「人間…?ガキの頃から人を殺す訓練と絶対服従の命令を受け続けてきた奴が今更人間になれるもんか…!もう手遅れだ…」

 

彼は悲しげに吐き捨てた。

 

「彼らにも事情があったのは知ってる…この星で生まれ育ったんだ…嫌でも事情は分かる…今でもだ。だが、それでもどうしても許せないんだ…!だから命令に従うしかない…」

 

きっとジョーレンは本当は優しい子供だったのだろう。

 

誰かを思いやれるそんな子供だったはずだ。

 

だがそんな彼は戦争で変えられてしまった。

 

「…人には必ず許せないもの、憎むべきものがあるだろう。たとえ過去のものだとしてもだ。だが…もし仮に、微塵でもそんな相手の気持ちが分かるのだとしたら無理に許す必要はないのだと思う。君はここにいて彼ら(独立星系連合)はそこにいる。ただ、それでいいんだ。お互いに深く干渉しなければ、傷を忘れず離れていればそれでいいんだと思う」

 

「お前は不思議な事を言うな…許さなくていいなんて」

 

「僕だってきっと憎む相手を『許せ』だなんて言われたって納得出来ないはずだよ。だからせめて、たとえ嫌い同士でも互いに住める世界であれば君が憎しみを抱いて心を隠す必要はなかったのだと思うんだ。そもそも争う必要すらも…」

 

ああそうだ、その通りなはずだ。

 

だって見てみろ。

 

銀河はこんなに広いんだ。

 

ジョーレンが身をすり減らしてまで必要がない場所だってあるはずだ。

 

命を賭ける必要がない場所だってあるはずだ。

 

そんな場所を作れるはずだ。

 

「それでも決めるのは君自身だ。命令ではなく君が決めろジョーレン・バスチル。心のままに進め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リストロング司令官は拘束されラクサロンの監房に閉じ込められていた。

 

他の連合首脳部メンバーもそうだ。

 

最悪だ、してやられた。

 

今頃全ての指揮権はあの新共和国の連中が持っているだろう。

 

軍による独裁状態が続いているはずだ。

 

このままでは間違いなくラクサスは破滅の一途を辿る。

 

なんとかしなければ。

 

せめて希望だけでも残さなければ。

 

かつてそうやって自分達が自由の名の下に集ったように。

 

「武器もないドロイドもない工具もない…クソっ!どうやって出る…?どうやったら抜けられる…」

 

苛立ちながらリストロング司令官は自前の工兵としての技術を合わせて考え始めた。

 

かつては15歳で連合軍の工兵部隊に志願した彼だ。

 

この程度朝飯前のはずと自身で思っていた。

 

しかし技術はあっても道具がない今の状況ではやはり手詰まりでどうする事もできなかった。

 

「なんとかしないといけないのに…ああ!」

 

苛立ちが抑えられず思いっきり座り込み冷静になろうとした。

 

そんな彼に奇跡は降りかかる。

 

救いの手は須く現れるのだ。

 

「中の囚人!ドアの近くにいるんだったら今すぐ離れろ!ドアを吹き飛ばすぞ!」

 

「ドアを…わかった!」

 

リストロング司令官はギリギリまで下がってドアから離れた。

 

「離れたぞ!」

 

直後ドアは轟音を立て爆散し周囲に煙が漂った。

 

「どうやら無事だったようだな」

 

ブラスター・ライフルの機械的な音と共に“()()()”新共和国軍と思わしき兵士が入ってきた。

 

そんな彼らにリストロング司令官は名を尋ねる。

 

「名前は…?誰だお前達は…」

 

司令の問いに二人は互いに顔を見合わせ軽い挨拶を放った。

 

「ジェルマン・ジルディール中尉と」

 

「ジョーレン・バスチル大尉であります。憎いあんた達を脱出させる為に駆けつけました」

 

 

 

つづく




お久しぶりの人はお久しぶり

初めましては初めましてです!

インペリアリストです!!


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連合の滅亡/後編

旗を高く掲げよ!
懐かしき日を思い出し
我らは再びは旗を掲げる
人目を気にする必要はない
我らの帝国は再び蘇ったのだから!
我が軍隊を迎えよ!
総統の指揮の元
皇帝陛下の帝国軍は再び旗を掲げる
銀河を取り戻すその日まで!
-第三銀河帝国 国歌 “忌まわしき日に別れを告げて”-


-惑星ラクサス 緊急地下監房室-

数名の新共和国兵士がA280を構えキルモードのまま迫り来る侵入者に対して発砲する。

 

既にこの監房警備に割り当てられた半数以上の兵士が打ち倒されてしまった。

 

必死に防戦し増援を要請しているが通信妨害と侵入者の練度に圧倒されたった二名の敵に対して未だに不利な状況であった。

 

しかも侵入者はブラスターをショックモードで使用しており殺傷能力は明らかにこちらより低い。

 

最大出力とはいえ確実に相手の息の根を止められるわけではなく当たりどころによっては敵を戦闘不能にする事すら難しい。

 

それでも彼らは確実にブラスター弾をこちらに当て兵の数を減らしていた。

 

おかげで兵士達にも動揺が障じ精神的な面で圧迫され始めていた。

 

「敵はたった二人だ!早く打ち倒せ!」

 

分隊長がそう言い放ちブラスター・ライフルを向けるも彼の弾丸は当たらない。

 

それどころか部下の弾丸も当たらず侵入者は軽快な動きのまま確実に弾丸をこちらに撃ち当てた。

 

直撃を喰らった二名の兵士が潰れた声を上げ地面に倒れ込んだ。

 

もう分隊員の半分が撃ち倒され残された兵力はもう一つの分隊と合わせても残り八名程度だった。

 

攻撃される前は二十四名の兵士が警備についていた。

 

しかしあっという間に1/3程度の兵力まで削られてしまった。

 

「隊長!もうダメです隊長!」

 

「ひっ怯むな!撃ち続けろ!兵士の数ではまだ…っ!」

 

そう言ったもう一人の分隊長が弾丸の直撃を受け気絶してしまった。

 

これで七名。

 

このままのペースで行けばあっという間に警備隊は全滅だ。

 

一旦体制を立て直す必要があると考えた分隊長は焦りながらも兵士たちに命令を出した。

 

「後退!一旦後退だ!第三隔壁まで後退しろ!」

 

ブラスター・ライフルを撃ちながら兵士達が後へ後へと下がる。

 

その間にもショックブラスターの餌食となった一人の兵士が隔壁の中に入れず外で倒れ込んでしまった。

 

「もう諦めろ!」

 

分隊長が助けようとする兵士を引っ張り乱暴に隔壁閉鎖のスイッチを叩く。

 

ゆっくりとだが頑丈なブラスト・ドアが閉まりなんとかあの恐ろしい侵入者からひとまずの安全を手に入れた。

 

兵士達は荒い呼吸のままゆっくりと銃器を構えながらブラスト・ドアから離れようとする。

 

もしかしたら爆薬で吹っ飛ばされてしまうかもしれないからだ。

 

尤もそうなった場合もう手遅れな気もするが。

 

「なっなんなんだあいつら…!?…なんて強さなんだ……!!」

 

ヘルメットの下から流れる汗を拭いながら怯えた目のまま苛立ちを吐き捨てる。

 

他の兵士達も顔中びっしょりと冷や汗が流れていた。

 

「新共和国の兵士と同じ武装だった…味方なのか…?あいつは…!」

 

「そんなわけあるもんか!クソっ!!なんなんだよクソ!」

 

彼らが恐怖を感じていると突然ガコンという音が隔壁の中に響いた。

 

今の兵士達には僅かな音でも心臓が止まりかけた。

 

「なっなんだ……?」

 

ブラスター・ライフルを構えたまま互いの背中を囲みあった兵士達が周囲を見渡した。

 

侵入者が何か仕掛けたのか、それとも施設に何か異常があるのか、ただの錯覚か幻聴か。

 

兵士達の心臓の鼓動は早まり緊張と不安は極限まで昂った。

 

そんな中一人の兵士が何かを発見した。

 

「分隊長!あれを!」

 

「なっ!!」

 

直後ショックモードのブラスター砲が隔壁の中に閉じ込められた密室に響き戦闘能力を保持していた兵士達も皆気絶し戦闘不能に陥ってしまった。

 

収監された囚人達の暴動用に取り付けられたブラスター砲が支援対象である警備兵達に襲い掛かったのだ。

 

もはやどうする事も出来ず部隊は全滅した。

 

死んではいないが全員行動不能だ。

 

数十秒経った後頑丈なブラスト・ドアが爆薬も何も使わず閉じた時と同じように開いた。

 

侵入者達はそれをさも当たり前かのように通り抜けていく。

 

「さて、早速解錠頼むぞ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

侵入者達の会話のすぐ後に監房の全てのドアが開いた。

 

ジョーレンとジェルマンは選び抜いた道を進み抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「憎いあんた達を脱出させる為に駆けつけました」

 

そう言って新共和国兵、ジョーレン・バスチル大尉は手を差し伸べた。

 

色々腑に落ちない面はあるが助けが来たというのは絶好のチャンスだ。

 

なんとかして抜け出し連合首脳達を助け出さねばならない。

 

「ありがとう…だがここで悠長にしている場合ではない。この国の…連合元老院議員や国家主席を早く助け出さねば!」

 

リストロング司令官は少し声を荒げて二人に忠告した。

 

だがジョーレンも隣のジェルマン・ジルディール中尉も顔を見合わせ微笑を浮かべていた。

 

「生憎、我々は仕事が早いもので」

 

ジェルマンがそう呟くと彼の後ろからぞろぞろと人影が見え始めた。

 

リストロング司令官にとってはかなり見覚えのある人物達だった。

 

「撃ち合いなんて何年振りか…ほとんど弾が当たらなかったぞ」

 

「ハルターン議員!ヘイヴィー議員!」

 

ハルターン議員や他の議員があの捕縛された時の格好のまま出てきた。

 

しかも何人かは警備兵から拾ったであろうブラスター・ライフルを若干慣れない手つきで握っていた。

 

司令官も驚きを隠せぬままゆっくり檻の中から姿を表した。

 

「無事で何よりだリストロング司令官。会えて嬉しいぞ」

 

そう言って議員達の中からアヴィ主席が姿を表した。

 

顔にやつれが少し見えるものの元気そうだった。

 

白い大きな髭も健在だ。

 

「主席や議員方こそご無事で…」

 

握手を交わしリストロング司令官は目尻に浮かびかけた涙を必死で抑えた。

 

これほど奇跡に近い喜びはないだろう。

 

「せっかくの機会で悪いのですが…早く脱出しないと…」

 

「ああ、ほらもうそこに…敵が来てる」

 

ジェルマンの忠告にジョーレンが言葉を付け加えた。

 

しかも通路の奥から現れた「動くな!」と言いブラスター・ライフルを構える二名の警備兵をブラスター・ライフルで戦闘不能にしてからだ。

 

銃声が響き二人の警備兵が地面に倒れ込む。

 

それでようやく議員やリストロング司令官達は現実に戻ってきた。

 

「だがどうやって脱出する?もはやラクサスは君たちを除いて新共和国だらけ、つまり敵だらけだ。こんな状況じゃ脱出など…」

 

リストロング司令官は呻き声を上げながら倒れている警備兵からブラスター・ライフルを無理やりもぎ取り状態をチェックするとそう不安を漏らした。

 

「ご安心を、我々も完全に敵ばかりではない。幸い味方してくれる者もいる。そいつらがこの監房室を出た外に輸送船を手配してあります。それに乗って帝国の封鎖を突破し脱出してください」

 

「だがラクサスの民はどうなる?今更だが彼らを二度も置いていくことは…」

 

「それについてもご安心下さい。既に宇宙港の閉鎖は解かれ市民の脱出は始まりつつあります。新共和国の司令部は現在帝国軍の攻撃を防ぐのに手一杯でこちらに見向きもしていない」

 

「なるべく正規の国防軍がいるとされている封鎖線を通るよう指示しています。清廉潔白な国防軍なら親衛隊のような過激なことはしないでしょう」

 

「なるほど…」

 

ジョーレンとジェルマンは説明を重ね議員達を安心させた。

 

不安と市民を残したままただ一人母星を逃れるのはさぞかし辛いだろう。

 

仮にまた戻ってくるとしてもだ。

 

「こうなってはここでもたもたしている方が危ないのだな…よし!行こうみんな!脱出だ!」

 

ハルターン議員が他の議員達に促し彼らもまた頷く。

 

他人からの彼の信頼はとても大きいのだろう、ジェルマンが見ていてもわかるくらいだ。

 

「私とバスチル大尉、それとリストロング司令官を先頭について来て下さい。いつ敵が来てもいいように」

 

「わかった…!」

 

「よし、こっちだ」

 

ジョーレンがブラスター・ライフルを構え先頭を行った。

 

その後にジェルマン、リストロング司令官と続き、議員や主席も彼らの後ろに続いた。

 

ぞろぞろと若干大きな行列だがもはや敵のほとんどはジェルマンのハッキング技術とジョーレンの腕前により打ち倒してしまった為かなり安全だ。

 

それに今頃自動的に警備兵達を攻撃するよう仕向けた暴動鎮圧用のブラスター砲や防衛システムに攻撃され脱走騒ぎではないだろう。

 

脱出の最大の好機であった。

 

「脱走者だ!撃て!」

 

「っ!」

 

曲がり角で出会ってしまった警備兵三名がこちらにブラスターを向ける。

 

しかし先に攻撃を仕掛けたのはジョーレンの方だった。

 

彼はA300ブラスター・ライフルを発砲すると見せかけてホルスターから抜き出したA280-CFEのブラスター・ピストルモードで警備兵を撃った。

 

ショックモードの二発の弾丸が警備兵二名を気絶させた。

 

残りの一人はあまりの手速さに唖然とし震えたまま棒立ちになっていた。

 

その隙を見逃す特殊部隊員ではない。

 

即座に相手の手を捻り地面に組み伏せる。

 

そのまま力強く手刀を繰り出し警備兵を気絶させた。

 

「行くぞ!」

 

警備兵達がが来た曲がり角を曲がるとまた二名の警備兵が姿を表した。

 

「何者!」

 

「くたばれ!」

 

リストロング司令官はブラスターがショックモードなのを確認すると引き金を引き警備兵が反撃する前に沈黙させた。

 

誰しもがその見事な射撃に感嘆の声を上げたかったが今は脱出しなければならない。

 

ブラスター・ライフルを構えたままジョーレン達は走り始めた。

 

再び曲がり角を曲がるとジェルマンがタブレットを見つめて声を上げた。

 

「このまままっすぐ行けば友軍との合流ポイントです!」

 

「ジェルマン!もうドアを解錠しろ!手間を省く!」

 

ジョーレンの命を受けてジェルマンはタブレットを操作した。

 

しかし走りながらグローブをつけての操作の為こんな時に限ってタブレットのスイッチを押し間違えてしまった。

 

すると別のコマンドが発動し何故か今進んできた後ろのブラスト・ドアが閉じた。

 

「おい何やってんだこんな時に!閉めるんじゃなくて開けるんだぞ!」

 

「わかってるわかってる!押し間違えだよ!」

 

「なら早くしろよ!」

 

「走りながらだし指が太くて打ちづらいんだよ!」

 

「なら小指で打てばいいだろう!」

 

「それは無理!」

 

「こらこらこんな所でグダグダ喧嘩するんじゃないの…」

 

先頭を走る三人がグダグダ話しているとようやくジェルマンが正しいスイッチを押して通路のドアが開いた。

 

外の透き通った風と青く輝く空がドアの向こうから見え始めた。

 

ドアの奥には輸送船が見え数名の武装した新共和国兵が内部に突入してきた。

 

「こっちです!早く!」

 

味方の新共和国兵達はジョーレン達を手招きし導いた。

 

兵士達に守られジョーレン一行はようやくこの臨時の監房室を抜け出し戦闘の花が咲きわたるこのラクサスの外へと抜け出した。

 

「早くどんどん走って!」

 

ジェルマンに導かれ議員や司令官達が次々と輸送船の中へ入っていった。

 

ジョーレン達を護衛していた新共和国兵も安全を確認すると監房室を抜けジョーレンとジェルマンの元へと駆けて来た。

 

「護衛完了です!」

 

「急いで出発させろ!護衛のコルベットと中隊だけが当分は頼りだが恐らく親衛隊所属のデストロイヤー艦隊が見えたなら増援が来るはずだ」

 

「了解です!」

 

「絶対生き延びろよ」

 

兵士達は頷き力強い敬礼と共に輸送船の中へ入っていった。

 

するとジェルマンはまだ輸送船に入らずこちらに近づいてくるリストロング司令官の姿を見つけた。

 

「早く輸送船へ、ここもそう長くはありません」

 

「ありがとう、だが最後に君達と少し話がしたかった」

 

「残念だが俺はラクサス生まれの連合嫌いでね。話すことなんてありませんよ。それより早く逃げて」

 

あえて本音を隠さず早く逃げるように言った。

 

ここで話すことなど何もない。

 

「じゃあ逆に聞くが、なんで君は私達を助けてくれたんだ?連合を嫌う君が」

 

「それは…」

 

ジョーレンは天を見つめこめかみを弄りながら少し考え始めた。

 

彼らを助けた理由。

 

それは。

 

()()()()()()()()()()()。俺はあんた達が嫌いだが何もこんな戦争に巻き込まれて死ぬ必要はない…そう思えるようになっただけさ」

 

「そうか…ありがとう。さようならだな大尉」

 

「ああ…そうだな…」

 

リストロング司令官は手を差し伸べた。

 

ジョーレンはそれに応え彼の手を強く握りしめた。

 

二人は友達ではないが心がどこか通じ合っているというのは確かだ。

 

そしてジェルマンにもリストロング司令官は手を差し伸べた。

 

「お元気で」

 

「君もな」

 

二人の救出者の手を握るとリストロング司令官は敬礼し輸送船へと乗り込んだ。

 

彼を最後に輸送船のハッチは締まりエンジンが火を吹き始めた。

 

徐々に地面から浮き上がり輸送船は空へと浮き上がった。

 

二機のXウィングが輸送船の護衛に就き主席や司令官達を乗せたあの船は発進した。

 

ジョーレンとジェルマンに敬礼で見送られて。

 

「ご無事で」

 

「生き延びろよ、()()

 

輸送船の姿が見えなくなるとジェルマン達は近くに停泊していた彼らのUウィングに乗り込んだ。

 

あの少佐が手配してくれたパイロットが機体を操縦していた。

 

「新共和国最高司令部と第六司令部の元へ。我々も脱出する準備だ。出来れば……“()()”もな。それとライカン将軍に連絡だ。少し話し合いをせねばならん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TIEブルートが、TIEボマーがセキューター級やクエーサー・ファイア級から出撃し新共和国軍機と激突する。

 

既に練度も低い新共和国軍のスターファイター隊は物量や機体性能、練度によって打ち破られ爆撃機の侵入許してしまった。

 

砲撃により主力艦のモン・カラマリ・クルーザーやスターホーク級が、爆撃によりCR90やネビュロンBのようなコルベットやフリゲートが次々と損害を受けた。

 

「このまま扇陣形を維持し敵戦列を崩壊させる。エグゼクター級の火力を全面に押し出すんだ」

 

オイカン上級元帥の命令を受け取った各艦が“リーパー”の射線を開けるために左右にずれ若干の散開隊形を作り出した。

 

その間にもインペリアル級数十隻の砲撃の嵐は鳴り止まない。

 

「友軍のスターファイター隊、爆撃に成功し現在艦隊に退却しました」

 

「わかった、こちらも射線軸整いました上級元帥。全砲塔いつでも砲撃できます」

 

砲術長や士官から報告を受け取ったザーツリング少将がオイカン上級元帥に進言する。

 

上級元帥は静かに頷くと右手を振り命令を出した。

 

「撃て!」

 

刹那“リーパー”に搭載された五千基以上のターボレーザーやイオン砲などが烈火の如く火力を敵艦隊に叩き込んだ。

 

一撃一撃が敵艦の偏向シールドを破り次に撃ち込まれた砲弾が装甲を溶解し更に撃ち込まれた砲弾が艦の深くまでを大きく破壊した。

 

新共和国艦隊を爆発の光が取り囲み瞬きするかのようにその僅かな閃光は消えていった。

 

この間にも残された新共和国艦は数を減らしつつある。

 

比較的防御力の低いネビュロンBは船体が真っ二つとなり轟沈しその両脇を取り囲んでいたブラハットク級ガンシップやCR90コルベットも爆散した。

 

損害が酷いのは主力艦とて例外ではない。

 

エグゼクター級一隻の最大火力だけなら耐えられた艦もいるだろうが僚艦のインペリアル級やヴィクトリー級、そしてより装甲と火砲を強化されたテクター級の砲撃により厚みを増した帝国艦隊の集中砲火を食らえばどんな艦とてひとたまりもないだろう。

 

何千という火砲の前に既に戦列を傷つけられていた新共和国艦隊はひとたまりもなかった。

 

MC80やMC75は形を保ったま大爆発を起こしどんどん下へ下へと沈んでいった。

 

スターホーク級も流石の重装甲もこれほどの火力の前にはなす術なく何隻もが撃沈していった。

 

既に新共和国艦隊の防衛線には素人が見てもわかるほどの大穴が生じておりもはや防衛部隊としての機能を果たしていなかった。

 

「このまま惑星ごと敵艦隊を包囲しつつ地上軍の上陸戦闘に移る。全艦上陸部隊の発艦準備を!」

 

帝国艦隊は前進しながら艦列の幅を広げ既に圧迫されつつある新共和国艦隊をほぼ完全に包囲した。

 

中には惑星内での決戦に臨もうと軌道上から大気圏の中に後退する部隊もあった。

 

「降下部隊の砲撃支援に移る。“リーパー”の下船部中央の砲塔群は地上への砲撃支援、目標敵対空砲網及び敵基地だ」

 

何十門下のターボレーザー砲が地上の目標に狙いを定めた。

 

「市街地はあまり砲撃するなよ、撃て」

 

砲塔は黄緑色の光弾を発射しこちらに赤色の光弾を放つ新共和国軍の対空砲を次々と破壊した。

 

それだけではなく未だシールドの下にいない新共和国部隊や連合部隊に砲撃を加え次々と壊滅に追いやった。

 

他の地区でもインペリアル級やテクター級が軌道上や大気圏内からターボレーザー砲の軌道上爆撃を加え新共和国軍へ深刻なダメージを与えていった。

 

シールドが展開されている場所には多少危険性はあるもののTIEボマーやTIEブルートのスターファイター隊が突撃し魚雷や爆弾による攻撃で損害を食らわせていた。

 

まだ新共和国艦隊やスターファイター隊が必死の抵抗を見せてはいるもののほぼ無意味に等しかった。

 

「地上の対空迎撃能力の39%がダウン。十分降下部隊を突撃出来るほどです」

 

「親衛隊第十二機動部隊。部隊を降下し始めました」

 

「我々も上陸部隊を展開する。地上指揮はジェイル将軍に任せ我々は支援だ」

 

「はい閣下」

 

インペリアル級やエグゼクター級のハンガーベイからAT-ATやAT-ST、AT-MPと言ったウォーカーを乗せた何十隻ものゴザンティ級クルーザーがTIEの護衛と共に飛び立っていく。

 

目線を変えればセキューター級やヴィクトリーⅠ級のようなより上陸能力があるスター・デストロイヤーはそのまま降下を開始してた。

 

多くの地上部隊がラクサスへと送られていく。

 

もはや勝利は決まったも同然であった。

 

ありえない事だが地上部隊が最悪の大敗を重ね全滅したとしてもこのまま軌道上から爆撃を降り注ぎ続ければ勝利する事は可能だ。

 

ここまで来て新共和国軍が巻き返すことも奇跡的な逆転を果たすことも不可能だった。

 

されどオイカン上級元帥は未だ険しい面持ちのままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-第二首都 惑星ベアルーリン ニーダ州 ハンヴァー市-

時間は少し前に遡りゼールベリック大臣がシュメルケ上級大将と会話をしていた時より二、三時間ほど後の事だった。

 

ゼールベリック大臣にはこの地に来たならば少し会って行きたい人物がいた。

 

彼は珍しく護衛も付けず一人でスピーダーを運転しこのニーダ州の州都であるハンヴァー市まで訪れていた。

 

駐車場にスピーダーを停めるとその後は歩きでその人物の家まで向かった。

 

ちょうど彼は軍務を終え家に帰っているだろう。

 

もうこのベアルーリンはすっかり夜だ。

 

月が輝き星が瞬いている。

 

美しい夜空はコルサントでもここでも同じようだ。

 

だが星の支配者がそれに見合っているかはまた別の話だが。

 

「いるといいんだがな…」

 

そう独り言を呟きながらゼールベリック大臣は一軒の平家のインターフォンを押した。

 

夜中でもわかる程整った庭が家の周りを取り囲んでいる。

 

『はい、どちらでしょうか』

 

すると奥から青年の声が聞こえた。

 

ゼールベリック大臣が会いたかった人物の声だ。

 

「私だよ“オスカル”」

 

『大臣閣下!』

 

若干の喜びの声と共にその家のドアは開いた。

 

まだ軍服姿の青年が姿を表した。

 

「久しぶりだなオスカル。首都がコルサントの方に戻った時以来だ」

 

彼の名前は“オスカル・ヒルデンロード”。

 

帝国地上軍の少将でありこのベアルーリン防衛部隊の一つである第二十歩兵兵団の兵団長を務めている。

 

ゼールベリック大臣とオスカルは旧知の仲であり他の大臣たちともとても良い関係性を保っていた。

 

「大臣閣下こそ元気そうで何よりです」

 

「元気なものか。今が一番忙しい、あちこちから同盟やら服属の声明が来る」

 

「帝国の方は順調そうで何よりです。どうぞ中にお入りください、なんなら泊まっていっても構いませんよ」

 

「そこまではいいさ、君の奥さんや息子達に迷惑が掛かるだろう」

 

「実は今日は出かけていましてね。さあどうぞどうぞ」

 

「まあ泊まっては行かんが少しゆっくりさせてもらうよ」

 

彼はそのままヒルデンロード少将の家に上がり彼の家のリビングのソファーに座った。

 

リビングの棚には彼の祖父や父、彼自身が得たいくつかの勲章やメダルが並んでいる。

 

そしてその側には家族やアカデミーの友人達、戦友達と取った写真も置かれていた。

 

「カフでいいですか?」

 

「ああ、ありがとう。出来ればミルクと砂糖を入れてもらえるとありがたい、だがブルーミルクはやめろよ?色的に合わん」

 

「わかってます、すぐお持ちしますね」

 

キッチンの方からカフがカップに注がれる音が聞こえた。

 

ヒルデンロード少将は言われた通り砂糖とミルクを入れ二つのカップをトレイに乗せ運んできた。

 

まずはゼールベリック大臣の前にコースターを敷きカップを乗せた。

 

トレイをまず自身の隣に置くとヒルデンロード少将は大臣の反対側の椅子に座り自身のカップを前に置いた。

 

「コルサントの様子はどうですか?まあ今日に限ってはあまり良くないらしいですが」

 

「今日の事件を除けば外から見れば順調そのものだ。もっとも政府機関はどこも忙しくてたまらんがね」

 

コルサントの統治と再首都化もほぼ成功に終わり直接手に入れた新共和国領の統治もある程度順調だった。

 

未だ中立を決め込む国は多くともこちら側に味方する惑星政府や国家は後を絶たず軍事の面でも各戦線では滞りなく勝利を手にしていた。

 

現在の政府機構や人員、財政に伸し掛かるオーバーワークを除けば第三帝国は今や旧第一帝国に限りなく近い姿を取り戻した。

 

あの無意味な犯罪級の殺戮行為を除けばだが。

 

「ベアルーリンの方は適度な仕事量でとても快適ですよ。コルサントと違って規模的に見たら小さいですがそれでも本来一惑星に伸し掛かる人口数を考えたら丁度良いくらいだ」

 

「コルサントは確かに人が多すぎる。総統閣下や親衛隊の保安局は思想犯罪者やエイリアン種族の逮捕や強制移住で人口を減らそうとしているが」

 

「それじゃあまるで旧共和国時代の黄金期ですね。捨てられた人口はどこへ?まさかまたアウター・リムですか」

 

ヒルデンロード少将は苦笑と皮肉を浮かべた。

 

元々現在の代理総統にあまり良い感情を持たず総統就任には反対の念を浮かべた彼だ、多少不満はあるのだろう。

 

本当はこんな閑職めいた部署にいる家柄でも人物でもないのだが。

 

「それは知らん方がいい」

 

カフに口を付けながら答えを濁した。

 

「なるほど…?まあ新共和国に勝利したと言うのは誰にとっても悲願ですよ。今の各戦線も順調だと聞きますし」

 

「随分と人ごとのようだな。君も一応帝国軍人だろう。別に部下に嫌われているわけでもないし前線に配置される可能性もあるのだぞ?」

 

そう言うとヒルデンロード少将は口をつけようとしていたカップをコースターに置き戻し苦笑に近い笑みを浮かべた。

 

そして彼は自身の今後を彼に話し始めた。

 

「実を言うと私…来年にはもう退役するつもりなんです」

 

その言葉を聞きゼールベリック大臣の目つきが変わり若干の動揺を浮かべた。

 

彼はヒルデンロード少将の言葉を問い直した。

 

「退役する…?何故だね、年齢的にもまだ早すぎるし軍人としての能力も惜しい」

 

「元々あの時に私は退役する予定でした。総統やブロンズベルク大臣に引き止められたから残っていましたが今の軍なら私がいなくてもなんら問題ないでしょう」

 

「だがな…」

 

「それに軍を引退すれば妻にも楽をさせられるでしょうし何より子供達を寂しがらせなくて済む」

 

彼は完全に退役するつもりだ。

 

しっかりとした硬い決意が浮かび上がっていた。

 

「そうか…なら止められんな。退役した後はどうするつもりだ?君の兵団は?」

 

「しばらくは家族と過ごしながら隠棲しますよ。兵団の方は少将に昇進したシュライヤーの弟に任せるつもりです。兵団の幕僚や参謀達とも折り合い済みですよ」

 

「仕事が早すぎる…まあ君は辛い事や悲しみに耐えよく頑張ってくれた。今後はゆっくりしたまえ」

 

知人の退役は若干悲しくはあるが快く送り出してやろうとゼールベリック大臣は言葉を送った。

 

ヒルデンロード少将も若干照れ臭そうな表情を浮かべながら「ありがとうございます」と軽く頭を下げた。

 

「しかし…私は悲しみに耐えられたのでしょうかね……出来ればシュライヤーの弟のそばに“()”を置いてやりたかったのですが」

 

ヒルデンロード少将は勲章の側に送られていた写真を悲しそうにじっと見つめていた。

 

まだ彼の制服の階級章が中尉だった頃のことを。

 

まだ十年も前のことを。

 

あの物静かな幼き子供が我が家に来た時の事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクサスでは熾烈な地上戦が繰り広げられていた。

 

殆どの部隊が地上に降下し大規模な地上戦闘、市街地線が繰り広げられていた。

 

だがもはやラクサスの兵力は乏しく地上軍の進軍力を阻む事はほぼ不可能だった。

 

「第二師団及び第五十六連隊が南方側のドロイド二個旅団を撃滅!現在も進軍中!」

 

「第八親衛兵団と第三親衛旅団も同じく中央の敵軍団を突破しました!」

 

地上に簡易的な司令基地を設置中の第六連隊はあちこちから状況報告が飛び交っていた。

 

後方でしかも偏向シールドに守られている為比較的安全地帯ではあるがそれでも時々砲弾がシールドに直撃し大きな振動に見舞われている。

 

「参謀将校が来るまでに情報をまとめておけ。上級中尉、設営の方はどうなっている」

 

ジークハルトがコルサントに召還されて連隊長不在の為アデルハイン中佐が現在副連隊長として連隊の指揮を取っていた。

 

ヴァリンヘルト上級中尉がタブレットを持って彼に報告に来る。

 

「司令部、対空砲網、偏向シールドの設置は完了し残りは飛行場設置とウォーカー駐留プラットフォームです」

 

「わかった、余った人員を飛行場とウォーカーの方へ回せ!兵員は武装して戦闘配置だ!」

 

各部隊に命令を出しアデルハイン中佐はヴァリンヘルト上級中尉やハストフルク中尉らと共に飛行場の方へ向かった。

 

上空では今でも砲弾やミサイルが爆散しTIEインターセプターやTIEブルートが戦場へと向かっている。

 

ストームトルーパーの分隊が彼らを横切り連隊の将校がアデルハイン中佐に時々親衛隊式の敬礼を送った。

 

「ランドルフ、状況はどうだ」

 

前から向かってきたパイロットスーツ姿のハイネクロイツ中佐に対しアデルハイン中佐が様子を尋ねた。

 

「設置にもう少し人員が必要だ、後予備の弾薬をなるべく寄越してくれ。空母だけじゃなくてここにも補給地点を作りたい」

 

「わかった。ディター、TIE用の弾薬や予備のパーツを急いで仮の飛行場に持ってきてくれ。そうだ、出来れば弾薬の方を多めに頼む」

 

アデルハイン中佐はコムリンクで連絡を取り弾薬を要求した。

 

その間にもTIEインターセプターが発進しセンチネル級やゴザンティ級が次々と着陸し兵員や物資を下ろしていく。

 

あっという間に地上の基地が完成していた。

 

「地上の戦況は?空じゃ圧倒的にこっちが優位で爆撃機が引っ張りだこだが」

 

「南じゃ国防軍がドロイド旅団を蹴散らして進撃中、中央も一個軍団を打ち破って進撃中だ」

 

「それと左翼の敵機甲基地も陥落し現在第七機甲軍団がこちらに向けて進軍中です」

 

「こりゃ勝ったな」

 

ハイネクロイツ中佐の意見はその言葉の軽みに反して尤もな言い分だった。

 

既に敵の防衛部隊は次々と蹴散らされ首都ラクサロンに向けて全軍が進撃中であった。

 

「もう間も無くセキューター級の“ペネトレーション”が二個師団を運んで来ます。再び戦線は一気に変化するでしょう」

 

「念の為師団の進撃と共にスターファイターの護衛を。ランドルフ、部隊の選出を頼む」

 

「わかった、ニーヴァ、ブリュート、ファイパー、来い!」

 

ハイネクロイツ中佐は早速各中隊長を呼び出し部隊の準備をし始めた。

 

アデルハイン中佐もその様子を目で見送りながら中尉二人に「我々も戻ろう」と言おうとした瞬間コムリンクから部下の声が響いた。

 

『中佐!反対側の簡易司令部の観測班からの連絡です!ラクサスの半球から旧独立星系連合のものと見られる艦隊が出撃したとの事!』

 

「何?数はどのくらいだ、まだ戦力が残っているとは思えんが…」

 

中佐は不安を抱き怪訝な表情を浮かべながら部下に問いかけた。

 

すると部下は驚くべき報告を伝えた。

 

『大型モデルのプロヴィデンス級合わせて三十隻の軍艦が惑星を脱出しました!』

 

「何!?そんなバカな!」

 

コムリンクの通信に聞き耳を立てていたヴァリンヘルト上級中尉は驚愕の声を上げた。

 

ハストフルク中尉も声には出さないが驚いているのが顔を見るだけで分った。

 

アデルハイン中佐も表情をさらに険しくし一言呟いた。

 

「まずいことになった…」

 

彼の目線の先には爆発掛かる大空を進むいくつかの米粒のような光が見えていた。

 

恐らくきっとラクサスを脱出した連合艦隊の姿がしっかりと見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラクサスの戦闘は新共和国にとって明らかに不利そのものだった。

 

もはや勝利など夢のまた夢。

 

もはや誰しもが敗北と死の文字を頭に浮かべていた。

 

されどもう退く事は出来ない。

 

逃げ道もない。

 

誰も彼もがもはや逃げ道などないのだ。

 

特にジャステン中将には。

 

「第六宇宙港に市民が殺到!警備部隊もサボタージュし多くの市民が惑星外へ脱出しています!」

 

「第十師団、第二十三志願大隊、志願混合旅団壊滅!タムウィズ・ベイの地上兵団が包囲されました!」

 

「上空の第四十八、五十一、五十三機動部隊が壊滅です!第三小艦隊命令を無視し退却しもはや艦隊としての機能が保てていません!」

 

飛び交う報告はどれも最悪なものばかり。

 

前線で部隊が壊滅するか勝手に戦闘を放棄し退却し始めるかのどれかだ。

 

地上の大隊が一つ壊滅すればもう一つの大隊が勝手に撤退し始める。

 

「ラクサロンの防衛体制だけでも確立しろ!憲兵隊と憲兵将兵に連絡だ、逃亡する者は銃殺しろ!どんな理由があろうとこの星を離れる事は許さん!」

 

「分析官の報告によれば友軍の退却はどうやら組織的行動と指揮官がいる可能性が高いそうです」

 

「ならばその裏切り者をただちに見つけ出して処刑しろ!これ以上部隊を減らすわけには…」

 

「そう、これ以上あんたの自殺行為で部隊を減らすわけにはいかない。無駄な戦死なんてみんな真っ平御免だ」

 

ドアの奥から声が聞こえ二発の銃声が響く。

 

ショックブラスターにやられドア付近の二名の衛兵がばたりと倒れた。

 

残された将校や衛兵たちはブラスター・ライフルやブラスター・ピストルを司令室に入ってきた彼に向ける。

 

「まだ殺してはいない」

 

「早く脱出を、ここもそう長くはありません」

 

アーマー姿の招かれざる来客にジャステン中将は荒げた声のまま返答した。

 

「友軍すら呼べなかった無能どもめ!この戦犯が!よくもまあ抜け抜けと姿を表せたものだな!!」

 

「我々も最大限の努力をしました。それに新共和国軍の上級将校達は我々に速やかに惑星を脱出するように命じ、それはこちらのジルディール中尉が伝えたはずだが」

 

「これ以上撤退を重ねた所でなんになる!むしろ今この時こそが帝国に反撃の一撃を加えられるチャンスだったのだ!!」

 

「ですがもう手遅れです。それに生きていれば再びチャンスは巡ってくる。その為にも早く脱出を」

 

「するわけがないだろう!もはや出来るわけがない!ならば私一人でもこの場に残って戦ってやる!この星を地獄にしようと何しようと私はここを離れん!」

 

ジョーレンからは重いため息が吐き出てジェルマンは悔しそうに拳を握っていた。

 

他の将校達は俯く者もいれば生気のない瞳で淡々と作戦に従事する者と様々だった。

 

そんな中再びジャステン中将は怒鳴り散らしジョーレンにブラスター・ピストルの銃口を突きつけた。

 

「お前達は勝手に部隊を退却させた反逆者だ!もはや裁判など必要ない!!この場で銃殺してやる!!」

 

将校や兵士達の間に動揺が走りジャステン中将とジョーレンに目線が集まった。

 

ジャステン中将に同調した何人かの兵士達も同じようにジョーレンに銃口を突きつけている。

 

だがここまで来て誰しもがジャステン中将に味方するわけではなかった。

 

「やめてください中将!これ以上仲間や守るべき市民を撃ってどうするのですか!」

 

引き攣った声ながらも中将を諌めようとするのは彼の幕僚のペンディス大佐だった。

 

彼はジェタック少佐と同じで比較的最近彼の直轄部隊に組み込まれた将校だ。

 

少し前までは中佐としてキルスタ・アガト准将、戦死後名誉中将の配下だったが何度か組み替えになり今のジャステン中将の配下についた。

 

だからこそこの中ではジャステン中将の派閥に染まらず比較的まともな対応が取れていた。

 

とはいえ臆病者の彼はジェタック少佐のように真っ向から反論する事は出来ず今日まで恐怖と共に彼に黙って続いていた。

 

「エンベル准将のスターホーク級は撃沈しタイダル少将の軍団も打ち破られ彼の手持ちの兵団や師団ももはや攻撃能力はありません!まだ兵が生きているうちにラクサスから脱出すべきです!」

 

「既に連合の首脳部もこの星を脱出しました。残されているのは我々だけだ」

 

「貴様らよくもそんな勝手を…!!」

 

「勝手を敷いているのはあなたの方です!既に新共和国の司令部はラクサス市民含めて撤退命令と脱出命令を下し私はあなたに伝えたはず、だけどそれを無視するならば…」

 

「黙れ!!」

 

険しい剣幕で今度はジェルマンの方へ銃口を向けた。

 

もはや彼の耳に届く言葉は全て彼自身の否定へと変換されていた。

 

「命令を無視するんですね…」

 

「何が新共和国の司令部だ!そんなものはもうない!とっくの昔に滅びた!ペテンなお前達の命令を今更聞くものか!反逆者はお前達だ!!」

 

「既にライカン将軍含めた五名の高級将校から命令が下されています。『これ以上撤退命令を無視するようであれば逮捕または銃殺せよ』と」

 

「何…?」

 

ジョーレンは逆にホルスターからブラスター・ピストルを引き抜きジャステン中将に突きつけた。

 

ジェルマンもブラスター・ライフルを構え未だこちらに銃を突きつけてくる衛兵達を威嚇した。

 

「確かに…命令にただ従うだけではそれは意味がない。だが…だが我々は軍人だ、あなたは軍人としてやってはいけないことをやった!当然その罰はあなたが受けるべきだ」

 

ジョーレンの鋭い目つきとその一言と共にどこからか銃声が聞こえた。

 

たった一発だけだったが司令室によく響いた。

 

ジャステン中将が引き金を引いたのでもなくかと言ってジョーレンが銃殺の一発を放ったわけでもない。

 

それでも銃声は響き瞳孔が大きく見開いたままジャステン中将はピストルを落とし彼もまた斃れた。

 

一体誰が放ったのかと将校達は驚きながら辺りを見渡し誰が撃ったのか必死に調べ始めた。

 

当然この狭い室内で発砲した人間の特定など用意だ。

 

一人の若い通信士官が震えながらも両手でブラスター・ピストルを持ちジャステン中将が元いた場所にその銃口を向けていた。

 

士官の震えは止まらず斃れた中将を見ると彼はヘナヘナと自身の席へ崩れ落ちるように座り込んでしまった。

 

「ダメだったか…」

 

血を垂れ流し二度と動くことのなくなったジャステン中将を見下ろしジョーレンはそう呟いた。

 

出来れば彼も含めて一人でも多くの兵を逃したかった。

 

中将とて同じ新共和国軍人であり仲間なのだ。

 

いくら無理難題を吹っかけヒステリックであるとはいえ敵ではなかった。

 

そんなジャステン中将に向けてジェルマンとジョーレンは二人で敬礼を捧げていた。

 

短く静かな間だったがそれで十分だった。

 

いつまでも敬意を捧げているわけにはいかない。

 

一人でも多くの聖者を助け出さなければならなかった。

 

「ジャステン中将は戦死しここの最高司令官はもういない。我々の敗北は決まっている、だがだからと言ってそれに殉じる必要はない。総員撤退準備だ」

 

「司令部のハンガーベイにまだ多くの輸送船とスターファイターが残っています。護衛部隊を編成し急いで脱出してください。連合軍の緊急編成艦隊が今ごろ退路を作っているはずです」

 

士官や兵士達は頷きぞろぞろと司令室を後にし始めた。

 

中には中将の遺体を運び出そうとする者達もいた。

 

人望はなく慕われている雰囲気ではなかったがそれでも情はあったのだろう。

 

そんな中唯一ジャステン中将に真っ向から刃向かったペンディス大佐が二人に近づいてきた。

 

「ありがとう…我々など見捨ててさっさと撤退すればよかったのに。そうすれば司令部の守りは少し硬くなって他の部隊がもっと撤退できたかもしれんぞ?」

 

大佐は少しブラックジョークじみた問いを彼らに投げかけた。

 

無論感謝を込めてだ。

 

そんな問いにジェルマンは軽く答えた。

 

「我々新共和国は昔から仲間を見捨てられない主義なので。救える者は全部救いたいんですよ、たとえそれが無理だと分かっていても」

 

「そうか…そうだったな…ありがとう。それじゃあ、フォースと共にあらんことを」

 

ペンディス大佐はそう祈りのように彼らに言葉を送った。

 

彼を見送る二人も同じように言葉を返した。

 

フォースと共にあらんことを”と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝国艦隊はラクサスに大きく侵入しているせいで脱出した連合首脳部の輸送船や連合艦隊を追撃する事が出来ず後は封鎖部隊に任せざる追えなくなっていた。

 

尤もこれは代理総統が総攻撃を命じたのが原因でありもう少し長期的な戦術を取るよう支持していたら選局も変わっていただろう。

 

打撃は十分与えているものの結果的に急を要しすぎた為かなり取り残す結果となっていた。

 

一方の脱出した艦隊は三十隻の連合艦と一隻の輸送船、二隻のCR90コルベットが加わり少し戦力が増大していた。

 

総旗艦である“プロヴィデンス級キャリアー/デストロイヤー”、“プロヴィデンス”を先頭に多くの軍艦が続いていく。

 

さらに後方にはラクサスから撤退してきた新共和国軍の軍艦も増えており戦力は増加傾向にあった。

 

艦隊の司令官であるスーパー・タクティカル・ドロイドの“カラーニ”将軍が全艦に命令を通達した。

 

「各艦、防御陣を展開しスターファイター隊の展開準備。敵艦隊を突破する」

 

無機質なドロイド将軍の命令は端的なもので分かり易くもあった。

 

新共和国の艦船もある者はこのスーパー・タクティカル・ドロイドの声に驚いていたが命令に従いスターファイター隊を準備していた。

 

分離主義の遺産というのは各地に残されていてあのバーチ・テラーの反乱時にもトレンチ提督の“インヴィンシブル”などを合わせた改造艦が戦線に投入されていた。

 

だがこれほどまでの艦隊を設立するのは並々ならぬ苦労が必要だ。

 

それをこのドロイド将軍が自治連合発足時からおよそ一年半かけて作り出した。

 

本当はルクレハルク級バトル・シップなども存在していたのだがほとんどが初戦の防衛戦に回され不在であった。

 

移動しながら艦隊が陣形を作り出していると早速前方から封鎖部隊のスター・デストロイヤー艦隊が現れた。

 

艦船の塗装や様子から察するに敵は親衛隊の艦隊だった。

 

インペリアル級四隻、アークワイテンズ級六隻、ヴィクトリー級二隻、グラディエーター級一隻。

 

機動部隊、小艦隊ほどの戦力でありまだ物量面では勝っていても旧式の連合軍の艦船ばかりのカラーニ艦隊にとっては若干不利な状況だ。

 

それに後方からは少し規模は小さいもののインペリアル級一、二隻と付属艦の機動部隊が三つほど続いてきておりかなり厳しい状況だった。

 

敵艦隊は包囲陣形を展開し圧倒的な火力で艦隊を封じ込めようとしていた。

 

「こちらは第四小艦隊、ヴィザッツ中将だ。敵連合艦隊に通達する、直ちに降伏せよ。さもなければお前達の艦隊を殲滅する!」

 

されど連合艦隊からの返答はなく旗艦“プロヴィデンス”ではカラーニ将軍が「返答する必要はない」とはっきり断っていた。

 

四隻のプロヴィデンス級や後方のレキューザント級やミュニファスント級から大量のドロイド・トライ=ファイターやヴァルチャー級スター・ファイターが出撃した。

 

その様子は親衛隊艦隊の方でもしっかり確認されていた。

 

「敵艦隊、降伏には応じずスターファイター隊を展開しこちらに向かってきています」

 

「古臭い旧世代のガラクタ艦隊め、ならば引導を渡してやる!こちらもスターファイター隊を発進させ全火力で敵艦隊を叩け!」

 

インペリアル級のハンガーベイからTIEブルートやTIEインターセプターが発艦しドロイドのスターファイター隊と対峙しようとしていた。

 

対する連合側はハイネナ級ボマーも加わっている。

 

物量では若干ドロイド軍の方が優勢ではあるが性能差ではTIEラインの部隊の方がはるかに優秀だ。

 

総合的な戦力ではドロイド軍の方が不利であった。

 

されどカラーニ将軍の的確でより経験を重ねた戦術プログラムであればこの不利を一気に覆せる。

 

トライ=ファイターの何十機かが一発ミサイルを発射した。

 

親衛隊機はそれを機銃のレーザーで撃破したがこの判断は最悪の間違いではった。

 

破壊されたミサイルの中から大量のバズ・ドロイドが放出され帝国軍のTIEインターセプターやTIEブルートに取り付いた。

 

よちよちと小さな足で歩くバズ・ドロイドは若干愛らしさもあるが危険度の方が高い。

 

コックピットや機体に取り付きボディのメカニカル・アームや切削器具で機体に傷をつけ始めた。

 

とても小さなドロイドな為並みの操縦では追い払えずアームはどんどん機体を傷付け破壊していった。

 

こうして多くのバズ・ドロイドが親衛隊機を傷つけ混乱させていった。

 

中には無事な機体もいたが既に編隊が乱されドロイド軍の物量によって撃墜される機体の方が多かった。

 

それにバズ・ドロイドは機体をある程度破壊し終えると次の機体になんとか飛び移り再び破壊活動を始めた。

 

小さく致命的なダメージがこうして広がっていくのだ。

 

親衛隊のスターファイター隊は完全に麻痺してその役割をなしていなかった。

 

その間にハイエナ級と護衛機の編隊が戦闘を潜り抜け帝国艦隊へと向かっていく。

 

アークワイテンズ級やグラディエーター級の対空砲火が吹き荒れ何機か撃墜されるが全体から見たら些細な数だ。

 

ドロイド軍のスターファイターの利点は圧倒的な物量にある。

 

対空砲火をすり抜けたドロイドの編隊は真っ直ぐ主力艦のインペリアル級を目指し艦の船体やターボレーザー砲塔に魚雷や爆弾を投下していく。

 

偏向シールドの中に入ってしまえばスターファイターの方が優位であり爆撃によるダメージを偏向シールドに阻まれず直接与えられる。

 

現に爆撃を喰らった三隻のインペリアル級は強力な偏向シールドがあるのにも関わらずかなりの被害を被っていた。

 

「前衛スター・デストロイヤー三隻の被害甚大!攻撃力が45%ほど低下しています」

 

「アークワイテンズ級一隻撃沈!」

 

「ええいTIE部隊は何をやっている!!」

 

「敵の破壊工作ドロイドとスターファイター部隊に足止めされ身動きが取れない状態です」

 

「チィッ!後方の機動部隊に命令!直ちにスターファイター隊を展開し我が艦隊の支援に回れ!あんな旧型の軍隊に負けられるか!我々も直ちに砲撃開始だ!撃って撃って撃ちまくれ!」

 

インペリアル級が残されたターボレーザーや魚雷発射管による対艦攻撃が始まった。

 

無論これをただ黙って見ているカラーニ将軍達ではない。

 

プロヴィデンス”や小型モデルの“スキズマクティス”や“アドミラル・トレンチ”、“ジェネラル・グリーヴァス”がクワッド・ターボレーザー砲やプロトン魚雷発射管を向け反撃した。

 

赤色のターボレーザー砲弾と緑色のターボレーザー砲弾が交差し互いの艦に直撃する。

 

 

【挿絵表示】

 

 

両者とも偏向シールドで阻んでいたが左翼のインペリアル級はハイエナ級により偏向シールドを一つ破壊されてしまった為出力が弱く既にダメージを喰らっていた。

 

無論連合艦隊とて無事ではない。

 

敵艦の火力はかなり減衰したとはいえそれでも最新鋭のスター・デストロイヤーを四隻も相手にしている。

 

しかも後方からは五隻以上のインペリアル級が救援に駆けつけ艦隊の陣形が組まれており戦力差は未だ如何ともし難い状態だった。

 

それでも連合の希望を紡ぐ為、生き延びる為多少の損傷は覚悟の上だった。

 

だが暫くすると彼らに救いの手が差し伸べられた。

 

それに最初に気づいたのは親衛隊の艦隊の方だった。

 

「中将!ハイパースペースより艦影多数接近!敵です!」

 

「なんだと…」

 

見えるはずもない後ろをヴィザッツ中将は振り返った。

 

直後ハイパースペースからMC80スター・クルーザー一隻とスターホーク級が一隻、数十機のスターファイターが一度に現れた。

 

親衛隊艦隊の後方から。

 

「全火力を敵の中央に向けろ!少しの間でも突破口を切り開くんだ!」

 

そう命令を下したのはヤヴィン星系の現在総司令官であるライカン将軍だった。

 

彼は自ら旗艦“ストライキング・ディスタンス”に乗り込みヤヴィン星系を秘密裏に抜けられる最低限の戦力で救援に駆けつけた。

 

やはり彼も元反乱同盟軍というべきかどんなに危険な状況で一度無理だと冷静に判断を下してもチャンスが僅かでもあるならばそれに飛び込む人物だ。

 

そしてそれは彼も一緒だった。

 

Xウィングを先頭に新共和国のスターファイター隊が空を進んでいく。

 

あの男のXウィングが。

 

「ウィング・リーダーより全機!スターホークがデストロイヤーのケツを掘ってる間に俺たちは周りの小型艦を撃破する!デストロイヤー相手よか百倍楽だな!行くぞ!」

 

Sフォイルを開いたXウィングやAウィング、Bウィングの編隊が高速で敵艦隊へ向かっていく。

 

その間にも二隻のヤヴィン艦隊が親衛隊艦隊に狙いを定めていた。

 

「まずエンジンとブリッジを狙う。全砲門開け、撃て!」

 

ストライキング・ディスタンス”とスターホーク級がターボレーザー砲を放ち背後から親衛隊艦隊を攻撃する。

 

インペリアル級も八連ターボレーザー砲やターボレーザー砲を後方に回転させ反撃するが前方への砲門数が少ない為焼け石に水状態だった。

 

一方ヤヴィン艦隊の火砲はインペリアル級艦隊の最大砲火までとは行かないものの目標を一点に絞っている為十分効力があった。

 

偏向シールドを打ち破りあまり守りの弱いエンジンやブリッジにダメージを与えていく。

 

エンジンに一発ターボレーザー砲が直撃し大爆発を起こした。

 

優秀な砲手は次々と砲弾をインペリアル級に直撃させダメージを与えていった。

 

なんとか反撃しようと護衛のアークワイテンズ級やレイダー級、グラディエーター級が90°反転し攻撃に出る。

 

だがそれは迫り来るスターファイター相手では愚策でしかなかった。

 

「早速喰らえよコンチクショー!」

 

ラクティスが魚雷のトリガーを引きプロトン魚雷を一発、アークワイテンズ級のブリッジに直撃させた。

 

大爆発を引き起こし一撃でアークワイテンズ級は行動不能になった。

 

その背後を数十機のスターファイターがそれぞれ敵艦を攻撃し始めた。

 

三機のBウィングが対空砲火を繰り出すグラディエーター級にギリギリまで接近する。

 

偏向シールドと機動力により強力なグラディエーター級の対空砲網を掻い潜りプロトン魚雷やイオン砲を船の上空から食らわせた。

 

魚雷を受けた部分が大きく破壊され当たりどころが悪かったのか魚雷を六発喰らっただけで大破してしまった。

 

「タラソフ!いつものあれだ!」

 

『了解!』

 

二機のXウィングがグルグルと回転しレイダー級の対空砲網を回避する。

 

そして二機は交差しクロスを作り出すように飛び回りやがてはレイダー級の偏向シールド内に取り付きスター・デストロイヤーに比べれば貧相な装甲にレーザー砲の雨を浴びせかけた。

 

出力を高め一発一発をより強力なものへ変えレイダー級へのダメージを増やしていった。

 

そしてレイダー級のターボレーザーやレーザー砲を破壊し二機のXウィングは急速に退避した。

 

次の一撃を入れる為に。

 

損耗したレイダー級に今度は高速のAウィングが取り付き震盪ミサイルを撃ち込んだ。

 

無論それだけではない。

 

高速の迎撃機(インターセプター)であるAウィングは即座に旋回し今度はレーザー砲を浴びせ小さく大量のダメージを与えていった。

 

三機のAウィングは編隊を組んだまま右へ左へと敵艦の対空砲火を避けながら攻撃を敢行する。

 

その見事なまでの腕前はやがてレイダー級を行動不能にするどころか撃沈させた。

 

他でもBウィングがアークワイテンズ級を撃沈し別のAウィングやXウィングが迎撃に来たTIEインターセプターを撃墜していた。

 

艦隊の方も攻撃を成功させついにインペリアル級を一隻撃沈させた。

 

「このまま火力を集中させ敵艦隊を撃破する!」

 

まさかの増援と徹底的な背後からの奇襲攻撃、艦隊やスターファイター隊含めた練度の高さによりヴィザッツ中将は完全に混乱していた。

 

前衛では旧型の艦隊に押し負けている。

 

「艦隊を反転させろ!二正面戦闘だ!」

 

「ですが艦隊が反転すれば敵艦に狙い撃ちにされます!」

 

「なら爆撃機を展開して少しでも敵艦隊に打撃を…」

 

「前衛インペリアル級二隻撃沈!!旧連合艦隊真っ直ぐこちらに向かってきます!!」

 

士官が引き攣った声で報告しヴィザッツ中将も顔面蒼白という言葉が似合う程青褪めた。

 

そして恐怖心と命の保身に負けたヴィザッツ中将焦って命令を出した。

 

「退避!退避だ!直ちに現戦闘域から退避せよ!」

 

「ですが!」

 

「一旦体勢を立て直す!ともかく退避だ!早く!」

 

ヴィザッツ中将の命令により親衛隊艦隊は敵を目の前にして急いで退避という名の撤退を始めた。

 

これにより退路が切り開けた為輸送船はCR90コルベットが次々とハイパースペースに入って行く。

 

こうして小さな希望の光が未来へと紡がれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令部も撤退した、我々も潮時だ」

 

砲撃や爆撃による振動が響き砂埃が室内に舞っていた。

 

既にほとんどの部隊が全滅するか撤退しておりその為帝国軍の侵攻も波のように早く既にラクサロンの防衛部隊を突破しすぐそこまで迫っていた。

 

助けられなかった部隊も多くあったがそれ以上に本来ここで無駄死にに近い死を遂げるはずだった兵達が大勢助かった。

 

「ああ…既に部下もヴァンクス中佐も殆どが脱出した。お前ももういい、早く行け」

 

「はい…!」

 

今の今まで新共和国や市民達の撤退を指揮していたジェタック少佐はまた一人の部下を輸送船へ送った。

 

既にこの司令室にいるのも今入ってきたジョーレンとジェルマン、ジェタック少佐と部下の士官が三、四人程度だ。

 

後は帝国軍の侵入に備えて僅かに残っている警備部隊だけでそれ以外はせいぜい命令に従うことを拒否した部隊だけだった。

 

「…ジャステン中将はどうだった」

 

神妙な面持ちでジェタック少佐は上官のことを尋ねた。

 

自身を牢屋に入れかけた人物であるし上官でもあったのだから気になるだろう。

 

ジョーレンは静かにその問いに応えた。

 

「取り乱した士官に撃たれて即死だった。だが本当なら俺が撃ってただろう」

 

「そうか…やっぱりか…」

 

ジェタック少佐は少し悲しそうに俯いた。

 

やはりなんらかの情はあったのだ。

 

「我々も急ごう。もう十分だ」

 

「早くしないと制空権が失われます」

 

二人はジェタック少佐に急ぐよう迫った。

 

だがジェタック少佐はこの時何故か首を振った。

 

「私は…私はいけない」

 

「どうして!」

 

ジェルマンがかなり強めに問い詰めた。

 

「まだ部隊が残っている、それに帝国軍のストームトルーパーがもうすぐそこまで迫ってきている。誰かがここに残って足止めをしなければならない」

 

「ならドロイドに任せて…」

 

「それは出来ない。恐らくそんな事をすれば情報部や工兵隊によってハッキングされ足止めは失敗するだろう。我々がここまで技術を進歩させてしまった所以だろうがな」

 

「だからお前が残るというのか?」

 

「ああ、私は指揮官だ。どこかでどんなに弱音を吐いて諦めていても私は新共和国軍の少佐であり指揮官だ。課せられた義と務めを果たさねばならない」

 

まだコンソールを操作していた残りの士官達もジェタック少佐により合図され悔しそうな表情で司令室を後にした。

 

この瞬間も敵の攻撃による振動で軋む司令室の中でジェタック少佐は窓の方へ近づいた。

 

「私は元より死ぬつもりだった。それも絶望して諦めて死ぬつもりだった。ストームトルーパーと同じというのもその通りだと思える……だが今は違う」

 

少佐はこちらに目を向け二人を見つめた。

 

ジェルマンとジョーレン。

 

二人はこの星に来た時からまるで変わっていない。

 

諦めず常に希望を持ち続けている。

 

二人のその僅かな小さい希望は今見ると恒星のように光り輝いている。

 

だからこそ今は違うのだ。

 

「我々は…新共和国はおしまいなんかじゃない。我々はまだ終わっていない、むしろ今から始まり…“()()()()()()()()()”だ。絶望ではなく希望を持って諦めずに兵達を見送れる」

 

ジェタック少佐は二人に近づき軽く肩を叩いた。

 

「この北東戦線は我々の負けだ。だが我々はここから始まるのだ。抵抗の始まりが、新たな希望がここから幕を開ける。さあ行け!希望を繋げ!諦めずに進み続けろ!」

 

二人は変わらなかったがジェタック少佐は大きく変わった。

 

彼を包んでいた絶望は希望に変わり諦めは期待へと繋がれた。

 

だからこそ彼は最初と同じ選択を選んだのだ。

 

それでもその心情は大きく変わっている。

 

もう彼の決意を揺らぐことはできない。

 

「フォースと共にあれ、少佐殿」

 

「君達もな、大尉、中尉。フォースと共にあらんことを

 

「はい…フォースと共にあらんことを

 

言葉を交わし互いに敬礼を送り合うと振動で揺れる司令室をジェルマンとジョーレンは振り返ることなく駆け抜けた。

 

ジェタック少佐の敬礼で見送られて。

 

「さようならだ…永遠に…さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェルマンとジョーレンは走った。

 

Uウィングへと。

 

託された希望を次の場所へ届ける為に。

 

砲撃や爆撃が降り注ぐこの司令部の中をひたすらに走った。

 

あちこちで銃声が聞こえる。

 

少佐の言う通り帝国軍が侵入し始めているのだろう。

 

既に最後の輸送船は旅立ち残りはジェルマンとジョーレンだけとなった。

 

「あそこに敵がいるぞ!撃て!」

 

遠くから誰かの声が聞こえ二人の元にブラスター・ライフルの弾丸が放たれた。

 

後ろを振り返れば二人に気づいたストームトルーパーが三人ほどこちらに銃口を向けている。

 

「チッ!!」

 

ジョーレンは止まらずにA300ブラスター・ライフルで三人のストームトルーパーを撃ち殺した。

 

そして再び走った。

 

Uウィングへの停泊場へと。

 

彼らはひたすらに走りついにUウィングの中に乗り込んだ。

 

先程彼らを運んでくれたパイロットは別の機体に乗せている為もういない。

 

再びUウィングの中には二人だけとなってしまった。

 

急いでシステムとエンジンを起動し機体を浮上させる。

 

「さようならだ……大嫌いな“故郷(ホームワールド)”」

 

そう言うとジョーレンは思いっきりペダルを踏み込みUウィングを加速させた。

 

Uウィングは大空へと駆け上がり爆発や煙の影響で濁った空を進んだ。

 

当然その船体は帝国軍に発見され攻撃される。

 

二機のTIEインターセプターがUウィングに目をつけレーザー砲を放ってくる。

 

しかしジェルマンが即座に後部のタレットを起動し直撃を喰らう前に二機のTIEインターセプターを撃墜した。

 

ジョーレンも前方から迫り来るTIEブルートとTIEボマーをそれぞれ一機ずつ撃墜し進路を切り開いた。

 

ここでやられるわけにはいかない。

 

撃墜されるわけにはいかないのだ。

 

どんな無茶をしてでも希望は絶やしてはならない。

 

「このままハイパースペースに突入する!!」

 

まだ大気圏内で本来ハイパースペースに突入するには速すぎたがジェルマンは頷きコックピットのレバーが倒された。

 

Uウィングはハイパースペースへと突入しこのラクサスを後にした。

 

様々な出会いと変化があったこのクローン戦争の名残りの星を。

 

第六司令部がたった一人の将校と共に自爆し帝国軍に最後の打撃を与えたのはUウィングがハイパースペースに入った僅か後だった。

 

 

 

つづく




おいーっす!!

私 だ


多分これが今年最後の第二次銀河内戦投稿になるんじゃないかなと思います
いやまさか半年ちょっとでここまでやるとは思わんかったぜ…ほぼ一年やってたfleet admiralシリーズと大体同じ和数じゃんか…
一応これで「北東戦線〜」は区切りですね
みなさんメリークリスマスってことで



マインラート「そういえばお父さん今回出番言及だけだったね」
ジークハルト「主人公なのにねー」


???「ス パ イ ス で す わ !」


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past


人が救われた分だけ救われなかった世界が生まれる

人が救われなかった分だけ救われた世界が生まれる

なら君はどこにいる

救われたか

救われなかったか

いや救いなどないのだろう

きっとそれも“見方の問題”だ

なら彼はどこにいる

私はどこにいる

虚しいな、何かがあるようで何もないようだ


「…どうせ無惨に死ぬだけだ、何も得ぬまま…何も守れぬまま…」

 

アカデミーを卒業して初めて父に掛けられた言葉がこれだった。

 

背を向け父はじっとホログラムの何かを見つめている。

 

そこに我が子の晴れ姿を喜ぶ姿は微塵もなかった。

 

中尉の階級章と卒業メダルにさえ目を向けようとしない。

 

「でも父さん…!僕は…!」

 

「お前が…どんな階級でどんな勲章を持っていようと無駄だ。どうせ何も出来ん」

 

昔はこんな事言う人ではなかった。

 

かつてはジュディシアル・フォース、共和国軍で叩き上げの前線指揮官として名を馳せた父だ。

 

クローン戦争にも参戦し当時としては珍しい通常の地上指揮官としてクローン・トルーパーを率いて戦った。

 

父親としても常に我が子を愛し家族に一生懸命だった。

 

だがある日から父は突然変わってしまった。

 

あれはまだ僕が十歳の時だ、突然やる気をなくし軍を引退し家に篭るようになってしまった。

 

親友で戦友であったフリズベン少将にすらまともに会おうとしなくなった。

 

やがては実の息子とも疎遠になった。

 

母を失ってもなお戦い続けた父だ、きっと何か大きな理由があるはずだ。

 

だがそんな事よりも僕は……どうしても父に認めて欲しかった。

 

父が進んだ道は間違いではなかったと証明したかった。

 

十二歳の頃帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミーに一人で入学したのもその為だ。

 

それこそフリズベン少将や様々な人に迷惑を掛けたし危うい目にも遭ったが。

 

そうして遂に卒業した。

 

来週からは中尉として部隊に配属される。

 

その前に父に報告したかった。

 

だが実際は認めて欲しかったのだ。

 

「僕は父の道を進んでここまでやれた」、「父さんの進んだ道は間違いじゃなかった」。

 

だがそんな幻想は一瞬で潰えた。

 

憖甘い夢を持っていたから父の最初の一言は強烈だった。

 

「私もそうだ…何も出来なかった。何一つ守れなかった」

 

声音には落胆と怒りが入り混じっていた。

 

こちらに表情は向けないがきっと笑みはないだろう。

 

「でも僕は…僕は父さんが…“バスティ・シュタンデリス”が父だったからここまでやれたんだ!ずっと父さんと母さんが側にいるような気がしたから心が折れなかったんだ!」

 

「ならその“()()()()()()()()()()()()()()は何が出来た?母さんは守れたか?戦場で部下を守れたか?勝利の犠牲に見合う成果を挙げられたか?お前がアカデミーに行くのに何か少しでも手助けしたか?父としての責任を果たしたか?いいや何もしていない!!何一つ守れなかった!!何一つなし得なかった!!何も……」

 

父は涙を浮かべ僕に迫った。

 

胸ぐらを掴むわけでもなく殴るわけでもなくただひたすらに気迫のみで。

 

そして俯きながら僕の肩を掴んだ。

 

こんな父は母の葬式以来だ。

 

父はいつも僕だけに涙を見せた。

 

常に気丈に振る舞い人が望むバスティ・シュタンデリス准将の姿を演じ続けてきた。

 

父は先程とは違い弱々しい声で僕に懇願した。

 

「お前まで…私のようにならないでくれ……“ジーク(我が子)”…お前まで苦しまなくていい……お前は私の…」

 

今になってこの言葉の意味がよく分かる。

 

かつて私がまだ幼い頃に父が見せたような笑みを我が子に浮かべながらつくづくそう思った。

 

 

              『最後の希望なのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局あの後僕は何も言い返せず家を出た。

 

父さんを貶す事も慰める事も僕には出来なかった。

 

父さんはずっとすまないと謝っていた。

 

家を出ると一台のスピーダーが停まっており父の親友で恩人のフリズベン少将が待っていた。

 

僕が暗い表情を浮かべているとフリズベン少将も苦笑を浮かべていた。

 

どこかこうなる事が分かっていたように思える。

 

僕なんかよりも父との付き合いがないフリズベン少将だ、なんとなく分かるのだろう。

 

「やはり…か」

 

何も応えようとしない僕にフリズベン少将はそう優しく声を掛けた。

 

僕は今にも泣きそうな表情で頷いた。

 

少将は微笑を浮かべたまま僕を手招きした。

 

「バスティは…君のお父さんは私達が思っているよりずっと繊細で、優しすぎたんだ。誰もそれに気付けなかった。悪いのは私達だ…苦しむ彼に誰も気付けなかった。君のせいじゃない、私達が全て悪いんだ」

 

僕はもう父と同じく涙を浮かべていた。

 

そんな僕にフリズベン少将は優しく促した。

 

「久しぶりに私の家においで、少しばかりではあるが歓迎しよう。娘も君に会いたがってるはずだ」

 

僕は小さく頷きフリズベン少将のスピーダーに乗り込んだ。

 

これはまだ第三銀河帝国も新共和国も誕生する兆しのない時代の事。

 

僕が……私が、ジークハルト・シュタンデリスが軍人としての一歩を踏み出し始めた頃だった。

 

父の嘆きなど理解出来る筈もなく私は父と同じ道にまっすぐ突き進もうとしていた。

 

そこに迫る邪悪な運命を知らずに。



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第二次銀河内戦/前日年表

「諸君、我々は今悲劇の当事者になろうとしている。諸君、我々の帝国は今、敗北し新共和国の属国と成り下がろうとしている。これは我々が初めて体験する惨劇であり我々の祖国がなくなろうとしている悲劇である。ジャクーの帝国軍は我が命を捧げ必死に新共和国に喰らい付いているがもはや長くない。このままでは本当に帝国は敗北し見るに目も当てられない属国と成り下がってしまう。屈辱を耐え忍び再び再起の日を見る事すらも出来ない哀れな姿となってしまうのだ。皇帝陛下が、先代達が、諸君らが守り抜こうと今日まで命を捧げてきた帝国が終わろうとしているのだ。何故こうなったのか?新共和国のせいか?いや、恐らくは違うだろう。帝国があのエンドアの惨劇の後急速に衰退した理由は新共和国に敗れたからではなく軍将達が自らのエゴと利己心を推し進めたせいだ。つまり我が祖国、銀河帝国は“背後の略奪者”によって敗北の烙印を押されたのだ。内側にいた愚かな略奪者達によって。これは悲劇であり、屈辱であり、惨劇だ。この銀河の全てを治めまだ見ぬ敵とも戦い平和を生み出せる唯一の国家が、我々の祖国が、諸君らの故郷が裏切り者の略奪者によって滅びへと向かっているのだ。それでいいのか?それで諸君らは満足か?耐え忍び三十年後への復讐の為に待ち続ける時間をこのまま肥溜めのような場所でのうのうと使ってしまうのか?いいや、違うはずだ。諸君らも私も皆が違うはずだ。諸君らは何の為に声を殺し、足音を殺し、静かに密かに途方もない苦労を重ねながら我がベアルーリンまで来たのだ?私が呼んだからか?確かに諸君らは私の沈黙の言葉に耳を傾けてくれた。だが本質的には違うはずだ。諸君らはまだ諦めていないからだ、私と同じように。帝国を護らんと立ち上がり最後の戦いに赴こうとしているからだ。その為にこれだけ多くの仲間が集まった。周りを見渡せ、皆の目は同じ目をしている。帝国の為、祖国の為に我が命を賭けんとする真の兵士の目だ。ハッキリと言おう、我々がここで事を起こしたとしてももはや帝国の痛みは、敗北は覆せん。だが我々が立ち上がることは無駄ではない。我々が立ち上がり油断し切った新共和国に対して最後の一撃を加え帝国を存続させる事は無意味ではないのだ。帝国が残れば、いずれ、やがていつかはと我々を望む声が銀河から聞こえてくるはずだ。遺された我々の使命はそこにある。帝国を残せ、帝国を存続させろ、帝国の明日を、未来を掴め。それが我々の使命、諸君らが途方もない苦労とこれから命を賭けて戦う目的だ。この作戦は帝国を存続させる事にある。これが本当に最後の戦いだ。現在戦力の多くをジャクーに展開した新共和国は丸腰に近い。しかし我々は諸君らが結集してくれたお陰でこの銀河系で最大の戦力を誇っている。そして我々の勝利基準は帝国を存続させる事、我々は勝てる。我々は勝てるぞ諸君。諸君らは配置された場所は違えど今日まで生き残った古兵達だ。諸君らは皆同じ帝国の同志だ。新共和国の雑兵どもとは違う、我々には皇帝陛下が遺した力と規律があり規律あるされた力は必ず敵を打ち破る。作戦が成功し帝国が存続した後、私はいくらでも罪を背負い、汚名を背負い帝国を護ろう。だから諸君らは存分に戦いこの一瞬に命を賭けてくれ。この歴史の間に諸君ら英雄と帝国の名を残すのだ。我々はまずコルサントを取り戻し新共和国と対峙する。戦場はすぐ近く、敵はすぐそこだ。勝利はすぐそこにある。諸君、出発の時間だ。私に続き帝国を遺そう。三十年後のいつかに我々が再び立ち上がるその日まで、私は命ずる。カイゼルシュラハト作戦を開始せよ」
-モフパウルス・ヒルデンロード元帥による“背後の一突き演説”-


私 だ

 

どうも〜一般インペリアリストのEitoku Inobeです〜

 

普段はクソ真面目にナチ帝国を投稿しておりますが今回は少し変わってナチ帝国、つまり第二次銀河内戦の前日談の年表になります

 

範囲的に言えば4ABYから7ABYのコルサント臨時政府に対する宣戦布告までです

 

まあ要するに本編開始直前までって事ですね

 

ちなみにこの中にはある種今後の展開やキャラへのネタバレ的要素もありますがそれはヒントという事でお楽しみになるか目瞑ってください

 

またいい展開が思いついたら適当にこの年表を変えていくかもしれないのでその辺はご了承ください

 

そいでわ、どうぞ〜

 

 

 

4ABY

エンドアの戦い勃発、帝国軍が歴史的大敗を喫する

 

レイ・スローネ中将がエンドア全域の帝国軍に撤退命令を下す

アイガー司令官率いるテンペスト・フォース及びヴィアーズ将軍率いるブリザード・フォースなど一部がエンドアに取り残される

 

同時刻、ゴットバルト・バエルンテーゼ将軍麾下の部隊がアウター・リムの反乱惑星を鎮圧

ジークハルト・シュタンデリス大尉が上級大尉に昇進する

 

戦闘より四時間後、エンドア大敗の報せが秘密裏に帝国首脳部に伝達する

 

ベアルーリン宙域軍司令部から周辺域の帝国軍全軍に召集命令が下される

 

同様にサンクト宙域軍司令部から周辺域の帝国軍全軍に召集命令が下される(軍将体制の暗黙化

 

インペリアル・センター(コルサント)のマス・アミダ大宰相から各宙域のモフに召集命令が下されるが殆どが命令を無視する

 

1日後、インペリアル・センターにおいて大宰相主催の下第一回緊急会議が開かれる、しかし議会は崩壊し事実上帝国が分裂する

また議会の決定においてマス・アミダが代理皇帝に就任する(傀儡皇帝の誕生

参加者数

各宙域のモフ 15人

地上宇宙軍元帥 1人

帝国宇宙軍提督 18人

帝国地上軍将軍 16人

COMPNOR各局長官 3人

その他官僚 21人

インペリアル・センター上空のエグゼクター級“ラヴェジャー”においてガリアス・ラックス元帥が秘密裏に特別会議が開かれる

参加者数

各宙域のモフ 27人

地上宇宙軍元帥 1人

帝国宇宙軍提督 33人

帝国地上軍将軍 30人

COMPNOR各局長官 3人

その他官僚 54人

 

秘密裏に皇帝死後の特殊指令、“シンダー作戦”が発令する

 

シャンドリラ革命勃発、シャンドリラが独立する

 

反乱同盟臨時政府“自由惑星同盟”誕生、エンドアで再び全軍を集結させる

エンドア会議により帝国に対する継戦が確定する、一部同盟軍が離反する

 

バエルンテーゼ将軍とフリズベン将軍の隊が所属宙域のノートハーゼン宙域に帰還する

 

反乱同盟がシャンドリラ臨時政府を併合、惑星シャンドリラを首都として新共和国が誕生する

 

鉄の封鎖の開始、アノート宙域が封鎖される

 

各地に帝国残存勢力が形成される(軍将体制の確率

 

バラマック攻撃、現地の帝国軍が惑星バラマックの穀倉地帯を破壊

 

ホズニアン革命勃発、新共和国の支援を受けたホズニアン革命勢力が現地の帝国軍を打ち破る

ホズニアン・プライムが新たに新共和国領に加わる

 

シンダー作戦の一環としてラックス元帥がヴァリン・ヘス将軍の師団を惑星バーミン・コン攻撃に差し向ける

 

トルーテン・テラドク提督がマルドルード宙域を制圧しグレーター・マルドルードを創設する

しかし麾下艦隊のハイパースペースシステムが異常を起こし宙域から領域の外へ進出出来なくなる

 

新共和国軍が惑星クワットに攻撃を仕掛けるが防衛の為配置されていたベアルーリン宙域艦隊により阻まれ失敗する

クワットより二隻のベラトール級と九隻のインペリアル級と四隻のテクター級、十二隻のヴィクトリー級と一隻のセキューター級が贈呈される

 

新共和国情報部、艦隊情報部によるディスターバンス作戦開始

 

シンダー作戦の一環によりデヴァロン攻撃

 

同じくシンダー作戦の一環によりケイト・ニモーディア攻撃

 

ノートハーゼン宙域総督府、宙域封鎖令を発布

 

軍将カプランと軍将クレイヴンの間で戦闘が勃発する

 

ディープ・コア第十五予備艦隊がノートハーゼン宙域に戦闘を仕掛ける(ノートハーゼンの小戦闘

 

ハンバリン宙域、艦隊戦力の全権をバロー・オイカン提督に譲渡し上級提督に昇進する

 

惑星マラステアがケナー・ローリング大将軍の支配下に置かれる

 

ハースク提督の艦隊がベアルーリン宙域に攻撃を仕掛けるが失敗する(ベアルーリンの戦闘

 

エリアドゥ帝国残存勢力が大セスウェナ連邦として独立、表向きは中立だが密かに他帝国残存勢力を支援し始める

 

ベアルーリン宙域のモフヒルデンロードとラックス元帥の会談がベラトール級“マルクグラーフ”にて行われる

 

ディスターバンス作戦によりメイヴェルギットの戦いに勝利

中央政府の軍事力が激減し軍将が単独で新共和国を撃破する事が事実上不可能となる

 

コルサント本国防衛艦隊の一部が離反、多くの部隊や官僚、ロイヤル・アカデミー生徒を連れ突如姿を消す

 

ボーターの戦い勃発、ノートハーゼン宙域から派遣された部隊が勝利する

 

コルサントの度重なる戦力低下によりコルサント内戦勃発

 

ベアルーリン宙域とノートハーゼン宙域の帝国軍同士で秘密裏に同盟が結ばれる(誓いの忠誠同盟

 

ラックス元帥率いる残存第一艦隊が暴徒化した帝国軍第八コロニーズ警備機動部隊と新共和国第四艦隊を撃破(ゴーマン会戦

 

エリンメルヒ・タッグ上級将軍のベラトール級“ノイ・アナイアレイター”を旗艦とする数百隻の亡命艦隊がサンクト宙域に集結する

 

宙域周辺の海賊艦隊を撃破する(ヒルデンロードの大鎮圧

 

ヴィンダリアの戦い勃発、ブリーズ・ストライン少将の情報戦略により奇襲を受け帝国軍のコロニーズ艦隊が史実上壊滅する

 

ノートハーゼン宙域の第十三外縁衛星が新共和国の攻撃受けるが駐留していたシュタンデリス大尉の麾下部隊により阻まれる(第一次十三防地の戦い

シュタンデリス大尉が特例で少佐に昇進し一個大隊を任される

 

ディープ・コア第十五予備艦隊とハースク提督の艦隊がノートハーゼン宙域に攻撃を仕掛ける(ノートハーゼン会戦

しかしハンバリンから代理指揮官として送られてきたエルヒルト・レイター提督の指揮により両艦隊は多大な損失を受け撤退、以降行動範囲が著しく制限される

 

タイオン・ヘゲモニーの戦い勃発、周辺域の帝国軍を撃滅したが領域は旧独立星系連合の政府官僚や残党の手に渡った

 

ラクサス自治連合誕生

 

ハット・スペース中の帝国軍がケッセル星系周辺に結集するよう命令が下される(ケッセル防衛の結集

 

ハルファン・ヘリック情報部中将がホズニアン・プライムの艦隊情報部にハッキング攻撃を仕掛ける(ヘリック艦隊への急襲

しかしジェルマン・ジルディール候補生により逆に位置を暴かれ新共和国艦隊の攻撃を受け戦死する、帝国情報部の諜報能力が大きく衰える

 

ラムダ宙域の戦い勃発、同宙域の帝国軍勢力が壊滅する

 

ヴェントゥインの戦い勃発、新共和国軍と帝国軍の痛み分けに終わる

 

惑星オーリンで帝国軍同士の戦闘が勃発する

 

再び第十三外縁衛星に新共和国軍が攻撃を仕掛けるがシュタンデリス少佐率いる防衛部隊により阻まれる(第二次十三防地の戦い

 

惑星アトリシアでラックス元帥率いるエグゼクター級“ラヴェジャー”の小艦隊の攻撃受け新共和国艦隊の一部が撃破される(アトリシアの戦い

 

アキヴァの反乱により帝国の権威が更に低下する

この時点で帝国と新共和国のコア・ワールドからインナー・リムまでの支配率が逆転する

 

サンクト宙域の全軍、全市民が一斉にチス・アセンダンシーへと亡命する(帝国の大亡命

 

誓いの忠誠同盟にハンバリン宙域軍が加えられる

 

モフヒルデンロード、秘密裏に同盟諸邦より宇宙艦隊の招集を呼びかける(沈黙の艦隊招集令

 

惑星クワットより秘密裏にベラトール級三隻、インペリアルⅡ級十二隻、テクター級五隻、十五隻のヴィクトリー級、四隻のセキューター級が建造されモフヒルデンロードに贈呈される

マンデイターⅡ級“グレート・オブ・クワット”がベアルーリン宙域に仮借される

 

少佐への正式な昇進の為にシュタンデリス臨時少佐が惑星ノートハーゼン本国へ召還される

 

新共和国軍、ノートハーゼン宙域とベアルーリン宙域を最重要攻撃目標に認定する

 

 

 

 

5ABY

新共和国艦隊がモン・カラ防衛艦隊などと合流しベアルーリン討伐艦隊を結成する

 

新共和国軍、ノートハーゼン宙域へ本格的な攻撃を開始(ノートハーゼン攻防戦

 

新共和国地上軍ライカン・プラン、新共和国宇宙軍アクバー・プランを発令、史実上各惑星防衛軍が新共和国軍の指揮下に入る

 

赤色流血事件勃発、シス教信者のテロにより市民、新共和国の軍官僚や官僚含めた2,400人が死亡する

 

ジュートラド会戦によりベアルーリン討伐艦隊が壊滅、新共和国軍はベアルーリン宙域の攻略を断念する(第二帝国最初の奇跡

ベアルーリン連合艦隊も打撃を負ったかに見えたがダミーであり全戦力はほぼ無傷であった

 

ガリアス・ラックス元帥が史実上第一銀河帝国皇帝となる(帝国破滅の助言者

 

ライオサ事件勃発、テロリストにより政府の官僚14人が殺害される

 

ガタレンダ事件勃発、首相が自爆テロに巻き込まれ殺害される

 

新共和国地上軍の五個師団が第十三外縁衛星に上陸し現地の防衛大隊とフリズベン将軍の救援部隊と戦闘になる(第三次十三防地の戦い

新共和国軍を押し返し宙域攻略を一時的に断念させるがシュタンデリス少佐が不在であった為防衛大隊の代理指揮官含めた大隊員半数が戦死する

 

新共和国、加盟国内に臨時徴兵制を発布

新共和国の支持率が24%ほど低下する

 

亡命帝国軍、チス・アセンダンシー防衛軍と共にチス領を大幅に拡大する(チスの大繁栄

 

クワット・ドライブ・ヤード社の戦い勃発、救援に駆けつけたハンバリン連合艦隊により新共和国の攻撃は阻止される

 

ナンツ・プラン始動、新共和国防衛艦隊が大幅に拡大される

 

モフリーデンドルフが病死、遺言により後継はフリズベン将軍に推薦され全軍をベアルーリン宙域へ亡命するよう命じる

新共和国軍が再度攻撃を仕掛けるもフリズベン将軍とバエルンテーゼ将軍により阻まれる(新共和国追撃戦

フリズベン将軍が上級将軍に昇進する

 

惑星アウシュから帝国軍が撤退する(アウシュの虐殺

 

ローリング大将軍がラックス元帥との権力闘争に敗れマラステア周辺から動けなくなる

 

ヴィアーズ将軍率いるエンドア脱出部隊が多くの帝国残存勢力を急襲し惑星デノンに到達する

 

ミューヘル一揆勃発、元帝国軍人や捕虜が暴動を起こすが鎮圧される

しかし首謀者や一部の参加者が脱走する

 

モフヒルデンロードとラックス元帥が再び会談する

 

ノートハーゼン宙域、ベアルーリン宙域へ亡命を開始

新共和国艦隊とワイズ提督に差し向けられたルイタル提督の攻撃を受けるが殿のフリズベン上級将軍の部隊が全滅しながらも両艦隊を殲滅する(ノートハーゼンの殲滅戦

 

ラックス元帥の艦隊が惑星ジャクーに結集し始める

 

シャンドリラ攻撃ホズニアン・プライム攻撃が同時に勃発し新共和国の中枢機能が一時的に麻痺する

 

モフヒルデンロード、密かに周辺や重要領域を統治する帝国残存勢力に特殊作戦を発令する

 

ノートーハーゼン軍の亡命が秘密裏に完了、ラックス元帥のジャクー帝国残存勢力と並んで残存帝国の最大勢力となる

 

ジャクー攻撃準備の為真共和国軍が独断で惑星防衛軍などの友軍を参集し始める

 

新共和国軍、新共和国元老院の命令を無視し独断でジャクー周辺に包囲網を展開

三時間後元老院でジャクー攻撃が決定され新共和国軍の総戦力2/3が出撃する

 

デノンでヴィアーズ将軍「最後の一働き演説」を行いデノン防衛軍共々モフヒルデンロードの呼びかけに応じる事を決意する

 

ローリング大将軍、秘密裏に保有戦力の2/3を率いてマラステアを出立する

 

大セスウェナ連邦、義勇軍を組織し密かにベアルーリン宙域に展開し始める

 

同様にクワット政府も義勇軍を組織しベアルーリン宙域に展開する

 

ハンバリン防衛艦隊、ベアルーリン宙域に到着

 

グランドモフランドによる「最終決戦演説」が行われジャクー帝国残存勢力が完全に編成される

 

ジャクー攻撃総司令官のギアル・アクバー元帥による「最終戦争演説」が行われ攻撃主力部隊が包囲線に到着する

 

ジャクーの戦い勃発、序盤新共和国軍は苦戦したが物量と帝国軍の隙を突き戦いを優勢へと進める

しかし予想外の抵抗により攻撃部隊が完全にジャクー攻略に専念する

 

ベアルーリン宙域に呼びかけに応じた勢力の三倍以上の戦力が結集する

モフヒルデンロードの「背後の一突き演説」と共にカイゼルシュラハト作戦が発令、全軍がインペリアル・センター含めた周辺域の確保に乗り出す

 

帝国軍、コルスカ宙域含めた周辺域の確保に成功し亡命しかけたマス・アミダを捕らえる

 

オイカン上級提督、シュメルケ提督、レイター提督、パワー提督などの連合艦隊がホズニアン、シャンドリラの新共和国防衛艦隊を次々と撃破する(コア・ワールドの大会戦

 

同様にヴィアーズ将軍、バエルンテーゼ将軍、モフヒルデンロードらが率いる帝国地上軍が新共和国地上軍を撃破する

またローリング大将軍のスターファイター隊が多角的な攻撃により新共和国軍スターファイター隊を無力化する

 

ジャクー攻撃部隊敵主力を撃破するが残党の反撃に遭い戦線が停滞する

 

コア・ワールド中の新共和国軍が防衛線を展開しようやく帝国の侵攻を止める

 

モフヒルデンロード、新共和国側に終戦協定を申し込む

 

モン・モスマ議長、残存帝国との講和に応じ停戦条約を締結する(コルサント平和条約

 

銀河内戦が終結する

 

カイゼルシュラハト作戦が成功、現状戦力を維持したまま優位な条件での停戦条約を締結することに成功する

 

銀河全域から帝国軍の残党がベアルーリン宙域を目指し始める(ベアルーリンへの亡命

 

二ヶ月後、ジャクー攻撃部隊の全軍がコア・ワールド内に帰還する

 

残存帝国と新共和国の間で銀河協定が締結され元より遥に狭い領土ではあるが飛地を含んだ広大な領域と権威を維持したまま帝国が存続する

しかしコルスカ宙域を含むコルサント周辺はコルサント臨時政府のものとなる

 

残存帝国が第二銀河帝国と名称を変えモフヒルデンロードが代理首相に就任する

 

新共和国、第二帝国に三ヶ月封鎖令を言い渡す

三ヶ月以内に領域内に辿り着かない場合旧帝国の亡命勢力は亡命を拒否される

 

COMPNOR宣伝省が立ち上げられ後の代理総統が宣伝大臣に就任する

 

新共和国、半ば強制的に第二帝国と銀河軍縮条約を締結し変わりに捕虜となった全帝国将兵の解放を要求する

両軍九割軍縮が決定する

 

第二帝国、領域内の惑星に惑星保安軍を設立し軍縮分の戦力を分配し始める

 

帝国軍が帝国国防軍と名称を変えストームトルーパーを除いた防衛向きの軍隊へと変化する

 

第二帝国領内への不法亡命が続出する

 

新共和国、反対派を押し切り第一次軍縮計画を可決する

しかし帝国の危機に備え一割の軍縮に留まった

 

新共和国、戦力の三割を各惑星防衛軍に分配する

 

第二帝国、首都惑星をベアルーリンに移転する

 

宣伝大臣が惑星マラステアで初の演説を行う(代理総統最初の声明

 

COMPNOR上級委員のハインレーヒ・ルイトベルン・ヒェムナーと宣伝大臣が帝国軍の一部高官に特別私兵軍の設立を提案する

 

各地の帝国残存勢力が自軍戦力を接収し各地に独立国を建国し始める(軍将国家の乱立)

 

新共和国、第二次軍縮計画及び第一次防衛軍強化計画を実行

新共和国軍保有戦力の一割が解体され残り三割が格惑星防衛軍に譲渡される

 

第二帝国、第一次戦時復興計画及び経済回復計画を開始する

 

シュメルケ上級提督やフューリナー将軍らがチェンセラー・フォース・プランを提出する

後の親衛隊、チェンセラー・フォース(Chancellor Force)が誕生する

 

延期されていた帝国の日パレードが第二帝国内で行われヒルデンロード首相が正式に首相演説を行う

同時期にヴィアーズ将軍、オイカン上級提督が元帥に昇進しシュタンデリス少佐も中佐に昇進する

 

新共和国、対帝国戦勝パレードを行う

作戦の功績を認められストライン少将が中将に昇進しジルディール候補生が特例で短期の中尉卒業する

 

大セスウェナ連邦がクワット政府と秘密裏に会談を行う

 

新共和国軍、大セスウェナ領域近くに部隊を展開する

 

新分離主義連合の盟主であるラクサス自治連合国家主席にアヴィ・シン元元老院議員が就任する

 

チェンセラー・フォースの司令官にシュメルケ上級提督が就任し階級を上級大将と改める

 

モスマ・プラン導入、新共和国領内の戦時復興が加速し非帝国地域の中立国加盟が一時的に増加する

 

第二次コレリアン革命勃発、コレリア社会党が一時的に政権を自立するが新共和国軍によって鎮圧される(13日革命

 

ニュー・コヴ=カラーバ紛争勃発、周辺の惑星防衛軍が対処にあたった為新共和国軍は出動しなかった

 

シャンドリラ事件勃発、自爆テロにより新共和国軍官僚3名が死亡する

 

宣伝大臣、惑星ベアルーリン本星で演説を行う

 

モン・モスマ議長が今年一杯で議長を引退する事を表明する

新共和国法に基づき新首都決定の特別会が元老院で開かれる

 

新共和国次代議長を決める投票が全銀河系で行われる

 

エリンメルヒ・タッグ上級将軍、ヴィルヘルム・フェル上級将軍、チス・アセンダンシーのルーリング・ファミリーにインペリアル・ファミリーとして選ばれる

 

バエルンテーゼ将軍が全職を他の将校に譲り退役するがシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将によりチェンセラー・フォースに大将として入隊する

 

帝国情報部がエグゼクター級“アナイアレイター”の所在地を発見し密かに奪還計画が練られる

 

モン・モスマ、新共和国議長を引退し後任の議長に引き継ぐ

 

新共和国の次の首都惑星がホズニアン・プライムに決定される

 

モン・モスマ前議長が引退演説を行う

 

第二帝国ヒルデンロード首相よりメッセージが送られる

 

新たな新共和国議長が就任する、新共和国軍最高司令官にギアル・アクバー元帥が再び就任しモスマ前議長の政策を引き継ぐ(モスマ主義者の誕生

 

フォンドア内紛勃発、親帝国派と政府保安隊が衝突する

 

新共和国、首都機能の80%が移転完了する

 

ジークハルト・シュタンデリス中佐に親衛隊の移籍勧誘が行われる

 

宣伝大臣、第二帝国飛地領内の惑星ゴースにおいて演説を行う

翌日からソリライド生産量が通常の7.1倍増加する

 

 

 

 

6ABY

正体不明の武装勢力により惑星ボタジェフが封鎖される(ボタジェフ危機

ボタジェフ政府は新共和国でなく第二帝国に援軍を要請し帝国議会の決議により帝国宇宙軍の機動部隊が派遣され鎮圧される

 

新共和国は銀河協定違反と非難するが特例である為違反とみなされなかった

 

惑星ゼヘスの議会の決議により惑星ゼヘスが第二帝国に加盟を求め帝国側も協定違反ではないとし了承する(協定予想外の領土拡大法

 

ジークハルト・シュタンデリス中佐がチェンセラー・フォースへの移籍を承諾し麾下部隊も多く彼に続いた

 

宣伝大臣、チェンセラー・フォース隊員達に演説を行う

 

チェンセラー・フォース保安隊が設立、初代長官としてヴェラントール・ディールスが就任する

 

宣伝大臣、再びベアルーリンで演説を行う

国内調査では彼の演説後政府に対する支持率が36%上昇し政府、軍部内でも多大な人気を集める

 

コルサント臨時政府、経済破綻の可能性が大幅に高くなり失業者も24%増加する(捨てられた首都

 

惑星ジンディンが現地の防衛軍クーデター派により一時的に占拠される(ジンディン危機

周辺域の新共和国機動部隊が鎮圧するが防衛軍クーデターは衝撃的なものだった

 

新共和国元老院で新共和国中央軍の軍拡が提案されるが意見がまとまらず却下される

 

惑星イセノが第二帝国に加盟する

 

新共和国国防大臣で現役武官制度が条件付きで認められる

 

帝国領内の不法亡命者達の100%がチェンセラー・フォースに組み込まれる

 

チェンセラー・フォース、地上隊(Army Force)宇宙隊(Navy Force)が確立する

 

COMPNOR委員、軍部、大臣の一部から宣伝大臣を副首相に任命するよう推薦状がヒルデンロード首相に送られる(影の総統

しかしヒルデンロード首相はこの推薦状を拒否する

 

ヒルデンロード首相、宣伝大臣をCOMPNOR長官に任命し副首相にはミーヘルツ・バールベンが任命される

 

COMPNOR長官、ベアルーリンでヒルデンロード首相と共に就任演説を行う(皇帝への忠誠演説

 

大セスウェナ連邦軍が新共和国加盟国の惑星防衛軍と軍事衝突に陥る(セスウェナ接触危機

しかし連邦軍が反撃し敵惑星を完全に制圧した事により戦闘は終結し加盟国領土が大セスウェナ連邦に併合される

 

新共和国、大セスウェナ連邦付近及び周辺域に本格的に軍を派遣する

 

惑星カターダが第二帝国に加盟し新共和国の危機感が強まる

 

新共和国、第二次軍拡法案が元老院にて提出されるが過半数の票数を得られず却下される

しかし軍備縮小には非常時のストップがなされる

 

カターダ一揆勃発、親共和国派が蜂起するが駆けつけたチェンセラー・フォースにより鎮圧される

 

チェンセラー・フォース、臨時の試験徴兵を飛び地領内のみで密かに実行する

 

新共和国、惑星防衛軍非常時動員法が強行採決される

 

チェンセラー・フォース上層部とCOMPNOR内での不和が広がる

 

夜の流血事件勃発、チェンセラー・フォース上層部とCOMPNOR委員の何人かが反逆罪で即時銃殺され失脚する

 

ヒルデンロード首相、混乱の鎮圧をチェンセラー・フォース司令官、COMPNOR長官にそれぞれ命令し軍部と保安軍の出動用意を命じる

 

新共和国、第三次軍拡法案が元老院にて提出され強行採決まで行われるが過半数の賛成が得られず却下される

 

新分離主義連合、企業星系連合と共に非常時保護条約を締結(分離主義同盟

また新分離主義連合は軍備拡大と新兵器開発を密かに開始する

 

大セスウェナ連邦、臨時徴兵制を実行する

 

ヒルデンロード首相、ベアルーリンの首相執務室にて爆破テロに巻き込まれ暗殺される(長い沈黙の夜事件

官僚や兵士またヒルデンロード首相の家族数十名が爆破に巻き込まれ死亡する

 

COMPNOR長官、直ちに臨時議会を招集する

 

第二帝国、ヒルデンロード首相の遺言状及び議会の賛成多数によりCOMPNOR長官を新首相に任命される(第三帝国の産声

しかしCOMPNOR長官は皇帝と首相の代理総統という立場を取る

 

帝国領内全土に二週間の喪服が命じられる

 

ヒルデンロード首相の葬儀が執り行われクローン戦争期に大勝を得たターネンベルグ戦勝記念碑に埋葬される

 

代理総統、ヒルデンロード首相の葬儀演説を行う

 

人間種を限定に数千人の政治犯や軽犯罪者に恩赦が出される

 

COMPNOR長官にヒェムナーが就任する

 

宣伝大臣にヨーぺゼフ・ゲルバルスが就任する

 

チェンセラー・フォースが親衛隊(フューラー・フォース)と改名される

 

新共和国から哀悼の意が贈られる

 

首相暗殺より三週間後、代理総統が就任演説を行い銀河内戦における新共和国の姿を批判する(対新共和国路線の固定

 

親衛隊の試験徴兵を帝国本土まで広げる

 

第二帝国、三ヶ月封鎖令と銀河軍縮条約を拒否する

 

第二帝国、国防軍、親衛隊の両方がストームトルーパー兵団を復活させる(旧帝国文化の復活

 

新共和国、第二帝国の急速変化に対抗し再び軍拡法を提出するも却下される

 

第二帝国、保安軍を解体し国防軍に併合させる

 

親衛隊、エグゼクター級“アナイアレイター”の奪還作戦を実行する(イェーガードレッドノート作戦

 

第二帝国、エイリアン種族排除法を可決し親衛隊保安隊によりエイリアン狩りと国外追放が行われる

 

親衛隊保安隊が保安局に拡大され親衛隊情報部が設立される

 

代理総統、ベアルーリンにおいて戦意向上演説を行う(帝国再建の聖戦演説

 

第二帝国、クワットと秘密裏に会談を行い艦船や兵器の有線譲渡を締結する

 

未完成のエグゼクター級“リーパー”が修復される

 

帝国国防軍及び親衛隊、第一目標を惑星コルサントとコルサント臨時政府に定める

 

再軍備危機により新共和国からコルサント臨時政府にスターホーク級を旗艦としたいくつかの艦船が譲渡される

 

第二帝国への亡命者が増加する

 

コルサント=帝国会談が開かれるが両者大した成果なくほぼ雑談で終わる

 

オード・マンテル割譲条約によりオード・マントル周辺域全てが帝国領となる

 

親衛隊、本格的な徴兵制度が実施される

 

コンプノア・ユーゲント制度が議会で可決される

 

エグゼクター級“リーパー”竣工、秘密裏に第二帝国へ譲渡される

 

新共和国、第五次軍拡法が提出されるが却下される

 

パランヒ併合、帝国領が更に拡大する

 

代理総統、帝国領全土に向け「再起の為の忍耐演説」を行う

 

クワット、第一次譲渡艦隊が帝国領へ送られる

 

大セスウェナ連邦、密かに第二帝国と締結し支援を開始する

 

第二帝国、ヒルデンロード首相死亡に配慮し延期された帝国の日のパレードを行う

 

オイカン元帥らにより艦隊再編計画が行われる

 

新共和国、中央軍に招集命令を下す

 

アンシオン国境紛争勃発

 

ダーラン内戦勃発

 

ゼルトロス内戦ゼルトロス内戦勃発

 

マリダン侵略紛争勃発

 

アイエゴ=ドロイド暴動蜂起勃発

 

一連の戦いにより新共和国軍の結集が困難となる

 

帝国地上軍長官にマクシミリアン・ヴィアーズ元帥が任命される

同時期帝国宇宙軍長官にバロー・オイカン元帥が任命される

 

ローリング大将軍、ハイ・TIEプランを提出しスターファイター隊強化計画が実行される

ローリング大将軍、マラステア宙域のモフ及び総司令官に就任

 

親衛隊情報部及び帝国情報部、C作戦発動し新共和国、コルサント臨時政府などにスパイ情報網を立ち上げる

 

帝国宇宙軍及び親衛隊宇宙軍、三ヶ月艦隊計画を実行し保有艦艇が大幅に増加する

 

新共和国軍、軍部独断で解体中の艦船及び兵器群の再建を実行する(首輪のない忠犬

 

コルサント臨時政府、国内に非常時動員制度を発布するが半ば市民に無視される

コルサント本国防衛艦隊、守備範囲を本星のみに絞り防備を固める

 

クワット、第二次譲渡艦隊が帝国領へ送られる

 

大セスウェナ連邦軍、機動部隊が一時的に国境範囲を超える

 

帝国軍、親衛隊によりコルサント奪還作戦の編成が完了する

 

新共和国議長、代理総統とホログラムによる対談を行う(銀河最後の会談

 

新共和国、コルサント臨時政府に対するスパイ網が完成する

 

帝国=連合中立条約締結、第二帝国と新分離主義連合間で中立条約が結ばれる

 

新共和国軍、第二帝国国境付近の惑星で演習を行う(年度末の最終牽制

 

代理総統、ベアルーリンから帝国全領土に向け今年度最後の演説を行う

演説の裏側で暗殺されかける(陰の総統暗殺事件

 

帝国宇宙軍の総旗艦が“マルクグラーフ”から“リーパー”へ変更される

 

 

 

 

7ABY

マクシミリアン・ヴィアーズ元帥と帝国地上軍の幾つかの部隊がベアルーリンに集結する

 

マラステア防衛戦勃発、ローリング大将軍麾下のスターファイター隊が損害なしに敵勢力を殲滅しスターファイター隊の有用性が証明される

 

新共和国軍、コルサント本国防衛艦隊と合同軍事演習を実施

 

新分離主義連合、企業星系連合から二十七万体のバトル・ドロイドを譲渡され再軍備を始める

 

セレア動乱勃発、新共和国軍が現地に派遣される

 

帝国軍、親衛隊と合同で軍事演習を実施

 

代理総統、「エイリアン絶滅戦争演説」を行う

 

新共和国、本土防衛の為第二帝国との境界線の部隊の46%を撤退させるが一部は撤退を拒否する

 

スリルーア政府が新共和国からの脱退を表明、新分離主義連合に加盟する

 

親衛隊総旗艦“アークセイバー”率いる第一艦隊が境界線付近の惑星グリズマルトに到達する

 

新共和国元老院において右派系の元老院議員が「霧の中の脅威演説」を行い非常時宣言を発令するよう提案するが却下される

 

モン・モスマ、シャンドリラでの療養が功を奏し二年後の新共和国議長選に出馬する目処が立つ

 

マラステアの帝国軍がベアルーリンに集結する

 

クワット、新共和国への軍需製品供給を工場の再点検を理由に中断する

 

惑星ナブー周辺の新共和国軍が撤退する

 

帝国宇宙軍、第一から第十二までの艦隊の再編が完了する

 

バロー・オイカン元帥率いるハンバリン連合艦隊が惑星タンジェイⅣに到着する

 

新共和国、コルサント臨時政府に最後の武装提供を行う

 

パントラ襲撃事件勃発、薬物中毒者が街中でドロイドを使用し暴れるがすぐ取り押さえられる

 

アベドネド墜落事件勃発、旧共和国軍の艦船が突如アベドネド都市に墜落し数万人以上の死者を出す

 

ベアルーリンからヴィアーズ元帥とローリング大将軍の攻撃隊がそれぞれ別々に出発する

 

キャッシーク事件勃発、情報部のクラッケン将軍と現地周辺にいたハン・ソロ将軍が調査に当たる

 

新共和国元老院の特別議会が開かれ軍拡法について議論されるが再び却下される

 

ベアルーリンを出立した攻撃隊がそれぞれの惑星に到達する

 

コルサントが封鎖される

 

大セスウェナ連邦、密かに義勇軍を送るよう提案するが第二帝国により却下される

 

コルサントで親帝国派が暴動を起こす(コルサント蜂起

 

コルサント臨時政府、新共和国軍に救援を要請するが通信回線が遮断される(コルサント孤立

 

第二帝国全域の国防軍と親衛隊に非常時防衛命令が展開される

 

新共和国、コルスカ宙域との通信障害が発覚する

 

ビブロス事変勃発、新共和国軍が鎮圧に向かう

 

グリズマルト、タンジェイⅣから帝国軍及び親衛隊の部隊が全てし消失する

 

第二帝国領、飛び地含めた全ての領土で防衛体制が確立する

 

新共和国元老院で再び特別議会が招集される

 

第二帝国、代理総統の「第三帝国演説」によりコルサント臨時政府へ宣戦布告(コルサントの奪還

またこの頃より第二帝国が消失し第三銀河帝国が誕生する

 

バロー・オイカン元帥の攻撃艦隊がコルサントにジャンプアウトしコルサント本国防衛艦隊と戦闘状態に突入する(本編開始)




いかがでしたでしょうか

先ほども申した通りこの年表ゴッド・パワー(迫真)で若干改変されたり付け足される可能性があるのでそにへんはご了承ください

それではまた次のナチ帝国で〜



ジーク「出番どころか言及しかねえじゃん」
マイン「僕なんて言及もないよ」
ジェルマン「言及あるのでセーフ」

ジョーレン「俺一言も書かれてねぇじゃん!」


???「とりあえずスパイスがあれば何とかなりますわ!」


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イェーガードレッドノート/前編

「親衛隊とはただの銀河協定の抜け道に在らず、総統に最も信頼されし最高の練度を誇る帝国軍である」
-ハインレーヒ・ヒェムナー親衛隊長官-


これは第二次銀河内戦が始まる1年ほど前の話。

 

第三銀河帝国は第二帝国と呼ばれる銀河協定承認国からの移行中であり銀河の主権者は誰しもが新共和国であるとして疑わなかった。

 

まだ銀河内戦の出来事が強く印象に残っておりまさか僅か1年後に再び銀河を股に掛けた戦乱が始まるとは誰も思わなかったであろう。

 

しかも第三帝国が勝つとは、この銀河系に新たなシスの十字軍が到来するとは。

 

だがこれらの出来事はある日突然いきなり起こった訳ではない。

 

ある者は準備を怠りある者はずっと備え続けてきた。

 

第二帝国指導者のパウルス・ヒルデンロードの死後、いやそれ以前から一部の者達はずっと備え続けてきた。

 

次の戦争に、新共和国を打倒する為の戦争に。

 

その一つが誰にも知られぬ間に行われた秘密の“奪還”作戦であろう。

 

その名も“イェーガードレッドノート作戦(Operation Jäger Dreadnought)”。

 

かつて帝国軍の大将軍が乗艦としていたエグゼクター級スター・ドレッドノート“アナイアレイター”。

 

このスター・ドレッドノートはエンドアの戦いの動乱期に大海賊エレオディ・マラカヴァーニャとその子分達によって奪取され行方不明となっていた。

 

彼、いや彼女ともいうべきマラカヴァーニャは“アナイアレイター”を元手にワイルド・スペースにマラカヴァーニャ独立国という一つの無政府主義国家を作り上げた。

 

領土としての惑星を持たず海賊船と“アナイアレイター”、もとい“リバティズ・ミスルール”を自らの国土とした。

 

当然このような屈辱的な行動を後に第三帝国となる彼らにとっては許せるはずがなかった。

 

それにこれは大きな好機である。

 

この海賊国家のことを新共和国はまだ正確には把握しておらず、海賊達も一般的な正規軍に比べれば弱い。

 

あのスター・ドレッドノートを手にすれば帝国は一気に戦力を強化出来る。

 

来るべき復讐戦のためにもあの艦は必要不可欠だ。

 

しかし新共和国に監視の目が強い正規の帝国軍は動かせない。

 

だからこそ彼らの出番だ。

 

黒服に身を包み指導者に忠誠を誓う指導者の私兵の軍。

 

彼らは“C()h()a()n()c()e()l()l()o()r()”の軍でもあり“F()u()e()h()r()e()r()”の軍でもありまだ誕生して間も無く新共和国もその実態を完全には把握し切れていなかった。

 

つまり暗闇に紛れ任務を遂行するには打って付けの存在という訳だ。

 

これは銀河系のほんの僅かな一握りのみが知る第二次銀河内戦前夜の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

-コア・ワールド 第二帝国首都惑星ベアルーリン 国防省軍務局-

帝国軍はかつての統合本部や地上軍参謀本部を禁止されその隠れ蓑の組織として国防省の中に軍務局を設置した。

 

その為かつて統合本部、参謀本部に属していた者や各宙域軍の参謀達はこの軍務局に集まっていた。

 

そしてこの軍務局の廊下を歩く2人の宇宙軍将校の姿があった。

 

1人は帝国宇宙軍情報部の部長ヴィルへランツ・カーレリス中将とその副官のマティンス少佐だ。

 

元々は帝国情報として一つに統合されていた組織を再び2つに分割した。

 

帝国の戦力維持の為には一つでも多くの枠が必要だったのだ。

 

今回は帝国情報部と共同で監視しているある軍艦についての定期報告書を提出しにきた。

 

「情報部だ、入れてくれ」

 

「よろしいのですか?地上軍長官と現在面会中ですが」

 

カーレリス中将とマンティス少佐は顔を見合わせたがすぐに決断し「構わない、報告書だけ出すことにする」と伝えた。

 

警備のトルーパーが軍務局長室のドアを開け2人は軍務局の中に入った。

 

トルーパーが先に言った通り軍務局長室の中には2人の地上軍の上級将校がいた。

 

1人はこの局長室の主人、帝国軍軍務局長ヴィルン・アルダム上級将軍。

 

元々はコメナー星系軍を率いていたのだがカイゼルシュラハト作戦に参戦しその功績と忠誠を認められ軍務局長となった。

 

一方もう片方の将軍は帝国地上軍長官、リートディヒ・ベック上級将軍。

 

彼も帝国地上軍の将官であり現在の帝国保安局である帝国特務警察長官のアレシア・ベックは彼の姪である。

 

2人に向けカーレリス中将とマンティス少佐は敬礼した。

 

同じように2人の上級将軍も敬礼を返した。

 

「お話中失礼します、定期報告書が完成しましたので提出に参りました」

 

「ご苦労、ここで口頭報告も行ってくれて構わん。長官も聞いていくといい」

 

「分かりました」

 

中将は報告書を軍務局長のテーブルに置き報告を開始した。

 

ソファーに座っていたベック上級将軍は立ち上がりアルダム上級将軍の背後に来た。

 

2人の帝国軍の重鎮に囲まれマンティス少佐は直立不動を貫いていたがカーレリス中将は楽にしていた。

 

「今の所発見から目立った動きはありません。ワイルド・スペースから離れることもありませんし依然としてやる事といえば海賊としての私掠行為だけです」

 

「前回の報告書もそうだったな……所詮は海賊か。タッグの置き土産を任せておくに値せん連中だ」

 

アルダム上級将軍は不機嫌そうに感想を述べた。

 

情報部は1年前、丁度年明けを迎えようとする頃に行方不明になっていたエグゼクター級スター・ドレッドノート“アナイレイター”を発見した。

 

ワイルド・スペースを行動領域とする海賊勢力が機関として利用していたのだ。

 

それ以来情報部はずっと“アナイアレイター”を監視しその行動を見続けてきた。

 

その結果様々なことが発覚した。

 

まず“アナイアレイター”を占拠している海賊勢力はエレオディ・マラカヴァーニャという海賊の主人が生み出したマラカヴァーニャ独立国という勢力であること。

 

もう一つはそのマラカヴァーニャの海賊が“アナイアレイター”を完全に扱えているわけではないということ。

 

さらにもう一つ、マラカヴァーニャの海賊は私掠行為を行うだけで帝国や新共和国、周辺国に対する大胆な野望や行動はしないということ。

 

そして最後にこの海賊達が“アナイレイター”を保有しているということはまだ新共和国も知らない情報だということである。

 

つまりマラカヴァーニャ独立国の“アナアイレイター”の存在を認知しているのは第二帝国だけということだ。

 

「それで、奪還計画はいつ実行に移される?」

 

ベック上級将軍は2人に尋ねた。

 

彼としては“アナアイレイター”を奪還することは帝国の尊厳を取り戻す為にも帝国軍の戦力増強の為にも必要だと考えていた。

 

しかしカーレリス中将よりも先にアルダム上級将軍が無理だと首を振った。

 

「地上軍の部隊を動かすのは無理だ。ただでさえストームトルーパーを突撃歩兵部門(Assault troops)に移管させるだけでも一苦労だったのに」

 

銀河協定ではストームトルーパーの存在は禁止されている。

 

しかし帝国軍は諦めず装備は補完し元トルーパー達を突撃歩兵部門という新設の兵科へと移管した。

 

これでなんとか協定の影響を受けることなく兵員を温存出来たのだ。

 

だが新共和国の情報機関の影響で帝国地上軍はエグゼクター級を取り戻せるほどの部隊を動かすことは出来なくなった。

 

「情報部や宇宙軍の特殊部隊は」

 

「厳しいですね……エージェントや“()()()()()()”のデス・トルーパーは動かせるでしょうがあれ(エグゼクター級)を奪取するには足りないかと」

 

「そうか……」

 

「宇宙軍のオイカン元帥にも聞いてみたがやはり無理だそうだ。少なくともブリッジとエンジンとメイン反応炉、主要なハンガーベイを抑えベアルーリンまで運ぶにはインペリアル級二隻以上の兵員が必要だと言われた」

 

インペリアル級二隻、これだけで1万9,400名の兵員が動かせる。

 

逆に言えば1万9,400名分の兵員が必要になるということであり、それだけの兵員を動かせば確実に新共和国に見つかるだろう。

 

「やはり無理か……」

 

ベック上級将軍はため息を吐き悔しそうに頭を抱えた。

 

「少なくともまだ新共和国に発見されていません、このままマークし続けるしかないでしょう。次回の報告書ですが…」

 

「ああ、報告書だが……次からはここ(軍務局)だけじゃなくて別の場所にも出してほしい。首相からの命令だ」

 

「別の場所?」

 

アルダム上級将軍は小さく頷いた。

 

カーレリス中将はまだ釈然としない様子だった。

 

「首相の直轄部隊としてチェンセラー・フォースというのがあるだろう?あそこの本部にも報告書を出すよう命令を受けた。恐らくすぐに情報部にも命令が出ると思うが」

 

「あのシュメルケとフューリナー達が作った協定回避用の部隊にか?」

 

アルダム上級将軍は再び小さく頷いた。

 

チェンセラー・フォース(Chancellor Force)、元帝国軍のパウティール・シュメルケ上級提督とハンス・オットー・フューリナー将軍が設立した言わば首相の私兵軍。

 

元々銀河協定下でも可能な限り戦力を維持し兵員を保持しておこうという試みは帝国軍でも行われていた。

 

各帝国構成惑星に指揮権を委任する形で設立した保安軍の存在がその最たる例だろう。

 

しかしそれだけでは足りなかった。

 

元よりいた部隊以上に第二帝国領内に安全と帝国への忠誠を求めて各地から多くの元帝国軍部隊が入ってきた。

 

当然初期はこれらの部隊も帝国軍に組み込んだのだが銀河協定の制限下では限界があった。

 

されど第二帝国に来る部隊は日に日に増えるばかり。

 

これを対処する為にシュメルケ上級提督は現在の帝国首相パウルス・ヒルデンロードに一つの提案を行なった。

 

それこそがチェンセラー・フォースの原点である帝国指導者の私兵軍組織の設立だった。

 

ヒルデンロード首相はこれを承認し領内の部隊を纏め上げシュメルケ上級提督が第一参謀長を務める形でチェンセラー・フォースは誕生した。

 

また帝国軍からもゴットバルト・バエルンテーゼ将軍が全ての職を他の将校に譲り軍に空きを作る形で引退しチェンセラー・フォースへと移籍した。

 

他にもかなり多くの将兵が軍に空きを作るため、あるいは新天地で更なる昇進を掴む為にチェンセラー・フォースへと移籍した。

 

「理由は分からんが首相の命令であれば従う他ない。個人的には少し不安ではあるがな……」

 

「だが彼らの戦力は多くが新共和国に把握されてない。案外奪還作戦を実行するにはうってつけの部隊かもしれんな」

 

ベック上級将軍は新共和国からノーマークであるという点に注目した。

 

アルダム上級将軍はカーレリス中将に「君はどう思う?」と尋ねた。

 

「情報部ですと知り合いがチェンセラー・フォースにいますが……局長の仰る通り、漠然とした不安感というものを感じます」

 

カーレリス中将の知り合い、友人と呼ぶべき存在は何故か宇宙軍ではなく情報部にいた。

 

カーレリス中将も帝国情報部、宇宙軍情報部に来る前はインペリアル級の艦長をしていたのだが彼と情報部には接点など微塵もないはずだ。

 

しかも女性問題で不遇に晒されていた宇宙軍時代とは違い一気に頭角を表し始めているらしい。

 

友人としては応援すべきなのだろうが個人的にはやはり漠然とした不安感が残る。

 

「既に“アナイアレイター”の奪還計画を練っているらしい。実行するにしても草原に野火を放つ結果にならないといいが……」

 

「ですが秘密裏にスター・ドレッドノートを確保出来るなら今の帝国にとって大きな飛躍になります」

 

カーレリス中将はそう今回のことを比較的好意的に受け取っていた。

 

奪取されたエグゼクター級と直接関わる宇宙軍出身ということもあるだろう。

 

何せカーレリス中将自身が昔はインペリアル級の艦長を務めていたこともある。

 

「ああ、軍備制限以上に今やドレッドノートは貴重だ。少しでもあるに越したことはない」

 

ベック上級将軍も同じように好意的な反応だった。

 

今帝国軍はどこも抑圧状態にある。

 

銀河協定の鎖が彼らを雁字搦めに縛り、戦争の可能性を絶っている。

 

無論彼ら全員が再び戦争を起こしたい訳ではない。

 

事実アルダム上級将軍は現在の帝国領域を守り場合によっては反撃に転じられる分の戦力さえあればいいと思っていた。

 

再び戦争になれば多くの将兵に無理をかけることになるし彼の息子たちも戦場へ行かなくてはならない。

 

しかし古典的な帝国軍の将校たちはそうではなかった。

 

彼らは旧帝国の復活、なんなら新共和国の打倒すら狙っていた。

 

「まあこれはあくまで“()()()()()()()()()”チェンセラー・フォースの話だ。我々は我々の今ある仕事に注力しよう」

 

アルダム上級将軍は最近少しずつ芽生え始めてきた自身の不安感と折り合いをつけ再び軍務局長としての職務に戻ることにした。

 

 

 

 

 

-ベアルーリン チェンセラー・フォース本部 特務作戦実行部隊司令室-

チェンセラー・フォースの本部は元々ベアルーリンにあった地上軍の施設を接収して使っていた。

 

内部には地上隊(Army Force)宇宙隊(Navy Force)航空戦闘隊(Air Fighter Force)、そして旧情報とISBの機能を持つ保安隊の司令機能が集まっていた。

 

親衛隊には2種類の軍服が存在し一つは旧帝国軍から続くスタンダードなタイプの軍服。

 

だがこれもかつての帝国軍のように深緑色を基調としたものではなく完全に黒を基調としたものに制帽が付け加えられていた。

 

変化はそれだけではなく正規の帝国軍同様襟にも変化が生じ階級を示す襟章と昔はなかった肩章がついていた。

 

そしてもう一つの軍服は完全にチェンセラー・フォースのオリジナルであり戦闘職以外のチェンセラー・フォースの隊員はこちらを身につけている時の方が多かった。

 

また戦闘職の将兵も一部部隊によってはこちらの制服を着ていることもあった。

 

勿論こちらの新しい軍服も保安隊以外の隊員は皆黒色の軍服を着ており本部内には黒い軍服の男達で溢れていた。

 

そしてそのチェンセラー・フォースの本部には各司令官の執務室がありこの特殊作戦実行部隊司令室もそのうちの一つであった。

 

この部門は主に特殊部隊の編成やその他の特別任務を計画し実行に移す部門であり司令官は元帝国地上軍将軍、ハンス・オットー・フューリナー上級大将が務めていた。

 

フューリナー上級大将は共和国軍から帝国軍に上がった世代の1人であり元は帝国軍の特殊部隊司令官や統合任務部隊司令官を務めていた。

 

「新しい部隊はどうだ、ハイネクロイツ少佐」

 

デスクから客人用のソファーに移り同じチェンセラー・フォースの少佐の隣に座った。

 

フューリナー上級大将の隣に座るこの少佐はランドルフ・ハイネクロイツ。

 

第21飛行大隊の指揮官であり第21飛行大隊は基本的にチェンセラー・フォース第6歩兵連隊とセットで運用される。

 

また歩兵連隊の連隊長はハイネクロイツ少佐よりも一つ上の階級であった為基本的には(連隊長)の指揮下に入っている。

 

「まあ元々率いてた面々が大半ですが練度も高くていい大隊ですよ。連隊の方にも結構知り合いがいましたし」

 

「それは意外だな。君は確かノートハーゼンに来る前は死の小艦隊に配属されていたはずだが」

 

「ええ、まあ。“エグゼクター”に“コンクエスト”やら“デヴァステイター”の人員が引き抜かれたんでその補充としてですが」

 

おかげでマコ=タ、ホス、エンドアで戦績を重ねられた。

 

尤も最後のエンドア戦なんて燦々たる結果に終わったが。

 

たまたま撤退中のスター・デストロイヤーに拾われていなかったら危うく死んでいるところだった。

 

まあ既にスカリフで死にかけ、彼に助けられているのだが。

 

「そんな連隊長には既に伝わっていると思うのだが君には個人的にある任務への参加をお願いしたい」

 

そう言ってフューリナー上級大将はポケットからホロプロジェクターを取り出した。

 

浮き上がったホログラムにはオーラベッシュ書かれた文章がズラ面と並んでいる。

 

「エンドアの現場にいてその後1年以上を銀河の中心地で過ごしたから分かると思うが帝国はエンドア以降持っていた軍事力の行方を正確には把握出来ていない」

 

「でしょうねぇ……正直私のような前線上がりの人間じゃ一体幾つの軍閥が誕生して潰れて今幾つ残っているか把握すら出来ません」

 

「我々とて大口を叩くその軍閥連中に何か出来る訳ではない。新共和国は自らに害がなければ何かするつもりはないようだが」

 

実際帝国軍はその殆どが独立し帝国の後継者を夢望んだ軍将達に接収されるか新共和国軍に破壊され或いは新共和国軍の軍門に下るかの末路を遂げた。

 

噂では未知領域まで逃げた勢力がいるそうだが今の第二帝国では探すのは無理だ。

 

新共和国はその情報すら知らないだろう。

 

「うちスター・ドレッドノートも幾つかが戦闘で失われまた幾つかが消失した。例えば旗艦“エグゼクター”」

 

ハイネクロイツ少佐は俯き「残念な出来事でした」とだけ呟いた。

 

彼は死の小艦隊にいた、“エグゼクター”の中には当然見知った人間も少なからずいただろう。

 

「“ラヴェジャー”はエンドアで沈み皇帝陛下の“エクリプス”は行方不明……今銀河系の表舞台に立っている帝国軍勢力の中でエグゼクター級を持っている奴はどこにもいない。無論我々を含めてだ」

 

「それが何か私の任務と関係があるのですか?」

 

「勿論、なくなったと思われていたこれらのエグゼクター級のうちの一隻が発見された。それもワイルド・スペースで」

 

ハイネクロイツ少佐は思わず驚き顔を上げた。

 

フューリナー上級大将はさらに別のホログラムも映し出した。

 

そこには宇宙空間にまばらな艦船と共に航行するエグゼクター級の画像があった。

 

「艦名は“アナイアレイター”、カシオ・タッグ大将軍の元乗艦だ。今はこの辺を仕切る海賊が扱っているらしい」

 

「海賊が?」

 

「ああ、だから我々で取り返す。我々は新共和国からすればノーマークの存在だ、あのスター・ドレッドノートを奪還してベアルーリンまで運ぶだけの兵員も存在している」

 

チェンセラー・フォースは帝国領内に滞在していた旧帝国軍を再編成し組み込んできた。

 

その兵員数は国防軍に及ばずともスター・ドレッドノートを一隻奪還するには十分な戦力があった。

 

「それで我々の部隊は奪還作戦の際の航空支援を行えばいいのですか?」

 

ハイネクロイツ少佐の第21飛行大隊は宇宙、地上問わずTIEスターファイターで戦闘行動を行うスターファイター隊だ。

 

作戦によってはTIEボマーやTIEストライカーの爆撃機種を用いて大規模な航空支援を行うことも出来る。

 

しかしフューリナー上級大将は首を振った。

 

彼がハイネクロイツ少佐に求めている能力はパイロットやスターファイター隊指揮官としてのものではなかった。

 

「私は君個人の能力に着目している。君は同期のパイロット達の中でも格闘術に長けているらしいな」

 

「ええまあ……しかし、それと今回の任務のどこに関係性が?」

 

ハイネクロイツ少佐は困惑しながら尋ねた。

 

フューリナー上級大将はホログラムの内容を変えハイネクロイツ少佐に見せた。

 

今度はある部隊の編成書のようなものが映し出された。

 

「我々は幾つかの特殊部隊を投入してブリッジ、動力源を占拠する。君にはそのうちの一つの空挺部隊を率いてもらう」

 

「空挺?私としては縁遠い兵種ですが、基本ファイター、インターセプター乗りで輸送機の経験とかあんまりないですし」

 

一瞬だけ目つきが鋭くなり様々な最悪の予測がハイネクロイツ少佐の頭に流れた。

 

されど相手を警戒させまいとして明るい笑みを浮かべ経験を絡めて冗談混じりに話した。

 

尤もフューリナー上級大将には全く効果がないようで彼は相変わらずの煮ても焼いても食えそうにない薄ら笑いを浮かべていた。

 

逆に表情が変わらず恐ろしさすら感じる。

 

「そんなことはないはずだ、むしろ君は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”?」

 

その一言ははっきりとハイネクロイツ少佐が考えた最悪の予測にピッタリ当てはまっていた。

 

「……どこまで知っているんですか」

 

釘を刺しフューリナー上級大将を測る為にもハイネクロイツ少佐は尋ねた。

 

だがやはりフューリナー上級大将は表情を変えずいつもの笑みを浮かべていた。

 

「まあ好きに考えてくれて構わんよ。私は純粋に君の能力を評価し今回の作戦に用いようと思っただけだ。無論この作戦参加は命令だ、用意しておいてくれ」

 

ハイネクロイツ少佐から若干の殺意が向けられる中フューリナー上級大将は彼の手に今まで持っていたホロプロジェクターを握らせた。

 

「そこに現時点での作戦計画が記載されている。当然変更点は出ると思うが目を通しておいてくれ」

 

ハイネクロイツ少佐はホロプロジェクターを見つめ再びフューリナー上級大将を見つめた。

 

彼はソファーから立ち上がり再びデスクに戻った。

 

「伝えたいことは全て伝えた、もう戻ってくれて構わん。連隊長殿によろしくな」

 

本当に掴みどころがないまるで妖怪か物怪の類のように感じられた。

 

ハイネクロイツ少佐は周囲を一瞥し再びホロプロジェクターを見つめた。

 

だがこれといって何かをする訳でもなくホロプロジェクターをポケットにしまってソファーから立ち上がった。

 

フューリナー上級大将に向けて敬礼し「失礼しました」と一言だけ述べて司令室を後にした。

 

ドアが閉まる最後の最後までフューリナー上級大将から放たれた冷たい目線を受けながら。

 

ハイネクロイツ少佐は少し早歩きで特務作戦実行部隊の区画を離れた。

 

それから暫くして小さくため息を吐いた。

 

「……いたな、“1()()”」

 

ハイネクロイツ少佐は苦笑いを浮かべ再び歩き始めた。

 

もしかしたらこの任務が人生最後の任務になるかもしれない、漠然とした根拠のない不安を抱えながら。

 

 

 

 

-ベアルーリン チェンセラー・フォース本部 地下戦略会議室-

元々ベアルーリンのチェンセラー・フォース本部はクローン戦争期に共和国軍の司令基地として用いていたものだった。

 

戦争終結後は新しい基地を設置する事になった為この施設はベアルーリン機甲戦術研究アカデミーとして生まれ変わった。

 

ウォーカーや戦車などの機甲部隊の戦術を研究し更に機甲部隊の将兵を育成する。

 

しかし銀河内戦の影響で帝国アカデミーは全面的に閉鎖されこの研究アカデミーも例外ではなかった。

 

その為開いた施設をそのままチェンセラー・フォースが接収したという訳だ。

 

そしてその会議室の一室で密かにドレッドノート狩りの秘密作戦が練られていた。

 

まだ正確な作戦計画名が名付けられていない為、この計画は特殊作戦ESD-02Rと呼ばれていた。

 

「“アナイアレイター”の正確な位置は常に情報部によって判明しています。ですからその位置に従って我々は奇襲をかけるということになります」

 

今回の作戦の参謀の1人、アストグラム中佐はホロテーブルの星図を用いて説明した。

 

彼はシュメルケ上級大将の参謀将校であり以前はベアルーリン宙域軍司令部の参謀を務めていた。

 

しかしそんな彼の提案に待ったをかける人物が名乗りを挙げた。

 

ルテマン・アルブレート大佐、現在チェンセラーフォース第1連隊を率いている人物だ。

 

「しかしそれではどうしても情報にタイムラグが生じる、我々がジャンプした先に相手がいるとは限らん。既に移動している可能性もある」

 

相手はエグゼクター級という超巨大な戦闘艦なれどスターシップである以上移動することが出来る。

 

しかも相手が特定の滞在地を持たない海賊なのだから余計にだ。

 

「ではこちらが逆に相手の位置をしてしまいましょう。連中は海賊ですので襲撃すべきと判断する船舶が航行すれば必ずそこへ向かうはずです」

 

同じくシュメルケ上級大将の参謀将校であるリーゼヴェルデ中佐はそう提案した。

 

ホログラム上には何隻かの船団が現れそれを海賊たちが襲っており、私掠に夢中の海賊達を更にチェンセラーのフォースが襲うというわけだ。

 

「しかし襲撃させる肝心の“()”はどうする。こちらとしては連中にやる分の餌すら惜しいのだが」

 

現在チェンセラー・フォース第十二小艦隊司令官を務めるエーリヒ・ヴァルフェンドルフ少将は肝心の餌の心配を口にした。

 

現在の帝国宇宙軍にもチェンセラー・フォースにも海賊如きに与えられる高価な物資など持ち合わせていない。

 

この案を実行に移すとしたら何かしら海賊が欲しがるようなものを生贄に捧げるしかない。

 

「それに関してはコレリアからオード・マンテル行きの輸送船を餌に使う。ルートを誤らせワイルド・スペースへと送りこみ、海賊が襲撃中の間に作戦を実行する」

 

フューリナー上級大将はそう断言しテーブルにコレリアの輸送船を出現させた。

 

アルブレート大佐は「輸送船の中身はなんですか?」と尋ねた。

 

「コレリア産のスピーダー用の部品と食料品だ。スピーダー用と言ってもパーツはどれも汎用性が高い」

 

「間違いなく海賊は狙ってくるだろうな。警備の方は?」

 

「生身の警備員が大体36人、セキュリティ・ドロイドがその3倍だが」

 

大体1子中隊、海賊が私掠に苦戦しつつも成功しそうな程よい数字だ。

 

シュメルケ上級大将はこの案を受諾した。

 

「次に、海賊船団に対する攻撃ですが」

 

フューリナー上級大将の副官であるヴァルヘル少佐がホロテーブルの様子を変えた。

 

テーブル上には敵海賊船団に加え新たにチェンセラー・フォースの部隊が出現した。

 

なおまだ正確な部隊数が決まっていない為だいぶ濁した形のホログラムとなっていた。

 

「我々が動員出来る戦力は大きく見積もっても一個機動部隊ほどです。これ以上は新共和国にも海賊にも発見される可能性があります」

 

フューリナー上級大将直属の艦隊司令官を務めるアイフィト・ボルフェルト中将はそう進言した。

 

しかしすぐ訂正が入った。

 

「いや、機動部隊すらも大きすぎる。護衛のヴィクトリー級やアークワイテンズ級で連中に見つかってしまうだろう。出せる数は三隻、それもインペリアル級は二隻までだ」

 

フェリー・シュテッツ大将はチェンセラー・フォースの艦隊の実質的な総司令官であった。

 

本来はクリープル・モーデルゲン大将共々上級大将に据えて地上部隊、宇宙艦隊の総司令官にするつもりだった。

 

尤もまだその許可が降りていない為実質的で収まっているのだが。

 

「私の“アークレイター”とフューリナーの“エリミネーション”で行く。そうなると残り一隻、護衛艦さえなければもう一隻スター・デストロイヤーを使えるか?」

 

シュメルケ上級大将はシュテッツ大将に尋ねた。

 

シュテッツ大将は小さく頷きシュメルケ上級大将はホロテーブルにもう一隻軍艦を増やした。

 

「インペリアル級はこのまま、敵船団の無力化と兵力支援としてセキューター級を入れたい」

 

インペリアル級二隻、セキューター級一隻の機動部隊がホロテーブル上に存在している。

 

これがこの作戦で運用出来る宇宙艦艇の総戦力だ。

 

「ではどの艦にしますか?“ライアビリティ”は現在メンテナンスの為入港中で“オフェンシヴ”は現在ハンバリンへ向けて航行中ですが」

 

ヴァルフェンドルフ少将は尋ねた。

 

「第六十三機動部隊の旗艦“シャーデン”、これを動員する」

 

旗艦“シャーデン”は“ライアビリティ”や“オフェンシヴ”と同様セキューター級スター・デストロイヤーの一隻である。

 

この艦は主に地上への兵員輸送と補給を主任務とする第六十三機動部隊の旗艦であり他にも護衛艦を始め二隻の帝国貨物船を配下に入れていた。

 

艦長はヘルゲム・コルバ大佐、機動部隊司令官はヴィッツ・ドレスタル准将が務めていた。

 

なお今現在艦長のコルバ大佐がある事情でベアルーリン保安軍病院に入院中の為艦長の任務はドレスタル准将と“シャーデン”の副長が担っていた。

 

「“シャーデン”は確か部隊ごと親衛隊に」

 

「ああ、後で准将に掛け合いに行く。彼らにはコア・ワールドの会戦でも世話になった」

 

シュメルケ上級大将の2人の参謀は小さく頷いた。

 

これで必要な宇宙艦隊のメンツは揃ったし既に“アナイアレイター”内部へ突入する部隊の編成も以前の会議で整えてある。

 

後はより詳細な作戦の段取りと敵を無力化する方法を決めるだけだ。

 

「それでは作戦内容に移りますがまず囮の輸送船を海賊が襲撃中に我々の機動部隊が一気に奇襲を掛け無力化、その間に第1制圧部隊を投入しブリッジ、エンジン、ハンガーベイ、動力部を制圧し艦内に第2制圧部隊を投入。“アナイアレイター”の制御を完全に手に入れハイパースペースへ突入しベアルーリンに帰還します」

 

アストグラム中佐の説明に合わせてホロテーブルも現段階で完成している作戦のアニメーションを表示した。

 

チェンセラー・フォースの将校達は険しい顔のままこのホログラムを見つめていた。

 

「まず作戦の要となる海賊船団の無力化についてですが…それについてシュメルケ上級大将から1点、ご報告があります」

 

リストグラム中佐に呼ばれシュメルケ上級大将は再び喋り出した。

 

「ヒルデンロード首相より廃棄予定だったEPB弾の使用を許可された。これを用いて海賊船をほぼ全て無力化し“アナイレイター”も半分動けなくする」

 

将校達の合間にざわめきと興奮が広がった。

 

まさかあれの使用許可が出るとは誰も思っていなかった為予想外の事だった。

 

最初の案としては敵船団無力化の為に全スターファイターのイオン魚雷、イオン爆弾を用いて延々と爆撃を行うつもりでいた。

 

だがあれが使えるなら護衛を含めてもたった6機のスターファイターを派遣するだけで海賊船団ほぼ全てを長時間無力化出来る。

 

「では爆撃機と護衛機の編隊を突入させEPBを投下、海賊船団の制圧するという事でよろしいですか?」

 

将校達は皆頷きまた一つ作戦の詳細が決まった。

 

ホログラムに映し出された爆撃機が護衛機と共に敵船団に接近し1発の爆弾を投下する。

 

爆弾が周囲に電磁パルスをばら撒き周囲の艦船を沈黙させた。

 

「爆撃機について一つ提案が、先日ルウルのステーションに向かった所3機の最新機を発見しました」

 

スターファイター隊の司令官の1人、レールツヴァイアー中将の代理として会議に参加しているメルヒャルト中佐が発言した。

 

彼は元帝国宇宙軍スターファイター隊でスターファイター中隊の指揮官を務めていた。

 

「資料を提示します」

 

ディスクをホロテーブルに入れホログラムを出現させた。

 

レールツヴァイアー中将とメルヒャルト中佐が視察した時の画像が出現した。

 

「この機体は……よくもまあ残っていたな」

 

何度かこの機体を見たことがあるフューリナー上級大将は苦笑まじりにそう呟いた。

 

「TIE/ca、通称TIEパニッシャー。この機体は高性能で更に偏向シールド付きです。その為確実に敵船団までEPBを運べます」

 

やはり今回のような任務では偏向シールドがあるかないかで言ったらあるに越したことはない。

 

そこでシュメルケ上級大将はあることを幾つかメルヒャルト中佐に尋ねた。

 

「その機体、全てルウルからベアルーリンまで秘密裏に運搬出来るか」

 

「発見時にいつでも運搬出来るよう指示を出しています。ご命令があれば直ちに運搬させます」

 

中佐はすぐに答え続けてシュメルケ上級大将は質問した。

 

「この機体は先頭に動員出来るか?」

 

「はい、パイロットも選定し予備パーツの存在も確認されています。今回の特殊作戦だけでなく通常の戦闘でも無論対応出来ます」

 

メルヒャルト中佐の断言を聞きシュメルケ上級大将は小さく頷いた。

 

これなら大丈夫そうだなと少し安心したような表情だ。

 

「では中佐、直ちに機体をベアルーリンまで運搬せよ。EPBの投下はこのTIEパニッシャーで行う」

 

「了解!」

 

メルヒャルト中佐は敬礼し一旦席を外した。

 

既に手筈は整っているのだから輸送はなるべく早い方がいい。

 

コムリンクを手に取りルウルのステーションへ連絡を取った。

 

「運用する機体も決まった。ハンス、制圧部隊の訓練状況はどうだ?」

 

シュメルケ上級大将は次の議題に移った。

 

海賊を無力化した後最も重要になるのは第1制圧部隊による“アナイアレイター”艦内の制圧だ。

 

当然制圧部隊は現在の帝国軍の中でも最も選りすぐりの精鋭部隊が選ばれ、その上で厳しい訓練を何度も重ねる。

 

この重要な作戦において些細なミスも大きな失敗に繋がる可能性がある。

 

「各駐屯地と訓練施設で実行している。練度的には何ら問題ないし近々“アダプテーション”で演習を行うつもりだ」

 

アダプテーション”はチェンセラー・フォース所属のインペリアル級スター・デストロイヤーである。

 

インペリアル級はエグゼクター級に比べたら遥かに小型の部類になってしまうがそれでも艦内の構造は殆ど同じだ。

 

帝国宇宙軍艦船の標準規格でありそれ故制圧戦の訓練も比較的にやり易かった。

 

「助っ人の指揮官達も集め終わった。後は訓練を重ね作戦決行の時を待つだけだ」

 

フューリナー上級大将はふとシュメルケ上級大将の方に目線を送った。

 

作戦決行の判断はシュメルケ上級大将が持っているものではない。

 

彼の上官、つまりチェンセラー・フォースの主である第二帝国首相パウルス・ヒルデンロードにある。

 

しかし今の所ヒルデンロード首相は作戦計画の立案を命じただけで計画が完成したとしても実行する時ではないと断言していた。

 

そのことについて若い将校達からは若干の不満があった。

 

敵は特定の所在地を持たぬ海賊で情報部が動向を常に追っているとはいえいつ消えてもおかしくない。

 

それどころか新共和国に発見されて彼らに簒奪される可能性もある。

 

そうすれば全てが終わりだ、そうならない為にも早く実行に移す必要がある。

 

「上級大将、首相は本当に今作戦を実行に移してくださるのでしょうか……」

 

ヴァルヘル少佐はふとシュメルケ上級大将に尋ねた。

 

リストグラム中佐もリーゼヴェルデ中佐も口には出さなかったが同じような面持ちだ。

 

ヒルデンロード首相は銀河内戦末期において一か八かの賭けとも言えるカイゼルシュラハト作戦を実行に移し第二帝国の存在を新共和国に認めさせた。

 

彼はは「帝国の主人は亡き陛下にある」として首相を“()()”としあくまで皇帝の代理として帝国を導くのだとした。

 

その為今でも帝国の玉座は空っぽのままだ。

 

ヒルデンロード首相は元々クローン戦争でもターネンベルグの戦いで勝利を得たことから圧倒的な国民の英雄として首相の座に君臨している。

 

だが第二帝国建国後は新共和国とは対立せず安定策に軸足を置いて活動してきた。

 

故に第二帝国はひとまずの安定期に入ったがまだ銀河内戦の屈辱とカイゼルシュラハト作戦でも拭い切れなかった敗北感を覚えている将兵達はどこか空虚に感じていた。

 

銀河協定も事実上の敗戦条約であり帝国軍にも大きな制限がかけられた。

 

第二帝国は存続したものの第一銀河帝国が保有していた殆どの領域を失い、かつて帝国だった場所は新共和国かヒルデンロード首相の言う“()()()()()()”達の軍閥勢力となってしまった。

 

賭けに勝ったのにも関わらず見返りは少ない。

 

最近ではその事に対しより強行的なことを演説で発言する新しい政治家も現れ始めた。

 

「作戦を立案したとしても実行されず機会を逃すのであれば我々の行動に意味など……」

 

「そんな事はないぞ少佐。首相はタイミングを見計らっているだけで我々の行動や仮の作戦計画には満足していらっしゃる」

 

シュメルケ上級大将はヴァルヘル少佐の言葉を遮りそう答えた。

 

「それに首相はそう遠くない未来に必ず作戦決行の命令を下される。遠くない未来必ず、な」

 

 

 

 

 

 

 

-ベアルーリン 宇宙軍港附属駐屯地-

それか1ヶ月が過ぎた。

 

この1ヶ月の間にはセスウェナ接触危機やカターダの一揆が発生したが第二帝国内では特に何もなかった。

 

その平静の間に国防軍も保安軍もチェンセラー・フォースも徐々に自らの体制と基盤を整え安定期に入っていた。

 

特にチェンセラー・フォースでは流石に領域内に亡命する帝国軍部隊も少なくなった為ある程度の部隊の編成が完了した。

 

そして新規に入ってきた将兵も徐々に各部隊へ副官や新任将校という形で配属され始めた。

 

彼、ニコラツ・ヴァリンヘルト少尉もそのうちの1人だった。

 

彼は連隊長室に辿り着くまで何度も制帽を被り直し階級章が曲がっていないかを確かめた。

 

これから着任の挨拶に行く連隊長はヴァリンヘルト少尉の憧れでお世話になった恩人だ。

 

彼がいなかったらヴァリンヘルト少尉は多分軍人になれなかった。

 

故にヴァリンヘルト少尉はとても緊張しており、彼のソワソワする動きは少々奇異なものだったが周りにあまり人がいなかった為さほど怪しまれずに済んだ。

 

「よし…!」

 

再び制帽を被り直しヴァリンヘルト少尉はようやく連隊長室のドアを叩いた。

 

すると入室許可が出て連隊室のドアが開いた。

 

中にはこれからヴァリンヘルト少尉が仕える第6親衛連隊長が1人、そして連隊長と同じくらいの年齢に見える橙色の髪色をした少佐がいた。

 

ヴァリンヘルト少尉は今までにないほど綺麗な敬礼を連隊長に送った。

 

「失礼します!本日第6 親衛連隊に連隊長副官として着任いたしました!ニコラツ・ヴァリンヘルト少尉であります!」

 

2人も敬礼を返し連隊長が「楽にしてくれ」とヴァリンヘルト少尉の敬礼を解いた。

 

連隊長はデスクから離れヴァリンヘルト少尉の下に近づいた。

 

そして彼に手を差し伸べ握手を求めた。

 

「卒業おめでとう、それとこれからよろしく」

 

「シュタンデリス中佐…!」

 

ヴァリンヘルト少尉は感極まりながら彼の手を握った。

 

彼こそが第6親衛連隊の初代連隊長となるジークハルト・シュタンデリス中佐だった。

 

ヴァリンヘルト少尉とジークハルトの出会いはかれこれ2、3年前になる。

 

彼が帝国アカデミーへの入学に困っていた時に手助けしたのがジークハルトだった。

 

その出来事があって以来ヴァリンヘルト少尉はジークハルトを尊敬し彼を目指して軍人となった。

 

「ここに入るとは聞いたがまさか私の副官とは。私の新しい副官としては申し分なさそうだ」

 

「ブラウヴィッツ中尉は優秀でいい先輩でしたからね、私も注意に負けないくらい励もうと思います」

 

ジークハルトは優しい笑みを浮かべながら小さく頷いた。

 

ヴァリンヘルト少尉はジークハルトの副官に嬉しかったが同時にジークハルトが少し変わったような気もした。

 

前よりもやつれ瞳からはだいぶ光が失われた気がする。

 

それは2、3年も会っていないヴァリンヘルト少尉の思い違いだろうか。

 

「そのことなんだが……実は私とこのハイネクロイツ少佐で暫く別の任務に加わることになってね……当面副連隊長のアデルハインの所に行って欲しいんだけど」

 

「別の任務…ですか?」

 

「ああ、詳細は君にも言えないがとにかく一時的に連隊の指揮からは離れる。すまないな、来たばかりなのに」

 

「いえお構いなく!中佐のご活躍を期待しています!」

 

「そんな大それた仕事じゃないよ」

 

ジークハルトが若き少尉を宥めていると再びドアが開き別の将校が入ってきた。

 

ジークハルトとハイネクロイツ少佐に敬礼し「準備、整いました」と状況を報告した。

 

「分かった、もう少ししたら行く。少尉、早速まず最初の任務だ。この資料を……副連隊長のアデルハインに渡して欲しい。ついでに挨拶も、多分喜ぶ」

 

「はい!中佐もお気をつけて!あっ後少佐殿も!」

 

ジークハルトは頷きハイネクロイツ少佐も軽く敬礼を送り連隊長室を出た。

 

駐屯地内の窓から外の様子を見つめると少し開けた場所に中隊単位の部隊が整列し上官の話を聞いていた。

 

少し遠いから正確には分からないがかなり若い将兵が大勢いた為全員新任の将兵だろう。

 

彼らの中には元々帝国軍の候補生だった者が多くその経験を買われて多くがチェンセラー・フォースに勧誘され入隊してきた。

 

今や帝国の正規軍たる国防軍は狭き門であり各惑星の保安軍もそれほど空きがある訳ではない。

 

その為殆どがチェンセラー・フォースに集まってきた。

 

「あの若い少尉と知り合いなんだって?」

 

ハイネクロイツ少佐はふとジークハルトに尋ねた。

 

スターファイター隊と地上軍将校ではあまり深い接点はないかもしれないが、ハイネクロイツ少佐の明るい性格で比較的連隊の将兵にも彼はすぐに受け入れられた。

 

「ああ、昔コルサントの軍事大学に行ってた頃ちょっとね。折角アカデミーに入っても途中退学でその後路頭に迷うようじゃ報われないよな」

 

ジークハルトはふと彼らの心境を思って愚痴をこぼした。

 

だがあれだけの戦争に敗北するということはこういうことなのだ。

 

カイゼルシュラハト作戦の限界点があそこまでとはいえこれが現実だ。

 

「まあな、ただそれ以前に卒業出来た奴らがみんな報われた結果なのかはまた別だが」

 

銀河内戦末期、各地の帝国アカデミーから卒業間近の候補生が駆り出された事例がある。

 

当然そのうちの何人かは艦船の爆発に巻き込まれ、熾烈な地上戦の末に、或いは上官の無茶苦茶によって戦死した。

 

到底報われた結末とは言えないだろう。

 

それはジークハルトが一番分かっていた。

 

「あっエレベーターを使おう」

 

近くのエレベーターを見つけたハイネクロイツ少佐は最下層まで降りようとボタンを押した。

 

すると横から「我々もご一緒して構わないかな?」と渋めの男性の声が聞こえた。

 

「バエルンテーゼ将軍!あっいえ大将」

 

ジークハルトとハイネクロイツ少佐は2人に敬礼した。

 

「いい、いいどっちでも。久しぶりだな中佐、元気にやっているか?」

 

親衛隊の上級将校の1人であるゴットバルト・バエルンテーゼ大将は2人に敬礼を返した。

 

彼の後ろには配下のエルフェンバイン准将が控えていた。

 

「閣下、どうぞお先に」

 

「ああ、すまないな」

 

ジークハルトはバエルンテーゼ大将とエルフェンバイン准将を先にエレベーターの中へと入れた。

 

ジークハルトは中佐、それに対して2人は准将と大将(General Admiral)だ。

 

軍人としての偉さは比べ物にならないしバエルンテーゼ大将には大きな恩がある。

 

「大将方はどちらへ行かれます」

 

「1階で頼む、この駐屯地には視察に来たのでな」

 

「そうでしたか、ちなみにどの部隊を?」

 

ジークハルトは2回パネルのスイッチを押し降りる階層を決めた。

 

「第47擲弾兵大隊、まあ簡単に言えば歩兵大隊だな。新しく作る連隊の基幹部隊となるそうだ」

 

「へえ、では連隊長は誰に?」

 

「内定だがオルフェンベルクに決まったそうだ、年齢的には君の同期だったな」

 

ジークハルトが将校になる為に通った帝国アカデミーは最も権威の高い帝国ロイヤル・アカデミーだった。

 

一方新連隊長となるオルフェンベルク中佐が通っていた同じく名門校のカリダ帝国アカデミーで同期と言っても2人にそれほどの面識はなかった。

 

精々名前を知っているくらいだろう。

 

「元々前線の部隊長上がりだった人ですよね、やっぱりあのカリダ・アカデミーの教育の成果ですかね」

 

「かもな、君たちは何処へ行くつもりだ?」

 

バエルンテーゼ大将はふと2人に尋ねた。

 

「我々は最下層まで」

 

「最下層……ああ、君達なら信頼して任せられる。頑張れよ」

 

バエルンテーゼ大将は当然事情を知っており2人に労いの言葉を送った。

 

その任務の重大さ故にここではそれ以上言えなかった。

 

2人は小さく頷き丁度1階についた。

 

「それじゃあ、お先に」

 

バエルンテーゼ大将とエルフェンバイン准将は先にエレベーターを降りそのままドアが閉まった。

 

再びエレベーターは降下し目的地である駐屯地の地下に辿り着いた。

 

本来ここは市街地戦や敵艦に対する上陸戦や防衛戦などを訓練する場所だが今日はここに幾つかの特殊部隊が集まっていた。

 

通路を少し進みそのうちの一つの区画に入った。

 

「ジークハルト・シュタンデリス中佐、ランドルフ・ハイネクロイツ少佐に敬礼!」

 

区画に入った瞬間一斉にトルーパーの敬礼を受けた。

 

本来ストームトルーパーやストームトルーパーに分類する兵科の存在は銀河協定で禁止されているのだがチェンセラー・フォースはその枠に批准していない。

 

また銀河協定には“()()()()()()()()()()”についての明文が現在のところ存在しない為チェンセラー・フォースは対象外となる。

 

名目上彼らは帝国代理首相パウルス・ヒルデンロードの私兵なのだから。

 

「第42降下猟兵中隊及びコマンドー隊、全員揃っています」

 

中隊長のミェル・キルホフ上級大尉が2人に報告した。

 

配下の中隊は以前は帝国地上軍の空挺部隊で全員がジャンプ・トルーパーで構成されていた。

 

当然銀河協定では禁止の部隊だ。

 

ジャンプ・トルーパー達の隣で直立不動のままジークハルトらに敬礼する黒いトルーパーの分隊も。

 

彼らの一部はシャドウ・トルーパーと呼ばれるクローキングを用いて敵地に潜入し破壊工作や特殊作戦を実行するストームトルーパーの精鋭部隊だ。

 

2個分隊が配備されクローキング装置の能力を活かして素早く浸透し制御を奪う手筈になっている。

 

その為にシャドウ・トルーパー達は同じく部隊として配属される2個のストーム・コマンドー分隊と共に訓練を重ねていた。

 

そして今回は情報部から部隊長であるジークハルトの護衛ということでデス・トルーパーが1個分隊が配備され専属で彼をガードする。

 

これによりジークハルトが指揮するのはシャドウ・トルーパー、ストーム・コマンドー、デス・トルーパーの諸兵科連合1個小隊、帝国地上軍の最精鋭を集めた最強部隊だ。

 

更にジャンプ・トルーパー部隊が上陸から制圧までを支援する。

 

こちらはハイネクロイツ少佐が直接指揮を取ることになった。

 

「私がエンジン区画制圧の指揮を取るジークハルト・シュタンデリス中佐だ。知っての通り我々の今回の任務は奪われたエグゼクター級“アナイアレイター”を奪還することにある」

 

兵士達は黙ってジークハルトの話に耳を傾けた。

 

「これは帝国軍の戦力と威信の回復だけに留まる任務ではない。前内戦で失った戦友達の無念を晴らす始まりの一歩なのだ。あの屈辱の敗戦の中で失った戦友を思い出せ、この任務で“アナイアレイター”を取り返すことこそが戦友達に報いることの出来る最初の機会だ。諸君が全力で任務に臨むことを期待する」

 

トルーパーの1人1人が銀河内戦での屈辱を思い出しジークハルトの演説を胸に仕舞い込んだ。

 

この若い将校は我々の気持ちをよく理解し共に戦ってくれる同志なのだとトルーパー達は思った。

 

「奪還作戦で我々はエンジン区画の制圧を担当する。まず第42降下猟兵中隊がこのハイネクロイツ少佐と共に撹乱しその間に私と制圧小隊が突入しエンジン区画の中央制御室を抑える」

 

中央制御室を占拠すれば一気にエグゼクター級のエンジンを無力化することが出来る。

 

当然敵も守りを固めるだろうから制圧は激戦となるだろう。

 

エンジン区画の制圧は確保した“アナイアレイター”を第二帝国領へ運ぶ時に最も重要となる。

 

当然その責任の重大さをジークハルトが理解していない訳がない。

 

しかしやらねばならない、この任務を果たさなければ彼が言った通り“無念を晴らす”ことが出来ない。

 

「思い上がった海賊どもに我々がなんたるかを知らしめてやれ、諸君らの働きによって帝国の尊厳は取り戻されるのだ」

 

軍靴の音と共にトルーパー達の声が響いた。

 

それは兵士達の祖国と指揮官に対する忠誠の誓いの現れであり勝利への強い意志の現れだった。

 

ジークハルトも彼らに敬礼を送った。

 

この時点で作戦決行まで既に2ヶ月を切っていた。

 

 

 

 

 

-ベアルーリン バーデンダルク州 シェルネヴェート市-

シェルネヴェート市は宇宙軍港に近くジークハルトは連隊長に就任した際、シェルネヴェート市の軍人住宅地に一軒の家を贈呈された。

 

ノートハーゼンから引っ越してきたジークハルトの一家は去年からここに住んでいる。

 

シュタンデリス家はジークハルトの妻に子供1人の3人家族であり両親は既に他界していた。

 

妻の名前はユーリア・フリズベン・シュタンデリスといい一人息子はマインラート・シュタンデリスという名前である。

 

丁度この日はジークハルトが定時で家に帰り夕食を済ませ、マインラートを風呂に入れ終わった時間帯だった。

 

辺りはもう真っ暗になっており街灯や家々の灯りがシェルネヴェートの街を照らしていた。

 

マインラートはパジャマのままおもちゃのランドスピーダーや宇宙船を並べて遊んでいた。

 

そんなマインラートを見守りながらジークハルトはユーリアから差し出されたカフを嗜んでいた。

 

「もう、すっかり大きくなっちゃって」

 

ユーリアはジークハルトの隣に座り感慨深そうに呟いた。

 

子供の成長は早いとよく言われているが実際その通りだと深く感じていた。

 

「ああ、日中はどうだい?元気にしてる?」

 

「ええ、きっとお風呂の中で言われたと思うけど今日は公園に行ってきたわ。帰ってきてからすぐ『また明日も行きたい』って」

 

2人は微笑を浮かべジークハルトは再びカフの入ったカップに手をつけた。

 

だがその一瞬でふとあることを思い出し彼の微笑みは消えた。

 

どう言おうか、そもそも今いうべきか悩みながらカフを一口飲み、決心をつけた。

 

「……実はまた帰りが遅くなったり帰らない日々が続くかもしれないんだ、ごめんね」

 

ジークハルトはゆっくりコップを置きユーリアにそう伝えた。

 

ユーリアは少し寂しそうな顔をしたが軍人である以上覚悟の上だ。

 

彼女の父だって軍人で家を留守にすることが多かった。

 

「そう…それで何日くらいになりそうなの?」

 

ジークハルトは困り顔を浮かべ唇に人差し指を当てた。

 

「…ごめんね」

 

「……わかったわ、気長に待ってるから」

 

ジークハルトは小さく「ありがとう」と呟いた。

 

今回の極秘作戦は当然家族にもその任務内容を伝えられない。

 

仕方ないこととはいえかなり辛いものがある。

 

「仕事が終わったら頑張って休みを取ってみるよ。取れるかは分からないけど…」

 

「そうねぇ……休みになったらどこか旅行にでも行きましょうか。パンツェルの方に新しい遊園地が出来たんだって」

 

「そうだなぁ……マインも大きくなったし」

 

再びカフの入ったカップを持とうとすると突然ジークハルトの鞄の中に入っているコムリンクがバイブの音を立てながら鳴り響いた。

 

マインラートもスワンプ・スピーダーのおもちゃを持ちながら「なんかなってるよー」とジークハルトに伝えた。

 

「ありがとうマイン、ちょっと出てくるね」

 

「ええ」

 

一体なんだとジークハルトは若干不機嫌になりつつも鞄からコムリンクを取り出し通信を繋げた。

 

外部に漏れてはいけない情報だった時の為にジークハルトはリビングの外に出て会話に出た。

 

「…もしもし」

 

『中佐!君は今家か?家ならば直ちに駐屯地に戻ってくれ!』

 

通信の相手は国防軍所属でバーデンダルク州に駐屯する第649歩兵師団長のアルマン・ホーエンヴェルゲン准将だった。

 

銀河内戦終結後ジークハルトはチェンセラー・フォースに入るまでの間、ホーエンヴェルゲン准将の配下にいたことがある。

 

ジークハルトがはかのバスティ・シュタンデリス司令官の息子であるということもあって准将に随分と可愛がられたものだ。

 

その為ホーエンヴェルゲン准将とはチェンセラー・フォースに出向した後でも親しき仲だった。

 

「准将?どうしました?」

 

ジークハルトは少し焦るホーエンヴェルゲン准将に事情を尋ねた。

 

准将は移動しながらだが簡潔に答え始めた。

 

『今諸事情あって首相官邸近くの事務館にいるんだが“()()()()()()()()()()()()”!!それでも“()()()()()()()()()()()”!!』

 

「えっ!?」

 

ジークハルトは思わず声を上げた。

 

首相官邸、しかも執務室で爆発が起こった。

 

これらのピースを合わせた先にある最も最悪な答えといえば…。

 

『今、先にダルヘマンに命じて私の師団に武装して待機するよう命じた。国防軍にも連絡済みでもう近くのチェンセラー・フォースは動き始めてる。君も急いで駐屯地の兵力を武装させろ』

 

『准将、こちらを』

 

通信の奥ではホーエンヴェルゲン准将が副官からブラスター・ピストルを受け取りキルモードにチェンジする音が聞こえた。

 

恐らく事務館の面々は事態を考慮して武装し始めているのだろう。

 

『すぐに君の上官から命令が来ると思うが先に伝えておく。我々は警備の連中や事務館のメンバーと協力して執務室に行くつもりだ、いざという時の為に君は宇宙港をなんとしても死守してくれ。ベアルーリンと他の領域を繋ぐ貴重な拠点だからな』

 

「了解、お気をつけて」

 

『そっちもな、では!』

 

ホーエンヴェルゲン准将との通信を切りジークハルトは急いで自身の制服を撮りに向かった。

 

寝巻きを脱ぎ、再びさっきまで来ていた制服に身を包む。

 

すると再びコムリンクが誰かから連絡が来ていることを伝えた。

 

ジークハルトは着替えながら通信を繋ぎ応答した。

 

「もしもし」

 

『私だ中佐、今し方シュメルケからチェンセラー・フォース全部隊に緊急の出撃待機命令が出された。君は今家か?』

 

通信の相手はモーデルゲン大将でどこか静かで落ち着いていた。

 

「はい、ですがすぐ駐屯地に向かいます」

 

『そうか、では君の連隊を武装させて待機させろ。一部の部隊は当然宇宙港の守備に回ってもらう』

 

「了解、直ちに命令を出します」

 

『任せたぞ』

 

通信が切れ、ジークハルトはズボンを履き終えた。

 

ベルトを締め上着を着ながら今度はジークハルトが別の人間に連絡を取ろうとした。

 

暫く間を置き通信は繋がった。

 

「アデルハイン、私だ。シュメルケ上級大将から緊急の出撃待機命令だ。今いる全兵士を急いで武装させて出撃体制を整えろ。ベルトヘルカーはそっちにいるか?」

 

ジークハルトが通信を繋げた相手はブリーズ・アデルハイン少佐、第6親衛連隊の副連隊長だった。

 

今日は彼が駐屯地でまだ勤務しているはずだ。

 

そして案の定、アデルハイン少佐は通信に出た。

 

『ああ勿論いる』

 

「彼の中隊は武装次第宇宙港の方に送れ。宇宙港はなんとしても死守させろ」

 

『了解した、こっちで全隊に招集をかける』

 

「頼んだ、私もすぐに向かう」

 

通信を切りジークハルトは襟を留めて軍帽を被った。

 

上着のベルトを締め、手袋を嵌めるとすぐに部屋を出てリビングに戻った。

 

リビングのユーリアとマインラートは突然制服を来てきたジークハルトを見て少しびっくりしていた。

 

「お父さんまたしごと?」

 

「ああ、ごめんねぇマイン。お父さん、ちょっと行ってくるよ。お母さんのゆうこと聞いて、ちゃんと寝るんだよ?」

 

「うん!いってらっしゃいお父さん!」

 

「ああ、行ってくる。それとおやすみ」

 

マインラートの頭をポンポンと撫でて立ち上がった。

 

ユーリアは心配そうに「呼ばれたの?」と尋ねた。

 

「ああ……緊急の命令が来た。多分今日中には帰れそうにないからマインを頼む。じゃあ」

 

「行ってらっしゃいあなた」

 

小さく頷いてジークハルトは急いで我が家を後にした。

 

静けさが漂うベアルーリンの街の中を1人で。

 

 

 

 

 

 

第二帝国にとってかの夜は“長い沈黙の夜”と呼ばれ、帝国の歴史にまた一つ悲劇を残した。

 

突如首相官邸に位置する首相執務室で爆発が発生しこの時点で2名の衛兵、中にいた官僚数名が即死。

 

その後爆発の混乱に乗じて首相官邸へ襲撃者が突入し執務室にいた第二帝国首相、パウルス・ヒルデンロードと彼の幼い次男が襲われた。

 

艦艇の警備兵が突入した際、次男の姿は発見出来なかったが重傷を受けたヒルデンロード首相は発見された。

 

直ちに官邸近くの帝国ベアルーリン総合軍事病院に搬送されたが既に事切れており手遅れであった。

 

第二帝国の建国の父にして首相、英雄ヒルデンロードは己の生み出した帝国がまだ黄金に達する前にこの世を去ったのだ。

 

ベアルーリン及び帝国領域全土では戒厳令の下厳重な警戒体制が敷かれ、チェンセラー・フォースに保安軍、国防軍といった全ての帝国軍がいつでも出撃出来る態勢を整えていた。

 

ISBやベアルーリン首都警察は血眼で襲撃者と拐われたと思われるヒルデンロード首相の次男を捜索したが見つかることはなかった。

 

この事態に対し帝国最高評議会は直ちに臨時議会を招集、まずヒルデンロード首相に代わる新たな帝国指導者を決定することになった。

 

何人かが新たな帝国指導者に立候補したものの突如発見された生前ヒルデンロード首相が遺していたとされる遺言書が発見された。

 

内容には自身の後の帝国指導者の指名も明記されておりヒルデンロード首相が指名したのは現在COMPNORの長官を帝国の高官であった。

 

COMPNOR長官の帝国指導者就任に議会は全会一致で賛成しCOMPNOR長官はあくまで皇帝と首相の“代理の総統”という形で帝国指導者の後を継いだ。

 

総統は直ちに帝国全土へ2週間の喪服を命じヒルデンロード首相の葬儀を取り行った。

 

首相の遺体は首相がクローン戦争で大勝を収めたターネンベルグ戦勝記念碑の下に埋葬され、代理総統が葬儀演説を行った。

 

ヒルデンロード首相に対してはかつて敵対した新共和国からも哀悼の意が送られ、新共和国議長の席を譲ったモン・モスマも同様に首相の死を悼んだ。

 

代理総統の誕生から帝国は一気に変革と動きを見せ始めた。

 

まず総統就任により空席となったCOMPNOR長官の席はハインレーヒ・ヒェムナーが据え置かれた。

 

また以前総統が就いていた宣伝大臣の席にはヨーぺゼフ・ゲルバルスが就任し首相官邸も新たに総統府と名を改められた。

 

首相の死から3週間後、代理総統は就任演説を行い銀河内戦中の新共和国に対して直接的な批判を行った。

 

このような帝国から新共和国への直接的な批判は銀河内戦終結以降初めてであり、銀河系に大きな衝撃を齎した。

 

まず国内では帝国軍、並びに議会はこの行動を積極的に支持した。

 

特に帝国軍は銀河協定の軍備制限を解除する意欲を示した代理総統のことに忠誠を誓った。

 

一方新共和国は当然この行動に対し「戦後秩序を乱しかねない挑発的行為だ」と反対の意を表明。

 

新共和国軍内や新共和国元老院の過激派は「銀河協定の規定を強化すべき」との意見も出されたがあくまで反対のみに留まった。

 

総統は明確に新共和国と対立する気であり銀河間では緊張が走った。

 

その余波は当然チェンセラー・フォースにも影響を与えた。

 

彼らはまず“首相の軍(Chancellor Force)”から“総統の軍(Fuehrer Force)”として“親衛隊”に名称が改訂された。

 

そして首相時代にはついぞ認可されることのなかった“()()()()()()()()()”も代理総統は直ちに認可した。

 

既に完成しつつあった特殊作戦ESD-02Rは加速度的に進行することとなる。

 

新しい“()()()()()”が産声を上げる中で、新たな戦争の楔となる巨大な短剣を得る為に。

 

黒服の軍隊は今動き出す。

 

 

 

 

 

 

-ベアルーリン軌道上 宇宙軍ステーション・ドック ISD“アークセイバー”-

インペリアルⅡ級スター・デストロイヤー、“アークセイバー”は帝国軍時代からシュメルケ上級大将の乗艦であった。

 

艦長はリードリッツ・オイゲン大佐で現在の親衛隊ではこの“アークセイバー”が総旗艦を務めている。

 

現在“アークセイバー”は親衛隊に割り当てられた宇宙軍ステーションに特殊作戦に参戦するインペリアルⅡ級“エリミネーション”とセキューター級“シャーデン”と共にドックに停泊していた。

 

ステーションには普段の地上との輸送とは別に特殊作戦に実行される予定の物資や兵員の運搬を行っていた。

 

『第4095便は30分後に到着します。ハンガーベイ各作業員は直ちに配置についてください』

 

アークセイバー”の艦内にアナウンスが響きアストロメク・ドロイドや作業員達が動き始めた。

 

アークセイバー”に限らずインペリアル級は本来数万人単位の乗組員がいないと運用出来ないがこの艦には大幅な無人化技術が組み込まれている為数千人でも運用が可能だ。

 

尤も数千人で運用しなければならないほど帝国軍の規模は大きく縮小したという事実の現れでもある。

 

「こちら“アークセイバー”第1ハンガーベイ、こちらにはまだ空きがある。こちらに優先して着艦せよ」

 

ハンガーベイを取り仕切るゼールメン曹長は耳元のコムリンクに手を当て輸送機に指示を出した。

 

すると1機の機体から返答があった。

 

『こちらゴザンティ特務輸送機、ボマークラスのハンガーベイに輸送したい』

 

「機種はインターディクター・スターファイターか?」

 

『そうだ、“アークセイバー”に運び込むよう命令を受けている』

 

「分かった、パイロットには着艦タイプ-Gを実行させろ」

 

『了解』

 

通信を切るとゼールメン曹長は何人かの整備士を集め始めた。

 

今から来る機体はただのTIEボマーではない。

 

帝国軍最高級の爆撃機だ。

 

『インターディクター1、間も無く着艦する』

 

再びコムリンクに通信が入り徐々に浮遊する1機の爆撃機、TIEパニッシャーが姿を現した。

 

TIEパニッシャーは別名TIEインターディクター・スターファイターやTIEキャピタル・アサルトとも呼ばれる。

 

貴重な超重爆撃機でありその能力は通常のTIEボマーとは比較にならない。

 

「インターディクター1、空いている隙な場所に降りてくれ。こちらが向かう」

 

『了解した』

 

TIEパニッシャーはハンガーベイの偏向シールドをすり抜けちょうど真ん中の空間に着艦した。

 

集まった整備士達がゼールメン曹長と共にぞろぞろとTIEパニッシャーの周りに集まった。

 

1人の整備士が感慨深そうに「これがあの……」と呟いた。

 

ゼールメン曹長も同調するように頷いた。

 

「ああ……これがあのTIEパニッシャーだ」

 

整備士達は貴重な高性能爆撃機たるTIEパニッシャーを整備出来ることを心の底から喜んでいた。

 

同じ頃、“アークセイバー”の作戦室では作戦の最終確認の為に作戦に参加する全ての指揮官や参謀達が集められていた。

 

正面のモニターには今回の作戦を説明するスライドが映し出されていた。

 

「本作戦は亡き首相が命を賭して存続させ、代理総統の下新たな道へ進む我が帝国の運命に大きく起因する作戦である。その為、失敗は許されない」

 

シュメルケ上級大将は全員の前に立って説明を始めた。

 

将校達の瞳は当然だと言わんばかりに彼を見つめていた。

 

「尤も、諸君ら親衛隊の精鋭が集まったこの作戦、私には失敗する要素は微塵も感じられない。ただ全力で望みたまえ、そうすれば必ず我らには勝利が舞い降りてくるだろう」

 

シュメルケ上級大将は狂気を孕んだ笑みを浮かべ、何人かの将校達はそれに釣られて自らの戦意を昂らせた。

 

将校達は闘争心に溢れており、マラカヴァーニャの海賊達を1人残らず抹殺してしまう勢いだった。

 

「それでは作戦の最終確認に入る。まず艦隊をワイルド・スペースに移動させ、海賊が我々の放った“餌”となるコレリアの輸送船を襲撃するのを待つ」

 

モニターにはワイルド・スペースの星図が映し出され、そこに簡略化された親衛隊の艦隊と海賊船団が映し出された。

 

海賊船団はハイパースペースから出撃した輸送船を狙って移動しある一点で立ち止まった。

 

海賊船団は確実にこの輸送船を襲撃しそこで暫く停止するだろうという算段だ。

 

「海賊が輸送船を襲撃し始めたら我々もそれを追撃し作戦を開始する。まず敵船団の最大砲撃地点から外れたポイントにジャンプアウトし爆撃隊を展開する」

 

ジャンプアウトした艦隊から2つの爆撃編隊が出撃し海賊船団に爆弾を投下した。

 

「この爆撃で海賊どもを無力化し、“アナアイレイター”へ第1制圧部隊を送り込む。各隊はそれぞれ指定したブリッジ、エンジン区画、ハンガーベイ、動力部を制圧する」

 

艦隊から輸送船が発艦し海賊船団の中央に位置する目標のエグゼクター級“アナイアレイター”に突撃する。

 

今度はアナイレイターの船体が中心に現れ、シュメルケ上級大将が示した4箇所の制圧地点を表示した。

 

「これらの制圧は全て諸君の腕に掛かっている……が、相手は海賊だ。制圧では生ぬるい、“()()()()()()()()()”」

 

邪悪なる笑みが何人かの将校にも伝染した。

 

シュメルケ上級大将が将校達の戦意を高める為のあえての発言かそれとも本人の意思なのかこの場にいたジークハルトは完全には分からなかった。

 

しかし敵地を制圧する以上、その場の敵を殲滅せざるを得ないだろう。

 

「こんな奴らがいるから銀河の秩序が乱れるのだ。我々の使命は帝国と秩序を護ること、そして秩序に仇なす全てを殲滅すること。その為にはまず、この海賊どもを殲滅し“アナアイレイター”をこの手に取り戻す。そして次は……いや、今はまだだな。諸君らの制圧が終了次第、第2制圧部隊を展開し我々は“アナイアレイター”を手土産にベアルーリンへと帰還する。以上が作戦の全貌だ」

 

シュメルケ上級大将はあえて言葉の途中を濁した。

 

されどこの場にいる全ての将校達がシュメルケ上級大将が言わんとすることを理解していた。

 

彼ら親衛隊が征く先はワイルド・スペースの海賊達相手に留まらない、親衛隊は敵地を進むのだ。

 

アナアイレイター”を奪還し次は“首都(コルサント)”を取り戻す。

 

それからようや彼らの雪辱は果たせるのだ。

 

まだ始まりですらない、本当の“第二次銀河内戦”は後1年は先だ。

 

「“アナイアレイター”はカシオ・タッグ大将軍の旗艦にして我が帝国の威信たる艦である。これを取り戻すことは帝国の威信を回復させることに繋がる」

 

エグゼクター級スター・ドレッドノートは帝国宇宙軍最大の軍艦でありこの十三隻のスター・ドレッドノートは帝国秩序の象徴であった。

 

しかし“エグゼクター”がエンドアで沈んだのを皮切りにこの象徴は次々と失われていった。

 

アービトレイター”も、ジャクーで沈んだ“ラヴェジャー”、終いには皇帝の旗艦たる“エクリプス”も姿を消した。

 

もはやこの銀河系で確実に存在しているエグゼクター級は“アナイアレイター”の一隻のみだ。

 

たった一隻だがそれでも帝国の威信と軍事力を回復させるには十分な一隻である。

 

「説明は以上だが何か質問はあるか」

 

シュメルケ上級大将は将校達に尋ねた。

 

すると1人、前列の将校が手を挙げた。

 

第1制圧部隊に所属するヨアム・アルデルト中佐だ。

 

「作戦計画名はなんという名称ですか、いつまでもESD-02Rという訳には行きますまい」

 

「作戦名か……そうだな」

 

作戦計画が完成してもなおこの特殊作戦はいつまでもESD-02Rという名称だった。

 

何せ作戦が成功しても失敗しても詳細は全て破棄される。

 

アーカイブに残す必要がない為本来作戦計画名も必要なかった。

 

「“Jäger Dreadnought”……我々は狩人となってかのドレッドノートを手に入れる。海賊どもにも他のならず者の軍閥どもにも渡っていい代物ではない。我々が“()()()()”」

 

この瞬間、作戦名が決まった。

 

シュメルケ上級大将は将校達に対して命令を下す。

 

「総統閣下の許可は頂いた……これは亡きヒルデンロード首相の先勝記念碑の前に捧げる最初の勝利である!準備が出来次第“イェーガードレッドノート作戦”を実行せよ!」

 

歴史上の表舞台に残ることはない影の戦争の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『1,000メートル級ドック1番、2番、3番、間も無く各艦のドッキングを解除する。エアロック内部の人員は速やかに退避せよ』

 

ステーションから指示が届き、3つのドックに停泊する艦船の乗組員達は準備を進めた。

 

エアロック周辺の乗組員は全員が退避しハンガーベイ周辺ではシールドがしっかりと空気を閉じ込めているか再度確認され、エンジン区画が正常に動くかどうか再びチェックされた。

 

ブリッジでも司令機能や艦の状態を再チェックし安全を再確認した。

 

出撃前に艦に異常があっては全ての乗組員の命と特殊作戦全体の命運に関わる。

 

「こちら“アークセイバー”、艦内のチェック完了、異常な点はなし。そちらのドッキング解除を待つ」

 

通信士官がステーションの司令室に対して返答した。

 

同様の返答は他の艦からも行われた。

 

今回動員出来る軍艦は三隻、二隻はインペリアル級スター・デストロイヤーであり残りに一隻はセキューター級スター・デストロイヤーであった。

 

その今回作戦に参加する唯一のセキューター級“シャーデン”でも同様に艦の安全性が確かめられていた。

 

「再チェック完了、艦に異常はありませんドレスタル准将」

 

“シャーデン”の艦長代行兼第六十三機動部隊司令官のヴィッツ・ドレスタル准将は小さく頷き通信士官に命令を出した。

 

「ステーションに連絡しドッキング解除を要請せよ。本艦の準備は完了した」

 

「了解!“シャーデン”、艦内の再チェック完了。ステーションは直ちにドッキングを解除されたし」

 

「どうした、浮かない顔だなメルゲンヘルク中佐」

 

ドレスタル准将は彼の背後に控える“シャーデン”副長に声を掛けた。

 

シャーデン”は現在艦長のコルバ大佐が入院中の為、艦長の職務をドレスタル准将と副長のオリス・メルゲンヘルク中佐に分けて行っていた。

 

メルゲンヘルク中佐は気まずそうに小さく頷いた。

 

「このような特殊作戦に携わるのは実は初めてでして……」

 

メルゲンヘルク中佐は数ヶ月前までは第六十三機動部隊の参謀将校を務めていた。

 

しかし前任の副長が大佐に昇進し別の軍艦の艦長に就任した為繰り上がりで彼が少佐から中佐に昇進し“シャーデン”副長に就任した。

 

メルゲンヘルク中佐は中佐の階級にしてはまだ随分と若い。

 

何せほとんどの宇宙軍将校が戦死するかどこかの軍閥に接収されてしまった為自動的に繰り上がり、昇進を重ねていった。

 

「そう気負うな、我々が今回やることは限られている。艦載機を飛ばして帰ってきたら輸送機を飛ばす、そして後はシュメルケ閣下と突入する特殊部隊に任せるだけだ」

 

「そうですね……」

 

ドレスタル准将はメルゲンヘルク中佐の緊張を解す為に作戦を随分と簡略化して言った。

 

その効果があってかメルゲンヘルク中佐の顔色は前より幾分かマシになった。

 

「君は若いながら“シャーデン”の乗組員をよく率いてくれている。今回の作戦もいつも通りにしてればいい」

 

「はい…!」

 

一方もう一隻のインペリアル級“エリミネーション”では既に報告が完了し乗組員達は出航を待機していた。

 

ブリッジでは各乗組員が配置についておりフューリナー上級大将と副司令官のボルフェルト中将が控えていた。

 

控えめな性格のボルフェルト中将はともかく、フューリナー上級大将がその場にいると何故か空気感から一気に馬が引き締まる。

 

彼自身常に笑みを浮かべ比較的穏やかな口調で話している様相だがそれでも何故か時折恐怖を感じさせる。

 

「いよいよですね上級大将…!」

 

「そうだな、我々の行動次第で今後が大きく決まる。成功すれば帝国の未来は素晴らしいものとなるだろうが…失敗すれば我々の未来はなくなる。尤も、シュメルケの言う通り失敗する未来は見えんが」

 

こちらにはヒェムナー長官が齎してくれた“切り札”がある。

 

そちらにも存分に働いてもらうつもりだ。

 

出来るのならば“()()()()”も連れて来たかったのだが彼女にはやってもらうことがまだある。

 

「上級大将、間も無くステーションとのドッキングが解除されます」

 

通信士官が報告しその間に副官のヴァルヘル少佐が敬礼しブリッジに到着した。

 

「全艦用意完了、ハイパースペースへの座標計算を開始せよとシュメルケ上級大将が」

 

「そうか、了解した。ハイパースペースの座標計算開始、目標はワイルド・スペース。狩りの始まりだ」

 

三隻のスター・デストロイヤーでは座標計算が開始され徐々にエンジンも力を入れて炎を吹き出し始めた。

 

そんな中ステーションの司令室から通信が入る。

 

『ドッキング解除、各艦の無事の帰還と武運を祈る』

 

ドックの固定具が取り外され三隻のスター・デストロイヤーはゆっくりと後ろに下がり半回転して暫くベアルーリン周辺を航行した。

 

他の艦船との衝突を避け安全にハイパースペース・ジャンプを行う為だ。

 

少しづつベアルーリンを離れジャンプの体勢を整える。

 

「座標計算、完了しました」

 

「各艦、いつでもハイパースペースにジャンプ出来ます」

 

乗組員の数人がシュメルケ上級大将に報告する。

 

そのことを聞いてジークハルトは「いよいよか……」とふと呟いた。

 

「ああ……作戦が成功しようと失敗しようと銀河系の殆どは誰も気づかない」

 

だからこそ気楽に行こうとハイネクロイツ少佐は考えていた。

 

失敗すれば死ぬだけ、既に2回も死にかけたハイネクロイツ少佐からすれば最早いつものことに感じられた。

 

「だが我々のような存在はやがてそうなっていくのかもしれないな。何せ我々は“もう帝国軍ではない”」

 

親衛隊はもう正規軍の内には入らない。

 

首相の私兵から相当の私兵へ、どこへ行こうと私兵は私兵。

 

決して元の帝国軍人には戻れない。

 

だからこそジークハルトはこの道を自ら選んだ。

 

もう帝国軍の軍服は高価過ぎる、この制服で丁度良い。

 

「精一杯やろうじゃないか、親衛隊として。散っていった奴らの分まで」

 

ジークハルトは再びブリッジのビューポートから外を見つめた。

 

再び既にハイパースペースに入る準備は整っている。

 

「全艦、ハイパースペース突入準備完了です」

 

「閣下、ご命令を」

 

アークセイバー”の艦長を務めるリードリッツ・オイゲン大佐はシュメルケ上級大将に指示を求めた。

 

シュメルケ上級大将は制帽を被り直し顎髭を触ってから暫く間を置いて命令を出した。

 

「全艦に通達、ハイパースペースに突入しワイルド・スペースへ急行する。イェーガードレッドノート作戦を開始せよ」

 

三隻のスター・デストロイヤーは全てハイパースペースに入っていった。

 

失われた“秘宝(エグゼクター級)”を取り戻す為に、狩人達は旅に出た。

 

 

 

 

つづく




過去イノベだよ

過去イノベは昔のイノベだよ

強さは変わらないよ

成長がないね。


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イェーガードレッドノート/後編

「第一銀河帝国は銀河共和国の自然死によって生まれた。第二銀河帝国は第一銀河帝国の自死によって生まれた。そして第三銀河帝国は第二銀河帝国の突然死によって生まれたのである。」
-ケイル・レフテンフォーハー著書 帝国の誕生より抜粋-


-ワイルド・スペース マラカヴァーニャ独立国影響領域 ISD“アークセイバー”-

ワイルド・スペースは銀河の最遠部に位置する領域であり、その実態は未知領域よりも不明瞭な点が多い。

 

未知領域はまだ星図化された未踏査エリアだがワイルド・スペースは星図化すらされていないのである。

 

その為ワイルド・スペースまでの航行は危険が伴うとされていたが案外すんなりとジャンプ出来た。

 

このことをベアルーリンにいる親衛隊長官に暗号通信を送ると『我らにシス・アーリアの加護あり』と返答が来た。

 

「センサーによる周辺監視を怠るな、何者であろうと我々がここにいるという事実を知られてはならん」

 

アークセイバー”艦長のオイゲン大佐は最後に一言、「たとえ元味方であろうともだ」と付け加えた。

 

このワイルド・スペースには逃亡した帝国艦隊がまだ存在しているのではないかという噂があった。

 

一度情報部が簡易的に調査を行ったのだがその可能性は低いという結論に至った。

 

尤も万が一ということもあるので常に油断は出来ない。

 

「艦長、ベアルーリンより暗号通信です。“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”……」

 

通信士官の報告を聞きオイゲン大佐は内容を理解し一旦心を落ち着かせて命令を出した。

 

「全艦に通達、直ちに航行準備を開始しジャンプ探知センサーを起動させろ。隊員達には出撃準備を!私は報告に行く」

 

「了解…!」

 

オイゲン大佐はその場を他の将校達に任せ司令官や参謀達が集まっているホロテーブルに向かった。

 

他の乗組員達が敬礼する度それに返しながらまず最高司令官であるシュメルケ上級大将へ敬礼した。

 

周りには彼の参謀以外にも“エリミネーション”のフューリナー上級大将や“シャーデン”のドレスタル准将がホログラムで会議に出席していた。

 

「閣下、ベアルーリンから到着したと報告がありました」

 

簡略化された報告だったが彼らにはそれで十分だった。

 

若い参謀達の間では騒めきが広がり、ドレスタル准将やボルフェルト中将は顔を顰めた。

 

彼らの中で平然と笑みを絶やさず、この気を待っていましたと言わんばかりの表情を維持していたのはシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将の2人だけだった。

 

「では始めるとしようか」

 

シュメルケ上級大将の一言が戦いの音を告げた。

 

オイゲン大佐は敬礼だけ送り再びブリッジに戻った。

 

先に“シャーデン”のドレスタル准将とメルゲンヘルク中佐のホログラムが途切れた。

 

戦闘準備と移動準備を行うつもりなのだろう。

 

ボルフェルト中将もフューリナー上級大将より先に自身のホログラムを切った。

 

参謀達もそれぞれの仕事に就き残ったのはシュメルケ上級大将とフューリナー上級大将だけとなった。

 

『いよいよだな』

 

フューリナー上級大将は笑みを深めそう呟いた。

 

シュメルケ上級大将も小さく頷き「ようやく我々の時代が戻ってくる」と告げた。

 

カイゼルシュラハト作戦実行からまだ1年、だが帝国にとって屈辱の1年だった。

 

我々はカイゼルシュラハト作戦であれだけやり遂げた、帝国を存続させる為に新共和国の喉元まで迫った。

 

しかし帝国は負けたことになった、力が足りなかったからだ。

 

ヒルデンロード元帥の呼びかけに応じた者が少な過ぎた、誰もが元帥の言う通り“背後の略奪者”となり帝国の遺産を食い潰した。

 

奴らは裏切り者で帝国を打倒せんとする新共和国やその共謀者によって唆された頭の足りん連中だ。

 

結果、帝国のために戦った(Kaiserschlacht)我らだけが不義理な条約を結ばされ足枷をつけられた。

 

ヒルデンロード首相はそれでも帝国が残るならと立場を甘んじて受け入れたが……我々はそうではなかった。

 

親衛隊だけではない、国防軍の者達だって心の底では再軍備と新共和国打倒の戦争を狙っている。

 

彼らは我々と同じく帝国の栄光を取り戻そうとしている、彼らは我々を嫌っているが同志ではある。

 

で、あれば動けない彼らの代わりに我々総統の親衛隊がまず最初の戦争を始めるべきなのだ。

 

帝国の鎖を全て断ち切り、新共和国とその共謀者達をこの銀河から消し去り、背後の略奪者となった裏切り者の首を全て刎ねて再び帝国を蘇らせる。

 

この戦争はその始まりだ。

 

「再び帝国の時代が戻ってくる。帝国の帰還を進めるのは我々だ」

 

フューリナー上級大将は大きく頷きホログラムは消えた。

 

彼があの顔をする時、我々に敗北はない。

 

クローン戦争の時からそうだ。

 

シュメルケ上級大将は自らもホロテーブルから移動しブリッジに向かった。

 

選りすぐりの黒い軍服を着た乗組員達が次なる戦場に向けて準備している。

 

若い将兵達は今か今かと戦場を待ち望んでおり、10年以上共に戦ってきた古参の将兵達は冷静に己の職務をこなしている。

 

彼らはこの戦いが勝利で終わると確信しているのだ。

 

自分達にはそれだけの技量がありその技量を100%以上に引き出してくれる指揮官が自分達にはいると彼らは理解している。

 

「敵海賊船団、C2Dに接触。現在輸送船を襲撃中」

 

「ビーコンの探知急げ」

 

「了解」

 

オイゲン大佐の命令で乗組員達はこの広いワイルド・スペースの中から輸送船が発信する救難ビーコンを捜索に出た。

 

本来なら10分以上の時間が掛かるのだが今回の計画された事態ではすぐに見つけ出される。

 

「“シャーデン”から各艦に伝達、C2Dのビーコン発見とのことです」

 

「座標、転送されました」

 

通信士官の報告と共に“シャーデン”から送られてきた座標が航行士官とセンサー士官の下へ映し出される。

 

これで目標のスター・ドレッドノートの位置は割り出せた。

 

「では全艦ハイパースペースへ」

 

シュメルケ上級大将の命令と共に三隻のスター・デストロイヤーは再びハイパースペースへと入った。

 

戦争を始めるために、失われたスター・ドレッドノートを取り戻すために。

 

 

 

 

-ワイルド・スペース マラカヴァーニャ独立国影響領域内 輸送船襲撃地点-

船内に鳴り響く警報音と共に控えていた警備隊員達が一斉に通路を闊歩する足音が聞こえた。

 

DH-17ブラスター・ピストルが配られ、ヘルメットと最低限の装備と共に戦闘準備を開始する。

 

通路の隔壁は殆どが封鎖され非戦闘員は船内の広報へと追いやられた。

 

「敵は何機で来るんだ!」

 

『今の所着陸船が3機接近してきている、数で言えば3個分隊』

 

「エンジンと貨物エリアに守りを集中させる、その間に早く直してくれ」

 

『分かった!』

 

輸送船の警備隊長はコムリンクを切り自らもブラスター・ピストルを受け取った。

 

こんなことならコロネットで出航前に同僚の警備隊長と飲むんじゃなかったと彼は思った。

 

彼の同僚は元帝国軍の下士官で階級は上級曹長だったそうだ。

 

歩兵部隊を指揮し隊の将校達からも信頼を得ていたそうだが帝国の崩壊により軍を追い出され無職になった所を輸送会社の警備部門に拾われた。

 

元帝国軍の将兵は一般の警備員より遥かに仕事が出来るし教育コストだって一般の警備員の半分でいいし何より強い。

 

同僚の隊長も優れた室内戦闘能力と指揮力でまだ入って数ヶ月なのにも関わらずもう隊長をやっている。

 

今回の任務も同僚と一緒にやる予定だったのだが出航の前祝いに飲み屋で一杯やってから同僚が隊長を崩し、別の奴と組むことになった。

 

別の警備隊長はお世辞にも同僚の警備隊長ほど優秀ではなく、さっきもピストルを持つ手が震えていたのを目撃した。

 

こんな状況になるならあの日飲みに行くんじゃなかった、あいつも下戸なら下戸と早く言って欲しかったと彼は全てに八つ当たりしたくなるような気持ちを心の中に閉まった。

 

輸送船のハイパードライブと航路システム、エンジンが故障しこの救難信号すら届かない領域にジャンプアウトしてしまった。

 

そしたら現地の海賊に襲われこのザマだ。

 

しかもどういうわけか海賊は帝国軍のスーパー・スター・デストロイヤーを持っている。

 

あの軍艦は全て新共和国が接収したという噂だったのだが間違いだったのだろうか。

 

それに比べてこちらの戦力は警備員数十人と護身用のブラスター・ピストル、輸送会社がちょろまかした金で買ったDLT-19重ブラスター・ライフルだけだ。

 

室内戦においての火力は申し分ないがそれでも外から救援が来る可能性が全くないんじゃこちらはジリ貧の戦いをせざるを得ない。

 

「エアロックを封鎖してここを最初の防御地点にする、貨物エリアとエンジン区画には絶対に敵を入れるな!」

 

警備員達は遮蔽物に隠れながらブラスター・ピストルを構え、敵を迎え撃つ態勢を整えた。

 

それから僅か10秒もしない内に船内に揺れが響き渡った。

 

敵の着陸船がドッキングを強行した時の衝撃だ。

 

警備員達はブラスター・ピストルを構え直す。

 

額から汗が流れ落ち警報音と同じくらい大きな音に聞こえる心音が耳に残った。

 

僅かな緊張を打ち破るように隔壁は海賊の手によって爆破され、戦闘が始まった。

 

通路では赤いブラスター弾が飛び交い煙の奥から海賊達が姿を現した。

 

粗野で乱暴な海賊達は何人かが撃たれるも勢いに乗って警備員達を押し返した。

 

徐々に警備員達は劣勢に立たせられ、不穏な空気が流れ始めた。

 

1人、また1人と警備員は撃ち倒される。

 

「後退!第2点まで後退しろ!」

 

隊長は警備員達に命令しブラスターの火力を一点に集中しながら後退を開始した。

 

集中砲火で再び数人の海賊を撃ち倒したが状況に特に変化はなかった。

 

隊長が最後のブラスト・ドアを封鎖し他の警備員と共に急いで次の地点に移動した。

 

「クソッ!このままじゃあ終わりだ!」

 

走りながら隊長は苛立ちを言葉にして吐き捨てた。

 

奴ら敵船に乗り込むのが手慣れている、その上勢いを消さずひたすら前に突っ込んでくる。

 

きっと海賊の親玉が人望のある良い親分なのだろう。

 

そう言った親玉の下では部下達はよく働くし命がなくなっても良いとすら思えるようになる。

 

残念だが隊長にそんなカリスマはないし警備員達もそこまでやれるほど覚悟が決まっているわけではない。

 

ふと隊長は船内のビューポートから外の様子を見た。

 

一隻のスーパー・スター・デストロイヤーとそれを無造作に取り囲むように並んでいる海賊船。

 

だがその奥に三隻の海賊達の船とは違うものが見えた。

 

コレリアに長い事いた隊長はその三隻の船に見覚えがあった。

 

むしろ形状は海賊が何故か持っているスーパー・スター・デストロイヤーの方が近いかもしれない。

 

「あれは……まさか……」

 

隊長の予測通り海賊船団より奥に出現した船は帝国軍の軍艦であった。

 

インペリアル級二隻にセキューター級一隻、親衛隊が今日この日の為に送り込んだ最精鋭艦隊である。

 

そのうちの二隻からそれぞれお3機ずつTIEファイターが発艦した。

 

うち2機はTIEインターセプター、そして編隊の中央を飛行しているのはこの作戦の為に運搬された帝国最新鋭の爆撃機、TIEパニッシャーだった。

 

『インターディクター1、目標地点までの安全ルートをこちらでナビゲートする』

 

「了解、直ちに爆撃を開始する」

 

TIEパニッシャーはTIEインターセプターに守られながら海賊船団に向かって飛行した。

 

まだ突然の出来事により海賊船団は対応出来ておらず、船一隻一隻が右往左往していた。

 

これは親衛隊にとって都合の良い状態だ。

 

『目標地点まで後100メートル、EPB弾投下準備を開始せよ』

 

「EPB弾投下準備開始、安全装置を解除」

 

パイロットはコックピットの中で弾薬庫の安全装置を解除し投下準備を整えた。

 

本来TIEパニッシャーはプロトン魚雷やイオン魚雷など様々な武器を積むことが出来るのだが今回は作戦に合わせてある特殊な爆弾1発のみを搭載していた。

 

『インターディクター2、目標地点に到達。これより爆撃を開始する』

 

既にもう1機のTIEパニッシャーは目標地点に到達し爆撃を始めると通信で報告した。

 

それはこちらも同様だ。

 

「インターディクター1、同じく爆撃を開始する。エレクトロ=プロトン爆弾投下」

 

スイッチを押し弾薬庫の爆弾を敵船団目がけて投下した。

 

3機は旋回して距離を取り爆弾は投下から数秒経ってから遂に起爆した。

 

周囲に強大な電磁パルスが同心円状に発生し周囲の船舶を巻き込んだ。

 

当然その中にはかつて“アナアイレイター”と呼ばれた“リバティース・ミスルール”も含まれており、左右両方で発生した電磁パルスの影響を十分に受けていた。

 

暫くすると電磁パルスは消失したが辺りの船舶は全て機能停止に陥った。

 

リバティース・ミスルール”も船体の一部機能が停止し航行不能状態に陥った。

 

TIEパニッシャーによる爆撃は大成功に終わった。

 

「敵船団の沈黙を確認、爆撃は成功した」

 

状況を報告しながらTIEパニッシャーとTIEインターセプターの編隊は母艦への帰路についた。

 

今TIEパニッシャーが投下したエレクトロ=プロトン爆弾(EPB)はクローン戦争時に登場した兵器の一つである。

 

投下ポイント周辺に超強力な電磁パルスを周囲に発生させ生命体には全く被害を出さず、ドロイドや機械類のみにダメージを与えることが出来る。

 

今回使ったエレクトロ=プロトン爆弾は後に開発された対艦仕様のもので本来は廃棄される予定だった。

 

その為ノーマークだったこの兵器は今回の作戦において大きな効力を齎した。

 

海賊船団は完全に無力化されその上エグゼクター級には直接的な被害はない。

 

これで海賊達は他の船に助けに行けずただ鉄の塊に閉じ込められることになる。

 

『了解、インターディクター1は帰投せよ。作戦の第二段階に移行する』

 

敵の無力化は成功し後は目的のものを狩るだけである。

 

TIEパニッシャーの編隊が帰投する直前にTIEインターセプターに守られたゴザンティ級やデルタ級T-3cシャトルとすれ違った。

 

デルタ級もこの作戦の為に少数生産されていたものをわざわざかき集めて投入した。

 

このイェーガードレッドノート作戦には今ある親衛隊の最高の将兵と最高の兵器が詰め込まれている。

 

爆撃機には最新鋭のTIEパニッシャーを、そしてパイロットには戦闘に慣れた熟練のパイロット達を。

 

輸送シャトルにはデルタ級を、そして兵員には最高の練度と指揮能力を持つ将兵達を。

 

恐らく今後このような作戦は出来なくなるだろう。

 

第三帝国が戦うのは新共和国であり大規模な戦争になればなるほど彼らは別々の戦場を体験することとなる。

 

来るべき第二次銀河内戦では。

 

 

 

 

エグゼクター級に接近する親衛隊の第1制圧部隊それぞれ散開し担当の区画へ進路を取った。

 

ブリッジを制圧する小隊はブリッジ方面へ、ハンガーベイを制圧する小隊はハンガーベイ方面へ、エンジン区画を制圧するジークハルト達の小隊はハンガーベイ方面へ向かった。

 

だがその前にやることがある。

 

先行したゴザンティ級は殆ど沈黙したエグゼクター級にギリギリまで接近した。

 

「各員、準備はいいな」

 

ハイネクロイツ少佐はホルスターからブラスター・ピストルを引き抜き隊員達に声をかけた。

 

キルホフ上級大尉ら第42降下猟兵中隊の面々は武装を整えハイネクロイツ少佐の問いに最適の回答で答えた。

 

ゴザンティ級のブリッジから隊員達に通信が届く。

 

『41降下猟兵中隊、降下準備に入られたし。ハッチを解放する』

 

ゴザンティ級のメインハッチが開きハイネクロイツ少佐を先頭にジャンプ・トルーパー達が集まってきた。

 

ゴザンティ級にはまだ薄い偏向シールドが展開されており空気などが抜け出ることはないがトルーパー達が1歩でも足を踏み出せばすぐに宇宙空間に出れる。

 

『周囲にデブリなし、敵艦艇からの迎撃なし。直ちに降下せよ』

 

「行くぞ!」

 

ハイネクロイツ少佐は助走をつけ真っ先にゴザンティ級から飛び降り降下を開始した。

 

偏向シールドをすり抜けそれから暫く自由落下で距離を取った後ジェットパックに火をつけ宇宙空間を自由自在に飛行する。

 

他のジャンプ・トルーパー達もハイネクロイツ少佐に続きゴザンティ級から飛び降りた。

 

周囲に展開したジャンプ・トルーパー達は事前に訓練した通りに行動した。

 

「攻撃を開始しろ」

 

命令と共にイオン魚雷ランチャーを持ったジャンプ・トルーパー達がターボレーザー砲塔や各砲台に攻撃を仕掛けた。

 

誘導式のイオン魚雷は発射と共に目標に向かって行き命中と共に更なるイオンダメージを与えた。

 

既に“アナイアレイター”はエレクトロ=プロトン爆弾の能力で殆どの機能が低下しているがまだ完全に死んでいるわけではなかった。

 

特に武装類はこれから内部に突入する部隊に大きな脅威となり得る為即座に制圧する必要があった。

 

トルーパー達は次々とイオン魚雷を用いて砲塔を制圧した。

 

『少佐、ポイント10-1から生命反応。敵です』

 

警戒に当たっていたジャンプ・トルーパーは直ちに敵の接近を仲間に伝えた。

 

恐らく敵も少数だろうが宇宙空間に出て戦闘する海賊がいる可能性がある、既に予測している行動だ。

 

「了解、1班私に続け。速やかに殲滅する」

 

ハイネクロイツ少佐は数人のジャンプ・トルーパーを率いて迎撃に向かった。

 

彼の装備は殆どパイロットのものに幾つかの追加アーマーを着ただけだがそれで十分だった。

 

優秀な“()()”である彼はこの装備で十分戦える。

 

「機動力を活かせ、行くぞ」

 

敵を視認すると同時に速力を上げ左右上下に機動した。

 

敵の海賊達はハイネクロイツ少佐を視認するとほぼ同時に手持ちのブラスターで迎撃したが命中することはなかった。

 

「堕ちろ!」

 

ハイネクロイツ少佐は両手に持つブラスター・ピストルで2人の海賊を撃ち抜き、一気に接近してもう1人撃ち倒した。

 

一気に3人の仲間を失い動揺する海賊達は距離を取ろうと船外活動用のジェットパックを吹かせるがその間に他のジャンプ・トルーパー達に取り囲まれてしまった。

 

ジャンプ・トルーパー達が装備するRT-97C重ブラスター・ライフルの一斉射撃の弾幕により残りの海賊達も1人残らず皆殺しにされた。

 

『上陸地点の砲塔を全て制圧完了、これより第二フェーズに入ります』

 

他のジャンプ・トルーパーも自らの任務を果たしたようで遠くからでも散開し移動するトルーパーの姿が確認出来る。

 

ひとまず与えられた露払いの任務は終わったようだ。

 

「了解、我々も合流する」

 

中隊の各員にそう告げるとハイネクロイツ少佐はコムリンクの回線を別のものと繋げた。

 

「42中隊から上陸小隊へ、突入路の安全を確保した。いつでも行けるぞ」

 

『了解、既にそっちに近づいている。突入は後1分後に開始される』

 

「それはよかった」

 

ハイネクロイツ少佐は通信先のデルタ級シャトルが接近するのを目にしながらそう呟いた。

 

護衛のTIEインターセプター2機はある一定のポイントで離脱しデルタ級はそのまま真っ直ぐ“アナイアレイター”に接近した。

 

『工兵隊の仕掛けがもう間も無く発動する。巻き込まれるなよ』

 

「分かってる、偏向シールドを最前面へ展開。内部に一気に突入する」

 

「了解」

 

デルタ級の操縦手が偏向シールドを調整し機体の前面に偏向シールドを集中させた。

 

ハイネクロイツ少佐が宣告した通りに工兵隊が仕掛けた内部侵入用の爆破剤が一斉に起爆した。

 

エグゼクター級全体から見ればまだ小さな破損だがデルタ級が内部へ突入するには十分の大きさだった。

 

「突入口の開通を確認、突入フェーズに入ります」

 

操縦手は機体を調整しつつジークハルトに報告した。

 

「後は任せた」とデルタ級の操縦席を離れ隊員達の下へ向かった。

 

武装し、静かに整列する帝国の最精鋭トルーパー達が彼を待っていた。

 

「諸君、間も無く“アナイアレイター”に突入する。ここからは私と諸君の出番だ。共に、連中に目にもの見せてやろう」

 

ジークハルトは不敵に笑い隊員達に敬礼を送った。

 

本来の帝国式の敬礼でありジークハルトが今後この敬礼を行う回数は徐々に減っていくだろう。

 

新しい呪われた敬礼が親衛隊将校には相応しい。

 

仮に本人が望んでいなくとも。

 

デルタ級は真っ直ぐ“アナイアレイター”に向かって前進した。

 

速度と角度を微調整しつつある程度の速度を持って内部に突入する。

 

「角度補正マイナス2、レーザーのチャージを偏向シールドへ」

 

操縦手の額には薄ら冷や汗が垂れており彼らの緊張度合いが伺える。

 

失敗すれば自分たちが死ぬだけでなくこのデルタ級に乗り込む50人近い特殊部隊員が犠牲となるのだ。

 

彼らが握るハンドルには50人の特殊部隊員の命が掛かっていた。

 

「速度よし、角度修正よし、突入を開始する」

 

ハンドルを前に倒しデルタ級をさらに前へ進めた。

 

緊迫する状況の中エグゼクター級に徐々に接近し工兵隊が開けた突破口が迫ってきた。

 

「ウィングを収納…!」

 

三角形を描く2枚の両翼は綺麗に折り畳まれその状態ままデルタ級はエンジン部分に近づいた。

 

「“アナイアレイター”内部に突入する!」

 

デルタ級の羽根が“アナアイレイター”の船体と衝突し火花を上げながら折れたがそのほかは問題なく突破口に強行着陸した。

 

デルタ級を支える脚は床の装甲と擦り合わさって火花を散らし、辺りを抉った。

 

エンジンは急停止しデルタ級はゆっくりと減速し想定内の損害でエグゼクター級内部に侵入することが出来た。

 

デルタ級のハッチが開き黒い装甲服のトルーパー達が解き放たれた。

 

失われたものを全て取り戻すために。

 

 

 

 

他の地点でも乗船に成功していた。

 

特殊部隊と海賊たちの銃撃戦が繰り広げられ艦内は戦場と化した。

 

しかし特殊部隊と海賊では練度に天と地ほどの差がある。

 

彼らは銀河内戦を生き延び、今日この日まで訓練を積み重ねてきた修羅の存在だ。

 

彼ら全員がぶつけようのない怒りや憎しみを抱き、その怨嗟を海賊達は一身に受けることとなった。

 

「チッ!どうなってんだ!?なんで帝国軍の大軍がこんなところに!」

 

武装を整えた海賊達が通路を走りながら苛立ち気味に吐き捨てた。

 

今まで来た帝国軍など全て新共和国軍との戦いに負けた敗北者の雑兵ばかりだった。

 

簡単に倒せたし欲しいものはなんでも手に入れられた。

 

だからこのワイルド・スペースでもやってこられた。

 

しかしなんだ、この帝国軍は。

 

海賊達が“()()”をしている間に突如出現した帝国軍はいきなり爆撃機を送り込み海賊船団を全て無力化した。

 

いきなり落とされたあの爆弾、恐らくイオン系統の武器だろうが全く中身が分からない。

 

ただのイオン系の兵器ならとうの昔にこの“リバティース・ミスルール”は復旧しているはずだ。

 

技師達が懸命に復旧を急いでいるが全く機能が回復する状態ではない。

 

しかも帝国軍はシャトルを送り込み船内に兵隊を送り込んできた。

 

この艦を取り戻すつもりだ。

 

「ボスがいないって時に…!!クソッ!!」

 

海賊達の主人、エレオディ・マラカヴァーニャはこの時“リバティース・ミスルール”にいなかった。

 

丁度部下を率いて輸送船に襲撃をかけていた。

 

マラカヴァーニャがこの船に残っていたらもう少し状況は変わっていただろう。

 

リバティース・ミスルール”に残っていた海賊達はそれぞれ別々の指揮系統で迫る敵を迎え撃っていた。

 

「後少しで戦場だ!気ぃ抜くなよ!」

 

海賊達が駆け抜けた先にはブラスター弾が飛び交う戦場が広がっているはず“だった”。

 

そこには同じ船の仲間達の残骸が転がっていた。

 

まだブラスターに撃たれ斃れている者はマシな部類だった。

 

中には刃渡りの長い実物の刃物で斬殺され腕や胴が飛んでいる者もいた。

 

「なんだこりゃあ!」

 

「あいつだ!」

 

困惑を吐き捨てるのと同時に別の海賊がこの惨劇の張本人を見つけた。

 

見たところ相手はホロワンのIGシリーズと同じ見た目の暗殺ドロイドで暗くて良くは見えないが黒い装甲に斬殺した相手の返り血を浴びていた。

 

しかも返り血ではない不気味な赤い線があちこちに入っている。

 

海賊達はすぐに銃口を向け発砲した。

 

海賊達に躊躇いという言葉はない、敵は全て殺す。

 

しかも相手はドロイドだ、彼らの引き金はより軽くなった。

 

ドロイドは自身の腕でブラスター弾をガードしながら遮蔽物に身を隠しつつ応戦した。

 

正確な射撃が数人の海賊を撃ち倒し一気に接近した。

 

「さんかっ!」

 

脳天に鋭い踵蹴りを喰らった海賊はその時点で死んでいた。

 

踵から打ち出された短剣が彼の頭を引き裂いたのだ。

 

ドロイドは身体を回転させ腕部のレーザーと手持ちのパルスレーザーをばら撒きながら残りの敵を一掃した。

 

撃ち倒した海賊達の死体を一瞥しドロイドは暗殺ドロイドとしての悦びを誰も消すことの出来なかった自我で感知していた。

 

不信仰者(エイシスト)”どもめ。

 

自らのセンサーで次の敵が来ることを確認したこの暗殺ドロイドは、今度は自分から打って出ることにした。

 

拾ったブラスターを捨て初期装備の鉈に持ち換え、近接戦の態勢に入った。

 

ドロイドに与えられた命令はこの艦にいる敵の排除、ただ一つである。

 

帝国軍以外の敵を全て倒し、屍の山を築き上げることこそ主に捧げる信仰心となり得るのだ。

 

ドロイドは勢いよくさっきまでいた室内を飛び出し他の地点へ向かおうとしていた海賊達の前に躍り出た。

 

海賊達は驚いた様相で足を止めブラスター・ライフルを構えようとしたが反応が遅かった。

 

パルスレーザーに付いた銃剣と鉈が振られ、前にいた3人が斬り倒された。

 

崩れ落ちるように身体が倒れその合間を潜り抜けるように暗殺ドロイドが突っ込んできた。

 

また1人鉈で腕ごと身体を斬り落とされもう1人は腕から投射されたウィップに首を掴まれた。

 

首を絞められた海賊はそのまま周りの海賊を巻き込みながら壁に叩きつけられた。

 

気概のある海賊達はライフルの引き金を引きながら立ち上がり遮蔽物に移動しようとした。

 

「クソッ!!なんなだこいつ!!」

 

「ふぅっ!?」

 

ウィップを巻きつけた鉈が投擲され悪態をついた海賊の隣にいたクオレンの海賊は腹を突き破られた。

 

隣いた海賊はすぐにクオレンに駆け寄ったが頭を撃ち抜かれ即死した。

 

7、8人いた海賊の集団も気付けば壊滅状態になっていた。

 

「ひぃっ!!」

 

「逃げろ!!」

 

恐怖に負けた生き残りの海賊達は戦うのを止めて逃亡を図った。

 

しかしこの暗殺ドロイドの任務は敵を全て始末することだ。

 

すぐにドロイドは隠し武器の一つである毒矢を放ち逃げた2人に命中させた。

 

この即効性の高い毒はすぐに打ち込まれた2人の全身に周り2人を苦しめた。

 

もし逃げずに戦っていればブラスター弾を撃ち込まれより安らかな死を得られたかもしれない。

 

2人が生き絶えたところでドロイドは再びセンサーを起動し周囲の状況を探知した。

 

周囲に生命反応は確認出来なかったが生命体とは別のものを感知した。

 

ドロイドは感知した方向へ自身のカメラを向けた。

 

もしこの感知した物体が敵であるならすぐにドロイドは発砲していただろう。

 

楕円形のボディに節足動物のような足を取り付けた帝国軍のシーカー・ドロイドは暗殺ドロイドを気にすることなく底浮遊のまま移動していた。

 

あのドロイドは味方であり暗殺ドロイドには少なくとも敵と味方の区別がついていた。

 

暗殺ドロイドも次の殺戮を開始する為に移動を開始した。

 

帝国を止めることは出来ない。

 

帝国の裏に潜んでいる存在も同様に。

 

 

 

 

 

「いたぞ!ぶっ殺せ!」

 

黒いトルーパーの一団を発見した海賊は自らの指がブラスターの引き金に掛かる前に倒された。

 

デス・トルーパーの持つE-11Dブラスター・カービンは帝国軍の標準装備であるE-11と酷似していたが火力に大きな差があった。

 

大口径のE-11Dはデス・トルーパーの練度と相まってその大火力を確実に敵兵に与えていった。

 

『3分隊より1分隊へ、ポイント2-A4より敵分隊接近中。命令を』

 

ジークハルトの下にクローキングを活用し敵地へ浸透していたシャドウ・トルーパーの分隊から連絡があった。

 

「4分隊、迎撃せよ。第2、第3分隊は引き続き任務を続行」

 

『了解』

 

命令を受けた第4分隊のストーム・コマンドー達は全身を停止し迎え撃つ態勢に入った。

 

コマンドー達は特殊部隊仕様に改造されたE-11を手に持ち、ホルスターにはSE-14r軽連射式ブラスターやEC-17のようなピストルを装備していた。

 

分隊長の合図を受けてストーム・コマンドー達は海賊へ発砲した。

 

応戦することも出来ず一方的な銃撃の後、艦内の通路には瞳孔を開いた海賊達が鎖のように連なり倒れていた。

 

「前方の目標排除完了、前進します」

 

高練度かつ軽歩兵の彼らはこのような場においてこそ役に立つ。

 

帝国の黒き精鋭達は迫り来る海賊を返り討ちにし、失われたエグゼクター級の中を駆けた。

 

ジークハルトと彼を護衛するデス・トルーパーの分隊も着実にエンジンのコントロール・ルームまで接近していた。

 

大多数の海賊は彼らに接近する前に他の特殊部隊員が始末しているのだが稀にすり抜けジークハルト達を攻撃する海賊もいた。

 

「前方に敵、数3!」

 

「その後ろにまだいる」

 

デス・トルーパーの分隊長が敵を発見するのとほぼ同時にジークハルトも後方から接近する敵影を捉えた。

 

トルーパー達はそれぞれ周囲の物陰に身を寄せながら発砲し敵兵を牽制した。

 

ジークハルトも自身のT-50ヘビー・リピーターを構え発砲した。

 

このブラスター・ライフルは今回の作戦の為に特別に使用が許可されたものだ。

 

通常のキルモードに加えてエネルギーを収束することにより震盪ブラストを放つことが出来る優れ物だ。

 

ジークハルトはこのブラスターの特性を活かして海賊達が纏まって隠れている遮蔽物の奥に震盪ブラストを投擲した。

 

爆散するエネルギーが辺りにいた海賊達にダメージを与え一気に無力化した。

 

数人が一気に負傷したことで海賊に対して攻撃の隙が生まれた。

 

ジークハルトの反対側に隠れていたデス・トルーパー達が遮蔽を飛び出し前進した。

 

その間に反対側の隊員達が援護射撃を繰り出す。

 

デス・トルーパー達は隠れていた海賊達を殲滅し周囲の安全を確保した。

 

「このまま前進!」

 

ジークハルトの合図に続いて反対側のデス・トルーパー達も前進し完全な膠着状態になる前に状況を打破した。

 

そのまま奥からやってくる増援の海賊達をE-11Dの火力で蹴散らす。

 

しかし海賊達は開けられた穴を埋めるかのようにすぐに現れ行手を塞いだ。

 

「この数、ただの取りこぼしとは思えません」

 

デス・トルーパー分隊の隊長であるDT-1996はジークハルトに進言した。

 

ジークハルトとしても同じ意見であった。

 

彼はガントレットのホロプロジェクターを起動し“アナイアレイター”に展開したシーカー・ドロイドの偵察情報を調べた。

 

強行着陸と共に展開したシーカー・ドロイドは殆どが海賊に見つかることなく艦内の情報を各特殊部隊に伝えている。

 

ドロイド達が集めた情報を元にジークハルトは原因を探った。

 

「映像では特段怪しい点はないが……センサーを起動」

 

音声でシーカー・ドロイドに指示を出しセンサーで周囲を調べた。

 

その間にも海賊の攻撃は続いておりジークハルトはより取り回しの良いSE-14rをホルスターから引き抜いた。

 

連射式ブラスターの名は伊達ではなく、数人の敵兵を負傷させた上に牽制射撃として十分な効力を発揮した。

 

1人のデス・トルーパーが携帯していたC-15破砕性グレネードを投擲する。

 

ソニック・インプローダーによく似たこの爆弾は効力も酷似しており、周囲に音波と光を含んだウェーブを破片ごと飛ばした。

 

一気に何人もの海賊にダメージを与え、攻撃の隙を作った。

 

E-11DやDLT-19Dが火を吹き、絶え間ない集中砲火で周囲の敵を殲滅した。

 

なんとか目の前の戦闘に余裕が出てきた為ジークハルトはタブレットを見返した。

 

センサーには本来生命体がいないはずの所に生命体を示す黄色の点が映し出されていた。

 

「これは……隠し通路か…!」

 

今度は自身のいる地点から隠し通路の出口までの距離を調べた。

 

距離的にはかなり近い方で他の部隊を展開するよりは自分たちで接近した方が早かった。

 

「全員聞いてくれ、ここから60メートル付近に敵の隠し通路がある。我々でここを突破して隠し通路を塞ぐ。これ以上後方に敵を浸透させるな」

 

デス・トルーパー達は全員が頷き全身を開始した。

 

既に前方の敵は負傷した数人の海賊しか生き残っておらず、DLT-19Dの一斉射で制圧した。

 

DT-1996は前進する自身の分隊に「前方15メートル地点に敵」と報告した。

 

分隊は左右の物陰に隠れつつ前進を続けた。

 

待ち伏せていた海賊達はデス・トルーパーを見るなり狙いも定めず撃ち始めた。

 

彼らからすればブラスターの弾幕を張って敵を近寄らせないようにしたのだがこの精鋭部隊には無意味な行為だった。

 

グレネードが投擲され正確な狙いのブラスター弾が海賊達の身体を貫いた。

 

ジークハルトもT-50の弾幕射撃を繰り出しこちらに集中させる。

 

その間にDT-1996らデス・トルーパーの集中射撃を繰り出し海賊達は1人残らず撃ち殺された。

 

「前進!」

 

ジークハルトの命令によってデス・トルーパー分隊の全身が再開した。

 

敵の防衛網は前進する前と先ほどの地点に集中していたようで後は1人、2人の海賊兵と遭遇するのみであった。

 

文体が目的地に辿り着いた時には丁度隠し通路から出てきた海賊達がどこへ向かおうかと相談をしている最中だった。

 

当然デス・トルーパー達が彼らを見逃す訳もなく即座に射殺された。

 

「どうした!銃声が聞こえっ」

 

丁度隠し通路から出る所だった海賊は銃口を額に突き付けられ恐怖を覚えることもなく即死した。

 

DLT-19Dを持ったデス・トルーパーが隠し通路の制圧の為に通路の中にブラスター弾を叩き込んだ。

 

中から悲鳴が聞こえたが当然誰もそんなことは気にせず死体を奥へと押し込み、隠し通路を工兵が塞いだ。

 

「封鎖完了」

 

「予定のポイントに向かう。各隊に次ぐ、5分隊は撹乱を、他の分隊は襲撃ポイントへ急行せよ。我々も直ちに向かう。第2、第3分隊、聞こえるか?」

 

ジークハルトはシャドウ・トルーパーによって構成されている2つの分隊に通信を繋げた。

 

「通風口シーカー・ドロイドを先行させて通風口を調べろ、改装されていれば君達でも通れるはずだ」

 

『了解しました中佐』

 

DT-1996の合図によって周囲を警戒していたデス・トルーパー分隊は再び動き出した。

 

敵戦力を粗方片付けたためか、それとも単に人手が足りないのかは不明だが数分前と比べて接敵する機会が大幅に減少した。

 

相手は所詮海賊、しかも上陸部隊として一部をコレリアの輸送船へ差し向けている。

 

周りの海賊船も機能を停止し“アナイアレイター”の救援に兵員を送れない。

 

帝国軍にとってかなり有意な状況下での作戦だ。

 

『シュタンデリス中佐、聞こえるか。状況を報告しろ』

 

コムリンク回線が開き、聞き馴染みのある中年の声が聞こえた。

 

フューリナー将軍、いや今はフューリナー上級大将だったか。

 

彼は突入部隊の指揮の為、将官にも関わらず“アナイアレイター”の中に乗り込んできた。

 

今はブリッジの制圧部隊と共にいるはずだ。

 

「エンジン制御室へ部隊を集結させています。間も無く突入を開始します」

 

『こちらも今からブリッジへ突入を開始する。優先して復旧リソースをエンジンに回すつもりだ。そちらも直ちに取り掛かってくれ。ワイルド・スペースはに長居はしたくない』

 

フューリナー上級大将は皮肉混じりにそう告げた。

 

彼の部隊も間も無く突入に入るということは他の部隊も作戦計画通りに動いているだろう。

 

であればこちらもそれに合わせるとしよう。

 

「ハイネクロイツ隊を中に入れてエンジン区画の完全制圧を目指します」

 

『了解した、彼の室内戦闘を拝むことが出来なくて私としては残念だよ』

 

ジークハルトもこの時フューリナー上級大将の冗談の裏に隠されていた思惑に気づく事は出来なかった。

 

ただ一言だけ「ご武運を」と上官に言葉を送り、回線をハイネクロイツ少佐に切り替えた。

 

「ハイネクロイツ、君の中隊を艦内に突入させろ。第二陣が来る前に制圧を済ませておきたい」

 

『了解した、隊を急行させる』

 

「前方にセキュリティ・ドロイド1分隊!」

 

敵影の報告がハイネクロイツ少佐の声に被さり、集中が前面の戦闘へと切り替わった。

 

相手は新共和国製のセキュリティ・ドロイドで手持ちの武装やカラーリングのみ個体差があった。

 

恐らく海賊達が新共和国の船を襲撃した際に手にした戦利品なのだろう。

 

だがセキュリティ・ドロイドは戦場で活躍する事なく周囲に鉄屑をばら撒いた。

 

デス・トルーパー達がブラスター・ライフルを構え引き金を引く前にドロイドの真横からブラスター弾が放たれたのだ。

 

「応戦態勢維持!」

 

DT-1996の素早い命令で隊員達はブラスター・ライフルを構えたまま距離をとりつつ前進した。

 

する遠くから「撃つな、我々だ!」と声が聞こえた。

 

「第4分隊か。全員発砲停止、味方だ」

 

角から出てきたストーム・コマンドーは同じ小隊のデス・トルーパー分隊と合流し黒いヘルメットのさらに奥深くで再会の安堵感を感じていた。

 

どんなに訓練を重ねようと黒いアーマーの下には少なからず人間性があった。

 

尤も最初から持ち合わせていない者も中にはいるだろうが。

 

ストーム・コマンドー分隊分隊長のSK-1972はジークハルトに敬礼し状況を報告した。

 

「中佐、敵戦力は半分が制御室の最終防衛ラインに、残りの半分がハンガーベイの奪取に向かいました」

 

「ハンガーベイさえ奪還すれば復旧した仲間が助けに来てくれると踏んだ訳か。甘い連中だな」

 

ジークハルトはコムリンクの回線を他の分隊長達に繋げた。

 

「各分隊、状況を報告」

 

『こちら第2分隊、第3分隊。通風口は隠し通路になっていました。現在、制御室の真上にいます』

 

『第5分隊、間も無く前方の敵部隊を粉砕出来ます』

 

各分隊とも全て順調そうだ。

 

「第2、第3は私の合図を待て。第5分隊は敵部隊を制圧した後制御室に急行せよ」

 

各分隊長は命令を受諾しジークハルトは10人のトルーパー達に命令を伝えた。

 

「我々はこれより制御室の制圧に向かう。我々は正面の防御網を突破、或いは戦力を引き付ける。その間に第2、第3が内部に突入し一気に抑える」

 

トルーパー達は命令を聞き自身のブラスター・ライフルをより一層力強く握り締めた。

 

ジークハルトは2人の分隊長に「負傷者はいるか」と尋ねた。

 

第1分隊の負傷者がいない事は当然ジークハルトも同じ場所で戦った者としてよく知っている。

 

SK-1972は「2名負傷しましたが治療済み、問題なく戦えます」と返答した。

 

「そうか……諸君、制御室を抑えれば奪還に大きく貢献出来る。“アナイアレイター”を帝国に連れ帰るのは我々だと言うことを胸に刻め」

 

T-50のグリップを握り、ジークハルトはトルーパー達の先頭に立った。

 

指揮官先頭、クローン戦争中のある将軍が是とした考えでジークハルトの父もクローン戦争中に同じように戦ったそうだ。

 

ここに来てまた父の跡を踏んでしまうとは、皮肉混じりに笑みを浮かべトルーパー達に告げた。

 

「連中に本当の恐怖と何が正義かを叩き込んでやれ」

 

 

 

 

 

-ワイルド・スペース マラカヴァーニャ独立国影響領域内 輸送船襲撃地点 インペリアル級“アークセイバー”-

アークセイバー”のブリッジには地上軍、宇宙軍の参謀達を集め突入した第一陣の部隊を管理していた。

 

通信機を装着した通信士が各隊と連絡を取り、状況を司令部に伝えた。

 

「ハンガーベイの制圧は完了、敵勢力が積極的に攻撃を仕掛けているそうですが今の所問題はないとのこと」

 

「ブリッジ制圧チーム、フューリナー上級大将から通信です…!」

 

長年の友の名前を聞いたシュメルケ上級大将は「繋いでくれ」と命令を出した。

 

ブリッジにフューリナー上級大将のホログラムが映し出され2人は形式的な敬礼を送った。

 

フューリナー上級大将は戦闘服の上にデス・トルーパーと同じアーマーを纏い、ヘルメットだけ通常の将校のものを被っていた。

 

『ブリッジは制圧した、倒した数の割に大したことのない抵抗だった』

 

フューリナー上級大将は手に持っていたRSKF-44ブラスター・ピストルをわざとらしくホルスターにしまった。

 

時々後ろを横切るトルーパーの姿が全てを物語っている。

 

帝国は勝利し海賊達は皆殺しにされた。

 

ホログラムに映っていないだけでフューリナー上級大将の足元にも海賊の死体が転がっていた。

 

「では第二陣を送ろう。“エリミネーション”、“シャーデン”に伝達、第二陣の乗船部隊を展開させろ」

 

「了解」

 

シュメルケ上級大将はフューリナー上級大将に「ブリッジの復旧状況はどうだ」と尋ねた。

 

『急いでいるがやはり想定された通りの結果だ。エンジンさえ制圧すれば状況は良くなるだろうが』

 

現状“アナイアレイター”はエレクトロ=プロトン爆弾の余波を喰らった影響で動かせる状態ではない。

 

その為奪取した後は急いで復旧する必要があった。

 

「エンジン区画への影響は少ないはずだ。尤もシールドと武装は死に体で今スターホークが一隻でも現れたら“アナイアレイター”はあっけなく沈むだろうな」

 

当然新共和国軍はこのようなワイルド・スペースの地まで展開することもないし展開する力も徐々になくなりつつある。

 

新共和国は軍縮を始めた、我々(帝国)がまだ残り続けているのにも関わらずだ。

 

シュメルケ上級大将は一瞬だけもしもの想像を思い浮かべた。

 

もし我々がいなかったら、もしヒルデンロード元帥がカイゼルシュラハト作戦を発動しなかったら。

 

帝国は今ほど明確に存続せず、もっと弱いまま滅びを迎えていただろう。

 

その時新共和国はどうしていただろうか。

 

恐らく今同様、いや今よりもっと遠慮のない軍縮を行なっていただろう。

 

レイア・オーガナや裏切り者のシンジャー・ラス・ヴェラスのような現実主義の連中が辛うじて止めているが我々がいなければ恐らくあのブレーキは役に立たない。

 

奴らは我々(帝国)が存在することによる脅威を理由に軍縮派を宥めているからだ。

 

我々の帝国は以前よりだいぶ領土が小さくなったとはいえこの銀河系の5本の指に入る領域を少なくとも保持している。

 

そんな我々が存在しなかったら奴らは軍縮を止める明確な理由を失う。

 

デルヴァードスの軍閥も、ギデオンの軍閥も、アデルハードの軍閥も、ハースクもテラドクも、当然我々も皆単独では新共和国に勝てない。

 

奴らは己が帝国の全てだと思い込んでいるので協力することもないだろう。

 

新共和国にとって帝国の残党はなんの脅威でもなく当然軍縮を止める理由にはならない。

 

だがそれこそが新共和国の破滅となる。

 

過剰な軍縮がこの不安定な戦後の治安を悪化させ、奴らは旧共和国と同じ末路を辿るのだ。

 

その時再び人々は帝国の栄光を待ち望むだろう。

 

さすればやがて帝国の再興も夢ではないのかもしれない。

 

だが、それでは“()()()()()()”。

 

人々が帝国を求める頃にはあの戦争を生き延びた者達は皆消えてしまう。

 

であれば全てが無駄になってしまう。

 

私も総統も同じ思いだ。

 

だから今立ち上がる必要がある。

 

『なに、そうならないように作戦を組んだのだ。尤も、全ての区画を制圧するまで油断は出来ないが』

 

現状真っ先に制圧部隊を展開したハンガーベイ、先ほど制圧されたブリッジ以外にもまだ二箇所のみ制圧地点がある。

 

それらを全て制圧しなければ“アナイアレイター”を奪還したとは言えない。

 

脳が動いていてもそこから発せられる指令を各器官が受け取らなければなんの意味も成さないのと同じだ。

 

アナイアレイター”を一隻のスター・ドレッドノートとして運用するにはまだまだ時間が必要であった。

 

「敵船団が動いていない以上まだ時間はあります」

 

敵船団が動けばその時は艦隊の出番となる。

 

可能な限り“アナイアレイター”に取り付こうとする敵船を迎撃し時間を稼ぐ。

 

「やはりエンジンだな……エンジンさえ制圧すれば…」

 

「上級大将!シュタンデリス中佐より入電!エンジン区画の制圧に成功したとのこと…!」

 

噂をすれば、ほぼ同時期に情報が入ってきた2人の上級大将はニヤリと笑みを浮かべた。

 

やはり彼は使える、そして帝国の未来を、親衛隊の次の世代を担うにふさわしい存在だ。

 

「若きシュタンデリス中佐がやってくれたようだな。各艦に伝達、第二フェーズに移行する。獲物をベアルーリンに持ち帰るぞ」

 

「了解…!エンジン始動、“アークセイバー”を前へ!」

 

青白いエンジンがそれぞれの艦艇に点火し親衛隊のスター・デストロイヤーは前へと進んだ。

 

その姿は失われたはずの帝国の象徴にして新たな戦争を想起させるに十分な代物だ。

 

まだ“アナイアレイター”のブリッジからその姿が見えることはなかったがフューリナー上級大将は満足げに笑みを深めた。

 

そしてわざとらしく床に転がっていた海賊の死体の頭部を掴み話しかけた。

 

「これでお前達のような連中の顔を見なくて済む日が訪れるな」

 

その死体はエイリアン種族でありこの姿も後の彼らを想起させるに十分な代物だった。

 

死臭を漂わせた黒喪の親衛隊が銀河に解き放たれてしまう。

 

もう誰も止める事はできない。

 

 

 

 

 

エンジン区画制御室を守る海賊達は他の区画ともコムリンクで連絡を取っていた。

 

爆撃から突入まで海賊達は混乱に陥っていたが辛うじて制御室の守りは固めることが出来た。

 

だが他の区画からは悲鳴ばかりが届く。

 

通信員達の額から冷や汗が消える事はなかった。

 

『クソッ!助けてくれ!!すぐそこまでバケツ共や来てる!!』

 

『こちら動力部制御室!!完全に包囲された!!もうダメだ!!』

 

『皆殺しにされる!!』

 

「おい!落ち着いて話せ!どのくらいの数の敵が迫ってるんだ!」

 

周りにいるブラスター・ライフルを持った猛き男達、女達も表情が優れずにいた。

 

むしろ不安と恐怖で手を振るわせ内臓が押し潰されそうな感覚だった。

 

「時期にここも危ねぇんじゃ……」

 

海賊の1人が俯きながらそう呟いた。

 

しかしすぐに「弱音吐くな!」と叱責が制御室に響く。

 

「すぐにボスが助けに来る!それまで何とか踏ん張るんだよ!」

 

とは言ったものの、である。

 

今の所外部からの援軍の可能性はないに等しく、“リバティース・ミスルール”にいる乗組員で状況をどうにか出来るほど甘くもない。

 

出来ることはこの場を1分、1秒でも長く保たせることだけだ。

 

誰しもが悶々とした感情を抱えていると外の海賊達が大声を上げた。

 

「敵が来たぞぉ!!」

 

その言葉と共に銃声が聞こえ、突然制御室のドアが吹き飛ばされた。

 

辺りに煙が立ち込め、開いたドアの先から外の戦場の様相が見えた。

 

15人は下らない黒い兵士達が味方の海賊と銃撃戦を展開していた。

 

「生きてる奴は戦え!!」

 

混乱状況の海賊達を気にすることなく特殊部隊のトルーパーは徐々に距離を詰めていく。

 

だが海賊達の中にブラスター砲持ちがいるせいで一時的に前進は停滞していた。

 

「砲手を先に仕留めろ、こっちで支援する」

 

モードを換え、ジークハルトは敵後方に震盪ブラスト弾を放った。

 

プラズマが一気に周囲の海賊にダメージを与え、攻撃の量を減らした。

 

生まれた隙を逃すほどストーム・コマンドーの練度は低くない。

 

E-11s長距離ブラスターを持ったストーム・コマンドーが砲手の頭を撃ち抜いた。

 

再びブラスター砲に海賊が手をつける前にブラスター弾を叩き込み、海賊達を蹴散らした。

 

それでも防御網には中々の数がおり、そう簡単には突破出来そうになかった。

 

辺りをバリケードで固めブラスター・ライフルを持った海賊が敷き詰められている。

 

しかも制御室の海賊達もドアの奥から銃口を向けて応戦している。

 

20人の特殊部隊員を率いているとはいえ一筋縄ではいかない。

 

「後方に火力を集中!」

 

ストーム・コマンドーとデス・トルーパーの正確な射撃が海賊達の頭を吹き飛ばす。

 

1人ずつ数が減り徐々に放たれるブラスター弾の数も減っていた。

 

投擲されたサーマル・デトネーターが今度は前衛の海賊を吹き飛ばしバリケードを破壊した。

 

前衛と後衛が崩れたことによりトルーパー達はまた一歩前に進んだ。

 

一方海賊達は一度の攻撃で大勢の死傷者を出し、完全に押され気味であった。

 

むしろ有象無象の海賊達がこの状況でよく逃げ出さずに戦っているなと感心するほどだ。

 

「もう少し距離を詰めてこちらに釘付けにする。後ろに留まればやられると教えてやれ」

 

「了解…!」

 

DT-1996のE-11DとジークハルトのT-50の集中攻撃で数人の海賊が撃ち倒された。

 

それに合わせてDLT-19Dを持ったデス・トルーパーが後方に弾丸をばら撒き更に海賊を蹴散らした。

 

同様に前衛にはストーム・コマンドー分隊による集中砲火が叩き込まれ、この瞬間だけあえて後衛への攻撃は停止された。

 

今しかチャンスがないと考えた後衛の海賊や制御室の海賊達が前に出始めた。

 

その間にストーム・コマンドー分隊とデス・トルーパー分隊が互いを援護しながら交互に前進し更に距離を詰めた。

 

これで敵の防衛網は完全にジークハルト達から目を離せず、この戦闘に釘付けとなった。

 

この気を逃すつもりはない。

 

ジークハルトは事前に持っていたC-25破砕性グレネードを手に取った。

 

「援護を頼む」

 

「了解!」

 

DT-1996が牽制射撃を放っている間にジークハルトはグレネードを投擲した。

 

目標は敵の防御網ではない、その“()”だ。

 

放たれたグレネードは防御網を大きく飛び越え制御室の中へ入った。

 

グレネードが2回衝撃でポンポンと跳ねて数秒後に轟音を立てて起爆した。

 

「なんだぁ!?」

 

ジークハルト達にも聞こえるほど大きな声で1人の海賊が叫んだがすぐにグレネードの轟音によって掻き消された。

 

周囲に青白いウェーブを撒き、制御室の海賊達を無力化した。

 

そしてこれが突入の“()()”となった。

 

突如天井が落下し制御室にスモーク弾が投擲された。

 

周囲が白い煙で充満し咳き込む声が今度はブラスター弾の銃声によって掻き消された。

 

クローキング状態のシャドウ・トルーパーが制御室に突入し中にいた海賊達を1人づつ始末していった。

 

元々天井の隠し通路に潜んで待機していたシャドウ・トルーパー達は制御室に擲弾されていたC-25破砕性グレネードの起爆音を合図に突入を開始した。

 

制御室の中にいた海賊は全て撃ち倒された。

 

「嘘だろ!?」

 

「しまっ!!」

 

トルーパーの引き金はいつにも増して軽く、銃声が辺りに大きく鳴り響いた。

 

全門のストーム・コマンドーとデス・トルーパー、後門のシャドウ・トルーパーからの集中砲火を受け海賊達は全員始末された。

 

断末魔の叫びすらなく銃声の後には静寂だけが残った。

 

地べたに転がる命の抜けた抜け殻は皆瞳孔を開き何かを懇願しているようだった。

 

彼ら彼女らが最期に思ったことは恐怖、この二文字に尽きるだろう。

 

「クリア」

 

「周囲を警戒、工兵はコンソールへ」

 

制御室の周りには黒いトルーパーが集まり周囲を警戒していた。

 

一部の工兵技能を持つトルーパー達は簡易的ではあるがエンジンの復旧作業に入った。

 

現状エンジン部のイオン被害はまだ修復しておらず動かすにはもう少し時間が要る。

 

ジークハルトはコムリンクの回線を“アークセイバー”に繋げた。

 

この報告で彼らの任務は終わる。

 

「こちらエンジン制圧チーム、制御室を占拠した。警戒体制を維持したまま復旧作業に入る」

 

味方の全軍に向けて送った通信である為“アークセイバー”のシュメルケ上級大将にもブリッジのフューリナー上級大将にも届いているだろう。

 

通信を切り制御室のビューポートから外の様子を見つめた。

 

ワイルド・スペース、見える宇宙の様子はベアルーリンと大差ないがここは星図の端、銀河の最遠部だ。

 

まだ戦闘中とはいえ自身の任務が無事成功したことにより急に気分が優れてきたような気がする。

 

代わりに身体には緊張や疲労がドッと押し寄せ何をするにも一息吐いてしまう。

 

我々は勝った、久方ぶりに勝ったのだ。

 

長らく忘れていた勝利の昂揚が蘇ってくる。

 

周りのデス・トルーパーやストーム・コマンドー、シャドウ・トルーパー達もその様子は見られないが内心は同じだろう。

 

帝国は久方ぶりの勝利を手にした。

 

本来は“彼ら”と共に得るべきものだったかもしれないが。

 

「ようやく終わった……いや、“()()()()”」

 

ジークハルトはこのスター・ドレッドノートが近い将来活躍する未来を想像し失われた者達に再び誓いを立てた。

 

それと遠く離れた場所で平和を謳歌しているだろう自身の妻子にも。

 

失った戦友と明るい未来のために。

 

彼は親衛隊で血塗られた道を進む。

 

かくして失われしスター・ドレッドノートは黒喪の私兵に狩り獲られたのである。

 

 

 

 

 

-コア・ワールド “()()()()()()”首都惑星ベアルーリン 帝国宇宙軍警戒区域-

帝国宇宙軍は帝国領域外への移動禁止と艦船の近代化の禁止という厳しい制限を掛けられたものの、少なくとも1個宙域艦隊以上の戦力は保有していた。

 

インペリアル級やアリージャンス級のような大型主力艦はかなり失ってしまったが領域内の防衛艦隊としての任務は達成出来る。

 

尤もそれは“()()()()()()”を含めての話だが。

 

親衛隊やかつて存在していた保安軍、或いは各総督、軍司令官に持たせていた“私兵軍”を引き抜くと帝国宇宙軍は一気に弱体化する。

 

元よりそうなるように銀河協定の際に制限を掛けられたからだ。

 

敗戦国の戦闘能力を削ぐ為には当然の行為であるが当の帝国宇宙軍の将兵達は納得出来るはずもなかった。

 

だからこそ彼らは第二帝国の時代に様々な手法を用いて戦力の温存を図った。

 

それらは全て書類裏にしか存在しない戦力として“裏の帝国軍”や“黒い帝国軍”などと呼ばれた。

 

だが今はもうそんなことをする必要は無くなった。

 

新しい総統は銀河協定の鎖を解き放つことを密約し、様々な手法で温存された戦力も徐々に正規軍たる国防軍か親衛隊に統合されつつある。

 

「デゴート提督、親衛隊総旗艦“アークセイバー”からです」

 

自身の乗艦、インペリアル級“ヴァロー”のブリッジにてヴァル・デゴート提督は通信士官から報告を受けた。

 

提督は腕を組み、眉間に皺を寄せながら「規定通り地上の親衛隊と艦隊に連絡を回せ」と命令を返した。

 

デゴート提督は暫く不機嫌な表情のままブリッジのビューポートに近づいた。

 

「チッ何が親衛隊だ。ヒルデンロード閣下の痛ましい悲劇をダシに生き残りおって……伍長殿の寵愛がそんなに欲しいか」

 

誰にも聞こえない声量でデゴート提督は親衛隊を罵倒した。

 

提督は親衛隊もなんなら新しく台頭した代理総統すら気に入らず軽んじていた。

 

その為総統を揶揄って呼ぶ“()()殿()”という言葉をよく使っている。

 

総統が伍長と呼ばれる理由は様々で尤も有力な説としては戦争中に伍長待遇の歩兵として従軍していたかららしい。

 

その為特に総統に好意を持っていない軍将校達は所詮は程度の低い者と考え、陰で伍長殿と呼んで揶揄っていた。

 

デゴート提督もその中の1人で新しい帝国の指導者はヒルデンロード元帥のように再び軍部から選出するべきだと考えていた。

 

あの一体どこから出てきた分からないちょび髭の総統より帝国の栄光を守り続けてきた帝国軍の者がよっぽど帝国を導くに相応しい。

 

軍部の中でもローリング大将軍やカイティス将軍は総統の虜のようだがデゴート提督や一部の軍高官は違った。

 

提督は何も総統の全てを否定した訳ではない。

 

総統が率先して行う銀河協定からの脱却にはデゴート提督も賛成し一国防軍人として軍備の拡大、強化、整備に邁進している。

 

しかしそれはあくまで代理総統を利用しているに過ぎないのだ。

 

恐らくそれはベック上級将軍もアルダム上級将軍も他の軍高官も同様の考えだろう。

 

総統は所詮帝国軍再建の為の都合の良い存在でありそれ以上の存在ではないと考えていた。

 

その為親衛隊をいつまでも帝国軍に統合しない総統に対し徐々に不信感を抱いていった。

 

それにデゴート提督の場合はヒルデンロード元帥への忠誠心もあるだろう。

 

提督は以前ある演習の際に乗艦の“ヴァロー”を別のスター・デストロイヤーと衝突させてしまい、その“()()”としてゴロス星系へ左遷された。

 

暫くゴロス機動部隊を率いていた提督であったがヒルデンロード元帥のカイゼルシュラハト作戦の招集を聞いた提督は自身の機動部隊を率いて作戦に参加した。

 

その時の戦功が認められデゴート提督は自身の機動部隊共々帝国軍に残ることを許された。

 

以来デゴート提督はヒルデンロード元帥を尊敬し恩人としてきた。

 

だからこそ尊敬すべき恩人の突然の死を受け入れられず総統に反発しているのかも知れない。

 

「ハイパースペースに艦影多数発見、味方艦かと思われます」

 

今度は“ヴァロー”のセンサー士官が提督に報告した。

 

「親衛隊だな……各艦に伝達、事前通知通りに行動しろ。奴らが“戦利品”を持っているのならこちらも人員を送る必要がある」

 

尤も作戦が成功したとは到底思えんが。

 

同じ帝国軍とはいえ帝国軍に戻ることを拒み、総統の私兵のままでいる捻くれ者達が何か出来るとは思えん。

 

精々ボロボロの姿を憐んでやろう。

 

「提督、後方より親衛隊艦隊が接近中。宇宙ステーションもです」

 

「そうか、ジャンプアウトの方はどうなっている」

 

「後1分後にジャンプアウトするかと」

 

「であればすぐか。輸送機の発艦準備、スター・ドレッドノートがジャンプアウトすれば人手が必要になるはずだ」

 

何人かの通信士がハンガーベイに連絡し艦内のセンチネル級やTIEボーディング・クラフトの発艦要請を行った。

 

デゴート提督はビューポートからジャンプアウト地点の宇宙空間を見つめた。

 

一体どんな姿で帰ってくるのやら、腕を組み直立不動の姿勢で待った。

 

「艦隊、ジャンプアウトします」

 

センサー士官の報告と共に宇宙空間には一度に多数の軍艦がジャンプアウトした。

 

インペリアル級、セキューター級、そして本来の目的たる超弩級戦艦(スター・ドレッドノート)

 

「これは……まさかな……」

 

デゴート提督は引き攣った笑みを浮かべ少し後ろに後退った。

 

まさか連中が本当に連れ戻してくるなんて。

 

提督はその超巨大な艦艇を目にし、激しく動揺した。

 

その背後で冷静に艦名を読み上げる通信士官の声が聞こえる。

 

「全艦の照合を完了、ISD“アークセイバー”、ISD“エリミネーション”、SSD“シャーデン”、ESD“アナイアレイター”…」

 

「連中は本当に連れ帰ったのか……あのスター・ドレッドノートを」

 

デゴート提督が動揺している間に彼の副官が「提督、“アークセイバー”よりホロ通信です」と報告した。

 

提督の前にホログラムが映し出され1人の親衛隊将校が彼に敬礼した。

 

親衛隊の最高司令官、シュメルケ上級大将だ。

 

「上級大将殿……ご無事で何より」

 

デゴート提督は敬礼し少々遜った言い方で一応の無事を祝った。

 

シュメルケ上級大将は帝国軍に在籍していた頃から彼の方が1つ階級が上だった。

 

『ああ、生きて再びベアルーリンを目にすることが出来て嬉しいよ提督。早速だが一つ頼みがある』

 

「なっなんでしょうか…?」

 

引き攣った笑みのままシュメルケ上級大将に尋ねた。

 

彼は相変わらずの余裕そうな笑みを崩さずデゴート提督に要求を伝えた。

 

『我々が“()()()”このスター・ドレッドノート、完全に運用する為には人が足りない。そちらの人員を幾つか貸して欲しい』

 

「あっああ…勿論送る……今輸送船を発進させるよう命令を出した」

 

『そうか、仕事が早くて助かる。それでは』

 

この時提督は「まっ待ってくれ!」とシュメルケ上級大将を引き留めた。

 

どうしても聞きたいことが一つあったからだ。

 

「上級大将……あのスター・ドレッドノートは……一体どこから……どのように…?」

 

『“アナイアレイター”か、良い艦だろう?正に帝国の栄光を象徴する艦だ。我々親衛隊が下賎な海賊から取り戻した。我々の“()()”だ』

 

「勝利…?」

 

『ああ、勝利だ。帝国に久しく訪れなかったものだ。ワイルド・スペースの、誰も見ることの出来ない勝利だったがこれは確かな勝利だ』

 

デゴート提督は衝撃でもう言葉が出なくなっていた。

 

提督はこの時、既に親衛隊が国防軍とは全く違う存在になりつつあることを知覚した。

 

シュメルケ上級大将は立て続けに話す。

 

『国防軍の君も安心して欲しい。すぐに国防軍だって目に見える勝利を得ることが出来るさ。そう遠くない未来でな』

 

「そう……ですか……」

 

『期待しておけ、それではな。総統万歳(Heil Fuehrer)

 

ホログラムは途切れデゴート提督の心に謎の敗北感を残したまま普段の“ヴァロー”のブリッジに戻った。

 

少し差異があるとすればビューポートに映るエグゼクター級の姿だけだろうか。

 

宇宙空間から見れば本当に小さな差異だが、第三帝国とっては大きな変化であった。

 

帝国の再建の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日、ベアルーリンの親衛隊本部でシュメルケ上級大将の演説が執り行われていた。

 

表向きは親衛隊発足に際して、だが本当はイェーガードレッドノート作戦に関しての演説であった。

 

会場にいる親衛隊将兵は全員イェーガードレッドノート作戦の参加者であった。

 

当然その中にはジークハルトもハイネクロイツ少佐もいた。

 

「諸君は皆、前内戦に参戦した古兵であると同時に“()()”を獲得せんと努力する狩人である」

 

シュメルケ上級大将は殆ど原稿を見ずに演説内容を話した。

 

1人1人将兵の顔を見て余裕げな笑みを絶やさずにいる。

 

「そして我らは二度と惨劇を繰り返すまいと総統閣下に忠誠を誓った。我々は帝国の尖兵であると同時に総統閣下の軍隊であるのだ」

 

帝国に忠義を尽くす国防軍とは違い親衛隊は総統個人の私兵であり総統へ忠誠を誓っていた。

 

かつては戦力保持の為の建前に過ぎなかったが今は違う。

 

親衛隊はもうチェンセラー・フォースでなかった。

 

新しいもう一つの“()()()()”なのだ。

 

「帝国の安全と繁栄の一翼を担うのは我々親衛隊である。帝国の敵を全て討ち果たせ、そして総統閣下の敵を全て粉砕せよ」

 

この時既に大多数の将兵が帝国の敵が何たるか、相当の敵が何たるかを知覚していた。

 

2年前の借りを返す時が来た。

 

「例え我々に直接的な栄典がなくとも、我々が揺らぎ変化することはない。諸君らも同じ心構えであると私は感じている」

 

イェーガードレッドノート作戦で得た“アナイアレイター”は最終的に国防軍に移管された。

 

ローリング大将軍の横槍があったからとか、国防軍増強の結果だとか様々な話が飛び交っている。

 

しかしシュメルケ上級大将の言う通り親衛隊はそのようなことに一々何かを思う必要はない。

 

我らは総統の軍、我らは総統の代理人、我らは総統の剣にして執行者である。

 

かつて共和国軍の兵士達が“優秀な兵士は命令に従う”と言ったように親衛隊は総統の命にのみ従うのだ。

 

「我々は総統閣下の手足にして総統閣下の理想を実現する者である。故に我々はこれさえあれば良い」

 

シュメルケ上級大将は一呼吸置き、高らかに宣言した。

 

「“忠誠こそ我が名誉”、総統閣下への忠誠心こそが我々最大の勲章である」

 

将兵の鋭い目付きがシュメルケ上級大将に集まる。

 

皆鋭く尖った短剣のような素晴らしい存在だ。

 

その短剣は相当の命により今度は“()()()()()”を取り返し、やがてホズニアン・プライムとシャンドリラの心臓にその短剣を突き刺すであろう。

 

イェーガードレッドノートはその肩慣らしに過ぎない。

 

「以上のことを諸君には忘れないでもらいたい。そして以上のことを諸君はこれから諸君を羨望し入隊する新たな若き将兵達に伝えて貰いたい。受け継がれた親衛隊の意志は一千年、万年と帝国の繁栄を約束するであろう」

 

シュメルケ上級大将は最後に「総統万歳(Heil Fuehrer)」と宣言し演説を終えた。

 

シュメルケ上級大将の宣言に続き全員が右手を挙げ、第三帝国式の新しい敬礼を行いながら同じく総統万歳と叫んだ。

 

何千人の将兵の声が響き渡った。

 

当然その中にはジークハルトもいた。

 

彼もその悪魔のような言葉を口にし右腕を挙げてしまった。

 

もうこれで彼は戻れない、一度挙げてしまった右手は死ぬまで下ろすことは出来ないのだ。

 

かくして親衛隊は生まれた。

 

忠誠を模した短剣を使う狩人となることで主へ忠誠を示した。

 

第三帝国の台頭と第二次銀河内戦の始まりはこうして告げられたのである。

 

 

 

つづく




どうも!お久しぶりと明けましておめでとうございます!Eitoku Inobeです!

ようやくリアルの色々が片付いたのでナチ帝国をバンバン出せそうです!


何とか今年中には少なくとも独ソ…ゲフンなところまで行けたらなと思っています

そいではまた〜


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英雄達の登場/抵抗の夜明け
北西戦線


ラクサスは陥落し新共和国と自由の砦はまた一つ潰えたかに見えた。

されど戦いは終わらない。

誰かが託し命を賭けて遺した希望は新たなる抵抗軍となり戦いを繰り広げる。

かつて反乱同盟と呼ばれる勢力がそうでだったように。

かつて銀河帝国と呼ばれる勢力がそうであったように。

歴史は繰り返し終わりはない。

永遠のようで有限の時の狭間で輝く新たない内戦はまだ終わらない。


-ハット・クラン支配領域 ハット・スペース-

アウター・リムは少し前、いや今もなお暴力の頂点に立つ者が支配者なのだ。

 

それはこのハット・スペースの領域を知れば分かるだろう。

 

ここは名の通り銀河系で最も強力な犯罪一家の一つであるハット・クランの支配領域だ。

 

その力は強大でありあの旧銀河共和国も彼らを鎮めることはできず同盟を結ぶ事でようやくハット・スペース内の航行権を手に入れられる次第だ。

 

帝国が誕生してから彼らは半ば子分的な立ち位置となり勢力的には若干衰えたがその代わり安定を手に入れ犯罪王としての地位を維持していた。

 

しかしそんな犯罪一家の栄光にも若干の影が見え始める。

 

安定を提供した第一銀河帝国は崩壊し当時のボスであったジャバ・デシリジク・ティウレは壮絶な死を遂げ徐々に衰退し始めていた。

 

それでもなお彼らの勢力はいまだ強力であり敵でなくとも警戒すべき者達であった。

 

今日、この日までは。

 

ハイパースペースを親衛隊の艦隊が航行している。

 

目指す先はナル・ハッタを含めたハット・スペースの全領域。

 

百隻以上のスター・デストロイヤーや軍艦がフューリナー上級大将の旗艦であるアセーター級スター・ドレッドノート“ピュリフィケーション”に導かれ目的地へと征く。

 

以前は現在の副旗艦であるインペリアルⅡ級“エリミネーション”が乗艦であったが大粛清とクワット社の提供によりアセーター級に移ることができた。

 

主力は多くはインペリアル級やヴィクトリー級だったが中にはオナガー級のような特殊艦船もあり異様な艦隊編成を組まれていた。

 

アークワイテンズ級のような護衛艦が単独で艦隊を編成していたり殆どが重武装の対地表攻撃であったりと。

 

それに一体何の為に態々ハット・スペースまで向かっているのかも不明だ。

 

知っているのはこの親衛隊艦隊の将兵のみでさらに深く知っているのは艦隊を指揮しているフューリナー上級大将だけだった。

 

そしていよいよ彼らは目的に到達した。

 

代理総統の理想と過去との訣別とのために。

 

「全艦ハイパースペースからジャンプアウトしました」

 

「各艦直ちに浄化作戦を開始せよ、ハットの汚れた地を徹底的に浄化してやれ。封鎖部隊は警戒を怠るなよ。バレたら…大問題だ」

 

士官の報告を受けとったフューリナー上級大将は艦隊に命令を出し自重気味に笑った。

 

隠さなければいけないような作戦など最初からやるなという話だがもう遅い。

 

いつまでも諦め切れなかった我々だ、ここまで来ても引き返すことなどない。

 

ピュリフィケーション”を先頭に五、六隻のインペリアル級と数十隻のヴィクトリー級などが続き艦列を組んだままハット・クランの総本山であるナル・ハッタへと進んだ。

 

親衛隊艦隊が続々と標的惑星の軌道上に陣取り命令を待った。

 

その間にアークワイテンズ級艦隊やレイダー級の部隊が周辺領域に散らばり見張りと目撃者の排除の役割を担った。

 

既に何隻かのたまたまそこを航行していた艦船が無慈悲に破壊されている。

 

「上級大将、全艦攻撃配置完了しました」

 

士官の一人が上級大将に報告し判断を仰いだ。

 

フューリナー上級大将は何を言う訳でもなく無言のままブリッジのビューポートから眼前に広がる惑星ナル・ハッタを見下ろした。

 

この惑星に有象無象のゴミどもが詰まっていると思うと悍ましく感じる。

 

差別主義者の思考を全開にしたまま絶対的な笑みを浮かべ腕を振り下ろし命令を出した。

 

「全艦軌道上爆撃開始!ハット・スペースに潜むエイリアンどもを一掃し根絶やしにしろ!また屍の山を作り消し飛ばせ!」

 

ブリッジの砲術長が頷き各部署に指示を出す。

 

フューリナー上級大将の命令から三十秒も掛からず彼の麾下艦隊のスター・デストロイヤーが一斉に軌道上からの艦砲射撃を開始した。

 

ピュリフィケーション”や各スター・デストロイヤーの周辺一帯の惑星内が黄緑色の雨により大地が焼かれ橙色に紅く爛れている。

 

他の惑星でも同様に何隻かのインペリアル級やヴィクトリー級が次々と軌道上爆撃を敢行し惑星内をそこに住まう人々ごと赤色の大地へと変えていった。

 

正しく地獄、いや地獄など生ぬるく見えるほどの光景だ。

 

たった一発の砲弾が地を焼き人の悲鳴も命も何もかもを消し去った。

 

TIEボマーも何十、何百もの中隊が出撃し艦隊が取りこぼした地区に向けプロトン魚雷やプロトン爆弾などの爆撃を展開していた。

 

何より凄まじいのはオナガー級の砲撃だ。

 

流石は軌道上爆撃が専門というべきかたった一撃で大都市を崩落の廃墟へと変え惑星をしの星へと再生していた。

 

アキシャル砲の影響で新共和国戦ではあまり目立たなかったオナガー級だがこうして新たな活躍の場があるとまたその評価は大きく変貌していくものだ。

 

「作戦範囲内の約42%の浄化を達成しましたがそれでもまだ時間は掛かりそうです」

 

士官の報告を受け取りマントのようにコートを羽織るフューリナー上級大将は制帽の唾を人差し指で弾きそれに対する指示を下した。

 

「全支援艦に伝達、核弾頭を惑星に向けて放て。なんなら惑星のコアに向けて放ちそのまま崩壊させても構わん。我々が用があるのは“()()()”が取れる星のみだ」

 

その命令に士官達は閉口し少し動揺していた。

 

そして一人の将校が口を開く。

 

「上級大将…流石に核は…」

 

「何がまずい?我々は既に星を焼いて殺している。今更そこに何発か核弾頭を撃ち込んだところで火力が増強されるだけだ。別に大したことではない。それに核だけ余らせて帰って代理総統に気まずい顔をされても困るからな」

 

フューリナー上級大将は自重気味に笑みを浮かべ将校の反論をねじ伏せた。

 

「はっはあ…」

 

将校はそれ以上返す言葉が見当たらずとぼとぼと各艦隊に命令を下し始めた。

 

核弾頭は次々と各惑星に放たれ地表に大きな爆発が降りかかり大地が大きく抉れ焼け爛れていた。

 

それを見てフューリナー上級大将が頷く。

 

「そう、使えるものはなんでも使わないと。この大浄化は終わりそうにないからな。全く我々は見事に苦労を一手に引き受けている」

 

再び自重気味に笑い目線を軌道上爆撃により変わり果てたナル・ハッタへと向けた。

 

「ハットの時代は終わりこれで物語は終幕……十分よく書かれたシナリオだよ…シュメルケ」

 

命令を下したシュメルケ上級大将の顔を思い出し再び笑みを浮かべた。

 

夢物語に等しい話だが我々が帰ってくるのにはちょうどいい程度だ。

 

地の底から蘇った者は他人か将又己の夥しいほどの流血を糧にしなければいけない。

 

少なくとも上級大将はかの大戦でそう学び今こうしてここに立っているつもりだった。

 

「上級大将、大隊と研究隊の上陸編成が整いました。既に先程の核攻撃により目標率の約66%が達成されました」

 

別のFF(親衛隊)将校が敬礼し彼に報告した。

 

その報告を何よりも待っていたかのようにフューリナー上級大将は飛びつき振り返った。

 

「それは素晴らしい報告だ上級大尉。さて余興は後に任せて私は早速例の計画に立ち合おうとしよう。副司令官」

 

フューリナー上級大将は部隊の副司令官である“アイフィト・ボルフェルト”大将の肩書きの名を呼んだ。

 

大将は大将という階級に似合わず少し驚き気味に敬礼し一歩前に出た。

 

「部隊の指揮は頼んだぞ。私が戻る頃には浄化の八割か九割は終わらせてもらえると助かる」

 

「はっ…ハッ!」

 

「よろしい。では行ってくるぞ」

 

そういいフューリナー上級大将はブリッジを離れた。

 

彼を乗せたラムダ級シャトルと一隻のセキューター級がそのまま領域内を航行し同じくハット・スペース内のドラン星系のある惑星へと向かっていった。

 

かつて帝国軍の秘密研究施設がありとある研究を行っていた。

 

人が望む幻想の研究。

 

人の業とエゴを押し込んだ狂気と正気の研究。

 

それがこの星、惑星ダンドランの小さな歴史だった。

 

一隻のセキューター級から降り立った数万名の制圧部隊がこの惑星に潜む蜜業者達を叩き出しフューリナー上級大将達への道を作った。

 

ラムダ級や幾つかのシャトルが地表に降り立ち大勢のストームトルーパーやパージ・トルーパーの部隊が出現した。

 

当然フューリナー上級大将の一派もだ。

 

副官のヴァルヘル中佐らを引き連れボロボロに荒廃した施設の前に立っていた。

 

「さて、物好きな総統と親友の為に我々も再び狂気と正気の研究を行おう。今度はより、操りやすくそして…」

 

そうそして。

 

「化け物による化け物どもの軍団(カンプグルッペ)を生み出そう。我々がもう一度真の姿で立ち上がる為に」

 

背後に狂った笑みを浮かべる親衛隊士官や研究者達を従えながらフューリナー上級大将はそう誓った。

 

「上級大将!」

 

「なんだ。新共和国の残党でも発見したのか」

 

若い士官の一人が彼に報告した為フューリナー上級大将はそう聞き返した。

 

「いえ発見したのは“()()()()()()()”です!ケッセル星系付近にかなりの数の所属不明のインペリアル級が封鎖線を展開しています!」

 

「…なるほど、全艦隊とボルフェルト大将に伝達。ケッセルには手を出すな、今やりやっても無意味だ。攻撃を仕掛けられた以外手を出さず、浄化作戦に専念せよとな」

 

「よろしいのですか…?」

 

「構わん」

 

「はい!」

 

若い士官は急いでシャトルの方へ戻り伝達を行なった。

 

その様子をよそにヴァルヘル中佐はフューリナー上級大将に問いかけた。

 

「よろしいのですか上級大将。彼らは我々のスパイにいち早く気付き殺害しました。早いうちに殲滅した方がいいのでは?」

 

そんな中佐の進言を彼は片手で止めた。

 

「今戦っても我々は間違い無く勝つだろう。浄化作戦の不完遂と艦隊の半分を失ってな。中佐、ケッセルを甘く見るな。エンドア後あそこに残った我々より狂気の代弁者である彼らを甘く見るな」

 

上級大将は振り返りヴァルヘル中佐に忠告した。

 

一種の語り掛けと言っても良いだろう。

 

「敵の指導者であるクラリッサ・ヤルバは見かけによらず狂気を秘めた強敵だぞ。現にケッセルの帝国軍は我々の侵入にいち早く気付き既に目に見えるほどの防衛線を築いている。あれだけ隠密だったのにも関わらずだ」

 

フューリナー上級大将の一言一言を一言一句逃さず聞きヴァルヘル中佐は思わず固唾を飲んだ。

 

彼の説得力は想像を絶するものだ。

 

「彼女は正に異常者の化身でり正気を失った者の代弁者、模範者と言ってもいい。人間でありながら化け物になった真の異常者だ。法秩序崩壊の擬人化にして帝国最恐の“総督(governor)”だ」

 

「帝国最恐の…」

 

「そして彼女の下に付き従う連中もまた、すでにスパイスに全身を浸し正気を失った異常者の集まりだろう。だからこそ、正気を失ったが故に手強くそして恐ろしい。だが我々の力は全体で考えれば遥かに上回っている。焦る事なく確実に戦えば勝てる相手だ、今無理に手を出す必要はない。それに我々の目的は戦闘ではなく浄化と軍団の建設だ。薬物狂いの異常者など放っておけばいい」

 

「…わかりました」

 

「うむ。さあ我々は我々で狂気を育み“()()”に備えようじゃないか。我々は皆、正気をとうの昔に失い狂った狂気の成れの果てなのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-帝国占領地 アウター・リム・テリトリー タイオン・ヘゲモニー ラクサス星系 惑星ラクサス-

ラクサスを攻撃する帝国軍の作戦は“()()”成功を収めた。

 

帝国軍は親衛隊共々僅かな損害でラクサスを陥落させ新共和国残党軍に大打撃を与えた。

 

しかしホズニアン・プライムの時のような完全なる大成功とは言い切れなかった。

 

何せ包囲戦の最終攻勢で親衛隊の艦隊が敵の脱出部隊の突破を許しラクサス内に存在していた半数近くの敵部隊を取り逃がしてしまった。

 

だがそれを除けば帝国軍は十分な成功を収めたと言えるだろう。

 

この年末と新年のめでたい日にちの間に飾る勝利としては十分だった。

 

そして彼らの旅団の誕生としても。

 

シャトルが一台地表に着陸し何名かの将校と共にジークハルトが降り立った。

 

連隊の部下達に出迎えられ互いに親衛隊式の敬礼を行った。

 

「ご苦労。問題はなかったか」

 

「ああ、負傷者すら出ていない」

 

「楽な仕事でしたよ」

 

アデルハイン中佐とヴァリンヘルト上級中尉はコルサントにいたジークハルトに軽く説明した。

 

部隊を後方に回し信頼できる指揮官達に任せて行ったのでジークハルトもあまり心配はなかったがこれほどとは。

 

よほど全軍の侵攻が上手く行っていたのだろう。

 

「それでコルサントはどうだった。ユーリアとマインの坊主は元気だったか?」

 

ハイネクロイツ中佐がそう問いかけた。

 

ジークハルトは少しため息を吐いて返答した。

 

「総統府の爆破と重なっちゃって中々にひどいもんだったよ。家族とは元気で安心したが」

 

「そりゃ災難だったな」

 

「それでコルサントへはなんで召喚されたんですか?」

 

ヴァリンヘルト上級中尉の問いにジークハルトは首や顎を撫でながら答えた。

 

こうして無事に帰ってきているのだから悪いことではないだろう。

 

ただジークハルトが放った一言はかなり諸将に驚きを呼び起こした。

 

「我々の第六親衛連隊は事実上解体され新たに新設される第三機甲旅団に生まれ変わる。無論私が指揮官でアデルハインはそのまま副旅団長、ハイネクロイツも旅団配備のスターファイター大隊長だ」

 

「戦力的にはどれくらい巨大化するんだ?」

 

アデルハイン中佐の問いに頷きジークハルトは軽く言葉だけで説明した。

 

「人員は6,000名以上、一個連隊と二個大隊、三個中隊が加わる予定だ。恐らくは更に彼の保安中隊も加わってより増大するだろう」

 

「彼…?」

 

「紹介が遅れた。第三機甲旅団の憲兵総監であるリデルト・ヒャールゲン中佐だ」

 

ヒャールゲン中佐は敬礼し一歩前に出た。

 

軍用コートを着ているがその下には白い保安局員の制服が見えており手につけられているサポーターも合わせてかなりの威圧感を誇った。

 

アデルハイン中佐らも敬礼を返し軽く握手を交わした。

 

「部隊編成はこのままラクサスで行い我々は銀河系の北西部に潜む新共和国軍と未だ敵対する勢力の討伐部隊として向かう」

 

「久方ぶりの大規模戦ってわけか」

 

「ああ、まだ当分先の話にはなるがみんな頼んだぞ」

 

「了解」

 

「任せてください!」

 

「ああ」

 

三人の返答に安堵の笑みを浮かべジークハルトは用があると彼らに断りを入れてヒャールゲン中佐と共にラクサス占領司令部の方へ歩いて行った。

 

その道中ジークハルトの後ろを歩くヒャールゲン中佐に一言入れられた。

 

「よろしいのですか?本当の目的を話さなくても」

 

ジークハルトの目線が重くなり彼は少し息を吐いた。

 

アデルハイン中佐達はまだこの新旅団が北西領域へ向かう本当の目的をまだ知らない。

 

知っているのはジークハルトとこのヒャールゲン中佐だけだ。

 

他の将兵は指揮官も含めてほとんど知らされていない。

 

それはこれからジークハルトの口から発表しなければならないからだ。

 

「ああ、まだその時じゃない。旅団の編成が落ち着いたらだ。無駄なことを知って作業効率が落ちてもらっても困る」

 

「なるほど、失礼しました」

 

「いやいい中佐…所詮はこんなのも建前だ。それでも必ず伝えるよ」

 

「はい」

 

あまり浮かない表情のままジークハルトは彼に約束した。

 

あの仲間達に同じ同胞を殺せというのは中々にキツいものがある。

 

仮にコルサントの奪還で既に手を染めていたとしてもだ。

 

だから話すのは当分先、旅団の基盤が安定してからだ。

 

未だやりきれない優しさがジークハルトに滲み出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム 旧帝国領 惑星アンシオン周辺域 第十衛星-

アンシオンには元々帝国軍の基地があり今も旧帝国軍の支配が色濃く残っている惑星だった。

 

惑星を統治する政府はほとんどが元帝国軍人であり惑星防衛軍の装備や戦力もほぼ帝国軍と同じと言っていいだろう。

 

インペリアル級数十隻とアークワイテンズ級やヴィクトリー級のような艦船が数十隻。

 

地方の惑星や星系国家としては軍事力としてはかなり強大であった為彼らは度々新共和国でも小さな議題になっていた。

 

何せすぐ隣には新共和国加盟国の星系政府が存在しており同時に新共和国も駐留している為時折小競り合いが発生していた。

 

その為比較的多くの新共和国軍の部隊が配備され新共和国陥落後もこの地に逃げ延びていた部隊が数多く存在している。

 

ジェルマンとジョーレンが協力体制を構築した惑星の一つもここだ。

 

だが今この地の新共和国の残党軍は窮地に立たされていた。

 

新共和国という後ろ盾を失った星系政府はこれを好機と見たアンシオンを支配する元帝国の傀儡政府により大規模な侵略ヶ行われこれの防衛に当たっていた。

 

だが勢い付いたアンシオン軍の侵攻は中々食い止められず新共和国軍は厳しい戦いを強いられていた。

 

砲弾が飛び交い爆音が戦闘中の衛星の山に響いている。

 

「あぁクソ!」

 

偵察用スピーダーに乗り込んだ運転手が悪態を付き降り注ぐ砲弾を避けながら近くの前哨司令部までたどり着いた。

 

帝国艦隊はなんとか友軍の防衛艦隊が抑えているとはいえアンシオン軍は多くの火砲をこちらに向けてきた。

 

運転手はスピーダーを近くに留めもう一人の偵察兵と共に急いで降りた。

 

後ろには輸送用のスピーダーが何台か砲撃の中、前線へと進もうとしており深刻な様子を現した。

 

運転手と偵察兵は急いで前哨司令部の中へと入り報告を行った。

 

「前線の歩兵小隊は壊滅!砲兵中隊の物資も残り僅かで撤退はほぼ不可能です!」

 

「敵軍の一個大隊ほどが既に10キロ先まで近づいています!ここももう危険です!」

 

砲撃で揺れる司令部の中で二人の報告はとても簡潔だった。

 

長々と話していられる余裕も時間もない。

 

司令官は通信機に耳を当て別部署からも報告を受け取っているようだった。

 

だが彼は素早く二人に命令を出した。

 

「輸送スピーダーを向かわせている!お前達はもう一度索敵を頼む、今度は西方だ!」

 

「了解!」

 

二人はそのままスピーダーに向かい司令官は再び通信機を耳に当てた。

 

情報と指示を求める声が飛び交っておりとても忙しかった。

 

「既に敵が10キロ先にいる!あと数分もしないうちにここはウォーカーの射程範囲内だ!」

 

度重なる近くへの砲撃のせいで通信が聞き取り辛かった。

 

すると彼の副官の中尉がやってきて司令官に報告した。

 

「右翼側の第八中隊が全滅したそうです」

 

その報告は司令官を十分動揺させるものだった。

 

彼は通信機を捨てるように置き第八中隊がいる報告を向いた。

 

「バカな…!右翼側までアンシオン軍は来ていないはずだ…」

 

「別の索敵隊も消息を経っています。もしかしてですが…」

 

「第三帝国軍だと…いや、だが奴らは北東進撃中でこちらへ部隊を展開する余裕など…」

 

「司令官!砲撃来ます!右からです!」

 

「なんだと!?」

 

直後一発のターボレーザー砲弾が司令部の隣のテントを突き抜け爆発を引き起こした。

 

その爆風や破片は司令官達がいるテントの方にも押し寄せとても立ってはいられない状況に陥った。

 

司令官は近くにいた中尉が急いで伏せさせたからよかったものの他はそうではなかった。

 

あちこちから悲鳴や嗚咽が聞こえ砂煙が待っていた。

 

司令官は急いで立ち上がり周囲を見渡す。

 

「しまった…!」

 

彼が惨状を表したのはこの一言だった。

 

テントが崩壊し通信機器やレーダーなどがテーブルごと倒れ傷を負い倒れた兵士たちがあちこちに散らばっている。

 

なんとか立ち上がった兵達ももう何をしていいのか分からずただ唖然としていた。

 

近くにいた中尉も立ち上がりこの惨状を目にし絶句している。

 

当然だ、こんなもの言葉では言い表しようがない。

 

「隣のテントは全滅です!!生存者は誰一人いません!!」

 

様子を見てきた下士官の一人が司令官にそう報告した。

 

その報告を聞き司令官は唖然としながら口を開いた。

 

「この角度…間違いない…艦砲射撃だ…それもターボレーザークラスの…」

 

彼の状況把握は素早かった。

 

これだけの砲撃を、しかもあの角度から放てるのは軌道上や空中からの艦船の砲撃以外不可能だ。

 

たった一発の流れ弾のような砲撃だったがその一発で彼らの存在は露わになった。

 

第三帝国軍の存在を。

 

この戦いに介入する新政府の存在を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-未知領域 ファースト・オーダー首都艦及びファースト・オーダー宇宙軍総旗艦 エグゼクター級スター・ドレッドノート エクリプス-

エグゼクター級最後の生き残りとされていた“エクリプス”は現在とある星系を航行していた。

 

後続にはインペリアル級やクエーサー・ファイア級のような艦船が続き艦隊を成している。

 

多くの者の協力と亡命してくるかつての同胞達のおかげでようやくかつてジャクーに勢力を構えていた頃の戦力より何十倍以上も増加した。

 

それに“()()()()()()”達のおかげで勢力はまだまだ増加しそうだ。

 

今スローネ大提督の目の前に座っている彼女を筆頭に。

 

ケッセル帝国残存勢力(Kessel Imperial remnant)

 

彼女達は表向きには“ケッセル星系王国”と名乗っているが内実はほぼ元帝国軍、帝国の役人による支配である。

 

彼女、クラリッサ・ヤルバ・パイク総督による半ば摂政政治的な支配であった。

 

スローネ大提督も彼女と以前面識があった。

 

とは言ってもパーティーなどで見かけた頃だったが。

 

あれはまだスローネ大提督が准将だった頃でオルデラン難民の事件を担当していた頃の話だ。

 

その当時のクラリッサはまだ幼い少女でとあるアカデミーで統治や政治などを学んでいた。

 

かなりのエリートアカデミーであったがこんな短期間で惑星や星系の総督とは。

 

エリートというよりは天才の域だろう。

 

まあその評価から察するに“()()”というよりは“()()”の方かもしれないが。

 

「それで件の補給物資というのは?」

 

スローネ大提督はふと後ろに控えているファースト・オーダー型の帝国軍の軍服を着た少年に目を合わせた。

 

大提督が送り込んでいたスパイ兼交渉役の将校、マルス・ヒルデンロード。

 

深いことは分からないがおそらく彼のおかげでケッセル勢力は我々の側についてくれたのだろう。

 

見たところマルスも特に何かされたわけではないようだ。

 

「ええ、そちらの一個艦隊が少なくとも十年は持つほどの燃料資源を贈呈しますわ」

 

オロ・ティーの入ったカップを皿に置くとクラリッサはそう微笑みを交えて美しい声音とその顔で言った。

 

まさしく美女、お嬢様と言った言葉がぴったりでどこをとっても美しいの一言で済んでしまう。

 

丁寧な言葉遣いや他人への接し方によって内面すらそう見えてしまうだろう。

 

実際はスローネ大提督すら絶句するような性格なのだが一部の人間だけの秘密であれば問題はない。

 

人間誰しも弱点や欠点があるように天才であり奇才であるクラリッサでは仕方ないのかもしれない。

 

ただその欠点が大きすぎるだけで。

 

「我々とてあなた方とは争いたくないし同じ元帝国同士同盟を結びたいのは願ってもないことだ」

 

そう言いスローネ大提督は手を差し出した。

 

クラリッサも薄い手袋を脱ぎ丁寧に両手で大提督の手を握った。

 

「こちらこそ感謝の至りですわ。お父様もお母様も領内の皆様もきっと喜ばれるでしょう」

 

二人の握手は固くファースト・オーダーとケッセルの今後を思わせるほどだった。

 

スローネ大提督の背後の控える将兵達もマルスも安堵の微笑を浮かべている。

 

そこでクラリッサはスローネ大提督に一つ提案をした。

 

「実は一つ小さなお願いをしてもよろしいですか?」

 

「我々が叶えられる範囲であればどうぞ」

 

するとクラリッサはニコッと笑い大提督に願いを言った。

 

「アンシオン軍と周辺の新共和国残党軍の戦いご存知でしょう?」

 

「ああ、我が軍も既にアンシオン側に部隊を派遣している。新共和国軍には間違いなく勝利するだろう。“()()()()()”にはどうか分からないがある程度役には立ってくれるはずだ」

 

「その戦い、私達もその場で少し見て行きたいのですがよろしいでしょうか?」

 

意外な願いにスローネ大提督は少し口を閉じた。

 

別にダメな理由はない。

 

行かれて困る理由もこちら側としてはないし断りを入れる必要性は皆無だった。

 

しかしあまりに唐突すぎたので流石の彼女も少々困惑してしまった。

 

少しその時間が長引いた為クラリッサは微笑姿のまま少し言葉を付け足した。

 

「ああ、いえ『護衛をつけろ』だとか『我が軍も参戦させろ』とかは申しておりませんの。ただの見学、見学ですわ」

 

「別に問題はないが…そんなことして何になるのだ?」

 

スローネ大提督の問いにクラリッサは笑みを深め答えた。

 

若干見え隠れする狂気を言の葉にのせて。

 

「別に理由なんてありませんわ。それこそただの見学です、そう遠くない将来にも備えて…ね?」

 

「なるほど…ケッセル王室には恐ろしい御令嬢がいるらしい。いいだろう、許可する」

 

「ありがとうございますわ!それでは大提督、またいつかごきげんよう」

 

パーっと幼なげな笑みを浮かべクラリッサは“エクリプス”の部屋を退出した。

 

スローネ大提督達も「またいつか」と返答し敬礼し見送っていた。

 

少し通路を歩き部屋から離れたところでマルスは彼女に囁いた。

 

「理由がないなんて随分なこと言いますね」

 

「あら、理由なんてほんの些細なことでしかなくってよ?」

 

彼の頬を色っぽく撫でるとお返しと言わんばかりにマルスの耳元で囁いた。

 

「己自らを犠牲にしながら戦い続ける世界ほど刺激的なものはありませんわ」

 

「あなたは本当に悪い人だ」

 

「知っていますとも。可愛らしい少年を食べちゃうほどにね」

 

小悪魔的な笑みを浮かべクラリッサはそう微笑んだ。

 

その澄み切り過ぎた瞳からは不思議なことに一切の狂気を感じなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一機のXウィングが衛星の上空を飛んでいる。

 

大気を掻き切る翼が何本かの線を描きその姿を露わにした。

 

何度か機体を回転させ雲間から見える線を交差させている。

 

しかしこの線は突如としてプツリと消えてなくなった。

 

燻んだオレンジ色と灰色の煙がXウィングを包みその機体の存在を一瞬で消し去った。

 

小さな破片が地に落ち煙幕の中から今度は帝国軍のTIEファイターが姿を表した。

 

更に後ろから二機のTIEファイターが編隊を組んで参上し雲の中で行われているファイター戦に参戦した。

 

編隊を全くと言っていいほど崩さずXウィングやより高速機のAウィングを何なく撃破していった。

 

炎上しかた翼が捥がれたXウィングが編隊の右側を掠めるが器用に回避し逆にもう一機の敵機を撃破した。

 

だがそんな編隊を狙おうとする機体も現れる。

 

TIEファイター編隊を上空から狙い撃ちしようとするYウィングのパイロットがコックピットの中で照準を絞っていた。

 

焦らず正確に、あの編隊を一機でも撃破すればいいのだ。

 

幸い敵機のTIEファイターは脆くたった一撃で撃破する事が可能だ。

 

あと少し、あと少し!と操縦桿のトリガーを握るYウィングパイロットは突如機体が爆炎と火花に突かれコックピットの機器が火花を上げ出した。

 

火花から顔を抑えた瞬間強い衝撃が襲いパイロットは断末魔を挙げる事なく機体の崩壊に巻き込まれ死んだ。

 

元Yウィングの残骸の中から四機の機体が出現し更に多くの敵機を火だるまに変えて行く。

 

そんな帝国軍の機体同士の通信が若干聞こえる。

 

『敵機一機撃墜、このまま大隊の支援に回るぞ』

 

『了解!歯応えのない雑魚どもばかりだがな!』

 

『ヴォンレグ、油断するなよ。追い詰められた敵は何をするか分からん』

 

『だがこの様子じゃそんな気概がないようにも思える』

 

TIEを操りながらパイロット達はそれぞれ戦意を昂らせていた。

 

そんな中、一人のパイロットがこう口を開いた。

 

『こんな連中が相手じゃ“()()()”が出る幕もないな』

 

『ああ、だが今頃地上で一人寂しそうに空戦を見つめているだろう』

 

『大提督閣下も悪い人だ。“()”を空戦から離れさせる職に就かせるなんてな』

 

そう言いながらまた敵機を撃破し友軍の危機を救っていく。

 

もはや戦いの勝敗は決しており新共和国軍は完全に劣勢であった。

 

その様子は地上からエレクトロバイノキュラーで覗いても分かる程だった。

 

一人のパイロットがエレクトロバイノキュラーを下ろしため息を吐く。

 

パイロットスーツには赤いラインが入っておりその功績を思わせた。

 

「“()()()()”!我々のスターファイター隊が敵スターファイター隊を撃破しました!」

 

彼の下に同じくパイロットスーツ姿の若い士官が駆け寄り報告した。

 

エレクトロバイノキュラーをベルトのハンガーラックに掛けると草っぱらに置いておいた自分のヘルメットを持ち上げた。

 

「見ればわかる。第一あんな雑魚ども相手に教え子と戦友達が負けるわけないんだ」

 

「はっはあ…」

 

報告に来たはいいがそう言われ若いパイロット士官の少尉は困惑し面目を失った。

 

そんなパイロット士官の肩を彼は軽く叩いた。

 

「そんな事よりあけましておめでとう少尉。新年おめでただ」

 

「えっもう…ですか?」

 

少尉は問い返してくる。

 

「コルサントの時間じゃ既に新年だ。パイロット達に酒と菓子でも用意してやれ。折角だしお祝いしよう」

 

「はい!それはそうと随分早く方が着きましたね」

 

少尉は空を見上げながらそう呟いた。

 

彼もまた同じように空を見上げる。

 

「なあんなの序の口さ。本当の敵はまた別にいる、その時ようやく真価が分かるはずだ」

 

「本当の敵…とは一体誰のことですか…?」

 

そんな少尉の問いかけに彼は指を刺して答えた。

 

彼の指の先の方角にはコルサントがあり感が良ければ彼の言う敵が説明なしですぐ分かるだろう。

 

「この銀河の中心。我々はかつての同胞と殺し合いをせねばならない」

 

その言葉を聞いてもなお若く感の鈍い少尉は気づかなかった。

 

無論今無理に気づく必要はない。

 

だがいずれ、必ず対峙することになる。

 

彼の地を抑える知られざる同胞と。

 

忘れ去られた我々が対峙する。

 

「その時は一体、どんな結果になるんだろうな」

 

8ABY。

 

ラクサスの反対方向に位置するアンソン周辺を舞台に新たな戦いが幕を開ける。

 

新共和国と第三帝国、そして新たな勢力が。

 

かつて“タイタン3”と呼ばれた今は名もなき少佐と、上級大佐として新たな旅団を率いるジークハルトがこの地で戦いを繰り広げる。

 

年が明けてもなお彼の銀河の戦いに終わりはなかった。

 

 

 

つづく




新年あけましておめでとうございます!

今年もナチやヴァントやとやっていきたいですね〜

エルト「ほ〜ら〜早く続き描け〜」
フリューゲル「出番増やせ〜」
ゼファント「出番来てもろくな運命じゃないしいいかな…」
マイン「お父さん出番あってよかったね」
ジークハルト「うん…」


???「 新 年 も ス パ イ ス パ ク パ ク で す わ ! ! 」


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広がる戦場

「代理総統とは皇帝の代理人。我々親衛隊とは総統の手であり足。親衛隊保安局とは規律であり平和の維持者」
-親衛隊保安局のモットー-


-アウター・リム・テリトリー イリーニウム星系 惑星ディカー-

ハイパースペースから何十隻かの船が出現し真っ直ぐディカーに向かっていた。

 

ディカー側からは一隻のMC80スター・クルーザー“クレマンソー”が出迎えに来てた。

 

ハイパースペースの中から現れた艦隊は全てあのラクサスからなんとか逃れてきた艦隊で殆どはヤヴィン星系に留まったのだが中には遠回りしてこのディカーまで向かってきた艦隊もいた。

 

常に帝国軍の大軍の攻撃を受けるヤヴィン4と未だ帝国軍と発見されていないディカーでは安全性は遥かに違いがある。

 

「損傷艦は地上に送れ。そうでない艦は上級将校だけ地上に向かわせろ」

 

クレマンソー”のリジック艦長がそう命じ何隻かのCR90やネビュロンBが地上に降り立った。

 

地上では多くの技術士官や技術師達が輸送スピーダーなどに乗り込み損傷した艦の修復に向かおうとしていた。

 

他の歩兵やパイロット達も物珍しさに地上に停泊する艦隊を一目見ようと集まっていた。

 

司令部でもその様子は確認されている。

 

軌道上艦隊からの報告を受け地上にいたガー議員やレイア、クレーカー少佐やディゴール准将が集まっていた。

 

「こちらに回ってきたのはMC80二隻、MC75装甲クルーザーが一隻、ネビュロンB四隻、CR90コルベット六隻、GR-75輸送船が三隻です」

 

「兵員やスターファイターの方は?スターファイターの方はともかく兵員は少しでも必要だ」

 

ディゴール准将の問いに報告に来た少尉が答えた。

 

まだアカデミーを卒業したばかりの様子の少尉は若干上官たちに慣れない様子だった。

 

「少なくとも一個機甲軍団が編成出来る程度には。技師などもこの基地を維持していくのに十分揃っているとか」

 

「わかった少尉、ひとまず戻ってくれ」

 

「はい」

 

少尉が敬礼しドアが閉まると将校や議員達は険しい表情でホロテーブルを覗き込んだ。

 

「戦力の増加は確かに助かる。たった一隻のクルーザーとその他の艦で帝国軍から撤退戦に持ち込める可能性はほぼ0だし何より地上一個師団じゃ時間稼ぎすら難しい」

 

「ようやくまともな機動部隊ないし小艦隊が編成出来るという事ですね」

 

クレーカー少佐の返答にディゴール准将は小さく頷いた。

 

「ああ、これだけの艦隊があれば小規模だがゲリラ的戦闘を行えるのも夢じゃない。ようやく我々も他と同じように攻勢に出れるという事です」

 

レイアとガー議員、そして先日外務大臣になったセルヴェント大使らにそう進言するディゴール准将の表情はいつにもなく活気に満ちていた。

 

仲間がやられるのを黙って見ていることからようやく脱却できるのだ。

 

しかもディカー側には帝国軍もあまり手を伸ばせておらず最初の攻撃はかなりの打撃を当たられるだろう。

 

希望の光が少しでも見えてくれば誰であろうと活気的になるはずだ。

 

その様子を見ていたレイアとガー議員は互いに頷き合いレイアがディゴール准将に口を開いた。

 

「准将、我々は話し合って決めました。あなたの能力は今の階級に相応しくありません」

 

「と仰られますと…?」

 

「あなたを新共和国少将に昇進させ臨時の新共和国代議員と国防大臣、ディカー総司令官に任命します」

 

突然の昇進にディゴール准将改めディゴール少将は困惑していた。

 

隣にいたクレーカー少佐も唖然としたまま拍手をしていた。

 

「ヤヴィン4のライカン将軍もマクォーリー将軍も賛同している。君には今後とも我を貫き頑張ってもらいたい」

 

「まあ同じ大臣同士頑張ろうじゃないか」

 

「これを」

 

レイアは近くの将校から階級章と大臣と示すバッジを手にしディゴール准将に近づいた。

 

少々は敬礼しレイアにバッジを付け替えてもらった。

 

「我々の希望を共に、ディゴール“()()”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだ!もう燃料が持たねぇ!」

 

Uウィングの燃料計を凝視しながらジョーレンはそう大声を出した。

 

ジェルマンもシートベルトにしがみ付きながら今にも死にそうな顔で呆然としていた。

 

腹痛に襲われたような顔だ。

 

「燃料が持たなかったらどうなるんだよ!?」

 

ジェルマンは珍しく声を荒げジョーレンに尋ねた。

 

「幸いUウィングのオプションシステム上強制的にハイパースペースから抜けられる…が、問題はその後だ…!」

 

「帝国軍に捕まらなかったとしても誰にも見つからなかったら永遠に宇宙を漂流することになるじゃないか!やだよこんなところで凍死するの!」

 

「その通りだ!ああ畜生クソッタレ!最悪だよクソ!モン・カラまであと少しだってのに!」

 

元から燃料がないわけではない。

 

むしろ満タンだったはずだ。

 

しかしこのUウィングには燃料計の通り燃料がもう残り少なかった。

 

時は数日前、ラクサス脱出の時にまで遡る。

 

彼らは辛うじてラクサスの大気圏内でハイパースペースに突入しことなきを得たはずだった。

 

しかしその後はそうではなかった。

 

大気圏内でしかも座標計算も行わずハイパースペースになんか入った為ルートに若干の乱れが生じUウィングはハイパースペース・ルートから弾き出されてしまった。

 

しかも更に運が悪いのはその場になんと帝国艦隊が居合わせてしまったという事だ。

 

クエーサー・ファイア級一隻、アークワイテンズ級一隻、レイダー級二隻の小機動部隊だったがUウィング1機だけでは十分強敵だ。

 

しかもクエーサー・ファイア級は小型とは言え曲がりなりにも空母だ。

 

当然大量の艦載機が搭載されておりそれらの艦載機であるTIEインターセプターやTIEブルートはUウィングに牙を向いた。

 

3機や4機の敵機ならば余裕で捌けるが48対1ならば話は大きく変わってくる。

 

だが辛うじてTIEの大軍を潜り抜け帝国艦隊を突破したUウィングは再びちゃんと座標計算を行いハイパースペースへと突入した。

 

問題はその中にあった。

 

ハイパースペースに入る寸前TIEブルートの1機に偏向シールドを破られレーザー砲の一撃を掠ってしまった。

 

幸い大きな被弾ではなかったがたまたま燃料部分にダメージが入り多くの燃料を失ってしまった。

 

それでこのザマだ。

 

大の青年と大の大人がギャーギャー喚きながら機体のシートにしがみ付いている。

 

「まだ死ねないのに!!」

 

「とりあえず一旦ハイパースペースから抜け出るぞ!」

 

レバーを押し戻しジェルマンとジョーレンのUウィングはなんとかハイパースペースから抜け出た。

 

その後数十分はUウィングは微速のまま宇宙空間を進んでいた。

 

「助かった…?」

 

「な訳あるか、通常空間(リアルスペース)を進んでいようが超空間(ハイパースペース)進んでいようが燃料は増えねぇよ」

 

「今年…死ぬほど酷い目にしか遭ってないよ…」

 

「今年も…というか去年だな…もう年越したよ」

 

そんなつまらない話をしながら二人はぼーっとコックピットの窓から宇宙空間を見つめていた。

 

いつもは何も感じず時々美しく見えるこの宇宙だが今ばかりはとても孤独に感じる。

 

感傷的すぎて詩でも一つ言いたくなる気分だ。

 

しばらく無言の時が続いた。

 

二人とも口を開く気分にならなかった。

 

だが沈黙に耐えきれなかったのかジェルマンは静かに口を開いた。

 

「モン・カラは…どんなところなんだろうなぁ…」

 

そんなたわいもない問いにジョーレンは精気のない声音で答えた。

 

「さあな…ただラダス提督みたいなモン・カラマリが沢山いる海の惑星らしいぜ…行った事ないけど」

 

「帝国時代は完全に占領されてたし新共和国時代も時々攻撃を受けてたけど今はどうなんだろうな…」

 

「わからん…最近の事は何にも。まあ少なくとも味方がいる事は確か…ん…?」

 

ジョーレンは目線を落とすと何かを見つけた。

 

彼はしばらく目線を落とした先のものをずっと凝視していた。

 

燃料計ではなく別のメモリだった。

 

「どうした…ジョーレン……ん…?わっー!!あれ!!あれ!!」

 

ジェルマンが再びぼーっと何かを見つめているとコックピットの先に何かを見けた。

 

そしてジェルマンはジョーレンの肩を揺さぶり前を向くよう叫んでいた。

 

「見ろよあれ!大変だよ!」

 

「ああ…知ってる…センサーに移ってる…!」

 

ジョーレンは目線を上げコックピットを見つめた。

 

その先には二つ、三つの光がこちらを照らしていた。

 

直後Uウィングの通信回線から声が聞こえた。

 

雑音混じりで酷い音声だったが確かに人の声だ。

 

『…ちら…マリ防衛隊…“アンヴィル中隊”……だ…!…ウィング…えるか!』

 

「こちらUウィング、バッチリ聞こえてる!すまないが燃料ななくなりそうなんだ!」

 

ジョーレンの荒っぽい返答にアンヴィル中隊と名乗る恐らく友軍のスターファイター隊は再び通信を返してきた。

 

『…か…!我々…モン…まで……誘導…る!もう…ばらくの…抱だ!』

 

「ありがとうアンヴィル中隊…助かった…!」

 

雑音だらけの音声回線とは別にジェルマンとジョーレンの笑みには一切の雑念はなかった。

 

二人ともこの上ない喜びを噛み締め互いにグータッチをした。

 

なんとかたどり着いたのだ。

 

モン・カラに。

 

水の星へ生を噛み締めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミッド・リム。

 

この銀河にまだ無名の惑星はごまんとある。

 

それが衛星ならば尚更だ。

 

人が住みいる事が出来るほどの衛星であってもだ。

 

しかし争いの火の手からは逃れられない。

 

どこであってもやがてその手は降りかかる。

 

このミッド・リムのある衛星がそうであってように。

 

 

どこからか砲撃の音が鳴り響き何十発かの砲弾が地面に着弾し再び大きな爆音を上げる。

 

林の中に砲弾が撃ち込まれ何かが破壊される。

 

爆発の火の手はすぐに広がり音や衝撃に驚いた生物達が急いで逃げていった。

 

その上空を何機かの機体が飛び去り更にその地上を何十台かのジャガーノートやタンクが通過する。

 

上空を飛び交うほとんどの機体がゴザンティ級クルーザーや“Y-45装甲トランスポート運搬船”、通称ATホーラーなどでどれも多くのウォーカーを運搬していた。

 

中にはセンチネル級着陸船も存在し一種の空挺部隊を成していた。

 

護衛のTIE部隊もかなりの戦力でTIEブルートやインターセプターやボマーが部隊を守っていた。

 

地上を走るのは殆どがジャガーノート・ターボ・タンクや兵員輸送機、護衛のインペリアル・アサルト・タンクやオキュパイア級の戦闘車だ。

 

全ての車両には当然のように親衛隊のマークが印付けられていた。

 

そんな彼らの後方から再び砲撃が繰り出されどこかに着弾する。

 

爆発音が響き親衛隊の進撃を邪魔しようとする敵を排除した。

 

後方に位置する砲兵中隊の支援を受けながらこの親衛隊第三機甲旅団は進んでいった。

 

旅団に旅団長ジークハルト・シュタンデリス上級大佐から命令が響いた。

 

「全隊、もう500メートル進め、その先で全空挺隊を展開する」

 

『了解旅団長!』

 

地上の部隊から通信が届きジークハルトは自身のウォーカーのベルスコープ・ディスプレイを展開し周囲の様子を確認した。

 

こちらの砲撃支援はかなり有効なようで周辺の敵軍の対空能力がほぼ無効化されている。

 

幸い敵のスターファイター隊も敵艦隊同様軌道上に囚われていて身動きが出来ないようだ。

 

ならば今のうちに敵軍の地上戦力を徹底的に叩くのみ。

 

「ハイネクロイツ、爆撃中隊を先行させて敵基地を攻撃しろ。ただ敵の戦車隊は攻撃されない限り無視しろ」

 

『了解だ、イオタ中隊、ジヴィーテ中隊、ベート中隊攻撃開始』

 

TIEボマーが何十機かが先行し敵基地への爆撃に向かった。

 

だがそんなボマー中隊の横を何十発かのミサイルが掠め通った。

 

当然狙いは彼らではない為一発も当たる事はなかったがミサイルは真っ直ぐ空挺部隊の方を目指していた。

 

『上級大佐!対空攻撃です!』

 

前衛のゴザンティ級のクルーが彼に報告した。

 

こちらもディスプレイの奥から見えている。

 

「見えている。前衛ファイター隊および地上部隊はミサイルを撃破しろ。ここで足止めを喰らうわけにはいかん」

 

『了解!』

 

『了解』

 

地上のジャガーノートから対空ミサイルが放たれTIEブルートなどもレーザー砲を放ちミサイルを次々と撃破していった。

 

ひとまずここまでの損害はないに等しい。

 

「ボマー中隊各機、敵のミサイル攻撃ポイントを割り出した。そこを重点的に爆撃しろ」

 

『了解旅団長!』

 

TIEボマーが3機の編隊をなして敵基地へと向かっていく。

 

当然対空砲が空に向けて放たれるが優秀なパイロット達は見事に回避し逆に目標ポイントへ正確にイオン魚雷やプロトン爆弾を投下していった。

 

基地内の一部は爆撃ににより施設が破壊され火災に見舞われていた。

 

ミサイルだけではなくまだ出撃していないタンクの格納庫やスターファイターの発着場にも爆撃を加え徹底的に敵基地に壊滅的な打撃を与えた。

 

『爆撃成功です旅団長!』

 

「よくやった、各機編隊を保ちながら散開し本隊に集結。このままラストスパートをかける」

 

距離の統計を見れば効果予定地点よりあと50メートルもない。

 

そろそろだ。

 

「全隊降下準備、ウォーカー隊が敵の戦車部隊を撃破したら歩兵部隊を展開しろ」

 

「目標ポイントです!」

 

「よし、全隊降下!」

 

AT-ATやAT-ST、AT-MPなどを吊り下げていたゴザンティ級やATホーラーのドッキングが解除され地上に何十台ものウォーカーが降り立った。

 

土を巻き上げドスンという音と共に鋼鉄の巨人達が降下してきたのだ。

 

「全隊突撃、最大速度のまま敵中央を突破敷地に進撃する」

 

AT-ATがゆっくりとそして大きく足を振り上げ一歩、また一歩と前進した。

 

歩幅の大きいAT-ATは僅かな間だがすでに何十メートルも進んでいた。

 

その巨体を見れば誰だって震え上がるかつまらないジョークを言いたくなるだろう。

 

それだけ恐ろしい姿なのだ。

 

戦列を組んだウォーカー部隊が敵陣まで迫っていた。

 

「ジャガーノートを優先的に潰せ、スカウトチームは敵の三兵を残らず掃討しろ。生き残られたら厄介だ」

 

『敵装甲車群からの砲撃来ます!』

 

ストライク9からの報告通り先行していた敵軍のリパルサー・タンクや旧連合軍のAAT(装甲型強襲用戦車)が主砲を向け砲撃してきた。

 

何発かは外れたが大抵の砲弾が直撃しAT-ATに多少の衝撃を与えた。

 

無論装甲には煤一つ付いておらず逆に顎の重レーザー砲が放たれタンクが破壊された。

 

「敵のジャガーノートがレーザー砲をチャージしています」

 

パイロットの報告を受け取りジークハルトは命令を展開する。

 

「全隊、連携索敵システム展開。アサルト・ウォーカーは優先して敵ジャガーノートを狙え」

 

命令を聞いた各AT-ATのパイロット達がウォーカーの索敵システムを起動しウォーカー同士による巨大なセンサーを展開した。

 

これで敵兵がどこに隠れていようと丸裸同然だ。

 

索敵データを受け取ったAT-STは顎のブラスター砲で散兵が隠れている付近ごと攻撃した。

 

このブラスター砲ならちょっと掠っただけでも重傷だ。

 

AT-ATも重レーザー砲を放ち次々とジャガーノートを撃破していく。

 

ジャガーノートもレーザー砲で反撃しAT-ATに多少の損害を与えてはいるが何分にもレーザー砲のチャージ速度が間に合わず更には物量で押し負けていた。

 

かといってタンクを回せば付属機のAT-MPマークⅢや後方から走ってくる地上タンク部隊の支援攻撃に合い悉く撃破される始末だ。

 

塹壕や森林に隠れた敵の砲兵隊が野戦砲や重砲で攻撃するが僅かに走行を凹ませたり対空撃破されるだけで特にこれといった効力はない。

 

しかも未だ上空を飛び交うTIE部隊に発見され徹底的に空中から銃撃される。

 

前衛のタンク部隊もウォーカーの連続砲火と後方の支援に叶わず敗走し始めた。

 

「敵戦車隊、後退して行きます」

 

「追撃だ、このまま基地を攻撃し敵軍に最後の一撃を加える。そろそろ歩兵部隊を展開しろ、一気に畳み掛ける」

 

もう敵基地は目と鼻の先だ。

 

敵の散兵隊や砲兵隊も粗方掃討し主力部隊はほぼ壊滅させた。

 

退却する敵兵をAT-ATやAT-STが無慈悲にも追い討ちを掛け一人ずつ打ち倒されていった。

 

敵のタンク部隊も殆どが破壊されスクラップになった無惨な姿を親衛隊の前に曝け出している。

 

「ストライク・フォース全隊、砲火を敵基地に向けろ。穴を開ける」

 

命令を受けたストライク・フォースのウォーカーが次々と重レーザー砲を基地に向け外壁や周囲の砲台を破壊していった。

 

その間にAT-STは先行し敵兵を掃討し後方のジャガーノートやAT-MPマークⅢのミサイルが基地に飛来し更なる被害を与えている。

 

もう十分というほどに。

 

「少佐、空挺隊を降下させろ。戦闘開始だ」

 

通信機で上空の部隊長に連絡を取るといくつかのセンチネル級が地上に降り始めた。

 

そして命令を受け取った少佐は残ったセンチネル級やゴザンティ級のハッチを開けた。

 

「よし全隊降下だ!ジャンプ中隊はそのまま戦闘開始しその他は全隊降下!」

 

センチネル級のハッチが開き降下用のパラシュートを背負ったフューラー・ストームトルーパーが次々と地表へと足を降ろした。

 

全員がタイミングよくパラシュートを開き多くのストームトルーパー達が地上へと自由落下した。

 

全員にジェットパックを配れればもっと楽だったのだろうが生憎歩兵にそんなに金をかけている暇はない。

 

降下による部隊の展開は旧共和国軍のクローン・トルーパーの軍もやっていた事だ。

 

大きな実績がありそして今もまた成功という実績を重ねた。

 

パラシュートを切り離したトルーパーの集団が隊伍を組んで次々と敵基地へ突入する。

 

地上に着陸したセンチネル級から降り立った部隊もブラスター・ライフルや銃火器をそれぞれ手に持ち前へ進んでいった。

 

混乱する基地内を制圧するのはここまでくると簡単だ。

 

しかもジャンプ・トルーパーの部隊がより肉薄し精密な爆撃を行っている為基地の被害と指揮の低下はさらに増加した。

 

「アサルト・ウォーカー全機、地上部隊を展開しろ。後方の戦車隊もだ。物量を持って一気に制圧する」

 

AT-ATが部隊の揚陸態勢に入りいつ攻撃が来てもいいようにAT-STやAT-MPマークⅢが集まり防備を固めた。

 

両脇のハッチが開きざっと四十名近くのストームトルーパーが一斉に姿を表した。

 

その間をジャガーノートらの地上部隊は突撃し真っ直ぐ基地を目指していた。

 

インペリアル・アサルト・タンクやオキュパイアなどは小回りが効き火力も十分な為基地制圧や対歩兵戦で圧倒的な力を発揮する。

 

『こちら分遣隊アデルハイン中佐、作戦は成功。こちらの敵地上部隊はほぼ壊滅で降伏した』

 

コックピットにホログラムが浮き上がりアデルハイン中佐が現れた。

 

旅団全てがこの基地攻撃に回されたわけではない。

 

戦力を大体半分に切り分けアデルハイン中佐とジークハルトの二部隊でこの衛星の主要な敵基地を攻撃していた。

 

向こうはすでに戦闘が終了し勝利したようだ。

 

「こちらも全歩兵戦力を投入し基地の制圧中だ。もう間も無く…いや終わったな」

 

ジークハルトが全てを言い終える前に別のホログラムが出現し彼に報告した。

 

『上級大佐、敵基地が降伏を申し出てきました。我々の勝利です』

 

「そうか、敵兵全てを武装解除し捕虜を集めろ。私もすぐに向かう」

 

『了解です!』

 

片方のホログラムは途切れジークハルトは一息付いた。

 

『勝ったな』

 

アデルハイン中佐はそう親友に言葉を呟く。

 

ジークハルトも最初は微笑を浮かべていたがすぐに表情を締め直し返答した。

 

「まだだよ、まだ序の口に過ぎない。この戦いようやく始まったばかりだ」

 

そう、この程度の敵など想定すらされていない雑魚だ。

 

なんなら新共和国軍も殆どいなかったくらいだ。

 

それに彼らの敵はもはや新共和国軍ではない。

 

彼らの真の敵はかつての同胞なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

戦闘が終了し旅団は徐々に集結し始めていた。

 

アデルハイン中佐の分遣隊もジークハルトの下に集まっており残りは索敵部隊と支援攻撃を行なった砲兵中隊のみだ。

 

捕虜はセンチネル級で上空の艦隊に護送され残す所は旅団の撤退のみとなっていた。

 

「第四小隊偵察完了しました上級大佐殿!」

 

スカウト・トルーパーの少尉が敬礼しジークハルトに報告する。

 

上級将校達と会話をしていたジークハルトは少尉に敬礼を返しねぎらいの言葉と共に再び命令を下した。

 

「ご苦労、すまないがもう一度偵察を頼む。索敵範囲は狭くてもいい」

 

「了解しました、直ちに実行します」

 

スカウト・トルーパーはバイクに戻り部下達に命令を出しに戻った。

 

その様子を見ていたパイロットスーツ姿のハイネクロイツ中佐は彼に若干不満そうに話しかけた。

 

「そんなに偵察したってもう敵は出てこないと思うぞ?ましてや帝国の残党なんて尚更だ」

 

ジークハルトは目線を落とし少し黙り込んだ。

 

結局彼はあの後上級将校や全ての将兵に命じられたことを話した。

 

ざわめきや動揺もあったがほぼ全員が命令に従ってくれた。

 

ハイネクロイツ中佐も最初は反対していたが今は納得してくれている。

 

「もしかしたらって可能性もある。これを最後にして切り上げるとするか」

 

「切り上げたら次はどこへ行く?まさかこれで終わりってわけでもないだろう」

 

ハイネクロイツ中佐は軽く問いかけた。

 

ジークハルトはポケットからホロプロジェクターを取り出しホログラムで星図を映し出した。

 

「次は惑星アンシオンに向かう。既に現地では友軍部隊が展開されているらしいが」

 

「一筋縄では行かないだろうな…アンシオンに付いてる頃には既に戦闘が終わっていることを祈ろう」

 

「ああ…全員、索敵部隊が全て帰投次第速やかにこの衛星を離れる。それまでに撤収の用意を済ませておけ」

 

将兵達から「了解」という声が響き皆地上に展開された機材やテントなどを片付け始めた。

 

「それじゃあ俺も地上に残ってるTIEやシャトルを片付けるとするかな」

 

ヘルメットを被りハイネクロイツ中佐が簡易発着場の方へ歩いて行った。

 

ジークハルトも「気をつけてな」と一声掛けていった。

 

「シュタンデリス上級大佐、ヒャールゲン中佐から捕虜の輸送が完了したと」

 

ヴァリンヘルト上級中尉がタブレットを持ち寄り彼に報告した。

 

そこでジークハルトは一つ疑問に思いヴァリンヘルト上級中尉に尋ねた。

 

「…輸送任務は別の将校に頼んだはずだが…?」

 

輸送任務ということで別の大尉に任せていたはずだがなぜ彼が報告してくるのだろうか。

 

「中佐曰く、捕虜の輸送も保安局の管轄だとか…」

 

「だが態々憲兵総監がやる必要はないんじゃないか?」

 

「確かに…まあ捕虜は輸送は難なく終わってるんですしいいんじゃないですかね?」

 

「そういうもんか…?」

 

「どの道アンシオンに向かうんですから長居はしてられませんし…」

 

それもそうだ。

 

報告だと戦況はそれほど逼迫していないらしいが早く向かうに越したことはないだろう。

 

「まあな…後で聞いておこう。報告ご苦労上級中尉」

 

上級中尉は敬礼しシャトルの方へと向かった。

 

1人になったジークハルトはふと制帽の鍔を持ち息を吐いた。

 

「気にし過ぎ…だといいんだがな…」

 

独り言を自分に言い聞かせるように吐き彼も部隊の方へ戻っていった。

 

血に塗れたエイリアンの死体を残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

-残存新共和国領 アウター・リム・テリトリー カラマリ宙域 モン・カラマリ星系 惑星モン・カラマリ-

あわや燃料が尽きかけて宇宙空間を漂流しかけたジェルマンとジョーレンは哨戒任務に出ていたアンヴィル中隊に助けられなんとかモン・カラまで辿り着いた。

 

Uウィングは一旦アンヴィル中隊の旗艦である“シルヴァー・コロネットⅡ”によって応急処置がなされ今はジェルマンらと共にモン・カラ艦隊の総旗艦“ホーム・ワン”の中で本格的な修理が施されていた。

 

その為ジェルマンもジョーレンも“ホーム・ワン”のブリッジの中にいた。

 

「よく無事でいてくれた同志よ」

 

総司令官のギアル・アクバー元帥は2人に握手し無事を喜び暖かく出迎えてくれた。

 

「こちらこそお久しぶりですアクバー“()()”。昇進していらしたとは」

 

手を握るジョーレンは軽く冗談を口ずさみ懐かしい顔ぶれを見て微笑んでいた。

 

「私も君のことは覚えているよ大尉。スカリフ戦で君の部隊もローグワンの一隊に含まれていたから君も戦死してしまったのではと思っていた」

 

「ドレイヴン将軍の命令で1人偵察任務に出ていました。部下達を全員失ったのは悲しいですが立派に勤めを果たしたと思いますよ…本当にいい奴らだった…」

 

「ああ…あの戦いでは結局ラダス提督も失いその後もドレイヴン将軍を失った。そして今もストライン中将のような人物も失った。我々は失い過ぎた、だが過去を嘆き立ち止まっているわけには行かん」

 

ジェルマンも頷きジョーレンも悲しそうに俯いていた。

 

言葉にすれば同盟軍が、新共和国が失ったものは多すぎる。

 

結局今回の戦いでも多く失った。

 

帝国だって無傷ではないのは重々承知だがそれでも新共和国の方がもっと酷い有様だ。

 

これ以上奪わせるわけには行かない。

 

「元帥、ホログラムのセット完了しました」

 

技術士官がアクバー元帥に報告し元帥は「うむ」と威厳ある声で相槌を打った。

 

他の艦隊司令官や幕僚、参謀達もホロテーブルの周りに集まり回線が開かれるのを待っていた。

 

「起動してくれ」

 

アクバー元帥が技術士官に命令しホログラムが浮き上がった。

 

ディカーにいるレイアのホログラムだ。

 

ヤヴィン4の時と同じように将校達の目に輝きが戻っていくのが分かる。

 

流石は前大戦の英雄だ。

 

『アクバー元帥、あなたも無事で何よりです』

 

「殿下もご無事で」

 

アクバー元帥は敬礼しレイアを出迎えた。

 

『メイディン将軍も皆無事で何よりです』

 

クリックス・メイディン将軍も同じように敬礼した。

 

「2人から事情は粗方聞いています。新たな抵抗軍を作るのですね?」

 

『ええ、新共和国を元に姿に戻すのはもはや不可能でしょう…ですが諦めず帝国軍と戦わねばなりません。その為にも私達は再び一つにならなければいけない』

 

将校達は頷きレイアの話に耳を傾けていた。

 

皆それぞれ確固たる思いと矜持を胸に今日までやってきたのだ。

 

帝国軍はこのモン・カラを何度も追い詰め時には諦めそうになった事もあった。

 

しかし彼らはこの日までやり抜いてきたのだ。

 

絶望的な状況の中希望を信じて。

 

そしてようやくレイアから希望の一言がこうして齎された。

 

しかし敵はこんな時でも彼らを殺そうと迫っていた。

 

それは士官の一言から始まった。

 

「元帥!将軍!ハイパースペースより帝国艦隊接近!モン・カラに迫っています!」

 

その報告は若干感傷に浸っていた将校達を振り向かせるには十分だった。

 

レイアも驚きのあまり背後を振り返っていた。

 

アクバー元帥は急いでより正確な報告を聞き直した。

 

「どこからくる?」

 

「我が艦隊の真正面、前方です!数はまだ計測不能ですがおそらくスター・デストロイヤー十隻以上の艦隊かと…」

 

報告を聞いたアクバー元帥はすぐさま命令を下した。

 

「全艦戦闘配備に付け!スターファイター隊を発進させ防衛陣を展開、惑星内へ一歩たりとも近寄らせるな!」

 

「モン・カラ内にも非常警報と避難指示、及び部隊の展開を急げ!」

 

メイディン将軍も地上部隊に命令し非常時に備えた。

 

他の将校達も慌ただしく動き戦闘に備え始める。

 

アクバー元帥もホログラムのレイアに真剣な眼差しで最後の通信を行なった。

 

「殿下、申し訳ないが…」

 

『仕方ありません。ご武運をアクバー元帥、フォースと共にあらんことを』

 

レイアがそういうと通信が切れいよいよ戦闘という雰囲気が立ち込めてきた。

 

ジェルマンとジョーレンもアクバー元帥に進言する。

 

「我々も戦います。恐らくUウィングの修復はほぼ完了しているはずですから」

 

「頼んだぞ中尉、大尉」

 

2人は敬礼し急いで“ホーム・ワン”の格納庫へ向かった。

 

敵を凌げばまた敵が。

 

帝国軍の攻勢と新共和国の残党軍の防衛に終わりはないように感じる戦いに2人はまた身を投じようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-惑星コルサント 親衛隊保安局本部-

事件からかなりの月日が過ぎコルサントの戒厳令は解除された。

 

その反動かのようにコルサント市民はラクサスでの勝利での勝利と新年を大いに祝いかつて帝国が崩壊した時よりも盛り上がっていた。

 

無論陰湿な場所は陰湿であったが。

 

親衛隊保安局はそんな中でも総統暗殺を企てた者の正体やその背後の組織がいないか捜査を続けていた。

 

「それで、暗殺犯の正体は掴めたのか?」

 

総統府長官にして親衛隊全権長官のハインレーヒ・ルイトベルン・ヒェムナー長官はハイドレーヒ大将にそう尋ねた。

 

ハイドレーヒ大将は彼に情報の詰まったタブレットを手渡した。

 

ヒェムナー長官はメガネをかけたままその資料を読んだ。

 

「犯人は…ただの一般男性…まさか、新共和国や敵国の特殊部隊員やスパイではないのか」

 

ヒェムナー長官は少し驚いたようにハイドレーヒ大将に尋ねた。

 

大将は椅子に座り彼に勿体ぶって返答した。

 

「全く、彼の身辺も周囲も特に怪しい点はありませんでした。本当に個人的な考え動機なのでしょう」

 

「制服を奪われた士官の身元は?」

 

「こちらも怪しい点はありません。遺体も見つかっていますし何よりFF将校なら総統に絶対の忠誠がある」

 

ハイドレーヒ大将はそう自ら所属する組織を豪語した。

 

無論それは親衛隊の全権長官たるヒェムナー長官も同じ思いだ。

 

親衛隊が、総統に救われた者達が相当を裏切るわけがない。

 

「問題は警備だ。そうなると責任は我々に…」

 

「“()()”ではなく個人の問題です。現にここまで侵入を赦し爆破まで起こしてしまったのは総統府警備を任されている保安局のディールス長官にある」

 

「ハイドレーヒ、彼は裏切り者ではない」

 

「ええ知っています。ですが責任問題はまた別にある。それに彼はあの計画に全く熱心ではない」

 

ヒェムナー長官は顔を顰めた。

 

確かに犯人の侵入をあそこまで許してしまったのはディールス長官にある。

 

それに話は変わるがディールス長官がホロコースト計画に熱心ではないのも頷けた。

 

彼はあの計画を「無意味な事」と称し密かに人員を渋ったり予算を別に回していたりしていた。

 

これは総統が描く理想に反している。

 

「彼の不祥事は突けばいくらでも出てくる。第二帝国時代の古い禍根はこの際一掃されるべきでしょう」

 

「ディールスだけはそのまま据え置きにしたいと思ったのだがな」

 

「本気で仰っているのですか?親衛隊保安局を半ば私している奴ですよ?次誰を長官にするにしても彼は排除すべきです」

 

ハイドレーヒ大将はそう断言した。

 

ヒェムナー長官も薄々納得しつつある。

 

「閣下には進言する。まあ時期に結果は出るさ」

 

「ならばいいのですがね」

 

内心早くしてくれと思いつつもハイドレーヒ大将はあくまで平常心を装った。

 

間抜けだと感じてもヒェムナー長官は直属の上官だ、無碍には出来ない。

 

そこでハイドレーヒ大将はヒェムナー長官に一つ頼んだ。

 

「なら彼の部下の1人を私の方に回してはいただけないでしょうか。彼は無能であってもその部下は違う」

 

「君が人を欲するなんて珍しいな。分かった、手回ししておこう」

 

ハイドレーヒ大将はそれを聞き礼を述べるわけでもなく背もたれに寄りかかった。

 

彼の能力の高さは既にフューリナー上級大将から聞いている。

 

私と同じ考えであることも。

 

有能な私の手足はこれから何本あっても足りないだろう。

 

ぜひ頼むぞ、“フリシュタイン大佐”。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-帝国領 コア・ワールド 惑星クワット-

今日も惑星クワットの全ての造船所は休みなくフル稼働しており何隻かの軍艦が造船所を巣立っていった。

 

ここまで毎日大量に軍艦を建造しているともはや愛着すら湧かないだろう。

 

無機質な、それでいて必要不可欠なものだ。

 

当然それを監督するクワット社のボスも毎日休みなどない。

 

最近のヴァティオンは寝る間も惜しんで取引先との連絡や子会社との打ち合わせ、各造船所や工場の監督などを行なっていた。

 

「スター・ドレッドノートの竣工は成功です。既に戦果を挙げているとか」

 

幹部の報告を受けヴァティオンは満足そうに頷いた。

 

あれを取引先に送るのは大変だった。

 

「しかしそんな早く使うとはな。それほど困窮していたようには見えなかったのだが」

 

「惑星制圧ではやはりドレッドノートがあると便利なのでしょう」

 

「そんなものか」

 

ヴァティオンや幹部達は軍人ではない。

 

多少の心得はあるがあくまで彼らは経営陣や生産者で詳しい事は向こうの問題だ。

 

何はともあれ向こうが満足ならそれでいいだろう。

 

「スーパー・スター・デストロイヤーの建造状況はどうなっている?」

 

ヴァティオンは話を切り替え新型エグゼクター級の話をし始めた。

 

かつては十三隻存在していたエグゼクター級も今では“アナイアレイター”、“ルサンキア”、“リーパー”、“エクリプス”の“()()()()”だ。

 

だからこそ再び建造する必要があるのだ。

 

帝国宇宙軍の、帝国艦隊の力の象徴であったエグゼクター級を。

 

新たな帝国宇宙軍の守護者(Guardian)を。

 

既に売り渡す相手も決まっている。

 

「会長、まだ建造をスタートして一週間も経っていませんよ。全然です」

 

役員の返答にヴァティオンは子供じみた感じで落胆した。

 

それはそうだ、あんな巨大なスター・ドレッドノートが一日二日で完成するものか。

 

分かっていてもどうしても聞きたくなってしまうのだ。

 

ヴァティオンにとってエグゼクター級とは憧れに近いのだから。

 

「それよりも第三帝国が通常の生産とは別にオーダーを寄越してきています」

 

「ほうほう、一体をどれくらいだ?」

 

その問いに幹部や役員達は皆口を閉し苦笑いに近い表情を浮かべていた。

 

「どうした?」

 

ヴァティオンはふと彼らに問い掛ける。

 

この反応は明らかに変だ。

 

すると幹部の1人が苦笑い気味のまま話し始めた。

 

「まずインペリアルⅡ級百二十隻、オナガー級二十四隻、アキシャル砲搭載艦九隻…」

 

「なんだって?」

 

余りの数の多さにヴァティオンも驚いて聞き返してしまった。

 

後半の数もおかしいし前半のインペリアルⅡ級百二十隻なんて一度のオーダーで頼むものではない。

 

こんな数軽く五個宙域の戦力を賄えるほどだ。

 

それに後半のオナガー級二十四隻とアキシャル砲搭載艦九隻という数字もおかしい。

 

まずこれらに必要不可欠な超兵器の原動力であるカイバー・クリスタルが恐らく足りない。

 

何せ現在就役しているアキシャル砲搭載艦とオナガー級の予備も合わせたカイバー・クリスタルを得るだけでも一苦労だったのだ。

 

「カイバー・クリスタルはどうするんだ。あの資源だけは我々の倉庫も空だぞ」

 

「それは第三帝国側がなんとかすると…」

 

その返答を受けてもヴァティオンの怪訝な表情は解消されなかった。

 

あの代物はなんとかしようとしてなんとか出来るものではない。

 

それが分かった上でやっているのだろうか。

 

「まあいい…オーダーはそれだけか?」

 

「いえ…後はアサルト・ウォーカーやスカウト・ウォーカーなどの機甲戦力をこれくらい…」

 

そう言って幹部はヴァティオンにタブレットを見せた。

 

ちろっと目を向けるだけでヴァティオンは驚くこともなく呆れ返った表情を浮かべていた。

 

「こんな戦力を要求して来て…第三帝国の軍事予算は無限か?」

 

「さあ…で、どうしますか?」

 

「あの連中にやれと言われたらやるしかあるまい…幸いにもそれくらいなら多少時間は掛かっても造れなくはない。全く勝ったら調子に乗る連中だとは思わなかったよ」

 

「人を見る目を少し見誤った」とヴァティオンは自重気味に笑った。

 

勝利したからとて急に軍縮を始める連中もどうかとは思うがかと言って急激に軍拡を推し進めるのもまたそれはそれだ。

 

良い商売相手なのだから長続きして欲しいとヴァティオンは個人的に思っている。

 

だが結局は他所は他所、いくら第三帝国側に付いているからと言ってそれは表面上の姿だ。

 

あまり他所に口を出す必要はないとヴァティオンは自身に軽く言い聞かせた。

 

「全く…我々の工業力や建造力だって無限ではないのだがな…ただでさえ多くのエイリアン従業員が帝国に徴集されて人手が足りんっていうのに」

 

「ですがその分新共和国時代の失業者を雇えてあの頃苦しかった分が解消されたじゃないですか」

 

「それはそうだが…まあ我々があれこれ言う話ではないがやはりバランスってのは大事だと心底思うよ」

 

ヴァティオンは懐かしき帝国時代を思い浮かべながら食えない笑いを浮かべた。

 

これじゃあ大黒字だよ。

 

本当にバランスというものは大切だ。

 

彼のデスクに移る“()()()()()”を見つめながら幹部達との話に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦場というのはすぐ終わるものもあれば激戦となる場合もある。

 

常に犠牲が少なく終わる戦いなどない。

 

今そうであるように。

 

隣を進んでいたAT-STが敵の砲撃で破壊され、鈍い音を立てながら地面に倒れた。

 

あちらこちらで銃撃の音が鳴り響き悲鳴や足音が聞こえた。

 

「中尉!バイノキュラーを!!」

 

ヴァリンヘルト上級中尉からエレクトロバイノキュラーを受け取るとジークハルトは急いで覗き込んだ。

 

エレクトロバイノキュラーを渡したヴァリンヘルト上級中尉はDTL-19重ブラスター・ライフルで敵を攻撃していた。

 

現在彼はいくつかの歩兵部隊と共に惑星アンシオン近くの衛星に上陸し戦闘に巻き込まれていた。

 

本来は全軍で上陸し既に現地にいるはずの国防軍部隊と合流する予定だった。

 

無論そこまでは上手く行ったのだが問題はその後だ。

 

突如謎の抵抗勢力に攻撃されて後続の部隊と逸れてしまった。

 

なんとかして敵を後退させ後続部隊と合流しひとまずの安全地点を作らねばならない。

 

ただ問題は敵が“()()()()()”という事だ。

 

モーデルゲン上級大将に言われていた真の敵がこうして目の前に立ちはだかった。

 

ジークハルトは隣でブラスターを乱射し友軍を支援するヴァリンヘルト上級中尉に叫んだ。

 

「アイフナー軍曹を呼べ!」

 

「軍曹の隊は迫撃砲で右側の友軍を支援しています!今は無理です!」

 

直後自覚で爆風が巻き上がり会話は一旦中断された。

 

爆風は少しの間ですぐに戦闘が再開されすぐ脇をストームトルーパー数名が走り去っていった。

 

「とにかく国防軍でも親衛隊でも誰でもいい!分隊か小隊規模の戦力で中央に負担を掛けろ!」

 

「砲弾を運んでいる外人部隊なら手が空いています!動かせるのはほんの少数ですが!」

 

「十分だ!中尉急いで呼んでくれ!兵が集まったら我々も突撃だ!」

 

「了解!急いで前線に手の空いた部隊を寄越してください!中央に攻撃を仕掛けます!」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は急いでコムリンクを開き外人部隊を呼び寄せた。

 

その間にジークハルトは先程のヴァリンヘルト上級中尉のように自身のE-11をぶっ放し敵兵を何人か仕留めた。

 

敵はストームトルーパーと地上軍トルーパーの混成部隊で一見すればこちらと見分けが付きにくい。

 

かつては別の場所で共に戦う仲間だったのだろうがもう躊躇う事はなかった。

 

「こちらに砲弾を運んでいた一個分隊ほどがすぐに来るそうです!」

 

「よし!諸君!間も無く前衛に突撃を仕掛ける!用意を頼むぞ!」

 

ジークハルトは後方で支援する何名かのストームトルーパーに叫んだ。

 

トルーパー達は頷いたり返事をし急いで自身のブラスター・ライフルの弾薬を確認し専用アタッチメントを接着しE-11にライフルソードをつけたりした。

 

「上級大佐殿!!」

 

再び後ろから声が聞こえた。

 

外人部隊のランス・バルベッド軍曹とアーロ・ゼルテック一等兵だ。

 

2人ともウェイランドの戦いで十分戦果を挙げ昇進していた。

 

他の分隊員やストームトルーパーらと共にジークハルトの側に寄って来た。

 

「これから中央に突撃する。無理に進めとは言わないが徹底的に敵軍の中央に打撃を与えろ」

 

「了解!」

 

ランス軍曹が頷いた。

 

「話した通り敵はかつては我々と同じ帝国軍の兵士だ。だが躊躇うな、敵を徹底的に打ち倒せ」

 

「はい必ず!」

 

「よし、2人はEウェブでこっから支援を頼む。残りは全員突撃だ。中尉、なるべくそばにいてくれ。その方が情報が手に入りやすい」

 

「了解です!しっかり守ります!」

 

ヴァリンヘルト上級中尉はヘルメットを被り直すとDTL-19をしっかりと構えた。

 

その様子を確認したジークハルトは自分たちが篭っていた土嚢などの上に立ち一番前に立った。

 

「全隊突撃!!総統閣下と祖国の為に前進せよ!!」

 

ジークハルトはそう支持を出し一番最初に飛び出しブラスターを放ちながら走った。

 

彼を先頭に外人部隊のトルーパーやストームトルーパー達が一斉に叫びを上げ突撃を開始した。

 

何発かの弾丸がジークハルトを掠めるが結局当たる事はなく逆に彼のE-11から撃ち出されたブラスター弾が敵兵を貫いた。

 

そのまままた1人の敵兵を撃ち倒すとジークハルトは後ろからくるヴァリンヘルト上級中尉と共に近くの岩陰に身を寄せた。

 

その間も敵兵に向けブラスター・ライフルを放ち友軍を支援した。

 

Eウェブや迫撃砲の支援は絶大で下手に顔を出す敵兵は皆餌食になっていた。

 

そのお陰で部隊が敵の戦列を突破し銃剣刺突や近距離射撃で敵兵を蹴散らしている。

 

特に強いのは外人部隊のランス軍曹で攻撃に容赦がなく格闘戦や近距離戦で次々と敵兵を倒していった。

 

だがアーロ一等兵も負けてはいない。

 

彼も必死に敵兵を狙撃し負けじと攻撃していった。

 

「大佐!左右の友軍部隊からの報告です!敵軍が撤退を始めたとのこと!」

 

「なんだと」

 

早すぎると思いつつもジークハルトは自身がいる前線の状況を確認した。

 

エレクトロバイノキュラーを使う暇がなかったのでスコープ越しだったがはっきりと分かった。

 

敵は確実に撤退を始めている。

 

銃器などを持ち、あるいはそのまま捨て去り一目散に隊を組んだまま退却していた。

 

「それと後続部隊のアデルハイン中佐が敵部隊を突破しました!」

 

ヴァリンヘルト上級中尉の報告を聞きジークハルトはひとまず敵を退けたことを確認した。

 

しかしやはり早すぎる。

 

敵にとっては小手調のようなものだったのか。

 

『上級大佐!敵を打ち破りました!』

 

突撃した部隊長の1人からコムリンクから報告が入った。

 

ジークハルトは急いで答える。

 

「よくやった、追撃はせず我々と合流しろ。全員本当によくやった」

 

『了解であります!』

 

コムリンクは切れ段々周囲の銃撃戦の音も止み始めた。

 

ジークハルトは略帽の鍔を持ち上げ敵が逃げていった方向を見つめる。

 

「やりましたね上級大佐!」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は勝利した様子でジークハルトに声をかけた。

 

ジークハルトも最初は微笑を浮かべていたが彼から発せられる言葉は勝利を肯定する言葉ではなかった。

 

「違うぞ上級中尉、我々は相当手強い敵と当たるかもしれない」

 

敵は確かに退けた。

 

だがあまりにも見事な退却ぶりを見て確信した。

 

敵は手強い。

 

やはり一筋縄ではいかない。

 

「我々の戦争は始まったばかりだ」

 

眼前の先に控える敵の姿を思い壁ながらジークハルトはそう呟いた。

 

 

 

 

つづく




クラリッサ「暗くて靴が見えませんわ!こうなったらスパイスで…!」
ヴァティオン「どうだ明るくなっただろう(アキシャル砲をぶっ放しながら)」

フューリナー「ほら言った通りの異常者だろう?」
マイン「うん、確かに…」



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Advanced Battle

「市民も政府関係者も皆『銀河の再征服を!領土を取り戻せ!』と息巻いている。だが、再侵略も統治もあまり上手くいっていないのが実情だ。帝国軍も親衛隊も破竹の勢いで勝ち進んでいるもののそう遠くない時期にやがて進撃はストップするだろう。何より得た領土の統治が殆ど上手く行っていない。人員が足りず服属惑星に大使を派遣することすらままならないのだ。我々はこんな状況でいつまで戦い続けられるのだろうか、我々が戦い納めようとしている物は我々の手に余る代物なのではないだろうか」
-帝国国防軍のとある提督の回想録より抜粋-


-帝国領 コア・ワールド 惑星コルサント-

「と、いうわけです」

 

ユーリアの前に座る親衛隊の大尉は彼女に説明を終え資料を渡した。

 

セレッド大尉を名乗る親衛隊将校の隣には彼よりもかなり若い新任の少尉が座っており若干緊張した面持ちでユーリアを見つめていた。

 

彼女はこれでも親衛隊内ではかなり有名な旅団長の妻なのだ。

 

緊張もするし何より優しい美人に微笑み掛けられれば若者なんてすぐ上がってしまうだろう。

 

「わざわざありがとうございます」

 

ユーリアは丁寧に頭を下げ親衛隊将校達も「いえいえ」と軽く頭を下げた。

 

「むしろ余計な事ではないかと心配しましたよ。シュタンデリス大佐ならお伝えしてそうですし」

 

セレッド大尉そう冗談めかして呟いた。

 

彼らは選ばれた帝国市民の少年少女達が入隊を義務付けられている“コンプノア・ユーゲント(COMPNOR Jugend)”の説明を行なっていた。

 

コンプノア・ユーゲントは第三帝国のCOMPNOR(ニューオーダー保護委員会)が行う政策の一つで第三帝国のイデオロギーや帝国の将来を担う為の教育を受けていた。

 

主な教育内容は体力作り兵士や技術者としての基本的知識や技能、ハイ=ヒューマン主義やエイリアン種族に対する憎悪などでより忠実で優秀な兵士の基礎を作り出していた。

 

コンプノア・ユーゲントは将来的に全員がアカデミーへ進学し国防軍、親衛隊、COMPNOR委員、政府関係者などになっていく。

 

ある種セレッド大尉達のような広報部員がこの資料を持って家に訪問すればそれは第三帝国市民にとって我が子の将来が約束された事を意味する。

 

当然親衛隊員であり優秀な指揮官の息子であるマインラートの下にも入隊義務が訪れたのだ。

 

「いえいえ、仮に教えられたとしても選ばれるとは限りませんし」

 

「シュタンデリス大佐のお子さんでしたら必ず選ばれますよ」

 

ジークハルトの階級は大佐(厳密に言えば上級大佐なのだがまだ全体に知れ渡ってはいない)でセレッド大尉よりも4〜5階級上である。

 

当然下手な事は言えないしお世辞に近い事も言うだろう。

 

そんなセレッド大尉と少尉にユーリアは優しく微笑んだ。

 

「さて、あまり長居してはいけない。我々はこの辺でお暇させて頂きますね」

 

セレッド大尉は資料以外のものを片付け始めると制帽を手に取り深く被った。

 

少尉の方もバッグを持ちテーブルに置かれた制帽を手に取った。

 

「もうですか?」

 

「ええ、シュタンデリス夫人のおもてなしはとても嬉しいのですが我々も次のご家庭に向かわねばなりませんので」

 

そう名残惜しそうにセレッド大尉は微笑み自身のバッグを持った。

 

本当に名残惜しそうな顔をしていたのは少尉の方だったが。

 

「それは大変ですね、ご苦労様です」

 

「いえいえ、我々の…私が唯一出来る大切な仕事ですから。それでは」

 

ユーリアの労いの言葉にセレッド大尉は一瞬だけ悲壮を浮かべた表情を浮かべすぐいつもの優しい顔に戻った。

 

「玄関先まで送りますね」とユーリアは2人に声を掛け別の部屋にいたマインラートを呼んだ。

 

元気のいいマインラートはすぐに走ってきた。

 

「彼がマインラート君ですか?」

 

セレッド大尉はユーリアに尋ね「はい」と答えた。

 

「こんにちわ!」

 

「ああ、こんにちわ。それじゃあおじさん達はこれで帰るからね」

 

「玄関までお見送りしましょ?」

 

「はーい」

 

マインラートの幼さが残る返事と挨拶に親衛隊2人も元気を貰い微笑ましい気持ちになっていた。

 

そんなマインラーとは廊下を歩く親衛隊の2人にふと尋ねた。

 

「おじさん達、お父さんと同じ格好をしているけどお父さんの友達なの?」

 

「お友達ってほど偉くはないけど…まあ同じお仕事をしているね。私もこっちのお兄さんも君のお父さんと同じ仕事をしていてとっても誇りに思うよ」

 

突然話を振られた少尉はうまく返せずぎこちない笑みを浮かべていた。

 

セレッド大尉はそれなりに軍歴が長いのかこう言う対応にもかなりスムーズだった。

 

「君もいつかお父さんやおじさんと同じ仕事につくかもしれないね。その時は親衛隊なんて消えてるといいけども」

 

セレッド大尉はそう微笑みマインラートの頭を撫でた。

 

マインラートは嬉しそうに笑いユーリアはそんなマインラートの笑みに反してどこか悲しそうな表情を浮かべていた。

 

玄関を出た一向はちょっとした雑談を行なった後大尉が話を切り出した。

 

「それではシュタンデリス夫人」

 

「どうせならアパートの外までお見送りしましょうか?マインは先に戻ってなさい」

 

「はーい!」

 

マインラートはユーリアにそう言われセレッド大尉達にペコリと頭を下げて家の中に戻っていった。

 

セレッド大尉達は軽く手を振りながら話を戻した。

 

「申し訳ない、ではお願いしますね」

 

「ええ」

 

ユーリアとせレッド大尉達は玄関先での雑談を続けた。

 

ただ話の内容は若干切り替わっている。

 

「それにしてもマインラート君はとてもいい子ですね。優しくて私も年甲斐もなく嬉しくなりましたよ」

 

「優しいのもあの子の取り柄だと思っているので」

 

「実は私にも娘がいるのですがちょうどマインラート君と同い年でしてもしかしたら同じユーゲントクラスに入るかもしれません」

 

「マインラート君が同じクラスだととても嬉しいのですがね」と大尉は嘘偽りなく笑顔で応えた。

 

ユーリアも微笑を浮かべて「そうだといいですね」と同じく本心で話した。

 

「娘の幼い頃に私の妻が反乱軍のテロで亡くなってしまいましてね。それ以来人見知りが激しいのですがマインラート君と一緒ならとても頼もしそうでして」

 

「そうでしたか…あの子もきっと貴方の娘さんと仲良くなりたがってると思いますよ」

 

「ハハ、そうだといいのですがね。ただマインラート君は誰とでも仲良くできそうですが」

 

そんな話をしていると既にアパートの外まで出ていた。

 

「それじゃあセレッド大尉、少尉さんもお体にお気をつけて頑張ってくださいね」

 

ユーリアは2人に頭を下げるとセレッド大尉と少尉も敬礼した。

 

しかし悲劇はここで起きた。

 

突如アパートの路地裏から物音が聞こえ幾つかのゴミと共に汚らしい格好をした浮浪者の男が現れた。

 

片手には酒を入れた瓶を持っており目の焦点は全くと言っていいほどあっておらず足元もおぼつかずふらついていた。

 

そんな男は瓶から酒を煽るように飲むと突然ユーリア達に向かって叫んだ。

 

「FFのクソ野郎だ!!よくも俺のダチと彼女を!!許さねぇ!!」

 

叫び声に掠れて若干聞こえ辛かったが男が現れた路地裏の奥の方からは「いたぞ!あそこだ!」と人の声が聞こえた。

 

セレッド大尉は険しい表情を浮かべブラスター・ピストルのホルスターに手を掛けた。

 

少尉の方は顔を引き攣らせ震える手でブラスター・ピストルを引き抜こうとしたが大尉に「まだ早い」と静止されていた。

 

ユーリアはどうする事も出来ない為恐怖で青ざめるしかなかった。

 

男は空になった瓶を乱暴に地面に投げ捨てた。

 

瓶の割れる音と共に破片が飛び散りその隙を見てか男はポケットから何かを取り出した。

 

「ぶっ殺してやる!!テメェらぶっ殺してやる!!」

 

ブラスター・ピストルとナイフだ。

 

路地裏からは誰かが走る足音が聞こえるがおそらく間に合いそうにない。

 

大尉と少尉は急いでブラスター・ピストルを引き抜き男に向けた。

 

「奥さん下がっててください!」

 

「まずはそこの女から道連れだァ!!」

 

そう言い男はブラスターの銃口をユーリアの方へ向けた。

 

その危機をいち早く察知したのはユーリアではなくセレッド大尉の方だった。

 

「危ない!!」

 

セレッド大尉は身を挺してユーリアを跳ね除けた。

 

だが悲惨な事に既に男のブラスター・ピストルは弾丸が発射されておりユーリアを庇ったセレッド大尉の右胸を大きく貫通していた。

 

「グァハッ!!」

 

口から血を吐き出し胸からも血が出ている。

 

「大尉殿!!」

 

「クソFFめ!!じゃますんじゃねぇ!!」

 

直後男はブラスター・ピストルを捨てナイフを構えセレッド大尉に突進した。

 

鋭いナイフがセレッド大尉の腹部に突き刺さりまた苦悶の表情を浮かべる。

 

だがこれが男の命取りとなった。

 

セレッド大尉は力を振り絞りブラスター・ピストルの引き金を放つ。

 

腕や足、胸に弾丸が当たりセレッド大尉と同じように血を出して倒れた。

 

「ガアアアアアア!!」

 

「よくも大尉を!!」

 

激昂した少尉が倒れる男に向けブラスター・ピストルの弾丸を何発も撃ち込む。

 

四発目を喰らった辺りから男はぐったりと倒れ痛みに気絶してしまった。

 

「いたぞ!」

 

「大丈夫ですか!」

 

路地裏から聞こえる声の主達が現れ男を取り押さえた。

 

どうやら親衛隊保安局の警察隊のようで男を追っていたらしい。

 

「セレッドさん!!しっかりしてください!!早く止血を!!」

 

ユーリアは急いでセレッド大尉に近づき周りの将校や警官にそう叫んだ。

 

「今持ってきます!」

 

親衛隊警官の1人が走り去った。

 

ブラスター・ピストルを持ったまま少尉も近づいてくる。

 

「大尉殿しっかりしてください!大尉殿!」

 

「……くっ……あっ……」

 

セレッド大尉の傷は深くユーリアがハンカチを使っても血が止まらない。

 

「早く救急隊を!」

 

「今呼んでいます!」

 

「セレッドさん…!そんな…!」

 

午前の昼前、コルサントの一角にサイレンの音と叫び声がこだました。

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム 惑星アンシオン-

次々と基地を飛び立つTIEファイターの中隊やゴザンティ級を側にクラリッサは出された茶に自前の砂糖を二杯くらい入れていた。

 

目の前にはこの惑星アンシオン政府の星系議長であるマベルス・ドウル元帥が勲章や飾緒をぶら下げ座っていた。

 

彼は元々アンシオン周辺の将軍であったがエンドア後の混乱期に乗じて当時険悪だったアンシオン星系の総督を謀殺。

 

その後傀儡の総督を擁立し新共和国が中央政府となった後はアンシオンの人民と駐留していた帝国軍を再編し現在の姿となった。

 

元帥に勝手に昇進したのもその時だ。

 

エンドア後は各地の軍将や上級将校が勝手に通常よりも上位の階級を名乗ることが多々あった。

 

「感謝するヤルバ総督、ファースト・オーダーに、ケッセルの無限に近い燃料資源があれば我々は無敵だ。これであの第三帝国とも戦える」

 

「それはどうも。ですが我々が出来る支援はほんの少しですわ」

 

「それでも構わんさ。戦いの方は我々がどうにか自分達でどうにかする」

 

元帥は自身に満ちた笑みを浮かべ握り拳を掲げた。

 

クラリッサは出そうになるため息を抑えカップをさらにおいた。

 

ドウル元帥、彼はとても退屈な匂いがする。

 

スパイスのような刺激的な匂いでもなければマルスのように堪らなく魅力的でいつでも手元に置いておきたいような匂いもしない。

 

かと言ってスローネ大提督やファースト・オーダーのボラム大将軍のような気概ある有能な匂いもしなかった。

 

とにかく退屈な、典型的な、ありきたりな感じだ。

 

帝国軍によくいるタイプのステレオタイプといったところだろう。

 

権力闘争に明け暮れ帝国を弱らせるタイプのアレだ。

 

「なら一つ言っておきますわ。あの新共和国と惑星防衛軍から奪い取った衛星、早めに捨てておいた方が身のためですわよ」

 

「第十衛星にはまだ第三帝国の二個連隊程度の戦力しかいないはずだ。確かにあの連中に真っ向から勝てるとは思えんが戦略的勝利程度なら…」

 

「だから言ってますのよ?今頃は親衛隊とかいう連中が現れて衛星制圧を目指してる頃でしょうし。勝ちたいなら余計な領土は捨てて防備を固めるべきですわ」

 

言葉を読み取るのは早いが相手を知らなさすぎる。

 

いくら方面軍的戦力しか送って来られないとはいえ第三帝国はそのような道理を無理で突破するような連中だ。

 

その第一報が、ほらきた。

 

士官が1人慌ただしくノックもせずドウル元帥とクラリッサのいる部屋に入ってきた。

 

「元帥!第十衛星が…」

 

その先は聞こえなくても分かる。

 

ドウル元帥は士官と小さな声で話し命令を送った。

 

士官は小さく頷き急いで退出した。

 

ドウル元帥は大きく息を吐きクラリッサを軽く睨んだ。

 

恨みは感じられないが何か怪訝なものを見るような感じだった。

 

「君は預言者か何かか?言われた通り第三帝国の親衛隊が一個旅団と一個艦隊ほどやって来た」

 

「予言も何も当然の結論ですわ。第三帝国がこの地に侵略を仕掛けて来た時点で彼らは本気ですもの」

 

「だがな総督、私はあの衛星を手放すつもりはないぞ。既に三個師団を配備してある、親衛隊を防ぐには十分のはずだ。それにファースト・オーダーから与えられた“切り札”もある」

 

「ええ、私はこれ以上あなた方にいうことはありませんわ。宣告通りちょっと見学してすぐ帰らせていただきます」

 

ドウル元帥は余裕そうな交戦的な笑みを浮かべ「好きにしてくれ、邪魔だけせねばな」と言い放った。

 

クラリッサも「言われなくとも、あなた方の采配楽しみにしてますわ」と言い席を立った。

 

「楽しみにしてくれ。コルサントの伍長など、軽く一捻りよ。なあに君の仇もな…」

 

元帥はふと彼を見て不敵に微笑んだ。

 

「じゃあ行きましょうかマルス」

 

「はい、お嬢様。それでは元帥」

 

マルスは礼儀正しく敬礼しドウル元帥も軽く敬礼を返した。

 

クラリッサも丁寧に頭を下げ部屋を後にした。

 

元帥は2人を目で見送ると衛兵と副官のみになった部屋で1人心地に口を開いた。

 

「スパイスお嬢様…か。世間知らずより幾分マシか、それとも…」

 

ソファーから仰々しく立ち上がり窓の外を見つめた。

 

彼配下のアンシオン軍が続々と戦場へと向かっていく。

 

かつての帝国軍には及ばないが自身が帝国時代に持っていた軍事力よりは高い。

 

それは領土も権力も同じだった。

 

「ここまでなれたのだ、我が権威を貫いてみせるさ」

 

第三帝国を相手にしてドウル元帥はそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機体の修復は完了してますが応急修理なので無茶はしないでくださいね!」

 

整備士が急いでUウィングに乗り込もうとするジェルマンとジョーレンに忠告した。

 

だが2人とも適当な生返事で済ませすぐに機体のハッチが閉まってしまった。

 

彼らはいざという時の為に武装を固めほぼフル装備だった。

 

「偏向シールドと武装が使えればそれでいい。確かアンヴィル中隊に少し改良されたんだな?」

 

「イオン・ブラスターを外付けにしてコックピットから遠隔操作出来るようにしただけだ。とどのつまり…」

 

「武装が増えた、最高だな」

 

「ああ!」

 

不敵に笑いジョーレンは各システムを起動させUウィングを発進体制に持ち込んだ。

 

既にUウィングの隣を何機かのXウィングやAウィングが飛び立ち戦場へと飛び立っていった。

 

「こちらUウィング、敵機迎撃の為緊急発進する」

 

『Uウィングの発艦を許可する。頼みましたよ…!』

 

「分かってる。Uウィング出るぞ」

 

通信士の声援を受けジェルマンとジョーレンのUウィングが“ホーム・ワン”を発艦した。

 

既に他のMC80やスターホーク級などからも多くのスターファイターが発艦しつつあった。

 

前を見れば新共和国艦隊の先に楔形の無機質な破壊者(デストロイヤー)が艦列を並べこちらを待ち構えている。

 

敵艦はおおよそ数十隻ほど。

 

まだ続々とハイパースペースから出現しており後続と小型艦を含めば数百隻は超えるだろう。

 

「敵機の発艦を確認。インペリアル級それぞれからざっと三個中隊以上、ボマーもいる」

 

ジェルマンは簡易的に敵の状態を報告した。

 

まず彼らの一番の敵はスターファイターだ。

 

それさえ分れば後は命令に従うのみ。

 

『アンヴィル中隊、全機準備よし』

 

『エコー中隊、準備よし』

 

『ヴァンガード中隊、いつでも行ける』

 

『ブルー中隊、準備よし』

 

『イエロー中隊準備よし』

 

『グレイ中隊、全機準備よし』

 

『ゴールド中隊、準備よし』

 

名高いスターファイター中隊が翼を並べ合図を出した。

 

艦隊も防衛陣形の編成が完了し敵を待ち構えている。

 

全部隊に最高司令官のアクバー元帥の声が響いた。

 

『全スターファイター隊は敵機を押さえつつ敵艦の局所に集中攻撃せよ。全艦隊で支援し敵艦を撃破する』

 

『了解元帥。ゴールド中隊全機、先行して敵艦の偏向シールドを叩く』

 

何十機かのYウィングやBウィングが先行しその後を多くのスターファイターが続いた。

 

当然Uウィングもだ。

 

「僕達はどうする?」

 

「編隊を支援しつつ前方の小型空母に攻撃を仕掛ける」

 

「僕達だけでやれるか?」

 

「よく見ろ敵は空母だ。インファイトに持ち込めば勝てる」

 

「本当に?」

 

「…1機じゃ難しいが少なくとも行動不能くらいはやれるはずだ」

 

自信を若干無くしつつもジョーレンは前方の敵機を睨んだ。

 

既に戦闘が始まり敵味方含め何機かのスターファイターが撃破されその無惨な姿を曝け出している。

 

レーザーが飛び交う戦場をSフォイルを持つ青いUウィングが飛び回る。

 

Uウィングからレーザーが放たれ1機のTIEブルートが撃破された。

 

そのまま大きく円を描きながら機体を回転させレーザー砲を連射した。

 

攻撃を交わし切れず何機かのTIEインターセプターやTIEブルートが撃破された。

 

「このまま空母に突っ込むぞ!掴まれ!」

 

最高速度のままジョーレンは機体を真っ逆さまにクエーサー・ファイア級に突っ込ませた。

 

ジョーレンはそのままスコープを起動しクエーサー・ファイア級から発艦しようとするTIEボマーを狙撃する。

 

かなり距離があるが見事に命中させ1機のTIEボマーのエンジンを破壊しそのまま機体を暴走させ別のTIEボマーと衝突させた。

 

破片が散らばり一時的にだがTIEボマー隊の発艦を邪魔したように思える。

 

「対空砲火が来てる!」

 

「回避するさ!」

 

操縦桿を握り次々と放たれるレーザー砲の火砲を回避する。

 

幸いにも護衛艦のアークワイテンズ級などは他の友軍艦に引き付けられておりクエーサー・ファイア級一隻の対空砲火を躱すだけだ。

 

敵艦との高度を測る計測計の数字がどんどん小さくなっていく。

 

「今だ!」

 

そう言いジョーレンは突然機体を水平に保ちその勢いのまま敵艦のシールド内部に侵入した。

 

突然の機体の急変により防衛レーザー砲がUウィングを完全に捉え切れなくなった。

 

その隙を突いたジェルマンは外付けになったイオン・ブラスターと自動攻撃タレットでレーザー砲を何基か破壊し無力化する。

 

ジョーレンもレーザー砲でクエーサー・ファイア級の船体を直接攻撃するがやはりダメージはほんの少しで致命的なものにはならない。

 

仕方なく近くのレーザー砲を破壊すると一旦クエーサー・ファイア級の船体から離脱した。

 

「クソッ!このレーザー砲じゃどうやったって船の装甲をぶち破れるわけねぇんだ!」

 

「インファイトに持ち込めば勝てるんじゃないのか?」

 

「まあそうだけど…かなり時間が掛かる…魚雷でも一発撃てればいいんだがな…予定通り艦の機能を停止させる、まずはエンジンかブリッジだ」

 

ジェルマンは頷き機体の武装の操作に集中した。

 

UウィングのSフォイルを展開し再びクエーサー・ファイア級の側を通る。

 

「このまま全火力をぶつけてブリッジを付け根ごとぶち破る」

 

「かなり無茶だぞ!」

 

「やるしかない!」

 

ジェルマンは武装全て前方に向け火力を集めた。

 

既に船体の半分以上を横切っておりそろそろだった。

 

相変わらず対空砲火は激しいがジョーレンの操縦技術により当たることはなかった。

 

そして再び機体の角度を大きく変え狙いを定めた。

 

「これでも喰らえ!」

 

「っ!」

 

イオン・ブラスターやタレット、レーザー砲が放たれブリッジやブリッジの付け根を狙った。

 

次第に火力に耐えられなくなり装甲が融解し始める。

 

やがては完全に崩れ落ちそこにレーザー砲が一発放たれ爆発を起こした。

 

その中をSフォイルを閉じたUウィングが突っ切った。

 

「エンジンも同時にと思ったがもう十分だ!後はあのフリゲートがなんとかしてくれる!」

 

ジェルマンがコックピットから急いで覗き込むと爆煙を上げるクエーサー・ファイア級を反対から来たネビュロンBが攻撃していた。

 

司令部をやられた上に何基かのレーザー砲が使用不能なクエーサー・ファイア級は反撃が出来ずなす術もなく破壊されていった。

 

『Uウィング、助かった』

 

ネビュロンBから感謝の言葉が届いた。

 

フリゲートの後方から何隻かのCR90とブラハトック級がスターファイター隊と共に現れクエーサー・ファイア級の残骸を横切り敵のレイダー級やアークワイテンズ級を数で打ち破っていた。

 

「いいってことよ、再び先行し突撃を支援する」

 

『頼んだぞ!』

 

ネビュロンBからの通信が切れジョーレンはペダルを踏みUウィングをさらに前線へと押し進んだ。

 

時々迫り来るTIEを撃破し友軍艦隊に被害が及ばないようにする。

 

帝国艦隊は新共和国艦隊の鉄壁の守りに阻まれながら時々繰り出される小艦隊、機動部隊、小機動部隊の震盪攻撃により戦列を乱され不利な状況に陥っていた。

 

Uウィングは前方の中破したゴザンティ級にレーザー砲を浴びせ一気に撃沈に追い込んだ。

 

そんなUウィングのの背後を2機のTIEインターセプターが背後を取ろうとするが即座に起動した攻撃タレットにより2機とも撃破されてしまった。

 

「流石はアクバー提督か…これだけの帝国艦隊相手にここまで優位に立っていられるなんて」

 

戦況を眺めながらジョーレンはそう呟いた。

 

ブルー中隊、ゴールド中隊、グレイ中隊、ヴァンガード中隊のような優秀なスターファイター中隊が友軍艦と共にスター・デストロイヤーを撃沈していた。

 

特にヴァンガード中隊所属のテンペランス戦闘群の戦果は絶大で迫り来る敵艦隊や敵機を次々と蹴散らしている。

 

『バスチル大尉、ジルディール中隊、こちらメイディン将軍だ』

 

コックピットの通信機が響き新共和国軍のメイディン将軍の声が聞こえた。

 

メイディン将軍は自身も戦闘中である為手短に説明を始めた。

 

『指定したポイントの敵艦に今乗船部隊が突入している。君達もこのスター・デストロイヤーに乗り込み乗船部隊を支援して欲しい』

 

センサーに移る敵艦の一隻が違う色に変化した。

 

ジョーレンは一つの問いを投げかけた。

 

「敵艦を拿捕すればいいのですか?」

 

『その通りだ、だが、不可能と確信したなら艦内システムを出来る限り破壊し脱出しろ』

 

「任せて下さい!」

 

「任務受け取りました。直ちに向かいます」

 

『頼んだぞ』

 

メイディン将軍の期待と共に通信が途切れた。

 

2人は頷き合いジョーレンは操縦桿を倒し指定された敵艦へと向かった。

 

敵艦はインペリアルⅡ級スター・デストロイヤーで親衛隊のマーキングカラーが施されている。

 

周囲をTIEではなくXウィングやAウィングが取り囲んでおり明らかに別の雰囲気を醸し出していた。

 

「あれだな」

 

「ああ…!僕はないけど敵艦への乗船の経験は?」

 

「ある、まああの頃はぶっ壊して帰ってくるだけだったがな」

 

昔を思い越しながらジョーレンはUウィングをスター・デストロイヤーへと近づけた。

 

インペリアルⅡ級は砲撃する素振りすら見せず沈黙を貫き通していた。

 

『Uウィング!乗船部隊を頼んだ!』

 

「了解、任せとけ」

 

インペリアル級の裏側に回り込み敵艦のハンガーベイへと無理やり押し入った。

 

隣を見つめればGR-75輸送船がハンガーベイに停泊しておりその周辺は大きく抉れていた。

 

敵の攻撃はほぼなくGR-75輸送船とは違いUウィングは安全に、普通に停泊する事が叶った。

 

「よし行くぞ!」

 

急いでベルトを外しジェルマンとジョーレンはブラスター・ライフルを手に取り自動的に開閉されたハッチから飛び出た。

 

まだ近くで銃声が聞こえる。

 

「さあて、仕事だ」

 

ブラスターを構え勇敢な2人はブリッジ目指して進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム アンシオン周辺域 第十衛星-

国防軍と親衛隊の襲来、特に親衛隊の来週は衛星に駐留していたアンシオン軍を大いに動揺させた。

 

国防軍の部隊がこの衛星に侵略した時はまだ新共和国軍の残党と戦闘中であった時だ。

 

既に衛星の半分は支配していたがここであの連中に戦果を横取りされてしまっては敵わない。

 

しかも敵はあの第三帝国の国防軍だ。

 

どれ程の戦力があるかも分からない。

 

だが最終的に新共和国軍を押し出し衛星の八割を支配した時偵察部隊の報告が入った。

 

敵は二個連隊程度の戦力でアンシオン軍が展開した戦力には遠く及ばなかった。

 

その為衛星に駐留するアンシオン軍は司令部の命令に従い敵を抑えつつ時々小競り合いを行う程度だった。

 

しかし彼らが現れた。

 

親衛隊の到来により攻撃に出た三個歩兵中隊と二個歩兵大隊が予想外の損害を受けた。

 

敵は一個旅団程で兵の練度も、指揮官達の能力も高かった。

 

その為司令部は遂に総攻撃を命じてきたのだ。

 

現在アンシオンに設置されたプレハブ式司令基地では作戦が練られていた。

 

「偵察隊の報告によれば敵軍は何隻かのクルーザーを地上に降着させ司令部を設置しているようです」

 

「既に機甲部隊がポイントH-1の山岳地点から密かに前哨補給基地に向け前進中であるとも報告を受けています」

 

各師団の参謀将校が師団長やスターファイター隊の司令官達に報告する。

 

ホロテーブルには周辺の地形図と敵の様子が精細に表されていた。

 

「敵は恐らくこちらの発見に気づいていません。今からでも攻撃を仕掛けて足を止めるべきです」

 

将校の1人がそう進言した。

 

「確かに…このままでは補給基地が攻撃されてしまう。“()()”とコーノス少佐のスターファイター大隊で奇襲攻撃を仕掛ければいけるのではないか?」

 

第十師団の師団長ヴァルギー大佐はタイタン3と大隊長(ウィングリーダー)のコーノス少佐に提案した。

 

第十一師団の師団長バースク大佐も第八師団の師団長であり衛星攻撃軍司令官のファルコフ准将も小さくだが頷き賛同している。

 

そこでタイタン3は司令官達に進言した。

 

「出来ないことはありませんが恐らく敵も相当の対空機を用意しているでしょう。かなり厳しい戦いになると予測出来ますが」

 

「やるしかあるまい…ここで敵の機甲戦力を叩けば一気に攻撃力を奪える」

 

「確認された敵軍の機甲戦力はほぼ全軍だそうです。殲滅までは行かなくとも半分でも撃破出来れば大きな損失を与えられるでしょう」

 

「それに別働隊がいた場合、我々はこれ以上対処が出来ませんが」

 

「男爵と私で部隊を二つに分けましょう。そうすれば別働隊にも対処出来るはずです」

 

タイタン3は頷きホロテーブルに自軍のスターファイター隊を表した。

 

「なら私が教導した四個中隊を率いて攻撃を、少佐はタイタン中隊含めた我々の中隊を含めた五個中隊を率いて待機をでよろしいですね」

 

「ならばタイタン中隊も貴方の部隊に入れて…」

 

「いや、いざ敵部隊が現れた時タイタン中隊がいれば敵が倍以上いても退却までは持ち込めるはずです。私も教導したあのパイロット達の最終的な腕も見ておきたいですし」

 

「わかりました…」

 

コーノス少佐は渋々だが納得し軍帽を被り直した。

 

全員の表情を見てファルコフ准将が決断を下す。

 

「よし、では男爵、少佐、敵の機甲部隊に対し奇襲攻撃を命じる。徹底的に打撃を与えろ」

 

「了解!」

 

タイタン3とコーノス少佐は敬礼し容易に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー 帝国領 惑星エリアドゥ-

エグゼクター級スター・ドレッドノート“アナイアレイター”の艦内でグランドモフと大将軍(Grand General)は顔を合わせた。

 

グランドモフヘルムート・ターキンの入室と共にブリッジの下士官兵を含めた全ての将兵が敬礼し彼を出迎えた。

 

それは艦長もヴィアーズ大将軍も一緒だった。

 

アナイアレイター”の隣にはインペリアルⅡ級に改修された“エグゼキュートリクス”と“ターキンズ・ウィル”が同じように航行している。

 

しかし船の大きさが全く違い同じ旗艦クラスの艦船とは到底見受けられなかった。

 

「まさか直接南方戦線の指揮まで取るとは…」

 

「前線の指揮官がやはり私の性分なので」

 

ヘルムートの驚きにヴィアーズ大将軍はそう答えた。

 

若干冗談を含めたつもりなのだが彼の表出る生真面目さが災いして伝わりにくかった。

 

「流石です。この旗艦だって立派なものだ」

 

ヘルムートは“アナイアレイター”のブリッジを見渡しながらそう呟いた。

 

実際にはインペリアル級や他のスター・デストロイヤーとほとんど同じ作りだがやはり船体の大きさや艦種が変わってくると違って見えるだろう。

 

事実インペリアル級や他の艦船よりもエグゼクター級のブリッジは初期から艦隊の旗艦をイメージして作られているので一部機能が強化されている。

 

「私の大伯父はスター・ドレッドノートよりもバトル・ステーションの方に執着していた。時折大伯父が描いていた理想を『無意味だ』と貶される事もあるが」

 

ヘルムートは自重気味に笑い数名の部下と共にブリッジの奥へと歩いた。

 

既にブリッジの士官や下士官兵達は通常の任務に戻っており無言の雰囲気が醸し出されている。

 

ヴィアーズ大将軍もヘルムートの背後に付いた。

 

彼は悲しげにブリッジのビューボートを見つめた。

 

「大伯父は自らの夢と共に潰えてしまったが大伯父には確かな理想があったのだ。単なる力の誇示だけではなく確かな理想が。死んでしまった今では見当もつかないが」

 

ヘルムートはそう物悲しそうに大伯父のことを考えた。

 

親族であっても見抜けないウィルハフ・ターキンという人物の一面が分かるだろう。

 

そしてその一族の頭領を十代で担わざる負えないヘルムートの心労もまた垣間見える。

 

彼にとってウィルハフ・ターキンは偉大で大き過ぎた。

 

あの動乱の中でエリアドゥと大セスウェナの領土を守り発展させただけでも十分大きな功績だ。

 

だがどこかで“()()()()()()()()()()”の名と自身を比べてしまっていた。

 

普段は包み隠していてもどこかで出てしまいそうになる。

 

「それでエリアドゥへは何の用だ?」

 

ヘルムートは話を変えヴィアーズ大将軍に尋ねた。

 

態々グランドモフに謁見する為にスター・ドレッドノートとスター・デストロイヤーの艦隊を率いてきたわけではないだろう。

 

特にヴィアーズ大将軍のような将校が見栄を張る為にそんな事をするはずがない。

 

「総統閣下と帝国軍統合本部、地上軍参謀本部の命令でこのエリアドゥを第一司令部とすることが決定しました」

 

「なるほど…分かった、こちらにも用意がある。少し協力願おう。地上に戻るぞ」

 

「はい」

 

ヴィアーズ大将軍に敬礼を送りヘルムートは部下と共に“アナイアレイター”のブリッジを後にした。

 

大将軍は一向を敬礼で見送ると振り返りブリッジの方を見つめた。

 

本来はここにピエット元帥やモントフェラット提督が隣にいてくれたら嬉しいのだが。

 

やはり我々は失いすぎたのだ。

 

どこへ行っても、何を得ても取り戻せないものを。

 

「我々はこの先どこへ向かうのだろうか…」

 

ブリッジの先には広大な宇宙が広がっている。

 

かつては我々の領土だった場所もあるのだろう。

 

我々は今のままそれら全てを取り返そうと戦い続けるのだろうか。

 

それともさらにその先に進むのだろうか。

 

我々は永久に迷い続ける迷路に入ってしまったのではないだろうか。

 

だが、それでも戦うしかない。

 

それが我々が出来る唯一の弔いで未来を作る方法だろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「各機、周辺の警戒を怠るな。敵はいつきてもおかしくない」

 

ハイネクロイツ中佐の声が中隊全ての機体に聞こえた。

 

彼が与えられた“TIE/INアドバンストx2インターセプター”は部隊の先頭を行き敵を見張り続ける。

 

もともと実験機系列のアドバンスト機は偏向シールドやハイパードライブが設置され通常期よりも遥かに性能が良かった。

 

この機体もTIEインターセプターをベースにかつて開発されたTIEアドバンストx2スターファイターのデータを組み込んだ強力な機体だ。

 

通常インターセプターの火力と機動力に加え偏向シールド、ハイパードライブと言ったものが取り付けられており従来機より遥かに性能がいい。

 

元々はもっと早くに彼に贈呈されるはずだったのだがウェイランド戦や、ラクサス戦で遅れに遅れ今ようやくハイネクロイツ中佐の手に渡った。

 

下を見つめればウォーカーやホバータンクが列を組んで敵陣へと密かに進軍中である。

 

非常時に備え護衛のスターファイター隊が展開され隊列の中にもAT-AAやAT-MPが等間隔で配置されている。

 

この狭い場所でスターフィアターの奇襲にあったら逃げ場もなく大損害を喰らうことになる。

 

『中佐……本当に敵は来るのでしょうか…』

 

部下の1人が不安そうな声音でハイネクロイツ中佐に尋ねた。

 

ジークハルトもアデルハイン中佐も、国防軍の将校達も敵の攻撃があると予測してこの作戦を立てた。

 

「それは祈るしかないな。だが逆に敵を阻む方法はいくらでもある、精一杯を尽くせ」

 

『はい…』

 

部下の不安はまだ取り除けていないようだったがそれでも仕方ない。

 

しかし運命は残酷な事に彼の不安を煽るような警報音と報告が響いた。

 

『中佐、敵機を発見しました!右前方よりTIEと思われるスターファイターが多数接近!』

 

別のTIEパイロットが報告し直後ハイネクロイツ中佐の機体のレーダーも警報音を鳴らし始めた。

 

物体の接近を示す点が一つだけでなく大量に現れ始めた。

 

いよいよ敵のお出ましだ。

 

「各機戦闘開始だ!地上部隊も戦闘準備を…!」

 

『やられた!』

 

『そんなバカな!』

 

2名のパイロットの絶叫が通信機越しに響き直後二つの爆発音が空に広がった。

 

全てのパイロットが、その爆発を見た兵士達が唖然としていた。

 

一体何が起こったのだと。

 

その原因を正確に認識していたのは部隊朝のハイネクロイツ中佐だけだった。

 

だからこそ彼の驚きは並のものではなかった。

 

「バカな…レーダーに入ったとはいえまだ射程圏内では……っ!攻撃来るぞ!対空防御急げ!」

 

中佐は急いで叫び地上部隊に防御を行うよう促した。

 

しかし一歩遅かった。

 

刹那、風を切る音と共に物体が高速で進み二門のレーザー砲を何発か連射した。

 

レーザーの砲弾は大きく地面を爆発で抉り進軍中の二台のAT-STを一撃で撃破した。

 

急いでAT-MPマークⅢが対空ミサイルを放つがひらりと躱され逆に反転したその物体が再びレーザー砲でAT-MTマークⅢを返り討ちにした。

 

あまりに鮮やかな攻撃で地上の対空部隊もTIE部隊も反撃が出来なかった。

 

「チッ!やってくれたなこの!!」

 

ハイネクロイツ中佐が機体のペダルを踏み込み操縦桿のトリガーを引く。

 

何発かのレーザー弾と共に彼のTIEアドバンストx2は急進した敵機を攻撃した。

 

回避されはしたがこれ以上敵機を自由に攻撃させることはなかった。

 

「“v()1()”なんて物珍しい機体に乗りやがって!性能差と腕前で堕としてやるよ!」

 

ハイネクロイツ中佐は目の前にドンと佇んでいるように見える敵の機体、“TIEアドバンストv1”を睨んでそう当たり散らした。

 

TIEアドバンストv1はハイネクロイツ中佐が乗り込むTIEアドバンストx2と同種の系統で別名TIEアドバンスト・プロトタイプとも呼ばれるアドバンストシリーズのプロトタイプ機であった。

 

ハイパードライブやシールドが搭載され火器も通常きよりも性能のいいものを取り付けられている。

 

だがこれに乗り込むパイロット、タイタン3はこの機体をあまり好いてはいなかった。

 

この機体を見ると嫌な人物と出来事を思い出してしまう。

 

まだ彼がタイタン3ではなくヘリックス中隊と呼ばれる中隊に属していた時の事を。

 

この機体に乗り込みそして裏切ったこの手自ら打ち倒したその中隊長を。

 

機体に恨みはないがどうしても払拭出来ない過去がある。

 

それはこの手自らで払い除けねばならないのだろうか。

 

ならばここで戦いで少しでも晴らすべきだ。

 

「全隊、戦闘開始だ!」

 

号令と共に後続のの中隊が出現した。

 

戦闘の始まりだ。

 

何機かのTIEボマーが颯爽とプロトン魚雷をAT-ATに直撃させ二台のAT-ATを破壊した。

 

すでに親衛隊と国防軍側はかなりの損害を喰らっている。

 

「チッ!やらせるかよ!」

 

ハイネクロイツ中佐は急いで機体を反転させ再びウォーカー部隊を狙うTIEボマーを2機撃墜し逆にハイネクロイツ中佐のTIEアドバンストx3を攻撃しようとしたTIEファイターをすぐさま返り討ちにする。

 

その勢いのまま迫り来る敵軍に単機で突っ込み放火を掻い潜って3機ほどのTIEインターセプターやTIEファイターを撃破した。

 

だが彼はその一瞬の隙を突いて来た。

 

突如悲鳴のようなエンジン音が聞こえ独特のレーザー掃射音がハイネクロイツ中佐のTIEアドバンストx2の背後から聞こえた。

 

中佐が「まずい!」とコックピットで叫び急いで旋回するよりも前に二、三発のレーザー弾が直撃し機体に大きな振動が響いた。

 

幸い偏向シールドで全てが防がれ旋回しなんとか反撃の一撃を掠った程度だが与えられた。

 

しかし偏向シールドがなければ確実に撃墜されていただろう。

 

「チッ!全隊!出来る限りの敵機を抑えろ!俺はこの手練れとその辺の2、3機を抑えておく!」

 

『了解!』

 

既に友軍のスターファイター隊と敵軍のスターファイター隊が衝突し戦闘が始まっている。

 

しかし物量的にはこちらの方が多いのにも関わらず時軍のスターファイター隊は大きく苦戦していた。

 

特に敵の編隊による連携攻撃や多種多様なスターファイターの配備による多角的な攻撃は親衛隊のTIE部隊を大きく苦しめている。

 

「こいつら…!練度がその辺のパイロットの比じゃねぇ…!新共和国どころか並のTIEパイロットよりもだ!まさかこんな連中がいるなんて…!」

 

敵の認識の甘さに後悔を示しつつも敵の攻撃を避けるハイネクロイツ中佐の前に2機のTIEブルートが現れた。

 

親衛隊のマーキングが施されておらず敵機という事が分かる。

 

2機のTIEブルートは全火力をTIEアドバンストx3にぶつけて来た。

 

しかもこれを狙ってか背後を取り続けるTIEアドバンストv1も同じようにレーザー砲を発射する。

 

ハイネクロイツ中佐はヘルメットの中で顔を顰めつつ操縦桿を横に倒し機体を回転させレーザー弾を回避した。

 

回転しながらトリガーを引きTIEブルート2機を撃破する。

 

「全対空兵器で対空防御を!俺たちに釘付けで流石に対空ミサイルまでは……っ!」

 

そこでハイネクロイツ中佐はとんでもない光景を目にした。

 

AT-MPマークⅢから放たれた対空ミサイルが敵機に直撃する事なくふにゃふにゃと妙な軌道を描きその辺に墜落してしまったではないか。

 

「ドラウス連隊長!対空攻撃が全然意味を成してないぞ!ミサイルが一発も当たってない!」

 

ハイネクロイツ中佐は国防軍のドラウス中佐を呼びつけた。

 

しかしドラウス中佐は焦った声音でハイネクロイツ中佐に返してきた。

 

『妨害されているのだ!強力なジャマーが広範囲に展開されていてミサイルの軌道が妨害される!レーザー兵器で応戦する!』

 

「妨害ジャマーだと…一体どこから……そうかあれか!」

 

ハイネクロイツ中佐は戦闘に混じって支援行動を行う敵のTIEリーパーを睨んだ。

 

あの機体からきっと強力なジャマーが張り巡らされているのだろう。

 

なんと巧妙な敵だ、早く倒さねばと照準器をTIEリーパーに向ける。

 

しかし先程の仲間のお返しと言わんばかりかハイネクロイツ中佐よりも早くTIEアドバンストv1が彼の友軍機を狙う親衛隊のTIEインターセプターの編隊を僅かな時間で殲滅した。

 

あまりの瞬殺ぶりにハイネクロイツ中佐はあの敵機に、タイタン3に絶句した。

 

だが怯えて恐れ慄くだけが彼ではない。

 

むしろ自然と口角が上がり奴を“()()()”だと血が認識してしまう。

 

本来なら敵機に背後を取られたまま友軍を指揮しなるべく多くの敵機を屠りたかったがもはや手遅れだ。

 

せいぜい最後の命令を出して自分はただのパイロットに成り下がるとしよう。

 

「全機、TIEリーパーからミサイルの妨害ジャマーが展開されている。出来る限り破壊して地上部隊の攻撃を通すようにしろ。俺はコイツを抑えて潰す!」

 

それ以降この戦闘でハイネクロイツ中佐が主だった命令を出すことはほとんどなかった。

 

タイタン3は再び敵機に一撃を入れようとTIEアドバンストx2に狙いを定める。

 

だが狙った敵機は忽然と姿を消した。

 

「一体どこに…っ!!」

 

微かにレーザーの音が聞こえタイタン3はギリギリのところで操縦桿を左に曲げギリギリのところで回避しようとした。

 

しかし最後の二発が回避しきれず、一発は擦り一発は偏向シールドの展開部分に直撃した。

 

こちらもシールドがなければパネルの付いた羽根が無理やりレーザー砲によってもがれていただろう。

 

危ういところだった。

 

されどタイタン3が一息つく間も無く敵機のTIEアドバンストx2は間髪入れずに攻撃を打ち込んでくる。

 

左右と攻撃を回避し旋回して反撃の緒を掴もうとするが敵機がピッタリ背後にくっ付き離れられない。

 

先程まで追う側だったタイタン3が一気に追われる側となってしまった。

 

感じるはずのないプレッシャーが背後に付くTIEアドバンストx2から感じる。

 

まるで鬼、将又は軍神と言ったところだろうか。

 

それほどの威圧感がレーザーの攻撃と共に醸し出されていた。

 

だが、だから散って怯んで怖気ずくタイタン3ではない。

 

むしろこうでなくてはと内心思っていた。

 

自ら教導した部隊の成果を見たいがもはやそれどころではない。

 

この相手と戦い倒さねば。

 

突如TIEアドバンストv1が反転しレーザー砲を放った。

 

ハイネクロイツ中佐は急いで機体を回転し回避させ一旦距離を取って両者は真正面からの攻撃となった。

 

互いにレーザー砲を撃ち合い、回避し真っ直ぐ前に進む。

 

やがて両機は一発も相手に攻撃を与える事なく回避し反転した。

 

そして再びファイター同士による撃ち合いを始める。

 

彼らの戦いは当分終わりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠く離れたモン・カラの地では今もなお戦いが繰り広げられている。

 

主力艦が撃ち合い、スターファイターが飛び交い命を散らす。

 

僅かな爆発の輝きが一つ消え一つ増える。

 

この地においては命の重さなどブラスター・ピストル一丁より下回るだろう。

 

銃口から放たれる弾丸に人は皆無力だ。

 

「敵兵が侵入してきたぞ!」

 

「応援を要請しろ!兵員がっ……!」

 

1人のトルーパーの首が突然折られ床にそのままばたりと斃れ込んだ。

 

もう1人のトルーパーも急いでブラスター・ライフルをこちらに向けるがナイフを投擲されアーマーのない首元に直撃し苦しみながら倒れる。

 

「助けに来たぞ」

 

もう1人のトルーパーの亡骸を引きずりながらジョーレンが通路から現れた。

 

ブラスター・ライフルを構えながらジェルマンの奥の方から姿を表す。

 

「助かりました」

 

防戦していた新共和国軍の兵士達がぞろぞろと姿を現す。

 

「我々はこのままブリッジとサブブリッジとドロイドやオートシステムのメイン室に向かいます」

 

「ならブリッジとサブは頼む。俺たちはメイン室に向かう」

 

「上手くいけばシステムを一部でも制御して支援する事が出来るかも知れません」

 

「わかりました。では一個分隊を」

 

「いや、貴重な乗船部隊の戦力を分ける訳にはいかない。我々は2人で行く」

 

「ですが…!」

 

「大丈夫だ中尉、我々を信じてくれ。お前達も、しっかりやれよ」

 

部隊長の中尉を宥めジョーレンはA300ブラスター・ライフルを構えジェルマンと共に歩き始めた。

 

中尉もまだ不満げな表情を浮かべていたが2人の様子を見て渋々納得した。

 

それにあまり兵員を割きたくないという理由もあったのだろう。

 

「メイン室はこのまま行ったところです。大尉、お気をつけてくださいね」

 

「ああ、任せとけ。行くぞジェルマン」

 

「ああ…!」

 

ジェルマンは中尉に軽く敬礼を送り2人は駆け足で中尉に言われた通りの場所に向かった。

 

敵艦の中だというのにあまり敵兵が出てこない。

 

それどころか非戦闘員の姿もほとんど見なかった。

 

その代わり度々自動防衛システムが攻撃してきた。

 

「伏せろ!」

 

ジョーレンに頭を下げられ地面に伏せられた。

 

直後ブラスター弾が何発か放たれ危うく直撃する所だった。

 

ジョーレンは急いでA300で反撃し自動防衛タレットを破壊した。

 

「急ぐぞ!」

 

「ああ!」

 

ジョーレンの手に捕まりジェルマンは立ち上がった。

 

2人は走り出し通路の路地を曲がろうとする。

 

しかしブラスターの弾丸がジョーレンを掠めかけた。

 

なんとか彼は反対側に渡りA300で応戦する。

 

ジェルマンもA180のブラスター・ライフルモードで敵を攻撃した。

 

「これ以上侵入を許すな!撃て!」

 

敵兵はE-11やSE-14Cでジェルマンとジョーレンの侵入を防ごうとバリケードを作り防戦する。

 

ストームトルーパーや宇宙軍トルーパー、士官が混じっており不思議な防衛線だった。

 

「ここで足止めを食うわけにはいかん!」

 

「分かってる!」

 

精密な射撃で2人の敵兵を撃ち倒すとジョーレンはインパクトグレネードを起動し敵へ投げつけた。

 

サーマル・デトネーターほどの威力はないが触れてすぐ爆発する為使い勝手が良い。

 

グレネードは敵のバリケードと敵兵を1人巻き込んで爆発し周りに少量の煙幕を巻き起こした。

 

その隙にジェルマンがA180で敵兵をまとめて打ち倒す。

 

すぐにジョーレンも加勢し体制の崩れた敵兵はあったと言う間に倒された。

 

「70点ってところだな。まだ頑張れる」

 

ジェルマンの射撃の腕を冗談まじりに評価し彼の肩を叩いた。

 

「そんな事してないで…行くぞ」

 

「ああ」

 

ブラスター・ライフルを構え直しジェルマンとジョーレンは再び進み始めた。

 

また敵兵やタレット、武装したドロイドが防戦に現れたがすぐに蹴散らされてしまった。

 

「しっかし、的あ思いの外少ないな。もっと雪崩のように現れるはずなんだがな」

 

ジョーレンは再びもう1人の宇宙軍トルーパーを撃ち殺すとそうぼやいた。

 

「艦内が広いから応援が間に合わないんじゃないのか?」

 

ジェルマンはそれらしく答える。

 

インペリアル級は全長1,600メートルの大型主力艦だ。

 

当然その分人員も多く搭載されているのだが一部を集中的に攻撃されれば他の場所から増援部隊が遅れる事もあるだろう。

 

だがジョーレンは首を振った。

 

「だとしてもだ。仮に増援が間に合わないとしても守備兵が少なすぎる。まるで幽霊船みたいだよ」

 

そうぼやきながら背後から現れるストームトルーパー2名を即座に撃ち殺した。

 

あまりの余裕さに全く危機感や瀬徳力を感じられなかった。

 

再び走り出しメイン室を目指す。

 

だがやはり敵兵の数は少なくジョーレン1人でも余裕で蹴散らせる程度の人数しか現れなかった。

 

最も敵の攻撃が激しかったのなんて道中のストームトルーパーと宇宙軍トルーパーのバリケードくらいだろう。

 

「なんだっ!グワッ!!」

 

「隔壁をっ!ヌッ!!」

 

また2人のトルーパーが打ち倒されジョーレンは室内のドアの開閉ボタンを乱暴に叩いた。

 

ドアが開き室内の技術士官や衛兵や将校がブラスター・ピストルの弾丸を発射し攻撃してきた。

 

ドアの扉や遮蔽物を盾としながらジョーレンは反撃を加え素早く敵兵を始末していく。

 

所詮広報要因でしかない室内の敵を掃討するのに特殊部隊のエリートであるジョーレンがかかった時間は一分もなかった。

 

「クリア、急げ」

 

ジェルマンが専門のタブレットを取り出しソケットに繋げる。

 

「艦内システムに…侵入、まずは外の武装よりも…」

 

独り言を放ちながらタブレットをタップし次々とインペリアル級のシステムのセキュリティを突破して行く。

 

この程度ならストライン中将から直接教わった帝国軍のシステムの基本だ。

 

それに恐らくは親衛隊だけなのだろうがハッキングに対する妨害が少なくとんとん拍子に制圧が進んで行った。

 

本来なら彼がソケットに端末を差し込んだ時点で技術士官の1人が気付き妨害してくるのだろうが今回は全くそう言う事がなかった。

 

「隔壁システム、自動防衛システム、艦内監視システム掌握…!防衛システムを一時停止し監視システムも停止…」

 

「凄まじく速いな相変わらず…」

 

次々と艦内システムを制圧化に入れるジェルまんをジョーレンは彼を守りながら感嘆の声を上げた。

 

技術的なことは一応習ってはいるしやって来たがジェルマンには負ける。

 

なんなら今まで見てきた上官や部下たちの中でもジェルマンの右に出るものはいないだろう。

 

「システムの36%を掌握…いいぞ……!このまま行けば…っ!…いや…違う…」

 

「どうしたんだ?」

 

ジョーレンが何かを悟り打ち直すジェルマンに尋ねたが今の彼は言葉を返せる状態ではなかった。

 

「そうだ……!そうだよ…!何かがおかしかったんだ…!」

 

ジェルマンは気づいてしまったのだ。

 

いくらなんでも主力艦クラスのスター・デストロイヤーがこんな短時間で乗っ取れるはずがない。

 

しかも最も重要な艦内のありとあらゆる警備システムがだ。

 

今だってターボレーザー砲などの武装システムや偏向シールドなどのシステムが最も簡単に制圧出来た。

 

それにジョーレンはこの艦の人が少ないとも言っていた。

 

確かにその通りだ。

 

この艦は、この親衛隊のインペリアルⅡ級スター・デストロイヤーはドロイドやオートメーション・システムに依存し過ぎている。

 

かつての帝国軍ではあり得ないほどに。

 

恐らくはもう以前のように大量の人員を一隻の主力艦に詰め込むことなど不可能なのだろう。

 

特に親衛隊のような組織は。

 

だからこそ警備などもなるべくオートメーション・システムやドロイドに任せ数を優先して揃えている。

 

そうでもしないとこの短期間にあれだけの戦力を揃えられないのだろう。

 

第三帝国は、自分達が思っている以上に限界だったのだ。

 

それが表面に見えていないだけで彼らの敗戦の傷と限界の証は確かにまだ残り垣間見えていた。

 

「終わった…」

 

ジェルマンはタブレットから手を離し風と一息付いた。

 

その雰囲気と言葉の意味を勘違いしたのかジョーレンは焦って問い詰めてきた。

 

「終わったって…まさか制圧に失敗したのか!?」

 

「違う違う、終わったんだよ。正真正銘」

 

ジェルマンは立ち上がりふと天井を見つめた。

 

「このスター・デストロイヤーはもう、“()()()()()()”」

 

彼はもう、このインペリアルⅡ級を乗っ取り手中に収めてしまったのだ。

 

ジェルマンにとってこの程度の代物、朝飯前と言ったところだろう。

 

警備も薄く(と言っても殆どジョーレンが蹴散らしてくれたが)、ハッキングも容易いこの艦はすぐに乗っ取れた。

 

それを将校にジェルマンはタブレットに向けて命令する。

 

「メインシステム、全砲塔を周辺の帝国艦に向け砲撃開始」

 

ジェルマンの命令を聞いたメインシステムが強制的に主砲の八連ターボレーザー砲やターボレーザー砲を敵艦に向け砲撃を開始した。

 

これにより帝国艦隊は一時的に混乱に陥り更に新共和国の進撃を推し進めたのだが艦内にいる彼らが知ったことではない。

 

「我々も一杯一杯で限界だったが…彼ら(帝国)の方がもう限界だったんだな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「堕ちろ!」

 

タイタン3がコックピットで叫びトリガーを引くが敵機のTIEアドバンストx2にはまるで当たらない。

 

しがみつくように敵機の背後を取り当たらないとしてもレーザー砲を撃ち続けるのだがやがてその立場は変わった。

 

山岳地帯のギリギリを飛びハイネクロイツ中佐のTIEアドバンストx2が物凄い機動力でタイタン3の背後を奪った。

 

今度は彼がTIEアドバンストv1にレーザー砲を浴びせかける。

 

タイタン3もハイネクロイツ中佐も出来れば早急にこの敵を排除し部隊の方に戻りたいのだがお互いの腕前とプレッシャーが邪魔して不可能になっていた。

 

機体性能的にはTIEアドバンストx2の方が高性能なのだがタイタン3の腕前と経験によりなんとかカバーされている。

 

2人の戦闘は既に異次元に近く並の機体に乗り込んだパイロットでは戦いの合間に入る事が出来ない。

 

「チッ!このアドバンストじゃ決め手に欠ける!」

 

タイタン3はコックピットの中でそう吐き捨てた。

 

敵機に直撃を与えてもTIEアドバンストv1の火力では敵の偏向シールドを打ち破るにはまだ足りなかった。

 

しかしそれは相手側のハイネクロイツ中佐も同じで両者共に機体性能に阻まれ決定的な一撃を挙げられずにいた。

 

それは部隊同士の戦いも同じでアンシオン軍は国防軍と親衛隊の機甲部隊にある程度の損害を与えられてはいるがそれでもまだ許容の範囲内で壊滅的ではない。

 

かといって親衛隊のスターファイター大隊もアンシオン軍のスターファイター隊に大きな被害を与えられずにいた。

 

ある種の拮抗状態が生み出されているのだ。

 

なんとかせねばという危機感がさらに両者の底力を上げ再び拮抗状態となってしまう。

 

「なんとか奴だけでも!」

 

ハイネクロイツ中佐は焦りを見せながら再び敵機に向け攻撃を行った。

 

レーザー砲の掃射は最も簡単に回避されるか偏向シールドで弾かれるかのどちらかだ。

 

戦いに終わりは全く見えず徐々に精神も体力も疲弊し始めている。

 

だがそれでも闘志は煉獄のように燃え滾っており戦いを続行した。

 

既に彼らのドックファイトは最初の一撃から二、三時間は経過している。

 

それでもなお彼らは衰えることのない操縦技術で相手を苦戦させ戦いを長引かせていた。

 

再びTIEアドバンストx2がレーザー砲を掃射し敵機に当てようとするが回避され再び機体の背後を取られてしまった。

 

チャンスを掴んだタイタン3がしっかりと狙いを定めトリガーを引くが躱され一瞬だけ彼の視界から消え去った。

 

「どこだっ!そこかっ!」

 

試験的に導入されたヘルメットのヘッドマウントディスプレイ機能のおかげですぐに敵機を発見出来た。

 

即座に機体を旋回させ再び真正面からの戦闘に挑んだ。

 

両機とも前回の反省を活かしてなるべく一箇所に狙いを定めるようにしていた。

 

照準器のターゲットが定まり電子音が彼らに伝える。

 

だがギリギリまで接近し一撃を叩き込まないとダメージを与えられない。

 

出なければすぐに回避されてしまう。

 

2人とも、操縦技術だけでなく偏向シールドの集積技術も上手い為ただ攻撃を与えるだけでは一箇所にシールドを集中しすぐ防いでしまうのだ。

 

2機のTIEアドバンストの距離は徐々に縮まり冷ややかで鋭い緊張が両者を襲う。

 

軽く息を吐きハイネクロイツ中佐とタイタン3はほぼ同時に引き金を引いた。

 

チャージされた出力の高いレーザー砲が一斉に一箇所を集中的に攻撃する。

 

偏向シールドが耐えきれずに破られ、レーザー砲が装甲の薄いTIEに襲い掛かる。

 

何発かが両機に擦り爆発を起こし炎幕を上げる。

 

限界を悟った両者は悔しがりながら一旦離脱し火花が巻き散るコックピットの操縦計を操作し始めた。

 

ダメージコントロールを行い機体の被害を最小限に抑える。

 

幸いにもコックピット内の火花はすぐに収まりパイロット2人は無事だった。

 

機体の破損箇所はもう直らないがまだ飛べるし戦闘は続行出来る。

 

偏向シールドを即座に回復させ再びTIEアドバンスト同士の決戦に挑もうとした。

 

だが両者ともある通信によりそれは阻まれた。

 

『少佐!友軍の第二前哨基地が敵の奇襲を受け陥落!現在、敵のAT-AT部隊とスターファイター隊が中央司令部に向けて進軍中です!』

 

その報告はタイタン3を大いに驚かせた。

 

「なんだと!?敵の戦力はどうなっている!?」

 

『敵戦力は歩兵二個連隊とAT-AT一個中隊、一個スターファイター大隊です!現在コーノス少佐とグレイ上級大尉が敵部隊を抑えていますが長くは持ちません!どうか救援を!』

 

「ではこれだけの部隊は全て囮なのか……?」

 

スターファイター隊はともかく地上部隊は明らかに前哨基地を陥落させた部隊は現在戦闘している敵の地上部隊より少ないだろう。

 

これだけの機甲部隊を全て囮にするというのか、一体敵の司令官は何者なのだ。

 

だがその結果敵に一つ勝利を許してしまった。

 

「チッ!了解した…!全機!友軍の基地が陥落した!これ以上損害を出さない為に一旦退却し防衛線を展開する!全隊退却だ!!」

 

こんな結果で戦いが終わってしまうとは。

 

戦闘に勝利する以前に最初から負けていたのか。

 

だがまだ確実な勝利ではない。

 

すぐに巻き返せる。

 

この戦いは一つ貸しにしておくぞ。

 

タイタン3は撤退する友軍機を追撃すらしようとしない敵のTIEアドバンストx2を睨み機体を反転させた。

 

敵機が逃げていくのをハイネクロイツ中佐はただ見守っていた。

 

追撃すればきっと死に物狂いのエリートパイロット達によって少なからず損害を食らうだろう。

 

作戦は成功したのだ、これ以上の戦闘は無意味だった。

 

中佐自身がどれだけ戦いたいと願っても。

 

「地上部隊の損害は」

 

ハイネクロイツ中佐はドラウス中佐に聞いた。

 

上空から見下ろしただけでも複数のウォーカーやタンクが破壊され残骸が散らばっている。

 

『手痛い損害だが少なくとも許容範囲内だ。スターファイター隊がいなかったら壊滅していただろう』

 

「シュタンデリス隊は作戦に成功したらしい。我々もこのまま合流地点まで向かいたいのだが行けるか?」

 

『ああ…!部隊を再編成する』

 

通信が途切れ中佐は肩を下ろし大きく息を吐いた。

 

生き残れた、それ以上に逃がしてしまったという戦いの喪失感の方が大きい。

 

出来る事ならもう一度戦いたいがそれは上官のジークハルト次第といったところだろう。

 

「味方なら頼もしかったのだろうな……だが敵だからこそ」

 

心が躍る。

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっとうに心が躍りますわね!」

 

近くの山から戦闘を見つめていたクラリッサはそう感想を大きな声で言い放った。

 

遠くと言ってもスターファイターが肉眼でも見れる距離で最悪流れ弾が飛んでくる距離なのだがそんな事お構いなしだ。

 

「しかしあれだけの大部隊を全て囮に使うとは。敵の司令官は相当の人物なのでしょうね」

 

「ええ、でもそうでなくては。我々がいずれ戦うかもしれない相手ですもの、それくらいの人材がいないと楽しみがありませんわ」

 

マルスの独り言にクラリッサはそう喜びを交えて付け加えた。

 

「戦いで果てるつもりも負けるつもりもありませんが、やはりこれくらい強大でなくては。私達が今こうして準備している意味がありませんもの」

 

ハット・スペースにその周辺域の帝国軍全軍を接収し今日も明日もやがてくる敵の為と備え続けてきた。

 

まさかこんな早く現れるとは思わなかったがそれでもいい。

 

戦いの享楽はほんの一瞬で消え後に残るのは残酷な絶望と虚無だけだがその一瞬の刺激を時に人は求めるのだ。

 

クラリッサが、親衛隊の彼らがそうであるように。

 

残党をかき集め、残党を再編成し、残党を指揮し、残党を教導し、残党と戦い、残党と手を組み昔の姿に戻ろうとする。

 

それが今の銀河の、帝国だ。

 

「ですがこうなってはこの衛星、お嬢様の仰った通り放棄するでしょう。我々も帰りの支度をしなければなりませんね」

 

「全く…だから最初から見栄を張らず衛星なんて捨てろと申したのに……まあいいですわ。折角ですし指揮を取らせていただきましょうか」

 

クラリッサは微笑を浮かべたまま近くに停泊していたスピーダーに乗り込んだ。

 

隣には当然のようにマルスが乗り込んでいる。

 

「誰が相手でも、負けませんわよ」

 

スピーダーが動き出し洗浄を後にした。

 

ジークハルト達はまだ知らない。

 

これから彼らが少しの間でも相手をする敵の指揮官は、辺境域で一二を争う程の強敵だという事を。

 

クラリッサ・ヤルバ・パイクのとても刺激的な退却戦が始まろうとしていた。

 

 

 

つづく




私 だ

何気に一週間一回投稿をしちゃってるんですがEitoku Inobeにそんなkん常はなくそう遠くないうちに全く投稿されなくなると思うのでご注意ください()


ローリング「それはそうと私の出番は?このままじゃ原作通り地味な大将軍のままなんだが」
わし「そこになかったらないですね」
ラックス「(無言のドヤ顔)」

ローリング「おい、表出ろや。ヴァレントの敵討ちや」


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進撃的撤退戦

Heute werden wir ein Lied singen
Wir schlürfen den Wein des Sieges
Ich stoße mit deinem Glas an und bringe einen Toast aus
Denn ich muss morgen diesen Ort verlassen
Willst du meine Hand in deiner halten, meine schöne Hand?
Auf Wiedersehen, meine Liebe, auf Wiedersehen, mein Schatz
Auf Wiedersehen, bis wir uns wiedersehen
Wir müssen erobern, wir müssen marschieren.
Zum Yavin Land, zum Mond von Yavin Land!
-Das Yavinlandlied-


-ゴーディアン・リーチ周辺域 ヤヴィン4討伐軍集合地点 総旗艦“リベンジ・オブ・サイス”-

インペリアル級の4~5倍ほどの大きさを誇る“マンデイターⅢ級スター・ドレッドノート”が僚艦のインペリアル級やセキューター級を引き連れ宇宙空間を航行していた。

 

この艦はコルサントの秘密の地区に保管されてあった未完成の艦でその後クワットが回収し完成させた。

 

その後フューリナー上級大将のアセーター級“ピュリフィケーション”と共に第三帝国に贈呈されローリング大将軍の旗艦となった。

 

ちなみに艦名の“リベンジ・オブ・サイス”は彼のアカデミー時代からの仲間であるヴァレント司令官のスター・デストロイヤー、“サイス”から名付けられたものだ。

 

友の遺志を背負い“リベンジ・オブ・サイス”は艦隊と共に航行を続けていた。

 

インペリアル級の周りには複数のクエーサー・ファイア級やインペリアル・エスコート・キャリアーなどが艦列を艦列を並べ本体に追随する。

 

この間にもハイパースペースから続々とスター・デストロイヤーや空母がジャンプアウトし艦隊の数は増加する一方だった。

 

「間も無く全艦隊集結します。攻撃隊の編成も完了しました」

 

参謀将校の1人がローリング大将軍に敬礼し報告した。

 

大将軍は他の司令官達との会話を一旦取りやめ将校の方を向いた。

 

「分かった、艦隊編成後に直ちに第一陣をハイパースペースに突入させろ。作戦開始は早い方がいい」

 

「ハッ!」

 

「いよいよ…ですか」

 

中将から提督に昇進した元TIEパイロットのキラヌー提督は感慨深そうにそう呟いた。

 

ラクサスが陥落し帝国軍に対する巨大反抗勢力がようやく一つ消え去った。

 

当然ラクサスが陥落したからとてそれが終わりではない、むしろ始まりなのだ。

 

今までヤヴィン星系のあるゴーディアン・リーチやモン・カラ宙域の新共和国軍に何度か攻撃を仕掛けていたがどれも本格的なものではなく威力偵察や敵の戦意を圧迫する為のものだ。

 

その度々に予想外の損害を時折食らったりしたものだが大まか予想通りの展開だった。

 

「ああ、ようやくヤヴィンでの借りを返せる時が来たのだ」

 

ローリング大将軍は司令官達の脇を通りブリッジのビューボートから眼前に広がる艦隊を見つめた。

 

何十隻ものスター・デストロイヤーやドレッドノートに何百、何千隻のクルーザーやキャリアー。

 

当然全ての艦に何千機というTIEインターセプターやTIEボマー、TIEブルートが搭載されている。

 

TIEディフェンダーやTIEパニッシャーのような最新精鋭機もそのうちの一つであり、どれもこれもあのヤヴィンを攻略する為だけの戦力だ。

 

「連中がスターファイターで戦うのならそれに応えてやろう。我々帝国軍のスターファイター隊がどれほど強力か思い知らせてやるのだ」

 

元よりスターファイター隊の司令官のローリング大将軍だ、今回の作戦は彼の出世や名声にも繋がるだろう。

 

これ以上親衛隊の連中に好き勝手されぬ為にも絶対的な勝利を得なければならない。

 

戦いとは常に多すぎる犠牲ぬえに勝敗というたった二つの結果が出る虚しいものだがそれでもその結果が是が非でも重要な時がある。

 

この戦いに勝利すれば総統も少しは現実を見直してくれるだろう。

 

「それではケルスリング、シューペレ、シュトゥームフ、キラヌー、頼んだぞ」

 

4人の司令官が敬礼し頷いた。

 

ローリング大将軍も敬礼を返し4人の司令官達はそれぞれの旗艦や司令船に戻っていった。

 

大将軍もその様子を少し見送ると再びブリッジのビューボートに目を向け討伐軍の艦隊を見つめた。

 

ここにいる艦隊はかつてジャクーであの忌々しいガリアス・ラックスが率いていた勢力よりも大きいだろう。

 

あいつが何故か持っていたエグゼクター級“ラヴェジャー”にこの“リベンジ・オブ・サイス”は敵わないだろうがそれでも全体の戦力は上だ。

 

奴は無様にジャクーの砂に埋もれ死んだらしいが我々はそのおかげでこれだけの勢力を蘇らせた。

 

奴が新共和国の主力を引きつけておいたおかげで“カイゼルシュラハト作戦”、俗に言う“コルサントの奇跡”、“コルサント革命”が成功したのだ。

 

そういう面では奴に感謝しなければならない。

 

ラックスは死に、私は生きて再び権威を手に入れた。

 

どうだ見たか、はっきりと言おう。

 

ざまあみろと。

 

我々はこれからも戦い勝利し続ける。

 

新共和国もその他の敵も全て。

 

「狼煙を上げろ、我々が再び彼の地の月へ向け進軍する狼煙を」

 

我らの手を握ってくれ、そしてお元気で我らの帰還を待つ人よ。

 

何故なら我らは、そう我々は。

 

ヤヴィンへ征くのだから、ヤヴィン4へと。

 

討伐軍はついぞ集結し早速第一陣がローリング大将軍達を前にして出撃した。

 

戦いが始まる。

 

九年、いや十年越しの復讐戦が。

 

後に“()()()()()()()”と渾名されるあの月での新たな戦いが。

 

バトル・オブ・ヤヴィン(第二次ヤヴィンの戦い)が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤退ですと!我々はまだ戦えます!」

 

ヴァルギー大佐はホログラム越しのドウル元帥の代理であるエディン・ハーウス将軍に進言した。

 

ハーウス将軍は彼ら現地の部隊に衛星の放棄と部隊の撤退を命じたのだ。

 

無論それは前哨基地の陥落が原因なのだろうが敵軍が迫ってきているとはいえ未だ総合的な戦力はこちらの方が上だった。

 

それでもハーウス将軍は首を振りヴァルギー大佐の進言を却下した。

 

『これは最高司令部の決定事項だ。アンシオン本土の守りを絶対にする為にも戦略的撤退が必要なのだ。それに君たちの師団がまだ戦闘可能ならば余計に今の段階で引き下がるべきだろう』

 

「第三帝国軍は次期に大軍を送ってくる」とハーウス将軍は付け加えた。

 

既に彼らは短期間に周辺域の惑星防衛軍や新共和国軍を蹴散らし短期間に一個旅団ほどが衛星に投入された。

 

このまま衛星に長居していたらやがて旅団どころか一個兵団近くの部隊が展開されアンシオン軍の師団はあっという間に敵の波に飲まれてしまうだろう。

 

そうでなくても彼らの電撃的な戦いは十分な打撃だ。

 

今頃山道を向かっていた機甲戦力と基地を墜とした戦力が合流し真っ直ぐ司令基地に向かっているかもしれない。

 

『セキューター級とインペリアル級を数隻手配した。幸いにも君らの基地は浮遊ベースタイプのものだ。敵に利用される事もなく速やかに退却出来るだろう』

 

「分かりました。では撤退の指揮は私が…」

 

「いや、今回は私が取らせていただきますわ」

 

二つの足音と共に女性の、それもかなり若い声音が響いた。

 

ハーウス将軍は若干目を背け逆に司令官達は彼女の方を凝視した。

 

コーノス少佐もタイタン3もだ。

 

「私が今回の撤退戦の作戦式を務めさせて頂きます、ケッセル王室のケッセル総督、クラリッサ・ヤルバ・パイクですわ。以後お見知り置きを」

 

軍服姿のクラリッサは丁寧にお辞儀し自己紹介した。

 

彼女の軍服には総督(governor)を記す特別なものが付けられ肩章からは飾緒が付けられていた。

 

ポケットには左右二本ずつ、計四本のコードシリンダーが刺さっており軍帽はかぶっていなかった。

 

背後に控えるマルスはファースト・オーダー専門の軍服を着ている為その違いが良く判るだろう。

 

基本的な設計は帝国軍の軍服と同じだが保安局所属のマルスはズボンと軍帽はブラックで上の服はホワイトだった。

 

左腕には小さな腕章が巻かれており、肩章からは飾緒の代わりにブラスター・ピストルのホルスター付きのベルトが垂れ下がってた。

 

「何故ケッセルの総督が……それにこんな場所の指揮など」

 

『ドウル元帥も彼女をひとまずの撤退指揮官に任命した。以後は彼女の指揮に従ってもらう事になる』

 

司令官達は納得のいかない様子だったが最高指導者のドウル元帥の命令を持ち出されては反論も出来なかった。

 

「ご説明頂き感謝しますわ将軍。それでは」

 

『ご武運を切にお祈りしています』

 

将軍は敬礼しホログラムが消えた。

 

残されたのはクラリッサとマルス、3人の司令官達と2人のスターファイター隊の隊長だけだ。

 

「それでは時間もないので早速説明いたしますわね」

 

全員がこの中で二番目に階級の高いファルコフ准将に目を向けた。

 

准将も最初は戸惑いながらもクラリッサの作戦説明に耳を傾けぎこちない笑みで軽く頷いた。

 

他の司令官達も同じようにし彼女の声に耳を傾けた。

 

こうしてここでも戦いが始まろうとしていた。

 

クラリッサとアンシオン軍の微妙な関係による撤退戦が。

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 帝国保安局員本部-

「よろしいのですか?捜査の結果をこちらの保安局に通達しても」

 

フリシュタイン大佐はコートを羽織ったディールス長官に尋ねた。

 

2人は一般の帝国保安局に総統府爆破事件の報告書を届けに来ていた。

 

本来ならこんな事態々長官自らする事ではないが保安局長官のベック長官の意見も聞いておきたい為ディールス長官自らが顔を出した。

 

それに部下に任せていてはあのハイドレーヒとかいう金髪の小僧に何か細工をされるかも分からない。

 

「ああ、私はあの鉄の男と違って極めて合理的で協調を図りたいからな。政府の秩序と治安を維持する我らは常に協力せねばならん」

 

所詮親衛隊の一軍警にしか過ぎない親衛隊保安局だがそれでも権威や能力は通常の帝国保安局とほぼ同じだ。

 

ならばこそ歪み合うのではなく二つの組織で協力し合い国家の安全を保つべきだろう。

 

あんな無駄な享楽殺戮などせず、我らはただ与えられた治安秩序の維持に努めればいいのだ。

 

その考えはあのハイドレーヒにもヒェムナーにも足りていないだろう。

 

「治安秩序と言えばこの間、反政府的言動を行なった人物が市街地で暴走し一名の親衛隊員が重傷を負ったそうです」

 

「聞いている、痛ましい事件だ。今後こういった事のないようあの連中は徹底的に逮捕し銃殺しろ。エイリアン狩りよりも優先してな」

 

「…分かりました」

 

フリシュタイン大佐は若干最後の言葉に納得していない様子であったが命令に従いそう伝達するようにチェックを入れた。

 

「いいかフリシュタイン、我々は治安秩序の維持の為に心を鬼にせねばならん。エイリアンだろうと人間であろうと帝国の内なる敵を徹底的に排除するのだ」

 

「その為にも我々がいるのですね」

 

「そうだとも」

 

ディールス長官の常日頃の口癖にフリシュタイン大佐は付け加えた。

 

上司と部下としてこの上ないほど良い関係だろう。

 

彼らのお陰で曲がりなりにもコルサントの秩序は維持されているのだ。

 

だが2人は気づいていなかった。

 

特にディールス長官の方が。

 

この本部にぶっきらぼうのまま迫ってくる同じ親衛隊保安局の保安局員の姿を。

 

最初にその存在に気が付いたのはフリシュタイン大佐の方であった。

 

人の行き来がある一群によって遮られていたからだ。

 

よく見るとそれは親衛隊の保安局員でこちらに向かっていた。

 

「長官」

 

未だ気づいていないディールス長官の肩を叩き保安局員達を指さした。

 

一群は2人の前で止まりリーダーと思わしきコートを着た中佐が彼らに報告した。

 

「ディールス長官、貴方を国家反逆罪及び、職権濫用罪などの罪で逮捕、拘束する」

 

「なんだと…?」

 

中佐は合図を出し保安局員数名がディールス長官の腕を掴み拘束した。

 

別の2人の保安局員はブラスター・ライフルを構え暴れようとするディールス長官に銃口を向けた。

 

「離せ貴様ら!!私はそのような事何もしておらん!」

 

しかし無言の保安局員達に連れられズルズルと本部から引き摺り出されてしまった。

 

フリシュタイン大佐は中佐に詰め寄り上官を離すよう迫った。

 

「何かの誤解だ、ディールス長官はそのような事何もしていない!不当な拘束だ、今すぐ辞めさせろ」

 

しかし中佐は無表情のまま首を振り言葉を返した。

 

「ですが既に逮捕状も証拠も揃っています。フリシュタイン大佐、貴方にはハイドレーヒ大将から出頭命令が出ています。直ちに我々と御同行を」

 

別の保安局員が彼の背後に付き逃げられないような体制を作った。

 

どうする事も出来ないフリシュタイン大佐はため息を吐き中佐の後に続いた。

 

彼はそのまま軍用のスピーダーに乗せられ暫く無言のドライブに付き合わされた。

 

両脇を保安局員で押さえられ逃げ出すなど到底不可能な様子だった。

 

暫くスカイレーンを進んでいくと彼らの目的地である親衛隊保安局本部に辿り着いた。

 

まあ保安局副長官に呼ばれているのだから自ずとここに辿り着くだろう。

 

「どうぞ」

 

ドアが開けられ保安局員達と共にスピーダーから抜け出た。

 

もはやここまで来ては逃げ出す必要などないだろうがそれでも保安局員が張り付いたままだった。

 

保安局のビルに入り何回かエレベーターに乗って本部内のハイドレーヒ大将の執務室まで案内された。

 

度々資料やデータを届けに来たりしたが直接呼ばれたのは初めてだ。

 

ドアが開き一向が入室した。

 

「失礼します。ご命令通りフリシュタイン大佐をお連れしました」

 

中佐が敬礼しハイドレーヒ大将は小さく頷くだけだった。

 

彼は席から立つ事もなく中佐に「戻っていいぞ」と声を掛け中佐も敬礼と共に無言で去っていった。

 

室内にはハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐のみが残った。

 

最初に口を開いたのはハイドレーヒ大将だった。

 

「ディールス長官が逮捕された事は…まあ当然知っているな」

 

「はい、ですが冤罪だと私は主張します。長官は帝国全土の治安秩序の維持に努め……」

 

「大佐、無為無益な弁護はよせ。彼は我々が成すべき“平和の最終的計画”の努力を怠っていたのだ、逮捕は冤罪でもなんでもない」

 

フリシュタイン大佐は言葉を失った。

 

確かにディールス長官はあの計画についてあまり熱心ではなかったしなんなら不正をしていたように思う。

 

当然咎めはしたが聞く耳を持ってはくれなかった。

 

「あの計画に対し不正や裏切りを働いていたのならそれは総統や祖国、全銀河市民に対する裏切り行為だ、逮捕されて当然だろう。だが君は違う」

 

ハイドレーヒ大将はディールス長官の逮捕を正当化した後あえてフリシュタイン大佐を除外した。

 

「君はディールス長官の下にいる時もあの計画に熱心で我が祖国を平和へよく近づけてくれた。君の忠義は私もヒェムナー長官もお認めになっている」

 

「だから私の逮捕は免除と?」

 

「ああ、そして私の下で参謀将校として働け、君のそのあの忌々しい連中に対する憎しみや闘志は必ず祖国を永久の平和へと導くだろう」

 

あまりに予想外の展開だった。

 

ハイドレーヒ大将はフリシュタイン大佐を問い詰めるどころか自らの配下に引き入れようとしていた。

 

以前だったら断っていただろうがもはや大佐の上官は今やおらず断る理由などなかった。

 

「分かりました」

 

その一言だけ、それだけでハイドレーヒ大将の表情に出なくとも彼は満足していた。

 

こうして銀河最悪のコンビが誕生した。

 

帝国史上最大の治安秩序の維持者から帝国史上最大の殺戮者達へと変貌したのだ。

 

第三帝国の血塗られた幻想への歩みはこれで止まる事は無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AT-ATが退却する敵歩兵や戦闘用スピーダーを撃破し他のウォーカーと共に前進する。

 

ウォーカーの眼前には殆ど敵はおらずもはや戦闘は終結したも同然だった。

 

センサーで周辺の敵を捜索しながらジークハルトはペリスコープ・ディスプレイから遠くの様子を確認した。

 

様々な情報を判断しジークハルトが命令を出す。

 

「今のうちに砲兵中隊と後方の機甲部隊の補給を。我々も一旦後退しシジル機甲中隊を前に出せ」

 

『了解』

 

「アデルハイン、そっちは?」

 

『敵軍は撤退しつつある。上手くいけばあと五時間も掛からずに衛星を制圧出来るだろう』

 

中佐の読みは正しく敵軍との戦闘は少なくなり別の親衛隊の部隊もすぐそこまで向かっているそうだ。

 

衛星の制圧はもう五時間と言わずとも近づいていた。

 

「なら部隊を集結させ本格的な拠点作りを…」

 

『ジーク!北西ポイントからミサイルが接近してる!お前達の部隊の方向にだ!』

 

「なんだと…?」

 

「間違いありません、長距離ミサイルが三発こちらに向かって来ています」

 

パイロットの報告を受け取りジークハルト自身も急いでセンサーを確認した。

 

確かに飛翔体が三つこちらに向かって来ている。

 

だがこの数なら対空砲や迎撃ミサイルでなんとか出来る。

 

「迎撃しろ、対空砲でもなんでも構わん。余力のあるうちに撃破しろ」

 

「了解…!」

 

ストライク1や周囲のウォーカーが砲撃しミサイルを迎撃する。

 

AT-ATパイロット達にかかればこの程度の代物を撃破することなど朝飯前でミサイルはすぐに破壊された。

 

だが問題は破壊されたミサイルが空中に大きな煙幕を展開したということだ。

 

完全に視界は遮られ次に何が来るか分からない状態となってしまった。

 

「センサーは」

 

ジークハルトは急いでパイロットに尋ねた。

 

「ダメです、煙幕の中の物質で撹乱されて使用出来ません」

 

「目視とセンサーをやられたわけか……スカウト隊、そちらからは何か見えるか?」

 

先行して展開していた偵察部隊に状況報告をせがんだ。

 

現状ほとんどの目が失われたわけだが先んじて展開していたスカウト・トルーパーとプローブ・ドロイドの偵察部隊によってひとまずはなんとかなりそうだ。

 

『飛翔体が一発飛んで行きました。それと恐らく敵の師団と思われる部隊が接近しつつあります。距離はそちらから6キロほどです』

 

「分かった。もう十分役割はは対してくれた、最大速度で退却し後方の補給部隊から支援を受け取れ。各機、ミサイルの迎撃用意をっ!」

 

直後一発のミサイルがジークハルトのストライク1を横切り後方から迫っていたAT-ATを一台完全に破壊した。

 

鈍い音と爆音を立てながらAT-ATが地面に崩れ落ちた。

 

ジークハルトは悔しさを噛み締め吐き捨てる。

 

「狙いは最初から我々でなかったわけか…!」

 

あのAT-ATはシジル機甲中隊のものだ。

 

既に物資が欠乏しつつあるジークハルトの直轄部隊など最初から狙いではなかったということだ。

 

『上級大佐、どうします?』

 

シジル機甲中隊の中隊長から通信が届いた。

 

ディスプレイをナイトスコープモードに切り替え周辺の様子を調査する。

 

「全隊、防御隊形。砲兵中隊は砲弾を対シールド用に切り替えろ。上空艦隊、砲撃支援出来ますか?」

 

『可能だ、どこを狙う?』

 

「我々のウォーカー部隊より前方5~6キロの地点に絨毯爆撃を。多少命中しなくとも構いません」

 

『了解した』

 

艦隊との通信が途切れジークハルトは次の命令を下した。

 

「全隊、艦隊と中隊の砲撃と同時に後退し再結集し敵師団に一点集中攻撃をかける。アデルハイン、後退の支援を頼む」

 

『了解』

 

AT-ATが敵を警戒しつつゆっくりと後ろ歩きに後退する。

 

付属機のAT-STやAT-MPも本機を守る為に最大速度を出さずゆっくりと下がっていった。

 

シジル機甲中隊もジークハルトのストライク・フォースと共に後退し全基合わせて二十三台のAT-ATが隊列をなしゆっくりと後退していった。

 

その間に艦隊から再び通信が入った。

 

『砲撃準備完了、間も無く砲撃を開始します』

 

スター・デストロイヤーの砲術士官の声だ。

 

「了解、スカウト隊はどうなってる」

 

『全隊、射程外にいます。いつでもどうぞ』

 

「分かった」

 

直後軌道上空のスター・デストロイヤーからターボレーザー砲による軌道上爆撃が開始された。

 

ペリスコープ・ディスプレイ越しからもターボレーザー弾が着弾し轟音と共に地面を抉る様子が見えた。

 

爆撃はその後一分半まで続き5~6キロ先の地形は大きく変化していた。

 

しかし敵の師団は全く変化がなかった。

 

周辺一体を覆うほどの偏向シールドが展開されターボレーザーの雨が雨傘のように防がれていた。

 

「やはりか…砲兵中隊、砲撃開始。最悪足を止められる程度でも構わん、撃ち続けろ」

 

『了解です!』

 

敵との距離はかなり引き離せたように思えるがそれでも安心は出来ない。

 

少なくとも最初の距離から合わせてももう10~20キロは後退し部隊を再集結させなければ。

 

砲兵中隊がシールドを貫通出来る砲弾を次々と撃ち込みて敵師団に打撃を与える。

 

「上級大佐、後方右側に友軍部隊を発見。ヘッツ少佐の第四擲弾兵大隊とミュヘル大尉の第二擲弾兵中隊です」

 

「ここを合流地点しアデルハイン隊と共に敵師団に反撃を叩き込む。補給小隊を中隊をここによこしてくれ」

 

「了解」

 

「敵師団は?」

 

「砲撃で完全に足が止まっています」

 

「なら砲兵中隊もここに。今のうちに全隊を集結させるんだ」

 

ひとまず距離は引き離し周辺の味方部隊と合流は成功した。

 

このまま一個旅団で一点攻撃をかければ敵の師団にひとまず一旦後退させるほどの打撃を与えられるだろう。

 

必要なら国防軍の連隊も展開し二正面での攻撃に当たらせればいい。

 

今の所友軍の損害は軽微だ、戦闘はまだ続行出来る。

 

だが以外の報告がその未来予想図を崩した。

 

『ジーク!敵の攻撃を受けている!すまないが助けに来てくれ!』

 

アデルハイン中佐が突然ジークハルトに通信を返した。

 

「数はどのくらいだ今向かう」

 

しっかりと報告を聞きながらジークハルトは全隊に進撃するよう命じた。

 

輸送機やジャガーノートが出発しAT-ATやAT-STも徐々に進撃を始める。

 

『迎撃に当たっているのは一個連隊ほどだが、後方には二個師団近くの部隊が控えている!』

 

「二個師団だと……とにかく機雷を巻いて後退し今転送したポイントでひとまず迎撃しろ。我々もすぐに向かう」

 

『了解!なる早で頼むぞ!』

 

「ああ…分かってる」

 

通信が途切れ少しの静けさが訪れた。

 

しかし、追い詰められているわけではないにしても精神的、攻撃的な圧迫感を与えられているのは確かだ。

 

敵の攻撃にはキリがなく防いでも防いでも引き下がらない。

 

やはりまだ下手に攻撃力と物量があるからなのだろうか。

 

だが感覚的なものだがジークハルトには少し違うように見えた。

 

「艦隊の軌道上の偵察情報と索敵機の情報を表示してくれ」

 

パイロットは頷きホログラムに軌道上の艦隊が撮影した様子と索敵機が偵察した様子を映し出した。

 

「敵の布陣…一見すると間違いなくウォーカー部隊を中央に展開した突撃隊形だが、何かが妙だ…中央地帯の布陣が特に…」

 

思い過ごしかもしれないが部隊の配置に若干の開きがあった。

 

その開きの意味を、ジークハルトはすぐに読み取った。

 

「まさかな…だがこの動きからすればまさか!」

 

パイロット2人は不思議そうな表情で彼を見つめた。

 

ジークハルトはその2人に急いで命令を下す。

 

「ハイネクロイツ中佐に急いで繋げ」

 

「わかりました」

 

ハイネクロイツ中佐のホログラムが出現し数秒も待つことなくジークハルトは命令を伝え始めた。

 

「ハイネクロイツ、急いでスターファイター隊を率いて敵師団の中央を叩け!出来る限り対艦装備のボマー部隊でだ」

 

『あっああ…だが一体何故だ?師団を攻撃するならもっと別の装備で…』

 

「いや狙いは師団ではない!恐らくだが敵の揚陸艦が来る…連中はそれに乗って逃げる気だ。全隻でなくとも出来る限りの敵を撃墜しろ」

 

『今から出撃するが敵艦隊襲来の報告なんて…』

 

『中佐!軌道上艦隊が後方より正体不明の攻撃を受けた模様!』

 

ホログラム越しにもその報告はジークハルトに伝わった。

 

しかも同じ報告をちょうどパイロットが行おうとしていたところだ。

 

既に察しはついた。

 

第一の攻撃で艦隊を陽動し地上に揚陸艦隊を展開するつもりだ。

 

となればそう遠くない時に揚陸艦隊は出現するだろう。

 

だが現状軌道上の封鎖は完璧ではない。

 

間違いなく即座に回収されてしまう。

 

「急げ、艦隊の支援はもう間に合わないが師団の撤退をなるべく阻害する事なら出来るはずだ」

 

『あっああ!了解した!』

 

ハイネクロイツ中佐がヘルメットを被りホログラムが解除された。

 

「間も無く戦闘周囲に突入します」

 

パイロットの報告を聞きジークハルトは再びペリスコープ・ディスプレイを覗き込んだ。

 

最大域まで遠望したため画質は若干悪いが既に戦闘は終結しつつあった。

 

「アデルハイン、体を整えて急いで追撃戦を開始しろ。敵の撤退を妨害するんだ」

 

『了解っ!だっだがお前の部隊の合流はどうするんだ?』

 

「もはやそんなことしてる場合じゃない。猟兵大隊と中隊を向かわせ我々も残りの弾薬でミサイル攻撃支援を行う、仮に合流出来たら突撃隊形を維持し最大速度で前進するぞ」

 

『分かった、とりあえず…前線で待ってるぞ』

 

「ああ…頼んだぞ。直轄麾下部隊全隊、猟兵隊は全て最大速度で前進しアデルハインタイを支援せよ。他の旅団部隊も我々に合流するか側面から敵を叩け」

 

命令は即座に伝達し旅団が命令に従い行動し始めた。

 

「聞いての通りだ、ストライク・フォース全隊!一分後にミサイル支援を開始する」

 

AT-ATは最大速度で進んでいるがまだ前線には辿り着けていない。

 

既に敵は最初の報告よりももっと奥まで後退しておりAT-AT部隊が間に合う距離ではなかった。

 

一分が経ちミサイルがAT-ATから一斉に放たれた。

 

その間にもジークハルトのストライク1に報告が届いた。

 

殆どがあまりいい報告ではないが。

 

「上級大佐、国防軍の第二連隊が敵の司令基地まで奇襲攻撃を仕掛けたと」

 

「成功率は…」

 

ジークハルトは最悪の状況を思い浮かべながらパイロットに聞き返した。

 

「まだ分かりませんが…」

 

「ここまで周到にやってる敵が司令基地の守りを疎かにするはずがない。こんな多角的な博打作戦、一体誰が指揮を取っているんだ…!」

 

珍しく彼は苛立っていた。

 

というより敵の目論み通り圧迫され続けている気がする。

 

ジークハルトは知るはずもないだろう。

 

まさかあのケッセルから態々指揮官が出向いているだなんて。

 

普通はあり得ない、あり得ないことを彼女はやってのける。

 

だからこそ手強いのだ。

 

最果てに住む、化け物のような王族の御令嬢は。

 

 

 

 

 

 

 

こんな無茶苦茶な作戦成功するはずないと全師団長が思っていた。

 

なんならあのタイタン3でさえ険しい表情を浮かべていた。

 

部隊展開や動きがシビアすぎるし何より一歩でも間違えれば一部隊が丸々壊滅する。

 

かと言って現状普通に脱出を行なっていては旅団程度とはいえ電撃的な動きを見せる敵軍に多くの損害を喰らっていただろう。

 

今の所はほんの少数の損害で収まっている。

 

「えっえっとコマンダー閣下…?予測通り一個連隊ほどの敵が我が基地に攻撃を仕掛けてきましたけど……」

 

連絡に来た士官がしどろもどろになりながら報告した。

 

一体彼女にどういう態度をとっていいか分からないし何より格好が恐ろしく妙だった。

 

地上軍トルーパーの装備をある程度纏ったままブラスター・ライフルを担いで茶を嗜んでいた。

 

「そう、予想通りですわね。迎撃の方は」

 

予定帳に書いてあるかのように彼女は茶を飲み訪ねた。

 

士官は余計分からなそうに応えた。

 

「斗出した敵部隊は徹底的に叩き敵の攻撃力は殆ど薄まっています」

 

「あらそう、ならそのまま続けて」

 

「それと…敵の一部隊が手薄の第六通路を突破してこちらに向かってきています。防衛部隊を展開しましょうか?」

 

その報告を聞きクラリッサのカップを皿に置く手が一瞬止まった。

 

反対側の席に座っているマルスも何かを悟ったように軍帽を手に取り被った。

 

「用意しておいた分隊を戦闘準備させて下さいませんか?私達もすぐに向かいます」

 

「はっはあ…直ちに…」

 

もはや敬礼も忘れ士官は小さく頭を下げとぼとぼと部屋を出て行った。

 

マルスは軍帽を被りブラスター・ライフルを手に取った。

 

これで彼の用意は完璧だ。

 

「いつ頃いきます?」

 

「すぐに、あと一口飲んだらいきますわ」

 

「スパイス入りティーは美味しいですか?」

 

マルスはふと彼女に聞いてみた。

 

クラリッサが持ち歩く砂糖には少量だがスパイスが混ぜ込められている。

 

彼女をよく知っている人であればクラリッサが自ら出してきた茶を飲もうともしない。

 

クラリッサが異常なだけで普通の人間や生命が吸ったらすぐに中毒になってあっという間にヤク中の出来上がりだろう。

 

「ええ、とってもスパイスが効いてて美味しいですわよ」

 

飲み終えたのかクラリッサはカップをさらに置き立ち上がった。

 

そのまま彼女はマルスに近づき一瞬のうちに唇を奪った。

 

「勝利の女神のキスも頂きましたし、いきましょうか」

 

かの近き戦場へ。

 

狂気を感じさせない狂気の笑みがたまらなく彼女を体現していた。

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント ギャラクティック・シティ 親衛隊総合医療センター本部-

あの発砲事件からかなりの時が経った。

 

重傷を負ったセレッド大尉はギャラクティック・シティの親衛隊総合医療センター本部に緊急搬送された。

 

一方のユーリアは事情聴取の為に親衛隊保安局本部にいた。

 

事情聴取といっても彼女が犯罪を起こしたわけではないし人を殺したわけでもないので比較的手短に、温和に行われていた。

 

それに親衛隊の英雄に等しいジークハルトの妻となれば無碍には扱えないだろう。

 

瀕死のセレッド大尉に応急処置を施したのも影響し事情聴取はすぐに終わった。

 

その後彼女はセレッド大尉に面会する為にセンター本部に向かっていた。

 

容体は安定せずユーリアの応急処置とバクタ・タンクの治療にも関わらず重体なのは変わりないらしい。

 

なんでも犯人が使用したブラスター・ライフルはカーボンの質が悪く弾丸が体内で若干炸裂し身体の内部を大きく傷つけてしまった。

 

軍医曰く「ユーリアの応急処置がなければセンターに来る前に死んでいた」らしくしかも最悪このまま死ぬかもしれないそうだ。

 

「失礼します。シュタンデリス夫人を連れてきました」

 

士官の1人が彼女を導き病室の扉が開いた。

 

「こちらです」

 

士官に連れられユーリアは病室でぐったり寝ているセレッド大尉の下に向かった。

 

寝ているといっても傷の痛みで顔を顰め苦しそうにしていた。

 

だがユーリアが来た事を感知しこちらに顔を寄せなんとか笑みを作ろうとする。

 

その姿だけで心が痛ましくなる。

 

「セレッドさん…」

 

彼に近づき目線を合わせた。

 

セレッド大尉はなんとか敬礼しようとするが傷が痛み腕が上がらなかった。

 

「……ご無事で何よりです……と言っても…私はこのザマですが…」

 

息を荒げながら答えた。

 

「私を庇って…本当にごめんなさい…」

 

もしあの時ユーリアがあの場にいなければもしかしたらセレッド大尉はこんな重傷を負う事はなかったかもしれない。

 

少なからずその一因となってしまったのだ。

 

しかしせレッド大尉は首を振り違うと意志を表明した。

 

「逆ですよ…むしろあの時あなたがいなきゃ私は今生きていない……あなたの応急処置に助けられました……」

 

「でも…」

 

「それに私はこんな形でも軍人だ…市民を守るのは当然の義務です……」

 

初めて会った時よりもか細い声で彼は答えた。

 

あまりにも脆弱で今にでも途切れそうな声音だった。

 

「君…ベッドを立ててくれないか…?」

 

「はい、大尉」

 

ユーリアを連れてきた士官がベッドを操作し少し起き上がらせた。

 

「どうやら私は…もうダメみたいです…」

 

「そんな…でも軍医の方は助かる可能性があると…」

 

「いや……私には分かるんですよ…だから、一つあなたに…いやあなたの家族にお願いがあります……」

 

ユーリアは彼の言葉に耳を傾け頷いた。

 

「私と…私の夫が出来る事ならなんでも聞きましょう」

 

その事を聞いたセレッド大尉はとても安心したように笑みを浮かべ話し始めた。

 

「あの時…話したと思いますが私には1人の娘がいます……名前は“ホリー”…マインラート君と同い年です……ここで私が死ねばあの子は1人になってしまう…それだけはどうしても避けたいのです……」

 

セレッド大尉の奥さんは確か反乱軍のテロ攻撃で既に亡くなられていたはずだ。

 

このままセレッド大尉も亡くなってしまえば娘さんのホリーは天涯孤独になってしまうだろう。

 

「だから…どうか…あの子をあなた方の養子にして頂けませんか……?私には…あなた方しか頼める相手がいないのです…他の親衛隊員じゃあの子の面倒を見切れないでしょう…ですがシュタンデリス大佐なら…!どうかお願いします…あの子を養子に…」

 

断れるはずもなかった。

 

幼少期の孤独ほど寂しく辛いものはないだろう。

 

ユーリアの決断は早かった。

 

「分かりました…!養子に引き取りましょう」

 

「よかった…これであの子は独りにならずに……グッ…!」

 

セレッド大尉はこれ以上ないほど顔を顰めベッドに思いっきり倒れた。

 

「せレッドさん!?セレッドさんしっかり!早くコールを!」

 

「はっはい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ストームトルーパーの何個分隊が通路を駆けていた。

 

敵の防衛力は高く多くの損害を被った。

 

何せ奇襲攻撃により防御力が弱まったかと思ったら敵の伏兵や散兵戦術により部隊は混乱。

 

後方の支援部隊も基地の砲撃やTIEファイター部隊の爆撃を喰らい被害が拡大し打撃力を失った。

 

がそれでもようやく手薄な通路を見つけた。

 

今の所攻撃一つ受けず安全に進んでいる。

 

それにこの手の基地ならこのまま進めば中央司令部に打撃を与えられるかもしれない。

 

そうなれば敵軍は大きく混乱するだろうし手柄も立てられるだろう。

 

「進め進め!国防正規軍の力みせてやれ!」

 

上官のストームトルーパー・キャプテンが部下を鼓舞し更に部隊を進ませた。

 

昇進の機会だと各分隊の全員が息巻いている。

 

それにここで親衛隊ではなく国防軍が戦果を挙げれば我々の名声も高まるはずだ。

 

あのような軍隊もどきに負けるものかとキャプテンを含めた何人かがこっそり思っていた。

 

似たような組織が同時に二つ存在しているといがみ合うのも必然だろう。

 

しかしその結果彼らはホイホイとこの基地内に侵入し手柄名声欲しさに猪突猛進に突き進んでいた。

 

甘美な戦果の先に待ち望んでいる悪魔の姿を知らずに。

 

一番先頭を走るストームトルーパーのゴーグルに赤い閃光が見えた。

 

刹那そのトルーパーは大きな物音を立ててばたりと倒れた。

 

後ろを走っていた近くのトルーパーがそのストームトルーパーを見つめると胸のあたりが何かで焼かれたように焦げていた。

 

残ったトルーパー達はそれぞれ両端に分かれて固まりブラスター・ライフルを構えた。

 

緊張が走りある何人かのトルーパーはヘルメットの中で汗を垂らしている。

 

暗視ゴーグルで暗闇の先を見てはいるが全く敵の姿が見当たらない。

 

しかし先程のトルーパーは確実に向こう側にいる何かに撃たれたのだ。

 

その証拠に今の倒れているストームトルーパーのアーマーには弾痕がくっきりと残っている。

 

「うっ撃て!」

 

キャプテンが命令を出しストームトルーパー達がブラスター・ライフルの引き金を引いた。

 

銃声が響き何発、何十発もの赤い光弾が暗闇を照らしその先に放たれる。

 

しかし敵がいないのでは当たる以前の問題だ。

 

キャプテンが一斉射撃を止めろと命令を出そうとした瞬間再び攻撃が来た。

 

暗闇から鋭い光が一瞬視界を奪い右側でブラスター・ライフルを構えていたストームトルーパーの喉に突き刺さった。

 

喉元からは血が流れストームトルーパーはたった一撃で絶命してしまった。

 

突然の死でトルーパー達は焦り発砲を勝手に中断してしまう。

 

「まんまと範疇に掛かったな」

 

突如声が響き天井から黒っぽい何かが地面に滑り落ちた。

 

その間に銃声が二回響き“4人の”トルーパーが打ち倒された。

 

トルーパーが焦って再びブラスター・ライフルを発砲するが一発も当たらず後方の曲がり角の近くまで後退した。

 

「いっ一体…!?」

 

キャプテンは動揺しその何かが後退したところを凝視した。

 

ようやく敵の姿が見えてきた。

 

「なんとか6人削れましたがどうします、このまま行きますか」

 

敵と思われる少年は二丁のブラスター・ピストルをホルスターに仕舞い背負っていたDTL-19D重ブラスター・ライフルを手に取った。

 

重ブラスター・ライフルは単発と連射を切り替えられグロウロッドの代わりにエレクトロバトンの銃剣が取り付けられており近接戦闘も可能になっている。

 

その少年はDLT-19Dを構え銃口を敵に向ける。

 

一方もう片方の少女は両手にブラスター・ピストルを構えその少年に命じた。

 

「ええ、もちろんですわ!スパイス全開で行きますわよ!」

 

少年は頷き銃剣先をトルーパー達に向け一瞬のうちに視界から消え去った。

 

トルーパー達は慌ててブラスター・ライフルを発砲するが少女は躱し反撃の弾丸を撃ち込んだ。

 

その僅かな間に少年はストームトルーパーの前へと風のように現れトルーパーが持っていたブラスター・ライフルを取り上げた。

 

右手で宙に浮かんだトルーパーのライフルを手に取るとすぐにぶっ放しトルーパーを撃ち倒した。

 

一瞬の隙も見せず近くにいたストームトルーパーにDTL-19Dの銃剣先を突き付けアーマーごと胴体を貫いた。

 

素早く引き抜くと再びトルーパーから奪ったブラスター・ライフルで反対側のストームトルーパーを撃ち敵がこれ以上接近しないようDTL-19D大きく振り回した。

 

トルーパー達は銃剣の範囲に入らないように引き下がったがそれが間違いであった。

 

後ろに控えている少女がブラスター・ピストルを放ち引き下がろうとするストームトルーパーを次々と撃ち倒した。

 

引き下がるのをやめて攻撃を敢行すれば少年の銃剣の餌食になるだろうしかと言ってこのまま引き下がれば少女のブラスター・ピストルの餌食になる。

 

そんな膠着的な状況を打ち破ったのはやはり少年と少女、マルスとクラリッサの方だった。

 

クラリッサが栓を引き抜きインパクト・グレネードを投げつけた。

 

敵から奪ったブラスター・ライフルを捨てたマルスはそれをなんの恐れもなさそうにDTL-19Dの後方部でボールのように叩き付けた。

 

衝撃で爆発するインパクト・グレネードを避けるどころか叩いて更に加速させるなど常人のやる事とは到底思えないがお陰で爆発の時間が早まり素早く敵側にグレネードを送れた。

 

即座に爆発しトルーパー達は避ける間も無く何人かが巻き込まれて吹っ飛ばされた。

 

トルーパー達は動揺したが直ぐに正気を取り戻しブラスター・ライフルを撃ちながら2人に近づいた。

 

接近すれば爆発物による戦闘が不可能になる。

 

しかも思わぬ奇襲を喰らったが人数差で言えばまだこちら側が勝っている。

 

敵がいくら強かろうと物量で殲滅してしまえばという考えがトルーパー達の中にあった。

 

それは普通に考えれば正しいのだろう。

 

普通に考えればの話だが。

 

クラリッサのブラスター・ピストルの弾丸と共にマルスが前に出て銃剣のエレクトロバトンを起動した。

 

ここまで来るともはや銃剣というよりも槍に近いだろう。

 

マルスは前3人のストームトルーパーをバトンで叩きヘルメットと顎ごと砕き倒した。

 

その背後からクラリッサがブラスター・ピストルで敵兵を狙い撃つ。

 

マルスを撃とうとしていた敵が斃れ今度はクラリッサの方に注意が向いた。

 

しかしそれが再び仇となった。

 

一歩下がったマルスが連射モードのDTL-19Dで敵を一気に薙ぎ払った。

 

至近距離に、しかもアーマーの薄い部分を狙って撃ったのだ。

 

防御も間に合わず何人かのトルーパーがバタバタと倒れた。

 

攻撃は休まる事なく続けられ壁を蹴ったマルスが一瞬だけ宙に浮きバトンの先がストームトルーパーの胸に突き刺さった。

 

そのままトルーパーは押されて続けられ心臓からエレクトロバトンの銃剣が抜ける頃には絶命していた。

 

マルスは彼から見て右側のブラスター・ライフルを構えようとするストームトルーパーをDTL-19Dで足払いを食らわせ背中にエレクトロバトンを突き刺した。

 

そのまま一回転を描き別のトルーパーのブラスター・ライフルを地面に叩き落としエレクトロバトンをヘルメットに叩き付けた。

 

ヘルメットに少しヒビが入り電流と衝撃によりトルーパーは倒れた。

 

もしかすると首が折れているかもしれない。

 

しかし戦闘中にそのような事を気にする余裕はなく敵も味方も攻撃を続けた。

 

「チッ!撤退だ!全員撤退!」

 

次々と撃ち倒される味方分隊員を目にしたキャプテンはそう命令を下した。

 

このままでは全滅してしまうかもしれない。

 

それだけは避けたい為キャプテンは前に出て部下達の退却を支援しようとした。

 

優先的にクラリッサの方を狙いマルスの気を防御に向けようとする。

 

しかし彼女はステップを踏むように弾丸を避け逆に反撃の弾痕が撃ち込まれた。

 

別のトルーパーが撃たれキャプテンもなんとかポールドロンで防いだが後少しで直撃を喰らう所だった。

 

そんなキャプテンの後ろを勇敢なストームトルーパーが突っ込んでいくがあっという間に体格的不利なクラリッサに取り押さえられた。

 

膝蹴りを喰らいふらついた所をブラスター・ピストルの持ち手で強打され完全に意識を失った所を更にピストルの弾丸でトドメを刺された。

 

そしてキャプテンの下に鬼の形相でマルスが迫った。

 

退却しようと後退りし始めたストームトルーパーが3人打ち倒されそのままキャプテンの下に迫って来たのだ。

 

キャプテンはブラスター・ライフルでDTL-19Dを防ぐが力で競り負けそうになっていた。

 

圧倒的体格差、力の差が本来あるはずなのにキャプテンが押し負けている。

 

見慣れない帝国軍風の軍帽を被り顔を何かで隠している為よくは見えないが年齢はそれでもまだ十代の前半か半ばくらい。

 

キャプテンには力で到底及ばないはずだ。

 

なのにここまで負けている。

 

なんとか抑えながらベルトのバックルからサバイバルナイフを取り出しマルスに突き付けようとした。

 

だが腕を掴まれ力強く握り捻られる。

 

ヘルメットの中でキャプテンは顔を顰めていたがすぐに驚きに変わった。

 

キャプテンはなんと思いっきり投げ飛ばされ地面に叩きつけられた。

 

背中が痛むがすぐに上から銃剣を突き付け飛び掛かってくるマルスを見て避けた。

 

サーマル・デトネーターを投げようとするが銃身で払われ手から零れ落ちてしまった。

 

距離を取りながらブラスター・ライフルを放つが狙いが定まらず全く当たらない。

 

しかも距離はどんどん詰め寄られ顔に思いっきりDTL-19Dの強打を喰らってしまった。

 

ブラスター・ライフルが手から滑り落ち意識を保てずフラフラと倒れてしまった。

 

トドメの一撃と単発モードのDTL-19Dをキャプテンに撃ち込んだ。

 

これで敵の隊長は撃ち倒した。

 

周りを見渡せば逃げようとしていたストームトルーパー達も皆地面に斃れている。

 

一瞬のうちにクラリッサが全て倒してしまったらしい。

 

「ふう…やりましたわ」

 

色っぽく汗を拭いコムリンクで司令部に通信を繋いだ。

 

「准将、基地の方は?」

 

『敵は撤退しました。現在敵旅団と戦闘中の他の師団も無事セキューター級の回収部隊に収納されました』

 

「そう、では私達も早く脱出するとしますかね」

 

『はい…!』

 

通信が切れクラリッサはポケットにコムリンクを閉まった。

 

マルスはふと天井を見つめた。

 

そこから外は見えないが若干の確信があった。

 

勝利の確信を。

 

第十衛星からアンシオン軍は想定されたよりも遥かに低い損耗率で脱出した。

 

途中親衛隊スターファイター隊による追撃戦が行われたが大まか退却は大成功に終わった。

 

全てはクラリッサの作戦通り…か、どうかは分からないが少なくとも思惑からは外れていないだろう。

 

アンシオン軍と第三帝国軍の戦闘はまだまだ続きそうだ。

 

双方にそれだけの余力がありそれだけの理由があった。

 

戦いはまだ終わりそうにはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム 旧新共和国領 ミタラノア宙域 平面座標P-9地点-

ハイパースペースから1機のUウィングが出現しとある惑星を目指して進んでいた。

 

「しかしまさかあの後まで同盟に残ってたとはな…てっきり途中でどっか行っちまうのかと」

 

ジョーレンは操縦桿を握りながらそう呟いた。

 

彼は反乱同盟から新共和国までの間歴史の表側からかなり離れており詳しい事は知らなかった。

 

「将軍は今じゃ新共和国の英雄だよ。度々独断行動が目立つけどそれでも新共和国を勝利に導いた」

 

「不思議な事もあるもんだな……まあこうして大戦がもう一回始まる辺りさほど不思議でもないか」

 

そうだ、不思議や奇跡、偶然という言葉を並べても結局は必ずどこかで必然的になる。

 

ある人はそれを「フォースの導き」とも言うらしいがやはり必然的なものなのだろう。

 

「しかしこれだけの物資彼らは必要としているのかな」

 

ジェルマンはふと後ろに積まれている大量の箱に目を寄せた。

 

ギリギリハッチまでは完全に塞がれてないがほぼ後ろのスペースはほぼ箱で埋め尽くされていた。

 

「あそこに住む連中にはこれでも足りないくらいだと思うぜ。まあ何にしたって喜ばれるさ、きっとな」

 

操縦桿を少し左に倒し機体を左に旋回させるとセンサーに何か反応があった。

 

「この熱量と反応は……帝国軍と……友軍が戦闘している…?」

 

「急ごう、仮に戦闘中だったら加勢しないと」

 

「ああ…!」

 

エネルギーの割り当てを変更し最大加速のままペダルを踏んだ。

 

最速のUウィングが一気に距離を縮めセンサーが示す場所に向かった。

 

センサー範囲が徐々に近まりより鮮明な状況を表示する。

 

大型艦船だけではなくコルベット艦やスターファイターなども映し出され始めた。

 

やがてコックピットにも直接センサーの示す状況が見えた。

 

複数のインペリアル級がジェルマン達が目指す惑星キャッシークを取り囲み軌道上の新共和国艦隊と戦闘中であった。

 

「インペリアル級だ!」

 

「ああ見えてる…まさか初っ端から戦闘だとはな…」

 

エンジンの出力を落とし偏向シールドと火器の方に回し戦闘に備えた。

 

こうしてUウィングで戦闘するのももはや慣れたものだ。

 

ジェルマンも素早く攻撃システムを起動しUウィングの攻撃力を高める。

 

「まずは手前のデストロイヤーの偏向シールドを攻撃する。お前は新共和国軍に通信を取ってくれ」

 

「了解!こちらUウィング支援船、艦隊司令部応答を…」

 

「さてさて、行きますか…」

 

指の骨を鳴らし再び操縦桿を強く握りしめる。

 

ペダルを踏み込み友軍艦隊へ向けて砲撃するインペリアル級へと向かった。

 

スター・デストロイヤーのセンサー圏内に入ったのかインペリアル級のターボレーザー砲がいくつかUウィングに向けて砲撃を始めた。

 

レーザー弾を回避しながら素早くインペリアル級のシールド内部に侵入した。

 

こちらに反応を示すターボレーザー砲を何基か破壊するとブリッジの方まで駆け上がった。

 

インペリアル級のブリッジに備わる二つの大型の球体、インペリアル級の偏向シールド発生装置を破壊する為だ。

 

全火力を偏向シールドにぶつけるがやはりUウィング1機の火力では発生装置に少しばかり傷を与えた程度だった。

 

機体を旋回し再び攻撃を加えるがやはり破壊には至らない。

 

しかも偏向シールド発生装置破壊を防ごうとTIEインターセプター何機かがジェルマンとジョーレンのUウィングを狙いレーザー弾を放った。

 

ジョーレンは急いでブリッジ付近から離脱しエンジン付近をスレスレで飛びながらTIEインターセプターを振り切ろうと船体の裏側へ向かった。

 

途中TIEインターセプターの1機がエンジンの炎に焼かれて破壊されたが気にする余裕はない。

 

曲がる直前にタレットを回転させ背後を狙うTIEインターセプター1機を撃破しUウィングのレーザー砲で船体裏側のターボレーザー砲を幾つか破壊した。

 

これでTIEインターセプターは4機となったが数の上ではまだ向こうが有利だ。

 

しかも絶対にUウィングの背後を捉えて離さず追撃のレーザー砲を浴びせかけてくる。

 

ターボレーザー砲塔も何基か反応を示しターボレーザー砲を放ってきた。

 

前方と背後の砲撃を回避しながら反撃しインペリアル級の裏側を飛び回った。

 

「後少しでスターファイター隊が救援に駆けつける!」

 

「ああ…!ならもう一度表返ってシールドに一撃喰らわせねぇとな!」

 

機体を回転させターボレーザー砲を破壊し砲塔や船体の突起物を回避しながら進み回避しきれない敵機は時折インペリアル級に誤射してしまいまた別の1機は回避しきれずに機体を船体にぶつけてしまい破壊された。

 

ようやくインペリアル級の船体裏を一周し表面へと戻ってきた。

 

だが表面の対空砲網も手強く回避するのにも一苦労だった。

 

「とりあえず、スターファイター隊が来るまで持ち堪えるぞ!」

 

「ああ!」

 

後方から再び微かにTIEのエンジン音が聞こえた。

 

また何機かの敵機が背後についたのだろう。

 

防御タレットで攻撃するが回避されてしまう。

 

かなり厳しい状況だ。

 

コックピット内では別の警報が鳴り響く。

 

「今度は一体なんだ…?っと、ようやく友軍機の到着か。1機だけだがな」

 

「でも熱量や質量が通常のスターファイターより大きい…もしかして」

 

ジェルマンの疑問や期待より先にその結果は証明された。

 

レーザー音が聞こえ一度に2機のTIEインターセプターが撃破された。

 

友軍機の撃墜を受けて他のTIEインターセプターは戦線を離脱しようとするが回転したその機体の砲塔により残された3機とも撃墜されてしまった。

 

そのスターファイターというには少し大型の機体がUウィングの上を飛び越え2人の横に付いた。

 

特徴的なコレリアン・エンジニアリング社製のYTシリーズの軽貨物船。

 

型式はYT-1300軽貨物船でそれの改造船だろうか。

 

しかしそれ以上にあの機体は彼らの希望であり英雄の乗り込む船だった。

 

『大丈夫か?』

 

向こうのYT-1300から通信が響いた。

 

「この声…あの船は…!」

 

「あれが話に聞く船か…」

 

ジョーレンはピンと来ていなかったがジェルマンは明らかに目を輝かせていた。

 

それもそのはず、この声は英雄の声だ。

 

いくらジェルマンといえど聞いたことがある。

 

反乱同盟軍の、新共和国軍の将軍の声を。

 

千年期の鷹。

 

ミレニアム・ファルコン”は彼の地キャッシークで帝国軍と戦っていた。

 

 

つづく




ウィーーーーーーーース!!!!どうも〜Eitokuでーす!

えぇ本日は(1月18日)共和国クレジットとスパイスの価値を決める投票当日ですけども〜共和国クレジットに投票した方は…誰1人……誰1人いませんでした……

おかしいなぁ(諦め)
https://twitter.com/zp5yUj2usgteNZV/status/1483441335386263552


ちなみに来週のEitoku Inobeは決起に備えてウィルズ皇道派の青年将校達による楽しい二・二六事件を書くので多分ナチ帝国は書きません



多分


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運命への抵抗

「所長は人が良すぎる。被験者に対しても職員に対してもだ。せっかく素晴らしい論文や考えを持っていても彼の生ぬるいやり方では成果など出るはずがなない。やはり多少の犠牲を払ってでも我々は結果の果てを見届けなくてはならないのだ」
-ウェイランド研究所の職員の日記-


-第三帝国占領地 第十衛星-

衛星の制圧はほぼ成功したが敵師団は完全に取り逃してしまった。

 

ゴザンティ級を何隻か沈め打撃を与えはしたものの艦隊もスターファイター隊も第三旅団もそれどころではなく敵の被害は殆どないに等しいだろう。

 

しかもこちら側は国防軍の一個連隊の半数近くが持っていかれた。

 

まあこれはジークハルトの管轄ではないがそれでも友軍の痛手には変わりない。

 

しかし第十衛星が橋頭堡になった事により敵の防衛線に大規模な攻勢を仕掛けられる事が叶った。

 

周辺各地の帝国軍も新共和国軍や防衛軍を撃破し続々とここに集結中である。

 

既に二個兵団が到着し先遣隊を敵の防衛線に向ける手筈を行なっていた。

 

FFI(親衛隊情報部)将校を呼び出せ。作戦を伝達する」

 

「分かりました」

 

あちらこちらからも次の戦場への準備をする声が聞こえてくる。

 

それは衛星を陥落させたも等しいジークハルト達もそうだった。

 

「部隊の再編成は間も無く完了します」

 

「負傷兵の方は」

 

「ベルトヘルカー少佐からの報告によると後二時間もすれば全員手当て終了するそうです」

 

足早に歩くジークハルトにヴァリンヘルト上級中尉はそう報告した。

 

彼は振り返る事なく命令を伝達する。

 

「なら後四時間後に出立だ。それまでに全兵に準備をさせておけ」

 

「分かりました」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は頷いた。

 

目の前にはタブレットや地図を持ち寄って小会議を行う第三機甲旅団の指揮官や幕僚達の姿があった。

 

ほぼ全員がジークハルトに気付き敬礼する。

 

ジークハルトも敬礼を返し彼らに次の命令を伝えた。

 

「四時間後にここを出る。次の目標は敵防衛線の中央付近、最前線に位置するこの衛星に攻撃を仕掛ける」

 

「戦力は?」

 

アデルハイン中佐が質問を投げかけた。

 

「我々の一個旅団と支援の砲撃大隊が二つ、これで撃破する」

 

「衛星を攻撃するにしてはこの戦力だと少なくはありませんか?」

 

第三機甲旅団参謀のケルナー少佐は彼に問いかけた。

 

この衛星を攻略した時だって国防軍の二個連隊がいたはずだ。

 

それが二個大隊に、格段にスケールダウンしている。

 

おそらく上空には艦隊がいるだろうがそれでも地上戦力で当たるには少し少ないように感じた。

 

「我々はあくまで切り込み役だ。初撃を上手く与えられれば後は本隊が徹底的に攻撃してくれる。中佐、兵達の指揮や規律は?」

 

「問題ありません。このまま本格的な大規模戦に入ったとしても十分規律を保ったまま戦えます」

 

ヒャールゲン中佐の報告を聞きジークハルトは安心したように頷いた。

 

「哨戒中のハイネクロイツが戻ってきたら本格的な作戦会議を始める。それまだ各自適宜に休んだり部隊の編成を頼んだ」

 

それぞれの将校から「了解」という声が聞こえ皆バラバラにそれぞれの部隊へ戻っていった。

 

ジークハルトもしばらくホログラム状の地図を見つめてヴァリンヘルト上級中尉と共に艦隊の方へ戻ろうとしていた。

 

珍しくアデルハイン中佐も後に続いた。

 

「ジーク、いくら何でもさっきの戦力は嘘だろ?」

 

「何がだ?」

 

大体分かっているが一応聞き返した。

 

アデルハイン中佐は微笑浮かべ詳しく話す。

 

「次の衛星攻略だよ。そんな本隊があるならもうこの衛星についているだろう?」

 

「相変わらず鋭いな。だが我々は本当にただの先遣隊だ、嘘は付いていない。しっかりと主力の部隊は現れる」

 

「…どういうことだ?」

 

「何も主力が後ろから来るという訳ではないさ。まあボーターの時と大体同じだよ」

 

「ああ…なるほど」

 

何かを納得したようにアデルハイン中佐は苦笑と共に頷いた。

 

長い間共に戦ったからこそ分かる事だ。

 

「無論我々とてただ黙ってる訳ではない。いざという時は機甲戦隊を中心に敵司令部に直接攻撃を加えるつもりだ」

 

「そん時は前線は私に任せろ。お前は全体の指揮を頼む」

 

「ああ」

 

こんな風に前線を頼める友人がいるのは嬉しいことだ。

 

以前はもっといたのだがな。

 

振り返る暇はなくとも心には残っている。

 

「上級大佐」

 

ふと寂しげな表情で空を見上げていたジークハルトに通信士官が1人声をかけ敬礼した。

 

「何かあったのか?」

 

何か敵の通信でも傍受したのだろうか。

 

それとも司令部から別の命令でも届いたのか。

 

様々な可能性が脳内に浮かんだが士官の報告はどれも違った。

 

「コルサントからのご家族、奥様からです。親衛隊の後方部を介して通信を」

 

「ユーリアが?」

 

アデルハイン中佐は首を傾げた。

 

結婚式にも出てもらった彼だ、シュタンデリス家との面識は深いものがある。

 

それに一時期のアデルハイン中佐はユーリアの父であるフリズベン上級将軍の直属の士官だった事もある。

 

「何でも緊急の用事らしく…」

 

戦場にいる佐官以上の将校と家族が通信やホログラムの回線で面会する事は禁止されてはないがジークハルトの事を思ってユーリアはあまり通信をする事はなかった。

 

そんな彼女が珍しく戦場の、しかも最前線にいるジークハルトに連絡をよこしてきたのだ。

 

士官に言われずともその緊急性は十分理解出来る。

 

「分かった、今すぐ向かう。すまないが2人とも、部隊の方は…」

 

「任せとけ」

 

「さあ早く行ってください」

 

「ああ…」

 

少し心配を胸にジークハルトは足早に通信士官の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

-帝国領 オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド-

ジークハルト達が陥落させたこの惑星は完全に第三帝国の占領地となり次々と新たな施設が建設された。

 

元々皇帝の疑惑付きの惑星だ、何かにあやかりたいという事もあったのだろう。

 

第三銀河帝国が行う、親衛隊主導のとあるプロジェクトの拠点とされた。

 

既に仮拠点ではあるが施設は半ば完成しておりここから更に増築ししっかりとした専門の研究所にする予定だ。

 

上空には施設の開設を祝う為シュメルケ上級大将が乗り込むエグゼクター級“ルサンキア”や元の乗艦である“アークセイバー”らの艦隊が軌道上に佇んでいた。

 

資材と共にシュメルケ上級大将のラムダ級シャトルも地上に降り立った。

 

「Heil!」

 

出迎えの将兵から敬礼を受けシュメルケ上級大将の一向も敬礼で返す。

 

「早速施設を案内させてもらおう」

 

「はい、ヴォーレンハイト少将も首を長くしてお待ちですよ」

 

「そうか、じゃあ行こうか」

 

一行はそのまま施設の中へ入った。

 

様々な特殊な機材や部屋が用意され通常の帝国軍の施設や基地とは一線を画す作りとなっていた。

 

エレベーターで三階まで向かうと司令室があり何人かの幕僚と共にこの研究所の所長である“カスパー・ヴォーレンハイト”少将がいた。

 

元々彼は帝国軍の技術大佐で親衛隊に入隊した時は准将であったのだが今回のプロジェクトと研究所の責任者に任命された為少将に昇進したのだ。

 

シュメルケ上級大将が入室してくると全員が慌てて敬礼を返した。

 

皆親衛隊の軍服の上から白衣を着ている。

 

「遠いところからはるばるお越しくださりありがとうございます」

 

ヴォーレンハイト少将はシュメルケ上級大将にそう形式上の感謝の言葉を述べた。

 

上級大将も敬具はいいと合図を出し早速本題に入った。

 

「施設の稼働率は」

 

「現段階で90%、恐らく明日で完全にフル稼働出来ますよ。少なくともアカデミー機能だけは完全に運用出来ます」

 

「被験者達は?」

 

「リストアップされた生徒は皆集まっています。今はヴィーケル教官と共に散歩中ですよ」

 

ある程度の水準にシュメルケ上級大将は納得したように頷いた。

 

これだけ稼働しているならば後一年、半年と言わずにプロジェクトは上手くいくだろう。

 

フューリナーの方も施設を確保し既に研究を始めたと報告を受けている。

 

所詮はヒェムナーの道楽の延長だがもしこの二つの研究が成功したならば我々はついぞ最強の歩兵を手に入れられる。

 

「ならば良かった。この計画は、ヒェムナー長官だけでなく総統閣下も期待を寄せている。しっかりと頼むぞ」

 

「はい、ですがやはり疑問です…本当に“()()()()()()()()()()()()”しそれを他の人体へ移植する事など出来るのでしょうか…?」

 

ヴォーレンハイト少将は疑問符を浮かべた。

 

長い間このミディ=クロリアンとフォースの研究を行ってきたからこそ出る疑問だ。

 

彼は元々生物学などで高い評価を受け軍に技術士官として入隊した。

 

特に当時は軍や政府が独占していたクローン研究、フォースの根幹とも言える“ミディ=クロリアン”の論文は皇帝シーヴ・パルパティーンすら手放しに高評価する程の代物だった。

 

彼は試作ではあるが通常の人間より遥かに多くのミディ=クロリアンを体内に共生させたクローンを生成する事に成功したのだ。

 

その功績に目をつけたのが親衛隊のヒェムナー長官とシュメルケ上級大将、フューリナー上級大将だった。

 

共生値の高い被験者から培養したミディ=クロリアンを共生値の低い被験者に移植する事で人為的にフォース感受者を生成しようという実験を彼に任せたのだ。

 

当初ヴォーレンハイト少将はあまりの突拍子のなさに反対し様々な理由を並べ立てた。

 

しかし親衛隊の上層部と代理総統に押し切られ泣く泣く引き受ける事になった。

 

しかもミディ=クロリアンの移植実験だけでなく通常のフォース感受者の兵士としての教育も任されてしまったのだ。

 

無論これも断る事など出来ず二つの任務を実行していた。

 

「出来るも何も少将、君がやるのだよ。人為的にフォース感受者を生成出来れば我々の軍隊は最強の兵士を手にする事が出来る」

 

「それは分かっていますが…」

 

「そこでだ、まず彼を実験台に研究を進めろ」

 

シュメルケ上級大将は彼の後ろにいた幼い少年を前に出した。

 

コンプノア・ユーゲントの制服を着たまだ八歳、九歳くらいの幼い少年だった。

 

「彼は?」

 

その少年の事をヴォーレンハイト少将は尋ねた。

 

「君が初めて作った“試作”の子…とでも言えばわかるかな」

 

その事を聞いた瞬間ヴォーレンハイト少将の表情はガラッと変わった。

 

背後に控えている幕僚達も分かる程にだ。

 

まるで何か思い出したくない事を思い出してしまったかのように。

 

「名目上彼はフューリナーの子でね、名前を」

 

「“ブルクハルト・オットー・フューリナー”です」

 

ブルクハルトはか細い冷たさを感じる声で自分の名前を言った。

 

「彼はフォース感受者のカテゴリーに入る。彼を兵士として教育し彼を実験結果として最強の兵士にするのだ。まずは感受者に植え付けていく方が確実だろう」

 

ヴォーレンハイト少将は再びブルクハルトを見つめた。

 

幼い、幼すぎる。

 

この研究所の子供達もそうだが皆幼すぎる。

 

「では頼んだぞ少将、私は北西へ向かわねばならん」

 

そう言ってシュメルケ上級大将は部下と共に施設を後にし始めた。

 

残されたのはブルクハルトと名乗る少年と困惑や疑念だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム 旧新共和国領 ミタラノア宙域 惑星キャッシーク-

Uウィングはキャッシーク内に着陸し地上の新共和国軍の技術兵やウーキー族の技術者達によって整備を受けていた。

 

帝国軍は多角的な攻撃とスターファイター隊の大きな損失を受けて退却しひとまずキャッシークに平穏が舞い戻った。

 

元々ついこないだまでキャッシークは帝国軍の占領下だったのだ。

 

二度と祖国の土を踏ませるかとウーキー族の戦意は強くそれに感化された新共和国軍の将兵も今まで以上に強くなっていた。

 

結果的に今日まで帝国軍の侵略を防いでいたのだ。

 

ジェルマンはドリンクを飲みながらUウィングの近くを見つめた。

 

Uウィングから運び出した物資を受け取ったウーキー達がかなり喜んでいるのが分かる。

 

「本当に大喜びだな」

 

「ああ、俺も正直びっくりだ」

 

「それだけありがたいということだ」

 

遠くから声が聞こえ2人は急いで格好を整え敬礼した。

 

敬礼の先には迷彩服を着込んだ将校と軍服を着た将校がいた。

 

「新共和国情報部のエイレン・クラッケンだ。久しぶりだな大尉」

 

クラッケン将軍はまずジョーレンに手を差し伸べた。

 

ジョーレンも何かを懐かしみながら両手で将軍の手を握った。

 

「クラッケン将軍、まさか生きていたとは。ドレイヴン将軍に続いてあなたもやられたのかと」

 

「彼の分も私が戦わねば同盟の築き上げたスパイ網は完全に途切れてしまうからな。それに大尉はドレイヴンの部下ということで君の事はよく覚えている。会えて嬉しいぞ」

 

ジョーレンの直属の上官であったデイヴィッツ・ドレイヴン将軍は一時期このクラッケン将軍の下で工作員としての技能を学んでいた事がある。

 

その繋がりから彼の部下であったジョーレンもクラッケン将軍と深い面識があった。

 

そしてそれはジェルマンも同じだ。

 

「そして中尉、君も生きていて嬉しいよ。中将のことは残念だったが…」

 

「はい…ですが必ずストライン中将の思いは受け継ぎます」

 

クラッケン将軍はジェルマンのその力強い意志に頷きで敬意を示した。

 

艦隊情報部の幹部であったストライン中将は情報部全体の司令官であるクラッケン将軍の部下であり互いにかなりの信頼関係があった。

 

そしてそのストライン中将の一番の部下であるジェルマンもまたクラッケン将軍と面識があるのだ。

 

「君達のおかげで新共和国の情報網、スパイ網、補給網は復活しつつある。再び帝国に反撃する日は近いぞ」

 

クラッケン将軍はそう2人の活躍を評価すると彼の背後の司令官達を紹介した。

 

「彼が艦隊司令官のラスタル少将と本来のキャッシーク駐留部隊司令官のヘドワイン少将だ」

 

2人は律儀に敬礼しジェルマンとジョーレンも敬礼を返した。

 

「そして最高司令官の…」

 

クラッケン将軍の背後から足音が聞こえ1人の人間とウーキーが現れた。

 

「俺は“ハン・ソロ”、ミレニアム・ファルコンの船長だ。こいつは“チューバッカ”」

 

そのチューバッカと名乗るウーキーはシリウーク語で自己紹介をし大きな手で2人に握手した。

 

その後ハンも彼らと握手した。

 

「あんたらこの銀河を端から端まで飛び回ってるそうじゃないか」

 

「ええまあ」

 

「このキャッシークでようやく任務終了ですよ。随分と長い旅だった」

 

チューバッカも「お疲れ」と話している。

 

シリウーク語だけなら分かるジェルマンは「ありがとうございます」と丁寧に返した。

 

すると彼の後ろから何人かのウーキーが現れた。

 

恐らく族長や何かしらの長達だろう。

 

「全員集まったようだな。それでは大尉、例のものを頼む」

 

「はい将軍」

 

ジョーレンは手のひらサイズのホロプロジェクターを起動しホログラムを映し出した。

 

とある人物が映し出されその姿を見たハンは微妙な表情を浮かべていた。

 

『クラッケン将軍、お久しぶりです』

 

その声を聞き余計にハンは顎に手を当てチューバッカの方に助けを求めるように目を向けた。

 

しかしチューバッカは一声上げ肩をすくめた。

 

相棒に小さく裏切られてしまった。

 

「議員こそご無事で…」

 

『辛うじて助かりました。そして』

 

ホログラムのレイアはハンの方を見つめた。

 

ハンは気まずそうにしながらも第一声をどことなく慎重に放った。

 

「ああ…その…元気そうだな」

 

『あなたも、変わらないジャケットね』

 

「これも新品なんだがな…」

 

ハンはぎこちない雰囲気を捨てて真剣な眼差しを見つめた。

 

「生きててくれて本当によかった」

 

『私も、あなたも“()()()”も生きていてよかった』

 

「離れていても俺たちは家族だ。時々不安にさせる事もあったがそれでもあの子はずっと帰りを待っていた」

 

『もう少し掛かりそうだけど…きっと会えるわ』

 

「俺やお前に似て強い子だ。だがすぐに会える」

 

今までとは違う雰囲気が漂っていた。

 

皆どこか感動的な、涙を浮かべているような気がした。

 

ジェルマンもジョーレンも初めて見るレイアの一面だ。

 

「あの子を連れてすぐお前のいるところに向かうさ。そこのUウィング乗り、案内を頼む」

 

「えっでも…」

 

「ここの指揮とかはどうなさるんです?」

 

「我々にお任せください。むしろ議員の下にソロ将軍がいる方が我々も心強い」

 

ヘドワイン少将はそう進言した。

 

ラスタル少将もクラッケン将軍も頷いている。

 

「だがその前に少し寄って行きたい場所がある。なあにちょっとした近場だ、すぐに終わる」

 

『一体どこへ?』

 

レイアはハンに尋ねた。

 

ハンはニヤリと悪い笑みを浮かべると軽く話した。

 

「最後の、“()()()()()()()”を拾ってくるさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか…養子か…」

 

ジークハルトは少し悩む素振りを見せた。

 

その様子を察したユーリアは即座に謝った。

 

『ごめんなさい…勝手に決めてしまって』

 

「いや良いんだ、その場にいたら私だってきっと約束していたはずだよ。君のやってる事はきっと正しい」

 

悩むと言っても受け入れるかどうかを悩んでいるのではない。

 

ただ自分がその子に何をしてあげられるかという点だ。

 

マインラートならきっとその子とも仲良くやっていけるだろう。

 

だがただでさえマインラートに父親らしい事をしてあげられていないのにそのホリーに一体何が出来るだろうか。

 

だが考えてもどうしようもないだろう。

 

既にその子も今日から我が子なのだ、やれるかどうかではなく全力で育てなければならない。

 

ジークハルトは一瞬のうちに覚悟を決めた。

 

「しかしセレッドか…」

 

ジークハルトはその名前を何処か懐かしそうに口にした。

 

『知っているの?』

 

ユーリアはふと尋ねた。

 

ジークハルトはホログラム越しに頷いた。

 

「多分コルサント戦で一緒に戦ったと思う。とにかく戦いを終えたらすぐに帰るよ」

 

『ええ…でも無理はしないでね』

 

「当然、それじゃあ、愛してるよ」

 

ホログラムが消え通信が切れた。

 

ふと息を吐き背もたれに寄りかかる。

 

早く帰るとは言ったものの当分戦いは終わりそうにないだろう。

 

こう言う時に限ってつくづく「私がもっと優秀であったら」と思ってしまう。

 

そうでなくとも「彼がいてくれたら」とか「優秀な誰かが」と不必要な事を考えて自己嫌悪に陥る。

 

「そう自分を責めるなって。このまま戦線を切り破ってアンシオンに一撃入れればすぐに勝てるさ」

 

”声”を聞いたジークハルトは急いで立ち上がり後ろを見つめた。

 

本来は聞こえるはずのない人物の声が聞こえたからだ。

 

その事を示すように彼の背後には誰もいなかった。

 

「幻聴か…」

 

疲れている、いやそうではない。

 

信じたくないだけだろう。

 

ジークハルトは何処か沈んだ気持ちで部屋を退出した。

 

その後第三機甲旅団は敵の衛星へと向かった。

 

勝利の報告が流れてきたのはこれより僅か8時間後の事であった。

 

 

 

 

 

 

 

時は少しばかり前に戻り退却した第十衛星の駐留師団はそのままアンシオン本土まで後退した。

 

そしてクラリッサとマルスも成すべき事を成した為一旦本国のケッセルへ帰還する事となった。

 

迎えのスター・デストロイヤーに乗り込み名残惜しくはあるがこのアンシオンを、戦場を去って行った。

 

「ようやく本国へ帰っていただけるのですね…」

 

インペリアル級の艦長であるペリオル大佐はため息まじりに安堵の言葉を漏らした。

 

「ええ、どうせならこのまま師団を率いて親衛隊なんて蹴散らしたかったのですがここで下手に名が上がっても困りますし致し方ありませんわ」

 

現状ケッセル勢力は中立であり下手すると第三帝国に宣戦布告されかねない。

 

そうなったらそうなったで面白くはあるのだが今はまだその時ではない。

 

だからアンシオンとはここでお別れだ。

 

「アンシオン軍はこのまま勝てますかね」

 

マルスがふとクラリッサに尋ねた。

 

ペリオル大佐は下手に意見を振られたくないのでスッと身を引きクラリッサは少し考え口に出した。

 

「恐らく無理ですわね…元から戦力差に大きな開きがありますし何よりあの軍には…」

 

ファースト・オーダーなどの存在を知らない以上第三帝国はこの銀河系最強の国家だ。

 

それに付き従えば当然多くの利益や権威が手に入る。

 

ならば当然見限る者も出てくるだろう。

 

「ですがあの堅物の元帥はそう簡単には死にませんわよ。むしろ最後に一花咲かせてあの連中に切り傷をつけてくれるはずですわ」

 

その回答にマルスは頷き自身でも考えを纏めた。

 

「ちなみにペリオル艦長はどうなんですか?」

 

「え”っ”!?」

 

潰れた声を上げペリオル大佐は「やりやがったな」という表情でマルスを見つめた。

 

それに便乗しクラリッサも一言付け加えた。

 

「私も、艦長の意見を少し聞きたいですわね」

 

「そっそんなぁ…」

 

ペリオル大佐は副官や副長、他の将兵に助けを求めるように見つめたが苦笑いを浮かべ離れていった。

 

「聞きたいなぁ」

 

「聞きたいですわぁ」

 

大佐は完全に追い詰められ孤軍奮闘状態となってしまった。

 

「えっその…」

 

ペリオル大佐は完全に狼狽え乗組員達は「お労しや…艦長…」と心で思われていた。

 

「どっどうしてこんな目に…」

 

エンドア後の帝国軍将兵の不幸は何も敗北と皇帝を失ったことだけではなかった。

 

付くべき上官を間違えるとこうなってしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「裏切っただと…ヘドレーがか…?」

 

ドウル元帥は信じられないような口振りで報告してきた士官に尋ね返した。

 

他の幕僚や司令官達も困惑し口を閉ざしていた。

 

士官は小さく頷き報告を続ける。

 

「ヘドレー中将の第二兵団及び一部部隊の裏切りにより中央の防衛線が完全に崩壊!もはや戦線は機能していません!」

 

士官の報告はその口振りよりも深刻なものであった。

 

防衛線の最高司令官に任命したアンシオン軍のヘドレー中将が麾下の部隊と共に第三帝国に寝返ったのだ。

 

その結果衛星を丸々一つ失い一部部隊も壊滅。

 

ヘドレー中将に続くように他の部隊指揮官達も裏切り幾つかの衛星が陥落した。

 

ジークハルト達が向かった衛星も駐留部隊の一個師団が裏切り他の部隊が壊滅、ジークハルト達は戦うことなく僅かな時間で衛星を一つ堕としたのだ。

 

しかも第三帝国軍は必要に中央に謀略と物理的な攻撃を仕掛けた。

 

その結果中央の防衛線は完全に崩壊し大きな穴が空いてしまったのだ。

 

しかもさらに最悪なのがエグゼクター級を旗艦とした敵軍の一個艦隊がこちらに向かっているのだ。

 

セキューター級のような揚陸艦も多数確認されその総兵力は計り知れない。

 

「現在両翼の部隊が辛うじて後退に成功しましたが…」

 

ドウル元帥は震え目線を落としていた。

 

しかし命令は確実だ。

 

「全部隊を最終地点まで後退させろ…もはや前提から崩れた…」

 

「はい…」

 

士官は命令を伝える為に司令室を後にした。

 

士官の退出を確認したドウル元帥は全身にみなぎる怒りを吐き出した。

 

「裏切っただと…ヘドレーめ……ふざけるなッ!!」

 

手に持っていた指揮棒を思いっきりテーブルに叩き付けた。

 

凄まじい音が鳴り響きドウル元帥の声と共に一部の幕僚達ビクついた。

 

そのまま彼はテーブルを思いっきり拳で叩きつけ怒りを吐き捨てる。

 

どうしようもないものばかりだが。

 

「ふざけるな!!薄汚い裏切り者どもめ!!恩を忘れやがって!!私が助けていなければ新共和国によって惨殺刑にされていたのだぞ!!それを奴は!!恩を仇で返してきやがった!!」

 

「気持ちは分かりますがまずは冷静に…」

 

「冷静にだと!?なってどうする!もはや我々は終わりだ!!既に多くの部隊が裏切り者によって引き抜かれ!!壊滅した!!あの防衛線にはほぼ全ての戦力を注ぎ込んだのだ!!そのうちの1/3が一瞬にして蒸発した!!いや実際はそれ以上だ!!しかも敵の一個艦隊が向かってきている!!もはや防衛など不可能だ!!」

 

幕僚の進言を無視しドウル元帥は激昂し怒りを吐き散らした。

 

なまじ他の軍将となった将校達とは違い戦況や状況を認識出来るせいでその絶望的な状況がすぐに分かった。

 

そもそも現在アンシオン軍が保有している艦艇ではエグゼクター級に勝てる代物などない。

 

艦隊戦でのこのままでは敗北は必須だ。

 

それ故に彼に襲う絶望感は計り知れなかった。

 

だからこそ怒りも長く続かずすぐに椅子に座り込んでしまった。

 

「この戦いはもはや負けだ…もう勝てない……私は死ぬ…」

 

他の幕僚や司令官達もかける言葉が見当たらない。

 

長い付き合いのハーウス将軍でさえ言葉を失っていた。

 

「だが…だが私は、諦めるつもりはない…お前達よく聞け」

 

ドウル元帥は幕僚や司令官達を近づけさせた。

 

「残った戦力と市民を全て“()()()()()()()()()()()()()()()”…お前達も皆、ファースト・オーダーへと向かえ。そしていつしかファースト・オーダーと第三帝国が戦う時、全力であの帝国を叩き潰せ…!あの組織は必ず帝国と戦う。その時、我がアンシオンの軍があの第三帝国に復讐の一撃を入れろ。私は最期までここに残り敵を巻き込んで死ぬ。お前達は皆生きてあの帝国が滅びる瞬間を1人でも多く目にするんだ」

 

「元帥閣下…」

 

「これは私の最後の命令、そして約束だ。必ず第三帝国を倒せ!頼まれてくれるか…?」

 

幕僚や司令官達は突然の発言に困惑していたがやがて全員が覚悟を決め頷いた。

 

そして代表として最も信頼の高いハーウス将軍が元帥の前に跪きその手を握り誓った。

 

「必ず…!必ず生きて帝国を倒します…!そして我らの真の帝国を…!」

 

その力強さから信頼が読み取れる。

 

ドウル元帥は小さく頷きハーウス将軍の手を握り返した。

 

「頼んだぞ…!」

 

「はい…!」

 

元帥は立ち上がり外を見つめた。

 

そして呪詛のように独り言を呟いた。

 

「只では死んでやるものか…!一兵でも多くファースト・オーダーへ逃し抵抗してやる…!そしてお前達の雑兵どもを一兵でも多く巻き込み皆地獄へ引き連れていってやる…!」

 

敗北を悟ったとしてもドウル元帥の意志は負けてはいなかった。

 

そして第三帝国へ最後の、新たな一撃を加えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム テラーブ宙域 ルーサン星系 惑星ルーサン-

ミレニアム・ファルコンとUウィングがこのルーサンの大気圏内に突入した。

 

「将軍、一旦離陸地点を探しますか?それとも上空から捜索しますか?」

 

ジェルマンは通信機を口に当てミレニアム・ファルコンに通信を介した。

 

『いや、このまま上空から捜索する。恐らくXウィングに乗ってきているはずだ、すぐに分かる』

 

「了解」

 

通信が途切れジェルマンはセンサーを起動し捜索を始めた。

 

「しかしルーサンか…歴史の通り大規模戦の跡があちこちに垣間見えてる」

 

このルーサンこそが旧共和国の最後の宗教戦争の舞台であるルーサンの戦いの地だ。

 

草木が生い茂っていてもあちこちに瓦礫や破片が並び不自然に草木が生えていない場所がある。

 

逆に都市部を植物が覆い被して隠している場所もあった。

 

もはやここにあったかつての文明は消えてしまったのだろう。

 

戦いの戦火に焼かれ全て灰と化してしまった。

 

この調子で銀河系から争いが無くならねばもしかするとやがて銀河系全てもこうなってしまうのだろうか。

 

そんな一抹の不安を消し去りジェルマンは捜索に専念した。

 

「きっと相当の戦いだったんだろうね」

 

「ああ、それはそうと機体は見つかったか?」

 

「いいや、全然だよ。まあまだ十分も経ってないし仕方ないと言えば仕方ないけど…」

 

「焦らずに探せよ」

 

「分かってる」

 

会話を交わしながらジェルマンはセンサーを確認しながら目視でも捜索を開始する。

 

もしかしたら熱源体を隠すよう施しを加えているのかもしれない。

 

最終的に頼れるのはやはり自身の目だ。

 

だがそれは地上の方でも同じだった。

 

この惑星に入ってくるミレニアム・ファルコンとUウィングを確認している者達がいた。

 

1人は黒っぽい服を着た金髪の青年が洞穴に隠された“X()()()()()”の近くからその2機を見つめていた。

 

そしてファルコン号の方を見つけるなり口を開いた。

 

「R2、どうやら向かえが来たようだ」

 

Xウィングの近くからアストロメク・ドロイドが姿を表し電子音を鳴らした。

 

そのドロイドもファルコン号を見つめまた電子音を鳴らす。

 

「まさか向こうから来るなんて。きっとハンの考えだな、とにかく向こうに合流しよう。ここは危険だ」

 

アストロメクも電子音で賛同しXウィングの方へ戻っていった。

 

青年もXウィングの方に戻り最後に一度だけ振り返り2機を後ろ姿を見つめていた。

 

そして別の者達もまた彼らのことを観測していた。

 

デス・トルーパーやパージ・トルーパーのような特別なトルーパー達を率いているアーマーを着込んだ“()()()()”が。

 

ジェダイとシス、最後の大規模戦の地で彼らは巡り会う。

 

それはフォースを巡る新たな戦いの始まりでもあった。

 

そして出会いの場でもあった。

 

 

つづく




ウィルズ昭和維新を断行すると約束したな



あれは嘘だ




                  (     
                   )    う
                   (    あ
                   )    あ
                  (     ぁ
                        ぁ
                  _/    ・
                  ___|___    ・
                   ё    ・


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新たなるジェダイ

「大臣達が次々と蹴落とされ新たに、親衛隊の忠臣方に慕われている役人が昇進し大臣となって行く姿はあの当時でも単なる権力闘争の敗北には思えなかった。しかし私は声を上げられなかった。それは単純に臆病だったからだ。他の誰かがどうとかではなく私が臆病だったからだ。誰がどう言おうとも私のせい、私の罪は私にある。声を上げなかった罪は彼らを許してしまった罪と同罪だ。私の大罪と最大の後悔は、あの第三帝国の小役人として過ごした間に全て詰まっていた」
-元第三銀河帝国職員の回想録-


-アンシオン衛星周辺 エグゼクター級スター・ドレッドノート ルサンキア艦内-

ついにシュメルケ上級大将率いる親衛隊の一個艦隊が到着した。

 

エグゼクター級を旗艦とし二十隻以上のインペリアル級、付属艦や他の艦隊も合わせれば有に百隻以上を超える艦船の軍集団が北西に支援に来たのだ。

 

しかしこれでも通常の宙域艦隊よりは随分とコンパクトなものだ。

 

シュメルケ艦隊はインペリアル級の数では若干通常の宙域艦隊を上回ってはいるもののその他の艦船の数が完全に下回っている。

 

数百隻に対し通常の宙域艦隊は千六百隻以上の艦船を保有しておりその差は計算するまでもないだろう。

 

あくまでこれは一般的な数字とは言え同盟時代にはあのライカン将軍すらも苦渋の声を上げていた。

 

それは帝国が崩壊しても同じ事で今もなお第三帝国には六千隻以上のインペリアル級が存在しており他の宙域にもかつての帝国艦隊が惑星防衛艦隊として存在している。

 

このアンシオンのように。

 

帝国を打ち倒す事は出来ても完全に滅ぼす事は出来なかったのだ。

 

「一個艦隊到着…敵の調略部隊も合わせてこれで完全に形勢逆転だな」

 

アデルハイン中佐が密かにジークハルトに耳打ちした。

 

ジークハルトも頷き言葉を返す。

 

「しかもエグゼクター級とシュメルケ上級大将だ。上手く行けばアンシオンの艦隊は壊滅し敵も降伏するかもしれん」

 

「確かに、少なくとも艦隊の戦力はこちらが上回っているわけだしな」

 

「だがよ、そう簡単に敵が降伏するか?」

 

アデルハイン中佐の隣にいたハイネクロイツ中佐が遠くから疑問を投げかけた。

 

「俺達と同じ諦めの悪い元帝国下りの連中だぜ?なんなら最後の一兵になるまで戦いそうな気もするが…」

 

彼の言う事はここ数年の出来事や事実を読み取ればすぐに分かる。

 

もはや勝機などないに等しい時に行われたジャクー戦ですら最終的に現地の帝国軍は一ヶ月近く戦っていたのだ。

 

勝てないと分かっていても最後の最後まで、命尽き果てるまで戦う。

 

それは一兵卒だけでなく帝国の将校や上級将校達にも同じような気迫があった。

 

むしろそうでない者は「臆病者」や「無能者」とされているだろう。

 

かく言う彼らだってコルサントを占拠し新共和国と戦いに臨んだ。

 

人の事をとやかく言えた口ではないがだからこそ相手がよく理解出来た。

 

「確かにな…そうなった場合殲滅戦も免れないか」

 

「戦力は我々が勝っているとはいえ気を引き締めないとな」

 

「それにまだ新共和国の連中も残っているしこの戦いまだまだ序盤に過ぎない。長くなるぞ、もっとな」

 

ジークハルトはモーデルゲン上級大将に言われた言葉を思い出しながらそう呟いた。

 

上級大将が言っていた元帝国の敵というのは彼らだけではないだろう。

 

むしろ彼らなど序の口に過ぎない、本当の敵はもっと奥にいるはずだ。

 

例えばそう、“()()()()()()”。

 

有り得ない話ではない。

 

あの混乱期に未知領域へと撤退し勢力を未だ保持し続ける軍勢がいてもなんらおかしくはないのだ。

 

もしそうだとしたら彼らとも戦うのであろうか。

 

同胞同士の殺し合いはもうとっくに三、四年も前に経験済みだがまたやりたくはないものだ。

 

それにこのまま行けばもしかするとあの子だって……。

 

そんなジークハルトの思考は一時的に停止された。

 

ドアが開きFF将校の少佐が入室したからだ。

 

少佐は高らかに宣言する。

 

「シュメルケ上級大将の到着です」

 

再びドアが開き数名の将校を背後に従えた親衛隊最高司令官が入室した。

 

当然のようにジークハルト達は敬礼しシュメルケ上級大将を出迎えた。

 

上級大将も敬礼を返し彼は口を開いた。

 

「ご苦労、勇敢な総統の尖兵諸君。君達の働きによって帝国はさらに復活しつつある」

 

「全ては第三帝国と総統のために」

 

別の部隊指揮官がそう言い放ちシュメルケ上級大将も満足げに頷いた。

 

彼は1人1人に握手をして回った。

 

そして一番最後の番となったジークハルトの前に立ち止まった。

 

「シュタンデリス上級大佐、よくやった。あの衛星奪取と周辺域の防衛軍と新共和国軍の撃滅によりより大規模な部隊の展開が可能となった」

 

「ありがとうございます。しかし敵部隊を丸々逃がした挙句国防軍の一個連隊が……」

 

「それは国防軍の管轄だ。君の旅団はそれらの犠牲を差し引いても一個軍団ほどの働きをしてくれた」

 

ジークハルトは再び敬礼し感謝の意を伝える。

 

シュメルケ上級大将は静かに頷き彼に次の作戦の展開を教えた。

 

「我々はこのままアンシオンを制圧した後、ギラッターⅧを突破しラゴなどを制圧する。ここにも以前中小規模だが旧帝国軍の勢力が確認出来る」

 

「戦力はどのくらいですか?」

 

ジークハルトがシュメルケ上級大将に尋ねた。

 

「機動艦隊、小艦隊程度だ。しかしこの勢力も敵対するかは我々に掛かっている。もしアンシオンで絶対的な勝利を収めた場合恐らく彼らも我々に与する事だろう」

 

「つまり今後の作戦展開はこのアンシオンにある」とシュメルケ上級大将は付け加える。

 

確かにその程度の勢力ならアンシオン軍敗北によって「我々では勝てない」という事を知らしめられるだろう。

 

古典的なやり方だがそれ故に効力も大きいしそれに相手は元帝国軍なのだから戦わない事を選んでくれれば逆に戦力として組み込める。

 

「このまま艦隊戦に持ち込み敵の防衛線を打ち破る。そしてまず上陸部隊としてベイリッツの師団が先行して突撃する」

 

「我々の旅団はどうすれば?」

 

「君の旅団はこのまま第二次の主軸部隊となってもらう。ベイリッツが突撃し君達が支援する。出来るな?」

 

「可能です」

 

「よろしい、それと君の旅団のヒャールゲン中佐を少しの間借りたい。いいか?」

 

ジークハルトは少し首を傾げ疑問とともに結論を述べた。

 

「可能ではありますが何故中佐を…?それに少しの間職務から離れるのであれば代理の将校を配置しませんと。専門職の総監無くしては規律管理にも限度がある」

 

「その事については問題ない、ヴェーク中佐」

 

FFSBの白い軍服を着た中佐がシュメルケ上級大将の前に立ち敬礼した。

 

上級大将は彼を軽く説明した。

 

「一時的に彼が代理の憲兵総監となる。これで問題はないはずだ」

 

「なら構いませんが…」

 

ジークハルトは目線を奥の方にいるヒャールゲン中佐に寄せた。

 

気づいたヒャールゲン中佐は「お構いなく」と目線で訴えている。

 

「分かりました、我が旅団から憲兵総監をお貸ししましょう」

 

「ああ、では君の方も頼んだぞ」

 

「ハッ!」

 

敬礼しヒャールゲン中佐と共に部屋から去って行くシュメルケ上級大将らを見送った。

 

中佐や他の将校を後に続かせてシュメルケ上級大将は急足で“ルサンキア”の艦内通路を歩いた。

 

「さて行くぞ中佐。我々も徹底的な殲滅に近い大粛清を行うとしよう」

 

「はい閣下」

 

 

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム テラーブ宙域 ルーサン星系 惑星ルーサン-

Uウィングとミレニアム・ファルコンがルーサンの上空を飛び続け味方のXウィングの捜索を続けていた。

 

しかしすでに一時間近くが立っているのにも関わらず機体は見つからない。

 

「将軍、一旦地上に着陸して休憩したら如何でしょうか。このまま捜索していても埒が空きません」

 

『そうだな、指定したポイントに着陸する』

 

「了解、聞いたかジェルマン。休憩だ」

 

捜索を続けるジェルマンに声をかけ片手で彼を揺さぶった。

 

「ああもうちょっと…ん?」

 

ジェルマンはコックピットから後ろを覗き込み何かを見た。

 

間違いなくUウィングに接近してくる何かを。

 

「ジョーレン!回避を!」

 

「あっ?センサーには何にも…」

 

「右でも左いいから早く!」

 

「仕方ねぇなぁ…」

 

そう言いジェルマンは操縦桿を右に倒し右側に旋回した。

 

あまり乗り気ではなかった為反応が遅れたのか、それとも不幸中の幸いだったのかは分からない。

 

しかし危機一髪であった。

 

旋回したUウィングに大きな振動が遅い船体を擦る音がコックピット内に木霊した。

 

ロケット弾のような一発の弾頭がUウィングの船体を掠めたのだ。

 

「ああなんだクソ!」

 

「やっぱりなんか撃たれたんだ!」

 

苛立つジョーレンに他所にジェルマンは冷静に分析した。

 

しかしジョーレンは未だ信じられない様子でいる。

 

「だがセンサーには映っていなかった!ステルス製品だっていうのか!?」

 

「とにかく目視で確認するしかない!」

 

そう言ってジェルマンは再びUウィングのコックピットから外を覗き込んだ。

 

再び何発かの飛翔体がUウィングに向かってくるのが分かる。

 

「また来てるよ!」

 

ジェルマンは焦りながらジョーレンに報告した。

 

ジョーレンも額から冷や汗が出ているのが分かる。

 

「何とか回避する…!それとお前は例のシステムを立ち上げてカメラで確認しろ!迎撃出来れば少しは楽になる…!」

 

「わかった!」

 

端末を起動しジェルマンはシステムを起動し始める。

 

センサーが使えない為ジョーレンは感覚で弾頭を避けるしかない。

 

操縦桿を一回転させ機体を反転させる。

 

そのままUウィングは一回転し弾頭二発がUウィングの前方で誤爆し爆散した。

 

しかし再び飛翔体は放たれUウィングを襲う。

 

「たくっ!これじゃあ全く休憩に入れねぇっての!」

 

「起動した!」

 

ジェルマンはその報告と共に引き金を引き飛翔体を破壊する。

 

「そのまま頼む、こっちは将軍の方に連絡を取る」

 

「頼んだ!」

 

ジェルマンは再び引き金を引き放たれる飛翔体を迎撃し続けた。

 

Uウィングの通信システムを起動し隣を飛ぶファルコン号に通信を掛けた。

 

「こちらUウィング!現在攻撃を受けています!」

 

『大丈夫か!?』

 

「何とか迎撃していますがっなぁっ!」

 

再び機体に振動が響き警報が鳴り出す。

 

ダメージを食らった事を報告する警報だ。

 

「どうした!?」

 

「ちくしょう散弾を撃ってきた!何とか撃墜したけど機体に損傷が!」

 

「あぁ何とかして着陸する!まだ迎撃を怠るなよ!」

 

『おい機体から煙が上がってるぞ!』

 

ハンはUウィングの損傷状況を伝えた。

 

恐らくまだ損傷は軽度だろうがこのまま飛び続ければいずれ深まる可能性がある。

 

こうなったら不時着してでも地上に降り立たなければならない。

 

「Uウィングを強制着陸させます!支援頼めますか!?」

 

『妨害電波なら展開出来る』

 

「それで頼みます!」

 

通信を切るとジョーレンは深く息を吐き操縦桿をしっかり握り締めた。

 

まだ機体は水平を保ち飛び続けている。

 

着陸するには今しかない。

 

「さて出来るか…」

 

機体の高度を徐々に下げ地面に近づけていく。

 

この周辺は森林に囲まれており下手に着陸すれば余計な損傷を増やしてしまう。

 

しっかり予定された着陸場所に降り立たなければならない。

 

機体を微調整しながら木々や山々を避け速度を維持する。

 

「妨害電波だ!攻撃が!」

 

「ソロ将軍のおかげだ、俺達は今のうちに着陸するぞ」

 

「了解!」

 

これで背後の心配は無くなった。

 

後は着陸するのみ。

 

山を越え目標の平原がようやく見えてきた。

 

「よし着陸するぞ!」

 

機体を一気に減速させ右旋回しながら高度を下げる。

 

スピーダーのドリフトのようにUウィングは地面スレスレを飛びながら機体は完全に減速した。

 

そのままゆっくりとUウィングを地面に下し着陸した。

 

「っはぁ……何とか成功…」

 

ジョーレンは背もたれに寄りかかりまた大きく息を吐いた。

 

ゆっくりとシートベルトを外し側に掛けておいたブラスター・ライフルを手に取る。

 

ジェルマンは既にブラスターを手に取ってハッチの側に寄っていた。

 

「さてと…一足先に着陸したが…」

 

独り言を呟きながらジョーレンはUウィングのハッチを開け外に出ようとした。

 

するといきなりブラスター弾が開き掛けたハッチに直撃し火花を散らす。

 

足を下ろそうとしていたジェルマンとジョーレンは急いで身を機体の中に隠しブラスター・ライフルを構えた。

 

その行動はジョーレンの方が早く既に引き金を引き敵の方向に弾丸を発射していた。

 

遠くからコツンと音が響き何かが倒れた。

 

「いきなり敵襲かよ!」

 

その言葉に応じるかのように弾丸の雨は次々とUウィングに直撃した。

 

ジェルマンとジョーレンもハッチから身を乗り出し迎撃するが敵は一発、二発では撃破出来なかった。

 

「何だあのドロイド!」

 

「ありゃコマンドータイプのドロイドだ!しかも帝国軍用に改良されてやがる!」

 

問いかけるジェルマンにジョーレンはそう答えた。

 

クローン戦争中にあのドロイドと散々戦い危うく死にかけた事もあるジョーレンは敵のドロイド・コマンドーの弱点を正確に分析し攻撃し始めた。

 

が、そう簡単に敵は倒せなかった。

 

「ああクソ!野郎頭部の守りが強化されてる!!一撃でぶっ倒せねぇ!」

 

以前のBXシリーズ・ドロイド・コマンドーは首回りや頭部など少なからず弱点があった。

 

しかし頭部には強化装甲が取り付けられより頑丈な設計となっている。

 

それでいてその機動力と予測の難しい動きは以前のままだ。

 

射撃も正確で危うく被弾する可能性すらある。

 

「チッ!」

 

ジェルマンはピンを抜きインパクト・グレネードを投げつける。

 

しかし機敏な動きにより爆発を寸前で回避されドロイドを一体破壊する程度しか叶わなかった。

 

「支援頼む!それよりこっちの方が効果的だからな!」

 

ジェルマンはブラスター・ライフルを持ち換えドロイド・コマンドーを狙撃する。

 

一発だけでは撃破には至らないが正確に二発、三発と直撃させれば破壊出来る。

 

ジョーレンはピンを抜き応戦するドロイド・コマンドー達の中央に筒状のグレネードを投げつけた。

 

直後グレネードは青白い発光と共に何本かの電撃を発現させドロイド・コマンドー達を巻き込んだ。

 

電撃を食らったドロイド・コマンドーはバタバタと倒れ機能を停止している。

 

「イオン・グレネードか!」

 

「ただの爆発物よりドロイドにはこっちの方が効果的だ!」

 

そう言い片手でブラスター・ライフルの引き金を引き続けながらジョーレンは再びイオン・グレネードを投げつける。

 

数体のドロイドが機能停止し敵部隊の進軍と攻撃の手が一旦止まる。

 

その隙に2人はブラスター・ライフルの精密射撃を浴びせ掛け確実に数を減らしていく。

 

しかしドロイド・コマンドー達も反撃の弾丸を浴びせてくる。

 

「ジョーレンあれを!」

 

ジェルマンは上空を指差した。

 

ミレニアム・ファルコンが地面に大きな影を作りながら降り立とうとしている。

 

『頭を下げておけよ!そら行くぞ!』

 

ファルコン号の船体下部の四連レーザー砲が放たれ地面に大きな爆風と土煙を巻き起こした。

 

巻き込まれたドロイド・コマンドー何体かが破壊され残されたコマンドー達も一旦物陰に隠れながら後退し始めた。

 

ファルコン号の火力は高くドロイドが隠れる岩ごと周囲を吹っ飛ばし敵を破壊する。

 

すると何か指令を受け取ったドロイド・コマンドー達は完全に退却を始めた。

 

「撤退していく…?」

 

「戦術的な撤退だな。とにかく今のうちに何とか機体を修復しないと」

 

ブラスター・ライフルを構えながら慎重にジョーレンはUウィングから降り立った。

 

ジェルマンも後に続き周囲を見渡す。

 

隣にはミレニアム・ファルコンが着陸しハッチが開いている。

 

「助かりました。危うくUウィングに閉じ込められるところだった」

 

「ああ全くだ。しかしこんなところまで帝国軍が手を伸ばしてるだなんて知らなかった」

 

するとハンの隣にいるチューバッカは「来る前によく確認しないからだ」と言った。

 

「ああ、だが軌道上に艦隊もないしルーサンまでは来てないと思ったんだ」

 

「それに連中が使ってるのはコマンドータイプのドロイドです。改造もされてるし恐らくここに何かしらの価値があるのでしょう」

 

ジョーレンの言葉にチューバッカとハンは顔を見合わせた。

 

少し考えハンは口を開いた。

 

「…やっぱりあいつを探してんのかな」

 

チューバッカもうなずいている。

 

「あいつとは?」

 

ジェルマンは2人に尋ねた。

 

「俺達が探してる人物だ。ついこないだまでは自分のケツも拭けねぇガキだったんだがな…今じゃ…っ」

 

ハンの話を閉ざすかのようにそれは響いた。

 

けたたましいもはや聴き慣れてしまった音。

 

その音と共に周囲に留まり直していた鳥は再び逃げ出しまた別の音が響いていた。

 

ハンやジョーレン達の間に冷ややかな緊張が張り詰めた空気が流れ冷や汗が垂れる。

 

迂闊だった。

 

呑気に話している場合ではなくもっと警戒すべきだった。

 

敵はあのドロイド・コマンドーなのだ。

 

しかも強化されておりもっと警戒心を強めるべきだった。

 

敵は、僅かながならに生きていたのだ。

 

少なくともジェルマン達を識別しブラスター・ライフルで攻撃出来る程度には。

 

彼らの背後から銃声が響き全員にその事が再確認された。

 

だが、不思議な事に誰1人死んでもいないし怪我もしていない。

 

それは何故か。

 

後ろを振り返ってみればわかることだ。

 

一行は恐る恐るゆっくりと後ろを振り返った。

 

なんとドロイドが発射した弾丸は“空中でそのまま止まっていたのだ”。

 

赤い光弾が微弱な音を立てながら空中に固定されている。

 

そして彼らがその状況を目にすると空中に固定されたブラスター弾は発射したドロイド・コマンドー本体に直撃した。

 

装甲に被弾し火花を上げる。

 

ドロイド・コマンドーはそこで限界に達したのか機能が停止した。

 

「この技は…」

 

チューバッカも「間違いない」と吠えた。

 

全員が目線をドロイドから上の方へ見上げた。

 

そこには一体のアストロメク・ドロイドと黒いフードを被った青年が立っている。

 

青年はフードを下ろしその素顔を表す。

 

その姿は間違いなく“()”だった。

 

ハンとチューバッカは安心したように笑みを浮かべジェルマンは憧れのような目線を向けていた。

 

ジョーレンはよくわかっていなさそうだったが。

 

「無事だったみたいだね」

 

そこには彼がいた。

 

新たなる希望。

 

選ばれし者の子。

 

新時代のジェダイ。

 

ルーク・スカイウォーカーが。

 

 

 

 

 

 

 

-未知領域 惑星イラム軌道上 エグゼクター級スター・ドレッドノート エクリプスブリッジ-

アンシオンから離脱してきた将兵の受け入れは順調に行われていた。

 

脱出してきた将兵達は皆ファースト・オーダーが拠点の一つとして構える惑星イラムで合流していた。

 

ここは彼らにとってひとまずの安息の地だが最終的な目的地ではない。

 

彼らにはまだまだ旅路を進んでもらわなければならない。

 

ここはその為の休憩地点なのだ。

 

「アンシオンの第一陣は問題なくイラムに到着しました」

 

「そうか、では準備出来次第頼むぞ」

 

「了解!」

 

士官からの報告を受けスローネ大提督は次の命令を出すよう頼んだ。

 

そしてふとしたように“エクリプス”のブリッジからファースト・オーダーの艦隊と脱出してきたアンシオンの艦隊を覗き込む。

 

まだ殆どの艦が無傷で戦闘があった事などまるで嘘のようだった。

 

「タイタン中隊はどうなっている?」

 

スローネ大提督はアンシオンに派遣した精鋭部隊の様子を尋ねた。

 

その問いに対し幕僚の1人が報告し始める。

 

「アンシオン軍の撤退を支援すると未だ戦場に残っています。撤退命令を出しましょうか?」

 

「いやいい、彼らなら上手くやってくれるだろう。隙にさせておけ、しかしバレるなよと伝えておけ」

 

「了解しました」

 

ファースト・オーダーの中でも一、二を争うエースパイロットの彼とファースト・オーダー最強の中隊ならば問題ないだろう。

 

バレるなとは言ったがその心配も皆無に近い。

 

ただ問題は。

 

「アンシオンが堕ちたとなれば次は我々だ。無論セオリー通りに対応するが…」

 

「不安は大きいのであろう?」

 

ブリッジの奥から老人の声と静かな足音と少し強い足音の二つが聞こえてくる。

 

この声は地上軍の総司令官として元帥から大将軍に昇進したホドナー・ボラム大将軍だ。

 

そしてもう1人はというと…。

 

「第三帝国の勢いは強い。ジャクー戦の我が軍を上回るほどだ」

 

「グランドモフランド、来ていたのか」

 

スローネ大提督はその顎髭とスキンヘッドが目立つ男に声を掛けた。

 

「ああ、未知領域の統治は思ったよりつまらないからな」

 

グランドモフランドはその称号の通りとまではいかないが惑星エクストリアの特別総督であった。

 

彼はボラム大将軍と同じようにラックス元帥によりシャドウ・カウンシルに選ばれかのジャクー戦では表の総司令官として新共和国軍と戦った。

 

後に命名される彼がジャクー戦の前に全部隊に放った「最終決戦演説」は敵将ギアル・アクバー元帥の「最終戦争演説」と並びジャクーの戦いの代名詞となった。

 

尤も、ランドにとってはこれ以上にないほど不名誉な事だが。

 

この戦いでは敗北してしまったがグランドモフランドは生き残りそのままケルーハン星雲で生き残りの部隊と共に残存勢力を結集していた。

 

その後スローネ大提督らファースト・オーダーと合流し彼はファースト・オーダーのグランドモフとなった。

 

現在ファースト・オーダーが未知領域で手に入れた領土の行政や統治は全て彼が担っている。

 

「しかし我々も阿漕な事をする。生き残る為には仕方ないとはいえ」

 

「分かっている。だが必ずしもこの行いが永続的なものとは限らん」

 

ボラム大将軍とグランドモフランドは彼女の隣に立ち味方の艦隊を見つめた。

 

スローネ大提督はそのまま話し続ける。

 

「我々は本来“()()()()()”ではなかった。我々はただ生き残ってしまっただけだ。だからこそ我々は失われた者達の遺志を引き継ぎ続けなければならん」

 

選ばれた者などごく一部、後は皆ただ単に死に損なったか生き残っただけだ。

 

それはこのファースト・オーダーも第三帝国もそうだ。

 

皆所詮は同じ穴の狢、一つ違えば皆同じ姿になっていただろう。

 

だからこそ外れてはいけないのだ。

 

託された遺志から。

 

仮に醜い姿になって亡霊に近しかったとしても。

 

だから我々は見極めるまで側にいる。

 

もし彼らが遺志から外れたのならその時は。

 

「我々は戦うさ、遺された遺志を貫く為にな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、俺は、俺達は進み続ける」

 

 

 

 

 

 

 

エクリプス”の艦内でその言葉はどこか誰かと重なっていたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日コルサントでは、いや第三帝国では衝撃的な事件が起こった。

 

親衛隊保安局のディールス長官の失脚を受けて第三帝国の権力バランスは大きく変化した。

 

まず経済大臣が解任された。

 

書面のみの冷たい勧告であり受け取った瞬間解任された財務大臣は愕然としたという。

 

そして次の日にはすぐに財務大臣が発表された。

 

COMPNOR上級委員で比較的親衛隊や代理総統と繋がりの深いワルター・フリンクが就任した。

 

それから二時間後、今度は外務大臣のゼールベリック大臣が解任された。

 

ゼールベリック大臣はその報告を聞いた途端「ついこの日がやって来たか」と何か悟り納得した表情を浮かべ彼はCOMPNOR委員など全ての職を辞任した。

 

しかし一番権力バランスの変化が大きかったのは帝国軍の方であった。

 

あの国防大臣、ヴィルヘルム・ブロンズベルクが「国防省及び国防軍の風紀を乱す行い」をしたとされ解任された。

 

代理総統や親衛隊に比較的協力的だったのにも関わらず失脚したのだ。

 

ブロンズベルク大臣は「でっち上げだ!」と憤怒し解任を取り下げるよう要求したが意見すら聞いてもらえず総統府から強制的に追い出されてしまった。

 

その姿はあまりにも惨め絶望感に溢れていて目も当てられなかったという。

 

そして国防大臣の職は解体されその穴埋めとして国防軍最高司令部政治長官という長官職が設置された。

 

軍部でも同様に同じような失脚が僅かな間に相次いだ。

 

特に地上軍と宇宙軍では参謀本部勤務の上級将校何人かが一斉に解任され退役に追い込まれた者もいた。

 

その大半は親衛隊や第三帝国の現在の政策に懐疑的な者ばかりだった。

 

そしてその後就任した者達は皆フリンク大臣のような比較的親総統派のメンバーだった。

 

特に新たに外務大臣に就任したヨーフェン・リーベンドロプは外交官でありながら親衛隊の名誉大将であった。

 

他のメンバーも大なり小なり繋がりのある者ばかりだろう。

 

後にブロンズベルク罷免事件と呼ばれるこの一連の失脚は少し雑に、強引に代理総統と親衛隊は政敵を排除し帝国を完全に乗っ取ってしまった。

 

もう元に戻る事は出来ない。

 

もう以前の姿には戻れないのだ。

 

帝国であってもかつての帝国は、()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部第六駐機場-

「政敵の抹殺、思ったより成功したな」

 

「むしろ成功しなければ我々の立場が危うくなりますよ」

 

親衛隊本部の駐機場でヒェムナー長官とハイドレーヒ大将は話していた。

 

周りには多くの親衛隊将校がいるが別に気にする必要はない。

 

彼らは皆ヒェムナー長官のは以下のようなものだ。

 

「これでようやく帝国の基盤が固まった。しかしブロンズベルクまで外す必要はなかったと思うが」

 

「彼はゼールベリックと繋がりがあった。あの計画に否定的な奴と繋がりがある時点で危険です。それに彼がいなくとも代わりはいる」

 

「そうだな…だがこれより重要なのは我々のミディ=クロリアン研究とフォース研究だ」

 

ヒェムナー長官は話を変え裏の研究の事を言い始めた。

 

それを聞きハイドレーヒ大将はどこか困惑したような表情を浮かべている。

 

正直そんな話よりも治安と計画の方を綿密に吟味したいのだが。

 

「ヴォーレンハイトの研究は必ず我々に神秘の力を齎してくれる。特にダークサイドのフォースはどんな暗がりであっても我らを常に照らし帝国の力になる」

 

「各収容所から感受者をリストアップし被験者を集めてはいますが…」

 

「それでいい、ハイドレーヒ。あの研究はホロコーストと並んで我々には必要不可欠だ」

 

ハイドレーヒ大将は相槌を打ちヒェムナー長官の言葉を右から左へ聞き流した。

 

別にフォースの存在自体は否定していない。

 

ただ、流石にやりすぎだ。

 

いくらなんでも度が過ぎている。

 

「新共和国との一連の戦いが終わったならモラバンドかドロマンド・カスにも行ってみたいものだ。あそこは帝国の、ダークサイドの聖地だからな」

 

「そうですか、それはそうとあれを。建築総監殿がおいでですよ」

 

若干鬱陶しそうにハイドレーヒ大将は腕を組みスピーダーの方に指を差した。

 

一台だけすぐ近くの駐機場に停まり担当士官によってドアが開けられた。

 

士官の敬礼を受け見慣れた男がが降り立った。

 

ヒェムナー長官も「ああ彼か」と納得し大した感想を表情に出していなかった。

 

制帽を被り通常とは違う色合いの親衛隊制服を着込んだ男は2人のまで向かってきた。

 

「やあ」

 

軽く声を掛け首都惑星建築主任総監“アベルト・シューペル”は2人に話しかけた。

 

彼は元々帝国の建築家だったが代理総統の台頭後はそのセンスを認められベアルーリン、今ではコルサントの首都改造計画の主任総監を担当していた。

 

「少しいいか?コルサントのアンダーワールド改装の件で話がある」

 

「立ち話でいいなら少し答えよう。アンダーワールドにはもう十分なほどの治安維持部隊と警察隊を展開しているはずだが?」

 

度々行っているアンダーワールドでの治安維持という名のエイリアンや反帝国主義者の逮捕は逆に治安を悪化させている一面があった。

 

終焉を悟ったエイリアンや反帝国主義者達は度々自決し、あるいは他人を巻き込み爆発物などで周囲を巻き込んで死ぬことが多々あった。

 

事例としてはごく少数なのだがそもそもアンダーワールドに潜むエイリアンの数が多すぎる為必然的にこのような爆破事件も増えてしまう。

 

アンダーワールド市民はこうしたどこから現れるか分からない爆発とエイリアン達を血眼になって探す保安局員や警察達の誤認逮捕を日々恐れていた。

 

その為度々シューペル総監が行うコルサント改造計画も中断される事が多くなっていた。

 

「それもあるが一番はポータルの件だ。FFSBのガンシップが着陸地点を誤ったせいで排水管の一部が破壊された。各隊に気を付けるよう指示を出して欲しい」

 

親衛隊保安局やエイリアン掃討を目的として展開された部隊は迅速に行動する事を求められる為度々周囲の損失を度外視して行動する傾向が見受けられた。

 

今回もその一つであり損傷は軽微とはいえ面倒なことになっている。

 

「それはすまなかった、忠告を入れておこう。しかし彼らの任務は帝国にとって最も重要だ、多少の事は目を瞑って欲しいものだ」

 

そうヒェムナー長官は忠告すると言いながらも部下達への弁護を行なった。

 

「だが処理機能の一部低下は市民への生活に影響が…」

 

「帝国が勝利し真の平和を得る為であれば市民も納得してくれるさ。それに何より多少の苦しみは市民を強くし帝国の勝利に繋がる。ダークサイドがそうであるようにな」

 

そう言いヒェムナー長官は近くにいた運転手を手招きした。

 

彼に「スピーダーの準備を」と要求し運転手は頷きスピーダーに向かっていった。

 

「これでもういいか?我々は総統府に向かい近況を報告せねばならん。それでは」

 

ヒェムナー長官は一瞥しスピーダーの方へ向かっていった。

 

ハイドレーヒ大将も軽く敬礼しヒェムナー長官の後に続いた。

 

別の士官にドアを開けられ2人はスピーダーの中へ入っていく。

 

その様子をシューペル総監はじっと見つめる事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星の軌道上をインペリアル級やエグゼクター級の艦隊が取り囲んでいる。

 

静かなる冷酷な艦隊は砲門を全て惑星の方へ向け威厳すら感じさせる面持ちで命令を待っていた。

 

一隻たりとも艦隊の隊形を乱さず惑星を包囲している。

 

総旗艦“ルサンキア”内でもそれは同様の事だった。

 

各艦からの情報を受け取ってはいるがそれでも静寂な空気が流れていた。

 

しかし沈黙を破る一言が将校達から放たれた。

 

「全艦配置に就きました。惑星の都市区画には巨大な惑星シールドが展開されターボレーザー砲では打ち破るのは難しいでしょう」

 

シュメルケ上級大将はその報告を聞き振り返る事なく尋ねた。

 

ブリッジの真ん中で後ろで腕を組むその姿は帝国軍では見慣れた指揮官のあるべき格好だがそれ故に恐ろしさすら感じる。

 

「敵の新共和国艦隊はどこにいる?」

 

「先行した偵察部隊によれば都市区画の地下要塞ドックに入港しているとの報告が」

 

「密かに人員を退去させるつもりでしょう」と別の将校は危険を示唆した。

 

「よろしい、全て予定通りだ。各巻に伝達、魚雷及びミサイル発射菅に対シールド貫通装備を展開しろ。軌道上爆撃を開始する」

 

窪みで司令を待つ下士官達が頷き“ルサンキア”の艦内や各艦に伝達を開始した。

 

当初から敵が惑星シールドを展開し攻撃を防いでくるのは予定されておりその為の準備もしてきた。

 

艦隊の展開は早く命令の伝達から一分も掛からないうちに準備を終えてしまった。

 

「全艦、準備完了しました」

 

下士官の報告を受けシュメルケ上級大将は冷たく命令を下す。

 

「撃て」

 

そのたった二文字の命令で艦隊は惑星都市に向け一斉に攻撃を開始した。

 

ミサイルや魚雷が地表へ向け放たれ流星群のような姿を作り出している。

 

しかし実際はシールドすら突破する破壊兵器の群れであり単なる流星群とは訳が違った。

 

ミサイルや魚雷は新共和国の残党が籠る都市シールドに接近し最も簡単に破ってしまった。

 

すかさず都市の対空システムが起動し迎撃を開始しようとするが何千以上のミサイルや魚雷を全て迎撃出来る訳もなく幾つもの侵入を許してしまった。

 

そしてそれは即ち破壊を意味する。

 

ビル街や道路に直撃した魚雷やミサイルはそのエネルギーを放出し全てを巻き込んで爆発する。

 

忽ち幾つもの爆発の光が都市に現れ破滅的な被害を生み出した。

 

幾つものビルが崩れ道路は崩壊し、対空砲も破壊された。

 

当然この中に住む住民が無事な訳がない。

 

逃げ惑う市民や未だビル内にいた市民は容赦のない攻撃を受け死んだ事すら認識せず蒸発した。

 

運良く爆風の被害が少なくとも落ちてきたビルやその破片を受けてより残酷で悲劇的な死を迎える。

 

絶望と恐怖の阿鼻が都市内に木霊し爆発の音により掻き消されていった。

 

この攻撃はやがては都市を守っている程のシールドにさえ影響を及ぼし始めた。

 

幾つかのシールド発生装置が破壊され徐々に都市のシールドが消失し始めている。

 

それだけではなくシールド発生装置にエネルギーを供給しているパイプラインや動力装置にも被害が出ている為シールドは弱まる一方だった。

 

当然上空の親衛隊艦隊もセンサーで検知していた。

 

「敵の惑星シールド出力、45%ほど低下しています」

 

「対空砲網も機能率が57%低下しています」

 

乗組員の正確な報告を受けシュメルケ上級大将は次の命令を下した。

 

「作戦を第二フェーズに移行する。全艦TIEボマー部隊を展開し敵要塞部に絨毯爆撃を敢行せよ」

 

命令を受けセキューター級やインペリアル級から何百、何千機のTIEボマーが出撃し惑星内へと向かった。

 

既に都市は見るも無惨なほど炎上し崩壊している。

 

都市を間近にTIEボマー隊の部隊長が命令を下した。

 

「全機プロトン爆弾及びプロトン魚雷装填。“()()()()()()”」

 

コックピット内の装置を起動し弾薬庫の爆弾を装填する。

 

敵はまだ僅かな対空砲で迎撃してくるがその稚拙な攻撃はTIEボマー部隊には当たらず逆にレーザー砲で返り討ちにされる程度だった。

 

護衛機すら一切いないのも納得出来るほどだ。

 

予定の地点に到達するとTIEボマー隊は容赦を見せず攻撃を実行に移した。

 

装置を押しプロトン爆弾を地表へ向け投下していく。

 

TIEボマーの大群から放たれるプロトン爆弾の雨が崩壊する都市に拍車を掛けた。

 

爆発が広がりいよいよこの都市は更地になろうとしていた。

 

いや、実際はそれよりもっと酷いだろう。

 

都市を消失させるだけでなく彼らはこのまま地面を砕き地下に潜む新共和国の要塞を引き摺り出そうとしているのだから。

 

都市が消失するだけでは飽き足らない。

 

それはもはや瓦礫の山しかないというのに未だ爆撃を続けるTIEボマー部隊を見れば分かる事だった。

 

道路だった地面は砕かれ自然のものが現れ始めている。

 

一部ではもう自然の地面すら崩れ掛けていた。

 

地下要塞が露わになるのは時間の問題だろう。

 

そしてこんな状況に耐えられなくなったのか地面の一部が不自然に開き始めた。

 

徐々にCR90コルベットやネビュロンBといった艦船が姿を表している。

 

「上級大将、敵艦船を発見しました」

 

「TIEボマー隊に攻撃させろ。それがダメなら艦隊での攻撃の開始だ」

 

命令を受けたTIEボマーの何機が先行し敵船団へ向けプロトン魚雷やイオン魚雷を放った。

 

ハッチの狭い場所では満足に対空砲すら展開出来ず偏向シールドすら張れずに魚雷を受けその場で爆沈した。

 

艦船の爆発によりハッチは崩壊し脱出しようと後に続いていたGR-75輸送船やXウィングなどを巻き込み岩石が崩落した。

 

唯一の出入り口が完全に塞がれてしまったのだ。

 

新共和国の残党軍は逃げ場を失ってしまった。

 

「TIEボマー隊を帰還させ攻撃を艦隊と交代だ。ターボレーザーによる軌道上爆撃を開始する!」

 

ずっとその砲塔を向けっぱなしだったターボレーザー砲の出番が訪れた。

 

黄緑色のレーザー弾を地表に降らせいつものように圧倒的な力を持って地面を砕いていく。

 

その攻撃力はTIEボマーの絨毯爆撃の比ではなくTIEボマーが無理やり掘り上げた敵の要塞を完全に破壊していた。

 

内部で逃げ場を失ったMC80やMC75といった主力艦も反撃する手立てすらなく要塞内で轟沈してている。

 

しかし今回の軌道上爆撃は比較的短時間と言えるはずだ。

 

何せすでに魚雷やミサイルの爆撃に加えて爆撃機による絨毯爆撃すら展開していた。

 

やりすぎとも取れるほどの攻撃だ。

 

もはや生存者などほぼいないに等しい。

 

だが攻撃はこれで終わりではない。

 

姿勢と表情を崩さずシュメルケ上級大将が再び命令を下した。

 

「セキューター級を地表に展開しヒャールゲン中佐に掃討を開始させろ。一兵たりとも残すな」

 

セキューター級がヴィクトリー級などの附属艦の支援を受け惑星内に侵入する。

 

ハンガーベイから何十、何百機の“インペリアル・ドロップシップ・トランスポート”が発進した。

 

この機体はかつてのクローン戦争で使用されたリパブリック・アタック・ガンシップに酷似しているが武装や大きさは共和国軍のそれよりも軽装備であり小さかった。

 

ストームトルーパーの二個分隊を運搬出来本来は近年では両翼にリパブリック・ガンシップのように対空軽ロケット砲を備えていた。

 

セキューター級から発進したものにはEウェブのようなブラスター砲が備わっており前線の司令船であるゴザンティ級を取り囲み進んでいた。

 

「全隊、攻撃体制を維持しセンサーを起動しろ。地表の生命体は残らず潰せ」

 

ゴザンティ級“サプレッション”からヒャールゲン中佐は全インペリアル・ドロップシップ部隊に命令を出した。

 

殆どのドロップシップには後部に見慣れないコンテナが設置されており搭乗員も殆どがパイロット2名とストームトルーパー6人ほどだった。

 

1人がEウェブの砲手を務め1人が冷却装置を管理し1人が周囲を警戒しながら指揮を取る。

 

この1ユニットがドロップシップ1機につき2つ乗せられていた。

 

真っ直ぐ都市部の跡地といってもいいほど崩壊した場所へドロップシップの編隊は進んでいった。

 

その様子は崩落し殆どの艦船と重火器を失った要塞内の兵士達にも目撃されていた。

 

軌道上爆撃の攻撃から辛うじて生き残った彼らは負傷した兵士や整備兵達を助け出そうと救助を行っていた最中だった。

 

武装しているが殆どが片手にブラスター・ピストルかブラスター・ライフルを持った状態で反撃など夢のまた夢の状態だ。

 

しかも周囲には瓦礫や崩落した地面により足を潰され逃げ出せない整備士や重傷を負った将兵が大勢いた。

 

折角助けに来たのに我先二と逃げ出せるわけがない。

 

逃げ出したとしても追撃され殺されるのがオチだ。

 

彼らの前には最初から絶望しかなかった。

 

「ドロイド部隊を展開、ガンシップ部隊はブラスター砲を用いてドロイド部隊を支援しろ」

 

『了解中佐、ドロイド部隊降下開始』

 

サプレッション”の甲板士官は命令は命令を受けコンテナにコードを入力しシステムを起動した。

 

今度はレバーを下げハッチを解放する。

 

艦内に搭載されていた“ヴァイパー・プローブ・ドロイド”はリパルサーリフトで浮遊しながら要塞の瓦礫内へと進んでいった。

 

ドロップシップの方も後部のコンテナを降下させ地表に展開した。

 

コンテナからは大量の“KXシリーズ・セキュリティ・ドロイド”が現れプローブ・ドロイドと共に生き残った兵士たちに牙を剥いた。

 

新共和国軍兵士達は手に持ったブラスターを、あるいはその辺に落ちている瓦礫をぶつけドロイドを倒そうとするが一体二体がやられた程度ではドロイドの進軍は止まらない。

 

それはクローン戦争の頃から、それ以上もっと前からのことだ。

 

ドロイドの数を減らしたくらいでは喜べない。

 

すぐに倍以上の死を恐れないブリキの大軍が襲ってくるから。

 

その恐怖が今こうして彼らの前に実現していた。

 

ブラスター・ライフルを片手に持ったKXドロイドが容赦なく兵士達に向け発砲しプローブ・ドロイドは内蔵されたブラスターを新共和国軍の兵士達に向けた。

 

僅かな反撃は虚しく掻き消され無機質なドロイド達により一方的に嬲り殺しにされた。

 

しかも脅威はそれだけではない。

 

上空を包囲している何百機のドロップシップからEウェブの圧倒的な火力が後退しようとする敵兵を容赦無く消し飛ばした。

 

Eウェブの火力の音が空中で鳴り響きその度その度に命を刈り取った。

 

何人かが辛うじて生きていたスピーダーに乗り込もうとするがそれに気づいたドロップシップのトルーパー達によりEウェブの“洗礼”を受け地面へと斃れた。

 

更にそのスピーダーはドロップシップのミサイルにより破壊され使用出来なくなった。

 

「スターファイター、スピーダー、タンク全て破壊しろ。仮に動けなさそうであってもだ、敵に使用させるな」

 

ヒャールゲン中佐の命令通りに少しでも形が整っているXウィングやジャガーノートを発見すれば即座にEウェブの火力を向け、またはミサイルで破壊した。

 

敵兵の捜索と破壊活動によりドロップシップは先程よりも忙しなく動いていた。

 

地上ではドロイドの大軍が敵兵を粗方制圧しついに要塞内部に侵入しようとしていた。

 

プローブドロイドとKXドロイドが隊列を成し前へ前へと進み続ける。

 

もはや生存者など殆どおらず聞こえてくる銃声も一方的なものであった。

 

アンシオン周辺での小競り合いは二度と起きる事はない。

 

アンシオン軍はともかく現地にいた新共和国軍はこれで壊滅した。

 

上級将校から末端の一兵卒まで、誰1人生き残る事なく全滅した。

 

脱出出来た部隊もほんの僅かであろう。

 

徹底的な殲滅こそが平和への一歩だと言わんばかりに、親衛隊の艦隊は惑星を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-帝国領 惑星クワット-

造船所から何隻かのスター・デストロイヤーとクルーザーが戦いの場を求め旅立っていった。

 

クワットではなんら珍しい光景ではない。

 

むしろもう見慣れた、見飽きたといっていいほどの光景だ。

 

一隻の船が飛び立てばもう一隻の船が後に続く。

 

そこに感慨深いものはなく、ただ次の作業に取り掛かるだけだ。

 

クローン戦争の時から、いやクローン戦争以前からこの手の商売を続けてきたクワットにとってはごく普通のありふれた日常なのだ。

 

「例のダミー、半ば成功です。連中に上手い事擦り寄れたようで」

 

幹部の1人がクワット軌道上の造船所内を歩くヴァティオンに報告した。

 

いつも通りの衣服を見に纏いどこか余裕そうに歩く彼はその報告を聞きとりあえずは安堵の頷きを示した。

 

接触に失敗した場合、揉み消す時が正念場だ。

 

ほぼ賭けに等しく失敗すればクワットは全てを失う。

 

どうやら賭けには勝ったようだ。

 

「なら供給を続けてやれ。彼らの需要は底なし沼だ」

 

「はい、我々も阿漕なことをやりますね」

 

「今更か?」とヴァティオンは幹部に意地悪く尋ねた。

 

ヴァティオンは少なくともこのクワット一族に生まれた時から阿漕な商売をしていると認識していた。

 

彼が生まれたのは丁度最初のナブーの戦いから二年後の時だった。

 

彼が物心つく頃には既に銀河系は分離主義危機や再軍備と言った兵器を求める時代になっていた。

 

やがてはクローン戦争が起こりクワットは共和国に艦船や兵器を供給していた。

 

そしてその関係はニューオーダー宣言後も変わらなかった。

 

幼い頃は人を殺す物を売る事により得たこの地位をあまり好いてはいなかった。

 

だが年齢を重ねやがてこのクワットで働き始める頃にはヴァティオンはそんな考えも薄れていった。

 

何も世間に揉まれて仕方なく諦めていったわけではない。

 

ただ単純に別の側面も見ただけだ。

 

この銀河系は武器を欲している。

 

我が身を守る武器を、家族を守る武器を、祖国を守るための武器を。

 

そうでなければ誰も守れず一方的に絞られるだけだ。

 

子供の頃考えていたような甘い世界はどこにもなかった。

 

武器を買って欲しさに戦争を引き起こした事などクワットは一度もない。

 

ただ常に求められていただけだった。

 

少なくともヴァティオンにはそう見えていた。

 

だから平等に、皆に与える。

 

欲する者に欲するだけの力を。

 

その上で自身も家族を守りこのクワットを守りクワット・ドライブ・ヤード社を、その子会社を、そこに働く人々を守る。

 

それがこの銀河系でクワットの長を務める者の覚悟だ。

 

帝国の総督もそれだけの覚悟は持てなかった。

 

前任者のクワットから引き継いだ時からそうであり今目の前にいる彼もそうであるように。

 

「プレスタ!久しぶりだな!」

 

「ヴァティオンの兄上!」

 

他の幹部達と話をしていた同じクワット家の“プレスタ・クワット”はヴァティオンに話しかけられ嬉しそうに反応した。

 

プレスタはヴァティオンの従兄弟でありヴァティオンは同じ親族の彼を弟のように可愛がった。

 

それでいて彼は経営者や工場長としてとても優秀であり「いつ次期会長になってもおかしくない」と言われていた。

 

それはいつでも地位を奪えるというような意味ではなく彼の能力とヴァティオンとの親しき間柄故だった。

 

「バルモーラの責任総督の任も帝国の新しい総督が来てひと段落しましてね。生産の方に集中してますよ」

 

銀河内戦直後のクワットは帝国と繋がってはいたが完全な帝国領ではなかった。

 

クワット宙域やバルモーラ星系のような周辺域を領土とし独立していた。

 

その為惑星や衛星の工場や行政も含めた責任者である責任総督を配置していた。

 

その殆どはクワット家や幹部一族が担っていた。

 

しかし第三帝国が中央国家となってからはクワット領にも総督を派遣し始めた為責任総督は形骸化し始めた。

 

「どうだ、久しぶりのクワットは。まあどこもあんまり変わり映えしないが」

 

「安心しますよそりゃあ、やっぱり実家は実家だ」

 

実家か。

 

仮にどこにいようとやはり故郷(ホームワールド)というのはそれだけの懐かしさや安心感があるのだろう。

 

「そうか、なら呼び出してよかったかもな」

 

「そうですよ、一体なんのようですか?」

 

ヴァティオンは微笑んだ。

 

目の前の青年に期待を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命とは案外呆気ない物である。

 

引き金一つで消し飛ばせるものであり誰であろうと皆平等に脆かった。

 

それはクローン戦争、銀河内戦と続く戦いで証明された事でありオルデランの20億の命が一瞬で消し飛ばされた事もその一因である。

 

この第二次銀河内戦と呼ばれる戦いでもそれは変わらない。

 

何せコルサントが奪還されてから僅か数ヶ月でコルサントに住むエイリアン種族や近人間種族が殆ど消され今でも各地で虐殺され続けている。

 

収容所に送られる者もいればその場で射殺される者もいる。

 

一部の風紀の乱れた親衛隊兵士は運搬すら面倒くさく感じ近くの恒星に投げ捨てるなんて事もあった。

 

宇宙空間に投げ出された時点で大抵の種族は死を迎えるし恒星のエネルギーに耐えられる者はいない。

 

あまりにも残虐的な風紀の乱れと言わざる負えないがそれは真実だった。

 

ただ隠され知らされていないだけなのだ。

 

収容所の親衛隊員も運搬されたエイリアン種族の人数が足りなくとも対して気にはしなかった。

 

あれだけ大規模な収容所を運用していれば自然と杜撰になっていくのも無理はない。

 

些細な事を気にしている暇も余裕もないのだ。

 

今この瞬間にも命は消えている。

 

1機のTIEファイターと共に。

 

『アルフ2がやられた!』

 

撃破されたTIEブルートの残骸と共にコックピット内にけたたましい声が響く。

 

何せ友軍機が撃破されるのはこれで14機目だ。

 

まだこちらは1機も撃破出来ていない。

 

戦闘が始まってさほど時間が経っていないのにも関わらずこれほどの損害の開きが出ている。

 

敵はまだTIEファイターなどを使っている為機体性能差でも勝っているはずだ。

 

こちらはインペリアル・エスコート・フリゲート一隻とクエーサー・ファイア級一隻、アークワイテンズ級だ。

 

向こうはクエーサー・ファイア級一隻とアークワイテンズ級二隻、ゴザンティ級四隻でスターファイターの数では勝っているはずなのに。

 

敵の中隊の編隊は強固な者で崩すのすら難しい。

 

それなのにこちらの編隊は最も簡単に崩され各個撃破されていく。

 

特にあのTIEアドバンストv1、なんだあの機体は。

 

こちらの攻撃を寄せ付けず逆に味方の肩代わりを行いこちらを確実に屠ってくる。

 

単純な機体性能差だけではない、あのパイロットの腕前がTIEアドバンストv1の能力を限界まで引き出している。

 

それに味方との連携もうまい。

 

直ぐに編隊の枠に入り、或いは作り出して攻勢に出てくる。

 

敵の方が練度が高いというのか。

 

いいや、そんな事は絶対にない。

 

アンシオン周辺で小競り合いばかりしていたスターファイター隊が我々に敵うはずがない。

 

我々は新共和国すら倒したのだぞ、こんな連中に負けるものか。

 

「ふざけるな…!単純火力ではインターセプターの方が上だ!」

 

『アルフ7!待て!』

 

部隊長の命令を無視してTIEインターセプターが1機、タイタン3のTIEアドバンストv1に突貫した。

 

敵機が別の友軍機に気を取られていると鑑みて攻撃に出たのだろう。

 

しかしそれは甘い考えだった。

 

真横からの一撃を受けTIEインターセプターは撃破された。

 

一個中隊程の編隊がタイタン3の背後に付いた。

 

タイタン中隊、ファースト・オーダー内屈指のエリート中隊だ。

 

『タイタン3、無事か?』

 

タイタン中隊中隊長ヴァルコ・グレイは彼に尋ねた。

 

「全く問題ない。それより隊長、敵のクルーザーに攻撃を仕掛けられますか?」

 

『問題ない、全隊の指示を頼む。俺が指揮を取る』

 

冷静にタイタン3の問いに答え指示を仰いだ。

 

「ソルとヴォンレグが敵機を払い除けて隊長と私でボマー部隊を援護する。シェン、先導を頼めるか?」

 

『まかせろ』

 

掠れた声でTIEボマーのパイロットであるシェンは部隊を率い先行した。

 

声とパイロットスーツの風貌により怖い印象を受けがちだが本当はとても仲間思いの名パイロットである。

 

ソルとヴォンレグが敵機を押し出しアークワイテンズ級への進撃路を作り出した。

 

タイタン中隊に気づきアークワイテンズ級のレーザー砲がTIEボマーを狙い艦載機のTIEブルートが3機出撃した。

 

しかし護衛についていたグレイ大尉のTIEインターセプターとタイタン3のTIEアドバンストv1がすぐに迎え撃った。

 

一瞬のうちに2機のTIEブルートが破壊され爆発の合間をタイタン3が抜けていく。

 

残りの1機はなんとかグレイ大尉のTIEインターセプターに喰らい付こうとするが全ての攻撃を躱し反撃の一撃を叩き込んだ。

 

TIEブルートは爆発四散しその中をTIEボマーの編隊が通り過ぎた。

 

「潰れろ!」

 

タイタン3は砲塔一門づつに攻撃を集中し確実に破壊していった。

 

上部レーザー砲を破壊し他の対空法やターボレーザー砲にも攻撃を加える。

 

敵の武装を全て破壊する勢いでやらねば部隊が安心して爆撃を敢行出来ない。

 

乗船部の武装を粗方破壊し味方が安全に爆撃を行える体制を整えた。

 

そこに丁度よくシェンのTIEボマー部隊が到着した。

 

魚雷を装填し即座に攻撃を開始する。

 

イオン魚雷がアークワイテンズ級の偏向シールドを弱らせプロトン魚雷が直接的なダメージを与えた。

 

対空防御が出来ない為アークワイテンズ級はモロにダメージを喰らい最終的にはシェンのTIEボマーがブリッジにプロトン魚雷を直撃させアークワイテンズ級は沈黙した。

 

艦長もろとも司令塔がやられこれ以上の戦闘は不能だ。

 

撃破に成功したタイタン中隊が集結しスターファイター同士の戦闘に舞い戻った。

 

「このままもう少し時間を稼げば友軍部隊の撤退が叶う」

 

『もう少し待つ必要はないぞ』とソルがタイタン3の言葉に付け足した。

 

彼女のTIEリーパーはタイタン3のすぐ隣を飛んでいる。

 

『すぐさま援軍が到着して裏切り者どもを排除してくれるさ』

 

ヴォンレグもそう付け足した。

 

彼女達の言葉でタイタン3は完全に読み取った。

 

我々の帰るべき場所が。

 

タイタン3の読みを裏付けるかのようにハイパースペースから二隻のインペリアル級スター・デストロイヤーが到着した。

 

突然の来襲に親衛隊側は困惑し攻撃の手が一時緩んだ。

 

一体どちらの味方なのだろうかと。

 

その答えはすぐに表された。

 

二隻のインペリアル級はインペリアル・エスコート・キャリアーに向け八連ターボレーザー砲を放った。

 

最初の一撃は耐えたが二度、三度と放たれる攻撃には耐えきれず表面が爆発し損傷を受けた。

 

攻撃の手を緩めずインペリアル級からはTIE部隊が展開され始めた。

 

「攻撃は成功です。スターファイター隊とタイタン中隊が合流すれば我々の勝利は間違いありません」

 

インペリアルⅡ級“オーバーシアー”のブリッジでコントローラーの“LT-514”は彼女にそう言った。

 

普通に考えてもインペリアル級二隻など空母二隻が敵う戦力ではない。

 

それに既に対空を担当するアークワイテンズ級はブリッジから煙を噴き出し沈黙している。

 

「ああ、だが攻撃の手を緩めるな。全スターファイター隊に伝達、一兵も生かして返すな!」

 

オーバーシアー”艦長のテリサ・ケリルの命令は鋭く正しかった。

 

既にインペリアル級二隻の攻撃を受けエスコート・キャリアーは沈みつつあった。

 

オーバーシアー”がエスコート・キャリアーのトドメを刺すのに集中しもう一隻のインペリアル級は回り込みクエーサー・ファイア級へと攻撃を仕掛けた。

 

インペリアル級の集中砲撃にクルーザー程度の空母が敵う筈もなくシールドが破かれ損傷箇所が増え始めている。

 

「敵の空母は二隻とももう間も無く撃沈します」

 

「ならばスターファイター隊の支援を開始する」

 

ケリル艦長は大破する敵艦を見つめながらそう命令を下した。

 

「しかし予定よりも敵艦の殲滅が早く終わりそうですね」

 

「ああ、流石は“()()()()”少将といったところか」

 

2人は敵艦に苛烈な攻撃を与えるもう一隻のインペリアルⅡ級を見つめた。

 

ノイ・ステッドファスト”。

 

かつてジャクーの戦いに参戦し撃沈したインペリアル級“ステッドファスト”を象った艦名。

 

彼は自分が若い新任士官だった頃に乗艦していたインペリアル級と同じ艦名を自身のインペリアル級に名付けた。

 

エンリク・プライド”少将は乗艦“ノイ・ステッドファスト”と共に親衛隊の空母機動部隊を殲滅しつつあった。

 

 

 

 

 

 

 

探し人であったジェダイ、ルーク・スカイウォーカーが来てくれた事によりジェルマンとジョーレンはUウィングの修復に専念出来た。

 

チューバッカも2人の事を手伝ってくれた。

 

彼はとても優秀なメカニックウーキーでUウィングの修復は思いの外早く終わりそうだった。

 

「パーツの予備をたんまり持ってきてよかった。これならすぐ飛び立てますよ」

 

ジョーレンは額の汗を引きながら工具を工具箱に戻した。

 

ジェルマンも既に周囲の片付けを始めている。

 

「そいつは良かった。ルーク、お前はどうする?」

 

「自分のXウィングで帰るよ、なあR2」

 

ルークがそうアストロメク・ドロイドのR2-D2に声を掛けると電子音で元気良さそうに応えた。

 

とても相性の良い2人だ。

 

その様子を見つめながらジョーレンはふと呟いた。

 

「しかしジェダイか……みんな反乱で全滅しちまったのかと思ったよ…」

 

「帝国の大粛清も生き残ったジェダイがいてね」

 

「たとえば“()()()()()()()()”とか“()()()()”とかか?」

 

ジョーレンの軽い感じの問いかけにルークは口を開けたまま何かを思い始めた。

 

R2の方はどこか傷心じみた声音を上げ顔を落としていた。

 

それはほんの偶然、上げられた2人の名前はジョーレンがたまたますぐ思い起こしただけだった。

 

無論他のジェダイの名も知っている。

 

その中で彼らだけが素早く頭に思い浮かんだのだ。

 

「知り合い?」

 

そんな事は通知らずジェルマンはジョーレンに問い掛けた。

 

「知り合い…んまあ知り合いかぁ…共和国の少年兵やってた時に度々会ってな。ケノービ将軍の方には頭を撫でられた気がするよ」

 

「その後帝国が誕生して帝国に殺されたと思うんだが…」とジョーレンは回想していた。

 

するとジョーレンは何かを思い出したようにルークに問いかけた。

 

「そういや中佐もスカイウォーカーって…」

 

しかしその問いは何かを見つめたジョーレンと何かを感じたルークにより掻き消された。

 

「ジェルマン!!」

 

「伏せろ!」

 

ジョーレンはジェルマンを無理やり地面に伏せさせ頭を被せた。

 

ルークの方も大声を出してハンとチューバッカに警告した。

 

「チューイ!」

 

ハンは相棒の名を呼びチューバッカも叫びながら2人とも地面に伏せた。

 

R2は悲鳴を上げながらファルコン号の影に隠れる。

 

直後数発のミサイルが地面に直撃しけたたましい音と共に土を巻き上げ爆発を巻き起こした。

 

しかしミサイルも爆風も一発たりともジェルマン達に直撃する事はなかった。

 

ルークが“()”を使いミサイルを弾き飛ばしたのだ。

 

だがこの防御はそう長く続かなかった。

 

地面を裂き回転しながら突っ込んでくる光の光剣をルークはギリギリの所で己のライトセーバーで弾き返した。

 

更にブラスターの赤い弾丸がルークを襲う。

 

腕を振るい凄まじい速度で弾丸を先程のように弾くが数が多くルークは徐々に後ろへと押されていた。

 

「チッ!!ああクソ!!」

 

ジョーレンは急いでホルスターの予備のブラスター・ピストルを引き抜き引き金を引いた。

 

ハンも改造されたDL-44重ブラスター・ピストルで反撃しチューバッカもボウキャスターを放った。

 

彼らの放った何発かの弾丸は敵に当たる事はなかったが攻撃をやめさせる事は可能だった。

 

「まさか…尋問官…!」

 

ルークは緑色のライトセーバーを構え敵を睨みつけた。

 

しかしルークの考えとは裏腹に敵は、ルークの言葉を否定した。

 

「違うな、“()”だ。皇帝の忠実な手。主人の仇、討たせてもらう」

 

「手だと…!?」

 

ライトセーバーを構えるそのフォース使いは名乗った。

 

奴の周りにはデス・トルーパーやパージ・トルーパーといった特殊兵科のトルーパーが佇んでいた。

 

上空には第3世代設計のダーク・トルーパーが彼らを包囲している。

 

インペリアル・ドロイド・コマンドーもブラスターを構えて迫って来ている。

 

「覚悟しろ、ジェダイ」

 

その一言と共に彼らの戦いは再び始まった。

 

ライトサイドとダークサイドの戦いが。

 

狂気の帝国と共に。

 

 

 

つづく




ちょび髭メガネ「なんか最近私が変な騎士団領を持つとか言われているようだが、後何だこのあだ名は」
ヤギ「あらかた真実じゃないですか」


ちょび髭メガネ「ならこの世界でもやったろか?」





ウ ィ ル ズ ブ ル グ ン ト の 誕 生 


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抗うもの

「親衛隊とはもはや単なる銀河協定の抜け道ではない。諸君らは帝国軍と肩を並べ総統と臣民の敵を撃滅する帝国の尖兵たるエリートなのだ。やがて諸君らの後に続く未来の親衛隊員達に正しき道を示せるよう、諸君らの奮戦に期待する」
-アンシオン本土攻撃開始時のパウティール・シュメルケ上級大将の演説-


ルークと“()()()()”を名乗る者が率いる帝国軍の特殊部隊は未だ動かず睨み合いを続けていた。

 

両者一歩も動かずただ静かな時間が流れる。

 

あまりの威圧感にハンやジェルマン達も動けずにいた。

 

緊張や威圧感が空気を伝って肌に触れ若干の痛みを感じるほどだ。

 

両者少しでもヘマをすれば誰かしらがやられると確証があった。

 

しかし数的優位は帝国側にある。

 

当然彼らが先に動くだろうと皆がそう思っていた矢先、遂に戦端が開かれた。

 

ルークの手によって。

 

彼は思いっきり拳を地面に突きつけてフォースを広範囲に、特に前方に集中して飛ばした。

 

フォースのパワーが地面を砕き石片と共に周囲のドロイドやトルーパー達を吹っ飛ばす。

 

何人かのトルーパーはそのまま岸壁に叩きつけられドロイドは何体か破壊された。

 

皇帝の手はそのライトセーバーで防ぎ攻撃を躱した。

 

他のトルーパーも意識を取り戻しルークに対する攻撃に出る。

 

エレクトロスタッフを起動したパージ・トルーパーがルークに対し斬り掛かり、デス・トルーパーがE-11Dブラスター・カービンを放った。

 

ジョーレンとハンはルークを助ける為に急いでブラスター・ピストルを発砲した。

 

しかしジョーレンが放った一撃はダーク・トルーパーの装甲は破れずハンはデス・トルーパー1人を打ち倒すに留まった。

 

しかも最悪な事に彼らの位置を察知され上空に飛び始めたダーク・トルーパーの攻撃を喰らった。

 

4人は急いでダーク・トルーパーの攻撃を回避しそれぞれ身を隠した。

 

チューバッカはボウキャスターで上空のダーク・トルーパーを狙撃しその強大な火力で一体撃破する。

 

ダーク・トルーパーはそのまま墜落し岩場を破壊し岩石を飛び散らせた。

 

その隙間を二体のダーク・トルーパーが掻い潜り彼らを追撃する。

 

ジェルマンは急いでUウィングの下に隠れた。

 

「まだなんとか……有人式で撃てるはず!」

 

そうジェルマンは呟きUウィングに取り付けられてあったイオン・ブラスターの持ち手を手に取った。

 

そのまま引き金に指を掛けスコープを覗き込む。

 

安全装置を解除しジェルマンは空中を浮遊するダーク・トルーパーに対して引き金を引きイオン・ブラスターを発射した。

 

彼の読みは当たりイオン・ブラスターはなんの問題もなく放たれた。

 

連射される弾の一撃一撃がダーク・トルーパーに直撃し二体とも機能を停止させる。

 

所詮はドロイド、やはりイオン兵器には強くない。

 

二体はそのまま長時間イオン・ブラスターを浴び続け機能を停止した。

 

そのまま同じように地面に墜落し爆発する。

 

追いかけられていたチューバッカとハンは一安心したと言った感じだった。

 

「ナイスだジェルマン!ついでにこっちも助けてくれ!」

 

ふと見るとジョーレンがダーク・トルーパーと取っ組み合いをしていた。

 

しかももう負けそうなのだ。

 

まあバトル・ドロイドと人間の力の差なんてそんなもんだが。

 

「いっ今助ける!」

 

ジェルマンは急いでブラスターを単発モードにセットしよく狙った。

 

急いで引き金を引きダーク・トルーパーの頭に一発、二発と直撃させた。

 

三発目でようやくダーク・トルーパーは機能を停止した。

 

ジョーレンはヘナヘナと地面に倒れ込みため息を吐いた。

 

「ついぞ死ぬかと思ったぜ…」

 

ジェルマンは急いでUウィングの中からブラスター・ライフルを二丁取り出し座り込むジョーレンに配った。

 

「行こう、敵を排除するにしてもひとまずは中佐や将軍を助けないと」

 

「ああ…行こう」

 

ジェルマンはブラスターを受け取るとすぐ様立ち上がり敵に攻撃を始めた。

 

その頃すでにルークは戦闘に入っていた。

 

エレクトロスタッフの攻撃を受け流し敵に斬撃を入れていく。

 

E-11Dの弾丸を弾きながら迫り来る2人のパージ・トルーパーと接近戦に入った。

 

エレクトロスタッフの突きを受け流しながらライトセーバーの一振りを叩き込んだ。

 

反対側で防がれてしまったがこの一撃は重くトルーパーは力負けしていた。

 

その隙にともう1人のパージ・トルーパーがエレクトロハンマーをルークの脳天目掛けて振り下そうとする。

 

しかし顔面に蹴りを入れられその流れのまま左腕に踵落としを喰らわせた為エレクトロハンマーがトルーパーの手から降り落ちた。

 

一瞬の隙も見せずルークはセーバーを素早く振り背後のパージ・トルーパーの首を斬り落とす。

 

その早さに動揺したパージ・トルーパーの防御が崩れライトセーバーの一突きを心臓部に喰らってしまった。

 

トルーパーは抜かれる緑色の光剣と共に地面へ崩れ落ちバイブロソードを抜き突撃する二体のドロイド・コマンドーも目にも止まらぬ早さでバラバラに破壊された。

 

デス・トルーパーはその間にもE-11Dでルークを狙撃するが全弾が弾かれ何発かが逆にデス・トルーパーに直撃した。

 

ルークは思いっきり地面を蹴りかなり高く飛び上がり上空に飛び立とうとするダーク・トルーパーの脳天にセーバーを突き刺した。

 

ダーク・トルーパーは内部が破壊され引き抜かれたライトセーバーと共にデス・トルーパーを2人一気に斬り倒した。

 

しかし敵もただやられっぱなしではない。

 

反撃の一撃として再び皇帝の手が自らのライトセーバーを投げルークの胴体を切断しようとする。

 

辛うじて剣先で受け止め弾き返したがかなり重たい一撃だった。

 

流石にあの“()()()”とまではいかないがそれでも十分危険な攻撃だ。

 

既に皇帝の手はライトセーバーを手に取りこちらに突っ込んできた。

 

ルークはライトセーバーをしっかり握りしめ敵が振るうライトセーバーの攻撃を防いだ。

 

反撃せず防御に徹する。

 

まずは敵の戦い方を見極め冷静に対処しなければならない。

 

それにまだ周りには大勢のパージ・トルーパーやダーク・トルーパーがいる。

 

デス・トルーパーはハンやバスチル大尉達を狙いこちらには殆ど寄ってこない。

 

なんとか敵を全員引きつけ彼らが脱出するまでの時間を作らねば。

 

一撃、また一撃と敵の攻撃を防いでチャンスを狙う。

 

僅かな隙であってもそこに少しの攻撃を入れて体勢を崩せば大きなチャンスに繋がる。

 

皇帝の手が振るうライトセーバーの斬撃は怒りや復讐心が込められたダークサイドの力を引き出す強力な重い一撃ばかりだ。

 

油断していれば僅かな攻撃でも重傷を負ってしまう。

 

が、ルークの予見通りチャンスは訪れた。

 

敵の攻撃に若干の乱れが生じルークはその一瞬の乱れに付け込んだ。

 

軽くフォースプッシュを加え敵を押し出した。

 

猛攻から解放されたルークは逆に反撃の一撃を加える。

 

近くの岩壁を蹴り飛ばし回転を加えながら敵へ最初の一撃を与えた。

 

防がれたが回転掛かった斬撃は完全に防御を打ち砕いた。

 

そこにルークは間髪入れずに攻撃の流れを繰り返していく。

 

左右、様々な方向から攻撃を入れ時取り蹴りやパンチ、フォースプッシュのような搦め手を加えながら敵を追い詰める。

 

皇帝の手はまだ防御が間に合っていたがそのアクロバットな動きに若干翻弄され危うい状況だった。

 

ならばと皇帝の手は攻撃や防御を一切せずひたすらステップを踏み後方へ下がった。

 

ルークもセーバーを振り回し敵を追いかける。

 

しかしルークは寸前で何かに気付きギリギリのところで身を躱した。

 

彼がいた所にエレクトロスタッフが回転し豪速球で迫ってきたのである。

 

エレクトスタッフが通った地面は思いっきり土が抉れ辺りに泥を撒き散らしていた。

 

ルークは後ろを少し見つめ状況を理解した。

 

皇帝の手がフォースを使いトルーパーの尸からスタッフ引き寄せたのだ。

 

それを証拠に皇帝の手の側にエレクトロスタッフは突き刺さっていた。

 

敵はかなりのやり手だ。

 

ダークサイドのフォースや戦い方を知っている。

 

「師の教えが随分と良かったみたいだな」

 

ルークはライトセーバーを構えそう吐き捨てた。

 

周囲を徐々にデス・トルーパー達が取り囲んでるのが分かる。

 

「だがお前に殺された。師の仇、取らせてもらう!」

 

そう言い皇帝の手はセーバーを振り再び攻勢に打って出た。

 

ルークはライトセーバーで防ぎながら反撃の緒を掴もうとするが今度はそうはいかない。

 

周りのデス・トルーパー達が支援攻撃と言わんばかりにブラスター・ライフルを放ちルークを攻撃する。

 

なんとか全ての弾丸を防ぎ皇帝の手の攻撃を抑えているがあまりに多方面からの攻撃により疲労や集中力や能力に限界が生じてくる。

 

顔を顰め歯を食いしばりながらルークは戦闘を続けた。

 

先程よりも何倍も苦しい戦いだ。

 

だがそんな中でも助けの手は差し伸べられた。

 

1人のデス・トルーパーが背後から攻撃を受け思いっきり吹っ飛ばされた。

 

他のデス・トルーパー達もそれに気付き反撃を開始する。

 

その先にはチューバッカとハンがいた。

 

ハンがルークに声を掛ける。

 

「ルーク!こっちでなんとかするからお前はそいつをやれ!」

 

「あっああ!!」

 

セーバーを剣先で防ぎながら返事を返した。

 

チューバッカも大きな声で声援を送ってくれている。

 

支援の攻撃はハンとチューバッカだけではなかった。

 

ルークへ捨て身で突進するドロイド・コマンドーが二体青白い光を喰らい倒された。

 

接近しルークと皇帝の手との近接戦にわって入ろうとするパージ・トルーパーもだ。

 

「中佐殿そいつを頼みます!」

 

ジェルマンとジョーレンだ。

 

ジェルマンはイオン・ブラスターを背中に背負い片手にはA180のライフルモードを持っている。

 

ジョーレンは背中にスマート・ロケットを背負い両手にそれぞれA300とDH-17のブラスターを持っていた。

 

それでトルーパーを打ち倒しながらどこかへ行こうとしていた。

 

「ソロ将軍達も頼みましたよ!」

 

「あっああ!!」

 

「奴らを逃すな…!」

 

皇帝の手はトルーパー達に命令を下しライトセーバーを振るった。

 

それぞれがそれぞれの戦いを行なっている。

 

まだまだ戦いは始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クソッ!ケツに突かれた!』

 

『“ホワイトフォース”!やられち……』

 

何機かの通信が途絶し二度と返事をしなくなった。

 

何機かのXウィングが編隊を組んで敵のTIE部隊に攻撃を仕掛けた。

 

1機のTIEブルートが爆散し部隊長のラクティスが大隊に指示を出した。

 

「全機!しっかり編隊を組んで敵機の迎撃のみに専念しろ!もうこれ以上1機たりともヤヴィンに通すな!」

 

『了解ウィング・リーダー!』

 

『隊長!“アンクルⅥ”が!』

 

部下の報告を聞きラクティスはすぐにそのネビュロンBフリゲートを見つめた。

 

フリゲート“アンクルⅥ”はTIEブルートやTIEボマーの大群に襲われ既に撃沈しかかっていた。

 

まるで獲物に群がる昆虫や野生動物のようだ。

 

残された火器で必死に抵抗しているがすぐに回避され代わりの攻撃を喰らわされている。

 

直後ラクティスの目の前で“アンクルⅥ”は限界を迎え轟沈した。

 

あれだけの攻撃を受けていれば脱出ポッドで逃げる余裕すらなく全員が巻き込まれてしまっただろう。

 

失われた仲間に悲しみを捧げながらすぐに心を持ち直し改めて指示を変えた。

 

「友軍艦艇を守れ!これ以上の損害は考慮出来ん!」

 

すでに何隻ものコルベットやフリゲート艦がTIEの物量に飲み込まれて撃破されている。

 

それはスターファイターも同じだ。

 

ラクサス分の部隊も合わせても多くの機体が撃墜され宇宙の塵と消えた。

 

帝国軍はこの頃急激にヤヴィン4への攻勢を強めた。

 

恐らくラクサスが陥落し各地でも勝利を続けている為兵員に余力が出たのだろう。

 

敵は毎回一個艦隊以上の大部隊で襲来し徹底的な攻撃を仕掛けてきた。

 

その為何度も敵部隊に戦線を突破されヤヴィン4の居住区画や軍施設に爆撃を喰らってしまった。

 

何百人、何千人単位で死傷者が出ている。

 

もはやこれ以上は許す事は出来ない。

 

とはいったもののラクティス達は常に苦戦を強いられていた。

 

まず敵のスターファイターの物量の層が厚すぎる。

 

毎回何千機という大軍を仕掛け何十隻もの空母を送り込んでくるのだ。

 

空母を撃破どころか付属のクルーザーすら手が出せない。

 

何千機のTIEに阻まれて逆に撃破されてしまうのだ。

 

「チッ!この!」

 

近くにいたCR90を狙うTIEボマーを2機撃墜したがそれでも攻勢の波は収まる気配を見せない。

 

真正面から迫り来るTIEブルートを撃破し破片を躱しながらMC80のエンジン部分を攻撃するTIEインターセプターの編隊を後続の2機と共に撃破した。

 

しかし前方から高速で迫るTIEインターセプターにより編隊を組んでいた仲間のXウィングが撃破された。

 

ラクティス機とタラソフ機は寸前で回避したがもう1人の方はダメだった。

 

爆散しそのTIEインターセプターに反撃すら出来ず破片を僅かながらにMC80の偏向シールドに擦らせるに留まった。

 

他にも上を見つめれば2、3機のTIEブルートやインターセプターに囲まれてAウィングが撃墜されている。

 

他の場所では爆撃を終えたTIEボマーの編隊と運悪く鉢合わせその物量により攻撃すら出来ず殲滅されるYウィングやAウィングが確認されていた。

 

各戦闘で新共和国側は圧倒的劣勢だった。

 

『ラクティスどうする!このままじゃ艦隊の前にスターファイター隊が全滅だぞ!』

 

「分かってる!“リベルテⅢ”、聞こえるか」

 

タラソフ大尉の不安を宥めつつラクティスは友軍のMC80“リベルテⅢ”に通信を取った。

 

戦闘中ながらも“リベルテⅢ”との通信はすぐに繋がった。

 

『ストライン中佐!』

 

リベルテⅢ”の通信士官の声が響く。

 

「直ちに全スターファイター隊を展開してくれ!このままじゃ部隊が持たない!」

 

『しかし本艦は現在敵艦隊の激しい放火を受けていて後退も部隊も展開出来そうにありません!』

 

「チッ!すぐに支援に…クソッ!」

 

ラクティスの前に再び敵が立ちはだかった。

 

TIEブルートが全火力を向けラクティスとタラソフ大尉のXウィングは回避した。

 

回避する合間に目に入った敵機を片っ端から撃破し2機のXウィングがTIEブルートの編隊を撃破する。

 

これで敵機を殲滅したかに見えたが再びTIEの物量の防壁が彼らを阻んだ。

 

「邪魔くさい!」

 

なんとか進路を切り開こうとするが敵機に邪魔され叶わない。

 

これでは救援は出来ないと苛立ちを募らせるばかりであった。

 

しかし救援の手はすぐに現れた。

 

レーザーの弾丸がラクティス達を取り囲むTIE部隊に直撃し爆散した。

 

機体を反転させ振り返ってみればそこには一隻のCR90コルベットと数十機のスターファイターの姿があった。

 

『こちら“デュクスミュード”、なんとか間に合ったようだ』

 

どうやら別の母艦からスターファイターの部隊は出撃したらしい。

 

XウィングやAウィング達がすぐに戦闘に加わり帝国軍機を迎撃し始めた。

 

「助かった“デュウスミュード”。我々は“リベルテⅢ”の支援に…」

 

『その必要はありません中佐、我々が来た』

 

別の通信回線から声が聞こえた。

 

ふとセンサーを見ると“リベルテⅢ”から発艦したスターファイター隊が映っていた。

 

どうやら友軍の装甲艦が後退と部隊の展開を支援してくれたようだ。

 

『こちらはストライン准将だ、我々の機動部隊で敵艦隊の左列に突撃を仕掛ける。主力艦の“デュゲスクラン”と“トリオンファンテ”は我々に続け、ラクティスの隊も頼む』

 

「了解!全機、集まれる者は集まれ。“イルージョニスト”の突撃を支援する」

 

操縦桿を再び握りラクティスは背後に続く部下の機体と共にスター・デストロイヤーの艦隊へと向かっていった。

 

この戦いはほんの始まりに過ぎない。

 

それでも彼らは一瞬一瞬に全てを賭けるのだ。

 

そうでないと何もかも奪われてしまうのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

-惑星アンシオン アンシオン基地-

周辺の新共和国軍は殆ど壊滅し残すは後このアンシオンにこもる帝国の残党のみとなっていた。

 

以前までは恒星や最後の衛星で抵抗していたアンシオン艦隊であるが限界を悟ったのか将又内乱でも起きたのかアンシオン軌道上まで後退していた。

 

その戦力も初期の頃に比べれば随分と見窄らしく小さくなったものだ。

 

幾つかの小艦隊や機動艦隊が親衛隊の艦隊をなんとか押し留めてる程度だ。

 

しかも防衛線の穴は幾つもあり既に何個もの師団が装備の整ったアサルト・ウォーカーと共にアンシオン内に降下している。

 

地上では親衛隊がアンシオン軍の基地や都市部を重点的に攻撃しあちこちで戦闘が勃発していた。

 

圧倒的な物量と精鋭たるウォーカー部隊でアンシオン軍は手も足も出ずに粉砕…かと思いきや意外にもアンシオン軍は奮戦している。

 

上陸した親衛隊の部隊は既にあちこちで戦線が停滞し苦戦を強いられていた。

 

アンシオン軍の伏兵戦術や大胆な機甲戦術により親衛隊の機甲師団は翻弄されていた。

 

「チッ!敵はどこだ!味方のウォーカーはどこにいる!」

 

ある一台のAT-ATの中で車長の大尉が部下のAT-ATパイロットに怒鳴り散らしている。

 

付属のAT-STを一台破壊され後に続いていた無人のインペリアル・アサルト・タンクも隊も全滅してしまった。

 

しかも敵の攻撃を退けている間に味方の中退と逸れてしまった。

 

AT-ATパイロットの1人が答える。

 

「妨害電波が張り巡らされていて味方の位置はおろかセンサー状態も悪くて気も判別出来ません」

 

「迷路にでも迷ったというのか…!?ええい!とにかく前進!前進だ!」

 

焦りから大尉は雑に命令を下しAT-ATは付属のAT-STと共に前進を開始した。

 

あちこちで爆発は見えるが建物などに遮られ何が破壊されているのかはいまいちよく見えない。

 

味方が敵機を撃破したのだと信じたいがセンサーが使えない今はなんとも言えない。

 

こんな状況で前進などあまり良い判断とは言えないが他にする事もなく前へと進むしかなかった。

 

それに前進すれば他の味方とも合流出来るかもしれないし何より攻勢のチャンスとなるかもしれない。

 

既に予定の時間的にはもうこの都市部の半分は制圧していなければならないはずだった。

 

それなのに未だ1/3も占拠が成功していない。

 

全体的に侵攻が遅れている気がする。

 

「センサーが若干回復しました、AT-ATと思われるアサルト・ウォーカーが前方に三台近くいます」

 

「状況的に見て恐らくフィッケ少佐のウォーカー中隊かと」

 

その報告を聞き希望の光が見えてきたと思った大尉は危険などは特に考えず直ぐに命令を出した。

 

危険度合いよりも助かったという安心感や喜びの方が勝っていたからだろう。

 

「直ちに合流せよ!よしこれで敵中央への更なる突撃が可能になる…!AT-STも続かせろ!」

 

「了解」

 

レバーを引きAT-ATがその大きな足で前進を開始する。

 

AT-STもこの大型ウォーカーに続き前へと進んだ。

 

その間にも車長は若干気分の昂揚を抑えられない様子だった。

 

何度も鼻歌を歌いそうになり猟奇的な笑みを浮かべどう敵を倒してやるか考えている。

 

味方と思われるAT-AT部隊との距離はかなり近く二、三分も立たずに合流出来そうだった。

 

幾つもの人気のないビル街を潜り周囲の起動していないターボレーザーを見渡しながらAT-ATは前に進んだ。

 

そして遂に彼らは合流出来たのだ。

 

「前方AT-AT三台確認!付属のAT-MPマークⅢも六台確認!」

 

突如として彼らの目の前に無機質に佇むウォーカー部隊の姿が確認された。

 

何台かのターボレーザーを占拠し恐らく乗り込んでいた歩兵達が防衛網を築いている。

 

ここまで来る道中にターボレーザー砲塔が稼働していなかったのは彼らが占拠してくれてたからであろう。

 

手際の良さと味方への安堵感が大尉の中に溢れていた。

 

AT-ATは若干速度を落としつつも着実に目の前のAT-AT部隊へ合流しようとしていた。

 

「友軍部隊と通信を取りたい、通信回線を開いてくれ。いや、広範囲放送でも構わん」

 

「回線は妨害されていますので放送の方を」

 

「助かる」

 

大尉はパイロットからマイクを受け取ると早速意気揚々と話し始めた。

 

眼前のウォーカー部隊はこちらを見つめている。

 

「友軍のウォーカー部隊であるか!敵地の制圧見事だ!我々はこのまま更に敵深くに進撃する為支援を頼みたい!」

 

更にウォーカー部隊に近づき大尉は返信を要求した。

 

「信号でもなんでも構わん!とにかく返事をくれ!我々は…」

 

これ以上大尉の放送が聞こえる事はなかった。

 

突然周囲のターボレーザー砲が起動し大尉のAT-ATの方を向いた。

 

直後AT-ATは一斉に顎の重レーザー砲を放ちAT-MPマークⅢはミサイルを何発か大尉のAT-ATに向けた。

 

直ぐにターボレーザー砲塔も火を吹き大尉のAT-ATは圧倒的な高火力の嵐に晒された。

 

いくらAT-ATといえども同型機三台による砲撃とターボレーザーの集中攻撃には耐えられない。

 

放送を行なったまま大尉のAT-ATはミサイルやレーザーの攻撃を喰らいあちこちで爆発を起こしながらコックピットが丸ごと吹き飛んだ。

 

ウォーカーの前足も破壊されコックピットもなくなったAT-ATは鈍い音を立てながら地面へと倒れ込んだ。

 

周囲に土煙を巻き上げ静まり返る。

 

残りは唯一生き残った付属のAT-STだ。

 

突然AT-ATが破壊されAT-STのパイロット2人は混乱状態に陥っていた。

 

しかし彼らも生かして返すわけがない。

 

ビル街の屋上に隠れていた隊車両用のストームトルーパー達がスマート・ロケットでAT-STを狙っている。

 

直接狙うだけではなく自動追尾も可能な便利な代物だ。

 

三方向からロケットミサイルは放たれAT-STに迫った。

 

左右から放たれた二発のロケットミサイルはそのままAT-STの左右両方を潰すように直撃し最後の一発は円を描きながら上空から迫りコックピットハッチを打ち破るようにAT-STを撃破した。

 

思いっきり上部が破壊され残された下半身がAT-ATと同じように倒れた。

 

その様子を確認していたAT-ATの近くにいるストームトルーパーがエレクトロバイノキュラーを覗き近くの司令官達に方向した。

 

「AT-AT一台撃破、AT-ST一台撃破確認!」

 

「よし!作戦は成功だ!このまま行けばかなりの時間が稼げますよ将軍!」

 

部隊長のフリーム中佐は作戦立案者のハーウス将軍に興奮しながら喜んだ。

 

既にここだけで三、四台のAT-ATを付属機ごと撃破している。

 

他の区画でも同じような戦術を取り多くのウォーカーを撃破し親衛隊の進軍を停滞させていた。

 

また別の都市部や司令基地ではドウル元帥が撤退も含めて直接指揮を取り親衛隊の一個師団を退却にまで追い込んだらしい。

 

フリーム中佐の言う通りかなりの時間が稼げるのは間違いない。

 

しかし戦術を考えた当のハーウス将軍は少し冷ややかな目で考えていた。

 

「どうだろうな…このまま更に倍以上の物量が現れればこの戦術も防衛区画もいずれ突破される」

 

どの道退却するとは言えその前に飲み込まれてしまえばお終いだ。

 

局所戦で優勢とはいえ全体では圧倒的劣勢のままだ。

 

いずれ防衛艦隊も打ち破られこのアンシオンには十倍どころか百倍以上の戦力が降り立ってくるだろう。

 

そうなればどんな手を尽くしても物量という単純な波に飲み込まれ全滅する。

 

「ここの指揮を頼む中佐、最悪らいつでも退去して構わん。なるべく多くの兵を生かせ。少佐、我々は一旦ドウルの下に戻るぞ」

 

フリーム中佐に指揮を託しハーウス将軍は補佐官のへリス少佐を連れ地下通路を使用し司令部に戻ろうとしていた。

 

前線の様子は不安を述べたがひとまず大丈夫そうだ。

 

中佐も引き際を誤る事はないだろう。

 

「了解しました将軍!お気をつけて!」

 

フリーム中佐に見送られハーウス将軍とヘリス少佐は急足で地下へと向かった。

 

戦いは既に終盤に差し掛かっている。

 

軌道上で戦闘を指揮する総旗艦“ルサンキア”のブリッジでは艦隊戦、地上戦双方の情報がシュメルケ上級大将と幕僚達に渡っていた。

 

しかし軌道上の圧倒的優勢な戦闘とは違い地上戦は戦況が予定されていたものよりも芳しくなかった。

 

第一陣の司令官として惑星内に上陸したベイリッツ准将ら数名の将校がホログラムで呼び出されている。

 

「侵攻状況が芳しくないようだが」

 

シュメルケ上級大将は艦隊に命令を出しながら地上軍将校達に静かな叱責を飛ばした。

 

口調や声のトーンは変わらずとも明らかに今までとは違う威圧感や怒りに近い感情が込められている。

 

指揮官達を代表してベイリッツ准将が報告する。

 

『申し訳ありません…敵の防衛網が想像以上に手強く突破が難しい状況で…』

 

「せめてシールド発生装置の一つや二つは破壊して貰いたい所なのだが、過大評価が過ぎた。第二軍を投入する。お前達は二軍の上陸支援にだけ専念しろ」

 

シュメルケ上級大将にとっては失望や嫌味などではなく単純な感想であったがそれを受け取る指揮官達はそうは思わなかった。

 

先程よりも申し訳なさそうに苦々しい表情を浮かべ俯いている。

 

すると幾つかのホログラムのうちの一つにいた指揮官が別の将校の報告を受けながら何かを防ぐようなポーズを取り途切れた。

 

それは“ルサンキア”のブリッジで起こった単なる誤作動ではなく他の地上指揮官達も確認されていた。

 

『ラグナー上級大佐のホログラムが消えたぞ…』

 

『何があったんだ…』

 

指揮官達が慌ただしく騒めく中シュメルケ上級大将だけは冷静に状況を判断していた。

 

恐らくはベイリッツ准将もであろう。

 

「ラグナーの師団の残存兵員を下がらせてシュタンデリスの旅団と合流させろ。まとめて奴に指揮を取らせる」

 

「はい閣下」

 

幕僚の1人が敬礼し降下準備を行うジークハルトに伝達した。

 

ラグナー上級大佐の師団は損失を差し引いても9,000人はいるだろう。

 

双方合わせると1万5,000名以上となり軍団レベルの戦力となるがジークハルトなら問題なく指揮を取るだろう。

 

「お前達も指揮に戻れ、我々もすぐに地上戦に専念する」

 

『わかりました…!』

 

ベイリッツ准将らは敬礼しホログラム通信は切れた。

 

これで少しは地上軍の将校達も身を引き締め死に物狂いで戦うだろう。

 

シュメルケ上級大将は幕僚達を引き連れ“ルサンキア”のブリッジからアンシオンを見つめた。

 

勝利を確信しつつも一抹の不安を抱える姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ルーサンでの戦闘はまだ続いていた。

 

ハンとチューバッカはミレニアム・ファルコンや機材に隠れながら攻撃してくるデス・トルーパーやパージ・トルーパー達に反撃している。

 

しかし相手はかなりの精鋭であり熾烈な銃撃戦が続いていた。

 

撃ったら躱わされ撃ち返されたら身を隠し弾丸を防ぐ、そんな戦いが続いていた。

 

全く埒が開かずルークを助けるどころか逆にピンチだった。

 

そんな中チューバッカは敵を撃つハンに向かって声を掛けた。

 

銃声でよく聞き取れない部分もあったがチューバッカの大きな声で辛うじて分かる。

 

「ファルコンの火器で応戦しろだって!?」

 

ハンの聞き返す声にチューバッカは大きく頷いた。

 

その間にも何度も銃弾が物資用の箱に当たっている。

 

「とてもじゃないが中に入れねぇ!」

 

ボウキャスターでデス・トルーパー達を攻撃するチューバッカは再びハンに言った。

 

その事を聞いたハンは呆れた顔でチューバッカに言った。

 

「無茶言うんじゃねぇよ!先にくたばっちまう!」

 

その隙にとデス・トルーパーの1人ベルトからC-25破砕性グレネードをもぎ取りハンとチューバッカに投げつけようとする。

 

助走をつけグレネードを投げつけようとしたその時、銃声が響きデス・トルーパーは打ち倒されグレネードが投擲される事なかった。

 

グレネードはその場で爆発し周囲のトルーパー何人かを巻き込み土煙を舞い上げる。

 

ハンが手に持つ改造されたDL-44重ブラスター・ピストルでデス・トルーパーを狙撃したのだ。

 

会話をしていても危機を察知し速やかに対処するその技はさすがと言わざる終えなかった。

 

するとハンは何かに気付きチューバッカに警告した。

 

「チューイ!避けろ!」

 

ハンはチューバッカの上に飛び乗り無理やり伏せさせた。

 

直後彼らの元いた所に岩石が飛んできた。

 

チューバッカとハンは急いで起き上がり何があったのか周囲を見渡した。

 

ルークとライトセーバーを持った敵が戦っている岩壁が中くらいの岩石一つ分ほど削られている。

 

まさかあの敵が岩場を切り出しルークに投げつけたと言うのか。

 

それを考えるだけで恐ろしくなる。

 

今度はチューバッカが叫んだ。

 

それに気づいたハンは急いで起き上がり赤い光弾を避ける。

 

敵のドロイド・コマンドーが一個分隊ほど再び現れ2人を奇襲した。

 

「また新手かよ!」

 

ハンはブラスター・ピストルの引き金を引きドロイドに銃弾をお返しする。

 

チューバッカはブレードを構え突進してきた別の一体を取り押さえドロイドの首をその怪力を持ってへし折っていた。

 

しかしドロイドの数は減らず、2人はまた苦戦を強いられる。

 

その間に岩壁の上で戦うルークとライトセーバーの敵は下のデス・トルーパー達に命令を出した。

 

「あの2人の兵を追え!逃すな!」

 

命令を受け取ったデス・トルーパー達はその場をドロイド・コマンドーに任せ全員ジェルマントジョーレンを追って行ってしまった。

 

ライトセーバーを振るうルークは今すぐにでも2人を助けに行きたかったがここで眼前の皇帝の手とパージ・トルーパー達を放置するわけにもいかない。

 

ハンとチューバッカもドロイド・コマンドーとの戦いに忙しそうだった。

 

「チューイ!それを取ってくれ!」

 

ピストルを撃ちながらハンは近くに落ちていたエレクトロスタッフをチューバッカから受け取った。

 

バイブロブレードを構える二体のドロイド・コマンドーの刃を起動したエレクトロスタッフで押さえ逆にスタッフで殴り付けた。

 

一体が後退しその間にもう一体のドロイド・コマンドーにエレクトロスタッフの電撃を思いっきり喰らわせた。

 

内部の回路がショートしたドロイド・コマンドーは機能を停止し再び斬り掛かってきたドロイド・コマンドーをエレクトロスタッフで殴り付ける。

 

二度の衝撃でいよいよ限界を迎えたらしくドロイド・コマンドーの首がへし折れ倒れた。

 

チューバッカもボウキャスターを使ってドロイド・コマンドーを一、二体吹っ飛ばしている。

 

2人は背を合わせ息を合わせた。

 

するとハンは何かを見つけた。

 

「R2!」

 

燃え盛るドロイド・コマンドーとダーク・トルーパーの残骸の前に佇むR2はハンの声を聞きすぐに振り返った。

 

どうやら彼も三体のドロイドを倒してしまったようだ。

 

ハンは戦友とも言うべきそのアストロメクに頼んだ。

 

「あの小僧どもにあれを届けてくれ!」

 

ハンが顔で差した場所にはジェルマンとジョーレンのUウィングがあった。

 

敵の船を撃破する為と彼らはこの機体を置いて行ってしまった。

 

「動かせるか」とチューバッカの問いにR2は電子音で「任せろ」と元気そうに呟きブラスターの弾丸が飛び交う戦場を悠々自適に駆けた。

 

ドロイド・コマンドーが何体かR2の方に狙いを定めるがハンとチューバッカの攻撃を喰らい破壊された。

 

その間にR2はUウィングの中に辿り着きまずハッチを閉めた。

 

R2はコックピットのドロイド操縦用のコンソールソケットにアームを接続し機体を操作する。

 

Uウィングのシステムが起動し上空に浮遊した。

 

その様子ははっきりと地上でも見えていた。

 

皇帝の手はなんとか妨害しようとするがルークの執拗な攻撃により叶わないでいる。

 

ドロイド・コマンドー達もUウィングを撃破するだけの火力はなくハンとチューバッカの撃破に専念していた。

 

Uウィングが飛び立ちジェルマンとジョーレンの下へ向かう。

 

一体の英雄の等しいアストロメク・ドロイドを乗せて。

 

 

 

 

 

 

 

親衛隊の地上への攻撃は熾烈さを増し第一陣の部隊とは比較にならないほどのウォーカーやトルーパー達が惑星に上陸した。

 

しかしそれでもアンシオン軍は抵抗を続け親衛隊を押さえ付けている。

 

想像より遥かによく戦っている。

 

本来なら二陣が来る頃には惑星の都市部の半分は制圧されているはずだった。

 

しかし未だに都市部は愚か軍基地すら一つも陥落していなかった。

 

だがようやくジークハルト達率いる第三機甲旅団や各部隊が奮戦し状況を覆し始めている。

 

どれだけ奮戦しようとアンシオン軍に勝ち目はないのだ。

 

「敵の第二陣の戦力が来た、恐らくこれ以上はもう無理だ」

 

ハーウス将軍はドウル元帥の籠る司令室に姿を表した。

 

移動中も情報を逐一報告させそれにあった指示を出していた。

 

その為戦況は重々承知している。

 

「ドウル、我々も退却する時だ」

 

ドウル元帥は息を吐きこちらに顔を見せた。

 

変わらないと言えば嘘になるがそれでもいつも通りの元帥はそれこそいつも通りに話を始めた。

 

「全部隊を最終防衛ラインまで後退させ例の軌道砲も使用出来るようセットした。既に脱出部隊も編成し終えた、お前が部隊の指揮を頼む」

 

ハーウス将軍は全てを悟り重くそして力強く頷いた。

 

惑星防衛軍からクローン戦争まで、その後も戦友として戦い抜いてきたのだ。

 

あえて言わずとも察しは付く。

 

ドウル元帥は独り言のように呟いた。

 

「思えばあのパイク家の令嬢の言う通りとなってしまった。あのギャング王家の愛娘は恐ろしいな」

 

だがドウル元帥の表情に後悔の色ななかった。

 

ただ悔しさと第三帝国に対する憎さが見受けられる。

 

あの帝国に対し一方的にやられてしまったと言う悔しさが。

 

「我が軍がファースト・オーダーに向かうのか、将又別のどこかへ向かうのかは分からん。だがいずれ第三帝国という紛い物を倒してくれるだろう」

 

「ああ、任せてくれ」

 

ハーウス将軍は戦友の願いに強く頷いた。

 

もう彼は長くない、敗軍の将としての勤めを果たすつもりだ。

 

ドウル元帥も任せたという表情だった。

 

「失礼します!元帥、最後の脱出艦隊と旗艦の準備が完了しました」

 

若い少尉が司令室に入室しドウル元帥に報告する。

 

ドウル元帥とハーウス将軍は顔を見合わせ最後に一度だけ微笑んだ。

 

「先に行け、最後の指揮を取る。最後の一撃は頼むぞ」

 

ハーウス将軍は頷くとへリス少佐と報告に来た少尉を連れ司令室を後にする。

 

誰かが誰かにバトンを繋ぐ。

 

それはよくある光景ではあったがそれ故美しくもあった。

 

ラクサスでも同じようにバトンが紡がれた。

 

新共和国の軍人達がそうならアンシオンの元帝国軍人達だってそうだ。

 

敵か味方かの違いでありある種全ては一巡する。

 

そして繋がれたバトンは切れずやがて円を作り全てを囲む。

 

第三帝国の敵はもしかしたら増え続けるばかりなのかもしれない。

 

終わりない戦いが、受け継がれる魂がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

「このままじゃ絶対死ぬ!」

 

「つべこべ言わずに走れ!ロケット弾は一発も無駄には出来ねぇからな!」

 

背中にイオン・ブラスターを背負うジェルマンとスマート・ロケットを背負うジョーレンは空中を飛行し追撃してくるダーク・トルーパーの攻撃を躱しながら走っていた。

 

強力なブラスター・ライフルの爆撃は何度も2人に当たりそうになり何度も死にかけた。

 

それでもセンサーに映らないミサイル攻撃をやめさせる為には敵の船を破壊するしかない。

 

幸い攻撃弾数や追撃のない事を考えると恐らくそのミサイルを発射出来る船は一隻のみだ。

 

しかも敵の来た方角からある程度位置は割れている。

 

あとは本当に破壊するのみなのだが敵の猛攻は激しく中々に上手く行かない。

 

度々ジェルマンがイオン・ブラスターで空中にダーク・トルーパーを攻撃するが走りながらで相手は空中にいる為全く当たらない。

 

とにかく今は走って物陰に隠れるしかなかった。

 

「あそこだ!飛び込め!」

 

ジョーレンが指を差した岩陰に2人は急いで飛び込み隠れた。

 

また間一髪敵のブラスター爆撃を喰らう所だったが間一髪助かった。

 

ダーク・トルーパーは岩場に向けてブラスター・ライフルを連射するが頑丈な岩が彼らを守った。

 

今のうちにとジェルマンはイオン・ブラスターを岩場に当てて銃撃を開始した。

 

狙いを付けずとにかく攻撃をばら撒くようにイオン・ブラスターを放つ。

 

ダーク・トルーパー達は動きやフォーメーションが乱され反撃のブラスターも殆どが岩場にすら当たらなかった。

 

その隙にジョーレンが何かを用意する。

 

「本当はこれも使いたくなかったんだがな…!」

 

筒状のブラスター・ピストルやライフルとは若干違う武器にジョーレンは何かを込め始める。

 

三発ほどグレネードか何かを込めたジョーレンはダーク・トルーパー達のいる上空に狙いを定めた。

 

「効力は…まあやるしかねぇな!」

 

ジョーレンはすぐに引き金を引きその武器、MPL-57から三発の追尾ミサイルを発射した。

 

本来はグレネードを使用するのだが改造品である彼のMPL-57は追尾ミサイルも発射が可能だった。

 

ミサイルは空中に放たれまずジェルマンの方を優先して攻撃していたダーク・トルーパーの顔面に直撃した。

 

そのミサイルを喰らったダーク・トルーパーはそのまま地面に墜落し爆散する。

 

残りの二体はミサイルを避けながら撃墜しようとブラスターを放ったがある一体は胴体部に直撃し爆発する。

 

更にジェルマンのイオン・ブラスターを喰らい完全に機能が停止した。

 

残りの一体はかなり器用に空中を呼び周りミサイルを撃ち落とそうとしたが左腕に直撃し腕が吹き飛んだ。

 

しかし致命傷ではなくすぐに攻撃に戻ろうとする。

 

が、時既に遅し。

 

ジェルマンのイオン・ブラスターは既に狙いを確実に定めその何発もの光弾がダーク・トルーパーに浴びせかけられた。

 

イオン・ブラスターの嵐を喰らったダーク・トルーパーは他のドロイドと同じように機能を停止し地上に墜落した。

 

こうして三体のダーク・トルーパーを撃破したのだ。

 

「よし!今のうちに捜索を!なっ!」

 

ジェルマンがイオン・ブラスターを岩陰に戻そうとするといきなり赤いブラスターの弾丸が飛んできた。

 

弾丸の方向を見るとそこには5、6人ほどのデス・トルーパーがE-11DやDLT-19Dを構えこちらに近寄ってくる。

 

「新手か…しかも情報部の特殊部隊かよ…」

 

迫り来るデス・トルーパーの分隊を眺めながらジョーレンはそう呟いた。

 

昔、帝国軍の基地を襲撃した時たまたま警護として駐在していたデス・トルーパーの二個分隊と戦闘になった事がある。

 

同盟軍の特殊部隊が三個分隊、通常の歩兵が二個小隊近くいたはずなのに特殊部隊の一個分隊が全滅、小隊に至っては二つとも2/3以上が戦死し小隊長も生きては帰れなかった。

 

ジョーレンが率いていた部隊もただでは済まされなかった。

 

2人があの漆黒のトルーパーに殺され4人が重傷を負い当分戦闘不能となった。

 

無傷で切り抜けてきたのはジョーレンと当時の副分隊長と1人の隊員だけだ。

 

辛うじてデス・トルーパーの分隊を壊滅寸前になるまで押し退けたがそれでも手痛い損害を被った。

 

目の前にいるのは一個分隊にも満たない程度の人数だがそれでも勝てるか。

 

いや勝てるかではない、“《どれだけ削れる》》”。

 

流石はジェダイというべきかあそこまであの特殊兵科のトルーパー達に対して優位に立っているスカイウォーカー中佐が異常に強いだけで我々はそうではない。

 

ジェルマンに支援させるとして俺単独で一体何人撃てる。

 

最悪単独で削れたとしても2、3人が限度だ。

 

それ以上は賭けになってくる。

 

こんな所で重傷は負えない。

 

なら一体どうする。

 

一体…。

 

「……レン!ジョーレン!」

 

考えから目覚めたジョーレンはジェルマンの方を見た。

 

「あれを見てくれ!」

 

ジョーレンはジェルマンの指差された方向を見た。

 

森林の奥にほんとに僅かな隙間だがその先が見える。

 

「あれはっ…!」

 

そう、あったのだ。

 

彼らのUウィングを攻撃した船が。

 

見慣れないミサイル発射管を装備したTIE/rpリーパー攻撃着陸艇が森林の奥に停まっていた。

 

不幸中の幸い、これなら正気が見えてくる。

 

「ジェルマン、いいかよく聞け?このロケット・ランチャーでミサイルをぶっ壊せ。俺はデス・トルーパーを引き付けておく」

 

背負っていたスマート・ロケットをジェルマンに預け彼も戦闘準備を行う。

 

するとジェルマンが心配そうに尋ねた。

 

「1人で大丈夫かな…」

 

「俺は心配するな、後お前なら出来る。なるべく隠れながら近づけ。それと、ここから離脱する時にあの敵機を奪って逃げるぞ」

 

「わっ分かった…!」

 

スマート・ロケットをしっかり持ったジェルマンが硬い表情で頷いた。

 

ブラスター・ライフルを背負いホルダーからナイフを抜き出すとジョーレンはジェルマンに微笑んだ。

 

緊張してるジェルマンを解す為だ。

 

「使い方も匍匐前進もやり方は習ってるだろ?大丈夫だ、俺がコイツをぶん投げたらすぐに行け。幸い茂みで見えにくい」

 

「ああ…!」

 

そういうとジョーレンはベルトからある筒状の爆弾を一つもぎ取った。

 

サーマル・インプローダー、あのサーマル・デトネーター以上の範囲で爆発する超強力な小型爆弾だ。

 

スイッチを押し爆弾を起動する。

 

ジョーレンは思いっきりデス・トルーパー達の方へサーマル・インプローダーを投げジェルマンに「行け!」と叫んだ。

 

ジェルマンは茂みに飛び込み匍匐前進を始めた。

 

サーマル・インプローダーを投げこまれたデス・トルーパー達は一瞬でその危険性を感知しインプローダーから一気に距離を取った。

 

起爆する瞬間に独特の音が聞こえ一瞬だけ静寂が訪れた。

 

直後大爆発が巻き起こり一気に爆炎が周囲に巻き上がった。

 

しかし距離を取っていたデス・トルーパー達にダメージはない。

 

むしろダメージはないと最初から想定している。

 

こんなもの所詮は捨て技だ、敵を引き離し確固撃破に移る。

 

DH-17を近くに避難したデス・トルーパーに向け心臓部へ一度に二発の弾丸を放つ。

 

確実にアーマーを破り絶命させる為だ。

 

弾丸を喰らったデス・トルーパーはジョーレンの見立て通りに絶命し残りは後5人となった。

 

破片が飛び散り未だ視界が良好ではない為他のデス・トルーパー達も反撃に出れない。

 

こちらの動きに気づいた2人のデス・トルーパーがE-11Dを構えジョーレンへ向け発砲する。

 

狙いがまだうまく定まっていないのかジョーレンには当たらず目で追えぬような速さでデス・トルーパーの間合いに入った。

 

立ち上がる寸前にDH-17の銃口を頭に突き付け容赦なく引き放つ。

 

即死を免れず斃れたトルーパーを持ち上げジョーレンは盾代わりにブラスターの銃口を突き付けるトルーパー達に向けた。

 

腕から無理やりE-11Dをもぎ取るとジョーレンはDH-17の代わりに構えた。

 

「一度使ってみたかったんだよなこのデカバレルのカービンを!」

 

残された3人のデス・トルーパー達は互いに距離を詰めつつ容赦なく仲間の死体を抱えるジョーレンを撃ち始めた。

 

殆どの弾丸がデス・トルーパーのアーマーに直撃しジョーレンはほんの僅かにズレて避ければいいだけとなっていた。

 

しかし防御は完璧でも攻撃はそうはいかない。

 

E-11Dの引き金を引き3人のデス・トルーパー達を狙撃するが悉く躱されるか物を盾にされダメージを与えられていなかった。

 

器用にポールドロンを身代わりにしてダメージを最小限に抑えるトルーパーすらいた。

 

このままでは埒が開かない上に包囲され殲滅される。

 

だが時間を稼ぐと言う点では十分効力があった。

 

そしてすぐに効力は発揮された。

 

予想外の攻撃と共に。

 

森林の奥から何かが破壊され爆発する機械的な音が聞こえた。

 

若干皮膚で熱さを感じ恐らく目を向ければ爆発の炎と煙が上がっているだろう。

 

現にデス・トルーパー達がそちらの方に気を取られている。

 

ジェルマンがミサイル発射管の破壊に成功したのだ。

 

その隙にとジョーレンは盾代わりのデス・トルーパーの死体を捨て後もう2人仕留めようとブラスター・ライフルを構えた。

 

だがそこにイレギュラーが発生する。

 

上空からいくつかの赤いレーザー弾が降り注ぎジョーレンが攻撃しようとしたデス・トルーパー達が3人纏めて吹っ飛ばされ倒されてしまった。

 

突然の襲来によりジョーレンも思わず受け身を取り驚いた顔で上空を飛ぶその機体を見つめていた。

 

「Uウィング!?誰が操縦しているんだ!?」

 

後続にミレニアム・ファルコンやXウィングは続いておらずUウィングただ1機のみであった。

 

慌ててジョーレンは姿を表したUウィングを追い掛ける。

 

直後上空から再びレーザー弾の放たれる音が聞こえ森林の奥に隠されていたTIEリーパーが爆散した。

 

まさか!と一瞬恐怖を募らせ森林の中へ突っ込むとそこには爆発から身を防ぎながら唖然としているジェルマンがいた。

 

スマート・ロケットが手から滑り落ちいかにも突然だった事が分かる。

 

「ジェルマン!」

 

ジョーレンが声を掛けるとジェルマンはゆっくりとこちらに振り返った。

 

困惑し目は見開いている。

 

そんな状態でジェルマンは呆然としながら口を開いた。

 

「えっ…?」

 

あまりにも当然な反応だ。

 

しかし急がねばならない。

 

もしかしたら更なる後続がこちらに近づいてきているかもしれない。

 

「さあ分からん!とにかく乗り込むぞ!」

 

ジョーレンは無理やりジェルマンの手を引っ張り走り出した。

 

Uウィングは破壊されたTIEリーパーの近くに降り立ちハッチを開けた。

 

2人は急いで走りUウィングに飛び乗る。

 

直後ハッチは閉まり2人は大きく息を吐いた。

 

「なんとか助かった…」

 

すると突然機体のどこからかアストロメクタイプの電子音が響いた。

 

2人はびっくりし飛び上がる。

 

するとコックピットの近くにルークが連れていたアストロメク・ドロイドのR2-D2がこちらに顔を向け電子音で話していた。

 

「なんだ…あなただったんですか…びっくりした…」

 

緊張と疲労が一気に抜けジェルマンはUウィングの床に再び座り込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

 

ルサンキア”率いる親衛隊艦隊とアンシオン艦隊戦いは熾烈を極めた。

 

軌道上を防衛する艦隊は全滅させたが惑星内から新たな艦隊が出現し再び戦闘状態となった。

 

ベラトール級ドレッドノートを旗艦としインペリアル級やヴィクトリー級数十隻で構成された艦隊は軌道上で再び親衛隊艦隊と戦闘状態に陥った。

 

予想外の敵の出現とドレッドノートを主軸とした奇策が功を奏しアンシオン艦隊が一時的に優位となっていた。

 

しかし地上ではそう上手く入っていなかった。

 

物量に押されアンシオン軍が徐々に敗北し始めている。

 

ジークハルトの第三機甲旅団もアンシオンに上陸しシュメルケ上級大将の命令通りラグナー上級大佐の元師団と合流し攻撃を開始した。

 

スカウト・トルーパーを乗せたスピーダー・バイクが何台かAT-ATの隊列から発進し他のアサルト・ウォーカーもその後に続いた。

 

後方には今さっき組み込まれたばかりのラグナー上級大佐の元師団の車両が続いている。

 

ラグナー上級大佐は総旗艦“ルサンキア”との通信中に敵部隊の砲撃を受け重傷、そのまま戦死してしまった。

 

そしてシュメルケ上級大将の命令を受けジークハルトが代理で指揮を取る事となった。

 

無論最初は断りを入れた。

 

1万名以上の軍団規模を指揮するなど今まで経験になく、一体どこまでをコントロール出来るかまるで見当が付かない。

 

されどシュメルケ上級大将の命令は絶対でありジークハルトは不安を覚えつつも承諾した。

 

そんな彼のエリートAT-ATストライク1は他のAT-ATと共に進撃を開始した。

 

「ヒャールゲン中佐は部隊全体の規律維持を頼む。ヴェーク中佐は捕虜を」

 

『了解』

 

「アデルハイン、お前は部隊の半分を持ってベイリッツ准将とガリアー大佐の隊を支援しろ。敵基地を側面から叩くんだ」

 

ジークハルトはアデルハイン中佐の部隊に通信を取った。

 

本来二千数名程度の指揮を取っている彼だが現在は7,000名と言う旅団以上の戦力を指揮している。

 

尤もそれはジークハルトも同じで部下に負担をかけまいとする為殆どの部隊がラグナー上級大佐の師団の部隊だった。

 

ジークハルトは殆どの部隊を包囲と砲撃支援に当てウォーカーやタンクなどの機甲部隊と突撃隊などの突入戦力を率い前進している。

 

砲撃支援は未だシールドが生きている事を鑑みて偏向シールド突破用の砲弾を使用させていた。

 

「ハイネクロイツ、アデルハイン隊の支援を頼む。我々はこのまま首都司令部を墜とす」

 

上手く行けば攻撃中の第四突撃大隊や第十二機甲連隊と合流し一気に司令部まで雪崩込めるかもしれない。

 

『了解した。インパルス・フォース全隊、前進を開始する』

 

数十台のAT-ATと付属AT-STなどのウォーカーとTIE部隊が反転し敵基地方面へ進軍する。

 

その後ろには数十、もしくは十百台にも匹敵するほどの兵員輸送機やジャガーノート・タンクが後に続いた。

 

すると早速索敵部隊の情報が送られてきた。

 

ジークハルトのエリートAT-ATのコックピット上に添付され彼は静かに読み取る。

 

「ターボレーザーに局所防衛砲台…イオン砲まである…」

 

もはや要塞並みだと思いつつジークハルトは戦術を考える。

 

元より数が少ないのかそれとも撤退が既に始まっているのか周辺の機甲戦力はかなり少なかった。

 

これに関しては後者の可能性が高い。

 

敵に猶予を与えすぎたとジークハルトは歯噛みしこれ以上はないと命令を出した。

 

「全隊、対防衛砲台殲滅隊形を取る、ヴィアーズ隊形だ。ホスの大将軍に続け!」

 

対防衛砲台殲滅隊形、正式名称ヴィアーズ隊形はホスの戦いでヴィアーズ将軍が使ったウォーカー隊形を元により洗礼にされたものだ。

 

その後もヴィアーズ将軍のブリザード・フォース麾下のサンダリング・ハード中隊は度々この戦術を使用した。

 

COMPNOR青年大隊の救出、デノン防衛戦、カイゼルシュラハト作戦、コルサントの奪還、そしてシャンドリラの戦いでもだ。

 

AT-ATやAT-STが隊列を組み直し隊形を整えた。

 

この隊形を取るのは初めてだがこの状況下ではやるしかない。

 

ヴィアーズ隊形が確立しジークハルトは命令を出した。

 

「攻撃開始、全ての砲台を殲滅しろ」

 

こちらに向く全ての砲台に対してストライク・フォースのAT-ATは攻撃を開始した。

 

顎の重レーザー砲が時間差を帯びて一斉に発射され対空砲撃を開始しようとする防衛砲台や味方のタンクを狙うターボレーザーを破壊していった。

 

AT-STはそんなAT-ATを護衛しAT-ATを狙う迫撃砲手や対戦車装備の敵トルーパー達を殲滅する。

 

それだけではなく余力があれば砲台も顎の震盪手榴弾ランチャーでダメージを与え顎の中型ブラスター砲を連射し確実に破壊した。

 

ジークハルトのエリートAT-ATストライク1には次々と砲台の撃破報告が響く。

 

「全隊、センサーシステムを連結させ索敵範囲を広げろ。後続車両隊は突撃準備及び取りこぼした砲台撃破に専念を」

 

エリートAT-ATが重レーザー砲を放ち再びターボレーザー砲を破壊する。

 

徐々に敵砲台も注意が集まりウォーカー部隊への砲撃が強まった。

 

ストライク1の隣を進むストライク2に一発のターボレーザー弾が掠った。

 

若干損傷したようにも見えるがまだ無傷の部類だ。

 

ストライク2は直ちに反撃しターボレーザー砲を完全に沈黙させる。

 

他のウォーカーも徐々に攻撃を受け始めていたがひとまず持ち前の装甲でなんとかしていた。

 

だがターボレーザークラスの高火力を喰らい続ければ流石に危険が高まってくる。

 

その為には偏向シールド発生装置とジェネレーターを破壊せねばならない。

 

しかしいまだに二つとも発見には至っていない。

 

「センサー感度をもう少し上げろ。都市部のシールド発生装置を索敵する」

 

「上級大佐、偵察隊からの報告です。シールド発生装置を発見したとの事です」

 

その報告を聞きジークハルトの表情が側でも分かるほど変わった。

 

これ程聞きたかった報告はない。

 

「座標表示します」とAT-ATパイロットがホログラムを浮き上がらせジークハルトに見せた。

 

この地点なら余裕でミサイルが届く距離だ。

 

早速ジークハルトは「よくやった、トルーパーを安全地点まで下がらせろ」と指示しストライク・フォース全隊に命令を出した。

 

「敵シールド発生装置をミサイルで周辺の対空砲網ごと殲滅する。一時的にでもシールドが解除されたら包囲隊は転送した座標に砲撃を開始しろ。少しでも敵司令部にダメージを与える」

 

アサルト・ウォーカーのミサイル発射装置に座標を入力し照準を合わせる。

 

その間にも2人いるうちのもう1人のAT-ATパイロットは攻撃に専念し周囲の砲台を破壊していった。

 

座標入力と照準合わせはすぐに終わりロックオンももう完了している。

 

「ロック完了、全隊いつでも発射可能です」

 

ストライク・フォースの各AT-ATからの報告をパイロットから受け取りジークハルトが命令を出す。

 

「全機、ミサイル発射!」

 

全てのAT-ATから四、五発のミサイルが放たれ周辺の防衛砲台や敵の簡易司令部ごとシールド発生装置を破壊した。

 

被弾した数カ所から同時に爆発の光と破壊された機器の煙が一気に立ち込め破片が飛び散り崩れ落ちた。

 

照射されていた偏向シールドは目視で確認出来る程の勢いで消失し周辺を守るエネルギーの盾は完全に消え去った。

 

そこへ包囲を命じていた元ラグナー上級大佐の師団部隊が砲撃を開始する。

 

間髪入れずに放たれる砲撃やミサイル攻撃は飛行機雲を描き流星のような姿のまま目標地点に着弾した。

 

砲台や敵基地、司令部周辺や司令部に砲弾は直撃し破壊の限りを尽くす。

 

破壊された瓦礫は崩落し崩れ落ちた砲台からは火の手と煙が上がっている。

 

「今のうちにジェネレーターの捜索に専念しろ。恐らくサブの装置が起動し…」

 

「上級大佐!あれを!」

 

AT-ATパイロットが珍しくジークハルトの命令を遮り彼を呼んだ。

 

思わずジークハルトはパイロットが指を差す方向を見つめ、そして唖然とした。

 

正に釘付けといった感じで声が出なかった。

 

クワット社が開発したプラネット・ディフェンダータイプのようなイオン砲に似た超大型レーザー砲塔が上空に向け赤いレーザー砲を放っていた。

 

しかも一、二発などではなく何度も何度も赤い光弾を上空に向け放っている。

 

「なんだ…あれは…」

 

困惑するジークハルトを今後は驚愕が襲った。

 

放たれた光弾は軌道上で戦闘している味方のアークワイテンズ級に直撃し一撃で轟沈せしめた。

 

それだけではなく射角を変え他のヴィクトリー級やインペリアル級にも攻撃を開始した。

 

ヴィクトリー級は僅か三発の直撃でアークワイテンズ級のように轟沈しインペリアル級も一気に中破まで追い込んだ。

 

あっという間に手痛い損害を喰らってしまった。

 

敵は対軌道上用の重ターボレーザー砲を持っていたのだ。

 

しかも外壁が崩れ落ちその真の姿を露わにする。

 

その間にも砲撃が続けられ再び二隻のアークワイテンズ級と一隻のヴィクトリー級が轟沈した。

 

被害はついに主力艦にも及んだ。

 

敵艦への砲撃に集中していたインペリアル級のエンジン部分にこのターボレーザー砲が直撃しエンジンが大爆発を起こした。

 

航行不能となったインペリアル級は惑星の重力圏に引かれ徐々に惑星へ墜落し始めた。

 

もはや止められるものは誰もいない。

 

インペリアル級はそのまま長い時間を掛けてアンシオンの地上に墜落した。

 

『上級大佐、センサーが敵の都市型ジェネレーターを発見しました』

 

AT-STストライク・スカウト5がジークハルトにそう報告した。

 

唖然としていたジークハルトだがこの時ばかりはすぐに指示を出す事が出来た。

 

「ああ…ヒャールゲン中佐、麾下の保安中隊だけでなく他の突撃大隊も指揮して敵のジェネレーターを占拠しろ。もしかすればあの大砲も…」

 

止められるかもしれない、ジークハルトはそう僅かな希望を抱いていた。

 

あれだけのエネルギーを連発して撃つには都市部の電力供給を賄える程のジェネレーターでないと無理だ。

 

専門のジェネレーターがあるかもしれないが兎に角シールドだけでも使えるようにしなくては。

 

『了解…!攻撃を開始します』

 

「頼む、我々はあの砲台を撃破しなくては…」

 

あの周辺一体は多少砲撃が届いていてもまだ対空砲網が残っている。

 

これではミサイルを放っても対空砲火を喰らい殲滅されてしまう。

 

直接射程距離まで接近し最大火力で攻撃せねばならない。

 

「隊形を変更する、ストライク7とストライク8とストライク9はそのまま首都司令部の攻撃を支援しろ。残りは全て最短コースを維持しながらあの砲台を破壊する」

 

ストライク・フォースが二つに分かれジークハルト達は方向を若干反転させ未だに攻撃を続ける重ターボレーザーの方へと向かった。

 

艦隊はこれ以上の損害を避ける為に一旦射角外へと退避し始めた。

 

だが恐らくこれが狙いだったようだ。

 

艦隊が一時退却した為惑星から出現したベラトール級らの艦隊は徐々にハイパースペースに突入し始めた。

 

これ以上の追撃は犠牲を考慮しても大きな成果を得られない。

 

悔しそうに歯噛みしながらもジークハルトは全速力でAT-ATを砲台圏内まで突入させた。

 

「上級大佐、シュメルケ上級大将から通信です」

 

ホログラムが浮き上がりシュメルケ上級大将の姿が現れた。

 

ジークハルトは軽く敬礼しシュメルケ上級大将は普段の様子のまま口を開いた。

 

『敵にしてやれた、そちらから原因の砲台は確認出来るか?』

 

「現在攻撃の為前進中です、ですから首都司令部攻撃に回した機甲戦力はかなり少ないですが」

 

ジークハルトの報告に若干驚きつつも素晴らしいとシュメルケ上級大将は頷いた。

 

『首都はファルスとライルリンガーの隊に任せろ。全戦力を持って件の砲台を撃破、または鹵獲せよ』

 

そう言いシュメルケ上級大将のホログラムは消えた。

 

ジークハルトは通信機に手を当て再びストライク・フォースに命令を出す。

 

「ストライク・フォース全隊、全戦力を持って敵大型砲台の制圧に着手する。全隊反転」

 

命令は届きそのまま一直線に進んでいたストライク7、ストライク8、ストライク9の部隊も反転し後に続いた。

 

僚機のストライク3が重レーザー砲を放ち護衛のターボレーザー砲を破壊する。

 

ストライク1も屋上からAT-STを破壊しようとするストームトルーパーの一段を中型ブラスター砲で殲滅しそのまま局所防衛砲台を一つ破壊した。

 

他のウォーカーも急遽な命令だったが即座に行動し周辺の敵防衛砲台を撃破していた。

 

幸いにも重ターボレーザー砲は冷却中で今は動けないらしい。

 

するとついに敵も本気を出してきた。

 

まず最初はストライク5からの報告だった。

 

『旅団長、敵のスカウト・ウォーカーです。二台接近中』

 

「付属のスカウト・ウォーカーを下がらせろ。ストライク4は撃破の支援を頼む、撃破して通るぞ」

 

命令通りストライク5を守っていたAT-STが二台後方に下がりAT-ATが敵機へ向け攻撃を開始した。

 

最初はAT-STが何発か顎の中型ブラスター砲を脚やコックピットに当ててきたがほAT-ATには殆ど効かず逆にAT-ATが反撃の重レーザー砲を放った。

 

前方を進んでいたAT-STは重レーザー砲に直撃しコックピット部分の上半身が一撃で吹き飛んだ。

 

足だけになったAT-STはくてっと倒れその側を歩いていたもう一台のAT-STも支援の命令を受けたAT-ATストライク4の重レーザー砲を喰らい破壊された。

 

「各機、敵ウォーカーも冷静に対処しろ。最短コースを維持するんだ」

 

ストライク1から二発ほどのミサイルが放たれセンサーに映っていたインペリアル・アサルト・タンクを二台撃破した。

 

足元の曲がり角から一台のインペリアル・コンバット・アサルト・タンクがエリートAT-ATに中型レーザー砲を浴びせ掛けた。

 

しかし強化されたエリートAT-ATの装甲は破れず僚機のAT-STの攻撃を受け爆散する。

 

「前方にAT-ST一台確認、付属機としてオキュパイア・タンク二台を連れています」

 

十分その姿は見えている。

 

AT-STの背後に二台のインペリアル・コンバット・アサルト・タンクが続いていた。

 

「確認した。AT-STは我々が撃破する、僚機はビークル・ミサイルでタンクを叩け」

 

エリートAT-ATはすぐ重レーザー砲を放ち味方のAT-STに攻撃する一歩手前だったスカウト・ウォーカーを撃破した。

 

付属機もミサイルを放ちインペリアル・コンバット・アサルト・タンクを攻撃する。

 

一台はミサイルを喰らい沈黙したがもう一台は履帯が破壊されただけでまだ機能していた。

 

タンクが二門の中型レーザー砲を放ちAT-STを破壊しようとする。

 

しかし優秀なドライバーは間一発で機体を逸らしレーザー砲を躱した。

 

躱されたレーザー弾はそのままビルに直撃し轟音と共に土煙を巻き上げた。

 

直後エリートAT-ATの重レーザー砲を喰らいインペリアル・コンバット・アサルト・タンクは爆発四散した。

 

だが敵はまだまだ出現し続ける。

 

『旅団長!いよいよ大物が出てきました』

 

ストライク3のハインズマン上級大尉の報告を聞きジークハルトは目線を上に向けた。

 

二台のAT-ATがこちらに迫ってきている。

 

久しぶりのAT-AT対AT-ATの戦いとなりそうだ。

 

「ストライク6、ストライク12、ダメージが低くても構わん。敵の胴体部に砲撃を仕掛けろ。ストライク2はミサイル攻撃準備だ」

 

一番両端にいる二台のAT-ATが顎の重レーザー砲を敵のAT-ATの胴体部分に向け砲撃を始めた。

 

独特なレーザー音と共に赤い光弾が放たれAT-ATの巨大な胴体部分に直撃する。

 

一般的なブラスターやロケット・ランチャーとは違いしっかりとダメージは通っていた。

 

敵機は大きく揺れ微妙に体制を崩しかけた。

 

だが全く致命傷ではない。

 

ようやく煤の付いた小さな穴が付いた程度だ。

 

全体のまだまだ相手は余裕だった。

 

ストライク6とストライク12は間髪入れずに砲撃を続ける。

 

優秀なパイロットと指示を下す車長達のおかげでレーザー砲弾は一発も外す事なく直撃を受けている。

 

「ストライク4とストライク5は敵付属機の撃破に専念しろ。ヘールスのスカウト・フォースはミサイル・ランチャーで敵機の注意を引き付けるんだ」

 

ジークハルトはコックピットのスコープでより深く戦場の様子を見つめた。

 

敵のAT-ATも徐々に攻撃を始めている。

 

顎の重レーザー砲が放たれあわやストライク11に直撃する所だった。

 

一方付属機殲滅に集中していたストライク5は砲撃を交わし切れず重レーザー砲弾が機体を掠った。

 

角の部分が小さく抉れ白い煙が出ていた。

 

「ストライク3、我々で敵の頭を潰す。十字砲火で一気に両機撃破するぞ」

 

『了解旅団長…!』

 

「しっかり狙えよ。ストライク2は敵の攻撃体制を崩せ」

 

『了解』

 

AT-ATストライク2のゲールマン少佐は命令を受け取り敵AT-ATに向けミサイルを放った。

 

ミサイルは胴体部だけでなくAT-ATの足や顔面にも直撃し射角がズレた一台のAT-ATが無人のビル街へ重レーザー砲を放った。

 

轟音と共にビルが崩れ落ち無機質に通り過ぎようとする。

 

しかしこの隙を見計らっていたジークハルト達が砲撃を開始した。

 

撃て(Fire)!」

 

エリートAT-ATとAT-ATから重レーザー砲が放たれ頭のコックピット部分の装甲と首の連結部分を破壊した。

 

一台のAT-ATの頭がそのまま千切れ飛び司令塔を失ったアサルト・ウォーカーは力尽きたように倒れた。

 

もう一台のAT-ATは辛うじてまだ生き残ってはいたが再びストライク1とストライク3の砲撃を喰らいコックピットが完全に吹き飛んだ。

 

機械が軋む鈍い音と共にAT-ATは倒れその屍をストライク・フォースは越えていった。

 

「敵大型砲台、射程圏内です!」

 

パイロットの報告を聞きジークハルトは再びペリスコープ・ディスプレイを覗き込んだ。

 

センサーや別の機器が敵砲台の各パーツの予想を展開する。

 

「今なら鹵獲出来る…エネルギー連結器と供給機は分かるか?」

 

ジークハルトはパイロット2人に尋ねた。

 

すぐ様調べ上げジークハルトに報告した。

 

「連結器及び供給機を発見しました」

 

ディスプレイに映し出されジークハルトはいよいよ攻撃の命令を出す。

 

「最大出力で連結器と供給器を破壊する。ストライク11、確か装備としてイオン・ミサイルを持っていたな」

 

『はい、弾数は六発ですが』

 

ストライク11の報告は十分ジークハルトの策略を現実的にした。

 

「我々が砲台のエネルギー供給を砲撃で断ち切った後、周辺をミサイルで攻撃して機能停止にするんだ」

 

『了解!』

 

『上級大佐!ジュネレーターの制圧に成功しました!』

 

ヒャールゲン中佐の報告がベストタイミングで届いた。

 

「流石だ中佐!我々も大型砲台を制圧するからそちらも電力供給をストップさせ敵兵を近づけさせるな」

 

『了解!』

 

通信が途切れジークハルトは冷静そのまま命令を出した。

 

「ターゲットを合わせる、発射体制に移れ」

 

ペリスコープ・ディスプレイの自動ロックオンシステムをうまく活用しながら連結器と供給器に狙いを定める。

 

幸いにも二つはかなり近い距離にある。

 

エリートAT-ATの一度の砲撃で十分破壊可能だ。

 

「出力チャージ完了」

 

「砲撃体制、固定完了」

 

パイロット達の報告と時を同じくジークハルトのロックオンも完了した。

 

彼は命令を出す。

 

「出力最大、撃て!」

 

二門の重レーザー砲が最大出力の一撃を放ち重ターボレーザー砲のエネルギー連結器と供給器を破壊した。

 

破片が飛び散り爆炎が上がる。

 

そこに砲撃を確認したストライク11がイオン・ミサイルを撃ち込んだ。

 

かなり近距離に着弾したミサイルは周辺の機器を無力化しついには砲台自体の無力化に成功した。

 

これで艦隊はこれ以上攻撃に晒される事はない。

 

「直ちに部隊を降ろして直接的な制圧を…っ!」

 

しかし再びジークハルトの命令は掻き消された。

 

エリートAT-ATのコックピットに警報が鳴り響いたのだ。

 

軌道上爆撃を知らせる警報が。

 

「まさかここに…!?」

 

この砲台ごと我々を殲滅する気かとジークハルトは危惧した。

 

『いえ!敵艦の位置からして若干ズレています!』

 

ストライク8からの報告は正しく頭上に軌道上から放たれたターボレーザー砲の砲弾は一つもなかった。

 

とするとどこに。

 

どこを道連れにする気だ。

 

既に各部隊は敵地へ突入し制圧を始めている。

 

このタイミングで軌道上爆撃を繰り出すとなると必ず友軍を巻き添えにしなければならない。

 

ならばどこだ。

 

アデルハイン中佐の隊か。

 

それともヒャールゲン中佐とジェネレーターか。

 

いや違う。

 

敵が道連れにするのはその程度の代物じゃない。

 

「…まさか!!」

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ!そのまさかだよ!」

 

タイミングよく司令部のドウル元帥が笑み浮かべ相手に言い放った。

 

数十人近くのストームトルーパーと部隊長のファルス少佐にブラスターを突き付けられ取り囲まれている。

 

他の部下もよく戦ってくれたが全員先に戦死してしまった。

 

ドウル元帥も腕から血が流れ額も傷をつけられ出血している。

 

「悪いが捕虜になるつもりはない!何処の馬の骨かも分からない紛い物の指導者に付き従うつもりもない!」

 

息を荒げながらも何処か誇らしげなドウル元帥はそう彼らに吐き捨てた。

 

ヒルデンロードならともかく、あのような大道芸人に付き従う理由は一つもない。

 

我々が忠誠を誓ったのは皇帝のみだ。

 

「あの世でお前達の総統とやらに教えてやるといい!真の帝国の指導者は名誉を失うくらいなら死を選ぶとな!どうせすぐに逝っちまうんだろうからな!」

 

「なっ何を…!」

 

突撃大隊のファルス少佐はブラスター・ライフルを構えながらもその腕は震えていた。

 

「お前達も皆道連れだ!!」

 

ハーウス将軍は良き戦友だ。

 

別れ際の言葉も聞き逃さずその意味を理解してくれた。

 

奴がいるならば脱出部隊もなんとかなるだろう。

 

ベラトール級“パペティアー”から放たれる爆撃はこの司令部を吹き飛ばし中にいる敵兵諸共皆殲滅する。

 

連中に与えるものは何もないのだ。

 

あの大砲だってすぐに機密保持として自爆する。

 

何も得る事のないまま悪戯に損害だけ食らうがいい。

 

「くっ……この!」

 

「大隊長!早く撤退しましょう!このままでは…!」

 

副官がファルス少佐に声を掛け撤退を促した。

 

軌道上爆撃はすぐそこまで迫っている。

 

少佐は目の前の元帥を討つことよりも死の恐怖に屈し撤退命令を出した。

 

「……っ!…総員撤退!急げ!」

 

トルーパー達も慌てて逃げ出し司令室には再びドウル元帥1人となった。

 

静かに倒れ込みテーブルに寄り掛かる。

 

もう立っている気力も残されていなかった。

 

情けないものだ、仮にも帝国軍だろうに。

 

あんな簡単に戦いの場から逃げ出すなんて。

 

しかも目の前に敵の総大将がいるのに。

 

帝国軍も堕ちたものだ。

 

そしてそんな連中に負けた自分自身も。

 

「……さらばだ、祖国よ。今すぐに行く」

 

ベラトール級の爆撃は司令部の区画に直撃し多くの死傷者を出した。

 

爆撃によりドウル元帥は戦死、惑星アンシオンは陥落した。

 

しかしこの時脱出する寸前のベラトール級“パペティアー”のブリッジでは無言の敬礼がされていた事はあまり知られていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

フォース使い同士の熾烈なライトセーバーによる戦いは未だ終わりを見せていなかった。

 

双方技量としては互角と言ったところで両者一歩も譲らなかった。

 

しかし疲労という面ではルークの方が不利であった。

 

眼前の皇帝の手だけでなく他のパージ・トルーパーなども相手をしなければならなかったからだ。

 

幸いハン達が加勢してくれたがそれでもやはり疲労は抜けない。

 

受ける一撃一撃がより重たく感じた。

 

再び皇帝の手が斬り掛かりルークは無駄のない動きで攻撃を受け流すと鋭く突きの一撃を入れた。

 

当然のように躱されるが予想の範疇だ。

 

ライトセーバーを持つ右手と同時に左手を突き上げ意識を集中させる。

 

フォースの力が加わり皇帝の手は押し出され空中に少し浮き体勢が崩れかけた。

 

すぐに持ち直し踵で地面を削りながらブレーキを掛ける。

 

素早くライトセーバーを構え直しヘルメット越しからでも解る程ルークを睨みつけた。

 

そんな皇帝の手にルークは制止する。

 

「もうよせ!これ以上無益な戦いは望まない!」

 

しかし皇帝の手は無言のまま再びルークに斬り掛かった。

 

呼吸とフォースと体を合わせ相手の斬撃を躱し続ける。

 

左、右とその動きには無駄なくまるで相手の攻撃が見えているかのようだった。

 

五回の斬撃を避け切った時ルークは反撃を始めた。

 

自身のライトセーバーを突き上げ無理やり防御をこじ開けるとすかさず胴に鋭い斬りの一撃を入れる。

 

皇帝の手はギリギリのところで斬撃を防ぎ弾かれるように身を任せ距離を取った。

 

ルークはかつて見た技術を真似てライトセーバーを敵へ向け投げつけた。

 

皇帝の手は自身のライトセーバーで弾きルークの緑色のセーバーは宙へと舞った。

 

だがこの一瞬が欲しかったのだ。

 

思いっきり拳を握り締め地面を強く叩く。

 

研ぎ澄まされた強力な意識に応えるかのようにフォースの力は現れた。

 

辺り一帯の地面を割りながら広範囲に力の波動が広がる。

 

それは皇帝の手でも防げない程のもので再び外へと押し出されかけた。

 

ルークはライトセーバーを手に戻し再び構えた。

 

だがそこに更なる攻撃が訪れる。

 

危機を察知した皇帝の手は急いでその場から離れ皇帝の手が元いた地面にレーザー弾が直撃した。

 

爆発と共に土を巻き上げ大地を崩した。

 

ルークは何事かと上空を見上げるとそこにはR2が乗って行ったはずのUウィングが飛行し皇帝の手を攻撃していた。

 

コックピットハッチが開き一発のロケット・ミサイルが放たれ皇帝の手に迫る。

 

フォースで弾道を変えたはいいが更に再びUウィングのレーザー斉射を喰らわされた。

 

何発かをライトセーバーで防ぎつつ足場を移動した。

 

だが足をついた途端地面が崩れそのまま崩落する岩や土と共に皇帝の手は姿を消した。

 

「やったか!?」

 

「分かんないけどとりあえず退けたぞ!」

 

スマート・ロケットを担ぐジェルマンはそうジョーレンに報告した。

 

その横からR2がジェット噴射を使いルークの下に戻った。

 

「R2!」

 

地面に着陸しルークの下に駆け寄った。

 

すかさずR2はルークに電子音で提案した。

 

「そうだな、今なら脱出出来る!ハン!チューイ!」

 

ルークはR2と共にそのまま駆け出し岩壁の高台から飛び降りた。

 

再びライトセーバーを起動し2人を襲うドロイド・コマンドーを全て斬り倒した。

 

「帝国軍の本隊が来ないうちに早く逃げよう!」

 

「そうだな…チューイ!船に急げ!」

 

返事をするチューバッカを先頭に2人は船に乗りミレニアム・ファルコンのハッチが閉まった。

 

「僕たちも急ごう」

 

R2は頷きを示し2人も自分のXウィングに急いだ。

 

ジェット噴射でアストロメク・ドロイド用のソケットに入りルークもXウィングに飛び乗る。

 

流石にパイロットスーツまで着る余裕はない為ヘルメットだけ被りキャノピーを閉めた。

 

ファルコン号もすでに発進し残るはルークとR2のXウィングのみとなっていた。

 

だがもう敵が襲ってくる心配もなく2人のXウィングも無事うウィングやミレニアム・ファルコンと合流した。

 

3機のスター・シップがルーサンの大気圏を飛び越え惑星の外を出た。

 

もう追える距離ではなくなってしまった。

 

瓦礫の上に立つ皇帝の手は憎しみを込めながら3機のスター・シップを睨んでいた。

 

 

 

つづく




わ た し だ

ええ諸事情あってウィルズ二・二六事件は延期となりました…

悲しいですねぇスッゴイカワイソ

ちなみにpixivにイラストだけはあります


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最初の命令

「もしフォースが我らを見ていて下さるのならどうか私達に力をお貸し下さい。それは人を殺す程のものでなくてもいい。せめて我々を、家族だけでも守れるだけの力をお貸し下さい。このまま意味も分からず囚われ殺されるのは余りに理不尽です。理不尽から我々を守れるだけの力をお貸し下さい。この銀河に我々の明日がある事を願って。フォースよ、我々と共にあれ」
-とあるエイリアン種族の日記より抜粋-


-アウター・リム・テリトリー イリーニウム星系 惑星ディカー-

この日、ディカーは歓声と歓喜に包まれていた。

 

ことの発端は軌道上の艦隊が感知したハイパースペースからのジャンプアウトの信号であった。

 

大型艦船ではないスター・シップの反応が三つ存在していたのだ。

 

一体何が来るんだとその時はまだ軌道上艦隊のみの小さな不安や期待だけだったがジャンプアウトと同時にそれは喜びに変わった。

 

Xウィングが1機、Uウィングが1機、そしてYT-1300軽貨物船が一隻。

 

その貨物船を目にした瞬間に乗組員達は皆すぐに納得した。

 

英雄の凱旋だ。

 

同盟勝利の立役者である英雄達がその舟と共に帰ってきたのだ。

 

艦隊の将兵の殆どがその場の勤務を忘れ興奮し絶叫し英雄の凱旋を喜んだ。

 

一兵卒だけでなく主力艦の艦長ですら同じような面持ちだった。

 

その為地上への通信連絡も微妙に伝わっていなかった為彼らの帰還は一種のサプライズとなってしまった。

 

Uウィングを先頭に大気圏内に入り地上のディカー基地に降り立った時その場にいた全員が唖然とし隣の者の顔を見合わせ黙って着陸する瞬間を見ていた。

 

それは偶々地上にいたレイアも同じだ。

 

YT-1300軽貨物船の特徴的なフォルムの船体が空を横切った時彼女は周りにいる補佐官や幕僚達に何も言わず全力でハンガーベイの着陸スポットまで走った。

 

レイアが到着する頃には着陸スポットは大勢の将兵に囲まれ歓喜の嵐に見舞われていた。

 

「流石は同盟の英雄達だ、完全に忘れ去られていた俺とは違うな」

 

「悲しいこと言うなよ。僕たちだって十分よくやったさ」

 

過去を皮肉りながらジェルマンとジョーレンは共にディカーへと帰還したハンやチューバッカ、ルークの持て囃されぶりを見守っていた。

 

ルーク達も少し困った様子だ。

 

とても前に進める様子ではなくもみくちゃにされ握手を求められていた。

 

軽く受け流しながらとりあえず1人1人にそれらしい言葉をかけて行く。

 

しかし彼らも皆れっきとした兵士である為理性ある上官の「早く持ち場に戻れ」と言う呼びかけで皆名残惜しそうにとぼとぼと去っていった。

 

整備士達が集まりUウィングやXウィング、ミレニアム・ファルコンに整備や補給を始める。

 

「ドライブや装甲の修復頼む。何度か被弾しまって応急処置の箇所もあるからな」

 

整備士長に命令を出しジェルマンとジョーレンは司令部へと歩き始めた。

 

任務はひと段落したとはいえまだ報告を終えていない。

 

ディゴール准将もオーガナ議員もガー議員も結果と次に与える任務を待ち望んでいるだろう。

 

平和な時代ならいざ知らず、今は戦争中だ。

 

新共和国が崩壊したとはいえ我々は戦わなければならない。

 

それに休暇はもう五、六年ほど楽しんだだろう。

 

ジョーレンは心の中で冗談を浮かべながらジェルマンと共に歩き始めた。

 

「ようやく、帰ってこれたんだな」

 

ジェルマンがディカーの空や仲間達を眺めながらそう呟いた。

 

ホズニアンから落ち延びここにいたのはほんの数時間もない。

 

すぐに新共和国軍の連携を確立し再興する為にあのUウィングで旅立ってしまった。

 

だがこの場所はずっといたかのように愛着が湧いている。

 

そんなジェルマンの肩に優しく手を当てジョーレンが頷く。

 

「ああ、だが俺達にとっちゃまだ始まりですらない。ほんとの戦いはまだこれからだ」

 

「うん、いつか必ず戻るさ。ホズニアン・プライムに、みんなで」

 

「ああ、“()()”も一緒にな」

 

ジョーレンはジェルマンの頭をポンと叩きある方向を振り向かせた。

 

その直後ジェルマンの名前を呼ぶ声と共に彼は何者かに抱きつかれ倒れそうになった。

 

ジェルマンは一瞬だけその存在が目に入った為誰だかすぐに分かった。

 

彼女、ヘルヴィ・セルヴェントは今にも泣き出しそうな勢いでジェルマンに抱きついた。

 

女性特有の華やかな匂いと人の温もりが感じられ思わずジェルマンの顔は赤くなる。

 

「ジェルマン!」

 

ジェルマンの名を呼び彼女はさらにギュッとジェルマンを抱きしめ「よかった」と安心したようにつぶやいていた。

 

「ヘルヴィさん!?どうしたんですか!?」

 

顔真っ赤で動揺するジェルマンを横目にジョーレンはわざとらしく口笛を吹いて目を逸らした。

 

40代近くのおじさんに若い衆の恋のあれこれを見せつけられても困る。

 

「ご無事でっ……本当によかった…!!」

 

どうやら本当に心配してくれているらしい。

 

戦場で生き残ってもこのままでは嬉しさで昇天しそうだ。

 

「私は全然大丈夫ですから!ええ!それはもう!絶対死にませんよ!」

 

「私達の命を救ってくれたあなたが前線で死んでしまうと思うと辛くて…ずっと帰ってくるのは待っていました」

 

「ありがとう……ございます……」

 

これは間違いなく自分の事を好きだなというまさしく青少年らしいどこからそんな自信が湧いて来るのか分からない事を思い立てながらゆっくりと感謝の言葉を述べた。

 

無論ジョーレンのなんとも言えない顔付きで。

 

だが彼の視線と思考は全く別の方向に向いていた。

 

ただ隣でよく聞こえるだけだ。

 

Xウィングから降りたルークとようやく将兵職員から解放されたハンとチューバッカがある人物と再会していた。

 

このディカー基地、曳いては現在の新共和国の最高指導者たる人物に。

 

ハンは何処か照れ臭そうな様子だ。

 

チューバッカは喜びの声を上げ彼女と再会を祝うハグを交わした。

 

チューバッカは笑みを浮かべながらわざと早めにハグを離し後ろの方を指差した。

 

そこには手を振るルークとまだ照れ臭そうにしているハンがいた。

 

彼女はまず実の“()()”のルークの方に向かった。

 

チューバッカと同じように深いハグを交わし軽く話し始めた。

 

「また、戻ってきた」

 

「みんなが待っていたわ、私も彼らも」

 

互いに優しい心の通じ合った笑みを浮かべているとそこにハンが近づいてきた。

 

やっぱりまだ気まずそうな照れ臭さそうな様子が見受けられた。

 

この2人はいつもそうだ。

 

夫婦となり子供をもうけた後もその後もずっと変わらないのであろう。

 

だが心は常に通い合っている。

 

「ああ…よう」

 

掛ける言葉も見当たらず取り敢えず手を上げ2人の会話に割り込んだ。

 

ルークは自然に後を去り気が付けばハンと彼の妻でもあるレイアだけになっていた。

 

以前会ったのはキャッシークのホログラムで隔てた先でだ。

 

こうやって直接会うのは長い間なかった。

 

特に“()”がいなくなりそれぞれの仕事が忙しくなってからは余計にだ。

 

「相変わらずの変わらないジャケット」

 

レイアはまずハンのその紺色のジャケットに目をつけ微笑を浮かべた。

 

ハンも困ったように笑顔を浮かべ返す。

 

「一応新品だ」

 

「でも安心するわ。それにあなたは必ず戻ってくるって信じてた」

 

「ああ、何があろうと必ず駆けつける。絶対“()()()”の下にも」

 

2人は思いっきり抱きしめ合い再会のハグを他の誰よりも長く交わした。

 

喜びで目からは涙が溢れそうだった。

 

「まだ何も分からない……どこに行ったさえも…」

 

「だが必ず見つけて助け出すさ、俺たちで必ず」

 

ルークやチューバッカ達も遠くで小さくだが頷いている。

 

2人のハグはかなり長く続いた。

 

その間にR2もXウィングから降り基地内を歩いていた。

 

同型のアストロメク・ドロイドからも時々声を掛けられ若干もてはやされ気味だった。

 

だが掛けられる声は全部が全部黄色い声援だったわけではない。

 

特に彼は。

 

「おや、R2じゃないか!」

 

後ろから慣れ親しんだ声が聞こえてきた為R2は頭だけ捻り後ろを見た。

 

そこには嫌というほど見たし隣にずっといた金色のボディのプロトコル・ドロイドがいた。

 

もはや腐れ縁ともいうべき大親友“C-3PO”の姿だった。

 

「全くお前さんといないのはずいぶん寂しいもんだったよ。ちゃんとルーク様のお世話はこなせたのかい?」

 

R2は電子音で少し大口を叩くようなタメ口に近い感じで答えた。

 

「何コマンドータイプのバトル・ドロイドと帝国軍の第三設計ドロイドを撃破した?また大口叩いて」

 

3POのそばによって隣を歩くR2は「全部ほんとだ」と反論した。

 

それに対して3POも「お前さんの物語はどれも誇張しすぎだ」と付け加え2人は軽い口喧嘩をしながら基地内の方にとぼとぼ歩いていった。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国占領地 惑星アンシオン-

アンシオン軍と親衛隊の戦いは当然親衛隊の勝利に終わった。

 

しかし親衛隊にとってこの勝利とは到底納得出来るものではなかった。

 

敵を取りこぼし過ぎた上に圧倒的大勝どころか敵の策略に何度も嵌り損失を喰らうという面目ない結果となってしまった。

 

これではシュメルケ上級大将や第三帝国が思い描いた未来のビジョンとは程遠い。

 

本来ならここで圧倒的な勝利を収め誰が本当の帝国か、誰が帝国の後継者か銀河系に対し知らしめるつもりだった。

 

紛い物の恩知らずの“()()()()()()”が討伐される姿こそが求められていたものだ。

 

だがあろう事か残った敵軍は明らかにどこかへ姿を眩ましアンシオン攻略ではかなり手古摺り想定されていない損害を被ってしまった。

 

師団長の1人が戦死、突撃大隊のファルス少佐もあのまま敵司令部ごと蒸発しライルリンガー中佐も重傷を負った。

 

艦隊はインペリアル級の一隻が地上に墜落し撃沈、中破した艦もただでは済まされずすぐコア・ワールド内のドックに送られた。

 

その他の艦艇もアークワイテンズ級三隻とヴィクトリー級二隻が轟沈しゴザンティ級やインペリアル・エスコート・キャリアーなどにも被害が出ていた。

 

地上部隊は部隊長の戦死だけでなく歩兵やウォーカーにも多くの損害が出ていた。

 

敵軍の撤退と市街地戦は見事なもので第一陣の親衛隊地上軍の部隊は悉く敵の策略に嵌り撃破されていた。

 

その中でも唯一と言っていい程の戦果を挙げたのがジークハルトの第三機甲旅団だった。

 

ハイネクロイツ中佐のスターファイター大隊は惑星を離脱しようとする殆どの敵スターファイター隊を撃破しアデルハイン中佐は基地を直接陥落せしめた。

 

ヒャールゲン中佐も麾下部隊を率いてジェネレーターを奪取しジークハルトも敵ウォーカー部隊を撃破し重ターボレーザー砲の奪取に成功した。

 

期待されていた通り、なのだろうか。

 

ある種の勝利の立役者となっていた。

 

そんな旅団長のジークハルトは制圧した大型砲塔を部下達と共に見つめていた。

 

隣には乗機のエリートAT-ATストライク1やストライク・フォースのウォーカー群が停まっており周りにはフューラー・ストームトルーパーと技術者達が警備していた。

 

地上軍トルーパーと同じアーマーを軍服の上から装備しさらにその上からコートを着込んでいる。

 

ヘルメットの代わりに制帽を被り天高く聳え立つ砲塔を見つめている。

 

「技術班の報告によると現在帝国宇宙軍が保有しているオナガー級やアキシャル砲搭載艦の超兵器と同じ系列の技術なようです」

 

士官の1人が報告しジークハルトはそのままの体制で士官に命じる。

 

「本隊が到着するまで警備を厳重にしておけ。伏兵や敗残兵の襲撃はどうしても避けたい」

 

「了解しました。人員を増やして警備にあたらせます」

 

「頼んだぞ」

 

ジークハルトの僅かな微笑みと期待に士官は力強く頷き部隊に命令を伝えにいった。

 

再びジークハルトは砲塔を見つめる。

 

特にそこに何があるわけでもないが思いをはせるように凝視していた。

 

「モナステリでヴィアーズ大将軍が新共和国の残党軍撃破に成功したそうだ。ドラックンウェルでも勝利したらしいし東側の守りは万全になりつつあるな」

 

アデルハイン中佐はジークハルト達に受け取った情報を伝えた。

 

驚く声は出なかったが「そうかそうか」と納得する声が聞こえる。

 

「リンデリアの新共和国軍もファースティンの新共和国軍も討伐され両惑星はついに奪還したんでしたっけ」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は話題を振った。

 

リンデリアとファースティンの陥落は数日前の事だ。

 

ヴィアーズ大将軍の代理として派遣されたアイガー准将とコヴェル中将のウォーカー部隊によってその二つの惑星は制圧された。

 

しかしそれにはとある付加効力がなされていた。

 

「ああ、ナブー王室保安軍のスターファイター隊と宇宙艦隊の支援もあったらしい。流石は皇帝陛下の生まれ故郷だ」

 

アデルハイン中佐がヴァリンヘルト上級中尉に付け加えた。

 

だがそこにハイネクロイツ中佐が疑問を投げかけた。

 

「だがナブーは新共和国側の惑星だったはずだ。それにあの惑星はずっと平和主義で軍隊はあっても他に派遣するなんて精々リンデリア危機でしか聞いた事ないぞ」

 

そう、ナブーはパルパティーン皇帝の生まれ故郷であっても帝国に属するとは限らなかった。

 

皇帝崩御後は新共和国側に与し度々シンダー作戦の標的にされ帝国軍と激しい戦闘を繰り広げていた。

 

そんなナブーが帝国に部隊を派遣してくれるとは到底思えない。

 

それは話を耳にしていたジークハルトも同じ思いだった。

 

「だがナブーのクーデター軍が今のナブーを実効支配しているから我々に援助してくれるらしい。彼らも皇帝陛下と帝国を想う者達がいたとは嬉しい限りだ」

 

あの平和主義の惑星もまた随分と波乱な事になったものだ。

 

今頃はクーデター軍ではなく派遣された帝国の総督が統治を始めるだろうがクーデター軍の支配である事に変わりはない。

 

味方だからいいとはいえもし自分が新共和国側にいたらどう考えるだろうか。

 

だが味方である惑星が多い事は良い事だ。

 

「…我々は、敵だらけだからな…」

 

「どうした?」

 

自嘲混じりに独り言を呟きアデルハイン中佐に問われた。

 

「いやなんでもない。とにかく戦況が安泰なのは良い事だ、我々も次の戦いにはまた勝たねばならない」

 

「ああ…あのv1乗りも結局あれ以来戦う事はなかったしな…一体どこへ行ったのやら」

 

ハイネクロイツ中佐はジークハルトに賛同した。

 

結局彼はあの衛星での戦闘後TIEアドバンストv1乗りのエースパイロットと戦闘で遭遇する事はなかった。

 

恐らくまだ生き延びている、再び戦いで合間見える事になるだろう。

 

「ですがこの先にいるのは精々アンシオン軍の脱出部隊と海賊化した機動部隊ですよね?さほど敵はいないように見えますが」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は状況を考えてそう呟いた。

 

確認されている敵はそれだけで後少しと思うのも無理はなかった。

 

「だが上級中尉、あれが見えるか?このデカい大砲が」

 

ジークハルトは制圧した重ターボレーザー砲に指を差した。

 

いつ見ても巨大なもので大きさはAT-ATと同じくらい、いやそれ以上あるように見える。

 

あれが数時間ほど前まで大火力を宇宙へ放ち何隻もの友軍艦を破壊したのだ。

 

「この大砲を作ったのがアンシオンの連中だと思うか?軍将上がりの勢力が作れる代物じゃない。出来るとしたらそれは…」

 

「技術的には第三帝国と同じレベルの勢力だ」と砲塔の先を見つめながらいつも通りの表情と声音で彼は言い放った。

 

それがどんなに困難な事か分かった上でだ。

 

我々は我々と同じほどの勢力を持つ敵と、いやそれ以上かもしれない敵と対峙するかもしれない。

 

その事がまるで分からないヴァリンヘルト上級中尉ではなかった。

 

不安を覚え思わずヴァリンヘルト上級中尉はジークハルトに尋ねた。

 

「上級大佐…我々は勝てるんでしょうか…?」

 

その問いは口にしないだけで誰しもが思っている事だった。

 

アデルハイン中佐もハイネクロイツ中佐もずっと黙ったままだ。

 

だが問いかけられたジークハルトは口を開き答えた。

 

「さあな…戦うかすらも分からない、それは今後の我々次第だ。だがな上級中尉、戦う事になったら我々は全力でやらねばならん。勝てるかではなく勝つのだ」

 

そうすれば不安も自然と消えていく。

 

義務感というのには限界があるが己を前に向かせるには十分な代物だ。

 

そう教えてくれた者はもういないが。

 

上級中尉は「はい!」と力強く頷き気を取り戻していた。

 

ジークハルトも微笑を浮かべそれでいいと小さく頷いている。

 

彼は反対側のかつて司令部があった建物の場所を見つめた。

 

艦砲射撃を受け廃墟のように静まり返っている。

 

あそこに砲撃を加えたのは親衛隊側ではなくなんとアンシオン軍側であった。

 

まだ中に多くの味方がいたのにも関わらず撃ったのだ。

 

しかも突入した大隊の通信記録によればまだあの中にはアンシオン軍の最高司令官がいて最高司令官が直々に自らを砲撃するよう命じたらしい。

 

もしそれが真実だとしたらなんと凄まじい壮絶な最期だろうか。

 

ただ自決するよりも遥に恐ろしく最期まで敵に損害を与えようとする執念を感じる。

 

実際こちら側の大隊長と大隊員全員がほぼ戦死し連隊の方も中々に酷い有様らしい。

 

全体としては微々たる損害ではあるがそれでも損害である事は確かだ。

 

敵の執念によって手を噛まれたに等しい。

 

尊敬すると同時に少し恐ろしく感じていた。

 

だが、もしも我々が劣勢に陥り負けるかもしれない時、我々は同じ事が出来るのだろうか。

 

最期の一瞬まで一兵でも多くの敵兵を道連れにしようと戦えるだろうか。

 

アンシオンの最高司令官と同じ運命を遂げる事が出来るだろうか。

 

規模は違えど同じ指揮官として思う所がある。

 

我々はどうなってしまうのだろうかと。

 

暗い未来の象徴であるかのように司令部は若干崩れを見せていた。

 

 

 

 

 

 

-大セスウェナ セスウェナ宙域 惑星セスウェナ軌道上-

惑星セスウェナはエリアドゥと同じくセスウェナ宙域に属する惑星である。

 

以前、と言っても百年、数千年単位での前の話だがセスウェナはハイパースペース・ルートの一つであるハイディアン・ウェイの場所に位置していた。

 

しかしより近場でロマイトなどの鉱山資源のある隣の惑星エリアドゥにその立場は完全にとって変わられてしまった。

 

その為旧銀河共和国がクローン戦争時に展開した宙域軍の司令部もエリアドゥにあったしヘルムートが第三帝国誕生以前に作り上げ守ってきた大セスウェナ連邦の首都もエリアドゥにあった。

 

もはやここはある種“()()()()()()()”とも言えるほどその地位をとって変わられていた。

 

しかし地位が変わられてもセスウェナ自体の利便性は変わらない。

 

帝国時代はここに一時的だが“()()()()()()”のプロジェクト本部となったり多くの造船所や艦隊駐留拠点、エリアドゥの防衛司令部として別の道で発展していた。

 

大セスウェナ連邦時代も同様でここには逃げ延びてきた多くの帝国軍艦船や駐留艦隊の拠点となっていた。

 

現在は鹵獲した新共和国軍の艦船を解体したり研究用として保管したり再利用したりと宇宙軍基地として未だ活躍を見せている。

 

そこに現在のセスウェナ宙域艦隊の旗艦であるインペリアル級“エグゼキュートリクス”が降り立った。

 

この艦がエリアドゥからセスウェナに来るという事はとある人物も同様に運ばれてくるという事になる。

 

数名の護衛と共に彼はセスウェナの司令本部に向かった。

 

味方の基地であるのにも関わらずある種の警戒感と威圧感が放たれていた。

 

司令室を警備する2名のストームトルーパーが敬礼しドアが開いた。

 

「お待ちしておりました首相、あっいえ!グランドモフ!」

 

司令本部の総司令官である人物が称号を訂正し敬礼する。

 

「どちらでもいい、警備は順調か?モッティ提督」

 

大セスウェナ連邦元首相であり現在のオーバーセクターグランドモフのヘルムートは目の前の軍服姿の男に敬礼を返した。

 

彼の名前はリチオ・アントニオ・モッティ。

 

第一銀河帝国宇宙軍の准将であり大セスウェナ連邦では中将、現在は提督の役職を務めている宇宙軍将校だ。

 

彼は名前の通りヤヴィンの戦いで戦死したコナン・アントニオ・モッティ提督の従兄弟に当たるモッティ家の人物だった。

 

彼のファーストネームも最も古い血統とされているモッティ家の人物から与えられた名前だ。

 

彼は従兄弟のコナン同様に帝国宇宙軍の将校となる為プレフスベルト・アカデミーに入学した。

 

従兄弟を手助けした依怙贔屓な男という評価を付けられる事を恐れたコナンはリチオ・モッティにアカデミー卒業後も一切手を貸す事はなかった。

 

なんならコナンからすればリチオは自身の昇進や経歴に汚点を残すかもしれない煩わしい存在でしかなかった。

 

身内の失敗の評価は自分にも降り掛かるのではないかという感情からリチオは比較的コナンからいい顔をされなかった。

 

だがリチオはそんなコナンの手助けなく比較的早い速度で昇進を重ねていった。

 

それは代替わりになるかのようにヤヴィンの戦いでコナンが戦死した後急速に加速していった。

 

気づけば大セスウェナ連邦でも宇宙軍の中核を担う存在として扱われていた。

 

経験や能力的にも優秀の部類に入るのだが少し抜けていたり陽気な所がありそういう面で野心的なコナンから疎まれていたのだろう。

 

実際リチオはともかくコナンは明らかにリチオの事を好いてはいなかった。

 

「はい、新共和国から鹵獲した艦船の整理も順調そのものです」

 

「流石にスターホークやMCクルーザーなどは使えないがネビュロンやコルベット艦なら哨戒艦隊や警備隊に回せる。頼んだぞ」

 

「はい!お部屋をご用意いたしました。後はそちらへ」

 

ヘルムートと護衛の部下達は一瞬だけ辺りをチラリと見渡し頷く。

 

「ああ、行こうか」

 

一行はそのまま誰もいない将校達すらもほんのごく僅かしか知らない秘密の接待室に向かった。

 

部屋の警備にはなんとデス・トルーパーが2名も付き入室すると一瞬のうちに強力なブラスト・ドアが展開された。

 

ヘルムートはソファーに座り反対側の椅子に座るモッティ提督を見つめた。

 

「…誰もいませんね?」

 

モッティ提督は冷や汗を垂らしながらその事実を確認した。

 

ヘルムートは小さく頷き口を開く。

 

「で、例の逮捕リストのことだ。あれはなんなんだ?」

 

「…“()()”ですよ、第三帝国が秘密裏に行ってるエイリアン種族絶滅計画です」

 

モッティ提督は静かにタブレットをヘルムートに手渡した。

 

タブレットを受け取りざっと目を通す。

 

その間もモッティ提督は話を続けた。

 

「FF所属の将校からリークした確かな情報です。なんでも総統殿はエイリアン種族を戦争を引き起こす元凶として“()()()()()()()()()()”の為エイリアン種族を根絶するとか」

 

「具体的にはどのくらいまでだ?近人間種やハーフはどうなる。それにこの銀河系にはどれだけのエイリアン種族がいると思っているんだ。須く絶滅させるなど…」

 

身の毛のよだつほどの犠牲が出る。

 

いくらエイリアン憎しと言えども絶滅まで追い込むなど無理に等しい。

 

それに特定の種族ではなくエイリアン種族という広義の言葉を使っている以上エイリアン種全てを殲滅するつもりだ。

 

仮に特定の一種族ならなんとか出来てもこの銀河系から一掃するなど夢また夢だ。

 

総統はそれを正気で言っているのか。

 

本気でエイリアン種族さえ根絶すればこの銀河系から戦争が消失すると思っているのか。

 

ヘルムートには甚だ疑問であった。

 

「ですが連中は本気です…既にいくつかの惑星収容所を設置しそこでエイリアン種族を“()()”し続けているとか…」

 

「だが、最盛期の帝国ならともかく現在の第三帝国では一気にというのは無理なはずだ……それでも十分人道から外れているが…」

 

「グランドモフの仰る通り現状完全に国策が発動しているとは言えませんがそれでも既にコルサントに住むエイリアン種族や近人間種3200億名程が殺害、もしくは追放されたと」

 

「…もうそんなにか…?」

 

「はい」

 

流石のヘルムートもこの時ばかりは動揺し困惑した。

 

連中は本気らしいと。

 

3200億人といえばコルサントの総人口の32%に相当する。

 

コルサント内戦やコルサント臨時政府時代で人口が微妙に変化しているだろうが大体これくらいだろう。

 

それだけの人口を全員ではないとはいえ殺害したり追放したりしたのだ。

 

「それで、ついにここまで手が迫ってきたのか」

 

「でしょう、彼らは本気で銀河系からエイリアン種族を一掃するつもりです」

 

到底真実とは思えない夢物語のような事を彼らはやろうとしていた。

 

いや、もう既にやっているのだ。

 

少なくとも数百万、数千万単位で既に犠牲者が出ているのだろう。

 

思えばとんでもない連中と手を結んでしまったらしい。

 

いくらヒルデンロード時代からの付き合いだったとはいえ完全に見る目を誤った。

 

狂気の幻想を掲げそれを成すことによって平和を得ようとしている異常者の下についてしまったとは。

 

文字通り帝国を騙るペテン師だ。

 

なんなら新共和国攻撃に手を貸した事さえも今では失敗に思える。

 

完全な失策、ヘルムートは一瞬後悔の念に包まれた。

 

だがあそこで第三帝国についておかなければ恐らく適当な理由を付けて攻撃されていただろう。

 

惑星アンシオンのように。

 

重要なのはここからどうするかだ。

 

「それで逮捕者という名目でエイリアン種族を収容所に送るつもりか」

 

「いずれはノルマ的なものになってくるでしょう。どうします?」

 

モッティ提督は静かに尋ねた。

 

いくらエイリアン種族とはいえそんな無意味な大量虐殺に手を貸すほど人の心は捨てていない。

 

ターキン家の悪行と言われるオルデランの破壊とはまた意味がまるで違うのだ。

 

ヘルムートは少し考え答えた。

 

「連中にこの先祖伝来の土地を好き勝手させるものか。奴らがその気なら我々も手を打つ」

 

「どんな風にでしょうか」

 

「“()()()()()()()()()()()”。まだやりようはある」

 

若年ながらも強きターキンの意志がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、あの娘は結構そういう反応するんだよ」

 

新たに外務大臣に臨時で就任したセルヴェント大臣からその事を聞いたジェルマンは一瞬だけ放心状態に陥った。

 

あの娘とはもちろんヘルヴィのことだ。

 

通路でかなり狼狽している所をセルヴェント大臣に見られ事情をジョーレンに洗いざらい話されてしまった。

 

そしてかけられた言葉がこれだ。

 

唖然とするジェルマンを他所にセルヴェント大臣は話を続ける。

 

「昔あの娘の親友が事故に遭って亡くなってしまってね……途轍もない未練があったんだろう。それ以来後悔しないようにどんな出会いだろうと一度会ったら大切にするようになったんだ」

 

「そう……なんですね……」

 

お前嘘だろという表情でジョーレンは呆然とするジェルマンを見つめた。

 

しかしセルヴェント大臣は本当に気づいてないらしい。

 

まだジェルマンの心を意図せずボコボコに殴っていた。

 

「ただそのせいか若干そういう方面では“勘違い”されやすくてね…まあ取り柄ではあると思うんだが、迷惑なら娘に言っておくよ。ジルディール中尉?」

 

沈黙、呆然、唖然、正にその言葉がぴったりだった。

 

放心状態になったジェルマンは後半の話があんまり聞こえてなかった。

 

前線であれだけの活躍をしスター・デストロイヤーを丸々一隻奪取出来る程の人間がこのザマだ。

 

ジョーレンこそ唖然とする他なかった。

 

「ああ……いえ、なんでも……」

 

「まあでも、ヘルヴィには君みたいな人と結ばれて欲しいよ。どうせなら平和な時代と共にね」

 

「えっ?」

 

意識のなかったジェルマンに再び魂が戻ってきた。

 

「いや単なる比喩なのだがね。それでも君のような誠実な人間がヘルヴィと共にいてくれたら私としても安心だ。まあ一番なのは、あの娘自身が決める事だが」

 

「そっそうですね!ええ!」

 

「ああ、それはそうとついたぞ。大臣閣下によろしくな」

 

一行は基地内の司令室に付き警備の兵士から敬礼を受けた。

 

ドアが開き3人は室内に入る。

 

戦争大臣(Minister of War)、ジルディール中尉とバスチル大尉を連れてきたぞ」

 

戦争大臣と少しちゃらけて紹介されたディゴール国防大臣は雑談を交わしていた部下に資料を預け振り返った。

 

ジェルマンとジョーレンは敬礼し大臣に就任した彼に挨拶をする。

 

「ジェルマン・ジルディール中尉とジョーレン・バスチル大尉、只今帰還しました」

 

ディゴール大臣も周りの将校と共に敬礼しまず一言「ご苦労」と声を掛けた。

 

「諸君らのお陰で各地の新共和国軍との連携は確実なものとなった。これで帝国に対する第一の攻撃が行える」

 

「第一の攻撃、ですか」

 

ジョーレンはディゴール大臣に聞き返した。

 

「そうだ」とディゴール大臣は返答し頷いた。

 

補佐役の将校がホロテーブルを起動しテーブルの上に銀河系の星図が映された。

 

それを元にディゴール大臣は説明を続けていく。

 

「我々の最終目標は再び帝国を打倒する事にある。以前の反乱同盟とは違い我々の戦力は未だ殆どが健在だ」

 

マジノ線の追撃は厳しいものだったらしいがそれでも未だ数千隻以上の艦船が新共和国側にある。

 

戦略的重要拠点で勝利を得ていけば再び勝利することも可能だろう。

 

「そこで最初の勝利として惑星イセノを攻撃する。艦隊で奇襲しイセノの通信ステーションから全銀河市民に向けて我々は未だ戦い続けているという希望を見せなくてはならない」

 

「イセノの強力な通信ステーションなら全銀河系のホロネットをジャックする事が可能です。奇襲なら我々にも分がある」

 

補佐役の将校はそう説明を付け加えた。

 

しかしジョーレンは疑問を投げかける。

 

「ですがイセノはコレリアン・ランを繋ぐ首都圏防衛の玄関口です。背後にはデノンもあり戦力的には帝国宇宙軍の一個艦隊が丸々いる可能性もある。そうなっては奇襲しても成功する確率は低いです」

 

現在の新共和国軍の戦力で仮に奇襲を掛けるとしても防衛や隠密性の考慮によりかなり限られてくる。

 

そうなればフルで一個艦隊分の戦力が扱える帝国軍の方が奇襲を受けたとしても有利だ。

 

すぐに部隊を立て直し反撃を開始する。

 

特にインナー・リムとコロニーズの間ともなれば増援が来るのも容易だ。

 

「その点に関してはアクバー元帥のモン・カラ周辺域の艦隊とキャッシーク艦隊、ヤヴィン艦隊が前もってコルラグ、アンブリア、ゼルトロス、ジンディンに陽動の攻撃を仕掛ける。帝国艦隊が出払った頃を奇襲する」

 

「なるほど撹乱作戦ですか」

 

「ああ、言うなればエンドア戦前のイエロー・ムーン作戦に近い。こちらはもっと大規模だが」

 

過去の作戦を交えディゴール大臣は説明を続ける。

 

「全部隊の指揮は私が直接行う予定だ。ステーションを制圧した後私が声明を発表し次にオーガナ議員が演説を行う。君達に頼むのはそのステーションの制圧だ」

 

ホログラムがイセノの軌道上通信ステーションに変わる。

 

ディゴール大臣はホログラムで同型の通信ステーションの内部構造を確認しながら説明を続けた。

 

「見ての通りこのステーションは一般型の軌道上通信基地だ。だがそれ故に警備と兵員は厳重で制圧は難しい」

 

「そこで我々に制圧部隊に回れという事ですね」

 

ジョーレンはその先を予知し口を開いた。

 

嫌がっているわけではない、むしろどこか興奮気味だ。

 

「そうではあるが、実際には少し違う」

 

「違う?どこがです?」

 

ジョーレンは意外な返答に首を傾げた。

 

ジェルマンもこれ以上は分からなかった。

 

ディゴール大臣はいつも通りの声のトーンで2人に説明した。

 

「バスチル大尉、いやバスチル“()()”、君にはこのステーション制圧の特殊部隊の作戦指揮を頼みたい。君がこの作戦の根幹を司る部隊の指揮官だ」

 

ジェルマンは急いでジョーレンの方を向いた。

 

ジョーレンが珍しく動揺しているのが分かる。

 

いきなり少佐に昇進しただけでなくこの超重要作戦の根幹であるステーション制圧部隊の隊長を任されたのだ。

 

驚かない方がおかしい。

 

微妙に震えた声でジョーレンが尋ねる。

 

「いや……いやしかし何故自分に指揮を。八年以上部隊長から離れていた人間にそんなもの任せるなんて……」

 

「何私の独断ではないさ、オーガナ議員もガー議員も了承済みだ。君の実績と能力は短期間だが今回の任務で十分証明してくれた。よって今回の部隊長は君に相応しいと後方分は考えている」

 

他の将校達も小さく頷いている。

 

ジェルマンも最初は驚いていたが徐々に納得を示し同じように力強く賛同の頷きを見せていた。

 

この室内でまだ動揺の表情を浮かべるのはジョーレンだけだ。

 

「特殊部隊が五個分隊が君の配下に付く。同時に臨時ではあるが大尉は少佐に昇進しジルディール中尉も特例で補佐として上級中尉に昇進する。今回の作戦は君達に掛かっている、共に全力を尽くそう」

 

まさかの昇進に今度はジェルマンも驚いていたが横にいるジョーレンに突かれ素早く敬礼し「了解」と了承の返事を述べた。

 

ディゴール大臣も敬礼を返し「頼んだぞ」と一言付け加えた。

 

「成功させます、必ず」

 

2人はその一言を返し、新共和国ん未来を固く誓った。

 

 

 

 

 

 

-コルスカ宙域 惑星コルサント軌道上 アセーター級スター・ドレッドノート ピュリフィケーション-

数時間ほど前にハイパースペースからインペリアル級五、六隻の小艦隊ごとジャンプアウトしたアセーター級“ピュリフィケーション”に数台のシャトルが向かっていた。

 

一台のシャトルにつき2機のTIEブルートが護衛としてバックアップし再編成されたコルサント本国防衛艦隊と共にシャトルを待つ“ピュリフィケーション”のブリッジに一番近いハンガーベイに入る。

 

出迎えのストームトルーパーと将校下士官が整列しシャトルが着陸した。

 

シャトルとその乗客の到着はハンガーベイのコントロール室を通じてブリッジにも報告がなされていた。

 

「ようやく来たか、全艦ハイパースペースへの突入準備だ。シュメルケの下に向かうぞ」

 

ハイパースペースジャンプの準備が整った小艦隊はアセーター級を先頭に順に突入していった。

 

「連中はラゴで待つと言っていましたがそれは本当なのでしょうか?」

 

ヴァルヘル中佐は不信気味にフューリナー上級大将に尋ねた。

 

ラゴというのはミッド・リムに位置する平面座標I-7の惑星だ。

 

アンシオンと同じハイパースペース・レーンに位置しシュメルケ艦隊の次の討伐地点となっていた。

 

そこに“()()”は来るよう要求したのだ。

 

「もし不埒を働くならシュメルケがとっくの昔に打ち倒しているさ。エグゼクター級が総旗艦の一個艦隊に奇襲とはいえ真っ向から勝てるものはいない」

 

それに何よりシュメルケ上級大将は親衛隊の中でも一二を争う程の艦隊戦の名手だ。

 

敗退するにしても敵総戦力の半分は持っていく。

 

「何よりこちらは既に新共和国とアンシオンを撃破したという実績がある。早々手は出してこない」

 

「なるほど…」

 

ヴァルヘル中佐は納得したように下がっていった。

 

フューリナー上級大将はブリッジのビューポートに近づきハイパースペースのトンネルを眺めた。

 

見下ろせばこの“ピュリフィケーション”の巨大な船体がよく見える。

 

「全艦最大船速で航行している為予定よりかなり早く到着する可能性があります」

 

ボルフェルト大将は高校士官と共にフューリナー上級大将に報告した。

 

最初の接触はすでにシュメルケ上級大将達に任せるつもりだが正式な会談は“ピュリフィケーション”が運んでいる高官達に任せるしかない。

 

「分かった、急ぐ必要もないが早めに行けるようであればそれでいい。長官方にも伝えろ」

 

「はい閣下」

 

航行士官が敬礼しシャトルから降りた高官達が待つ応接室に向かった。

 

副司令官がフューリナー上級大将に近づきいつも通りの少し落ち着きがない様で話し掛ける。

 

「いやしかし俄には信じ難い事ばかり起こりますね……」

 

彼は他の親衛隊将校同様にブラックに近い軍服と制帽を着用し左ポケットの胸部分には大将を示す階級章、右ポケットには二本のコードシリンダーが挿さっていた。

 

普段は大将(General Admiral)の階級に恥じない態度と能力なのだがフューリナー上級大将の前ではどこか怯えた感じになっていた。

 

単純に直属上官で司令部所属やFFSOU司令官、上級大将というのが原因だろうがフューリナー上級大将は彼にもっといつも通りでいて欲しかった。

 

大将で艦隊副司令官なのだ、もう降格する事すらあるまい。

 

もう少し堂々として欲しいものだ。

 

「ああ、第一あの戦いの生存者が未だ勢力を確立している事自体信じられない。だがお陰で全てのピースが揃った」

 

「と、言いますと?」

 

ボルフェルト大将は首を傾げ聞き返した。

 

「コルサントで発見された幾つかの資料や情報。例えばラックスのホログラムデータやウェイランドでの幾つかの星図や航路図、そして一番は……」

 

これが彼らが一番勢力を形成している事を裏付ける証拠だ。

 

「人員の流出…銀河内戦後、我が帝国だけではなく各地に散らばった残存勢力の人員や兵器艦船が幾つか消失していた。いくら探してもそれがどこに行ったかはまるで分からない。だがようやく答えが現れた」

 

「つまり…つまり流れた人員や兵器は全部……」

 

「そうだ、“()()()()”に行っていたというわけさ。我々が気づかないうちに銀河系の暗闇にとんでもないものが誕生していたという事だ」

 

ボルフェルト大将はハッとしていたがそれでも納得はしていなかった。

 

結局俄には信じ難い出来事なのだ。

 

そこにどんなに答えが書かれていたとしても、どんなに答えがあったとしても“ありえない”はずだ。

 

どこかでそう考え否定したくなる。

 

だが“()()”は実在しこうして我々の下に声を掛けてきたのだ。

 

事実である以上飲み込まなければならない。

 

そしてこの先どう動くのかさえも考えなければならない。

 

「さて、我々の行先は…一体どうなることやら」

 

「それはもちろん、総統が目指す未来のみだ」

 

ブリッジの遠くから声が聞こえた。

 

振り返った瞬間ボルフェルト大将含めた全員が慌てて敬礼しブリッジは一瞬で静まり返った。

 

フューリナー上級大将も敬礼しブリッジに入ってきた親衛隊長官ヒェムナーは敬礼を返した。

 

「何用ですか」

 

フューリナー上級大将はヒェムナー長官に普段の様子のまま尋ねた。

 

長官は背後に2人のCOMPNOR所属の親衛隊将校を引き連れている。

 

「いや何、どうせなら艦内を見回っておこうと考えただけさ」

 

「なるほど、抜き打ちチェックですか。長官も人が悪い」

 

「好きなように捉えてくれ。ただ君の部下は十分統率が取れている為問題はないと思うが」

 

どこか作り笑いに似た笑みを浮かべヒェムナー長官はフューリナー上級大将の下に寄ってきた。

 

ボルフェルト大将が一歩下りブリッジのビューポートには上級大将と長官2人だけとなった。

 

「これからの時代は新共和国との戦いだけではなく同じ帝国同士の戦いにもなってくる。そして“民族”との戦いもだ」

 

ヒェムナー長官は最後にそう付け加えた。

 

これは長き銀河の歴史に決着を付ける戦いでもある。

 

人間とエイリアン種族の戦いなのだ。

 

「たとえ総統が我らにどんな辛く苦しい耐え難い命令を与えようとも完遂しなければならない。それがこの銀河に平和を齎す唯一の方法だ」

 

「勿論です、労働力とされているエイリアン種族もやがては処分するのみ」

 

「そうだ上級大将。彼らが1人でも生きている限り危機は常に襲い来る。心を鬼にしなければならないのだ」

 

2人は永遠と続くハイパースペースのトンネルの中で互いに持論を交わし認め合っていた。

 

まるで終わりがないかのように。

 

この先彼らが流そうとする流血はとてもこのハイパースペースすらも埋め尽くす勢いだった。

 

 

 

 

 

 

 

惑星ディカーには続々とイセノ通信ステーション攻撃の為の部隊が集結しつつあった。

 

モン・カラなどから送られてきた部隊だけではなくラクサス戦を生き延びた部隊やアンシオン周辺から辛うじて脱出した部隊なども含まれている。

 

ディカーでは現在、急ぎ艦隊編成と部隊編成が行われており地上も軌道上も大変忙しい有り様だった。

 

ルーサンで共に戦ったハンやルークもこの作戦に参加するらしく彼らも忙しくなり始めていた。

 

ルークは仲間の所属中隊を呼び出しに再びディカーを出立しハンとチューバッカはファルコンの整備などに勤しんでいた。

 

忙しくなるのはジェルマンとジョーレンも一緒だ。

 

少佐に昇進し再び特殊部隊の部隊長となったジョーレンは上級中尉のジェルマンと共にこれから各分隊の隊長達とミーティングを行う予定だ。

 

通路を通る度に慌ただしく動く将校や下士官兵とすれ違いこの基地内だけでも反撃が始まるという事を連想させる。

 

それは緊張だけではなく気分の高揚や武者振るいのようなものも感じさせた。

 

「しかし分隊長か…知り合いはいるだろうかな。特殊部隊はパイロットに次いで死亡率が高いから」

 

ブラックジョークを交えジョーレンはジェルマンと共に分隊長達が待つブリーフィングルームへ入った。

 

2人は入った瞬間から敬礼し分隊長達に挨拶をする。

 

「今回の作戦で特殊部隊の総合部隊長を務めるジョーレン・バスチル少佐と補佐官のジェルマン・ジルディール上級中尉だ」

 

分隊長達も敬礼し1人が前に出る。

 

「副部隊長のブリック・ノールマン大尉であります、お久しぶりですね!隊長!」

 

彼の名前を聞いた瞬間ジョーレンの顔がパアッと一変した。

 

まるで懐かしいもので見たかのような感じだ。

 

「お前あのノールマン曹長か!偉くなったな!」

 

敬礼した手を無理矢理握りしめ笑顔で親しみと共に彼の肩を叩いた。

 

ノールマン大尉も嬉しそうに握られた手をブンブン振っている。

 

その光景を見たある1人の分隊長を除いた他の分隊長達とジェルマンは頭にはてなマークを浮かべ呆然としていた。

 

「まさか生きてるとは思いませんでしたよ!」

 

「それはこっちのセリフだ!スカリフに行ったんじゃなかったのか!?」

 

「ああいえ……その前にAT-ATのパイロットとセキュリティ・ドロイドと少しやりあいましてね…右手と左足を骨折してて参加出来なかったんすよ」

 

「たく運のいいバカなやつだなぁ!」

 

口ではそう言っていてもジョーレンはこの上なく生きている事を嬉しそうにしている。

 

恐らく昔特殊部隊の仲間だったのだろう。

 

ジェルマンにもそれくらいは理解出来る。

 

「うちにはヘンディーもブロンスもいますよ。そしてこいつ、バッケイン准尉!」

 

分隊長が1人前に出てきてジョーレンに敬礼した。

 

副隊長のノールマン大尉は説明する。

 

「あんたが任務に出る前一度だけ合わせたんですがね」

 

「ああ……ああ!思い出したぞ!あの時はまだ伍長だったな」

 

「はい!少佐殿からライフルからピストルの効率の良い換装方法を教えて頂きました」

 

分隊長と握手を交わしジョーレンは感慨深く呟いた。

 

「いやしかし…本当に昔に戻ったみたいだ。無論そうではないが」

 

その様子を眺めていた他の分隊長やジェルマン達も最初は困惑していたがどこか微笑ましくなっていた。

 

「おっと、こんな事をしている場合ではなかったな」

 

ジョーレンは周りを見渡し照れ臭そうに笑っていた。

 

こうしてついに最初のミーティングが始まった。

 

まずは分隊長達の挨拶と分隊の能力などを聞くことから始まり最終的には仮の作戦を話し始めた。

 

分隊長達のアームレストのホロプロジェクターには詳しいステーションや作戦の詳細が記載されている。

 

「我々が制圧するステーションだがこれは諸君らがよく侵入しているタイプと設計自体はほとんど同じだ」

 

ステーションの詳しい内部設計がホロプロジェクターに映し出される。

 

そこにジョーレンが首の後ろを触りながら説明を始めた。

 

「この作戦を遂行する上で絶対に抑えておきたい場所はいくつかある。まずは通信ネットワークと司令室、これは確実にだ。ディゴール大臣とオーガナ議員の声明を銀河に発表する為にはなんとしても抑えなければならない」

 

司令室の場所が全員のホロプロジェクターに送信された。

 

「司令室の占拠は私とジェルマン率いる1ユニットの情報部員と第一分隊が行う。情報部員が通信ネットワークを確保し分隊で直接司令部を占拠する。次はハンガーベイシステムの確保だ。我々が生きて帰る為には必要不可欠になってくる。むしろ順序的にはこちらの方が先になってくるだろう」

 

ハンガーベイを占拠しどこからでも脱出出来る様にしなければいざという時に全滅してしまう。

 

「こちらは制圧力に優れた第三分隊と第五分隊が行う。そして第二分隊と第四分隊は陽動だ、兵器庫を爆破し敵部隊を引き寄せる」

 

2人の分隊長が頷いた。

 

ジョーレンも頷き返すと作戦の流れを話した。

 

「我々が先行してステーションに侵入し各種所定の位置で待機する。陽動隊が奇襲に出た艦隊の到着と同時に兵器庫を爆破しそこから我々の作戦はスタートする。敵の大半は外の戦闘でこちらには気づかないはずだ。その隙に迅速に各施設を占拠し議員の声明を流し、声明終了と同時に我々は急いで脱出する。第三、第五が抑えたハンガーベイから脱出し最終的に機密保持の為ステーションは爆破する」

 

「なるほど、つまり最後は素早い脱出が肝心という事ですね」

 

ノールマン大尉が付け加えジョーレンが「その通りだ」と頷いた。

 

「やる事は今まで通りの潜入破壊工作となんなら変わらないが重要度は今までの比ではない。失敗すれば文字通り新共和国はおしまいだ。だが成功すれば我々は再び希望を手にすることが出来る」

 

ジョーレンのその一言が分隊長達に重くのし掛かった。

 

今までそう言った類の戦いばかりだったジェルマンも固唾を飲んで作戦を聞いている。

 

だがジョーレンはすぐに普段の様相で話を続けた

 

「まあそう深く思い詰めるな。こっちにはスター・デストロイヤーを丸々一隻ハックしちまうような奴がいるんだからよ!」

 

ジェルマンはジョーレンに首を掴まれわしゃわしゃと頭を撫でられた。

 

不満げに暴れるが中々離れない。

 

そのやり取りを見ていた分隊長達にも自然と笑みが戻り和やかな雰囲気になった。

 

「我々は失敗しない、ここにいる連中はみんな今まで成功も失敗もくぐり抜けてきたエリート達だ。むしろ失敗する方がどうかしてる。我々は勝つさ、必ずな」

 

ジェルマンは掴まれた腕の中で頷き他の分隊長達やノールマン大尉も同じように頷いていた。

 

みんな先程とは違い自信に溢れている。

 

「よし!ミーティングはこれで終了だ。明日から作戦に向けた訓練を実施する。全員解散」

 

その場の全員から「はい!」という言葉が聞こえ分隊長達は解散した。

 

 

 

 

 

 

-ミッド・リム ラゴ星系 惑星ラゴ-

異様な光景がこの惑星ラゴに包まれていた。

 

軌道上には互いに艦列を並べ向き合うインペリアル級が両方合わせて五十隻以上は確実に存在している。

 

それぞれ臨戦体制を取り重苦しい雰囲気を宇宙空間に醸し出していた。

 

何よりエグゼクター級が一つの惑星に二隻もいるというところが一番の厳かしい雰囲気を作り出している要因だ。

 

エクリプス”と“ルサンキア”。

 

もはや出会う事のないはずのエグゼクター級スター・ドレッドノートの姉妹がこの場に揃っている。

 

それも一つの軌道ステーションを囲んでだ。

 

互いに牽制し合うように両者のTIEファイターやTIEインターセプターの編隊が飛び交っていた。

 

最も厳かな一触即発の雰囲気が包んでいるのはやはりこのステーションの中だろう。

 

惑星フォンドアの造船所や惑星エレッセスの観測施設の中間のようなステーションの中には何千人近くのストームトルーパーや将校、下士官兵が入っていた。

 

それぞれ味方同士で寄り合い相手を睨み付けている。

 

案外両者の見分けは簡単につくものだ。

 

親衛隊側は灰色に近い色合いのフューラー・ストームトルーパーと親衛隊の軍服を着たFF将校や親衛隊の下士官兵ばかりだった。

 

一方の者達は普通のストームトルーパーを連れ歩き将校や下士官は帝国軍の軍服を着用していた。

 

だがその軍服も若干改造されており濃いグレーの色に左腕には腕章が巻かれ本来はなかった肩章がついている。

 

保安局将校と思われる者はブラスター・ピストルのホルスター付きのベルトを肩から下げていた。

 

誰1人として口を開かず重々しい雰囲気が互いに相手を威圧し牽制し合っていた。

 

最も人と重々しい雰囲気が集中しているのはステーションの応接室だ。

 

ストームトルーパーと将校がびっしり並び厳重な警備体制を敷いている。

 

そんな応接室の中も十数名以上の上級将校に囲まれたった2人の男女がソファーに座り面と面を合わせていた。

 

片方は親衛隊の最高司令官であるシュメルケ上級大将だ。

 

他の親衛隊将校達が意識を張り詰め固唾を飲んで見守る中シュメルケ上級大将は出された茶を一口飲み口を開いた。

 

「しかし我々をこんな所まで呼び出してなんのつもりかな。“()()()()()()()殿()”」

 

シュメルケ上級大将の前に座っているのは白い大提督専用の軍服を着ているレイ・スローネ大提督だった。

 

彼女の事はシュメルケ上級大将も知っているし見た事も会った事もある。

 

最後に会ったのは確か彼女がエンドアから帰還し提督になっていた時だった。

 

その後彼女をホロネットなどで見た際には既に元帥や大提督になっており実質的な帝国の最高指導者だったが。

 

エンドアからジャクーに至るまでの動乱期に彼女は死んだものと思われていた。

 

何せあのスクリード提督もモフパンディオンもローゼン・トルラックも死んだのだ。

 

彼女とてその例外ではないと思われていた。

 

ある者は「スローネ大提督はラックス元帥との政治闘争に敗北し死亡した」と口を開き、またある者は「スター・デストロイヤー“ヴィジランス”が新共和国の攻撃を受け乗っていた大提督も戦死した」と言っていた。

 

理由はどうあれ彼女は銀河の表舞台から、帝国の表舞台から消えたのだ。

 

だが戻ってきた。

 

一個艦隊程の戦力と失われたはずのエグゼクター級“エクリプス”と共に。

 

「別に深い意味はない、ただ我々は“()()()()”をしにきたのみだ。単純にそれだけだ」

 

シュメルケ上級大将はソファーに寄り掛かり彼女の言葉に耳を傾けた。

 

その上で言葉を返す。

 

「一個艦隊とスター・ドレッドノートを引き連れてか?」

 

上級大将と大提督の発する一言一句全てがその場の将校達に多大な緊張を与えた。

 

だが2人は臆せず言葉を交わしている。

 

「最近の銀河系は物騒でな。少し動くだけでもこれくらいの戦力は必要だ。それに意外とこのステーションが嵩張るのでな」

 

「確かに、ジャンプアウトするにも随分と重そうだ。だが“《全て》》”ではないだろう?どうせならいずれ……全て見ておきたい」

 

この場合の全てとは間違いなくステーションの事ではない。

 

彼女が率いる勢力の規模の事だ。

 

第三帝国より上か同等か。

 

もし仮に下回る事になっても油断は出来ない。

 

アンシオンで十分分かった。

 

格下であっても油断は出来ないのだ。

 

特に相手がかつては同じ帝国であるのなら。

 

「まあそう言うな。私は腹の探り合いをしに来たわけじゃない」

 

「探り合いも話し合いの醍醐味だろう」

 

重い雰囲気の中2人の微笑が重なる。

 

スローネ大提督は口を付けたカップを皿に置きしっかりとシュメルケ上級大将の目を見つめた。

 

彼女は一言、鋭く言葉を切り開く。

 

「我々ファースト・オーダーは第三銀河帝国に対し同盟を結びたいのだ。同じ帝国同士、再び一つになる為の同盟を」

 

 

 

つづく




ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


私 だ

と言うわけでお久しぶりですEitoku Inobeです
ナチ帝国如何でしたでしょうか?
良かったと思う方、悪かったと思う方はぜひ高評価とチャンネル登録お願いします!(急にYouTube rみたいな事すな)


ジーク「あれまた出番の氷河期?」
ヴァリンヘルト「悲しいっすね」
ハイネクロイツ「まあいいじゃないの」
アデルハイン「そうだよ、俺なんて大抵蚊帳の外だしさ」



???「スパイスですわ!」
ペリオル「やめてください…」


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一つの帝国

「我らの想いが紡がれることを切に願おう。先代達の努力が明日を切り開いてくれる事を共に信じよう。祖国は常に素晴らしいという信念を強く持とう。信じよう、我らの帝国は常に勝利すると。」
-ある宇宙軍少佐の最後の手紙より抜粋-


-コルスカ宙域 惑星コルサント ギャラクティック・シティ-

今日はコルスカ宙域のコンプノア・ユーゲントに選ばれた子供達に制服が配られる日だ。

 

それはマインラートも養子として向かい入れられたホリー・セレッドもそうだった。

 

様々な手続きがあり最終的に正式な養子となったのはあれから数日経った後でホリーはまだあまりこの家に馴染めていない様子だ。

 

常に不安感や寂しさを感じているのが表情で分かる。

 

無論それはマインラートの“()”でもそうだったが。

 

心の苦しさがどことなく分かるのだ。

 

「とっても似合ってるわよ、2人とも」

 

ユーリアは鏡の前にユーゲントの制服姿のまま立つ2人の頭を撫でた。

 

マインラートは少し嬉しそうにしていたがそれでも首周りが王やら苦しいらしい。

 

「この服少し苦しいよ」

 

彼は素直に気持ちを表しホックの所を何度も触っていた。

 

「最初はそんなものよ、すぐに慣れるわ」

 

そうユーリアは宥め不満げな表情を浮かべるマインラートを再び撫でた。

 

「ホリーもとっても似合ってるわ」

 

新しい愛娘にもそう褒めまた頭を撫でた。

 

確かにホリーは養子で血は繋がっていないがもう大切な家族であり娘だ。

 

一方だけ可愛がるなどあり得ない。

 

ただその事がホリーに伝わったかは定かではないが。

 

「ありがとう…ございます…」

 

ホリーは小さな声で謝辞を述べた。

 

余所余所しい感じではあるが仕方ないとユーリアは割り切っていた。

 

実の父親が死んだばかりでまだ慣れない家に引き取られたのだ。

 

むしろ慣れろと言う方が酷ではないか。

 

時間を掛けてゆっくりと心を癒していけばいい。

 

それだけの覚悟はある。

 

「お母さん、“()()()()()()”」

 

直後玄関のインターフォンが鳴りユーリアは振り返った。

 

「じゃあお母さん行ってくるわね」

 

「うん」

 

きっと宅配か何かだろうとユーリアは立ち上がり玄関の方へと歩いて行った。

 

マインラートは襟のホックを取りヘナヘナと鏡の前に座り込んだ。

 

「カッコいいけどこの服やっぱり苦しいよ」

 

首周りを楽にさせながらマインラートはそう呟いた。

 

すると隣でずっと立っていたホリーも同じように座り蹲った。

 

顔を隠し黙り込んでいる彼女をマインラートはおもぐるしそうな表情でじっと見つめた。

 

感じるのだ、ホリーから溢れる悲しく寂しい何かが。

 

マインラートに溢れる力、そう“()()()()”の感情を感受させていた。

 

ホリーの啜り泣く声が聞こえる。

 

「ねえ」

 

マインラートは隠れて涙を流すホリーに声を掛けた。

 

彼女は涙を見せないよう拭いながらマインラートの方をゆっくり見つめた。

 

「どう…かな?綺麗…?」

 

マインラートはそうホリーに尋ねた。

 

マインラートの手のひらで浮いているネクタイ型のスカーフが器用に丸まり花のような形になっていく。

 

まるで赤薔薇のようだ。

 

ホリーはだんだんマインラートの手のひらの上で作られていく花をじっと見つめていた。

 

気がつけば涙は流れ去り驚きの方が強くなっていた。

 

するとホリーも自分の手を首に巻かれたスカーフの近くに寄せ触れる事なく外し始めた。

 

そして宙に浮かせマインラートのての方へ近づける。

 

「実は……私も…」

 

宙に浮いたスカーフはマインラートのスカーフに巻き付いた。

 

今やマインラートの方が驚いた表情を浮かべていた。

 

彼女も自分と同じ“力”、フォース持っていたのだ。

 

「君も僕と同じなの……?」

 

ホリーは小さく頷いた。

 

「でもパパには知らせてなかった…」

 

「僕もお母さんから絶対やっちゃいけないって言われてるんだ…だから2人だけの秘密にしようね」

 

「うん…!」

 

2人は互いに笑い合っていた。

 

ここに来て初めて心を許してもいいと感じた。

 

ホリーに先程のような涙や喪失感はなくただ無邪気な喜びがあるだけだった。

 

ユーリアに陰で見守られながら2人は親しく笑い合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同盟を組むだと?我らとか?」

 

シュメルケ上級大将は怪訝な表情でスローネ大提督の提案に対し首を傾げた。

 

疑わしく思えるのも無理はない。

 

何せ今の所脱出したアンシオンの戦力は全て彼女らの下にあると踏んでいるからだ。

 

アンシオン軍と合わせた大、中規模の軍隊で我々と対峙する。

 

その可能性が一番高かったのだがまさか同盟とは。

 

交渉にしてもせいぜい停戦交渉程度だと思われていた。

 

「我々は元は同じ帝国だ。同じ皇帝に忠誠を誓い、同じ祖国を守る為に戦い、別々の姿になった」

 

スローネ大提督は言葉を繋ぎ話し始めた。

 

どうやらファースト・オーダー側は既に同盟を組む事を知っているようだ。

 

同じ組織だからそれは当然だが親衛隊側に比べて動揺の色は薄かった。

 

「倒すべき新共和国は君達が倒し、我々も帝国復興の為の準備が整った。後は我らが一つになるだけだ、これ以上の流血を阻止する為にも」

 

これ以上の流血、間違いなくアンシオンの事だろう。

 

やはりファースト・オーダー側もその事は知っているらしい。

 

ならば少し問い詰めねば。

 

「だからアンシオンの残党軍討伐から手を引けと?連中の戦力は殆どが生存し未だ行方不明だ。ここで戦いを終わらせれば我々の方が危険に晒される上に残党が暴徒化する可能性もある」

 

「彼らにはもう戦闘力はない。それに帝国が一つになったと聞けば指導者のいない彼らは我々に付いてくれるだろう」

 

シュメルケ上級大将の危惧にスローネ大提督はそう返した。

 

彼女らしくない楽観的な考え方だ。

 

どこか怪しい、そうシュメルケ上級大将は感じた。

 

「まるで知ったような口ぶりだな。本当は匿っていたりするのか?」

 

直球でスローネ大提督に投げかける。

 

仮に匿っていたなら最悪の場合侵攻の大義名分として扱うだけだ。

 

しかし大提督はあくまで毅然とした態度でキッパリと断りを入れた。

 

「確かに一部は我々を発見し保護してはいるが全軍ではない。むしろ行方は我々が知りたいくらいだ」

 

「そうか…なら私は深くは聞かないでおこう。それに間も無く代表団が来る、深い事はそちらで話すと良い。尤も、そうすれば我々が話す事はもうなくなってしまうのだがな」

 

取り繕った自然に近い微笑を浮かべ再びカップを持ち上げた。

 

スローネ大提督もその裏だらけの皮肉に笑みを浮かべ自然と一息吐いた。

 

肩の力が抜けより自然と柔らかい表情が滲み出ていた。

 

だが周りの将校はそうではない。

 

未だ張り詰めた緊張に囚われ硬い表情のまま2人を見つめていた。

 

「だが…」

 

シュメルケ上級大将は口を開きあえて言葉を詰まらせるように会話を続ける。

 

「私個人の持論としては……同盟を組んでも良いと思っている。いやむしろ是非ともと言った所だ、君達に下手な虚栄心がなければの話だが」

 

上級大将の最後の一言がファースト・オーダーの将校達を大いに警戒させた。

 

何人かは既に臨時の戦闘体制に入り比較的冷静なベテラン将校達に止められている。

 

彼らの動きは親衛隊将校達も刺激し今までの比ではない緊張を激らせた。

 

互いに近くの相手を睨み合い牽制している。

 

そんな中緊張を破りスローネ大提督が口を開いた。

 

「我々にハースクやテラドクのような虚栄心などはない。我々はただ帝国を再興する、それだけでそちらが同盟を望むなら喜んで手を取ろう。我々は元は一つの存在だ、探り合う事もいがみ合う事も必要ない」

 

「その通りだ、どうやら今回の会談は明るい返答が期待出来そうだ」

 

そう言い放ちどこか安堵したようにシュメルケ上級大将はチラリと横に目線を移した。

 

それに気づいた幾人かの親衛隊将校が少しズレて上級大将が目線を当てていたビューポートの景色が露わになった。

 

暫く外の宇宙空間を眺めシュメルケ上級大将は口を開いた。

 

「“(エクリプス)”、まさか君達が持っていようとは。あれはてっきり戦乱期の炎で焼かれてしまったと思っていたのだが」

 

彼の目の先にはステーションのすぐ近くに佇むエグゼクター級スター・ドレッドノートの姿があった。

 

間反対には親衛隊所属であり同型艦のエグゼクター級“ルサンキア”が同じように構え双方圧倒的な威圧感を放っている。

 

両艦とももしもいざという時に備えているのだ。

 

その為このステーションはある意味で二隻のスーパー・スター・デストロイヤーに狙われていると言うことになる。

 

しかし“エクリプス”はただのエグゼクター級ではない。

 

この艦は今は亡き皇帝シーヴ・パルパティーンの座乗艦としての役割を果たしていた。

 

つまり皇帝の御召艦であったのだ。

 

皇帝は崩御し“エクリプス”自体も沈んだと思われていた。

 

だが生き残っていた。

 

「そして隣に控えているのは……“アルティメイタム”か?あちらもホスで退役したと私は聞いていたのだが」

 

シュメルケ上級大将は“エクリプス”の隣に控えるインペリアル級を指差した。

 

船体からブリッジの上のカラーリングが何処となく違う気がする。

 

隣には以前までスローネ大提督の乗艦だったインペリアルⅡ級“ヴィジランス”が同じように“エクリプス”の側で控えていた。

 

「ああそうだ、私の思い入れの鑑であってな。実は私が初めて艦長を務めたスター・デストロイヤーはあれなのだ」

 

「だから戦力増強も含めて退役しようとしていたあの鑑を引き取った」とスローネ大提督は何処か思い出深そうに話していた。

 

インペリアル級“アルティメイタム”はスローネ大提督の話す通り彼女が最初にスター・デストロイヤーの艦長として指揮を取った艦なのだ。

 

元々は現在ファースト・オーダーの提督を務めているイェール・カールセンの艦であったがゴース紛争時に一時的にだが指揮権がスローネ大提督に譲渡された。

 

その後はカノンハウス艦長が指揮官となりあの死の小艦隊所属となったが同盟軍追撃の際に小惑星帯で不慮の事故に遭いブリッジが大破、そのまま退役したはずだった。

 

だが実際にはエンドア戦などその後の動乱により解体工事が遅れに遅れドック入りしていた他の帝国艦船と共にスローネ大提督らに引き取られた。

 

その為突貫工事で修復された“アルティメイタム”のブリッジは自身の船体や他のインペリアル級のブリッジと比べて微妙に色合いが異なっていた。

 

「カノンハウスの愚か者がもう少しあの艦をうまく使ってくれればそんな事せずに済んだのだがな」

 

後任のカノンハウス艦長を若干罵りながらカップを口に近づけた。

 

シュメルケ上級大将も思わず素の微笑を浮かべている。

 

スローネ大提督はカップを皿に置き今度は彼女の方から口を開いた。

 

「そう言えばそちらの指導者殿は新しい代理総統とやらに変わったそうだが“()()()()()()()()()”はどうした?」

 

シュメルケ上級大将は顔をスローネ大提督の方に向け直した。

 

懐かしい、あまり聞きたくない名前が出てくる。

 

そう言えば彼の息子、オスカル・ヒルデンロードはそろそろ退役する頃か。

 

有能で政治的見当も優れていたと思うが意欲や野心的ではなくて助かった。

 

そんなつまらない事を思い浮かべながらシュメルケ上級大将は返答を口に出した。

 

「首相は……“()()()()()()”。不慮の事故…ではないな、“()()()()()”のだ。何者かによって」

 

大提督の表情が少しだけ曇った。

 

演技かどうかはさて置き首相の死に何かしら思うことがあったのだろう。

 

「首相官邸の爆発事故により首相と首相の家族数名を含めた数十人が亡くなられた。犯人はヒルデンロード首相を快く思わない勢力の差金だったのだろう。結局深く捜査は出来ず今でも無念に思う」

 

「そうか……お悔やみを申し上げる」

 

「どうも」という意味を込めてスローネ大提督に何度か頷きを見せた。

 

「ヒルデンロード首相は立派な方であられた。絶望的な状況の中、我らを導きカイゼルシュラハト作戦を成功させ帝国の存続させた。あの方がいなければ今頃我らは新共和国を倒す事すら出来なかっただろう」

 

第三銀河帝国前任の暫定政権である、“第二銀河帝国”。

 

第三帝国と同じく皇帝はおらず代理首相という形で最高指導者を立てていた。

 

その第二帝国の首相であったのが“パウルス・ヒルデンロード”その人である。

 

彼はジュディシアル・フォース、共和国軍と帝国が誕生する前から中央政府に支えクローン戦争では盟友と共に“()()()()()()()()()()”で旧独立星系連合軍を打ち破った。

 

圧倒的な大勝利により連合軍はターネンベルグ周辺の支配権を完全に失いその後も取り戻す事はなかったほどの痛手を被った。

 

()()()()()()()()()()”と彼は讃えられ銀河帝国で彼は地上軍元帥に昇進し今までの功績と政治的手腕を認められベアルーリン宙域のモフとなった。

 

エンドア後は周辺の帝国勢力と同調を図りながらも宙域を守る為にひたすら防戦に徹し勢力を拡大し続けた。

 

後に第二帝国最初の奇跡と言われるジュートラド会戦では数隻以上のベラトール級を主軸とした連合艦隊と共に新共和国防衛艦隊を撃破し支配を確固たるものにした。

 

そしてジャクー戦の混乱に乗じてヒルデンロードは秘密裏に帝国の同盟者達に召集をかけカイゼルシュラハト作戦を実行に移した。

 

彼の“()()()()()()()()”と共に帝国軍は作戦を成功させ第二帝国の基盤を確立した。

 

首相となった彼は対軍縮政策として帝国の国防正規軍だけでなく保安軍を作り軍縮を逃れたり親衛隊の原型であるチェンセラー・フォースを設立し帝国の勢力維持に努めた。

 

しかし悲運が彼を襲う。

 

志半ばでヒルデンロード首相は暗殺され斃れた。

 

その後首相の後は現在の代理総統らが引き継ぎ第三帝国が誕生する事となる。

 

「暗殺した犯人がどの勢力からの差金かは分からない。首相を快く思わないワイズ提督やハースク提督、デルヴァードス将軍らのような勢力は大勢いるからな」

 

「なるほど……しかしいずれ見つかるといいな。その犯人が」

 

「ああ、あの方の意志を継いでここまでやってきた姿、是非見せたいものだ」

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー ケッセル宙域 ケッセル星系 惑星ケッセル-

「帝国との交渉、うまく言ってるといいですわね」

 

「…あんまり楽しそうじゃないですね」

 

退屈そうにケッセル産のスパイスで作られた煙草を吸うクラリッサにマルスはそう尋ねた。

 

言葉だけ見ればただの会話だがその口調にはいつものような謎の元気さや透き通った狂気さは感じられなかった。

 

本当に、とにかくどうでもいいと言った雰囲気だ。

 

一方マルスの方は椅子に座って足をぶらつかせ浮かない表情に見える。

 

「第三帝国側の返答も分かりきっていますし面白みや刺激に欠けますわ」

 

「でも、ここで交渉決裂なんて起きたら両者の未来は破滅ですよ」

 

冷静に状況を読み取るマルスにクラリッサはむすっとした表情で立ち上がり彼に近づいた。

 

本当にこの一面だけ切り取ればただの美少女で済むだろうに。

 

恐らくこのケッセルの勢力の配下となった全ての将兵がそう思っているだろう。

 

クラリッサはそのままよく分からなそうに唖然と彼女を見上げるマルスを掴みハグを交わした。

 

益々マルスの理解不能の表情が広がっていく。

 

「もう!あなたはそれで良いんですの?あなたはあの国に思う所があるんじゃないですの?」

 

マルスは一瞬だけ年相応の幼い悲壮感を感じる苦々しい思いを浮かべた顔付きになり目線を落とした。

 

思わないわけがない。

 

あの国に対して。

 

抱くのは恨みばかり、憎しみばかりだ。

 

それでも、堪えなければ、耐えて守らなければならないものがある。

 

今度こそ何も失わない為だ。

 

「私は貴方が離れて行く事と私以外を愛す事以外は許しますわ。それに貴方がずっと浮かない顔をされていては私も気分が落ちてしまいますもの」

 

さらに強く抱かれクラリッサの体温と少し刺激物の混じった花のような香りが漂ってくる。

 

彼女はマルスの耳元で宥めるように言った。

 

「大切なのは貴方自身が決める事でしてよ」

 

その言葉はクラリッサにとっては単なる一言であった。

 

しかしマルスにとってのその言葉はずっと遠い昔に聞いた大切な人の大切な言葉だった。

 

掛けられた言葉は脳内から蘇り耳に聞こえてくる。

 

クラリッサとは違う歳を取った低い男の声が。

 

『マルス、大切なのはお前自身が決める事だ。お前ならきっと未来を切り開ける』

 

あの時は頭を撫で垂れた覚えがある。

 

誰も死ななかった頃、まだ動乱が始まる前のベアルーリンで。

 

自然と涙が溢れ小さく言葉が漏れた。

 

「“()()()()()”……」

 

血は繋がる事はなくても彼は確かに父と慕い息子と慕われていた。

 

()()()()”パウルス・ヒルデンロード元帥の息子、アルスヒルデンロードはケッセルで小さく新たな決意を下した。

 

 

 

 

 

-惑星ディカー ディカー基地訓練施設-

3機編隊を組んだXウィングやAウィング、Bウィング、Yウィングが澄んだ青空を飛び交い飛行訓練をしていた。

 

その中にはヴィレジコフ中尉のAウィングも存在しており新たに設置されたソード中隊の副中隊長を上級中尉の役職と共に任命されいつにも増して訓練に集中している。

 

地上では射撃訓練や実戦を交えた訓練、単純な体力作りや規律の訓練などが行われていた。

 

あちこちで一個小隊並みの歩兵が軍旗を持って大声を上げながら走っていた。

 

その中には当然ジョーレン・バスチル少佐率いる特殊部隊も含まれていた。

 

彼らだけは常に装備品を全て付けたフル装備のままどの部隊よりも大きな声でランニングを行なっていた。

 

先頭を走るジョーレンの後に隊員達は歌を続ける。

 

各地の惑星防衛軍が歌い継ぎ、帝国軍や新共和国軍など多数の替え歌が存在するちょっとした軍歌だ。

 

今回は彼ら特殊部隊の仕様になっている。

 

「俺たちゃ無敵の特殊部隊〜♪」

 

『俺たちゃ無敵の特殊部隊〜♪』

 

「バケツ頭をぶち殺せ〜♪」

 

『バケツ頭をぶち殺せ〜♪』

 

「ブリキ野郎の首も折れ〜♪」

 

『ブリキ野郎の首も折れ〜♪』

 

「敵艦基地をぶっ壊せ〜♪」

 

『敵艦基地をぶっ壊せ〜♪』

 

「ウォーカー・タンクをぶっ倒し〜♪」

 

『ウォーカー・タンクをぶっ倒し〜♪』

 

「生かして返すな帝国軍〜♪」

 

『生かして返すな帝国軍〜♪』

 

「よーし!この一周で切り上げる!総員三分の休憩を取った後に各分隊事に訓練開始!」

 

『了解!!』

 

隊員達の威勢の良い声が聞こえジョーレンは目線をジェルマンの方に向けた。

 

彼は今ジョーレンが考案した特殊部隊用の大量のトラップと仮想敵が仕掛けられた専門の訓練器具を使って訓練を行なっていた。

 

隣には一時期ジョーレンの部下でもあったヘンディー曹長がいる。

 

遠くから曹長のジェルマンを励ます声と絶叫に似た奇声を上げるジェルマンが確認出来た。

 

「後少しです上級中尉!頑張って!頑張って!」

 

爆弾を飛び越え泥に塗れ匍匐前進しつつブラスターで仮想敵の鹵獲したプローブ・ドロイドや訓練用のセキュリティ・ドロイドを撃破していた。

 

ブラスターをピストルに持ち換え素早く二発放ち二体のセキュリティ・ドロイドの機能を停止させる。

 

訓練である為放たれる弾丸もショック・モードだ。

 

歯を食いしばり今にも死にそうな顔を浮かべながらジェルマンは立ち上がり敵の弾丸を掻い潜りながら配布されたA280Cブラスター・ライフルで残りのドロイドを全て機能停止にした。

 

そのまま滑り込むように目的地に飛び込みブラスター・ライフルを構えながら周囲を確認する。

 

敵の存在がなくなり周囲がクリーンになった事を確認したジェルマンは急いで腕のアーマー・ブレスレットから優先コードを抜き目的地の端末に差し込んだ。

 

ブレスレットからホログラム状のモニターとキーボードが出現した。

 

息が切れそうな中、そこに情報書き換えと制圧を行う為のプログラムを打ち込みわずか数秒でシステムを占拠し訓練は終了した。

 

「終了です!筋がいいですね上級中尉!これなら特殊部隊としてもやっていけますよ!」

 

「ハァ…ハァ…ハァ……そりゃどうも……嬉しく……ハァ……嬉しくないですが……」

 

ジェルマンはコードが刺さったままジェルマンはA280Cブラスター・ライフルを抱き沈み込むように地べたに寝転んだ。

 

汗が垂れ流れ衣服越しでもコンクリートのひんやりとした冷たさが感じられる。

 

「あ”ぁ”……死ぬ。こんなキツい訓練初めてです……」

 

朦朧とする意識の中ジェルマンはそう愚痴を漏らした。

 

訓練が始まって以来毎日がスパルタそのものだ。

 

朝起きて朝食を摂ったら早速ランニングを行い専門の特別トレーニング訓練と部隊と合同で行う訓練を行いそれを何度も繰り返していた。

 

その間にもジェルマンは何度も同じように「いよいよ死ぬ」と愚痴を溢し毎日しっかり訓練をやり遂げ生き延びていた。

 

「上級中尉は体力なくても根性があるんだから大丈夫っすよ。さあ立って下さい!休憩挟んでうちの分隊と合同で訓練開始です!」

 

「そうそう、根性だけはあるからな〜」

 

奥から聞き馴染みのある声が聞こえた。

 

フル装備のジョーレンだ。

 

ヘンディー曹長の言葉に同調しジェルマンを見下ろしていた。

 

「さっ流石に……キツい…!アカデミーの何倍も……!」

 

「そんなにか?」

 

ジョーレンは首を傾げた。

 

確かに特別に組んではいるが容量的には通常の特殊部隊の訓練の要領と大体同じだ。

 

しかし訓練を監督しているヘンディー曹長はジョーレンに言い放った。

 

「まあ普通の訓練の二、三倍要領あると思いますが…」

 

「やっぱり……」

 

「えっちょ…」

 

一気に味方を失ったジョーレンは言葉を失い急におどおどし始めた。

 

2人の圧に押され気まずくなったジョーレンは咳払いで流れと話を変えた。

 

「まっまあお前は間違いなく短期間で並みの隊員より強くなってる。しかも情報部員としな。この作戦の成功率がどんどん上がってるって事だ」

 

「それは何となく感じるけど…」

 

「なら後やる事はひとつだ。ひたすら訓練して体力付けて兵士として研ぎ澄まして行くしかない」

 

「ああ…そうだってなんかやりこめられたんだけど!?」

 

怒り出すジェルマンを放置しジョーレンはヘンディー曹長に次の予定を伝える。

 

「さー休憩挟んで全体で訓練だ。しっかり休んどけよ」

 

「おい待てこら!……はぁ……」

 

ジェルマンの怒り虚しくジョーレンは部隊の方へ戻っていった。

 

ジェルマンはため息を吐き再び地面に倒れ込んだ。

 

青空に薄らと雲が掛かりその合間を何度もスターファイターが通って行った。

 

ふと目線を横に移せば何台も輸送用スピーダーが忙しなく物資を運搬し下士官兵達だけでなく将校達も落ち着かない様子だった。

 

歩きながら資料を見せ合い言葉を交わす将校やコンテナに積み込まれた武器を降ろす兵卒の姿が見える。

 

訓練を終えたスターファイターが指定の発着場に着陸し今し方訓練を終えてきたと思われるパイロット達が次々と歩いてきた。

 

ジェルマンはそんな様子を眺め一言呟く。

 

「いよいよ…か…」

 

いよいよ戦いが始まる、張り詰めた緊張がその一言と共に吐き出された。

 

不安や緊張がないどころか不安と緊張だらけだ。

 

この作戦は本当に失敗出来ないし成功した後の事も分からない。

 

それでも作戦を実行し成功させる事が帝国打倒への一歩である事は疑いようがない。

 

その期待感は僅かなものだったが間違いなくジェルマンの中にある不安や緊張を緩和してくれていた。

 

手のひらを空へ突き上げぎゅっと握りしめる。

 

「待ってろよ帝国軍、今までの借りは必ず返してやる」

 

ジェルマンの誓いは発着場から再び空へ飛んだスターファイターに運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

-帝国領 インナー・リム ゼル星系 惑星ゼルトロス周辺域 第四司令ステーション-

ステーションの内部構造はインペリアル級やアークワイテンズ級のような標準的な帝国宇宙軍の艦船と同じ造りであり司令室も内側から見ればスター・デストロイヤーのブリッジそのものだ。

 

無機質な暖かみのない灰色の床や壁に白く冷たい照明。

 

通路をストームトルーパーの一個分隊や警備の宇宙軍トルーパーが足音を立てながら通り過ぎていく。

 

時折将校や下士官が別部署へ報告に向かう為に通路を歩いたり勤務を終えた兵器技術者達が自室やシャワー室に戻る程度で後は静寂が残されていった。

 

アストロメク・ドロイドや清掃中のマウス・ドロイドの電子音が通路にはよく響いている。

 

ステーションのスター・デストロイヤークラスが入港出来るドックには未だ一隻も入っておらず空の状態だった。

 

度々哨戒用のTIEファイターがステーションから発進し任務に向かっている。

 

この手のタイプの基地は未だ性能的には一回り劣る通常のTIE/ln制宙スターファイターが使われていた。

 

新型の主力機が優先的に回されるのは常に宇宙空間を航行し敵を討伐しに向かう宇宙艦隊だ。

 

ステーションは二の次、どうしてもそうなってしまう。

 

それも国防宇宙軍の管轄でこんな重要度の低いステーションなら尚更だ。

 

「それでようやくゼルトロスから移動か」

 

「はい、マンダロア宙域に移動しローリング大将軍の支援に当たれと」

 

基地司令官のヴァインズ大佐が副官のラヴィー中尉から報告を受けていた。

 

ヴァインズ大佐は四十歳後半の男性で黒い髪と口元の髭には徐々に白髪が混じり始めていた。

 

随分とくたびれた軍帽を被り階級章は若干曲がっている。

 

正に覇気というものがまるでない人物だ。

 

彼は長らくステーション司令官を続け配属された領域の警備に努めた。

 

と言ってもそれほど熱心なものではなく銀河系の内戦や新共和国、軍将との戦いにも命令されない限り突っ込むことはなかった。

 

だからこそステーションは銀河内戦を通じて常に無傷であり第二帝国に合流出来たのだが。

 

本来ヴァインズ大佐ほどの年齢であれば早ければ既に宇宙軍の提督、遅くとも准将、少将くらいは言っていてもおかしくないはずである。

 

されど未だステーション司令官の大佐というのは辺境域出身で功績が少ないだけでなく彼自身の問題だろう。

 

一方のラヴィー中尉は二年前に国防学校という名の帝国アカデミーを卒業したばかりの若手の士官だ。

 

アカデミーを中尉で卒業出来る程のエリートではなかったが功績を重ね去年中尉に昇進した。

 

典型的な野心的な士官であるラヴィー中尉は今すぐにでも艦隊勤務となり戦功を重ねたいと切に願っている。

 

「ローリング大将軍か…あまりいい顔をされなさそうだ」

 

「ですがこれは武勲を立てるチャンスです」

 

「旧型のTIEファイターしかない我らで何が出来るか」

 

中尉の意見を横に流しヴァインズ大佐は司令室に入った。

 

司令室の護衛の宇宙軍トルーパー2人に敬礼されドアが開く。

 

司令室の何人かの将校や下士官からも敬礼を受けヴァインズ大佐もラヴィー中尉も敬礼を返した。

 

「司令官、ハイパースペースに妙な物体反応を検知しました」

 

センサー士官のブリフィア伍長が司令室に入ってきたばかりのヴァインズ大佐に報告する。

 

大佐はため息を吐きながら伍長の下に近づいた。

 

「我が軍の艦船ではないのか?」

 

「いえ、スター・デストロイヤーにしては質量が小さ過ぎます。それに先程出港した“トラベル・アウト”と“フラッグ・ソーティ”が帰還するには早過ぎます」

 

ブリフィア伍長はヴァインズ大佐に返答した。

 

二隻とも親衛隊宇宙軍所属のインペリアルⅡ級スター・デストロイヤーで同じ階級だがヴァインズ大佐よりも十歳ほど若い将校が艦長をやっていた。

 

親衛隊の艦長や乗組員達は皆何処か傲慢で気に触る部分があったが別にヴァインズ大佐はさほど気にはならなかった。

 

尤もラヴィー中尉の方はかなり苛立っていたが。

 

「この辺りの領域を民間船が通るとは思えません」

 

「そうだな、一応予備のファイター中隊を集めておけ。それと砲塔の準備とシールドの展開もだ」

 

中尉の進言を受け入れヴァインズ大佐は対策を取った。

 

「了解」

 

他の士官達もそれに従い作業を始める。

 

「杞憂に終わるといいのだがな」というヴァインズ大佐の予想はこの後すぐ裏切られる。

 

大佐がビューポートに目線を向けた瞬間彼らは現れた。

 

ハイパースペースから新共和国軍が現れたのだ。

 

二隻のネビュロンBがジャンプアウトしフリゲート艦を取り囲む様にXウィングやAウィングがジャンプアウトする。

 

3機の編隊を組みスターファイター隊がステーションに攻撃を仕掛け始めた。

 

赤いレーザー弾が飛び散り偏向シールドと装甲を破ってステーションにダメージを与える。

 

攻撃の振動が司令室まで届きヴァインズ大佐達は一瞬揺れた。

 

「敵スターファイターの攻撃です!」

 

「見れば分かる!対空砲及びターボレーザー用意!敵部隊を撃破しろ!偏向シールドとファイター部隊の展開も急げよ!」

 

「はっはい!」

 

ステーションに警報が鳴り響き一様に慌ただしくなった。

 

司令室では各部署へ命令を送り出し通路には何十人以上の兵器技術者やファイター・パイロット達が通路を走っている。

 

XウィングやAウィングの攻撃が時々ステーション内を激しく振動させ被害を与えるが偏向シールドの展開が強化された事によってその被害も少なくなっていた。

 

何基かのステーション局所防衛砲台が起動し黄緑色のレーザー弾をスターファイターに浴びせ掛ける。

 

敵機は器用に攻撃を躱し肉薄してステーション内に攻撃を与えようと取り憑き始めている。

 

それを支援する為ネビュロンBもターボレーザー砲やプロトン魚雷を発射しステーションに攻撃を開始していた。

 

「敵艦隊の艦砲射撃です!スターファイターもシールド内に侵入し直接攻撃を仕掛けています!」

 

伍長の報告を聞いたラヴィー中尉が意気揚々を意見を提出する。

 

「連中の火力で我がステーションの偏向シールドと装甲が破れるものか!TIEファイターを一気に出して押し潰しましょう!」

 

「ああ…だが練度と性能では向こうが上……我々単体で撃破するのは難しい。ターボレーザーとイオン砲で敵艦を抑えろ。トバイス大尉」

 

命令を付け加えヴァインズ大佐はステーションの航行管理士官の名前を呼んだ。

 

大尉は速やかに敬礼し「なんでしょうか」とヴァインズ大佐に顔を向けた。

 

「スター・デストロイヤークラスの救援を呼びたいのだが当てはあるか?」

 

「先程駐留していた“トラベル・アウト”と“フラッグ・ソーティ”はもう呼び出す事は出来ません。他のインペリアル級も同様です」

 

「ならヴェネター級でもヴィクトリー級でも構わん!救援を呼び出せ!」

 

ヴァインズ大佐は苛立ちながらトバイス大尉に言いつけた。

 

横に控えているラヴィー中尉は少し不満げな表情のまま大佐に進言した。

 

「お言葉ですが大佐、我がステーションの戦力ならあの程度の戦闘船団など撃破可能です」

 

「だがな中尉、無茶して敵を殲滅するより圧倒的な力を持って抑えるのが常策ではないか。無茶する必要はない」

 

「しかし大佐…!」

 

「パトロール艦の“サンダーハード”なら一分以内に到着可能です」

 

2人の会話の間に割り込みトバイス大尉がヴァインズ大佐に進言する。

 

「級種はなんだ」と素早くヴァインズ大佐が尋ね返す。

 

「ヴィクトリーⅡ級です、それとヴィクトリーⅠ級の“へヴィーレイン”も間も無く到着すると!」

 

「そうか!よし、攻勢はヴィクトリー級二隻に任せて任せて我々はひたすら防備に徹しろ!敵部隊を押さえ込むんだ!」

 

不満げな中尉を無視しヴァインズ大佐は命令を出した。

 

既にTIEファイターの三個中隊ほどがスクランブル発進し敵のXウィングやAウィングの迎撃を始めている。

 

ネビュロンB二隻もステーションのターボレーザー攻撃を回避しつつ体制を立て直そうとしている為以前よりも攻撃は薄かった。

 

「敵スターファイターの45%がステーションから離脱していきます!」

 

「間も無くヴィクトリー級が到着します!」

 

「おお!その調子で防衛を続けろ!いいぞ!こちらの勝利はすぐ目前だ!」

 

次々と飛び交う良い報告にヴァインズ大佐は今までにないほど高揚の表情を浮かべていた。

 

勝利は目前、その言葉の前にどう高揚を抑えられようか。

 

そしてその勝利(Victory)を模り艦名に宿したスター・デストロイヤーは報告通り姿を表した。

 

「ヴィクトリー級“サンダーハード”、“へヴィーレイン”!到着しました!」

 

「よし!」

 

ステーションの上空に二隻のヴィクトリー級スター・デストロイヤーが出現した。

 

両艦ともネビュロンBにターボレーザー砲を放ちヴィクトリーⅠ級の“へヴィーレイン”は震盪ミサイル発射管から次々とミサイルを撃ち出し二隻のネビュロンBに殲滅の一撃を与える。

 

一隻のネビュロンBのエンジン部にミサイルが被弾し速力を失い更にヴィクトリー級の攻撃を受け続けていた。

 

偏向シールドが剥がれ既に船体は限界間近まで攻撃を受け続けている。

 

しかし敢えてなのか不幸中の幸いなのかエンジン部が大破したネビュロンBが盾となったおかげで残りのスターファイターとネビュロンBがハイパースペースに突入し離脱する事が叶った。

 

爆炎を上げ崩れるように沈みゆくネビュロンBの姿を見て司令室は悦びに包まれていた。

 

「敵を追い払ったぞ!よし、今のうちに哨戒機を出してパトロールを行え。それとステーション内の応急修復も急がせろ!」

 

「了解!」

 

勝利の昂揚に包まれるヴァインズ大佐とは裏腹にヴィクトリーⅡ級“サンダーハード”の艦長、ヘルガー中佐は浮かない険しい標榜をブリッジで浮かべていた。

 

「ようやく一隻か…!追撃準備、ジャンプの用意だ!まだ燃料と弾薬は足りるな?」

 

敵艦撃破を喜ぶ事すらなく航行士官にハイパースペースへのジャンプと追撃を命じ戦備士官や補給士官らに弾薬と燃料を確認した。

 

他の乗組員も皆余裕のなさそうな表情で作業を進めていた。

 

それもそのはず、この手の襲撃は一度や二度ではないのだから。

 

先程まで“サンダーハード”はゼルトロス周辺の別のステーションの救援に駆け付けていた。

 

それも一度目ではなく三度目の出撃だった。

 

本来“サンダーハード”が配属されているのは隣の宙域で惑星セレジアのパトロール艦隊所属であった。

 

しかし所属宙域でも二度同じような新共和国軍の襲撃があり追撃を重ねた結果このゼルトロスまで到着したのだ。

 

「はい!ハイパードライブも後五、六回までなら連続ジャンプ可能です!」

 

「弾薬物資の面から言ってもまだ戦闘可能です」

 

「よし!周辺領域全ての報告に意識を向けろ、襲撃の報告があればすぐにジャンプするぞ!」

 

「ハッ!」

 

再び戦闘用意を開始しブリッジの慌しさが増した。

 

報告や戦闘要員の転換指令をヴィクトリー級のあちこちに出し出撃体制を整えている。

 

中佐もようやく一息付けるという段階にいた瞬間通信士官から報告が舞い込んできた。

 

「艦長!惑星ヴィルジャンシの駐留ステーションが新共和国軍の奇襲を受けたと報告が入りました!」

 

ヘルガー中佐の目がガラリと変わりすかさず命令を出す。

 

「よし!直ちにジャンプの用意だ!今度こそ敵を…」

 

「艦長!アンブリアでも同様に襲撃の報告が!」

 

「何…!?」

 

「ゴースでも新共和国軍の攻撃を受けた報告が入ってます」

 

次々と入る襲撃報告にヘルガー中佐は困惑の表情を浮かべる他なかった。

 

「惑星ヴェナも同様に…」

 

「そんなに一片になんとか出来ん!ああ……とにかく、ヴェナは遠すぎるしゴースは現地の飛地軍に任せておけばいい…!我々と“へヴィーレイン”でヴィルジャンシとアンブリアに向かうぞ!」

 

「了解…!」

 

苛立ちと困惑の混じり合った表情でヘルガー中佐は命令を出す。

 

敵の読めない行動に翻弄されているに等しいこの状況では仕方ないだろう。

 

それも、真の目的ではないと知れば余計にその苛立ちは加速するだろうが。

 

 

 

 

 

-ディカー基地 臨時国防本部 大臣室-

「各地での陽動の攻撃は成功しています」

 

ディゴール大臣の連絡担当士官であるドーン少佐は端的にホログラムを眺める大臣に告げた。

 

周りには数名の幕僚将校と大臣の補佐役として各地の新共和国の残党軍から集められた政治補佐官や官僚が少佐の報告に耳を傾けている。

 

「帝国軍は撹乱され親衛隊、国防軍含めた艦隊がイセノ周辺を出立しました。我々が攻撃に打って出る予定の期間には既にイセノ本星は空に等しいでしょう」

 

ドーン少佐の報告を証明するようにホログラムの艦隊が新共和国軍が奇襲を掛けた惑星周辺に集まり始めていた。

 

その様子を見つめディゴール大臣は唸りを上げる。

 

幕僚将校のハントラスト中佐はディゴール大臣に進言する。

 

「帝国軍、特に親衛隊はここ最近戦力を西側に回しています。こないだもハット・スペースから一個小艦隊ほどが西に向かったとか」

 

「帝国が西側に集中しているのは明白です。その為いくらイセノとは言え現段階では守りは薄いはず」

 

別の幕僚将校がそう進言しそれに政治補佐のハレスト補佐官が付け加えた。

 

「ガー議員、オーガナ議員ら暫定議会も作戦は承認済みです。このまま予定通り結構しましょう」

 

「ああ、特殊部隊の訓練はどうなっている?」

 

「バスチル少佐のおかげでみるみる内に強くなっていますよ。成功間違いなしの精強な部隊に育っています」

 

「そうか…一番の要の部隊だがやはり彼に任せて正解だったな」

 

さも当然のようにディゴール大臣は返答しホログラムを操作した。

 

他の将校達はいまいち納得いかない中ディゴール大臣は「後は艦隊編成だな…」と独り言を呟いていた。

 

大臣にとっては当然であっても他の将校達にとっては当然ではない事が一つだけあった。

 

その事を問う為にハントラスト中佐が勇気を持ってディゴール大臣に尋ねる。

 

「大臣、一つだけ宜しいでしょうか?」

 

中佐の声を聞きディゴール大臣は顔を向けた。

 

「なんだ?」

 

「特殊部隊の部隊長の事です。何故バスチル少佐に一任したのですか?」

 

「彼の功績は見れば分かる事だと思うのだが?それに同盟軍時代は部隊長を務めた経験もある」

 

「それは分かります。ですが少佐は本人も言っていたように八年以上のブランクがあります」

 

「ああ、だが彼にはそのブランクすら覆すだけの変え難い経験がある」

 

「何ですか?」

 

ハントラスト中佐は尋ねた。

 

それに対しディゴール大臣は頭を上げ彼の方を向いた。

 

「銀河共和国、予備役青年部隊。最終的にCOMPNOR(共和国保護委員会)のSAグループの前身の組織。彼はそこの出身だ」

 

「あの“()()()()()()()()”と呼ばれた組織ですか?」

 

「そうだ、だが実際には付け焼き刃などではない。青年部隊は確かに役に立っていた。帝国が全ての公式記録を抹消したが私は知っている。あの組織は秘密裏に優秀な生徒を割り出し少年兵として育てていた」

 

「いや……まさかそんな…」

 

ハントラスト中佐は微笑を浮かべ「そんなはずありませんよ」と大臣に言った。

 

まるで陰謀論でも聞かされているような雰囲気だ。

 

だが大臣は顔色ひとつ変えず中佐に話し続ける。

 

「現に私がこの目で見たのだ。まだグランド・アーミーの少尉をしていた若い頃、私は確かに5、6人の青年部隊の卒業バッジを付けた少年兵達を見た。だ幼い15歳程の少年達が戦果報告を聞かされ勲章を貰っていた。私より5歳も年下の子供がだ」

 

大臣は鮮明にあの時の事を思い出した。

 

確か乗っていたスター・デストロイヤーは“インフィディテイター”という艦名だったろうか。

 

戦闘していた地上から回収されてそのまま味方の惑星に向かっている頃だった。

 

あの日は確かやたらと作戦が上手くいった覚えがある。

 

連隊の進撃は今までの日ではなくすぐ分離主義者達を打ち倒せた。

 

惑星防衛軍から引き抜かれたディゴール大臣は少尉のままある連隊長長の補佐官に当てられ最終的には大尉まで昇進した。

 

その後帝国があまり雰囲気的には好きではなく元いた惑星防衛軍の少佐の称号のまま帰化したがそんな事はどうでもいい。

 

問題はその後だ。

 

スター・デストロイヤーの艦内で通路を歩いていると作戦室から声が聞こえた。

 

誰かいるのかとふと目を向けてみればそこには軍の制服を着た少年達が上官と思われる軍曹と大尉から表彰を受けていた。

 

15歳程度の少年達ばかりでその目は濁った水よりも深く、暗く光が失われ濁っていた。

 

表情からも喜びなどといった感情はあまり感じられなかった。

 

ディゴール大臣はあの光景が未だに忘れられない。

 

あの子供達のこの世の終わりのような希望のない、絶望感に包まれた表情が今でも脳裏に焼き付いている。

 

「彼ら少年兵は記録には残らないが多大な成果を上げた。だからこそバスチル少佐は同盟軍の特殊部隊員としてもトップクラスのエリートだった。そしてそれは今も同様だ。舞い戻ってきた彼は凄まじい戦果を挙げ今も特殊部隊をより強化してくれている。だから私は彼に安心して部隊を任せられる。今回の作戦も必ず成功させてくれるさ」

 

そう、彼らは失敗しない。

 

失敗しないように育てられてきた。

 

だからこそ信頼出来る、それは嘘ではない。

 

だがそれは形容せざる過程を踏んで出来た産物だ。

 

本来生まれてきていいものではない。

 

あの目をした子供達が生まれてはいけないのだ。

 

そんな未来な作れるとしたら是非とも自ら作り上げたいものだ。

 

私の手で必ず。

 

 

 

 

 

 

-惑星アンシオン 第三帝国臨時総督府-

第三帝国とファースト・オーダーの同盟の締結は当初の緊張からは考えられない程スムーズに進み両者は正式に手を組んだ、

 

双方手を取り合う利も、敵対する害もすぐに見極められたからだろう。

 

何よりファースト・オーダーの第三帝国に対する態度が交渉を一番スムーズにしただろう。

 

()()()()()()()()()()”、そのスローネ大提督の言葉が証明されたに等しい。

 

そして彼らは細かな同盟内容を決定する為に会場をラゴのステーションからアンシオンの総督府へと移した。

 

アンシオンの軌道上には二隻のエグゼクター級と一隻のアセーター級含めた計三隻のスター・ドレッドノートがインペリアル級数十隻の艦隊を並べて空を埋め尽くしていた。

 

スローネ大提督やヒェムナー長官、シュメルケ上級大将やフューリナー上級大将達の主要人物が到着しているにも関わらず空中には何百機程のスターファイターやシャトルが飛び交っている。

 

「凄い数のお偉い方々ですね」

 

通路脇で将校達の到来を見送るヒャールゲン中佐はそう感想を呟いた。

 

ジークハルトも小さく頷き口を開く。

 

「彼らの護衛任務の一つが我々にも託されている。私は旅団を非常事体制にして周辺に展開しておくから君は麾下部隊を率いて直接警護を頼む」

 

「了解、そういえばアデルハイン中佐とハイネクロイツ中佐は?」

 

「2人は既に前準備に移って貰っている。ハイネクロイツは先行してパトロールしてると思う」

 

「なるほど、ヴァリンヘルト上級中尉は何処に?」

 

「トイレ」

 

「ええ…」

 

「謎の緊張で腹を壊したらしい。しかし一時期はどうなる事かと思ったがどうやらこれでひとまず戦闘は終結しそうだ」

 

ジークハルトはそう会話のついでにボヤいた。

 

本来ならこのままラゴまで進撃し周辺の服属しない旧帝国勢力を殲滅する予定だったがファースト・オーダーとの同盟締結のお陰でこれ以上の戦闘はなさそうだ。

 

晴れてコルサントに帰還……とまではいかないかも知れないが少なくとも束の間の休息は取れるだろう。

 

本当なら今すぐにでも家族の下に帰りたいところだが。

 

「そうですね…となると私は臨時の憲兵総監の職もこれまでとなりそうです」

 

何処か寂しそうな表情を浮かべるヒャールゲン中佐の発言を聞きジークハルトはふと思い出した。

 

そうだ、彼はあくまで臨時でありこの戦いで一旦旅団からは離れるのだ。

 

「再び総統府警護か?」

 

ジークハルトの問いにヒャールゲン中佐は「うーん」と小さな軽い唸り声を上げ答えた。

 

「まだ分かりませんが…総統が命ずるのなら何だって致しますよ」

 

「そうか…」

 

ジークハルトは小さく相槌を入れ納得したような表情を作り出す。

 

中佐はしっかりとジークハルトの方を向き手袋を脱いだ素手の状態で手を差し伸べた。

 

「この旅団で私もしっかり果たすべき義務とノルマをこなせました。ありがとうございます、旅団長」

 

微笑を浮かべ素直に謝辞を述べられた為少し照れ臭い感じがする。

 

ジークハルトも手袋を脱ぎ照れ臭さを微小に変えてヒャールゲン中佐の手を力強く握った。

 

「ああ、君が総監であったおかげで旅団の規律も整っていた。ありがとう中佐」

 

2人は暫し想いを込め力強く握手を交わした。

 

恐らくこの後正式に総監職が変わるだろうがそれでもいい。

 

しかし2人の握手は遠くからの士官の声によって遮られてしまった。

 

「ファースト・オーダー、指導教育長官閣下のご到着です!」

 

一斉に通路に屯していた将校や下士官達がずらっと綺麗に整列し静かに出迎える体制を作った。

 

ジークハルトとヒャールゲン中佐も同じように整列しピシッと斜め45度の天井に目線を合わせた。

 

親衛隊将兵の間を数人の軍人達が歩く。

 

所々改造された帝国軍の軍服を着た一団、彼らがファースト・オーダーなのだろう。

 

皆階級章はそれぞれ佐官や将官の上級将校ばかりだがその中で1人だけ旧帝国軍と同じ将軍の階級章を持つ者がいた。

 

その男はやたらと隣に控えている恐らく宇宙軍所属と思われる艦長に話を振っていた。

 

「彼ら…親衛隊と言ったか?中々にいい軍服だな、エドリソン」

 

「ああ」

 

「ファースト・オーダーも同じような意匠を取り入れるべきだと思うか?エドリソン」

 

「さあ、専門じゃないから。それは君の役割だろう?」

 

若干嫌そうな表情を浮かべるファースト・オーダー宇宙軍のエドリソン・ピーヴィー艦長は小さくため息を吐いた。

 

あまりこの将軍を好いていないのだろう。

 

ジークハルトはあの髭の生えた赤毛の将軍を知っている。

 

彼の名前はブレンドル・ハックス、以前は将軍などではなく惑星アケニスのアケニス・アカデミーの司令官であったはずだ。

 

あれはもう十年以上前の事だ。

 

帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミーを卒業し上のアカデミーに進学する時期にジークハルトはあのハックス司令官に声を掛けられた。

 

何でもアケニス・アカデミーで新たな学科コースが設立しそこに進学しないかと言われた。

 

教育内容や権威はこのジュニア・アカデミーの直系の上位アカデミーである帝国ロイヤル・アカデミーと同じで中尉での昇進が約束されていた。

 

ジークハルトは一瞬だけこのアカデミーへ進学する事も考え教官やフリズベン上級将軍とも相談した結果このままロイヤル・アカデミーに進学する事になった。

 

当時のハックス司令官、ハックス将軍はかなり残念がっていたが帝国ロイヤル・アカデミーを卒業した後はもはや関係のない過去の話となっていた。

 

恐らく向こうも覚えていないだろう、何せその後はヤヴィン戦、エンドア戦、帝国の内戦期ととてもではないがそんな少年を一々覚えていられる状況ではなかったからだ。

 

それにハックス将軍も新共和国軍の攻撃を受けて戦死したものだと思っていた。

 

「ん?」

 

件のハックス将軍が何かに気づいた表情を浮かべていた。

 

一瞬こちらを見たような気がするが気のせいだろうか。

 

すると突然ハックス将軍が動き出した。

 

こちらに近づいている気がするが気のせいだろうか。

 

いや、気のせいだろう。

 

何故かヒャールゲン中佐含めた周囲の目線がこちらに集まってる気がするが気のせいだろう。

 

そうであって欲しい、そうであってくれ、本当に。

 

それとも自分の格好がおかしいのだろうかと全身をくまなく見つめたが特に何もない。

 

気がつけばハックス将軍は何故かジークハルトの前に来ていた。

 

「何か…?」

 

ジークハルトは恐る恐るハックス将軍に尋ねた。

 

ハックス将軍は顎髭を触りながら口を開く。

 

「君は……もしかしてジークハルト・シュタンデリス候補生か…?」

 

「はい、ジークハルト・シュタンデリス上級大佐です。今は親衛隊の第三機甲旅団の旅団長を務めています」

 

驚いた、向こうもこちらの名前と存在を覚えていた。

 

周囲の視線が集まる中ハックス将軍はジークハルトの挨拶を聞きどこか満足と納得を浮かべた表情で話し始めた。

 

「そこまで昇進しているとは…!やはり私の見立てに、いや“教育”に間違いはなかったようだな!」

 

少し腹の出た巨体を踊らせハックス将軍は喜びの念を上げていた。

 

「以前アケニスでの特別コースの提案をしただろう?」

 

「はい、辞退させて頂きましたが…」

 

「だが今こうしてその若さで上級大佐をやっている。それは君の才能だけでなくジュニア・アカデミーでの経験の賜物だろう」

 

確かに帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミーでは通常のアカデミーよりもより多くの技術や経験を積んだ。

 

それが今の昇進に直接的な関係があるのだろうか。

 

ハックス将軍はジークハルトに口を開く間も与えず喋り続けた。

 

「私は幼少からの教育こそが真の忠誠心を持った最強の兵士を生み出すと考えている。どうやら君は私の理論の証明者の1人のようだな」

 

「はっはあ…」

 

「是非ファースト・オーダーに居て欲しかったよ。私の頼もしい補佐官としてな!」

 

「ハックス、そろそろ行くぞ」

 

彼の背後に控えていたピーヴィー艦長は興奮気味に持論を展開するハックス将軍を呼び止めた。

 

「おっと」と気を取り直したようにジークハルトの肩を2回ほどポンポンと叩きハックス将軍は一団の中に戻って行った。

 

会場へ向かうハックス将軍の姿をジークハルトはただ黙って見るだけしかなかった。

 

「知り合いですか?」

 

ヒャールゲン中佐はジークハルトに尋ねた。

 

「ああ……だが、何だったんだ?あれ」

 

余りの事にジークハルトはまるで状況やハックス将軍の言葉が飲み込めていなかった。

 

 

 

 

 

 

ディカーの新共和国軍総司令部には各地に点在する新共和国軍全ての上級将校が集まっていた。

 

殆どがホログラムでの出席で司令部にいるのはディゴール大臣やハン、ルーク、レイアと言ったほんの少人数だったが。

 

「作戦の準備は全て整った。決行は明日、行う予定だ」

 

ディゴール大臣の発言にその場の全員が一瞬だけ鋭い緊張感に襲われた。

 

新共和国の再起を掛けた作戦がついに実行に移されるのだ。

 

『合流する艦隊は既に予定のポイントに待機している。いつでも君の麾下部隊に入れるぞ』

 

アクバー元帥はディゴール大臣に報告し大臣も「助かります」と一言礼を述べた。

 

『ヤヴィンの艦隊も帰還が成功しました。後はひたすら敵の主力を引きつけ防衛に徹するのみです』

 

ヤヴィン星系周辺が包囲されている事で釘付けになっている帝国軍の戦力はバカにならないものだ。

 

もしあの艦隊が今にでも封鎖を解きインナー・リムやコア・ワールド、コロニーズに戻ればこの作戦は成功しないだろう。

 

明日陥落してもおかしくない最大の危機を迎えているヤヴィンの部隊が小さく大きなチャンスを生み出しているのだ。

 

『スターファイター中隊もいつでも援護に向かえる状態です』

 

スターファイター隊の上級指揮官であるヘラ・シンドゥーラ将軍はそう報告した。

 

今回は彼女のゴースト号と新設されたフェニックス中隊も戦いに加わってくれる。

 

ロザルを解放した不死鳥達が再び銀河を解放する為に立ち上がるのだ。

 

「こっちの戦力も準備が完了している。とりあえず俺とルークが指揮を取る予定だがどっちか特殊部隊の支援に向かうかもしれん。そん時は頼むぞ」

 

ホログラムの先でシンドゥーラ将軍とルークの戦友でもあるウェッジ・アンティリーズ中佐は頷いた。

 

向こうにはレッド中隊やファントム中隊といった精鋭部隊がいる。

 

「それとこれは私からの提案なのだが新共和国に1人、将軍を増やしたい」

 

将校達の目線がディゴール大臣に集まった。

 

大臣はそのまま「議員達の了承は既に受けている」と続ける。

 

その事を表すようにガー議員とレイア、セルヴェント外相が頷いた。

 

しかしレイアは何処か乗り気ではない様子だ。

 

『誰が将軍に?まさかバスチル少佐ですか?』

 

ホログラムの上でブロックウェイ中将はディゴール大臣に尋ねた。

 

しかし大臣は首を振る。

 

「少佐ではない、もっと別の人物だ」

 

『では誰にするのだね?』

 

アクバー元帥はディゴール大臣に尋ねた。

 

他の上級将校達の期待が高まる中ディゴール大臣はその人物の方をむき遂に口を開いた。

 

「スカイウォーカー中佐、今こそ君の力を借りたい。名誉将軍という形ではあるがどうかこの称号を受け取ってはくれないだろうか」

 

ハン含めたその場の全員がルークの方を向いた。

 

ルーク自身驚いている様子だったしそれとは別に少し困惑し不安な表情を浮かべていた。

 

「古来よりジェダイとは人々を救う将軍であり、君自身デス・スターを破壊し大きな功績を我らに齎してくれた。どうか再び我らを導く一つの希望であって欲しい」

 

「他の方々はどうお考えですか?」

 

セルヴェント外相はアクバー元帥らに尋ねた。

 

何人かは沈黙し唸りを上げる中ルークの隣から賛成の声が上がった。

 

「俺はいいと思うぜ。この基地に将軍がもう俺1人ってのは少し寂しかったんでな。お前ならみんな付いてくる」

 

「ハン…」

 

親友でもあり“()()”でもあるハンは賛成を示した。

 

彼に続き他の将校達も賛成する。

 

『私も、スカイウォーカー中佐なら任せても良いと思っている』

 

『この状況では致し方ないだろう』

 

ライカン将軍は頷きアクバー元帥もそれに同調した。

 

シンドゥーラ将軍も何も言わず微笑を浮かべながら黙って頷き戦友のウェッジ・アンティリーズ中佐も「おめでとう」と少し早すぎる祝辞を述べていた。

 

ある程度全員の賛同を得た上でディゴール大臣は再びルークに声を掛けた。

 

「後はスカイウォーカー中佐本人のみだ」

 

「僕は……」

 

ルークは俯き考えた。

 

名誉将軍、ディゴール大臣は恐らく再びこの銀河に“ジェダイ将軍”を蘇らせようとしているのだろう。

 

共和国を導く象徴として、ジェダイ将軍とは絶対的な希望となる。

 

だがそれでいいのか。

 

それが本当に進むべき道なのだろうか。

 

それがジェダイのあるべき姿なのだろうか。

 

過去と同じように本来行うべきではない事を行うのが正しいのか。

 

悩んだ、彼はこの時計り知れない程悩んだ。

 

ルーク・スカイウォーカーはジェダイだ、だがジェダイとは兵士ではない。

 

本来は平穏が続くなら軍隊を退役し再び新たなジェダイ・オーダーを作るつもりだった。

 

以前とは違い政府や軍隊から離れた光明面(ライトサイド)の道をフォースの子供達と行く本来のジェダイ・オーダーを。

 

だが第三帝国の存在は無視出来ない。

 

彼らもやがてフォースの子供達を利用し再び暗黒面(ダークサイド)の戦士を作り上げるだろう。

 

それこそ“父”のような。

 

彼らは倒さなければならない、だがその為には過去のジェダイと同じく少し道を逸れなければならない。

 

何が正しいのか、それが本当の行くべき道なのか。

 

だが、だがもし自分の代で道に逸れる事を終えられるのなら。

 

それ以降のフォースの子供達が戦う事のない未来を得られるのなら。

 

この道も正しいのかもしれない。

 

「分かりました、その称号を受け取りましょう」

 

ルークの決断は重たく絶対的なものだった。

 

その決断を皆は拍手で認めていた。

 

「ありがとう、“()()()()()()()()()()”。そしてこれからもどうか頼むぞ、“()()()()()()()()()()”」

 

この銀河系に再び“()()()()()()”とその名を宿した名将“()()()()()()()()()()”が蘇った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

-ディープ・コア 特別造船所-

コツコツと、数人の足音が聞こえ灯りの薄い暗がりを進んで行く。

 

ブラスター・ライフルを持った護衛は皆帝国軍の将校や下士官、地上軍トルーパーが身に着けるアーマーを着ているが帝国軍の兵士ではなかった。

 

この造船所の周辺にはEE-730輸送船やアークワイテンズ級、ヴィクトリー級やそれらの艦隊を束ねるプロキュレーター級スター・バトルクルーザーやマークⅡタイプのプリーター級スター・バトルクルーザーが停泊しており兵士達同様どれも帝国軍や親衛隊のものではない。

 

「なあヴァティオン、ほんとにここになんかあんだろうな?」

 

コートを着たヴァティオンの隣を歩く口髭の生えた恰幅のいい男性はそう親しげに言葉を返した。

 

先程から落ち着かない雰囲気で帽子を脱いだり被ったりしている。

 

「安心しろオルトルフ、心配しなくても間違いなくある。だから帽子はしっかり被っとけ、気になる」

 

「アッハッハ、すまねぇ。だが心配でな」

 

帽子を被り直しクワット・ドライブ・ヤード本社の重役であるオルトルフ・パーキスは笑って彼に軽く謝った。

 

オルトルフは惑星クワットを未開の惑星から開拓した十個の貴族家のうちの一つ、パーキス家の嫡男だった。

 

この十家は仲が悪かったりスパイ合戦をし合ったりなど色々大変な時期もあったが少なくともヴァティオンとオルトルフの時代は皆仲が良かった。

 

全員が共和国、その後の帝国に忠誠を誓いクワットは銀河系の治安と共に安定を築いたのだ。

 

オルトルフはその中でもヴァティオンの親友で本社の重役でなく惑星クワット内の市長も務めている。

 

他の十家もクワット・ドライブ・ヤード社の重役やその子会社の社長、クワットが保有する植民地の管理者や惑星クワット内の統治者の職を担っていた。

 

プレスタのような責任総督をになっている者も以前はいた。

 

「ほら、ついたぞ」

 

ヴァティオンが指を差し目の前のドアが開いた。

 

一行は恐る事なくドアに入りそこに広がる光景を2人は眺めた。

 

「これは……!」

 

「ああそうだとも…!言った通りあったんだよここに…!俗物の手に渡るには惜しい一隻が…!」

 

一瞬にしてオルトルフとヴァティオンは興奮状態に入りキラキラ目を輝かせ見入った。

 

まるで大きな子供そのものだ。

 

「軍将デルヴァードスは恐ろしいものを遺していった。それも見事に未完成で第三帝国はこの存在を知らない。全く最高だよ」

 

「いやはやこいつはすげえや、船体が全部“()”で覆われてるぜ。そのデルなんちゃら将軍は面白いやつだな」

 

オルトルフは隅から隅まで姿を見渡し帽子を押さえた。

 

興奮で今からでも踊り出したくなる気分だ。

 

「さしずめ“夜の槌(Night Hammer)”と言ったところだな。連中が持っていた軍艦類は全て第三帝国に押収されたが“()()()”は違う。見事に残っている」

 

「まあ軍将如きがコイツを完成させられるわけがねぇ。頑張っても後四年くらいは掛かるが俺達の技術力と資源なら?」

 

「一年、半年、いやこれだけ既に出来ていれば三ヶ月で完成する」

 

その瞬間2人は突然高らかにハイタッチした。

 

満面の笑みも相まって本当にデカい子供達だ。

 

「誰か監督者としていい人材はいないか?」

 

ヴァティオンは突然冷静になり隣のオルトルフに尋ねた。

 

オルトルフは少し考え彼に答えた。

 

「うちの奴にワイファンっていう甥っ子がいてな、そいつなら適任だ。要領があるし頭もいいし何よりにお上にバレた時の逃げ足が早い。こないだもトワイレックのスパから飛んで逃げてきたのを見て」

 

「ああもう十分だ、彼に任せる」

 

「で、造ったらどうするんだ?あんなの置いておく倉庫も寝床もないぞ?」

 

オルトルフはヴァティオンに尋ねた。

 

この巨体、造ったとしても隠しておく場所がない。

 

しかしヴァティオンはチッチッチと指をやり答えた。

 

「当然売ってやるさ、その相手ももう決まっている。第三帝国よりは小さいが人としてはいい連中だ」

 

「へえそうかい。じゃあ早速呼んでおくぜ」

 

「ああ、任せた。だが“()()()”か……夜の槌というよりは“()()()()”と言った感じだな」

 

ふとしたヴァティオンの独り言にオルトロフは口を挟んだ。

 

「じゃあ変えちまえばいいじゃねぇか。最初に作ってたデルなんとかさんはもういねぇんだ、お前が新しい名付け親になっちまえ」

 

「なるほど、それもいいな」

 

オルトロフの提案を採用しヴァティオンはジッとそれを見つめ口を開いた。

 

「“()()()()”……なんてのはどうだ?」

 

「なんだよそれ、あんま変わんねぇじゃん。まあでもカッコいいな」

 

「だろ?よし決まりだ」

 

ヴァティオンは再びそれに目を向けた。

 

夜を征く黒き騎士の槌。

 

その鉄槌が何を意味するのか、誰に対して振り下ろすのか。

 

まだ誰も知らない。

 

だが期待と希望は託された。

 

黒色の“騎士の槌(Knight Hammer)”に。

 

「頼んだぞ、“ナイト・ハンマー”」

 

 

 

つづく




わ し じ ゃ よ

ちなみにスパイスお嬢様にバブみを覚えた人は頭がおかしいと思うのでEitoku Inobeと一緒にミンバンへ行きましょう


そいではいつの日かまた〜


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抵抗の灯火

「死んだ者が蘇る、そんな事私は信じていなかった。しかし私の前に戦友はある日突然現れた。ファースト・オーダーという組織を背中に背負い、新しい軍服を着て。それはまるで第三銀河帝国という組織を背中に背負い、新しい軍服を着た私の姿に重なって見えた。ああ友よ、我々はすれ違っていただけなのだな。同じ帝国から生まれた我々はきっと、いずれ同じ結末を辿るのであろう」
-親衛隊将校の日記より抜粋-


-未知領域 チス・アセンダンシー 新拡張宙域-

チスの大発展は単純な領域の拡張だけでなくハイパースペース・レーンを更に引き伸ばし安定させる事に成功した。

 

鎖国主義的なアセンダンシーの教義がこれからも大きく変わる事はないだろうがレーンの増加と安定は様々な発展に繋がる。

 

通商が盛んになるしいざという時に素早く軍を動員することが可能になる。

 

それに亡命してきた多くの帝国軍や市民を養う為にどうしても必要な領域だった。

 

単純に既存の領域では居住地や食糧供給に限界があるのだ。

 

亡命者達は積極的に開拓に協力し周辺の治安維持にも大いに貢献した。

 

しかしそれでもチスに仇なす賊は未だ存在し続けていた。

 

特に最近では海賊の重武装化が進みチス・アセンダンシーでの悩みの種となっていた。

 

だが彼らは立ち上がる。

 

恩義と人々を守る為苦渋を飲んで落ち延びた亡命帝国軍が。

 

彼らの作戦に従いこの拡張された新宙域に二隻のチス・アセンダンシー軍のパトロール艦ながらレーザー砲を放ち一目散に味方領へ逃げ込んでいた。

 

後方には改造された十隻以上のゴザンティ級やロザリアン・コルベットを引き連れた一隻のレキューザント級とMC75スター・クルーザーがパトロール艦を追っている。

 

殆どが文字通りの“海賊船”といった姿だがMC75だけは海賊の紋章やカラーリングが施されているだけで正規軍の軍艦といった姿だった。

 

恐らくこの艦も第三帝国との戦いに敗れた新共和国軍の艦が敗走中に海賊に襲われ奪われてしまったのだろう。

 

もはや賊の船となってしまったMC75はチスのパトロール艦に攻撃を仕掛けていた。

 

敵艦を機能停止に追い込み略奪するし無論乗組員は皆殺しだし情けなどかける必要もない。

 

圧倒的な物量差、船体差と砲門の数で優位に立っていた海賊船団であったが突如横合いから謎の攻撃に襲われる。

 

黄緑色のレーザー弾と無数の震盪ミサイルの襲撃により船団のゴザンティ級やコルベットが二、三隻轟沈した。

 

元々大した偏向シールドもない有象無象の集団だ。

 

攻撃を行った軍艦、グラディエーター級スター・デストロイヤーとアークワイテンズ級司令クルーザーの前では特に。

 

三隻の船隊が攻撃を続けパトロール艦が遠くへ退却するまでの時間を稼ぐ。

 

幸い敵の注意は大多数がグラディエーター級らの方に向きパトロール艦の退却は速やかに終わった。

 

「よし!拡張艦隊の隊が撤退した!我々も後退するぞ!」

 

グラディエーター級の艦長、ターリア少佐はブリッジの真前で興奮気味にクルー達に指示を出した。

 

左右を守るアークワイテンズ級と共にエンジンを回し退却し始める。

 

赤色と黄緑色のレーザー弾が飛び交う中再び追撃戦が始まった。

 

戦列を立て直し海賊船団が全力を挙げて追撃に来るがターリア少佐達は至って冷静だった。

 

「まもなくチス艦隊の重巡洋艦の支援攻撃地点です!」

 

乗組員の1人が報告し少佐は力強く戦況を見守った。

 

「頼むぞ“()()()()()()()()”…お前達に掛かっている…!」

 

少佐がそう祈りを込めた時彼らの背後から何発かの魚雷とレーザー弾が放たれた。

 

全て敵艦に着弾し敵旗艦と思われるMC 75にも側から見える程の被害を与えた。

 

攻撃に怯み海賊船団の速度が失速する。

 

「成功です!攻撃は成功ですよ!」

 

副艦長がガッツポーズを浮かべターリア少佐に報告する。

 

見事に着弾した支援攻撃は敵を怯ませ作戦を予定通りに進ませた。

 

これにはターリア少佐も大喜びである。

 

「ああ!全艦反転後退!逃げに徹するぞ!後は全部本隊に任せておけ!」

 

「了解!」

 

グラディエーター級と二隻のアークワイテンズ級は直ぐに反転しチス重クルーザーと共に全速力で後退した。

 

無論海賊達もタダでは帰さない。

 

再びがむしゃらにターリア少佐達をおいかけはじめた。

 

砲門を真正面に向け全速力で追うものの五隻の敵艦隊には中々追い付けなかった。

 

そしてついに姿を見失ってしまう。

 

困惑する海賊船団に最後の一手として情け容赦のない攻撃が打ち出される。

 

再び反対側の側面から大量のターボレーザーの砲弾が放たれゴザンティ級やコルベット、ネビュロンBを撃破していった。

 

反撃の僅かなレーザーを放ちながら回頭するもその間に多くの船が破壊されてしまった。

 

攻撃者の姿を見た海賊達はその瞬間震え上がっただろう。

 

目の前に広がる大艦隊、超巨大なドレッドノート艦の姿に。

 

ベラトール級ドレッドノート“デスティネーション”。

 

サンクト宙域に配備された宙域艦隊の旗艦でありモフヴィルヘルム・フェルの乗艦でもあった。

 

そして今インペリアル級九隻、アークワイテンズ級十八隻、ヴィクトリー級十二隻、グラディエーター級十隻とチス重クルーザーや軽クルーザー、デストロイヤー艦など十八隻、総数六十七隻の艦隊の指揮を直接取っている。

 

「敵艦隊の半数を撃破しました。モン・カラマリ・クルーザー含めた残り半数は未だ戦闘を続行しようとしています」

 

士官の報告を受けチス拡張艦隊の将校であるチャルフ准将がヴィルヘルムに進言した。

 

「このまま物量に任せて押し潰しましょうか?」

 

「いや、密集隊形を解き包囲戦に移行する。本艦の最大火力を持って敵海賊船団を殲滅せよ!」

 

ヴィルヘルムの命令と共にベラトール級“デスティネーション”全ての砲門、ミサイル、魚雷発射管が生き残った瀕死に近い海賊船団へ向けられた。

 

八連ターボレーザー砲や重ターボレーザー砲、戦艦イオン砲などの大火力の砲塔が静かに狙いを定め艦隊の移動と共に第一斉射を放つ。

 

轟音と共に撃ち出された超弩級の艦砲射撃はたった一撃で生き残ったゴザンティ級やネビュロンB、コルベットを破壊し壊滅に追い込んだ。

 

辛うじて一命を取り留めた船もすぐに放たれた第二、第三のターボレーザー砲やプロトン魚雷によって船体にトドメの一撃を入れられ沈んでいく。

 

もはやこの場では何をどうした所で1秒長く生きるか1秒早く死ぬかの違いでしかなかった。

 

副旗艦格であろうレキューザント級軽デストロイヤーが撃沈する頃にはもう小型船舶の海賊船は全滅し残りは必死の抵抗を見せるMC75のみとなった。

 

周りのインペリアル級やチス拡張艦隊の艦船が全く手を出していないのにも関わらずこのザマだ。

 

悪戯に生き残った乗組員達などただ恐怖に怯える他なかっただろう。

 

大型クルーザーとはいえこのMC75では7,200メートル以上あるドレッドノート艦に単艦で勝つ術はない。

 

その為絶望的状況の中海賊達は足りない知恵を回して最後の賭けに出た。

 

「敵クルーザー、スターファイターを発艦させています」

 

士官の報告を受けてブリッジの上級将校や幕僚達羽目を合わせた。

 

宙域のモフ時代からの将校であるアレイク・ユマーレフ中将がヴィルヘルムに進言する。

 

「砲撃範囲を迂回し本艦に攻撃を仕掛けるつもりです」

 

「だろうな…全く余計な事を、セイバー中隊とシルバー中隊を回して防御に努めろ。本艦はこのまま攻撃に徹する」

 

「了解」

 

出てくると言っても数機のXウィングやAウィングだろう。

 

このベラトール級にとっては脅威ですらないがそれでも念の為だ。

 

精鋭二個中隊によるオーバーキルに等しい殲滅戦になるだろうが。

 

彼の予測通りレーザーの合間をなんとか避け切った数十機のXウィングやAウィング、旧式のZ-95ヘッドハンターやオーブ=ウィングといったスターファイターが姿を表した。

 

新共和国軍から強奪したであろうXウィングやAウィングはまだ新品で性能が良さそうだが数が少なく、Z-95やオーブ=ウィングは旧式で整備も行き届いていないオンボロ機のようだった。

 

当然性能も悪くおまけにパイロットの腕も悪い為全体的にスターファイターの動きが悪かった。

 

出撃した2/3は“デスティネーション”の餌食となり僅かに生き残った残りカスが迫るだけだ。

 

それもファイター殺しの達人達の元に。

 

ベラトール級とは別の方向からレーザー砲が飛び出し前を進む1機のXウィングを撃破した。

 

破壊された機体の破片を躱しながら進む海賊のスターファイター達は突然の事により見るからに動揺していた。

 

元々ありもしない編隊が完全に崩れ暴徒の集団の方がまだ規律正しく見える程だ。

 

再び幾度となく黄緑色のレーザー弾が撃ち込まれオーブ=ウィングやAウィングが撃破される。

 

僅かに空いたスターファイターの隙間を帝国軍のTIEシリーズのスターファイターが通り過ぎた。

 

その何機かのTIEインターセプターやTIEボマーなどには赤色のラインが引かれており残された12機のTIEディフェンダーには銀色のラインが引かれていた。

 

ふたつの精鋭、赤きストライプのセイバー中隊と銀のストライプのシルバー中隊はそれぞれ中隊毎に編隊を組み互いをカバーしながら敵機を仕留めていく。

 

もはや攻撃意志を失った海賊の機体は皆逃げ惑うばかりで精鋭のTIE部隊に尽く打ち倒されていった。

 

「敵スターファイター隊、100%掃討完了。全滅です」

 

「流石は“()()()()()”…ですか」

 

チャルフ准将の発言に小さく微笑を浮かべヴィルヘルムは命令を出す。

 

「これで懸念材料は消し飛んだ。最後の一斉射を行う。全砲門、最大火力で撃て」

 

ヴィルヘルムは腕を振り下ろし攻撃の合図を送る。

 

再びエネルギーがチャージされた無数のターボレーザー砲が瀕死のMC75に最後の一撃を放ちもはや偏向シールドもエンジンも機能しないスター・クルーザーはモロに直撃を喰らい撃沈した。

 

爆炎を上げ破片を撒き散らすMC75の無惨な姿はブリッジでも確認されていた。

 

「敵海賊船団全滅…お見事ですモフフェル」

 

次席幕僚のスーバ少佐報告を確認し指揮官のヴィルヘルムを褒め称えた。

 

スーバ少佐は元々あの死の小艦隊旗艦であるエグゼクター級スター・ドレッドノート“エグゼクター”の乗組員であった。

 

エンドア戦では偶々別の艦に乗艦しており戦禍から免れたのである。

 

それ以降サンクト宙域や亡命先でメキメキと頭角を表し旗艦“デスティネーション”のの次席幕僚となった。

 

「ああ、だが大小含めた全ての海賊を撃破するまでは安心してられん。全艦散開し周辺域の海賊を一掃せよ。エジャイ上級提督とパーク上級提督の艦隊はどうなっている?」

 

「現在、付近の海賊船隊を殲滅中との事。間も無く帰還出来るそうですが」

 

「分かった、戦闘終了の後一旦領内に帰還しアララニ提督とコーシン提督の艦隊と交代させろ。アララニ提督の方には“アヴェンジャー”と“コンクエスト”、“ストーカー”を付属で付けさせる」

 

「了解」

 

「それと単艦行動中の“リレントレス”と“ジュディケイター”と“ハービンジャー”、“サンダーフレア”も領内に戻せ。これ以上派手にやるとそろそろ見つかるかもしれん」

 

「はい閣下」

 

ある程度全ての命令を出し切ったヴィルヘルムはようやく「ふぅ」と一息つくことが叶った。

 

圧倒的優勢とはいえ戦場では常に気が抜けないものだ。

 

オールバックの髪をかき分け首の下をさする。

 

「少数の友軍で敵を引き付け懐まで迫った所を大火力で一気に殲滅する。流石の戦闘指揮ですフェル最高位元帥」

 

背後に控えていたチャルフ准将はヴィルヘルムの作戦指揮をそう褒め称えた。

 

「よしてくれ准将(Commodore)、私達はただ君達への恩を返しているだけだ。それに“最高位元帥(Supreme Admiral)”なんて畏れ多い称号だ」

 

ヴィルヘルムは戦場での副官に等しいチャルフ准将にそう断わりを入れた。

 

最高位元帥、“Supreme Admiral”とはチス・アセンダンシーの軍隊階級の中で最高位の地位にある。

 

本来余所者のヴィルヘルムが受け取る称号ではないが彼の今までの功績からリヴィリフらによってこの称号が送られた。

 

元々保持しているモフや上級提督の階級も合わせヴィルヘルムは今やチス領内の軍最高司令官としての役割が与えられている。

 

「混乱の残るアセンダンシーをここまで発展させ我らの祖国防衛にも十分貢献してくれたではありませんか。本来前線に立ってこのように海賊を退治するのは貴方の職務ではありませんよ」

 

「だが先ほども言った通り我々には恩義がある。恩には報いなければならない。我々は皆その為に誠心誠意を果たしてるだけさ」

 

「十分果たしたと思いますが…」

 

「閣下、航行中の“ダーク・オーメン”が暗号電文を傍受したとの事です」

 

デスティネーション”に乗艦しているタッセ将軍はヴィルヘルムに報告を行い暗号文が写されたタブレットを渡した。

 

ヴィルヘルムは直接受け取りチャルフ准将と共に内容を読んだ。

 

「なるほど…いよいよか……海賊掃討の後、外縁宙域を封鎖し防備を万全にしろ。非常時に備える」

 

「了解!」

 

タブレットをチャルフ准将に手渡しヴィルヘルムはブリッジのビューポートを見つめた。

 

「再び……“()()()()()”となればいいのだがな……残りの作戦指揮は全てエジャイとコーシン達に任せて我々は直ちにシーラへ帰還する、一応エリンメルヒにも伝えておけ。大事になるぞ…これは」

 

デスティネーション”が一隻だけ反転しハイパースペースに突入した。

 

暗い未知領域にただ一つの行き先があるように。

 

 

 

 

 

 

-ディカー 特別作戦室-

「いよいよ作戦が始まる。帝国に対する反撃の狼煙を上げる作戦だ」

 

ジョーレンの言葉はいつにもなく重たく静かなものだった。

 

ジェルマンやノールマン大尉、分隊長達や先行してステーションを占拠する特殊部隊員達が皆耳を傾けジョーレンの話を聞いていた。

 

全員がある程度の武装を整え手にはブラスター・ライフルやブラスター・ピストルなどを持っている。

 

そんな中ジョーレンは話を続けた。

 

「我々にとってはいつも通りの、破壊工作と施設奪取の作戦だ。緊張する事も力を入れ過ぎる必要もない。バケツ頭を打ち倒し勝利を挙げる、それだけだ」

 

ベテランの兵士からジェルマンやノールマン大尉のような将校まで全員がニヒルな笑みを浮かべている。

 

中にはわざとらしくブラスター・ライフルを持ち上げる者もいた。

 

そんな隊員達にあえて微笑み返し部下達と同じようなニヒルな表情で再び話を続ける。

 

「我々にとっては小さな一歩でも新共和国にとっては大きな一歩である。だから、しっかり踏み付けてやろうぜ。俺達の証を、『新共和国は滅んでいない』ってことをよ!」

 

『おおお!!!!』

 

隊員達はブラスターや拳を天高く掲げ威勢の良い雄叫びを上げた。

 

皆戦意に蜜溢れ負ける気がまるでしない。

 

絶対に勝つ、そう言った確信がその場の全員にあった。

 

不安や緊張を消し飛ばす程に。

 

ジョーレンも満足げに笑みを浮かべて隊員達に命令を伝達した。

 

「それではみんな、各自持ち場についてくれ。出撃準備だ」

 

『ハッ!!』

 

敬礼した隊員達が疎に室内から出て行きノールマン大尉もジョーレンに「それでは少佐、お先に」と敬礼し退出した。

 

「僕達も行こう」

 

「そうだな、武器は手の空いた兵に運ばせとくか」

 

「いやもう積み込んである。昨日少しね」

 

意外な仕事の早さに驚きジョーレンは顎の辺りを撫でていた。

 

出会った時からかなり変わったな。

 

ジェルマンの横顔を見つめたジョーレンはふとそう思った。

 

「まああれだけの修羅場を潜り抜ければそうなるわな…」

 

「ん?」

 

「いやなんでもない、それよりあれ見ろよ」

 

ふとした独り言を隠す為にジョーレンは通路の先を指差した。

 

運命なのかそれとも本当に偶然なのか。

 

「挨拶くらいしてこいよ。生きて帰る為にもな」

 

「あっああ…!もちろん…!」

 

「そいじゃあな!」

 

ジョーレンはわざとジェルマンを突き飛ばし彼を向こうの方にやった。

 

奴には是非とも宜しくやって人らしい生活を送って欲しいものだ。

 

“我々”のようにはなってはいけないだろうから。

 

突き飛ばされたジェルマンはなんとか寸前の所で止まり頭を上げた。

 

「あらジェルマン、どうされました?」

 

外交官のヘルヴィは生き残った他の職員らと共に何かを話していた。

 

そこに2人がたまたま居合わせてしまったのだ。

 

「いえ…たまたま居合わせまして、間も無く出撃なので最後のミーティングを行なっていた所ですよ」

 

「そうなんですね……お気をつけて……」

 

不安感や心配に満ちた表情を浮かべつつも心配させないようにと無理して笑みを作りジェルマンを送り出そうとした。

 

もしかしたら帰ってこないかもしれない、そんな思いがすぐに伝わる。

 

ジェルマンは照れや恥ずかしい気持ちを抑え込み笑顔で彼女に答えた。

 

「大丈夫!僕達は絶対に帰ってきますよ。これからも、この先も」

 

そういうと2人は様々な情を合わせてその場で抱擁を交わした。

 

ヘルヴィが耳元で小さく呟く。

 

「必ず……生きて帰ってきて下さいね…約束ですからね……」

 

それに対してジェルマンも優しく言葉を返した。

 

「はい、絶対に帰ってきますよ」

 

銀河の外縁、コルサントやホズニアン・プライムから遠く離れた地で反旗の燈が広がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

-インペリアル級スター・デストロイヤー ソリシチュード艦内-

2機のTIEブルートの護衛から離れたラムダ級T-4aシャトルがインペリアル級“ソリシチュード”のハンガーベイに着艦した。

 

このスター・デストロイヤーはファースト・オーダー宇宙軍所属の一隻であり他のインペリアル級同様三万七千名以上の優秀な乗組員が乗艦している。

 

ハンガーベイに搭載されているTIEファイターも第三帝国やその他の勢力が使っているものよりも黒色が強く逆にパネルの部分が灰色になっていた。

 

ラムダ級シャトルが着陸したすぐそばには出迎えの将校下士官兵、ストームトルーパーが並んでいる。

 

列の真ん中には3人、4人の将校が静かにシャトルを待っていた。

 

このラムダ級は意外なことにファースト・オーダー軍のものではない。

 

羽の部分に親衛隊所属を表す十字のベンドゥの紋章が記されている。

 

ハッチが開き護衛のポールドロン付きストームトルーパーがまず2人シャトルにピッタリ張り付いた。

 

奥からは親衛隊の制服を着た顔馴染みの4人の将校がシャトルから降りてきた。

 

ファースト・オーダーの将校達に近づくと先頭を行くジークハルトが敬礼した。

 

彼らは今回ファースト・オーダー軍に視察にやってきたのだ。

 

正式に同盟が締結された第三帝国とファースト・オーダーは両者親睦の証として互いに視察を送る事となった。

 

ジークハルト達もその一団に選出されインペリアル級“ソリシチュード”に送られた。

 

「親衛隊所属、第三機甲旅団旅団長のジークハルト・シュタンデリス上級大佐です」

 

彼に続き他の将校達も挨拶した。

 

「副旅団長のフリーツ・アデルハイン中佐です」

 

「旅団所属の第二十一飛行大隊大隊長、ランドルフ・ハイネクロイツ中佐です」

 

「旅団長副官のニコラツ・ヴァリンヘルト上級中尉です」

 

ファースト・オーダー達の将校達も同じように敬礼を返した。

 

「ようこそ“ソリシチュード”へ。艦長の“モーデン・キャナディ”大佐です」

 

真ん中の生真面目そうな若い軍人が一番最初に挨拶した。

 

年齢はジークハルトと大体同じくらいだろうか。

 

帝国宇宙軍では通常少尉の階級から十年から十五年の歳月が掛かる。

 

しかし目の前のキャナディ艦長はどう見ても十年、十五年よりも遥かに短い期間で昇進していそうだ。

 

キャナディ艦長は更に紹介する。

 

「こちらはファースト・オーダー特殊部隊のコマンダーハスクです」

 

「ギデオン・ハスクだ。よろしく頼む」

 

コマンダーハスクは一歩前に出てジークハルトと力強い握手を交わした。

 

彼は特殊部隊のコマンダー故か常に黒いパイロットが身に付けるものによく似たアーマーを身につけていた。

 

「彼は元々ギャリック・ヴェルシオ提督麾下の部隊長でしたがジャクー戦で乗艦していた“エヴィセレイター”が撃沈し彼自身もドッグファイトで深い傷を負いました」

 

その説明通りコマンダーハスクの顔には幾つかの目立つ傷が残っていた。

 

「だが運良く生き延びた。どれもこれも帝国を蘇らせ新共和国に復讐する為だ」

 

そんな暗い過去をものともせずコマンダーハスクはそう言い切った。

 

後ろではアデルハイン中佐が大きく賛同を示している。

 

ジークハルトも割と同じ気持ちだった。

 

「そちらの方は?」

 

コマンダーハスクの説明を行ったファースト・オーダーの将校と見られる長い黒髪の青年に手を差し尋ねた。

 

ファースト・オーダー軍専用の軍服を身につけ左胸には中佐を示す階級章が付けられている。

 

心なしか最近どこかで出会ったような気がするのだが気のせいだろうか。

 

「失礼しました。私は“ナッシュ・ウィンドライダー”と申します。中佐としてスターファイター部隊の隊長を務めています」

 

「成る程、うちのハイネクロイツみたいなもんか」

 

アデルハイン中佐がそうぼやいているうちにジークハルトはウィンドライダー中佐と握手を交わし同じスターファイター隊の隊長であるハイネクロイツ中佐にも握手を求めた。

 

ハイネクロイツ中佐は快くこの青年の手を握った。

 

「その歳で中佐か。相当苦労しただろう?」

 

自分より数歳年下に見えるウィンドライダー中佐にハイネクロイツ中佐はそう問いかけた。

 

それはほんの会話を広げる為の些細な会話であった。

 

しかしウィンドライダー中佐は一瞬だけどこか暗い表情を浮かべすぐに笑みを浮かべ答えた。

 

「ええ、色々ありましたよ…」

 

握られる手の力が抜け手は離れた。

 

どこか作り笑いめいていた気がするが気のせいだろうか。

 

「そして彼が私と共に視察の案内を務めるジャックス・ジャージャロッド少尉です」

 

紹介を受けキャナディ艦長の後ろに控えていた一人の少年が敬礼と共に姿を表した。

 

ジークハルトも一瞬驚く程の若さだ。

 

まだ二十歳も言っていないんじゃないか。

 

そしてその苗字。

 

少年は無口で真顔のまま敬礼を下した。

 

「クローン戦争で名を馳せた共和国宇宙軍のジャージャロッド提督は彼の曾祖父です。第二デス・スター監督者のモフティアン・ジャージャロッド司令官は…」

 

「私の父親であります。父が戦死しティネルⅣのアカデミーでガリアス・ラックス元帥に拾われました」

 

「なるほど……」

 

幼さをまだ感じるが彼も壮絶な人生を送ってきたのだろう。

 

しかしジャクー戦に参加していたコマンダーハスクがファースト・オーダーに参加していたりジャックス少尉がラックス元帥に拾われていたりこの組織の原型や基礎を作ったのはもしかしてラックス元帥なのだろうか。

 

彼はジャクーやその周辺を支配する帝国軍の残存勢力を率いておりコア・ワールドや銀河中央でも多大な影響力を保持していた。

 

勢力の規模は単体だけなら恐らくベアルーリン、ノートハーゼンを軽く上回るだろう。

 

両者合わせた同盟でも足りるか怪しいし恐らくカイゼルシュラハト作戦を実行した時に集結した帝国軍の戦力でようやく上回るほどだ。

 

それだけの勢力を保持した艦隊提督(Feet Admiral)殿も帝国敗北の決定打となったジャクーの戦いで恐らく旗艦の“ラヴェジャー”と共に戦死したはずだ。

 

いや、それは現在のファースト・オーダーの最高指導者がレイ・スローネ大提督の時点で明白だろう。

 

ラックスはジャクーで何らかの要因で死んだのだ。

 

過程はともかく結果はそう物語っている。

 

惜しまれる事に彼がファースト・オーダーの礎を作る事はあってもファースト・オーダーを直接指揮する事はなかったのだ。

 

ファースト・オーダーの礎を遺し我らには帝国を残す最後のチャンスをくれた人物。

 

恐らく彼がジャクーにいなければ新共和国軍の主力がコア・ワールド内に残り続け国家としての銀河帝国を存続させる事など不可能だったであろう。

 

ラックス元帥がどういう心境だったかは分からないが彼がファースト・オーダーと第三銀河帝国を残すチャンスを作った人物というのは間違いがなかった。

 

「上級大佐、そろそろ視察を」

 

背後からヴァリンヘルト上級中尉がジークハルトに進言しジークハルトも頷いた。

 

「それではキャナディ艦長、お願いします」

 

「はい」

 

その一言と共に一行の視察は始まった。

 

まずは“ソリシチュード”艦内の様子。

 

ブリッジやターボレーザー・ハブ、リアクター管理室やエンジンルーム、艦内の様々なコントロール室など。

 

キャナディ艦長や持ち場の責任者から説明を受けジークハルト達は“ソリシチュード”の艦内を回っていた。

 

お次は“ソリシチュード”に駐留するストームトルーパー部隊やTIEファイターなどスターファイター隊の視察だった。

 

親衛隊とはいえ地上軍人とパイロット将校がメンバーだ、むしろこっちの方が気になると言っても過言ではない。

 

艦と地上部隊の連携や日々の訓練内容、現在の様子を視察しジークハルト自身も何か得る事があったようだ。

 

スターファイター隊の方はハイネクロイツ中佐がほぼ仕切っており一介のパイロットから中隊長、大隊長に至るまで広く話を聞いていた。

 

何より当人はファースト・オーダー軍専用のTIEファイターに乗ってみたい衝動に駆られ時々全員に止められていたが。

 

ある程度の視察を終えジークハルトはあるひとつの結論に辿り着いた。

 

この軍隊の精強さ、有能さを。

 

ソリシチュード”ひとつ見ただけでもその事はすぐに分かった。

 

この艦の乗組員は皆優秀で職務に熱心で何よりキャナディ艦長やファースト・オーダーに絶対の忠誠がある。

 

そう簡単に切り崩せるものではないし何より彼らの熱心で献身的な働きがただでさえ強力なインペリアル級を二倍も三倍も強化している気がした。

 

流石は銀河内戦の混乱期を生き延び未知領域でひたすら耐え忍んできたエリート達だ。

 

その練度は親衛隊の第一艦隊とも引けを取らないだろう。

 

もし敵に回っていたらどうなっていた事らや、今更ながら恐ろしく感じる。

 

絶対的な大激戦になっていただろうしもしかしたら我々の方が押し負けていたかもしれない。

 

そう思える要素が練度の他に幾つか存在していた。

 

例えば使用している武装類がそうだろう。

 

彼らが使うE-11やDTL-19などのブラスター兵器は一部ではあるが少し改良が施されていて既存のものより遥かに性能がいい。

 

それにAT-ATやAT-ST類のアサルト・ウォーカーもTIEファイターやTIEボマーのようなスターファイターさえも改造が施されより使いやすく強力な兵器となっている。

 

特にスターファイターの方はハイネクロイツ中佐が途中でこう言っていた。

 

「あの機体、乗らなくても分かる。既存のTIEファイターなんて目じゃねぇ、色が違うだけで姿形は一緒でも中身は恐らくまるで別もんに近くなってる。とんでもない性能だろう」と。

 

所詮想像でしかないがそれでも十分な勢力だと認めざる負えないだろう。

 

ハイネクロイツ中佐だけでなくアデルハイン中佐もヴァリンヘルト上級中尉も同じ考えだった。

 

「如何ですかこの“ソリシチュード”は」

 

キャナディ艦長がジークハルトに尋ねた。

 

彼は迷う事なく答える。

 

「素晴らしい艦ですよ。性能も乗組員もどれも最高峰で是非第三帝国にいて欲しい程でした」

 

「ハハハ、そう言っていただけるど部下達も喜びますよ」

 

キャナディ艦長は微笑を浮かべジークハルトの評価を裏表なく喜んだ。

 

本来の年齢に近い青年らしい喜び方だ。

 

若くしてスター・デストロイヤーの艦長を務めているせいか随分と大人びて見えるが彼もまだ二十代の若者だ。

 

褒められると嬉しいのだろう。

 

「私も、部下に恵まれていると常々思いますが艦長はどうですか?」

 

ヴァリンヘルト上級中尉達に目をやりながらジークハルトはキャナディ艦長に尋ねた。

 

すると艦長は微笑みながらすぐに答えた。

 

「私も常々思いますよ。“ソリシチュード”の乗組員達は皆優秀で私は恵まれていると」

 

ジークハルトは小さく頷いた。

 

やはりどの組織もこの部下と上官の絆こそ最も恐ろしいものだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあな」

 

「あなたも頑張って」

 

「ああ、後から行く」

 

ジェルマンとジョーレンとヴィレジコフ中尉は互いに帝国軍から奪取したセンチネル級着陸船の前で握手していた。

 

既にジェルマンとジョーレンはアーマーを着込み戦闘状態を万全に整えた姿だ。

 

一方ヴィレジコフ中尉はまだ制服を着ており先行して出撃するジェルマン達を見送っていた。

 

中尉もいずれは戦闘に参加することになる。

 

「撃墜されないでくださいよ…!」

 

「そっちこそ流れ弾で死ぬんじゃねぇぞ」

 

ジェルマンとヴィレジコフ中尉は互いに冗談じみた不安を投げ合い苦笑を浮かべたまま再び握手を交わした。

 

「そろそろだ、行くぞジェルマン」

 

「ああ」

 

2人は軽く敬礼を浮かべてセンチネル級の方へ向かった。

 

その後をずっとヴィレジコフ中尉は敬礼し見送っていた。

 

「準備は整ってるか?」

 

センチネル級の中に入っていったジョーレンは中の隊員達に尋ねた。

 

「問題ありません、サー」と隊員の1人が敬礼と共に報告しジョーレンも小さく頷いた。

 

他の隊員達はバックを下ろしたりブラスターの簡易点検を行なったり積荷をもう一度チェックしたりとそれぞれやる事があった。

 

ジェルマンとジョーレンはバックだけ置いていくとそのままセンチネル級のコックピットの方へ向かった。

 

「いつでも飛べるか?」

 

「いつでも飛べますよ、そりゃもちろん」

 

ジョーレンの問いに操縦士を務めるブロンス曹長が答えた。

 

隣にはヘンディー曹長が副操縦席に座っておりその横にはバッケイン准尉とノールマン大尉がコックピット機器を操作していた。

 

ジェルマンとジョーレンはその反対側にブラスター・ライフルを置き座り込んだ。

 

「副隊長、ちゃんと全員乗ってるんだろうな?忘れ物はないんだろうな?」

 

ジョーレンは座ったままノールマン大尉に尋ねた。

 

大尉は頷きながら「はい、もう5回、10回は確認しました。問題ありません」と返答する。

 

「そんなアカデミーとか学校の遠足じゃないんですから心配しすぎですよ」

 

「ああ、その逆だから余計心配してる。兵員が1人でも欠ければ成功率は大幅に下がるし武器弾薬の忘れは兵員の生存率に関わる」

 

このセンチネル級着陸船にはステーションに乗り込む第一分隊、第三分隊、第五分隊の隊員達が全員使用する銃火器や弾薬、医療キット共に乗り込んでいる。

 

残りの第二分隊と第四分隊はセンチネル級の隣に停泊するステルスシステムを搭載した2機のUウィング・スターファイターに乗り込んでおり全機ともいつでも出撃可能だった。

 

その合図のようにセンチネル級のハッチが開き固定された。

 

やがて管制室から指示が届く。

 

『攻撃チーム、全機出撃せよ。健闘を祈る』

 

それに対しブロンス曹長が答えた。

 

「こちら“ファースト・センチネル”、了解した。後続の部隊によろしく言っといてくれ」

 

通信を切り安全装置を解除する。

 

轟音を伴う風と共にセンチネル級は浮き上がり機体の“()()”が仕舞われた。

 

センチネル級は両隣のUウィングと共にどんどん浮き上がりある程度の高度に達した所で両翼が展開し3機とも大気圏の先へと進んだ。

 

静かに何人かの将兵達に見送られながら。

 

3機の輸送船はある程度の速度のまま雲が少し掛かる青空を切り進み大気圏を突破した。

 

軌道上には既に以前より見るからに大規模となったディカー駐留艦隊が待っていた。

 

MCスター・クルーザーやCR90コルベット、GR75輸送船などの艦列の間をセンチネル級とUウィングは進む。

 

「旗艦の“クレマンソー”に通信を取ってくれ。ディゴール大臣に連絡を取りたい」

 

「了解」

 

ホロプロジェクターが起動しジョーレンはプロジェクターの側へ近づく。

 

クレマンソー”側もセンチネル級らに気づいていた為かすぐに通信が繋がった。

 

薄透明の青白いプロジェクターにディゴール大臣の姿が映し出される。

 

『バスチル少佐』

 

大臣は敬礼しジョーレンとジェルマン、ノールマン大尉とバッケイン准尉も敬礼した。

 

「大臣、間も無くハイパースペースに入ります」

 

『うむ、今回の作戦は君達の肩に掛かっている。頼んだぞ』

 

「はい、それではお先に戦場で」

 

『ああ、後で行くさ』

 

再び最後の敬礼を交わし通信は途切れた。

 

腕を下ろしジョーレンは席に戻る。

 

「ジャンプ計算、全機とも終わりました。いつでもハイパースペースに入れます」

 

ヘンディー曹長の報告を受けジョーレンは最後の命令を下した。

 

「ハイパースペースへ、戦地へ向かうぞ。新共和国の旗を掲げにな」

 

ジェルマンやその場の全員が頷きレバーが倒された。

 

センチネル級がハイパースペースに突入しUウィング2機もその後に続いた。

 

新共和国再起を掲げた魁達が今敵陣へと向かったのである。

 

 

 

 

 

 

-エクスパンション・リージョン 惑星アタホックス周辺域-

三隻のアークワイテンズ級と護衛のTIEブルートを付けたゴザンティ級が九隻艦列を並べアタホックスの周辺を航行していた。

 

彼らの任務はある兵器の“()()”でありTIEブルートは全て兵器を輸送するゴザンティ級やアークワイテンズ級の護衛だった。

 

兵器の重要性上本来ならインペリアル級やヴィクトリー級のようなスター・デストロイヤーを護衛兼輸送に使うべきなのだろうが生憎兵員などの都合上そうは行かなかった。

 

それにアークワイテンズ級の機動部隊の方がコンパクトで逃げ足も早く十分な対空力もある。

 

「リージ中佐、確認した所やはり通信妨害装置のようなものはこの周辺には見当たりません」

 

ミグス少尉はパイプにもたれ掛かるアークワイテンズ級艦長のリージ中佐に報告した。

 

先程からこの輸送船団に通信障害が生じるようになりその調査を命じていたのだ。

 

「恐らくただの不調だと思いますが」

 

「そうか……少し神経質になっていただけかもな。このまま航行を続ける」

 

「了解」

 

黒い親衛隊の軍服の襟を直し中佐は立ち上がった。

 

この部隊は一応親衛隊の所属でリージ中佐もミグス少尉も他の乗組員も皆親衛隊員だった。

 

以前まではアウシュなどの収容所に“()()”を送る護送任務を請け負っていたが今回はたまたま別の任務を請け負っていた。

 

彼らの目的地はハット・スペースの親衛隊支部にある。

 

「今回の任務、失敗は出来んからな…そうしたら私は終わりだ」

 

リージ中佐はアークワイテンズ級の艦長と同時にこの部隊の責任者でもあり当然輸送任務の責任も全て中佐にあった。

 

「この周辺に新共和国や敵対勢力の報告は受けていませんが…」

 

「警告!ハイパースペースより正体不明勢力が接近中です!」

 

「何!?」

 

ミグス少尉の私見を遮りセンサー士官が焦り気味に報告する。

 

リージ中佐も顔を一気に硬らせ軍帽を握り締めた。

 

「まさか敵…!?」

 

「とにかく第一種戦闘配備だ!スターファイター隊を出して全艦対空防御に当たらせる!」

 

「間も無くジャンプアウトします!」

 

機動部隊の側面から4機の見慣れないTIEシリーズのスターファイターが出現した。

 

それから更に数秒後一隻のアークワイテンズ級が出現し主砲を左翼防衛を担当するアークワイテンズ級に向け二、三発のレーザー砲弾を放った。

 

偏向シールドの弱い友軍のアークワイテンズ級はシールドが破られ被弾し爆炎がリージ中佐達からも見えるほど吹き荒れた。

 

スラスターを蒸し敵艦は体制を整える。

 

「ファイターを急がせろ!あの敵艦を撃ち落とすんだ!」

 

リージ中佐は命令を出し全てのゴザンティ級から4機のTIEブルートが出撃する。

 

同じように同型の敵艦に主砲を向け一斉にレーザー砲を放つが通常のアークワイテンズ級よりも高速で移動する敵艦に躱され一発も当たらなかった。

 

その間に見慣れないTIEファイターはまるでXウィングのように翼を広げレーザー砲を放った。

 

4機のスターファイターは応戦に向かおうTIEブルートを2機撃破した。

 

「SフォイルのTIEファイターだと!?なんだあの機体は!」

 

リージ中佐は憤慨するがそんな事をまるで知らない敵機はTIEブルートやゴザンティ級のレーザー砲を軽々と躱し再びまた3機の友軍機を破壊する。

 

一瞬で圧倒的に数で劣る敵機に戦力の13%近くが撃破されてしまった。

 

「アークワイテンズ級の艦載機部隊も出せ!とにかく数で押し出すんだ!」

 

「中佐!」

 

「ここで撃滅して振り切るんだ!それしか道はない!」

 

アークワイテンズ級から艦載された全てのTIEインターセプターが出撃し戦闘に加わる。

 

だがそれは敵も同じだった。

 

敵艦からも明らかに8機以上のTIEファイターが出撃していた。

 

「あの敵艦、一体どういうことなのだ。こちらのアークワイテンズ級よりも高速で艦載能力が高いぞ」

 

「改造艦なのでしょうか」

 

「どうなのだ、技術士官」

 

リージ中佐はブリッジに駐在している技術士官に尋ねた。

 

モニターを凝視していた技術士官は首だけ振り返り2人に返答した。

 

「あれは艦船改造計画の546級計画で船体改造を施されたクラス546タイプのアークワイテンズ級です。機動力はこの艦の二、三倍に匹敵するかと」

 

「564級計画だと……?まさかあの艦は…!ぐッ…!」

 

リージ中佐はブリッジの近くで爆発四散した友軍機の爆光から目を守った。

 

既に9機近くの友軍機が撃墜され15:4という圧倒的優位な状況なのにも関わらず味方のスターファイター隊はボロボロの状態だった。

 

「味方艦の何隻かがイオン攻撃を受けブリッジなど一部機能が麻痺しています」

 

「また1機撃墜されました。スターファイター隊の損耗率は既に22%近くに達しています!」

 

「まさか相手はあの“()()()()()()()()()”とはな…!全火力を敵の546クルーザーに向けろ!連中の目的は恐らくこの“()()”だ、絶対に生かして返すな!」

 

敵機を追う襲撃者の特殊なスターファイターは一気に3機の編隊を撃破し発艦したTIEファイターもその陰に隠れて1機のTIEインターセプターを撃破する。

 

なんとか背後を取ろうと攻撃を加えるTIEブルート2機もすぐに敵機に引き離され上空からレーザー砲を叩き込まれ死に追い込まれた。

 

常道を逸脱した動きを見せるスターファイターに翻弄されまた2機撃墜されその間に真正面から迫る別のスターファイターに幾つかの変態が突破される。

 

この一瞬のうちにまた10機のTIEブルートとTIEインターセプターが撃破された。

 

「損耗率44%を突破しました!もう半数近くが撃破されています!」

 

「このままでは…!」

 

「敵機は恐らくストーム・コマンドー用のTIEハンターです!並みのTIEファイターでは太刀打ちできません!」

 

「ならばどうすれば…!」

 

「敵機本艦に接近してきています!」

 

「何!?うわっ!」

 

アークワイテンズ級に急接近したTIEハンターと思われる機体は両翼から青白いレーザー弾を放ちリージ中佐達が籠るブリッジに直撃させた。

 

高出力のイオン砲だ。

 

ブリッジの回路やシステムがダウンし青白いスパークや光が現れ殺傷用の実弾よりも深刻な被害に見舞われた。

 

「復旧急がせろ!早くしないと…」

 

ガコンという何かが外れる音がアークワイテンズ級の船体の隅々からブリッジの先まで聞こえた。

 

リージ中佐やミグス少尉の額から冷や汗が垂れ流れ瞳孔がしっかりと開いている。

 

「まさか…“()()”が……」

 

「そんな馬鹿な…あれは独立システムを使っているからブリッジのシステムが落ちた所で突然起動する事は……“()()()()()()()()()()()()”」

 

中佐の結論はブリッジの乗組員全員を恐怖で押し固めた。

 

焦ったリージ中佐は急いで部下に命令を出す。

 

「はっ早くブリッジのシステムを復旧しろ!!急いで衛兵を警備に当たらせて非常事態に備えるんだ!!」

 

「りょっ了解!!」

 

ブリッジの乗組員達が大急ぎで復旧作業に当たりリージ中佐達は非常用の通信機を装着し他の艦と連絡を取り始めた。

 

「各艦状況を報告しろ!どうなっている!?」

 

リージ中佐の問いに一番最初に応答したのは彼のアークワイテンズ級の背後に控えるゴザンティ級の艦長からだった。

 

それも最悪の報告と共に。

 

『中佐助けて下さい!!現在暴走した“ダーク・トルーパー”に襲撃されもう長く持ちません!!このままでは全滅してしまいます!!』

 

「やはり…今すぐ艦を捨てろ!逃げるんだ!」

 

『もうダメです!!うわっ!あぁーッ!!』

 

絶叫の断末魔と共にブツリと通信は途切れリージ中佐の顔は絶望に満ち溢れた。

 

それは別の艦と通信を取っていたミグス少尉も同様だ。

 

「中佐……右翼護衛のゴザンティ級も……」

 

その積荷、ダーク・トルーパーのハッキングは輸送船団全てで同時に行われていた。

 

襲撃者に操られたダーク・トルーパー達は次々と船団を構成するゴザンティ級やアークワイテンズ級の乗組員を襲い船を乗っ取っていた。

 

既に三隻のゴザンティ級は完全に占拠され他のゴザンティ級ももう長く持たないだろう。

 

下手すれば護衛のアークワイテンズ級すらも……。

 

そんな彼らに更に最悪の不幸が訪れる。

 

「中佐!両艦のゴザンティ級が本艦にドッキングしようと接近してきています!」

 

「なんだと!?封鎖しろ!!絶対に近づけさせるな!!輸送艦の破壊も許可する!!」

 

「ですがまだ艦内通信が回復していません!」

 

「ええいなら私が直接命令を出す!!」

 

「中佐自らが!?」

 

混乱したリージ中佐は今にでも走り出しそうな勢いでズンズンとブリッジを出ようとした。

 

彼がドアの前に一歩足を出す前にドアは突然開いた。

 

リージ中佐はドアの前に立つ“()()”を見上げる。

 

全身を黒色の装甲で固め真紅のゴーグルアイを備えた無機質な機械の身体。

 

リージ中佐が、ブリッジの乗組員達が最期に見た光景は“()()”にブラスターを向けられ一斉掃射される瞬間だった。

 

人の気配を失った輸送船団はまるで亡霊のように先頭を進む546級のアークワイテンズ級司令クルーザーに続いている。

 

護衛TIE部隊も殆どがTIE/HUハンター・マルチ=ロール・スターファイター、通称TIEハンターにより殲滅された。

 

宙を行くTIEファイターは全て襲撃者達のTIEファイターで船団の乗組員同様護衛部隊に生存者など誰1人存在する事はなかった。

 

血塗られた船団の行先は一体どこなのだろうか。

 

()()()()()”、それとも……。

 

行き先不明の艦隊はハイパースペースへと忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

 

-大セスウェナ セスウェナ宙域 惑星セスウェナ 新造船所-

「えっ!?ほんとに艦船の建造再開するんですか!?」

 

モッティ提督はヘルムートの命令に大いに驚いた。

 

声を上げ他の将校達に静かにしろと睨まれている。

 

ヘルムートは大きく頷き宇宙軍将校達に話を始めた。

 

「既に第三帝国からの許可は取っている。表向きの理由としては“()()()()()()()()()()()()()()()”だ。まあ詭弁に過ぎないのだがな」

 

「解体したスターホークやMCクルーザーを流用して艦船を建造します。このセスウェナの造船所なら可能でしょう」

 

ザーラ司令官はヘルムートに続いてそう伝えた。

 

他の宇宙軍将校達は納得しつつも唸り声を上げていた。

 

「確かに“()()()()()()()”という意味では私も賛成ですが…」

 

モッティ提督は賛成を示したが「でもなぁ」とまだ迷い気味だった。

 

「私はセスウェナを守る為、ヘルムート殿がそう決断されたのならそれに従います」

 

「ありがとうクリフ、トレークスはどう思う?」

 

クリフォード・プラージ宇宙軍准将はヘルムートに大きく賛同を示した。

 

彼はあの超名門プラージ家の人物で共和国軍で活躍したコリン・プラージ大佐は501軍団のナードニス・プラージ中佐に憧れて帝国軍に入隊した。

 

エンドア戦前に中佐に昇進したクリフォードはグラディエーター級の機動部隊を率いていたのだが戦後所属の宙域が軍将化し帰る場所を失ってしまった。

 

その為彼は親類である当時リチオ・モッティ准将の伝を辿って当時の大セスウェナに亡命した。

 

プラージ家とモッティ家は遠い昔に婚姻関係を成しており同じく婚姻を成すターキン家のヘルムートからも暖かく歓迎された。

 

彼は亡命時の功績を讃えられ大佐に昇進し先のホズニアン陥落の混乱期には先遣隊として手早く周辺の新共和国軍を撃破した事により准将に昇進した。

 

そしてトレークスというのは同じく宇宙軍のトレークス・デルヴァードス少将の事だ。

 

彼はこないだ志半ばで粛清されたサンダー・デルヴァードス将軍のいとこでありエンドア戦後初期は彼の下で機動部隊を率いていた。

 

しかし立場に驕れ帝国から半ば離反し剰えセスウェナの権利を乗っ取ろうとするいとこに見切りを付けたトレークスは麾下部隊と有志の兵を集めプラージ准将と同じく大セスウェナに亡命した。

 

婚姻で親族となったサンダーよりもセスウェナを守る愛の強いトレークスはとても頼りになる存在だった。

 

「第三帝国が認めたのならもはや心配するものは何もありません。我々で好きにやってしまいましょう」

 

「そうだな、爺様はどうお考えですか?」

 

ヘルムートは軍服を着ていない白い髭と荒くれた格好の年配の男性に声を掛けた。

 

彼こそがターキン家の中である意味最強であり最も変わり者である“ジョヴァ・ターキン”である。

 

ターキン家にはある年齢に達すると一族に伝わる様々な困難を乗り越える為の試練にエリアドゥのキャリオン・プラトーと呼ばれる危険な荒野へ連れて行かれた。

 

当然ヘルムートもその試練をこなして今の姿があるしそれは故グランドモフウィルハフ・ターキンも同様であった。

 

今の所生きているターキン家のメンバーは全員この試練を乗り越えている。

 

ジョヴァはその中でもかなりの異端児でキャリオン・プラトーでの試練を乗り越えた後彼はそのままキャリオンに残り住み続けた。

 

やがて産まれ出るターキンの子たちのキャリオンでの試練の導き手となるように。

 

そうして彼は長い間その役割を担い続けていた。

 

ヘルムートだけでなくウィルハフにも、ウィルハフやヘルムートの父達にもだ。

 

そのお陰なのか分からないが彼はあり得ないほど長生きをしており今でもウィルハフに試練を与えていた頃とまるで変わらない姿だった。

 

洞察力や戦闘力は衰えるなくむしろ年数を重ねる毎により強くなっている気がする。

 

そんなジョヴァもエンドア後の混乱期に当時まだ幼いヘルムートを助ける為にキャリオンから戻ってきた。

 

ジョヴァはまた別のターキン家の人物であるエルデスト・ターキン上級将軍と共に大セスウェナ連邦から今に至るまでヘルムートを支え続けてきた。

 

その為ヘルムートは2人にとても感謝しておりジョヴァの事を爺様と呼び、エルデストの事はおじ上と呼んでいた。

 

「私はお前が成すべき事だと思うなら賛成するぞ。法のない所に法を作る、その為には確かに必要な事だ」

 

「じさまにそう言われたら敵いませんよ……分かりました!私も全力で賛成し全力で守り抜きましょう!」

 

「そうか、ならリチオ、造船所の監督と防衛は任せた。フォート総督と共に頼んだぞ」

 

「えっ」

 

「私もリチオ殿なら安心です」

 

「えっ」

 

ヘルムートに続きプラージ准将も賛同した。

 

デルヴァードス少将も何度も頷いている。

 

ザーラ司令官も「頼みましたよ」と一言言い放ち、ジョヴァに至っては何故かニコニコしていた。

 

「嘘だぁ」

 

「フフ、さて…あなたならどうする。大伯父上」

 

ヘルムートは天を見つめウィルハフの姿を思い浮かべた。

 

大伯父ならすぐに最適を見つけられただろうか。

 

この暗闇のような未来に正しい選択を成すことが出来るのだろうか。

 

自分自身は分からない、だから導いて欲しい。

 

仮にそこにいなくとも、自分の選択に後悔しない為に。

 

 

 

 

 

 

 

-エクスパンション・リージョン 惑星アウシュ 総督府-

ハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐はこの地でファースト・オーダーと第三帝国の同盟の話を聞いた。

 

彼らはアウシュの収容所の視察を行なっていた為そちらの会合には参加出来なかったのだ。

 

本来なら後一週間は滞在する予定だったが急遽予定を変更して後1日で帰還する事となった。

 

「良いではありませんか。同盟が締結し帝国軍の戦力の一部が戻ってくるなら我々とて害ばかりではありません。むしろ治安維持向上にもつながるでしょう」

 

フリシュタイン大佐は親衛隊保安局長官の専用室でハイドレーヒ大将に感想を述べた。

 

だが大佐と違いハイドレーヒ大将はあまり乗り気ではなかった。

 

「だがな大佐、彼らが国防軍にいるようなこの平和への最終的解決の重要さを理解出来ないような連中ばかりだったらどうする?横割り食って我々が積み上げてきたものが全て無駄になったら」

 

「そうならないよう全力を尽くす他ありません。それに連中とて下手な行動は出してこないでしょう。何より総統が許しません」

 

ハイドレーヒ大将の心配事にフリシュタイン大佐はそう付け加え安心させようとした。

 

だがハイドレーヒ大将はまだ納得していない様子だった。

 

「あのおいぼれに期待しなければならん事が屈辱だな」

 

「あのおいぼれってまさか総統閣下のことですか?聞かれたら大変な事になりますよ」

 

「心配するなフリシュタイン、私の行く先にそのような心配はない。だが問題は…」

 

『失礼します。閣下にお会いしたい人物をお連れしました』

 

室内に取り付けられたインターフォンが起動し親衛隊保安局員の1人が映し出された。

 

当然見えるのはこちら側のみであり向こうに映し出されるのはハイドレーヒ大将の声のみだ。

 

「よし、通せ」

 

『はい』

 

ドアが開き帝国軍の緑色の軍服を着た1人の将軍が部屋の中に入ってきた。

 

「お連れしました。では失礼します」

 

「ご苦労様です」

 

保安局員は敬礼し室内を後にした。

 

長官専用室にはハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐と目の前の将軍1人のみとなった。

 

さほど緊張感のない中ハイドレーヒ大将は口を開く。

 

「さて、国防軍での生活はどうですか、ヘス将軍」

 

帝国国防地上軍のヴァリン・ヘス将軍はニヤリと小さく微笑を浮かべた。

 

彼は先日まで惑星モラックの帝国残存勢力の指揮官の1人として過ごしていた。

 

しかしフリシュタイン大佐とディールス元長官により流された親衛隊保安局のスパイにより第三帝国へ帰化した将軍の1人だった。

 

尤も帰化しなかった連中からすればヘス将軍は過去の事も併せて「バーニン・コンの愚か者」と呼ばれていたが。

 

そんなヘス将軍が口を開いた。

 

「モラックより全然快適ですよ。再び帝国の為に戦える事は私の誇りです」

 

「それは良かった。私はフリシュタイン大佐としても喜ばしい限りだ」

 

大佐は微笑を浮かべヘス将軍も同じように返していた。

 

「それで、私がここに呼ばれた理由はなんです?」

 

ヘス将軍は単刀直入に尋ねた。

 

時間がない訳ではないがこれ以上の無駄話は必要ではないと言う事だろう。

 

ハイドレーヒ大将も率直に問いを入れた。

 

「この施設を、この収容所を見て将軍、何を感じましたか」

 

それはあまりに率直過ぎる問いだった。

 

この施設の重要性が理解出来るか否か、とても簡単な選別だ。

 

間違えればそれまで、ハイドレーヒ大将の望み通り答えればどうなるのか。

 

様々な可能性がある中ヘス将軍はハイドレーヒ大将にとっての最適解を選び抜いた。

 

「この銀河の治安を維持する為には重要な施設だと私は思います。人道だなんだと囚われていてはあの新共和国の二の舞でしょう」

 

「大義を成す為には小さな犠牲でしょう」とヘス将軍は続けた。

 

ハイドレーヒ大将はその解答に見るからに満足していた。

 

それはフリシュタイン大佐も同様だ。

 

「成る程、なら今この場で私がこのアウシュの指揮をあなたに託すと言ったら?」

 

「喜んでお受けしましょう。大いなる帝国の善の為ならば是非とも」

 

ヘス将軍の笑みが広がった。

 

だがそれはハイドレーヒ大将も同じだ。

 

大将は立ち上がりヘス将軍の方へ近づいた。

 

右手を差し出し手袋を脱いだヘス将軍の手と握手を交わした。

 

「おめでとうヘス“()()”。今日からここの部隊は君の配下だ。親衛隊とは恐怖と戦慄の混合による治安秩序の維持の為のもの。その名に恥じない働き、期待している」

 

力強い期待を込めた握手の想いはヘス将軍にも十分伝わっていた。

 

今新たにヘイス中佐と並びここにヴァリン・ヘスアウシュ収容所所長が誕生する事となった。

 

 

 

 

 

 

 

「大臣、全部隊ジャンプ用意整いました」

 

MC80スター・クルーザー“クレマンソー”のリジック艦長はディゴール大臣に報告した。

 

すぐ前をミレニアム・ファルコンとスカイウォーカー将軍のXウィングがスターファイター中隊を引き連れて通り過ぎていった。

 

周囲にはMC80やMC75、スターホーク級やCR90コルベット、ネビュロンBフリゲートなど戦闘艦が集結している。

 

ディカーに駐留する艦隊のほぼ全軍だ。

 

この攻撃艦隊は皆イセノに向かう為準備が整えられ報告通りハイパースペースへの座標計算が完了している。

 

「スターファイター隊は」

 

「同様です、全機大臣の指示を待っております」

 

「そうか…それでは議員、行って入ります」

 

ディゴール大臣とリジック艦長達はホログラムで浮かび上がるレイアやガー議員、セルヴェント大臣に敬礼した。

 

『頼みましたよ、ディゴール大臣』

 

『死ぬなよ』

 

『後は任せた』

 

「はい、それでは」

 

レイア達は頷きホログラムが切れた。

 

いよいよ戦いに向かう時が来たのだ。

 

先に向かったバスチル少佐達は上手く潜入しているだろうか。

 

いや、余計なことは考えるな。

 

成功していると確信し毅然とした態度で向かわねばならない。

 

大臣はアームレストの通信機を取り軌道上の全部隊に通信を入れた。

 

「諸君、我々は今より惑星イセノ、帝国領に突撃する。これは新共和国再興を賭けた重要な一戦となるだろう。抵抗の火を絶やさぬために」

 

響く通信は艦船からスターファイター、ディカーの地上基地にも伝わっていた。

 

皆真剣に大臣の声に耳を傾け頷いている。

 

それはAウィングに乗り込むヴィレジコフ中尉もそうだった。

 

ぎゅっと操縦桿を握り締めディゴール大臣の発言一つ一つを漏らさず聞いていた。

 

息を吐き肩の力を抜く。

 

「待ってろよ…帝国のクソ野郎ども…」

 

ヴィレジコフ中尉の一言と共にディゴール大臣は戦地へ向かう為の最後の指示を出した。

 

「フォースが共に我らは前進する。前隊!ハイパースペースへ!」

 

最後の一言と共に新共和国スターファイター隊は、新共和国艦隊はハイパースペースへと入った。

 

ミレニアム・ファルコンを先頭に敵のど真ん中へと進んでいく。

 

目標、惑星イセノ通信ステーション。

 

抵抗の火を銀河に広める為に、希望を絶やさぬ為に。

 

 

「フォースと共にあらんことを」

 

 

 

戦いはいよいよ次のステージに向かおうとしていた。

 

 

 

つづく




キャナディ「キャナディとー」
ピーヴィー「ピーヴィーのー」
2人『FO艦長ズトークー』

キャナディ「で、これは一体何をすればいいんですか?」
ピーヴィー「分からんがまあとりあえずブレンドルの悪口を言っていけばいいだろう」
キャナディ「いいんですかそんなことして?」
ピーヴィー「どうせ30ABYぐらいには確定で死ぬんだからべつn…」
キャナディ「あーあーメタいメターいー!」

ピーヴィー「それはそれとして次の回も出番あるのかな」
キャナディ「そこになければないんじゃないですかね」



???「スパイスですわ!!!」


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レジスタンス

「第二次銀河内戦とは、第一次銀河内戦とは違い長期にわたる大規模戦でその犠牲者数は比べ物にならない。しかし一つ言えることは、第二次銀河内戦の方が第一次銀河内戦と比較してより“狂気的”なものだったということだ」
-ヴォレン・ナルの歴史書より抜粋-


-帝国領 インナー・リム 惑星イセノ 軌道上通信ステーション-

1機のセンチネル級がハイパースペースから出現しイセノの軌道上の通信ステーションに近づいた。

 

この手のステーションは珍しくなく惑星エレッセスでは同様のステーションが観測施設として使用されていた。

 

ステーションの周囲にはイセノ本星とステーション、ハイパースペース・レーンを守る帝国艦隊が配備されている。

 

インペリアル級が目で見ただけでも五、六隻、少なくとも一個小艦隊ほどは配備されておりヴィクトリー級やアークワイテンズ級なども合わせれば数十隻以上は確実に存在しているだろう。

 

しかしこれでも相当数が減った方だ。

 

本来このイセノだけでもコロニーズへの玄関口として二十一隻、二十四隻近くのインペリアル級が配備されておりその他の軍艦も百隻以上は確実に置かれていた。

 

だが度重なる新共和国軍の不可解な奇襲攻撃によりインペリアル級一個小艦隊を残して殆どが奇襲地点警備の為に出撃した。

 

その為、イセノの守りは比較的手薄な状態となっていた。

 

通信ステーション司令部からセンチネル急に通信が送られた。

 

『センチネル、現在こちらは六番ベイが正体不明の爆発を受け離着陸が出来なくなっている。すまないが現行コースのまま一番ベイまで向かってくれ』

 

よく見ると合うテーションから小さく明るい光が噴き上がっていた。

 

恐らくそれが件の爆発だろう。

 

センチネル級の船長は気にする様子もなく返答した。

 

「分かった、本機は直ちに一番ベイへ進路を取る」

 

『本当にすまない…一番ベイに送れる人員はかなり少なくなるが…』

 

「構わないさ、むしろそちらの方が大変だろう。こちらは積荷の運搬用ドロイドさえいれば何とかなる。爆発ベイに人員を成る可く回してやってくれ」

 

『何から何まですまない…ドロイドを送っておく。気をつけてくれ』

 

「了解……それと、“()()()()()()”」

 

通信が切れた途端船長はそうシニカルな笑みを浮かべパイロット達に一番ベイへ向かうよう指示を出した。

 

センチネル級は航路を維持したまま一番ベイへ近づいた。

 

ハンガーベイの偏向シールドはセンチネル級も通り抜けられるレベルですぐに着陸出来た。

 

四脚が開き両翼が畳まれる。

 

プシューッという大きな音と共に白い蒸気を放ち完全に着陸した。

 

何体かのドロイドを引き連れた1人の将校と2人の下士官がセンチネル級に近づいた。

 

「積荷の運搬を手伝いに来たぞ」

 

真ん中の将校がセンチネル級に声を掛けるが応答がない。

 

それどころかハッチが開き昇降ランプが現れる事すらなかった。

 

不思議がった将校はゆっくりとセンチネル級に近づく。

 

すると突然センチネル級から拡声器を用いて周囲に警告を促した。

 

『離れろ!!イオン・インプローダーが作動する!!』

 

「何!?」

 

船員の警告虚しく下船部から青白い光が大きなスパークと共に噴き出し周囲の運搬用ドロイドや監視システム、自爆機器やら全てを巻き込み機能停止に追い込んだ。

 

将校と下士官2名もスパークに巻き込まれ気絶或いはショック死した。

 

ハンガーベイのシステム停止により非常用の赤いランプが照らされたが1分も経たないうちにランプは元の状態に戻った。

 

やがて沈黙し続けていたセンチネル級のハッチが開き親衛隊員でも国防軍人でもない誰かが降り立ってくる。

 

皆A300やA310などのブラスター・ライフルを所有しておりかなり重装備のはずなのだが足音一つ立てず移動していた。

 

「クリア」

 

誰ががそう言うと皆耳に手を当て命令を聞いていた。

 

やがて何人かが纏まって行動し始めドア前に人が集まっていた。

 

「何を……する……つもりだ……」

 

朦朧とする意識の中将校は懸命に口を開いた。

 

だがそれが仇となった。

 

その僅かな言葉で生きている事が気づかれてしまったのだ。

 

静かに将校の後頭部にブラスター・ピストルを突きつけ船長を名乗っていた男は一言冷たく呟いた。

 

「寝ていてくれれば楽だったんだがな」

 

引き金の音と共に将校は斃れ男はブラスター・ピストルをホルスターにしまい命令を出す。

 

「各分隊作戦行動を開始せよ。我々は攻撃地点に向かう」

 

『了解、バスチル少佐』

 

「さて行くぞジェルマン、それと情報部のみんな」

 

ブラスター・ライフルに持ち替えるジョーレンは背後に控えていたジェルマンや数名の情報部員、第一分隊がジョーレンの後に続いた。

 

ジョーレンを先頭にジェルマン、ノールマン大尉、バッケイン准尉、ヘンディー曹長、ブロンス曹長達が続く。

 

ここは勝手知ったる帝国の通信ステーションだ。

 

当然ステーション中にストームトルーパーや宇宙軍トルーパー、下士官将校がうじゃうじゃいる。

 

彼らを掻い潜りジェルマン達は攻撃地点に向かわなければならない。

 

ハンガーベイを抜け一行はステーションの通路を進んだ。

 

敵はこちらに気づいていない為大規模な部隊と出会う事は早々なかった。

 

だが2、3名のストームトルーパーや宇宙軍トルーパーとはすれ違う事があった。

 

ギリギリのタイミングでジョーレンが合図を出し毎回事なきを得たがそう何度も同じ手が通用する事はなかった。

 

曲がり角を曲がった瞬間2名のストームトルーパーと1名の下士官と行き合ってしまった。

 

もう回避する事は当然不可能だった。

 

下士官が口を開きストームトルーパー達がブラスター・ライフルを向けようとする。

 

「おいなんだ貴様ら……」

 

しかし下士官は最期まで脅しを言い切る事なく、ストームトルーパーは発砲する事なくバタリと斃れた。

 

後ろを見ればジェルマンがブラスター・ピストルを構えていた。

 

ジョーレンはホッと安堵の一息を吐き微笑を浮かべた。

 

「サプレッサーってのは案外便利なもんだね」

 

「ああ、ナイス判断だ」

 

隊員達が死体を物陰に運んでいる中ジェルマンの行動を褒め称えジョーレンは軽く肩を叩いた。

 

あのような早撃ちは早々出来るものではない。

 

どんどん優秀な兵士に育っていっている気がした。

 

「さて、行くぞ」

 

再び分隊は前に進んだ。

 

足取り速く静かに、緊張的に。

 

作戦を成功させ抵抗の証を打ち付ける、ただそれだけの為に。

 

彼らの原動力はそれだけで十分だった。

 

「前方に宇宙軍トルーパー確認…!数は3…!」

 

ブロンス曹長が発見した敵兵を報告しジョーレンが命令を出す。

 

「時間がない…!俺とノールマンとバッケインでやる…!一気に片付けるぞ!」

 

「了解…!」

 

「イエッサー…!」

 

3人は他の隊員達よりも素早く動き敵の宇宙軍トルーパーの背後を捕らえた。

 

ジョーレンは素早く宇宙軍トルーパーの首の骨を折り他の2人もそれぞれ息の根を止めた。

 

そのまま地面に倒し進む第一分隊に戻った。

 

そのまま最短コースを進み目的の場所に辿り着いた。

 

ドアの前に座り込むジェルマンが簡易端末をソケットに挿しモニターをタップしていた。

 

「解除コードを送信、開くぞ」

 

直後ドアがが開き全員が室内に入った。

 

この通信ステーションの中で最も安全で最も司令ステーションに近い場所、第三会議室だ。

 

ステーション内の中級将校がよく使う会議室で上級将校は滅多に訪れず警備なども比較的薄い場所だった。

 

「少佐、どうですか本隊の方は」

 

ノールマン大尉はジョーレンに尋ねた。

 

他の分隊員や情報部員は皆ブラスター・ライフルを構え周囲を警戒しておりジョーレンに近寄ってきたのはジェルマンと大尉だけだった。

 

ジョーレンはガントレットの時計の時間を“6:18”という数字に合わせスイッチを押した。

 

するとホログラムが浮き上がり古代文字のコレマイクでこう書かれていた。

 

“諸君らは孤独ではない”と。

 

この一文がジェルマンやジョーレン達を大いに安堵させた。

 

「第二、第四、ボムの設置はどうなっている?」

 

ガントレットの特殊回線通信機を用いてUウィングの第二分隊と第四分隊に尋ねた。

 

向こうからも素早く返答が来る。

 

『後少しです、そっちは?』

 

「所定位置に着いた、そろそろ来るぞ…御旗掲げた本体が…!」

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースの青白いトンネルを進む新共和国艦隊とスターファイター隊がいよいよ目的地に着こうとしていた。

 

先頭を進むのは当然ミレニアム・ファルコンやルークのXウィングといった部隊長機ばかりでその後を何十機ものスターファイターが続いていた。

 

「間も無くハイパースペースを抜けるぞ」

 

ハンの冷ややかな報告はヴィレジコフ上級中尉やスターファイター隊の全員を数秒緊張させた。

 

いよいよ戦いが始まる、そう言った緊張だ。

 

しかしそれはファルコン号の中でも同様だった。

 

チューバッカが心配そうにハンに尋ねた。

 

「本当に大丈夫かな…」とこの大きなウーキーは不安がっていた。

 

そんなチューバッカをハンは優しく宥める。

 

「大丈夫、そう心配する事はない。本当にヤバかった時なんてもっとあった」

 

そう、ハンもチューバッカもこの船も何度危険な目に遭った事やら。

 

ファルコン号の新しいアンテナがそれを物語っていた。

 

「さあていよいよだ…!」

 

「フォースと共にあってくれよ俺…!」

 

Aウィングの中でフォースの祈るヴィレジコフ中尉の目の前にハイパースペースのトンネルではない景色が訪れた。

 

惑星イセノとうざったい帝国軍のステーションや艦隊、広大な宇宙がコックピットの外に広がっていた。

 

既に通信ステーションの一区画からは爆発の光と火災が吹き出し広がりつつある。

 

きっと先行したジェルマンやジョーレン達特殊部隊の最初の戦果だろう。

 

帝国の連中さえいなければいい景色なんだがなとヴィレジコフ中尉は鼻で笑った。

 

元々宇宙に憧れてパイロットになったんだ、宇宙の邪魔でしかない帝国軍なんてうざったい以外の何者でもない。

 

()()”さえあれば遠い昔に反乱同盟の時代からAウィング乗りだったはずだ。

 

ただその“()()”がないから仕方なく故郷の惑星防衛軍に入った。

 

そこからしばらく遅れて軍の代表として新共和国軍に出向しそこでようやく帝国軍と戦えた。

 

戦争が終わった後もヴィレジコフ中尉は惑星防衛軍には戻らなかった。

 

ここの方が何か役に立てる気がするから。

 

だがそれは間違いじゃなかった。

 

何故なら今こうして再び帝国軍と戦えているのだから。

 

先程とは一点シニカルな笑みを浮かべヴィレジコフ上級中尉は操縦桿をしっきり握り締め中隊長の後に続いた。

 

「ソード中隊!戦果を挙げて帰る!待ってろよ帝国軍ども!」

 

ヴィレジコフ上級中尉のAウィングは既に敵を捕捉していた。

 

当然その光景は通信ステーションの方でも補足されていた。

 

ステーションに幾つかの爆発が生じその対応に追われている頃に突然の奇襲だった。

 

ステーションブリッジの士官も酷く混乱している。

 

それは単純な報告にも表れていた。

 

「司令官閣下!!新共和国のスターファイターが!艦隊が!」

 

若い親衛隊士官が顔を硬らせ落ち着きのない様子でステーション司令官のフレント司令官に報告した。

 

既に爆発の対応により将校や下士官兵がブリッジを右往左往している。

 

フレント司令官自身も落ち着きを失いつつあった。

 

「狼狽えるな少尉!爆発区画を閉鎖しろ!これ以上引火を防ぐんだ!それと周辺区画にストームトルーパー、宇宙軍トルーパー隊を展開!この攻撃はスターファイター隊ではない!くっ!」

 

既に新共和国軍のスターファイター隊による爆撃と艦隊の砲撃が始まっており再びブリッジやステーション全体に大きな振動が触れ渡った。

 

YウィングやBウィングの編隊が爆撃を敢行し周囲を警戒していたアークワイテンズ級を一隻大破轟沈に追い込んだ。

 

ヴィレジコフ上級中尉の編隊もアークワイテンズ級から発艦したTIEブルートの3機とパトロールのTIEインターセプター3機を撃墜した。

 

他の中隊機もステーションの対空砲網を潰し哨戒機も片付けていった。

 

『いい調子だぞソード2!』

 

ソードリーダーのコーラン少佐はヴィレジコフ上級中尉の腕前を高評した。

 

彼はYウィングながらも高速のTIEインターセプターなどを軽々と撃墜出来るかなりのベテランだ。

 

2機のXウィングと編隊を組み確実に爆撃を遂行していく。

 

「ソードリーダー、前方よりレイダー急二隻接近。爆撃を頼みます」

 

『確認した、我がソード中隊とレイジー中隊で確実に仕留めるぞ。スカイウォーカー将軍、ソロ将軍、撹乱を頼みます』

 

『了解』

 

『了解』

 

数十機のXウィングやAウィングYウィングが集結しレイダー級とレイダー級を取り囲むTIEインターセプター部隊に掛かって行った。

 

ミレニアム・ファルコンとルークのXウィングが先行し攻撃を掻い潜り敵機を撃破していく。

 

正にその動きは鬼神といった働きで背後の隙を取らせず次々とTIEインターセプターを撃破していった。

 

特にルークの操縦技術は並みのエースパイロットの技量を遥かに超えまるで相手の動きを先に察知しているようだった。

 

攻撃が来る前に一撃を叩き込み敵機が回避する向きに直接全翼のレーザー砲を撃ち当てる。

 

誰もルークの攻撃を回避し反撃する事は出来なかった。

 

『上級中尉、我々は右のレイダー級をやるぞ!君の編隊は先行して敵の砲塔を破壊してくれ、出来るか?』

 

コーラン少佐はヴィレジコフ上級中尉に尋ねた。

 

上級中尉はすぐ頷き答える。

 

「了解!ソード6、ソード7、先行するぞ!」

 

『イエッサー!』

 

『了解!!』

 

3機のAウィングがレーザー砲やTIEインターセプターの大群を避けながらレイダー級に接近する。

 

重レーザー砲やターボレーザー砲を放ち接近するヴィレジコフ上級中尉らの編隊を撃滅しようとしていた。

 

「ジャマーを使う。各機震盪ミサイルを発射する時は追尾を使うなよ!」

 

『おまかせあれ!!』

 

ソード7の返答と共に攻撃が始まった。

 

シールド内部に突入し砲塔に直接レーザー砲を撃ち当てる。

 

3機のAウィングの攻撃を受けた砲塔は次々と破壊され震盪ミサイル発射管もヴィレジコフ上級中尉のAウィングのジャミング機能により殆ど発射されなかった。

 

『震盪ミサイル発射します!』

 

「わかったソード6、俺たちも続くぞ!」

 

『了解!』

 

ソード6が真っ先にレイダー級のブリッジ近くに震盪ミサイルを放ち他の2機もそれに続いた。

 

過度の攻撃を喰らったレイダー級は偏向シールド発生装置が損傷し船体を覆う偏向シールドが剥がれ始めた。

 

「ソードリーダー、敵の偏向シールドまで撃破出来ました!」

 

上級中尉はコーラン少佐に誇らしげに報告する。

 

『すごいぞソード2!我々も弾頭を通常のプロトン魚雷とミサイルに切り替えろ。上級中尉がよくやってくれた!』

 

喜ぶコーラン少佐達の攻撃がついに始まった。

 

隣のレイダー級は既に先行したレイジー中隊が1機のYウィングの犠牲を出しながらもレイダー級を撃沈に追い込んだ。

 

今度はソード中隊の番だ。

 

全機震盪ミサイルやプロトン魚雷を放ちレイダー級に更に致命的な損傷を与えていく。

 

武装をほぼ破壊され丸裸となったレイダー級は防御する事すら出来ずソード12が大破炎上するレイダー級から離れる頃には既に轟沈まで差し掛かっていた。

 

『二隻撃破確認!ノーマルオペレーションに戻る!』

 

『いえ隊長殿!前方から更に三隻の艦船を確認!アークワイテンズ級とグラディエーター級です!』

 

ソード8の報告はヴィレジコフ上級中尉を敵艦隊の方へ振り向かせた。

 

その報告通り数十機のスターファイターと共に小戦隊がこちらへ向かっていた。

 

『流石にあれをスターファイターだけで捌くのは難しいぞ!どうする!』

 

『我々に任せろ!』

 

コーラン少佐の苦渋の声を覆すようにMC80“クレマンソー”のリジック艦長から通信が届いた。

 

直後スターファイターの頭上を赤色のターボレーザー弾が何十発も飛び交い接近するアークワイテンズ級二隻とグラディエーター級をすぐさま撃沈させた。

 

あれだけのターボレーザー砲を全て着弾させるとは、艦隊の砲手達はどれだけ優秀なのだろう。

 

他の部隊同様凄まじい訓練を行ったに違いない。

 

「敵艦撃破確認!」

 

『いい腕だ“クレマンソー”!』

 

『そちらばかり手柄を取らせる訳にはいかないのでな』

 

リジック艦長は通信機越しだったが間違いなくニヒルな笑みを浮かべているだろう。

 

ヴィレジコフ上級中尉も負けじと再び2機のTIEブルートを単機で撃破した。

 

『大臣、見てみろ。ようやくスター・デストロイヤーどもが食いついて来やがった!』

 

ハンの報告は艦隊やスターファイター隊の目線を奪うに十分だった。

 

イセノ側からインペリアル級が六隻ほぼ全てこちらに接近しているのが分かる。

 

それだけではなく護衛のアークワイテンズ級やヴィクトリー級、グラディエーター級ら全てもステーションの方に迫っていた。

 

ディゴール大臣は冷静に指揮を飛ばす。

 

『分かっている、全艦防御陣形!全て作戦通りだ。タイミングがいいぞ』

 

艦隊が陣形を整えスターファイター隊も同様に再び態勢を立て直す。

 

MC75装甲クルーザーを先頭に艦列を組み対インペリアル級の防御陣形を作った。

 

その間にもインペリアル級の砲門が新共和国艦隊の方向を向きいつでも砲撃出来る状態を作る。

 

艦載機のTIE部隊も出撃し両者はようやく真っ当な戦闘に移ろうとしていた。

 

特に帝国軍側は。

 

だが新共和国側はそうではなかった。

 

ディゴール大臣の下に報告が届く。

 

「大臣!“()()()()()()”と“()()()()()”が!」

 

「ついに来たか…!」

 

迫るインペリアル級の小艦隊の背後と横からハイパースペース・ジャンプアウトを行う部隊があった。

 

それが味方か敵か、帝国側は分からなかった。

 

だがディゴール大臣達は確実にその存在を認知していた。

 

駆け付けた“()()()”の存在を。

 

 

 

 

 

時間は少し前に遡り戦闘はステーションの中に移り変わる。

 

ステーション内はけたたましい警報と共にステーション外の戦闘の音が響き小さな緊張に取り囲まれていた。

 

通路を駐留していたストームトルーパーと武装した宇宙軍トルーパーの部隊が走り徐々に隔壁が封鎖され始めた。

 

呑気なステーションのアストロメクやプロトコル・ドロイドは右往左往する将兵の列を見つめ「一体何が起きているんだ?」とぼやく始末だった。

 

E-11やDTL-19を担いだストームトルーパーの軍曹や伍長が先頭を指導し敵が潜んでいると思われるポイントに辿り着いた。

 

通信ステーション内の食料や消耗品などを一括管理する倉庫だ。

 

敵は恐らくこの中に潜んでいる。

 

全員が一旦止まり部隊長のストームトルーパー・キャプテンが隊員に指示を出した。

 

タブレット端末とバックを背負ったストームトルーパーの工兵が頷きリモコンのようにタブレットを操作しバックから1体の量産型シーカー・ドロイドを取り出した。

 

キャプテンや工兵達全員がかなり距離を取りブラスター・ライフルを倉庫のドアに向け待機した。

 

ドロイドが本来マウス・ドロイド用の通り口を抜け敵の位置とドア付近の爆薬を確認しに向かった。

 

それは倉庫内の新共和国特殊部隊、第二分隊と第四分隊も同様だった。

 

分隊長のハーディ上級曹長が命令を出し数名の隊員が前に出る。

 

スタンバイ完了を見届けた上級曹長はスイッチを押しドアの爆薬を起動した。

 

大きな爆風によりシーカー・ドロイドは完全に破壊されドアも吹き飛ばされた。

 

その様子を伺っていた帝国軍の兵士達は突撃の準備を始め立ち上がり始める。

 

ストームトルーパーや宇宙軍トルーパーが徐々にドアの近くに迫る中彼らの足元にコロコロと幾つかの球体が送られた。

 

それを見た背後から続く宇宙軍トルーパーの軍曹は「離れろ!」と忠告する間に足元の球体は爆発し数名の兵士を命共々吹っ飛ばした。

 

爆風や熱が肌や装甲を焼くがトルーパー達は怯まずブラスターを放ちながら倉庫の中へ突入していった。

 

「バケツどもがかなり釣れた!応戦だ!」

 

特殊部隊もブラスター・ライフルを用いて反撃し始めドアに群がるストームトルーパーや宇宙軍トルーパーを次々と撃ち倒していった。

 

身を隠しながら応戦する特殊部隊に対し勢いのまま突撃するストームトルーパーや宇宙軍トルーパー達の命中率は比較するまでもなく状況的には帝国側の方が圧倒的に不利であった。

 

しかし帝国軍には圧倒的な物量と兵士達の不屈の精神がありいくら倒してもキリがない。

 

ハーディ上級曹長の隣で1人の隊員が敵にサーマル・デトネーターを投げつけ何人かの兵士が吹き飛んだ。

 

足元には幾人ものストームトルーパーと宇宙軍トルーパーの亡骸が覆いかぶさっているが生者達は気にせず突き進んだ。

 

気づけば多くの帝国兵が倉庫内部に入り込み敵を殲滅せんと包囲するように囲っていた。

 

器用にコンテナなどで身を隠しながら銃撃する特殊部隊員達は若干後退しつつも未だに誰1人死傷者を出していなかった。

 

後方には狙撃手も控えておりストームトルーパーの大きな頭を確実に撃ち抜いていた。

 

多くの兵の銃撃に隠れて1人のストームトルーパーが腰のN-20バラディウム=コア・サーマル・デトネーターを投げつけようと取り出しスイッチを押した。

 

それに気づいたスナイパー隊員が急いでトルーパーの頭に狙いを定め引き金を引く。

 

放たれたブラスター弾が装甲と脳を貫通しデトネーターを持ったままトルーパーをその場に倒れさせた。

 

スイッチが押されていたサーマル・デトネーターはその場で爆発し逆にトルーパー達に大きな被害を及ぼした。

 

「増援を要請しろ!宇宙軍トルーパーでもストームトルーパーでもいい!とにかく連中を押し出っ…!!」

 

部下のストームトルーパーと宇宙軍トルーパーを怒鳴りつけ増援を要請していたドアの向こうのストームトルーパー・ルテナントの頭が撃ち抜かれその場に斃れた。

 

残された部下達が中尉の遺体に駆け寄り物陰に引き寄せるがあの一撃は即死ものだ。

 

こうやって指揮官を撃破し一時的にでも指揮系統と部隊の判断力を鈍らせ増援の要請と到着を1秒でも遅らせるのも役目の一つだ。

 

応戦区画の最前衛では重火器を持った隊員達が訓練通りに敵を待ち伏せ大火力で仕留めている。

 

元々練度の高い兵士達だがジョーレンの訓練によりより完成された鋭く硬い棍棒のような刃へと成長していた。

 

「怯むな!撃ち続けろ!」

 

キャプテンが命令を出し宇宙軍トルーパーやストームトルーパー達が前に進んだ。

 

ブラスターの弾幕が厚くなる中1人の隊員が誘導ミサイルを放ち前衛の宇宙軍トルーパーやストームトルーパー一個分隊を吹き飛ばした。

 

「クソッ!バケツ頭どもがまるで減らん!」

 

悪態を突きながらも額に汗を浮かべ戦う隊員は流石に目の前のトルーパー達の物量が恐ろしく感じ始めていた。

 

殺しても殺しても突き進んでくるその白と黒の決死部隊を本当に引き付けていられるのだろうか。

 

ここを死に場所と考えてはいるが自分が死んだところで一体何人を道連れに出来、一体何人を長く抑えていられるだろうか。

 

そんな時隊長のジョーレンの言葉がふと脳裏に過ぎった。

 

『いいか上等兵、恐るな。恐れは本来の力をセーブし死に直結させる。恐るな上等兵、全てを出し切れば俺達はみんな銀河最強の兵士だからな』

 

そうだ、恐るな。

 

恐る必要はない、バケツ頭と警備員如きに恐る必要なんて何もない。

 

俺たちは最強の兵士、新共和国軍特殊部隊だ。

 

誰にも負けない、死ぬ事すらない。

 

隊員の顔つきが変わり精神力とブラスターの命中率が格段に上昇した。

 

他の隊員も皆全力を出し数で劣る中敵兵を完全に押さえ込んでいた。

 

それはステーションブリッジでも確認され将校達は皆険しい表情を浮かべていた。

 

特にフレント司令官は苛立ちが抑えられない状態だった。

 

『敵兵に圧倒されている!更なる増援を寄越してくれ!』

 

現場の士官達の報告にブリッジの幕僚や参謀達は皆険しい表情だった。

 

「どうします?弾薬庫の封鎖と消火活動から人員を回しますか?」

 

「ハンガーベイは放棄するとしても敵部隊突入の際に周辺部の防御を行わなければなりません」

 

将校達の助言は悪戯にフレント司令官を悩ませるだけだった。

 

親衛隊の制帽を雑に脱ぎ取りモニターテーブルの近くに置いた。

 

イライラした様子で頭を掻きむしり命令を出す。

 

「司令部区画の警備部隊と弾薬庫の警備部隊を回せ!ハンガーベイ封鎖隊もだ!とにかく動員して敵を数で殲滅せよ!!」

 

「了解、各隊兵員を補完格納庫に展開せよ。繰り返す……」

 

通信機で各隊に連絡を取る中フレント司令官は制帽を被り直し再びイライラした様子で腕を組んでいた。

 

「艦隊から増援を要求せねば……イセノ小艦隊はどうなっている?」

 

「現在戦闘体制のままこちらに接近中ですが…」

 

「司令官!!ハイパースペースより艦影多数接近!!友軍艦の信号ではありません!!」

 

将校の報告を遮り通信士官が慌ててフレント司令官に報告した。

 

「なんだと!?」

 

 

 

 

 

ディゴール大臣達が確認した“()()()”、フレンと司令官達が確認した“()()()()()()()”何かは直様姿を表した。

 

スターホーク級が二隻、MC80が四隻、MC75が三隻、その他のフリゲートやコルベットが数十隻の新共和国艦隊がイセノに現れ挨拶の一撃として一斉にターボレーザー砲を放った。

 

彼らこそが戦場で確認されたハイパースペースの艦影の姿そのものだ。

 

モン・カラやキャッシークを出立した機動部隊は背後と側面からイセノの帝国小艦隊を奇襲する。

 

背後や真横からの突然の奇襲により帝国艦隊は対処しきれず何隻かの軍艦が損傷し或いはエンジンが破壊された。

 

スター・クルーザーやバトルシップから放たれる艦砲射撃の中を何十機ものスターファイターが通っていく。

 

「フェニックス中隊全機、先行して艦隊を撹乱する。ウェッジ、そっちは?」

 

改造型VCX-100軽貨物船“ゴースト”からヘラ・シンドゥーラ将軍は隣を飛ぶXウィングに通信を取った。

 

「問題ない、ファントム中隊、レッド中隊、ローグ中隊全機、スカイウォーカー将軍に合流する」

 

『了解ファントムリーダー、さあて行くぞ!』

 

ファントムリーダーでありこの三中隊の隊長であるウェッジ・アンティリーズ中佐の後をローグリーダー、タイコ・ソークー中佐は続いた。

 

スターファイター隊の中でも超精鋭の部隊は迫り来るTIE部隊を軽々とねじ伏せルークの下に辿り着いた。

 

『将軍、指示を頼む』

 

ウェッジとソークー中佐のXウィングがルークのXウィングにくっ付き編隊を成した。

 

シンドゥーラ率いるブルー中隊、フェニックス中隊、エコー中隊、アンヴィル中隊、ヴァンガード中隊、イエロー中隊、グレイ中隊、ゴールド中隊、ブレード中隊の九中隊は既に戦闘を開始している。

 

背後からの爆撃でアークワイテンズ級やヴィクトリー級などの比較的小型の艦船を撃破し出撃したTIE部隊と交戦している。

 

「全機、敵機を撃破しつつインペリアル級の偏向シールドと武装を破壊しろ。艦隊の攻撃を優先して通すんだ」

 

『了解将軍』

 

ルークのXウィングを先頭にファントム中隊、レッド中隊、ローグ中隊の機体がそれぞれ後に続きインペリアル級の砲撃を掻い潜りながら攻撃を開始した。

 

ハンとチューバッカ率いるミレニアム・ファルコンとディカー・スターファイター隊も対艦攻撃を開始しアークワイテンズ級やレイダー級、グラディエーター級に突撃している。

 

2機のXウィングが編隊を崩さずインペリアル級のブリッジに接近しふたつの偏向シールド発生装置にレーザー弾とプロトン魚雷を浴びせた。

 

流石にこの程度の攻撃での破壊は難しく防衛に出たTIEインターセプターに邪魔されて退避する他なかった。

 

3機のTIEインターセプターに追撃されるが援護に来た別のAウィングにより窮地を救われ再び攻撃に移った。

 

「各機、無理に反応炉を狙う必要はない。艦隊の対艦攻撃が通じるように少しでもシールドを削るんだ」

 

『了解スカイウォーカー将軍』

 

Yウィングパイロットのレッド2が他のYウィングと編隊を組んで前方のインペリアル級に突撃した。

 

前から迫り来るTIEブルートを1機撃墜し震盪ミサイルとプロトン魚雷を連続して発射する。

 

着弾したミサイルと魚雷の威力によりシールド発生装置が一つ破壊され更にレッド2の編隊はもう一つのシールド発生装置に高出力のレーザー砲を撃ち出した。

 

当然破壊する事は出来なかったがブリッジから離れる瞬間レッド2がダメ押しのプロトン爆弾を投下し装置にダメージを追加する。

 

流石はエンドア戦にも参加しYウィングでTIEインターセプターを撃墜する程の名パイロットだ。

 

ルークとウェッジ、ソークー中佐もインペリアル級を護衛しようとするTIE部隊を撃破し偏向シールド発生装置に攻撃する。

 

プロトン魚雷をそれぞれ一発ずつ放ちレーザー砲も喰らわせた。

 

先行して攻撃したレッド2達のダメージが大きかったのかXウィングの攻撃でも偏向シールド発生装置の破壊に成功した。

 

装置が2基とも破壊されインペリアル級のシールドが見る見るうちに消失していった。

 

『いいぞ、偏向シールドが消失した』

 

ウェッジは二つの球体を無くしたインペリアル級を見て気分良く言い放った。

 

これで艦隊の攻撃は更に効きやすくなるだろう。

 

ソード中隊やローグ中隊がインペリアル級の八連ターボレーザー砲を何基か既に破壊している為火力自体も落ちている。

 

絶好の攻撃チャンスだった。

 

『“クレマンソー”、攻撃を頼みます。敵艦は丸裸だ』

 

『分かっている、全艦左翼のインペリアル級に集中砲火せよ』

 

MCスター・クルーザーやネビュロンBの火力がシールドをなくしたインペリアル級に集まり次々と被弾していった。

 

僅かな合間でインペリアル級の耐久値は限界に達し崩れ落ちるように撃沈した。

 

別のインペリアル級を攻撃しながらソークー中佐はコックピットの中でガッツポーズを浮かべた。

 

『よし!インペリアル級一隻撃沈!』

 

『それはこっちも同様よ』

 

目線を移せばシンドゥーラ将軍率いるフェニックス中隊やゴールド中隊、ブレード中隊のBウィング部隊がインペリアル級の撃破に成功していた。

 

先程インペリアル級を撃破したばかりなのにBウィング達は再びヴィクトリー級やグラディエーター級の攻撃に移ろうとしている。

 

迫るTIEブルート、TIEインターセプターを撃墜し敵艦をイオン砲やレーザー砲、プトロン魚雷で爆撃した。

 

瞬時に大火力を浴びせ敵艦の防御を行う間も無く轟沈に追い込んだ。

 

これがモン・カラマリの名エンジニアが基礎設計を行なった新共和国軍最強とも言っていい爆撃機の力だ。

 

ファルコン号やゴースト号に支援され帝国艦隊が消失するまで何度も爆撃を敢行する。

 

改造されたこの貨物船達は今までの戦い同様凄まじい戦果を挙げていた。

 

戦闘が始まって以来一体何機の敵機を撃墜した事か。

 

ファルコンとゴーストはそれぞれ互いに絶妙なライバル意識を持っているもののそのコンビネーションは凄まじく敵を寄せ付けない強さだった。

 

『スターホークの攻撃が効いている。間も無くもう一隻墜ちるわ!』

 

『そいつはいい!敵艦隊は俺たちに囲まれてどこを攻撃するか迷ってやがる、更に混乱させるぞ!』

 

爆炎を上げ沈むインペリアル級をバックにファルコンとゴースト、新共和国のスターファイター中隊が続いた。

 

ハンの言う通り敵艦隊は前方、後方、側面からの奇襲攻撃によりどこへ集中的に攻撃していいのか分からずただ悪戯に包囲され全滅するのを待つのみだった。

 

恐らく指揮官がもっと有能でもう少し戦力があれば状況は変わっていただろう。

 

イセノ防衛艦隊は既に大損害であり全滅する可能性すら出ていた。

 

一方新共和国艦隊は入念な計画と訓練により損害は微々たるもので艦船に至ってはまだ一隻も撃沈していなかった。

 

「敵艦隊を押し出せ!いつでも内部の特殊部隊を回収出来るようステーションから敵を引き離すんだ」

 

ディゴール大臣の指示により新共和国軍の攻勢が更に強まった。

 

帝国軍は更に押され完全に敗北ムードであった。

 

そんな中ステーションから通信が届く。

 

()()()()()()()()()()()”と。

 

 

 

 

 

 

「艦隊の奇襲は成功で帝国軍の駐留艦隊が増援を寄越す可能性も低い……そっちはどうだ?」

 

『敵はある程度抑え込みました。多少は警備がいるでしょうが突破は容易でしょう』

 

ハーディ上級曹長はジョーレンのそう返答し最後に一つ付け加えた。

 

『後の事は任せましたよ』

 

「ああ、分かってる…それじゃあ」

 

通信機を切りジョーレンは自身のブラスター・ライフルを手に取りヘルメットを被り直した。

 

他の隊員達も準備万端と言った様子でいつでも戦闘出来る様子だった。

 

ジェルマンもサインを出し彼の後ろに控える情報部員達も戦闘準備が整っている。

 

「行きましょう少佐」とノールマン大尉もジョーレンに促し彼も頷いた。

 

もはや待つ必要はない、ただ実行するのみ。

 

「全員、これが新たな戦いの火蓋を切る最初の戦いだ。行こう」

 

力強い頷きと共にドアが開き司令部を堕とす為に結成された精鋭部隊が放たれた。

 

駆け足で確実な道を進み多少の敵は全て蹴散らす。

 

「敵兵だ!」

 

「撃て!」

 

第一分隊に気づいたストームトルーパーがE-11ブラスター・ライフルを発砲し足止めを行おうとする。

 

しかし前衛を担当する隊員達が身に付けている個人用戦闘シールドとブラスターのコンバット・シールドが機動しブラスター弾を防ぐ。

 

代わりに左右に分かれた隊員が反撃しストームトルーパー達を蹴散らした。

 

敵兵は皆戦闘不能に陥りジョーレンの合図と共に分隊が前に進む。

 

「来たぞ!隔壁を閉鎖しろ!」

 

急いでドアのコントロールパネルを操作するトルーパーを撃ち隣で応戦するストームトルーパーの伍長と歩兵を3名撃破する。

 

しかしブラスト・ドアの封鎖は開始しておりドア前にたどり着く頃には既に封鎖が完了していた。

 

「ジェルマン!」

 

ジョーレンの合図によりジェルマンはすぐポケットからより小型の端末を出しソケットに差し込む。

 

素早くパネルをタップしデータと指令を書き換えた。

 

ジョーレンのハンドサインにより隊員達が脇とドア前でブラスター・ライフルを構え敵の待ち伏せに備える。

 

素早い書き換えによりブラスト・ドアは10秒も掛からず開き始めた。

 

ドアの開くその僅かな数秒が隊員達の緊張と不安を大いに煽った。

 

ブラスト・ドアが半開きする瞬間彼らは向こう側の状況を確認した。

 

やはり敵がいた。

 

ならばジョーレンが態々合図する必要もない。

 

皆速やかに引き金に指を掛け躊躇う事なく引いた。

 

徐々に広まる隙間にブラスター弾が送り込まれ反応の遅れたストームトルーパーや宇宙軍トルーパー達を撃ち倒していった。

 

3人、4人とトルーパーが倒れ左右に避けながらトルーパー達も反撃し始めた。

 

赤いブラスター弾が飛び交い断末魔の叫びのような声が時々聞こえた。

 

バッケイン准尉が磁気式サーマル・デトネーターを投げ込み爆発に巻き込まれた敵兵が数人吹き飛ばされた。

 

ジョーレンもブラスター・ライフルを右手で持ちながら左手でブラスター・ピストルを握りより多くの敵兵を倒す。

 

銃撃戦の末帝国軍のトルーパー達は皆撃ち倒され第一分隊は更に司令部のブリッジへ進んだ。

 

行手を阻もうとするストームトルーパーの分隊もヘンディー曹長が持つRT-97C重ブラスター・ライフルによって薙ぎ倒され数名の宇宙軍トルーパーもジェルマンとジョーレンの早撃ちにより撃破された。

 

通路や室内から出てくる帝国軍兵士も皆撃ち倒されブリッジまで後少しとなった。

 

「このまま一気に行くぞ!」

 

「了解!」

 

迫るストームトルーパーや宇宙軍トルーパーを撃退し妨害しようと立ちはだかる帝国軍のドロイドもブラスター・ライフルなどで撃破する。

 

「KXを!!グワァッ!!」

 

指示を出す宇宙軍の将校を撃ち抜き隊員達は前に進んだ。

 

しかし突如出て来た黒い何本かの手足によって前にいた2、3人の隊員達が殴られ、蹴られ吹き飛ばされた。

 

全員受け身を取り速やかに防御体制を取ったが突然の事により顔に拳が当たった者は鼻血を出していた。

 

「KXドロイドか!!」

 

「チッ!」

 

ノールマン大尉の吐き捨てる言葉と共にKXシリーズ・セキュリティ・ドロイドが4体ほど姿を表した。

 

腕にはトルーパーから持たされたE-11やSE-14Cブラスター・ピストルを構え今にでも発砲しそうな状態だ。

 

躊躇いや疲れ、痛覚のないドロイドはこの武器をフル活用し隊員達を薙ぎ倒しに来るだろう。

 

だがそうはさせまいとジョーレンはその昔モン・カラに向かった時貰った爆弾ナイフを三本取り出した。

 

勢いよくドロイドの頭や胸部に突き刺しジョーレンの操作により間も無くナイフは爆発した。

 

残りの1体をジェルマンはA180で頭と胴体を撃ち抜きドロイド脳を破壊する。

 

機能を停止したセキュリティ・ドロイドは糸の切れた傀儡人形のように倒れジェルマンはそのままセキュリティ・ドロイドの出た通路にドロイド・ホッパーを投げつけた。

 

甲高い音と共にドロイド・ホッパーは起爆し奥で起動し始めていたセキュリティ・ドロイドやシーカー・ドロイドを一斉に機能停止にした。

 

更にバッケイン准尉が通常のサーマル・デトネーターを投げ込み通路にいるストームトルーパーや技術者達を吹き飛ばし戦闘不能にした。

 

「まだ行けるか!?」

 

ジョーレンは負傷した隊員達に問いかける。

 

隊員は鼻血を拭き取り大きく頷いた。

 

「後少しだ!気張って行くぞ!」

 

「了解!!」

 

再び隊員達が大声を上げ突き進んだ。

 

曲がり角の通路からまた何人かのストームトルーパーと暴動鎮圧用のシールドを持った宇宙軍トルーパーが銃撃してきた。

 

個人用シールドやコンバット・シールドを起動してこれを防ぎつつその合間からブロンス曹長が自身のブラスター・ライフルに取り付けられたグレネード・ランチャーの引き金を引いた。

 

グレネードが敵兵の下で炸裂し素早くヘンディー曹長や重火器を持った隊員が突撃し大火力を通路の向こうにばら撒いた。

 

1名腕に擦り傷を負うも戦意は衰えず敵兵を倒し続けた。

 

「クリア!!」

 

ヘンディー曹長の大きな声が聞こえジョーレンとジェルマン達が走る。

 

「時間がない!ドアは吹き飛ばす!」

 

「ジョーレンは通路を曲がる瞬間に近接反応爆弾を起動しドアに取り付け身を伏せた。

 

数秒後起爆と共にドアが吹き飛び爆風が辺りを包んだ。

 

ジリジリと焼ける爆風の嵐の中をジェルマンとジョーレン達は進みついにブリッジの中へ足を踏み入れた。

 

「なっなんだ!?」

 

混乱する将校をまずはピストルで撃ち抜きジェルマンやノールマン大尉らも室内にいる衛兵や下士官兵、将校を皆撃ち殺した。

 

ブラスター・ピストルを持って応戦しようとする者、逃げ出そうとする者様々だが皆すぐに撃たれバタバタと倒れていった。

 

この司令室のブリッジを抑える為には致し方ない事だ。

 

「こっ降伏すっ!!」

 

両手を上げ後退りするフレント司令官もジョーレンによって無慈悲に撃ち殺され爆風の煙が収まる頃にはブリッジの室内の占拠は完了していた。

 

「クリア」

 

ブロンス曹長の確認と共にジェルマンや情報部員達は一斉に端末を持ち出し通信ステーションの占拠とステーションを媒介とした全銀河系放送の用意を開始した。

 

目にも止まらぬタイピングとシステム占拠により既に第一段階がクリアされた。

 

「ステーションを乗っ取った!後は中継システムに侵入するだけだ!」

 

「えっ早くないすか」

 

ジェルマンのあまりの動きの速さにその場の情報員含めた全員が驚いた。

 

だがジョーレンは「まあいつものことだ」と腕を組みぼーっと見ていた。

 

「それより艦隊への連絡はどうした?」

 

「送ってますよ。今頃ディゴール大臣は用意してる頃だ」

 

「そうか、ならいい。警戒だけは怠るなよ」

 

「了解」

 

「後少しで終わりそうだ!!」

 

「えっやっぱ早くない?」

 

ジョーレンは隣にいるノールマン大尉に尋ねた。

 

流石の大尉も奥にいたバッケイン准尉も苦笑いだった。

 

「こっちも完了です!」

 

「いけます上級中尉!」

 

他の情報部員達からも完了の合図が浮き上がりジェルマンも最後の仕事に移った。

 

「よし…!これで…!出来たぞ!!“クレマンソー”に通信システムを譲渡する!」

 

ジョーレンは痩身のボタンをタップした。

 

クレマンソー”のシステムが譲渡されついに放送が始まった。

 

 

 

 

 

-全ての新共和国の者達へ告ぐ-

 

「新共和国の敗北は帝国の意表を突いた奇襲と圧倒的な殲滅によるものだった。痛ましいこの敗北は多くの兵や市民の心の支えを砕き、軍隊、政府、新共和国という全てを崩壊に導いた」

 

クレマンソー”の放送室でディゴール大臣は淡々と、それでいて熱を込めて語った。

 

この大臣の放送は映像付きで帝国領、新共和国領、中立領問わず中継され放送されている。

 

大臣はそんな大舞台でも臆する事なく口を開いた。

 

「その結果我々は皆希望を失い再び帝国の支配を許す事となってしまった。だが私や、今この場で戦う者達、遠く離れた場所で戦い続ける者達は希望を抱き続けている。確かに我々はあの日、帝国の空前の大艦隊と地上軍に屈した。動員が遅れ兵力差ではなく帝国の狡猾さと戦術、戦略の前にホズニアンを捨て退却を余儀なくされた。しかしこれで終わりだろうか?これで終わりなのか?希望は、我々が新共和国に、反乱同盟に見た希望は失われたのか?このまま敗北し続けるのか?いいや、それは違う!」

 

ディゴール大臣は力強く断言した。

 

それは違う、決定的な敗北ではない。

 

ディゴール大臣の絶対的な本心であり皆が心の奥底に持っている感情だった。

 

「新共和国元老院の議員は皆死亡、もしくは帝国に殺されたがそれは全員ではない。我々にはまだ“希望”がある!この私、シャール・ディゴール新共和国国防大臣と後に話す方の事を信じて欲しい。新共和国は何も失われてはいない!かつて帝国を打倒した時のように再び我々は帝国を打ち負かし戦う者達は増え続けるだろう!」

 

絶望するのはまだ早い。

 

諦めるにはまだ早すぎる。

 

かつて今よりも僅かな軍事力で立ち向かった反乱同盟軍に比べれば今はまだマシだ。

 

まだ戦える、まだ希望はある。

 

「新共和国は孤独ではない!新共和国は孤独ではないのだ!!まだこの国の為に戦う戦士達が銀河のあちこちに控えている!モン・カラ、ヤヴィン、キャッシーク、全ての惑星は未だ帝国を抑えつけ今すぐにでも足並みを揃え戦い続けるだろう!」

 

ディゴール大臣は高らかに宣言した。

 

やがて勝利を手にする為の戦いをまだ続けられる。

 

絶対的な敗北にはまだ遠い、絶対的な勝利はすぐそこだ。

 

「この戦争は、この新たなる銀河の戦争は我々の国の敗北で終わるのではない。この戦争の歴史は新共和国の敗北という文字で終わることはないのだ!帝国が誤りの言葉を垂れ、我々の戦いの時が如何に長引こうとも、どのような苦しみが降り掛かろうともこの真実が変わる事は決してない。銀河に潜む全ての新共和国兵達よ!我々の敗北では戦争は終わらない!帝国の敗北によって戦争が終わるのだ!」

 

国防大臣としてディゴール大臣は全ての兵士に語りかけた。

 

戦いは彼らが決める、彼らが勝利へと近づけるのだ。

 

「この銀河には、いつの日か必ず帝国を打ち破る方法がいくつも残されている!昨日強力な軍隊に敗北したのなら私とこの方の声を聞き明日、より強力な軍隊を作り勝利しようではないか!この銀河の運命が我々に掛かっているのだ!故に私の声だけでなくこの方の声も聞いてほしい!絶望のホズニアン・プライムから生きて帰った亡国の王女、レイア・オーガナ議員の声を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この放送は銀河系の全てで流された。

 

それはコア・ワールドのコルサントでも同様だ。

 

総統府の代理総統の部屋でもそれは流れたし将校や官僚達は皆驚きと怒りに溢れ様々な声が広がった。

 

一般の家庭にもこの放送は流され当然ユーリアとマインラート、ホリーも聞いていた。

 

「ねえお母さん、この人たちが敵なの?」

 

マインラートはホロネット・ニュースの映像に指を差し尋ねた。

 

ユーリアも険しい表情を浮かべ頷いた。

 

「この人達がマインのおじいさんも他の人も大勢殺したのよ。だからお父さんは命を賭けて戦っている。もう誰も殺させない為に」

 

「僕たちも戦うのかな?」

 

マインラートは怖気付く事なく尋ねる。

 

しかし隣のホリーは少し怖いものを見た感じだった。

 

そんなホリーの手をマインラートは優しく握った。

 

「もしかしたらね、でもきっとお父さんが全てやっつけてくれるわよ」

 

 

 

 

そんな気休めにも似た返答は当人のジークハルト達も知る由がなかった。

 

彼らはアンシオンの基地で親衛隊やファースト・オーダーの将校達とこの放送を聞いていた。

 

皆ホロネット・ニュースを映し出すモニターやホログラムに集まり怒りなどを募らせながら見ていた。

 

「一体どこからの放送でしょうか?」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は不安そうに疑問の声を上げた。

 

「分からん、だが連中よくもこんな事を抜け抜けと…!必ず打ち倒して殺してやる…!」

 

怒りと憎しみを激らせるアデルハイン中佐は拳を手のひらに叩き合せそう吐き捨てた。

 

仲間でなくてもアデルハイン中佐の紅蓮のような怒りが探知出来るだろう。

 

「落ち着け、今はとにかく全てを聞くしかない。これが何処から放送されてるかも分からないんだ」

 

ハイネクロイツ中佐は珍しく抑え役に周り苛立つアデルハイン中佐を宥めた。

 

彼の言う事は至極尤もだ。

 

何処から放送されているかも分からないものに怒りを当ててもしょうがないし調べる機械もないので今は全て聞くしかない。

 

だが快いものではないと言うのは確かだろう。

 

 

 

 

同様の放送を軌道上のエグゼクター級“ルサンキア”でも確認されていた。

 

ピュリフィケーション”から会議の為に“ルサンキア”に移ったフューリナー上級大将はシュメルケ上級大将と共にこの放送を見た。

 

今急いで部下に発信の出どころを調べさせている所だが調査には時間が掛かるらしい。

 

解析の報告はまだ届いていなかった。

 

「もしこれが帝国の施設から流されているとするならばそれはハッキングかそれとも奇襲による奪取か…」

 

「間違いなく後者だろう。通信ステーションを占拠しそれを媒介に放送している、そこの守備隊はもう全滅している頃だろうな」

 

フューリナー上級大将の問いをシュメルケ上級大将は冷たく答えた。

 

驚くべき事に彼の予測はほぼ完璧に当たっていたのだ。

 

普段とは違い2人とも笑みを浮かべず冷酷な鋭い眼光で放送を聞いて見ていた。

 

「これで新共和国と他の反乱分子は団結するだろう。新たな脅威の誕生だ」

 

フューリナー上級大将は放送を鼻で笑い口を開いた。

 

ある種の皮肉も込められている。

 

しかしシュメルケ上級大将共々彼らに焦りの色は見えなかった。

 

「構わないさ、敵が団結してくれるのなら指を差しやすく、一狩りに殺し易くなる。程よい敵というのは我々の力を増幅する為には必要な存在だからな」

 

シュメルケ上級大将にようやく冷笑的な笑みが浮かんだ。

 

予想外の事態さえ彼らには都合のいい駒に過ぎないのだ。

 

そして直属の上官である男もまた似た考えだった。

 

 

 

 

ヒェムナー長官はファースト・オーダーのハックス将軍と共にこの放送を見た。

 

彼はまだ視察の途中で教育方針の似たハックス将軍と意気投合し先ほどまで全ての予定をキャンセルして2人だけで語り合っていた。

 

そこでちょうどこの放送が入ったのだ。

 

「まずい事になりましたな」

 

ハックス将軍はホログラムに移る状況を見つめてヒェムナー長官に告げた。

 

滅ぼした筈の新共和国が蘇る可能性があると言いたげな表情だ。

 

「心配する事はありません。あなた方の力があれば今の新共和国など団結した所で微々たる脅威です。それに我々の教育が合わされば帝国はさらに強くなる」

 

ハックス将軍は大きく頷いた。

 

自分達の世界に浸り込んでいる狂人達にとっては大した脅威に感じられなかった。

 

 

 

 

だが厳しい目で見ている者もいる。

 

それはエグゼクター級“エクリプス”でファースト・オーダーの高官達といた最高指導者スローネ大提督もその1人だった。

 

隣にはボラム大将軍、グランドモフランド、イェール・カールセン提督がいる。

 

放送に映る人物を睨みつけるように凝視していた。

 

「新共和国も再起するようだな、我々のように」

 

スローネ大提督は低く呟いた。

 

地獄から這い上がった者達は油断ならぬ相手となる。

 

それはファースト・オーダーも第三帝国もそうだ。

 

地獄の経験者達は一回りも二回りも強敵となって帰ってくるのだ。

 

「第三帝国は彼らに勝てるのか…」

 

「分からんが勝たねばならないのは我々も同じだ」

 

ボラム大将軍の問いにグランドモフランドは答えた。

 

どの道新共和国は倒さねばならない。

 

彼らこそ本来自分達が打ち倒す敵なのだから。

 

 

 

未知領域の奥底、チス・アセンダンシーでも同様に通信傍受により状況を確認していた。

 

「ヴィルヘルム、どうやら新共和国は蘇るようだな」

 

「はい。ですが陛下、蘇ったからとはいえそれが勝者だとは限りません。無論我々も含めて」

 

「手厳しいな」とリヴィリフは苦笑を浮かべた。

 

「しかしこれで銀河は更に混乱するだろう。どうする、我々はまだ傍観しているか?」

 

エリンメルヒ・タッグ最上位元帥は彼に尋ねた。

 

ラストーレも同様の質問を持っている様子だ。

 

「いや以前決めた通りだ、我々に変更はない。もう我らが負ける事はないだろうさ。そうだろう?“G()r()o()ß()a()d()m()i()r()a()l()”」

 

 

 

 

一方その放送をより険しい面持ちで見つめていたのは特に帝国国防軍の上級将校達だ。

 

ヴィアーズ大将軍はナブーの軌道上でエグゼクター級“アナイアレイター”の艦内で放送を聞いていた。

 

隣にはコヴェル中将やアイガー准将、スターク中佐、ロット将軍、ゼヴロンがホログラムを囲んでいる。

 

「大変な事になったなヴィアーズ…」

 

同い年のロット将軍はそう呟いた。

 

ヴィアーズ大将軍も小さく頷いている。

 

「反乱軍めぇ!よくもぉ!」

 

「落ち着けスターク中佐、ここで怒ってもしょうがない」

 

興奮するスターク中佐をアイガー准将は冷静になるよう押さえた。

 

「敵の出どころは何処でしょうか?」

 

コヴェル中将はヴィアーズ大将軍に尋ねる。

 

するとブリッジから報告が飛んできた。

 

「確認しました!敵は恐らくイセノの通信ステーションから放送を行なっています」

 

士官の報告は特にゼヴロンを驚かせた。

 

「イセノといえばデノンのすぐ近くだ!父さん!」

 

「ああ、直ちにデノン艦隊をイセノへ向かわせ緊急防衛体制を敷くよう指示を出せ。我々もすぐデノンに戻るぞ」

 

アナイアレイター”は反転し配下の艦隊と共にハイパースペースへと入った。

 

 

 

同じように直接命令を出す者がコア・ワールドの惑星ハンバリンにもあった。

 

軌道上の艦隊を束ねるエグゼクター級“リーパー”の中でオイカン元帥は放送を聞き部下から報告を受けていた。

 

「新共和国軍は恐らくイセノの通信ステーションを通して放送を行なっています」

 

「イセノは確か親衛隊の宇宙艦隊の管轄だったな?」

 

「はい、ですが放送が成功しているという事は…」

 

カイント提督は険しい表情を浮かべ最悪の事態を濁した。

 

だが間違いなくカイント提督が思い浮かべる最悪の事態が起こっているだろう。

 

「周辺の帝国基地への奇襲攻撃はこの為の布石か…周囲の艦隊を直ちにイセノへ向かわせろ!我々もジャンプの用意だ」

 

「了解」

 

幕僚達が各艦に指示を出す為に一旦オイカン上級元帥の下を離れた。

 

1人になった所で上級元帥は小さく呟く。

 

「この戦い長くなるかもしれんな…」

 

 

 

 

その考えとは全く反対の思いを持つ者がマンデイターⅢ級“リベンジ・オブ・サイス”の艦内にいた。

 

その男、ケナー・ローリング大将軍は放送を聞きながら他の将校同様怒りを募らせ吐き捨てた。

 

「忌々しい反乱分子どもめ…!やはりあの時に殲滅しておくべきだった!」

 

ホズニアン・プライム陥落直後の状況を思い出しローリング大将軍は更に怒りを募らせる。

 

このように人物や帝国軍人としては比較的典型的なわかりやすいタイプなのだがそれ故に慕われる面もある。

 

彼はオイカン上級元帥とは別に固く誓う。

 

「必ず速やかにその首を取ってやる!」

 

 

 

 

だがオイカン上級元帥と同じ思いの人物も少なくはない。

 

特に大セスウェナを治めるグランドモフヘルムート・ターキンは。

 

彼はモッティ提督やプラージ准将、デルヴァードス少将、ザーラ司令官、そしておじ上と呼ばれるエルデスト・ターキン上級将軍と共に放送を聞いていた。

 

「これは大変な事になってきましたね…」

 

「ええ…再び新共和国との大きな戦いに備えなければならないかもしれん…」

 

モッティ提督の呟きにデルヴァードス少将が同調した。

 

プラージ准将も不安げな表情を浮かべている。

 

「再び大規模な戦いですか…」

 

「ああ、やはりこの戦い長くなるだろうな。厳しい時代になりそうだ、ヘルムート」

 

ザーラ司令官はそう呟きエルデストはヘルムートの肩を優しく叩いた。

 

厳しい時代、彼はそう評価した。

 

だがこのエリアドゥ含めたセスウェナに一時でも厳しくない時代などあっただろうか。

 

先祖達が乗り越えてきたもの、自分も乗り越えてみせる。

 

ヘルムートはこの時大きな試練を確信したのだ。

 

 

 

 

一方この放送を少し変わった目線で見ている者もいた。

 

当然そんな人物がコアからミッド・リムにいるはずもなくアウター・リムの外れ、ケッセルの御令嬢その人だ。

 

放送はケッセルまで届きクラリッサはマルスと共に聞いていた。

 

「えらいこっちゃ戦争ですわ!…というやつですわ…」

 

何処か溜息混じりにクラリッサはそう呟いた。

 

「ええ、やはり単騎での決着など無理な話です」

 

「でもその方が面白くなってきましたわ。戦いの果てに何があるのか貴方と見届けませんと」

 

「はい」

 

 

 

 

それぞれの評価の中にクワットの重鎮達のものあった。

 

ディープ・コアからクワットに戻ったヴァティオンとオルトロフは2人で放送を見ていた。

 

「おいおい…なんかとんでもない事になってきたんじゃねぇのか…?」

 

オルトロフは少し怖気付いた様子で口を開いた。

 

だが顎を撫でるその顔はやはり微笑混じりだ。

 

「ああ、とんでもない事になってきた。また俺たちが忙しくなっちまう地獄の時代の幕開けだ」

 

「よくねぇなほんと…まあでも忙しく働くか」

 

「ああ、忙しく働こう。我々は元々そういう星の下に生まれたからな」

 

ニヒルな笑みを浮かべヴァティオンはそう吐き捨てた。

 

 

 

 

エイリアン種族殲滅を実行する親衛隊保安局の長官ハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐はコルサントへの帰還中のインペリアル級の中で放送を聞いていた。

 

2人とも余計近寄り難い雰囲気を醸し出している。

 

「愚かな連中だ……我々の手ばかり煩わせる」

 

「はい、ですがこれはチャンスでしょう。親衛隊の勢力拡大と最終的な平和への解決の為のプロセスを加速させる事が出来ます」

 

「ああフリシュタイン、故に我々も忙しくなる。早速情報部統合を進言する準備をしよう」

 

「はい」

 

第三帝国の暗部を担う彼らにとってもこの状況は想定外なものだった。

 

しかし全員が心の淵ではこう思っている。

 

それをアンシオンのジークハルトは一言で代弁した。

 

 

 

「だが勝つのは我々だ。誰が何を言い何をしようと最後の勝者は我々だ」

 

 

 

誰しもが勝者と感じるこの第二次銀河内戦、終わりはまだ遠い先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

-この戦いは第二の銀河内戦だ-

 

「私はオルデランの悲劇と同様にホズニアンの悲劇を生き残りました。そしてあの時と同様、悲劇の現場をこの目で目撃し新共和国という私達の祖国が、大勢の方々が命を賭して作り上げたものが崩れる姿を目にしました。私達が戦ってきた多くの日々が過去に葬り去られ再び過去の暗黒の時代に戻ろうとしています。私達は生き残ったものとしてこれを、食い止めなければなりません」

 

ディカーの放送室からレイアはディゴール大臣と同じように放送を行った。

 

しかし特殊な回線を使い彼女がディカーから放送を行なっているという事は分からないようになっていた。

 

レイアは静かに、そして重く聖母のように語りかけた。

 

「私には二つの罪があります。一つは帝国に対する戦いを躊躇う元老院を止められなかった事、もう一つは新共和国の崩壊を止められなかった事。平和を強く望みすぎるあまり私達は臆病で弱い存在へと落ちていたのかも知れません。ですが、私は罪を償い市民と、新共和国と、自由の為に戦うみなさんの為に再び戦う事を決意します。この戦いは長く険しいものになるでしょう。多くの苦難と暗黒が訪れわたしたちを絶望へと誘おうとするでしょう。ですが私は、私達は皆、決して折れる事はありません!銀河に自由が訪れる日まで私は戦い続けます!皆さんが私に『我々の成すべき事はなんだ?』と問うならば、私はこう答えます。フォースが与えし銀河に残る全ての力を使い戦い続ける事だと」

 

自由の為に、それは銀河内戦中何度も兵士たちの口から聞こえた言葉だ。

 

そして自由の戦士達は未だにこの銀河から消える事はない。

 

新共和国は崩壊しても自由の灯火は消す事は出来ないのだ。

 

「帝国は以前にも増して暴政を振るい人々を苦しめ、未だかつてない悲惨で残虐的な殺戮を行うでしょう。私達は戦い続けこの行いを止めさせる、これこそが私が皆さんに告げる成すべき事です。帝国を倒しこの暴政と殺戮を止めるのです。そして皆さんは私に『我々の目標は何か?』と問うでしょう。私は自由を取り戻す為の勝利だと答えるでしょう。たとえ勝利の道が悲劇と苦難で溢れていたとしても帝国を倒し勝利を得なくては私達は自由を手にする事は出来ません!」

 

第三帝国は多くのエイリアン種族を虐殺し続けていると聞く。

 

それはかつての帝国よりも病的で異常的なもので悲惨かつ残虐なものだ。

 

早く食い止めなければならない。

 

その為の勝利なのだ。

 

レイアは再び語りかける。

 

「私達が気力と希望を失い帝国を倒し損ねる事はありません。私達は最後まで戦います。私、レイア・オーガナが今いる場所は教えられません。ですが皆さんが望むのであれば私はどこへでも行くでしょう。私達は皆同じ自由の為の戦士です。私達は再びホズニアン・プライムで戦うでしょう。この銀河系の宇宙でも、惑星でも戦うでしょう。私達は力をつけ銀河の果てから中心でも戦うでしょう。どんな苦難があろうとも私達は自由の為に戦います。私達はアウター・リムの果てで戦い、ミッド・リムの星々で戦い、拡張領域(エクスパンション・リージョン)の草原や過酷な環境で戦い、インナー・リムの街頭で戦い、コロニーズの都市で戦い、やがてコア・ワールドの中で戦うでしょう」

 

それは確固たる決意であり長き戦いを表していた。

 

銀河の至る所で戦う。

 

やがて訪れる勝利の日の為に。

 

「我々が降伏する事は決してありません。もし仮に銀河系が再び帝国に全て制服され、市民が苦しみ殺戮が平然と行われる暗黒の時代が一時でも訪れるのなら我々はフォースの加護と共に力を取り戻し、全力を持って自由と解放の為に銀河の果てまで新共和国艦隊が立ち上がり私達は皆戦い続けるのです!」

 

暗黒の中にも光はある。

 

絶望の中にも希望はある。

 

希望がある限り新共和国に負けはない。

 

人々は立ち上がるのだ。

 

海岸から、水際から、野原から、街頭から、丘から、惑星から、星系から、宙域から全て。

 

「この放送を聞く銀河系全ての皆さん、私は立ち上がろうとする全ての皆さんを歓迎します。仮に武器を持っていなくても、今戦う力がなくとも構いません。私はその戦うと決めた意志を歓迎し必ず応えます。何が起ころうともこの銀河から抵抗の炎が消える事はありません、何が起ころうとも消えてはならないのです。その為に私は明日も今日のように皆さんに語り続けます」

 

レイアは一息起き銀河系に宣言した。

 

 

「私レイア・オーガナは帝国を打倒し自由を取り戻す為、今ここに“レジスタンス”の結成を宣言します」

 

 

つづく



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未知領域の暗黒
Next Rebel


7ABY

銀河内戦に敗北した銀河帝国は新たな指導者に導かれ失われた首都コルサントを奪還すべくコルサント臨時政府に宣戦布告。

コルサントを奪還した帝国は勢い失わぬまま仇敵新共和国に宣戦し再び大戦の火蓋を切る。

帝国は電撃的な攻勢で新共和国の首都、ホズニアン・プライムを陥落させ新共和国を崩壊させた。

僅か2年で帝国の復讐は果たされたのだ。

だがこれは新共和国にも第三銀河帝国を名乗る帝国すらも予測不可能な地獄の幕開けだった。

新共和国との戦いに勝利した第三帝国だったががそれは第二次銀河内戦という戦争の終わりではない。

各地に逃れた新共和国残党軍は抵抗を続け第三帝国を由としない旧帝国の勢力が牙を剥く。

未知領域に逃れたファースト・オーダーも出現し新共和国軍は再び攻勢に出ようとする。

この戦争の終わりは程遠く、新共和国の新たな勝利が再び戦いを長引かせた。

新たな抵抗組織、レジスタンスの産声を上げる声明はイセノから放たれた。

銀河の系全ての人々がレイアと国防大臣シャール・ディゴールの声を聞きある者は希望を持ち、ある者は今後の対策を成し、ある者は静かに放送を聞いた。

しかし人々はまだ気づいていない。

未知領域から迫る者達の姿を。

ジークハルトが、ジェルマンがそれぞれ進む遠く暗い道のりの果てを。

この第二次銀河内戦の行方はまだ誰にも分からない。


我々の長きに渡る銀河の歴史は常に戦争と共にありました。

 

()()()()()”と囃し立てられる銀河共和国、ひいては旧共和国の時代の更にその前から戦争は共にあったでしょう。

 

統一戦争、第一次グレート・シズム、タイオニーズ戦争、アルサカン紛争、デュイヌオグウィン闘争、ピウス・ディー聖戦、ウェイマンシーの嵐。

 

更に闘争は続きやがて戦争の発端はジェダイとそこから派生したシスとの二分された宗教大戦争が本筋となります。

 

無論そうでない事例も多いでしょう、例えばガンクの大虐殺やマンダロリアン戦争、ですがそれ以上に彼らの戦いは激化していきます。

 

百年の闇、ハイパースペース大戦、シス大戦やシス内戦を含めた旧シス戦争、ジェダイ内戦。

 

やがて大銀河戦争により共和国は敗北し“()()()”冷戦が始まります。

 

その後も悲惨な戦いを続き共和国もジェダイもシスすらも疲弊し最終的に新シス戦争によりシスは滅亡したとされ戦争は終結しひとまずは1,000年の平和を手にしました。

 

ですが、その間にも戦いは続き戦い以上に銀河は苦しみに溢れていきました。

 

多くのものが堕落し最盛期の力を失いアウター・リムからコア・ワールドですら誰かしらの悲鳴や渇望が聞こえる、そんな時代が訪れます。

 

やがてその不満はナブー危機や分離主義危機に結び付き近代戦の幕開けとなる1,000年ぶりの大戦争、クローン戦争を引き起こしました。

 

再び銀河に大きな戦争が戻ってきたのです。

 

それは我が祖国が建国され反乱同盟軍、現在の新共和国との銀河内戦も同様です。

 

あの頃の我らにとって平和とは文字通り縁のないものでした。

 

特に悲惨なあの戦い、“第二次銀河内戦”では。

 

我々は皆死に物狂いでした。

 

相手もそれは同様で皆平等に狂い狂気の道を進んでいたでしょう。

 

狂気が狂気を包み、我々を彼らの狂気の世界へ連れていこうとする。

 

死を超えた恐怖と狂気が一時、あの銀河系を包んでいたのです。

 

先に申し上げたジェダイやシスの戦いが霞む程の大きな狂気が蔓延っていました。

 

もし我々が負けていたとしたらその後の戦後世界はきっとより狂気に満ちた世界になっていたでしょう。

 

考えるだけで身の毛がよだつ、苦笑いを浮かべるのが精一杯ですよ。

 

だからこそ我々は狂気の世界に逆戻りさせぬ為常に立ち続ける必要があります。

 

今は戦後、ですがいつ戦前となるかわからないのです。

 

特に今日における超兵器の発展は目覚ましくやがては遂にこの銀河を消失し、自らの手で自らを抹消してしまう日が来るかもしれません。

 

そんな最悪の未来を防ぐ為にも我々が正気と思えているうちに踏みとどまる必要があります。

 

それこそが勝利者である我々の務め、狂った大戦争を始めない為に我らはこの“()()()()()”に勝利する必要があるのです。

 

-ある議会でのスターファイター空軍長官の答弁より抜粋-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急げ!!さっさとしないと爆発するぞ!!」

 

最後部でブラスター・ライフルを連射しながらジョーレンは通路を走る隊員達に声を掛けた。

 

乗ってきたセンチネル級が停泊するハンガーベイのドアまで辿り着きジェルマンやノールマン大尉らと共に迫り来る追撃の帝国兵を撃退している。

 

作戦は全てうまく成功した。

 

上手すぎてこの後が怖くなるほどだ。

 

ディゴール大臣の放送と共に最後の最後まで抵抗していた帝国艦隊は遂に最後の一隻のインペリアル級が撃沈し全滅した。

 

TIEスターファイター隊も残った機体は全て特攻を覚悟で突撃し全滅したらしい。

 

そのせいで予想外の損失を被ったのだが作戦の成功率からすれば微々たるものだ。

 

レイアとディゴール大臣の声は銀河全土に響き渡り“()()()()()()()()”、レジスタンスの産声を銀河に轟かせたのだ。

 

希望の灯火が消えていない事が示されやがて銀河中の人々が立ち上がるきっかけとなるだろう。

 

その布石を示した事が何よりの成功だった。

 

そしてこの後だがこの後はひたすら早くこのイセノから脱出するだけである。

 

既にこの放送を聞き近隣のデノンやビブロスのような惑星からは帝国軍の大部隊が出撃し始めている頃だろう。

 

もはや時間はないのだ。

 

既に全艦がディカーへの帰路を目指し座標計算しており残すはこのステーションにいる特殊部隊だけだった。

 

「ノールマン!ジェルマン!とにかくありったけの爆弾を投げろ!」

 

そう言いジョーレンはサーマル・デトネーターを投げつけ、ノールマン大尉とジェルマンはサーマル・インプローダーと近接反応爆弾を投げ込んだ。

 

起動と同時に全員が急いでドアの内側へ入りジョーレンがコントロール・パネルを破壊する。

 

ドアは完全に閉鎖され三つの爆弾の大火力が頑丈なブラスト・ドアに若干の凹みを生じさせジェルマン達はその間に急いでセンチネル級に急ぐ。

 

ハンガーベイには到着した時にはなかったストームトルーパーや宇宙軍トルーパーの屍が並んでおり相当の戦闘があった事を想起させた。

 

ジョーレンを一番最後に3人が昇降ランプからセンチネル級に乗り込みハッチが締まった。

 

「今出します!」

 

コックピットに急ぐと既にヘンディー曹長とブロンス曹長がコックピットにおり機体を離陸状態まで操作していた。

 

「頼むぞ!」とジョーレンは2人の肩を叩きセンチネル級は浮遊しハンガーベイから離陸した。

 

機体を反転させ偏向シールドが張られているハンガーベイから離脱する。

 

離脱する瞬間にセンチネル級は最大船速に到達し他の離脱しようとするスターファイター隊と合流した。

 

隣には2機のUウィングと一隻のGR-75中型輸送船がいた。

 

輸送船の方から音声通信が届く。

 

『少佐殿!ご無事でしたか!』

 

ハーディ上級曹長の声だ。

 

彼らは当初の予定通り倉庫に突っ込んだGR-75中型輸送船に回収されて脱出が成功していた。

 

これで全ての特殊部隊が欠ける事なく脱出出来た。

 

「ああ、余裕だったさ。ジェルマン、起爆の準備は?」

 

ジョーレンは背後を振り返り席に座るジェルマンに尋ねた。

 

彼は満面の笑みで自爆シークエンスのカウントダウンが映るタブレットの画面をジョーレンに見せた。

 

画面には残り5秒と書いておりどうやらジョーレンが立ち上がりセンチネル級のコックピットから無理やり後方を除いた瞬間ちょうど5秒が経過したようだ。

 

レジスタンス軍のスターファイターやセンチネル級の背後で通信ステーションは大爆発を起こし跡形もなく吹き飛んだ。

 

「これで証拠は隠滅…作戦は完遂か…」

 

「ああ…!やった!」

 

安堵するジョーレンの隣でジェルマンはガッツポーズを浮かべ大喜びだった。

 

ヘンディー曹長とブロンス曹長もハイタッチしノールマン大尉も一息ついていた。

 

ジェルマンにとっては初めての大勝利だろう。

 

彼は行くところ今までギリギリの負け戦ばかりでこのような勝ち戦はまだ経験した事がない。

 

当然嬉しいに決まっている。

 

喜び興奮する新生レジスタンス軍の将兵達は皆歓喜のうちにディカーへと帰還した。

 

緊急の帝国艦隊が到着する頃には既にイセノの軌道上には破壊されたジャンクのデブリ帯があるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

レジスタンスの急襲は銀河系を、第三帝国を大いに震撼させた。

 

帝国情報部、親衛隊情報部、宇宙軍情報部含めた諜報機関は皆発信源と逆探知に躍起になり両本部は無言の忙しさに包まれた。

 

帝国軍の国防軍、親衛隊の動きも早くデノンからは声明終了の15分後には既に臨時の艦隊が編成されデノンを出撃していた。

 

オイカン上級元帥率いる旗艦“リーパー”の第一艦隊もハンバリンを出立しイセノに向かっていた。

 

他の周辺域からも続々と救援部隊が送り込まれ分散した帝国艦隊が一挙に集中した。

 

それは帝国の首脳部も同様で銀河系に散らばるほぼ全ての高官達に対してコルサントへの緊急招集令が下された。

 

既にイセノに到着していたオイカン上級元帥も“リーパー”単艦で直ちにコルサントに向かい、ローリング大将軍も徹底した大攻勢を支持し“リベンジ・オブ・サイス”でコルサントへ向かった。

 

イセノ、デノンへ向かう最中のヴィアーズ大将軍一行も途中で進路を変え“アナイアレイター”でコルサントへ急いだ。

 

既にインペリアル級でコルサントへ向かっていたハイドレーヒ大将はいち早くコルサントへ到着し親衛隊保安局と親衛隊情報部、帝国情報部に喝を入れ指揮を取った。

 

とんでもない悪魔の帰還は十分に職員達の肝を冷えさせたらしく仕事能率は良くも悪くも何倍か上昇していた。

 

ひとまずコルサントでは徹底した情報統制が敷かれ『このようなテロを増長させる違法放送を許してはいけない』と繰り返しホロネットで流されていた。

 

既に今いるメンバーでCOMPNOR、帝国統治評議会の臨時会合が開かれ代理総統の下対策が練られ始めていた。

 

しかし長官のヒェムナーが到着するまでは代替案や一部の議題しか話し合われず実質的にはヒェムナー長官の到着を待つ事となっていた。

 

ヒェムナー長官とシュメルケ上級大将、フューリナー上級大将らファースト・オーダー視察組の到着はハイドレーヒ大将の到着から1時間後の事であった。

 

急ぎ艦隊と部隊を纏め一行はコルサントへの帰路を急いだ。

 

彼らに続き同盟国としてスローネ大提督やファースト・オーダーの高官が乗り込むエグゼクター級“エクリプス”もコルサントへ急いだ。

 

同盟者として彼らも議会への参加が求められたのだ。

 

ヒェムナー長官はコルサントに到着するなり代理総統に面会しすぐに議会へ急いだ。

 

シュメルケ上級大将とフューリナー上級大将も親衛隊本部へ急ぎ上級大将らと共に会議を始めた。

 

その間にスローネ大提督は代理総統と面会ししばらく最高指導者同士会話を交わしていた。

 

一方国防軍の高官達も続々とコルサントに集結していた。

 

既にホログラムでの会議を行なっており大体の決議は完了していたのだがやはり形というものは重要である。

 

まずヤヴィン攻撃を担当していたローリング大将軍の“リベンジ・オブ・サイス”が一番最初に到着した。

 

次にオイカン上級元帥の“リーパー”、ヘルムートの“エグゼキュートリクス”、ヴィアーズ大将軍の“アナイアレイター”が到着し全ての国防軍高官がコルサントに到着した。

 

軌道上に浮かぶコルサント本国防衛艦隊と共にこの強大なドレッドノートの艦列はホロネット・ニュースによって大々的に報道する。

 

何せエグゼクター級、アセーター級、マンデイターⅢ級とスター・ドレッドノートが勢揃いだ。

 

しかもエグゼクター級に至っては“リーパー”、“ルサンキア”、“アナイアレイター”、“エクリプス”と現存するエグゼクター級がほぼ全て揃っているのだ。

 

これを報道しないわけにはいかないだろう。

 

閣僚や評議員、モフや国防軍人、親衛隊員らも同様にホロネット・ニュースによって報道され帝国の結束力を示すプロパガンダに利用された。

 

かなり仰々しい様子ではあったが国民の不安は少なからず解消されただろう。

 

それは帰還したジークハルトも肌で感じていた。

 

「上級大佐、ご命令通り地上へ警備部隊を展開しコルサントの警備を当たらせています」

 

ヴァリンヘルト上級中尉が地上に展開した保安局や歩兵隊の将校らと共にジークハルトに報告した。

 

ジークハルト達の第三機甲旅団はシュメルケ上級大将にコルサントへの帰還をお供するよう言い付けられ急いで旅団の全兵器と全兵員を“ルサンキア”に押し込み再びコルサントへ帰還したのだ。

 

なんでもシュメルケ上級大将によれば「コルサントに未だ潜む反乱分子や危険種族が今回の放送により妙な考えを拗らせてテロ行為に走った時に君の能力と部隊が必要なのだ」らしい。

 

確かに保安局員一個中隊と幾つかの暴動鎮圧可能な歩兵部隊を持っているが私兵軍とはいえ我々は機甲旅団であり専門の軍事部隊だ。

 

治安維持は警察や保安局の専門で我々ではないしそもそも全く違う役割をやれというのは無茶な話なのだ。

 

まあ余計な事を考えても仕方がないと割り切り出来る限りの事はしているが。

 

「各隊に1人は保安局員の専門をつけろ。特に逮捕する時はなるべく保安局員の指示に従わせるんだ」

 

「了解しました」

 

ヴァリンヘルト上級中尉は他の将校らと共に振り返りその場を後にした。

 

重たい息を吐きながらジークハルトは親衛隊本部の窓辺からコルサントの大地を見つめる。

 

丁度今は日も暮れ始めた夜頃だった。

 

ジークハルト自身は生きてはいないがこのコルサントは随分と変わった。

 

様々な管制などの影響か夜間の都市部の明かりは若干少なくなったように思える。

 

帝国時代より前の旧共和国時代の堕落した、あの腐敗の象徴に近い眩いコルサントはジークハルトの眼前には存在しなかった。

 

灯りはあっても静かであり随分とノスタルジックになる哀愁を醸し出していた。

 

まるでどこか今の第三帝国を鏡で写しているかのようだ。

 

随分と変わってしまった、この都市も、この国も。

 

そして恐らく、私も。

 

「そんな事ないって、お前はお前のままだよ」

 

ジークハルトは振り返り息を荒げた。

 

そこに声の主はおらずただ雑談を交わす何人かの将校や下士官の姿しかなかった。

 

「また……幻聴なのか…?」

 

瞳孔が開き冷や汗が垂れ荒げる息のままジークハルトは周囲を見渡した。

 

幻聴じゃなければどれだけよかった事やら。

 

アデルハインとハイネクロイツ、そしてお前が今の旅団にいたら幾分か私の苦労も吹き飛ぶのだが、自業自得か。

 

「おいおいそんな浮かない顔してどうした?」

 

今度は幻聴ではない聞き馴染みのある声だった。

 

いつものハイネクロイツ中佐だ。

 

バレないようにこっそり汗を拭い平静を装う。

 

「別に、ただこれから…親衛隊保安局の本部に行くだけだ」

 

「うわぁ…それは最悪だ」

 

しっかり勘違いしてくれたようで何より……ではないがまあよかった。

 

正直この憂鬱さは親衛隊保安局の本部に向かう所も大きいかもしれない。

 

あそこは魔窟である親衛隊の中でも特に魔窟だ。

 

全員狂人と思ってもいいかもしれない。

 

「そうだ、丁度いいからお前も来い。余計な事言わなければ、かなりの高官だしハイドレーヒ長官閣下もパイロットらしいしな」

 

「えっ嫌だよ、アデルハインの方を連れて行けよ」

 

「アデルハインはモーデルゲン上級大将に呼ばれている。私1人で行こうと思ったがお前の運が悪かった、行くぞ」

 

ジークハルトは嫌がるハイネクロイツ中佐を引っ張り親衛隊保安局のブースまで引き摺っていった。

 

「そうだハイネクロイツ、お前に一つ頼みたい事があってな……」

 

「ん?」

 

道中ハイネクロイツ中佐にジークハルトは小さく耳打ちした。

 

中佐は全てを聞き終えると険しい顔を浮かべ小さく頷いた。

 

「すまんな…私情に巻き込んでしまって」

 

ジークハルトは顔を落とし彼に謝った。

 

こんな暗い顔をするのは久しぶりだ。

 

ハイネクロイツ中佐は微笑を浮かべ「いいんだよ」と答えた。

 

「別に蔑む事じゃねぇさ。父親として当然だと思うぜ俺は。もっと気を楽に持てよ、旅団長」

 

ジークハルトは申し訳なさそうな微笑を浮かべた。

 

それは今まで前線で一度も見せたことのないような微笑だった。

 

 

 

 

 

 

-帝国領 クワット宙域 惑星クワット-

クワットもコルサントほどではないが放送の影響で暫し忙しい状態にあった。

 

ヴァティオンはプリーター級スター・バトルクルーザーに乗り込みコルサントへ急ぎクワットでも重役や閣僚達を集めた緊急会議が開かれていた。

 

またもしかしたら新共和国軍がこのクワットを攻撃するかもしれないとクワット宙域艦隊及び帝国駐留艦隊は全艦警戒体制に入っていた。

 

議会はコルサントの会議に参加しているヴァティオンに変わってプレスタが代理の議長を務めていた。

 

席にはクワットの十家の貴族達が席についている。

 

「例のダミーによれば次の攻撃予定地は恐らくここらしい」

 

ランザー・デポン重役はホログラムを提出し役員や閣僚達に見せた。

 

彼は“ザ・テン”、デポン家の棟梁であり他の10人と同じくヴァティオンとは長い仲だ。

 

ランザーは他の者達と共に諜報活動などを行なっていた。

 

「惑星“ノルマンディー”。コロニーズの惑星でホズニアン・プライムと一直線の距離、何本かのハイパースペース・ルートの上にありイセノと同じく帝国軍の守りの要所だ」

 

星図の上に示された惑星ノルマンディーが赤く染まる。

 

「確かにここを突破すればあっという間にホズニアン・プライムだろうがかなり難しいぞ?」

 

アルタース・アンドリム重役はランザーに疑問を投げかけた。

 

アンドリム家もザ・テンの一員であり本来デポン家とは関係が悪いのだが現代では別だ。

 

またアルタース自身はクワット惑星防衛軍やクワット宙域艦隊を監督しており軍事的な心得も備えていた。

 

「勢いと奇襲で突破するつもりだろう。どの道このノルマンディーを破らない限りは連中に勝利はない」

 

「問題はどうやって情報を帝国に流すかです。やっぱりオルトロフの兄上に頼みますか?」

 

「また?」

 

プレスタの提案にオルトロフは思わず口を開いてしまった。

 

「まあそれしかないだろうな…」

 

「ああ、俺もそう思う」

 

ザ・テンのタブリア・クーラルヴルト重役とベルター・クニーレン重役は立て続けに賛同した。

 

オルトロフは仕方ないとため息を吐き「なんとかするかぁ」とボヤいていた。

 

「後は武器の提供だな……」

 

タンブリアは資料を見つめ口を開いた。

 

帝国と新共和国、レジスタンスの戦いは恐らく激化し両者更に兵器の増産を要求してくるだろう。

 

特にただでさえ普段からとんでもない桁の兵器を生産するよう要求してくる第三帝国は今回の事で更にエスカレートしそうだ。

 

彼らは経った数年で第一銀河帝国軍19年分の兵力を上回るつもりらしい。

 

かなり無理な話だが代理総統自身はその様子だ。

 

「こないだインコムや新共和国の国有工場を抑えただろ。あそこをそのままなんとか流用出来ないか?」

 

隣のベルターはタンブリアに提案した。

 

タンブリアは唸り声を上げ頭を掻いた。

 

代わりに反対側のオルトロフがタンブリアの代わりに答える。

 

お上(帝国)に隠れてやるのは中々厳しいし改修にも時間が掛かる。何より人が足りない」

 

「結局はそれか…」

 

ベルターはオルトロフの最後の発言に頭を抱えた。

 

現在のクワットはエイリアン種族が第三帝国に徴収されその分の労働者が少なくなっていた。

 

「そこは作業用のドロイドを使うしかない……配置は後で考えるとするが」

 

「そうですね…大変な仕事になると思いますが、皆さん頼みましたよ」

 

「ああ…」

 

『皆、元気そうにやってるじゃないか』

 

突然会場のホロプロジェクターが起動しヴァティオンの姿を映し出した。

 

コルサントからホロ通信で会議に飛び入り参加しているのだ。

 

「ヴァティオン、突然現れたから驚いたぞ。コルサントの会議はもういいのか?」

 

『会議?そんなものはない。ただ親衛隊や国防軍、お偉い方に「よろしく頼みます」と言われただけだ。今やってる本会議には出席すら出来てないからな』

 

「なるほど…まあ呼ばれたのはクワット・ドライブ・ヤード社の会長としてだろうからな…」

 

「それで暇になってコルサントから掛けてきたわけか」

 

オルトロフは苦笑いを浮かべながらホログラムのヴァティオンに声を掛けた。

 

だがオルトロフの口調とは反対にヴァティオンの顔は随分と険しいものだった。

 

『それもあるが今緊急で入ってきた情報を急いで伝えたい。全員、心して聞いてくれ』

 

「一体なんですか?ヴァティオンの兄上」

 

プレスタは思わずヴァティオンに尋ねた。

 

重苦しい雰囲気のまま彼から今後の銀河を左右する重大な情報が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊保安局本部-

「ジークハルト・シュタンデリス上級大佐とランドルフ・ハイネクロイツ中佐をお連れしました」

 

白服の保安局将校が敬礼し黒服のジークハルトとハイネクロイツ中佐は目の前の金髪の男性に同じように敬礼した。

 

金髪の男、ハイドレーヒ大将は簡易式の敬礼を返し案内の将校を下がらせた。

 

「時間通りだな」

 

「はい、シュメルケ上級大将の命令により既に一部の保安中隊と暴動鎮圧可能な歩兵部隊をコルサントに展開しています。ご迷惑なら直ちに下がらせますが」

 

簡潔的な報告で済ませ難癖を付けられない為に最低限の譲歩を付け加えておく。

 

下手に色々話すより簡潔な報告で済ませておくのがこの人に合っているような気がする。

 

長い間話していると変なものに取り憑かれそうだ。

 

「その件は私が上級大将に直接頼んだ事なので問題ない。素早い手配に感謝する」

 

「全てはコルサントの治安維持と市民の安全保護の為ですから。それで、私を呼んだ理由はなんですか?」

 

ジークハルトは単刀直入に尋ねた。

 

この冷酷な保安局長官に物怖じせず尋ね込むのは中々に勇気がいるがそんな事気にしている場合ではない。

 

ハイドレーヒ大将は口元は微笑を浮かべていても獣を宿す瞳はそのまま話し始めた。

 

地下階層(アンダーワールド)で大規模な暴動、抵抗活動を察知し鎮圧部隊を展開する事になった。その指揮をこのフリシュタイン大佐と共に取っていただきたい」

 

「私がですか?適任者は他にもいると思いますが」

 

「これもシュメルケ上級大将の命令だ。それに君の手腕ならすぐに殲滅してくれるだろう?“()()()()()()()()”」

 

「それは誰の事で?」

 

ジークハルトはわざとらしく尋ねる。

 

ハイドレーヒ大将は皮肉いっぱいの笑みを浮かべ「当然君のことだ」と述べた。

 

それにフリシュタイン大佐が付け加える。

 

「上級大佐はアンシオンでの活躍を評価され宣伝省でそのようなプロパガンダが発令される事が予定されています」

 

「そうですか…また大層な名前を……。準備があるのでこれにて失礼します」

 

「ああ、敵対者に対しては何をしても構わん。生かして捕らえる必要もな、躊躇うなよ上級大佐。敵は微かな希望とやらに惑わされた愚か者の集まりだ」

 

「はい長官殿」

 

2人は敬礼し長官室を後にした。

 

通路を歩き親衛隊保安局のブースを出るまで一言も喋らない。

 

もしかすると“()()()()()()”可能性すらもあるからだ。

 

暫くするとハイネクロイツ中佐が口を開いた。

 

「なんだかとんでもない事任されちまったな」

 

「ああ、当然お前にも来てもらう」

 

「はぁ…人使いの荒い旅団長殿だ……」

 

ふとハイネクロイツ中佐は目線を上げジークハルトの顔をまじまじと見た。

 

ジークハルト本人は困惑していたがそれでもハイネクロイツ中佐は彼の顔を見続ける。

 

「お前…あのフリシュタインとかいう保安局の大佐にやけにそっくりだったな」

 

「そうか?そんな事はないと思うが」

 

ジークハルトは否定するがハイネクロイツ中佐はやはり似ていると確信を強めていた。

 

瞳の色や髪の色、なんとなく顔つきも似ているような気がする。

 

「さては親戚なんじゃないの?」

 

ハイネクロイツ中佐は彼に尋ねる。

 

ジークハルトは首を傾げ苦笑を浮かべすぐに首を振り「ナイナイ」と否定した。

 

「私は一人っ子だ。母も早くに死んでしまったし父は不倫したり隠し子を作るような人間じゃない」

 

それもそうだ、故バスティ・シュタンデリス准将は実直で厳格な軍人でその性格も反せず不祥事や如何わしい噂などひとつもなかった。

 

なんとなくジークハルト本人の漢字から察しは着くだろう。

 

「まあ他の親戚は分からないけど少なくとも兄弟とかそんなんじゃないと思うよ」

 

「そうか…?そうかもしれんが…」

 

疑問を持ちながらハイネクロイツ中佐は歩いた。

 

彼の疑問は出撃した後も解決する事はなかったが。

 

 

 

 

 

-イリーニウム星系 惑星ディカー-

ディカーの軌道上に何十隻もの軍艦と何十機ものスターファイターが帰還した。

 

ハイパースペースからジャンプアウトした新生レジスタンス艦隊はディカーを出撃した時よりも多く存在していた。

 

帰還と共に地上のディカー基地は端から端まで歓喜の声に包まれ全員が作戦の成功と無事の帰還を喜んだ。

 

レジスタンス艦隊は歓喜よりも無事に帰ってこれた安堵に包まれ皆互いに隣の翔平と握手を交わしていた。

 

スターファイターや高官達は皆先んじて地上ディカー基地へ戻り多くの将兵達に出迎えられる中司令部へ戻った。

 

ジェルマンとジョーレン達を乗せたセンチネル級も無事地上に着陸した。

 

船内の武器を下ろしながら彼らはディカーの土を踏み締めた。

 

生きて帰ってきた事の何よりの証明だ。

 

「これで無事作戦は終わりか……」

 

「ああ、レジスタンスとしての良いスタートが取れた。だがこれからはもっと忙しくなるだろう」

 

「そうだな。まだ帝国を倒すには至らないし」

 

レジスタンスとして立ち上がる事は成功したがまだ絶対の勝利は何千、何万歩も先の事だ。

 

その薔薇の危険な道を我々は進まなければならない。

 

「しかしこれで少佐とはお別れですね」

 

後ろからひょいと出たノールマン大尉が独り言のように呟いた。

 

「そうだったな。この作戦が終わればこの部隊も解散、新しい任務か」

 

「短い間でしたが色々とありがとうございました」

 

ジェルマンはノールマン大尉に敬礼し大尉も敬礼を返した。

 

この特殊部隊は解散されおそらく別々の任務が割り当てられるのだろう。

 

もしかすると再び結集する事もあるかもしれないが。

 

「また昔のようにバスチル少佐と共に戦えて光栄でした」

 

「俺もだよ。それじゃあな、大尉」

 

「はい!」

 

ノールマン大尉は満面お笑みで敬礼し他の隊員達と共に去って行った。

 

残されたのはジェルマンとジョーレンの2人だけだ。

 

「さて、我々も一服やるか」

 

「ジョーレンタバコ吸わないでしょ」

 

「ああバレたか。まあ少しは休んでいようぜ、いつお呼び出しが…」

 

「バスチル少佐!ジルディール上級中尉!司令室でディゴール大臣がお呼びです!」

 

遠くから士官の声が聞こえ2人は苦笑を浮かべ肩をすくめた。

 

どうやらこの2人に休む時間などないらしい。

 

彼らは士官の呼び出し通り急いで司令室に向かった。

 

道中随分と有名人のように持て囃されたが忙しく少し休みたかった2人にとってはどうでもいい事だった。

 

司令室のドアが開き2人はいつもの室内に入った。

 

「バスチル少佐、ジルディール上級中尉、参上しました」

 

2人は敬礼し帰ってきたばかりなのにもう齷齪働くディゴール大臣に敬礼した。

 

先程まで艦隊を指揮し演説を行なっていたとは思えないほどもう仕事に埋もれている。

 

この人こそ少し休んだ方がいいんじゃないかと2人ともなんとなく思っていた。

 

「ご苦労、休みも与えられず申し訳ない。君達のお陰で作戦は成功しレジスタンスの声明は銀河に広がった。数日後になるが君たちに新しい任務を与える」

 

大臣は先に謝り彼はホロテーブルを起動した。

 

「ディカーの近く、ミッド・リムの惑星ナブー。君達は知っているな?」

 

「はい、平和主義の惑星で…銀河皇帝シーヴ・パルパティーンの生まれ故郷ですね」

 

ジョーレンは簡潔に答えディゴール大臣も「そのと通りだ」と口を開いた。

 

「だがナブー自体は新共和国に友好的に接し加盟国の一つでもあった。だが……」

 

「新共和国崩壊と同時にナブーで現地の保安軍によるクーデターが発生し今は実質定期に帝国の属国……でしたね」

 

ジェルマンは重々しい口調で答えた。

 

ディゴール大臣もゆっくりと頷いた。

 

「今もなおナブーはクーデター軍が主軸の暫定政権が支配している。そこで君達にナブーの解放、もしくは幽閉中のソーシャ・ソルーナ女王らを救出して欲しい」

 

「女王の救出はともかくナブーの解放は……」

 

「ああ、解放に関しては我々も最大限にサポートする。現地のグンガン軍と脱出に成功した保安軍部隊を先導及び武装支援し解放を手助けする」

 

「直接地上軍を送り込むのはどうでしょうか」

 

ジェルマンは思わず提案した。

 

ジョーレンも気持ち的には同じ雰囲気だった。

 

「出来ればそうしたいが地上軍は次の攻撃作戦の為に温存して置きたい」

 

「次の攻撃とは?」

 

ジョーレンはディゴール大臣に尋ねた。

 

大臣は隣に控えている幕僚達と顔を合わせ話してもいいかを目で確認した。

 

幕僚達は了承しディゴール大臣は口を開いた。

 

「我々は次の攻撃地点としてホズニアン・プライムに直接繋がる帝国軍の重要拠点、惑星ノルマンディーを攻撃する」

 

ホログラムがノルマンディーとホズニアン・プライム近くに移り変わった。

 

「このノルマンディーを陥落させればホズニアン・プライムへの突破口が開ける。その為には上陸の為の地上軍の部隊をナブー側に送る訳にはいかないのだ」

 

「なるほど…ですがノルマンディーがそう簡単に墜とせますか?あそこには現在のイセノ以上の帝国艦隊と防衛部隊が展開されていますが」

 

ジェルマンは不安げにディゴール大臣に尋ねた。

 

ノルマンディーがやられれば次はホズニアンというのは帝国軍も重々承知している。

 

その為ジェルマンの言う通りかなりの戦力が敷き詰められていた。

 

「奇襲攻撃による電撃的な上陸作戦を行う。敵はイセノに釘付けでありやるとしたら今しかない」

 

「確かにハイパースペースの航路上の駐留惑星が防備を強化されたら突破が難しくなる。それにナブーをレジスタンスが直接ではなく現地の勢力が本来の女王の下、解放に成功したら十分な大義名分が生まれる」

 

「その通りだ、だから最悪の場合女王と元政府側の人間さえ救出してくれればいい。ソルーナ女王がレジスタンス側に加われば直接部隊を送る事となってもナブーの解放への大義名分が生まれる」

 

ディゴール大臣はジョーレンの感想に説明を付け加えた。

 

第一目標はソルーナ女王らの救出、第二目標はグンガンや抵抗組織を支援し協力してナブーを解放する事。

 

どちらもかなり重大で重要な任務だが成功すれば帝国への精神的な打撃となる。

 

「ナブーはパルパティーンの生まれ故郷、この地が再び陥落したとなれば帝国の面目も潰れるだろう。再び険しい任務となるだろうが頼めるか?」

 

2人は大きく頷いた。

 

そこでジョーレンが口を開く。

 

「なら一つだけ要望が、我々が登場するUウィングにステルス・システムを搭載してくれませんか?ナブーの防衛網を掻い潜って侵入する為にもステルス・システムがあれば安心です」

 

「分かった手配しよう。設置や準備には時間が掛かると思うからその間に休息を取ってくれ」

 

「分かりました」

 

2人は敬礼し司令室を退室した。

 

新たな任務の間の小さな休息を少しでも長く味わう為に。

 

 

 

 

 

-ミッド・リム コメル宙域 ナブー星系 惑星ナブー軌道上-

何隻かの灰色のラインとナブー王室と帝国の国章が合体したような紋章を入れた艦隊ナブーの軌道上に集結していた。

 

何機かのTIEインターセプターの背後にN-1スターファイターやN-1Tアドバンスト・スターファイターが続きスターファイターの編隊を成している。

 

艦隊は殆どがCR90コルベットやネビュロンBフリゲートと言った惑星防衛軍や警備部隊に配備される標準的な代物ばかりだ。

 

しかし間にアークワイテンズ級やレイダー級、グラディエーター級が入る事によって微妙に異質な存在という事を示していた。

 

艦隊の間反対には三隻のインペリアル級スター・デストロイヤーが護衛のアークワイテンズ級と共に艦列を組み待機している。

 

そのちょうど間にインペリアル級よりも400メートル程小さないスター・デストロイヤー、プロカーセイター級スター・デストロイヤーが三隻軌道上に駐留していた。

 

この三隻のプロカーセイター級が今後のナブー王室宇宙艦隊の中核を成す存在として旗艦を務めるのだ。

 

中央のプロカーセイター級のブリッジには現在のナブーの実質的指導者であるクリース一等宙将が帝国軍側の説明を聞いていた。

 

「ブリッジは通常の帝国艦船と同じで一応オートメーション・システムで人員の削減が成功しております」

 

宇宙軍の中佐は微笑を浮かべクリース宙将らに説明を行っていた。

 

「ですが暫くはシステムの監視の為我が軍の技術者や乗組員を置かせて頂きます」と付け加える。

 

「構いませんよ。こんな素晴らしい軍艦を提供して頂けるのなら十分だ」

 

ブリッジや船体を見つめクリース宙将はそう評価した。

 

「本来はインペリアル級を提供する予定でしたが戦力的に叶わず…」

 

「全く問題ありません。この艦があれば当分ナブーは防衛出来ます」

 

プロカーセイター級スター・デストロイヤーは全長が1,200メートルとインペリアル級よりも400メートル程小さい艦だ。

 

本来は護衛艦としても役割も備えており、火力もインペリアル級よりは低いがクリース宙将の言う通りナブー王室宇宙艦隊からすれば十分な代物だ。

 

特に航宙戦力がN-1スターファイターしかないような時代と比べれば随分と豊かに感じる。

 

「地上部隊用として何台かのアサルト・ウォーカーとホバータンクを提供します。是非地上部隊の戦力増強としてお使いください」

 

「直ちに手配しましょう」

 

イェアル新保安隊隊長はそう口を開いた。

 

彼の背後にはクーデターに参加し新たに部隊長や将官となった者達が続いている。

 

皆裏切り者であり第三帝国や帝国への信奉者達だった。

 

第三帝国派としてクーデターを起こしソルーナ女王を幽閉した彼らはその褒美として第三帝国から軍事支援などを受けナブーの支配を万全としていた。

 

かつての平和主義を掲げていたナブーの姿はどこにもなく首都シードではあちこちでフラッシュ・スピーダーやステッドファスト戦車が闊歩している始末だ。

 

それだけならまだマシだがナブーのあちこちでクーデターを逃れた保安軍将兵が抵抗活動を続け首都シードなどは度々戦闘になる事があった。

 

しかも彼らはグンガンの支援を受けている為かなり手強い相手だ。

 

故に軍備増強はクーデター軍の暫定王室を長引かせる為にも重要な課題となっていた。

 

「新共和国の残党がレジスタンスを結成する声明、あれにより我が国のテロ活動も活発化する可能性があるでしょう。何よりレジスタンスからの直接攻撃も……不安は尽きません」

 

クリース宙将は不安げに最近の実情を話した。

 

彼の言う通りナブーにも流されたあの声明は抵抗勢力を活発化させる力を十分に持っている。

 

このまま抵抗運動が続けば厄介な事になるのは間違い無いだろう。

 

なんなら無政府状態かもあり得る話だ。

 

「その事で一つお話したい事が…」

 

「なんですか?」

 

クリース宙将の問いに中佐は彼の近くに向かって小声で耳打ちした。

 

中佐の情報を聞いたクリース宙将は顔を硬らせ「それは本当ですか?」と尋ね返した。

 

「はい、親衛隊情報部、帝国情報部からの確かな情報です」

 

中佐は二つの諜報組織の名前を出して断言した。

 

クリース宙将は少し考え込み「すぐ対策を取ります」と返答した。

 

惑星ナブー。

 

銀河皇帝の生まれ故郷であり永き平穏を終わらせる第一の戦場となった場所。

 

始まりの場所で再びレジスタンスの始まりと自らの立場を賭けた戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

-コルサント 帝国軍司令本部-

国防軍での会議が終了しヴィアーズ大将軍は珍しく1人通路を歩いていた。

 

大将軍になってからは常に補佐官や副官が数名付きっきりで1人で歩く事など滅多になかった。

 

数年前まではそんな事なかったのだが。

 

あの“エグゼクター”の中で当時指揮官だったオッゼル提督と共に通路を歩いていたのはもう五年も前か。

 

その直後にピエット元帥、当時はピエット艦長が報告しそこからホスの戦いが始まった。

 

当初予定されていた軌道上爆撃が叶わずかなりの苦戦が予想されたが我々はそれをなんなく突破した。

 

オッゼル提督は奇襲が得策だと判断したがあの段階では既にヴェイダー卿の言う通り愚策であっただろう。

 

提督が間抜けで不器用……かは断言出来ないが少しばかり前線に向いていなかったのは違いない。

 

だがある意味オッゼル提督のお陰でブリザード・フォースの伝説は形作られた。

 

しかしあの戦いは必ずしも帝国の圧倒的優勢であったわけではない。

 

ネヴァー准将とスターク大佐を失いヴィアーズ大将軍自身も負傷した。

 

運良く今もパイロットのラストクらに救出され速やかな処置によりその後も敵基地まで攻撃を敢行出来たがもしかしたらその場で死んでいた可能性すらある。

 

負傷からの回復と上級将軍(High General)に昇進し復帰した頃にはエンドア戦、忙しい数年間だった。

 

それは今後も変わらないだろうが。

 

忙しくなる、だが全ては守るべき祖国の為に。

 

帝国軍人として帝国に忠義を尽くす、ただそれだけだ。

 

「ヴィアーズ大将軍、久しぶりだな」

 

通路の奥から声が聞こえた。

 

「ブラシン大将軍」

 

ヴィアーズ大将軍と同じく深緑色の軍服に大将軍の階級章を身につけたこの人物はマルコール・ブラシン大将軍だ。

 

若くから帝国の士官として戦いローリング大将軍とほぼ同時期くらいに大将軍に昇進した帝国地上軍の軍人だった。

 

しかし頼りにしていたとある将校に裏切られ決定的な敗北を受けた。

 

それでもブラシン大将軍はエンドア戦後も名有りの帝国軍人であり続けラックス元帥の一派に暗殺されかけるなど散々な目に遭ったがそれでも生き延びつい最近第三帝国に帰属した。

 

エイリアン種族の盗賊に妻と娘を殺されたブラシン大将軍はエイリアン種族迫害主義の第三帝国と総統に深く心酔していた。

 

その為途中参加であっても他の大将軍とほぼ同格の扱いを受けているのである。

 

「方面軍の司令官は慣れてきましたか」

 

「まだマーゼルシュタイン元帥やローリング大将軍にサポートされてばかりだ。だが私を救っていただいた総統閣下とこの国の為、精一杯やるつもりだ」

 

この国の為、か。

 

同じ事をヴィアーズ大将軍も思っていたがブラシン大将軍とは熱意の矛先がどこか違う気がした。

 

「そちらも地上軍長官と防衛司令官、南方方面への進軍の兼任は大変だろう」

 

「ええ、まあ。ですがやはり直接部隊を指揮している時が一番慣れ親しんだ気がしていますよ」

 

ブラシン大将軍は「確かに」と相槌を打っていたが自ら直接部隊を指揮するヴィアーズ大将軍とはやはり微妙に違っていた。

 

とはいえブラシン大将軍は同じ帝国に仕える大将軍同士としてかなりヴィアーズ大将軍を気に入っている様子だった。

 

それは恐らく同じくラックス元帥に殺されかけ大将軍であるローリング大将軍にも言える事だろう。

 

そんな話をしているからだろうか。

 

先程まで同じ会議室にいたローリング大将軍が近くを通り過ぎようとした。

 

何処となくいつもの彼とは違い少し不機嫌気味な様子だ。

 

しかしそんな事お構いなしにブラシン大将軍は声を掛けた。

 

「ローリング大将軍、ここで出会うとは。大将軍3人、運命的なものを感じるよ」

 

「…ヤヴィン攻略の部隊を一部防衛に回すように命じられた…!あれだけの打撃を与えたのに…!」

 

少しキザな様子で声を掛けるブラシン大将軍に対しローリング大将軍は前触れもなく愚痴を入れた。

 

彼の苛立ちの原因は恐らくそれだろう。

 

イセノの大打撃を受けて戦力を一部戻すよう言われたのだ。

 

しかもイセノの守備を担っていたのは親衛隊でありローリング大将軍は実質的に大嫌いな親衛隊の尻拭いをしている事になる。

 

「私も部隊を一部デノンやインナー・リムへ戻すよう命じられた。今は仕方のない時だ」

 

「ああ…!だが納得出来るか!何故連中の尻拭いの為に俺の兵力を削がなければならんのだ!」

 

「まあまあ、そう目くじら立てずに。反撃のチャンスはまだいくらでもある」

 

ブラシン大将軍は怒るローリング大将軍をそう言って宥めた。

 

反撃のチャンス、か。

 

ブラシン大将軍の発言である事を思い出したヴィアーズ大将軍は小さく笑みを溢した。

 

それを見逃す大将軍2人ではなくブラシン大将軍とローリング大将軍はヴィアーズ大将軍の方を見た。

 

ヴィアーズ大将軍はそのまま口を開いた。

 

「反撃のチャンスはすぐそこにある。ローリング大将軍」

 

「なんだ」

 

ぶっきらぼうに答えるローリング大将軍にヴィアーズ大将軍は答えた。

 

「あなたの力とスターファイター隊を借りたい。レジスタンスとやらの出端を挫いてやろう」

 

 

 

 

 

 

同じ頃コルサントの帝国軍本部では宇宙軍長官のオイカン上級元帥が宇宙軍情報部のウィルへランツ・カーレリス提督と立ち話をしていた。

 

かつては帝国情報部に併合された宇宙軍情報部であるが銀河内戦後、一つでも拡張組織を欲した帝国は宇宙軍情報部を再編し復活させた。

 

現在は再統合の話が出ているが今の所情報部長を勤めているのはこのカーレリス提督だ。

 

彼らは宇宙軍情報部が今の所入手している情報の共有と対策を練っていた。

 

隣には国防宇宙軍から新たにファースト・オーダー宇宙軍へ交換将校として出向くクリス・パワー提督がいる。

 

「レジスタンス艦隊は経路不明のハイパースペースを経由しどこかしらの秘密基地へ撤退した可能性が高いです。それもハイディアン・ウェイとコレリアン・ランを経由して」

 

「周辺のパトロール部隊も一時的にですが妙なクロノー放射を捉えたという報告が出ています」

 

カーレリス提督の報告にパワー提督は付け加えた。

 

クロノー放射はスターシップがハイパースペース・ジャンプを行う際に放出されるものだ。

 

情報を照らし合わせればもしかすると敵を割り出す手掛かりになるだろう。

 

「帝国情報部と親衛隊情報部は恐らく別の情報を掴んでいます。恐らく帝国に対する次の攻撃作戦かと」

 

「ならばローリング大将軍とヴィアーズ大将軍が対処するだろう。恐らく敵の攻撃地点は惑星だ、宇宙軍は必要に応じて動かす」

 

「了解」

 

命令を聞き入れパワー提督がその場を後にした。

 

残りはオイカン上級元帥とカーレリス提督だ。

 

独り言のようにカーレリス提督は口を開く。

 

「しかし銀河に対する宣言ですか……こんなものを許すとは帝国も随分と緩くなったものですね」

 

「そう言うな。その分の反撃と埋め合わせはきっちりやるさ」

 

オイカン上級元帥はそう宥めたがカーレリス提督はまだ話した。

 

「…正直、新共和国に宣戦する時点から若干危惧していました。“()()()()()()()()()()()()”と。我々は無茶な事をしている気がします」

 

「それはそうだが…我々はそれでも勝利した」

 

「ですが今回、いやその先はどうでしょうか。我々は“向かってはならぬ道”を進んでいる気がしてなりません…」

 

オイカン上級元帥は一瞬だけ口を閉ざした。

 

確かにエンドアから今に至るまで我々は随分と道を間違えたのかもしれない。

 

だがもう引き返す事はないし他に道はないのだ。

 

「過ぎた事ばかり言ってしまいました。忘れて下さい」とカーレリス提督は寂しく言いその場を去っていった。

 

「進み過ぎたのか…この国も…」

 

オイカン上級元帥はふと昔のことを思い出した。

 

まだクローン戦争時代の中尉だった頃。

 

戦火の被害を受けた故郷の姿。

 

オイカン自身に力がなかったのは確かだったがあの銀河共和国自体に力がなかった。

 

結局何も守れなかった。

 

だから疑問を孕みつつも新たに希望と力を持って生まれた帝国の存在をオイカンは受け入れたのだ。

 

何かを守る為に、あの二の舞を防ぐ為に。

 

だが、そう思って進んで来た道の果てのはずなのだが…。

 

少し遠くに来過ぎたのかもしれない。

 

オイカン上級元帥は最後に一言小さく付け加えた。

 

「私も…」

 

 

 

 

 

 

3人の将校に引き連れられ数十名の暴動鎮圧ストームトルーパーが進んでいく。

 

どれも親衛隊保安局配下のストームトルーパーで部隊長は白いポールドロンを身に纏っている。

 

恐らく部隊の軍曹だろう。

 

3人の将校、フリシュタイン大佐とジークハルトとハイネクロイツ中佐は皆アーマーを着てその上からロングコートを羽織っている状態だった。

 

手にはブラスター・ピストルと通信機などを持ち各部隊に指示が出せる状態を維持していた。

 

「間も無く配下の小隊と合流出来るはずです」

 

「警備のショック・トルーパー小隊と我が親衛隊保安局の保安小隊が既に暴徒集のアジトを包囲しています。なるべく急ぎましょう」

 

ジークハルトの報告にフリシュタイン大佐は冷たく提案した。

 

あまり好意的ではない返答の仕方だ。

 

その様子を見てハイネクロイツ中佐は見るからに不満げな表情を浮かべている。

 

そこであえてジークハルトはフリシュタイン大佐に尋ねた。

 

「しかしよくもまあそこまでアジトを割り出したもんですね」

 

「保安局麾下の警備隊の警備強化もありますがハイドレーヒ大将の影響が大きいでしょう。彼が情報部と保安局の連携を強化したことによってこのコルサントの暗部は光で照らされた」

 

暗闇がなくなり彼らの言う“()()()”とやらが浮き彫りになったわけか。

 

所詮は一介の上級大佐でしかないジークハルトが親衛隊や親衛隊保安局の全貌など分かるわけがないが想像はつく。

 

今や親衛隊の諜報機関や秘密警察はハイドレーヒ大将の帝国となったわけだ。

 

「では今回のような事も次期になくなるというわけですか?」

 

ジークハルトはフリシュタイン大佐に更に尋ねた。

 

フリシュタイン大佐は口調や表情を変える事なく返答する。

 

「はい、我々が“()()”を成し遂げればの話ですが」

 

「試練?一体なんのことですか?」

 

フリシュタイン大佐のその言葉はまるで宗教的な何かに聞こえた。

 

保安局が治安維持活動を行う事が試練とはなんなのだろうか。

 

しかしフリシュタイン大佐は「すぐに分かりますよ」とだけしか言わなかった。

 

だがそれ以上会話が続く事はなかった。

 

前方に五十数名はいるストームトルーパーの一団を発見した。

 

第三機甲旅団配下のストームトルーパー歩兵小隊だ。

 

「シュタンデリス旅団長!」

 

小隊長のハリウス少尉がトルーパーをかき分け前に出て敬礼する。

 

ハリウス少尉のストームトルーパー達は全員暴動鎮圧用装備を身につけておりライオットシールドと警棒付きのE-11を装備していた。

 

ジークハルトとハイネクロイツ中佐も敬礼を返し彼の方に分隊ごと近づいた。

 

「ヴァリンヘルト上級中尉が直接率いている二個小隊が別の暴動鎮圧地域を制圧したとの報告が入りました」

 

案の定暴動、氾濫活動が始まったようだ。

 

流石ヴァリンヘルト家の男にして自慢の副官だ、既に一団を撃破したようだった。

 

そのヴァリンヘルト上級中尉にジークハルトは命令を出す。

 

「そうか、直ちにショック・トルーパー小隊に合流させろ。暴徒集の揺動の可能性がある、親衛隊保安局の鎮圧プログラム通りに動くんだ」

 

「了解しました」

 

別の下士官が頷き通信機を起動した。

 

その間にジークハルトは周囲を見渡し様子を確認する。

 

アンダーワールドも随分と静かだ。

 

我々の存在を警戒してか人っ子一人見当たらなかった。

 

「…静かだな」

 

「ああ、コルサントも寂れたもんだ」

 

「どうかしまし…」

 

刹那、コートの中から眩い赤い光が別々の方向に二発放たれ近くの建物から黒い何かが落ちその僅かな自由落下の時間に近くの柱が大きな爆発を起こした。

 

少尉は困惑しフリシュタイン大佐はブラスター・ピストルを引き抜き臨戦状態に入る。

 

直後何かが落ちてきた建物の方から銃声音と共に赤い光弾が放たれジークハルトの側に寄ってきたハリウス少尉と彼の背後にいたストームトルーパーが一名その弾丸に直撃した。

 

Defense(防御)!」

 

ジークハルトの一言と共にストームトルーパー達が一斉にライオットシールドの壁を作り隙間からブラスター・ライフルを覗かせ発砲した。

 

その間にジークハルトは少尉とストームトルーパーの側により2人を手当てし始めた。

 

また別の衛生兵が駆けつけ「そっちを頼む」とストームトルーパーの方を任される。

 

「大丈夫か少尉」

 

「はい……それよりも早く敵を倒さないと…!」

 

「大丈夫だ少尉、その心意気さえあればお前は勲章ものだ」

 

バクタ液を掛け少尉に止血帯を巻き付ける。

 

ジークハルトの手際の良さは隣の専門職の衛生兵並みですぐに応急処置が完了した。

 

その間にフリシュタイン大佐のストームトルーパー隊が追加の攻撃を行い敵に集中砲火を浴びせ掛け爆薬を投げつけた。

 

時折断末魔の叫びのようなものが聞こえ人影のようなものがその場に倒れていった。

 

「チッ!先回りされた!」

 

アタッチメント付きのウェスター35ブラスター・ピストルを放ちながらハイネクロイツ中佐はそう吐き捨てた。

 

しかしハイネクロイツ中佐の突然の銃撃と小隊の素早い防御、フリシュタイン大佐達の烈火の如き攻撃により敵は完全に総崩れだ。

 

優勢なのは間違いなくこちら側だった。

 

劣勢を悟った敵は直ぐに建物の通路を伝って逃げ始めた。

 

当然逃すつもりもない。

 

「構成第一分隊は建物の中から敵を追え。第二は少尉と負傷者の救護、第三はこのまま通路から、第四、第五は直ちにヴァリンヘルト隊に合流しろ」

 

「了解!」

 

素早く小隊に命令を出し敵を追撃させる。

 

ストームトルーパー達は分散して敵を追いかけ残されたのはフリシュタイン大佐麾下の分隊とハイネクロイツ中佐のみとなった。

 

ハイネクロイツ中佐はジークハルトとアイコンタクトを取り彼は腕のグラップリング・フックとアセンション・ケーブルで空中から敵を追った。

 

ジェットパックがなくとも彼は空中を自由自在に動きアンダーワールドの狭い空を駆け巡り襲撃者を追う。

 

「奴らの追撃はハイネクロイツに任せて我々は…」

 

「敵のピンポイントの奇襲攻撃、更には確保された逃走経路に先にハイネクロイツ中佐が破壊した爆弾。連中我々を確実に監視してますね」

 

「ええ、まさか逆に見張られていたとは思わなかった。だが裏を掻く事もできる」

 

ジークハルトは先ほどまで銃撃戦が行われていた建物の中へ入っていった。

 

既に先んじて突入したストームトルーパー分隊のおかげで内部の安全性は確かめられている。

 

ジークハルトとフリシュタイン大佐を先頭に他のトルーパー達もシールドを構えつつ内部に侵入した。

 

建物の中は明かりがなく真っ暗闇だった。

 

「ライトを」

 

フリシュタイン大佐の命令で1人のストームトルーパーがヘルメットのギアに取り付けられたライトを点灯する。

 

明かりで建物内がよりクリアになり一行はその中で地下に繋がる通路を発見した。

 

階段からその下はより深い暗闇でよく見えなかったが段ごとに泥で汚れた足跡がついている。

 

ここから襲撃者達はどこかへ逃げたのだろう。

 

「行きましょう」

 

ジークハルトは真っ先に階段を降り先に進んだ。

 

敵が待ち構えている可能性も罠が仕掛けられている可能性もまだあるがそれでも指揮官として先に進まなければならない。

 

「きっ来たぞ!!」

 

遠くから声が聞こえジークハルトは暗闇の先にいる敵の存在を確認した。

 

やはり待ち構えていたようだ。

 

敵が高速で離脱した為罠などの存在はないだろうと予測していたが敵の待ち伏せの可能性は十分に高かった。

 

だがその対策は既にしてある。

 

ジークハルトはロングコートから二丁のE-11ブラスター・ライフルを取り出し両手でしっかりと押さえながら引き金を引いた。

 

二丁の強力なブラスター・ライフルから一瞬のうちに何発もの弾丸が放たれ敵を撃とうとした襲撃者達を蹴散らした。

 

暗闇の向こう側で何かがバタバタと倒れる音と鈍い音や声が聞こえ襲撃者達は次々とジークハルトの弾丸に撃ち倒された。

 

「今のうちに進め!恐らくこの通路は敵のアジトに通じている!ここから直接叩くぞ!」

 

数名のストームトルーパー達がジークハルトの前を横切り盾とブラスターを構えながら前へ進む。

 

ジークハルトも発砲をやめ前進するストームトルーパー達に続いた。

 

隣にはフリシュタイン大佐もいる。

 

彼は指揮官らしくRK-3を装備しジークハルトの隣を歩いていた。

 

2人並ぶとその姿は本当に兄弟や双子のようで両者とも唯ならなぬ気配を顔し出していた。

 

それはケーブルで空中浮遊し移動するハイネクロイツ中佐も同様だった。

 

コートを脱ぎ捨て一部のアーマーを付けた状態で敵を追いウェスター35で狙い撃つ。

 

既に2、3人の逃げる敵や湧き出て応戦する敵を撃ち殺していた。

 

左腕のケーブルとウェスター35のケーブルで敵を追う彼に突如通信が入った。

 

『ハイネクロイツ、こっちは地下通路から敵を追撃中だ。そっちは恐らく暴動鎮圧中の部隊に合流するだろう。その時は容赦なく敵を殲滅しろ、降伏しない限り撃ち漏らすな』

 

「了解、それじゃあ案内も兼ねて連中は追いかけながら何人か生かすとする」

 

『頼んだぞ』

 

通信が途切れハイネクロイツは左手のウェスター35に別のアタッチメントを装着し一気に攻撃モードに入った。

 

敵の近くにケーブルを差し込み一気に距離を詰める。

 

回転しながら接近し接近時間を短縮し一番後ろを逃げる敵を銃撃した。

 

斃れる屍を超えて猛スピードで逃げる襲撃者の1人を左腕の銃剣付きウェスター35で刺殺した。

 

刺された襲撃者はローディアンだったようで彼の腕やアーマーにベッタリと緑の血がついた。

 

「チッ!クソ!」

 

「おい待て!」

 

2人の襲撃者が制止を聞かず立ち止まってハイネクロイツ中佐をブラスター・ライフルで攻撃する。

 

彼はステップを踏み銃撃を躱し通路を抜け出る。

 

再び左腕のケーブルを鉄格子に差し込み地面スレスレの状態で2人の襲撃者を撃った。

 

地面を蹴り右手のウェスター35のケーブルを制止したニクトの襲撃者に差し込み思いっきり地面に叩き付ける。

 

彼は右の肺が貫かれ更には地面に思いっきり叩きつけられた為戦闘不能になり他の襲撃者達から見捨てられた。

 

「クソッ!!なんでこんナァッ!!?」

 

状況を苛立ちと共に嘆き吐き捨てようとした男はハイネクロイツ中佐のピストルで撃ち抜かれその真横を走っていた男も応戦しようと立ち止まった瞬間脳天を撃ち抜かれた。

 

「親衛隊さえいなければ!!」

 

グランの男と別の人間の男がブラスター・ライフルを使い中佐を撃とうとするが全て躱され弾丸の中を掻い潜り接近するハイネクロイツ中佐に彼らは恐怖を覚えた。

 

2人がバラバラに別方向に離れようとする瞬間、ハイネクロイツ中佐は建物の中に突っ込んだ。

 

「どうした!?」

 

リーダー格のイシ・ティブの男が振り返る頃には既にグランの首は無惨に掻き切られ血が垂れ流しの状態だった。

 

砂煙が巻き上がり反対側から轟音と共に何かが抜け出てくる。

 

イシ・ティブの男と他の襲撃者達がそれを見上げると全員が瞳孔を開き絶句した。

 

その何かは宙を舞う人間の男だった。

 

瞳からは光が消え背中から流れる流血は滝のように垂れている。

 

男の亡骸は無惨にも地面へ捨てられその合間から二丁の銃口が剥き出ていた。

 

一度に二発の赤い光弾が放たれまた2人の襲撃者が撃たれ死んだ。

 

彼のウェスター35に挿入されているブラスター・ガスの影響で弾丸は赤色のものとなっている。

 

もうダメだと敗北を悟った残りの3人は一目散に通路を走り直ぐ近くのアジトへ逃げようとした。

 

だが彼らはアジトの方を見た瞬間絶望した。

 

第三帝国の弾圧を耐えながら皆で慰め合い隠れ住んでいた古いアパートが大勢のストームトルーパーに囲まれ一部が燃やされていた。

 

レジスタンスの希望の声を聞いた新たな家が暗黒の軍団に襲われている。

 

彼らはその光景を見ただけで絶望し足が止まった。

 

だがそれは彼らの命の終焉を意味するものだった。

 

銃声と肉を裂く鈍い音と共に3人は滑り落ちるように斃れた。

 

その屍を踏み越え1人の男が彼らの家に迫る。

 

「旅団長殿の言う通りだ!こいつで終わりよ!」

 

ケーブルを回転で調整しながらハイネクロイツ中佐はベルトに巻き付けられたバラディウム・コア=サーマル・デトネーターを建物に投げつけた。

 

即座に起動したサーマル・デトネーターは割れた窓ガラスの中に入り建物の中で大爆発を起こした。

 

煙と炎が収まろうとする中ハイネクロイツ中佐はその中にウェスター35のケーブルを差し込み中に突入した。

 

受け身を取りながら直ぐ様ブラスター・ピストルを構える。

 

建物の内部はサーマル・デトネーターの爆発でかなり崩壊し煤だらけだ。

 

敵の姿も殆ど見当たらなかったが背後で息絶え絶えの苦しそうな唸り声が聞こえた。

 

見るとそこには建物の崩落に巻き込まれて押し潰されているノートランの男がいた。

 

彼のブラスターは遠くに飛ばされ丸腰の状態だった。

 

そんな中でもこのノートランは戦意の炎を消さずハイネクロイツ中佐に吐き捨てた。

 

「いつか……必ず……お前達は負ける…!」

 

「そうだといいな。だがそうならない可能性の方が高い」

 

「ハハ……どうかな…殺すなら……殺せ…!」

 

「ああ…」

 

ハイネクロイツ中佐は冷たく引き金を引き苦しまずにノートランの命を終わらせた。

 

彼にとって他者を殺す事など幼少の頃から当然の事だった。

 

そう言う一族の生まれだったから、他の連中もそうだろう。

 

アイツだって進んでこの道に向かったわけじゃない。

 

血の呪縛と大きな背中を負ってきたんだ。

 

そうなんだろう?なあ。

 

「そっちはどうなってる。ジークハルト」

 

 

 

 

 

 

「これは…」

 

ジークハルトはライトを照らしながら地下通路の壁の一角に描かれた紋章のようなアートを見つめた。

 

まるで血そのものを使って描かれたようなこのアートはベッタリと赤いラインが塗られている。

 

既に塗料が乾いている為かジークハルトが素手で触っても手には何もつかなった。

 

既にアジトは鎮圧されたらしくこの通路に逃げ込んでくるかもしれない敵を迎え撃つ為待機していた。

 

その時偶々足を滑らせたトルーパーが壁の方に寄り掛かりその時ヘルメット・ライトによって照らされたのがこれだ。

 

迎撃体制を整えつつジークハルトはこの不思議な紋章に釘付けになっていた。

 

「一体なんでしょうか、これは…組織章かそれとも……」

 

「どこかで見た事がありますね」

 

フリシュタイン大佐はこの紋章を見つめそう呟いた。

 

ジークハルトももう一度目線を向けるがこのような紋章はやはり見たことがない。

 

連隊章や師団章でもないし他の惑星の紋章でもこのようなものは見たことがなかった。

 

しかしそのような疑問は直ぐに消し飛ばされる。

 

「大佐!上級大佐!誰か来ます!」

 

トルーパーの1人がそう報告し全員がライオット・シールドを構えブラスター・ライフルを突き出す。

 

ジークハルトも二丁のE-11を持ちフリシュタイン大佐もブラスター・ピストルを構える。

 

冷ややかな緊張が分隊の全員を覆い地下通路の冷たさがアーマーを通して伝わってくきた。

 

向こう側からはコツコツと何人かの足音が聞こえこちらに迫ってきている事がよく分かる。

 

敵か、味方か、判断材料が少なすぎる為全員明確な指示を出せずにいた。

 

足音は地下通路に広がる影と共にどんどん大きくなり近づいていた。

 

恐らく追撃の隊がいるならばとジークハルトは思い切って声を上げる。

 

「お前達は誰だ!」

 

彼の声は地下通路の閉鎖空間を反響しよく響いた。

 

恐らく向こう側へ伝わるにはまだ数秒のラグがあっただろうが返答は比較的早くに帰ってきた。

 

「敵ではない!我々は敵ではない!」

 

意外な返答は文隊員の暴動鎮圧ストームトルーパー達を困惑させた。

 

本当に敵ではないのか、それともこちらを油断させる為の罠なのか。

 

いざという時の為に全員が現状のまま待機させられた。

 

「では誰なんだ!」

 

ジークハルトは再び問いかける。

 

向こうは足音と共にその姿が見えた。

 

全員が薄気味悪い雰囲気を黒灰色のローブと共に纏いフードを被って顔を隠していた。

 

そのうちの真ん中の1人が代表してジークハルトの問いに答えた。

 

「我々は“()()()”だ。君たちと同じ、君たちの“()()”だ」

 

確かに誰かという問いには答えたがジークハルトには理解不能の返答だった。

 

()()()”、“()()”、さらには君たちと同じというのが余計分からない。

 

彼らも同じ元帝国の関係者なのか。

 

自らを“信奉者”と名乗る男は更に続けた。

 

「先ほどの暴徒の鎮圧、見事だった。流石は帝国の信徒諸君だ」

 

「あの暴徒の首謀者はお前達か?どうやって組織した」

 

「今から話す、だから我々を受け入れてくれ」

 

とても信用ならない言葉だったが隣のフリシュタイン大佐がこう問いかけた。

 

「再び問うが、君達は誰だ。一体なんの信奉者なんだ」

 

その一言を待っていましたと言わんばかりに男はフードを下ろしニヤリと狂気的な笑みを浮かべた。

 

そしてただ一言、こう呟いた。

 

「“()()()()()()()()()()()”、迎えに来たぞ、第三銀河帝国」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-譛ェ遏・鬆伜沺 諠第弌繧ィ繧ッ繧サ繧エ繝ォ-

雷鳴が轟き、光が溢れる。

 

蒼白の空に暗雲の雲が掛かる。

 

地から破壊者が出立ち全ての歴史を早め狂わす。

 

破壊者達の群れは三つの年を数えたとは思えない程膨れないはずの“蝕”が三つほど破壊者達に囲まれていた。

 

雷が降り落ち蒼白の空を彩る。

 

破壊者に溢れた(うみ)では無言を貫く静寂が全ての歓喜を著している。

 

信奉者に溢れた陸では鎮魂歌のような唱和が全ての歓喜を著している。

 

三十の年を跨ぐ事なく暗雲から這い出る赤黒の腕が光明を潰そうとうねり上げる。

 

死人に囚われた者は手を突き上げ復讐と自壊の雷を求める。

 

者どもに映る景色は破壊者の群れと亡霊の見た戯言の夢の果ての姿だ。

 

無言の歓喜と鎮魂の歓喜が星々を満たす中七千年の亡霊に囚われた者が万雷の復讐と喝采を込め発する。

 

 

-フォースは我らを自由にする-

 

 

遠く離れた亡霊と狂信の星で死者の口が開いた。

 

 

 

 

つづく




はいどうも〜!ヴェイダー卿をTSするとクソめんどくさいメンヘラヒロインになってしまう、Eitoku Inobeです!

帝国軍人をTS化させると未亡人率が多くなることをみなさん知っていますか?

そもそも帝国ってなんでこう未亡人率が高いんでしょうね

知ってるだけでもヴィアーズ将軍でしょ?モフモーズでしょ?ブラシン大将軍でしょ?ヴェイダー卿でしょ?

もう未亡人ランドじゃないですか、銀河帝国は性癖博覧会かなんかですか

そんな中でも私は「共和国軍に魅せられてしまった狂人ことしょたコンロリコンお姉さんのブレンドル・ハックス(TS)」の概念を推していきたいです(彼は狂っていた)

そいではまた来週〜

そういやそろそろこのナチ帝国初めて一年立つな…




アデルハイン「なんだよこれ」
ヴァリンヘルト「いつものことです」


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暗雲の到来

「第三帝国とシス帝国は兄弟である。何故なら我々は暗黒面のフォースで結び付けられているからだ。だからこそ我らはあの敗戦後の暗闇の中を耐え抜き進み抜く事が出来た。光は確かに暗闇を照らすが暗闇の恐怖心を克服するには暗黒が必要なのだ。この先も第三帝国は暗黒面と共に繁栄するだろう。暗黒面(ダークサイド)のフォースよ共にあれ」
-8ABY頃のハインレーヒ・ヒェムナー長官の雑談記録より抜粋-


-帝国領 コロニーズ領域 ノルマンディー星系 惑星ノルマンディー-

静かなるノルマンディーの宇宙(うみ)超空間(ハイパースペース)から近づいてくる影があった。

 

目指すは惑星ノルマンディー。

 

帝国の防衛網を打ち破ろうとレジスタンスの尖兵達が迫っている。

 

このノルマンディーは基地がいくつかの海に囲まれたスカリフのような惑星で基地の上空には大型の偏向シールドが設置されている為上空からの攻撃はほぼ不可能だ。

 

その為海岸の防衛網を停止して上陸部隊を投入する他ないのだが敵もそれは重々承知だ。

 

海岸はもはや要塞化されスターファイターや機甲戦力を投入しても突破は難しい。

 

故に海岸沿いの偏向シールドがメンテナンスや電力カットで停止する瞬間に奇襲を掛け軌道上爆撃を展開し上陸部隊を送り込んで即座に制圧するしかない。

 

これは前々から計画されていた事だ。

 

イセノで始まった宣言をより確固たるものにする為に。

 

帝国に大きな一撃を入れてやる。

 

上陸するキャッシーク第二師団の鋭気は万全だ。

 

レジスタンスと自由の為に。

 

ノルマンディーの軌道上に遂にレジスタンス艦隊が出現し第一の攻撃を放った。

 

何十隻もの軍艦からターボレーザー砲やプロトン魚雷による軌道上爆撃がノルマンディーの沿岸に降り注ぎ地表にダメージを与える。

 

センサーには偏向シールドの反応はなく全弾が命中したはずだ。

 

すかさず上陸部隊が母艦から発進し艦隊から離れるGR-75中型輸送船と共に地上へ降り立った。

 

軌道上爆撃は未だに続き非常時に備えている。

 

爆撃を見下ろしながら数十隻のGR-75中型輸送船、UウィングやXウィング、Yウィング、Aウィングの上陸隊が地上へ急ぐ。

 

ノルマンディーの大気圏を突破し白い雲間を通り抜け澄んだ空を駆ける。

 

どうせなら観光出来たかった、などと腑抜けた事を抜かしている場合ではない。

 

ここまでくればもう直ぐに上陸開始だ。

 

輸送船やUウィング内の兵士達が手に汗を握りブラスターを構え上陸の準備をしていた。

 

後少し、後少しの所で一番先頭を進んでいたUウィングのパイロットが異変に気づいた。

 

「おい…あれ…」

 

隣のパイロットの肩を叩き指を差す。

 

「ん?」と別のパイロットは首を出しパイロットの指差した方向を見つめた。

 

すると直ぐに青ざめ通信システムを起動し全部隊に危機を叫ぶ。

 

「偏向シールドが消えていない!!軌道上爆撃は失敗だ!!」

 

その報告は全てのコックピットやブリッジに響き船内の乗組員を大いに青ざめさせた。

 

だが報告の直後にそのパイロットからの通信は途絶する。

 

妨害電波などではなく文字通り機体が“()()()”したのだ。

 

一瞬パイロット達が大きな不安に駆られ状況は彼らの側を横切る何百発もの光弾とそれに直撃し爆散する友軍機の姿が全てを物語っていた。

 

上陸部隊の師団長を務める少将は乗艦するCR90の中で叫んだ。

 

「これは罠だ!」

 

時既に遅く海岸の幾万もの対空砲火が上陸師団を襲い回避に失敗したUウィングやスターファイター、輸送船を破壊していった。

 

ターボレーザー砲やプロトン魚雷も放たれ魚雷に直撃したGR-75輸送船は兵士を大勢乗せたまま墜落した。

 

『早く回避を!うわっ!』

 

『なんとかしないと…!』

 

『師団長!海岸側から多数のスターファイターを確認!数は凡そ数百です!』

 

護衛部隊のスターファイター・パイロットからの報告が届き少将は絶望の声を上げた。

 

敵は我々を待っていたのだ。

 

このノルマンディーの地で1人残らず仕留める為に。

 

真横を見れば報告通り明らかに百では足りない程のスターファイターがこちらに迫っている。

 

よく見れば既に黄緑色のレーザー弾を放ち上陸部隊に攻撃を仕掛けていた。

 

地上の対空砲網とスターファイター隊の攻撃、もはや反転し逃げる事など不可能だ。

 

「師団長!指示を!」

 

参謀が焦りを見せながら少将に指示を仰ぐ。

 

焦り絶望した少将は他に道はないと彼自身の最良の命令を飛ばした。

 

「このまま上陸を続け海岸を制圧する!海岸さえ押さえれば艦隊の更なる上陸が可能だ!」

 

「ですがこれ以上攻撃を喰らえば!」

 

「他に方法はない!反転して退却しても対空砲火を全面に喰らい帝国のスターファイター隊に更に損耗させられるだけだ!やるしかない!」

 

「了解…!」

 

少将の念押しにより上陸は開始された。

 

既にTIEディフェンダーやTIEパニッシャーの精鋭部隊が多くの友軍機を葬り輸送船を沈めている。

 

XウィングやAウィングが抵抗し迎撃するが他のTIEインターセプターやTIEブルートのパイロットも精鋭ばかりで撃墜は難しかった。

 

『ケツに付かれた!』

 

Uウィングが必死にTIEブルートを振り切ろうとするが最期には地上の対空砲火とTIEブルートのレーザー掃射を喰らい撃墜された。

 

青白い空を爆煙の黒い雲が覆いその一瞬の爆煙の中に多くの兵士の命が消えていく。

 

TIEパニッシャーから更に多くの魚雷やミサイルが放たれ周囲の輸送船やUウィングに深刻なダメージが与えられた。

 

爆撃を食い止めようと迫るXウィングやAウィングもTIEディフェンダーやTIEインターセプターのレーザー砲を喰らい殆どが撃墜されている。

 

そんな中でも砲火を掻い潜り辛うじて地上に着陸し始める部隊が現れた。

 

断崖絶壁の岸からブラスター砲やレーザー砲が放たれる中数十名以上の兵士が輸送船から地上に降り立つ。

 

しかしブラスター砲に直撃し戦闘する事なく何人かの歩兵が倒れた。

 

「突撃だ!」

 

部隊長の命令と共に兵士達が大声を上げてブラスター・ライフルを構えながら岸に突撃するが砲撃やブラスター砲の掃射を喰らい次々と斃れていった。

 

Uウィングや別のGR-75輸送船からも多くの兵士が降り立ち突撃する。

 

だがその様子は岸側の防衛部隊から丸見えだった。

 

「ようやく来やがったか!」

 

1人のストームトルーパーがそう吐き捨てながらEウェブ重連射式ブラスター砲を放つ。

 

天然の崖が切り崩され補強されたトーチカから放つブラスター砲の威力は拡大で迫る多くのレジスタンス兵がトルーパーの弾丸に倒れていった。

 

彼の隣にはEウェブの冷却装置を管理する工兵と別の射撃場からE-11やDTL-19重ブラスター・ライフルを放つトルーパーがいる。

 

ターボレーザーの砲声と振動が彼らのいる要塞内に響き突撃するレジスタンス兵数十名を一気に吹っ飛ばした。

 

千切れた手足や死体がその辺に転げ落ち巻き上げられた土煙が死体に被さる。

 

地獄のような場所を更に多くのレジスタンス兵が通り抜けそして死んでいく。

 

弾幕や砲撃の嵐の中を生きて進める者など誰もおらず岸を突破する事なく誰も彼もが倒れていった。

 

近くに撃墜されたUウィングが墜落し爆煙と火花を上げている。

 

ブラスター掃射を回避する為に数名のレジスタンス兵が急いで墜落したUウィングの物陰の近くに走った。

 

物陰に入るまでに既に3人の兵士が撃たれ生き残った兵士も顔に土が着き一瞬で汚い身なりとなっている。

 

「チッ!!どうなっている!!コイツは奇襲じゃなかったのか!!」

 

部隊長の軍曹はこの惨状を見て吐き捨てた。

 

本来なら海岸の絶壁は崩れ落ち軍曹達はその瓦礫の山を進み突撃していたはずだ。

 

それなのにこの要塞化された絶壁は健在でありったけの対空砲火と弾幕を上陸しようとする全ての部隊に撒き散らしている。

 

こうしている間にも絶壁からスマート・ロケットが放たれ部隊を展開中のUウィングのコックピットに直撃し爆散した。

 

沈黙するUウィングがら降り立った歩兵達もブラスター砲やレーザー弾の餌食になり鎖のように連なったまま斃れ挽き肉にされた。

 

多くの兵の肉体が弾丸により引き裂かれ血が霧のように散布した為既に辺り一面血の匂いでいっぱいだ。

 

一瞬で正気を失わせる地獄の光景は空も同様だった。

 

上陸すら出来ないままTIEスターファイター部隊に輸送機が撃墜され地上と引けを取らない程犠牲が出ていた。

 

「敵部隊は健在です!!このまま突撃しても全滅してしまいます!!」

 

副長の伍長は軍曹にそう進言し軍曹もそれを理解しているからこそ険しい表情を浮かべていた。

 

すると彼らの側に近づく別の分隊が現れた。

 

絶壁に威嚇も込めて射撃しつつ全速力でこちらに向かってきている。

 

「おーい!!生きているかー!!」

 

分隊長はそう軍曹に叫んだ。

 

だが軍曹は逆に分隊長に警告した。

 

「頭を下げろ!!早く!!」

 

「なんだって?」と聞き返そうとした瞬間、分隊長は黄緑色のレーザー弾によって頭を撃ち抜かれその場にばたりと斃れた。

 

彼の後に続く分隊員も黄緑色の光弾により何人かがヘルメットごと頭を貫通し即死した。

 

軍曹の下に着く頃にはその分隊は2、3人程度まで減少し皆絶望的な表情を浮かべていた。

 

「狙撃兵がこっちを狙っている!全員頭を伏せろ!」

 

そういう軍曹の手の僅か吸うセンチメートルのところにブラスター弾が着弾し鈍い音を立てた。

 

後一歩で手に直撃し貫通していた所だ。

 

「チッ!どうすりゃいいんだ…!」

 

軍曹の苛立ちは虚空に消え更に地に響く銃声が掻き消した。

 

今も突撃し浜辺に伏せるレジスタンス兵をブラスター砲やレーザー砲が雑草を刈り取るように彼らの命を刈り取っていた。

 

かつて誰かが反乱軍の事をこう評したことがある。

 

「彼らは害虫ではなく雑草である。雑草が故に嵐のような帝国の攻撃にも曲がりながら生き延び続ける。だが一箇所に根を下ろす丈夫な木であったらもう少し違かったであろう」と。

 

彼らは変わってしまったのだ。

 

雑草から一箇所に根を下ろし腐敗を待つ木へと。

 

だからホズニアン・プライムで敗北し今回も敗北する。

 

雑草のしなやかさを失った彼らは大風雨の帝国に薙ぎ倒されやがてその切り株は“整地”として抜き倒される。

 

それが彼らの最期、愚かな巨木の最期なのだ。

 

「地上の様子はどうなっている!?」

 

「通信妨害が激しく連絡が取れません!!」

 

艦隊司令官は部下からの報告に表情を硬らせた。

 

やられた、これは全て敵の罠、レジスタンス側の情報が筒抜けだったのだ。

 

既に上陸部隊のほぼ全てが惑星内に降下し今頃は苦戦を強いられているだろう。

 

こちらの動きが完全に読まれその上で嵌められたのだ。

 

このままでは第二師団は壊滅し最悪一個師団が丸々喪失する恐れがある。

 

それだけは避けなくてはならない。

 

「我が艦隊も惑星内に侵入し第二師団の退却命令伝達、及び退却を支援するぞ!」

 

司令官はそう宣言する。

 

「しかし地上に入れば艦隊も対艦砲撃を浴びる事に…!」

 

1人の幕僚が司令官に苦言を呈した。

 

地上のターボレーザー砲や対艦攻撃に特化した重砲は易々と大気圏内の艦船にダメージを与えるし敵がSPMA-Tのような重ターボレーザー装備車両が入ればかなりの被害を喰らう事になる。

 

しかし「それでもやるしかない」と司令官は地上への降下を明示した。

 

だが彼らに更に不幸が降り掛かってきた。

 

「司令官!惑星の反対側より帝国艦隊です!」

 

部下の報告はすぐに司令官を振り向かせ艦隊の側面から黄緑色の重ターボレーザー砲が迫る光景を確認させた。

 

完全に敵の罠の中というわけか。

 

「これじゃあまるでエンドアの再戦だ!」と1人の幕僚が苛立ちを込めて吐き捨てる。

 

「主力艦隊は対艦戦闘用意!その他の小型艦及びスターファイターで第二師団の撤退を支援しろ!やれるところまでやるんだ!」

 

スター・デストロイヤーの砲撃を喰らいつつも反転しMCスター・クルーザーやスターホーク級が反撃する。

 

司令官の言う通り彼らは諦める事なく戦い続けるのだ。

 

帝国艦隊との戦闘から6時間後、ノルマンディーでの戦闘は終結した。

 

レジスタンスが誕生して最初の戦いはなんとレジスタンス側の敗北に終わったのだ。

 

上陸部隊のキャッシーク第二師団は壊滅し師団長の少将が責任を負う形で殿を務め戦死、辛うじて生存部隊はキャッシークに帰還した。

 

艦隊も大損害を被りつつも第二師団と共にキャッシークに帰投し帝国軍に勝利を譲った。

 

この敗北は誕生して間もないレジスタンスの先行きを大きく狂わせ計り知れない程の不安が響き渡った。

 

また第二師団の壊滅により貴重な新共和国地上軍の部隊がまた一つ潰れたのも重大な損失だった。

 

一方第三帝国はこの勝利を大々的に称え前線で直接指揮を取ったヴィアーズ大将軍、ローリング大将軍、ルンデシュード元帥の三将は英雄として更に持て囃された。

 

特に海岸要塞の指揮を取り上陸部隊を殲滅したヴィアーズ大将軍と、スターファイター隊の巧みな指揮により上陸部隊を殲滅したローリング大将軍の名声は止まることはなかった。

 

後にこの戦いは“()()()”ノルマンディー上陸作戦、ノルマンディーの戦い、ジュビリー作戦と呼ばれ帝国軍の勝利と記憶される事になる。

 

希望の光の誕生から一点、銀河系は再び先の分からない暗雲の状態となってしまった。

 

 

 

 

-惑星ディカー レジスタンス司令部-

ノルマンディーでのまさかの大敗を受けディカー基地内は大いに不安に包まれていた。

 

イセノで勝利を得た時とはまるで違う雰囲気だ。

 

司令部も何処か重苦しい焦りに満ちた空気が漂い堅苦しい張り詰めた空間となっている。

 

ディゴール大臣も口には出さないが少なからず予想外の事に頭を抱えているだろう。

 

「作戦計画の修正は我々の方でなんとかする。君達は予定通りナブーに向かってくれ。敗北を挽回する為にも今は1人1人の奮闘が大切だ」

 

「はい大臣」

 

「それでは間も無く出立しますので」

 

2人はディゴール大臣に敬礼し彼の頷く姿を確認した後司令部を退出しようとした。

 

するとディゴール大臣が「少し待ってくれ」と彼らを止めた。

 

「なんでしょうか」

 

ジェルマンは振り返り大臣に尋ねる。

 

彼が態々止めるのだから余程の事なのだろう。

 

「実はナブー側の抵抗勢力から少し指定があった。見てくれ」

 

ホロテーブルがナブーの地形を映し出し首都シードや広い草原、湖などを映し出す。

 

そのうちの一つのとある森林にスポットマークが当てられた。

 

「この森林に君達が停泊するよう指示が出た。彼らはここで君達と接触しなんらかの作戦を伝えるらしい」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、確かなものだ。ひとまずここに着陸する事だけは覚えておいてくれ。陽動は我が軍のソード中隊が担う」

 

「分かりました。Uウィングの地図にインプットして置きます」

 

ディゴール大臣は了承したと頷き2人は再び振り返り司令室を後にした。

 

少し歩くと早速あちこちから浮かない、不安げな将兵達の雑談や噂話が聞こえてくる。

 

耳を澄ませば更に「キャッシークの第二師団は全滅したらしいぞ」とか「いや艦隊も全滅したって噂だ」などそんな話ばかりで溢れていた。

 

それが全て真実かは分からないがとにかく我々が知らないところで我々は敗北してしまった。

 

レジスタンスは早速黒星を付けられてしまったのだ。

 

おかげで有る事無い事不安に押し潰されて噂話が流れている。

 

「情報統制……そろそろ入るかな」

 

「さあな、だが少しはこの空気感を脱却する為にもまた俺達が頑張んなきゃな」

 

「ああ…」

 

ジョーレンの返答にジェルマンは小さく頷いた。

 

2人がUウィングの停泊場に向かうとそこには数十名以上のパイロットが集まり機体の近くに寄っていた。

 

アレは確かアンティリーズ中佐とソークー中佐のスターファイター部隊だ。

 

現在の最高司令官はスカイウォーカー将軍だが各部隊の隊長は彼らが任されていた。

 

その中にアンティリーズ中佐も見かけられた。

 

ジェルマンはすかさず声を掛ける。

 

「アンティリーズ大佐!お久しぶりです!」

 

そうだ、彼はイセノなどの戦功を認められ部隊の副隊長として大佐に昇進した。

 

「ジルディール上級中尉か。また任務で出撃か?」

 

アンティリーズ大佐はジェルマンに尋ねる。

 

「はい」と答えジョーレンが詳しく説明し始めた。

 

「ナブーの解放に向かいます。とは言っても女王だけ連れて帰ってくるかもしれませんが」

 

「なるほどな…実は我々もディカーを離れてヤヴィン4に向かう事になった。行った事のある君達なら分かると思うがあそこは今ピンチだ」

 

ヤヴィン4はずっと苛烈な帝国軍の攻撃を受けておりジェルマン達が訪れた時よりも深刻な状態となっていた。

 

このまま戦いが長引けばいつ陥落してもおかしくない状態だ。

 

その為にスターファイター隊のトップエリートである彼らが送り込まれる事となった。

 

「それは…御武運をお祈りします」

 

ジェルマンはそう彼らの奮闘を祈り敬礼した。

 

アンティリーズ大佐も敬礼を返し柔和な笑みを浮かべる。

 

「君達もな、ルークもよろしくと言っていた」

 

「スカイウォーカー将軍がですか?」

 

ジェルマンは尋ね返す。

 

アンティリーズ大佐は頷き事情を話した。

 

「ルークは別の任務で我々と離れる事になってな。共にルーサンで戦った君達を気に掛けていた。フォースと共にあらんことをってな」

 

「それはありがたい。ジェダイ将軍が言ってくれるならこれほど心強い事はない」

 

ジョーレンはそう戦意に溢れた笑みを浮かべた。

 

クローン戦争でジェダイと共に戦ったことがあるからこそ言えるセリフだろう。

 

「あいつがどんな任務をしているかは分からないがいざという時、ルークが我々を呼ぶなら必ず駆けつけるさ」

 

「心強いですね」

 

「そうだな、そろそろ出発の時間だ。君達も頑張れよ」

 

「はい!」

 

再びアンティリーズ大佐に敬礼を浮かべ彼らの出撃を見送った。

 

流石は激戦を潜り抜けた精鋭中隊だ。

 

不安のようなものは一切感じなかった。

 

そのせいかジェルマンの心の面持ちも少しばかり軽い緩やかなものになっていた。

 

 

 

 

-惑星コルサント ギャラクティック・シティ-

久しぶりに家族に会える、久しぶりに我が家へ帰れる。

 

ジークハルトはそんな期待を胸にスピーダーに乗っていた。

 

以前と同じ少尉に運転され帰路についていた。

 

他の将校は大型のスピーダーや列車に乗っているが流石に佐官最高級のジークハルトがそのような扱いを受ける訳にはいかないだろう。

 

タクシーのような形で少尉とスピーダーが付けられ送り迎えされている。

 

それは他の上級将校も大体同じだろう。

 

「知っていますか上級大佐、惑星ノルマンディーで我が軍が大勝利したらしいですよ」

 

少尉は窓から景色を見つめるジークハルトに話を振った。

 

惑星ノルマンディーでの戦い。

 

その事は当然ジークハルトも知っている。

 

むしろこの少尉よりジークハルトの方が詳しく詳細を知っているだろう。

 

レジスタンス軍の攻撃を事前に察知した国防軍は密かに防衛体制と待ち伏せの状況を整え敵の襲来を待った。

 

案の定レジスタンス軍は大部隊を率いて到来し先に展開されていた妨害電波の影響で偏向シールドの存在に気づかず舞台を突入させた。

 

当然無傷の状態で待ち伏せていた国防軍は直ちに攻撃を開始しノルマンディーの海岸要塞でレジスタンス軍を迎え撃った。

 

集中砲火を喰らったレジスタンス軍は打撃を受け追い打ちをかけるように襲来したTIE部隊の追撃を受けて壊滅した。

 

一方のレジスタンス艦隊はエンドア戦宜しく奇襲攻撃を受け艦隊が半壊する程の損失を受けながらも部隊の生存者を全て回収し撤退した。

 

どの道レジスタンス軍は初手の激戦を敗北で終えその士気は大きく落ちただろう。

 

それにあれだけの兵員の損害と艦隊が損耗すれば人員の確保が難しいレジスタンスにとっては十分な打撃だろう。

 

「今じゃ親衛隊よりヴィアーズ大将軍とローリング大将軍達の人気が昂ってます」

 

どこか不満げに運転手の少尉はボヤいた。

 

あの戦いで成果を挙げたのは殆どが国防軍の将兵だった。

 

現地の最前線で指揮を取っていたのも国防軍のストームトルーパーや下士官将校ばかりで親衛隊の将兵は皆ノルマンディーの中央司令部の防衛に回っていた。

 

おかげで親衛隊はお手柄なしだ。

 

その事がやはり気になるらしくジークハルトの旅団内だけでもそれなりに不満は確認されていた。

 

「いいじゃないか、同じ帝国の仲間の勝利だ。素直に喜ぼう」

 

ジークハルトは少尉の不満をそう言って宥めた。

 

親衛隊と国防軍で歪み合う必要はない、互いの勝利は互いに喜び合うべきだ。

 

それは他のファースト・オーダーとも同様だ。

 

我々を隔てるものは潜在的な小さな意識に過ぎない。

 

「まあ確かに…」

 

少尉は渋々納得を示しそれ以上不満は表情に出さなかった。

 

だが一つだけ喜びを浮かべ再びジークハルトに話した。

 

「ですが私は違いますよ。制圧中のハット・スペースの輸送部隊に転属になるんです。そこでしっかり手柄を立ててきますよ」

 

「貴官がか?」とジークハルトは少尉に尋ねた。

 

少尉は「はい」と元気のいい返事をし詳細を話し始めた。

 

「数ヶ月の期間的なものなんですがね。実戦経験の蓄積も兼ねて転属になりました。なので当分上級大佐のお迎えは出来なさそうです」

 

軍帽と髪を掻きどこか照れ臭そうに少尉は笑った。

 

彼にとってこの転属は手柄と経験を積むいい機会になると踏んでいるのだろう。

 

故に気分が高揚し喜びも湧くというもの。

 

そんな若い少尉にジークハルトは一言だけ付け加えておく。

 

「そうか、死ぬなよ少尉」

 

「えっ?ええ当然ですよ!しっかり手柄を立てて次にお会いする時は中尉か上級中尉になっていますよきっと!」

 

「ハハ、そうか。そいつは楽しみだ」

 

軍帽を深く被りあえて表情を隠す。

 

口元だけは意識して変えられても目元の表情は相手にバレてしまうからだ。

 

それから数十分かけジークハルトは一家が住んでいたアパートメントに辿り着いた。

 

停車しスピーダーから先に降りた少尉にドアを開けてもらい外に出た。

 

「それでは上級大佐!」

 

「ああ、またな」

 

敬礼する少尉に小さく手を振り我が家へと急いだ。

 

何よりも焦ったく、何よりも期待に満ち溢れていた。

 

不意にジークハルトはある事が思考に現れた。

 

父が我が家に帰ってくる時はいつもこんな感じだったのだろうかと。

 

ジークハルトの父のバスティ・シュタンデリスは今のジークハルトと同じく地上軍の上級将校であった。

 

クローン戦争では大佐としてクローン・トルーパーの連隊長を務め当時としては貴重な純粋な人間の指揮官だった。

 

その後帝国時代は准将に昇進したがとある事情があって軍を退役した。

 

そしてその遺伝子はジークハルトに引き継がれている。

 

恐らく父として愛する家族にいち早く会いたいという気持ちもそっくりそのまま。

 

階段を全て登り切り我が家のあるドアを開く。

 

開かれたドアと共に安心出来るどこか懐かしい匂いが暖かさと共にジークハルトの方へ巻き上がった。

 

戦場で感じる肌を切り裂くような冷たい空気感とは大違いだ。

 

心の底から安心出来る場所の匂いだった。

 

そしてすぐに迎えが来た。

 

「おとうさーん!!」

 

マインラートは勢いよくジークハルトに飛び付きジークハルトも彼をぎっしりと抱き締めた。

 

「マイン!元気だったか!?」

 

長い間寂しい思いをさせてしまった我が子の頭をわしゃわしゃと撫でる。

 

すると彼の近くに小さな女の子がやってきた。

 

初めて会うが大切なもう1人の我が子だ。

 

ジークハルトはマインラートを引き剥がしながら彼女の方に姿勢と目線を向けた。

 

「君がホリーだね、私が…新しい父のジークハルト・シュタンデリスだ。きっとまだ受け入れられない事もあるだろうがずっと大切にしていくつもりだ。よろしく頼む」

 

そう言ってジークハルトは右手を差し出した。

 

最初は受け入れられなくてもいい、そう思っていた。

 

こないだまで実の父がいたのに突然別の誰かが父を名乗るのだ。

 

受け入れられないのも無理はないし拒絶してしまうのも仕方ないだろう。

 

だが諦めずに接していくことが大切なのだ。

 

そう思っていたのだが意外な事は起こるものだ。

 

「えっと……その…お父…さん…」

 

ぎこちない様子だったがホリーはジークハルトとの事を確かにそう読んだ。

 

そしてマインラートと一緒にジークハルトの腕の中へ入っていった。

 

2人いっぺんに抱かれジークハルトの腕はもう満員だ。

 

2人の子どもの暖かさが全身に伝わってくる。

 

気づかないうちにジークハルトは既に二児の父となっていたようだ。

 

2人のあどけない笑みを見つめほろりと涙が零れ落ちそうになる。

 

そうだ、この光景を守る為に自分は戦っているのだ。

 

そしてようやく帰って来れた。

 

「ただいま、マイン、ホリー」

 

「おかえり、お父さん」

 

「おかえり…なさい…」

 

「おかえり、あなた」

 

「ただいま、ユーリア」

 

最愛の妻に優しく微笑みかけ家族の下へ無事帰ってきた事をより深く実感した。

 

それは本当に小さな、たった一家族の出来事である。

 

されど“()()()()()()()()”と呼ばれた親衛隊の上級大佐からすれば今まで戦場で得たどんな名誉よりも最大の幸福だ。

 

束の間の幸せが疲れた兵士の心を癒そうとしていた。

 

 

 

 

 

 

-アセーター級スター・ドレッドノート ピュリフィケーション 特務作戦室-

「ノルマンディーで帝国方が勝利した。これでレジスタンスとやらの動きは変わるだろう。我々もそれに合わせて狩りの方法を変えねばならん」

 

フューリナー上級大将は何処か心ない声で目の前に佇む皇帝の手に言葉を交わす。

 

彼女はルーク・スカイウォーカーの殺害に失敗しひとまずコルサントへ切り上げてきた。

 

本来ならウェイランドかハット・スペースに戻るはずなのだがフューリナー上級大将に召集された為こうなったと言うわけだ。

 

「スカイウォーカーをある場所に呼び寄せる。そこでお前が再び奴と対決しろ。それで失敗すればひとまずは諦めるしかない」

 

フューリナー上級大将の淡々とした発言に皇帝の手は目を細めた。

 

いくら拾われた恩があるとはいえ到底納得出来る代物ではない。

 

皇帝の手は声を大にして反論した。

 

「そんな!奴を討たなければ皇帝陛下が報われません!私は皇帝の手としてその使命を…!」

 

「君にはやってもらう事が山のようにある。ウェイランドでの育成もそうだが何よりジェダイ狩りよりももっと重要なことを任せたい」

 

怒り立つ皇帝の手を無視するように宥めフューリナー上級大将は彼女に命令を伝える。

 

テーブルに保管されていたタブレットを手に取りパスコードを入力し画面を表示した。

 

更にこの後タブレットに保管されたデータは抹消され綺麗さっぱり消失する。

 

神経質すぎるとも取れるがこの情報はそれだけ帝国にとって重要という事だ。

 

「先日コルサントの治安維持活動を行なった際に我々に接触した者達からの尋問証言や状況報告だ。彼らは自らを“()()()()()()()()()()()()()()()”と名乗っている」

 

皇帝の手はその呼び名と尋問証言を目にしヘルメットの奥底で驚きを浮かべ瞳孔をこれ以上にないほど開かせた。

 

故パルパティーン皇帝からこの上ないほど信用された皇帝の手だからこそ分かる事もある。

 

特にフューリナー上級大将のような初戦は元一般将校では特に。

 

しかし今帝国の中枢にいるのは皇帝の手ではなくフューリナー上級大将だ。

 

今は彼だけしか知らない事も多くある。

 

「第三帝国は他の同盟諸国と同じく彼らに更なるコンタクトを取るつもりだ」

 

データは更に読み上げられ皇帝の手はとある事の確証を強めた。

 

「案内人として君の存在が欲しい、その為にも是非素早くジェダイを仕留めろ。我々がルーク・スカイウォーカーを誘き寄せる惑星は……“()()()()”」

 

たった一言だが皇帝の手ははっきりとその惑星の名前を記憶した。

 

ジェダイを殺す為ならば絶対に忘れはしない。

 

フューリナー上級大将は更に概要を話し続けた。

 

「奴をマーカーに誘き寄せルーサンと同じく奴を叩く。この惑星はお前にとっても不利な状況に働く事もあるだろうがそれ以上にジェダイの能力を大きく削ぎ落とす事が出来る」

 

フューリナー上級大将は皇帝の手に近づき耳元で囁いた。

 

「これが最後のチャンスだ。頼んだぞ、皇帝の手」

 

彼の期待に皇帝の手は「分かりました」とだけ伝えてその場を後にした。

 

ドアが開き退出する皇帝の手を見送りながらフューリナー上級大将は独り言を呟く。

 

「今度こそ倒してくれるといいんだがな……まあいいか。私だ、親衛隊保安局の本部に繋いでくれ」

 

すぐ様別の仕事に移り変わりフューリナー上級大将は親衛隊保安局本部と通信を取った。

 

通信はすぐに繋がれ連絡将校のローゼべリス中佐が応答した。

 

ローゼべリス中佐のホログラムが浮き出て中佐が敬礼する。

 

『上級大将、取り調べは順調です』

 

中佐は端的に状況のみを報告した。

 

それに対してフューリナー上級大将は詳細を尋ねた。

 

「連中、何か喋ったか?」

 

『はい、幾つか話しましたが面会の際には是非“()()()()()()()()()”で来るようにと…』

 

「なるほど…そうか…」

 

ローゼべリス中佐の報告にフューリナー上級大将はパズルのピースが揃ったように納得を示し小さく笑みを浮かべた。

 

どうやら我々はとんでもない遺産を使っていたらしい。

 

そして“むこう”にはとんでもない遺産がまだ沢山あるようだ。

 

ソレの到来だけで銀河系の軍事バランスは大きく変わるだろう。

 

変革への楽しみと高揚感を抱きながら愛艦“ピュリフィケーション”からコルサントの宇宙(そら)を見つめた。

 

 

 

 

 

-ファースト・オーダー領 惑星エスファンディア軌道上 ベラトール級ドレッドノート デスティネーション-

「まさか、そちらから我々の方に出向いてくるとはな。“()()()()()()()()()()”」

 

ベラトール級“デスティネーション”のブリッジでスローネ大提督は代表のヴィルヘルムに手を差し伸べた。

 

ヴィルヘルムはチス・アセンダンシーと亡命帝国勢力の全権代表としてファースト・オーダー、第三銀河帝国との同盟締結の為にここまで来たのだ。

 

隣には副代表のエリンメルヒ・タッグ最高位元帥とサポートのチャルフ准将とエジャイ上級提督とコーシン提督が控えている。

 

ヴィルヘルムはスローネ大提督の手をしっかりと握りしめ友好の現れを見せた。

 

「チス・アセンダンシーと帝国は以前より秘密裏の同盟関係にある。それに今のチスには多くの帝国市民が亡命している。彼らの為にも我々は是非同盟を組むべきだ」

 

黒髪に髭の渋い色男のヴィルヘルムは色気やカリスマを備えたような声で意見を述べた。

 

ヴィルヘルムの意見にスローネ大提督は貼り付けたような笑みを浮かべたまま尋ねる。

 

「それは全権代表としての意見か?それとも“()()()()()”個人としての意見か…どちらだ?」

 

「どちらもだ、いついかなる時代だろうと我々が争い合う必要性はない。亡命してきた者達も皆同じ思いだ、彼らは帝国同士の争いに嫌気が差して亡命したのだ。だからこそ統一は私も皆も望んでいる」

 

ヴィルヘルムの忌憚の無い思いをスローネ大提督は汲み取ったのか満足げに頷いた。

 

どこか警戒していた“デスティネーション”の乗組員やチャルフ准将らも皆その様子を見て警戒を解き始めていた。

 

ファースト・オーダー側の将校達も穏やかな笑みを浮かべている。

 

スローネ大提督は手を離しヴィルヘルムに告げた。

 

「それでは本会場でまた会おう」

 

「ああ、また」

 

スローネ大提督は微笑を浮かべ護衛の将校らと共に“デスティネーション”のブリッジを後にした。

 

彼女らを目で見送りながらヴィルヘルムは小声を出すように口を開いた。

 

「相変わらず鉄の女だ」

 

「前にも会った事があるのですか?」とチャルフ准将はヴィルヘルムに尋ねた。

 

帝国軍の将兵はともかくチス軍の将兵は皆スローネ大提督とは当然初対面である。

 

「ん?ああ一度だけ“ヴィジランス”が率いる機動部隊でな。私が当時統治していた宙域に彼女の機動部隊が現れた事がある。その時から鉄の女という印象が強かったよ」

 

ヴィルヘルムは過去を懐かしみながら准将に答えた。

 

あの当時はまだ准将、中将であっただろうか。

 

まだ大提督の白い軍服ではなく他の将校と同じ一般的な軍服を身につけていた。

 

しかしその能力と鋭い精神力は今と変わりなくそれ故にヴィルヘルムに“()()()”という印象を強く与えた。

 

「しかしファースト・オーダーとはともかく、第三帝国と同盟など締結出来るのかまだ不安だな」

 

タッグ最高位元帥は不安と疑問が入り混じった心配を独り言のように述べた。

 

第三帝国の黒い噂はチス側にも伝わっている。

 

それにチス・アセンダンシーや亡命市民も巻き込まれるのでは無いかという懸念がアセンダンシーの最高評議会でも出ていた。

 

だがそれでも彼らは第三帝国に近づく事を選んだのだ。

 

「今の状況では少しでも国力と軍事力が欲しいだろう。しかもチス・アセンダンシーの軍事力は連中とて少なからず知っているはずだ」

 

「ファースト・オーダー同様こちらが敵意なく近づけば問題ない、そうですね?」

 

コーシン提督はヴィルヘルムの意見に付け加えた。

 

流石は元ヴェイダー卿直属のインペリアル級艦長だ。

 

彼の正確な予想はヴィルヘルムの意見を補強し完璧な説得力を持たせた。

 

「そうだ、それにいざという時は…」

 

「元帥殿!すいません!」

 

ヴィルヘルムの声を遮り別の士官の謝罪を込めた大声がブリッジの中に響いた。

 

するとヴィルヘルムの肩に茶色いトカゲに似た爬虫類のような生物が彼の肩章部分に飛び乗った。

 

「ガディアか、全くこれから大切な時だというのにもうお腹が空いたのか?ん?」

 

ヴィルヘルムはガディアというこの50センチほどの小さな生き物の頭を撫でた。

 

ガディアはどこか嬉しそうに目を瞑りヴィルヘルムの肩章にしっかりと爪を食い込ませていた。

 

「この“()()()()()”、随分と元帥に懐いていますね」

 

チャルフ准将は微笑を浮かべながらヴィルヘルムの肩につかまるガディアの種族名と共に話した。

 

イサラミリという生物はかなり特殊な非知覚生物で惑星マーカーに生息する樹上生物である。

 

イサラミリは枝に爪を食い込ませて直接栄養を摂取する為生きたまま連れて帰るのは難しくヴィルヘルムの肩章には栄養を詰め込んだ特殊なフレームが差し込まれていた。

 

またガディア自身にも栄養素を詰め込んだ特殊フレームが付けられており栄養がなくなると飼育係かヴィルヘルムが足しに来てくれる。

 

また彼らは天敵から身を守る為にフォースを押し出すという特殊な能力を持っていた。

 

このイサラミリは銀河系の中で最も不思議な生き物の一つで未だ謎が多くこのフォースを押し出す能力さえも未知の部分が大きいのだ。

 

ヴィルヘルムはこの爬虫類に似た生き物をある人物から贈り物として貰いそれ以来ずっと飼い続けていた。

 

気づけば飼育係だけでなくヴィルヘルム自身もガディアの栄養フレームを常に携帯するようになっておりガディアもすっかりヴィルヘルムに懐いていた。

 

「ああ、私も彼に懐いている」

 

微笑を浮かべ元帥の肩章の上で悠々自適に食事を取るガディアを再び撫でた。

 

「栄養フレームを交換しようとしたら逃げ出してしまい…」と飼育係の士官は申し訳なさそうにしていたがヴィルヘルムはあまり気にしていなかった。

 

「きっと私から直接与えて欲しかったのだろう。甘え上手な奴め」

 

ヴィルヘルムは今までにないほど穏やかな顔を浮かべていた。

 

「ガディアのおかげで緊張が晴れたよ。ありがとうな」

 

ヴィルヘルムはガディアにポケットから取り出した栄養素フレームを与え飼育係の士官の下へ返した。

 

肩章のフレームも交換し準備万端と体制を整えた。

 

「さて、行こうか。新たな時代に我々の名が加えられる為に」

 

 

 

 

 

 

 

 

-惑星コルサント ギャラクティック・シティ ウスクル歓楽地区 ギャラクシーズ・オペラ・ハウス-

コルサントのギャラクシーズ・オペラ・ハウスは常に一部の上級階級の者達しかいけないエリート娯楽施設だった。

 

ガリアス・ラックス元帥やタノン・プラージ大臣、オナーラ・クワット前会長、フィニス・ヴァローラム旧共和国最高議長などもこのオペラ劇場を訪れている。

 

それ以上にこのオペラ・ハウスを愛したのはあの銀河皇帝シーヴ・パルパティーンその人だった。

 

彼は最高議長時代にも何度もこのオペラ・ハウスを訪れる程のお気に入りだった。

 

彼は度々このオペラ・ハウスで重要な議題をオペラや劇と共に話したりある青年の悩みを聞いていたりした。

 

パルパティーン皇帝にとってオペラ・ハウスとはそれだけ重要なお気に入りの場所だったのである。

 

そんなギャラクシーズ・オペラ・ハウスにジークハルトはある方から呼ばれ単身で来ていた。

 

相変わらずの親衛隊の軍服姿だが今日は右胸に飾緒をつけ十字勲章だけでな今までの幾つかの勲章も左胸の階級章の下に付けられていた。

 

彼としては最大限の礼装で来たのだが如何せん他の人々の格好が派手過ぎてそれでもまだ地味に見える。

 

周りは美しく露湿度の高いドレスや高級感あふれるマント付きの礼服などかなりの豪華さだ。

 

だがあたりを見渡せばジークハルトと同じように軍服の男も数名見かけ別に然程浮いてはいなかった。

 

彼は何人かの上流階級者とすれ違いながらゆっくりと階段を登り目的の場所を目指した。

 

建物の中に入りジークハルトは同じ親衛隊の軍服を着ている男の隣に座った。

 

そして目線をオペラに置きながら口を開く。

 

「例の男、今は親衛隊保安局で取り調べを受けているそうです。“()()()()()()()()()()()”」

 

彼の隣にいるのはホズニアン・プライム戦でも共に戦った名将ゴットバルト・バエルンテーゼ上級大将だ。

 

バエルンテーゼ上級大将はジークハルトの父、バスティ・シュタンデリスやバスティの盟友フリズベン上級将軍と同じくジュディシアル・フォースからの歴戦の猛者だ。

 

彼はジュディシアル・フォースから共和国軍に転入し大佐に昇進すると同時に終戦を迎えた。

 

その後は帝国軍の将官を歴任し一時期はジークハルトの直属の上官だった事もある。

 

銀河協定により居場所を失いつつあった部下や若い将校の為に自ら親衛隊に転身し国防軍だけでなく親衛隊内でも彼らの居場所を作った。

 

その為多くの部下から慕われ“()()()()()()()()()”と親しみを込めて呼ばれていたりする。

 

「そうか…まあ今の所はただの取り調べであろう。問題が出ればすぐに対処する」

 

「お願いします」と劇を見ながらジークハルトは頼んだ。

 

「ああ、生き過ぎた彼らを内側から止める事も重要だ。ジーク、君は知らないだろうがこのオペラは君の父君と初めて見たものなのだぞ?」

 

「私の父とですか?」

 

ジークハルトは顔を横に向けバエルンテーゼ上級大将の方を見つめ尋ねた。

 

彼は小さく頷く。

 

このオペラは“薔薇の皇女”と呼ばれる悲劇のオペラである。

 

ある惑星に薔薇の皇女と呼ばれたアグネスという皇女がいたのだがジェダイとシスの戦争中、彼女は強いフォースを持つ故に両組織から狙われた。

 

戦士として利用しよう、フォースの力を使って新たな兵器の動力源にしよう、敵に渡らぬ前に殺してしまおう、狙う理由は様々だ。

 

彼女を溺愛する父は彼女を狙う全てと戦い多くの血が流れた。

 

やがて彼女の家は没落し父も母も家族も、愛する人も全てを失い絶望の彼方に叩き込まれた。

 

涙を流しても何も返ってこない、そこには何もない。

 

悲しみに暮れた彼女は自ら命を絶ち、彼女の遺体は生前彼女が愛した薔薇の園へ消えていった。

 

やがて人々はアグネスを“()()()()()”と呼ぶようになり孤独な皇女は悲しみを抱いたまま薔薇の魔女として永遠を生き続けるようになったという話だ。

 

とても悲劇的な話でよく出来たシナリオである為大人気のオペラである。

 

同じフォースの魔女の物語としてジェダイにもシスにもならず、愛する人を奪った彼らと銀河を恨んだフォースの魔女のオペラがあるがこれとも引けを取らない人気度だ。

 

あのラックス元帥もこの薔薇の皇女を気に入っておりオペラ・ハウスに度々訪れては薔薇の皇女を鑑賞していたそうだ。

 

「初めて見た時は……まあ重い話だと涙を流しながら帰ったものだが今となっては懐かしい。今度はその息子とこうして見ることになるとはな」

 

微笑を浮かべ感慨深そうにバエルンテーゼ上級大将はジークハルトに語った。

 

「そういえば御子息はお元気になされてますか?」

 

思い出ついでにジークハルトは尋ねた。

 

バエルンテーゼ上級大将はクローン戦争の頃から「いつ自分が戦死するか分からないから」と妻はあえて娶らなかった。

 

だがとある事故に巻き込まれ孤児となってしまった子を1人だけ親戚からの養子として自分の子にした。

 

上級大将が望んでいたかは知らないがその子もやがて帝国軍を目指していた。

 

「こないだ国防軍の少尉になった。態々ここ(親衛隊)なんぞに来なくていいだろう」

 

「確かに…」

 

バエルンテーゼ上級大将の返答にジークハルトは苦笑を浮かべた。

 

確かに道が他にあるならここ(親衛隊)などに来なくていい。

 

私の子供達だって本当は自由な道を進んで欲しいし出来れば親衛隊ではなく国防軍に行って欲しい。

 

ここは真っ暗闇の沼地だ。

 

引き摺り込まれたら最後誰も出られない。

 

「そう言えば君も養子をとったそうだな。どんな子だった?」

 

「噂が経つのが早いですね…女の子でマインラートと同い年ですよ。これからコンプノア・ユーゲントに2人とも入る予定です」

 

「そうか…見かけたら気にかけておくよ」

 

バエルンテーゼ上級大将の心遣いに「ありがとうございます」と一言だけ礼を述べる。

 

「このまま御子息も私の子供達も前線に出る事なく戦いが終わればいいのですがね…」

 

あえて聞かれてもいいとジークハルトは独り言のように呟いた。

 

この戦争は我々の世代で終わりにして新しい世代には平和な時代を維持することを担ってもらいたいものだ。

 

戦争の時代はもう私と父親達で十分だ。

 

千年の反動が大きすぎた。

 

「ノルマンディーでの勝利は大きい……それこそ我々と国防軍の歪み合いの材料に使われるやもしれんが勝利は勝利だ。レジスタンスの出端を挫き勢いを止めたのは大きな功績だ」

 

「ですがモン・カラやヤヴィン、キャッシークの艦隊は未だ健在です。まだ長くなりそうですが…」

 

「ああ、だが再び状況が一変するだろう」

 

バエルンテーゼ上級大将はジークハルトを呼び寄せ彼の耳の近くで小声で囁いた。

 

小さく安らぎすら覚える声だったがジークハルトはその言葉を聞いた瞬間瞳孔が開きバエルンテーゼ上級大将の方を見返した。

 

「本当ですか?」とすぐさま尋ね返す。

 

「ああ、もちろんだ。恐らくこの状況では飲み込まざる追えないだろう、だが我々が有利に立つ事は変わりない」

 

ジークハルトは再び座席に深く座り込みオペラの干渉に戻った。

 

「まあ今は心の片隅にだけ置いておいてくれ。我々軍人はやれと言うまで動けないからな」

 

「はい…」

 

オペラを見るジークハルトの表情は先程よりも何倍も険しくなっていた。

 

それは単に内容のせいだけではないだろう。

 

彼の表情の険しさはまるで彼らが歩む未来の険しさそのものだった。

 

 

 

 

 

-国制圧領 旧シス帝国首都 旧シス領域 エストラン宙域 ドロマンド星系 惑星ドロマンド-

かつて、何千年も前の銀河の大規模戦争といえばジェダイとシスの戦争が主流だった。

 

その地獄のような戦争はクローン戦争の三年間、銀河内戦の五年間などとは比べ物にならない程長く耐え難いものだった。

 

数え切れないほどの人が死に数え切れないほどの傷が銀河中にばら撒かれた。

 

この惑星ドロマンド・カスは一度はそんな大戦争に敗れたシス卿が辿り着き、やがて起こした国の首都惑星だ。

 

シス帝国と言っても歴史的に見れば様々でこのドロマンド・カスを首都にしたシス帝国はヤヴィンの戦いより4,980年前頃に誕生したハイパースペース大戦後のシス帝国だ。

 

別名で再建シス帝国とも呼ばれ広大な領域を支配し千年近く、銀河共和国とジェダイに対する復讐戦の為に銀河の暗黒に潜み続けた。

 

そしてヤヴィン戦より3,680年前に彼らは遂に対決した。

 

後に大銀河戦争と呼ばれる大戦争を引き起こし各地でジェダイや共和国軍と戦った。

 

しかしシス帝国は長きに渡る準備により善戦を重ねアパーロ宙域を制圧し、ティングル・アーム戦役を勝ち抜き遂にはセスウェナ宙域まで征服した。

 

ボサン宙域でシス帝国宇宙軍の小艦隊が敗北するまで彼らは負けなかったのだ。

 

その後勇敢な兵士とジェダイ達の奮闘でシス帝国の進軍は停滞する事もあったがシスの復讐は最終段階に達する事となる。

 

あえて共和国側に交渉を持ちかけ共和国を油断させた。

 

だがそれはある目的の為の隠れ蓑に過ぎなかった。

 

その隙にシス帝国は大規模戦力をコルサントへ急襲させ後にコルサントの略奪と呼ばれる電撃攻撃を行なった。

 

圧倒的なシス帝国軍の電撃戦はジェダイ聖堂すらも陥落させコルサントを制圧し銀河共和国から勝利をもぎ取ったのだ。

 

復讐は完遂されジェダイは大きく疲弊した。

 

その後シス帝国と共和国で冷戦が始まりやがては新シス戦争が引き起こされ今の時代になる。

 

シスの復讐は成されてもシス自体は最終的に滅亡の淵に追い込まれてしまったのだ。

 

やがてはこのドロマンド・カスも多くの者から見放され捨てられた。

 

近年の数十年前にはある1人の古代のシス卿が興したフォースの宗教団が滞在するのみで大帝国の首都の栄光のようなものは微塵も残されていなかった。

 

しかしかつての栄光を復活させようとする者がここに1人いた。

 

親衛隊トップのハインレーヒ・ヒェムナー長官だ。

 

彼は遠く霞んだ亡国の歴史を今の第三帝国と結び付けていた。

 

かつてのシス帝国同様第三帝国は戦争に一度は敗北した。

 

しかし屈辱の日々を耐え忍び復讐戦に対する準備をしてきた。

 

その期間は僅か二年、一年半程度だが気持ちは同じだ。

 

そして第三帝国はシス帝国が絶対の勝利を重ねたコルサントから立ち上がった。

 

彼らと同じように電撃的にコルサントを抑え占拠した。

 

後は言うまでもない。 

 

我らはシス帝国同様勝利した。

 

共和国を打ち砕き復讐を成し遂げ帝国の威信を再び銀河の果てまで知らしめた。

 

ヒェムナー長官は今の第三帝国とシス帝国に運命的な繋がりがある事を感じていた。

 

でなければこれ程までに姿が、歴史が似ているはずがない。

 

我らはダークサイドのフォースで結ばれた国でありシス帝国がやり残した事を我ら第三帝国で成し遂げるのだ。

 

その為に私と総統閣下と今の帝国がある。

 

銀河から全ての“()()()”を取り除き一千年の帝国を、いや万年の永久に続く帝国を作り上げるのだ。

 

それこそ“()()()()”と呼ばれる帝国を。

 

「エストラン宙域の建設と惑星の再編は後数年で完成致します。そう長くは掛かりません」

 

親衛隊将校の1人がヒェムナー長官にそう説明した。

 

既にドロマンド・カスだけでも惑星の特色を生かしつつ都市化が進められかつての首都惑星たる姿が蘇り始めている。

 

この宙域の再編には随分と予算を恵んでもらったものだ。

 

その為に親衛隊と国防軍の予算を少し削り他の省庁からも割り当てを貰ったのだが全ては帝国の勝利を形づける為だ。

 

第三帝国の精神基盤たる聖地を整えずして勝利はない。

 

それにこの宙域の拠点利用は後方のヤヴィンやモン・カラマリ攻略の足掛かりとなるし何よりシス秘密の超兵器の発掘という面でもこの地の開発は欠かせなかった。

 

「“コリバン”の方はどうなっている?」

 

ヒェムナー長官はあえて惑星モラバンド、シスの聖地である惑星を別名義のコリバンという名で呼んでいた。

 

それにどんな意味があるのかは分からないが彼はひたすらにコリバンと呼び少しだけ部下達を困惑させるという事が以前あった。

 

今ではすっかり部下達も悪い意味でなれてしまったという雰囲気がある。

 

「長官のご要望通り大聖堂や神殿、古城の再建を行なっております。こちらもすぐに完成するかと」

 

「そうか、それは素晴らしい。近いうちに私はまたアンシオンに向かわねばならない。それまでには色々と頼んだぞ」

 

「はい長官!」

 

敬礼を受けヒェムナー長官も彼らに簡易式の敬礼を返す。

 

そのまま複数人の部下を引き連れ暫しドロマンド・カスの新都市部を歩いた。

 

一歩歩く度に過去の歴史に思いを馳せオカルトチックな話ばかりする為あまり距離は進んでいなかったが。

 

「総統にも是非この宙域を訪れて欲しいものだ。きっとお喜びになるだろう」

 

そんなヒェムナー長官の提案に周りの将校達は皆作り笑いの混じった苦笑いを浮かべ長官の機嫌を損ねぬよう反応を示した。

 

「帝国は必ず全てに勝利する。帝国全ての栄光と意志を継いで、これは我らの“意志の勝利”だ」

 

ヒェムナー長官はそう確信付いた。

 

彼に賛同したかどうかは知らないがドロマンド・カスの風は彼に応えた。

 

かつてシスの騎士団が立ち上がった領域で秘境の騎士団が立ち上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

-コメル宙域 ナブー星系 惑星ナブー軌道上防衛艦隊-

『こちらソードリーダー、Uウィング聞こえるか?』

 

ジェルマンとジョーレンが乗り込むUウィングにコーラン少佐から通信が届いた。

 

2人は武装類や特殊兵装の微調整を行なっていたがすぐに機長たるジョーレンが応答した。

 

「こちらUウィング、“シールズ・ワン”。聞こえてる、用件は?」

 

操縦桿を握りながら通信機に顔を近づける。

 

隣では調整が終了したジェルマンが地上への着陸準備を行なっていた。

 

彼の座席の隣にはブラスター・ライフルが並んでおりいつでも着陸と共に戦闘可能な状況を作り出していた。

 

だがそれはジョーレンも同じでベルトのホルスターにブラスター・ピストルを、ラックルにはナイフが刺さっており隣にはブラスター・ピストルが置かれていた。

 

敵が入ってこようもんならこちらに振り向くことなく撃ち抜かれてしまうだろう。

 

コーラン少佐のYウィングから返答が届く。

 

『間も無く攻撃を開始する。ステルスとジャンプアウトは大丈夫そうか?』

 

「ああ、問題ない。そちらの健闘を祈る」

 

『了解シールズ・ワン、フォースと共にあらんことを』

 

「ああ」

 

通信が切れジョーレンはふうと一息ついた。

 

「さて、サイナーからの盗品がどんだけ役にたつか賭けようじゃねぇか」

 

Uウィングが後少しでハイパースペースからジャンプアウトする一、二分前に12機のスターファイターで構成されたソード中隊はナブーの軌道上にジャンプアウトした。

 

しかもナブーの防衛艦隊のど真ん中に。

 

「全機!Sフォイル戦闘ポジションにし戦闘開始!」

 

コーラン少佐の命令と共にXウィングやBウィングのSフォイルが戦闘モードへ移行し敵艦隊へ攻撃を開始した。

 

一番槍を挙げたのはヴィレジコフ上級中尉のAウィングだ。

 

全速力で敵艦隊の中を突き抜けレーザー砲で何隻かの軍艦の砲塔を破壊する。

 

そのまま敵艦隊の間を後に続くウィングメイトと共に周り部隊に索敵情報を報告した。

 

「敵艦隊、プロカーセイター級一、ヴィクトリー級二、グラディエーター級二、アークワイテンズ級四、ネビュロンB五!」

 

『了解ソード2、全機対艦攻撃開始!シールズが中に入るまで引き付けるぞ!』

 

3機のYウィングと2機のBウィングが編隊を組み対空砲火を展開するアークワイテンズ級やネビュロンBに爆撃を浴びせ掛ける。

 

偏向シールドを突破し敵艦からは爆炎と火災の煙が噴き出ている。

 

XウィングやAウィングもレーザー砲やプロトン魚雷、震盪ミサイルで攻撃し艦隊へダメージを与えた。

 

だが流石の帝国軍艦というべきかプロカーセイター級やヴィクトリー級の損傷は殆ど見られない。

 

特にレーザー砲での攻撃は全くもってダメージがないように見えた。

 

『ソードリーダー!敵艦に全く攻撃が効きません!』

 

新任のソード12がプロカーセイター級の真横を飛びながら報告した。

 

どんな高火力のレーザー砲だろうと数発程度では大型のスター・デストロイヤーにダメージを与えるなど難しいことだ。

 

『落ち着けソード12、攻撃はまだ始まったばかりだ』

 

コーラン少佐は冷静に若人を宥め自らもこちらに砲身を向けるプロカーセイター級のレーザー砲を破壊した。

 

そのままウィングメイトと共にプロトン魚雷を放ち装甲を打ち破り魚雷を爆散させる。

 

敵艦にダメージを与え振り返り被害を確認するとすぐ反転し再び攻撃に移った。

 

ヴィレジコフ上級中尉も爆撃部隊を支援しつつ砲塔を破壊していた所で更なる敵を発見した。

 

「ソードリーダー!11時の方向より敵機多数接近!艦隊からも艦載機が次々と発艦しています!」

 

『来やがったか!数は?』

 

コーラン少佐はすぐさま数を尋ねた。

 

彼らも既に発艦したナブー王室保安軍のN-1スターファイターと戦闘状態に陥っている。

 

「数は16!大体一個飛行群程度です!」

 

即座に一回転し体制を立て直したヴィレジコフ上級中尉はそのまま味方の背後を狙うN-1を1機撃墜しコーラン少佐の編隊に近づいた。

 

他の編隊も敵機を撒きながら反撃しスターファイター隊を迎撃する体制を取った。

 

「さあてかかってこい、女王の逆賊ども」

 

ヴィレジコフ上級中尉はそう戦意を昂らせながら指をバキバキ鳴らし操縦桿を握り締めたがすぐに暗号伝文で報告が届く。

 

文字で『ファンパの故郷を見つけた』とだけ書かれていた。

 

だが上級中尉らはこの文字で即座に惑星ナブーへの侵入の成功を悟った。

 

「やり上がった!成功だ!」

 

『よし、全機反転。直ちにディカーへ帰投する』

 

ソード中隊は編隊を組んだまま即座に退却し始めた。

 

追撃するN-1スターファイターを何機か撃墜しハイパースペースへ突入していく。

 

ナブーのスターファイター隊はソード中隊を追撃しようとしたがこれ以上敵を追う手段がなく引き下がるしかなかった。

 

艦隊も体制を立て直し敵部隊の再攻撃を待ち構えた。

 

だがこれ以上レジスタンス軍の攻撃が来ることはない。

 

いや、これから攻撃が始まるのだ。

 

隠れ迫ったジェルマンとジョーレンによるナブー王室の大反撃が。

 

そして彼らは接触する。

 

今のレジスタンスと同じく抵抗の灯火を守ろうとする者達に。

 

指定されたナブーの森林に停泊したジェルマンとジョーレンはUウィングへ近づくある1人の人物に声を掛けた。

 

「あんたが我々を呼ぶ者か」

 

「はい、正確には呼ぶ者“()”です」

 

その人物はそう付け加えた。

 

「ではあなた達が」

 

ジェルマンは確証付いたように尋ねる。

 

「はい」とその人物は答え組織名を名乗った。

 

「我々“ナブー王室解放軍”はレジスタンスを歓迎します」

 

皇帝が生まれしこの星は、再び負の遺産と向き合い戦おうとしていた。

 

 

つづく




どうも〜肉を食ったらその晩頭と腹が痛くなった悲しきEitoku Inobeです〜

今日はですね、なんとこの第二次銀河内戦が初めて投稿された日なんだそうな

思えばこの一年色んな事がありましたね…まあ大抵碌でもない気がしますが()

ともかくよくもまあ一年もちゃんと続けられたわし()とよくもまあ一年もこんな作品を読んでいた人達に拍手ですね

今後もこの作品が終わるまで書いて行きたいと思いますので宜しくお願いします

そいではまたどこかで〜


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皇帝の生まれた地で

「未知領域、チスへの亡命は辛く険しいものだった。本当にあるのかすら怪しい国を探し、受け入れられるのかと言う不安を抱きながら道なき道を進んだ。互いに身を寄せ小さな期待を合わせながら向かった旅路の果ては青き肌を持つ友人達の好意によって暖かく迎えられた。我らの旅路は成功し新たに忠義を尽くす相手が増えたのだ。チスが戦いを起こす時相手が誰であろうと我らは共に立ち上がるだろう。何せ我らは盟友なのだから」
-ヴィルヘルム・フェルの未知領域航海日誌より抜粋-


ジェルマンとジョーレンはUウィングで出会ったナブー王室保安軍の保安将校の格好をした男に導かれて森林の奥へと入っていった。

 

大きな木々に囲まれたこの空間はひんやりと涼しく日の光を遮っている為辺りは薄暗い。

 

鳥や虫の鳴き声が聞こえ土や落ち葉を踏む音が森林中に広がっていた。

 

一体何歩歩いただろうか。

 

Uウィングからはかなり離れすっかり森のど真ん中にいる気分だ。

 

あまりにその男が喋らない為本当に道があっているのか心配になってきた。

 

男が更に2人を導き森林の奥底へいった時たえきれなくなったジョーレンが思わず尋ねた。

 

「なあ…この場所、本当に合ってるのか?Uウィングからだいぶ離れちまったぞ」

 

ジョーレンの不安感を伴った疑問は男を振り向かせようやく口を開かせた。

 

「大丈夫、もう目的地には着きました」

 

男はそう言い指を咥え口笛を鳴らした。

 

すると近くの地面が微妙に変色し更には地面が浮き上がる。

 

浮き上がった地面の下にはかなり大きな空洞が生まれその中から王室保安軍のCR-2ブラスター・ピストルを保持した兵士が2名姿を表した。

 

周囲を警戒するように辺りを見回し2人を手招きした。

 

「急いで」とジェルマンとジョーレンは兵士達に連れられ空洞の中へ入った。

 

カモフラージュが掛けてあった空洞の中は階段になっており段差を降りた先にはかなり長い地下通路が広がっていた。

 

等間隔にランプが付けられ水もしっかり抜かれている。

 

「これだけ長い地下通路…一体いつ作ったんです?」

 

ジェルマンは思わず男に尋ねた。

 

しかもクーデター派この地下通路の事を恐らく知らないだろう。

 

「女王陛下が秘密裏に作られたのです。本来は帝国からの攻撃を防ぐものでしたが」

 

男はどこか悲しそうに答え「さあこっちです」と2人を導いた。

 

数分ほど通路を歩いていると大広間に辿り着いた。

 

「お連れした」

 

男は広間でホロテーブルを囲むグンガンや王室保安軍の将兵に敬礼した。

 

ジェルマンとジョーレンも彼に続き敬礼し何人かのグンガンと保安将校が2人の側に寄った。

 

まずは先頭にいるグンガン族の男が手を差し伸べ自らの名前を述べる。

 

「グンガン・グランド・アーミーのガドゥ騎兵隊隊長、マフィス・ホーリスだ。よろしく頼む」

 

「ジェルマン・ジルディール上級中尉です」

 

「ジョーレン・バスチル少佐だ」

 

「よろしく」

 

騎兵隊長を名乗るグンガンの男と堅い握手を結んだ2人は更に後に続いた王室保安軍の保安将校とも握手を重ねた。

 

「クールシュ・フランケ一等陸佐だ。王室解放軍の最高司令官を務めている」

 

「ブラム・ガイルス二等海佐です。そしてこちらがあなた方を案内したスライト・メンジス三等陸佐、本来は諜報課の情報将校だった」

 

メジンス三佐は敬礼しガイルス二佐やフランケ一佐と同様に握手を交わした。

 

彼らの後ろには多くのグンガン兵や保安兵が控えており通信士官やセンサー士官がモニターを見つめ諜報活動と防空に勤しんでいた。

 

「ここが解放軍の司令部ですか?」

 

ジョーレンは辺りを見回しながらフランケ一佐らに尋ねた。

 

一佐は小さく頷き説明を始めた。

 

「この空洞は元はグンガンの秘密の避難所に繋がる通路だった。しかし内戦中に再び帝国軍に攻撃された時の事を考えここを秘密の司令室に改造する事をソルーナ女王はグンガンに提案した」

 

「我々は女王の提案に賛同し我が軍隊が常時使用する事を認める代わりに建設を始めた。まさかこんな結果で使うとは思わなかったが」

 

フランケ一佐の返答に付け加える形でホーリス隊長は皮肉を込めて小さく苦笑した。

 

彼とてこの状況が悔しい訳ではない。

 

今や第三帝国の傀儡となってしまったナブーは最悪の独裁体制の中日々を暮らしている。

 

特にグンガン族は第三帝国によって迫害の対象となりその生命が脅かされていた。

 

「ちなみにこの空間をクーデター組は知っているのですか?」

 

ジェルマンは彼らに尋ねる。

 

もしここがクーデター軍にバレていればいつでも攻撃を受けてしまう。

 

「女王とキャプテンコォロら一部の上級将校が秘密裏に建設していたものでしたから連中は知らないはずです。ですが尋問の結果特定される可能性はありますが…」

 

メンジス三佐は不安を込めて答えた。

 

更に三佐は不安を口にする。

 

「それにクーデター軍の指導者のクリース宙将は宇宙艦隊の総司令官です。おかげで艦隊整備に意識が集中しこの拠点を知りませんでしたが軌道上からの精密な索敵で発見される可能性は十分にあります」

 

「クリース……以前一度だけ会った事がありますね。確かナブーの宇宙艦隊部門創設の中心的な人物でしたね?」

 

ジェルマンは記憶を辿りメンジス三佐が発した男の名前と行動を口に出した。

 

三佐は他の将校らと共に頷き男の事を説明し出した。

 

「宙将は元スターファイター部門の将校で宇宙艦隊の総司令官でした。王室保安軍内の旧帝国派の抑え役としても信頼が篤かったのですが…」

 

「それが裏切りクーデターか。一体いつからこの事を計画していたかは分からないがしてやられたという訳だな」

 

「はい……ご存知の通り首都シードを含めたナブーほぼ全土はクーデター軍の支配下にありソルーナ女王らも彼らの手中にあります」

 

「それで解放軍側の戦力は?」

 

ジェルマンは解放軍将校らに尋ねる。

 

この感じからして数十人程度の小さい組織ではないだろう。

 

所属している兵も殆どが王室保安軍の正規兵のはずだ。

 

「この施設周辺に隠れているのが将校も合わせて近衛兵数十名、保安隊の歩兵が一個小隊、パイロットが5名、擲弾兵(Grenadier)が18名技術者数名です」

 

「近くにはグンガン・グランド・アーミーの総軍もいる。その為大多数の解放軍はクーデター軍内部に潜んでいるか別の拠点に本隊を構えている」

 

「特に海軍は解放軍シンパが多く今すぐに艦を手配しても五分以内には到着する手筈です」

 

ガイルス二佐は自慢げに豪語した。

 

通りで海上からの砲撃や捜索の危険性がないわけか。

 

「陸上の保安隊は?」

 

「少なくとも私の隊は残っているが殆どがクーデターに反対し捕らえられるかゲリラ活動を続けている。ガイルス二佐のようにホロ通信一本で動かせるのはほんの僅かだ」

 

フランケ一佐は頭を抱えながら話した。

 

恐らく捕縛された保安隊将兵も殆どがクーデター側に加担してしまっただろう。

 

ゲリラ活動を続けている将兵もこちらと連絡が取れる訳ではない。

 

「そして完全に制圧化にある宇宙艦隊とスターファイター隊か……こりゃあ厳しい戦いになりそうだ」

 

「取り敢えず我々の運んできた物資をこちらに運びましょう。それから偵察も兼ねてシードへ」

 

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部 地下会議室-

以前のように親衛隊本部の地下会議室は“1()1()()”の上級大将に囲まれていた。

 

しかしシュメルケ上級大将の姿が見えずフューリナー上級大将とシュテッツ上級大将はホログラムでの参加となっていた。

 

そんな中最高司令官の姿が見えない事を疑問に思ったバエルンテーゼ上級大将が「シュメルケ上級大将はどうした」と尋ねた。

 

「最高司令官はもう間も無く到着するはずだ」

 

「遅くなった」

 

ドアが開き2人の男が姿を表した。

 

1人は白い親衛隊の軍服を見に纏い新しい階級章を付けたシュメルケ上級大将、もう1人は黒い親衛隊の軍服と上級大将の階級章を身に付けたクアリス・アルフェンマイヤー大将だった。

 

アルフェンマイヤー大将はノルマンディー星系の親衛隊司令官でノルマンディーの防衛司令官も務めていた為防衛成功などの功績と共に上級大将に昇進した。

 

そして一方のシュメルケ上級大将はというと…。

 

「本日付を持って新設された親衛隊元帥(FF-Grand General Admiral)に昇進した。今後も親衛隊の最高司令官として帝国と総統の為に全力を尽くすつもりだ」

 

突然の報告によりアルフェンマイヤー新上級大将とフューリナー上級大将を除く全員が固まった様子だった。

 

唖然とし驚きを隠せないと言った様子だった。

 

だがフューリナー上級大将だけは拍手し『おめでとうシュメルケ』と微笑んでいた。

 

「ありがとうフューリナー、内定していた通りFF元帥に昇進した。それでは会議を始める、アルフェンマイヤーも席に」

 

「はい元帥殿」

 

白服の新元帥は新しい上級大将を席に座らせ自らも席についた。

 

他の上級大将達も大まか納得し始め何事もなかったかのように会議を始めた。

 

「まずはチス・アセンダンシーだ。会合の様子はどうなった?」

 

チス・アセンダンシーはアウター・リムの果て、未知領域にあるチス族の寡頭制国家だ。

 

旧帝国でも密接な関係にありかなり強大な軍隊を保有していた。

 

またチス側の接触で分かった事なのだが銀河内戦の末期に亡命した帝国軍将兵や市民を保護しているらしくその規模は以前のものよりかなり巨大化していた。

 

そんなチス・アセンダンシーはファースト・オーダーを通して第三帝国と再び同盟を結びたいと願い出たのだ。

 

その為またフューリナー上級大将が旗艦“ピュリフィケーション”と共にコルサントを離れたのだ。

 

だが今回はヒェムナー長官ではなく新外務大臣のリーベンドロプ大臣が担当しついさっきまでアセンダンシーとの同盟締結を話していた。

 

『ひとまず持ち帰り……だな。チスとの同盟は様々な面で弊害がある、ファースト・オーダーのようには行かぬさ』

 

「大まか予想通りだがチス側の反応はどうだ?」

 

『ファースト・オーダーと同様譲歩的ではあるが……完全に従僕させるのは不可能だろう、チス側は疎か亡命者達もそうだ。当分同盟は締結出来そうにない』

 

「そうか、まあそうなるだろうな」

 

シュメルケ元帥は当然だと反応を示した。

 

そもそもチス・アセンダンシーはチス単体による非人間の国家で本来はホロコーストの対象、もしくは隷属化すべき相手だ。

 

だが亡命者と旧帝国の側面から席に付かざるを得ず当然乗り気ではない。

 

もし今交渉の席についている外務大臣がリーベンドロプではなくゼールベリックだったらもう少し変わっていただろうが。

 

早いうちに失脚させておいてよかったと一部の人間は思っていた。

 

「最悪に備えて親衛隊の地上軍三個師団と宇宙軍二個機動部隊をアンシオン周辺に展開しておく。現地の駐留部隊と合わせてこれだけ入れば少なくとも本隊到着までの時間は稼げるだろう」

 

「シュメルケ元帥殿、いくらなんでもそれは早すぎだ。まだ相手の不安を煽るような行為は慎んだ方がいい」

 

バエルンテーゼ上級大将はシュメルケ元帥にそう諫言した。

 

まだ交渉が破綻する訳でもないのにそれだけの部隊を配備してしまえばチス・アセンダンシーにいらぬ不安を与えてしまう。

 

それこそ交渉破綻の要因となってしまうだろう。

 

「それにそれだけの戦力をどこから持ってくる?親衛隊も各地に分散している為そう簡単には行かんが…」

 

フリューデンベルク上級大将は尋ねた。

 

親衛隊も国防軍同様銀河の東西南北全てに部隊を派遣している為自由に動かせる戦力は少ない。

 

元々急速に支配領が増加し軍の配備すらままならなくなっていたほどだ。

 

せいぜいコルスカ宙域の機動部隊程度しか回す事は出来ない。

 

「大セスウェナの駐留戦力に任せて周辺の親衛隊を撤退させる。そうすれば未知領域に少しは回せるだろう」

 

「だがあそこにはまだサラストがあります。陥落間近とはいえ原住民のサラスタン含めて危険な勢力です」

 

「確かに大セスウェナの軍はグランドモフヘルムート・ターキンの方針でほぼ攻撃に回せない。となるとまた国防軍に手柄を譲る事になるが…」

 

シュメルケ元帥の提案にミューレンリーベ上級大将は不安を口にした。

 

更にはヴィスターリッヒ上級大将も国防軍の名を挙げて危惧を示す。

 

サラストは元より親反乱同盟側で新共和国とも深い繋がりを持っていた。

 

度々大セスウェナの見張り兼防衛台として新共和国軍が駐留しホズニアン・プライム陥落後はサラスト星系周辺の支配すら儘ならない有様だったがそれでも堅牢な守りを保持している。

 

キャッシークやモン・カラ、ヤヴィン4と並んで現在のレジスタンスの一大拠点と目されていた。

 

その為下手に親衛隊を撤退させる事は出来なかった。

 

撤退と同時に急速に戦力を回復させる可能性があるし残った国防軍やセスウェナ連邦軍に攻撃を受けてノルマンディーの二の舞になるのは避けたかった。

 

勝利の栄光ばかり国防軍に取られていては困る。

 

「当然サラストのレジスタンスには舞台から降りてもらう。我が親衛隊がサラストを陥落させる」

 

シュメルケ元帥はそう断言した。

 

それもサラスト陥落はとうの昔に確定してるようだ。

 

「簡単に言うが誰がやるのだ。失敗すれば撤退どころの話ではないぞ」

 

バエルンテーゼ上級大将は溜息混じりに疑問を吐き捨てた。

 

するとシュメルケ元帥はバエルンテーゼ上級大将の方を見つめニヤリと微笑んだ。

 

「バエルンテーゼ上級大将、君に任せる。どんな手を使っても構わん、サラストを陥せ」

 

「…簡単に言ってくれる。当然命令なのだろう?全く親衛隊の元帥閣下は酷いお方だ」

 

皮肉と呆れを込めてバエルンテーゼ上級大将はシュメルケ元帥に次から次へと愚痴をこぼした。

 

酷い無茶振りに対しもはや苦笑と愚痴しか浮かばない。

 

「君が無理なら私がやろう。別に誰がやっても構わんからな」

 

どうせ軌道上爆撃による殲滅戦を決行するつもりなのだろう。

 

シュメルケ元帥の戦い方は基本そうだ。

 

それも相手は非人間のサラスタンと反乱分子のレジスタンスだ、手加減などする必要がない。

 

「分かった…私がやろう。だが幾つか部隊を借りたい」

 

他の上級大将達は顔を見合わせそれぞれ疎に頷いた。

 

「まずはフューリナー上級大将のフェリス・スタイナー少将と第五機甲師団、そしてモーデルゲン上級大将の“第三機甲旅団”を」

 

無茶だろうとやってやる、まだ自分が“()()()()”であるならば成功するはずだ。

 

バエルンテーゼ上級大将は何処か祈るように心の中でそう唱え覚悟を決めた。

 

我々が“我々”である為の最後の砦を守る為、彼は戦いに身を投じようとしていた。

 

 

 

 

-コルサント ギャラクティック・シティ-

日も暮れてコルサントの都市の灯りが眩き始めた頃シュタンデリス一家は夕食の席に着いてた。

 

親衛隊本部でのデスクワークは前線にいる時とは違いすぐに家に帰れる。

 

家に帰れば前線とは違い暖かい家族に出迎えられ最愛の妻と共に過ごせる。

 

冷たい土の上で食べるレーションもここでは家族と共に過ごす暖かい食事だ。

 

本当ならずっとこうしていたい、いやずっとここにいたい。

 

それもあと少しで叶うかも知れない。

 

バエルンテーゼ上級大将から聞いたあの情報、チス・アセンダンシーとの同盟が締結されれば帝国は更に強くなる。

 

ノルマンディーのようにレジスタンスは次々と敗北を重ね帝国の勝利は後少しのところまで来ているはずだ。

 

レジスタンスを倒せば帝国の敵は大幅に減りまた前線に出る機会も減るだろう。

 

ヴァリンヘルト上級中尉のような若い将校には不満だろうし私としてもまだバエルンテーゼ上級大将のような優れた上官と共に戦いたいが。

 

だがこのまま旅団長をアデルハイン辺りにでも預けて後方の司令本部や作戦部勤務の将校になればこうして家族と過ごす機会も増えてくる。

 

後方勤務でも十分昇進の機会はあるしいっその事このまま退役してしまうのもアリだろう。

 

昔は父を超えたいなどと思っていたが今ではすっかりそのような気概はどこかへ消えていってしまった。

 

私は弱い人間だ、だがそれでも守るべきものは、大切なものは既にある。

 

それで十分だ。

 

ふと食事を囲むを見つめてジークハルトは笑みを零した。

 

「どうしたの?お父さん」

 

マインラート微笑む父親に声を掛けた。

 

何もないのに突然笑みを見せれば少なからず疑問に思うだろう。

 

ジークハルトは「なんでもないよ」と返し別のことを口に出し話をはぐらかした。

 

「そういえば後二、三日もすればいよいよユーゲントの入学式だな。緊張してるか?」

 

「うんうん、全然。すごく楽しみだよ」

 

「私も…マインと同じクラスだって聞いたから…」

 

本来クラス分けの内容はまだ知らされていないのだが一昨日、本部で報告書の作成中にユーゲント教育部の将校と出くわした。

 

暫し雑談しその過程で2人が同じクラスだという事をこの将校から聞いたのだ。

 

「ご家族はともかく他の方々には他言無用でお願いしますね」とのお墨付きだったが家族なので話して構わないだろう。

 

おかげで入学に少し不安を覚えていたホリーも安心したらしくコンプノア・ユーゲントの入学を楽しみにしてくれていた。

 

尤もホリーが自分の養子だと既に向こうが知っていた事が一番の驚きだったのだが。

 

「しっかり勉強してクラスメイトも大切にするんだぞ?」

 

「うん!」

 

「はい…!」

 

「よし、いい子だ。父さんと母さんもちゃんと入学式に行くからな」

 

ジークハルトは浮かない顔で食事が止まっていたユーリアの方を見た。

 

ずっとユーゲントの話をしている時から心配そうな表情だった。

 

だが入学式の話を聞いて無理やり「ええ…!」と反応を示した。

 

「大丈夫、きっとなんとかなるさ」

 

ユーリアの方を見つめて一つ一つ穏やかに彼女の不安を宥めた。

 

なんとかなる、そう信じよう。

 

何せ我々には銀河最強の元戦士が付いているのだから。

 

きっと我が子達を守ってくれる、それが両親だけのエゴだとしても。

 

きっと明るい未来の為なのだから。

 

 

 

 

 

-ァースト・オーダー領 惑星エスファンディア軌道上 ベラトール級ドレッドノート デスティネーション-

チス・アセンダンシーと第三帝国の同盟締結交渉はファースト・オーダーの時と比べてかなり難航した。

 

双方妥協点を見出せず最終的には意地の張り合いに似たものになってしまった。

 

特に第三帝国側はチス族そのものを受け入れる事が難しくこの同盟問題はコルサントへの持ち帰りとなりひとまず中立のみが結ばれる事となった。

 

しかしチス・アセンダンシー側としてはほぼ予想通りで中立条約が結ばれただけでも十分な成果だと捉えていた。

 

ハイパースペースの入る第三帝国のスター・デストロイヤー艦隊を“デスティネーション”のブリッジからヴィルヘルム達は見送っていた。

 

「交渉は元の予想からすれば失敗…でしょうか?」

 

チャルフ准将は不安げな表情でヴィルヘルムに尋ねた。

 

予想された結果がどうであれ同盟の締結がなされなかったという点では失敗だ。

 

もしかすると今後急速に関係が悪化し戦争状態に陥ってしまう可能性だってある。

 

だがヴィルヘルムは「大丈夫だ」と彼の不安を取り除こうとした。

 

「あくまで同盟締結は持ち越しとなっただけだ。交渉は破綻したわけではないしまだ可能性は十分にある。信じて待とう」

 

「そうですね…」

 

「ですがフェル元帥、第三帝国の視察団の件もあります」

 

「そうだったな」とヴィルヘルムは少し頭を抱えた。

 

同盟国としての責務を全う出来るかどうか、第三帝国側から何名かの視察を送る事を条件にひとまずの中立条約が結ばれた。

 

その為後数週間経てば視察が送り込まれてしまう。

 

「こちらから視察団のメンバーを推薦する事は可能だったか?」

 

ヴィルヘルムは交渉の席にいた他のメンバーに尋ねた。

 

「ああ、一応希望は取れたはずだ」

 

タッグ最高位元帥はヴィルヘルムにそう伝えた。

 

「そうか…ならなるべく国防軍の人員が望ましいな……例えばヴィアーズ、ローリング、オイカン辺りの三将とか」

 

視察団に親衛隊なぞ呼んだら何を言われるかたまったものではない。

 

そもそもチス族自体に好意を抱いていないので些細な事を大袈裟に記載して報告する可能性がある。

 

それならまだ由緒正しき帝国軍の軍人である彼らの方が安心出来るだろう。

 

特にヴィアーズ大将軍、オイカン上級元帥は実直な職業軍人で過度な好印象は期待出来ないがあえて悪評を報告するような事はないだろう。

 

ローリング大将軍も多少過激な面はあるが少なくとも親衛隊よりはマシだ。

 

「特にヴィアーズ大将軍配下の将兵が望ましいと考えます。元501軍団の将兵を多く抱えていますし」

 

コーシン提督の提案はヴィルヘルムの決断に大いに役に立った。

 

ヴィアーズ大将軍は今では帝国地上軍の長官、分裂した501軍団の残存兵員だけでなく強襲装甲師団、第一軍団などの精鋭部隊を直接麾下部隊においている。

 

帝国に忠実な彼らなら安心だ。

 

「コーシン提督は彼らと面識があるのか?」

 

エジャイ上級提督は提案者のコーシン提督に面識の有無を聞いた。

 

彼らは同じヴェイダー卿配下のエリート将校で更にはヴェイダー卿のお気に入りだったはずだ。

 

「ある事にはありますがそこまで深くありません。死の小艦隊結成と同時に別部隊の指揮官として転属になりましたから」

 

死の小艦隊配属時の“デヴァステイター”の艦長はコーシン提督でなくジャレッド・モントフェラット提督という別の人物だった。

 

提督でありながらインペリアル級一隻の艦長であり惜しくもエンドアの戦いで“デヴァステイター”と運命を共にした。

 

おかげでコーシン提督は生き残っていたのだが。

 

「501の“()()()”ならこちらにもいる。彼らに任せてみようか」

 

エンドア戦後、分裂した第501軍団の残存兵員を接収したのは第三帝国だけではない。

 

こちらにもまだ“()()()”はある。

 

まずはそのうち、プラージと“()()()()”に出てもらおうか。

 

「では戦果を報告しに帰投するとしよう。三年……いや四年は待ったのだ、今更数週間どうという事はない」

 

銀河に戻る日はそう遠くない。

 

エスファンディアで別れる彼らの後ろ姿はどこかその後の冷たい未来を薄らに表しているようだった。

 

 

 

 

 

 

-ディアン・リーチ レジスタンス絶対防衛戦線内 ヤヴィン4軌道上 ストライキング・ディスタンス-

ローグ中隊、レッド中隊、ファントム中隊がヤヴィン星系に到着した時には何度目か分からない帝国軍の攻勢を辛うじて退けた後だった。

 

イセノの勝利で一時的にだが戦力がコロニーズ、インナー・リムに引き戻されその隙にライカン将軍らは反撃を開始し防衛線を再構築した。

 

陥落寸前だったヤヴィンもひとまず戦力を立て直し帝国軍の攻撃を待ち続けていた。

 

「よく来てくれたアンティリーズ大佐、ソークー中佐。久しぶりだな」

 

「ディゴール大臣の命令でヤヴィン軍へ派遣されました。これより将軍の指揮下に入ります」

 

2人は敬礼しライカン将軍の手を握った。

 

ヤヴィンの燦々たる状況は耳にしている。

 

帝国の絶え間ない攻撃により既にゴーディアン・リーチ全てを維持するのは不可能であり一時はヤヴィンのすぐ近くまで押し込められたと。

 

領域内の惑星もTIEボマーなどの爆撃を受け無傷でいられる施設は少なかった。

 

それでもヤヴィン内のレジスタンス軍は戦線を維持し続け今日まで持ち堪え続けていたのだ。

 

「帝国からヤヴィン周辺の領域を奪還したが現在の我々ではそれが限界だ」

 

MC80“ストライキング・ディスタンス”に会議として招集されたディクス・ストライン少将はおもぐるしそうにそう吐き捨てた。

 

防衛戦と反撃時の功績を認められたディクスは指揮官の人手不足も相待って同階級のゼロヴァー准将と共に准将から少将へ昇進した。

 

今では彼がヤヴィン領内の一個艦隊の艦隊司令官を担っている。

 

「奪還した惑星で再び軍艦とスターファイターの生産を始めているが今までの大損害に比べては到底足りそうにない」

 

「人員の方は?」

 

ディクス少将にソークー中佐は人員の心配を口にした。

 

それだけの大損害を喰らっていれば兵器類よりも人員の損害の方が深刻で再建出来なくなる可能性もある。

 

「ヤヴィン4は元々退役軍人が住むコロニーだった。今じゃ彼らの大多数が復帰しひとまずなんとかなっているが…」

 

ラクティスはソークー中佐にそう返した。

 

だが言葉は詰まりそれだけではやがて行き詰る事を悟らせた。

 

「ここへ向かう途中にベトレイアル・エンジニアリング社とソロスーブ社から支援を受けてきました。フリゲート艦九隻とコルベット艦十五隻、スターファイター五個中隊を贈呈すると」

 

「確認している、既に各地の部隊へ編入した。アンティリーズ大佐には麾下の中隊とこの五個中隊含めたスターファイター部隊の指揮を取ってもらいたい」

 

「わかりました」

 

突然の任命であったがすぐさま了承し命令を受け入れた。

 

隣ではソークー中佐も「よかったな」と微笑を浮かべている。

 

「これからよろしくお願いします、アンティリーズ大佐」

 

ラクティスはアンティリーズ大佐に手を差し伸べ2人は固く握手を交わした。

 

「ヤヴィンの戦いの数少ない生存者が加わってくれると我々も心強い」

 

ディクス少将も微笑み何処か安堵した表情を浮かべている。

 

「ノルマンディーでの敗北により防衛に出た帝国軍はかなりの数が戻ってくるだろう。再び大変な時になる、全員頼んだぞ」

 

一足遅れて英雄が誕生した地、ヤヴィンでも反撃が始まる。

 

地獄を耐え抜いた兵士たちと歴戦の古参兵たちによる継戦が始まった。

 

 

 

 

 

-惑星ナブー 首都シード-

ナブーの首都シードはその美しい自然と芸術が融合した都市でありながらも様々な苦難に見舞われてきた。

 

通商連合によるナブー封鎖時にはシードも占領されバトル・ドロイド軍が市街地を闊歩していた。

 

幸い封鎖は解除されシードは再び解放されたのだが更なる苦難がシードに降り掛かった。

 

独立星系連合に加盟した通商連合はかつての私念を忘れずクローン戦争中も幾度となく攻撃を仕掛けた。

 

王室保安軍と現地に派遣された共和国第十七軍と共にこのシードで市街地戦を繰り広げた。

 

クローン戦争が終結した後もシードは戦果に見舞われた。

 

エンドアで皇帝が死にこのナブーもシンダー作戦の標的となった。

 

再びこのシードは戦場となり帝国軍と新共和国軍がこの街で激戦を繰り広げてきた。

 

それは一度ならず何度もだ。

 

皇帝の生まれ故郷故にナブーとシードは幾度となく攻撃に晒され戦い続けてきた。

 

平和主義を固く守り続ける時間すらなかったのだ。

 

特に今のクーデター軍による支配下の中では。

 

戒厳令がシードに展開され街中至るところに検問が張られ市街地にもスピーダーやタンクに乗り込んだクーデター軍がパトロールという名の監視を続けていた。

 

「160帝国クレジットね。昔の新共和国クレジットはもう使えないよ兄さん」

 

「知ってますよなんなら持ってるだけで捕まるとか」

 

「おいおいこんな所で言う冗談じゃないですぜ?」

 

レジに立つ店の店主は苦笑を浮かべポンチョを被った青年、ジェルマンから代金を受け取った。

 

今では新共和国クレジットはすっかり“()()”扱いされ帝国クレジットへの返還が推奨、もしくは強制された。

 

それはこのナブー首都シードでも同様で惑星中に出回る現金は全て帝国クレジットに差し代わっていた。

 

「店の外にいるのは知り合いかい?片方見慣れた顔だが」

 

店主は現金を確認ししまっておくと店の外に立つ男2人を指差した。

 

当然彼らはジョーレンとメンジス三佐だ。

 

ジェルマンの提案通りこの首都シードまで偵察に来ていた。

 

「ああ、2人は知り合いですよ。片方がナブー住みだって言うんで案内してもらっていました」

 

ジェルマンは即座に虚偽のエピソードを作り怪しまれぬよう取り繕った。

 

見たところ店主は全く疑っておらず「へえそうかい」と納得していた。

 

「こんな時代に観光とはおふたりさんは随分変わってるね」

 

店主は微笑を浮かべジェルマンを冷やかすように言った。

 

ジェルマンも苦笑を浮かべ言葉を返す。

 

「はい、こんなご時世ですからいつ死んでもいいように見ておきたいものや行きたいところには早いうちに行っておくもんですよ」

 

「なるほどねぇ…世知辛い時代になったもんだ。それじゃあな兄さん」

 

店主は手を振りジェルマンを見送った。

 

ジェルマンも「ありがとうございました」と礼を述べて店を後にしていた。

 

店の外にいたジョーレンは辺りを見つめながら遠くの一部を凝視していた。

 

同じく警戒を続けるメンジス三佐は反対側からくるスピーダーに乗ったクーデター軍の一団を目にした。

 

「哨戒中の歩兵分隊です。少し移動しましょう、バスチル少佐?」

 

固まったまま動かないジョーレンにメンジス三佐は声をかけた。

 

「いや何でもない」と口を開きその後すぐにメンジス三佐の提案に頷く。

 

「遅くなった」

 

店の中からジェルマンも姿を表し3人は揃った。

 

「あちらの道から行きましょう」

 

シードの地理に詳しいメンジス三佐が先導し2人は三佐の後に続いた。

 

どこの道を歩いても人の数は少なく閑散としていた。

 

到底惑星首都の都市とは思えない光景だ。

 

特にエンドア後の解放され勝利に湧き上がる首都シードの姿を見たジェルマンからすればそれは驚きの光景だった。

 

「人が随分と少ないな」

 

ジョーレンは歩きながら独り言のように呟いた。

 

それを聞き逃すメンジス三佐ではなく「はい…」と重く頷いた。

 

「戒厳令の影響で市民は必要最低限の用事でしか都市部には出ません。今のシードはもはや生気を失った操り人形も同然です」

 

「操り人形……か。確かに今じゃナブーは帝国の傀儡も同然、結局四十年近く前の姿に戻っちまったってことか」

 

そう、このシードは過去に遡った。

 

かつてはバトル・ドロイドだったものが今ではクーデター軍の兵士に変わっただけだ。

 

封鎖という名目で実行権を簒奪した通商連合も今ではクーデター暫定王室とその背後に控えている第三帝国に名が変わっただけ。

 

ナブーだけ時を逆行させていた。

 

「なら未来へ進めないと。四十年前、皇帝の呪縛からナブーを解き放たなければ」

 

「ええ…」

 

メンジス三佐は小さく頷いた。

 

すると反対方向からロングコートの男が静かに歩いてきた。

 

三佐はその男に面識がある。

 

男はメンジス三佐に近づくなり彼の耳元で小さく囁いた。

 

「勝利の為の花火が始まる」と。

 

たったその一言だけ呟き男は足早にその場を後にした。

 

だがそのたった一言はメンジス三佐の顔色を大きく変貌させた。

 

震える唇を抑えながら2人に報告する。

 

「少佐、上級中尉、今すぐ離れましょう。ここはもう時期…」

 

「もう遅いですよ三佐…」

 

「ああ…最悪の鉢合わせだ」

 

「えっ?」

 

2人は指を差し通路の先を見つめていた。

 

唖然とするメンジス三佐はその光景を見てすぐに理解した。

 

ああ、一足遅すぎた。

 

全てに反対側の通路ではクーデター軍のパトロール分隊に向けて盛大な“()()”が打ち上げられていた。

 

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部 地上軍部門会議室-

数日前に上級大将ら最高司令部の会議で決定した事に関係しこの日第三機甲旅団の上級将校達が本部に集められていた。

 

普段常駐しているジークハルト、アデルハイン中佐、ハイネクロイツ中佐以外の将校もだ。

 

大隊クラスの指揮官も招集され皆一つの作戦室に一旦は集められた。

 

彼らはバエルンテーゼ上級大将から報告を聞きサラストへ攻撃を仕掛ける事、その為に第三機甲旅団の半数が参加する事が通達された。

 

これは旅団長のジークハルトも数時間前に初めて知られた極秘事項であり将校達にも緊張が走った。

 

その後詳しい参加部隊は追って指示を出すとされ指揮官達はひとまず解散した。

 

残ったのは旅団の上級将校3人と副官の3人のみである。

 

彼らはバエルンテーゼ上級大将と詳細を話す為に本部に残っていた。

 

「軌道上はバイレルとエルシュナーの艦隊が封鎖する。他の南方の親衛隊も支援に入る」

 

「となるとかなりの大部隊が使用出来ますね」

 

「いや、この戦いは南方から親衛隊を撤退させる為のものだ。出来る限り消耗させたくないというのがシュメルケ元帥らの望みだろう」

 

ホロテーブルの親衛隊の部隊を操作し立体的に説明を加える。

 

今度は表示を切り替えサラストの地上戦の作戦説明を行った。

 

「サラスト上陸に際しては電撃的な攻勢と大勢力による制圧を行うつもりだ。まずフューリナーから借りてきたスタイナーの師団と彼の配下の特殊部隊を突入させる」

 

配下の第五機甲師団がホロテーブルの地図上に展開され予想されているレジスタンス地上軍の部隊と衝突した。

 

師団長のフェリス・スタイナー少将は親衛隊地上軍の中でもかなり有能で部隊強化に余念がない指揮官だ。

 

兵同士の一体感や協調性を大切にし1人1人を特殊部隊並みの練度まで引き上げる。

 

彼の師団や直轄の連隊、特殊部隊は他の部隊の何十倍もの過酷な訓練を重ね親衛隊の中でも一二を争うほど精鋭師団と化した。

 

そんな彼の配下にあるストーム・コマンドーやシャドウ・トルーパーは当然最強のユニットであり絶対的な貫通力や突破力を誇っていた。

 

「彼らを先陣に機甲師団や装甲兵団を敵主力に当て抑えつけ撃破する。君たちの出番はその隙に他の連隊と共にソロスーブの本社を制圧しろ」

 

「本社の防衛力はどのくらいでしょうか」

 

アデルハイン中佐がホログラムを見つめながら尋ねた。

 

恐らく向こうも我々の上陸に際してかなりの防衛装備を整えているだろう。

 

それこそ数十ヶ月以上放置したのだからターボレーザーやプロトン魚雷発射装置などもありそうだ。

 

「偵察によれば砲塔が何十門も配備され偏向シールドも備え付けられており一個旅団程度なら立て篭れるそうだ」

 

「となるとアサルト・ウォーカーを全面に出した突撃は逆に損害を受けやすいか…」

 

「爆撃機と歩兵の浸透攻撃が友好だろうな。とはいえ俺と俺の部隊は動かせそうにないが」

 

今回ハイネクロイツ中佐と配下の飛行大隊は参戦せずコルサントで待機となった。

 

スターファイター隊まで貸し出せない、もしくは単純に貸したくないのだろう。

 

何せ第三機甲旅団を借りる時でさえかなり面倒なことになった。

 

「そうだな…空挺や突撃部隊を先行させて砲台を優先的に破壊させながらヴィアーズ隊形で前進…残りの歩兵部隊で徐々に制圧していく」

 

「特殊部隊が先行して主電力システムを一時的にだがダウンさせる。その隙に実行するのも手だろう」

 

バエルンテーゼ上級大将は一つアドバイスしアデルハイン中佐やジークハルトもそれを視野に考え始めた。

 

その中で1人、若年のヴァリンヘルト上級中尉が全員に対して口を開いた。

 

「その前に指揮官はどうします?やはりシュタンデリス上級大佐が自ら向かうのですか?」

 

そう、一個連隊近い兵力を送る事は決まっていても誰が現地で指揮を取るかはまだ決まっていなかった。

 

アデルハイン中佐は「もちろん旅団長本人だろう?」と軽く言ったが当のジークハルト本人は首を降った。

 

代わりにバエルンテーゼ上級大将が指名する。

 

「君だよ、アデルハイン中佐。半個旅団の指揮を取りソロスーブ方面の攻略を頼む」

 

「私がですか?」

 

思わずアデルハイン中佐はオウム返しの返答をしてしまった。

 

普段はこのような場合だとジークハルトが出向きアデルハイン中佐が残るパターンなのだが。

 

「私が推薦しシュタンデリス上級大佐が承認した。何か問題でもあるかな」

 

「いえ…!光栄です!」

 

バエルンテーゼ上級大将の一言はアデルハイン中佐を年甲斐もなく喜ばせた。

 

アカデミー時代からバエルンテーゼ上級大将が憧れだったアデルハイン中佐からすればこれ程までに名誉な事はないだろう。

 

ジークハルトも「しっかり戦果を挙げてこい」とエールを送った。

 

「ソロスーブを包囲して堕とせばレジスタンスの軍事生産力を大幅に削ぎ落とす事が出来る。これは今後の局面においても重要な意味を成すだろう」

 

サラストとソロスーブ社が撃破されればレジスタンスの戦力は大きく没落し生産力も低下する。

 

そうすれば数的優位にありクワットやコレリアなどの生産力を有している帝国の方が遥かに優勢に立つ事が出来る。

 

これは重要な戦いだ。

 

「忠誠を誓った帝国の為に奮闘する事を期待する、アデルハイン中佐」

 

「はい!我が祖国と総統の為に!」

 

中佐は敬礼しその身で祖国への忠義を示した。

 

誰からも信頼された立ち位置二番手の指揮官が今その本領を発揮しようとしていた。

 

 

 

 

 

 

「中佐は随分と喜んでいたな」

 

親衛隊本部のとある通路でバエルンテーゼ上級大将は独り言のように呟いた。

 

背後に控えているジークハルトは「ええ」と相槌を打った。

 

「彼は元々閣下の大ファンですから」

 

「そうなのか?私の配下にいた時はそんな素振り余り見せてくれなかったぞ?」

 

どこか寂しそうにバエルンテーゼ上級大将はジークハルトに聞き返した。

 

ジークハルトは「隠してたんですよ」と付け加える。

 

ジークハルトもアデルハイン中佐も一時期はバエルンテーゼ上級大将の下で副官や部隊長を務めていた。

 

スカリフで拾われガリタン戦で部隊がノートハーゼン宙域に身を寄せた時にはハイネクロイツ中佐も彼の配下に付いていた。

 

現在の第三機甲旅団はこのバエルンテーゼ上級大将と大きな縁があった。

 

「昔アカデミーでそんな事を話していました。クローン戦争での閣下の活躍が自分の道を教えてくれたと」

 

「普通こういう場合は私のような一士官よりクローンの方に憧れるのではないか?」

 

「確かに、でも彼にとって軍人ゴットバルト・バエルンテーゼはクローン・トルーパーやどの英雄よりも憧れだったんですよ」

 

バエルンテーゼ上級大将は嬉しそうに微笑を浮かべた。

 

ここまで自分を慕ってくれている将校だとは思わなかったのであろう。

 

どこか報われ誇らしいような顔つきをしていた。

 

「…クローン戦争は我々にとって地獄のような日々だった」

 

一間を置きバエルンテーゼ上級大将はポツリと話し始めた。

 

それも先程とは違い苦々しい表情で。

 

「千年ぶりの大規模戦は未熟な私達を苦しめ多くの戦友達の命を奪った。ジュディシアル時代からの旧友、戦場で共に戦ったクローンの仲間、皆平等にだ」

 

戦場での過酷さはジークハルトも痛い程分かる。

 

先の銀河内戦では多くの戦友が戦死したしこの戦いでも勝利を重ねているが少なからず戦友達を失っていた。

 

ウェイランドではペリタリス上級大尉と外人部隊の兵士達が多く失われた。

 

「そして倒しても倒しても減らないバトル・ドロイドの群れ、連中に対して憎悪や復讐心と言ったものは無意味でありただ消耗していくだけだった」

 

「昔父も何度か話していました。『ドロイドの物量はこちらの攻撃を飲み込み波のように押し寄せてくる。意志のない殺戮マシンに憎悪を向けてもそれは虚空にボールを投げるようなものだ』と」

 

「私とバスティとフリズベンは共に戦ったからな、あの地獄は経験済みだ。あの戦争は世に語り継がれる程良いものではなかった。戦いはなく虚無に満ち溢れ、疲弊していく日々…」

 

それはもはや苦々しいというより思い出したくもないと言った表情だった。

 

戦争の勝利という美酒や美談では拭いきれないような地獄。

 

今のバエルンテーゼ上級大将から放たれる言葉ひとつひとつにそのようなものが込められていた気がした。

 

「何より辛かったのは市民の感情だ。守るべきはずの共和国の市民に指を差され貶されたのは堪えたよ」

 

帝国時代はクローン戦争とは戦勝の記憶であり偉大な歴史とされていた。

 

しかし実際にはそうではない。

 

反戦派が前線の兵士達を貶し将校を犯罪者呼ばわりするなどクローン戦争当時のコルサントなどではよくある光景だった。

 

彼らとて間違っているわけではない。

 

戦争が続けば共和国そのものが瓦解する可能性があるし何より戦時中の下層市民の生活は今よりも更に辛かったそうだ。

 

ただ彼らが放つ言葉が前線の兵士達にとってどう伝わるかは別の話だが。

 

「戦勝と帝国の誕生は確かに我々にとって嬉しく意義のあるものだった、皆報われたと思っている。だが何気に中佐のような人と出会う事が一番“報われた”と思えるのかもしれんな」

 

上級大将の微笑はいつにもなく悲しく哀愁に溢れていた。

 

「父とは真逆ですね…父は私に『私のようにならないでくれ』と言われました。もしそれが後に続く事だとしたら閣下とは意見が食い違うでしょう』

 

「バスティにはバスティなりの考えと事情があるんだ。もう許してやってくれ」

 

今は亡き旧友を思い出し更にバエルンテーゼ上級大将は哀愁漂う微笑を浮かべた。

 

あまりにも淋しい姿だった為ジークハルトは話題を変えた。

 

「そういえば何故今回の作戦で我が旅団からアデルハイン中佐を選んだのですか?」

 

それは単純な疑問の一つだった。

 

今回の作戦はレジスタンス軍の一大拠点を潰す重要な戦いだ。

 

いつものバエルンテーゼ上級大将なら旅団を丸々ひとつ借りていくだろうし選ぶのもジークハルトのはずだ。

 

それを敢えてアデルハイン中佐にしたのは何かしらの理由がある、ジークハルトはそう思っていた。

 

「君なら分かるだろうが中佐は君と同等、もしくはそれ以上の指揮官だ。君達が尉官の頃から知っている私からすれば彼の能力は副でなくても十分通用する」

 

「それは分かります、ウェイランドでは彼の指揮能力に助けられた。アデルハインがいなければ間違いなくやられていたことも多々ある」

 

「だからこそ彼の腕を見せる機会を作ってやりたかった。このままいけば中佐は親衛隊の司令部から過小評価を受けてしまう」

 

確かに、アデルハインは副司令官としていつも私を支えてくれた。

 

彼自身が1人の一人前の指揮官としての技量と経験を持っているのにも関わらずサポートを優先してくれる。

 

それは親友としての友情か将又自身の任務を精一杯こなす為なのか深くは詮索しない。

 

だがバエルンテーゼ上級大将の言うような事態も起こりかねない。

 

親友が軽んじられる姿を見るのは私個人としても辛いものがある。

 

「君はもう時期将官に上がる、准将として一個軍団の指揮官となるだろう。既にシュメルケとモーデルゲンはその腹積りだ」

 

「私が准将に?」

 

ジークハルトは思わず聞き返した。

 

上級大将は「そうだ」と確証し話を続けた。

 

「君は遊軍部隊の軍団長となる、いよいよ一万人以上の指揮官だ。師団、兵団を指揮するのもそう遠くないだろう。君やアデルハイン中佐、ハイネクロイツ中佐が親衛隊の中枢に入るのはもう時間の問題だ」

 

「つまりやがては大将、上級大将へ上がると言う事ですか…?」

 

「ああ、そうだとも。国防軍との権力闘争は悲しいことに激化する、その為に君達のような若く有能な指揮官を今のうちに前面に押し出して行きたいのだ。シュメルケも、他の上級大将達も、私も」

 

権力闘争の道具、そして親衛隊の顔として我々は売り込まれるのか。

 

今回のアデルハインの件もその一環なのだろう。

 

バエルンテーゼ上級大将は建前上はそう言っているが実際には可愛がっていた部下に手柄を立てさせてあげたいと言う腹積りだろうが他の了承した将校達は違うはずだ。

 

「もし君達が親衛隊の中枢に入ってこれるのならこの組織を“()()()”させる事も可能になってくる。我々がこれ以上道を間違えぬよう君達にも託したいのだ」

 

本来は銀河協定の抜け道部隊であった親衛隊も今では随分変わってしまった。

 

保安局、情報部は完全にハイドレーヒ大将の手中にあり暴虐を繰り返している。

 

他のフューリナー上級大将や昇進したシュメルケ元帥らもそうだ。

 

親衛隊を変えこれ以上帝国が帝国でなくなる前に足を止める。

 

その期待が我々に掛けられたのだ。

 

だがそれは…。

 

「はい、きっと叶えてくれますよ」

 

私を除いた彼ら彼ら2人(アデルハインとハイネクロイツ)が。

 

 

 

 

 

 

 

爆発の轟音と人々の悲鳴が首都シードの一角に響きあちこちで銃声が木霊した。

 

爆炎と銃弾の灼熱がその場の人々の肌を焼き傷つけた。

 

ローブやフード付きのポンチョを被り顔を覆い隠しながらクーデター軍の兵士達を銃撃する者達があちこちに散らばりクーデター兵達は防戦一方の状態となっていた。

 

「チッ!テロリストどもめ!」

 

1人のクーデター軍の保安隊員がCR-2ブラスター・ピストルの弾丸を撒き散らしながら毒付いた。

 

先程まで乗っていたフラッシュ・スピーダーは爆発により転倒し今じゃ盾代わりにしかなっていない。

 

「このっ!グアっ!!」

 

「おい!」

 

彼の隣でS-5重ブラスター・ピストルを構える保安隊員は敵の光弾に倒れ被弾箇所を押さえていた。

 

周りを囲まれ他の隊員も動こうにも動けない状態だ。

 

しかも時々手製の爆弾などを投げ付けられ下手に攻撃出来ない。

 

既に分隊の1/4の兵員が負傷し戦闘不能となっている。

 

数的には圧倒的不利な状況であった。

 

「分隊長!このままでは全滅です!」

 

「分かっている!リグサ一等保安士!例のアレを出してこい!」

 

「はっはい!」

 

分隊員のリグサ一等保安士は横転したスピーダーのトランクを開け何かを取り出した。

 

一等保安士を援護しようと他の隊員達はブラスター・ピストルで応戦しその隙に一等保安士は分隊長に「持ってきました!」とトランクの中身を持ってきた。

 

「よぉし!コイツで一網打尽だ!」

 

分隊長は目を輝かせながらその筒状のものを手に取り安全装置を外した。

 

それが何かすぐに分かった隊員は慌てて分隊長を止める。

 

「分隊長!いくらなんでも市街地で重ブラスター・ライフルを発砲するのは危険です!」

 

「何を言う上等保安士!連中の惨劇に比べたら大したことはない!テロリストどもめ、帝国軍の贈り物を食らえ!!」

 

少々錯乱気味に分隊長はDLT-19重ブラスター・ライフルを持ち上げ引き金を引いた。

 

オートで何十発も放たれるDTL-19の弾丸は次々と建物の壁や人を薙ぎ払い目につく敵全てを撃った。

 

屋上にいる敵も重ブラスターの連続射撃によりその被り物やローブに穴を開けられながら地面へと叩き落とされた。

 

一瞬のうちに数名の敵が撃ち倒され残された者はそそくさと退散し始めた。

 

だがそんな敵を逃すはずもなく分隊長はDTL19を担いだまま命令を出す。

 

「1人たりとも逃すな!増援の分隊と共に追撃しろ!」

 

「了解!」

 

背後からフラッシュ・スピーダーが数台現れ多くの保安隊員を降ろした。

 

降り立った保安隊員達は皆銃器を手に逃走した敵相手に突撃していった。

 

「まずいな…完全に逃げ遅れた……」

 

「いや…逃げたら逃げたで特別シェルターに入らざるを得ずどの道捕まってしまいますよ…」

 

建物の影に隠れた3人は静かに保安隊の様子を見守っていた。

 

「今のうちに退避しましょう、この区画に兵員が集中してどこかしら手薄になる」

 

ジェルマンは2人に提案し保安隊の方を見つめた。

 

既に数十名の保安隊員が交戦地帯に集まり負傷兵の搬送と追撃や偵察に出ていた。

 

「まさか地上部隊も帝国軍から支援を受けているとは…」

 

あの部隊長と思われる保安隊員が使っていたDTL-19重ブラスター・ライフルはどこからどう見ても帝国軍の最新式の武器だ。

 

圧倒的な火力で襲撃を行った抵抗勢力の民兵達は蹴散らされ撤退せざるを得なくなった。

 

「ウォーカー類まで一般に行き渡ったら解放なんて夢のまた夢の話になる、早くせんとな」

 

ジョーレンは保安隊の様子を見つめながらそう呟いた。

 

AT-STならまだしもAT-ATのような大型ウォーカーが動員された日にはもはやゲリラ戦で解放するのは容易ならざるものになってくる。

 

そうならないうちに早期に決着をつける必要があると再確認した。

 

「あの民兵組織はあなた方の下位組織ですか?何か報告を事前に受けていたような気がしますが」

 

ジェルマンはメンジス三佐に尋ねた。

 

「いえ」と三佐は首を振り実情を話した。

 

「あれはニジンス一等陸尉が指揮する抵抗勢力の民兵隊です。一応協力関係にはありますが下位組織では…」

 

「おい君たち、そこで何してる…?」

 

メンジス三佐の話を遮り背後から誰かの声が聞こえた。

 

後ろを振り返ればブラスター・ピストルを片手に装備した保安隊員が2人立っていた。

 

しまったとジェルマンとメンジス三佐が瞳孔を開き引き攣った顔のまま汗を垂らす瞬間に2人の保安隊員はバタリと転げ落ちるように倒れた。

 

しっかり見れば彼らの背後にはいつの間にかジョーレンが振動小刀(バイブロ=ナイフ)を手に取ったジョーレンが立っていた。

 

ナイフからは血が滴っており2人の保安隊員は完全に絶命していた。

 

だが保安隊員達の倒れ方がまずかった。

 

「おいあそこに誰か倒れているぞ!!」

 

遠くから別の保安隊員と思われる男の声が聞こえ駆け足と共にこちらに迫ってきた。

 

「まずい!」

 

「逃げるぞ!」

 

ジェルマンとメンジス三佐は急いで立ち上がり駆け出した。

 

ジョーレンはあえて一番最後に走り出し殿を買って出た。

 

慌てて到着した保安隊員達が2人の遺体を確認する頃にはかなりの距離が稼げていた。

 

「あそこにいるぞ!撃て!」

 

隊員が命令を出しCR-2やS-5重ブラスター・ピストルから弾丸が放たれた。

 

「チッ!このまま走って保安軍からスピーダーでもなんでもぶんどって逃げるぞ!」

 

「了解!」

 

ジョーレンはホルスターから借りたS-5重ブラスター・ピストルを引き抜きポンチョの上から引き金を引いた。

 

黄緑色の光弾が放たれ3人を射撃する保安隊員達を撃った。

 

放たれた光弾は隊員達の足や肩に直撃し衝撃でその場に倒れさせた。

 

「ぬわっ!!」

 

「クソっ!」

 

次々と負傷兵が増え他の隊員達は物陰に移動し狙撃する。

 

「あえて急所を外して時間を稼ぐつもりか…!敵は手練れだぞ!数で圧倒しろ!」

 

ジョーレンの技量を見極めたベテランの伍長が他の部隊員を呼ぶものの時既に遅し、もはや攻撃の続行は不可能となった。

 

ジェエルマンが地面にスモーク・グレネードを投げつけ視界を遮った。

 

「煙幕です!」

 

「見ればわかる!スコープを暗視用に…」

 

「ダメです!スモークに妨害材が混ぜられており暗視モードを使っても姿を発見出来ません!」

 

部下の隊員の報告は伍長にこれ以上の追撃は不可能だと言うことを悟らせた。

 

「これだけの動き…擲弾兵部隊か…?」

 

もし仮に潜伏中の元王室保安軍正規兵だとしても腕が良すぎる。

 

精鋭部隊の擲弾兵か近衛兵でなければ説明が付かない。

 

それもそのはず、ジェルマンとジョーレン2人は幾度となく激戦を繰り広げてきた精鋭中の精鋭だ。

 

一行は急いで通路を曲がり再び市街地へ出た。

 

そこには検問を張ろうとフラッシュ・スピーダーの前に集まっている5、6人の保安隊員の姿があった。

 

「あれを奪うぞ!」

 

ジェルマンとジョーレンとメンジス三佐は即座に手持ちのブラスター・ピストルで反撃し反応の鈍い保安隊員を4人ほど打ち倒した。

 

「なんだお前達は!?」とブラスター・ピストルを向ける隊員をジョーレンが殴り飛ばしスピーダーに最も近かった保安隊員もメンジス三佐がピストルで撃ち殺した。

 

「急げ!」

 

ジョーレンが操縦席に座りジェルマンとメンジス三佐が機体の後部座席に座った。

 

思いっきりペダルを踏み込みフラッシュ・スピーダーを全速力で走らせその場を後にする。

 

追っ手の保安隊員達が姿を現す頃にはジェルマン達の乗り込むスピーダーはもう米粒以下の大きさとなっていた。

 

「一瞬で6人の隊員を制圧…連中只者じゃない」

 

「ああ、上層部に報告だ。これは大変なことになってきたぞ…」

 

保安隊員達は固唾を飲んで3人の後を目で追った。

 

「あった!このスピーダーにも重ブラスター・ライフルが装備されている!」

 

トランクを開けて中からDTL19重ブラスター・ライフルを手に取ったジェルマンはそのままライフルの“()”を出しスピーダーにつけた。

 

これで即席のブラスター砲が完成し追っ手に対して攻撃出来る。

 

「このまま一気に逃げる!色々と内情が掴めただけでも大きな収穫だ!司令部に戻って対策を立てるぞ!」

 

「了解!」

 

銃口の先に映るシードの姿をジェルマンは見つめた。

 

本当に美しい都市だ、それでいて悲しく悪霊に取り憑かれたようでもあった。

 

皇帝の生まれた地で、レジスタンスの新たな勝利を手にすべくジェルマンとジョーレンは戦いを始めた。

 

 

 

つづく




頭が、痛いです(あいさつ)



ピーヴィー「そういやこないだTwitterで帝国の日だったらしいけど」
キャナディ「ああ、完全に銀河帝国紹介botと化していた」
ピーヴィー「ちなみに本作は?」
キャナディ「崩壊した後におナチ成分をふんだんに取り入れたクソみてねぇなもん」
ピーヴィー「うーん」


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我が子が行先

「我がクワットの建艦力は銀河一」
-惑星クワットのクワット・ドライブ・ヤード本社のポスターの一文-


-コルサント ギャラクティック・シティ-

陽も落ちて真夜中に入ろうとするこの時間、既にマインラートとホリーは眠りに付きジークハルト宅の部屋の灯りも少なくなってきた。

 

リビングにはマグカップにカフを入れ談笑するシュタンデリス夫妻2人だけがおりとある人物をゆっくり気長に待っていた。

 

「それでその時のことがあってヴァリンヘルト上級中尉を副官にしたわけさ」

 

「何よそれ、てっきりお兄さんのヴィルアスさんにでも頼まれたのかと」

 

「むしろヴァリンヘルト中将にはなんとかお父上に悟られないよう偽装を手伝って貰ったよ。何気に大変だった」

 

どこか喜ばしい苦笑を浮かべながらジークハルトはそうボヤいた。

 

思えばヴァリンヘルト上級中尉もかなり大変な人生を送っているものだ。

 

父親がクローン戦争時代からの歴戦の軍将校で帝国ではCOMPNOR付のモフ、兄も帝国軍の中将で高い軍歴がある。

 

そんな一家の次男坊として生まれ幼い頃から家族の華々しい歴史に触れて気を重くしたことだってあったはずだ。

 

そして退役した父の反対を押し切り帝国軍に入隊しようとした矢先に銀河内戦が終結し肝心のアカデミーが閉鎖、ヴァリンヘルト上級中尉はいく当てがなくなってしまった。

 

途方もなく彷徨ってる時に親衛隊の応募があり上級中尉は密かに入隊し今に至る。

 

和解が苦労しているなと苦労人がふと思っていた。

 

「彼もそろそろ大尉に昇進するかも知れん。尤もその頃には私も准将だろうが」

 

「また昇進の話が?」

 

ジークハルトは小さく頷いた。

 

「バエルンテーゼ上級大将から少し聞いた。一個軍団の指揮官を任されてその後は師団長少将だそうだ。出来ればコルサント駐在のままがいいのだが…」

 

「まあそう上手くはいかなさそうね…」

 

「そう思うか?」

 

「ええ」とユーリアは相槌を打ち「後何回かは別の惑星に派遣されそう」と呟いた。

 

ジークハルトは唸り声を上げため息を吐いた。

 

「閣下曰く他の上級大将達も私やアデルハインが大将、上級大将クラスの上級将校になる事を期待しているそうだ……出来ればもう准将と言わず退役した…」

 

ジークハルトの愚痴を遮りインターフォンが鳴った。

 

2人は顔を見合わせ「ようやく来たか」と頷いた。

 

ジークハルトが席を立ち家のドアを開ける。

 

「いやぁすまない!遅くなった!」

 

「ようやく来たか、後あんまり大きな声を出すなよ?子供達が起きる」

 

「あぁすまんすまん。スターファイター隊のレールツヴァイアー大将に呼ばれててな」

 

待ち人のハイネクロイツ中佐は遅刻理由と共に静かに中へ入りコートとブーツを脱いだ。

 

軍帽を掛け手袋を脱いでリビングへと上がった。

 

「ハイネクロイツさん、お久しぶりです」

 

「ユーリアさん!こちらこそお久しぶりですね」

 

2人は軽く握手しハグを重ねた。

 

すぐに「どうぞ」と出された椅子に座りユーリアに「飲み物お持ちしますね」ともてなしを受けていた。

 

若干すまなそうにしていたが悪い気分ではなかった。

 

「それで、最初に聞いておくとレールツヴァイアー大将には何を言われてきたんだ?」

 

「ん?ああ、なんでも近々大佐への昇進が内定したとかそんな所だ。もう一個大隊の指揮を任されるとか」

 

「お前もか、まあお疲れせん」

 

「ああ、ありがとうございます」

 

ユーリアがカフを入れたコップをハイネクロイツ中佐の前に置き一礼を述べた。

 

コップを持ち上げカフを一口入れると早速本題に入った。

 

「さて、それでマインくんとホリーちゃんのミディ=クロリアン数値を偽造して“特務クラス”に入れなければいいんだな?」

 

ジークハルトとユーリアは小さく頷いた。

 

「2人は間違いなく世に言う“()()()()()()()”だ。数値が高ければ間違いなく親衛隊の特務機関に送られるだろう」

 

「噂のあれか…だが本当にそんなもの存在するのか?」

 

「恐らくは……崩壊した旧帝国の資料にも噂に似た機関があった事を目にした記憶がある。まあ本物は我々が親衛隊の中枢に入った時見れるだろうが」

 

決まりゆく昇進を皮肉りながら噂を半ば断言した。

 

既に始動しているコンプノア・ユーゲントや帝国アカデミーでも何人かの候補生が“()()()()()”への移動として引き抜きが行われている。

 

一見すれば単なるエリート候補生が引き抜かれたようにも思えるが中にはお世辞にも成績がいいとは言えない候補生がいたり逆に成績最上位の候補生が選ばれなかったりと様々な不可解な点がある。

 

それは全てミディ=クロリアン値が高いか、フォース感受者であるかが対象である為なのだが大半の将校はこの事実を知らず疑問に思う時間すらなかった。

 

急速に発展していく第三帝国はある種身内の目を眩ましていたのだ。

 

「まあどの道やることは一つだ。ミディ=クロリアン値とやらのデータを書き換える、恐らく血液検査だろうから書き換えは簡単だ」

 

「そんな簡単に出来ることなのか?」

 

「当たり前だ、これでも俺は元コマンドー志望だ。潜入も書き換えも余裕さ」

 

ニヒルな笑みを浮かべハイネクロイツ中佐は「大丈夫だ」とグッドサインを出した。

 

そんなハイネクロイツ中佐に「ありがとうございます」とユーリアは心からの礼を述べた。

 

「気にしないでくださいよ。こんなんでも自分なりの恩を返しているだけですから」

 

ハイネクロイツ中佐はジークハルトの方を見つめた。

 

もう8年も前、俺もお前もしっかり帝国軍の軍服を着て2人とも尉官だった。

 

今だって思い出すさ、あのスカリフで拾われた時の事を。

 

多分お前がいなかったら俺は間違いなくTIEファイターと一緒に心中していた。

 

お前がいたから、今の俺がある。

 

恩は返すさ、ジーク。

 

それが“()()()()()()()()()()()()()()”の血を継ぐ俺の忠義だ。

 

 

 

 

 

 

 

「おはよー」

 

眠い目を擦りながらマインラートとホリーは寝室から姿を表した。

 

今日はコンプノア・ユーゲントへの入学式だ。

 

いつもより早く起きたし気合いもバッチリ、絶対にいい一日になると言う確信があった。

 

既に軍服を着た父が「おはよう」と朝食を取っており隣の同じ軍服を着た人も「おはよう〜」と手を振り返していた。

 

この時ホリーもマインラートも思っただろう、「誰?」と。

 

「誰…?」

 

そのままの疑問が口から零れ落ちたのはマインラートの方だった。

 

ホリーは怖がったのかマインラートの後ろに隠れその男は「おっと」とジークハルトと顔を見合わせその男は席を立ちマインラートに近づいた。

 

マインラートやホリーと同じ目線に立ちその男は自己紹介した。

 

「ランドルフ・ハイネクロイツ、君たちのお父さんの部下で友達だよ。よろしくね」

 

手を差し出しハイネクロイツ中佐は優しく微笑んだ。

 

マインラートもホリーもそれぞれ自己紹介し中佐の手を掴んだ。

 

「さあ、朝食食べて準備するわよ」

 

「うん!」

 

2人はそれぞれ席に付き朝食を取り始めた。

 

ジークハルトも微笑みマグカップのカフを飲み干すと戻ってきたハイネクロイツ中佐に声を掛けた。

 

「いつの間に勲章なんて持ってきたんだ?」

 

「昨日ついでにな、俺だって出撃したヴァリンヘルトとアデルハインの代理なんだからこれくらい付けてたっていいだろ」

 

「まあな」

 

ハイネクロイツ中佐の襟元には一等白十字勲章が付けられておりポケットなどにもいくつかの勲章が付けられていた。

 

どれも激戦を生き延び戦果を挙げた証だ。

 

ジークハルトの襟元にもハイネクロイツ中佐よりも上の名誉白十字勲章が付けられている。

 

これは以前のホズニアン・プライム陥落戦での戦功を認められ与えられたものだ。

 

2人とも式典に出るのだからいつもよりちゃんとした格好をしていた。

 

飾りとはいえ勲章がある事で2人ともより威厳ある将校に見える。

 

「ごちそうさま」

 

「よし、早速着替えるか」

 

食事を終えたホリーとマインラートは急いでユーゲントの制服に着替え身支度を整えた。

 

ユーリアもしっかり正装に身を包み準備は万端だ。

 

「さて、行きますか」

 

5人は家を出て近くに停泊しているスピーダーに乗った。

 

「運転は俺がする」

 

「安全に頼むぞ、TIEファイターとは違うんだ」

 

「当たり前だろ」

 

ジークハルトは助手席に座りマインラートとユーリア、ホリーは後部座席に座った。

 

システムを起動しハンドルをしっかり握りペダルを踏み込む。

 

スピーダーは前に進みゆっくりと上昇してコルサントのスカイ・レーンに乗った。

 

このスピーダーはいつも乗ってるTIEアドバンストx2と違い癖がなくとても操縦が楽だ。

 

軍用スターファイターとスピーダーを比べる方がおかしな話だが常にスターファイターに乗っているとそうなってしまう。

 

特に試作型のアドバンストx1は通常のTIEファイターよりも何十倍も性能はいいがその分癖が強く一部のパイロットには扱い辛い機体だ。

 

「行き先は……と言っても決まってるか」

 

ハイネクロイツ中佐は運転席からスカイ・レーンに続くとある施設を見つめた。

 

帝国軍一の名門学校、ジークハルトもここを卒業し多くのエリート軍人がそのキャリアの一歩を歩み出した場所。

 

帝国ロイヤル・アカデミー、この名門校の新施設にマインラートとホリーは足を踏み入れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-惑星ケッセル軌道上 ベラトール級ドレッドノート“キング・ケッセル”-

ケッセル軌道上に佇むある一隻のベラトール級ドレッドノート。

 

新たに旗艦として贈呈された超弩級戦艦であり艦名は司令官のクラリッサらによって直接“キング・ケッセル”と名付けられた。

 

ちなみに“クイーン・ケッセル”という案もあったのだがそれはまた別の時に送られるであろう艦船の艦名に取って置かれた。

 

何はともあれケッセルの王たるドレッドノート艦は前々から配備予定だったのだが満を辞して今日ようやく提供された。

 

そしてこの“キング・ケッセル”を見たクラリッサはというと…。

 

「おおおおおおお!!でっけぇですわ!!無茶苦茶でっけぇですわ!!」

 

その大きさと迫力に興奮して子供みたいにはしゃいでいた。

 

他の幕僚達も「これはすごい」と口を揃えて驚き「これさえあれば第三帝国とも…!」と戦意を昂らせていた。

 

「既にサイナー社からのTIEファイターの艦載機及び我が社のウォーカー兵器類も搭載済みです。どちらもお好きに使っていただいて構いません」

 

プレスタは艦載内容を説明しこれら全てをケッセルへ譲渡した。

 

再び幕僚達から喜びと驚きの入り混じった歓声が響いた。

 

隣で補佐としてついてきたアルタースも小さく頷きプレスタの仕事ぶりを見守っていた。

 

子供の頃から面倒見ていた子がこうして立派に仕事をこなしているのを見るとなんだか感動に似た喜びに包まれてくる。

 

「既にお代はあなた方と同盟者から頂いて頂いておりますので、後はケッセル製の燃料提供の方のみです」

 

「ええ!どんどん持っていってくださいまし!」

 

クラリッサは喜んで了承しプレスタも「ありがとうございます」と一礼を述べた。

 

後ろではアルタースも「いいぞ」とグッドサインを出していた。

 

クラリッサが“キング・ケッセル”に見惚れる中控えていたマルスはプレスタ達に一言掛けた。

 

「これだけの大型艦船を製造し中身ごとこのケッセルまで密かに運搬する……相変わらず流石の手際ですね」

 

「お褒め頂きありがとうございます、ヒルデンロード殿。軍事兵器を作り何があっても主人に届けるのは我々の仕事であり天職ですから、何があろうとやり遂げて見せますよ」

 

プレスタは自らの仕事を誇らしげに豪語した。

 

「第三帝国を相手にしながらファースト・オーダー、そしてケッセルまで。あなた方だけで銀河など軽く制圧出来そうだ」

 

「いえ、我々とてそこまでは出来ませんよ」

 

よく言う、とっくの昔にこの銀河の軍事生産を握っているのは彼ら(クワット)だろうに。

 

もはや銀河系は取ったも同然、意図的に戦争を引き起こす事だって可能だし絶対的な武器生産力とクワット本国の顔の広さで調停し早期解決を図る事も可能だ。

 

この軍事産業をビジネス、銀河系の中央政府や中小規模の惑星政府とのコネクション作りと割り切らず本気で裏から介入しようとすれば容易にこの銀河は彼らの手中に収まる可能性すらある。

 

なんなら実力行使でコア・ワールドからコロニーズ程度なら物理的に占領する事すら可能だろう。

 

彼らの軍事生産力はおとぎ話やフィクションすら度肝を抜かすレベルであり絶対的な実績と力があった。

 

尤も本気で銀河を取ろうとしたら裏工作やコネクションなどの膨大で人員の手が回らず破滅の危険性がある為彼らもそこまでは踏み込まないだろう。

 

いくらクワットでもこの銀河は、この世界はたった一つの惑星政府の手に収めるには広すぎた。

 

それはきっと今の中央政府(第三帝国)も同じだだとは思うが。

 

「今は亡き父も助けられたと言っていた事を幼心ながらに覚えています」

 

「パウルス・ヒルデンロード元帥には我々の方が守られました。彼が周囲の危険を顧みず艦隊を派遣していれば我々の駐留艦隊だけでは敗北しクワットは新共和国の手に堕ちていたでしょう」

 

銀河内戦中に新共和国軍は惑星クワットへの攻撃を行なった。

 

その潤沢な生産力を接収、もしくは破壊する事で帝国の残党軍は大いに疲弊し終戦も近づく。

 

しかもその当時は偶々クワットの造船所に二、三隻のスーパー・スター・デストロイヤーが停泊していた為こちらの奪取も狙っての事だった。

 

だが新共和国軍の攻勢は失敗する。

 

ベアルーリン宙域から派遣された艦隊が現地のクワット宙域艦隊と共に防衛戦を展開し新共和国軍を防いだのだ。

 

その一連の戦いでスーパー・スター・デストロイヤーは失われたがクワット自体の造船所や生産力は守られた。

 

新共和国の属国ではなく独立を確保したクワットは第二帝国の基盤となるベアルーリン宙域、ノートハーゼン宙域、ハンバリン宙域、デノン宙域などに優先的に艦船兵器類を提供した。

 

クワットの造船能力がなければベアルーリン宙域軍によるジュートラド会戦はかなり厳しい戦いになっていただろうとの予測が立てられていた。

 

もしあの戦いでベアルーリン宙域が苦戦すれば恐らく第二帝国の建国すら不可能であったし第三帝国がこれほど早期に宣戦布告を成す事も夢のまた夢であっただろうとされている。

 

「それで今後あなた方はどうされるおつもりですか」

 

ペリオル大佐はプレスタやアルタースに尋ねた。

 

それは偏に「今後も我々に協力してくれるのか」という問いだった。

 

答えようとするプレスタを止めアルタースが自ら答える。

 

「全ては帝国の為にです。あなた方が帝国である以上我々は何があろうとあなた方に協力するでしょう」

 

「つまり我々が帝国でなくなった、もしくはそう判断された時には…?」

 

思わずペリオル大佐は更に尋ねた。

 

ケッセルが帝国でなくなった時クワットは何を思い何をするのか。

 

明日を生き抜く為には知っておきたい事だった。

 

しかしアルタースは答えを濁す。

 

「さあ、それを決めるのはヴァティオン・クワットの仕事ですから」

 

会長の名前を出し答えをはぐらかす。

 

ペリオル大佐はこれ以上問い詰める事は出来ず黙りこくった。

 

しかしクラリッサは「気にする事ではありませんわ」と間に入った。

 

「私達は私達の生き方を続けていくだけのこと。表面的な変化を受け入れはしても内なるものは変わりませんわ」

 

アルタースは小さく相槌を打つように頷いた。

 

そして目の前のベラトール級を見つめ一言呟く。

 

「守って見せますわよ、私達の故郷は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クワットからの恩恵を受けていたのはケッセルだけではなかった。

 

銀河から遠く離れたチス・アセンダンシーでもそれは同様に行われていた。

 

一隻のスター・ドレッドノートが二隻のスター・バトルクルーザーと数十隻のスター・デストロイヤーを引き連れ受け渡し場所に近づいてくる。

 

スター・ドレッドノートは近くの移動方のステーションに船体の一部をドッキングさせ人を招いた。

 

19キロの船体を誇るこのスター・ドレッドノートの前ではステーションなど本当に小さく見える。

 

「このヴェンジェンス級ドレッドノート及びアリージャンス級含めたスター・デストロイヤー数十隻、全てあなた方に譲渡します」

 

クワット側の使者であるランザーはチス側の使者達にそう言い放った。

 

元々チス・アセンダンシーの技術の一部を譲渡する代わりに大型艦船を何隻か贈呈する契約だ。

 

既に技術データの方はクワット側に送られ本星の惑星クワットでは解析が進んでいる頃だろう。

 

「ご提供感謝します」

 

チス・アセンダンシー拡張艦隊のネルキィ司令官は軽く頭を下げ機械音声の入り混じる声で礼を述べた。

 

司令官の耳には翻訳機能を兼ね備えたイヤホンが付けられており相手が話す銀河標準語(ベーシック)をチユーン語に即座に訳し発する言語を銀河標準語にして伝える事が出来る。

 

近年では量産と小型化が進みなるべく多くの将校や下士官兵に配備しようと配給が急がれていた。

 

「ヴェンジェンス級…軍の資料でしか確認していませんでしたが実在するとは……」

 

チス・アセンダンシー亡命帝国軍の作戦第一副部長であるアレクサンドル・ヴァシレフスキー少将は艦内を見つめそう呟いた。

 

彼は元はサンクト宙域の宙域軍司令部の参謀将校でエンドア戦後の動乱や亡命後の活躍により将官に上がった。

 

このチス領域において大規模な銀河内戦を戦い抜いてきた将校は大いに重宝されヴァシレフスキー少将は若いながらも優秀な参謀将校として活動していた。

 

「我々も設計図を目にした事はあるのですが現物自体はディープ・コアの秘密造船所にいたこいつのみでした」

 

「帝国はこのような主力ドレッドノートを他にも保有しているのですか?」

 

拡張艦隊のイェルプ上級大佐はランザーに尋ねた。

 

ランザーも「10キロ越えのドレッドノートは他にもありますが19キロのスター・ドレッドノートとなるとこれ以外にはエグゼクター級のみとなります」と答えた。

 

このヴェンジェンス級ドレッドノートはエグゼクター級スター・ドレッドノートに形状が酷似していた。

 

されどヴェンジェンス級はエグゼクター級よりもよりナイフのような船体が特徴的であり武装についてはエグゼクター級となんら変わりはないだろう。

 

クワット本星に設計図のみ存在していたがこれを一から作るとなると流石のクワットでもかなりの時間が必要であり新造は見送られた。

 

されど造船所で途中まで建造され掛かっていたヴェンジェンス級を作り直しようやく一隻完成させたのだ。

 

「これでひとまず第三帝国のスター・ドレッドノートと太刀打ち出来ますね」

 

ヴァシレフスキー少将は参謀総長のボリス・シャポシニコフ元帥にそう告げた。

 

シャポシニコフ元帥は旧共和国軍からの歴戦の参謀将校だった。

 

クローン戦争を共和国軍大佐として生き延びた彼は戦後のでも実直な職業軍人として働き続け統合本部や最高司令部に務めた。

 

また彼の活躍はそれだけでなく帝国アカデミーでも司令官や校長を務め多くの優秀な次世代の帝国軍人を世に送り出した。

 

ヴァシレフスキー少将との出会いもアカデミーの校長と候補生という関係だった。

 

長らくシャポシニコフ元帥の庇護を受けていた彼は元帥を大変慕っておりシャポシニコフ元帥がサンクト宙域の参謀長として赴任した時は大層喜んだものだ。

 

彼の功績は帝国軍の上層部も認め地上軍元帥(Surface Marshal)へと昇進した。

 

彼は亡命後も帝国軍とチス・アセンダンシー軍の再編や強化に務め隠れた銀河最強の軍隊を作り上げた。

 

とある人物との協力によって。

 

「そうならないといいのだがな。同じ帝国同士で戦うにはもう十分だよ」

 

シャポシニコフ元帥は何処か苦々しそうに語った。

 

銀河内戦の末期は所属宙域の同胞や数千億、数兆の市民を守る為に暴徒と化した帝国の元同胞と戦った。

 

もはや思い出したくもない嫌な過去だ。

 

「アリージャンス級とインペリアル級の方の乗組員は?」

 

シャポシニコフ元帥はネルキィ司令官に人員の問題を尋ねた。

 

ネルキィ司令官は「問題ありません」と笑みを浮かべ答えた。

 

「既に技術班がチスと帝国軍兼用のOSを完成させました。チスの拡張艦隊でも十分運用可能です」

 

「シャポシニコフ元帥やヴァシレフスキー少将のおかげで徴兵された兵員も十分な練度に達しています」

 

流石のクワットといえど艦や兵器の乗組員ごと他者に売り渡す事は不可能だ。

 

ある日突然完成された兵士と軍隊が降ってくる事など基本は“()()()()()()()()()”。

 

尤もそのような事を全て一概に言えないのがこの銀河の恐ろしいところなのだが。

 

「アリージャンス級は予定通り第二艦隊とペスファブリ防衛艦隊に配置する。ヴェンジェンス級はこのままシーラまで持って帰るぞ」

 

「はい元帥、兵員を全艦に分けろ。各艦隊司令基地へ連れ帰るぞ」

 

ネルキィ司令官の指示により彼の配下の幕僚や将校達が忙しなく動き始めた。

 

これでチス・アセンダンシー拡張艦隊はより強化され鉄壁の防壁と化すだろう。

 

元よりチスの軍隊は強いがこれに帝国式の軍事とクワットの高品質の最先端兵器が組み込まれる事により経験ある第三帝国の軍にも負けない存在となるはずだ。

 

これだけのものを作り上げたシャポシニコフ元帥が一線を退いても彼らは十分戦える。

 

ヴァシレフスキー少将やアントーノフ大佐らのような後任も十分育っている。

 

本当はこのような危惧が杞憂に終わってくれればいいのだが。

 

「それでは元帥、我々はそろそろ」

 

ランザーはそう言ってシャポシニコフ元帥に握手を求めた。

 

「はい、お元気で」と一言述べて互いに形式的な握手を交わしクワット側の一団はその場を後にした。

 

一行を目線で見送りながらシャポシニコフ元帥は部下達に一言告げる。

 

「我々もシーラへと帰ろう。我々が銀河へ帰る日はまだ当分先の話だろうが」

 

「元帥、我々が銀河へと戻る日など本当に訪れるのでしょうか…?」

 

ヴァシレフスキー少将は不安げな表情でシャポシニコフ元帥に問いかけた。

 

我々が銀河に戻る日など実はもうないのではないか、このアウター・リムの果て、未知領域で消えていくのではないか。

 

それは確かな不安であり多かれ少なかれ未知領域に生きる全ての帝国の者達が思っている事だ。

 

「確かに我々があの故郷へ戻る日はもうないのかもしれん、だが信じよう。我々がいつの日か銀河へと戻れる事を、今は信じるしかない」

 

シャポシニコフ元帥はヴェンジェンス級のブリッジから広大な宇宙空間を見つめそう呟いた。

 

ヴァシレフスキー少将も小さく頷き他の将校達もどこか覚悟を決めたようだった。

 

今はどこか朧げでかすかな希望でも信じるしかない。

 

ヴェンジェンス級は他の何隻かのスター・デストロイヤーと共にハイパースペースへ入った。

 

目的地はシーラ、19キロのドレッドノートは第二の故郷を目指して航路を進む。

 

やがてこの路が、銀河へと続くものであるよう切に願われて。

 

 

 

 

 

 

-コルサント ギャラクティック・シティ 帝国ロイヤル・アカデミー コンプノア・ユーゲント部門-

数千人、数万人近くの親子が我が子の晴れ舞台の為と帝国ロイヤル・アカデミーに足を運んでいた。

 

何台ものスピーダーがスカイ・レーンを行き交い誘導の将兵達が慌ただしく保護者とユーゲントの生徒達を先導していた。

 

無論ジークハルト達もその例に漏れず列に並びマインラートとホリーをクラスの待機施設まで連れてきた。

 

「それじゃあ式頑張ってきてね」

 

「お父さん達も見ているからな」

 

「うん!」

 

「はい」

 

2人に手を振り保護者であるジークハルトとユーリアは室内を後にした。

 

既にハイネクロイツ中佐とは別行動であり2人はこのまま式場へ向かうのみとなった。

 

「しかし凄い人数だな、流石はコルサント中から選別しただけの事はある」

 

「ええ…この学校の子達はみんな親衛隊へ?」

 

「いやそうでもない。国防軍に入る者もいれば政府の官僚や総督、COMPNOR委員になる者だっている。進路はある程度広いよ」

 

とはいえ結局の所第三帝国の中枢を担う人材として扱われそれ以上はないわけだが。

 

彼らは皆第三帝国に将来を期待されし子供達だ。

 

全員ジークハルトや他の者達の後を担う事はこの場所に入った時点で強制となる。

 

それを不幸と思うのか幸福と感じるのかは個人によるだろうが。

 

それでも大多数の保護者達からしてみればコンプノア・ユーゲントへの入学は名誉なことで誇らしいものであった。

 

「式場はこっち……というかなんだ、いつもの場所か」

 

「知っているの?」

 

ユーリアは地図を見つめて納得するジークハルトに尋ねた。

 

「ああ」と小さく頷き少し昔の話を始めた。

 

「通常のロイヤル・アカデミーでもこの会場を使うんだ。私もここで入学し卒業もここで行った」

 

「そうだったのね」

 

「親子二代で……いや親子“三代”で通った道となるわけか。父のバスティもまだジュディシアルのアカデミーだった頃にここにいたと聞いた事がある」

 

このロイヤル・アカデミーも元を辿ればジュディシアル・アカデミーの一つでありバスティ・シュタンデリスやバエルンテーゼ上級大将もこの校の門を潜って今の姿に至る。

 

それはジークハルトもアデルハイン中佐もそうだったしマインラートとホリーもその後に続く事になった。

 

会場にいる何人かの保護者もそうだろう。

 

時折誘導や案内の将兵とは別に親衛隊や国防軍の軍服を着た人達を見かける。

 

彼ら彼女ら全員が帝国ロイヤル・アカデミー卒、ではないが皆現役や退役した軍人達だ。

 

やがてその子らも父や母の跡を継ぐ事になるのだろうか。

 

マインラートやホリーも…。

 

「シュタンデリス上級大佐ですか?」

 

聞き馴染みのある声がジークハルトの名前を呼んだ。

 

ジークハルトとユーリアが振り返るとそこには親衛隊保安局の制服を着た青年が立っていた。

 

先日共にアンダーワールドの治安維持活動を担当したフリシュタイン大佐だ。

 

彼も今のジークハルトと同じように十字勲章などの様々な勲章を身に付けていた。

 

「フリシュタイン大佐、お久しぶり…ですかね」

 

2人は軽く握手しユーリアも自己紹介と共に形式的な握手を交わした。

 

「フリシュタイン大佐も御子息の入学ですか?」

 

ジークハルトはフリシュタイン大佐に尋ねた。

 

「いいえ」と首を振り実情を話し始めた。

 

「親衛隊保安局のハイドレーヒ大将の代理として来賓に参りました。シュタンデリス上級大佐こそ、お子さんのご入学おめでとうございます」

 

フリシュタイン大佐は軽く祝辞を述べ2人は「ありがとうございます」と返礼を送った。

 

この場にいると言うことはある程度察しが付くと思うがきっと保安局には我々の家庭事情など筒抜けだろう。

 

だが“()()()()()()()()()”もある。

 

それだけは絶対に隠さなければならない。

 

「お子さんのご活躍を期待しておりますよ。出来れば父であるシュタンデリス上級大佐のような親衛隊員か親衛隊保安局員になって欲しいですね」

 

ジークハルトは何処か乾いた愛想笑いを浮かべ「それでは」と去り行くフリシュタイン大佐を見送った。

 

彼が去りゆく間に「誰が入れるか」と一言毒付いて。

 

悪いが我々のような道は歩かせない、たとえその過程で何をしようともだ。

 

彼は自ら軍人ジークハルト・シュタンデリスの経歴に泥を塗ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

-ゴーディアン・リーチ ヤヴィン星系 第二防衛線-

スターファイターや主力艦の爆発が宇宙空間で瞬き機体や船の破片の合間を再び何十機ものスターファイターが駆け抜ける。

 

1機のXウィングがTIEインターセプターの背後を捉えすかさず何発もの赤いレーザー弾を撃ち込んだ。

 

攻撃に耐え切れずTIEインターセプターは爆発四散し宇宙の塵へと消えた。

 

Xウィングは素早く反転し別のTIEブルートの横合いから同じようにレーザー弾を打ち出す。

 

流石のTIEブルートもこれには耐え切れず撃墜され近くのアークワイテンズ級の船体に墜落した。

 

しかし2機のTIEインターセプターが敵を排除しようとXウィングの背後に取り付きレーザー弾を浴びせかけた。

 

「レッド12、そのまま耐え切れるか」

 

すぐに助けに来たアンティリーズ大佐のXウィングが真横を通り過ぎたTIEインターセプターを撃墜しながらレッド12に聞いた。

 

華麗に敵機の攻撃を躱しながらレッド12は「まだ問題ありません」と答えた。

 

友軍のサーベル中隊からも2機のAウィングが増援として回されアンティリーズ大佐と共に編隊を組んだ。

 

『ポイント06-3で反転しその隙に仕留めてください』

 

レッド12はアンティリーズ大佐にそう提案し大佐も「了解した」とスコープを覗き込み確実に敵を仕留める準備を始めた。

 

左右に揺れるようにXウィングを操縦し敵のTIEインターセプターを翻弄する。

 

目標の指定したポイントに差し掛かると同時にレッド12は操縦桿を思いっきり持ち上げペダルを踏み込み機体を急上昇させた。

 

突然の上昇に追い付けず2機のTIEインターセプターはターゲットを見失った。

 

だがそれが仇となり反応の遅れた数秒のうちに背後に潜んでいたアンティリーズ大佐らの集中砲火を浴びて2機とも爆散してしまった。

 

『助かりました大佐』

 

「よく耐え抜いたぞレッド12、ファントム中隊、レッド中隊全機集結して中央に浸透攻撃を仕掛ける。戦列に穴を開けてスターホーク級の火力を通りやすくするんだ」

 

アンティリーズ大佐の背後に数十機のXウィングやAウィング、Yウィング、Bウィングといった機体が結集しそれぞれ疎らだが確実に編隊を組み合わせていた。

 

既に遊撃に出たソークー中佐率いるローグ中隊らが帝国軍のスターファイター隊を大きく翻弄しておりその隊列は随分と脆くなっていた。

 

ラクティスの麾下大隊の防戦と爆撃による対艦攻撃も成功を重ねておりアークワイテンズ級やレイダー級のような小型艦の損耗が高まっていた。

 

精鋭部隊の遊撃行動によりいつもよりも全体の負担が減り爆撃隊もTIE部隊の攻撃に曝される危険性も減りつつある。

 

「全機、攻撃開始」

 

アンティリーズ大佐の命令と共にスターファイターがそれぞれ散開し迫り来るTIEインターセプターやTIEブルートと激突した。

 

あちこちで赤と緑のレーザー弾が飛び交い再び膨大な爆発の光を虚空に生み出す。

 

TIEブルートが3機、XウィングとYウィングの編隊に集中砲火をかけようとした瞬間に別の方向からAウィングの奇襲を受け一気に3機撃墜される。

 

飛び去ろうとするAウィングを逃すまいとTIEブルートとTIEインターセプターの編隊が追撃に出るがまた別の中隊機に妨害され編隊の半数が瞬殺された。

 

レジスタンスの機体が帝国軍の機体を1機撃墜する度に別の帝国軍の機体がレジスタンスの機体に取り付きそれを助けにきたレジスタンス機が全て撃ち落とす。

 

銀河内戦を生き延び気心の知れた仲間達が織り成す確実な連携は物量の群れであるTIEファイター部隊の壁を食い破り穴だらけにしていた。

 

アンティリーズ大佐も再び2機のTIEブルートを撃墜しその合間をレッド2含めた3機のYウィングが目の前のレイダー級やアークワイテンズ級に向け爆撃を仕掛ける。

 

プロトン魚雷やプロトン爆弾、イオン魚雷を投下し敵艦に直接的なダメージを与えた。

 

既に瀕死のレイダー級は爆撃を喰らいあっという間に轟沈しアークワイテンズ級も相当の被害を受けレッド2達が離れると同時に爆沈した。

 

『大佐、敵艦隊の戦列に大穴を開けました。今なら全てのスターファイター隊を送り込んでも問題ありません』

 

レッド2は冷静に状況を判断しアンティリーズ大佐に報告した。

 

「よし、ストライン中佐、攻撃開始だ。全スターファイター隊で敵艦の数と砲塔を減らすぞ」

 

『了解!全機、俺に続いて対艦攻撃を開始する!』

 

ラクティスのXウィングの後に数百機のスターファイターが続き一斉に帝国艦隊へ攻撃を仕掛けた。

 

ターボレーザー砲や対空砲を放ち我が身を守ろうとする帝国艦隊だったが既に防衛網は穴だらけで回避も接近も容易だ。

 

スターファイターのレーザー砲や魚雷やミサイルをインペリアル級やグラディエーター級に浴びせ掛け次々と装甲を傷付け砲塔を破壊していく。

 

あるインペリアル級に至っては搭載された八連ターボレーザー砲が全て破壊され主砲が失われ丸裸の状態となっていた。

 

ラクティスも機体を器用に操り友軍機に攻撃を仕掛ける敵機を排除している。

 

爆撃中隊に取り付こうとしたTIEインターセプターにレーザー砲を浴びせエンジンと機体のパネルに致命的な損傷を与えた。

 

コントロールを失ったTIEインターセプターはそのままインペリアル級のブリッジの偏向シールド発生装置に衝突し装置ごと爆散した。

 

意外な戦果によりインペリアル級の偏向シールドは不安定と化し防御力は著しく低下した。

 

「よし、全機もう十分だ。散開して後退し後は艦隊に任せるぞ」

 

ラクティスはスターファイター隊全てに命令し全機、一斉に帝国艦隊から離脱し始めた。

 

追撃しようとするTIEインターセプターやTIEブルートも防御隊形を維持するレジスタンスのスターファイター隊により阻まれ撃破されていった。

 

友軍部隊の退却を終えると後方に控えていたレジスタンス艦隊が動き出す。

 

「敵艦隊の損耗は激しく反撃能力はほぼありません」

 

パーネメン大佐はブリッジで威厳たっぷりに仁王立ちするディクス少将に報告した。

 

ディクス少将は組んだ腕を外し命令を出す。

 

「全艦砲撃開始、帝国艦隊を蹂躙してやれ!」

 

MCスター・クルーザーやスターホーク級が全砲塔を帝国艦隊に向け一斉に砲声を鳴らしてレーザーの砲弾を撃ち出す。

 

主力艦から放たれたターボレーザー砲が弱ったインペリアル級やヴィクトリー級に着弾し次々と大きな爆発の光を上げていった。

 

偏向シールドの薄れた状態での一斉射は有効性が高く撃沈し始める艦も現れた。

 

特にスターホーク級の十門もの八連ターボレーザー砲の火砲の威力は流石と言った有様で次々と敵艦を仕留めていた。

 

破壊されたインペリアル級や軍艦の破片があちこちに散らばり小さなデブリ帯を形成し始めていた。

 

それでもディクス少将麾下の艦隊の砲撃は止むことがなく更に破片を増やし昔年の恨みとも言うべき火力の嵐を噴き出していた。

 

「敵艦隊損耗率、およそ57%を突破しました!」

 

ある士官がディクス少将に報告し彼もブリッジで「いいぞ…」と小さく高揚感を露わにしていた。

 

既に帝国艦隊は壊滅寸前であり徐々に撤退が始まっている。

 

「ポイント22-3まで追撃する、防衛はシェーリスとヘンニスの機動部隊に任せる。全スターファイター隊は補給を済ませて一旦後退せよ」

 

『了解少将』

 

『頼みましたよ叔父貴!』

 

アンティリーズ大佐とラクティスの声が通信機から響きディクス准将も「ああ」と小さく答えた。

 

この第二防衛線での戦いはレジスタンス軍の優勢に終わった。

 

精鋭部隊による撹乱と大規模なスターファイター隊による強襲、そして大型艦船による砲撃が成功し帝国艦隊を退却に追い込んだのである。

 

瀕死のヤヴィンは再び立ち上がろうとしていた。

 

史上最大のスターファイター戦はまだ続きそうだ。

 

 

 

 

 

 

-知領域 チス・アセンダンシー領 惑星シーラ-

エスファンディアから帰還したベラトール級“デスティネーション”がシーラへ帰還し高官達が首都クサプラーに移動した。

 

この都市もシーラ内の他の都市の例に漏れず大部分が氷の大地よりも遥か下層に殆ど移行していた。

 

数少ない地表の人口密集地といえばこのクサプラーの宇宙港程度であろう。

 

区域の殆どは政府の業務や貿易関連であり大多数の施設はアセンダンシー外の訪問者に実際の首都人口よりも遥かに多く見せる為の艤装を兼ね備えていた。

 

その為地下に住むチスは頻繁に地上と地下を入れ替えしながら発展した首都であるという虚偽の姿を見せていた。

 

なされる艤装は市民の入れ替えだけでなく交通、熱源、都市部の光なども含まれておりこれら全てが公式人口700万人の生活を偽の箱庭に映し出しているのだ。

 

これらの努力はハリボテじみた権威的な誇示ではなく大規模な発展した都市を見せる事で敵対者の目を欺き無人地点に無意味な攻撃を行わせる為の防衛措置も兼ね備えていた。

 

最初シーラに亡命してきた帝国軍の将兵や市民もその実態にはかなり驚かされたものだ。

 

ヴィルヘルムもタッグ元帥もシャポシニコフ元帥も他の将兵達全員が感嘆の声を上げていた。

 

そんな宇宙港から地下に移動したヴィルヘルム一行は閣僚達の集まる会議場へと向かった。

 

シーラはかつてのクローン戦争より約千年近く前にチス・アセンダンシーの大戦争の影響により冷たい氷に閉ざされ地表には住めなくなってしまった。

 

当時のチス族の敵はチス・アセンダンシー軍をこのシーラまで押し戻しシーラへ最終的な攻撃を仕掛けた。

 

敗北したチス軍はこのまま滅亡するかに思われていたのだが彼らはStarflash(スターフラッシュ)と呼ばれる古代エイリアン種族の超兵器を保持していた。

 

後に九つの家の一つとなるミス家の4人含めた20人の戦士達がこの超兵器を起動し自らの命と引き換えに敵対者を全滅させた。

 

こうして脅威は去った。

 

だがその代償は戦士達の命だけでなくシーラへの表面の居住が不可能になってしまう事だった。

 

この星も様々な歴史を歩みここまで辿り着いたのだ。

 

「元帥、先程入った通信でシャポシニコフ元帥らがクワットから譲渡艦隊の受け渡しに成功したと」

 

チャルフ准将がヴィルヘルムに受け取った連絡を報告した。

 

後ろの幕僚や高官達もその報告を聞き互いに顔を見合わせていた。

 

「それは良かった、後の動きはシャポシニコフ元帥に任せろ。彼ならば上手くシーラまで運んで来てくれるはずだ」

 

「了解しました」

 

准将はヴィルヘルムの命令を受けその場を後にした。

 

気づけば彼はヴィルヘルム専任の連絡将校になりつつあった。

 

特に一部の将校達かはら確実にそう見られいるのだがヴィルヘルムはともかくチャルフ准将の方は全く気づいていなかった。

 

ヴィルヘルム達が通路を歩いていくと反対側から中将の階級章を付けた帝国軍の将校が数名の部下を引き連れているのを目撃した。

 

通路脇で部下達と何かを話している様子だ。

 

亡命帝国軍の軍服は第三帝国の国防軍同様かなり軍服に改造が施されていた。

 

まずは国防軍同様肩章を追加したという点だ。

 

第三帝国の肩章と違い幅の広い勲章で通常の地上軍、宇宙軍にはワインレッドの肩章の上に金色の階級を示す肩章が取り付けられ二重構造となっていた。

 

これは元々チス・アセンダンシーの肩章が発展したものであり肩章から垂れるベルト共々チス軍から輸入されたもので帝国軍の伝統には元々ないものであった。

 

されど元よりシンプルなデザインの帝国軍の軍服との相性は良く肩章もベルトも問題なく取り付けられていた。

 

元帝国保安局の保安局員やパイロットなどは青や水色の下肩章が敷かれており通常の部隊との違いを示していた。

 

また軍帽も一新され第三帝国同様制帽が正式に復活し殆どの将校が平時では制帽を被っている。

 

しかしデザインは肩章同様第三帝国とは大きく異なり同じ帝国でも彼らはもう別物である事を暗示させた。

 

「“()()()()”中将、軍事顧問としての働き、しっかり耳にしているぞ」

 

ヴィルヘルムは目の前の将校、エンリク・プライド“()()”に声を掛けた。

 

プライド中将はヴィルヘルム達を見るなり部下と共に敬礼しヴィルヘルム達も敬礼を返した。

 

彼は元々亡命した帝国軍の将校では“()()()()”。

 

しかし今では歴戦の経験を活かしてチス軍への軍事顧問、揚陸隊付星系艦隊司令官、揚陸兵団司令官、シーラ軍管区副司令官を兼任している。

 

先日の新拡張宙域での治安維持戦にも参加し周辺の海賊集団を撃滅した功績はチス側にも認められていた。

 

また元々亡命したサンクト宙域にアカデミーの同期や戦友が多くいた為馴染むのも早かった。

 

特に同じアルサカン・アカデミーの同期だったロコソフスキー少将やバグラミャン准将、“ステッドファスト”の上級将校時代に知り合ったヴァシレフスキー少将らとはとても仲が良かった。

 

「君が顧問を務めた部隊はたちまち屈強な精鋭部隊となり君の指揮下で確実な勝利を得ると。ただ事務処理が少しマイナス点だとも聞いているが」

 

「それはお恥ずかしい限りです。しかしそのような事を言っていただけるとは光栄です、モフフェル」

 

「いやいや、事務処理に関してはその手の作業が得意な友人や部下に頼れば良い。私もクローン戦争でそうして活躍してきた将校を何人も見てきた」

 

ヴィルヘルムは彼の欠点をそうフォローした。

 

何もかもが1人で出来る完璧超人などほんの一握りだ。

 

誰かが誰かの欠点を支えて完全な姿になる、それで十分だとヴィルヘルムは思っていた。

 

それにプライド中将にはもう多くの部下と友がおりその事はすぐに叶いそうだ。

 

「今後もチスと帝国の両方の軍隊を頼んだぞ、プライド中将」

 

「はい!」

 

中将は敬礼しヴィルヘルムは力強く頷いた。

 

一行はそのまま通路を抜けシーラの会議場へと向かった。

 

会場に行くと衛兵が「お待ちしておりました」とコードシリンダーなどを確認しヴィルヘルムらを中に入れた。

 

室内に入ると早速多くの閣僚達が集まっていた。

 

九つのルーリング・ファミリーだけでなく外務省や国防省の大臣や高官達も集まっていた。

 

「ヴィルヘルム、私は先に席に着いてるよ」

 

「ああ」

 

タッグ元帥は副官達を連れて先に席の方へ向かった。

 

ヴィルヘルムはそのまま壇上の方へ近づき今の主人へと挨拶に向かった。

 

向こうもすぐにヴィルヘルムに気づいたようで早速喜びの声を挙げて向かい入れた。

 

「フェル!よくぞ交渉を切り抜けてくれた!」

 

ロード・アリストクラのリヴィリフはヴィルヘルムにそう声を掛けた。

 

ヴィルヘルムの手をしっかり握り「よくやった」と何度も言った。

 

「ですがやはり同盟締結までは叶いませんでした。私の力不足です」

 

「いや、第三帝国の脅威を振り切ったというだけでも十分の戦果だ。アセンダンシーから脅威を除いた事は十分評価に値する。後の事はモロフがなんとかする」

 

「少なくとも卿の予想通りの結果となった。我々はそれで満足だ」

 

ラストーレもそう彼の結果を擁護し評価した。

 

リヴィリフやラストーレもヴィルヘルムと同じ中立条約さえ守られていれば十分という結論にあった。

 

無論それでは納得いかない者達もまだ大勢いるが追々解決していくだろう。

 

第三帝国との国交が初めから消失しないということが一番重要であった。

 

しかしヴィルヘルムは別の不安を述べた。

 

チス領へ亡命してきた部下や守るべき市民達の信頼を大きく損なわれる可能性のある不安だ。

 

「ですが一つだけ帰りに不安な点を目にしました」

 

「それは一体なんだ?」

 

リヴィリフは彼に尋ねた。

 

ヴィルヘルムは2人に告げる。

 

「旧帝国の海賊化した機動部隊、小艦隊程度の戦力がチス・アセンダンシーの領域に迫っています」

 

「どうするつもりだ」

 

「無論我々帝国軍の部隊を派遣します。アセンダンシーの市民も兵も1人も犠牲にはしません。我々のツケは我々で払います」

 

ヴィルヘルムはそう断言した。

 

「だが誰を送るつもりだ?この情勢下では卿自らが出向くのは不可能だぞ」

 

ラストーレはヴィルヘルムに一応の忠告を言った。

 

「心配には及びません」とヴィルヘルムは付け加え話し始める。

 

既に我々には多くの若き将兵がいる。

 

特に“()()()”から送られてきた彼、参謀本部の彼ら、皆十分活躍してくれるだろう。

 

ヴィルヘルムは絶対の信頼を持って2人に部隊の指揮官の名を口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 帝国ロイヤル・アカデミー情報管理室-

一連の入学式が終わりコンプノア・ユーゲントの新候補生達は予定にも記載されている血液検査や特殊検査を行なっていた。

 

既にクラス分けは終了し担任の教官達に引き連れられ子供達はそれぞれ会場へと向かった。

 

マインラートとホリーも会場に連れられ検査の順番を待っていた。

 

奥の三番の検査室から同じユーゲントの制服を着た金髪の少年が同じく白衣を着た男と共に出てきた。

 

「こんな検査、意味あるんですか」

 

「一応結果を数値化しないといけないからな。まあ先生は少し仕事があるからアカデミー内で待っていなさい。すぐ終わらせるから一緒にウェイランドへ帰ろう」

 

「はい先生」

 

2人は雑談を交わしながら通路を通り過ぎていった。

 

他の検査室からも続々と検査を終えたユーゲントの候補生達が室内から出てきている。

 

みんな注射をされたのか腕を押さえ元いた場所に戻っていった。

 

そんな中マインラートはホリーに話しかけた。

 

「お父さん、もう帰っちゃったかな」

 

「今日は検査が終わったら待っててくれるって」

 

「マインラート・シュタンデリスくん、五番の検査室へどうぞ」

 

2人がたわいもない話をしているとマインラートの方が先に親衛隊の制服に白衣を纏った男に呼ばれた。

 

「行ってくるね!」とマインラートは席を立ち五番の検査室へと歩いていった。

 

ホリーも手を振り「まだかな」と待合室の椅子の上で足をぶらぶらさせて暇そうに待っている。

 

無論そんな様子が見られているとはホリーもマインラートも思うわけがないだろう。

 

しかしロイヤル・アカデミーの情報管理室からはその鋭い眼光がカメラなどを通じてしっかり張り巡らされていた。

 

コンソールの前に座る下士官の1人が室内の将校達に報告する。

 

「シュタンデリス候補生、検査室に入室。現在血液検査を受けています」

 

すると1人のFFSB(親衛隊保安局)の制服を着た将校が独り言のように口を開いた。

 

「あのシュタンデリス上級大佐の御子息か…入室したのは本人で間違いないな?」

 

将校の問いに下士官は顔を少し向け「はい、間違いありません」と答えた。

 

「養子に迎えられたホリー・シュタンデリス候補生も七番検査室へ入室しました」

 

「どれ、シュタンデリス上級大佐のお子達に“()()”があるかどうか……」

 

将校は目に掛かる髪の毛を退けながら椅子の背もたれに手を掛け表示されるモニターのデータを下士官と共に凝視した。

 

すると2人の背後から魅惑的で何処か恐怖を覚える声が響いた。

 

「相手が親衛隊期待の英雄だからとはいえ贔屓目で見るなよ。むしろ厳しく審査しろ」

 

「フリシュタイン大佐…!」

 

その将校は慌てて制帽を被り直し敬礼した。

 

下士官の方も顔を見合わせるなりすぐモニターの方に目線を移自らの熱心な職務態度を演出した。

 

式典会場から直行した正装姿のフリシュタイン大佐も将校に敬礼を返すと下士官の隣でモニターのデータを見つめた。

 

「審査に立ち会ったあの連中、この2人には何かがあると言っていた。まあ戯言かもしれんが注意しておくのに越したことはない」

 

大佐はついこないだまで尋問していた人物のある発言を思い出した。

 

治安維持行動の際に連行されたあの不可解な組織は皆FFSBの方で尋問が行われた。

 

彼らは尋問にかなり協力的ですぐに色々と話してくれた。

 

その結果彼らはすぐに釈放され今では客人として向かい入れられている。

 

今回のこの式でも彼らは隠れて参加し見所があると思われる候補生を何人か指摘していた。

 

シュタンデリス上級大佐の子供達も一応この中に入っていたのだが果たしてどうなのだか、気になるところだ。

 

「数値出ました」

 

下士官が報告しフリシュタイン大佐と隣の将校はすぐにモニターに目線を移した。

 

下士官が数値を読み上げ最後に結果を述べる。

 

「これは……比較的通常の数値ですね。確かに高くはありますがそれでもずば抜けてとかフォースが使えるとかのものではありません。このまま通常コースに入れておくべきでしょう」

 

下士官は数値を見るなり何処か興味がなくなったように述べた。

 

フリシュタイン大佐も期待をしていただけにこの結果はあまりに拍子抜けだった。

 

しかしすぐに気を取り戻してもう1人の方の結果を尋ねる。

 

「ホリー・シュタンデリス候補生の方はどうだ。こちらの数値も通常なのか?」

 

大佐に聞かれた下士官はすぐにモニターを操作しホリーの情報を映し出した。

 

これも下士官が読み取るなりすぐに落胆した声音で報告してきた。

 

「こちらもマインラート候補生とほぼ変わりませんね。通常数値ということでこのままのコースとクラスのままでいいでしょう」

 

「つまりは2人とも普通…ということでいいんでしょうか?」

 

将校はフリシュタイン大佐に尋ねた。

 

「らしいな」と大佐も軽く返し顎を撫でながら独り言を呟いた。

 

「やはりあの連中の言葉など妄言に過ぎなかったのか…?」

 

その可能性は十分にあり得る。

 

連中の身元は所詮カルト組織の信者だ、適当な事を言っていてもおかしくない。

 

少しでも連中をどこか信じていた自分が馬鹿だったと思ったその時室内の扉が開き1人の保安局将校が急いで入ってきた。

 

フリシュタイン大佐の部下のヘーカー少尉だ。

 

少尉は息を荒げながら顔を上げフリシュタイン大佐に報告した。

 

「大佐!!ロイヤル・アカデミーの中央制御室に侵入者です!!」

 

その一言はその場の全員を凍りつかせた。

 

だがフリシュタイン大佐だけは違っていた。

 

確証した、やはり彼らには何かがあるとそのような雰囲気のまま命令を下した。

 

 

 

 

 

 

 

 

まず第一の書き換え、検査室で得られた数値を直接書き換える事には成功した。

 

これでひとまず情報管理室に届くデータは書き換えられた偽のものとなっているだろう。

 

マインラートの方は直接俺自身が書き換えられたが流石にホリーまでは手を出せなかった。

 

だが既にその事は織り込み済みだ。

 

少しばかり帝国クレジットを積んで工作するよう親衛隊の検査係の職員に頼んでおいた。

 

親衛隊と言っても所詮元は路頭に迷った者達の集まりに過ぎない。

 

今でも貧困層の将兵は多く見かけるし正規の国防軍とは違い賄賂などでも堕とし易い。

 

取り敢えず1人だけ味方に引き入れておき予めここに配置になるよう指示は出しておいた。

 

ジークハルトが聞いていたクラスの番号などからある程度2人が入る検査室の部屋番号は割り出せる。

 

血液を採取する医療用ドロイドのプログラムも少し変更させてもらい、比較的俺に従順になるよう仕向けた。

 

予想通りマインラートは五番、ホリーは七番の検査室に入り書き換えは成功に終わった。

 

後はバックアップとして直接ロイヤル・アカデミーの中枢であるアカデミー中央制御室にあるバックアップのデータを改竄するだけだ。

 

隠れながら制御室を目指し、あえて人前に出て行き先を聞き目的を撹乱する。

 

教官や何故か通り掛かって毎回教えに来たフェン・ラウ辺りに散々叩き込まれたことだ。

 

撹乱と奇襲、徹底的な打撃が攻撃において最も重要である。

 

マンダロリアン・プロテクター”であり元“インペリアル・スーパー・コマンドー”の端くれであった時からの矜持だ。

 

指導者のフェン・ラウ曰く、俺は元々プロテクターの戦士であったとある夫妻に拾われた子供らしい。

 

昔はずっと直系の子だと思っていたがマンダロリアンには孤児を拾って育て上げる習慣があり俺もその例に漏れずマンダロリアンの教義を受け入れ戦士として育った。

 

尤も俺が物心つく前に親父とお袋はクローン戦争でぶっ飛んで死んじまったが。

 

幼少期から戦士として戦ってきた。

 

俺には戦士やパイロットとしての素質があるらしい。

 

根城であるコンコード・ドーンやコンコード・ドーンの月を守る為にファング・ファイターに乗り込んで戦ったりマンダロリアンのアーマーとジェットパックを着込んで戦ったりもした。

 

そうやって少年期から青年期を過ごしてきた。

 

周りも俺の事を戦士として認めてくれたし俺も仲間が誇らしかった。

 

マンダロリアンとしての魂、教義が誇りだった。

 

だがある日俺のその日々に転機が訪れた。

 

とうの昔に誕生していた銀河帝国はいよいよコンコード・ドーン辺りまで本格的に進出してきた。

 

既にプロテクターが忠誠を誓っていた母星マンダロアは帝国の支配下だったがプロテクターは利益の為反乱には加担せず帝国とひとまず手を結んだ。

 

そこで帝国はプロテクターにある一つのことを要求してきた。

 

若い数人の戦士を帝国軍に入隊させよと。

 

実質的な人質の要求だった。

 

お前達が反乱組織に加担した場合は彼らを殺す、そういう魂胆だろう。

 

また当時創設中のインペリアル・スーパー・コマンドーの隊員を増やす狙いもあったと今では考えられる。

 

ともかくプロテクターが断る事は事実上不可能であり人質の剪定が行われた。

 

俺はその当時はまだ若く、プロテクターの同胞達の為にと自らその候補にと名乗り出た。

 

あいつらはみんな最後まで悩んでいたようだが最終的には俺含めた5〜6人が帝国軍に入隊し人質として送り込まれた。

 

俺たちはみんなインペリアル・スーパー・コマンドーのユニットに別々に投入され新たなアーマーを身に纏った。

 

コマンドー時代の生活はどちらかといえば面白味に欠けるものだった。

 

他のコマンドー隊員にいじられるなどよくある事だったししょっちゅう無茶を吹っ掛けられた。

 

それでも部隊長だけは俺に親身になって接してくれた。

 

今思えばプロテクターの人質という経歴を知っていたのかもしれない。

 

ともかく俺は帝国のマンダロリアン・エリート部隊としてずっと過ごしてきた。

 

そう、ヤヴィンの戦いの2年ほど前までは。

 

マンダロリアン・プロテクターが突如“()()()()”となったのだ。

 

最高指導者のガー・サクソンが直接攻撃を仕掛けプロテクター部隊を殲滅したとも聞いた。

 

俺はその時何を思っていただろうか。

 

人質である俺たちを見捨て反乱組織に加担したプロテクターを憎んだのか。

 

それとも苦楽を共に過ごしたプロテクターの同胞達が彼ら(インペリアル・スーパー・コマンドー)によって皆殺しにされた事を悲しんだのか。

 

あるいはただ単純に絶望していたのか。

 

様々な感情が交差し、入り組み、混ざり合って今では思い出せない。

 

ただ一つ言える事は俺は“()()()()()”になったということだ。

 

帝国保安局の連中は俺たちプロテクターの隊員を連日のように尋問してきた。

 

恐らくその途中で殺されたり逮捕された仲間もいるだろう。

 

俺はずっと耐えていたがある日部隊長が俺を保安局から匿い逃げ道を提示してくれた。

 

なんでも聞いた話によれば部隊長と死んだ俺の両親は戦友でその子である俺をどうしても助けたかったそうだ。

 

俺は苗字を変え名前を変えた。

 

部隊長から名前を貰い“()()()()()”とまず名乗った。

 

そして母の名前である“()()()()()”から、父の苗字である“()()()()”から取り苗字を“()()()()()()()”と名乗った。

 

俺はこの時初めて“ランドルフ・ハイネクロイツ”と名乗ったのだ。

 

部隊長はすぐに俺の隊員名簿と登録を抹消しかつての俺は訓練中に事故死した事になった。

 

その後帝国軍のスターファイター隊専用の短期アカデミーに特別候補生として入学し一年で卒業した。

 

こうして過去のマンダロリアン・プロテクターやインペリアル・スーパー・コマンドーとしての俺はこの世から消えた。

 

恐らく戦死した部隊長も隊員達ももう俺の事を話すこともないだろうし生存したプロテクターの同胞達も俺のことなどもう忘れているだろう。

 

それでいい、もうそれでいいんだ。

 

今この銀河にいるのはもうランドルフ・ハイネクロイツという帝国軍スターファイター隊のパイロットだ。

 

過去の経歴に孤児やマンダロリアン、スーパー・コマンドーといった単語は一切ない平凡な一介のTIEファイターのパイロットに過ぎない。

 

過去は俺を切り離し、俺も過去と別れを告げた。

 

その後俺は惑星スカリフの軌道上シールド・ゲート駐留部隊に配属となった。

 

スカリフの基地は元より退役間近の老人が集まりやすかったり敵対者が攻撃する事の少ない閑職めいた場所だ。

 

指揮官のラムダ将軍やゴーリン提督達もあまり覇気がなく俺もやがてはこの老人達のようにここでただのパイロットとして職務をこなし死んでいくんだろうと考えていた。

 

スカリフの戦いという銀河内戦における重要な激戦が起こるまでは。

 

奇襲を受けた俺達は司令部の命令不足の中でも必死に戦った。

 

俺も反乱軍のスターファイターを4機撃墜した。

 

コルベットやフリゲート、クルーザーにも何度も攻撃を仕掛け何度も死と隣り合わせの戦いを繰り広げた。

 

だがそれだけやっても運命は俺を死に誘い始めた。

 

軌道上の“パーセキュター”と“インティミデイター”は轟沈しその流れで着陸基地のシールド・ゲートは破壊された。

 

我々は一気に帰る場所を失い敵が目の前にいる中苦境に立たされた。

 

次々と仲間のTIEファイターは撃たれ補給も帰投もできないまま友軍機が破壊されていった。

 

必死に抵抗し反乱軍を攻撃したがもはや無意味にすら感じられた。

 

連中が撤退しようとする頃ようやく一隻のインペリアル級と当時の第一デス・スターがスカリフへ救援に駆けつけた。

 

旗艦級のMCスター・クルーザーを撃破したインペリアル級であったが我々を回収する事なくすぐに敵艦への追撃に移った。

 

最重要機密のデス・スターに我々のような部隊が入港させてくれるはずもなく俺や他のパイロット達はみんな四時間近く宇宙空間を彷徨い続けていた。

 

被弾箇所から空気は漏れどこか冷たいものが流れてきた。

 

パイロットスーツ越しでも感じるこの冷たさは正に死の風といったもので俺は初めていよいよ死ぬと死を実感させた。

 

酷く心が痛み、酷く過去を忘れ、酷くつまらないまま死ぬ人生、俺はコックピットの中でそう思い続けていた。

 

死にたくないと感じてももはや死はそこまで近づいてきている。

 

いよいよプロテクターの同胞達の下に還る、そう思ったその時だった。

 

助けは来たのだ。

 

二隻のインペリアル級が到着しスカリフ部隊を回収し始めた。

 

俺もとある将校の通信により目を覚まし機体の最後の力を振り絞って“コンクエスト”と呼ばれるインペリアル級の方へと着艦した。

 

ようやく狭く棺桶と化したコックピットから抜け出た俺がその時初めて目にした光景は回収されたパイロット1人1人を労い助けようとする将校の姿だった。

 

彼は中尉の階級章をつけておりその声は目を覚ました時に聞こえた通信の声と一緒だった。

 

現場で自ら回収の陣頭指揮を取っていたその青年将校は他の部下達から“()()()()()()()”と呼ばれていた。

 

俺はこの時初めて出会ったんだ、“ジークハルト・シュタンデリス”に。

 

ジークハルトは俺と会うなり「よく戦った」とか「よく生きていてくれた」とかたくさん褒め言葉や労いの言葉をかけてきた。

 

それでいてすぐに死にかけの俺に必要なものを渡してきた。

 

「必ず助ける、私は同じ帝国軍人を見捨てたりしない」

 

ジークハルトはその言葉通り俺たちをみんな平等に助けた。

 

俺もなんとかあの激戦を生き延び今に繋がった。

 

あの時の事がなければ俺はつまらないまま死んでいた。

 

つまらない意味のない死からジークハルトが俺を解き放ってくれた。

 

俺はお前に救われたんだ。

 

だから俺は俺の恩を返す。

 

それが今の行動だ。

 

「制御室に直接侵入出来るコンソールシステムは…これだ!」

 

ハイネクロイツ中佐は情報室のソケットにプラグを差し込み端末から直接制御室のネットワークに侵入した。

 

ここを介して書き換える事により発見の可能性が十分薄れる。

 

今回は少しでも可能性を積み上げる事が重要だ。

 

モニターを操作しマインラートとホリーの名前を探し始める。

 

何十回かスライドした後2人の名前はナンバーと共に出てきた。

 

「マインラートとホリー…あった!」

 

2人のバックアップの情報を開き検査の結果に繋げる。

 

正しい情報が記載されているバックアップデータを書き換えた。

 

「これで任務は……ハッキングがバレている…!?」

 

ハイネクロイツ中佐はすぐに気づいた。

 

明らかに制御室に別から介入する何かの存在があった。

 

急いでその存在を検索し特定に入る。

 

数十秒経った後特定された存在は情報管理室の端末だった。

 

「まさかバレたのか…!?いやそんなはずはない…!……違うぞ」

 

ふとハイネクロイツ中佐は冷静になり何かに気がついた。

 

「連中が俺に気づいたのならとっくの昔にここに兵が展開されている……だが端末の動きも併せて推測するにこれは…」

 

中佐の予測は大正解だ。

 

フリシュタイン大佐と先程の情報管理室の将校、そして報告に来たヘーカー少尉らが引き連れる数十名のストームトルーパー達は皆真っ直ぐ情報室ではなく制御室へ向かっていた。

 

ドアの前に立ちフリシュタイン大佐が近くのソケットに自らのコードシリンダーを差し込む。

 

情報が読み取られドアが開きフリシュタイン大佐は怒号に似た指示を飛ばした。

 

「突入!!」

 

一斉にストームトルーパー達が制御室に入り中のコンソールを直接操作する数名の親衛隊将校にE-11の銃口を向けた。

 

将校達は両手を上げ一塊になっている。

 

「まさか上官に頼まれ上官の子供の潜在数値などを書き換えている一団がいたなんて…」

 

フリシュタイン大佐の隣で呆然とする将校を側に大佐は怒りに満ち溢れた表情で宣言する。

 

「全員摘発して逮捕する!手始めにその連中を連れて行け!」

 

「ハッ!」

 

両手を上げる将校達は皆乱暴にストームトルーパーに掴まれ連れて行かれた。

 

だがこの瞬間にハイネクロイツ中佐の任務は終了したのだ。

 

書き換えられたデータが上書きされ証拠も全て消えた。

 

情報室の壁に寄り掛かりふと空を見上げた。

 

「さて、帰りますか」

 

一仕事をやり切り恩を返したという満足げな表情を浮かべている。

 

マインラートとホリーのコンプノア・ユーゲントの生活はいよいよこれから始まる。

 

だがそのスタートはどうやら“()調()()”始まるようだ。

 

コルサントに吹く小さな風がそう暗示させた。

 

 

つづく




クラリッサ「ほわあああああああああああああああ!!!!!!ベラトール級でっけぇですわ!!!!!クワットのドレッドノートは最高ですわ!!!!!!!余計スパイスがキマりますわ!!!!!クワットの建艦能力すごすぎですわ!!!!!!教えはどうなってるんですの教えは!!!!!とにかくキング・ケッセル最高ですわあああああああああああああ!!!!!!」


プレスタ「これ本当に売り渡してよかったんですか…?」
アルタース「気にするな、(頭が)飛ぶぞ」


クラリッサ「スパイスですわああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


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サラストの戦い

「我々、親衛隊とは所詮銀河協定の抜け道でしかない組織だ。それはチェンセラー・フォースという名前だった時から変わらず親衛隊となった今でも変わらないだろう。だがこれだけは忘れてはならない。我々は皆、親衛隊員である前に1人の“帝国軍人”だ。我々は帝国軍人として祖国の敵を打ち倒しこの銀河に秩序と平和を齎す存在でなくてはならない。そうでないのなら私は帝国軍人の私として正しい選択を行うであろう。全ては帝国の為に、銀河の平和と秩序の為に、親衛隊員であるプライドはこの義務と使命の二の次でしかない」
-ゴットバルト・バエルンテーゼ上級大将-


-惑星ナブー 大草原奥地-

時間は少しばかり前に遡る。

 

スピーダーを乗っ取り首都シードを脱出した3人はひとまず大草原でスピーダーを乗り捨て逃走経路の足を消そうとした。

 

徒歩で少し距離を稼ぎ近くに停泊している王室海軍の軽偵察艇で再び地下の秘密基地へ離脱する予定だ。

 

シードでは激戦に巻き込まれかなり酷い目に遭ったがそれでも得るものはあった。

 

「このまま行きましょう、後少しです。どうかしましたかしょう…」

 

今後の逃走経路を2人に伝えるメンジス三佐の声はジョーレンが「静かに」という合図で途切れた。

 

それ以降特に何も話すことはなく3人は森林の中を歩いた。

 

森林の中の静かな空間が3人にも憑り徐々に何処かピリリと張り詰めた空気に変わった。

 

ジョーレンが1人だけ2人から少し離れた瞬間その空気感ははち切れた。

 

2発の銃声が森林の中に響きバタバタと2回何かが倒れる音が聞こえた。

 

ジェルマンとメンジス三佐が振り返るとジョーレンの目線の下に装備の整った2人の兵士らしき人物が斃れていた。

 

「間違いなくシードにいる時から誰かに見張られていた。その正体がコイツなのかは分からないが。それでコイツらはなんだ?」

 

2人の兵士は手に新共和国用のA280Cブラスター・ライフルとE-11s“長射程ブラスター(long-range blaster)”が握られておりいつでも戦える状態だった事がわかる。

 

幸い彼らの銃口から弾丸が発せられる前にジョーレンの放った2発のブラスター弾により即死していた為攻撃される事はなかったが。

 

2人の装備を見るなりメンジス三佐は口を開いた。

 

「これは……恐らく宇宙部門が独自に設立しようとしていた特殊部隊員ですね…これを見てください、このヘルメットはかつて惑星防衛軍支援の一環で新共和国から頂いたヘルメットです」

 

メンジス三佐は指を差してそう説明した。

 

新共和国艦隊情報部員であり方や元特殊部隊員のジェルマンとジョーレンは見るだけですぐに分かった。

 

微妙に改造は施されているが細部は新共和国軍が、今でもレジスタンス軍が使用していたヘルメットで間違いなかった。

 

メンジス三佐は更に説明を行った。

 

「新共和国軍からの一部最新装備を身につけ今では帝国から受け取ったアーマーやブラスター・ピストルすらも装備しています」

 

よく見ると肩のアーマーや足のアーマーはストームトルーパー用のもので胴体部は地上軍トルーパーが使用しているアーマーそのものだ。

 

様々な装備が入り組んだ奇妙な姿だったがそれでも練度は保安軍から見れば十分だろう。

 

最精鋭の兵士であったジョーレンには遠く及ばなかったが。

 

「恐らく斥候として我々を付けて来たのでしょう。早くここを離れないと」

 

メンジス三佐は早急にこの場を離れようとしていたがジョーレンは首を振った。

 

「恐らくは我々の行き先が色々と報告されている。ここをで偽装工作を行い本当の秘密施設の存在を隠さないと」

 

「先に帰還していざという時に備えておいてください。もしかするとそちらの部隊が必要になる可能性もある」

 

「お2人だけで大丈夫ですか?」

 

三佐の問いにジェルマンとジョーレンは顔を見合わせ小さく微笑んだ。

 

それからすぐ力強く頷き「行ってください」と後押しする。

 

2人の様子を見ていたメンジス三佐も頷き「ご武運を」と祈りを込めて小さく呟き走り去っていった。

 

メンジス三佐の姿が見えなくなるまで見送った後2人は立ち上がり兵士からブラスターを取り上げた。

 

彼らにはもはや不必要な代物だ。

 

「やはり使い慣れたブラスターがいいな。お前はスナイパー・ライフルなんて使えるのか?」

 

「んまあいざとなったら普通に貰い物の方を使うよ。それよりも特殊部隊員からブラスターを取り上げていいの?それこそ僕達の存在がバレそうだけど」

 

「いいんだよ、ひとまず三佐から引き離せればそれで十分だ。むしろ今回ばかりは我々に注目させる勢いでやるぞ」

 

ジェルマンは頷きブラスター・ライフルを構える。

 

既に森の中に追手は放たれ2人はそれを迎え討とうとしていた。

 

今度は2対何人の戦いになるのか検討もつかない。

 

だが2人とも負ける気がしなかった。

 

余裕の笑みと共に2人は森の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「急げ!早く!シールドを起動させるんだ!」

 

コンソールを操作しパネルが偏向シールドの起動を確認した。

 

先程まで急かしていたレジスタンス軍の中尉は「よくやった!」と技術兵達を褒め自らも他の歩兵達と共にブラスターを持って室内を飛び出した。

 

ソロスーブ社内の地下通路では既に多くの将兵が武装を固め重火器やバリケードなどを持ち出していた。

 

帝国軍の突然の奇襲の警報が鳴り響き歩兵達にはどこか緊張して張り詰めた雰囲気が漂っていた。

 

フル装備の歩兵が数名通路から外へ飛び出し各自持ち場に着こうとしていた。

 

「対ウォーカー装備と歩兵用バリケードを急げ!AT-ATどもを迎え撃つぞ!」

 

前線の中隊長が大声を出して部下の兵士達に命令を出し準備を急がせた。

 

軌道上では既に戦闘が始まっており地上に帝国軍が雪崩れ込むのも時間の問題だ。

 

このサラストを放棄するにしても撤退の時間を稼ぐ必要があった。

 

「戦車両は全てソロスーブ社内に配置しろ!前線はなんとか我々だけで防ぐぞ!」

 

「了解!」

 

中隊長も他の歩兵達と同じように震える声を抑えながら声を上げている。

 

いよいよ帝国軍が総力を上げてサラストの攻撃に乗り出したのだ。

 

同じようにソロスーブ社の地下通路に繋がる出口の前でも歩兵たちが防御陣を張り帝国軍を迎え撃つ準備をしていた。

 

「バリケード、ブラスター砲、シールド発生装置、予備の火器弾薬類全て配備完了しました!」

 

歩兵の1人が部隊長の曹長に伝達し曹長も「よくやった!」と一言誉めた。

 

「急いで持ち場に戻るぞ、敵がいつ来るか分からん」

 

「了解!」

 

2人はそのままバリケードの方へ向かった。

 

バリケードの外ではまだ数名の歩兵達が地雷を巻いたり自動攻撃タレットを配置したりとまだ作業をしていた。

 

そんな中である1人の歩兵が微妙な変化に気づいた。

 

「おい、あそこのとこだけなんかぼやけて見えるのは気のせいか?」

 

隣の歩兵にふと疑問を投げかけその歩兵は「ん?」と指を差された方向を見つめた。

 

そこには特にないもない、ただの風景が写っていた。

 

「何もないぞ」とその歩兵は違和感に気づいた歩兵に感想を述べた。

 

されどその歩兵は「いやそんな事はない」とまだ自分の意見を曲げる事はなかった。

 

何度も指を差し「絶対に何かある」と囃し立てた。

 

「もっと良く見てみろ!明らかにへん…」

 

「どうし…た…?」

 

面倒臭そうにもう1人の歩兵がまた振り返ると今度は明らかに異常な光景を目にしていた。

 

空中に赤黒い液体が撒き散り指を差していた歩兵がそのままサラストの硬い地面に瞳孔を大きく開いたまま斃れた。

 

その液体は額から流れておりそれ以上何も喋る事はなく完全に絶命していた。

 

「おい…!」

 

声をかけようとしたもう1人の歩兵もその瞬間に指を差した歩兵と同じ末路を辿った。

 

少し違うのは斃れ方だけで仰向けで地面に斃れた歩兵とは違い彼はうつ伏せになって地面に斃れた。

 

どの道2人とも音を立てる事なく絶命し残りの歩兵達を大きく動揺させた。

 

特にその後の指を差した先から見る見るうちに姿を表していく黒色の装甲兵の姿と共に。

 

「あれは…!」

 

「敵襲っ!!」

 

他の歩兵達が声を上げる前に曹長がいち早く奇襲の報告とブラスター・ライフルの発砲音を上げた。

 

それに呼応して他の歩兵達も手に持っていたブラスター・ライフルやブラスター砲の引き金を引いた。

 

銃声の擬音と共に赤いブラスター弾が幾度も発射されるが全ての弾丸が黒色の装甲兵達に当たる事なく再び彼らは無色に消えて行った。

 

「どっどこへ行った!?」

 

「消えたぞ!!」

 

「狼狽えるなクローキング装置だ!!弾幕射撃を繰り出せばっ!!」

 

部下を宥めようとした曹長はその後すぐ赤いブラスターの光弾に被弾し即死した。

 

曹長の死は動揺する歩兵達を混乱の先へと導いた。

 

バリケードの外で作業していた歩兵達は皆慌てて逃げるようにバリケードの中へと入ろうと走った。

 

しかし背中を見せて情けなく走る彼らの姿は黒色の装甲兵、シャドウ・トルーパー達にとってはただの的でしかなかった。

 

彼らの手に持つE-11Dブラスター・カービンやDTL-19D重ブラスター・ライフルの餌食となり次々と屍を重ねていった。

 

バリケードの中にいるからといってそこにいる歩兵達が正気を持ち合わせているわけではない。

 

次々と目の前で倒される仲間を見た彼らの方こそ錯乱し射撃が余計ブレて全く当たらなくなっていた。

 

そんなバリケードの中に1人のシャドウ・トルーパーがサーマル・デトネーターを投げつけ一気に歩兵達を殲滅する。

 

こうして出口の守備隊は全滅し屍となった彼らの上をシャドウ・トルーパー達はゆっくりと歩いていった。

 

今回の彼らの装備はアーマーはともかくそのブラスターや追加のポールドロン付きジャケットはデス・トルーパーの装備そのものだった。

 

重武装の彼らは親衛隊の特殊部隊の一つであり通常のシャドウ・トルーパー同様クローキングを駆使して破壊工作を実行する超精鋭部隊であった。

 

シャドウ・トルーパー分隊は通常のストームトルーパー分隊同様9名の兵士と1名の狙撃兵で構成されているのだが今回は内部への侵入ということで全員が中距離、近距離の装備を身につけていた。

 

E-11DやDTL-19Dを構えながら出口の隔壁封鎖を解除したシャドウ・トルーパー達はゆっくりと中へ入っていった。

 

「しっ侵入者だ!」

 

「チッ!」

 

シャドウ・トルーパーに気づいた2人のレジスタンス歩兵がブラスター・ライフルを向けシャドウ・トルーパー達を攻撃する。

 

既にフォーメーションを組んだシャドウ・トルーパー達はそれぞれの火力を投射し敵兵を一発二発程度で撃ち殺していった。

 

アイサインを出し再びシャドウ・トルーパー達はクローキング装置を起動する。

 

9人のシャドウ・トルーパーが一斉に姿を消し亡霊となった彼らは静かにソロスーブ社の地下通路を進んだ。

 

シャドウ・トルーパー達は先行して投入したシーカー・ドロイドの索敵成果通りに動き最短ルートで目標まで接近していった。

 

そんな中先頭を走る部隊長が特殊通信を開いて本隊へ連絡を取った。

 

「中佐、間も無く偏向シールド発生装置を破壊します」

 

『こちらも間も無く上陸する。頼んだぞ』

 

「了解」

 

通信を切りシャドウ・トルーパー分隊は最後の通路の前で止まった。

 

移動距離と時間から考えて恐らくここの防御は既に固められているというのが作戦立案時の予測だった。

 

隊長は一行を止めて部下にブラスト・ドアの解除を命じる。

 

ポーチから工具を取り出したシャドウ・トルーパーがブラスト・ドアのシステムに介入し始めた。

 

その間に残りの全員はクローキング装置を停止し弾薬やブラスターの調子を確かめた。

 

素早くブラスターを構えドアの開錠を待った。

 

トルーパー達が逆に敵を待ち伏せる中ブラスト・ドアの開錠が成功し全員が一斉にブラスター・ライフルを構えた。

 

ドアが徐々に開きレジスタンス歩兵の姿が見える。

 

中には真面に装備を身につけていない兵士の姿もあった。

 

しかし連中は全て敵だ。

 

相手がブラスター・ライフルを持っていようと工具で戦っていようと全て敵なのだ。

 

レジスタンスの歩兵達よりも一歩早くシャドウ・トルーパー達からブラスター弾による一斉射撃が放たれ傍に固まっていた兵士達が被弾し何人か倒れた。

 

レジスタンス兵達も急いで反撃するが突如煙幕が放たれ視界が遮られてしまった。

 

「みっ見えない!」

 

「敵兵はどこだ!!」

 

「クローキングを使われたら姿が…!」

 

「おい!」

 

シャドウ・トルーパー達は再び姿を消し煙幕の中を静かに1人ずつ始末していった。

 

レジスタンス兵達は一体どこに敵がいるのか分からず互いに肩を合わせながらひたすらに警戒していた。

 

だが気づけば背中を預けていた味方の兵士もどこかへ消え煙幕が薄れる頃には誰もいなくなっていた。

 

地面にはレジスタンス歩兵の死体が並びそこにまだシャドウ・トルーパー達がいるのかすら分からない。

 

ただ一つ分かるのは守備に回っていたレジスタンスの兵士が全滅したということだ。

 

その様子はソロスーブ社を覆う偏向シールド発生装置の制御室でも確認されていた。

 

「守備隊全滅!最終通路が突破されました!!」

 

「応援の部隊はどうなっている!?」

 

「急いで向かっていますが間に合いません!」

 

コンソールの前に座る技術兵達は臨時の制御室司令官となった新任少尉に報告していた。

 

急いで自動防衛システムやダメージコンロールシステムを起動しようとしているが襲撃者達がどこへ消失したか分からない今もはや無意味に等しい。

 

「最悪予備の装置を起動させろ!それか今すぐ本隊からシールド発生装置の受け渡しを…!」

 

少尉の焦る声と共に制御室のビューポートがオレンジ色の眩い光に大荒れゴゴゴと大きな音を立てて周囲を振動させた。

 

「なんだ!?」と慌ててビューポートの方を見ると先ほどまで健在であった偏向シールド発生装置が爆炎を上げて沈黙し始めていた。

 

先程の光も轟音も振動も全て爆発する偏向シールド発生装置の影響だったのだ。

 

「ダメージコントロールをっ…!」

 

刹那、クローキングを解除した1人のシャドウ・トルーパーが少尉の頭を真横から撃ち抜いた。

 

血を流して倒れる少尉を見つめ次は自分達の番だということを嫌々ながら自覚した。

 

ソロスーブ社全体を覆う偏向シールドが消失したのはそのすぐ後でアデルハイン中佐達の攻撃が始まる合図となった。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー サラスト宙域 サラスト星系 惑星サラスト -

数隻のゴザンティ級とセキューター級“ライアビリティ”から発艦した多数のTIEインターセプターとTIEボマー、そしてインペリアル・ドロップシップ・トランスポートがサラストの空を覆い尽くした。

 

爆撃隊と降下部隊の露払いとして出撃したTIEインターセプター隊はその役目を果たし完全に周辺の制空権を抑えた。

 

既にシールド発生装置は停止しておりTIEが降りようと降下しようとなんの問題もなかった。

 

制空権確保を確認した第四十二降下猟兵大隊の大隊長、フライマー少佐は全部隊に命令を出す。

 

「全隊降下開始、先行して敵対空砲網及びターボレーザー砲塔を全て破壊するぞ」

 

この降下猟兵大隊、元は第六親衛連隊時代からのジャンプ・トルーパー中隊がベースとなっており旅団結成時に更に三個中隊が追加された遂には大隊へ昇格した。

 

元々ベテランのジャンプ部隊指揮官だったフライマー少佐が大隊長となり中隊長のハンネル大尉は副大隊長の上級大尉へと昇進した。

 

『了解』

 

『ご武運を、フライマー少佐』

 

「ああ…」

 

通信機を切るとフライマー少佐はジャンプ・トルーパーのヘルメットを被り先陣を切ってインペリアル・ドロップシップから飛び降りた。

 

薄い雲間を掻い潜りながら自由降下に身を任せ地上へと向かった。

 

他のゴザンティ級やドロップシップからも同じようにジャンプ・トルーパーが落下していた。

 

ヘルメットの中で警告音が流れジェットパックの点火を呼び掛けた。

 

頃合いだとフライマー少佐もジェットパックを点火し他のトルーパー同様一気に加速した。

 

片手にE-11、片手にスマートロケットを装備したフライマー少佐少佐は他のジャンプ・トルーパー達にハンドサインを出し簡易的な命令を出した。

 

命令に従ったトルーパー達はそれぞれ散開し地上から放たれる対空砲を軽々と避けた。

 

「全隊、攻撃開始!」

 

通信機から攻撃命令を下し降下猟兵大隊のジャンプ・トルーパー達は一斉に攻撃を開始した。

 

スマートロケットを放ち、サーマル・デトネーターを投げつけて近場の砲塔を破壊していく。

 

爆散した砲塔の火花や火の中を飛び抜け姿を表した敵兵をブラスター・ライフルで撃ち殺した。

 

対空砲やターボレーザー砲も必死にジャンプ・トルーパーを攻撃しようと回転するがスターファイターよりも遥かに小さいこの兵士達を狙い撃つことは不可能であった。

 

「優先して対空砲を潰せ!ターボレーザーは最悪突撃隊に任せておけばいい!」

 

フライマー少佐は的確に指示を出し自らもE-11で砲塔の近くにいた敵兵を2人撃ち殺した。

 

元は惑星防衛軍の空挺兵だったフライマー少佐の歩兵としての腕は精鋭のトルーパー達にも負ける事はない。

 

部下を攻撃しようとする敵兵を素早く撃ち、ジェットパックを点火して再び宙へと舞い上がった。

 

スマートロケットの引き金を引き、近くの局所防衛砲台を一撃で破壊する。

 

塹壕やトーチカからレジスタンス軍の敵兵がブラスター砲やブラスター・ライフルを使って砲塔を守ろうとするがフライマー少佐の支援に駆け付けたジャンプ・トルーパーがサーマル・デトネーターを投げつけ敵兵を爆破した。

 

「少佐!砲塔撃破率が36%まで到達しました!」

 

駆けつけたジャンプ・トルーパーがブラスター・ライフルを放ちながら空中でフライマー少佐に報告する。

 

この短時間の攻撃でここまでの損失を与えられたのは十分な作戦成功率だ。

 

「このまま降下予定地点周辺の砲塔を優先的に撃破しろ!装甲部隊を降ろすぞ!」

 

フライマー少佐は器用に空中で方向を転換しジャンプ・トルーパー達を引き連れて命令した場所に向かった。

 

出てくる兵士を片っ端から撃ち倒し見える砲塔を片っ端からスマートロケットやサーマル・デトネーターで破壊した。

 

悠々自適に空中を駆け回るフライマー少佐と他のジャンプ・トルーパー達だが彼らでもあのハイネクロイツ中佐には遠く及ばなかった。

 

所詮はパイロットの指揮官であるはずの中佐は何故か専門職のフライマー少佐達よりもジェットパックを使った空戦の腕が上だった。

 

一体どんな経歴があるのかは知らないが少佐達にとっては少し悔しかった。

 

だからこそこの戦いで戦功を挙げて我々の底力を見せなければならない。

 

各地で爆散する砲塔や敵のトーチカの中で少佐はそう考えていた。

 

「さあ行くぞ!アデルハイン中佐が来る前に“()()()()()()()()()”の旗を立てる勢いで戦え!」

 

フライマー少佐の雄弁と共に多くのジャンプ・トルーパーが彼の後に続く。

 

このサラストを舞台にした親衛隊によるレジスタンス掃討作戦、いよいよスタートする。

 

 

 

 

 

 

-惑星コルサント 親衛隊本部 親衛隊情報部区画-

『レジスタンスのテロリストどもはかつてと同じく我々の帝国に牙を剥こうとしている!我々の帝国を再び引き裂こうとしているのだ!』

 

親衛隊本部の情報部区画のホロネット・ニュースから宣伝大臣ヨーペゼフ・ゲルバルスの演説が響いていた。

 

プロパガンダの発信としてCOMPNORから独自に誕生した国民啓蒙・宣伝省はこうしたプロパガンダを常に放ち第三帝国の臣民に正しい意識を目覚めさせていた。

 

特にゲルバルス大臣の演説は代理総統の演説と並んで効果的であり第三帝国の支持基盤を確立していた。

 

しかしこの親衛隊本部においては慣れすぎてしまったのかさほど熱狂する様子はなくむしろ一種のBGMのように演説を聞き流し職務を続けていた。

 

特に情報部では保安局員も交えて情報交換が行われ休憩フロアもロビーも将校達の報告会や小会議で埋め尽くされていた。

 

そんな中を数名の将校を引き連れてヒェムナー長官が情報部区画を訪れた。

 

誰が通り過ぎようと話を続けていた情報将校や保安局将校達も長官を見るなりすぐに敬礼し一行を出迎えた。

 

突然の到来に職員達は皆騒めき「一体何の用だろう」などと軽口を述べヒェムナー長官一行を奇異な目で見送った。

 

だが雑談を交わす将校達も最終的には「決まっている、あの方に会いに来たに違いない」と結論付けてそれ以上は詮索しなかった。

 

何処に盗聴器が付けられているか分からないしあまり話したくもない。

 

とにかく会いに来たという事実さえわかれば良かった。

 

ヒェムナー長官は情報部長官室まで向かい衛兵のストームトルーパーに自身の姿を見せるなり長官室に入れるよう求めた。

 

トルーパー2人もすぐ頷きドアを開錠し一行を長官室へ入れた。

 

「…フリシュタイン大佐、なんだハイドレーヒのやつはいないのか」

 

ヒェムナー長官は室内を見渡すなり長官室で数人の将校とやり取りをしていたフリシュタイン大佐に声を掛けた。

 

いつもは保安局長官室か情報部長官室にフリシュタイン大佐と共にいるのだが今回ばかりは違うらしい。

 

ここにはいないハイドレーヒ大将に変わってフリシュタイン大佐が説明した。

 

「ハイドレーヒ大将は現在総統府で総統閣下と面会中です。なんでも“()()()()”の進捗を聞かせてほしいとかで」

 

「なるほど、ならば仕方ない。ディープ・コアの収容所建設計画と“()()()()”の話がしたかったのだが」

 

ヒェムナー長官は仕方ないと長官室を後にしようとしたがフリシュタイン大佐はヒェムナー長官を引き留めた。

 

「もう少しお待ちになられては如何でしょうか。ハイドレーヒ長官は時間的に間も無く帰還するでしょうし最悪、私が長官へ伝達致します」

 

「そうか」とヒェムナー長官はフリシュタイン大佐の提案通り長官室に残った。

 

近くの来賓用のソファーに座り軍帽をテーブルに置き「まずは君に話すとしよう」と口を開いた。

 

大佐は近くの将校にメモの準備を取らせ小さく頷き反対側のソファーに座った。

 

「ディープ・コアの件についてだが調査隊の報告から私は可能だと判断した。問題点はまだ幾つかあるが少なくとも建設可能な惑星はビィスまでの航路に少なくとも十五ヶ所は存在していた」

 

「問題点とはなんでしょうか」

 

フリシュタイン大佐はヒェムナー長官に尋ねた。

 

細かな点も全て聞いて報告しなければハイドレーヒ大将はきっと喜ばないだろう。

 

今の大佐は彼の気持ちになってヒェムナー長官の報告を聞いていた。

 

長官は問題点について端的に話し始める。

 

「まず正確な航路が今の所コルサントを経由したビィス・ランの一つしかない。これでは従来通りアウター・リムやエクスパンション・リージョンの外縁に収容所を作った方が効率的だ」

 

「確かに、他にはありますか?」

 

「一部の国防軍将校から『貴重なディープ・コア領域をそのような事に使うな』との発言が出た。これに関してはこの計画を“()()()()()()”としか言いようがないのだが」

 

フリシュタイン大佐は大きく頷いた。

 

「前線で戦うしか脳がない彼らでは仕方のない事です」と罵倒し粛清してやろうかとまで考えた。

 

この計画がなければこの銀河が平和へ向かう事も、私たちのような悲劇の世代を銀河からなくす事も不可能なのだ。

 

発言者は事の重大さが分かっていない先見の功がない愚か者なのだろう。

 

「特に前者の理由で建設議論が必要となっている。またビィス周辺で興味深い物が見つかった為暫くは調査が優先される為建設はその後になる」

 

「分かりました、伝えておきましょう」

 

メモを取り終えたのを見届けフリシュタイン大佐は次の話に移った。

 

「それで例の工作の件ですが」

 

「ああ、君の上官のハイドレーヒ大将の仕込んだ通りになった。アンシオン戦で入手した機動部隊、アセンダンシー領へ侵入したそうだ」

 

アンシオンの戦い以前に確認されていた暴徒化した帝国軍の機動部隊、小艦隊は後々の調査で実はファースト・オーダーの傀儡であった事が分かった。

 

元よりあの勢力はファースト・オーダーが第三帝国へ接近する為の媒介の役割を果たす予定だったのだろう。

 

しかしアンシオンの陥落とファースト・オーダーの早期接近によってその計画は実質的に消失してしまった。

 

その為実質的にはファースト・オーダー配下でも半ば独立した状態で切り捨てられようとしていた彼らを“()”の一つとしてハイドレーヒ大将が情報部などを駆使し主権を頂いた。

 

利己的な思考でファースト・オーダーに付いていた彼らはハイドレーヒ大将の介入ですぐ第三帝国、親衛隊側に従属し裏の部隊として組み込まれた。

 

傀儡にする事に成功したハイドレーヒ大将は現在同盟交渉協議中のチス・アセンダンシーの領土へ威力偵察と代理攻撃も兼ねて彼らを派遣した。

 

元より近人間のみのチス・アセンダンシーとの同盟締結はハイドレーヒ大将は猛反対していた。

 

暴徒の振りを装った彼らの勢力は親衛隊の差金だとは気付かれずに無事アセンダンシー領へ侵入したようだ。

 

「それは長官も喜ばれるでしょうが……本当に攻撃に成功するでしょうか。彼らはお世辞にも有能とは言い難いですが」

 

フリシュタイン大佐は怪訝な表情を浮かべヒェムナー長官に伺った。

 

実際駒としての価値はともかく能力値は低い方にある。

 

それでも裏で自由に動かせる為重宝するだろうと思っていたのだが。

 

「それは分からんが…動向はしっかり見守らせてもらおう。失敗すれば記録から抹消し成功すればチスの底が知れる。所詮は彼らも劣等人種という事が証明されるのだ」

 

「だといいのですがね、どの道チス・アセンダンシーとの同盟は私個人としてもあまり歓迎しませんし連中に少しでもダメージを与えられるなら万々歳ですが」

 

チス族は近人間の種族であっても完璧な人間種ではない。

 

彼らはヒェムナー長官らから見れば“()()()()”でありハイ=ヒューマン主義の実現においても非常に邪魔な存在だ。

 

それ故に現在の第三帝国では彼らと同盟を結ぶのか結ばないのかが大論戦となっており第三帝国建国史上初めて意見が割れていた。

 

「報告を待とう、今の所主導権は我々にある」

 

陰謀詐術を銀河に巡らせヒェムナー長官は冷静に狂った思いを実行に移していた。

 

 

 

 

 

 

親衛隊による大規模な奇襲はまず第一段階が成功した。

 

サラストに駐留するレジスタンス艦隊は艦隊の戦列に大穴を開けられ分断し状態で惑星内部に親衛隊の地上部隊の上陸を許してしまった。

 

第十二親衛艦隊司令官のエーリヒ・ヴァルフェンドルフ大将の巧みな火力投射と中型艦による浸透戦術のおかげだろう。

 

スター・デストロイヤーの大火力に押され防御態勢を展開するとその隙にレイダー級やアークワイテンズ級のような機動力に優れた艦が雷撃を行い戦列を突破する。

 

その隙に帝国貨物船やセキューター級などの揚陸艦の侵入を行い既にサラスト内部のあちこちで戦闘が勃発していた。

 

親衛隊を迎え討とうと対マグマ装備のレジスタンス兵やサラスタン民兵らが火砲を向け応戦した。

 

当然親衛隊もただ悪戯にやられるわけもなく、セキューター級の重ターボレーザーやTIE部隊の攻撃により進路を切り開く。

 

頑強な防衛網であったがバエルンテーゼ上級大将らの指揮の下殆どの部隊が無傷で上陸に成功した。

 

「閣下!第四十六突撃連隊が敵機甲師団の分断に成功しました!」

 

「予備の第八軍団と第二十六連隊を回して直接攻撃に移れ。ここで機甲師団を押さえればかなりスムーズに進む」

 

「了解!」

 

報告に来た士官はすぐに敬礼し指令を伝達しに走った。

 

その間にもバエルンテーゼ上級大将は簡易司令部で部下達に状況を尋ねる。

 

彼は通常の地上軍トルーパーや将校たちが着るアーマーの上からトレンチコートを被りいつもの軍帽を被っていた。

 

ホルスターには念の為のブラスター・ピストルが入っておりマイクロバイノキュラーがベルトに取り付けられている。

 

生真面目な顔で部下から報告を受け取り地図を見つめ正確な情報を要求していた。

 

「ヴィーキング師団はどうなっている?」

 

「予定通りフリーツェ少将の機甲師団と合流し敵中央の軍集団と会敵したそうです」

 

「よし、支援を出そう。直轄の第二砲兵大隊と第十八砲兵大隊に命令、敵中央軍集団に砲撃を開始せよ」

 

「了解」

 

先陣を切って上陸した第五機甲師団、通称ヴィーキング師団は予定通りの戦果を挙げている。

 

配下の特殊部隊や直轄の精鋭師団の突撃能力は自分より何倍もの戦力を保持する敵軍団を容易に打ち破りレジスタンス軍に甚大な被害を与えていた。

 

彼の絶え間ない努力と隊員達の血の滲むような訓練がヴィーキング師団と特殊部隊に絶対的な突撃力を与えたのだ。

 

更にスタイナー少将の師団に現地の精鋭部隊やバエルンテーゼ上級大将の直轄部隊が加わる事で更に突撃力が増してレジスタンス軍の部隊を次々と平らげている。

 

それに加えて指示を受けた二つの砲兵大隊が重砲やSPMA-T、AT-AAからミサイルや砲弾を放ちスタイナー少将達を支援した。

 

砲撃と機甲師団の集中攻撃により最前線のレジスタンス軍は今頃かなりの大損害を被っているだろう。

 

「ブラウフィッツの兵団を迂回させてソロスーブへ進撃中の敵軍団を背後から攻撃しろ。司令部構築と同時に我々も前線へ向かうぞ!」

 

「砲兵大隊の砲撃支援、成功しました。各師団、予定通り敵軍集団の突破に成功しています」

 

通信兵の報告を受けバエルンテーゼ上級大将は満足気に頷いた。

 

今の所作戦は順調そのものだ。

 

惑星内の退路封鎖はまだだが敵部隊の撃破に成功し部隊の上陸と展開もスムーズに進んでいる。

 

即座に編入された南方地域の親衛隊の戦力も当初の想定より遥かに機能していた。

 

奇襲とAT-ATやAT-STの機甲部隊を使った電撃的な突破戦は防戦一方のレジスタンス軍を蹂躙し都市部の包囲に成功している部隊もあった。

 

軌道上では艦隊戦が続き空中ではXウィングやAウィングとTIEインターセプターやTIEブルートの熾烈な空戦が続いている。

 

特に艦隊戦は惑星内への突破こそ成功したものの両軍、敵艦隊へ向けて致命的な打撃を与えられずにいた。

 

惑星内部で防戦する事を決め込んだレジスタンス艦隊は戦術を再構築して態勢を立て直し親衛隊艦隊と激突した。

 

強固に固まったレジスタンス艦隊は親衛隊艦隊の完全な突破を防ぎ反撃の機会を窺おうと持久戦に持ち込もうとしていた。

 

いくら南方方面全ての親衛隊艦隊を持ってきたとはいえこの強固な守りを完全に撃滅するのは難しい。

 

そこでバエルンテーゼ上級大将は予定されていた攻撃方法を実行に移す為部下のエルフェンバイン少将に尋ねた。

 

「突撃砲兵隊の布陣は完了したか」

 

少将は「はい」と頷きながら答えた。

 

「新型の自走砲塔及び、AT-AAマークⅡは全機攻撃配置に付いています」

 

「軌道上のポイント33-4に全火力を投射し軌道上艦隊を攻撃しろ。その隙に揚陸隊の突撃準備を」

 

「はい閣下」

 

エルフェンバイン少将は敬礼し耳のコムリンクで部隊に連絡を取った。

 

後ろで腕を組み小さく独り言を呟く。

 

「さて…新型の対艦兵器が役立ってくれるといいのだが…」

 

バエルンテーゼ上級大将のその発言は何処か不安も込められていたがそれ以上に期待が大きかった。

 

地上軍出身のバエルンテーゼ上級大将からすればこの攻撃が成功すれば惑星内から敵艦隊を今まで以上に攻撃出来る。

 

「対艦砲撃開始まで、5秒前!4、3、2、1、開始します!」

 

士官の報告の後、簡易司令部からでも見えるほどはっきりした光弾が何発も地表から放たれ天高く突き進んだ。

 

彼らが口にした新型の自走砲塔、通称SPMA-T マークⅡは今も戦闘を続行しているSPMA-Tの後継機にあたる兵器だ。

 

元々共和国グランド・アーミーのSPHA-Tから発展したこの機種は以前のSPMA-Tよりも射程距離が長く大火力の砲弾を放つ事が出来る。

 

その火力はフリゲート艦や軽クルーザーにダメージを与える程度のものではない。

 

インペリアルⅠ級の主砲と同等レベルの火力を撃ち出し1,000メートル以上の重クルーザーにもダメージを与える事が可能だ。

 

更にAT-AAマークⅡは名前の通りAT-AAの後継機でこちらも前型よりも射程距離が長くより多くのプロトン魚雷と対空ミサイルを装備していた。

 

SPMA-Tの重ターボレーザー弾に続いてAT-AAマークⅡの放ったプロトン魚雷が空を駆け軌道上のレジスタンス艦隊へ直撃した。

 

特に重ターボレーザー砲弾の威力は凄まじくMC80スター・クルーザーの偏向シールドを打ち破り直撃させていた。

 

被弾箇所には主力のエンジンも含まれており推進力を失ったMC80はサラストの重力に引かれ徐々に墜落し始めた。

 

背後からの突然の奇襲により主力艦を一隻喪失したレジスタンス艦隊は大いに動揺し親衛隊艦隊に突破の隙を与えた。

 

再び二、三隻のセキューター級と帝国貨物船、ゴザンティ級などがサラストの地上に降り立つ。

 

大地には何千、何万のストームトルーパーと将校が溢れ轟音と共に巨大な足跡を残すウォーカーがその前を進んだ。

 

親衛隊地上軍の大軍が溶岩の河を軽々と渡河し黒灰色の岩石の大地を覆い尽くした。

 

「第十三兵団降下完了、これで直轄の兵団と軍は全て上陸に成功しましたね」

 

「ああ…後はソロスーブ周辺を占拠しレジスタンス全軍に総攻撃を仕掛けるのみ…頼んだぞアデルハイン中佐」

 

 

 

 

 

 

ゴザンティ級から数十台のAT-ATとAT-STが降ろされ素早く戦闘態勢に移る。

 

AT-ATのハッチから出撃した数台のスピーダー・バイクが先行し兵員輸送機と共に素早く部隊を展開した。

 

先頭のエリートAT-AT、インパルス1に乗り込むアデルハイン中佐から全部隊に指示が届いた。

 

「各機予定通りヴィアーズ隊形で前進。スカウト・ウォーカー隊は対歩兵攻撃に専念しろ、ソロスーブまでの道を切り開く」

 

『インパルス4、了解』

 

『インパルス7了解!』

 

インパルス1を除いた11台のAT-ATから報告が届きコックピットの中でアデルハイン中佐は小さく頷いた。

 

既に先行させた降下猟兵大隊のお陰で装甲部隊は殆ど無事に展開する事が出来た。

 

ジャンプ・トルーパー達が今もなお執拗にレジスタンス軍を攻撃しているがまだその大多数が存続しウォーカー部隊を待ち伏せし襲撃しようと画策しているだろう。

 

未だジャガーノートやホバー・タンクといった機甲戦力の姿も見えずソロスーブ防衛部隊が戦力を温存しているのは明らかだ。

 

既にバエルンテーゼ上級大将麾下の本隊は攻撃を開始しスタイナー少将の師団が中央の攻撃に成功したとも報告を受けている。

 

激戦区では順調に優勢を保っているようだがその一方で支援の一個軍団がこちらに接近中との報告も受けていた。

 

早めにソロスーブ社を陥落させ逆に敵の一個軍団を迎え撃たねば。

 

「中佐、敵装甲部隊が出撃しました。ポイント22-3からです」

 

「分かった。ブラウ中隊、ポイント22-3に絨毯爆撃を実行しろ。もし近くにスターファイターの飛行場があるならそこも重点的に叩け」

 

インパルス・フォースの上空を飛行するTIEボマー部隊が飛行機雲を作りながら命令された地点へ爆撃を開始した。

 

装甲部隊は撃滅出来なくとも残りの拠点を破壊出来るはずだ。

 

既にAT-ATも周囲の砲塔や敵歩兵を蹴散らしながら順調に前進している。

 

後方に配備した通常の歩兵部隊も間も無く輸送機やジャガーノートらと共に前線へ到着し制圧を開始するだろう。

 

思いの外敵の防衛網は既に崩されておりウォーカーによる攻撃はただの決定打に過ぎなかった。

 

先行したシャドウ・トルーパー分隊とジャンプ・トルーパーの降下猟兵大隊のおかげだ。

 

特に空中から今もなお大胆な攻撃を仕掛ける降下猟兵大隊の遊撃はレジスタンス軍に大きな負担を与えていた。

 

「ブラウ中隊、敵装甲部隊への爆撃に成功、予測通り飛行場を発見した為優先攻撃中です」

 

パイロットが報告しアデルハイン中佐はコックピットのペリコープ・ディスプレイで状況を確認した。

 

既に敵の装甲部隊は進軍が停止し対空戦闘を行っている。

 

丁度いい、ここで暫く黙っていてもらおう。

 

「前線にジャガーノートが来ていると言ったな?あれは改造式だから震盪ミサイルが発射出来るはずだ」

 

「はい、射程距離も問題ありません」

 

アデルハイン中佐の提案にパイロットが更に付け加えた。

 

中佐は小さく頷き命令を出す。

 

「インパルス12、私の合図と同時にこのウォーカーの震盪ミサイルを発射しろ。後方のジャガーノート隊も同様にだ」

 

『はい中佐、お任せ下さい』

 

今回のインパルス12の車長であるヴァリンヘルト上級中尉は元気の良い声で命令を受け取った。

 

彼は今回の作戦に際して再びジークハルトから部下として与えられた。

 

その為負傷した本来のインパルス12の車長に代わってこのAT-ATの指揮を取っていた。

 

順調に顎の重レーザー砲で敵砲塔やトーチカを破壊しながら攻撃ポイントを指定する。

 

「目標は敵装甲部隊、ここで確実に仕留める」

 

アデルハイン中佐自身もディスプレイで正確なロックオンを行いミサイルの行き先を正確にした。

 

ミサイルを装填し他の機のロックオン完了報告を受け取る。

 

攻撃命令を出した全ての機体がロックオンを完了した瞬間、アデルハイン中佐は命令を下した。

 

「全機、撃て」

 

二台のAT-ATと数台のジャガーノート・ターボ・タンクから大量の震盪ミサイルが発射され装甲部隊に牙を剥いた。

 

風を切る音と共に周囲に一斉に着弾しレジスタンス軍のタンクやジャガーノートを破壊した。

 

対空射撃で何発かは防がれてしまったが攻撃自体は成功し敵装甲部隊は壊滅した。

 

「これでひとまず…か。突撃大隊を前進させ防衛網に打撃を与える。一気に本社内まで突破口を切り開くぞ!」

 

クローン戦争の共和国グランド・アーミー時代からの伝統を受け継ぐトルーパーの突撃大隊は何の歩兵部隊よりも練度は高い。

 

分厚い防衛網も突撃大隊は安易と突破して味方の歩兵部隊の導き手となる精鋭部隊だ。

 

インパルス・フォースの突撃に合わせてアデルハイン中佐は攻撃の一手を繰り出した。

 

これでチェックメイトに差し掛かる。

 

先行させて突撃させていた偵察兼工作員のスカウト・トルーパーとプローブ・ドロイド達も十分任務を果たしてくれている。

 

すると早速そのスカウト・トルーパーの1人から通信が届いた。

 

「どうした」と一言尋ねる。

 

『中佐、新たな装甲部隊です』

 

「規模はどのくらいだ」

 

対応策を考えながらアデルハイン中佐はスカウト・トルーパーに尋ねた。

 

すると中佐にとっては意外な答えが帰ってきた。

 

『ウォーカーがいます。旧共和国グランド・アーミーのAT-TEウォーカーです』

 

アデルハイン中佐は瞳孔を開き身体を小さく振るわせた。

 

遠い昔、過去の出来事を思い出しながら。

 

 

 

 

 

 

 

「誰か倒れているぞ」

 

大草原から少し離れた森林の中で王室保安軍の保安隊員は2人の倒れているのを発見した。

 

それぞれCR-2ブラスター・ピストルを構えゆっくり前に進む。

 

先行して向かった2人の保安隊員が倒れている2人を見るなり部隊の隊長に報告した。

 

「二尉、消息不明のコマンドー隊員を発見しました」

 

装備品や遺体の衣服のマークから断定し一等保安士の階級章を持つ保安隊員はそう報告した。

 

保安隊の二等陸尉が指揮するこの一個小隊は特務捜索に出ていた宇宙部門コマンドー隊の隊員が突如通信を途絶した為隊員達を捜索する為にここまで出撃していた。

 

本来この隊長は一個中隊ほどの指揮官なのだが先日の襲撃も相待って捜索にそこまで人員が裂けず仕方なく一個小隊で任務を実行していた。

 

遺体を表替えし傷や様子を見つめる。

 

「脳天に弾痕がある…これはきっと即死だろうな…」

 

一等保安士は遺体の様子を見ながらそう呟いた。

 

「装備のブラスター類がないようですが」と隣の若い二等保安士は先輩に伺った。

 

背後からは他の隊員や隊長達も集まっており全員で様子を確認した。

 

「恐らく奪われたのだろう」、隊長はそう断定したが副長の一等保安長は首を傾げた。

 

「ですが他のアーマー類は手を付けていません。何故でしょうか」

 

「確かに…」

 

隊長は首を傾げ怪訝な表情で遺体を再度見つめた。

 

彼らはどういう経緯で死に、どうしてブラスターだけないのか。

 

練度の高く装備も保安軍の中ではトップクラスに入る彼らがこんな呆気なく死んだ理由はなんなのか。

 

「恐らく追跡に気づかれ返り討ちにされたのだろう。コマンドー隊員とはいえ前線で常日頃から戦っている“()()()()()()()”精鋭ではまだ勝てない」

 

「グリアフ一等宙佐!!」

 

二尉や他の保安隊員達は一斉に敬礼し整列した。

 

一等宙佐は敬礼を返す事なく遺体に近づく。

 

「一体いつナブーに侵入した?以前の襲撃でも内部への侵入は確認されていなかったはずだが…」

 

グリアフ一等宙佐は以前から王室保安軍の情報将校を勤めておりクリース宙将の懐刀的存在だった。

 

秘密裏に総統時代の第二帝国に接近したグリアフ一佐は帝国との協力関係を結びつけ素早い帝国の支援を提携した。

 

彼こそがクーデター成功の立役者の1人であり近々宙将補への昇進が決定されていた。

 

情報将校である彼はこの手の捜査は手慣れている。

 

他の保安隊員や保安将校などよりも素早く情報を整理し犯人を推定出来るグリアフ一佐は捜索の後続部隊として二、三個の精鋭分隊と共に捜索隊に加わった。

 

まず受け取った状況を隊員に投げかける。

 

「隊員を殺害した襲撃者はブラスターとパワーセル類を持ち去ったと」

 

「はい、アーマーや通信機類には全く手を付けていません。何故でしょうか」

 

保安隊員がグリアフ一佐に疑問を投げかける。

 

一佐は立ち上がり独り言を唱えるかのように疑問に答えた。

 

「手慣れた武器を取っていったのかあるいは単なる揺動…」

 

だがそこまで言った途端彼の声は遠くから聞こえる銃声に掻き消された。

 

どこからともなく飛んできた光弾が隣の保安隊員の頭を貫通し死の世界へと誘ったのだ。

 

彼が撃たれる瞬間をグリアフ一佐は確実に視認していた。

 

彼は誰よりも早く木の影に隠れ部隊全員に「狙撃されているぞ!」と伝えた。

 

他の保安隊員達も慌てて木の影に隠れたが逃げ遅れた後方の1人が再び狙撃され撃ち倒された。

 

「隊員から奪い取ったスナイパー・ライフルか…!」

 

倒れてる2人の遺体の装備をしっかり確認していたグリアフ一佐は敵が使用する武装を把握した。

 

帝国軍から借りていたE-11s長射程ライフルだろう。

 

「重ブラスターで応戦しろ!」

 

「了解!」

 

DTL-19重ブラスター・ライフルを持った保安隊員が木の影から身を出した途端すぐに狙撃され隊員は地面に倒れた。

 

「出るな!一歩でも体を出せば撃たれるぞ!」と他の隊員が制止し部隊は完全にこう着状態となってしまった。

 

S-5重ブラスター・ピストルをホルスターから引き抜き弾丸が放たれた方向へ牽制射撃を繰り出したが殆ど効力はなく、逆に狙撃されあわや頭を吹き飛ばされる所だった。

 

数では恐らく優勢なのだろうがこのままでは埒が開かない。

 

グリアフ一佐は隊長と隊員達に命令を出す。

 

「左右両方から同時に牽制射撃を行いつつ前進、狙撃の手が間に合わないうちに中央からの突撃しろ!」

 

「りょっ了解!第三、第四分隊は左右から前進!第一と第二で中央で待つぞ!」

 

ほぼグリアフ一佐の命令を反復するように指示を出した隊長は汗を垂らしながら状況を見つめた。

 

一佐が連れてきた分隊もそれぞれ左右に展開し兵力を均等に割り振った。

 

敵の狙撃手は左右両方に威嚇射撃を繰り出したがそれでも右を撃っている間に左の分隊が前進し真面に効力を出していなかった。

 

「参ったな」、狙撃手のジェルマンはポンチョのフードの奥から再びスコープを除いた。

 

このE-11sはスナイパー・ライフルでありながらとても扱い易い代物だった。

 

帝国軍の武器とはいえE-11系列のブラスター・ライフルはどれも扱い易く基本的な性能が高い。

 

このE-11s長射程ライフルもその類に漏れず基本的には狙撃素人のジェルマンを一流の狙撃手に押し上げていた。

 

とはいえ全てがこのスナイパー・ライフルのおかげという訳ではない。

 

ジェルマンは元々アカデミーの狙撃訓練でも比較的上位に入る腕前だった。

 

ストライン中将も「情報部員も出来るがスナイパーもやれそうだな」と言わしめるほどだ。

 

だがジェルマンがブラスター・ライフルで狙撃する機会など殆どなかったし彼が情報将校となった時にはもう既に銀河内戦は終結していた。

 

この一連の戦争も殆どが潜入や破壊工作と言った任務なので狙撃といった攻撃はあまり行わなかった。

 

「左右は取り敢えず任せて中央の敵に集中するか」

 

威嚇射撃として雑に飛び交う保安隊員の弾丸を無視しながら再びE-11sのスコープを見つめ引き金に指を掛ける。

 

弾丸が飛んでくる事はあっても相手の一般歩兵が持つCR-2やS-5重ブラスター・ピストルではこのライフルほどの精密射撃は出来ない。

 

なんなら弾丸もほぼ90%以上がこちらに届く事なく崖や木々に当たり残りが少し1〜2メートルくらい離れたジェルマンの近くを掠める程度だった。

 

相手の射撃はジェルマンの威嚇射撃以上に役に立っていない。

 

そして今からジェルマンが行おうとするのは威嚇射撃ではなく狙撃だ。

 

そろそろ頃合いだと敵の指揮官達は中央に残った部隊も前進し始めた。

 

これを待っていたのだ。

 

まず先頭から少し離れて前進する保安隊員の胸部に照準を合わせ引き金を引いた。

 

冷たく放たれたブラスター弾は狙い通り保安隊員を撃ち抜き地面に倒した。

 

すぐに狙いを変えその隣を進んでいた保安隊員に狙いを定める。

 

再び引き金に力を掛け敵を撃ち抜いた。

 

更にもっと後方の保安隊員、その左隣の保安隊員、更に更にと狙いを定め素早く撃ち抜いていった。

 

この無慈悲な集中攻撃に恐れを成した敵部隊は徐々に後退し始め再び近くの木々に隠れようとした。

 

当然逃げ惑う敵兵もジェルマンは容赦無く狙撃していく。

 

一番先頭にいた保安隊員や敢えて撃たなかった真ん中の保安隊員らを撃っていく。

 

これでひとまず先程の射撃も併せて10人は撃ち倒しただろうか。

 

かなり十分な損害を与えられたはずだ。

 

後は両翼の敵兵ののみとなる。

 

「ジョーレンが張った罠が上手く行くと良いのだが…」

 

ジェルマンは何処か祈るように呟きブラスターの弾薬をチェックした。

 

その頃前進が停滞した中央では不安そうな表情で隊長がグリアフ一佐の顔色を伺っていた。

 

まだ左右の部隊は前進を続けているが中央の部隊は大損害を喰らい前進が停滞している。

 

ある一面ではグリアフ一佐の作戦は失敗に終わってしまった。

 

「中央にだけ一点的に集中攻撃……最悪左右から包囲され殲滅される。なのに何故…」

 

「隊長、一佐、シード本部より特務連絡です」

 

「なんだと?」

 

一佐は報告に来た副官の三等宙尉に聞き返した。

 

「グリアフ一佐と捜索隊は直ちに捜索を切り上げ首都シードへ帰還せよと」

 

「何?」

 

その意外な返答にグリアフ一佐は思わず首を傾げた。

 

三尉は更に付け加えた。

 

「クリース宙将の命令です、なんでも…」

 

三尉はグリアフ一佐のみに耳打ちした。

 

隊長や他の隊員はずっとその様子を見ている事しか出来ず三尉の情報は聞けなかった。

 

だが彼からクリース宙将の伝言を受け取ったグリアフ一佐は顔色を変えすぐ隊長に命令を出した。

 

「二尉、撤退だ。直ちに全ての分隊を集結させシードへ帰還するぞ」

 

「しかし一佐、まだ敵が…」

 

「私の命令は絶対だ、それに狙撃兵だけでは我々を追撃する事はしないだろう。私は先行してシードへ帰還する、後は頼んだぞ」

 

「一佐殿!お待ちを!」

 

グリアフ一佐はそのまま三尉と共にその場を後にしスピーダーの方へ向かった。

 

彼の直轄の分隊も素早く退却し始め隊長もこの状況では撤退命令を出す他なかった。

 

徐々に左右両方の部隊も撤退し始めジェルマンはその様子を黙って見つめていた。

 

通信機を起動し近くに隠れているジョーレンに状況を伝達する。

 

「ジョーレン、敵が撤退していく」

 

『こっちでも見えている。一体何故だ…?まだ罠を張った区画まで来ていないのに…』

 

「でもこれは好都合だ。僕たちも脱出しよう」

 

ジェルマンはブラスターやエレクトロバイノキュラーを手に持ちその場から離れようとする。

 

しかしジョーレンは通信機から『ああ…そうだな』と答え通信機を切った。

 

敵兵と背中を合わせながらジェルマンは引き帰った。

 

多少の疑問と不安を抱えながら。

 

その後2人はディカーの司令部から掛かってきた緊急の情報を耳にする事になる。

 

惑星サラストが攻撃を受けていることを。

 

そして既に陥落寸前だと言うことを。

 

 

 

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 未知領域 惑星シーラ軌道上 ヴェンセナー飛行アカデミー-

惑星シーラの軌道上で今日も第一銀河帝国の最盛期から続く名門パイロット育成校、ヴェンセナー飛行アカデミーでパイロット候補生達が訓練を行なっていた。

 

このヴェンセナー飛行アカデミーはクローン戦争にも参戦したヴェネター級スター・デストロイヤー“ヴェンセナー”を飛行アカデミーとして改修したものだ。

 

とうの昔に退役するはずだった“()()()()()()”はパイロット育成の飛行アカデミーとして生まれ変わり校長のバイセン・フォーラル司令官の下多くの優秀な将校とパイロットを育成してきた。

 

退役したヴェネター級で受ける講義や実技に加えクローン戦争を戦い抜いたエースパイロットが校長という環境は候補生達の精神的なやる気を大きく促進させるだろう。

 

現に度々「あのヴェネター級で訓練を受けたかったから」という候補生の声を時々耳にする。

 

そんな“ヴェンセナー”もたまたまエンドア戦中にアケニス宙域からへサンクト宙域移動し訓練を行なっていた為ヴィルヘルムに続きチス・アセンダンシーのある未知領域へ亡命した。

 

ヴェンセナー”とフォーラル司令官は委任されたチス・アセンダンシー軍の強化において特に重要な役割を果たした。

 

チスのスターファイター隊を設立する際にどうしても亡命したサンクト宙域の帝国軍と連携する為にはTIEシリーズの機体を操縦する必要があった。

 

その為多くのパイロットがここでTIEシリーズの操縦に慣れようと訓練を受けていた。

 

フォーラル司令官も他の教官と共に自らチスの候補生達を先導しかつての帝国時代と同じように多くのパイロットや将校を育成した。

 

短期集中型の教育方法だったがフォーラル司令官と“ヴェンセナー”のスタッフ達は難なくこなしチスのスターファイター隊を完成させたのだ。

 

そんな“ヴェンセナー”に1機のラムダ級シャトルが接近する。

 

【挿絵表示】

 

「司令官、あっいえキャプテン!定刻通りラムダ級が本艦に接近しております。このまま一番ハンガーベイに着艦させましょうか?」

 

ヴェンセナー”のブリッジで1人の乗組員が幾人かの幕僚と話し合うフォーラル司令官に報告した。

 

フォーラル司令官は司令官という立場にありながら“()()()()()”と呼ばれる事を好んだ。

 

別に呼ばなければいけないと言う規則はないがそれでもキャプテンと呼ばないと微妙に機嫌が悪くなる。

 

「そうしてくれ、私は元帥閣下達を迎える準備がある。さて行くぞクリス」

 

「はいはい、キャプテン殿」

 

スターファイター隊のクリスフリート・ヴァント将軍はそう軽く呟きフォーラル司令官の後に続いた。

 

ヴァントと言っても以前から特務大使としてチス・アセンダンシーにいるイーライ・ヴァント中佐全く別だ。

 

クリスフリートは惑星ハンバリン生まれで地元ではかなり有名な軍族一家であった。

 

彼自身はまだ幼年の特務アカデミーに入っており直接の参戦はないが彼の父も兄も他の親族も殆ど皆がクローン戦争に参加した。

 

まだパイロット候補生だったヴァント将軍と共和国軍のエースパイロットとして活躍していたフォーラル司令官との出会いもここだ。

 

一時期は教官と候補生と言う形で共に同じスターファイターに乗り込んだこともあった。

 

銀河系にも多くの分家を残し今でもあちこちの軍にその命脈を残している。

 

2人はブリッジを降りてエレベーターに乗り“()()()()()()”の中の応接室へと向かった。

 

「そういえば新しい候補生、遂に完全新規の通常アカデミーと同じ年数教育するそうですね。どうです、順調ですか?」

 

ふと思い出したようにクリスフリートはフォーラル司令官に尋ねた。

 

ようやく部隊編成が追いついた亡命軍とチス軍は遂に通常通りのアカデミー教育を実行する事にした。

 

ヴェンセナー飛行アカデミーでも帝国時代と同じ年数で教育を施し育成する方針に戻り始めていた。

 

「素質たっぷりのしごきがいがある候補生ばかりだよ。昔のお前のようにな」

 

フォーラル司令官のジョークに苦笑いを浮かべ2人はそのまま応接室に向かった。

 

衛兵のストームトルーパーが2人敬礼し「参謀総長がお待ちです」と報告した。

 

「ご苦労」と返しフォーラル司令官とクリスフリートは応接室の中へと入った。

 

椅子に座れる元帥を見かけ2人は敬礼する。

 

「ようこそヴェンセナー飛行アカデミーへ。お待ちしていましたよ、シャポシニコフ元帥」

 

ソファーに座っていたシャポシニコフ元帥と部下のヴァシレフスキー少将も立ち上がり敬礼を返した。

 

どうぞそのままと合図を出し、フォーラル司令官とクリスフリートも席に座った。

 

「アカデミーの方は順調です。新規候補生は予定通り通常コースで育成します」

 

軽く報告を行い、軍帽をテーブルに置いた。

 

「それは良かった」とシャポシニコフ元帥は相槌を打って安堵した声を上げた。

 

同じアカデミーに携わる者としてその報告はとても喜ばしいものだ。

 

「それでチスTIEファイターの配備についてですが、現状操作性が同じなら現状のTIEファイターで十分だと思います」

 

チスTIEファイター、正式名称ヌシス級クロークラフトは新型のTIEシリーズの一種に当たる機体だ。

 

別名でチス・クロークラフトなどとも呼ばれている通りこのヌシス級にはチス側の技術がふんだんに盛り込まれている。

 

元々設計されていた機体に帝国軍のTIEシリーズの技術を組み込むことで更なる性能の向上に繋がった。

 

通常のTIEファイターよりは少し鈍足だがハイパードライブや偏向シールドを装備しより頑強な機体に仕上がっている。

 

更にはオプションで震盪ミサイル、プロトン魚雷などを装備出来る為爆撃能力にも優れていた。

 

現在通常のTIEシリーズと同様に生産中ではあるがそれでも全域への配備はまだ整っていない。

 

故に優先されるのは正規の軍隊と前線や辺境域の主戦部隊だとフォーラル司令官は思っていた。

 

現状訓練を行うだけなら今のTIEファイターでも十分だった。

 

操縦の素性が大きく変貌しないのがTIEシリーズの強みだ。

 

「だが君用に1機手配してもいいのだぞ?」

 

「いえ、私はもう一戦を退いた身ですので。それよりもヴァント将軍の隊にでも配備してやったらどうです?」

 

隣の現役指揮官に目を向け話を振った。

 

クリスフリートは微笑を浮かべ「お気遣いどうも」と答えた。

 

「ヴァント将軍の部隊には直ぐに新型のTIEシリーズを配備する。使い慣れた通常のTIEの発展系の方がいいだろう」

 

TIEディフェンダーのみで構成された麾下中隊のシルバー中隊など様々な精鋭部隊を保有していた。

 

「それで、本題ですが…」

 

「ああ、我々が第三帝国から来る視察団を迎え入れるのは承知しているはずだ」

 

シャポシニコフ元帥の問いに2人は小さく頷いた。

 

同盟こそなされなかったものの第三帝国との関係は少なくとも敵対はしないと明確化された。

 

帝国同士の激戦を少なからず経験してきた彼らにとってはとても良い知らせだ。

 

「視察団の訪問先としてここを加えたい。ヴェンセナー飛行アカデミーでの様子は第三帝国に対して何らかの効力を与えるはずだ」

 

「…分かりました、日程に組み込んでおきましょう」

 

「引き受けてくれるか?」

 

「はい、お任せください」

 

フォーラル司令官の快諾にシャポシニコフ元帥とヴァシレフスキー少将は顔を見合わせ安堵の笑みを浮かべていた。

 

2人は席を立ちフォーラル司令官は「もう行かれるのですか?」と尋ねた。

 

「参謀本部の方が忙しくてな。本当なら長居してアカデミーの様子を私も視察したいのだが…そうはいかん。すまんな」

 

「いえ、元帥こそお疲れ様です」

 

クリスフリートの労わりにシャポシニコフ元帥は「いいんだ」と微笑を浮かべた。

 

「シャトルまでお見送りします」とフォーラル司令官とクリスフリートは2人についていった。

 

応接室を経ち軍帽を被り直す。

 

だが応接室から離れ少し歩いたところで2人はアカデミーのスタッフに呼び止められてしまった。

 

「キャプテン、将軍、ライコフ教官が2人を探しておいででした」

 

「何?」

 

「行きなさい、気持ちだけ受けて取っておくよ」

 

フォーラル司令官とクリスフリートは申し訳なさそうな表情を浮かべながらシャポシニコフ元帥に敬礼した。

 

2人はその場を後にして駆け足で呼ばれた方へ向かった。

 

「アカデミーは順調そうだ。これで少なくともスターファイター戦力は問題ない」

 

「はい、ですが実戦となると違う可能性もあります」

 

ヴァシレフスキー少将はそう付け加えた。

 

シャポシニコフ元帥も小さく頷き軍帽の鍔を持って深く被った。

 

「その事に関しては次の前線での戦闘で直接確認するしかない。少将、色々と頼んだぞ」

 

「必ず防衛戦を完遂して見せます!」

 

シャポシニコフ元帥は満足げに頷き2人はラムダ級シャトルへと向かった。

 

サラストだけでなく遠く離れた未知領域でも次なる大戦に向けた前哨戦が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が初めて物心ついた時にいた場所は、戦場だった。

 

まだ3歳の時か4歳の時、将又5歳の時か。

 

もう正確な年齢など忘れてしまったがそれほど遠い過去から私は戦場にいた。

 

いや、巻き込まれた。

 

あの頃は銀河の社会情勢どころか自分の住んでいる星の名前も真面に言えなかったが今ならよく分かる。

 

当時はまだクローン戦争を生き残った多数の分離主義抵抗勢力が存在しその規模もとても大きかった。

 

敗北を受け入れられない彼らは当然のように各地で抵抗を続けテロリスト紛いの事も行っていた。

 

私はそれに巻き込まれた。

 

ある日突如分離主義者達の残存艦隊に襲撃され街は廃墟と化した。

 

両親は死に轟音の中で顔中煤だらけになりながら廃墟の中をずっと走っていた。

 

降り注ぐ弾丸やミサイルの恐怖から逃れる為に、まだ小さい私には恐ろしく怖い思いだった。

 

何度も転び何度も傷を負ったか当時でさえ覚えていない。

 

ただ怖かった、ただ混沌に包まれていた。

 

街中悲鳴が響きそこら中に死体が転がっていた。

 

死にたくなくても死は私に鎌をかけて喉元を引き裂こうと狙っていた。

 

あの人が来るまでは。

 

廃墟の中に隠れていた私を探し出しその人は「大丈夫か!」と声を掛けた。

 

何人かの白い装甲服を着た人達と共に私を戦場の地獄から救い出した。

 

外に出てみれば六足歩行の装甲車両や何十機のスターファイターが分離主義者達を完全に撃破し街中に平穏を取り戻していた。

 

もう破壊された街や死んでしまった父や母は戻ってこないだろうが彼らは残された者を全て守っていた。

 

そして私の手を引いて安全地帯まで駆け抜けた。

 

ふと顔を上げて彼の横顔を見つめれば必死に走り時々私に「大丈夫だ」と微笑を見せた。

 

軍帽から見える金髪に金色の瞳。

 

まだ旧共和国軍の制服を着ており軍用の外套を身に纏っていた。

 

その時は名前は聞けなかった。

 

そんな余裕など何処にもなくただ恐怖からの解放と安堵ですぐ意識を失ってしまった。

 

彼の名前が分かったのはその後だ。

 

しばらくして私を心配していたあの人は避難所にいた私に再び声をかけた。

 

その時彼は自らこう名乗った。

 

()()()()()()()()()()()()()()”と。

 

今同じ戦場にいるバエルンテーゼ上級大将その人だ。

 

当時大佐だったバエルンテーゼ上級大将は指揮していた部隊と共に私の故郷を解放し私も救ってくれた。

 

希望も何もない灰色の世界で唯一バエルンテーゼ上級大将への憧れが世界を彩った。

 

その後とある育成機関を経て帝国ロイヤル・アカデミーに入学した先で私はバエルンテーゼ上級大将の戦歴を知り益々憧れを募らせた。

 

ジュディシアル上がりの指揮官でクローン戦争では多くのクローン・トルーパーを率いて各地を転戦。

 

ヒルデンロード元帥とリーデンドルフ元帥のターネンベルグの戦いなどにも参戦し祖国の為に戦った。

 

やはり私を救ってくれた人はすごい人だった。

 

ますます憧れは膨らんだ。

 

新たに出会った“()()”への憧れと共に。

 

あの頃から私にとってジークハルト、君は憧れだった。

 

バエルンテーゼ上級大将の戦友としてラスティ・シュタンデリス准将の名前は当然知っている。

 

突如姿を消した名将として多くの人と同じように記憶していた。

 

その消失の名将の息子が父親の跡を辿りここ(アカデミー)にいた。

 

同室だった私はすぐにジークハルトと仲良くなったし彼の事情も聞いた。

 

自分の父親に、父が歩んだ道のりは間違いじゃなかったと証明する為にひたむきに努力していた。

 

バエルンテーゼ上級大将同様に彼にも憧れた。

 

同じいつかはああなりたいと、ああなって見せると。

 

空虚な私に憧れの情景は二色も彩りを与えた。

 

だが運命はそんな憧れを砕こうとする。

 

それは銀河内戦中の私たちの“()()”の“()”であった。

 

彼の戦死はジークハルトを絶望させ私たちに深い傷を遺した。

 

彼はあの時完全に折れそうだった。

 

絶望は彼を包み憧れを飲み込もうとしていた。

 

そうはさせない。

 

私にとっての憧れを消させやしない。

 

彼が折れそうになったら“()()()”までだ。

 

ずっと、そうしてきたようにこれからもそうする。

 

ジーク、私の勝手な願いなのは分かっている。

 

だがどうか、ずっと憧れでいて欲しい。

 

皆を導き続けるそんな憧れでいて欲しい。

 

今後生まれる私のような子ども達に微かな“()()”を与え希望となるように。

 

その為に私は、いつまでもついていくさ。

 

君の後ろを、君を支えながらずっと。

 

フリーツ・アデルハインという副将が常に隣にいる。

 

ずっと“()()”を支え続ける為に。

 

「旧式の改造品か」

 

「前衛の六台は強力なレーザー砲を装備したエリート機です。後方からも旧型機ですが数十台近くのAT-TEウォーカーが接近中」

 

パイロットの報告を受けてアデルハイン中佐は戦略を練った。

 

敵機は旧共和国グランド・アーミーが使用していた全地形対応戦術攻撃兵器、AT-TEだった。

 

この機体は初期型のウォーカーとしてクローン戦争各地で戦いグランド・アーミーに数々の勝利を贈った。

 

その後帝国地上軍でも初期の僅かな間に使用されその後は初期型AT-AT、現在のAT-ATのようなアサルト・ウォーカーの基礎となった。

 

今ではすっかり主力を離れ旧式扱いとなっている。

 

恐らく解体、または警備隊や地方に配備されるはずだったAT-TEを現地のレジスタンス軍が何らかの経緯で入手したのだろう。

 

機体の一部がグレードアップされたエリートAT-TEというエリート・ウォーカー機の存在も見える。

 

いくら旧式とはいえ普通にぶつかってはAT-ATといえどエリートAT-TEの火力では被弾箇所によっては致命傷になる。

 

だが少なくとも性能と数ではこちらの方が上だ。

 

「インパルス4からインパルス7までは全機防御隊形、その間に残った機は二手に分かれて左右の側面から攻撃する」

 

『了解中佐!』

 

「それとヘルクス大尉、聞こえているか?」

 

後方でAT-AAなどの指揮を取るヘルクス大尉に通信を取った。

 

連中には限りなく不利になって貰う。

 

『はい中佐、何の御用でしょうか』

 

大尉は素早く返信しアデルハイン中佐も手短に命令を伝える。

 

「妨害粒子の煙幕弾を敵装甲部隊周辺に投擲しろ」

 

『ですがそれではウォーカー部隊も射撃が困難になりますが』

 

ヘルクス大尉はそう忠告した。

 

ウォーカー系の兵器であれば大半がスモーク弾を使用されても熱源探知なので精密射撃が可能になる。

 

しかしヘルクス大尉に命じた砲弾は熱源探知すら妨害する完全なスモーク弾だ。

 

だがそれは味方のAT-AT類の熱源探知すらも妨害してしまう。

 

「問題ない、連中には“()()()()()”。私の機体がポイントS-11まで前進した時に一斉に撃て」

 

『了解しました!』

 

ヘルクス大尉との通信を切り敵を蹴散らしながら再びディスプレイを覗いて距離と周囲の状態を測る。

 

インパルス・フォースの付属機とは違うAT-STの部隊が先行し歩兵部隊を粗方蹴散らしていた。

 

追随する突撃大隊のストームトルーパー達も効力的な戦果を与えていた。

 

彼らは勇敢にもトーチカにサーマル・デトネーターを近距離で擲弾したりバリケードを打ち破り防衛網に飛び込んで近接戦闘を行なったりしている。

 

ある者など敵の軽装甲車両にギリギリまで近づき近接反応爆弾を取り付け爆破していたりした。

 

効力的なウォーカーと歩兵の突撃によりAT-AT部隊の脅威はほぼ存在しなくなっていた。

 

ならば彼らの脅威になるであろう敵のウォーカー部隊を我々で撃滅するだけだ。

 

防御に回った中央のインパルス4、インパルス5、インパルス6、インパルス7が重レーザー砲をAT-TE部隊に浴びせかける。

 

敵部隊も負けじとマス=ドライバー砲を一斉に放ってきたが全てAT-ATに着弾しても大した損傷にはならなかった。

 

しかしエリートAT-TEの攻撃はそうは行かない。

 

強力なレーザー砲が左に寄り砲撃を続けるインパルス6の一部分に着弾し被弾箇所を大きく抉った。

 

大きな振動がインパルス6全体を襲いスパークが発生する。

 

「大丈夫かインパルス6」

 

前進しながらアデルハイン中佐はインパルス6に連絡を取る。

 

小破とはいえかなり酷くやられた。

 

回避が間に合わず直撃を受けていたら恐らく中破、大破していただろう。

 

『問題ありません…!パイロットも小官も兵員も無事です…!』

 

実はスパークにより額に傷を負っていたインパルス6の車長であったが無理矢理大丈夫だとアデルハイン中佐に進言した。

 

今更支援に向かうのはもう無理なのでこのまま彼らに中央を任せて前進するしかない。

 

「ポイントS-11に到達、AT-AAスモーク擲弾投射開始されました」

 

何発かのミサイルがアデルハイン中佐らを横切り敵AT-TEの前で爆散して白い煙幕を噴き出す。

 

妨害粒子入りのスモーク弾はその効力を発揮しAT-TE部隊の攻撃を一時的に鈍らせた。

 

正確な狙いが付けられず恐らく攻撃を一時中断したのだろう。

 

煙幕の内部から三、四台の全地形対応索敵トランスポート、AT-RTが姿を現す。

 

恐らく煙幕外の状況を素早く索敵する為だろう。

 

数人の護衛の兵士と共に出てきたAT-RT隊だったが中央のAT-ATと両翼のAT-ATによる中型ブラスター砲の集中砲撃を受け悉く破壊されてしまった。

 

後継機のAT-STとは違いオープンタイプのAT-RTは中型ブラスターを喰らった瞬間、パイロットが吹っ飛びコックピットが抉れるように壊された。

 

“脚”に被弾したAT-RTはそのまま地面へと倒れ近くを走っていた護衛の兵士をそのまま押し潰し別の兵士は中型ブラスターをモロに喰らい抉れた大地に抱かれ土まみれの姿となった。

 

「中央隊はそのまま敵索敵機の撃破に専念しろ。両翼の隊はシーカー・スカウトシステムを起動し主力のAT-TEを叩くぞ!」

 

アデルハイン中佐の命令と共にパイロットがコックピットのパネルを操作し言われたシステムを起動した。

 

中佐はそのままディスプレイを引き下げ覗き込む。

 

「シーカー・ドロイドのセンサー反応率100%」

 

「各機起動完了した模様です」

 

シーカー・スカウトシステムとはジークハルトや索敵部隊の下士官兵や将校達と共に考案した索敵システムだ。

 

AT-AAの放ったスモーク弾のように周囲の状況が完全に判断出来なくなる場合に備えた索敵方法で、AT-ATやスカウト・トルーパーのスピーダー・バイクから放たれたシーカー・ドロイドやプローブ・ドロイドが煙幕内、または煙幕外を索敵し信号を発して敵の位置を明確化するというものだ。

 

特にウォーカーやジャガーノートクラスの大型車両には効果的で視覚やセンサー類が奪われていてもドロイドによる索敵によりどんなに距離が離れていても完全に敵の位置が把握出来る画期的なシステムで全ての位置情報はAT-ATなどのウォーカーに共有される。

 

つまり敵はこちらを認識出来なくてもインパルス・フォースの部隊は確実に敵機を攻撃出来るということだ。

 

その理論通りエリートAT-ATのインパルス1から最大出力の重レーザー砲が放たれ煙幕を突き破り敵のAT-TEに着弾する。

 

煙幕の中で大きな爆発が響き渡り直撃を喰らったAT-TEは一撃で大破した。

 

立て続けに僚機のインパルス2やインパルス3も同じように重レーザー砲を最大火力で放ち敵ウォーカーを撃破した。

 

反対側のヴァリンヘルト上級中尉らのAT-ATも攻撃を続行し敵部隊へ確実な損害を与えていた。

 

特にヴァリンヘルト上級中尉のインパルス12はインパルス6にダメージを与えたエリートAT-TEを一台撃破し敵の脅威を大きく削ぎ落とした。

 

砲撃は敵を殲滅するまで止む事はなく重レーザー砲の轟音がソロスーブ内に響き続けた。

 

時々少しでも反撃しようと煙幕の中からマス=ドライバー砲の青い光弾が放たれたが弾丸は明後日の方向へ飛んでいき、的を大きく外れ一発も当たらなかった。

 

しかしAT-ATは確実に敵機を殲滅し煙幕が晴れる頃にはそこには破壊されたAT-TEの残骸と死体かどうかすらわからない物体の残りが転がっていた。

 

残骸となった旧時代の遺物を目の前にして彼らは冷酷に通り過ぎ更に当たりの敵兵を蹴散らし遺物の手向とした。

 

「間も無くソロスーブ社のハンガーベイ前です」

 

パイロットの報告は攻撃に集中していたアデルハイン中佐の意識を上陸へと向けた。

 

「インパルス2、インパルス3はこのまま前進し続けろ。私の機体で取り敢えず部隊を突入させる」

 

『了解中佐!』

 

『ご武運を!』

 

「ウォーカーを上陸モードへ、全乗員はこのままソロスーブ内へ突撃準備」

 

エリートAT-ATの前進速度を下げてウォーカーを徐々に停止させる。

 

護衛のAT-STやオキュパイア・タンクに囲まれながらエリートAT-ATはゆっくりと停車し部隊の上陸態勢に入った。

 

AT-ATには約40名の兵員が搭載可能でこのエリートAT-ATにも40人近くのストームトルーパーが乗員していた。

 

後方から二、三台の兵員輸送機やジャガーノート輸送車が到着し更に多くのトルーパーが展開された。

 

エリートAT-ATも完全に上陸への態勢を整えハッチが開いた。

 

「突撃開始だ!!」

 

ストームトルーパーの隊長に先導され多くのフューラー・ストームトルーパーがブラスターを放ちながらAT-ATを飛び降りて突撃する。

 

E-11だけでなくDTL-19、T-21軽連射式ブラスターやRT-97C重ブラスター・ライフルも装備し突撃の効力を上げていた。

 

ライフルの連射音がドラムのように打ち鳴らされ対処しきれなかった敵兵は次々と倒れていった。

 

1人のストームトルーパーがバラディウム・コア・サーマル・デトネーターを投げつけ、その間に2人のトルーパーがEウェブ重連射式ブラスター砲を運んでいく。

 

本来は台座の四脚が必要なのだが今回の戦いではそれを付けている余裕はなくそのまま少し高い岩場に貼り付け砲手のトルーパーが引き金を引いた。

 

どのブラスターよりも素早く大火力を連射するEウェブは次々と敵兵を薙ぎ倒し味方の進軍経路を切り開いた。

 

正確な冷却管理により高い火力と連射力を維持したままの戦闘が可能だ。

 

同じように何箇所からEウェブの援護射撃が放たれトルーパー達はかなり余裕でソロスーブ社内にまで突撃出来た。

 

ソロスーブ社内に籠るレジスタンス兵も重火器などを効率よく使用し蹴散らしていく。

 

既にあちこちの通路でDTL-19やRT-97Cのような重ブラスター・ライフルを持ったストームトルーパーが先頭で敵の防衛網へ高火力を叩き込んでいた。

 

他のトルーパー達もE-11やSE-14Cで援護し何人かの敵兵を撃ち倒した。

 

「やれ」と分隊長のストームトルーパーが命令し部下がバックから取り出したサーマル・インプローダーを敵陣地へ投げつける。

 

独特の圧縮音と爆発音が通路に爆発ごと響き、バリケードや敵兵をまとめて吹っ飛ばした。

 

爆風が去るのを待ってから分隊長は突撃命令を出す。

 

再び重ブラスター持ちのトルーパーを先頭に部隊は突撃した。

 

後方から到着したD-72wオプレッサー火炎放射器を装備するインシネーター・トルーパーも戦線へ加わった。

 

重ブラスター装備のトルーパーより先頭を行ったインシネーター・トルーパーは早速火炎放射器を起動し炎をあちこちへ撒き散らした。

 

超高温の火炎が逃げ惑うレジスタンス兵や戦うレジスタンス兵に燃え移り彼らを焼死させた。

 

地面が焦げ黒く煤に塗れるがトルーパーたちはそんな事を気にせずどんどん前へ進む。

 

やがて数十分が経過し戦いは決した。

 

地上では装甲部隊がほぼ全域を支配し援軍の敵軍団をブラウフィッツ中将の一個兵団と共に迎撃しこれを撃破した。

 

施設内では殆どの制圧が完了しレジスタンス兵の守備隊は半ば全滅に近い形で撃退された。

 

そして遂にソロスーブ社の一角から二つの旗が翻った。

 

まず一つは第三銀河帝国の国旗だ。

 

【挿絵表示】

 

赤い旗の色に白と黒の十字線、そして銀河帝国の紋章。

 

この旗こそが第三帝国の象徴でありこの国の姿を表すものだ。

 

もう一つ、もう一つは同じく黒旗に白と黒の十字の上に黒い盾章が置かれている。

 

これこそが第三機甲旅団の軍旗でありこの戦いの勝利の印だった。

 

【挿絵表示】

 

白と黒のみで描かれるこの鮮やかさのかけらもない軍旗がソロスーブから翻りアデルハイン中佐の勝利を決定付けた。

 

サラストの戦いの勝利を。

 

ソロスーブ社は陥落した。

 

 

 

 

 

 

ソロスーブ社の陥落を聞いた時バエルンテーゼ上級大将は自ら指揮するエリートAT-ATの中にいた。

 

いつでも自ら戦闘出来るようにAT-AT部隊を率いて前線近くに待機していた。

 

報告は機体内に控えている幕僚の1人からだった。

 

本来ストームトルーパーが籠るスペースもバエルンテーゼ機は指揮官達の司令室となっていた。

 

「そうか!やってくれたか!」とバエルンテーゼ上級大将はまず喜びを露わにした。

 

ソロスーブ社が陥落し一大拠点を一つ堕とせた。

 

各地の戦闘も順調で次々と敵軍の突破と包囲殲滅の報告が雪崩れ込んでくる。

 

軌道上でも敵旗艦の撃破に成功したとの報告が入り艦隊戦も徐々に勝利と終結の兆しが見えてきた。

 

「我々もこのまま包囲と確固撃破を狭め、一気に敵軍を殲滅するぞ。勝利はすぐそこだ!」

 

「了解!」

 

バエルンテーゼ上級大将はあえて昂揚を抑えずそのまま感情を表面に出していた。

 

アデルハイン中佐達がやってくれたのだ。

 

これで大きな手土産が手に入りレジスタンス軍も大きく弱体化するだろう。

 

戦争の終焉も近づき銀河系は再び元の姿を取り戻すきっかけとなるはずだ。

 

長かった、長い道のりに小さな区切りがようやく付けられるのだ。

 

我々が誓い、私1人となってしまった約束がようやく果たせそうだ。

 

「予備の航空戦力も動員し更に敵軍へ打撃を与えろ、我々は一気に畳み掛ける。サラスト陥落の報告を早めてやれ」

 

更にチェックメイトへ向けた指示を出しレジスタンスに対する攻勢を強める。

 

ここで確実に叩き、シュメルケやフューリナー達にも文句を言わせない結果を出してやろう。

 

我々は親衛隊だが帝国軍人の意地は捨てていない。

 

帝国の為に命を賭けて戦うのが我々の使命だ。

 

ならばこれは親衛隊の勝利ではなく帝国軍人の“意志の勝利”となるだろう。

 

平和の為に戦い続けるその意志が報われる為に。

 

遠い昔にシュタンデリスとフリズベンと交わした誓いを叶える為に。

 

バエルンテーゼ上級大将はサラスト陥落へ事を進めた。

 

 

 

 

 

 

-レジスタンス総司令部 イリーニウム星系 惑星ディカー-

「…サラストは……後どのくらい持ちそうなんだ…?」

 

セルヴェント外務大臣は深刻な面持ちで報告を受け取ったディゴール大臣へ尋ねた。

 

既にサラストへは緊急撤退命令を出しているのだがそれでもこのディカーへ来る艦がいないという事は未だサラストで帝国軍から逃れられないということだ。

 

かなりの大部隊を派遣し何重にも包囲網を展開しているのだろう。

 

もしかするとインターディクター級のような重力井戸搭載艦が脱出を妨害している可能性もある。

 

とにかくサラストでは多くのレジスタンス兵が殺され相当の損害を被っているのはまず間違いがなかった。

 

「長く持つと希望を賭けるなら後4時間あるかないかだろう…既にソロスーブ社は陥落しているとの報告も受け取っている」

 

「サラストの戦力は南アウター・リムでの攻勢に使われる予定だったのに…これでは大規模反抗作戦が…!」

 

セルヴェント大臣はらしくもない焦りを見せた。

 

彼のいう通りディカーの戦力とサラストの戦力を合わせて南アウター・リムで大規模な反抗作戦を行い周辺一帯を確保する予定だった。

 

領域が広がれば再び真っ向からの勝負も可能になる。

 

そうなれば考え直す惑星政府や星系政府も増えてセルヴェント大臣らによる外交で味方に引き入れ戦局を打開出来る可能性もあった。

 

だがサラストの戦力が潰れたとなれば反抗作戦は不可能だろう。

 

未だに戦力を多く持つモン・カラなどに任せる他なくなる。

 

「まあ落ち着け」とハンはセルヴェント大臣を宥めた。

 

「俺とチューイと幾人かの部隊でなんとか敵の包囲網を撹乱する。一兵でも多くいれば後はレイアと大臣達がなんとかしてくれるだろう」

 

ハンはそう言いレイアやディゴール大臣の方に目線を送った。

 

2人とも申し訳なさそうな表情を浮かべディゴール大臣は「頼めますか」と彼に尋ねた。

 

「もちろん、ここで黙っているのは流石に癪だ。それにまだランドの連中もいる、あんたの娘はうまく繋いでくれるさ」

 

セルヴェント大臣の肩を優しく叩き大丈夫だと宥めた。

 

今ヘルヴィはアノート宙域にいる新共和国軍と現地の将軍の下に向かっている。

 

確実な情報網を繋ぐ為には今の段階だとどうしても人を送る必要があった。

 

「脱出した将兵は全て私の元で再編して各部隊に組み込む。また辛い作業になるだろうがやるしかない……ジルディール上級中尉とバスチル少佐にも苦労をかけるだろうが」

 

「今や彼らのナブー解放がこの南アウター・リムでレジスタンスの今後を決めるという訳だな…」

 

「解放に成功すればレジスタンスの象徴ともなるし帝国軍も大きく撹乱出来る。皇帝の誕生惑星を失うという事を彼らにとっても大きいはずだ」

 

ナブーでの勝利はとても小さなものに感じられるだろうが実際はそうではなかった。

 

特にこうなってしまった以上レジスタンスという組織の輝きを失わせない為には彼らの勝利に期待を込めるしかない。

 

「俺はそろそろ出撃する、なるべく早い方がいい」

 

ハンはチューバッカと共にディカーの司令室を出ようとした。

 

だがそれは勢いよく司令室に入室した1人の将校によって阻まれてしまった。

 

「どうしたんだ」とハンは声を掛けるが息の荒く冷や汗を垂らすその将校は中々答えなかった。

 

汗を拭い息を整えた所でその将校は顔を上げ大きな声で全員に聞こえるよう報告した。

 

最悪の状況に更に最悪を重ねる報告を。

 

「“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

 

つづく




すっごい足痛いね

ちなみにこないだナチ帝国を投稿した時には我らが親衛隊騎士団領ブルグントの夢を見ました

ヒムヒムがひたすらイカれた思想を説いてて頭がどうにかなるかと思いました(体験談)

ちなみにきょうもげんきです


キャナディ「それはそうと我々の出番少ないっすね」
ピーヴィー「まあ多くなっても困る」


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未知領域事件

「ルーク・スカイウォーカー将軍が消えたと聞いた時、僕は人生で最も絶望したでしょう。彼はレジスタンスの希望であり象徴である人物でした。そんな将軍の消失はレジスタンス自体の消失だと感じられたからです。当時、一介の士官でしかなかった僕の思考では絶望で止まるだけでした。その後に来る、大変な時代のことなど、考えもつかなかったでしょう」
-元ディカー司令部駐在士官の人物の証言-


ルーク・スカイウォーカーの消失、それは灰色に染まりゆくこの状況を一気に暗雲の中へと叩き込んだ。

 

会議室にいたある者は気が動転して倒れ、またある者は目を見開き唖然とした“()()()()”の表情を浮かべていた。

 

一介の将校や通信士官、衛兵達の思慮ではただひたすらに困惑し或いは絶望の闇に飲まれるだけである。

 

「嘘だろ」、「あり得ない」という独り言は信じたくない気持ちをなんとか具現化しようとする現れであり、所詮は無意味なものと皆が知っていた。

 

動揺しているのは将兵達だけではない。

 

チューバッカはいつにもなく悲しく唸り声を上げ友達の消失を悲しみ目線を落とした。

 

本来は大きなウーキーであるはずなのだがこの瞬間ばかりはとても小さく弱々しいものに見えた。

 

ハンとレイアも「そんな…」と目を見開きあり得ないといった表情だ。

 

特にハンは報告に来た将校に近寄り問い詰めた。

 

「おい!その報告、本当によく調べたもんなんだろうな!?」

 

「はっはい!!このディカー基地含めた各地のレジスタンス施設の諜報能力及びセンサー類に全く反応がありません!」

 

あまりの形相だった為将校は萎縮したもののきちんと報告の正確さを伝えた。

 

ディゴール大臣も「よせ、ソロ将軍」とハンを宥める。

 

時が立ち冷静になったハンは「すまなかったな」と詫び元の位置に戻っていった。

 

「…セルヴェント大臣、急いでボサウイに飛んでくれるか」

 

「ボサウイに?」

 

ディゴール大臣の頼みにセルヴェント大臣は首を傾げた。

 

ボサウイとはミッド・リムに位置する惑星の一つで比較的親共和国派の惑星だった。

 

この地はスパイ活動、諜報活動の得意なボサンという種族の母星(ホームワールド)だ。

 

ボサンのスパイ達はあのエンドア戦でも果てしない犠牲を出しながら情報を集め勝利に貢献した。

 

その後は新共和国に加盟したのだが当の新共和国は第三帝国に敗北し崩壊、ボサウイも再び切り離されてしまった。

 

しかしボサウイは反帝国の路線を取り続け多くの新共和国軍を匿い独自に民兵軍や防衛軍を結成しスパイ活動を再び実行し第三帝国と戦う決意を固めた。

 

ディカーとは比較的近場の為、ジェルマンとジョーレン以外の者が経路を築き連携体制を固めた。

 

レジスタンス宣言後は第三帝国からの攻撃を受ける事もあったが助けに向かったルークと少数の部隊に率いられた防衛軍により阻まれた。

 

「ボサウイの外交官達と連携を取り親レジスタンス派勢力との協力体制を確立してくれ」

 

「なるほど、ではオーガナ議長」

 

「ええ、頼みましたよ」

 

セルヴェント大臣は何人かの秘書や外交官を引き連れ司令室を後にした。

 

続け様にディゴール大臣は命令を出す。

 

「ソロ将軍はサラスト脱出の為の撹乱作戦を実行した後、直ちに中小規模の親レジスタンス勢力へ向かってくれ。“()()()()()()()()”を前倒しする」

 

「分かった、行くぞチューイ」

 

ハンにチューバッカが続きいよいよ司令室に残ったのはディゴール大臣とレジスタンス自由政府の臨時議長であるレイア、副議長のタイ=リン・ガーのみとなった。

 

かなり動揺していた将兵達も指導者であるディゴール大臣のしっかりとした態度により少々ではあるが緩和されている。

 

「議長、こうなってしまった以上議長には閲兵などプロパガンダ的活動も行なっていただくことになりますが…」

 

ディゴール大臣はレイアに尋ねた。

 

本来ジェダイ将軍としてルークが果たす分のプロパガンダを代わりに英雄レイア・オーガナに求めざるを得ない。

 

ただでさえレジスタンスの最高指導者であるのに更に大きな重圧が掛かる。

 

だがレイアは「問題ありません」と告げて首を振った。

 

「私は既に多くの人々に“()()()()()()()”と約束をしました。この銀河に自由が取り戻されるのなら私はその約束通りどこへでも行き人々を鼓舞しましょう」

 

大臣は小さく頭を下げた。

 

申し訳なさとありがたさが混じり合った姿だ。

 

するとその間に割り込むように通信士官の隣にいたC-3POが「あのぉ大臣、姫少しよろしいでしょうか」と口を挟んだ。

 

2人は少し顔を見合わせレイアが「どうしたの」と尋ねる。

 

C-3POはそのままレイアの方へ近づき報告した。

 

「先ほどからルーク様が置いていかれたこちらのオブジェクトが何やら反応を示しているのですが…」

 

C-3POは手に持っていた立方体の物体をホロテーブルに置いた。

 

四方それぞれが青く光り点滅している。

 

「これはなんだ?」

 

ディゴール大臣はC-3POに何か聞くも当の3POでさえ「さあ…一体なんの装置なのやら」と首を傾げた。

 

「なんでもセレノーで手に入れたらしいのですが……」

 

3-CPOは断片的であったがそう入手先のことを話した。

 

それでもこの物体が何かは見当も付かずあまり役には立たなかった。

 

「ホロプロジェクターやホロキューブの類に見えるが…」

 

ディゴール大臣の推察もあまり意味を成さなかったがそれでもレイアだけには何か感じるものがあった。

 

彼女は意識を集中させその立方体に手を伸ばす。

 

レイアの手が後数センチまで来たところで「とにかく今はサラストの事を考えましょう」というディゴール大臣の会話によって遮られその手も元の場所へ帰った。

 

「ええ、我々に今出来る事を成しましょう。いつかルークが帰ってきた時のためにも」

 

 

 

 

 

 

 

ルーク・スカイウォーカーの消失は親衛隊、特にFFSOU内部では大きく取り上げられた。

 

だがこちらはルーク・スカイウォーカーの消失というより“()()()()()()()”の方が大きかった。

 

惑星マーカーで再び特殊部隊を率いてルーク・スカイウォーカーを待ち伏せ討伐に出向いた彼女だったが戦闘開始の数時間後に全部隊の通信が途絶した。

 

それ以降一般の通信回線どころか特殊回線にも応答せず惑星マーカー内で行方不明となった。

 

今の段階では行方不明扱いだが状況が状況である為戦死という可能性も十分にある。

 

それ故に今はマーカーに送った捜索隊の報告を待つ他なかった。

 

特にアセーター級“ピュリフィケーション”のブリッジではFFSOU上級将校達による重苦しい雰囲気が一兵卒にさえ沸々と伝わっていた。

 

「捜索隊は最短コースでマーカーに向かっている為後一時間ほどで到着すると思われます」

 

ヴァルヘル中佐はFFSOU司令官のフューリナー上級大将にそう報告した。

 

フューリナー上級大将はずっと浮かない顔でブリッジから駐留しているホズニアン・プライムを見下ろしていた。

 

ボルフェルト大将もそんなフューリナー上級大将に触発されてかフューリナー上級大将以上に浮かない顔をしていた。

 

「まだ…かかりそうですな」

 

予想される大雑把な感想をボルフェルト大将は述べた。

 

ヴァルヘル中佐も「このまま捜索隊に予定通り行動させますか?」とフューリナー上級大将に尋ねる。

 

上級大将は振り返る事なく「ああ」と口を開いた。

 

「少なくとも時間はまだある。好きにやらせろ」

 

「了解」

 

フューリナー上級大将の了承を得てヴァルヘル中佐は敬礼しその場を後にした。

 

「皇帝の手の消失は我々にとっても痛手だ。だが埋め合わせは……出来なくはない」

 

「と、言いますと?」

 

「彼女1人に頼らずとも十分ピースが揃ってきたということだ。“()()()()”の布石となるピースがな」

 

ボルフェルト大将の問いにフューリナー上級大将はそう答えた。

 

やがてフォース使いは彼女だけではなくなる。

 

本来その教育者として彼女に役に立って貰いたかったのだが場合によっては別の何かを付け加える事にしよう。

 

とにかくウェイランド研究所とヴォーレンハイトの研究は必ず我々にかつてのジェダイを遥かに超える数と練度を手にしたフォース使いの戦士を人為的に作れるようになるだろう。

 

ある意味で我々の未来は明るい。

 

「ホズニアンの占領政策もかなり上手くいっている様だな」

 

振り向く事なくフューリナー上級大将は名を挙げた惑星を見つめ呟いた。

 

既にこのホズニアン・プライムを陥落させてそろそろ一年経つだろうか。

 

シャンドリラもホズニアン・プライムもかつての新共和国の首都惑星という姿から第三帝国の属州惑星に成り代わっている。

 

「統治も順調ですし我が親衛隊が主導するホズニアン現地の市民の志願兵からなるライヒスホズニアン兵団も完成するそうです。同様にシャンドリラも」

 

ホズニアン・プライム、シャンドリラなど旧新共和国の命脈が色濃く残る惑星では流石にまだ国防軍による志願兵制度や徴兵制度は動員出来ずにいた。

 

しかし親衛隊ではあえて特定の年齢層に親衛隊への志願兵を募り一個兵団と二、三個師団の編成を行なっていた。

 

「レジスタンスのスパイを招き入れるかもしれない」との意見もあったがそれ以上にホズニアン・プライムやシャンドリラの忠誠心を試しある種の人質を手にするのはプロパガンダ的な意味合いでも非常に重要であった。

 

現在は第12FF義勇擲弾兵団、通称ライヒスホズニアン兵団(Reichshosnian Corps)、第9義勇擲弾兵団、通称ライヒスシャンドリラ兵団(Reichschandrila Corps)などが編成されている。

 

「それはいい、自ら帝国への忠誠を示す行為というのは彼らにとっても良いことだ。だが少々耳の痛い話も入ってきている様だが?」

 

フューリナー上級大将はどこか棘のある言い方で話を切り開きボルフェルト大将に険しい顔を浮かべさせた。

 

「はい…」と自分の管轄でないのにも関わらずボルフェルト大将は面目なさそうに答えた。

 

「レジスタンスの放送に感化された一部市民と地下に落ち延びた元新共和国軍残存将兵によるパルチザンやレジスタンス活動が活発化しており…」

 

「ならば徹底的に弾圧して殲滅しろ。いっそのことなら新設したライヒスホズニアンやライヒスシャンドリラの兵団を討伐部隊として差し向けるのも良い、彼らの忠誠心を試す良い機会となる」

 

「上手くやってくれるでしょうか」

 

ボルフェルト大将はかなり不安げな声音でフューリナー上級大将に問い詰める。

 

「さあな」と間を置き邪悪を込めた笑みを浮かべた。

 

「我々の直轄兵力に傷が付かないだけマシと思おうじゃないか。それに彼らが上手くやれば我々もホズニアン、シャンドリラに駐留させている部隊を何個か帰還させる事が出来る。バエルンテーゼの攻勢と合わせて北西部に回せる戦力が大きくなる」

 

未だ両惑星には国防軍、親衛隊双方十個以上の兵団を駐留させておりそれが展開力を大きく妨げる要因となっていた。

 

その為ホズニアンやシャンドリラの兵団がこのまま拡大し駐留軍の役割を担ってくれるようになれば少なくとも親衛隊の方は部隊を撤兵させる事が出来る。

 

その恩恵は対チス戦などの可能性を秘めている親衛隊にとって計り知れないものだ。

 

仮に戦わないとしてもまだ政情不安のこの銀河系において総統と帝国を守る親衛隊の兵力が一個でも多く展開出来る事に越したことはない。

 

「まあ全てはハイドレーヒの駒が何を持って帰ってくるかだが…」

 

どうせ無事に帰ってくることはまずないだろうが少しは打撃を与えて欲しいものだ。

 

我々が作る“()()()()”の為の捨て駒となってくれ。

 

 

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー国境付近 惑星キャルヒーコル-

六、七隻のインペリアルⅡ級とインペリアルⅠ級の混成小艦隊に数十隻のアークワイテンズ級やグラディエーター級が続く。

 

【挿絵表示】

 

典型的な宇宙軍の小艦隊の編成より少し戦力は多いがそれでも通常の艦隊や宙域艦隊を名乗るにはまだ戦力が少なすぎた。

 

使用している艦艇の通り元帝国宇宙軍という姿は今でも健在でそれなりに精巧で手本通りの艦列を並べている。

 

とはいえもはやこの小艦隊は軍将や軍閥以下の愚連海賊艦隊と言った姿が一番当てはまるだろう。

 

小艦隊の艦列は見事であるが彼らが元々持っていた宇宙の治安を守るという帝国宇宙軍の矜持は一ミリも残っていなかった。

 

何せ彼らはこの領域を荒らし略奪や悪事を働く為にここに来ているのだから。

 

「通信及びセンサー類徐々に回復、間も無く居住可能惑星に接近します」

 

航行士官は通信弛緩やセンサー士官から受け取った情報も含め小艦隊の司令官、キールヘル中将に報告した。

 

「恐らく提供された航路図にある惑星キャルヒーコルでしょう」と幕僚の1人が意見を提示する。

 

無駄に生えた白髪混じりの髭を撫でながら命令を出す。

 

「無視して行くぞ、こんな無人の惑星に価値などない。アセンダンシーへの道のりはまだ遠いからな」

 

中将の決断通り一行は眼前に迫る惑星を素通りする航路を取り始めた。

 

実際親衛隊から送られた航路や情報でもここにチス・アセンダンシーの人口密集地はないとされている。

 

休憩や体制を整えるにしてもまだ他にも惑星はごまんとあった。

 

「しかしハイドレーヒとかいう若造も随分と気前がいい。我々が少しでも戦果を挙げてくれば俺は親衛隊大将に、他の連中も皆親衛隊将校として昇進を約束するなんてな」

 

「しかし中将、あの様な男本当に信用してよかったのでしょうか」

 

与えられた報酬代わりの昇進に喜ぶキールヘル中将に彼の乗艦“アドミラル・キリアン”の艦長であるブレリス艦長は不安げに問いかけた。

 

いくらなんでも虫が良過ぎる、それにハイドレーヒと名乗るFFSBの大将は何処か信用出来ない何かが感じられた。

 

されどキールヘル中将は「無論全幅の信用を寄せているわけではない」と前置きし彼なりの持論を話した。

 

「だがな艦長、ファースト・オーダーに見捨てられた我々に他に行く場所があったか?連中は曲がりなりにも我々に役割と居場所をくれた。我々は帝国に戻れた、それでいいじゃないか」

 

「まあ…確かに」

 

「昇進なんておまけに過ぎん。ようやく我々ももう一度日の目を見れるということだ」

 

エンドア戦後独自の軍閥を築くのにも失敗し他の軍閥にも受け入れられなかった彼らにとってこれは唯一銀河系に戻れるチャンスだった。

 

親衛隊大将となればキールヘル中将自身も安定の生活が確定する。

 

もうインペリアル級の中で延々とアウター・リムの果てで過ごす日々とはおさらばだ。

 

小艦隊はキャルヒーコルを通り過ぎチス・アセンダンシー領へ更に深く奥へと進軍を続けた。

 

いや、続けていただろう。

 

キャルヒーコルから降り注ぐ無数の青い光弾がなければの話だが。

 

「後列、ヴィクトリー級“ヴェストフェダル”沈黙!キャルヒーコル内からの攻撃により応答ありません!」

 

突然の友軍艦の沈黙の報告は“アドミラル・キリアン”のブリッジを大きく凍り付かせた。

 

しかしキャルヒーコル内からの攻撃は続き、友軍艦の沈黙の報告は止まることはなかった。

 

「“ベラッサ”、“スカコ”、沈黙!」

 

「恐らく惑星内からのイオン砲攻撃です!直撃を喰らった友軍艦が惑星の重力圏内に引かれています!」

 

「ちゅっ中将!」

 

間違いなくこれは敵の攻撃だ。

 

既に三隻の軍艦がイオン砲の直撃を喰らい機能停止している。

 

しかもヴィクトリー級すら二、三発で機能停止に追い込むとは相当強力な戦艦イオン砲クラスの攻撃だ。

 

下手すればインペリアル級とて無事じゃ済まない。

 

これに焦ったブレリス艦長はキールヘル中将の名を呼ぶ。

 

「敵の攻撃地点を割り出し軌道上爆撃を敢行しろ!なんなら惑星ごと焼き払え!」

 

「中将!ハイパースペースより接近する艦影多数!」

 

「何…?」

 

キールヘル中将が出した命令はその報告により一旦延期となった。

 

小艦隊の真横から次々とジャンプアウトしたインペリアル級は即座に砲塔を全て小艦隊へと向け、一撃を放った。

 

八連ターボレーザー砲や重ターボレーザー砲の砲弾は何隻かの偏向シールドを打ち破り十分な戦果を上げた。

 

「“クエン”、“クアグマイア”被弾!“ハーデッサ”小破!」

 

「敵艦の集中砲火が凄まじく、このまま砲撃を浴び続ければ後後15分後には艦隊損耗率が10%を切ります!」

 

「敵艦隊、まだまだジャンプアウトしてきます!」

 

舞い込んでくる報告はどれも最悪なものばかりで嫌でも敵の奇襲攻撃に嵌ってしまった事が分かる。

 

戦局はキールヘル中将らの劣勢であった。

 

アドミラル・キリアン”含めた小艦隊の艦艇もターボレーザー砲などの砲塔で応戦しているが側面の砲塔のみしか使えない小艦隊とは違いほぼ全火力を投射出来る敵艦隊の方が圧倒的に優位に立っている。

 

今から反転して全面から撃ち合おうにもその間に何隻かの艦艇を損出するだろう。

 

だが幸いなことに惑星内にインペリアル級の主砲で砲撃したおかげかキャルヒーコルからのイオン砲撃はようやく撃ち止んだ。

 

「惑星内に一旦後退して立て直すぞ!あの程度の戦力ならば我が小艦隊で打ち破るのも容易い…!」

 

小艦隊はインペリアル級を前衛に出しながら徐々に惑星内へ撤退を開始した。

 

だがこれは小艦隊にとっての敵、チス・アセンダンシー軍にとっては作戦通りであった。

 

旗艦“ノイ・ステッドファスト”のブリッジからアセンダンシー国境防衛司令官を任されたプライド中将はこの状況を冷静に見つめていた。

 

「敵艦隊、キャルヒーコルへ後退していきます」

 

「距離を詰めて更に追い込め。連中の陸戦隊をキャルヒーコルの大地まで叩き落とす」

 

プライド中将の命令により艦隊が更に推力を上げ砲撃を強めた。

 

五隻のインペリアル級と付属艦のアークワイテンズ級やヴィクトリー級、更にはチス・アセンダンシー拡張艦隊の重クルーザーまでが熾烈な砲撃を加え敵艦隊を追い込んだ。

 

「上手く誘い込んだな。連中は完全に地上の砲撃を叩き潰したものだと思い込んでいる」

 

ヴァシレフスキー少将は隣に佇むプライド中将にそう独り言の様に告げた。

 

彼らの立てた作戦は現段階では殆ど成功しプライド中将もひとまず満足げな笑みを浮かべていた。

 

「ああ、だがそれは間違いだということを教えてやる。ヴィヴァント、魚雷とミサイルも使って敵艦隊を更に追い込め」

 

「かしこまりました」

 

ノイ・ステッドファスト”の艦長を務めるヴィヴァント艦長はそのまま砲術士官達に命令を出した。

 

彼も以前は本来の“ステッドファスト”の副艦長であり辛うじてジャクー戦を生き延び今に至る。

 

最新鋭艦として建造された“ノイ・ステッドファスト”には旧来のインペリアル級には存在しないミサイル発射管や魚雷発射管があり実体弾による追加攻撃が可能になった。

 

他のインペリアル級と合わせた実弾攻撃は敵小艦隊を完全に惑星内に追い込むのに十分な効力を発揮した。

 

特に“ノイ・ステッドファスト”と両艦のインペリアル級“イクリヴィアム”が放った魚雷は一隻のヴィクトリー級を撃破し敵艦隊に損失を与えた。

 

「敵艦隊、完全にキャルヒーコルの中へ入りました!」

 

「敵艦艇識別確認、インペリアルⅠ級及びインペリアルⅡ級、双方合わせておよそ七隻」

 

「インペリアル級七隻による艦隊か…小艦隊にしてはかなり肥大化した編成だな」

 

「ああ、恐らく敵がキャルヒーコルに後退することを決断したのもまだ数的優位が残っているからだろう。奇襲の劣勢を惑星内で立て直し正面から激突するつもりだ」

 

「通りで想定よりも粘らないわけだ。どうする、更に追撃して数をもう少し減らすか?」

 

ヴァシレフスキー少将はプライド中将に尋ねる。

 

少なくとも敵艦隊の戦力は予定から外れてはいないのだが少しでも戦力を削っておけば後の為になるだろう。

 

「いや、このまま作戦を続行する。全艦、包囲体制を展開し惑星を取り囲め」

 

「了解」

 

「中将、少しよろしいですか」

 

プライド中将とヴァシレフスキー少将が振り返ると報告にに来たフェブリス・グリス准将は2人に敬礼した。

 

「どうした」とプライド中将が発言を許すとグリス准将は片手に持っていたタブレットを2人に見せた。

 

「情報収集班が敵旗艦と思われるスター・デストロイヤーをデータベースにある艦と照合した所、敵旗艦は恐らくインペリアル級“アドミラル・キリアン”と99%以上一致する事が判明しました」

 

プライド中将とヴァシレフスキー少将は顔を見合わせる。

 

直ぐにプライド中将が「“()()()()()()()()()()”といえばファースト・オーダーの準所属艦じゃないか」と若干の驚きを放った。

 

グリス准将は小さく頷き更にタブレットを操作して報告を交えた。

 

「“アドミラル・キリアン”だけでなく他のインペリアル級やヴィクトリー級、アークワイテンズ級もほぼ全てが一致しています」

 

「“アドミラル・キリアン”………トレスティス宙域に配属されていた機動小艦隊の旗艦との覚えがあるが」

 

サンクト宙域からチス・アセンダンシーに常にいたヴァシレフスキー少将は内容を深く知らない為帝国時代の記憶を掘り起こした。

 

確かにそれは間違いではなくまだ帝国の全盛期だった頃の“アドミラル・キリアン”はトレスティス宙域に所属する小艦隊旗艦だった。

 

しかしエンドア戦で状況は一変していた。

 

「元はそうだが現在ではギラッターⅧやラゴ周辺で半ば海賊化し周辺を事実上支配していた。ファースト・オーダーの介入で傀儡となったと思ったのだが…」

 

「ファースト・オーダー本隊の命令を無視してまでこんな事をするとは思えませんが…」

 

グリス准将は怪訝な表情でプライド中将に進言した。

 

完全な配下ではないがそれでも態々命令を無視してこのような蛮行に至るとは到底思えない。

 

しかも今は同時期に第三帝国の視察団が来ている最中だ。

 

偶然にしては不可解な事が多すぎる。

 

「ともかくこの戦闘を勝たない事にはその様な疑念も意味がない。私とヴァシレフスキーは地上に降りてロコソフスキーと共に敵の地上部隊を撃滅する。艦隊の指揮は頼んだぞ」

 

「はい、閣下もお気をつけて」

 

「ああ」

 

グリス准将はピシッとした姿勢で敬礼しプライド中将とヴァシレフスキー少将も敬礼を返した。

 

全ての疑念も敵を打ち倒し何人かを捕縛した時に分かるだろう。

 

既に敵艦の鹵獲命令は出している。

 

多かれ少なかれ分かることはあるはずだ。

 

 

 

 

 

惑星内に逃げ込んだからと言ってそこがキールヘル中将らの小艦隊にとって安息の地になる筈もない。

 

むしろ惑星内に潜んでいた敵の攻撃を受けて陸上戦を展開せざるを得なくなった。

 

「敵基地は、割り出せたのか!?」

 

一転して焦るキールヘル中将にセンサー士官は「大体ですが」とこちらも焦りを交えて報告した。

 

地上に何発かターボレーザーによる艦砲射撃を加えたのだがそれでも地上にはまだ敵の兵力が残っていた。

 

それどころか偏向シールド付きの大規模な基地まで存在しかなりの兵力が駐屯されている事が分かった。

 

何故そのような基地が小艦隊のセンサーに引っ掛からなかったのか大きな疑問が残るが今は探偵の様に捜査をしている場合ではない。

 

敵を殲滅しこの地上と宇宙に挟撃される状態を打破しなければならない。

 

幸いにも小艦隊には9,700名のストームトルーパーがそれぞれ駐屯し展開出来る状態にある。

 

最悪インペリアル級や各艦の宇宙軍トルーパーも動員すればなんとかなるはずだ。

 

「全陸戦隊を展開しろ!宇宙軍トルーパーでもなんでも使って敵基地を堕とすんだ!」

 

小艦隊は陸戦隊展開用の陣形を作りゴザンティ級やシャトルを使ってウォーカーや兵員を地上へと降ろしていく。

 

降下した兵員は速やかに部隊を編成し敵基地への進撃を開始した。

 

それと同時にインペリアル級や他の艦艇の艦載機も皆出撃し航空戦力によるスターファイター戦も始まろうとしていた。

 

500機以上のTIEファイターとTIEインターセプターを要する小艦隊スターファイター隊は地上部隊の上空を護衛しつつ自らも攻撃に出る。

 

地上の陸戦隊もAT-ATやAT-STが戦線に加わり幾つかの突撃大隊が敵基地を目指して前進する。

 

「前進せよ!未知領域の青虫どもを駆逐してやれ!」

 

ストームトルーパーの小隊長は隊員にそう鼓舞し彼らも皆AT-ATや兵員輸送機の後に続いた。

 

『こちらスカウト1、索敵範囲10キロに敵影なし。繰り返す、索敵範囲10キロに敵影なし』

 

先行したスカウト・トルーパーから通信が入り敵影の有無が報告される。

 

少なくともこの先数十キロは敵の姿はないらしい。

 

AT-ATに乗り込み指揮を取る部隊長はスカウト・トルーパーの報告を受けてコックピットのコムリンクから返答した。

 

「了解スカウト1、我々も一気に前進してそちらに追いつく」

 

コムリンクを切り部隊長はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「辺境の果てにいる原始人と逃げ出した帝国の雑兵どもなど我が帝国地上軍の精鋭部隊の前には塵同然だ。一兵残らず蹴散らして前にすす…」

 

威勢の良い部隊長の声は後方で砲撃を喰らい爆発四散する友軍のAT-AT により掻き消された。

 

貨物部分が大きく抉れそこから黒灰色の煙を出したまま友軍のAT-ATはゆっくりと斃れまるで屍のように動かなくなった。

 

「AT-ATがたった一撃でやられたのか!?」

 

部隊長は驚きコックピットから後ろを覗き込む際に額から流れる冷や汗を撒き散らした。

 

大きく目を見開き歯噛みし無惨な姿となったAT-ATを凝視する。

 

「そんな馬鹿な」、部隊長からはそのような言葉しか湧き出なかった。

 

だがその気持ちも同じ帝国地上軍のウォーカー乗りならば多かれ少なかれ分かることだ。

 

重装甲のAT-ATをたった一撃で、しかも首回りなどの比較的装甲の薄い箇所ではなく貨物部分の装甲がかなり分厚い箇所に直撃してこの有様だ。

 

プロトン魚雷や震盪ミサイルを持ってしても中々難しいだろう。

 

「一体何を撃ち込まれたんだ……いやそれよりも対空砲火を急げ!あんなものをもう一度撃たれては…」

 

部隊長の願いは虚しく再び彼方から飛来した砲弾は大地へと直撃し轟音と共に今度は歩兵達を吹き飛ばし兵員輸送機すらも破壊した。

 

生き残ったストームトルーパー達は全員地面に伏せ兵員輸送機やAT-STが弾幕を張る。

 

AT-ATも砲撃地点に向けて震盪ミサイルを発射し反撃を行った。

 

しかし砲撃は降り止まず部隊長達は圧倒的劣勢の中にいた。

 

「砲兵隊!航空隊!直ちに敵の砲撃をやめさせろ!このままでは部隊の前進が不可能だ!」

 

『了解、砲撃座標を示されたし』

 

「砲撃座標はX-02-11…」

 

「少佐!敵の装甲部隊です!」

 

次から次へと最悪の報告が入ってくるこの状況に部隊長は思わず言葉を失った。

 

その為コムリンクからは『砲撃地点は?どうした!』と怒鳴りながら聞き返す声が響いたが部隊長にはもう聞こえなかった。

 

前方からは二、三台のAT-ATと付属機のAT-MPマークⅢ、M-2セイバー級リパルサータンクが接近してきた。

 

「スカウト1の報告はどうなっている!?敵は10キロ先までいないと言っていたはずだ!」

 

部隊長は怒りを挙げ辺りを見回した。

 

既に敵のAT-ATから砲撃が放たれ両者戦闘体制に入っている。

 

本来ならこのような戦闘状況に入るのはまだ当分先の出来事のはずだった。

 

何せ偵察に出たスカウト・トルーパーは“()()()()1()0()()()()()()()”と報告していたのだから。

 

だがそれが“()()()()()()”としたら、“()()()()()()”としたらどうだろうか。

 

地上軍のある程度の常道は元帝国軍を多く抱えているチス・アセンダンシーも承知している。

 

その為先行して索敵に出るスカウト・トルーパーを撃破し偽の情報を敵部隊へ流す為にいくつかの機械化された狙撃部隊を編成した。

 

索敵兵やドロイドを狙撃しスピーダーやスピーダー・バイクを用いて素早く接近し偽の情報を与える。

 

その結果このAT-AT部隊は油断し砲兵隊とこの装甲部隊の奇襲を受けてしまった。

 

重レーザー砲が放たれキールヘル小艦隊側のAT-STが破壊され残された脚部が地面に崩れ落ちた。

 

相手のAT-ATは背中の部分に大きな大砲のようなものを背負っており今までのAT-ATとも少し顔つきが違う。

 

より重厚感と恐怖を増したこのアサルト・ウォーカーはゆっくりと眼前の敵に近づいてくる。

 

『少佐!このままでは大損害を被ってしまいます!一旦後退して隊を再編しましょう!』

 

別のAT-ATの車長にそう進言されたが「ダメだ!」と部隊長は却下した。

 

「我々突撃大隊がここで後退など出来るか…!歩兵隊は全て対ウォーカー戦闘用意!刺し違えてでもここで仕留めるぞ!」

 

錯乱した部隊長は隊に命令を出し自らも敵機に照準を付け重レーザー砲を放った。

 

錯乱していても狙いは正確で敵部隊のAT-ATの側面装甲に直撃した。

 

いくらAT-ATの重装甲といえど輸送船すら一撃で破壊出来る重レーザー砲を喰らえばただでは済まない。

 

はずだった。

 

着弾し轟音と黒煙が少し溢れるだけでAT-ATは撃破どころか殆ど無傷で止まった足を前へ進め中型ブラスター砲で歩兵を攻撃していた。

 

重レーザー砲の一撃も相手のAT-ATの動きを止め機体内に少しばかりの振動を与える程度で終わった。

 

「バカな…」

 

「敵機の大型砲塔の攻撃来ます!」

 

パイロットの報告通り中央のAT-ATの背中から赤い光弾が放たれ迫撃砲や備え付けのレーザー砲で迎撃する兵員輸送機を周囲のストームトルーパーごと吹っ飛ばした。

 

直撃を喰らった兵員輸送機の残骸が反転し機体の底を見せながら倒れた。

 

明らかに重レーザー砲と同等、もしくはそれ以上だ。

 

接近しスマートロケットやイオン魚雷の照準を合わせるストームトルーパー達も中型ブラスター砲や本来はあるはずのないブラスター砲により蹴散らされる。

 

何発か直撃させると流石に敵機にダメージを与えられるがその間にAT-STやAT-MPマークⅢ、M-2セイバー級の接近を許し攻撃を受けてしまう。

 

かといって敵のスカウト・ウォーカーやリパルサータンクを攻撃すればAT-ATのような大型機の手痛い攻撃を喰らってしまう。

 

どちらにせよ絶望的な状況だ。

 

「なんだあれは…AT-ATにあんなものなかったはずだ…!!」

 

部隊長はこの圧倒的劣勢の中でそう苛立ちの声を上げパイロットの座る後部座席を叩いた。

 

あまりの事に怒りが抑えられずこの絶望的な状況で感情を噴き出した。

 

だがそれは部隊長達に限ったことではない。

 

インペリアル級や他の艦艇から上陸した部隊は殆どが砲撃や装甲部隊の奇襲を受け進撃が停滞していた。

 

運よく敵の襲撃を退けた部隊も何重にも重なる防衛網やまた別の装甲部隊の攻撃を受けて消耗し思うように前へ進めていない。

 

本来部隊を援護するはずのTIEファイター部隊も敵基地から出撃したチス・アセンダンシーのヌシス級やTIEストライカーの迎撃を受け苦戦していた。

 

特にヌシス級の頑強さと実戦と訓練を繰り返したチスのパイロット達はTIEストライカー部隊との連携も相まってインペリアル級の艦載機部隊を悉く打ち破っていった。

 

キャルヒーコル内部に追いやられた小艦隊は陸戦隊すらも苦戦を強いられている。

 

最新鋭機を使い奇襲と物量を有した頑強な防衛網を前に進撃は停滞し前線での損耗率も激しいものだ。

 

しかし彼らにはたった一つだけ抜け道があった。

 

敵軍の防衛網を突き破り敵基地へ直接攻撃を仕掛けられる道が。

 

チス・アセンダンシー軍の防衛網には一箇所だけ薄い部分があった。

 

AT-ATを中心とした装甲部隊を使えば容易に突破が可能で更に進撃すれば基地への直接攻撃も可能になる。

 

当然これに気づかない小艦隊の陸戦隊指揮官達ではない。

 

既に攻撃用の部隊編成が始まり前線では一旦後退命令が出され激しい戦闘を繰り広げていた各地の戦線もひとまずは形を収めた。

 

それはチス・アセンダンシーのキャルヒーコル地上軍司令部でも確認されている。

 

「少将、敵の陸戦隊が後退を始めています。恐らく例の地点に総攻撃をかけるつもりでしょう」

 

幕僚からの報告を受けプライド中将、ヴァシレフスキー少将と共に赴任したコンスタンチン・ロコソフスキー少将は「早かったな」と口を開く。

 

「作戦通り部隊を展開しろ。無論反撃の準備もな、厳しい戦闘になるかもしれんが頼んだぞ」

 

「はい少将!」

 

敬礼して幕僚はその場を後にした。

 

司令室に残ったロコソフスキー少将は「そろそろ私も向かうか…」と独り言を呟き振り返った。

 

すると司令室のドアが開き2人の見慣れた顔の将校が入ってきた。

 

プライド中将とヴァシレフスキー少将だ。

 

プライド中将は会うなり「出撃か」とロコソフスキー少将に尋ねる。

 

「ああ、地上の連中に大打撃を与えてきてやる」

 

「任せたぞ」

 

軽く敬礼し彼らは背中を合わせた。

 

ここは確かに我らの祖国ではない、それでも第二の故郷であることに間違いはない。

 

それを土足で踏み荒らし恩人達を血の海に沈めようとする彼らの行いは断じて許さない。

 

この未知領域の中で迷い子となり消えてもらおう。

 

 

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー領 惑星シーラ-

第三帝国からの視察団は予定通り首都シーラに到着し軍やシーラのクサプラーなどの視察を始めた。

 

裏ではキャルヒーコルで戦闘が勃発していたもののそんな事は一切悟らせないよう情報が規制されていた。

 

そのせいか第三帝国側もキャルヒーコルの戦いは全く知らなかった。

 

元よりキールヘル中将の小艦隊はハイドレーヒ大将の極秘による調略の結果であり裏の部隊としてキールヘル中将の小艦隊が加わった事も密かにアセンダンシーへ侵攻している事も一切知らされていない。

 

チスと第三帝国、互いに緊張や警戒が強く最初は険しい雰囲気が漂っていたものの亡命した元帝国関係者達が間に入る事によって関係が取り持たれていた。

 

視察が始まり特に国防軍の上級将校であるヴィアーズ大将軍、ローリング大将軍、そして軍制変化により大提督の称号を経たオイカン大提督らによる視察がメインに進められた。

 

チス・アセンダンシー地上軍、チス拡張艦隊、チス・スターファイター隊に合わせ亡命したサンクト宙域軍らを彼らは訓練から日々の勤務などを見て回った。

 

その中で視察に来た者達は多かれ少なかれサンクト宙域軍にいた仲間や古い知人との再会を果たしていた。

 

特に今やジア将軍と共に501軍団を率いるヴィアーズ将軍は。

 

彼は同じ部隊の片割れ、そして同じ場所で同じ上官の下で戦っていた同じ帝国軍人と再会を果たした。

 

「まさか生きているとは思わなかった。しかも“501”すら再建しているとは」

 

「お陰で中将にまで出世出来ましたよ。“デヴァステイター”や“エグゼクター”にいた時じゃ到底無理だった」

 

ヴィアーズ大将軍の隣を歩きどこか感慨深そうに話すのはかつて彼と共に501軍団に配属されていたナードニス・プラージ中将だ。

 

プラージ中将は現在大セスウェナ領にいるクリフォード・プラージ准将の親戚であり同じくプラージ家の一員だった。

 

幼い頃から戦史に興味を持っていたプラージ中将は18歳の時、帝国軍に入隊した。

 

その後はアルマックの征服に参加しインペリアル級“ヴェンジェンス”に配属となった。

 

そこで当時の指揮官の中将が勝ち目のない戦いを挑み失敗した為代わりにある人物が指揮官となった。

 

彼こそがプラージ中将の運命を変える帝国の暗黒卿、ダース・ヴェイダーその人である。

 

ヴェイダーは無能な中将を殺害し作戦の指揮を取った。

 

プラージ中将はヴェイダーの下で戦い彼はそこでとあるジェダイ将軍が戦争中によく用いていた側面攻撃戦術を使い戦果を挙げた。

 

それが響いたのか、将又単純な戦果だけなのかプラージ中将はヴェイダー卿の下で昇進し幕僚として仕える事となった。

 

ヴェイダーの昇進基準は彼の死後も未だによく分かっていない。

 

優秀である、というのは間違いないのだがそれ以上に不明瞭な点が多くあるのだ。

 

何はともあれプラージ中将はヴェイダーの配下についた。

 

しかし配下にいるからといってプラージ中将がその時501軍団のような部隊の直接的な指揮官になれた訳ではなかった。

 

彼の目の前には常に優秀な指揮官がいた。

 

デヴァステイター”の時はデイン・ジア司令官が、“()()()()()()”の時はマクシミリアン・ヴィアーズ将軍が。

 

しかしヴェイダーからの信頼は高くタトゥイーンでデス・スターの設計図を持ったアストロメクを逃してしまった時も彼は“許された”。

 

それどろこか昇進になんら不都合はなく彼はエンドア戦中には既に大佐、准将であった。

 

だがそんな彼に転機が訪れる。

 

エンドア戦で帝国は崩壊し上官であるヴェイダーも死に、“エグゼクター”も“デヴァステイター”も沈み501軍団はバラバラになった。

 

ある者はジア司令官に続き、ある者はヴィアーズ将軍に続き、そしてある者は、このプラージ中将に続いた。

 

彼は彼の目の前に常に立っていた指揮官達と同じように501の生き残りを纏め上げ全員をサンクト宙域から未知領域のチス・アセンダンシーまで導いた。

 

それは他の者達同様険しい道のりだったがプラージ中将のリーダーシップに導かれ生き残った501軍団の将兵は皆無事にシーラまで辿り着いた。

 

501軍団の将校の1人として恥じない働きだった。

 

「現在の我が501軍団は現存する兵員に加えチス・アセンダンシーの兵員を併合する事により軍団編成を再構築しました。無論練度も501の名に恥じないものですよ」

 

「それは見ていれば分かる。実戦となれば相当“()()()()”となりそうだ」

 

ヴィアーズ大将軍のらしくない皮肉にプラージ中将も苦笑いを浮かべた。

 

だが第三帝国の一部、というより半数近くはチス・アセンダンシーを快く思っていない。

 

むしろ危険な勢力と断定し宣戦布告することも厭わないだろう。

 

今はひとまず対レジスタンス戦がある為中立条約を結んだがやがては解消される危険性もある。

 

仮に相手に元帝国の勢力がいたとしてもだ。

 

尤も銀河内戦の末期に多かれ少なかれ暴徒化した元帝国の勢力や軍閥と戦ってきたヴィアーズ大将軍が何か言えるとは本人は思っていなかったが。

 

「今は視察を報告し戦わない道に進むことを祈る他ないが」

 

「頼みましたよ、元ヴェイダー卿配下同士で戦うのは私も他の諸将も望んでいませんから」

 

微笑を浮かべた上での発言だったがプラージ中将のこの言葉には本心とどこか祈りに近いものが込められていた。

 

ヴィアーズ大将軍はかつての同僚に重く頷いた。

 

「しかし、サンクト宙域からチス・アセンダンシーへ亡命したヴェイダー卿の配下は501だけではあるまい。他にどんな人物がいる?」

 

実情を知らないヴィアーズ大将軍は未知領域501軍団の司令官に尋ねた。

 

エンドア戦ではヴェイダー配下の死の小艦隊も多くの艦が撃破され生き残りすらいないと見られていた。

 

しかし501軍団とテンペスト・フォースらを纏め上げデノンまで導いたヴィアーズ大将軍とはぐれた501軍団を纏めてサンクト宙域まで導いたプラージ中将らがいるなら死の小艦隊の方も少なからず生存者がいるだろう。

 

現にプラージ中将はその生き残り達を話し始めた。

 

「“アヴェンジャー”、“コンクエスト”、“ストーカー”。少なくともこの三隻はエンドア戦を生き延び、我々と共にサンクト宙域まで向かいました。そして残ったヴェイダー配下を、今はあの方が纏めています」

 

プラージ中将は手を差しその人物の方へ向けた。

 

そこには見覚えのある人物が複数人立っておりプラージ中将は名前を呼んだ。

 

「コーシン提督!」

 

声に反応したその男はこちらに部下と思われる数人の将校と共に近づいてきた。

 

ああ、間違いなく彼だ。

 

ヴィアーズ大将軍とプラージ中将は敬礼しその人物も敬礼を返した。

 

こちらに近づきその男は手を差し出した。

 

大将軍はなんの憚りもなくしっかりと手を握り固い握手を交わす。

 

「お久しぶりですね、覚えていますか?」

 

「はい、まだ貴方が“デヴァステイター”の艦長だった時に一度…いや何度か会った記憶があります」

 

そうして2人は微笑を浮かべた。

 

インペリアル級“デヴァステイター”の元艦長にして生き残ったヴェイダー配下の将兵を纏め上げるこの人物、シェイフ・コーシン提督だ。

 

地上軍と宇宙軍という違いはあれど特にいざこざはなかった。

 

「最後に会ったのは“デヴァステイター”の艦長交代式の時以来でしょうか」

 

「そうなりますね、私もエンドア戦での苦労は耳に入れております」

 

「コーシン提督は生き残った死の小艦隊やヴェイダー卿と関わりのある艦艇を率いています。“アヴェンジャー”の艦長となったネメット大佐やセシウス少佐、ヴェンカ艦長、キャベル艦長も提督の配下です」

 

プラージ中将は軽く説明した。

 

コーシン提督も小さく頷き「生きていたらピエット元帥の役目だったでしょうがね」と呟いた。

 

流石にサイエナ・リー中佐や将校のべリスはいないだろうが。

 

本当に惜しい仲間達を多く亡くした。

 

このようなふとした瞬間でもそれは沸々と湧き上がってくる。

 

ホズニアン・プライムを堕としノルマンディーでレジスタンスを叩いた後でさえもだ。

 

「まずはお互いに生き残り、さらに生き残った部下達の命を繋ぎ止めたことを良しとしましょう。我々には死んだ仲間達の分まで帝国の為に戦い続ける義務があるでしょうから」

 

「ええ、やがて我々の帝国が再び蘇る日が来ることを願って」

 

「ですね、帝国が一つになるにはまだ時間が掛かりそうですが」

 

第三帝国もチス・アセンダンシーに亡命した帝国もファースト・オーダーも大セスウェナや他の諸将域もそれぞれの事情を抱えている。

 

以前のように銀河帝国という一つの国家が銀河系にいるという姿に戻すにはまだ時間が掛かるだろう。

 

だがきっと元の帝国に戻れるはずだ。

 

「よお、まさかこんな所で強襲装甲師団のエリート様に会えるとはな」

 

ヴィアーズ大将軍が感慨に耽っているとどこかからかなりぶっきらぼうな言葉遣いで喋る男の声が聞こえた。

 

昔何度か聞いたことのある声でヴィアーズ大将軍はその過去の経験から若干眉を顰めた。

 

「ヨハンズ将軍、こんな所で何をしているんですか?」

 

プラージ中将はこちらに1人近づいてくるインペリアル・ハンマーズ精鋭機甲部隊含めた戦車隊の司令官であるゼル・ヨハンズ将軍に声をかけた。

 

顔に幾つかの大きな傷を持つ厳つい将軍は“()()()()”という渾名に相応しい風貌だ。

 

彼はヴィアーズ大将軍らと同じく帝国地上軍の将校であり卓越した戦術家、また才能のある技術者として高い評価を受けていた。

 

「ヨハンズ上級大佐…まさか生きているとは…」

 

「ああ…上級大佐ってのは少し違う。モフフェル閣下の“()()()()()”って理由で将軍に昇進した。おかげで今ではチスと亡命帝国の戦車隊の指導と編成と指揮を全部担っている」

 

ヨハンズ将軍は彼1人でも独自の軍閥を率いて軍将として十分やっていけるだけの状況と才能と戦力があった。

 

しかし熱心な帝国信奉者であるヨハンズ将軍はそのような蛮行を決して行わずヴィルヘルムの配下に着いた。

 

その結果未知領域に逃れたヨハンズ将軍はこの称号と多くの戦車隊の指揮権を手に入れたのだ。

 

尤も将軍という称号すら彼は拒否しようとしていたが。

 

「今ならあんたの鈍足のウォーカー部隊よりはるかに強力なリパルサータンクとホバータンクの部隊を持っている。やはり陸の花形はウォーカーでなくタンクだな」

 

ヨハンズ将軍は昔からずっとウォーカーの存在を目の敵にしていた。

 

特にAT-ATなどは足が遅く弱いと考えておりそれよりもリパルサータンクの方がずっと高速で汎用性が高いと思っていた。

 

その為彼はインペリアル・ハンマーズ精鋭機甲部隊の指揮官となり戦車類の発展に力を注いだ。

 

故にウォーカー部隊を率いるヴィアーズ大将軍のことをヨハンズ将軍はライバルと捉えていた。

 

ヴィアーズ大将軍がなんとなく眉を顰める理由も分かるだろう。

 

「だがホズニアンとシャンドリラを制圧したのはタンクではなくウォーカーだ。ウォーカーの有用性はタンクの有用性よりもまだ高い」

 

「そうかい、まあ俺の配下の機甲部隊を前にしても同じことが言えるとは思えないがな」

 

互いに牽制の笑みを浮かべながらお互いの部隊の自慢を攻撃的に並べあった。

 

プラージ中将も苦笑を浮かべコーシン提督も「やれやれ」といった表情を浮かべている。

 

だがどこか“()()()()()()”とも感じていた。

 

遠い昔に置いてきてしまったような懐かしさをこの時一瞬だけ彼らは感じていた。

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー レジスタンス領 カラマリ宙域 カラマリ星系 惑星モン・カラ-

惑星モン・カラである技術者たちが幾つかの偉業をやってのけた。

 

それはこの銀河の艦船史の中でとても重要な出来事であり十分に素晴らしい、大偉業と呼べるものだ。

 

モン・カラの技術者達はこの厳しい時代の中、希望と己の技術と目の前にある資材を組み合わせてレジスタンス宇宙軍に反撃の剣を預けた。

 

かつて新共和国時代に凍結された設計図や計画をデータバンクから、工廠から引き摺り出し出来かけの(ふね)に生命を与えた。

 

再び民主主義と自由をこの手に取り戻す為に、自らの役目を果たす為に。

 

本来は蘇ることのなかった者達を形づけ蘇らせたのだ。

 

新共和国のスター・デストロイヤー、そして新たなモン・カラマリ・スター・クルーザー。

 

レジスタンスの為に彼らは蘇った。

 

今アクバー元帥やメイディン将軍の眼前に映る艦船は確かにこの世に存在していた。

 

「こちらが“MC85スター・クルーザー”。開発が延期されたMC95スター・クルーザーと旧来のモン・カラマリ・クルーザーも設計データを取り入れた最新鋭鑑です」

 

モン・カラマリの技術者はタブレットを片手に元帥達に自分たちの成果を見せた。

 

MCスター・クルーザーシリーズはMC80で終わりではなかった。

 

既にヴァー=シャー造船所を巡る戦いでは最新鋭のMC95スター・クルーザーのプロトタイプが出撃している。

 

しかしその後の軍縮でMC95はこのMC85とさらに間の艦種と共に開発計画が凍結されそのデータはモン・カラの造船所に封印されていた。

 

このMC85スター・クルーザーは現状プロトタイプしか竣工していないMC95とは違い本格生産されたモン・カラマリ・クルーザーの最新鋭鑑だ。

 

特にMC80系の重クルーザーとして技術の最先端を組み込まれており名実共にレジスタンスの先を担う艦となる。

 

「全長はおよそ3,438.37メートル。重ターボレーザー砲を十八門装備しMC80以上のスターファイターを搭載可能です」

 

「偏向シールドも最新技術を取り込んだものを使用しており防御力は従来のMCシリーズとは比べ物になりません」

 

技術者達は次々とこのMC85の利点や能力を説明した。

 

全長だけで言えばMC80の2倍以上で火力も艦載力も段違いだ。

 

「重クルーザーやクルーザーというよりもはやバトルクルーザーの域だな…」

 

メイディン将軍は感慨深そうにMC85の船体を眺めながら呟いた。

 

実際3,000メートル級艦船はアナクセス式の分類法だとバトルクルーザーに当てがわれる。

 

火力やその他の技術面でも十分納得のいく枠だろう。

 

「帝国から入手したオートメーション技術を解読しこちらで更に改修を加える事で大規模な人員削減に成功しました。この大きさで現段階ではなんとかMC80並みの人員で100%運用可能です」

 

「なるほど、それなら兵員が枯渇していても運用出来る」

 

アクバー元帥は最新鋭技術に納得を示した。

 

反乱同盟時代ほどではないが現在のレジスタンスも兵員は比較的枯渇状態にある。

 

数少ない人員で大型艦船を動かせることはとても助かる。

 

しかしメイディン将軍は技術元の末路も含めて不安を口にした。

 

「しかし鹵獲したインペリアル級のようにメインコンピュータに侵入されて丸々一隻ハッキングされるような可能性もあるぞ?」

 

以前帝国艦隊の襲来時にジェルマンとジョーレンは他の乗船部隊とと共に一隻のインペリアル級に乗り込みシステムをハッキングした。

 

その結果一隻のインペリアル級をそのまま鹵獲する事に成功しレジスタンスとしては大きな成果を挙げられたのだが同時に不安も残る。

 

同じ技術を適用すれば同じようにハッキングされる可能性があるのではないかと。

 

だが技術者達は少し困惑気味に説明した。

 

「そもそもジルディール上級中尉の行った高速ハッキングは異常です。確かに解析でまだハッキング対策などに不十分な点は見受けられましたがそれでも特殊部隊や技術工兵が少なくとも一個分隊以上はハッキングに注力しなければスター・デストロイヤーを丸々一隻乗っ取るなど不可能です」

 

メイディン将軍とアクバー元帥は互いに顔を見合わせた。

 

流石ストライン中将の隠し球というべきなのか。

 

更に技術者は興奮気味に説明を重ねた。

 

「それに仮にハッキングしたとしても間違いなく乗員している人員から妨害が行われるはずです。それすらなかったという事は恐らくブリッジのシステムすら潰してしまったのでしょう。短時間でそこまでやるのなんて今まで見たことがありません」

 

「一応ハッキング対策には念を入れ不十分な点にも改良は入れましたが…」

 

「いや、ならいいんだ。すまなかった、それで艦名はなんと名付けた?」

 

メイディン将軍は技術者達に尋ねた。

 

「初期に生産された艦は“ディファイアンス”、“プロファンディティ”、“ギャラクティック・ヴォイジャー”、“ドーン・オブ・トランクィリティ”、“アルザス”、“ニスタラム”と名付けられました」

 

「“プロファンディティ”といえば今は亡きラダス元帥の乗艦と同じ艦名だな」

 

メイディン将軍は顎髭に指を与え記憶を辿って口を開いた。

 

スカリフの戦いで戦死したラダス提督はその後彼の名誉を重んじ新共和国軍の最高階級である元帥の称号が授与された。

 

アクバー元帥と並んでもう1人のモン・カラマリ提督が元帥の称号を生きた内に授与出来なかったのは残念ではあるが。

 

「亡き元帥の名誉を重んじ同名の艦種が付けられました」

 

「今後生産される艦は順序決めていく予定です」

 

アクバー元帥はその六隻の名前を聞きふと眼前のMC85に目線を移した。

 

彼は少しこの艦を見つめ技術者達に「この艦はなんという艦名だ?」と尋ねた。

 

技術者の1人がタブレットを操作し「“ディファイアンス”です」と答える。

 

「“ディファイアンス”か……この艦の配属は我々が決めるのだったな?」

 

「はい、一応このモン・カラに初期艦の三隻を配備する予定ですが」

 

「ならばこの艦、“ディファイアンス”を私の旗艦としても良いだろうか」

 

予想外の返答にメイディン将軍は目を見開きアクバー元帥を二度見した。

 

「では“ホーム・ワン”はどうされます」とメイディン将軍は問い詰める。

 

「“ホーム・ワン”はモン・カラ本国防衛艦隊の旗艦とする。新たな艦として私にこの“ディファアインス”をくれないだろうか」

 

「司令部の面々も構わないでしょうが……珍しいですね、元帥がそれほどまでに艦を欲しがるとは。何か理由があるのですか?」

 

メイディン将軍の問いにアクバー元帥は少しだけ考えたが明確な答えは浮かばなかった。

 

ただ確固たる第六感的な何かが新たな旗艦として“ディファアインス”を指名していたのだ。

 

「理由は…分からないが私の中の何かがそう告げている」

 

「なるほど」とメイディン将軍はそれ以上深くは追求しなかった。

 

そして彼らはもうひとつの新型艦の方へ目を向けた。

 

MC85に比べれば1,040メートルと小型に見えるがそれでも超技術を積んだレジスタンスの最新鋭艦だった。

 

本来この艦の誕生は後7年も後のはずなのだがこの狂気的で予想外の戦争は技術を大きく発展させた。

 

レジスタンスは、新共和国は遂に“()()()()()()()()()()()()()()”を手に入れたのだ。

 

技術者の1人が艦種を告げる。

 

「こちらが“ネビュラ級スター・デストロイヤー”。我々の、独自開発したスター・デストロイヤーです」

 

 

 

 

 

 

 

1人のストームトルーパー、TK-9429のナンバーを与えられた彼はAT-ATの背後にいる兵員輸送機の中にいた。

 

あちこちで砲撃と銃声の混成音が聞こえ何度もここは戦場であるということを自覚させられる。

 

TK-9429自身もこの戦いで一度敵と遭遇し最先の悪い事に敵軍の砲撃と物量を受けて一旦後退せざるを得なかった。

 

彼は最前線で2、3人の敵兵を撃ち殺し同じ分隊のストームトルーパーと共になんとか敵のオキュパイア・タンクを一輌撃破した。

 

それでも砲撃で別の分隊が兵員輸送機ごと壊滅しウォーカーも何台か破壊された為彼らも後退した。

 

相手は同じようなアーマーを身に纏ったストームトルーパーとウォーカーだった。

 

つまり敵は我々と同じ元帝国軍なのだ。

 

しかも敵の猛攻は激しく撃退しても撃退してもすぐに次の部隊が到着し我々を苦しめた。

 

同胞同士の殺し合いに今更感じるものなんて何もない。

 

TK-9429が初陣を飾った戦いも同じストームトルーパー同士による殺し合いだったし彼が帝国軍人として戦っていたのは末期の数年間だけだった。

 

彼にとって敵とは新共和国だけでなくこちらにブラスターを向ける全ての帝国軍だ。

 

今回だってそれはなんら変わらない。

 

司令官のキールヘル中将は一体何の為にこの地までやってきたのか分からないが上官の命令には無条件で従う事をアカデミーで教えられてきた。

 

それに中将は作戦内容は大まかに伝えてくれたし成功すれば全員が昇進のチャンスを得られるとも言っていた。

 

再び銀河系の内側で生活出来るとも。

 

これはアウター・リムの果てに近しい場所を活動拠点としていた我々にとってはこの上ないほど嬉しい約束だった。

 

栄光も何もなく、銀河系の果ての暗闇で死んでいくのは耐えられない。

 

『レーザー砲のガンナーがやられた!』

 

操縦席から通信機で全員に報告される。

 

この兵員輸送機は上部にブラスター砲とは別にEウェブを改良した簡易砲塔が付けられておりそこには1名ほど砲手が必要だった。

 

レーザーよりも火力は少ないがそれでも対空や歩兵制圧に役立つ。

 

どうやらその砲手が狙撃されてしまったようでこの兵員輸送機は耐空力と攻撃力を失ってしまった。

 

互いに隣のトルーパーの顔を見合わせ分隊長の指示を仰いだ。

 

分隊長はシートベルトを外しTK-9429の方へと近づいた。

 

「TK-9429、ついてこい。ガンナーの遺体を確認しお前が次のガンナーとなれ」

 

「了解」

 

上官の命令には無条件で従う、次の砲手をやれと言われたらやるまでだ。

 

TK-9429は分隊長と同じくシートベルトを外し自分のブラスター・ライフルを手に持つとレーザー砲近くに2人で向かった。

 

オープン部分から2人は顔を出すとそこには頭を撃ち抜かれだらんと倒れるストームトルーパーの姿があった。

 

白いヘルメットの黒いくすみから狙撃され即死したという事が分かる。

 

「俺は遺体を下ろす、お前はすぐにガンナーを務めろ」

 

「了解」

 

命令通りEウェブの引き金に指を掛けスコープを覗き込む。

 

本来のEウェブは冷却管理が必要なのだが兵員輸送機に大型の冷却機を持ち込んでおり荒削りだがその問題点は解消していた。

 

兵員輸送機の中とは違いここからでは戦場の様子がよく見える。

 

前方にいるAT-ATからは少し離れ前部レーザー・ガンが敵陣に対してレーザー弾を撃ち込む。

 

AT-ATの重レーザー砲ほどの威力はないにしても効果は絶大で爆風による牽制とダメージを与えた。

 

前とは違い既に敵の防衛網の突破に成功しており彼らの部隊はひとまずの快進撃を続けている。

 

最前線では敵の防衛網に嵌り苦戦しているようだが後方のAT-ATの支援攻撃により少しは回復しただろう。

 

AT-ATは更に遠くの陣地に砲撃を加え他の機体もミサイルやレーザー砲などで支援を続けている。

 

敵はきっとAT-ATや AT-MPらのミサイル攻撃や重レーザー砲の攻撃を受けてとてつもない被害を被ってるはずだ。

 

だが敵兵の脅威が完全に消え去ったわけではない。

 

近くの岩陰から出てきたストームトルーパーが数人、担いだスマートロケットを味方の兵員輸送機に向け引き金を引いた。

 

放たれたロケット弾数発が兵員輸送機に着弾し輸送機は爆散し破壊された。

 

TK-9429は急いでEウェブを向け彼らに制圧射撃を展開する。

 

何十、何百もの弾丸が放たれ次の狙いを探していた敵兵を数人撃ち殺した。

 

反撃のブラスター弾が近くを通り過ぎEウェブ近くの装甲に直撃したがTK-9429はそれでも射撃の手を止めなかった。

 

バタバタと倒れ敵兵の遺体の前を通過する頃には1人も生存者は残っていなかった。

 

『よくやったTK-9429。このまま脅威を排除しろ』

 

分隊長が混むリンクを開きTK-9429の素早い攻撃を褒め称えた。

 

「ありがとうございます」と返答し再び意識を敵の警戒へと向ける。

 

予想外の攻撃を喰らったが恐らく全体からすればまだ損耗は警備だろう。

 

前方に更に敵を発見し今度はレーザー砲の方が反応を示した。

 

たった一発の砲弾が敵部隊を吹き飛ばし半数近くの敵兵を撃ち倒した。

 

残された敵兵もTK-9429がEウェブで掃討していく。

 

敵は我々の猛攻により散り散りになって確固撃破されている。

 

このままいけば勝利できる、そう思った矢先再びコムリンクが開き今度はコックピットの方から通信が届いた。

 

『TK-9429!今すぐ対空砲を展開して敵の砲撃とミサイルを迎撃しろ!このままではまずい!』

 

ドライバーたちの報告通りTK-9429は砲塔を上に向け対空射撃の準備を始めた。

 

だが上を肉眼で見た途端、TK-9429は恐ろしい光景を目にした。

 

上空を覆い尽くすほどの眩い光弾が一面に広がっている。

 

空気を切り裂きながら飛来する音がヘルメット越しでもよく聞こえた。

 

TK-9429は混乱と混乱を覚えドライバー達に問い詰めた。

 

「一体どれを撃ち落とせばいいんだ!!」

 

狙いをつけようにもこれだけ多くの砲弾やミサイルが放たれては迎撃のしようがない。

 

ドライバーからは『前部撃ち落とせ!とにかく撃つんだ!』と無茶苦茶な返答を返され苛立ちながら引き金を引く。

 

ブラスター砲やレーザー砲、AT-ATやAT-STからはミサイルも放たれ対空戦闘が開始された。

 

何とかミサイルや対空砲がどこからか放たれる砲弾やミサイルを撃破したがそれでも破壊された砲弾やミサイルの爆炎の中を突っ切って次の攻撃が来る。

 

撃破しても撃破しても砲撃はまるで降り止むことはなかった。

 

「全然減らない!!」

 

Eウェブの対空射撃を繰り出しながらTK-9429は憤慨した。

 

周辺の全ての機体が迎撃しているのにも関わらずそれでも火砲が繰り出す波を打ち消すことは出来ない。

 

そしていよいよ対空砲の壁は最も簡単に打ち破られた。

 

砲弾が一発、TK-9429の近くの地面に着弾した。

 

幸いにもその一発はTK-9429にも味方にも損害を与えることのない流れ弾だったがこの初弾に続く砲撃の粒はそうではない。

 

初段の爆発を皮切りに他の砲弾やミサイルも次々と目標に着弾した。

 

今度ばかりは全ての味方が無事であるのは無理だ。

 

前進するAT-ATやAT-ST、兵員輸送機やオキュパイア・タンクに着弾し爆発する。

 

しかもそれは一発だけでなく二発、三発、四発と増え続けた。

 

AT-ATやタンクの背後にいるストームトルーパー達も皆砲撃の餌食となり無事では済まなかった。

 

肉片となり生き血が霧のように撒布され白いストームトルーパー・アーマーが赤く染まる。

 

分隊クラスの偏向シールドを展開しようと装置を起動して何とか生き残った者もいたが時々混じる偏向シールド貫通弾により殆ど無効化された。

 

「くそっ!!どうなってる!?」

 

『よけろ被弾す…』

 

ついにTK-9429が乗る兵員輸送機にも一発のミサイルが着弾した。

 

しかもそれは不幸にもコックピット部分に直撃しミサイルが爆散する前に一足早く兵員輸送機はコントロールを失った。

 

兵員輸送機は回転しながらミサイルが爆発しその熱が輸送機内のトルーパー達を跡形もなく焼いて吹き飛ばした。

 

彼らに死の瞬間の痛みというものは微塵もなかっただろうが後に残る兵員輸送機の残骸と燃え盛る爆発の炎が彼らは感じないであろう悲惨さを生み出した。

 

特に回転する兵員輸送機から振り落とされたTK-9429からすれば同じ分隊の惨劇は自分が感じた痛み以上に刺激を与えた。

 

何とか受け身を取ったおかげで残りの衝撃はアーマーが吸収し戦闘不能の痛みや重傷を負うことはなかった。

 

それでも節々は十分痛むしまだ危うい状況が終わったわけではないが。

 

彼が持っていたEウェブもE-11ブラスター・ライフルも全て仲間を乗せた兵員輸送機と共に吹き飛んでしまった。

 

特にミサイルが直撃し仲間達が容赦無く吹き飛ばされる衝撃と戦慄の瞬間をTK-9429は目撃していた。

 

仲間の死は何度か体験したが分隊が一度に全滅することは初めてだ。

 

余りの出来事に体が震え思考が入り乱れ真っ白になった。

 

仲間を失った悲しさや死の瞬間が目前まで迫った恐怖、こんな惨状を生み出した敵に対する憎悪。

 

ただTK-9429が真っ先に行った行動は次の砲撃から身を守る為に地面に頭をしっかり防ぐことだった。

 

再び、というより今にでも砲撃の嵐が巻き起こってもおかしくない。

 

辺りでは生存者の悲鳴や軋むウォーカーの歩行音や血や焼け焦げた鉱物やナニカの入り混じった耐え難い匂いで溢れていた。

 

周囲を目で確認するとあちこちに破壊されたウォーカーや兵員輸送機、タンクの残骸や元は人の形をしていた物質やストームトルーパーと思われるアーマーの破片が転がっていた。

 

正に視覚、聴覚、嗅覚、全て合わせてもここは地獄といった有様で惑星内に上陸した時からは想像もつかない光景となっていた。

 

「くっ…!どうしてこんなことに…!」

 

絶望的な状況に頭を抱えTK-9429は独り言を呟いた。

 

もうこの独り言も叱責したり同意したりしてくれる上官や仲間はこの辺りには誰もいなかった。

 

皆肉片になるか燃えカスも残らないほどの衝撃を受けて消し飛んでしまった。

 

しかし援軍は到来した。

 

「おい!!大丈夫か!!」

 

背後から大声と共に足音が聞こえ伏せていたTK-9429に数人のストームトルーパーが掛けより彼の側に寄った。

 

TK-9429は頭を上げ再び周囲を見渡した。

 

「無事か!?所属分隊は!?」

 

トルーパーの1人がTK-9429に尋ねる。

 

「所属は第四輸送機分隊で取り敢えずは無事だ……それより武器をくれ。乗っていた輸送機ごと失ってしまった」

 

「分かった、これを使え」

 

別のストームトルーパーがホルスターからE-11を抜きTK-9429に差し出した。

 

TK-9429はブラスター・ライフルを受け取ると増援に来たストームトルーパーに続いた。

 

一行は数十人のストームトルーパーと共に前に進みながら状況の整理を始めた。

 

「分隊員はどうなった?」

 

「さっき言った通り輸送機ごと全滅してしまった。敵軍の集中砲撃を受けてこの辺りの部隊は恐らく壊滅だ……」

 

「やはりか…既に後方の部隊も被害を受けている。我々の部隊も増援に駆けつけた瞬間砲撃を受けた。何とか損害は軽微で済んだが」

 

「あれを見ろ!」

 

1人のストームトルーパーが指を差した。

 

TK-9429達は皆指の方向を見つめて多少の驚きを含めた声を発した。

 

「AT-AT……まだ生存機があったのか……」

 

トルーパーが指を差す方向には砲撃により黒灰色に燻んであちこちから煙を出しながら前進するAT-ATの姿があった。

 

もはや動く屍、機体には砲撃による穴があちこちに空いておりコックピットも中型ブラスターごと一部分が削られ中の様子が少し見えた。

 

回路にも甚大な損傷を受けているようで時折切れたコードが見え煙と同時にスパークを発していた。

 

本来は銀灰色の装甲も完全にその色を失いなんで動いているのかすら不思議に思えるほどの損傷度合いだった。

 

それでもAT-ATはゆっくり、いつもよりも威圧感を増して足を進めている。

 

流石は帝国のAT-ATなのかそれともただの意地なのか。

 

他のウォーカーや車両が斃れる死の大地をAT-ATは進んでいた。

 

「あのAT-ATに続くぞ!」

 

ストームトルーパーの隊長はTK-9429らを導きそのAT-ATの背後に続くことを決めた。

 

1人のトルーパーが何とかAT-ATと通信を取ろうとしていたが向こうのシステムが破損しているらしく通信は繋がらなかった。

 

それでも歩兵部隊の盾としてはまだ役立つ。

 

数十人のストームトルーパー達がAT-ATに続きしばらく前に進んだ。

 

だが彼らが見た光景はどれも地獄なような有様に変わりはなかった。

 

AT-STやAT-ATの残骸だらけで近くに生えていた草木には火が付き燃えている。

 

小艦隊内の装甲部隊のほぼ全てを動員して敵陣へ突撃させた。

 

その結果今までにないほどの快進撃を続けたがこの姿を見ればそれはいい面だけとは捉えられない。

 

もはやこの場に生存者はいないも同然の様子だった。

 

壊滅してしまった、小艦隊の装甲部隊は皆全て。

 

一方的な大砲撃を受けて無敵のAT-ATも歩兵の殺戮者たるAT-STもストームトルーパーを展開する兵員輸送機も全てやられてしまった。

 

そしてTK-9429達が盾代わりとしていたボロボロのAT-ATもついに限界が来たのか倒れ朽ち果てる。

 

砂煙が巻き上がり一瞬視界を奪う。

 

数秒した後彼らは目に広がる更なる絶望的な状況を目にすることとなった。

 

「なっ……!これは……!」

 

前方には小艦隊が展開した倍以上のウォーカーや装甲車両が接近しつつあった。

 

あの大砲撃も今までの攻撃も全て防御でしかなかったのだ。

 

それも狭き罠に嵌めた後で行う攻撃的な防御だが。

 

彼ら、チス・アセンダンシー軍の反撃はようやく始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「装甲部隊壊滅!応答ありません!」

 

「フィー中隊、デメテル中隊、ケレス中隊からの応答途絶、スターファイター隊の損耗率が間も無く24%を突破します」

 

「第64歩兵大隊、第67機械化大隊、敵守備隊と激突。詳細は不明ですが最後の報告では敵の戦力はこちらの10倍以上と……」

 

アドミラル・キリアン”では変わらず最悪の報告ばかり流れていた。

 

敵の防衛網の薄い面を装甲部隊の全力で叩いた、それまでは良かったのだ。

 

容易に防衛網を突破し敵陣への進撃を早めた。

 

ウォーカーの打撃力とは並みの装甲車両とは比べ物にならないほど強力だ。

 

仮にスターファイター隊の航空支援がなくとも快進撃を続けられるだろう。

 

しかし全ては敵の罠であった。

 

前進した装甲部隊だったがその快進撃は突如停止する。

 

前方に待ち構えていた何百台のウォーカーと何百門の一斉砲撃を受けて多大なる被害を喰らった。

 

中にはプロトン魚雷を速射するリパルサーリフトの車両も控えており流石の大火力にウォーカー部隊は足を止めた。

 

しかも攻撃はそれだけではなかった。

 

前方に釘付けになった装甲部隊は突破を試みたが叶わず逆にその注力が仇となった。

 

前方への支援攻撃が左右両方からの一斉大砲撃の隙を与えたのだ。

 

一体いつからそれだけの砲兵部隊が左右に配置されていたかは分からない。

 

センサーはずっと妨害状態にあり何度もプローブ・ドロイドとスカウト・トルーパーの索敵部隊を送っているが送られてきた情報は少なかった。

 

霧の中から現れた砲兵部隊による砲撃は前進中の装甲部隊に甚大な被害を与えた。

 

プロトン魚雷や震盪ミサイル、シールド貫通ミサイルなどをひたすら撃ち込み仮にAT-ATだろうとただでは済まない程の火力を投射した。

 

支援攻撃中だった装甲部隊の殆どは対空にまで手が回らず砲撃を直で受け大損害を被った。

 

出撃した兵員輸送機、タンク、AT-STやAT-MPなどの比較的軽ウォーカーはほぼ全滅でAT-ATでさえ五体満足の機体は一台もなかった。

 

逆にストームトルーパーのような歩兵なら1人2人単位で生き残っているかもしれないという有様だ。

 

だが深刻な被害の原因はそれだけではなかった。

 

砲撃の停止と同時にチス・アセンダンシー軍による総攻撃が始まった。

 

数十万人のチス兵とストームトルーパー達が一斉に突撃し残された陸戦隊を強襲した。

 

現在では攻守の立場が逆転し小艦隊の陸戦隊の方が防衛に周り防衛網を悉く突破され撃滅されるという事態に陥っていた。

 

精強なチス兵と元より戦い慣れた忠誠心の塊のようなストームトルーパーとAT-ATのような帝国式の頑強な兵器の相性は運命の赤い糸で繋がれていると思わせるほど良かった。

 

敗走する小艦隊兵を、あるいはAT-ATのような装甲部隊を失った小艦隊兵を容赦なく屠り包囲網を形成していく。

 

兵員不足を補う為に宇宙軍トルーパーまで動員していた小艦隊の陸戦隊はお世辞にも練度で上回っているとは言い難い姿でブルーミルクのバターのように部隊が溶けていった。

 

更には物量でも指揮でも彼らは負けていた。

 

祖国の土を踏み荒らし人々を殺戮し犯そうとする侵入者から守るのは自らの務めと言わんばかりの働きをチス・アセンダンシー軍は成し遂げた。

 

それに対して小艦隊の方は退却と壊滅を重ねて到底元帝国軍とは思えない有様となっていた。

 

中には勝手に降伏する部隊も出始め小艦隊側は大混乱の様子だ。

 

更に最悪な事に地上支援と敵基地攻撃に打って出たスターファイター隊が敵の航空隊の猛攻を受けて陸戦隊と同じく多大な損失を被った。

 

新型のTIEファイターと思われる機体やTIEストライカーは性能以上にパイロットの練度が高く次々と小艦隊のTIEファイターを撃ち落としていった。

 

気が付けば出撃したスターファイター大隊の半数は甚大な被害を被り中には全滅した中隊もあった。

 

何隻かアークワイテンズ級やヴィクトリー級、レイダー級を向かわせたのだがこちらもアセンダンシー軍のスターファイター隊により全て撃沈に追い込まれた。

 

「もうダメです!既に地上部隊とスターファイター隊は壊滅し小艦隊も少なからず被害を被っています!ここは一旦退却し補給と再攻勢を…!」

 

「未知領域の門前で追い払われておめおめと帰れるか!進撃中の敵部隊をインペリアル級のターボレーザー砲で吹き飛ばせ!船体下部の砲塔でも十分の威力のはずだ!」

 

ブレリス艦長の進言を却下しキールヘル中将は攻撃を命ずる。

 

防御陣を作っていたインペリアル級と付属艦達が徐々に陣形を転換し対地攻撃の体制に入った。

 

砲塔を敵部隊の方へ向け砲撃地点を入力する。

 

しかしこの陣形転換の隙を突き攻撃に打って出た部隊がいた。

 

強力な戦艦イオン砲が撃ち込まれ僚艦のインペリアル級“レボリュート”に着弾した。

 

背後からの一撃によりエンジン部分に直撃した戦艦イオン砲はその効力を十二分に発揮した。

 

エンジンのシステムを機能停止に追い込み“レボリュート”から推力を奪ったのだ。

 

更には二発目の戦艦イオン砲が放たれ今度は“レボリュート”のブリッジに直撃した。

 

エンジンと司令塔がやられた“レボリュート”は浮遊する力を失いゆっくりと地面に滑り落ちるように墜落した。

 

幸いにも墜落事の方法が良かったおかげで反応炉が爆発する事はなくそれ以上の損傷はなかったが“レボリュート”の戦闘能力が消失した事に変わりはない。

 

「一体何処からの攻撃だ!?」

 

キールヘル中将は挙動不審になりながら部下達に尋ねた。

 

「後方、7時の方角です!インペリアル級三隻、識別不能艦四隻!」

 

「4時の方角からも敵艦接近!同じくインペリアル級三隻、識別不能艦が五隻確認!」

 

「上空の艦隊が包囲を解いて襲撃を開始したのでしょうか…?」

 

ブレリス艦長は弱々しく尋ねる。

 

しかしすぐに士官の1人から「まだ軌道上には敵艦が確認出来ます」との報告が帰ってきた。

 

「では一体どころから…」

 

「密かに動員したというのか……!砲撃の音に紛れて艦隊を動かし進撃させた…」

 

その間にも出現した機動部隊はイオン砲とターボレーザー砲を服用して砲撃し陣形転換中の小艦隊に被害を与えた。

 

特に高出力の戦艦イオン砲はインペリアル級のシールドすらも打ち破りシステムを麻痺させる。

 

アークワイテンズ級やレイダー級が喰らえば一撃で全機能が停止し地面に墜落してしまう。

 

「残った艦載機も全て出せ!数ではまだこちらが有利だ!」

 

「中将!前方より敵スターファイターです!」

 

中将は言葉を失い愕然としながらブリッジのビューポートから外を見た。

 

数十機のTIE/sk大気圏用戦闘機、TIEストライカーとヌシス級クロークラフトがレーザー砲を放ちながら“アドミラル・キリアン”に肉薄する。

 

まるで水面を滑るかのように滑らかな動きで対艦攻撃を行い敵艦にダメージを与えていく。

 

このTIEストライカーは試作機時代から2人乗りように設計されておりパイロット1名と砲手兼爆撃手1名という編成だった。

 

未知領域で正式採用されたこの機体はSFS社製のH-s1重レーザー砲が回転し後部の攻撃にも対応出来るようになっている。

 

本来あったプロトン魚雷発発射管もヌシス級同様にオプションで更に増強することが出来、現在対艦攻撃を実行しているTIEストライカーのみで編成されたブラック中隊はイオン魚雷発射管を搭載している。

 

イオン魚雷とプロトン魚雷の攻撃を集中的に受けあちこちの機能が停止し始めた。

 

ターボレーザー砲などが対空防御を行うが局所防衛砲台や並みのレーザー砲の攻撃すら軽々と躱すブラック中隊の面々に対しターボレーザー砲の対空防御を回避するなど朝飯前だ。

 

機体を旋回させ砲撃してきたターボレーザー砲をひとつづつ潰していく。

 

「ブラック3、ブラック4、敵ブリッジに総攻撃を掛ける。後方の乗船部隊は準備を頼む」

 

『了解』

 

『了解!』

 

ブラックリーダーからの命令で2機のTIEストライカーがブラックリーダーの機体に続く。

 

爆撃手がイオン魚雷とプロトン魚雷をそれぞれ装填し照準器で狙いを定める。

 

どれだけの対空砲火を喰らっても軸のブレない避け方で動く3機はすぐにターゲットをロックオンしてギリギリまで接近した。

 

既に隣のインペリアル級ではスターファイターによる撹乱が成功し乗船部隊がインペリアル級を乗っ取るためにTIEリーパーやTIEボーディング・クラフトがハンガーベイから内部に侵入した。

 

友軍の機動部隊も次々とイオン攻撃を成功させておりインペリアル級と敵艦隊を地上に叩き落としている。

 

機動部隊の旗艦の役割を果たしている“アドミラル・ピエット”と“アドミラル・ラックス”の集中砲撃により七隻あるインペリアル級のうち二隻が機能を失い地上に墜落していた。

 

更にはうち二隻のインペリアル級にはスターファイター隊の攻撃により麻痺した所を先程のようにTIEボーディング・クラフトらが侵入し乗っ取りを開始した。

 

上手くいけば七隻のインペリアル級を丸々全て入手出来る手筈だ。

 

『ブラックリーダー、もう十分です。攻撃しましょう』

 

ブラック4がブラックリーダーに攻撃を促した。

 

しかしブラックリーダーは「いや…もっと接近する…」と更に機体をブリッジの近くまで接近させた。

 

そして本当に目と鼻の距離という瞬間にブラックリーダーは命令を出した。

 

「全機攻撃開始!!」

 

TIEストライカーのレーザー砲の総火力が放たれ偏向シールド発生装置に牙を剥く。

 

プロトン魚雷とイオン魚雷も同時に発射され遂に一つの偏向シールド発生装置を破壊した。

 

3機のTIEストライカーがブリッジを通り過ぎ反転してもう一つも破壊しようと攻撃を開始する。

 

イオン魚雷が先に3機合わせて四発放たれ“アドミラル・キリアン”の偏向シールド発生装置のシステムに障害を生じさせた。

 

既に片方の偏向シールド発生装置を失っている為偏向シールドが殆ど展開出来なくなっており丸裸も同然だった。

 

完全に装置を破壊しようとインペリアル級にプロトン魚雷の攻撃を行おうとしたが艦を守る為に妨害に入ったTIEファイターにより撹乱されそれ以上の攻撃は出来なかった。

 

「チッ!!邪魔が入った!」

 

敵機を撃墜しながらブラックリーダーは態度を悪くして歯噛みする。

 

『ですがブラックリーダー、もう十分敵のシステムにダメージを与えました!乗船部隊を突入させましょう!』

 

ブラック3の進言は聞き入れられブラック中隊に守られたTIEボーディング・クラフトとTIEリーパーらの編隊が内部に侵入する。

 

当然“アドミラル・キリアン”のブリッジの中でもその事は報告されていた。

 

「敵乗船用TIEファイターが本艦に侵入!現在ハンガーベイで戦闘が行われています!」

 

「警備隊が抵抗していますが地上にも宇宙軍トルーパー隊を動員した為まともな防御はもう出来ません!」

 

「全隔壁を閉鎖して防備を固めろ!少しでも時間を稼ぐんだ!」

 

報告する士官達の声音がどこか恐怖を帯びているのがキールヘル中将にはよく分かった。

 

尤も彼の指揮も以前より大雑把なものばかりになっているとこには気づいていなかったが。

 

艦は常に敵機の攻撃による振動に襲われ小さく揺れていた。

 

「偏向シールドの展開率が33%まで低下!もう長く持ちません!」

 

「“クアグマイア”からの通信途絶!応答ありません!」

 

「ハンガーベイ内が制圧されました!中将!」

 

最悪の報告ばかりだ。

 

こんなに部下から悪い報告を受け取ったのは生まれて初めてかもしれない。

 

彼らは今初めて死というものに直面していた。

 

エンドア後海賊となった彼らだがそれでも死というものは遠くかけ離れていた。

 

食糧も物資も略奪すればものは手に入るし何より彼らの棲家はスター・デストロイヤーだ。

 

向かう所敵なしの主力艦であり並みの敵も蹴散らせるほどの力と数を兼ね備えていた。

 

ファースト・オーダーだって第三銀河帝国だって我々の事を殺さずむしろ恩賞の代わりに我々に役目を与えてくれた。

 

死などずっとと多いものだった。

 

しかし今では違う、すぐ側まで来ている。

 

未知領域の暗闇でキールヘル中将達に死神が大鎌をかけ今か今かと喉元を引き裂く準備をしていた。

 

争うことも逃れることも出来ない大きな鎌にキールヘル中将達は引っかかってしまった。

 

ある1人の乗組員が小さく独り言を発した。

 

「このまま死ぬのか」と。

 

その言葉をキールヘル中将は聞き逃さなかった。

 

我々が死ぬ、そんなことはあり得ない。

 

だって我々はずっと生き延びて来たじゃないか。

 

エンドアも、エンドア戦後も、アウター・リムでも、未知領域でも、ファースト・オーダーでも、第三銀河帝国でも。

 

ならばチス・アセンダンシーのこんな門前で野垂れ死ぬわけがない。

 

我々は絶対に死なない、我々は死なないのだ。

 

絶対に、絶対に。

 

「中将!!ご命令を!!」

 

キールヘル中将はブレリス艦長の悲鳴のような声によって現実世界へと引き戻された。

 

彼がふとブリッジの方を見た瞬間、赤い炎に包まれ崩壊しながらビューポートや機器類を破壊しながら突っ込んでくるTIEファイターが見えた。

 

他の乗組員達は潰されるかあるいは熱に焼かれるか必死に逃げ惑うかのどれかだった。

 

悲鳴を上げていたブレリス艦長の姿はもうどこにも見えない。

 

やがてキールヘル中将の姿すらも見えなくなった。

 

“アドミラル・キリアン”のブリッジにTIEファイターが激突した。

 

それはブラック中隊の所属機ではなく“アドミラル・キリアン”所属のTIEファイターだった。

 

被弾しコントロールを失ったTIEファイターは運悪く母艦のブリッジに突っ込んだのだ。

 

本来なら偏向シールドによりTIEファイターだけが消失するのだが展開率が30%以下の状態ではTIEファイターの高速衝突で容易に突破出来た。

 

ブリッジは爆炎に包まれ“アドミラル・キリアン”はコントロールを失った。

 

爆炎と衝突の衝撃は間違いなくブリッジの乗組員全員の命を奪っただろう。

 

コントロールを失った“アドミラル・キリアン”はそのまま地面に墜落しようとしていた。

 

しかし先に乗船していたチス・アセンダンシーと帝国軍の精鋭達がなんとかコントロールを復活させ墜落を回避した。

 

アドミラル・キリアン”は艦名の元となった人物とは違い自らの墜落を免れたのだ。

 

そして“アドミラル・キリアン”の占拠は当然司令部のプライド中将らにも伝えられた。

 

 

 

 

 

「ブリッジがやられたか…」

 

「どうする?恐らく司令官達はこれで生存の確率は大幅に減った」

 

「ああ、だが偶発的な事故ならば仕方ない。それよりも旗艦を制圧した事をまずはよしとしよう。ひとまず連中の艦隊の主力は押さえられた」

 

ヴァシレフスキー少将は小さく頷いた。

 

インペリアル級数十隻の艦隊と地上の圧倒的な機甲部隊と歩兵部隊の手配を成し遂げたヴァシレフスキー少将もこの戦果に満足していた。

 

敵の地上部隊はほぼ壊滅し上手くいけばインペリアル級が七隻ほど手に入る。

 

これほどの成果は早々ないだろう。

 

「ロコソフスキー少将の直轄兵団が敵司令部の撃破に成功しました」

 

チスの通信士官がプライド中将に報告する。

 

中将は「そうか、よくやった」と労いの言葉を掛けた。

 

「これで後は包囲殲滅のみだな」

 

「ああ、だが油断は出来ん。確実に包囲し敵を叩け、ここで不用意な損害を出す必要はない」

 

他の幕僚達も頷き各部隊に指示を伝達した。

 

既に勝利が確定した事は間違いないが予想外の反撃を喰らうこともある。

 

特に追い詰められた敵は何をするか分からない。

 

ジャクー戦でプライド中将らがそうだったようにだ。

 

「なんとか侵入は食い止められたな」

 

ヴァシレフスキー少将はホッとした表情でそう呟いた。

 

実際敵は数も質もかなりの高水準の部隊だった。

 

帝国軍単独で向かっては勝ち目はなかっただろう。

 

「ああ、お前があれだけの部隊の手配を上手くやってくれたからだ。私やロコソフスキーだけでは恐らくここまでの事は出来てはいない。そして問題は……連中の裏に控えていた存在をどう炙り出すかだ。ファースト・オーダーの従属艦隊が勝手な行動を起こしたとは思えん」

 

プライド中将は戦友の功績を讃え勝利よりも残された疑念の方に思考を注いだ。

 

首謀者を炙り出せなければもしかするとこのような事が二度三度起こる可能性だってある。

 

そうなればこの戦いはいつまでも終わりがない。

 

「現状、誰が首謀者だと思う?」

 

ヴァシレフスキー少将はプライド中将に尋ねる。

 

プライド中将は現状のあらゆる出来事と情報を精査し思考を巡らせた。

 

彼らを差し向けた本当の首謀者、それは恐らくファースト・オーダーではない。

 

むしろファースト・オーダーに見せかけようとしている可能性すらある。

 

そうなると残された組織は…。

 

「……第三帝国……そしてその背後に控える……“()()()”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-アノート宙域 ベスピン星系 惑星ベスピン クラウド・シティ-

エンドア戦後、ベスピンの支配権はユーブリック・アデルハード総督に移っていた。

 

彼はアノート宙域で“()()()()”と呼ばれる封鎖作戦を行いアノート全域を支配域とした。

 

彼は“()()()()()()()()”と主張し外部から齎される情報を一切遮断した。

 

アノートは、ベスピンはアデルハード総督の帝国となった。

 

しかし他の軍将の勢力同様アデルハードの残存勢力もそう長くは続かなかった。

 

真実を知る者やこの状況に耐えかねた者達がレジスタンス活動を行い鉄の封鎖に反抗した。

 

当然アデルハード総督も保有する艦隊やパージ・トルーパーらを使ってレジスタンス勢力を弾圧した。

 

それでもレジスタンス達はめげずに活動を続けた。

 

そして遂に勝利の日が訪れた。

 

ベスピンのチヌーク・ステーションで補給地点ごと三隻のインペリアル級を失い大損害を被った。

 

更にはジャクーの戦いで新共和国が勝利しコア・ワールドでも帝国の勢力が新共和国と講和し銀河内戦は終結した。

 

アデルハード総督は取り残されてしまったのだ、このレジスタンスの湧き出るアノート宙域に。

 

更には銀河協定が結ばれ新共和国はアノート宙域へ介入する手立てを手に入れた。

 

銀河協定以降、協定に定められた帝国領内に入らない帝国軍は全て戦犯の烙印を押された。

 

それはアノート宙域という第二帝国から遠く離れた場所にいるアデルハード総督にも適応された。

 

新共和国軍は戦犯の逮捕という目的でアノート宙域に介入しレジスタンスを支援した。

 

補給地点を失った上に指揮の低いアデルハード総督の艦隊は悉く敗走、遂にはアノート宙域から追い出されてしまった。

 

だがそれで諦める男ではなかった。

 

彼は生き残った艦隊を纏め上げアノート宙域を奪還する為の手筈を整えた。

 

無論第二帝国、第三帝国を名乗るコア・ワールドの連中に助けは借りない。

 

彼らはアデルハード総督達を見捨てた張本人だ。

 

やがてアノート宙域の国境で紛争が勃発しアデルハード総督の残存勢力とアノート宙域に駐留する新共和国軍とで国境紛争が開始された。

 

しかしアノートの守りは万全であった。

 

新共和国から送られてきた部隊、そしてその指揮官であるとある将軍の腕が良かったからだ。

 

その将軍はアデルハード総督以前のベスピンの総督でありギャンブルや密輸業で成り上がったとんでもない人物だ。

 

ハンやレイア、ルークやチューバッカすらも面識のある新共和国軍の英雄のたる人物の1人であった。

 

そんな男の元に交渉人としてヘルヴィは送り込まれていた。

 

彼女は今、ベスピンのクラウド・シティの応接室の中にいる。

 

白く美しい建物の中でその将軍は派手なマントを旧来の新共和国軍の軍服の上から纏っている。

 

「なるほど、ハンもレイアもルークもチューイもいるわけか。それは、懐かしい面々ばかりだ」

 

「はい、ですから我々に何卒ご協力を…」

 

ヘルヴィは頭を下げようとしたがその将軍は手で「下げなくていい」と止めた。

 

「無論そのつもりだが少し厄介な連中に絡まれていてな。それを片付けてからでいいか?」

 

「厄介な連中…ですか?」

 

ヘルヴィは思わず同じ言葉を繰り返して問いかけてしまった。

 

将軍は小さく頷きパーマの掛かった頭を掻く。

 

痒いわけではなさそうだがそれよりも困ったという雰囲気が受け取れた。

 

「ああ、俺のベスピンをどうしても取り返したい奴らがいるらしい。今もボロボロの艦隊を率いてそいつにちょっかいを仕掛けられて…」

 

「失礼します!惑星ルトリリア周辺で帝国軍の襲来を確認!現地の駐屯部隊と現在戦闘が始まっています!」

 

室内に入ってきた部下からの報告を聞いた将軍は小さくため息を付きソファーから立ち上がった。

 

「すまないセルヴェント女史、少し席を外す。さっき言った厄介な連中がまた来たようだ、すぐに戻る」

 

マントを靡かせヘルヴィの手の甲に社交的なキスをすると彼は部屋を出ようとした。

 

「ご武運を」というヘルヴィの声を聞き将軍は小さく微笑を浮かべる。

 

「さて、アデルハードの連中をまた捻りに行くとしますか」

 

新共和国の盟友、“ランドーニス・バルサザール・カルリジアン”はニヒルな笑みと共に戦いへと向かった。

 

他の仲間達と同じように帝国を倒す為に。

 

彼の求める“()()”を手にする為に。

 

 

つづく




お久しぶりです

わしです

ちなみにイノベスキーこないだ誕生日を迎えましてね、お年寄りになりました

労ってください

そいではまた〜〜〜

(おいおい待て待て)


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女王救出劇/前編

「我々は常に人民の軍であり王室を守る保安軍だ。人民に銃口を向け、王室を鎖で縛り上げるなどあってはならない。故に我々は正当な保安軍としてここに立ち上がる。ナブーの人民と王室とこの星を解放するのだ。ナブー王室解放軍は真の王室保安軍として反乱軍を撃破するべく戦い続けることをここに宣言する」
-ナブー王室保安軍一等陸佐 クールシュ・フランケのナブー王室解放軍設立演説より抜粋-


-アウター・リム・テリトリー ワズタ宙域 ヴァセック星系 惑星ヴァセック軌道上-

惑星ヴァセックの衛星のひとつにはかつてとある戦士の砦があった。

 

その戦士は悲劇の申し子だった。

 

ある部族の戦士だったその男は抗争で全てを失った。

 

一方的に介入したジェダイと銀河共和国により仲間を、自らの身体を失った。

 

生死をの深い深い暗闇を彷徨いその戦士は蘇った。

 

サイボーグの体を手に入れ、絶対的なジェダイと共和国に対する復讐を糧にして。

 

戦士は戦士であったがもはや戦士ではなく、それと同時にドロイドでもなかった。

 

戦士は将軍に生まれ変わり名前を“グリーヴァス”と名乗った。

 

ジェダイに復讐する為の最恐のサイボーグ将軍となったのだ。

 

だが将軍の運命は悲しいものであった。

 

彼は最終的にジェダイを滅ぼし復讐を達成する事はなくウータパウの隅で死んだ。

 

ジェダイに対する復讐は“()()()()()”準備を重ねてきた者によって成し遂げられた。

 

彼もその準備の捨て駒に過ぎなかったのだ。

 

しかしそうは思わない人々もいる。

 

グリーヴァス将軍は英雄だった、彼は将軍であり気高い戦士の心がサイボーグの心には宿っていた。

 

故に十年以上の月日が経った今彼の名はプロヴィデンス級“ジェネラル・グリーヴァス”としてラクサス自治連合を盟主とする新分離主義連合に受け継がれている。

 

彼らはラクサスで敗北しても滅ぶことはなかった。

 

クローン戦争で敗北しても滅ぶことがないように彼らは再び立ち上がるのだ。

 

最後の決戦へ向かう為に、分離主義は全ての星系の運命を賭けて再起する。

 

このヴァセックの星系で。

 

軌道上にはずらりと何百隻、何千隻の旧来の独立星系連合宇宙軍の軍艦が並んでいる。

 

ミュニファスント級、レキューザント級、DH全能支援船、ブルワーク級バトルクルーザーにルクレハルク級やプロヴィデンス級といった多くの連合艦船。

 

更にはコーマス・ギルド・コルベットやウェーブクレスト級フリゲートといった艦艇も存在し正に現代に蘇った分離主義宇宙軍といった様子だ。

 

この連合艦隊は確かに旧式の艦も多く存在している。

 

数合わせで持ってこられたハードセル級や分離主義系統のゴザンティ級など戦闘能力の低い艦もいる。

 

だがブルワーク級やレキューザント級は全て改装が施され以前は小型タイプの多かったプロヴィデンス級もほぼ全てが大型タイプへと拡張され更に近代化改修まで施されている。

 

特に切り札として温存されていたプロヴィデンス級“コンフェデレーション”と“セパラティスト”は時間に余裕があった為更に大規模改修が行われた。

 

船体も2,117.35メートルから3,000メートル以上にまで引き上げられ以前サブジュゲーター級が装備していたイオン・パルス砲の小型機が備え付けられている。

 

もはやクローン戦争の遺物などではなく列記とした新時代の艦船というべき姿だろう。

 

「ドロイド軍総軍並びに宇宙軍総艦隊、編成完了しました。いつでもご命令次第で戦闘行動が可能です、主席」

 

リストロング司令官は旗艦“コンフェデレーション”の中でアヴィ・シン主席らに報告した。

 

ここまで来るのに随分大変な道のりを歩んできたがようやく復活した。

 

独立星系連合軍の姿が。

 

「地上では新型のサブジュゲーター級の建造が始まっています。資源と設備が心もとないですがまあ来月までには全艦竣工できるでしょう」

 

リストロング司令官の隣でゴーグルをかけたニモーディアンはそう報告した。

 

一見ただのニモーディアンに見えるが彼こそが分離主義宇宙軍の中でトレンチ提督に勝るとも劣らない名将、マー・トゥーク提督である。

 

敵将の経歴の研究に長けた素晴らしい軍事戦略家の彼はかつての分離主義宇宙軍にキャプテンとして所属していた。

 

そこで惑星ライロスの封鎖に参加し迫り来る共和国艦隊を撃退するなどの戦果を挙げた。

 

しかしとあるジェダイ将軍のとんでもない無茶苦茶な戦法により彼は意表を突かれ敗北してしまった。

 

その後トゥーク提督は長らく死んだ者だと思われていた。

 

屈辱の敗北後、彼は共和国の刑務所に捕虜として収監されていたのだが隙を見て脱走、分離主義宇宙軍に帰属しようとした。

 

だが彼が艦隊に戻る頃には独立星系連合という国家は存在せずワット・タンバーや同じニモーディアンのヌート・ガンレイといった幹部は存在せずトレンチ提督やグリーヴァス将軍のような軍の司令官も存在しなかった。

 

あるのは予想外の敗北、ただそれだけだった。

 

一方それ故にトゥーク提督は敵味方問わず多くの者たちに自分が死んだという虚偽の事実を与え今の宇宙軍の足掛かりを作ることが出来た。

 

トゥーク提督は生き残った宇宙艦隊を出来る限り結集させこのヴァセックで宇宙軍の再建を行なった。

 

特に無人の艦艇は何隻かはまだ無傷で手の出されていない物が多く彼の再編は進んだ。

 

また帝国宇宙軍や帝国軍の補給部隊に対し旧分離主義の艦艇を用いた海賊による略奪行為を偽装する事で多くの資金や物資も手に入れられた。

 

アガマーから各地を転々としてきたカラーニ将軍がこのヴァセックに辿り着く頃にはもう既に小、中型タイプの一個艦隊ほどの宇宙軍が形成されていた。

 

そして遂に転機が訪れる。

 

エンドアの戦いで皇帝が死に帝国の統治は終わりを告げ、銀河系に隙間が出来た。

 

新たな国家が誕生出来る隙間が。

 

まず新共和国が誕生した。

 

次に帝国の軍閥達、彼らは一部が国となり新世代に残った。

 

そして遂に20年以上の月日をかけて彼らも立ち上がる時が来たのだ。

 

クローン戦争を生き残った分離主義者達が忘却の彼方から這い上がり遂に銀河系に“新分離主義連合”として蘇ったのだ。

 

当然トゥーク提督の艦隊もまだ不完全ながらも助太刀に回った。

 

彼らはリストロング司令官率いる地上部隊と共にラクサスを取り戻しまずラクサス自治連合を誕生させた。

 

その後各地で革命を起こした分離主義政府と共に声明を発表しこの銀河系に新分離主義連合という新しい連合国家を誕生させたのだ。

 

独立星系連合の遺志を継ぐ新たな分離主義国家として。

 

その後トゥーク提督は再び宇宙艦隊を秘密裏に再編する為にヴァセックに戻った。

 

銀河内戦が終結し新共和国が新たな中央政府となる以上非常時のことに備えておかなければならない。

 

特に銀河協定以降では主だって軍拡することが出来ない以上ヴァセックで秘密裏にやる他なかった。

 

だがその行いは後に重要な意味を齎す事になる。

 

第三銀河帝国の誕生と代理総統を名乗る男によって突如として齎された戦火は新共和国を滅亡に追いやり遂にその火種は新分離主義連合のすぐそばまでやってきた。

 

まず第一の標的となったのが盟主国であるラクサス自治連合だった。

 

第三帝国はラクサスに逃げ込んだ新共和国軍残党の討伐を名目にラクサスへと侵攻。

 

勢いに乗る第三帝国軍は一気に戦線を押し出し遂にはラクサス本土まで決戦の火蓋が降り注がれた。

 

これを聞いたトゥーク提督は急いでラクサスに向けプロヴィデンス級を中心とした艦隊による救出を開始した。

 

艦隊は急ぎヴァセックに戻っていたカラーニ将軍が現地の残存艦艇を纏め上げた状態で指揮し多くの将兵を脱出させた。

 

おかげでアヴィ・シン主席を中心とした多くの政府高官が無事にラクサスを脱出出来た。

 

そして遂に第三帝国に対する反撃の時が来たのだ。

 

「新型のドロイデカ、及びマグナ・ガードを含めた新設のドロイド兵団も編成が完了しました。第三帝国の国防軍、親衛隊に対して物量でも練度でも引けを取りません」

 

「志願兵による新兵部隊の教育も完了しました。まだ前線に配備する予定はありませんがいつでも実戦可能です」

 

リストロング司令官と共に別のドロイド軍司令官も報告する。

 

帝国軍が連合から接収した技術に加えて抵抗時代に培った新たな技術も加えた最新鋭バトル・ドロイドだ。

 

クローン戦争当時のバトル・ドロイドの比ではない。

 

それに今では古参、新兵問わず多くの生身の兵士達が地上軍を形成し命令を待っている。

 

彼らの多くは親類縁者を第三帝国に殺されたものが多い。

 

第三帝国は意味もなくエイリアン種族や近人間種族を捉えて殺害を繰り返している。

 

ある者は目の前で親を焼かれ、ある者は目の前で自分の兄弟をバイブロ=ナイフで切り裂かれ、またある者は自分の妻や子供を目の前で犯され銃殺された。

 

当然そのまま自らも殺された者だっているし逃げ延びた最中に四股や片目を失った者達だって大勢いる。

 

故に彼らの憎悪は凄まじく、並の兵士では到達出来ないほどの精神と士気を手に入れた。

 

今こそ第三帝国に対する反撃の時なのだ。

 

「我々は取り返さなければならないもの、もう取り返せないものが大勢ある。そして連中はそれを奪った張本人だ」

 

アヴィ・シン主席は重々しく口を開いた。

 

もう長くないと知っている身体を駆使し見事なまでの白髪の髭を蓄えたその口で決意を語る。

 

「だが我々の戦いは復讐ではない。かつてと同じ、自由を求め平等な世界を創るために我々は戦うのだ。たとえ誰と手を結ぼうとも、帝国を倒すために」

 

「では主席」

 

リストロング司令官の催促にアヴィ・シン主席は小さく頷く。

 

第三帝国と戦う為には彼の言葉が必要でありそれは分離主義者達の新たな闘争を意味していた。

 

「我々は第三銀河帝国に宣戦布告する。全ての銀河市民を守る為に我々は全力で戦うだろう。我々は圧力には屈しない、分離主義の悲願を達成するのだ」

 

その場の全将兵が敬礼しアヴィ・シン主席の方を見つめる。

 

彼らに主席はたった一言だけ「頼んだぞ」と言葉を掛けてブリッジを後にした。

 

こうして新分離主義連合による対第三帝国戦が本格的に始まる。

 

もはや一方的に攻撃を受けるだけではない、こちらがやられた事を返す番だ。

 

コンフェデレーション”では慌ただしく指示が飛び交い戦いの火蓋が切られた事を物語っていた。

 

「遂に始まりましたね」

 

リストロング司令官はトゥーク提督にそう告げる。

 

提督も小さく頷き作戦を伝えた。

 

「まず手始めにワズタ宙域全土を確保する。親衛隊も撤退し残る国防軍もこの宙域ではまだ少数だ、制圧はすぐに完了する」

 

「既にロソ・マイナーなどの制圧を実行する部隊を展開済みです。間も無く今の声明と共に攻撃を開始するでしょう」

 

「なら次は周辺宙域の制圧だ。艦隊を動員して隣国のクリズ宙域とコラディン宙域、アルディノ宙域、エルバラン宙域を抑える。恐らく帝国軍との戦闘も激化するだろうが」

 

この中でもクリズ宙域の制圧は絶対条件だった。

 

クリズ宙域を制圧すれば更に隣のアノート宙域までの道が切り開ける。

 

アノート宙域にはコレリアン・トレード・ルートなど多くのハイパースペース・ルートを有しており更なる長距離進軍には欠かせない地点だ。

 

「ですがクリズまで抑えれば後の戦闘はないようなものです。帝国軍は現状サラストの方に注力していますから」

 

サラストでの勝利は現地の軍政実行の為に多くの帝国軍を駐留させ更には親衛隊の部隊を引き上げさせた。

 

南側は大セスウェナを中心とする国防軍の管轄で比較的やりやすくなるだろう。

 

「そうとも言えんのがアノートを執拗に狙うアデルハードの残存艦隊だ。連中はワズタとクリズに屯している、このまま行けば衝突は免れないだろう」

 

とはいえトゥーク提督の中では既に分析が完了しておりアデルハード総督など相手ではない様子だった。

 

それにアデルハード艦隊はアノート宙域における敗北と紛争でかなり疲弊している。

 

現状無傷の連合艦隊ならば容易に撃破可能だろう。

 

「問題はクワズ宙域を堕としてアノートに接近した後だ」

 

「既に外務官達がレジスタンスの方に交渉人を送っています。彼らも少しでも戦力が欲しいでしょうし悪くはならないでしょう」

 

「ならば一つだけ、周辺の帝国軍とアデルハードの艦隊を殲滅する方法がある」

 

トゥーク提督はニヒルな笑みを浮かべ戦術を考える。

 

分離主義の敗北に隠れた天才達がこの新たな戦争でその力を見せようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-コメル宙域 惑星ナブー-

ナブーの森林で保安軍の兵士達と衝突してからもう既にかなりの月日が過ぎていた。

 

ジェルマンとジョーレンは隠れて王室保安軍基地や駐屯地、首都シードを偵察し時には威力偵察として戦闘にも参加した。

 

王室保安軍の保安隊員は流石にストームトルーパーほどの練度ではないが思いの他抵抗力が高く長期戦となれば厄介な敵となるだろう。

 

それに帝国軍から武器提供を受けている為E-11やDTL-19など最新のブラスター類も使用しており潜入調査では近々帝国軍の駐屯部隊も展開されるとのことだ。

 

そうなれば現在の王室解放軍では到底太刀打ち出来ない存在となる。

 

ジェルマンと特にジョーレンが彼らの戦闘訓練を教導しているが根本の経験から帝国軍の兵士達の方が練度は上だろう。

 

ジェルマンとジョーレンの敵ではないがそれと同じことが他の兵士にも通用されるかと言われればそうではなかった。

 

それにサラスト陥落によりレジスタンスは今、苦境に立たされている。

 

あそこに駐留していたかなりの戦力が撃退され辛うじて脱出出来た者達も無傷ではないだろう。

 

そうなってしまった以上ここで勝利を掴み帝国に小さくとも一撃を入れるしかない。

 

となるとまずはやる事が一つある。

 

女王、ソーシャ・ソルーナの救出だ。

 

「潜入調査とスパイ達の情報ではソルーナ女王は今シード宮殿の特別監房室に収監されているそうです」

 

メンジス三佐は施設のホロテーブルでシード宮殿を映し出した。

 

ホログラムの宮殿が一回転し地下の様子を映し出す。

 

その一角に三佐が言った特別監房室の様子が記載されていた。

 

「監房室の守りは厳重で何重もの隔壁に加えて警備小隊が多数配置され更には帝国軍式のセキュリティ・ドロイドまでいます」

 

警備中の敵部隊のユニット数が表示され細かな人員まで顕になる。

 

監房のような閉所の戦いとなると数で固めながら包囲が可能な敵警備隊の方が圧倒的に優位だ。

 

更にはいつでも増援が展開出来るよう宮殿内の衛兵も展開出来るようになっている。

 

「ですが我々の情報網が既に監房のアクセスコードを入手していますので警備さえ突破出来れば女王らの救出が可能です」

 

「となると揺動が必要になるな。どうする、我々が騎兵突撃して保安軍を引き寄せるか?」

 

ホーリス隊長の提案にフランケ一佐は首を振った。

 

「まだグンガンの騎兵隊を使うべきではない、隊長が率いる騎兵隊は現状解放軍の中で一番の突撃能力を誇っている。それをここで投入するにはリスクが高すぎる……まあそれでも揺動は必要なのだが」

 

「なら我々の出番だな」

 

ジョーレンはチラッとジェルマンの方を見つめた。

 

大体意味が分かったジェルマンは小さくため息を吐いた。

 

「揺動は我々がやります。シード市内か宮殿内で戦闘を起こして警備隊を釘付けにします」

 

「ついでに上手くいけば連中の最高司令官も暗殺する。連中の指導者が消えれば少なからず混乱は訪れるだろう」

 

「えっそこまでは聞いてない」

 

フランケ一佐やガイルス二佐は顔を見合わせ判断を仰いだ。

 

代表してフランケ一佐が返答する。

 

「…陽動だけでいい…頼めるか?」

 

「はい」

 

「もちろん」

 

2人は力強く頷き頼みを受け入れた。

 

ジョーレンは大まかな計画を話し始める。

 

「連中を引き寄せる為には派手にやった方がいい。まず爆薬を仕掛けて連中に打撃を与える、そんで後は…いつも通りだ」

 

「いつも通り…ね……」

 

苦々しい表情を浮かべながらこれからやることの想像がジェルマンにははっきりとついた。

 

クワットの監房を襲撃した時から今に至るまでどうしてこうなったということばかりやってきている。

 

一昨年なんてそれはもうホズニアン・プライムの艦隊情報部のオフィスでただひたすら業務に励んでいただけなのに。

 

去年からずっと戦場でドンパチしかやっていない。

 

まあこのジョーレン・バスチルという男にとってはそれが日常だったのだろうが。

 

「こちらもメンジス三佐率いる最精鋭部隊を送り込む。作戦の成功率によってはスターファイターも何機か奪取する予定だ」

 

「それぞれ互いに第二目標があるという事ですね」

 

ジェルマンとジョーレンは敵司令官の暗殺、そしてメンジス三佐の救出精鋭部隊は格納庫のスターファイターの強奪、それぞれ二つ目の目的がある。

 

そんな中でもメンジス三佐は「はい、ですがまずは第一目標を優先して実行しましょう。我々にとってはまず何より女王の救出が重要です」と前置きした。

 

するとジョーレンがある事を彼らに問いかけた。

 

「それで敵の司令官について何だが何か少しでも知ってる事を話してくれないか?特徴とか注意すべきところとか」

 

「クリース宙将のことですか…」

 

メンジス三佐は嫌なものを思い出す口調で司令官の名前を出した。

 

自分達を裏切り破滅の一歩直前まで追い詰めた男のことなど嫌に決まっている。

 

施設全体が少し重い雰囲気に包まれた。

 

「あの男は良くも悪くもナブーやナブーの民ではなくナブーが歩んできた歴史と栄光を守護する者だ。彼にとって過去の栄光が第一でありそれ故に現在の平和主義的ナブーを許せなかったのだろう」

 

「彼は優秀な軍人ではありますがフランケ一佐の通り国家や王室、市民に忠実ではありませんでした。むしろ“()()()()()()()()()()”シーヴ・パルパティーンの遺産に忠実だった」

 

フランケ一佐もガイルス二佐も彼に辛辣な評価を下した。

 

だが何となくイメージはつく、恐らくクリース宙将という人物はシーヴ・パルパティーンのようなある種の偉業を成し遂げた人物を産んだような“強いナブー”の信奉者なのだろう。

 

実際ナブーは平和主義とは裏腹に様々な危険に見舞われてきた。

 

ミッド・リムとアウター・リムの境近くというのはナブーを否が応でも安全保障的に危機に追い込んだ。

 

海賊やギャングの被害も銀河共和国時代なら当然多発していただろう。

 

それに最終的には通商連合によるナブー封鎖、それによる解放の為のナブーの戦い。

 

平和主義とは真反対の出来事ばかり起こっていた。

 

しかしナブーはそのような不幸に負けることなく常に闘い勝利してきた。

 

ナブーという母星を、祖国を常に守って来たのだ。

 

更にはナブーから生まれたシーヴ・パルパティーンは銀河共和国の最高議長となり共和国を改革し大きく改善した。

 

その改革の果てに第一銀河帝国が誕生しこの銀河系に流血の反面平和と秩序、安全が齎された。

 

それもまたある側面から見ればナブーの誇るべき栄光である。

 

帝国を誕生させた偉業は負の遺産であると同時に栄光の歴史にも加算された。

 

故にナブーという星には戦勝の歴史と栄光が与えられた。

 

そのようなことに対し少なからずノスタルジーや憧れを抱きかつての栄光を蘇らせようと考える者達が出てくるのも必然である。

 

最終的にクーデターを起こしこのナブーという国を閉鎖的な軍事独裁に包むことになったとしてもだ。

 

「彼はパルパティーンや王室保安軍の元キャプテンでモフであったクァーシュ・パナカの信奉者でした。彼にとって帝国とはナブーの栄光であり今のナブーに栄光を蘇らせようとしているのです」

 

「なるほど…典型的なタイプか」

 

「それにクリース宙将は元帝国軍人です。宇宙軍で大佐を務めその後退役と同時に王室保安軍に入隊しました。その為艦隊の指揮も一級司令官で陸戦や歩兵戦の指揮も高いです」

 

メンジス三佐は彼の注意点を口にした。

 

元帝国軍人で宇宙軍の大佐、帝国軍にも有能無能の差があり一概に全てが危険とは言えないが気をつけておくに越したことはないだろう。

 

更にメンジス三佐は注意点を上げる。

 

「そして何よりも注意すべきは彼の部下の1人です。優秀な情報将校でクリース宙将並に頭が切れ我々を苦しめてきた」

 

他の解放軍の2人は何かを悟ったかのように下を向いた。

 

「誰なんですか?その情報将校とは」

 

ジェルマンは単刀直入に彼らに尋ねた。

 

メンジス三佐が代表して答える。

 

「グリアフ一等陸佐と言う情報将校です。彼の卓越した能力に我々は幾度となく追い詰められてきた。正にクリース宙将の懐刀と言った相手です」

 

その名前を聞いた途端ジェルマンは何かデジャブのようなものを感じた。

 

「グリアフ…どこかで聞いた名前ですね…」

 

「もしかすると情報将校のジルディール上級中尉は知っているかもしれません。とにかく危険な男です、気をつけて下さい」

 

メンジス三佐のあまりに強い念押しに2人は小さく頷いた。

 

ここまで言われるともはや意識的に気をつけない方が無理だ。

 

「ともかく武器弾薬を持ってこないと。ちなみに決行はいつにするんだ?」

 

ジョーレンは幹部達に尋ねた。

 

「ひとまず4日後の予定だ」とフランケ一佐は返答した。

 

日にちを確認したジョーレンとジェルマンは「それじゃあ」とUウィングの方へ戻った。

 

 

 

 

 

 

-首都シード シード宮殿 玉座の間-

シード宮殿の玉座の間、かつては歴代のナブーの女王がこの席に座りナブーの民の為に責務を全うしていた由緒ある席だ。

 

しかし今ではその主君を失い代わりに太々しい裏切り者が我が物顔で司令室として利用している。

 

女王とナブーを裏切りクーデターを実行しその果てに手に入れたこの玉座の間に座る男から一体何が見えているのだろうか。

 

そこに座る気分はどんな気分なのか、どんな思いが込み上げてくるのか皮肉混じりに尋ねてみたいことが山ほどある。

 

されどこの玉座の間に立ち入れる人間にそのようなことを考え実行に移す者は誰1人としていないだろう。

 

何せクーデターの熱心な賛同者達で警備を厳重に固めこの間に外から入れるのもほんの一握りの信用されたクーデター参加者の高官のみとなっている。

 

不埒なことを考える輩は皆宮殿の門前で射殺されるだけだ。

 

そして今この玉座の間にはその席の簒奪者、クリース宙将に最も信頼された男が報告に来ていた。

 

「…というように市街地近郊での襲撃が増加しています」

 

彼らは現在ナブーのあちこちで勃発する抵抗勢力による襲撃を吟味し合っていた。

 

報告に対しクリース宙将は命令を口にした。

 

「グリアフ、お前に麾下部隊として預けている軍団(legion)を鎮圧に向かわせろ。徹底して敵を叩くんだ」

 

「よろしいんですか?教官組や経験豊富な保安隊員達はともかく、新兵達には少し……荷が重いかと」

 

懐刀、グリアフ一佐は彼に聞き返した。

 

一佐が新たに贈呈された王室保安軍新設部隊である第31特務軍団、通称デア・フルス・ソルー軍団とも呼ばれ経験豊富な保安隊員、艦隊陸戦隊員、軍警隊員に加え新規で徴兵及び志願された若者達を組み込んだ軍団規模の部隊だ。

 

本来王室保安軍では軍団となると将官クラスの指揮官が担当するのだがグリアフ一佐だけは特別だった。

 

それにクーデターにより将校の人数も変動し今では一等陸佐といえど軍団規模の指揮官をやらざるを得なくなっている。

 

デア・フルス・ソルー軍団は規定の短期訓練を終えた優秀な選りすぐりの新兵達を投入し更に軍団内での強化も目的とした精鋭軍団を目指した組織だ。

 

親衛隊地上軍の兵団をベースに作られやがて特務の駐留部隊としてやってくる親衛隊に併合され師団化する予定であった。

 

「新兵達にも戦場の風と自ら“()()”に触れる事で訓練だけでは得られない成長が手に入る。無論死なない程度に戦わせての話だが」

 

「なるほど、了解しました。それでは襲撃地点の比較的多い箇所と重要拠点に軍団配下の部隊を配置しておきます」

 

宙将の考えにグリアフ一佐は賛同し手早く返答した。

 

「頼りにしている」とクリース宙将も彼の動きを評価する。

 

「それともう一件、これは情報将校としての意見打診なのですが」

 

グリアフ一佐は前置きを置いてクリース宙将の気を引いた。

 

宙将は「どうした、言ってみろ」と彼に発言を許可する。

 

グリアフ一佐が意見を打診するということは余程のことだとクリース宙将は認識していた。

 

彼は情報将校として無駄がなくまるで無意味な意見などは持ち合わせいなかった。

 

常に彼の意見は有意義なもので頼りになる。

 

「襲撃地点を表面化し分析したところ、ここ最近の襲撃はどれも組織的に何らかの作戦目標に沿って実行されている可能性が高いと判明しました。それも極めて危険な」

 

「確かに襲撃を受けすぐ敵はすぐ退却していったとの報告を何件か受けている。となると貴官は揺動だとでも言いたいのか?」

 

「その通りです」とグリアフ一佐はクリース宙将の推察を認めた。

 

「恐らくシード、シード宮殿内、或いは各駐屯地内の戦力を釘付けにして何らかの攻勢作戦を実行するつもりでしょう」

 

クリース宙将は黙り込み背もたれに深く寄りかかりそれから暫く程よく年老いた肌を触り息を深く吐いた。

 

その息を吐く瞬間にクリース宙将はとても険しい目つきに変わっていた。

 

「貴官が思うその極めて危険な攻勢作戦とは何だ?検討中ならば全て言ってくれても構わん」

 

グリアフ一佐は「恐らく」と付けながら迷うことなくたった一つの答えを私見として口にした。

 

「恐らくですが旧ナブー王国の高官らの“()()”、特に女王陛下の救出だと私は考えています。その指導と外部支援の下更なる大規模攻勢に乗り出すつもりでしょう」

 

「しかし陛下はシード宮殿の監房室で厳重に管理している。位置情報がスパイによって把握されていたとしてもそう易々と突破出来るとは思えん」

 

「ですが相手には情報将校のメンジス三佐がいます。単純な警備人数と防御機能では裏を繋れる可能性があります」

 

一佐は同じ情報将校として相手の危険性を提示した。

 

無論メンジス三佐に負けるつもりはないが相手にするには危険な人物だ。

 

彼は経歴や経験から言っても情報将校としたらまだ若手、中堅の部類に入るがその類稀な能力によりグリアフ一佐の中では抵抗勢力に参加しているどの症候よりも危険視していた。

 

更にこないだの小戦闘でメンジス三佐より危険ない相手が侵入している可能性が発覚した。

 

「危険なのはメンジス三佐だけではありません。むしろ三佐以上に危険な人物がこのナブーに侵入してきています」

 

「貴官がこないだ報告したレジスタンス軍と思われる外部の抵抗勢力の支援者か。確かにあの後艦隊に調査させ先のレジスタンス軍奇襲時に別方向からもクロノー放射が検知されたが」

 

「こないだの戦闘で実感しました。相手は戦闘に手慣れた特殊部隊員並みの練度を持っています。いくら数がいようと現状の保安隊員では肉壁にもならないでしょう」

 

クリース宙将にとってグリアフ一佐の忠告こそ最も危険性を示していると思っていた。

 

それ故に今の忠告は十分に信じるべきだと宙将の中で決定付けられていた。

 

「…ならどうすればいい?」

 

クリース宙将はグリアフ一佐に尋ねた。

 

一佐はすぐ彼自身の最適解を答える。

 

「ひとまず女王らを移してしまいましょう。その上で連中には予定通り作戦を実行してこのシード宮殿で大打撃を被ってもらいましょう」

 

「なるほど、なら私の艦に秘密裏に移送しよう。連中の保有する機体だけでは我が宇宙艦隊まで上がって来れん」

 

もし仮にそこでグリアフ一佐の言うレジスタンス軍の協力者が我が艦にやってくるのであればそれはそれで好都合だ。

 

艦載機を使って数で叩ける。

 

「地上の部隊はどうします?」

 

「イェアルとハウントに任せておこう。我々は宇宙の天高くからことの行く末を見張り続けるだけで十分だろう」

 

クリース宙将は冷静にそれでいて冷酷に、邪悪に物事を対処しようとジェルマン達に先手を繰り出した。

 

 

 

 

-コア・ワールド 第三帝国領 コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント軌道上 セキューター級“ライアビリティ”-

サラストでの戦いは他の上級大将達が予測した通り短期で終わった。

 

親衛隊の大部隊は惑星を完全に取り囲み巧みな戦術と新兵器によりサラストの防衛艦隊突破し迅速に地上に部隊を展開した。

 

その後ソロスーブ、主要都市を陥落させバエルンテーゼ上級大将率いる本隊が主力軍集団を包囲殲滅したことで戦闘は粗方決着が付いた。

 

軌道上では親衛隊の宇宙艦隊が敵艦隊を殲滅し包囲網を形成していたお陰でサラスト内の戦力は脱出することなく殆ど撃滅された。

 

サラストで勝利したバエルンテーゼ上級大将は現地の駐留部隊と国防軍部隊に戦地の治安維持及び軍政を後退し出撃した時よりも多くの部隊を率いてコルサントに帰還した。

 

ちなみにこの時バエルンテーゼ上級大将は親衛隊の多くに民間人への攻撃禁止と捕虜取り扱いの正常化を徹底して命令したとされている。

 

その命令がなんのを成すか一介の将兵では皆目見当がつかなかったが一部の親衛隊の上級将校では密かに意見が分かれていたらしい。

 

何はともあれバエルンテーゼ上級大将達は目標よりも大幅で絶大な戦果を手にしてコルサントに帰還した。

 

彼は親衛隊の英雄として讃えられ新たな十字勲章が授与された。

 

また戦闘に参加し功績を立てた多くの親衛隊軍人も同様に栄誉と昇進が送られた。

 

特にソロスーブを攻略したアデルハイン中佐は大佐へ昇進、インパルス・フォースでAT-ATを指揮し敵機を多く撃破したヴァリンヘルト上級中尉も大尉へと昇進した。

 

またこの昇進とは別にハイネクロイツ中佐は今までの戦歴を考慮され同様に大佐へ昇進し二個大隊に増設された第21FF航空旅団の旅団長に就任した。

 

このスターファイター隊はセキューター級“ライアビリティ”の艦載機部隊であり地上部隊展開と“ライアビティ”を支援することが想定されていた。

 

またこれに際して兼ねてから予測されていた昇進と新部隊が設立する。

 

コルサントに残ったジークハルトは旅団を拡張する為に新規将兵の投入と再編成と行なった。

 

第9FF装甲擲弾兵軍団、通称“タンティスベルク軍団(Tantissberg Legion)”が新たに誕生した。

 

初代軍団長は准将に昇進したジークハルト・シュタンデリス、副軍団長はフリーツ・アデルハイン大佐となった。

 

タンティスベルク軍団はかつての第六連隊、第三機甲旅団同様にスター・デストロイヤーによる長距離輸送と展開を基本としており本拠地はセキューター級“ライアビリティ”と設定された。

 

その為実質的には“ライアビリティ”の艦長であるオリス・メルゲンヘルク大佐らもジークハルトの配下となりジークハルトは一個軍団に加えてセキューター級一隻、一個航空旅団の指揮官となった。

 

また第9装甲擲弾兵軍団は師団への昇格も予定されており益々今後の働きに期待が寄せられていた。

 

そして今日はコルサントの軌道上に駐留する“ライアビリティ”の中で軍団設立と軍団長就任式が執り行われていた。

 

軍団の将校達が見守る中ジークハルトは上官のモーデルゲン上級大将から辞令を受け取っている。

 

「ジークハルト・シュタンデリス准将、貴官を第9装甲擲弾兵軍団初代軍団長に任命する。今後も我らの帝国の為、総統閣下の為に忠義と全力を尽くしてもらいたい」

 

「はい!」

 

ジークハルトは敬礼しモーデルゲン上級大将から辞令を受け取った。

 

2人は軽く形式的な握手を交わしそれに合わせて将校達による拍手の喝采が湧き上がった。

 

「これで父君と同じ階級についたな」

 

モーデルゲン上級大将は将校達には聞こえぬようジークハルトにそうわざとらしく告げた。

 

バスティ・シュタンデリスは帝国地上軍で准将を務めていたがある日突然退役し軍隊から姿を消した。

 

もしバエルンテーゼ上級大将のように今日に至るまで軍役についていれば8年も前に元帥に昇進していただろうとまで言われている。

 

そんな父の跡を追いジークハルトも父親と同じ位にまでこの若さで上り詰めたのだ。

 

「無論父君の姿をキミには超えてもらうぞ」

 

更モーデルゲン上級大将はジークハルトに耳打ちする。

 

ジークハルトに発破をかけるつもりだったのだろうがジークハルト個人としてはただ単純に煩わしさの方が勝っていた。

 

「分かっています」とただ一言返し表面上だけでもモーデルゲン上級大将を満足させる。

 

将校達の拍手の中新しいジークハルトの軍団の就任式は無事に執り行われた。

 

 

 

 

 

式典が終わり一行は“ライアビリティ”の休憩室にいた。

 

既にモーデルゲン上級大将らは先にラムダ級シャトルでコルサントの本部に帰還しジークハルト達も新将校達に挨拶などを行い同じようにコルサントに戻る予定だ。

 

今はまだ各部隊の指揮官や参謀達が集まっていない為ジークハルト、アデルハイン大佐、ハイネクロイツ大佐、ヴァリンヘルト大尉の3人は休憩室で暫し待つ事となった。

 

衣服の留め具を緩め思いっきりソファーにだらけて座っている。

 

「遂に我々も大佐……!そしてジークハルトは准将か!我々も随分と高いところまで来たな!」

 

アデルハイン大佐は胸の階級章と首元の十字勲章を眺めながら呟いた。

 

ハイネクロイツ大佐は特に何も言わなかったが小さく頷き満足感を示している。

 

「まさか開戦からこんな短期間で准将にまで昇進するなんて、おめでとうございます!シュタンデリス准将!」

 

「君こそ大尉への昇進おめでとう、ヴァリンヘルト大尉。私なんて軍団創設の為に将官に上げられたまでで今回ばかりはなんの軍功もない。それよりも敵機を何機も撃破した大尉の昇進の方が軍人として、副官として私も鼻が高い」

 

「ええ〜そうですか〜」

 

ジークハルトからの褒め言葉にヴァリンヘルト大尉は気分を良くしたのか言葉を伸ばしながらクネクネ動いた。

 

こう見るとまだ年相応、とても若い青年だ。

 

徴兵と規模拡大を急ぐ親衛隊には彼のような人物など星の数ほどいるだろうが。

 

「この勢いで行けばレジスタンスどもの主要拠点を残らず叩き潰した頃にはもう中将か大将かもな!」

 

「流石にそれは無理じゃないか?」

 

アデルハイン大佐の予言にジークハルトは苦笑混じりに首を傾げた。

 

ハイネクロイツ大佐も「まあ軍団長殿とはいえ無理じゃねぇかな」と賛同した。

 

「それにファースト・オーダーとの同盟が締結された今、戦うのは我々だけじゃない。直接レジスタンスと戦うって機会も減りそうだしな」

 

「ファースト・オーダー……か」

 

ハイネクロイツ大佐の予測に出てきたその単語に何かが引っかかったのかジークハルトは更にソファーにのめり込みながら何かを考えた。

 

「どうしたんだ?」とアデルハイン大佐は彼に声を掛けた。

 

帝国ロイヤル・アカデミー時代からの付き合いとなれば些細な変化にもすぐに気づける。

 

他のヴァリンヘルト大尉やハイネクロイツ大佐も言われてみればと彼の様子の変化に気づいた。

 

「アンシオンにいた頃、視察と際してファースト・オーダーのスター・デストロイヤーに行ったことがあっただろう?」

 

「ああ、“ソリシチュード”だな。確か艦長がキャナディとかいう我々と同世代ぐらいの若い大佐だった。それがどうかしたのか?」

 

ハイネクロイツ大佐の返答にジークハルトは「重要なのは彼じゃない」と前置きをした。

 

確かにキャナディ艦長は優秀でジークハルトと殆ど同世代の人間だがそれよりも注目すべきなのはそちらでも特殊部隊司令官のハスクという人物でもない。

 

彼らの隣にいた物腰穏やかそうな人物、スターファイター隊の隊長と名乗った中佐。

 

「…ナッシュ・ウィンドライダー中佐、私はどこかで彼に会ったことがある気がするんだが……」

 

「気のせいじゃないか?」

 

「それか以前本当にどこかで会ったのかも。ファースト・オーダーも元は同じ帝国軍ですし何処かで行き合っていてもおかしくありません」

 

ヴァリンヘルト大尉の言うことは比較的最も的確だろうという感触があった。

 

帝国軍というのはそれだけでも巨大な組織だ、同世代の将校ですら全員を網羅するのは不可能であるし宙域を一歩跨ぐだけでそこには全く別の宙域軍がある。

 

その為どこかで会ったとしても記憶の奥底に薄れて保管されている可能性が一番高い。

 

だがジークハルトにはそれを否定する意識があった。

 

「そうだとは思うんだが……彼にはついこないだ…本当にこないだ会った気がするんだよな…2年も3年も前とかじゃなくて本当にこないだ」

 

「つまり……新共和国に対して宣戦した以降に会ったということですか?」

 

「そうだ大尉、だが…」

 

「そんなことはあり得ない。ファースト・オーダーは遅くとも2年前には完成していた組織だ。そこの将校が数ヶ月も前の銀河系で会うはずがない」

 

ハイネクロイツ大佐はジークハルトの意見をそのまま代弁した。

 

絶対にあるはずがないのだ、それでも彼と数ヶ月前に出会った気がする。

 

「気のせいかドッペルゲンガーってやつじゃないか?」

 

アデルハイン大佐はそう本人ではないのではないかと疑問を投げかける。

 

「そうだな…まあドッペルゲンガーとやらだったらそれはそれで恐ろしいが」

 

「失礼します。シュタンデリス准将、アデルハイン大佐、ハイネクロイツ大佐、全将校が揃いました。そろそろ作戦室にお越しください」

 

出迎えの将校が来た為この話は打ち切りとなった。

 

ジークハルトは留め具を止め直し「分かった」とソファーから立ち上がった。

 

他の面々も制帽を取りジークハルトの後に続く。

 

今は小さな疑問よりもやることがたくさんあった。

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部 親衛隊保安局区画-

ハイドレーヒ大将は彼にとって史上最大となるであろう大きなため息をついた。

 

報告書を読むだけで気だるい気分になるし無能に対する苛立ちが湧いてくる。

 

本当に、どうしてこう同じ帝国軍だったはずなのにまるで使えない連中ばかりなのか。

 

彼らは全員劣ったエイリアン種族の混血ではないのかと全く関係のないことまで考えてしまう。

 

「キールヘル小艦隊はチス・アセンダンシー領の国境沿いと予測される惑星キャルヒーコルで全軍消息不明。恐らく迎撃に遭い全滅したものと思われます」

 

フリシュタイン大佐の報告は更にハイドレーヒ大将に大きなため息をつかせた。

 

殆ど送られてきた報告書の文面をそのまま読み取っただけなのにハイドレーヒ大将にとってはそれだけでも気が重くなる。

 

最悪という言葉を何回使おうとも言い表しきれないものだ。

 

あれだけの支援と工作をしてやったというのにまるで役に立たなかった。

 

キールヘル中将麾下の小艦隊によるチス・アセンダンシーへの威力偵察、ハイドレーヒ大将が手を回した対アセンダンシーへの策略の一つだ。

 

彼らの戦力は小艦隊というにはかなり肥大化したものだったがそれ故に相手に与えられる打撃は十分であると予測していた。

 

ハイドレーヒ大将にとってキールヘル中将を差し向けることは建前上の威力偵察などではなくもっと大きな損害を与えることを望んでいた。

 

連中が途中のどこで力尽きようとどうでもいい事だがその際に与えられる打撃が大きければ大きいほど良い。

 

チス・アセンダンシーに大きな隙と混乱が与えられる。

 

そうすれば第三帝国の視察団もきっと連中の脆弱さを認識するだろうし老いぼれた総統閣下も決断するだろう。

 

やはり純粋な人間ではない相手など所詮は劣等民族に過ぎないと。

 

劣等民族を撃滅する為、優れた人間種による帝国を創り上げる為、彼らに宣戦する。

 

チスがどうした、そこに隠れ逃げ出した在弱な帝国の残党がどうした。

 

奴らを徹底的に叩きのめし我々の力を見せつけ劣等民族が劣等たる姿を見せつけなければならない。

 

それが我々親衛隊の役目であり、第三帝国の使命であるはずだ。

 

その為にはどんな工作も厭わないとハイドレーヒ大将は考えていた。

 

考えていたのだが使った駒があまりにも脆過ぎた。

 

その図体の割に彼らは土人形のようにすぐに砕け未知領域の闇に消えた。

 

彼らが死んでいくのは別に構わないがこれではまるで意味がない。

 

連中に被害を与えるわけでもなく奥地までとにかく前進するわけでもなくアセンダンシーの門前で蹴散らされただけ。

 

賭けた工作の割に成果があまりにも少なすぎる。

 

「全記録を抹消しろ。あんな連中など残しておく必要すらない」

 

「はい、わかりました」

 

ハイドレーヒ大将は苛立ちを隠さず彼らの存在を歴史からも抹消することを命じた。

 

冷徹で仕事の早いフリシュタイン大佐ならすぐに彼らの存在を消してくれるだろう。

 

元々使い捨ての刃のようなものだったから抹消も切り捨てるのも楽だ。

 

「しかしインペリアル級七隻にヴィクトリー級やアークワイテンズ級の小艦隊、あの程度の戦果なら取り上げて親衛隊に組み込んだ方がと考えてしまいますね」

 

フリシュタイン大佐はデータパッドを操作しながらそう呟いた。

 

彼の意見も分からんでもない。

 

インペリアル級が七隻もあれば親衛隊宇宙軍にとって相当良い土産になる。

 

本来の精強なる親衛隊員が扱っていればかなりの戦果を挙げていただろう。

 

「過ぎたことだ、もう忘れろ。それよりも何か他に報告は入っていないか?」

 

話を変える為にハイドレーヒ大将はフリシュタイン大佐に尋ねた。

 

「ナブーの諜報機関より恐らくレジスタンスの支援部隊がナブー内に侵入した事と間も無く支援を受けた抵抗組織が何らかの攻撃作戦に出る可能性が高いとのことです」

 

「ナブーか…親衛隊が向かわせた駐留部隊は」

 

「後二、三週間で到着します。サラストの戦いにより南部アウター・リムの整理もありますのでかなり遅れるとは思いますが」

 

駐留軍を送れれば現地の脆弱な王室保安軍には頼らなくて済む。

 

直接ナブーで親衛隊の部隊を徴収できるようになればアウター・リムでもエリアドゥなどに並んで大きな橋頭堡となるだろう。

 

「他に報告は」

 

「はい、アノート宙域で続く国境紛争ですが再びアデルハード側が敗北し後退したとの事です」

 

「鉄の封鎖の実行者も堕ちたものだな。いくら相手が英雄カルリジアンとはいえここまで敗北続きとは」

 

大将はアデルハード総督の失態を鼻で笑った。

 

元アノート宙域帝国残存勢力と今の第三帝国に繋がりはない為大きな実害はない。

 

だが元は同じ帝国軍の勢力がこうも負け続けているのを見ると落胆し鼻で笑うのも無理はないだろう。

 

特にハイドレーヒ大将のような性格であればなおさらだ。

 

「それでまた支援を拒否したんだろう。もういい、連中にはアノートの境でこのまま死んでもらう」

 

ハイドレーヒ大将はいつものことだと今度はこちらか拒否しようとした。

 

しかしフリシュタイン大佐は意外な一言を述べる。

 

「いえそれがアデルハード総督の部下の1人が秘密裏に我々に亡命しようとしています。それもアデルハード総督の艦隊の“()()()()()()”」

 

それはハイドレーヒ大将、曳いては親衛隊にとっても良い案件だ。

 

今は一隻でも多くの軍艦と1人でも多くの兵士が必要な時期である。

 

チス・アセンダンシーの戦いの為にも。

 

 

 

 

-惑星ナブー 首都シード シード宮殿-

シード宮殿にはクーデターに積極的に参加した将兵や役人に加えて恩赦や勝ち目がない事を悟りクーデター軍に協力するようになった者達も大勢いた。

 

おかげでクーデター軍は未だに体制を維持出来ているのだが当然この有様では脆い面もあった。

 

一部行政システムは停滞し末端に至っては機能していない所すらある。

 

更には王室解放軍によるスパイが幾人も紛れ込んでおり宮殿内の情報を仲間に漏洩していた。

 

何とか見つけ次第捕縛し即刻処刑しているのだがそれでも漏えいの穴を塞ぐことが出来ないでいた。

 

その為宮殿内にはスパイ以上のクーデター軍による監察官が各所に配置されており不穏な動きをする者や職務を停滞させる者を監視していた。

 

当然物的証拠や確定的な状況証拠が見つかればすぐ逮捕に移るし直属の長であるグリアフ一佐の一声があれば配置転換や逮捕が可能とされていた。

 

互いに見張りを効かせながらクーデター体制を維持する。

 

今のシード宮殿には見えない蜘蛛の糸のようなものが端から端までそこら中に張り詰められていた。

 

「おい、そこの。そこから先はあまり向こうに行かない方がいい」

 

1人の王室保安軍の一等宙尉がかなり若そうな新任と見受けられる将校を止めた。

 

彼は一尉の方に振り返り一尉の方に近づいた。

 

階級章を見るにこの新任将校はどうやらナブー王室海軍(Naboo Royal Navy)の三等海尉のようだ。

 

「えっと……何かまずい所でしょうか?」

 

三尉は一尉に尋ねる。

 

「この先は元玉座の間、現在の最高司令部だ。我々のような将校では入る事は出来ん」

 

「そう…なんですね。ここが……」

 

「どうした、まさか知らんのか?」

 

一尉は物珍しそうに扉を見つめる三尉に尋ねた。

 

流石に玉座の間程度なら宮殿内の見学会などで訪れることも多いはずだ。

 

事実一尉だって将校になる前に子供の頃、シード宮殿の見学会でこの玉座の間の中へ入った。

 

あの頃はまだ今ほど規制も厳しくなかった。

 

「えっいやその……実は私つい数日前に将校になったものでして…」

 

「今まで宮殿に見学に来た事はなかったのか?」

 

「はい、実は親族の伝を辿ってきた移民らしく、物心ついた頃から地方の農村で暮らしていました。宮殿どころかシード市も初めてです」

 

「なるほどな」

 

確かに数十年前ならばまだこのナブーも多くの銀河系からの移民を受け入れていた。

 

それに地方の農村部なら首都に足を踏み入れず宮殿に見学に来たこともないなんてあり得る話だ。

 

一尉は比較的都会の人間だった為あまりそのような事は考えたことなかった。

 

「でも海軍の特別募集で運良く合格して初めて宮殿に来ることが出来ました!」

 

「それはよかったな」

 

王室保安軍保安隊、王室海軍、スターファイター隊、王室宇宙艦隊は兵員増強の為にシードから地方の町村に至るまで各地で徴兵と将校への募集を掛けていた。

 

この三尉はたまたま将校の募集に合格したのだろう。

 

一尉はもうだいぶ前から王室保安軍に勤めていたが最近は彼のような新兵や新任将校が圧倒的に増えてきた事を感じていた。

 

「それで君の直属上官殿はどこにいる?」

 

「えっともうすぐ…」

 

「遅くなった!…ってそんなところで何をしているんだ?」

 

噂をすれば、三尉の上官と思わしき人物が右の通路から姿を現した。

 

王室海軍の一等海尉だ。

 

雰囲気や顔の皺からして恐らく一尉よりも長年王室保安軍に勤めていると思わせた。

 

「任務を終わらせてきた。帰るぞ三尉」

 

「はい、それでは」

 

三尉と一等海尉は一位に敬礼しその場を後にした。

 

一尉も敬礼を返し2人の背中を見送る。

 

2人は一尉から少し離れ他に誰もいないことを確認すると三尉の方が小さな声で耳打ちした。

 

「首尾は」

 

一等海尉はそれに対して「上々」と一言で答える。

 

「こっちもだよ。全部の箇所に爆弾を設置し自動防衛システムをハッキングして少し手を加えた。こっちの端末次第で戦闘可能だ」

 

「流石はジルディール上級中尉殿だ。三等海尉なんて割に合わんな」

 

相棒を褒め称えた一等海尉、のふりをしたジョーレンは軍帽を被り直した。

 

2人はガイルス二佐から貰った王室海軍の制服を着てこのシード宮殿に潜入していた。

 

あまりによく似合っている為そのまま海軍に溶け込みそうだった。

 

「途中でさっきの一等宙尉に絡まれて怪しまれかけたよ。ただおかげで敵司令部の位置を掴めた」

 

「となるとさっきの扉の向こうが玉座の間か」

 

敵司令部と最高司令官の居場所は玉座の間であろうとメンジス三佐から報告を受けている。

 

警備は厳重だろうがその奥には必ず敵司令官がいると。

 

「でも宇宙艦隊所属のあの一尉ですら入れないのなら海軍将校の我々は絶対に入れないと思う。爆発の混乱に乗じたとしてもだよ」

 

「だろうな、司令官の懐刀がメンジス三佐の言った通りの人物ならむしろ玉座の間全体が封鎖されて鉄壁の防御体制に移行するだろうて」

 

既に見えただけでも衛兵が2人、更に警備兵があの広間だけで一個分隊以上。

 

それだけでも十分な数だ。

 

「じゃあやっぱり通気口からの潜入を?」

 

「ああ、それしかない。幸いにも我々なら入れる」

 

2人はそのまま宮殿内のとある部屋に入った。

 

宮殿に潜入中のスパイ達が用意したこのスペースには彼らが持ってきた多くの武装やアーマー類が保管してあった。

 

部屋に入ると自動的にドアのロックが掛かり中には誰も入れないようになる。

 

軍帽を脱ぎ捨て急いでアーマーと戦闘服に着替え始めた。

 

ブラスター・ライフルを手に持ちヘルメットを被る。

 

彼らの準備は万全だ。

 

コムリンクを開いて本隊に通信を取った。

 

「救出チーム、用意は」

 

『こちらの準備万端です』

 

その返答だけで十分だ。

 

コムリンクを切りジョーレンは持ち物をスイッチに持ち替えた。

 

このスイッチが押される瞬間、この作戦は始まる。

 

同時にナブーの命運を決める戦いがスタートするのだ。

 

 

 

 

その日、シード宮殿は市街地からも見えるほど光と市街地からも聞こえるほどの轟音に見舞われた。

 

煙が吹き出しシード市民はその音と後継に動揺の声を上げた。

 

普段は市街地の方が危険だというのに。

 

シード内に展開する保安隊員達は本隊や宮殿本部に通信を取った。

 

兵士達も皆混乱し部隊長やシードで指揮を取る大隊長クラスの指揮官達も皆指示に困っていた。

 

一方の宮殿内は阿鼻叫喚といった有様である。

 

突如何かの装置が起爆し兵舎や宮殿の防御施設に大きなダメージを与えた。

 

隔壁システム、通信システム、対空システム、最終防衛システムなど様々な宮殿内の設備が破壊された。

 

外壁や柱が崩落し即死した保安隊員の遺体や重傷を負った隊員がそこら中に転がっていた。

 

生き残った隊員や二次災害や第二の爆発を警戒しながら負傷兵の救護と回収に動き出した。

 

さらに手の空いた者は武器を手に取って戦闘配置に着き生きている機器を駆使し宮殿内や都市部に救援を求めた。

 

幸い地下施設や監房室に駐屯していた兵員は殆どが無事でありすぐに救援に駆けつけた。

 

重火器や医療器具を手に持ち半数以上の保安隊員や在中していた水兵、宇宙艦隊の乗組員が上階に駆け上がる。

 

「急いでバクタをくれ!!手持ちの装備じゃ応急処置が限界だ!」

 

「こっちも頼む!」

 

「こっちもだ!早くしてくれ!」

 

瓦礫の中で多くの隊員と役人が負傷兵の救護に当たり駆けつけた保安隊員達も彼らを助けた。

 

バクタ液の入ったスプレーや注射器を手に取り保安学校で習った通りに適切な治療を施す。

 

かなり酷い傷を負っている者は皆簡易担架に運ばれて地下の医療施設に連れられた。

 

「鎮痛剤を、後コルト放射器をとってくれ。この傷ならコルトで十分だ」

 

「了解」

 

「負傷兵の介護は衛生隊に任せて我々は襲撃者捜索に向かうぞ!」

 

1人の宮殿警備隊長が隊員達に命じて部隊を動かす。

 

2人から3人のユニットが宮殿内に散開し警備と偵察に出る。

 

全員がCR-2ブラスター・ピストルかE-11ブラスター・ライフルを装備しており完全な戦闘体制だった。

 

「クリア、敵影及び危険物なし」

 

『第二階層保管室、こちらもクリア』

 

『こちらも敵影なし。生存者の避難活動を開始します』

 

コムリンクを介して情報が交換され各部隊の状況が明確化される。

 

どの部隊も未だ敵との遭遇はなし、非戦闘員の避難も行えるほど戦闘の兆しはなかった。

 

「もしかしたら爆弾を仕掛けたやつは自分の爆弾に巻き込まれてぶっ飛んじまったのかもな」

 

1人の保安隊員が軽口を叩けるほど辺りは静かだった。

 

「バカ言うな。とにかく奥に進んでさらに捜索するぞ。もしかするとまだ生存者が残っているかもしれない」

 

「了解」

 

CR-2ブラスター・ピストルを構え3人の保安隊員が前進する。

 

すでにドアはシステムの損傷により開かず隊員達はそれを無理矢理こじ開け奥に進んだ。

 

瓦礫が足元に散らばり破片の砂埃が空気中を漂っている。

 

芸術的なシード宮殿も紛争の時代のような有様だ。

 

「敵影は…なさそうで…グッ…!」

 

「おい!」

 

隊員の1人が突如飛んできた赤い光弾に撃たれ地面に倒れた。

 

生き残った2人の保安隊員は片方が撃たれた隊員を引きずり近くの物陰に隠した。

 

同じように2人が物陰に隠れる中保安隊員を襲った光弾は更に威力を増して放たれた。

 

赤い光の弾が生者を全て一掃しようと建物を削りながら弾丸をばら撒く。

 

「自動防衛システム…!?なんで起動してるんだ……それにどうして…」

 

「わかるもんか…!クソッ!」

 

CR-2の引き金を引き応戦するも敵方の勢いの方が強く保安隊員は身を隠す他なくなった。

 

このシード宮殿にはいざ敵軍が内側にまで攻め入ってもいいようにいくつかの自動防衛兵器を備えている。

 

ソルーナ女王時代はまだなかったのだがクリース宙将の統制下ではシード宮殿内もより武装された。

 

むしろクーデターでナブーを手に入れたクリース宙将からすれば宮殿内の警備を厳重にするのは当然の帰結である。

 

外部に対して強力な“最終防衛装置”があるシード宮殿だが内側には特にこれといった施設はない。

 

防衛も保安隊員を総動員して簡易的なバリケードを作り死守する他ない。

 

それでは“裏切り者”が出た時に対処のしようがない。

 

帝国軍から仕入れた武器類の一部を自動防衛システムに組み込みシード宮殿内の防衛と自らのような反乱分子が組織的に反抗した際の対抗装置とした。

 

きっとこの装置がもっと早くに考案されていたらクリース宙将達ももう少し苦戦していただろう。

 

今のように。

 

ブラスター・タレットが高火力を撃ち出しながら保安隊員達を足止めする。

 

「チッ!なんとかしないと……おい!来るな!」

 

味方の隊員の姿がチラリとドアの隙間から見えた為保安隊員は思わず大声を出して静止する。

 

しかし声を上げた時にはもう手遅れで接近してきた3人の保安隊員達は皆自動防衛システムの牙の前に斃れた。

 

目の前で撃たれる仲間を前に彼らはどうすることも出来ない。

 

下手すれば自分達が撃たれてしまう可能性があった。

 

すると各所からも救援を求める声が響く。

 

『今すぐ救援かシステムを復旧してくれ!暴走した自動防衛兵器が我々を攻撃している!』

 

先程二階の保管室の安全を確認した部隊からの通信だった。

 

安全を確認した時とは違いコムリンクの奥から銃声の音が聞こえ報告する隊長の声も焦りを帯びていた。

 

向こうでもこちらと同じように自動防衛システムの襲撃を受け捜索が停滞している様子だ。

 

『こっちも援軍を要請する!』

 

『我々は隊の半分がやられた!負傷兵だらけだ!』

 

「我々も隊員1名と後方から来た3名が負傷した。今すぐ援軍を頼む!…………チィ!一体どうなってるんだ!クソッ!」

 

コムリンクを切り隊員はそう悪態をついた。

 

だがこの攻撃の当事者にとってはその“()()()()()()()”という混乱を誘発することこそが成功だと思っていた。

 

事実、爆発により多くの保安隊員が死傷し警備と捜索の為に地下施設や監房室から兵員が引き抜かれた。

 

更には自動防衛システムの暴走により部隊に更なる負傷者と停滞が生じ突破の為により多くの兵員が必要になるだろう。

 

だが今市街地から兵員を向かわせることでは出来ない。

 

再び抵抗組織の襲撃に遭いシード内に出回っている全ての保安軍は鎮圧に回されシード宮殿に迎える者はごく僅かとなった。

 

結果的に兵員の展開源をより地下に依存する事となる。

 

揺動としては大成功だとジェルマントジョーレンはボロボロのシード宮殿を進みながらそう思った。

 

「おいあれはてきへ…!」

 

「まて…!」

 

2人に気づいた保安隊員をジョーレンが容赦なくブラスター・ピストルで撃ち殺す。

 

彼らを止める者はもう他にいない。

 

2人はそのまま予定していたルートを目指しひたすらに走った。

 

「目の前のあれ!大型の通気口を伝っていける!」

 

「よし!お前から先に登れ!」

 

ジェルマンはブラスター・ライフルを下ろし肩からぶら下げた状態にするとそのままの勢いで壁のへこみに足を掛け力を込めて登った。

 

そのまま両腕を突き上げ指を掛けられそうな壁の出っ張りを掴む。

 

ポケットからブラスター・ピストルを手に取り通気口の入口を無理矢理こじ開けた。

 

発砲音と共に火花が飛び散り大穴が開く。

 

「行ける!」

 

ジェルマンはそのまま通気口の中に入り暗闇を進んでいった。

 

辺りを警護していたジョーレンもすぐその後を追い同じように通気口の中へと入っていった。

 

流石に明かりの一切ない通気口の中は暗すぎる為彼らはヘルメットに付けた小型のライトを点灯した。

 

これでかなり先までよく見える。

 

匍匐前進の様相で2人はゆっくり確実に目的地に進んでいく。

 

まさかレジスタンスの情報部員と特殊部隊員が宮殿の通気口を匍匐前進して進んでいるとは誰も思わないだろう。

 

「後、どのくらい進めばいいんだ」

 

「一箇所だけ触って分かる程度に素材が違う面がある。そこが出口だ、爆発物を投げて一気に降りるぞ」

 

「分かった」

 

2人はそれ以降会話も殆どする事なく静かに前に進んだ。

 

声を出せば怪しまれたりバレたりする可能性が高まる。

 

耳を澄ませばあちこちで銃声を人の声が聞こえてきた。

 

どれも助けを呼んだり撃たれて倒れる断末魔の声ばかりだ。

 

彼らに同情が湧かないわけではない。

 

特にまだ若く経験の比較的薄いジェルマンは余計にだった。

 

しかしこれは任務であり必要な事だと割り切らざるを得ない。

 

こうでもしないと罪のない人々が下で苦しんでいる兵士たちと同じ目に遭う。

 

いや、もう既に遭っているのだ。

 

第三帝国の間の手によって。

 

このナブーだってそうではないか。

 

そうやって割り切り冷徹に作戦成功に全力をかける他なかった。

 

通気口に入ってから暫くしてジェルマンはようやく出口を見つけた。

 

ジョーレンの言う通り確かに一箇所だけ触り心地が違うものがあった。

 

ライトを照らしよく見るとそれはこの通気口に侵入する際にジェルマンがブラスター・ピストルで撃って壊した部分によく似ていた。

 

「見つけた…!」

 

その一言に「よし、やれ」とジョーレンが命ずる。

 

ゆっくり静かに出口を開き爆弾を投擲出来る隙間を開ける。

 

十分なサイズだと確認出来たジェルマンはピンを引き抜きインパクトグレネードを下に投げ入れた。

 

爆発音が聞こえ辺りに破片が飛び散った様子が少しだけ見える。

 

2人は「十分だ」と頷きジョーレンを先頭にそのまま通気口から抜け出た。

 

A300ブラスター・ライフルを構え周囲の安全と敵影を警戒する。

 

更にジェルマンも降り立ち2人は背中を合わせながら辺りを警戒した。

 

「クリア」

 

ジョーレンのその一言と共に2人は一気に扉まで近づく。

 

この先を越えればすぐに玉座の間に辿り着ける。

 

敵将を最も簡単に暗殺出来るのだ。

 

「俺はブラスター・ピストルに持ち替える。周囲の敵兵掃討はお前がやってくれ」

 

「了解」

 

ジョーレンはA180ブラスターのピストルモードに持ち替え両手で構える。

 

ジェルマンもそれに感化されてA280-CFEブラスター・ライフルを握り締めた。

 

「行くぞ」

 

彼の合図と共にドアが開きジョーレンはその隙間からA180の銃口を突き出し真っ直ぐ玉座のある場所に狙いを定めた。

 

更にドアが開きジョーレンはそのコンマ0.何秒の隙間に銃弾を叩き込んだ。

 

三発のブラスター弾が一瞬のうちに放たれ玉座に座る者を撃ち殺して“いただろう”。

 

弾丸はジョーレンの驚きの顔を表すように目標に命中する事なく近くの壁に全てぶつかり消滅した。

 

何せ玉座どころか玉座の間には誰もおらず暗殺対象のターゲットがその場にいないからだ。

 

玉座の間はもぬけの殻であり将校どころか警備兵すらいなかった。

 

「誰もいない…?そんな馬鹿な!?」

 

2人は急いで玉座の間に駆け出し辺りを見回した。

 

だがどこを見ても人はいない。

 

背後に大きなシーヴ・パルパティーンの肖像画が飾られ無駄に整った綺麗な玉座の間に相応しい光景が広がっているだけだった。

 

「嘘だろ…?そんな馬鹿な…」

 

「もしかして……嵌められたのか…?」

 

ジェルマンの予測を否定出来るほど今の状況は芳しくない。

 

明らかにかなり前からこの玉座の間には誰もいない様子だ。

 

ついさっき逃げ出したのならこの場所はもう少し荒れた様相のはずだ。

 

されど一回綺麗に掃除でもされたかのように玉座の間は美しいままだった。

 

そんな彼らに更に不幸な通信が届く。

 

それは女王救出の為に監房室を攻撃しているメンジス三佐らの特殊部隊からの通信だった。

 

ジョーレンがコムリンクを開き「どうした!?」と慌てて声を掛ける。

 

『少佐!こちらは監房室に到着し全区画を開放したのですが“女王陛下のお姿が見当たりません”!!それどころか囚人1人いないもぬけの殻です!』

 

ジェルマンの予測はこの時点で完全に立証されていた。

 

彼らは嵌められたのだ。

 

その事実を込めてジョーレンは弱々しく口を開く。

 

「やられた……どうやら俺たちはノコノコと蜘蛛の巣の中に迷い込んだらしい」

 

彼のその言葉が言い終わった瞬間玉座の間は侵入者を存在を告げる警報が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 アウター・リム・テリトリー オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド ウェイランド・ミディ=クロリアン研究所-

ウェイランド研究所は名目上100%の稼働率を有していた。

 

各地の収容所及び帝国アカデミーから送られてきた“()()()()”と“()()()”は順調に育成され実験が行われている。

 

彼らが第三帝国から要求された事は大きく分けて二つあり最終的に二つの目標は密接にある一つの目的を成功させる為に行われていた。

 

一つはミディ=クロリアンの人為的な培養、生産だ。

 

ミディ=クロリアンという共生生物を人為的に培養することに成功すればそれは大きな発展に繋がる。

 

その過程で“フォース”というものの核心に迫れるかもしれない。

 

そしてもう一つは他者のミディ=クロリアンを人為的に他者へ移植することであった。

 

フォースとは体内に共生するミディ=クロリアン値が高ければ高いほど反応を示しその超人的な力を与えてくれる。

 

ならばだ、他人のミディ=クロリアンを他人へ移植することが出来れば元の値が低い人間であっても強制的にフォース感受者と変貌させる可能性を秘めていた。

 

たとえば細胞ひとつに2,500程度のミディ=クロリアンを持つ人間であっても同じミディ=クロリアン値を持つ5人の人間からそれぞれ500ずつ移植し死滅する事なくなじめばそれだけで5,000のミディ=クロリアンを持つ人間となる。

 

無論細胞ひとつでは意味がない為同じような行為をもっと拡大して大規模に実行するのだがこれだけでフォースとの交信は十分可能でフォース感受者へと変貌するのだ。

 

そしてミディ=クロリアンが人為的に培養出来るようになれば移植と組み合わせて人為的にフォース感受者を大量に生み出すことが出来る。

 

つまりフォースを兼ね備えた兵士を人為的に生産する事が可能になるのだ。

 

そうなれば第三帝国は今までよりも強大な兵士を手にしその能力で全ての敵対勢力を圧倒する事が容易となる。

 

トレードチップ計画(Project-Tradechip)の持つこの恐るべきフォース感受者戦士の製造計画の研究がこの地で行われているのだ。

 

「被験体2-11の成長度はあまり芳しくありません。移植したミディ=クロリアンの半数が既に彼の体内に適応出来ず死滅しています」

 

「だろうな、土台上手くいく訳ないんだ。ミディ=クロリアンの強制移植なんて」

 

コンソールをタップして報告書を書きながらヴォーレンハイト少将は部下の研究員の報告に答える。

 

少将は研究員に目も合わせず返答も冷たい声音だった。

 

「でも現に上手くいってる非検体だっているじゃないですか。“()()()()()()()()()”とか」

 

研究員はヴォーレンハイト少将の返答に軽口を浮かべるように例題を挙げた。

 

彼の名前を出した瞬間ヴォーレンハイト少将の白髪混じりの眉毛がピクッと動く。

 

ただそのことに研究員は気づいていないようだが。

 

「ブルクハルトは……彼は元より感受性が高い上に他者のミディ=クロリアンであっても適用率がかなり高い特別な存在だ。他とは比べ物にならない」

 

ブルクハルト・オットー・フューリナー、あのフューリナー上級大将の子はかなり特殊な体質と目されていた。

 

そもそも“()()()()”自体が特殊である為それも要因に含まれているかもしれない。

 

今の所彼だけが唯一の成功例と言っても過言ではない。

 

むしろ実験規模に比べてその結果が振るわないと言った状況だ。

 

殆どの場合が失敗、もしくは長期的な維持が不可能となり大抵の場合が移植したミディ=クロリアンが上手く共生出来ない。

 

その度その度に被験体は原因不明の苦痛に襲われ苦しむ事となる。

 

ヴォーレンハイト少将はそのような子供達にも真摯に向き合いひたすらに謝罪の言葉を述べているのだが他の研究員や将校たちからすればどうでもいい話だ。

 

「あの子が苦しみ出したらまた呼んでくれ。バイタルチェックと精神状況を直接診る」

 

「はい、わかりました。後バクタ医療剤の追加発注とバクタ・タンクの増設ですが上にどう報告します?対レジスタンス戦も激化すると思うのでバクタもタンクも増設は難しいと思いますが」

 

このウェイランド研究所には実験によって傷を負った被験体や実験材料を素早く治療する為に多くのバクタ施設があった。

 

元々設計では現在の規模より小さかったのだがヴォーレンハイト少将の強い進言によって更に増設された。

 

「材料とはいえ全員平等に貴重なフォース感受者だ。そうそう簡単には死なせられん、この研究はやがて実戦にも持ち出される重要な代物だ。強く推せばシュメルケ元帥殿辺りがわかってくれる」

 

「わかりました、ではそのように。これにて失礼します」

 

「ああ」

 

研究員は資料を纏めその場を後にした。

 

人気がなくなったのを確認するとヴォーレンハイト少将は小さくため息を吐き再び報告書の作成に注力した。

 

全て詭弁、されど必要なことだ。

 

ヴォーレンハイト少将は収容所から連れてこられたエイリアン種族達をここでなるべく殺してほしいという親衛隊上層部の思惑を重々承知している。

 

彼らにとって最も忌むべきなのはレジスタンス以上にエイリアン種族と近人間種族だ。

 

病的なほどの憎悪は猟奇的な収容所、絶滅行動へと親衛隊を走らせた。

 

されどヴォーレンハイト少将の力では今の親衛隊を止めることが出来ない。

 

それはきっと少将よりも上の位の者ですらそうだろう。

 

おそらくはフューリナー上級大将やシュメルケ元帥もだ。

 

だからこれは本当に小さな反抗かもしれない。

 

エイリアン種族や近人間種族であろうと平等に扱い命をなるべく救う。

 

この収容所で唯一ヴォーレンハイト少将だけが彼らを1人の“()()”として扱っているとされるほどである。

 

こんな非人道的な実験をしているのにそのような偽善じみた行動をと多くの常識者達は思うはずだ。

 

だがそれは半分正解で半分不正解であった。

 

このような偽善じみた行為で目の前の消えかけた命を救い人として接していないとヴォーレンハイト少将の心はもう持たないところまで来ていた。

 

彼ら彼女らをひたすら実験の材料や被験体として考え今のような実験をひたすら繰り返していてはヴォーレンハイト少将の心が罪の意識に押し潰され壊れてしまう。

 

鉄の仮面を被ろうとすれば狂気に取り憑かれる前に心が破壊されてカスパー・ヴォーレンハイトという1人の人間が人間としての心を失ってしまうのだ。

 

既に日々の生活でも何かの拍子に手が震え実験の後は吐き気を催し隠れて吐いていた。

 

食事が基本喉を通らないので宇宙軍御用達のレーションで済ませている為吐き出されたものは少ないし何かが残ったような感触を感じ後味は悪い。

 

何せいくら吐き出そうとしても自分の行った行為とそれからくる罪悪感は吐き出せないからだ。

 

そうして罪を溜め込みここまでなんとか来た。

 

傲慢だということは当人も自覚しその度に自らを殺そうと何度も思った。

 

これだけの実験をしておいて、幼い子供達に痛みと恐怖を与えておいて1人だけ心が壊れてしまいそうになるだなんて傲慢で最低で下劣なものだ。

 

知っていることを大きな声で誰かに伝えないのは保身からだと知っているし非人道な実験をおこなっていることに変わりはない。

 

結局は傲慢で偽善の悪魔であると自覚していた。

 

しかし過去にあるトラウマと未だ心に残る良心が彼にしっかりとその分の罰を与え罪から逃れないよう縛り上げた。

 

ヴォーレンハイト少将の心と行いは壊れはしなかったがどんどん歪んでいった。

 

故にこのウェイランド・ミディ=クロリアン研究所は第三帝国の中でも最も非道な実験を行いながら所長が自ら被験体や実験材料の精神ケアを行うという歪んだ体制を作り出していた。

 

そこに善とか悪とかがあるのか、もう分からない。

 

ヴォーレンハイト少将のそのような価値観は殆ど死に絶えているようなものだし他の研究員も皆倫理観が欠如した者が大半だ。

 

親衛隊の警備員らも皆「祖国の為だから仕方ない」と割り切るよう促すだろう。

 

一言だけ言えるとすればヴォーレンハイト少将はこの歪んだ場所から当分は逃れられないということだ。

 

彼はもう暫く正気を保ちながら狂気に触れ続けなければならない。

 

それがヴォーレンハイト少将にとっての罪であり罰となるからだ。

 

「…正気じゃないな、私も、銀河も」

 

独り言を呟きながらコンソールをタップしていると彼の左隣から小さな男の子の声が聞こえた。

 

「少将、そろそろ散策の時間です」

 

ヴォーレンハイト少将が振り返るとそこには金髪で同じような色をした綺麗な瞳を持つ美形の男の子が白衣の裾を引っ張っていた。

 

一体いつからそこにいたのか、ヴォーレンハイト少将は気づかなかった。

 

ブルクハルト、この子は本当に底が見えず故に特別な存在である。

 

「もうそんな時間か……すまない、ブルクハルト。今から準備するからもう少し待っていてくれ」

 

「わかりました」

 

ブルクハルトは小さく微笑んで戻っていった。

 

少将もひとまずデータを保存し椅子から立ち上がる。

 

ブルクハルトも随分とヴォーレンハイト少将を慕っているようになった。

 

シュメルケ元帥に連れてこられた頃の彼はまだこの世の全てが敵のような有様で今のように暖かい声音で話してくれることはなかった。

 

まだ硬い面はあるが今のようにヴォーレンハイト少将を呼びに来てくれることはなかった。

 

嬉しい反面、こんな罪人にあまり慕ってほしくないという気持ちもある。

 

「はあ……私は一体いつまで過ちを繰り返せばいいんだろうな」

 

ヴォーレンハイト少将はそう言って白衣を脱ぎ捨てコートを取った。

 

ブルクハルトとの散策の時間だ。

 

 

 

 

 

玉座の間に繋がる中央のドアが開き一斉にDTL-19やE-11を装備した最精鋭装備の保安隊員が玉座の間に突撃する。

 

ブラスター弾が飛び交いあっという間に広間を制圧してしまった。

 

「あそこに敵がいるぞ!撃て!」

 

指揮官のハウント三佐は隊員達を指揮しながら敵の位置を見つけ指示する。

 

一斉に人影へブラスター弾が放たれ外れた弾丸が玉座の間のガラスを撃ち破り破壊した。

 

「チィ!一斉に来やがった!」

 

ジョーレンはA300ブラスター・ライフルで応戦し2人ほどの保安隊員に直撃を喰らわせたが全然数が減らない。

 

ロックしている間に簡易的なブラスター・タレットを設置し少しでも火力を増強しているのだがそれでも2人だけでは全然人が足りなかった。

 

ジェルマンも左の階段から迫る保安隊員をA280-CFEで狙撃し1人を撃ち倒す。

 

倒された保安隊員はすぐ仲間に連れられ救護を受けていた。

 

「このままじゃまずい!」

 

2人が銃撃する度に保安隊員達はその倍の威力で反撃の嵐を繰り出してきた。

 

タレットも合わせて彼らは既に5人ほどの敵兵を撃ち倒しているがそれでもまるで数は減らない。

 

むしろ更なる増援が控えているようで倒せば倒すほど次の部隊が送り込まれてきた。

 

更にはライオット・シールドや小型の携帯用シールドを使い攻撃を防ぐ手立ても行っている。

 

「早く脱出しないと!」

 

ジェルマンはそう言うがこの状況での脱出はかなり困難だ。

 

何せ出口が殆どない上に少しでも攻撃の手を休めれば敵軍の一斉射撃を喰らう。

 

「分かってる!」

 

ジェルマンはA280-CFEを冷却しながら息を整える。

 

彼の視界にその時あるものが入った。

 

冷却が終わり再び応戦を始めた瞬間ジェルマンは何かを思い付き隣でインパクト・グレネードとサーマル・デトネーターを投げつけるジョーレンに伝えた。

 

「ジョーレン!!脱出しよう!!窓から!!」

 

「何!?窓から!?」

 

ジョーレンは急いでジェルマンが指差す方を見た。

 

的を外れたブラスター弾が次々と窓に着弾しガラスを完全に破壊している。

 

ジョーレンは経験則からすぐにジェルマンの伝えたい意図を導き出した。

 

「パラシュートかケーブル・ガンを持ってるか!?それだけで十分だ!」

 

「両方持ってる!」

 

「ならお前から行け!ケーブル・ガンの方で!」

 

「分かった!」

 

ジェルマンは低い姿勢のまま一気に窓の近くに接近しA280-CFEにアセンション・ガンを取り付ける。

 

その間にジョーレンはジェルマンの脱出を支援しようとA180をブラスター・ライフル・モードに転換し二丁銃の態勢で敵を攻撃した。

 

敵兵はあまりの集中火力によりジョーレンから目を離すことが出来なくなった。

 

「あそこに脱出しようとしている奴がいるぞ!撃て!」

 

ハウント三佐がジェルマンを撃つよう命じたが撃たれたのは三佐の方であった。

 

ジェルマンを攻撃する者は徹底的に撃ち倒された。

 

ジョーレンが支援する中ジェルマンはケーブルを壁に撃ち込み壊れた窓から脱出した。

 

ケーブルを伸ばしながら下へ、下へとゆっくり降りていく。

 

『よし!降りれた!』

 

コムリンクからジェルマンの声が聞こえジョーレンも離脱を開始した。

 

スモーク・グレネードを投擲し敵の視界を遮る。

 

精密射撃が不可能になった相手の保安隊員達は階段を登り玉座の間に更に接近しようとしてきた。

 

しかし彼らはまず第一の罠に引っかかる事になる。

 

ある1人の保安隊員が階段を数段登った瞬間突然周囲を巻き込んで爆発を起こした。

 

それは反対側の階段でも同じことが起こっていた。

 

2回の爆発により多くの保安隊員が死傷し一旦進軍は停滞した。

 

その隙にジョーレンはジェルマンと同じようにケーブルを撃ち込みゆっくりと降りながら玉座の間を離脱した。

 

「結局何の成果のなしだったな」

 

ケーブルを切り離しジョーレンはアセンション・ガンをポケットにしまう。

 

代わりにブラスター・タレットの自爆スイッチを押す。

 

これで相手が得るものはもう何もないはずだ。

 

「これからどうすれば……」

 

屋根の上でジェルマンは弱々しく尋ねた。

 

「女王の救出を続行するしかない。恐らく女王は我々が“()()()()()()()()()”にいるはずだ」

 

「まさか軌道上の艦隊のどこかに…?」

 

ジェルマンは上を見上げた。

 

確かにジョーレンの推測は一番女王の居場所に近いと思う。

 

地上の海軍基地や保安隊基地、スターファイター隊基地では奇襲攻撃が可能だ。

 

だが軌道上の艦隊ならどうだろうか。

 

少なくとも現状の王室解放軍の戦力では到底救出は無理だ。

 

何せ艦隊に乗り込む術どころか宇宙に行ける機体すら少ない。

 

仮に乗り込んだとしても主力艦艇は何十隻もいる為どこにいるのか分からない。

 

更には艦隊同士の連携や兵員支援も容易に行えるので乗り込む側の部隊はかなり不利となる。

 

それに宇宙艦隊はクリース宙将の直轄である為信頼出来る精鋭達がごまんといるだろう。

 

最も安全で最も信頼のおける移送地だ。

 

「クリースという人物ならきっと自分の乗艦、艦隊の旗艦にするだろう。その上で他の艦を交えて相手を惑わし鉄壁の防御を構築しているはずだ」

 

「じゃあ船かスターファイターが必要になる。どこから手に入れる?」

 

「そんなの決まっている」

 

ジョーレンは指を差してその場所を言う。

 

「王室の宮殿格納庫、ここなら少なくとも宇宙へ行ける代物があるはずだ」

 

ジェルマンも小さく頷き2人は屋根の上を走り出した。

 

その間にジョーレンはコムリンクを開きメンジス三佐達に連絡を取った。

 

「今どうなっている!?」

 

『敵部隊に包囲されかけています!ひとまず監房室からは脱出しましたが…!』

 

「ならなるべく急いで宮殿格納庫まで来てくれ。我々はそこで船か戦闘機を奪って敵艦隊に乗り込む!」

 

『女王はそこにいるのですか!?』

 

「確証はないが可能性は一番高い!とにかく離脱の為にも船が必要だ!何とか頼むぞ!」

 

『了解……!』

 

通信を切りジョーレンは「あの草陰に飛び降りるぞ!パラシュートを使え!」と指示を出す。

 

2人は勢いよく屋上から飛び降りパラシュートを開いた。

 

ゆっくりと地上に落下しパラシュートの切り離しと共に草陰の中に入った。

 

急いでブラスター・ライフルを手にし戦闘に備える。

 

「おい、今何か落ちた音がしなかったか?」

 

近くを通りがかった保安隊員が相方の保安隊員に軽く尋ねた。

 

しかし「気のせいだろう」と軽く流されてしまった。

 

2人の保安隊員はそのまま近くに停泊しているフラッシュ・スピーダーに乗り込んだ。

 

「急いで格納庫に行くぞ。イェアル保安隊長から警備を命じられた」

 

「了解」

 

会話を聞いたジョーレンは「あれに潜むぞ……!」と草陰から飛び出し2人とも発進する前のフラッシュ・スピーダーの荷台に飛び乗った。

 

少し大きな衝撃を与えてしまったがちょうどエンジンが掛かっていたことによりかき消された。

 

スピーダーはそのまま会話通り保安隊員2人とジェルマンとジョーレンを乗せて宮殿格納庫まで到着した。

 

フラッシュ・スピーダーを停泊させ2人の保安隊員は警備の任についた。

 

「…思ったより少ないな…」

 

格納庫の様子を眺めながらジョーレンはそう呟いた。

 

本来全機が停泊しているはずのN-1スターファイターシリーズの格納スペースも半分が空になっていた。

 

思いの外シャトルや輸送機も少ない。

 

「でもあれなら使えそうだ」

 

ジェルマンは真ん中で多くの整備兵達に囲まれながらパーツの交換や弾薬の補給を受けている1機のシャトルを指差した。

 

「あれはボマー……いやTIEのボーディング・クラフトか。何でこんなところに」

 

TIEボーディング・クラフト、TIE/brボーディング・シャトルとも呼ばれるこの機体はTIEボマーに限りなく似た形状の兵員輸送機だ。

 

基本的には他のTIEファイターと同じくこの機体も帝国軍や元帝国軍が使用している。

 

「重火器やE-11と同じで支援として受け取ったんだろう。そう遠くない日に問題なくTIEシリーズの機体も使えるようにって」

 

「なるほどな……だが我々としては好都合だ。他の旧型の機体よりもあれなら良くも悪くも最新鋭で性能が高い。あれを奪うぞ」

 

2人はゆっくり、ゆっくりと回り込みながらTIEボーディング・クラフトに近づいた。

 

周囲には多くの保安隊員が警備の為周回していたが物陰に隠れながらやり過ごす。

 

途中で1人の保安隊員に見つかり始末したということもあったが。

 

ドロイドや輸送用のホバー・クラフトに隠れながら2人は船体の影に隠れた。

 

「ハッチが開いている、今なら潜入出来る」

 

「ああ……救出チーム、そっちはどうだ?」

 

コムリンクを開き周囲を警戒しながら小声で尋ねる。

 

『何とか……なんとか追手を巻いて今格納庫のすぐそばまで向かっています…!』

 

「分かった、こっちで今帝国式のボーディング・クラフトを乗っ取る。そいつでひと暴れするからそっちも船を見つけて離脱しろ。女王は我々で必ず救出する」

 

『わかりました…!』

 

コムリンクを切りゆっくり、静かにTIEボーディング・クラフトのハッチに近づく。

 

周りの物音や呼吸、風の流れに同化するように動く2人に気づく敵兵は誰もいなかった。

 

2人は一気にハッチを渡りコックピットまで向かった。

 

ジョーレンが席につき機体のシステムを起動する。

 

急いでハッチを閉じ出撃できるよう各種機能を確認する。

 

「動かせるか!?」

 

「あったりまえだ。TIEなんてどれだけ乗り回したか…」

 

モニターのパネルが光り機体の状況をコックピットに座るパイロットへ教えた。

 

ケーブルや安全装置の装着を知らせこのままでは発進出来ないと小さな警報を鳴らした。

 

「こっちからロックを解除出来るのか」

 

解除スイッチを押すとTIEボーディング・クラフトを固定していた安全装置が外れ機体が少し浮遊した。

 

だがそれは当然機体の異常を外の保安隊員達に気づかせる原因にもなる。

 

「おい!シャトルが起動しているぞ!どうなっている!?」

 

「中に誰かいる!誰だ!」

 

「早く機体を戻せ!聞こえてんのか!」

 

整備兵や集まってきた保安隊員達にヤジを飛ばされブラスター・ライフルを向けられる。

 

だが敵に戻せと言われて戻す兵士は卒業前の候補生だろうと存在しない。

 

ジョーレンは言われた事と反対に機体の出力を上げて一気にTIEボーディング・クラフトを浮上させた。

 

周囲の整備兵達が動揺の声をあげながら周りに飛び散り保安隊員達は「うっ撃つぞ!」と牽制し続けている。

 

機体を飛ばそうと操縦桿を前に倒すが機体にまだ繋がっているケーブルなどが邪魔をして引き離せない。

 

「出力を上げてブチ切ろう!」

 

「ああ…!」

 

エネルギーをエンジンと速力に優先的に回し再びペダルを強く踏み締める。

 

一気にパワーを発揮したTIEボーディング・クラフトは繋がれたケーブルを二、三本打ち切り少しの自由を手に入れた。

 

そのまま回転しつつ再びペダルを踏み残された三、四本のケーブルを同じように引き千切った。

 

断ち切られたケーブルからは火花が溢れ地面に落下する。

 

ボーディング・クラフトの方にも千切られた残りがついたままで機体が少し移動する度にヒラヒラとケーブルも動いていた。

 

「よぉしやった!このまま連中を蹴散らす!」

 

浮遊するTIEボーディング・クラフトに保安隊員達は次々と手持ちの武装で攻撃する。

 

赤色と黄緑色のレーザー弾がTIEボーディング・クラフトを狙って放たれ何発かが機体の一部分に着弾した。

 

装甲が火花を撒き散らし黒い煤を残す。

 

致命的な損傷ではないがこのような攻撃が連続すると当たりどころによっては大破する可能性もある。

 

それに後からくる味方の為にもここで警備の保安隊を撃滅しておくに越したことはない。

 

ジョーレンは敵の密集地帯を狙って武装にエネルギーを溜め操縦桿の引き金を引く。

 

TIE特有の黄緑色のレーザー弾が放たれ保安隊員達が隠れていた装備の箱の束ごと吹き飛ばした。

 

爆発の火花が飛び散り保安隊員達が巻き込まれ倒れた。

 

当たれば即死、当たらなくとも戦闘不能にまで追い込める圧倒的な火力だ。

 

保安隊員達はまだ手持ちのブラスター・ピストルかブラスター・ライフルで応戦しているがその効果は殆ど現れていなかった。

 

何人かは急いでブラスター砲を組み上げようとしたがその様子にすぐに気づいたジョーレンが優先的にレーザー砲を叩き出し撃破する。

 

停泊中のN-1スターファイターに乗り込もうとする者も出撃する前にN-1スターファイターごと撃破された。

 

出撃する前の無人のN-1スターファイターもジョーレンが正確な射撃を繰り出し次々と破壊していく。

 

「シャトルは残して!何機か残さないと!」

 

「分かってる!敵の制圧状況はどうだ?」

 

ジェルマンはコックピットから格納庫の様子を見つめる。

 

派手に機体やらなんやらを吹き飛ばしたせいで辺りは散乱としているがその分攻撃の手はもう殆どなかった。

 

「とりあえず大丈夫だと思う!殆どぶっ倒してる!」

 

「救出チーム!そっちはどうだ!?」

 

『今格納庫でシャトルを奪っています!』

 

ジェルマンは通信を聞いて急いでメンジス三佐達を探し始めた。

 

すると一番奥に停泊するナブー王室保安軍のナブー・ロイヤル・リフターに固まる集団を見つけた。

 

装備の良さと動きの良さなども含めて間違いなくメンジス三佐と本来の女王救出チームだろう。

 

「見つけた、あれだ」

 

ジョーレンに報告し彼は再びメンジス三佐達にコムリンクで通信を取る。

 

「先に離脱しろ、我々が最後まで相手の面倒を見る」

 

『すみません少佐……』

 

「いや、我々全員の読みが甘かっただけだ。女王は命に引き換えてでも必ず救出する」

 

『了解…!』

 

通信を切り浮遊し格納庫から発進するロイヤル・リフターとTIEボーディング・クラフトがすれ違った。

 

彼らが完全に安全圏まで離脱したのを見送るとジェルマンとジョーレンを乗せたTIEボーディング・クラフトも後に続くように格納庫から出た。

 

全速力で上へ上へと機体を操り空を駆ける。

 

目指すはナブー王室宇宙艦隊。

 

天空から塞がれたナブーを監視する裏切り者の集団の本拠地。

 

2人はいつものようにこれに乗り込み囚われの女王達を救出するのだ。

 

ナブーの自由と本当の姿の為に。

 

「さっき命に換えてもって言ったけど」

 

「ああ、別に死ぬつもりはない。だが死ぬ気でやるだけだ。お前もそうだろう?俺達は多分、生まれた時から命懸けだ」

 

ジェルマンは小さく微笑み一息ついた。

 

2人の仕事に変わりはない。

 

常に命懸けだし失敗すれば明日はない。

 

それでも誰かがやらなければならない仕事なのだ。

 

ナブーの大空を駆け彼らは挑む。

 

待ち構える敵の猛攻と幾多の罠、それを越えて女王を助け出す。

 

2人の、ナブー王室解放軍の反撃が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-譛ェ遏・鬆伜沺 諠第弌繧ィ繧ッ繧サ繧エ繝ォ 繧ィ繧ッ繝ェ繝励せ邏壹ラ繝ャ繝?ラ繝弱?繝遺?懊お繧ッ繝ェ繝励せ竇。窶-

雷鳴轟く蒼白のこの世界は相も変わらず死人の世界のような様相であり続けていた。

 

地獄、ともまた違う静かで生を感じないこのではある一箇所だけ死の行為を成すために活発化していた。

 

古代の賢者が創りし秘密の地下造船所は今や近代的な技術が加わり人知を超えた存在となる。

 

日夜月日を問わずこの秘密の施設は延々と兵の器を際限ないほど生み出し僅かなうちに軍隊を形成するに役立った。

 

正に“()()()”稼働する殺戮兵器生産工場といったところか。

 

人の手に余るものをこの秘密の造船所は生み出しては吐き出し続けていた。

 

そしてこれらの負物は全てある者達によって管理され始めてここで“軍隊”として形成される。

 

人がいなければ兵の器など無用の長物で、さらにそれを総べる者がいなければ同様に無用の長物となる。

 

されど器が満たされ総べる者がいれば無敵だ。

 

来るものを全て光で焼き尽くし、叛逆するもの全てを遠方から跡形もなく消し去る。

 

それは厄災であり新たな火種だ。

 

そしてその厄災はいよいよ銀河系へと戻ろうとしていた。

 

「ようやく“()()()”が竣工致します。こうすればようやく我々も先遣艦隊の実行が行えますね。“()()()()()()”」

 

軍事執行者(Executor)、帝国宇宙軍元帥、繧キ繧ケ繝サ繧ィ繧ソ繝シ繝翫Ν元帥、渾名“()()()()()”、コルサントヴァント家の当主。

 

彼には様々な呼び名がある。

 

そしてどれも本名である“フリューゲル・ヴァント”に加えて名が呼ばれていた。

 

「長いようで短い日々でしたが」

 

以前から彼の副官を務めているオーデル・ブリッツェ中佐はは感慨深そうに呟いた。

 

「我々も“()()()()”が来た、ということだ」

 

「ですね……ディープ・コアからこの地まで。我々も随分と陽の目を見ないできましたから」

 

フリューゲルの返答に中佐は懐かしみとどこか悲しみを込めて口を開く。

 

彼らは元々この艦を持ってずっとディープ・コアにいた。

 

ここと同じく深い深い闇の底。

 

違う点を挙げるとすればここが銀河の果てであるならディープ・コアは銀河の超中心といったところだろうか。

 

だが人目を浴びないという点では対して変化なかった。

 

「それで、先遣艦隊の編成は変わりなく…ですか」

 

ブリッツェ中佐はフリューゲルに尋ねる。

 

フリューゲルは表情を変えることなく「そうだ」と冷たく返した。

 

以前は表情豊かだったこの顔も今ではすっかり冷徹な人間になってしまった。

 

その青い瞳も束ねられた銀色の髪も全てが彼をより冷徹に見せている。

 

「本来なら主君(Sovereign)級も連れて行きたいのだが……生憎まだ一隻も稼働出来る状態ではないのでな」

 

「それはともかく護衛艦の数が多すぎでは…?数を減らして“()()()()()()()()()()()()()”を増やすことも出来ますが」

 

中佐はそう提案したがフリューゲルは首を振り却下した。

 

「あの艦はまだ未知数で試験運用の段階でしかない。それに“()()()”アレを失う訳にはいかんのでな」

 

ブリッジのビューポートに近づき蒼白の死人のような世界を見下ろす。

 

私達は随分遠くへ来てしまった。

 

コルサントからハンバリン、アナクセスから戦場へ。

 

まだ14だった私が今ではもう、44か。

 

長い、永く居過ぎた。

 

私の人生の全ては戦場にあり、また戦場へ帰ろうとしている。

 

だがそれこそが使命であり我が家に唯一与えられた仕事だ。

 

私はこれから死人のような狂信兵を連れて破滅の厄災を固めた大鎌を震い尖兵として銀河にそれを知らしめる。

 

もう4年は待ったはずだ。

 

ディープ・コアで、“()()()”、次の戦争を待ち続けようやく来てしまった。

 

しかも今度はとびきり狂気に満ちた戦いとなるだろう。

 

この死人世界から銀河へ向け帰還の声を鳴らす。

 

「我々は“()()()”であり、“()()”であり、“()()”であり、“()()”であり、“()()()”だ。軍旗と威武を広げ悠々と凱旋しようではないか。“()()()()()()”を乗せて」

 

フリューゲルは冷たく狂ったように静かに笑った。

 

それは今の自分の姿か、将又この軍隊に対してかそれは自分自身にも分からない。

 

しかしやることはもう変わらない。

 

蒼白の世界に浮かぶく楔を模した矢は既に弓にかけられいつでも放てるようにとめいいっぱい引かれている。

 

本当の脅威はすぐそこまで迫っている。

 

後は号令が為され、思し召しを待ち侘びる狂信兵達が門を蹴破り溢れるまで時間の問題だ。

 

反応に渋る者達よりも先に彼らは銀河へと征くだろう。

 

かつての領地を奪還するかのように、遺産を全て統一していくように。

 

厄災の帰還までもう時間はない。

 

()()()()()”はすぐそこまで迫っていた。

 

 

つづく




私 だ

どうもイノベスキーです

いかがでしょうかワクワクイノベスキーランドは(なんだそれは)

ちなみにイノベツキー・ソユーズとイノベツカヤ・エイトークなんてものもあります

そいではまたいつの日か〜


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女王救出劇/後編

「大提督とは後々に昇格したレイ・スローネ、バロー・オイカンも含めて恐らく14人いたとされている。しかし第二次銀河内戦の開戦初期には銀河系の表舞台に立っていたのはオイカン大提督1人のみである。他の大提督達がどうなったのかは帝国の動乱期の闇の中だ。しかし彼ら大提督が皇帝の信任を受けた優秀な提督達であることは間違いない。それ故におとぎ話のような伝説がいくつも語り継がれ、幾人もの帝国の軍将達が大提督の称号を名乗ろうとしたのである。自らがより正当な後継者と見せる為に」
-銀河帝国史4 崩壊する帝国より抜粋-


ナブー王室宇宙艦隊。

 

元は新共和国の惑星防衛軍強化の一環として設立されたナブー王室保安軍の宇宙艦隊部門であり当初はネビュロンBやCR90などの艦船を使用していた。

 

だが今では支援先が第三帝国に代わった為アークワイテンズ級やヴィクトリー級のような帝国軍艦も艦列に加わっていた。

 

特に三隻のプロカーセイター級は艦隊の旗艦として威厳のある姿を醸し出していた。

 

そんなプロカーセイター級の一隻、王室艦隊総旗艦“キング・オブ・ヴェルーナ”のブリッジの中で1人の通信士官が上官達に報告する。

 

「宮殿格納庫から強制発艦したTIEボーディング・クラフト、大気圏を突破しました」

 

「恐らく艦隊に突撃するつもりです」

 

艦隊の幕僚や“キング・オブ・ヴェルーナ”の艦長達はその報告により動揺したが陣頭指揮を取るクリース宙将とグリアフ一佐は予定通りと言わんばかりの的確で冷静な指示を出した。

 

「スターファイター隊を発艦させ防戦に当たらせろ。目標は間違いなくこの艦のあの方だ」

 

「りょっ了解!」

 

プロカーセイター級やヴィクトリー級からN-1スターファイターや貸し出されたTIEファイターが発艦し惑星から出たTIEボーディング・クラフトを迎え撃った。

 

圧倒的な物量で敵機にレーザー弾を撒き散らす。

 

しかし寸前で回避したTIEボーディング・クラフトは反転しようとする後列のN-1スターファイターを1機レーザー弾で破壊した。

 

TIEボーディング・クラフトの背後を取ろうとした2機のTIEファイターも逆に背後に回った重レーザー砲により撃破された。

 

「敵機、前衛スターファイター隊を突破。真っ直ぐこちらを目指しています」

 

「敵は相当の手練れのようですね」

 

グリアフ一佐はTIEボーディング・クラフトの動きを観察しそう評した。

 

クリース宙将も「ああ、そのようだ」と苦笑を浮かべながら賛同する。

 

「全艦、対空戦闘用意!CR90とアークワイテンズ級を対空陣形通りに配置し残りは全て上陸戦闘に備えろ。連中は恐らく真っ直ぐこの艦に来る」

 

宙将の命令通りCR90やアークワイテンズ級、ネビュロンBが艦列を組み防衛体制を構築する。

 

後方のスターファイター隊に追われる中TIEボーディング・クラフトは真っ直ぐ艦隊へ突っ込んだ。

 

CR90やネビュロンB、アークワイテンズ級は一斉にレーザー砲を撃ち出しレーザーの防壁を生み出す。

 

本来スターファイター1機などどれだへ偏向シールドを分厚くしようとこの圧倒的な防壁に押し潰されて撃破されるのだが今回は違った。

 

TIEボーディング・クラフトは寸前でCR90コルベットへ向けて全速力で急降下した。

 

その瞬間他の艦の乗組員やパイロット達は「血迷ったか」と思ったが機体は一気に上昇して高速でコルベットの船体スレスレを飛行した。

 

本来なら船体に激突しそのまま爆散する勢いだったがパイロットの腕がいいのか衝突することなく飛び切った。

 

そのまま別の艦、また別の艦と敵の攻撃を最小限で抑えながら全速力でプロカーセイター級らへ突入しようと前進する。

 

対空砲のほぼ無効化と同士討ちと衝突被害を避ける為にスターファイター隊による追撃がほぼ不可能である為、TIEボーディング・クラフトは敵陣のど真ん中にいるのにも関わらず最小限の危険の中を進めていた。

 

「第四対空群、第七打撃群突破されました!第八主力群に接近!」

 

「どっどうしましょう!宙将!このままでは本艦に間違いなく突入してきます!」

 

キング・オブ・ヴェルーナ”の艦長は慌ててクリース宙将に無意味な進言を告げた。

 

そんなもの見ればわかるし防ぎようもない。

 

だが宙将は艦長を宥めるように「分かっている」と返した。

 

「もはや迎撃は不可能だ。艦内戦闘の準備は?」

 

「大方整っております。全艦に配備した帝国軍のセキュリティ・ドロイドと精鋭のデア・フルス・ソルー軍団の配備しております」

 

グリアフ一佐は簡潔に対策を説明した。

 

解放軍の襲撃を予期した首脳部は本来市街地に配備するはずのデア・フルス・ソルー軍団を宇宙艦隊のプロカーセイター級とシード宮殿に分散して配置した。

 

こうすれば例え連中が襲おうとも精鋭部隊による制圧が可能だ。

 

「十分だ」とクリース宙将は意向を全員に通達した。

 

「これより敵を艦内で迎え撃つ。総員、連中を墓標をこの艦に立ててやれ」

 

 

 

 

TIEボーディング・クラフトが敵機や対空砲火の全てを掻い潜りながらプロカーセイター級のハンガーベイに突っ込んだ。

 

火花を散らしながら周りのカーゴを押し出し強制着艦する。

 

「全く酷い着艦方法だ……」

 

「うん…しかも敵が……!」

 

ジェルマンに指を差されジョーレンは険しい表情を浮かべた。

 

急いで引き金に指をかけレーザー砲を迫る敵兵に対し放った。

 

だがその前にスマートロケットを担いだ敵兵によりレーザー砲塔が破壊され攻撃が出来なくなった。

 

弾頭が直撃した余波の振動が機体全体に触れ渡る。

 

「チィッ!この機体にこれ以上はとどまれん!」

 

2人は急いでブラスターを手にしTIEボーディング・クラフトの裏のハッチから抜け出た。

 

ハッチから出る瞬間にもうジョーレンのすぐ側をブラスター弾が横切り近くの破壊された弾薬カーゴの外装に被弾した。

 

すぐにA300で敵兵を撃ち殺し後から降りて来たジェルマンと共に前に進む。

 

敵の保安隊員は装備も練度も高く今まで戦ってきた相手とは格段に違うようだ。

 

だが今まで修羅場ばかりくぐり抜けてきた2人の敵ではない。

 

互いにX字を描くように入れ替わりながら銃撃し敵の射線を躱しながら1人づつ始末する。

 

ロケット弾が何発も飛んでこようと彼らは全く動じなかった。

 

逆にスマート・ロケットや重火器を持つ隊員を含めた3人を撃ち倒し残りの敵兵に近づく。

 

ある1人の保安隊員を超至近距離からブラスター・ピストルを持って射殺しそのまま隊員の遺体を立て代わりにしながらA280-CFEで他の敵兵を撃つ。

 

他の保安隊員もジョーレンの投げたインパクト・グレネードにより2人が負傷し負傷兵を抱えながら残りの隊員は皆撤退を始めた。

 

「連中退却していく…?」

 

「いいや違うな……この動きは…恐らく“()()”の方だ」

 

ジョーレンの予測通り保安隊員の代わりにCR-2ブラスターピストルを持った帝国軍仕様のKXシリーズ・セキュリティ・ドロイドが5、6体姿を表した。

 

ブラスターを乱射しながらゆっくり、冷たく進み続ける。

 

ジェルマンとジョーレンはある1体に集中砲火を浴びせようやく破壊したが残りのセキュリティ・ドロイドは破壊された同型機の残骸を踏み潰してまで攻撃と前進を続けた。

 

流石は戦闘用のドロイドだ、冷酷というか人間的な感情がない。

 

むしろそれこそが強みであり対峙する生身の敵兵に対し恐怖と嫌悪感を煽り心の弱みに漬け込むのだ。

 

ジョーレンは近くに落ちていた保安隊員のスマート・ロケットを拾い一旦後ろへ退いた。

 

「ソイツの残弾は?」

 

ジェルマンはスマート・ロケットの残弾数を聞いた。

 

これだけの火力ならセキュリティ・ドロイドを一撃で破壊どころか2、3体巻き込んで撃破出来る。

 

しかし残念ながら残弾数は1発のみ、到底敵を全部撃ち倒せる火力はない。

 

「1発だけだ。だが俺に考えがあるんでね」

 

そう言いジョーレンはスマート・ロケットを担ぎハンガーベイの天井にぶら下がっている1機のTIEファイターに狙いを定めた。

 

照準が定まりセキュリティ・ドロイドの一団がある程度の場所まで来たところでジョーレンは最後の弾頭を発射した。

 

TIEファイターを固定するアームロックを破壊し機体が高速で地面に墜落する。

 

真下にいたセキュリティ・ドロイド達を巻き込みながらTIEファイターはパネル付きの両翼が大きくひしゃげコックピットも潰れた。

 

無論下敷きのセキュリティ・ドロイドは殆どが破壊され辛うじてドロイド脳を維持しシステムを保っている機もジェルマンとジョーレンにより残らず始末された。

 

「行くぞ」

 

全ての敵兵を退けようやくハンガーベイから脱した。

 

だがむしろハンガーベイから外が真の関門だ。

 

まず2人はEウェブ重連射式ブラスター砲を一斉射をお見舞いされた。

 

1発も喰らうことはなかったが危うく死ぬところだったし通路をEウェブで固められてはこれ以上前進出来ない。

 

敵を牽制しながらジョーレンはハンドサインを出しジェルマンは敵防衛陣地へ敵兵から拾ったN-20バラディウム=コア・サーマル・デトネーターを投げ付けた。

 

投擲からしばらくしてサーマル・デトネーターは爆散しEウェブや敵兵ごと陣地を吹き飛ばした。

 

2人は沈黙を確認してから前進した。

 

インペリアル級よりは遥かに小さいがそれでも艦内はとてつもなく広い。

 

しかも様々な箇所のドアから突然1人2人の保安隊員が現れジェルマントジョーレンを襲う。

 

「この!」

 

ブラスターを持つ手を押さえて至近距離からブラスター・ピストルで相手を撃ち抜く。

 

ジェルマンも相手を殴り付け足払いしてブラスターを奪い取ってから確実に相手を打ち倒した。

 

敵兵のCR-2ブラスター・ピストルを乱暴に地面に投げ捨てながら「これで何回目だ」と呟く。

 

「分からん、もう五、六回以上はやられてる気がする。連中完全に我々を罠に嵌めるつもりらしい」

 

「早く進まないと、もしかすると増援も来てるかもしれない」

 

ジェルマンはブラスター・ライフルを構え歩き始めるがジョーレンに突然「待て」と止められた。

 

「どうしたんだ?」

 

敵兵の遺体からヘルメット奪い取ったジョーレンはジェルマンを背後に下がらせそのヘルメットを向こう側の通路に向かって投げた。

 

ヘルメットは一回地面に落ちてバウンドしそのまま転がるようにほんの少し前に進み動きを止めた。

 

ここまではなんの変哲もないただのヘルメットの動きだ。

 

しかし問題はその後だった。

 

突如ヘルメットの転がった近くで左右天井の三方向から爆発が起きた。

 

黒煙と赤い光に包まれ一瞬爆発の向こう側が見えなくなったがわずかな隙間からヘルメットが粉微塵に吹き飛ぶ姿が見えた。

 

「これは……」

 

「恐らく近接反応爆弾の類…いやレーザー・トリップ・マイン辺りの機雷だろう。小さなレーザーが引かれ、それに反応すると爆発する仕組みだ」

 

「じゃあ、あのまま真っ直ぐ進んでたら…」

 

「もしかすると吹っ飛んでた。思ってた以上にこの艦は、罠だらけだ」

 

司令官達にとってこの2人がプロカーセイター級まで突っ込んでくる事は既に予定された事であった。

 

ならば万全の兵力を投入し罠を仕掛け待つのみ。

 

彼らは来た、いや来ざるを得なかったのだ。

 

そしてそんな状況を作り出したのもこのプロカーセイター級“キング・オブ・ヴェルーナ”のブリッジで状況を冷静に見続ける司令官達だ。

 

もはやこの戦いは双方の力量のぶつかり合いとなっていた。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国国家弁務官区領 ハット・スペース 北ハット国家弁務官区(Reichskommissariat Nordhutt)

犯罪者達の楽園であった無法地帯ハット・スペースは今や第三帝国の楽園たる絶対秩序地帯ハット国家弁務官区に変えられていた。

 

国家弁務官区(Reichskommissariat)とは第三帝国が占領した無秩序領域、未知領域付近、ワイルド・スペースなどの比較的“()()()()”の統治の為に帝国の権限が届きやすいよう作られた特務総督領の事だ。

 

代理総統によって任命された新たな国家弁務官区総督達が各地に派遣され統治や惑星の改革を行なっていた。

 

また国家弁務官区は第三帝国が優先して経済的、軍事的開発を行いたい地域にも設定される事がありその例がヒェムナー長官指導による宙域改革が進められているエストラン宙域に建設予定の国家弁務官区がそうだ。

 

第三帝国が“()()()()()()”を全銀河に広める為、狂気を加速させる為の領域が各地に広がりつつあった。

 

国家弁務官区の弁務官総督は基本モフかCOMPNOR委員か親衛隊から選出される。

 

その為このノルトハット(北ハット)国家弁務官区の総督も名目上親衛隊所属であった。

 

ハット・スペースは領域が広すぎる為北と南で分割し、北をモフカーリヒ・ビュレンケルが、南をモフラコート・ゼンスラインが統治していた。

 

2人とも親衛隊の名誉大将の肩書きも保持し実質的にハット・スペースは親衛隊領となる。

 

各地にハットやエイリアン種族、犯罪者の絶滅収容所を建設しハット・スペース内の改革と並行して彼らの“()()”を担っていた。

 

親衛隊にとってここは自らの征服地であると同時に資源や広い国土を持つ第二の本拠地となるだろう。

 

それにこの銀河史数万年の中で長らく無法地帯であったハット・スペースを遂にハット・クランとならず者達から取り上げ銀河系の中央政府に組み込むことが叶ったのだ。

 

親衛隊の教育上これを喜ばない者は殆どいないだろう。

 

その後の顛末がどうであれある意味で彼らは偉業を成し遂げたのだ。

 

「国家弁務官区内での資源輸出率、並びに開拓率は上昇傾向にあります。先月発見された資源衛星の資源抽出率も14%上昇しました」

 

「素晴らしい報告だ。今後も開拓の現状維持を続けろ。この国家弁務官区が先鋒となりて総統閣下のご想像される“()()()”の形成に役立てるのだ」

 

官僚からの報告を受けたモフビュレンケルは満足げに呟いた。

 

彼は元々アダリィ宙域のモフだったのだが銀河内戦末期に新共和国軍の攻撃を受けて惑星ハンバリンのオイカン艦隊へと逃げ込むしかなかった。

 

彼もあのカイゼルシュラハト作戦に参加しその時に現在の代理総統と知り合ったとされている。

 

それ以降モフビュレンケルは総統に忠誠を誓い信奉するかの如く敬意を表しているそうだ。

 

代理総統が語る“()()()”にも理解がありそれらの信頼もあってこのノルトハット国家弁務官区のモフに任命された。

 

「私からも一つ。総督が以前から頼んでいた国家弁務官区駐留の宙域軍の増援が到着しました。一個小艦隊と地上戦力一個兵団、二個師団です」

 

ノルトハットの駐留軍の司令官、シレスク・バルフェルチュ親衛隊大将の報告にモフビュレンケルは再び顔を上げた。

 

「そうか…!それで、配置は?」

 

「以前提案したように地上軍をケルドゥインの駐留基地に配置し小艦隊はパトロール群に回しました」

 

簡易的なホロプロジェクターでノルトハットの星図を映し出した。

 

しばらく星図を見つめモフビュレンケルは「とてもいい…」と呟いた。

 

「このハット国家弁務官区は、北も南も本国との繋がりが脆い。特にゼンスラインのズーデンハット(南ハット)は」

 

ハット・スペースを制圧した第三帝国であったが周辺までの確保は現在の軍事力では不可能だった。

 

その為二、三本ハイパースペース・ルート付近の惑星の確保が精一杯で安定度は非常に脆かった。

 

しかもそのうちの一本にはレジスタンス軍が占領する惑星キャッシークとミタラノア宙域が存在し実質的には途切れいるようなものだ。

 

故に国家弁務官区には更なる戦力が必要で防衛体制を整え必要であれば周辺領域への侵攻が可能になる状態でなければならなかった。

 

「最近ではまたボサウイで不穏な動きが報告されている。我々も非常時に備えなければならない」

 

「そして国家弁務官区内での治安悪化の対処……ですな」

 

バルフェルライチュ大将の言葉に「うむ」とモフビュレンケルは重たく頷いた。

 

ハット・スペースの駐留軍増加は単なる外敵からの防衛体制の強化だけではなかった。

 

この二つの国家弁務官区は所詮無法地帯の惑星群に対して一方的な軌道上爆撃と核弾頭の雨を降らせ犯罪者達の王やボスを皆殺しにして奪い取った領域だ。

 

殺し切れなかったのもいるしそれ以上に未だに国家弁務官区内に多くの密輸業者や海賊、ギャングや犯罪シンジ・ゲートの船団が彷徨いていた。

 

駐留艦隊も多くのパトロール隊を出撃させ見つけ次第捕まえる事なく殲滅しているのだがまるで数が減らない。

 

この汚れ多い地を完全に浄化する為にも数と兵力が必要だった。

 

「連中をのさばらせていては帝国の臣民や総統閣下方に対して申し訳が立たない。徹底的に殲滅して奴等を一掃せねば」

 

「弁務官区内の開拓と資源輸送を更に安定化させる為にも是非とも頼みます」

 

他の官僚からもそう進言があった。

 

海賊や犯罪者の船団がその辺をのさばっていては第三帝国本国に送る為の物資を運ぶ輸送船団も危険に晒される。

 

現に何百、何千件も輸送船団が海賊、または犯罪者船団の襲撃に遭ったとの報告がなされていた。

 

「ですが総督、艦隊も外部防衛に充てるべきです。ケッセル周辺でケッセル艦隊の不穏な動きが確認されています」

 

バルフェルライチュ大将の幕僚の1人であるアルペート・ヘルターニッシュ少将は思い切ってモフビュレンケルに進言した。

 

バルフェルライチュ大将は「おい!」と静止するが当のモフがその話題に興味を持ってしまった。

 

「それは本当か?」

 

モフビュレンケルにとってキャッシークやボサウイ以上に警戒しているのがケッセルの帝国軍残存勢力だ。

 

彼ら、いや“()()()”の規模は侮れずまた統率も取れている。

 

未だ我々と接触もせずまた紛争を起こすような行為も全くしてこないがだからこそ危険だ。

 

銀河内戦で経験を積んだ将兵を未だ無傷のまま有し艦隊と軍隊を築いているのは間違いなくこの周辺で言えばケッセルのみだ。

 

防戦しても相当苦戦するだろう。

 

彼女らには資源もある、長期戦となれば厄介だ。

 

敵対せずとも警戒を怠らないのがケッセルとの向き合い方だった。

 

「インペリアル級で構成された機動部隊程度の戦力がいくつかランダ周辺で航行しているのをパトロール隊が観測しました」

 

「ランダ周辺……か。確かにかなり近いが向こうも恐らくいつもの牽制であろう。境界警備隊に警備強化を要請しろ、逆にこちらが兵力を回しては相手を刺激する事になる」

 

「ですがモフ…!」

 

「現段階でケッセルと軍事衝突をした場合、我々は少なくともこのスレイヘロンを放棄しズーデンハットのオロンディアまで後退せざるを得なくなる…」

 

相手のクラリッサ・ヤルバは裏社会の巨大犯罪シンジ・ゲートの一つ、パイク・シンジ・ゲートを手中に収めているとの噂もある。

 

強力な艦隊の侵攻とパイクによる裏社会からの攻撃を一手に受けたら戦線や兵站を維持出来る補償が現段階ではなかった。

 

それに弁務官区内の海賊らとも協力して意図的に兵站への攻撃、後方の撹乱などを行われる可能性がある。

 

今ケッセルとことを構えるのは是が非でも避けたかった。

 

「それにフューリナー上級大将からもケッセルには手を出すなと言われている。本国からの命令が来るまで我々は何もしないのが最善手だ」

 

「その通り、私と我が艦隊がいれば少なくとも連中をオバ・ダイアまで後退させられるだろうがまだ早い。東方でも西方でも南方でも北方でも事を起こされれば手一杯だ」

 

ドアが開き数名の将校と共に入ってきたフューリナー上級大将は自信有りげに会話に割り込んだ。

 

「上級大将殿…!」とモフビュレンケルは立ち上がり他の全将校が敬礼した。

 

フューリナー上級大将らも敬礼を返し「座れ、モフ」と立ち上がったモフビュレンケルを席に着かせた。

 

「ミンバンのでの収容率の確認とアウシュの収容所視察のついでに寄ったまでだ。“例の研究”の成果を見たら帰るつもりだ」

 

「そうでしたか。やはり“ピュリフィケーション”でお越しになられたのですか?」

 

「ああ、流石に全艦は無理なので僅かな共周りの艦と共にな。良い艦だ、やはりドレッドノートはいい。クローン戦争の頃シュメルケと共に乗っていたマンデイター・ラインのドレッドノートを思い出す」

 

思い出に耽るような素振りを見せながらフューリナー上級大将はそう呟いた。

 

モフビュレンケルも「そうですか」と頷いた。

 

ビュレンケル自身も一応クローン戦争を生き抜いているのだがあの頃はまだしがない下級役人だった。

 

「それとノルトハットとズーデンハットにそれぞれ一隻づつ宙域艦隊旗艦級のベラトール級ドレッドノートを配備する予定だ。シュメルケが提案し総統閣下が承認して下さった」

 

「本当ですか?」

 

「ああ、少なくとも三、四ヶ月は先だがな。大将、指揮は任せたぞ」

 

名を上げられたバルフェルライチュ大将は「はい!」と敬礼した。

 

「これで対ケッセルの準備は万全だな、少将」

 

途中まで話を少し聞いていたフューリナー上級大将はわざとらしくヘルターニッシュ少将に告げた。

 

ズーデンハット国家弁務官区は惑星ボサウイ周辺のレジスタンス軍への攻勢を強めておりこのノルトハット国家弁務官区は未だこれといった戦闘は行なっていない。

 

強いて言えば海賊退治などの治安維持活動のみだ。

 

少将はともかく大きな戦闘で手柄を立てないという将兵は大勢いるだろう。

 

こんな僻地まで来たのだからせめて軍功は上げて帰りたい。

 

だが今ケッセルに攻め込むのは流石にまずい。

 

「ならば今こそケッセルを攻撃すべきです。ケッセルを手にすれば大きな資源惑星を入手出来ます」

 

「少将…!」

 

「いいんだ、確かにケッセルを手にすれば燃料とスパイスが手に入る。どちらも軍を動かすのに重要な代物だ。だが敵の数は多く、衛も堅く、地の利も向こうのものだ。これでは勝てない」

 

コルサントから引き抜かれた者もあの地に根付いて早3年、4年が過ぎる頃だろう。

 

ケッセル内、宙域内の特色と惑星の位置などを読み取り防衛戦術にフィードバックされ防衛体制が確立するにはもう十分過ぎるほどの時が過ぎている。

 

それにあの地には元々の帝国軍の駐留部隊がおり更に精強な軍が控えていることになる。

 

数も十分な上に地の利も相手のもの、これでは勝てない。

 

そして何より勝てないのが敵の“()()()()”だ。

 

「彼女、クラリッサはもちろんのことだ。彼女と麾下の近衛兵は常軌を逸している。常道から全く外れた戦い方を行い、我々を翻弄し幻覚のような地獄を見せるだろう」

 

「上級大将が仰るクラリッサとは本当にそのような人物なのですか?」

 

彼女と面識が一切ないバルフェルライチュ大将はフューリナー上級大将に尋ねた。

 

所詮はケッセル王室ヤルバ家の御令嬢、これだけ聞けば人畜無害なむしろ評価とは真逆の人相を思い浮かべるだろう。

 

実際姿はそうだ。

 

彼女は麗しく絶世の美女と言っても過言ではなく、品行方正で慈愛に溢れたような見た目だ。

 

だが内面はそれと全く同じかと言われれば違う。

 

「ああ、そうだとも。彼女は人か化け物かで言ったら化け物のような人だ。一度だけ、まだ私が統合本部にいた頃に彼女と出会った。タイプではなかったがまるで絵に描いたような麗しの令嬢だった。だが彼女が纏っているオーラ、会話を交わす度に出てくる常軌を逸した内面。常人のような振る舞いを見せながら中身は全くの狂人だ。彼女には恐らく常識というものが通用しない。いや、常識を知っていてもあえて道を外すのだ。故に恐ろしく危険で脅威に値する我々の“()()()()となる」

 

フューリナー上級大将はバルフェルライチュ大将とヘルターニッシュ少将らを脅かすように話した。

 

フューリナー上級大将だって十分恐ろしく化け物みたいな人だ。

 

この親衛隊という魔の巣窟の設立者の1人であり暗部と特殊部隊を一手に引き受けている。

 

そんな上級大将がとにかく危険だと言うのだから余程なのだろう。

 

「もし仮に戦う時になったら気をつけろ大将、少将。こちらが『こうするだろう』、『ああするだろう』と言った予測は全て無駄になる。彼女は我々が一つの戦の為に積み上げてきた計画を全てスパイスで溶かし文字通りの大博打に無理やり引き摺り込むような相手だ。十分に気をつけろよ」

 

「はっはあ……」

 

「そんな人物がケッセル王室にいたとは…彼女が女王にでもなったらいよいよ大変ですね」

 

バルフェルライチュ大将はそう引き攣った笑みと共に呟いた。

 

クラリッサもこのような戦乱の時代に生まれなければもう少しただの美しい令嬢で終わっていただろう。

 

まあ彼女の手腕によってケッセルがかなり豊かになりケッセル本星が“()()()()()()()()”と呼ばれる程度はやるだろうが。

 

「女王?彼女はケッセル一つの女王で収まる器じゃあない。もっと広大な範囲の指導者となるよ、我々が敗れなければの話だがな」

 

この国家弁務官区は“()()()”となるだけでなく第三帝国の“()”となってもらわなければ困る。

 

そしてついでに“()()()()”も成功してもらわなければ。

 

新生ハット・スペースに期待する事は山ほどあった。

 

 

 

 

 

-惑星ケッセル軌道上 ベラトール級ドレッドノート“キング・ケッセル”-

この艦も随分と賑やかになったものだ。

 

ケッセル軍の乗組員が大勢搭乗している“キング・ケッセル”はケッセル艦隊の旗艦として、ドレッドノートとしての力を最大限に発揮していた。

 

今の“キング・ケッセル”の艦内ではあちこちから将兵の雑談が聞こえてくる。

 

やれ「牽制の機動部隊はうまく行ったか」とか「ハット・スペースの動きはどうだ」とか殆ど業務上の話ばかりだったが。

 

そんな中を1人の宇宙軍の制服を着た将校が艦内の通路を歩く。

 

階級は中尉で左右両方のポケットに一本ずつ、計二本のコードシリンダーを差している。

 

彼は真っ直ぐブリッジの方を目指していた。

 

すると通路の脇から別の将校が彼と肩を並べて歩いていく。

 

こっちは大尉の階級章でありコードシリンダーは三本持っていた。

 

大尉は表情を一切変えず中尉に告げる。

 

「詳細な情報が手に入った。ケッセルの燃料資源輸送記録、これは超重要だ」

 

「こちらもこのドレッドノートの情報を今からブリッジ経由で送るつもりだ。とんでもない事になる……」

 

「スパイとして数週間も前からここに潜入してるがまさかここまで得るものが多いとは……」

 

2人は帝国情報部から送り込まれたスパイである。

 

ケッセルの内情を探る為、また燃料資源がどこかへ輸出されていないかの調査の為に数週間も前からここに潜入していた。

 

そしていくつかの成果を短期間で手に入れた。

 

一つはこのベラトール級ドレッドノートの存在だ。

 

第三帝国はケッセルの残存勢力について5,000メートル以上のドレッドノート艦は保有していないだろうと断定していた。

 

だが実際には旗艦としてベラトール級ドレッドノートを配備ししかも多くの地上兵器や武器弾薬、TIEシリーズらと共にあのクワット・ドライブ・ヤード社から秘密裏に提供されていたのだ。

 

これは第三帝国とクワット・ドライブ・ヤード社含めたクワット全体の関係を大きく変えかねない。

 

何せ仮想敵国に対して密かにドレッドノートを売り渡していたのだ。

 

今後何らかの戦闘になった際に帝国軍を支えるクワットの信用が危ぶまれる。

 

そしてもう一つの燃料資源の輸出も大きな成果を手にした。

 

ケッセルは自勢力で資源を貯めているだけでなく他の組織にも提供していた。

 

一つはあのファースト・オーダーだ。

 

ファースト・オーダーに燃料を特別な輸送経由で送っていた。

 

これもまた第三帝国とファースト・オーダーの関係を大きく変える可能性がある。

 

また別の組織はつい先日、親衛隊の大部隊が陥落させたアンシオンの帝国残存勢力だった。

 

彼らにも燃料を販売していたデータが残っている。

 

第三帝国の敵対者に協力していた、これはケッセルへの侵攻を行うかもしれない重大な情報だった。

 

絶対に伝えなければ大きな問題になる。

 

そんな情報を持って2人は“キング・ケッセル”のブリッジに入った。

 

ブリッジには数十人の上級将校に加え艦やブリッジの機能を維持する士官達が大勢入っていた。

 

スタンダードな帝国軍の慣れ親しんだブリッジ、しかしこの情報を持ったまま入るとまた違った感触がある。

 

「交代の時間だ、変わってくれ」

 

「ああ、了解」

 

コンソールとモニターの前に座っていた士官を退かせ中尉を偽造したスパイが席に着く。

 

大尉の方は中尉の教育官のふりをしながらデータの入ったチップを手渡した。

 

二つのチップをディスクに挿入し情報の送信の準備を始めた。

 

「どこに送る?やはりハットの国家弁務官区か?」

 

「ああ、この近くの帝国領はそれしかない。急ぐぞ」

 

コンソールをタップし情報の送信先を偽装を繰り返しながら行う。

 

周りの士官や下士官兵にバレたら絶対に終わりだ。

 

緊張が2人を包み胃を締め上げた。

 

するとブリッジに数人の将校が入ってきたらしく手の空いている上級将校や士官たちが敬礼した。

 

「お嬢様、ヒルデンロード。どうされましたか?」

 

ペリオル大佐は2人に軽く尋ねた。

 

後者の苗字を聞いた中尉は「ヒルデンロード…?」とその名を口ずさんだ。

 

第三帝国の臣民であれば誰であろうと聞いたことがあり見たことがある人物の苗字だ。

 

「気にするな……どうせ同じ名前なだけだ……こんな所にヒルデンロード元帥の親族がいるわけがない……」

 

2人は軍帽を深く被り直しながらデータの転送を急いだ。

 

「実は私の使っていた髪飾りがどこかへ行ってしまいまして…」

 

「はあ……この艦にはないと思うんですが…」

 

ペリオル大佐は辺りをキョロキョロ見つめながら困惑した。

 

その間にも2人はデータの転送準備を進めている。

 

側から見れば職務に熱心な将校2名、特段と怪しまれる姿ではなかった。

 

「とっても大切な髪飾りなんですの……そう」

 

彼女が放った一言がなければの話だが。

 

「とおっても大切な“()()()()()()()”髪飾り…」

 

2人の心拍数はこの時大きく跳ね上がりすうっと血の気が引いていくような感触に包まれた。

 

それから1秒も経たないうちに2人が占拠するモニターからブリッジ全体に聞こえるほどの警報が聞こえた。

 

「なっ!?」

 

警報と共に周りの士官や下士官兵が一斉にホルスターのブラスター・ピストルを引き抜き2人に向けた。

 

ブリッジの奥からストームトルーパーと保安局員も現れ両手を上げる2人を取り押さえクラリッサ達の前に引き摺り出した。

 

彼らが座っていたモニターには情報処理担当の保安局員が座りロックされたモニターを専用のコードシリンダーを使って解除し転送状況を確認した。

 

「転送先はハット・スペースの帝国領域のようです。内容はこれより確認します」

 

保安局員の説明にスパイの2人は顔を硬らせ歯を噛み締めた。

 

ガッチリ腕と頭と足を抑えられている為どんなに頑張っても抵抗のしようがない。

 

「お下がりを」

 

ペリオル大佐や他の将校たちがクラリッサを守るように前に出たが彼らを押し退けスパイ2人の前に出た。

 

そしていつも通りの天使のような笑みを浮かべ2人に話しかける。

 

「ようこそ、ケッセルへ。いえ、違いますわね。いかがでしたかケッセルは?」

 

言葉遣いも口調もそのままなのだがどこか冷たさを含んでいた。

 

天使か悪魔か、スパイの2人にとっては感じることは後者だった。

 

勇気を振り絞って大尉の方が口を開く。

 

「……最悪だよ…!この星も領域も狂ってる…!」

 

「そうでしたか……それは残念でしたわ。でもすぐに“()()()()()()()”!」

 

「どういう…」

 

彼女の言葉を聞いた途端ペリオル大佐らは皆目を背けた。

 

ある者は祈りのようなものも唱え始める始末だ。

 

中尉の方はどうやらクラリッサがやることに気づいたようだ。

 

「…我々は拷問や尋問にも屈したりしないぞ…!」

 

どこまで耐えられるかは分からないが祖国の為耐え続けなければならない。

 

しかしクラリッサは笑みを絶やさずそれを否定した。

 

「いいえ、違いますわよ。ちょっと“()()()()()()()()()()()()”をお召し上がりになってもらうだけですわ」

 

「なっ!そんな非人道な真似!許されると思ってるのか!?」

 

大尉がそう大声を上げて抜け出そうとするがトルーパー達に強く押さえつけられており動けなかった。

 

「非人道だなんてひどいですわ。それを仰ったらあなた方の“()()()”とやらの方がよっぽど非人道ではなくて?」

 

「なっなんのことだ!?」

 

「知らないのですか?まあいいですわ。連れて行ってくださいまし」

 

ストームトルーパーと保安局員らは頷き2人を持ち上げ拘束しながら“キング・ケッセル”の監房室へと連れて行った。

 

2人は最後まで「やめろ!離せ!」と大声を上げ手足を動かして逃げようと抵抗していたがもはやそれは不可能だった。

 

2人が連れられどうなってしまうのかはこの場にいる全員が知っている。

 

「あの2人は収容所のことを知らないと言っていたが…」

 

幕僚の1人であるジャインス中佐はそう呟いた。

 

だがすぐペリオル大佐に「情報部は宇宙軍以外全てハイドレーヒの手下だ。知らない訳がない」と否定した。

 

今やハイドレーヒという冷酷な見事なまでの野獣の管轄外にいるのはカーレリス提督の宇宙軍情報部のみとなる。

 

しかしカーレリス提督とハイドレーヒ大将は関係が良い為彼の毒素が少し移っている可能性もあった。

 

「とにかく、情報漏洩が防げたことを良しとしましょう」

 

「そうだな…防げなかったら今頃大惨事だ。“()()()殿()”の、お陰であるな」

 

ペリオル大佐はそう“()”のことを評価したまでだ。

 

評価を受けた男はゆっくりと重々しく部下と共にブリッジに上がってくる。

 

身体の75%が機械で構成されるサイボーグの彼は一瞬その姿を見れば不気味に思えるかもしれない。

 

だが憐れみと親切の心を取り戻した彼は外見に見合わずとても心優しく暖かみのある人物となっていた。

 

心と体の傷も長い時間をかけて癒されることだろう。

 

「こんなに早くスパイの存在に気づけたのは貴方のおかげですわ、“テシック大提督”」

 

数多くいる大提督のうちの1人、サイボーグの大提督にしてこのケッセルの客将、オスヴァルド・テシック

 

銀河系の多くの軍人や彼の元同僚達は彼が生きているということをまだ知らない。

 

新共和国、今のレジスタンスも第三帝国もファースト・オーダーもチス・アセンダンシーも亡命帝国も誰も生存を知らない。

 

彼は死んでいると思われている。

 

それもエンドアの戦いで。

 

4年も前から死亡扱いとなっているテシック大提督だがそれは間違いであった。

 

崩壊する第二デス・スターである作業員に助けられたテシック大提督はその作業員を当時中将のスローネ大提督の艦に向かわせて助けた。

 

今でもテシック大提督を助けた作業員はファースト・オーダーの一員として戦っているのだがその事をテシック大提督は知らない。

 

彼はその後自らの旗艦“エリーモシナリー”に向かい反乱同盟艦隊と対決するつもりだった。

 

状況的に圧倒的劣勢なのは重々承知だ。

 

むしろそれで構わない、いつだって大提督の戦場は劣勢の中だった。

 

自らの身体がこうなった時だってそうだ。

 

死ぬる覚悟でテシック大提督は反乱同盟軍と対決しようとした。

 

だからこそ自分を助けてくれた命の恩人はスローネ大提督の方に乗せたのだが。

 

しかし“()()”はそれを許さなかった。

 

彼の“エリーモシナリー”は突如ハイパードライブが異常行動を起こし何隻かの僚艦と共にエンドアから強制的にハイパースペース・ジャンプに巻き込まれた。

 

その為エンドアでは残存艦隊が抵抗していたがその中にテシック大提督の姿は含まれていなかった。

 

彼がいたら彼の命と引き換えにもう少し残存艦隊は粘っていただろう。

 

エリーモシナリー”のハイパードライブは航路が定まっていない為何処へ行くかも知らず多くの乗組員は戦わずにこのまま死ぬのだと悲観していた。

 

このまま訳も分からない場所に飛ばされて死ぬ、或いは超新星か何かに巻き込まれて死ぬ、全員がそう思っていた時に奇跡は起きた。

 

飛ばされたテシック艦隊は突如ジャンプアウトしある場所に流れ着いた。

 

そう、この“()()()()”だ。

 

どういう航路を辿りどういう経緯でここまで辿り着いたのかは分からない。

 

後でクラリッサ達から話を聞くと既にエンドアの戦いからはもう1年が経過しており帝国軍はジャクーの戦いで敗北、片割れが辛うじてカイゼルシュラハト作戦を成功させ“()()()()”を築き上げたらしい。

 

明らかに燃料が足りないのにも関わらずテシック大提督達は1年もハイパースペースの中を彷徨っていたのだ。

 

しかも乗組員やテシック大提督の体感で言えばハイパースペースの中を航行している時は1年も経った覚えがない。

 

長くても数ヶ月、数週間程度だったはずだ。

 

1年もずっと航行していたのは明らかにおかしかった。

 

様々な謎を孕みながらテシック大提督はこう思った。

 

()()()()()()()()()”と。

 

あのエンドアで戦い死んでいたはずだ。

 

自らも軍将となって無益に争い死んでいたはずだ。

 

ジャクーの戦いで“ラヴェジャー”と並んで共に戦い華々しく死んでいたはずだ。

 

カイゼルシュラハト作戦で帝国の未来に希望を寄せながら死んでいたはずだ。

 

全ての戦場と死に場所を見失った。

 

もうコア・ワールドでは銀河協定が結ばれ戦争は終わった。

 

今更戦おうともしても無駄である。

 

他の大提督達はどうなっただろうか。

 

サヴィットは数年も前に捕まりスローンは何処かへ消えた。

 

デクランはエンドアで死んだし他の連中も軍将として戦って死んだかラックス辺りに暗殺されたのだろう。

 

そして私は、生き残ったらしい。

 

死に損なったとも言えようが。

 

こんな見た目になったのにも関わらず今も生きている。

 

何故なのだ。

 

私は昔ヴィジョンを見た。

 

あの死と生の界で未来の出来事を見たはずだ。

 

戦いは続いていた、戦いは終わらなかった。

 

私もその中で死ぬと思っていた。

 

しかし違った。

 

死に損なった。

 

だが彼女は、クラリッサは私に向かってこう言った。

 

我々はまだ諦めていない、やがて帝国を再建し新共和国を打倒出来る”と。

 

そして彼女は私を客将として迎え入れた。

 

彼女はなんでも迎え入れてしまう。

 

あのマルス・ヒルデンロードだってそうだ。

 

全てを取り入れ本当に戦いを続けるつもりだ。

 

彼女の姿を見ていると失った何かを思い出す。

 

そうだ、ヴィジョンはまだ完成していない。

 

この銀河はまだまだ戦乱に満ちている。

 

我々にはまだまだ道が残されている、死に場所も祖国も、何もかもが残されている。

 

帝国との戦いの終わりには程遠い。

 

私にも今生きている理由がまだあるはずだ。

 

「第三帝国の限界は近い。君のヴィジョンが成される日も近いだろう。それで、捕らえた2人はどうするつもりだ?」

 

「全て御二人に話した通りですわ」

 

「あまりいじめてやるな。彼らは恐らく本当に知らない。所詮は使い捨ての末端の連中だ」

 

テシック大提督は他の将校達も宥めるようにそう呟いた。

 

許してやれ、でなければ恐らく他の誰もが彼らを許さないだろうから。

 

「しかし大提督殿、お嬢様。スパイからの連絡がなくなれば連中我々への警戒と圧力を一層強めるのでは?」

 

ジャインス中佐は二人に尋ねた。

 

「そうだろうが全面戦争にはならないだろう。今の連中はレジスタンスの討伐と西方の未知領域との関係整理に夢中になっている。ハットを駆逐してこの東方では満足だ」

 

「最も近いハット領域だけ見ても元いた犯罪者と海賊の征伐に忙しくてこちらに兵力を向ける余力はありませんわ。そして南方にはボサウイ、到底私達を攻撃する余裕なんてはなからありませんのよ、彼ら」

 

「大義名分もない、余裕もない、そもそも本国は眼中にない、別の敵がすぐ近くにいる。これだけ揃っていれば名目上中立の仮想敵への侵攻など足枷だらけで出来たものではない」

 

「なるほど…」

 

制約だらけの中で仮に侵攻してきたとしても敵ではない。

 

内側まで入れるどころか門前で簡単に防げる。

 

それにどうもハット・スペースの様子を見るに領域の指導者達はかなり本国の命令に従順だ。

 

あの代理総統というちょび髭のカリスマなのか単純に元から忠誠心が高いのか。

 

どちらにせよ連中が勝手に戦闘を起こす可能性も低い。

 

我々にとっては好都合だ。

 

「…あの2人、“()()()()()()()”の名を聞いて随分驚いていたな」

 

ずっと顔を落とし続けるマルスに対してテシック大提督はそう呟いた。

 

マルスは顔を上げ「ええ…」と弱々しく呟いた。

 

「彼らにとってはきっと、“()()()()()()()()()”はまだ英雄のままですから」

 

「所詮末端のスパイで、2年前の出来事に関係はないだろうからな。だがそれでもやるせない、そうなんだろう」

 

マルスは小さく頷いた。

 

彼の拳はずっと握り締められておりまるで怒りを抑えているようだ。

 

当たり前だ、何せ彼の父親は“()()()()()()()()()()()()()”。

 

テシック大提督も一度だけ彼の父であるモフ、パウルス・ヒルデンロード元帥に会ったことがある。

 

ベアルーリン宙域のモフを務め、癖の強い多くの部下を纏めていた。

 

父親としても良い人物だったのだろう。

 

「許してやれとは言わない。むしろ仇は取るべきだ。その機会も必ずやってくる」

 

「本当にそうでしょうか……このまま第三帝国の勝利に終わりそうですが」

 

「それは違うさ、私は“()()()()()()()()”。だからこそ言える、我々は」

 

第三帝国と必ず対決するだろう”。

 

 

 

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 未知領域 惑星キャルヒーコル-

キャルヒーコルでは地上に墜落したインペリアル級の引き上げが始まっており、チス・アセンダンシーの軍艦や帝国軍の軍艦がトラクター・ビームを使ってインペリアル級を引き上げていた。

 

地上基地では戦場の後処理を行っていた。

 

情報を持った連絡将校が司令室に入り後の事を協議するプライド中将らに敬礼する。

 

「捕虜の輸送、最終便が発進しました」

 

「そうか、シーラの客人らには悟られていないな?」

 

「はい、問題ありません。このままキノス、オヨカルに移送する予定ですが」

 

「それでいい。報告ご苦労」

 

再び敬礼し連絡将校は司令室を後にした。

 

「旗艦の陥落が決定打となり、かなり多くの捕虜を手に入れられた」

 

「ああ、敵将が戦死したのは残念だがお陰で勝利を早めることが出来た。これは素晴らしい戦果だ」

 

ロコソフスキー少将の分析にプライド中将はそう付け加えた。

 

「それに情報部なら敵艦内の記録を復元し解析出来るでしょう」

 

「ええ、他の生き残った上級将校にも話を聞いてみるつもりです」

 

チス・アセンダンシー軍のジャミルハギスワン准将は悲観することないよう意見を述べた。

 

グリス准将もそう付け加えた。

 

大きな可能性は失ったがまだ手がかりは沢山ある。

 

今後の安全保障の為にも今回の襲撃者達の分析は最重要課題と認識されていた。

 

既にシャポシニコフ元帥らにも今回の報告書は転送済みであり追って指示が出るだろう。

 

「鹵獲装備の数と運搬状況はどうだ?」

 

「陸上兵器はともかく、スターファイターと艦隊の方はかなり大量だ。特にインペリアル級七隻を一気に入手出来たのは大きい」

 

ヴァシレフスキー少将は微笑を浮かべ鹵獲品の数を高評したが「ただ…」と一つ付け加えた。

 

「間も無く第三帝国の視察団が帰還するらしい。そうなるとこれだけの装備をハイパースペースで輸送するのは隠密性の観点から難しくなる。暫くはキャルヒーコルに置いておく他ないと思う」

 

「だがこの基地も無理だし損傷具合から見ても軌道上に放置しておくのは無理だ」

 

ロコソフスキー少将の言う通り七隻のインペリアル級は地上に墜落した影響で少なからず船体の下船部が全艦多かれ少なかれ損傷している。

 

旗艦“アドミラル・キリアン”も乗船部隊がなんとか不時着を成功させたのだが損傷は免れなかった。

 

このまま宇宙空間に野ざらしにしておくのは更に船体が傷つくしかと言ってキャルヒーコルの地上基地にはインペリアル級七隻を停泊させる余裕はない。

 

「…ヤシュブーの近くに衛星を改造した軍港があったはずだ。あそこならインペリアル級も受け入れられるだろう」

 

「確かに主要ハイパースペース・ルートを通らずに済むが時間はかなり掛かるぞ?」

 

「それでも構わん。あの小艦隊は今すぐに運用したい代物じゃない。ひとまずドックにさえ置ければいい」

 

「分かった。輸送隊には衛星軍港に運搬するよう命令を出しておく」

 

ヴァシレフスキー少将は伝達する命令を確認する。

 

「そして我々防衛の最前線部隊が警戒すべきことであるが…」

 

前置きを含めてプライド中将は議題を諸将らに提示する。

 

「襲撃者撃退による“()()()”の存在、つまり我々が撃退したのと同じような部隊がまた来る可能性だ。今の所我々そのような存在の報告は受けていないが」

 

プライド中将が連れてきた星系艦隊は現在レイダー級やアークワイテンズ級などの小型艦がパトロール隊を編成して周辺を哨戒している。

 

今の所目立った緊急の報告は受けていないがもしかすると次の敵がすぐにやってくるかもしれない。

 

そのような可能性は拭い切れなかった。

 

「小艦隊クラスに加えて二、三個兵団クラスの地上戦力を撃滅したのですから流石にこれ以上の戦力は送り込んでこないと思いますが…」

 

グリス准将は相手の戦力から予測を出したがロコソフスキー少将はまた別の予測を出した。

 

「いや、むしろ“()()()()()”の可能性も捨て切れない。二、三倍の敵が攻め寄せてくる可能性もあるしそうなれば作戦を変える必要がある」

 

「しかしそれほどの大部隊一体どこから送り込まれてくるんだ?第三帝国も今はアセンダンシーの領内に視察団を送っている。彼らの事もあるから下手に手は出してこないと思うが」

 

ヴァシレフスキー少将の言い分にも一理ある。

 

今現在、帝国軍の編成上の小艦隊を二、三個纏めて送り込める勢力は限られていた。

 

一つは第三銀河帝国、一つは大セスウェナ、一つはファースト・オーダー、そして一つはこのチス・アセンダンシーの亡命帝国だ。

 

大セスウェナは侵攻してきた距離的に合わないしファースト・オーダーがそのようなことをするとは思えない。

 

となると残りは第三帝国しかなくなるのだが彼らもヴァシレフスキー少将の言う通り今は視察団をチス・アセンダンシーの中枢たる首都シーラに送っている。

 

しかも視察の中には国防軍の最上級将校たるヴィアーズ大将軍、オイカン大提督、ローリング大将軍がいるのだ。

 

国民的英雄であり名称として知られた国防軍の中枢を危険に晒すとは思えない。

 

「やはり結局のところはこの襲撃者を送ってきたのは誰かという問題に帰結するわけか…」

 

そう、この小艦隊を送ってきた黒幕を突き止めなければ新たな襲撃者を送ってくるのか、それとも送ってくるのが不可能な規模の勢力なのか分からない。

 

相手の謎を暴かない限りはさらなる対策が不可能であった。

 

「プライド、お前はどう見る?」

 

ロコソフスキー少将はプライド中将に尋ねた。

 

「私もグリス同様、大規模な第二の襲撃はないと見ている。どの陣営もこれ以上の攻撃は不可能だ」

 

「なるほど」

 

「しかし連中が作戦を変え大規模な部隊侵攻ではなく小競り合い程度の紛争に移行するかもしれない。だから現状の警戒体制を維持し状況を見極める必要がある」

 

敵の予測が読めない以上警戒を続けざるを得ない。

 

「我々はもう暫く、ここに留まることになりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

「敵が来たぞ!撃て!」

 

「もうここまで来たのか!クソッ!」

 

保安隊員達がブラスター・ライフルを持って応戦するが直後、放たれた光弾に倒れ一撃で絶命した。

 

彼らの屍の上を息の荒いジェルマンとジョーレンは進み更にブラスター弾の嵐を撒き散らした。

 

ここまで来るのに相当の苦労があった。

 

何度も罠が待ち受け、どこからともなく保安隊員の伏兵が現れ、分隊が通路を塞ぎ2人を苦しめた。

 

このプロカーセイター級はインペリアル級よりも確かに小型のスター・デストロイヤーだ。

 

しかし乗船している兵士達の展開力と動きにより並みの帝国軍の艦よりも突破が容易ならざるものに変化していた。

 

ここに来るまでに特にジェルマンは今まで体験したことのない疲労に苛まれた。

 

倒しても倒しても敵兵の突然の奇襲は降り止まず心的にも肉体的にも2人を苦しめる。

 

それでもここまで無理やり突破してきたのは単に2人の練度が彼らを上回っているからだろう。

 

確実に襲撃を潜り抜け敵兵の息の根を止める。

 

集団の敵には2人の連携からなる銃撃と投擲で蹴散らされ爆煙の中を彼らは進んだ。

 

クワットからこのナブーに至るまで、共に戦い積み重ねてきた戦場での連携と経験が彼らを守りプロカーセイター級の監房ブロックまで辿り着いたのだ。

 

だがそろそろ限界が来ていた。

 

後一歩のところで重火器を所持した保安隊員の分隊に足止めされ2人は一旦物陰に隠れた。

 

体力を少し回復し息を整えて再び攻撃を続けるつもりだった。

 

2()()()()()()()()()()()()()()”の話だが。

 

突如彼らを遮ろうと監房ブロックのブラスト・ドアが閉鎖し始めた。

 

「ジェルマン!」

 

急いで向こう側に渡ろうとしたが一歩遅くドアは完全に塞がれてしまった。

 

「なっ!?」

 

「今だ!一気に押し潰せ!」

 

ブラスト・ドアにより1人隔離されてしまったジェルマンに分隊の保安隊員達が一斉射撃を浴びせる。

 

身を隠しながら応戦するが圧倒的な数の差がありまともな戦いにはならなかった。

 

ブラスター弾がアーマーを掠めジェルマンは危うく被弾しかける。

 

「チッ!確固撃破するつもりか!」

 

ホルスターのブラスター・ピストルを引き抜き二丁銃の体勢で敵を撃ちようやく1人撃ち殺すがそれでも全然数が減らなかった。

 

しかも最悪なことがジェルマンの身に降りかかる。

 

「背後を取ったぞ!撃て!」

 

応戦するジェルマンの背後から保安隊員が現れ他の隊員と同じようにジェルマンに狙いを定めて引き金を引いた。

 

緑色の光弾を寸前で避けたジェルマンはすぐに反撃し1人の保安隊員を撃ち殺す。

 

だが隊員が倒れる瞬間もう1人の保安隊員が大声を上げ捨て身の突進を仕掛けた。

 

「うおおおおおお!!」

 

「なんだと!?」

 

勢いと急襲に押されて受身が取れなかったジェルマンはそのまま監房ブロックの床に押し倒された。

 

反撃しようとするが保安隊員は素早くジェルマンの腕を組み伏せそのまま体重を掛けて彼を地面に押し付けた。

 

我が身がどうなろうと敵兵を抑えるという捨て身に意表を突かれてしまった。

 

味方の保安隊員達もブラスター・ライフルを構えながら急いで近づいてくる。

 

この状況では味方の隊員にも誤射しかねない。

 

近距離から確実に致命傷を負わせるのが常套手段だ。

 

「よくやった!今すぐそいつの頭をぶち抜いてやる!」

 

分隊の分隊長は威勢の良い声で仲間の行動を褒め称えジェルマンの頭にブラスター・ライフルの銃口を突きつけようと走る。

 

しかしその数秒の時間が仇となった。

 

「捨て身の捕縛術か…!ならこっちも…!」

 

「なに!?全員離れろ!!」

 

ジェルマンを抑えていた保安隊員は大声で味方に警告した。

 

だがもう遅い。

 

バッグの秘密のポケットからインパクト・グレネードを取り出したジェルマンはスローボールを投げるように保安隊員達の集団へ投擲した。

 

隊員の警告虚しく突然の事により保安隊員達は誰も受け身を取っていない。

 

インパクト・グレネードは一番先頭を走る分隊長に当たった。

 

分隊長の「えっ」っという拍子の抜けた声と共にインパクト・グレネードは衝撃を受け起爆した。

 

サーマル・デトネーターより爆発範囲が狭いと言ってもこれほどの近距離なら誰も無事では済まない。

 

事実爆発により分隊全員が吹き飛ばされた。

 

破片が爆風に乗せて飛び散り更なるダメージを与える。

 

「ぐあああッ!!」

 

誰かの苦痛に満ちた叫び声が狭い監房ブロックに木霊する。

 

ジェルマンを抑えていた保安隊員の声だ。

 

「…いってーっ……全く酷いもんだ…」

 

ジェルマンは苦痛を上げて疼くまる保安隊員を退けて腕を押さえながら立ち上がった。

 

起爆する瞬間、分隊に警告した隊員の隙をついて形成逆転しその保安隊員を盾代わりにして爆発と爆風の破片を防いだのだ。

 

とはいえ不完全な防御であった為腕に少しばかり傷を負った。

 

傷口から血が垂れ流されている為ジェルマンはバクタを染み込ませたガーゼを傷口に当て、布で縛り応急処置を施した。

 

辺りを見てみれば殆どの敵兵が倒れ蹲り呻き声を上げている。

 

幸いにもブラスター・ライフルとブラスター・ピストルの損傷はなくまだ戦闘で十分使える状態だった。

 

ブラスター・ライフルを持って立ち上がろうとする保安隊員を冷たく撃ち殺しブラスト・ドアに近づく。

 

「この艦のプログラムは恐らくまだ通常の帝国軍の仕様となんら変わらないだろう。となれば解析して作ったこれを使えば…」

 

ジェルマンはバッグから帝国軍の士官などがよく使っているコードシリンダーを取り出しブラスト・ドア近くの端末ソケットに差し込む。

 

端末ソケットの表面が何回か動き最終的に電子音を鳴らしてブラスト・ドアの開錠を告げた。

 

「よし!」

 

ゆっくりとブラスター弾も弾くブラスト・ドアが開き閉ざされた向こう側の姿を映し出す。

 

通路には多くの保安隊員達が倒れておりその中で1人、息の荒いジョーレンがブラスター・ライフルを下げ立っていた。

 

先程のジェルマンと同じく手から血を垂れ流し身体中にかすり傷があった。

 

「ジョーレン!」

 

すぐにジョーレンの下へ駆け寄り倒れそうな彼を支える。

 

「かなりの敵兵を始末してやった…これでしばらくは敵は来ないだろう…」

 

「手当しないと…」

 

「それよりも、だ。早く女王達を救出する。監房ブロックのコンソールさえあれば良いんだろう?」

 

「あっああ」

 

ジェルマンは相槌を打ちながら簡易端末を取り出した。

 

「早く行け」

 

ジョーレンにそう諭されジェルマンは急いでコンソールの近くに向かった。

 

さっきと同じくソケットにコードを差し込み、事前に作ったプログラムを転送し監房ブロックのシステムをハッキングする。

 

コードの転送が終了し一斉に監房のドアが開く。

 

今まで聞こえていなかった監房の中の声も聴こえるようになった。

 

突然の出来事に動揺している囚人達を1人ずつ確認しジェルマンとジョーレンはようやく目当ての人物を見つけた。

 

「あなた方は…誰ですか?」

 

彼女は顔を出したジェルマンとジョーレンに向かってそう尋ねた。

 

一眼で目的の人物だということが分かった。

 

キリッとした何者にも屈しないその瞳が間違いなく救出対象だということを教えていた。

 

ジェルマンは代表して彼女に名前を告げる。

 

「我々はレジスタンス。新共和国再建の為の抵抗組織でありナブー王室解放軍の同志達の為にあなたを解放しに来ました。“()()()()()()()()”」

 

囚われのナブーの君主、ソーシャ・ソルーナ女王は2人の手を取りクーデター軍の檻から脱した。

 

 

 

 

 

 

 

「敵救出チーム、監房ブロックを制圧。女王含め全要人を解放しました」

 

士官の報告により幕僚達から動揺の声が湧いた。

 

相手は所詮、たった2人の兵士なのだ。

 

それに対してこちらは数千人近くの保安隊員に加え、何重もの罠を仕掛け、帝国軍から提供されたセキュリティ・ドロイドまで使っている。

 

作戦としては完璧なはずなのにここまで突破されてしまった。

 

動揺するなという方が難しいだろう。

 

「ちゅっ宙将!連中は女王を解放してしまいました!このままでは…!」

 

艦長は顔を真っ青にしながらクリース宙将に判断を仰いだがすぐに「狼狽えるな」と一蹴されてしまった。

 

「連中があそこまでやるとは我々も予想外だ」

 

「もしかすると、彼らが以前ハイドレーヒ大将殿から報告にあったイセノで通信ステーションを占拠した実行部隊の一部なのでは?」

 

グリアフ一佐はそう予測を立てた。

 

確かにモニターに映る彼らの装備は新共和国軍、現在のレジスタンス軍の再精鋭部隊の装備と殆ど合致している。

 

A280-CFEもA300も反乱同盟時代から同盟軍の特殊部隊が使用していたブラスターだ。

 

「もし相手が例の実行部隊の一部ならば、現状の我が軍団では勝ち目がありません。数的優位も無に帰すでしょう」

 

「だとしても連中は今や我が身を気にせず突撃出来る状態ではない。女王らを救出した事によりその十数人を全員守る義務が生じる。これでは連中2人が幾ら強かろうと全力を発揮出来ない。そこを一気に叩くのだ」

 

「しかし宙将、それでは女王陛下らにも危険が…!」

 

艦長は危険を提示した。

 

だが冷酷な目を向けクリース宙将はそんな事なんとも思わない様相で言葉を返した。

 

「連中にとって我々はクーデター軍だぞ?生易しい配慮をした所で無駄だ。そして我々にとって“()()()()()()”を理解しない女王などもはや“不必要”だ。既に政府機能を維持出来るメンツは揃っている。旧時代の、愚かな平和主義を掲げてナブーの栄光に泥を浴びせ忘却の彼方へ落とそうとする者どもなど、不要である」

 

艦長はそのまま黙ってしまった。

 

他の、以前からクリース宙将についてきた幕僚達は特に何も思わなかったようだが。

 

間を置いてクリース宙将は命令を下す。

 

「予備隊を動員せよ。セキュリティ・ドロイドも何もかも全部だ。この君主“ヴェルーナ”の名を持つ艦が彼らの墓標となるだろう」

 

「了解」

 

幕僚達は予備隊に指令を出し始める。

 

「精鋭と“()()()”で高水準だった者達を予備に回したのはそう言う事だったのですね」とグリアフ一左は耳打ちするように告げた。

 

「ああ、自らの手で君主を撃ち殺してもそれは祖国にとって正しい事だと理解出来る者でなければダメだ。我々にとってこれからが“本番”となる」

 

邪悪な笑みを浮かべモニターに目を向ける。

 

これから打ち倒される者達の姿を拝む為に。

 

2人の兵士に守られ囚人達がゾロゾロと牢の中から出てきた。

 

「取れるだけの武器を取れ。我々も女王を守るぞ」

 

王室保安軍の元キャプテン、コォロは斃れた保安隊員から軍帽やアーマー、ブラスター・ピストルを取りながら他の将校達にも武器を取るよう告げた。

 

文民の囚人はともかくここにはかなり多くのクーデターに参加しなかった保安将校が収監されていた。

 

キャプテンコォロに加え、以前の王室海軍の作戦部長や儀仗兵、近衛兵の将校達も大勢いた。

 

そしてその中に1人、かの侵攻でもN-1スターファイターに乗り込みナブーの為に戦った歴戦の猛者がいた。

 

「あなたは…もしかしてブラボーリーダーの“()()()()()()()()”……ですか?」

 

ジェルマンはブラスターを拾い立ち上がろうとする1人の男にそう尋ねた。

 

男は振り返り大きく頷いた。

 

「ああ、そうだとも。私が元ブラボーリーダーのリック・オーリー一等空将だ」

 

男の姿は確かにジェルマンが情報部の授業で写真として映し出されたナブーのスターファイターパイロットの姿そのものだった。

 

ナブー宇宙戦闘機隊の精鋭部隊、ブラボー小隊。

 

このオーリー空将はブラボー小隊と戦闘機隊の隊長であり故クァーシュ・パナカと同じくナブー侵攻当時の王室保安軍の指揮官だった。

 

彼は救出に来たジェダイと共に国外に脱出し共和国の支援が望めないとなると当時の君主であるパドメ・アミダラ女王と共にナブーへ帰還した。

 

グンガンの支援を取り付けたアミダラ女王は少数精鋭の保安軍を率いてシード宮殿に突入しオーリー空将らは宮殿格納庫のスターファイターを奪還し軌道上の通商連合艦隊に急襲を仕掛けた。

 

オーリー空将や精鋭部隊の働きもあり彼らはドロイド軍の司令船を撃破した。

 

ナブーに展開された全てのバトル・ドロイドは機能が停止し王室保安軍とグンガン達は無事に勝利を収めたのだ。

 

「オーリー空将はとある事件により負傷し暫く軍務を退いていましたが宇宙艦隊設立によるクリース宙将の移籍により復帰していただきました」

 

ソルーナ女王は彼の近年の話を2人に告げた。

 

「お陰で陛下と同じ牢に放り込まれたのだがな。だがなんとか助かった、ありがとう」

 

オーリー空将は手を差し伸べジェルマンとジョーレンはそれに応えて固い握手を交わした。

 

「それよりこの艦にN-1スターファイターはあるか?いや、最悪N-1出なくてもいい、ポリス・クルーザーでもなんでも」

 

オーリー空将の問いにジョーレンは「ありますよ」とまず一言答えた。

 

「N-1どころかN-1Tアドバンスト・スターファイターが。ブラボーリーダーの腕前、見せてもらいましょう」

 

「ああ」

 

オーリー空将はニヒルな笑みを浮かべて相槌を打った。

 

武器を持ったソルーナ女王らに告げた。

 

「私がこの艦の格納庫からスターファイターを分取って時間を稼ぎます。その間に陛下は彼らと共に離脱して下さい」

 

「オーリー空将も、我々の離脱を確認したらすぐに脱出してください」

 

ソルーナ女王は殿を務めようとするオーリー空将に言葉を投げかけたが空将はどこか悲しい笑みを浮かべるだけで返答しなかった。

 

キャプテンコォロも何かを悟ったのか口を紡いでいる。

 

しばらくしてオーリー空将は天を仰ぐように呟いた。

 

「私は……アミダラ女王と“()()()()”を守り切れなかった…ですが今度こそはソルーナ女王陛下らを絶対にお守りします。どうか私を信じてください」

 

空将の決意は重く、余所者であるジェルマンとジョーレンにすらその意志が伝わるほどだった。

 

2人は周囲を警戒しながらオーリー空将の決意を無駄にせぬよう全力を尽くすことを誓った。

 

すると突然ジョーレンのコムリンクが音を鳴らした。

 

「通信……?一体どころから……」

 

「とにかく開いてみよう」

 

ジェルマンの提案によりジョーレンはコムリンクを開き音声を流した。

 

コムリンクの先からは人の声ではなくアストロメク・ドロイドの電子音声が流れていた。

 

一見すると意味の分からない通信音声だったがアストロメクの言語が分かるジェルマンとジョーレンからすればこれはとんでもない音声だ。

 

2人は顔を見合わせ驚きの顔を浮かべる。

 

しばらくして解放された女王ら全員に告げた。

 

「急いで離脱を!ここから早く脱出しないと大変な事になります!」

 

2人は最短距離の逃走経路の方へ向かい「早く!」と彼女らを手招きした。

 

「一体どうしたのですか?」

 

内情をよく理解出来ないソルーナ女王は2人に尋ねた。

 

女王の問いにジョーレンは手短に答える。

 

「“()()()()()()()()()()()”!我々の“()()”によって!」

 

ジョーレンが口に出した援軍を最も早く感知していたのはジョーレンではなくこの“キング・オブ・ヴェルーナ”のブリッジであった。

 

1人のセンサー士官が大声でクリース宙将とグリアフ一佐らに報告する。

 

「宙将!惑星内よりスターファイターが多数接近!敵の信号です!」

 

「なんだと…?」

 

クリース宙将は怪訝な表情を浮かべセンサー士官の方に詰め寄った。

 

センサー士官は「目視確認!モニターに出します」と報告内容をモニターに映し出した。

 

「なっ!?」

 

グリアフ一佐はモニターの様子を見て驚きクリース宙将は口を閉ざした。

 

センサー士官は状況を言葉にする。

 

「敵です!抵抗勢力のN-1スターファイター隊です!20機近くのスターファイターが真っ直ぐ我が艦隊目指して接近しています!」

 

士官の報告が終わる頃には既に敵機は攻撃に移っていた。

 

最前衛を担うN-1Tアドバンスト・スターファイター5機が側面に展開していたCR90コルベットとゴザンティ級にレーザー砲と魚雷を浴びせかける。

 

防御と対空が間に合わなかった数隻が被弾し爆炎を上げていた。

 

さらに後方から来るN-1スターファイターとNB-1ロイヤル・ボマーの攻撃も攻撃を開始する。

 

「こちらもスターファイター隊を出せ。ひとまず抑えつけろ」

 

「前方のアドバンスト・スターファイターは以前宮殿格納庫から奪取された機体と識別が一致します」

 

ブリッジの士官の1人がクリース宙将らに報告する。

 

「となれば残りの機体は……前衛対空群に打電!急いで対ミサイル用の防御を開始しろ!」

 

「宙将!地上から弾道ミサイル接近!我が艦隊を目指しています!」

 

「遅かったか…」

 

地表から放たれたミサイル数発が艦隊のCR90とアークワイテンズ級に被弾し二隻とも轟沈した。

 

更に弾道ミサイルは接近し何発かは対空防御の前に破壊されたがその結果、周囲に妨害粒子付きの煙幕を散布し艦隊の視界を大きく遮った。

 

「地上からのミサイル攻撃です!位置は特定中!」

 

「いいや、間違いなく我が軍の海軍基地だ。あのミサイルは海軍の駆逐艦搭載ミサイルです。今すぐ捜索し海軍基地に対して攻撃を」

 

グリアフ一佐の提案を受け入れクリース宙将は直ちに地上部隊に捜索と迎撃を命じた。

 

「連中、まさか海軍基地を丸々ひとつ制圧するとは」

 

「ああ、もはや王立海軍は抵抗勢力の巣窟だ。あのN-1スターファイターだって間違いなく海軍機だろう。敵機を叩き落とせ!それから我が艦隊も海軍基地に対して攻撃を行う」

 

想定外の攻撃ではあるがまだ立て直すことは出来る。

 

特に連中のスターファイター隊は所詮20機しかおらず艦隊の艦載機の総数には遠く及ばない。

 

既に哨戒機と発艦した艦載機部隊が戦闘を開始している。

 

物量とパイロットの練度差によって容易に殲滅出来るだろう、クリース宙将はそう踏んでいた。

 

だが実際は違った。

 

N-1Tアドバンスト・スターファイター5機が友軍の編隊を崩し乱れた所を後方の海軍用N-1スターファイターが確実に敵機を撃破していた。

 

5機は明らかに他の全ての機体とは全く違う動きをしている。

 

それは当然と言えば当然だろう。

 

この5機のN-1Tアドバンスト・スターファイターに乗り込むパイロット達は皆、かつてのナブーの戦いで通商連合艦隊に突撃したスターファイター隊のパイロット達なのだ。

 

特に隊長のポロー・ドルフィはオーリー空将に次ぐブラボー2の肩書きを持つパイロットで宇宙戦闘機隊でも二等空将の地位についていた。

 

他のディニエ・エルバーガー、ギャヴィン・サイキス、アーヴン・ウェンディック、ルティン・ホリスもナブーの戦いを勝ち抜いたベテランのパイロット達だ。

 

5機は連携しながら敵機の編隊を崩し他のスターファイター隊を導いていく。

 

「各機、シュミレーション通り5つの隊に分かれて対艦攻撃を行う。私とウェンディックの爆撃隊は敵旗艦のセンサーを潰す、エルバーガーとサイキスとホリスは護衛を」

 

『了解!』

 

『了解、さあ行くよ!』

 

ドルフィ空将の命令と共にエルバーガー隊長の隊が先行し“キング・オブ・ヴェルーナ”から迫る敵スターファイター隊を蹴散らす。

 

それぞれ隊長機含めた3機の編隊が編成され護衛と攻撃の二手に分かれて攻撃が開始された。

 

ドルフィ空将とウェンディック隊長の率いる爆撃隊を前方から攻撃しようとするTIEファイター3機をホリス隊長の隊が迎撃し殲滅する。

 

背後から迫ろうとするものはサイキス隊長の隊が難み、遊撃的に動くエルバーガー隊長の隊が全体的に敵機を抑圧した。

 

護衛艦のアークワイテンズ級をすり抜け爆撃隊が“キング・オブ・ヴェルーナ”に接近する。

 

「ウェンディック、先にシールド撃破を」

 

『任せてくれ。全機、片方だけ潰せればそれだけで大戦果だ。欲張らず確実に一基撃破するぞ』

 

ウェンディック隊が先行し対空砲撃を掻い潜りながらブリッジの偏向シールド発生装置へ爆撃を仕掛ける。

 

彼らの爆撃は成功しプロカーセイター級の偏向シールドを一つ破壊した。

 

破壊の振動はプロカーセイター級“キング・オブ・ヴェルーナ”のブリッジだけでなく戦闘中のジェルマンとジョーレン達にまで伝わった。

 

「いよいよ爆撃が始まっちまった!急ぐぞ!」

 

敵から奪ったDTL-19を連射して敵兵を抑えながらジョーレンはそう促した。

 

ウェインディック隊は離脱しドルフィ空将の隊による爆撃が始まる。

 

「ブリッジを一時的にでいい、機能を弱体化させる」

 

ドルフィ空将のN-1Tアドバンスト・スターファイターが放ったイオン魚雷に続き、2機のNB-1ロイヤル・ボマーが魚雷を放つ。

 

魚雷は全弾命中し“キング・オブ・ヴェルーナ”のブリッジの機能は著しく低下した。

 

いい笑顔を見せながらドルフィ空将は「よし!よくやった!」と海軍パイロット達を褒め称えた。

 

3機は離脱し彼らの役割を終える。

 

「さて、後は頼んだぞ“()()()()”」

 

プロカーセイター級の姿を振り返って見つめながらドルフィ空将はそう呟いた。

 

スターファイター隊が一連の攻撃を仕掛け終わった後もプロカーセイター級内での戦闘は続いていた。

 

ブリッジではクリース宙将とグリアフ一佐の下復旧作業が進められていたがイオン魚雷の被弾によりセキュリティ・ドロイド部隊にも一部被害が出てしまった為更なる強大な物量を展開出来ずにいた。

 

それでもジェルマンとジョーレン達にとっては十分相手の物量は凄まじい。

 

どれだけ蹴散らしてもある程度の質を保った保安隊員達が現れて彼らの道を塞いだ。

 

ようやく監房ブロックを突破し通路に出たのだが通路も多くの敵兵により阻まれてしまった。

 

「ちぃ!DTLですら火力が足りねぇ!」

 

「任せろ!」

 

ジェルマンはバッグからサーマル・インプローダーを取り出し敵に投げつけた。

 

全員が離れさせられ女王らの安全が確保される。

 

直後サーマル・インプローダーは大爆発を起こしたが事前に敵兵が退避し防御部隊が防御を成功させたことにより最小限の損害しか与えられなかった。

 

ジェルマンとジョーレンとキャプテンコォロがその隙にブラスターによる一斉射撃を行なったがイマイチ効力は表面化されていなかった。

 

「連中、足止めさえに注力してやがる!」

 

「どうせクリースのことだ、既に増援部隊を展開しているに違いない」

 

キャプテンコォロはS-5重ブラスター・ピストルをもう一丁引き抜いて構えながらそう呟き、ジョーレンも「挟み撃ちにして皆殺しにする気か…!」と歯噛みした。

 

「奴なら陛下と我々ごと殺しにかかってもおかしくない…!」

 

「とんでもない奴なんですね!クリース宙将ってのは!」

 

A280-CFEで敵兵を1人撃ち倒しながらジェルマンは冗談混じりに吐き捨てた。

 

すると通路を塞ぐ保安隊員の後方から爆発音と火花のようなものが見えた。

 

敵の銃撃が降り止まず殆どその様子は見えなかったが明らかに連立して鳴り響く爆発音が聞こえた。

 

「今の爆発音はなんだ!?」

 

ブラスター・ライフルのティバナ・ガスを交換しながらジョーレンは尋ねた。

 

「分からない…でも明らかに敵の後方から聞こえてる…」

 

「暴発か何かか…?」

 

直後、銃声も聞こえ彼らは明らかに敵部隊の後方で異変が起きていることを認識した。

 

そしてこの機にと彼らは最大火力を持って敵兵に攻撃する。

 

サーマル・デトネーターやインパクト・グレネードを投げつけ、DTL-19やA280-CFE、A300ブラスター・ライフルで敵兵を撃つ。

 

投擲と一斉射撃により数人の保安隊員を撃破し敵部隊は突如撤退を始めた。

 

ジェルマン達を牽制しながら保安隊員達は離脱していく。

 

「何があったのです…?」

 

突然銃撃の音が鳴り止んだ為ソルーナ女王は彼らに尋ねた。

 

「敵部隊が突然撤退を開始しました。しかしまだ危険ですので陛下達は奥へ」

 

キャプテンコォロが説明している間にジェルマンとジョーレンは通路に身を出し周囲を警戒しながら奥底を覗き込む。

 

すると奥の方から足音が聞こえジェルマンとジョーレンは急いでブラスター・ライフルを構えた。

 

キャプテンコォロとソルーナ女王もそれぞれブラスターを構え警戒する。

 

しかし姿を表したのは敵ではなかった。

 

「ご無事でしたか!」

 

2人の安否を確認し喜ばしそうに話すその声をジェルマンとジョーレンはよく知っていた。

 

「メンジス三佐!」

 

2人は声を揃えて数十人の兵士と共に接近する三佐の名前を呼んだ。

 

「メンジス!それにお前達は…!」

 

キャプテンコォロも通路から飛び出しその存在に驚いた。

 

メンジス三佐の背後には多くの特殊部隊員に加え擲弾兵もいた。

 

「お久しぶりですキャプテン、そして女王陛下、オーリー空将。そして助けに来ましたよ、ジルディール上級中尉、バスチル少佐」

 

メンジス三佐は3人の上官と2人の盟友に敬礼する。

 

キャプテンコォロとオーリー空将は敬礼を返し、ソルーナ女王は「今までよくナブーの民の為に戦ってくれました」と労いの言葉を掛けた。

 

「どうしてここに、離脱したんじゃ…」

 

ジョーレンの問いにメンジス三佐は簡潔に答えた。

 

「あの後すぐ状況をフランケ一佐とガイルス二佐に伝えました。彼らはホーリス隊長と協議した結果、特務作戦を実行に移し海軍内の解放軍派を総動員して海軍本部を占拠。そのまま海軍戦闘機隊と我々のスターファイター隊を動員し本部基地からのミサイル攻撃と共に救援に駆けつけました」

 

「だがどうやってこの艦に入ったんだ?」

 

「我々は1機だけ“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”をあなた方から借りています」

 

「まさか俺達のUウィングで!?」

 

ジョーレンは驚きメンジス三佐は申し訳なさそうに小さく頷いた。

 

「なるほど…通りで完全な奇襲だったわけだ…」

 

「はい、ですが連中は恐らくすぐに立て直します。早くこの艦からの離脱を」

 

「ああ…!急ぐぞ!」

 

メンジス三佐の増援部隊に連れられ女王達が脱出を開始した。

 

ジェルマンとジョーレンはメンジス三佐と共に殿を担当し部隊を再編成し増援に来るかもしれない敵を警戒した。

 

「おいジェルマン、こいつを拾っていくぞ」

 

ジョーレンはその辺に転がっていたEウェブを指差し砲塔部分を持ち上げた。

 

ジェルマンは「絶対重いよ」と言いつつも律儀に三脚と冷却器を持って走り始めた。

 

彼らがしばらく進むと背後から「敵が逃げるぞ!追え!」と撤退した保安隊員達が姿を表した。

 

素早く敵を察知したジョーレンはニヤリと笑みを浮かべ三脚を立てぬままEウェブを担いで手持ちのブラスター砲のように引き金を引いた。

 

超火力のブラスター砲が火を吹き体を出した敵兵は皆撃たれて倒れた。

 

その姿はクローン戦争中、Z-6回転式ブラスター砲でバトル・ドロイドを薙ぎ払うクローン・トルーパーを想起させる。

 

敵兵はEウェブの火力の前に倒れて生き残った者は身を隠せざるを得なかった。

 

「三脚は!?」

 

ジェルマンがジョーレンに尋ねるが「そんなもんつけなくていい!」と一蹴された。

 

ムッとしているところを軽装備で突っ込んできた保安隊員が現れる。

 

もう既にEウェブの射程外でありジョーレンでは対処出来なかった。

 

しかし三脚を持っていたジェルマンが保安隊員の頭を三脚で殴りつけ地面に倒した。

 

「そろそろ後退してください!」

 

メンジス三佐はサーマル・インプローダーを敵に投げつけ2人に促した。

 

ジョーレンはEウェブを投げ捨て三佐の言う通り急いで走った。

 

大爆発によりさらに追撃は不可能となり急いで全員が後退した。

 

「しかしまさか助けに来てくれるとは…!」

 

ジョーレンは少し嬉しそうにメンジス三佐達のことを語った。

 

「こちらも助けてばかりではいられないのでね!」

 

「でもお陰で命拾いしました!我々だけでは間違いなく死んでいた!」

 

3人は微笑みながら先に離脱した女王達に合流し一気にハンガーベイまで向かった。

 

「我々はUウィングでオーリー空将と共に脱出を援護する!女王達はTIEボーディング・クラフトではなく、あのセンチネル級シャトルで!」

 

ジョーレンは近くのセンチネル級シャトルを指差した。

 

乗ってきたTIEボーディング・クラフトは既に損傷しており人もあまり乗せられない。

 

しかしセンチネル級なら十分な人材を乗せられる上に偏向シールドが搭載され頑丈だ。

 

「分かりました!」

 

メンジス三佐らは全員センチネル級に乗り込みジェルマンとジョーレンは自分達のUウィングに乗り込んだ。

 

オーリー空将も唯一残っていたN-1Tアドバンスト・スターファイターに乗り込み機体を発艦させる。

 

N-1アドバンスト・スターファイターとUウィング、センチネル級がそれぞれプロカーセイター級のハンガーベイから発艦し艦の外へと出る。

 

当然この様子はブリッジが復旧した“キング・オブ・ヴェルーナ”の中でも確認されていた。

 

「あのUウィング…あれは間違いなくナブーに侵入した際に使っていた機体です」

 

グリアフ一佐はそう進言しクリース宙将も小さく頷いた。

 

「直ちに追撃隊を差し向けろ。我々は今後の作戦方針を…見つめ直さなければならないからな」

 

クリース宙将の命令通り他のプロカーセイター級やネビュロンB、ヴィクトリー級からN-1スターファイターやTIEファイターが発艦し彼らを追撃に出る。

 

ジョーレンは通信回線を開き全ての味方機に告げた。

 

「こちらUウィング・シールズ・ワン、今本機と共に敵艦より発艦したN-1アドバンスト・スターファイターとセンチネル級は友軍である。またセンチネル級にはソルーナ女王ら要人が多数乗船している為全力で警護されたし」

 

『シールズ・ワン、こちら戦闘機隊司令官のポロー・ドルフィ二等空将だ。報告の内容了解した、直ちに護衛部隊を展開する』

 

ドルフィ空将の命令通りセンチネル級にN-1スターファイターらの護衛が付き、迫り来るTIEファイターと敵のN-1スターファイターが撤退した。

 

何十機もの敵機が執拗にセンチネル球を追撃するがUウィングとドルフィ空将らが徹底的に敵機を撃墜してその手を阻んだ。

 

しかし精鋭達はともかく海軍機のパイロット達は不慣れな宇宙戦闘で苦戦していた。

 

ある1機のN-1スターファイターが編隊から逸れ2機のN-1スターファイターから集中攻撃を受けていた。

 

なんとか躱そうと必死に機体を動かしていたが対にロックオンされレーザー砲が放たれようとしていた。

 

ドルフィ空将やサイキス隊長は助けに向かおうとしたがもう間に合いそうにない、その時だ。

 

突如両機の横合いから黄緑色のレーザー弾が降り注ぎ、N-1スターファイターを2機とも撃破してしまった。

 

間一髪助かったN-1スターファイターは味方の編隊に戻り敵機を撃墜したN-1Tアドバンスト・スターファイターは更に多くの敵機を屠っていった。

 

「なんだあの機体は!?」

 

ドルフィ空将は思わず圧倒的な機動性を前に大声を上げた。

 

そしてコムリンクから放たれる声と共に彼らは更なる驚きを受けることとなる。

 

『俺の動きをもう忘れちまったか?“()()()()2()”』

 

かつてのコールサインを呼びそのN-1Tアドバンスト・スターファイターはドルフィ空将の前に接近する。

 

ドルフィ空将は思わずその名を呟いた。

 

「オーリー隊長!」

 

『各機、護衛体制を崩さず敵から女王陛下を絶対に守れ。我々“真のブラボー小隊”の力を見せつけろ!』

 

『了解“()()()()()()()()”!』

 

『了解!』

 

『なんだか昔みたいになってきましたね!』

 

スターファイターは散開し、圧倒的な物量を食い破り抑えつけていった。

 

まさしくナブーの戦いでドロイド・スターファイターと対峙した精鋭、ブラボー小隊の復活を見ているようだ。

 

当然あの戦いを生き延びれなかった者もいる。

 

あの戦いで歪んでしまった者もいるだろう。

 

しかしこうして生き残った者達がナブーの為に立ち上がり、今も女王の為に戦っている。

 

ナブーの希望は、ナブーの人民は、まだ完全に暗黒の手に落ちたわけではない。

 

センチネル級の後に21機のN-1スターファイターが続き更に殿としてUウィングが後に続く。

 

女王が救出され、これから始まる。

 

ナブーの解放、新たな時代を司るナブーの解放が。

 

第三次ナブーの戦い、ナブーを解放する為の戦いの勃発である。

 

 

 

 

つづく




私 だ

ナチ帝国もこいで46話、いや〜早いですね〜

ちなみにイノベスキー昨日今日、先週と具合が悪く更新が遅れてしまいました

早くこの作品も終わらせたいですわね


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解放の前に

「自らが光の側にいると盲信する時こそ、我が身を改めよ。汝は既に闇の中にいる故」
-旧ジダイ・オーダーの文書より抜粋-


-譛ェ遏・鬆伜沺 諠第弌繧ィ繧ッ繧サ繧エ繝ォ-

「なんとまあ……悍ましい場所でしたね……」

 

気味悪そうにボルフェルト大将は彼の聖地で見てきたことを振り返った。

 

常人にとってはただただ気味の悪い、悍ましい光景でしかなかっただろう。

 

だが狂人にとっては、狂気に近づいた者達にとってはまた違って見える。

 

「まあ、そう言うな。“()()()()”でも参考になることが幾つかあった。それに“()()”が銀河系に戻れば帝国の統一はさらに加速する」

 

フューリナー上級大将は“ピュリフィケーション”のブリッジで笑みを浮かべ大将を宥めた。

 

他のついてきた幕僚達も皆重苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「真反対とはいえハットの国家弁務官区に向かって研究所の最新研究報告を聞けたのはここに来る点で十分意味があった。そして本来の情報も受け取れた」

 

フューリナー上級大将は一際満足そうにしていた。

 

そんなフューリナー上級大将にボルフェルト大将は尋ねた。

 

「しかし、あそこの会場にはファースト・オーダーもチス・アセンダンシーも、大セスウェナもいました。連中にも同じ情報が流された訳ですがよろしいのですか?」

 

()()”は全員を呼んだ。

 

事実上の従属国たる大セスウェナ、同盟国のファースト・オーダー、不可侵条約を締結したチス・アセンダンシー。

 

それぞれ多くの高官がフューリナー上級大将と同じくこの聖地に呼ばれ“()()()()()()()”を聞いた。

 

だがこの聖言は第三帝国が独占すべきもの、少なくとも総統府やCOMPNORの連中はそう思っていた。

 

親衛隊や国防軍としても重要な情報は独占していたいだろう。

 

「仕方ない、“()()”にとって我々は皆平等に同じだ。亡命者も、新共和国を打倒した大国も、未知領域でひたすら待ち続けた者も所詮は同じ帝国の一部。我々に決定権など最初からないのだ」

 

やがて統合され再び一つとなるのだから隔たりも格差も必要ない。

 

皆あの“()()”の前に跪き再び忠誠を誓うまでのこと。

 

しかしそれが“()()()()()()”と言われればまた別問題だろうが。

 

「何はともあれ銀河系はまた大きく変動する。最近ではレジスタンスも活発化し始めているのだろう?」

 

「はい、モン・カラではどうやら最新型の軍艦が多数建造されたようで……アクバー元帥、メイディン将軍指揮の下、ロザルの安全を確保しガレル星系まで接近しています」

 

「それだけでなくヤヴィン4、アノート、ナブーでも異変があるようだが?辛うじて抑えられているのはハット国家弁務官区が真上にあるボサウイだけでワズタやクリズ、アルディノでも帝国艦隊の襲撃が多発しているとか」

 

「ええ…少なくともヤヴィン4はローリング大将軍の本隊が戻り、アノート宙域とワズタ宙域の異変は大セスウェナとオイカン大提督が対処に当たるそうです」

 

ボルフェルト大将はそう押され気味に報告した。

 

銀河全土で快進撃の反動が出回ってきている。

 

特に最近は支配領域でも抵抗活動が活発化し市街地戦などで多くの帝国軍将兵の損害が出ているとも報告を受けている。

 

対テロ、対パルチザン戦は新たに対策を練るとして巨大敵勢力の撃滅は親衛隊だけでなく国防軍や同盟諸邦にもやってもらわないと困る。

 

尤もシュメルケやヒェムナー長官辺りは親衛隊権力強化の為に一手に引き受けるのを覚悟しているだろうが。

 

「モン・カラには“()()”が向かってくれる……きっと、すまさじい事になるぞ。“()()()()()()()()()()”」

 

星図が変わる、それは比喩でもなければ誇張でもないかもしれない。

 

銀河系は、この戦争はまた大きく変わる。

 

変わらざるを得ない。

 

「別に、我々はただの“()()”に過ぎないですよ。そこまでやりはしません」

 

ブリッジの幕僚達は一斉に声の方向へ振り返った。

 

そこには見慣れる装甲を纏った兵士数人と1人の将校、独特な衣装を着込んだ少年達がいた。

 

「シャトルの着艦は報告を受けていませんが…」

 

ボルフェルト大将は密かに耳打ちし将校はフューリナー上級大将の下へ近づいてくる。

 

上級大将に敬礼しその将校は「お久しぶりです」と生真面目な顔で挨拶を送った。

 

「こちらこそ、初々しい准尉がやがて中佐となって今や元帥か。フリューゲル」

 

フリューゲルは苦笑を浮かべた。

 

フリューゲルもフューリナー上級大将もクローン戦争の一時期は同じ艦で戦ったことがある。

 

フューリナー上級大将が幕僚でフリューゲルがパイロット。

 

その時の交流というのは今も大きく残っていた。

 

「第三帝国のフォース感受者の育成計画の支援として“()()()()”からあなた方へ託したい者があります」

 

「ほう?」

 

フリューゲルは後ろに引き連れた子供達を「こっちに、おいで」と優しく近寄らせ紹介した。

 

「彼らは全員フォース感受者です。我々……いえ、一部が教育を施してきたのですがそれをあなた方に預けますよ」

 

フューリナー上級大将は彼らを見つめた。

 

年齢は10代後半から10代未満の子供までかなり広く分かれていた。

 

彼らはみんな虚な瞳をしており背後に何かが取り憑いているような思いを抱かせた。

 

恐らくフリューゲルの言った“()()”とはそのような洗脳行為も含めているのだろう。

 

そのせいかフリューゲル本人はどこか浮かない面持ちだった。

 

「君の名前は?」

 

フューリナー上級大将は一番前に出ていた少年に名前を尋ねた。

 

年齢は、10代後半といったところだろうか。

 

他の子供達よりも大分鍛えられたという印象だ。

 

「ノヴァン・ストラインです。1年前から“()()”に従い信仰を重ねてきました」

 

「ストライン……聞き覚えがあるな、確か新共和国の情報部幹部の名前もストラインだったな?」

 

ボルフェルト大将は急いで他の将校からタブレットを貰い名前を調べ始めた。

 

フューリナー上級大将の記憶力の良さもあるがこれにはとある事件も関係している。

 

「はい!ブリーズ・ストライン新共和国軍中将、艦隊情報部の将校で前大戦では帝国軍全てに対する情報作戦を展開した主要人物と目されています」

 

経歴を読み上げフューリナー上級大将の方を見つめた。

 

ヴァルヘル中佐も「確かコルサント奪還以前も新共和国情報部と連携して我々に諜報戦や謀略戦を進めていましたね」と付け加えた。

 

恐らく故ヒルデンロード元帥が考えていた冷戦構造での対新共和国戦では大きな障害となっていただろう。

 

尤もこの世にいない今では関係のない話だ。

 

「ああ、そして情報部のへリック中将を殺ったのもストライン中将だろう。そして彼は…その親類か?」

 

フリューゲルの方に顔を向けるが彼は「さあ?」と首を傾げた。

 

「彼ら彼女らをどこから連れてきたのか、私には話してくれませんでした。所詮は私は1人の軍司令官でしかありませんので」

 

フリューゲルは冷たく断りを入れた。

 

フューリナー上級大将もそれ以上は深く尋ねなかったし興味もなかった。

 

もし親類関係にあるとしても既にストライン中将は死人の身、関係もないしいざとなれば人質にもなるだろう。

 

それよりも重要なのはフォースの感受能力だ。

 

育成すればまず第一のフォース感受者の戦士の部隊が構成出来る。

 

そうすればレジススタンスや他勢力に対してまた一歩優位に立てるだろう。

 

「しかしいいのか?言った通り我々は皇帝の手を“()()()()()()()()”共々見失ったわけだが」

 

フューリナー上級大将は隠さずフリューゲルにそう告げた。

 

彼女らは全員惑星マーカーで消息を断ち未だに発見されていない。

 

しかしフリューゲルは「問題ありません」と前置いた。

 

「我々は皇帝の手とそのターゲットを発見しています。既に回収隊が向かっている頃でしょう、安心して下さい」

 

「そうか、では君達のことを信じよう。我々はこの報をコルサントと第三帝国に伝えなければならない。これでこの地とは暫くお別れだ」

 

「はい、お気をつけて」

 

フリューゲルは敬礼を浮かべて数人の将校と護衛兵と共に“ピュリフィケーション”のブリッジを後にした。

 

彼らがブリッジから完全に離れるのを確認してフューリナー上級大将は「大きくなったものだ」と一言呟いた。

 

「ツティクレ少佐、彼らを“ピュリフィケーション”の特別寝室まで連れて行け。コルサントに着くまでの間、そこで生活してもらう」

 

フューリナー上級大将の命によりツティクレ少佐が子供達を連れてブリッジを後にした。

 

子供とはいえ“()()()()()()()()()”はある。

 

いやむしろ、子供だから油断してはいけない。

 

あの子達の瞳は既に十分“()()()()()()()()”。

 

子供達がブリッジから離れたのを確認してボルフェルト大将はフューリナー上級大将に近づき口を開く。

 

「本当に今のヴァント提督の事を信じて良いのでしょうか…?我々ですら見つけ出せないのにここにいる彼らが皇帝の手を見つけ出すとは思えませんが……」

 

「むしろ我々でないからこそより特殊な方法で見つけ出すだろう。我々はひとまず大人しく彼らの到着を待てばいい」

 

「ではこのままコルサントに帰還を?」

 

「ああ、下手な事をして信用を失いたくない。それに我々はどうやってこの地にジャンプしたのか、ここからどうやって戻るのか伝えられていない」

 

行きのハイパースペース・ジャンプは全て連れてきた彼らの“()()”が手引きしたものでフューリナー上級大将達が何かしたわけではない。

 

帰りだって事前に教徒達が作り出したハイパースペース・ジャンププログラムに従ってハイパースペース・ジャンプせざるを得ないのだ。

 

それだけこの聖地の機密は固く守られている。

 

「下手な事をして帰れなくなったら我々はここでじわじわと嬲り殺されるだろう。何せ第三帝国自体滅ぶ可能性がある。我々はこのまま大人しく全てに従うまでだ」

 

今回ばかりはありとあらゆる命運が掛かっている、小さな工作すらも出来ないほどのだ。

 

ボルフェルト大将も大きく頷き乗組員達に帰還用のハイパースペースプログラムを起動するよう命じた。

 

操作を部下達に任せながらフューリナー上級大将はブリッジから蒼白に溢れる聖地を見つめた。

 

身の毛もよ立つようなこの地から銀河系に再び新たな新秩序が誕生する。

 

もしかすると幾つかの星は新秩序の為の業火に焼かれ消えてしまうかもしれない。

 

帝国を本当に元の形に戻してしまうかもしれない。

 

されどこの犠牲なくして銀河系に秩序は訪れない。

 

我々が今やっていることのように。

 

ピュリフィケーション”が聖地を離れハイパースペースのトンネルへと入った。

 

彼らが帰還の報せを伝える頃にはもうこの聖地からは聖なる暗黒の十字軍がスター・デストロイヤーの楔を連ね進軍を始めているだろう。

 

もはや時間は一刻もなかった。

 

 

 

 

 

 

-レジスタンス領 アノート宙域 惑星ベスピン クラウド・シティ-

高級な洒落たマントを新共和国軍の軍服の上から纏ったランドはホログラムに映る親友達と話をしていた。

 

『アノートには今も多くの移民と亡命者が来ているんだろう?』

 

「ああ、エイリアン種族も近人間種もハーフも色々大勢だ。みんな第三帝国の支配下じゃやってられないんだと」

 

『だろうな、連中元の帝国より畜生だ。エイリアンであればその場で殺すことも厭わないし近人間もハーフもまとめて収容所行きだろう』

 

軽い口調だが内容は彼らの話している心情と同等以上に重たかった。

 

こうしている間にも多くのエイリアン種族達が収容所やあちこちの惑星で命を落とし第三帝国の土台として築き固められている。

 

ランドも、今その最前線で抵抗勢力を教導しているハンもチューバッカもそれをよく理解していた。

 

特にチューバッカは自分と同じ種族の同胞達がそのような残虐な連中に四六時中狙われていると考えると居ても立っても居られないだろう。

 

レジスタンスの将兵やレジスタンス側の惑星に住む市民の中にも同じ気持ちの者は沢山いた。

 

『この戦いは前の戦いとは比べ物にならないほど過酷になる』

 

「ああ、望むところだ。早くこの戦いを終わらせて“()()()()()()()”も見つけないと」

 

『そうだな……もうあれから2年か……早くしないとな』

 

チューバッカも重く頷いた。

 

第三帝国なんて存在がなければ、この新たな銀河内戦がなければ今頃はもっと多くの手掛かりを探し出せていただろう。

 

彼らはこの戦いが始まる前から誰にも気づかれない傷を負っていた。

 

「それじゃあこっちは合わなきゃいけない方々がいるんでな」

 

『こっちも訓練の時間だ。それじゃあな』

 

ハンは軽い敬礼を送りランドもまた微笑を浮かべた。

 

チューバッカの「また会おう」という言葉と共にホログラムが消え2人との通信が終了した。

 

ふうっと一息付くランドにボサウイから急いで飛んできたセルヴェント大臣は彼に声をかけた。

 

「聞いてはいましたが随分と前から知り合いなんですね。ソロ将軍とカルリジアン将軍」

 

「ああ、割と碌でもない出会いだったがな。今じゃすっかり腐れ縁だよ」

 

過去を振り返り色々な事を思い出しながらランドは笑みを浮かべた。

 

セルヴェント大臣だって2人の過去を完全に知らないわけではない。

 

むしろ一般の教科書などで習うものよりは深く知っている。

 

彼らは2人とも元々密輸業者だった。

 

その手の稼業では優秀な方らしくランドの方はその後企業家となりこのベスピンの統治権で大きな成功を収め反乱同盟軍にも加わった。

 

新共和国設立事に正式にベスピンの指導者としてアノート宙域の領有権を認める際の式典にも出席した。

 

あの時からランドはあまり変化がないように見えた。

 

「それよりも、もうすぐ来るんだろう?お客さんが」

 

「はい、セッティングは完了しています。しかし本当にいいんですか?私の娘も同行して」

 

セルヴェント大臣は娘のヘルヴィの方を見て尋ねた。

 

ラクサスを脱出した新分離主義連合の暫定政府がレジスタンス政府に対して対第三帝国戦の同盟関係の締結を提案してきたのだ。

 

連合軍の宇宙艦隊は現在ヴァセック方面から急速に領域を拡大中であり、周辺に派遣された帝国軍の警備隊や機動部隊はほぼ駆逐されつつあった。

 

生き残った戦力は反撃の為ミッド・リムの友好惑星や大セスウェナ周辺に退却したというが詳しいことは定かではない。

 

また支配安定のも兼ねて新分離主義艦隊は拡大した領域の治安維持を行い多くの海賊などを撃退した。

 

彼らの支配領域は第三帝国領、レジスタンス各領と並んでこの銀河系で最も安定した場所となるだろう。

 

しかし現状単独で戦って第三帝国に勝てる見込みはないに等しかった。

 

レジスタンス情報部の報告では彼らは未だにクローン戦争期の艦船などを使用しており局所戦はともかく大規模な全面攻勢を受ければ非常に脆い。

 

その為レジスタンスと手を組み共に第三帝国と戦う他ないのだ。

 

レジスタンスとしても連合軍の戦力は強大で味方に引き入れれば心強い味方となる。

 

連合政府はアノート宙域にまず連絡を取りレジスタンスは同盟交渉の代表としてセルヴェント大臣を派遣した。

 

そして今日、このベスピンで交渉が始まるのだ。

 

「構わないさ。私としても美しいお嬢さんがいると気が楽になる」

 

ジョークを交えながらランドは今一度ヘルヴィの同行を許可した。

 

セルベント大臣は安堵の微笑を浮かべ「ありがとうございます」と一言述べた。

 

「ヘルヴィ、緊張することはないさ。私と連合の交渉人をよく見て学べ。それぞれから交渉術を盗み次に自分が交渉人となる時の為に役立てる、それが一番の任務だ」

 

「はい、わかりました。お父様も頑張ってくださいね」

 

「ああ、そろそろ席につきましょうか」

 

「そうだな」

 

3人はソファーに座った。

 

するとドアが開きランドが信頼する補佐官のロボトが数人の将校と共に部屋に入ってきた。

 

「来たのか?」

 

ランドが訪ねロボトは小さく頷いた。

 

「連れてきて来れ」

 

ランドは彼に頼み了承したロボトは将校達と共に連合側の交渉人を呼びに行った。

 

「いよいよだ」と自らの気を引き締めるようにセルヴェント大臣は呟いた。

 

ヘルヴィも身が引き締まり髪をもう一度整え直した。

 

母親譲りの薄水色の髪が靡き耳元に掛かる。

 

それから暫くしてドアのブザーが鳴りランドが「どうぞ」と許可を出した。

 

3人は立ち上がり連合交渉人達を出迎えた。

 

将校達に連れられた連合の交渉人達が反対側の席に着いた。

 

「ベスピン執政官兼将軍のランド・カルリジアンだ」

 

「レジスタンス自由政府外務大臣、ニルメス・セルヴェントです」

 

「外務省外交官のヘルヴィ・セルヴェントです」

 

レジスタンスの面々は形式的な挨拶を交わした。

 

次は連合側の番だ。

 

「新分離主義連合代表、カーチ・クシです」

 

「新分離主義連合軍司令官、スタル・リストロングです」

 

「クシ代表補佐官、ピリスイ・エスチです」

 

クシ代表と真ん中に位置するセルヴェント大臣は握手を交わし互いに笑みを浮かべた。

 

固い握手の後全員がソファーに座り早速交渉を始めた。

 

テーブルにはティーポッドと全員分のティーカップがあり何か不便があればすぐに人が来る仕組みになっている。

 

そんな交渉の席でまず最初に口を開いたのはクシ代表の方であった。

 

「我々は率直に言う。あなた方レジスタンスと対第三帝国の為の軍事同盟を組みたい」

 

「それは我々レジスタンスも同じ気持ちです。第三帝国打倒の為、なるべく多くの同盟関係者が欲しい。この点では意見が一致しています」

 

クシ代表もセルヴェント大臣も安心したように優しい笑みを浮かべた。

 

前々から判り切っていた事とはいえ下手な腹の探り合いをせず素早く意見が一致した。

 

そこでクシ代表は話を深く切り込んでいく。

 

「しかし我々の中にはこの同盟関係締結に反対する者も少なくない。元より新共和国に対して対外戦を意識する者はともかく、以前のラクサス陥落により中立層にも影響が生じている」

 

「新共和国一部軍とジャステン中将がラクサスへ逃亡しそれを追撃する結果で第三帝国がラクサス含めたタイオン・ヘゲモニーへ侵攻、その結果ラクサスが陥落し同盟を不安視する意見が……という事でしょうか」

 

深い内実は知らずとも大方予想は付く。

 

あの一件のことは既に考慮に入れてあるし最初からそこが重要争点の一つになると踏んでいた。

 

ここは相手を感情的にさせずこちらも感情的にならず相手方有利で妥協点を探るしかない。

 

我々の同胞がやらかした事に対する責任と補填から逃げるわけにはいかないのだ。

 

「それだけじゃない。一応救援に来た情報部ユニットから話は聞いていると思うがあそこでジャステン中将は自分達の兵力を使い我々全員を拘束しラクサスの全権力を簒奪した。多くの要人達が一時的に自由を失い軍事独裁の体制のまま破滅へと突き進んで行った。この出来事が『彼らとの同盟により再び連合の主権が簒奪されるのではないか』という不安を与えている」

 

「軍部でも同盟締結の結果、『レジスタンス側に軍権と軍がいいように使われるのではないか』という疑念が上がっています。ジャステン中将は我々の事を随分と雑に扱ってくれたものなので」

 

想定以上に耳が痛い。

 

ジャステン中将の一件はレジスタンス、かつての新共和国残党軍達の間でも信頼や信用を大きく損ねる事となった。

 

一部の勢力や政府からは『打倒第三帝国の為に主権を簒奪し自分達で軍事独裁を行う暴徒の集まり』という負の認識が与えられてしまった。

 

恐らく連合側の反対派も似たような認識を持っているだろう。

 

なんとか誤解を解かなければいけない。

 

特にリストロング司令官の言い方からしても軍部の反対派はより一層我々に良い印象を持っていない。

 

彼らも軍事的観点から見てこの同盟関係には賛成したいはずだ。

 

されどそれでも反対派がいるということは相当深いトラウマとなっていると予測出来る。

 

恐らく賛成派のリストロング司令官だって言い方からしてジャステン中将のことは本気で嫌っているように思える。

 

全く、大変な尻拭いをさせられている。

 

「その件に関しては、我々は謝罪を述べる他ありませんが今後の同盟締結時にはそのような事はありません。新分離主義連合の主権、連合軍の軍権の独立性は必ず守られると約束します。これは私1人の意見ではなく国防大臣シャール・ディゴール、政府副議長タイ=リン・ガー、政府議長レイア・オーガナらレジスタンス自由政府の総意です」

 

「具体的な事は書面に」と付け加えヘルヴィが彼らにタブレットを差し出した。

 

3人はタブレットを見つめ書面の内容を確認している。

 

一読したところでクシ代表はタブレットをテーブルに置き口を開いた。

 

「そちら側の意志と確証はよく分かった。これらは評議会にも提出させていただく、よろしいか?」

 

「はい、お構いなく。で、連合側の不安点はそれだけですか?」

 

「もう一つ挙げるならば戦後の問題だ。ラクサスを含め多くの惑星が帝国の手に堕ちてしまった。無論奪還するつもりだが恐らく領土として戻る頃には相当荒廃しているだろう」

 

それは連合側だけでなくレジスタンスも抱えている問題だ。

 

レジスタンスは電撃的なホズニアン・プライム奪還、それからなる全面対決の戦略を大幅に転換した。

 

ヤヴィン、モン・カラ、キャッシーク、ボサウイ、アノート、そしてサラストの敗残兵を統合したディカーからなる6つの大拠点から銀河の外苑部を繋ぎ第三帝国を包囲する。

 

そこからアウター・リム、ミッド・リムの帝国軍に打撃を与え、エクスパンション・リージョン、インナー・リムにも圧力を掛ける。

 

そうすれば第三帝国は次第に困窮し彼らの圧倒的軍事力の前に表面上平伏していた旧来の中立惑星、もしくは比較的親レジスタンス寄りの惑星もこちらに加わるだろう。

 

時間をかけて確実に第三帝国を撃破する戦略だ。

 

しかし時が経てば経つほど第三帝国はその国体の維持の為に簒奪を繰り返すだろうしエイリアン種族や近人間種族の虐殺を続けるだろう。

 

虐殺阻止の為に収容所の位置の捜索と撃破を進めているのだが現状上手く行っていない。

 

親衛隊情報部、親衛隊保安局、帝国情報部、長官がハイドレーヒに代わり完全に親衛隊の手中に落ちた帝国保安局に巧妙に隠されている。

 

それに首都奪還作戦や主要都市惑星での戦いとなるとその分激化する事は免れないし想像を絶する犠牲が出るだろう。

 

かつての前銀河内戦とは違い今内戦は殆ど正規国同士による本格的な大戦争だ。

 

バトル・ドロイド、クローン・トルーパーを使い市民の犠牲が比較的少なく見えるクローン戦争とはまるで違う。

 

第三帝国は徴兵制を動員しているだろうしこちらも徴兵制、もしくは総動員体制を取らざるを得なくなる。

 

今までの戦いの倍近い人が死に、倍近い都市が破壊される。

 

そして戦争が終われば破壊された都市、インフラ、人的な復興も必要になってくる。

 

途方もない苦労と資金が必要となりおまけに相当の時間も掛かる。

 

「恐らくだが連合単独での戦後復興は無理だ。既に首都を失い財源や元々あった国政金も今や第三帝国の手中にある。仮に同盟を組んだとしても『帝国を倒したらそれでハイおしまい』では困るという意見がある」

 

「とはいえ我々も苦しいのは同じです。我々レジスタンスとて戦後復興を完全にやり切れる確証はない」

 

互いに失い過ぎたし互いに損失が大きすぎる。

 

第三帝国も以前のような状態ではないにしてもだ。

 

彼らは今回博打に勝ち、我々がその分のツケを払わされてしまった。

 

「互いに傷だらけ……か」

 

「ええ、限界ですがだから諦めるという訳には行きません。こちらとしては徐々に帝国打倒の軍事だけに留まらない枠組みでの同盟に発展させて行きたいと考えています」

 

「となるとこれは別の問題として時間をかけていった方が良さそうだ。戦後復興などの同盟関係はまた後々という事でよろしいか?」

 

「はい、我々もあなた方とは友好的でありたいので」

 

「そう言って頂けるとありがたい。新共和国、レジスタンスの構成員は皆あのジャステン中将のような者ばかりという拭い切れない偏見が少なからずあるのでな」

 

本当に、常々とんでもない事をしてくれた。

 

彼の妙な行動さえなければこの交渉ももう少し円滑に、井戸端会議並みの談笑で済んでいたかもしれない。

 

親共和国軍最大の汚点だとセルヴェント大臣は心の底で思っていた。

 

「むしろ中将のような存在はごく僅か、とても極端な方です。我々はあくまであなた方ともモスマ前議長のビジョンの通り、関係を改善していくつもりでした」

 

尤もモン・モスマは既に2、3年も前に人気を終えている為、第三帝国との戦いがなければ大きく方針を転換していたかもしれないが。

 

第三帝国が存在しない未来、この戦争が起こらない未来というのは一体どうなってるのか我々にはもう想像が付かない。

 

もしかするとより最悪の未来かもしれないし停滞による憤りの溜まった、鬱屈した未来かもしれない。

 

それでもこの現実よりはマシだ、それもずっとずっとマシだ。

 

罪のない人々がよく分からない理由でひたすらに殺し尽くされて、人々に声も届かず圧殺されるなんて現実よりもマシだ。

 

そういう確証が大臣の中には間違いなくあった。

 

「本来の未来に立ち戻る為に共に立ち向かって行きましょう、第三帝国に。あなた方が昔自由と独立を求めたように、我々が自由と解放を求めたように」

 

セルヴェント大臣は手を差し伸べた。

 

クシ代表は彼の手を握り固い握手を交わした。

 

「ああ、より良い未来といずれ生まれてくる子供達の為に。今は手を取り合おう」

 

双方の国は違えど思いは同じだ。

 

だからこそ手を取り合い、共に立ち上がり、戦う事が出来る。

 

交渉はこの後数時間に渡って行われ両者の軍事同盟は最終的に締結された。

 

これにより銀河系に軍事バランスはまた一つ変わるだろう。

 

より良い未来の為に、レジスタンスと新たな分離主義者達は手をとり立ち向かう。

 

 

 

 

 

-惑星ナブー 首都シード シード宮殿付近-

女王を軌道上のスター・デストロイヤーの檻から救い出し惑星内の海軍本部まで帰還してもう数日が過ぎた。

 

あの後基地に対する攻撃は何度かあったものの殆ど小規模の小競り合い程度で終わった。

 

大規模な攻勢をかけるには準備が足らなさ過ぎるし軌道上爆撃を仕掛けようにも本部には何十個もの偏向シールドがあり攻撃は殆ど無意味だ。

 

その結果保安隊やスターファイター隊、宇宙艦隊は海軍本部を包囲するだけで目立った攻撃は皆無だった。

 

無論解放軍側も攻勢を仕掛けることは無理なのだが小規模な偵察程度ならば可能だ。

 

現在はジェルマンとジョーレン、そして2人を連れてきたホーリス隊長と共にシード宮殿の格納庫付近を偵察していた。

 

ホーリス隊長は3匹のガドゥを束ね、ジェルマンとジョーレンが茂みに身を隠しながらエレクトロバイノキュラーとスナイパー・ライフルで格納庫の様子を探っている。

 

「出てきた…!将校クラスの制服にあの顔……2人とも本部で見たクーデター軍の司令官達だ…!」

 

スコープ越しからジェルマンは2人の司令官、クリース宙将とグリアフ一佐の姿を確認した。

 

何十人かの保安退院に守られながら帝国軍用のラムダ級シャトルに向かっている。

 

「絶対に発砲するなよ。兵士が二、三個分隊以上いる上にスターファイターが何機も飛んで警戒している。こっから撃ったらすぐにバレる」

 

「分かってる、それよりもそっちから親衛隊の将校の姿が見えないか?」

 

「見えてる……階級章と襟章から言って親衛隊少将だろう…続々と配下の部隊が降ろされている」

 

上空に目を向ければ何十機ものセンチネル級やラムダ級、ゴザンティ級が宮殿格納庫や駐屯地に向かっていた。

 

親衛隊少将の側にも数名のストームトルーパーがいるし軌道上にはプロカーセイター級三隻だけでなく遂にインペリアル級が一隻配備されていた。

 

「流石にスター・デストロイヤーは軌道上の弾道ミサイルでの撃破は無理だ……どうすれば……」

 

「ナブー解放はレジスタンスの中でも優先事項だ。宇宙艦隊壊滅の為なら恐らく艦隊を出してくれる。それよりも問題は地上に展開された部隊だ……」

 

ジョーレンは何台も運ばれてくるAT-ATやAT-STと言ったウォーカー類を険しい目で見つめていた。

 

あの地上部隊は間違いなく多数のウォーカーを含めた機甲戦力を有している強敵だ。

 

軌道上にインペリアル級の他に兵員1万6,000名を運搬可能な帝国貨物船が二隻もいる。

 

インペリアル級含めた三隻、これだけで兵員4万名以上の一個兵団クラスを運んできたということになる。

 

現状、単純な兵員数だけでも今の王室解放軍では勝ち目がない。

 

「AT-ATが明らかに一個中隊以上いる……解放軍の対装甲兵器じゃ到底撃破し切れない量だ……更にはスカウト・ウォーカー類まで配備されている。これじゃあ真っ向からやっても勝てない」

 

「カドゥの騎兵隊がいるから作戦によってはただの歩兵部隊はなんとかなりそうだけど……」

 

「しかしやりようによっては貴重な機甲戦力も騎兵戦力も全て失うことになる。それに首都に攻め入る分の戦力も残しとないといけない。こいつはキツい戦いになりそうだ」

 

「うん、首都だけなら丸ごと無傷で制圧出来るよう細工はしたけど……」

 

「なんだそれ、まるで聞いてないぞ」

 

「そんな事よりも…!そろそろ船が動く…!」

 

ジョーレンの注意を格納庫の方へ向けさせジェルマンもしっかりスコープを除いた。

 

親衛隊少将と思わしき人物と会話を少しばかりの間交わした後、2人のクーデター軍司令官はシャトルに乗り込んだ。

 

ラムダ級はしばらくするとゆっくり浮上し両翼を広げ格納庫から飛び去った。

 

飛び去った後も2人は監視を続ける。

 

「連中まさか旗艦に向かってるとはな……」

 

「こないだ乗り込んだ旗艦クラスのプロカーセイター級だ。まさかナブーを離れるつもりなのか…?」

 

「かもな、より本格的な攻撃の為に今は代理の司令官に任せておく算段かもしれん。となればあの2人が戻ってくる今の間が残された最後のチャンスってわけだ」

 

ジョーレンは機材を手に持ちその場を後にし始めた。

 

ジェルマンも彼の後ろにつき同じように茂みから離れていく。

 

暫くすると森の木々を抜け3匹のカドゥを束ねるホーリス隊長の姿があった。

 

「もういいのか」と彼は2人に尋ねジョーレンが「ああ収穫はあった」と返した。

 

「あのクリースとグリアフとかいう将校が上空の旗艦に乗ってもうすぐこの惑星を離れる。遂に厄介な智将がおさらばしてくれるというわけだ」

 

「本当か!?だとすればチャンスだ」

 

「ですがその代わりに親衛隊の一個兵団とインペリアル級が来ました。連中の総戦力はこれできっかりこちらの戦力を上回ってます」

 

散々苦しめてきた司令官達が消失した事実を喜んでいたホーリス隊長だったがその後すぐジェルマンの報告を聞いてすぐ目線を落とした。

 

恐らく彼の方が帝国軍の圧倒的軍事力を身をもって知っているだろう。

 

「だが、反面今戦えば勝てる見込みはあるということだ。とにかく戻ろう、戻って作戦を立て準備しないと」

 

「ああ…!そうだな…」

 

3人はカドゥの上に騎乗しカドゥを走らせ3人は急いでその場を離れた。

 

2本の足で平原をすごい速さで走り抜けていく。

 

最初は騎乗にも不慣れだったジェルマンだが今ではすっかり手慣れたものだ。

 

「上空の偵察隊にこっちは悟られてないだろうな?」

 

ホーリス隊長がカドゥの上から2人に尋ねた。

 

「問題ない、かなり距離が離れていたし連中はクリースどもの護衛に夢中だ」

 

「なら多少目立つが最短コースで行くぞ…!ついて来てくれ」

 

ホーリス隊長はカドゥを右折させ2人についてくるよう頼んだ。

 

2人も同じようにカドゥを操りホーリス隊長に続いた。

 

偵察内容を報告しなければならない。

 

彼らのナブー解放への足取りはようやくゴールに辿り着こうとしている。

 

 

 

 

 

-第三帝国領 ドミナス宙域 ガレル星系 惑星ガレル近郊-

「大型主力艦の全火砲を中央に集中、突撃機動群の突破口を切り開け!」

 

MC85スター・クルーザー“ディファイアンス”のブリッジからアクバー元帥全艦に司令を出した。

 

僚艦にはメイディン将軍を乗せたスターホーク級“ユニティ”ともう一隻のMC85“リバティ”が最大火力を敵艦隊へ投射し続けていた。

 

レジスタンス艦隊はいつもとは違い火力で帝国艦隊を圧倒しており優勢を保ち続けていた。

 

「敵インペリアル級一隻撃沈!」

 

ブリッジ士官の1人が嬉々として報告する。

 

アクバー元帥が座る椅子から見えるビューポートからもその様子は確認出来た。

 

1,600メートルもの巨体から火や煙が吹き出しゆっくりと沈んでいくのが良く分かる。

 

「これで中央の要を破れました。連中はスター・デストロイヤーを失って逃げ腰状態です。一気に攻勢を仕掛けましょう」

 

ハシュン中佐はアクバー元帥にそう進言した。

 

他のアークワイテンズ級やヴィクトリー級、グラディエーター級も大きな被害を喰らい徐々に後退しようとしていた。

 

レジスタンス艦隊の布陣は中央に新型艦とスターホーク級などで固め、両翼にも均等にネビュラ級やMC80、MC75を置くことで面での攻撃も可能にしている。

 

帝国艦隊はこのまま防衛線を維持しようとしているが既に中央が火力と防御力の押し合いに負け崩れ始めていた。

 

「だが前方には敵のバトルクルーザーが配備されている。あの艦と交代し戦線を立て直す可能性もある」

 

敵艦隊の旗艦と思わしき艦は中央に位置するアリージャンス級バトルクルーザーであり流石のMC85と言えど苦戦は免れない。

 

温存してあるスターファイター隊を送り込んでもだ。

 

「なら両翼の方面からネビュラ級を基礎とする突撃機動群とスターファイター隊を投入しましょう。中央だけでなくあそこも相当疲弊しているはずです」

 

フェイン・ゴスピック少将はアクバー元帥に攻撃戦術を提案した。

 

アクバー元帥は彼の提案を受け入れネビュラ級スター・デストロイヤーによる全面攻撃を命じた。

 

各艦に指示が伝達されネビュラ級を主軸とした機動部隊が前に出る。

 

数十門以上の重ターボレーザー砲塔から高エネルギーの砲弾が震盪ミサイルらと共に放たれ帝国艦隊に多大なダメージを与えた。

 

アークワイテンズ級やレイダー級は耐えきれずにその場で轟沈しヴィクトリー級やグラディエーター級もしばらくして何隻か撃沈した。

 

レジスタンスのスター・デストロイヤーは“nebula(星雲)”の名に恥じず、帝国艦隊や敵機の破壊による爆発の光により星の雲を作り出していた。

 

インペリアル級よりも一回りほど小さい船体であるがその火力と防御力は引けを取らない。

 

タフで打撃に優れたネビュラ級はインペリアル級にも果敢に立ち向かい只管に火力の嵐をお見舞いした。

 

後方のMC80や75らの支援も相まってインペリアル級は自身では耐えきれないほどの火力を受け何隻かが大破、撃沈し始めていた。

 

前線を支援する後方の艦艇にも被害は及んだ。

 

YウィングやBウィングを主軸とする爆撃隊がプロトン魚雷やイオン魚雷をばら撒き、Bウィングに正式採用された合成ビーム・レーザーを放ち敵艦を蹴散らした。

 

小型のレイダー級やアークワイテンズ級では3、4機の編隊による集中レーザー射撃には耐えられず多くの艦が役に立たないスクラップとなった。

 

ネビュラ級の艦砲射撃に合わせて周囲の雷撃艦に改造されたCR90コルベットや機動力に優れるネビュロンBらが帝国艦隊の懐に入りひたすら攻撃を叩き込んだ。

 

これで中央のみならず戦線の全域で帝国艦隊は窮地に立たされ損害を被らされた。

 

負けず劣らず、MC85とスターホーク級らの集中砲撃も熾烈さを増し更に多くの敵艦を葬った。

 

これで旗艦のアリージャンス級は周囲の戦列が崩され注意を中央だけでなく全域に置く必要になった。

 

火力が分散され被害が少なくなる。

 

「全スターファイター隊と防空群を投入しバトルクルーザーに総攻撃を!」

 

スターホーク級やMC85、多くの軍艦からスターファイターが発艦し帝国艦隊へ最後の攻撃を仕掛けた。

 

迎撃のTIEインターセプターやTIEブルートがアリージャンス級を守ろうとするがスターファイター隊と同じく出撃したCR90やネビュロンBの対空艦隊の支援を受け帝国軍のスターファイター隊は苦境に立たされた。

 

味方の対空艦は大多数が損傷し敵艦は気鋭に満ち溢れたまま対空砲火を繰り出しレジスタンスのスターファイター隊と連携してTIEスターファイター隊を確実に撃破していった。

 

他の各方面からもスターファイター隊が出撃し被害を被った艦列を悠々と進みアリージャンス級への攻撃を始める。

 

プロトン魚雷や震盪ミサイル、イオン魚雷をシールド内に侵入して内側から落とし、対空砲やターボレーザー砲を徹底的に潰していく。

 

ブリッジや偏向シールド発生装置にも集中的に攻撃が仕掛けられ、護衛のTIEスターファイター隊も爆撃隊の護衛であるXウィングやAウィングに阻まれ撃墜された。

 

「敵艦シールド低下率54%、損傷率42%、もう十分だ。艦隊に任せて我々は離脱するぞ」

 

司令官の命令によりスターファイター隊は全機一斉にアリージャンス級から離れ逆に艦隊へ攻撃を開始しようとするTIEボマーなどを背後から襲撃した。

 

既にアリージャンス級はスターファイター隊によって随分と疲弊しており敵艦隊へ火力をとにかく撃ち出すのがやっとだった。

 

だがそんなバトルクルーザーについにトドメが刺される。

 

「全艦、敵バトルクルーザーに向けて一斉砲撃!」

 

アクバー元帥の一言によりMC85やスターホーク級、ネビュラ級や他のモン・カラマリ・スター・クルーザーから重火力の艦砲射撃が放たれアリージャンス級を襲った。

 

シールドを打ち破り、装甲を溶解させ、内部で爆発して大きなダメージを齎す。

 

熾烈な一斉砲撃は数分に渡って行われ、遂に限界点に達したアリージャンス級は船体のありとあらゆる部分から大爆発を起こしながら爆沈した。

 

やがてゆっくりと敵艦は沈み最後にはバトルクルーザーの全てがデュラスチールの鉄屑に変わり果てた。

 

旗艦を失った残りの敵艦隊は慌ててハイパースペースに突入し戦場から逃げ始めた。

 

既に離脱する力も残されていない艦は自沈を選ぶかレジスタンスに捕虜として投降した。

 

ディファイアンス”のブリッジの中では旗艦撃破と帝国艦隊の迎撃に成功した事を乗組員や士官達が共に喜んでいた。

 

MC85とネビュラ級の圧倒的な力が帝国宇宙軍のスター・デストロイヤーの艦隊を真っ向から打ち破ったのだ。

 

今まで苦境の中にいた彼らにとってこれほど喜ばしいものはない。

 

このままガレルまで進撃し帝国艦隊を撃滅し勝利し続けることも可能だと皆が思っていた。

 

アクバー元帥も勝利を安堵しひとまず椅子に寄り掛かり一息ついた。

 

「やりましたね、アクバー元帥!帝国艦隊を撃破し連中の防衛戦力の殆どを叩き潰しました!」

 

ハシュン中佐は喜びの笑みを浮かべアクバー元帥の側に寄った。

 

ホーム・ワン”から“ディファイアンス”へ移ったヴェラック艦長も微笑みを浮かべている。

 

「ああ、帝国軍をガレルの玄関口まで一気に押し出せたのはこのスター・クルーザーとあのスター・デストロイヤーの力が大きい」

 

「ですがMC85の主力艦隊とネビュラ級の突撃機動群を編成しそれを運用出来たのはアクバー元帥のお力あってのことです」

 

ゴスピック少将は謙遜するアクバー元帥の功績を讃えた。

 

確かにMC85もネビュラ級もタフで大火力の素晴らしい新型艦だがこの能力を最大限に活かすには指揮官の手腕が問われてくる。

 

だがアクバー元帥は持ち前の才能と今までの経験によりその問いに120点以上の答えを叩き出した。

 

今やモン・カラのレジスタンス艦隊はかつての敗残兵の集まりではなく精強な突撃部隊を有した第三帝国の十分な強敵となっていた。

 

『帝国艦隊の追撃はしなくてよろしいですか?』

 

ホログラムが出現し隣の“ユニティ”に乗艦するメイディン将軍はアクバー元帥に尋ねた。

 

「ああ、もはや連中の逃げ道はガレルしかない。今追い詰めたところで死兵となった帝国艦隊と戦っては我々も大きな損害を被るだろう」

 

『ではガレル攻略は後方部隊の到着と共にということで?』

 

「うむ、だがまずはこの戦いで我々に投降した帝国軍兵士達をモン・カラへ移送せねば」

 

『なら我が艦隊から何隻か輸送船と護衛部隊を手配しましょう。元帥の艦隊は温存させておかないと』

 

「アクバー元帥、デレリウムの艦隊司令支部より緊急入電です!惑星リアンナに帝国艦隊が集結中、中にはエグゼクター級など多数のドレッドノートも確認されたとのこと!」

 

メイディン将軍との会話に割り込んだ士官の報告はその場の全員を大いに驚かせた。

 

特に間のエグゼクター級という単語がだ。

 

「どの艦だ?」

 

アクバー元帥は報告してきた士官に尋ねる。

 

「恐らく…ハンバリン駐留艦隊の艦艇も確認されていることからオイカン元帥の“リーパー”かと…」

 

「遂に帝国宇宙軍の総攻撃が始まるのか…?」

 

ハシュン中佐は不安気に呟いた。

 

現状、勝利を重ねているとはいえ帝国宇宙軍のスター・ドレッドノートなどを主軸とした大攻勢を行なわれれば再び危うい立場になる。

 

『そうか…分かった。レジスタンス情報部もコア・ワールドで不穏な動きを察知したそうです。親衛隊の第一艦隊が首都コルサントを離れる準備をしていると』

 

クラッケン将軍が立ち上げたレジスタンス情報部と連絡を取っていたメイディン将軍は受け取った情報を伝えた。

 

これは間違いなく帝国軍が総力を上げてモン・カラ攻略に乗り出そうという算段だろう。

 

貴重なエグゼクター級を二隻も動員し周辺艦隊のみならずハンバリンと親衛隊の第一艦隊という精鋭部隊を送り込んでくるのだ。

 

もはや何を物語っているかすぐ分かるだろう。

 

「このままガレルにいてはリアンナからの攻撃に対処出来ません!」

 

ハシュン中佐は大声で危機を口に出した。

 

少なくともガレルの戦力はほぼ壊滅状態、現状抑えるだけならMC85一隻を旗艦とした艦隊だけで十分だ。

 

しかし明らかにリアンナの艦隊はそうではない。

 

「モン・カラの予備艦隊を動員しデラルト艦隊も直ちにデレリウムに向かわせろ。我々も急行するとデラリウム支部には伝えてくれ」

 

「了解」

 

『しかし抑えの部隊はどれを残しますか?』

 

「“リバティ”麾下の艦隊を残して私とメイディン将軍で向かうぞ。“リバティ”の指揮官を呼んでくれ」

 

アクバー元帥は直ちに命令を出し艦隊の移動を始める。

 

これほどの緊急事態、素早く対処せねば帝国軍の大波のような攻撃により全てが飲まれてしまう。

 

だがアクバー元帥達はまだ何も知らなかった。

 

リアンナにいる帝国宇宙軍が所詮は“()()”であることを。

 

()()()()”は遥か彼方の深淵から姿を表そうとしていることを。

 

まだ誰も、第三帝国すらも知らなかった。

 

 

 

 

-第三帝国首都惑星コルサント 帝国地上軍参謀本部-

帝国地上軍中央司令部は帝国地上軍参謀本部と名称を変更し地上軍長官も地上軍参謀総長という肩書きになった。

 

またヴィアーズ大将軍が南方方面攻略の為長官の職を副長官であるモロック上級将軍へと譲った。

 

しかしモロック将軍は来年で退役する為、既にその職は殆どフリッツ・ヘルダー上級将軍の方へと移行していた。

 

今日の参謀本部では他の宇宙軍、スターファイター隊同様に地上軍でもチス・アセンダンシー領への視察へ向かった時の報告を行なっている。

 

報告会にはヴィアーズ大将軍やヘルダー上級将軍だけでなくブラシン大将軍、マーゼルシュタイン元帥やアルフェード・ヨーデル将軍、カイティス元帥、キャス参謀長、モロック上級将軍など地上軍や帝国軍の重役達が集まっていた。

 

「チス・アセンダンシー軍は亡命したサンクト宙域の帝国軍によって大幅に強化されている。兵士の練度はともかく技術や兵器、全て我が帝国地上軍のものを全員が使える状態だ」

 

「歩兵戦力の方はどうだ?当然チスに帝国軍式の教育が合わさっているから我が軍ほどでなくとも高い練度を誇っていると思うが」

 

モロック上級将軍はヴィアーズ大将軍に尋ねた。

 

最終の結を決めるのは歩兵とよく言ったものでAT-ATやリパルサー・タンクがいくらいようと歩兵という存在はなくならなかった。

 

たとえそれがバトル・ドロイドであっても、クローン・トルーパーであってもだ。

 

必ずどの軍にも歩兵という兵科は存在していた。

 

「敵軍にも501軍団の残存兵力の部隊が存在していた。もしかすると……いや、かなり練度は高いと考えた方がいいだろう」

 

彼らの副官や書記官達がヴィアーズ大将軍の報告を議事録に纏め、他の上級将校達は真剣な顔で報告を聞いていた。

 

中立国で当面戦う予定はないとはいえ、相手のことをよく知っておくのは重要だ。

 

それに少しすれば向こうからも視察団が送り込まれる。

 

「後…これはちょっとした報告だが、亡命軍の中にゼル・ヨハンズという戦車乗りの将校がいた。もしかすると対ウォーカー戦を得意とした戦車部隊がいる可能性がある」

 

「ゼル・ヨハンズ……ヨハンズ……ああ、あの“()()()()”と呼ばれた」

 

ブラシン大将軍は思い出したように彼の名前を呟いた。

 

マーゼルシュタイン元帥やヨーデル将軍は少し苦笑に近い笑みを浮かべている。

 

良くも悪くもヨハンズ将軍は帝国地上軍の中でそれなりに有名な人物だった。

 

「リパルサー・タンクなら地上軍の対車両部隊で対処出来ますかね?」

 

「いいや、あのヨハンズの配下ならきっとファイアホーク・リパルサー・タンクがぞろぞろいる。対車両部隊だけじゃうまくいくまい」

 

テオドル・ブッセル大佐は隣のキャス参謀長に問いかけた。

 

しかし相手の実力をよく知っているキャス参謀長は首を捻りこう返した。

 

ヨハンズ将軍の麾下部隊は帝国地上軍の戦車隊の中でもかなりの最新鋭戦車を主力にした精鋭だ。

 

恐らく並みのAT-ATやAT-STのウォーカー部隊なら軽々と打ち倒してしまうだろう。

 

「ウォーカーの方はどうだ?連中も我が軍同様改造式のアサルト・ウォーカーを使っていたか?」

 

マーゼルシュタイン元帥が今度はヴィアーズ大将軍に質問した。

 

現在、帝国地上軍ではコルサントの秘密地区から発見した全地形対応メガキャリバートランスポート、通称AT-MTをベースにした新型アサルト・ウォーカーを製造中だった。

 

既に部隊に配備され実戦投入されている機体も多く、これから更に新型のAT-ATが増えていく予定だ。

 

だがその一方でチス・アセンダンシーのような勢力も新型のウォーカーを開発しているのではないかという疑念もあった。

 

「私や他の将校団が視察した限りではそのような機体は確認されていないが……“()()()()()”可能性はある」

 

「と、なればこちらも現状のⅣ号ウォーカー以外の機体も生産する必要があるか…」

 

帝国地上軍装甲強襲師団のトップであるハイス・グーリアン上級将軍はヴィアーズ大将軍の報告を聞き重い表情のまま呟いた。

 

グーリアン上級将軍はヴィアーズ大将軍と同じくらい有名な装甲部隊の指揮官であり“()()()()()()()”のあだ名で呼ばれていた。

 

「連中がウォーカーを蔑ろにするとは思えん。きっと強化しているはずだ」

 

ヘルダー上級将軍は注意と危惧を込めて進言した。

 

「となればこちらの視察も通常AT-ATのみ展開する……の方が良さそうだな」

 

カイティス元帥は他の幕僚達と顔を合わせヴィアーズ大将軍も仕方なしと納得した。

 

そして次の質問に入ろうとした所ある1人の将校が会議室に入室した。

 

「なんだ?」

 

ヨーデル将軍が声を掛けるとその将校は「重要報告があってやって参りました」と答えた。

 

コードシリンダーは4本、胸の階級章と襟章を見るに地上軍参謀本部付の少佐だろう。

 

「入ってくれて構わない」とヴィアーズ大将軍は手招きしその少佐は中へ入った。

 

「で、報告とはなんだ?」

 

マーゼルシュタイン元帥は少佐に尋ねた。

 

少佐はしばらく間を置き全員が聞こえるくらいの声の大きさで報告を始めた。

 

「未知領域から帰還中のフューリナー上級大将の旗艦より暗号通信を受け取りました。“()()()()()()()()()()()()()”と」

 

一見意味不明な暗号文に将校達は鈍い反応を示すもフューリナー上級大将が向かった先と照らし合わせると意味はすぐに分かった。

 

いよいよ“()()()()”。

 

閉ざされた門を開き、隠された秘密の軍隊が銀河系へと進軍する。

 

「報告ご苦労、下がってくれ」

 

「はい」

 

少佐はヘルダー上級将軍の言う通り命令を受け会議室を後にした。

 

それからしばらくは思い沈黙の時間が流れた。

 

「あの連中、本当に信じて良いのですか?」

 

デイツワインズ中将は他の将校らに疑問を投げかけた。

 

何人かは“彼ら”が送ってきた案内人の姿を見たことがある。

 

それは軍事組織の斥候というにはあまりにも逸脱しておりまさしく“狂信者”という言葉が相応しかった。

 

「しかし、彼らの戦力は地上軍だけ見てもかなりのものです」

 

参謀本部第一部副部長のフリースト・パールス少将は彼らをそう擁護した。

 

「それに総統が彼らの行動を許可なされたのだ。我々はそれに従うまでだ」

 

大臣のカイティス元帥も戦力的な評価は口に出さなかったがあくまで総統の意向に従うべきだと将軍達を促した。

 

他の将軍や幕僚達は何も言わなかったがそれぞれ悶々とした思いがあった。

 

それはヴィアーズ大将軍もマーゼルシュタイン元帥も同じだった。

 

だが一つだけはっきりと分かり全員が共通して思っていることはある。

 

()()()()()()()()”、抽象的な言葉だがそれ以外に形容出来なかった。

 

 

 

 

 

-未知領域 惑星イラム軌道上 インペリアル級スター・デストロイヤー“ヴィジランス”-

ハイパースペースを抜けイラムに帰還したのは迎えのインペリアル級“ヴィジランス”、“アルティメイタム”と“アシディティ”の三隻、セキューター級一隻、帝国貨物船三隻のみだった。

 

行く時はエグゼクター級“エクリプス”一隻で向かったのだがその時に既に案内人から一つの命令を受けていた。

 

「“エクリプス”は最少人数の乗組員でエクセゴルまで来るように」と。

 

最初スローネ大提督もグランドモフランドもボラム将軍もその意味がまるで分からず一時期は反対していた。

 

しかし案内人の通り最少人数で彼の地に向かいようやくその理由が分かった。

 

エグゼクター級“エクリプス”は“()()()()()”、いや“()()()姿()()()()”。

 

()()”によって“エクリプス”は彼女の妹達と同じ姿となるのだ。

 

そしてそれはファースト・オーダーにとって大きな力となり、勢力基盤を整える足がかりとなる。

 

彼の地に向かったことはそれだけで大きな収穫だった。

 

だが彼の地で得たものは当然全てが良いこととは限らなかった。

 

彼の地で目撃した事はファースト・オーダーの者達に多くの不安と不信を与えた。

 

本当に彼らを信用していいのか、本当に我らの味方となるのか。

 

抑えきれない不安が確かに存在していた。

 

「ボラム大将軍はどうした?」

 

「僚艦の“エラディケイター”へと一旦移りました。グランドモフランドも同じく僚艦の“アシディティ”にいます、ピアーソン提督もそこに」

 

乗組員のニルス・トスウィン少佐は追加の情報を合わせてスローネ大提督の問いに答えた。

 

彼はこの“ヴィジランス”に乗ってからもう4、5年ほど経つ。

 

本来アキヴァの反乱時に失われる運命に近づいた“ヴィジランス”だったがラックス元帥に変わり救援に駆けつけたオイカン大提督の艦隊により窮地を脱した。

 

しかしあそこでの敗北は多くの高官とアキヴァを失い新共和国と帝国の支持率が逆転しまうという悲惨な結果だった。

 

それからスローネ大提督はラックス元帥らとの果てない闘争に巻き込まれながらここまで来た。

 

壊滅しかけたヴァルコ・パンディオンの艦隊を吸収し、ジャクーからラックス配下の部隊を撤収させ、他の多くの勢力を吸収して周り未知領域に辿り着いた。

 

「それと間も無くピーヴィー艦長のリバイバル級“ファイナライザー”が護衛の“ヴァンキッシュ”と共に到着します」

 

トスウィン少佐は今後の予定も続けて報告した。

 

「リバイバル級……例の新型スター・デストロイヤー建造計画か。しかしあの艦はテナントの言い分だとまだ“()()()()()()”らしいが」

 

スローネ大提督は今まで受けてきた報告の数々を思い出しながらトスウィン少佐に尋ねた。

 

リバイバル級スター・デストロイヤー、別名リバイバル級スター・バトルクルーザーは全長2,400メートルほどの大型主力艦だ。

 

共和国宇宙軍のヴェネター級、帝国宇宙軍のインペリアル級の長所をそれぞれ合わせ対空能力などを向上させた次世代艦でありファースト・オーダーによる対新共和国戦の尖兵となるはずの存在だった。

 

様々な能力を詰め込んだ為リバイバル級はインペリアル級よりも800メートルほど大きくその分少数艦となっていた。

 

また本来の計画では後もう400メートルほど巨大でスターファイターも三個中隊多く詰める設計だったのだが生産性と技術面から今の形に留まった。

 

その為テナント提督らはこの艦をあくまでプロトタイプと評していた。

 

「詳しくは技術士官でないと分かりませんがリバイバル級は今後、少なくとも初期ロットは改修を重ねて機能を追加していくそうです。それで問題がなければ最終系で本格建造を始めると」

 

「つまり、プロトタイプであることに変わりはないのだな?」

 

「はい、ですが大提督、あのリバイバル級は現状の性能でも十分問題ありません。最大火力も偏向シールドによる防御力も艦載機及び兵員搭載能力もインペリアル級以上です」

 

「性能に関して心配はしていない。少しテナントの言葉が引っかかっただけだ」

 

リバイバル級を擁護する素振りを見せたトスウィン少佐に対してスローネ大提督はあくまでと断りを入れた。

 

「大提督、間も無くタラッツ提督とテナント提督が到着します」

 

ブリッジの奥からドマリク・クイン大尉がスローネ大提督に敬礼し報告した。

 

クイン大尉は元々士官ではなく下士官の立場にあった。

 

しかしジャクーの戦いで多くの宇宙軍トルーパーやストームトルーパー達を纏め上げ脱出に貢献した姿を認められ一気に中尉にまで昇進した。

 

その後未知領域に辿り着いた後は兵員不足を補う為に更に大尉に昇進しスローネ大提督の付属士官として日々の報告などを行なっていた。

 

「会場は“ファイナライザー”に設定してある。到着したらしばし待つよう伝えろ」

 

「会議の内容はやはり“()()()()”のことですか?」

 

クイン大尉は思わずスローネ大提督に尋ねた。

 

トスウィン少佐から厳しい目線を向けられたがスローネ大提督は気にせず答えた。

 

「そうだが、お前にはまだ関係ないことだ」

 

「僭越ながら大提督、あの地の連中はもはやカルトです。未来が見えるだのなんだの…」

 

「しかし大量の艦船、そして兵員が我々の味方となるのだぞ。チスと第三帝国と彼らの戦力があれば現状の戦力の一万倍…そうでなくとも帝国を纏めるのに彼らは必要だ」

 

トスウィン少佐はクイン大尉の不安感に対し彼らと同盟を組むことによる利点で和らげようとした。

 

しかし今のクイン大尉にはあまり効果なかった。

 

「見返りを求めてくるかもしれませんよ。それにカルト連中が帝国の中枢を占拠するような事態にでもなったら…!」

 

「問題はない、彼らとて数のうちでは我々に到底及ばないことをよく知っている。出過ぎた真似は出来ん」

 

スローネ大提督はクイン大尉を宥めるように実情を話した。

 

しかし大尉はまだ納得出来ない様子だった。

 

「パルパティーン皇帝から始まり、アミダ大宰相、ラックス元帥から受け継いできた帝国の意志を彼らに穢されるような事は私が断じてさせん。安心しろ」

 

「はい……」

 

渋々納得したクイン大尉はそれ以上何も言わなかった。

 

沈黙の間にブリッジの乗組員が「リバイバル級“ファイナライザー”、到着しました」と報告した。

 

「分かった、それでは私は会議に行ってくる」

 

「お気をつけて」

 

2人に敬礼されスローネ大提督はシャトルで待つ幕僚達の下へ向かった。

 

その道中で大提督は考えた。

 

クイン大尉やトスウィン少佐達には隠していたことを。

 

あの“エクリプス”にはいくつかのデータや記録が抹消されていた。

 

例えばウェイランドからコピーされた記録や航路の一部が“エクリプス”やレプリカヨットの“インペリアリス”のデータバンクから抹消されていた。

 

無論復元はほぼ不可能に近かった、しかし“()()()”が来てからは違った。

 

奴は抹消された全てのデータを復元させた。

 

我々は奴が蘇らせだデータの航路を辿り彼の地まで向かった。

 

どうやって復元させたのか、誰がデータを消したのか、その答えをずっと大提督は考えていた。

 

そもそも“エクリプス”を、“インペリアリス”をスローネ大提督が与える前に操作出来る高官は1人しかいない。

 

亡き助言者、ガリアス・ラックス元帥。

 

あの男が消したというのか?

 

スローネ大提督に全てを託して死んだ男がまだ隠し事をしていたのか。

 

ならば何故隠したのか。

 

そして消された道を辿った先にあったあの光景。

 

ラックス元帥は確かに帝国を滅ぼそうとした、しかし帝国を自ら復活させようともした。

 

選ばれた者達による帝国の再編、このファースト・オーダーの原型を作ろうとしていた。

 

志半ばで斃れ、スローネ大提督に全てを託したはずだ。

 

しかし、しかしもし彼が道を隠していたとすれば…。

 

もし彼が“()()()”を辿って帝国を再建しようとしていたならば…。

 

「この帝国を……ファースト・オーダーを……どこへ導くつもりだったんだ……ラックス」

 

彼女の様々な感情が入り混じった握り拳は誰にも見えずに虚空へと消えた。

 

 

 

 

-惑星ディカー レジスタンス司令部-

「大臣!ナブー潜入中のシールズ1から緊急暗号通信です!」

 

前の士官と時間により交代し今しがた席に着いたジェイク中尉は暗号を聞くなりすぐ大臣に報告した。

 

幕僚達と協議中だったディゴール大臣は近くでC-3POと話していたレイアの2人が急いでジェイク中尉の側に寄ってきた。

 

「暗号は?」

 

「特務暗号ですぐ解読出来ました。要約して読み上げます」

 

「頼んだ」

 

ジェイク中尉はモニターに映ったオーラベッシュを読み上げ2人は固唾を飲んで見守った。

 

「我々は女王救出に成功、遂に全土奪還作戦を開始する。本作戦に際しディカー司令部には艦隊及び地上戦力撃滅、揺動の為の支援戦力の投入を要求する……だそうです」

 

「具体的な敵戦力はどのくらいだ?記載されているのか?」

 

ディゴール大臣の問いにジェイク中尉は「されてます」と答えこれも読み上げ始めた。

 

「敵艦隊はナブー艦隊に合わせインペリアル級一隻、大型輸送船二隻、地上部隊は王室保安軍に合わせ親衛隊地上軍一個機械化兵団だそうです」

 

「帝国軍もかなりの戦力を送ってきましたね」

 

レイアは後者の帝国軍の戦力の多さに険しい表情を浮かべた。

 

守備隊としては少し多過ぎる程の戦力だ。

 

「宇宙艦隊だけならば“()()()”を全て投入すれば圧倒出来るだろう……問題は地上部隊だ」

 

あの2人が機械化兵団と判断したのだからその情報は間違いないのだろう。

 

兵員輸送のために持ってきたと思われる帝国貨物船二隻とインペリアル級の兵員搭載能力を合わせた単純計算でも凡そ4万人以上。

 

更に機械化ということは機甲部隊ほどでなくてもAT-ATやAT-ST、装甲車両を多数保有しているだろう。

 

地上部隊の戦力が他所と比べて乏しいディカーから送れる部隊は相当限られてくる。

 

「ナブーへの援助は私と麾下の機甲師団で行こう。私の師団なら少なくとも兵員数では互角だ」

 

「ヴィアタッグ将軍…」

 

レジスタンス地上軍将軍のデュロン・ヴィアタッグ将軍は奥から現れ自ら名乗りを挙げた。

 

ヴィアタッグ将軍は惑星ボサウイから派遣されてきた将軍でボサウイから一個軍ごとこちらにやってきた。

 

またヴィアタッグ将軍はサラストの敗残兵部隊も併合しディカーの地上総司令官となっていた。

 

「恐らく暗号の言い方やあちらの指揮官達のやり方からして我々が優先して行うのは艦隊の撃破でしょう。せめて敵兵団を抑えるだけで構いません、頼みましたよ」

 

「はい議長、それじゃあ大臣」

 

レイアからの信任を受けディゴール大臣は了承を出した。

 

ヴィアタッグ将軍は敬礼しすぐに麾下の幕僚達と共に司令室の外へ出た。

 

「今すぐ基地に緊急攻撃の放送を流せ。守備隊と予備隊以外の全艦艇及び全スターファイター隊を投入する」

 

「了解」

 

ディゴール大臣の命令を受けジェイク中尉が緊急出動用の放送とランプを鳴らした。

 

更に大臣はジェイク中尉にもう一つ命令した。

 

「後バスチル少佐とジルディール上級中尉らに返信を返せ。“()()()()”と」

 

「はい!」

 

事前に録音された音声は警報と共に基地中に鳴り響き将兵達に出撃の報せを届けた。

 

『コードE-1発令、指定部隊員は総員出動せよ。繰り返す、コードE-1発令、指定部隊員は総員出動せよ』

 

その報告を聞いた着替えの最中だったヴィレジコフ上級中尉は急いでチャックを締め直し生命維持装置などを付け直し始めた。

 

先程まで飛行訓練を行なっており本来この後は休憩だったのだがこのコードの放送が流れてしまってはこの後のスケジュールは全て白紙だ。

 

直ちに愛機に戻り戦場へ向かわねばならない。

 

「警報を聞いたか!?急げよ!」

 

コーラン少佐は急いでロッカールームに入り隊員達に声をかけ先に機体へ向かった。

 

ソード中隊のパイロット達も「了解!」と返答し一番最初にヴィレジコフ上級中尉がロッカールームから走って外に出た。

 

通路を走っていけば多くのパイロットや兵士、技術士官達が慌ただしく駆け回っていた。

 

それは外に出ても同じことで輸送機やスピーダーが兵士やパイロットを乗せて闊歩し機体の発進準備が進められていた。

 

「最終整備、チェック急げ!出撃だぞ!」

 

整備士長が大きな声で部下達を鼓舞し他の整備兵達も念入りに素早くチェックを行う。

 

『ジュエル中隊全機、発進開始せよ。ライトニング中隊はジュエル中退発進後に出撃されたし』

 

管制官の誘導が飛行場全域に広がり滑走路から飛行する何十機かのXウィングとAウィングの姿が確認された。

 

当然見とれている場合ではない。

 

ヴィレジコフ上級中尉は急いで愛機のAウィングに乗り込みヘルメットを被った。

 

「チェック完了、いつでも飛べます!」

 

「ありがとうベイア上等兵!行ってくる!」

 

整備兵に礼を述べコックピットを閉めた。

 

システムを起動しAウィングをいつでも飛べる状態にする。

 

「ソードリーダー、こちらソード2。いつでも発進出来ます」

 

『了解ソード2、そろそろソード中隊全機の用意が整う。それまで待機しろ』

 

コーラン少佐の返答にヴィレジコフ上級中尉は「了解」と返した。

 

大きな息を吐きふと右側の滑走路を見れば多くのスターファイターが飛行場を飛び立ち軌道上の艦隊へと向かおうとしていた。

 

下の方に目を向ければまだ多くの整備兵達が機体のチェックや整備、弾薬の補給を行なっている。

 

そこに慌ててパイロット達が到着し急いで機体に乗り込んでいった。

 

『ソードリーダー、全隊員搭乗完了しました。機体も全機万全の状態です』

 

ソード3がコーラン少佐に報告し少佐は「分かった」と一言だけ返し全ソード中隊員に命令を出す。

 

『ソード中隊全機、滑走路は現在ライトニングとマナンズ中隊が使用中だ。我々は今すぐ出撃したい為りフローティング・モードで出る』

 

「了解!」

 

機体のシステムを微調整し愛機をゆっくり上空に浮上させる。

 

フローティング・モードでの発進では少なくとも数十メートルほど地上との距離が必要だ。

 

高度をしっかり確認しつつ安全圏まで機体を浮上させる。

 

ある一定数の高さまで行くと機体の計器が青く光り発進しても安全だということをパイロットに知らせた。

 

「ソード2、発進する」

 

機体を回転させつつ上向きにし、ヴィレジコフ上級中尉はペダルを踏み込みエンジンを全力で吹かして上空へと発進した。

 

コーラン少佐や他のソード中隊機も後に続き12機のスターファイターが一斉に発進した。

 

一方彼らが発進した後も地上では兵員を輸送させたりしていた。

 

フル装備のレジスタンス兵士達が輸送機に乗り込み上空の大型主力艦に乗り込もうと急いでいた。

 

「第1、第2歩兵中隊はリパルサー・タンクと共にコレリアン・ホーラーへ!他の歩兵中隊はCR25とGR75を優先的に使用しろ!」

 

誘導の中尉が歩兵達の輸送船を指定し混乱なく詰め込めるよう指示を出した。

 

その後ろを戦闘服を着たヴィアタッグ将軍が数人の幕僚と共にUウィングに近づいていった。

 

2人の将校が敬礼しUウィングにヴィアタッグ将軍に説明した。

 

「将軍、間も無く“アルザス”が抜錨します」

 

Uウィングの奥からゆっくりと巨大なMC85スター・クルーザーが姿を表し浮上しながら前へ進んでいった。

 

モン・カラから送られてきたMC85スター・クルーザー“アルザス”は“クレマンソー”に代わりディカー艦隊の旗艦を務めている。

 

他にも僚艦として送られてきた二隻のネビュラ級スター・デストロイヤーが艦隊の要として軌道上に駐留している。

 

「兵員は全員乗り込んだか?」

 

「はい、後は全てネビュラ級に搭載する兵員と兵器のみです。我々はこのUウィングで“アルザス”まで向かいます」

 

ヴィアタッグ将軍は頷き幕僚達と共にUウィングの中に入った。

 

他の輸送船や輸送機と同じようにこのUウィングも浮上しMC85“アルザス”へ向かう。

 

軌道上では幾つかのスターファイター隊と出撃する艦隊がハイパースペースへの突入準備を始めていた。

 

その中にはヴィレジコフ上級中尉達のソード中隊もいた。

 

『全機、ハイパースペース・ルートを設定。目標をナブーへ』

 

「ナブーへ…?ってことはつまり……あの2人の任務がついに…!」

 

ヴィレジコフ上級中尉はハイパースペース・ルートを設定しながらそう勘づいた。

 

それから暫くして全軍にディゴール大臣からの通信が入る。

 

『コードE-1指令を受けた全将兵へ、我々は今よりナブーに向かう。ナブーの正当な指導者であるソルーナ女王らは解放され、遂にナブー奪還作戦が開始された。我々は新共和国建国以来の盟友であるナブーを守らなければならない。共に戦い、ナブーに会報を齎すのだ!諸君らの奮闘を期待する』

 

通信は途切れヴィレジコフ上級中尉はバキバキ指の関節を鳴らし目の前に迫る戦いに備えた。

 

惑星内から姿を表したMC85“アルザス”とMC80“スターリリーフ”が艦列に加わり全ての用意が整った。

 

ブリッジではデュロスのクロルティ司令官が艦長席に座っていた。

 

何隻かのモン・カラマリ・スター・クルーザーはその名の通りモン・カラマリのにしか扱えない。

 

しかしMC80やこのMC85のような軍用艦や他の種族も扱う艦は改装、もしくは設計から誰でも扱えるようになっていた。

 

今ではモン・カラマリだけが使えるMCクルーザーの方が数少ないだろう。

 

「司令官、全艦及び全スターファイター隊ルート固定完了しました」

 

「艦内部隊の着上陸体制も整っています」

 

幕僚達から報告を受けクロルティ司令官は大きく頷いた。

 

背後からヴィアタッグ将軍とその一行の幕僚達も現れクロルティ司令官らは敬礼した。

 

「上陸時はまず本艦が敵を抑えつつ後方の“スターリリーフ”とネビュラ級の兵員を地上に展開。それから本艦の部隊を展開する予定であります」

 

「ああ、まず上陸した部隊で安全圏を構築しそこに徐々に部隊を降ろしていく。そうすれば主兵力を安全に降下させられるだろう」

 

「わかりました、ではそのように」

 

クロルティ司令官は上陸戦時の確認を済ませると艦長席を回転させ全部隊に指示を出す。

 

「全艦、固定ルートに従いハイパースペースへ!惑星ナブーへ急行する!」

 

司令官の命令と共にスターファイターと艦隊がハイパースペースへ突入した。

 

ナブーの救援の為、レジスタンスの勝利の為に。

 

 

 

 

海軍本部では各司令官や部隊長達が集まり最終チェックを行なっていた。

 

既に全員が武装を整えいつでも戦闘出来る体制を構築していた。

 

「それでは、作戦の最終確認を」

 

フランケ一佐が全員の顔を見合わせ説明を開始する。

 

「まず首都奪還の為の特殊工作部隊をバスチル少佐、メンジス三佐、ジルディール上級中尉が率いる擲弾兵及び保安特殊隊員、海軍特務歩兵らによる部隊がシードに潜入します」

 

「シード突入は当然Uウィングで行う。最大限ジャマーとステルスを使って敵の目を潜り抜けるつもりだ」

 

「それにシードの“仕掛け”は話した通り既にこっちでなんとかしてある。潜入さえすれば後はタイミング次第でどうとでもなる」

 

「“仕掛け”が作動した後は我々で玉座の間を制圧します」

 

3人の部隊長達が意気揚々と話す。

 

フランケ一佐はそれから本題に戻った。

 

「そして近衛兵及び保安隊、海軍歩兵隊、グンガン歩兵の全軍を率いてシードを制圧するのがソルーナ女王とキャプテンコォロとなります」

 

ソルーナ女王は小さく頷き他の将校達は皆どこか心配の目で見ていた。

 

女王であるのだから無理に前線に出なくても良い、指導者なのだから流れ弾で死んでもらっては困る。

 

しかし女王は反対意見を全て押し切ってそこに名を連ねた。

 

「本当によろしいのですか?我々とて全ての危険をお守り出来るわけではありません」

 

キャプテンコォロは何度も彼女に忠告した言葉をもう一度繰り返した。

 

それでも当然ソルーナ女王の心情に変化は訪れない。

 

「いいえキャプテン、ナブーの全人民が命の危険性に晒されているというのに1人、安全地帯で戦況を眺めている事は出来ません。かつてアミダラ女王が成したように自らの手で人民を助け、自らの声で解放を宣言しなくてはなりません」

 

「…分かりました。我々は全力で護衛にあたります」

 

「我々グンガンの歩兵隊も女王殿を命の替えてもお守りします」

 

歩兵隊長のウステン・シール隊長はソルーナ女王に誓った。

 

彼はナブーの戦いで通商連合のバトル・ドロイド軍と戦ったタブラー・シール将軍の息子でウステン・シール隊長もそんな父の背中を目指して隊長にまで上り詰めた。

 

ホーリス騎兵隊長とは戦友の間柄で共にナブー王室解放軍に全面協力していた。

 

「そして残りの揺動部隊、まず本基地を包囲する保安隊を側面から奇襲する部隊をホーリス隊長のカドゥ騎兵隊が、そして重戦力を使って保安隊の機械化部隊と帝国軍の装甲部隊と対峙するのが私率いる第1本部護衛軍です」

 

ホログラムにホーリス隊長の騎兵隊とフランケ一佐の第1本部護衛軍が出現し包囲中の保安軍、帝国軍に攻撃した。

 

彼らはあくまで解放軍が正面から包囲を破ろうと試みているという陽動の部隊だ。

 

騎兵隊もある程度の損害を与えられるだろうが突破は不可能だし、第1本部護衛軍も2つの部隊を抑えるので精一杯だ。

 

「第1軍は所詮保安隊と抵抗組織の構成員と海軍歩兵、水兵、そしてグンガン兵の寄せ集めの軍だ。帝国軍の機甲部隊相手にはそう長くは持たんぞ」

 

「分かっている、ゲリラ戦と防衛陣地を使ってなんとか足止めして時間を稼ぐ。そして各敵駐屯地とスターファイター隊を抑えるのが本部の海軍艦隊と海軍航空隊を率いるオーリー空将らの部隊です」

 

オーリー空将とドルフィ空将、前海軍作戦部長のルース・マウントン海将とガイルス二佐は頷いた。

 

彼らは遊撃し他の駐屯地や飛行場からの増援を出来る限り食い止め出撃不可能にするのが役目だ。

 

恐らく彼らが最も多くの戦闘を行うだろう。

 

海軍本部に駐留中の全艦艇が出撃し使えるスターファイターは全て出す。

 

王室解放軍の最大戦力は最大の揺動と遊撃として扱われる。

 

「そして帝国軍の主力部隊と宇宙艦隊を撃破するレジスタンス軍の増援ですが…」

 

フランケ一佐はジョーレンとジェルマンの方を見つめた。

 

レジスタンス軍が来なければ宇宙艦隊から更なる増援が送られるし親衛隊の主力兵団を抑えおかなければ王室解放軍などすぐに圧倒され潰されてしまう。

 

「先ほど“()()()()”との返信が来ていた。しかも特務コード付きで読んでみれば部隊数が書いてある。新型主力艦三隻、MCクルーザー一隻、機甲師団丸々一つだ」

 

その報せを聞き、将校達からはわっと歓声が湧いた。

 

ディカー基地としては送るだけの戦力を全て送るつもりだろう。

 

解放軍が立てた作戦を十分成功させるだけの戦力だった。

 

「では以上です。それではソルーナ女王」

 

フランケ一佐は最後に作戦の決行をソルーナ女王に託した。

 

この場の最高責任者であるソルーナ女王には最終の決を決める責任があった。

 

ソルーナ女王は一間を置いて口を開く。

 

「ナブー王室解放軍は我々が囚われている間も、我々を救い出した後も、ナブーの解放の為に全力を尽くしてくれました」

 

その一言はグンガンや人間といった全ての種族の間を超えて胸に深く染み渡った。

 

全てはこの時の為、多くの者が死に、多くの者が命と持てる全てを賭けたのだ。

 

「そしてレジスタンスからは2人の勇敢で精強なる協力者が我々を手助けしてくれました。我々はナブーの平和と自由を尊重する多くの人々によって今日まで命脈を繋ぎ止めることが出来ました」

 

ジェルマンとジョーレンは小さく微笑んだ。

 

2人とも命令を受けてからナブー解放の為、様々な戦いに身を投じた。

 

任務の為ではあるがその過程で多くの戦友とまた巡り合えた。

 

この美しい星の為にここまでやってきた。

 

遂にその努力の集大成がやってくる。

 

最後にソルーナ女王は決断の一言を述べた。

 

「我々全員の悲願を成す為に、私はナブー王室解放軍“最後の命令(final order)”を下します。“ナブー解放作戦”を実行しなさい」

 

第三次ナブーの戦いはこうして静かに火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-惑星マーカー-

荒野の近くに2人、いやアストロメク含めれば3人の人影が見えた。

 

1人は男性で黒っぽい服を着て、グローブの焦げ跡から見える“()()”の面を庇いながら土を弄っていた。

 

男は元々農夫でありこの惑星マーカーと同じくらい、場合によってはもっと酷い場所で家族の手伝いをしていた。

 

叔父と叔母は中々に厳しい人物で男を星から外に出すことを随分と嫌っていた。

 

父の話をしても「貨物船パイロットで事故で死んだ」と嘘を吐きあまり話そうとしなかった。

 

だが今にしてみれば死んだ叔父と叔母はある意味家族として、義理ではあるものの両親として正しいことをしていたのかも知れない。

 

男の父親の末路は悲惨で、母親の末路も悲惨だった。

 

2人が遺したたった1人の我が子を、なんとしてでも守りたいと願うのは当然のことだ。

 

それが例え過保護であっても、本人の意思に沿っていないとしても。

 

それだけ“()()()()()()()()”という血筋は特別であり、ある意味呪いに近かった。

 

男の周りをうろうろするアストロメク・ドロイドのR2-D2はその全てを目撃していた。

 

自分の主人が変わりゆく悲しい現場を彼はその小さな瞳で記録していたのだ。

 

後々、時間があるうちに息子にもそれを伝えた。

 

息子は、ルークはかなり心を痛めたがそれでもジェダイとして生きる道を選んだ。

 

このような悲劇を防ぐ新たな時代のジェダイとなる為に。

 

「君はこれからどうするつもりだい?“マラ・ジェイド”」

 

ルークは隣に座る皇帝の手、“マラ・ジェイド”にそう声をかけた。

 

彼女はずっと主人である亡き皇帝、シーヴ・パルパティーンの復讐の為にルークを追い続けていた。

 

エンドア後行き場を失った彼女はFFSOUの司令官であるフューリナー上級大将に拾われた。

 

フューリナー上級大将にとってみれば貴重なフォース使いであり丁度良い駒だと思っていることだろう。

 

マラ・ジェイドはフューリナー上級大将の命令を受けてルークを殺す為に差し向けられた。

 

無論それはマラ・ジェイドも望んでいたことだった。

 

憎きルーク・スカイウォーカーを殺し皇帝の復讐を果たす、それこそが与えられた最後の使命だ。

 

だがルーサンでの襲撃は失敗しこのマーカーでの襲撃も失敗した。

 

特にマーカーでは全員が燦々たる目に遭い彼女が連れてきたトルーパーは乗ってきた輸送機ごと全滅、ルークのXウィングも損傷し頼みの綱は何もなくなった。

 

幸いR2が親友に向けた最後の救難信号があったがそれ以外は何もなく2人は生き残る為に渋々協力する事となった。

 

そこで2人は色々な事を話した。

 

互いの身の上話、フォースに対する考え方、そして皇帝を殺害した本当の人物。

 

ルークは皇帝を直接殺した訳ではない、むしろ皇帝に殺されそうになり“()()()()()()()”。

 

本当の心を取り戻した父親、“アナキン・スカイウォーカー”に。

 

黒い仮面を被った“()()()()()()()()()”ではなく“()()()()()()()()()()()()()”が皇帝にトドメを刺した。

 

その衝撃がマラ・ジェイドのルークに対する復讐心を完全に有耶無耶にしてしまった。

 

「またあの親衛隊に戻るのかい?」

 

ルークは再び尋ねた。

 

しかしマラ・ジェイドは首を振った。

 

「いいえ、戻ってもどうせ殺されるだけだわ。あのフューリナーって男は一見寛容そうに見えて使えないと判断するとすぐ処分する」

 

「じゃあこれからどうするつもりなんだ?」

 

「さあ、また路頭に迷うか密輸組織にでも加わるか……」

 

「帝国と戦う気は無いのかい?」

 

ルークの意外な問いにマラ・ジェイドは思わず吹き出してしまった。

 

「私は元帝国よ?それに私は皇帝に育てられたダークサイドの戦士で…」

 

「いいや、君はまだ暗黒面の戦士じゃない。君はあくまで皇帝と帝国の忠義の為に戦っていただけだ、そこに善悪や光や闇は……っ!」

 

突然危機を察知した2人は急いでその場を離れライトセーバーを起動した。

 

直後、ルークの座っていた岩壁に大きな鉈が深く突き刺さっていた。

 

「なんだ!?クッ!」

 

更にルークの方面にだけ大量のブラスター弾が飛んできた。

 

ルークは厳しい表情を作りながらも全てを捌き切り残りの弾丸をフォースで押し返した。

 

体勢を立て直し、いつでも戦える姿を作り出す。

 

「何者だ!?」

 

ルークの返答には答えず黒く、長細い物体が2本目の鉈を振り回しながら襲ってきた。

 

ライトセーバーにも耐えられる高性能な鉈は何度もルークに攻撃を仕掛け、ルークの攻撃を受け流した。

 

蹴りをフォースと共に入れて遠くに吹っ飛ばそうとするがカウンター攻撃のように数発のブラスター弾を撃ち込まれ、上手くいかなかった。

 

「その形状……ホロワンのIGシリーズか…?」

 

赤い冷酷な瞳に全身が細長くまるでパイプを寄せ集めたかのうなその不気味なシルエットは間違いなくIGシリーズの暗殺ドロイドの姿に酷似していた。

 

しかしボディは黒で統一され腕や足に見慣れない赤いラインと独特な紋章が描かれていた。

 

一体なんの敵かとルークが考えていた矢先、そのIGシリーズ暗殺ドロイドは腕からウィップを出し振るう。

 

ルークはそれを冷静に躱しながら一旦後ろに下がり、次の出方を待った。

 

「あれは一体!?」

 

マラ・ジェイドも暗殺ドロイドを見て困惑している。

 

となればあれは親衛隊や帝国軍が使っているものではないのだろう。

 

暗殺ドロイドはウィップを投擲した鉈に付けそのまま引き寄せた。

 

鉈を手に取ると接続部に付け再びブラスター・ライフルに持ち替えひたすら連射する。

 

ルークとマラ・ジェイドは全てのブラスター弾を弾きながら防御に徹した。

 

無感情にブラスター・ライフルを連射するその暗殺ドロイドは突然足から小型ミサイルを放った。

 

ルークはそれをフォースで押し返すも爆発の煙と火花が周囲に煙幕を少しの間作った。

 

その中を暗殺ドロイドは鉈を持って突っ込み再びルークに斬り掛かった。

 

「こいつ!一貫して狙いは僕だけか!」

 

暗殺ドロイドは凄い力でルークを力押ししダメージを与えようとする。

 

だが暗殺ドロイドはそれ以上の攻撃を“()()()()()()()”。

 

「IG!よせ、もう十分だ」

 

遠くから聞こえてきた聴きなれぬ男の声により暗殺ドロイドは停止し武器を全てしまった。

 

足音と共に男の声は近づきルークに非礼を詫びる。

 

「どうも、我が“()()”が無礼を働き申し訳ありません。スカイウォーカー殿いや、“お弟子様(Apprentice)”」

 

ルークとマラ・ジェイドはライトセーバーをしまうもずっと警戒した様子であった。

 

「誰だ…?君達は…?」

 

ルークはフードを被り見慣れぬ“()()()()()()()()()()()”を後ろに連れるその男に尋ねた。

 

男は暗殺ドロイドより前で止まりフードの先からも見える笑みを浮かべルークの問いに答えた。

 

「我々は“()()()()()”を信奉する者達……迎えに上がりました!新たなる“我らが卿(My lord)”よ!主が貴方をお待ちです。我ら“シス・エターナル”の主が……貴方を」

 

男は静かに頭を下げた。

 

男の上空には見慣れぬ大砲を付けたスター・デストロイヤーが一隻、ゆっくりと姿を現した。

 

まるで破滅の降臨かのように。

 

 

 

 

つづく


























おいじゃ!(あいさつ)

真夜中投稿は気分がいいの!

まるでスパイスキメた気分じゃ!(問題発言)


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第三次ナブーの戦い

「この力がナブーの民を誰1人傷つける事なくナブーを護らん事を切に願う。それこそが我らが歩む新たなこの星の歴史の一歩でありナブーの平和の為であるのだから」
-シード宮殿に記されたある一文より抜粋-


-惑星ナブー 海軍本部付近-

「総員!突撃用意!」

 

草陰から一斉に立ち上がったカドゥとグンガンの騎兵達がサーベルを引き抜き、或いはセスタを構えホーリス隊長の命令を待ち続けた。

 

一番先頭にいるホーリス隊長のカドゥにはレースで勝利して手に入れた大きな羽が何枚か付いており今までの功績を知らしめていた。

 

ホーリス隊長はサーベルを構え騎兵隊よりも二、三歩手前に出る。

 

彼の命令を全てのグンガン騎兵が待ち望んでいた。

 

「我々はこれより敵反乱軍及び帝国軍に対し騎兵突撃を行う!カタパルト攻撃用意!」

 

「ハッ!」

 

ファンバから下ろされたカタパルトに青い球体、ブーマが取り付けられ投擲可能な状態となった。

 

「我々が突撃と同時に敵陣へ投擲せよ、奴らにオータ・グンガでの借りを返してやれ。失われた同胞と今を生きる全てのグンガン達の為に戦え!」

 

騎兵達が「おお!!」と皆掛け声を上げ辺りには戦意が満ち溢れている。

 

ここにいる騎兵達は皆、親を失った者、妻や子を失った者、戦友を亡くした者、全員が故郷を破壊され何かを失っている。

 

だがそれはいち早くグンガンに知らせを出し、1人でも多くのグンガンを救おうとした王室解放軍もそうだ。

 

彼らは主君を失い裏切り者達から故郷を追われ自由を奪われた。

 

我らは皆、何かを失った者同士なのだ。

 

それは恐らくレジスタンスもそうだろう。

 

だから我らは手を取り合い、共に立ち上がる事ができた。

 

我らは同じ星に住まう友であり、何処か似た者同士なのだ。

 

だから時折仲違いをするし危機の時は共に戦える。

 

今からそうするように、これからもそうしていくように。

 

我らは失ったものを取り返し取り返せない分のツケを返す。

 

その魁たるのが我らはグンガン騎兵隊だ。

 

これほど誇らしいことはない。

 

ホーリス隊長は自らのカドゥを反転させサーベルを構える。

 

騎兵隊のリーハイ副隊長は手綱を離し専門の楽器を鳴らして全騎兵隊に突撃の合図を出した。

 

「突撃!」

 

ホーリス隊長の命令と共にグンガン達は大声を上げカドゥを走らせた。

 

何百、何千のカドゥがホーリス隊長に導かれ一斉に敵陣へ向け突撃を開始する。

 

草原を抜け、平原を駆けるカドゥの騎兵隊はもはや芸術的とも言える形容し難い美しさを作り出していた。

 

カドゥの足音と兵達の怒号が混じり、蹴られた土が周囲に跳ねて飛び回っていた。

 

特にホーリス隊長の羽の付いたカドゥは走る度に羽が翻りとても美しい。

 

そんなカドゥとグンガン達の後方からはカタパルトに乗せられたブーマが投擲されホーリス隊長達の頭上を横切った。

 

放たれたブーマは暫く空中を浮遊した後目標である保安軍の包囲網の敵陣に着弾した。

 

青い球体が地面に着くと同時に割れ中身のプラズマが周囲に放出された。

 

あまりの衝撃に何人かの保安隊員やストームトルーパー達はその場で気絶しプラズマにより多くの兵士の武装が使用不能になった。

 

「なっなんだ!?早く偏向シールドを!」

 

「ダメです!プラズマにやられました!機能しません!」

 

ストームトルーパーのE-11や保安隊員のCR-2ブラスター・ピストルがショートし火花を散らす。

 

ブーマの擲弾は数十秒に渡って降り注ぎ、その場の全員を混乱させた。

 

そして混乱したところへ騎兵の猛攻が訪れる。

 

「進め!!」

 

その掛け声と共にホーリス隊長はまず1人の保安隊員をサーベルで斬り倒した。

 

彼がこの戦いの最初の犠牲者だ。

 

戦線に到着した騎兵達は手に持つ武器で次々と保安隊員やストームトルーパーにトドメを刺した。

 

猛スピードで進みながらサーベルで敵兵を斬り、或いはセスタの長槍で敵兵を串刺しにし即死させる。

 

ブラスター・ライフルで応戦しようと引き金を引くがブーマから放たれたプラズマの影響で既にブラスターや他の携帯火器は殆ど使えず蹴散らされた。

 

左、右と右往左往する敵兵を叩き斬りホーリス隊長は確実に敵兵の数を減らした。

 

隣を見ればホーリス隊長の補佐役であるボフリー副官がセスタを振り回し近接戦でなんとか騎兵を仕留めようと駆け寄ったストームトルーパー達を皆殺しにした。

 

その一撃でヘルメットやアーマーが砕け周囲に白い破片が散らばった。

 

「止まるな!前進し多くの敵兵を屠れ!」

 

ホーリス隊長はカドゥを走らせながらまた1人のストームトルーパーがホーリス隊長のサーベルの餌食となった。

 

周りでも多くのストームトルーパーや保安隊員が騎兵隊の襲撃の餌食となり、その骸を平原に晒していた。

 

ある1人のグンガン騎兵が手持ちのブーマを密集した敵兵に投げつけその衝撃で数人を一気に気絶させる。

 

既に真横からの奇襲に耐えられなかった敵部隊は多くの兵士が討ち取られ潰走を始めていた。

 

武器も使えない、まともな支援も受けられない、目の前には死に物狂いで突撃する騎兵の群れがいる、こんな状況で歩兵に出来る事は限られていた。

 

銃剣やナイフで応戦しようとする気概のある者も何人かいたが重火器を持たぬ歩兵が騎兵に敵うはずもなくセスタやサーベルの前に斃れていった。

 

「後退!後退…ウッ…!」

 

後退を命じていた親衛隊の将校も1人のグンガン騎兵が投げたセスタに心臓を貫かれ即死した。

 

その騎兵はすぐにセスタを取り返しまた多くの敵兵を打ち倒す。

 

「敵軍は崩れている!今は好機だ!攻めて攻めて攻め立てろ!」

 

カドゥの上からホーリス隊長は命令を出し更なる突撃を命じた。

 

戦況は圧倒的グンガン側の優位、しかし敵の下士官や将校達が辛うじて効率的に退却と部隊再編を行おうとしている。

 

チリジリになった敵を蹴散らしつつひたすら突撃し敵部隊をかき乱すのが使命である彼らにとっては少し厄介だ。

 

「ジルディール上級中位から貰ったこれを使うか……」

 

ホーリス隊長はジェルマンが以前プレゼントしたDH-17ブラスター・ピストルをホルスターから取り出し、カドゥを走らせながら親衛隊の将校を撃った。

 

見事に弾丸は命中し親衛隊の将校は頭に直撃を喰らい死亡した。

 

「よし!意外と役に立つなこれ!」

 

また別の保安将校を撃ち、更にまた別の部隊長を急いでサーベルに切り替えて接近し斬り倒した。

 

騎兵隊は更に前進し破竹の勢いで敵軍を撃破し続けた。

 

騎兵隊本来の突破力に加え側面からの奇襲攻撃、更には退却を許さず徹底的に追撃し敵陣地を破壊、そして指揮系統を確実に破壊し敵の残兵を更に混乱へと陥れた。

 

上官がセスタの槍で貫かれ戦死し自らはカドゥの騎兵に追いかけられている。

 

忠誠心と精神力の強い親衛隊のストームトルーパーはともかく保安隊の歩兵達ではとても耐えられる恐怖ではなかった。

 

おまけに武器が使えないのだから立ち止まって戦おうとしてもすぐに蹂躙された。

 

しかも指揮官であるホーリス隊長の指揮はカドゥの上で自らも戦闘中なのにも関わらず的確で突撃支援にも余念がなかった。

 

「カタパルト隊、補給隊と共に前進し再び投擲支援せよ。我々は一気に前進する!」

 

『了解!』

 

腕のコムリンクから後方部隊に指示を出し再びカタパルトによるブーマの投擲支援を命じた。

 

コムリンクによる即時情報伝達が部隊を素早く動かし連続した突撃支援を持続させる。

 

これにより再び突撃を喰らう敵軍は火器が使用不可能となりまた騎兵突撃の威力を真っ向から受けることとなる。

 

ある種原始的な騎兵による突撃をここまで効果的に仕上げているのはこのように様々な要因があった。

 

しかしホーリス隊長の騎兵隊による突撃にも流石に限界がある。

 

彼は心の中でいつまでこの圧倒的攻勢が続くかという事を常に考えていた。

 

敵を斬り倒し騎兵達を鼓舞する瞬間もだ。

 

AT-ATやAT-STのような騎兵を遥かに上回りブーマによる支援投擲の効力も薄い相手が眼前に立ちはだかった時、いよいよ騎兵隊の突撃は停止し部隊は全滅するだろう。

 

そうならない為にも本来の目的を早急に達成する必要があった。

 

首都シードの奪還とナブーの解放、彼らの全て賭ける目標の為に。

 

 

 

 

「本部包囲部隊が内部の奇襲を受けて戦闘中らしい。我々も直ちに救援に迎えとの命令だ」

 

ストームトルーパーの分隊長が同じ分隊の副分隊長にそう告げた。

 

彼らは兵員輸送機に乗って移動するパトロール分隊で先ほども近くの村の警備と調査を行なっていた。

 

彼らのパトロール任務は単なる治安維持活動や敵軍の捕縛だけでなくエイリアン種族、近人間種族の逮捕と拘束も含まれていた。

 

偶々先ほどまでいた村にエイリアン種族や近人間種はいなかったが他の分隊は何人か摘発したそうだ。

 

その中にはナブーに住み着くグンガン族もおりその場で射殺されたらしい。

 

エイリアン種族根絶を目指す第三帝国は当然このナブーでもそれを実行し始めた。

 

特にこの惑星の代表エイリアン種族たるグンガンは弾圧されシードは疎か本来の住処すら奪われてしまった。

 

オータ・グンガは破壊され多くのグンガンが命を落とした。

 

今は生き残ったグンガン達が何処かに身を隠しており第三帝国とクーデター軍は必死で探していた。

 

近々グンガン捜索を本格しいよいよ本気の殲滅を開始するとも噂されている。

 

「我々偵察分隊まで向かわせるのか?」

 

副分隊長は分隊長に疑問を投げかけた。

 

「何でも中央の歩兵部隊がイオン攻撃を受けて手も足も出ないらしい。装甲部隊も動かせないようで近場の我々に急いで救援に向かうよう指示が出た」

 

「だが後二件、巡検する村が残ってるぞ」

 

「どうせ予備隊が回される、我々が気にする必要はない。輸送機に乗り込むぞ」

 

副分隊長は頷き輸送機に乗り込もうとした。

 

しかし突然強めの風が辺りに吹いて副分隊長は足を止め辺りを見回した。

 

「今何か凄い風が…」

 

「ナブーの気候のせいだろう、とにかく急ぐぞ」

 

分隊長は突然の突風をそう考え副分隊長と共に輸送機に乗り込んだ。

 

だがこれは大きな間違いだった。

 

風は風でも今の風はナブーの気候が生み出した自然のものではない。

 

人工的な、人為的に生み出した“()()()()”だ。

 

その機体はクローキング装置により可視化されていないだけでそこに確かに存在していた。

 

ストームトルーパー2人がクローキングと実際の空の風景の違いに気づけたら恐らく状況はもっと変わっていただろう。

 

何せ機体のパイロット達はストームトルーパーの兵員輸送機を先に発見し大分ヒヤヒヤしていた。

 

「……ホントにバレてないよな……ホントに気付いてないよな…?」

 

助手席に座るジェルマンは隣で冷や汗掻きながら操縦するジョーレンに対しそう告げた。

 

ジョーレンは一言「分からん…」とだけ返す。

 

彼らは唯一クローキング装置を備えているUウィングで解放軍最精鋭部隊を秘密裏にナブーのシード宮殿まで輸送するつもりだった。

 

このUウィングならレーダーにも引っかからないし目視での発見も不可能だ。

 

ただし今のように地表に若干近い時に発生する風はどうしようもない。

 

おまけに本来予定では出会うはずのなかった親衛隊のパトロール隊がいた事により2人は有り得ないほど注意力を払って進んでいた。

 

「レーザー砲とか増援部隊とか送ってこない辺りバレてはないと思うが…」

 

口ではそう言うジョーレンも内心はあまり確証がなかった。

 

だが今はとにかく早くシード宮殿に接近して部隊を展開する他ない。

 

「全陽動部隊、攻撃を開始したそうです」

 

コックピットに近づいてきたメンジス三佐は2人に戦闘開始の報せを告げた。

 

ジョーレンは早速「戦況は?」と彼に尋ねた。

 

「騎兵突撃は大成功、第1本部護衛軍も想定より善戦しているそうです。海軍とスターファイター隊は取り敢えず地上基地の24%の出撃妨害に成功したと」

 

「まずまずって所ですかね……特殊通路から先にシード近郊で待機しているソルーナ女王の隊からはどうですか?」

 

「敵には察知されていないそうです。しかしシードの守備隊は増援を出すわけでも、更に部隊を入れるわけでもなく以前動きなしと」

 

メンジス三佐の報告通り、シード守備隊は兵力を展開するわけでもなく、かと云って他の方面から増援を受け入れ守備を固めるわけでもなかった。

 

現状戦力を維持したままこちらに備えていると云った印象だ。

 

「そりゃまあそうだろうな。こっちにまともな機甲戦力がない以上地上戦では帝国軍とクーデター軍の方が圧倒的有利だ。それに連中はクリースとか言う奴らが新しい軍を連れて帰ってくるまで耐え抜けばいいって腹積りだろう。防戦一方でも奴らは構わないだろうしな」

 

帝国軍とクーデター軍は防戦一方でも問題はないが解放軍とレジスタンス軍は多少危険を孕んでいても勝負に出るしかない。

 

かなり不平等な戦いだがレジスタンス軍も解放軍ももはやそれが“()()()()”だ。

 

いつだって圧倒的優位な、もしくは平等な状況で戦えたことは少ない。

 

だからと言って負けるつもりもないが。

 

「まあ我々の作戦としちゃあむしろ首都の守備隊を更に増やして防備を固めて貰った方がいいんだがな。なるべく多く敵兵を“巻き込める”」

 

少し悪い顔をしながらジョーレンはそう呟きジェルマンも小さく頷いている。

 

そうこうしているとようやく目標の場所が見えてきた。

 

首都シード。

 

以前訪れた街並みはそっくりそのまま、上空から見るとよりその美しさが分かる。

 

「このまま裏側まで回って河川放出部から内部に侵入する」

 

緊張と共にジョーレンはシードの上空をそのままゆっくりと飛んだ。

 

下を見下ろせば大通りを封鎖するAT-ATの姿がよく見えた。

 

それ以外にも曲がり角に砲台やAT-STの姿がチラリと見え彼らを戦慄させた。

 

もし通常の市街地戦を展開し身を隠す為に曲がり角を曲がったらあのスカウト・ウォーカーがいたらと考えるとゾッとする。

 

歩兵を容赦なく蹴散らし大きな足音を鳴らして市街地を我が物顔で進軍するAT-STはさぞかし恐ろしいだろう。

 

下手すればAT-ATなんかよりもよっぽど脅威になるかもしれない。

 

「連中、相当強固に防衛網を張り巡らせてる……防衛に関しては本気らしいな」

 

独り言を呟きながらジョーレンは機体を旋回させシード宮殿を潜るように裏側へと侵入した。

 

以前TIEボーディング・クラフトを奪取した時と同じく給電格納庫は内部の1機も出撃せず静けさを保っていた。

 

だが侵入箇所は今日はここじゃない。

 

「宮殿地下の河川放出部……これか…」

 

ジョーレンはゆっくりと機体を移動させながら目標地点に到達した。

 

シード宮殿は自然と調和した美しい造りであり建物の数十メートル下には大きな滝が流れていた。

 

今より40年も前の通商連合のナブー侵攻を受け非常用の地下施設を増設したシード宮殿は実はこの滝が流れる洞窟とも一部が繋がっていた。

 

もう塞がれているがある一つの地下施設が滝が流れる奥底の洞窟と繋がっており多少面倒ではあるがシード宮殿に侵入する事が出来る。

 

この作戦ではUウィングで洞窟に侵入しそこから歩兵隊を展開する事が求められた。

 

だがそれは至難の業だ。

 

ジョーレンは機体の両翼を出来る限り小さくし全ての操縦支援システムを起動した。

 

一旦操縦桿から手を離し指の関節を鳴らし一息吐くとジョーレンはしっかり操縦桿を握り締めた。

 

「行くぞ」

 

ジョーレンの一言によりUウィングはゆっくりと洞窟に近づき始めた。

 

機体の数パーセントの速力しか出していないのだがUウィングはかなり洞窟に近づきコックピットの光が遮られ暗くなった。

 

Uウィングのライトが点灯し多少明るくなったが先が見えないのは変わりない。

 

機体を岩壁にぶつけないよう細心の注意を払いながらジョーレンは機体を奥へと進める。

 

とてつもない緊張がUウィングの船内に広がりコックピットにいない兵士達もジョーレンの操縦を固唾を飲んで見守っていた。

 

「後もう少し……もう少し……」

 

ジョーレンは機体の計器に目をやりながら機体の速力を調整する。

 

計器のメモリが僅かに揺れ動いた時ジョーレンは「今だ!」とエンジンを急停止しリパルサー・リフトで機体を浮遊させたままの状態にした。

 

機体はピタリと停止し1ミリたりともズレぬまま入り口部分まで侵入出来た。

 

安堵の息を漏らしジョーレンは背もたれに寄りかかる。

 

「よし、全員急ぐぞ。ブラスターと実弾銃の装備を忘れるな」

 

メンジス三佐が隊員達にそう促し彼もS-5ブラスター・ピストルをホルスターに仕舞い実弾銃を手に取った。

 

Uウィングのハッチが開き数人の擲弾兵と特殊部隊員が外へ出る。

 

「クリア」

 

他の隊員達も後に続きジェルマンとジョーレンを除く他全員が岩壁に偽装されている扉の前に集まっていた。

 

機体を固定させ残りの2人もメンジス三佐らの下へ向かった。

 

「コード入力完了、ドア開きます」

 

特殊部隊員がコードを入力しそれから数秒も経たないうちに外壁が崩れドアが開いた。

 

重火器を装備した擲弾兵が先行して中に入り先ほどのように安全が確保されると他の隊員も続いた。

 

目的地の地下室に行く間にジェルマンは独り言のように呟く。

 

「これで潜入には成功……後はレジスタンス軍の到着のみ……」

 

「そしてお前の“()()()()()”だな」

 

ジョーレンの言葉にジェルマンは小さく頷き部隊に続いた。

 

既に宮殿内に侵入成功、後は全ての役者が集まって舞台装置が作動するだけである。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント ギャラクティック・シティ-

ミッド・リムの狭間からかなり距離の離れたこのコア・ワールドの中心地たる惑星コルサントでは戦場など既に遠い場所の話に思われていた。

 

1年前ならともかく既にコルスカ宙域を含めたコア・ワールドの支配基盤は安定の域に達しておりこの地に戦火が降り掛かる事はなかった。

 

アンダーワールドなどの治安も第三帝国の全治安維持組織の徹底した活動により徐々に改善の兆しを見せている。

 

更に再び銀河系の中央政府の首都惑星となったことで移民が増え以前のような活発さを増していた。

 

もはや銀河内戦末期からコルサント臨時政府にかけての暗黒の姿はどこにもなかった。

 

再び終わりなき繁栄と発展の時代を迎え多くのコルサント市民がコルサントの住人であることを、第三帝国の国民であることを誇りに思っていた。

 

発展の裏に積み上げられたものはともかく表向きの発展と繁栄を享受し甘い汁を吸い続けた彼らはすっかり第三帝国と総統の虜となっていた。

 

故シーヴ・パルパティーンと同等、それ以上に持て囃され多くの国民が“Heil fuehrer(総統万歳)”と彼の肩書きと尊敬の言葉を口にした。

 

銀河の世界首都たるコルサント改造構想もシューペル建築総監の元で実行に移されていた。

 

首都の周辺だけ見れば第三帝国は敵なしの超大国に見えた。

 

だが内情を知っているものからすれば他の国民と共に楽観的な未来予想を思い浮かべている事など出来はしなかった。

 

特に第一線に立って祖国の敵を撃破し続ける親衛隊の将校ともなれば。

 

ジークハルトはもちろんそのうちの1人だった。

 

彼はまだコルサントに駐留したままだったが各地から送られてくる戦況は耳にしている。

 

良いものもあれば悪いものもある、全体的に芳しくはないがかといって悲観するほどでもないと言う状況だ。

 

しかし家にいる時はそのようなこと一切口に出さず、平凡な良き父として振る舞おうとしていた。

 

「ユーゲント・アカデミーはどうだ?楽しいか?」

 

帰宅しても着替えずまだユーゲントの制服のままでいる2人にジークハルトは軽く聞いてみた。

 

まだ2人は10代にも満たない子供達だ、流石に帝国アカデミーほどの本格的訓練はしていないだろう。

 

まずマインラートの方が答えた。

 

「楽しいよ!友達もいっぱいいるし新しいものいっぱいだし」

 

「勉強も先生達のおかげでとっても捗ってます」

 

「そうか、それは良かった」

 

ジークハルトは子供達の話を聞きながらにっこり微笑んだ。

 

2人が楽しく幸せなのはとても良いことだ。

 

親衛隊として戦う理由の半分はこの為にあると言っても過言ではない。

 

もう半分は……いや、今は考えない方がいい。

 

「2人とも毎日楽しそうにアカデミーに行ってるから安心したわ。辛かったらいつでも言ってね」

 

「ああ、まあそんなことはないと思うが……」

 

彼の言葉を遮るように連絡用の機器が音を鳴らし「なんだ…?」とジークハルトはポケットから取り出した。

 

どうやら親衛隊本部からの文章メールのようだ。

 

子供や妻に見せぬようささっと目を通しすぐにポケットにしまい戻した。

 

マインラートは「なんだったの?」と聞いてくるが流石に内容を明かす訳にはいかない。

 

「なんでもない、ただの仕事の内容だったよ。それよりももっと色々アカデミーのことを聞かせてくれ」

 

上手いこと誤魔化しつつジークハルトは息子の話に耳を傾けた。

 

だが思考はまだ先ほど見たメールの画面に捉われていた。

 

親衛隊司令部による特別戦略転換会議による方針変更の伝達。

 

十中八九モーデルゲン上級大将から薄々伝えられていた新勢力の台頭、だろう。

 

それにより第三帝国、いや銀河全体の戦況と戦略が大きく変わる。

 

しかし気になる点は幾つかある。

 

第一、今更銀河系の戦況を大きく変える程の勢力が台頭することなどあるのだろうか。

 

未知領域はチス・アセンダンシーとファースト・オーダーが、この銀河系は第三帝国とその他の中小の親帝国派と中立政府が、そしてレジスタンスがいる。

 

既に銀河系にこれ以上何かが出現する場所がなくあるとすれば本当に僻地の僻地、ワイルド・スペースや未知領域よりも果てから来る者くらいだろう。

 

だがそんな僻地から現れる連中など普通に考えれば高が知れている、態々親衛隊が方針を転換する事もない。

 

そうではないという事はつまり……。

 

「…でね、学校でもお父さんの話になったんだよ!」

 

ジークハルトの思考と意識はそこで一旦現実へと引き戻された。

 

意外なところで自分の名前が出てきた。

 

「なんでお父さんの話になったんだい?」とジークハルトは我が子に尋ねる。

 

「学校の先生達がね、こうなるべき人ってのでお父さんの名前を出したんだ」

 

どこか納得したようにジークハルトは頷く。

 

「クラスメイトがみんなテレビで見たことあるって言ってしました」

 

ホリーもそう付け加えジークハルトは苦笑を浮かべざるを得なかった。

 

教官の言葉は私への忖度だとしてもそこまで有名だとは思わなかった。

 

幾ら戦功多き人物だと言ってもジークハルトはまだ一軍団長の准将でしかない。

 

しかしそんな事を気にしないマインラートはすごく誇らしげだった。

 

ホリーもその話を楽しそうに聞きいて話ておりユーリアもまんざらでもない表情である。

 

マインラートはふと呟いた。

 

「僕もいつかお父さんみたいになりたいなぁ」

 

「………っ……」

 

それはマインラートにとっては本当にたわいない純粋な気持ちからなる呟きだったのだろう。

 

だがそれは、かつて同じ事を思いここまで来たジークハルトからすれば胸の底に隠してある痛みを呼び起こす引き金となった。

 

ああマインラート、やはりお前は私の息子だ。

 

同じ事を同じ年頃の頃思った。

 

父のようになりたいと、クローン戦争の英雄にして帝国軍の名将である父みたいな男になりたいと常々願った。

 

だから父の反対を押し切って軍に幼い頃から入り帝国軍人となった。

 

卒業したての頃、父が言った言葉をよく覚えている。

 

「何も出来なかった。何一つ守れなかった」

 

あの冷たい、自らを叱責するかのような言葉は今になってようやく理解出来た。

 

数百、数千という戦友を失った。

 

その中にはアカデミーの頃から共にいた大親友だっていた。

 

それでも何も出来ぬまま、何一つ守れなかった。

 

自分だけ生き延び今ここにいる。

 

その結果はどうだ?

 

この歪みから誕生した組織に身を寄せ、かつての栄光ある帝国軍の軍服など一つも身に付けていない。

 

邪の道を行き帰り道を見失った。

 

救われなかった、救えなかった。

 

全ての道を見失った。

 

だがまだ希望はある。

 

私の目の前に、“2()()”もいる。

 

「……マイン、そしてホリーも。2人は私じゃない、2人は2人、家族でも同じ人じゃない。だから態々私みたいになろうだなんて思わなくていいんだ」

 

ジークハルトは椅子から降りて2人に目線を合わせてゆっくりと諭すように話した。

 

ウェイランドで激励を飛ばしたあの部隊長とは思えない優しい語り草だった。

 

「マインはマインの道を、ホリーはホリーの道を進んで欲しい。きっと私とは違う道を行けるはずだ。私は、2人が本当に自分の意志で選んだ道に進んで欲しい」

 

2人の頭を撫でて優しく微笑みかける。

 

するとマインラートもホリーも照れ臭そうに笑みを浮かべた。

 

後ろでユーリアも微笑ましい気持ちで見守っている。

 

そう、こんな光景を守る為に私は私の道にまだいる。

 

今更引き返す事などもう不可能だ。

 

何があろうとこの家族を守って見せる。

 

ジークハルトは再び2人に語りかけた。

 

「大丈夫、きっとなんとかなる。だって2人は私達の“()()()()()()()()()()”」

 

 

 

 

 

-惑星ナブー 首都シード シード宮殿 玉座の間-

玉座の間には今や保安軍の姿は見えず代わりに代理司令官として派遣された親衛隊少将ルースト・ヴェルフェンスと配下の親衛隊将校、ストームトルーパーが警備の任についていた。

 

今は玉座の近くに親衛隊の幕僚達が集まっており作戦を立て直していた。

 

「海軍本部に籠る敵軍はまず中央の包囲部隊を側面から襲撃しています。また同様に右翼包囲部隊の第3保安機械化大隊と我が親衛隊の第45装甲大隊も攻撃を受けています」

 

「側面攻撃の為に配備した装甲部隊だったがこれでは救援に送れそうにない……よし本隊から二個大隊ほど救援を出そう。他の基地及び駐屯地の損害状況は?」

 

ヴェルフェンス少将は他の幕僚達に尋ねた。

 

そのうちのタブレットを持った親衛隊中佐が彼に報告した。

 

「本部から発艦したと思われる海上艦隊と潜水艦隊がミサイル攻撃により付近の海軍基地と保安隊駐屯地、スターファイター隊基地を攻撃しています」

 

「滑走路は数日あれば修復出来ますが現状出撃は出来ません。また海上からの航空攻撃も受けており被害は小規模ですが展開力に問題が生じています」

 

「TIEファイター部隊なら出せるはずだ、必要なら軌道上の艦隊から支援を取り付けろ。いやどうせなら首都防衛以外の主力兵団を全て動員して…」

 

幕僚達の報告にヴェルフェンス少将は一気に撃滅するプランを考えた。

 

だが副官のブレティス上級大尉が「しかしクリース宙将からは制圧のみ行えと命じられていますが」と付け加えた。

 

ヴェルフェンス少将は唸り声を上げ腕を組んで寄りかかった。

 

「だが放置する訳にもいかん。本部への攻撃は行わないが斗出した敵部隊を撃破する事くらいは許してくれるだろう…」

 

「では副兵団長のベルケー准将に攻撃命令を?」

 

中佐はヴェルフェンス少将に尋ね少将は「ああ」と相槌を打つ。

 

「包囲部隊の救援に迎え、救援の際に多少敵部隊を撃滅しても構わんと伝えろ。ただ手助けするだけでは士気も下がる」

 

「了解しました」

 

中佐は敬礼し他の幕僚と共に各部隊に指示を伝達し始めた。

 

ヴェルフェンス少将も席を立ち窓辺から宮殿の裏側を見つめた。

 

副官のブレティス上級大尉もそれに続く。

 

「連中の狙いは恐らくこのシードだ。海軍本部からの攻撃は揺動だろう」

 

「では主力本隊を差し向けてよろしいのですか?」

 

ブレティス上級大尉はヴェルフェンス少将の独り言に対してそう疑問を投げかけた。

 

ヴェルフェンス少将は問題なさそうに頷いた。

 

「確かに量的な主力はベルケーに渡したが質的な主力は全てこのシードに置いてある。敵軍がシードを襲撃しようとした瞬間が敵軍の敗北となるだろう」

 

この首都シードには王室保安軍保安隊3,200名に加え親衛隊9,700名が駐留している。

 

更に多くのAT-ATやAT-ST、対空防御用のAT-MP、更には市街地専用のオキュパイア・タンクやAT-DTまで存在していた。

 

中央の大通りは完全にAT-ATが塞いでおり各所に配備された対空砲網やAT-ST、ストームトルーパー達が鉄壁の防御網を形成していた。

 

更に住民にはより強力で強制力のある戒厳令を展開しておりシードは今や完全なる都市要塞と化していた。

 

「航空攻撃は宮殿の駐留スターファイター隊と防空隊が、地上攻撃には歩兵隊と幾多のウォーカーが、パルチザン戦にはタンクと小型ウォーカーが対処する。もはやシードを堕とすのは不可能だ」

 

それにこれらの部隊が仮に壊滅したとてシード宮殿が我々の手にある以上“()()()()”はこちらにある。

 

敵部隊を一瞬で無力化出来る秘密兵器だ。

 

「防衛体制の状況はどうなっている?」

 

「各装甲部隊及び歩兵部隊の展開は完了しています。まさかあのAT-DTが意外とバンカーとしてはそれなりに有効とは…」

 

「正直私も驚いている……がこの際使えるものは何でも使うべきだ。クリース宙将殿とグリアフ一佐が戻るまで、何としても凌ぐぞ」

 

「はい、我々の戦力だけではレジスタンスや他の勢力が救援に駆けつけた時、対処しきれませんからね」

 

ブレティス上級大尉は何処かため息混じりにそう呟いた。

 

今レジスタンス軍は勢いを増している。

 

このままどこかの基地から艦隊と地上部隊を一片に送られたら勝率は五分五分と言ったところだろう。

 

一個兵団を派遣したとはいえそれでもこの危険地帯を抑えるにはやや兵力不足だった。

 

「やはり我々だけでなく、他の兵団も含めた一個軍を送るべきだったと思いますが…」

 

「そう言うな上級大尉、いくら親衛隊が動きやすいとはいえそれでも限度がある。一個軍を送れるほどの余力はそんなにないさ」

 

むしろ一個兵団もよく送った方だ。

 

本来ナブーに対して行っていたのは武器支援と教導支援のみで逆にナブーの王室保安軍がデア・フルス・ソルー軍団を拡張させ親衛隊や帝国軍に戦力を提供するはずだった。

 

元々あの軍団は他の親衛隊兵団や親衛隊師団をベースとしておりやがては新たな親衛隊地上軍の部隊となる予定だ。

 

ナブーの現地人に親衛隊員を加えてライヒスホズニアン兵団やライヒスシャンドリラ兵団のような部隊を建設する。

 

その為にクリース宙将とグリアフ一佐は軍団を連れてナブーからロマムールの親衛隊司令支部に向かってもらっているのだ。

 

「我々とて厳しいのだ。コア・ワールドからインナー・リム、幾つかの飛び地のみに点在していた我々が一気に銀河系の支配者になるなど限界がある。時間を掛け、徐々に敵対者を排除していけば良いのだ」

 

「はあ……しかし…ん…?」

 

ブレティス上級大尉は怪訝な表情を浮かべていたがその直後耳元のコムリンクから情報が入り血相を変えた。

 

その様子を怪訝に思ったヴェルフェンス少将は彼に近寄った。

 

「何かあったのか?」

 

副官に尋ねると彼は小声でヴェルフェンス少将に告げた。

 

「ハイパースペースより接近する大型艦船を艦隊が補足しました。間違いありません、“()()()()()()()()”」

 

ブレティス上級大尉の一言は余裕そうな表情を浮かべていたヴェルフェンス少将の態度を大きく変えさせた。

 

それは予想外の不意を突く行動であり十分絶望的状況へ引き摺り込むのに十分な代物である。

 

だが彼らにとってそれは織り込み済みだ。

 

既にナブーの解放者達は彼らの一歩上を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 

森林部を抜けた奥から何度もドシン、ドシンという重厚感溢れる歩行音が広がり王室解放軍の兵士達の恐怖を煽った。

 

あの全長20メートル、全高22.5メートルの巨体を持つ鉄の歩行者はなんと恐ろしい存在なのか。

 

兵士達はアレと戦い続けて心底そう思った。

 

基本的な実体弾やレーザー兵器は殆ど効かず、直撃しても銀灰色の装甲に黒ずんだ煤がつくだけだ。

 

おまけに相手の兵装は歩兵を即死させるどころか砲や車両をどれも一撃で破壊可能な代物だ。

 

退き際を誤るとそれだけで部隊が全滅しかねない。

 

いや実際に幾つかの小部隊は既に全滅しているところもあるだろう。

 

陽動とはいえこちらの損失と引き受ける圧力は大変なものであった。

 

「敵アサルト・ウォーカー、既に120メートル付近まで接近しています。間も無く森を抜けます」

 

兵士の1人がモニターの隣で指揮を取るフランケ一佐にそう告げた。

 

一佐は軍帽にゴーグルを掛けエレクトロバイノキュラーで森林部の方を見つめていた。

 

「スカウト・ウォーカーは」

 

「生き残りが1台います。他の車両やミサイル・ウォーカーは存在しません」

 

部下からの報告を受けコムリンクで散兵部隊に指示を飛ばす。

 

「ウォーカー隊、AT-ATの付属機のAT-STを撃破しろ。護衛機は危険だ」

 

『了解一佐!』

 

命令を了承し蛸壺壕に隠れる2人の兵士がスマート・ロケットを担ぎ頭を少し出した。

 

出現するであろう予測地点に砲塔を向け緊迫する状況の中、2人の兵士はAT-STの出現をずっと待った。

 

額から汗が流れ心臓はバクバク鼓動を早めている。

 

攻撃に失敗すれば2人は素早くAT-STの顎の中型ブラスターで素早く皆殺しにされるだろう。

 

迫り来る死の恐怖を固めた相手と2人は対峙しなければならない。

 

「照準を合わせろ……だがまだ撃つなよ……完全に姿を表してからだ……」

 

「はい…!」

 

先輩の兵士にそう諭されスマート・ロケットを担ぐ兵士はスコープに目を合わせた。

 

暗視効果のあるスコープは森林から接近するAT-STの姿を完璧に捉えている。

 

AT-ATの前を全速力で走るAT-STはどんどんこちらに接近しつつあった。

 

「まだだ……まだだぞ……もう少し引きつけて……」

 

足音も振動も2人の下まで届いている。

 

だが今撃っては迎撃されてしまう。

 

そうなっては全てが無駄であり絶対にあってはならないことだ。

 

たとえどれだけ怖かろうと、たとえどれだけ死が近づいていようと引き付ける。

 

「来ました……!」

 

木々の合間からAT-STが姿を表しその長細い足を前に出しながらゆっくり前に進んできた。

 

2人の存在を捉えたAT-STは早速中型ブラスター砲を周囲に放ってきた。

 

2人を守る蛸壺豪の周りがブラスター弾により爆発し土が巻き上がる。

 

だが2人の兵士は表情一つ変えずAT-STが更に接近するのを待った。

 

「完全有効距離です…!」

 

「よし、撃て!」

 

先輩の指示を受けもう1人の兵士はスマート・ロケットのミサイルを放った。

 

筒からロケット弾が飛び出し白い煙を噴き出しながらAT-STに迫る。

 

攻撃に集中し防御が疎かになっていたAT-STはそのボディに弾丸をモロに喰らい爆発四散した。

 

黒灰色の煙が吹き出し残された脚部が無惨に地面に斃れた。

 

AT-STはこれで完全に破壊された。

 

『AT-ST撃破完了!』

 

兵士の声がコムリンクから聞こえ前線司令部の将兵達は皆喜びの声を上げた。

 

「よくやった、急いで離脱しろ。総員!これより対ウォーカー戦闘を始める。目標はAT-AT1台のみ、だが相手は強敵だ。全火砲を敵にぶつけ目標ポイントまで誘き寄せる。抜かるなよ!」

 

「はい!」

 

フランケ一佐の勇ましい命令を受け将兵達は全員敬礼し持ち場に着く。

 

前線の守りを固める塹壕では部隊長達が「間も無く敵が来るぞ!」と味方に伝えていた。

 

DF.9対歩兵用砲塔や1.4FD・Pタワーなどの砲塔周りでは砲兵達が配置に着き敵を迎え撃つ準備を行なっていた。

 

中には本当に古い海軍本部で眠っていた重砲や野戦砲なども動員され砲塔の中に混じっている。

 

スピーダーや戦闘車両も到着し前線や後方には偏向シールドを備えたスピーダーがシールドを展開し始めた。

 

「グンガン・シールドの準備も行え。最悪アレで凌ぐぞ」

 

「はい…!」

 

ファンバに乗せられたグンガン達の偏向シールド発生装置が降ろされいざという時の起動の準備を始める。

 

司令部より後方には民間のスピーダーを改造したミサイル車両が数台控えており命中精度と装弾数はイマイチだが解放軍の火力を少しでも補っていた。

 

各員の配置が完了し前線司令部にも偏向シールドが掛かった。

 

「これでようやく2台目……ですか」

 

海軍の水兵隊を指揮するリューティ一等海尉はそう呟いた。

 

「そういうな、むしろ我々の兵力と装備からすれば1台撃破出来ただけで十分な戦果だ」

 

「ですね……しかし不安です。正直2台目の戦闘で保安隊はともかく我が水兵隊が耐えられるのか」

 

リューティ一尉は自ら初期の解放軍に参加した数少ない将校の1人だ。

 

その為解放軍と女王の為なら命を捧げる覚悟だしこの戦いで戦死しても悔いはないとさえ思っていた。

 

しかし他の水兵は違う。

 

そもそも保安隊の兵士達に比べて練度は低く戦闘慣れしているわけでもない。

 

それにリューティ一尉のように自主的に参加した者もいるだろうがそれ以上に上官に従っただけという水兵も大勢いる。

 

彼らがあの帝国軍最強のアサルト・ウォーカーと戦った時に逃げ出さず落ち着いて戦えるのかという士気と精神面での不安があった。

 

リューティ一尉麾下の水兵達は海軍歩兵のような存在ではなく本当に艦に務めていたり軍港で作業していた者に武器を持たせた兵だっている。

 

それが屈強な兵士ですら容易に心を挫かれるAT-ATと戦った時無事で済むのか。

 

リューティ一尉にとっては大きな不安だった。

 

「作戦は練った、それにこの防衛陣地はかなり頑丈な作りになっている。恐らくポイントまで引き寄せるだけなら持ち堪えられるはずだ」

 

フランケ一佐はそう一尉を宥めた。

 

当然一佐にも不安はあるがここは信じて耐え抜かねばならない。

 

最後に「信じよう、彼らを」と付け加えリューティ一尉も小さく頷いた。

 

「AT-AT接近!敵の射程範囲内に入りました!」

 

センサー士官の報告と共に前線には遂にAT-ATの重レーザー砲の猛攻が放たれた。

 

爆発と共に地面が抉れ土煙が辺りに充満する。

 

『全隊、攻撃開始』

 

コムリンクからフランケ一佐の命令が届き各地の部隊長達が攻撃命令を出す。

 

塹壕のあちこちからレーザー砲と実体弾の砲弾が放たれAT-ATに一斉に砲撃を開始した。

 

放たれる砲弾は殆どがAT-ATの何処かしらに直撃したが損傷どころかかすり傷ひとつ付けられていない。

 

AT-ATは進軍も攻撃も止めずまるで何事もないような感じだ。

 

後方から放たれるロケットミサイルも震盪ミサイルの対空防御により防がれ効力はなかった。

 

塹壕から放たれるブラスター砲も殆ど効果はなく早速幾つかの砲塔を破壊し始めた。

 

タワーや銃砲が吹き飛び兵士達も一旦後方に退却し塹壕の中に隠れた。

 

「怯むな!どんどん撃ち返してやれ!」

 

塹壕や各所から負けじと更なる砲撃が繰り出されるがAT-ATには全く効かない。

 

更に一歩、また一歩と前に進みその進撃度合いは止まる事を知らなかった。

 

だがそれこそがこのAT-ATの命を奪う事となる。

 

「目標地点到達!“ディージャ・ピーク”攻撃支援を!」

 

前線司令部からの命令を受け王立海軍駆逐艦“ディージャ・ピーク”から巡航ミサイルが放たれた。

 

事前に照準が定まっていた“ディージャ・ピーク”の巡航ミサイルはAT-ATに向かって接近し真上から垂直に降りてAT-ATの装甲を突き破り爆発した。

 

流石のAT-ATでも軍艦から放たれる巡航ミサイルに耐えらはせずその爆発力を機体内に溢れさせながら真っ二つに割れ地面に斃れた。

 

「やったぞ!AT-ATが倒れた!」

 

前線の塹壕の中では兵士達が互いに隣の戦友とAT-ATの撃破を喜び喝采の声を上げていた。

 

前線司令部でも将校達の喜びが湧き溢れフランケ一佐とリューティ一尉も安堵の息を漏らしていた。

 

AT-AT1台撃破しただけでも十分敵の注意を引き付けられるし大きな戦果となる。

 

だが問題なのは親衛隊のAT-ATは1台ではないということだ。

 

「一佐、センサー範囲圏内にゴザンティ級接近!AT-ATが2台搭載されています!」

 

「やはり来たか…」

 

フランケ一佐はただ重苦しい声音でそう呟いた。

 

元々装甲大隊の行動不能に合わせて別部隊のAT-ATが出現するのは当初から予測されていたことだ。

 

第1本部護衛軍はそれも含めて陽動していなければならない。

 

幸いにも他のスターファイター隊や艦隊が出来る限り駐屯地に損失を与えているがそれでも圧倒的に不利な状況だ。

 

「護衛のTIEファイターも確認されています」

 

「直ちに全ての偏向シールドを起動しろ、完全防御体制に入る。AT-AT2台を相手にするのは不可能だ…」

 

「了解…!」

 

各地の分隊シールドや偏向シールドが起動しファンバから降ろされたグンガン・グランド・アーミーの偏向シールドが全体を包んだ。

 

ゴザンティ級は森林を越え、ギリギリまで前線司令部の塹壕付近に接近しようとする。

 

先行したTIEブルート3機がレーザー砲で偏向シールドを攻撃し牽制するが当然シールドは破られることはなかった。

 

その間にフランケ一佐は司令部で各軍に支援要請を行なっていた。

 

「AT-ATに爆撃を頼む。流石に2台相手ではこちらに勝ち目はない」

 

『しかし一佐、我々の機体じゃAT-ATを撃破出来ません!』

 

海軍航空隊のパイロットがフランケ一佐に対してそう返答した。

 

実際彼らの使うN-1スターファイターやポリス・クルーザーの火力ではAT-ATを撃破するには少し力不足であった。

 

「それでもいい、とにかく敵の足を止めるんだ。その隙に後方に退却して部隊を……」

 

「一佐!センサーに新たな機影が…!」

 

その報告を聞いた時フランケ一佐は思わず言葉を止めた。

 

遂に敵のスターファイター隊が出撃し攻撃を開始したのだと思った。

 

だがそれは全くの的外れの予測であった。

 

「“X()()()()()()()()”来たんですよ!レジスタンスが!」

 

その興奮はすぐさま大きな戦果に変わった。

 

真横から接近するXウィングから2発のプロトン魚雷が放たれまず右側のAT-ATの装甲をぶち破りダメージを与えた。

 

更にYウィングが同じく魚雷を発射し更にプロトン爆弾を投下することでAT-ATを完全に破壊した。

 

もう1台のAT-ATは迎撃しようとミサイルを発射したが全てジャマー機能により命中せず代わりにAウィング2機から震盪ミサイルが発射された。

 

ミサイルはAT-ATに着弾しダメージを与える。

 

更にそこにレーザー砲が撃ち込まれ、仕舞いにはBウィングによる爆撃で完全に行動不能のダメージを喰らい暫くレーザーを撃ちまくった後地面に斃れた。

 

AT-ATを撃破したスターファイター達は護衛のTIEブルートも撃墜し輸送用のゴザンティ級にも攻撃を仕掛けた。

 

対空レーザーを掻い潜り逆に機体の火力を敵艦に叩き込んでいく。

 

数分も経たないうちにゴザンティ級は攻撃に耐え切れず爆沈し沈み始めた。

 

その様子を見ていた塹壕の兵士達は皆歓声を上げ救援の到着を大いに喜んでいた。

 

「いいぞ!いいぞ!」

 

「ありがとう!レジスタンス!」

 

兵士達の声援がパイロット達に届いたかは分からないがそれでも感謝の言葉は鳴り止まなかった。

 

司令部では1人フランケ一佐が感慨深そうに呟く。

 

「ようやく来た…!レジスタンスが…!」

 

遂に彼らの反撃が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

ハイパースペースから出現した数十隻のレジスタンス艦艇はスターファイターと共にナブー軌道上の艦隊に攻撃を仕掛け始めた。

 

多くの兵員を連れたMC80“スターリリーフ”は輸送艦を率いて地上へと向かった。

 

既に地上では旗艦“アルザス”から指揮するヴィアタッグ将軍の下、親衛隊との戦闘が始まっていた。

 

そして艦隊戦も激化の一途を辿っている。

 

突然の奇襲はナブー艦隊を大きく動揺させその体勢を崩す事に成功した。

 

旗艦“アルザス”と二隻のネビュラ級、“アレテューズ”と“ヴィラール”はその自前の火力と防御力で崩れた艦列に更に深刻な打撃を与えた。

 

モン・カラでレジスタンスの快進撃を支えた二隻の最新鋭艦はこの地でもその実力を発揮している。

 

だがアクバー元帥と違ってクロルティ司令官はこの二隻でそれぞれ突撃機動群を組むのではなく密集させて三隻の火力の全てを中央の敵艦隊へとぶつけていた。

 

MC85スター・クルーザーとネビュラ級スター・デストロイヤーの火力を一方的に受け続けたナブー艦隊は多くの艦が損傷し戦列を離脱しようとしている。

 

辛うじて攻撃を撃ち返しているインペリアル級やヴィクトリー級もあちこちに砲撃を受け損傷していた。

 

混乱したインペリアル級のブリッジでは艦長が他の将校と共に悲鳴を上げながら命令を出していた。

 

「早く全ての火力をあのモン・カラマリ・クルーザーにぶつけろ!TIEファイターも何もかも全て出すんだ!!」

 

「ですが艦長!両艦の新型艦も…!」

 

「とにかくなんでもいいから一隻でも撃破するんだ!!このままではやられる!!」

 

雑な命令により艦載機の発艦は混乱しインペリアル級の砲撃もどこに集中して撃っているのか分からない雑なものになっている。

 

既に僚艦の帝国貨物船が一隻砲撃に耐え切れず撃沈しそれに続くようにナブー艦隊のアークワイテンズ級も二隻轟沈した。

 

敵艦の合間を飛行するレジスタンス軍スターファイター隊の攻撃によりCR90やネビュロンBも撃破され始め戦闘開始から数分で指揮能力と艦の性能で劣るナブー艦隊は劣勢に追い込まれた。

 

その反面統率の取れたレジスタンス艦隊はクロルティ司令官が適切な判断を下し全艦隊に命令を出していた。

 

「攻撃艦以外は全て対空防御に専念し敵スターファイターを迎え撃て。残りの攻撃艦は更に火力を上げてスター・デストロイヤーに集中攻撃!今のうちに敵の主力を撃破するぞ」

 

以前ソード中隊が陽動の為に攻撃を仕掛けた時は帝国軍が使用するプロカーセイター級が三隻確認された。

 

しかし今の洗浄で確認されている艦の中にプロカーセイター級の存在は確認出来ず代わりにインペリアル級がいる。

 

もしかするとプロカーセイター級は別働隊としてナブーを離れているだけかも知れない。

 

となればインペリアル級とプロカーセイター級で挟み撃ちにするという状況も十分考えられる。

 

そうならないよう今のうちに危険な敵は排除しておくに限る。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!」

 

アルザス”の艦砲射撃は更に苛烈さを増ターボレーザーの砲弾が流星の如く降り注いだ。

 

それに追随し“アレテューズ”と“ヴィラール”も大量のターボレーザー弾と震盪ミサイル、プロトン魚雷をインペリアル級やナブー艦隊に撃ち込む。

 

三隻の攻撃は遂にインペリアル級の耐久力を上回った。

 

1発の震盪ミサイルがブリッジのシールドを打ち破りブリッジを完全に破壊した。

 

ブリッジの司令機能の喪失はインペリアル級全体の機能を大きく衰えさせ更なる砲撃を一方的に受ける事になった。

 

システムが半ば解放する頃には既にインペリアル級の耐久値は限界であり船体が崩壊し始めていた。

 

「敵インペリアル級の崩壊を確認、敵艦を撃破しました!」

 

士官の1人が喜びを隠し切れない様相で報告した。

 

しかしクロルティ司令官は「まだを気を抜くなよ」と一言添えた上で命令を出す。

 

「このまま火力を中央に向け投射し続けろ。“スターリリーフ”はどうした」

 

司令官の問いに1人の幕僚将校が答える。

 

「部隊の展開を終えこちらに戻りつつあります」

 

「なら“スターリリーフ”と交代だ、我々も地上に部隊を展開する。“アレテューズ”と“ヴィラール”に交代支援を行わせろ」

 

アルザス”含めたレジスタンス艦隊の後方からゆっくり接近するMC80“スターリリーフ”は砲撃有効距離まで到達したのか敵艦隊へ向け砲撃を開始した。

 

スターリリーフ”の参戦を確認した“アルザス”は徐々にMC80と交代しナブー内への降下を開始した。

 

既にインペリアル級ともう一隻の帝国貨物船は撃沈し残りは既に崩壊寸前のナブー艦隊のみとなっていた。

 

「各艦に伝達、後10分敵艦隊に攻撃を仕掛けろ。それからしたら降伏を促せ」

 

クロルティ司令官の命令に幕僚は「よろしいのですか?」と尋ねた。

 

「構わん、もはや連中に我が艦隊を打ち破る戦力はない。とにかく艦隊を無力化し軌道上の制宙権さえ取れれば十分だ」

 

「了解しました」

 

「だが臨戦体制を崩すなとも伝えろ。敵の別働隊、もしくは帝国軍の増援が来るかもしれん」

 

通信士官がその旨を各艦に伝え“アルザス”は兵員投入の為に完全にナブーの惑星内に侵入した。

 

「将軍、このまま先遣隊が確保した高台近くに展開しようと思いますが」

 

クロルティ司令官は後ろのホロテーブルで作戦の打ち合わせをしていたヴィアタッグ将軍に聞いた。

 

ヴィアタッグ将軍は「頼む」と高台近くへの展開を促し“アルザス”もそれに従い航行した。

 

「司令部を地上に移す。私が地上に向かうまで敵の進路を阻害し爆撃で駐屯地からの出撃を阻害し続けろ」

 

「はい将軍」

 

機材や資料を手に取り地上軍の将校達が“アルザス”のブリッジを後にしようとしていた。

 

ヴィアタッグ将軍は最後に「それでは司令官、行ってくる」とクロルティ司令官に敬礼する。

 

「ご武運を将軍」

 

クロルティ司令官もそう返し“アルザス”の艦内から更に追加の兵員が展開された。

 

レジスタンス軍による攻勢はこれから本格的にスタートする。

 

 

 

 

 

ナブー各所での戦いは次第に激戦へと変貌していった。

 

最初は騎兵隊の突撃に始まり軍艦やスターファイター隊での奇襲攻撃が幾度となく行われていた。

 

しかし今では飛行場や艦隊から出発したスターファイター隊の攻撃を受けて連続的な攻撃は停滞していた。

 

現在ナブーの上空でクーデター軍のN-1スターファイターと解放軍のN-1スターファイターが激戦が繰り広げられている。

 

解放軍スターファイター隊は奮戦しているが親衛隊のTIEブルートやTIEインターセプターも加わったクーデター軍に少し劣勢な状況だ。

 

敵軍は数で勝り、練度でも王室海軍の航空隊を若干上回っている。

 

オーリー空将やドルフィ空将らのベテラン達の的確な指揮と支援によりカバーされているがそう長くは持たないと既に考えられていた。

 

『隊長!敵機にケツを取られました!』

 

ブラボー11がTIEインターセプターとN-1スターファイターに追われながらオーリー空将に助けを求める。

 

オーリー空将は1機のTIEブルートを撃破した後すぐに機体の方向を変えた。

 

「待ってろブラボー11、すぐに向かうそれまでシールドとスピードに出力を集中して耐え続けろ」

 

『りょっ了解!』

 

2機のレーザー弾を避けながら機体のスピードとシールドに出力を回す。

 

ブラボー11のN-1スターファイターは偏向シールドが分厚くなり敵機のN-1スターファイターの攻撃を喰らってもひとまず耐えられた。

 

だが今の機体のスピードではN-1スターファイターはともかく迎撃機のTIEインターセプターを振り切れなかった。

 

速力を全開にした敵機のN-1スターファイターもTIEインターセプターに続き再び攻撃を行う。

 

『隊長!敵機を振り切れません!』

 

ブラボー11は背後の敵を確認しながら再び悲鳴を上げた。

 

だがブラボー11に本当に危機的状況が訪れる前にその脅威は取り除かれた。

 

オーリー空将のN-1Tアドバンスト・スターファイターがTIEインターセプターにレーザー砲を命中させ機体のコントロールを奪った。

 

機体が制御出来なくなったTIEインターセプターはそのまま左後ろのN-1スターファイターに激突し2機とも破壊された。

 

2機の破片を避けながらオーリー空将のN-1Tアドバンスト・スターファイターはブラボー11のN-1スターファイターに近づく。

 

「もう大丈夫だブラボー11、しっかり友軍機と編隊を組んで飛行しろよ」

 

『ありがとうございます隊長!』

 

危機を脱したブラボー11は機体を翻し同じ部隊のウィングメイトの下へ戻った。

 

オーリー空将も機体を吹かせ敵部隊の編隊を崩そうと再び攻撃を始める。

 

なるべく編隊中央の敵機を集中的に狙い撃墜する。

 

右、左とレーザー弾を躱しながら反撃を叩き込み何機かの敵機をTIE、N-1問わず撃墜した。

 

味方機に取り付こうとするTIEインターセプター1機、TIEブルート2機の編隊に気づいたオーリー空将は素早く敵編隊の背後を取った。

 

まず右翼のTIEブルートにレーザー弾を喰らわせ撃墜する。

 

破壊されたTIEブルートの煙の中を突破し今度は左翼のTIEブルートに攻撃を集中した。

 

流石の耐久力もN-1Tアドバンスト・スターファイターの集中攻撃には敵わず撃墜され破片が地面に墜落した。

 

残されたTIEインターセプター1機は急いで離脱しようとするが既に間に合わず、捉えて離さないオーリー空将の猛攻により中のパイロットはTIEインターセプターごとナブーの空に消えた。

 

「チッ!このままじゃキリがない……どうする…?」

 

オーリー空将はN-1Tアドバンスト・スターファイターのコックピット内部でこの芳しくない状況の打破を考えた。

 

既に数十機はこの戦闘で撃墜したはずだがそれでも敵軍の攻撃は止まることを知らなかった。

 

むしろ時が経つに連れて敵機の数が増えているような感覚だ。

 

恐らく各地の駐屯地から徐々に発進する機体が増え始めているのだろう。

 

早くしなければホーリス隊長の騎兵隊やガイルス二佐らが指揮する艦隊、フランケ一佐の本部護衛軍が危険に晒される。

 

とはいえこのスターファイター隊の力ではこの状況を打破する方法はないに等しい、防戦が精一杯だ。

 

「機体を一纏めにして一点集中で脱出するか或いは……」

 

『一等空将!五時の方向を!』

 

「どうした!」

 

別部隊のエコー4が直接通信でオーリー空将に報告した。

 

機体を翻し報告を受けた方角を見るとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

なるほど、エコー4が興奮気味に報告する理由もよく分かる。

 

『レジスタンスのスターファイター隊です!バスチル少佐の救援が到着したんですよ!』

 

エコー4の推察は正しかった。

 

ディカーを出立しハイパースペースを抜けたレジスタンス軍スターファイター隊は遂にナブーに辿り着いた。

 

彼らは緊急時の対応通り惑星から出撃したスターファイター隊は全て地上に向かい戦闘中の友軍の手助けを行った。

 

AT-ATやAT-STを航空攻撃で破壊ないし足止めし、地上で戦うナブーの兵士達を支援した。

 

そして今は劣勢という報告を受けた王室解放軍スターファイター隊の救援に彼らソード中隊が向かっていた。

 

『各機、散開し敵部隊を撹乱し味方部隊を解放する。友軍機のN-1はセンサーで表示されるし機体に赤色か青色のラインが入っている。誤射に気をつけつつ敵機を殲滅するぞ』

 

「了解!ではソードリーダー、先行します!」

 

ヴィレジコフ上級中尉を含めたソード中隊のAウィングが何機か最大速度で中隊の一歩前に出て戦闘に参加した。

 

Aウィングは今戦闘を行っているこの中のどの機体よりも速い。

 

TIEブルートどころかTIEインターセプターよりも、N-1スターファイターよりも恐らくN-1Tアドバンスト・スターファイターよりも速い。

 

この中で最速であり最高の迎撃機がAウィングだ。

 

そしてそれに乗り込むパイロット達も幾つもの修羅場を乗り越えてきた精鋭達だ。

 

全ての出力を火力と速力に回し偏向シールドは本当に最低限のエネルギーしか回していない。

 

だがそれ故にこの中で最も高速で最も素早く敵機を仕留められる。

 

先行したAウィング達は目にも止まらぬ速さでレーザーを掻い潜り敵機を爆炎と黒い煙と破片に変えていった。

 

編隊を喰い破り味方だと判断されたN-1に近づこうとする敵機を残らず始末する。

 

加勢に来たXウィングとYウィング、Bウィングも加わり徐々に戦況はレジスタンスと解放軍有利となっていった。

 

「堕ちやがれ親衛隊の“D()I()E()()()()()()”ども!」

 

罵倒と共に1機のTIEインターセプターを撃墜し更に流れるようにまた別のN-1スターファイターも撃墜した。

 

他のソード中隊機もこの乱戦状況の中、1機も撃破されることなく敵機を屠り友軍の進路を切り開いた。

 

ヴィレジコフ上級中尉のこの戦いでの撃墜スコア数が11機目に到達する頃レジスタンス機に向け解放軍から通信が入った。

 

『こちらナブー王室解放軍スターファイター隊のリック・オーリー一等空将だ。レジスタンス軍の救援、本当に感謝する。我々は再び敵駐屯地への攻撃を行いたい、それまで支援を頼めるだろうか』

 

「こちらソード中隊隊長コーラン少佐だ。こちらこそ我々も攻撃に同行したい」

 

TIEブルートを撃墜しながらコーラン少佐はオーリー空将の通信に答えた。

 

少佐のYウィングはオーリー空将のN-1Tアドバンスト・スターファイターの横につき、接近するTIEインターセプターの編隊を共に殲滅した。

 

後方からはドルフィ空将やエルバーガー隊長、ヴィレジコフ上級中尉の機体が結集した。

 

気づけば敵機を圧倒し生還した王室解放軍とレジスタンス軍のスターファイターが殆ど集まっていた。

 

その様子を見ながら2人のスターファイター隊長はとても勇気が湧き戦意に満ち溢れてくるのを深く感じた。

 

「全機、基地攻撃の準備だ。まあだがまずは……」

 

Yウィングのコックピットを操作しながらコーラン少佐はそう呟く。

 

それに同調するようにオーリー空将も同じようなことを続けて呟いた。

 

「ああ、まずは……」

 

目の前の敵を撃破するしかない。

 

2人は迫り来るTIEとN-1の群れにレーザー弾を撃ち込みながらそう吐き捨てた。

 

 

 

 

 

 

「第4駐屯地のスターファイター隊、突破されました」

 

「同じく戦闘中の第8歩兵大隊もレジスタンスの地上部隊に突破されました!」

 

「軌道上のナブー艦隊の損耗率、間も無く50%を突破します!」

 

「少将!このままでは各個撃破され兵団が壊滅してしまいます!」

 

ブレティス上級大尉はヴェルフェンス少将にそう進言した。

 

少将は各地の劣勢的な報告を聞きながらも玉座に落ち着いた面持ちで座っている。

 

しかし報告を受けるオペレーターや幕僚達は皆ブレティス上級大尉と同じく不安感に駆られた焦りのような表情だ。

 

「包囲部隊の戦力を引き抜いてレジスタンス軍の司令部撃破に使え。それと小型艦をなるべく惑星内に率いれて敵部隊を攻撃させろ。少しは支援の足しになるはずだ」

 

「了解」

 

「ナブー外への支援要請は?」

 

「マラステアの艦隊に一応救援は出しましたが……」

 

「ならば我々はこの首都シードでの籠城戦を開始する、偏向シールドを起動しろ」

 

ヴェルフェンス少将は各地に命令を出し首都全体に臨戦体制が敷かれ始めた。

 

シードに備え付けられていた大型偏向シールドが起動し市街地全土を透明な防御の膜で覆う。

 

首都の封鎖体制がより強化され市街地に溢れる兵士の数も増え始めた。

 

「武器弾薬、食料、医療物資の備蓄は?」

 

「各所問題がありません。少なくとも1ヶ月、1年程度なら総攻撃が続いても問題ない算段です」

 

ブレティス上級大尉はタブレットで備蓄量の正確な数字を見せながら少将の問いに答えた。

 

「問題はシールドだ。連中のことだからシード市民を抱え込んだままでは生ぬるい軌道上爆撃しかしないと思うが……」

 

「はい、しかし主力艦四隻分の軌道上爆撃を喰らい続ければやがてエネルギーに限界が生じます。そうなれば艦隊が壊滅状態の我々ではどうする事も出来ません」

 

ヴェルフェンス少将は偏向シールドの問題を提示しブレティス上級大尉が付け加えた。

 

実際彼ら親衛隊が持ち込んだ偏向シールドを使ってもあのレジスタンス軍の新型主力艦の軌道上爆撃を長く耐えられる可能性はないに等しい。

 

「市街地への電力供給を断つ……というのも可能性の一つかもしれんな。そうすれば連中……」

 

その時、ちょうどその時だった。

 

ヴェルフェンス少将が全てを言い終えようとするその時にそれは、“()()()()”。

 

40年前の“()()”を受けて女王“パドメ・アミダラ”が女王として最後に残したであろう守護装置。

 

誰も傷つける事なく誰も直接殺さずに戦闘能力だけを無力化する正にナブーの平和主義の具現者たる不殺の守護者。

 

その特異な能力からより強大な力を持つべきだとの議論もあった。

 

しかし最終的に選ばれたのはこれだった。

 

この守護者は一度だけ起動しその力を侵略者達に振るった。

 

それはもう4年も前の出来事だがまだ4年も前の出来事でしかなく、こんな短期間に頻繁に使われるべき代物ではなかった。

 

だが今こうしてこの不殺の守護者はその力を奮っている。

 

シード宮殿から稲妻を内に秘めた青白いエネルギーの塊が徐々に宮殿を離れ市街地へと広がっていった。

 

やがてシード市内全域がこのエネルギーの塊に包まれ、辺りは一時期的に陽の光が閉ざされ少し暗くなった。

 

あまりの眩しさに目を腕で守る者や細める者もおり、市街地の家々では子供達が物珍しそうに外を眺めていた。

 

光が稲妻と共に粒子となって消える頃には既にその力を発揮し終えていた。

 

辺りが徐々に明るくなると同時にその効力が発揮される。

 

パトロールのために浮遊していたプローブ・ドロイドやシーカー・ドロイドが全て力を失ったように地面に墜落していった。

 

AT-ATやAT-STといったウォーカーも、オキュパイア・タンクや他のリパルサー・タンクも全て機能を停止した。

 

特にリパルサー・タンクはその力を完全に失っている為浮遊力もなくその車体を地面に直接つけている。

 

市街地の兵士達は困惑しヘルメットやリストバンドのコムリンクで司令部に通信を取ろうとするがこれも全く機能しなかった。

 

これも全てアミダラが遺した不殺の守護者のおかげ、イオン・パルスの効力だ。

 

不殺の守護者が本来のナブーを護る為再びその力を解き放った。

 

「ダメです!外部の部隊と連絡取れないどころか、このシード宮殿の機器全部が麻痺しています!」

 

「通信システム、対空システム、一般的な制御システムもです!シールドも恐らく消失しました!」

 

それは士官達の報告を聞かなくても分かった。

 

彼らは座る前のコンソールやモニター類は全てスパークが飛び散っているしドア・コントロール・パネルも同様の状況だ。

 

辺りを見渡せば将校達のコムリンクも全てショートし使用できない状態だった。

 

「バカな……イオン・パルスは少なくとも宮殿内は無事なはずだ…!それになんで許可もなしに起動を…!?」

 

イオン・パルスはシード宮殿のキーを解除し起動シークエンスを実行しないと本来は起動しないはずだった。

 

だが現実はそうではない。

 

このようにイオン・パルスは起動しシード宮殿からシード市内の端から端に至るまでの兵力を全て無力化した。

 

「とにかく復旧と外部からの兵力の動員を…ッ!」

 

ヴェルフェンス少将から見て左側のドアが突然爆発し破片と煙が散乱し一時的に全員の視界を奪った。

 

煙と共に数十人以上の足音が聞こえ玉座の間に足音と同じだけの人間が入ってきた。

 

その格好は殆ど王室保安軍の兵士と変わりなかったが親衛隊員に十件の刺さった銃口を向け威圧している。

 

しかも兵士達の中には明らかにレジスタンス軍の装備を持った者もおり彼らが完全に敵であることを全員に知らしめた。

 

バン、バンと2発のブラスター弾とは全く違う銃声が聞こえた。

 

撃ったのはどうやらレジスタンス軍の兵士であり銃口からは白い煙が出ている。

 

「こいつは見ての通り実体弾を撃つ古い骨董品の銃だ。だがイオン・パルスでブラスター・ライフルが一つも使えない状態じゃ唯一殺傷能力のある銃を持っているのは俺たちだけだ」

 

ジョーレンが持っているのは非常用時として配布される特殊部隊用の拳銃と小銃、そして海軍本部にあったビンテージ物のリボルバー拳銃だ。

 

今発砲したのはそのリボルバー拳銃で銃口をヴェルフェンス少将の方へ向ける。

 

「他の連中の持ってる小銃もリロードに時間は掛かるが立派な小銃だ。全部試しに撃ってみるか?」

 

ジョーレンの脅しと共に兵士達は小銃を構え直し今一度その銃口から放たれる物の存在を教え込んだ。

 

「降伏して下さい、もはやあなた達に戦闘能力はない」

 

ジェルマンは小銃を下ろしヴェルフェンス少将に詰め寄った。

 

しかし少将は中々降伏の二文字を口にしない。

 

むしろこんな状況にも関わらずヴェルフェンス少将は啖呵を切って逆にジェルマン達に詰め寄った。

 

「ふん!無駄なことだ。このシードの戦力が無力化されたところでそれは全域の戦力ではない。すぐに友軍が投入されその時代遅れの武器で戦い逆に殲滅される!」

 

「され、それはどうかな」

 

ジョーレンからのアイサインを受け取りメンジス三佐はコムリンクをあえてこの場で起動した。

 

コムリンクから聞こえてくるのはシード市街地の音声、突入したソルーナ女王とシード解放部隊の音声だ。

 

今やシード市街地には王室解放軍の兵士で溢れていた。

 

 

 

 

 

 

ソルーナ女王とキャプテンコォロやシール隊長達が突入を開始したのはシード全体にイオン・パルス網が掛かったと確信した瞬間だった。

 

数十秒続いたイオン・パルスが消失した後、ソルーナ女王はELG-3Aブラスター・ピストルを構え部隊を導く。

 

このブラスター・ピストルはかつてパドメ・アミダラも同じものを使っておりこのブラスター・ピストルと共にナブーの戦いを戦い抜いた。

 

演技を担ぐ意味でもソルーナ女王はあえてこのブラスター・ピストルを選んだ。

 

「私に続け!!共にシードを!ナブーを解放せよ!!」

 

兵達の活性が湧きシード近郊で待機していた多くの解放軍兵士が喚声を上げ女王に続いた。

 

兵士達はシードに突き進んでいった。

 

その中には保安隊の保安隊員もいたし近衛兵も多くいた。

 

海軍の海軍歩兵だっていたしグンガン・グランド・アーミーのグンガンもいる。

 

色々な部隊の色々な者が集いナブーの君主の下シードとナブーを取り返すべく前へ前へと進んだ。

 

その頃シードの駐屯部隊はイオン・パルスの影響で混乱し大きく動揺していた。

 

ヘルメットで顔が見えなくても兵士1人1人が抱えている不安は伝染するものだ。

 

最初は一兵卒だけだった者がやがて下士官へ、そして小隊長、中隊長へと広がりやがては佐官以上の者へと広がっていく。

 

軍全体が不安感に駆られ動揺している中、そこに一斉に銃器を構え凄まじい形相で突っ込んでくる兵士の一団が投入されたらどうなるだろうか。

 

王室解放軍は最高司令官の女王から末端の歩兵に至るまで全員が死ぬ気で、そして何かの希望の為に全力で戦う者達だ。

 

武装も一級品とは言えないがいぶし銀の性能の良い武器を備えている。

 

一方親衛隊は性能の良い装備は全てダメになり不安感が全体を包んでいる。

 

確かに忠誠心と練度は高いがこの状況ではもはや“()()()()()()()”。

 

「降伏しろ!」

 

「手を上げろ!機体から降りて来い!」

 

解放軍の兵士達がCR-2ブラスター・ピストルやS-5重ブラスター・ピストル、敵から鹵獲したE-11やDTL-19を構え親衛隊を威嚇する。

 

反撃のしようがない親衛隊のストームトルーパー達は両手を上げパイロットはAT-STから姿を表した。

 

中には格闘戦でどうにかしようとする者もいたがグンガンの歩兵に取り押さえられ腕を捻られた。

 

「AT-ATからも降りて来い!全員集まれ!早く!」

 

兵士の誘導により親衛隊将校やストームトルーパーは全員ブラスターやウォーカーから離れた状態で何箇所かに纏められた。

 

恐らくせめてブラスターが何丁か使えればもう少し結果は違っただろう。

 

もっと反撃していただろうしこのように捕虜として並べられることなくシードの市街地で激戦を強いられていたはずだ。

 

しかしそのブラスターすらない状態ではそれすら出来ない。

 

スコップや銃器で殴るような原始的な戦闘を行おうにもこの状況では分が悪すぎた。

 

「陛下、今のうちに」

 

キャプテンコォロはソルーナ女王にそう促し女王も近衛兵とグンガンの精鋭達を連れて真っ直ぐシード宮殿の入り口に向かった。

 

「おっおい!」

 

「待て!」

 

2人のストームトルーパーがなんとか一行を止めようとソルーナ女王に迫るが寸前で護衛に入ったシール隊長により防がれた。

 

セスタによる足払いを喰らった後頭を殴られ駆けつけてきた別の兵士に捕らえられる。

 

あえてセスタを大きく目立つように振るい敵兵を威嚇した。

 

「行きましょう」

 

ソルーナ女王はどこか懐かしいシード宮殿に向かった。

 

1年前は制圧される側だったが今では立場が全く逆になっている。

 

奪われた自由と平和を取り返す側だ。

 

ここにはいないクリース宙将が掲げるナブーの栄光、それもまたナブーの歴史だ。

 

しかしその栄光がナブーの民に何を成す。

 

平和を生み出しただろうか、将又その栄光の中にいた民が幸せを感じていただろうか。

 

特にその栄光を掲げナブーを手中に収めた時、ナブーはどうなっていたか。

 

監房の中にいたソルーナ女王は直接その時の様子を見ていたわけではない、ただこの場にいるだけでなんとなく感じられる。

 

彼女が子供の頃、彼女が君主としてナブーにいた頃のシードはこんな暗く冷たい殺意や恐怖を張り合わせたような空気ではなかった。

 

活気に溢れ平和と優しさの暖かみが感じられる自慢の故郷だった。

 

その故郷は歪んだ歴史観を持つ者によって奪われ今の歪んだ彼の内面を映し出すような場所になってしまった。

 

人々は立ち上がる前に両足を鎖で繋がれ、冷たい空気に張り付けられている。

 

だが幸いにも生き延びた者はいた。

 

ソルーナ女王と共にかつての暖かいナブーを取り戻そうと思ってくれた者が大勢いた。

 

共に戦ってくれる者が今やこのナブー中に溢れている。

 

それは銀河の外からも来ている。

 

彼らはナブーの生まれではなくともナブーの為に戦ってくれる立派な仲間だ。

 

なればこそ、なればこそ女王の務めは一つだ。

 

彼ら彼女らの思いに応えること、それだけだ。

 

だからソーシャ・ソルーナは迷わず、止まらず駆けた。

 

シード宮殿の大きな階段をキャプテンコォロやシール隊長らと共に。

 

それは君主の帰還であり解放の第一歩である。

 

シード宮殿に女王が帰還した。

 

 

 

 

 

「どうやら市街地は完全に制圧したようだな」

 

「チィッ!」

 

「無駄だ!ここで我々を捕らえたとて既にマラステアからは救援の艦隊が向かっている!」

 

「それがどうした、お前達の負けは負けのままだ」

 

「我々の故郷を返してもらおう、第三帝国。我々はもう二度と、パルパティーンの遺産に苦しめられはしない!」

 

ジョーレンに続きメンジス三佐もそう言い捨て啖呵を切った。

 

あまりの形相にヴェルフェンス少将は押され玉座近くにまで押し戻された。

 

他の隊員達も頷き銃口を構えている。

 

もはや少将を味方する者は、味方出来る者は誰1人として存在しなかった。

 

「……“使()()()()()()()()”、確かそうだったな」

 

突如ヴェルフェンス少将はそう呟いた。

 

何かを疑問に思いジョーレンは射程距離を確保しながらもメンジス三佐らと共に一旦後方へ下がった。

 

少将は玉座の肘掛けのコントロール・ボタンに手を掛ける。

 

ジョーレンとジェルマンとメンジス三佐はそれに気づいたがあえて泳がせた。

 

それもいつでも対応出来る状態で。

 

「だがこの玉座にはまだ“使()()()()()()()()”」

 

そう吐き捨てたヴェルフェンス少将はスイッチを押し玉座からブラスター・ピストルを2丁取り出した。

 

元々この玉座にはブラスター・ピストルが隠されており第一次ナブーの戦いでこの隠しブラスター・ピストルがアミダラ女王の窮地を救った。

 

しかしクーデター勃発時、この玉座の間は密かにクーデター派の工作員が玉座に細工を仕掛けいざという時ソルーナ女王が使えないようにした。

 

そのせいで女王は大した反撃も出来ず捕まってしまった。

 

クーデター軍がナブーを占拠した後は細工が直され、再びブラスター・ピストルが使えるようになっていた。

 

そして今ここにはクリース宙将が隠した2丁のS-5重ブラスター・ピストルが隠されていた。

 

その1丁をヴェルフェンス少将が手に取りジェルマン達の方に向ける。

 

「道連れに死ね!」

 

ピストルの引き金を引こうとするヴェルフェンス少将だったがその行動は最後まで実行されることはなかった。

 

ジョーレンが容赦無くブラスター・ピストルを握る右手に銃弾を撃ち込んだ。

 

肉が抉れ血が飛びブラスター・ピストルが手からこぼれ落ちた。

 

ヴェルフェンス少将は苦痛に満ちた表情を浮かべるもすぐに左手でもう1丁のブラスター・ピストルを握った。

 

「降伏など誰がするか…ッ!」

 

「おい!」

 

総統万歳(Heil Fuehrer)……!」

 

S-5重ブラスター・ピストルの銃声が1発だけ玉座の間に鳴り響いた。

 

その銃声は誰かに向けられたものではなく、強いて言えばヴェルフェンス少将が最期の抵抗として自決の弾丸を自分の脳内に撃ち込んだ銃弾だった。

 

彼だった遺体から血が滴り斃れている。

 

「そんな……少将が……」

 

ブレティス上級大尉は唖然とした表情でそう呟き他の者達は皆動揺していた。

 

そんな中ジョーレンはただ1人声を上げた。

 

「おい!この中で今一番偉い奴は誰だ!この部隊の、司令部の中で今死んだコイツの次に偉い奴は誰だと聞いているんだ!」

 

その形相に負けたのかある1人の親衛隊将校が話し出す。

 

「その……副司令官のベルケー准将は直接指揮を……」

 

「じゃあお前は!お前の階級はなんだ!この中で何番目に偉い?」

 

「えっと私の階級は親衛隊大佐で一応この中では私が……」

 

「ならお前でいい!いいか?よく聞け。我々レジスタンスの援軍は今軌道上にいる部隊だけじゃない。お前達のスター・デストロイヤーを打ち破った新造艦三隻の艦隊がこれからさらに現れる」

 

本当は先ほど自決したヴェルフェンス少将を使って降伏させるつもりだったが死んでしまった為予定が崩れた。

 

ならばこの玉座の間にいる親衛隊部隊の司令部が降伏したという文言にしなければならない。

 

「一体何隻くらい…」

 

「後六個艦隊はくる、今地上に降ろされた戦力も込みでな。マラステアから来る艦隊とやらも殲滅出来るほどの戦力だ。お前達は仮に降伏せず戦い続けたとしてもそれとも戦わなきゃいけない」

 

敵を威圧し嘘でもなんでも本当らしく見せて恐怖を与える。

 

我々の戦力を誇張し相手が勝てるかもしれないという微かな希望と可能性を破壊するのだ。

 

「お前達もだぞ、司令官は自決したがお前達はまだ生きている。今度は生き残ったお前達が死ぬか我々の艦隊と戦うかを選ばなきゃならん事になる」

 

「降伏すれば身の安全は保証します」

 

ジェルマンは最後にそう付け加えた。

 

「選べ、降伏してひとまず生き延びるか。それともここで戦って死ぬか、だが後者を選んでもお前達の戦い振りを語り継ぐ奴は誰もいないぞ」

 

親衛隊大佐は他の将校達に目をやった。

 

皆目を合わせようとせず下を向いている。

 

だが彼らが思っている事は大体分かるし大佐自身も同じ思いだ。

 

だからこそ大佐は自らの口ではっきりと述べた。

 

「……わかった…!降伏する……!兵団司令部として降伏を宣言する……!」

 

その一言を聞いたジョーレンは今までの険しい鬼のような表情を変え柔和な笑みを浮かべた。

 

「それでいい、それでいいんだ」

 

ジェルマンも微笑を浮かべた。

 

するとドアが開きソルーナ女王と近衛兵達が入ってきた。

 

「陛下!」

 

「こちらへ」

 

メンジス三佐とジョーレンに手招きされソルーナ女王とキャプテンコォロらは階段を駆け上がった。

 

「制圧しました」

 

「流石です少佐、三佐、そして上級中尉。彼は?」

 

ソルーナ女王はジョーレンが掴んでいる男のことを尋ねた。

 

「おい、もう一度言ってくれ」

 

ジョーレンは彼にそう耳打ちし大佐は再び降伏の内容を口にした。

 

「我々親衛隊駐屯兵団は……降伏を宣言する……これは……司令部の意向だ……」

 

意味を理解したソルーナ女王は大きく頷き大佐の降伏を受け入れた。

 

すぐに背後に控えていたキャプテンコォロが「彼らを連れて行け!」と兵を呼んだ。

 

親衛隊将校達は後から来た保安隊員に連れられ玉座の間を後にした。

 

それから暫くしてソルーナ女王は玉座の間制圧を任された3人の指揮官に労いの言葉をかけた。

 

「メンジス三佐、部隊を率いよく戦ってくれました。バスチル少佐は素晴らしい手際で部隊の投入を成功させてくれました。そしてジルディール上級中尉」

 

「はい」

 

「我々が本来使うべきだったあの防衛兵器を取り返し、我々の勝利のチャンスを作って下さりありがとうございます」

 

「いえ、我々こそナブーの解放のお力添えが出来て光栄です」

 

ジェルマンは敬礼しソルーナ女王の言葉を受け取った。

 

もっと話したい様子だったソルーナ女王であったがキャプテンコォロに呼ばれ「それでは」とその場を離れた。

 

女王が離れた後、3人は大きな息をそれぞれ吐いた。

 

「…やった……んだな……僕達は……」

 

「ああ……シード宮殿を、シードを制圧した。我々はやり切った」

 

「ついに……我々の悲願が……」

 

メンジス三佐は全てを言い切る前にふらりと倒れてしまった。

 

「おいおい」と2人は三佐を起こしもう一度立ち上がらせた。

 

「しかしなんかこうも戦闘なく簡単に行くとなんか実感が湧かないね」

 

ジェルマンはふとそう呟いた。

 

実際彼らだけなら戦闘は殆どないに等しかった。

 

今までと違い銃撃戦を掻い潜り戦い勝利するという流れではなかった。

 

「いいじゃないか、死ぬ人間が少なく戦いが勝利で終わるってことはいいことだ。それもお前のおかげだ、ジェルマン」

 

ふと名前を出されたジェルマンはジョーレンの方に顔を向けた。

 

イオン・パルスによる首都シード全域の無力化、それはジェルマンが以前シード宮殿に潜入した時に行ったハッキングに起因する。

 

あの時既にイオン・パルスの制御を確保していたジェルマンは状態を維持したままその後戦闘に臨んだ。

 

数日経った後にも関わらず無事ジェルマンの手でイオン・パルスを起動出来たという事は恐らくクリース宙将もグリアフ一佐も気づいていなかったという事だろう。

 

そういう意味ではジェルマンが2人を出し抜き2人にも“()()()”ということになる。

 

「お前が本来死ぬべきだったかもしれない命を救ったんだよ。勝利と一緒に、お前が」

 

ジョーレンはどこか臭い言い回しで彼の功績を誉めた。

 

だがジェルマンも悪い気はしない。

 

彼の顔に溢れる微笑がそれを示しているだろう。

 

そしてこの第三次ナブーの戦いの結末も。

 

彼らは勝った、敵の不意を突き最大にして最弱の兵器を使用して。

 

レジスタンスが再び第三帝国から勝利をもぎ取った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー ロザル宙域 ガレル星系 惑星ガレル-

ガレルの駐屯艦隊は地上部隊を回収し急いで撤収した。

 

その間にMC85“リバティ”率いるレジスタンス艦隊が惑星ガレルに突入し遂にガレルを取り返したのだ。

 

そしてその“解放(Liberty)”を成した艦隊はというと、ガレルの軌道上で帝国艦隊の襲来を待ち続けていた。

 

「警戒を怠るな、連中は絶対ガレルを奪還しにくるはずだ」

 

リバティ”のブリッジで司令官席に座る艦隊の提督はそう呟き鋭い眼差しでブリッジの景色を見つめた。

 

他の乗組員も警戒を怠らず、モニターを凝視し臨戦体制と監視体制を続けていた。

 

「せめて我々はアクバー元帥達の本隊が問題を解決するまでここの死守を…」

 

「提督!ハイパースペースより艦影多数接近!恐らく艦影から見てバトルクルーザークラスの敵艦が少なくとも十隻以上確認出来ます!」

 

ハイパースペースを監視していた士官は急いで提督に報告した。

 

今度はまた別の士官もそれに付け加えて報告する。

 

「その中に一隻、スター・ドレッドノートクラスの大型艦がいます!間違いなく17キロを超えています!」

 

「まさかこちらの方面にもスター・ドレッドノートを回してきたというのか……一体どこからそんな戦力が……ともかく全艦、ガレルの一歩前に出て敵を迎え撃つ。ガレル軌道上で戦っては絶対に被害が出る」

 

「了解!」

 

提督の判断により“リバティ”と他のネビュラ級やMC80やネビュロンB、CR90が後に続き最大船速でガレルの一歩手前まで進んだ。

 

全艦艇の砲門が敵艦隊のハイパースペース・ジャンプ予想地点に向けられ、いつでも戦える体制となっていた。

 

各艦のブリッジも慌ただしく報告がなされ戦闘前の後継を映し出した。

 

「全艦防衛陣形、モン・カラへの増援を既に要請済みだ。少なくとも耐え続ければやがて味方が来る…!」

 

「敵艦、ジャンプアウトしました」

 

士官の報告通りハイパースペースを航行中だった正体不明の大型艦隊はハイパースペースをジャンプアウトした。

 

しかしジャンプアウト地点は“リバティ”含めたレジスタンス艦隊が予測していた地点よりもかなり遠く、こちらの射程圏外でさえあった。

 

だがレジスタンス艦隊の艦砲が届かないのなら敵艦隊も同様に攻撃が届かないはずだ。

 

敵艦隊のジャンプアウトはとても不可解だった。

 

「何故あんな地点にジャンプアウトを……」

 

「奇襲に失敗したと判断し距離を取ったのでしょうか…」

 

幕僚が独り言のように呟く。

 

確かにその可能性はあったが提督の中ではどこかピンとこなかった。

 

土壇場でビビり判断を間違えたにしては初歩的なミス過ぎる。

 

それにこんなに距離が離れていてはもはや攻撃の意味すら消失していた。

 

「ともかくこの距離を維持しろ!今のうちに相手の出方を探りこちらの態勢を……」

 

「提督!!敵艦隊が!!」

 

「何!?」

 

もう士官の報告が報告する頃には十分遅過ぎるところまで迫っていた。

 

真紅の血のように赤い、赤い破壊の光線はレジスタンス艦隊をそのまま“()()()()()”。

 

被弾した、直撃した、一撃で沈んだ、そんなやわな表現では済まされない。

 

文字通り“()()()()()”のだ、レジスタンス艦隊を。

 

放たれた銀河で最初の一撃はMC85やネビュラ級といったレジスタンス最新鋭の軍艦を含めた艦隊を丸ごと飲み込み闇の底へと連れていった。

 

禍々しい程の赤は彼らのシンボルカラーとしてとても合っている。

 

艦隊所属を意味するラインも赤であり、その紋章も赤だ。

 

そしてこの怒り、憎しみなど囲められた出血の一撃は最初の一撃として十分なインパクトを誇っていた。

 

巨大な大砲からエネルギーが完全に放出され切り紅の超兵器の威力が全て発揮された時、それこそが彼らの宣戦布告の全文となる。

 

この一撃こそが帰還を知らせる凱歌となり、この一撃こそが“()()()()()”となるのだ。

 

惑星ナブーでレジスタンスが勝利を得たその時、反対側ではレジスタンスが敗北していた。

 

帝国の統一の日は近い。

 

 

 

つづく




私 だ(夜行性)


遂にナチ帝国も48、49、47…まあそんな感じです

うーん…長いような短いような……

とにかくどんどん書いていきますのでこれからもよろしくお願いしますわ(ヤクザ風)


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呼び声

「平和は偽りであり、銀河は混沌に満ちている。だが我々にはフォースがあり調和は我々が作り出すものであると、自覚しなくてはならない」
-とあるレジスタンス軍将校の発言-


ナブー各所ではまだ戦闘が続いていた。

 

宇宙では軍艦同士が砲を並べ合い、空中ではスターファイターが撃ち合い、地上では歩兵やウォーカーが殺し合っている。

 

民兵やゲリラによる親衛隊やクーデター軍の進軍妨害なども確認され始め徐々に戦いは惑星全体を巻き込んだ熾烈な全面戦争になりつつあった。

 

だが戦いはこれ以上続くことはない。

 

戦いの終了の合図が全軍の通信システムを介して一部のシステムが復旧したシード宮殿から放たれた。

 

女王ソーシャ・ソルーナの肉声によって。

 

『現在戦闘中の全軍に通達します。私はナブー王室現女王ソーシャ・ソルーナ、今私はシード宮殿の玉座の間からこの声明を発しています』

 

まずその一言を将兵達が聞いた時、判断は大きく分かれた。

 

親衛隊やクーデター軍は動揺しレジスタンス軍は耳を傾け解放軍は喜びを露わにした。

 

特に前線司令部でフランケ一佐は「制圧に成功したか!」と珍しく感情を表に出し喜んでいた。

 

ソルーナ女王の声明は一間を置いて続いた。

 

『我々はこのシード宮殿を含めたシード全市内を制圧しました。既にシードの守備隊を捕虜に取り、宮殿内の全ても私の手に戻りました』

 

これによりレジスタンスと解放軍の兵士は更に喜びの感情を露わにした。

 

首都シードの解放は兼ねてよりの悲願だ、この目標を達成することが彼らの一番の使命である。

 

一方の親衛隊とクーデター軍の様子は味方同士ながらも受け取り方はかなり違った。

 

クーデター軍の兵士達はその言葉を聞いた瞬間一斉に「シードが堕ちたのか…?」と不安を口にした。

 

捕虜に取られた仲間や司令部のことも心配しより一層不安を募らせれた。

 

それに対し親衛隊の将兵はキッパリとこう評した。

 

「そんなこと連中のハッタリに決まってる」と。

 

彼らはこれは敵の嘘とプロパガンダであり騙されてはいけないとクーデター軍と自軍の兵士に大声で宣言した。

 

首都シードがそう簡単に陥落する訳がない、あそこにはウォーカーを備えた1万人を超える守備隊がいるはずだ、連中の戦力で攻略できる訳がない。

 

それにシードにはイオン・パルスがあるのだから仮に部隊を抑えたとしても返り討ちに遭うだけだ。

 

まだ首都シードは依然として親衛隊の司令部がある、そう考えた何人かの将校は首都シードに通信を取った。

 

だが首都シードに通信が繋がる事は一度もなかった。

 

何者かに拒否され音信不通の状態が長く続いた。

 

そこでようやく親衛隊の将兵も「シードは陥落したのではないか」という現実の不安を抱え始めた。

 

追い打ちをかけるようにソルーナ女王の声明が更に届く。

 

『既に首都の軍司令部は我々に正式に降伏を宣言し我々も降伏を承諾しました。既にあなた方の司令部は負けを認め戦闘を放棄しました』

 

シードに通信も繋がらない、何の返答もない、おまけに軌道上の艦隊も壊滅寸前、この状況でこの一言が出されては将兵の戦意に大きなヒビが入るに決まっている。

 

多くのクーデター軍兵士やストームトルーパー達が「嘘だ…」と言って崩れ落ち、手からブラスターが戦意と共にこぼれ落ちた。

 

部隊長や将校達も自他双方にかける言葉が見つからず黙り込んだ。

 

空中でのスターファイター戦は殆ど戦闘が停止し爆発の光も減っていた。

 

軌道上では声明を聞きもはや戦闘能力はないと確信したナブー艦隊が一足先にレジスタンス艦隊に降伏を申し入れていた。

 

『あなた方がこれ以上命を懸けたところでこの結果は覆りません。そして我々もこれ以上の戦闘は望みません、捕虜となれば必ずあなた方の人権と待遇を守る事を誓いましょう。ですから…』

 

再び間を置き最後にソルーナ女王は告げる。

 

『親衛隊及びナブー・クーデター軍の武装解除と全面降伏をここに勧告します』

 

その一言と共にソルーナ女王は一言述べ通信を切った。

 

彼女がそれ以上自らの勝利を語る訳でもなく悪行を断罪する訳でもなくそれ以上の言葉は紡がれなかった。

 

しかしこの状況ではそれ以上の事を言わなくとも敵がやる事は決まっていた。

 

中央の包囲部隊を蹴散らし敵の補給地点などを攻撃していたホーリス隊長らの下に両手を上げた数十人のストームトルーパーとクーデター軍の将兵が現れた。

 

部隊長と思わしき親衛隊の将校が恐る恐る、屈辱を噛み締めながらホーリス体調に宣言した。

 

「…降伏する……!我々はお前達に降伏する……」

 

言い切った後その将校は顔を背けグンガンの騎兵隊員達は皆顔を見合わせていた。

 

ホーリス隊長は少し経った後自らのカドゥから降りてその将校達に近づいた。

 

リーハイ副隊長は「隊長!」と静止しようとしたが構わずホーリス隊長は彼らの前に出た。

 

隊長はグンガンの右手を差し出し親衛隊の将校に握手を求めた。

 

将校も恐る恐るその手を握った。

 

「降伏するというなら我々はそれを受け入れよう」

 

「隊長!」

 

リーハイ副隊長は反対する様子だった。

 

彼らのせいで故郷は破壊され多くの同胞が殺された。

 

そんな連中を降伏した程度で許していいのか、復讐心に似た感情が彼を捕らえていた。

 

「いいんだ副隊長、我々は反撃し首都を取り戻し勝利した。それで十分取り返したとは思わないか?これ以上やれば本当に血で血を洗うような、取り返しのつかない事になる」

 

それに彼らを受け入れなければシードで戦っているジェルマンやジョーレン達の苦労が全て無駄になる。

 

「降伏は受け入れられないらしいぞ」という誤ったイメージが広がれば彼らは誰1人投降せず最後の1人になるまで戦うだろう。

 

そうなっては全てが無駄だ、今得た勝利も水疱に消える。

 

「捕虜を本部に輸送する、輸送機の手配を頼む。それと警戒と警備、偵察だ。買ったとはいえまだ油断は出来ないぞ!」

 

カドゥに乗ると同時にホーリス隊長は素早く命令を出す。

 

グンガン騎兵達も命令を承諾しそれぞれ行動を始めた。

 

勝ったからこそ冷静でなくてはならない、ホーリス隊長はそう考えていた。

 

でなければ勝利などあっという間に勝利ではなくなってしまう。

 

が、勝利が嬉しくないという訳ではない。

 

本当は誰よりも飛び跳ねて大声を上げ喜びたいはずだ。

 

だがホーリス隊長は多くの兵の命を預かる指揮官なのだ、そう一兵卒のように喜んではいられない。

 

この戦いの勝利を維持する為に、ホーリス隊長のもう一つの任務は始まっていた。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国 首都惑星コルサント 親衛隊本部-

ナブーでの第三帝国の敗北はこのコルサントまで広がっていた。

 

モン・カラ周辺で確認されているレジスタンス軍の新型主力艦がナブーにも出現し勝利に一躍勝ったと。

 

現地に派遣された親衛隊の一個兵団は降伏、司令官のヴェルフェンス少将は自決し第三帝国はナブーの支配権を失った。

 

また国防軍は「やはり我々を送っておけばよかったのだ」と言うかもしれないがおそらく彼らが送られていても同じ結末だっただろうとジークハルトは考えた。

 

重要なレジスタンスの新型艦ではなく地上の親衛隊のやられ方だ。

 

報告によれば確かにレジスタンス軍の師団と戦闘になったものの敗因はどうもそれではないらしい。

 

首都シードの陥落により司令部が陥落した為彼らは敗北しただけであって直接戦闘に敗れた訳ではない。

 

現に多くの捕虜がレジスタンスに取られてしまっている。

 

だが不思議なのはこのシード陥落についてだ。

 

このシードでさえも大規模な戦闘はなくむしろシードを守っていた部隊は殆ど損害もなく全員が投降したそうだ。

 

理由は不明だが一部の将校達の予測によればシード防衛用のイオン・パルスが作動した影響だとされている。

 

イオン・パルスなら兵員の命を奪う事なく兵器、ブラスター、通信機器全てを無力化する事が可能だ。

 

クローン戦争前のナブー侵攻後に設置され4年前のシンダー作戦でも新共和国軍と王室保安軍がイオン・パルスを作動し勝利したと報告を受けている。

 

しかしあれは当時の新共和国軍が防衛側に回っていたからであり今回と状況が反対だ。

 

そんな中でイオン・パルスを使用し親衛隊を無力化させたとと言うことは何らかの理由がある。

 

考えられるのはそう、“()()()()()()()()()()()()()()()”か“()()()()()()()()()()()()()()()()”かの2つだ。

 

いや、もしかすると両方合わせての結果だったかもしれない。

 

とにかくレジスタンスには相当実戦に慣れた優秀な特殊部隊が幾つか存在すると言うことになる。

 

現にイセノ通信ステーションの戦いの時も特殊部隊が先行しステーションを乗っ取ったという事後報告を目にしている。

 

他の報告書でもレジスタンス誕生以前に特殊部隊と思われる存在の破壊工作が記されていた。

 

レジスタンスは反乱同盟軍の頃から特殊部隊に力を込めていた。

 

恐らくそれは今も同じで初期反乱運動、銀河内戦、そしてホズニアン・プライム陥落やシャンドリラ陥落を経験し生き残った手練れが大勢いる。

 

もしかするとその存在はレジスタンスの新型軍艦よりも脅威となるだろう。

 

暗殺や中枢の破壊工作などで深いところまでダメージを与え第三帝国を弱らせる可能性があるかもしれない。

 

我々はそんな連中と戦わねばならない。

 

「……特殊部隊対策…か」

 

「ん?どうしたジーク?」

 

ジークハルトの独り言にアデルハイン大佐は声をかけた。

 

どうやら思考がぽろっと言葉に漏れてしまったらしい。

 

「いや、何でもない。年度末の最終報告書と提案書を考えてただけだ」

 

「そうか、あんまり気を詰めすぎるなよ?それでナブーの件本当なのか?」

 

親友を労いアデルハイン大佐は話の続きをヴァリンヘルト大尉に尋ねた。

 

考え事ばかりで全然聞いていなかったがどうやら彼らもナブーのことを話していたようだ。

 

最近は色々頭を使い考え込むことが多くなった気がする。

 

それは単純に将官に上がったからとかではなく色々な出来事と事件がいっぺんに起きすぎたせいだろう。

 

「ええ、何でもナブー陥落を免れたナブー側の高官がこちらに来るそうです」

 

ヴァリンヘルト大尉の言葉を聞きジークハルトは少し顔を向けた。

 

そんな話、自分だって聞いていない。

 

「大尉、その話どこで聞いた?」

 

ジークハルトはヴァリンヘルト大尉に尋ねてみた。

 

「食堂の隅で本部常駐組の佐官の方々が話していたのを聞きました。まあ多分噂話の類だと思うんですがね」

 

「ああ、あれだけ電撃的にナブーが陥落しまってはひょんな事でも起きない限り脱出は無理だしな」

 

アデルハイン大佐はそう付け加えたが情報源であるヴァリンヘルト大尉の話からしてどうもそう簡単に割り切れなくなってきた。

 

本部常駐組はシュメルケ元帥やフューリナー上級大将と言った高官達の幕僚を務めている親衛隊屈指のエリートだ。

 

当然ジークハルトがまだ知らない情報もふとしたことから入手することはある。

 

情報源としてはかなり信用性の高い場所だ。

 

「まあどっちにしろ、ナブーが陥落したって事実は変わらないんですがね」

 

ヴァリンヘルト大尉はどこか落ち込み気味にそう呟いた。

 

高官が来ようと来まいと彼らの行動次第でこの状況が一変する訳ではない。

 

もはやナブー陥落は過ぎ去った変えようのない事実だ。

 

「准将は我々の軍団がナブー奪還に充てがわれると思いますか?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに問い詰めた。

 

第三帝国とてこのまま陥落させたままにしておく訳はない。

 

必ず奪還作戦を考え帝国軍を国防軍親衛隊問わず送り込むつもりだ。

 

「それは後になってみないと分からないがコルサントにいる我々を送る可能性は低いだろう。何せナブーの近くにはローリング大将軍の息が掛かったマラステアがある。あそこの部隊が送られるはずだ」

 

「となると奪還作戦は国防軍が行うことになりそうだな」

 

「ああ、シェールナー辺りがやるだろう……ん?“ライアビリティ”からだ」

 

ポケットに入れていた虚無リンクが振動で通信が来ていることを伝えた。

 

すぐに取り出しジークハルトは「どうした」と連絡先の“ライアビリティ”へと繋いだ。

 

呼び出たのは“ライアビリティ”の艦長であるメルゲンへルク大佐だった。

 

『准将、コルサント軌道上に予定にないプロカーセイター級スター・デストロイヤーが三隻ジャンプアウトしました』

 

「何だと…?」

 

ジークハルトはその報告を聞き目を顰める。

 

先程の噂話からそう時間が経っていないせいかとてもこの報告は怪しく感じられた。

 

「親衛隊本部のログを確認してみよう。それでプロカーセイター級からは何か発進したか?」

 

『はい、ラムダ級シャトルが1機本部に向かったと思われます。准将、あれは一体なんですか?』

 

メルゲンへルク大佐はジークハルトにふと尋ねた。

 

検討や予測は付くが確証はない。

 

それにここであえて自らの推察を話す必要は今後の為にも意味はないだろう。

 

「さあな、ただ即座に撃破命令が出ていないということは少なくとも敵ではない。必要なら少し距離を取っても構わん、私が許可する」

 

『了解、また何かあれば連絡します』

 

通信が切れジークハルトは近くの窓辺から外を覗いた。

 

流石にここからそのラムダ級は確認出来ないがどことなくここに来ることの察しはついた。

 

「…やはり噂のナブーの高官ですか…?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに尋ねた。

 

「ああ、多分な」と返しジークハルトは彼らの方に穏やかな顔を見せる。

 

「まあ今の我々にはまだ関係ないさ。少なくとも“()()()”」

 

 

 

 

 

彼らの予想通りハイパースペースからジャンプアウトしてきた艦は全てナブー宇宙艦隊の艦であった。

 

旗艦“キング・オブ・ヴェルーナ”に連れられたプロカーセイター級、そしてデア・フルス・ソルー軍団の人員。

 

ラムダ級にはヴェルフェンス少将と一旦指揮を交代したクリース宙将とグリアフ一佐らが乗り込みコルサントの親衛隊本部へ向かっていた。

 

既にシャトルは特殊停泊場に泊まり2人は親衛隊本部の通路を幾人かの親衛隊将校に囲まれ進んでいた。

 

「このまま真っ直ぐ進めばシュメルケ元帥の執務室です。機密の為、入室は御2人だけとさせていただきます」

 

クリース宙将は将校の要求を了承し導かれるまま通路を進んだ。

 

彼はふと隣のグリアフ一佐に尋ねた。

 

「現状ナブーを脱出したと見られる部隊の報告は?」

 

「一切ありません。どうやら全員捕虜となったか脱出不可能となり惑星内部で抵抗を続けていると思われます」

 

「そうか、なるべく後者の行動を行なっていると切に願おう」

 

一佐は小さく頷き2人はそのまま歩いた。

 

しばらく行くと大きなブラスト・ドアが見えポールドロン付きの重武装のストームトルーパーが2人ドアの前に立っていた。

 

案内役の将校が一歩前に出て「クリース一等宙将とグリアフ一等陸佐をお連れした」とトルーパーに用件を伝えた。

 

ストームトルーパーは用件を受け入れ解除コードを入力する。

 

何枚かのブラスト・ドアがゆっくり開きトルーパー1人が「どうぞ」と手招きした。

 

「では行きましょう」

 

将校に連れられ3人は執務室の奥へと入った。

 

暫くするとドアが閉まり将校は椅子に座る白髪混じりの男に敬礼した。

 

「シュメルケ元帥、クリース宙将とグリアフ一佐をお連れしました」

 

元帥は敬礼を返し「ご苦労、下がって良い」と返す。

 

将校は命令通り執務室を退出した。

 

退出を見送るとシュメルケ元帥は一間を置き口を開いた。

 

「クリース宙将、グリアフ一佐、まずは今回のナブー失陥に際し親衛隊の力が至らなかったことを謝罪したい」

 

まず彼は謝罪の言葉を述べた。

 

それが真意なのか偽りなのかこの黄土色じみた瞳を持つ男からは感じ取れない。

 

しかしその言葉を述べることが親衛隊として、組織の最高司令官としての責任の取り方だろう。

 

「いえ、そんな。我々こそ敵を侮りすぎていました。連中は思った以上に抵抗力があり諜報、破壊工作、極秘作戦に長けていました」

 

「それは“()()()()()()()()()()()()”のことかな、宙将」

 

シュメルケ元帥はクリース宙将が思い浮かべる人物の姿を言い当てた。

 

やはり第三帝国でも少なくとも知名度はあるようだ。

 

「はい、ご存じでしたか」

 

「ああ、イセノの一件以降様々な事件と照らし合わせてその存在が浮上してな。今情報部や保安局が捜査中だ」

 

「でしたら我々も艦内での戦闘で得た情報をそちらに提示しましょう。少しは役に立つはずです」

 

「それはありがたい、ハイドレーヒに伝えておこう」

 

シュメルケ元帥は椅子に寄り掛かり微笑を浮かべた。

 

クリース宙将の背後に立つグリアフ一佐は「一つよろしいですか」と口を開いた。

 

シュメルケ元帥は無言でグリアフ一佐の発言権を許す。

 

「元帥殿はレジスタンスの特殊部隊員について検討がついているのでしょうか。私個人の意見としましては私と同じ“情報将校”だと思いますが」

 

「流石宙将の懐刀だ、実は私もそう考えている」

 

シュメルケ元帥はさらに微笑を深べ一佐の意見に賛同した。

 

多くの高官達は会議で「やはり新共和国特殊部隊の生き残りだろう」と決定づけていた。

 

恐らく大半はそうだろうがそれでも“2()()3()()”は確実に違う。

 

通信ステーションの制圧速度から鑑みて相手は相当情報戦を得意とする兵士が部隊の中にいる可能性が高い。

 

モン・カラの戦線でもインペリアル級が一隻敵部隊に驚異的な速度で拿捕されたという報告を受けている。

 

もはやこれは確証に近かった。

 

「特殊部隊の記録だけでなく情報部、宇宙軍情報部の記録も念入りに捜査するよう命じている。まあ新共和国の軍関係、特に情報部はデータが全て消えていて復元するのは難しいが」

 

新共和国の政府はともかく前内戦の経験がある軍関係、諜報組織などは事前に準備をしていたらしくホズニアン・プライムをかなり素早く奇襲したにも関わらずかなりの情報が事前に抹消されていた。

 

特に情報部はかなり素早くデータを抹消したらしく復元は不可能とさえ言われていた。

 

「さて、本題に入るとしよう。第三帝国はこのナブー失陥を重く受け止めている、と同時に奪還は“容易である”とも考えている」

 

「確かにナブーの近くにはマラステア、大セスウェナがあります。兵力の展開も兵站の確保も容易でしょう」

 

マラステアはローリング大将軍が銀河内戦中に自らの勢力を置いていた場所で資源の宝庫であり多くの兵力が駐屯している。

 

所属兵力の殆どは国防軍であるが特に問題はない。

 

何より単純な距離が近く多くの部隊を即座に展開出来る。

 

「それもある、が容易である理由はそれではない。我々には新たな力が加わる、ファースト・オーダーやチス・アセンダンシー以上の力がな」

 

「新しい帝国の一大軍閥がまた同盟を?しかしこの銀河系にこれ以上あなた方と肩を並べられる程の規模を持つ軍閥など存在しないと認識していますが」

 

「ええ、カイゼルシュラハト作戦に参加した勢力は現在の第三帝国の一部となり帝国への帰属を望まなかったデルヴァードス将軍やハースク提督達は皆“粛正”されたと聞いています。ローゼン・トルラックも死に、アデルハードも明日には敗死の報告を受けてもおかしくない状態まで弱体化しました」

 

グリアフ一佐はクリース宙将の言葉に付け加えた。

 

彼の言う通りもはや今の銀河系に第三帝国と方を並べて戦える程の勢力は存在しない。

 

有望株だった13人の軍将は皆フリシュタイン大佐の手によって粛清され、そうでない軍将達も皆虫の息だ。

 

アンシオンのドウル元帥のように真っ向から反抗してくる軍将も数少なくなり銀河内戦末期の名残は徐々に一掃されつつあった。

 

第三帝国に全て統一されると言う結果で。

 

「宙将、君はもし“()()()()()()()()()()()”が今も“()()()()()”としたらどうするね?」

 

シュメルケ元帥は突然会話の流れとしてはとても不可解に思える疑問を投げかけた。

 

まだ理解出来ないクリース宙将はひとまず自らが最も敬愛する人物を言葉通り当てはめた。

 

するとそこでようやく言葉の意味が理解出来る。

 

()()()()()()()()()”、その問いに繋がりクリース宙将は恐る恐る口を開いた。

 

()()()()()()()()()”。

 

「……それは、それは本当なのですか……?」

 

シュメルケ元帥は小さく頷いた。

 

「我々は取り戻した、故にあなた方の故郷であり我々の聖地を奪還するのも容易となるだろう。既に我々はナブー奪還作戦を計画中だ。そこで…」

 

元帥は将校を指で3人ほど呼んだ。

 

あらかじめ打ち合わせてあるのか親衛隊の制服を持った将校が2人とアタッシュケースを持った将校が1人姿を表した。

 

シュメルケ元帥は立ち上がりデスクの棚からアタッシュケースを取り出す。

 

「我々は先方として、客将としてあなた方2人を親衛隊に向かい入れたい。今から貴方がナブー奪還作戦の指揮官だ、クリース“()()”」

 

ケースを開け中身をクリース宙将改めクリース大将に見せた。

 

2本のコードシリンダーに大将を示す階級章、そして名誉銀十字勲章が入っていた。

 

「全て貴方に授けよう、親衛隊の大将として、ナブーを奪還する新たなる英雄としてまずはこれを身につけて欲しい」

 

クリース大将はゆっくりと勲章に手を伸ばした。

 

その顔はより一層笑みが増しておりとても興奮気味だった。

 

「貴方が連れてきたデア・フルス・ソルー軍団は新たに兵員と艦隊が追加されデア・フルス・ソルー兵団となりナブー奪還軍の中枢を成す存在となる。そこで、グリアフ“()()”」

 

ケースを持った将校がシュメルケ元帥と同じようにケースを開き中身を見せた。

 

同じく2本のコードシリンダーに加えて准将の階級章、そして一等白十字勲章が入っていた。

 

「デア・フルス・ソルー兵団の上級将校として、新たな親衛隊の情報将校として我らと共に戦って欲しい。君には専門の情報将校が何人か部下に付く、権限も普通の将校よりは高くなるだろう」

 

「ありがとうございます元帥、必ずナブーを奪還してご覧にれましょう」

 

グリアフ准将は親衛隊式の敬礼を行い早速シュメルケ元帥に忠誠を誓った。

 

「我々の聖地奪還を、“()()()()()()()()”」

 

勝利に湧き上がるナブーとは裏腹にこのコルサントでは黒い野望が再びナブーを覆い尽くそうとしていた。

 

レジスタンスの勝利はまだまだ程遠い。

 

 

 

 

 

そこにあるのはただの屍、人も人ならざるものも全てが屍となっている。

 

鋼鉄の残骸が或いは微粒子が残骸となって漂いデブリベルトを形成していた。

 

中には一撃で消し飛んだ新型主力艦のものもあるのだろうがここまで何もかも残骸となってはもはや見分けが付かない。

 

ただ無惨に、惨状という言葉すら生ぬるいほどの光景が広がっている。

 

この鋼鉄の屍達は自らの役目を一つも果たすことなく宇宙の塵となったのだ。

 

一方で人の屍はもっと無惨な姿で曝け出され、或いは微粒子となっている。

 

直撃を喰らった艦船の中にいた者は恐らくその屍すら残らず生きていた全ての証拠を暗黒の彼方へと連れ去られただろうし直撃でない者はもっと悲惨な死に方をしただろう。

 

爆発に巻き込まれその高熱で焼かれ、艦船の破片や外壁に押し潰され、宇宙空間へと放り出され、他にも様々な死に方がある。

 

直撃を免れギリギリ破片が残っている艦船の中にはもしかしたら人の腕や人の体らしきものも浮いていた。

 

遺体だけでも残るならそれはある意味で奇跡と言っていいだろう。

 

()()”が放った宣戦布告の第一射はそれだけの威力があり破滅を齎す厄災の象徴でもあった。

 

だがその中で1人だけ、まだ生命と言えるものを辛うじて保っている者がいた。

 

「……っ……ぅぅ……」

 

レジスタンス軍の軍服を着ており胸には大尉を示す階級バッジが付いている。

 

彼が乗っていたモン・カラマリ・クルーザーは一撃を喰らい彼が生きているのが不思議なほどグシャグシャに破壊された。

 

あの特徴的な船体はまるで保てておらず幾つかの破片と辛うじて蘇ったシールド発生装置から出る微量な偏向シールドによってなんとか生き永らえていた。

 

だが彼はもう時期死ぬ。

 

既に乗艦の撃沈の衝撃でブリッジにいた仲間は全員吹き飛ばされ今も宇宙空間を彷徨っている。

 

彼の左足だって衝撃で吹き飛ばされ破片が彼の腹部に刺さり軍服から血が滲んていた。

 

シールド発生装置もいつまで持つか分からなず空気ももうかなり少なかった。

 

「………レジス……タンス……に……知らせ……」

 

遠のく意識と感覚のない身体をなんとか動かし近くのコンソールを起動しようとした。

 

この存在を、この敵の事を必ず知らせなければならない。

 

あの敵は間違いなくレジスタンスを滅ぼしかねない本物の厄災だ。

 

今までの敵とは格が断じて違う。

 

仲間に危機を伝えなければならない。

 

でなければここを守備していた艦隊も全ての戦友達の死が無駄になってしまう。

 

しかし思いだけではどうしようもなかった。

 

男の身体はもう動かない上にコンソール類も全てシステムは死んでいる。

 

他のレジスタンス軍に危機を伝えることは不可能だ。

 

「……敵かん……たい……襲撃により……我が艦隊は……壊滅……生存者は……恐らく……なし……」

 

必死に言葉を紡ぎなんとか伝わらない状況を必死に伝えようとした。

 

だがその無意味な小さな抵抗もある一隻の軍艦を見ただけで言葉が止まった。

 

男の死にかけの瞳に映ったのは男が人生で初めて見る大きさの黒色の超弩級戦艦であった。

 

男は今までエグゼクター級やアセーター級、マンデイター級やベラトール級と言ったスター・ドレッドノートを直接目にしたことはない。

 

無論資料や講義では見たことあるが所詮は書類上の数値だけであり実際の姿は戦場で目撃したことがない。

 

命辛辛逃げ出したあのマジノ線での戦いでもだ。

 

そんなスター・ドレッドノートが今、自分の目の前にいた。

 

何隻ものスター・デストロイヤーを従え、まるで自らが死の体現者であるかのようにその黒い超弩級戦艦は航行している。

 

数千メートルあるはずの特殊な大砲をつけたようなインペリアル級に似たスター・デストロイヤーもまるでコルベット艦のように小さく見えた。

 

どことなく資料で見たエグゼクター級によく似ていたが船首にはエグゼクター級とは違い大きく伸びまるで鎌のような姿だ。

 

命を刈り取る死神の黒い鎌、正にその言葉が似合う。

 

だが艦隊を襲い仲間を皆殺しにしたのはあのスター・ドレッドノートではなかった。

 

あの一撃を放ったのはあの艦ではなかった。

 

周りの艦が、他のスター・デストロイヤーが放ったのだ。

 

あの一撃を、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「……我々の……希望……自由……自由は……!」

 

彼らの姿は死にかけの男から最後の希望さえも奪おうとした。

 

こんな相手にレジスタンス軍は勝てるのか、一撃で何もかも消されてしまうのではないか。

 

敵の姿を見る度に男はそんな気分になっていった。

 

一撃で即死した者ならまだしもこの惨状を僅かでも生き残ってしまった者は皆そう思うだろう。

 

黒き大鎌の超弩級戦艦に連れられ星の破壊者達は進軍を続ける。

 

ゆっくりと、ゆっくり死を運んでいく。

 

男が最期に見た光景は死の十字軍が進軍する姿でありその心にあったのは希望をゆっくりと蝕む絶望だけだった。

 

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー領 惑星シーラ 首都クサプラー フェル家執務室-

ヴィルヘルムはチス領や銀河系からの報告をタブレットで読みながら状況を把握していた。

 

銀河系ではどうやら惑星ナブーがレジスタンスの手に堕ち、ガレルも同じくレジスタンス宇宙軍が進駐したそうだ。

 

ヤヴィン周辺域はまだ不明だが他の戦線では殆どいい話を聞かない。

 

尤もそれは第三帝国が一番ご承知だろうが。

 

「そして我々は襲撃者は分からずじまい、まあほぼ無傷で追い払えただけで良しとするか」

 

キャルヒーコルでの戦いはチス・アセンダンシーと帝国軍の圧勝に終わった。

 

敵艦隊の陸戦隊を粉砕し敵艦隊の主力たるインペリアル級をほぼ無傷で拿捕出来た。

 

拿捕したインペリアル級は全てアセンダンシー領の造船所に送られ修復中であり技術士官達によれば一部の艦は後数週間もすれば使える状態になると言うことだ。

 

インペリアル級のような1,000メートル以上の大型主力艦が一隻でも多く使える事はチス・アセンダンシーと“新領土”を防衛する為にもとても都合がいい。

 

ヴィルヘルムが考えに耽っていると執務室のドアのブザーが鳴った。

 

「どうした?」

 

『タッグ元帥が面会を求めております』

 

何か重要な要件でもあったかと頭を巡らせ記憶を辿ってみるが特に思い当たる節はなかった。

 

しかし追い返す訳にも行かないので「入れてくれ」と頼んだ。

 

ドアが開き何故かウォッカの瓶を持ったタッグ元帥が姿を表した。

 

「一体何の用だ?態々物珍しいものを持ってきて」

 

「例の割譲条約の報告に来ただけさ。こいつは土産物だ」

 

ウォッカの瓶にはシャンドリラ・ウォッカと書かれている。

 

第三帝国とチス・アセンダンシーとファースト・オーダーは中立条約と不可侵条約に加えて新たに領土割譲条約を結んだ。

 

銀河系の北部八つの宙域をチス・アセンダンシー及び亡命帝国領とする代わりにオード・マンテルや惑星オリンダなどを含むブライト・ジュエル宙域などを割譲した。

 

ファースト・オーダーは惑星インダーと惑星コムラを有するダントゥス宙域とプレフスベルト宙域そしてペリン宙域を領土とした。

 

更に未知領域を正式な領土と認めると共に南アウター・リムの8つの宙域を新たに領土と設定した。

 

第三帝国としては自分達では抱えきれない厄介な部分を投げ出したつもりなのだろう。

 

だが本当の意味ではこれは“()()”だ。

 

帝国の再統一の為、まずはそれぞれに割譲条約で領土を展開しやがてその境目がなくなっていく。

 

恐らくは“()()()()()”から来たる者達によって。

 

今回の割譲条約も彼らの存在がなければ第三帝国は提案もしてこなかったはずだ。

 

「シャンドリラで条約が結ばれたからついでにか」

 

「ああ、モスマと言いシャンドリランは好きじゃないが生産品はまた別だ。流石にシーラのウォッカだけじゃあ飽きが来るだろう?」

 

ウォッカをヴィルヘルムのデスクに起き微笑を浮かべる。

 

「後でグラス」を持ってくるとヴィルヘルムは伝え早速彼に尋ねた。

 

「新領土の調子はどうだ?尤もあそこには以前から一部の帝国軍残存勢力が逃げ込んでいるという話があったが」

 

「我々に帰属する者が半分、そうではなく頑固として抵抗する勢力が半分と言ったところだ。相当厳しいことになる」

 

「そうか……まあ大まか予想通りだ。情報部と保安局による特殊作戦を実行を提案する。第三帝国が軍将を粛清した時のように我々も同じことをして勢力を手に入れる」

 

特殊作戦、かつては反乱同盟軍や反乱分子の勢力に対して行っていたものだ。

 

例えばインフェルノ分隊による潜入破壊工作など。

 

今回はそれを反対勢力の帝国軍残存勢力に行おうと言うのだ。

 

元は同じ帝国同士と言うことでタッグ元帥は少しばかり気が引けた。

 

本来は帝国同士の争いを避ける為に亡命したはず、どこかでそのようなしこりが残り続けていた。

 

今と昔とでは状況は大きく違うというのに。

 

「それで本当に新領土の首都をサーティネイニアンにするつもりか?確かに工業力のある惑星だが」

 

彼らはチス・アセンダンシー第二首都にして新領土の実質的な首都惑星を決める必要があった。

 

チスの会議の場では中央の惑星マイギートーなどを候補に挙げていたが最終的にはヴィルヘルムが候補として出したサーティネイニアンに決定された。

 

「サーティネイニアンは工業力があり辺境ながら人口も多い。いざ戦闘となれば工業力と人口で多くの部隊を展開出来るし要塞化して戦う事も可能だ。不安定な新領土の首都にはちょうど良い」

 

「だが本当の理由は“()()”ではないだろう?」

 

タッグ元帥はヴィルヘルムにそう尋ねた。

 

彼とは亡命する前から旧知の中でクローン戦争も一時期は共に戦った。

 

ヴィルヘルムは政治将校として、タッグ元帥は前線指揮官として。

 

戦友の問いに「流石だな」と微笑を浮かべ答えた。

 

「ああ、その通りだ。サーティネイニアンを首都とするのは単純な要塞能力からではない。あの惑星は新領土の中で最も外縁部と近く第一の防波堤となるに相応しい場所だ」

 

「“()()()()()()”の為、か?」

 

ヴィルヘルムは重く頷いた。

 

「我々が防波堤となるにはあの惑星しかない。これは既に“()()()”も承諾されたことだ。恩人であるチスの為、我々の銀河系を守る為に我々はあの地を“バスティオン”とする」

 

銀河の中心地から遠く離れた場所で、遠い未来の危機の為彼らは準備を重ねていた。

 

計り知れない命と、責任を背負いながら。

 

ヴィルヘルム達は必ず来る脅威に立ち向かおうとしていた。

 

 

 

 

-レジスタンス同盟領 コメル宙域 ナブー星系 惑星ナブー-

儀仗兵が儀仗用ブラスター・ライフルを捧げ将校達の敬礼の中をレイアとガー副議長、ディゴール大臣らは進んだ。

 

一行は解放されたナブーの視察と王室政府との同盟を深めるべくナブーを訪れていた。

 

先行してナブー解放に協力したヴィアタッグ将軍やクロルティ司令官達も2人を敬礼で迎えている。

 

無論ジェルマンとジョーレンもだ。

 

既に勝利から数日の時が過ぎ、小規模な戦闘も含めて戦いは完全に終結した。

 

一部の親衛隊や狂信的なクーデターシンパの保安軍将兵はゲリラ戦を展開し最後まで抵抗したが全てレジスタンス軍の兵士によって掃討された。

 

ナブーではソルーナ女王が解放宣言をシードを含めた全てのナブーの民に通告し首都シードの戒厳令含めた全てのクーデター軍が打ち出した軍政は撤回された。

 

今シードなどの市街地では戦の傷跡を癒そうと戦後復興が進んでおりグンガン達の故郷、オータ・グンガも再建が進められていた。

 

クーデター側として戦った王室保安軍の武装解除も順調に進み上級将校は逮捕されたが徴兵などで集められた末端の兵士達は皆故郷へ帰っていた。

 

しかし一部兵士への事情聴取によれば幾つかの部隊の保安隊員は上官の命令によりエイリアン市民を虐殺した疑いがありまだ何処か冷たい目が掛けられている。

 

一方でレジスタンス軍は直ちに動員だけるだけの戦力をこのナブーに展開した。

 

軍司令部の予想では恐らくマラステア宙域周辺から奪還と反撃の為の帝国軍が送り込まれるとされていた。

 

この帝国軍の部隊を防ぐには先行して送ったレジスタンス軍増援部隊では到底足りず更なる増援を送り数を揃える必要があった。

 

だがこの予想は大きく的を外れこの増援はハイパースペースのトンネルの中を航行する以外の任務は与えられなかった。

 

マラステア周辺域の帝国軍は意外なことに一隻たりとも軍艦が出撃することはなく地上軍が動員を始めているなどという情報は微塵も存在しなかった。

 

あまりにも不可解なのでレジスタンス軍は警戒を強めている。

 

だがこれでナブーの脅威がなくなったのは事実だ。

 

ナブーは本当の意味で解放された、その状況をソルーナ女王とレイアの光景が端的に示している。

 

「ソルーナ女王、お久しぶりです」

 

「オーガナ議員こそ、本当にお久しぶりです。ご無事で何よりでした」

 

2人は堅い握手を結んだ後互いに抱擁を交わした。

 

レイアとソルーナ女王の関係性は4年前のシンダー作戦時まで遡る。

 

2人はナブーを帝国軍の部隊から守るために古びたN-1スターファイターに乗り込み戦った事もあった。

 

それ以来彼女らは友の中であり数年前まではプライベートで連絡を取る事もあった。

 

しかし第三帝国の勝利後レイアは一般的な認知だと行方不明、ソルーナ女王は拘束され会うことすらままならなかった。

 

むしろ今こうして互いに抱擁を交わし合えている事自体が奇跡と言えよう。

 

レイアだってホズニアン・プライムが陥落した時は死んでいてもおかしくない状況だったのだ。

 

2人は互いがこうして生き延び圧政に負けんと戦い続けられることを深く喜び安堵した。

 

「まずはナブー解放、おめでとうございます」

 

「こちらこそ、レジスタンス軍の多大な支援に感謝します。彼らが1人でも欠けていればナブーの解放は不可能でした」

 

互いに謝辞と感謝の意を述べつつ「続きは宮殿で話しましょうか」と促し一行と共に宮殿の方へ向かっていった。

 

一団を眺めながらジェルマンは「本当にナブーを解放したんだな」と感慨深く呟いた。

 

「功績がデカ過ぎて自分じゃあイマイチ理解し切れないってか」

 

ジョーレンは揶揄うように言葉を返した。

 

「いや……まあそうかも」

 

「本当によくやったよ。クワットで出会った死にかけの…」

 

「バスチル少佐、ジルディール上級中尉」

 

ディゴール大臣が彼らの側により2人は大臣に敬礼した。

 

「任務ご苦労、よくやってくれた。ナブーの解放はガレルの解放と並んで我々の勝利を象徴する結果となった。本当によくやってくれた」

 

大臣は繰り返し彼らの任務の結果を褒め称えた。

 

ディカーを出立する頃とはまるで違っている。

 

「特にジルディール上級中尉の功績はナブー解放の直接的な要因となった。よってジルディール上級中尉は大尉に昇進することが決定した」

 

「本当ですか!?」

 

ディゴール大臣は頷き副官から新しい大尉のバッジを受け取る。

 

「これを君に」

 

今ある上級中尉の階級バッジを外し代わりに新しい大尉のバッジを付けた。

 

一歩離れてジェルマンは敬礼する。

 

「おめでとう大尉、これからも期待している」

 

「はい!大臣!」

 

ジェルマンは満面の笑みで敬礼しディゴール大臣の期待に応える心意気を増した。

 

隣でジョーレンも微笑んでいる。

 

次は自分の名前が呼ばれるとも知らずに。

 

「そしてバスチル少佐」

 

「はい…?」

 

「敵司令官自決の際、機転と素早い判断により降伏の既成事実を作り勝利に貢献したことも我々は高く評価している」

 

予想外のことを言われジョーレンはポカンとしていた。

 

その間にディゴール大臣は副官から勲章を受け取りジョーレンにつける準備をしていた。

 

「君には新しく作られた勲章を受け取ってもらいたい。今後も君の判断が我々を良い方向へ導いてくれることを願って」

 

勲章が付けられジョーレンも同じように敬礼した。

 

互いに新しいものが付けられどこか照れ臭そうだ。

 

ナブーの暖かい優しい風が2人を包む。

 

この時2人は初めて自分達の勝利を実感した。

 

 

 

 

 

 

-惑星マーカー ルーク・スカイウォーカー行方不明地点-

2、3機のUウィングがサーチライトを照らしながら夜のマーカーの荒野を捜索していた。

 

数人の兵士がハッチの側から身を少し乗り出してエレクトロバイノキュラーの目視で周囲を観察している。

 

『サーチャー2、どうだ?発見したか?』

 

別のUウィングから通信が届きパイロットがすぐに返す。

 

「サーチャー1からサーチャー2へ、こちらはまだ発見出来ず。サーチャー3、そちらはどうか?」

 

『こちらサーチャー3、こちらもダメです』

 

3機のUウィングともかなり長い時間捜索を行なっているが未だに足跡一つ見つからない。

 

ルークが乗ってきたXウィングも、彼が戦ったと思われる帝国軍の部隊の痕跡も全てだ。

 

『散開してもう一度探すぞ。捜索範囲を広げれば手がかりがっ…!なんだ…!?』

 

通信中のUウィングから突然けたたましい警報音が響いた。

 

「どうしました!?サーチャー1!?サーチャー1!?」

 

「機長!あれを!」

 

もう1人のパイロットが隣を指すとUウィングのエンジンが2基破壊され炎上していた。

 

そのままサーチャー1はマーカーの重力に引かれ浮上することなく地面に墜落し通信が途切れた。

 

何度も応答を呼びかけるがもうサーチャー1とは通信は繋がらなかった。

 

「ミサイル!?敵の攻撃か!?だがセンサーには…!」

 

『クソッ!やられた!』

 

サーチャー3は通信越しのそう言いながら地面に吸い寄せられた。

 

パイロットが「サーチャー3!!」と言うと同時にこのUウィングも大きな振動が襲った。

 

大ダメージを喰らいサーチャー1と同じく警報音が鳴り響いている。

 

「クソッ!嘘だろ!!」

 

必死に操縦桿を上げてなんとか不時着しようと努力した。

 

パイロットの努力は報われたのかUウィングは綺麗に不時着し衝撃と乗員達のダメージは最小限のもので済んだ。

 

しかも幸いなことに先ほど墜落したサーチャー3の近くに不時着出来た。

 

向こうもなんとか不時着の体制が取れたようで乗員の兵士達が武器を持って外に出ていた。

 

不時着したこのUウィングも急いでハッチを開き全員がブラスター・ライフルを持って姿を現した。

 

「一体なんの攻撃だ!?」

 

パイロットの問いにサーチャー3の乗員は「分かりません」と答えた。

 

「我々の機体は間違いなくミサイルや誘導兵器ではなくブラスター火器で直接攻撃を受けました。見てください、エンジンに小さな穴が幾つも空いてます」

 

燃え盛るエンジンには乗員の兵士の言う通りブラスター弾程度の穴が空いていた。

 

「どう言うことだ……空中からブラスター弾で撃たれたのか…?」

 

パイロットは謎の冷や汗を拭いながらエンジンの傷を見つめた。

 

周りでは他の兵士達が予備のブラスター・ライフルや非常時の為に持ってきたブラスター砲、イオン・ブラスターを持ち出し簡易的な防衛陣地を作っている。

 

この状況下ではいつ敵が襲ってきてもおかしくはない。

 

「こちらルーク・スカイウォーカー捜索隊、本部、聞こえるか本部!応答してくれ!」

 

通信機で本部と連絡を取ろうとする兵士もいたが全く繋がらず最終的には「クソッ!」と諦めてしまった。

 

機体もこれだけ損傷していては修復など不可能に近かった。

 

Uウィングもほぼ破壊され通信も繋がらないようでは当面はこの惑星から離脱出来ない。

 

尤も“()()()()()()()()”は別だが。

 

暗闇から突如赤い光弾が1発、放たれ捜索隊の兵士を辺り射抜いた。

 

殆ど無音の弾丸は撃たれた兵士の声すらも奪い静かな暗闇にボスンと死体が斃れる音だけが響いた。

 

だがその音が彼らへの宣戦布告であり戦闘開始の合図だった。

 

全ての兵士が一斉に物陰に隠れブラスター・ライフルを構えた。

 

「そいつはもうダメだ……!頭をやられてる……」

 

斃れた兵士を引き寄せようとする別の兵士を上官の伍長が引き止めた。

 

「来るぞ…!」

 

捜索隊の副隊長の少尉の言葉と共に全員がブラスター・ライフルを構えた。

 

暗闇の奥底から何個かの赤い目のようなものが、ゆらりゆらりとゆっくり前に進んでいる。

 

徐々に姿が現れ始め兵士の誰かが「IGシリーズのアサシン・ドロイド…!」と相手の製造元を呟いた。

 

そのIGシリーズの暗殺ドロイド、正式名称IG-99Eは両手で持つブラスター・ライフルを構え発砲出来る状態を整えた。

 

敵に撃たれる前にと捜索隊の兵士達は少尉の「撃て!」という命令と共に一斉ブラスター・ライフルの引き金を引いた。

 

赤や水色の光弾が何百発も一斉に放たれIG-99Eを襲う。

 

しかしIG-99Eは素早く弾丸を躱し岩影や木の影など遮蔽物を上手く利用しながら兵士達に接近する。

 

IG-99Eはまず自分にとっては厄介なイオン・ブラスターの砲手を優先して仕留めようとした。

 

パルス・ソードキャノンで砲手を素早く皆殺し、一時的にイオン攻撃を停止させる。

 

撃たれた兵士は地面に倒れ、他の兵士は仲間を守ろうと前に出た。

 

冷酷な暗殺ドロイドはこの兵士の一部隊の中に脚部の小型ミサイルを撃ち込む。

 

小型でも威力は十分で負傷した仲間を取り囲んでいた兵士達が3、4人一気に吹き飛んだ。

 

爆発によりコンテナなどで作ったバリケードも破壊され兵士達は攻撃態勢を少し変えた。

 

IG-99Eは容赦無くパルス・キャノンの弾丸を相手に撃ち当て、得意の接近戦に持ち込む。

 

彼が両手に持つパルスソードキャノンはその名の通り接近戦が可能な銃剣が最初から取り付けられている。

 

この銃剣はライトセーバーとの鍔迫り合いにも耐えられる代物で“()()()()()()()()()()”の名の通り、この武器はジェダイとも対等に戦えるし殺せる。

 

尤もそれはこの暗殺ドロイドが使ってこそ意味のがある。

 

弾丸を撃ちまくりながらIG-99Eは接近し銃剣で敵兵を斬り付け斬殺する。

 

返り血が黒色のボディに付き、このドロイドの狂気的であり狂信的な本性をより表面に出した。

 

兵士達はなす術もなく斬り殺されなんとか格闘戦で戦おうとする兵士も足を暗器で痛めつけられその隙に銃剣で心臓を突き刺された。

 

背後から押そうとする兵士も銃剣を引き抜き奇妙な体勢でパルス・ソードキャノンを構え引き金を引くIG-99Eの前に斃れた。

 

バタバタと兵士が倒され辺りには血と死体が散乱していた。

 

「なんだあいつは!?あんなのに勝てる訳ねぇ!!」

 

「おっおい!」

 

ある1人の兵士が恐怖に屈し逃げ出そうとした。

 

2人の兵士は止めようとするがIG-99Eの前には脱走兵も普通の兵士も大した違いはない。

 

皆“()()()”であり、聖戦に楯突く不信仰者、抹殺の対象だ。

 

彼らを皆殺しにし勝利を主に捧げることでIG-99Eのドロイド脳に植え付けられた“()()”は満たされ暗黒面も応えてくれる。

 

鉈を飛ばし逃げ出す兵士の背中を一突き刺し残りの2人をキャノンで撃ち殺す。

 

更に鉈をウィップで取り戻しそのまま鉈ごとウィップを振るう。

 

先端の鉈が力強く振られまだ生きている兵士達の手や足、顔や胴体のどこかしらを傷づけた。

 

ウィップを戻し鉈をしまうと生き残った兵士達をIG-99Eは1人づつ確実に始末した。

 

1人、1発ずつの銃声が聞こえその為に兵士達の断末魔や引き裂けるような声がマーカーの荒野に響いた。

 

「うう……嘘……だろ……」

 

Uウィングを操縦していたパイロットは地面を這い蹲りながら弱々しい声で呟いた。

 

彼の足はIG-99Eの鉈によって斬り裂かれもう1本なくなっていた。

 

他の箇所も切り傷だらけだ。

 

彼の目の前に先ほどまで話をしていた多くの兵士達が死体となって転がっている。

 

もはやうめき声一つ聞こえない本当の死の静寂だ。

 

そして遂にパイロットの側にも死を司るドロイドが足音を立てながら迫ってきた。

 

「……ク……ソ…ッ……」

 

刹那、銃声と共にパイロットの命は暗黒面の流れに運ばれた。

 

周囲に生者が存在しないことを確認するとIG-99Eはパルス・ソードキャノンをしまい死体だらけの戦場を後にした。

 

これでルーク・スカイウォーカーを探しに来た者はもう誰もいなくなった。

 

彼の消息は完全に絶たれたのだ。

 

 

 

 

-第三帝国領 アウター・リム・テリトリー オジョスター宙域 ウェイランド星系 惑星ウェイランド ウェイランド・ミディ=クロリアン研究所-

ヴォーレンハイト少将はいつも着ている白衣を脱ぎ、親衛隊の制服姿のまま急いで応接室に向かっていた。

 

応接室の前には警備兵の将校が2人立っており、ヴォーレンハイト少将の姿を確認すると敬礼した。

 

「既に到着しています」

 

「ああ、中に入れてくれ」

 

「承知しました」

 

解除コードを入力しヴォーレンハイト少将は応接室の中に入った。

 

応接室のソファーには既にコルサントから来た客人がティーカップを持って座っていた。

 

その背後には2人のFFSBの将校が立っており他の面々に威圧感を与えている。

 

ヴォーレンハイト少将の到着を確認するとソファーに座っていた将校も立ちヴォーレンハイト少将に敬礼した。

 

少将も敬礼を返しソファーに座る。

 

「お久しぶりです、ヴォーレンハイト少将。ウェイランドでの研究は如何ですか?」

 

将校の問いにヴォーレンハイト少将は「報告書で送った通りだ」とだけ返した。

 

「それより何故君がここに?フリシュタイン大佐。ハイドレーヒ大将の懐刀が態々何用でここに来た」

 

コルサントからの客人、フリシュタイン大佐は口元まで近づけていたティーカップを皿に戻しヴォーレンハイト少将に目を合わせた。

 

白髪に近い銀髪、秀麗で整った顔。

 

美形でありながらも彼の冷酷さは恐らくハイドレーヒ大将にも勝るとも劣らないだろう。

 

「研究報告は逐一細かく送っているはずだ。ハイドレーヒ大将やヒェムナー長官、シュメルケ元帥らからも『引き続き頼む』と言われた」

 

「私がここに来た理由は報告書の催促ではありませんよ。もっと重要な要件です」

 

「では一体なんの要件だ」

 

ヴォーレンハイト少将は目の前の親衛隊保安局の有力人物に物おじせず尋ねた。

 

彼らに怯えているようではこのウェイランド研究所の所長など務めらない。

 

「ウェイランド研究所の研究成果を発表してもらいます。“()()()()()()”」

 

その一言でヴォーレンハイト少将は察しがついた。

 

遂に、遂に想定されていたことがやってきてしまった。

 

ヴォーレンハイト少将の研究の原点は以前まで帝国の特殊機関が“()()()()”と結託して行なっていた。

 

元より知識や技術のあるその組織は“ハーヴェスター計画”という名で研究を行なっており実際に何人かのフォースの戦士を生み出していた。

 

今ヴォーレンハイト少将達が行なっているトレードチップ計画はハーヴェスター計画のデータの復元、そして新たな理論やハーヴェスター計画では行われなかった本格的なフォース感受者の人体実験など新しい角度からの研究を行なっている。

 

銀河内戦の影響でハーヴェスター計画の内容は消失し復元不可能となってしまったものも多い。

 

ロストテクノロジーを追いつつ新たな研究で前計画を追い越す、それがウェイランド研究所の使命だ。

 

そしてその研究結果を第一人者であり新たな第三帝国らを束ねる者へと献上せねばならない。

 

「貴方もご存知のはずだ、彼らは我々よりも一歩も二歩もこの手の研究に際しては先を行っている。彼らにこの研究の成果を見極めて貰い、新たな助言を今後に活かすのも重要なことです」

 

「……我々研究所に拒否権など無論ないのだろう?」

 

「ええ、勿論です。これは既に親衛隊司令部による決定がなされています、今回は直接私が代表としてお伝えに参りました」

 

つまり拒否権もなく必ずこの研究所の子供達を何人か連れていかなければならないということだ。

 

あの地に子供達を連れて行けば何をされるか分からない。

 

「誰を連れて行くかは貴方の選定次第ですが1人だけ、必ず連れて行ってほしい被験者がいます」

 

「誰だ?」

 

考えても分からないのでヴォーレンハイト少将はフリシュタイン大佐に尋ねた。

 

同じ親衛隊員だとしても指導部の一部は本当に腹の底で何を考えているか全く分からない者ばかりだ。

 

そんな中フリシュタイン大佐の口から放たれたのは意外な一言だった。

 

「ブルクハルト・オットー・フューリナー、フューリナー上級大将のもう1人のご子息にして貴方の、“()()()()”」

 

「……彼を、彼を連れていけというのか……?」

 

動揺を隠し切れない様相でヴォーレンハイト少将はフリシュタイン大佐にそう尋ねた。

 

フリシュタイン大佐は何故ヴォーレンハイト少将がこんなに動揺しているのか理解しかねると思っていた。

 

彼らは所詮どこまで行っても被験体でしかないのだしある意味では消耗品だ。

 

我々と同様変わりはいくらでもある。

 

「はい、司令部の命令であると同時に計画の為でもあります。彼には貴方から伝えるよう頼みます。日程や重要記述はこちらに」

 

フリシュタイン大佐はタブレットを手渡しヴォーレンハイト少将に見せた。

 

少将は真剣な面持ちでタブレットを見つめている。

 

我々は任務を果たした。

 

「それでは、我々はこれで失礼します」

 

「ああ……遥々報告ありがとう」

 

口ではそう言っていてもヴォーレンハイト少将はフリシュタイン大佐の一行に目も合わせようとしなかった。

 

ただずっと下を向きタブレットを見ている。

 

部下を引き連れフリシュタイン大佐は応接室を後にした。

 

一行はあえて実験室の見える通路を通った。

 

「報告書通り、計画は順調そうですね」

 

リッツァー中尉は様子を眺めながら少し暗い表情でフリシュタイン大佐に告げた。

 

「彼の手腕は間違いない。それは既に“()()()()()()()()()”で証明されている」

 

「そういえば大佐、以前一部の親衛隊将兵が何人かの候補生の記録を改竄していた件ですが、対象の候補生達を再検査した所やはり数値の基準は満たしていませんでした」

 

ミシュトライン中尉は話に関連付けてそうフリシュタイン大佐に報告した。

 

あの事件は彼らが直接その場で現行犯逮捕したものだ。

 

コンプノア・ユーゲントの候補生の適性検査の際に不正に検査データにアクセスし一部の候補生のデータを改竄していた事件。

 

改竄された候補生はほんの数人だけだったがもし数百人規模に渡っていたらかなり面倒なことになっていただろう。

 

「だろうな、そんなに多くフォース感受者が出現するとは思えない。基準を満たしていた候補生への処置は?」

 

「既に“()()()()()”への移籍を命じてあります。大多数はこのウェイランドへ来るでしょう」

 

ミシュトライン中尉の返答にフリシュタイン大佐は満足そうに「それでいい」と呟いた。

 

「我々はこの銀河で初めて人工的なフォース感受者による軍隊を形成、運用しなければならない。それこそが第三帝国と我々親衛隊に与えられた重大な使命の一つだ」

 

フリシュタイン大佐の演説じみた言葉に2人の中尉は大きく頷いた。

 

やがてこの研究は第三帝国を、それを守る親衛隊を強化するだろう。

 

我々がフォースに操られるのではなく、“()()()()()()()()()()()()”。

 

邪悪な狂気と人道から外れた計画は銀河系で今日も順調に稼働中である。

 

 

 

 

 

 

レイア達の訪問から3日が経ち、ナブーでは勝利と解放を祝う祝賀式が執り行われようとしていた。

 

多くの解放されたナブー高官達とレジスタンス側の高官達が参列し街中が祝賀のムードで彩られていた。

 

ジェルマンとジョーレンも勲章などを付けた正装に身を纏い式典に参加している。

 

しかしジョーレンが勲章の一つをUウィングのコンテナに忘れてきてしまった為慌てて撮りに行っていた。

 

「こんな時に忘れ物なんて……珍しいのか、それともらしいというのか」

 

「いやぁ勳章なんて何年振りに付けたか分からないからすっかり一つ忘れてしまった」

 

2人は少し早足で歩き急いで宮殿の方を目指した。

 

多くのシード市民が祝賀式に参加しておりその中にはある見慣れた人物もいた。

 

「あっあの人」

 

「どうした?」

 

ジェルマンはその人物を見つけジョーレンは首を傾げた。

 

「前に商品を買った店の店主だよ。あの人も式典に来てるんだ」

 

何処か感慨深そうにしているとその店主がこちらに顔を向けた。

 

しかも2人のことを気づいたのか人を掻き分けてジェルマンとジョーレンの下へ駆け寄ってきた。

 

2人は立ち止まりその店主は2人の前に現れた。

 

「あんたたち…っていうかあんた、もしかして前にうちにきた…?」

 

「はい、その……実はこういうものでして……」

 

ジェルマンは店主の問いに答えたがばつが悪そうに苦笑いを浮かべ軍服を示した。

 

あの時彼の店に訪れた時は当然観光客だと偽っており相手もまさかレジスタンスの軍人であるとは思ってもいなかっただろう。

 

もしかしたら騙されたと店主を不快にさせてしまうかもしれない。

 

ジェルマンは一瞬だけそのようなことを考えたが店主はすぐにニッコリと満面の笑顔を浮かべた。

 

「そうかい…!そうだったかい…!なんだか嬉しいな……あんた達が軍人さんなら新共和国クレジットでも支払いオーケーにしておくんだった」

 

店主のジョークに2人は微笑を浮かべ微笑ましい空間が広がった。

 

店主は涙ぐみながら2人に話した。

 

「……俺は、俺は子供の頃、丁度ナブー侵略に遭ってな。こないだみたいに街は他所の軍隊に占領され戒厳令が出され酷い目に遭った」

 

「そうだったんですね……」

 

「抵抗しようとした俺の両親は捕まってね、そのまま帰ってくることはなかった。今だってそういう家族や子供達はいっぱいいるだろうさ」

 

店主の言う通り両親や親族が殺害ないし逮捕されそのまま行方不明になっているケースは既に浅く調査しただけでも何十件も確認されている。

 

その殆どが抵抗罪や反逆罪、戒厳令違反、エイリアン種族を匿った罪など色々だ。

 

恐らく大半がナブー本星外に移送されたか殺されたか、恐らく今後もそのようなケースは増えていくだろう。

 

ナブーだけでなく銀河全域で。

 

「あの頃は結局共和国って存在は直接助けてはくれなかった。何人かのジェダイとやらがいたようだが宮殿を取り返したのはアミダラ女王陛下方だ」

 

怒りや諦め、何処か悲しみを帯びた声で店主はそう語った。

 

当時の銀河共和国ならそれは“()()()()”で済まされてしまう。

 

腐敗と停滞によりまともに機能していなかった。

 

もしかすると新共和国もああなっていたかも知れない。

 

「だがな、4年前も今もあんた達にとっては他所の星のナブーの為に助けに来てくれて戦ってくれた。俺が子供の頃とは違う、あんた達にみんなが助けられた」

 

「いえ、そんな」

 

「ああ、我々だってナブーの民が戦おうとしなければ助けられなかった」

 

「だとしてもだ、ありがとうな。俺も他の奴らもナブーも、あんた達に助けられた」

 

店主は微笑を浮かべ礼を言った。

 

本当に端的なありがとうという一言だったがそれだけで十分伝えきれない感謝の気持ちまで2人に伝わった。

 

ジェルマンとジョーレンも珍しく目頭が熱くなり被っている軍帽で隠し同じように微笑を浮かべた。

 

「どうも、それじゃあ我々はもう行かないといけないから」

 

「そうかい、時間を取らせて悪かったな」

 

「いえ、こちらこそありがとうございました。それじゃあ」

 

「それじゃあな、ありがとう軍人さん達」

 

ジェルマンとジョーレンは敬礼しその場を去り店主は微笑を浮かべたまま手を振った。

 

暫くシード宮殿に向かって歩き数分経ったところでジェルマンは口を開いた。

 

「あの店主の人、すごい喜んでたね」

 

店主の顔を思い出しジェルマンは再び暖かい気持ちになる。

 

「ああ、俺もあんなこと言われたのは初めてかもしれん。ずっと裏方だったしクローン戦争中なんて我々の存在はあってないようなものだ」

 

ジョーレンは何処か不思議そうな理解不能といった表情で淡々とそう喋った。

 

彼にとっては本当に感謝されることなど稀だったのだろう。

 

クローン戦争中では彼の言う通りジョーレン達を公にする事は出来ないし反乱軍の時代は恐らく汚い仕事ばかりやっていただろう。

 

その後はずっとクワットに潜伏し存在自体が殆ど抹消されていた。

 

そんな中で上官や同僚以外に初めて感謝の言葉を投げかけられた。

 

初めての感情で唖然とする他ないだろう。

 

「これから戦いが進んで他の惑星も解放されていった時、またこういう事言われるのかな」

 

ジェルマンはふと尋ねた。

 

ジョーレンは少し考えたが答えは出ずといった表情だ。

 

「さあな、さっきも言った通り俺はあんな事言われたのは初めてだ。でもきっと言われるさ、俺達は完全な正義じゃなくとも“第三帝国とやらよりはずっとマシだ”」

 

ジェルマンは小さく頷いた。

 

「このナブーみたいに罪もない一般人を意味もなく大量に殺して孤児を溢れ返させるような連中は必ず倒さなければいけない。倒してナブーと同じく元の姿に戻してやらないといけない」

 

「ああ、“()()()()”じゃなくて“()()()()()()()()()()”。第三帝国を必ず倒す」

 

昔は勝てるのかという小さな不安があった。

 

だが今ではそんな不安はもうない。

 

必ず勝ち必ず第三帝国を倒さなければならない。

 

たとえあの帝国がどれだけ巨大でとても勝てそうに見えなくとも諦めずに立ち向かわなければならない。

 

立ち向かい続けていれば必ずチャンスは訪れるはずだ。

 

我々は第三帝国に勝つ。

 

「それに勝てるさ、ノルマンディーとやらでは痛手を喰らったが各地では抵抗運動が盛んになりモン・カラやキャッシークでは反撃が始まっている。それにここも一つ勝利を得た」

 

そうだ、もうレジスタンスの攻勢は目に見える姿で始まっている。

 

報告ではガレルも解放し各地で快進撃が続いているそうだ。

 

各地ではハンやチューバッカ達に教導された抵抗組織が第三帝国に対して反旗を翻している。

 

そしてこのナブーも解放した。

 

まだ道は遠くとも歩みは始まっている。

 

レジスタンスの勝利の歩みが。

 

だが2人はまだ気づいていなかった。

 

レジスタンスの勝利の歩みに合わせて暗黒の使徒が銀河系に放たれ背後を付け狙っている事を。

 

2人はこの後知る事となる。

 

ある場所から放たれた声明と共に。

 

2人はそのまま宮殿の中に入り待機室を抜け近くの情報室に入った。

 

多くの保安将校や戦功を挙げた精鋭の兵士達が礼装で待っている。

 

その中には当然メンジス三佐らもいた。

 

「お疲れ様です!」

 

ジェルマンは声を掛けホロテーブルの前に座っていたメンジス三佐に敬礼した。

 

彼は振り返りジェルマン達に敬礼を返す。

 

メンジス三佐もシード宮殿奪還の功績が認められ二等陸佐に昇進、保安軍の特別情報室の情報室長に就任した。

 

「ジルディール大尉、バスチル少佐、ようやくお戻りでしたか」

 

「それで今は何をされているんですか?」

 

メンジス二佐達は何故かホロテーブルを囲みニュースチャンネルをいじっていた。

 

後数十分で祝賀式が始まってしまうというのにだ。

 

「それが先程から通信回線がどうも悪くて……民間はともかく宮殿で使用している通信もどうも不調子でして」

 

「その為に調整を?」

 

「はい、祝賀式中に何か大規模な不具合が起こったら困るので。しかし一体何が原因なのやら……」

 

メンジス二佐は体をホロテーブルに向け直し頭を掻いた。

 

ジェルマンとジョーレンもホロテーブルに近づいた。

 

「帝国の妨害行為かもな」

 

「いや、それにしては範囲が小規模過ぎる。正直帝国のホロニュース程度なら見れなくなったところで不都合は……」

 

ジェルマンが全てを言い切る前にホログラムが歪み何か新しいものを形成し始めた。

 

メンジス二佐が慌ててコンソール付近の将校に「何か操作したか?」と尋ねる。

 

しかしその将校は首を振りスイッチを押してもこのホログラムは消えなかった。

 

急いで他の将校達が原因を捜索し始めるがその前にホログラムがある一つ紋章のような形となった。

 

「なんだ…これは…?」

 

多くの将兵がこのホログラムに釘付けになる。

 

一体なんの紋章なのか、ジェルマン達には検討が付かなかった。

 

数秒の間を置きホログラムから音声が発せられる。

 

『我々に幾千年も前から楯突く愚かな反逆者どもよ』

 

ホログラムから発せられたのは老人の声、それも重鈍とした恐怖を感じる重みを含んだ低い声音だ。

 

その声音は更に言葉を続ける。

 

『我々は其方らを討つ為幾千の軍団と幾百の軍艦を引き連れ銀河へと還る』

 

「通信はどこから来ている!?」

 

メンジス二佐は部下に尋ねるも部下は「わかりません…!」とそれだけしか返せなかった。

 

老人の宣言はまだ続く。

 

『我々は紅き剣を戦列に並べ立て、鋼鉄の破壊者達が紅き長槍と共に前進し其方らを1人残らず討ち取るであろう』

 

「なんのことを言っているんだ…?」

 

「分からん…」

 

『さすれば帝国は全て統一され再び安全で安定した共同体へと、“新秩序(ルビ New Order)”へと姿を変えるであろう。幾千年と続く帝国を、幾万と続く帝国へ』

 

その一言を聞いたジョーレンは眉を顰めた。

 

聞き覚えるがある、この老人が今喋ったことが遥か昔に同じことを聞いた気がした。

 

それはまた別のところで声明を聞いているディゴール大臣達もそうだ。

 

大臣は怪訝な表情でこの声明を聞いていた。

 

「彼らが報告にあったガレルの駐留艦隊を殲滅したのでしょうか……?」

 

「恐らくはな……そしてこの言種……ニュー・オーダー……まさか…」

 

ディゴール大臣は眉を顰める。

 

その昔同じ発言を元老院の壇上から放ったある男の事を思い出した。

 

だが奴は死んだはずだ。

 

「…何だか凄く嫌な予感がします……恐ろしく悍ましいものが……」

 

「オーガナ議長…?大丈夫ですか…?」

 

悪寒を感じ偏頭痛のような頭の痛みを抱えレイアはその場に座り込んだ。

 

彼女が持つフォースが何かを感じ取らせたのだろう。

 

心配した周りの人間が彼女に駆け寄る。

 

「ルーク……」

 

老人の宣言はまだ続いた。

 

『我々は帰還する者であり、我々は旧領を奪還する十字軍であり、帝国の統一者である。やがては我々のこの赤き紋章がこの銀河全域に翻る事となるだろう!』

 

最後に老人はジェルマンや多くの人々に向けて己の名と進み征く組織の名を名乗った。

 

『我々の名は“シス・エターナル”、シスの永遠の繁栄を祈り導く者達。そして“余”の名は……』

 

-ダース・シディアス-

 

その一言は高らかに宣言された。

 

常に銀河の裏側にいたシス最大の暗黒卿がその名を銀河系に告げたのだ。

 

()()()()()()()()()()()”ではなく“()()()()()()()()()”と。

 

遂に始まってしまった。

 

シスによる新たな侵略が、シスによる次の戦争のステージが。

 

最後のシス卿による戦争の加速が始まる。

 

未知領域からシスの大軍が来襲する。

 

長槍(Xyston)”と“(Eclipse)”による破滅の一撃が先兵となりレジスタンスに襲い掛かる。

 

シス・エターナルVSレジスタンス。

 

間も無く“9ABY”、その一言と共に26年後の対決が今始まった。

 

 

つづく




わ た し だ

というわけでナチ帝国もついに49話!!

長いですわね…本当はこんなにやる予定なかったのにな…

しかしこれでひとまずナブー編は終わりっす

でも悲しいことにこれからが地獄みてぇな戦場の始まりっす

戦争は地獄だで()


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銀河系の夜明け
シスの帰還


「我らは暗闇を征く者である。銀河は常に暗黒に満ち溢れその先は誰も知らない。ならばこそ銀河を征き我らは鎖を解いて回る。我らは闇に慣れ、常に備え続けなければならない。勝利と自由を手にする為に、この暗闇を生きていく為に。主は我らを常に導くであろう」
-シス信奉者の手紙より抜粋-


シス・エターナル。

 

その存在が銀河系に知らされるのは今より26年後のことだ。

 

しかし時計は大幅に早められシス・エターナルは今、宣戦布告の声と共に銀河へと帰還を始めた。

 

第三帝国の存在が銀河系の時間を大幅に狂わせてしまった。

 

彼らの勝利は帝国の勝利であったがその代償として多くの命だけでなく時間さえも奪ったのだ。

 

その代償の結果が今未知領域から放たれている。

 

何百隻のスター・デストロイヤー、死後の世界を思わせる雷鳴轟く蒼白の世界。

 

シスの幾つかの聖地の一つであるこの地惑星エクセゴルでは隠された信奉者達がその信奉を唱和に合わせている。

 

何十万、何百万人の赤い装甲服を着た兵士がブラスター・ライフルを手に持ち整列している。

 

上空には6年も前から準備されていたシス・エターナルの忠実なる長槍、“ジストン級スター・デストロイヤー”。

 

そして幻のドレッドノート、“エクリプス級ドレッドノート”と“ソヴリン級スーパー・スター・デストロイヤー”。

 

前者はともかく後者は本当に計画でしか存在しなかった。

 

あの“ルサンキア”が存在していたコルサントの特別区画にもこの二隻のスーパー・スター・デストロイヤーの存在は書類上の計画の上でしかいなかった。

 

その為誰しもがこの艦は存在しない、幻の計画艦だと信じて疑わなかった。

 

噂話程度しか知らないレジスタンスの将兵も、この情報を知っている帝国軍の上層部でさえもだ。

 

だがこの艦は確かに存在している。

 

エクリプス級に至っては二隻、ソヴリン級は一隻軌道上に艦隊の旗艦として堂々たる姿を見せていた。

 

僚艦たるジストン級スター・デストロイヤー数百隻は殆ど自身の船体の一回りほど小さいインペリアル級と殆ど同じ見た目をしている。

 

しかし船体の下船部には巨大な大砲が備えられており赤い不気味な線が船体に引かれていた。

 

この艦こそ正に星を破壊する者を体現した姿だ。

 

時間さえかければこの銀河すらこの宇宙から消してしまうだろう。

 

これら全ての軍艦が、赤き尖兵達の軍隊が、それらを支え祈りと信奉を捧げる信奉者達が全てある1人の男が座る玉座を守っている。

 

信奉者の祈りは男の力を繋ぎ止め、尖兵達の軍隊はその力を持って男を直接守護し、全ての軍艦は男の敵を容赦無く消し飛ばす。

 

無敵の集合体、狂信的な一団、絶対的な大軍。

 

シス・エターナル全ての側面でありどれが欠けてもシス・エターナルを永遠たらしめる事は出来ない。

 

「祈りを捧げよ信奉者よ、余の玉座を守護せよシスの軍隊よ、外敵を全て排除せよシスの艦隊よ。シスの偉業と悲願が千年、万年と永遠に続くように!」

 

一斉に信奉者達は声を上げ赤き兵士、シス・トルーパー達は腕を上げ、艦隊は青いエンジンを更に燃やしている。

 

赤きシス・エターナルの紋章の入った旗が翻り我々の勝利を示そうとしていた。

 

周りに潜む異物の集団も男への忠誠とシスへの信奉心を示している。

 

「余の敵を全て滅ぼせ!余の敵のいる場所へ攻め立て進軍せよ。余の敵が来る侵略軍を全て打ち倒し守り続けよ。それこそがこのシス・エターナルに与えられた使命である」

 

再びワッと歓声が上がる。

 

男の演説は31年前から、28年前から素晴らしいものだ。

 

だがそれは彼のカリスマ性と今までの功績のみでありそこに異常なほどの信奉が揃えば更なる歓声に繋がる。

 

これこそがシス卿の力の全てだ。

 

自らが作り上げたものが今自分の目の前に広がっている。

 

素晴らしい光景だと男は自覚していた。

 

ダース・シディアスとして作り上げたものがこれだ、最強にして永遠の存在だ。

 

そして男はシーヴ・パルパティーンとして作り上げたものを取り戻さなければならない。

 

両方男が1人で作った男のものだ。

 

代理総統や大提督のものではない。

 

「まずは余の長らくの敵を打ち倒せ。我が軍の指揮を其方が取れ」

 

男は新たな自分の弟子の名を呼んだ。

 

「“()()()()()()()()”」

 

新たなダース・ヴェイダーはやはりスカイウォーカーでなくてはならない。

 

ルーク・スカイウォーカーは黒いフードを下ろしその命に従った。

 

新たなる希望はシスの希望となる。

 

9ABY。

 

銀河系から明かりが消え、暗闇の夜が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未知領域の遠く彼方から宣戦布告の声が響くより前の刻、ある一隻のジストン級スター・デストロイヤーが聖地エクセゴルへと帰還した。

 

このジストン級は出撃の際は外部のナビゲーション・タワーの座標情報に依存せざるを得ないが帰還する時はそうではない。

 

この艦は単艦で対象者を引き連れエクセゴルへと帰ってきた。

 

「艦長、エクセゴルに到着しました」

 

副官の中尉と思われる人物がこのジストン級“ピルグリム”の艦長に報告した。

 

彼らの組織の名はシス・エターナル、そして彼らはシス・エターナル軍の将校。

 

挨拶やこの艦のちょっとした会話からそれくらいは予測が出来た。

 

現在この“ピルグリム”に囚われのルークにでさえ。

 

ライトセーバーは取られたが意外なことに手錠は付けられなかった。

 

恐らくは自分を連れてくることが目的なのだろうし物量で押しさえすれば無力化出来るとも踏んでいるのだろう。

 

事実流石のルークとはいえこの2,400メートルの大型艦船の全人員と戦って勝てる見込みはない。

 

ただの乗組員ならともかく今ルークの背後にピッタリくっ付いている赤いアーマーのストームトルーパーも多くいる。

 

アーマーも赤いだけでなく細部に微妙な差異が見られブラスター・ライフルもただのE-11とは形状が少し違う。

 

戦闘力も並のストームトルーパーより強いという雰囲気を受け取れた。

 

それにルークの隣には皇帝の手ことマラ・ジェイドとR2-D2がいる。

 

ルーク1人ないしR2と2人だけなら簡単に脱出出来るだろうが迷いのある彼女を連れての脱出は無事に済まない確率の方が高い。

 

途中で彼女と再び戦闘になる可能性もある。

 

「スカイウォーカー殿、皇帝の手、エクセゴルに到着しました。シャトルを用意していますのでそちらで地上に」

 

艦長は2人にそう促した。

 

「行きましょうスカイウォーカー卿、我らの主がお待ちです」

 

マーカーでルークに挨拶した男が再び頭を下げ艦長に続いてルークに促す。

 

ここで逆らっても良いことはひとつもないので促されるままに彼らに続いた。

 

艦長が部下から受け取ったものをルークに手渡す。

 

「それとこれをお返しします」

 

それは奪われたルークのライトセーバーだった。

 

ルークは機械の右腕で受け取り隣にいたR2も意外だと言った面持ちで見つめていた。

 

マラ・ジェイドはとても注意深く見つめていた。

 

いつこの男がライトセーバーを抜くかというのを見極めようとしているのだろう。

 

だがルークはライトセーバーを受け取りベルトのホルダーに静かにしまった。

 

彼女が危惧していたようなことは特にしなかった。

 

「では行きましょう」

 

艦長に連れられルークはマラ・ジェイドやR2と共に歩き始めた。

 

すると途中で1人の将校が「お前はダメだ」とR2を止めようとする。

 

ルークは歩みを止めた。

 

「彼は僕の友達だ、彼も連れて行く」

 

R2の前に立ちルークは父の代からの親友を庇った。

 

将校は「しかし…」と納得していない様子だったが艦長が「いい」と将校を宥める。

 

「すみませんスカイウォーカー殿、行きましょう」

 

艦長に連れられて彼らは“ピルグリム”のハンガーベイに停泊していたラムダ級に乗り込みエクセゴルの地表へと向かった。

 

この惑星は全体的に暗く不気味で何もない。

 

それを示すようにこの惑星からはダークサイドのフォースを強く感じていた。

 

ルークが少し頭を抱えため息を吐くほどだ。

 

この地は本当にシスの聖地に相応しい場所であろう。

 

R2は電子音で「大丈夫か?」と体調の優れなさそうなルークに尋ねた。

 

「ああ、大丈夫だよR2。ここはダークサイドのフォースが強いみたいだ、まさかまだこんな場所が残されているなんて」

 

もはや勝利が確定した銀河内戦末期、ルークは特別任務という体で各地のジェダイの聖地や残された資料を見付けるために探索していた。

 

ピリオの皇帝の保管庫では意外な物も手に入れられた。

 

しかし第三帝国の台頭と新共和国の敗北により状況は大きく変わり特別任務を続けられる有様ではなかった。

 

故にエクセゴルの存在もまだ知れなかったのだ。

 

ルークは窓から見える艦隊の姿を見つめた。

 

ルークが乗ってきたジストン級と同じスター・デストロイヤーが何百隻も艦列を並べている。

 

「これが皇帝の遺産……皇帝が最期に残したものか」

 

「まさかこんなところが存在していたなんてね」

 

マラ・ジェイドは意外なことにこの地をどうやら知らなかったようだ。

 

ルークよりもやや冷めた目で外の光景を見つめている。

 

「君もここを知らなかったのかい?」

 

マラ・ジェイドは答えなかったがどうやら知らないようだ。

 

一行を乗せたラムダ級は宮殿のような岩場の近くに停泊した。

 

「さあスカイウォーカー卿、皇帝の手、どうぞ」

 

男に導かれ2人とR2は護衛のトルーパーらと共にラムダ級のハッチから降りた。

 

外に出るとエクセゴルの肌寒い空気が肌の神経に触れ周りを見れば何十人かの将校とトルーパーが綺麗に整列し一行を出迎えた。

 

帝国軍や帝国の高官達が出迎えを受ける時の一般的な姿だ。

 

まさか自分がこんな扱いを受けるとはとルークは不思議な感触に見舞われた。

 

「こちらです」

 

男は2人を導き宮殿の中央に向かった。

 

宮殿は赤いトルーパーとその衛兵種と思われる護衛に守られ警備は厳重だ。

 

宮殿の奥からはただならぬ雰囲気を感じ、辺りを見回せば怪しい黒いローブを着た者達が何かを話している。

 

一体いつからこの場所はこれだけの者が住み組織として成り立っているのだろうか。

 

あの上空のスター・デストロイヤーの艦隊も一朝一夕で出来たものではないはずだ。

 

銀河帝国だってインペリアル級を二万五千隻も保有していたがそれだけの数を揃えるには長い年月が必要だった。

 

となればこの艦隊もそうなのだろうか。

 

まだ数百隻程度だと見受けられるがそれでも建造には長い長い年月が掛かったはずだ。

 

我々の知らないところでこんな艦隊が、こんな者が出来上がっていたなんて。

 

ルークは恐れを抱きつつ男の行くままに歩いた。

 

長き階段を渡り男が目指していた場所が見えてきた。

 

石造の塔のような場所には玉座がありそこにはルークでさえ一度は目にしたことのある人物が座っていた。

 

「お連れしました、我が主」

 

男は丁寧に頭を下げ2人を男の主に見せた。

 

その姿はルークとマラ・ジェイドの方からも見えている。

 

あまりの衝撃にルークは口を閉ざしマラ・ジェイドは絶句しその場に座り込んだ。

 

「どうして……どうしてここに……」

 

マラ・ジェイドはそう呟きながら涙を零した。

 

玉座の男は2人を見て口を開いた。

 

「こちらに、もっと寄ってくれ」

 

嗄れた声は前に聞いた時よりも増して今にも死にそうな雰囲気を醸し出している。

 

男の玉座の周りには特殊な機械やコードが見えておりまるでそれが玉座の男の命を繋ぎ止めているかのようだ。

 

近くには衛兵だけでなく黒いローブを被った手練れを思わせる者達が2、3人立っていた。

 

恐らく彼らはフォース感受者のダークサイドの戦士だろう。

 

ルークとマラ・ジェイドは言われた通り玉座に近づいた。

 

玉座の男はフードを被っており顔は深く見えなかったが近づくにつれてそれは鮮明になっていく。

 

どうやら玉座の男はルークとマラ・ジェイドが想像していたよりも更に醜くまるで死体のようだった。

 

「感じるぞ……余の新たな弟子……そして余の信頼のおける手……」

 

「久しぶりだな…まさか生きていたとは……“()()”…!」

 

ルークは玉座の男、銀河皇帝シーヴ・パルパティーンを睨みつけながらそう吐き捨てた。

 

パルパティーンはその肩書きを呼ばれニヤリと笑みを浮かべた。

 

ニタついた死体の笑みだ。

 

直後雷鳴が降り注ぎパルパティーンの顔は明かりに照らされ鮮明になった。

 

その姿はまるで死体そのもの、ゾンビという言葉が相応しい有様だった。

 

肌の色は以前よりも白く皺も同じく以前よりも深く掘り込まれ、その眼は盲目の瞳のように白く濁っていた。

 

嗄れた声にこもっているのは以前のような悪の帝王の恐怖というよりは死の存在を含んだどこか哀れなものだ。

 

玉座の周りの機械はまるで延命治療の為の装置にも見えてくる。

 

かつて第一銀河帝国という銀河の超大国を作り上げた男の姿とは思えないものだ。

 

以前のような、エンドアのデス・スターの玉座で会った時よりも全てが醜く変化していた。

 

あの憎しみを染み込ませたような黄色い瞳もなくこのパルパティーンからは全く力を感じなかった。

 

もしかしてこの男はあのエンドアの時よりも力は衰え死にかけに等しいのではないか。

 

油断ならぬ雰囲気を漂わせながらもどこかそう弱さを感じさせた。

 

しかし死んだはずの人間が生きているということがまず一番の驚きだ。

 

確かに初代デス・スターで命を捧げたオビ=ワンや寿命を全うしたヨーダ、身を挺して自分を守ってくれた父アナキンはフォースの霊体となって今も意志の存在として生きている。

 

シスにも同じような技術があるのだろうか。

 

だとすれば目の前の男を滅ぼすことなど出来るのだろうか。

 

そんな不安を心の中で消し飛ばそうとしながらルークはパルパティーンに向かって吐き捨てた。

 

「配下の者に命じてこんなところまで連れてきたのが運の尽きだ。お前は再び死ぬ、父に代わって僕がお前を倒す」

 

マラ・ジェイドはルークを睨みつけ一応の臨戦体制を取った。

 

彼女にとってまだこの目の前の死体は彼女の主人だ。

 

どんな姿であろうと主人は守らなくてはならない。

 

しかしパルパティーンは弱々しい高笑いを浮かべルークへ言葉を返した。

 

「スカイウォーカー、君では私を倒せんよ。選ばれし者だった君の父でさえ出来なかったことだ、こんな常に死に蝕まれ続けている身体でさえ私はまだ生きている」

 

何か口調や一人称がおかしい気がするが今はそんなことを気にしている暇はない。

 

ルークは再び啖呵を切って吐き捨てる。

 

「それはどうかな、広まりすぎた闇はいずれ光によって照らされる。お前の配下の軍隊が動き出そうとする瞬間、お前はその代償として光に照らされ再び敗北する」

 

「だとしてもだ、私には使命がありその為に私は必ず生かされる。エンドアの時に私が死に切れなかったように。君の父に選ばれし者の使命があったように私にも使命がまだある」

 

「ではその使命とはなんだ?僕はお前のような悪党を生かし続ける使命があるとは思えない」

 

ルークはパルパティーンに尋ねた。

 

パルパティーンはどこか嬉しそうな、それでいて満足げな表情で話した。

 

「私の民を、この銀河を“()()()()()()”という使命だ。この使命はまだ果たされていない」

 

この銀河を外敵から守る、一体何を言っているんだとルークは思った。

 

パルパティーンの言い方からしてその対象はレジスタンスやかつての反乱同盟ではない気がした。

 

ではその外敵とはなんだ、敵とは何なのか。

 

その疑問に反しパルパティーンはルークに更に問いかけてくる。

 

「私は君にもその使命を共に全うしてほしいと思っている。スカウォーカーよ、皇帝でもやはり使命を分かち合う友人のような者が必要なのだ」

 

「友人?シス卿らしからぬ発言だな」

 

「そんなことはない、余の弟子であり其方の父ヴェイダーも余の友であった。其方は父の代わりとなり余の命を全うするのだ」

 

ルークは眉を顰めながら身構えた。

 

目の前の死に体の皇帝はまだ自分をシス卿の弟子として迎え入れたいらしい。

 

流石はシス最大の暗黒卿ダース・シディアス

 

シディアスはそのままルークを睨みつけていたマラ・ジェイドに言葉を投げかけた。

 

「余の忠実な手よ、其方には申し訳ないことをした。本来なら其方はもっと早くにこの地にいるはずだった、彼らのようにな」

 

シディアスは側で控えているローブの男達に手を向けそう呟いた。

 

しかしマラ・ジェイドは「生きているだけで十分です」と答える。

 

「其方には再び余の忠実な手として働いてもらう。期待しておるぞ」

 

「ハッ!」

 

マラ・ジェイドは頭を下げシディアスに再び忠誠を誓った。

 

シディアスはそれを満足そうに見届け再びルークに目と意識を向けた。

 

今度は邪悪な笑みを浮かべてルークに話しかける。

 

「若きスカイウォーカー、其方やジェダイの力では余は倒せん。今は不完全ではあるが余は師から得た術によりやがて完全を取り戻すであろう。ダークサイドの力がある限り余は殺せん」

 

死に体の眼でシディアスはルークを凝視し最後にこう告げる。

 

「余に使えよ、父の代わりに余の半身となり我らに仇なす者を全て討つのだ。もはや其方に残された道はそれだけしかない」

 

まるでそれが定められた運命だと言わんばかりの顔でシディアスはルークを再び勧誘した。

 

エンドアの時と状況は一変している、この光景を見れば尚更だ。

 

死んだはずの皇帝も今こうして生きている。

 

もしかすると目の前の男の言う通り暗黒面の力がなければこの男を倒せないのかもしれない。

 

ルークは足場が揺らぐような感覚に見舞われ暫く言葉が出なかった。

 

「時間はある、よく考えるがよい。その間に余が差し向けた尖兵達が余の敵を、其方の友を根絶やしにするだろう」

 

皇帝の高笑いと共にエクセゴルの雷鳴が轟音を立て落ちた。

 

まるで今の状況を指し示すかのように。

 

 

 

 

 

 

-惑星コルサント 親衛隊本部-

「……という訳だ。ついに彼らは公に姿を現した」

 

数時間前にレジスタンスの主要惑星に送られたという宣戦布告文のホログラムをジークハルトはモーデルゲン上級大将から見せられた。

 

ホログラムの音声の人物は自分のことを“()()()()()()()()()”と名乗りレジスタンスへの攻撃を開始すると告げた。

 

音声が告げていたシスやシディアスという人物のダースという名称、どれも少し歴史の科目で聞いたことがある。

 

クローン戦争の頃まで存在していたジェダイと対を成す存在として存在していた組織だ。

 

しかしシスはジェダイよりも先に1,000年も前に滅んだはずだ。

 

内乱や敗北、度重なる戦争に耐え切れずシスは完全に滅亡したと曖昧ながらも語られた。

 

勿論シディアスとやらが滅んだ組織の名前と名称を勝手に詐称しているに過ぎないかもしれないが。

 

だがジークハルトにはそれとは別に少し気になる点が一つあった。

 

このシディアスという男の声、以前何処かで聞いたことのある声だ。

 

それもかなり身近で何度も聞き馴染みのあるようなそんな声に感じられた。

 

「このホログラムデータはハイドレーヒ大将らFFSBの上級将校がいる際にしか閲覧させてはいけないことになっている」

 

「ああ、シュタンデリス准将には特別、だ」

 

ハイドレーヒ大将はモーデルゲン上級大将の言葉にそう付け加えた。

 

副官格のフリシュタイン大佐も小さく頷いている。

 

だが珍しく接点のなさそうな2人が揃っているのはどうやらそれだけが理由ではなさそうだ。

 

モーデルゲン上級大将は話を戻す。

 

「既にシス・エターナルが先遣隊として出撃した艦隊がガレルを奪還したそうだ。レジスタンスの駐留艦隊は全滅」

 

「全滅?確かガレルには確認されただけでも新造艦を含めた一個星系艦隊程度の戦力はあったはずですが」

 

地上軍がメインとはいえジークハルトにもそれくらいの情報は舞い込んでくる。

 

ガレルの駐留艦隊は防衛戦で戦力の半数以上を喪失した後ガレルにそのまま帰投しそのまま現地の駐屯隊と共にガレルからの撤退を命じられた。

 

旗艦を失い指揮系統が半崩壊状態でいくら戦ってもそれはレジスタンス軍に一方的に嬲られるだけだ。

 

だが今思えばあの撤退は残存兵員の撤収というよりはこのシス・エターナルの艦隊を展開する為の布石だったのではないかとも思う。

 

ガレルの駐留艦隊は壊滅してもまだあの時のガレルには国防軍の数個兵団が展開していたはずだ。

 

本気で市街地戦を展開し防衛体制を構築すれば新造艦の力を持ってしても数ヶ月は耐え抜けるはず、少なくともジークハルトの防衛プランならそうなる。

 

恐らく国防軍総司令部もそれを認識しているだろう。

 

それでも撤退を出したということはやはり…。

 

「シス・エターナルの艦隊には少し“()()()”があってな。彼らはこのままガレルからロザルまで進軍し最終的にモン・カラまで攻め立てるつもりだ」

 

「一個艦隊のみでレジスタンスの艦隊最高戦力があるモン・カラまで一気に進軍出来るとは到底思えませんが…」

 

「無論我々も支援し同時攻勢を行うさ。しかしそれ以上にシス・エターナルの進軍は彼らが持つ“仕掛け”によって支えられる」

 

先程からモーデルゲン上級大将は仕掛けと言葉を濁してばかりだ。

 

一体その仕掛けとはなんだろうか。

 

話だけ聞くにシス・エターナルの艦隊はガレルのレジスタンス艦隊を殲滅してもまだモン・カラまでの進軍及び攻略が出来るほどの余力があるらしい。

 

よほどシス・エターナルの装備がいいのかそれもとも指揮官が有能なのか、もしくは両方合わせての結果なのか。

 

今の段階では全く判別が付かないがここでジークハルトはある別の予測を浮かべた。

 

もしシス・エターナル艦隊が“()()()()()()()()()()()()”を持っていたとしたら。

 

不意打ちで核弾頭を何発か撃ち込むのだって相当の打撃になるしオナガー級のような砲艦の攻撃もバカには出来ない。

 

だがそれ以上にジークハルトはある一つの兵器を思い浮かべた。

 

彼が知るところの最大の破壊兵器の存在を。

 

だが、まさか。

 

そんなことある訳がないという感情も含めて。

 

「そちらの攻勢は宇宙軍に任せるとして我々が君を呼んだのはもっと別の理由だ」

 

考え込むジークハルトにモーデルゲン上級大将はそう声をかけた。

 

この話をしたということは別の理由でもなんらかの関連はあるはずだ。

 

モーデルゲン上級大将はまずジークハルトに一つ尋ねた。

 

「君の新設軍団、設立してそれなりに時は立つと思うがどうだね?稼働は順調か」

 

第9FF装甲擲弾兵軍団タンティスベルクは創設してから数ヶ月が経つ。

 

「はい、新兵を交えての訓練も順調に進んでおりこのまま実戦に投入しても問題はないと思います」

 

「それはよかった、やはり君の部隊に任せるのが最適なようだ」

 

モーデルゲン上級大将は立ち上がりジークハルトの肩を軽く叩いた。

 

「ハイドレーヒ大将、“例の部隊”をシュタンデリス准将に見せても良いか?」

 

「構いませんよ、我々もついて行きましょう」

 

ハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐は立ち上がった。

 

まだよく分からないジークハルトは「一体何を…?」と尋ねるもモーデルゲン上級大将は「君の新しい部下達の披露だよ」としか言わなかった。

 

上級大将に連れられ一行は親衛隊本部の地下広場へと向かった。

 

エレベーターを使い幾つかの階段を降り衛兵に広場のコードを入力させる。

 

扉が開きジークハルト達は地下広場に入った。

 

「見えるか、これが全て“()()()()()”」

 

モーデルゲン上級大将の素振りはまるでサプライズプレゼントを誰かに見せるような感じだった。

 

ハイドレーヒ大将をそれに近しい笑みを浮かべフリシュタイン大佐もただ黙って見守っている。

 

だがこの光景を見せられたジークハルトに浮かぶ表情は困惑の二文字が最もよく合っている。

 

「上級大将……これは……」

 

目の前に広がる何百人もの兵士を見つめジークハルトは動揺し言葉を詰まらせた。

 

どう反応していいのかよく分からない。

 

モーデルゲン上級大将はそんなジークハルトのことは知らずに説明を始めた。

 

「彼らは“シス・トルーパー”、シス・エターナルの軍隊を構成する兵士だ。ここには今200人のシス・トルーパーがいる」

 

全身を赤いアーマーで固めその手にはE-11ブラスター・ライフルの改良品のような武器を持っていた。

 

そのアーマーはストームトルーパーというよりはクローン・トルーパーの衣装も導入されておりTKトルーパーとはまた別の中間の存在といった姿だ。

 

シス・トルーパーは全員、一糸乱れぬ姿で整列し静かに前を向いていた。

 

ストームトルーパー以上に感情を感じられず不気味さや人間らしからぬ姿に恐怖を覚える。

 

「これはシス・エターナルからの贈り物だ。シス・エターナルは第37軍団、通称マルガス軍団から幾つかの小隊や中隊を我々に贈呈すると言ってきた」

 

「それがこの部隊ですか?」

 

「その通り、指揮官はキャプテンST-C270。部隊名は第345中隊、先ほど言った通り200人のシス・トルーパーが全て君の下につく」

 

ポールドロンを付けたシス・トルーパーが前に一歩出る。

 

通常の将校に当てはめれば大尉の中隊長、経験や能力はまだ不確定な部分は多いが決して低くはないはずだ。

 

「それと同時にFFSBとFFIからも一個中隊と更にこの中隊配下の歩兵二個中隊が君の軍団に送られる。600人の精鋭だ」

 

こちらの新部隊についての認識はシス・トルーパーの部隊よりもよく知っているつもりだ。

 

親衛隊保安局と親衛隊情報部が主軸の部隊、この部隊は他の国防軍や親衛隊の戦闘隊に追随して敵勢力と見做した勢力を殲滅する悪い噂の多い部隊。

 

通常の忠誠将校や軍系の役割を持つ保安局員らの将兵とは違ってこの部隊は戦闘後の制圧地区の掃討作戦がメインの任務となっている。

 

恐らくはその過程で“()()()()”も遂行しているのだろう。

 

とても許し難い行いではあるが今のジークハルトでは止めようがなかった。

 

「部隊長はヴェルテス・ヘルリンカー上級大尉、シス・トルーパーの部隊と合わせて一個大隊の兵員がタンティスベルク軍団に編入される」

 

ジークハルトはモーデルゲン上級大将の説明を聞きながら深く考え黙り込んだ。

 

それに気づいた上級大将が「どうしたのだ?」とジークハルトに尋ねる。

 

「私の第9FF装甲擲弾兵軍団は数ヶ月前に軍団へ昇格したばかりです。何故そんな我々に更なる追加部隊を?」

 

この問いにジークハルトは逆に自分の疑問を投げかけた。

 

モーデルゲン上級大将はハイドレーヒ大将らに顔を合わせ数秒の間を置いてから答える。

 

「君は提出した今年の最終報告書の内容の中に特殊部隊対策や諜報対策、もしくは特殊部隊強化や諜報力の強化、特殊作戦と通常の兵員動員作戦の戦略を提示したな?」

 

それはモーデルゲン上級大将の言う通りだ。

 

間も無く1年の終わりが近づきジークハルトら一部の上級将校は報告書を書かなくてはならなくなった。

 

後1、2ヶ月もすれば年を跨ぎ次の年が来るだろう。

 

早めに布告書を書き終えたジークハルトは製作中に丁度ナブーの失陥と状況報告が送られ最終報告書の提案として組み込んだ。

 

「はい、そうですが」とジークハルトは答えモーデルゲン上級大将は頷きながら話を続けた。

 

「君の理論はハイドレーヒ大将とフューリナー上級大将が高く評価している。そこで君には失われたナブーの奪還を行なってもらいたい」

 

「私が、ですか?」

 

「ああ、シス・エターナルは現在北側の征伐に集中している。やがて本隊が現れるだろうが布石を置く為にも君に一役買って欲しい」

 

ナブーの奪還、今の状態ではかなり厳しいだろう。

 

レジスタンスの艦隊に合わせて兵一個師団、更には民衆の支持基盤も篤いはずだ。

 

それでもやれというのならやるしかない。

 

「取り敢えず私の役割はこれで済んだ。後は全てハイドレーヒ大将に任せるとする」

 

モーデルゲン上級大将はジークハルト達からの敬礼を受けてその場を後にした。

 

残されたハイドレーヒ大将は「場所を変えよう」とジークハルトに告げる。

 

シス・エターナルの到来と共に銀河系も大きく変わり始めている。

 

それも暗黒の方向へ。

 

 

 

 

 

シス・エターナルの襲来は第三帝国だけでなくその同盟国や加盟国にも告げられた。

 

特に事前に知らされていた大セスウェナでは執務室でヘルムートがその事を呟いていた。

 

「ついに彼らがきた……来てしまった……」

 

腕を組み事前に与えられた情報と入ってきたシス・エターナルと思われる艦隊の戦果が写っている書類に目を落とした。

 

「まず第一戦でレジスタンスの艦隊を丸ごと一つ持っていくか……」

 

「セスウェナから送り込んだ諜報網からも同様の報告が入っています、それとこちらを」

 

ザーラ司令官はタブレットをヘルムートに見せた。

 

彼女のタブレットにはスパイ達から送られたシス・エターナル所属のスター・デストロイヤーの画像と詳細な報告が記載されていた。

 

見た目は殆どインペリアル級スター・デストロイヤーと同等だが実際の大きさはインペリアル級を遥かに上回り船体下部には大型砲塔を備えている。

 

スパイ達の報告は大セスウェナの人員があのエクセゴルという惑星で視察したスター・デストロイヤーに酷似していた。

 

「これが件のジストン級……か」

 

「恐らくレジスタンス艦隊を殲滅したのもこの艦かと」

 

ザーラ司令官の分析はヘルムートの予測と一致していた。

 

あのジストン級というスター・デストロイヤーは単純な火力や大きさ以上にインペリアル級より一箇所遥かに優れている点がある。

 

その力を上手く使えばレジスタンス艦隊を一撃で全滅に追い込むなど造作もないことだ。

 

なんなら“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「それと、艦隊の中にこのような軍艦が混じっていたとか」

 

タブレットをスライドしザーラ司令官は別の報告書と画像を出した。

 

添付されていた画像に写るのはあのジストン級が霞むほどの大きさを誇る黒色の超弩級戦艦だった。

 

エグゼクター級に似た形状にも見えるが船首が上下に伸びエグゼクター級とは大きく異なる姿をしている。

 

報告文にはスター・ドレッドノートクラスの大型艦船を確認と記されていた。

 

「この艦は……」

 

「スパイによるとこのドレッドノート艦は戦闘した形跡は見受けられないそうです。ご存じありますか?」

 

「いや………だが昔資料に記載されていたような……」

 

それもコルサントではなくこのエリアドゥに紙の書類として存在していたはずだ。

 

かなり昔に目を通した記憶がある。

 

まだ4年ほど前、銀河内戦の真っ只中でだ。

 

「ともかく、報告ありがとう。シス・エターナルはこのままモン・カラまで進軍するつもりなのだろうか」

 

「はい、間違い無いでしょう。艦隊は今現在進軍を停止していますが間も無く再び行動を起こすかと」

 

「在中の国防宇宙軍情報部の将校によればレジスタンス軍も対策に出る頃らしい。恐らく艦隊を動かしシス・エターナルの進軍を阻むつもりだ」

 

「場所としてはどこになりそうですか?」

 

ザーラ司令官は尋ねた。

 

ヘルムートは受け取った様々な情報と予測を交えて話す。

 

「私の予測で言えばバロス周辺になるだろう。少なくとも彼らはロザルの手前で防衛を行うはずだ」

 

ロザルは確かに初期反乱運動の頃からレジスタンス軍の求心地となっている。

 

フェニックス中隊やヘラ・シンドゥーラといった者達が戦果を挙げ最終的には解放まで成し遂げた。

 

今もレジスタンス軍の拠点の一つとして利用されている。

 

だがロザルの内情は全てがレジスタンスの意思で統一され対帝国の為に団結しているかと言われればそうではなかった。

 

元々ロザルのような銀河の中央政治とあまり縁もゆかりもないような惑星がわざわざ帝国の支配を受けていたのには理由がある。

 

ロザルの経済は破綻し国政もガタガタになりそんな状況下では帝国に助けを求める他なくなった。

 

帝国はロザルに重工業と資源採掘、軍務めという経済復興の為の職を与えロザルの立て直しを始めた。

 

その過程でロザルの環境は破壊され農民達は虐げられ多くの若者が軍工場か軍隊しか働き口のないという状態にまでなってしまった。

 

しかし経済が破綻している時よりは幾分かマシであった。

 

ロザルの解放が行われるまでは。

 

1BBYにロザルは反乱軍の手によって解放され自由の身となった。

 

それ以降帝国が姿を表すことはなくロザルの民はそれは晴れやかな気分となっただろう。

 

尤も長く続いたかは別問題だが。

 

帝国は銀河系から完全にロザルを切り離した。

 

ロザルに与えた重工業も軍役も資源も全てを取り上げ農業製品や残された資源などロザルが差し出してくるもの全てを受け取らなかった。

 

経済的に各地からブロックされロザル製品やロザルの輸出品は帝国によって厳しく統制され貿易船や違法商船は全て逮捕された。

 

反乱軍の愚かな理想に感化され帝国から離れた者はこうなる、ある種の見せしめにしたかったのだろう。

 

銀河系から救いの手も何もかも失ったロザルは一気に衰退の一途を辿った。

 

自らを解放してくれた反乱同盟軍もこの時点ではまだ小規模の抵抗勢力にしか過ぎず表立った経済支援を行うことは出来ない。

 

出来たとしても帝国軍の厳しい監視の目をすり抜けるのは難しいだろう。

 

反乱同盟軍が助けられるだけの力を持つまで少なくともあの当時から数えて後4年、5年は必要だった。

 

その僅か4、5年でロザルは経済破綻した時以上に落ちぶれロザルの活気や過去の姿は永遠に戻ってくることはなかった。

 

新共和国が誕生しようやくロザルを支援し始める頃にはもう手遅れの領域に足を踏み入れ始めていた。

 

それに新共和国もロザルばかり助けてやれる暇はない。

 

各地の復興も同時に行わなければならない為ロザルには最低限の支援しか行えなかった。

 

今はレジスタンス軍の拠点の一つとなって若干の活力を取り戻しつつあるが悲惨な過去を忘れたわけではない。

 

もし第三帝国かシス・エターナルかが惑星の一歩前まで迫ってきた時ロザルの民がどう反応を示すかは正直不明だ。

 

だが少なくとも全員が一丸となって徹底抗戦するようなことはないだろう。

 

それはレジスタンス軍も重々承知であると考えているのでヘルムートはこのバロスと言う惑星を予想に上げた。

 

「レジスタンスがどの程度の戦力を送ってくるかは不明だがシス・エターナルの勝利の方が可能性としては高いはずだ。指揮官や兵の練度で覆されるかもしれないけど…」

 

ヘルムートが全てを言い切る前に執務室のブザーが鳴った。

 

「入っていいぞ」

 

ヘルムートの許可と共にドアが開き彼のおじ、エルデストが入ってきた。

 

「アノート宙域のレジスタンス軍との戦闘計画と部隊編成が完了したから報告に来たぞ」

 

「おじ上!もう少し時間が掛かると思っていましたが早かったですね」

 

ザーラ司令官に敬礼を返しエルデストは計画の入ったタブレットをヘルムートに手渡した。

 

ヘルムートは早速計画書を目にし始めその間にエルデストは口頭で部隊の編成と軽い戦域の場所を述べ始めた。

 

「想定は会議の通り防衛戦、一応セネックス・ジュヴェックスの惑星ドーラと想定している」

 

「確かにここは我々の玄関口、エリアドゥとハイパースペース・ルートで繋がっている為部隊の展開と兵站確保も容易ですね」

 

「ああ、地の利もこちらにある。ここでの戦闘は優位を十分確保し続けられるはずだ」

 

第三帝国はセスウェナの軍にアノート宙域のレジスタンス軍を撃破するよう求めた。

 

恐らくモン・カラ、ヤヴィン、キャッシークの反抗による圧迫を受け更にナブーが陥落した事により焦りを覚えているのだろう。

 

今までは帝国の旧領、ウータパウのタラバ宙域やムスタファーのあるアトラヴィス宙域の内戦中に独立した中立地帯の併合で彼らは満足していた。

 

だが遂に軍事力による敵対者への攻撃が命じられた。

 

しかも代理総統の名義である為グランドモフの権限を持ってしても拒否は出来なかった。

 

「恐らく陸上戦は殆どないだろうがドーラの防衛司令官にカッセル司令官を置いた」

 

ヘルムートが手に持つタブレットにも記載されている内容だ。

 

カッセル司令官は以前大伯父ウィルハフがセンチネル基地に勤めていた時にそこの司令官を務めていた人物だ。

 

セスウェナの防衛司令官を務めていた頃にエンドアの戦いが勃発しそれ以降は大セスウェナの領域についた。

 

「艦隊の配置はまず前衛で敵と衝突するのがトレークスの小艦隊だ。第一主力の防衛部隊はバーク提督が率い遊撃隊はプラージが、航空艦隊はロス提督が務める」

 

全員艦隊指揮経験の豊富な優秀な将校達だ。

 

特にバーク提督やロス提督はバーチ・テラーの反乱時に大伯父ウィルハフと共に戦ったこともあるらしい。

 

「スターファイター隊はシア・ハブリンが指揮を取り、念の為にモッティにはエリアドゥ及びセスウェナの防衛司令官を任せる。そしてザーラ司令官が予備隊を、私が惑星駐留の本隊を……というのが現段階の発想なんだが……」

 

言葉の最後にエルデストはヘルムートの方に何度か目線を送っては目を背けていた。

 

「どうしました?」とヘルムートはおじに尋ねたがしばらくエルデストは言葉を詰まらせた。

 

「ああ……そのだな……惑星駐留の本隊には全軍の総司令官としてヘルムートと“エグゼキュートリクス”が来る事になっているんだが……やはりやめておくか?」

 

別にエルデストはこの若すぎるターキンの能力と胆力を心配している訳ではない。

 

むしろ彼はもっと幼かった頃に戦争というものを経験している、それがたとえお飾りの指揮官だとしてもだ。

 

だが最近の情勢化ではヘルムートにもやることが増えている。

 

そんな中でヘルムートを戦いに引っ張ってくるのは流石にオーバーワークすぎると考えていた。

 

それにヘルムートがいなくとも恐らくこの戦いには勝てる。

 

彼が出てくるのは最後の攻勢にすべきではないかとエルデストは思っていた。

 

しかしヘルムートは首を振る。

 

「おじ上、私は行くよ。何も戦いたいからとか指揮官は常に最前線にいるべきだとかそういうのじゃない。だけど今、私は前に出て“()()()()()()()()()()()()()()”という事実を作らねばならない」

 

大伯父ウィルハフには何度も言われた。

 

敵に舐められるな、と。

 

プラトーではジョヴァに何度も言われた。

 

獣や敵に一瞬の隙も見せてはならない、と。

 

それは今になって痛烈にその通りだと思う。

 

指導者は微塵の隙も相手に見せてはいけないのだ。

 

完全無欠の超鉄人を演じ敵が来るようであれば自らの手で完膚なきまでに叩きのめし、自領に土足で足を踏み入れた者がどうなるかを教えてやらねばならない。

 

「この時代だからこそ指導者が前に出て敵を打ち人々に安堵を与え、敵や対外者に我々の秩序を教えなければならない。その為にはどうしても必要だ」

 

ヘルムートは真剣な面持ちでエルデストに頼み込んだ。

 

その様子をザーラ司令官は静かに見守っている。

 

暫くするとエルデストはどこか負けたようにため息をついた。

 

「…分かった、では計画としては問題ないということで良いな?」

 

「はい」

 

ヘルムートは力強い眼光で力強く頷いた。

 

到底10代後半の青年とは思えない意志の強さだ。

 

その姿はまるであのウィルハフ・ターキンのようだとザーラ司令官は微笑を浮かべる。

 

ターキンの再来は新しい時代のターキンであると同時にこの銀河の変革者となりつつあった。

 

 

 

 

 

 

-レジスタンス同盟領 コメル宙域 惑星ナブー 首都シード シード宮殿 第三情報室-

シス・エターナルからの宣戦布告からまだ1日も経たずにレジスタンスは対策に迫られた。

 

ディカーへ帰還する時間も惜しい為シード宮殿の一部区画を借りて各所に指示を飛ばしていた。

 

そのうちの第三情報室は通信環境が整い傍受対策も完璧だということでディゴール大臣ら軍首脳が集まっていた。

 

ジェルマンとジョーレンはこの第三情報室に呼び出され急いで向かっていた。

 

「ジョーレン・バスチル少佐、ジェルマン・ジルディール大尉、只今到着しました」

 

ドアが開くと共に2人は敬礼し情報室に入った。

 

幕僚達との会話を一旦中断し2人に敬礼を返した。

 

「ということであとは頼む。早速で悪いがまず君達には先に命令を出す。危険ではあるが2人にはレンディリに飛んでもらい潜入調査して貰いたい」

 

「レンディリってあのコア・ワールドの?」

 

ジェルマンはディゴール大臣に尋ね大臣は小さく頷いた。

 

惑星レンディリ、コア・ワールドに位置する惑星で旧銀河共和国が誕生した時に設立に携わった惑星としてコア創始者に数えられている。

 

コア・ワールドの惑星である為長い歴史を誇り未だ栄え続ける人口6,000億人の惑星だ。

 

またレンディリ・スタードライブ社という企業の本拠地であり同社が建造したドレッドノート級重クルーザーは今もなお帝国軍や多くの矮星防衛軍が使用し続けていた。

 

第三帝国侵攻以前はレンディリも新共和国の加盟国でありホズニアン・プライムの分学校としてアカデミーが設立されていた。

 

亡きストライン中将の御子息であるノヴァン・ストラインもこの学校に通っていたはずだ。

 

だがレンディリは元々親帝国派の惑星であり住民の殆どは第三帝国、かつての第二帝国に加わることを望んでいた。

 

クローン戦争から帝国時代にかけての帝国の暮らしとその恩恵が忘れられなかったのだろう。

 

それに第二帝国は俗にコルサントの奇跡と呼ばれる大攻勢を成功させその後の銀河協定に希望を見出した。

 

総司令官であり後の帝国代理首相のパウルス・ヒルデンロードの力と代理総統のカリスマ性を横目に見れば敗北したとはいえ帝国が素晴らしいものに見えてくるだろう。

 

新共和国軍の支援を受けたレンディリの暫定政府も帝国併合派の市民に押され崩壊寸前でいつ事変が起きてもおかしくない状態だった。

 

そして“()()”は起きた。

 

ホズニアン・プライムが陥落し元老院議員は皆殺しにされ新共和国は崩壊した。

 

その余波は知っての通り銀河系全土に吹き渡った。

 

ナブーではクーデターが勃発し各地の惑星は独立と帝国への従属を始め或いは軍事政権があちこちに誕生し始めた。

 

レンディリとてその例外ではない。

 

新共和国軍の後ろ盾はなくなり抑えきれていない暴徒の衆が政府を襲い主権を簒奪した。

 

その後第三帝国へ早々に従属の意思を示しレンディリは晴れて第三帝国の直轄領となったのだ。

 

レンディリ駐留軍や政府関係者がその後どうなったのかは想像に難くない。

 

幸いなのはレンディリ・アカデミーの生徒達は皆キャッシークに避難したそうだが以前キャッシークに訪れた時に彼らは1人もいなかった。

 

「あそこは市民も完全に帝国シンパで帝国艦隊も駐留軍も今までの比ではないほどいる。潜入は難しいだろうがどうしてもやってほしいことがある」

 

「それは一体何ですか?」

 

「帝国軍基地へ潜入しシス・エターナルの軍高官との会話を諜報しろ」

 

2人は一瞬だけ顔を見合わせた。

 

その間にディゴール大臣は経緯を説明した。

 

「キャッシークのクラッケン将軍からの緊急伝令でシス・エターナル軍の上級将校と思わしき人物がレンディリの帝国軍司令部に到着することが判明した。我々はまだ、彼らに対する情報が乏しいどころか全くない状態だ。まず敵の動向や第三帝国との関係を表明する為にも会話の傍受、または状況報告を頼みたい」

 

「なるほど……確かに危険な任務ですがやるしかありませんね」

 

ジェルマンの発言にディゴール大臣は頷く。

 

「ステルス性能を備えたUウィングであれば帝国船を使わずとも潜入可能なはずだ。それとこちらで2着ほど帝国軍の軍服を用意した。潜入の際はこれを使え」

 

「ありがとうございます」

 

「それとこれは秘密事項であるが今回の任務を遂行する君たちには話さなくてはならない」

 

ディゴール大臣は重たい雰囲気で2人にそう告げた。

 

2人は真剣な面持ちのままディゴール大臣により耳を傾ける。

 

「あの宣戦布告が送られる数時間前、惑星ガレルに駐留していたレジスタンス宇宙軍の艦隊が“()()()()”」

 

「え?」

 

全滅、それは艦隊クラスになると滅多に聞かない単語である。

 

文字通り一隻も駐留艦隊の軍艦が帰還しなかったということでありもし本当ならレジスタンスにとっては大きな損害だ。

 

しかも解放したガレルに置かれた駐留艦隊となれば相当の艦艇がいたはずだ。

 

「恐らくシス・エターナルの仕業であるとレジスタンス軍司令部は検討しており今ガレルの軌道上にもそれと思わしき艦隊が駐留している。モン・カラでは防衛の為の艦隊を派遣する予定だがその勝率は…極めて低いと言ったところだろう」

 

大臣の深刻そうな面持ちはまるで変わることなく話もどんどん悪い方向へ流れていった。

 

勝利したと思えばすぐに困難が訪れる。

 

レジスタンスは誕生して早々いつもこれだ。

 

「連中の艦隊を撃破する為にもまずは君達の諜報作戦に掛かっている。頼んだぞ」

 

2人は無言で敬礼し任務を受諾した。

 

時代は辛く険しいがそれでも負ける気概は一切なかった。

 

新たな時代の、新たな任務の始まりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

-シス・エターナル占領下 アウター・リム・テリトリー ロザル宙域 ガレル星系 惑星ガレル-

ガレル、惑星ロザルと同じロザル宙域に属する惑星でハイパースペース・ルートを使えば数分で移動出来る。

 

ガレルは帝国にとっても重要な場所でありそれはレジスタンスにとっても同じことであった。

 

初期反乱運動の時代にはガレルを反乱分子のグループが拠点に利用したりしたものでその後ガレルは帝国に対し反乱を起こし独立した。

 

だがそれも第三帝国の勝利により状況は一変した。

 

新共和国の防衛艦隊が殆ど駐留していなかったガレルは帝国宇宙軍の攻撃を受けあっという間に陥落し帝国のモン・カラ攻略の足掛かりとして利用された。

 

最近ようやくレジスタンス艦隊の反抗が成功しガレルは再び解放されたはずだったのだがそうではないことは今のガレルの状況を知っていればすぐ分かるだろう。

 

レジスタンス駐留艦隊は全滅し地上部隊の抵抗も虚しく即座に陥落、今ガレルの軌道上には何十隻ものスター・デストロイヤーが駐留し地上のガレル・シティには赤い兵士達が街を我が物顔で闊歩している。

 

何度も隊列を組んだ一個分隊ほどの赤いシス・トルーパーが通路を歩き、将校や保安局員と思わしき男達がシーカー・ドロイドを引き連れ市民に聞き込みを行なっていた。

 

将校達のホロプロジェクターにはレジスタンスの将校の写真が写っており逃亡した敵兵を一兵残らず探し出し抹殺するつもりらしい。

 

町中のあちらこちらで少々乱暴な言葉遣いで市民を尋問する将校達の声が聞こえた。

 

ガレル・シティの大モニターやホロプロジェクターには全てプロパガンダの映像か指名手配犯とされたレジスタンス軍将兵の画像が映し出されている。

 

スピーカーから『我々は敵ではありません』という占領地特有の音声が垂れ流されていた。

 

「逃げたレジスタンス兵は全て見つけ次第その場で射殺しろ。匿っている者がいたら女子供問わず全て同じ手順で射殺しろ」

 

上官から命令を受けたシス・トルーパー達がガレル・シティに散開し偵察を始めた。

 

その様子を1人のボロ布を軍服の上から被った青年と1人のレジスタンス軍のパイロットスーツを着た青年が路地裏からその様子を除いていた。

 

「このまま街に出るのは無理そうですね……ウェクスリー少尉」

 

シス・トルーパー達を見つめながらボロ布のようなフードを被ったアショース・O・スタトゥラ少尉はそう小声で呟いた。

 

彼はガレル生まれでついこないだまで応用科学を学ぶために新共和国軍のアカデミーに通っていた生徒だった。

 

しかし状況が一変しレジスタンス軍は人手不足を補う為に、そして本人の意思もあって少尉として軍に正式に入隊した。

 

それは彼の側にいるテミン・スナップ・ウェクスリー少尉も同様である。

 

彼の半生には様々なことがありそれを一言で言い表すのは到底不可能だ。

 

ジャクー戦を生き延びた彼は正式にホズニアン・プライムのフライト・アカデミーに入学しパイロットになる為に勉学に励んでいた。

 

だがそんな中この戦争が始まってしまった。

 

テミンらは先んじてまずヤヴィン4のフライト・アカデミーに機体を持って疎開しひとまずはホズニアン・プライム陥落の難を逃れた。

 

だがやはりヤヴィンも人手不足でありテミンも少尉への任官を条件にスターファイター隊のパイロットとして戦闘に参加し始めた。

 

多くの戦友を失ったが彼は様々な戦いを生き残りその後モン・カラへ移動となった。

 

そこでガレル駐留艦隊に配属され艦隊ではなく地上勤務に移動していた為運良く艦隊全滅の悲劇を生き延びた。

 

だがその後地上にやってきたシス・エターナル艦隊に攻撃され彼の機体は撃墜された。

 

辛うじて撃墜を生き延びガレルの近郊に隠れていた所をこのスタトゥラ少尉に見つかり2人は今共に行動していた。

 

「とにかく船かスターファイターを見つけないと……この惑星を脱出してこの状況を正確にレジスタンスに伝えなければ」

 

「しかしどうやって確保します?それにあの艦隊がいる状態で出したとしても……」

 

2人は上を見上げガレルの空を眺めた。

 

青空を覆い尽くすほどのスター・デストロイヤーの数々が上空に駐留している。

 

そして都市の周りには先ほどから何十機ものシス・エターナル専用機と思われるTIEファイターが哨戒任務として飛び回っていた。

 

この状況下では仮にスターファイターを手に入れて脱出したとしてもTIEファイターに見つかり撃墜されるか敵艦隊に封鎖されるかのどちらかしかない。

 

脱出はとても難しい状況だった。

 

「戦闘力のある船が必要だ……尤もそれを使ったとして無事脱出出来るかは分からんが……」

 

2人は再びガレル・シティの大路地の方を見つめる。

 

正直近郊とはいえこの地にも長くいられるか分からない。

 

シス・エターナルの捜索範囲は徐々に広がるばかりで逃げ場は失われていくばかりだった。

 

それを象徴するかのようにどこからか銃声が聞こえシス・トルーパー達が駆けて行った。

 

銃声の奥からシス・トルーパーらの声が聞こえた。

 

「1人始末した、まだ隠れているはずだ。UA-SPを出して捜索範囲を広げろ」

 

「まずい…!ウォーカーを出される…!」

 

「一旦戻りましょう…!」

 

ウォーカーのセンサーであれば容易に2人の存在は見つかってしまう。

 

仲間を目の前で殺されて何も出来ず逃げる事しか出来ないのを悔しくて思いながら2人は走った。

 

2人と入れ替わるように一個分隊を引き連れたシス・エターナル軍の都市型強襲偵察ポッド、通称AU-SPが市街地に足を踏み入れた。

 

このウォーカーは旧共和国グランド・アーミーの全地形対応攻撃ポッド、AT-APをベースにしており3本の足などよく似ている面が多々見受けられた。

 

だがこのウォーカーの設計元は帝国地上軍の新型ウォーカー開発計画にあり最初にこの機体を使い実用に漕ぎ着けたのはシス・エターナルではなかった。

 

それは後方に位置するAT-MT(全地形対応メガキャリバートランスポート)もそうだ。

 

シス・エターナルは最新の兵器を使っている、しかしそれはどれも帝国軍のデータを元にして“ある仲介”を挟んでのことだ。

 

彼ら単体で何かを成し遂げるには少し力不足だった。

 

それは指揮官も同じことでこの艦隊を率いるフリューゲル・ヴァント元帥も元は帝国軍人である。

 

彼はエクリプス級ドレッドノート“エクリプスⅡ”のブリッジで艦隊の司令官達と共に戦略会議を開いていた。

 

全長17,500メートル、ターボレーザーや重レーザー砲が何十、何百砲門もあり600機近いTIEシリーズを搭載出来る上に重力井戸の発生プロジェクターまで備えている。

 

そしてこの艦最大の特徴にして最大の兵器アキシャル・スーパーレーザー砲。

 

ジストン級に搭載された廉価版などとは違いこのスーパーレーザーはあのデス・スターと同じ火力がそのまま放てる。

 

帝国時代は計画艦でしかなかったが今こうして現世に存在しておりこの“エクリプスⅡ”は艦名の通りエクリプス級の“()()()”だった。

 

「各員艦隊の損耗状況を……と言っても殆ど皆無か」

 

フリューゲルはまるで今の言葉が自分の発言かのようにそう振り返った。

 

何せレジスタンス艦隊と衝突した時は一隻の軍艦も失われておらずガレルを攻撃した際も損耗は軽微という言葉すら合わないほどの微々たる損害しか出ていなかった。

 

「地上の上陸戦と掃討戦で数十名の死傷者が出ています。尤もそれこそ微々たる損害であり既に半数の兵士は軍務に復帰しています」

 

ヴィット将軍は各艦内に搭載され現在地上に展開しているシス・トルーパー部隊の損失を報告した。

 

もはやここまで来ると損失などないに等しいだろう。

 

「スターファイター隊はレジスタンス軍の予想外の反撃に遭い9機程被撃墜を受けました。こちらとしても十分軽微に入る損失ですが」

 

スターファイター隊司令官のヴェル・テルノ中将はフリューゲルにそう進言した。

 

元々フリューゲルはスターファイター隊出身で本人はスターファイターを含めた艦隊運用を得意としていた。

 

彼がただのパイロットの士官から艦隊司令官の提督以上にまで昇進出来たのはそこに理由があった。

 

その為スターファイターの指揮にはかなりの心得がある。

 

「十分だ中将、あれだけの航空隊相手にこちらの損害はかなり少ない。損失を受けた部隊を再編成し徐々に哨戒も切り上げ始めろ」

 

「了解」

 

「艦隊の方はどうだ?流石に次の敵はそう簡単には撃破出来まい」

 

『問題ありません。既に閣下のご指示通り戦闘態勢を万全の状態で待機させております』

 

ジストン級“アドヒアレント”艦長のゼイロン・レンウィス司令官はフリューゲルにそう微笑を浮かべ報告した。

 

レンウィス司令官はエクセゴル出身であり士官として技術を学ぶ為に帝国軍に入隊していた事もあったがその後しばらくしてエクセゴルの方へ戻った。

 

彼は艦隊の第四分艦隊の指揮を任されており艦隊の副司令官的な立ち位置であった。

 

それはジストン級“デリファン”の艦長で第三分艦隊指揮官のハウゼン・サブロンド司令官も同様である。

 

「レジスタンスの次の動きは第三帝国から提示されたものとこちらで把握しているもので大まか予想出来ます。恐らく連中はこのまま惑星バロスで我々を迎え撃つつもりでしょう」

 

ブリッツェ中佐はホロテーブルに惑星バロスとレジスタンス艦隊の動きを表示した。

 

既にバロスには元々の駐留艦隊に加え地上部隊やスターファイター隊が幾つか存在している。

 

戦闘は避けられないだろう。

 

「連中は我々の火力を既に知っている。恐らく迎え撃つ艦隊も散開隊形を維持しつつ伏兵部隊を使用して我々を撃破する作戦を取るはずだ」

 

艦隊全体の副司令官であるグレッグ提督は全員にそう告げた。

 

彼はフリューゲルを補佐する為にあえて乗艦を持たずにこの“エクリプスⅡ”の中にいる。

 

その為副司令官との連携が取り易く判断が素早い。

 

「ならば重力井戸を使い伏兵艦隊を引き摺り出しアキシャル砲で一気に殲滅する方向でどうだろうか」

 

フリューゲルの提案に諸将は頷き賛同の意を示した。

 

更にフリューゲルは彼らにあることを許可し彼らに命じる。

 

「ならば各艦のアキシャル・スーパーレーザー砲の無制限使用を許可する。ただし、バロス本星への直撃と破壊は控えろ。惑星を直接攻撃する場合は敵が最終降伏に応じず私が直接命令を下しこの“エクリプスⅡ”が行う」

 

その判断にヴィット将軍やグレッグ提督らは納得したがレンウィス司令官のような者は反対した。

 

『しかし閣下、あの惑星には多くの敵兵がいます』

 

「だから降伏に応じない場合は本艦が直接撃つ。敵さえ降伏すれば我々は後は真っ直ぐ進むのみ、後のことは第三帝国とやらに任せればいい」

 

フリューゲルは宥めるようにそう言葉を返した。

 

だが彼自身がそれはただの詭弁でしかないと理解している。

 

惑星破壊というどこか倫理的に禁忌としているものを踏み越えてしまうこと、そして自分の手に持つ力への恐怖心。

 

その為にセーフティをかけたに過ぎない。

 

既に自分は“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

 

 

 

 

エクセゴルの出自は一般的には謎に包まれている。

 

そもそも大多数の市民は、なんなら政府や中央の大政府の者達でさえその存在を知らなかったのだから当たり前だ。

 

このエクセゴルはずっと未知領域の暗闇に包まれていた。

 

かつては肥沃な惑星だったこのエクセゴルもモラバンドやジオストのように荒れ果て今の闇が蠢く星へと変わってしまった。

 

この暗黒惑星の地下には古代のシス卿が造り上げたとされる秘密の造船所が存在していた。

 

この造船所はシスの古文書の一説によると命を吹き込むことでこの造船所は永遠の動力を手に入れ“刻すら凌駕し兵器や軍艦を建造し続ける”という。

 

それが嘘か真かまだ分からないがこの造船所は現代の造船技術が組み込まれ僅か数年でシス・エターナルの大艦隊を創り上げた。

 

このエクセゴルがなければシス・エターナルがこんな短期間にここまでの勢力を増やすのは無理だっただろう。

 

「あれは一体…」

 

ルークはシス信者達が謎の液体が入ったポッドに群がり機器を操作したり何かを記録したりする光景を目にした。

 

遠巻きから見るとオレンジ色の液体で中の物体は見え辛かったが一瞬だけ何かが動いたような気がした。

 

マラ・ジェイドは「さあ」と答えるだけで深くは語らなかった。

 

というより語れなかったのだろう、ここは彼女にとっても始めての場所だ。

 

「そいつは私達と同じ“()()()()()()()()()()”」

 

背後から誰かの声が聞こえた。

 

2人は振り返るとそこには玉座の近くで控えていた黒いローブの男が立っていた。

 

男はフードを下ろし顔を見せた。

 

ボサボサの黒髪に少しザラついて見える肌、茶色の目。

 

その風貌と感じからして彼もダークサイドの戦士だろう。

 

「見てみるか?」

 

男は2人を連れて液体の入ったポッドの側に寄った。

 

近づいてみるとだんだんポッドの中身が見えてくる。

 

中には髪の毛のない白い肌の皺だらけの老人のような何かが入っていた。

 

「皇帝のお考えは常に偉大だ。カミーノから得たクローニング技術はこの地で活かされこのフォースのクローン戦士に行き着いた。やがてこいつらはダークサイドのフォースを使いこなす強力な戦士になるだろう」

 

フォースを使える戦士をクローニングで生産、恐らくこのポッド全てにその戦士が入っているのだろう。

 

まだ育成途中だろうがそれでも十分恐ろしい。

 

遂に人工的にフォースの戦士を生み出せるようになってしまったのだ。

 

「私の名はセドリス・QL、やがてはお前がこのクローン戦士や我々を指揮することになるだろう。スカイウォーカー、いや新たなシス卿」

 

男は名を名乗りルークに告げた。

 

だがルークはまだ否定する。

 

「僕は暗黒面には落ちないし君達とは敵のままだ」

 

「いつまでもジェダイの思想を頑なに守ったっていいことはひとつもないぞ。それよりも皇帝につく方を選んだ方がいい。そうすれば私にしてくれたように皇帝は必ずお前を強くしてくれるぞ!」

 

セドリスは自慢げにそう語った。

 

彼は自らのライトセーバーを振るいその剣捌きを見せる。

 

「彼は元々ただの傭兵だった、帝国軍の将校を殺して死刑を言い渡されたけど皇帝陛下との決闘に敗れ彼の方に服従を誓った」

 

マラ・ジェイドは軽くセドリスの過去をルークに話した。

 

「つまり皇帝の力に屈したわけか」

 

ルークははっきりとそう吐き捨てる。

 

彼自身も皇帝の力は身をもって味わいよく知っていた。

 

あの凄まじいフォース・ライトニングはルークでさえ耐えるのは難しく下手すればあのまま死んでいたかもしれない。

 

父の助けがなければきっと。

 

その言葉を聞いたセドリスはライトセーバーをしまいルークに詰め寄る。

 

「それは間違いだスカイウォーカー、私は皇帝の力に屈したから今があるわけではない。皇帝の寛大さと彼の方への忠義が私を作ったのだ。お前も必ずや私の気持ちが分かるはずだ」

 

セドリスの言葉とは裏腹にルークは全く気持ちが理解出来なかった。

 

それよりも大きな不安感が彼を覆っていたからだ。

 

数多くのダークサイドの戦士を抱え何十万人以上の軍隊、何百隻の大艦隊、そして超高度な技術の数々。

 

これだけの相手をしながら第三帝国とも戦い続けられるのか。

 

そして復活したシディアスを完全に葬り去ることが出来るのか。

 

今までに感じたことのない不安感をこの時ルークは感じていた。

 

もしかするとこのエクセゴルに充満するダークサイドのフォースの影響かもしれないが。

 

「やがてフリューゲルの艦隊が再び大きな戦果を挙げてくる。我々の勝利はもはや確定したも同然だ。今から滅びゆくものに態々つく必要もない、皇帝に従えスカイウォーカー」

 

再びセドリスはルークを暗黒面の側へと勧誘した。

 

彼らは尋問官という存在と同じでダークサイドのフォースの使い手ではあってもシス卿ではないのだろう。

 

シスは常に2人、今その片方が空席で師匠は力を大きく失った状態だ。

 

早く完全な状態に戻りたいのだろう。

 

シスの全盛を、一千年の帝国を取り戻す為に。

 

それに頷くようにエクセゴルの雷鳴が轟いた。

 

フォースのダークサイドは常にこの若きスカイウォーカーを引き入れようとしている。

 

このエクセゴルの暗黒は希望の光すら覆い尽くそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 親衛隊本部 親衛隊情報部長官執務室-

重苦しいようで何処か軽やかな雰囲気の漂う親衛隊情報部の長官執務室にジークハルトはいた。

 

本来は一生来るどころか来たくない場所の一つだったのだが命令であればそう駄々を捏ねる余裕もない。

 

ハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐はFFSBの白服を着ているのに対しジークハルトは普通の親衛隊員と同じ黒服を着ている。

 

そこにジークハルトは少しばかりの壁を感じていた。

 

彼らは同じ帝国内の同じ親衛隊という組織の人間であるのにも関わらずそこに壁がある。

 

だがその壁が何を意味するのかはまだ分からなかった。

 

「シュタンデリス准将、君は親衛隊に入る前に帝国地上軍にいたそうだな。君の軍歴はずっと地上軍勤務であると」

 

ハイドレーヒ大将は今一度ジークハルトの経歴の資料を読み彼に尋ねた。

 

「はい、ですがロイヤル・アカデミーでは艦隊とスターファイターを合わせた統合戦をメインに学んでいました。まあそれでも私のメインは陸上戦ですが」

 

「特殊部隊の運用は?」

 

「私自身は何回かありますしご存知の通り先日のサラスト戦でも部下が特殊部隊を使ってソロスーブ社の偏向シールドダウンに成功しています」

 

ジークハルトは更に問いに答えた。

 

そして最後に「尤も特殊部隊の運用は専門ではありませんが」と最後に付け加える。

 

実際帝国ロイヤル・アカデミーでも何回か講義で習い模擬戦戦術をやったこともあった。

 

しかし断りを入れたようにジークハルトの専門は地宙空の三部隊を用いた統合戦、その中でも地上戦だ。

 

特殊部隊運用の専門はアカデミー時代からそれを専門とし最終的に帝国軍特殊部隊司令部付将校となったリーゼンスティナーの方が適任だ。

 

尤も今どこにいるか消息不明のままだが。

 

「それでシュタンデリス准将は今回のナブー失陥をどうお考えに?」

 

フリシュタイン大佐はジークハルトに尋ねた。

 

ジークハルトは少し間を置いて忌憚のない意見を述べた。

 

彼らに忖度したところで特に良いことはない。

 

むしろ妙に勘繰られる可能性の方が高そうだ。

 

「敵は徹底的な司令部機能の麻痺による降伏を狙っていたと考えられます。恐らく最初から展開した部隊同士による決戦をするつもりなどむしろハナからなかったとさえ私は考えています」

 

むしろ艦隊ごと出現したレジスタンス軍は制宙権の獲得以外はほぼ陽動の為の存在ではなかったのだろうかとさえ思う。

 

偵察隊の報告だと最終的に一個師団ほどの部隊が展開されていたそうだが一個師団が親衛隊一個兵団と本気で戦闘したようには見えなかったらしい。

 

となればやはり最初から彼らの目標はシードの確保と司令機能の麻痺にありレジスタンス軍はその支援の為の存在だろう。

 

「狙っていたのかそれとも偶然なのかは分かりませんがその結果、駐留軍の意識は王室海軍本部周辺とレジスタンス軍に向けられました。ですので敵特殊部隊はかなりすんなりシード宮殿に潜入出来たでしょう。かなりの前準備を持って、だと思いますが」

 

そして高度なハッキング技術によるシード防衛の最終兵器の起動。

 

恐らく均衡していた親衛隊とレジスタンス軍の勢力差もそこで完全にひっくり返ったのだろう。

 

首都の防衛隊が陥落し全てが敵の手中にあっては兵の士気も大きく衰える。

 

その隙をつけば敵を一気に降伏させることさえ可能だ。

 

「もし仮に首都シードにイオン・パルスが存在しなかった場合はどうなると思う?」

 

「その場合は作戦自体が大きく変貌しそうですが……恐らくイオン・パルスが特殊部隊が持ち込んだ別の制圧兵器に変わるだけだと思います。そちらの作戦でも特段と問題はなさそうですから」

 

しかしレジスタンスは最初からイオン・パルスを起動する前提で作戦を組んでいたのだろうとジークハルトは考えていた。

 

それには現地の抵抗勢力も絡んでいる為深くは分からないが。

 

「では我々が奪還作戦を開始するとなった時、君はどう見る?」

 

ハイドレーヒ大将はいよいよ本題を切り出しまずジークハルトに尋ねてきた。

 

本来はこの話をする為に来たのであって今までの問いは全て前座に過ぎない。

 

既に敗因は親衛隊上層部や国防軍総司令部で議論されているだろう。

 

「師団以下の部隊で奪還を……というのはもう厳しいでしょう。レジスタンスの防衛艦隊が軌道上に駐留し地上部隊も多くの戦力を残しています。おまけに市民は親レジスタンス派が多そうですし」

 

クーデター軍政下のナブーは今までのナブーと状態が大きく違う。

 

市民は軍政下時代は表面上従っていただろうが今はレジスタンスや抵抗勢力に“解放され”その戦勝と共にレジスタンスを支持しているだろう。

 

元々女王から王冠と権威を簒奪し暴力で全てを纏め上げたのだ、親衛隊将校の自分が言うのもなんだがそれでは長く持たない。

 

既にナブーの民の心は第三帝国にはないだろう。

 

「奪還するにはやはり二、三個兵団か軍、星系軍クラスの部隊が必要でしょう。惑星の制宙権を獲得する為に艦隊も必要でしょうし」

 

「では情報作戦や特殊作戦を加えた状態ではどうなる?」

 

「私の頭の中の構想で言えば少なくとも軍クラスの部隊は動かさずに済むと思います」

 

フリシュタイン大佐とハイドレーヒ大将は彼の構想に耳を傾けた。

 

「まず敵艦隊及び惑星監視網、スターファイター隊に大規模な情報攻撃を仕掛けその隙に第一の主力部隊を展開。惑星内部に艦隊攻撃陣地を形成し軌道上に出現した突破艦隊と共にナブーの駐留艦隊を挟み撃ちにして撃破します。それと同時に先行して潜入した特殊部隊や空挺部隊が敵の退路を遮断、宮殿格納庫及び飛行場など航空戦力を有する拠点、また各所司令部に打撃を与えます」

 

本当ならホロテーブルに部隊などを表示して立体的に見せたいのだが今はまだ構想段階だ。

 

ジークハルトが話しているものもこれから多くの人が携わり完成していくだろう。

 

その指揮を誰が取るかはまだ不明だが。

 

「後は先行投入した部隊と共に機動力を持って首都シード並びに保安軍司令部、海軍本部、各駐屯地を制圧し惑星全体を攻略します。ですので優れた諜報能力と妨害能力、特殊部隊の展開力と機動力が求められるでしょう。主力としては機甲戦力やガンシップなどの空中機動部隊が望まれるかと」

 

ジークハルトは自分が話している間にハイドレーヒ大将とフリシュタイン大佐が何かを目で確認し合っているのを知覚した。

 

値踏みされているのかそれとも…。

 

全てを測り切るのは難しい。

 

暫くするとハイドレーヒ大将がジークハルトの方を見て口を開いた。

 

彼は本当に人の心がないと感じられるほど冷酷を身に纏っている。

 

「やはり君に任せるのが最適なようだ。我々親衛隊保安局と親衛隊情報部は統合され新たに親衛隊情報保安本部(Fuehrer Force Intelligence Security Office)となった。我々は今回の作戦で諜報と特殊部隊のバックアップを担当する。君には作戦立案者の1人として参加してもらう」

 

ハイドレーヒ大将の説明と共にジークハルトはフリシュタイン大佐からタブレットを手渡された。

 

ジークハルトはそれを受け取るとある程度読み始めた。

 

中心部隊は第31FF特務兵団、デア・フルス・ソルー兵団で指揮官はネヴィー・クリース親衛隊大将。

 

「君には私の腹心のフリシュタインを付けよう。彼は今回の作戦に際して連絡将校兼保安副課長として上級大佐に昇進し君のサポートに回る」

 

「よろしくお願いします、シュタンデリス准将」

 

フリシュタイン大佐改めフリシュタイン上級大佐はジークハルトにそう告げた。

 

「3日後に戦略会議がある。君もフリシュタインと共に出席してもらおう、要件はこれだけだ」

 

「わかりました、では私も新たな新部隊の再編成がありますのでこれで」

 

ジークハルトは立ち上がり執務室を後にする。

 

暫く歩き人気のなくなった情報部の区画でジークハルトは人目も憚らずため息をついた。

 

「どうやら再びコルサントを離れることになりそうだ」

 

シス・エターナルの到来と共に戦場は再びジークハルトを呼び始めた。

 

 

 

 

 

 

-コルサント 総統府-

「まずはガレルでの勝利、おめでとうございます」

 

ヒェムナー長官は目の前のシス信者達に深々と頭を下げた。

 

部下の親衛隊将校らも同じように反応を示す。

 

「レジスタンスは今頃、大きく狼狽している頃でしょう。今こそあなた方の悲願を」

 

ヒェムナー長官は目の前のローブを着た者達に告げた。

 

長官の微笑みにはどこか憧れや信奉のようなものが含まれている。

 

ヒェムナー長官は熱心なシスや暗黒面の信者の一面があった。

 

彼の憧れはいつも過去のシスの領域や帝国、その聖遺物にありエストラン宙域の開発もその為だ。

 

失われたシス領域を現代に蘇らせる事が第三帝国の勝利だと信じて。

 

「タシュ顧問は随分と貴方のことを信任しておいででした。貴方ならば我らシス・エターナルの信奉者として迎え入れても良いと」

 

「あの方にそう言っていただけるとは……光栄の至です。私も励まねばなりませんな」

 

恍惚とした表情でヒェムナー長官はそう呟いた。

 

ユープ・タシュ顧問はダークサイド信者の組織であるアコライツ・オブ・ザ・ビヨンドの指導者を裏で務めていた。

 

元々タシュ顧問の部下としても働き彼とフォース哲学を語り合い親交も深かったヒェムナー長官はこの今亡き皇帝の顧問を非常に尊敬していた。

 

タシュ顧問も彼の思想には共感を示しアコライツ・オブ・ザ・ビヨンドのことを許しさえあれば話し仲間に引き入れる気でいた。

 

尤もそうする前にタシュ顧問は銀河の表舞台やヒェムナー長官の前から姿を消してしまったのだが。

 

「貴方のエストラン宙域の復興計画はこちらも承知しています。貴方は過去のシス卿や偉大な帝国に対して多大なる貢献をなされている。とても素晴らしいことです」

 

「そう言って頂けるとは……恐悦至極に存じます」

 

ヒェムナー長官は再び頭を下げた。

 

すると親衛隊将校の1人がシス・エターナルの代表団に尋ねた。

 

「一つよろしいでしょうか?」

 

「何か?」

 

シス信者の代表は発言を許可する。

 

許可を確認し周りの人目も憚らずこの親衛隊情報部所属のヴァルテ・シェーンベルク少佐はそのままシス信者達に尋ねた。

 

「エストラン宙域の国家弁務官区計画はまだ公には公開されておらず、極秘項目として情報は厳しく統制されていたはずですが」

 

あの計画は親衛隊情報部や保安局で厳しく管理していたはず。

 

それをつい最近姿を表し第三帝国に接触を図ってきた組織が知っているはずないのだ。

 

普通に考えればおかしなことで理由を考えれば浮かぶことはひとつ。

 

「教えてくれたのですよ、“()()()()()()()()()()()”」

 

シス信者はそう曖昧な言葉で濁しフードの奥から偽りをふんだんに含めた微笑を浮かべた。

 

シェーレンベルク少佐は別にフォースやらを疑っているわけでもなければ信じているわけでもなかった。

 

されど彼は反ジェダイ思想を持っているだけだ。

 

当然このシス信者の発言は“()()()()”を含んでいるとシェーレンベルク少佐は感じ取った。

 

「やがてはこの方々と共にエストランを、シスの領域を復興していくのだ。知られたところで問題はないだろう」

 

ヒェムナー長官はシェーレンベルク少佐を宥めるように間に入った。

 

これ以上の追及は無意味であるし下手に関係を崩したくないとシェーレンベルク少佐もそれ以上は何も聞かなかった。

 

「それで、現在の帝国指導者の到着はまだでしょうか?」

 

シス信者はヒェムナー長官に尋ねた。

 

「もう間も無く、何分にも総統閣下は多忙なものでして」

 

「このこれほど短期に新共和国を倒し今や銀河系の宗主国の指導者となりつつあるのですから多忙の程は承知していますよ。ではまず別件からは話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「別件……とは、一体なんのことでしょうか?」

 

ヒェムナー長官は首を傾げる。

 

シス信者は包み隠さず彼らに告げた。

 

「我々の艦隊は一隻一隻はこの銀河最大の火力を誇っていても如何せん数が足りません。あなた方や全ての帝国の力になる為には数が少ないのです」

 

「艦隊増強の為に軍艦を譲渡せよと?」

 

ヒェムナー長官の予測にシス信者は首を振った。

 

「そうではありません。一つは我々の主力艦であるジストン級の生産ラインを確保する為に物資支援を提供してほしい事、そしてもう一つは……」

 

シス信者は間をあけて彼らに告げた。

 

この援助こそが本命であり今後のシス・エターナルの為に最も重要なことだ。

 

「カイバー・クリスタル産出の鉱山開発計画と“()()()()()()()()()()()()()()()”をお願いしたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

ルークはR2と共に玉座の前に立っていた。

 

ルークが自発的に来たのではなくシス・エターナルの信者に呼ばれた為だ。

 

玉座ではその席の長が薄気味悪く笑っている。

 

「来てやったぞ、何度も言うが僕は暗黒面に落ちるつもりはない。僕は父と同じように使命を全うする」

 

玉座に向かってルークはそう吐き捨ていつでも戦闘出来るようにライトセーバーに手をかけた。

 

玉座の男は目を開き口元をさらにニヤリと開かせた。

 

「其方の隣のそのアストロメク、前にも見た事がある」

 

シディアスは玉座から枝のような人差し指をR2に向けた。

 

ルークはR2を庇うように一歩前に出る。

 

シディアスは思い出に耽るようにゆっくりと口を開き言葉を放った。

 

「しかし余が初めて見た時は其方とは違う主人がいた。そしてまた別の時には私の友人が主人であった……今度は其方か」

 

ルークはふとR2の方に目線を向ける。

 

この時のR2が何処か本当に物悲しそうな雰囲気を出していたのは恐らくルークの勘違いではないだろう。

 

思い出しているんだ、遠い昔を。

 

目の前の悪人が言う通りまだルークと出会う前の記憶を。

 

「そのアストロメクは“()()()()()”であるな。そしてこれから其方の前の主人と同じ運命を再び見ることになろうとは」

 

シディアスは言葉の後に性格の悪い笑みを浮かべた。

 

低い声音がゆっくりと周囲に溶け込み恐怖を伝染させる。

 

「エンドアの時と同じだ、僕は父の跡を辿らない」

 

ルークは初めてエクセゴルに来た時と同じく啖呵を切りライトセーバーを構えた。

 

光剣を出しその剣先をシディアスに向ける。

 

周りの衛兵は一斉に戦闘の準備体制に移行しルークを牽制した。

 

恐らくここでシディアスを倒してもルークは死ぬ。

 

流石にこの大軍団相手に1人で勝てるほどルークはフォースを使った戦闘慣れをしていなかった。

 

それでもやらなければならない。

 

未来のために、レジスタンスや友人、たった1人の“()()()()”。

 

シディアスは目の前の青年が自分の命を奪おうとしているのにも関わらず笑い声を止めなかった。

 

むしろその様子を見てさらに笑みを深めた様子だ。

 

最後の暗黒卿はしばらく笑い続けその黄色い眼をルークに向けた。

 

「最後のジェダイ・マスター、其方はジェダイ・マスターである前に“()()()()()()()()”だ。親族への愛着が深くそして絶対的な血の繋がりを持つ者…」

 

「それがどうした、今の僕に関係は……っ!」

 

その一瞬、ルークの手先が震えライトセーバーが少し揺れ動いた。

 

シス卿はその様子を微塵も見逃すことはなかった。

 

ルークの瞳に“()()”が映った瞬間動揺したことに対しシディアスは満足感と高揚感に包まれ笑みはまた深まる。

 

一方のルークは完全に硬直し瞳孔を開きライトセーバーを持つのがやっとだった。

 

R2も驚きを隠せていないことが雰囲気から分かる。

 

「どうして……どうしてここに……」

 

ルークは動揺を隠し切れずただひたすらに混乱していた。

 

その様子を見てシディアスは満足感を示すだけだ。

 

「余も驚きであったぞ、まさかスカイウォーカーは“2()()()()()()()”。そして“()()()()()()()()()()()”が生まれているとは。生き残ったジェダイは皆よく隠したものだ」

 

フフッとシディアスは笑みを零し動揺するルークに告げる。

 

「だが古きジェダイ達の努力はこれで無駄となった、奴らの遺物はこれで消えた。余は隠された真実とスカイウォーカーを手に入れた。其方が堕ちぬのなら“()()()()()()()()()”」

 

「やめろ…」

 

「さあジェダイ。其方に残された道は其方が降るか、もう1人のスカイウォーカーを身代わりとするか。どうする?」

 

ルークはライトセーバーの光剣を戻し膝から崩れ落ちた。

 

どうして彼がここにいるのだ、どうしてあの時助けられなかったのだ。

 

自責の念と困惑がルークのフォースの調和を崩し黒色に曇ったフォースの雲を呼び込む。

 

今玉座の間の近くにはシス信者が1人の幼子を抱えて立っていた。

 

幼子は今眠っているがやがて目を覚ますだろう。

 

ルークはこの子を知っている、ルークとこの子は血が繋がっている。

 

とても可愛らしい子で生まれてきた時は喜びが心の奥から込み上げてきたものだ。

 

彼も彼女も穏やかな表情を浮かべていた。

 

この子はルークだけでなく多くの人達の希望だった。

 

だが2年ほど前にこの子は“()()()()”。

 

みんなで探した、自分達の用いる者全てを使って。

 

一度はあと少しのところまで辿り着いていたはずだ。

 

ルークもハンも戦争の始まりに居なかったのはその為だった。

 

「其方にもはや時間はない、されど余の時間は永遠だ。さあ選べ、どちらにせよ余は“()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

シディアスは幼子に目を向ける。

 

ベン・ソロ、新たなスカイウォーカーはシス信者に抱えられている。

 

スカウィウォーカーの血統は、再び暗黒に包まれようとしていた。

 

 

 

つづく




Moin Moin !

私 だ

いよいよナチ帝国も新章に入り陰湿な暗黒面の話に入ります

陰湿で陰湿でとにかく暗くて時々パーッと(カイバークリスタルが)光が入ります

これが命の輝きちゃんですかね(小並感)

そいではまた次のナチ帝国で〜


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バロスの戦い

記録No.3698721153
本日は今計画の研究報告の為にインペリアル・パレスに出向した。
シーヴ・パルパティーン皇帝陛下に謁見し今計画責任者であるオーソン・カラン・クレニック長官が直接報告を行った。
今回の研究報告はバトルステーションの主力兵器に関する報告である。
先日技術的、性能的、生産的問題を解決した超兵器、カイバー・クリスタル・スーパーレーザー及び性能をダウンし量産化の見通しがあるアキシャル・スーパーレーザーの開発結果、研究結果をクレニック長官は報告された。
バトルステーション自体の建設は現在も遅延気味ではあるが超兵器の運用現実化について皇帝陛下は直接素晴らしいと思への言葉を頂いた。
この二種類の超兵器設計図及び研究資料は今までの技術同様インペリアル・センター情報管理室と惑星スカリフの情報保管庫に保存される。
また後者のアキシャル・スーパーレーザーに関しては現在同時に開発中の次世代ドレッドノート艦建造計画に統合され超兵器を搭載したドレッドノート及びスーパー・スター・デストロイヤーが建造されるとのことだ。
バトルステーションだけでなく、超兵器を搭載した主力艦が今後建造されていく事について個人的には非常に期待感を感じている。
-オーソン・カラン・クレニック長官副官のダンスティグ・プテロ大佐の日記より抜粋-


-チャーニス宙域 アンシオン星系 惑星アンシオン第八衛星-

1機のXウィングとミレニアム・ファルコンがアンシオン星系にジャンプアウトした。

 

この2機のスターシップはそれぞれ通信を取りながら連携を取ってアンシオンの八番目の衛星に進む。

 

ここはまだ帝国軍の残党の縄張りで新共和国軍とまだ戦闘を繰り広げていた。

 

前方から侵入に気づいたアンシオンの駐留軍が艦隊を差し向けてきた。

 

一隻のインペリアル級に二隻のレイダー級、そしてストライク級ミディアム・クルーザーが一隻。

 

ストライク級からは5機のTIEファイターが出撃し先行するレイダー級二隻からも艦砲射撃と共に艦載機が出撃する。

 

Xウィングとファルコン号はレーザー砲を掻い潜りながら全速力で衛星まで急行する。

 

反撃しない為TIEファイターは容易にファルコンらの背後に取り付き機体のレーザー砲を放つ。

 

全てを回避するのは難しいと判断したのかファルコン号のレーザー砲がTIEファイターを攻撃する。

 

今まで反撃が全くなかった為油断したのか1機が直撃を喰らいもう1機は右翼に被弾し制御を失い友軍機と激突した。

 

残された6機のTIEファイターは散開し様々な角度からの攻撃を開始する。

 

しかしうち1機がXウィングにより撃墜され5機となったTIEファイターは一旦体制を立て直す為に後退しレイダー級と攻撃をチェンジした。

 

レイダー級の速力はとてもXウィングとファルコン号に追いつけるものではなかったが猛攻は凄まじくこの2機をどこまでも追撃せんとする勢いだった。

 

それに加え後方ではインペリアル級から二、三個のTIEファイター中隊が出撃しようとしていた。

 

だが既に衛星は見え始めていた。

 

Xウィングとファルコン号はそのままセンサー・ジャマーとスモーク・グレネードを展開し姿をくらまし衛星の中へと突入した。

 

『帝国軍は振り切れた!このまま一気に連中のアジトまで突っ込むぞ!』

 

ファルコン号からハンの通信が聞こえXウィングに乗り込むルークも「ああ…!」と返答した。

 

2機のスターシップは帝国軍に見つからぬよう機体を森林の奥底に、それでいて連中のアジトに近い場所に隠して停泊させた。

 

パイロットスーツを脱がずにルークはヘルメットだけ捨ててライトセーバーを起動する。

 

R2も急いで機体から飛び降り、今まで改造されたボディで殺傷能力の高そうな装置を幾つか出した。

 

「気をつけろR2、いつどこから敵が出てきてもおかしくない…」

 

ルークは親友に警戒を促しながらゆっくり進み始めた。

 

後からファルコン号の中から出てきた完全武装のハンとチューバッカも合流し4人は森の中を進んだ。

 

「本当にここに……あの子がいるんだろうな」

 

「ああ、間違いない。コレリアで僕がつけた発信機は確かにここに辿り着いてた」

 

「銀河系の果てに逃げればなんとかなるって思い付いたのか単純に追い詰められた末か…」

 

「ホズニアンで話した通りまだ協定を承認していない帝国が活気付いてる領域に入れば手出しが難しくなると考えたのかもしれない」

 

ルークはハンの言葉に付け加えた。

 

実際ここまで彼らで来るのにストライン中将やクラッケン将軍らに止められた。

 

まだアンシオンは危険である、時を待つべきだと。

 

だがそんな事をしていてはあの子がどうなるか分かったものではない。

 

ホズニアン・プライムで連れ去られたハンとレイアの息子、ルークの甥のベン・ソロの安否が掛かっているのだ。

 

親であるならば、親族であるならば危険を踏み越えて助けにむかわ泣けばならない。

 

「野郎……暗黒面の信奉者集団だかなんだか知らないが人の子供を攫いやがって……絶対に許さねぇ…!」

 

「怒りで我を見失うな、その代わり絶対ベンを助けるんだ」

 

「ああ…!」

 

ルークはハンを宥めながら自らも高揚を抑えるようにした。

 

隣のチューバッカだっていつもよりもボウキャスターを持つ力が強いように見える。

 

ベンを誘拐したのは恐らく最近勢力を拡大しつつあるカーン・オブ・ダークネスという暗黒面のフォースの信奉組織だった。

 

他の暗黒面信奉組織とも協力関係にあるとされていた。

 

推定人数は分からないが少なくともこのアジトには数十人近い武装した信奉者がいると想定されていた。

 

ホズニアン・プライムやシャンドリラなどの支部組織は情報部の特殊部隊や治安部隊により壊滅したがこのアジトはまだだ。

 

もうベンの行き先はここしかない。

 

ここで、必ず助ける。

 

「いたぞ!」

 

ルークの発見の合図と共に木々の合間からブラスター・ライフルの弾丸が放たれた。

 

ルークは全ての弾丸を弾き返しカーン・オブ・ダークネスの信奉者に直撃させた。

 

そのまま父のようにライトセーバーを投げ信奉者を2人斬り倒す。

 

既に4人の信奉者が戦闘不能となり更にハンとチューバッカの攻撃により残りの信奉者は全て撃ち殺された。

 

奥からやって来た2人の信奉者もフォースで引き寄せられライトセーバーで斬り殺される。

 

更に奥にはスナイパーが1人おり、ルークに狙いを定めて弾丸を放った。

 

しかし最も簡単に弾かれルークは思いっきり飛び上がった。

 

スナイパーは急いで上空に狙いを定めたが既に時遅く、ルークの拳と共に意識を失った。

 

ルークの拳に込められたフォースが辺りに潜む全ての信奉者を叩き出し辺りに倒した。

 

恐らく全員気を失っているか絶命しただろう。

 

これで森に潜む防衛用の信奉者は殲滅した。

 

「行こう!」

 

ルークに先導されハンやチューバッカ、R2は続いた。

 

カーン・オブ・ダークネスのアジトは山の麓の洞窟にあった。

 

森に隠れているがスターシップ1機を停泊出来、多くの武装した信奉者を匿える。

 

今ルークと戦ったのは先遣隊であり元傭兵や帝国軍の兵士もいたのだがベンの為に突き進む彼らに敵うはずもなかった。

 

暫く進むとついにそのアジトのある洞穴が見えてきた。

 

洞穴の周りには旧時代のB1バトル・ドロイドや自動防衛タレットとまた武装した信奉者たちが待ち構えていた。

 

「撃て!」

 

1人の信奉者が命令を出し一斉にブラスターの嵐が吹き荒れる。

 

ルークはまずタレットをフォースで吹き飛ばし弾丸を全てライトセーバーで防御した。

 

その隙にチューバッカとハンがグレネードを投擲し爆発で信奉者とバトル・ドロイドが倒される。

 

更にボウキャスターと改造されたDL-44重ブラスター・ピストルが叩き込まれ多くの信奉者とバトル・ドロイドが撃破された。

 

信奉者の1人も反撃としてグレネードを投げようとしたがフォースによって妨害され自らの命を奪うだけに留まった。

 

「後退しろ!こうたっ!」

 

後退を指示した信奉者もハンのDL-44重ブラスター・ピストルの弾丸によって撃たれた。

 

なんとか生き残った信奉者達は洞穴の中に退避しようとするが防衛のブラスター弾が消えたことによりむしろルーク達の攻撃の合図となった。

 

ルークはフォースを込めて力強くダッシュしR2は足のロケットでルークに追随した。

 

ライトセーバーでまず戦闘の意志を見せる信奉者達を次々と斬り倒していく。

 

逆にR2は逃げる信奉者に電撃を浴びせたり消火スプレーを浴びせたりして妨害した。

 

奥からはチューバッカとハンの援護射撃が放たれまた多くの信奉者が打ち倒された。

 

「チッ!このジェダイの畜生め!」

 

退避出来ず残った信奉者の1人がゴツゴツした岩の壁に掛かっていた斧を持ち出しルークに振るう。

 

されど最も簡単に避けられライトセーバーで斧ごと斬り倒された。

 

他にも格闘戦で敵を倒そうとする信奉者がいたが全てチューバッカの怪力により投げ倒されたり岩壁に叩きつけられたりした。

 

これで一先ず目に見える範囲の信奉者は全て倒した。

 

「R2、ライトを頼む。このまま奥に進もう」

 

「ああ」

 

ハンもチューバッカもルークの意見に賛成を示しR2のライトとルークのライトセーバーの光を頼りに前へ進んだ。

 

途中でハンもライトをつけたがその頃にはもう奥まで辿り着いていた。

 

「道が二つある……」

 

ルーク達の目の前には上下に階段が敷かれていた。

 

「一応発信機の反応は上の方にあるけど…」

 

「こうなったら分かれて進もう。俺とチューイは下に、お前とR2は上へ」

 

「そうだね、気をつけて」

 

「当然」

 

チューバッカも「そっちは頼んだ」と告げ4人は別行動を始めた。

 

ルークはライトセーバーを構えながらゆっくり進んだ。

 

R2はセンサーを起動し電気ショック棒を前に構えながらルークに続く。

 

もしかしたらレーザー・マインのような罠が仕掛けられている可能性もある。

 

油断は出来ない、どこから信奉者が襲ってくるかも分からないのだ。

 

「クソッ!もう来た!」

 

「畜生!畜生!」

 

奥から人の声が聞こえそれと同時にブラスター・ライフルの銃弾が放たれた。

 

ルークは全てフォースで弾き敵の方へ追いやる。

 

弾丸の何発かが信奉者に直撃する音が聞こえ足跡からは一目散に逃げ惑う姿が暗い中でも確認出来た。

 

信奉者達は「クソッ!なんでこんなことに!」とか「首領さえ生きていれば……!」とまるでチンピラのような文句を垂れていた。

 

そのことにルークは少々の違和感を感じつつも前に進んだ。

 

フォースで敵のバリケードを吹き飛ばし一気に前に進む。

 

すると仕掛けた発信機が反応を示す部屋から突然悲鳴が聞こえた。

 

「やっやめろ!!」

 

「助けて!!助けてよ!!」

 

その部屋からは先ほどまでルークと戦っていたと思われる男女が2人出てきた。

 

フードと姿を隠す覆面が外れており恐怖を含んだ泣きっ面が嫌でも見えた。

 

男の方はそのまま部屋の中から出てきたアーマーを着たバイブロ=アックスを持つローブの者にその斧で背中から斬り殺された。

 

ローブのフードの奥から少しだけ顔のようなものが見えた。

 

相手はパージ・トルーパーのヘルメットの改造品のようなものを着用しており所々に黒く塗られたストームトルーパーや地上軍トルーパーのアーマーが垣間見える。

 

それにどうやら相手の体の一部は機械らしくその機械のパーツやコードが何箇所か見えた。

 

全身に返り血を浴びており血みどろの手で逃げようとする女の信奉者を掴んだ。

 

「嫌!離して!!離し……」

 

相手は女の首をへし折り、そのまま岩壁に叩きつけバイブロ=アックスを構えルークに突進した。

 

ルークはアックスの振りを回避しそのまま奥の部屋へ向かった。

 

こんな化け物のような相手が出てはベンの安否が心配になってくる。

 

もしかすると殺されてしまったのではという疑念も現れ始めた。

 

急いでこのサイボーグの戦士が出て来た部屋に入るとそこには悍ましい光景が広がっていた。

 

夥しい数の信奉者の死体が地面に転がっていた。

 

ホズニアン・プライムから逃走の為に使われたGX1短距離運搬船の前にもホズニアンで見かけた信奉者達が斃れていた。

 

そこには戦闘を指揮していた者も首領と呼ばれていたカーン・オブ・ダークネスの指導者と思われるヒューマノイドの男の姿もあった。

 

それだけではなく先ほどの防衛戦で一目散に逃げていった信奉者達は全員ここであのサイボーグの戦士に逃亡を理由に殺害されたのだろう。

 

先ほどの男女と同じように無惨な死に方をした信奉者達の遺体が重なって転がっている。

 

「あいつがやったのか……?っ!」

 

ルークは寸前で後ろからバイブロ=アックスを振るってきたサイボーグ戦士の攻撃を回避しライトセーバーを再び起動した。

 

ライトセーバーの斬撃で攻撃を与えつつ敵の攻撃も同じように防ぐ。

 

フォースが使え様々な技と攻撃法のレパートリーに優れているルークの方がサイボーグの戦士よりもかなり優勢で攻撃を受けては反撃を叩き込むを繰り返していた。

 

サイボーグの戦士は徐々に押されルークの斬撃を受ける回数も増えていった。

 

既に足や手に切り傷を負い損傷箇所からスパークが漏れ出ている。

 

そしてサイボーグの戦士に痛恨の一撃が加えられた。

 

その一撃はルークによってではなく、背後からこっそり忍び寄り接近していたR2-D2によるものだった。

 

R2の電気ショック棒がサイボーグ戦士の損傷部分に触れ凄まじい量の電流がサイボーグの戦士に流し込まれた。

 

各回路がショートしまだ生きている生の神経が電流によって損傷しサイボーグの戦士は苦悶の声を上げる。

 

野太く加工されたような声だったが確かに戦士の声だった。

 

ルークはその隙にサイボーグの戦士の両手を斬り落とした。

 

武器を失ったサイボーグの戦士は防御すら敵わず首を緑色の光剣によって斬り落とされそのまま絶命した。

 

残された身体は膝から崩れ落ち自らが殺してきた信奉者と同じように地面へ斃れた。

 

「コイツは一体……ベンは……」

 

ルークは周囲を見渡しベンの姿を確認しようとするがあの幼子はどこにもいなかった。

 

辺りを走りいそうな場所を徹底的に探してもベンの姿はどこにもいない。

 

ルークはGX1短距離運搬船の中も徹底的に探した。

 

貨物エリアからコックピットまで、船の裏側といった有り得なさそうな場所も全てだ。

 

しかしベンの姿は見当たらなかった。

 

「一体どこに……」

 

まだ辺りを探していたR2も悲しげな電子音で「いなかった」とルークに報告した。

 

「ありがとうR2……まだハン達が残っている。そっちに合流しよう、きっと見つかるはずだ」

 

もしかしたら地下に隠しているのかもしれないとルークは希望を持った。

 

どんな状況であろうとも諦める事は出来ない、信じれば道は絶対に見えるはずだ。

 

ルークはふと足元に目線を向けた。

 

洞穴をそのまま改造したアジトの部屋には先ほどの戦士が口封じの為か殺した信奉者達の血や遺体に混じって何かの跡のようなものが見えた。

 

それも“()()()()()()()()()”にそっくりだ。

 

ルークは足元に近づこうとしたがR2が「ハン達に合流しよう」と急かした為ルークはR2の方に向かった。

 

2人はすぐにハンとチューバッカに合流した。

 

まだハン達は戦闘中だった為加勢し残りの信奉者達を一掃した。

 

完全にアジトを制圧した4人はそのまま手分けしてベンを探し始めた。

 

だがやはりベンは何処を探しても見つからなかった。

 

岩間の影や機材や乱雑に置かれたテーブルの下。

 

二度探したところは三度も探し、いそうにない戸棚やアジトの寝室のベッドの下まで。

 

信奉者達の死体をひっくり返して更に地下通路がないかも確認した。

 

ルークが制圧した上の階も再び探した。

 

ルークもハンもチューバッカもR2も必死だった。

 

あの大切な小さな幼子を探す為に本気になって、本気以上でひたすらに探した。

 

それでもやはり、ベンは見つからなかった。

 

暫くしていよいよ時間が来た。

 

アンシオンの帝国軍が捜索の為に本格的に地上部隊を展開してきたのだ。

 

まともにやり合えば人数的な苦戦を強いられる事は間違いないのでルーク達は運搬船など手がかりになるものを持って近くの新共和国軍寮に避難した。

 

そこから再び彼らはホズニアン・プライムに戻った。

 

無念の思いを抱えつつもまだ諦めずに。

 

ホズニアン・プライムのアパートメントでレイアはルーク達と話をしていた。

 

本当は母親である彼女自身が一番自ら探しに行きたかったはずだ。

 

しかし元老院議員でもあるレイアは全てを実に兄と夫と大親友のウーキーに託してホズニアン・プライムでじっと吉報を待った。

 

一番心苦しいであろうがレイアは1人で耐え抜いていた。

 

「カーン・オブ・ダークネスは壊滅したとストライン中将は報告してきたけど…」

 

「それは多分間違いないと思う。だけどダークサイドの信奉者組織はエンドア以降増え続けてる。もしかすると他の組織に流されたのかもしれない」

 

カーン・オブ・ダークネスは恐らく何かの組織の下位組織やダミーのような存在であったのだろう。

 

でなければあんなにあっさり首領が殺され信奉者達も寄せ集めのチンピラばかりというのが説明がつかない。

 

きっと上位の組織に誘拐を委託し拐われたベンだけを連れ去ったのだろう。

 

あの子を“()()()()()()()()()()()()”。

 

レイア・オーガナとハン・ソロの息子、それだけでも大きな存在だが彼らがベンを狙った本当の理由はこのスカイウォーカーの血統とフォースの力にあるはずだとルークは睨んでいた。

 

ただの身代金目当てなら今頃レイアか新共和国の何処かしらの機関に要求のためのホロ通信が掛かってきているはずだ。

 

それすらないということに加え相手は面は違えどフォースの信奉組織、その力と血統は理解している。

 

ベンを浚い、幼いうちから教育を施してきっと自らの組織の指導者として扱うはずだ。

 

それこそシス卿のような存在にして…。

 

「俺はこれからチューイと一緒にキャッシークへ飛んでクラッケン将軍の情報部チームと合流する。ベンを攫ったのが一つの組織でないならこれからは本格的な諜報組織の協力が必要だ。それにどうやらまたキャッシークの周辺がきな臭い」

 

「帝国の残党の動きが活発化している件のこと?」

 

「ああ、一応名目上はキャッシークの防衛と現地のウーキーの郷土防衛部隊の育成ってことでな。チューイの生まれ故郷を守ってやりたいし同時にベンも探せる」

 

ハンは妻のレイアにそう告げた。

 

今彼女の下を離れるのは本当に辛いし出来れば一緒にいてやりたいと思うが拐われた息子を救う事こそが一番の慰めになるはずだ。

 

チューバッカも「必ず探し出してみせる」とシリウーク語で誓った。

 

彼は本当に義理堅い良い奴だ。

 

「僕もR2と一緒に銀河を回ってベンを探すよ。残されたジェダイの遺跡やシスの遺跡、信奉組織を当たってみればベンの手がかりを掴めるかもしれない」

 

特にシス関連の遺跡は今も暗黒面の信奉組織が根城にしている可能性が高い。

 

今のルークは自由に銀河を飛び回れる為一番ベンを直接探し出せる可能性が高いのだ。

 

それに相手はフォース関連の組織なのだから最後のジェダイたるルークが一番見つけやすいのかもしれない。

 

「R2、しっかりルーク様のお世話をしてベン様を見つけ出すんだぞ。それとお前も自分の身は自分で守るんだぞ」

 

C-3POは旅立とうとするR2に労いの言葉をかけていた。

 

まあ直後にR2が軽口を叩いた為にC-3POが「なんだと!?私はお前さんを心配して言ってやってるんだぞ、この分からずやめ」と頭を叩いていたが。

 

「私は他の議員に声をかけてみたり同じような被害に遭われた方を探してみようと思います。声が集まればきっと大きな力になる」

 

レイアは自らの肩書きの力を使ってベンを探し出そうとしていた。

 

もしかするとレイアのやり方が一番正攻法に近いのかもしれない。

 

彼女の責任が今彼女の助けになろうとしている。

 

「3PO、あなたにも任務を出します」

 

「私に?」

 

C-3POはレイアの命令に耳を傾けた。

 

このプロトコル・ドロイドに直接命令が下される事は珍しい。

 

「間も無くこのホズニアン・プライムからある一隻のコルベット艦がディカーという惑星に向けて発進します。あなたはコルベットに乗ってディカーへ行き、私の友人を頼ってください。きっと力になるはずです」

 

「わかりました、すぐに向かいます」

 

C-3POは急足で部屋を後にした。

 

「こうやって全員が集まるのはいつだろうな」

 

ふとハンが呟く。

 

「さあ、でもその時は必ずベンも一緒だ。きっと僕たちにはフォースがついている」

 

レイアもそれに小さく頷きその場の全員が誓った。

 

必ずベン・ソロを見つけ出して見せると。

 

それから2年の月日が経ち、間も無く3年の月日に成り代わろうとしている。

 

気がつくと銀河系では第三銀河帝国が台頭し第二次銀河内戦が始まり、新共和国は崩壊した。

 

結局ルークもレイアもハンもチューバッカもR2もC-3POもベンを見つける事なくディカーで再会を果たした。

 

この銀河の歴史は彼らを待つ事なく進み始めた。

 

されどルークだけは追いつけた。

 

ようやく見つけたのだ、ベン・ソロを、たった1人の可愛い甥を。

 

だがその甥っ子は今や暗黒面のての中にありその首魁は残酷な選択を無理に迫ってきた。

 

新たなる希望がシスの希望となるか、未来を担う若者をその未来通り今暗黒面に委ねるか。

 

ダース・シディアスは笑い、ルーク・スカウォーカーはジェダイとなって始めて絶望した。

 

この銀河はもう、暗黒面に包まれる寸前である。

 

 

 

 

 

 

-レジスタンス領 ドミナス宙域 バロス星系 惑星バロス-

数百隻のレジスタンス宇宙軍の艦艇がバロスに5時間前に到着した。

 

現地の駐留艦隊と併せてその総数は艦艇の大きさを問わなければその数は大凡百八十六隻。

 

うち四十九隻はこの場にいないがそれでも百三十七隻の艦艇がバロスの軌道上に駐留していた。

 

旗艦はMC85スター・クルーザー“ニスタラム”、指揮官はバニス・ボラトゥス提督。

 

ボラトゥス提督はモン・カラの寒冷地に生まれあのラダス提督やアクバー元帥らとも親交が深いモン・カラマリだった。

 

提督は長い間様々な種族の乗組員を率いて抵抗勢力を形成しており最終的に彼の部隊は反乱同盟艦隊の一翼を担う存在となった。

 

彼はモン・カラの駐屯軍司令官を任され精鋭のモン・カラ駐留第一艦隊を率いていた。

 

今回はその虎の子の第一艦隊を率いてバロスでシス・エターナル艦隊を迎え撃ちに来たのである。

 

「艦隊の補給、完了しました。これで後数回はハイパースペース・ジャンプが可能です」

 

副官のマニンス少佐から報告を受け取りボラトゥス提督は「よくやった」と誉めた。

 

「支援隊に戦闘準備を命じろ。敵が動き出したらすぐにでも動けるようにしておくんだ」

 

「はい閣下」

 

「シス艦隊め……これ以上我々の領域に足を踏み入れることはさせん!私の命に変えてもここで必ず……!」

 

ボラトゥス提督は握り拳を作り、怒りを込めた。

 

ガレルの駐留艦隊は全滅、恐らくガレルに駐屯していた地上部隊も生存者はないに等しいだろう。

 

ガレル艦隊の旗艦であるMC85“リバティ”には反乱同盟時代からの戦友が艦長を務めていた。

 

ボラトゥス提督にとってこの戦いは仇討ち合戦であると同時に祖国防衛戦争でもあった。

 

これ以上連中に進撃されればレジスタンスに味方するロザルやドーネア、最終的には絶対防衛線が展開されているサンクチュアリも危険に晒される。

 

多くのレジスタンス派市民を守る為にもこの戦いは是が非でも勝たねばならなかった。

 

『ボラトゥス提督、お早いご到着で』

 

「スファリー准将か、周辺パトロール隊の結集、ご苦労であった」

 

スファリー准将はバロス駐留艦隊の指揮官であり元惑星防衛軍出身の指揮官であった。

 

惑星防衛軍出身の将校は反乱同盟時代の将校に比べて信頼が薄い場合もあるがスファリー准将はレジスタンスを献身的に支え多くの者の信頼を勝ち取っていた。

 

既にバロス内は彼の命令によって艦内に乗り込んでいた全ての陸戦隊員と地上の歩兵部隊が完全防御を敷いており地上戦となれば少なくとも二、三週間は侵攻を停止出来るほどの防御力を構築していた。

 

市民の避難も粗方完了し今惑星にいるのは数百万人のレジスタンス軍の将兵のみだ。

 

元々バロスには1億人近い人口が住んでいたのだがそれらを全て周辺のタラルⅤやヒナクゥーへと避難させた。

 

モン・カラマリのレジスタンス司令部が早期に対策を取ったおかげだ。

 

もしこのままバロスに人々を残したままではやってくるシス・エターナルやその同盟者とみなされている第三帝国に何をされるか分からない。

 

それこそホズニアン・プライムやシャンドリラ以上に酷い事になるだろう。

 

彼らの残虐性は実しやかにだが囁かれ始めていた。

 

『既に哨戒機を出して索敵を行なっています。1分前に敵艦隊は既にガレルを離れたようですので』

 

ガレルとこのバロスの距離はそう長くはなかった。

 

むしろバロスより奥のロザルとの行き来にハイパースペースを使えば僅か数分足らずで到着出来る距離にあるのだからバロスは更にガレルから近い。

 

敵艦隊が動き出したということはもう間もなくこのバロス周辺域に到着するということだ。

 

早速ボラトゥス提督は即断即決の指示を全艦隊に飛ばした。

 

「ならば全艦隊出撃用意!こちらから打って出てこちらが戦場を設定する。スファリー准将はバロスの最終防衛を頼む」

 

『了解!ご武運を、提督…!』

 

その聞きなれた台詞にボラトゥス提督は敬礼で返し通信を切った。

 

一斉にレジスタンス艦隊が動き出し、戦場へ向けて出撃を開始する。

 

この艦隊にはMC85やネビュラ級が何隻も投入された超最新の精鋭艦隊だ。

 

そう簡単に負けるはずがない、勝利は難しくともせめて敵の全貌を知る事くらいはとボラトゥス提督は祈りに近いことを考えていた。

 

「移動と共に戦闘陣形を展開、今のうちに支援隊は所定地につき命令まで待機を。この戦い、命をかけるに相応しい代物だ。我々はここで斃れようと無駄死にではない!むしろ未来の同胞達を必ず勝利に導くはずだ」

 

軽い演説を交えながらボラトゥス提督は艦隊に命令を下す。

 

今の状況では1分1秒がとても貴重に感じられた。

 

ボラトゥス艦隊の移動より4分後、シス・エターナルの艦隊はバロス周辺域にジャンプアウトした。

 

間も無く戦闘が始まる、シス・エターナルとレジスタンスの第二戦目となるバロスの戦いが。

 

 

 

 

 

 

一番最初にハイパースペースからジャンプアウトしたのは艦隊総旗艦たるエクリプス級ドレッドノート“エクリプスⅡ”だった。

 

その次に十隻のジストン級スター・デストロイヤー、更に護衛艦のインペリアル級が二十二隻、アークワイテンズ級やヴィクトリー級が四十四隻ジャンプアウトした。

 

これだけでも十分星系艦隊以上、半個艦隊に匹敵する数だがまだ多くの艦艇をガレルに残してある。

 

今ジャンプアウトした艦隊は“エクリプスⅡ”の第一本艦隊と第二分艦隊の戦力のみだった。

 

ジャンプアウトと共にシス・エターナル艦隊は一斉に陣形の構成を始め、数分も経たずにフリューゲルが提案した防衛と攻撃を兼ね備えたジストン級専用の陣形を構築した。

 

「全艦の陣形展開完了、スターファイター隊も出撃可能です」

 

エクリプスⅡ”のブリッジで通信士官のブリス中尉がフリューゲルら上級将校に報告した。

 

フリューゲルの隣にはシス・エターナルの黒い軍服を着たブリッツェ中佐やテルノ中将、グレッグ提督らがいた。

 

他にも多くの幕僚将校やスターファイター隊指揮補佐官のハバドン少将や参謀のデミングス司令官もフリューゲルの隣にいた。

 

「まず各艦の第1と第2の中隊を先行出撃させ待機させろ。各ジストン級はチャージを始めろ」

 

「了解」

 

ジストン級やインペリアル級からTIEインターセプターやTIEブルートだけでなくシス・エターナル軍専用のTIEファイター、TIE/SNスターファイターこと通称シスTIEファイターが出撃していった。

 

通常のTIEファイターとは違い機体のパネルは短剣のように尖っておりシス・エターナルを示す赤いラインが引かれている。

 

このTIEスターファイターはあくまで実験段階の機体にありより日夜性能を追い求める研究がなされていた。

 

それでも並のパイロットからすればこのシスTIEファイターは十分な戦闘力を持っていた。

 

「このペースだと最大出力チャージを終えるまでに敵艦隊と会敵してしまいますね」

 

デミングス司令官はフリューゲルに耳打ちしてそう呟いた。

 

「ああ、だが最初に1発だけ撃てばそれで十分だ。アキシャルによる火力投射は合流と共にだ」

 

「敵艦隊発見!モニターに移します」

 

士官の報告と共にブリッジのモニターにレジスタンス艦隊の姿が映し出された。

 

かなり広範囲に艦艇を配置し僚艦、僚艦それぞれが距離を取っていた。

 

むしろ距離の取りすぎにも見えるほどだ。

 

「敵将、誰だか知りませんが対策を取ってきましたね。散開隊形を取ればこちらのアキシャルでの攻撃で受ける損失を軽微に留められる」

 

デミングス司令官は敵の布陣を一瞬で読み解きそう呟いた。

 

フリューゲルも「ああ、それでいて対空防御は確実に形成されている」とレジスタンスの陣形を褒めた。

 

更に敵艦隊は高速艦を前衛に配置している為乱戦状況に持ち込みやすくなっている。

 

艦隊同士がぶつかり合い乱戦状況となればアキシャル・スーパーレーザーはそう易々と使用は出来ない。

 

むしろ数的にはレジスタンス艦隊の方が上である為レジスタンスが辛うじて有利に立てるだろう。

 

当然そんなことを許すつもりはなかったが。

 

「レーザーのチャージ状況は?」

 

「左翼ジストン級の“モフ・アルティス”がエネルギー充填率15%を突破しました。同様に右翼中列の“アドレーション”も10%であれば発車可能です」

 

「ならば両艦に命令、アキシャル・スーパーレーザーを10%の出力で敵艦隊に放て。目標敵艦隊中央の主力艦艇群、一番槍は我々のものだ」

 

「了解!」

 

命令は即座に伝達されジストン級“モフ・アルティス”と“アドレーション”は戦隊下船部のアキシャル・スーパーレーザー砲の発射体制に入った。

 

スーパーレーザー砲区画の乗組員達は退避を行なったりシステムの制御や目標の入力作業が始まっていた。

 

両艦のブリッジでは将校達が慌ただしく報告を行なっている。

 

「安全装置解除、メインエンジンをスーパーレーザー・モードへ」

 

シス・エターナルの宇宙軍トルーパーや乗組員達は素早くパネルを操作し“モフ・アルティス”をアキシャル砲発射体制へと持ち込んだ。

 

このアキシャル・スーパーレーザー砲はかつてマジノ線にローリング大将軍らが持ち込んだアキシャル・シージ・レーザーキャノンと同機種の存在だ。

 

オナガー級スター・デストロイヤーやデス・スターのスーパーレーザーを技術的祖として改良が進められた。

 

あくまでシージ・レーザーキャノンの時代は惑星破壊を何隻も投入して長時間のバースト射撃を行わなければならなかったがこのスーパーレーザーは違う。

 

エクリプス級の“()()()”とはいえその火力は十分な威力であり長時間バースト射撃は必要でもたった一隻の一撃で惑星を破壊することが可能だ。

 

当然艦隊など相手にもならない火力である。

 

「砲撃モードをプラネット・デストロイヤーからフリート・デストロイヤー拡散モードへ、出力チャージ10%」

 

「砲撃位置入力完了、船体固定完了、発射態勢構築完了」

 

「乗組員の退避も完了しました。艦長、いつでも撃てます」

 

砲術主任士官長が“モフ・アルティス”の艦長に砲撃準備の終了を報告した。

 

それから数秒も経たずに艦長は容赦無く命令を下す。

 

「では目標に向かって撃て」

 

そのたった一言で“モフ・アルティス”から超兵器の一撃が放たれた。

 

爆音と共に流血のような真っ直ぐ伸びた赤いレーザーが敵艦隊に降り掛かり厄災を招いた。

 

10%の威力であるのにも関わらずアキシャル・スーパーレーザーの一撃は一瞬でMC80スター・クルーザーと僚艦として控えていたCR90二隻を文字通り消失に追い込んだ。

 

船体の一部分すら残らずこの三隻の軍艦は消え去り周りにいたネビュロンBやブラハットク級ガンシップ、CR90も撃沈、または損傷し行動不能となった。

 

アキシャル・スーパーレーザー砲は現在対艦攻撃の拡散モードに設定されている為より広範囲に火力を振り撒く事が出来る。

 

しかしそれを見越してか、レジスタンス艦隊は散開隊形を取っていた為被害は最小限に抑えられていた。

 

最大火力の拡散モードならガレルのようにレジスタンス艦隊を一撃で葬り去る事が出来ただろうが。

 

続いて“アドレーション”からもアキシャル・スーパーレーザー砲が放たれた。

 

アドレーション”の一撃はMC75を一隻撃沈しMC80を一隻中破に追い込み多数の周辺艦艇に損傷を与えた。

 

こちらも攻撃は概ね成功と言ったところだろう。

 

敵艦隊に対し、初手に手痛い一撃を喰らわせてやった。

 

MC85スター・クルーザー“ニスタラム”のブリッジでも混乱は全く抑えられていなかった。

 

「提督!あの兵器は!?」

 

「オナガー級のような兵器を想定していたが……全く予想外だった……!まさかデス・スターと同じものを主力艦に搭載していたとは…!」

 

ボラトゥス提督は歯噛みしブリッジのアームレストに拳を叩きつけた。

 

周りの将校は一兵卒から幕僚に至るまで皆不安そうな表情を浮かべている。

 

提督はすぐにこれでは敵の思う壺だと自覚した。

 

「だが散開隊形をとっておいて正解だった。こちらの損失はあの一撃を喰らったにしては軽微で連中のあの大砲は確かに凄まじい威力だがチャージと砲撃に時間が掛かるようだ。このまま予定通り作戦を開始する!怯むな諸君、我々は勝てるぞ!」

 

「はっはい提督!各艦に作戦開始を伝達しろ!」

 

「了解!」

 

ボラトゥス提督は自分の発言が敵の弱点的部分を過大評価したものだと知りながらももはやこれしか道はないと考えた。

 

むしろこのまま部下達を不安がらせておく方が敗北に直接的な原因を作りかねない。

 

今は方便でもなんでも使って作戦通りに包囲戦を構築、乱戦状況とスターファイター戦に持ち込んで敵艦隊を叩く他なかった。

 

「全艦艇の援護砲撃と同時にスターファイター隊を展開し敵艦隊へ突入させよ、連中にメスを入れてやるのだ」

 

ボラトゥス提督の指示と共にレジスタンス艦隊は反撃を始めた。

 

主力艦や護衛艦の火砲がシス艦隊に牙を剥きその隙にXウィングやAウィングを先頭にBウィングやYウィングの爆撃隊が突撃する。

 

火力と物量による正面攻勢とスターファイター隊による切り崩し戦術ならあの超威力を艦隊から遠ざけられるはずだ。

 

どんな大砲でも撃たれなければひとまずはなんとかなる。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!」

 

ボラトゥス提督の乱雑に見えつつも正確な指示が艦隊を一瞬の混乱から引き戻し作戦を再開させた。

 

シス艦隊も通常の艦隊戦に移行しつつある。

 

モフ・アルティス”と“アドレーション”は一旦後退しそれ以外の主力艦が主砲を用いて反撃し始めた。

 

インペリアル級の八連ターボレーザー砲は安定した火力を撃ち出しジストン級の重ターボレーザー砲やイオン砲も十分な威力を上げている。

 

「火力で言えば向こうがやや有利……ならば本艦も撃ち出すとしよう。ドレッドノート通常攻撃隊形展開!エクリプス級の火力を連中に見せつけてやれ」

 

艦隊の中央に若干の隙間が開き“エクリプスⅡ”が少し前に出た。

 

何発かのレーザー砲弾が“エクリプスⅡ”に被弾したが全く傷ついていなかった。

 

分厚い偏向シールドが常にこの次世代ドレッドノートを守っている。

 

「艦隊の陣形展開完了しました」

 

エクリプスⅡ”艦長のセルガス・ラノックス艦長がフリューゲルにそう告げる。

 

「早速一斉射撃を開始しろ」

 

エクリプスⅡ”の最大火力が敵艦隊に掃射された。

 

何百門の砲門からレーザー弾が放たれあるいはミサイルや魚雷を撃ち込み敵艦隊を攻撃する。

 

エクリプス級はエグゼクター級やマンデイター・ラインなどの既存のドレッドノートの先を行く次世代型の超弩級戦艦だ。

 

当然一つのターボレーザー砲の火力をとってもその威力はエグゼクター級を遥かに上回りエグゼクター級よりも船体は若干小さいのにも関わらず遜色ない火力を撃ち出していた。

 

直撃を喰らった小型艦が一撃で破壊され主力艦のMC80やMC75もタダでは済まされない。

 

何せ最新鋭艦のネビュラ級やMC85だってこのエクリプス級に押されているのだ。

 

「各アークワイテンズ級及びヴィクトリー級は対空戦闘に移行しろ。スターファイター隊は友軍艦に取り付く敵機を全て撃墜せよ」

 

フリューゲルの命令が下り待機していたTIEインターセプターやシスTIEファイターの部隊が攻撃を開始した。

 

圧倒的な物量と機体性能を活かし対空防御の中を突っ込んでくる敵機を袋叩きにする。

 

1機のXウィングがアークワイテンズ級にプロトン魚雷を撃ち込もうとした瞬間駆けつけたシスTIEファイター2機がXウィングを撃墜した。

 

更に支援の為に接近してきたブラハットク級を3機のシスTIEファイターとTIEブルートとTIEインターセプターの混成2個編隊が迎撃する。

 

周辺の敵機を殲滅し震盪ミサイルやイオン魚雷をブラハットク級に放ち最終的にはヴィクトリー級のターボレーザー砲を合わせて撃沈に追い込んだ。

 

堅牢な対空防御陣形とスターファイターの動きにレジスタンス軍は苦戦を強いられていた。

 

特にスターファイターの動きは並の帝国軍のパイロットを遥かに超えている。

 

シス・エターナル軍の大半のパイロットはエクセゴルや銀河系から“()()()()()”優秀な子供達の成れの果てだがフリューゲル麾下の部隊は違った。

 

殆どが元ディープ・コア駐留軍所属の精鋭達で経験も練度も桁外れだ。

 

更にはテルノ中将麾下のゴールドウィング中隊やシルバーウィング中隊といったスターファイター隊も戦闘に加わっていた。

 

そこにシスTIEファイターやインターセプター、ブルートの性能が組み合わさりレジスタンスを圧倒する。

 

それにフリューゲルは元パイロットでスターファイター隊指揮官でもあった。

 

現在は艦隊司令官だが他のどの将校よりもスターファイター隊のことについては熟知しているつもりだ。

 

様々な要因が重なりレジスタンス軍スターファイター隊と突撃部隊の攻撃は難攻していた。

 

レジスタンス軍も作戦通りに従ってそれぞれ奮戦していたがシス・エターナル艦隊はそれすらもまるで露を払うかのように簡単に薙ぎ払ってしまう。

 

本来はとうの昔に崩れているはずのシス・エターナル艦隊の前衛も艦列の崩壊どころか一隻たりとも撃沈した艦を出していなかった。

 

「スターファイター隊と対空部隊の連携により敵のスターファイター隊と突撃群は完全に防がれました。しかし連中は戦術を切り替え方位線に移行するようです」

 

「よくやってくれた中将、敵艦隊の動きはどうなっている?」

 

「左右に艦隊を展開し包囲体形の足場を作ろうとしています。センサー士官らの報告によれば間も無く敵の予備隊がジャンプアウトすると」

 

ラノックス艦長がフリューゲルに報告する。

 

現状敵艦隊の増援を受ければ敵は更なる数的優位を手にし物量と包囲体制によりアキシャル・スーパーレーザー砲の威力を元のもせず攻勢を開始するだろう。

 

そうなると流石のシス・エターナル艦隊も敗北は避けられない。

 

ならば頃合いだ、こちらも一気に王手をかけるとしよう。

 

「ガレルの第三分艦隊と第四分艦隊に出撃命令を出せ。連中の艦隊の出現間近に重力井戸を起動し体制を崩させる。艦長」

 

「はい元帥閣下」

 

ラノックス艦長を呼び付け彼に尋ねる。

 

「“エクリプスⅡ”の充填率はどのくらいだ?」

 

それはこの戦闘を素早く切り抜ける為に重要なキーパーソンだ。

 

ラノックス艦長は数秒の間も置かずにフリューゲルの問いに答えた。

 

「チャージに専念していたので100%です。20%までなら照射してもバロスに到着することにはフルチャージ出来ます」

 

その返答はフリューゲルを大いに満足させ彼の戦術を次の段階へと押し上げた。

 

もう少しレジスタンスにはまともに戦ってもらおう。

 

連中が包囲網を展開し勝利に近づこうとする時、それは連中の敗北の合図だ。

 

シス・エターナル艦隊に迫る二つの牙は更に大きな牙によって折られて押さえつけられようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-チス・アセンダンシー領 未知領域 惑星シーラ 首都クサプラーアリストクラ会議室-

このチス・アセンダンシーには元々9つの家がありそれらがアセンダンシーの統治と政を担ってきた。

 

現在は革命や亡命の関係でこの家々も随分と変化したがやる事自体は変わらない。

 

「チス・アセンダンシーの新領土は想定いたよりも大幅に利益を上げています。このままフェル殿の進言通り、サーティネイアンを“()()()()()()”とすれば来るべき驚異に備えられるでしょう」

 

オビック家のオビックトストヌフは議場でそう報告した。

 

彼はルーリング・カウンシルの職だけでなくヴィルヘルムやタッグ元帥と共にと共に割譲領域の政治委員を務めており領域の発展や軍事耐性の強化、治安維持や民進掌握に力を入れていた。

 

「領域内の旧帝国軍勢力も大多数は我々に味方してくれるそうです」

 

「初期は全く味方がいないに等しい状況だったのに、よくそこまで持ち上げたな」

 

ボアディルザレヴィチは意外だという風に話に入った。

 

元々あの地にはかなり反抗的な元帝国軍の勢力が確認されていた。

 

それがチス・アセンダンシーにとっての一番の心配だったし課題点であった。

 

「それはやはりフェル殿の“()()()()”のおかげでしょう」

 

トストヌフはヴィルヘルムの方に目をやりザレヴィチの疑問に答えた。

 

しかしヴィルヘルムは「チス秘密警察と情報部の力添えがあってこそです」と付け加える。

 

彼が行った特殊作戦とは情報部や保安局のスパイ、又は各部門の特殊部隊を送り込み反抗的な帝国軍残党勢力の指導者を抹殺していった。

 

また勢力の指導者に反対する者に支援を行いクーデターを実行させたり小規模な戦闘を行い艦艇やスターファイター、ウォーカーなどを吸収するなどのことを行なっていった。

 

この一連の作戦で決して少なくはない数の元帝国軍人が暗殺され、死んでいった。

 

ある勢力は内乱状態に陥ったしある勢力はほぼ崩壊し力を失った。

 

だがそれだけの軍人が死のうとヴィルヘルムからすれば“()()()()()”だった。

 

もし仮に敵対の意思を示す勢力と真っ向から戦いになるとしたらその一連の戦いでの戦死者数は一体どうなるだろうか。

 

敵の一つ一つの勢力はチス・アセンダンシーと亡命帝国軍の総力に比べれば微々たるものだが全て合わせればかなりの数になる。

 

単純にインペリアル級一隻が沈んだってそれだけで乗組員や将校、ストームトルーパーを合わせ3万7,000人以上の人命が失われることになる。

 

当然犠牲はそれだけに留まらず、敵の戦術や戦略次第によっては犠牲者の数は大きく変わってくるだろう。

 

焦土作戦や軌道上爆撃を積極的に行えば多くの民間人や軍人が犠牲となるし単なる陸戦でも数万人の犠牲は避けられない。

 

そうなれば単に尊い人命が失われるだけでなくチス・アセンダンシーの権威にも傷がつく。

 

せっかく得た割譲領域を維持出来ないどころかチス・アセンダンシーの本来の領土の存在さえも危ぶまれるのだ。

 

その危険性があるならばヴィルヘルムは多少血に塗れた汚い手を使うことも厭わなかった。

 

ずっとそうしてきたのだ、エンドアからチス・アセンダンシーに亡命するまで。

 

トゥハチェフスキーや多くの敵対者や反逆者たちを粛清してきた。

 

だがそのおかげで多くの者が生き残れたはずだ。

 

「編入された戦力は十分にチス・アセンダンシーの安全保障に寄与するものであります、陛下」

 

「素晴らしい戦果だフェル。だがまだ軍内部に監視体制を展開していると聞いたが……」

 

リヴィリフはヴィルヘルムに対して何処か監視されている将兵への同情の念を抱きながら尋ねた。

 

されどヴィルヘルムは首を振った。

 

「陛下、彼らの中にはまだ表面上従っているだけの忠誠心に疑いのある者が多くおります。奴らに寝首を掻れない為にも我々は備えを怠ってはなりません」

 

「その為の備えであると?」

 

「はい」

 

ラストーレの問いにもヴィルヘルムは素早く断言した。

 

彼の瞳には疑念とか躊躇といったものが一切感じられなかった。

 

「叛逆を企てているのなら粛清し歪みとして消すのみ、企みを諦めるなら受け入れるべきでしょう。もしこれがチスの負担となっているのならすぐ手を打ちましょう」

 

「いやいいのだ。むしろフェルの忠義を嬉しく思う」

 

ヴィルヘルムの進言にリヴィリフは断りを入れた。

 

この男はチス・アセンダンシーとの交渉口を務めていた時から常に自らの仕える国に忠義を尽くしてきた。

 

それはチス・アセンダンシーに亡命した後も同じだ。

 

彼は自らの昔の身内を切ってでもその忠誠心を示し続けた。

 

鉄の男、そうでなければ説明がつかないほどだ。

 

ヴィルヘルムの行動と功績は他のアセンダンシーの面々に彼の実力と忠誠心を認めざるを得ない状況を作り出した。

 

おかげで亡命帝国は今日まで存在と命脈が保たれている。

 

「尤も得た戦力は即時に軍を増強できるもので長期的に補強する手立てではありません」

 

「ああ、我々も既存の帝国の技術だけではなくチスの技術や新たな技術を開発していく必要がある」

 

ヴィルヘルムにタッグ元帥が続けて口を開いた。

 

新技術の拡張は現在の亡命帝国軍並びにチス・アセンダンシー拡張防衛軍の大きな課題である。

 

それは来るべき驚異の他にも安全保障を確立させる為でもあった。

 

既にヌシス級クロークラフトや新型装備のAT-ATなどが開発され各部隊に配備され始めていた。

 

「そのことについてだが、我が拡張艦隊は遂に“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”の建造に成功した」

 

イリジアララニ、アララニ提督の名で呼ばれる彼女は議場の全員に成果を報告した。

 

彼女は随分昔からチス拡張防衛艦隊に士官として仕え続け革命後は艦隊司令部の上級将校の中でも特に中心人物としてチスの防衛に貢献し続けている。

 

以前チス・アセンダンシーの拡張領域で発生した治安維持作戦にも参加し前線でも活躍を見せていた。

 

その為彼女はいまだに尊敬の念や敬称を込めてリヴィリフや多くの人々から提督の名で呼ばれていた。

 

「まだ改修の余地はあるがひとまず正式な主力艦としての建造を進めていく予定だ。一番艦の進宙式は来月に執り行う」

 

「チスのスター・デストロイヤーか……我々の既存の技術に合わせクワットや亡命帝国が持ち込んだ銀河系の技術による我々のスター・デストロイヤー」

 

ザレヴィチは繰り返しチスのスター・デストロイヤーという言葉を呟いた。

 

チスにとっては帝国に初めて特使を送り込んだ時からインペリアル級と同等、もしくはそれ以上の軍艦を主力艦とすることはある種の悲願でもあった。

 

別にスター・デストロイヤーを持つことが重要ではない、銀河系の技術を含んだ主力艦が必要だったのだ。

 

この未知領域の国を守る為に。

 

「開発に取り掛かったのがもう4年以上前、案外早く建造できたな。もう少し時間が掛かると思っていたが」

 

ヴィルヘルムはアララニ提督に若干の驚きを込めて尋ねた。

 

計画自体はヴィルヘルム達が亡命する前から行っていたのだが現物が出来上がるのはもう少し先の話だと思っていた。

 

「クワットの技術供与があったおかげだ。あの企業のお陰で問題の最終段階をクリア出来た。再来年までには主要艦隊旗艦、もしくは機動部隊旗艦まで建造出来るでしょう」

 

「それは素晴らしいアララニ提督。だがシス・エターナルから提供された例の計画艦はどうする?あれも建造せねばならないと思うが」

 

「無論同時進行で行います。ですがあの計画艦は極秘である為今建造場所を決めかねております」

 

アララニ提督はリヴィリフにそう伝えた。

 

以前シス・エターナルの本拠地であるエクセゴルに導かれた時彼らはチス・アセンダンシーにある一つのものをプレゼントした。

 

それは幻の次世代スーパー・スター・デストロイヤー、ソヴリン級スーパー・スター・デストロイヤーの“()()()”であった。

 

幾つかの資源を与えシス・エターナルの軍将校と見られる男はチス・アセンダンシーの者達に対してこう告げた。

 

『この計画艦を建造して見せろ。帝国唯一の同盟主たるあなた方なら出来るはずだ』と。

 

エクセゴルから急いでシーラに帰還した彼らはすぐに設計図を開き解析しそして“()()()()”。

 

この次世代スーパー・スター・デストロイヤーには単純なドレッドノート艦の戦闘能力以上のものが備わっていた。

 

何百門もの砲塔、480機以上のTIEシリーズ・スターファイターの艦載機、そして重力井戸(Gravity well)システム。

 

だがそれらの能力も霞んで見えるほどの超技術がこの計画艦ソヴリン級には備わっていた。

 

アキシャル・スーパーレーザー、かのデス・スターと遜色ない火力を撃ち出し惑星すらも灰燼に変えてしまう銀河系最大級の火力を持つ大砲がソヴリン級には基礎設計の段階から備わっていた。

 

知らぬ間に帝国軍はデス・スターを一隻の軍艦にして建造する計画を準備していたのだ。

 

チス・アセンダンシーの者達が貰った設計図はこれだけであったがエクセゴルの軌道上にはまた別のスター・ドレッドノートとスター・デストロイヤーがあった。

 

恐らく彼らは既にアキシャル・スーパーレーザーを形にして運用に成功してしまったのだ。

 

たった一撃で惑星を破壊出来る代物を軍隊規模で使い始めている。

 

そのことに当然多くの者は恐怖を覚えこのソヴリン級の設計図を見る度に「我々もこうなるのか」と想像を膨らませた。

 

「ボゴ・ライ星系の造船所地帯はどうだろうか。あそこにはファロ提督の第十一艦隊が駐留しているから警備の面でも安全なはずだ。それに銀河系からは確認が難しい」

 

ラストーレはアララニ提督に提案した。

 

トストヌフも「割譲領域で建造するよりはまだいいだろう」とラストーレを支持する。

 

「連中はシーラの守備についているヴェンジェンス級にも気づいていません。それを鑑みても建造はシーラより奥の方が良いかと」

 

「ならボゴ・ライの造船所を第一予定地として他の艦隊将校とも協議して決定する」

 

アララニ提督の提案に他の者達も頷きひとまず建造予定地の議題は幕を下ろした。

 

「しかし惑星を一撃で破壊出来る超兵器か……頼もしい抑止力だが恐ろしくもあるな」

 

プリュク家の家長であるプリュクギールオドは若干の冷や汗をかきながら独り言のように呟いた。

 

彼の気持ちは誰もがよく理解出来る。

 

ソヴリン級が持つスーパーレーザーほど簡単に惑星一つを破壊出来てなおかつデメリットの少ない超兵器は数少ない。

 

確かにインペリアル級やオナガー級の軌道上爆撃は都市を破壊し惑星を溶解させられるが破壊まではいかない。

 

かつての大戦争で20人の戦士の犠牲の下起動したスターフラッシュとは違いアキシャル・スーパーレーザーは発射時に誰かが犠牲となることもない。

 

せいぜいデメリットと言えばカイバー・クリスタルがなければ作れないことだ。

 

それを除けばこの兵器は本当に引き金が軽くそれでいて威力は銀河系最大級である。

 

それ故に使い方や振る舞いを間違えばその威力は自分達に帰ってくるかもしれない。

 

どこかに不安があり皆その不安を払拭したがっていた。

 

「しかしアキシャル・スーパーレーザーを搭載した艦を建造し防衛に回せば來るべき脅威に優位に立ち回れるだろう」

 

ラストーレはギールオドの不安を取り除いてやろうとメリットを口にした。

 

「それは分かるが…」とギールオドは閉口する。

 

メリットはとうの昔に分かっている、だがそれ以上に持っている物の重みと使う時の軽みが恐怖を呼んだ。

 

彼は「強い力は使うべきだ」とか「力に恐怖してはならない」と言えるほどの狂人でも芯の強いチスでもなかった。

 

「情報部によれば既にシス・エターナルの先遣隊はガレルのレジスタンス艦隊を殲滅し今はバロスで戦闘中のようだ。しかも予測によればあと数時間でバロスも堕ちる」

 

タッグ元帥は顔を少し顰めながら銀河系の情報を話した。

 

その距離や進軍速度をよく理解しているヴィルヘルムはより硬い表情になった。

 

「シス・エターナルはソヴリン級の建造に成功したならば他の超兵器搭載艦の設計図と建造技術を提供すると言っていましたが……」

 

「恐らく真実だろう。我々にスーパーレーザーの艦隊を持たせるつもりだ。銀河系の“防波堤”を任せる為に」

 

ヴィルヘルムは正確にシス・エターナルの思慮を読み取った。

 

彼らは単なるカルト組織ではない。

 

ある意味で備えの為に生み出されたのだと考えていた。

 

その役割を我々にも肩代わりさせたいのだろう。

 

「どの力を持とうと何を与えられようと我々の目的ややるべきことは変わらない。我々は力を持って全てのチスの民とチスの大地を守るだけだ。その事だけは忘れてはならない」

 

リヴィリフの信念は固く多くの者がそれに同調した。

 

「信じよう、我々自身と我々の未来を」

 

 

 

 

 

 

-コルサント コンプノア・ユーゲント・アカデミー-

48分ほど前に会議を終えたフリシュタイン上級大佐は部下のリッツァー中尉を引き連れ帝国ロイヤル・アカデミーの一角であるコンプノア・ユーゲント・アカデミーに向かった。

 

データ改竄の再調査の報告書と正式な特別コース移籍者書類をアカデミーの指導教官達に渡しに来たのだ。

 

先程までかなり綿密な作戦計画の戦略会議を行なっていた為疲れが大分残っていたがこの書類を届けるまでは休めない。

 

フリシュタイン上級大佐は疲れを隠して押し殺すようにアカデミーの通路を歩いた。

 

「急ぐぞ中尉、なるべく早く提出して本部に帰還する」

 

「はい、ハイドレーヒ大将にも戦略会議の簡易報告をしなければなりませんからね」

 

「そうだったな……ん?あれは」

 

フリシュタイン上級大佐は遠くから走りながら歩いてくる2人のコンプノア・ユーゲントの姿を目撃した。

 

あの姿には見覚えがある、何せ彼の父親とはついさっきまで戦略会議で一緒にいたからだ。

 

「あれは……シュタンデリス准将のお子さん達ですね。確か名前は…」

 

「マインラート・シュタンデリスとホリー・シュタンデリスだな。旧姓はセレッドで養子らしいが」

 

リッツァー中尉が2人の名前を口に出す前にフリシュタイン上級大佐が事情も含めて詳しく話した。

 

「意外とお詳しいですね」

 

リッツァー中尉は意外そうな口ぶりで彼に話す。

 

「ああ、以前ギャラクティック・シティで親衛隊将校が銃撃された事件があっただろう?あのホリー・シュタンデリス候補生はどうやら銃撃され後日死亡した親衛隊将校の娘らしい」

 

「ありましたね、あれも結局治安悪化の一例として扱われましたが。ということは彼女はシュタンデリス准将の養子ですか?」

 

リッツァー中尉はフリシュタイン上級大佐に尋ねた。

 

上級大佐は「何があったか知らんがそうらしい」と中尉に返した。

 

「つまり実子はマインラート・シュタンデリス候補生1人だけと?」

 

「ああ、よく似ているだろう?瞳の色は違うがあの髪の色とか顔つきとかどことなくだがな。彼らがフォース感受者ではないのが残念だ」

 

独り言のように自分の感想を述べているとマインラートとホリーはこちらを見つめながらゆっくり近づいていた。

 

フリシュタイン上級大佐とリッツァー中尉は怪訝な表情を浮かべながらひとまず立ち止まる。

 

近づいてきた2人はその小さい手で律儀に敬礼し上級大佐と中尉も敬礼を返した。

 

「どうした候補生。何か用事でも?」

 

フリシュタイン上級大佐は特別扱いするそぶりも見せず2人に尋ねた。

 

するとマインラートの方から話してきた。

 

「その……お父さんによく似ていたので、てっきりお父さんかと思って話しかけちゃいました」

 

「人違いでした、ごめんなさい」

 

「いやいいんだ。お父さんを目指して頑張れよ候補生」

 

フリシュタイン上級大佐は当たり障りのない言葉で2人を許し励ました。

 

2人もすぐに「はい!」と良い返事を返す。

 

リッツァー中尉は微笑ましいという顔でその様子を見つめていたがフリシュタイン上級大佐はどうも違う様子だった。

 

特にマインラートの方をじっと見つめて一言も発さない。

 

リッツァー中尉が「あの、上級大佐?」と声をかけたがそれすら気にせずこの純粋さを身に纏ったような少年を見つめていた。

 

「どうしました…?」

 

マインラートが不思議そうなあどけない顔で首を傾げた時ようやくフリシュタイン上級大佐は意識を引き戻した。

 

何度か瞬きし「いやなんでもない」と彼に話す。

 

「それより何処か行くところがあるんじゃないのか?」

 

「あっそうだった。それじゃあ!」

 

「失礼します!」

 

フリシュタイン上級大佐に諭され2人は大人達の脇を抜けて走り去っていった。

 

その様子を再びフリシュタイン上級大佐はじっと見つめている。

 

リッツァー中尉は流石に何処かおかしいと感じたのか「先程から何かどうしました上級大佐?」とフリシュタイン上級大佐に尋ねた。

 

彼はマインラートとホリーに目を向けたまま独り言のように呟いた。

 

「中尉、あの2人は……マインラート・シュタンデリス候補生は本当にフォース感受者ではないのだな?」

 

上級大佐の以外な問いにリッツァー中尉は「ええ…」と小さく頷いた。

 

「不正された形跡もありません。上級大佐も先程仰っていた通りですが……何かありましたか?」

 

「いや……単なる思い違い…なはずだ。行くぞ中尉」

 

「了解…」

 

後ろ髪を引かれるようにフリシュタイン上級大佐の意識と目線はまだしばらく背後のマインラートとホリーにあった。

 

彼の感じた謎の感覚を払拭出来ぬまま。

 

 

 

 

-レジスタンス領 惑星ヤヴィン 衛星ヤヴィン4 マサッシ宮殿支部-

マサッシ宮殿の通信士官の周りにアンティリーズ大佐やラクティス、ソークー中佐などスターファイター隊の司令官達が集まっていた。

 

奥の方ではディクスやライカン将軍、ダーリン少将が他の報告も交えて簡易的な会議を開いていた。

 

「どうだ……ガレルの通信は傍受出来そうか…?」

 

ラクティスが通信士官に尋ねる。

 

「いえ……まだ妨害網の突破が難しく…後少しなのですが」

 

「ゆっくり確実にやってくれ。モン・カラの為にも」

 

通信士官はラクティスから励ましの声を受けて小さく頷きコンソールに向き直った。

 

ラクティスは姿勢を元に戻しアンティリーズ大佐に近づく。

 

「この調子ではやはりガレルのスターファイター隊は全滅した可能性の方が……」

 

ラクティスの悲観的な観測にアンティリーズ大佐もソークー中佐も口を閉ざした。

 

ガレルの駐留部隊にはこのヤヴィン4から送り込んだスターファイター隊も存在していた。

 

戦線に余裕の出ていたヤヴィン4では支援としてスターファイター隊をモン・カラのレジスタンス軍に送り込み支援していた。

 

そのうちの一つがガレルの駐留部隊にも含まれており全滅の可能性を彼らは危惧していた。

 

ヤヴィン4のスターファイター隊にはまた別の独立した通信網がありそれで連絡を取ってせめて生存者の確認だけでもと小さな希望に望みをかけていた。

 

「少なくともまだ望みはある、それにかけよう」

 

「大佐!中佐!ガレルの駐留部隊と回線は微弱ですが通信網が確立しました!!」

 

アンティリーズ大佐の言葉通りと言わんばかりに先ほどの通信士官は喜びを含んだ声で彼らに報告した。

 

周りのスターファイター隊指揮官達は一斉に通信士官の側により手渡されたコムリンクをラクティスが握り口に近づける。

 

「こちらラクティス・ストライン中佐、ガレル隊応答せよ。こちらの声が聞こえていたら応答せよ」

 

『こち……ら……ガレル駐留……14中隊……テミ……ウェクスリー少尉です!』

 

ラクティス達はその名前を聞き声を上げた。

 

「スナップか!?無事か?負傷はしていないか?」

 

『はい……機体を……ないましたが……なんとか』

 

安堵の声がその場の全員から漏れ出たがラクティスはすぐに表情を変え再び彼に問いかけた。

 

「部隊はどうなった?君以外のパイロットや陸の兵士達は」

 

雑音が酷い中ウェクスリー少尉はラクティスの問いに答えた。

 

『スターファイター隊は……除いて全滅……隊は……1名を残し他の生存者は……されていません……生存者は2人だけです……』

 

雑音が酷くなり聞き取れない部分が増えたがそれでも大まかに把握出来た。

 

ウェクスリー少尉らが確認出来ている生存者はウェクスリー少尉含めて2人だけ、他は全員戦闘で戦死したか捕らえられ殺されたのだろう。

 

もしかしたらまだ生きている可能性もあるが救い出すのはほぼ不可能だ。

 

「…わかった、最低限の物資を出来る限り集めて現在の地点かより安全な場所を見つけて待機しろ。すぐに救援に向かう」

 

『いえ……力……で…』

 

「無茶言うな、どうせまともな機体は全部喪失したんだろう。無茶せずまずは生き延びることを考えろ。君達の証言は必ずレジスタンスに優位に働く」

 

『りょう…い……中佐達を……ちしています……』

 

「ああ…!必ず助けに向かう」

 

ラクティスのその言葉と共に通信は途切れ雑音しか残らなくなった。

 

コムリンクをゆっくり通信士官に返すとラクティス達は急いでライカン将軍らの下に向かった。

 

臆せず何階級も上の将軍や提督達に進言する。

 

「将軍、今すぐガレルに救出部隊を送りましょう。今ならガレルの敵戦力の偵察も可能です」

 

ライカン将軍は幕僚に指令を纏めたタブレットを渡しラクティス達の方に振り返った。

 

何人ものパイロット達がライカン将軍の前に詰め寄っている。

 

「しかしこちらには救出専門の任務部隊を送り出す余裕もないぞ」

 

「スターファイター隊を展開して奇襲を敢行している間に行います。Uウィングなら可能です」

 

ライカン将軍が難色を示す中ラクティスは全く引き下がろうとしない。

 

まだ生きている仲間がいるのだから出来る限り救うべきだ。

 

原初の反乱組織から続くその意志をラクティスもしっかり受け継いでいた。

 

「しかしこちらもそれほど大部隊を送り込める訳ではないぞ。出せる戦力は二個中隊と一隻のコルベットが限界だ。これ以上絞ればヤヴィンの戦線維持が不可能になる」

 

ディクスは冷静にヤヴィンから打ち出せる戦力を彼に伝えた。

 

確かに反乱同盟時代に比べれば多い方かも知れないがそれでも惑星に駐留する一個艦隊に奇襲を仕掛けるには少なすぎた。

 

「今ガレルにいる戦力は?」

 

「艦隊の大半はバロスに向かったと報告を受けているがそれでも三隻のインペリアル級と六隻の護衛艦を残している。恐らく地上には既に敵の航空基地があるはずだ」

 

アンティリーズ大佐の問いに戦力分析官のキャピン・ハリナー大佐は答えた。

 

インペリアル級三隻に対しスターファイター二個中隊とコルベット一隻ではあまりに分が悪すぎる。

 

特にコルベット艦ではインペリアル級の集中砲火を受けて最も簡単に撃沈されてしまうだろう。

 

しかも対空戦闘を考えてかインペリアル級一隻につきしっかり護衛艦が二隻も僚艦として待機している。

 

「悪戯に救出に向かっても返り討ちに遭い更なる損失を受ける可能性が高い。今はまだ耐える時だ」

 

ゼロヴァー准将はラクティスを宥めるようにそう告げたが彼はまだ納得の行かない顔をしていた。

 

「せめて敵の目にさえ留まらなければ…」、ラクティスは悔しさを歯噛みした。

 

だがその一言が突破口となった。

 

ラクティスの一言を聞いたアンティリーズ大佐が何かを思い出したように口を開く。

 

「……新型の“()()”ならいけるんじゃないだろうか」

 

アンティリーズ大佐の“()()”と言う言葉にすぐ察し付いたのはソークー中佐だった。

 

「まさか……“()()”か…?しかし機体の性能はともかく備え付けのシステムはまだ不十分だぞ」

 

「だが性能も性質も十分今回の救出任務に役立つはずだ」

 

周りの将校達はまだよく分かっていない雰囲気だったがライカン将軍とラクティスはだんだん分かってきたようだ。

 

「しかし“()()”は貴重品では…」

 

「いやこの際だ、使ってしまおう。これなら仮に戦闘になっても特に問題はない」

 

ライカン将軍は何かを決断し「ついて来てくれ」とその場の将校達を全員引き連れて地下の格納庫まで向かった。

 

一行がライカン将軍を先頭に格納庫の中へと入り明かりが付く。

 

「あの…将軍、これは一体……」

 

ハリナー大佐はライカン将軍に尋ねた。

 

将軍は勿体ぶらずに答える。

 

「現在使用されている我が軍の主力機、T-65シリーズ・Xウィング・スターファイターの最新機。“T-70 Xウィング・スターファイター”だ」

 

彼らの目の前に佇む1機のXウィングは今まで使われていたT-65BやT-65A2、T-65C-A2とは若干デザインに差異があった。

 

Sフォイルを閉じたままのこの機体はエンジン部分が一つの丸になっており今までの4つのエンジンがついている状態とは大きく違う。

 

このT-70 Xウィング・スターファイターは今までのXウィングやSフォイル系統の技術を詰め込んだ第三帝国に対抗する新たなレジスタンスの翼だ。

 

そして目の間のT-70にはもう一つ大きな特徴があった。

 

「この機体は単純な魚雷装填数や火力、特殊機能全てでT-65シリーズを上回っている。だがそれ以上にこの機体には他の機体を上回る機能がついている」

 

「“()()()()()()()()()()()()()()()()()”……ですね」

 

ラクティスの返答にライカン将軍は大きく頷いた。

 

このT-70には他のXウィングや同機種とは違いクローキング装置が付けられておりより完璧なステルス・スターファイターになることが可能だった。

 

本来はステルス・システム込みで量産したかったのだがコストや問題点、何より思ったよりも成果が見られないと言うことでクローキング付きT-70はこの1機に留まった。

 

「クローキング中は一切の攻撃が不可能で多くの電力を消費する。Xウィング1機に付けるには高すぎる上に無用の長物だったが今回の作戦では役に立つはずだ」

 

「クローキングを使用し艦隊の防衛網を出し抜き地上のウェクスリー少尉らを救出……上手く行けば全くの損害なく2人を救出出来ますね」

 

アンティリーズ大佐の構想は大まかライカン将軍のものと一緒だった。

 

更にライカン将軍は「予備隊としてスターファイター一個中隊とコルベット一隻を備えておけば不足の事態に備えられるはずだ」と付け加えた。

 

いい作戦だがラクティスはある一つの小さな疑問を問いかけた。

 

「しかし将軍、このT-70は単座のスナブ=スターファイターです。最低でも2名の人間をこの機体に乗せるのは不可能ですが…」

 

「大丈夫だ中佐、その事については考えがある」

 

ラクティスの問いにライカン将軍は安心するようにと言葉をかけた。

 

彼はその考えを話し始める。

 

「同じ能力を備えた2人以上を輸送出来る機体が我々レジスタンスにはある。しかもパイロット2名はレジスタンス特殊部隊と情報部の中でもかなりの手練れだ」

 

「まさか…」

 

ライカン将軍は小さく頷いた。

 

「彼らはレンディリに向かっているとディゴールから報告を受けている。ならばそのままガレルに向かってもらおう」

 

 

 

 

 

 

バロス周辺域での戦闘は益々激化の一途を辿っていた。

 

レジスタンス艦隊はほぼ玉砕覚悟でシス・エターナル艦隊に喰らい付き圧倒的な火力を前にしても怯まず勇敢に戦っている。

 

中々の損害を被っているはずなのだがレジスタンス艦隊は麾下のスターファイター隊も含めて未だに組織的な戦闘を続けられていた。

 

恐らくこれは各将兵の練度の高さと指揮官のボラトゥス提督の能力、そして互いの信頼関係によるものだろう。

 

もしこのシス・エターナル艦隊がただのインペリアル級の艦隊や国防宇宙軍、親衛隊宇宙軍の艦隊であれば難なく撃退していたはずだ。

 

されど新造艦のジストン級を主力とし、何十門ものアキシャル・スーパーレーザーを並べるシス・エターナル艦隊相手ではそうも行かない。

 

彼らはひたすらに相手が悪すぎた。

 

銀河最新鋭の艦隊でなければ、シスの派遣軍でなければ、相手の数がもう少し少なければ。

 

彼ら自身がそう思うことはなくともこの戦いを見れば誰しもが思う感想だ。

 

シス・エターナルを相手にするには数が少なすぎ上に分が悪すぎる。

 

「もう少し耐え抜くんだ!あと少しで予備隊が到着し包囲隊形が形成される。到着と同時に全方位からスターファイター隊と突撃群による浸透攻撃、その為胃に今は耐え抜くんだ!」

 

スターホーク級やMC75装甲クルーザーが前衛に出てジストン級の大火力を一身に引き受ける。

 

反撃としてレジスタンス艦隊も中々の数の砲撃を繰り出しているが効果は今一つといった感じだった。

 

それでも自軍艦隊の中央突破は辛うじて防いでいるし包囲網展開の為の足掛かりは半ば完成した。

 

敵艦隊は我々の総軍がこれだけだと思っているだろうが実は違うのだ、今から目に物見せてやると艦隊の将兵は息巻いていた。

 

「主力艦はすべての出力エネルギーを偏向シールドと火力に分配せよ。最大の防御と最大の火力を持って耐え凌げ!勝利は近づいている!」

 

ボラトゥス提督の命令通りにMC80やネビュラ級、MC85の偏向シールドと火力が増大しよりこう威力のターボレーザー砲が放たれる。

 

その反撃としてジストン級やインペリアル級からもターボレーザー砲が放たれ、ジストン級からは二、三隻がアキシャル・スーパーレーザー砲を5%ほどの威力で掃射した。

 

アキシャル・スーパーレーザーは数隻のレジスタンス艦艇を完全に破壊し艦列に見過ごせない程の穴を開けた。

 

しかしすぐに予備の艦艇によって艦列が組み直され再び砲撃戦が始まる。

 

「敵艦隊は崩壊箇所を素早く埋め立て、戦闘を続行しています。これではキリがありません」

 

ブリッツェ中佐がフリューゲルらに報告し上級将校達は互いに顔を見合わせ参ったなと言う表情を浮かべた。

 

敵艦隊は思ったより粘る、流石は全滅も恐怖の対象外と言われていた反乱同盟艦隊の末裔か。

 

「敵艦隊は包囲網を完成させた。このままでは敵の伏兵が到着し我々は包囲されアキシャル砲を持ってしても一網打尽だ」

 

グレッグ提督はフリューゲルに進言するもその顔はまだ余裕に満ち溢れていた。

 

デミングス司令官やハバドン少将も同じような雰囲気だった。

 

「スターファイター隊には防衛のみを命じていますが」

 

テルノ中将の問いにフリューゲルは「ああ、必要最低限の隊だけ残して後退させて構わん」と告げた。

 

「よろしいのですか?」

 

テルノ中将はフリューゲルに少し怪訝を含んだ面持ちで尋ねる。

 

「ああ、時期にレジスタンス艦隊は総崩れになる。これ以上戦闘に出して消耗させる必要はない」

 

「了解しました。各隊に伝達、前衛部隊は戦線を後退と同時に一旦母艦へ帰還せよ。繰り返す……」

 

「分艦隊の移動状況は?重力井戸圏外にまだいるな?」

 

フリューゲルの問いにブリッツェ中佐が答える。

 

「はい、ほぼ定刻通りに到着すると思います」

 

「流石シス・エターナル軍と言ったところか、まあ我々もシス・エターナル軍なのだがな。重力井戸(グラビティ・ウェル)発生装置起動!連中をハイパースペースから引き摺り下ろせ!」

 

フリューゲルの命令と共にブリッジの黄色い紋章の入った艦隊技術者達と重力井戸発生装置のコントロール室の艦隊技術者達が重力井戸発生装置のシステムを起動する。

 

このエクリプス級“エクリプスⅡ”にはイモビライザー418クルーザーやインターディクター級スター・デストロイヤーに備わっていた重力井戸発生装置とほぼ同じものが搭載されていた。

 

インターディクション・フィールドと呼ばれる人工的な重力井戸を展開しハイパースペースを航行中のスターシップを強制的にリアルスペースにジャンプアウトさせる。

 

現在も専門の艦艇のみが持つ特殊技術であるがこのエクリプス級には重力井戸の機能が備わっていた。

 

またこれは余談だがこの重力井戸発生装置は計画艦であるソヴリン級スーパー・スター・デストロイヤーにも搭載される予定である。

 

エクリプスⅡ”でインターディクション・フィールドの展開が準備されている頃レジスタンス艦隊の旗艦“ニスタラム”ではボラトゥス提督に新たな報告が舞い降りてきた。

 

「提督!あの1分ほどで予備隊が到着します!」

 

「そうか…!全艦、間も無く増援が到着し包囲体制が形成される!後ほんの少しの辛抱だ、最後の一踏ん張りを見せてくれ!」

 

部下を鼓舞し自らも真っ直ぐ戦場を凝視する。

 

このままいけば勝てる、目の前の敵艦隊を撃破し母星を守れるとボラトゥス提督は考えていた。

 

だがボラトゥス提督達は“エクリプスⅡ”の重力井戸を知らない。

 

むしろ増援を待ち望んでいるのはシス・エターナル艦隊の方で敵が網に掛かるのを待ち望んでいた。

 

「予備隊!到着します!」

 

部下の報告と共にボラトゥス提督はあることを確信し言い放った。

 

奇しくもその一言はなんと敵将であるフリューゲルの一言と被り重なっていた。

 

「『勝った』」

 

その一言が被った瞬間ハイパースペースからレジスタンス艦隊の予備隊が到着した。

 

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まるで何かから弾き出されるようにレジスタンス艦隊の予備隊はハイパースペースからジャンプアウトした。

 

艦の制御を失った何十隻もの軍艦はそのまま弾き出された勢いで近くの戦闘中の友軍艦に衝突した。

 

その一瞬の出来事は側から見ればまるで最初から衝突する為に突然何十隻もの艦艇が姿を表したように見えるだろう。

 

ネビュロンBの船体にCR90の船首が衝突し真っ二つに折れたり、MC80がジャンプアウトした瞬間に周りのブラハットク級やキャラック級と衝突しながら最終的にMC75と激突し爆沈したりしていた。

 

一瞬で何十箇所から爆発の光が溢れ出し何十隻もの軍艦がこの衝突で轟沈、もしくは戦闘不能になった。

 

あるMC80スター・クルーザーのブリッジでは艦長が「回避!」と命じたが既に時遅くブリッジに弾き出されたCR90コルベットが接近し部下の1人が「ダメです!間に合いません!」と最期に叫んでブリッジが潰されるという被害もあった。

 

それら全ては旗艦“ニスタラム”に報告されていた。

 

「“ディフェンス・オブ・カーマス”、“キテル・ファード”轟沈!“デンタール”と“ワポー・アトリシア”はブリッジとエンジンが大破し行動不能の損傷!」

 

「周囲の生きている艦で護衛しつつ戦列を離脱しろ!」

 

唐突に訪れた絶望的な状況下でも屈せずボラトゥス提督は指示を飛ばした。

 

だが彼の部下の幕僚達はそうはいかなかった。

 

「一体どうなっているんだ!?何があった!?」

 

「なんの攻撃だこれは!?敵は重力井戸を使ったのか!?」

 

「でも敵艦に重力井戸搭載艦なんてどこにもないぞ!!」

 

もはや正常かつ冷静な状態とは言えずそれぞれ恐怖と怒りを言葉に入れて半ば感情的に話していた。

 

ボラトゥス提督は「狼狽えるな諸君!」とまず喝をいれる。

 

「生き残った全ての艦艇を集めバロスまで後退する!もはやここで雌雄を決するのは不可能だがバロスで戦えばまだ敵を防げる勝算はあるはずだ」

 

「提督!ハイパースペースより敵艦艇と思われる艦影多数接近!シス・エターナルの増援です!」

 

ボラトゥス提督の希望もこの瞬間に絶たれてしまった。

 

ニスタラム”のブリッジには今や絶望だけが漂っていた。

 

ボラトゥス提督に報告したレジスタンスの士官はある意味で有能だろう。

 

彼が報告したコンマ0点何秒の瞬間にシス・エターナルの増援たる分艦隊は到着したのだから。

 

ハイパースペースから再び左右両方に四隻のジストン級とその護衛の艦艇がリアルスペースにジャンプアウトした。

 

到着と同時に彼らは参戦の合図としてアキシャル・スーパーレーザー砲の一撃を敵艦隊へと叩き込む。

 

まず最初に撃ったのはサブロンド司令官の旗艦“デリファン”からであった。

 

「アキシャル・スーパーレーザー、撃て!」

 

司令官の命令と共に“デリファン”ら四隻のジストン級が一斉にアキシャル・スーパーレーザー砲を放つ。

 

出力は他の艦同様抑えられていたがたった四隻の一撃でレジスタンス艦隊の右翼面はほぼ壊滅した。

 

続いて“アドヒアレント”のレンウィス司令官も「第三分艦隊に遅れをとるなよ!撃て!」とアキシャル・スーパーレーザー砲を発射する。

 

更にインペリアル級もそれに合わせて砲撃を開始しレジスタンス艦隊左翼面を撃滅する。

 

重力井戸による予備隊との衝突の混乱と損害から立ち直れない両翼面の艦隊はまともな反撃すらも出来ずになす術もなくアキシャル・スーパーレーザーとターボレーザー砲の餌食となった。

 

重力井戸の展開と分艦隊の到着から僅か数分も立たずにレジスタンス艦隊とシス・エターナル艦隊は完全に形勢が逆転した。

 

両翼の艦隊がアキシャル・スーパーレーザーの大火力によってすり潰され分艦隊は更に突進し艦隊に攻撃を加える。

 

既にこの時点でレジスタンス艦隊の包囲網構想は叩き壊され代わりにシス・エターナル艦隊による逆包囲という現実を叩き付けられた。

 

まだ充填率に余裕のある第三分艦隊、第四分艦隊はアキシャル・スーパーレーザーを撃ち出し続け進路をこじ開けている。

 

対するレジスタンス艦隊は両翼の消滅により防御が間に合わず反撃も僅かしか出来なかった。

 

何より厄介なのは衝突により動けなくなった艦艇とアキシャル・スーパーレーザーにより損傷した艦が彼らの前に無惨に漂い続けている為下手に砲撃すれば誤射しかねないということだ。

 

損傷した敵艦を盾にしつつシス・エターナルの分艦隊は大火力を撃ち出しながら進んでいった。

 

彼らからして見れば動けなくなった敵など気にする必要もなくアキシャル・スーパーレーザーと重ターボレーザー砲の火力でまとめて殲滅してしまえばいいだけの話だ。

 

シス・エターナルに躊躇いという言葉は存在しなかった。

 

それと同時に中央の本艦隊と第二分艦隊も大攻勢を始めた。

 

「敵艦隊は崩れている!死に体となったレジスタンスの艦隊の喉元にスーパーレーザーの槍先を突き出し引き裂いてやれ!」

 

この時のフリューゲルの命令は本人もしっかり認知しているほど芝居掛かっていたがそれが兵達の指揮を高揚させた。

 

後方に待機していたジストン級“モフ・ヴァイケン”と“プレラート”からアキシャル・スーパーレーザー砲が放たれる。

 

この二隻は極力戦闘には参加せずエネルギー・チャージに専念していたので他の艦よりも高出力の一撃が繰り出せた。

 

レジスタンス艦隊は再び何十隻という艦がアキシャル・スーパーレーザー砲の餌食となり消し飛んだ。

 

更に追い討ちをかけるようにインペリアル級や他のジストン級、エクリプス級の砲撃はより苛烈さを増していく。

 

今までの戦闘で蓄積されたダメージに加え今から放たれる子の砲撃の嵐は鉄壁を誇るスターホーク級やMC75装甲クルーザーを沈め、MC85やネビュラ級すらも撃沈に追い込んだ。

 

流石の最新鋭艦もあまりにも状況と相手が悪すぎる。

 

既に艦隊は崩壊しもはや撤退すら許されない状況だった。

 

「逃げる敵は一隻残らず重力井戸で引き摺り戻せ。そしてチェックメイトは本艦が決める」

 

フリューゲルはハンドサインを出し“エクリプスⅡ”による砲撃を準備させた。

 

徐々に艦隊の中央が開きゆっくりと“エクリプスⅡ”が前進する。

 

周囲ではシス・エターナルの艦艇が“エクリプスⅡ”をブリッジや船体のビューポートから見守っていた。

 

ジストン級同様砲撃モードを対艦攻撃拡散モードにセットする。

 

何十、何百人という将兵が砲撃態勢を作り出した。

 

「発射態勢、完了しました。いつでも撃てます」

 

ラノックス艦長はフリューゲルにそう報告する。

 

彼は腕を前に出し命令した。

 

「撃て」

 

たった一言だがその一言で十分だった。

 

今もこの先もだ。

 

エクリプスⅡ”の艦首からあのデス・スターと同じ色のスーパーレーザーが放たれレジスタンス艦隊へと迫った。

 

その光景をもはやどこにも逃げ道のないレジスタンス艦隊の将兵は阿鼻叫喚の艦内の中で、静まり返ったブリッジの中でしっかりと目に焼き付けることとなった。

 

それはボラトゥス提督も同様だった。

 

彼は優秀な提督だが運命から逃げることも今から勝利を掴むことももう不可能なのだ。

 

先程MC85“ニスタラム”はジストン級かインペリアル級か分からないがターボレーザーの砲撃を喰らいブリッジに被弾した。

 

偏向シールドが辛うじて殆どを受け止めたがそれでもブリッジは損傷し乗組員に死傷者を出した。

 

ボラトゥス提督も座っていた椅子が壊れ彼の頭からは血が垂れ流れ片腕を押さえている。

 

「ダメです……提督……!“ニスタラム”はエンジンに損傷があり今から回避は出来ません……!」

 

「ああ…エンジンが無事でもあれは避けられん。すまないな諸君、我々はどうやら終わりらしい」

 

諦めに似た言葉を発しボラトゥス提督は最期に不敵に笑った。

 

その笑みのままこう言い放つ。

 

「アクバー閣下、後は頼みましたよ。連中は必ず我々レジスタンスが…!」

 

ニスタラム”含めた残りの全てのレジスタンス艦艇は“エクリプスⅡ”のアキシャル・スーパーレーザーに巻き込まれ全滅した。

 

再び一隻も、1機も、1人も生き残らなかったのだ。

 

戦闘領域には敵艦の残骸が溢れ無機質なまま宇宙を漂っている。

 

「お前達はよく戦った、我々相手に本当によくやった。だが相手が悪かったんだ。恨むなら我々と、フォースの意思とやらを恨め」

 

勇敢に戦い最期まで果敢に立ち向かった敵兵に対してフリューゲルは独り言のように言葉を送った。

 

もはや最後は戦いですらなかった、一方的な火力の暴力だ。

 

これが新時代の戦い方なのかそれとも今後“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

恐らく両者とも正解であり現実は後者に向かっていくと願うばかりだ。

 

この戦い方は一歩間違えれば銀河そのものを崩壊に追い込んでしまう。

 

この力だって本来内側に向けるべきものではないのに。

 

「敵艦隊の全滅を確認、生存者は1人もいないと思われます」

 

「再び我々の勝利…でいいんでしょうか」

 

報告を受けデミングス司令官はフリューゲルに問いかけた。

 

しかしフリューゲルは「まだだ」と険しい顔で告げた。

 

「全艦、バロスに向けて発進準備。アキシャル砲搭載艦はチャージを開始せよ。あの星を統べるまでこの戦いは勝利とは言えない」

 

ゆっくりとシス・エターナル艦隊が前進する。

 

赤き軍旗とそのシスの紋章が銀河に翻るその日まで。

 

 

 

 

 

-ファースト・オーダー領 未知領域 惑星イラム軌道上 アカデミー・ステーション-

ファースト・オーダーのアカデミー・ステーションの通路を数人の白服の将校が歩いていた。

 

真ん中の1人は言わずもがな、ファースト・オーダーの最高指導者であるレイ・スローネ大提督。

 

彼女の姿を見ると将校、ストームトルーパー、候補生問わず全ての人間が一旦作業や立ち話をやめて敬礼を送った。

 

スローネ大提督はもうただの軍司令官ではなくファースト・オーダーという一つの国家、一つの組織の長なのだ。

 

そして彼女の隣を歩いているのは元帝国保安局のエージェントで現在のファースト・オーダー保安局のエージェント、ソーン。

 

一時期ホズニアン・プライムにスパイとして潜入していたこともあり彼女があのスターホーク計画の情報を掴んだのだ。

 

反対の若い保安局将校はアンシヴ・ガーマス少尉。

 

この未知領域でアカデミーを卒業した初の保安局将校でありファースト・オーダー保安局の新世代の一期生だ。

 

彼は顔をこわばらせ不安そうな表情を浮かべている。

 

ガーマス少尉は恐る恐るスローネ大提督に声を掛けた。

 

「大提督……本当にやるのですか…?」

 

「何をだ?」

 

スローネ大提督は何処かぶっきらぼうに逆に問いかけた。

 

「尋問ですよ……それもハックス将軍への。流石に指導教育長官殿が流出者な可能性は…」

 

「ほう少尉、お前はアカデミーで『ブレンドル・ハックスという男にだけは捜査するな絶対に疑うな』という教育でも施されたのか?」

 

スローネ大提督の痛烈な皮肉にガーマス少尉はさらに恐縮し「いっいえそんな…」と首を振った。

 

「ですが大提督……本当に“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”など存在するのでしょうか……」

 

ファースト・オーダーは知っての通り未知領域で再び帝国軍と同等、そうでなくとも新共和国を打ち倒し銀河系を支配出来るだけの軍隊を形成する為にリザレクション計画と呼ばれる育成計画を実行していた。

 

この計画は承認を得る為だけでも随分と最高評議会が紛糾したのだが今回シス・エターナルの出現によって更なる深刻な問題が発生した。

 

人材育成の為に銀河系や未知領域から誘拐、彼らの言い方で言えば“徴募”された子供達の一部が失踪しシス・エターナルへ流出していたのだ。

 

これはラックス元帥がヨットの“インペリアリス”から抹消されたデータを復元している最中に発覚しスローネ大提督は急いでファースト・オーダー保安局を動員し調査を始めた。

 

特にハックス将軍ら教育指導を担当する部署に徹底的に尋問や聞き込みを行い流出を行った犯人は誰かを探し出そうとした。

 

しかし犯人は見つからずおまけに教官や指導部の人間達すらも集められた子供達がシス・エターナルに流出していることを知らなかった。

 

何故かと問い詰めて見れば「イラムから別のアカデミーに移籍するよう命じられてその後は知らない」だの「徴募時にこのクラスだけは才能値が高い為特別コースへ移籍させるから別の惑星まで輸送する」だの上手いことはぐらかされていたようだった。

 

しかもどの証言にもしっかりとした証拠や経歴があり誰も嘘はついていなかった。

 

そこでスローネ大提督や捜査をしていた保安局員達はある男を疑い始めた。

 

それこそ教育指導長官であるブレンドル・ハックス将軍の存在だ。

 

彼の権限なら経歴を残しつつ誤魔化す事も出来る上に揉み消すのも得意だろう。

 

何よりハックス将軍は死んだラックス元帥に直接選ばれた数少ない帝国軍将校の1人だ。

 

もしかしたら最初から全てを知っておりその上で人員を流出していたのかも知れない。

 

醜く太った豚のような生簀かない碌でもない男だが決して無能ではないので仮にシス・エターナルに上手く子供達を送っていても不思議ではなかった。

 

「存在するから現に子供達が消失しているのだろう。それもハックスなら可能だ、さあ着いてしまったぞ少尉」

 

話している間にもう一行はハックス将軍の執務室の前にいた。

 

まずアケニス・アカデミー時代の教え子のストームトルーパーが2人スローネ大提督らの前に立ち塞がる。

 

「ハックス将軍は現在、執務中です。いくら大提督と言えど面会はまた別の機会に」

 

「この保安局員達の姿が見えないのか?少尉、言ってやれ」

 

スローネ大提督はあえてガーマス少尉を前に突き出す。

 

少尉は胃が苦しそうな表情でストームトルーパーらに告げる。

 

「ファースト・オーダー保安局の捜査権限でハックス将軍を捜査する。ドアを開けろ!」

 

その言葉を聞いたストームトルーパー達は「一体何の捜査だ」と詰め寄ったがすぐに他の保安局員がストームトルーパーを抑えエージェント・ソーンが保安局専用のコードシリンダーを差し込んだ。

 

ドアが解除されスローネ大提督と保安局員たちはズケズケとハックス将軍の執務室に入っていく。

 

執務室の椅子に座るハックス将軍はポカンとした表情で中に入ってきたスローネ大提督達を隣のジャクーから連れてきた候補生と一緒に見ていた。

 

まだ状況や様子が掴めていないと言った表情だ。

 

「将軍、場合によってはお前を逮捕しなくてはならない。大人しく我々に従ってもらおう」

 

スローネ大提督の脅しに近い発言にハックス将軍は見る見る内に青ざめ感情的に口を開いた。

 

「いっ一体なんだ大提督!?私はファースト・オーダーに叛逆するようなことは何もしていないぞ!!」

 

スローネ大提督は後ろの保安局員と目を合わせる。

 

その保安局員はアイコンタクトを取ってハックス将軍の口ぶりや表情から得られた情報を大提督に伝えた。

 

彼はどうやら嘘は何一つ言っていないようだ。

 

周りの保安局員達が執務室を捜査しているのを見てハックス将軍はひたすら困惑した表情を浮かべていた。

 

それは隣の候補生も同様だ。

 

ジャクーで連れられてきたこの少年も対処しようがないと言った表情と身振り手振りを浮かべている。

 

スローネ大提督はあえて強めの口調でハックス将軍に問い詰めた。

 

「ほう?ではシス・エターナルに徴募された子供達を流出させていた事も知らないと?」

 

スローネ大提督はハックス将軍が嫌いだし信用もあまりしていない。

 

彼は自分の息子すらまともに愛せず教育出来ない奴だ。

 

それに本音を言えばボラム大将軍同様にリザレクション計画なんてやりたくはなかった。

 

あの歴戦の老人の言う通りこの計画は非道そのものであり軍隊という組織構造から見ても無駄が多すぎる。

 

ボラム大将軍は様々な理由で反対意見を口にしていたが最終的にはスローネ大提督とグランドモフランドの説得で何とか納得してもらった。

 

彼の言う事は最初から最後まで正しかったように思える、それでもファースト・オーダーという組織の最高指導者としては賛成せざるを得なかった。

 

あの計画がなければ未知領域という銀河から遠く離れた場所で軍隊を形成するなど不可能だった。

 

ずっと弱小の軍閥の寄合世帯のまま終わっていくだけだ。

 

ラックスや他の者達から受け継がれたものを何も未来へ引き渡せない。

 

「子供達の流出…?何だそれは、そんな報告受けていないぞ…!」

 

ハックス将軍は再び困惑の音を顕にした。

 

白を切る訳でもなくかと言って冷静に無実を証明する訳でもなく困惑し部下を呼ぼうとしていた。

 

「ほう、知らないとは。白を切るつもりかそれとも単にお前が部下から一切の信頼を置かれていないだけなのか」

 

「本当だ!第一報告書を全て読んでもそのような流出は確認されていない!部下だってきっとそうだ!リザレクションで徴募された子供達は我々の中では何よりも重要視されている!1人でも消失しているのなら直ぐに捜索が始まるはずだ!我々はこの計画に万全の注意を払ってきた!」

 

再びスローネ大提督は後ろに控える保安局員に目線を送った。

 

保安局員は冷や汗を掻きながらハックス将軍はやはり嘘をついていないと伝えた。

 

それを受け取った大提督の方が混乱しそうだ。

 

確かに彼は嘘をついていない、それはどことなくスローネ大提督にも分かる。

 

しかし元に流出は起きているのだ。

 

明らかに数クラス単位で集められた子供達はどこかへ消えている。

 

これは保安局の正式な調査で既に立証されていた。

 

それでも指導教育部の人間は1人残らず犯人ではなかった。

 

このままいけば目の前のハックス将軍もだ。

 

彼らは全員知らないどころか消えた子供達はしっかりファースト・オーダー・アカデミーで教育を受けていると誰しもが思っていた。

 

そして履歴や書類上では確かにそうなっていた。

 

「だがラックスは確かにエクセゴルとシス・エターナルのことを知っていた。私が知っている限りジャクー戦中にやつの本当の計画を知らされたのはお前くらいだ。本当知っていたんじゃないのか?」

 

「奴がエクセゴルとシス・エターナルを知っていたというのは驚きだが少なくとも私は、他の子供達もそのことは知らされていない!元帥から教えられたのは未知領域で選ばれた者による帝国の再建計画だけだ!」

 

ハックス将軍はキッパリと言い切りそれ以上は何も言わなかった。

 

スローネ大提督もこれ以上問い詰める言葉が見つからず黙り込んだ。

 

エージェント・ソーンは小声で「どうやらハックス指導教育長官は本当に他の部の者と同じく流出の事を知らないようです」と耳打ちした。

 

スローネ大提督も「ああ…」と小さく頷き「どうやら我々はとうの昔からシス・エターナルの僕であったらしいな」と小声で呟いた。

 

「それにシス・エターナルとはもう同盟……いや、あれが“()()()”となることで帝国は復活するはずだろう。何せあの組織には“()()()()”…」

 

ハックス将軍が全てを言い切る前に1人の将校が慌ててスローネ大提督の名前を呼んで執務室の中に入ってきた。

 

その将校は“ヴィジランス”に乗艦しているトスウィン少佐で息を荒げ汗をダラダラ流していた。

 

「大提督!バロスが!!」

 

バロスという言葉にスローネ大提督は反応を示し眉毛がピクッと動いた。

 

バロスといえば今頃シス・エターナルの先遣艦隊がレジスタンスの艦隊と戦闘している頃だ。

 

少佐はそのことを報告しに来たのだろう、スローネ大提督はそう思っていた。

 

しかし彼の報告はそれよりも遥かにとてつもないことだった。

 

「バロスが……“()()()()()()()()()()()()()”」

 

トスウィン少佐の報告は一瞬スローネ大提督の思考を停止させると共にある一つのことを確信させた。

 

 

 

銀河系に再びデス・スターが帰ってきた”。

 

 

 

 

 

ボラトゥス提督の艦隊の全滅はバロスの守備に回っていたスファリー准将の機動部隊にも伝わっていた。

 

ブリッジの乗組員達から動揺の声が上がる中スファリー准将は感情を押し殺し命令を下す。

 

「もはや我々の戦力だけでは防衛しきれん……惑星内にも伝達せよ!今より我々はバロスを放棄、ロザルまで後退しロザル駐留艦隊と共に防衛戦線を展開する!我々はバロスの駐留部隊が退却する時間をなるべく多く稼ぐぞ!」

 

スファリー准将の決断に乗組員達は顔を硬らせ張り上げた声で「了解!」と命令を承諾した。

 

ボラトゥス提督のあの艦隊の数でさえ全滅してしまったのだ、守備隊の機動部隊がどのくらい時間を稼げるか分からない。

 

准将は内心自分達がロザルの駐留艦隊に合流する事は出来ないだろうと思っていた。

 

それでもバロスの地上戦力さえあればレジスタンスは陸戦においてまだ粘り続けられる。

 

「バロスの輸送船は足りるか?」

 

スファリー准将の問いに幕僚の1人が答えた。

 

「はい、兵員も武器弾薬兵器類も全て乗せられます。先行して兵員の方を脱出させるそうですが」

 

「それでいい、兵士は貴重だ。1人でも生き残れればそれでいい。彼らの脱出まで我々がなんとしてもここを…」

 

「准将!エネルギー・レーザーと思われる高熱原体が急速に接近しています!」

 

センサー士官がその報告を終える頃には既にスファリー准将達も肉眼で見えるほどにまで接近を許していた。

 

真っ赤なレーザーがブリッジのビューポート越しに近づいてくる。

 

准将は慌てて「回避を!」と指示を出そうとしたがもう遅かった。

 

彼が全てを言い終える前に赤いアキシャルの・スーパーレーザーの中に巻き込まれスファリー准将達は肉片も残らず消え去った。

 

最後にバロスを守る砦となろうとした彼の機動部隊は1秒の時間を稼ぐ事も出来ず全滅した。

 

消し飛んだ機動部隊がいたはずの空間を消し飛ばした張本人たるシス・エターナル艦隊が悠々自適に通過した。

 

『アキシャル・スーパーレーザーをチャージして正解でしたね。まだ惑星に艦隊を残しているとは』

 

デリファン”のサブロンド司令官は“エクリプスⅡ”にホロ通信を介して話していた。

 

隣には“アドヒアレント”のレンウィス司令官もいた。

 

「ああ、連中も後詰めくらい残している事は察しがついていた」

 

『しかし元帥閣下、本艦は充填していたアキシャル・スーパーレーザーのエネルギーを使い果たしチャージにもう少し時間がかかりますが』

 

サブロンド司令官は端的に状況を報告する。

 

されどフリューゲルは「問題ない、暫くはチャージに専念しろ」と伝えた。

 

「このまま“エクリプスⅡ”のアキシャル・スーパーレーザーでバロスに対し惑星砲撃を開始する。だがその前に残された敵地上部隊に降伏を勧告しろ」

 

「本当によろしいのですか?別に降伏を勧告せずともこのまま砲撃してしまえば……」

 

「敵は艦隊を失い我々の艦隊に対抗するだけの力を惑星内には持っていないはずだ。デミングス司令官、敵艦隊へ降伏勧告を行え」

 

「はい閣下!」

 

ブリッツェ中佐の意見を押し退けフリューゲルはデミングス司令官に降伏勧告を送るよう告げた。

 

これで降伏すれば万々歳、降伏せずとも我々の勝利は確定している。

 

「重力井戸を起動し敵の退路を断て、残りの艦隊は惑星の包囲網を形成し非常時に備えろ」

 

フリューゲルは予備にも備えて命令を下す。

 

彼はふと思った。

 

この戦いはシス・エターナルの力を見せつける初戦としては良い出出しを切れたように思う。

 

レジスタンス艦隊を一隻残らず撃破し敵の惑星を堕としてせしめた。

 

このアキシャル・スーパーレーザーの実力とシス・エターナルの脅威を広める良い機会となるだろう。

 

レジスタンスとやらの撃破も容易くなり帝国の統一もあの方が加速させるはずだ。

 

そうすれば再び帝国は蘇り私達は“()()”に専念出来る、元に戻れるのだ。

 

そうすればきっと、きっと“()()()()()()”。

 

フリューゲルに珍しく小さな希望が湧き始めていた。

 

最後に希望を抱いたのは一体いつのことだったか。

 

親族と最後に会った時かそれともエクセゴルであの方から言葉を聞いた時か。

 

銀河内戦が始まりエンドアの戦いが終わった頃からずっと彼らの前には希望などなかった。

 

皇帝は死に、帝国は崩壊、彼らが駐屯するビィスやディープ・コアでも帝国同士の戦いが始まりフリューゲル達も徐々に巻き込まれた。

 

フリューゲルはそこで未知領域の死守の為に多くの同胞を手にかけた。

 

今みたいに何個もの同じ帝国軍の部隊を全滅させた事もある。

 

その中にはかつて部下だった者や同僚、気心の知れた元戦友もいた。

 

フリューゲルはそれら全員を手に掛け、ディープ・コアの秘密を守る為に殺し尽くした。

 

そこには夢も希望もなく、ただ最後に与えられた命令を実行するだけの虚無的な何かがあっただけだ。

 

そんなフリューゲルの下に新しい命令が下った。

 

遠く離れた未知領域から“()()()”が届いたのだ。

 

フリューゲルはラックス元帥らと共謀しディープ・コアの可能な限りの艦隊を集め未知領域へと向かった。

 

与えられた航路を進み、与えられた行き先には“()()()”がいた。

 

死んだはずのシーヴ・パルパティーンが行き先の果てにあるエクセゴルにいた。

 

死を迎えたはずの皇帝は昔と変わらない同じ語り口調でフリューゲルに秘密を打ち明け協力する頼んだ。

 

だからあの時尋ねたのだ。

 

「どうして命令してくださらないのですか」かと。

 

命令してしまえば早いのに。

 

その時皇帝パルパティーンはこう告げた。

 

「命令したから立ち向かえる相手ではない。君の意志が必要なんだ、自ら選んだという意志が。数少ないこの銀河の秘密を知る者として協力してはくれないか」

 

この銀河の明日を作る為に。

 

フリューゲルは皇帝の協力者となることを自らの意思で選んだ。

 

その時何処か新たな原動力のようなものが現れたように感じる。

 

彼は新たな軍服を受け取りシス・エターナルの軍事エグゼクターに就任した。

 

艦隊と地上軍を編成しシス・エターナルの信徒を盛況な兵士へと鍛え上げた。

 

フリューゲルは軍人として出来ることを全て成し遂げた、たとえどんな清廉な人間を目指す者がやりたくないことでさえも。

 

仕方がない、ヴァント家とは開祖が新シス戦争で共和国の軍旗を掲げた時からそうだった。

 

逃れられない使命でありフリューゲルだって他の先祖達だってそれを受け入れた。

 

そしてその使命は意味があった。

 

皇帝と結んだ約束は、フリューゲルが選んだ選択は彼の一族の使命に意味を持たせたはずだ。

 

浮かび上がった希望の為に報われぬ努力をし続けてきた使命がようやくだ。

 

「元帥……バロス惑星内のレジスタンス軍は降伏を拒否しました。降伏するくらいなら我々は最期の一兵となるまで戦うことを望むと」

 

デミングス司令官は少し困った顔でフリューゲルに告げた。

 

しかしフリューゲルは何処か落ち着いた表情で「そうか」と口を開いた。

 

「仕方がないことだ司令官。砲撃体制に移れ、我々は連中の望み通りに名誉をくれてやる」

 

幕僚達は頷き砲撃の準備を始めた。

 

こうなる事は分かりきっていたはずだ、それでも最後の望みをかけたという事はフリューゲルにはまだ躊躇いの心があったということだ。

 

だがそれもレジスタンスの返答と自らの選択がそれを無くした。

 

あの時の皇帝の約束と使命を思い出さなければ躊躇いの感情を含んだまままた機械のように戦っていただろう。

 

フリューゲルは遠い昔のクローン戦争で学んだ、人間はいくら心を機械にしても本物の機械であるドロイドには勝てないと。

 

人間は人間であるが故に自らの感情と選択で戦う意志を固めなければならない。

 

機械では勝てないのだ、ならば自らの意志で選択し自らの手で自らを戦場の地獄に突き落とさねばならない。

 

幸いにもフリューゲルはそういう一族に生まれた為ある意味で“()()()()()”。

 

「砲撃準備、整いました」

 

ラノックス艦長がフリューゲルに報告すると彼は素早く命令を下した。

 

「目標バロス、最大火力を持ってこの星のレジスタンスを殲滅する。撃て」

 

再び“エクリプスⅡ”の艦首から黄緑色の太いレーザーが5つの方向から放出されそれが一塊になってより太い強力な一線を撃ち出す。

 

エクリプスⅡ”の最大火力を含んだアキシャル・スーパーレーザーはそのまま真っ直ぐバロスに続きバロスの大地に直撃した。

 

この次世代ドレッドノートが備えているアキシャル・スーパーレーザーはジストン級の量産型とは違いその火力は殆どデス・スターのスーパーレーザーと遜色がない。

 

故に着弾すれば惑星の崩壊までは秒数をカウントする必要すらなかった。

 

スーパーレーザーの一撃が地面に着弾し惑星のコアに届いた瞬間、バロスは崩壊し木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

その光景は最初に破壊されたオルデランにとてもよく似ていた。

 

これこそスーパーレーザーの本懐であり今で死ぬことはないと思っていた者達に初めて与える死の恐怖の体現者だ。

 

バロスの戦いはシス・エターナル軍の大勝に終わった。

 

文字通りレジスタンス軍は1人も生きて戦場から帰ることはなかった。

 

 

 

 

崩壊し爆散するバロスを見つめてダース・シディアスは高笑いを浮かべた。

 

恐怖と猟奇的な喜びの入り混じった笑い声はエクセゴルに深く響き渡った。

 

「見たか、レジスタンスの愚か者どもめ。余の無敵の艦隊には遠く及ばぬことをこれで思い知ったであろう」

 

シディアスは更に笑みを膨らませた。

 

セドリスや他のダークサイドの達人達もフードの奥から笑みと感嘆の声を上げていた。

 

しかしそれを複雑な表情で見ている者もいる。

 

マラ・ジェイドはその1人だった。

 

確かに帝国の勝利は彼女にとっても喜ばしいことであるはずなのだ。

 

しかし心のどこかで完全には喜びきれないでいた。

 

そんな感情を隠す為にマラ・ジェイドは御成に控えているルークに皮肉を浴びせる。

 

「あんたの仲間は案外脆かったようね。皇帝の慈悲が効いている今が最後のチャンスよ」

 

マラ・ジェイドはこの時またいつものように柔和な声で反論してくるだろうと思っていた。

 

されど今日のルークは違った。

 

目線を全くこちらに向けず「ああ、そうだな」と一言だけ返した。

 

まるで別人のようだ。

 

あまりに呆気ない返しだったのでマラ・ジェイドはルークの方に目線を寄せた。

 

彼女はルークの瞳を見て驚愕し思わず半歩だけ後退りした。

 

彼の瞳が“()()()()()”、まるでシディアスや他のシス卿のように。

 

マラ・ジェイドはその時言葉を失い再びルークの方を見つめた。

 

目の錯覚だったのだろうか、今度見た時はいつもと同じ青色だった。

 

一体何がと思慮を巡らせる前にシディアスはルークとマラ・ジェイドに声を掛けた。

 

「余の若きスカイウォーカー、そして忠実なる余の皇帝の手よ。其方らに新たな任務を託す」

 

2人は振り返りシディアスの方に体を向けた。

 

皇帝は2人に任務の内容を話した。

 

「シス・エターナルの忠実なる兵士を連れて放棄されたボーラ・ヴィオのクローニング施設に向かえ。そこで施設を完全に破壊し機能を奪え。奴は既に動き出しておる」

 

「奴…とは一体誰のことで?」

 

マラ・ジェイドは尋ねた。

 

シディアスは声音を全く変えずに2人にそのことを話す。

 

「かつて余が創り出したジョラス・シボースの狂気のクローン……“ジョルース・シボース”、奴はオリジナルの血が強すぎたのかボーラ・ヴィオのクローニング施設を強制稼働させ“ジェダイの帝国”を建国せんとクローン戦士を生み出そうとしておる。奴の野望を阻止し残ったジェダイを抹殺せよ。其方らにはこのIG-99Eもつけていく」

 

玉座の側からシス・エターナルの暗殺ドロイド、IG-99Eが姿を現した。

 

IG-99Eのカメラアイはいつにも増して真っ赤に光っている。

 

シディアスは最後にこう告げた。

 

「自らの手でジェダイの歴史に終焉を打ち、新たなシスの千年帝国を築く礎とせよ。スカイウォーカー、いや」

 

()()()()()()()()()”。

 

マラ・ジェイドはルークに何があったのか分からない。

 

しかし彼はいつの間にか皇帝に下り弟子の名前を付けられている。

 

それに対してルークは反論する訳でも肯定する訳でもなく膝をついてシディアスの任務を受け取った。

 

今のマラ・ジェイドの心のうちを示すかのようにエクセゴルの雷が落ち轟音が鳴り響く。

 

混乱と現実、ただ一つ分かることは今示された任務をこなさねばならないということだけだった。

 

シスの栄光は未知領域から蘇ろうとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-未知領域 オク=トー星系 惑星オク=トー テンプル・アイランド 最初のジェダイ寺院-

フードを被った2人の男女がこの最初のジェダイ寺院のあるテンプル・アイランドに集まっていた。

 

彼らが乗ってきたスターファイターは近くの開けた場所に停めてある。

 

幸いにもこの寺院を守護するラナイのケアテイカー達からは暖かく歓迎された。

 

だがそんな暖かく自然豊かなこの星から2人は離れなければならない。

 

それが2人の、残された数少ない“()()()()”の使命だからだ。

 

「やはりボーラ・ヴィオに奴がいる事は間違いない。どうする、奴は狂人のクローンとはいえ元は同じジェダイだ。本当に倒すのか?」

 

フードを被った人間の男は隣でオク=トーの美しい海を見つめるトグルータの女に尋ねた。

 

2人とも随分長い間ボーラ・ヴィオにいるジョルース・シボースを探していた。

 

とあるダークサイド信奉組織の撃滅中にその存在を確認し2人はその狂気の行いをやめさせる為にずっとジョルースを追い続けていた。

 

しかしまだジョルースの息の根を絶つかは2人とも決めかねていた。

 

「彼が私たちの説得に応じなかったらやるしかない。多分十中八九応じる事はないだろうけど…」

 

トグルータの女は目線を落としこれからやらなければならない事を心の中で嘆く。

 

それでもジョルースの行いは阻止しなければならない。

 

彼が皇帝に見つかる前にその技術ごと抹消しなければレジスタンスが危険に晒される。

 

「そういえばルークの居場所は見つかったか?」

 

人間の男はトグルータの女の方に尋ねた。

 

しかし彼女は首を振りルークが見つかっていないことを示した。

 

「レジスタンスの調査隊がマーカーに向かったらしいけど全滅したって。多分生きているだろうけど…」

 

「我々もジョルースを打ち倒した後に捜索に協力しよう。彼と3人で戦わなければ恐らく皇帝に勝つのは難しい」

 

トグルータの女は小さく頷いた。

 

それと同時に彼女はある事を危惧していた。

 

「ルークが消え……その前にはベンが誘拐された。これがもし蘇った皇帝の仕業だとしたら……」

 

「皇帝は再びスカイウォーカーの一族を狙っているということか?」

 

「その可能性は十分にある」

 

男、“カル・ケスティス”はフードを下ろし自身の顎を触った。

 

十数年前よりも歳を取り更に経験を蓄えたカルはもうジェダイ・マスターだと言われても違和感のない風貌になっていた。

 

もう彼はマスター・タパルの下で学ぶだけのパダワンではなくなっていた。

 

「いずれオーガナ議長も狙ってくるだろうか…」

 

「分からない、でも我々はひとまずジョルースを倒して皇帝の野望を阻止しないと」

 

トグルータの女の決意にカルは頷き2人はスターファイターの方へ向かった。

 

石造りの階段を降りていく。

 

2人のジェダイもボーラ・ヴィオに向かおうとしていた。

 

ジェダイとシス、ライトサイドとダークサイドがあの地で合間見える事となる。

 

1人の狂気のクローンを巡って銀河系の端でフォースの前哨戦が行われようとしていた。

 

ジェダイ、“アソーカ・タノ”は再びダークサイドと直接対決することを覚悟している。

 

ジェダイとシスの戦いは未だ終わりを見せる事はない。

 

過去も、未来も、永劫に。

 

 

 

 

つづく



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レンディリ潜入

「我が子よ、我が子よ。夜になったら眠りなさい。怖い怖い狼が出るぞ。我が子よ、我が子よ。布団の中へ隠れるように眠りなさい。怖い怖い狼は、お前を攫いにくるぞ。そうしなければ1人2人と、3人4人と霧の中へ消えてゆく。やがて誰も居なくなって、みんなみんな狼の子供になってしまうぞ。我が子よ、我が子よ。夜になったら眠りなさい。怖い怖い狼の手先とならぬうちに」
-未知領域の惑星に伝わる子守唄。狼とは恐らくファースト・オーダー、シス・エターナルのことでこの唄はファースト・オーダーのリザレクション計画の事を暗示していると考えられている-


ジェルマンとジョーレンがバロスの崩壊を目撃したのはちょうど潜入中のレンディリの帝国軍総督府のモニターからだった。

 

シス・エターナル軍とレジスタンス軍の戦いがリアルタイムで流され丁度2人が目撃した時には既にバロスはスーパーレーザーの餌食となっていた。

 

スーパーレーザーの衝撃と動揺、仲間を失ったことへの怒りと悲しみ、様々な感情がジェルマンの中で湧き上がっていた。

 

ジョーレンも敵がスーパーレーザーを保有している事に大きな衝撃を受けていた。

 

少なくともこの銀河系であのスーパーレーザーを備えていたのは2つのデス・スターだけだったはずだ。

 

2人とも自らが来ている制服のことを思い出しつつなんとか感情を表に出さぬよう努力する。

 

今は潜入中だという事を今一度心に刻みジェルマンは小さな声で口を開いた。

 

「まさかスーパーレーザーなんてものを持ってたなんて……」

 

「一足遅かった……恐らくバロスの救援艦隊もバロスの駐留部隊も全滅だ…」

 

ジョーレンは悔しそうにジェルマンに言葉を返す。

 

ジェルマンも頷く事しか出来ず2人はモニターの側に群がる親衛隊や帝国軍の将兵を避けるようにその場を離れた。

 

なるべく人気のない通路を歩き会話を続ける。

 

「情報とは違いまだシス・エターナル側の高官も帝国軍側の高官も来ていないようだな」

 

「うん、今のうちにこのレンディリの情報を盗み出そうと思う。ここは帝国にとっても重要な拠点だ、シス・エターナルの事は分からなくても多くの情報が掴めるはずだ。それにノヴァン君のことも…」

 

2人のレンディリへの潜入任務の目的はこのレンディリの総督府に来ると言われているシス・エターナル側の人物と第三帝国の高官との接触の会話や情報を盗み出すことにあった。

 

また別の目標としてレンディリの情報センターの機密内容や今後の帝国の動向をチェックする必要があった。

 

帝国軍の進路や補給状態、高官の今後の動きが分かればレジスタンスとしては様々な対策が取れる。

 

補給部隊への襲撃や帝国軍本隊を待ち伏せて撃破、または高官の暗殺。

 

どれも第三帝国に多かれ少なかれダメージを与えられる。

 

特に今の第三帝国は以前の第一銀河帝国とは違い直接的な勢力基盤も少なく全体的な力が以前の帝国に比べて大きく劣っていた。

 

本来なら今の範囲まで軍を展開するのだってやっとの状態なはずだ。

 

第三帝国は半ば強制的な軍拡と徴兵などによる兵員増強によりかろうじて今の勢力圏を維持しているに過ぎない。

 

それが補給線を断たれたり主力部隊を撃滅されたり中枢の高官が暗殺されたりしたらかつての帝国以上にその影響は広がるだろう。

 

シス・エターナルの力があっても瓦解の道が見えてくる。

 

「ハックはどこからやるつもりだ。アストロメク用のソケットか?この格好じゃ目立つと思うが」

 

ジョーレンは袖を掴んでそう呟いた。

 

2人が着ているのは親衛隊の将校の制服であり階級章はそれぞれ少佐と大尉となっていた。

 

これは以前ナブーを陥落させた際に大量の捕虜から得たものであり軍帽の将校ディスクもポケットのコードシリンダーも偽造された架空の誰かのものに書き換え済みである。

 

これが帝国軍や親衛隊の技師官や作業員の制服だったらよかったのだがこの格好は将校のものだ。

 

佐官と尉官の将校が態々アストロメク用のソケットから端末を繋いでいたらそれは相当奇異な目で見られるだろう。

 

余計な会話も増えて潜入がバレる危険性が大幅に増える。

 

「だから将校らしい場所でハッキングをやろうと思う」

 

「将校らしい場所?一体どこ……ってまさか」

 

ジョーレンはそのまま曲がり角を曲がった瞬間に察し付いた。

 

そこはこの総督府の中央情報管理室、つまりレンディリの情報を一手に管理し統括する場所であった。

 

「おいおい……どうしてここなんだよ……もっと他にあるだろう……」

 

ジョーレンは頭を抱え完全に意気消沈していた。

 

「勝手知ったるレンディリの中央情報管理室だろ。まあ今は改装されてすっかり帝国スタイルだろうけど」

 

元々レンディリは新共和国領であったのでこの中央情報管理室もなんなら総督府も本来は新共和国の息のかかった場所だった。

 

ジェルマンもアカデミーでの最終試験の際にこのレンディリの中央情報管理室で試験を行ったものだ。

 

それこそジェルマンの言った通り今ではすっかり帝国のものだろうが。

 

「どうしてもここに入るのか…?」

 

「ああ、大尉と少佐ならいけるはずだ。さあ行こう!」

 

ジェルマンはジョーレンよりも先に中央情報管理室に向かった。

 

ジョーレンも後から渋々ついていく。

 

室内のドアの前には警備のストームトルーパーがE-11ブラスター・ライフルを装備した状態で2人立っていた。

 

ストームトルーパー達はジェルマンとジョーレンに声をかけ一旦止める。

 

「何用ですか?」

 

この中央情報管理室はそう気軽に入るべき場所ではない。

 

それ相応の理由と用事がなければこの警備のストームトルーパー達に追い返されてしまうだろう。

 

素早く最初に理由が出たのは嫌々ついてきたジョーレンの方だ。

 

「上官の命令で中央のデータバンクにアクセスして確認しなければならないことがある。それも重要な新共和国時代の情報をだ。安全性を考慮しこの管理室を選んだ」

 

「解りました、一応確認の為に御2人のコードシリンダーを確認させてください。既に将校ディスクは確認済みです」

 

「分かった」

 

2人は2本のコードシリンダーをポケットから差し出しストームトルーパーに渡した。

 

2人のトルーパーはソケットにコードシリンダーを差し込むとセンサーがOKのサインを出した。

 

「問題ありません。エイク・ペイトリー少佐、クイエス・ヴァント大尉、どうぞ中へ」

 

ストームトルーパーに導かれ2人は難なく中央情報管理室に入った。

 

中には数人の情報部将校がそれぞれモニターの前に座っており警備のストームトルーパーが室内の角に4人立っていた。

 

真ん中に座るこの情報管理室の責任者と思わしき人物が2人に声をかけた。

 

「事情はこちらで確認している。6番モニターを使ってくれ、そこなら当分空きがある」

 

「分かりました、えっと…」

 

「中央情報管理室長のブラントン大佐だ」

 

「御気遣いありがとうございます大佐」

 

帝国情報部の制服を着ているブラントン大佐はジョーレンの御礼に小さく頭を下げまたモニターに目線を集中させた。

 

ジェルマンも同じように「ありがとうございます」と言葉を送り6番のモニターの前に座った。

 

「まずは新共和国時代の……」

 

口ではそう言っているがジェルマンは既に6番のモニターを高速で偽造し始めた。

 

ジョーレンはあくまで「新共和国時代の情報の確認」という理由を述べた。

 

しかし2人が実際に開くのは今後を含めた第三帝国の機密情報である為もしかすると室長のブラントン大佐に疑われてしまうかもしれない。

 

偽造が成功しジェルマンは密かにソケットにメモリーを差し込み情報を移し始めた。

 

「ここか……」

 

ジェルマンは機密部分のアクセスコードを入力しメモリーへコピーを行うと共に閲覧も開始した。

 

機密情報にはやはりレンディリの事が多く記載されておりレンディリ宙域艦隊の進路や補給状況、宙域内の駐留軍の状態や情報、またレンディリ・スタードライブ社の新型ドレッドノート級開発計画などもあった。

 

無論機密情報はそれだけには留まらない。

 

コルサントやコア・ワールドの情報、そして第三帝国の国防軍や親衛隊などの情報も多く入っていた。

 

中には“()()()()()()()()()()()”なども…。

 

驚愕と恐怖を覚えながらジェルマンとジョーレンは確認して行った。

 

「これは……想像以上だ……」

 

「うん……物理的なダメージだけではなく情報戦などでも圧倒的な役に立つ……」

 

特に現在帝国に服属中の惑星政府の現在の立場を揺るがせるものばかりだ。

 

最もそれと同時に大きな衝撃を受けたものもあった。

 

特にこの“ホロコースト”と呼ばれるものは。

 

「ホロコースト……一体なんだこれは……?なんの計画なんだ……?」

 

ジョーレンはその名を口にしひたすらに疑問を浮かべた。

 

別に文字が読めないとか内容が深く書かれていないからとかそういう訳ではない。

 

むしろ深く書かれ過ぎている。

 

この機密情報の中にあった統計を記載した報告書はかなり正確に事細かく詳細が記されていた。

 

だからこそ余計に分からないのだ、この計画の意味が。

 

「ホロコースト……エイリアン種族排除法及び代理総統の信念、平和への最終的解決に基づき実行されるエイリアン種または近人間種、ハーフの“()()()()”…」

 

この文は基本的な説明から始まり現在の段階での成果を報告書として記している。

 

「我がロラク収容所では獲得したハット・スペース内のエイリアン種族、近人間種族への労働を用いた絶滅、新兵器実験などを用いた絶滅を行なっています……今月の成果は記載された統計の通りです…」

 

2人は文末の統計の数字を見つめそして絶句した。

 

あまりにも数の桁が、“()()()()”。

 

もしこの数字の1という数がエイリアン種族や近人間であった場合それはあまりにも膨大な数の人がこのホロコーストを実行中の収容所の中で虐殺されているということだ。

 

一体何百万、何千万人、何億、何十億、何百億の命が犠牲となったか、もうジェルマンとジョーレンでは計り知れない。

 

今もなお夥しいほどの命が帝国領に幾つも存在する収容所の中で消えている。

 

そう考えると背筋がゾクッとして途轍もない嫌悪感に見舞われた。

 

第三帝国は倒さなければいけない敵でエイリアン種族や捕虜に対して非人道的な行いをしていることは無論知っていた。

 

しかしここまでだとは誰も予想していないし考えてすらいなかった。

 

過去の第一銀河帝国のハイ=ヒューマン主義扇動の時だってここまではやらなかった。

 

第三帝国は完全に常軌を逸脱している。

 

「こいつは必ず写すぞ」

 

「分かってる…」

 

データを移したメモリーをポケットにしまうとジェルマンはモニターの画面を変えた。

 

建前として利用したレンディリが新共和国時代に残されたデータを見るために。

 

「記録……レンディリ新共和国アカデミー……あった…!」

 

ジェルマンはレンディリの新共和国アカデミーの情報が書かれた記録資料を発見し表示した。

 

どうやらレンディリ制圧直後にアディロン・ラングという帝国地上軍所属の帝国保安局員の少佐が調査した報告書のようだ。

 

ラング少佐によれば既にレンディリが親帝国派によって制圧された時点で新共和国アカデミーの生徒達は全員キャッシークか他の新共和国側の惑星に疎開していたらしい。

 

少佐が率いる調査を目的にした帝国保安局員達が旧アカデミーのビルを隈無く探したらしいが生徒は当然のことデータやビル内の物品など殆どが消え去っていた。

 

まるで最初からそんなものなどなかったかのようにとラング少佐は報告書に記録していた。

 

しかし手がかりはあったようだ。

 

アカデミー・ビルのデータも記録も全て抹消したが宇宙港や他の官舎の記録はまだ残っていた。

 

特に宇宙港ではレンディリから疎開中のアカデミーの生徒達の事が多く記されていた。

 

うち一つはジェルマンとジョーレンにとってとても目を引くものだ。

 

レンディリから輸送艦に乗り疎開を始めた生徒達の大半は新共和国と第三帝国の戦闘が決着する前に疎開先へ辿り着いていた。

 

だが輸送艦の何隻かは疎開先に“()()()()()()()”というのだ。

 

それがどのクラスの誰を乗せた輸送艦でどこへ向かう途中で行方を晦ましたのか、また何者に襲われ何が原因で輸送艦が消えたのかラング少佐達の調査ではそれ以上分からない。

 

それに調べる義理もなく行方不明になったという結果のみ分かれば現状それで良かった。

 

しかしラング少佐は最後にあることを付け加えている。

 

それも数日前に加筆した真新しいものだ。

 

最後には近年の状況を精査してのラング少佐の輸送艦消失の考察が書かれている。

 

新共和国アカデミーの輸送艦だけでなくここ数年銀河系から10代以下の青少年が突如として行方不明となる事例が多発している。

 

行方不明が増加したのは大凡銀河内戦末期のこと、そして突如行方不明の事例はピタリと消失した。

 

それも“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

あまりにもそのタイミングが一致する為何らかのか因果関係を疑わざるを得ない。

 

だからこそラング少佐は最後にこう書き残した。

 

この新共和国アカデミーの輸送艦消失もシス・エターナルがなんらかの形で関与しているのではないかと。

 

その存在を示すかのように室長のブラントン大佐にある報告が舞い込んできた。

 

「大佐、間も無くシス・エターナルの高官が到着します」

 

「ああ、もうすぐか。ではそろそろ行くとしよう」

 

2人は近くの席に座る将校の報告を聞いてビクッとした。

 

今正にこのシス・エターナルという単語を読んだばかりだかりだからだ。

 

しかも2人の任務の目的はシス・エターナルに対する諜報だ。

 

ようやく2人が目標とする相手が現れた。

 

「私は少し室内を離れるが2人はどうする?」

 

ブラントン大佐はジェルマンとジョーレンに気を遣って尋ねた。

 

2人は席を立ち「我々も目的の資料は確認しましたのでこれで失礼します」と中央情報管理室を離れる口実とした。

 

「そうか、それではな」

 

ブラントン大佐に敬礼を返しジェルマンとジョーレンは元来たドアから外に出た。

 

暫く通路を歩きジョーレンはコムリンクを起動する。

 

停泊中のUウィングを介してディカーの司令部に連絡を入れる為だ。

 

「こちらシールズ、ヒドラは巣に入った。作戦を実行する」

 

ようやく本題の任務が始まる、シス・エターナルに対する初めての任務が。

 

 

 

 

 

これより少し前ジークハルトと副官のヴァリンヘルト大尉、フリシュタイン上級大佐がレンディリの軌道上の造船所区画にいた。

 

彼らはナブー奪還作戦に特殊部隊や精鋭部隊を運搬する艦艇を選んでいた。

 

特にレンディリにはレンディリ・スタードライブ社があり艦艇の建造技術も高い。

 

クワットやコレリアには少々知名度で見劣りするがドレッドノート級重クルーザーや他の共同開発製品などで確かなものがある。

 

特にドレッドノート級のような艦艇は本作戦においてうってつけだ。

 

既にジークハルトはドレッドノート級の何隻かを作戦に投入しようと考えていた。

 

「サイナーの方ではステルス・コルベットや“キャリオン・スパイク”のステルス技術を投入した艦艇が導入されるそうです」

 

ヴァリンヘルト大尉は建造中の何隻かのドレッドノート級を眺めながらそう報告した。

 

クローン戦争の時代より存在していたクローキング装置を兼ね備えたステルス・コルベット。

 

戦争中はクリストフシスの分離主義艦隊を突破し補給を成功させ帝国時代の黎明期には“キャリオン・スパイク”としてグランドモフターキンの足となり活躍した。

 

そして今回は皇帝の生まれ故郷の奪還作戦に投入されることになる。

 

「となると乗船するのはシャドウかストーム・コマンドーか、まあおいおい決まっていくだろうな」

 

「現物は殆ど目にしたことのないですがまさかこの戦いに投入されるとは」

 

「ああ、少しやり過ぎな気もするがナブーは帝国の精神中枢を成す惑星の一つだ。全力でやらなければ」

 

ヴァリンヘルト大尉の率直な感想にジークハルトは言葉を選んでそう答えた。

 

本当は親衛隊を投入してまで守り切れなかったことを悔しがり、というのも少なからずあるはずだ。

 

あんな負け方すれば余計に。

 

ナブー失陥の責任はシス・エターナルの到来で殆ど有耶無耶となったが少なからず覚えている輩は多いはずだ。

 

この隙にナブーを奪還し親衛隊の責任を生家で帳消しにしようと画策しているのであろう。

 

「それに加えてナブーは戦略的要所です。ハイパースペース・レーンの上に存在し、南アウター・リムとの距離も近い」

 

話に入ってきたフリシュタイン上級大佐は更に付け加えた。

 

だが上級大佐の言う通りナブーは戦略的にも重要な場所であることに間違いはない。

 

ミッド・リムとアウター・リムの境に位置し比較的名の知れた惑星である。

 

エナーク・ランなどのハイパースペースの上に位置しマラステアやエリアドゥほどではないが橋頭堡としても十分な使い勝手がある。

 

しかしフリシュタイン上級大佐はもう一つのナブーの価値を挙げた。

 

「それに何よりナブーは我々親衛隊が影響力を強く出せる。クリース大将らが支配基盤を再び確立すればですが。そうすればナブーを介して我々は大セスウェナや周辺に“()()()()()()()()()”」

 

「見張り…?一体何のことでしょうか」

 

フリシュタイン上級大佐の発言を完全には理解し切れなかったヴァリンヘルト大尉が率直に尋ねた。

 

ジークハルトも幾つか気になる点はあったがそれ以上に気になったのは周辺の中に現状味方であり第三帝国領であるはずの大セスウェナの単語が入っていたことだ。

 

確かに大セスウェナはレジスタンス軍が存在するとされる領域への派兵に消極的で本国からの指令を反対することも多い。

 

されど第三帝国の国益を大きく損ねることはせずむしろロマイトや帝国の橋頭堡となることで大きく貢献してきたはずだ。

 

「南アウター・リムには未だ抵抗勢力が多く情勢不安の場所も多い。そこでナブーを親衛隊及びFFISO(帝国情報保安本部)の部隊を置くことでいつでも不測の事態に対処出来る」

 

「サラスト戦は南アウター・リムから親衛隊を撤退させる為の一戦でしたがえらい方向転換ですね。再び南アウター・リムに親衛隊を駐屯させるなど」

 

ジークハルトは例題を持ち上げて何処か隠すように皮肉った。

 

確かに南アウター・リムから親衛隊は撤退したがマラステアの駐留軍や南アウター・リムには多くの国防軍が派遣されている。

 

旧大セスウェナ連邦軍の将兵だって現状まだ帝国側のはずだ。

 

結局同じ第三帝国の仲間すら信用していないという事ではないのか。

 

「あの時とは状況が一変しました。現状北部のレジスタンス軍はシス・エターナルとの戦闘で当分我々には手を出せずチス・アセンダンシーとの関係も比較的良好です。北部の守りは現状のままでいいと判断されました」

 

「それで不安の残る南部に再び部隊や保安局と情報部の目を展開しようというのですね。あちらも大セスウェナやマラステアの国防軍がいるのですが」

 

「国防軍だけでは不安です、それに大セスウェナ連邦は未だ独自の体制を維持している。真っ先に第三帝国に加わったとはいえ警戒は必要です」

 

疑わしき者は罰せよ、親衛隊保安局のモットーであり彼らの行動原理だ。

 

彼らにとっては大セスウェナはもう十分罰する、もしくは監視するに値する組織ということだろう。

 

尤も相手が相手なので街のチンピラを捕まえるようには行かないだろうが。

 

「それに大セスウェナは我々親衛隊の駐屯とエイリアン種族の逮捕状を跳ね除けました。それだけで十分疑うに値しますよ」

 

やはり主たる理由はそれか、ジークハルトは制帽を左手で持ちふと眺めながらそう考えた。

 

反エイリアン主義はとハイ=ヒューマン主義の増長は初期の第三帝国で国民意識を統合させここまでの勝利に大きく役立てた。

 

「帝国を崩壊に導いたのはスパイとなった多くのエイリアン達が謀略を行い帝国同士を戦わせ帝国の栄光を背後から略奪したのだ」と代理総統も何度か演説を行なっていた。

 

結果的に反エイリアン主義はエイリアン種族排除法などを成立させ今日までそれは続いている。

 

確かに明確な敵を作ることで人の意識はひとつに纏めやすくなる。

 

だがジークハルトの心の底では嫌悪感を抱いていた。

 

確かに初期反乱運動の時代から多くのエイリアン種族が積極的に活動に関わっていたしジークハルトの母もエイリアン種族のテロによって殺された。

 

だからジークハルトだって昔はエイリアン種族や近人間種族が嫌いだったし嫌悪していた。

 

それでもジークハルトの母を殺したようなエイリアン種族が全てではなかった。

 

中にはいい奴だっていたしジークハルトが会った中ではハイ=ヒューマン主義が強い中でも帝国を支持するエイリアン種族の人だっていた。

 

それに人間種だって全員が全員帝国を支持し真っ当に生きているわけではない。

 

結局姿が違うだけでそこに大した壁はなかったのだ。

 

「ドレッドノート級は主に特殊部隊の次にナブー内に侵入する突撃大隊と海兵大隊(Seebataillon)を乗せる。彼らが敵陣地と首都の一区画を制圧してくれれば我々の上陸も楽になる」

 

ついでに惑星内で戦闘してくれれば制空権奪取に役立つ。

 

ジークハルトは話を切り替え目の前に佇む停泊中のドレッドノート級に目線を移した。

 

この艦はインペリアル級やプロカーセイター級よりは小さいがかなりタフで火力も高い。

 

海兵隊員や突撃大隊の兵員の支援でも十分な力を発揮するだろう。

 

「どうせなら我々もドレッドノート級で先に地上に降りて司令部を設置しようか」

 

「えっ!?乗るんですか!?ドレッドノート級に!?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトの独り言に異様なほど驚いた。

 

あまりに大きな声だったのでジークハルトと話を聞いていたフリシュタイン上級大佐は思わずヴァリンヘルト大尉の方に目を向けた。

 

彼は口を開けて大きく驚いている。

 

大尉がここまで驚くことは今まで殆どなかった。

 

前線でも平然と勇気を持って敵と戦っていた彼がここまで驚くのは何か理由があるのか。

 

「どうした大尉、何をそんなに驚いているんだ?」

 

ジークハルトの問いにヴァリンヘルト大尉はオドオドしながら逆に尋ねた。

 

「えっとそのですね准将……我々もドレッドノート級に乗るんですか…?」

 

「…?まあ状況によってはな。地上に早期に臨時司令部が設立出来るようならそちらの方がいい」

 

ジークハルトが答えるとヴァリンヘルト大尉は見るからに嫌そうな顔を浮かべた。

 

「どうしたんだ大尉、そんなにあの艦に乗りたくないのか…?」

 

ジークハルトは困惑した顔でヴァリンヘルト大尉に尋ねフリシュタイン上級大佐は横で怪訝な表情を浮かべていた。

 

ヴァリンヘルト大尉は恐る恐る唐突に理由を話し始めた。

 

「……准将は、“()()()()()”のことを知っていますか……?」

 

大尉から発せられたその単語を聞いた瞬間ジークハルトとフリシュタイン上級大佐は顔を見合わせなんとなく納得した。

 

そういえばあれはドレッドノート級と大きな関わりが、というよりドレッドノート級で構成された艦隊だったな。

 

ジークハルトは思わず苦笑を浮かべた。

 

「ああもちろん知っている。共和国時代に幾度となく行われてきた共和国の再軍備の一例、二百隻近いドレッドノート級で構成された艦隊で共和国の未来を期待されていたが処女航海中に謎のウイルスに罹り乗組員は全員病死、二百隻のドレッドノート級は全てどこかへハイパースペースへジャンプアウトしそのまま30年近く経った今でも艦隊の消息は不明……有名な話だな」

 

「はい……そしてアカデミーでその後……」

 

「ああ、消えたカタナ艦隊の呪いがその後全てのドレッドノート級に宿っていてドレッドノート級に配属された将兵は必ず呪いに罹り酷い目に遭うっていうアカデミーの噂話だろう?私の時代からあるぞそれ」

 

「えっ!?准将もご存知なんですか!?」

 

ヴァリンヘルト大尉は余計驚いた表情でまた尋ねてきた。

 

ジークハルトがアカデミーでこの噂を聞いたのは確か上級生の候補生達からだった。

 

なのでカタナ艦隊の噂話はもっと前から囁かれているだろう。

 

フリシュタイン上級大佐も隣で「私も聞いたことがありますね」と呟いていた。

 

「まあ尤も、その話をしていた候補生は次の日にはどこかへ消えていましたが」

 

おっと、色んな意味でまた別に怖い話だった。

 

まあともかくここまで広く噂されているということは逆に真実ではなく代々受け継がれる与太話なのだろう。

 

もし本当なら帝国の体質的により大規模に情報統制がなされているはずだ。

 

フリシュタイン上級大佐の例だけでなくジークハルトの世代の上級生だってきっと消えていただろう。

 

「それに、もし本当なら今頃ドレッドノート級乗りはみんな早死にするか沈んでもっと大きな問題になってるだろうし帝国も多分使わなくなっている。そうでないということならカタナ艦隊の亡霊など単なる噂話に過ぎない」

 

「ほっ本当ですか…?」

 

「そうでもなきゃ、私の代から大尉の代まで語り継がれてないはずだ。ドレッドノート級の性能を信じろ」

 

大尉の方に手を当て優しく諭した。

 

ヴァリンヘルト大尉はかなり不機嫌な様子のまま渋々納得を示していた。

 

しかしカタナ艦隊か、アカデミー時代に授業で習った程度でこんな所で聞く事になるとは。

 

遠い昔の出来事だがジークハルトは思わず懐かしさを覚えてしまった。

 

すると彼らの目の前のビューポートに一隻のスター・デストロイヤーがジャンプアウトした。

 

形状はインペリアル級と殆ど同じだが船体の赤いラインと船体下部の大型砲塔が特徴的な際だ。

 

ジークハルトはあの艦がなんとなく第三帝国のスター・デストロイヤーとは違うことを察知していた。

 

直後造船所の放送が全体に流れる。

 

『シス・エターナル艦到着。各将校は開式30分前にはレンディリ総督府に到着されたし』

 

「シス・エターナル……となるとあれが報告書で見たジストン級スター・デストロイヤーか」

 

ジークハルトはビューポートの先に見えるスター・デストロイヤーを眺めながら呟いた。

 

隣でフリシュタイン上級大佐は「今日はシス・エターナル側の使者がレンディリに来る日でしたね」と言っていた。

 

「一体、我々に何を告げに来たんでしょうか。態々コルサントではなくレンディリに会合場所を選んで」

 

ヴァリンヘルト大尉は疑問を口にしたがその問いに答えられる者は誰1人存在しなかった。

 

様々なジークハルト達でさえ知り得ない情報を知り尽くしているフリシュタイン上級大佐さえもだ。

 

ジークハルトはふと自嘲的に「我々のことを信用していないのかもな」と問いに答える。

 

だがシス・エターナルの信用云々はこの際関係ない。

 

連中の存在は銀河を大きく変える、それも第三帝国の良い方にだ。

 

せいぜい利用するしかない、彼らの正体が分からないうちは。

 

シス・エターナルが味方で居続ける限りその恩恵は必ず第三帝国の為になる。

 

この複雑怪奇な銀河情勢、そうでもしなければ生き残れない。

 

 

 

 

 

 

-大セスウェナ領域 セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 惑星エリアドゥ エリアドゥ宇宙軍港-

宇宙軍港に停泊していた多くの艦船はその半数近くが出撃し今や守備隊と出撃を控えた“エグゼキュートリクス”麾下の本隊のみとなっていた。

 

エルデストが乗り込むアリージャンス級“オルタネート”らの艦隊は先に出撃しており既に準備は万全だ。

 

仮に早く“()”に食い付きレジスタンス艦隊が動きを見せ始めたとしても十分対処出来る状況だ。

 

尤もそうなるとヘルムートが考えていたターキン家の頭領がセスウェナを守ったという構図が崩れてしまうのだが。

 

ヘルムートは出撃の為に自身の旗艦であり大伯父のスター・デストロイヤーであった“エグゼキュートリクス”に今乗り込もうとしていた。

 

「ザーラ司令官と“ターキンズ・ウィル”の予備隊も配置についています。ロス提督の“ゴライアス”とバーク提督の“ヴィクトラム”の艦隊も同様にです」

 

彼の横を歩くセスウェナの代理司令官となったモッティ提督がそう報告した。

 

「コレリアン・トレード・スパインから進軍中の国防軍とマラステア派遣軍の親衛隊機動部隊の状況は」

 

彼らこそがレジスタンスとその奥に潜む新分離主義連合を巣穴から引き摺り出す為の“()”であり撃鉄のような役割を果たす。

 

国防軍はコレリアン・トレード・スパインを通ってアノート宙域と連合軍の残存領域を上から圧を掛ける。

 

それと同じ頃に大セスウェナ軍も行動を起こすつもりだ。

 

小艦隊を率いるトレークスがハイパースペースからギリギリまでアノート宙域まで接近しレジスタンス軍がアノートから出てくるのを“待つ”。

 

恐らく敵艦隊は国防軍のことも含めトレークスの小艦隊に食い付くだろう。

 

敵艦隊に打撃を与えつつトレークス小艦隊はドーラまでレジスタンス艦隊を引き付け最終的に本隊で叩く。

 

更にこの気に乗じて予備隊や本隊艦隊を動員しドーラを有するヴィデンダ宙域と隣接する2つの宙域の支配権を万全として当面の間はレジスタンスをアノート宙域に閉じ込め、名目上は侵攻の足がかりを建設する予定だ。

 

あそこはまだレジスタンスや旧新共和国の影響が強い。

 

「予定通り明後日にはレジスタンス艦隊と接触すると思われます。既に親衛隊の第336機動部隊は彼らが宣告していた領域に駐留し待機しているようですが」

 

「そうか……それで、アデルハードの艦隊はどうだ…?」

 

この戦いで国防軍の次に重要となってくるのはアデルハード総督の残存勢力であった。

 

このイレギュラーであり第三帝国、アノートのレジスタンス軍そして大セスウェナ全てに敵対する狂犬の存在が重要だった。

 

レジスタンス艦隊の撃破とアノート宙域の奪還を狙っている彼らは間違いなくレジスタンス軍を撃破する好機だとして艦隊の総力を上げて襲撃しようとするだろう。

 

恐らくレジスタンス軍はアデルハード艦隊を追撃しそのままアデルハード総督を今度こそ仕留めようとするはずだ。

 

そこへ来るのがトレークスの小艦隊だ。

 

建前上宙域内を広範囲パトロール中というトレークス小艦隊はそのままレジスタンス軍の侵入を発見し攻撃に加わる。

 

当然数の上で恐らくトレークス小艦隊は不利なのでどんどん奥地へと後退し引き寄せた所を待っていた本隊で叩く。

 

この作戦で重要なのはレジスタンス艦隊を如何にアノート宙域から引き摺り出し我々と戦わせるかに掛かっている。

 

レジスタンス軍が戦うと決めアノート宙域から一歩でも足を踏み出した瞬間レジスタンス軍の敗北は決まるのだ。

 

国防軍との戦闘を控え更にアデルハード総督との戦闘も行わなければいけないレジスタンスは全力を出せるはずもなく距離的に遠い新分離主義連合とてそれほど多くの増援を出すことは不可能だろう。

 

有意な状況で確実に勝つことがこの戦いで大セスウェナにとっては最も重要となってくる。

 

「スパイらの情報によればトゴミンダの衛星に潜んでいるらしく動きは何もありません。ただ同様にスパイから流した情報で我々の動きはある程度察知しているでしょうから恐らく食い付いてはくるでしょう」

 

「そこは出たとこ勝負という訳だな。まあいい、舞台は十分揃ってる」

 

「それと…これはまだ不確定な情報なのですが」

 

前置きと共にモッティ提督はヘルムートに耳打ちをした。

 

彼の声は他の誰かに聞かれぬようとても小さかったが同時に聞き取りやすくもあった。

 

その重要な情報を受け取ったヘルムートは制帽を大きく被り目線を落とす。

 

「…分かった、留意しておこう。それでは、エリアドゥとセスウェナの守備を頼んだぞ」

 

ヘルムートの目の前の儀仗兵達が儀仗用ブラスター・ライフルを構えヘルムートを出迎える。

 

ちょうど“エグゼキュートリクス”の上級将校用のハッチだ。

 

背後ではモッティ提督が「閣下、お気をつけて!」と敬礼している。

 

ヘルムートも微笑みかけ敬礼を返し“エグゼキュートリクス”に乗り込んだ。

 

ハッチが閉鎖されヘルムートは早速“エグゼキュートリクス”と艦隊の幕僚将校らに囲まれた。

 

「お待ちしておりました閣下、ブリッジまでどうぞ」

 

艦隊幕僚将校のリン・ジェイ司令官はヘルムートにそう告げた。

 

どうやら彼女も聞いた話によれば大伯父と共にバーチ・テラーの反乱に関わっていたらしい。

 

かつてはジオノーシスへの補給地点であるランパート・ステーションに配置されていたようだが時を経て大セスウェナ連邦軍の一員となった。

 

ヘルムートはブリッジに向かうまでに多くのことをジェイ司令官や他の将校から聞いた。

 

各部隊の詳細な状態や艦隊の状況、“エグゼキュートリクス”の様子など様々だ。

 

基本どの報告も作戦に支障をきたすことはなくヘルムートはひとまず安心した。

 

「ナブー方面ですがあちらはマラステアの監視下にある為特にこれといった動きはありません」

 

ジェイ司令官は一通りの報告を終えてタブレットを仕舞った。

 

しかし完全に話すことがなくなったわけではない。

 

別の意味で重要な事をヘルムートには話さなければならなかった。

 

「…それと“()()()()()()()()”が既にブリッジにお越しです。このままではケッセルの方々を連れて戦場へ向かうことになりますが」

 

ジェイ司令官はどこか困ったようにその事をブリッジに上がる途中のエレベーターの中で報告した。

 

ヘルムートも苦笑を浮かべ「問題ない、どうせ覚悟のキマった連中だ」と返した。

 

「それより心配なのはケッセル艦隊だ。この“エグゼキュートリクス”に乗っている限りは命の保障はあるが他は違う。最悪彼らは戦場に巻き込まれるし我々の動き次第によっては彼らを予備隊に組み込む可能性もある」

 

「一応インペリアル級一隻と護衛艦のヴィクトリー級が二隻付いているようですが」

 

形式上は三隻のスター・デストロイヤー、視察としては十分ではある。

 

尤も、どの程度戦場が激化するか分からない為十分かどうかの完璧な判断を下すのは難しいところではあるが。

 

「そうか、なるべく離れたところにいろとだけ伝えておいてくれ。我々はともかくレジスタンスとアデルハード総督なら撃ちかねない。親衛隊もだが」

 

そうこうしているとエレベーターがブリッジの階層に着き、全員が降りた。

 

ブリッジに上がると早速ヘルムートは多くの将校から敬礼を受けた。

 

「閣下、“エグゼキュートリクス”はいつでも出港できる体制を整えております」

 

一歩前に出て敬礼した“エグゼキュートリクス”の艦長であるヒンデイン・ダック艦長はヘルムートに早速報告した。

 

宇宙軍港に停泊している主力艦から護衛艦までの全艦艇、“エグゼキュートリクス”同様いつでも出撃出来る状態だ。

 

後はヘルムートの出撃の一言だけだ。

 

「さあグランドモフターキン、早く出撃いたしましょう!」

 

ダック艦長の後ろにはさも当然のように場違いな格好をしたケッセルの御令嬢がいた。

 

どうやらブリッジの乗組員はみんな慣れてしまったようで苦悶やら苦笑の色はひとつもなく普通に任務についていた。

 

ケッセルとは銀河内戦終結直後から多少の関わりを持っていた。

 

エリアドゥのロマイトを売り渡す代わりにケッセルのコアクシウムやケソリン燃料を受け取ったりと貿易を行なっていた。

 

第三帝国の台頭し大セスウェナが第三帝国の下に着いた後もこの緩やかな関係は続いている。

 

その為ヘルムートらはケッセルの主人であるクラリッサや他の面々とも面識があり彼女の奇行にも慣れていた。

 

故にヘルムートも気にせず何点か尋ねる。

 

「本当に、このままドーラに直行してよろしいか?尤もこの“エグゼキュートリクス”にいる限り命の保障はなされているが」

 

「はい構いませんわ。私達も半ばその為に来たのですから」

 

クラリッサは微笑を浮かべそう断りを入れた。

 

ヘルムートは隣の付き人のような少年の方に目を向ける。

 

一見すればただの少年だが彼の下の名前を聞けばきっと誰しもが驚愕するだろう。

 

「君はどうする、マルス・ヒルデンロード」

 

「私もこのまま行きますよ。それが私の使命ですから」

 

その返答はクラリッサは何処か喜んでいなかったが取り敢えず意思は確認出来た。

 

この無口に近い少年はまだ16、17歳でヘルムートとは2歳差の違いしかない。

 

同じまだ若い、いや周りの人々からすれば若過ぎる2人だ。

 

ヘルムートはその若さながら重荷を背負い、マルスはその若さながら全てを失いファースト・オーダーのスパイとして教育された。

 

ヘルムートとマルスはどこか容姿も似ている気がするとヘルムート自身は思っていた。

 

同じような白髪に近い銀髪、ヘルムートの方が少し白み掛かっているが殆ど変わりはない。

 

瞳の色は違えど兄弟と言っても誰も疑わないほどだ。

 

マルスは大昔“()”を見たと言っていた。

 

ある日の夜、彼が眠りの中でその夢と接触し1人の人間のような何かが現れマルスに近づいた。

 

それが男だったのか女だったのかは分からなかったそうだがその人間のような何かがマルスの方に触れた時眩い光に包まれ夢から覚めた。

 

鏡を見てみればマルスの髪は銀髪へと変貌し今の彼の姿になった。

 

ヘルムートはその現象に大きな既視感を覚えた。

 

彼も同じ夢を見たのだ、4年前に。

 

大セスウェナの指導者に祭り上げられ始めての戦闘で不安でいっぱいだった夜の事。

 

あの日見た夢でマルスとほぼ同じような出来事が起こりかつては大伯父のウィルハフやヘルムートの父と同じような色だった髪の毛が銀髪へと変貌していた。

 

この不可解な夢が遠く離れた、しかも多くの時間を隔てで別の人間が同じ夢を見るなど何かの奇跡かそれこそ神からの啓示と言わざるを得ない。

 

我々は恐らく何かを求められているのだ。

 

誰かは知らぬ者から何かを強く求められている。

 

それは使命かもしれないし将又破滅の啓示かも知れない。

 

ヘルムートやマルスにその何かがに何を求めているのか分からないがやる事は一つだ。

 

自らの意志を貫き自らの正しいと信じた選択を行うだけ。

 

使命の内容が分からない以上自分の道を行くしかないのだ。

 

その選択の一つが今下される。

 

「艦長、“エグゼキュートリクス”を出港させろ。我々はこの大セスウェナを守る為に出撃する。艦隊も我が旗艦に続け。エリアドゥから我々の秩序を広げるのだ!」

 

エリアドゥからインペリアル級“エグゼキュートリクス”と麾下艦隊が出撃しハイパースペースへジャンプする。

 

彼らが目指すのは戦場であり前線である。

 

若きターキンと若き“()()()()()()()”の遺児を乗せて。

 

彼らは戦場へと突き進む。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 コルスカ宙域 惑星コルサント 帝国議会地区 帝国議会ビル-

かつてはこの地は元老院地区だとか連邦管区などと呼ばれていた。

 

それは第一銀河帝国の時代も殆ど変わらなかっただろうが第三帝国時代は大きく変化した。

 

まず元老院は消失し代わりに帝国統治評議会が、そして今ではCOMPNOR委員やモフなどの帝国議会(Reichstag)がその椅子に座っている。

 

その為この地区も帝国議会地区(Reichstagdistrikt)帝国議会管区( Reichstag Bezirk)という名称に変わった。

 

そして今日この帝国議会、ライヒスタークには多くの議員が集まりある議題を巡って珍しく意見が紛糾していた。

 

それはシス・エターナルから持ち込まれたとある兵器の原材料の製造、つまるところ人工的に生成されたカイバー・クリスタルの製造を依頼された。

 

本来カイバー・クリスタルというのは一部の惑星から自然的に発掘される鉱石であり人工的に製造するのはほぼ不可能だ。

 

しかしシス・エターナルによれば特殊な技法を使ってカイバー・クリスタルを製造することが出来るらしい。

 

尤もその製造法は教えてくれなかったが。

 

第三帝国に頼まれたのはカイバー・クリスタル製造工場を設立する為の工場の譲渡又は工場の建設だった。

 

見返りとして製造されたカイバー・クリスタルの30%とカイバー・クリスタルを用いて新たに建造するジストン級スター・デストロイヤーを譲渡するとシス・エターナルは言っていた。

 

されどこれが議会の者達はこの事を不審に思い反対し始めた。

 

第三帝国はこれでもかなりの人口を抱える大国だ。

 

普通に第三帝国に製造方法を伝授して第三帝国に製造されればよいではないか。

 

それをしないということは何か裏があるのではないか。

 

「…という以下の理由でシス・エターナルへの生産工場譲渡及び新規工場の提供は却下、又は小規模に留めるべきだと意見します」

 

COMPNOR出身の議員が反対の意見を述べて席についた。

 

周りの彼と同じ議員達は小さく頷いていた。

 

皆シス・エターナルに対し全幅の信頼が置けず不安視しているグループだ。

 

尤も全ての議員や派閥がそうであるという訳ではない。

 

特に数刻前に行われたバロスの戦いを踏まえてシス・エターナルを信用、もしくは近づいて利用しようと考える者も多く出始めていた。

 

「だが先程のバロスを破壊した敵艦の威力を見ただろう?あの力が我らに加わるとなれば第三帝国の軍事力は飛躍的に進歩する。もはや我々に楯突き歯向かう者はいなくなる」

 

軍出身であり代理総統に気に入られて議会に入ったこの大柄の議員は早速バロス線の戦果を取り上げ反論した。

 

国防軍代表として耳を傾けていたカイティス元帥も重い表情でシス・エターナル軍の戦果を思い出していた。

 

「むしろこのままシス・エターナルに軍事の技術的なアドバンテージを独占させる訳にはいかない。チスやファースト・オーダーを出し抜く為にも積極的にシス・エターナルの技術を取り入れるべきだ」

 

「しかし、連中の見返りを信用出来るのか…?確かにあのプラネット・デストロイヤーとカイバー・クリスタルを提供するとは言っていたが」

 

「信用するしかないだろう。それに我々は既にシス・エターナルの地上軍部隊を借りている身だ。その分の借りを返す必要がある」

 

既にシス・エターナルとは同盟関係を締結している。

 

彼らから軍事的な援助を貰っている上に今まで彼らが奪還したガレルや今しがた崩壊したバロスの領域は全て第三帝国に譲渡される手筈だ。

 

実際今ガレルでは第三帝国とシス・エターナルの共同で軍政下を敷いている。

 

もしここで関係を損ねるような事があればその恩恵は減ってしまうだろう。

 

「何せ我々の超兵器開発はあまり上手くいっていないのでな」

 

ヒェムナー長官に代わって総統府長官を務めているマーティン・ボーマン長官がそう告げた。

 

第三帝国とて技術を受動的に受けている訳ではない。

 

かつてコルサントで発見したアキシャル砲搭載のスター・デストロイヤー(実の所この艦はジストン級のプロトタイプなのだが)をベースにカイバー・クリスタルを使用した超兵器の開発を行なっていたが実際の所その進捗具合はお世辞にも良いとは言えなかった。

 

少なくとも形にしようと努力はしているのだがあのジストン級やエクリプス級、まだかつての第一第二のデス・スターのような超火力を掃射する能力は持ち合わせていなかった。

 

その為シス・エターナルが現物を第三帝国に提供するというのであればそれは悪い話ではなかった。

 

「だがシス・エターナルに我々の工場を譲渡するとなると生産力は大きく低下する」

 

軍需大臣のフリット・トード大臣は重い表情で危惧を述べた。

 

国防軍や親衛隊の武器や弾薬などの兵器類の供給を担う軍需省はこの工場の譲渡にあまり賛成していなかった。

 

同じく軍需省や財務省と深い関わりのあるシューペル総監も頷く。

 

「特にシス・エターナルが要求している工場の規模となれば数は限られてくる。我々第三帝国の国営工場か、それともクワットなどの大企業の工場か。どちらにせよ軍を維持する生産力に大きく影響が出る」

 

「そのことについてだがヴァティオン・クワット会長、貴方の率直な意見を伺いたい。実際の所生産力はどうなる?」

 

この議会の議長を務めているローリング大将軍はクワットの総取締役として呼ばれたヴァティオンに尋ねた。

 

ヴァティオンはトード大臣と代わるように立ち上がり口を開いた。

 

「ならば率直に言わせてもらうがこれ以上工場が減るような事があれば間違いなく第三帝国への兵器提供の能力は大きく下がる。それも数ヶ月もすれば現状の戦線が維持出来なくなる程だ」

 

その事に議員達は苦悶の声を上げ事態を重く受け止めた。

 

そもそも今の第三帝国が現在の戦線を維持出来ている事自体驚くべきことだ。

 

旧銀河共和国や第一銀河帝国ほどの広い領域を保持しておらず20億人いたストームトルーパーも帝国の分裂と度重なる戦闘により多くが離れていってしまった。

 

その為第三帝国はかつての第一銀河帝国のように大規模な派兵を行うのも一苦労なのだ。

 

辛うじて維持している戦線もクワットの多大な生産力と第三帝国が行なっている軍拡と工業力促進のお陰だ。

 

尤も後者は予算的な意味合いで功績に陰りが見え始めてはいるが。

 

「シス・エターナルがあの規模の工場を接収すれば現状我々が発注を受けている分の兵器を期日までに納入するのは不可能になる。恐らくそれはマー=ソンやブラスティック・インダストリーズ、コレリアン・エンジニアリングも同様だろう」

 

「どうにかして生産力を上げられないか?」

 

ある議員はヴァティオンにそう尋ねたが彼は「不可能だ」と首を振った。

 

まあクワットに関しては現在生産している全ての生産能力を第三帝国に向ければ何とかなるのだがそれはクワットにとって有益とは言えないだろう。

 

そこでヴァティオンはある事に切り込んだ。

 

「だが貴国に徴収されたエイリアン種族及び近人間種の労働者達を返してくれれば現状の工場数でも辛うじて生産力は保たれるだろう。何分新規では入ってきた労働者達だけではまだ足りない」

 

それは第三帝国に対してかなり鋭い一撃であった。

 

現状ホロコーストや平和の為の最終的解決については親衛隊や政府高官などで秘密にされておりまだ同盟諸邦国や一般には公開されていない。

 

だからエイリアン種族や近人間種がエイリアン種族排除法などで国外追放を受けたり逮捕された後の姿は誰も知らなかった。

 

同盟国や新規領に対しては特別逮捕などの理由でエイリアン種族や近人間種を収容所へと強制連行した。

 

その中にはクワットの社員や労働者として働く者も少なからず存在していた。

 

彼らの処遇がどうなっているかはヴァティオンとてつい最近まで詳しくは知らなかった。

 

ただ、“ある情報源”から得た情報で絶滅収容所やホロコーストの内情を知った。

 

それほど厳重に管理された事なのだからこのようなことを言われては黙り込むしかないだろうとヴァティオンは予測していた。

 

その予測は半ば当たっていたようで殆どの議員は口を閉ざし代わりに答えたのがハインレーヒ・ヒェムナー親衛隊長官、ホロコーストなどに深く関与している男だった。

 

「彼らに帝国への反逆意志があったかどうかを精査するまでは残念ながら返すことは出来ない」

 

「しかしこのままでは生産力の低下は免れないぞ」

 

「新規で工場を設立することは出来ないのか?」

 

ボーマン長官の問いにトード大臣は「出来ない事はないがそれでも完成は年を跨ぐ」と告げた。

 

人員を総動員したとしてもギリギリ来年の今頃に完成……到底間に合わない。

 

「人員の補填は必ず補償する。となるとまずは行動の提供だな」

 

エイリアン種族の話は殆ど語られる事もなく本来の議題に戻った。

 

第三帝国の路線は既に決定しているようだ。

 

 

 

 

-レジスタンス領 アノート宙域 惑星ベスピン クラウド・シティ アノート司令支部-

アノート宙域及びその周辺域のレジスタンス軍の司令部はクラウド・シティの行政府宮殿の一角に設けられた。

 

アノート宙域の駐留軍はモン・カラやヤヴィン、キャッシークなどにも負けない程の大規模な勢力で現状帝国軍の一個宙域艦隊と戦闘になっても耐え抜ける程の戦力を有していた。

 

だがそんなアノート宙域レジスタンス軍にも危機が訪れる。

 

それは突如襲来した帝国軍のことだ。

 

少なくとも一個艦隊の戦力がハイパースペースを通ってこのアノート宙域に向かってきている。

 

無論これを放置する訳にはいかないのでレジスタンス軍は兵力を展開し防戦に応じていた。

 

この司令部には常にその情報が流れピリついた雰囲気が流れていた。

 

「戦闘の状況はどうだ?」

 

新共和国軍の軍服にお高めのマントを身に纏った姿のランドは司令部の士官に尋ねた。

 

「現状帝国艦隊の侵入はジャヴィンで防いでいます。戦線の状況はこちらが優勢とのこと」

 

「惑星内への上陸戦も始まっておりこのまま地上戦にもつれ込めば戦線は膠着すると前線の司令官達は予想しています」

 

士官達の返答は正確で分かり易かった。

 

ランドの隣には彼の戦友のサラスタン、ナイン・ナンと駐留軍司令官のブレン・タントール将軍、エイダー・タロン将軍、ウィリアム・バーク提督らがいた。

 

皆銀河内戦中に活躍した優秀な反乱同盟軍時代からの指揮官達でそれぞれ部下の幕僚や参謀を背後に複数人連れていた。

 

特にタロン将軍はクローン戦争時代からの歴戦の将校でその経験は並みの将校を軽く凌駕している。

 

アノート宙域の将軍や提督達は皆士官からの報告を聞いてそれぞれ思考を巡らせた。

 

「帝国艦隊が無意味に攻撃を仕掛けてくるとは思えん。必ず策があるはずだ」

 

タロン将軍は真っ先に口を開きランドも「私も同感だ」と付け加えた。

 

「“()()()()()()”の報告ではマラステアに入っていた親衛隊の部隊が動き出したらしい。セレアン・リーチはまだ抵抗が激しくて開通出来ていないだろうが」

 

「となるとやはり後続の部隊が続いてくるでしょうか」

 

「間違いないだろうな」

 

タントール将軍の問いをランドは肯定した。

 

帝国軍の攻勢はこんなものでは済まない、きっと津波のように次々と押し寄せてくるだろう。

 

それかホズニアン・プライムを陥落させた時のように秘密のハイパースペース・ルートを通りながら迂回を繰り返し電撃的に直接攻撃を仕掛けてくるか。

 

第三帝国の戦術は大きく変化している。

 

それはかつてのような力がないからだろうがそれ故に油断は出来ない。

 

油断した結果のホズニアン・プライム、シャンドリラの陥落だ。

 

「新分離主義連合からの援軍はどうなっている?」

 

「既に援軍部隊は帝国軍の別働隊を撃破し後数日もすれば前線に到着するとの見通しです。それと首都防衛用に既に一個小艦隊がベスピンに入っています」

 

バーク提督の幕僚が全員に状況を報告する。

 

新分離主義連合との軍事同盟は両国のどちらかが危険に晒された時軍を派遣し共同して防衛に当たるという明文があった。

 

現在はその約束が発動しアノート宙域のレジスタンス軍が帝国軍からの攻撃を受けた為救援を送ってきたのだ。

 

既にレジスタンス軍は新分離主義連合軍の幾つかの領域確保の為に部隊を派遣した事がある。

 

今回出兵が早かったのもそれらで築かれた信頼関係の方が大きかったのだろう。

 

尤もあの2人の外交官の親子が真摯に対応し同盟を締結出来たのがやはり一番だろうが。

 

「幸いこちらの戦力にはまだ余裕がある。最悪防衛戦となれば我々は直ぐにでも郷土防衛部隊を編成し現場の戦力を十倍以上に跳ね上がらせる事が出来る。地の利の面から見ても有利なのはこちらだ」

 

タロン将軍の読み通り帝国軍がアノート宙域に侵入してきた場合帝国軍は徹底した防衛戦と地の利を用いた指揮官達の攻撃により苦戦を強いられることはまず間違いない。

 

かつて総督のユーブリック・アデルハードに反旗を翻したアップライジングやトレーディング・スパイン・リーグやノーブル・コートといった抵抗組織に参加していた者がまだ大勢いる。

 

彼らは皆正規軍との連携やゲリラ戦を意識した訓練を受けており非常時となれば彼らは即座にレジスタンス軍アノート郷土防衛部隊に組み込まれレジスタンス軍正規兵と共に戦う備えがあった。

 

ランドは今もかつてもこのベスピンの総督であったしナイン・ナンや他のアノート解放に関わった将兵達はアノート宙域のことを知り尽くしている。

 

むしろ誘い込んで帝国軍を一網打尽にする作戦も取れるのだ。

 

しかしそれは最後の手段であって普段からなるべく避けたいと言うのが司令部の考えであった。

 

帝国軍と戦えば少なからずアノート宙域の荒廃は避けられない。

 

「このまま新分離主義連合軍と共同で反抗すれば帝国軍に少なからず打撃を与えられるだろう。だが不安点はこの機に乗じて再びアデルハード総督の艦隊が動き出してこないかと言うことだが…」

 

「ああ、絶対にあのいやらしい男なら動くはずだな。尤もタントールが用意した警戒部隊がその時は知らせてくれるだろうが」

 

ランドがそんなことを呟いていると運命は早速最悪の報せを運んできた。

 

ある1人の士官が顔を真っ青にしてランド達の話し合いに割って入ってきたのだ。

 

「第八即応警戒部隊より緊急連絡です!アデルハード総督の艦隊と思われるインペリアル級多数の船団がベスピン方面に向け移動を開始したとのこと!」

 

「噂をすればなんとやらか……!」

 

「直ちに周辺域の部隊に命じて防衛戦闘を開始しろ」

 

タロン将軍の命令により司令部から即座に指示が伝達され辺りは一様に慌ただしくなった。

 

他の将軍や提督、その幕僚達も慌ただしくなり始め一気に緊迫感が増した。

 

「現地の部隊だけで防げるでしょうか。弱っているとはいえアデルハード総督の艦隊はかなりの規模です」

 

タントール将軍は防衛任務に当たる部隊の危惧を浮かべた。

 

「なら私が行こう。今からベスピンの“レストレーション”の艦隊を連れて行けば間に合うはずだ」

 

ランドはナイン・ナンの肩を持って彼らにそう提案した。

 

ナイン・ナンも「大変だがなんとかしてみせる」とサラスタン語で話した。

 

「頼めるか、カルリジアン将軍」

 

「ああ、任せな。行くぞ」

 

ランドとナイン・ナンは司令部を飛び出し彼らの愛機のメルクローラーⅡに急いだ。

 

司令部の将軍や提督達は敬礼で見送り彼らの武運を心の中でフォースに祈った。

 

「カルリジアン将軍なら大丈夫でしょう。彼は今までに何度もアデルハード総督に勝っています」

 

タントール将軍は今までの戦歴を思い浮かべながらそう呟いた。

 

タロン将軍も「ああ…」と相槌を打つがどこか不安そうな表情だった。

 

彼はその不安の種を独り言のように明かす。

 

「だが本当に問題なのは我々の直ぐ隣にある勢力だ。ホズニアン陥落以降殆ど動きを見せない大セスウェナ……この状況下でどう動く…?」

 

タロン将軍は頭の中で星図を浮かべ思考を巡らせた。

 

今までアノート宙域のレジスタンス軍は度々大セスウェナやその同盟や条約の枠組みに入っている惑星政府や星系政府を攻撃した。

 

だが毎回大セスウェナの軍は防衛戦を遂行するだけでそれ以上の反抗はしてこなかった。

 

彼らの動きは他の帝国軍勢力と比べて不明瞭な点が多い。

 

恐らく自分の領土さえ守れていれば良いと言う考えなのだろうが今回のようなチャンスを目の前にしてどう動くかはまだ将軍や提督達として分からなかった。

 

最悪なことにだけはならならければいいのだが。

 

タロン将軍は再びフォースに対し祈りを捧げた。

 

 

 

 

 

レンディリにはシス・エターナルとの会談を行う為に多くの第三帝国高官がレンディリに訪れ会場の席についていた。

 

中には親衛隊の上級大将や地上軍宇宙軍双方の将軍や提督も含まれていた。

 

周りにいる各分野の将校たちも皆佐官以上のエリートばかりだ。

 

真ん中にレンディリの総督が座っており反対側の席には既にシス・エターナルの将校やシス・トルーパーが並んでいた。

 

ちょうど真ん中の席には代理人として派遣されたシス・エターナルの信者が座っていた。

 

それもかなり位が高いようで黒いフードを被ったローブの上に幾つかの飾りがついている。

 

他のシス信者達はその様な飾りがないか代理人よりも少なく眼前の信者がより高位にいることを知らしめた。

 

代理人は顔に何か黒いマスクのようなものを装着しておりフードも相まって素顔は全く確認出来なかった。

 

「全将校及び連絡官、そろいました。コルアントへの特別ホロ通信も起動しています」

 

総督の副官が耳打ちしレンディリの総督は「そうか、ご苦労」と副官らを労った。

 

総督は国防軍と同じ軍服の首元を気にしながらふうと息を吐いた。

 

新軍服の襟元がどうもこの総督とは合わないようで度々襟元を緩めようとする場面が見受けられた。

 

副官は耳打ちしたその話はシス・エターナルの代理人にも聞こえていたようで信者は早速口を開いた。

 

「準備が整った様なら始めてしまいましょうか」

 

少量の声量で雑談していた将校や官僚達もその一言で一斉に代理人の方を向いた。

 

まだ時間的には10分以上の余裕がある。

 

これもシス・エターナルの到着と共に動き始めていたお陰でシス・エターナルの一団が会場に着く前には既に準備は終わっていた。

 

「まだ10分近くありますがよろしいのですか?」

 

総督はシス・エターナルの代理人に尋ねるが「構いませんよ」とすぐに返された。

 

そう簡単に判断は出来ない。

 

シス・エターナルがいいと言っても今コルサントの方はどんな状況か分からない為総督1人で判断は出来なかった。

 

その為総督は周りをキョロキョロしながら他の将軍や提督達、上級大将や大将達に判断を求めた。

 

将軍や提督達が黙り込む中親衛隊上級大将のクリアス・アルフェンマイヤー上級大将はその判断に応えた。

 

「もういいでしょう。不必要に客人を待たせるのは失礼だ」

 

アルフェンマイヤー上級大将の一言を聞いたレンディリの総督によりこの席の会は始まった。

 

「ご存知の通り我々の軍隊はレジスタンスの艦隊を殲滅し惑星バロスに駐留していた敵軍を一掃しました」

 

代理人は戦果を誇張することもなく変わらぬ声のトーンで話した。

 

実際バロスに駆けつけた救援艦隊もバロスに元々駐留していた艦隊も地上部隊も1人も生還者はいない。

 

皆あのジストン級とエクリプス級の超火力に何も出来ずに文字通り消し炭にされてしまった。

 

もはや近くに位置する惑星ロザルも陥落は間近なのは確実だろう。

 

あの超火力を前にシス・エターナル艦隊の動きを止められるものはこの銀河系のどこを探したって存在し得ないのだ。

 

「無論のこと獲得した全ての領域は第三帝国へ譲渡します。必要であれば暫く治安維持の為の兵士を貸し出すことも考えましょう」

 

「それは…ありがたいことです」

 

総督は余りの大盤振る舞いに礼を述べるしかなかった。

 

シス・エターナルの行動は第三帝国にとって今の所多大な利益しか与えていない。

 

シス・エターナルとは表面上第三帝国にとってとても“()()()()()()()”なのだ。

 

だからこそ何か裏があるのではないかと疑いの心も露わになってくる。

 

「それであなた方が本日レンディリにお越しになったのは今回のあなた方の戦果を我々に伝える為ですか?」

 

総督は代理人に尋ねる。

 

代理人は「いいえ、それだけではありません」とフードの奥から首を振って伝えた。

 

「今回は次に我々が行う戦争計画の事前伝達とその協力を求めに来たのです。次の戦いは第三帝国の力が必要不可欠ですので」

 

意外な言葉に総督達の後ろに控える将校達は騒ついた。

 

バロスのレジスタンス艦隊を殲滅したシス・エターナル軍が第三帝国に協力を求めるとは一体どんな敵がいるのだろうか。

 

それに態々協力を求める理由とは一体なんなのか、疑念がそれぞれ湧き上がっていた。

 

「まず我々はボーラ・ヴィオとアーヴァラを攻撃し制圧するつもりです。そこでまずボーラ・ヴィオを制圧中の我が軍から他の敵対勢力、中立勢力を遠ざける為の封鎖網の構築をお願いしたい」

 

「ボーラ・ヴィオ……そこに何かあるのですか?」

 

総督は彼らに尋ねたが代理人は一言、「我々双方の脅威となる勢力が生まれようとしています」とだけ告げた。

 

「今のうちに潰しておかなければ恐らく我々や第三帝国が総出となっても手強い敵が生まれるでしょう。そうならぬ為にも我々が直接叩き、連中が持つ技術を外へと流さぬよう封鎖を頼みたい」

 

総督は国防軍の将軍や提督達、アルフェンマイヤー上級大将や親衛隊の将官達に目線を送った。

 

国防軍親衛隊双方封鎖の為に必要な戦力と現状出せる戦力を協議し始めた。

 

周りの佐官将校達も集まり最初に判断を下したのは親衛隊の方であった。

 

アルフェンマイヤー上級大将は「親衛隊であれば現状封鎖部隊は展開出来ます」と総督に告げる。

 

それから一足遅く国防軍の将官達も「国防軍も同様です」と答えた。

 

「ボーラ・ヴィオの封鎖は理論上可能ですがこちらとしても国防軍最高司令部や議会の承諾の必要がある、まずそれだけはご理解いただきたい」

 

「構いませんよ。そしてもう一件、アーヴァラ7の攻略。こちらが何よりも重要です」

 

アーヴァラ7は砂漠の惑星で近年ここにホズニアン・プライムの陥落で幾つかの新共和国軍の部隊が逃げ込んだと噂されていた。

 

またアーヴァラ7の周辺には帝国軍の残党がいるのではないかとかグランド・マスターと同じ種族の人物がとか不思議な噂が近年になって増え始めていた。

 

「アーヴァラ7に新共和国軍の残党が逃げていることは既に把握済みです。しかし残党はかなりの地上部隊を有しており我々の地上軍では厳しい戦いになるでしょう」

 

「であればあなた方のスター・デストロイヤーでアーヴァラ7を吹き飛ばせばいいではないですか。あそこの地であれば星図から消失したとて誰も文句は言わんでしょう」

 

第三帝国にとって価値のある惑星は大都市の惑星かハイパースペース・レーンの要所の惑星か資源惑星だけである。

 

特にアーヴァラ7は距離的にも遠く砂漠である為価値も乏しい。

 

シス・エターナルが惑星ごと吹き飛ばしたって特に困ることはなかった。

 

「我々にはある“()()”を探さなければならない。その為にもアーヴァラ7をアキシャル砲で砲撃するのは望ましくない。だからこそ第三帝国に頼みたいのです」

 

「そのものとやらの捜索をですか?」

 

総督は尋ねたがすぐに首を振られた。

 

「必要なのは捜索ではなく我がシス・エターナル軍と共にアーヴァラ7の新共和国軍を殲滅して欲しいのです。あなた方の強大な地上軍の力を使って」

 

総督は息を飲んだ。

 

まさかこんな直接的に合同軍事作戦を提案されるとは思ってもいなかった。

 

特にあれほどの戦果を出された後では逆に「お前達はもう戦わなくていい」などと上から言われるのではないかと覚悟していた。

 

まさか帝国地上軍を貸せと言われるとは。

 

「我がシス・エターナル軍は艦隊は無論あの強さですが地上軍は如何せん規模が小さい。まだ発展途上なのです」

 

「だから我が帝国地上軍を?」

 

「はい、第三帝国の地上軍の強さは承知しています。シャンドリラを単独で陥落させ各地の陸戦でも殆ど負け知らず、正に栄光ある第一銀河帝国地上軍の末裔に相応しいと言えましょう」

 

確かに第三帝国の地上軍は強い。

 

数百万、数千万人の兵士に加え何十万、何百万台のウォーカーやタンク、スピーダーの機甲戦力を持ち航空戦力や海上戦力も保持している銀河有数の軍事力だ。

 

更に下士官兵や将校の練度も高く戦闘慣れしている。

 

マクシミリアン・ヴィアーズ大将軍やフレジャ・コヴェル中将、ハイス・グーリアン上級将軍やマーゼルシュタイン元帥などの優秀で画期的な戦術を生み出した指揮官も多い。

 

新技術の発展も目覚ましく銀河系最強の軍隊と断言してもいいほどだ。

 

その力を借りたいという気持ちは分からなくもない。

 

現に地上軍は様々な服属した惑星政府や同盟関係のある政府から救援要請を求められたり合同軍事作戦を提案されたりしている。

 

相手がシス・エターナルとてそれは例外ではなかった、それだけだ。

 

「アーヴァラ7の新共和国軍を撃破出来るのは第三帝国の地上軍のみです。是非とも共に仇敵を討ち倒しましょう」

 

代理人はどこか興奮気味に第三帝国の面々にそう告げた。

 

このことについて国防軍将校や親衛隊将校がそれぞれ総督らの後ろで話し合っている。

 

第三帝国とてそれほど余裕はない。

 

送り込める部隊にも限りがあるのだ。

 

一方名前が挙がらなかった親衛隊の面々はどうにかして親衛隊も一枚噛めないかということを画策していた。

 

親衛隊地上軍も練度や優秀な指揮官の多さでは親衛隊に引けをとっていない。

 

そもそも銀河協定の抜け道として軍事力を保有する為に生み出された組織なのだから母体は同じであり同じだけ戦闘を重ねているのだから練度は変わらないはずだ。

 

なんとかして帝国地上軍ではなく親衛隊地上軍が呼ばれたということにすれば親衛隊の名声は更に高まる。

 

そんな派閥争いのことをそれぞれ話していた。

 

「この議題もやはりコルサントの議会や国防軍最高司令部の決断がないと私個人としては何も言えません。無論悪い返答はしないよう努めます」

 

「はい、それがよろしいかと。きっと“()()()”主人も喜ばれますよ」

 

「我々の…?」

 

総督はその単語が気になった。

 

どことなく彼らシス・エターナルだけでなく第三帝国も含まれているような気がしたからだ。

 

そのことに気付いたのか代理人はこう答えた。

 

「“()()()()()()()()”」

 

そういずれ第三帝国も知る事になる。

 

シス・エターナルの指導者のこと、空白の玉座に帰ろうとする者がいることを。

 

シス・エターナルの指導者はダース・シディアスであり、帝国の指導者はシーヴ・パルパティーンだ。

 

我々は皆、1人の人間の下に跪く運命にあるのだから。

 

だが無論その言葉の意味まではジェルマンとジョーレンの手で“()()()()()()()()()()”。

 

 

 

 

 

 

-シス・エターナル本領 未知領域 惑星エクセゴル 玉座の間-

レンディリでの会談は密かにエクセゴルにも中継されていた。

 

あの会場にいた何人かの信者とシス・エターナル軍将校がスパイカメラの映像を乗ってきたジストン級に送りそれをエクセゴルへ中継していた。

 

かなり手間の掛かる作業だがこうでもしなければ銀河系と隔絶したエクセゴルへ直接映像を映し出すことなど不可能であった。

 

会談も半ば終わりに差し掛かりある程度の確証を得たシディアスは玉座に待たせていたダークサイドの戦士達に命令を下した。

 

まず最初に名前が呼ばれたのはセドリス・QLであった。

 

「セドリスよ」

 

「はい陛下!」

 

セドリスは笑みを浮かべたまま顔を上げた。

 

シディアスは低く恐怖を幾分にも含んだ声音でセドリスに命令を出す。

 

「聞いての通りだ、第三帝国は恐らく我々の要求に応じ軍隊を派遣してくるであろう。其方は我がシス・エターナル軍26番目の軍団であるテネブラス軍団を率い、第三帝国と共にアーヴァラ7を抑えよ」

 

命令を聞いたセドリスは頭を深々と下げ「ハッ!」と主人の命令を承諾した。

 

皇帝から与えられた力を使い皇帝の命令で存分に戦えるということはセドリスにとってこの上ない喜びであった。

 

その様子を見たシディアスはセドリスに念を押す。

 

「忘れるでないぞ、其方の命は単に相手を打ち負かすだけでなく“()()()()”を探す事にある。惑星の隅から隅を行き、街という街全てを探せ。それでも見つからぬなら追って新たな命を下す」

 

「お任せください陛下!必ずや奴を探し出し陛下の前に差し出してご覧にれましょう!」

 

シディアスの命令にセドリスは再び顔を上げた。

 

彼にとって今主人から与えられた任務を失敗という二文字で返す未来は全く見えなかった。

 

成功、もしくは大成功それだけだ。

 

「当然、分かっているとは思うがテネブラス軍団と其方に与えるジストン級を失うことは許されん。立て、ダークサイドの戦士よ。必ずや戦果を挙げ我がシス・エターナルに勝利を齎すのだ」

 

「ハッ!」

 

セドリスは立ち上がり一礼した後玉座の間を離れた。

 

今か今かと戦を待ち望んでいる彼の為のテネブラス軍団とジストン級に向かう為だ。

 

今すぐ戦地に赴き、必ず新共和国軍を討ち倒し“()”を捕らえてやる。

 

メラメラと燃えるセドリスの闘志が彼の表情に現れていた。

 

セドリスが玉座の間を去った後シディアスは残りの2人の戦士に命令を出した。

 

まず最初に名前が呼ばれたのはテドリン・シャという名のダークサイドの戦士であった。

 

「テドリン・シャよ、其方には銀河系に赴きある騎士団をエクセゴルへと呼び戻せ。我が軍が銀河系へと出ている間、このエクセゴルの守りを固めねばならん」

 

「お任せください陛下、必ずやご期待に応えてみせます」

 

テドリンは頭を下げ命令を承諾した。

 

セドリスと違いテドリンはとても落ち着いており受け答えも冷静そのものだった。

 

「其方の為に艦と精鋭部隊を用意した。何かあれば存分に扱え」

 

「そのようなご配慮をなさって下さるとは……恐悦至極に存じます。一層ご期待に添えるよう努力致します」

 

態度は違えどテドリンも根っこはセドリスと大差ない、皇帝に忠誠を誓い心酔している者達だ。

 

シディアス卿は最後に隣のダークサイドの戦士に命令を出した。

 

「ゼクル・ニスト、スカイウォーカー、マラ・ジェイド、フリューゲル、セドリス、そしてテドリンがエクセゴルを離れようとする今この聖地と余を守るのは其方のみとなる」

 

このエクセゴル、侵入の仕方を知っているのはごく僅かであり現状攻められたとしても返り討ちに出来るだけの戦力はある。

 

何よりこのエクセゴルの存在を知る人間が今の銀河系にはごく僅かであり殆ど誰も知らなかった。

 

その為安全ではあるのだが念には念を入れて、シディアスは頼れる優秀な戦士を1人エクセゴルに残しておく事にした。

 

それがこのゼクル・ニストである。

 

ニストはテドリンと同じように頭を下げ「お任せください陛下」と口を開いた。

 

「我が命に変えてもエクセゴルと陛下の命をお守り致します」

 

「任せたぞ、いよいよ我々の帝国は復活する。ここが正念場だ」

 

シディアスは笑みを浮かべた。

 

いつもの邪悪さを含んだような笑みではなくどこか物悲しい1人の老人のような笑みを。

 

「我々の使命を果たし我々の悲願を叶えよう。この銀河の為に」

 

そのパルパティーンの一言はエクセゴルの荒れる大気の中へと消えた。

 

 

 

 

 

 

 

レンディリでの会談は終わった。

 

シス・エターナルからの情報を受け取り第三帝国は新たな戦略を考えることとなった。

 

それと同じくジェルマンとジョーレンの任務も終了した。

 

シス・エターナルと第三帝国との会談を盗聴し密かにその情報をディカーの情報作戦室に送っていた。

 

今頃ディカーではディゴール大臣や上級将校達が大慌てで作戦や言葉の詳細を分析しているだろう。

 

だが任務を終えたジェルマンとジョーレンにはそんなこと関係ない。

 

今重要なのは急いでここから離脱することだ。

 

既に停泊させておいたUウィングは自動操縦でギリギリまでレンディリの中央首都に近づけてある。

 

後は適当な言い訳をつけてスピーダーか何かで離脱するのみだ。

 

「思ったより相手にバレなかったね」

 

「ああ、普通はこういうもんだ。だが盗聴までこうあっさり行くと不気味さが残るな……」

 

今まで幾度となく潜入任務を行なってきたジョーレンからしてみればむしろ敵に察知された時の方が少なかった。

 

ここまで来ればある種手慣れたものと言っても過言ではないだろう。

 

敵を騙す為、言いくるめる為の方便もすぐに出てくる。

 

今思い返せば反乱同盟軍や新共和国軍の軍服よりも帝国軍の軍服の方が長く来ているのではないか。

 

自嘲じみた事を思い浮かべながら歩いているとちょうど曲がり角が見えた。

 

恐らく誰も来ないだろうそう思って2人とも歩いていると同じ頃曲がり角の先でも同じような事を考えている人間がいた。

 

当然双方前方を全く気にしていなかった為“3()()”は曲がり角を曲がった瞬間衝突してしまった。

 

「うわっ!」

 

「なぁっ!?」

 

「痛いっ!?何!?」

 

大人3人がぶつかった衝撃は凄まじく3人とも地面へ倒れ普段からは想像出来ない情けない声を挙げた。

 

一番最初に起き上がったのはジョーレンであり即座に「すみません!」と謝罪の言葉を述べた。

 

すると次に起き上がってきた将校も「いやこちらこそ」と言ってきた。

 

どうやらぶつかってしまった相手も同じ親衛隊の制服を着ており胸の階級章も襟章もそれぞれ准将の階級を表していた。

 

髪は銀髪で顔は整っておりその瞳はブルーグリーンという言葉が一番相応しい色合いだった。

 

彼の後ろには運良く衝突を免れた2人の将校が多少困惑した様子で眺めていた。

 

2人のうちの親衛隊保安局の制服を着た片方は随分と今倒れた准将によく似ている。

 

するとその内のもう片方が准将の手を取り「しっかりして下さいよシュタンデリス准将」と彼の肩を持った。

 

「ああすまない大尉……そちらの2人もすまなかった」

 

シュタンデリス准将と呼ばれたその青年は起き上がろうとしていたジェルマンに手を貸した。

 

「ありがとうございます」と一言述べてからジェルマンはシュタンデリス准将の手を取り起き上がった。

 

「大丈夫ですか?シュタンデリス准将」

 

シュタンデリス准将とよく似た保安局将校は彼を心配した。

 

先程中央情報管理室でホロコーストの情報を知ってしまったジェルマンとジョーレンは一瞬だけこの将校を警戒した。

 

彼らがホロコーストの第一人者であり銀河系最大の罪を犯している連中だ。

 

その間にシュタンデリス准将はじっとジェルマンとジョーレンの方を見つめていた。

 

「…どうかされましたか…?」

 

ジョーレンは不思議そうな表情を作りシュタンデリス准将に尋ねた。

 

「あっいやなんでもない。すまなかったな少佐、大尉」

 

「こちらこそ申し訳ありませんでした」

 

ジェルマンはシュタンデリス准将に一礼し3人の横を通った。

 

シュタンデリス准将もといジークハルトはじっと2人が通り過ぎるのを見つめていた。

 

「どうかしたんですか?准将」

 

ヴァリンヘルト大尉は彼に尋ねる。

 

「彼らの腕章、第335FF歩兵師団と書いてあるが……あの師団は確かケラーの奪還と暴動鎮圧に向かっていたはずだ。レンディリにそこの所属の将校がいるとは些か不自然に感じるが」

 

「…調べてみましょうか?」

 

フリシュタイン上級大佐もどこか疑っていたようで即座にそう尋ねた。

 

親衛隊保安局の中央に務める上級将校がかなり深く疑うということはやはり何かあるはずだ。

 

「そうした方がいいかもな」

 

ジークハルトはそう呟き再び2人の方を見つめた。

 

するとこちらを振り返ったジェルマンとジークハルトの目が一瞬だけ合ったような気がした。

 

親衛隊とレジスタンス、2人とも真逆の組織に位置している。

 

それ故にこの先も会うことはないし互いに名前を知る機会も少ないだろう。

 

ましてや名前を知ったとしてもそれがこのレンディリでぶつかり合った人物だとは思わないはずだ。

 

ジークハルト・シュタンデリスとジェルマン・ジルディール。

 

仮にこの2人が物語を司る者だとしても彼らがこれ以上交わり合う事はなかった。

 

「少佐、大尉。どうされました?」

 

総督府の駐機場に向かったジェルマンとジョーレンは甲板士官の上級中尉から声を掛けられた。

 

ここでスピーダーを借りてUウィングに戻るつもりだ。

 

「郊外の停泊地までスピーダーを借りたい、なるべく急ぎで。どれかいい機体はあるか?」

 

ジョーレンは再びそれらしい理由を並べ立て上級中尉に尋ねた。

 

ジェルマンも表情と動作を合わせてジョーレンの理由に信憑性を持たせようとした。

 

その努力のおかげか上級中尉は一切疑いもせず2人を連れて近くのスピーダーまで案内した。

 

「T-44でよければ停泊していますが」

 

「これでいい、ありがとう中尉」

 

「ああ、上級中尉です少佐殿」

 

上級中尉の訂正にジェルマンとジョーレンは顔を見合わせた。

 

上級中尉にとっては小さな自己顕示欲だったがこの時のジェルマンとジョーレンは知識不足を疑われているのではないかと冷や汗を流しそうになった。

 

すかさずジョーレンが冷静に対処する。

 

「ああ、すまなかったな上級中尉」

 

「いえ、お構いなく。どうぞランドスピーダーへ」

 

上級中尉はT-44ランドスピーダーのドアを開け2人を中へ入れた。

 

「ありがとう、“上級中尉”」

 

「いえ、お気をつけて!」

 

上級中尉は2人に敬礼しジョーレンは運転席のキーを作動させT-44ランドスピーダーを動かした。

 

解放中の駐機場のシャッターを越えてジェルマンとジョーレンを乗せたT-44はそのまま市街地へと走った。

 

帝国に占領されたレンディリの姿がスピーダーの窓越しによく見える。

 

どうやらこの地は帝国に支配されていた時の方が活気があるようだ。

 

以前レンディリを訪れた時とは大きな違いだった。

 

無論こういう惑星だってある、何も知らず素直に第三帝国の成果を受け入れ日々を享受している市民の方がむしろ大多数だろう。

 

それでもその成果の裏には何千億もの罪のない人々が一方的に殺されている現実がある。

 

帝国の支配によって命を奪われ、尊厳を奪われ、自身の何もかもを奪われた人々が大勢いる。

 

彼ら彼女らの為にもやはり帝国は倒さなければならない。

 

2人は上級中尉に話した通り郊外の簡易駐機場にスピーダーを停泊させUウィングの停泊地に急いだ。

 

「見つけた」

 

2人は急いでUウィングに乗り込み機体のクローキング装置を起動させ最大速度でレンディリの大気圏を突破した。

 

ひとまずレンディリを脱する為にジョーレンはハイパースペースへと突入した。

 

「後で着替えよう、この制服をこれ以上来ている必要はない」

 

ジョーレンは首元のホックを取ると制服の上着をその辺に脱ぎ捨てた。

 

ジェルマンも同じように脱ごうとした瞬間Uウィングが通信を受信しているのを発見した。

 

「通信だ、しかもディカーから」

 

「つけてくれ」

 

スイッチを押すとコックピット前の簡易ホロプロジェクターが起動しディゴール大臣の姿を映し出した。

 

大臣は普段と変わらぬ声で2人に告げる。

 

『2人ともよく任務を成し遂げてくれた。だが君達には再び新たな任務を遂行してもらわなければならない』

 

ディゴール大臣は2人を労うと共に新たな任務の話を切り出した。

 

ジョーレンは「どんな任務ですか?」と大臣に問う。

 

『ヤヴィン司令部からの救援だ。シス・エターナル軍によって攻略されたガレルで生存者を発見した。シス・エターナル軍と戦い生き残った将兵の情報をここで逃す訳には行かない。既にヤヴィンからは救出チームが向かっている。君達もすぐに向かってくれ』

 

「ガレルに、ですか?」

 

『ああ、これはライカン将軍からの直々の依頼だ。君達の力を信じてのことだ、無論私も君たちを信頼している。絶対に生存者を救出してくれ』

 

「わかりました、直ちに向かいます」

 

ジョーレンはハイパースペースのジャンプアウト先をガレル周辺にセットしながらディゴール大臣に返答した。

 

大臣からは『頼んだぞ』と念を押されそこで通信は切れた。

 

どうやらもう座標計算が終わったらしくジョーレンはジェルマンに話しかけた。

 

「装備を整えておけ。ガレルにつけば間違いなく戦闘だ」

 

「ああ、分かってる。絶対に助けてやろう」

 

この時のジェルマンの顔は既に何度も死地をくぐり抜けた歴戦の猛者のような雰囲気を醸し出していた。

 

ジョーレンは微笑を浮かべながら頷き「ああ」と答える。

 

ジェルマンの成長がどこか嬉しい反面彼が兵士として成長し完成していくへの悲しみを覚えた。

 

2人の次の戦場は惑星ガレル、シス・エターナルに占領されそこには2人のレジスタンスの仲間が生存し潜伏している。

 

ついに彼らはシス・エターナルと直接対決するのだ。

 

ハイパースペースを進むジェルマンとジョーレンのUウィングは戦場へ向かって突き進んでいった。

 

 

つづく




ウィーーーーーーーース!!!!!(深夜)

ドウモ〜Eitokuデーーーース!!!!

ええ本日は本当になんでもない日ですけども…(以下略)


ついにナチ帝国も52話くらい(多分)、今の今頃には連載終了しているといいですね()

そいではまたいつの日か〜!


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変わりゆく銀河

「崩壊した帝国を再び一つにするのは難しいことであり、決して完璧に元の形には戻らないだろう。割れたガラスのように破片が様々な面を見せ一つだった帝国を複数の側面に分けてしまうからだ。そして何かしらの接着剤を使わなければ簡単には直らない。怪我もするし血も流れるだろう。戻す為の労力は壊す為の労力の何倍も必要になってくる」
-とある元第一銀河帝国総督の発言-


-アウター・リム アノート宙域境界線-

「よおし、各中隊私に続け。手始めに前方のスター・デストロイヤーに一撃を入れる」

 

ランドとナイン・ナンを乗せたメルクローラーⅡが迫り来るTIEファイターを2機撃墜し周辺のXウィングやYウィングと共に前方のインペリアル級に接近する。

 

インペリアル級はターボレーザーの対空砲を放ち一個編隊ほどのTIEファイターを突撃させてくるがレジスタンス軍のスターファイター隊はその攻撃を易々と躱した。

 

一個編隊のTIEファイター部隊を護衛のXウィングとAウィングが撃墜し爆撃部隊の脅威を排除する。

 

近くでは敵の注意を引く為に二隻のネビュロンBがインペリアル級と撃ち合っており二隻でようやく何とかなる程度だ。

 

ギリギリまで接近したYウィング部隊が大量のプロトン爆弾とイオン魚雷を投下しインペリアル級にダメージを与えていく。

 

加勢した近くのMC75軍需クルーザーがターボレーザー砲を次々と放ったおかげでインペリアル級は完全に船体の半分が破損しこれ以上の戦闘行動は出来なくなっていた。

 

「こいつはもう十分だ、他の艦の援護に向かう」

 

『了解、将軍!お供いたします!』

 

メルクローラーⅡを先頭に後続のスターファイターが次々とランドに続いた。

 

当初は圧倒的戦力差によりレジスタンス軍が不利であったが先行して守備に回っていたレジスタンス軍の部隊が命懸けの遅滞戦術を展開した事によりランド達の本隊が間に合った。

 

その結果数、質共にレジスタンス軍の優勢でありアデルハードの残党艦隊を押し続けていた。

 

アデルハード総督の艦隊は既に鉄の封鎖でかなりの兵員を失い度重なるレジスタンス軍との戦闘に敗北した事により練度は大幅に弱体化しており消耗し切っていた。

 

一方のレジスタンス軍は新共和国崩壊時点ではかなり厳しい状態であったがレジスタンスという統一された抵抗組織の誕生により状況が大幅に改善した。

 

更には隣国の親分離主義連合との軍事同盟により武器弾薬の交換が進み物資に大きな余裕が生じていた。

 

孤立した軍将VS多くの仲間を得たランド率いるアノート宙域レジスタンス軍、もはや勝敗は見え切っている。

 

メルクローラーⅡの側では一隻のプロカーセイター級に向かったBウィング一個中隊が見事に敵艦に爆撃を与えそのままプロカーセイター球を沈めていた。

 

また別の場所では接近し砲撃し合っていたCR90コルベットがレイダー級コルベットに打ち勝ち大破したレイダー級は間も無く撃沈した。

 

かつてであれば反対の光景が当たり前だったのだが今では状況は一変している。

 

特に現在コア・ワールドなどの銀河系中央を牛耳る第三帝国に加わろうともしないアデルハード総督の軍隊など所詮この程度だ。

 

第三帝国からの支援だけでも受け取っていたらまた違っていたであろうが。

 

軍将達のプライドは常に合理的な判断を阻害しその結果無意味な犠牲と内乱を生む。

 

その結果帝国は弱体化し負けていったのだ。

 

そういやって勝ち続けてきたランド達にはこの心理がよく分かり、その轍を踏まぬよう誓っていた。

 

『カルリジアン将軍、前方に敵艦を発見!これは……帝国軍の大型貨物船です。あの艦から爆撃機や迎撃機が出ています』

 

すぐ真横を飛ぶAウィングに乗り込んだ中隊長はメルクローラーⅡに報告した。

 

彼女の言う通り目の前の艦は確かに帝国軍で使用されていた貨物船であった。

 

隣でナインが「撃破しないと厄介だ」とランドに伝える。

 

「ああ、分かってる。周辺のスターファイターは全機結集、三方向から同時にあの艦を叩く。私は前方をやるから中隊長は左から周り込め。爆撃隊長は右からだ」

 

『了解!』

 

『了解』

 

ランドの命令で集まったスターファイターが三方向に分かれ一隻の帝国貨物船に狙いを定める。

 

本来この艦は共和国宇宙軍で使用されたアクラメイター級アサルト・シップを改造して造られていた。

 

今ではすっかり新規の建造方法で造られた艦が大半だが。

 

いよいよ使用出来る軍艦が少なくなってきたのかアデルハード総督は遂に後方の部隊の貨物船まで引っ張り出してきたようだ。

 

輸送船まで使って数を揃えるのは反乱同盟軍の方が先にやっていた事だが今ではすっかりその立場も逆転してしまったらしい。

 

だが敵の貨物船はかなりの大型艦でターボレーザー砲や局所防衛砲台を保持している為油断は出来ない。

 

更には出撃したTIEインターセプターやTIEファイターが妨害に来る。

 

先行したメルクローラーⅡとXウィングやAウィングが先行して道を切り開く。

 

火力と防御力を駆使しレジスタンス軍スターファイター隊は敵機を1機づつ撃墜していった。

 

パイロットの練度も低い敵軍は呆気なく蹴散らされスターファイターの進路を作ってしまった。

 

それはランドやナインが率いる部隊だけでなくAウィングの中隊長やYウィングの爆撃隊も突破に成功し帝国貨物船に接近した。

 

『全機爆撃開始!!』

 

爆撃隊長の命令で三方向から接近したYウィングやBウィングがプロトン魚雷やプロトン爆弾を投下し貨物船に大打撃を与えた。

 

更にもう一撃とAウィングやXウィングも震盪ミサイルとプロトン魚雷を撃ち込み更にダメージを与えた。

 

耐久値に限界が生じた帝国貨物船はそのまま崩壊し爆沈した。

 

『敵艦を撃破した!』

 

爆撃隊長の通信音声が聞こえ一斉にスターファイターが離れていく。

 

ナインが喜びの笑みを浮かべる中艦隊の旗艦である“レストレーション”からメルクローラーⅡに通信が入った。

 

『こちら“レストレーション”、敵艦隊が後退していきますが追撃しますか?』

 

ランドは「ああ」と即答した。

 

「アデルハードには悪いがこれでおしまいだ。我々もそこまで暇じゃないのでね」

 

『了解』

 

艦隊の前衛が崩されアデルハード艦隊は徐々に後退し始めていた。

 

既に戦闘領域はアノート宙域の境界線から完全に隣の宙域に移動している。

 

敵艦隊が敗走している、そう考え流のが妥当だがランドにはある不安点と気になることがあった。

 

「“レストレーション”、指揮官のブラマッシュ中将を呼んでくれ」

 

話し合いをする為に旗艦から艦隊の指揮官を呼び出す。

 

呼び出されたランドの代わりに艦隊の指揮を取るレジスタンス宇宙軍中将、ブラマッシュ中将はメルクローラーⅡのホログラムに映り敬礼した。

 

『カルリジアン将軍、どうかされましたか』

 

オールバックの金髪の上から軍帽を被るブラマッシュ中将はすぐにランドに尋ねた。

 

ランドはメルクローラーⅡの操縦を隣のナインに任せながら中将に問いかける。

 

「敵艦隊がこのまま移動し続けた場合、どこまで行くか予想を立てられるか?」

 

『既に分析班が予想を立てています。そちらに転送します』

 

ブラマッシュ中将から分析班の敵艦隊撤退予想図が転送され中将のホログラムの前に浮き出る。

 

このまま行くとアデルハード艦隊はノートゥーイン・コリドーに向かいそうだという分析だった。

 

この予想図はランドのある懸念と一つにあった。

 

「まずいな…敵艦隊はこのままセスウェナの方面まで逃げるつもりかもしれん」

 

『セスウェナへ…?ですがアデルハード艦隊はセスウェナの帝国軍と軍事的同盟を締結しているという報告は受けていませんが…』

 

“帝国”と言っても3、4年前のように一つの巨大な銀河帝国という存在がある訳ではない。

 

そこから星の数ほど分裂し軍将化した勢力を帝国と呼称しているだけであってその軍将勢力同士の仲が決して良好とは限らなかった。

 

特にエリアドゥやセスウェナを含めた大セスウェナ領域は銀河内戦の末期に多くの軍将と地方勢力、惑星政府を統合して大セスウェナ連邦という一つの国家に昇格しておりアデルハード総督の軍閥とはあまり仲は良くなかった。

 

むしろ新共和国軍の本格的軍事介入がある前は度々国境紛争を繰り返していたそうだ。

 

その為負けそうだからと言ってアデルハード総督がセスウェナ方面へ逃げ込んだとしても大セスウェナの軍が手助けしてくれる訳ではない。

 

特に近年では大セスウェナ連邦は第三帝国陣営に加わりグランドモフの称号を受けている。

 

その第三帝国とも仲が良好ではないアデルハード総督が彼らの手助けを借りれるとは到底思えなかった。

 

「多分奴の考えはそうじゃない。奴は無理矢理セスウェナを我々と戦わせるつもりだ。こっちがセスウェナの軍艦を一隻でも攻撃すれば連中は戦わざるを得なくなる。セスウェナ軍を引き摺り出して互いに潰し合ってる間にアデルハード総督は漁夫の利を得る算段だろう」

 

『ですがそのような方法を取ればアデルハード艦隊も無事では済みませんよ…?』

 

「もう既に無事じゃないからな。最後の足掻き……いやアデルハードの賭けってやつだ。我々はまんまと賭けに嵌ってしまった」

 

顔だけ見ればむさ苦しい男だが意外と勝負師だったのだなとランドはこの時苦笑混じりに思った。

 

だが流石は賭博でベスピンの総督権を手に入れた男だ、勘が鋭い。

 

完全に罠に嵌る前に気づけたのは僥倖だった。

 

「なんとかして今から後退するぞ、このままじゃあターキンの飼い犬と衝突しちまう」

 

『了解、直ちに…』

 

『将軍!!敵艦隊の反対方向よりインペリアル級の小艦隊を発見!!こちらに接近しています!!』

 

だが一足遅かったようだ。

 

周辺を警戒していたブラハトック級ガンシップから通信が入った。

 

メルクローラーⅡを旋回させて見るとそこには無傷のインペリアル級五隻の小艦隊が佇んでいた。

 

ランドとナインは険しい顔を浮かべる。

 

「まずいな…急いで後退するぞ、アノート宙域内で迎え撃って…」

 

『将軍、敵艦隊が徐々に回り込み始めました!我々の退路を断つつもりです!』

 

「アデルハードめ…我々を絶対に後退させないつもりだな…?」

 

『遊撃部隊で応戦しろ。今のうちに小型艦と中型艦を後退させるんだ。まだ間に合うはずだ…!』

 

ブラマッシュ中将は冷や汗を掻きながら最低限の命令を出す。

 

今ここで大型艦を旋回させ後退させては二方向から敵に狙い撃ちされるだけだ。

 

だとすれば時間を稼いでいる間に離脱出来る艦から離脱させるのが最善手であろう。

 

先程まで圧倒的優勢であったレジスタンス軍に曇りが差し掛かる。

 

その様子を作り出したトレークス・デルヴァードス少将率いる小艦隊は慎重にレジスタンス艦隊と戦闘中のアデルハード艦隊に近づいた。

 

どこか想定していた様子とおかしい。

 

「レジスタンス艦隊及びアデルハード艦隊を発見、このまま領域侵犯で迎撃可能ですが…」

 

「ああ、無論そうするつもりだ。しかし我々が出る前にこんなところまで来ているとは…想定外だ」

 

トレークスは顎に手を当て首を傾げた。

 

本来ならトレークス麾下の小艦隊はもう少し前方に移動するはずだった。

 

しかし彼らが一旦ジャンプアウトしたこの領域まで既に敵は前進していた。

 

「思いの外追撃が長引いたのでしょうか…」

 

トレークスの副官はそう考えるが詳しいことまで完全に把握する事は出来ない。

 

「…分からんがアデルハード艦隊の動きからしてこのままドーラまで引き寄せるのは恐らく不可能だ。本部に暗号通信を打電しろ、“不死鳥の足が止まってしまった”」

 

「了解」

 

通信士官が作業している間にトレークスは次の命令を出す。

 

「作戦は変更だ、我々も今すぐ戦闘に加わりアデルハードとレジスタンス双方をこの場所に押さえ付ける。厳しい戦いになるが全員頼んだぞ!」

 

「了解!」

 

トレークスの小艦隊は戦闘中のレジスタンス軍とアデルハード艦隊双方に砲撃した。

 

両者とも大セスウェナの領域を侵犯した為、建前上はそうだ。

 

それはレジスタンスも元帝国の軍閥も関係ない。

 

ここで生贄になってもらおう。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー ヴィデンダ宙域 惑星ドーラ 大セスウェナ連邦艦隊集結地点-

惑星ドーラにはレジスタンス軍撃破の為に密かに集結した大セスウェナの宇宙艦隊が艦列を並べ命令を待っていた。

 

旗艦“エグゼキュートリクス”を始めとしたインペリアル級のような主力艦やヴィクトリー級、プロカーセイター級、アークワイテンズ級やレイダー級の中、小型艦、クエーサー・ファイア級やインペリアル・エスコート・キャリアー、セキューター級などの空母と様々な軍艦が揃っている。

 

中にはアリージャンス級バトルクルーザーやプリーター級スター・バトルクルーザーなどのインペリアル級を軽く超える大型艦も中に存在していた。

 

されど指導者ヘルムートが乗り込むこの艦隊の総旗艦は依然として“エグゼキュートリクス”でありただのインペリアル級スター・デストロイヤーのはずなのだが何処か神々しいオーラのようなものを纏っているように見えた。

 

以前部下の1人から「旗艦を大型でより頑丈なバトルクルーザーやドレッドノートに変更してはどうか」と提案されたことがあった。

 

元々ヘルムートが乗っていたのはそれこそプリーター級やアリージャンス級、ベラトール級であり大伯父の舟とはいえインペリアル級を旗艦とする必要はなかった。

 

しかヘルムートは旗艦の座を断じて譲る事はしなかった。

 

彼は“エグゼキュートリクス”を旗艦に望んだ。

 

この艦でセスウェナの敵を駆逐することこそ、真に大伯父達の意志を継ぐことになるだろう。

 

ヘルムートにとって“エグゼキュートリクス”はただのインペリアル級ではなくある種道標のように感じていた。

 

「しかし流石ですわね。秘密裏にこれだけの艦隊を動員出来るなんて、流石ターキン家のホームですわ」

 

クラリッサはブリッジのビューポートから艦隊を眺めながらそう呟いた。

 

1宙域の戦力しか保持していないクラリッサやケッセルの軍隊とは違い大セスウェナはこの南アウター・リムの殆どの部隊を接収して様々な惑星政府を一つにした巨大な連邦軍だ。

 

以前は第二帝国や新共和国についでこの銀河系で最も巨大な軍を保持しておりそれは第三帝国に組みした今でも変わらない。

 

エリアドゥのロマイトを始め様々な資源に恵まれておりセスウェナ造船所などクワットほどではないが独自で軍艦や兵器を製造出来る技術力も持っている。

 

「まあ我々はかつての第18軍の戦力を丸ごと併合しただけではなく、各地の惑星政府の軍隊や軍閥の戦力も吸収していますからね。統一などに時間は掛かりましたが、掛けた甲斐はあった」

 

簡単な道ではなかった。

 

何度も多くの軍将と戦ったし様々な誘惑を跳ね除けこのターキン家が代々守り継いできた領土を残すことが出来た。

 

その苦労は今なら報われたように思える。

 

「羨ましいですわ、私達の領域では総動員を掛けても防衛の為の戦力しか確保出来ませんもの」

 

「そもそも国土の問題がありますからね、我々の領域に比べ貴国の領域はお世辞にも大きいとは言えない」

 

クラリッサ達が有する領域はあくまでケッセル宙域とその周辺の一部のみだ。

 

それも銀河の大分角の方に位置し燃料資源が豊富とはいえ立地的にはあまり良くない。

 

むしろそんな状態でよくあれだけの精強な軍隊を保持していられるとヘルムートは逆に感心していた。

 

度々密かに送り込んでいる特務大使から送られてくる演習の様子などを眺めているとその精強さや戦闘力の高さに驚かされる。

 

クラリッサ自身はどうか分からないがケッセルは“()()”に向いていない。

 

ハット・スペースが第三帝国の国家弁務官区である以上ケッセルの仮想敵はまずハット・スペースの国家弁務官区だ。

 

国家弁務官区には治安維持と周辺のレジスタンス軍殲滅も兼ねてかなりの大部隊が派遣されている。

 

それも100%親衛隊の管轄で油断出来ない相手だ。

 

数で負けている以上ケッセルはいざ戦争になった場合防衛側に位置する。

 

その為専ら防衛を主体とした演習をよく行なっているのだがヘルムートや他のセスウェナの軍将校達はケッセル軍の練度に驚かされていた。

 

艦隊と地上部隊の連携で完全に攻め入る敵を迎撃し逆に隙を作り出すことで相手を内側に引き入れ領域内で“殲滅する”という搦手も得意だった。

 

クラリッサも口ではこう言っているが内心は「まあうちの軍の方が強いですわ」くらいに思っているだろう。

 

そしてその上で彼女が考えていることは別にあるはずだ。

 

「あなた方なら独自の陣営や安全保障同盟を築いても良かったと思うのですが、何故それをなさらずに第三帝国へ?」

 

「…………」

 

ヘルムートは黙り込んだ。

 

そのことはヘルムートにとって人生の失敗の一つと考えていたからだ。

 

自分の想像力や状況判断の能力が足らなさ過ぎた。

 

それと同時に“()()()()()()()”のもまずかったとヘルムートは考えていた。

 

彼は苦々しい思いを含みながら理由を自嘲的に話す。

 

「…単に私の失敗ですよ。新共和国のせいにするつもりもありませんし仰る通りやろうと思えば出来たはずだ。それでもやらなかったのは“()()()()()”からでしょう。あの時の希望と奇跡を」

 

「あの時の希望と奇跡…とは?」

 

マルスがヘルムートに尋ねた。

 

「かつて第三帝国が動く前に一度だけコルサントは“()()”され帝国は最後の勝利を得ていた。俗に“コルサントの奇跡”と呼ばれるあの戦いのことだ。私は本気で彼らなら帝国を再建し正しい方向へ導けると信じていた」

 

マルスはその単語を聞くだけでパアッと顔が明るくなった。

 

彼を見ると3年、いやもう4年ほど前の事を思い出す。

 

銀河内戦の末期、突然やってきたある1人の“()()”のことを。

 

そのモフは直接我々に義勇兵の志願を募るよう協力を申し込んできた。

 

最初は当然、全員が「これは何らかの罠だ」と疑りの目を向け非協力的であろうとした。

 

それでもあの当時の乱戦状況の銀河系において自ら足を運んで態々遠く離れたエリアドゥまでやってきたのだ。

 

最悪自分が死ぬかもしれないのに罠を敷く為にそんなことするとは思えない。

 

それにヘルムートはそのモフが言った事を思い出した。

 

「我々が、君の先祖が作った帝国をもう一度信じてはくれないか」と。

 

そのモフの中には今まで見た軍将達とは違い確かな“()()”のようなものがヘルムートには見えた。

 

故にヘルムートはそのモフの強力通り密かに義勇兵を送り後に“()()()()()()()()”と呼ばれる帝国最後の勝利に貢献出来た。

 

あのモフは帝国にとって絶望的な状況の中、それこそ奇跡と呼べる作戦を成功させてしまった。

 

その結果第二帝国というあの状況では考えられないほど強大な帝国の後継政府が誕生し今に至る。

 

故にヘルムートはコア・ワールドに残った第二帝国を信じ、最終的に第三帝国に降った。

 

強い意志とそれに集う者がいれば奇跡は起こるのだと、モフが亡くなり“()()()()()()”にもその魂は受け継がれているのだとヘルムートは信じていた。

 

だがそれは幻想でありヘルムートの失態だった。

 

第三帝国は彼の意に反し、ただ悪戯に罪のない人々を捕らえては虐殺し代理の名の下帝国を悪変に導く帝国の真の敵だ。

 

そんな者に与してしまったヘルムートもまた、自身を愚か者と考えていた。

 

「第三帝国はあの時とまだ同じだと思っていた……だが、それは大きな間違いだった。後悔はしていないと思うが……出来うるならあの時の判断を取り消したいものだ」

 

ヘルムートは自嘲混じりに笑った。

 

だがクラリッサは重たい表情を浮かべる訳でもなくかと言って嘲笑う訳でもなく平然とした顔でこう告げた。

 

「そうでしょうか、まだ今でも十分取り消せると思いますわよ」

 

あまりにも単純で意外過ぎる返答にヘルムートは無意味に思慮を巡らせていた。

 

「それはどういう…」と尋ねる前に慌てて入ってきた将校がヘルムートに報告した。

 

「閣下!国防軍の艦隊がこの場所にジャンプアウトしてきます!」

 

「何?そんな報告受けて…なっ!」

 

ヘルムートが否定するより先にある一隻の軍艦がセスウェナ艦隊の前方にジャンプアウトした。

 

全長およそ19キロの超弩級戦艦(Star Dreadnought)、その姿は見る者を圧倒し何がきたのかをすぐに知らしめた。

 

「……あれが噂の……」

 

「ええ、帝国宇宙軍の総旗艦……“死神( Reaper)”」

 

ケッセルから来た2人は初めて見るだろう。

 

ヘルムートはもはやその巨体には驚かなくなっていたが何故このタイミングで現れたのかということを考え閉口していた。

 

帝国宇宙軍の総旗艦にしてこの銀河の表舞台に立つ三隻のエグゼクター級スター・ドレッドノートのうちの一隻、エグゼクター級“リーパー”。

 

宇宙軍長官のバロー・オイカン大提督の乗艦であり現在はハンバリンに駐留しているはずだが何故かここに多数のインペリアル級ごと現れた。

 

明らかに一個艦隊ごとここにジャンプアウトした気がする。

 

「各艦の識別を確認……どれもハンバリンに駐留する帝国宇宙軍第一艦隊のものです」

 

「閣下……これは一体……」

 

ダック艦長はヘルムートの方を見つめたがヘルムートも答えをすぐに出すのは難しい。

 

「…事前にレジスタンス艦隊とアデルハード艦隊の動き次第によっては応戦すると通告していたが…」

 

「ですがこちらは事前に援軍を送るなどという事は聞いていませんでしたよ…?」

 

ジェイ司令官はヘルムートに問い詰める。

 

「国防軍が北から進むのと同じように横合いからアノートに進軍するつもりなのだろう。恐らく我々がエリアドゥにいないからドーラに来たまで……しかし虎の子の第一艦隊をアノート戦に持ってくるとは」

 

「閣下!“リーパー”よりラムダ級シャトルが本艦に着艦することを求めていますが…」

 

通信士官の1人がヘルムートに報告する。

 

ビューポートから外を覗いてみれば通信士官の言う通り1機のラムダ級がまだ小さいがこちらに近づいてきているのが見えた。

 

「断る訳にもいかん……恐らくあれに乗っているのは宇宙軍長官本人だ。だが……」

 

ヘルムートはケッセルから来たクラリッサとマルスの方を見つめる。

 

ケッセルの視察団を見られ第三帝国の本国から問い詰められるような事は非常に面倒だ。

 

されど帝国宇宙軍の長官の乗艦を断ることもそれはまた面倒なことになる。

 

どうにかして彼女らを隠して宇宙軍長官のオイカン大提督をこの艦に入れなければならない。

 

「着艦を許可しろ。ジェイ司令官、ダック艦長は出迎えを頼む」

 

「了解!」

 

「了解」

 

2人は幾人かの部下を連れてブリッジを後にした。

 

その後ヘルムートはブリッジの辺りを見渡しながらうろうろする。

 

「どういたしますかお嬢様。このまま“()()()()()()()()()()”にいるのが見つかればかなり面倒なことになりますが」

 

「あら、第三帝国の方々が私を見つけられるとお思いで?」

 

「十中八九、見つかりますね。何処か隠れる所にいて貰わないと…」

 

クラリッサのような目立つ格好をしていれば殆どが軍服か戦闘服、作業服の“エグゼキュートリクス”の艦内じゃすぐにバレる。

 

それに恐らく2人は第三帝国に顔が割ているはずだ。

 

見つかればすぐに捕まってしまう可能性もある。

 

何せケッセルは未だに第三帝国への参集を蹴り続けているのだから。

 

そうこうしていると時間が経つのは早いものでハンガーベイの司令塔から『ラムダ級シャトル着艦しました』と報告が入った。

 

もう後数分も経たずに宇宙軍の高官達が入ってきてしまう。

 

しかし2人を当分入れて置けるようなスペース、ブリッジには少ない。

 

するとある1人の若い、と言ってもヘルムートよりは年上の中尉が彼に提案した。

 

「あの閣下…ブリッジ近くの倉庫ならどうでしょうか。あそこなら誰も入りませんし人とすれ違うことも少ないですし何より長時間いても問題ありません」

 

「そこだ、助かった中尉。お2人とも今すぐ私について来て下さい」

 

ヘルムートはキョトンとした2人を連れて中尉の言っていた倉庫まで向かった。

 

「暫くの間待ってて下さい」

 

「はい…わかりまし」

 

そのまま2人を入れてと伝え倉庫の扉を閉めた。

 

ヘルムートは急いで戻り一息吐いた。

 

襟元などを触り軍服に問題がないことをチェックし一行を待った。

 

それから数分も経たずに彼らはやってきた。

 

ブリッジまで上がってきた帝国宇宙軍のトップであるバロー・オイカン大提督がまず彼に敬礼した。

 

彼の背後にいる多くの将官達も敬礼しヘルムートと近くにいた全ての将校が敬礼を返した。

 

「対レジスタンス会議以来ですね、グランドモフヘルムート」

 

「オイカン大提督こそ、お久しぶりです。何故このドーラに?」

 

互いに握手を交わしヘルムートは単刀直入に尋ねた。

 

オイカン大提督も包み隠さずその理由を答えた。

 

「アノート宙域の攻略の為ですよグランドモフ。こちらとしては何故あなた方がこのドーラ周辺に艦隊を展開させているのか疑問です」

 

「件の宙域でアデルハード総督の軍閥とレジスタンス軍の戦闘を確認しました。戦闘の規模から言ってこのままでは旧大セスウェナ連邦構成惑星にも被害が及ぶ可能性があります。その為に守備と警備隊を動員しているだけですよ」

 

嘘は言っていない。

 

だが意外なことにオイカン大提督ら正規の宇宙軍は我々の行動を知らなかったようだ。

 

エリアドゥやセスウェナに残ったモッティ達がよくやってくれたのだろう。

 

「決して直接アノートに攻め込むつもりはないのですね」

 

「大セスウェナに駐留する軍は全て国土の治安維持を行うだけで限界です。それは“()()()()()()()()()()()()()”」

 

オイカン大提督は苦笑を浮かべ「痛い所を突かれる」と呟いた。

 

第三帝国が今の状況を無理をして作っていると言うのは十分承知している。

 

だからこそ我々にも助けを求めかつての新共和国領でも志願兵を今すぐ募り部隊を形成していた。

 

「確かに帝国軍は黎明期以上に少ない戦力を分散させすぎている。それも一方向だけではなくこの銀河系ほぼ全方位に」

 

ヘルムートは彼が引き連れた将校団の方に目を向ける。

 

皆オイカン大提督の発言を否定出来ずにバツの悪そうな顔で目を背けていた。

 

彼らとて現実を知らない訳ではない。

 

むしろ知っているからこそこの険しい現実のことを語りたくないのだろう。

 

特に南アウター・リムでは既にナブーを失陥しているしシス・エターナル艦隊が来るまでは彼ら宇宙軍だって負け続きで一時期はガレルすら失っていた。

 

「宣告しておきますが我々の兵力は無限ではない。再三に渡って侵攻命令を拒否しているのもその為です。不安を抱えたまま攻め手を担うのは気が引けますから」

 

誇張しすぎているとはいえ嘘ではない。

 

最近は治りを見せている周辺の軍将の反乱勢力もいつ再起するか分からない。

 

さらにナブーが失陥したことにより大セスウェナはまだ点と点であるがレジスタンスに挟み撃ちにされている。

 

何より第三帝国の命令で侵略し後から来る親衛隊とかの部隊を領域内に引き込んでは大変な事になる。

 

彼らのやることに生半可なものは一つもない。

 

「だが総統は大セスウェナに戦うことを望んでいる。貴方の大伯父のウィルハフ・ターキン総督のように“()()()()()()()()()()()”としてあるべき姿を望んでいる」

 

「“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

ヘルムートは鋭い口調でオイカン大提督に答えた。

 

オイカン大提督は唖然とした表情で何処か悲しそうに微笑む。

 

実直な職業軍人であると多くの経験豊富だとの評価を持つオイカン大提督が今の第三帝国の現状に満足しているとは思えない。

 

むしろオイカン大提督はヘルムートと同じような気持ちで同じような立場ではないのかと考えていた。

 

背後の将校団は動揺していたがオイカン大提督はどこか冷静で、羨ましそうな雰囲気をヘルムートは感じ取っていた。

 

「我々は十分第三帝国に貢献している。大セスウェナの元の領域に合わせてそれ以外にも多くの星系や惑星を併合し帝国の再建に役立ててきた。軍事以外の面の評価もお願いしたいものです」

 

「それは総統や周りのCOMPNORやライヒスタークの連中次第だろう。私が出来る事は……残念ながら少ない」

 

オイカン大提督は申し訳なさそうに呟いた。

 

彼の性格上出来ないと言うのもあるし立場上大セスウェナの肩を持つのも難しいのだろう。

 

彼を責めるのではなくむしろ味方に引き込もうとヘルムートが考えた矢先部下から報告が入った。

 

「閣下、パトロール中の小艦隊から暗号通信です。“()()()()()()()()()()()()()()”と」

 

「…そうか、位置は」

 

ヘルムートはすぐに位置を尋ねる。

 

報告した部下は「ポイント3-67です」と答えた。

 

「閣下…」

 

ダック艦長は不安そうな表情で詰め寄る。

 

これは真っ先に衝突するトレークスの小艦隊のみ発令を許された特別な暗号文だ。

 

通常作戦が不可能だと判断した場合にトレークスの判断で暗号文が打たれそれを受け取ったドーラに駐留する司令部が予備作戦に切り替えるか否かの判断を行う。

 

だが実際にはこの暗号文が送られた時点で作戦の切り替えは決まっていた。

 

ヘルムートは小さく頷き指示を出す。

 

「周辺の全艦隊及びドーラの駐留艦隊に伝達、今すぐポイント3-67にジャンプしトレークス小艦隊に加勢せよ。予備作戦に変更し対処に当たる、急げ!」

 

通信士官達が頷き、一斉に各部隊へ伝達し始めた。

 

内情を理解していないオイカン大提督らは首を傾げ将校団もざわつき始めた。

 

オイカン大提督を始め何人かの将校達は部下から報告を聞いていた。

 

「申し訳ありませんがオイカン大提督、我々は出撃しなければなりません。加盟領域にレジスタンス軍の侵入を発見しました、それもかなりの大部隊です」

 

「こちらでも確認している。“リーパー”とその配下の艦以外は全て前線へ急行させろ。包囲戦術を展開し大セスウェナ艦隊と共にレジスタンス軍を囲み潰す」

 

流石共和国軍時代からの歴戦の提督、良い判断だ。

 

すぐ様ヘルムートも了承しそれぞれ命令を出した。

 

「我々も急いで“リーパー”に戻るぞ」

 

「はい大提督!」

 

オイカン大提督と彼の部下の将校団は全員“エグゼキュートリクス”のブリッジを後にし始めた。

 

ヘルムートはオイカン大提督に最後敬礼し「それでは、戦場で」と言葉を送った。

 

大提督も敬礼を返し2人はそれぞれの立場の責務を全うする。

 

「クリフォードの機動部隊は戦場にジャンプアウトしたすぐ直後にトレークスの艦隊に合流するよう伝えろ。トレークスも相当無理をしているはずだ」

 

「了解」

 

「バーク提督の艦隊は最左翼にジャンプアウトし中央をおじ上の“オルタネート”とロス提督の航空艦隊は中央に配置しろ。ハブリン司令官にはジャンプアウトと同時に直ちに出撃して航空攻撃を敢行するように伝えろ。そして最右翼の帝国宇宙軍との連結部は我々で担当する」

 

「はい閣下!指定ポイントへのジャンプアウト急げよ!」

 

ダック艦長は部下に命令を出しその間にヘルムートは忘れないうちにブリッジ近くの倉庫に向かった。

 

本当に第三帝国の人々が帰ったか確認し倉庫を開けた。

 

「あら、意外に早かったのですね」

 

クラリッサは平然とした顔で言ってきた。

 

ヘルムートも特に気にすることなく彼女に伝える。

 

「ようやくお待ちかねの戦闘の時間ですよ」

 

クラリッサは微笑を浮かべ倉庫から出てきた。

 

ヘルムートの言う通りいよいよ“()()()()()()”大セスウェナとレジスタンス軍の戦いの始まりだ。

 

 

 

 

 

-シス・エターナル第三帝国共同占領下 アウター・リム・テリトリー ロザル宙域 ガレル星系 惑星ガレル-

ガレルの軌道上には未だにジストン級が一隻駐留しており地上には軍政の為にシス・エターナルの一個軍団と新たに来た国防軍の二個師団がガレル・シティに駐留していた。

 

軌道上にもインペリアル級が三隻追加されジストン級一隻とインペリアル級三隻の合同機動部隊がガレルを完全に監視していた。

 

国防軍の二個師団と言っても単なるストームトルーパーや地上軍トルーパーの一個師団ではない。

 

インペリアル級に常駐する海兵部隊に加え宇宙軍トルーパーらも混ぜ合わさっている。

 

宇宙軍トルーパーとストームトルーパーの合同部隊は現在でもテンペスト・フォースなど割と珍しい部類ではない。

 

このような軍政下においては治安維持の為にも数を必要としており警備などの為に宇宙軍トルーパーが動員されることもあった。

 

その為地上にISB(ルビ 帝国保安局)の二、三個中隊が展開されているのも建前としては似たような理由だ。

 

治安維持や警察機能を維持する為に法執行機関の専門としてISBまたはFFSBの所属兵員達が地上で“()()()()()()”を実行する。

 

その為に彼らには高い権限が与えられ治安維持や法執行の為には多少の荒業も許可されていた。

 

だがその高い権限が行使される大半の理由はやはり“()()()()()()()()()()”であったり積極的にレジスタンスを支持したり情報を流していたとされる“()()()()()()()”だ。

 

だが最近では市民の抵抗活動が大きくなってきたようでゲリラの掃討や捕縛の任務も請け負っていた。

 

今日もガレル・シティでは保安局員達が権限を行使し“()()”してる様がブラスター・ピストルの銃声と共に否が応でも分かる。

 

先程近くのアパートメントに入っていった2人の保安局員も銃声の後、ピストルをホルスターにしまいながらタバコを吹かしながら出てきた。

 

保安局員が出てくると同時に彼らの部下と共われる他の兵士達が幾つかの器具や袋を持ってアパートメントに入っていた。

 

その様子をローブを着た青年、Uウィングで密かにガレルに入ってきたジェルマンはフード越しからその様子を眺めていた。

 

「おい、あんまり見るな。目を付けられるぞ」

 

ジョーレンはジェルマンに忠告し「すまない」とジェルマンは目を背けた。

 

数歩歩くだけでもあちこちに帝国軍の将兵の姿が見える。

 

何かを話している宇宙軍トルーパーや近くを一個分隊ほどで歩くストームトルーパーの隊列、壇上に立って市民に今後のことを説明する将校など様々だ。

 

だが誰もこの中にレジスタンス軍の最精鋭のスパイが紛れ込んでいるとは夢にも思わないだろう。

 

何せ現地のレジスタンス兵士は既に1人残らず殺したはずだ、少なくとも第三帝国とシス・エターナルはそのような認識でいた。

 

だが実際には2名ほどの生存者がおりそれを助ける為に“3()()”の救出者がこのガレルに潜伏していることをまだシス・エターナルと第三帝国は知らない。

 

「ねえ…あれが…」

 

右手でジョーレンを呼びジェルマンはある3〜4人のトルーパーに目を向ける。

 

そのトルーパーはアーマーが白ではなく真っ赤に染まっており持っているブラスターもE-11とはかなり違っていた。

 

ジョーレンは小さく頷く。

 

「ああ、あれが噂のシス・トルーパーか…」

 

平然とした態度でシス・トルーパー達の側を通り抜ける。

 

やはりシス・トルーパー達も2人を疑うことなく反対方向へ歩いていった。

 

シス・トルーパーの話はレジスタンスにも流れてきている。

 

シス・エターナルの先兵たるこの赤き兵士達はブラスター弾をものともせず前進を続け新型ウォーカーの援護を受けて新しいブラスター・ライフルの大火力で敵兵を蹂躙していく。

 

ある者の噂ではシス・トルーパーのブラスター・ライフルの射撃だけでXウィングが撃墜されたらしい。

 

これらが誇張表現だとしても現にこのガレルのレジスタンス軍守備隊はシス・エターナル軍とシス・トルーパーに攻撃され全滅している。

 

シス・トルーパーは十分危険に値する存在だ。

 

「あの装備…全体的に国防軍や親衛隊のトルーパーなんかよりも10年以上先の装備を使っている。だが節々にどことなくクローン・トルーパーアーマーらしさも感じた」

 

「新世代のトルーパー・アーマーっていうこと…?」

 

「間違いなくそうだ、連中からアーマーを引っぺがして持ち帰れたらいいんだがな」

 

十分に話したジョーレンは口を閉ざし再び周りに溶け込んで黙って歩いた。

 

ガレル・シティの市民は皆なるべく兵士に目を合わせず下を向いて歩いている。

 

何かの被り物やフードで顔を隠しどこか足早に歩いていた。

 

中にはすっぽりポンチョやローブで身を隠している者もちらほら見受けられる。

 

目を合わせて疑われてはたまったものではないし単純に“()()()()()”というのもあるだろう。

 

レジスタンス軍が駐留していた時もこんな有様だったかは分からないし流石に帝国だってどこもかしこもがこんな有様ではないだろう。

 

ただ今のガレルは間違いなく“()()”と表現していいだろう。

 

強大な暴力によって支配され常に誰かが殺されている。

 

上空を何度もTIEファイターが飛んでいるしその更に上の軌道上にはスター・デストロイヤーがガレルを見下ろすように静かに鎮座している。

 

市街地には新型のウォーカーやオキュパイア・タンクが巡回し市民を監視していた。

 

民間のスターシップでは到底この惑星からは脱出出来ない。

 

陥落と共にこのガレルは巨大な監獄惑星になってしまったのだ。

 

抵抗しようとする者もいるらしいが今は支援出来る状態ではない。

 

とても残念だと思いながら2人はある場所で立ち止まった。

 

「ここだな…」

 

2人は看板を確認しある酒屋に入っていく。

 

ここはガレル・シティの中ではそれほど名が知れている訳ではないがそれでも占領前はそれなりに繁盛していた。

 

だが今ではすっかり開店休業状態、店の中はすっからかんで人気は少ない。

 

こんな状況だから仕方がない、誰も今のガレル・シティの外を歩きたくないし店の中で何かを食べたり飲んだりするという気分でもないのだろう。

 

されど完全に人がいないという訳ではなく2、3人の人影が見えた。

 

その中にジェルマンとジョーレンが入ることによって少しは人気も増えるだろう。

 

尤もジェルマンとジョーレンはここへ飲みにきた訳ではないが。

 

テーブル席に座る1人の男の前に座りウェイター・ドロイドに2人はジャワ・ジュースを頼んだ。

 

ドロイドが離れていくことを確認しまずジョーレンが口を開いた。

 

「昼間っから酒が飲めるとはいい身分だな。流石レジスタンスの中佐殿だ」

 

小声だったがその声の掛け方は反対側の男の正体を明かすのに十分だった。

 

男はフードを取りテーブルに置かれた飲み物を口にする。

 

「全く失礼な、飲んでいるのはただのモーフ・ジュースだよ。流石にアルコールは飲めない」

 

微笑を浮かべながらもう1人の救出者、ラクティス・ストライン中佐はグラスを回して答えた。

 

それからすぐに2人分のジャワ・ジュースをウェイター・ドロイドが運んできた。

 

コップを置かれドロイドが離れた時から彼らの会話は始まった。

 

「レンディリからここまでよく来てくれた。ありがとう」

 

「仲間の危機を危機から助けるのは当然のことですよ」

 

ジャワ・ジュースの中に何か入っていないか確認しながらジェルマンはそう答えた。

 

ラクティスは再びモーフ・ジュースを口に含みながら立ち上がろうとした。

 

「さて、2人も来たことだし早速救出に向かおうとしよう。既に位置は把握している」

 

早く助けて早く離脱するつもりでいたラクティスは早速2人を連れて現場へ向かおうとしていた。

 

だがジェルマンは窓の方に目をやりながら「待ってください」とラクティスを止める。

 

「ああ、まあまずは落ち着いて座って。それと窓の方に目を向けないように」

 

ジョーレンも同意しラクティスに忠告した。

 

ラクティスは渋々言われた通りに座り「どういうことだ」と2人に尋ねた。

 

ジェルマンは敵に悟らせないように文字を打った彼がよく使う端末をテーブルの下からラクティスに渡す。

 

ラクティスは渡されたその端末チラリと一読し彼は内心大きく動揺した。

 

何せ端末にはただ一言「見張られている」と書かれていたからだ。

 

ラクティスはなんとか表情に出さぬよう努める。

 

「我々が店に入った辺りから恐らくISBの将校と職員の2人くらいに見張られています。誰をつけて誰に言われてかは分かりませんが」

 

ジェルマンはジャワ・ジュースを少し飲みながらラクティスに伝えた。

 

彼らの言う通り路地の店の向かいの路地裏から2人の保安局員がマクロバイノキュラーで店の様子を探っていた。

 

ジョーレンはジェルマンに「つけられたとしたらいつだと思う」と小声で尋ねた。

 

「もしかするとレンディリで何かを疑われたのかも知れない」

 

ジェルマンはあの時ぶつかった将校達がジェルマンの後ろで話していた会話を朧げだが思い出していた。

 

まだ半信半疑だったがどこか我々のことを疑っているようだった。

 

もしかするとそれでなんらかの経路を伝ってこのガレルの駐留部隊に伝わったのかも知れない。

 

だがまだ保安局員のみで店内に突入してこないことを考えるとまだなんとかするチャンスはある。

 

「このままじゃまともに動けないぞ。どうするんだ?」

 

ラクティスは2人に詰め寄り尋ねた。

 

そこでジェルマンはあることを告げる。

 

「“()()()()()()()()()()”、まだ潰せるうちに」

 

そこには一点の揺らぎもなくジェルマンの意志は確固としておりその為の作戦も抜かりない。

 

そんなジェルマンの様子を隣で見つめるジョーレンはどこか頼もしくもあり、情報部員としての成長が嬉しくもありそれと同時にどんどん“()()()()()”へ寄ってくる悲しみもあった。

 

何せジェルマンはこの長きに渡る戦争で大分“成長した(変わってしまった)”のだから。

 

 

 

 

 

 

-シス・エターナル占領下 ドゥミナス宙域 ドーネアン星系 惑星ドーネア-

レジスタンス軍の守備隊はバロスでの大敗を聞きこのまま守り続けるのは不可能だと考え上層部の命令で市民を連れてバロスまで撤退した。

 

その為シス・エターナル艦隊は一回も戦闘することなくこのドーネアまで最も簡単に侵入出来たのだ。

 

戦闘することなくその脅威を誇ったシス・エターナルのジストン級やエクリプス級はドーネアを見下ろすように艦隊を配置している。

 

そして“エクリプスⅡ”のブリッジからフリューゲルもドーネアを見下ろすように眺めていた。

 

ブリッジから宇宙空間や眼前の星を眺めることはこれが初めてではない。

 

むしろ飽きるほど眺めてきたし眺めたすぐ後にその惑星にスターファイターに乗り込んで惑星の中を敵機を堕としながら飛び回ったことだってある。

 

長い軍役生活の中でフリューゲルは昔のように星々を眺めて目を輝かせることを大分前から忘れていた。

 

だが“()()()”とはそう言うことなのだ。

 

「地上に罠や敵の残党、バトル・ドロイドや自動砲塔を用いた防衛陣地は確認出来ず敵は本当にドーネアを放棄してロザルまで後退したと思われます」

 

ブリッツェ中佐はタブレットを持ちながらフリューゲルに報告する。

 

敵が既に撤退したのを確認しているとはいえ人命が掛かっている以上万が一のことも考えて行動しなければいけない。

 

幸いにも惑星内にそのようなトラップがないのは僥倖といった所だろう。

 

兵員がいなくともバトル・ドロイドや自動防衛タレットを市街地に配備し上陸した部隊を迎撃されるだけで相当の兵員が死傷する。

 

本来ならそれを避ける為にもなるべく電撃的な制圧を行う事が多いのだが今回のシス・エターナル艦隊はあえてそれをしなかった。

 

ゆっくり堂々と行軍し迫り来るレジスタンス軍や敵対勢力をその力を持って徹底的に叩きのめし1人の生存者も出さぬほどの戦果を轟かせシス・エターナルの力を告示させることが彼らの使命だ。

 

「このまま第三帝国の軍が到着するまで待ちましょうか」

 

ブリッツェ中佐はフリューゲルに判断を仰いだ。

 

「いや、むしろガレルやその周辺に駐留する帝国軍に急ぐよう命じろ。我々はこのまま全戦力を結集させロザル攻略戦に乗り出す」

 

「ついに…ですか…?」

 

「ああ、ついにだ。ロザル攻略戦はシディアス卿も我々を期待し強くお望みだ。早急に彼の地を帝国へと奪還する」

 

フリューゲルは断言した。

 

このロザル攻略は再びシス・エターナルの力を誇示する為にもある目的の為にも非常に重要視されていた。

 

目的の一つである“()()()()()()()()()()()()()()()”を行う為にもこのロザルはどうしても破壊せず制圧しなくてはならなかった。

 

何せこのロザルにはまだカイバー・クリスタルが大量に埋蔵されている。

 

これを採掘し今後更にジストン級やソヴリン級、エクリプス級といった超兵器搭載艦を製造しなくてはならない。

 

()()()()()()()()()”。

 

「ガレルに駐屯している第19軍団と“オラクル”を引き上げさせて合流させましょうか?」

 

ガレルに残してある第19軍団とジストン級“オラクル”は今のシス・エターナル艦隊だと戦力の一翼を担う存在だ。

 

アキシャル・スーパーレーザーたった1門だけで主力艦何十隻分の大きな力を発揮するし第19軍団のシス・トルーパー達は皆精鋭だ。

 

陸戦に回せば心強い。

 

「ガレルの軍政は完全に第三帝国が引き継ぐよう取り付けてある。間も無く地上の撤収が始まり1時間以内にはドーネアまで到着するだろう」

 

「そうでしたか。ではドーネアへ上陸した部隊も撤収させましょうか?」

 

「後1時間したら撤収させろ。“オラクル”と合流した後に全艦艇を率いてロザルへ進撃しロザル攻略作戦を実行する。ロザルの破壊が事実上不可能な分、恐らく艦隊戦よりも地上戦が激化するだろう。作戦規定通り上陸する各部隊には入念に最終チェックを済ませるよう伝えろ」

 

「了解!」

 

このロザル攻略作戦だけはシス・エターナル軍の司令部が進軍方向を決めた時点で事前に用意してきたものだ。

 

特に地上戦はヴィット将軍のような経験豊富な地上軍出身の将軍達が集まって作戦を作り上げた。

 

ロザルはレジスタンス軍にとっても精神的な重要拠点である為死に物狂いで戦うだろう。

 

ならばこちらは確実な作戦を持って死に物狂いで敵を駆逐するまで。

 

シス・エターナルに敗北の二文字はなく、常に勝利の二文字しかないのだ。

 

「ロザル……か。レジスタンスは必死に戦うだろうが、市民の方はどうだか…」

 

「元帥閣下!エクセゴルより報告です!」

 

連絡将校のハイラン少佐が敬礼しフリューゲルの側に来た。

 

ハイラン少佐は新たに“エクリプスⅡ”に配属された純粋なシス・エターナル軍の将校でエクセゴルとフリューゲル個人の連絡役を務めていた。

 

エクセゴルから、ということはただの報告ではないのだろう。

 

「シディアス卿からか?それとも司令部からか」

 

「軍司令部からです。エクセゴルから新たに一隻ジストン級“ピルグリム”が特別任務を受けた精鋭班と第3軍団を乗せてボーラ・ヴィオに出撃したとのことです」

 

ピルグリム”といえば例のジェダイと皇帝の手を連れてくる時に銀河系に先行した“エクリプスⅡ”の艦隊と共に最初に銀河系に足を踏み入れたうちの一隻だ。

 

そのジストン級が再び銀河系に精鋭班と第3軍団を連れて出撃すると言うことは何かしらの軍事任務を請け負っているのだろう。

 

「特別任務とはなんだ?無論大体想像は付くが」

 

特にボーラ・ヴィオというところでだ。

 

ボーラ・ヴィオには放棄されたカミーノアンのクローニング施設がある。

 

そこへシス・エターナル軍が送り込まれるということはクローニング施設の破壊や技術の奪取を目論んでいるのだろう。

 

今のシス・エターナルのクローニング技術はまだ“()()()()”。

 

「どうやら例の“()()()()()()”がボーラ・ヴィオにいるらしく…それの討伐任務とのことです」

 

自体はフリューゲルが想像していたことよりもずっと複雑だった。

 

その理由が絡んでいるのならただの一個軍団とジストン級では足りない。

 

やはり“()()()()使()()”には“()()()()使()()”を以ってあたらねばならない。

 

それは闇でも光でも関係なくだ。

 

「この戦いはロザル攻略以上に重要になるぞ。さて、新たなフォース使い殿はどうするか」

 

フリューゲルは戦闘が起こるであろう方向を一瞥しそう呟いた。

 

間も無く9ABYに入ろうとする中、銀河系ではまだまだ戦いの火蓋がスーパーレーザーですら掻き消せないほど残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「少しトイレ」

 

ジャワ・ジュースを飲み干したジェルマンは席を立ち、店のトイレの方に向かった。

 

その途中である1体のウェイター・ドロイドと一瞬すれ違った。

 

するとそのウェイター・ドロイドは充電が切れたのかこの店の店主に「マスター、充電をしてきてもよろしいですか?」と尋ねた。

 

「ああ構わん、どうせ誰もうちには来ないさ」

 

「ありがとうございます」

 

機械音声でウェイター・ドロイドは充電器のある方へ向かっていった。

 

店主は不貞腐れた様子で暇そうにカウンターに椅子を置いて座っている。

 

なんならこのまま店の酒を飲み始めてもおかしくない態度と雰囲気だった。

 

そうこうしているとジェルマンがトイレから戻ってくる。

 

「待たせた」

 

ジェルマンが席に着く瞬間も監視している保安局員達はしっかり見ていた。

 

部下の保安局員が上官の保安局員の中尉に尋ねる。

 

「何か仕掛けたのでしょうか」

 

「かもな、こうなるとやはりストームトルーパーや宇宙軍トルーパーの歩兵部隊が必要だ」

 

「こちらに気づいてますかね」

 

保安局員は中尉に尋ねる。

 

「いや、恐らくその可能性はないだろう。それにまだ相手がレジスタンスあたりの情報部員と決まった訳ではない。単なる脱走兵かもしれない」

 

彼らがジェルマン達を監視している理由はレンディリからフリシュタイン上級大佐に要請されてだった。

 

なんでも「レジスタンスのスパイと思わしき人物がガレルに向かった可能性がある」という理由をつけてだ。

 

部署は違うとはいえ同じ保安局員でしかもフリシュタイン上級大佐は保安局の中でもかなり中枢の人物だ。

 

命令を拒絶する事は出来ずカッらは送られてきた顔写真を手がかりにガレル・シティを捜索していた。

 

すると運よく店に入る瞬間にジェルマンやジョーレンを発見出来たのだ。

 

しかしまだ本人かどうか確証はない為突撃を躊躇っていた。

 

「やはり今突撃した方がいいのでは」

 

「いや、相手の人数も考えた場合我々だけでは勝ち目がない。もう少し人を集めっ…」

 

中尉は全てを言い終える前にどこかの屋上から飛んできた赤い光弾に額を撃たれ斃れた。

 

「中尉!」

 

中尉に声を掛けた部下の保安局員も直後同じように赤い光弾を受けて即死した。

 

路地裏の影には無惨に2人分の死体が転がっていた。

 

この時初めてジェルマンは窓の方から路地裏を見た。

 

彼は静かに「やったようだね」と呟く。

 

「そうだな、それじゃあそろそろ移動するか。ジャワ・ジュースも飲み終わっちまったし」

 

コップを置くと「その前にトイレ」と今度はジョーレンがトイレに向かった。

 

「代金は僕が払いますよ」

 

「じゃあ奢りを受けようかな」

 

2人は席を立ち会計を店主に頼んだ。

 

ジェルマンは財布から帝国クレジットを出し全員の代金を払う。

 

そうこうしているとジョーレンがトイレから帰ってきた。

 

「もう払い終わったよ」

 

「そうか、後で返す」

 

「いやいいって」

 

ジェルマンは財布をしまい3人は堂々と店から出た。

 

もう彼らを見張る保安局員達は“()()()()()()()”。

 

3人は堂々と道を歩きやがて周りのトルーパーが少なくなったタイミングで彼らは路地裏へと消えた。

 

路地裏を早歩きで進みながら3人は目的地を目指す。

 

その途中でジェルマンはビルとビルの上から空を眺めた。

 

多くのラムダ級やセンチネル級が軌道上のシス・エターナルのスター・デストロイヤーに集まっていた。

 

あの動きをジェルマンは習ったことがある。

 

「ねえ、あれは撤退……しているのか…?」

 

ジェルマンの問いと共に2人は顔を上げその様子を眺めた。

 

ジェルマンとは違い銀河内戦や初期反乱運動で幾度となく帝国軍と戦い、その動きを知っているジョーレンとラクティスは「間違いない」と口を揃えて言った。

 

「あれは占領下から一部部隊を撤退させるか移動させる時の動きだ。支援の為に他のスター・デストロイヤーやスターファイターが大分警戒している」

 

「しかも事前の準備がいいのか機器類の回収は終えて兵員の回収が始まっている。どの程度の規模が地上に展開されているか分からないが平均的なインペリアル級と一緒であのペースなら後1時間ちょっとで終わるだろう。もしかするとそれより早いかもしれない」

 

「撤退を行なっているのがシス・エターナルだけってのが怖いところだな……ガレルの支配を完全に第三帝国に譲って残りの戦力を全て最前線にぶつけるつもりか?」

 

今のジョーレン達がシス・エターナル軍がどこまで進んだは完全に把握するのは難しい。

 

されどそう遠くない日にロザル辺りまでシス・エターナル艦隊は進み大激戦が繰り広げられるだろう。

 

「行き先はロザルかドーネアだろうな。また我々の仲間と激突してその後どうなるか…今度こそ勝ってもらいたいものだが」

 

「はい…その為ににも我々はまず生存者を救出しないと」

 

「そうだな」

 

ラクティスに案内されながらガレル・シティの裏を駆け回り本来彼らが目指していた目的の場所に辿り着いた。

 

「ここだ」

 

ラクティスは目の前のガレル・シティの中心地からだいぶ端の方に位置する廃墟のアパートメントに指を差し3人で中に入っていく。

 

ジョーレンが周囲を警戒しながらラクティスに指示された場所まで突入した。

 

彼らの目の前にはカモフラージュされた大きな穴があった。

 

「生存者は2人で片方はパイロットだ。そしてもう片方は技術士官で捨てられたドロイド類を繋げてこの穴を掘り隠れているガレル・シティの郊外まで繋げたらしい」

 

「じゃあここを通れば生存者のアジトに?」

 

「その通りだ、早速行こう。早くしないと帝国にバレてしまう」

 

既に2人の保安局員をジェルマンがあの店のウェイター・ドロイドをコントロールして暗殺している。

 

時期にまずあの店にストームトルーパーの分隊が駆けつけガレル・シティを総出で探し始めるだろう。

 

このガレルに留まっていられる時間はとても短かった。

 

3人は穴の中に入りそのままゆっくり進み続ける。

 

流石にトンネルに灯りをつける余裕はなかったのか真っ暗で3人はそれぞれ手持ちのライトを付けた。

 

「離脱の時の安全も考慮して敵の注意をこのガレル・シティに引き付ける必要がある。恐らく連中が総出で探せばこんな場所すぐに見つかる」

 

「それに特にこの街には保安局員が多い。仲間を殺されている以上躍起になるだろうし彼らは捜査のプロだし人員の方はジョーレンの言う通りだ。市街地か敵の簡易駐屯地で一悶着起こさないとストライン中佐を生存者達に会わせられない」

 

ジェルマンとジョーレンは歩きながら脱出のことについて話していた。

 

ステルス機とはいえ今の状況でXウィングとUウィングを出して一瞬でも哨戒中のTIEブルートかインターセプターに見つかったら終わりだ。

 

特に今の殺気立っている帝国軍相手に見つかりでもすればすぐに一個中隊どころか一個大隊のTIEの群れがやってきて戦闘するまでもなく全滅だろう。

 

そうなっては困る為まずは「我々の狙いは地上だ」と敵に思わせ意識を地上に集めないといけない。

 

生存者の救出など間違っても知られてはならないのだ。

 

「だが2人対帝国軍二個海兵部隊はほぼ勝ち目なんてないだろう。どうするつもりだ?」

 

ラクティスは2人に聞いてみた。

 

彼らは特殊部隊とはいえ戦力差がありすぎる。

 

「まず前提条件としてシス・エターナル軍の撤退が完了することだ。多分今物事を起こしても即応体勢にある帝国軍に迎撃されて全滅する」

 

「そうだね、それと後はやっぱり…」

 

「“()()()()()()()()()()()”、こいつらが事を起こすと同時に我々もそれに混じって戦った方が相手に被害を与えられる」

 

ガレルで抵抗活動が激しくなり始めているのはジェルマンやジョーレンだって来る前に知っている。

 

ガレル・パルチザンはレジスタンス軍が遺した大量の物資を使い独自の抵抗勢力を設立したらしい。

 

保安局や占領部隊が鎮圧に当たっているがこの手の抵抗勢力の性質上、毎回確実な成果を挙げられずに終わっている。

 

まだ物資もあり士気も高い彼らに混じって戦うなら少なくとも十分な陽動になるはずだ。

 

だが一つ問題がある。

 

「パルチザンに混じってって、そいつらと接触出来たのか?」

 

ラクティスは2人に尋ねた。

 

帰ってきた返答は“N()O()”、ラクティスはポカンとした。

 

「接触どころか全体像だって掴めてませんよ。ただいるって事だけは分かりますが」

 

「おいおいおい、ちょっと待て。それじゃあどうやって混じって戦うんだ?最悪敵だと認識されて撃たれるぞ?というかその前にパルチザンがいつ戦闘を起こすか分かるのか?」

 

ラクティスは呆れた顔で彼らにどんどん問い詰めた。

 

このままじゃあ運任せでなんとかすることになる。

 

だが経験豊富なジョーレン達がそんなことをするはずがない。

 

既に予測は打ってあった。

 

「パルチザンに接触出来てないから誤認の可能性は拭い切れないがまあなんとかする。それにパルチザンがいつ頃行動を起こすかは既に予測がついている」

 

ジェルマンも大きく頷いた。

 

ラクティスはすぐに「一体いつなんだ?」と聞いた。

 

「多分連中もシス・エターナルが撤退するのを待ってる。撤退が完了して残りの部隊が「もう大丈夫だ」と油断した隙におっ始めるつもりだろう。それも帝国軍は比較的集まりやすい中央通りでだ」

 

あまりに正確に見えるジョーレンの推測にラクティスは驚いた。

 

まるで話に聞くジェダイのように未来が見えているようだった。

 

「すごいな、どうしてそんなに分かったんだ?」

 

ラクティスは驚きながら尋ねた。

 

するとジョーレンの答えはすぐに返ってきた。

 

「市街地に俺やジェルマンみたいな格好の奴がちらほらいただろう?みんな体を覆うほどのローブや布で隠している。多分そいつらは俺達と同じようにこうやって、武器を隠している」

 

ジョーレンは自分のローブを開きラクティスに内側を見せた。

 

内側にはブラスター・ピストルや換装式ブラスターのパーツがあり中には簡易爆弾やナイフまであった。

 

ジェルマンも同じように内側を見せる。

 

彼の装備も似たようなものでジェルマンはどちらかといえば機器類にアクセス出来るものがジョーレンと比べて多かった。

 

ホルスターを隠しブラスター・ピストルだけ所持しているラクティスの装備とは大違いだ。

 

「こんなものをずっと隠し持っていたなんて、とんでもないな」

 

「まあ多分パルチザンの方はここまで良い装備じゃないでしょうが。多分頑張ってそれぞれA280を1丁とかデトネーターを何個かとかそんな感じですよ」

 

「ともかく、そんな奴らがガレル・シティに出始めているし帝国軍は撤退支援に注力していて調べる余裕はない。撤退終了と共に必ず何かが起こるぞ」

 

「そうか…なら陽動の方は2人に任せる。だが戦場からの回収の方はどうする?」

 

「頃合いを見て離脱するさ」

 

パルチザンが離脱する前に密かに退却すれば案外離脱出来るものだ。

 

ジョーレンは何度か現地の抵抗勢力を隠れ蓑にして諜報や破壊工作をしているから嫌でも手慣れている。

 

「ならこちらで撤退を支援する」

 

ラクティスの提案にジョーレンは「いや、危険すぎる」と断りを入れた。

 

「軽歩兵が単騎で撤退する方が危険だ。それに生存者の片割れは若いが腕のいいパイロットだ、まともなスターファイターさえ与えれば少なくともTIEインターセプターの一個編隊よりかは役に立つ」

 

「ですが危険です」

 

「どっちにしろ2人の方が危険だ。それなら航空支援を合わせて全員の危険を軽減した方がいい。重要なのは生存者を回収して全員で離脱することだ。シス・エターナルの兵器を見てきた分我々も証言者として重要になってくる。新型のXウィングを早速お披露目するのはちっと癪だが」

 

この時ジョーレンは悩んでいた。

 

確かに航空支援があれば帝国により打撃を与えられその混乱に乗じて脱出しやすくなる。

 

されど重要ターゲットを戦場に出し危険に晒すことになる。

 

それにそのパイロットがどこまでUウィングを上手く扱えるか分からない。

 

それでも今のところ安全に離脱するにはこの方法が一番のように感じられた。

 

「我々はあのスターファイター隊だ。特殊部隊と同じほど摩耗しそれ故に常に高水準の練度を誇っていた。我々を信じてくれ」

 

ラクティスは断言しジェルマンとジョーレンにそう訴えかけた。

 

ジェルマンはジョーレンの方を見つめて判断を託した。

 

だが少なくともジェルマンはもうラクティス達に任せるつもりのようだ。

 

まだ危険は払拭出来ずにいるが仕方ない。

 

「……わかった。レジスタンス軍のスターファイター隊に全てを任せる」

 

ラクティスは満足げに頷きそろそろ通路の奥が見えてきた。

 

3人は急いで走り奥の洞穴に出る。

 

すると警戒しブラスター・ピストルを構えた2人の青年が奥から姿を表した。

 

「待てスナップ!私だ、ラクティス・ストライん中佐だ」

 

ラクティスは名を名乗り警戒心を解かせようとした。

 

2人ははブラスターを降ろし名前を呼ばれたパイロットの方が恐る恐る顔を出した。

 

「中佐…!」

 

どうやら彼らが生存者のようだ。

 

ラクティスは彼らに駆け寄り「よく生きていた!」と力強く握手した。

 

安心した2人の生存者はホッと大きな息を吐きフラフラと倒れかけた。

 

「よかった…もうダメかと」

 

「ギリギリセーフだったな。特殊部隊の精鋭も来てくれた」

 

「ジョーレン・バスチル少佐だ」

 

「ジェルマン・ジルディール大尉です」

 

2人は挨拶し生存者の方も言葉を返す。

 

「テミン・ウェクスリー少尉です」

 

「アショース・スタトゥラ少尉です。あなた方がいて助かった」

 

「いいや、悪いがもう一働きしてもらう」

 

ジョーレンはまず最初に2人にそう宣告する。

 

ジェルマンも頷きラクティスは説明を始めた。

 

「スナップ、お前はUウィングを動かせるか?」

 

「新共和国の機体だったらなんでも使えますよ」

 

「その粋だ、お前達の鬱憤を晴らす時が来た。レジスタンス軍スターファイター隊の力の見せ所だ」

 

ラクティスの悪い笑みにウェクスリー少尉も微笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

レジスタンス軍とアデルハード総督の艦隊と大セスウェナ軍の三つ巴の戦いは三者が接触してからもうかなりの時間が経っていた。

 

未だ数で劣るトレークスの小艦隊は中遠距離からの牽制射撃と集中砲撃を浴びせ全ての敵を戦場に括り付けていた。

 

既に幾つかのパトロール隊が戦場に加わりトレークスの配下の艦艇は中型艦や小型艦だけなら星系艦隊にも匹敵する数まで増えていた。

 

だがやはりそれでも数が足りない。

 

単独で未だにアデルハード総督の艦隊やレジスタンス艦隊よりも数が少なかった。

 

「各艦無理せず戦線を維持しろ。これ以上後ろに下がらせなければそれでいい!連中をとにかくここに縛り付けろ!」

 

インペリアル級の集中砲撃が二、三隻のレジスタンス軍とアデルハード軍の小型艦を撃沈させる。

 

しかし両軍の戦力は小型艦を幾つか失ったからといって戦いをやめるほど小さくはない。

 

「やはり、あの動きから言ってアデルハード総督は自らを捨て石にしてでもここでレジスタンス軍を我々と戦わせダメージを負わせるつもりだったのでしょう。アデルハード艦隊が積極的にレジスタンスの退却を阻止しています」

 

戦術分析官のロイズ大尉はトレークスに報告した。

 

トレークスはレジスタンス軍が既にここまで奥深くまで侵入している事やアデルハード艦隊の動きに疑問を持ち戦術分析官や幕僚達に分析を頼んでいた。

 

「アデルハード総督の捨て身の攻勢という訳か…利用しようとして利用されていたのは一体どっちか…」

 

「少将、ハイパースペースより友軍機動部隊接近。プラージ准将の機動部隊のようです」

 

センサー士官の報告と共にトレークス小艦隊の背後から三隻のインペリアル級と護衛艦のアークワイテンズ級やヴィクトリー級が出現し砲撃と共に早速戦線に加わった。

 

三隻のインペリアル級から放たれる高火力は全く薄れることなく敵に打撃を与え牽制し続ける。

 

クリフォードの機動部隊は暫し遠距離から砲撃した後トレークスの小艦隊ではカバーし切れない部分に展開した。

 

中には攻撃を機動部隊と交代する軍艦もおり戦いっぱなしだったトレークス小艦隊も未だ戦場ではあるが束の間の休息を得た。

 

「プラージ准将の機動部隊は我々の小艦隊に合流し防衛戦を実行しています」

 

「前衛のインペリアル級をクリフォードの機動部隊と交代させシールドとターボレーザー砲の再チャージを行え」

 

トレークスの階級は少将、クリフォードの階級は准将で現在の最高指揮権はトレークスが持っている。

 

トレークスの旗艦“プリンシパリティ”から命令が届き、クリフォードの機動部隊は徐々に前進し前衛を交代した。

 

最大出力の火力と防御力を維持するクリフォードの機動部隊は圧倒的な圧倒的な砲撃を撃ち出す。

 

「機動部隊は到着したが残りの艦隊はどうなっている?伝令からしてもう少し時間がかかりそうだが」

 

「数分前の暗号通信ではまだ到着には時間が掛かると言っていますが」

 

「だろうな…だが耐えられないという訳ではない。このまま攻勢を最低限に保ちつつ現状を維持する」

 

「了解」

 

トレークス達の目的は周知の通り敵の殲滅ではない。

 

本隊が来るまでレジスタンス艦隊を戦場に括り付けておけば良いのだ。

 

シビアな戦いになるだろうが出来ぬ事ではない。

 

「少将、プラージ准将の“シンパサイザー”よりホロ通信です」

 

「よし、開いてくれ」

 

通信士官が回線を設置しトレークスの前にホログラムのクリフォードが現れた。

 

お互いに敬礼を交わして話を始める。

 

『アデルハード艦隊の一部が移動し始めている。足止めしますか?』

 

「いや、積極的に攻勢をかけたアデルハード艦隊は我々が追わなくてもレジスタンス軍が迎撃してくれる。我々はこのままレジスタンス艦隊に圧力を掛け続けるぞ」

 

『わかりました、それとこれは似たような別件なのですが“シンパサイザー”の分析官がアデルハード艦隊に対して気になる点を見つけまして』

 

トレークスは眉を顰めた。

 

今回の作戦を一度は破綻させレジスタンス軍をここまで引き連れてきたアデルハード艦隊の同行は是非ともしっかり確認しておかなければならない。

 

今度また妙な動きをされた場合に対処しなければ既に参戦している自分達の身が危ないからだ。

 

トレークスは「どんなだ?」と彼に尋ねた。

 

『アデルハード艦隊の一部が移動を始め陣形を転換しています。それもどうやら司令部の命令を一部蒸してしているようで』

 

「確かに一部の艦艇が後方の退路を立つ部隊に合流しつつあるが……それは本当なのか?」

 

トレークスはクリフォードの聞き返した。

 

いくら負けっぱなしの軍閥とはいえここまで来てアデルハード総督の命令を無視して独自の動きを始めるなど考えにくい。

 

それともこのヤケクソじみた戦いに嫌気が差したのだろうか。

 

『戦闘の最中に友軍艦の進路を妨害しようとするアデルハード艦隊の姿を幾つか確認しています。逃亡の妨害をしているとも取れますが』

 

「いや、逃亡するつもりなら既にアデルハード艦隊での同士討ちが発生しているはずだ。その間にジャンプアウトする艦も出てくる、だがまだそんな事例確認されていない」

 

そもそもアデルハード艦隊が離脱出来るなら今頃レジスタンス艦隊は小型艦から離脱しスターファイター隊が無理やり突破口を開こうと捨て身の攻撃でもなんでも繰り出しているはずだ。

 

未だそれが出来ずアデルハード艦隊が頑強に防御網を展開しているということはまだその段階ではないということだ。

 

完全にアデルハード艦隊が崩れたのならその隙をついてレジスタンス軍は急いで撤退を始めるだろう。

 

『情報部員を動員して敵艦隊の通信傍受を行いますか?』

 

「いや…恐らく通信傍受は難しいだろう。敵も情報漏洩には気を遣っているはずだ」

 

平時ならともかく戦闘中の今では傍受どころか相手に取り付くことも難しい。

 

仮に相手が内乱状態にあったとしても同様だ。

 

「引き続き警戒は頼む。敵が一触即発の状態にあることは確かだ」

 

『はい、では各艦にそう伝達します』

 

クリフォードがそう伝えホロ通信を切ろうとしたその時、ある一つの報告が舞い込んできた。

 

「少将、ハイパースペースから一個機動部隊ほどの艦影を確認しました」

 

ハイパースペースを監視するセンサー士官はブリッジの窪みからトレークス達に報告した。

 

ここでセンサー士官が言う機動部隊とはクリフォードが率いるようなスタンダードな帝国宇宙軍の単位の機動部隊だ。

 

実際この機動部隊にはインペリアル級三隻とアークワイテンズ級六隻で構成されていた。

 

問題は“()()()()()()()()()()()()()”と言う点だ。

 

「本隊の先遣隊か…?」

 

「いや…流石に早すぎます、それに我々以外の機動部隊はまだ出撃していない。一体どこの部隊が…?』

 

2人は疑問の表情を浮かべ探査中の部下の報告を待った。

 

彼らの会話から10秒も経たずにセンサー士官が調べ上げ、そして困惑していた。

 

「機動部隊の艦艇の所属は恐らく……全て“()()()”です」

 

報告を聞いた途端トレークスとクリフォードは部隊の察しが付いた。

 

だいぶ前からマラステアから出撃した親衛隊の機動部隊がある宙域に待機すると宣告していた。

 

その不可解な行動を止める権限もない為ひとまずは了承し親衛隊の機動部隊、第336機動部隊は今の今までその宙域から動かずにいた。

 

恐らくアノート宙域の牽制、又は大セスウェナやアノートの監視を任務にしていると考えられていたのだがこの機動部隊は突如として動き始めた。

 

それも態々一個機動部隊で最前線へと。

 

「本当に親衛隊で間違いないのか?」

 

トレークスは聞き返すがセンサー士官は「使用している通信回路がデータベースに記録されている親衛隊艦と99.9%一致しています」と答えた。

 

『マラステア派遣軍の部隊だとすれば辻褄が合います』

 

「ああ…だが何故…」

 

何故今になってしかも一個機動部隊で動き出したのか。

 

もしこの部隊が小艦隊や一個艦隊にまで膨れ上がっていたら話は別だ。

 

このまま戦闘に参加し一気にレジスタンス軍を叩いてしまおうと画策しているのだろう。

 

だがレジスタンス軍とアデルハード艦隊のこれだけの戦力を前に一個機動部隊は流石に少なすぎる。

 

親衛隊は勇猛果敢で常に総統の為前進し続けると専らの噂だが流石に勝てそうにない戦に首を突っ込むような猪武者ではないはずだ。

 

「親衛隊艦隊と目される機動部隊、間も無くジャンプアウトします」

 

報告と共にハイパースペースからインペリアル級三隻、アークワイテンズ級六隻がジャンプアウトした。

 

やはりセンサー士官の予測は正しく各艦艇にそれぞれ親衛隊の紋章や親衛隊所属を示すラインが引かれている。

 

マラステアから現れた第336機動部隊だ。

 

「データベースと照合した結果、あの部隊は第336機動部隊で間違いありません」

 

「親衛隊機動部隊、移動を開始します」

 

乗組員の報告と共に第336機動部隊は移動を開始した。

 

特に砲撃するわけでもなく、戦場から離れるわけでもなくゆっくりと回り込むように進み始める。

 

偏向シールドの防御力を全開にし戦場を眺めるように進むこの親衛隊の部隊はどの陣営からも奇異な目で見られていた。

 

それはレジスタンスでも同様で最初に親衛隊を発見したのはナインの一言だった。

 

彼が突然真横を見てランドに「親衛隊のスター・デストロイヤーがいる!」と叫んだ。

 

サラスティーズ語が分かるランドは急いでナインと同じ方向を向いた。

 

すると本当に親衛隊のインペリアル級とアークワイテンズ級がいたのだ。

 

ランドは一瞬だけ背筋からすうっと生気が奪われていく感じに見舞われた。

 

急いで“レストレーション”のブラマッシュ中将にホロ通信を繋いだ。

 

「中将……こりゃ大変なことになってきたぞ…」

 

『はい将軍!こちらでも確認しています。確認されているだけでもインペリアル級スター・デストロイヤー三隻、アークワイテンズ級六隻の機動部隊がいます!』

 

ブラマッシュ中将も見るからに焦っているようだった。

 

このまま親衛隊が続々と戦場に来られてはここにいるレジスタンス艦隊は全滅だ。

 

そう遠くないうちに大セスウェナ艦隊も到着し本当に包囲戦が始まってしまうだろう。

 

「後続の艦隊は確認出来るか?」

 

『いえ、少なくともこの領域にはいません。それにハイパースペースにもこれ以上の艦艇はセンサーの届く範囲では確認出来ません』

 

ランドはブラマッシュ中将の報告を聞き、違和感を覚えた。

 

「おっと、それは妙だな…この戦場に機動部隊一つしか送ってこないほど親衛隊はケチな連中じゃないはずだ。それに、こちらにターボレーザーの1発すら撃ってこないなんて更に妙だ」

 

流石銀河一の博打師、洞察力に優れている。

 

すぐに親衛隊の妙な点に気づき混乱をこれ以上広めずに済んだ。

 

親衛隊が本当に戦う気があるのならハイパースペースからジャンプアウトした直後から砲撃を始めているはずだ。

 

それをしないということは彼らの目的は別にある。

 

その目的が大胆にも彼らの前で達成されるとはこの戦場にいる殆どの者が思わなかっただろう。

 

だが実際に親衛隊の作戦はこの場で始まった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

それに呼応するかのように親衛隊のインペリアル級やアークワイテンズ級も突然砲撃を開始する。

 

それも全てアデルハード艦隊の一部に向けられたものだ。

 

突然味方から、そして親衛隊から砲撃を受けたアデルハード艦隊は何隻かの軍艦が撃沈し態勢が崩れた。

 

その隙にアデルハード艦隊の一部の艦艇が命令や指揮系統を無視しハイパースペースへと入っていく。

 

レイダー級やアークワイテンズ級のような艦艇だけでなくインペリアル級やプロカーセイター級、セキューター級のような大型艦も例外ではなかった。

 

突然味方へ砲撃する艦、突然ハイパースペースに突入する艦、突然のことになす術なく攻撃を受け続ける艦などアデルハード艦隊は正に大混乱といった状況だった。

 

これを砲撃を喰らわせながら冷笑混じりに見守っている者達がいた。

 

親衛隊だ。

 

完全に上手くいった。

 

この状況でこれ以上事態が悪くなることなどない。

 

特に第336機動部隊司令官のクーリズ准将はまるで酔いしれているかのように満足な表情を浮かべていた。

 

アデルハード艦隊はハイパースペースへのジャンプと砲撃で数を大幅に減らしつつある。

 

「長官、既に目標数の半数がジャンプに成功しました。このまま“()()()()()”を続け最終的な殿部隊の退却支援を行います」

 

クーリズ准将はホログラムに映る1人の男に報告した。

 

普段不機嫌、むしろ感情がないように見えるホログラムの親衛隊大将も今日はどこか満足そうな顔だった。

 

『そうか、ではこのまま作戦を続行せよ。アデルハード艦隊の戦力の半数、このまま我々親衛隊が頂く』

 

「ハッ!」

 

ハイドレーヒ大将は最後にそれだけ命令しホロ通信を閉じた。

 

このアデルハード艦隊突然の内乱と離反は全て親衛隊の、親衛隊情報(FFI)の工作によるものだ。

 

親衛隊情報保安本部(FFISO)の下位組織に位置するFFIはアデルハード艦隊の中に第三帝国に亡命したいと考える者達がいることを察知しハイドレーヒ大将の命令で彼らと接触した。

 

FFIは同じ下位組織の親衛隊保安局(FFSB)と協力し離反の為の特殊作戦を立案した。

 

FFISOが提出した離反支援作戦はシュメルケ元帥によって選定された部隊によってついに今日、実行に移されたのだ。

 

この作戦は国防軍もましてや大セスウェナ軍も知らない。

 

裏切られると思っていなかったアデルハード総督の衝撃は相当であるしレジスタンス艦隊にとっても予想外の出来事だった。

 

何も裏の事情を知らない者達は一体今何が起こっているか全く分からなかった。

 

「離反部隊のほぼ全てがハイパースペースへとジャンプし目標地点に向かっています。残りは殿の艦隊と我々だけです」

 

乗組員がクーリズ准将に報告し准将も「ではまず殿部隊を先にジャンプさせろ」と命令した。

 

残された数隻の軍艦を守るように親衛隊艦隊が前進し攻撃を喰らわせる。

 

既に多くの艦が撃破されたアデルハード艦隊の反撃能力は低く第336機動部隊にとってはなんのダメージもないに等しかった。

 

殿の部隊がハイパースペースへジャンプし第336機動部隊も退却を始めた。

 

既にアデルハード艦隊は混乱して態勢が崩れており大セスウェナ艦隊も突然の事に驚きを禁じ得なかった。

 

「敵艦隊の離反を手引きしたのか…?それも前々から作戦を立てて……」

 

『アデルハード艦隊の半数が……いや既に失われた艦も合わせればもうそれ以上が…………このままでは…!』

 

クリフォードの危機は既に当たっていた。

 

この気を逃さずレジスタンス艦隊は退却を始めた。

 

既にアデルハード艦隊に封鎖能力はなく今が絶好のチャンスだった。

 

「スターファイター隊急げ!残りの艦にありったけの火力を向けて退路の穴をこじ開けろ!その間に離脱出来る艦は急いで離脱しろ!」

 

メルクローラーⅡが先頭に立ち残りの敵艦に何十機ものスターファイターが突っ込んでいく。

 

魚雷やミサイルをありったけ撃ち込み、離脱しようとするCR90やブラハットク級も火力を押し当て他の艦がより楽に離脱出来るよう支援した。

 

レジスタンス軍の撤退が始まろうとしていた。

 

いやもう始まっている。

 

何隻かの艦船はハイパースペースへとジャンプしアノート宙域への帰路に着き始めていた。

 

このままではトレークス達が踏ん張ってきた意味がない。

 

ましてや作戦事態が瓦解してしまう。

 

「レジスタンス艦隊!後退していきます!」

 

「少将!ご命令を!」

 

「こうなったら一隻でも多くの敵艦を屠れ!少しでも敵にダメージを当たるんだ!」

 

トレークスはヤケクソじみた命令を出した。

 

もうこの状況をどうにか出来る戦力をトレークスはお持ち合わせていない。

 

辛うじて残っているアデルハード艦隊の封鎖網も後数十分、数分もすれば全壊するだろうしトレークスの小艦隊とクリフォードの機動部隊では代わりを務める事は出来ない。

 

少なくともレジスタンス軍を撃退することには成功したがこのままでは大きな戦果は挙げられず第三帝国の命令に従ってアノート宙域の侵略に加担さぜるを得なくなる。

 

そうすれば後から入ってきた第三帝国が何をするか分からないし何より第三帝国の侵略作戦の為にセスウェナの民を戦地に送り出す事はなんとしてでも避けたかった。

 

「なんとしてでも…!」

 

「少将!後方から!!」

 

通信士官は喜びの声音と共にトレークスに声を掛けた。

 

トレークス達がレジスタンス艦隊に圧力をかけていた事により辛うじて“間に合ったのだ”。

 

「“()()()()()()()()()()()”」

 

奇跡とは起こるのだとトレークスはその時思った。

 

彼らの背後から一斉に何十、何百隻の軍艦がジャンプアウトする。

 

全て味方の、全てドーラから駆けつけた大セスウェナと国防宇宙軍だ。

 

その中に一隻のインペリアル級なれどどこか異彩を放つ軍艦がいる。

 

これこそ“エグゼキュートリクス”、ターキンの乗艦だ。

 

エグゼキュートリクス”から命令が出される。

 

「全てのセスウェナの敵を駆逐せよ」と。

 

 

 

 

 

ガレルの酒屋の前に密かにストームトルーパーと保安局員が集まっていた。

 

監視中だった2名の保安局員からの定期連絡が途切れ安否を確認する為にまず一個分隊ほどの保安局員とストームトルーパーが送り込まれた。

 

当然2名の保安局員は死亡しておりトルーパー達は協議した結果部隊を更に集めて酒屋に突入する手筈となった。

 

狙撃兵もいる可能性があるのでスカウト・トルーパーや工兵によるシーカー・ドロイドの偵察も行い万全を期して突撃を行おうとしていた。

 

既にシス・エターナルの移動は完了し考慮すべき事は何もない。

 

軍曹のポールドロンをつけたストームトルーパーが部下達に指示を出し酒屋の周辺を取り囲んだ。

 

軍曹の合図で近くに彼の部下のストームトルーパーが集まる。

 

『ユニット2-32配置につきました』

 

『ユニット2-33同じく配置についてます』

 

分隊を構成する各隊から報告を受け軍曹は命令を出す。

 

「30秒後突入する、各隊は突入を援護せよ」

 

『了解』

 

『了解』

 

指示を出した30秒のうちにストームトルーパー達は装備の最終チェックを行い突入の決意を固めた。

 

装備を完璧に整えたストームトルーパー3人が軍曹の側により軍曹は突入の秒数を指で数えた。

 

人差し指が折られた瞬間軍曹が突入の合図を出した。

 

軍曹を先頭に4人のストームトルーパーと数人の保安局員が酒屋に突っ込み乱暴にドアを開けた。

 

「動くな!」

 

酒屋の店主やドロイド、何人かいた客に銃口を向け全員を立たせ身をチェックする。

 

後から回り込んでいたストームトルーパー達も突入し軍曹達に加わった。

 

「一体なんなんですか!?」

 

店主は彼らに尋ねたが保安局員の1人から「黙っていろ!」と怒鳴られ萎縮してしまった。

 

ウェイター・ドロイドもスリープモードにされ入念なボディチェックも行われた。

 

1人の保安局員が上官の保安局員の少尉に駆け寄り報告する。

 

「全員と店内を調べましたがブラスター類、友軍の保安局員を殺害したような武器類は見つかりませんでした」

 

「シーカー・ドロイドも問題なしと言っています」

 

ストームトルーパー達からも同様の報告を受け取り少尉は険しい表情を浮かべた。

 

「貴様、自衛用に武器を所持しているという事はないな?」

 

ブラスター・ピストルを突きつけ少尉は店主を脅す。

 

店主は慌てながら「いえそんなもの持ってません!!」と返答した。

 

「ドロイドにも異常な点は見当たりません。恐らく店内から出た後に行動を起こしたと思われます」

 

「そうか、では捜索隊を市街地に展開するよう要請しろ。敵は恐らく既に外に出たはずだ。我々はこの店の全ての目撃者を尋問する」

 

「尋問!?一体なんの話ですか!!」

 

「うるさい、しのごの言わずに…」

 

少尉が全てを言い切る前に大きな音と少しの振動が彼らに伝わった。

 

少尉や戦闘経験がある軍曹達はこの音に聞き覚えがあった。

 

爆発音だ、それもサーマル・デトネーターのような爆薬を使った爆発音だった。

 

少尉は急いで店から出て周囲の様子を確認した。

 

店から出た少尉から見て右側から大きな煙と炎が上がっているのが見える。

 

そのすぐ後にインペリアル級の司令部から通信が入った。

 

『セントラル・ストリートで抵抗勢力の活動を確認。周辺のパトロール隊及び即応出来る部隊は直ちに現場へ急行せよ』

 

「こちら2-3分隊、了解した。直ちにストームトルーパー隊を急行させる」

 

少尉は通信を返し軍曹を呼び出す。

 

「ここは我々に任せて急いで現場へ急行しろ。スカウトチームも急げ!恐らく店にいたであろう相手は全員そこにいるはずだ」

 

「了解、全隊、現場へ急行する」

 

軍曹に続き分隊のストームトルーパー達と狙撃と偵察の為に待機していたスカウト・トルーパー達が前線へ向かった。

 

少尉は店にいた全員を連行するよう部下に命じながら爆発が起こった方を見つめる。

 

「保安局員を殺したのはただのパルチザンなのか…?だが彼らが追っていたのは…」

 

まだ保安局員としての経験がさほど高くない少尉はそれ以上の想像は出来なかった。

 

それでもこれだけ部下に命じ適切な判断を行えただけで十分だ。

 

尤も少尉が相手にしようとしているのはその判断の更に上をいくだろうが。

 

既に戦闘が行われている中央通りでは多数の死傷者が出ていた。

 

まず爆発により何人かのストームトルーパーが死傷しその後の銃撃戦で更に犠牲者が増えた。

 

無論ストームトルーパー達とてやられっぱなしではなく直ちに反撃を開始した為ガレルのパルチザン達にも犠牲者が出ていた。

 

「今すぐ増援部隊を要請!宇宙軍トルーパーでも地上軍トルーパーでもなんでもいいから寄越してくれ!」

 

アーマーすら着ていない地上軍の中尉がSE-14Cを片手に援軍を要請した。

 

彼はたまたま戦場に居合わせていただけで全く武装出来ていなかった。

 

物陰に隠れながらブラスター・ピストルで味方のストームトルーパー達を援護している。

 

ガレルのパルチザン達は建物の二階や屋上からストームトルーパー達を狙撃する部隊と真正面で戦闘する部隊に分かれて戦っていた。

 

彼らが使うA280CやDH-447スナイパー・ライフル、DH-17ブラスター・ピストルは全てガレルの駐留軍が残していった武器だ。

 

所詮元は民間人のパルチザンは奇襲攻撃を成功させたはいいが敵に立て直しを図る時間を与えてしまった。

 

指揮系統に従い態勢を立て直したストームトルーパー達が乗っていた兵員輸送機の残骸を盾にしながら防戦していた。

 

「チッ!この!」

 

パルチザンの1人がサーマルデトネーターを投げるが逆に起爆する前にストームトルーパーに投げ返されそのパルチザンは爆発に巻き込まれて死亡した。

 

パルチザンが使う武器は全てレジスタンス軍の潤沢なティバナ・ガスを使ったものなので当然ストームトルーパーのアーマーを貫通出来るがやはり練度が違いすぎた。

 

パルチザンは常に正規軍の帝国軍に対し苦戦を強いられていた。

 

「タンクの支援が来たぞ!」

 

SE-14Cを持つ中尉が戦闘しているその場の全ての将兵に大声で告げた。

 

彼の言う通り道の反対側からTX-225 GAVr“オキュパイア”武闘強襲用戦車が10人ほどのストームトルーパーを乗せてやってきた。

 

オキュパイア・タンクの車体に取り付けられたEウェブがパルチザン達に牙を向く。

 

その大火力で逃げ切れなかった3人のパルチザンが肉塊へと変貌しEウェブのブラスター弾はそのまま市街地の建物や壁を破壊した。

 

オキュパイア・タンクは移動しながら車長の|ICAT《インペリアル・コンバット・アサルト・タンク》コマンダーが命令を出す。

 

「前方二階部分、砲撃で吹き飛ばせ」

 

コマンダーの命令によりオキュパイア・タンクの中型ブラスター砲が建物の二階に向けて砲弾を放つ。

 

直撃を受け2階部分は大爆発で吹き飛び中にいたパルチザンもこの建物の住民ごと死亡した。

 

爆風が周囲に飛び散り砂煙が舞い上がる。

 

「歩兵は射撃手以外全員前進!直ちに戦闘に合流せよ!」

 

コマンダーの指示を受けて一斉にストームトルーパーが降りて戦闘に加わる。

 

オキュパイア・タンクもその後をゆっくりとついて行ったのだが数メートル進んだ瞬間タンクが突如下から爆発した。

 

大爆発でコマンダーとEウェブの射撃手のストームトルーパーは吹き飛ばされタンクはそのまま大破し炎に包まれた。

 

「2名負傷!」

 

すぐにストームトルーパーが駆けつけ吹き飛ばされたコマンダーとストームトルーパーを引きずり衛生兵のいる安全地帯まで運んだ。

 

副分隊長の伍長が戦闘していた中尉に「リパルサーリフトに反応する地雷の攻撃を受けた模様です」と報告した。

 

「貴重なタンクが!まあいい…兵士を集めろ!数で敵を!」

 

中尉は狙撃され隣にいた伍長も同じように正確に頭を撃ち抜かれた。

 

「狙撃手がいる!新しいAT-STか装甲車が来るまで二階に登って直接制圧しろ!」

 

更に援軍に来た宇宙軍トルーパーやストームトルーパーに兵員輸送機に乗っていた軍曹が指示し帝国軍兵士達は分散していった。

 

直後、まだ残っていた兵員輸送機の燃料部分に狙撃手が弾丸を撃ち込み更に爆発が広がる。

 

誰の攻撃か分からないパルチザン達はその様子を見て喜びながらも困惑していた。

 

「これでパルチザンの攻撃はもう少し続けられるかな」

 

その狙撃手、フードを被っていたジョーレンは換装式のA280-CFEのスナイパー・アタッチメントを外しアサルト・ライフルモードに切り替える。

 

狙撃ポイントから移動し建物の階段の側まで接近した。

 

丁度地上にいたストームトルーパー達が上がってきたところだ。

 

ジョーレンは相手が反撃出来ない絶好のタイミングを狙ってA280-CFEの引き金を引く。

 

突然敵が現れ弾丸を撃ち込まれた事により4人いたうちの2人が即座に撃ち倒され残りの2人も反撃に出ようとしたがジョーレンの反応速度には敵わず呆気なく撃ち殺された。

 

「上階に敵兵がいるぞ!」

 

再び建物に突入してきたストームトルーパーが仲間に呼びかける。

 

今度の相手は5人、流石に銃撃戦となれば面倒だ。

 

ジョーレンは倒したストームトルーパーがベルトにつけていたサーマル・デトネーターを起動し死体ごと下に投げつけた。

 

普通にデトネーターを投げるだけでは即座に投げ返される可能性があるがこれなら簡単に投げ返すのは不可能だ。

 

離れようとした数人のストームトルーパーを巻き込んでサーマル・デトネーターは起爆した。

 

5人の兵士のうち3人が即死し2人も負傷した為当分ジョーレンを追う事は出来なくなった。

 

更に疎に入ってこようとするストームトルーパーや宇宙軍トルーパーをA280-CFEで何人か撃ち倒しジョーレンは一旦階段から離れた。

 

敵兵を引き付けておくにはこれで十分だ。

 

破壊された窓ガラスから隣の建物に移り屋上から地上のストームトルーパーを何人か狙撃する。

 

「いたぞ!撃て撃て!」

 

ジョーレンに気づいたストームトルーパー達が急いでE-11で撃ち返すが既に物陰に隠れている為1発も命中しなかった。

 

トルーパー達はジョーレンを引き付ける部隊と内部から攻撃する隊に分かれた。

 

パトロール中の部隊が集まってきている為単一の中隊や小隊が到着、と言う事ではなくても兵士の数は足りているらしい。

 

長居しているとAT-ATはともかくAT-STやインペリアル・アサルト・タンクが来てしまうかもしれない。

 

先程オキュパイアを1両撃破したとはいえ全体数から考えればまだまだいるはずだ。

 

「ジェルマンのやつ、しっかり対車両地雷を巻いたんだろうな」

 

インパクトグレネードを建物の下の敵兵に投げつけジョーレンは再び建物の中に入った。

 

既に敵兵が浸透しているようでもう2人のストームトルーパーと鉢合わせてしまった。

 

「敵がいたぞ!」

 

2人のストームトルーパーは叫びながらE-11でジョーレンに向かって発砲した。

 

既に物陰に隠れていたジョーレンはホルスターからブラスター・ピストルを取り出し2丁で敵を銃撃した。

 

一度に2人のストームトルーパーを倒しジョーレンは移動を始めた。

 

建物の中ではストームトルーパー同士、ジョーレンを探している声が聞こえる。

 

「建物から離れて迫撃砲で建物ごと…!」

 

「なんだ!」

 

「クソッ!敵兵だ!ワァッ!?」

 

ジョーレンはしっかりブラスター・ライフルを握り締めながらゆっくりと声と銃声が聞こえた方向へ向かった。

 

あの様子じゃストームトルーパー達は一切反撃が出来なかったのだろう。

 

銃口をしっかり向けながらジョーレンは前に進んだ。

 

曲がり角を進んだ先でジョーレンはその銃口を最も簡単に下ろしてふうっと一息付いた。

 

「ジェルマン……地雷設置は終わったのか?」

 

A180ブラスター・ライフルで敵兵を殲滅していたのはジェルマンだった。

 

完全な奇襲で生き残っていた3人のストームトルーパーを一切の反撃を受ける事なく返したのだ。

 

だがジェルマンはどこか焦っているようだった。

 

「早くこの建物から出よう!ストームトルーパーの迫撃砲兵がこの建物ごと吹き飛ばそうとしている!」

 

今彼らの前の前に倒れているストームトルーパー達も同じことを言っていた。

 

それよりも先にジョーレンにはある音が聞こえた。

 

「ああ……そうだな……伏せろ!」

 

ジョーレンは急いでジェルマンの頭を下げさせた。

 

その直後、建物が大きな振動と爆音に包まれ近くの天井が崩壊した。

 

天井や真横から砂煙が巻き荒れ建物が揺れ続ける。

 

「もう撃ち始めたのか!?」

 

「一回まで降りてドアから出る!行くぞ!」

 

辺りが揺れる中、2人は立ち上がり低い姿勢のまま走り出した。

 

振動と落ちてくる砂煙のせいでうまく走れないがこのままでは迫撃砲を喰らうか天井に潰されるかでどの道死んでしまう。

 

階段を滑り落ちるように降りて急いで近くのドアから建物を抜け出た。

 

「生きてるか!?」

 

「ああ、それと今迫撃砲の弾道が見えた!向こう側の建物だ!突っ切って破壊しないとヤバい!」

 

「合図と共に俺が戦闘に行く!お前は右にサーマル・デトネーターを投げろ、俺は左に投げる!」

 

ポーチからサーマル・デトネーターを取り出し指で数を数える。

 

3、2、1、ジョーレンが走り出しジェルマンもそれに続く。

 

2人が大通りに出た瞬間、それぞれ左右にサーマル・デトネーターを投げた。

 

2人に敵兵が気付いた時にはもう遅い、左右両方で大爆発が巻き起こり2人を追うのに時間が掛かってしまった。

 

その間にジェルマンとジョーレンは急いで迫撃砲陣地まで接近する。

 

護衛のストームトルーパーと宇宙軍トルーパーが数人2人にブラスター・ライフルで銃撃したがすぐ反撃され蹴散らされた。

 

「このまま建物を登る!」

 

ジョーレンの合図でベルトにつけていたアセンション・ケーブルをブラスター・ライフルに取り付け建物の壁に向けて発射する。

 

2人は物凄い勢いで壁を駆け上がった。

 

これもイセノの戦いの前にジョーレンがアセンション・ケーブルによる建物の壁の踏破法を教えてくれたお陰だ。

 

壁を駆け上った2人はその勢いのまま迫撃砲がある屋上へと着地した。

 

突然人が現れた事により迫撃砲兵や護衛のストームトルーパー数人は唖然としていた。

 

だがそれが命取りとなる。

 

ジェルマンとジョーレンの制圧射撃でトルーパーは全員撃ち倒され迫撃砲の脅威は去った。

 

「迫撃砲制圧完了!」

 

「そして左100メートル地点からAT-ST!」

 

ジェルマンの一息ついた報告からすぐにジョーレンの緊迫した報告が付け加わった。

 

どうやら地表にいるパルチザンを相当しているようでこちらには気づいていない。

 

「迫撃砲で潰すぞ!」

 

砲の位置を変えAT-STに砲口を向ける。

 

ジェルマンが砲弾を手にしジョーレンに渡す。

 

距離的にこのまま撃ったとしても問題はないはずだ。

 

「ある弾全部使え」

 

「分かった!」

 

まずジョーレンはジェルマンから受け取った砲弾を迫撃砲の中に入れた。

 

ポンッという音と共に砲弾が飛び出し運よくAT-STに命中する。

 

表面装甲が大きく破壊され足取りも一瞬止まった。

 

「効いてる、どんどん寄越せ」

 

次々と砲弾を撃ち、AT-STや周りの随伴兵も纏めて攻撃した。

 

2、3発迫撃砲を喰らった辺りでAT-STは力尽きたように斃れ周りの兵士も全滅した。

 

「スカウト・ウォーカー撃破」

 

これで歩兵最大の脅威は去った。

 

だが今の連続砲撃で迫撃砲が制圧されたことがバレてしまった。

 

すぐにストームトルーパーや宇宙軍トルーパー達が集まってくる。

 

「あそこだ!撃て!」

 

再びE-11の銃弾が彼らを横切り掠める。

 

「厄介な連中め!」

 

ジェルマンは最後に持っていた迫撃砲を叩き敵兵の一団に投げつけた。

 

その衝撃で爆弾の代わりとなった砲弾はすぐに爆発し敵兵の掃討に役立った。

 

「また地表に降りる!」

 

迫撃砲を蹴り倒し建物の屋上から落とすとジョーレンは移動を始めた。

 

ジェルマンもジョーレンに続き再び地上に戻った。

 

「戦闘はまだ続いてるのかな」

 

「ああ、だがそろそろ退き時だろう。多分大隊や中隊クラスの部隊が展開され始める」

 

これほど派手にやったのだから今頃もはや小隊や分隊程度を送るだけでは済まなくなる。

 

確実に潰そうと重装備を持った中隊や大隊が現れるだろう。

 

いくら市街地戦の利がパルチザンにあるとしてもそれほどの大部隊相手では全滅は必須だ。

 

「おーい!あのウォーカーをやったのはあんた達か!?」

 

建物の影から2、3人のパルチザンと思われる男達が現れた。

 

手を振りこちらに接近しようとしている。

 

「助かった!あれのせいで後一歩で死ぬところだった!」

 

彼らはそれぞれ礼を述べジェルマン達に微笑みかけた。

 

だがジェルマンやジョーレンから送られた言葉は彼らとは対照的に緊迫感のあるものだった。

 

「伏せろー!!」

 

ずっとパルチザン達ではなく上空を眺めていたジョーレンは急いでジェルマンと共にその場にうずくまった。

 

「え?」

 

パルチザン達は言われたことの内容や意味を理解出来ず伏せることなく黄緑色のレーザー弾と砂煙の中に消えた。

 

直後ジェルマンとジョーレンの側にも爆風が巻き上がったが辛うじて負傷することなく済んだ。

 

悲鳴のような音と共に爆風を生み出した元凶である帝国軍のTIEブルートは飛び去っていった。

 

だがきっとすぐに戻ってくるだろう。

 

「先に航空支援を出してきやがった!!建物に隠れるぞ!!このままじゃあ100%助からん!」

 

2人は急いで立ち上がり再び近くの建物に避難した。

 

ジェルマンは一瞬だけパルチザン達がいた場所を見つめた。

 

そこには目を背けたくなるようなものが転がっており彼らの末路は悲惨なものだと認識した。

 

心の中ですまないと呟き再びレーザー砲の射撃を喰らわないよう隠れた。

 

「警戒中のTIEがすぐに駆けつけてきやがったか!もっと掛かると思ってたんだがな…!」

 

「僕とジョーレンのどっちかが囮となってその間にどっちかがグレネードを奴に叩き込もう。コックピットかエンジンに命中すればライフルようのでも問題ないはずだ」

 

A180にグレネードランチャーを装着し通りをレーザー砲で爆撃するTIEブルートに狙いを定めた。

 

「よしならどっちも囮でどっちも攻撃手だ、俺かお前に敵が喰らい付いたらその隙にに方向からグレネードを叩き込む」

 

ジョーレンもA280-CFEにグレネードランチャーを装着しまずジョーレンが大通りに出た。

 

当然敵のTIEブルートもジョーレンに気づき狙いを定める。

 

その間にジェルマンも通りに出てTIEブルートに狙いを定めた。

 

TIEブルートがジョーレンを撃とうとする中ジェルマンとジョーレンは既に引き金を引いていた。

 

放たれたグレネードはエンジンとコックピットそれぞれに命中しコントロールを失ったTIEブルートはそのまま近くの建物に墜落した。

 

小爆発が起こりTIEブルートは完全に沈黙する。

 

「重ファイター撃破!だが今度はインターセプターが来てる!」

 

ジェルマンの報告通り反対側から物凄い速さでTIEインターセプターが接近していた。

 

再び伏せて砲撃を躱そうとする中1発たりとも黄緑色のレーザー弾がTIEインターセプターから放たれることはなかった。

 

どこからともなく放たれた赤いレーザー弾がTIEインターセプターを撃破したのだ。

 

「赤のレーザー…ジョーレン!」

 

「ああ!潮時ってことだ!」

 

帝国軍のスターファイターのレーザー弾は基本的に黄緑色、そして赤いレーザー弾のスターファイターは理論上このガレルには“2機”しかいない。

 

姿を隠す衣を剥がし2機のスターファイターが姿を表した。

 

ラクティスのXウィングとウェクスリー少尉が操縦するUウィング。

 

ジェルマンとジョーレンを迎える為に現れたのだ。

 

「スナップ、地上の2人を回収しろ。支援は俺がなんとかする」

 

『了解中佐!』

 

Uウィングが地表に急行し空中に残ったのはラクティスのT-70 ステルスXウィングのみとなった。

 

折角だ、このT-70の性能を試そうじゃないかとラクティスは機体のペダルを踏み速力全開で航空支援を行おうとする周辺のTIE部隊に割って入った。

 

全翼のSフォイルに取り付けられたテイム&バック社製の試作レーザー砲の威力が試される。

 

一瞬で頑丈なTIEブルートを爆炎に変え更に連続して敵機を撃墜する、

 

「いい火力だ!」

 

また別の1機を撃墜しながらラクティスはそう喜んだ。

 

並のXウィングのKX-9レーザー砲とは威力がまるで違う。

 

調節も楽でしかも衝撃も少なかった。

 

「今度は隠し球の出番だ」

 

操縦桿から機体を操作し機体下部のブラスター砲で地上のストームトルーパー達を狙撃する。

 

ばら撒かれたブラスター砲が数人のストームトルーパーに直撃し即死させた。

 

対歩兵用として思いの他便利だ。

 

再び空へと向かい迫り来るTIEインターセプターやTIEブルートを返り討ちにする。

 

このT-70 Xウィングはプロトン魚雷が8発も装填出来る便利な代物だ。

 

簡易的な爆撃機にもすぐ変貌出来るしスターファイターとしても申し分ない戦闘力を持っている。

 

更にラクティスの操縦技術がこの新型のXウィングをより脅威的なものへと変貌させた。

 

今のラクティスに空戦で勝てるものなどそうはいないだろう。

 

「いいぞ!最高だ!」

 

航空支援を行おうとするスターファイターは皆撃墜されたかラクティスを追ってその任務を放棄した。

 

地上からは圧倒的な勢いで敵兵を薙ぎ払うラクティスのXウィングの姿が見えた。

 

悠々自適に空を舞い敵を蹴散らすその姿は正に反乱軍から続くレジスタンス軍の紋章である伝説の鳥(スターバード)を彷彿とさせた。

 

星々を征く鳥は自由を齎しやがて銀河を解放し救うのだ。

 

その魁となる機体がこのXウィングでもある。

 

ラクティスが無双に近い戦い方をする姿は階段を登り屋上まで辿り着いたジェルマンとジョーレンにも見えていた。

 

「流石レジスタンス軍のパイロットだ。殆ど敵うものなしだ」

 

ジェルマンも微笑を浮かべながら頷いた。

 

すると彼らの前にUウィングが停泊しハッチが開く。

 

スタトゥラ少尉が2人に手を差し伸べ「登ってください!」と伝えた。

 

「行こう」

 

「ああ、ガレルとはこれでおさらばだ」

 

2人はUウィングに乗り込み機体は徐々に浮上した。

 

Uウィングは最大速度で大気圏を離脱しようと進んだ。

 

その近くをラクティスのXウィングも飛んでいた。

 

彼が周辺のTIEを殆ど撃破してくれたおかげで空中で殆ど戦うことなく大気圏を離脱出来た。

 

『クローキングを作動する。こっちと合わせて一気に離脱するぞ!』

 

「了解!」

 

XウィングとUウィングがそれぞれクローキング装置を作動し肉眼での視界からもセンサーからも姿を消した。

 

これで軌道上のインペリアル級やスターファイター隊が捜索を始める頃にはもう彼らの居場所は分からず終いとなってしまう。

 

『座標をコフリジンⅤに合わせろ。ひとまずそこに友軍艦が待機している』

 

「了解、座標をコフリジンⅤへ」

 

2機のスターファイターが透明なままハイパースペースへと入った。

 

こうしてガレルからレジスタンス軍の生存者は誰1人いなくなった。

 

生存者と救出者の全員が無事帝国の支配下から脱出出来たのだ。

 

多くの情報と共に。

 

 

 

 

 

 

インペリアル級の合間からエグゼクター級“リーパー”がその火力を惜しみなく発揮する。

 

後退する艦隊の離脱を支援するMC80やスターホーク級がなんとかその火力を受け止めようとしているがやはり限界があった。

 

何隻もの主力艦が既に大破し航行不能になって退艦、もしくはその場で撃沈していた。

 

コルサントの解放、マジノ線、ラクサス攻略の時と同じように“リーパー”は容赦のない正確な砲撃を次々と打ち出していった。

 

その圧倒的な火力を前にレジスタンス軍は耐えるしか方法がなかった。

 

オイカン大提督は頑丈な突撃型の防衛線を展開し防御と攻勢を両立させていた。

 

スターファイターによる爆撃行動を行おうとしてもそれは無意味だった。

 

「各機編隊を崩すな!今度こそ爆撃を敢行するぞ!」

 

YウィングやBウィングの爆撃部隊が護衛のAウィングやXウィングと共に“リーパー”へ突進する。

 

しかしそこに妨害者が現れた。

 

突然1機のYウィングがあらぬ方向からレーザー砲を喰らい撃墜されたのだ。

 

「なんだ何があった!?」

 

一旦部隊は散開し警戒にあたるが今度は護衛のAウィングが撃墜され更にXウィングやBウィングも餌食となった。

 

部隊長のBウィングの前を何機かの黒い物体が通る。

 

刹那、物体の進んだ後には爆発とスターファイターの機体の破片が漂っていた。

 

「チッ!まさか!」

 

部隊長は歯噛みし周辺を警戒する。

 

すると全域に通信が掛かった。

 

それも敵側のスターファイター隊からだ。

 

『レジスタンス軍に告げる、今すぐ尻尾を巻いて逃げ出した方がいい。私はシア・ハブリン元帥(Air Marshal)、お前達の機体を1機残らず“()()”してやる』

 

この通信は1機のTIEディフェンダーから放たれていた。

 

シア・ハブリン、その名はレジスタンス軍には広く知れ渡っている。

 

ウエスタン・リーチ平定戦に参加しその後多くの反乱軍との戦いに参加してきたエースパイロット。

 

彼の半生はドラマにまでされ絶対的な英雄として扱われてきた。

 

負傷してからもハブリン元帥は戦い続け彼は“反乱の破壊者(The Rebel Destroyer)”と呼ばれていた。

 

ハブリン元帥は見事にTIEディフェンダーを操り敵機を1機残らず撃破していく。

 

部下の正式採用されたTIEストライカーも見事な連携でレジスタンス軍スターファイター隊を阻んだ。

 

特にハブリン元帥の戦いぶりは正に一騎当千といった有様で僚機と合わせてスターファイター隊の半数を撃破していた。

 

「“リーパー”と“エグゼキュートリクス”に近づけさせるな、彼の方を全力でお守りしろ!」

 

『了解!』

 

『了解!』

 

3機のTIEディフェンダーが編隊を組んで再びレジスタンス軍の戦列を崩しに飛び回った。

 

その様子は“リーパー”のブリッジでも確認されていた。

 

「攻撃に出たレジスタンス軍のスターファイター隊はセスウェナ軍のスターファイター隊に防戦され思うように攻撃が行われていません」

 

「流石は反乱の破壊者…しかしハブリン元帥がセスウェナにいるのは確認していましたがまさかTIEディフェンダーまであるとは」

 

ザーツリング少将はふとそう呟いた。

 

だいぶ前からハブリン元帥が大セスウェナ連邦のスターファイター隊を指揮している事は知られていた。

 

彼の教育した部隊が幾つかの紛争に介入していることもだ。

 

だがTIEディフェンダーを保持していたと言う記録はなかった。

 

大セスウェナ連邦の軍事パレードでも確認されていなかった機体だ。

 

()()()()()()()()”。

 

「やはりセスウェナを第三帝国領として組み込むのは無理だったと言う話だ。グランドモフの権限で釣ったはいいが今やその権限で半独立性を維持している」

 

「やはり第三帝国にとってセスウェナは危険です」

 

バルシュンテル少将はオイカン大提督に進言する。

 

彼の危惧はある種当然だろう。

 

「だが今セスウェナをなんらかの理由をつけて捜査すれば間違いなくセスウェナは第三帝国を離れ我々と戦うことになる。“()()()()()()()()()()()()()”、それは恐らく以前の帝国の時から変わらない」

 

故にグランドモフターキンがいたからセスウェナは常に帝国であり続けた。

 

第三帝国も同じであると踏んだのだろうが、恐らくあの若いターキンやエリアドゥ、セスウェナの者達が第三帝国に抱いている疑念がそうさせなかったのだ。

 

そしてその疑念は半ば当たっているのだろう。

 

「それにセスウェナは第三帝国にとって十分有益だ。攻める理由は見当たらない」

 

オイカン大提督はブリッジのビューポートから反対側で戦闘する“エグゼキュートリクス”を眺めながた。

 

今思えばあの若いターキンを庇うような言動が多いのはやはり彼らの真っ直ぐさが原因だろうか。

 

いざとなれば第三帝国とすら立ち向かえそうな気概とあの意志の強さ、それでいてあの歳で獲得したとは思えないカリスマ性。

 

ターキンの血を引く者は頼もしくもありやはり恐ろしくもある。

 

だから親衛隊やCOMPNORの一部のメンバーはセスウェナを疑っているのかも知れない。

 

尤もその雰囲気は国防軍とて例外ではないが。

 

「敵艦隊は間も無く全艦艇がジャンプを始めるはずだ。追撃の準備を各艦に伝えろ」

 

「了解」

 

オイカン大提督は相手の動きを予測し的確に指示を出す。

 

相手は引き際を心得ているようだが十分な打撃は与えたはずだ。

 

このままアノート宙域に侵攻しまず橋頭堡と突破口を確保する。

 

その時今のように大セスウェナと共闘出来るかは分からないがその時はマラステア派遣軍をぶつければいいだけの話だ。

 

オイカン大提督は職業軍人として私情や思慮を押し殺し任務に徹した。

 

それは戦闘中のヘルムートも同様であった。

 

彼は“エグゼキュートリクス”のブリッジから冷静に戦況を見極めていた。

 

「敵艦隊はまもなくハイパースペースに入るな。それにオイカン大提督は追撃を仕掛けるだろう」

 

「どうしてそのようなことが?」

 

マルスはヘルムートに尋ねた。

 

「我々が到着した段階でレジスタンス艦隊はもう退却するつもりだったはずだ。我々の包囲を受け後退戦をせざるを得なくなっただけで隙があれば全軍で戦場を脱したいはずだ」

 

元よりアノート宙域のレジスタンス軍の敵はアデルハード総督であってセスウェナではない。

 

あくまでも状況的にセスウェナは偶発的に巻き込まれただけだ。

 

どのような背景があろうとその事実は変わらない。

 

だが大セスウェナとしては領域を守ると言うことで兵を展開する理由としては十分であった。

 

アノートへの直接侵攻はオイカン大提督達に任せておくとして後方の軍政や残党の掃討活動はセスウェナとて協力せざるを得ないだろう。

 

だがヘルムートとしては第三帝国に任せておくよりはそちらの方がいいと今は考えていた。

 

第三帝国に直接何かを与えるのは危険過ぎる。

 

与えたものや与えた場所で何をするか想像するのは容易い。

 

「国防軍も流石ですがやはりあなた方の軍隊は違いますわね。演習通り、むしろ演習以上の練度を誇っていらっしゃいますわ」

 

クラリッサは微笑を浮かべながらヘルムートに感想を述べた。

 

「ケッセルの指導者にそう言って頂けるのは幸いです。我々とてただずっと新共和国や第三帝国の顔色を窺ってきた訳ではないので」

 

「このまま追撃戦まで拝見させてもよろしくて?」

 

「どうぞ、と言っても積極的に戦うのは国防軍の方でしょうが。ハブリン司令官とスターファイター隊を戻せ、追撃出来る体勢を構築する」

 

「了解」

 

何百機のTIEストライカーやTIEファイターが母艦に帰還を悟られないよう戻り始める。

 

レジスタンス軍のスターファイター隊は相当疲弊しておりもはや追撃出来る状況ではなかった。

 

大破した何隻かのMC80やMC75、スターホーク級などの大型主力艦を盾にしながら放棄し動ける全てのレジスタンス艦艇が壊滅したアデルハード艦隊の合間からハイパースペースへジャンプした。

 

レジスタンス軍にとってもはやこれ以外の選択肢はなかった。

 

この宙域での戦いにレジスタンス軍は敗北したのだ。

 

そしてセスウェナと帝国宇宙軍の連合艦隊が勝利した。

 

だがこれはほんの前哨戦に過ぎない。

 

()()()()()()”。

 

「ハイパースペース・アクティブ追跡装置を作動、補足した艦隊の足取りを可能な限り確認せよ。大伯父の遺品、ありがたく使わせてもらう」

 

かつてターキン・イニシアチヴが理論を形成していたハイパースペース追跡装置、このセスウェナの地でも理論を形にする絶え間ない努力がなされていた。

 

元よりターキン・イニシアチヴは名前の通りウィルハフ・ターキンが設立したシンクタンクだ。

 

その為銀河内戦の末期には多くのターキン・イニシアチヴのスタッフや研究員、科学者達がセスウェナとエリアドゥに逃げ込んできた。

 

彼らとエリアドゥの豊かな資本がこの追跡装置を第三帝国とはまた別の形で開発に成功した。

 

「予測を掴み次第報告を、“リーパー”の方にも情報を提供する」

 

「よろしいのですか?」

 

ダック艦長はヘルムートに尋ねた。

 

「構わん、こちらが何を使ったかはもう分かっているはずだ。なるべく早く大部隊で追撃を可能にする、今のうちに各艦、各隊補給を。パイロットや砲手も交代交代で休憩を取れ」

 

「了解、伝達します」

 

「特にトレークスの小艦隊は優先的に後方に回せ、次点でクリフォードの機動部隊だ。先行部隊はよくやってくれた」

 

アデルハード艦隊の予想外の動きで彼らには本当に大きな負担を掛けてしまった。

 

結局相手を利用するこの陰謀詐術めいた作戦は逆に相手に利用され無理やり戦いに巻き込まれる形となった。

 

それがアデルハード総督であれ親衛隊であれ国防軍であれ結局良いように利用しようとして利用されたのは我々だった。

 

向いていないと言うことなのか単に因果応報なのか結果だけ見れば誰にも分からない。

 

少なくともレジスタンス軍と戦いポーズを取ると言う当初の目標には成功したがそれ以上に利用された気がする。

 

それが結果的に先祖の領域を守り、発展に寄与出来るなら由としよう。

 

だがそうではないのなら…。

 

「……クラリッサ殿、マルス殿、少し時間を頂けますか」

 

ヘルムートは2人の名前を呼んで問いかけた。

 

クラリッサは首を傾げ「まあ良いですが…」と了承した。

 

マルスもクラリッサが行くならと頷いた。

 

「艦長、“オルタネート”にいるおじ上に伝えておいてくれ。ホロ通信で会議を開きたい」

 

「はい、分かりました」

 

「一体なんの話をするおつもりで?」

 

クラリッサはヘルムートに問い詰めた。

 

するとヘルムートは微笑を浮かべこう答えた。

 

「我々の“()()”のことですよ」

 

彼の微笑には哀しみのようなものも混ざっていたしどこか希望のようなものも混ざっていた。

 

それが彼らの歩む未来の暗示だと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー イリーニウム星系 惑星ディカー レジスタンス軍最高司令部-

ジェルマンとジョーレンがガレルで生存者を救出したことはすぐにディカーのレジスタンス軍司令部にも行き渡った。

 

丁度この時の司令部はセスウェナ軍との戦闘で受けたアノート宙域の損失について話し合っており雰囲気がとても暗い中だった。

 

その為彼らの報告は小さな事ではあるが司令部の幕僚達の表情に笑顔と安堵を取り戻させた。

 

「死傷者はなし、軽傷を負った者もいないようです」

 

「それは何より、今彼らはどこへ行っているのだ」

 

報告を聞いていたディゴール大臣は報告に来た士官に尋ねた。

 

「コフリジンⅤ周辺にいるヤヴィン軍のネビュラ級です。そこに合流すると」

 

あの頑丈なスター・デストロイヤーであれば仮に帝国軍の攻撃を受けてもなんとか退けて離脱出来るだろう。

 

ライカン将軍はどんな事にも確実性を追求する男だ。

 

彼が指揮に加わっているならまず安全性は保たれている。

 

「合流次第ひとまずヤヴィン4へ向かうそうですが」

 

ディゴール大臣は考え込むようなポーズを取った。

 

彼らをこのままなんの任務も与えずヤヴィンに戻すのは頂けない、というより時間が惜しい。

 

特にアノート宙域の損害やモン・カラ方面の危機を鑑みれば尚更だ。

 

彼らには悪いがもっと働いてもらう必要がある。

 

「ソロ将軍の抵抗勢力支援任務はどうなっている?」

 

ミレニアム・ファルコンに乗ったハンとチューバッカと幾人かの特殊部隊員と共に各地の抵抗勢力を支援し教導している。

 

おかげで帝国軍は補給路や駐屯地で無視出来ない被害を被っており戦線の維持に翳りが差し掛かっていた。

 

「今の所自分達だけで問題ないとソロ将軍は仰っていましたが…」

 

「では2人もその任務に……いや」

 

ディゴール大臣は途中で言葉を切り上げ命令を出すのを撤回した。

 

隣で会議に参加していたヴィアタッグ将軍は「どうした大臣?」と声を掛けた。

 

「…各地の特殊部隊や情報部員の位置を知りたい。出してくれるか」

 

ディゴール大臣の要求に答えホロテーブルを操作していた将校がそのまま望み通りの星図を映し出した。

 

銀河各地に展開している地上軍宇宙軍問わずの特殊部隊の位置やスパイなどの情報部員の位置が正確に記されていた。

 

「今命令が入っていない特殊部隊はごく僅かです」

 

「1つだけある、“()()”とバスチル少佐とジルディール大尉らに任せよう」

 

ディゴール大臣は決断し正確な命令を出し始める。

 

「かなり古い軍艦だがアノート宙域へ失った分の戦力を補填出来るだけの戦力がまだ残されている造船所がある。そこにバスチル少佐とジルディール大尉らを向かわせる」

 

すぐにその場所を気づいたヴィアタッグ将軍は「まさか…正気か…?」とディゴール大臣に尋ねた。

 

その場所には確かに今の帝国軍もマークしていないが軍艦が残されている放棄されたクローン戦争時代の造船所がある。

 

だがあそこに残された軍艦は想像以上に古い上にこの戦争でどのくらい役に立つかは全く計り知れない。

 

「ないよりはマシだ。それに最悪バラしてしまえばスターホーク級やネビュラ級の建造に役立てられる」

 

「あの骨董品艦隊を……まあ確かにないよりはマシだが…」

 

「私とて手は出したくないがこの状況下においては仕方ない。直ちにネビュラ級に通達しろ、バスチル少佐とジルディール大尉は補給を受け次第直ちに指定された座標にジャンプし放棄された造船所から武器類を運搬せよと」

 

通信士官が小さく頷き、コフリジンⅤにいるネビュラ急に通信を繋いだ。

 

その間にディゴール大臣は命令を次々と出す。

 

「アノート宙域の司令部に通信を、この情報を伝える。それとバスチル少佐達とは別の特殊部隊にも通信を」

 

「一体どの特殊部隊に向かわせましょうか」

 

幕僚の1人がディゴール大臣に尋ねた。

 

既にディゴール大臣はもう誰を送るか決めている。

 

彼は速やかに部隊名を答えた。

 

「“地獄(Inferno)”……“コルウス”のアイデン・ヴェルシオ中佐に直接繋げ。この任務は彼女の部隊とバスチル少佐達にしか託せない」

 

ディゴール大臣は確固たる意志を含んだ瞳で断言した。

 

過去の遺物でレジスタンスの応急処置を画策する彼らだが彼らはまだ知らない。

 

この任務はシス・エターナルとの新たな戦いの始まりであると。

 

最終決戦に繋がる序章にしか過ぎないことを。

 

この銀河で知っている者がいるとすればそれはたった“1()()”だけのはずだから。

 

9ABY、この第二次銀河内戦はシスの到来を迎えたった1年ではあるが大きく歪曲しようとしていた。

 

 

 

 

つづく




ああ!!眠い!!(眠い)

というわけで眠い中のナチ帝国最新話です!!

眠い!!

すっごい眠い!!


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ボーラ・ヴィオの戦い/前編

「素晴らしき力を持つ者はこの銀河に大勢いる。されど、その力を他者を支配する為に使う者もいれば力を恐れて1人籠る者もいる。前者は悪辣な使い方であるし、後者も最善の判断とは言えないだろう。やがてこの力も時間を掛けて、決まった型や流れに当て嵌められ、その答えが明らかになっていくだろう」
-とあるジダイ・オーダーの古代文書より抜粋-


-アトラヴィス宙域 ムスタファー星系 惑星ムスタファー 衛星ナー-

何十隻ものスター・デストロイヤーが周辺を警戒し地上に部隊を展開している。

 

センチネル級やゴザンティ級、ラムダ級がムスタファーや衛星ナーに展開し地上に調査隊を送っていた。

 

ムスタファーは以前は完全に帝国の支配下にあった。

 

何せムスタファーにはあのダース・ヴェイダーの本拠地があったのだ。

 

衛星のナーにも“()()()()”の尋問官達の要塞があったしムスタファー星系全体が何処となく帝国の闇の部分が残されていた。

 

そんなムスタファーは銀河内戦末期に独立、現地の駐屯隊を撃破しムスタファーリアン達による独立国家を建国した。

 

しかし第二次銀河内戦の訪れと共ムスタファーの独立国家の運命も大きく変わっていった。

 

第三帝国が誕生し新共和国を打ち破るとその魔の手はムスタファーの側まで迫ってきた。

 

第三帝国は一度、ムスタファーへの全面侵攻を計画した。

 

軌道上爆撃やウォーカーを用いた凄惨な殲滅戦を計画し一一時期はその為の遠征軍まで選び始めていた。

 

だが事前に計画を察知した大セスウェナはこれを阻止する為に行動を起こした。

 

第三帝国によるホロコーストの内容を掴んでいた大セスウェナはこの侵攻を阻止しなければと考えていた。

 

一度戦闘が始まれば血に飢えたあの国はムスタファーに済むムスタファーリアンを1人残らず殺し尽くすまで戦いをやめないだろう。

 

その為大セスウェナはムスタファーの独立とムスタファーリアンによる民族自決を尊重する代わりに大セスウェナ連邦への加盟を促した。

 

事実上第三帝国の属国である大セスウェナ連邦へ加盟すれば第三帝国は大っぴらに手出し出来なくなる。

 

そもそも戦う事なくムスタファーとムスタファーが属するアトラヴィス宙域が手に入るのだからそれで十分なはずだ。

 

ムスタファーリアン達としても第三帝国は脅威に感じていたし大セスウェナの比較的穏健な統治と加盟国への態度を間近で見ていたので大セスウェナに加盟する事を認めた。

 

こうして大セスウェナ連邦の一員となったムスタファーは第三帝国の侵略を受ける事もなかったしヘルムートのグランドモフの権限によってムスタファーの中に収容所が建てられる事もなかった。

 

その為今調査隊としてムスタファー星系に展開している艦隊も全て大セスウェナのものである。

 

調査隊は無事にムスタファーとナーへ上陸し調査を開始した。

 

特にナーの調査では早速驚くべき事が発見された。

 

その一報はテントで調査隊の指揮を取る保安局員のリエース・オスナン司令官の下に届けられた。

 

「司令官殿、大変です!“()()()”!“要塞内部に安置されているジェダイの遺体がありません”!」

 

司令官は立ち上がり絶句した。

 

この要塞には以前から粛清されたジェダイの遺体が安置されているのではないかと噂されていた。

 

元々尋問官はジェダイ狩りを主としたエージェント達であり帝国軍を指揮する事もあったのでその過程で噂が誕生したのだろう。

 

だが銀河内戦の混乱でコルサントのISB本部に残されたジェダイ狩りに関する資料が幾つか消失し、或いは持ち出された。

 

その過程で大セスウェナはこの噂が真実である事を認知した。

 

長らくムスタファーとの関係で調査は行えなかったしそんな余力もなかったが今がチャンスだった。

 

そしてその過程で今、驚愕の真実が発覚した。

 

「私が直接この目で確かめる。技術班には直ちに施設内の監視映像の復元を急げ!仮に持ち出されたとしたら必ず犯人がいるはずだ」

 

オスナン司令官は副官と報告に来た士官と共に要塞の中へ入った。

 

周りには多くの技師官やストームトルーパー、白服の制服を着た保安局員など様々なセスウェナの将兵がいた。

 

彼らに「ご苦労」と時折労いの言葉を掛けながら目的の場所に向かった。

 

この要塞はムスタファーリアンや新共和国軍の攻撃を受けていないのにも関わらずあちこち損傷していた。

 

しかし不思議なことに明らかに戦闘して出来た損傷ばかりなのにも関わらず、兵士の遺体のようなものは一つも確認されていなかった。

 

「こちらです」

 

士官に案内されオスナン司令官は遺体があるとされていた要塞内の廊下に辿り着いた。

 

すでに何人もの士官と技師官とストームトルーパー達が集まっており不思議そうに中を覗いたり機器類をチェックしていた。

 

明らかに何か入っていたようなカプセルの中は真っ暗で液体のようなものも見受けられない。

 

「確かに遺体はない……だが本当に遺体はあったのか……」

 

「分かりません、技術班の解析を待つばかりですが…」

 

もしかするとここではない場所に移送された可能性もある。

 

一通り見回りオスナン司令官は一旦指揮所のテントに戻ろうとした時副官が何かを掴んだのか彼に報告した。

 

「司令官、技術班が要塞内に残された映像を一部復元したとのことです」

 

「なんだと?それは本当か」

 

「はい、こちらのディスプレイに出します」

 

副官が取り出したディスプレイに技術班が復元した監視映像が映し出された。

 

まだ画像は荒いが画面の右下に映像が撮影された年が書かれていた。

 

固定カメラ故に映像は全く動かないが上から見下ろす形で今オスナン司令官達がいる通路を映し出している。

 

映像はずっと武装した何人かのストームトルーパーや士官が集まりバリケードを作って通路に立て篭もろうとしている場面が映し出されていた。

 

この当時はまだカプセルの中に何かが入っているようでそれは殆どが人の形をしており、何人かの技術者のような人物は中に入っているジェダイと思われる遺体を取り出そうとしていた。

 

だがそうなる前に一気に事態は急変する。

 

突然雷のような爆発がバリケードを打ち破り、バリケード近くにいたストームトルーパーや士官を感電死させた。

 

バリケードの残骸が飛び散り一気に煙が蔓延する。

 

若干見えにくくはなったがそれでもストームトルーパーや士官の輪郭はくっきりと見え、銃撃戦によるブラスター・ライフルの光弾もはっきりと見えた。

 

だがトルーパー達の抵抗虚しく直後、煙の中から放たれた電撃により通路にいたストームトルーパー達のほぼ全てが感電死してしまった。

 

辛うじて生き残った者もすぐに次の電撃が放たれ数秒も経たないうちに全身を雷に襲われ全員が死亡した。

 

「何者だ、この人物は」

 

オスナン司令官は副官に尋ねた。

 

だが当然副官はそんなこと知る由もなく「分かりませんが現在画像解析班が調査中です」と的確に報告した。

 

映像はまだ続き電撃を立て続けに放った人物の姿が現れる。

 

真っ黒なフード付きのローブで全身を覆い背後にそのローブとほぼ同じ物を着た集団を引き連れながら何か指示を出す。

 

指示を受け取ると背後の追随者達は分散し遺体が収納されているカプセルに近づいた。

 

スイッチを押し中の液体を抜き、遺体を取り出し始めた。

 

すでにこの時点でこの要塞からジェダイの遺体を盗み出した犯人が発覚した。

 

だがそれと同時に完全に復元されていない映像はここで途切れてしまった。

 

「映像はこれまでです」

 

副官はディスプレイをしまいオスナン司令官と共に立ち上がった。

 

司令官は暫く難しい表情を浮かべながら口を閉ざした。

 

怪訝に思った副官が「司令官?」と彼に声をかける。

 

「いや…今の情報を至急軍司令部かグランドモフヘルムートに届けろ。『要塞内で戦闘があり要塞内の守備隊は全滅、謎の一団に遺体が強奪されていた』との報告付きでな」

 

「了解」

 

「画像解析班には急いでこの映像に映る人物が誰か判別が付くようしてくれと伝えろ。私の勘だが…何か嫌な予感がする」

 

「分かりました」

 

副官や士官達はオスナン司令官の命令を受けて一斉に動き始めた。

 

司令官も副官と共に指揮所のテントに戻ろうとする。

 

ジェダイの遺体、そもそもとうの昔に滅んだはずのジェダイの騎士の遺体が全てここに安置されていたというのが一番の驚きだがそれが実は強奪されていたとは。

 

恐らくあの超人的な技を鑑みてもただの野盗などの類ではないしそもそも野盗程度の連中に帝国軍の守備隊が負ける訳がない。

 

犯人は確実にここにジェダイの遺体がある事を知って襲撃に来たはずだ。

 

なんらかの目的でその遺体を使う為に。

 

一体何に使うのかオスナン司令官には見当が付かなかったがそれでも凄く嫌な予感がした。

 

そしてその予感は当たっていた。

 

ナーから遠く離れたボーラ・ヴィオの寂れた施設ではとある老人が薄気味悪く笑っている。

 

「…もう少し、もう少しだ。蘇る、蘇るぞ“()()()()()()()()()()”!」

 

老人は“()()()”の培養ポッドを見つめながら大声で呟いた。

 

すでに男の周りには何人かのローブを守った“騎士”が佇んでいる。

 

彼ら彼女らを見渡して老人はさらに笑みを深める。

 

「ジェダイ・オーダーは蘇り、我々は“()()()()()()”を建国するのだ。本当の千年帝国を創り出すのはシスでも第三帝国でもない。我々フォースに選ばれたジェダイだ」

 

老人は相当ジェダイに対して強いこだわりがあるようだ。

 

この広間のあちこちにかつて滅んだジェダイ・オーダーのボロボロの旗が掲げられている。

 

まるで亡霊が蘇ったかのような光景だ。

 

「既に鍵となるものは全て揃った。後は時間さえあれば十分だ」

 

老人の帝国にブラスターやウォーカーといった野蛮なものは必要ない、ここから飛び立つ為の舟も簡単に手に入る。

 

老人に一番必要なのは時間だけだった。

 

だが今老人の目の前には厄介な万年来の敵が立ち塞がっている。

 

周囲をスター・デストロイヤーで包囲し、軌道上には大砲を付けたスター・デストロイヤーが静かにこの地を見下ろしている。

 

まずこれを打ち破り、ジェダイの帝国を建国する為の礎としなければならない。

 

だが老人は全く負ける気がしなかった。

 

むしろこのボーラ・ヴィオの戦いこそが新たな弟子の到来となるだろう。

 

「さあ来るがいい、邪悪の使徒よ。我々ジェダイの正義の刃の前に皆ひれ伏すことになるだろう」

 

既にこちらには“()()()()()()()()()()”があるのだから。

 

歪んだジェダイと再び蘇ったシスによる対決が再び始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ハイパースペース内 ジストン級“ピルグリム”艦内-

ジストン級の艦内の構造は殆どインペリアル級やヴィクトリー級、クワット社製品と同じ作りをしている。

 

無機質な外壁やライト、モニターやコンソールの配置に足元には常に数体で纏って動くマウス・ドロイド。

 

常駐している将兵とこの艦の出自に目を瞑れば帝国軍の軍艦とも偽れそうだ。

 

尤も一部の軍艦はディープ・コアの駐留艦隊にいた将校が運用している為完全な偽りではない。

 

シス・エターナル軍は帝国軍が長い間築き上げてきた技術や軍事的なノウハウやドクトリンを多分に含んで誕生した軍隊だ。

 

そういう意味では“()()()()()()”と評しても過言ではないだろう。

 

それにやがてシス・エターナルは全ての帝国の“()()()”となるのだ。

 

シス・エターナル軍はその近衛軍として、戦略軍としての活躍が期待されるだろう。

 

その為に今のうちに経験や戦果を積んでおかなければならない。

 

モン・カラへの進撃やこのボーラ・ヴィオの任務など、シス・エターナルが上に立つにはそれ相応の力を見せつける必要があるのだ。

 

『兵装システムチェックの為、一時的に機能を第二種戦闘配置に切り替える。繰り返す、兵装システムチェックの為、一時的に機能を第二種戦闘配置に切り替える。以上』

 

ピルグリム”の艦内に流れた放送が切れ技師官や砲手、一部のシス・トルーパーは移動を始めた。

 

目的地には後1時間もすれば到着する為、その前に最終チェックを行う必要があるのだ。

 

艦隊戦の可能性は限りなく低いとはいえいざという時に備える必要がある。

 

放送を聞きながら艦内を歩いていたマラ・ジェイドは完全な軍人や軍隊務めではない為そこまで詳しい事は分からないが。

 

「ボーラ・ヴィオまで後少しだ。部隊指揮官はスカイウォーカー卿がするらしい」

 

「言ってはなんだが彼の方を本当に信じられるのか?一度はヤヴィンでデス・スターを破壊した人物だぞ」

 

「だがこれはシディアス卿が直接指示されたことだ。我々はそれに従うしかない」

 

マラ・ジェイドの横を通り過ぎていったシス・エターナル軍の将校達の話し声は当然マラ・ジェイドの耳にも届いていた。

 

今の彼女は通り過ぎていったシス・エターナル軍の将校達と同じ気持ちだった。

 

何故あの男が今回の任務の指揮官なのか。

 

皇帝を殺したのはあの男ではないとはいえ、殺害に協力していた。

 

あの男はジェダイでヤヴィンではデス・スターを破壊しそれ以降の反乱同盟の活動にも深く関わっていたはずだ。

 

そんな人物をいきなりこんな重要な任務の指揮官にしていいのか。

 

いくら絶対服従すべき皇帝の命令とはいえマラ・ジェイドは些かの疑問を持っていた。

 

だがそれと同じくらいあの男、つまりルークが今回の指揮官に値すべき人物だとも思っていた。

 

ルークの力はルーサン、マーカーで見た通り凄まじいなどという言葉では言い表せないほどの技量と力を持っている。

 

それでいて的確な指揮能力があり正に話に聞く“スカイウォーカー将軍の子”に相応しかった。

 

そして何よりこの任務を受け取る時にエクセゴルで一瞬だけ感じたもの。

 

あれは確かにシス卿の暗黒面の力を秘めておりそれを示すかのように彼の瞳は“黄色”に輝いていた。

 

本当に一瞬だけだったがあの瞳はマラ・ジェイドの師であるシディアスと同じでありシス卿の憎しみを込めた瞳だった。

 

「彼は一体……っ…?」

 

マラ・ジェイドが考えようとした瞬間彼女の目線の先の通路にローブを着た半透明の男がすうっとすり抜けていった。

 

幻覚なのかそれともホログラムの故障か、将又フォースの力なのか。

 

その姿はまるで話に聞くクローン戦争時代の“()()()()”のようだった。

 

「あれは……」

 

マラ・ジェイドは不思議に思い半透明の男が通った通路の方へ向かった。

 

確かこの近くにはルークの居住室があったはずだ。

 

もしかするとあの半透明の男はそこへ向かったのではないか。

 

そう考えたマラ・ジェイドはルークの居住室の方へ向かった。

 

ルークの為に設置された特別な居住室からは誰かの呻き声が聞こえる。

 

怪しんだマラ・ジェイドはゆっくりと近づき半開きのドアから室内をそっと覗いた。

 

そこにはベッドの上で頭を抱えて蹲り、嗚咽のような声を絞り出すルークの姿があった。

 

全身が悪寒のような何かに包まれている感覚でその感触はフォースを通してマラ・ジェイドにも伝わってきた。

 

ドス黒い何かと爽やかな何かを何度も行き来するようなこの感触、その度に悪寒と絶え間ない虚無感や無気力感に襲われ吐き気すら催すような気分の悪い感覚に包まれた。

 

だがこれはあくまでフォースを通して感じているだけでありこの感覚を直に喰らっているルークの苦しみは計り知れたものではない。

 

一体何をしているのだろうか、マラ・ジェイドは余計に気になり近づいた。

 

するとルークの側にうっすらとだが人の影のようなものが見える。

 

さっきルークの居住室に向かって行った半透明の男だ。

 

ルークは半透明の男に話しかける。

 

「……分かっているよ、“()()()”。今度こそ僕達は…」

 

ルークは全てを言い終える前にマラ・ジェイドに気づいたのかマラ・ジェイドがいる方向に目を向けた。

 

姿を察知されたと思ったマラ・ジェイドは大人しくルークの前に姿を表した。

 

「あなた…一体何を…」

 

マラ・ジェイドは思わずルークに尋ねた。

 

フォースを通じて彼から感じたあの感触は只事ではない。

 

あんなものを何時間でも、何日でも感じていたら正気を失ってしまう。

 

「君も感じたのかい?」

 

ルークは驚いた表情でマラ・ジェイドに尋ねた。

 

彼女は小さく頷いた。

 

「そうか…じゃあやっぱり君は……いや、なんでもない。どうしてここに?」

 

「人影のようなものがあなたの部屋に入っていくのを見た。あれは一体なんだ…?」

 

マラ・ジェイドの問いにルークは暫く口を閉ざしていた。

 

答えたくないというより答えるのが難しいのであろう。

 

ルークは慎重に言葉を選んで話し始めた。

 

「……あれは……そうだね……僕の“()()”……かな」

 

ルークは結局全てを包み隠さずたった一言で話した。

 

マラ・ジェイドは一瞬困惑したがすぐに思考を巡らせある一つの答えに辿り着いた。

 

だがその反面“()()()()()”という考えにも至った。

 

何せ彼の父は、ルークの父親はもう“()()()()()()”。

 

彼の口から聞いた、マラ・ジェイドの師である皇帝を殺し自らもその深傷で死に至ったと。

 

だがもし、彼の父が死んだと思われていた皇帝のようになんらかの方法で生きていたとしたら…。

 

もう今のマラ・ジェイドに否定する事は出来なかった。

 

より問い詰めようとした瞬間、艦内放送が流れマラ・ジェイドの言葉は途中で打ち切られた。

 

『上陸部隊指揮官はブリッジにお越し下さい。最終ブリーフィングを行います』

 

いよいよ、という訳だ。

 

ルークはベッドから立ち上がりマラ・ジェイドの側に近寄った。

 

「さあ、行こうか」

 

マラ・ジェイドは疑問を持ちながらもルークの後に続いた。

 

フォースが仕掛けた運命はここから加速する。

 

 

 

 

 

-レジスタンス領 アノート宙域 惑星ベスピン クラウド・シティ アノート司令支部-

ランドやブラマッシュ中将達は必要に追撃してくる帝国艦隊から辛うじてアノート宙域領内へ退却した。

 

最終的な艦隊の損耗率は50%を超えており、彼らにとっては大損害であった。

 

それでもエグゼクター級と精鋭のハンバリン第一艦隊相手に退却しながらよくそれだけの戦力で抑えられたものだと戦闘に参加していない他の将兵は思っていた。

 

相手の物量や状況から言ってあの戦いは全滅してもおかしくない状況だった。

 

しかし失われた艦船は人命は戻らない。

 

喪失感と敗北感と共にランド達はベスピンへと帰還した。

 

『中、軽度の負傷兵と損傷艦は全てアノートの方へ向かわせました。あちらの方が収容数もベスピンより広いですから』

 

「ああ…手酷くやられたからな…完全に失態だった」

 

『仕方がありません……責任は我々にあるとしても将軍はよく指揮して下さいました。私だけでは恐らく艦隊は全滅していたでしょう…』

 

ブラマッシュ中将は面目ないと表情を暗くするランドにそう告げた。

 

アデルハード艦隊の予想外の捨て身攻撃にセスウェナと帝国宇宙軍の、しかもスター・ドレッドノートを抱えた精鋭艦隊の攻撃をなんとか退けたのだ。

 

並の指揮官なら途中で諦め逆に特攻紛いの戦闘を行なっていたかもしれない。

 

ランドだったからこそ少なくとも艦隊の半分は無事に連れ帰れたのだろう。

 

『2人とも、よく生きて帰ってきた』

 

メルクローラーⅡのコックピットに映っていたブラマッシュ中将のホログラムの隣にタロン将軍のホログラムも出現した。

 

ブラマッシュ中将は敬礼を浮かべタロン将軍も敬礼を返した。

 

ランドも軽く敬礼を送り「手酷くやられてしまった」と申し訳なさそうに口を開いた。

 

『いや、少なくともアデルハード艦隊を遂に叩きのめしたというのは大きい。幸いな事にカルリジアン将軍達が退却しつつ追撃隊に遅滞戦術をかけていたお陰で守備隊の動員が間に合った。兵達の犠牲は完全に無意味ではなかった』

 

『それで帝国軍の侵攻状況は?』

 

ブラマッシュ中将の質問にタロン将軍はいつにもなく表情を固くして答えた。

 

『既にバッヴァを放棄しセーラ・ナの瀬戸際で食い止めているが……正直言っていつ陥落の報告が届いてもおかしくない』

 

「向かって来ているのはセスウェナか?それとも我々が対峙したハンバリンの艦隊か?」

 

あのエグゼクター級はマジノ線で確認された帝国宇宙軍の総旗艦、“リーパー”だった。

 

リーパー”が指揮を執っているのは常にハンバリンに駐留している帝国宇宙軍第一艦隊、宇宙軍の最精鋭の艦隊であり強敵だ。

 

あの艦隊が迂回してセスウェナ方面から回って来たという事はいよいよ第三帝国が本腰を入れてアノート攻略にに乗り出したということだ。

 

しかも無理やりセスウェナの戦力も引き連れて。

 

『前衛で戦闘している艦隊は恐らく全てハンバリンから連れてきた“リーパー”配下の艦隊だ。だが制圧した惑星や領域で軍政を展開しているのはセスウェナ軍だと思われる』

 

『チッ!いいところだけ…!』

 

「いや、むしろ占領されるなら大セスウェナの連中の方がマシだ。奴らもそれを分かっててやってる」

 

第三帝国の占領軍が占領地でやっている事は大体想像が付く。

 

こないだだって至急で送られてきたディカー最高司令部からの機密文書には第三帝国の最高機密が書かれており、それは想像を絶するものだった。

 

第三帝国にもはや理性などなくその点においては遥かに理性的で帝国から枝分かれした国家の中では特に人道的な大セスウェナの方が圧倒的にマシだ。

 

「我々が奪還するまで暫く預けておこう」

 

無論いつかは力づくで取り返す。

 

帝国にくれてやる程この銀河系の領域は広くない。

 

『しかし、どう奪還します?我々は防衛するだけで精一杯なのに』

 

ブラマッシュ中将は不安気な表情で彼らに尋ねた。

 

『条約の発動により連合軍の艦隊が追加で部隊を送ってくる。彼らを北上方面に配置し先に帝国軍と戦闘していた守備隊を全て東部に回し攻勢をかけるつもりだ』

 

「しかしその戦力で足りるのか?」

 

ランドの問いは尤もなものだった。

 

相手はあの精鋭、第一艦隊だ。

 

並の部隊を送るだけでは攻勢は失敗に終わるかも知れない。

 

それに相手は全戦力を常に攻勢に持っていける。

 

後方の軍政や補給などは全て大セスウェナ軍が担っている為かなり余裕を持っていた。

 

一方のレジスタンス軍は元より戦力的に余裕がない上に前の戦いの敗北が大分効いているようで士気も低くなりつつあった。

 

まだ若干の不安で留まっているが次負けたらどうなるかは分からない。

 

『南部の予備戦力も投入するつもりだがこれでも行けるかどうか…』

 

『ディゴール大臣から提案された戦力増援の話はどうなっているんでしょうか?』

 

大セスウェナ領内での敗北の報せを聞いたディゴール大臣らディカー司令部はすぐに補填分の戦力を提供するとアノート司令支部に約束した。

 

まず第一陣として民間商船を回収したMCスター・クルーザー五隻と新規で建造されたネビュラ級一隻、CR90八隻、ネビュロンB六隻、キャラック級軽クルーザー七隻が送られる事となった。

 

そしてそれと同時に追加で数は不明だが正式に補填分の艦隊が送られる事となる。

 

尤もこちらはディゴール大臣が「どうせ役には立たない数合わせだろうが」と前置きしていたが。

 

「一体何が送られてくるのやら…」

 

『ディカーからの増援は予備に回すつもりだ。到着はいつになると?』

 

『こちらの“I()n()f()e()r()n()o()”と司令部の特殊ユニットが送ってくるらしいですが…』

 

ブラマッシュ中将も断言は出来なかった。

 

少なくとも第一陣として送られてくる艦船を頼みの綱にするしかない。

 

アノートにも厳しい冬の時代が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-リド星系 惑星ボーラ・ヴィオ ボーラ・ヴィオ・クローニング施設-

上陸用のガンシップがシスTIEファイターと共に対空砲火が展開される中施設へ突入した。

 

既に何機ものガンシップが上陸に成功し外壁の対空兵装はシスTIEファイターによって大部分が破壊されていた。

 

ガンシップが開けた場所に着陸し内部に搭載したシス・トルーパー達を一斉に施設内に突入させる。

 

上陸を見越して迎撃しようとする敵兵と恐らくジョルースが持ち逃げしたであろうセキュリティ・ドロイドがガンシップに攻撃したが直様機銃の役割を果たすブラスター砲によって消し炭にされた。

 

周囲の安全を確保した中でシス・トルーパー達はST-W45ブラスターという新型のブラスター・ピストルを構え施設内に広がっていく。

 

無慈悲な紅き尖兵達は目に付く敵を全て撃ち倒し安全に上陸する地点を確保し始めた。

 

施設内は意外と武装が施されておりブラスター・タレットやKXシリーズ・セキュリティ・ドロイドやプローブ・ドロイドといったドロイドが守りを固めていた。

 

中には何処かで連れてきた傭兵か信者のような生身の人間も混じっておりドロイドと共に侵入者であるシス・トルーパーを迎撃しようと試みた。

 

だがブラスター・タレットや幾体のドロイドも、武装した人間も全て徹底的に教育され正規軍の最高峰の歩兵として育て上げられたシス・トルーパーには敵うはずもない。

 

ブラスター弾を叩き込み、サーマル・デトネーターを投擲し、ブラスター砲で敵を薙ぎ倒して進んでいった。

 

シス・トルーパーは皆無言で単純作業のようにドロイドを破壊し人を殺していく。

 

更にそれをサポートする優れた最新鋭のアーマーと兵器がシス・トルーパーの進撃と上陸陣地の確保を促進した。

 

所詮民兵やセキュリティ・ドロイドの群れでしかないボーラ・ヴィオの占拠者達を技量と技術力で圧倒し僅か数分足らずで第一目標の上陸陣地の確保に成功した。

 

部隊指揮官のシス・トルーパーが本隊に連絡する。

 

「先遣上陸隊より本隊へ、目標確保率を達成。直ちに上陸されたし」

 

『了解した、直ちに出撃する』

 

指揮官が通信を切り部下のシス・トルーパー達に現状の地点を維持するように命じた。

 

占拠者達はシス・エターナル達を施設から叩き出そうと躍起になりセキュリティ・ドロイドやプローブ・ドロイドを更に突撃させた。

 

だが一瞬でブラスター砲や分隊シールドで形成した簡易的な防御陣地でシス・トルーパー達は敵を迎え討った。

 

ブラスター砲の銃声があちこちに響きその度その度にドロイドの残骸が地面に散らばり、鈍い音を立てた。

 

その間に本隊はガンシップに乗り込み、先遣隊が確保した施設へ上陸を開始した。

 

重武装と補給物資を持ったシス・トルーパー達がガンシップから荷物と共に降り立ち、各場所の戦闘区域に合流した。

 

その中には当然IG-99Eやマラ・ジェイド、ルークの対ジェダイの部隊も含まれていた。

 

「間も無く施設に上陸します。着陸地点は確保しましたがそれ以降はまだ敵地のままですのでご注意を」

 

シス・トルーパーの大尉が彼らにそう告げた。

 

「ありがとう」

 

ルークは一言礼を述べると座席を立ち上がりガンシップから外を眺めた。

 

施設周辺では爆炎が見え徐々に接近するに連れて銃声も鮮明に聞こえてきた。

 

既にあの施設の中では戦いが発生しており少なからず死人が出ている。

 

そしてルーク達が上陸する事によってその数は増える事となるだろう。

 

「フォーメーションは話した通りだ。僕とマラ・ジェイドが防ぎつつ接近戦を仕掛けその間にIG-99Eとトルーパー達が敵を銃撃する。R2は施設内の占拠と支援を頼む」

 

「分かった、判断に従おう」

 

「了解」

 

マラ・ジェイドと大尉はルークの判断に従い頷いた。

 

IG-99EとR2も電子音で了承し彼らを乗せたガンシップは無事に施設内に上陸し簡易司令部が建てられている一角にルーク達は向かった。

 

先遣隊の指揮官と合流し状況を尋ねた。

 

「スカイウォーカー卿、ようこそ」

 

「状況は?」

 

「制圧した範囲は確保しつつ防衛戦において何名か負傷、ですが敵の突破は防いでいます」

 

「今一番敵の攻撃が強いのは?」

 

「中央の4番通路です。こちらも問題なく防いでいますが」

 

「よし、そこから突入をかけよう」

 

ルークの以外な判断に大尉や指揮官は彼の方を見つめた。

 

指揮官は「他にも通路はありますが…」と伝えるがルークは首を振った。

 

「敵も逆に中央突破をされるとは考えていないはずだ。むしろここで敵の攻撃の主力を撃破しターゲットまで接近する。その隙に本隊と先遣隊は左右から回り込んで施設内包囲網を形成しろ。敵の注意をどちかに寄せる」

 

「了解、直ちに指示を出します」

 

ルークの命令を受け入れ指揮官は彼に敬礼した。

 

ルークも部隊を引き連れ施設の中へと入った。

 

「時間が何よりも重要だ。ジョルースがこの施設にいる内に奴を仕留める」

 

「流石の判断力だな」

 

マラ・ジェイドはふとルークを褒めた。

 

彼の判断力は素直に尊敬に値するべきものだ。

 

「まだまだ、ジョルースを仕留めるまではそう判断出来ないよ」

 

彼はライトセーバーを手に取り前線へと向かった。

 

ルークのライトセーバーはまだ昔と同じ緑の光剣が出るものでありこれもやがては血の涙を凝縮したような真っ赤な光剣へと変わっていくのだろう。

 

それがシスの陣営にいる者の運命なのだから。

 

施設の中に入ると早速銃撃戦の音が聞こえた。

 

人の断末魔やドロイドが撃破されて崩れ落ちる音など戦場では日常茶飯事なものだ。

 

ルークはそのまま真っ直ぐ進み目的地の4番通路に辿り着いた。

 

既にシス・トルーパー達とセキュリティ・ドロイドの間で戦闘が始まっており双方を弾丸を撃ち合っていた。

 

ルークは一旦部隊を止めてハンドサインで指示を出す。

 

内容はルークとマラ・ジェイドとIG-99Eが突撃する間に元々防衛陣地にいる部隊と共にシス・トルーパー達が支援に向かうというものだ。

 

ルークとマラ・ジェイドはライトセーバーの光剣を出しIG-88も武装に手を掛けた。

 

ルークが3秒前のカウントダウンを手で出しながら3人に合図を出す。

 

彼の指が1本から5本に変わった瞬間2人と1体は前線へ突撃した。

 

ブラスター砲を撃つシス・トルーパーの頭上を飛び越えライトセーバーを振り回す。

 

ルークとマラ・ジェイドが一気に3〜4体のドロイドを叩き切り後方で狙撃しようとする生身の敵兵をIG-99Eが重パルス・ソードキャノンで逆に撃ち殺した。

 

IG-99Eはベースの影響か敵対者として人間とドロイドがいた場合どんな状況下でも真っ先に人間の方を先に狙う。

 

無論その後ドロイドもしっかり破壊するのだが人間がブラスター・ピストルを持っていてドロイドがブラスター砲を持っていようとその殺害の優先順位は不思議なことに全く変わらない。

 

だがどちらにせよIG-99Eはシス・エターナルに仇なす者全てを倒すので別に問題視されていなかった。

 

次は近場のセキュリティ・ドロイドやプローブ・ドロイドを相手にする。

 

弾丸を撃ち込み銃剣を刺し相手の装甲を破壊する。

 

合流したシス・トルーパー隊も援護射撃を行い増援のドロイドを全て破壊した。

 

その間にルークとマラ・ジェイドが残りのドロイドを全て斬り倒し、フォースで押し潰す。

 

「敵影なし、クリア」

 

ルークはライトセーバーの柄を握り締め剣先を出したままの状態で部隊を引き連れて更に奥へ進んだ。

 

あれだけのドロイドを破壊したのにも関わらず敵の戦力は全く減ることはなくすぐに追加のセキュリティ・ドロイドと鉢合わせた。

 

放たれる弾丸を全てライトセーバーで弾き返した。

 

その間にシス・トルーパーとIG-99Eが弾丸を叩き込み戦闘中しているドロイドを次々と破壊していった。

 

ルークとマラ・ジェイドはブラスター弾を防ぎつつ素早く前進しライトセーバーで近接戦に移った。

 

互いにカバーし合いながらドロイドをライトセーバーで斬り倒す。

 

あっけなく切断されたセキュリティ・ドロイドやプローブ・ドロイドはただの残骸となり地面に朽ちた。

 

ルークとマラ・ジェイドがドロイドを切断する中そこにIG-99Eも加わった。

 

ソードキャノンの銃剣と元々持っている鉈で敵のセキュリティ・ドロイドを叩き斬り破壊していく。

 

荒々しくもあり効率的な戦い方をするIG-99Eはあっという間に周囲の敵を殲滅した。

 

最後にはまだギリギリで機能を保っていたセキュリティ・ドロイドにもトドメを刺す。

 

ルークの方をブラスター・ライフルを向けて狙っていたからだ。

 

「ありがとう」

 

ルークは一言礼を述べたがIG-99Eは「ダークサイドのフォースの天命に従ったまで」と言った。

 

「R2、近くの端末から施設にアクセスしてくれ。トルーパー達は全員周囲の警戒を」

 

「イエッサー」

 

シス・トルーパー達は散開しR2は近くのソケットに接続プラグを差し込んだ。

 

慎重に内部にアクセスし可能な限り情報を手に入れようとする。

 

「思ったより敵は多いようね。尤も、殆どドロイドばかりだけど」

 

「ああ、だが僅かながらに生身の人間も参加してることが驚きだ。ジョルースを野放しにしてもう4、5年が経つけどもしかしたらかなりの大組織になっているかも知れない」

 

もしかすると既にこの施設の本来の機能も回復しているかも知れない。

 

ルークはあえて最悪の事態を口に出さず「急ごう」と彼女に告げた。

 

それと同時に先遣隊の指揮官から連絡が入った。

 

『増援と共に包囲戦を開始しました。包囲中の第三帝国軍及び軌道上の“ピルグリム”から不審なスターシップ類の侵入は確認されていません』

 

「分かった、引き続き頼む。我々はこのまま一気にターゲットが潜伏していると思われる区画へ突入する」

 

『お気をつけて』

 

通信を切りルーク達は大尉の下へ向かう。

 

このままシス・トルーパー達とマラ・ジェイドとIG-99Eと共に戦えば一気にジョルースの下へ向かうことは可能だろう。

 

相手の戦力は第三帝国軍やシス・エターナルほどではない。

 

むしろかつての劣勢時代の反乱同盟軍よりも弱小と言っていいだろう。

 

時間をかけることなく殲滅可能だ。

 

「さあこのまま一気に行こう!ジョルースを仕留め任務をっ…!」

 

何かをフォースで感じたルークは最後まで言い切ることなく頭を抑えた。

 

それはマラ・ジェイドも同じでルークと同じように頭を抑え険しい顔を浮かべていた。

 

「これは…一体…!?」

 

「IG、先行して部隊に合流しろ…“()()()()”!」

 

IG-99Eはルークの命令通り移動しルークとマラ・ジェイドも立ち上がった。

 

遂に対決が始まるのだ。

 

ジェダイ帝国を建国しようと躍起になる境域に取り憑かれた創り物のジェダイとの。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、2人の本当のジェダイもこのボーラ・ヴィオのクローニング施設に訪れていた。

 

試作のクローキング装置が取り付けられたXウィングが2機、ランニングパットに停泊しそこから2人のジェダイは移動していた。

 

2人の下にもセキュリティ・ドロイドやプローブ・ドロイドが現れたが戦闘経験豊富なジェダイ2人に敵うはずもなく全滅した。

 

暗めの通路を真っ直ぐ進み目的地を目指した。

 

「このまま行けばジョルースの下に辿り着けるはずだ。シス・エターナルも部隊を下ろし始めてる、急ごう!」

 

ジェダイの片割れであるカル・ケスティスは前を走るアソーカ・タノにそう告げた。

 

「ええ…でも、どうしてシス・エターナルがここに…」

 

狂気のクローン、ジョルース・シボースの居場所を見つけたのはつい最近だ。

 

彼の存在を発見してからずっと追い続けてきたアソーカとカルでさえかなり長い月日を経てようやくなのに数ヶ月前にその全貌を露わにしたシス・エターナルがもうジョルースを見つけ、しかも大部隊を展開しているなんて。

 

彼らには相当の諜報能力があるようだ、アソーカは険しい顔を浮かべた。

 

「とにかくシス・エターナルより早くシボースをどうにかするしかない……あの男をシスや帝国に渡す訳にはっ…!?」

 

カルとアソーカもその瞬間ルークとマラ・ジェイドと同じようにフォースから何かを感じた。

 

足が止まり頭を抱え、悲痛な表情を浮かべる。

 

「何かが来る…?」

 

2人は急いで自らのライトセーバーを引き抜き戦闘態勢に移った。

 

フォースとは別に奥の通路からコツコツと足音が聞こえ、その音は徐々に大きくなっていった。

 

確実に何かが来る、アソーカとカルは相手を迎え撃つ準備をし覚悟を決めた。

 

通路からゆっくりその姿が“()()()()()()()()()”と共に現れる。

 

「まさか……ジョルースの…!」

 

古代ジェダイの甲冑のような装備を着たライトセーバーを持つ戦士が現れた。

 

ヘルメットの影響で素顔は全く分からずただフォースで感じるのは相手もフォース感受者であるということだけだ。

 

2人はライトセーバーを構え迫り来る敵の戦士を迎え討った。

 

敵が振るうライトセーバーの一撃を受け止めながら自らのライトセーバーやフォースを用いて反撃する。

 

アソーカは器用に2本の白いライトセーバーで攻撃と防御を素早く繰り出しながら相手を徐々に圧倒した。

 

カルも敵の攻撃を防ぎつつフォースで周囲のものをぶつけながら一気に反撃する隙を探っていた。

 

「こいつらっ!ただのフォース感受者じゃない!」

 

カルはライトセーバーの斬撃を跳ね返しながら逆に反撃で相手のヘルメットを傷つけ、蹴りを入れ更にフォースで敵の戦士を1人吹き飛ばした。

 

一度に2人の相手をしていたアソーカは両方の斬撃を防ぐと両方の戦士に蹴りを入れライトセーバーで腕と腹の部分を斬り付ける。

 

傷口を抑えながら2人の戦士もまた一旦後退した。

 

「ええ、恐らく彼らは全員……“()()()()”」

 

アソーカはそう断言した。

 

カルは険しい表情を浮かべながら吐き捨てる。

 

「それじゃあすでにシボースはクローニング施設を稼働させたってことか…!まずいな…!」

 

「もう少し時間が掛かると思っていたけど意外とそうでもなかった。むしろ我々でさえ後少し来るのが遅かったら…」

 

「来るぞ!」

 

アソーカの言葉を遮るように3人の戦士は一斉に斬り掛かってきた。

 

このフォースのクローン戦士達は既に負傷しているのにも関わらず全く戦意が衰えていない。

 

まるで死ぬことが怖くないようだ。

 

2人は斬撃を回避すると逆に2人は連携して反撃に出た。

 

2対3、数的にはアソーカとカルの方が圧倒的に不利だが2人は経験と力量でそれをカバーし、むしろ上回っていた。

 

蹴りやフォースプッシュも交えながら相手の体勢を崩し間合いをこちらが奪っていく。

 

まずアソーカとカルは最初に1人の戦士を倒した。

 

ライトセーバーを円を描くように振り回し残りの2人の戦士が遠かった所で腹部と心臓部にそれぞれライトセーバーを突き刺した。

 

防御すら間に合わなかったこの戦士はライトセーバーを落とし体内に刺さった光剣が引き抜かれると共にバタリと斃れた。

 

まず1人、これで同数での対決だ。

 

施設の反対側で戦うルーク達と状況は同じになりつつあった。

 

「大尉!部隊を一旦下がらせて防衛戦を構築!」

 

「了解!」

 

ライトセーバーとフォースプッシュで相手を押し出しながらルークは命令した。

 

大尉とシス・トルーパー達は戦闘地域を離れ一旦後退した。

 

その間にマラ・ジェイドとIG-99Eも敵の戦士の斬撃を防ぎながらシス・トルーパー達の後退に支障が出ないよう尽力した。

 

ルーク達の下にもひとまず3人のフォースのクローン戦士達が道を阻む為に出現した。

 

幸いにもルーク、マラ・ジェイド、IG-99Eと単体で戦える者が揃っていたシス・エターナルは戦闘を全てルーク達に任せていた。

 

むしろこの相手はルーク達でないと務まらないだろう。

 

ルークは蹴りを相手に入れ一瞬だけ自由になるとマラ・ジェイドの下に加勢した。

 

2人の意気のあったライトセーバーの剣技は敵を圧倒しルークがライトセーバーを抑えた瞬間にマラ・ジェイドが斬り掛かり、ルークがフォースで相手を吹き飛ばし相手の態勢を崩した。

 

マラ・ジェイドがトドメを刺そうとした瞬間再び別の戦士が彼女の斬撃を防いだ。

 

しかし猛攻を仕掛けるルークによって体勢が崩れたままの戦士は打ち倒されてしまった。

 

ライトセーバーを引き抜き周辺の様子を確認する。

 

マラ・ジェイドの方はまだ余裕そうでこれから一気にラッシュを仕掛けようとしていた。

 

一方のIG-99Eは流石暗殺ドロイド、鉈と銃剣でライトセーバーを持ったフォース感受者のクローン戦士相手に逆に優位に立っていた。

 

容赦なく弾丸を撃ち続け、鉈と銃剣で相手を斬りつけ、敵が攻撃する隙を全く与えない。

 

元々IG-99Eは単なる暗殺ドロイドとしてだけではなく“対ジェダイ用”としての運用が当初から想定されていた。

 

その為今のIG-99Eは正に自らを生み出した使命を全うしているといっても過言ではなかった。

 

やがて相手の体力が限界に近づき隙が生まれた瞬間にIG-99Eはパルスキャノンの弾丸をクローン戦士の全身に浴びせかける。

 

ライトセーバーで防ぐ事すら出来なかった戦士はそのまま火力を全身に受けて斃れた。

 

一方マラ・ジェイドの方からも戦いの終結を齎す音が聞こえた。

 

ライトセーバーの鈍い音が聞こえマラ・ジェイドの方に目を向けると既に相手の戦士は腹部に大きなライトセーバーによる傷跡がありもう戦えない事を示していた。

 

これで突如襲来してきた敵は全て打ち倒した。

 

「一体何だったんだ?」

 

マラ・ジェイドは斃れた戦士のヘルメットを手で取った。

 

IG-99Eも乱暴にヘルメットをもぎ取るとそれぞれ打ち倒した戦士の素顔が明らかになった。

 

ルークはゆっくり近づき素顔を見下ろした。

 

「同じ顔…?」

 

マラ・ジェイドがヘルメットを取った戦士とIG-99Eがヘルメットを剥ぎ取った戦士の顔はなんとまるっきり同じ顔だった。

 

双子、或いは兄弟という可能性は恐らく低いだろう。

 

この施設やターゲットであるジョルースがやろうとしてることから鑑みて彼らは…。

 

「…つまり、クローンか」

 

マラ・ジェイドはそう呟いた。

 

「ああ…恐らくそうだろうね。ジョルースは既にこの放棄されたはずのクローニング施設を稼働させているということになる」

 

これは相当まずい。

 

ジョルースは時間さえあればクローニングで次々と戦士を生み出せてしまう。

 

それもフォース感受者の遺伝子基を持っているのか全てまだ微弱ではあるがフォースが使えライトセーバーを使って戦える。

 

ジョルースの軍団はシス・エターナルだけでなく全銀河の脅威となりかねない。

 

「大尉、我々が先行して一気にターゲットを撃破する。大尉は直轄の部隊と各隊を使って施設全体の制圧を開始しろ。特にクローニング関連のものは全て破壊するんだ」

 

『了解しました』

 

「今の命令を左右から攻撃中の部隊にも伝えろ。ジョルースがクローニング技術を運用しているとなればジョルースの殺害よりもまずクローニングを先に破壊する必要がある」

 

ルークはコムリンクで大尉に伝達するとマラ・ジェイドとIG-99Eを連れて忙しなく歩き始めた。

 

「さっきの話は聞いたと思うけどこのまま僕達だけでジョルースを仕留める。さっきみたいな敵がまだ出てくると思うけどやれるな?」

 

「ええ、むしろ奴を仕留められるのは我々しかいない」

 

ルークの問いにマラ・ジェイドは力強く断言した。

 

IG-99Eも電子音で一言だけ「ジェダイ、殺す」と呟いた。

 

ルークも小さく頷き、彼は息を吐いた。

 

その瞬間マラ・ジェイドにはルークの瞳が“()()()()()()()()”のが見えた。

 

あの時と同じ、ジョルース討伐の任務を受けた時と同じように黄色く、シス卿のように。

 

そして今もその瞳は一瞬で元の青い瞳に戻った。

 

「今のは…」

 

「行こう」

 

ルークはライトセーバーを構え、マラ・ジェイドの言葉を聞くこともなく走り出した。

 

その後にR2、IG-99Eも続きマラ・ジェイドも疑問を抱えたまま進み出した。

 

再び大量のセキュリティ・ドロイドと武装したジョルースの配下の信者達がルークの前に立ち塞がった。

 

だがすぐに放たれたパルスキャノンの弾丸により信者達は斃れ、ルークとマラ・ジェイドが次々とドロイドを斬り倒して行った。

 

フォースでドロイドの破片と共に戦闘中のプローブ・ドロイドが施設の壁に叩き付けられ火花を上げて壊れた。

 

何体来ようとルーク達に勝つことは不可能だ。

 

近距離ではライトセーバーの餌食となり、中距離では弾かれた弾丸とフォースで吹き飛ばされ、遠距離ではパルスキャノンで蜂の巣にされる。

 

もはや民兵以下の練度しかない信者とただの武装したドロイドではこの一団を止める事は出来なかった。

 

施設のドアをロックして封鎖してもすぐにR2がロックを解除し3人を解放し再び戦いとなる。

 

経験豊富なこのアストロメクはルーク達の進撃に大いに役立っていた。

 

誰もルーク達を止められず遂にジョルースがいると目されている施設の中央の一歩手前まで進んだ。

 

だがここでルーク達の行手を阻もうとする者が現れた。

 

フォース感受者のクローン戦士達がジョルースの下に行かせまいとしてルーク達に突進する。

 

「ここで止めさせやしない!」

 

ルークは歯を食いしばりライトセーバーを持っていない左手を前に出した。

 

彼はここでとんでもない力を発揮した。

 

なんと前に出した左手から“()()()()()()()()()()()()”。

 

その力はまるでダース・シディアスや多くのシス卿達が繰り出していたフォース・ライトニングに瓜二つだった。

 

ルークが放ったその電撃は突進してきた戦士達を全員感電させ、特に前に出ていた3人の戦士をそのまま感電死させた。

 

残り2人は辛うじてライトセーバーで受け身を取ったがその膨大な力を前に少しダメージを喰らい吹き飛ばされてしまった。

 

「今のは…」

 

「まだ後2人!来るぞ!」

 

驚きを隠せないマラ・ジェイドを横に、ルークはライトセーバーを構え敵を迎え撃つ準備をした。

 

だが敵が再び攻撃に出るよりも先にIG-99Eがパルスキャノンで牽制しつつ取り出した鉈と銃剣で残りの戦士に斬り掛かった。

 

2人の戦士は完全にIG-99Eに抑え込まれていた。

 

IG-99Eは「先に行け」と2人を促した。

 

ここで時間を取る訳には行かないとIG-99Eに残りの戦士達を任せてルークとマラ・ジェイドとR2は先を急いだ。

 

ドア近くの敵兵を全て蹴散らし施設の中央区画に乗り込んだ。

 

2人ともライトセーバーを構え室内に1人佇む老人を睨みつける。

 

「お前が、ジョルースか」

 

名前を呼ばれたその老人はゆっくりとルークとマラ・ジェイドの方を向いた。

 

見事な真っ白な髭を蓄えこれほどまでに“()()”という言葉が似合う男は存在し得ないだろう。

 

腰にライトセーバーを身につけその姿はオビ=ワンやヨーダなどのジェダイ・マスター達の衣装とよく似ている。

 

この老人、ジョルース・シボースはゆっくりと口を開いた。

 

「如何にも、遂に私の下に来たか。選ばれし者よ、そうだろうと思っていた。共に全銀河がジェダイへ仕えるという大義を知らしめようではないか」

 

ジョルースはゆっくりとルークの方へ手を差し伸べる。

 

だがルークが向けているのはライトセーバー、その意味は分かるだろう。

 

対決が始まる。

 

それは同じジェダイでも同様である。

 

アソーカとカルはジョルースの差し向けた戦士達を全て倒し彼らの身元を確認しようとしていた。

 

ヘルメットを脱がせ顔を確認する。

 

「このオングリー……もしかして……」

 

アソーカは何かに気づいたようだったが彼女が気づいたことに言う前にカルが「何か来る!」と警戒を促した。

 

アソーカもライトセーバーを引き抜き戦闘態勢に入った。

 

足音だけが通路に木霊し2人の緊張を煽る。

 

「やはり、彼らでは勝てなかったか。まあ仕方ない、あのテンプレートでは限界があるからな」

 

足音と共に現れた全身黒ずくめの男は諦めた口調でそう呟いた。

 

アソーカもカルもこの声には聞き覚えがあった。

 

何せ数年前までは一緒にいたし何度か共に鍛錬した仲だ。

 

「だが僕は違う、マスターシボースに鍛えられた“()()()()()”の僕であれば」

 

男はフードを下ろし邪悪に口角を上げた笑みを浮かべ、ライトセーバーを手に取った。

 

男の素顔はブロンドで青い瞳を持つ青年といった様相でその邪悪と狂気に取り憑かれたような笑みさえなければアソーカとカルがよく知っている人物にそっくりだった。

 

「お前は……誰だ…?」

 

アソーカは白いライトセーバーの剣先を向けながら男に問い詰めた。

 

その素顔に反してカルも全く警戒を解こうとしない。

 

男はどこか狂ったように自己紹介した。

 

「僕は“()()()”だよ、ルーク…“()()()()()()()()()()()()”だ」

 

ルークを自称するこの男、“ルウク・スカイウォーカー”は手に取ったライトセーバーを起動し青い光剣を出した。

 

ルウクが持つライトセーバーの柄はアソーカも見覚えがあった。

 

あのライトセーバーは本来、アソーカの“()”が持っていたものでありルークが初めて使っていたと言っているライトセーバーだった。

 

あのライトセーバーはシス今日との戦闘で消失したはず…。

 

「マスターに変わってジェダイの大義を理解しないお前達を“()()”する」

 

ルウクはアソーカとカルに突進しライトセーバーを振るった。

 

狂った造り物のジェダイと惨事を生き残ったジェダイとの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

-アシュ領域 コフリジン星系 惑星コフリジンⅤ軌道上 ネビュラ級“オーディシャス”-

ガレルから脱出したジェルマン達はハイパースペースを何回か経由し惑星コフリジンⅤの軌道上で待機していたネビュラ級“オーディシャス”まで辿り着いた。

 

オーディシャス”とコフリジンⅤの周りには周囲を警戒して哨戒機のAウィングが飛び回っておりピリピリとした雰囲気が流れていた。

 

ハンガーベイに入ったUウィングとステルスXウィングは直ちに整備士達の修理とチェックを受け、ウェクスリー少尉とスタトゥラ少尉は念の為医務室で健康チェックを受けていた。

 

一方無傷のジェルマンとジョーレン、ラクティスは“オーディシャス”のブリッジに召集された。

 

「ラクティス・ストライン中佐、ジョーレン・バスチル少佐、ジェルマン・ジルディール大尉、参上しました」

 

ラクティスが代表して“オーディシャス”艦長のブレストン大佐に挨拶し3人は敬礼した。

 

ブレストン大佐も敬礼を返し「よく任務を成功させた」と3人を労った。

 

「早速だがストライン中佐はこのまま“オーディシャス”に乗ってヤヴィンに帰還し防衛戦に参加してもらう。各地の攻勢に合わせてヤヴィン方面でも帝国軍が動き出した」

 

「はい、勿論です。命令があればどこへだろうと飛び立ちますよ」

 

ラクティスの戦意を頼もしく思いブレストン大佐は笑みを浮かべ小さく頷いた。

 

大佐は今度はジェルマンとジョーレンの方に目を向けた。

 

「そしてバスチル少佐、ジルディール大尉、2人には申し訳ないがこのまま“オーディシャス”に乗ってヤヴィンに行く事は出来ない。最高司令部より2人に直接命令が出た」

 

ブレストン大佐はアベドネドの副官に命じディカーとの音声通信を繋いだ。

 

レジスタンスのスターバードの紋章がホログラムとして浮かび上がりそこからディゴール大臣の声が響いた。

 

『まず機密を考慮し音声通信のみ行う事を了承して欲しい。ガレルでの救出任務、ご苦労だった。生存者の確保とガレル・パルチザンの存在の確認が取れた事はこの状況下では大きな成果だ』

 

「駐留軍に対するダメージはあまり与えられていませんが当分はガレルでのパルチザン排除に苦労するでしょう」

 

『ああ、少尉達の記録に加え君達が目視で確認したシス・エターナルの兵器や艦船類の情報も大いに役立つだろう。そしてこれが本題だ。まず、アノート宙域のレジスタンス軍が大セスウェナ領域で敗北した』

 

早速最悪な報告が舞い込んできた。

 

ブレストン大佐やアベドネドの副官は俯き、状況を知らないラクティスやジェルマンやジョーレンは驚いていた。

 

アノート宙域のレジスタンス軍はほぼ無傷な存在である種のキーカードとして扱われていた。

 

まさかそんなアノート宙域のレジスタンス軍が敗北するとは。

 

『彼らの当面の敵であるアデルハード艦隊は壊滅したが第三帝国の直接侵攻を受ける事となった。今、アノート宙域軍は防戦中だが極めて不利な状況が続いている。そこで我々はまず何隻かの軍艦を提供することになった』

 

ホログラム上に提供する軍艦が映し出された。

 

『だがこれでは足りない。アノート宙域の戦力を回復する為には更なる軍艦の提供が必要だ。そこで君達に一つの任務を与える』

 

ジェルマンとジョーレンは緊張した面持ちで耳を傾けた。

 

顔も映らないディゴール大臣は2人に任務を伝えた。

 

『今から指定する宙域に帝国軍もノーマークの造船所と大量の軍艦が停泊している。かなり古い軍艦ばかりだが少なくとも物の足しにはなるはずだ。バスチル少佐とジルディール大尉にはこの造船所地帯に向かい造船所と軍艦を全て確保してくれ』

 

座標が紋章の隣に映し出され“オーディシャス”の士官の1人が座標をコピーしそれをジェルマン達に手渡した。

 

ディゴール大臣はその間にも説明を続ける。

 

『この任務には別の特殊部隊チームも参加する。“コルウス”を拠点とした“インフェルノ分隊”が共同で造船所と軍艦の確保を行う』

 

「インフェルノ……あの元帝国軍の特殊部隊ですか?」

 

インフェルノ分隊は新共和国内でも特に有名だ。

 

元々帝国軍の特殊部隊であったがエンドア戦後のシンダー作戦の時に帝国を離反、新共和国軍の特殊部隊となった。

 

それ故に反乱同盟時代を生き抜いてきた将兵からすればインフェルノ分隊は恐るべき脅威であるし、新共和国時代から軍に入った新兵達からすればとても頼れる存在であった。

 

新共和国崩壊後もジェルマンやジョーレン、パスファインダーや第32コマンドー部隊、第61起動歩兵隊、通称“()()()()()()()()”のような精鋭特殊部隊同様に第三帝国に対し攻撃を仕掛け、戦果を挙げてきた。

 

そんな特殊部隊も使うということは相当隠密性を重視しているのだろう。

 

『既にインフェルノ隊には動いてもらっている。ブレストン艦長、バスチル少佐とジルディール大尉への補給とUウィングの整備は後どれくらいの時間が必要だ?』

 

ディゴール大臣はUウィングの整備と補給を担当する“オーディシャス”の責任者に尋ねた。

 

ブレストン大佐は副官や他の将兵に聞くこともなくスラスラと答え始めた。

 

「整備と燃料、弾薬の補給だけなら損傷にもよりますが後40分以内に完了するでしょう。今回の任務は航空戦も少なかったのでそれも考慮すれば30分も経たずに出撃出来ます」

 

『分かった、では整備と補給が済み次第座標元に向かってくれ。艦長と“オーディシャス”には申し訳ないが暫く現地に留まり敵の警戒を』

 

「了解」

 

ディゴール大臣はそれぞれに命令を出しブレストン大佐やジェルマン達も動き始めた。

 

そして最後にディゴール大臣はこう付け加えた。

 

『また大変な任務になると思うが頼んだぞ。諸君らがフォースと共にあらんことを』

 

ホログラムと音声通信が途切れ会話が終了した。

 

通信に携わっていた乗組員も徐々に元の位置に戻りブレストン大佐もアベドネドの副官と話し合いを始めた。

 

ラクティスは2人に近づき別れの会話を交わした。

 

「また任務か、大変だな」

 

「そちらこそ、スクランブル発進ばっかりでしょう?」

 

「まあな、だが昔から空を飛んでる事は好きだった。こんな状況だが少なくともこの思いだけは忘れてない」

 

微笑混じりにラクティスはそう呟いた。

 

ジョーレンも他人のことだがどこか感慨深そうにしていた。

 

そんな中ジェルマンはガレルの時には言えなかった事を話した。

 

「そういえば以前レンディリに潜入した時、ノヴァン君の手掛かりが掴めました。もしかしたら彼は……シス・エターナルに拉致されたかもしれません」

 

その一言でラクティスは一気に表情を変えた。

 

「本当か?」

 

「ああ、避難先のキャッシークにもいなかったという事は疎開の途中で行方不明になった可能性が高い。そしてシス・エターナルの到来…最もあり得るシナリオだ」

 

ジェルマンに続けてジョーレンもそう答えた。

 

「なるほど…」とラクティスは険しい表情を浮かべしばらく考え込んでいた。

 

彼らは軍人の一家だが誰1人として自分の家族に対する情が薄い訳ではない。

 

むしろこういった一族の中ではとりわけ情が深いようにも見受けられる。

 

「…分かった、また叔父貴にも話しておくよ。それじゃあな、頑張って」

 

2人は頷きジェルマンとジョーレンはひとまず“オーディシャス”のハンガーベイに向かった。

 

1秒でも早く出撃する為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

-第三帝国首都惑星コルサント 親衛隊本部 親衛隊情報保安本部区画 長官執務室-

「…それで、現在の我々が採掘したカイバー・クリスタルの45%をシス・エターナルに譲渡するという事だな」

 

ハイドレーヒ大将は執務室でシス・エターナルの会談に出席した幾人かの将校から報告を聞いていた。

 

彼はいつにもなく情を感じさせない冷徹で険しい顔を浮かべており将校達に緊張が走っていた。

 

「はい、それとシス・エターナルは我々の国家弁務官区計画も掴んでいるようです。しかも最高機密のエストラン宙域のものをです」

 

「なんだと?」

 

ハイドレーヒ大将はナイフや牙をそのまま瞳に宿したような目付きで報告するシェーンベルク少佐に向けた。

 

少佐とハイドレーヒ大将は案外長い付き合いである為もう慣れた様子だった。

 

「シス・エターナルの使者団からエストラン宙域国家弁務官区の話が出てきました。彼らは名目上“()()”ですのでエストラン宙域の話はしてもおかしくありませんが国家弁務官区の話は出てこないはずです」

 

あの時シェーンベルク少佐もかなり問い詰めたのだがシス・エターナル側からは「フォースが教えてくれた」と曖昧な返答しか返ってこなかった。

 

「奴らはどの程度知っている素振りを見せていた?」

 

「“()()()()”と言っていたので凡そは…」

 

「…分かった、親衛隊内にシス・エターナルとの協力者がいるのは間違いないな。尤も今更捕縛した所で遅いが」

 

既にシス・エターナルと第三帝国は軍事的な同盟関係を結んでおり関係を崩す事は出来ない。

 

だが不安を抱えたままでいるのは少々癪に触る。

 

「ヒェムナー長官は共に復興していくのだから問題ないと仰っていましたが…」

 

「あの方ならシス相手なら全部そう言うだろう」

 

ハイドレーヒ大将は呆れ気味にそう呟いた。

 

しかもそれが第三帝国の為になっていると考えているのだから余計に攻め辛い。

 

現状第三帝国の害になっていないのだから代理総統が口を出すこともなかった。

 

「ともかく、だ。親衛隊の内側に外部へ情報を漏らしている者がいる事は放っては置けない。我々が忠誠を尽くしたのは第三帝国と総統であってシス・エターナルではない」

 

ハイドレーヒ大将の話を聞き、周りの将校達は小さく頷いた。

 

「近いうちに対策は取る、だが今日はひとまず解散だ。各々解散しそれぞれの任務に戻れ」

 

「了解」

 

ハイドレーヒ大将の指示により報告に来た将校達はそれぞれ疎に執務室を後にした。

 

だがハイドレーヒ大将が直々に「シェーンベルク、君は残れ」と言った為にシェーンベルク少佐だけは残る事となった。

 

少佐以外の全ての将校が退出したのを確認したシェーンベルク少佐はハイドレーヒ大将に「何故私だけ?」と尋ねた。

 

「君と今から呼ぶ者にある命令を伝えたくてな」

 

ハイドレーヒ大将がそう言ってから10秒ほどで執務室の衛兵から『ネーベル准将が到着しました』と報告を受けた。

 

「入れてくれ」

 

執務室を守る頑丈なドアが開きFFISO所属の親衛隊アルスール・ネーベル准将が執務室に入った。

 

ネーベル准将はハイドレーヒ大将に敬礼し「到着しました」と大将に伝えた。

 

「ご苦労、早速だが准将、例の情報の真偽は掴めたか?」

 

「はい、こちらに」

 

ネーベル准将はベルトに付けていたポケットからホロプロジェクターを取り出しハイドレーヒ大将らの前で起動した。

 

ホログラムにはオーラベッシュで文字が書かれていた。

 

「ハイロイド上級大尉がやってくれました。現在調査中ですが恐らくコルサント市民の1人が総統暗殺を企てています」

 

代理総統暗殺、それは度々ある事件だ。

 

第二次銀河内戦が始まる前にも何度か総統の暗殺未遂は起こっていたし北東戦線で新分離主義連合と戦っていた時にも暗殺未遂事件がありヒャールゲン中佐が身体を張って食い止めた。

 

そして再び代理総統を暗殺しようと言う動きが発見されたのだ。

 

「既にFFSBの時から可能性として指摘され調査が行われていた。暫くネーベルとオーヘルドロフに調べさせていたが…その結果がこれだ」

 

「まだ個人は特定出来ていませんので更なる調査が必要ですが」

 

ネーベル准将はそう付け加えた。

 

「シェーンベルク、君にはⅣ局E部を率いてネーベルらの調査に協力しろ。流石に二度、三度も総統の暗殺計画を見逃す訳にはいかん」

 

「了解」

 

ハイドレーヒ大将の命令をシェーンベルク少佐は了承し彼に敬礼した。

 

大将は更に付け加える。

 

「私との連絡将校として誰か1人付ける。先程の話の繰り返しになるが我々は総統閣下に忠誠を誓った、その忠義を果たせ」

 

シェーンベルク少佐とネーベル准将は敬礼しその意味を胸に刻んだ。

 

ハイドレーヒ大将はいつもの虚無すら感じる表情で頷きひとまずこれで由とする。

 

「以上だ、2人とも下がってくれていい」

 

「分かりました」

 

「失礼します」

 

ハイドレーヒ大将の言葉通り2人は執務室を後にした。

 

執務室にはハイドレーヒ大将1人だけが残っている。

 

いつもはフリシュタイン上級大佐が隣にいるのだが今彼は忙しい。

 

「さて、これでどうなるか」

 

ハイドレーヒ大将は独り言を静かな執務室で呟いた。

 

この暗殺計画、既に総統含めた総統府の上級幹部達には伝達済みだ。

 

犯人の逮捕はネーベルとシェーンベルクに任せるとして、総統自身が暗殺に巻き込まれると言う可能性は限りなく低い。

 

既にボーマン辺りが日程や予定の調整を行なっているだろう。

 

問題はこの事件を受けて諸国がどう出るかだ。

 

レジスタンス軍の関与はヨースト曰く限りなく低いらしいが他の帝国軍の残党やチス・アセンダンシー、ファースト・オーダー、ケッセルといった勢力は分からない。

 

大セスウェナも最近不穏な雰囲気が感じられる。

 

恐らく何事もなく、と言うのは無理な話だ。

 

だがそれこそ親衛隊の腕の見せ所となる。

 

ハイドレーヒ大将は静かな執務室で自らの邪悪な考えを張り巡らせた。

 

 

 

 

 

 

 

ルークはライトセーバーを構えながら徐々にジョルースに近づく。

 

マラ・ジェイドはその一歩後ろにいたが彼女はジョルースだけでなく他の敵も警戒していた。

 

相手が1人で戦う可能性はなくはないが複数で戦う可能性の方が高い。

 

尤も、複数で戦えるだけのクローン戦士を造れているかはまた別問題だが。

 

「スカイウォーカー、お前はよくやった。シスを倒し、シスの帝国を倒し、悪徒どもを征伐した。だが何故今お前はシスの軍門に降ろうとしている?大義を忘れてしまったのか」

 

「大義?一体なんの話だ」

 

ルークはぶっきらぼうにジョルースに尋ねた。

 

ジョルースはフッフッフと笑みを浮かべ微笑んだ。

 

「我々ジェダイ全てに与えられた大義だ。フォースのライトサイドの使者である我々はこの銀河を正しく光へと導き銀河を纏めていく義務がある。故に我々は我々の帝国を作るのだ、ジェダイの帝国をな」

 

「ジョルース、君の狂気はジェダイという概念を歪めているようだ。ジェダイは他人を支配したりはしない、一方的に他者を正しい道へ導くという傲慢な考えはジェダイではない」

 

ルークはジョルースが言う大義をキッパリと否定した。

 

今のルークがジェダイであるのか、シスであるのかは分からない。

 

だが彼が今まで見てきたジェダイ・マスターの背中はそうではなかった。

 

ジョルースの遺伝子基がどういう人であったかルークは知らないが明らかにジェダイのあり方ではない。

 

ジョルースの狂気がジェダイという概念を酷く歪めているようだった。

 

しかしジョルース自身はそう思っていないようで彼は笑いながら反論を始めた。

 

「傲慢などではない、これは我々フォースを感じライトサイドに生きる者の崇高な使命だ」

 

彼にとってこの考えは自然なことのようで何を言っても無駄に思えた。

 

だがそれはジョルースの方も同じなようだ。

 

「これ以上話していても無駄なようだな。まあ既に弟子はいる、暗黒に堕ちた哀れな者達に裁きを与えるとしよう……この世の理も分からぬ愚かな者になぁ!!」

 

「それは我々のセリフだ」

 

「よく言う!」

 

ジョルースから静かに笑みが消え彼の手からフォース・ライトニングが放たれた。

 

既にシディアスから何度もこの技を喰らっていたルークはライトセーバーで電撃を素早く防いだ。

 

その間にマラ・ジェイドがライトセーバーで彼に斬り掛かった。

 

ジョルースはマラ・ジェイドの斬撃を避けると彼も自らのライトセーバーを手にした。

 

フォース・ライトニングの攻撃が終わった途端ルークも接近しジョルースに斬撃を与える。

 

ジョルースは剣先でこれを受け止めると再びフォース・ライトニングを放った。

 

ルークは一旦距離を取りつつ攻撃を防ぎその代わりにマラ・ジェイドが再び接近しその剣技でジョルースを仕留めようとした。

 

だがジョルースもこれを予測していなかった訳ではない。

 

彼はルークにピンポイントで放っていたフォース・ライトニングをより広範囲に放った。

 

その結果距離を取っていたルークにダメージはなかったが接近していたマラ・ジェイドは完全に防御し切れず少量の電撃を喰らってしまった。

 

「うわぁっ!」

 

「マラ・ジェイド!」

 

吹き飛ばされかけたマラ・ジェイドをルークが受け止めるとジョルースは再びフォース・ライトニングを放った。

 

ライトセーバーで防ぐ時間がなかったルークは意識を集中させ手のひらに力を集めるような感じでフォースのシールドを生み出しフォース・ライトニングを防いだ。

 

自身の体力が凄い勢いで消費されていくのが感じられ、その度にルークは己の意識を集中させた。

 

その間にマラ・ジェイドは自身のライトセーバーをジョルースの方へと投げた。

 

かつて、よくダース・ヴェイダーが繰り出していた技の一つでマラ・ジェイドはそれを見様見真似でやってみた。

 

意表を突かれた攻撃にジョルースも防御の方に集中しフォース・ライトニングを放つのをやめた。

 

自身のライトセーバーを掴むとマラ・ジェイドはルークと共に立ち上がった。

 

2人の息は少々切れ気味だったがすぐに意識を集中させ呼吸を整えた。

 

それと同時に自分達の身体の異常にも気がついた。

 

「気がついてしまったか…」

 

ジョルースは何故か落ち込んだ声音でそれを悟った。

 

「やはり…」

 

「ああ、フォースの精神攻撃の一種。ジョルースはずっと我々に疲労や倦怠感を感じさせる術をかけていた。でなければこんな短時間にも関わらずここまで披露している事の説明がつかない」

 

マラ・ジェイドは冷静に自分達が掛けられていたフォースの術を分析した。

 

ルークも薄々気づいていたようで先ほどフォース・バリアーを防ぐと同時に術もなんとか解き放った。

 

今2人は可能な限り意識を張り巡らせてジョルースがフォースの術をかける隙を与えないように試みた。

 

「流石だ、やはり殺してしまうのは惜しい。どうだ?2人とも今からでも私と共にジェダイの帝国を造らないか?私の弟子としてやり直すチャンスだ」

 

「断る、我が師はパルパティーン1人のみだ」

 

マラ・ジェイドはジョルースやルークよりも先に断った。

 

その後にルークも続く。

 

「僕はお前のジェダイの考えに賛同するつもりはない。多くの人の為にもここでお前を倒す」

 

「そんな……何故……何故なんだ!愚か者め!」

 

泣き叫びそうになったかと思えば突然怒り出したジョルースはフォース・ライトニングを何度も放ちながらライトセーバーを振るった。

 

2人は電撃を防ぎながらライトセーバーの攻撃も躱し逆に反撃を始める。

 

この戦いはまだ始まったばかりだ。

 

それはまた別の場所で戦うアソーカとカル、そしてルウク・スカイウォーカーもそうであった。

 

ルウクの執拗な攻撃を2人はライトセーバーで防ぎながら反撃の機会を伺っていた。

 

それと同時にこの目の前のルーク・スカイウォーカーそっくりの人物が何者なのかも探ろうとしていた。

 

だが完全に2人を抹殺しようとするルウクの前にそんな余裕を保つのは難しい。

 

鍔迫り合いの格好となったアソーカがルウクに問い詰める。

 

「お前は何者だ!?どうしてそのライトセーバーを…!」

 

アソーカの悲痛な問いにルウクは邪悪な笑みを浮かべて軽々しく答えた。

 

「これはマスターから頂いたものだ。“()()()()()()()()()()()()”」

 

ルウクは力を目一杯込めてアソーカを振り払った。

 

その後斬撃を加えるカルの一撃を回避しルウクは一旦距離を取りフォースで近くの壁を引き剥がした。

 

引き剥がした外壁をフォースで勢いをつけてアソーカとカルに投げつける。

 

カルはそのままライトセーバーで防御を取りアソーカは外壁と天井の隙間を起用に回避しルウクに一本のライトセーバーを投げつけた。

 

カルのライトセーバーの刃が外壁を切断すると同時にアソーカの白いライトセーバーの刃がルウクに直撃した。

 

しかしルウクは直前で自らが手に持つライトセーバーで攻撃を防いでいた。

 

地面に着地しアソーカはライトセーバーを手に取ると再びカルと共に同時に攻撃を仕掛けた。

 

ルウクは倒されたクローン戦士が持っていたライトセーバーを手に取ると2本の刃で攻撃を防ぐ。

 

アソーカとカルは力を込めるがルウクはなんとか耐え抜いていた。

 

「流石シスの時代を生き抜いた古きジェダイ達だっ!ならばッ!」

 

ルウクはフォースプッシュで周りを押し出し距離を取ると意識を集中させフォースの術を展開した。

 

「気をつけろ…何かが来る…」

 

「ええ…“()()()()()()”という以上に奴はジョルースからかなり強力な技を教え込まれている…!」

 

アソーカとカルはライトセーバーの柄をしっかり握り締め意識を集中させ平静を保っていられるよう心を落ち着かせた。

 

全身のフォースや全身に共存するミディ=クロリアンと意識を合わせルウクの技を身構える。

 

だが既にルウクの術は発動していた。

 

その証拠に2人にはルウクが現れた通路の角から足音が聞こえた。

 

笑みを絶やさないルウクの背後から2人の男が姿を表した。

 

その2人を目にしたアソーカとカルは一瞬だけ動揺し瞳が揺らいだ。

 

アソーカには1人の“()()()()()()()()()()()()が”、カルには1人の“()()()()()()()()()()()()()()()”が見えた。

 

人間の青年と大柄なラサットはアソーカとカルの名前をそれぞれ呼んだ。

 

そして手を差し伸べゆっくりと近づいてくる。

 

気づいた時にはルウクの姿は見当たらず通路の反対側からはアソーカとカルにしか見えない何かが近づいていた。

 

だが2人とも既に“()()()()()()”、“()()()()()()()()”。

 

迫る2人の何かをアソーカとカルはライトセーバーで断ち切り自らを現実世界へと引き戻した。

 

すると忽ち幻影は消え頭を抑えるルウクの姿があった。

 

「チッ!まさか効かないとはッ!」

 

ルウクは舌打ちしライトセーバーを起動し直す。

 

そんなルウクにアソーカは一つ吐き捨てた。

 

「まやかしで屈するほど、私たちは弱くはない!」

 

「チッ!…通信…?」

 

ルウクは距離を取りつつリング状のホロプロジェクターに通信が届いているのを確認した。

 

そこには彼を呼び戻す内容の文言が書かれていた。

 

しかもある男の名前付きで。

 

「しょうがない…ここはひとまず退くとするか…」

 

近くのパイプを捻じ切りアソーカとカルに投げつける。

 

その隙にルウクは彼らに背を向け後退した。

 

無論この程度で戦いをやめるジェダイ達ではなく、アソーカとカルはルウクの追撃を始めた。

 

しかしここで邪魔が入る。

 

再び2人ほどのクローンの戦士がアソーカとカルの前に立ち塞がった。

 

アソーカはライトセーバーを構え迎え討とうとしたがその前にカルが前に出て2人にライトセーバーを振るった。

 

戦士達の刃を受け止めながらカルは「先に!奴とジョルースを絶対に逃すな!」とアソーカに叫んだ。

 

「ここは任せたわ!」

 

アソーカは戦士達をカルに任せ先を急いだ。

 

戦士達はアソーカを追撃しようとしたがカルの猛攻によりとてもそれどころではなかった。

 

ルウクを追いアソーカは走り続ける。

 

同じ頃、ルークとマラ・ジェイドもジョルースを追って施設内を走り続けていた。

 

ジョルースは後退しつつ様々な術を巧みに繰り出しルークとマラ・ジェイドを疲弊させていた。

 

それでいてジョルースは明らかに老いを重ねているのにも関わらず身軽でとても軽やかな動きとライトセーバーの技を繰り出していた。

 

フォース・ライトニングと斬撃を多用し2対1にも関わらずジョルースは全く振りを感じさせなかった。

 

「久しくないこの感触!素晴らしい!」

 

狂ったように喜びを全面に表しジョルースはルークとマラ・ジェイドの斬撃を防ぐ。

 

「こちらは迷惑ばかりだ!」

 

マラ・ジェイドはジョルースに蹴りを入れ一撃、また一撃と連続してライトセーバーの斬撃を与えた。

 

だがすぐ体勢を立て直したジョルースは全ての攻撃を躱し受け止めた。

 

そこでルークが横合いからライトセーバーの突きを繰り出す。

 

その予想外の攻撃にジョルースは驚きながらも寸前の所で回避し直後振り下ろされたルークの一撃を受け止めた。

 

「やはり惜しい…惜しいぞその力!ジェダイはシスとは違いフォースと繋がる者全てを受け入れる!今からでも遅くはないぞ!」

 

「何度も言うが断る!」

 

「そうか、では終わりだ」

 

ジョルースは左手の指2本で何かを引っ張るような動作をしてルークから少し距離を取った。

 

すると突然先ほど来た通路から1人の男が発狂しながら走り近づいてきた。

 

「うわあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

よく見ると男の胴体には幾つものサーマル・デトネーターやインプローダーが付けられておりその様相は自爆犯を思い起こさせた。

 

ジョルースがフォースの術でこの男を操っているのだろう。

 

男はまるで死を恐れることなくルークとマラ・ジェイドに迫った。

 

「まずい!」

 

「くっ!」

 

最初に動いたのはマラ・ジェイドだった。

 

彼女は近接戦では危険が高いとライトセーバーを投げ槍のように投擲し見事相手の顔面にヒットさせた。

 

ライトセーバーの剣先が刺さった男は即死したが一足遅かった。

 

マラ・ジェイドがライトセーバーを手に取り戻すと同じ瞬間に自爆犯は硬直した腕でスイッチを押した。

 

「マラ・ジェイド!」

 

「しまっ…!」

 

ルークが手を伸ばしフォースで防御を作る瞬間にはもう爆発が始まりその余波で彼女はルークと共に吹き飛ばされてしまった。

 

ルークは寸前で受け身を取れたがマラ・ジェイドはそうではなかった。

 

彼女は近くの柱に背中を打ちつけて気絶しまった。

 

ルークはすぐにマラ・ジェイドの側に近寄り彼女の容体を確認する。

 

まだ息はあり、意識が途切れる瞬間にルークに対して「奴を…」と任務を託した。

 

彼女を先頭に巻き込まれないよう端にやり周囲を確認するとルークはジョルースを睨んだ。

 

ジョルースはまるで劇でも見ているように悦に入っていた。

 

ルークは自ら内に湧き出る怒りの力を感じその力をライトセーバーとフォースに込める。

 

しかし思考は常に冷静でいられるように細心の注意を払った。

 

ライトセーバーを構え徐々に加速しジョルースに近づいていく。

 

ジョルースがフォース・ライトニングを放ちそうになった瞬間ジャンプし逆に同じ技をジョルースに放ってやった。

 

驚いたジョルースはライトセーバーで防御したが一瞬間に合わず微量な電撃を喰らってしまった。

 

「ぬおぉ…!」

 

苦悶の声を上げ後退りするように転がった。

 

ルークは間髪入れずに攻撃を仕掛ける。

 

斬撃を放ち相手の弱点や意識の足りていない所にカイバー・クリスタルから放たれるエネルギーの刃をぶつけた。

 

ジョルースは見事に全て防いでいたが押されている状況に変わりはない。

 

すぐに自らの不利を悟ったジョルースはフォース・ライトニングを地面に放ち、近くのパイプを投擲してルークから距離を取った。

 

そして控えさせていた2人のクローン戦士を投入しルークと戦わせた。

 

だがルークは多種多様なフォースの技を使いこの戦士達を最も簡単に打ち破った。

 

胴を斬られ、首を刎ねられた戦士達が地面に転がった。

 

彼らの遺体を踏まぬように歩きルークはさらに後退するジョルースに迫った。

 

「逃さんぞ…!」

 

ルークはゆっくりと詰め寄る。

 

しかしジョルースはこの場を待っていたかのように笑みを浮かべた。

 

「逃さん?フッフッフ…疽列葉こちらのセリフだ若造、我々がお前達を逃さんのだ。まずお前は“()()()()()()()”」

 

「…?」

 

ルークは首を傾げジョルースの意味不明な発言に反応を示した。

 

だが自分を動揺させようとしているだけかも知れないとルークはすぐに意識を戦闘に向けた。

 

しかしジョルースはそうではないようだった。

 

その答えはすぐに訪れた。

 

反対側の通路のドアが煙と共に吹き飛びその中から1人の男が出てきた。

 

男はフードを被っており顔はよく見えなかったがジョルースの側に近づき「お待たせいたしました我がマスター」と頭を下げた。

 

ジョルースの弟子、もしくは協力者であることは明確でありフォース使いである事が分かった。

 

しかし不思議なことにこの男のフォースは何故か既視感を覚えた。

 

「良い良い、追っ手は振り切れたか」

 

「いえ、まだ私を追っているでしょう。もう間も無く訪れると」

 

「そうか、ではお前の追っ手の相手は私がする。お前は私の敵と相手をしろ」

 

その男はルークの方を見た。

 

ルークは警戒しライトセーバーを構えている。

 

ルークを見るなり男は「奴が、ですか」と若干驚いた様子で反応した。

 

「そうだ、姿を見せてやれ我が弟子よ。お前は奴と戦い、どちらが“()()()()()()()()()()()()()()()”であるのか答えを出すのだ」

 

「はいマスター」

 

ジョルースにそう告げられ男は笑みを浮かべフードを脱いだ。

 

その顔はルークにとって驚きを十二分に越していた。

 

「お前は……“()”…?」

 

手が震え明らかに自分が動揺しているのが分かる。

 

かつてルークは一度だけ、自分を見た事がある。

 

その時の自分は父親と同じ黒い装甲服に身を包みルークがライトセーバーで首を落した瞬間、その邪悪に染まった笑みを浮かべた自分の顔が割れたヘルメットから見えていた。

 

その時と同じ表情をした自分と同じ顔の男が自分の目の前に立っている。

 

あの時の光景を思い出しルークは戦慄した。

 

そしてもう1人のルークは自己紹介する。

 

「僕はルーク、ルウク・スカイウォーカーだ。さあ戦おう、どちらが本物のルーク・スカイウォーカーであるか、どちらが本物のジェダイなのか」

 

ルウクを名乗るその男はかつて自分が持っていたはずのライトセーバーを手にしていた。

 

あのライトセーバーは今の道を気づかせてくれた恩人から受け取ったものでありそれ以前はルークの父親のものであった。

 

それを何故か目の前の男が持っていた。

 

あのライトセーバーは一度、ベスピンで紛失したはずだ。

 

それなのに何故…。

 

ルークの疑問は更なる混乱と共に掻き消された。

 

「しまった合流して……ルーク…?」

 

ルウクが出てきた通路の奥から今度は1人のトグルータの女性が出てきた。

 

彼女とは面識がある、彼女は自分がルークの父親の弟子だったと語ってくれた。

 

「アソーカ…」

 

アソーカも動揺していた。

 

動揺していないのは2人の狂気に染まったクローン達だけだ。

 

彼らは邪悪な笑みを浮かべこの状況を楽しんでいるようにも思える。

 

ジョルースは一言呟く。

 

「さあ決めよう、誰が本当に正しいのかを。誰が狂気なのかを」

 

シス対造花のジェダイ対新時代のジェダイの戦いが幕を開けようとしていた。

 

 

 

 

 

 

-シス・エターナル本領 未知領域 惑星エクセゴル 玉座の間-

この銀河の中心地から離れた場所から眺める銀河系もまた良いものだとパルパティーンは思っていた。

 

彼は常に銀河系の中心の表舞台にいた。

 

様々な陰謀詐術を巡らせ裏の顔を持っていたパルパティーンだが一度たりとも表舞台から退いたことはない。

 

彼は常に自ら二面の役割を演じていた。

 

それが全て演技だったのかそれとも本音が混じっていたのかはもう誰にも分からないが。

 

だが今では全てが他人事のように思える。

 

一度死に、あの世に半身を常に掴まれたような身体に蘇った。

 

遠く離れた未知領域のエクセゴルからこの身体を通して見る銀河は酷く他人事のよう思た。

 

大に帝国も第三帝国もましてや新共和国すらもだ。

 

最初は驚きもしたが今となっては微塵も感情が湧き上がらない。

 

まるで書物に書かれた物語を見ているような気分だった。

 

かつてのように内側から湧き起こる衝動やエネルギーはもう全て枯渇してしまった。

 

消えそうになるこの意識を時折思い返す過去の記憶と未来から迫る脅威を認識して呼び戻しているだけに過ぎない。

 

死んでいるように生きている、この言葉に尽きるだろう。

 

唯一湧き起こるものとすればこのエクセゴルを通じて送られてくる暗黒の意志だけだ。

 

自らがダース・シディアスである時こそ最も生を実感していた。

 

再び銀河を支配したい、永久の生命を手に入れたい、シスの悲願を達成したい。

 

我が身にある欲望は全てシスのものでありそうでない面、シーヴ・パルパティーンとして湧き上がるものは限りなく少ない。

 

そしていずれはこのまま…。

 

悲しい結論に至る前に連絡役のシス・エターナル信者が顔を出した。

 

「その面持ちから察するにまだボーラ・ヴィオの戦闘は終結しておらんな」

 

「流石ですシディアス卿、その通りにございます。施設の制圧は殆ど完遂しておりますが目標のジョルース・シボースの殺害には至っておりません」

 

シス信者は微笑を浮かべ彼に頭を下げ報告した。

 

「艦長や指揮官達には手を抜かぬよう伝えよ。奴が生きている内は平穏など訪れぬ」

 

造られた命というのはすぐ狂気に陥ってしまう。

 

そう思うとカミーノアンはやはり素晴らしい技術を持っていたのだろう。

 

ジョルースも私の身体も何かに蝕まれている。

 

「分かりました、それでは報告に映らせていただきます。テドリン司令官の隊が“レン騎士団”との合流に成功致しました」

 

まずテドリンに任せていた任務が達成された。

 

レン騎士団は誕生経緯などはかなり違うものの同じダークサイド系統の組織だ。

 

彼らとは協力関係にある、必要ならばシス・エターナルと共に戦ってもらう事もあるだろう。

 

今もなお生き残っているジェダイの残党を討伐する為にも。

 

だがパルパティーンは見抜いていた。

 

「其方の報告はこれが本命ではないな」

 

そう言うと再び信者は照れたように「流石にございます」と頭を下げた。

 

「ようやく見つけました、シディアス卿。我々が創り出した“()()”が」

 

信者の言葉を聞いた途端、急に頭の上から何かが降ってくる感覚に見舞われた。

 

その感覚が長引くにつれて失われていた気力が取り戻され活力が宿ってくる。

 

シディアスは掠れた笑い声を響かせ信者にすら伝わるほどの熱狂的に歓喜を込めた笑みで答えた。

 

「そうか、ようやく見つけたか。して奴はどこに」

 

「辺境の惑星にてその地の女とつがいとなり、穏やかに過ごしていると」

 

「所詮は役立たずの出来損ないよ、余の血を受け継いでいるのにも関わらずフォースにすら繋がれない欠陥品だ」

 

シディアスは“()()()()()”ともいうべき存在を侮辱し忌々しそうに吐き捨てた。

 

奴は期待外れすぎたのだ、器としても子としても。

 

やつには何もなかった、そして逃げ出した。

 

だが所詮何も出来ない者は何も出来ずに捕まるのだ。

 

「テドリンに命ずるのだ、レン騎士団は先にエクセゴルへ向かわせ其方は指定された惑星に向かい“忌子”とそのつがいの両方を生かしてエクセゴルまで連れ帰れと。力なき出来損ないだがまだ利用価値はある」

 

「かしこまりました、直ちに伝えます」

 

信者は玉座の間から姿を消し報告に向かった。

 

雷鳴が轟く中、シディアスは笑みを浮かべる。

 

奴には利用価値がまだある、余を完璧な状態に復元させる為にはまだ奴が必要だ。

 

それが叶えば次は余のもう一つの身体を修復する。

 

ガンや膿となった者共を蹴散らし銀河をこの手に取り戻すのだ。

 

そしてやがては永遠を手にする。

 

スカイウォーカーを弟子に添えて。

 

再びエクセゴルに邪悪な笑い声が響き渡る。

 

一千年、六千年も前からの悲願が達成されるのだ。

 

ダース・シディアスは玉座の間から銀河系に響くほどの笑い声を響かせた。

 

 

 

 

つづく




おっすおっす、お久しぶりっす、Eitoku Inobeっす

ナチ帝国もついに50話越えでシス関連のお話も加速していくっす

是非是非楽しみにして欲しいっす

そいではまた〜



ジークハルト「今回結局出番なかったね」
ヴァリンヘルト「いつものことじゃないすか」


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ボーラ・ヴィオの戦い/後編

「光が生まれなければ闇は生まれない。同時に闇が消えれば光も消える。この銀河は全てが共生関係にあり、共生者の片方だけが残るということはないのだ」
-旧ジダイ・オーダーの研究員のとある日誌より抜粋-


-未知領域 ファースト・オーダー領 惑星パナソス-

未知領域はその名の通りまだ開拓が進んでいない部分が多く殆どが未開の地だ。

 

故に帝国の残党達にとってみれば格好の隠れ家であり再起を図るに十分な場所だった。

 

また銀河系から殆ど注目されていないので秘密の受け渡しをするのにも十分適している。

 

例えばそう、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

パナソスの上空にはシス・エターナルに改修を依頼していたファースト・オーダー宇宙軍総旗艦、エグゼクター級“エクリプス”が駐留している。

 

さらにその周りには二隻のジストン級と受け取りに来たファースト・オーダー宇宙軍のスター・デストロイヤーやクルーザーが艦列を並べていた。

 

代理旗艦を務める“ヴィジランス”からは既にファースト・オーダーの高官を乗せたラムダ級が発進しており一行はブリッジに案内されていた。

 

「ブリッジや基本の機器系統には手を加えておりません。今までの容量で運用出来ると思います」

 

シス・エターナル軍の将校がラムダ級に乗ってきたスローネ大提督らファースト・オーダーの高官を案内しながら説明した。

 

彼の階級章を見るにこのシス・エターナル軍の将校は中佐といったところか。

 

両方のポケットにコードシリンダーを1本ずつ差しシス・エターナル軍の制帽を被っていた。

 

「主に、最も手を掛けたのはここに来る途中にご覧になったかと思いますが艦首に設置された超兵器、スーパーレーザーです」

 

中佐は誇らしげにブリッジのビューポートから見える発射口を高官達に見せた。

 

ここに来る途中で中佐の言った通りスローネ大提督達は“エクリプス”の全体像を見た。

 

エクセゴルへ引き渡した時とは違い艦首に巨大な十字の物が取り付いており艦底の細部も所々かなり違っている。

 

「やはり、見れば見るほど北東方面で大活躍のあなた方のスター・ドレッドノートに似ている」

 

ピアーソン提督はこの超巨大な砲塔を眺めてそう呟いた。

 

「ええ、我が軍のエクリプス級ドレッドノートの一番艦はこの“エクリプス”になる予定でした。しかし超兵器の研究や技術的な問題でひとまずエグゼクター級として建造し後に超兵器ユニットを設置する計画になったのです。その為純正な、初期から超兵器を装備したエクリプス級は我が軍の“エクリプスⅡ”が初でして」

 

中佐は何処か懐かしそうに呟いた。

 

恐らく彼も開発に携わりあのドレッドノートを造り上げたのだろう。

 

今や彼らが造り上げたものは銀河系最大の力を持ち向かう戦場全てで敵を蹂躙していた。

 

それは周りの超兵器搭載スター・デストロイヤーも同様でレジスタンス軍が数年掛けて奪還した領域は失われようとしていた。

 

「今回の改修でこの“エクリプス”も“エクリプスⅡ”とほぼ同等の戦闘能力を有しております。むしろベースがエグゼクター級でエクリプス級より若干船体が大きい為通常の砲撃戦では“エクリプスⅡ”より有利かも知れません」

 

「そんなものを我々に渡して良かったのか?」

 

スローネ大提督は皮肉を言うように中佐に尋ねた。

 

この軍艦を使って反逆することも可能だ、むしろ今のファースト・オーダーならば純粋な規模で言えばシス・エターナルを上回っている。

 

自らより巨大な飼い犬に自分達の身の丈と同じ高級な兵器を渡しては寝首を掻かれてもおかしくない。

 

誰しもが従順にシス・エターナルに従う訳ではないのだ。

 

「問題ありませんよ大提督、貴女はラックス元帥がお認めになった偉大で帝国を重んじる高貴な方です。一つ強い兵器が与えられたからといってそう簡単にこの帝国統一の機会を逃すようなことはしないでしょう」

 

「随分と高く見積もられたものだ、それでいて意外な人物の名が出てきた」

 

中佐から放たれた人物の名前を聞いてスローネ大提督だけではなく周りの高官達も少し驚いていた。

 

彼らは皆何かしらの形でラックス元帥によって選ばれ関わりがある。

 

たとえそれが高級な捨て駒だったとしてもだ。

 

ファースト・オーダーの母体の一つであるジャクー帝国残存勢力や影の評議会(シャドウ・カウンシル)は皆ラックス元帥が選んだものだ。

 

ある者は捨て駒として、またある者は未来の帝国を作る種として。

 

これも全ては彼のみに与えられた秘密の遺言、終末司令によるものでそれを受け継いだのがスローネ大提督だった。

 

その為ラックス元帥や死ぬ以前の皇帝パルパティーンが描いた結果とは大きく異なるだろう。

 

本当ならラックス元帥が生きて選び抜いた者達をもしかしたらエクセゴルに連れて行き、ファースト・オーダーとシス・エターナルが融合した姿で銀河に帰ってきたかも知れない。

 

そもそも第三帝国という超巨大な帝国の残存勢力が新共和国を倒し銀河系を半ば掌握することもなかっただろう。

 

文字通り“()()()()()()”は皇帝と共に心中していたはずだ。

 

「あなた方もそうでしょう、ファースト・オーダーはラックス元帥に選ばれた正当な帝国の後継者であり統一された帝国の中心となるべき存在はあなた方です。他の勢力とは違い、あなた方は最も正しい選択をしてくれると我が主人は信じています」

 

「最も正しい選択……そんなもの、この世に存在するのか?」

 

スローネ大提督は中佐に再び尋ねた。

 

大提督は銀河内戦を通して本当に正しい選択をしてきたのか疑問に思う事が何度もあった。

 

ラックス元帥の言いなりになってやってきたこと、そしてそのラックス元帥を自らの手で殺めたこと。

 

彼を早々に身限り例えばローリング大将軍やあの当時ハンバリンを抑えていたオイカン大提督、そして後に第二帝国を作る事となったモフヒルデンロードらと共により強固で統一された帝国の連合を作ることも出来たはずだ。

 

そしてラックス元帥を殺めず彼のなすべき事を黙って見ていた方が帝国の為になったのではないかと思うこともある。

 

亡き皇帝が決めたことを彼はやっていた、ならばそれを止めるということは皇帝に反逆することなのではないか。

 

だがスローネ大提督は常に決断し、ここまでやってきたのだ。

 

今更否定する事は出来ないし誰にもさせやしない。

 

「ありますよ、我が主人は特に。やがてお目通りが叶う時も来るでしょう」

 

「ほう、それは楽しみだ」

 

一瞬だけ中佐とスローネ大提督の間に緊張が走った。

 

ラックス元帥の隠していた秘密、彼が最終的に向かうべき場所は“()()”だったのかを調べていくうちにスローネ大提督はある一つの結論に行き着いた。

 

もしかして“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

辛うじて復元出来た資料などを見てもわずかながらにその可能性が高かった。

 

ラックス元帥は常に“()()”という言葉で終末司令後の濁していた。

 

例えばもしこの“()()”が未知領域ではなくエクセゴルだとしたら。

 

そしてその命令の司令者がその地にいるとしたら…。

 

まだ確証は持てない上に否定出来る証拠も幾つも存在する。

 

だが可能性としては確実に存在しエクセゴルでシス・エターナルの言う主人とやらに会えば答え合わせになるはずだ。

 

「大提督、操艦可能な分の乗組員は乗艦しました。戦闘を考慮しないのなら後10分で動かせますがどうしますか?」

 

報告に来たトスウィン少佐がブリッジに訪れスローネ大提督に敬礼した。

 

その様子を見ていた中佐や他のシス・エターナルの将兵達は徐々にブリッジを後にした。

 

「それでは大提督、我々はこれにて」

 

「ああ、シス・エターナルの指導者には是非感謝の言葉を伝えておいてくれ」

 

「はい、我が主人も喜ぶでしょう」

 

中佐はスローネ大提督と敬礼を交わし、中佐は他の将兵と共にブリッジから離れた。

 

彼らを見送った後スローネ大提督はトスウィン少佐に返答した。

 

「いや、兵器技術者やトルーパー、パイロット達も乗せてからだ。万全の状態でこの艦を動かす」

 

「分かりました」

 

「イラムに戻り次第“エクリプス”のスーパーレーザーの運用テストを開始する。FOSB(ファースト・オーダー保安局)には機密保持の準備をさせておけ」

 

「了解」

 

副官や幕僚達がスローネ大提督の命令を受けて忙しなく動き始めた。

 

部下達への指示を一通り出し終えたスローネ大提督は再びブリッジから“エクリプス”のスーパーレーザーを見つめた。

 

いよいよ大提督がエンドアで守っていたものは一隻の軍艦にまで化けるようになった訳だ。

 

着実に技術は進んでいると感じさせた。

 

「シス・エターナルと一戦交えると言うなら私はついていくぞ。どうせ一度は死んだ身だからな」

 

スローネ大提督の隣に来たボラム大将軍がそう苦笑と共に呟いた。

 

「あくまで考えの一つだ、実際に実行するつもりはない。何せ今の我々じゃあ彼らに勝つ事は不可能だからな」

 

超兵器を備えた“エクリプス”を一隻持っているからと言ってそれだけでシス・エターナルには勝てない。

 

むしろ僚艦として控えているジストン級によってファースト・オーダーの艦隊は消し炭にされ勝負にすらならない可能性が高い。

 

「しかしあの中佐、我々の事情を知らず随分と期待してくれている。確かにシス・エターナルと戦う気はないとはいえそれ以降彼らに利益になる行動を取る保証はない。何せ我々とて一枚岩ではないからな」

 

ボラム大将軍は伊肉を込めスローネ大提督に呟いた。

 

これには大提督も頷かざるを得なかった。

 

シス・エターナルが今後要求してくることはいずれファースト・オーダーとて飲めない事が出てくるだろう。

 

「だがもはや紡ぐ事は出来ない崩壊した帝国を再び一つにするチャンスはこれしかない。私は可能な限りシス・エターナルと協力し彼らのビジョンの達成に尽力するつもりだ」

 

「…やはりまだ諦められないのか、帝国の再統一を」

 

ボラム大将軍の問いにスローネ大提督は「ああ」と素早く答えた。

 

「私は確かにラックスに最後の任務を託された。だが奴のやり方に従うつもりは今も毛頭ない、むしろ奴とは別の方法で任務を成し遂げるさ」

 

スローネ大提督の希望は常に輝いて見える、ボラム大将軍はそう思っていた。

 

「…ファースト・オーダーの最高指導者が君で良かった。私は大提督についていくよ」

 

ボラム大将軍は微笑みながらスローネ大提督に告げた。

 

未来を信じる大提督とそれを支えるクローン戦争からの老将は固く受け継いで結ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

-リド星系 惑星ボーラ・ヴィオ ボーラ・ヴィオ・クローニング施設-

ライトセーバーを手に持ち互いに相手に向け合う4人の者達の間には計り知れない程の痛みすら感じる緊張が走っていた。

 

互いに口を開く事すらなく、殺気と相手を探り合うフォースだけが空間に充満していた。

 

ジョルース・シボース、アソーカ・タノ、ルーク・スカイウォーカー、そしてルウク・スカイウォーカー。

 

強いフォースと高い技量を持つこの4人のフォース使いはジリジリと相手に圧力をかけていた。

 

「我が弟子よ、私はあの古き追放されたジェダイを仕留める。お前は奴を」

 

「はいマスター」

 

ジョルースが口を開きルウクは師匠の指示に従った。

 

ルウクはかつてルークが持っていたライトセーバーをルークへと突き向け間合いを測った。

 

それと同時にジョルースもアソーカの方へと振り向き邪悪な狂った笑みと共にライトセーバーを向けた。

 

「久しぶりだな追放された者よ、私は作り上げたぞ。ジェダイの帝国を」

 

ジョルースはアソーカを嘲笑うかのようにそう高らかに告げた。

 

だがアソーカはそんなことを気に求めず言葉を返した。

 

「亡きジェダイ達から作った複製のオーダーなどそれは本物のオーダーとはいえないわ。あなた自身も、あなたの弟子も」

 

「それはこの戦いで決めることだ、さあ行くぞ!」

 

ジョルースの言葉に合わせてルウクも早速ライトセーバーの剣先を用いた突きの一撃を放った。

 

だが攻撃を予測していたルークによってその突きは弾かれ互いに攻防を繰り広げる斬り合いとなった。

 

同じ顔、同じ遺伝子を持つ2人は互いに互いが繰り出す技や攻撃が何処から来るか分かっているようで相手の攻撃を防いでは反撃に出て防がれると言うことを繰り返していた。

 

蹴りやフォースプッシュなど様々な技を用いて戦うがどれも決定打にはなり得なかった。

 

緑と青の光剣が混じり合い、ライトセーバー特有の鍔迫り合いの音が空気に伝わった。

 

「お前はなんだ!」

 

ルークはルウクに向けて問い詰めた。

 

ルウクは狂気じみた笑みを浮かべ応える、

 

「僕はお前だ!いや、僕こそが“()()()()()()()()()()()()”だ!」

 

引離れた2人は再び何度も斬り合う。

 

斬撃の度に相手が自らであることを何度も再認識させられた。

 

双方の力は互角、どちらも積極的に攻めに出ているが両者の攻撃で相殺されていた。

 

ルウクが近くのパイプをフォースで引き千切り、ルークに豪速球で投げつける。

 

しかしルウクは逆にライトセーバーでパイプを真っ二つにして攻撃を防ぎ力を込めた拳を地面に叩き付けてフォースプッシュを辺りに飛ばした。

 

だがこれもルウクが速やかに防御を取りつつ距離を取った為なんのダメージにはなり得なかった。

 

両者は0.1秒の間もなく一気に接近しライトセーバー戦を開始した。

 

素早さと華やかさ、そして無駄のない動きがこの戦いを彩り決着の行方を不透明にする。

 

ルークが足を狙いライトセーバーを振るうがルウクがこれをジャンプで回避し逆にルークの脳天を目掛けてルウクが一振りをお見舞いする。

 

この攻撃もルークの防御によって防がれまた何度も互いに斬り合った。

 

力量どころか存在すら同じな2人の戦いはどちらか一方が不利、優勢という訳でもなかった。

 

ただ鎬を削り互いの技をぶつけ合い、それらが全てこの施設の虚空に消えていった。

 

「お前は誰から生まれてきたんだ!何故僕のライトセーバーを…!僕の父のライトセーバーを持っている!」

 

斬撃の間にルークはルウクに問いを投げかけた。

 

彼の存在、彼の出自、彼の持つライトセーバー、全てが謎だった。

 

ルウクはルークの攻撃を防ぎつつ答えた。

 

「このライトセーバーは僕が“()()()()()”ものだ、マスターはそう言っていた。そして僕はマスターに創られた、“()()()()()()()()()()()()”!」

 

その言葉と共にルウクはライトセーバーを投げた。

 

回転しながら接近するライトセーバーをルークが今度はジャンプで躱すと逆にフォースでそのライトセーバーを近くの壁に突き刺した。

 

武器を失ったルウクにルークは一気に接近し斬り掛かる。

 

その重い斬撃をルウクはなんとか手のひらにフォースのバリアーを展開し防いだ。

 

だが余りにも一撃が強かったので少し押され手をひらひらさせた。

 

ルウクはフォースでライトセーバーを取り戻すと素早くアクロバティックな動きでルークに詰め寄り光剣を振るう。

 

まず一撃目を回避したルークは二撃目をライトセーバーで防ぎ三撃目が来る前に蹴りを入れた。

 

だが蹴りを見切っていたルウクは攻撃を行わず再び距離を取りそこから一気に突きでルークにダメージを与えようとした。

 

無論ルークもそう簡単にはやられずルウクの突きを軽々と躱すと逆に無防備な背中にライトセーバーの斬撃を放った。

 

これもすぐにルウクが防御し両者は捨て技と防御の連続となった。

 

その光景はかつてムスタファーの溶岩の上で戦いあったジェダイの師弟を思わせる。

 

2人の戦いは無駄なく静かなものでそれ故に常人ですら肌で感じる殺気や闘志を周りに放っていた。

 

「…お前もクローンなのか…?」

 

ルークは独り言のように彼に呟いた。

 

ジョルースは帝国によって造られた狂気のクローンでそのジョルースが今までルークが戦ってきたクローン戦士を造っていた。

 

ならばこのルウクを名乗る男も、もしかしたらジョルースがなんらかの方法で造り出したクローンなのかもしれない。

 

しかしどうやって、可能性は出たはいいがそれを補強する証拠が今のルークには乏しかった。

 

そんな時ルークはふと、ルウクが手に持つ青いライトセーバーに目を向けた。

 

かつてはルークがあのライトセーバーを握り戦っていた。

 

だがベスピンのクラウド・シティでシスの暗黒卿と対峙した際にあのライトセーバーは自身の右腕と共に失われてしまった。

 

そう、“()()()()()”。

 

この時ルークの疑問と可能性が繋がった。

 

もし帝国軍がルークの右腕とライトセーバーを回収し保管していたとしたら。

 

そしてその右腕とライトセーバーをジョルースが持ち出しそこからクローンを造っていたとしたら。

 

もしそのクローンが“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

彼の存在、そして彼が何故あの青いライトセーバーを持っているのかの全てに合点がいく。

 

父のライトセーバーがルークを答えまで導いてくれた。

 

「お前の正体が分かったぞ、僕のクローン」

 

「ほう、そうかだがそれがどうした。僕がお前のクローンだとしても僕がお前に勝てば僕こそが本物のルーク・スカイウォーカーだ!」

 

自身の歪んだ顔がライトセーバーと共に迫ってくる。

 

だがルークは以前も自身の闇と戦い向き合ったのだ。

 

ならば今度は自らの過去から生み出されたものと向き合う時だ。

 

向き合ってこそルークは未来に進めると信じていた。

 

同じ頃、ジョルースとアソーカも熾烈な戦いを繰り広げていた。

 

両者のライトセーバーは両者の経験を表すように舞い、その熾烈な死闘を生み出す。

 

ジョルースは様々なフォースの技を駆使しアソーカと戦い、アソーカは2本のライトセーバーで防御と攻撃を繰り出しジョルースに立ち向かった。

 

「愚かな女め!自らジェダイという正しい道を外れるとは!」

 

ジョルースはライトセーバーを振るい、アソーカが距離をとった所にフォース・ライトニングを浴びせかけた。

 

アソーカはライトニングをライトセーバーで防ぎつつジャンプと共に一気に接近しジョルースに一撃を与えた。

 

フォース・ライトニングを止め、ジョルースは一旦防御に徹する。

 

アソーカは様々な手法を使ってジョルースの防御を崩そうとした。

 

しかし2人は鍔迫り合いの格好となり両者一歩も引けを取らない。

 

「私はジェダイから離れて自分の道を見つけた。今なら分かる、私達は新しいジェダイの道を歩んでいると。古い凝り固まった傲慢な価値観に囚われたままのあなたに負けるはずがない」

 

「つくづく哀れな奴らだ、この宇宙の究極の力を持つのは我々だけだというのに!!」

 

「この銀河に生きるもの全てがフォースとどこかで繋がっている、特別なのは私達だけじゃないわ」

 

これ以上競り合っていても無駄だと判断した両者は一旦距離を取り、大勢を立て直した。

 

ジョルースはその間に周囲に潜ませていたドロイドや信者達を呼び寄せアソーカと戦うよう命じた。

 

二方向からブラスター弾が飛んでくるがアソーカは軽々と弾丸を全て弾き返し何人かの信者を無力化した。

 

そこから近づいてくるセキュリティ・ドロイドやプローブ・ドロイドを斬り倒し、ジョルースの配下の戦力を全て打ち倒した。

 

最後の1体のドロイドが倒れるとほぼ同時にジョルースは再びフォース・ライトニングを放った。

 

アソーカは2本のライトセーバーをクロスさせ攻撃を防ぐ。

 

しっかり地面に足をつけて踏ん張りジョルースのフォース・ライトニングを防ぎ切った。

 

「見たことか、やはりフォースを感じられないドロイドや人間など所詮このザマだ。私が術を掛け、強化してやっても奴らの限界はこの程度なのだ。こんな下民どもを守る意味がどこにある?むしろ我々の手で正しく導いてやる事こそが正しいことではないのか?」

 

ジョルースは一転して今さっきアソーカが倒した者達を例に挙げ彼女を自らの陣営に引き込もうとした。

 

どこか倒された自らの配下に呆れその上で自らやフォース感受者のアソーカの能力を引き合いに出して支配者になろうと誘っている口ぶりだ。

 

だがジェダイ帝国などアソーカにとって微塵も魅力を感じなかった。

 

「断る、そんなことしてはシスと同じになってしまう。それにそこまでして彼らが弱かったというならそれは彼らのせいではなくお前の術の練度が低いだけだ」

 

「抜かせぇ!!!!」

 

自らの術を馬鹿にされたジョルースは怒りフォース・ライトニングとフォースプッシュを混ぜ合わせた技をアソーカにぶつけた。

 

再びアソーカは踏ん張りライトセーバーで防御する。

 

ジョルースの攻撃を弾くとアソーカは再び走り出しジョルースに斬り掛かった。

 

無論ジョルースもライトセーバーで防御しフォース・ライトニングと斬撃を混ぜ合わせてアソーカと斬り合う。

 

ジョルースとアソーカの戦いもどちらが不利、優勢と判断し切れない熾烈な死闘を繰り広げていた。

 

このボーラ・ヴィオの施設ではあちらこちらで過去との決着をつける戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム レジスタンス領 ロザル宙域 ロザル星系 惑星ロザル レジスタンス軍絶対防衛戦線-

何百隻もの軍艦と地上に構える何十、何百万人もの将兵がロザルの軌道上に駐留する旗艦からこの防衛戦の総司令官の演説を聞いていた。

 

総司令官のホログラムはロザルの市街地に防衛陣地を構えるあちこちに出現し塹壕や機甲部隊では通信のみが響いていた。

 

『総員に次ぐ!!ここから一歩たりともシス・エターナルの軍艦を奥地へ進軍させてはいかんのだ!!我々がここで踏み留まり、ガレルやバロスで散っていった同胞達の無念を晴らす!!』

 

総司令官の声を張った勇ましい演説は敵を待つレジスタンス軍の将兵に染み渡った。

 

彼の言う通り既にシス・エターナルによって仲間を殺された将兵は多くいる。

 

ガレル、バロスの度重なる敗北により多くのレジスタンス軍将兵が戦死しアキシャル砲の餌食となって遺品すら遺らなかった。

 

軌道上にいる艦隊や地上に控える歩兵達の中には今まで死んでいった兵士達の親友であったり幼馴染であったり或いは軍学校の同級生であったりそういった関係性を持つ者が大勢いる。

 

総司令官もそうした者の1人であり、彼はかつてバロス戦時に戦死したボラトゥス提督の副官を務めていた。

 

『無論、この戦いはバロス戦同様勝率は限りなく低い…我々は戦う事なく全滅してしまうかもしれない、だが諦めてはいかんのだ!!諦めては…今まで散っていった者達の思いが無駄になる!』

 

ある1人の軍曹はジャガーノートの兵員室の中で総司令官の演説を聞きながらホロカムから映し出された写真を眺めていた。

 

ホロカムの写真は彼の恋人と親友と撮ったもので3人ともいい笑顔を浮かべていた。

 

この軍曹は親友と共に銀河内戦の頃からレジスタンスに、それ以前の組織に仕え戦ってきた。

 

写真に映る恋人とも反乱同盟で知り合ったのだ。

 

だが親友も恋人も銀河内戦中に戦死し兵士は1人取り残されてしまった。

 

彼らが命を賭して作り上げた新共和国を守る為軍曹は新共和国軍に残った。

 

そんな中新共和国は崩壊し第二次銀河内戦が始まった。

 

軍曹は今も戦っている、このロザルで再び対決するつもりだ。

 

総司令官の思いに耳を傾けながらこの写真を見て軍曹は再び決意を固めた。

 

『我々は最後の1人となるまでここに踏み留まり、1人でも多くの敵兵を打ち倒し、1秒でも多くの時間を稼ぐ。そうすればやがて我々の仲間達が反撃の手立てを考え、帝国を打ち倒してくれるだろう!!その為にも諸君、私と共にこの地に踏み留まり戦ってくれ!!自由を守る為に、多くの人々の明日を守る為にここを墓場とせよ!!』

 

その一言で通信は切れ、ホログラムも全て消えた。

 

既にロザルの市民は避難が完了し地表に残っているのは全て軍の兵士ばかりだ。

 

このロザルでは最初期に反乱の産声が上がったレジスタンス軍にとって重要な地でもある。

 

ゴーストやフェニックス中隊はここにはいないが必ずこの地を守ってやるという強い意志がそれぞれの兵士から感じられた。

 

無論、皆心の底では恐怖があるだろう。

 

ガレル、バロス共にレジスタンス軍はても足も出ず文字通り全滅した。

 

そんな恐ろしい相手と戦わなくてはならないのだ。

 

既に総司令官が言った通り、勝率もあまり高くはない。

 

だが彼らは全員何かしらの覚悟を決め、或いは仲間の背中を見て立ち上がった。

 

団結し、互いに恐怖を紛らわし、敵が来るのを待っていた。

 

多くの将兵の根底に「必ず仲間が反撃に出てくれる」という確固たる希望があるからだ。

 

新共和国崩壊直後とは違い、新共和国軍の残党は結集しレジスタンス宣言という希望が生まれた。

 

希望があるうちは人は挫けない。

 

もう準備は出来た、あとは待つのみである。

 

暫くして彼らが待ち望んだ彼らに対する最悪の報せが届いた。

 

「ハイパースペースより艦影多数接近!!シス・エターナルの大艦隊です!!」

 

センサー士官の報告と共に総司令官は迎え撃つよう命じた。

 

MC80やMC75から哨戒機とは別のスターファイターの攻撃中隊が発艦しコルベットやフリゲートがより艦列を整え、砲塔がいつでも砲撃出来る状態となった。

 

地上では「敵艦隊襲来!!」と言う各所の兵士の報告で偏向シールドが起動し対空砲や重砲が稼働し地上内のスターファイターが発進し歩兵達が一斉に戦闘配置に着いた。

 

これでロザルはいつでも戦闘が出来る状態にある。

 

そんなレジスタンス軍の目の前に遂にシス・エターナルの派遣軍全軍が姿を表した。

 

“エクリプスⅡ”を中央に僚艦としてジストン級やインペリアル級がジャンプアウトし対空防御の穴をアークワイテンズ級やヴィクトリー級が埋めていった。

 

「敵艦隊の総数はバロスと同様ほぼシス・エターナルの全軍です!」

 

「砲撃用意!広範囲に展開し包囲戦を展開する!スターファイターは浸透し対艦戦闘を…!」

 

「前方的ドレッドノート!スーパーレーザーを発射!」

 

艦首から放たれる“エクリプスⅡ”のスーパーレーザーによって総司令官が乗艦する旗艦やその周辺の護衛艦は全て消し飛ばされた。

 

されどレジスタンス軍の守備隊は最高司令官が戦死しても戦闘を続行出来るように指揮系統の細分化がなされておりすぐに次の代理司令官が艦隊を指揮し戦闘は滞りなく継続された。

 

レジスタンス軍の軍艦とシス・エターナル軍の軍艦が互いに砲撃を撃ち合いぶつかり合う。

 

「敵艦隊、包囲戦を展開しスターファイターによる浸透攻撃で艦隊に打撃を与えようとしています」

 

テルノ中将と協議し合っていたデミングス司令官はフリューゲルにそう報告した。

 

敵艦隊の司令部と思わしき地点を先行してスーパーレーザーで叩いたが地点が違かったのか既に指揮系統が移っていたのかレジスタンス軍は通常通り戦闘を開始している。

 

「ではこのまま防御陣形を維持しつつ地上戦を同時進行で開始する。アキシャル・スーパーレーザーと通常砲撃で敵を寄せ付けるな。スターファイター隊には事前に編成した隊で作戦を続行せよ」

 

「了解」

 

「各艦に伝達、敵艦隊は特攻してくる可能性がある。敵艦や敵機が撃破されるまで気を抜くなよ」

 

レジスタンス軍の動きから見てこのロザルを絶対防衛の地と決めたことは明白だ。

 

彼らは最後の1人になってもこのロザルの地で戦うことをやめないだろう。

 

こうなった敵は手強く油断出来ない。

 

フリューゲルはクローン戦争の時に絶対防衛を決め込んだ分離主義の軍艦やスターファイターが特攻まで行って戦っていた。

 

その結果多くの仲間をその戦いで失いフリューゲルの中ではこの時も思いが強く残っている。

 

もう二度とあの光景は目にすることはない。

 

敵が全滅するまで戦うのならこちらが先に殲滅するまでだ。

 

幸いにもそれだけの火力や兵力、指揮官達は揃っている。

 

この力を活躍しやすい方向へ流してやればいいだけだ。

 

「道をこじ開けろ」

 

一斉に何隻かのジストン級からアキシャル・スーパーレーザーが放たれ接近する部隊が幾つか消失した。

 

それと同時に他のジストン級やインペリアル級からの更なる砲撃も始まり何発もの重ターボレーザーの砲弾がレジスタンス軍の艦艇を襲った。

 

発艦したシスTIEファイターは編隊を組んでレジスタンス軍スターファイター隊の行手を阻んだ。

 

特に優先してYウィングやBウィングのような爆撃機を狙いジストン級や周りの軍艦に攻撃される前に撃墜した。

 

『クソッ!辺り敵だらけだ!』

 

『トレール9がやられた!うわっ!?うわぁぁぁぁ!!』

 

『おい!!クソッタレ!!対空砲火が酷すぎる!!』

 

『やられた!!』

 

レジスタンス軍機の通信回線はどれも阿鼻叫喚、悲惨の二文字で表せた。

 

圧倒的な物量と性能のシスTIEファイターだけでなく周りのアークワイテンズ級やヴィクトリー級による対空防御によりレジスタンス軍のスターファイターは次々と撃墜されていった。

 

ジストン級とインペリアル級が圧倒的な火力で攻撃を担い、ヴィクトリー級やアークワイテンズ級がスターファイター隊と連携して対空の絶壁を作る。

 

まさしく最強の矛と最強の盾を手に入れたようなものだ、フリューゲルが長年培ってきた軍役の集大成がここにあった。

 

ブラハットク級やCR90コルベット、ネビュロンBが周りの護衛艦を破壊し浸透しようとAウィングやXウィングと共に突撃していった。

 

しかし事前に用意されていたシスTIEボマーやプロトン魚雷や震盪ミサイルを大量に装備したシスTIEファイターが敵艦へ攻撃を開始した。

 

護衛機のシスTIEファイターによってAウィングやXウィングは引き離され優秀なパイロット達が対空砲火を展開するレジスタンス軍の艦艇へプロトン魚雷や震盪ミサイル、爆弾を投下した。

 

まずイオン魚雷が艦艇の機能やシールドを奪い、そこにプロトン魚雷やプロトン爆弾が投下される。

 

ブラハットク級やCR90の装甲ではとてもではないがこの爆弾の雨に耐える事は出来ない。

 

特に脆いネビュロンBでは尚更だ。

 

艦列に割って入ろうとしたレジスタンス軍は悉く阻まれ、精密に組織化されたスターファイター隊と防空部隊によって多大な損失を被った。

 

その艦にもジストン級やインペリアル級は容赦無くその火力を発揮し着実にレジスタンス艦隊の数を減らしていった。

 

シス・エターナルに躊躇いという文字はない、常にカイバー・クリスタルから発せられる最大の火力を持って戦っていている。

 

特に艦列の中央で陣取る“エクリプスⅡ”は単艦だけで何十隻ものスター・デストロイヤーの火力を一纏めにしたような存在感を放っていた。

 

重ターボレーザー砲とターボレーザー砲、イオン砲を連続して放ち、チャージが完了すればロザル本星を傷つけぬよう火力を押さえてアキシャル・スーパーレーザー砲を放つ。

 

これ以上は通さぬと決意を固め、踏み留まるレジスタンス艦隊をシス・エターナル艦隊は容赦なく消し飛ばしていった。

 

「制宙権の6割を確保しました。作戦通り、惑星内への上陸作戦を開始します」

 

ブリッジの士官が幕僚達に報告し、多くのスター・デストロイヤーや“エクリプスⅡ”からゴザンティ級やセンチネル級、輸送艇が発艦した。

 

「制宙権の確保、予定よりも大分早く完了しましたね」

 

「ああ、アキシャル砲の効力あっての進撃テンポだ。しかしレジスタンス艦隊もよくやる、あえて地上戦に持ち込ませて耐え抜くつもりだろう。連中は壊滅してもゲリラ戦で我々を足止めするつもりだ」

 

「となると早期決着が望ましいですね」

 

デミングス司令官はフリューゲルにそう付け加えた。

 

だがフリューゲルは首を振り「それも得策ではない」と告げる。

 

「こちらが焦れば連中はその焦りを利用して反撃に出るはずだ。そうなればこちらの組織は大きく切り崩され厳しい戦いとなる。むしろ我々は堂々と戦い、アキシャル砲と最新鋭兵器、優秀な歩兵を持って敵を圧倒すべきだろう」

 

今のレジスタンス軍の士気は高く防衛戦の利もレジスタンス軍にある。

 

だが、それがどうした。

 

シス・エターナルに備わるこの大砲は、カイバー・クリスタルによって生み出される銀河最大級の火力は戦争を一変させる。

 

防衛戦の利も、高い士気すらもこのスーパーレーザーが消し去り、勝利のみを残す。

 

そしてこの力を活かせるだけのものを作り上げてきた。

 

「上陸部隊の第一陣、コザルを占領し通信センターを占拠しました。現在、第11軍団と第31軍団がレジスタンス軍と衝突しています」

 

士官が報告したように既にシス・エターナル軍はロザルへの上陸を果たし瞬く間に入植地と通信センターを占拠した。

 

上陸時に多少の被害は被ったが護衛機のシスTIEファイターやシスTIEボマーの爆撃によって守られていた。

 

「では砲撃支援だ、サブロンド司令官」

 

『ハッ!』

 

デリファン”のサブロンド司令官のホログラムが出現しフリューゲルは命令を出した。

 

「君のジストン級で地上支援の軌道上爆撃を実行しろ。偏向シールド外に出ている敵部隊の幾つかを吹き飛ばしてやれ、ただし事前に言った通りスーパーレーザーは使うな」

 

『分かりました、直ちに命令を実行します』

 

デリファン”の重ターボレーザー砲が全てロザルの惑星方面へ回転し、砲手達が狙いを定めた。

 

ブリッジでは正確な砲撃地点を割り出そうと地上部隊の報告を収集し砲撃座標の計算を行なっていた。

 

「報告通り軍団正面に展開する歩兵部隊と山岳地帯を迂回して裏から回り込む機甲部隊を発見しました。どちらを重点的に攻撃しますか?」

 

「無論機甲部隊だ。正面の歩兵部隊には恐らく我が軍のウォーカー部隊が当たる、敵に防衛陣地を構築されなければそれでいい」

 

「了解しました、座標送信。ポイント…」

 

ブリッジの士官達が格砲門に座標を伝達している中、サブロンド司令官は「ジストン級の力が単なるアキシャル砲ありきでないことを示してやる」と笑みを浮かべた。

 

伝達から僅か30秒後に“デリファン”からは熾烈な地上への軌道上爆撃が放たれた。

 

黄緑色の重ターボレーザー砲がロザルに降り注ぎ、大地を砕いて進軍中のレジスタンス軍を消し炭にした。

 

分隊規模の偏向シールドも展開する余裕がなかった機甲部隊の車輌は砲撃をモロに喰らい、次々と撃破されていった。

 

ターボレーザーの圧倒的な威力によって戦車は破壊され、スピーダーは宙を舞い、ジャガーノートは沈黙し、エリートAT-TEは地面に崩れ落ちた。

 

同じ頃、シス・エターナル軍を迎え撃とうとしていた歩兵部隊の下にも“デリファン”の砲撃が豪雨のように降り落ちた。

 

防衛陣地さえ構築されなければとサブロンド司令官は言っていたがレジスタンス軍の歩兵達にとってこの攻撃は防衛陣地の構築どころではない。

 

既に前衛にいた2個分隊は全滅し塹壕や岩陰に隠れていた兵士達も多くが死傷し、生き残った兵士達も降り続けるターボレーザーの熱とこの轟音、巻き上がる土煙の感触と匂いによって歯を食いしばり顔を硬らせていた。

 

数十秒続いた軌道上爆撃は“デリファン”のブリッジでサブロンド司令官が「もう十分だ」と判断した事により終了した。

 

「軌道上爆撃が止んだ!急げ!!すぐに敵軍のウォーカー部隊が来るぞ!!」

 

ブラスター・ライフルを手に取り隠れていたレジスタンス軍の歩兵達が姿を現す。

 

軌道上爆撃の効力は絶大だがそれだけで勝敗を決するとは限らない。

 

どれだけのターボレーザーを放ったとしても瓦礫の中に、塹壕の中にまだ歩兵が残っていてブラスター砲や重火器を構え立ち向かってくるだろう。

 

だからこそ、この勇敢で愚かな歩兵達をより細部まで手が届く絶大な力で打ち倒す必要があるのだ。

 

後方でエレクトロバイノキュラーを覗き込む1人の歩兵が慌てて大声で叫んだ。

 

「アサルト・ウォーカー発見!!距離150メートル!!」

 

部隊長は険しい表情を浮かべ「総員戦闘用意!!対車輌兵器でウォーカー部隊を迎え撃つ!!」と部下達に命令を出した。

 

すぐ歩兵達が塹壕の中に入り、ある者はブラスター砲を設置しある者はスマート・ロケットを構えた。

 

近くに軌道上爆撃を受けて死んだ仲間の死体があっても今は気にしている暇がない。

 

後少しすれば鋼鉄の歩行者(Walker)達がやってくるのだ。

 

「サブロンド司令官の軌道上爆撃は上手く行ったようだな。よぉし!全隊攻撃開始、我が機甲部隊を持って陛下に仇なすレジスタンスを殲滅だ!」

 

シス・エターナル地上軍のAT-MTに乗り込む上陸部隊総司令官のメルヴァー将軍は配下のウォーカーに命令を出した。

 

メルヴァー将軍はクワット生まれで元は帝国軍のクワット守備部隊の指揮官を務め、帝国崩壊後は守備隊を併合したクワット惑星防衛軍にも一時期所属していた。

 

だが彼は狂信的、病的なほどの皇帝シーヴ・パルパティーンの信奉者だった。

 

ある者はメルヴァー将軍のこの信奉心を“()()()()()”などと言い表していた。

 

そんなメルヴァー将軍が皇帝が死んだ後の世界で正気でいられるかと言われば当然正気な訳がない。

 

何度も“殉死”と言い張って自殺未遂を起こし、更に奇行も目立つようになっていよいよ手に負えなくなってしまった。

 

当然クワットの重役達も手に負えず、最終的にとあるルートでメルヴァー将軍はシス・エターナル地上軍の指揮官となった。

 

そこでメルヴァー将軍は皇帝パルパティーンと再開しひとまず正気を取り戻したのだ。

 

今や彼はシス・エターナル地上軍の中でも切手の機甲部隊指揮官となっている。

 

AT-MTの顎の重レーザー砲や背中のメガキャリバーキャノンから次々と光弾が放たれ、レジスタンス軍の兵士を吹き飛ばしていった。

 

塹壕の中で歩兵達は必死になってブラスター・ライフルの引き金を引き、ブラスター砲やスマート・ロケットで攻撃するが殆ど効力はなかった。

 

接近してダメージを与えようとする歩兵のユニットも護衛機のAT-STマークⅢによって一瞬で抹殺される。

 

塹壕の中には高火力のレーザー弾が叩き込まれ歩兵達は爆風の中に巻き込まれ即死し、或いは重傷を負った。

 

「全てウォーカーの接近を許すな!!ここで食い止めろ!!」

 

AT-STマークⅢにもミサイルが放たれるが周りの随伴歩兵によって迎撃され逆に両側のツイン・レーザー砲が重火器兵を蜂の巣にした。

 

『将軍、このまま随伴歩兵を突入させて塹壕内の敵兵を掃討しましょうか』

 

僚機のAT-MTの車長がメルヴァー将軍に尋ねた。

 

敵は粗方撃破し、このまま全滅させるのはAT-MTでは流石に厳しい。

 

「いや、歩兵はキャピタル・シティまで温存する。AT-STを前進させて塹壕内部に制圧射撃を行え」

 

メルヴァー将軍の命令により何台かのAT-STマークⅢが先行し塹壕内に突入した。

 

既に塹壕の中の歩兵達は一旦後退して体勢を立て直そうと重火器を持って戦場を離れようとしていた。

 

だが直ちに退散しなかったのが彼らの判断ミスだ。

 

「急いで離脱をっ…!」

 

「しまっ!?」

 

塹壕を見下ろすようにAT-STマークⅢが歩兵達の頭上に立ちはだかった。

 

AT-STマークⅢは塹壕の溝に向けツイン・レーザー砲を叩き込んでいった。

 

爆風が塹壕中に蔓延しレーザーを撃ち終える頃には塹壕の中には肉片が千切れた後しか残っていなかった。

 

その上をAT-MTが踏みつけるように通っていった。

 

「全隊、このまま前進しキャピタル・シティまで進撃しろ。ロザルの首都にシス・エターナルの軍旗を靡かせてやれ!」

 

シス・エターナルの赤い津波は青いロザルを飲み込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

ルークとルウク、アソーカとジョルースによる熾烈なライトセーバー戦が繰り広げられている頃ある1人のフォース使いが目を覚ました。

 

マラ・ジェイドだ。

 

彼女はルークと共にジョルースと戦っていたのだがジョルースによって操られた特攻兵の攻撃により気絶してしまった。

 

気絶したところよりも少し離れた場所で倒れていたということはルークが安全な所へ寄せておいてくれたのだろうか。

 

「ここは…」

 

彼女が起きた瞬間アストロメク・ドロイドの電子音が聞こえた。

 

マラ・ジェイドは顔を上げるとそこにはルークがいつも連れているドロイド、R2-D2がいた。

 

「お前が私を起こしてくれたのか」

 

マラ・ジェイドはR2に尋ねた。

 

R2はジョルースと戦う際にルークから「隠れていてくれ」と言われていたので戦闘中は離れていた。

 

だがR2曰く「心配でついてきていた」とのことだ。

 

その途中でマラ・ジェイドを発見し起こしてくれたのだろう。

 

「助かった、だが私もルーク達からだいぶ離れてしまった」

 

マラ・ジェイドは面目なさそうに呟いた。

 

マラ・ジェイドの目の前で戦闘が行われていないという事は彼らは離れた場所で戦っているのだろうか。

 

だとしたら行かねばならない。

 

マラ・ジェイドは痛む体を無理に起こし、フォースの感覚を辿って走り始めた。

 

R2も彼女の後に続き走り始める。

 

「ルークはきっと、今頃1人でジョルースと戦っているはずだ」

 

加勢に向かわねばとマラ・ジェイドは先を急いだ。

 

だが当然ここは敵地で早々簡単に通してくれる訳がない。

 

通路の奥から何人かの武装したジョルースの信者が血走った目で向かってきた。

 

「シボース卿の下にはいかせん!!」

 

ブラスター・ライフルを放ちマラ・ジェイド達を足止めしようとするが所詮はジョルースによって操られた信者だ。

 

マラ・ジェイドはライトセーバーで弾丸を弾いて何人か打ち倒し、一気に接近して斬りつけた。

 

彼らの中には特攻兵はいなかったようで皆ライトセーバーの前に斃れていった。

 

マラ・ジェイドとR2は更に先に進んだ。

 

すると奥から何体かのドロイドが出てきた。

 

また戦闘か、とマラ・ジェイドは身構えたがそうはならなかった。

 

出てきたドロイド達には既に無数の弾痕が残っておりすぐにバラバラと地面に崩れ落ちた。

 

一体なんだとマラ・ジェイドは警戒を強めたがすぐにその理由が分かった。

 

曲がり角の奥から返り血を全身に浴びた鉄の棒を寄せ集めたような真っ赤な瞳のドロイドが顔を出した。

 

「99Eか、どうしてここに」

 

IG-99Eは電子音で経緯を話した。

 

抑えていた戦士達を撃破したはいいが既にルーク達はおらずここまで敵を倒してやってきたそうだ。

 

そのことを聞きマラ・ジェイドはコムリンクで大尉達シス・トルーパー部隊にも尋ねた。

 

「大尉、そちらはどうだ」

 

『施設を大方占拠しましたがクローニング区画を敵が完全に防御していて突破が困難です』

 

「了解した、そちらにアサシン・ドロイドを向かわせる。到着と共に一気に制圧しろ、私もジョルースを仕留める…!」

 

『了解!』

 

コムリンクを切るとIG-99Eはシス・トルーパー達の救援に向かった。

 

マラ・ジェイドもR2と共に走り出した。

 

任務を果たし、1人で戦うルークを助ける為に。

 

「僕こそが正しい真のジェダイだ!!そして僕がお前を倒し!お前は偽物となる!」

 

ルウクはライトセーバーに力を込めルークを斬ろうとした。

 

鍔迫り合いのままでもルークのライトセーバーが肩、足、胴体のどこかしらに当たればダメージになる。

 

ライトセーバーは強力な武器だが使い方には多少の工夫が必要なのだ。

 

当然ルークはこの工夫を心得ておりルウクの思い通りにはならなかった。

 

ステップを踏むように距離を取りルウクに電撃を浴びせかける。

 

その予想外の攻撃にルウクは防御が遅れ、感電によるダメージを喰らってしまった。

 

ルウクが感電の痛みにもがいている間、ルークは攻撃の手を止めることはなかった。

 

緑色のライトセーバーがなんでも振り下ろされルウクを追い詰める。

 

ルウクは防戦一方で彼自身も追い詰められていると感じていた。

 

まだ体に痺れが残り力を込められない。

 

ルウクは耐性を立て直す為にありったけの力を込め、意識を集中させて地面を割るように叩いた。

 

辺りにフォースプッシュの効力が十万し空気が飛ばされた。

 

だがこれを予期していたルークはすでに距離を取っており効力が消えると共に自身のライトセーバーを投げつけた。

 

予想外の攻撃にルウクは間一髪で回避したが今までのように反撃出来ずにいた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……チッ!小賢しい技を!」

 

「どれも僕が得てきたジェダイの技だ。お前がジョルースから与えられた技の方が小賢しい。そんな技、僕には通用しないぞ」

 

ルークの一言はルウクの怒りの油に火を灯したようなものだ。

 

ルウクは怒りで手が震え、目が血走っていた。

 

頭を抑え掠れて声の出ない嗚咽を吐き出そうとしていた。

 

ルウクはライトセーバーが壊れそうなほどの力で柄を握り締め叫んだ。

 

「貴様のような偽物のジェダイに!!よくも!!」

 

ルウクは乱暴にライトセーバーを振るい怒りで湧き上がった力をそのまま流用しルークを倒そうとした。

 

しかし冷静さを欠いたルウクの攻撃は最も簡単に躱され逆に反撃され危うい状態に陥っていた。

 

攻撃が躱され反撃される度にルウクは苛立ち怒りを増し、余計に冷静さを失っていった。

 

一方のルークは常に冷静そのものであり相手の攻撃を見極め躱し、反撃した。

 

クローンとはいえ相手はかつてまだ未熟だった頃の自分の一部から生み出されたものである為、比較的呼吸や攻撃のタイミングは読みやすかった。

 

人は時と共に成長するものだ。

 

あのクラウド・シティで右手を斬り落とされ、我が父に衝撃を受けていた時のルークとは一味も二味も違う。

 

ジェダイとしても人としても成長しそして今は使命を全うしようとしている。

 

狂気のクローンに生み出された紛い物のスカイウォーカーとは違うのだ。

 

「お前では僕を倒せない、お前を倒すのは僕だ」

 

「何をっ!!」

 

「お前は僕の過去であり、僕の闇だ。お前はまだ未熟でその結果傷付いた僕の過去、ダゴバの洞窟の中で払い切れなかった僕の闇。僕はお前を倒し、過去と決別する!」

 

ルークの決意は彼の意志とルークがこれから先進むべき道を決め、過去の遺物から生み出されたルウクの堪忍袋を完全に突き破った。

 

「ふざけるなァ!!」

 

ルウクは怒り、飛び掛かった。

 

ルークはライトセーバーを構え、防御しようとしたがその必要はなくなった。

 

ルークとルウクの間に入った者が、ルウクの斬撃を受け止めた。

 

突然の人物に思わずルークも驚いた。

 

「マラ・ジェイド…!」

 

ルークの目の前にはルウクの斬撃を受け止め不敵に笑みを浮かべるマラ・ジェイドの姿があった。

 

ルウクの斬撃を持ち上げるとマラ・ジェイドはルウクの腹部目掛けてフォースの力を集中させた一撃を放った。

 

この強烈な一撃はルウクを吹き飛ばし近くの壁へ思いっきり叩き付けた。

 

暫くルウクは痛みで立ち上がれそうになかった。

 

「…過去との決別、お前はそう言っていたな」

 

マラ・ジェイドはルークに振り返りそう呟いた。

 

「私も過去と決別する。“ルーク・スカイウォーカーを倒してな”」

 

彼女はルークに向かって微笑んだ。

 

かつてパルパティーンから与えられた司令、それはルークを抹殺すること。

 

彼女はその為に生き、第三帝国にも手を貸していた。

 

だが今ではそのルークと組むうちにその気持ちは薄れ命令を出したパルパティーンにもルークと共に任務を果たすように言われ彼女の過去はしこりとなって残ってしまった。

 

それをここで精算出来る。

 

文字通りルーク・スカイウォーカーを倒して。

 

ルークは微笑を浮かべ彼女の隣に立った。

 

2人の近くには一緒に来たR2もいた。

 

彼は密かにルウクの命令でルークを狙っていた伏兵を始末していたのだ。

 

そんな陰で活躍する友人にも目を向けルークは頷いた。

 

「ああ…!」

 

2人は互いに微笑を浮かべライトセーバーを構えた。

 

R2は戦闘出来ない為再びその場を離れる。

 

彼らは睨み合った。

 

それぞれの過去に決着をつけるために。

 

未来へと進むために。

 

 

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 第三帝国首都 コルスカ宙域 コルサント星系 惑星コルサント軌道上 セキューター級“ライアビリティ”-

「ご苦労、アンバラはどうだった?」

 

ジークハルトは“ライアビリティ”のブリッジで何かを話し合っていたハイネクロイツ大佐とメルゲンヘルク大佐に敬礼し声を掛けた。

 

一応形式的に2人も敬礼しハイネクロイツ大佐は「中々激しい戦いだったぞ」と返した。

 

ハイネクロイツ大佐の第21FF航空旅団は惑星アンバラで発生した反乱の鎮圧に“ライアビリティ”と共に向かっていた。

 

アンバラの反乱は単なる現地住民の蜂起ではなく元惑星防衛軍の将兵が兵器などを集めレジスタンス軍と結託して行った大規模なものであり第三帝国は対応を急いでいた。

 

即座に現地に派遣された国防軍と親衛隊の連合部隊では一時苦戦を強いられ、コア・ワールドやコロニーズ、インナー・リムの部隊を展開する事となった。

 

ハイネクロイツ大佐やメルゲンヘルク大佐の奮闘もあってかアンバラの反乱は鎮圧され、反乱軍、レジスタンス軍双方に打撃を与えられた。

 

だがレジスタンス軍はアンバラ反乱軍の将兵や兵器を撤退と同時に自領へ持ち込んだ可能性があり今後も激しい戦いになることが予測されている。

 

「特にアンバラ・スターファイターは凄かった。まあ俺やうちの隊員の敵ではなかったがな」

 

ハイネクロイツ大佐は軽い口調だったが油断出来ない相手だった事を案に示していた。

 

それは後から付け足したメルゲンへルク大佐も同様だった。

 

「既に前線で戦っていた部隊の損耗率はかなり激しかったと思います。中には轟沈したスター・デストロイヤーもいるかと」

 

「流石はアンバラだな、クローン戦争が終わってもうだいぶ経つがやはりあの地を攻撃するのは中々手こずるな」

 

ジークハルトの評価は前線で戦ってきたハイネクロイツ大佐やメルゲンヘルク大佐を頷かせた。

 

アンバラはクローン戦争でも激戦地でありあの501軍団と212突撃大隊が攻略に参加しても苦戦するほどだった。

 

ヴァリンヘルト大尉もアンバラの戦いはアカデミーの授業で習ったことがある。

 

戦いに参戦していない大尉は固唾を飲んで戦いの熾烈さを想像した。

 

「航空支援の時しか惑星の中には入っていなかったが地上軍も相当苦戦していた。お前とアデルハインとタンティスベルクが来れば少しはマシになってそうなんだがな」

 

アンバラの軍事的アドバンテージは地上兵器だ。

 

オーバーテクノロジーにすら思えるアンバラの兵器は地上戦で多用され共和国軍のみならず帝国軍すらも苦しめてきた。

 

それ故にアンバラの兵器は帝国の研究対象にもなり逆に多くの恩恵が与えられてきたのだがいざ敵として対峙すると恩恵よりもその手強さが強く滲み出る。

 

真っ向からの戦闘も、奇襲と共に行われるゲリラ戦も、全てに対応出来るアンバラの兵器群と対峙するとなれば苦戦は免れない。

 

むしろジークハルトやタンティスベルク軍団が参戦していたとしても結果が変わったかどうか怪しいとジークハルトは感じていた。

 

「それはどうかな、逆に壊滅していた可能性だってある。それに私はナブー奪還作戦の立案の為に当分は前線に出れそうにない。本当なら“ライアビリティ”や21航空旅団も戦わせたくはなかったんだが」

 

「最高司令部の命令だったんだろ?しょうがないな、ただ損害は軽微だ。すぐに補充も来るし作戦決行時には問題なく戦えるはずだ」

 

今の所ナブー奪還作戦には大量の特殊部隊が動員され地上軍主体の作戦となる。

 

その為地上部隊の航空支援を担当するハイネクロイツ大佐や揚陸艦兼空母としての役割を持つセキューター級の艦長のメルゲンヘルク大佐にはなるべく前線に行ってほしくなかった。

 

むしろ第21FF航空旅団の高い戦闘能力と汎用性なくして短期で航空優勢を取るのは難しいだろうし地上部隊と航空部隊の母たる“ライアビリティ”が損傷し当分ドック入りというのはどうしても避けたい。

 

だが優秀な指揮官達は手持ちの部隊を殆ど無傷で勝利と共に持ち帰ってきた。

 

「それよりレンディリはどうだった?噂じゃお前達が向かったとほぼ同時にシス・エターナルの使者もレンディリに来たようだが」

 

ハイネクロイツ大佐はジークハルトとヴァリンヘルト大尉に尋ねた。

 

「それは本当だ、我々が丁度軌道上でドレッドノート級の視察をしていた時にシス・エターナルのスター・デストロイヤーがジャンプアウトしていた」

 

「形状はインペリアル級とほぼ同じでしたがサイズは一回り、二回りほど大きく、船体株に大砲のようなものがついていました」

 

「それが噂のレジスタンス艦隊を全滅させた“()()()”でしょうね…」

 

メルゲンヘルク大佐はそう呟いた。

 

「使者団には会っていないが本来の任務は達成出来た。このまま話が詰まっていけば来年には作戦が決行出来そうだ」

 

「それは楽しみだ」

 

ハイネクロイツ大佐は不敵に笑った。

 

ナブー奪還は再び第三帝国の力を見せつけるいい機会となる。

 

シス・エターナルのこの攻勢に乗じて一気にレジスタンスに打撃を与えられるかもしれない。

 

戦闘への不安以上に戦いが終わるかもしれないという期待感が高まっていった。

 

「そういえば准将、今月のセントラル地区で行われる代理総統の演説会ですが」

 

「あれか、私は一応出席が求められている。特にやる事はないだろうが前線で戦った勇敢な義勇兵としてバルベッド軍曹とゼルテック上等兵を連れて行くつもりだ」

 

「あのウェイランドにいた奴らか?」

 

ウェイランドで地上戦に参加していたハイネクロイツ大佐はその2人のことをよく覚えていた。

 

なんせ文字通り上空から支援してやったのだ。

 

特にゼルテック上等兵の方はジークハルトが彼に話す前はかなり怯えていたので余計印象に残っている。

 

「アンシオン攻略の時に2人とも多大な戦果を挙げてくれた。これからアウター・リムからも即席の外人部隊を集める為にも彼らには客引きになってもらう」

 

「なるほど、軍曹の方はともかくしかしあんだけビビってた奴がよくもまあそこまでになったもんだ」

 

ハイネクロイツ大佐は少し感慨深そうに呟いた。

 

多くのストームトルーパーは恐怖心を無くしたり打ち勝ったりするよう教育を施されているのだが彼らはそうではなかった。

 

しっかり正規兵としての訓練を施したがまだストームトルーパーには遠く及ばない。

 

元より手慣れている雰囲気のバルベッド軍曹はともかく、ゼルテック上等兵の方はまだまだだ。

 

それでも彼は親衛隊に残り、戦ってくれた。

 

「何度か戦闘を経験すれば“()()()”ってことだ。良くも悪くも」

 

ジークハルトはそう言い表した。

 

彼はそのまま話を戻しヴァリンヘルト大尉に尋ねる。

 

「それで総統の演説会がどうしたんだ大尉?」

 

「はい、実は“ライアビリティ”に上がる前にフリシュタイン上級大佐から今回の演説会は『気をつけろ』と言われまして……一体どういう意味でしょうか?」

 

「フリシュタイン…お前が今組んでるFFSB(親衛隊保安局)の?」

 

ハイネクロイツ大佐はジークハルトに尋ねた。

 

今のフリシュタイン上級大佐の所属はFFSBではなくFFSBとFFI(親衛隊情報部)を統合したFFISO(親衛隊情報保安本部)なのだが実質的には同じ組織だ。

 

フリシュタイン上級大佐は常に情報将校や保安局員の職務を担っている為、彼が“()()()()()”と言うのだから何かあるのだろう。

 

「ええ、保安局員でしかも情報部と統合した組織の佐官最高位の人物ですからきっと何かあるんでしょうが…」

 

「しかもフリシュタイン上級大佐はただの佐官ではなくハイドレーヒ長官に最も近い人物の1人だ。前任のディールス長官の副官でもあり常に保安局の中枢に君臨している」

 

「“()()()”とついてますが実質的な機能や規模は既存のISB(帝国保安局)や情報部と変わりませんからね…一体何を掴んだのでしょうか…」

 

メルゲンヘルク大佐は不安そうな表情で呟いた。

 

恐らくメルゲンヘルク大佐の“()()()”という言い方は正しい。

 

FFISOは総統の演説会に関わる重大な危険性の情報を掴み親衛隊本部の陽の当たらない区画で対策を練っているのだろう。

 

そして演説会に出席する信頼のおける者達に少しずつ話して。

 

一体どんな危険が訪れるのかは分からない。

 

もしかすると事前にFFISOが防ぐかもしれないし実際には何も起こらないかもしれない。

 

だが備えておく事は必要だ。

 

親衛隊として忠誠を誓った総統とその場にいる人々を守る為にも。

 

「さあな、だが身構えておくことに越した事はない」

 

ジークハルトは予測した考えを隠しそう答えた。

 

この件は無闇矢鱈に話さないほうがいいだろうから。

 

 

 

 

 

 

ロザルは戦火に包まれていた。

 

ロザルの軌道上には既に散っていった戦士達の墓標が漂い、地上では文字通り大地が崩され、兵士が斃れ、村々が焼かれ、都市が蹂躙されていた。

 

あちこちで建物の中にブラスター砲を備え、偏向シールドを展開し、武器をかき集め備えていたレジスタンス軍の兵士が大勢“()()”。

 

それはコザルにもいたし、ジャラースにもいたし、ジョザルにもいた。

 

平原には機甲部隊や塹壕を展開した兵士たちがいたし、山岳地帯にはゲリラ戦を主軸とした兵士たちがいた。

 

彼ら彼女らは皆、よく戦った。

 

ブラスター・ライフルやブラスター砲で迫り来るシス・エターナルに立ち向かい、轟音を掻き立てて歩くAT-MTにスマート・ロケットやイオンディスラプターを放った。

 

軌道上爆撃は偏向シールドによって防がれ飛行場からは何機ものXウィングやAウィング、YウィングやBウィングが発進しシス・エターナル軍のスターファイター隊とぶつかり、地上部隊に爆撃を浴びせていた。

 

殆ど制宙権がシス・エターナル軍に掌握されているとはいえそれでもレジスタンス軍は防衛戦の利を活かし、地の利を使って敵と戦った。

 

何度か部隊を撃退した場面もある。

 

レジスタンス軍はよく戦った、だが“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

シス・エターナル軍にとってロザルにある価値は未だ眠っているカイバー・クリスタルでありそれさえ守れればそれでいい。

 

AT-MTは徹底的に敵がいるところに砲撃を叩き込んでいった。

 

たとえそれが民間人の住居の中だったとしてもだ。

 

それは随伴兵のシス・トルーパーやAT-STマークⅢも同様で動くものを見つけ次第徹底的にブラスター・ライフルの弾丸を叩き込んでいった。

 

優れた練度と優れた技術によって成り立つシス・トルーパーは市街地で戦うレジスタンス軍の兵士を圧倒した。

 

敵がいると思われる場所にブラスター弾だけでなくサーマル・デトネーターなどを投擲しシス・ジェット・トルーパー達が上空から敵兵を狙い撃つ。

 

ウォーカー達は地面を踏みつけつつ建物に高火力を与え、中にいるであろう兵士を殲滅した。

 

シスTIEファイター隊はレジスタンス軍機を徹底的に撃滅しシスTIEボマーは地上に向けて偏向シールドを貫通出来る爆弾を投下した。

 

爆発の熱で大地が焼かれ建物が崩落し兵士達は負傷し死んでいった。

 

それでもめげずにレジスタンス軍の兵士達は防衛戦に徹したが殆ど無意味に終わった。

 

退けても退けてもシス・エターナル軍は次の部隊がやってくる。

 

シス・エターナル軍の後退は常に余裕を持っており、明らかにまだ戦えるのにも関わらず次の部隊や予備の部隊と交代させて最大の力で常に敵を圧倒した。

 

やがてレジスタンス軍の方が限界が近づいており、耐え切れなくなるのは時間の問題であった。

 

コザルが真っ先に陥落しその次に通信センターが陥落した。

 

やがてジャラース、ジョザル、ダイナーへと広がりかつてターキンタウンと呼ばれた入植地を防衛陣地に改造した場所も陥落した。

 

名だたるロザルの主要な都市が次々と陥落し焼かれていった。

 

かつてここから始まった反乱の火が逆に別の真っ赤な炎によってかき消されようとしていた。

 

主要な都市を陥落させ、山岳地帯に籠るゲリラ部隊を徹底的な爆撃で炙り出し殲滅し、平原の塹壕地帯をAT-MTの大軍で打ち破ったシス・エターナル軍はある一つの場所を目指し再び進撃を始めた。

 

目指すは最後に残ったロザルの大都市、キャピタル・シティ。

 

別名ロザル・シティとも言われ帝国の支配時代には行政府たる帝国複合施設が設置され文字通りの中心都市として栄えていた。

 

そしてここはスペクターズと呼ばれる反乱分子が活動しロザルを解放した地でありレジスタンス軍にとっては聖地に近しい。

 

各地の都市や村々で敗北していったレジスタンス軍は全地上戦力及び航空戦力をキャピタル・シティに結集させこの都市に籠った。

 

宇宙港や臨時で設置された飛行場には多くのスターファイターが停泊しており、負傷兵を運ぶスピーダーや輸送機が野戦病院に向かっていった。

 

路地や大通りには兵士だけでなくスピーダーやホバータンク、ジャガーノートなどが防衛の為に停泊していた。

 

兵士達はあちこちで休息を取り、最後になるかもしれない煙草を吸い写真を見たり仲間と言葉を交わす。

 

ブラスター・ライフルを点検しティバナ・ガスを交換し仲間と武器を交換し合ったりもした。

 

ある者は互いにレーションや煙草を分け合ったりある者はエレクトロバイノキュラーで周囲を警戒していた。

 

ある中隊長は装備そのまま兵士達を鼓舞していた。

 

「これ以上シス・エターナルを通すな!!我々がここ(キャピタル・シティ)で、敵を迎え撃つ!!ここから先にはまだ多くの人々がいるということを忘れるな!!戦えない者達のためにも我々はっ…!」

 

「伏せろ!!」

 

誰かの大声で叫び中隊長の鼓舞はここで途切れた。

 

直後赤い光弾が何発も偏向シールドを貫通してキャピタル・シティ内部に降り注いだ。

 

爆発が起こり建物が破壊され瓦礫が地面に崩れ落ちた。

 

シス・エターナル軍の砲撃だ。

 

赤いレーザー弾に混じりシールド貫通機能を備えたプロトン砲などの砲弾も飛んできた。

 

迎撃の対空砲が放たれ兵士達は立ち上がり急いで持ち場についた。

 

「チッ!シールド貫通とは…!」

 

「これもあの新型ウォーカーの能力なんでしょうか…」

 

中隊長と部下の少尉はエレクトロバイノキュラーでキャピタル・シティの外に位置する砲撃地点を眺めた。

 

重砲だけでなくA-MTからも合成ビーム・レーザーが放たれていた。

 

その事はキャピタル・シティに置かれたレジスタンス地上軍の司令部でも報告されていた。

 

「こちらも反撃のミサイルを放て。本来ならスターファイター隊を展開したいがそんな余裕はない。それと砲撃による負傷者を急いで野戦病院へ、対空砲や車輌に被害が出ないようにするよう伝えろ」

 

「了解」

 

代理司令官の中将は命令を出し幕僚達の下に戻った。

 

本来の地上軍の指揮官は総司令官と共に最初のスーパーレーザーによって乗艦ごと消し飛ばされてしまった為代わりに代理で中将が全体の指揮を取っていた。

 

「艦隊の方はどうなっている」

 

「ほぼ壊滅…ですが再編が進んでおり未だ組織的な抵抗が続いています」

 

状況は最悪だったが意外な答えが返ってきた。

 

何せ中将達の予測では軌道上の防衛艦隊はとっくの昔に壊滅していてもおかしくなかったのだ。

 

それが今でも抵抗しているということは正に“()()()()()()”の意思を表していると言えよう。

 

到底艦隊からの支援は受けられそうにないがここで諦めずに戦おうという気持ちが湧いてくる。

 

「艦隊からの支援は受けられないが……我々はここで戦う他ない。ロザルを失えばロザル宙域の影響力を全て失いカラマリ宙域の本土で戦うことになる。そうなれば先はない」

 

幕僚達は大きく頷いた。

 

「仮に全滅してでも我々は戦い抜く。各員、頼んだぞ…!」

 

「はい!」

 

幕僚達も司令部から移動し始めた。

 

中将は最後に窓から煙の手が上がるキャピタル・シティを見つめた。

 

まるでシス・エターナルの進撃の合図のような砲撃が街中に溢れている。

 

「今に見ていろ……我々はなからず一矢報いてやる…!」

 

中将がその場を離れた後も砲撃は続いていた。

 

シス・エターナル地上軍砲兵隊とウォーカー部隊による砲撃はかなり長くに渡って続けられ、その間に部隊が結集し作戦を立てていた。

 

「全方位から同時攻撃だ!ウォーカーの突撃を持って防衛戦を突破し、歩兵を都市全体に浸透させて敵を殲滅する!砲兵は引き続き突撃支援を行いスターファイター隊は都市部一体へ航空支援を!陛下の名の下、ここで奴らを叩く!」

 

メルヴァー将軍はホログラムの指揮官達にそう命令を出した。

 

数の上ではこちらが有利、メルヴァー将軍の作戦も実行可能だ。

 

特にレジスタンス軍の機甲戦力はさほど強力ではない為AT-MTを使えば突破可能だろう。

 

問題は地上で行われる市街地戦だ。

 

キャピタル・シティほどの都市となると市街地戦は相当過酷なものになるだろう。

 

『航空攻撃だけでなくプローブ・ドロイドなどの大量のドロイドで索敵、あるいは伏兵を掃討しながら前進するというのはどうでしょうか』

 

攻撃部隊の幾つかを率いているパルトン将軍はメルヴァー将軍に提案した。

 

「なるほど、それはいい。では偵察用のプローブ・ドロイドを展開しつつ前進だ。このまま一気に敵を殲滅する!」

 

『メルヴァー将軍、予備部隊の展開を要請しましょうか?』

 

同じく指揮官の1人であるガナー司令官はメルヴァー将軍に尋ねた。

 

攻勢となればなるべく相手よりも兵力は上回っていた方がいい。

 

しかしメルヴァー将軍は首を振った。

 

「いや、このままの戦力で十分だろう。さあ聖戦の始まりだ!」

 

メルヴァー将軍の一言は戦闘開始の合図だった。

 

四方八方からAT-MTとAT-STマークⅢが進撃しその後に多くのシス・トルーパー軍団が続いた。

 

いよいよキャピタル・シティが戦火に包まれる。

 

まず最初に始まったのはシス・エターナル軍のシスTIEファイターとレジスタンス軍のスターファイター隊の激しい空戦だった。

 

両者、制空権を巡ってぶつかり合い互いに敵機の背後を取り合い爆炎へと変えていった。

 

数に勝るシス・エターナル相手にレジスタンス軍スターファイター隊は根気強く戦い、制空権を取らせまいと死闘を繰り広げられた。

 

その間、再び砲撃の一斉射が放たれキャピタル・シティに降り注いだ。

 

それなりの被害を与えられたがレジスタンス軍の迎撃によって防がれてしまったものも多かった。

 

だが突撃前の支援としては十分だ。

 

むしろAT-MTの突撃に支援はいらないとすら思える。

 

「全軍突撃!皇帝陛下の名の下、敵を駆逐せよ!」

 

メルヴァー将軍の一言で全方位に展開したウォーカー機甲部隊が進撃を開始し本格的な攻勢が始まった。

 

無論レジスタンス軍も索敵兵が接近するAT-MTを発見しコムリンクで報告した。

 

「…っ前方よりアサルト・ウォーカー及びスカウト・ウォーカー多数接近!繰り返すっ…!前方よりアサルト・ウォーカー及びスカウト・ウォーカー多数接近!すごい数だ!!」

 

同じような報告が各地から集まり編成された防衛部隊が迎撃を開始した。

 

「バリケードは設置完了!後は砲撃だ!それとミサイルやプロトン魚雷で連中を叩くぞ!」

 

かき集められた重砲や野砲に砲撃地点を入力しプロトン魚雷ランチャーからは既にプロトン魚雷が発射されていた。

 

ほぼ同時に砲弾も発射されウォーカー部隊をなんとしても撃破せんと火力の力で対抗した。

 

「全方位から砲撃されています」

 

「AT-ST、AT-MP、撃ち落とせ。AT-MTはキャピタル・シティへ向け一斉砲撃だ」

 

僚機のAT-STマークⅢやAT-MPマークⅢがミサイルやレーザー砲をばら撒いてプロトン魚雷や砲弾を迎撃していった。

 

僚機の迎撃率は高く、対空砲火を潜り抜けた砲弾が多少AT-MTに直撃したが殆ど効果はなかった。

 

尤も僚機のAT-STマークⅢやAT-MPマークⅢがいなければ結果は変わっていただろう。

 

反撃として放たれたメガキャリバーキャノンの合成ビーム・レーザーがバリケードや近くの建物を破壊した。

 

「バリケードが破壊されましたッ!!」

 

「分かっている!工兵は後退しろ!歩兵は対ウォーカー戦闘用意!砲兵はどんどん撃ち続けろ!」

 

指揮官達の命令で野砲や重砲は休むことなく火を吹き、ミサイル発射装置から浸透ミサイルが放たれた。

 

負けじとAT-MTの僚機も迎撃するが流石に数が多く捌ききれなくなっていった。

 

そして遂に1台のAT-MTが損傷した。

 

放たれたプロトン魚雷がメルヴァー将軍が乗り込むAT-MTのすぐ隣のAT-MTに直撃し右側面の装甲が一部損傷した。

 

その振動はメルヴァー将軍が乗り込むAT-MTのコックピットにも伝わってきた。

 

「チッ!迎撃を怠るな、砲撃部隊は再び敵後方に砲撃支援!爆撃機も投入して敵の遠距離攻撃を防ぐんだ!」

 

メルヴァー将軍は少し苛立ちながら命令を出した。

 

待機していたシスTIEボマー隊も出撃し砲兵達も再び砲撃を開始した。

 

互いに砲弾の撃ち合いとなり両軍に損害が出始めていた。

 

だが既にウォーカー部隊はキャピタル・シティ内に侵入しようとしていた。

 

AT-MPマークⅢから牽制用のミサイルが放たれ周辺のビルや建物に直撃した。

 

爆風の中を耐え抜き建物の中に隠れてチャンスを待つレジスタンス軍兵士の姿がところどころにあった。

 

若い兵士の隣にベテラン、もしくは中堅といった雰囲気の兵士が若い兵士を落ち着かせている。

 

「落ち着け……いいか、狙いはアサルト・ウォーカーではなくスカウト・ウォーカーとミサイル・ウォーカーだ……なるべく奴の僚機を減らして砲兵やこちらのタンクで決着をつける…!」

 

「了解…!」

 

若い兵士はスマート・ロケットを担いでおり、スコープを覗きいつでも発射出来る体制になっていた。

 

足音が周りの建物に響き渡り、遂にウォーカー部隊がキャピタル・シティの中に入ってきたことを周囲に知らしめていた。

 

路地では退却する兵士をAT-MTが中型ブラスターで掃討していた。

 

特に対歩兵戦を得意とするAT-STマークⅢは先行しツイン・レーザー砲で周りの建物ごと敵を薙ぎ払おうとした。

 

だが先行したのが運の尽きだ。

 

AT-MTから距離を離れたAT-STマークⅢを若い兵士は完全に狙いを定め引き金を引いた。

 

スマート・ロケットからミサイルが放たれAT-STマークⅢに直撃する。

 

AT-MTやAT-ATほどの装甲を持っている訳ではないAT-STマークⅢは爆散し地面へと崩れ落ちた。

 

「よし!急いで退避だ!!」

 

「はい!!」

 

2人はブラスター・ライフルだけ手に持ち、急いでその場を離れた。

 

攻撃に気づいたAT-MTが重レーザー砲を建物に向かって撃ち放ったが既に2人の兵士は退避しており無意味に終わった。

 

反対側からもミサイルが放たれ今度はAT-MPマークⅢが1台撃破された。

 

こちらの兵士も急いで退避しようと駆け出したがすぐにブラスター弾を撃ち込まれ硬い建物の地面に斃れた。

 

後方から放たれたプローブ・ドロイドがセンサーで敵を発見しブラスター砲で狙撃したのだ。

 

「全隊散開!シス・トルーパーを展開し散兵を徹底的に掃討せよ。ジェットパック・トルーパーも展開し上空からも敵を殲滅しろ!」

 

メルヴァー将軍の命令でAT-MTのハッチが開き一斉にシス・ジェットパック・トルーパーが出撃した。

 

後方から出現した兵員輸送機からは通常のシス・トルーパーが降り、一斉に周囲に散開した。

 

同じくシスTIEボマーと共に前線へ到着したシスTIEリーパーやシスTIEボーディング・クラフトからもジェットパック・トルーパーやシス・トルーパーが出現しキャピタル・シティのあちこちで白兵戦となった。

 

レジスタンス軍もこれに対抗する為にレジスタンス軍のジェットパック・トルーパーを展開し建物の上空や物陰からは狙撃兵がシス・トルーパーの赤いヘルメットを狙い、あちこちに設置されたブラスター砲や迫撃砲の防衛陣地でシス・エターナル軍を迎え打った。

 

建物という建物に爆弾が投げ込まれ、ブラスター弾を撃ち込み、出てきた相手を即座に射殺する。

 

上空ではスターファイター同士だけでなくジェットパックを身につけたトルーパー同士でも激しい空中戦となり、両者地上支援しつつ敵のジェットパック・トルーパーを攻撃した。

 

もちろんこのような死闘は歩兵同士だけではない。

 

ウォーカーVSレジスタンス軍の機甲部隊の戦闘もシス・エターナル軍が浸透するに連れて激化していった。

 

エリートAT-TEがレーザー砲でAT-MTに損害を与える場面もあれば、AT-MTのメガキャリバーキャノンによってジャガーノートやT2-Bホバー・タンクが吹き飛ばされる場面もあった。

 

ある1台の重戦車が曲がり角を曲がった瞬間AT-STマークⅢに待ち伏せされツイン・レーザー砲で蜂の巣にされて撃破されたりAT-MPマークⅢのミサイルで幾つかの重砲やプロトン魚雷ランチャーが破壊された。

 

やはり機甲部隊ではシス・エターナル軍に圧倒的な分がありレジスタンス軍の機甲部隊は毎回どんな時でも苦戦を強いられていた。

 

特にまだホバー・タンクやエリートAT-TEでは歩兵や上空を漂うジェットパック・トルーパーが脅威になり得る。

 

ウォーカーと戦う前に重火器を持ったシス・トルーパーやシス・ジェットパック・トルーパーらによって地上と空中の両方から撃破されるホバー・タンクの姿もあった。

 

だがレジスタンス軍は苦戦していても決して諦めることなく戦い、戦闘を長引かせた。

 

時には歩兵の力でAT-MTの首を地面に叩きつける事だって出来るのだ。

 

「撃て!!」

 

砲兵達は爆撃によって自らや砲が破壊されても攻撃を止めなかった。

 

彼らが今最期に放った一撃はある1台のAT-STマークⅢに直撃し周りにいた何人かのレジスタンス軍の兵士の命を救った。

 

『局地戦となり、我が軍の部隊にも被害が出始めています。しかし侵攻状況としては順調そのものです』

 

ガナー司令官はホログラムでメルヴァー将軍のAT-MTと連絡を取った。

 

その間にもメルヴァー将軍のAT-MTはメガキャリバーキャノンを放ち、遠距離にいたエリートAT-TEとジャガーノートを一気に破壊していた。

 

「砲撃はこのまま続けろ」

 

「了解」

 

「だがなるべく被害は避けたい所だ。制空権の確保は順調か?」

 

『はい、爆撃も効力を上げています』

 

『我が軍のジェットパック部隊は優秀です、レジスタンス軍のジェットパック部隊は後10分もあれば無力化出来るでしょう』

 

パルトン将軍はそうメルヴァー将軍に進言した。

 

メルヴァー将軍はペリスコープ・ディスプレイで周囲の様子を確認した。

 

確かにシス・ジェットパック・トルーパーがレジスタンス軍のジェットパック・トルーパーを撃破している様子がよく見える。

 

更にその上空では爆発の光も少なくなっておりレジスタンス軍機よりシス・エターナル軍のTIEファイターやTIEボマーの方がよく目に入っていた。

 

「…であれば多少の無茶をしてでも一気に進撃を…!」

 

「将軍!!上空より敵機接近!!」

 

メルヴァー将軍のAT-ATパイロットは悲鳴を上げるように叫んだ。

 

メルヴァー将軍は見えもしないコックピットの天井を急いで眺めた。

 

同じ頃、コックピットの外ではエンジンが大破しコントロール不能となったAウィングが真っ直ぐメルヴァー将軍のAT-MTに向かって全速力で接近した。

 

両耳の中型ブラスター砲で迎撃しようとするが全く当たらず、そのままメガキャリバーキャノンのエネルギータンク部分に特攻し爆散した。

 

そのままエネルギータンクに引火しメルヴァー将軍のAT-MTは爆散し真っ二つになって地面に崩れ落ちた。

 

コックピットがあるAT-MTの頭は回転するように地面に滑り落ち少量の煙を上げていた。

 

近くで戦闘していたシス・トルーパーや上空にいたシス・ジェットパック・トルーパー達が破壊されたAT-MTのコックピットに駆け寄った。

 

地上部隊総司令官が乗り込むウォーカーの撃破、これがレジスタンス軍“最大の”戦果となった。

 

通信を交わしていたパルトン将軍やガナー司令官達からは突然パイロットの絶叫と共に通信が途切れ突然ホログラムが消失した。

 

『パルトン将軍……これは一体……』

 

ガナー司令官はパルトン将軍に若干狼狽えつつ尋ねた。

 

「…恐らくメルヴァー将軍のAT-MTがやられた……急いでヴァント元帥に連絡だ!その間に全指揮系統は臨時として私が引き受ける!このまま作戦を続行し指示は代理司令官として私が出す!」

 

『りょっ了解っ!!』

 

その報告はすぐにフリューゲルがいる“エクリプスⅡ”に送られた。

 

既にシス・エターナル艦隊は残りのレジスタンス艦隊を掃討中でありもはや勝利は確定したも同然だった。

 

だがこの報告は彼らとて予期していなかった。

 

『…という事です……現在はパルトン将軍が代理として指揮を取っていますが…』

 

ガナー司令官は特殊回線を通じてなるべく敵に悟られないようホログラムでフリューゲル達に伝えた。

 

デミングス司令官やテルノ中将、ブリッツェ中佐は驚いていた。

 

「どうする、元帥」

 

グレッグ提督は冷静にフリューゲルに判断を仰いだ。

 

フリューゲルは少々顔を強張らせ何処か冷たく言い放った。

 

「作戦を変更する、全部隊の進撃を一旦停止させジェットパック部隊を下がらせろ。指揮系統はパルトン将軍のまま、必要であればこちらからヴィット将軍を送り込む。予備の作戦に切り替える」

 

『予備……本当にやるのですか…?』

 

ガナー司令官は恐る恐る尋ねた。

 

だがフリューゲルは冷たさを閉じ込めたような青い瞳で「ああ」と一言だけ答えた。

 

「以下の命令をパルトン将軍にも伝えろ。本艦隊と第三分艦隊で敵を殲滅する、第二分艦隊に残してある予備の降下部隊に上陸の準備をさせろ」

 

「了解」

 

「レンウィス司令官を呼び出せ」

 

フリューゲルの命令と共にすぐに彼の目の前にフリューゲルに敬礼するレンウィス司令官の姿が映し出された。

 

『お呼びでしょうか』

 

レンウィス司令官はフリューゲルに尋ねる。

 

「ああ、地上作戦の一部を変更する。今すぐ君の艦でキャピタル・シティを“()()()()”」

 

フリューゲルの一言をレンウィス司令官は完璧に理解したようで一気に表情を硬らせた。

 

しばらくしてからレンウィス司令官は『わかりました』と一言だけ告げて通信を切った。

 

「敵のエネルギージェネレーターの位置は特定出来ているか?」

 

フリューゲルはセンサー士官に尋ねた。

 

「はい、出来ていますが」

 

「このデータをレンウィス司令官の“アドヒアレント”に転送しろ。きっと砲撃座標として欲しがってるはずだ」

 

「了解」

 

フリューゲルはどこか冷徹な瞳で“エクリプスⅡ”からロザルを見下ろした。

 

この地にもあの砲を放つ事になるのは心苦しいが仕方がない。

 

シス・エターナルの冷徹な一撃がロザルにも放たれようとしていた。

 

だが必死に戦うレジスタンス軍の将兵にとってそんな事は気にしている余裕なかった。

 

「シス・エターナルの進撃が止まった…?」

 

むしろレジスタンス軍が気にしていたのは突然シス・エターナル軍の進撃が止まり、なんなら若干後退し始めていた事だった。

 

圧倒的優勢だったのにも関わらず突如後退し始めた事に違和感を覚えたレジスタンス軍は何かの罠ではないかと疑っていた。

 

だがどれも不正解であり正解は彼らに対する破滅の一撃だった。

 

最初にそれを感知したのは司令部の将校達だった。

 

()()()()()()()()()()()()()”、その一言だけで司令部の将校達は青ざめ血の気が引いた。

 

遂に使われてしまったかと。

 

「まさか……奴らは“()()()()()()()()()()()()()()()”…!?」

 

“アドヒアレント”から放たれた血のように紅い一撃がキャピタル・シティを襲った。

 

一点集中で強化した偏向シールドの防衛網を最も簡単に打ち破り、大地を抉り目標もろとも周辺を吹き飛ばした。

 

この一撃でキャピタル・シティを覆おう偏向シールドの動力源であるエネルギージェネレーターが破壊され一気に偏向シールドが消失した。

 

それだけではなく司令部が位置するロザル・シティ議事堂にも被害が出た。

 

圧倒的な爆風でロザル・シティ議事堂が半壊し所々で建物にヒビが入った。

 

当然この様子は各地の前線でも目撃されている。

 

兵士達は地表に降り落ちた赤い光弾を眺めて動揺した。

 

「まさかスーパーレーザーを…!?」

 

「まずいぞ!!このままだとロザルが!!」

 

「いや狼狽えるな!あの程度の威力であればまだ惑星を破壊に追い込むほどのものでは…!」

 

「ですがシールドが!!」

 

だがこの程度の動揺、すぐに次起こる出来事で掻き消された。

 

同じ頃、キャピタル・シティのどこかでレジスタンス軍の兵士の1人が空に指差し「おいあれ!!」と叫んだ。

 

その言葉を聞いた別の兵士も空を見上げ絶句する。

 

彼らが感じた驚きと恐怖は次々と他の兵士に伝染していった。

 

兵士達が見た空には“()()()()()()()()()()()()()()A()T()-()M()T()()姿()()()()()()()”。

 

あちこちで砂煙と共にドスンという音が地響きと一緒に響き渡り先ほどまでいなかった場所にAT-MTが立っていた。

 

対空砲で迎撃しようにもエネルギージェネレーターが破壊され偏向シールドだけでなく各種のレーザー砲にエネルギーがチャージされなくなっていた。

 

アドヒアレント”の砲撃の影響はセンサー類にも出ており、その結果AT-MTの降下を事前に察知出来なかったのだ。

 

AT-MTは周囲を見渡しつつレジスタンス軍に対する攻撃を開始した。

 

突然防衛陣地の内側にウォーカーを降下されたレジスタンス軍は混乱しまともな対応が一時的に出来なかった。

 

AT-MTが圧倒的な火力をばら撒きその装甲で攻撃を全て防いだ。

 

さっきまで後方の域に位置していた重砲や野砲が悉く破壊され、予備戦力として出現したホバー・タンクや鹵獲されたAT-RTなどもAT-MTに打撃を与える事はなかった。

 

更にAT-MTのハッチから再びシス・ジェットパック・トルーパーが姿を表し、ゴザンティ級からはパラシュートで降下してくるシス・トルーパーの姿が見えた。

 

既に周囲はAT-MTによって粗方制圧されており、落下したシス・トルーパー達は素早くパラシュートを切り離し敵地攻撃を開始した。

 

何十、何百人ものシス・トルーパーが隊列を組み、焼け上がるキャピタル・シティの街を走り抜けていった。

 

「チッ!!クソッタレ!!」

 

ある1人のレジスタンス軍の兵士がブラスター砲を死んだ仲間の代わりに放ちシス・トルーパー達を迎撃するが投擲されたインパクト・グレネードによって無力化された。

 

既に壊滅しかかっていたレジスタンス軍のジェットパック・トルーパー達は更なる追加攻撃によって更なる深刻な打撃を受けた。

 

余裕を得たシス・ジェットパック・トルーパー達が地上に向け攻撃を開始する。

 

通常の歩兵では空中を自在に機動するジェットパック・トルーパーと戦うのは極めて難しく、多くの兵士が撃ち倒された。

 

「全隊進撃開始!!」

 

パルトン将軍の命令で既に展開していたシス・エターナル軍も一斉に攻撃を開始した。

 

ジェットパック・トルーパー、ウォーカー部隊、歩兵部隊全てに元よりいた地上軍の部隊が増援として加わり更にシスの赤い波を前へ前へと押し出した。

 

辛うじて維持されていたレジスタンス軍の防波堤も空からの一撃により崩され、波をただ受けるだけとなってしまった。

 

スターファイター戦では艦隊の防衛に回っていたシス・エターナル軍のスターファイター隊も合流し戦況が完全に変わった。

 

シス・エターナルは制空権を確保し今では余裕を持って地上部隊への航空支援を提供している。

 

もうレジスタンス軍に勝ち目はない。

 

スペクターズが反乱の希望を掲げたロザルで今度はシス・エターナルが復活の御旗を掲げた。

 

ロザル・シティ議事堂からはシス・トルーパー達が占拠し、掲げたシス・エターナル軍の軍旗が翻っている。

 

今もなおキャピタル・シティでは戦闘が続いているが趨勢は決した。

 

「我々の、勝利だ」

 

シス・エターナルの勝利がシスを封じていた鎖をまたひとつ引きちぎった。

 

 

 

 

 

シスの躍進はロザルだけに留まらない。

 

ボーラ・ヴィオでもシス・エターナルの躍進は続いていた。

 

通路の奥を何人もの信者やドロイド、そしてクローン戦士が守り、そこにシス・トルーパー達が火力を投入していた。

 

「ライトセーバー持ちを牽制しつつ一般兵に集中攻撃、増援が到着するまでこちらで引きつける!」

 

大尉の命令によりシス・トルーパー達が狙いを定め敵に弾丸を放った。

 

シス・トルーパーの射撃命中率はストームトルーパーの比ではなく、1人2人と武器を持った信者達が地面に斃れライトセーバーで防御する信者達も苦戦していた。

 

大尉もブラスター・ライフルで敵を牽制しつつブラスター・ピストルで敵を狙撃し1人のクローン戦士を撃ち殺した。

 

防御が遅れたクローン戦士はそのままブラスター・ピストルの弾丸を喰らってしまった。

 

すると大尉のコムリンクに電子音が響いた。

 

増援到着と攻撃の合図だ。

 

大尉は悟られぬようハンドサインで他のシス・トルーパー達に合図を出した。

 

既にジョルースの信者達は劣勢に立たされており、この区画を失えばジョルースと彼らの夢は潰える事となる。

 

フォース使いのクローン戦士もこちらに残せたのは先ほど撃たれて死んだのも含めて5人程度で残りは全てジョルースが連れていくか区画の反対側に突如現れたジェダイの妨害回す他なかった。

 

それも施設のカメラの様子を見ていればそのジェダイによって既に全員倒され残りの自動防衛システムやドロイドでは防ぎようがなかった。

 

ジョルースや彼の腹心であるルウクとも連絡が取れない。

 

信者達はこの劣勢下に置いても未だにジョルースに掛けられたフォースの術から抜け出せず、戦い続けていた。

 

だが彼らの命にも終わりが近づいてくる。

 

銃撃戦中の信者達の背後に何かが落ちる音がした。

 

手の空いた信者達が背後を確認すると天井の格子がなぜか外れており、しかも格子を踏み台にして謎の黒いパイプを寄せ集めたような物体が膝をついていた。

 

妙な機械音と共にそのパイプのような物体に赤い光が宿り隠していた武器を信者達の前に出した。

 

そしてそのパイプのような物体、IG-99Eは容赦なく引き金を引いた。

 

寸前で回避した戦士以外の全ての信者とドロイドがIG-99Eの重パルス・ソードキャノンによって抹殺された。

 

返り血を吹く暇もなくIG-99Eは次の敵に狙いを定めた。

 

鉈と銃剣で戦士を何度も斬りつけ、ライトセーバーを引き離して鉈で戦士の脳天をかち割った。

 

まず1人の戦士が即死し次に残り2人の戦士を攻撃し始めた。

 

重パルス・ソードキャノンの弾丸をばら撒きながら一気に肉薄し弾丸の防御に集中していた戦士の腹に鉈と銃剣を突き刺した。

 

そこから肉を抉り出すように戦士の身体を切り裂き殺害した。

 

最後の1人の戦士はIG-99Eから距離を取って戦おうとしたが無意味な足掻きに過ぎない。

 

IG-99Eが信者達を殲滅したと同時に大尉に先導されシス・トルーパー達が突入してきた。

 

「撃て!」

 

大尉の命令でシス・トルーパーとIG-99Eが一斉に引き金を引き、戦士に弾丸を浴びせかけた。

 

何十人の一斉射撃の前には時マンのライトセーバーも全く役に立たず傀儡人形のように踊り狂いながら斃れた。

 

戦士が死んだのを確認するとIG-99Eを先頭にすぐに奥の部屋へ突入した。

 

当然奥の部屋でも信者達が敵を待ち構えており、部屋に入るなりIG-99Eは信者達の集中砲火を喰らった。

 

だが彼らが持つブラスター・ライフルやブラスター・ピストルでIG-99Eの装甲を打ち破る事は出来なかった。

 

逆にIG-99Eが率先して盾になり、その両脇からシス・トルーパー達が集中砲火を信者達に浴びせた。

 

信者達はバタバタと斃れいよいよこの施設を守る者はいなくなった。

 

周囲を警戒しながら目標の部屋に突入した。

 

そこにはクローンを成長させる為のエンブリオ・チューブが並んでいた。

 

中にはまだ成熟し切っていない生物の胚がチューブのポッドの液体の中に浮かんでおり、必ずポッドの近くに設置されているモニターが中の胚の状態を示していた。

 

カミーノアン達が放棄したこの施設はジョルースの手によって完璧に機能していた。

 

いずれは本場カミーノのように命を生成するクローン工場となるだろう。

 

だがジョルースの夢を叶える為のこの施設は今日で終わりだ。

 

「目標に到着、これより作戦に基づき工作を開始する」

 

大尉は司令部に報告し部下達に作戦を実行させた。

 

シス・トルーパー達は破壊工作用の近接反応爆弾をエンブリオ・チューブに取り付けスイッチを押した。

 

彼らの任務はこのクローン施設の破壊でありそれは何があったとしても実行されなくてはならない。

 

たとえまだチューブの中に生命が宿っていたとしてもだ。

 

「設置、完了しました」

 

大尉は部下から報告を受けると「総員撤収!」と部下達を退かせた。

 

彼らが全員離れた数分後に設置された爆弾は全て起爆した。

 

ジョルースが生み出したジェダイ帝国を生み出す為の施設はジョルースの野望と共に爆音を立てて吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

爆発音と共に生命が失われていくフォースの感触はこのボーラ・ヴィオ中の施設内に木霊した。

 

だが戦闘に夢中になり、怒りに捕えられたルウクにとってそんなことを気にしている余裕がなかった。

 

2対1、今彼は不利な状況に陥っている。

 

本来であれば2対1であってもアソーカとカルと戦った時のように余裕を持っていられるのだが今は違う。

 

一挙一動全てが相手に見透かされ手玉に取られているような感覚に陥り、まるでそれが現実であるかのようにルークとマラ・ジェイドはルウクの攻撃を全て読んでいた。

 

特にルークはルウクの攻撃の全てを事前に把握しているかのような口ぶりでマラ・ジェイドに攻撃がくることを伝えていた。

 

それでいて2人の攻撃は全く読めず、しかも見事な連携でルウクを圧倒し時にはダメージを与えていた。

 

2人の連携を崩す事は出来ず逆にルウクのペースが崩されていた。

 

ルウクが放つフォースの術の一つ一つが全く効力を示さず、逆にルークとマラ・ジェイドの気迫に押されている。

 

己を強化しようとルウクがルウク自身に術をかけるがそれすらも敵であるルークとマラ・ジェイドによって打ち破られてしまった。

 

単純なライトセーバー戦でも2人に対しルウクは圧倒的不利で、かと言ってフォースの技量でも勝てない。

 

今もルウクが放った一撃が最もの簡単に躱され逆にルークとマラ・ジェイドのフォースプッシュによって壁に叩きつけられた。

 

「ッハァッ!?」

 

衝撃で口から空気と共に唾が吐き出されルウクの呼吸は荒くなっていた。

 

その鏡合わせであるかのようにルークとマラ・ジェイドは余裕そうな表情を浮かべ再び攻撃を開始した。

 

ルークが捨て技を放ちルウクの攻撃を防いだかと思えば素早くマラ・ジェイドの斬撃が繰り出され、逆にルウクがマラ・ジェイドに反撃すればルークが攻撃に出た。

 

2人からの攻撃をルウクは常に致命傷を負いそうになりながら回避しなんとかやり過ごしていた。

 

だが限界は来る。

 

ルウクはルークの攻撃を躱し切れず“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「あああ……アアアアアアアアアア!!!!!」

 

目の前に転がり落ちるルウクの右手を眺め血が滴る右腕を押さえながら叫んだ。

 

その聞くに耐えない絶叫は施設中に響き渡る。

 

何故だ、ルウクは頭の中で必死に考えた。

 

どうして勝てない、何故師から教わった術が通用しない、何故パワー負けしている。

 

僕こそが選ばれし者だったはずだ、僕こそがスカイウォーカーの血を引く者であったはずだ、僕そこが、僕こそが“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”!

 

確かに僕はマスタージョルースによってこのボーラ・ヴィオで生み出された。

 

だが真のスカイウォーカーは僕であるはずだ。

 

僕の方が強く、僕の方が遥かに優れ、僕の方が相応しい。

 

ルウクは自分がオリジナルのルーク・スカイウォーカーよりも全ての面で優れていると確信していた。

 

それでいてマスタージョルースからありとあらゆる技を教わった。

 

単純なライトセーバー戦だけでなく、フォースの様々な術や使い方。

 

自分よりも遥かに力の扱い方を教わるのが遅く、しかもマスタージョルースとは違うまがい者のジェダイによって教わったオリジナルより強いのは当然なはずだ。

 

オリジナルの隣にいる皇帝の飼い犬よりも当然強い。

 

闇など光が当たれば簡単に消え去る。

 

薄暗い闇の使徒から術を与えられた飼い犬など正当な光明面(ライトサイド)の使徒である我々には遠く及ばないはずだ。

 

それなのに、何故、何故なのだ!

 

怒りが痛みとこの悔しさと共ぬ増幅しルークは再び叫んだ。

 

右手を切り落としたルークは己の未熟な過去から生まれし者にライトセーバーを突き付け言い放った。

 

「前と同じだ……僕もあの時は未熟だった、それでも選択は誤りではなかったと思う。そこに僕の後悔はない」

 

「なっ……何をっ……!!」

 

「だが己の未熟さを受け入れそれを乗り越える。その為にも僕は過去の未熟さの象徴であるお前を倒す!」

 

未熟さの象徴だと?そうであればお前は僕の愚かさの象徴だ!

 

暗黒面(ダークサイド)の犬に成り下がりやがって!偽物のくせに、紛い物のくせに、出来損ないのくせに!

 

ルウクの怒りがルウクのある一つの術を開花させた。

 

ルウクは突然狂った笑みを浮かべ笑い始めた。

 

「フフフ…ハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

「急に…」

 

「気をつけろ…!何かが来る!」

 

ルークとマラ・ジェイドはライトセーバーを構えルウクがこれから繰り出す何かを警戒した。

 

彼は最初に出会った時のような狂った笑みのまま話を続けた。

 

「お前を倒す…?フッフッフ…そうか、やってみろ!その前に僕はお前(オリジナル)を超えるんだァ!!」

 

その瞬間ルウクは持っていたライトセーバーを投擲した。

 

そのあまりの力の強さと突然の衝撃、距離の近さによりルークも攻撃を受け止め切れず自身のライトセーバーを離してしまった。

 

一時的にルークは無防備となりそれこそがルウクの狙いだった。

 

ルウクは左手から天にも轟くような稲妻を放った。

 

それもルークが放ったのとほぼ同じような電撃、フォース・ライトニングだ。

 

ルウクはルークに向けてフォース・ライトニングを放った。

 

ライトセーバーを持っていないルークでは防ぎようがない代物だ。

 

ルウクはこのままルークを殺せると思っていた。

 

このままルウクが放つ憎しみの稲妻でルークの細胞一つ一つを徹底的に破壊しこの世に残るルーク・スカイウォーカーは自分1人である、と証明しようとした。

 

だが“()()()()()()()()()”。

 

ルークは両手の掌でなんとフォース・ライトニングを受け止めたのだ。

 

少し押されてしまったが何とか踏ん張り、掌でフォース・ライトニングを受け止め続けた。

 

「何!?」

 

ルウクはまずそのことに驚いた。

 

彼はすぐに憎しみを増幅しフォース・ライトニングに込めて放った。

 

エネルギーが増幅されたルウクの憎しみの稲妻は再びルークに向かって襲い掛かる。

 

しかしルークは再びフォース・ライトニングを受け止め、むしろ電撃を吸収するかのように掌にエネルギーを溜め込んだ。

 

「僕はもう!怒りに頼るほど弱くはない!!」

 

ルークはその一言と共に掌に溜めたフォースのエネルギーを逆にルウクに打ち返した。

 

力を使い果たしてもう怒りすらも湧かないルウクにそのエネルギーが降り掛かり、ルウクはもがき苦しみながら動けなくなった。

 

「ウアアアアアアアアア!!!!」

 

「今だマラ・ジェイド!奴に留めを!」

 

名前を呼ばれたマラ・ジェイドは既に突撃態勢に入っており鋭い突きの一撃をルウクに与えた。

 

彼女のライトセーバーがルウクの胸を突き刺し彼に致命傷を与えた。

 

「嘘………だ………」

 

マラ・ジェイドのライトセーバーが引き抜かれると共にルウクは地面に斃れた。

 

ルウクは最期にその“()()”という一言だけ遺し、事切れた。

 

エネルギーを打ち終えマラ・ジェイドがトドメを刺す瞬間を確認したルークは微笑を浮かべた。

 

トドメを刺したマラ・ジェイドも同じように微笑を浮かべていた。

 

2人の過去はそれぞれ過去に決着をつけたのだ。

 

 

 

 

 

 

ルウクの断末魔のようなフォースの衝撃はジョルースにも伝わっていた。

 

ジョルースは再び衝撃的な血が抜け青ざめていくような表情を浮かべ彼は珍しく悲しみを覚えた。

 

「我が弟子まで……まさか……そんな……!」

 

ジョルースにとってはエンブリオ・チューブが破壊された時とほぼ同等の衝撃だった。

 

彼と共にジェダイ帝国を創る仲間が1人減ったのだ。

 

それも親身になって育て上げたたった1人の弟子が。

 

たった1人…?

 

ジョルースはその一言に違和感を覚えた。

 

ジョルースにとって自らの弟子はルウクの1人だけだったはずだ。

 

他のクローン戦士達も術を教えはしたが弟子としては認めていない。

 

だがそれでも、自らが弟子としていたジェダイがいたはずだ。

 

ジョルースは頭を抱えて身を震わせた。

 

「ハァッ!!」

 

だがジョルースが悩んでいる隙もなくアソーカの斬撃がジョルースを襲った。

 

ジョルースは攻撃を回避し防戦する。

 

だがその動きは以前より鈍くなっており明らかに動揺がジョルースの表に出ていた。

 

「チィ!いつまでも付き纏りおって…!」

 

ジョルースは苛立ちを込めてアソーカに吐き捨てた。

 

アソーカはライトセーバーを構えそれに答える。

 

「お前の野望はもうこれまでだ!過去の複製物、ジェダイの歪んだ過去の栄光に囚われたままのお前では私たちは倒せない!」

 

「ほざけえ!!」

 

ジョルースはフォース・ライトニングを放ちながらライトセーバーを乱暴に振るった。

 

アソーカは左手のライトセーバーでライトニングを受け止めると右手のライトセーバーで防御し再び左手のライトセーバーで反撃に出た。

 

余裕たっぷりのアソーカとは違い、ジェダイ帝国建国の為の全ての土台が失われたジョルースは焦りに焦っており、攻撃も彼には似合わず稚拙で追い詰められている雰囲気だった。

 

ひたすら乱暴な攻撃を繰り返し力に任せてアソーカを倒そうとする。

 

だがそれでは当然勝てない。

 

攻撃を回避され逆に反撃されジョルースはその度に気が狂いそうになる程苛立ちを覚えた。

 

早くクローニングを復活させなければ、早くスカイウォーカーのクローンを作らなければ。

 

目の前のフォース使いなど相手にしている暇はない。

 

だがアソーカはここぞとばかりに攻撃を繰り出し、ジョルースを引き留めた。

 

「邪魔をするな!!ジェダイのなり損ないが!!見捨てられた者のくせに!!」

 

「違うなジョルース、私は自分で自分の道を選んだ。捨てられたという見方は間違っている。だからお前は歪んだ思想に固執しいつまでも勝利を掴めない!」

 

「何だと!?」

 

鍔迫り合いの格好となったジョルースにアソーカはそう言い放った。

 

「人の道は人が決めるものよ、仮にいくら強いフォースの感受力を持っていたとしても、いくら強いフォース使いだったとしても。お前のジェダイ帝国は間違っている!お前の歪んだ思想も帝国も全てここで終わりにする!」

 

アソーカは全力のフォースプッシュでジョルースを押し出した。

 

ジョルースは何とか受け止めようとしたがそれは叶わずかなり押し出されダメージが体に残ってしまった。

 

アソーカは更に2本のライトセーバーで斬撃を与えジョルースの隙をついた。

 

遂に耐えきれなくなったジョルースは腹部に斬撃による深い切り傷を負った。

 

「グワッァ!?」

 

ジョルースはドアの近くまで吹き飛ばされ傷を押さえた。

 

傷口からは血が垂れ流れており、ジョルースの衣服にべっとり付着していた。

 

「これで終わりだ、ジョルース・シボース…!」

 

アソーカはライトセーバーを構えジョルースに突撃した。

 

だがジョルースは己の全力を使いフォースで天井を崩落させた。

 

「何!?」

 

アソーカは一歩下がって天上の崩落を免れたがこれで通路が塞がれジョルースを追うことが出来なくなってしまった。

 

瓦礫の隙間から、ジョルースが逃げる姿が見えた。

 

「待て!」

 

アソーカは回り道してでもジョルースを仕留めようと彼を負った。

 

その頃ジョルースは荒い息遣いのまま血を垂れ流しつつ通路を歩いていた。

 

彼は残りの力をフォースダッシュに使い距離を稼ぎ今こうして身を休める場所を探していた。

 

「ハァ……ハァ……ここで終わるものか……ライトサイドが人々を……導く……その為の……ジェダイ帝国……アァッ……!」

 

ジョルースは少し開けた所で倒れかけた。

 

血は止まらずむしろ出血は悪化するばかりだ。

 

どうしてこうなったのか、遠ざかりそうな意識を必死に繋ぎ止め考えた。

 

何故、人は理解しない。

 

ライトサイドの正しさを、人々は光が照らす方向へ歩むべきだと。

 

さすれば皆が救われる、皆が暗黒や抱え込んでいる恐怖から解放されるのだ。

 

その為にライトサイドの使徒であるジェダイの帝国が必要なのだ。

 

これは救済だ、全銀河の救済なのだ。

 

それがフォースを感じられない者どころか同じジェダイにすら否定され続けてきた。

 

ジョルースには分からない、この理念を否定する理由がどうしても分からなかった。

 

我々はライトサイドを感じられる、我々はフォースと言葉を交わせる、我々は常人より遥かに強い。

 

ならば我々がそうではない人々を導いてやるのが選ばれた者の責務ではないのか。

 

あのトグルータのジェダイ、アソーカは人の道は人が決めるものだと言っていた。

 

だがそれでは誤った道に進み再び救われぬ者達が溢れてくる。

 

それではいつまで経っても銀河系から暗黒は取り除けない。

 

絶望の影が幸福を邪魔するのだ。

 

皆、どうして変わらないのだ!

 

今も!昔も!

 

「……昔……?」

 

ジョルースはふと自分が思い浮かんだ言葉に疑問を持った。

 

昔、一体いつのことだ。

 

誰に否定された、誰も否定しなかったはずだ。

 

我が弟子も信者もドロイドも戦士達も全て。

 

私はジェダイだ、宇宙の究極な力だ。

 

思う通りになった、行手を阻む者は全て破壊したはずだ。

 

『ダメです!マスターシボース!ダメ!』

 

突然誰かの声が頭の中に響いた。

 

この声は昔聞いた、そうだ、“()()()()()”。

 

弟子はルウク・スカイウォーカーだけではなかった。

 

ジョルースは様々なことを思い出した。

 

様々な出来事、様々な人、ものの名前。

 

アウトバウンド・フライト”、外宇宙航行計画、オビ=ワン・ケノービ、我が弟子ロラナ・ジンズラー。

 

彼女も私の理想に賛同するそぶりはついぞ見せなかった。

 

もう1人の弟子であるルウクとは違って。

 

どうしてなのだ、あの時希望と可能性は現れたはずだ。

 

私は何度もお前に教えたはずだ。

 

選ばれし者、“()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

そうだ、私は何故勘違いしていたのだ。

 

ルーク・スカイウォーカーは選ばれし者の子供であって選ばれし者ではない。

 

選ばれし者はあの若くして強力な、ジェダイの期待と希望を背負ったケノービのパダワンだったはずだ。

 

何故忘れていた。

 

いや違う、“()()()()()()”。

 

私も所詮紛い物なのか。

 

私の名前はジョルース・シボース、私はジョラス・シボースではない。

 

ただのクローンだ。

 

ならば私の理念は、ジェダイの帝国は、私が創った戦士達の大軍は全て私が描いたものではないのか。

 

全てジョラスが思い描いていたものの“複製(copy)”なのか。

 

ならば私は、ジョルース・シボースとは…。

 

「ジョルース…!」

 

ジョルースは名前を呼ばれて顔を見上げた。

 

そこには選ばれし者の子、ルークがいた。

 

結局勝ったのは彼の方らしい。

 

それもそうか、複製(copy)が創り出した複製(copy)だ。

 

「私を……倒すつもりか……」

 

「ああ、クローニング施設を破壊し野望を潰したとはいえお前を生かしておく訳にはいかない。ここで必ず仕留める」

 

「野望……か……」

 

一体誰の野望だったのか。

 

ジョルースは再び狂気に満ちた笑みを浮かべた。

 

もう何もかもが崩れ、壊された文字通りの狂気を含んだ笑みだ。

 

彼は何もいうことなくフォース・ライトニングを放った。

 

「来るぞ!」

 

ルークとマラ・ジェイドはジョルースのフォース・ライトニングを捌きながらジョルースに接近した。

 

ルークとマラ・ジェイドはジョルースの胸部にライトセーバーを突き刺した。

 

2本のライトセーバーがジョルースに致命傷を与え彼にトドメを刺す。

 

「私の力は……私のため……に……」

 

ジョルースは全てを言い終えることなく弟子のルウクと同じような格好で最期を迎えた。

 

自分を失ったのような虚無感に包まれた最期だった。

 

「最期まで傲慢そのもの…か…」

 

マラ・ジェイドはそう吐き捨てたがルークは「いいや」と否定した。

 

「ジョルースは確かに傲慢だったが今の彼は何か自分の信じるものを、自分が自分である大切な何かを失っていたようだった。造られた命……彼は彼なりに苦しみを抱えていたんだろう」

 

ルークはジョルースの瞼を閉ざしライトセーバーの剣をしまった。

 

「行こう、僕たちの任務は終わった」

 

マラ・ジェイドは頷き歩き始めたその時、どこからか足音が聞こえた。

 

それもかなり高速のだ。

 

「生き残りの戦士か…!?」

 

マラ・ジェイドは再びライトセーバーを構えて警戒した。

 

ルークは彼女を静止し「先に行って」と伝えた。

 

「殿は僕が務める、とにかく先に」

 

「ああ…分かった……任せたぞ……!」

 

マラ・ジェイドはその場を離れルークはライトセーバーを起動した。

 

ルークが構えていた角から出てきたのはジョルースを追っていたアソーカであった。

 

アソーカはてっきりジョルースがいるものだと思っていた為一瞬戦闘態勢に入ったがルークを確認しすぐにライトセーバーをしまった。

 

「ルーク……どうしてここに……」

 

アソーカは彼に尋ねた。

 

どうしてルークが行方不明になったのか、それはアソーカ達だけでなくレジスタンスでも重大な問題となっていた。

 

ルークはその問いに答えることなく彼女にこう告げた。

 

「間も無くシス・エターナルの引き上げが始まる。その間ならセンサーも緩くて離脱しやすいはずだ。なるべく急いだほうがいい、時期にこの惑星は破壊される」

 

「シス・エターナル…?どうしてあなたがシスの側に…」

 

ルークは人差し指を口に当て首を振った。

 

困惑するアソーカにルークはあるものを与えた。

 

「これを」

 

「これは…アナキンの……」

 

「そう、父さんのライトセーバーだ。それとこれを受け取ってくれ」

 

ルークはアナキンのライトセーバーと共にある一つの“()()()()()”をアソーカに与えた。

 

「このホロクロン…一体…」

 

「これ以上は僕の口からは言えない、だけどレイアとソロ達に伝えてくれ。“()()()()()()()”」

 

ルークはそれだけ告げてアソーカの下を離れた。

 

アソーカは決してルークを追わなかった。

 

かつてアナキンがアソーカを追わなかった時のように。

 

アソーカはルークを信じボーラ・ヴィオを離れることを決意した。

 

 

 

 

つづく




メリークリマス!!

エイトクサンタだよ!!

今日はみんなにナチ帝国のプレゼントだよ!!

全くサンタ要素がないね!!

困ったね!!


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アーヴァラ7の戦い

「主戦力を予想外の場所に配置するだけで効果的な打撃を与え、それが勝利に繋がることはしばしばある。ただし、これらは両者が常道を知りその上で戦っているからこそ効果があるのであり、最初から配置を違えば即座に敗北に繋がる。また重要なのは如何に予想外な行動を起こすかではなく、如何に主戦力の力を活かし相手の最も脆弱な部分に叩きつけるかである」
-ある時のマクシミリアン・ヴィアーズ大将軍の発言より抜粋-


-リド星系 惑星ボーラ・ヴィオ周辺 国防軍封鎖網-

リド星系には帝国宇宙軍の一個艦隊がシス・エターナルの任務の機密保持の為に封鎖戦を展開していた。

 

国防軍の一個艦隊が送り込まれリド星系は完璧に封鎖されていた。

 

「状況以前として変化なし、星系周辺にジャンプアウトした艦艇は見受けられません」

 

「スナブ=ファイターなど小型機も同様です」

 

士官達が封鎖艦隊の指揮官であるキーナー提督に報告した。

 

キーナー提督は「作戦終了まで警戒を怠るな」とだけ伝えた。

 

かなり長期に渡って星系封鎖を展開しているキーナー提督と彼の麾下艦隊だがこのリド星系にはレジスタンス軍どころか一般の船すら殆ど訪れる事はなかった。

 

その為気が緩みがちになるがその度に事の重大さを思い出して身を引き締めた。

 

「しかしキーナー提督、我々も随分そんな役回りを担わされたものですね。こんな人気のない星系を封鎖するだなんて」

 

艦隊の将校の1人であるプリスート中佐はキーナー提督に愚痴を溢した。

 

中佐の言う通りこのリド星系には殆ど人はおらず行き来する事も少ない。

 

作戦を実行しているのはシス・エターナル軍なのだから武勲を挙げるのも難しかった。

 

「そういうな中佐、モンスア星雲で反乱軍を取り逃がしてしまった影響は大きかった。我々はこのような小さな任務でも地道にこなしていくしかない」

 

対新共和国戦に参加し補給線の確保や退却中の新共和国軍掃討戦で戦果を挙げたがそれでもモンスア星雲の失敗を完全に補う事は出来なかった。

 

このような役回りがキーナー提督達に与えられたのもやはりモンスア星雲の出来事があった故だろう。

 

「それはそうですが…」

 

「それに事前の予定ではシス・エターナル軍はそろそろ作戦を終了させ切り上げるはずだ。作戦終了の合図が出れば我々も緩やかに切り上げるとしよう」

 

キーナー提督は楽観的にプリスート中佐を宥めた。

 

するとキーナー提督の発言を裏付けるかのように士官から報告が届いた。

 

「シス・エターナル艦より暗号伝文を確認!作戦は終了、全部隊を率いて今から撤収するとのことです」

 

その報告を聞きキーナー提督はプリスート中佐と顔を見合わせ表情を緩ませた。

 

「よし、では我々も封鎖線を解いて…」

 

「うわぁ!?」

 

センサー士官の1人が大声を上げてキーナー提督の命令を遮った。

 

キーナー提督は少々呆れ気味に「どうした?」と士官に尋ねる。

 

士官はまるで顎が外れたように口を動かしながらキーナー提督らに報告した。

 

「て…てっ……てっ……提督……提督大変です……ボーラ・ヴィオが……“()()()()()”……」

 

「ありません…?どういうことだ、そんな訳ないだろう」

 

「ほっ本当にないんです…!シス・エターナル軍の撤収報告が来た数分前に謎の高エネルギー体が発射されて……ボーラ・ヴィオが消失しました!!」

 

ブリッジの乗組員達に動揺の声が溢れた。

 

一体どういうことなんだ、艦の不調なのかと様々な話が飛び交いざわめきが広がった。

 

プリスート中佐も困惑した表情を浮かべている。

 

謎の高エネルギー体にシス・エターナル、惑星の消失、これらのキーワードがキーナー提督の頭の中で結びついてある一つの仮説を生み出した。

 

だがこの仮説を信じたくなかったキーナー提督はまさかと一蹴しようとした。

 

シス・エターナルとはいえいくらなんでも、そのような考えがキーナー提督の中にはあった。

 

されどまた別の士官が妙な叫び声を上げてキーナー提督の名を呼んだ。

 

「キーナー提督!!」

 

「今度はなんだ!?」

 

「ボーラ・ヴィオ周辺を光学カメラで撮影した所……このようなものが……」

 

キーナー提督とプリスート中佐は急いで士官のモニターの近くに駆け寄った。

 

2人はモニターの画像を見るなり先程の士官と同じように驚き、顔面蒼白という言葉がピッタリな表情になった。

 

「……提督……これが……」

 

「ああ……可能性はあったが……どうして……一体何の意味が……」

 

キーナー提督の一言がブリッジの乗組員達を再び動揺させた。

 

提督はこう呟いた、“()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

シス・エターナル軍が保有している新型のスター・デストロイヤーは惑星を破壊出来るスーパーレーザーを搭載していた。

 

多くのレジスタンス艦隊がこのスター・デストロイヤーの前に全滅させられ、惑星バロスが破壊され既に性能は示されている。

 

だからおかしくはないのだ、仮にボーラ・ヴィオが破壊されていたとしても。

 

モニターに映る画像にはかつてボーラ・ヴィオがあった地点に大量の小惑星のデブリベルトが形成されておりスーパーレーザーによって破壊された事が分かる。

 

しかし何故ボーラ・ヴィオを破壊したのだろうか。

 

そもそも最初からボーラ・ヴィオを破壊してしまえば大抵の作戦は完遂しそうなのに。

 

「ボーラ・ヴィオは完全に破壊されたという事なのでしょうか…」

 

「それは間違いない、画像とセンサーの内容を照らし合わせてもシス・エターナルのスター・デストロイヤーがスーパーレーザーを用いてボーラ・ヴィオを破壊した…その意味までは分からないが」

 

キーナー提督は怪訝な表情を浮かべ顎を撫でた。

 

ボーラ・ヴィオが破壊されたことは確定事項だがその意図までは誰も分からなかった。

 

「しかし提督、封鎖はどうします。司令部も『作戦規定を遵守せよ』と言っていますが…」

 

ハンゼルト中佐は他の乗組員から報告を受け取りながらキーナー提督に尋ねた。

 

キーナー提督はしばらく考えた後、判断を下した。

 

「我々は司令部の命令に従い予定通り封鎖線を解除し撤退する。ボーラ・ヴィオの破壊については箝口令を出せ、事はシス・エターナルが関わってくる。下手な真似は出来ん」

 

「了解…!」

 

提督の命令通り艦隊は行動を開始した。

 

様々な疑念が残る中、帝国艦隊は失われた惑星を背にして退却を始めた。

 

 

 

 

 

 

-惑星アーヴァラ7 帝国国防地上軍包囲網 エグゼクター級“アナイアレイター”-

アーヴァラ7にはエグゼクター級“アナイアレイター”やデノンからの派遣艦隊から展開されたインペリアル級から送り込まれた地上軍の部隊が着々と包囲網を形成していた。

 

軌道上にいると目されていた新共和国の残党艦隊は発見出来なかったが地上では幾つかの小競り合いが発生していた。

 

まず上陸を防ごうと空戦と歩兵戦が発生し先行したマック・テナー司令官率いる上陸部隊は対処に当たった。

 

最終的に帝国地上軍が圧倒的優勢のまま上陸地点を確保し新共和国残党軍もより防衛線を強固にする為一旦後退した。

 

無論地上軍も防衛線の構築を許す筈もなく、上陸部隊の第二陣を率いていたコヴェル中将とデイン・ジア上級将軍が最新型のウォーカーを率いて攻撃を開始した。

 

上空を飛び交うTIEボマーの支援を受けつつ第三帝国のAT-MT正式採用版、通称AT-ATマークⅢ(またⅢ号AT-ATとも呼ばれる)と支援用に開発されたAT-ATマークⅣ(同様にⅣ号AT-ATとも呼ばれる)が前進する。

 

一部には顎の重レーザー砲が速射性の高い軽ターボレーザー砲に変更されており圧倒的な火力と装甲で残党軍を圧倒していった。

 

新共和国残党軍が構築しかけていた山岳地帯の要塞部を制圧し後退する新共和国残党軍を無理に追撃せず要塞部を全線の司令部として再活用した。

 

その間に地上軍は次々と部隊を展開し第三陣には本隊であるブリザード・フォースと最高司令官のヴィアーズ大将軍が上陸し予備と補給部隊として最後にアイガー准将とヨルフォン・ランフェンシュタン少将の部隊が上陸した。

 

元より練度が高く経験豊富なデノンの部隊と501軍団などヴェイダー麾下の精鋭部隊を保持しているヴィアーズ大将軍の部隊は難なく上陸戦と敵陣地突破と包囲網の形成に成功した。

 

今では前線の一部で小競り合いが行われているだけだがどれも帝国軍が有利だ。

 

また本来はシス・エターナル軍と合同で行う予定だった上陸戦もシス・エターナル軍の到着が予定よりもかなり遅れていた為帝国地上軍が単独で実行することとなった。

 

その為作戦開始の際に多少の不安があったが今では滞りなく進められている。

 

このままシス・エターナル軍抜きでも作戦を進められそうな勢いだ。

 

だがシス・エターナルのメンツを考えればそうはいかないだろう。

 

遅れて参上したシス・エターナル軍のジストン級がハイパースペースからジャンプアウトしブリッジからアーヴァラ7の様子を見たセドリスはより一層怒りを滲ませた。

 

シス・エターナルの到着の遅れは様々な要因によるものだった。

 

まずエクセゴルから銀河系に向かう時点でトラブルが発生した。

 

ジストン級のようなエクセゴルで建造された軍艦はエクセゴルの不安定な大気を上昇する為、外部のナビゲーション・タワーから提供される座標調整情報に頼る必要があった。

 

そしてセドリスと彼が乗り込んだジストン級がエクセゴルから発進する時このナビゲーション・タワーにシステムエラーが発生した。

 

復旧にかなりの時間が掛かり仕方なくセドリス達はフリューゲルが連れてきたディープ・コア艦隊の軍艦にナビゲーションシステムを移動させ無理やりエクセゴルから銀河系へ向かった。

 

だが問題はそれだけではなかった。

 

この秘密事項の塊であるジストン級がエクセゴルからアーヴァラ7まで向かうのは相当の苦労を有する。

 

慎重に航路を選びながら進んだ結果予定よりも更に遅れこうして到着する頃には既に上陸戦が終わっていた。

 

作戦自体には間に合ったとはいえ初戦で戦えなかった事は痛い。

 

特にセドリスのような性格の者からすれば苛立ちは当然抑えられない。

 

「作戦は既に始まっており敵の要塞を一つ、第三帝国軍が陥落させたと」

 

「それは既に報告で知っている!!我が軍団の上陸状況は!」

 

ジストン級の艦長の報告に八つ当たりするようにセドリスは尋ねた。

 

艦長は特にそれに何も思わず淡々と報告を開始した。

 

「第229突撃大隊が敵の砲撃陣地を制圧、第105空挺大隊がポイント76-01の敵補給拠点を攻撃し補給線の遮断に成功しました。また一部の軽歩兵小隊が敵通信システムへの打撃を与えています」

 

「そうか、流石は陛下から頂いたテネブラス軍団だ。主力の機械化部隊とウォーカー部隊は?」

 

「現在展開中ですがもう間も無くすれば前線に我が軍団のAT-MT部隊が到着するでしょう」

 

先程とは一変してセドリスは艦長の報告を聞き十分満足した表情を浮かべていた。

 

自然と口角が上がり不満の色は消し飛んだ。

 

遅れた時間はシス・トルーパー達の働きによって取り戻せる、セドリスはそう確信していた。

 

「それと地上ではもう間も無く指揮官達による戦略会議が開かれるそうです」

 

「そうか、ではシス・エターナル派遣軍団の総司令官として出席せねばな。2人、共に来い。シャトルを用意しろ、第三帝国の臨時司令部まで向かう」

 

セドリスはシス・トルーパーを2人連れてハンガーベイに向かった。

 

艦長は「お気をつけて」と敬礼し再び無表情のままタブレットを眺め状況をチェックし始めた。

 

ジストン級のハンガーベイから1機のシャトルが発艦し真っ直ぐアーヴァラ7に設置された臨時司令部まで向かった。

 

既に地上には“アナイアレイター”から送られたプレハブ式の基地が設置され全体の司令部として機能していた。

 

基地の一部屋にあたる作戦会議室ではホロテーブルを囲んで指揮官達が険しい表情で状況を報告し合っていた。

 

『要塞内部の機能は粗方制御しました。少なくとも前線の司令部として機能するのには何の問題もありません』

 

コヴェル中将はジア上級将軍と共にプレハブ基地にいるヴィアーズ大将軍へそう報告した。

 

プレハブ基地にいるヴィアーズ大将軍とアイガー准将とランフェンシュタン少将、ロット将軍はそれぞれ顔を見合わせた。

 

『前線の歩兵部隊は大将軍の命令通りポイント76地点を全面制圧し補給拠点を占拠していたシス・エターナルの部隊と合流しました』

 

テナー司令官の報告によりホロテーブルに映し出された地図の様子が変化した。

 

制圧地点を表す青の面が前進しシス・エターナルの紋章と第三帝国の紋章が合流する。

 

『歩兵のみでこの進撃テンポは素晴らしいものですがやはりそろそろ装甲部隊を展開する必要があると思われます』

 

テナー司令官はヴィアーズ大将軍やロット将軍達に直接伝えた。

 

新共和国の残党軍とてここでただやられている訳がない。

 

むしろレジスタンス軍よりも戦っておらず2年近く兵力を温存させているのだから引き付けてから一気に攻勢する可能性も十分にある。

 

そうならない為にもAT-ATやAT-STなどのウォーカーを使った機甲戦力による制圧が重要となるだろう。

 

「ああ、だが到着したシス・エターナル軍のウォーカー部隊を待つ必要がある。我々が持ってきたブリザード、テンペスト、サンダリング・ハードなどのウォーカー部隊に加えシス・エターナル軍のウォーカー部隊があればより全方位からの浸透攻撃が可能になる」

 

「今の所シス・エターナル軍はどのくらいの部隊が上陸したんだ?」

 

ロット将軍は他の将軍達に尋ねた。

 

「少なくとも5,000人は連れてくると言っていたので現在確認出来ている部隊数で考えれば45%程かと」

 

アイガー准将はロット将軍の問いに答えた。

 

コヴェル中将からは『早いが…もう少し早ければな』とボヤく。

 

敵に強固な防衛網を構築され、或いは脱出までの時間を稼がれないようにする為には電撃的に素早く部隊を投入し大攻勢に移る必要がある。

 

既に帝国地上軍の部隊はいつでも戦える状態にあり後はシス・エターナル軍を待つだけだ。

 

「中将の気持ちは分かるがこれはあくまで合同作戦だ。シス・エターナルを待つ必要がある」

 

ヴィアーズ大将軍はコヴェル中将を宥めた。

 

無論コヴェル中将を宥めるだけではなくヴィアーズ大将軍はすぐに命令を出した。

 

「とはいえただ待つのも癪だ、こちらの装甲部隊をなるべく前衛に出そう。だが敵に悟られてはまずい、偽装を用いて一気に各前線へ送れ。アイガー准将、君のテンペスト・フォースもだ」

 

「了解!」

 

「全装甲師団を少しずつ前進させろ、航空隊は支援を。シス・エターナル軍の配置に合わせてブリザード・フォースも前線へ出す」

 

「やはり大将軍自ら前線へ…?」

 

ランフェンシュタン少将はヴィアーズ大将軍に尋ねた。

 

大将軍は1秒も迷う事なく「ああ」と答える。

 

階級がどれだけ上がろうと上官が変わろうとヴィアーズ大将軍のやる事は変わらない。

 

彼は前線将軍であり前線で常に最強である。

 

「このアーヴァラ7はブリザード・フォースが本領とする気候ではないが問題はない。その為の備えもある。各隊は現状の戦線を維持し攻勢に備えろ」

 

『了解』

 

『了解』

 

「了解」

 

「了解した、それでは俺も自分のウォーカーに戻って…」

 

「ヴィアーズ大将軍、シス・エターナル軍の総司令官が到着いたしました」

 

フリックス・バエルンライン大佐はヴィアーズ大将軍に敬礼し報告した。

 

ヴィアーズ大将軍は周りの将軍達と目を合わせ「今か?」と聞き返した。

 

丁度会議が終わりそうなタイミングだったのにと何人かの将軍達は思っていた。

 

「はい、既にこちらに向かっています……どうしますか…?」

 

バエルンライン大佐はヴィアーズ大将軍に尋ねた。

 

彼も今来たところで…という将軍達の雰囲気を感じ取ったのだろう。

 

「このまま連れてきて構わん。シス・エターナル軍の司令官とも幾つか聞きたいことや話したい事がある。ジア上級将軍達は戻って構わん、前線を守備しろ」

 

『了解』

 

ジア上級将軍やコヴェル中将達のホログラムが消えこのプレハブ基地に残っている将軍達の姿しか見当たらなくなった。

 

しばらくしてヴィアーズ大将軍の要望通りシス・トルーパーを2人と幾人かの将校を連れたセドリスが室内に入ってきた。

 

セドリスはいつもの服装にわざとらしく黒いマントを羽織っており何処か仰々しい雰囲気を作り出していた。

 

「お前が国防軍の大将軍、マクシミリアン・ヴィアーズか。“()()()()”、“()()()()()”、噂は色々聞いている。私はセドリス・QL、シス・エターナル派遣軍団の総司令官だ」

 

「マクシミリアン・ヴィアーズ大将軍だ。今回はシス・エターナル軍にも大いに協力してもらう事になる」

 

セドリスとヴィアーズ大将軍はロット将軍やシス・エターナル軍の将校達が見守る中、互いに握手を交わした。

 

ヴィアーズ大将軍はセドリスをホロテーブルへと案内しホロテーブルにアーヴァラ7の地図を映し出した。

 

「早速ですまないがセドリス司令官、シス・エターナル軍のウォーカー部隊は後どれくらいで全て上陸出来る?」

 

ヴィアーズ大将軍はセドリスに単刀直入に尋ねた。

 

「ウォーカー部隊だけなら後20分も掛からない、何ならもっと急がせようか?」

 

「是非お願いしたい、我々が即座に攻勢を開始する為にもウォーカーが必要だ。これを見て欲しい」

 

ヴィアーズ大将軍はセドリスにアーヴァラ7の地図を見せた。

 

セドリスは少し首を傾げ地図に目を寄せた。

 

他の国防軍やシス・エターナル軍の将校達も集まってくる。

 

「度重なる索敵で既に敵はある程度の塹壕と砲塔による防衛網を構築していると考えており後方には偽装された宇宙港や工場もあると思われる。ここにいる新共和国の残党軍は我々が当初想定したよりも遥かに多いだろう」

 

「所詮残党だろう?大した戦力ではない、我が軍団のウォーカー部隊を待つのは賢明な判断だがそれ程急ぐ必要はないのでは?」

 

セドリスは大将軍達に尋ねた。

 

彼は自らの配下の部隊に絶対的な信頼を寄せており、新共和国軍など取るに足らない勢力と考えていた。

 

何せここに来る前にフリューゲル麾下の艦隊が遂にあのロザルを陥落させたのだ。

 

余計にセドリスのシス・エターナル軍に対する信頼は高くなっていた。

 

それにセドリスは国防軍のことを軽視している訳ではなく、むしろこちらも高く評価していた。

 

エグゼクター級一隻に加え一個宙域艦隊分のスター・デストロイヤー、更に何隻ものセキューター級や貨物船を前線へ連れてきている。

 

これだけで一体何十万人の兵士を展開出来ることやら。

 

セドリスはここに来る途中に地上軍の部隊を幾つか見ていたがどれも凄まじい数だ。

 

なのでセドリスは余計に敵を過小評価するようになっていた。

 

だがヴィアーズ大将軍は違った。

 

「むしろ常に我々と戦ってきたレジスタンス軍とは違い、残党だからこそ戦力が回復している可能性がある。我々は早期に全力を持って全面攻勢を展開し敵を押し潰す」

 

シュミレーションが展開されホログラム上で帝国地上軍とシス・エターナル軍の全軍が一斉に攻勢を開始し敵を殲滅していくのが描かれていた。

 

セドリスはその実際の戦場の光景を想像し頬を綻ばせたがすぐにその愉快な想像を取りやめ戦術を考えるのに集中した。

 

「これほどの大部隊、しかもどれも精鋭だ。たとえ敵が戦力を回復させていたとしても問題あるまい?」

 

「たとえ相手が弱い民兵や雑兵の群れだとしても守りである以上多少気をつけた方がいい。特に拠点に兵員を入れ、防衛網を確実に構築している場合は尚更だ。損失はなるべく少ないことに限る」

 

ヴィアーズ大将軍はセドリスにそう告げた。

 

セドリスは少しイラつきながらもヴィアーズ大将軍の能力の高さを認め始めた。

 

その上でセドリスはヴィアーズ大将軍に少し反論する。

 

「確かにその通りではあるな、大将軍。だが時に兵を犠牲にしなければいけない時もある」

 

「その考えについては時と場合によって賛同するが司令官殿、それは“()()()()()”」

 

セドリスは一瞬だけ表情を硬らせた。

 

「そうか大将軍、お前は随分と立派な考えを持っているようだな。ではその考えに免じて“()()()()”をしよう」

 

「時間稼ぎ?」

 

「そうだ、今からシス・エターナル軍の力を持って敵の部隊を幾つか攻撃して撃破してやろう。その内に全ウォーカー部隊を展開すれば敵に悟られることもないはずだ」

 

セドリスはそう進言し作戦会議室を後にしようとした。

 

ヴィアーズ大将軍は「少し待ってくれ」と彼を引き留めようとする。

 

「これはあくまでシス・エターナル軍の攻撃だ。お前にそれを止める権利も義理もない。指揮は私が直接取る、まあ安心しておけ」

 

「いや、そうではない」

 

セドリスは楽観的にそう呟いたがヴィアーズ大将軍は違うと否定した。

 

「我が軍の宇宙軍情報部が掴んだ情報によれば敵は恐らく新共和国軍だけではない。脱走したバルモーラ惑星防衛軍の反乱分子もいるそうだ。奴らは危険な相手だ、用心した方がいい。こちらの情報によれば幾つかの新型兵器を保有している可能性がある」

 

ヴィアーズ大将軍は良心を持ってセドリスに忠告した。

 

だがセドリスは「たかが惑星防衛軍」と言った表情で「それでは大将軍、戦場で会おう!」と作戦会議室を後にした。

 

他のシス・エターナル軍の将校達もその場を離れ室内には不満顔の国防軍将校達が残っていた。

 

「やけに傲慢な指揮官でしたね」

 

バエルンライン大佐は不満を隠さずにそう呟いた。

 

ロット将軍も「彼らは大丈夫なんだろうかね」とヴィアーズ大将軍に尋ねた。

 

「少し……不安ではある。ブリザード5とブリザード4とブリザード3を向かわせる、何かあれば優秀な彼らが対処してくれるはずだ」

 

ヴィアーズ大将軍は厳しい表情を浮かべながら会議室の窓からアーヴァラ7を見つめた。

 

この第三帝国とシス・エターナルの共同作戦、既に不安で山積みだ。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国領 コルスカ宙域 コルサント星系 首都惑星コルサント ギャラクティック・シティ-

レンディリなどの視察を終えたジークハルトはここ最近は久しぶりに家族がいるアパートに帰り家族と共にテーブルを囲んで食事をするという生活を送れていた。

 

数ヶ月前までは前線で火すら囲むことなくレーションを口にし部下と戦場を共にしていたとはとても考えられない微笑ましい光景がジークハルトの目の前に広がっていた。

 

暖かい家庭、どこかでジークハルトが望んでいたものなのかもしれない。

 

幼い頃に早くして母をテロで亡くし父はそれ以来意気消沈しジークハルトは早くから軍学校に入っていた。

 

家庭環境は冷め切っていた、というより消失したようなもので父からの愛情が消える事はなくてもジークハルト自身はその愛情を感じる事はなかった。

 

彼にとって軍隊や軍学校の仲間こそ家族でありそれ故にフリズベン上級将軍の家で初めてユーリアと出会った時何処か惹かれたのだろう。

 

あの当時はまさかこんな関係になるとは思っていなかったが。

 

ジークハルトは微笑みながら昔を思い出していた。

 

「どうしたのパパ?」

 

「ん?いや、こうして久しぶりに家でみんなで食事が出来る事が嬉しくてな」

 

ジークハルトは食事を口に運びながら「美味しい」と微笑んだ。

 

「たまたまホロネットでナーフのパイの作り方をやっていたのよ。だから試しに作ってみたのだけれど美味しかった?」

 

「うん、とても美味しい。ママの料理はコルサントのどの名店の味よりも勝るね」

 

ジークハルトはそう言ってマインラートとホリーに微笑んだ。

 

心の中で本当にと小さく付け加えて。

 

「そういえば、久しぶりに休みが取れる事になったよ。来週のセントラル地区の演説会が終わったら2、3日ほどだ。本当に珍しくて目を疑ったよ」

 

「あら、その日はちょうど2人も学校が休みだったわよね?」

 

ユーリアの問いにマインラートは元気一杯に頷きホリーも目を輝かせていた。

 

ジークハルトはご存知の通り部隊指揮官であり今ではナブー奪還作戦という重大な任務の作戦立案も担当している。

 

故に到底休みなど取れる身分ではなく毎日コルサントの親衛隊本部の中で身を粉にしながら働いていた。

 

その甲斐あってか珍しくジークハルトにも休みが降りた。

 

彼にとっては細やかだがこの上ない喜びだ。

 

最近は軍団の指揮官や将兵だけでなくナブー奪還作戦の立案の為に他の部隊の指揮官や幕僚達とも触れ合う機会が多かった。

 

それだけではなくフリシュタイン上級大佐やハイドレーヒ大将などFFISOの上級将校とも触れ合う機会が増えた。

 

人の輪が広がるのはいい事だがあそこら辺と深く関わるのは流石に御免被る。

 

少しは休みを得てリフレッシュしたいと考えていた頃だったので丁度良かった。

 

それにマインラートとホリーも休みということでたまには家族で何処かへ行く事も出来るだろう。

 

「また落ち着いてきたらもっと長い休みを取って旅行にも行きたいな。例えばノートハーゼンとかグリー・アンセルムとか」

 

尤も、この願望が叶うのはもっと先の未来になりそうだが。

 

少なくとも何度も思うようにレジスタンス軍を撃破するまではこの戦争は終わらないだろう。

 

「僕はカリダとかティネルⅣに行ってみたいなぁ」

 

「私もラルティアとかパントロミンとかに行って見たい…!」

 

「そうだなぁ、確かにそれもいいな。今度の休みは無理でもいつか必ず行こうな」

 

ジークハルトは2人の頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

マインラートとホリーは目を瞑ってとても無邪気に嬉しそうな表情を浮かべていた。

 

ジークハルトもユーリアも微笑ましそうに2人を見つめている。

 

このまま2人を見つめていると仕事のことも親衛隊のことも全て忘れてしまいそうだ。

 

いっそ忘れてしまえば…。

 

-ジーク-

 

何処かから声が聞こえてジークハルトはハッと自身の真正面に目をやった。

 

そこにはぼんやりと薄っすら映るかつての“()()”の姿があった。

 

戦友はたった1人だけ帝国軍の制服を着て悲しい微笑を浮かべている。

 

自分は准将になったのに、アデルハインは大佐になったのに、帝国は再び勝ったのに、目の前の戦友は昔と変わらぬ姿でいた。

 

どうして、それは自分が一番答えをよく知っているだろう。

 

「ゲアバルド……」

 

ふとジークハルトはその名前を口にしてしまった。

 

忘れることもなく口に出すこともなかったその名前を。

 

「パパ、それ誰?」

 

幼いマインラートはジークハルトに無邪気に尋ねた。

 

ジークハルトはすぐに笑顔を作り「なんでもないよ」とはぐらかした。

 

再び同じ方向を見つめてみれば戦友の姿はどこにもなかった。

 

マインラートもホリーも不思議そうな表情を浮かべていたが再び頭を撫でると無邪気に微笑んだ。

 

しかしユーリアはそうではなかった。

 

彼女は心配そうな表情を浮かべている。

 

ジークハルトは最愛の妻にも「大丈夫」と笑みを送った。

 

そう、大丈夫だ、私が忘れる事はない。

 

忘れてはいけないのだ。

 

忘れてしまっては誰が彼ら彼女らを覚えているんだ。

 

私だけは忘れてはいけない、私だけでも覚えていなければいけない。

 

私が忘れるということは赦されないのだ。

 

“ゲアバルド・グートハイル”、懐かしい悲しい名前だ。

 

ジークハルトが一生忘れることのない戦友の名前を彼は何年かぶりに口に出してしまった。

 

決して忘れてはいけない名前で決して忘れてはいけない出来事。

 

今のジークハルトが進む一つの原動力。

 

ジークハルトは我が子の未来だけで歩み続ける訳にはいかない。

 

過去に散っていた者達の遺したものの為にも歩まなければならないのだ。

 

暖かい彼の望んだ家庭の中で彼が歩んできた誓いをジークハルトは再び胸に固く誓った。

 

 

 

 

 

 

シス・エターナル軍のAT-MTが隊列を組んでアーヴァラ7の砂漠を進んでいた。

 

辺りには幾つかの小山や大岩しかなく風が吹いていない為視界も良好だ。

 

周りには護衛のAT-STマークⅢや兵員輸送機が列を作りAT-MT部隊の後に続いていた。

 

「このまま部隊を前進させろ、第三帝国の連中に何か言われる前に敵を打つ!」

 

セドリスはウォーカーの中からそう命令を出した。

 

セドリスが乗り込むAT-MTは一番先頭を進んでおり真っ先に砲撃を叩き出せる。

 

だが一番先頭にいるということは一番最初に狙われる可能性があるということだ。

 

無論セドリスの中にそんな心配はない。

 

AT-MTの装甲がそう簡単に打ち破られるはずがないしその前に目ガキャリバーキャノンでもレーザー弾でも撃ち込んでやればいいだけだ。

 

だが相手はセドリスの予想を遥かに上回ってきた。

 

突然コックピット内で警報が鳴り響きパイロットが報告した。

 

「前方より高エネルギー体が高速で接近!」

 

「何だと…!?受け止めるなっ!回避しろ!私も回避行動を取る!」

 

その報告を聞きセドリスはすぐに命令を出し目を瞑って腕を前に出した。

 

セドリスの命令通りAT-MTは回避行動を取ったが小回りの難しいこの機体が接近する砲撃を避け切るなど難しいことだ。

 

だからセドリスはフォースを使って放たれた高エネルギー体の弾道を変えようと試みた。

 

セドリスの行動は功を奏し弾道は寸前で変化しギリギリAT-MTの装甲を掠める程度で直撃は免れた。

 

だが掠った装甲の面はドロドロに溶解し白い煙を出していた。

 

「このアサルト・ウォーカーの装甲が……溶解した…?」

 

セドリスにとって大きな衝撃であった。

 

帝国の最盛期に何度かセドリスは正規の帝国軍と共に戦った事があった。

 

その時いたAT-ATは何を喰らおうと装甲に傷一つ付かない無敵の存在でこのAT-MTはそんなAT-ATよりも強化されている。

 

そんなAT-MTの装甲が一部分とはいえ溶解したのだ。

 

「…チッ!!これ以上相手に撃たせるな!!震盪ミサイル及びグレネード発射!!砲撃地点を叩きのめせ!!」

 

「了解」

 

既に相手が撃ってきた位置は分かっている。

 

各AT-MTからミサイル発射管が出現し震盪ミサイルやグレネードを発射した。

 

一斉に放たれたミサイルやグレネードが砲撃地点に幾つか命中し地平線が爆発により光を映し出した。

 

だがそれよりも驚きなのは放たれたミサイルやグレネードの半数以上が迎撃されてしまったことだ。

 

「全ミサイル、グレネードの69%が撃墜されました」

 

「連中の対空砲か…!」

 

「いえ、前方より接近する敵戦闘車両によるものと思われます」

 

パイロットの1人が報告しコックピットに拡大された画像が映し出された。

 

丸みを帯びその姿はまるでクビンディのサン・ビートルのようだった。

 

6本の足を持ちそのウォーカーのような何かは確認出来るだけでも3台は存在し真っ直ぐセドリス達の方へ前進していた。

 

「これがヴィアーズ大将軍の言っていた新兵器というやつか…全隊、一斉砲撃で奴を撃破しろ!」

 

セドリスの命令により前方のサン・ビートル型の兵器へAT-MTやAT-STマークⅢが砲撃を開始する。

 

だがこの攻撃は殆ど新型兵器に効果がなく、傷一つついていないようだった。

 

唯一効果があったのが顎の重レーザー砲とメガキャリバーキャノンだけでそれでもダメージは少量に留まっていた。

 

「我が部隊の集中砲撃は殆ど効果ありません」

 

「何だと!?そんなははずはない!再び撃ち続けろ!」

 

セドリスは再び攻撃を命じた。

 

ウォーカーや他の兵員輸送機のレーザー砲をものともせず前進を続ける。

 

そして遂に攻撃を開始した。

 

レーザー弾とイオン砲、グレネードランチャーを3台一斉に放ちAT-STマークⅢや兵員輸送機を何台か破壊した。

 

それに合わせて再び遠距離から砲撃が放たれた。

 

今度は回避する余裕もなくセドリスが乗り込むAT-MTの脚部に被弾し損傷した。

 

「第1左脚部損傷!」

 

「何とか制御しつつ後退しろ!周りのウォーカーは本機を支援!チッ!!なんだあの兵器は!?こちらの攻撃がまるで効かん!」

 

セドリスが苛立つ中、新共和国残党軍の司令部では敵のウォーカー部隊を圧倒する新兵器の姿を見て技術者や将兵達が喜びの声を上げていた。

 

「流石(Viper)!敵のウォーカーを圧倒している!我々の研究成果が報われた瞬間ですよ総督!」

 

「ああ!この機体があればバルモーラを奪還するのも可能だろう!」

 

元新共和国軍のザケル・ピースリス技術中佐と同じく元新共和国軍のレディット・ライトン将軍は喜びの声を上げた。

 

だがそれを聞いても喜べない男が1人、スキンヘッドで強面のハインチ・ベルテイン総督は険しい表情で口を開いた。

 

「いや、連中の重レーザー砲でこちらのX-0Pは損傷している。しかも見慣れぬ大砲まで背負ったあのウォーカー、些かまずいかもしれん」

 

「タイミングが悪い」とむしろベルテイン総督は頭を抱えていた。

 

彼は元々バルモーラの総督であった。

 

バルモーラは今も第三帝国の惑星でベルテイン総督も表面上は第三帝国に忠誠を誓っていた。

 

だがその裏でベルテイン総督は第三帝国を打倒し再び新共和国を復活させようとする野望を抱いていた。

 

バルモーラはウォーカー、地上兵器などを生産する軍需産業惑星であった。

 

その為クワットとは今も良好な関係であり第二次銀河内戦開戦当初は中立であったが第三帝国の圧力とクワットの手引きを受けてバルモーラは第三帝国に加盟した。

 

だがバルモーラの民が望んでいるのは第三帝国への服中ではなく独立であり自身の軍需製品をより広い自由市場に売り込む事だった。

 

それはベルテイン総督も同様である。

 

元よりバルモーラがクワットとは違い新共和国に所属しながらも中立でいたのは帝国と新共和国双方に自身の軍需品を売り込む為だった。

 

その過程でバルモーラの経済を活発化させバルモーラを発展させるつもりでいた。

 

しかし新共和国は予想に反して開戦直後に崩壊しその野望は果たせなかった。

 

そこでベルテイン総督はある工作を行った。

 

まずバルモーラに駐留していた新共和国軍と自国の惑星防衛軍の一部隊を“()()()”としバルモーラから追放するように“見せかけた”。

 

実際には新共和国軍を逃しこのバルモーラ反乱軍を新共和国軍とのパイプ役にしていつでも連絡が取れるようにしたのだ。

 

そして総督は彼らを当分第三帝国が手を出さないであろう辺境の惑星へ配置しそこで秘密基地と秘密工場を作らせ密かに最新兵器を研究し増産するよう命じ今に至る。

 

アーヴァラ7に秘密基地を作った新共和国軍とバルモーラ反乱軍は度々ベルテイン総督の視察を受けつつ研究を行っていた。

 

その結果の一つが誕生したのがセドリス達と戦っているX-0P ヴァイパーである。

 

この機体は以前からバルモーラが研究している代物でありこのアーヴァラ7でも引き続き研究が行われていた。

 

だが資源の乏しいアーヴァラ7では思うように研究が進まずこのプロトタイプのヴァイパーも本来予定していた性能よりも著しく機能が低下している。

 

火力や装甲は予定通りであるが本来ドロイド脳を積んで無人化する予定だったがこのプロトタイプでは3人操縦となり、レーザー兵器を吸収するはずだったモレキュラー・シールドもより高性能な偏向シールド程度の能力しか果たしていない。

 

しかも重レーザー砲の集中砲撃やメガキャリーキャノンの前ではまだ限界があるようで損傷していた。

 

それでもヴァイパーが盾となり後方に位置するエリートAT-TEのフルパワー砲撃でセドリスらの部隊を追い詰めている。

 

「このまま前線をもう少し持たせるとして脱出の準備は順調か?」

 

「ああ、脱出部隊の搬入は後少しで終わる。電撃的な攻撃で要塞区画が陥落したのは驚きだったが損害は最小限で抑えられた。退路も秘密通路を使えば問題ない」

 

「そうか、それでレジスタンスからの返答は」

 

「我々を歓迎しているそうだ、無論総督の名前はいつか話す」

 

ベルテイン総督やライトン将軍は前々から誕生したレジスタンスに接触したがっていた。

 

この技術があればレジスタンス軍は惑星内の陸戦で苦戦する事も少なくなるだろう。

 

そして数日前にようやくレジスタンス軍との接触が叶い、アーヴァラ7から脱出した後も受け入れてくれるそうだ。

 

「ならば安心だ、ヴァイパーを手土産に持っていけばレジスタンスの地上軍は国防軍とも対等に戦えるようになる。そうなれば情勢はまた変化する」

 

「このまま遅滞戦術を展開し退却するつもりだ。心配なのは帝国軍の全面攻勢だが…少なくともヴァイパーだけは何としてもレジスタンスに持ち込む」

 

「ああ、頼んだぞ。私はこれでバルモーラへ帰還しなくてはならない」

 

ベルテイン総督は何人かの付き人と共に司令部を離れようとしていた。

 

ライトン将軍は「気をつけろよ」と付け加えようとした瞬間驚きの報告が舞い込んできた。

 

「ヴァイパー0-3!撃破されました!」

 

一斉に驚きと動揺の声が司令部に広がった。

 

ライトン将軍も一気に気の抜けない表情となりベルテイン総督は険しかった表情がより険しくなった。

 

やはり、という感情が強いようでこの後の戦いの熾烈さをベルテイン総督の表情が物語っていた。

 

一方戦場ではまだセドリス達の部隊は未だ苦戦し突然の砲撃が敵の新兵器を撃破した事を驚いていた。

 

「一体誰が…」

 

『戦闘中のシス・エターナル隊に通達する、今のうちに後退を。あの敵は我々が撃破する』

 

セドリス達のウォーカーに突然青年の声が響いた。

 

通達を終了させヴァイパーを1台撃破したウォーカー部隊は再び攻撃を開始した。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「全隊、軽ターボレーザーで敵を牽制しつつメガキャリバーの合成レーザーで確実に撃破する。敵新型兵器を」

 

『ブリザード4了解!』

 

『ブリザード5了解』

 

ゼヴロンが命令を出し3台のAT-ATマークⅢが攻撃を開始した。

 

ヴィアーズ大将軍からセドリス達を支援するよう命じられたゼヴロン達はセドリス隊に続きそこで新型の兵器であるヴァイパーを発見した。

 

このまま合流しても砲撃の巻き添えになるだけだと感じたゼヴロンはあえて部隊を迂回させ側面からの攻撃に移った。

 

ゼヴロンの判断は結果的に功を奏し側面からの襲撃によってヴァイパーを1台撃破することに成功した。

 

ヴァイパーも負けじと反撃のブーステッド・ブラスター(キャノン)やイオン砲を放つがゼヴロン達は巧みに距離を取り攻撃を躱した。

 

AT-ATマークⅢの軽ターボレーザー砲であれば敵のモレキュラー・シールドを打ち破れるようで十分な効力を発揮し更にもう1台撃破した。

 

残り1台のヴァイパーは確実な方法で仕留める。

 

「メガキャリバー合成ビーム・レーザー、発射!」

 

ゼヴロンの命令によって3台のAT-ATマークⅢから放たれたメガキャリバーキャノンが合成し1本のビーム・レーザーとなってヴァイパーへと放たれた。

 

元より強力なこのレーザー弾はヴァイパーの装甲とシールドを完全に打ち破りヴァイパーを破壊した。

 

ヴァイパーはゆっくりと地面に崩れ落ち3台とも煙を上げて沈黙した。

 

『敵ビークルの撃破を確認!』

 

ブリザード4のブレス・スターク中佐は喜びを込めて報告した。

 

「よし、予定通り砲兵隊と我々で敵砲撃地点を制圧する」

 

AT-ATマークⅢからミサイルが放たれそれに呼応するように後方から数十発の砲弾が放たれた。

 

砲弾とミサイルはエリートAT-TEを周辺ごと吹き飛ばしこれ以上砲撃されないように叩き潰した。

 

「よしこれで完全に制圧完了……前進し撃破した敵機を確認する」

 

『了解』

 

3台のAT-ATマークⅢが前進し破壊されたヴァイパーの残骸付近まで接近した。

 

既にセドリスのシス・エターナル軍もヴァイパーの残骸の周りに接近しておりシス・トルーパー達が周囲を取り囲んでいた。

 

ゼヴロンはヴァイパーの残骸を触り機体を眺めた。

 

「これが噂の新兵器…なのか…?」

 

「恐らく…しかしあの機体、単純に装甲と偏向シールドで防御している訳ではなさそうでした。きっと何か秘密が…」

 

「おい貴様!!誰が助けて欲しいと言った!!」

 

向こうから怒鳴り声が聞こえた、セドリスだ。

 

セドリスは怒り心頭のままゼヴロンの胸ぐらを掴んで怒りを口にした。

 

「この敵は我々シス・エターナルが倒すはずだった!!それをよくも邪魔したな!!」

 

セドリスは怒っていた。

 

元々セドリスは苦戦していた上に倒すべき敵がゼヴロン達に横取りされた事に余計に腹を立てて逆恨みした。

 

だがあのまま戦っていたらセドリスの部隊はもっと損害を負っていただろう。

 

既にセドリスが乗っていたAT-MTは大分損傷しこれ以上の戦闘は不可能となってしまった。

 

「何をするんですか!ヴィアーズ中佐を離してください!」

 

「貴様は黙ってろ!」

 

スターク中佐はセドリスにそう詰め寄ったがセドリスに威嚇されてしまった。

 

周りのトルーパーやパイロット達もセドリスをヘルメットの奥から睨んでいる。

 

これだけでもゼヴロンが父であるヴィアーズ大将軍と同じくらい部下から慕われている事が分かるだろう。

 

「名前は何というんだ、貴様の名だ」

 

セドリスはゼヴロンの名を尋ねた。

 

「デノン軍集団第501軍団ブリザード・フォース所属、ゼヴロン・ヴィアーズ中佐です」

 

ゼヴロンは答えた。

 

その一言で一瞬だけセドリスの威勢は削がれたがすぐに取り戻した。

 

「ヴィアーズ…?あの大将軍のか?」

 

「マクシミリアン・ヴィアーズ大将軍は私の父です、それが何か」

 

「ゼヴロン・ヴィアーズ中佐、貴様はシス・エターナル軍に泥を塗る行為をした。我々が倒すべきだった敵を貴様が横槍を入れて邪魔をした」

 

「ですがあのまま戦っていればあなた方の部隊の損害は…!」

 

「口答えするのか!?貴様本来であれば大尉にでも降格させてっ…!」

 

「セドリス司令官、ヴィアーズ大将軍からです」

 

別のAT-MTの車長を務めていたシス・エターナル軍の将校が敬礼しセドリスにホログラムを見せた。

 

ホログラムにはヴィアーズ大将軍が映っておりセドリスは仕方なくゼヴロンを離した。

 

「大将軍、この部隊はお前の差金か?」

 

『いや、たまたま哨戒中の部隊が戦闘に合流しただけだ。そんな状況でもよくやったゼヴロン、それとスターク中佐』

 

ヴィアーズ大将軍はセドリスの問いをはぐらかしつつ我が子と部下達の戦果を褒め称えた。

 

そのことにセドリスは不満を持ちつつも顔を顰めるだけで何も言わなかった。

 

やはり元は同じ軍とはいえ今は他軍のしかも大将軍にセドリスが何か言えることは少ないのだろう。

 

『セドリス司令官、あなたの部隊の陽動のおかげで各ウォーカー部隊の配備が完了した。司令官にはすぐにプレハブ基地で指揮を取って欲しい、私は前線で直接部隊を率いて指揮を取る。ゼヴロンはウォーカー部隊を率いて直ちに今から指定するポイントで合流しよう』

 

「そうか、分かった。直ちに向かう」

 

ゼヴロンも頷きヴィアーズ大将軍は『では戦場で、司令官』とセドリスと敬礼を交わした。

 

ホログラムが途切れシス・エターナル軍の将校が「急いで戻るぞ!」と部隊を戻し始めた。

 

セドリスは一瞬だけゼヴロンを睨みすぐにその場を離れた。

 

ゼヴロンも睨まれてしかも胸ぐらまで掴まれ怒鳴られて決していい気分ではなかったが特に何か言う事はなかった。

 

「戻ってヴィアーズ大将軍に合流しよう」

 

スターク中佐はゼヴロンにそう勧めたがゼヴロンは少し待って欲しいと伝えた。

 

「ええ、ですがその前に。輸送隊に連絡してこの残骸を回収させないと」

 

新型兵器、これは解析する必要がある。

 

敵を知る事は何よりも重要だと、かつてとある大提督も言っていた。

 

この若き大将軍の息子がどこまでその本質を理解しているかは定かではないが。

 

ゼヴロンは“()()()()()”の名に恥じない軍人へと成長し続けていた。

 

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー領 惑星シーラ 首都クサプラー 拡張防衛軍最高司令部-

キャルヒーコルから帰還したプライド中将はすぐさま将軍への昇進が決定しヴィルヘルムとリヴィリフによって階級章が渡された。

 

それから暫くしてプライド将軍はヴィルヘルムと2人で会談を行なっていた。

 

銀河内戦以降のヴィルヘルムは滅多にこのように少人数での会話をする事は珍しくなっていた。

 

最初はたわいない話ばかりだったが徐々に本題へ入っていった。

 

「将軍、君はキャルヒーコルでも随分と規律に厳しく異なる軍同士を十分纏め上げて戦ったそうだな。本来なら2軍の運用で済むが君の場合は君が連れてきた軍閥とファースト・オーダーの派遣軍も含まれている」

 

プライド将軍は元はファースト・オーダー系統の司令官であり彼が率いている部隊の中にはファースト・オーダーから直接与えられたものもあれば自分が率いていた軍閥のものもある。

 

特にこの時のプライド将軍はまだ自分がファースト・オーダー所属であると言う事は微塵も思っていなかった。

 

プライド将軍はジャクー戦から自力で脱出した部隊と第二帝国に加わる事の出来なかった勢力を取り込んで独自の軍閥を未知領域に形成していた。

 

ファースト・オーダーとはあくまでまだ協力関係を結んでいる状態でありアンシオン軍の救援に向かった時もあくまで要請に応じただけであった。

 

その為プライド将軍はファースト・オーダーの協力者であってファースト・オーダーの将校ではないのだ。

 

現に彼は今チス・アセンダンシーと亡命帝国に仕え将軍の階級章を貰った。

 

ファースト・オーダーよりもチス・アセンダンシーの方が部下達の命を保証し役に立てると感じていたからだ。

 

尤もその中にはファースト・オーダーよりも帝国時代の旧友達が多かったという事もあるが。

 

「とはいえ私が率いた軍は規模で言えばまだ少数です。異なる軍と言っても元を辿れば殆どが帝国軍とチス・アセンダンシーですので」

 

「その2軍の運用だけでも大したものだ。我々は本来使う言語も違えば軍事的な編成も階級すらも違う。それにかつての帝国はもう崩壊し再統一を望んではいるがもう皆別の組織だ」

 

ヴィルヘルムとしてはもう以前のような第一銀河帝国を銀河系に甦らせる事は不可能だと思っていた。

 

彼は銀河内戦中に幾度となく帝国同士による争いを経験し統一の難しさを感じ彼はもうかつての帝国が復活するのは不可能だと諦めた。

 

その為第三帝国と中立条約を結んだ時も決して第三帝国の傘下には入らずあくまでチス・アセンダンシーに留まった。

 

統一を望んでいるとされているファースト・オーダーや名目上傘下に入っている大セスウェナなども内心ではそう思っているだろう。

 

「帝国は分裂しすぎた、再統一するのは不可能でも枝分かれした軍閥の遺産を再利用する事は可能だ。そして我々はアセンダンシーの安全保障を維持する為にも、“()()()()()()”に備える為にも彼らが遺した遺産を活用せねばならない」

 

「…新領域、ですか」

 

「その通りだ、新領域には我々に忠誠を誓った大勢の将兵がいる。だが彼らを完全に纏め上げられているとは言えない、まだ反逆の兆しがある者も大勢いる。君にはこの新領域に設置されるマイギートーの特別軍管区の司令官の任を与える。“()()()()()()”の軍管区などと協力してこの地の帝国軍を“()()”しろ」

 

ヴィルヘルムは彼に口で新しい職を伝えある1つのタブレットを渡した。

 

そこには今後に関わる様々な軍改革や軍の予定が書かれていた。

 

超兵器開発、軍の再編成、徴兵制度の整備など今後のチス・アセンダンシーと亡命帝国の軍事の今後を決めるものばかりだ。

 

「この資料にも目を通しておいてくれ。君は今後未知領域の軍事の中心人物となる」

 

「良いのですか?私に任せて」

 

プライド将軍は引き受けるつもりではいたが一応ヴィルヘルムに尋ねた。

 

プライド将軍はまだチス・アセンダンシーの陣営に入って間もない。

 

そんな人物に軍事の中心に関わらせるのは普通は不安に思うはずだ。

 

だがヴィルヘルムは不敵に笑い理由を話した。

 

「ああ、問題ない。日が浅いか深いは関係ないとやはり銀河内戦中に思い知らされた。君の職業軍人としての態度と能力で私は選んでいる」

 

「そう言う事であればお引き受けしましょう」

 

プライド将軍は正式に了承しヴィルヘルムは安心したように微笑を浮かべた。

 

「参謀本部ではシャポシニコフ元帥やヴァシレフスキー少将らが改革を進める。宇宙軍はアララニ提督やタッグ元帥が、スターファイター隊はヴァント将軍やフォーラル司令官、そして私の親族のスーンティアが行う。君にはバスティオン軍管区の司令官と協力し新領域の改革を進めてくれ」

 

「モフフェル、このバスティオン軍管区の司令官ですが…」

 

プライド将軍はタブレットを見てかなり驚いたようにヴィルヘルムに尋ねた。

 

タブレットには各軍管区の司令官の名前が丁寧に記載されている。

 

シーラ軍管区、拡張領域軍管区、コーミットグラード軍管区、キノス軍管区、コロニアル・ステーション軍管区、マイギートー軍管区、極北軍管区、そしてバスティオン軍管区。

 

このバスティオン軍管区の司令官の名前はプライド将軍も知っている人物の名前でそれを聞けば大半の将校は驚くはずだ。

 

「やはり帝国軍人であれば地上軍でも宇宙軍でもスターファイター隊でも気付くだろうな。私も最初、大いに驚いた」

 

ヴィルヘルムも微笑を浮かべたままそう答えた。

 

バスティオン軍管区はこれからシーラに続く首都惑星、もしかしたらシーラと肩を並べる首都惑星になるかも知れない場所だ。

 

そんなバスティオンを中心とする軍管区司令官がこの人物であれば納得だろう。

 

だが同時にプライド将軍は一つの疑問を持った。

 

「しかしモフフェル、この人物は本当に本物なのですか…?彼は確か…」

 

「ああ、間違いない。私は何度も会ってる上にその能力の高さに驚かされている。どうやってここに来ていたのかは定かではないがな」

 

ヴィルヘルムはプライド将軍にそう答えた。

 

プライド将軍もヴィルヘルムがそこまで言うならと納得した。

 

「マイギートー軍管区は新領域の中心部を担う領域だ。故にどの方向から攻撃を受けたとしても重要になってくる」

 

「任せて下さい、ご期待に添えるよう尽力を尽くします」

 

タブレットを持って立ち上がりプライド将軍はヴィルヘルムに敬礼した。

 

ヴィルヘルムは「任せた」と敬礼を返しプライド将軍はヴィルヘルムの執務室を後にした。

 

これである程度の配置は決まった。

 

まだ時間はあるが急がなければならない。

 

()()()()()()()()()()”、その為には新領域の軍事力がどうしても必要だ。

 

尤もそれだけでは足らないかも知れないが。

 

少なくとも新領域だけでかつての帝国地上軍と同じだけの人員は動員出来るようにしたいものだ。

 

ヴィルヘルムは休む暇もなく執務に向かった。

 

 

 

 

 

 

-アーヴァラ7 新共和国残党軍及びバルモーラ反乱軍第三防衛線-

アーヴァラ7の新共和国残党軍はバルモーラ反乱軍と共に第一から司令部のある第四までの防衛戦を形成し非常時には各防衛線は敵と対峙しつつ撤退までの時間を稼ぐ事が求められた。

 

今回の帝国軍の襲来に際しても残党軍と反乱軍は焦る事なく冷静に予定されていた戦闘を実行した。

 

防衛線で敵を食い止めている間に司令部やヴァイパー製造工場や新兵器研究施設では急いで退却準備が行われクルーザーや輸送艦に荷物や必需品の運搬が開始された。

 

だが予想外にも帝国軍は電撃的に戦闘を優位に進めなんと第一防衛線の司令部がある山岳地帯を制圧し防衛戦を一つ完全に打ち破ってしまった。

 

この行動は衝撃的であったがまだ防衛線は残っており時間を稼ぐ事も出来る。

 

偏向シールドも十分機能しており敵は地上戦か航空戦を仕掛ける他なく、防衛戦の利が消失した訳でもない。

 

まだ前線で戦う将兵達の士気は高くやるべき事をやれるだけの冷静さが各前線に残っていた。

 

特に第三防衛線はまだ第二防衛線を挟んでおり前線に最も近い防衛線ではあるがまだ当分敵は来ないだろうという暗黙の確証があった。

 

それよりも増援として第二防衛線に向かう時の方が敵と遭遇するはずだ、落ち着いているベテランの将兵ならそう思うだろう。

 

「敵影なし、第二防衛線が破られたという報告もなし。静かなもんですね」

 

大岩の上からエレクトロバイノキュラーで永遠と広がる砂漠の向こうを監視していた残党軍の伍長は上官の軍曹にそう報告した。

 

「第一防衛線が破られてかなり時間が経つが確かにそうだな……第二防衛線の兵士達がよく守っている証拠だろう。このまま我々の撤退まで第二防衛線が持ってくれるかもな」

 

「そうなると我々が支援しなければなりませんね。前線一つ前の防衛線は前線の撤退を援護しなければならないので」

 

伍長は軍曹の発言に付け加えた。

 

軍曹は頷きつつも「それは砲兵隊や機甲部隊が重点的にやるはずだ」と言った。

 

あくまで彼らのような軽歩兵は速やかに撤退するのみだ。

 

再び伍長と軍曹はエレクトロバイノキュラーで砂漠の向こうを覗き込んだ。

 

だが当然何もなく軍曹はエレクトロバイノキュラーから目を離し時計を取り出して時間を眺めた。

 

「我々も後5、6分したら交代だ。次塹壕に戻る時には撤退命令が出るといいが…」

 

「軍曹っ…!あれをっ!」

 

軍曹の代わりにエレクトロバイノキュラーを覗いていた伍長が急いで軍曹に声を掛けた。

 

軍曹はエレクトロバイノキュラーを取り出す前にその異変に気づく事が出来た。

 

明らかに砂漠の地平線の奥から何かが砂煙を上げてやってくるのが見えたからだ。

 

「アサルト・ウォーカーです…!それも1台、2台ではありません…!明らかに10台以上の大部隊です!」

 

エレクトロバイノキュラーで見るとより鮮明にその姿は見えた。

 

AT-STを引き連れた背中に砲塔を装備したAT-ATが隊列を組んでその大きな足で1歩ずつこちらに向かって前進していた。

 

あの数は明らかに第二防衛線を迂回して現れた数ではない。

 

何しろ第二防衛線を迂回する事はほぼ不可能だ。

 

それらを鑑みるに…。

 

「チッ!こちら予備偵察チームβ!前方数キロメートル先に帝国軍のウォーカー部隊を確認!数はアサルト・ウォーカー10台以上、スカウト・ウォーカー含めた僚機はその2倍!“()()()()()()()()()()()”!!」

 

軍曹は急いでコムリンクを開き第三防衛線の司令部にそう報告した。

 

伍長はその間にエレクトロバイノキュラーをポーチにしまい、立てかけておいたブラスター・ライフルを手に取った。

 

軍曹と伍長は急いで自分たちが乗ってきたランド・スピーダーに走る。

 

たった2人の偵察兵ではとてもではないがあの無敵の大軍団に敵うはずがない。

 

彼らの判断は的確であった。

 

ランド・スピーダーは帝国軍のウォーカーに背を向けて走り去る。

 

そんなことを通知らず、帝国地上軍とシス・エターナル地上軍のウォーカー部隊は前進を始めた。

 

彼らの頭上をTIEボマーとTIEインターセプターの編隊が飛び去り先んじて敵に打撃を与えに向かった。

 

帝国地上軍、シス・エターナル地上軍の連合軍によるウォーカーの大攻勢は軍曹達が偵察を行う前から既に始まっていた。

 

ヴィアーズ大将軍とセドリスの命令の下、前線に控えていたAT-ATマークⅢ、AT-ATマークⅣ、AT-STマークⅢ、兵員郵送機、2Mホバー・タンクやインペリアル・アサルト・タンクら装甲部隊の突撃が開始した。

 

砲兵部隊の砲撃とTIEボマーの爆撃がまず第二防衛線へ被害を与えその次に前進するAT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣらによるメガキャリバー合成ビーム・レーザーが防衛線の各地に放たれた。

 

AT-ATマークⅣは本来AT-MTが出現する前に開発に取り掛かっていた代物であり今後の主力となるAT-ATマークⅢのメガキャリバーキャノンによる合成ビーム・レーザー砲が放てるよう設計に手直しが加えられメガキャリバー・キャノンを装着した形で誕生した。

 

その為リンクさえ合えばAT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣは何の問題もなくメガキャリバーキャノンによる合成ビーム・レーザーが撃てた。

 

メガキャリバーキャノンの火力はAT-ATマークⅣの方が支援型である為多少火力は劣るがそれでも既存の地上兵器を遥かに凌駕する存在だ。

 

しかもAT-ATマークⅣであれば既存のウォーカーに改修を施してⅣ号型にする事も出来た為急速にその数は増えていった。

 

前線では兵士達が慌てて武器を取り後方に奇襲を知らせたが事前に張り巡らされた通信妨害の影響で奇襲の報せは後方に届く事はなかった。

 

その為前線に援軍が来る事はなく、第二防衛戦の将兵は既存の戦力と第一防衛線の残存兵を合わせて戦うしかなった。

 

各前線で帝国、シス・エターナル地上軍と新共和国残党、バルモーラ反乱軍が激しく衝突した。

 

だが新型のAT-ATを前に塹壕に籠る歩兵部隊は瞬く間に蹴散らされ、打ち破られた。

 

援軍に向かおうとした残党軍と反乱軍の装甲部隊も事前の爆撃と砲撃、更には事前に偵察で発見していた迂回路を使い浸透した機械化部隊やウォーカー部隊による攻撃を受けて前線に到着したのはごく少数に留まった。

 

その少数の機甲戦力もAT-MTとAT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣによって瞬く間に蹴散らされる。

 

元々AT-ATに対し新共和国軍が持つ機甲戦力では圧倒的に力の差がありすぎるのだ。

 

ジャガーノート・タンクやエリートAT-TEなど一部対抗出来る兵器もあるがそれでもAT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣ、AT-MTの敵ではない。

 

ヴァイパーのような最新兵器も最前線である第二防衛線には存在せず既存の戦力で戦わざるを得ない残党軍や反乱軍の機甲部隊は最新兵器を持つ帝国地上軍やシス・エターナル軍相手に苦戦した。

 

歩兵達が対車輌兵器で応戦しようとしても僚機であるAT-STマークⅢによって接近する間も無く撃破されストームトルーパーやシス・トルーパーの攻撃を受けやられていった。

 

またヴィアーズ大将軍は事前に大規模な迂回部隊を用意し第二防衛線の補給線と迂回路を断ち切った。

 

背後を取られた第二防衛線は後退する暇もなく敵装甲部隊の攻撃を受けて文字通り壊滅した。

 

ヴィアーズ大将軍は続けて更なる防衛線の突破に着手した。

 

ウォーカー部隊は第二防衛線を撃破し意気揚々と前進を開始した。

 

第三防衛線では事前にウォーカー部隊の発見に成功し第二防衛線とは違い事前に対策が取れた。

 

先んじて塹壕の兵士達は対ウォーカー用の装備を手にし前線に機甲部隊が向かった。

 

対空防御の為にプロトン魚雷ランチャーや重砲、野戦砲が展開され前線では迫撃砲兵達が迫撃砲を構えて敵を待ち構えていた。

 

無論それを承知で各部隊は前進していく。

 

コヴェル中将率いるシュヴェーア・フォースのAT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣは頭上を飛び交うTIEインターセプターやTIEボマーの部隊と共に前進した。

 

「後方の砲撃大隊より砲撃支援来ます」

 

パイロットの報告と共にコヴェル中将のAT-ATマークⅢの上を何十発もの砲弾が飛んでいった。

 

砲弾は全て目標に着弾しそれぞれ損害を与えた。

 

命中率を計算しパイロットがコヴェル中将に報告する。

 

「全弾命中、各戦線に放たれた砲弾の命中率も同様です」

 

「ほう、今回はやけに砲兵の命中率が高いな」

 

通常この手の砲撃の命中率がこれだけ撃って100%になる事はまずない。

 

されど今回はどの戦線でも全ての砲弾が命中しているそうだ。

 

これにはしっかりとした理由が存在していた。

 

それはプレハブ基地で瞑想を行いフォースで部隊を支援しているセドリスの力によるものだった。

 

彼のフォースによる戦闘瞑想は砲兵の命中率を大きく向上させ一部のシス・トルーパー達の能力を極限まで高めていた。

 

セドリスの戦闘瞑想により敵に対して最大の力で打撃を与える事が可能になったのだ。

 

セドリスはライトセーバーだけでなくフォースの術も十分な能力を持っていた。

 

されど彼がシス・アプレンティスになる事はなかったのは生まれの問題ではなく単にセドリスより上位の存在がまだいるからだろう。

 

彼の技術とてフォースの力としてはほんの一部なのだ。

 

「シュヴェーア・フォース全隊、ヴィアーズ隊形プランCを展開。前方の塹壕と後方から接近してくる機甲部隊を打ち破り、敵砲撃陣地を制圧する」

 

コヴェル中将の命令により各ウォーカーの車長達から『了解』という返答が聞こえた。

 

ではまず牽制にとコヴェル中将は僚機のAT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣのリンクを合わせシュヴェーア・フォース全機による合成ビーム・レーザーの砲撃を浴びせかけた。

 

3台1組、AT-ATマークⅢとAT-ATマークⅣ含め12台いるシュヴェーア・フォースは一度に4発の合成ビーム・レーザーを撃ち出し前線の塹壕を砲撃した。

 

「よし、全弾命中!各機、砲塔を潰しつつ前進の手を緩めるな。スカウト・ウォーカー隊は塹壕に接近した瞬間に塹壕内の掃討を行え」

 

ペリスコープ・ディスプレイから外の様子を確認しつつコヴェル中将達は攻撃を開始した。

 

塹壕からはレーザー弾や迫撃砲によるイオン弾や砲弾が放たれたが自動対空装備を装着した機体は自動で撃墜しそうでない機体はAT-STマークⅢが撃ち落としていった。

 

その間にAT-ATマークⅢやAT-ATマークⅣが顎の軽ターボレーザー砲や中型ブラスター砲、メガキャリバーキャノンを持って塹壕内の兵士達を蹴散らした。

 

この3つの装備はどれを取っても歩兵を一撃で即死させる力が備わっている。

 

12台のAT-ATマークⅢから一斉攻撃を喰らった塹壕の中はまさに地獄だ。

 

兵士達は死体となった戦友や破壊された機器類に気を留める事もなく攻撃を続けた。

 

迫撃砲から砲弾が放たれある1人の兵士が放ったスマート・ロケットの弾が両方ともAT-ATマークⅣの顔面に直撃したが傷1つ付かず直後その兵士達は両方もと反撃として放たれた軽ターボレーザー砲によって撃ち倒された。

 

「前方1,200メートル付近にタンク発見、T-2BとT-4Bの混成小隊と思われます」

 

パイロットがコヴェル中将に報告し中将はディスプレイからその様子を確認した。

 

早速T-2BとT-4Bヘビー・タンクはAT-ATマークⅢに向けて砲撃を開始した。

 

1台のAT-ATマークⅢが被弾するも全く気にせず反撃として軽ターボレーザー砲を撃ち放った。

 

「優先して重戦車の方を狙え、我々は敵の指揮戦闘者を破壊する」

 

コヴェル中将はメガキャリバーキャノンで後方で兵員を展開しようとするジャガーノートに砲撃を放った。

 

ジャガーノートの装甲とはいえメガキャリバーキャノンを防ぐ事は出来ず爆散した。

 

更に僚機のAT-ATマークⅣが軽ターボレーザー砲でT-4Bタンクを破壊した。

 

塹壕まで接近してきた1輌のT-2BをAT-STマークⅢがツイン・レーザー砲で滅多撃ちにして爆散させその間に他のAT-AT達が残りのタンクを破壊した。

 

あっという間に敵の戦車小隊は殲滅されAT-STマークⅢが生き残った歩兵を掃討している。

 

『前方1,800メートル付近に改造モデルのAT-TEとT-3Bタンク部隊を発見!』

 

「いやこちらは手出しするな、上空を見ろ」

 

コヴェル中将は報告してきた同隊のシュヴェーア5にそう告げた。

 

上空からはシス・エターナル軍のシスTIEボマーが3機飛び去って行き、シュヴェーア5が発見した機甲部隊にイオン爆弾とプロトン爆弾を投下していった。

 

エリートAT-TEとT-3Bヘビー・アタック・タンクの周りは爆炎に包まれた。

 

T-3Bは爆撃で全滅し残っているのはエリートAT-TEのみだった。

 

すぐに反転し戻ってきた3機のシスTIEボマーがエリートAT-TEにレーザー砲を浴びせ完全に破壊した。

 

「シス・エターナル航空隊、支援に感謝する」

 

『作戦に従ったまでだ』

 

コヴェル中将はコムリンクでシスTIEボマーの編隊に礼を送り自身の部隊を更に前進させた。

 

迫り来る歩兵部隊や機械化部隊、機甲部隊を相手にしながら全て叩き潰し前進していく。

 

爆撃や砲撃の支援が効いているのか戦闘全隊が優位に動いているのを感じられた。

 

『コヴェル中将、アイガー准将のテンペスト・フォースが敵戦線を突破したとのことです。またジア上級将軍の501軍団が敵の地下網を発見し現在占領中とのこと』

 

「了解した、我々も砲撃陣地を制圧した後一気に攻勢をかける」

 

ペリスコープ・ディスプレイを下ろしコヴェル中将は目標を定めた。

 

「砲撃陣地発見……もう少し接近する」

 

シュヴェーア・フォースは徐々に前進し砲撃陣地に接近した。

 

接近に気づいた砲撃陣地の砲兵達は急いで重砲や野戦砲を向けシュヴェーア・フォースを迎え撃とうとするがシュヴェーア9が放った煙幕弾により一時期的に視界が奪われた。

 

「よくやったシュヴェーア9。シュヴェーア2とシュヴェーア3は私とリンクを合わせろ。合成ビーム・レーザーで一帯ごと吹き飛ばす」

 

僚機のAT-ATマークⅣとシステムがリンクし合成ビーム・レーザーのチャージが開始された。

 

既に敵の位置に検討は付けてある、後は引き金を引くだけの状態だ。

 

チャージが完了しコックピット内の機器の一つがピピピッと鳴った。

 

「撃て」

 

3台のAT-ATのレーザーが融合し1本のビーム・レーザーを生み出す。

 

ビーム・レーザーはそのまま煙幕を突き破り砲撃陣地に着弾し爆炎へと変わった。

 

これで目標は粗方完了した。

 

「砲撃陣地の制圧完了、各隊の状況は」

 

「タナー司令官が本戦線の司令部と思わしき基地を制圧、ランフェンシュタン少将の装甲兵団がアイガー准将のテンペスト・フォースに続いて戦線を突破しました。また敵軍はどうやら撤退を始めているようです」

 

コックピットにホログラムが移り残党軍の後退の様子を映し出した。

 

各所の報告付きで残党軍が撤退しているのが分かる。

 

「ではシュヴェーア・フォースと我が装甲軍も前進し一気に敵を殲滅する。攻撃の手を緩めるな、徹底的に打撃を与えろ」

 

コヴェル中将の進撃と同じくして彼の師のような存在であるヴィアーズ大将軍も行動を起こそうとしていた。

 

サンダリング・ハード中隊を含めたブリザード・フォースが敵の防衛線を突破し幾つかの迂回路を抜けて一気に軌道上から特定した敵の司令部と思われる場所まで接近した。

 

ここを叩ければ敵の司令部機能は麻痺する。

 

『将軍、プローブ・ドロイド及びシーカー・ドロイドの分布終了しました。各隊の配置も完了しています』

 

ブリザード2のバエルンライン大佐はブリザード1のヴィアーズ大将軍にそう報告した。

 

ブリザード1の背後にはブリザード2だけでなくブリザード3、ブリザード4、ブリザード5とブリザード・フォースのAT-ATが後に続いている。

 

各ウォーカーに乗り込むストームトルーパー達は皆武装を整えており後はヴィアーズ大将軍の一声を待つだけとなった。

 

大将軍はまず息を吐いて数秒目を閉じてから声を発した。

 

「ブリザード・フォース全隊、攻撃開始!」

 

ブリザード1を先頭にブリザード・フォースのAT-ATが前進する。

 

ブリザード・フォースは優先してAT-ATマークⅢを与えられておりしかも各機に改造が施されAT-ST、AT-MPの護衛機がなくともある程度の戦闘に対処出来るようになっている。

 

これはヴィアーズ大将軍がまだ死の小艦隊に所属していた頃からの慣わしだ。

 

部隊の数を減らしその上で効率を上げて最大限の力を発揮する。

 

ヴィアーズ大将軍と大将軍に鍛えられたこの雪原の勇者達であれば仮に戦場が砂漠に移っても何の問題もなかった。

 

『目標施設まで残り5,100メートル、また前方より敵装甲部隊が接近中』

 

「了解ブリザード4、各機戦闘開始。このまま前進を強行する」

 

ペリスコープ・ディスプレイを取り出し外を覗き込んだ。

 

敵の数はこちらの奇襲に気付き接近してきた斥候のT-1BとT-2Bの戦車小隊だ。

 

あの程度の数、態々全隊で攻撃する必要すらない。

 

早速ブリザード4が軽ターボレーザーを連射し接近される前に敵の戦車小隊を撃破した。

 

更に中型ブラスター砲を叩き込み随伴歩兵も掃討する。

 

流石はスターク大佐の親族、攻撃に躊躇いがなくやはりパフォーマンス的な意味合いが強かった。

 

尤も前任のブリザード4であるスターク大佐はその結果大損害を被ったのだが。

 

『敵戦車小隊を撃破しました!』

 

スターク中佐は喜びの感情そのままそう報告した。

 

「よくやったブリザード4、敵対空砲網を叩いて航空支援の展開を可能にするぞ。全隊ヴィアーズ隊形プランDに移行」

 

本来ヴィアーズ隊形とは防衛砲台や砲塔群を撃破し突破する為にヴィアーズ大将軍がホス戦で使用したものより洗礼された部隊隊形だ。

 

そこにヴィアーズ大将軍はコヴェル中将らと共に手を加え様々なパターンを編み出した。

 

先ほどコヴェル中将が使っていたヴィアーズ隊形プランCはコヴェル中将が編み出したもので防衛砲台だけでなく、塹壕内の歩兵戦闘、接近する敵機甲部隊との戦闘の全てを同時に行える方法だ。

 

まずAT-ATが前衛に立ちAT-STやAT-MPのような僚機に対する攻撃をカバーする。

 

その間に各僚機はAT-ATに接近する歩兵や小型、中型ビークルを破壊し対空防御などに専念する。

 

AT-ATは持ち前の火力の高さと汎用性を活かしマルチに攻撃を行い、塹壕に接近した後は塹壕内の敵をAT-STのような対歩兵ウォーカーが対処し塹壕内を制圧する。

 

AT-ATとAT-ST、AT-MP全てのウォーカーの特性を活かせる隊形でありそれ故に汎用性も高かった。

 

一方でヴィアーズ大将軍が使用しているヴィアーズ隊形プランDはよりAT-ATを中心に置いた敵地強襲用の攻撃性の高い隊形だ。

 

その実力は今、実戦で振るわれている。

 

対空砲やミサイル・ランチャー、プロトン魚雷ランチャーが容赦なく破壊され残骸が地面に散乱していた。

 

当然歩兵達も蹴散らされ中型ブラスター砲や外付けのブラスター・タレットによって容赦なく逃げ惑う歩兵や戦う歩兵を銃撃していた。

 

「敵センサーも徹底的に叩け」

 

ヴィアーズ大将軍の命令でAT-ATマークⅢは軽ターボレーザーやメガキャリバーキャノンで周囲のセンサー網を徹底的に潰し、司令部周辺の防空能力を低下させた。

 

接近するエリートAT-TEやジャガーノートのようなAT-ATに対抗出来る大型ウォーカーやビークルも合成ビーム・レーザーによって瞬く間に殲滅されてしまった。

 

この隊形の利点は前進しながらメガキャリバーキャノンを使った合成ビーム・レーザーを放てるということだ。

 

通常兵器よりも射程が長く火力も高い合成ビーム・レーザーを用いた火力の擲弾は更にウォーカー部隊の前進を加速させた。

 

ブリザード・フォースは更に前進し一気に司令部の奥深くまで進撃した。

 

だがここにブリザード・フォースの進撃を止めんとするものが現れる。

 

『…っ!前方1,200メートルより例の新型が接近中!』

 

ゼヴロンが乗り込むブリザード3からそう報告が届いた。

 

ヴィアーズ大将軍も急いでペリコープ・ディスプレイで確認した。

 

セドリスの部隊を苦しめた残党軍の新型兵器、ヴァイパーがなんと10台も隊列を組んで接近しているのだ。

 

しかも僚機にT-2BやT-4Bタンクを連れて確実にブリザード・フォースを撃破せんとしている。

 

『新型が10台、ホバー・タンクが僚機としてその倍…厄介ですね』

 

ブリザード2、バエルンライン大佐はコムリンクを用いてそう呟いた。

 

実際数の上では向こうが有利だ。

 

しかもまだ性能の底が知れていないヴァイパーが相手となると苦戦は免れない。

 

『一旦後退して待機させてあるブリザード・スカウト隊と合流しますか?』

 

バエルンライン大佐はヴィアーズ大将軍にそう進言したが彼の答えは違った。

 

「いや、そうなれば敵は復旧してしまう。このまま前進し新型を含めた敵の機甲部隊を撃破する。各機、合成ビーム・レーザーと震盪ミサイルを装填しろ。私に一つだけ試したい事がある、あの新型には合成ビーム・レーザーと震盪ミサイルを放て、それ以外には従来の武装で対処だ」

 

『了解』

 

ヴァイパーは早速ブーステッド・ブラスター砲でブリザード・フォースを攻撃した。

 

被弾したAT-ATマークⅢが一瞬だけ後方に飛ばされそうになるが踏ん張り攻撃を耐えた。

 

『敵機のブラスター砲は我が方の重レーザー砲と殆ど同じ威力です!』

 

被弾したAT-ATマークⅢの車長は全隊にそう報告した。

 

しかしヴィアーズ大将軍はそんな報告にも動じる事なく答えた。

 

「そうか、なれば問題ない」

 

その一言は単なる無茶ではなくブリザード・フォースの面々に絶大な信頼を与えた。

 

再びブーステッド・ブラスター砲が放たれたがAT-ATマークⅢの正面装甲は辛うじて耐えている。

 

『エネルギーチャージ、完了しました!』

 

バエルンライン大佐の報告を聞きヴィアーズ大将軍はまず第一斉射を命ずる。

 

「全機パワー全開、発射!」

 

合成ビーム・レーザー砲がAT-ATマークⅢの間に構築されその凄まじい一撃をヴァイパーに放った。

 

2台のヴァイパーが辛うじて回避したものの1台は脚部が破壊され中破し残りの2台は正面から攻撃を受けて破壊された。

 

今のヴァイパーのモレキュラー・シールドではメガキャリバーキャノンの合成ビーム・レーザー砲を受け止め切れない。

 

更にヴィアーズ大将軍は続けて攻撃を命じた。

 

「全隊震盪ミサイル発射、その間に軽ターボレーザーで随伴機を足止めしろ」

 

AT-ATマークⅢから震盪ミサイルが放たれヴァイパーを襲った。

 

ヴァイパーに備わっているモレキュラー・シールドは通常の偏向シールド同様に敵のレーザー攻撃を防ぎ場合によっては防いだ攻撃のエネルギーを自機のエネルギーに変換する事が可能だ。

 

本来であれば重レーザー砲やプロトン魚雷のエネルギーも変換出来る水準まで向上させたかったのだがやはりこのアーヴァラ7では技術的に困難であった。

 

それでも歩兵が手に持つブラスター・ライフルやブラスター砲程度であればエネルギーに変換出来るのだが震盪ミサイルのような実態弾は違う。

 

対空防御が間に合わず何台かが再び被弾し大破した。

 

『震盪ミサイル命中!攻撃は効いています!』

 

バエルンライン大佐がその光景を見て喜びの声を上げた。

 

だがヴィアーズ大将軍は冷静に状況を読み解き答える。

 

「ああ、そうだな。全機、このまま合成ビーム・レーザーと軽ターボレーザー砲で新型を殲滅する。ブリザード3らの報告によれば軽ターボレーザー砲も一点集中であれば十分効果がある」

 

ゼヴロンらの隊が持ち込んだ戦闘報告は極めて貴重でありその上でヴィアーズ大将軍は確実に勝てるであろう戦闘方法を生み出した。

 

生き残ったヴァイパーはまだブーステッド・ブラスター砲を放っておりこのままでも十分危険な相手だ。

 

既に周りの随伴していたT-2BやT-4Bはミサイルや軽ターボレーザー砲を喰らって破壊され半数近くが行動不能に陥っていた。

 

その間に生き残ったヴァイパーに向けてAT-ATマークⅢの軽ターボレーザー砲が一点に集中して放たれ撃破される機体が増えていた。

 

もしヴァイパーと戦うのが1年違くてしかもAT-ATマークⅢやAT-ATマークⅣではなく通常のAT-ATで向かっていたとしたらヴィアーズ大将軍達でも相当苦戦しただろう。

 

早いうちに芽を潰せておいて良かったとヴィアーズ大将軍は安堵していた。

 

「合成ビーム・レーザー砲、発射!」

 

ブリザード1とブリザード2、ブリザード3から合成ビーム・レーザーが放たれ最後の3台のヴァイパーがまとめて撃破された。

 

『新型機の殲滅を確認!』

 

「残りのタンクも殲滅しろ、ラストク曹長、敵司令部までの距離は?」

 

ヴィアーズ大将軍はブリザード1の操縦手であるAT-ATパイロットのTK-7834、ラストク曹長に尋ねた。

 

ラストク曹長はホスの戦いで特攻により撃破された旧ブリザード1のAT-ATのパイロットも務めており今隣で砲手を務めているTK-5187と共に破壊されたアサルト・ウォーカーの瓦礫の中からヴィアーズ大将軍を救い出した。

 

ヴィアーズ大将軍がホス戦で生き残れたのは彼の強い不屈の精神力もあるがラストク曹長とTK-5187による救助活動のお陰だった。

 

2人はこの活躍で一気に軍曹まで昇進しシャンドリラ攻略戦の戦果も相まって今は2人とも曹長の階級を得ていた。

 

「残り2,100メートルです。ですがその前にあの山の中に偽装されたシールド発生装置があります」

 

ラストク曹長は指を差してヴィアーズ大将軍に位置を報告した。

 

「距離は?」

 

「本機の軽ターボレーザーであればフルパワーで届く距離です」

 

「分かった、TK-5187、目標を山岳部のシールド発生装置に設定しろ。シールド発生装置の破壊と同時に艦隊へ伝令、工場地帯及び前線へ支援砲撃を」

 

「了解」

 

偏向シールド発生装置の破壊はホスの戦いでもシャンドリラの戦いでも行った。

 

その為手慣れてはいるがそれでも緊張が走る。

 

慎重に砲手であるTK-5187がターゲットを絞りヴィアーズ大将軍もそれをサポートした。

 

『敵タンク部隊の撃破を確認!』

 

「ブリザード・スカウト、全隊に次ぐ。アサルト・ウォーカー隊と共に前進し司令部攻略戦を実行せよ。各AT-ATは兵員を展開し司令部の制圧のみに集中、砲撃支援を怠るな」

 

スターク中佐の報告を聞きヴィアーズ大将軍は一気に作戦を前に推し進めた。

 

部隊が後方からやってきたAT-STマークⅢが合流し司令部を守ろうとする歩兵を蹴散らしていく。

 

その間にもブリザード1は偏向シールド発生装置に狙いを定めていた。

 

「エネルギーチャージ完了、ターゲットロック完了」

 

TK-5187はヴィアーズ大将軍にそう報告する。

 

それからヴィアーズ大将軍は僅かの間も無く命令を下した。

 

最大火力で撃て!(Target Maximum fire power !)

 

ブリザード1の軽ターボレーザーが最大火力で放たれ山の頂上ごと偏向シールド発生装置を破壊した。

 

頂上の山が崩れ爆発が起こる。

 

それと同時にアーヴァラ7の戦闘域全体を覆っていた偏向シールドの膜が徐々に薄れて消えていった。

 

偏向シールドの消失を感知し軌道上の艦隊からは支援の為の軌道上爆撃が開始された。

 

まずヴァイパーなどを製造していた新型兵器開発工場や研究所が破壊され続いて第四防衛線の司令部も壊滅した。

 

だがこの時点で既に残党軍と反乱軍は撤退を開始しており本来よりも与えた打撃は大分少なくなっていた。

 

特にこの時点で工場はもうもぬけの殻であり残ったヴァイパーに至っては全台輸送艦に詰め込まれ運搬が開始されていた。

 

とはいえ展開した13台のヴァイパーが全台破壊されるとは残党軍の司令官であるライトン将軍も考えていなかっただろう。

 

先行して司令部に突入したブリザード4は早速兵員を展開し他のAT-ATマークⅢと共に基地内戦を開始した。

 

ストームトルーパー達が基地内部に侵入し残党軍の歩兵達と戦闘を繰り広げていた。

 

ブリザード・フォースが周辺を制圧した事により侵入出来るのはAT-ATマークⅢが運んできた兵員だけではない。

 

何機ものセンチネル級が護衛のTIEインターセプターと共にAT-ATマークⅢの周りに停泊し兵員を展開し始めた。

 

乗っているのは当然501軍団の優秀な兵士達で数、質共に新共和国残党軍の兵士を圧倒していった。

 

またシス・エターナル軍も基地内へ侵入し攻撃を始めた。

 

第四防衛線の司令部が軌道上爆撃によって壊滅し第四防衛線の殿を務めていた部隊は壊滅した。

 

その勢いのままシス・エターナル軍は発見した地下通路にシス・トルーパー隊を突入させ内部の制圧を開始。

 

上空では絶え間ないシスTIEボマーとTIEボマー隊の爆撃が続く中シス・トルーパー達は司令部まで繋がる地下通路の敵を打ち倒し突破していった。

 

2方向からの侵入を許した残党軍と反乱軍はそれぞれでバリケードを形成し応戦するも精鋭501軍団とシス・トルーパー隊の前に次々と突破された。

 

だがこの時点で残党軍と反乱軍の撤退準備は完了しており既に輸送艦やクルーザーが秘密裏に建造された宇宙港から発艦しつつあった。

 

残っているのは殿を務める部隊と最高司令官であるライトン将軍だけだ。

 

『エリア-02陥落!外周が突破された!繰り返す外周が突破された!』

 

警報が司令室にまで鳴り響きライトン将軍含め、残った数人の通信士官や幕僚達は各地へ指示を出した。

 

そこへ脱出部隊の責任者であるスコードレン大佐は室内に入ってきた。

 

「第一、第二脱出部隊がアーヴァラ7の脱出に成功しました!残る第三、第四ですが予想よりも敵軍に内部を侵入され損耗も激しい上既に第二の一部が軌道上の包囲艦隊に発見されてしまった為、第三を最終部隊にして残りの全部隊を詰め込んで撤収しようかと考えています」

 

「分かった、全域に総員撤退の報を出す。お前達も撤退の警報を出したら直ちに司令室を離れて最も安全な26番ハッチの脱出船に急げ」

 

「了解!」

 

機器類を操作し防衛線全域に警報が発令された。

 

それと同時に通信士官達は全ての通信履歴を削除し自らの席を離れた。

 

ライトン将軍に「お先に!」と敬礼を送り通信士官達は司令室を後にした。

 

ライトン将軍もそれを見届けるとホルスターにブラスター・ピストルをしまい、用意させたA280ブラスター・ライフルを手に取った。

 

「我々は本来第四の旗艦になるはずだった“コメンスメント”で脱出する」

 

「了解!」

 

2人も司令室を後にしこの空の執務室にストームトルーパーとシス・トルーパーの連合部隊が訪れたのは僅か15分後の出来事であった。

 

各地で行われている戦いも部隊が退却するか壊滅するかで終結し大部分を帝国地上軍とシス・エターナル地上軍が制圧していた。

 

むしろ戦闘は地上よりも宇宙空間に移ったと言える。

 

脱出部隊を捕捉した“アナイアレイター”率いる帝国艦隊が脱出部隊に対し砲撃を浴びせかけていた。

 

熾烈な艦隊戦、スターファイター戦となったがもうこうなれば帝国地上軍に出来ることは少ない。

 

地上からの支援砲撃を行なっているが決定的な打撃を与えられるかは帝国宇宙軍に掛かっている。

 

勝利を祈りつつヴィアーズ大将軍はブリザード1の前でセンチネル級に乗ってやってきたジア上級将軍と話し合っていた。

 

「あの新型兵器…以前バルモーラで似たような機体の開発案を見た覚えがある」

 

ジア上級将軍は破壊されたヴァイパーの残骸を見てそうヴィアーズ大将軍に話した。

 

「宇宙軍情報部のカーレリス提督によればバルモーラの反乱軍もこの地に潜んでいるらしい。反乱軍がバルモーラから抜き取った情報の可能性もある」

 

「となるとベルテイン総督らバルモーラ政府にも報告する必要があるな。残骸は君の息子が回収したのだろう?」

 

ヴィアーズ大将軍は頷き「何か解析して分かる事があると良いんだがな…」と祈るように呟いた。

 

「ともかく、地上戦で特にシス・エターナル軍と問題を起こさずこれだけの戦果を挙げられたのは大きな収穫だ。これで君は雪原と砂漠、双方で異名を取る事になる」

 

ジア上級将軍のジョークにヴィアーズ大将軍は苦笑を浮かべた。

 

すぐに「よしてくれ」と呟きジア上級将軍も同じよう苦笑いと言った笑みを浮かべている。

 

するとゼヴロンが2人に敬礼し近づいてきた。

 

「負傷兵の運搬が完了しました。それと司令部内のデータは全て消失していたらしく復旧は難しいそうです」

 

「分かった、報告ありがとう」

 

ゼヴロンは敬礼しヴィアーズ大将軍の下を去って行こうとした。

 

ゼヴロンが2、3歩進んだ所でヴィアーズ大将軍が「ゼヴロン」と彼を引き留めた。

 

ゼヴロンは振り返りヴィアーズ大将軍の方を見つめた。

 

大将軍は微笑を浮かべ彼に言葉を送った。

 

「良くやった、凄かったぞ。私の……いや、私と母さんの自慢の息子だ」

 

たった一言だった、されど重要な一言だ。

 

昔はこの一言でさえ送ることは出来なかった。

 

だが今ならお互いにその一言を言い合える事が出来る。

 

「ありがとう、父さん」

 

ゼヴロンもその一言を返し2人はまた元に戻った。

 

互いに暖かい喜びの感情を抱いたまま。

 

この様子を眺めていたジア上級将軍は少し笑みを浮かべ「随分と仲良さそうじゃないか」と呟いた。

 

「普通の親子関係だよ、尤も昔の私は普通ですらまともにやれなかった訳だが」

 

「“エグゼクター”の時とは大きく見違えた。何かあったのか?」

 

ジア上級将軍は戯れにヴィアーズ大将軍に尋ねた。

 

大将軍は過去を振り返る。

 

「いや…小さなことだけだ」

 

その小さなすれ違いが全てを変えたのだ。

 

良いようにも悪いようにも。

 

ヴィアーズ大将軍は微笑み混じりにそう感じた。

 

同じ頃、プレハブ基地では瞑想を終了させ首を捻って身体をほぐすセドリスの姿があった。

 

シス・エターナル軍の将校とシス信者、シス・トルーパーが彼の周りに佇んでおり命令を待っていた。

 

「これで一つ目の任務は完了した。後は2つ目だが…」

 

「既に捜索隊の編成は完了しています」

 

シス信者がセドリスに伝えた。

 

セドリスは少し考え込むような仕草をして彼らに命令を出す。

 

「全テネブラス軍団を戦闘区域、占領区域から撤収させ捜索に当たらせろ。ジストン級からも人員を駆り出してこのアーヴァラ7を隈なく探せ」

 

「では戦闘区域と占領区域は全て第三帝国軍に任せてよろしいのですか?」

 

シス・エターナル軍の1人の将校がセドリスに尋ねた。

 

セドリスは邪悪な笑みを浮かべ「ああ、構わん」と答える。

 

「ヴィアーズ大将軍は優秀だ、彼の手下も多少反抗的なのはあったがそれでも十分役に立つ。余程の無能であればどうしようかと不安であったが奴らなら全て任せても問題ないだろう」

 

「分かりました、ではそのように」

 

その将校は頭を下げて早速命令を出しに向かった。

 

セドリスは続けて全員に伝える。

 

「これは陛下から賜った最も重要な任務だ、決して失敗は許されん」

 

その場の全員が頷き命令を出した。

 

「“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”、緑の小さな幼子を狩りに行く」

 

アーヴァラ7の戦いは勝利した。

 

だがシス・エターナルにとってはここからが本当の任務の始まりだ。

 

9ABY、いついかなる時代においても華の存在は狙われている。

 

だがシス・エターナルは、セドリスは知らない。

 

彼らが狙うその幼子は既に“とあるマンダロリアンの賞金稼ぎ”と共にアーヴァラ7を離れていることを。

 

 

 

 

つづく




イノベちゃんだよぉ!?

大晦日はナチ帝国でナチ帝国締め!

そんでこれが今年最後のナチ帝国です!

いやぁ全然終わらないっすねこの話()

来年もどんどん書いていくと思うのでよろしくです〜

それでは良いお年を〜!!


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総統暗殺未遂事件

「この今も続く無意味な犠牲を止める努力を怠れば、やがて最悪の結果として帰ってくるだろう。そうなれば私は亡くなった全ての戦友やその遺族、妻や両親、子供達に合わせる顔がない。我々は幾千万もの犠牲者とその遺族の意志が共にある。我々の帝国は、我々で守らなければならない」
-国防軍国内予備軍参謀長 マリアス・シュタッフェンベルク地上軍大佐の発言より抜粋-


-第三帝国首都 惑星コルサント 集合的商業地区 通称ココ・タウン-

コルサントの奪還以降とコルサントの奪還以前でコルサントの変化を最も感じる場所といえばこのココ・タウンと呼ばれる工業エリアだろう。

 

まだこの地にジェダイという光明面(ライトサイド)の騎士達がいた時代にはとあるベサリスクがデックス・ダイナーという店を経営していた。

 

旧連邦管区、現在の帝国議会管区にも近く、またズィロ・ザ・ハットの経営する宮殿にも離れておず、労働者も多くいた為特に開かれた店であるデックス・ダイナーには様々な広い人種が訪れていた。

 

時にはこの店に“()()()()”もデックス・ダイナーに訪れており当時の時代を色濃く反映していたと言えるだろう。

 

そんな時代もすぐに過ぎ去り帝国時代が訪れ、帝国時代とて早々と過去のものとなった。

 

銀河内戦の末期、コルサント全土が戦場となりココ・タウンも以外ではなかった。

 

特にこの地はアンクルバイター旅団(ブリゲード)と呼ばれる少年少女達の反乱分子が帝国軍に対して反乱活動を行っていた。

 

ココ・タウン中の裏口を知っていた彼ら彼女らは帝国軍の最前線に爆弾を仕掛け、時には情報を新共和国に流しやがてココ・タウンは奪還された。

 

だがココ・タウンの奪還はそう長くは続かなかった。

 

背後の一突き演説”によってベアルーリン宙域に結集した帝国軍がモフパウルス・ヒルデンロードによって率いられジャクー戦に注力している新共和国に対して攻撃を仕掛けた。

 

ヒルデンロードによって率いられた大軍団はまずコルサントを混乱状態から奪還し同地に上陸していた新共和国軍を撃破した。

 

またアンクルバイター・ブリゲードによって救出された当時の名目上の帝国最高指導者、故マス・アミダ大宰相を捕縛しアンクルバイター・ブリゲードのメンバーも無力化された。

 

当時軍を率いていたヒルデンロードや後のヴィアーズ大将軍達はアンクルバイター・ブリゲードを無力化するだけで殺害するような事はせず戦闘を続行させた。

 

解放されたココ・タウンも再び帝国軍の占領下となり帝国軍は迫り来る新共和国軍と戦闘を続けた。

 

新共和国はホズニアン・プライム方面とシャンドリラ方面から2個の即応軍を展開し帝国軍とぶつかった。

 

ホズニアン・プライムの即応軍はイクストラーとアーゴウの2方向に分かれコルサントを目指した。

 

だがシャンドリラ方面の即応軍はフォート・アナクセスで後のオイカン大提督により撃退され、ホズニアン・プライム方面の即応軍はイクストラーでヴィアーズ大将軍によって撃退された。

 

またアーゴウから向かっていたホズニアン・プライム即応軍も後に親衛隊を形成するシュメルケ元帥とフューリナー上級大将らによって撃破された。

 

新共和国第一派を退けた帝国軍はこのままホズニアン・プライムとシャンドリラまで一気に進軍しようとしたがこの試みは断念され“2()()()()”持ち越された。

 

新共和国は故モン・モスマ議長により直ちに動員された各惑星防衛軍と徴兵令により動員された兵による第二即応軍が編成された。

 

またジャクー一帯をを包囲していた予備隊も直ちにコア・ワールドに帰還しホズニアン・プライムでも同様の軍が編成された。

 

両者をタイベン将軍と復帰したメイディン将軍が率いる事となり戦力的にも限界を感じていた帝国軍は戦況的には優位な今の状況で新共和国に対して休戦協定を結んだ。

 

結果、第二帝国が誕生し飛地を含む本来の残存帝国よりも更に広大な領域を手にすることが出来た。

 

その際にコルサントは返還されマス・アミダ宰相によるコルサント臨時政府が建国され拘束されていたアンクルバイター・ブリゲードのメンバーも解放されコルサントへ返された。

 

これにより銀河内戦は火種を残しながら終結した。

 

だが帝国首都がベアルーリンへ移され、新共和国首都がシャンドリラからホズニアン・プライムに映った当時のコルサントには殆ど何も価値は残されていなかった。

 

特にコルサントは人工密集地の超大都市である。

 

この大都市に1兆人、人口が減少傾向にあり数千億にまで減少し始めていたのを鑑みてもとてもコルサント単体でコルサントの人口を支え切れるだけの能力はなかった。

 

価値を失ったコルサントは急激に治安が悪化し経済は停滞、都市部も閑散とし始めアンダーワールドでは食糧不足が相次いだ。

 

この深刻な事態にコルサント臨時政府は速やかに対策を行なった。

 

まず領域範囲であるコルサント星系やコルスカ宙域の郊外惑星の開拓による食料自給率の増加を推進したがこれも全て頓挫。

 

新共和国から食糧援助などを受けつつなんとか経済を立て直そうとしていた矢先今度は代理総統を指導者とした第三帝国が台頭し始めた。

 

第三帝国、特に総統は明確にコルサントの奪還を謳っており時には強い言葉で「銀河首都コルサントは我々の領土とならねばならない」と訴えた。

 

新共和国と第三帝国とコルサント臨時政府は何度か会談を行ったがあまり進展は見られず仕舞いには新共和国代表団のいない所で密かに“()()()()()()()()()”、つまりコルサントを第三帝国領にするか戦争するかと脅しを掛けられた。

 

更にはコルサントでは親帝国派によるデモが繰り返され新共和国シンパのアンクルバイター・ブリゲードのようなグループと衝突していた。

 

無論新共和国とて単なるバカではない。

 

コルサント臨時政府に食糧援助とは別に軍事援助を行いスターホーク級を含む何十隻下の軍艦を提供した。

 

また封印されていたインペリアル級のような旧帝国の兵器も解禁しコルサント臨時政府は急いでコルサント本国防衛艦隊を復活させた。

 

その過程で多くの旧帝国軍人や経歴がグレーな人物が採用されコルサント保安部隊から発展した地上軍であるコルサント本土防衛軍にもコルサント中の多くの失業者や傭兵が受け入れられた。

 

艦隊司令官を務めていたリヴァー・サリマ司令官もそのうちの1人であり彼は元コルサント本国防衛艦隊の指揮官の1人である。

 

何度か新共和国軍と演習を行ったのだがこんな急拵えの軍隊が新進気鋭の国防軍、親衛隊に敵うはずもない。

 

それどころか帝国情報部、宇宙軍情報部、親衛隊情報部の3組織の情報機関による引き抜き工作により防衛情報が第三帝国にリークされ仕舞いには通信網が遮断されコルサントは孤立した。

 

そして遂に開戦、コルサントの奪還が実行され国防軍と親衛隊がコルサントを急襲した時には多くの裏切り者と離反者が出現しコルサント本国防衛艦隊もコルサント本土防衛軍も内側から壊滅していった。

 

辛うじて残っていた部隊も士気は圧倒的に低くAT-ATの足音を聞いて逃げ出してしまう始末だ。

 

電撃的にコルサントは奪還され第三帝国首都となった。

 

その過程で第三帝国はエイリアン種族排除法により多くのエイリアン種族や近人間を排斥し或いは殺害していった。

 

僅か数年でコルサントは大きく変化した。

 

特にココ・タウンで限った話で言えばかつては人種豊かで様々な人がいたのにも関わらず第三帝国の制定したエイリアン種族排除法でもうコルサントにいるのは文字通りの純粋な人間のみだ。

 

グリードやイソーリアンどころかトワイレックやザブラクと言った種族すら今のコルサントには1人もいなかった。

 

デックス・ダイナーも5年も前に閉店しココ・タウンでは今や兵器の生産が主軸となり1日中悶々とした雰囲気の中、第三帝国の為の兵器が製造され続けている。

 

コルサントの奪還の際にコルサント本土防衛軍と共に戦っていたアンクルバイター・ブリゲードも今度ばかりは親衛隊により徹底的に殲滅され辛うじてコルサントを脱出出来たメンバー以外は全員殺害された。

 

ズィロの宮殿も取り壊されかつてのような少々乱れた自由を感じるココ・タウンは消えていた。

 

今もある人物の逮捕の為にFFISOの保安局員達が2台の兵員輸送機に乗って目的地へ向かっていた。

 

片方の兵員輸送機では保安局員の上級大尉が部下達に最後の指示を出していた。

 

「状況を確認する、我々はこのまま容疑者のいる自宅のアパートメントまでこのITTで向かい上空のガンシップと共に容疑者を確保する。また容疑者は武器を所有している可能性がある為、最低限の防備と武装を許可する」

 

保安局員達は皆コートの上に地上軍トルーパーのアーマーを身につけておりホルダーにはブラスター・ピストル、何人かはE-11ブラスター・ライフルを手にしていた。

 

この兵員輸送機の上をスカイ・レーンに紛れて同じく保安局員を乗せたLAAT/leパトロール・ガンシップ、通称ポリス・ガンシップが飛行していた。

 

こちらはあくまで逮捕の支援を名目としている為、戦場のTIEリーパーやドロップシップのような上空からの高火力支援は不可能だ。

 

兵員を展開しポリス・ガンシップは周囲を警戒する手筈である。

 

「ガンシップ隊は裏から、我々は2個分隊の戦力を持って表から制圧する。また我々は容疑者から情報を聞き出さねばならない為、容疑者の殺害は禁止とする。全武器の威力はスタン・モードまで、以上!」

 

部下達は「了解!」と頷き装備の最終チェックを行った。

 

暫くして兵員輸送機のパイロットから『間も無く目標地点』とアナウンスが響いた。

 

降りる保安局員達が全員ドアの前に集結し兵員輸送機が停止するのを待った。

 

数秒が数時間のように感じられる中、遂に兵員輸送機は停止しドアが開いた。

 

それを合図に一斉に保安局員が飛び出しアパートメントへ向けて走り出した。

 

隣にはまた別の兵員輸送機も停泊しておりそこからも同じように保安局員が飛び出していた。

 

2個分隊20人の保安局員達が周囲を確保し突入部隊が階段を駆け上がっていく。

 

またガンシップからも同じように保安局員が降り立ち、裏口を制圧し突入を開始していた。

 

ある1人の保安局員がドアに手をかけるが開かず、すぐに合図を出して自らの手に持つブラスター・ピストルでドアを破壊した。

 

ドアが音を立てて開く中安全を確保した保安局員達が一斉に室内へ入っていく。

 

「隈なく探せ」

 

「いたぞ!あそこだ!」

 

保安局員の1人がターゲットを発見し急いで駆け寄った。

 

この部屋の住人で容疑者と呼ばれている男は急いで裏口から逃げようとした。

 

だが既に裏口からも保安局員は侵入しており両方から保安局員に取り押さえられ、地面に組み伏せられた。

 

「離せ!離してくれ!私は何もしていない!!」

 

男は必死にそう弁明するが保安局員の1人が男の髪の毛を無理やり掴んで顔を起こした。

 

隣でホロプロジェクターを持つ保安局員に尋ねる。

 

「こいつで間違いないか?」

 

「はい、間違いありません。ヨーン・エリサー、身長も性別も恐らく年齢も一緒です。それに何よりこれが証明しています」

 

男の顔が映ったホロプロジェクターを取り押さえられたエリサーに近づけた。

 

「これで確証はついた。ヨーン・エリサー、貴様を総統暗殺未遂の容疑で逮捕する」

 

「なんだと!?そんなことを私がするものか!!」

 

「いいから、大人しく着いて来い!」

 

無理やり保安局員に口元を押さえつけられ立たせられたエリサーはズルズルと引き摺られながら裏口からポリス・ガンシップの方へ連れて行かれた。

 

その間にも紀子の保安局員達がエリサーが住んでいた部屋の中を捜索し物的証拠となりそうなものを集めていた。

 

「本人は逮捕したとはいえまだ見逃せん。室内もしっかり調べろ」

 

「了解」

 

次々と証拠が収められ運ばれていく。

 

外ではアパートメントのオーナーが喧騒に驚き他の住民を代表して出てきていた。

 

上級大尉と彼の部下である保安局少尉が対応に当たっている。

 

「一体これはなんなんですか…!?何故彼を…」

 

「これは帝国法及び我々FFISOに与えられた権限に基づく捜査です、どうぞご安心を。ヨーン・エリサーには帝国法違反の疑いが掛けられていた為我々が捜査に応じたまでです。またこの件は他言無用でお願いしたい、無論他の住民にも」

 

「それは分かっている……だが一体なんの法に触れたのですか…?」

 

オーナーは大尉に尋ねたが大尉は答えを上手くはぐらかした。

 

「それは機密事項ですので言えません。ですがご安心を、我々は他の市民を傷つけるような事は致しません。どうぞゆっくりお休み下さい、後は我々に全てお任せを」

 

また疑問を感じつつもこれ以上は無駄だと判断したオーナーは渋々その場を後にした。

 

上級大尉はふうと一息つき少尉からの報告を聞いた。

 

「死傷者はなし、発砲もなし、容疑者のヨーン・エリサーは無事逮捕出来ました」

 

「それは素晴らしい」

 

「容疑者はガンシップで運搬し物的証拠は兵員輸送機で運搬する、よろしいですか?」

 

「ああ、問題ない。これで総統暗殺は未然に防がれた。今度ばかりは我々のメンツも保たれる」

 

以前の総統府の事件では総統の暗殺は防がれたものの犯人が自爆し総統府内で負傷者を出すという事態になってしまった。

 

それに比べれば今回の事件は更に未然に防がれた。

 

「これでセントラル地区の演説会も無事に行われますね。一応会場のチェックも完了したようです」

 

「そうか、では我々も捜査を終えたら本部に撤退だ」

 

少尉も頷き彼らもエリサーが住んでいた室内に入っていった。

 

だが彼らは知らない。

 

本当の悲劇はこの後起こるのだ。

 

総統暗殺未遂事件は“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

 

 

 

 

 

-コルサント ギャラクティック・シティ-

ジークハルトは朝早くから親衛隊の制服に着替え、胸に珍しく数々の戦功で得た勲章の略綬がついており右胸には親衛隊の銀色の飾緒がつけられていた。

 

制帽を手に取って被り、カバンを持つとジークハルトは鏡の前を後にした。

 

「それじゃあ、行ってくるよ」とリビングのキッチンでマインラートとホリーの朝食を作っているユーリアに声を掛けた。

 

本当なら息子と義娘がユーゲントに行くまで家にいたいが今日はそうは行かない。

 

ユーリアは一旦手を止めてジークハルトの所まで駆け寄ってきた。

 

「気をつけてね」

 

「ああ、今日は演説会に出席したら帰るつもりだよ。時間的に親衛隊本部に戻って働いても多分何も出来そうにないし」

 

ブーツを履きながらジークハルトは彼女に彼女にそう呟いた。

 

「そう、きっとマインやホリーも喜ぶと思うわ。もちろん私もだけれど」

 

そんな一言にジークハルトは微笑で返しユーリアも微笑んだ。

 

「行ってくる」

 

「行ってらっしゃい」

 

ジークハルトは妻が見送る中玄関を出てアパートメントの階段を降りた。

 

外は若干寒いがコートを着るまでもない。

 

ジークハルトは事前に待ち合わせているアパートメントの近くまで自力で歩いた。

 

最近は殆ど本部で缶詰になる事が多かったので外を歩くのは常に新鮮な気持ちだ。

 

こんな朝早くでも既に多くの人々が外に出ており上空のスカイ・レーンには数多くのスピーダーが行き交いしていた。

 

目線を空から地上に移すと目の前にはある1台のランド・スピーダーが停泊していた。

 

スピーダーの近くには見知った若い将校が辺りを見渡しジークハルトの顔を見つけるなり近づいて敬礼し挨拶した。

 

「おはようございます准将!」

 

「おはよう大尉、早くついたのなら私の家に来ればよかったのに。コーヒーくらい私が出してやったぞ?」

 

ジークハルトは敬礼と挨拶を返し運転手兼副官のヴァリンヘルト大尉にそう返した。

 

元々の運転手の少尉は移動になり今はハット・スペースの国家弁務官区にいるはずだ。

 

それが(ノルト)なのか(ズーデン)なのかは分からないが。

 

「いえ、そんな!私がシュタンデリス准将にご迷惑をかけるわけにはいきませんので…」

 

「そうか?ハイネクロイツは普通に入ってコーヒーも朝食も嗜んでったぞ?」

 

「まあハイネクロイツ大佐はそういう方ですので……とにかくスピーダーへどうぞ。鞄はお預かりします」

 

ヴァリンヘルト大尉はスピーダーのドアを開けジークハルトの鞄を手に取りトランクにしまった。

 

ジークハルトはその間にスピーダーに乗り込みヴァリンヘルト大尉がドアを閉めると彼も運転座席に座った。

 

エンジンを掛けスピーダーを起動させる。

 

ヴァリンヘルト大尉はペダルを踏みハンドルを傾けてスピーダーを上昇させスカイ・レーンに入った。

 

「ゼルテック上等兵とバルべッド軍曹は既に会場にいます。セントラル地区まではこの混雑だとそこそこ掛かると思うのでゆっくりして下さい」

 

「ああ、しかし早朝だというのにいつも以上に混雑してるな」

 

ジークハルトはスピーダーの窓から辺りを見渡してそう呟いた。

 

ヴァリンヘルト大尉が運転するスピーダーの周りには殆ど昼間のスカイ・レーンと変わらないほどのスピーダーが行き交いしていた。

 

中にはこのスピーダーと同じく軍用のものも混じっており時折ポリス・ガンシップもスカイ・レーンのパトロールを行なっている。

 

「最近はどこの企業も忙しいですからね、特に軍関係だと新しい作戦の為に将兵が早くから本部に向かったり本部から夜勤明けで帰ってきたりしてるらしいですし」

 

「なるほど……で、さっきからやたら保安局のガンシップが飛んでいるんだがセントラル地区以外でも何かあるのか?」

 

隣を飛行するポリス・ガンシップに目を向けながらジークハルトはヴァリンヘルト大尉に尋ねた。

 

ポリス・ガンシップの中にはストームトルーパーではなく武装した保安局員の姿が見えた。

 

先程から行き交いする殆どのポリス・ガンシップの中にはストームトルーパーではなくISBとFFSBの保安局員が乗っている。

 

大抵彼らをよく目にする時は何かしらよからぬ事が起こっている証拠だ。

 

「一応セントラル地区の演説会もありますが昨日の夜に総統閣下の暗殺を企てた人物が逮捕されたんですよ。それで保安局は大忙しって事です」

 

ヴァリンヘルト大尉はスピーダーの機器を操作してジークハルトにニュースをホログラムで見せた。

 

見出しには『反乱分子の手先か?代理総統の暗殺計画犯を逮捕!』と書かれていた。

 

「なんでも今回の演説会で総統閣下を暗殺しようとしていたらしく事前の捜査でFFISOが逮捕に及んだと」

 

「なるほど…」

 

やはりフリシュタイン上級大佐の忠言には意味があったと言うことか。

 

恐らく彼らはこの暗殺の計画を企てたヨーン・エリサーに事前に目星を付けていたのだろう。

 

そして捜査を重ねていくにつれて白か黒かが判明し逮捕に及んだ、という訳だ。

 

その為万が一に備えて信用している軍関係の人間に言葉を濁しつつ伝えた。

 

「フリシュタイン上級大佐が言った事はこの事なんですかね」

 

勘のいいヴァリンヘルト大尉もすぐに気付きジークハルトに尋ねた。

 

「そうかもしれん…だが犯人が1人とは限らん。まだ警戒は怠るな」

 

「了解、何事もないのが一番いいんですがね…」

 

「ああ、全くもってその通りだ」

 

戦場から程遠い任務であるのにも関わらず2人の目線は何処か険しかった。

 

彼らにとって最悪な事に、彼らの警戒心は後数時間で報われる事になる。

 

セントラル地区の演説会場にて。

 

 

 

 

 

 

-第三帝国シス・エターナル連合軍占領下 アーヴァラ7 プレハブ基地本部-

アーヴァラ7での一連の戦いはヴィアーズ大将軍率いる国防地上軍とセドリス率いるシス・エターナル派遣軍団の勝利に終わった。

 

両軍の損害は軽微、その反面敵軍は3つの防衛線を打ち破られかなりの損害を出した。

 

脱出した後の艦隊戦でも“アナイアレイター”らの必要な追撃によって逃した部隊は多々あるがそれでも大きな打撃を与えられた。

 

突如セドリスの命令により戦闘区域から離脱したシス・エターナル軍に代わって国防軍の将兵が戦場の跡地整理や残骸の回収、秘密基地の調査などを行なっていた。

 

ストームトルーパーの分隊が兵員輸送機に乗って敵地とプレハブ基地を行き来しパトロールを続けている。

 

ATホーラーやゴザンティ級が破壊された敵機の残骸や友軍の損傷機を回収し帝国貨物船やセキューター級などの母艦に連れ帰った。

 

また既に破壊されたX-0P ヴァイパーの残骸は全て確保され何台かが輸送艦に乗せられてコア・ワールドのクワットまで向かっていた。

 

クワットの技術ならこのヴァイパーがどういう技術で作られているのか何を備えていたかが十分解析出来る。

 

技術の出所が分かれば何かしら掴めるかもしれない。

 

一方戦闘区域から招集されたシス・エターナル全軍はジストン級にいた乗組員まで動員され一斉に何かを捜索し始めた。

 

コヴェル中将やタナー司令官らの地上軍の指揮官達は皆疑問に思ったが関わっている余裕もないので放置された。

 

時が経つにつれてプレハブ基地に残ったセドリスやシス・エターナル軍の将校達は悶々とした雰囲気が漂い始めた。

 

今も基地の一角で捜索部隊の指揮官達とホログラムで報告会を開いているが彼らにとって今のところ、いい報告は一つもないようだ。

 

何せ彼らが探している“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”は既にアーヴァラ7にいない可能性が高く更には非常に厄介な状態になっている可能性も高いからだ。

 

「どうだ!?“奴は見つかったか!?」

 

セドリスが焦りを込めてシス・トルーパー・コマンダーやシス・エターナル軍の将校、シス信者に尋ねた。

 

だいぶ長い事捜索しているがシス・エターナルが探している“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”は今の所見つかっていない。

 

このアーヴァラ7の人口はかなり少なく大きな都市も殆どない。

 

故に捜索は簡単に終わるはずだった。

 

だが実際には今日に至るまで“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”は見つけられず手掛かりも少ない。

 

『いえ、やはりターゲットは発見出来ません。現地人から聞いた通りニクトの傭兵集団の隠れ家を発見しましたが内部には既にいませんでした。やはり現地人の報告通り既にターゲットはアーヴァラ7外にいると考えられます』

 

『我々の隊も同様です。しかし現地住民によると“マンダロリアンと思われる人物”がターゲットを連れ去ったとか』

 

「マンダロリアン…?」

 

セドリスは現場にいるホログラムのシス・トルーパー・コマンダーに聞き返した。

 

コマンダーはすぐに頷き聞いたことをセドリスに話した。

 

『マンダロリアンの装備を持った人物が暗殺ドロイドと共にニクトの傭兵集団の隠れ家に襲撃に向かったらしいです』

 

その報告は既にある可能性を確実なものとし、セドリスの顔を顰めさせた。

 

第三帝国の突然の台頭によりシス・エターナルの諜報は殆どが新共和国と第三帝国に割り当てられた。

 

その結果幾つか重宝や介入が疎かになる生き残った帝国軍の残存勢力が存在していた。

 

このどうしようもなかった結果が今シス・エターナルの面倒事となって帰ってきたのだ。

 

「そうか……捜索は全面終了!全隊は速やかに本拠地のプレハブ基地に撤収せよ。部隊の整理が整い次第アーヴァラ7より撤退する。既に次の命令が降った」

 

『了解』

 

ホログラムが一つずつ消失し報告会は終了した。

 

ホログラムが全て消えるのが確認されると隣に控えていたシス・エターナル軍の将校がセドリスに尋ねた。

 

「セドリス卿、次の命令とは?」

 

「エクセゴルより命令が降った。我々はジストン級と共にテドリン=シャの部隊と合流しある惑星に向かう。今度はあの“忌子”を確保する」

 

その言葉を聞いた途端ディープ・コアではなく長らくエクセゴルにいたこの将校はすぐにその“()()”について気が付いた。

 

あえて放置していたものを遂に回収する時が来たのだ。

 

「既にテドリンはレン騎士団と合流し指定された目的地に向かっているようだ。我々も急がねばならない」

 

「我々も準備を急がせます」

 

「そうでなくては困る」

 

将校は敬礼しセドリスも小さく頷いた。

 

すると今度は別の将校がセドリスに聞いた。

 

「しかしセドリス卿、“T()h()e() ()C()h()i()l()d()”の捜索はどうするのですか?」

 

このまま“忌子”の確保に向かうとなれば本来の命令は一旦停止せざるを得なくなる。

 

するとセドリスは1人のシス信者の方を見つめてアイコンタクトを取った。

 

シス信者は小さく頷き「問題ございません」と呟いた。

 

「既に手は打ってある。一体どこまで役に立ってくれるかは分からんが」

 

諜報を担当するシス信者を態々連れてきてよかった。

 

セドリスの命によりシス信者達は情報網を駆使しとある勢力との接触に成功した。

 

その勢力が仲介人を通じて先んじて確保させた可能性もあるが最終的に手元に届く、もしくはマークさえ出来ていれば問題ない。

 

逆らうようであればシス・エターナル軍の力を見せつけるまでだ。

 

所詮奴らの勢力など軍閥を名乗るのすら烏滸がましい程小さく見える。

 

だが少なくとも役には立つはずだ。

 

何せ勢力の長があの“()()()()()”の実行者なのだから。

 

「あの“()()()()()()()()()”がどこまでやるか見ものだな」

 

セドリスは性格の悪い笑みを浮かべ期待と小馬鹿にするような思いを密かに浮かべた。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー 大セスウェナ連邦領 セスウェナ宙域 エリアドゥ星系 首都惑星エリアドゥ 連邦行政府官邸-

ヘルムートはモッティ提督と共に政府官邸の通路を歩いていた。

 

周りには多くの役人が資料を持って慌ただしく歩いていたり別の区画から別の区画へと移動している。

 

流石にコルサントほどではないがやはりこの行政府官邸にも軍服を着た文民ではない武官の者が多くいた。

 

モッティ提督もその内の1人であり大セスウェナは他の帝国から独立した勢力よりも比較的自由で文民統制が行き届いているとはいえ、やはりここ数年の緊張状態の影響もあってか多くの将校が行政府官邸にいた。

 

ヘルムートだって普段から軍服を着用している。

 

故ウィルハフに合わせる…というのもあるがそれ以上に「自ら戦う意思を示すセスウェナの指導者」という印象を打ち付けたかったのだろう。

 

特に大セスウェナ連邦盟主になった当時はまだ幼く敵対者も多かった為彼らに見せつける意味合いもあったのだろう。

 

だが今ではすっかりその時のイメージが染み付き、軍服を着る日々がまだ続いていた。

 

「国防軍から請け負った占領下の様子はどうだ?クリフォードは上手くやっているか?」

 

ヘルムートはモッティ提督に尋ねた。

 

「ひとまず略奪とか虐殺といった類は少ないそうです。流石はオイカン大提督なんでしょうかね、統制の取れた宇宙軍の精鋭です」

 

「レジスタンス軍はどのくらい持ち堪えている?」

 

「レジスタンスも粘っていますが恐らくそろそろ防衛線も限界が来るでしょう。少なくともゼフリーとカウンシルまで後退するのは確定…かと」

 

モッティ提督の言う後退のシナリオには幾つかある。

 

例えば一つは防衛線が破られハンバリン艦隊が一帯を完全に制圧しゼフリーとカウンシルで戦いになるか。

 

またもう一つの可能性としてはレジスタンス軍があえて現状の戦域から戦力を後退させより内部で敵を迎え撃つか。

 

どちらにせよハンバリン艦隊はまた前進する事となるしオイカン大提督はどちらにせよその先まで進撃するだろう。

 

アノート宙域が堕ちればレジスタンスは再び劣勢に立たされる。

 

「表面上、第三帝国の優勢は喜ばしいが……まあまだ結果は分からん。見守って…」

 

「閣下!探しました!」

 

通路の奥から2人の白服の将校がヘルムートとモッティ提督の下にやって来た。

 

第三帝国やファースト・オーダーなどと同じく大セスウェナでも白服は保安局の証だ。

 

しかし大セスウェナの白服は単なる保安局ではない。

 

連邦中央安全保障情報局(Federal Central Security Intelligence Agency)、通称FCSIAという旧帝国保安局と旧帝国情報部を併合した情報機関のメンバーが白服を着ていた。

 

FCSIAは大セスウェナ連邦の対内、対外諜報や工作を主任務に請け負っており特に諜報では旧ISBと旧帝国情報部の技術が活かされていた。

 

また対内活動と言っても今の第三帝国がFFISOやISBを使ってやっているような国民の監視ではなく未だ連邦領内に潜んでいる敵対した帝国残存勢力の発見と撃破にあった。

 

特にこれらの勢力はほぼ海賊化しており早急な対応が望まれた。

 

ヘルムートの大伯父ウィルハフらが秩序を維持する為に作った軍が秩序を乱す者に成り下がっているとは皮肉な話だが。

 

今ヘルムートらの前にいるアーテル大尉も元ISBの現FCISA将校であり彼がヘルムートに声を掛けたという事は極秘に行っていた“調()()”で何かがあったという事だ。

 

「アトラヴィス宙域の調査が粗方終了し現場指揮官のオスナン司令官から簡易報告書が届きました」

 

アーテル大尉は傍に抱えていたタブレットをヘルムートに手渡した。

 

モッティ提督が上から覗き込む中、ヘルムートは中身に目を通す。

 

「既にFCISAでは予定通り対外調査部と捜査部が本格活動します」

 

アーテル大尉はヘルムートらに報告しヘルムートも彼に一つ伝えた。

 

「……まずこの男の足取りを追うのは当然として一つ気掛かりな事がある。連邦盟主権限で調べて欲しい」

 

「何をでしょうか?」

 

ヘルムートはなるべくアーテル大尉を近づけて小声で彼に伝えた。

 

「リド星系周辺に帝国宇宙軍が封鎖線を展開している。あの星系にはボーラ・ヴィオがあり放棄されてはいるがクローニング施設がある。ここに何かしらの共通点があると私は考えている」

 

「ではリド星系周辺の調査も含めるよう伝えておきます」

 

「任せた」

 

アーテル大尉はヘルムートからタブレットを受け取ると彼らに敬礼しその場を去った。

 

ヘルムートとモッティ提督も元の目的地を目指して歩き始める。

 

道中モッティ提督はあることをヘルムートに尋ねた。

 

「しかし閣下、いくらなんでもあのクローニング施設を稼働させようなんて輩はいないと思いますよ?」

 

コナン・アントニオ・モッティ提督と違いこちらのモッティ提督は随分大らかな人柄なのだが感の良さや鋭さというものは備わっている。

 

ヘルムートと共に報告書を見て彼が命令したことを瞬時に理解した。

 

元々ボーラ・ヴィオにカミーノアンが放棄したクローニング施設がある事はエリアドゥに残された情報で知っていたのだがカミーノアンですら放棄しているという事もあって今まで手出ししていなかった。

 

だからこそヘルムートは少し危機を持っていた。

 

「施設を襲撃して“()()()()()()()”だけを奪っていくような輩だぞ?まともな考えを持って動いてるとは思えん。まともである我々は浮かび上がった可能性を一つずつ潰していく以外にない」

 

「まあそうなんですがね……宇宙軍の封鎖艦隊も撤退しましたしボーラ・ヴィオ周りの調査はやりやすいと思います」

 

「そうだといいんだが…ついた」

 

2人がはしているともう目的地である行政府官邸にあるFCSIA管轄の来客室の前についた。

 

衛兵の前に立つ1人の将校が2人に敬礼した。

 

この将校、モロー・ヒムロン少佐も同じく白服を着ており彼も下帝国情報部員のFCSIAの将校兼スパイである。

 

ヒムロン少佐はヘルムートやモッティ提督に比べれば地味で平凡な顔立ちでありパッと見“()()()()”という感想を抱かざるを得ない。

 

しかしこの男はあの皇帝パルパティーンから直接情報部に抜擢された人物でありその特徴のなさ故に理想的なスパイであり更にはどんな場所にも溶け込める能力も備えていた。

 

「お待ちしていました閣下、それに提督、どうぞこちらに」

 

衛兵がドアを開きヒムロン少佐に導かれて中に入った。

 

「今、連れてこさせます。私はこれにて職務がありますので後の事はジストル少佐に任せます」

 

ヒムロン少佐の隣に立っている同じくFCSIAのジストル少佐が敬礼した。

 

ヒムロン少佐はまだスパイである為あまり他人に顔を見られたくない。

 

特に今から連れて来る相手には。

 

ヒムロン少佐は裏口から早々に抜け出し室内にいるジストル少佐と交代した。

 

「どうぞお席に」

 

2人はソファーに座り暫く待った。

 

だが彼らが待っている人物が来るののさほど時間は掛からずすぐに裏口からトントンという合図が聞こえた。

 

「入れてくれ」

 

ジストル少佐の命により裏口が開き2人のFCSIA職員と職員に先導される1人の人間が入って来た。

 

その人物はレジスタンス軍の将校の軍服を着ており丁寧に「どうぞ」とヘルムート達の反対側のソファーへ座るよう促された。

 

モン・カラマリはソファーに座るとどうも落ち着きがない雰囲気で当たりを見回した。

 

その間にジストル少佐は2人の職員に命じこの部屋の防音システムとロックを掛けさせた。

 

「ようこそ、私は大セスウェナ連邦盟主兼グランドモフ、ヘルムート・ターキンです。こちらは連邦宇宙軍提督のリチオ・アントニオ・モッティ」

 

ヘルムートは自分達の名前をモン・カラマリに告げた。

 

そのレジスタンス軍将校も2人に自己紹介した。

 

「私はフォーチュン、レジスタンス宇宙軍准将だ。態々捕虜である私に一体何の用だ?」

 

フォーチュン准将は銀河内戦の時から反乱同盟、新共和国軍に仕えた人物であり彼はアノート宙域の遠征軍に配属されていた。

 

その後のハンバリン艦隊の襲撃によりフォーチュン准将は防戦したが敗北、捕虜としてエリアドゥの司法局中央拘留センターに収監されていた。

 

それが今日、突然この行政府官邸に来るよう要請されたのだ。

 

フォーチュン准将は今も困惑していた。

 

「まずは連邦盟主であるターキン家の当主が態々私をここへ呼んだ理由を教えてほしい。拘留センターの内部は私も知っている、君達が法を遵守して捕虜の取り扱いを行っていることもだ」

 

「我々には少なくともある程度の裁量が与えられていますからね。第三帝国……特に親衛隊辺りだったらそうは行かないでしょうが」

 

もしエリアドゥ司法局中央拘留センターが親衛隊の管轄だったら今頃エイリアン種族と近人間は皆この世にはおらず捕虜の扱いももっと劣悪だっただろう。

 

当然大セスウェナとしても単なる善意だけではない。

 

交渉のカードとしても活用させてもらう。

 

「君たちは第三帝国とは違うと?新共和国崩壊時に我々の同胞を捕縛し第三帝国に下ったのに」

 

フォーチュン准将は少し怒りを込めてそう問い詰めた。

 

捕虜に取られ生きながらえている者はいるとはいえそれでも拭いきれない怒りがある。

 

それに大セスウェナは今も第三帝国側だ。

 

准将が敵意を向けるのにも尤もな理由ばかりだし今もこうして自由を拘束されているのだから仕方ない。

 

「我々はあくまで降伏勧告を発令し当時の新共和国軍がそれに答えたまでです。それに今回貴方に話したい事はその“()()()()”に対してです」

 

「…一体どういうことだ…?」

 

ヘルムートはフォーチュン准将の問いに敢えて答えずジストル少佐に指で合図を出した。

 

少佐はすぐにそのサインに気づき近くの棚に置いてあったタブレットを取り出した。

 

タブレットをジストル少佐から受け取るとヘルムートはそれをそのままフォーチュン准将に手渡した。

 

「まずはこれを読んで頂きたい」

 

フォーチュン准将は戸惑いながらもヘルムートから渡されたタブレットを読み始めた。

 

かなり長い文章で暫し静かな時がこの室内に齎されたのだが徐々にフォーチュン准将の表情が変わっていくのが確認出来る。

 

ヘルムートとモッティ提督は顔を見合わせた。

 

「本当に…大丈夫なんですかね…」

 

モッティ提督は小声でヘルムートに尋ねた。

 

もしこれでヘルムート達の思うように行かなかったら大変なことになる。

 

だがヘルムートは「その時の対応はちゃんとある、落ち着いて」とモッティ提督を宥めた。

 

それから数秒も経たずにフォーチュン准将はタブレットの内容を読み終えたのか顔を見上げてヘルムートに尋ねた。

 

先程とは違い顔が青ざめ冷や汗が流れている。

 

「…これは……」

 

「読んで字の通りですよ。だから私はレジスタンス軍の捕虜の中で最も位の高い貴方をここに呼び寄せた」

 

2年前に捕縛した将校の中には准将、それ以上の少将の将校もいた。

 

だが既にレジスタンス軍との繋がりはないに等しくレジスタンス軍以降の捕虜として最も階級が高かったのがフォーチュン准将であった。

 

「我々とて放っておく訳にはいかない所まで来ている。それに次期に」

 

『閣下!!いますか!?緊急事態です!!』

 

通信機越しに外の将校の声が聞こえた。

 

先ほどのアーテル大尉だ。

 

ジストル少佐やモッティ提督は顔を見合わせどうするか考えたがヘルムートは即答した。

 

「衛兵、入れてくれ」

 

近くのコムリンクで外の衛兵に命じアーテル大尉を室内に入れた。

 

大尉が入るとほぼ同時に室内にロックがかけられた。

 

アーテル大尉は目の前のフォーチュン准将に困惑した様子だったがヘルムートに「構わん、話してくれ」と告げた。

 

大尉は困惑しながらもその場の全員に聞こえる声で上官から与えられた情報を口にした。

 

「1時間前…第三帝国首都コルサント、セントラル地区代理総統演説会場にて爆発が発生!!更に正体不明のテロリスト集団によって現地では銃撃戦が発生し“()()()()()()()()()()()()”!!」

 

それに対するヘルムートの感想は端的であり簡素なものだった。

 

驚く訳でもなく喜ぶ訳でもない。

 

「そうか」、その一言がヘルムートからは最初に発せられた。

 

 

 

 

 

 

-コルサント セントラル地区 代理総統演説会場-

時間は1時間ほど前に遡る。

 

既に会場に着いたジークハルトとヴァリンヘルト大尉は入口を抜けゼルテック上等兵とバルベッド軍曹と合流した。

 

彼らはしばらく時間がある為会場内を見て回りそれから席についた。

 

もう後数十分で代理総統が壇上に立ち演説会が始まろうとしている。

 

「ここ、普段はビアホールらしいですよ。名前はなんて言ったか忘れちゃいましたが」

 

ヴァリンヘルト大尉は隣に座るジークハルト達にふと思い出したように教えた。

 

「へえ、それは知らなかった。2人はどうだ?」

 

ジークハルトはゼルテック上等兵とバルベッド軍曹にも聞いてみた。

 

彼らならここに来た事があるかもしれない。

 

「いや、全く知りませんでした」

 

「我々も今日ここが初めてなので。飲みに行く時はいつも兵舎の近くに行ったりするので」

 

2人もこの店には来た事がないようで辺りを見回して感嘆していた。

 

「まあそうだな、私達も本部近くにどうしても時間がなくて行ってしまうし。大尉はどうだ、どこで知ったんだ?」

 

ジークハルトは情報源であるヴァリンヘルト大尉に逆に聞き返した。

 

「私もこないだ本部で偶々会ったアカデミーの同期に出席する事を話したらそう言われました。そいつ曰くしばらくコルサント勤務が続いたんで少し詳しくなったと」

 

「大尉のアカデミーの同期か……帝国アカデミーの方か?」

 

ヴァリンヘルト大尉は不幸なことに帝国アカデミーに在学中銀河内戦が終結しアカデミーを強制退学させられてしまった。

 

その為彼は途中で僅かな期間だが親衛隊の将校を育成する親衛隊アカデミーにも入学し今の地位を得ていた。

 

「両方です、偶々そいつとは両方のアカデミーで同期でして。そいつも近々大尉に昇進して連隊付参謀となるらしいですよ」

 

「親衛隊は本当に昇進が早いな。少し羨ましく感じる」

 

とはいえ親衛隊の昇進が早いのはそれだけ人材に余裕がないという表れでもある。

 

特にヴァリンヘルト大尉は今年でようやく22歳、本当なら大尉など夢のまた夢の階級であるはずだ。

 

それにも関わらずここまで早く昇進、無論ヴァリンヘルト大尉が優秀でそれなりに場数を踏んでいるのもあるがそれ以上に人がいない分早く昇進出来るのだろう。

 

ジークハルトだってその恩恵を受けている側の人間だ。

 

29歳で准将、そしてこのままいけば30代で少将に昇進する可能性がある。

 

普通であれば早過ぎるのだが今の第三帝国や親衛隊ではしょうがないのだろう。

 

これだけの大国となっていても第三帝国はかつての帝国より弱体化している。

 

「そういえば気になっていたんですがシュタンデリス准将は何故親衛隊に?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに尋ねた。

 

既にヴァリンヘルト大尉が親衛隊アカデミーを卒業し親衛隊の将校になる頃にはジークハルトは親衛隊の中で連隊長となっていた。

 

大尉が副官になった後もジークハルトはどうして親衛隊に入ったのか話す事はなかった。

 

無論話す機会がなかったのだがヴァリンヘルト大尉としては少し気になる所であった。

 

「私が?」

 

「ええ、だって准将はあのカイゼルシュラハト作戦にも参加して既に中佐だったじゃないですか。昇進理由だけで親衛隊に移る人とは思えないですし、何か理由があるんでしょう?私は単純に国防軍に入る機会を見失ったのですが」

 

ヴァリンヘルト大尉は何気に初めて副官として配属された時からかれこれ2、3年ほどの月日が経とうとしている。

 

その間に数々の戦いを切り抜けていったし為人も大体掴んできた。

 

だからこそ親衛隊という組織にかなり早くからいるジークハルトの存在が不思議に思えた。

 

ヴァリンヘルト大尉の言う通りジークハルトは目先の昇進や権力的な野心から行動するような人間ではない。

 

だから親衛隊に入ったのも何かしらの理由があるのではないかとヴァリンヘルト大尉は思っていたしその予測は当たっていた。

 

尤もジークハルトが話したいかと言われればそれは別問題となってくるが。

 

「それは……そうだな…」

 

ジークハルトは言葉を詰まらせた。

 

だがここで答えなければヴァリンヘルト大尉もゼルテック上等兵もバルベッド軍曹も気になるだろう。

 

特にゼルテック上等兵にはウェイランドであれだけの事を言って戦うよう仕向けたのだ、その張本人たる男がその道に入ってきた原点を知りたがっていてもおかしくない。

 

それでもこれを口に出す事はジークハルトは出来なかった。

 

過去が鎖となって心を締め上げジークハルトの言葉を詰まらせる。

 

一体どう言えばいいのか、どう答えればいいのか。

 

ジークハルトは分からなかった。

 

「シュタンデリス准将」

 

「うわぁっ!?ああ……えっと、誰…?」

 

そんな中、突然声を掛けられたジークハルトは驚き過ぎて変な声を出してしまった。

 

ジークハルトに声を掛けた人物はこの会場の警備を担当する親衛隊第1FF装甲兵団、通称ライプシュタンデルテ・FF・デア・ヒューラー兵団の将校だった。

 

親衛隊地上軍に所属する代理総統の護衛兼親衛隊の最精鋭兵団であり兵団の出撃先は常に代理総統によって決められていた。

 

「警備任務に就いているLFFDF兵団所属のヨーディス大尉と申します。シュタンデリス准将にお話があってやって参りました」

 

「私に?」

 

「はい、出来ればシュタンデリス准将お1人で」

 

ジークハルトは他の3人を見つめ少し考えてから立ち上がった。

 

「少し行ってくる」とジークハルトはヨーディス大尉に続いて一旦席を立ち、室内を出た。

 

しばらく歩いてジークハルトとヨーディス大尉は警備室近くまで来た。

 

「話、とはなんだ?」

 

ヨーディス大尉は小さく相槌を打つように頷き本題を話し始めた。

 

「実は代理総統がまだベアルーリンの会場にもいまして…」

 

「何?もうとっくにコルサントに着いているんじゃなかったのか?」

 

実は代理総統はこの前日に第三帝国旧首都にして第二首都である惑星ベアルーリンで演説会を開いていた。

 

本来の予定ではもうとっくの昔にコルサントに着いていてこの会場に入っているはずなのだがそうはなっていなかった。

 

ヨーディス大尉は「実はベアルーリンの宇宙港が事故などで非常に混雑しておりまして…」と理由を説明した。

 

「事故って……流石に遅れ過ぎだろ…」

 

「ベアルーリンの方の演説会を早めに切り上げてコルサントに戻れるようにしてはいたのですが…既に間に合わず…」

 

何を言ってもまだ代理総統はコルサントではなくベアルーリンにいるらしい。

 

恐らく今から代理総統がコルサントに戻ったとしてもとても本来の演説開始時間には間に合わないだろう。

 

どの道しばらく待つ事になるし最悪中止の可能性もある。

 

「…それで、一体どうなるんだ?」

 

ジークハルトはこの演説会では専門であるヨーディス大尉に尋ねた。

 

このままでは何もなくただ時間が過ぎていくだけだ。

 

「只今、代理総統が急いでベアルーリンからコルサントへ向かっています。恐らく後1時間程度でコルサントに着くでしょう。演説会が再開するのは恐らく1時間半ほど先になるかと…」

 

「それまで我々はどうすれば?」

 

「もうしばらく待機、または会場内での飲食の許可を考えています。准将ら軍関係者には先にお伝えしましたがこの後放送で全体に発表するつもりです」

 

大尉は簡潔に説明しジークハルトも「分かった」と納得した。

 

事故であるのなら仕方ないし対応が練られていた為これ以上言うことはない。

 

それにジークハルトは総統直轄の軍隊の所属だ、総統の成す事に不平不満を述べる事は許されない。

 

「後もう一つ、昨日の夜から今朝方にかけて総統暗殺犯が逮捕されたのですが、念の為佐官以上の将校の方には軽装ですが武装して頂く事になりました」

 

ヨーディス大尉はブラスター・ピストルの入ったホルスターを渡した。

 

ホルスターを受け取ったジークハルトは中身をすぐに確認する。

 

中には帝国軍の将校がよく使うRK-3ブラスターが入っていた。

 

ベルトにホルスターを付けながらジークハルトはあることをヨーディス大尉に尋ねた。

 

「私の副官や連れてきた部下達にはないのか?彼らは信頼出来る上に腕の立つ兵士だ」

 

「すみませんが一般の方々に不安を与えない為にも武装出来る人には限りがありまして…無論本当であれば全員に配布したい所なのですがそうもいかないのです」

 

「そうか…余計な事を聞いたな」

 

「いえ、一応会場内にも武装した兵士とストームトルーパーを展開し非常時にはその場の将兵全員に武装してもらうつもりです。尤も、そうならない事を願うばかりですが」

 

「ああ、その通りだな」

 

RK-3をチェックしながらジークハルトはヨーディス大尉の発言に賛同した。

 

弾薬数を確認し受け取った予備のパワー・セルをポケットにしまうと「それじゃあ」と室内を離れた。

 

来た道を戻りながらジークハルトは辺りを見渡した。

 

周囲には警備用の武装を装備したストームトルーパーや将校、下士官兵の部隊が均等に配置されていた。

 

少なくとも警備は万全、更に念の為という事なのだろう。

 

だが既に犯人は捕まっており何かをやる前に対処されているのだから少しは気を緩められる。

 

一応の確認も含めて少し遠回りして会場を確認したジークハルトが元の席に戻る頃には既に本来の演説開始時間まで残り3分を切っていた。

 

「准将、ようやく戻られましたか。てっきり間に合わないと思いましたよ」

 

ヴァリンヘルト大尉は席に座ったジークハルトにそう声をかけた。

 

彼らはまだ総統がこれから演説すると思っているのだろう。

 

「しかし、壇上にまだ誰も上がって来ませんね」

 

バルベッド軍曹は察しがいいのか辺りを見回してそう呟いた。

 

「ああその事なんだが…もう少ししたら放送が入って詳細が伝えられるはずだ」

 

ジークハルトから流石に全てを伝えるのはまずいと思ったのかバルベッド軍曹に放送のことだけを先に伝えた。

 

軍曹は「はあ…」と疑問を残しつつもそれ以上は何も言わなかった。

 

その隣でゼルテック上等兵はグラスに入った水を飲もうとしていた。

 

だがよく見るとグラスを手に取るゼルテック二等兵の手は震えていた。

 

「どうした上等兵、緊張してるのか?」

 

ジークハルトはすぐに異変に気づいてゼルテック上等兵に尋ねた。

 

ゼルテック上等兵は小さく頷いて話し始めた。

 

「いやその…ここにいるのは一般の参加者以上に高官も多くいますし……私のような一介の兵士がこんな場所にいていいのかと…」

 

ゼルテック上等兵は辺りを見回しながらそう呟いた。

 

彼は普段トルーパーのアーマーに身を包みこのような場所とは縁も縁もない生活を送っている。

 

しかもゼルテック上等兵はアウター・リム出身で余計にコア・ワールドのしかもコルサントの場所にまだ慣れていない。

 

だから緊張するのも無理はないだろう。

 

「何を言ってるんだ上等兵。君は誰よりも早く総統の下に集い義勇兵として戦った。この中で最も誇るべき武勲を持つ英雄だ」

 

ジークハルトは言葉巧みにゼルテック上等兵を励まそうとした。

 

真実を混ぜ込みある種都合の良いことを呟いた。

 

「しかし私は……私は准将にウェイランドで発破を掛けられなかったら今頃ここにはいません、准将のお力です」

 

「だが親衛隊に残り今まで戦うことを選んだのは君だ。決断したのは君だし私が強制したものではない」

 

確かにウェイランドの時、ゼルテック上等兵はひどく怯えて死の恐怖に囚われていた。

 

そこでジークハルトが言葉を投げかけたのは事実だが最後に決断したのはゼルテック上等兵だけだ。

 

()()()()()”、と言われてもあえて逃げる可能性だってあったし多分あの時はジークハルトもそれを許していた。

 

だがその上であの場の全員が戦うことを選んで皆突き進んでいった。

 

その延長線上に今のゼルテック上等兵がいる。

 

もう今のゼルテック上等兵は離れることが出来ない。

 

ジークハルトが与えた贖罪と自らの判断がゼルテック上等兵を縛り上げている。

 

彼の指揮官としての力というべきなのかジークハルトには有象無象の兵士であっても鍛え上げ、その上で団結させて戦うことが出来た。

 

それはどんなに時間がなくてもだ。

 

特に彼が団結させる力は凄まじく、この力は“()()”において大きな力を発揮する。

 

それ故に恐ろしく、人もその分死んでいくのだが。

 

「今の自分を誇れ、周りに惑わされずな」

 

ゼルテック上等兵の肩を軽く叩き彼を励ます。

 

その的確な言葉でゼルテック上等兵は納得とまではいかないまでも緊張はほぐれた。

 

するとその間に放送が流れるという合図の音声が鳴り響いた。

 

『皆様、大変長らくお待たせして申し訳ありません。ここで…』

 

「ほら、言ったとおり放送が流れ始めた」

 

放送を聞いて安堵したようにジークハルトは壇上の方を向くとジークハルトの視界を遮るように“彼”が立っていた。

 

またあの幻覚か、ジークハルトはため息混じりに重苦しい感情と共に目を逸らそうとした。

 

だが“彼”はこちらへ振り返ると共に何か眩い光のようなものを発していた。

 

あの我が家で見た幻影とは違い間違いなく光を帯びている。

 

しかもその光は遠くにあるはずなのに熱を感じる、まるで戦場のような熱を。

 

まさか幻影はこの空間の方なのか。

 

ジークハルトはすぐにそんな妙な考えを取り除いた。

 

周りを見てみると周りも光に包まれており同じように焼けるような熱を感じた。

 

ヴァリンヘルト大尉やゼルテック上等兵にバルベッド軍曹、他の席についている人達も顔が引き攣りテーブルの下に隠れようとしていた。

 

一体何が起こっているんだ、1人まるで違う世界にいるような感触を持っていたジークハルトは一瞬思考が停止しそうになった。

 

だがすぐに嫌でも理解することになる。

 

この奇妙な状況を。

 

あたり一面に響き渡る“爆発の音と共に”。

 

「何ッ!?」

 

人々の悲鳴と共に周囲に煙と破片が飛び散り壇上は木っ端微塵に吹き飛ばされた。

 

ジークハルトの頬にも破片が当たり切れて血が出た。

 

乱暴に流血を拭うとジークハルトは急いでホルスターからブラスター・ピストルを引き抜き周囲を見渡した。

 

人々は一斉に外に更なる悲鳴を挙げて外へ出始めていた。

 

衛兵のストームトルーパーや異常事態を感知した他の隊員達が集まり避難誘導を行なっている。

 

幸いにも第二、第三の爆発はまだ確認されていない。

 

「会場内の一般市民の避難誘導の支援とライプシュタンデルテから武装の確保を急げ!!命令だ!!」

 

ジークハルトは破片が散乱し足場の悪い会場を駆け出した。

 

後からヴァリンヘルト大尉やバルベッド軍曹、ゼルテック二等兵も走り始めた。

 

ジークハルトはまず負傷して動けなくなった人を運び始めた。

 

「私が抱えて行きますから…!安心してください!」

 

「…ありがとう……ございます……」

 

ジークハルトは爆発の近くで足を負傷した男性を抱えて走り出した。

 

他の3人もそれぞれ抱えられるだけの負傷者を抱えて扉から急いで室内を出た。

 

「シュタンデリス准将!!」

 

近くのストームトルーパー達が人を抱えたジークハルトに駆け寄ってきた。

 

「彼らの手当てを!!それと今すぐ3人分の武装をよこしてくれ!!」

 

「了解!!」

 

衛星兵のストームトルーパーと将校が寄ってきてジークハルト達が抱えてきた負傷者達の応急処置と運搬を始めた。

 

駆けつけたストームトルーパー達の分隊が一斉に会場内に入り残された負傷者達の介抱に向かった。

 

「これを、急いでいたのでこんなものしか渡せませんでしたが」

 

ポールドロンを付けたストームトルーパーの分隊長と思わしき人物は彼らにSE-14Cブラスター・ピストルやRK-3ブラスターを手渡した。

 

「状況は?」

 

「演説壇上及び舞台裏が恐らく全て吹き飛びました、中のスタッフは全滅の可能性大。非常口を死守し避難を行います、このまま警備司令部の指示に従ってっ…!」

 

再び別の方向で2回ほど、ドーンッ、ドーンッという爆発音が響き窓からは煙が見えた。

 

その中である1人のストームトルーパーが呟いた。

 

「あの方向は……警備司令部の方向じゃないか…」

 

素顔が見えているヴァリンヘルト大尉やゼルテック二等兵、他の将校達は一気に青ざめた。

 

冷静だったのはジークハルトとせいぜいブラスター・ピストルの確認をしていたバルベッド軍曹くらいだろう。

 

しかもこれだけには留まらずさらに悪い報告が通信機から届いた。

 

『…こちら……非常口警備隊…非常口が爆破されたッ…!現在非常口は完全に封鎖されているっ!!』

 

この建物の非常口は地下を通じて外に出るタイプのもので道が塞がれてはどちらにせよ使えない。

 

一気に絶望がこの建物全体に触れ渡った。

 

「頭を叩かれ、出口も塞がれた……そして壇上を確実に狙った爆破…これは相当計画の練られた組織的なテロ攻撃だ」

 

ジークハルトはそう断言した。

 

とてもじゃないが民間人1人が計画してやれる規模ではない。

 

「しかし計画犯は逮捕されましたよ?」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに尋ねた。

 

「だが彼が全てだったとは限らん。協力組織または捕まった計画犯とは別の存在の可能性もある……ともあれ、司令系統が回復するまでの間私が指揮を取る」

 

ジークハルトは分隊長からコムリンクを受け取るとすぐに全体に指示を出した。

 

今の状況ではまともに多少なりとも武装していて避難せず部隊と合流出来ているのはジークハルトくらいしかいない。

 

ジークハルトより高官の人物もいたが彼らは避難の誘導や避難に回っておりとても指揮を出せる状況ではなかった。

 

素早く初期命令を出せるのはジークハルトくらいだ。

 

耳にコムリンク付きヘッドフォンを装着しまず名前を名乗る。

 

「こちら第9FF装甲擲弾兵軍団長、ジークハルト・シュタンデリス准将である。現在会場内の警備司令部の沈黙により、私が代理で指揮を取る事となった。また既に非常口が爆破により塞がれている為次の脱出プランをこちらで提示する」

 

ジークハルトはコムリンクから秘密裏に警備兵達に指示を伝達した。

 

「全警備兵及び武装職員は直ちに入口から会場までの避難経路を確保し死守せよ。避難誘導員は現在のルートを変更し直ちに入り口に向かい避難誘導を行え。手の空いた職員は直ちに武装し防御を固めろ。負傷者も同様に、また負傷度合いに応じて各自で運搬の判断を、これ以上の犠牲は出させるな」

 

コムリンクを切ると今度は周りの部隊に命令を出した。

 

「このままこの分隊は会場内の生存者の救助を行え。我々3人は各部隊と合流しつつ指揮所を確立する。任せたぞ」

 

「了解!」

 

ジークハルトは走り出し何も言わずに3人も後に続いた。

 

3人とも持っているのは軽装備のブラスター・ピストルだが今は気にしている余裕もない。

 

とにかく動かねばという使命感が存在していた。

 

「まずどこに向かいますか!?」

 

「脱出口とは反対側の部隊と合流する!それに指揮所近くにはよりまともな武装がっ!」

 

既に目の前では戦闘が始まっていた。

 

警備兵のストームトルーパー数人とそれに将校2人ほどがブラスター・ライフルを手に持って銃撃していた。

 

周りには何人かのストームトルーパーが倒れておりブラスター弾が飛び交っていた。

 

「加勢しましょう!」

 

「ああ…!」

 

バルベッド軍曹の提案と共にジークハルトは戦闘に合流し早速RK-3の引き金を引いた。

 

まず1発の弾丸が命中し反対側にいた灰色のボロ切れのような布を纏った謎の武装兵が斃れた。

 

相手は見た感じ服装に対してかなり整った装備を持っていた。

 

A280、にE-11、更にはE-22など。

 

少なくとも正規軍並のブラスター・ライフルを装備していた。

 

「シュタンデリス准将ですか!?」

 

現場の将校は先ほど顔を合わせたヨーディス大尉だった。

 

E-22ブラスター・ライフルを手に持ちジークハルトの方に顔を向けていた。

 

彼らが話している間にヴァリンヘルト大尉とバルベッド軍曹、ゼルテック上等兵が支援攻撃している。

 

「ああ、それであの敵はなんだ?」

 

「分かりません!私と部下の少尉がこの周辺のパトロールに向かった時突然襲撃されて…」

 

「そうか、ではあの敵を掃討し直ちに私が提示した脱出経路の防衛に向かってくれ」

 

「了解っ…!」

 

ヨーディス大尉は反対側のストームトルーパーに命じてインパクト・グレネードを投擲させた。

 

爆発により敵兵の何人かが負傷しそこに銃弾が叩き込まれた。

 

既にあちこちで銃撃戦が発生しこの会場は相当の演説会場から“()()”へと変貌した。

 

総統暗殺未遂事件、再び第三帝国に混乱が訪れた。

 

 

 

 

-未知領域 シス・エターナル領 惑星エクセゴル-

()()()()()()”ボーラ・ヴィオを破壊しエクセゴルに帰還したルーク達の乗るジストン級は惑星内のドックに戻っていた。

 

だがIG-99Eと一部の部隊は別の艦艇で次の任務に向かい今シディアスの前にいるのはルークとマラ・ジェイドのみだ。

 

勝利し狂気のクローン達を打ち倒してきた彼らは長であるシディアスから言葉を受け取っていた。

 

「よくやった我が友、そして我が腕の1人よ。これで再びシスの敵は排除された」

 

シディアスは笑みを深べ彼らの功績を讃えた。

 

近くにはダークサイドの達人が1人、更にはソヴリン・プロテクターが数人控えている。

 

「余は嬉しく思うぞスカイウォーカー、其方の暗黒面の力、余も感じた。其方の力はいずれ其方の父も遥かに凌駕するだろう」

 

「ほう」

 

シディアスはルークから感じたとされる“()()()()()”を褒め称えた。

 

それも心の底から喜びそれが表情に出ているようだった。

 

そこの見えないものではなくむしろあえてそこを見せているようだ。

 

「其方はもう1人の自分、そう過去の自らの過ちが生み出した者と戦った。自らが愚かにも光明面の力で生み出した過ちとな」

 

シディアスは見事にボーラ・ヴィオで起こった戦いを見抜いていた。

 

彼が直接見た訳ではないだろうがフォースを通じて感じるのだろう。

 

ルークは沈黙を貫いたがその姿が余計にシディアスの笑みを深めさせた。

 

「だが残念なことに其方はまだ、完全に暗黒面に堕ち切ってはいないな。まるで恐れて足踏みをしているように」

 

「では僕の力を、“()()()()()()()()”を証明しようか?」

 

ルークはライトセーバーを手に取り、マントを翻らせてシディアスの方へ歩き始めた。

 

マラ・ジェイドは緊迫の面持ちで止めに入ろうか迷っていたがシディアスは視線で「よせ」と伝えてきた。

 

だがソヴリン・プロテクターやゼクル・ニストらはそうではなかった。

 

ルークの前に立ちはだかり行先を止めようとした。

 

だがルークはフォースの力で無理矢理ソヴリン・プロテクター達を押し除けた。

 

ゼクルもシディアスから直接「控えよ」と言われルークに道を譲った。

 

ルークはゆっくりとシディアスに近づき、ライトセーバーを起動して振れば一撃で絶命させられる距離まで近づいた。

 

「シスは常に2人、それは師殺しの掟でもある。師の息の根を止めるのは巣立ちの第一歩…なのだろう?」

 

ルークは冷ややかにそう言い放った。

 

ルークではないような冷たさを持ちその瞳は黄色く輝いている。

 

まるで憎しみや怒り、絶望を一纏めにしたような色だ。

 

だがシディアスは余裕たっぷりに答えた。

 

「そうでもある、余も自らの師を殺めた。其方が次のシス卿としての全てを継承するのなら余は甘んじてそれを受け入れよう。シスとは余の全てであり余の力はシスの為に存在する」

 

シディアスは笑みを浮かべルークの瞳を覗き込んだ。

 

まるで人の奥底を覗き込むような瞳だ。

 

「だが其方はまだ知るべきこと、やるべきことがある。私を殺すのはその後だ」

 

「まだ私は殺せない」、パルパティーンは思慮深くどこか掴み所のない笑みを浮かべてそう告げた。

 

元々今は殺すつもりのなかったルークも元の場所に戻り張り詰めた空気もエクセゴルの不安定な大気へと消えた。

 

「其方らには次の任務がある。再び向かってもらうところがある」

 

シディアスは間髪入れずに次の命令を彼らに与えた。

 

ルークとマラ・ジェイドは静かにシディアスの声に耳を傾ける。

 

他の何者も、エクセゴルの落雷すらシディアスの言葉を遮ろうとはしなかった。

 

「エクセゴルと同じ、未知領域へ迎え。今度の任務は敵の抹殺ではない、新たな戦士達の“()()”だ」

 

「一体何を育てろと言うんだ?」

 

ルークは単刀直入に尋ねた。

 

「未知領域にチス・アセンダンシーというチスの大国があることは存じておるな?」

 

ルークとマラ・ジェイドは小さく頷いた。

 

以前は秘密主義に鎖国外交を行っていたチス・アセンダンシーも一気に方針を転換してきた。

 

第三帝国、ファースト・オーダーとの中立条約、領土割譲条約を結び未知領域の確固たる主権国家として君臨している。

 

また帝国の亡命者も多く抱えておりその者達の手によって急速な軍拡が進められている事から恐らく旧帝国勢力の中では相当上位に入るだろう。

 

以前から名前だけは知っていたが今では名実ともに未知領域の大国である。

 

「余が創りし帝国と元から密かな同盟にあった。そして今では余の帝国の一部と共に“来るべき驚異”に備えておる」

 

「来るべき驚異…?なんだそれは」

 

「時期が来ればいずれ話す。其方らの任務は一つ、チス・アセンダンシーに設立された“()()()()()()()()()()()()”じゃ」

 

ルークとマラ・ジェイドは一瞬驚いた。

 

古代からフォース感受者の戦士が直接闘争に出ることはあったが専門部隊としての例はあまりない。

 

ジェダイやシスでは勝手が違うし“()()()()()”の騎士達ともまた違ってくるだろう。

 

それこそ尋問官や皇帝の手といった秘密部隊に近いのかもしれない。

 

「チス・アセンダンシーで集められたフォース感受者達はまだ少人数なれど育成すれば強大な我らの力ともなり脅威にも対抗出来る。我々の栄華を甦らせる為にも重要な任務だ」

 

少しフォースに近い者であっても多少訓練すれば並の兵士を遥かに上回る。

 

もしくは軍艦すら地に伏せることすら可能だろう。

 

フォースに限界はない。

 

あるのはその個人の能力と思考だけだ。

 

「其方らにもう1人、“()()()”をつけよう。役に立つはずだ」

 

シディアスはそう告げると手招きしてある人物を呼び寄せた。

 

玉座の奥からシス・エターナル軍の軍服を着て更に黒色のマントを羽織っていた。

 

マラ・ジェイドは見覚えがあったのか少し驚いている。

 

「余の手の1人、マーレック・スティール。優秀なパイロットであり其方らと共に任務に着く」

 

スティールはルークの前に立つと敬礼し握手を求めた。

 

ルークは握手しスティールは何回か頷いていた。

 

「まさかここにいるなんて…」

 

マラ・ジェイドは驚きながらスティールの手を握った。

 

「彷徨っていた私をヴァント元帥がここまで連れてきた。私はまだ、皇帝の手としての務めを果たすつもりだ」

 

暗黒面の使徒の暗躍に終わりという言葉はまだ到底現れないようだ。

 

その様子を見つめながらシディアスは不敵に笑う。

 

帝国の結集の日は近い。

 

彼らであれば成し遂げてくれるはずだ。

 

そう現世にしがみつく最後の暗黒卿は未来に期待を寄せた。

 

 

 

 

 

-コルサント セントラル地区宇宙港-

コルサントの宇宙港というのは基本どこも混雑しており多くの人々が行き交う場所である。

 

毎日数えきれないほどのスター・シップが宇宙港に着港し或いは出港していく。

 

目的地は近場の惑星かもしれないし遠いアウター・リムやミッド・リムから来た可能性もある。

 

今日もセントラル地区宇宙港には多くの船が訪れ多くの人々がいた。

 

だが彼ら彼女らがいつもと違うのはあることに釘付けだったことだ。

 

宇宙港のターミナルの窓から皆釘付けになってある場所を見ている。

 

それは本来代理総統が演説を行うはずだった場所から上がる煙だ。

 

更に放送では『ただいま非常事態が発生しておりスカイレーンの一部が通行停止となっています』とドロイド音声で流されていた。

 

非常事態と間違いないなくこれこのことだろう。

 

人々は動揺しあるいは憶測を立てて自らの思考を張り巡らされた。

 

だが彼ら彼女らの思考と視界は全て目の前の爆発に引き込まれていた。

 

更に宇宙港に駐留する警備のストームトルーパー隊やFFSIO隷下のFFSB職員が訪れた事により余計注目はそちらに行った。

 

一方で市街地では緊急出動した国防軍、親衛隊、FFISO関連の保安部隊が一斉にセントラル地区に集結していた。

 

スカイレーンにはドロップシップ、パトロール・ガンシップ、TIEリーパー、TIEボーディング・クラフト、センチネル級、ラムダ級などありとあらゆる兵員輸送機が護衛機と共に集結し、地上ではウォーカーや兵員輸送機、戦車、スピーダーが集まりストームトルーパーが結集していた。

 

政府や軍の重要施設は重要に警備され特に総統府では厳戒態勢が敷かれた。

 

だがその間に“()()()()()()()”が行動を開始しているとは誰も知らなかった。

 

地下の秘密通路を通り大型のスピーダーでやってきたフードで顔を隠した者達はそれぞれ武器を手にしてスピーダーから降りてきた。

 

密かに裏口や作業員口から宇宙港内に潜入し暗躍し始めた。

 

工具や爆弾などを手に持ち周辺を警戒しながら一斉に政府高官専用ハンガーベイに侵入した。

 

政府高官専用ハンガーベイに爆発物を仕掛けタイマーをセットする。

 

彼らの目的は代理総統の“()()”でありその為にはたとえどれだけの犠牲を出そうと構わなかった。

 

そういう風に教育がなされているしその為にこの数年間育て上げられてきた。

 

手早く作業を行いなるべく警備兵や職員らに見つからぬよう全力を尽くす。

 

無論その途中で敵に見つかることもあっただろうがそれらの不安要素は文字通り“()()”して作業を進めていた。

 

より重武装の者達はハンガーベイ近くの応接室や待合室、コントロール室を徹底的に襲撃し中にいた人物を抹殺していた。

 

個室には突然重火器で襲われ死亡した職員や将兵の遺体があちこちに斃れており彼らはそれを見てもなんとも思わないし喜びも嫌悪の気持ちもなかった。

 

ただひたすら任務の為に、それだけが残っている。

 

感情はほぼ消失しほぼドロイドと変わらないレベルにまでになっていた。

 

だが彼らのターゲットである代理総統の姿はどこにも見当たらなかった。

 

「こちらチーム・スッタ、ターゲットは見当たらない」

 

攻撃チームの隊長はコムリンクを起動し秘密回線で敵を皆殺したハンガーベイの第四コントロール室から告げた。

 

施設チームからも報告が入る。

 

『チーム・ザガラク、設置を完了した。総統がここにもいないのであれば全て無駄だ。ここを爆破して会場のチーム・キサイの撤退の援護をする』

 

「了解、任務を果たせなかったこと残念に思う」

 

隊長はそう言い残し通信を切った。

 

部下達にハンドサインを出し撤退を始める。

 

彼らは本当に優れた訓練を施されているようで跡を残さず綺麗にハンガーベイを離れ乗ってきたスピーダーに乗り込んだ。

 

彼らが元来た道を戻る頃には既に仕掛けた“()()”は火を吹いていた。

 

突如セントラル地区宇宙港の政府高官専用ハンガー・ベイが大爆発を起こし停泊中の船や職員を巻き添えにして燃え盛り宇宙港からも煙が出た。

 

その衝撃は民間の区画にも影響を及ぼし振動と大きな爆発音が人々の悲鳴と恐怖と混乱を煽った。

 

その過程である一つの言説を生み出した。

 

()()()()()()()()()”と。

 

この言説は瞬く間に広がり一気に不安を増大させ広まらせた。

 

セントラル地区から昇る2つの煙すらこの言説を広めようとしているように見えるほどだった。

 

 

 

 

 

 

『地下通路から敵!!凄い数だ!!』

 

『敵は重火器を持ってる!!このままじゃ対処出来ません!!』

 

通信機からは次々と警備隊の悲痛な叫び声が聞こえた。

 

相手はかなりの数でしかもかなり整った武装を持っているらしい。

 

ジークハルトが今目の前で応戦している敵も一体どこから手に入れたのか、クローン戦争時代のZ-6回転式ブラスター砲を敵兵が装備していた。

 

まず重火器兵を始末するようにヴァリンヘルト大尉らに指示を出し耳元のコムリンクに手を当てた。

 

「煙幕を張りつつ後退して応戦、生存者の脱出ルートさえ確保出来ればそれで構わん。時間を稼げ」

 

『了解…!』

 

その間にヴァリンヘルト大尉が相手にインパクト・グレネードを投げつけ、重火器兵が沈黙したところをバルベッド軍曹とゼルテック上等兵が銃撃して残りの敵兵を掃討した。

 

反対側の通路でもヨーディス大尉とその部下のストームトルーパー達が敵兵を殲滅しさらに奥へ入っていった。

 

流石は|LFFDF《ライプシュタンダルテ・FF・デア・フューラー》のストームトルーパー、単なるストームトルーパーよりも練度が優れている。

 

ジークハルトも指示を出し背後のストームトルーパー達を先行させる。

 

ブラスターを所持しているからとはいえアーマーも身につけていない彼らが先行するのは極めて危険だった。

 

殆んど半壊し、バリケードで身を防いでいた味方のストームトルーパーや将校達に近寄り敵じゃないとハンドサインを出した。

 

ヨーディス大尉の部隊も合流し別のに方向から接近していたストームトルーパーの部隊も残りの敵兵を殲滅して合流した。

 

「友軍部隊を解放」

 

トルーパーの1人が安全を確認し報告する。

 

「シュタンデリス准将…!助かりました…!」

 

中から警備隊の将校が1人現れジークハルトに礼を述べた。

 

彼らは警備隊が保持していた武装類の管理を担っており各所に重武装を配備する間も無く爆発が起きて謎の襲撃者達に包囲されてしまった。

 

数十人の兵士と共に保持していたDLT-19やEウェブなどを用いて暫く武器保管室に立てこもっていた。

 

その間に包囲をジークハルトが利用し逆に四方から部隊を展開する事で敵兵を一気に掃討したのだ。

 

おかげで重武装を敵に渡さずそれでいて敵兵を多く倒せた。

 

立てこもった中で一番偉い将校の階級章は少尉でまだ大分若そうだった。

 

「よく耐えてくれた、おかげで周りの敵を粗方掃討出来た。避難経路の守備隊に合流しろ、各部隊は我々同様に他に生存者や逃げ遅れた一般人の救出に迎え」

 

「了解!」

 

「君達も我々とは別に、少しでも部隊数が多い方がいい」

 

連れてきたストームトルーパー達とも別々に行動させジークハルトはヴァリンヘルト大尉やゼルテック上等兵、バルベッド軍曹らを集めた。

 

すると籠城していた若い少尉だけは途中で立ち止まってストームトルーパーにある持たせた。

 

「准将、せめてこちらを」

 

ストームトルーパー達がE-11やE-22をパワーセルごとゼルテック上等兵やバルベッド軍曹らに手渡した。

 

「ありがとう」

 

「お気をつけて…!」

 

少尉は敬礼し彼も生き残った兵士達を連れてその場を離れた。

 

ジークハルト達は彼らを見送り自分のブラスターの調子を確認した。

 

ジークハルトはE-22を手に持ち装備を確認した。

 

彼がヨーディス大尉から借りていたストームトルーパー達も後退し残るのはジークハルトが連れてきた3人のみだ。

 

「行くぞ」

 

4人はそれぞれバラバラの方向を警戒しながら前に進んだ。

 

敵は既に掃討されてしまったのか或いは全く別の方向にいるのか殆んど遭遇することはなかった。

 

「一体どうしてこんなことに…」

 

ブラスター・ライフルを構えながらゼルテック上等兵はそう呟いた。

 

確かに誰しもここまでの惨劇を予想してはいなかったはずだ。

 

「曹洞を殺す為に我々諸共消し炭にするつもりだったのだろう。しかも連中の装備はかなり整ってる。本気で我々を皆殺すつもりだったはずだ」

 

「まあ我々のお陰で防がれた訳ですけどね」

 

「それに総統はここにはいない、こればかりは奇跡だがな」

 

総統は今頃総統府の地下壕で頑丈に警備されているはずだ。

 

ここでいくらテロ行為を繰り返そうと心理的衝撃はあっても本来の目的を達せない時点で無意味なのだ。

 

するとジークハルトにはある声が聞こえた。

 

小さな男の子の鳴き声だ。

 

ジークハルトは一旦彼らの歩みを停止させると物陰から外を除いた。

 

するとそこには小さなまだ10歳にも満たない男の子が顔中煤だらけになって服もボロボロになりながら泣き喚いていた。

 

ジークハルトにはその姿がある1人の大切なものと結びついた。

 

自分の息子、マインラートとだ。

 

その事を感じてしまった瞬間ジークハルトは誰よりも早く物陰から飛び出し男の子の近くに寄った。

 

「シュタンデリス准将!」

 

ヴァリンヘルト大尉は後に続こうとしたが反対方向から突如敵兵の銃撃を受けて応戦せざるを得なくなった。

 

ジークハルトは急いで男の子を抱き抱えて近くの物陰に隠れると男の子を涙を拭って撫でてやる。

 

「もう大丈夫、大丈夫だよ。必ずお母さんやお父さんの所に連れて帰るからね」

 

誰よりも優しく穏やかに微笑み男の子の悲しみや恐怖を和らげた。

 

その結果か男の子は泣き止みずっとジークハルトの方を見つめていた。

 

銃撃戦は激しさを増しヴァリンヘルト大尉達に合流するのは難しくなっていた。

 

「大尉!そっちはどうにか出来そうか!?」

 

「頑張ってやってみます!!准将はその子を頼みます!!」

 

すぐに状況を判断出来たのかヴァリンヘルト大尉は敵を狙撃しながらそう返した。

 

ジークハルトは再び男の子の方に目を合わせ優しく呟いた。

 

「大丈夫、必ずなんとかするから。もう少しの辛抱だよ」

 

男の子は拳を握り締めて涙を我慢し力強く頷いた。

 

強い子だ、とジークハルトは再び頭を撫でてやった。

 

するとジークハルト達の方にも敵がやってきた。

 

3人ほどのA280Cブラスター・ライフルを手に持った敵兵がよく分からない謎の言語でジークハルト達に詰め寄った。

 

Qorit!

 

ジークハルトは男の子を後ろにやると素早くE-22を構えて敵兵に向けて撃ち放った。

 

ダブル=バレルのE-22ブラスター・ライフルは敵兵を素早く撃ち倒しダメージを与えた。

 

2人の敵兵は即死し残りの1人も反撃出来ずに腹部と片足にブラスター弾を喰らって倒れた。

 

だが完全に殺しきれないのがここでは仇となった。

 

倒れた敵兵のローブから何かベストのようなものが見えた。

 

ジークハルトにはこれがなんだか想像が付く。

 

「しまった!!」

 

ジークハルトは急いでE-22でトドメを刺そうとした。

 

だが既に時遅し、敵兵は懐からスイッチを取り出して最期の力を使い言い放つ。

 

…Asha…Jen'ari…!!

 

最期にそれだけ言い残すと敵兵はスイッチを押して体に巻きつけた爆弾を起動した。

 

敵兵は自爆しその爆発のエネルギーがあたりに放出される。

 

「クソッ!」

 

ジークハルトは男の子を安全な方へ突き飛ばすと自らも伏せて少しでも爆発を軽減しようとした。

 

だが既に間に合わない状態まで来ていた。

 

眩い光がジークハルトに迫り来る。

 

遠くでヴァリンヘルト大尉が「准将!!」と銃撃戦の中叫んでいる声がだんだん遠くなっていく。

 

衝撃で吹き飛ばされそうになるジークハルトはふとあることを思った。

 

ようやく自分に“()()()()()()()()”。

 

彼の意識は過去絵と遡った。

 

自らを狂わせたこの光と同じような過去に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一体いつからだろうか。

 

私の記憶が鮮明になり物心というものがつき始めたのは。

 

今ではすっかりその時の記憶すらも消え果てた。

 

母は幼くして死んでしまった。

 

母の顔はよく覚えている、とても美しい笑顔を向けてくれた。

 

母の声もよく覚えている、とても優しい暖かさを感じる声だった。

 

母の名前は当然覚えている、決して忘れることはないだろう。

 

だがそれだけ覚えていても母と何をして過ごしていたか、何をされて嬉しかったか、なんの手料理が好きだったかは全く覚えていない。

 

だから私の中では母の存在はとても朧げなまるで物語の中に存在するような何処か実感のない存在だった。

 

むしろ包帯姿のまま出た母の葬式の日の出来事の方がよく覚えている。

 

母の遺体すらなく涙すら出ない、まるで心臓を何度も鋭利な刃物で突き刺したような気分にその日は見舞われていた。

 

私にとってはもうただ一体いつの日か何処かも分からない場所で父バスティと共に微笑み優しく「ジーク」と語りかけてくれる母の存在しか覚えていなかった。

 

気がつけば母の温もりは何処かすっぽりと抜け出てしまった。

 

ジークハルト、という名は父がつけたそうだ。

 

何処かのある言語の一つである“Sieg(勝利)”という意味に強い、硬い、もしくは心、忠誠心と言った意味の“harti”を組み合わせて“Sieghart”という名前にしたとフリズベン将軍から聞いた。

 

当時はクローン戦争の激化も相まって絶対的な勝利を求めたからこそ名付けられたのだという。

 

その由来の意味を父から聞いていない通り私と父の関係は何処か冷え切ったものになっていた。

 

私は父のことはよく覚えている。

 

だが母が健在であった頃のあの同じように暖かい笑みを浮かべて優しく語りかけてきた父の姿は母の存在同様薄れ始めている。

 

私が父親を想像して思い浮かぶのはあのノートハーゼンの邸宅で小さな背中だけを見せ、ずっとホログラムか何かを見つめる姿だけだった。

 

あの見窄らしい悲しさと絶望の象徴とすら言える姿だけがジークハルトには思う浮かばれた。

 

本当はそんな人ではなかったのに、私は過去の暖かな家族の記憶を全く思い出せない。

 

世間ではバスティ・シュタンデリスは“()()()()()()()()()()()()()”として扱われている。

 

だがそれはあくまで半生の話であってもう片方の半生は暗く絶望に閉ざされた明るさとや英雄神話とは程遠い末路とすら言えるものだ。

 

私の母は病で死んだのではない、殺されたのだ。

 

今より23年前のバーチ・テラーの反乱は私や父に大きな傷を与え母の命を奪った。

 

ある旅客船に仕掛けられたバーチ・テラーの反乱分子のテロに巻き込まれ母は死んだ。

 

その時私も同じ船に乗っており怪我はしたが幸いにも命だけは助かった。

 

無論助かったのは私の命だけで母の命は奪われ、私も脳に多少のダメージが残ったらしく過去の記憶の一部が飛んでしまったと医師は話していた。

 

だから私は母や父と過ごした日々を、私が両親から受けた暖かい生活と愛情を殆ど思い出せない。

 

母の死は強烈で大きな傷を残したがそれでもだ。

 

頑張っても薄っすらした記憶しか出てこない私にはどうしても父のように生力を奪われ、深い絶望感に堕ちるような事はなかった。

 

今思えばそれが一番の悲劇なのだろう。

 

私は一度、まず欠けた人間となった。

 

それでも薄っすらとした愛情の日々が残っただけでも奇跡なのだろう。

 

完全に記憶を失い両親のことを全く覚えていなかったとしたら私はより欠けた人間となっていたはずだ。

 

人の痛みも分からず今のようにはなっていないかも知れない。

 

それこそドロイドのような冷たい人間になっていただろう。

 

唯一残った母の笑顔と優しい声が私を繋ぎ止めてくれていた。

 

だが父はそうではなかった。

 

母の死、そしてバーチ・テラー討伐以降父の活力は急速に失われ3年のうちに軍を辞めてしまった。

 

私が10歳の時から父は突然自宅の自室に籠り、そこから出てこなくなった。

 

私と話すことも少なくなり徐々に痩せこけ筋肉が落ち、目の下には隈が、瞳からは光が、声音からは活力が失われた。

 

父は戦中の英雄であり准将として様々な職についてきた。

 

だからそれまでの貯金と年金により私達は暮らせた。

 

だがその反面、父は自らを明確に責めるようになり過去に存在していた父はどんどん薄れていった。

 

私は怖かった。

 

このまま父が変わり果ててしまうこと、そして父すらも私の目の前から消えていってしまうことを。

 

父はずっと「私に価値などなかった、何も出来ず…何も守れず…」と口癖のように呟いていた。

 

幼い私は考えた。

 

どうすれば取り戻せる、どうすれば父をあの眩しい笑顔に出来ると。

 

そう常に考えノートハーゼンの市街地に貼られているある張り紙を見つけた。

 

そこにはオーラベッシュで『帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミー募集』と書かれていた。

 

遠い昔、母が死ぬ前に父から聞いたことがある。

 

「私が通っていたコルサントのジュディシアル・アカデミーはすっかり変わってしまったなぁ。今じゃ帝国ロイヤル・アカデミーだなんて、随分と名門になったものだ」と。

 

ジュニアと書いてあるがこのアカデミーは父も通った場所なのだ。

 

私はまだ世間も未来も知らない頭である一つの答えに辿り着いた。

 

私がこのアカデミーに入り父と同じように軍人となって多くの人々を救い父がやってきた道は間違っていなかった、無駄じゃなかったと父と父の愛した母の息子である私が証明すれば父もきっと前を向いてくれるはずだ。

 

そうればきっと父も昔のような笑みでいてくれる。

 

私の幼く、そして甘い判断はすぐに決断した。

 

丁度進路を決めかねていた頃だ、当時の私の学力であれば十分ロイヤル・アカデミーとはいえなんとかなりそうだった。

 

なんともならないのなら死ぬ気で勉強すればいいとも思っていたが。

 

だが一番の障害は当時の私にとっては驚くべきことに父の反対だった。

 

父はそれまで発したことのないような強い口調でジュニア・アカデミーの入学に反対した。

 

特に悲しみに暮れた父の姿ばかりずっと見てきた私にとっては今でも衝撃的で鮮明に覚えている。

 

「お前は絶対にダメだ、私の後など歩んではいけない」だとか「もっと他に道はある、考え直せ」だとか「どうして自らの命を危険に晒すんだ」とか私が怯えて何も言えなくなる程言われた。

 

その様子を見て父はそれ以上言わなかったが私の決意を砕くことも同時に出来なかった。

 

だが父の手助けが借りれない以上入学の様々な手続きをする事が事実上不可能となってしまった。

 

そこで私は父の親友であったフリズベン将軍とバエルンテーゼ上級大将に力を借りた。

 

2人は最初父に何か言われたのかそれとも自主的なのか私に全く協力使用しなかったが何度も頼み込んだ事によって折れてくれた。

 

2人の力を借りて様々な問題をパスした私は遂に帝国ロイヤル・ジュニア・アカデミー入学の切符を掴んだ。

 

父は応援もしてくれなかったし何も言わず最後まで反対だったが陰ながら見守ってはくれていたのだろう。

 

尤も私が家を出てコルサントに行く時、父は他の親族やフリズベン将軍らと違って見送りにも来てくれなかったが。

 

アカデミーの授業内容はどれもまだ10代前半の少年少女達に教えるには厳しく難しいものばかりだった。

 

私はヴァント家やホルト家、ワーミス家の何世代にも渡る世襲軍族でもなければ脅威的な速度で卒業し大提督にまで上り詰めたチスの名将ほど頭の切れる人物ではない。

 

ひたすら喰らいつくしかなかった。

 

幸いにも私は少なくとも内容を理解出来る知能と喰らいつく体力はあった。

 

だがそれ以上に辛かったのはやはり今でも思い出す父の姿であり、母と父が健在する夢と父に見放されドン底に落ちる夢をほぼ交互に見ていた。

 

暫くは本当の目的も忘れずっと憂鬱な気分に囚われていた。

 

心が折れそうだった。

 

やがて悪夢の方が見る回数が増え精神的にも参り始めていた。

 

やはり私ではダメなのか、父の言う通りになってしまうのか。

 

「そんな事ないさ、ジークは一度明るい未来に進めた。きっと願って進み続ければきっと叶うはずだ」

 

アカデミーの寮で彼は私にそう言った。

 

彼は常に明るく前向きな性格で未来は常に良い方向に進むと信じていた。

 

ゲアバルド・グートハイル、彼と私とそしてアデルハインはずっと同じ寮だった。

 

何度も話し合ったし時には衝突した事もある。

 

それ以上に互いに励まし合い切磋琢磨し時には悩みも聞いた。

 

「そうかな…進んだ先が真っ暗なだけだった気もするけど…」

 

あの頃の私は悲観的な思考となりゲアバルドの言う言葉にまだ共感出来ていなかった。

 

「そうそう、ゲアバルドの言う通りだよ。僕だって昔に比べれば前に進んだからここまで良くなったと思うし」

 

こう言う場合アデルハインはゲアバルド側で私を励まそうとしていた。

 

アデルハインは聞いた話だと戦災孤児らしくゲアバルドも決して恵まれた生活を送っていたわけではないらしい。

 

彼らに比べたら私はまだ恵まれた方だった。

 

それでも失われたものばかりだったが。

 

「僕が進んでも父さんが分かってくれなきゃ意味ないよ…」

 

「うーん…確かにそうだけど……そこまで思い詰める必要はないんじゃないか?どこにだって“希望”はあるもんだ」

 

ゲアバルドはそう微笑んだ。

 

彼はまるでこの世の光を全て詰め込んだかのようにどこか光り輝いて見えた。

 

悲観的だった私もゲアバルドの言葉を聞いてどこか気が楽になった。

 

もしかすると“()()”と呼べるだけの友が初めて出来たのはこのアカデミーで7年間苦楽を共にした同室のゲアバルドとアデルハインかもしれない。

 

彼らのおかげで私は前に進めたしそれ以来悪夢も見なくなった。

 

むしろ彼らと共に過ごす夢も増えたような気がする。

 

私はゲアバルドの言葉を信じていた。

 

きっと願って進み続ければきっと未来は良い方向に行くのだと。

 

希望というものは確かにあってやがていつかは叶うのだと。

 

卒業の後、やはり父には厳しい言葉をかけられたし将校になった数年後にヤヴィンの戦いで帝国は大転換機を迎えた。

 

それでも絶望や諦めという言葉はなかった。

 

ゲアバルドの言葉があってしかも私にはゲアバルドやアデルハインら仲間がいてフリズベン将軍やバエルンテーゼ上級大将という頼れる上官がいた。

 

やがて私も部下を持つようになり100人以上の兵士が私を上官と仰いだ。

 

やがて帝国はマコ=タやホス戦で勝利を重ねていった。

 

その時の私はやはりゲアバルドの言った通り希望はあって願えば未来は良い方向に進むのだと感じた。

 

帝国は負けないし帝国は反乱者を打ち倒す。

 

勝利という希望は近くにあるのだ。

 

その頃に私の息子は、マインラートは生まれた。

 

丁度ノートハーゼンに帰還していた為我が子が生まれる瞬間に立ち会う事が出来た。

 

それもゲアバルドやアデルハインと一緒にだ。

 

その時ゲアバルドから聞かされた話を今でも覚えている。

 

病院の窓際で彼はふと隠していたことのように呟いた。

 

「…前にも言ったけどうち貧乏でさ、いい暮らしをするには軍に入るしかなかった」

 

「ああ、聞いてたよ。今ではそれが出世を期待されてる将校だもんな」

 

互いに微笑を浮かべそれからゲアバルドは目線を上げて口を開いた。

 

「俺には選択肢が軍隊の道しかなかった。俺は今ならそれでも良かったと思うし別に間違いでもなかったと思う。いい仲間やいい光景に立ち会えたし」

 

ゲアバルドはふとユーリアと生まれたばかりのホリーがいる病室の方に振り向いた。

 

私はゲアバルドが振り向いた方向に何がいるかを知っていたし嬉しかったから微笑を浮かべてただ小さく頷いた。

 

「だがそうとは思えない奴もきっといるはずだ。銀河は広い、考えてる事はみんな違う。俺が良かったと思うことも別の誰かはそうではない」

 

「…そうだな、もっと自由に仕事を選べたら…と思っていた奴を私も何人か見かけてきた。帝国軍は誰しもが熱意と愛国的な何かで突き動かされている訳じゃない」

 

私だって部隊を率い色々な人間を見て色々な戦いを経験してきた。

 

まだまだ若輩者だったが現実を理解するには十分だった。

 

帝国に対する忠義は変わらないが現実も受け入れるしかなかった。

 

「俺は、俺のような選ぶ道が一つしかなかった者達をなるべく減らしたい。軍人が掲げるにしては少し幻想的過ぎるかもしれないが選ぶ道が限られていて望む未来に進めなかったなんて悲しい光景を出来ればなくしたいんだ」

 

ゲアバルドはどこか遠くを見つめ彼の思いを語った。

 

ジークハルトは黙って話を聞いていた。

 

ゲアバルドはやはりこの世の光を集めた私にとっての聖人のような人間だった。

 

私のないものを全て持っているし私になかった物をくれた。

 

思えば私にはこの時まで軍人らしい思想や考えというのはなかった気がする。

 

ただ父のやったことを証明したいという感情に突き動かされていた。

 

余計にゲアバルドが光り輝いて見える。

 

彼はまるで本当に輝かしい未来を見ているかのようだった。

 

「まあ高々一介の軍人が何を出来るんだと言われればそれまでだけどな」

 

「いいじゃないか、これもきっと帝国の繁栄に役に立つ。それに今はまだ尉官だがやがて私達なら佐官、将官へと上がっていけるはずだ。そうしたら出来ることも広がる」

 

「ジーク…」

 

「私はお前の考えに賛同するよ。前に言っただろ?願って進み続ければきっと叶うと。私はお前の考えを信じている、私達はきっと進み続けることが出来るさ」

 

ゲアバルドはどこか嬉しそうに頷いた。

 

彼は拳を差し出してきた。

 

私は彼の拳を自らの拳と合わせ誓いを立てた。

 

「ああ…!そうだな…!ジーク…!」

 

私も微笑を浮かべ頷いた。

 

「ああ、だがまずは目の前の敵を片付けないとな。反乱軍は我々の代で倒す」

 

「ああ…!」

 

誓いを立てた我々はこの時は反乱軍は倒せる、すぐに滅ぶと思っていた。

 

そしてその先には明るい未来が待っていると信じていた。

 

未来はきっと、私やゲアバルド、アデルハインたちが作っていく未来はきっと、マインラートが歩んでいく未来はきっと…。

 

「ああ……」

 

雨が降っていた。

 

降り止まない雨が。

 

ノートハーゼン宙域の国境線に属するこの第十三外縁衛星は時折雨が降る。

 

しかもこの雨は落雷と共にあり周りで作業する将兵は皆雨具を装備していた。

 

だが、目の前に転がっている“もの”達は雨雲なければ雨に打たれっぱなしだった。

 

私はただ、愕然として立っていた。

 

悲しみ、憎しみ、衝撃、嗚咽、喪失、全てが一つとなって心に大きな穴を開けた。

 

あの時の私の目の前にはかつて私の部下だったものの遺体が散らばっていた。

 

ブラスター弾に斃れ、爆発に巻き込まれて腕や足が吹き飛び、砲弾によって肉片しか残らなかった私の部下達の遺体が近くのテントに運ばれていた。

 

皆私の部下だ、数日前まで共に戦場を駆け苦楽を共にした大切な部下だ。

 

たとえストームトルーパーのヘルメットを被っていても、帝国軍の将校の軍服を着ていても、ウォーカーや車両の整備を行う地上軍クルーの装備であってもだ。

 

多過ぎる部下がこの衛星を守る為に死んでいった。

 

そして不在だった私の代わりに部下達を率いていたのは…。

 

「ああ…………ああッ……!!」

 

私はずっと雨に打たれながら震えながら声を出し地面を見ていた。

 

砲弾の破片が少し散らばっているだけでそこに遺体自体はなかった。

 

だが“()()()()”となるものが私の目の前に落ちている。

 

彼が、彼がノートハーゼンに帰還した時とある少女から貰った小さなペンダントの一部が落ちていた。

 

しかもそのすぐ近くに偶然なのか必然なのか彼がよく使っていたブラスター・ピストルも地面に突き刺さっていた。

 

彼はいくら探してもいなかった。

 

生き残った部下達の証言では彼がいた指揮所に砲弾が直撃し戦死したらしい。

 

私は信じていなかった。

 

きっと生きている、彼の言う通り“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

だから諦めなかった、草の根を分けても探そうとした。

 

未来は希望に満ち溢れているはずだからその未来には彼もいるはずだ。

 

たとえエンドアで帝国が再び敗北しようと、帝国が崩壊し内乱状態となろうと。

 

彼はいてやがて良い未来が訪れるはずだ。

 

そう信じていた。

 

だが今目の前に落ちているものがその甘い幻想を砕き壊した。

 

「“()()()()()()”……?」

 

私はその時落ちていたペンダントとブラスター・ピストルに向けて声をかけた。

 

このペンダントはゲアバルドが貰ったもので、このブラスター・ピストルはゲアバルドが愛用していたものだ。

 

2つとも煤汚れて砲弾の破片と共に地面に落ちて突き刺さっていた。

 

ただ落ちているだけなのに、ただ刺さっているだけなのに。

 

私は膝を付いて震える手でペンダントを掴んだ。

 

まだ生きているかも知れない、そんな幻想は存在しない。

 

それが分かった瞬間私の全身から力が抜け落ち自然と両目から涙がこぼれ落ちた。

 

声は出なかった。

 

声にならない嗚咽が掠れ出て喉が閉まった。

 

その反面涙は大滝のようにこぼれ落ち、止まることはなかった。

 

私は失ったのだ、大切な“()()”を。

 

私は失ったのだ、大切な“()()()”を。

 

私は失ったのだ、私の“()()()()()”を。

 

私は失ったのだ、私達の輝かしい“()()”を。

 

結局、父の言った通りになった。

 

何が出来た?

 

何を守れた?

 

何を得た?

 

答えは簡単だ。

 

何も出来なかった、何も守れなかった、何も得なかった。

 

父と同じ道をそっくりそのまま通った。

 

父の言うことは正しかった。

 

私は痛感した、私が進んだこの道は“()()()()()()”。

 

ふと卒業式の後、最後に父と会った時のことを思い出した。

 

父からは厳しい言葉ばかりで見向きもされなかったが最後に一言だけ面と向かって、瞳を合わせてこう言われた。

 

「お前まで…私のようにならないでくれ」と。

 

ああ、すまない父さん、“()()()()()()()()”。

 

私は地獄を、父と同じ地獄を歩んだ。

 

私が犯した過ちの代償は大きすぎた。

 

私が率いていた大隊の半数が死に、副大隊長と多くの将校を失った。

 

中には全滅した構成小隊もあった。

 

100人を軽く超える多すぎる部下が死んだ。

 

単に私の責任だ。

 

私が辞令など貰わずに行けば、或いはもっと早くに救援に向かっていれば。

 

最初からより多くの部隊を配置しておくよう進言しておけば。

 

いや、違う。

 

最初から私が“()()()()()()()()()()()”、彼ら彼女らは死ぬことはなかったはずだ。

 

ゲアバルドだって、私の下にいなければきっと今も生きていたはずだ。

 

私の過ちの対価を支払ってこの世から消えた、遺体すら残らなかった。

 

私のせいだ、私が殺したも同然だ。

 

私の部下達は優秀で死んでもなお任務を果たした。

 

この衛星を新共和国軍の魔の手から防いだのだ。

 

任務は成功した、部下達は勝利と共に死んだ。

 

では何故死んだ、勝利したのにも関わらず。

 

新共和国軍のせいか?いや、違うだろう。

 

部下達が死ぬ原因は決まっている。

 

指揮官()のせいだ。

 

彼ら彼女らを殺したのは私だ。

 

みんな地獄を見た、生き残った者達も。

 

私が最初に地獄へ突き落とした者達だ。

 

それ以来だろうか、再び悪夢を見るようになったのは。

 

今度は父の夢ではなかった、死んだ部下達の夢だ。

 

荒野に私が立っていて周りには夥しいほどの死体が転がっている。

 

その顔は痛みを込めた苦痛だったり絶望を含んだ虚無だったり色々だ。

 

血や土がついていたり或いはついておらず綺麗なままだったり。

 

しかしここに転がる死体の顔は誰1人明るい顔で死んではいない。

 

皆顔が見える、みんな私の部下達の顔だ。

 

私は逃げるように走った。

 

だがそこに死体の山で作られた壁が生まれた。

 

「ああっ……!ああああッ…!!」

 

顔を背けようとしても背けることは出来ない。

 

これは全て私の罪だ。

 

その天辺にはやはり私の親友もいた。

 

親友だけはまだ生きているようで私に向かって空な瞳で血を垂らしながら口を開いた。

 

「……ジー…ク……」

 

「ゲアバルド…?ゲアバルド…!!」

 

私の返答にゲアバルドは答えることはなかった。

 

「どう…して……」

 

どうして?どうしてこうなったのか。

 

それは決まっている。

 

私のせいだ。

 

ヒルデンロード元帥が新共和国に対し講和した後も私は軍に残った。

 

むしろ残らされたのだろう。

 

中佐となり私は連隊長という新たな肩書きを得た。

 

気がつけば再び人の上に立っていた。

 

こんな私が、過ちばかりで部下を地獄に突き落としていく私が。

 

こんな私が帝国軍にいていいのか。

 

ゲアバルドが、あの壮大な考えと夢を持った男がいた、勇敢な多くの将兵がいた、私とは違って少ない犠牲で最大の成功を掴めたこの軍に。

 

私は有能ではない、むしろ無能者だ。

 

人を騙し続けている。

 

だが軍を辞めることも私には許されなかった。

 

退役しよう、家族と共に生きよう、私の連隊はアデルハインに任せよう、何度もそう思った。

 

そう思う度に脳裏にチラつくのだ。

 

死んだ部下達の顔が、あの光景が、“()()()()()()()()()”。

 

希望はなかった、明るい未来もなかった、願ったことが叶うこともなかった。

 

だが進み続けることをやめていいのか。

 

あそこで死んだ者達の無念や抱え込んでいた思いから目を背けて1人逃げていいのか。

 

彼ら彼女らはどうなる、誰があの哀れな者達の思いを覚えている。

 

誰がそれを晴らすのだ。

 

殺した張本人が1人のうのうと生きていていいのか。

 

いいやダメだ。

 

罪を償う為には、報いる為には未来へ進み続けるしかない。

 

贖罪を果たす為にはそうするしかない。

 

死人に囚われた、だがそれでよかった。

 

そうでもしなければ私は報いる事が出来ないのだから。

 

そんな私に声が掛かった。

 

まだ“()()()()”だったシュメルケ元帥が新しい親衛隊の制服と共にやってきたのだ。

 

彼は私に「親衛隊に入らないか?」と告げてきた。

 

私はシュメルケ元帥がチェンセラー・フォース、後の“()()()”に誘う理由を尋ねた。

 

すると元帥はさも簡単だと言わんばかりに答えた。

 

「だって君は優秀で経験もあってそれ以上に“()()()()()()()()()()()()()”」

 

「えっ?」

 

「君自身は自分の事だから分からないだろうが君は確かに“()()()()()()()()”。何かに囚われているがそれ故に絶対の折れない、君は最強だ。新共和国を下すことも可能だろう」

 

シュメルケ元帥は私を見抜いていた。

 

私に取り憑いた、私のうちから湧き出る何かを。

 

「まあ考えるだけでもいい、だがこのまま国防軍に残っても良いことはないぞ。協定に縛られた国防軍に自由はない、何かを晴らしたいなら…この新たな軍に入る事をお勧めする。それでは」

 

そう言い残してシュメルケ元帥はその場を離れた。

 

何かを晴らしたいのなら、つくづく自分でも気づかないものすら見抜かれていたようだ。

 

その直後にバエルンテーゼ上級大将からも同じように勧誘があったが既にこの時私の道は決まっていた。

 

私は親衛隊に入った。

 

帝国軍の軍服を脱ぎ捨て、この黒い親衛隊の制服に身を変えた。

 

私に帝国軍の軍服は高価過ぎる、この制服で丁度良い。

 

やがてヒルデンロード元帥が死に代理総統が現れると我々は本当に“親衛隊”となった。

 

私に正規の軍隊など似合うはずもない、私がいるべきは死が最も近いこの場所(親衛隊)だ。

 

私が親衛隊にいる理由はここにあった。

 

本当は私1人で移籍するはずだった。

 

しかし驚くべきことに私が率いていた連隊とアデルハインまでもが私に続いて親衛隊に移籍した。

 

私は最初止めたがどうやら彼らは、特に大隊の頃から共に戦っていた部下達は“()()()()()()()”。

 

私は罪の意識を他者に伝染させてしまっていたようだ。

 

親衛隊に移籍と同時に私の連隊は名前が変わった。

 

新規の将兵も連隊に編入されて“第6親衛連隊”という名称になった。

 

新たに航空大隊のユニットが付き、そこでスカリフで助けたパイロットでノートハーゼンで何度も共に戦ったハイネクロイツと合流した。

 

今でも覚えている、私が連隊の部下達に初めて演説を行った時のことだ。

 

有象無象の将兵が同じ黒い軍服を身につけている。

 

「私がこの第6親衛連隊、連隊長のジークハルト・シュタンデリス中佐だ。諸君らの中には既に私と共に戦った者も多くいるだろう。そして我々はこれから必ず“()()()()()()()()()()()”」

 

最初に私はそう宣言した。

 

死んでいった者達の、ゲアバルドらの無念を晴らす為にはまず新共和国を打倒することだ。

 

まずはそれが死んでいった者達への手向となるだろう。

 

「我々は前内戦で多くの同胞を失った、そして我々は生き残った。我々はただ生き残ったのではない、我々には死んでいった者達へ報いる使命と共に生き残ったのだ」

 

そうだ、報いなければ彼ら彼女らの死は無駄死にとなる。

 

絶対にそうはさせてはならない。

 

それだけは避けねばならないのだ。

 

「今はまだだがそう遠くない未来我々は必ず報いの為の行いをする、その時が我々の初陣となるはずだ。我々が勝利すればまず一つ同胞達に報いる事が出来る」

 

全ての将兵が私の方向を向いていた。

 

皆が同じ思いで、ここに立っている。

 

やがてそうではない者も大勢この連隊の中に入ってくるだろう。

 

恐らく私は彼らも地獄に突き落とすのだ。

 

そうして私の部隊は結束してく。

 

最悪の方法だが私にはもうこれしか残されていなかった。

 

ゲアバルドのように器用には出来ない。

 

「そこから我々は始まるのだ、我々の……我々の“未来”が!我々の未来が始まる」

 

本来いう筈のない言葉が出てきた。

 

ゲアバルドは何度も口にしていた単語でジークハルトにはこの単語がある人物を想起させた。

 

我が愛おしい息子マインラート。

 

あの子は私の未来だ、私がゲアバルドと共に失った未来なのだ。

 

あの子なら私や父とは違ってまだこの地獄に足を踏み入れることはないはずだ。

 

あの子なら大丈夫、もしそうでなければ私以外の道に導いてやればいい。

 

私の後は歩ませない。

 

「散っていた過去の同胞と我々を迎えようとする未来の為に諸君らの努力を期待する」

 

私は話を終えた。

 

部下達は皆敬礼し、私も敬礼を返した。

 

アデルハイン、ハイネクロイツ、そして新たにここに2人の将校が加わる。

 

1人は私の副官でもう1人は艦長。

 

ここから始まった。

 

私の償いと未来の為の戦いが。

 

この戦いに終わりはない。

 

私が死を迎えるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……将!!……デリス准将!!……シュタンデリス准将!!」

 

ジークハルトの目が徐々に開き砂煙が漂う会場と体を揺さぶるヴァリンヘルト大尉の姿がまず瞳に映った。

 

「たい…い…じょう…きょう…」

 

「私も無事、上等兵も軍曹も貴方が守った男の子も無事です!!負傷者はシュタンデリス准将のみ、そして遂に“救援が来ました”!!」

 

ジークハルトが全てを言い終えるまでもなくヴァリンヘルト大尉は全てを報告した。

 

一体どれだけの時間が経ったのかまだジークハルトには分からないがヴァリンヘルト大尉は救援が来たと言っていた。

 

その証明のように周りには先ほどまで存在しなかった警備隊とは別のストームトルーパーやFFISOの保安局員などが隣の通路を走っていた。

 

そしてある1人の男がジークハルトを覗き込んできた。

 

「意識が戻ったようですね」

 

フリシュタイン上級大佐だ。

 

すぐにゼルテック上等兵とバルベッド軍曹も近寄ってきて「准将!」とジークハルトに声をかけてきた。

 

「傷は大したことありませんが立てますか?」

 

「ああ……身体は痛むが気を失っていただけだ」

 

ジークハルトはヴァリンヘルト大尉らに支えられながら立ち上がった。

 

辺りを見渡せば既に先ほどまで戦っていた敵兵の姿は見えず完全武装のストームトルーパーや保安局員の姿の方が目立っていた。

 

「シュタンデリス准将、貴方のおかげです。貴方の指揮のおかげで司令塔を失った警備隊は混乱せずにこの未曾有のテロに対応出来た」

 

「…私よりも私の命令を素直に聞いてくれた警備隊の面々に言ってやって欲しいですね…それで、一体いつから?」

 

ジークハルトはフリシュタイン上級大佐に尋ねた。

 

ジークハルトが覚えている限りでは彼はこの場にいなかったはずだ。

 

「貴方が気絶してからわずか数分後ですよ。先行突入隊として我々親衛隊とFFISOの武装警察が突入し内部のテロリストどもを制圧した。その間に貴方ともう1人の生存者を守っていたヴァリンヘルト大尉らを私の部下の一部隊が発見したのです」

 

「おかげでなんとか助かりました……あのままE-22を2丁同時に撃ち続けるのは多分無理でした」

 

「ええ、准将もご無事で何よりです」

 

ヴァリンヘルト大尉に続いてゼルテック上等兵もそう声をかけてくれた。

 

後ろでバルベッド軍曹も頷いている。

 

「ではもう建物内は?」

 

「制圧しましたよ、親衛隊による正面突入と国防軍のドロップシップによる空中突入よって残りのテロリストは全て掃討しました。総統を狙う不届者の命はもうありません」

 

「そうか…」

 

ジークハルトはホッと一息胸を撫で下ろした。

 

爆風に巻き込まれて気絶してしまった為あまり実感が湧かないがなら良かった。

 

あの男の子も生き残っていたようで本当に何よりだ。

 

「民間人への犠牲は最初の爆発で負傷した時のみでテロリストに殺害された者は1人もいません。警備隊の防戦と貴方の指揮の結果です」

 

「それは良かった、何よりだ」

 

それでもあの爆発の時点で会場にいた一般聴衆客の多くが負傷し或いは死亡した。

 

あの爆発を防げなかったというのは本当に悔しい。

 

余計な犠牲を生み出してしまった。

 

「総統閣下は今総統府の地下壕で我々が厳重に警護していますのでご安心を。まあシュタンデリス准将はご存知でしょうが」

 

事前にジークハルトだけは総統が遅れてくることを知っていた。

 

本来なら放送が流れてその時に全員が知る筈だったのだが爆発によって掻き消されてしまった。

 

だが恐らくそれ以外の危険もあった筈なのでひとまず総統の命が無事なのは安堵といったところだ。

 

「少し、付いてきてください」

 

ジークハルト達はフリシュタイン上級大佐に手招きされ建物の中を抜けて外へ出た。

 

辺りを周り込みある場所に辿り着いた。

 

「ここは…」

 

ジークハルトには一瞬で察知がついた。

 

ここだけ爆発の影響で屋根も外壁も全てが吹き飛びぐしゃぐしゃにひしゃげている。

 

辺りをFFISOの保安局員が取り囲んでおり緊張が立ち込めていた。

 

「あなた方が見ていた壇上の裏側です。重点的に秘密裏に爆弾が仕掛けられていたようでこの有様です」

 

惨劇という言葉をこの建物が物語っている。

 

中は爆発の影響で黒く煤だらけになっておりもう何も残されていなかった。

 

「ここに、総統がいなかったら良かったがもしいたら…いやもう既に手遅れか」

 

「はい、中にいた全ての職員が即死したらしく…まだ遺体も残っていないと」

 

ヴァリンヘルト大尉は険しい表情を浮かべていた。

 

ジークハルトも目を潜めてステージ裏を凝視した。

 

「この事件は我々の捜査能力と警備能力に大きな汚点を残すと同時に我々に対する大きな挑戦という風にハイドレーヒ長官は受け取っています、無論我々も」

 

フリシュタイン上級大佐は普段と変わらぬ瞳で、普段と変わらぬ表情で、普段と変わらぬ声音でそう呟いた。

 

だがジークハルトにはよく理解出来る。

 

彼らが次にやることを。

 

「我々はこの事件を受けて本格的に対コルサント内の保安作戦に移るつもりです。我がFFISOの総力を用いて」

 

確かにテロリストを殲滅するのは彼らの役目だ。

 

だがそれ以上に地獄が生まれるのはまず間違いない。

 

夥しいほどの血が流れる。

 

ジークハルトには言わずとも理解出来た。

 

彼らは本気だ、第三帝国の為にアンダーワールドを地獄に変えるつもりだろう。

 

「これが我々としての今回の死者に対する手向であると考えています。我々は今回の犠牲者に報いなければならない。貴方もそう思うでしょう?シュタンデリス准将」

 

フリシュタイン上級大佐はジークハルトの方を向き彼にそう投げかけた。

 

ジークハルトは決してその問いに答えることはなかったが既に己の中での答えは出ている。

 

この総統暗殺未遂事件は再び銀河系に暗い影を残した。

 

暗黒の時代はまだまだ続く。

 

それでも明るい未来を信じて人々は足掻き続けるのだ。

 

それがたとえ親衛隊の将軍だとしても、レジスタンスの情報部員だとしても。

 

皆が足掻いた先に望んだ未来があると信じて。

 

 

 

 

つづく




イノベちゃんだよォ!!(ドアをぶっ壊す音)

はい皆さん明けましておめでとうございます、今年1発目のナチ帝国!書き始めってやつですね!

今年中に終わるかは分かりませぬが気長にお付き合いください

まあきっとナチ帝国はナチ帝国のままなので(?)

そいではまた〜




クラリッサ「スパイスですわ!スパイス始めですわ!」
マルス「そんなことしなくていいですから」


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最高議長が遺した遺産

「クローン戦争期の軍需生産は、後の帝国の大幅軍拡の比ではない。例えるならそれは僅かな木々しかない砂漠地帯から突然豪勢な宮殿を出現させるようなものだ。むしろ魔法の類と言っていい。そして不思議なことに一部の造船所では“突然”魔法でもかけられたような速度で軍需品を吐き出し続けることが多々あった。もしかするとそれはジェダイの魔法かも知れないし或いはもっと別の存在が背後にいるのかも知れない。今となっては判別しようがない問題だが」
-クワット・シティ文庫 軍需のクローン戦争史より抜粋-


-レジスタンス領 最高司令部所在地 イリーニウム星系 惑星ディカー-

代理総統暗殺未遂事件の報せはその失敗と共に各銀河へと届けられた。

 

総統はこの日、旧帝国首都にして現在の第二首都であるベアルーリンからコルサントに向かうスケジュールの予定が大幅に遅れていた。

 

それでもようやくコルサントに帰還しセントラル地区の演説会場に迎えるとコルサントの軌道上で総統を始め誰しもが思っていた時、彼らの運命を変える出来事が起きた。

 

セントラル地区宇宙港に向かおうとするある二隻の輸送船が衝突事故を起こしたのだ。

 

事故の影響でコルサント軌道上の一部が閉鎖され当然セントラル地区宇宙港行きの航路も交通どめとなった。

 

総統一行は再び待たされる事となった。

 

だがこれがよかった、この事故のおかげで総統の命は救われる事となる。

 

この間に会場での爆破テロが発生しそれとほぼ同時期にセントラル地区宇宙港の政府専用ハンガーベイ区画も同様に爆破された。

 

軌道上でこの事件の内容を知った総統一行は進路を変え、急いで総統府へと向かった。

 

同刻、会場での爆破テロを察知した国防軍最高司令部及び親衛隊最高司令部は直ちに行動を開始した。

 

まず双方が現地のセントラル地区一体に部隊を派遣し総統府、帝国議会(ライヒスターク)、国防軍本部、親衛隊本部、その他各行政府官庁街などの重要な施設を封鎖し一体の警備に当たった。

 

コルサント本国防衛艦隊も行動を開始し軌道上に全艦艇を配置し非常時に備えて外部の敵の襲来を警戒した。

 

クローン戦争時のコルサントの戦いのようなことがあってはならない。

 

それと同時にコルサント本国防衛艦隊は真っ先に総統が乗船する船を発見し総統府までの航行を守る護衛部隊を展開した。

 

これにより代理総統一行は総統府まで安全に辿り着くことが出来た。

 

総統府に辿り着いてしまえばもう命の危険はない。

 

総統は急いで総統府の厳重な警備の敷かれた地下壕に籠った。

 

その間に会場にいた聴衆客達は警備隊やジークハルトの指揮によって脱出しそれと同時にフリシュタイン上級大佐率いる部隊が内部に突入を開始した。

 

テロリストたちは殆どが打ち倒されるかどこかへ退避して事件は幕を下ろした。

 

彼らの目論見は失敗に終わりいたずらに犠牲を生み出す結果となったのだ。

 

無論事件の内情はディカーにいるディゴール大臣達にも届いた。

 

司令室には前線各所の部隊を見回っている為ホログラムでの出席となった。

 

逆に今度は各地の抵抗勢力の教育を終えたハンとチューバッカがディカーに戻ってきていた。

 

更にはボーラ・ヴィオからなんとか離脱したカルとアソーカもディカーの司令部にいた。

 

今のディカーにはレジスタンス随一の高官が多く揃っておりまた同時にレジスタンスが持つ最精鋭の特殊戦力でもある。

 

特に今まで軍の助っ人として活躍していた2人のジェダイもディカーに来た途端ディゴール大臣から臨時のジェダイ将軍となるよう階級章と書類が渡された。

 

今のレジスタンスは縋れるものはなんでも縋りたいだろうし軍の命令をこれで素早く展開出来るようになる。

 

「…それで、結局の所総統は生きている…ということだな…?」

 

ディゴール大臣はモン・カラからボサウイに移った情報将校のアルド・バロダイ対第三帝国情報収集課主任に尋ねた。

 

彼は普段MC75スター・クルーザー“テンペラス”を旗艦とする戦闘群に属しておりそこで情報将校として活動していた。

 

その為今回の事件もいち早く第三帝国の内情を分析していた。

 

『残念…といえばいいのか、その通りです。しかもコルサント自体の混乱は予想よりも遥かに低く、犠牲者も少ないとのこと』

 

「そうか…それでバロダイ主任、それとソロ将軍にも聞かせてもらうが今回の襲撃を行ったのは我々レジスタンス、もしくはレジスタンスに合流していない旧新共和国軍の残党、我々と協力する抵抗勢力の仕業に当てはまるか?」

 

これが一番重要な質問だった。

 

少なくともディゴール大臣やレイア、他の将軍や提督達の命令で総統暗殺の命令は出していないはずだ。

 

そもそも何度か立てられた計画だって全て様々な要因が重なって頓挫した。

 

何より今回の暗殺未遂事件は民間人の犠牲もかなり多く出ている。

 

レジスタンスとしても“()()()()()()”とは思えなかった。

 

『少なくとも私が知る限りでは全て当てはまらないと思います。現状入ってきた情報だけ取っても2年前に崩壊したコルサントの防衛軍の残党が行動を起こしたという可能性も考えにくいです』

 

「こっちとしてもやるように命令した覚えはないし事前報告もなかった。それに俺達がなんとかコルサントに入って戦いを教えた時の規模を考えても宇宙港のハンガーベイ一つと建物一つを爆破させて襲撃するなんて事は不可能なはずだ」

 

2人の意見は完全に一致しており総じてディゴール大臣が挙げた懸念はどれも払拭された。

 

「となると我々の関係者以外の武装勢力が行動を起こして失敗した、という事だな?」

 

「そうなるな、第三帝国のやってる事を考えると俺達みたいな連中以外の恨みも相当買ってそうだしな」

 

『襲撃する武装勢力に関する情報がまだ限られている為何とも言えませんがその線が最も可能性が高いと思われます』

 

コルサントは広い。

 

あの何千層もの都市惑星には単なる中央政府の機能、行政府機能、権力者達が住んでいるだけでなく多くの中級、下級層の人々も多く住んでいる。

 

それ以外にも裏社会との繋がりのある者やコルサントに根付いた犯罪カルテルが存在している。

 

第三帝国はそれらに対してかなり徹底的な弾圧を行なっていたし関係のない貧困層にも激しい弾圧や搾取を行なっている為それらの不満が爆発した可能性もある。

 

無論コルサント内に潜入したレジスタンス関係勢力以外の反第三帝国の勢力が行動を起こした可能性も十分にある。

 

今の限られた情報の中で真実を選び抜くのは不可能であろうし恐らく当事者の第三帝国とてそれは同様だろう。

 

「分かった、引き続き情報収集を続けてくれ。軍全体にも詳細を伝えろ、それと恐らく帝国はさほど混乱していない。この気をチャンスと思って下手に攻勢に転じるのは控えるよう添付を」

 

「了解…!」

 

ディゴール大臣は部下の幕僚に指示を出すと再びホログラムの方に目線を向けた。

 

今度はそこにシス・エターナル軍の動きが表示されていた。

 

むしろ今ではレジスタンスに対する脅威は第三帝国よりもシス・エターナル軍の方が遥かに上回っている。

 

どんなに限界でも辛うじて維持されていた惑星ロザル、惑星サンクチュアリの失陥によりレジスタンス軍最大の戦力を誇るモン・カラ周辺は一気に後退した。

 

ドゥミナス宙域とロザル宙域の勢力圏を完全に喪失し遂にはモン・カラ宙域内に侵入された。

 

しかもシス・エターナル軍は分散し更に多くの範囲に被害を与えている。

 

このままではレジスタンス軍が一気に艦船と兵員不足に陥ってもおかしくない。

 

かき集めた新共和国軍の遺産がシス・エターナルの紅き一撃によって徐々に溶かされ続けていた。

 

「シス・エターナル軍は主にモン・カラ戦線に注力していたはずだが…今回のタノ将軍とケスティス将軍の任務の結果、リド星系にも密かに展開していたことが判明しそしてリド星系の惑星ボーラ・ヴィオはシス・エターナル軍によって破壊された」

 

星図からボーラ・ヴィオが消失し代わりにシス・エターナル軍の行動範囲を示すマークが表示された。

 

既にシス・エターナル軍は惑星の破壊と共に撤退したようだが。

 

「シス・エターナルもボーラ・ヴィオの廃棄されたクローニング施設を制御していたジョルースを狙っていたようだった。彼らにとってもジョルースは十分脅威だ」

 

「それでジョルースとその一味は2人が打ち倒したんだろ?」

 

ハンはカルとアソーカに尋ねた。

 

2人は顔を見合わせアソーカが「戦闘はしたけど私達が行く頃には既にジョルースは討たれていた」と付け加えた。

 

あの狂気のクローンの老人を倒したのはアソーカではない。

 

「となるとシス・エターナル側のフォース感受者の戦士か…こちらとは戦ったのか?」

 

「いや、ジョルースを倒して施設を制圧したことで撤退を始めていたから直接対決する事はなかったけど……」

 

再びアソーカはカルと顔を見合わせた。

 

この事を話していいのかどうしても踏ん切りがつかなかった。

 

2人があの地で知ったことは事情を知ったとはいえ衝撃に値するものだった。

 

「“ある人物”から、これを貰った。とても大切な情報がここに入っている」

 

アソーカは決断しある物体を差し出した。

 

ハンやレイア、ディゴール大臣らはアソーカが手に持つ物体に目を向けた。

 

レイアは真っ先に「ホロクロン…」と答えた。

 

「一体誰からこれを?」

 

ディゴール大臣は見覚えがあるのかすぐにアソーカに尋ねた。

 

「それは…まずこの中身を見てからにして欲しい」

 

ホロクロンは基本的にフォース感受者ではないと開錠できない。

 

その為アソーカは自らのフォースの力を用いてホロクロンを開錠した。

 

カイバー・メモリー・クリスタルに宿された記憶が掘り起こされる。

 

シス・エターナルの戦いとの趨勢を決める、大切な情報が。

 

 

 

 

 

 

-インナー・リム・テリトリー チャルダーン星系周辺 惑星C-a12 旧共和国造船所-

ハイパースペースからジェルマン達を乗せたUウィングがジャンプアウトし放棄された旧共和国時代の造船所が彼らの目の前に現れた。

 

クローン戦戦争は相対する両陣営が互いに相手を越えようと、足りなかったものを埋めようと本来一千年分の間に作るべきだった兵器を作り続けた。

 

共和国側はクワットやコレリア、レンディリ、多くの造船所から多くの軍艦と兵器が出現しそれらが元々いた諸邦の兵とカミーノで製造されたクローン・トルーパーによって運用された。

 

だがそれだけでは足りなかった。

 

特に銀河共和国の場合、質や工業力はともかく物量の面ではバトル・ドロイドに対し劣勢であり1人でも多く、1丁でも多く、1門でも多く、1機でも多く、1台でも多く、一隻でも多くの物を求めた。

 

その結果両陣営とも放棄された旧時代の造船所を密かに再利用し始めた。

 

そのうちの一つがこのチャルダーン星系に位置する惑星の軌道上に存在する旧共和国造船所地帯だ。

 

この造船所の名前の由来は新共和国や帝国から見ての前時代の共和国ということではなく、本当にシス帝国と戦争をしていた時代の共和国時代から存在していたという理由で名付けられた。

 

シス帝国に対抗する為に本来は作られた造船所であったが戦争が終わるとこの造船所は現地のチャルダーン政府に譲渡された。

 

チャルダーン政府はしばらくこの造船所を使って製品を作っていたのだがやがてチャルダーン本星の軌道上に造船所を構築した為用済みとなった造船所は旧造船所として観光資源化され、実質的な造船所としての機能を終えた。

 

クローン戦争が始まる前は。

 

あの戦争は銀河を一変させたと同時に過去のものにも命を吹き込んだ。

 

かつて戦場を駆けたジェダイは再び将軍となり、解散した共和国軍はパルパティーン最高議長の名の下現代に蘇った。

 

そしてチャルダーン星系に存在していた造船所もそのうちの一つである。

 

既存の生産ライン以上の物を確保する為にこの造船所も現代技術が導入され再び稼働を始めた。

 

一度はあのシーヴ・パルパティーン最高議長も何人かの顧問団と共にこの造船所を視察し建造され戦場へと向かう大量の艦艇を見送ったこともある。

 

大量の艦艇がチャルダーン軌道上造船所と共に建造されすぐさま造船所に投入された。

 

クローン戦争で共和国側を支えたのは間違いないが戦争が終わった数ヶ月後、再びこの造船所は放棄された。

 

有事の緊急措置であった上、帝国の今後の精密に練られた軍拡計画であれば別に過去の古い造船所を態々使い続ける必要もなかった。

 

その上観光資源としての価値も見込めなくなった為この造船所は完全に放棄されてしまった。

 

()()()()()()()()()()()”。

 

「あれが旧造船所、流石に数十年前まで現役かどうしていただけあってとりあえず動けそうだな」

 

「本当にこんな場所に兵器が眠っているのか?少し怪しいんだけど」

 

ジェルマンは人気のない元造船所地帯を眺めながらそう呟いた。

 

各所の造船宇宙ステーションは文字通り死んでいるという言葉が相応しい様相で宇宙空間の静けさと同調していた。

 

「だが司令部が決めたことだ。なければせめて何か土産に持っていく必要がある。それより、先についてるインフェルノ隊とやらからは連絡はついたか?」

 

「念の為、特別回線で送ってる。本当についてるなら後少しで繋がると思うけど」

 

今回はジェルマンとジョーレンのチームの単独での任務ではなく別の特殊部隊との合同任務だった。

 

それがインフェルノ分隊、帝国の特殊部隊ユニットがほぼ丸々亡命し新共和国軍の特殊部隊として再編成された。

 

帝国時代と同じくレイダー級コルベット“コルウス”を拠点としてレジスタンスとなった今での活動している。

 

「インフェルノ分隊かぁ…名前だけは聞いたことあるが正直、どうなんだ」

 

ジョーレンはジェルマンに尋ねた。

 

彼が同盟軍の特殊部隊員として第一線で活躍していた頃はまだインフェルノ分隊などなかったはずだ。

 

しかも元帝国の特殊部隊、この肩書には誰もが一度は何らかの抵抗感を覚える。

 

ジョーレンとしても言葉の意味の中には信頼して背中を預けて大丈夫なのかという小さな最も重要な疑念が混じっていた。

 

「少なくとも5年も新共和国やレジスタンスの為に戦っているしアクバー元帥やオーガナ議長達からの信頼も篤い。それにインフェルノ隊は第三帝国の引き抜き工作が発生した時も離反しなかった」

 

第三帝国と新共和国の開戦前、新共和国側のコルベット艦が第三帝国側に亡命するという事件が発生していた。

 

そのすぐ後に両国が開戦し新共和国が崩壊してしまった為事件の詳細は分からずじまいとなったがその後のレジスタンス軍の一部組織の調査の結果、殆どが旧帝国と何らかの深い関わりのある人物だったことが明らかになった。

 

元老院議員アルセン・バレムは以前は帝国のCOMPNORの官僚だった疑惑がありその疑惑を自ら証明するかのように亡命後、第三帝国COMPNOR委員となった。

 

元老院情報委員会のルーズ・イルセと保安評議会ルイズビット・チェコスタは2人とも以前は黎明期の帝国情報部の職員でありその後地元の政府の安全保障組織に移ったようだがそれでも帝国の繋がりは深かったと見ていいだろう。

 

艦隊司令部のクリティス・ジュノール少将と逃走したコルベット艦の艦長であるダリック・ネイツ艦長は2人とも元惑星防衛軍ではあるのだがネイツ艦長はエンドア戦の直後まで帝国宇宙軍の大尉であり、ジュノール少将も元はインペリアル級の艦長であったことが発覚した。

 

2人とも巧妙に自らの過去を偽造しあたかも元から惑星防衛軍の将校だという風に偽っていたのだ。

 

あの混乱した銀河内戦直後の新共和国ではそれほど深く調べる余裕も時間もなかったし誰も調べようとしなかった。

 

何よりセフ・コンのドレクス・ホウブレン保安中隊長は元ストームトルーパー・コマンダーであった。

 

そもそもセフ・コンとは新共和国の衛星刑務所の警備隊であり当時の責任者のメージャーノン軍曹と更に元ストームトルーパーや帝国贔屓の者達がセフ・コンの警備兵として活動していた。

 

その為セフ・コンには新共和国時代からずっと疑いの目が掛けられ、あのランドだってメージャーノン軍曹の責任者に任命することには反対したのだ。

 

何度か新共和国の安全保障会議で「セフ・コンを廃止すべきだ」との意見が出たのだが、軍縮路線に舵を取り余力もあまりなかった当時の新共和国がセフ・コンを解体し新しい新規の警備隊を展開することは現実的にも不可能だった。

 

結果セフ・コンは新共和国が崩壊するその時まで存続し戦うことなく新共和国崩壊後、さも当たり前のように帝国に寝返りそのまま第三帝国の一部隊として掌握された。

 

今は第三帝国グリムドック強制収容所の警備隊、第447FFグリムドック警務旅団“セフ・コン”として再びストームトルーパーとなり刑務所の中にいた囚人達と共に今度は逆に見張る側になっていた。

 

つまり、あの事件で亡命した者達は皆元帝国と何らかの関わりがあり亡命するべくして亡命したといった様相だった。

 

されど元帝国軍の特殊部隊で将校も多くいたインフェルノ分隊からは誰1人も亡命者を出していなかった。

 

これだけで十分信頼は担保されているはずだ。

 

新共和国が崩壊した後も、各部隊が残党軍として個別に戦っていた時も、レジスタンス軍が形成された時もインフェルノ分隊は自由の為に戦った。

 

今後も彼らが第三帝国や他の帝国残存勢力に亡命することは絶対にないだろう。

 

少なくともジェルマンはそう思っていた。

 

「それに腕前だって実績がある。何せ我々が散々味わってきたんだからな」

 

最後にジェルマンは皮肉り2人は苦笑を浮かべた。

 

するとかけていた通信がようやく繋がった。

 

『こちらレジスタンス特殊作戦司令部所属、“コルウス”』

 

コルウス”の側からジェルマン達のUウィングに通信が入った。

 

「こちら同じくレジスタンス特殊司令部所属“シールズ”、ジェルマン・ジルディール大尉だ。“コルウス”、そちらの所在を教えてくれ」

 

待っていましたとばかりに通信機越しの“コルウス”のオペレーターは大きく息を吸い込みすぐに位置を教えた。

 

『中央制御ステーション近くに停泊している、こちらで座標を座標を送るが直ちにステーションへ向かってくれ。我々の指揮官が待っている』

 

「了解した“コルウス”、直ちに向かう」

 

通信を聴いていたジョーレンはジェルマンと顔を見合わせて操縦桿を傾けステーションの方へ向かった。

 

若干機能が生きているのか先行したインフェルノ分隊が復活させたのか定かではないがステーションのハンガーベイの偏向シールドは起動状態にあった。

 

これがなければUウィングから外に出るのも一苦労だ。

 

「あれが“コルウス”ってやつか?」

 

ジョーレンはコックピットから見える一隻のレイダー級コルベットを指差し呟いた。

 

通常のレイダー級とは違いTIEのパネルが取り外され代わりに赤いラインが船体に引かれている。

 

帝国軍が扱うレイダー級とは見るからに違う上にこの艦からは友軍であるという信号が出されていた。

 

「そうこれだよ、資料でしか見たことなかったけど」

 

「帝国のレイダー級を改造してそのまま使っているのか。確かに特殊部隊用としては扱いやすそうだ」

 

レイダー級は元々コルベット艦であるがそこそこ重武装で機動力にも優れ、艦載能力もあり少人数でも十分運用出来る。

 

特殊部隊が移動型拠点として扱うにはもってこいのの軍艦だ。

 

それはずっと帝国の敵側の特殊部隊員をしてきたジョーレンから見ても感じられることだった。

 

彼らを乗せたUウィングはそのままステーションの内部に入りそのまま着陸した。

 

機体のハッチが開き武装を整えた2人の男が出てくる。

 

「行くぞ」

 

ジョーレンを先頭にいつも通り2人は任務を開始した。

 

前へ前へと前進し徐々にビューポートから外の宇宙空間と本来の造船所区画が見え始めた。

 

そこで2人は驚くべき事実を目にした。

 

「ちょっと待て……おい、おいおいおいおい……嘘だろ……」

 

真っ先に驚いて足を止めたのはジョーレンの方だった。

 

彼は手でジェルマンを押さえブラスターは握りしめつつも目線は完全に造船区画の方に行っていた。

 

口がぽかんと開き瞳孔は開いている。

 

「いや……まさか……俺たちが回収してこいって言われた兵器は…“()()()()”……なのか…?」

 

ジョーレンも驚いているがジェルマンも十分驚いている。

 

何せ彼からしてみれば教科書や講義の中に出てきた過去の遺産が今目の前に綺麗な状態で存在しているからだ。

 

しかもそれを回収してこいと言われている。

 

「いやそれよりも……ここはもう、“()()()()()()()()()()()”…?」

 

ジェルマンはジョーレンに尋ね再確認しようとした。

 

この状況を見ればもう一回確認したくもなる。

 

ジョーレンも断言出来ずに「そのはずなんだが…」と言葉を濁した。

 

2人ともこの異様な光景に脳が拒否反応を示している。

 

だがジョーレンからしてみればある種“懐かしさ”も感じると言っていいだろう。

 

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無人で、放棄されたのにも関わらずこの造船所では今でもクローン戦争時代に活躍した艦船が建造され続けている。

 

その中には司令クルーザーではないアークワイテンズ級や旧共和国時代の設計のヴィクトリーⅠ級、そして何より目を引くのが今はもうとっくの昔に退役したヴェネター級スター・デストロイヤーの存在だった。

 

このスター・デストロイヤーはクローン戦争中にとにかく大量に建造され続け共和国宇宙軍の主力艦として共和国軍の戦線を維持し数多の星々を開放していった。

 

戦争後期に後のインペリアルⅠ級であるインペレーター級スター・デストロイヤーが出現したのだが少数生産であった為共和国軍の主力艦としての印象が強いのはヴェネター級だった。

 

帝国の黎明期もこの艦は戦後の銀河の治安を維持しインペリアル級や次世代の軍艦達にバトンを渡したはずだった。

 

されどこの放棄された造船所では未だに旧時代の軍艦を誰もいないのにも関わらず建造し続けていた。

 

しかもここで建造されている艦船は皆ある程度整った、今から戦えそうな様相でヴェネター級とてクローン戦争の時のように敵艦と撃ち合い出来そうな雰囲気だった。

 

この造船所には人もいなければドロイドや自動で建造するシステムも全て機能停止している。

 

何せ放棄されているからであり今この地に足を踏み入れたのはジェルマンとジョーレンと先行していたインフェルノ分隊くらいだ。

 

恐らく数十年無人、されどこの造船所は無人であるのにも関わらず資材を使い残された設計通りに軍艦を建造し続けていた。

 

例えそれがもう使われていない旧時代のものであってもだ。

 

「この造船所は今も“()()()()()()”…?なんでヴェネター級を…いやそれよりも、ここの兵器を本当に持っていくのか…?使い物になるのかすら…」

 

懐かしいと思う気持ちと同時にジョーレンはこの戦争でここで造られている艦艇が役に立つのか疑問に思った。

 

まず懐かしいと思う気持ちはやはりクローン戦争に従軍した時、これと同じ情景を何度も見たからであろう。

 

なんなら今目の前で建造されている軍艦に乗って戦場まで送られたこともある。

 

自分が乗艦するヴェネター級が敵艦との乱戦に巻き込まれ小破、中破のまま近くの宇宙港や軍事基地に立ち寄って修復を受けて再び戦場に戻るなどよくあることだった。

 

その度に目の前の光景を目にした。

 

だから懐かしい少年の日の思い出が蘇ったようだった。

 

その反面そんなもう28年、長ければ30年近く前の軍艦が役に立つのかという至極真っ当な疑問もジョーレンは持っていた。

 

確かにアークワイテンズ級やヴィクトリー級は今の戦場でも使われているがこれらは全て何度もマイナーチェンジを重ねて今も第一線に立っている。

 

それこそシステムや搭載兵器がクローン戦争時代のままならこの戦いにはついていけないかもしれない。

 

「だが今の状況じゃないよりマシだ。それにバラせばネビュラ級やスターホーク級の資材として使える」

 

ジェルマンの言うことも尤もらしいことだった。

 

今のレジスタンス軍は慢性的な艦船不足に悩まされている。

 

少しでも艦隊の足しになれば今の状況を打開するきっかけとなるかもしれない。

 

様々な感情がこの訳の分からない光景と共に存在していた。

 

「インフェルノ隊と合流してこのステーションの司令塔に向かおう、ここを占拠すればきっと造船所の全艦船を一気に…」

 

ジェルマンの提案はジョーレンによって遮られすぐに武器を構えるようハンドサインを出された。

 

このおかしな状況でもジョーレンの技量と知能は全く衰えていないようですぐに異変に気づいた。

 

ジョーレンは指で近くの監視カメラを密かに差した。

 

ジェルマンはすぐにその意図に気づいた。

 

僅かながらにだがカメラが動いているのが分かる。

 

「どうする」とジェルマンはジョーレンとアイコンタクトを取った。

 

ジョーレンはブラスター・ピストルに手をかけつつ気づかないフリをして歩き始めようとした。

 

するとカメラは機能を停止し動きを止めた。

 

それとほぼ同時にある1体のシーカー・ドロイドが目の前から現れた。

 

2人は足取りを止めたがすぐにこのドロイドが味方だと言うことが理解出来た。

 

色合いが通常のシーカー・ドロイドと違う上にこのドロイドの背後からある2人の人物が現れた。

 

片割れのパイロットスーツのズボンを履いた女性が2人の前に出て口を開く。

 

彼女の方をシーカー・ドロイドは器用によじ登った。

 

「待っていた、私はアイデン・ヴェルシオ中佐。インフェルノ分隊の隊長だ」

 

黒髪の女性は自らの名前を名乗り手を差し出した。

 

アイデン・ヴェルシオ、本来もう当分は戦うはずのなかったはずの戦士がまた1人、ジェルマン達と共に戦うこととなる。

 

 

 

 

-第三帝国領 首都惑星コルサント 親衛隊医療病院-

あの大テロ事件は多くの犠牲者と負傷者を出し、世間に衝撃を与えたがそれまでだった。

 

恐らく敵の目標であったはずの代理総統は生存しておりすぐにホロネットを通じてだが声明を発表した。

 

この卑劣な暴力行為は愚かな反乱分子によるものであり第三帝国と全ての国民に対する挑戦である、と。

 

すぐにISB、FFISO主導による主犯勢力掃討作戦の実行が発表された。

 

これと同時にアンダーワールドの“()()”を完璧に済ませてしまおうという魂胆もあるのだろうがどの道再びコルサントで夥しい数の命が奪われる事となるのは間違いなかった。

 

無論一般の国防軍と親衛隊も掃討作戦の支援を行うよう要請があり幾つかの部隊が既に動き始めていた。

 

それは親衛隊の軍病院にいたジークハルトもだった。

 

「パパはいつになったらお家に帰れるの?」

 

マインラートはジークハルトが寝ているベッドの隣で彼に尋ねた。

 

「明日には退院出来るよ。まあでもお休みはだいぶ先になっちゃったけどな…ハハ」

 

マインラートの頭を撫でながらジークハルトは乾いた笑いを浮かべた。

 

本当ならあの会場で代理総統の演説を聞いた後は暫く休みが取れるはずだった。

 

それがあのテロによって全て潰されジークハルトも傷を負った為病院に入院せざるを得なくなった。

 

しかもテロ組織掃討作戦の為ジークハルトと彼の部隊も宇宙港やアンダーワールド・ポータルの封鎖に駆り出される為再び休日は遠くへ行ってしまった。

 

「取り敢えず、掃討作戦終了後に休みを取るつもりだ。その時に遊びに行こうな」

 

「うん!」

 

「失礼します」

 

ドアが開きヴァリンヘルト大尉とアデルハイン大佐の副官であるハストフルク上級中尉が入ってきた。

 

彼も度重なる戦いで上級中尉に昇進し白兵戦章を受賞した。

 

彼らが入ってきたということは家族にも言えない仕事の話があるということだ。

 

ジークハルトは「ごめんな、お父さん仕事の話があるから少し外にいってもらえるかな」とマインラートやホリーに伝えた。

 

「うん、わかった。行こう」

 

「うん」

 

先にマインラートはホリーを連れて病室の外へ出た。

 

「ああ…すみません」

 

ヴァリンヘルト大尉は気まずそうにユーリアに謝った。

 

「いえ、お構いなく」

 

ユーリアはジークハルトに微笑みかけると2人の子供達と共に病室を出た。

 

ジークハルトは身体を起こし一気に表情が固くなり1人の父親の姿から1人の将校の姿になった。

 

「それで、何の用だ?」

 

「掃討作戦の会議が終了し我々の配置が決定しました。会議には准将の代わりにアデルハイン大佐が出席なされた為代わりにハストフルク上級中尉が」

 

上級中尉は敬礼しヴァリンヘルト大尉に代わってハストフルク上級中尉が説明を始めた。

 

「まず我々の配置はセントラル地区全域で第31義勇擲弾兵団一部隊と共に地区内の封鎖、及び監視です。宇宙港、ポータルを重点的に封鎖し中から1人も逃すなということです」

 

「第31義勇兵団といえば…」

 

「ああ、我々と共にこれからナブーを奪還する予定のデア・フルス・ソルー兵団のことだ。まあここで簡易的な実戦を交えての連携力の強化を行いたいのだろう」

 

とはいえたったひとつの地区にそこまで兵員を注ぎ込む必要もないと思うが。

 

文字通り虫1匹たりともアンダーワールドから出れなくするつもりなのであろう。

 

保安局の連中が中でやることを含めても外部に何ももれないということは相当重要だ。

 

「今閣下の代わりにアデルハイン大佐が中心となって簡易的な作戦を決めています。尤も我々は掃討の実行部隊ではないのでそこまで難しいものではありませんが」

 

「ハイネクロイツとメルゲンヘルク大佐はどうしてる」

 

「一応第21航空旅団と“ライアビリティ”は空中及び軌道上の警備を命じられています。その為作戦会議には出ていましたが掃討作戦中は軌道上におられるかと」

 

恐らくデア・フルス・ソルー兵団側の軍艦や航空部隊もハイネクロイツ大佐やメルゲンヘルク大佐と共に警備に当たってくれるはずだ。

 

それ以上に通常のコルサントの警備隊もフル動員されるはずなので空も空の先の警備は問題ない。

 

「明日、より正式な情報が閣下に送られるかと。そこに何か問題点などあれば是非お申し付け下さい」

 

「分かった、まあアデルハイン達なら恐らく問題はないだろうがな。他に何かあるか?」

 

「いえ我々は…」

 

「私はあるぞ」

 

1人の聞き慣れた男の声が数名の足音と共に聞こえた。

 

ジークハルト直属の上官であるモーデルゲン上級大将で数名の部下を連れている。

 

ヴァリンヘルト大尉とハストフルク上級中尉はすぐに敬礼した。

 

「モーデルゲン上級大将…」

 

ジークハルトも簡易的だがベッドの上から敬礼を送りモーデルゲン上級大将も敬礼を返した。

 

モーデルゲン上級大将も度々目にかけている部下ということもあってかジークハルトの見舞いに訪れていた。

 

しかし今回はこの様子から見て少し違うようだ。

 

「明日退院するそうだな准将」

 

「はい、一応念の為の入院でしたし明日から軍務にも復帰出来ますよ」

 

「それは素晴らしい。早速だが君には明日、総統府へ向かってもらいたい」

 

「総統府へ?」

 

ジークハルトの問いにモーデルゲン上級大将は頷いた。

 

モーデルゲン上級大将はいつも通りの飄々とした態度で理由を答え始めた。

 

「あの事件で会場にいてテロの実行者達と戦闘になった警備隊や将校に勲章を授与する事になってな。君が入院している間に君の副官や連れていた下士官と兵卒にはすでに授与されている」

 

ジークハルトはふとヴァリンヘルト大尉の方に目を向けた。

 

彼は照れくさそうに頷いた。

 

となるとバルベッド軍曹とゼルテック上等兵もなんらかの勲章を授与されたのか。

 

義勇兵の印象向上の為、というわずかな目的がこんな結果で果たされるとは。

 

「特に君は指揮系統が混乱する前に警備隊に的確な指示を出し、犠牲者を最小限に留めつつ負傷するまで戦った。十分勲章を授与するに値する」

 

「なるほど…」

 

「授与式は総統府にて総統閣下が直接行われる。セントラル戦功勲章、戦傷章、そして一等銀十字勲章が授与される、今回の事件で最大の名誉だ」

 

「そうですか、勲章が戴けるとなるとこの傷も負った甲斐がありますよ」

 

ジークハルトは皮肉を込めつつそう呟いた。

 

モーデルゲン上級大将も微笑を浮かべ答える。

 

「総統閣下や周りの閣僚達は今回の君の働きに大いに満足している。無論我々軍部もだ、このままナブーまで取り返せば君は少将への昇進が確定し親衛隊の中枢に入る事となる」

 

やがては上級大将に、その期待がモーデルゲン上級大将から溢れていた。

 

実際似たようなことを既にバエルンテーゼ上級大将からも同じことを言われた。

 

「ということだ、少し未来の話をしてしまったな」

 

「いえ、私や私の部隊としてはまず掃討作戦の封鎖任務に注力しませんと」

 

「そうだったな、だがナブー奪還と共に我々は一気に勝利に突き進む。第三帝国を勝利の未来へ推し進めるのは君だ」

 

モーデルゲン上級大将はジークハルトの肩に手を置きそう告げた。

 

ヴァリンヘルト大尉やハストフルク上級中尉はまだよく分かっていないようだったがジークハルトにはなんとなく分かった気がした。

 

この戦争を終わらせる気なのだ、親衛隊は、国防軍は、“()()()()()()()()()”。

 

シス・エターナル軍の活躍振りと第三帝国との同盟関係を鑑みれば自然とこのワードが出てくる。

 

シス・エターナルが持つあの禍々しい破壊の一撃を存分に利用して文字通りこの世から敵を消し飛ばすつもりなのだろう。

 

夥しい犠牲と共に、その先の扉はナブー陥落によって開かれる。

 

となればジークハルトの一押しでその先の地獄は開かれるのかもしれない。

 

彼にとってまた気の重くなる、それでいて止まることの出来ない道が再び出来上がっていた。

 

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー首都惑星シーラ チス拡張防衛艦隊司令部 第一ハンガーベイ-

シス・エターナルの紋章とシス・エターナル所属を示すシャトル群がチス・アセンダンシーの首都惑星であるシーラの都市、クサプラーのハンガーベイに着艦した。

 

デルタ級T-3cシャトルを戦闘に残り2機のラムダ級が着陸しハッチが開いた。

 

周りには軽く50人は超えてそうなほどのチス・アセンダンシーの将兵とこの地に亡命してきた帝国軍将兵がシス・エターナルの客人を出迎える為に整列していた。

 

チス・アセンダンシーと亡命帝国軍の軍服は軍事的伝統を共有している為かなり似通っている。

 

特に帝国軍は元々の制服にチス・アセンダンシー譲りのショルダーボードの肩章とベルトがついておりシス・エターナル軍や第三帝国の国防軍ともまた違った印象を見受ける。

 

「着いたようだね」

 

コックピットの座席に座っていたルークはパイロットの1人であるマレック・スティールにふと呟いた。

 

互いに違う機体に乗っていたとはいえ2人はパイロットであり互いに話していると気が合う所や通じ合うところが多かった。

 

「ああ、これからが我々の本当の仕事だ」

 

ルークはマレックの言葉に頷き同調した。

 

シス・エターナルの中枢に位置するルークや皇帝の手であるマレックやマラ・ジェイドが態々ここにきた理由は主にチス・アセンダンシーの領域にいるフォース感受者の教育であった。

 

彼らに正しい力の使い方を教える必要があるのだ。

 

ルークとしては他人に何かを教えるのは初めてではない為あまり不安はなかった。

 

ルークはしばらくデルタ級のコックピットの窓から外を見つめていた。

 

窓の外には一糸乱れぬ姿で整列する将兵の姿があり当然といえば当然だが青い肌を持つチスと普通の人間である帝国軍の将兵がなんの違和感もなく肩を並べていた。

 

「どうした?」

 

「そろそろ出るぞ?ルーク?」

 

マレックと奥から出てきたマラ・ジェイドはルークを急かしたがルークはしばらく窓の外の光景を見つめていた。

 

「…いや、なんでもない。行こう」

 

ルークはマレックやマラ・ジェイドの後に続いていった。

 

一方同じくチス拡張艦隊司令部ではルーク達シス・エターナルの顧問団を出迎える為、国家元首であるリヴィリフ、宰相ラストーレ、そして亡命帝国の代表としてヴィルヘルムとタッグ元帥が来ていた。

 

彼らはこの数時間前まで艦隊司令部に駐留しているチス・アセンダンシー製のスター・デストロイヤーを視察していた。

 

この軍艦を基として多くのチス・アセンダンシーのスター・デストロイヤーがまだ見ぬスター・デストロイヤーの大軍と共に銀河の防波堤となるのだ。

 

彼らはシス・エターナル側の顧問達が魔買うようセッティングした司令部の応接室に向かっていた。

 

ここでチス・アセンダンシーとシス・エターナルの関係性をアピールし共に未知領域の防波堤として協力していくことを示す必要があった。

 

これからそう遠くない未来にやってくるあの怪物はチス・アセンダンシー単独で防げるものではない。

 

多くの協力者が必要なのだ。

 

「陛下、シス・エターナルの顧問団が到着されました」

 

チス拡張防衛艦隊の将校がリヴィリフらに声をかけた。

 

リヴィリフは「分かった」と返答し応接室に高官らと共に入った。

 

すでに中には数名の帝国軍とチス・アセンダンシー拡張防衛軍の将校らが入っておりリヴィリフやヴィルヘルムらに敬礼した。

 

ここにいる全員が将官クラスの超高官だ。

 

中には参謀総長のシャポシニコフ元帥やヴァシレフスキー少将、アララニ提督、技術将校であるブライアリー・ロナン将軍など多くの名だたる将官が並んでいる。

 

「シス・エターナルの顧問団は確かフォース感受者の教育だけではなくスターファイターや技術も含まれていたな?」

 

ヴィルヘルムは隣のタッグ元帥に尋ねた。

 

タッグ元帥は頷き「既に新領域の軍管区からも部隊を集めている」と答えた。

 

「しかし…まさかシス・エターナルの側から声をかけてくるとは…彼らは我々以上に秘密主義だと思っていたのだが」

 

ラストーレはふと呟いた。

 

ヴィルヘルムも頷いた。

 

シスといえば銀河系では既に遠い昔、遥か彼方の過去に存在した歴史上の単語でしかないがシス・エターナルは違う。

 

今に至るまで帝国から密かに協力を受けて銀河系を僅かな戦力でも総べるほどの力を手に入れていた。

 

それも自ら銀河に姿を現すまで誰も気づかないほどだ。

 

チス・アセンダンシーも秘密主義を貫き銀河系からしたら半ば伝説的な存在ではあったがそれでもシス・エターナルほどではない。

 

そんな存在が向こうの側から協力を持ちかけてくるなど半信半疑になるのも無理はない。

 

しかも既にチス側にシス・エターナルの力の秘密であるスーパーレーザー搭載型新世代ドレッドノートの設計図を譲渡しているのだ。

 

「だが……あの“()()()()()()”と立ち向かってくれるのなら余は歓迎する。たとえそれが悪魔であろうとなんであろうと…我々と我々の臣民を守れるのであれば」

 

「はい…」

 

リヴィリフの決意にラストーレは強く頷いた。

 

その思いはヴィルヘルムやタッグ元帥も同じだ。

 

例え手を力を貸してくれる者が悪魔であろうとなんであろうとこれから必ず現れる“()()()()()()”を打ち倒すためには利用せねばならない。

 

「その為にも、揃えられるものは揃えておかなければ。“()()()()()()()()()”も当然な」

 

ヴィルヘルムはふと1人の将校の方に目を向けた。

 

その将校は険しい表情で頷いた。

 

「そう重く受け止めるな、我々にはまだ時間がある」

 

「…しかし、私の持つ力でなんとか出来るでしょうか」

 

ジュリアス・ナーン司令官は重い表情でそう呟いた。

 

彼もフォース感受者で今回ルーク達から教育を受ける将兵の1人であった。

 

ナーン司令官はインペリアル級“マゼラン”の艦長であり多くの将兵から慕われ急速に昇進していった。

 

家族にも恵まれ妻と一人娘を愛し社交的で友人も多い絵に描いたような完璧な人物であった。

 

されどそんな完璧超人にも影はある。

 

ナーン司令官の一族にはジェダイの肩書を持った、しかもクローン戦争に参戦したジェダイの戦士達が3人もいたのだ。

 

帝国は公式的にはジェダイは反逆者であり帝国軍人であるナーン司令官にとってそれは大きな汚点となった。

 

奴もジェダイの内通者なのではないか、忠誠心はジェダイの親族にあるのではないか。

 

ただでさえ帝国はジェダイを嫌っているし政治家の中には「ジェダイは1人残らず抹殺し公開処刑にかけるべきだ」と反ジェダイ的な思想を持つ者も存在していた。

 

しかもナーン司令官自身もジェダイの親族同様フォース感受者で娘にもその疑いがあった。

 

風の噂によればフォース感受者はどこかへ連れ去られ二度と帰ってこないそうだ。

 

その為ナーン司令官は自身の親族のことを必死に隠そうとしていた。

 

隠して普通に生きて帝国に尽くしてさえいれば今まで通りの人生を送れる。

 

誰も不幸にならず、妻や娘も幸せになる。

 

だがナーン司令官の必死の苦労は今、彼の目の前にいるヴィルヘルムによって砕かれた。

 

ヴィルヘルムがどうやってナーン司令官の隠したかったことを知ったのかは定かではない。

 

単に偶然かも知れないし、或いは何か気になる点があって調べていくうちに発覚した可能性もある。

 

だがヴィルヘルムは彼の過去を糾弾しようとはせずむしろ彼の“()()”を活かそうとした。

 

エンドア戦後、帝国は完全に崩壊し当時ヴィルヘルムがモフとして統治していたサンクト宙域も軍将として独立せざるを得なくなった。

 

ヴィルヘルムはやがて全住民、全戦力を率いてチス・アセンダンシーへと移住した。

 

そこで彼は鎖から解き放たれある事を実行に移そうとした。

 

それは公でも運用出来るフォース感受者部隊の設立とフォースの力を戦術、戦略単位で扱っていく事だった。

 

こうでもしなければあの“()()()()()()”とは戦えない。

 

()”が残し“()()”が完成させた理論で戦うためにもだ。

 

「君の持つ力はまだ原石のようなものだ。正しく鍛えられ始めて力を発揮する。まだ力を恐れ、力に疑いを持つ時ではない」

 

ヴィルヘルムは不安を持つナーン司令官を宥めた。

 

チスとそれに与する帝国の欠片はこの銀河系で1人、未来の為に準備を進めていた。

 

 

 

 

 

ジェルマン達は無事にアイデン・ヴェルシオ中佐率いるインフェルノ分隊との合流を果たしステーションの中央制御室に向かっていた。

 

ジョーレンが気づいたカメラの稼働は先に訪れ周辺を警戒していたアイデンがジョーレン達の侵入を察知して自身のドロイドに命じてカメラから2人を確認した時のことだ。

 

僅かな動作だったのだがそれに気づくとはとアイデンも感心していた。

 

「見えてきた、あれが制御室の入り口か」

 

インフェルノ隊の隊員であるデル・ミーコ少佐は指を差して全員に伝えた。

 

「システムは動いてるけどドアにロックが掛かっている感じでしょうかね」

 

「ドロイドを先行させる、解除を頼む」

 

アイデンはカラフルな自身のID-10シーカー・ドロイドを先行させた。

 

ドロイドは器用に端末にアクセスしドアを解除した。

 

「開いたようだ、行こう」

 

4人はドアの開錠と共に一気に内部に突入した。

 

アイデンとジョーレンが警戒しつつジェルマンとデル、そしてドロイドがコンソールを操作し始めた。

 

「良かった、やっぱりシステムは生きてる」

 

ジェルマンは軽く操作しただけでもこのステーションがまだ十分機能していることを理解した。

 

少し触っただけでも造船システムや建造中の艦船をここから操作出来る。

 

「ああ、しかもこの造船所は急増で作られたものだから制御は全てここに集約されている。もちろん“()()()()()()()()()()”」

 

デルはコンソールを操作してステーションに停泊してある軍艦を動かした。

 

そのことはジェルマンも知覚しているようだ。

 

「まさか、本当にシステムがここ全てに集約されているとは…」

 

アイデンは事前に聞いていたとはいえ少々驚いていたようだ。

 

だがジョーレンは「作られたのが戦中なら仕方ない。まあ我々としてはありがたいことだ」と軽く流していた。

 

ジョーレンにとってはむしろこれが当たり前だった。

 

何もかもが足りなかったクローン戦争で急いで前線での消費を埋める為にあちこちの施設がフル稼働され簡略化の為に制御機能が一纏めにされている所があっても珍しいことではない。

 

「ジェルマン、全艦艇を操作して全てハイパースペースに流せ。座標はもちろん」

 

「アノート宙域、ベスピン…だろ?」

 

「ああ、その通りだ」

 

ジェルマンはデルやドロイドと協力して建造し終えた艦船を操作し始めた。

 

ジョーレンは戦闘態勢を崩さぬまま室内の窓から外に停泊するこの地で粛々と建造された軍艦達を眺めた。

 

全艦が見慣れた赤と白のカラーリング、しかも並ぶ軍艦はヴェネター級、アークワイテンズ級、ヴィクトリーⅠ級と全てジョーレンがまだ幼き日に乗り込んだものだ。

 

中には僅かばかりだがメイルストロム級も含まれていた。

 

本当にまるでクローン戦争の頃に戻ったようだった。

 

似たような場所で似たような光景を何度でも見てきた。

 

帝国もそうだが共和国軍の施設は基本似たような造りであり一度も来たことがないはずのこの場所も少年の頃いた場所のように見えた。

 

故に心のうちではどうしようもない嫌な感情が湧き出る。

 

「なんだか、昔に戻ったような気分だな…いいことは何一つもなかったが」

 

ジョーレンはこの光景を見つめてそう苦々しいものを吐き出すように呟いた。

 

ジョーレンにとっての10代の時間というのは最悪以外の何ものでもなかった。

 

唯一の肉親を殺され自身は半ば軍隊へ、少年兵として秘密裏に前線へ送られ戦い続けた。

 

多くの戦友を失い戦争が終わる頃には身も心もボロボロだった。

 

あの赤と白の色合いを持つ軍艦の中で過ごした日々はジョーレンとって最悪でしかなかった。

 

あれからが自らの手を染める日々の始まりだったのだ。

 

自らの正しさなど忘れてしまうような日々の始まりだった。

 

「懐かしい…少佐はクローン戦争に?」

 

ジョーレンの独り言を聞いていたのかアイデンは彼に尋ねた。

 

ジョーレンはバツが悪そうに小さく頷いた。

 

「ジェルマンには一度話した事がありましてね。私の父は共和国派だったんですが地元は分離主義の影響が強くある日過激派に襲われて……しかも移住先では私が分離主義者と疑われる始末ですよ」

 

「…なるほど、それは申し訳ないことを聞いてしまった」

 

アイデンは表情を硬らせ謝罪の言葉を述べたがジョーレンは「いえ、もう遠い昔の話です」とはぐらかした。

 

今やクローン戦争など本当にただの昔話に過ぎない、少なくともジョーレンはそう感じていた。

 

かつて殺し合った分離主義者達は今や味方、クローン戦争の勝利を豪語していた帝国は崩壊し第三帝国は遠い昔のクローン戦争の出来事より新共和国を打ち倒した事を豪語している。

 

徐々にあの当時の戦争の栄光の効力もなくなり、いよいよクローン戦争がただの戦史の一部として扱われ始めている。

 

あの戦いで死んでいったジョーレンの戦友達もそう遠くない未来に過去に存在する統計の1人となってしまうのだ。

 

そのことについて悲しみや虚しさを覚える反面ジョーレンはあの頃からだいぶ歳を取り割り切ることも覚えた。

 

そうでもしないとこの仕事は続けられない。

 

「私は…父がその世代だったけど父はむしろ戦後に活躍した人物だった。私の故郷を帝国へ引き込み帝国に尽くし続けた」

 

「ギャリック・ヴェルシオ“()()()()()”は俺も知っていますよ。まあ直接会った事がないので名前だけですが」

 

アイデンはジョーレンから懐かしい肩書きが聞こえた為微笑を浮かべつつそのまま話を続けた。

 

「父からは帝国に常に忠実であれ、と教えられてきた。その為に徹底的に思想を叩き込まれ、技術を叩き込まれ気づけば帝国の特殊部隊になっていた」

 

「しかし、あなた方は自分で帝国から離れた。そして今もなお、どれだけ劣勢となってもレジスタンスに居続けている」

 

ジョーレンからすればそれが驚きだった。

 

この手の特殊部隊は、特に帝国軍は徹底的に忠誠心を叩き込まれ疑う事を知らない。

 

それはジョーレンだって半ば同じだ。

 

たとえ疑問があっても命令は絶対で割り切ってやらねばならない。

 

それなのにアイデンは彼女の部下達と共に帝国を脱し新共和国についた。

 

ジョーレンが新共和国側にいるのは単純に“運が良かった”だけだと彼は思っていた。

 

彼の上官が彼を連れて帝国から脱走したからだ。

 

あの時上官に連れられなければ今もきっとジョーレンは帝国側にいる。

 

「エンドアでデス・スターが破壊され我々は主を失い帝国は崩壊した。だが帝国の指導者達は誰も変わろうとしなかった、戦略的な思考も、忠誠心も」

 

アイデンはあの頃を思い出した。

 

エンドアからフォンドアへ、ピリオから故郷ヴァードスへ。

 

あの僅かな間でアイデンの忠誠心は揺らいだ。

 

それはきっと忠義を尽くす者が消え去った影響もあるしそれ以上に皇帝がいなくなった後の帝国に幻滅に近いものを感じたのもある。

 

だがそれ以上の理由がアイデンには存在していた。

 

「しかも主を失った忠誠心は私の故郷を崩壊させ、私達は“コルウス”に避難民を乗せて逃げるしかなかった。そこで私達は新共和国に頼った」

 

「それで新共和国に合流したと」

 

「それが一番正しい道だと思ったし今もそう思っている。最期は父もそう思っていたはずだ」

 

あの“エヴィセレイター”での最期の会話は今でも覚えている。

 

父ギャリック・ヴェルシオ提督も最期にはアイデンのことを認めた。

 

「だから私はレジスタンスでも戦い続ける」

 

アイデンははっきりとそう決意を口に出した。

 

今度はジョーレンの方がどこか羨ましさを含んだ微笑を浮かべていた。

 

「…俺も今度ばかりは戦って役に立たないとな」

 

ジョーレンはふとジェルマンの方を見つめてそう呟いた。

 

ジェルマンの方はコンソールを操作するデルと話が弾んでいるように見えた。

 

デル・ミーコ少佐はアイデンと同じく元帝国軍特殊部隊員でインフェルノ分隊に招集される前はストームトルーパー、ショア・トルーパー、TIEファイターパイロット、更には軍艦の主任エンジニアなど様々な職を務めた。

 

情報部一辺倒だったジェルマンからすれば珍しい話ばかりだし主任エンジニアとしてはハッキング技術などが得意なジェルマンとも話が合った。

 

「ミーコ少佐はエンジニアだったと聞きましたがスター・デストロイヤーのですか?」

 

「ああ、スター・デストロイヤーの主任エンジニアってのは大変な仕事だ。あの巨大な主力艦を常に万全の状態で保つ必要がある」

 

「最近、特にホズニアン・プライム陥落以降に帝国軍のスター・デストロイヤーに潜入した経験は?」

 

ジェルマンの問いにデルは「ある」と一言で答えた。

 

さらにその後「なんなら潜入してその艦を奪取した」と付け加えた。

 

ジェルマンは一気に目の輝きを変えてデルに尋ねた。

 

「じゃっじゃあ!何か少佐が主任エンジニアを務めていた頃と変わった点はありませんでしたか!?単純な人員とか使っている技術とか」

 

「両方ともある、まず一つは人員だ。地上に部隊を下ろした後だからか大分人員が少なかった。いやむしろ“()()()()()”と言った方がいい。あの時もインフェルノ分隊全員で乗り込んだのだがそれでも4年前以前の方が人員が多かったように感じる。ストームトルーパーどころか宇宙軍トルーパーも少なかったし戦闘もそれほど激化しなかった」

 

デルは敵艦に上陸した時のことを思い返しながら語った。

 

彼らは銀河内戦の頃から何度も帝国軍の軍艦に潜入して奪取を行っていた。

 

その為経験で僅かな違和感に気づけたのだ。

 

「それに艦のシステムもかなりドロイドや自動制御に依存しているようだった。以前であれば何千、何万人の技術者で賄えていたはずなんだが…」

 

「今ではそうではないと……僕が以前インペリアル級に侵入して奪取した時もそう感じました。帝国の軍艦にしては自動システムに頼り過ぎている」

 

だからジェルマンが1人でもインペリアル級をそのまま奪取出来た。

 

あれがもし3万7,000人近くの将兵を乗せたインペリアル級であればそうは行かなかったはずだ。

 

必ずどこかで抵抗を受けて、或いは妨害の部隊を展開されて必ず上手くいっていなかった。

 

だがあの奪取したインペリアル級は明らかにそれほどの大人数で運用されている雰囲気ではなかった。

 

「エンドア以降、帝国は大きく弱体化した。そもそも多くの兵員が分散し潜入したある場所では物資不足と兵員不足に悩まされていた。そしてそれは今の帝国軍も変わらないと俺は見ている。しかも規模の拡大に注力した余り層が薄い。昔のようにスター・デストロイヤーたった一隻の為に数万の将兵を乗せることは難しくなっているように見える」

 

「つまり……帝国軍は完全にかつての姿を取り戻せた訳ではない。むしろ規模ばかり拡大した結果我々にも付け入る隙があると…?」

 

デルは大きく頷いた。

 

帝国は銀河内戦の後、様々な手法を用いて戦力を保全しようとした。

 

だがそれでも保全出来た戦力は所詮元の帝国の半分以下、むしろ半分など夢のまた夢の話だ。

 

それを取り戻そうとした結果が今の第三帝国の帝国軍、いや“()()()”なのかもしれない。

 

「この軍艦だって一体なんの役に立つか分からないがきっと帝国の隙をついて一撃を与える事が出来るはずだ」

 

デルはハイパースペースに突入していくヴェネター級ら旧共和国時代の軍艦を見つめながら呟いた。

 

更にデルは話を続ける。

 

「レジスタンスは今のところシス・エターナルに対して劣勢だ。だが必ず隙はある」

 

正しき道を、かつてデルはピリオでとある男からこの言葉を贈られた。

 

今のデルにとって正しき道とはこの銀河で帝国と戦うことになると思っている。

 

それはジェルマンも同様だ。

 

ジェルマンはこんな絶望的な状況でも“()()”というものを確かに持ち続けていた。

 

今なら帝国を倒せる、それ以上に我々なら倒せるという確固たる自信があった。

 

だがその“()()”を奪おうと銀河の闇は動き始めていた。

 

特に第三帝国ではない“()()”は。

 

それを感知したのはステーションの中にいる者達ではなく外で警戒を続けていた“コルウス”の乗組員達だった。

 

コルウス”のブリッジでは乗組員達が常時周囲に目を光らせていた。

 

この作戦は誰にも悟られてはならない。

 

プローブ・ドロイド1体にでも見つかって帝国軍の部隊がきた途端全てがおしまいだ。

 

「今のところ、異常はないな?」

 

ブリッジでデュロスの男、シュリブ・スールガヴは乗組員達に尋ねた。

 

シュリブはアイデンやデルとは違い元から新共和国軍のパイロットでありデンジャー中隊というスターファイター中隊を率いていた。

 

その後インフェルノ分隊の一員となりシュリブは数々の任務をアイデンやデル、この“コルウス”の乗組員達と共にこなしてきた。

 

「はい、今のところは。コマンダー達も制御室を制圧し続々と軍艦を送り続けています。このままのペースでいけば後1時間も掛からずにあらかた終了するかと」

 

コルウス”の航行士官であるアディアナ・ケイトンはシュリブにそう報告した。

 

彼女はアイデン達がまだ帝国軍にいる頃から“コルウス”の操縦士を務めておりアイデンが帝国から離反した時も真っ先に自分は味方だと告げた。

 

「早めに終わるのはいいことだ。なる早くずらかれるに越したことはない」

 

「はい、しかしあんな古い軍艦なんて役に立つのでしょうか」

 

ケイトンはふと疑問を口にした。

 

「分からんが数は補える、それに贈られる先はあのランド・カルリジアンだ。きっと何か突拍子もないことに使う」

 

シュリブはそう苦笑混じりに答えた。

 

シュリブとランドはかなり古い付き合いだ。

 

昔一緒に新共和国の任務をこなしたこともある、尤もかなり酷い結末となったが。

 

だがシュリブとしては親友のランドを信頼はしていた。

 

無論突拍子もないことをするという条件付きでだが。

 

彼らのたわいもない会話もこれで途切れることになる。

 

それは“コルウス”のセンサー士官の一言によってだ。

 

「…っ!!シュリブ隊長!!ハイパースペースに艦影多数接近!!敵です!!」

 

「何!?距離と数は!?」

 

その一言で“コルウス”のブリッジは一気に緊迫感に包まれた。

 

士官達は顔を見合わせ緊迫した表情を浮かべた。

 

センサー士官は急いで調べ報告した。

 

「恐らくですがスター・デストロイヤーが一隻、セキューター級です。更に付属艦としてゴザンティ級と思わしき艦艇が数隻…」

 

「かなりの大部隊じゃないか…第三帝国か?」

 

「いえ……違います、まだ周辺の第三帝国の部隊の動きはない……恐らく第三帝国以外の敵部隊です…!」

 

その一言は十分ブリッジの乗組員達を困惑させるに至った。

 

何せこの言葉を発したセンサー士官が一番表情を硬らせ冷や汗を垂らしている。

 

もしかするとこの地は何者かの根城で我々は足を踏み入れてはいけない場所に踏み入れてしまったのではないかと。

 

シュリブはアイデンがいない間の指揮官としてしっかり“コルウス”に指示を出した。

 

「ケイトン、今すぐアイデン達に連絡だ。敵が来ると」

 

「了解…!」

 

「艦を出して少しでも時間を稼ぐ!流石に敵艦を撃破するのは無理だろうが足止めは出来るはずだ!俺もXウィングで出る!」

 

「了解!!」

 

シュリブは一通りの命令を出すと足早にブリッジを後にした。

 

流石特殊部隊の司令船、シュリブの僅かな命令だけでも的確に行動し始めた。

 

ステーションの物陰に隠れていた“コルウス”は姿を表す。

 

その間、シュリブはヘルメットを手に取り“コルウス”のハンガーベイに急いだ。

 

コルウス”の艦内では乗組員達が配置につき、あるいは物資を輸送し戦闘体制を整えてていた。

 

警報が鳴り響き乗組員達はあちらこちらへ行き来する、まさに慌ただしいという一言が似合っている。

 

「俺の機体は出せるな!?」

 

シュリブはヘルメットを被ると急いで自分のXウィングに乗り込んだ。

 

座席に座ると早速機体を調整し操縦桿を握り締める。

 

「はい!整備は完璧で弾薬類は全て装填済みです!ですが隊長1人での出撃は…」

 

Xウィングにドロイドを装着している間に“コルウス”の整備士が不安気な表情を浮かべた。

 

セキューター級たった一隻で144機のスターファイターが搭載可能だ。

 

流石に全機が来ることはないとしても相当の脅威であることは間違いない。

 

「“()()()()()()()()()”の名は伊達じゃない。阻めるだけの敵を阻む」

 

「ご武運を…!フォースと共にあらんことを…!」

 

整備士は敬礼し黄色い梯子を取り外した。

 

『ドロイドの設置完了です!』

 

別の整備士がコムリンクでシュリブにそう伝えた。

 

機体発艦の為にハンガーベイの隔壁が解放され薄い偏向シールドの膜が“コルウス”のハンガーベイを覆っている。

 

周囲では整備士や警備兵らが辺りに捌けている。

 

「シュリブ・スールガヴ、出るぞ!」

 

Xウィングを浮上させシュリブは宣言通り“コルウス”のハンガーベイから出撃した。

 

巧みな操縦技術で最小限のエネルギーでシュリブのXウィングは宇宙空間を駆ける。

 

「こちらシュリブ・スールガヴ。アイデン、敵が俺たちに勘付いた!敵艦隊がこっちに向かってる1」

 

『なんですって!?』

 

「今“コルウス”と共に迎え撃つ準備をしている!そっちも戦闘に備えておいてくれ!」

 

『分かったわ…!シュリブも“コルウス”も気をつけて』

 

アイデンからの通信が切れるとシュリブは「ああ…!サラストの時よりはまだマシな状況だ」と1人付け加えた。

 

まだ作戦の途中だというのに敵の来訪を受けるとは運が悪い。

 

だが造船所内の艦船をハイパースペースに流すだけの時間はまだ稼げる、その為にも1分でも長く戦う必要がある。

 

シュリブのXウィングが一気に前進し“コルウス”の前に出た。

 

迫り来る暗黒の軍団を迎え撃つために。

 

新たな戦いが始まる。

 

 

 

 

 

-セスウェナ宙域 惑星エリアドゥ 政府官邸 連邦盟主執務室-

大セスウェナにとっても相当暗殺未遂事件は大きな衝撃が走った。

 

と、同時に第三帝国の構成国の中で最も早く行動したのは大セスウェナであった。

 

セントラル地区でのテロ攻撃を察知した駐コルサント大使館では真っ先にコルサントにいる大セスウェナ連邦の国民を保護し総統府など第三帝国の主要機関に人員を派遣していた。

 

またそれと同時に偶然にも大セスウェナ連邦宇宙軍の部隊が近場のブレンタールⅣで演習を行なっていた為直ちに急行することが出来た。

 

コルサント本国防衛艦隊と協力しコルサントの混乱を抑え同地の安定化を図った。

 

今もブレンタールⅣの演習部隊はコルサントにおり予定ではもう間も無く大セスウェナ連邦領域に帰還するはずである。

 

ヘルムートはその間にFCSIAの将校であるウォーレス・フィスク中佐とアーテル大尉から報告を受けていた。

 

フィスク中佐は帝国保安局時代からカリスマ的な捜査官として知られ彼の才能はFCSIAでも活かされていた。

 

「事件の詳細ですが、本来第三帝国代理総統が演説を始める時間に合わせて会場全体に仕掛けられた爆発物が一斉に作動、壇上からステージの裏は全て吹き飛びました」

 

フィスク中佐は何も見ずにすらすらとヘルムートらに報告する。

 

ヘルムートもテーブルの上で指を組んで真剣な表情で報告を聞いていた。

 

「その時点で一般の聴衆客が死傷し避難が始まりました。また同時期に施設内の警備室も爆破されています。恐らく警備部隊の指揮系統の混乱を狙ったものと思われますが」

 

「だが実際には混乱することはなく、むしろ組織だった避難経路の確保と抵抗によりそれ以上民間人に死傷者は出なかったと」

 

「その通りです、テロの実行犯達にとってそれが二番目に大きな誤算だったでしょう。一番はもちろんそもそも会場に代理総統がいなかったという点ですが」

 

結局彼らがセントラル地区のビュアガーデンでテロを起こし総統を抹殺しようとしたとしても件の総統が会場にいなければ意味がない。

 

むしろ一般人に多くの死傷者を出したいのならやり方は他に沢山あるはずだ。

 

彼らの総統暗殺という計画は最初から頓挫していた。

 

「会場で指揮を執っていた人物はジークハルト・シュタンデリスという親衛隊の将官でこの時はたまたま会場に居合わせたそうです」

 

アーテル大尉はタブレットに映されたジークハルトの顔をヘルムートに見せた。

 

ヘルムートの隣ではザーラ司令官とモッティ提督が横から覗いて見ている。

 

「閣下ほどではありませんが随分若いですね。まだ30手前なのにもう准将で勲章と戦歴も凄まじい」

 

「しかも追記では『少将への昇進が内定』と書かれている。親衛隊の若き貴公子といったところでしょうか」

 

モッティ提督とザーラ司令官はそれぞれジークハルトの経歴を眺めて包み隠さず意見を口にした。

 

ヘルムートも頷きつつ呟いた。

 

「だが警備室がやられてすぐに指揮が取れるということは相当場数を踏んで判断力があるということだ。これだけの経歴であっても問題はない」

 

それ故にやがて“()()()()()()()()()()()()()()”という不安もある。

 

特に親衛隊の将校であれば完全に“シロ”であることはまずない。

 

「またセントラル地区の宇宙港も攻撃に遭っていますがこちらでも総統は暗殺出来ず仕舞いだったようです」

 

「なるほど…死傷者の数とインパクトはあっても暗殺犯達の目的は大失敗だったということか」

 

「計画自体はかなり精密ですからね、それ故にタイミングの僅かなズレが失敗に繋がったとFCSIAの分析班は結果を出しています」

 

確かにもう少し柔軟性のある計画なら成功していたかもしれない。

 

設置した爆弾の爆破時間を遠隔で調整するとか総統府にも念の為攻撃を仕掛けるとか。

 

だがどれも実行していないし実行不可能であったのだろう。

 

尤もこれら全てを実行したからと言って総統が暗殺出来る訳でもない。

 

「また合わせてコルサントにいる我が軍と大使館の様子もご報告いたします。現地ではウィルム・レイヒ大使と演習部隊指揮官によって在コルサント市民の保護は完了、こちらから送ったバーク提督の派遣艦隊と交代し現在連邦領域に帰還中です」

 

「レイヒ大使はご存知の通り元宇宙軍提督ですので連携も取りやすかったのかと」とフィスク中佐は付け加えた。

 

タブレットにも演習艦隊から先行して送られてきた簡易報告書が添付されている。

 

ヘルムートは粗方目を通すとフィスク中佐にあるものを要求した。

 

「“F()C()S()I()A()()()()()()()()”」

 

その意図を理解したフィスク中佐は小さく頷きタブレットに特殊なコードを入力した。

 

すると別の報告書が添付されていた。

 

フィスク中佐はヘルムートに耳打ちする。

 

「“()()()()()()()”」

 

ヘルムートは満足そうに微笑を浮かべた。

 

「それと今回の事件を受けて第三帝国の保安組織がコルサントのアンダーワールドに対して大規模な掃討作戦を実行すると」

 

「それはこちらも聞いているよ。ISBとFFSBの部隊が主軸になるんだ、きっとアンダーワールドは地獄と化すだろう」

 

連中は首都の地下街を文字通り一掃するつもりだ。

 

第三帝国の作戦が始まる前にFCSIAに頼んでおいた任務が実行されていて本当に良かった。

 

「艦隊が帰還するルートは確かハイディアン・ウェイを通ってマラステアから来るんだったな?」

 

ヘルムートは宇宙軍人であるモッティ提督とザーラ司令官に尋ねた。

 

2人は「その通りです」と頷いた。

 

「リマ・トレード・ルートでサラストから来るよりは安全ですので」

 

「もうそろそろついてもおかしくないと思うのですが…」

 

モッティ提督が時計を眺めていると執務室の呼び出しブザーが鳴らされた。

 

ヘルムートは「入っていい」と了承すると奥から2人の将校が入ってきた。

 

青い制服、つまり大セスウェナ連邦軍スターファイター航空軍の将校だ。

 

大セスウェナ連邦ではスターファイター隊はかなり独立した指揮権が与えられており既に宇宙軍のスターファイター隊と地上軍の航空隊が合併されている。

 

今目の前にいるバック・タージドソン准将もその1人だ。

 

「失礼します閣下、ブレンタールⅣに送った演習艦隊が帰還したと報告が入りました。現在ユヴェナ・プライムで乗員を降ろしており、うち(航空軍)の基地に駐留しているそうですが」

 

モッティ提督の読み通り艦隊が無事に帰還したようだ。

 

しかも予定通りユヴェナ・プライムの航空軍基地に到着している。

 

彼らが極秘に計画していた作戦は全て成功した。

 

「了解した、乗客はこのままユヴェナ・プライムに降ろし艦隊はこっち(エリアドゥ星系)に来るよう伝えろ」

 

「了解閣下、それではこれで」

 

タージドソン准将は部下と共に敬礼し執務室を後にした。

 

准将が下がると共にヘルムートは肩の重い荷物が降ろされたかのように背もたれに深く座り込んだ。

 

ふうと一息つき、穏やかな微笑を浮かべる。

 

「ありがとう中佐、君達のおかげで多くの人が救われた。長官にも是非そう伝えてくれ」

 

ヘルムートはフィスク中佐に労いと例の言葉を述べた。

 

中佐は「我々の役目ですから」とニヒルな笑みを浮かべて敬礼しアーテル大尉と共に執務室を後にした。

 

後ろでモッティ提督とザーラ司令官も穏やかな笑みを浮かべている。

 

()()()()()”とは大きく変わってしまったがそれでも最低限のことはやり遂げられた。

 

だがそれで終わりなのではない、むしろ始まりなのだ。

 

()()()()()()()()()()()()”。

 

ヘルムートのテーブルの上にはタブレット端末が置いてありヘルムートはタブレットを手に取った。

 

「我々も計画を始める必要があるな……まあまずはその為にも“準備”から始めなくては」

 

タブレット端末に書かれている“Sentinel project”の文字を読んでヘルムートは重たく呟いた。

 

暗黒の悪魔から与えられたものを最初に使った者の血縁者が再びこの世に具現化しようとしていた。

 

悪魔を超える悪魔を滅ぼすために。

 

 

 

 

 

 

-カラマリ宙域 シス・エターナル/レジスタンス軍戦闘区域 惑星サンクチュアリ-

強欲でこの世全てのものを我が物にせんと常に画策してきたシスの軍勢がロザル陥落で満足するはずもない。

 

ロザルの軍政をある程度固めたシス・エターナル派遣軍は再び一斉に進軍を始めた。

 

宙域警備に当たっていたレジスタンス艦隊を蹴散らしシス・エターナル軍は一気にカムドン星系まで進軍、星系内のレジスタンス軍を撃破しつつ惑星カムドンを制圧。

 

カムドン守備隊は地上戦をする覚悟であったがモン・カラの司令部はスーパーレーザーで地上軍ごとカムドンを破壊されることを恐れ撤退命令を下した。

 

敗北を未だ知らないシス・エターナル軍は再び勝利を新たな領域と共に収めた。

 

間髪入れずにシス・エターナル艦隊は“エクリプスⅡ”を先頭に前進する。

 

この悪魔の軍団に真っ向からぶつかってもとてもではないが勝てるものではない。

 

その為レジスタンス軍もあの手この手を使ってシス・エターナル軍を打ち倒そうとした。

 

惑星サンクチュアリに戦力を結集させると思わせつつシス・エターナルの進軍経路を狙って大規模奇襲攻撃を仕掛けたり。

 

或いは物量を用いた連続的な奇襲による波状攻撃によってシス・エターナル軍を損耗させ後退させようとしたり。

 

どれも半ば成功しかけた。

 

シス・エターナル軍の軍艦を損傷させシスのスターファイターを撃墜した。

 

時にはシス・エターナル軍の足を止め、一旦後退させたこともある。

 

撃破は無理でもシス・エターナル軍の大攻勢を封じ込められるのではないか、その間に反撃出来るのではないかという期待感が現れ始めた。

 

その度にレジスタンス軍の攻撃は強まっていく。

 

だがレジスタンスがコツコツと積み上げたものをたった一撃でねじ伏せ、この世から存在諸共消し飛ばし、誰もいなくなった航路を我が物顔で進み続けるのがシス・エターナル軍だ。

 

レジスタンス軍の攻撃をシス・エターナル軍もあの手この手で打ち破って行った。

 

時には強固な対空陣形を展開してジストン級や主力艦を守りつつシスTIEファイターやシスTIEボマーを用いて反撃に転じ、最後には拡散モードのアキシャル・スーパーレーザーでレジスタンス艦隊に損害を与えたり。

 

時にはスーパーレーザーの連続発射による波状攻撃を用いて何度も現れる小部隊を蹴散らしたり。

 

また時には元パイロットであるフリューゲル自身が自らスターファイターに乗り込んでレジスタンス軍機を蹴散らし友軍機を先導するなど荒っぽいやり方だがそれでもレジスタンス軍の攻撃を打ち破り進軍を続けた。

 

レジスタンス軍が新たな攻撃を考え実行するにつれてシス・エターナル艦隊の頭脳達もそれに対抗する方法を編み出し絶大な力を持つシス・エターナルの兵器によって実行に移された。

 

銀河最新鋭のテクノロジーと最高位の戦術が組み合わさった瞬間その戦場には文字通り最強の軍隊が誕生する。

 

シス・エターナルの赤い津波は止まることを知らない。

 

そして遂にシス・エターナル艦隊はレジスタンスの文字通り“聖域(Sanctuary)”であるサンクチュアリにまで迫っていた。

 

レジスタンス艦隊は必死に抵抗するも徹底した殲滅戦によって何度目か分からない劣勢に立たされていた。

 

シス・エターナル艦隊が惑星を取り囲むように展開し惑星からレジスタンス軍を締め出していった。

 

「地上にレジスタンス軍らしき戦力は確認出来ません」

 

エクリプスⅡ”のブリッジでブリッツェ中佐は惑星の分析結果を報告した。

 

「そうか、では惑星に対する超兵器攻撃はなしだ。上陸部隊を展開し速やかに惑星を制圧せよ。艦隊は対惑星包囲を解除し狩れるだけの敵を狩れ」

 

フリューゲルの判断は常にその戦場においての最適解でありその度にシス・エターナル軍にとって利となり得る結果に導いていた。

 

彼の一族は俗に“Generation”と呼ばれる世襲軍人一家の生まれでフリューゲルは分家なれど幼い頃から軍事を叩き込まれ指揮官になるべくして育った。

 

その結果10代でクローン戦争の戦場へ出る事となるのだがフリューゲルは他の分家の兄弟同様それを不幸だと認知していなかった。

 

自分の一族は遅かれ早かれ軍の道に行く、そういう運命なのだしそれが当たり前だった。

 

フリューゲルの父も、祖父も、曽祖父も、曽祖父の父も、開祖クイエムからそうだった。

 

何世代にもその地は受け継がれてきた。

 

それが今レジスタンス軍の脅威となって発揮されている。

 

フリューゲルの命令通りジストン級のアキシャル・スーパーレーザーが次々と後退するレジスタンス軍の艦艇を屠り追い詰めていく。

 

元よりフリューゲルが率いる艦隊の人員はエクセゴルに向かう前フリューゲルが率いていたディープ・コア予備艦隊が基礎となっており、元より精鋭の集まりであった。

 

さらにそこにシス・エターナル軍随一の精鋭達を集めたのがフリューゲルが率いる今回のシス・エターナル遠征艦隊なのだ。

 

技術だけでなく艦隊の動きや練度、砲撃命中率や攻撃方法などで一般的な国防軍やその他の軍隊の宇宙艦隊を遥かに上回っている。

 

最初からレジスタンス軍の勝ち目などないに等しかった。

 

それでも彼らは抵抗し続けたしその犠牲は決して無駄ではなかったし生き残った者達は無駄にはしないよう努めてきた。

 

「艦隊の半数が撃破されました!既に右翼方面では組織的反抗が不可能です!」

 

サンクチュアリ守備艦隊の旗艦を務めるネビュラ級のブリッジでは艦隊司令官の副官が悲鳴のような声を上げて報告していた。

 

ブリッジを見ればそんなことは一目瞭然だ。

 

シス・エターナルからすれば倒す敵がいなくなった右翼側の方面では爆発の光が少なくなり続けている。

 

左翼側の艦隊だってそう長くは持たない。

 

「本艦のシールド出力も45%まで低下しています!これ以上耐え凌ぐのは無理です!」

 

ネビュラ級の艦長も同様に弱音を吐き冷や汗を垂らしながら不安そうな表情を司令官の方へ向けた。

 

周りの艦艇も何隻かは既に中破以上の損傷を受けており逆に無傷な艦の方が珍しいくらいだった。

 

「…これまでかっ…!もう十分時間は稼いだはずだ、全艦艇直ちにニュー・へウルケアまで退却!屈辱ではあるがサンクチュアリは予定通り放棄する!!」

 

司令官にとってそれは予定されていたことであっても屈辱的に感じた。

 

サンクチュアリは文字通りレジスタンス、延いては新共和国、反乱同盟時代からの“聖域”だ。

 

帝国から追われ続ける反乱同盟軍にとってこの地は数少ない安全な場所であり救いや楽園に近い場所であった。

 

その場所をシス・エターナル軍に渡してしまうなど屈辱以外に他ならない。

 

だが時間は稼いだしこれ以上兵の命を失う訳にもいかない。

 

司令官は理性的に正しい道を選んだ。

 

レジスタンス軍はシス・エターナル軍の猛攻を受けつつも組織的にサンクチュアリ周辺から撤退していった。

 

殿部隊が最後まで抗戦し味方の撤退時間を稼ぎ、それ以外の部隊は皆粛々と後退予定地であるニュー・へウルケアまで引き下がった。

 

シス・エターナル軍とて深追いするようなことはせず艦隊をひとまずサンクチュアリ周辺に固めた。

 

僅か数ヶ月で殆ど目立った損害もなしに宙域を一個、更には今まで踏み込めなかったカラマリ宙域の一部区画の占領にも成功した。

 

レジスタンス軍も軽視出来ない損害を毎回負い大打撃を受けているはずだ。

 

シス・エターナルの脅威とその強さは十分銀河系へ喧伝出来た。

 

エクセゴルで立案した戦略通りの展開だ。

 

「敵艦隊はおそらくこの奥のニュー・へウルケアに後退した模様です。またヒナクーにもレジスタンス艦隊が集結中とのこと」

 

幕僚の1人であるヴァイテル少佐がフリューゲルに報告した。

 

「二方向から攻撃するつもりか。全艦に通達、現領域で防御陣形を展開しつつ敵の襲来に備えろ。国防軍の部隊はどうなっている?」

 

「ガレル、ラクサスから部隊が向かっていますが両方合わせて二個機動部隊が限界だと申しております」

 

デミングス司令官は国防軍との調整役も担っており国防軍によれば送れる部隊は今デミングス司令官が言った通りの戦力らしい。

 

だがフリューゲルからすればそれだけでは足りないと感じていた。

 

「それが限界なのか?」

 

「国防軍としてはこれが限界らしいです。尤もエストラン宙域やハット・スペースにはまだ戦力があるらしいですが」

 

第三帝国は銀河協定の影響か国防軍と親衛隊という2つの軍事組織を保有している。

 

もしかすると指揮系統の影響で本来出せるはずの戦力が送れていないのかも知れない。

 

だとすればまるで旧共和国のようだが一応同盟国なのだから文句は言えない。

 

「とにかく国防軍が来るまでここを死守する。敵が来るまでの間に全艦体制を整えさせておけ」

 

「了解」

 

ヴァイテル少佐とデミングス司令官は敬礼しそれぞれ持ち場へ戻った。

 

その間にフリューゲルはブリッツェ中佐を呼んだ。

 

「何か御用でしょうか」

 

「メルヴァー将軍の容体はどうだ?」

 

フリューゲルが尋ねたのはロザルの戦いで重傷を負い意識を失ったメルヴァー将軍のことだった。

 

彼はAT-MTに乗り込み前線で直接指揮を取っていたのだがその間に運悪くレジスタンス軍機が将軍のAT-MTに特攻し大破し重傷を負った。

 

幸いにもパイロット共々AT-MTの頑丈さによって命は助かったのだが衝撃で重傷を負い意識を失ってしまった。

 

ロザル戦はその後の残された指揮官達によって地上戦も勝利したのだがメルヴァー将軍の負傷は大きな衝撃を与えた。

 

「まだ意識は回復していませんがバクタ治療を受けている為、数時間後には意識共々回復しているでしょう。大丈夫ですよ」

 

「そうか…ならいいのだが……恐らく将軍が回復する頃に我々は“()()()()()()()()()()”」

 

「やはり…ですか」

 

ブリッツェ中佐は制帽を深く被り直し一息吐いた。

 

既に彼らシス・エターナル遠征艦隊の役割は全て果たした。

 

レジスタンス軍に大打撃を与え、シス・エターナル軍の力を銀河系に見せつけ、スーパーレーザーの復活を銀河へと知らしめた。

 

更にはロザルなどカイバークリスタル産出惑星も制圧しもう十分過ぎるほどフリューゲル達は戦果を挙げた。

 

「まだモン・カラに到達していませんが」

 

ブリッツェ中佐としてはまだ戦えるといった意志があった。

 

シス・エターナル軍は今のところ負けなし、損害も微々たるもので補給線も確立している。

 

レジスタンス軍とはまだ技術的にも力の差がありこのまま一気にカラマリ宙域周辺のレジスタンス軍の司令部である惑星モン・カラの制圧だって可能なはずだ。

 

だがフリューゲルは首を振った。

 

「いや、我々の役割を考えればここが引き時だ。まだ損害がないうちに我々の脅威だけを残したまま後退するのがベストだろう」

 

このまま奥深くへと進軍していけばこのままの勢いで勝ち続けられるかどうか分からない。

 

むしろ地の利がある状態で物量に押し切られ初の損害を受ける可能性もある。

 

そうなれば全ておしまいだ。

 

更にフリューゲルはある人物の名前を挙げた。

 

「それに帰還命令を決断なされたのは陛下自身だ。陛下の命令であればどれだけ勝っていようと帰還するしかない」

 

「なるほど…ならば仕方ありませんね…」

 

シディアス自身の命令であればブリッツェ中佐達は否が応でも従うしかない。

 

シス卿の命令は絶対であり背くことは許されない、“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「だが無論今すぐという訳にはいかない。例の地点に送った予備艦隊の強襲揚陸部隊はどうなっている?」

 

シス・エターナルはこの銀河に襲来する前から銀河帝国の影に隠れて暗躍を続けていた。

 

フリューゲルとしてもその暗躍を知ったのはエクセゴルに来てだいぶ経ってからでありこの銀河系でシスの暗躍を完全に全て把握している者は数少ないはずだ。

 

その中でもシス・エターナルは永久的に監視し続ける幾つかのポイントを設置しそこが何かしらの危険に遭えば例え危険を冒してでも部隊を派遣し対処するということになっていた。

 

そのうちの一つは旧シス領域、惑星モラバンドや惑星ドロマンド・カスといったシスにとっての聖地だ。

 

当然ここに第三帝国の親衛隊がヒェムナー長官と共に訪れた時もシス・エターナルは密かに部隊を派遣しいつでも対応出来る状態になっていた。

 

だがヒェムナー長官のある種狂気的なシス領域の復興計画のおかげで特に害はなしと判断された為シス・エターナル軍は密かに早々と撤退した。

 

他にも幾つかの地点を監視しておりそのうちの一つがチャルダーン星系の旧共和国造船所だ。

 

あそこにはとある“シスの秘密”が隠されている。

 

訪れた者達が帝国であるならまだしも敵であるレジスタンス軍があの地に向かうのであれば対処しなくてはならない。

 

そこで最も素早く展開出来るシス・エターナル遠征艦隊の強襲揚陸部隊を派遣した。

 

戦力的には申し分ない、むしろ多過ぎるほどだがあそこの秘密を知られるよりはマシだ。

 

「間も無く現地に到着すると思われます。恐らくすぐ終わるでしょうが」

 

「彼らの任務が終わったら、我々もエクセゴルへ帰還だ。再び銀河系の暗闇で“()()()()()()()()()()”」

 

ブリッツェ中佐も重く頷きフリューゲルは永遠と広がる銀河系の星々を見つめた。

 

我々の使命はこの星々を幾つか“()()”と同時にこの銀河を“()()”ことが使命だ。

 

そして“()()”任務はようやく終わりが近づいてきた。

 

再び“()()”の日々が訪れる。

 

シス・エターナルの襲来はレジスタンスのまだ知らぬところで終わりを見せようとしていた。

 

だがこの判断がこの一連の動乱に大きな展開が訪れることになる。

 

レジスタンスの劣勢的な運命を覆す大きな展開が。

 

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースから一隻のセキューター級と数隻のゴザンティ級が出現した。

 

整った艦列のままセキューター級を主軸とした強襲揚陸部隊は通常の速度を保ったまま造船所の中央制御ステーションを目指した。

 

ここを制圧すれば造船所全体を占拠出来る事は既にシス・エターナル軍も理解している。

 

ゴザンティ級は早速船体に取り付けてあるシスTIEファイターを出撃させステーションに急行させた。

 

編隊を組むシスTIEファイターは一斉に周囲へ散開し造船所一体を取り囲んだ。

 

セキューター級からも支援部隊が送られ兵員を乗せたゴザンティ級が速力を上げてステーションへ向けて前進し始めた。

 

「第一揚陸隊、およそ10分でステーションに到着します」

 

セキューター級のブリッジで士官が艦長に報告した。

 

あのステーションの特徴上、敵艦以外には支援攻撃を出せない。

 

かなり辛い戦いになるだろうがそれでも相手は少数だ。

 

物量と武装の違いでさほど苦戦はしないだろうと指揮官達は考えていた。

 

だがそれは正しい判断ではなかったことが判明する。

 

「このまま敵が退けばそれでよし、退かぬ場合は殲滅して…」

 

「艦長!ステーションの裏側より震盪ミサイル接近!揚陸隊に衝突します!」

 

「ついに来たか」

 

センサー士官の報告を受け艦長は表情を硬らせた。

 

突然のミサイル攻撃にゴザンティ級は回避し切れず何隻かが被弾し損傷した。

 

シスTIEファイター部隊は震盪ミサイルの発射地点を確認し一斉に攻撃して叩こうと迫った。

 

しかしそれは攻撃した者達に取っての思う壺だ。

 

「よし掛かった!」

 

突然裏から出てきたXウィングの攻撃によって一気に4機のシスTIEファイターが撃墜された。

 

Xウィングは編隊の列のど真ん中をあえて飛び去り迫り来る2機のシスTIEファイターを再び撃墜した。

 

突然の襲来に驚いたシスTIEファイター部隊は全機散開し逆に包囲してXウィングを潰そうと目論んだ。

 

所詮相手は1機、奇襲で4機持っていかれたがまだ許容範囲内だし恐るるに足らない。

 

Xウィングは器用に攻撃を躱しつつ対空砲火を繰り出すゴザンティ級の艦列に向かっていた。

 

その背後を取ろうとシスTIEファイター部隊はXウィングを狙うがそれもまた思う壺であった。

 

突如ステーションの裏からレーザー砲が放たれ再び何機かのシスTIEファイターが巻き添えを喰らい撃墜された。

 

レーザー砲を繰り出しつつステーションの裏からレイダー級“コルウス”が姿を表した。

 

同時にターボレーザー、震盪ミサイルも放ち揚陸隊のゴザンティ級を一隻行動不能に追い込んだ。

 

コルウス”の優秀な砲撃手達は狙いを外さない。

 

僅かな武装だがその機動力と突撃力を活かしゴザンティ級の揚陸隊にダメージを与えていった。

 

TIEファイター部隊も“コルウス”の対空砲撃により容易に近づくことが出来ずにいる。

 

「いいぞ“コルウス”!シスの野郎が怯んでいる!!」

 

シュリブはXウィングから歓声を上げてシスTIEファイターを再び撃墜した。

 

ゴザンティ級やゴザンティ級を護衛するシスTIEファイターの砲撃を躱しつつシュリブは器用に一隻のゴザンティ級の船体シールドを突破し取りついた。

 

船体に直接レーザー弾を撃ち出しダメージを与えていく。

 

ある程度の攻撃が成功するとシュリブは巧みにXウィングを操りゴザンティ級から離れた。

 

更に攻撃を躱しつつ別のゴザンティ級に取り付くと今度はプロトン魚雷を1発発射しゴザンティ級のエンジンを破壊した。

 

メインエンジンが大破しサブエンジンも損傷したゴザンティ級は航行不能となり虚しくレーザー砲を放ちながら宇宙空間を漂った。

 

コルウス”もターボレーザー砲や震盪ミサイルで敵艦の動きを食い止めた。

 

先に母艦から潰そうと何機かのシスTIEファイターがイオン魚雷や震盪ミサイルを放ったが全て“コルウス”のジャマー機能によって被弾する事はなあった。

 

更に“コルウス”に攻撃した敵機は全てシュリブのXウィングによって撃破された。

 

『流石ですシュリブ隊長!』

 

「デンジャーリーダーの名は伊達じゃないってな!」

 

シュリブは満面の笑顔と共に機体を操り再び攻撃に出た。

 

しかし何隻かのゴザンティ級を攻撃しTIEファイターを何機も撃墜したのにも関わらず敵はまだ圧倒的な物量を誇っていた。

 

しかも最悪なことに後方で待機していたついにセキューター級が動き出した。

 

ハンガーベイから何十機ものシスTIEファイターが出撃しその後からセンチネル級やTIEボーディング・クラフトといった兵員輸送機が姿を現した。

 

しかもセキューター級も“コルウス”に向けて砲撃を開始した。

 

何十門もの重軽ターボレーザーや戦艦イオン砲の砲弾が雨のよう“コルウス”に降り注いだ。

 

コルウス”は砲弾の暴風雨をなんとか躱したがこの状態で攻撃を続行するのは不可能に近かった。

 

「チッ!流石にスター・デストロイヤー丸々一隻をやるのはっ!」

 

シュリブはこの状況に歯噛みした。

 

いくらこのXウィングが優秀な機体でシュリブが優秀なパイロットでもこの状況でシス・エターナル軍からステーションを守るのには限界がある。

 

しかも“コルウス”が敵艦の攻撃を受けて攻撃出来ない状況では余計にだ。

 

しかも敵は完全に外にいる部隊の足を止める為に行動を始めた。

 

シスTIEファイターの群れがシュリブのXウィングのみを狙ってレーザー弾を撃ち放ってきた。

 

何十機もの大群がシュリブのXウィングの動きを抑制し彼の行動を妨害した。

 

これでは思うように敵を攻撃出来ない。

 

今のシュリブは敵の攻撃を躱しつつ反撃のチャンスを狙うのが精一杯であった。

 

それでも未だ被弾していないというのはシュリブのパイロットとしての腕の表れだろう。

 

「おい!流石にこの数は捌ききれないぞ!!」

 

シュリブは敵機の攻撃を躱しながら反撃し何機かのシスTIEファイターを撃墜していたがそれでもとてもゴザンティ級やセンチネル級の足止めは出来そうにない。

 

そうこうしているうちに“コルウス”の真横を一隻のゴザンティ級と2、3機のセンチネル級とTIEボーディング・クラフトが通り過ぎていった。

 

しかも護衛のシスTIEファイターごとだ。

 

シュリブはしまったと思ったが今の状況ではどうすることも出来ない。

 

仕方なくステーションの中にいるアイデン達に声をかけた。

 

『アイデンすまない!敵の揚陸部隊を取りこぼした!そっちにクルーザーと輸送船が向かってる!』

 

「分かったわ、ステーション内で敵を迎え撃つ。シュリブも“コルウス”を護衛しながら無理をしない程度に敵を抑え付けておいて」

 

アイデンは的確に指示を出しシュリブからも『了解だ!』と返答があった。

 

コムリンクを切るとアイデンはジェルマン達の下に向かい「敵がこの中に入ってくる」と伝えた。

 

「どうにかして時間を稼がないと…後どのくらいの時間でここの艦船を全て動かせる?」

 

アイデンは無人艦船を制御するジェルマンとデルに尋ねた。

 

外では何隻もヴェネター級やアークワイテンズ級、ヴィクトリー級らがある程度纏まった機動部隊を編成しハイパースペース空間へジャンプしていた。

 

当然中には誰も人がいない為全てジェルマンとデルがこの制御室でコントロールしている。

 

単純な作業だがそれでも数が多い為かなりの時間が掛かっていた。

 

「大凡半分以上は終わった、ペースを上げれば後30分で終わる」

 

デルは可能な限り短い時間を彼女に伝えたがそれでも足りないとアイデンは言った。

 

「時間がない、20分で切り上げてくれ。私達はその間に敵を迎え撃つ」

 

アイデンはブラスター・ライフルを手に取るとジョーレンの方へ目線を送った。

 

ジョーレンは既にブラスター・ライフルを手に取りジェルマンのバックから何かを取り出していた。

 

「当然、同行させていただきますよ。ただ敵の上陸までだいぶ時間がある、そのうちに仕掛けるものは仕掛けておかないと」

 

ジョーレンはジェルマンのバックから近接反応爆弾を取り出した。

 

それを見たアイデンはどこか嬉しそうにジョーレンから爆弾を受け取った。

 

ジョーレンは戦う気満々だしとても頼もしく見えた。

 

これから待ち受ける絶対的な物量差もなんの苦にも思わない。

 

1人で蹴散らせそうな気分だ。

 

「ジェルマン、俺達の機体があるベイ以外全てのハンガーベイの隔壁を閉じろ、それに続く通路もだ。壁を作って少しでも長く足止めしろ」

 

「分かった…!」

 

ジェルマンはコンソールを操作し制御室からステーション内のハンガーベイ全隔壁を封鎖した。

 

今まで僅かなシールドで宇宙空間と閉ざされていたハンガーベイが物理的なシールドによって完全に外部とシャットダウンされた。

 

これで敵が内部に侵入するには少しばかり時間が掛かることになる。

 

ジョーレンはジェルマンのバックを背負うとアイデンと顔を見合わせた。

 

既にアイデンもある程度の武装を揃え背中にカラフルなシーカー・ドロイドを背負っている。

 

それ以外の武装だと彼女はA280-CFE換装式重ブラスター・ライフルの換装パーツを持っておりその一部はパルス・レーザーが発射出来るようになっていた。

 

「それじゃあ、行ってくる」

 

ジョーレンは制御室に残る2人に軽く敬礼を贈ると走り始めた。

 

アイデンもその後に続こうとした。

 

「アイデン!」

 

だがデルの彼女を呼ぶ声によって一旦その足は止まった。

 

アイデンが振り返ると少し心配そうな表情を浮かべたデルが微笑んでいた。

 

アイデンも同じような微笑みをデルに返す。

 

「気をつけて」

 

「ええ、あなたも」

 

短い言葉だったがそれは2人の信頼を超えた関係を表していた。

 

デルは帝国時代の別の隊員とは違い、死ぬことなくここまでアイデンについてきた。

 

デルは帝国時代のまた別の隊員とは違い、ヴァードスでもアイデンについていった。

 

新共和国へ行こうと提案したのもデルだった。

 

それからインフェルノ分隊が新共和国の部隊となってもデルはアイデンについていった。

 

エンドア、ベスピン、ジャクー。

 

最後のジャクーの戦いで“エヴィセレイター”から脱出したアイデンを発見したのもデルだった。

 

結局あの戦場で見た通り帝国が崩壊する事はなかったがそれ以降もデルはアイデンと共にあった。

 

そしてそれは恐らくこれからもだ。

 

アイデンは名残惜しそうにデルに背を向けるとジョーレンと共に走り始めた。

 

デルもアイデンに背を向けジェルマンと共に作業に戻った。

 

離れていてもレジスタンス軍インフェルノ分隊は一つだ。

 

そしてそれはジェルマンとジョーレンも。

 

コルウス”とシュリブが防ぎ切れなかったゴザンティ級とセンチネル級、TIEボーディング・クラフトの一団がついにステーションのハンガーベイまでやってきた。

 

ハンガーベイには分厚い隔壁が存在している為護衛のシスTIEファイターが震盪ミサイルを何発か放って無理やり壁をこじ開けた。

 

最初にゴザンティ級が内部に突入しその傍にセンチネル級とTIEボーディング・クラフトが侵入した。

 

ハンガーベイに無理やり侵入したゴザンティ級から内部に搭載された兵員が降りてくる。

 

周囲を警戒しながらブラスター・ライフルを構え一斉にハンガーベイに姿を表した。

 

現代シスの尖兵たるシス・トルーパー達だ。

 

この精鋭兵達はジェルマンが起動した隔壁をものともしない。

 

爆薬で無理やりドアを破壊しシス・トルーパー達はそこからステーションの内部へ浸透する。

 

この地に足を踏み入れた窃盗どもを排除する為に。

 

だがタダでやられるほどレジスタンス軍の特殊部隊は柔ではない。

 

既にシス・エターナル軍を迎え撃つ準備は整っている。

 

来るならば来い、全て蹴散らしてやる。

 

前衛を担当するアイデンとジョーレンからはそれほどの気概が感じられた。

 

シス・トルーパー達は大軍でそれでいてゆっくりとステーションの中へと入ってくる。

 

赤き擲弾兵達に容赦はない。

 

彼らとアイデンとジョーレンがぶつかるのはもうそう遠くない。

 

この銀河を一変させた戦争で活躍した古のスター・デストロイヤーを背景に、本来更に未来から訪れるはずのシスの尖兵を迎え撃とうとしていた。

 

これは小さな、そして大きな戦いだ。

 

だがそれ故に重要さを持ち合わせている。

 

“最高議長が遺した遺産”を巡って強者たちがぶつかり合う。

 

シス・トルーパーVSレジスタンス軍特殊部隊、開戦スタートだ。

 

 

 

 

つづく




おいーす!どうも私です〜!

ついにナチ帝国うん十話!(数を覚えていない)

いよいよシス・エターナル編も大詰めですね〜

これからもずんずん地獄のような世界を拡張していきましょうね〜

そいではまた〜


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チャルダーン旧共和国造船所での戦い

「私が今の道を選んだ理由はただ一つ、国家に対する忠誠を果たす為、つまり国民に対する忠誠を果たす為にこの道を選んだのだ。私が忠誠を尽くす国家とは皇帝であり、その皇帝を皇帝たらしめる国民のことである。忠誠を捧げた相手さえ明確であればその忠誠を果たすのは簡単なことである」
-とある帝国軍大佐の日記より抜粋-


シス・トルーパーの分隊が周囲を警戒しながらステーションの奥へと侵入した。

 

本来この旧共和国造船所はシス・エターナルが密かに管理していたのだが敵の侵入を受けてからでは何があるか、いつ敵がどこから現れるか分からない。

 

しかしシス・エターナルとしてはここの秘密は絶対に守らなければならない。

 

ここに訪れた敵は抹殺する必要がある。

 

それが仮にただの盗賊だったとしてもだ。

 

今の所敵であるレジスタンス軍が秘密に気づいている様子はない、どうやらこの造船所に残されている古い兵器を取りに来たようだ。

 

卑しき盗人、それはまだいい。

 

問題はここ(旧共和国造船所)で盗みを働くということだ。

 

僅かにでもこの秘密に触れるようであれば生きて帰す訳には行かない。

 

態々セキューター級を筆頭とした揚陸部隊を送り込んだ理由もその為だ。

 

直接手を下す役目を帯びたシス・トルーパー達は静かに内部へと侵入している。

 

既に幾つかのハンガーベイにゴザンティ級含めた揚陸隊が突入しており一個中隊を超える兵員がステーション内に侵入していた。

 

無論これを迎え撃つジョーレンやアイデン達がなんの準備もしていないのかと言われればそうではない。

 

何十もの罠を仕掛け、爆薬を設置し、タレットなどで武装を固めている。

 

何よりジョーレンもアイデンも経験豊富な超エリート特殊部隊員だ。

 

そこら辺の兵卒とは比べ物にならないほどの戦いを経験してきた。

 

たった2人だがたった2人で1000人はゆうに超える働きをしてくれるだろう。

 

シス・トルーパーの分隊長がハンドサインで合図を出し分隊の工兵にイオン・ディスラプションを起動するよう命じた。

 

分隊長始め周囲のシス・トルーパー達は一旦距離を取った。

 

これから工兵が使う兵器は味方にも被害を出しかねない。

 

工兵はバックパックから装備を取り出しすぐにイオン・ディスラプションを起動した。

 

すると周囲に稲妻が走り、辺りに密かに備え付けられていた爆弾は完全に機能停止に追い込まれた。

 

念の為イオン・ディスラプションで爆発物やブラスターなどの電子機器類を無力化したのだがそれは正解だった。

 

ジョーレンとアイデンが備え付けた爆弾は痺れて動かなくなっている。

 

安全を確認した分隊長は再びハンドサインで合図を出しシス・トルーパー達は前進を開始した。

 

だがそれは大きな間違いだった。

 

彼らが通路を通り過ぎようとする瞬間機能停止したはずの爆弾が一斉に起爆した。

 

シス・トルーパー分隊はそのまま爆発に巻き込まれどうすることもなく吹き飛ばされ全滅した。

 

それは他の場所でも同様で通路を通ろうとしたシス・トルーパー達の多くに死傷者が出ている。

 

どのシス・トルーパー達も一度は爆発物をイオン・ディスラプションで機能停止にさせたはずなのに全て起爆しシス・トルーパーに死傷者を出していった。

 

多くの場所でシス・トルーパーは損害と足止めを喰らっている。

 

全てジョーレンとアイデンが仕掛けたものの効力が発揮している証拠だ。

 

「よし…!今のところ順調…!ジェルマンが改良した爆弾の効力だな」

 

ジョーレンはアイデンと共に走りながら喜びを声に出した。

 

ジェルマンの改良した近接反応爆弾はイオン・ディスラプションを喰らうと逆に数秒経って爆発する仕組みになっている。

 

要するにイオン・ディスラプションの効力を逆手に取った形だ。

 

おかげでシス・トルーパーによって無力化されたはずの爆弾も全て無事に機能していた。

 

尤も爆発を喰らったシス・トルーパーは無事では済まないだろうが。

 

「おかげで時間が稼げる…っ!」

 

アイデンは何かを察知しジョーレンをハンドサインで止めた。

 

彼女は静かにドアの奥から顔を出す。

 

「トルーパーが3人、それと部隊長と斥候のトルーパーが2人ずつ」

 

アイデンが見た先には通路の奥に幾人かのシス・トルーパーが屯していた。

 

彼女は冷静に得た情報をジョーレンに伝えつつ作戦を練る。

 

軽装備のシス・トルーパーと部隊長シス・トルーパーの2人と一般隊員と思わしきシス・トルーパー3人とはそこそこの距離が存在していた。

 

その為銃撃戦にならずとも背後から忍び寄って抹殺することは可能だ。

 

「この距離ならバレずに抹殺出来ます」

 

どうやらジョーレンも同じ考えらしくアイデンは計画を実行に移すことを決意した。

 

「よし、手前の兵士は私が。奥の2人は私と少佐でやって残りの2人も同じようにやる」

 

「了解」

 

ジョーレンはナイフを取り出しアイデンは使い慣れたバトンを取り出した。

 

2人は足音すら立てず静かにシス・トルーパーの近くに迫った。

 

シス・トルーパーは全く2人に気づいておらずブラスター・ライフルを構え周囲を警戒していた。

 

そこへアイデンの素早い一撃が振り下ろされる。

 

首に思いっきりバトンを叩きつけ、倒れた所を今度は横合いから頭を叩きつけた。

 

まず最初の一撃で完全に首の骨が折れ、その後の攻撃でヘルメット越しではあるが頭を砕けたずだ。

 

即死したシス・トルーパーは断末魔すら上げずに静かに始末された。

 

亡骸を静かに倒すと2人は一気に他のシス・トルーパーに接近し再び近接攻撃を仕掛けた。

 

ジョーレンはバイブロ=ナイフでシス・トルーパーの喉元を掻っ切り、アイデンはバトンでシス・トルーパーの首を絞めた。

 

再び2人のシス・トルーパーを打ち倒したのだがそれでも僅かな音で軽装備の斥候シス・トルーパーが異変に気づいた。

 

2人は急いで物陰に遺体ごと隠れ、シス・トルーパーの視覚から姿を消した。

 

アイデンは急いで作戦を変え、ハンドサインで指示を出した。

 

部下のシス・トルーパーに部隊長もついてくる。

 

だがもう遅い。

 

アイデンは一気にシス・トルーパーとの距離を詰め、バトンでまず脛を殴りつけた。

 

足の骨が折れたシス・トルーパーは地面に崩れ落ちそこから脳天高くバトンが振り下ろされそのままダウンした。

 

当然部隊長は敵であるアイデンを射殺しようとブラスター・ライフルを構えた。

 

しかし瞬間飛び出したジョーレンによってそれは阻まれることとなる。

 

アーマーの僅かな隙間にジョーレンは正確にナイフを突き刺しダメージを与えていった。

 

そして最後にはトドメとして喉を切り裂き部隊長を絶命させた。

 

「行きましょう、敵のハンガーベイまで後少しだ」

 

「ああ、ドロイド、周囲を警戒しろ。なるべく静かに進みたい」

 

「今みたいに?」

 

「我々に他の進み方があるか?」

 

ジョーレンは苦笑混じりに鼻で笑った。

 

アイデンのID-10シーカー・ドロイドはセンサーを起動し周囲を警戒させた。

 

2人は駆け足で素早くハンガーベイの方まで向かっていく。

 

既にこのステーションのあちこちにシス・エターナルの輸送機が着陸しておりそこから兵員や武器を下ろしていた。

 

2人はこのハンガーベイの輸送機を徹底的に潰すことで後続の揚陸隊の侵入を妨害しつつ敵の注意を背けようと考えていた。

 

輸送機が破壊され敵がそこにいるとなればシス・トルーパー達も後退せざるを得ないだろう。

 

軽装備で優れた機動力と練度によって実行出来る攻撃だ。

 

ジョーレンとアイデンは静かにそして速やかにまだ2人に気づいていないシス・トルーパーを始末しハンガーベイへと急いだ。

 

「辿り着いたが…どうする、潜入して輸送機を破壊するか?」

 

アイデンはハンガーベイのドアの前でジョーレンに尋ねた。

 

するとジョーレンは徐にブラスター・ライフルを手に持ちニヒルな笑みを浮かべた。

 

指でブラスター・ライフルを軽く叩くとライフルを構えハンガーベイの中へ突入した。

 

それだけでジョーレンの考えていることは大体分かる。

 

「全く…」

 

アイデンも困った笑みを浮かべながらジョーレンに続いた。

 

ジョーレンはまるで普段と変わらない様子で引き金を引きシス・トルーパーを撃ち殺した。

 

シス・トルーパー達は反撃しようとブラスター・ライフルを構えたがすぐ援護射撃を行ったアイデンによって撃ち倒された。

 

攻撃を受ける前に弾丸を叩き込み敵兵を倒す。

 

そのまま2人は近くのTIEボーディング・クラフトとセンチネル級の方まで近づいた。

 

その間にジョーレンとアイデンはそれぞれ爆弾を起動させそれぞれ輸送機の方へ投げつけた。

 

爆弾はそれぞれ輸送機のエンジン部分とコックピット部分に接着し間も無く起爆した。

 

「伏せろ!」

 

アイデンの合図と共にジョーレンは地面に伏せ爆発の余波と破片を防いだ。

 

輸送機は2機とも爆発により破損し崩れ、辺りに破片や爆発の熱が広がりシス・トルーパー達も倒れた。

 

TIEボーディング・クラフトもセンチネル級もそれぞれ爆発が別のものに移り誘爆し完全に大破した。

 

シス・トルーパーにも多くの負傷者が発生し辺りは火災に見舞われた。

 

「よし成功だ…!急いで離脱する!」

 

ジョーレンとアイデンは立ち上がり脱出する為に通路へ向かって走り出した。

 

途中で起き上がったシス・トルーパー達は2人を倒そうとブラスター・ライフルを構えるも速やかに撃ち殺された。

 

ハンガーベイを抜け、2人は通路を駆けた。

 

それを復帰したシス・トルーパーや応援に駆けつけた別の部隊が追撃する。

 

シス・トルーパーのブラスター弾が通路を横切り、2人を抹殺しようと迫り掛かった。

 

2人も走りながらブラスター・ライフルで反撃する。

 

しかしどちらも弾丸は当たることなく追いかけっこは続いた。

 

「チッ!ドロイド、スタンだ!少佐すまないが10秒持たせられるか」

 

「15秒でも問題ありませんよ!」

 

アイデンは自身のシーカー・ドロイドに命令を出しその間にアイデンとジョーレンは振り返りブラスター・ライフルの引き金を引いた。

 

突然の反転攻撃によりシス・トルーパーが2人ほど撃ち殺された。

 

アイデンとジョーレンは物陰に隠れつつ銃撃戦を開始する。

 

シス・トルーパーも負けじと撃ち合うが有効的な攻撃とはならずにいた。

 

そこへアイデンが放った刺客が牙を向く。

 

密かに天井を伝ってシス・トルーパーの間に入ったシーカー・ドロイドは凄まじい電撃を放ち、シス・トルーパー達を全員感電させた。

 

トルーパーは痺れ、戦闘不能となったシス・トルーパー達はそのまま全員が地面に倒れた。

 

ドロイドは喜びの電子音を上げながらアイデンの下へ戻ってきた。

 

「ありがとう」

 

彼女はシーカー・ドロイドに優しく声をかけた。

 

ジョーレンも「いいドロイドですね」とシーカー・ドロイドに目を向けた。

 

「そいつに名前とかはないんです?」

 

「名前?ああ…考えたこともなかった。ドロイドに愛着を持つのは好ましくないと教えられてたから」

 

「ああ…なるほど」

 

ジョーレンもどこか納得したように苦笑いを浮かべた。

 

やはり教えることはどこも同じなようだ。

 

無駄話をしている暇もなくすぐにシス・トルーパーの部隊が奥からブラスター弾と共に現れた。

 

「チッ!」

 

何発か反撃すると2人は再び走り出した。

 

その道中アイデンのコムリンクに通信が入った。

 

「シュリブか!どうした!」

 

それは今ステーションの外で“コルウス”と共に戦っているシュリブからだった。

 

『アイデン!このままだとまずい!敵の数が多すぎてもう俺と“コルウス”だけじゃどうしようもない!』

 

1機のXウィングと一隻のレイダー級ではこの揚陸部隊と戦うには戦力的に開きがありすぎた。

 

敵は常に編隊を組んで何十機ものスターファイターで迫り来るのに対しシュリブは常にシュリブ1機で戦っている。

 

コルウス”の対空兵装を合わせても戦力差を埋められるものではなかった。

 

しかし今の状況では人員も限られておりとてもシュリブの増援に人を送れる状況ではなかった。

 

「“コルウス”の防衛に専念して、今はそれしかない」

 

『ああ分かった…!せめてあと1機でも多ければな…!!』

 

シュリブは半ば叶わぬ願いとしてそう叫んだ。

 

今の状況でスターファイターを増援に出すことは無理だ。

 

()()()()()()()()()()()()()”、だが。

 

『いいやいけるよ!』

 

次にコムリンクから聞こえた声はジェルマンだった。

 

彼は通信を繋いでいる誰よりも気力のある声で話した。

 

「それは一体どういう…」

 

その答えはすぐに分かった。

 

2人がちょうどビューポートのある開けた場所に出るとその答えが宇宙空間を駆け抜けていた。

 

ジェルマンとジョーレンが乗っていたUウィングが青白いエンジンの炎を巻き上げ戦場へと向かっていた。

 

「おいジェルマン、これは一体どういうことだ?」

 

ジョーレンは急いでコムリンクに声をかけた。

 

あの機体に当然ジョーレンは乗り込んでいないしジェルマンが乗り込んでいるとも思えなかった。

 

『前に一度、基地で改修したことがあっただろ?その時に自動操縦システムと自動戦闘システムを取り付けたんだ。単独で操縦してしばらくは戦えるようになってるんだ!』

 

「そんなの初めて…って前一度聞いたことあるな…」

 

『それに自動戦闘システムには少し改良を加えてある!』

 

ジェルマンの言う通り戦場に到着したUウィングは鬼神の勢いでシュリブや“コルウス”の危機を救い、シスTIEファイターを撃墜していった。

 

ブラスター砲やイオン砲で敵機を徹底的に追い詰め、逆に敵機のレーザー砲は軽々と躱し続けていた。

 

とてもドロイド・スターファイターが操縦する機体とは思えない技術だ。

 

コルウス”に取り付こうとするシスTIEファイターを一掃しさらに近くのTIEボーディング・クラフトを撃墜した。

 

『おお凄いぞ!おかげで道が切り開けた!』

 

シュリブからは喜びの声が上がった。

 

その間にもシュリブと無人のUウィングは“コルウス”を守り続けていた。

 

『とても無人機とは思えない動きだ!一体どんな技術を詰め込んだんだ?』

 

シュリブは思わずジェルマンに尋ねた。

 

無人のUウィングの動きは一流のパイロットにも負けてはいない。

 

『システムに“()()()()()()()”、うちのパイロットの操縦技術を。まさかここまでうまくいくとは僕も思ってなかったけど』

 

「それってつまり…」

 

ジョーレンは薄々勘付いたのかブラスター・ライフルを構え苦笑混じりに言葉を発した。

 

すぐにジェルマンからコムリンク越しに返答が来る。

 

『ああ!ジョーレンの操縦技術と戦闘技術を機体に憶えさせた!今のUウィングはジョーレンが操縦しているのとほぼ同じ動きが出来る!』

 

ジェルマンとジョーレンが請け負う任務の状況によっては機体を自動で動かす必要があった。

 

しかも大抵の場合任務は過酷で通常のドロイド・スターファイターでは技量不足となることも多々ある。

 

その為ジェルマンはある工夫を期待に施した。

 

それがメインパイロットの操縦技術のラーニング、つまりジョーレンの操縦パターンや戦闘技術を機体に学習させ自動操縦時にジョーレンと同じ動きを出来るようにしたのだ。

 

幸いにもジョーレンの操縦技術や戦闘技術はやはり経験を積んできたのか新共和国軍スターファイター隊のパイロットとも遜色ないほど優れている。

 

その技量を学習したUウィングの自動操縦システムと自動戦闘システムもまた優れたものになっていた。

 

しかもジェルマンとジョーレンのUウィングは改修が施されており通常のUウィングよりも遥かに性能が上がっていた。

 

並のシスTIEファイターでは撃破不能なほどにだ。

 

そんなUウィングが宇宙空間での戦闘に合流したことでシュリブや“コルウス”もかなり負担が軽減されていた。

 

「シュリブと“コルウス”はこのまま輸送中の艦隊の護衛に専念しろ、一隻たりとも失う訳にはいかない」

 

『了解した!』

 

「ジルディール大尉とデルは引き続き艦隊を移動させろ、我々で敵を防ぐ!」

 

『了解!』


「了解した…!」

 

ジョーレンはスモークグレネードを展開し煙幕の中にブラスター弾を叩き込みつつ2人で別の地点に急いで移動した。

 

敵が突然襲撃をかけたのにも関わらず2つの特殊部隊は連携し見事に対応していた。

 

このままいけば任務の目標通り、この図剪除に放置された全ての艦船を残らずレジスタンス領に持ち帰ることが出来る。

 

だが当然シス・エターナルもこの程度で攻撃を止めるはずもない。

 

既にセキューター級からは新たなゴザンティ級が発艦し造船所地帯に向かおうとした。

 

()()()()()()()()()()()”。

 

 

 

 

 

 

-ディープ・コア 特別造船所-

デルヴァードス将軍がディープ・コアに残していた造船所では密かに入ったクワットの作業員達が日夜残された艦船の復元と新造艦の建造を行っていた。

 

クワットはこのような隠された造船所や兵器工場を自領内のクワット宙域内や他の場所に幾つか保持していた。

 

その為クワットは表向きの工業力よりも更に巨大な工業力を有しておりそれで“()()()()()()()”としての役割を果たしていた。

 

「ご存知だと思いますがこちらが“ナイト・ハンマー”、デルヴァードス将軍が遺したエグゼクター級スター・ドレッドノートです」

 

この造船所の所長を務めるワイファン・パーキスは後から来たオルトロフ、ヴァティオン、プレスタに説明した。

 

彼はオルトロフの甥っ子であり同じパーキスの家の生まれだった。

 

ワイファンは以前までクワットにいたのだがこの数年でたった一つ問題行動を起こした結果、このような銀河の暗闇での仕事を任せざるを得なくなった。

 

第三帝国が中央政府として君臨し始めた頃、惑星フェダルの非合法とされていたトワイレックのスパからワイファンが姿を表したという噂が流れ始めた。

 

第三帝国にとってトワイレックは当然“()()()()”であり丁度この時トワイレックのスパにはFFSBの職員が調査に入っていた。

 

勿論決定的な証拠はなかった。

 

だが調査に携わった職員曰く「よく似ている」らしくその日丁度フェダル政府との調整の為にワイファンがフェダルを訪れていたこともあり疑惑は半ば確証化していた。

 

第三帝国関係者からの疑いの目は強くなり泣く泣くワイファンは公職を降り、表舞台から姿を消した。

 

そんな甥っ子を憐れんだのか、将又その能力とノーマークさに目をつけたのかオルトロフはワイファンをこの特別造船所の所長に推薦した。

 

彼の目は正しくワイファンは能力を十分に活かしこの特別造船所で日夜密かに艦船兵器類を造り続けていた。

 

「既に外装内装含め96%が完成しあと少しで進宙可能です。一応運用テストも行いたいので正式な就役はもう少し先になりそうですが」

 

「これが噂の幻のエグゼクター級ですか。話に聞いた通り真っ黒ですね」

 

プレスタは“ナイト・ハンマー”の船体を眺めそう感想を呟いた。

 

ナイト・ハンマー”はステルス性も考えられているのか船体色は黒で統一されている。

 

まさに本来の艦名の通り“Night hammer(暗黒の槌)”な訳だ。

 

「丁度うちが密かに建造中の“守護者(Guardian)”とはまた違った趣がある。こいつと組み合わせる用の艦隊の建造はどうなっているんだ」

 

「問題なく進行しております。既に何十隻もの艦船が進宙しテスト航行を行っています。プラキスやらのおかげで第三帝国にも発見されることなく上手くやれてますよ」

 

ディープ・コア内にも第三帝国の影響は滲み出ている。

 

銀河内戦後期に独立した独裁国家であるプラキス立憲保護領は名目上第三帝国との同盟国であり他の勢力は全て第三帝国を恐れて中立となるか国防軍や親衛隊に帰属した。

 

そうでない者、例えばここの持ち主だったデルヴァードス将軍やグランドモフ・ガーンなどは皆第三帝国によって抹殺されてしまった。

 

当然名目上第三帝国に従い顔色を窺っているディープ・コアの面々も内心は穏やかではない。

 

特にプラキス立憲保護領はクワットからの軍事援助を受けるという秘密の約束を取り付け、この造船所の存在を第三帝国から隠し続けていた。

 

「鎖国主義者のモフブリルも、クワットの兵器類を前にしたら顔色を変えた。まあ内心自国だけでやっていきたいと思っているだろうがな」

 

ヴァティオンは皮肉混じりにそう呟いた。

 

元々プラキス立憲保護領はフォガ・ブリルというモフがエンドアの戦い後に誕生させた軍閥国家であり鎖国主義を旨とし、長らく独裁体制を敷いていた。

 

第三帝国情報部が掴んだ話によればプラキス立憲保護領は既に独自の経済体制を展開しており内部ではモフブリル統治の下、赤衛警察( Red Polis)という民兵組織が治安を維持していた。

 

同地の駐留艦隊は他の合流してきた艦隊と共に大帝国宇宙軍という独自の宇宙艦隊に再編されプラキス保護領を守護している。

 

外部との繋がりとしては経済的にはマイニング・ギルドとの繋がりはあるものの他は第三帝国が到来する以前は皆無と言っていいほどだった。

 

直属の上官であるグランドモフ・ガーンの指揮にも属さず艦隊も全てモフブリルの指揮の下にあった。

 

本来モフブリルはこの体制を続けていきたかったのであろう。

 

だが第三帝国はコルサントを奪還し我らクワット、そして盟友のコレリアなどを組み込み、遂には新共和国すら下した。

 

グランドモフ・ガーンや他の軍将達も粛清された以上プラキス立憲保護領も危うい立場となっていた。

 

その為モフブリルは方針を転換し第三帝国に半ば従属する形で同盟国となり領域と国家体制の安堵を取り付けた。

 

ディープ・コアよりもまずは帝国の旧領奪還をと息巻いていた第三帝国はこれを受け入れ両者の間には同盟が誕生した。

 

こうしてモフブリルの箱庭帝国は彼の首の皮と共に繋がれた訳だがそれでも不満は溜まっていた。

 

このままではいつ第三帝国がディープ・コアにまで進駐してくるかも分からない、モフブリルには不安が溜まっていた。

 

そこでヴァティオンはモフブリルの不安に漬け込み件の密約を交わした。

 

もはや国交を塞いでいる事態ではなかった為モフブリルは彼にしては簡単に受け入れてくれた。

 

「しかし奴と密約なんかを交わしてよかったのか?バレたら第三帝国から何を言われるか分からん、それにプラキス内ではかなり残虐な弾圧も行われているんだろう?」

 

モフブリルは自身の帝国を安定させる為警官隊や軍を使って惑星内の反対派を弾圧しているという噂があった。

 

実際それは半ば本当なのだろう、どこの軍閥もなんなら宗主たる第三帝国の同じだ。

 

尤もこの中だと第三帝国の弾圧が最も酷いと思われるが。

 

「バレなければ問題ない。それに関してはやがて抵抗派にこちらからも“()()”を行うつもりだ、小規模であれば投資出来る余裕はある」

 

プラキス内にコネクションを多く作っておくことは重要だ。

 

誰が倒れようと関係を維持出来る。

 

逆にこちらの手法がバレてもこちらに対するダメージは少ない。

 

ここの造船所もいつでも引き上げさせることは可能だ。

 

「隠蔽に関しての問題は少ないのですがそれ以上に人手が足りていません」

 

「人手?ここには十分の労働者を送ったはずだ。特に非人間種の」

 

「いえ、労働力は十分に足りています。問題は完成した兵器類をテストする人員です。こちらは我々の軍から引き抜いていますがそれでも足りません」

 

3人は顔を見合わせた。

 

クワットにはある程度の自由が認められておりその一つが惑星防衛軍、惑星防衛艦隊の保有だった。

 

通常では国防軍に併合されてしまうこの軍事力もクワットの影響力により存続した。

 

クワット宙域軍はクワット宙域を防衛すると同時に各地の造船所や工場の警備、建造された軍艦類のテストなどを行っていた。

 

この特別造船所にも同じようにクワット宙域軍の部隊が派遣されているのだがワイファンはその人手が足りないと訴えた。

 

「これからこの“ナイト・ハンマー”を動かすことを考えても現在の人員では到底足りません、何とか出来ないでしょうか」

 

「しかしこれ以上軍から送るのは難しいぞ、流石に怪しまれる」

 

“特別任務”を称して本国から部隊を派遣するのは簡単だが流石に何度も連発すると第三帝国も疑問に思うだろう。

 

一体どこに送っているのか、特別任務の内容とは一体何なのか。

 

深く探られては一瞬で全てが暴かれてしまう。

 

だがワイファンの訴えた問題は解決しなくてはならない。

 

「…ひとまず何とか部隊を抽出する、本格的な代案は本国に帰ってから検討させてもらう。いいか…?」

 

「…分かりました、こちらでも何とかしてみます」

 

「ああ…頼んだ、ん…?」

 

彼らが話していると奥からヴァティオンの秘書官の1人が駆け足でヴァティオンの方に向かっていた。

 

秘書官は「会長!」と慌てた様子でヴァティオンの近くまで走ってきた。

 

「会長!クワット本星からです!大セスウェナ連邦盟主ヘルムート・ターキンが会談を申し込みたいと!」

 

ヴァティオンはプレスタらと顔を見合わせた。

 

一体大セスウェナの若頭が何の用かとヴァティオンは思考を巡らせた。

 

しかし答えは出てこないのでそのまま「一体何のようなんだ?」と口に出した。

 

大セスウェナもクワットからしてみれば“()()()()”の1人だ。

 

「それは…分かりませんが……とにかくコルサントに償還される際に我々と会談したいと…」

 

「確かに断る理由はないが…分かった、日程を組んでおいてくれ」

 

「はい」

 

ヴァティオンは疑問を心の奥底に持ちつつも手すり越しから再び“ナイト・ハンマー”を見つめた。

 

「クワットの市場は更に拡大する、彼ら(第三帝国)にも、彼女ら(レジスタンス)にも」

 

そのまず先駆けとなるのがこの“ナイト・ハンマー”だろうとヴァティオンは考えていた。

 

 

 

 

 

 

-惑星コルサント 総統府 閣僚会議室前ギャラリー-

今日、総統府では何人かの国防軍、親衛隊高官による会議が開かれていた。

 

議長はカイティス大将軍が務め、国防軍からはヨーデル将軍が参加し各兵団の副官や参謀長としてハース・グレプス上級大佐、ヴィルへルン・バルクドルフ大佐が参加した。

 

親衛隊からはバエルンテーゼ上級大将、アルフェンマイヤー上級大将、そしてフリューデンベルク上級大将の代理としてヘイルン・フェーべライン大佐が参加していた。

 

既に会議は終了し参加者達はそれぞれ疎に会議室前で座り雑談を交わすか次の仕事の為に帰るかしていた。

 

今ここにはカイティス大将軍、ヨーデル将軍、バエルンテーゼ上級大将、グレプス上級大佐、バルクドルフ大佐そしてフェーベライン大佐が雑談を交わしていた。

 

ヨーデル将軍が通路の周りをウロウロしグレプス上級大佐とバルクドルフ大佐は通路に立っており、他の3人は近くのソファーに座っていた。

 

「シス・エターナル軍の攻勢、今も破竹の勢いらしいじゃないか。こないだもついにあのレジスタンス軍の“()()”を陥落させたとか」

 

バエルンテーゼ上級大将は国防軍の将校らに話を振った。

 

国防軍と親衛隊は同じ第三帝国の軍事組織であるが性質が似通っている為かかなり敵対視することがあった。

 

だがジークハルトやバエルンテーゼ上級大将のように国防軍とも親しく連携が取れる将校も決して皆無な訳ではない。

 

根っこは同じ帝国軍の将兵だ。

 

「ああ、逆にこちらの駐屯兵が追いついていないぐらいだ。シス・エターナル軍の司令官から逆に『もっと駐留軍を寄越せ』と言われた」

 

カイティス大将軍はそう答えた。

 

彼は総統に次ぐ国防軍のトップであり当然シス・エターナル軍との連絡口もカイティス大将軍が請け負っていた。

 

「それは我々にも言われた」

 

「親衛隊からも部隊をもっと派遣出来ないのですか?」

 

ブルクドルフ大佐はバエルンテーゼ上級大将に尋ねた。

 

上級大将は難しい顔を浮かべながらもすぐに答えた。

 

「私としてはハット・スペースにおいてある部隊とエストランの部隊を送るよう提案した。だがどちらとも…」

 

「ダメだったか…」

 

「片方はシュメルケに、もう片方は」

 

「ヒェムナー長官に、ですね。あの方がエストラン宙域から部隊を出すとは思えませんし」

 

フェーベライン大佐は人を小馬鹿にしたような笑みのままそう答えた。

 

一方でバエルンテーゼ上級大将は困ったような顔で小さく頷いた。

 

「シュメルケ元帥としてはあそこの戦力を動かしたくないだろうな。シス・エターナル軍と共にレジスタンス軍を殲滅した後の“()()”の為にも」

 

「となるとやはり…」

 

ヨーデル将軍の問いにバエルンテーゼ上級大将は小さく頷いた。

 

「既に親衛隊では“ケッセル侵攻計画”の作戦議題が持ち上がっている。いよいよハット・スペースを経由してケッセルに直接侵攻を行うつもりだ」

 

長らくケッセルは第三帝国の帰属要求を無視し続けていた。

 

ソス・ビーコンの会合にも応じずファースト・オーダーと同盟を締結した時も、チス・アセンダンシーと中立条約を結んだ時もケッセルには声をかけたのだがケッセル自身が応じようとしなかった。

 

既にあそこはケッセル王室が同地の帝国軍駐留軍と結びつき一つの宙域を基盤とした独立国家として確立している。

 

まともに戦えばそれはラクサス、アンシオンと同レベル、いやそれ以上の戦いとなるだろう。

 

むしろ一つの戦線と化すかもしれない。

 

その為第三帝国としてもケッセルへの攻撃には地理的な限界も含めてハット・スペースの大粛清時も決して手を出すことはなかった。

 

ハット・スペースを東方の生存圏として国家弁務官区化した後も同地の駐留軍は頑なにハット・スペースの領域内に留まり続けていた。

 

しかし帰属に応じない高々ケッセルの、しかも顔のいい小娘が指導者をやっているスパイス狂いの軍閥国家など旧帝国の復活と旧領奪還を謳う第三帝国がその存在を許すはずもない。

 

いつかは、やがていつかはと一部の将校達はケッセルに対する戦争計画を練っていた。

 

それに代理総統が掲げた“()()()()()()”とはハット・スペースを併合してそれで終わりではない。

 

極東の領域、ケッセル、ベリズ、カラロン、バクセル、アルバニン、ゾラスター、アルナスール、ガローフ、この8つの宙域も生存圏に組み込むことが総統の掲げる理想への一歩だった。

 

これを実現する為にはやはりケッセル王国は邪魔だ。

 

排除する必要がある。

 

それにケッセルでは良質な燃料が取れる上に良質なスパイスも同時に存在している。

 

燃料は当然帝国宇宙軍の大艦隊を動かす為に必要であるしスパイスは単に薬物としてではなく医療品としての需要もある。

 

戦争が長く続くこの銀河系にとって医療用スパイスはバクタと同じく重要視されている。

 

それらを全て叶え、手に入れる為にも親衛隊ではケッセル 排除の為の作戦計画が持ち上がり上級大将達は皆真面目な顔で議論が交わしていた。

 

いよいよ親衛隊の判断では“()()()()()()()()()()()()()()()()()”という烙印を押された。

 

これからの第三帝国の脅威はレジスタンスの誕生を受けて二の次三の次とされていた帝国軍残存勢力の討伐に移りかけていた。

 

「そのような話、我々にもして良かったのですか?」

 

グレプス上級大佐はバエルンテーゼ上級大将に尋ねた。

 

上級大将は「どうせすぐに総統閣下から似たような作戦を計画するよう言われる」とどこか諦め気味に答えた。

 

「何せケッセル侵攻は総統閣下も強くお望みだ。シュメルケやヒェムナー長官が冷めた笑顔混じりに命ずるようなものではない」

 

「総統の命令であれば我々も期待に応える必要がある」

 

カイティス大将軍は真っ先にそう答えた。

 

彼が国防軍のナンバー2、国防軍最高司令部総長としての地位にあるのもその事務的な能力と代理総統への忠誠心からが大きい。

 

帝国軍人らしいその風貌よりも忠誠心と能力がカイティス大将軍を上位の地位まで登らせた。

 

「間も無く調査隊と交代しヴィアーズ大将軍が帰ってくる。その時までに総統からご命令はきっと下るはずだ」

 

「しかし、君らやヘルダーがいくらその気でも宇宙軍の方はどうだ。オイカンやパワー、デルニッツはそう簡単に首を縦に振るとは思えん」

 

人々が遠い昔の更に昔に宇宙空間に進出し星々を行き来するようになってから戦争のあり方も一変した。

 

星から星へと戦争を続ける為には宇宙軍と宇宙艦隊が必要であり惑星内で戦闘を行うにしても輸送艦による揚陸や軌道上からの支援が必要となった。

 

もはやこの銀河系での通常戦争において地上軍単独で戦争を行うことはまず無理だ。

 

宇宙軍の存在は必要不可欠であり、地上軍と宇宙軍どちらかが欠けては決定的な勝利を掴むことは出来ない。

 

その為双方の士気が高く尚且つ双方の連携が保たれていることが勝利の秘訣なのだが中々そうはいかない。

 

異なる軍種同士を統合運用するのは難しいものだ。

 

「総統の一声があればなんとかなるはずだ。宇宙軍とて総統の命令を断るのは無理だ」

 

「それにどの道作戦を実行するのはハット・スペースの親衛隊です。国防軍はそれほど心配する必要ないかと」

 

フェーベライン大佐はわざとらしくそう呟いた。

 

彼はその態度や生まれのせいか鼻につく言動が多くフェーベライン大佐のことを好いていない人物も多かった。

 

今の発言は流石にまずいと感じたのかバエルンテーゼ上級大将は威圧を含めてフェーベライン大佐を睨んだ。

 

フェーベライン大佐はおお怖い怖いと言った少し生意気な微笑と共に口を閉ざした。

 

「…とにかくそう遠くない日に再び帝国同士の戦いが始まる。まあレジスタンスもまだ残っているしナブーすら奪還出来ていない、実行されるのは当分先だろうがな」

 

バエルンテーゼ上級大将は険しい表情で遠くの方を見つめた。

 

この時バエルンテーゼ上級大将は気づかなかったがちょうど彼が見つめた遥彼方先には件のケッセルが存在していた。

 

そこには第三帝国すら知らないケッセルの大艦隊が存在しケッセルを守り続けていた。

 

第三帝国は既に大きな読み間違いをしている。

 

総統の狂気の野望の為にケッセルにまで手を出そうとしているがここの狂気はベクトルが違う。

 

コア・ワールドの者達が敵う者ではないのだ。

 

そして既にケッセルは“()()”している、第三帝国なんかよりもずっと“()()”しているのだ。

 

「ハット・スペースのウルマトラとニミアとイリーシアの地上軍基地が再び改装を始めたそうです。新しく施設を増設すると我が情報部がキャッチしました」

 

ケッセル情報部(Kessel Intelligence Service :KIS)、通称KISの将校はクラリッサ、テシック大提督、マルスが集まる執務室で報告を行っていた。

 

テシック大提督は機械の身体を動かしソファーにもたれ掛かった。

 

歴戦の猛者であるテシック大提督ならば分かる、第三帝国はそう遠くない未来にケッセルへと攻め込むつもりだ。

 

ウルマトラはハット・スペース内で最もケッセル宙域に近い主要惑星で既に領域線の警備隊の拠点として機能している。

 

侵攻軍を送り込み最も前線に近い司令部と兵站拠点にするにはもってこいの立地だ。

 

またニミアはケッセル宙域に直接面している惑星ではない。

 

しかし遠回りだがハイパースペース・レーンを通り、カラロン宙域から進軍すればちょうどケッセル本土の裏を取れる。

 

イリーシアの基地も同じような理由だろう。

 

上手くいけば一気に三方向からケッセルを取り囲んで殲滅出来る体制を構築するつもりだ。

 

「そうか、では領域内に潜むパルチザンに紛れて基地の増設を妨害を従来の非対称戦に優先して組み込め」

 

「了解しました、それでは」

 

将校は敬礼し執務室を後にした。

 

テシック大提督はふとクラリッサの方へ目を向けた。

 

「…第三帝国、いよいよ本格的に我々に牙を向くつもりだな。遂に我々が戦争の当事者となる」

 

「シス・エターナルというイレギュラーな存在のおかげで遠ざけられていたものが今になって戻ってきただけのこと、そんなに気負う必要はありませんわ。むしろ、そっちの方が刺激的ですわ」

 

クラリッサはスパイスの香りを楽しみつつそう言葉を返した。

 

マルスも険しい表情を浮かべ小さく頷いた。

 

「第三帝国には今まで味わったことのないような、とびっきりの刺激(スパイス)を与えて差し上げましょう。まずはエリアドゥの白髪の方にも一声かけませんと」

 

クラリッサの微笑みは相変わらず年相応でありそして悪魔的だ。

 

第三帝国は既にケッセルという名の悪魔に魅入られている。

 

第三帝国は再び誤った道を進もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

セキューター級から発艦したゴザンティ級は多くのシスTIEファイターに守られながら造船所地帯へ突き進んでいた。

 

本来TIEファイターやウォーカーを取り付けているはずのクランプには謎のコンテナが左右両方に取り付けられておりレジスタンス側に多少の不安を与えた。

 

「あのゴザンティ、何か妙だ…“コルウス”、それとシールズ、あのゴザンティ・クルーザーを優先して攻撃する!何か妙だ!」

 

『了解!』

 

UウィングとシュリブのXウィングが先行しゴザンティ級に攻撃を行った。

 

しかし周りのシスTIEファイターが2機の攻撃を妨害し数で動きを封じ込めようとした。

 

一方で後方からターボレーザーとイオン砲で砲撃する“コルウス”も妨害を受けていた。

 

セキューター級のその巨体からなる砲撃はより一層苛烈さを増し、しかもシスTIEファイターも再び対艦攻撃を開始した。

 

敵機の物量に阻まれゴザンティ級に攻撃することは愚か自分の身を守るのも難しい状態となっていた。

 

「クソッ!!一体なんなんだ!!どうしてそこまであのクルーザーをっ!」

 

敵機のレーザー砲を躱しながらシュリブは苛立ちを言葉に乗せてぶつけた。

 

だがそれではこのシスTIEファイターの群れをどうすることも出来ない。

 

1機づつ確実に撃墜していくしかなかった。

 

だがそれでは間に合わない。

 

既にゴザンティ級は“コルウス”の合間も突破し造船所地帯に突っ込んでいった。

 

「チッ!しまった!」

 

シュリブは反転し追撃しようとするがその隙を狙ってシスTIEファイターがレーザー砲を放ってくる為思うように出来ない。

 

それはUウィングも同じでシュリブの命令を聞いて優先ターゲットをゴザンティ級にしていたのだがやはりこちらも護衛機の抵抗を受けて追撃出来ずにいた。

 

シュリブは急いで造船所の制御ステーションにいるアイデン達に通信を繋げた。

 

『アイデンすまないっ!ゴザンティ級を一隻取り逃した!しかもそいつは何か変なコンテナを取り付けている!気をつけろ!』

 

「えっ?」

 

アイデンは再び別のハンガーベイに攻撃を仕掛け追ってきたシス・トルーパー達と交戦中だった。

 

この通信はアイデンだけでなく制御室で艦隊の制御をしているジェルマンとデルにも聞こえていた。

 

ジェルマンはそのコンテナについて少し思い当たるものがあった。

 

「シールズ、こちらに戦闘中のゴザンティ級の詳細画像を転送せよ」

 

ジェルマンはコムリンクを使って自動操縦中のUウィングに命令を出した。

 

Uウィングから速やかに画像が送られ、ホログラムとして映し出される。

 

「本当にコンテナをそのまま付けてある。しかもこのコンテナ……」

 

デルは帝国軍のしかも特殊部隊で戦っていた経験もあるのかすぐに険しい表情を浮かべた。

 

それはジェルマンも見覚えがあった。

 

かつて銀河内戦がまだ行われておりジェルマンが一介の士官候補生だった頃、帝国情報部の将官がホズニアン・プライムの艦隊情報部支部(当時はまだ首都はシャンドリラにあった為)にハッキング攻撃を仕掛けるという事件があった。

 

この攻撃はジェルマンらによって防がれ逆にハッキング攻撃をした側が位置を特定され新共和国艦隊の攻撃を受けて壊滅した。

 

この一連の事件はへリック艦隊への急襲と言われ帝国軍は情報部の有力な将官を失ったことにより諜報能力が大きく衰えた。

 

一方でハッキングが成功していれば新共和国が大変な被害を被っていたのも事実だ。

 

何せこの時点で艦隊はホズニアン・プライムの機能麻痺による上陸作戦まで計画しておりその上陸作戦で使われる予定だったのがあのゴザンティ級に取り付けられているコンテナと同じものだ。

 

しかもジェルマンはここ最近であのコンテナの中身と戦ったことがある。

 

「アイデン!まずい…!このままじゃあ奴が入ってくる…!」

 

「ああ!本当にまずい!!しかも態々ハンガーベイから突入する必要がないから時間を稼ぐのは無理だ!」

 

2人は口を揃えてコムリンク越しに懸命に訴えた。

 

コムリンクからは銃撃の音と共にアイデンの「一体何が来るの!?」と逆に尋ねる声が聞こえた。

 

これも2人は口を揃えて答える。

 

敵は“ダーク・トルーパー”の大群だと。

 

 

 

 

『艦長、予定地点に到着しました』

 

ゴザンティ級で指揮を取る大尉がセキューター急に通信を繋げ艦長に報告した。

 

艦長は「そうか」と満足げな表情を浮かべすぐに命令を下す。

 

「ではコンテナを全てステーションへ投下せよ。中身は全てキルモードで投入し内部に突入させ制圧部隊に合流させろ。空中機動部隊はその後だ」

 

『了解!』

 

通信は切れ艦長はブリッジの乗組員に今度は命令を下した。

 

「ゴザンティ級が部隊を展開させるまで敵部隊に対する砲撃を強めろ!スターファイター隊で包囲しつつ確実に潰す」

 

ステーションの中では敵の巧みな妨害によってシス・トルーパー部隊が足止めを喰らっているようだが“()()()”がくればもう安心だ。

 

狭い室内戦においてあれに敵う者は存在しないだろう。

 

敵がどれだけの手練れだとしても敵は必ず打ち倒される。

 

その後に宇宙空間で戦っているスターファイター隊とあのレイダー級を撃破すればいい。

 

もはや勝敗の行く末は見えている。

 

ゴザンティ級はそのまま制御ステーション近くに止まり、コンテナを4つ投下した。

 

コンテナはゆっくりステーションの外壁に取りつきコンテナ自身をステーションに外壁にロックさせた。

 

しばらくするとコンテナのハッチが開き光が当たらないコンテナの中身が解放される。

 

その瞬間、まるで洞窟の中の蝙蝠のように赤い“()”は光を発しゆっくりと外へ出始めた。

 

これこそがジェルマン達が恐れていた敵にしてセキューター級の艦長が敵う者なしと評した“ダーク・トルーパー”だ。

 

真っ黒な装甲に人間のような手足を持つこのドロイド・トルーパーはロケット・ブースターを操作しつつ周囲に飛び散った。

 

他の3つのコンテナからもダーク・トルーパーが放出され既に動き始めていた。

 

早速1体のダーク・トルーパーが入り口を発見しブラスター・ライフルでこじ開けた。

 

1体ずつだが確実に内部に侵入しジェルマン達に対する攻撃は今にでも始まりそうだ。

 

また他の入口からもダーク・トルーパーはステーション内部に侵入していた。

 

ステーション内に侵入したダーク・トルーパー達は隊列を組み制御室に向かって進軍を開始した。

 

勿論その様子はアイデンのシーカー・ドロイドによって確認されている。

 

近くのソケットを通じて監視カメラにアクセスし情報をアイデンに伝えていた。

 

「ダーク・トルーパーが侵入してきた…!」

 

「ここはもう切り上げましょう…!」

 

ジョーレンはアイデンにハンドサインを送りグレネードを本来付ける部分に煙幕弾を取り付け発射した。

 

シス・トルーパーはブラスター弾を放ち果敢に突撃するも既にアイデンとジョーレンの姿はなかった。

 

2人はジョーレンの合図した通りアセンション・ガンからグラップリング・フックを放ち天井を伝って脱出していた。

 

天上の中を駆け足で移動しながら対ダーク・トルーパーに対する作戦を考えた。

 

「少佐、ダーク・トルーパーとの戦闘経験は?」

 

まずアイデンはジョーレンに一つ尋ねた。

 

ジョーレンは包み隠さず「ああ…何度かは」と答えた。

 

「ついこないだもルーサンで戦った。だがあの時はイオン・ブラスターと上空からの支援があった、今は…」

 

「どちらもないと」

 

ジョーレンは苦笑混じりに鼻で笑った。

 

残念だがアイデンのいうことは正しい。

 

イオン兵器はあっても肝心のイオン・ブラスターはUウィングにつけたままだしこのステーションは閉所である為航空支援は受けられる訳がない。

 

手持ちの武器と自分達の技量であのバトル・ドロイド・トルーパーに打ち勝つ必要があった。

 

「しかも今回は室内、多分ダーク・トルーパーの方に相当分がある。我々にとっては厳しい戦いになるな…」

 

ジョーレンは最大限ダーク・トルーパーと戦える装備を整えつつ不安げに呟いた。

 

相手が強敵なのはもう十分承知している。

 

だが今回もやはりやるしかないのだ。

 

「よし…!ここで降りるぞ…!」

 

アイデンは鉄格子を蹴破り2人は再び通路に出た。

 

「ダーク・トルーパーの分隊が迫ってきている、少佐は向こうで迎撃を」

 

「了解」

 

ジョーレンはレーザー・マインを受け取ると反対側の壁に仕掛け敵を待ち伏せた。

 

ブラスター・ライフルの状態をチェックしジョーレンはグレネードランチャーにグレネードを装填しアイデンも自身のT-50のガスを装填し直した。

 

すると遠くから重厚さを含んだ足音が聞こえてきた。

 

そのいくつもの足音はゆっくりと確実にアイデンとジョーレンの下に近づいている。

 

徐々にソレはぼんやりとだが姿を現した。

 

赤いデュアルアイに黒い装甲のボディ、間違いなくダーク・トルーパーだった。

 

ひとまずは4体、一つのユニットを組めるほどには存在していた。

 

2人は敵を確認し装備を変える。

 

とても現在のブラスター・ライフルがあの鋼鉄の機械に通じるとは思えない。

 

アイデンはパルス・キャノンに武装を変更しジョーレンはA280-CFEにスナイパー用のアタッチメントを取り付けさらに専用のパワーセルを取り付けた。

 

これでアイデンと同じくパルス・レーザーが撃てる状態となった。

 

2人はスコープを合わせ狙いを定める。

 

アイデンがハンドサインで頭部を狙えと指示を出した。

 

2人はある1体のダーク・トルーパーの頭部に狙いを定め5秒後に攻撃するとアイデンが再び指示を出す。

 

ジョーレンは頷きしっかりブラスター・ライフルを構えた。

 

たった5秒だが伸し掛かる重圧と敵からの圧迫感で5秒が50分にも5時間にも感じられた。

 

しかし時の流れを変える事は出来ない、遂に時間が来た。

 

2人はほぼ同時に引き金を引きパルス・レーザーを放った。

 

2本の黄緑色のレーザー弾がピッタリ同じ箇所に被弾しダーク・トルーパーの黒い装甲が溶解し火花を散らした。

 

だがダーク・トルーパーは倒れる事はなかった。

 

火花を散らしながらも他のダーク・トルーパーと共にブラスター・ライフルの引き金を引き何十発ものブラスター弾を発射した。

 

ダーク・トルーパーの一斉射で少々狙いはブレたが2人は焦る事なく狙撃を続けた。

 

再びアイデンが同じ箇所にパルス・レーザーを命中させるもまだダーク・トルーパーの歩みは止まらない。

 

少々動きはおかしくなっていたがそれでもブラスター・ライフルを掃射し容赦なく2人を殺そうとしていた。

 

続いて撃ったジョーレンのパルス・レーザーでもダーク・トルーパーは倒れなかった。

 

赤いデュアルアイが点滅しブラスター・ライフルの照準が全く合っていなくても戦闘をやめず機能停止する事はなかった。

 

駄目元でアイデンが再び同じ箇所にパルス・レーザーを放ちようやくダーク・トルーパーは光を失い地面に崩れ落ちた。

 

被弾箇所から火花を上げ完全に機能停止していた。

 

ようやくこれでダーク・トルーパーが1体倒された。

 

それでもまだ3体も残っている。

 

同型機の残骸を踏み付け後ろのダーク・トルーパーも距離を詰めてきた。

 

ジョーレンが事前に設置したレーザー・マインが作動し爆発したのだがそれでもダーク・トルーパーに対するダメージは殆どなかった。

 

ただ少しよろけるだけだ。

 

アイデンが仕掛けたレーザー・マインが作動してもそれは同様だった。

 

足が吹き飛ぶ訳でもなくましてや転けることすらなかった。

 

しかし動きの僅かな隙を狙ってジョーレンはインパクト・グレネードを2発投げダーク・トルーパーに被弾させた。

 

しかし多少衝撃を受けるだけで装甲には僅かな煤しかついていなかった。

 

「チッ!」

 

ジョーレンはインパクト・グレネードをダーク・トルーパーの煤のついた装甲に投げ付け衝撃で爆発させた。

 

これでようやくダーク・トルーパーの装甲の一部分が僅かに剥がれた。

 

それでもダーク・トルーパーはダメージを気にする事なく前進と攻撃を続けている。

 

徐々に距離は縮まっておりこのままでは2人は蜂の巣だ。

 

アイデンはチャージされたT-50ヘビー・リピーターの震盪ブラストを解放しダーク・トルーパーの被弾箇所に向けて発射した。

 

ブラスト弾は更に剥がれた装甲部分の損傷を更に広めた。

 

イオン・ダメージの影響か攻撃を受けているダーク・トルーパーは動きがぎこちなくなっていた。

 

ジョーレンはそこに通常のブラスター弾を叩き込みダメージを更に与えた。

 

内部がズタズタに破壊されたのかダーク・トルーパーは火花を広げ小爆発を起こして地面へと斃れた。

 

斃れてもなおブラスター弾を発射していたがその影響で無理が祟ったのか再び小爆発を起こして今度こそ完全に沈黙した。

 

これでようやく半分のダーク・トルーパーを倒せたのだがここでイレギュラーな事態が発生する。

 

なんとジョーレンが被弾してしまったのだ。

 

左の二の腕に被弾しジョーレンは苦痛の表情を浮かべた。

 

「援護する!今のうちに処置を…!」

 

「分かってる…」

 

ジョーレンもサーマル・デトネーターをダーク・トルーパーの足元に投げ急いでバクタ液を被弾箇所にかけ、医療用ガーゼを被弾箇所に貼り付けた。

 

負傷もまだ浅い為これで傷はすぐにでも完治するはずだ。

 

その間にアイデンはもう1体のダーク・トルーパーを撃破しようとドロイドと作戦を共有した。

 

「ドロイド、こちらで敵を引き付けておく。その間に装甲の合間にスタンを流せ」

 

シーカー・ドロイドはすぐに了承したと電子音で告げ、アイデンがダーク・トルーパーに銃撃している間にダーク・トルーパーに近づいた。

 

T-50の火力でもダーク・トルーパーには傷ひとつ付かない。

 

しかしダーク・トルーパーは完全にアイデンの方に集中しておりシーカー・ドロイドの存在など気づきもしなかった。

 

ダーク・トルーパーがアイデンにギリギリまで近づいた瞬間シーカー・ドロイドはダーク・トルーパーに飛びかかり、スタン棒を首元に触れさせ一気に放電した。

 

ダーク・トルーパーの全身に電撃が走りなんとか手で払い除けようとしたがその前に全身の回路がショートした。

 

あちこちから火花を上げダーク・トルーパーは地面に崩れ落ちた。

 

これで残りのダーク・トルーパーは1体となった。

 

最後のダーク・トルーパーは急いでブラスター・ライフルを向けシーカー・ドロイドを破壊しようとした。

 

だがその隙をジョーレンが鋭く突いた。

 

ジョーレンはアクバー元帥から貰った爆弾ナイフをダーク・トルーパーの首元に投げた。

 

ナイフは見事に首元に刺さりジョーレンはさっさと爆弾ナイフを起爆した。

 

爆発によりダーク・トルーパーの首は吹き飛び煙を上げながらガシャーンと大きな音を立ててその場へ倒れ込んだ。

 

これでようやく全てのダーク・トルーパーが撃破されたのだ。

 

敵の沈黙と周囲の状況を確認し2人はようやく一息つけた。

 

やはりダーク・トルーパーは圧倒的な脅威だった。

 

たった4体なのにも関わらず通常攻撃は殆ど効かないし爆発も一部の箇所以外は全く通用しなかった。

 

通常の武装では全く歯が立たずジョーレンに至っては負傷までした。

 

2人は珍しくかなり危機的な状況だった。

 

「この敵が少なくともまだ二、三個分隊ほど…」

 

ジョーレンは珍しく弱音を含んだため息をついた。

 

これほどの敵を全てでなくても倒していくのは骨が折れる。

 

2人は今のうちにブラスターをクーリングし次の弾丸が撃てるよう調整した。

 

「ブラスターのパワーセルは?」

 

「こっちも足りてる、ただ問題はこのままだと制御室を守り切るのは至難の業だ。何か方法を考えないと」

 

アイデンは倒した4体のダーク・トルーパーの残骸を見つめそう呟いた。

 

たった距離を取った状態で4体倒すだけでも至難の業だ。

 

特に通常のブラスター・ライフルの攻撃が全く効かないというのが痛い。

 

多少堅くともブラスター・ライフルが通じるのなら一点に集中して攻撃すればまだ勝ち目がある。

 

しかし現実はパルス・レーザーを一箇所に5発も撃ち続けなければ倒せない。

 

恐ろしい相手が投入されてしまった。

 

しかも敵は数も多い。

 

『ジョーレン!!ヴェルシオ中佐!!ダーク・トルーパーの一個分隊が迫ってきている!!』

 

通信が開きジェルマンの声が響いた。

 

しかも最悪な報告と共にだ。

 

「なんだと!?」

 

『なんとかこちらでも応戦してみるが出来れば救援を!!』

 

ジェルマンの背後ではデルが戦闘準備を行なっている音が聞こえてくる。

 

アイデンはすぐに「分かった、今から向かう」と返答した。

 

だが2人にも再び脅威が降りかかる。

 

通路の奥から今度は少し小走りで再び重厚な足音が響いた。

 

その音だけでアイデンとジョーレンの表情は変わった。

 

2人はすぐに通路の合間に隠れブラスター・ライフルを構えた。

 

コムリンクからは『どうしたんだ…?』とジェルマンの心配する声が聞こえた。

 

「すまんジェルマン……こちらも当分救援に迎えそうにない…!」

 

『えっつまりそれって…!』

 

「ああ…!こっちもかなりまずい状況だ…!」

 

「来たぞ…!」

 

アイデンの一言と共に再びダーク・トルーパーの一団が現れた。

 

今度は6体、しかも後ろにシス・トルーパーまで従えている。

 

2人は先制攻撃としてパルス・レーザーを放ち、出来る限りの火力を投射した。

 

ジョーレンが「駄目元で上等…!」とサーマル・インプローダーを投擲しその絶大な火力でダーク・トルーパーを2体破壊し他の敵兵にもダメージを与えた。

 

しかし倒せたのは2体のダーク・トルーパーのみで残り6体はすぐに後ろのシス・トルーパーと共に起き上がり攻撃を始めた。

 

急いで応戦するがダーク・トルーパーの装甲が鋼鉄の盾となり攻撃を全て受け止めていた。

 

その合間からシス・トルーパーがサーマル・デトネーターをジョーレン達の方へ転がしてきた。

 

「まずい!!」

 

ジョーレンはそう口にしたが今の状況では投げ返すことも出来ない。

 

その隙にダーク・トルーパーの容赦のない一層射撃によって倒されてしまうだろう。

 

「離脱する!」

 

アイデンが言い放ったそのわずか数秒後にサーマル・デトネーターは起爆しあたりに爆発を巻き起こした。

 

その影響かジェルマンのコムリンクは突如雑音が混じり繋がらなくなってしまった。

 

「ジョーレン!?聞こえてるかジョーレン?ヴェルシオ中佐!!」

 

ジェルマンが必死に呼びかけても向こうからは何も返ってくる事はなかった。

 

2人の生死はジェルマンとデルにとって分からずじまいとなった。

 

 

 

 

 

 

-コルサント 帝国首都秩序警察本部 アンダーワールド対策室-

ISBの麾下組織として首都コルサントの保安部隊やベアルーリンの警察組織を再編した帝国首都秩序警察はその名の通り第三帝国の首都、準首都惑星の一般警察業務を担っていた。

 

あくまで一般である為特別業務、例えばFFISOのエイリアン狩りや政治的不穏分子の逮捕などは一般のISB調査部、捜査部とFFISOの第Ⅳ局、第Ⅴ局が担っている。

 

しかし今回のアンダーワールドに対する掃討作戦は双方の組織が複雑に絡み合っている為対策室を秩序警察の本部に置くこととなった。

 

元々秩序警察本部があるこの建物はかつてはジュディシアル部門の本部、ジュディシアル・アーコロジーという名称の建物だった。

 

ここでジュディシアル部門は半ば冷遇され思うように活動が出来ないながらも最大限銀河系の秩序を維持する為に活動していた。

 

それが今では全く真逆の立場である第三帝国の警察組織が同じ建物を使用しているというのは皮肉にも感じられる。

 

今日ここにはアンダーワールド掃討作戦の前日ということで最後のブリーフィングが行われていた。

 

既に上階の封鎖を担当する指揮官達は解散しそれぞれ部隊に戻ろうとしていた。

 

ジークハルトとヴァリンヘルト大尉もそれは同様で既に展開を開始しているタンティスベルク軍団に合流し指揮を取る必要がある。

 

まだ退院して数日も経っていないというのにもう仕事の始まりだ。

 

「封鎖司令部としてポータルの管理室を貸してもらえた。司令機能は全てそこに移す」

 

「了解、先にストライン大佐へ伝えます」

 

ヴァリンヘルト大尉はコムリンクを開きストライン大佐に連絡した。

 

周りでは他の将校も本部のエントランスで雑談を交わしていた。

 

中には将軍以上の上級将校も含まれている。

 

その1人がヴァリンヘルト大尉が気がついた国内予備軍司令官のフリード・フロールム上級将軍だ。

 

「閣下、フロールム上級将軍です」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトの裾を引っ張り彼に伝えた。

 

ジークハルトが指を差された方向を見ると確かに国内予備軍の最高司令官がいた。

 

フロールム上級将軍は何やら他の将校らと雑談していた。

 

「先程のブリーフィングにもいた。作戦計画だと予備軍も動員されるらしい」

 

国内予備軍とは主に国防軍の新兵及び指揮官の育成、部隊の再編成などを行う軍組織であり帝国アカデミーとも密接に連携している。

 

ここに含まれるのは地上軍だけでなく宇宙軍、スターファイター隊も存在し親衛隊も同様の組織として親衛隊予備軍を設立していた。

 

しかし国防軍と親衛隊の連携の為にもということで親衛隊予備戦力局は実質的に国内予備軍の隷下にあり時に合同部隊を設立する時には協力し合っていた。

 

その為今も訓練部隊や再編成中の部隊を有している。

 

「隣にいるのはオーブリート中将だな。彼は予備軍の局長の1人だ」

 

「今回の封鎖、国内予備軍が全面に出されるのでしょうか」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトに尋ねた。

 

「かもな、前線に出ていない再編中の部隊を展開するのが一番労力を差し引いても安上がりなのだろう。我々のように“()()()()”を兼ね備える部隊はまた違ってくるが…」

 

この作戦でジークハルトはクリース大将と共にだがお互いの手持ち部隊の連携度合いを図り本筋の作戦、ナブー奪還作戦を考えていく必要がある。

 

今の所作戦の内容は7割が完成、訓練も順調で後は時を待つだけだ。

 

テロとこの掃討作戦がなければもう数ヶ月早く実行に移せていただろうが焦る必要はない。

 

ナブーは必ず奪還される。

 

「シュタンデリス准将、少し宜しいですか?」

 

ある1人の将校がジークハルトの名前を呼び敬礼した。

 

ヴァリンヘルト大尉とジークハルトも敬礼を返し「君は?」とジークハルトは名前を尋ねた。

 

軍服や襟章を見ても目の前の将校は国防軍、特に地上軍の少佐だ。

 

確実に親衛隊の将校ではない。

 

「地上軍参謀本部編成課第Ⅱグループ長のマリアス・シュタッフェンベルク少佐です」

 

「第9FF装甲擲弾兵軍団長付副官のニコラツ・ヴァリンヘルト大尉です」

 

大尉は律儀に第三帝国式の敬礼と共にシュタッフェンベルク少佐に敬礼した。

 

先程少佐がした敬礼は一般的な軍の敬礼だった。

 

第三帝国式の敬礼が推奨されている今ではもうかなり珍しくなっている。

 

「私がシュタンデリス准将だが……どうかしたのか…?」

 

態々国防軍の、しかも地上軍の参謀本部の将校がジークハルトに声をかけてくるのは珍しい。

 

それこそ親衛隊の作戦本部の将校が声をかけてくることはあるが国防軍となるともう別の組織である為あまりない。

 

「准将に一つ御用があって参りました、立ち話でよろしければあちらで」

 

シュタッフェンベルク少佐はふと遠くの通路を見つめた。

 

時計を見つめまだ時間も押していないし最悪優秀な部下達に任せれば良いだろうと思ったジークハルトはシュタッフェンベルク少佐の提案を受け入れた。

 

「分かった、少しでよければ聞こう」

 

「ではこちらに」

 

シュタッフェンベルク少佐はジークハルトを連れ副官であるヴァリンヘルト大尉もそれに続こうとした。

 

しかしシュタッフェンベルク少佐は「副官はこちらでお待ちを」とヴァリンヘルト大尉だけを止めた。

 

ヴァリンヘルト大尉は一旦立ち止まりジークハルトの方に目線を送った。

 

「私の信頼出来る優秀な副官だ、ダメなのか?」

 

「すみませんがどうしても副官の方は同行させる事は出来ません」

 

今度はジークハルトの方がヴァリンヘルト大尉に目線を送った。

 

シュタッフェンベルク少佐の言い方からして強引にヴァリンヘルト大尉を連れていく事は無理だ。

 

ヴァリンヘルト大尉は微笑み「構いませんよ」とジークハルトにメッセージを送った。

 

「…先に駐機場へ向かってスピーダーの用意を頼む。私も少佐との話が終わればすぐに行く」

 

「分かりました」

 

ヴァリンヘルト大尉は駐機場の方へ向かいジークハルトはシュタッフェンベルク少佐と共に人気のない通路の方へ向かった。

 

そこにはドロイドの1体もいない静かな空間が広がっていた。

 

ジークハルトは早速単刀直入に「それで、一体何の話が?」とシュタッフェンベルク少佐に尋ねた。

 

「実は我々編成課第Ⅱグループは国内予備軍と合同で有事の際の予備戦力の動員令についての作戦を考えるよう命じられました。そこでシュタンデリス准将には親衛隊からのアドバイザーとして指令作成に参加して欲しいと」

 

「親衛隊のアドバイザー?予備戦力の動員は国防軍と国内予備軍だけの問題ではないのか?」

 

ジークハルトは疑問に思いシュタッフェンベルク少佐に問い詰めた。

 

国防軍と親衛隊は別組織である以上にそこには人によってだが大きな溝があった。

 

総統の命令でもない限り国防軍と親衛隊が合同で作戦を考える事は少ない。

 

「いえ、この計画には親衛隊戦力予備局も関わっていますので。何よりシュタンデリス准将は以前のテロで見事に陣頭指揮を取り指揮系統の混乱を防がれました。その能力を見込んで総統と局長のオーブリート中将は貴方が適任だと任命されました」

 

「そう…なのか…」

 

総統の命令という言葉でジークハルトは若干腑に落ちかけたがここで一つの違和感に気づいた。

 

普段はいつもこういう命令は直属の上官であるモーデルゲン上級大将から受けていた。

 

されど今回は別組織の将校から受けている、何かが妙だ。

 

「…それでその作成会議はいつやるのだ?生憎私も明日から封鎖部隊の陣頭指揮を取るしそれ以降は別の作戦に携わっているのでそれほど時間はないが…」

 

「資料はこちらに」

 

シュタッフェンベルク少佐は事前に用意していたホログラムの資料をジークハルトに見せた。

 

「…この日程なら、当分先だが問題ないはずだ」

 

「そうですか、ならよかったです」

 

シュタッフェンベルク少佐はホロプロジェクターをしまった。

 

「要件はこれだけか?」

 

ジークハルトの問いにシュタッフェンベルク少佐は「ええ、“()()”」と答えた。

 

若干気になる回答ではあったが今はヴァリンヘルト大尉も待たせている為ここで切り上げよう。

 

「そうか、では私はこれで。それじゃあ」

 

少佐に再び敬礼しジークハルトはその場を後にした。

 

再びシュタッフェンベルク少佐は敬礼しジークハルトを見送った。

 

すると横から一足遅れてオーブリート中将が姿を表した。

 

「彼はどうだ?“()()()()()()()”」

 

「難しいですがやってみる価値はあると思います」

 

2人は静かにそしてどこか期待を込めた目線でジークハルトの後ろ姿を見ていた。

 

彼らがこれから何をするのか、その結果何が起こるのかまだジークハルトは知らない。

 

しかし第三帝国に不穏な影があるという事は間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー首都 惑星シーラ クサプラー フォース感受者トレーニング強化室-

ルークとマラ・ジェイドらがシーラに来てから早速フォース感受者たちの訓練が始まった。

 

今はルークが瞑想による集中力とフォースの繋がりを高める訓練を行っている。

 

「冷静に、己の内側から発せられるフォースと外を流れるフォースを感じるんだ」

 

静けさが漂いルークの声だけが優しく静かに響く中、訓練の参加者達は皆目を瞑り意識を集中させていた。

 

意識の高まりの中で参加者達は己の生命のフォースとそれと繋がるフォースを感じその性質を理解していく。

 

彼ら彼女らが学ぶ戦闘瞑想とはフォースの技術の一つで味方の士気や体力、戦闘力を大幅に上昇させると同時に敵の繊維や戦闘力を低下させる技術だ。

 

ジェダイの間では珍しかったがルークはダゴバでフォースの訓練をした時に戦闘瞑想を習い、ベンを探す旅の道中でも戦闘瞑想に関する記述を読み実践した。

 

参加者達は皆熱心に戦闘瞑想を習い、今も基礎たる瞑想を実施していた。

 

「うちに秘めた自分も知らない己を見つめるんだ。自分を知ってこそ他者の力を引き上げられる」

 

ルークのアドバイスを自らに刻みながら参加者達は自らを鍛え上げていた。

 

その様子を上のビューポートから何人かの高官が見つめており中にはタッグ元帥やシャポシニコフ元帥、コーシン上級提督もいた。

 

「これがフォースの訓練か、ライトセーバーの訓練と比べると随分地味に見えるが」

 

「それでもちゃんととした訓練です。今でも能力が上がっているのがよく分かる」

 

亡命帝国空軍将軍の“スーンティア・フェル”はマレックと会話を交わしながら訓練の様子を見つめていた。

 

「これらは全てヴィルヘルムが望むものらしい。奴は今鍛えられている連中こそが銀河を救うと言っていた」

 

「確かにきっと優れた戦力になりますよ」

 

マレックの言葉とは裏腹にスーンティアは何処か納得がいっていないような表情だ。

 

「しかしその優れた戦力も正しく活かされねば無駄となる。君が私の部隊に来る前、多くの部下達が愚かな上官のせいで戦死することとなったように」

 

マレックはシス・エターナルに来る前まではスーンティアが指揮していた第181戦闘機大隊に所属していた。

 

とある反乱軍への攻撃で戦死したパイロット達の代わりとして補填されたマレックはその高い技量で大隊の一員として戦果を重ねていった。

 

中にはザーリン、ハーコヴといった裏切り者達への対処など特殊な任務もあったが。

 

その過程でマレックはヴェイダー卿や皇帝パルパティーンといった帝国の最高指導者達にその“能力”を認められ皇帝の手となった。

 

故にエンドア後は離れ離れとなり再会までには5年近くを有したわけだが。

 

「しかし指揮官は貴方の従兄弟のモフフェルです。彼はクローン戦争にも従軍した優れた将校であり政治家ですよ」

 

「と同時に冷酷でもある、かつて我々の生活を助ける為に銀河へと足を踏み出した者とは思えないほどな」

 

スーンティアにとって今亡命帝国の指導者であるヴィルヘルム・フェルはそこそこ歳の離れた従兄弟だった。

 

これはまだスーンティアが生まれる前のことだ。

 

元々フェル家というのはコレリアのアストリルド・ボトムランド地方で穀物及び飼育連合、通称AGRの下で農業を営む一族だった。

 

その為ヴィルヘルムも最初は父やおじ、つまりスーンティアの父親達の跡を継いで一族の生活を繋いでいくものだと思っていた。

 

だが時代は彼がただの農民で終わることを許さなかった。

 

ある時期からアストリルド・ボトムランド地方の作物は不作に見舞われフェル家は非常に苦しい状況に陥った。

 

このままでは農業を続けて行くことすら難しい、それほどまでに一族全体が大きな危機に見舞われた。

 

そこでヴィルヘルムは家族の為に農業の道を捨ててある場所で働くを決意した。

 

それはコルサントに存在する銀河共和国ジュディシアル部門、ジュディシアル・アカデミーだ。

 

丁度その頃のジュディシアル部門は2、3年前のナブー侵攻を受けて人員を拡大する為に多くの招聘を必要としていた。

 

幸いにもヴィルヘルムは頭が良かった。

 

ヴィルヘルムは進路として家族と共に暖かな農業の生活を送ることを諦め、家族の為にジュディシアルの道を選んだ。

 

彼は試験を合格しジュディシアル・アカデミーに入学した。

 

ジュディシアル・アカデミーでは候補生にも給料が支払われる為ヴィルヘルムは毎月仕送りをコレリアの家族の下へ送っていた。

 

やがてヴィルヘルムはジュディシアル・アカデミーを優秀な成績で卒業しジュディシアル部門の将校として日々の難題と向き合っていった。

 

ヴィルヘルムは度々遠く離れた駐留地からコレリアの家族の下へ手紙を送っていた。

 

「日々の生活はどうだ」とか「母や父は元気か」とか他愛もないものばかりだが。

 

またヴィルヘルムは度々コレリアの地元に帰り農業を手伝ったりもした。

 

その為スーンティアや弟のトドルが生まれ、物心つく頃からヴィルヘルムはずっと青い制服を身につけ続けていた。

 

そして遂にあの戦争が始まった。

 

銀河系に争いの時代を呼び起こしたクローン戦争が。

 

ヴィルヘルムは共和国軍の憲兵将校、軍政将校として戦争に従軍した。

 

フェル家の家族はスーンティアも含めてヴィルヘルムの安否を心配した。

 

確かにクローン戦争は多くのクローン・トルーパーとジェダイが主力として戦っていたが戦争を支えていたのはそれだけではない。

 

今まで影でひっそり共和国や故郷の惑星を守っていたジュディシアル・フォースや惑星防衛軍の将兵も共和国軍の中に組み込まれた。

 

ハースト・ロモディ退役元帥やニルス・テナント、ジークハルト・シュタンデリスの父、バスティ・シュタンデリスやその友ゴットバルト・バエルンテーゼや故ウィルハフ・ターキン、故パウルス・ヒルデンロードなど。

 

あの戦争に従軍した将兵は多くその後の帝国軍の礎を築いた。

 

生身の将兵達はクローン達と肩を並べて、或いはクローン達とは別に分離主義者のバトル・ドロイドと戦った。

 

何千、何万ものバトル・ドロイドの進撃を塹壕で、市街地で守り通し分離主義者から取り返した領土に進駐しその地を守護した。

 

ヴィルヘルムはそこで奪還領域の軍政、前線での戦争犯罪の取り締まりを行った。

 

当然砲弾が飛び交い、いつ破れるか分からない偏向シールドの中で一夜を過ごしたこともある。

 

それに味方を取り締まるという事は何よりも重要で何よりも大変なことだ。

 

心を鬼にする必要がある。

 

ヴィルヘルムはクローン戦争中ずっと心を鬼にしてそれらの職務に当たり、その結果ヴィルヘルムは優秀な政治将校だと評された。

 

家族へ送る手紙もやがて簡素なものとなり次第に途絶えていった。

 

スーンティアがヴィルヘルムと再会したのはクローン戦争が終わり、ようやく仕事がひと段落した後だった。

 

コレリアに帰ってきたヴィルヘルムはまさに変わり果てた姿となっていた。

 

変わり果てたと言っても別に腕や足をなくしたとかではない。

 

むしろ表面上の傷よりも戦争で荒んだ心の傷が顔に現れていた。

 

ヴィルヘルムは昔のヴィルヘルムを忘れてしまった。

 

彼は戦場で生きる為に非情さを学びそれを戦後も帝国のためと育んできた。

 

それは今もそのままだった。

 

管理監査官となっても、惑星の総督になっても、サンクト宙域のモフとしてチス・アセンダンシーとの窓口になったとしてもだ。

 

恐らく迫り来る最悪の“()()”と戦う時もヴィルヘルムはそのままだろう。

 

だからこそチスのお偉方には頼れる盟友として扱われているのだろうが。

 

ヴィルヘルムがあの戦争で得て帝国時代に育んできた冷酷さはこの銀河系を守るのに確実に役に立つ。

 

必要であれば自らの命も捧げるだろう。

 

スーンティアであれば割り切れないこともきっと。

 

「だがヴィルヘルムがこの地(未知領域)で我々に安寧の地を与えてくれたのも事実だ。今やフェル家はタッグ家と並んでチスのルーリング・ファミリーの1つとなっている。おかげで私も将軍などと高い階級を得ているが」

 

「ですが閣下はそれに相応しいお方です。そういえば181大隊とセイバー中隊のメンバーはどうですか?」

 

マレックはかつての戦友達の近況を指揮官に尋ねた。

 

「私は第181戦闘機大隊の指揮官を既にフェナーに譲ったが今でも共に飛んでいるから分かる。依然“()()()()”だ。むしろこの未知領域に来てからも練度は上がり続けている」

 

スーンティアはどこか嬉しそうにマレックに話した。

 

彼にとって配下の第181戦闘機大隊は何よりの誇りであったし部下達は戦友であり半ば家族のようなものだ。

 

彼が持つ“男爵(Flight Baron)”の称号よりも誇るべきものとスーンティアは思っていた。

 

当然マレックもその1人である。

 

今は確かに直属の部下ではないが未だ戦友であることに間違いはない。

 

「赤きストライプ集団の名声は衰える事はない。無論私のパイロットとしての腕もな」

 

「将軍がいつまでもスターファイターに乗ってていいんですか?」

 

「クリスフリート・ヴァントだって将軍なのにスターファイターに乗って戦っている。別にいいだろ?」

 

スーンティアは冗談まじりにそう返しマレックも苦笑を浮かべている。

 

昔からスーンティアは指揮官であったが他の指揮官とは少し違っていた。

 

多くの指揮官のように軍艦のブリッジの中で部隊の指揮を取り作戦を遂行するようなことは苦手でむしろ部下達と共にスターファイターに乗り込んで戦うことの方を好んでいた。

 

それは彼がフェル家の一員として将軍にまで昇進した後もそうだった。

 

ヴィルヘルムからは「もう少し司令室にいてくれ」と言われたこともあったが。

 

「それで、君は今までどうだったんだ?君がエンドアの後どうしてシス・エターナルに向かったのかは聞かない、だが大切な部下の1人の心のうちくらいは聞いておきたくてな」

 

「それは……」

 

マレックは少し口を閉ざし目線を落とした。

 

マレックが“()()()()”となり己の能力を磨いている頃エンドアの戦いが起こりマレックの力を見抜いた2人が一度に死んだ。

 

それからマレックは“()()()()”シス・エターナルの本拠地エクセゴルに連れて行かれた。

 

そこでマレックは衝撃的で、自身の忠誠を揺らぐようなものを見た。

 

エクセゴルには確かにマレックの、いや銀河の“()()”がいた。

 

だが“()()”は既に変わり果て、かつてマレックの力を見抜き銀河系を我が物として安寧を与えた優れた指導者の面影は殆ど残っていなかった。

 

()()”は衰弱し気付けば妄言ばかり吐くようになっていた。

 

最初は離反しようとした、ここに自分の仕えるべき者はいなかったと。

 

だが“()()”は悲しいことに最後の一欠片分の理性を残し自らの理想を、妄言のような理想ではなく“人()()()()”たる理想がマレックを繋ぎ止めた。

 

あの“()()”がエクセゴルに用意していたものは半分は妄言のような理想の為で、もう半分は銀河の為の用意だった。

 

だからマレックは衝撃を受けその忠誠心は揺らいだ。

 

しかしそれ故に己の忠誠心が完全に崩れる事はなかった。

 

それが余計にマレックを苦しめた。

 

誰も頼れる存在がなくマレックは1人苦しんでいた。

 

「…私は今、迷っているのかもしれません。私自身が行くべき場所が分からない迷宮のような場所で……帝国軍人として迷いは失格でしょうが」

 

マレックは自嘲気味に笑ったがスーンティアは「そんな事ないさ」とフォローした。

 

「私やフェナー、いやヴィルヘルムやあの時代に生きた全ての真っ当な軍人なら誰しも迷ったはずだ。迷わなかった奴は何かに取り憑かれていたかろくでなしばかりだ」

 

誰しも迷った末に自らの選択をした。

 

皇帝という指導者を失った帝国の者達は皆迷える盲目の子羊となっていた。

 

それはスーンティアもヴィルヘルムもマレックも多くの将兵がそうだ。

 

だからマレックは決して間違った訳ではない。

 

むしろこれから自らで正誤を判断するのだ。

 

その判断を他人(皇帝)に委ねていた分を。

 

「我々だってあの時選んだ選択が正しいのか今でも分からんのだから」

 

 

 

 

 

 

 

「ダーク・トルーパー部隊、室内の57%を制圧完了」

 

『了解、空中機動部隊の投入を許可する』

 

ゴザンティ級のブリッジからセキューター級のブリッジへ連絡を取り追加部隊の投入の許可を貰った。

 

ゴザンティ級の操舵手達が機器を操作し艦内にいる部隊員に命令を出した。

 

「これより航宙降下を開始する。総員、降下用意せよ」

 

『了解』

 

隊員達は指揮官やサポーター達の合図で装備を纏め席から立ち上がった。

 

艦内のランプはまだ赤のままだがハッチが開き外の宇宙空間とゴザンティ級の中を遮るものは偏向シールド1枚となった。

 

サポーター達が周囲の様子やゴザンティ級の安全を確認し部隊長に降下よしの合図を出した。

 

部隊長はヘルメットのコムリンクでブリッジに通信を繋いだ。

 

『全隊員の降下準備完了、外部及び内部の問題なし』

 

部隊長から報告がありブリッジの乗組員達は指示を出した。

 

「了解、センサーチェック」

 

「センサー、チェックします」

 

ゴザンティ級のセンサーで周囲の安全をチェックする。

 

敵のコルベット艦と2機のスターファイターは友軍のシスTIEファイター部隊に抑えられておりこちらに来る事はない。

 

周囲に敵影はなかった。

 

「センサーに敵影なし」

 

「よし、分かった。高度を確認」

 

「高度問題なし」

 

全ての安全性と降下条件を確認しゴザンティ級の艦長は部隊へ指示を出した。

 

「ブリッジより空中機動部隊へ、全隊降下せよ」

 

その合図と共にランプは青へと変わり、内部にいた空中機動部隊のシス・ジェットパック・トルーパー達は一斉に艦内から飛び降りた。

 

降下と共にシス・ジェットパック・トルーパー達は宇宙の波に流されそうになったがすぐにジェットパックを点火した。

 

ジェットパックのエンジンでシス・ジェットパック・トルーパー達は宇宙空間を自由自在に飛び回った。

 

それぞれ分隊規模でダーク・トルーパーがこじ開けた入り口に向かった。

 

シス・ジェットパック・トルーパーは他の軍隊のジェットパックの兵士のようにジェットパックを用いて空中を飛び回り優れた機動力で敵を翻弄する。

 

今回はダーク・トルーパーと同じく速やかに精鋭部隊を内部に展開する為にゴザンティ級に乗り込んでいた。

 

シス・ジェットパック・トルーパーはステーションに侵入し更に細分化された3人の隊で奥へ奥へと浸透した。

 

その間にダーク・トルーパー隊とシス・トルーパー隊も最後の制圧目標である中央制御室に向かっていた。

 

ここを抑えれば敵はもうこのステーションで何もすることがない。

 

しかし中央制御室に続く通路は1本しかない為、部隊はダーク・トルーパーを前衛にして前進していた。

 

ゆっくりと確実に、シス・エターナルの軍隊は前進する。

 

だが進ませてばかりではいられないのだ。

 

1発のブラスター弾がダーク・トルーパーの首に直撃し出血のような檜原を散らした。

 

更にもう1発のブラスター弾が同じ箇所に命中しそのダーク・トルーパーは弱点を完全に破壊され機能停止した。

 

その瞬間、一斉に他のダーク・トルーパーや合間のシス・トルーパー達が弾丸が放たれた方向に向かって制圧射撃を開始した。

 

何十発ものブラスター弾が飛び出し狙撃手を牽制した。

 

だが狙撃手にとってこれが良かった。

 

敵の注意が完全に自らの方へ引き付けられているからだ。

 

『大尉、やれ』

 

狙撃手、デルはコムリンクでジェルマンに合図を出した。

 

ジェルマンは小さく「了解」と呟くとスイッチを押し、仕掛けてあるものを一斉に作動させた。

 

エネルギー管や物陰に隠れていた近接反応爆弾が起爆し更にブラスター・タレットがダーク・トルーパーや敵に対して一斉に銃撃を開始した。

 

やはり近接反応爆弾程度ではダーク・トルーパーを破壊する事は不可能だったがそれでもシス・トルーパー達に大打撃を与えた。

 

ブラスター・タレットはシス・トルーパーを瞬時に撃ち倒すことは出来てもダーク・トルーパーには全く効力がなかった。

 

ダーク・トルーパー達はブラスター・ライフルでブラスター・タレットを確実に破壊していく。

 

デルが後方からスナイパー・ライフルで1体のダーク・トルーパーが持つブラスター・ライフルを狙い撃った。

 

直撃したブラスター弾がダーク・トルーパーのライフルのパワーセルを誘爆させダーク・トルーパーの右手ごと吹っ飛んだ。

 

ダーク・トルーパーは武装の整った別のダーク・トルーパーと立ち位置を交代した。

 

その間にジェルマンはイオン魚雷を専門の発射装置に装填し肩に担いだ。

 

狙いを定め前衛のダーク・トルーパーにイオン魚雷を発射した。

 

ダーク・トルーパーは迎撃や回避する余裕もなくイオン魚雷が直撃し完全に機能が停止した。

 

流石のダーク・トルーパーといえどやはりバトル・ドロイドの一種なのでイオン魚雷の力には敵わなかった。

 

アイデンが用意していたものだがまさかこんな方法で役に立つとは。

 

残り1体もジェルマンが同じ発射装置に詰め込んだ誘導弾が見事にダーク・トルーパーの首元近くで爆発しダーク・トルーパーの首を吹っ飛ばした。

 

ころんと落ちたダーク・トルーパーの頭のデュアルアイから光がなくなっていく。

 

「よし!1体撃破!」

 

『気を抜くな後方から更に4体接近!』

 

ジェルマンの喜びの声とは裏腹にデルは緊迫した声音で報告した。

 

彼の言う通り一旦後退し増援を待とうとするシス・トルーパーの代わりに別のダーク・トルーパーが4体現れた。

 

ジョーレンとアイデンがダメージを与えてくれたのか何体かのダーク・トルーパーは装甲の塗装が剥がれているがほぼ無傷に近い状態だ。

 

しかも早速ブラスター弾を放ちこちらのタレットを何基か破壊した。

 

『大尉、イオン・グレネードを投擲しろ。こっちはイオン・グレネードを上空でバーストさせて敵の動きを封じる』

 

「了解!」

 

最後に残ったダーク・トルーパーは後方のダーク・トルーパー部隊と合流しつつ後方へ下がった。

 

その間にジェルマンはイオン・グレネードを投擲しデルはグレネード・ランチャーに装填したイオン・グレネードを発射する。

 

急いでスナイパー・ライフルに持ち替えたデルは発射されたイオン・グレネードを丁度ダーク・トルーパーの頭上で撃ち抜いた。

 

ダーク・トルーパーの足元で起爆したイオン・グレネードとダーク・トルーパーの上空で撃ち抜かれたイオン・グレネードが一斉にダーク・トルーパーに効力を与えた。

 

放たれたイオン・エネルギーの雷がダーク・トルーパー達の装甲を抜け、その内部の回路をショートさせた。

 

一刻も早く抜けようとダーク・トルーパー達は動いたが上下から放たれるイオン・グレネードの嵐からはそう簡単には抜けられなかった。

 

その間にジェルマンとデルはそれぞれダーク・トルーパーに直接攻撃を開始した。

 

『首元を狙え!そうすれば確実に倒せる!』

 

デルは再び帝国軍の技術者という経験からダーク・トルーパーの弱点となり得そうな箇所をコムリンクで伝えた。

 

ジェルマンはグレネードでダーク・トルーパーの首を貫き、デルもスナイパー・ライフルでダーク・トルーパーの首を撃ち抜いた。

 

動きさえ止まればこちらもやりようはある。

 

イオン・グレネードの効果が切れてきた頃、破壊されたダーク・トルーパーは地面へと崩れ落ちそうでないダーク・トルーパーも膝を下ろしシステムの障害に見舞われた。

 

だがある1体のダーク・トルーパーだけそうでないものがいた。

 

それはデルによって片手を吹き飛ばされ後方に下がっていたダーク・トルーパーだった。

 

後方に下がっていた為1体だけイオン攻撃を受けておらず片手がない以外は他のダーク・トルーパーよりも戦える状態にあった。

 

それを素早く認知したダーク・トルーパーはイオン攻撃が終わると同時に一気に走り出した。

 

「なっ!?」

 

『しまった!一体見逃していた!」

 

ダーク・トルーパーはジェルマンやブラスター・タレットの攻撃を全く受け付けず、勢いそのままジェルマンを思いっきりタックルした。

 

「グハッ!!」

 

凄まじい衝撃が身体中を襲い、ジェルマンはそのまま勢いを流せず近くの通路の壁へ思いっきり叩きつけられた。

 

耐え切れないような痛みがジェルマンのダメージとなって彼の体力や気力を大きく奪った。

 

痛みの衝撃で暫く身体が全く動かせない。

 

目眩もするし意識がどこかへ行ってしまいそうになった。

 

だがジェルマンは気力でなんとか意識を繋ぎ止め体を動かして近接用の装備を手にしようと踠いた。

 

その間にダーク・トルーパーは残り全てのブラスター・タレットを残された左腕の拳で殴り壊した。

 

ダーク・トルーパーのパンチは最も簡単にブラスター・タレットを破壊し、ブラスター・タレットの残骸はまるで瓦割りの瓦のように真っ二つに割れていた。

 

デルはスナイパー・ライフルで再び首元を狙おうとした。

 

だがこのダーク・トルーパーは学習しているのか右腕で首の部分をガードした。

 

「ガードだと!?コイツ帝国が使っているタイプよりもはるかに学習速度が…!」

 

ダーク・トルーパーはガードの体制のまま走り出しデルではなくまだよろよろとしか動けないジェルマンの方を狙った。

 

まず手負いの者から始末するつもりなのだろう。

 

「ジェルマン!!」

 

デルは名前を叫び急いでブラスター・ライフルに持ち替えてダーク・トルーパーを狙撃した。

 

だがダーク・トルーパーの背後の装甲は弾丸を全て無効化しその間にダーク・トルーパーはジェルマンを持ち上げて再び近くの外壁に叩きつけた。

 

「ガァッ!!」

 

潰れた声と共にジェルマンの口からは血が少量だが吐き出された。

 

せっかく回復してきたのにジェルマンに再び凄まじい衝撃とダメージが与えられた。

 

息は荒くなり手が痺れてホルスターの中のブラスター・ピストルが上手く握れない。

 

ダーク・トルーパーは左手でジェルマンの胸ぐらを掴み、持ち上げた。

 

本当は首元を握り潰そうとしたのだろうがジェルマンが少し距離を取った為上手くいかなかった。

 

だがダーク・トルーパーにとって首を握り潰せずともこれからどの道殺すのだから些細な問題ではないと判断されていた。

 

ジェルマンはなんとか力を込めホルスターからブラスター・ピストルを引き抜き近距離から腹部を狙撃しようとするがこの攻撃も全く効かなかった。

 

ダーク・トルーパーはジェルマンを壁に押し付け力を込めた。

 

「ぐっ…!!」

 

「クソッ!!」

 

背後からはデルがブラスター弾を撃ち続けているのにも関わらずダーク・トルーパーからしてみれば問題外の攻撃と認知されていた。

 

ジェルマンはなんとかブラスター・ピストルを持ち上げようとする。

 

その間にダーク・トルーパーは更にジェルマンを締め上げ、右手のなくなった右腕を首から離した。

 

ダーク・トルーパーのポーズは誰がどう見てもこれからジェルマンを殴る、殴り殺すといった感じだ。

 

拳がないとはいえダーク・トルーパーの右腕は破片や回線が焼き切れたような形になっているのでこの状態で殴られたむしろ逆に痛い。

 

千切れた部分が衝撃と共に顔面を容赦なく切り裂くだろう。

 

ジェルマンは歯を食いしばりなんとか抗おうとしている。

 

だがブラスター弾すら効かないダーク・トルーパーには全く効果がない。

 

ダーク・トルーパーはいつでもジェルマンを殴れる体勢になっている。

 

後はダーク・トルーパーのドロイド脳が攻撃のゴーサインを出すだけだ。

 

もう攻撃のゴーサインを出すまで数秒もない。

 

後数秒でダーク・トルーパーから殺人パンチが飛んでくる。

 

まだ任務も果たしていないのに、まだジョーレンやアイデンの生死も分かっていないのに。

 

ジェルマンは今、彼の人生史上最大のピンチに陥っていた。

 

 

 

 

つづく




私 だ 。

  終
制作・著作
━━━━━
  I H N

(そういや帝国のホロネット・ニュースは略称にしたらIHN(インペリアル・ホロネット・ニュース)になるんすかね)


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Strandcast

「ケン・パルパティーン神聖皇帝陛下は生きている、神聖銀河帝国は耐え抜かなくてはなならない。我々にはまだ、やるべきことがたくさんある」
-5ABY頃発生した要人暗殺未遂事件での暗殺犯の発言-


血統の運命とは誰が何をして、どう抗おうと中々途切れないものだ。

 

仮にその子が煩わしい“()()”であろうと、仮にその父親が最悪の“()()”であろうと。

 

血の呪縛は両者を引き合わせ繋ぎ止めて離さない。

 

どちらかが血の鎖を否定しようと鎖はそこにある。

 

見えない鎖だが鎖は必ずそこにあり、その鎖に関わる全ての者を縛り上げた。

 

これを打ち破るには自らの血統を入れ替えるか、自らの命を断つか、難しいことだが自ら争い勝利を通じて鎖を引き千切ることだ。

 

それほどに血統の運命からなる鎖というのは固く切り離せない。

 

たとえどれだけ遠くに逃げ延びても、どれほど否定しようともだ。

 

それは今必死に逃げようとしているこの男もそうだった。

 

男はかの聖地にかのシス卿の“()()()()”として生まれた。

 

だが父親も男を造った技術者も父を信奉する者達も含めて男は“()()()”の烙印を押された。

 

男には本来必要な力が備わっておらず、その才能も全くなかった。

 

故に役立たずで用無しで彼らからしてみれば生まれてきた瞬間から価値がなかった。

 

男はずっとそうして扱われてきた。

 

()()”と言われ、“()()()”と言われ、邪険に扱われた。

 

男はこの過酷な運命に対してどうすることも出来なかった。

 

だが男の運命は少し変わり出した。

 

ある“()()()()()”がその地を訪れたことによって。

 

ようやくこの運命から逃れるチャンスが訪れたのだ。

 

男は友人のシメオングと共に船に乗り込みかの聖地を脱した。

 

やがて男は友人と離れ友人のの名前を名乗り新しい第二の人生を始めた。

 

そこで今共に逃げている最愛の女とも出会ったのだ。

 

彼女は男の人生において何よりも大切な人となっていた。

 

この過酷で“()()”と言われ続けてきた男の人生に希望と光を与えてくれた。

 

それまで男の心の中はずっとかの聖地のように暗雲が空を覆い、怒りと悲しみの落雷が降り注いでいた。

 

これからの人生は彼女と共に明るくより良いものになると思っていた。

 

あの銀河の中央で暴れ回っている帝国だってここまでは来ないはずだ。

 

きっと幸せに生きられる、やがては自分の“()()()”も生まれてあの悪魔とは違う道を進めるはずだ。

 

これからの未来はきっと明るいままのはずだ、でなければ何の為に今まで暗雲の中にいた。

 

きっと報われる、アイツとは違う存在になる。

 

それなのに、それなのに何故。

 

奴ら(シス・エターナル)はここまで来ているんだ。

 

「部隊を散開させろ、本隊が到着する前に見つけるぞ。所詮相手は非武装の男女2人だ」

 

赤い装甲服を着た連中が2人を捕まえようとまた追ってきた。

 

2人はとにかく走った。

 

武器もなく戦う力も術もない2人はひたすら逃げて身を隠すしかなかった。

 

幸いにも連中が来た瞬間、すぐに逃げられたのでまだ見つかってはいない。

 

だが2人とも走るのにもう体力の限界が生じていた。

 

息は絶え絶えになり足元も覚束なくなっている。

 

本来ならとっくの昔に倒れていてもおかしくないはずだ。

 

それなのに2人は必死に捕まりたくないという思いだけでここまで走り続けてきた。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ゲホッ!ゲホッ!」

 

「大丈夫っ!?」

 

男とは咳き込み女は彼を心配した。

 

女は周囲を見渡し「あそこの洞窟で少し休みましょう!」と男の手を繋いで引っ張った。

 

2人は洞窟の中に入ると荒れた息のまま岩場に座り休み始めた。

 

その間にも男は何度も咳をした。

 

「大丈夫…!?」

 

「ああ……大丈夫……それよりも声を落とさないと……奴らにはすぐ見つかる……」

 

男は辛かったが見つからない為に必死に咳を押さえた。

 

女も心配し続けたが見つかることを考慮してこれ以上何も言わなかった。

 

2人には暫く静寂が訪れた。

 

幸いにもまだ2人を探している連中は2人が洞窟にいることに気づいていないようだ。

 

洞窟に入ってから数分が経って男は頭を抑え、震えた。

 

そして小さな声で喋り始めた。

 

「…どうして……どうしてこんなことに……こんな…こんなはずじゃ…!なんでっ……!!」

 

「落ち着いて…!あなたのせいじゃないわ、それにきっと助かる」

 

女は混乱し頭を抱える男を抱きしめ宥めた。

 

男はずっとこの日のことを考えないようにしながらも恐れていたのだ。

 

いつかこんな日が来るんじゃないか、いつか彼方の聖地から“迎え”が来てしまうのではないかと。

 

男は必死に思考を別のものに変換させそんなことはないと自分に思い込ませようとした。

 

だが男が心の底で考えていた最悪の日は等々訪れた。

 

上空では連中のスター・デストロイヤーが惑星をいつでも吹き飛ばせるようにとその巨大な砲塔で狙いを定めていた。

 

「せっせめてっ……!せめて君だけでも逃げないと…!僕のことは置いておいて…!」

 

「何言ってるの…!?それじゃああなたは…」

 

「これは僕の血統の問題なんだ……だからせめて君だけは……」

 

男が必死に女だけでも逃がそうと説得していたその時、遠くから何やら口ごもった電子音が聞こえた。

 

「何…!?」

 

しかもその電子音は足音と共にゆっくりこちらに迫っている。

 

草木を機械の軋む音と共に踏み荒らし、ウィーンという音と共に再び電子音が聞こえる。

 

その重厚な足音は止まることなくすぐ近くまで来ていた。

 

「身を隠して……!」

 

2人は岩陰に隠れ息を殺した。

 

その間にも足音は電子音と共に洞窟の方まで近づいていた。

 

男はふと顔を出し、岩陰から洞窟の外を覗き込んだ。

 

男の視線の先にはひょろっとした細長いパイプの集合体のような物体が、2本の足で歩き両手に武器を持ったままその地を凝縮させたような幾つもの目で周囲を見渡していた。

 

男はそれをかの聖地で見たことがある。

 

男を造ったとはまた別の技術者達が造っていた暗殺ドロイドだった気がする。

 

名前は確かIG……。

 

「ヒッ…!!」

 

男が名前を思い出すよりも先にその暗殺ドロイドは突然大きな電子音を発生させ女が思わず引き攣った声を上げた。

 

「なんだっ…!?」

 

暗殺ドロイドは電子音を発生させると突然引き返し始めた。

 

再びその2本の細い足で元いた場所へ戻る。

 

後の残ったのはただひたすらに不気味さだけだった。

 

「アイツがまた戻ってきたらまずいっ…!今のうちにもっと奥へ逃げよう!」

 

「ええ…!」

 

2人は何とか疲れ切った体を動かし洞窟を出て走り出そうとした。

 

だがそれは大きな判断ミスだ。

 

2人が手を繋ぎ走り始めた瞬間“()()”は突如として襲いかかった。

 

さっきまでいた洞窟の崖の上に“()()”はいたのだ。

 

2人は恐怖のあまり思わず声を失った。

 

影の上から飛び上がり“()()”、暗殺ドロイドIG-99Eは2人に飛びかかった。

 

紅の目をこれでもかというほど光らせ、まるでそういう生き物のように2人を地面に叩きつけた。

 

あまりの勢いで女の方は気絶し男の方は少し遠くまで飛ばされた。

 

「痛っ…!んん……」

 

男は何とか起き上がり目を開けた。

 

すると男の目の前にはあの悪魔の暗殺ドロイドが棒立ちで男の前に立っていた。

 

「ヒィ…!!」

 

男は恐怖のあまり急いで逃げ出そうとしたがIG-99Eが首元を手刀で気絶させ男は気を失った。

 

薄れゆく意識の中で男はただ嘆くことしか出来なかった。

 

気絶した男をIG-99Eは首元を掴み、ずるずると女の方まで引き摺った。

 

そうこうしているとようやく捜索していた隊が戻ってきた。

 

「よくやったIG、流石だ」

 

やってきた捜索隊指揮官のテドリン=シャはIG-99Eの功績を褒め称えた。

 

IG-99Eはダークサイドの達人に敬意を表して膝を下ろし頭を下げた。

 

既に確保目標はシス・トルーパーが抑えており増援のセドリス・QLの部隊も駆け付けている。

 

「しかし少し雑に扱い過ぎだ。いくら“()()”とはいえ…まあもうどうでもいいが」

 

シス・トルーパー達に運ばれていく2人を見つめながらテドリンはそう呟いた。

 

任務は果たした、後はエクセゴルまで運ぶだけだ。

 

陛下はお前との再会を決して喜ぶことはないだろうが役には立ってもらう。

 

テドリンは邪悪な笑みを浮かべその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「ジェルマン!このっ!」

 

デルは何度もブラスター・ライフルをなるべく装甲の薄い部分に撃ち当てたがダーク・トルーパーは見向きもしない。

 

しかも今首元を狙えばジェルマンにも被弾する恐れがあった為攻撃出来ずにいた。

 

ジェルマンも同じ部分にブラスター・ピストルの弾丸を浴びせるがやはりこちらもあまり効果がない。

 

2人の抵抗虚しくダーク・トルーパーの拳のない鉄拳は容赦なく振り下ろされた。

 

ガンッという鈍い金属がへこむ音が聞こえ火花と共に血が飛び外壁は大きく歪んだ。

 

「ジェルマンッ!!」

 

デルは顔を見上げ彼の名前を叫んだ。

 

「くっ!」

 

ジェルマンは間一髪、ダーク・トルーパーの鉄拳をギリギリのところで回避していたのだ。

 

おかげでダーク・トルーパーの腕は外壁にめり込みジェルマンには当てられずにいた。

 

しかしダーク・トルーパーの腕の千切れた部分が僅かにジェルマンの頬を擦り皮膚を切り裂いた。

 

そこから少量だが血が流れ出ており打撲とは違う痛みにジェルマンは顔を顰めた。

 

だがお陰で彼は打撲による脳の混乱が吹き飛んだ。

 

ジェルマンは少々危険でジェルマン自身にもダメージを受けるかもしれないがこのダーク・トルーパーを倒す手立てを思いついた。

 

彼はありったけの力を込めてブラスター・ピストルを持ち上げダーク・トルーパーの首元に押し当てた。

 

デル曰くダーク・トルーパーは他のドロイド同様首元が弱点だ。

 

ここには流石にあの鋼鉄の装甲を張り巡すことが出来ず先ほどの戦闘でも十分それは理解した。

 

ならば、この距離ならば、腕の装甲で首元をガードしていない今ならばこのブラスター・ピストルでも十分勝機はある。

 

こんな近距離で撃てばジェルマン自身にも多少の被害は出るかもしれないが。

 

ダーク・トルーパーはジェルマンの魂胆に気づいてダーク・トルーパーは急いで対策を取ろうとしたがもう遅い。

 

ジェルマンは引き金を引きブラスター弾を発射した。

 

何発ものブラスター弾がダーク・トルーパーの首に直撃し回路を次々と破壊していった。

 

その度その度に火花が飛び散りジェルマンの方に当たるがジェルマンは目を瞑り火花の熱を耐えた。

 

やがて完全にダーク・トルーパーの首部分は破壊されゴロンとダーク・トルーパーの重たい頭が地面へと転がり落ちた。

 

それと同時にダーク・トルーパーのボディ部分も膝から崩れ落ちジェルマンはようやく解放された。

 

肺いっぱいに空気を吸い込み助かったことを実感した。

 

だが本当に後少しで死ぬところだった。

 

ほんの数秒、しかもほんの数センチあの拳がズレていたら確実に致命傷を負っていた。

 

いや、即死していた可能性だってある。

 

ジェルマンは自身を殺そうとした敵の残骸に目を向けながらそう思った。

 

「ジェルマン!!良かった!」

 

デルはジェルマンの方に駆け寄り彼に手を差し伸べた。

 

ジェルマンはデルの手を握り立ち上がった。

 

「辛うじてなんとか……」

 

ジェルマンは微笑を浮かべようとしたがすぐに新たな緊張が走り2人は急いで武器を構えた。

 

なんと先ほどイオン・グレネードで倒したはずのダーク・トルーパー1体がギシギシと音を立て立ち上がってきたのだ。

 

関節からは火花が溢れ頭のデュアルアイの光は点滅しているのにも関わらずこのダーク・トルーパーはまだ戦おうとしていた。

 

なんと恐ろしい敵なのだろう。

 

「まずい!!」

 

ジェルマンは顔を硬らせ急いでブラスター・ピストルを構えた。

 

しかし既にジェルマンよりも先にスナイパー・ライフルを構えスコープを覗いた。

 

それから数秒も経たずに引き金を引き弾丸が放たれた。

 

デルが放った全ての弾丸はブラスター・ライフルを手に取ろうとするダーク・トルーパーの首に直撃した。

 

何発か弾丸を喰らいダーク・トルーパーは再び地面に倒れた。

 

余りに素早い動きにジェルマンは思わず感嘆の声をあげた。

 

「すごい…」

 

「敵がまだ完全に復帰する前だからなんとかなった。後弱点を知ってたからな」

 

「でもあの狙撃はすごいですよ!あんなの多分ジョーレンでもっ!?」

 

「おいおいおい……一体……“()()()()()()”!!」

 

デルですらその光景を見て青ざめていた。

 

再び通路の向こう側から金属の重厚な音を含んだ足音が聞こえてくる。

 

そこには先ほどまで苦戦してようやく倒した敵が再び隊列を組んでやってきたのだ。

 

何十人ものシス・トルーパーを引き連れて。

 

ダーク・トルーパーの部隊が再びジェルマンとデルの目の前に現れたのだ。

 

2人を発見するなりダーク・トルーパー達はブラスター・ライフルを向け発砲した。

 

また弾丸がばら撒かれ、2人は物陰に隠れながら反撃を始めた。

 

相変わらずこちらの弾丸は全く効かない上にせっかく用意した防衛網も全て第一波、第二波のダーク・トルーパー達によって破壊されてしまった。

 

こちらは手元にある火器で応戦しなくてはならない。

 

ジェルマンは転がっていたダーク・トルーパーの胴体の残骸を引っ張りせめてもの盾とした。

 

ダーク・トルーパーのブラスター弾はダーク・トルーパーの残骸によって弾かれ、2人はひとまず安全を得た。

 

だがこのままでは接近され殲滅されて殲滅されるだけだ。

 

しかも背後にはシス・トルーパー達がいる。

 

シス・トルーパーはアイデンとジョーレンにしたようにダーク・トルーパーを盾としながら隙間からサーマル・デトネーターを投擲した。

 

作動し点滅するサーマル・デトネーターが何個かコロコロとジェルマン達の下まで転がってきた。

 

「クソッ!せめて効いてくれよ…!」

 

ジェルマンはアイデンが置いていったイオン・ディスラプションを手にしサーマル・デトネーターに通じるように起動した。

 

周囲に電撃が走りシス・トルーパーが投擲したサーマル・デトネーターは全て無力化された。

 

これでひとまず全滅の危機は去ったがダーク・トルーパーは健在でシス・トルーパー達も次の手を打とうとしていた。

 

今度はダーク・トルーパーの合間からシス・トルーパー達がインパクト・グレネードを投擲してきたのだ。

 

インパクト・グレネードはサーマル・デトネーターよりも爆発範囲は狭いが着弾の衝撃ですぐ爆発する為使い勝手がいい。

 

しかもジェルマンが持つイオン・ディスラプションではインパクト・グレネードを無力化する事は出来ない。

 

着弾したインパクト・グレネードは次々と爆発しジェルマンもデルもとてもではないが反撃するのは無理な状況にあった。

 

「チッ!このままじゃあまずい!」

 

なんとかジェルマンはグレネードをダーク・トルーパーに放つが狙いが定まらず通常の装甲に弾かれ全くダメージを与えられなかった。

 

ダーク・トルーパー達はひたすらブラスター弾を撃ちまくり前進している。

 

しかも背後からはシス・トルーパーのインパクト・グレネード投擲により攻撃することすら不可能に近い。

 

確実に距離は詰められジェルマンもデルも険しい表情を浮かべていた。

 

もうどうしようもないのか、いいや違う。

 

彼らにはまだ頼れる“()()”がいる。

 

ダーク・トルーパーもシス・トルーパーもジェルマンとデルすら気づかないほど天井の一部に僅かな隙間が開いた。

 

そこへ筒状の何かが2つほど落とされコロコロと前後に転がった。

 

その様子だけはジェルマンもデルも目撃していた。

 

シス・トルーパーはその転がってきた物体を目にし急いで物体から距離を取ろうとした。

 

「あれは……!」

 

「伏せろ!」

 

デルに頭を抑えられ2人はダーク・トルーパーの残骸の下にうずくまった。

 

その直後2つの物体は轟音を立て一気に大爆発を起こした。

 

ダーク・トルーパーは全て爆発に巻き込まれシス・トルーパーも部隊の大多数が今の爆発でダメージを喰らった。

 

圧倒的なエネルギーと熱が辺りに放たれ周囲には爆発の余波が広まった。

 

幸い2人はダーク・トルーパーの残骸の下で伏せていた為なんの負傷もしていなかった。

 

今の爆発の仕方は間違いなくサーマル・インプローダーだった。

 

サーマル・インプローダーは起爆時に周囲の大気を圧縮して加熱し真空状態を作り出す事で激しい爆発を発生させる。

 

今の爆発の前、インプローダーが大気を圧縮する独特の音が聞こえた。

 

そしてあの爆弾を持っているのは敵であるシス・トルーパー達以外だと“2人”しか見当がつかない。

 

今はまだ音信不通のあの2人しか。

 

ガコンと天井が外れその中から2人の人間が降りてきた。

 

2人は降りるとほぼ同時に手に持っているブラスター・ライフルでサーマル・インプローダーの爆発を喰らったダーク・トルーパー達に確実にトドメを刺し始めた。

 

首元にブラスター・ライフルの銃口を突きつけ、1発2発とブラスター弾を叩き込んでいく。

 

ダーク・トルーパーの中には胴体が半分吹き飛んだのにも関わらず這いずって戦おうとする者もいた為確実にトドメを刺すのは正しい判断だ。

 

全てのダーク・トルーパーを制圧するとその残骸をジェルマン達のように盾にして今度はシス・トルーパーへブラスター弾を叩き込んだ。

 

シス・トルーパー達は負傷者を見捨て反撃に転じた。

 

だが今まで彼らを守っていたダーク・トルーパーの装甲でシス・トルーパーのブラスター弾は弾かれ、逆に2人の確実な射撃によって1人ずつ撃ち倒された。

 

最後はインパクト・グレネードを投擲しようとしていたシス・トルーパーをTL-50の震盪ブラストが周りのシス・トルーパーごと吹っ飛ばした。

 

生き残ったシス・トルーパー達は牽制射撃を行いつつ一旦後退した。

 

最後まで後退する敵を射撃しつつ2人は立ち上がりジェルマン達の方へ近づいた。

 

ジェルマンもデルも2人の姿をよく知っている。

 

2人はそれぞれ2人の名前を呼んだ。

 

「ジョーレン!」

 

「アイデン!」

 

2人の窮地を救ったのは通信の繋がらなくなっていたアイデンとジョーレンだった。

 

2人はボロボロで装備にも煤がついており傷も多かった。

 

いやむしろ傷だらけだ。

 

「悪い、遅くなった」

 

ジョーレンはわざとらしくニヒルな笑みを浮かべ こう呟いた。

 

「ご無事で…!」とデルは2人の生存を喜んだ。

 

「一体何があったんだ?」

 

ジェルマンはジョーレンに尋ねた。

 

ジョーレンは今度は苦笑を浮かべながら「ちょっとな」と口をごもらせた。

 

「シス・トルーパーからさっきみたいにデトネーターの投擲を喰らった。そこでヴェルシオ中佐が天井に逃げ込もうと咄嗟に動いてくれたお陰で助かった。まあ途中でコムリンクはぶっ壊れちまったがな」

 

「私だけじゃない、こいつも我々の傷をバクタ液の噴射で回復してくれた。これがなかったらここまで動けていない」

 

アイデンは彼女の後ろについているシーカー・ドロイドに目をやりつつ事情を話した。

 

ジョーレンも彼女の後ろでドロイドに小さくグッドサインを送りドロイドは嬉しそうに頭を回している。

 

「とにかく無事でよかった…!」

 

デルは2人の無事を、特にアイデンの無事を喜んだ。

 

彼女は単なる同じ部隊の上官と部下以上の関係だ。

 

「それで、こっちの状況は?」

 

ジョーレンは冷静に辺りを見回しながらデルとジェルマンに尋ねた。

 

まあジョーレンが心の中で思った通り“()()()()()()”といった光景が広がっていたが。

 

「取り敢えず今のところ見ての通り敵の襲撃は全て食い止めた。こちらの損害は負傷者が僕1人で持ってきたブラスター・タレットは全て破壊された」

 

「死人が出ていないようで何よりだ、しかもダーク・トルーパーも俺たちで潰したのも合わせて部隊の半分はやれたはずだ。逆に言えば今まで倒したのと同じ数がまだいるというわけだが」

 

ジェルマンは息を飲んだ。

 

とてもではないが4人がここで守ったとしても守り切れる気がしない。

 

こちらの手札は半ば使い切り爆弾などの火器も僅かだ。

 

「しかもシス・エターナルのジェットパック部隊まで投入されたらしい。ここらが潮時かもな」

 

「つまりそれって…」

 

「ええ、我々はここから退却する」

 

ジョーレンに賛同しアイデンははっきりとそう告げた。

 

「デル、ジルディール大尉、ここの軍艦は今どれだけ残っている?」

 

「大小合わせて残り四隻、うちヴェネター級は一隻です」

 

ジェルマンはアイデンにこの造船所に残っている軍艦の数を報告した。

 

彼らが必死に戦っている間にここにいたほとんどの軍艦は移送出来た。

 

外ではシュリブが“コルウス”やUウィングと共にシス・エターナル軍を防いでいたおかげで戦闘による喪失もない。

 

この作戦はレジスタンス軍にとって大成功に等しい。

 

「分かった、じゃあ最後の三隻をハイパースペースへ。でもヴェネター級だけは残しておいて。それとシュリブと“コルウス”に通信を」

 

「はっはい…」

 

ジェルマンは疑問を持ちながらもコンソールの下へ向かった。

 

アイデンは荷物を持ち退却の用意を始めた。

 

『コマンダー!どうしました?』

 

コルウス”との通信が繋がりケイトンの声が聞こえた。

 

アイデンはデルからコムリンクを受け取ると早速命令を出し始めた。

 

「ケイトン、十分時間を稼げた。我々はこの造船所地帯から撤退する…が、連中を巻くには一芝居打つ必要がある」

 

『と、言いますと?』

 

「今から作戦を伝える、シュリブもよく聞いてくれ。連中には“()()()()()()”の力で対抗する」

 

『はい?』

 

ケイトンは全く理解出来ていない様子だったがすぐ隣にいたジョーレンはなんとなく理解していた。

 

だからこそ冗談ではないという表情を浮かべているのだ。

 

「中佐、まさかそれって……」

 

「ああ、そのまさかだ」

 

アイデンの即答を聞いてジョーレンはなんてこったとリアクションを取った。

 

ジョーレンは大凡28年振りにあの軍艦に乗り込むことになる。

 

共和国の遺産がシスの遺産とぶつかるのだ。

 

 

 

 

 

 

シスTIEファイターが震盪ミサイルを放ち“コルウス”のシールドを貫通させてダメージを与えた。

 

連戦による出力不足により徐々に“コルウス”の偏向シールドは限界に近づき被弾しやすくなっていた。

 

幸い優秀な艦のシステムと乗組員のお陰でダメージコントールは出来ているが苦しい戦いは続き徐々に追い詰められていた。

 

シュリブのXウィングや無人のUウィングもシスTIEファイターの物量によって抑え込まれてしまった。

 

「敵艦、徐々に後退していきます」

 

「スターファイターもです、造船所の裏側に隠れようとしています」

 

ブリッジの乗組員達は艦長に戦況を報告した。

 

ブリッジからでは少しばかり距離がある為遠くで小さな点が消えたり光ったりしているような光景が広がっていた。

 

だがそろそろトドメの一撃を喰らわせても良い頃合いだろう。

 

敵艦も大分損傷しているはずだ。

 

「よし、ならば敵艦に直接王手をかける!前進し最大火力を持って撃沈せよ!」

 

セキューター級は速力を上げ攻撃を強めた。

 

重ターボレーザー砲や戦艦イオン砲を放ちつつレイダー級との距離を詰める。

 

コルウス”は前面に偏向シールドの出力を集中している為そう簡単にはシールドを打ち破ることが出来ない。

 

だが何度も何度も攻撃を重ねることにより偏向シールドにも限界が近づいてくる。

 

セキューター級はスター・デストロイヤーではあるが大きさやそのうち出せる火力はバトルクルーザー級だ。

 

手加減していただけで本来ならレイダー級コルベット一隻など簡単に始末出来る。

 

「スターファイター隊に命令、実体弾を用いて敵艦へ爆撃せよ。それが終わり次第我々は最大出力の艦砲射撃で確実に仕留める」

 

「了解、ゾル中隊全機攻撃を開始せよ」

 

ブリッジ付の航空士官の命令を受けてシスTIEファイター隊が爆撃を開始する。

 

シスTIEファイター部隊はそのまま攻撃を続け対空砲を回避しイオン魚雷を放った。

 

放たれた魚雷の何発かは迎撃され撃墜されたがうち4発が着弾した。

 

イオン魚雷の効果で徐々にレイダー級のシールドの出力が更に低下しレイダー級は後退を始めた。

 

「敵艦の出力低下、ですが造船所の裏側に隠れようとしています」

 

「逃さん、全砲門で敵を叩け!」

 

セキューター級の重/軽ターボレーザー砲が一斉に放たれた。

 

何十発ものターボレーザー砲弾を受け遂に敵艦は爆散し周囲に爆発の光が撒き散った。

 

この爆発の光はセキューター級のブリッジからも確認出来る。

 

艦長はその様子を眺めながら先程とは違いなんとも納得いかない表情を浮かべていた。

 

「爆発の光を確認、敵艦は恐らく轟沈したかと」

 

副官はニヤリと笑みを浮かべて艦長に報告した。

 

だが艦長は副官とは違いどうにも納得のいっていない表情であった。

 

「いや……今の爆発、いくらコルベットとはいえ軍艦が爆発したにしては呆気なさすぎる。まるで手応えがない」

 

艦長はエクセゴル生まれで帝国軍にも軍事知識と経験を得る為に入っていた為実際の戦場を経験している。

 

軍用のコルベット艦がターボレーザー砲を何発も喰らって沈む時の爆発の量はこの程度では済まされないはずだ。

 

「しかし艦長、砲撃は全て直撃です。それにセンサーでは敵艦の残骸も探知しています」

 

戦場を知らない副官はまさかといった表情で気を緩めていた。

 

だが副官の言う通り実際に戦闘領域の宇宙空間にはレイダー級と思わしき破片が散らばっていた。

 

普通なら疑いを残しつつも諦めていただろうが注意深い艦長はある異変にも気づいた。

 

「…ではスターファイターは、スターファイター1機とガンシップが1機いたはずだ。奴らはどうした」

 

Xウィング1機、Uウィング1機がこちらのスターファイター隊と死闘を繰り広げていた。

 

その2機はレイダー級が後退する際同じように綺麗に後退し今のところはレイダー級共々ターボレーザー砲に巻き込まれた状態だ。

 

しかしあれほどまでに数の差がありながらも大群を翻弄していた敵機がそう簡単に撃墜出来るだろうか。

 

レイダー級にしてもいくら消耗していたとはいえ後退のタイミングが僚機共々良すぎる。

 

余計に疑わしい。

 

「あの程度のスナブ=ファイターではターボレーザー砲の集中攻撃を受ければ破片残らず消え去るでしょう」

 

「だが機体の翼1枚も破片として見えないのは流石におかしいぞ…」

 

副官は軽くそう呟いたが艦長の疑念は晴れなかった。

 

しかも艦長の疑念をさらに高めるように今度は造船所地帯を占拠した部隊からの報告が入った。

 

『こちら第223空中機動中隊、ダーク・トルーパー分隊及び歩兵部隊と共に制御室を制圧。施設内のほぼ全てを占拠しました』

 

「そうか、苦戦したようだが損害は」

 

通信を入れた中隊長に向かって艦長は状況と部隊の損害を尋ねた。

 

だが帰ってきた報告は意外なものだった。

 

『先遣隊の損害はご存知の通りですが我々の損害は“()()()()()”。ダーク・トルーパー1体どころかこちらは弾丸1発受けていません。室内は“()()()”です」

 

「なんだと…」

 

「まさか、そんな」

 

副官はあり得ないと冷や汗を掻きながらも笑みを浮かべていたが艦長はそうではなかった。

 

自身の持つ疑念が確証してしまったという表情だ。

 

中隊長は『先遣隊と相打ちになったのでしょうか』と辺りを見回しながら考えを口にした。

 

ダーク・トルーパーが何体も破壊されており辺りの壁はへこんだり弾痕が残ったり爆発の煤がついていることからかなり激しい戦いがあったと見える。

 

生憎先遣隊とは通信妨害の影響で上手く連絡が取れなかったが。

 

故に艦長は疑念に確証を持っていた。

 

「ステーション内の全てに部隊を展開しろ、敵兵の遺体でもなんでも見つけるまで探すんだ。スターファイター隊は造船所の裏に回り込んで敵を捜索するんだ、急げ!」

 

「了解!」

 

『了解…!』

 

通信は途切れそれぞれの部隊長が命令を前線の部隊に実行させた。

 

シス・トルーパー部隊は再び散開し宇宙空間では何機かのシスTIEファイターが造船所地帯の裏側まで回り込んだ。

 

セキューター級も戦闘態勢を崩さず周りのゴザンティ級と共に接近していった。

 

先行したシスTIEファイター部隊は造船所地帯を飛び回り周囲をセンサーと目視で警戒した。

 

そこで彼らは驚愕のものを目撃する。

 

パイロット達が見た報告はすぐにセキューター級のブリッジに届いた。

 

『こちらザイン5…!造船所地帯を飛行中に移動する艦船を発見!現在攻撃を受けている…!』

 

「何!?」

 

「やはりか……スターファイター隊は直ちに迎撃に迎え!」

 

『しかし艦長!敵は!!敵は!!信じられません!!』

 

ザイン5のシスTIEファイターパイロットは混乱しているのか意味不明な応答を繰り返していた。

 

「落ち着け、敵は一体なんだ。軍艦か、それともガンシップか」

 

『はい!敵は軍艦です!ですが敵は!敵は造船所に放置されていた“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”!!』

 

 

【挿絵表示】

 

 

その予想もしていなかった一言は副官やブリッジの乗組員だけでなく艦長も驚かせた。

 

確かに敵がステーション内の艦船を動かしているのは確認出来た。

 

だが所詮あそこの造船所で造られているのは28年も前の旧式の軍艦だ。

 

一部のシステムや砲塔類が自動的にバージョンアップされているとはいえこのセキューター級やインペリアル級、ましてやジストン級のような軍艦に勝てる訳がない。

 

しかし目の前にはクローン戦争時代のスター・デストロイヤーが立ちはだかろうとしている。

 

『敵艦、対空砲火を展開しています!迂闊に近づけません!』

 

「一旦後退して再度攻撃!確実に仕留める!」

 

艦長の命令でシスTIEファイター部隊は一旦後退し態勢を立て直した。

 

その間ヴェネター級のブリッジや艦内では乗組員達が慌ただしく動いていた。

 

「ハイパードライブシステムは先に行った艦隊とリンクさせているのですぐベスピンには行けるはずですが…」

 

「まあ動かしたはいいが問題は山積み、そんなところだろう?」

 

ブリッジで昔出会ったヴェネター級の艦長よろしく腕を組んで仁王立ちしているジョーレンはケイトンにそう尋ねた。

 

今やジョーレンの階級は少佐、かつてこのブリッジで偉そうに腕を組んでいた官僚の階級は中佐や大佐の佐官が多かった。

 

今やジョーレンは彼らと並ぶ階級にまで到達していたのだ。

 

ジョーレンは静かに時の流れを噛み締めていた。

 

このヴェネター級に乗り込んでから過去に対する感傷的な感情しか浮かばない。

 

それは単純にヴェネター級やクローン戦争のあの頃が懐かしいからだろうか。

 

「しかしシステムは帝国と共通規格なのでなんとか動かせます!“コルウス”の乗組員であればひとまず左舷の主砲だけならなんとか」

 

ケイトンはジョーレンやアイデンにそう報告した。

 

「ではさっきみたいに残った武装は全て自動攻撃システムに任せて。性能は落ちるかもしれないけどないよりマシだわ」

 

「はいコマンダー!」

 

その間にもヴェネター級はエンジンを吹かし遂に造船所地帯の影から姿を現した。

 

砲塔がセキューター級を含めた揚陸部隊の方に向く。

 

「まさかこんな教科書に出てくるような軍艦に乗ってるだなんて」

 

「じゃあ俺は教科書の人だな、少佐、後何分くらいでジャンプ出来る?」

 

ジョーレンはデルにハイパースペース・ジャンプの状況を尋ねた。

 

彼らとてあのセキューター級と真っ向から戦って勝てるとは思っていない。

 

「後3……いや2分は掛かる」

 

「…じゃあ最短2分、あのスター・デストロイヤーと戦う必要があるって訳か…エネルギーの方は持ちそうか?」

 

「さあな、どのくらい攻撃してどのくらい攻撃されるかによる。だがこの艦のエンジンは正常に稼働しているぞ!」

 

シュリブはブリッジの計器を見つめそう呟いた。

 

ジョーレンは小声で「じゃあギリギリかもな…」と呟いた。

 

このヴェネター級は船体下部のハンガーベイに“コルウス”は取り付けられたがその代わり後期のヴェネター級に向けられるSPHA-Tの砲塔が存在しなかった。

 

せめてあれだけでもあればなとジョーレンは小さな不満を覚えていた。

 

「よし、全砲門敵艦に集中。目標は主にエンジン及び射撃装置だ。せめて攻撃出来なくさせればこちらもかなり余裕になる」

 

このヴェネター級にはイオン砲がない為純粋な火力と偏向シールドの力比べとなる。

 

その為バトルクルーザークラスのセキューター級の火力と防御力ではヴェネター級の方が圧倒的劣性にあった。

 

しかしやりようが完全になくなった訳じゃない。

 

別にこの戦いは敵艦を撃沈させる必要はないのだ、ただ逃げるまでの時間を稼げばそれで十分あった。

 

「コマンダー、いつでも砲撃できます…!」

 

ヴェネター級のブリッジにいる“コルウス”の砲術長がアイデンにそう報告した。

 

「よし、撃ち続けろ!」

 

「了解!全砲門開け、撃て!」

 

一斉にヴェネター級の主砲であるDBY-827重ターボレーザー砲が砲撃を開始した。

 

青い砲弾がセキューター級の偏向シールドに直撃しブリッジにも振動が伝わった。

 

旧共和国宇宙軍の赤いラインのカラーリングとシス・エターナル宇宙軍の暗赤色のカラーリング、どこか似ているようではあるがこの二隻は対局の存在にある。

 

「うっ撃ってきた!?」

 

副官は動揺したが艦長は苛立ちを浮かべるだけで冷静に対処した。

 

「こちらも撃ち返せ!むしろ的がデカくなった分やりやすい!ブリッジとエンジン部分に火力を集中せよ!」

 

セキューター級からも反撃として艦砲射撃の一斉射が放たれた。

 

黄緑色の砲弾はヴェネター級の船体に直撃し艦内にセキューター級が受けた以上の衝撃を与える。

 

「左舷に偏向シールドの出力を寄せるんだ…!あのスター・デストロイヤーの砲撃をまともに喰らえばヴェネター級なんぞ軽く沈む!」

 

ジョーレンの助言通りヴェネター級の偏向シールドは左舷に集中しセキューター級の砲撃を防いだ。

 

これによって多少はマシな状況になったが結果を少しばかり遅らせただけだ。

 

ヴェネター級の砲撃も続いているが思うように打撃を与えられていない。

 

逆にセキューター級の火力は全く衰えておらず今もなお最大出力で重ターボレーザー弾を撃ち出していた。

 

強化されたヴェネター級の偏向シールドも限界に近づきいよいよ直接船体に被弾した。

 

船体下部が重ターボレーザー砲の一撃によって爆発し大きな赤い光を生み出す。

 

「ダメージコントロールを!!」

 

コルウス”から連れてきたアストロメク・ドロイドがソケットに端末を差し込みヴェネター級の隔壁を操作した。

 

この間にもセキューター級は攻撃を続けいよいよ最悪な状況に陥った。

 

「っ…!コマンダー!造船所地帯から索敵に向かっていたTIEファイター部隊が接近中!数は大凡4個中隊!」

 

「なんだって!?」

 

「今右舷に偏向シールドを展開する余裕はない…!しかも自動対空砲火じゃ…」

 

シスTIEファイターに乗り込むパイロット達に軽く避けられてしまう。

 

今のヴェネター級の防御力ではシスTIEファイターのレーザー弾と魚雷やミサイルだけでも致命傷となりかねない。

 

とてもまずい状況だ。

 

だがピンチが訪れれば逆にチャンスも近くにやってくる。

 

『コマンダー!“コルウス”の震盪ミサイルを発射管に移送完了しました!いつでも撃てます!』

 

それは“コルウス”の砲術士達の報告だった。

 

このヴェネター級は通常のモデルとは違い震盪ミサイル発射管が何故か船体に取り付けられていた。

 

他にもいい報告は続々と入ってきた。

 

「アイデン、後30秒でハイパースペースへ入れる!」

 

ようやくハイパースペース・トンネルの入り口が見えてきたというわけだ。

 

今ピンチなのは間違いないが同時に希望があるのも確かであった。

 

「そう!では震盪ミサイルを敵艦に発射して。TIEファイターからはなんとか逃げ切るしかない」

 

『了解!震盪ミサイル装填!』

 

震盪ミサイル発射管にミサイルが装填され間髪入れずに3発のミサイルが発射された。

 

青いターボレーザー砲弾と共に震盪ミサイルもセキューター級へと向かう。

 

一点に攻撃を集中している為セキューター級の偏向シールドも実は限界に近く3発の震盪ミサイルがそれにトドメを刺した。

 

ようやくセキューター級の偏向シールドが打ち破られ船体に直接被弾した。

 

この被弾によって射撃装置が一時的にダウンしセキューター級の砲撃が若干弱まった。

 

「ハイパースペース・ジャンプまで残り…5、4、3、2、1…!ジャンプします!!」

 

その直後セキューター級はハイパースペースに突入した。

 

突入する前到着したシスTIEファイター部隊の震盪ミサイル攻撃を受け何ヶ所か被弾し損傷したがジャンプに支障はなかった。

 

2つの特殊部隊はピンチに陥り艦船もボロボロになりながらもなんとか任務をやり遂げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

-コア・ワールド 第三帝国首都惑星コルサント セントラル地区 アンダーワールド・ポータル-

第9FF装甲擲弾兵軍団と第31義勇擲弾兵団はセントラル地区のアンダーワールド・ポータルを中心に半径5キロを封鎖した。

 

ウォーカーやホバータンク、兵員輸送機やジャガーノート・タンクを要所に配置しスピーダー・バイクやランドスピーダー、エアスピーダーを偵察として度々展開した。

 

各地にバリケードが張られ一般市民には外出禁止令が出ている。

 

これを破る市民は最低でも作戦終了後も48時間拘束され酷い場合はその場で射殺される。

 

『封鎖地点レシュ、今の所問題はなし。外出する市民及び不審な人物も目撃されていません』

 

『こちら封鎖地点ユスク、我々も同様です。偵察隊からも不審な報告は受けていません』

 

封鎖地点の指揮所から本部のあるポータル管理室に報告が押し寄せている。

 

「了解、各隊現状を維持せよ」

 

コムリンクを通じてジークハルトは各隊に指令を出した。

 

空中には第21FF航空旅団を配備し、ポータルにも両部隊のドロップシップを展開しており封鎖は万全だ。

 

管理室にはアデルハイン大佐やヴァリンヘルト大尉ら軍団の参謀以外にも第31FF義勇擲弾兵団の将校達もいる。

 

「第9軍団と第31兵団の連携、思った以上に上手くいっていますね」

 

デア・フルス・ソルー兵団のグリアフ准将はジークハルトにそう呟いた。

 

彼は准将であり階級はジークハルトと同じなのだが権限としてはグリアフ准将の方が上であった。

 

彼は情報将校としてナブー奪還作戦の際は敵の撹乱などを行う予定でいる。

 

「元より度々演習を行なっていましたからね。今回はあえてほぼ全ての部隊を混合させましたがこれでも問題ないならナブー奪還も上手くいくでしょう」

 

「ええ!我々の故郷にして帝国の聖地、連中に預けておく訳にはいきません」

 

「グリアフ准将、少し宜しいでしょうか?」

 

2人が話している間に1人の親衛隊将校がグリアフ准将を呼んだ。

 

どうやらグリアフ准将宛に何か要件があるようだ。

 

彼は名残惜しそうにその場を離れジークハルトはふうと状況を示すタブレットを眺めふと呟いた。

 

「ナブー奪還か……以前は遠い話のように思えていたが今となってはもう目前なのだな」

 

ナブーの奪還作戦に加わるよう命じられたのはシス・エターナルの中隊をモーデルゲン上級大将から与えられた時だった。

 

まだシス・エターナルがどの程度の力を持っているか分からない状態でここまでモン・カラのレジスタンス艦隊を蹴散らし続けるとは思わなかった。

 

しかし親衛隊や国防軍の上層部は何処かこうなることを若干見越していたような気がする。

 

シス・トルーパー中隊を受け取った時もそんな感じだった。

 

それに主要な帝国系勢力とシス・エターナルが軍事条約の締結もかなり早期に執り行われていた。

 

どちら側から先にアプローチを取ったのかは分からないがシス・エターナルが表舞台に立つ前から多少の交流があったのだろう。

 

「しかしグリアフ准将はお忙しそうですね。クリース大将の代理将校として派遣されているのにも関わらずこのように引っ切りなしに呼ばれるなんて」

 

「裏の副司令官兼情報将校だからな。まあうち(親衛隊)の情報将校は今下で忙しく働いてるだろうが」

 

「あくまで掃討作戦の主導はⅢ局、Ⅳ局、そしてⅤ局の実働隊の一部、あくまで旧FFSB中心ですよ」

 

ヴァリンヘルト大尉はジークハルトにそう付け加えた。

 

だからこそ余計に今アンダーワールドで何をやっているのかが気になるのだが。

 

「だったら余計に気になるな、この地下で何をしているのか」

 

ISB、FFSB、これらの秘密警察組織は昔から秩序の為とはいえ、とても口には出せないような事をやっているのは暗黙の了解である。

 

特にFFSBは黒い噂は絶えない。

 

だが彼らもあくまで国家の為、帝国の為と強い信念を持っているはずだと多くの国防軍、親衛隊将校からはあくまでも身内ということでそれらはスルーされてきた。

 

無論ジークハルトとてその例外には漏れない。

 

それにFFSBは身内である国防軍や第三帝国国民にも知られていないこと、知らせていないことが多い。

 

故に誰も今アンダーワールドでFFISOが行っている掃討作戦の実態について知らない。

 

尤も知ったとしても総統やヒェムナー長官、第三帝国の指導者たちは「正しい行いだった」と正当化してしまうだろうが。

 

『こちら第112ドロップシップ連隊、目標地点に到達した。これより掃討作戦を開始する』

 

ポータルを伝ってアンダーワールド内に侵入したFFISOやISB所属のインペリアル・ドロップシップの編隊がアンダーワールドの空中を進んだ。

 

ドロップシップには兵員スペースにEウェブ・ブラスター砲が取り付けられており、砲手のストームトルーパーが狙いを定めていた。

 

『既に市街地の市民は“()()退()()()()()()”。潜んでいるテロリストを逃すな、殲滅しろ』

 

『了解、各機攻撃を開始せよ』

 

その一言と共に一斉にドロップシップのレーザー砲やブラスター砲が発射され市街地を攻撃した。

 

ミサイルランチャーからは振盪ミサイルが放たれアンダーワールドの建物を破壊した。

 

レーザー弾やブラスター弾は窓や建物の外壁を中にいる人間ごと破壊し内側から爆発を起こした。

 

ドロップシップは編隊を崩さずに少しずつ移動しながら攻撃範囲を広げていく。

 

あっという間にドロップシップが侵入した階層は炎の海に包まれ爆発音と悲鳴が広がった。

 

Eウェブの砲手は別のストームトルーパーと共に冷却装置を調整し止まることなく攻撃を続けた。

 

当然中には本当にセントラル地区を強襲したテロリストのアジトも含まれていた為反撃しようとした者もいたがそれ以上に多くの人々が抵抗せずに抹殺された。

 

当然逃げ出そうとする者は皆Eウェブの餌食となり、戦おうとする者も同じ末路を辿った。

 

司令部の将校は“()()退()()()()()()”と言ったが当然彼らの言う“()()”とはアンダーワールド市民全員のことではない。

 

アンダーワールドに住む者達の中には未だに不法入国し国籍を持たずに住む者もいる。

 

それに加えてエイリアン種族や近人間種族を匿っているのではないかとか、コルサント内戦の際反帝国的な言動をしたのではないかとか、テロリストの一味ではないのか、レジスタンスのスパイではないのか、様々な疑いを持たれた人々がいた。

 

疑わしきは罰せよのモットーを持つFFISOはそんなアンダーワールドの人々をあえて退去させずその場に残した。

 

このテロリスト掃討作戦と同時に秘密裏に疑わしい者もまだアンダーワールドに潜むエイリアン種族も全て消してしまうつもりなのだ。

 

そこには疑われているだけで無実の人も大勢いるし本来エイリアン種族や近人間種を庇っただけで殺される謂れはない。

 

むしろエイリアン種族であるから、近人間種であるから抹殺されるのが異常だ。

 

多くのエイリアン種族、近人間種族が旧共和国の黎明期から銀河史に名を残してきた。

 

この銀河は既に人間種だけのものではないのだ。

 

それにどれだけの犠牲を生むのかもこの掃討作戦を実行させた者達が分かっていない訳ではない。

 

だがヒェムナー長官やハイドレーヒ大将、代理総統らからすればそれでもやらねばならない大義があると言うはずだ。

 

しかし彼らの大義とはフォースの意思も肯定しないどこにも根拠がないものであり、それは陰謀論染みた妄言に等しい。

 

されどこの妄言のような本来この世には存在しないはずの大義を彼らは盲目的に信じていた。

 

むしろ当然のように淡々と機械のように命令を出すだろうしそれはきっと恐らくトルーパー達に命令を出す将校たちも同じだろう。

 

無論(フリシュタイン)も。

 

ある程度上空からの制圧射撃を終えると後方のドロップシップは地表に近づき、兵員スペースからストームトルーパー隊を降ろした。

 

彼らはFFISO、ISB所属のストームトルーパー隊であり通常の部隊と指揮系統は少し違っていた。

 

地上に降り立ったストームトルーパー達は一斉に散開して“()()()”を始めた。

 

ドロップシップの火力展開でも生き残る者は必ず存在する。

 

その為ストームトルーパー部隊を展開して生存の有無を確認し、生きているのなら細部まで叩く必要があるのだ。

 

命令に従順、悪く言えば盲目的な秘密警察配下のストームトルーパー達は上官からの命令通り生存者を探し出し抹殺した。

 

優秀な兵士は命令に従う、この軍事的伝統が第三帝国の最悪のイデオロギーと結び付き悪しき方向に働いている。

 

ストームトルーパー達はE-11だけではなく時にはDLT-19やサーマル・デトネーターも使い首都の暗闇で敵と言われた者を殲滅した。

 

逃げ惑う人々にブラスター弾を浴びせかけ炙り出したエイリアン種族や近人間には捕まり将校が直接ブラスター・ピストルで射殺した。

 

当然ストームトルーパーもアーマーの下は生身の人間でありヘルメットの下にはそれぞれの素顔がある。

 

トルーパー達にも生まれ星があり、子供の頃があり、友人があり、家族があり、人によっては愛する人があり、人生があった。

 

それらの要因でこの地獄のような惨状を見て動揺し命令でも“()()()()()()”者が当然いる。

 

それは正しい行いなのだろう。

 

轟音や爆発音が鳴り響き、燃え盛る炎は人を、人の生活空間を焼き尽くし、耳をすませば轟音の他に人の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。

 

このような地獄を見て、自分がその地獄を作っている側にいると感じたら罪悪感で動けなくなる者も当然いる。

 

もしかしたら勇気のある者は殺され続ける者達を庇い、逃げられるよう手を貸すだろう。

 

だが個人でやれることは限られている。

 

1人の善は大多数を操る1人の悪によって容易に握り潰されてしまう。

 

今は躊躇いを覚えたストームトルーパーも別の仲間が撃ち、あるいは撃つよう圧力を掛けられて最終的には撃ってしまう。

 

その時の罪悪感がその者を繋ぎ止めてかつての自分には戻れなくなるのだ。

 

故に第三帝国の地獄は広がっていく。

 

このアンダーワールドでも、アウター・リムでも、どこへでも。

 

この掃討作戦が続いている間、アンダーワールドの特定の階層ではブラスターやレーザーの音が止むことはなかった。

 

上空からはドロップシップが、地上ではストームトルーパーが絶滅作戦を続けている。

 

指揮官達は地上でストームトルーパーと共に、上空でドロップシップや司令所として拵えたラムダ級やセンチネル級の機内で指揮を出していた。

 

「第4521拡張地区の制圧完了しました、部隊が命令を待っています」

 

「未制圧の4539地区に移動しろ、制圧を完了した各隊はそれぞれ未制圧の地区へ急行せよ。敵は1人も逃すな」

 

フリシュタイン上級大佐は部隊を指揮し的確に指示を出した。

 

彼の頭の中には迷いや躊躇いという文字はなくただ以下にして効率よく作戦を進めるだけが思考の殆どを占めていた。

 

上級大佐にとって今やっていることは人が当たり前に仕事をするような感覚と同じだった。

 

これがFFISOの仕事、ISBの頃から変わりはしない。

 

むしろ彼が過去に感じたあの出来事からすればこれはやって然るべき行為だとすら思っている。

 

「作戦の遂行率は4割近くです、このまま後1時間もすれば6割以上に到達するかと」

 

「ではもう少しペースを上げろ、予備隊も動員し制圧範囲を広げる。場所によっては護衛付きで補給機も投入し補給の効率化を図れ」

 

「了解!」

 

フリシュタイン上級大佐は更に戦力を動員し戦火を拡大させた。

 

他の地区でも指揮官達が同様に部隊を指揮し総統の為、第三帝国の為と戦い続けている。

 

無論コルサントの最上階で封鎖部隊を指揮している者達の殆どはこの状況を事細かに詳しく知っている訳ではない。

 

ただアンダーワールドではテロリストが掃討され被害が拡大しないよう我々が封鎖している。

 

ジークハルトを含めた多くの将校がこのような思いだろう。

 

だが銀河の中心地の暗黒の中で最も残虐非道な行為が人知れず行われていることに変わりはなかった。

 

 

 

 

 

 

-未知領域 シス・エターナル本領 惑星エクセゴル 玉座の間-

エクセゴルではシス卿を守る軍隊と艦隊が派遣した先遣隊の旗艦を待っていた。

 

第三帝国には知らせていない艦隊の撤退であった為銀河系に大きな動揺を齎したがそんなものは関係ない。

 

先遣隊は大いなる計画の前段階の下準備でしかないのだ。

 

やがて第三帝国を乗っ取り、残り全ての帝国軍閥系勢力を再びシス卿の下に集わせる。

 

この銀河系に再びシス帝国が誕生するのだ。

 

統一された国家の下で銀河は再び備え続けることが出来る。

 

この銀河の統一こそがシスの悲願であり、この銀河の統一こそがこの銀河を唯一守る方策であった。

 

その為には11年以上前からの障害を排除せねばならない。

 

今回は排除の為の第一撃、そしてやがてはこのシス・エターナルの全軍を持って全てを為す。

 

その為に必要な鍵も揃い始めている。

 

「よく来たな、“レン騎士団”。其方らの到着を待っていた」

 

シディアスは相変わらず嗄れた死人が発するような声で同じフォースの同胞である騎士団を迎えた。

 

指導者である“レンの名を持つライトセーバー”を扱う男はシディアスに応えた。

 

「まさかこんな早くから動き出すとは、我々も想像していなかった」

 

男、“レン”は上半身裸で顔には独特なヘルメットを被りボロボロのマントを羽織っていた。

 

彼が持つレンのライトセーバーとはこのレンという男が持つ紅いシスと同じ刃のライトセーバーでありこのレンも先代の人物からライトセーバーを受け取った。

 

故にレンとはそれ以上でもそれ以下でもない。

 

このライトセーバーを持つ者はシスのように厳しく生きることはせず掟は柔軟に、好きなように生き好きなように奪い、フォースの暗黒面の力を略奪と破壊に使った。

 

そしてレンの下には騎士達が集まり彼らは無法者の騎士団として昔から活動していた。

 

未知領域には未だに多くの神格化されたレン騎士団の伝説が残っている。

 

彼らは後悔の念を持たない、故に善悪や目標についてもこだわることはない。

 

彼らが奪って得た者は全てダークサイドが与えてくれたものだと行いを正当化し自らが望むものは何であろうと手に入るはずだと信じていた。

 

レンの下、騎士団は邪悪なる危険な集団としてそこに常に存在し続けていた。

 

存在することにこそ意味があるのだ。

 

レン騎士団にはシスほどの厳しい掟もなければシスほどの悲願もなかったがシスよりその力は曖昧なものだ。

 

同じダークサイドの存在でもシスとレン騎士団とでは差異に違いがあった。

 

だがいつからかレン騎士団は半ば従属する形でシス・エターナルの協力者となっていた。

 

使者として送り込まれたテドリンによってエクセゴルへ召集された。

 

「いよいよ我々もエクセゴル入りか。シスの計画は順調に進んでいるようだ」

 

「銀河が暗黒面のものとなる日も近い。其方らにとっても銀河が手に入ることはこの上ない至上の喜びであろう?」

 

レンは仮面の下で邪悪に微笑んだ。

 

フォースのダークサイドの力の根源はその貪欲さにある。

 

自身の手には収まりきらないであろう銀河すらも欲して力を求め続けるのだ。

 

ジェダイの調和に終わりがないようにシスの貪欲にも終わりはない。

 

対の存在であるが故にそれぞれ同じように対極に伸びていた。

 

そんな中レンはある子供の存在に気づいた。

 

その子供はずっと信者が目をかけているカプセルポッドの中におり、しかもずっとシディアスの側にいた。

 

子供は静かに眠っているがレンからは子供から何か運命的なフォースを感じた。

 

恐らくその子供もフォース感受者だ。

 

レンは「そのガキは一体なんだ?」と尋ねた。

 

「何だってそんなガキを側に、単なるシスの使いっ走りにするだけならこんな所に置いておく必要はないだろう?」

 

その問いにシディアスは死の恐怖を込めた嗄れた声で答えた。

 

「その子は選ばれし者の子が産んだ新たなるフォースの子、スカイウォーカーの末裔よ。選ばれし者の子の人質として、“()()()()”としてエクセゴルで育て上げるのだ」

 

「ほう、このガキが」

 

レンは近づいてカプセルポッドの中のベン・ソロを覗き込んだ。

 

今は静かに寝ているが確かにフォースの力を感じる。

 

こことは違うある銀河の歴史ではやがてこの少年が今のレンを超え“次世代のレン(Kylo Ren)”としてレン騎士団の長となるのだがレンのフォースではそこまで知る事は出来ない。

 

シディアスは眼を瞑っているが感覚でレンや周りの状況が分かった。

 

研ぎ澄まされたフォースが死にかけの肉体に世界を与えてくれる。

 

「やがてこの銀河には新たなダークサイドの騎士達が誕生する…帝国を守り、玉座を確固たるものにしたる騎士達が」

 

シディアスはせせら笑うようにフォースを使って未来を見つめた。

 

彼には見えていた、自らが最初の死を迎える瞬間“()()()()()”が。

 

その為に備え続けてきたしその為に銀河系にも頼れる友と遺言を遺しておいた。

 

だが彼のフォースは予想を大きく外れ銀河系は光も闇もない灰色の混沌の中に入っていった。

 

シディアスには分からなかった、パルパティーンにも分からなかった。

 

これからの未来がどうなっていくのか、己の計画から大きく外れていた。

 

しかし再びフォースは彼に“()()()()()()”。

 

シスにとっては選ばれし者以来の“()()()()()”だ。

 

その未来の為に準備してきた、陰謀詐術を再び銀河系にばら撒いてきた。

 

いつだって計画は順調に進んでいる、いや進ませるのだ。

 

()()()()()()”、そして“()()()()()()”の為の準備は。

 

シディアスは邪悪な笑い声をエクセゴルに轟かせた。

 

この銀河は全て計画通りに運んでいる。

 

 

 

 

-コア・ワールド 第三帝国領 クワット宙域 クワット星系 惑星クワット軌道上-

大セスウェナからコルサントへ向かう途中のヘルムート一行は何故か途中でクワットに訪れクワット・ドライブ・ヤード社会長との会談を求めた。

 

ヴァティオンは断る理由もなかったので密かに訪れていたディープ・コアから急いでクワット本星に戻り会談の用意を進めていた。

 

そして今日、一行はクワットを訪れた。

 

インペリアル級“エグゼキュートリクス”を旗艦とした外交艦隊がクワットに訪れた。

 

オービタル・リングではクワット宙域軍の儀仗隊の儀礼を受けヘルムートはモッティ提督や何人かの諸将と共に会談場所に訪れた。

 

ヴァティオンと軽い握手と会話を交わしてからもう15分は経っている。

 

この15分間、ヘルムートはずっとクワットから送られた兵器の話とか大セスウェナ内の軍需工場の話とかを続けていた。

 

ヴァティオンの全く目の前の青年が腹の底に抱えている本題に入ろうとしなかった。

 

故にヴァティオンの方から話を切り込むこととなる。

 

「ハッハッハ、それで何故態々クワットへ?発注された今月分のものは提供したはずですが」

 

ヴァティオンは自然体を装いながらヘルムートの本題を引き出そうとした。

 

どうやらヘルムートもようやくそれに乗る気になったようだ。

 

「ええ、それは感謝しています。ですが我々がクワットに訪れたのはその件ではありません。あることをご報告に参ったのです」

 

「あること…とは一体?」

 

ヘルムートは後ろの控えていた航空軍の将校からタブレットを受け取った。

 

彼はヴァティオンにそのタブレットを見せながら説明した。

 

「これは我が軍の宇宙軍と航空軍の偵察隊が撮影したレジスタンス軍の新型主力艦の様子です」

 

「ほお、こんなに鮮明に…」

 

タブレットの画像を眺めながらヴァティオンは感嘆の声を上げた。

 

そこには確かにレジスタンス軍の新型艦船、ネビュラ級スター・デストロイヤーの画像がはっきりと写っている。

 

第三帝国もまだこの軍艦は研究対象であるが大セスウェナも独自に研究していたようだ。

 

かなり詳細な報告が記されている。

 

「戦闘データは第三帝国側のものを使っているんですがね。一応撮影だけは我々が、ナブーで実行しました」

 

ヘルムートはいつもの様子を崩さず若干身内をアピールする形で付け加えた。

 

実際大セスウェナ連邦航空軍は宇宙軍共々いい働きをしてくれた。

 

恐らくナブーのレジスタンス駐留艦隊はまだ気づいていない。

 

「この軍艦、レジスタンスの主力艦として第三帝国をかなり痛ぶっていました。シス・エターナル軍が制圧した地域の殆どはレジスタンス軍が一度は奪還した領域だ。インペリアル級と比べて船体は小さいながらも性能はインペリアル級越えでしょう」

 

「ええ、我々も興味深く研究を続けています。あの軍艦は我々の敵に値する艦ですから」

 

ヴァティオンは作り笑いと共に表情ひとつ変えずに嘘をついた。

 

隣で話を聞いていたプレスタも驚くほどの嘘だ。

 

一方のヘルムートも表情ひとつ変えず、されど鋭い眼光で「ほお」と相槌を打った。

 

あれは正にターキン家の瞳だ。

 

「まああなた方がこれに変わる主力艦を設計することは我々としても興味深いですし必要であれば尽力惜しみませんよ。しかし我々がここに来たのはこの新型艦に対抗する軍艦を作って欲しいからではありません」

 

ヘルムートはまずはっきりとそう申した。

 

ヴァティオンは苦笑じみた笑みを浮かべながら「では一体何用で?」とヘルムートに尋ねる。

 

その一言で大セスウェナ側の表情は一気に変わった。

 

まるでこちらを狩るといった獣の森に住む狩人のような雰囲気だ。

 

特にヘルムートからは研ぎ澄まされた静かなる圧迫感を含んだ殺意のようなものが感じられた。

 

「エリアドゥ…今は政府官邸として機能している旧総督府、コルサントやスカリフと同じくデータバックアップとして情報保管庫がありましてね。帝国時代、いやもっと前からの情報が保管されているんですよ」

 

「聞いたことありますね。グランドモフターキンの為設置されたとか」

 

「大伯父にはいつも感謝ですよ。我々が独立し戦後も中、大国としてやっていけるだけの基盤を残してくれた。まあそんなことは置いておいて、保管庫にはただの報告書から重要な開発計画の記録まで保管されています。その中で幾つか、“()()()()()()()()()()()()()”」

 

彼は受け取ったタブレットを操作し別のものを映し出した。

 

ヘルムートはそれをまるで逮捕状でも突きつけるかのようにヴァティオンらクワットの面々にそれを見せた。

 

タブレットの画面を見た瞬間、クワットの面々は凍りついた。

 

ヴァティオンも一瞬だけ顔を顰めた。

 

「保管庫にあった未完成のものもある艦船設計図を幾つか添付した資料でしてね。不思議なことに設計思想や構造、形状がこのレジスタンス軍の新型主力艦に酷似している。無論これらは単なる偶然かも知れません。設計思想が最終的に似ることはこの長い銀河史に置いて、ない訳ではない」

 

「ええ、中に我々が以前設計したものもあったので少々驚きましたよ。それにその手の設計図はコルサントにも保管されていたはず、旧コルサント臨時政府経由で流れたのかも知れない」

 

ヴァティオンは可能性を付け加えてクワットの責任から目を背けさせようとした。

 

だがヘルムートはそうはいかなかった。

 

「確かにその可能性はありますがコルサントの保管庫はエンドア後すぐに封鎖されています、それもスクリーラット1匹入れないほどのです。ですから情報が漏れた可能性は考えにくい。タイロンの辺境など襲撃された施設にもこの手の情報はなかったはず」

 

「情報部の線があります、まあこれ以上可能性の話をしても無駄でしょうが」

 

「それは確かにその通りです。ですから“()()()()()”話をしましょう。ある経由を伝って実は第三帝国にも極秘裏でこの主力艦の一部を“()()()()()()()()”」

 

ヘルムートは今度はその解析データのページをクワット側に見せた。

 

もうクワットの面々はヴァティオン以外はほぼ見るからに動揺しておりプレスタも冷や汗をかいていた。

 

一体いつここまで調べ上げられたのだ、ここまで調べられてはどう言い繕っても隠しようがない。

 

「曰くこの主力艦の名はネビュラ級スター・デストロイヤー。レジスタンス初のスター・デストロイヤーで全長はインペリアル級より小型だがスペックはインペリアル級を凌駕している…恐るべき相手だ」

 

「………」

 

「確かに最初に設計を担当したのは新共和国時代に設置されたリパブリック・エンジニアリング・コーポレーション。今ではレジスタンス・エンジニアリング・コーポレーションと名乗っているそうですが、そして技術、設計、建造支援として“()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

ヘルムートは威圧感を込めて、心の底では感慨深く文章を読み上げた。

 

ここまで調べ上げ、様々な工作を施すのは骨が折れる仕事ばかりであった。

 

大セスウェナが持つ様々なコネクションを使い、情報機関であるFCSIAのエージェント達には苦労を掛けた。

 

だが全ては大セスウェナの為、先祖が護りし地を、連邦に加盟する全ての領域を守る為に必要なのだ。

 

「このネビュラ級の艦隊普及率、いつ頃から建造が始まったかは分かりませんがレジスタンスの勢力圏を考えると凄まじいと言わざるを得ないでしょう。まるで“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

これは直球勝負だった。

 

この世でそんなことが出来る企業はクワットかレンディリ、コレリアくらいしかない。

 

レンディリは完全に第三帝国に忠誠を誓っており、コレリアのコレリアン・エンジニアリング社の製造する商品の特徴を鑑みればネビュラ級はコレリア製とは考えにくい。

 

そうなると設計の感じから言ってクワットに白羽の矢が立つ。

 

「だから調べてみたんです、この状態で最も怪しいのはベトレイアル社だ。この企業は流石レジスタンスの支援組織会社というだけあって調査が難航しました、ですが我々は掴んだのです。ベトレイアル・エンジニアリング社はレジスタンスとのカウンターパートだけ設置しているただの“()()()()()”、名目上存在はしていない、そして親会社にあたる存在は…」

 

ヘルムートは一瞬溜めた。

 

だがこの溜めはクワットの面々を大いに追い詰めた。

 

ヘルムートは容赦なくその名を告げた。

 

「クワット・ドライブ・ヤード社、あなた達のことだ。第三帝国や我々にベトレイアルの隠れてレジスタンスを影から支援していた、第三帝国風に言うなら…あなた達は“()()()”となる」

 

ヘルムートのその鋭い一言でクワット側の方は完全に凍りついた。

 

ネビュラ級を生み出したのは確かにレジスタンスの|REC《レジスタンス・エンジニアリング・コーポレーション》だが設計や建造を手伝ったのはクワットのダミー企業、ベトレイアル・エンジニアリング社だった。

 

ベトレイアル社は当初新共和国用に建造された艦船、新共和国が残した兵器を新共和国残党軍に流す為に設置したダミー企業だった。

 

旧反乱同盟時代からの関係者をカウンターパートに設置し残党軍と連携した。

 

なおカウンターパートの関係者達はまだ本気でベトレイアル社があると信じている。

 

それから暫くは新共和国の艦船を流すだけだったのだが“()()()()()()()()姿()”を知ってからはベトレイアル社を使ってよりレジスタンスに与するようになっていった。

 

あの国は危険だ、このまま増長させては銀河系に厄災を齎しかねない。

 

彼らの思想と行動力は度を超している。

 

それは狂気、純粋なる狂気なのだ。

 

あの狂気を放置しておく訳にはいかない。

 

倒すことは無理でもせめてレジスタンスの勢力を盛り上げ、周辺のファースト・オーダーやチス・アセンダンシー、ケッセル王国らが台頭する必要がある。

 

そうすれば第三帝国とて狂気に付き合っている場合ではなくなるだろう。

 

前々から密かに手を組んでいるシス・エターナルの存在もそこには含まれている。

 

彼らにはパーツを横流しするだけだったが。

 

せめて微力でも第三帝国の狂気を止めようとするのが“彼の方”と手を結び、第三帝国の原型を作り、第三帝国へ手を貸してしまった我々の責任だ。

 

純粋な利と理性ある責任がそうさせている。

 

だがどうやらバレてしまったようだ。

 

ヴァティオンは諦めたような表情で吐き出した。

 

「流石、ウィルハフ・ターキンの後継者だ……おそらくここであなた方を始末してももう遅いのだろう」

 

「はい、“()()()()()()()()()()()()”」

 

ヘルムートはキッパリとそう答えた。

 

「完敗だ、あなた方の諜報機関が調べたことは全て本当ですよ。第三帝国の情報部にも親衛隊のFFISOにも悟られていないはずなのに。まさかバレてしまうとは」

 

「あなた達は完璧だった、有りとあらゆる情報を抹殺し今の今まで自然にやり続けていた。故に我々はあなた達を“()()()()()()”と考えている」

 

その一言はプレスタをヴァティオンの方へ振り向かせ、ヴァティオンの表情を変えた。

 

背後のクワットの役人達も今度は別の意味で動揺している。

 

「それは…一体どういう……」

 

ヴァティオンは思わず驚いた表情でヘルムートに尋ねた。

 

ヘルムートは今度は別のタブレットを彼らの方へ提供した。

 

「我々にはまだまだ力が必要だ。単独で全てと渡り合えるような軍事力が、今の大セスウェナではそれにはちと力不足です。故にあなた達が裏の契約を行なっているように我々も“()()()()”を行いたい。現状の軍需品の提供とはまた別の契約を」

 

今のままではやはり力不足だ。

 

大セスウェナ連邦、そして同盟国を守るにはもっと力が必要なのだ。

 

大量のスター・デストロイヤー、地を埋め尽くすほどのウォーカー。

 

既に人材は揃っている、後は準備するだけだ。

 

ヘルムートはその為にまず一つ、“()()()()()()()”を口にした。

 

「まずは“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”、あれを我々に引き渡してほしい」

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム レジスタンス領 アノート宙域 ベスピン星系 惑星ベスピン軌道上-

ベスピンには救援に来た新分離主義連合艦隊とレジスタンス艦隊が軌道上に並んでいた。

 

司令官はマー・トゥーク提督、地上部隊司令官はリストロング司令官で今各地でレジスタンス軍と共に第三帝国の侵攻を防いでいた。

 

そんなベスピンに突如旧共和国の艦隊が現れたらレジスタンスも新分離主義連合の将兵も驚くことだろう。

 

だがこの異常な事態は実際に起こった。

 

チャルダーン星系から自動でハイパースペース・ジャンプしたヴェネター級を含む艦隊は無事にアノート宙域、ベスピンに辿り着いた。

 

ハイパースペースを通過し徐々に増えていくヴェネター級と旧共和国の艦隊はまるでタイムスリップでもしていたかのような異質さに満ち溢れていた。

 

その様子は当然新分離主義連合の将兵達も見ていた。

 

だが彼らの大半はこの艦隊と毎日のように死闘を繰り広げていたのだ。

 

当然いい表情ではなかった。

 

救援艦隊の旗艦“コンフェデレーション”のブリッジの中でトゥーク提督とリストロング司令官は艦隊を見下ろしていた。

 

「提督……これは……」

 

リストロング司令官は苦虫を噛み潰したような表情で旧共和国艦隊を見下ろしている。

 

この連中とは何度も戦い夢にすら出てきたほどだ。

 

「ああ……仮に中身がもう共和国軍ではないとしても…やはり……堪えるものがあるな…」

 

トゥーク提督は珍しく険しい表情で感情を露わにしながら呟いた。

 

かつてクローン戦争の頃、この艦隊を構成しているヴェネター級のある一隻の影響でトゥーク提督は敗北を喫し一度は捕虜として収監された。

 

提督としては軽いトラウマとなっているほどだ。

 

コンフェデレーション”の他の乗組員達も殆どが同じような表情を浮かべている・

 

パイロット・ドロイド達は無論そんなの気にならない様子だったが。

 

「しかしこんな古い艦隊一体どこから出てきたんでしょうか…」

 

「以前カルリジアン将軍らが『そのうち補填の艦隊が来る』と言っていたが…まさかな」

 

「いやぁ流石に……クローン戦争時代の艦船を改修して使っている我々が言うのもなんですが」

 

トゥーク提督はリストロング司令官と共にそう苦笑いを浮かべていた。

 

だが彼らの言うまさかは大当たりであった。

 

これから僅か数時間後、一番最後の補填艦隊として何故かボロボロのヴェネター級スター・デストロイヤーがハイパースペースからジャンプアウトした。

 

他の軍艦に比べて損傷が酷くあちこちから煙を出していたが最低限のダメージコントロールは施されていた。

 

しかも驚きだったのがその一番ボロボロのヴェネター級の船体下部ハンガーベイからレイダー級“コルウス”がドッキングし艦内に“コルウス”の乗組員と特殊部隊員がいたことだった。

 

今までの軍艦が全て無人であった為その衝撃は大きく最初生命反応があると司令部に入った時は動揺の声が上がったほどだ。

 

損傷したヴェネター級は他の艦同様ベスピンの軌道上ステーションに入り修復を受けていた。

 

その間にジェルマン達は皆ステーションを出て司令部に向かっていた。

 

「ようインフェルノ隊、久しぶりだな。サラストの一件以来か?」

 

ランドは両手を広げ笑みを浮かべながらインフェルノ分隊の面々を迎えた。

 

元々インフェルノ分隊が新共和国に亡命した時最初に迎え入れたのはランドとシュリブだった。

 

その為かつてサラストの放棄された軍需工場から武器を奪取するという今回のような任務があったのだが色々あって燦々な結果となった。

 

そのことを未だに覚えているシュリブは嫌そうな顔で「どっかの誰かさんがいなかったから今回は溶岩に落ちることなく無事に帰れたよ」と皮肉を述べた。

 

2人は互いに握手を交わし他の2人とも握手を交わした。

 

「それで、君達が国防大臣の直轄の」

 

「はい、ジェルマン・ジルディール大尉とジョーレン・バスチル少佐です」

 

2人は敬礼しランドと握手を交わした。

 

「私は…まあ知ってるとは思うがランド・カルリジアンだ。しかし君とはどこかで会ったことのあるような気がするが」

 

「一度だけ閣下が情報部アカデミーの視察に来られた時かと」

 

「ああ、あったな。と言うことは以前はストラインの」

 

「はい、ストライン中将の配下でした」

 

2人の会話は弾んだが「おっとこれはいかん」とランドが先に切り上げた。

 

彼は2つの特殊部隊を引き連れホロテーブルの下まで向かった。

 

「早速その国防大臣が任務の結果をお待ちだ」

 

ランドは近くの技術士官に合図を出してディカーとのホロ通信を繋いだ。

 

ホログラムはディゴール大臣を映し出し彼の声が聞こえた。

 

ジェルマンら5人はディゴール大臣に敬礼した。

 

『その様子を見るに無事に作戦は終了したようだな?』

 

「無事…かどうかは分かりませんが任務は成功です。途中シス・エターナル軍と思わしき部隊の襲撃を受けましたがなんとか切り抜けました」

 

『…それは本当か?』

 

ディゴール大臣は急に表情を変え彼らに尋ねた。

 

ジェルマンとジョーレンは力強く頷きアイデンも「セキューター級一隻を含む専門の揚陸部隊でした」と答えた。

 

『そうか…』とディゴール大臣は唸り声を上げた。

 

『…実はまだ確定ではないんだがシス・エターナル軍が“()退()”を始めているようでな…』

 

「なんですって!?」

 

思わずジェルマンは声を上げた。

 

シス・エターナルはつい最近、いやこれまでずっとレジスタンスに対して大勝利を重ねてきた。

 

ロザルもサンクチュアリも堕とし、このままではモン・カラすら突破しそうな勢いだった。

 

そんな状況で撤退するとは思えない。

 

『まだロザルやいくつかの地点では残っているらしいがサンクチュアリにいた主力艦隊が忽然と姿を消し銀河のどこにも見つからないそうだ』

 

「まさかそんなこと…」

 

『だが第三帝国から傍受した通信を解析してみてもどうやらシス・エターナルの撤退は間違いないようだ』

 

シス・エターナル軍の主力艦隊撤退は第三帝国に多大な衝撃を齎した。

 

今急いで派遣した艦隊によってひとまずシス・エターナルが突き進んだ領域は確保しているがそれでも衝撃は計り知れないだろう。

 

シス・エターナルは第三帝国に何も言うことなく撤退した。

 

さも“()()()()()()()()()()()()”と言わんばかりにだ。

 

『まだ油断は出来ないがひとまずの脅威は去ったと考えるべきだろう、君たちもよく任務を遂行してくれた。おかげで少なくとも艦隊の“()()”にはなったはずだ』

 

「しかしディゴール大臣…あの艦隊本当に役に立つんですか…?どれも旧共和国時代の骨董品ですよ」

 

ジョーレンは思わずディゴール大臣にそう告げた。

 

大臣は『ああ、分かっている』とまず前置きし理由を話した。

 

『だがあの軍艦、君たちがどの程度見たかは分からないが何隻か本来のヴェネター級にはない武装を装備している艦艇があったはずだ』

 

ずっとXウィングの中にいたシュリブ以外はなんとなく思い当たる節があった。

 

最後に全員で乗り込んで撤退したヴェネター級、あれにも本来はなかったはずの震盪ミサイル発射装置がついていた。

 

しかもあそこではドロイドも稼働していないのにも関わらず軍艦の建造を続けていた。

 

「ええ、一部の軍艦にはⅠ級と同様の主砲を装備していた艦もありました」

 

アノート宙域の技術将校の1人は簡易報告書を持ってランドの下に訪れた。

 

『どういう訳かあそこの造船所は使用されていないはずなのにずっと艦船を建造し続けている。しかも一部武装はアップデートしてな』

 

ディゴール大臣は技術将校の発言と合わせてどこか昔を思い出すようにそう呟いた。

 

その様子を見てアイデンは「国防大臣はあの造船所のことを知っていたのですか?」と尋ねた。

 

ディゴール大臣は隠すこともなく深く頷いた。

 

『私も一度だけあそこに訪れたことがある。まだ新共和国が誕生して間もない頃、始めての任務として『使用可能な造船所地帯』の調査に向かった時のことだ』

 

「そこであそこの造船所に?」

 

『ああ…不気味だったが建造は出来るし距離的にも問題がなかった、今すぐ使える艦もあった……だが我々が訪れた時もどこからともなく帝国軍がやってきて我々はどうすることもなく撤退した。当時は帝国が既に半壊状態だったのにも関わらずだ。凄まじい速さでかなり整った軍隊だった』

 

ディゴール大臣は淡々と、それでいてどこか恐ろしげに過去を語った。

 

今より既に4年前の出来事だ。

 

まだ当時は銀河内戦の真っ只中で新共和国は一隻でも多くの軍艦を欲しがり、一つでも多くの造船所を欲しがった。

 

クローン戦争中の銀河共和国と同じ理由だ。

 

そこで調査を当時惑星防衛軍から新共和国軍に編入されたディゴール大臣が任されていた。

 

『それ以降調査は出来なかった、新共和国が銀河内戦に勝ったからだ。もう態々古い造船所を使って軍艦を造る必要もなくなったし古い軍艦を持ち出す必要もなくなった。だからマークだけはされたまま、そのまま放置されていた…』

 

「それが今回の戦争によって大きく事情が変わった」

 

『ああ、アノートの損害を受けてどうしてもあそこから引き抜かなくてはならなくなった。帝国の影響圏はだいぶ後退し少数の部隊であればバレないと思ったんだが…』

 

結局敵は来た、かつては帝国軍で今はシス・エターナル軍だ。

 

しかも毎回本気で潰しにくる。

 

まるであの地を知られたくないかのように。

 

『だがよくやってくれた、あそこに保管されていた全艦艇を接収出来た戦果は極めて大きい。装備の度合いではすぐに現役で使用出来るものもある』

 

特に輸送艦など後方任務にもあの艦隊は十分使える。

 

『…これである程度の準備は整った。挙句、敵の主力艦隊は忽然と姿を消し我々の当面の脅威はなくなった。今こそ我々は実行するべきだとレジスタンス軍最高司令部は決断を下した』

 

重い表情でディゴール大臣はそう呟いた。

 

当然ジェルマン達は「それは一体なんですか?」と尋ねる。

 

『我々は攻勢に転じる、その為の“()()()()”だ。このままではやがてシス・エターナル軍に我々は1人も残らずを消し飛ばされてしまうだろう。そうなる前にあの絶対的な超兵器の力を排除する必要がある。あの力が第三帝国と結びつき、銀河にとって本当の最悪を生み出す前にだ』

 

本当の最悪、それは第三帝国の狂気と結び付きこの銀河全てをあのスーパーレーザーで消し飛ばしてしまうかもしれない最悪の破滅だ。

 

そうなったらレジスタンス軍に勝ち目はない、何せ今でさえ負け続きなのだ。

 

そうなる前に手を打ちたい、当然の考えだが今の状況では現実味が湧かない。

 

「一体どうやって…?」

 

ジェルマンは思わず尋ねた。

 

もしかしたら答えてくれないかもしれないと思っていたが意外なことにディゴール大臣は彼の問いに答えた。

 

『連中の“()()”に奇襲を加える、その為の情報は“()()()()()”…後は』

 

()”から与えられた地図を掘り起こすだけだ。

 

レジスタンス軍による静かなる反撃が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

-コア・ワールド 第三帝国領 惑星コルサント コンプノア・ユーゲント・アカデミー-

アカデミーは元々ある帝国ロイヤル・アカデミーの教員や職員が集まっており、軍事基地ではないがコルサントの一大兵拠点と化していた。

 

多くの親衛隊将校や国防軍将校、警備や教官のストームトルーパー達が通路を闊歩し候補生達は現役の将兵達と触れ合う機会も多かった。

 

このまま軍の道に行くと決めているコンプノア・ユーゲントの少年少女達は特にそうだ。

 

彼ら彼女らはこのまま自分達の顔に皺が目立ち老いを感じるようになるまで基本的にはずっとこの光景の中にいるだろう。

 

尤もそうなったとしたら軍人としては100点の軍役人生であろうが。

 

もしかしたら途中で戦死するかもしれないし退役して別の職務に就くかもしれない。

 

職業軍人一筋で、というのは大半の者にとって難しい道だ。

 

「こちらがユーゲントの校舎です」

 

案内役の親衛隊将校が手を差し出し視察に来た者達に伝えた。

 

今はちょうど休みの時間でコンプノア・ユーゲントの少年少女達が廊下やあっちこっちに出て遊んだり雑談をしていた。

 

全員同じユーゲントの制服を着ており胸元には様々なデータの記載されたプレートがついていた。

 

「上階に上がると更に上の学年となります。本格的な軍事訓練をやっているのはもう少し上の学年です」

 

「ではそちらへ連れて行ってくれ。我々もコルサントの教育方法は参考にする必要がある」

 

今日視察に来ていた大半は帝国アカデミーの教官や校長であり、コルサントのロイヤル・アカデミー教育やユーゲントの教育を視察に来ていた。

 

地方でも帝国に忠実で優秀な将兵を育て上げる必要がある。

 

かつて第一帝国たる旧帝国軍がそうしていたように。

 

だが視察の中にはそうでない面々も多少含まれていた。

 

その1人がウェイランド研究所のカスパー・ヴォーレンハイト少将だ。

 

彼は常日頃から変わらぬ神妙な面持ちで視察団の中にいた。

 

するとヴォーレンハイト少将のポケットに入っていたコムリンク付きホロプロジェクターが鳴り響いた。

 

「すみません、少し抜けてもよろしいでしょうか。研究所から連絡が」

 

「お構いなく、上階の22-1棟合流しましょう。それでは皆さんも私についてきてください」

 

ヴォーレンハイト少将は視察団と離れ視察団は上の階層へと向かった。

 

その道中視察団の何人かの将校は雑談混じりにヴォーレンハイト少将のことを噂していた。

 

「あれがウェイランド・アカデミーの…」

 

「ああ、各アカデミーから徴収した特待生をウェイランドで教育しているらしいが…」

 

「噂じゃ人体実験による能力強化とかも行ってるとか……」

 

ヴォーレンハイト少将はウェイランド研究所の所長ではあるが名目上は同接するウェイランド帝国アカデミーの校長でもあった。

 

本来今まで軍の教育に関わってこない技術畑の将校が校長になるという異例の事態に加え、ウェイランドで本来やってることも相まってヴォーレンハイト少将には黒い噂が絶えなかった。

 

実際その噂は一部当たっていたりする。

 

ウェイランドで人体実験を行い、最終的にクローニングと併用して帝国にフォース使いの兵士を齎そうとしていることは事実だ。

 

自分のやっていることにも負い目があったのでヴォーレンハイト少将は気にしてはいなかった。

 

視察団と離れたヴォーレンハイト少将は人気のないところで着信に出ていた。

 

「私だ、何があった」

 

『研究室、ヒルトルフです。被験体E-557が危険な状態です、心肺機能が低下しミディ=クロリアンも死滅し始めています』

 

「……延命処置は」

 

ヴォーレンハイト少将は冷たい声で問い詰めた。

 

『していますが恐らくもう長くありません。このままではミディ=クロリアンを移植した他の被験体にも影響が出る可能性があります』

 

「…手順通りに対処しろ。それしかない」

 

『了解』

 

苦虫を噛み潰したような表情でヴォーレンハイト少将は通信を切った。

 

まただ、またこうなった。

 

無理な実験をしすぎとミディ=クロリアンを移植する時に被験体の身体を傷つけ過ぎた。

 

恐らくあの子の命はもう助からない。

 

また我々の任務とかつて求めた自分の探究心のせいで幼い子供を犠牲にすることになる。

 

ヴォーレンハイト少将は自らを殺めたいようなそんな気持ちになった。

 

昔は銀河の全ての人々に幸福と力を与える為の仕方ない犠牲だと考えていたが今では無理だ。

 

「また…か、クソッ…!」

 

握り拳を作りながらヴォーレンハイト少将はそう吐き捨てた。

 

これは自分達に対する怒りでありどうしようもないものだった。

 

急ぎ足でスタスタと視察団の下に戻ろうとするとヴォーレンハイト少将はあるものを目撃した。

 

アカデミーの空き教室に2人の少年と少女がいた。

 

まだ5、6歳の子供達で誰かから隠れるように壁側に寄って座っていた。

 

ただのユーゲントの子供かとヴォーレンハイト少将はその場を過ぎ去ろうとしたがあるものを目撃してしまった。

 

少年の方が手を広げて何もないのに“()()()()()()()()()()たのだ”。

 

「お父さんもお母さんもどうして人前でこれをやっちゃいけないっていつも言うんだろう」

 

「分からないけど…私は同じことやったらいじめられたから…」

 

あの言い方からして2人とも相当力の強いフォース感受者のようだ。

 

ヴォーレンハイト少将じゃなくたって見れば分かる。

 

このような超能力的な力が発揮出来るのはフォース感受者以外に存在し得ない。

 

しかし何故だ、ヴォーレンハイト少将は疑問に思った。

 

何故彼らは我々の研究所にいないのか。

 

コンプノア・ユーゲントの生徒には全員ミディ=クロリアン値の検査を行い数値の高い者はウェイランド研究所に送られてきたはずだ。

 

一部検査にハッキングが入りFFSBが調査したらしいがそれは既に『問題なし』として報告書が送られてきた。

 

ではこの2人はなんだ。

 

親衛隊の調査ミスか、それとも数値の検査キットの誤作動か。

 

「大丈夫、僕もお父さんもお母さんもそんなことしないよ」

 

銀髪の少年はそう呟いて少女の手を優しく握った。

 

その様子を1人のフォース研究者が恐怖と動揺のまま差しで見ているとも知らずに。

 

ジークハルト達の工作に今危機が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

女が目覚めるとそこに広がっていた光景は無機質な船の中だった。

 

ぼんやりとした意識の中で辺りを見回すと何人かの赤い装甲服を着た者達が立っていた。

 

手には武器を持っており女が目覚めたこともすぐに察知した。

 

「目覚めたぞ、どうする」

 

「放っておけ、拘束具はつけてある」

 

装甲服の者達の会話で女は初めて自身につけられた拘束具を知覚した。

 

それと共に意識もしっかりし始め、自身が感じた恐怖と共にいた男の存在を思い出した。

 

彼はどこだ、と女は叫んだが猿轡が邪魔して殆ど聞こえなかった。

 

装甲服の者達も気にすることもなく再び警備についた。

 

身体を必死に動かして逃げ出そうとするが拘束具はそう簡単には外れない。

 

叫ぶ声も周りには殆ど届くことはなかった。

 

このままでは男が連れ去られてしまう。

 

男は昔一度だけ、自分の生まれについて話してくれた。

 

生まれた場所はまるで地獄のような環境で光や暖かさはまるで存在しなかったそうだ。

 

誰からも愛されず、虐げられ、“()()”と呼ばれ続けてきた。

 

そこには愛も希望も人らしい感情もなかった。

 

男が生まれた場所は狂信者の集う恐ろしい場所だった。

 

悪の指導者に惹かれ闇の中を盲目に付き従う狂信者達の集う場所だ。

 

だから抜け出した、たった1人の友人と共に。

 

外に出れば希望があるかもしれないと思って男はここまできた。

 

男と女は惹かれあい男が生まれた地獄で得ることの出来なかった愛情や希望、人らしい感情がこの地には溢れていた。

 

これからずっと求めていたものに囲まれて生きていけるのだと思った。

 

だが地獄の使者は訪れた。

 

2人を、特に男を地獄に連れ戻す為に。

 

このまま連れ去られてしまうのか、男の言っていた地獄のような場所に。

 

希望も光もない暗黒の場所に。

 

女は必死に抵抗しようとしたが彼女の持つ力では何も出来ない。

 

絶望はすぐそこまで迫っていた。

 

必死に叫ぶ女の声が金切り声のように船内に響き渡った。

 

装甲服の者達は少しうるさいと思うだけで全く気にしていない。

 

これか彼女の限界だ。

 

もうダメなのか、女がそう思った瞬間だった。

 

“希望は訪れた”。

 

『こちら第7分隊…!敵の攻撃を受けている…!増援をっ!』

 

装甲服の男達のヘルメットから漏れ出る会話が女にも聞こえた。

 

増援を求めた仲間はその直後独特の音と共に地面に倒れた。

 

今度聞こえた音は通信機からではなく船内の外からだった。

 

何発もの銃声と通信機から聞こえたのと同じような音が辺りに響いた。

 

時折人の断末魔のような声も聞こえる。

 

「すぐ近くまで来てるぞ!!」

 

別の誰かの声が響いて装甲服の者達は一斉に駆け始めた。

 

船内にいた装甲服の者達も外に出て外の戦いに加わった。

 

女は音だけで加勢にいった装甲服の者達が負けていることに気づいた。

 

どんどんブォンブォンという独特の音がこちらに近づいているからだ。

 

目で見える範囲では装甲服の者達が放った銃弾は弾かれ逆に装甲服の者達に当たった。

 

最後にはすぐ目の前まで現れたローブを被った者が白い2本の光剣で装甲服の者達を斬り倒していった。

 

「今助けるわ」

 

ローブを被ったその女性は片手を前に出し触れることなく女についていた猿轡と拘束具を外した。

 

全身が一気に自由になり女は立ち上がった。

 

ローブの女性は光剣をしまうと女に近づいて「大丈夫?怪我はない?」と尋ねた。

 

「私よりももう1人捕まったんです!彼を早く…!」

 

「分かってる、どんなに時間が掛かっても必ず助ける」

 

女性はローブを下ろして約束した。

 

それはジェダイでもシスでもない約束だ。

 

「しばらくここにいて」

 

彼女、アソーカは女を船の側に寄せると再びライトセーバーを手に取り構えた。

 

既にアソーカの前には一個分隊ほどのシス・トルーパーがブラスター・ライフルを構えて迫ってきていた。

 

だがこの程度の人数、アソーカの敵ではない。

 

それにアソーカには他にも頼れる仲間がいる。

 

レジスタンスVSシス・エターナル前哨戦、第二回戦のスタートだ。

 

 

 

つづく




どうもお久しぶりです!Eitoku Inobeです!

ナチ帝国もこれでちょうど60話!恐ろしいですね

そうこうしている間に気がつけば本家本元も軍将殿の13人VSマンダロリアンズ(仮)をやろうとしているんでびっくりですよ

マンダロリアンズが映画で公開される頃にはナチ帝国も終わってるといいですねぇ(希望的観測)

そいではまたなんかで〜!


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忌子

「人は生まれた時から既にフォースによって祝福されている。何故ならフォースが望んだから人は生まれるのだ。例えそれがどんな生まれ方だろうと、どんな種族であろうと。人はフォースによって望まれて生まれ祝福される。だから我らは常にフォースのご加護があるのだ。祝福されし子どもたちが、道に迷わず、苦悩しながらも進めるように」
-あるフォースのライトサイド系宗派の司祭の言葉-


一撃、また一撃とライトセーバーの全てを斬り裂く斬撃がシス・トルーパー達を薙ぎ払う。

 

シス・トルーパー達は必死にブラスター弾を放って抵抗するがアソーカの華麗な剣捌きによって全て弾き返された。

 

数人で接近戦に持ち込んで抑え込もうとシス・トルーパーの何人かは銃剣を装備しアソーカに向かって突進したが全てフォースで押し飛ばされ、岸壁に叩きつけられた。

 

「応援を要請するっ!」

 

他の部隊に応援を呼んでいたシス・トルーパーはすぐに首を刎ねられ、残った2、3人のシス・トルーパーも全て倒された。

 

これでこの周辺にいたシス・トルーパーは全てアソーカの前に打ち倒された。

 

辺りを見渡しアソーカはコムリンクに手を当てる。

 

「周辺を制圧した、あとはこっちで…前言撤回するわ、追加が来た…!」

 

アソーカはライトセーバーをしっかり構え厳しい目線を送った。

 

彼女の目の前には数名の部下と共にやってきたある1人のダークサイドの使い手がいた。

 

隣にはボーラ・ヴィオで戦った暗殺ドロイドが控えている。

 

確か情報によれば名前はIG-99Eだったか。

 

IG-99Eはダークサイドの使い手よりも好戦的で今にでもアソーカを襲いそうな雰囲気だった。

 

「ここまでだ、我々の邪魔はさせん」

 

その一言と共にダークサイドの使い手、テドリン=シャはIG-99Eやシス・トルーパーと共にアソーカに襲い掛かった。

 

アソーカは2本の白刃のライトセーバーでシス・トルーパーを先に倒すとテドリンとIG-99Eの攻撃を防いだ。

 

IG-99Eは片腕の重パルス・ソードキャノンの引き金を引こうとしたが、アソーカは寸前で距離を取って放たれたパルス・レーザーを弾き返した。

 

それから間髪入れずにテドリンがブラスター・ピストルを放ちながら突撃してきた。

 

アソーカは意識を集中させありったけのフォースの力で2人を押し出した。

 

「フォースの使い手がブラスターを使うなんて、私のマスターのマスターが見たらなんて言うか」

 

「最終的に勝てばよかろうなのだ、手段を選んでいたからお前達は負けた。我々はあの方の為にもなんとしてでも任務をやり遂げる」

 

その一言と共にIG-99Eがパルス・レーザーを放ちながら突進してきた。

 

ライトセーバーで受け流すこともなくIG-99Eの斬撃を回避しIG-99Eの踵の部分から出現したバイブロ=ナイフもバク転し反撃の一手と共に躱した。

 

回避の瞬間にライトセーバーでIG-99Eのボディの一部分を斬撃を入れた。

 

それがすぐに致命傷とならずとも十分なダメージとなったはずだ。

 

“斬撃が効いていればの話だが”。

 

アソーカはIG-99Eのボディを眺めて驚いていた。

 

ライトセーバーの刃で斬ったはずの部分に傷ひとつ付いていない。

 

むしろ平然とした様子でパルス・レーザーと腕部のレーザー弾と小型ミサイルをアソーカに向けて放った。

 

「ふん!どうだ!IG-99Eの装甲はライトセーバーの攻撃も通さない!お前はここで始末する!」

 

自慢げにテドリンはそう叫んでブラスター・ピストルと共に辺りの岩石をフォースの力でアソーカに向けて吹き飛ばした。

 

アソーカは弾丸を何発か弾きつつ岩石の上を飛んで一気に上空へと躍り出た。

 

まずはダークサイドの使い手の方から先に倒す、暗殺ドロイドはその後だ。

 

アソーカはライトセーバーを突き立て回転しながらテドリンに斬撃を加えようとした。

 

だが彼女の攻撃は割って入ってきたIG-99Eによって防がれ失敗した。

 

せいぜいフォースで油断していたテドリンを押し飛ばして転ばせたくらいだ。

 

「クッ!貴様なんぞに!」

 

テドリンは立ち上がりそう吐き捨てた。

 

彼は今までアソーカが戦ってきたダークサイドの使い手達、特に尋問官と戦闘力は同等かもしかしたらそれ以下、それ以上の可能性もある。

 

故にモールやヴェイダーと言った者達に並ぶ事はない。

 

問題はIG-99Eの方だ、こちらは下手すればテドリンよりも強いかもしれない。

 

情報通りIG-88をベースに対ジェダイに特化した戦闘を行っている。

 

このまま戦えば長期戦となる事は間違いなさそうだ。

 

「おい、テドリン!早く戻ってこい!さっさと船を出してここから離れるぞ!」

 

アソーカがライトセーバーを構え敵の2人が一気に攻めかかろうとしている瞬間1人の男の声が聞こえた。

 

ボサボサの髪に少し荒れた肌。

 

この男もダークサイドのフォース使いであることがすぐに分かった。

 

フォースを伝って感じる雰囲気がそれを証明している。

 

「さっさと退却だ!レジスタンス共がどういう訳かここを嗅ぎ分けやがった!」

 

セドリスは上空に控えている彼らのジストン級スター・デストロイヤーを見ながらそう吐き捨てた。

 

彼の言う通り既に上空では戦闘が始まっていた。

 

 

 

 

 

 

『ソードリーダーより全機に通達する、間も無くトンネルを抜ける。Sフォイルを戦闘ポジションに展開し武装のセーフティロックを解除せよ。ジャンプアウトと同時に敵を叩く』

 

「ソード2了解」

 

ヴィレジコフ上級中尉はAウィングの安全装置を解除し操縦桿を握り締めた。

 

もう間も無くで戦場に着く、敵は我々の仲間を大勢消し飛ばした新型のスター・デストロイヤーだ。

 

あのスーパーレーザーに対する恐怖がヴィレジコフ上級中尉の中にも芽生えている。

 

当然だ、あのスーパーレーザーは我々レジスタンス軍の艦隊をたった一撃で殲滅した恐るべき相手なのだ。

 

自分もいつやられるか分からない。

 

だが与えられた任務をこなさなければ、仲間の仇を取らねば。

 

『間も無くジャンプアウトするぞ!』

 

眩い光の中から飛び出しソード中隊のスターファイター12機が一斉にジストン級に向けて戦闘行動を開始した。

 

ブリッジでは警報が鳴り響き艦長の周りに部下の士官達が集まっている。

 

「艦長!レジスタンス軍のスターファイター隊です!」

 

「何故ここに直接来た……こちらもスターファイター隊を出して応戦しろ、対空戦闘用意!」

 

「艦長、別方面からもレジスタンス軍のスターファイター隊が!」

 

「なんだと…!?」

 

ディカー基地から送り込まれたソード中隊らとはまた別のスターファイター隊がソード中隊とは反対の方面から出撃した。

 

Sフォイルを開いた状態で最大速度でジストン級に向かっていた。

 

部隊長達はコムリンクを使って各機に指示を出していた。

 

「全中隊、爆撃隊形を護衛し魚雷を撃ち込んでやれ」

 

『了解アンティリーズ大佐!』

 

今回の作戦に投入されたのはヤヴィン戦線のスターファイター隊4個中隊、そしてディカーのスターファイター隊3個中隊だ。

 

ヤヴィンからはファントム中隊、ローグ中隊、レッド中隊、スカイ中隊が送り込まれそれぞれ選りすぐりのエースパイロットが参戦した。

 

アンティリーズ大佐、ソークー中佐、そしてラクティス。

 

Yウィング、Bウィングが編隊を組みそれをAウィングとXウィングが護衛している。

 

『アンティリーズ大佐、敵機はこちらで引き受ける』

 

コーラン少佐の機体から通信が入り彼らが出現した場所に目を向けると早速戦闘が始まっていた。

 

シスTIEファイターとレジスタンス軍のスターファイターがドッグファイトを行っている。

 

当然その中にはヴィレジコフ上級中尉のAウィングもいた。

 

敵機を発見し飛び交うレーザー弾を躱しながら狙いを定める。

 

「堕ちろ!」

 

正確な狙いでたった2発のレーザー弾で敵機を撃破しヴィレジコフ上級中尉はペダルを踏み込んで最大加速で離脱した。

 

高速で移動し敵機を素早く撃破してその場を離脱する、正にAウィングの理想的な戦い方だ。

 

この機体はTIEインターセプターよりも速く何者だろうと追いつく事は出来ない。

 

だからホズニアン・プライムでも助かった。

 

ヴィレジコフ上級中尉の僚機も共同してシスTIEファイターを撃墜しAウィングに続いた。

 

ヴィレジコフ上級中尉も狙われている友軍機を救出したり編隊が崩れた敵機を狙って数を減らしていった。

 

ソード中隊との戦闘によりシスTIEファイター部隊は殆どが抑えられた。

 

その間にヤヴィンのスターファイター隊が爆撃を開始した。

 

ジストン級の対空砲網を抜けてYウィングやBウィングがプロトン魚雷やイオン魚雷を発射した。

 

更に幾つかのBウィングはかつてプロトタイプに搭載されていた合成ビームレーザーを至近距離まで使って発射した。

 

長く強力なビームレーザーが偏向シールドを打ち破り切り裂くように船体にダメージを与える。

 

『爆撃成功!一旦離脱する!』

 

爆撃部隊は一斉にジストン級の船体を離れ散開した。

 

何人かのパイロットはコックピットからジストン級の様子を見下ろした。

 

「ダメージは効いている!だが…」

 

『ああ…!全然足りない!船体のほんの一部が傷ついただけだ』

 

確かにジストン級にダメージは与えた、だがあまりにも船体が巨大でこの程度のダメージでは被害を受けていないのとほぼ同じだ。

 

逆に今の爆撃でレジスタンス軍は少なくとも2機のスターファイターを失った。

 

「全隊、再編成して再び攻撃開始だ。今度は攻撃箇所を絞って一点集中でやる。ヘルトルはブリッジを、パイアーは船体下部のスーパーレーザーを狙え。護衛は私とソークーとラクティスに任せろ」

 

『了解ファントムリーダー!!』

 

散開したスターファイター達は再び結集し爆撃準備を開始した。

 

シス・エターナル軍は当然ただやられているわけではない。

 

ラクティスの部下のスカイ9から通信が届いた。

 

『ストライン中佐!スター・デストロイヤーのハンガーベイから新手が接近中!数は一個飛行群程度はあると見られます!』

 

「了解したスカイ9、お前は下がって護衛に戻れ。スカイ中隊、それと手の空いた者は私に続け。新手をこちらで食い止める」

 

『スカイ8了解』

 

『スカイ11了解、合流します中佐』

 

ラクティスの側に何機ものXウィングやBウィングが集まり戦場に向かった。

 

スターファイター同士の撃ち合いがあちこちに広がり爆発の光が徐々に増え始めた。

 

それは惑星の中から見ていても分かるほどだ。

 

「急げ!“()()”だけでも確保して帰還するぞ!」

 

セドリスは自らのライトセーバーを起動しアソーカに斬り掛かった。

 

ライトセーバーの斬撃は最も簡単に防がれ2人は鍔迫り合いの状態となった。

 

だがその状態も長くは続かず加勢したIG-99Eによって両者は引き離されアソーカは再び2対1の戦いを強いられた。

 

その間にテドリンは戦いを2人に任せて元来た場所に戻った。

 

本当はテドリンも抑えておきたかったのだが今は無理そうだ。

 

セドリスは攻撃を強めアソーカに吐き捨てた。

 

「このジェダイもどきめ!貴様はここで死ぬ!」

 

「あなたのようなゴロツキに負けるつもりは毛頭ないわ!」

 

アソーカはライトセーバーを大きく振りセドリスとIG-99Eを遠ざけた。

 

ライトセーバーを地面に突き刺し集中力を高めフォースの力で近くの岩をセドリスとIG-99Eにぶつけようとした。

 

IG-99Eは先にスライディングして岩石の落下を回避し無防備のアソーカを倒そうとパルス・レーザーを放った。

 

セドリスはライトセーバーで岩の一部分を斬り崩しそのままライトセーバーの斬撃でアソーカを始末しようとした。

 

当然アソーカもこのようなことは予期していた。

 

突き刺したライトセーバーを手に取りパルスレーザーを弾き返しながらIG-99Eとセドリスの斬撃を受け止めた。

 

セドリスは力を更に込め無理やり押し出そうとするがその隙を突かれてアソーカに膝蹴りを喰らい背中を肘で強打された。

 

一方IG-99Eはライトセーバーを自身の装甲で受け止めパルスレーザーとブラスター弾を放ちながら全身のあちこちの隠し武器などを使って格闘戦を繰り広げた。

 

もしかすると最初から人を殺す為にありとあらゆるものを積み込まれたこの暗殺ドロイドの方が他の2人のダークサイドの使い手よりも戦闘だけでは強いかもしれない。

 

それでもアソーカを完全に葬り去ることは不可能だったが。

 

立ち直したセドリスが背後から斬りかかろうとしたが簡単に躱され再び距離を取られた。

 

「チッ!畜生ジェダイもどきめ!あの方に楯突く前時代の敗北者が!」

 

「皮肉しか言えなくなったと言うことはもう負けを認めている証拠?あなた達では私を倒すことは出来ないわ」

 

実際数々の尋問官と対峙しその尋問官の何人かを仕留めてきたアソーカをセドリスとIG-99Eが倒すのは無理だ。

 

だがその一言がセドリスの怒りを呼び起こした。

 

「斬り刻んでガンダークの餌にしてやる!!」

 

セドリスは怒りに任せてライトセーバーを振り回した。

 

それに続くようにIG-99Eもアソーカに斬り掛かった。

 

戦いはまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー チス・アセンダンシー亡命帝国領 アルバリオ宙域 マイギートー星系 惑星マイギートー 軍管区司令部-

プライド将軍がマイギートー軍管区の司令官に就任してからそこそこの月日が経った。

 

その間に銀河系ではシス・エターナル軍が撤退し第三帝国ではコルサントで総統暗殺未遂事件などが起こっていた。

 

当然マイギートーでもその報せは逐一報告されるしプライド将軍としても関心は高い。

 

それでも彼らが直接的にその出来事に何かしらの介入をすることはなかった。

 

亡命帝国、そしてチス・アセンダンシーには彼らとは別のやるべきことがある。

 

それは祖国第一銀河帝国を自らの手で再建することよりも重要な何よりも優先されるべきことだ。

 

この任務を怠るようなことがあれば祖国の再建どころか銀河自体が滅びかねない。

 

「今月に入って新規に編成された第432狙撃兵師団はこのままオード・ビニエールに駐留する予定です。また第464機械化狙撃兵団は惑星アリスに配備されました」

 

軍管区司令官の副官職に就任したヴァルージン大佐は報告書をプライド将軍の前で読み上げた。

 

彼はプライド将軍と同じくヴィルヘルムから直接指示を受けてマイギートー軍管区司令官の副官に任命された。

 

「アリスは有事の際、バスティオンやムウニリンストからの民間人を避難させる重要なハイパースペース・レーンの一つだ。無論逆も然り」

 

「と仰いますと…?」

 

「コア・ワールドから我々に対して何かが起こった時、マイギートーから向こうの民間人を避難させるのにアリスは役立つ」

 

プライド将軍は冷たくそう言い放った。

 

現在コア・ワールドに残存し彼らに何か大きなアプローチを行える政府は第三帝国以外に存在しない。

 

つまりプライド将軍は第三帝国がチス・アセンダンシーや亡命帝国に対して何らかの軍事的アプローチを取ってくる可能性を示したのだ。

 

「…しかし将軍、流石に第三帝国が今すぐに攻めてくるとは考えにくいですが」

 

ヴァルージン大佐は一般論的な考えを述べた。

 

第三帝国は今レジスタンス軍の掃討に力を入れておりチス・アセンダンシーや亡命帝国と戦う力はあまりないはずだ。

 

それに今第三帝国とかの国々が戦えば甚大な被害が出ることは分かり切っている。

 

ならば合理的に考えてそれを回避しようとするはずだ。

 

「モフフェルも同じ考えだったし私も今すぐにとは思っていない。だが、第三帝国は時々合理性のない行動を多々する。その合理性のない行動が我々に降りかからないとは言えないだろう?」

 

「それはそうですが…」

 

ヴァルージン大佐にも幾つか思い当たる点はあった。

 

「だがあくまで可能性の話だ。アリスはこのまま通常のドクトリン通りの行動が出来ればそれでいい。私の考えも杞憂に終わればいいのだがな」

 

プライド将軍は部下を宥める為に微笑んだ。

 

ヴァルージン大佐も「そうですねぇ…外縁からの侵略者と内縁部からの侵略者なんて両方一度に相手出来ませんからね」と冗談を溢した。

 

プライド将軍も苦笑を浮かべ再び報告書に目を通した。

 

「新たな師団の編成で我々もようやく目標の地上軍戦力4宙域総合500万名に到達しました。各アカデミーも順調に稼働しているようですし来年には追加でもう数百万人の増員が可能でしょう」

 

「それはいいな、ドロイドや技術面ではどうだ?」

 

「自動操縦能力の向上とブラスター・ライフルの射撃向上装置の開発が入ってきています。将軍が提示された方針のお陰ですよ」

 

プライド将軍は自身の軍管区で兵士の創意工夫を向上させる方針を採りその影響が様々なところで出ていた。

 

技術面もその影響の一つで多くの優秀な技術士官達が日夜既存の技術の発展や新技術の確立を目指していた。

 

テクノロジーだけが戦争に勝利する方法ではないがテクノロジーの進歩は時に勝利に大きく貢献することもある。

 

特にこれから彼らが戦うであろう者達相手では少しでも優れた技術が必要となっていた。

 

「まあ自動操縦能力は“()()()”が持ってきたものの改修だからな……それに本来の帝国軍であればそんなものに頼る必要なかったのだろうが」

 

「仕方ありませんよ、我々の総戦力なんて強大に見えてたかが知れてますし。本来の帝国軍の何十、何百分の1でしかありません」

 

ヴァルージン大佐の発言は決して単なる比喩表現ではなかった。

 

もはやこの銀河系にかつての帝国軍と同等の戦力を持つ軍隊は存在しない。

 

かの伝説の祖国の軍隊はもう失われてしまったのだ。

 

プライド将軍も自身の属してきた帝国軍が崩壊する姿を目の前で目にした1人だ。

 

そんなことを思い出しながら静かに語り出した。

 

「…思えばジャクーでの戦いから早4年、たった4年だが銀河は大きく変わった。無論我々も」

 

だが変わったからと言って嘆いてはいられない。

 

我々は我々の新たな国を守るのだ。

 

プライド将軍はマイギートーの冷たい大地を見つめながら再び自らの信念に誓った。

 

 

 

 

-コア・ワールド 第三帝国領 首都惑星コルサント アンダーワールド-

保安局主導によるアンダーワールドの掃討作戦は多くの人員と多くの時間を掛け殆どが成功し上階の封鎖も徐々に解除され始めた。

 

だがアンダーワールドにはまだ保安局の部隊が残っており立ち入り禁止の立て看板と封鎖部隊が置かれていた。

 

閉ざされた空間の中で保安局員達は作戦の“()()()()”をしていた。

 

もはや何かわからない焼け焦げ千切れ飛んだものを集め人々から隠すように布で覆った。

 

破壊された建物は解体しアンダーワールドはかつてのゴチャゴチャした雰囲気から変貌し更地と化していた。

 

無機質な煤汚れた地面が永遠と広がる無機質な空間が何千という階層に分かれている。

 

アンダーワールドの階層の一つでフリシュタイン上級大佐は何人かの部下に囲まれ報告を受けていた。

 

「回収作業と撤去作業は4割が終了、一部の階層は完了しましたが封鎖解除には最低でも後3週間は必要です」

 

「ハイドレーヒ大将はなんと?」

 

「長官方は作戦の成功に満足しておられます。作業は焦らず確実にやった方が良いかもしれません」

 

ハイドレーヒ大将との連絡将校を務めるマルテンコプフ上級大尉はそう答えた。

 

コルサントは大きい上にこの地下世界(Underworld)は広い。

 

完全に何もかもを消し去りさもそこには何もなかったかのように更地にするにはどれだけの人員がいても足りないだろう。

 

「死体と損傷の酷い建物のみ優先して回収しろ。残りはコルサントの建築総監殿に任せておけばなんとかなる」

 

「…ゲルマニア・コルサント構想ですか…どちらにせよ我々の人員だけでは無理でしょうしね」

 

代理総統がグランド・コンセプトを考案したゲルマニア・コルサント構想、そこにはアンダーワールドの改装も含まれていた。

 

その為に多くのアンダーワールドの人口をコルサント外に追放したりしたのだがいよいよその必要もなくなったのだ。

 

アンダーワールドはこれから第三帝国の手によって生まれ変わる。

 

旧共和国のような矛盾や闇を抱えることのないコルサントの美しい一部として。

 

今回の行動はその為に必要な作戦だった。

 

国家の最高指導者を暗殺しようとするテロ組織が住まう地下都市など存在していいはずがない。

 

国家を一度は敗北に導いた種族が住まう地下都市など存在していいはずがないのだ。

 

多くの保安局員達はそうやって自らの心に本当の狂人から与えられた正当性を植え付けていた。

 

「死体の回収だけなら日数的には半分以下で終わらせられるはずだ。なるべく上階から、早めに封鎖を解除していきたい」

 

現在でも一部のポータルは国内予備軍や国防軍や親衛隊と交代したFFISOの部隊が封鎖を続けている。

 

早めに解除しなければそろそろなんらかの支障が出始めるだろう。

 

国内予備軍やFFISOの部隊も封鎖の為に存在している訳ではない。

 

このまま封鎖が長引けば練度も徐々に低下し始めるだろう。

 

「他の現場の指揮官達にも伝えてくれ。死体の回収と損傷の激しい建物を優先的に撤去しろと、後は首都圏地区部門に任せる」

 

「了解!」

 

マルテンコプフ上級大尉は敬礼しその場を去っていった。

 

近くには搬送用のセンチネル級が着陸しかき集められた遺体が運ばれていった。

 

「撤去が済み次第この区画の兵員は全員TIEボーディング・クラフトかTIEシャトルかドロップシップに乗せろ。センチネル級や輸送船は撤去に使いたい」

 

「分かりました」

 

「我々は先に本部に戻る、用を済ませたらまた戻ってくるつもりだ」

 

フリシュタイン上級大佐は報告書を纏めたタブレットを部下に渡すとその場を後にした。

 

現場の部隊長や参謀達は「お気をつけて!」と上級大佐に敬礼を送った。

 

フリシュタイン上級大佐の前には黒い装甲が特徴的なゼータ級シャトルが停泊している。

 

シャトルのハッチが開き中にいた2人のトルーパーが敬礼した。

 

「親衛隊本部まで頼む、ハンガーベイは45番を」

 

「了解、直ちに」

 

ハッチが閉じゼータ級シャトルはリパルサーリフトの力で浮上しアンダーワールドの階層を離れた。

 

他のセンチネル級や貨物船と共にポータルを使い上階へと上がっていく。

 

その間にもフリシュタイン上級大佐は報告書に目を通していた。

 

「回収出来た死体は……まだまだ掛かりそうだな」

 

「それが各部隊の指揮官達によるとどうも想定したよりも遥かに数が少ないようでして。そもそも想定よりも攻撃時に存在していた対象が少なかったと」

 

隣に座るミシュトライン中尉は彼に付け加えた。

 

フリシュタイン上級大佐は眉を顰め尋ねた。

 

「それはどういうことだ?」

 

「ですから文字通り対象が少なかったのですよ。どうしてだかは分かりませんが」

 

フリシュタイン上級大佐は静かに報告を聞き頭の中で思考を巡らせた。

 

そもそもアンダーワールドの住民に対しては渡航禁止令を出していたはず。

 

管理もかなり厳しく行なっていた為アンダーワールド住民がコルサント外に出ることは不可能だったはずだ。

 

それなのに何故。

 

一つ可能性として挙げられるのはレジスタンス軍のスパイか何かが闘争を手引きしたか。

 

だがレジスタンス軍が数千人以上を一気に運ぶ事が出来る船が訪れた形跡はない。

 

だとすれば一体どこの組織がなんの目的で。

 

「…これは報告する必要があるな」

 

フリシュタイン上級大佐は静かにそう呟いた。

 

「それと上級大佐、コルサントにヴォーレンハイト少将がお越しです」

 

ミシュトライン中尉はフリシュタイン上級大佐にそう報告した。

 

上級大佐は顔を上げ微笑を浮かべた。

 

「…確か“()()”をしてきたのだったな。では明日会うとしよう」

 

ヴォーレンハイト少将はロイヤル・アカデミーの視察の前にもう一つ視察を行なってきた。

 

そのことの報告を是非とも聞きたい。

 

ゼータ級シャトルはアンダーワールドを抜け最上階の5127階層に辿り着いた。

 

ポータルからスカイレーンに乗り込み親衛隊本部に急いだ。

 

その黒い装甲と同じくらいの黒い事情を抱え込んで。

 

 

 

 

テドリンは走った。

 

いつの間にかレジスタンス軍がジェダイを連れて襲撃してきたのだ。

 

相手はあのアソーカ・タノ。

 

オーダー66、帝国のジェダイ狩りすらも逃れた数少ない生き残りでどう言う訳かマラコア以降も生きてレジスタンス軍に加わっていた。

 

奴は既にボーラ・ヴィオの占領で目撃されており明確な抹殺対象とされていた。

 

だが今はそれよりも別の重要な任務がある。

 

レジスタンス軍が襲撃し地上ではあのジェダイの生き残りが暴れている。

 

折角“()()”は確保したのにこれでは意味がない。

 

その為にもまずは“()()”を確保しエクセゴルまで連れて行かなければならない。

 

セドリスとIG-99Eは何とか離脱するだろう。

 

せめてジストン級にまで行けば後はどうとでもなる。

 

シス・エターナル軍最強のスター・デストロイヤーがたかがスターファイターにやられる訳がない。

 

あの地帯が最も安全な場所だ。

 

「急げ!離脱するぞ!」

 

周りのシス・トルーパーをかき集めテドリンはシャトルの下へ急いだ。

 

所詮は奴1人、こちらの任務は至極簡単なこと。

 

我々の任務の成功は確実だ。

 

だがここでテドリン達にとって予想外の出来事が発生した。

 

突然テドリンの目の前を走っていたシス・トルーパー数人が何もないのに反対側へ吹き飛ばされたのだ。

 

テドリンはしゃがみ自身のフォースを用いて対策を取った。

 

この攻撃は間違いなくフォースの攻撃だ。

 

まさかセドリスとIG-99Eが破れたのか。

 

「チッ!奴をこちらに近づけさせるな!!」

 

テドリンは周りのシス・トルーパーに命令して自身はそのまま再び走り始めた。

 

シス・トルーパー達は言われた通りブラスター・ライフルを発砲して攻撃を受けた側に弾丸を叩き込んだ。

 

だがそれは全て“2()()()”青白い光剣によって防がれた。

 

他のシス・トルーパーや吹き飛ばされたシス・トルーパー達も戻り戦闘に加わったが状況は変わらなかった。

 

撃たれた分だけブラスター弾は弾き返されシス・トルーパーが何人か撃たれた。

 

「チッ!ここで足止めを食う訳には!」

 

弾丸を弾き返しながら男は、カルはフォースで跳躍をつけ敵の注意が上を向いた隙に2人のシス・トルーパーを斬り倒した。

 

先に戦っていたアソーカから連絡を受け攫われた子を助けようと襲撃したのだ。

 

カルは流れるように残りのシス・トルーパーにも斬撃を加えていった。

 

ブラスター・ライフルを叩き切りライトセーバーの斬撃を直接本人に与え、近づいてくるシス・トルーパー達をフォースで吹き飛ばし近くに木々にぶつけた。

 

ブラスター弾を弾き返しながら1人のシス・トルーパーを踏み台にし背後のシス・トルーパー2人を一気に倒した。

 

踏み台にされたシス・トルーパーが振り返る瞬間にライトセーバーを振るいトルーパーの首を斬り落とした。

 

これで周りにいたシス・トルーパーは全て打ち倒した。

 

カルは休む暇もなく走りトルーパー達を仕切っていた男の下へ向かった。

 

「待て!」

 

森を抜け少し開けたところに出るとそこには何機かのシャトルと数十人のシス・トルーパーがいた。

 

先ほどのダークサイドの使い手はそのうちの1機のシャトルに乗り込もうとしていた。

 

まず逃走を防ぐ為にシャトルのエンジンをフォースで捻り潰し破壊した。

 

エンジンからは装甲がひしゃげ配線のショートで火花が出ている。

 

「もう追いつきやがった!やれ!」

 

テドリンは周りのシス・トルーパーに命じてカルを攻撃させた。

 

カルは再び2本のライトセーバーを用いてシス・トルーパー達の攻撃を防ぎつつ反撃に転じていた。

 

気がつけば既に半数のシス・トルーパーが打ち倒され残りのシス・トルーパーは全て近くのシャトルの装甲や木々に叩きつけられ戦闘不能に陥った。

 

もはや今戦えるのはテドリンのみだ。

 

「今すぐ攫った子を返せ」

 

カルはテドリンにライトセーバーの剣先を突きつけ最後通牒を送りつけた。

 

だがテドリンは余裕そうな表情を変えずに指を鳴らした。

 

するとシャトルから2体のダーク・トルーパーが姿を表した。

 

ダーク・トルーパーはカルを視認するなりブラスター・ライフルを向け発砲し始めた。

 

「そいつの相手をしていろ!」

 

テドリンはダーク・トルーパーにその場を任せシャトルの中へ入っていった。

 

ダーク・トルーパーは血も涙もない殺人マシンの特徴を活かしてひたすら対象の抹殺に己の全ての技量をぶつけた。

 

カルは放たれる雨のようなブラスター弾を弾きながら左右に動きつつダーク・トルーパーに近づいた。

 

ダーク・トルーパーは片腕でカルを殴りつけようとしたがその腕の伸ばした瞬間を狙ってカルはライトセーバーで腕を斬り落とした。

 

重厚なダーク・トルーパーの腕がオレンジ色の断面と共に地面に落ちる。

 

その隙にもう1本のライトセーバーで胴体に斬撃を3回叩き込み首を刎ねて完全に機能を奪った。

 

破壊されたダーク・トルーパーを前にもう1体のダーク・トルーパーはジェットパックを用いて浮上し上空からブラスター弾を叩き込もうとした。

 

だがダーク・トルーパーは弾丸を1発も放つ前に破壊され地面に墜落した。

 

何故ならカルがフォースを用いてダーク・トルーパーを握り潰したからだ。

 

装甲や内部の機器が軋み全身から火花を出して破壊された。

 

最終的にただの金属の塊となったダーク・トルーパーはそのまま放され地面に墜落し周囲には変をばら撒いた。

 

テドリンが慌てて気絶した“()()”を抱えてシャトルを出てきた時既に戦闘は終わっていた。

 

「自慢のトルーパーもこのザマだな」

 

「チッ!なら私が相手だ!」

 

テドリンはライトセーバーとブラスター・ピストルを取り出し武器を構えた。

 

カルも2本のライトセーバーを接続しダブル=ブレード・ライトセーバーの形状にした。

 

フォースの使い手と戦うにはかなり有効だ。

 

「この邪魔者どもが!!」

 

テドリンは先手必勝と言わんばかりにブラスター弾を放ちながら突進した。

 

カルはダブル=ブレードで弾丸を弾きテドリンよりも先に斬撃を叩き込んだ。

 

テドリンは寸前で防御し反撃しようとブラスター・ピストルを動かした。

 

だがそれよりも早くカルがライトセーバーを振るいダブル=ブレードの片方の光剣がテドリンの衣装を掠めた。

 

それからカルは上部のブレードを叩き込むように振りテドリンが防御すると今度は下部のブレードで斬撃を叩き込んだ。

 

辛うじてダブル=ブレードの攻撃をなんとか防いだが圧倒的に押されていることはテドリンも理解していた。

 

勢いを殺さずカルは攻撃を強め何度もダブル=ブレード・ライトセーバーでテドリンを圧倒した。

 

少し距離が空いた瞬間カルは自身に回転を掛け回転斬りの斬撃をテドリンに与えた。

 

テドリンはなんとか防御出来たが完全に体勢が崩れこけてしまった。

 

その隙を逃さずカルは集中力を高め全身全霊の力でテドリンをシャトルの外壁に叩きつけた。

 

防御が間に合わなかったテドリンはフォースの攻撃をモロに喰らい何も出来ずにシャトルの外壁に衝突した。

 

「ガッ!!」

 

シャトルの装甲が少しへこみテドリンは衝撃で気を失った。

 

これでカルと連れ去られた子に対する驚異はなくなったはずだ。

 

カルは急いでシャトルの下へ向かい連れ去られた子に近づいた。

 

気を失っているが生きている。

 

「BD-1、スターファイターを頼む。アソーカにも伝えてくれ、彼は救出出来た」

 

コムリンクを切るとカルは男を抱き上げその場を離れた。

 

シス・エターナル軍の目標が彼の誘拐であるようにアソーカやカル達の目標も彼をダークサイドの手から守ることだった。

 

このまま彼を安全な場所まで運びダークサイドの魔の手から彼らを隠すことが出来れば任務は達成される。

 

しかしこの時カルは気づいていなかった。

 

カルと“忌子”を狙うもう1人の存在がいることを。

 

シディアスが差し向けたダークサイドの使い手は“2()()()()()()()()()()()”。

 

 

 

 

 

-レジスタンス最高司令部 イリーニウム星系 惑星ディカー-

ディカーに突如ハイパースペースから何十隻もの軍艦が出現した。

 

どれも新共和国軍がかつて使っていたもので識別コードは殆どが元バルモーラ駐留軍のものだった。

 

最初は緊迫した雰囲気が漂い疑いの目が向けられたがジャンプから3時間も経てばすっかり身の潔白は証明された。

 

そして今ではディカー基地内に降ろされた新型の地上兵器に注目が集まっていた。

 

アーヴァラ7のラボで開発されたX-0Pヴァイパーがディカー基地の格納庫に運搬され整備士や技術者達に囲まれている。

 

その間に部隊の指揮官であるライトン将軍はディゴール大臣と面会していた。

 

「元バルモーラ駐留軍司令官、レディット・ライトン将軍だ。我々もレジスタンス軍に合流したい」

 

ライトン将軍と彼の部下達は全員ディカー基地の面々に敬礼した。

 

ディゴール大臣もヴィアタッグ将軍もライトン将軍のことは何度か目にしたことがあった。

 

元カリダ惑星防衛軍で帝国時代になると帝国軍に馴染めず少佐で除隊。

 

それからどういう伝を辿ってきたのかは知らないが反乱同盟軍に加わり貴重な地上部隊の指揮官として同盟軍を支えていた。

 

新共和国が誕生しある程度安定する頃には彼は既に将軍になっておりバルモーラ駐留軍の司令官を任されていた。

 

それからバルモーラは第三帝国に加わりバルモーラ駐留軍はそのまま全員捕えられたと思っていたのだが今消えたはずの駐留軍と司令官が大臣達の目の前にいる。

 

多少の驚きはあるがまずは色々と話を聞く必要がある。

 

「シャール・ディゴールレジスタンス政府国防大臣だ。こちらはディカー基地司令官のデュロン・ヴィアタッグ将軍」

 

2人はライトン将軍達に敬礼を送った。

 

将軍は2人に「お会い出来て良かった」と返答した。

 

「私はタイ=リン・ガー元新共和国元老院議員、現在はレジスタンス政府副議長を務めている。本来なら議長たるレイア・オーガナ殿に会って欲しいのだが今は不在だ」

 

「オーガナ姫が議長ですか、となるとやはりモスマ前進共和国議長は…」

 

ライトン将軍は目線を落とし少し震えた声で尋ねた。

 

ディゴール大臣も重苦しい声で反乱同盟、新共和国を作りし聖母の生死を伝えた。

 

「モスマ前議長は侵攻時、シャンドリラで亡くなられた。帝国軍には捕えられまいと敵兵を巻き込んで自爆されたらしい。見事な最期だ」

 

「……そうですか、我々はずっとアーヴァラ7に篭りっぱなしだったもので、レジスタンスの事もついこないだ知ったばかりで」

 

ディゴール大臣はこの瞬間少しばかりライトン将軍から嘘臭さを感じた。

 

そこに明確な根拠はなかったがどうも今の一瞬は嘘臭かった。

 

「何故君たちはアーヴァラ7へ?あそこは良くも悪くも戦略的な価値はないと思うのだが」

 

ガー副議長はライトン将軍に尋ねた。

 

第三帝国だって態々アーヴァラ7に部隊を派遣した理由はそこに新共和国軍の残党がいたからだ。

 

本来であればあんな場所に部隊を展開する必要はない。

 

「だからこそです、我々が撤退中に手に入れた設計図を現実のものとするには価値のない場所に拠点を置く必要があった。帝国の強大な地上軍と対抗する為には我々が開発したあれが必要です」

 

ライトン将軍は断固とした表情でガー副議長の疑問に答え彼らが持ってきたものの必要性を説いた。

 

当然ディゴール大臣もヴィアタッグ将軍もそれが何か分かっている。

 

「開発コードX-0P、ヴァイパーか。あれが我々レジスタンス地上軍の主力兵器になると?」

 

「まだプロトタイプですが十分に活躍出来ます。現にアーヴァラ7の撤退戦では我々の撤退の時間を稼いでくれた」

 

まだAT-MTやAT-ATマークⅢ、マークⅣには敵わないが十分な打撃は与えられた。

 

ヴァイパーが完成し正式採用機としてレジスタンス地上軍の主力兵器となれば帝国地上軍のウォーカーにも対抗出来るだろう。

 

いやむしろ圧倒することだって出来るかもしれない。

 

それだけの可能性をあのヴァイパーは秘めているのだ。

 

「元はバルモーラの開発記録に存在していましたがそれを我々が撤退戦時に強奪しました」

 

「なるほど、それでアーヴァラ7でこそこそと開発を続けていた訳か」

 

「あの当時はまだ残存する新共和国軍はどこも分断されていましたので、ヴァイパーが完成するまでは我々は姿を隠しておこうと考えたのです」

 

あの2人が新共和国軍を繋ぎ合わせイセノでレジスタンスの宣言をするまでは新共和国残党軍はバラバラの烏合の衆だった。

 

実際ラクサスに逃げた残党軍のようにかなり無茶をやる残党軍も存在していた。

 

ライトン将軍達が身を隠そうとするのは当然だろう。

 

「しかし秘密にされていたアーヴァラ7の秘密基地は突如バレて襲撃を受けた」

 

「ええ…正直今も不安な所です。しかも恐らく敵の指揮官の中には間違いなくホスのマクシミリアン・ヴィアーズ将軍がいた」

 

ディゴール大臣もヴィアタッグ将軍もなんならガー副議長ですらその名前を知っていた。

 

マクシミリアン・ヴィアーズ、帝国地上軍の上級将校で今では“()()()()()”という扱いだ。

 

ホスの戦いで英雄になった当時はまだ一介の将軍であったが今では大将軍、カイティス、ローリング、ブラシンと並ぶ帝国地上軍の超上級将校である。

 

「あの戦術…我々の防衛線は最も簡単にアサルト・ウォーカーの大群によって打ち破られた。帝国は弱体化したとはいえまだ我々では勝てない」

 

ライトン将軍はアーヴァラ7での出来事を噛み締めるように呟いた。

 

レジスタンス結成以前から新共和国軍や反乱同盟軍は帝国地上軍に対して劣勢に立つことが多かった。

 

AT-ATや俊敏で容赦のないAT-STと戦うにはまだ力不足過ぎたのだ。

 

あの巨人達を相手に数多くの兵士達が犠牲となった。

 

「それは我々も感じている、レジスタンス軍は惑星内じゃ苦戦続きだ。無論ただやられている訳にはいかん、君達が命を賭して持ち帰ってくれた艦隊と地上戦力、そしてあの新型兵器は有効に活用させてもらう。ライトン将軍、ようこそレジスタンスへ」

 

そう言ってディゴール大臣はライトン将軍に手を差し伸べた。

 

ディゴール大臣からの歓迎の印だ。

 

ライトン将軍は微笑を浮かべ彼の手を力強く握り返した。

 

「受け入れに感謝する、大臣」

 

「艦隊は第4プラットフォームに駐留させろ。地上部隊は全員下ろして新設された兵舎で休ませてくれ、きっと疲れているだろう。もちろん将軍や君たちも」

 

ディゴール大臣はアイサインで部下に確認を取りライトン将軍達に頷いた。

 

ライトン将軍は「何から何まで感謝する」と呟き司令室を後にした。

 

将軍達の退出を見送るとディゴール大臣は呼び寄せていたレジスタンス情報部のプローウル少佐とパロダイ主任に尋ねた。

 

「バルモーラの総督は確かベルテイン総督が今も務めていたな?」

 

「はい第三帝国への忠誠を示したので総督であることを許可されました。現地には帝国軍部隊も駐留していますが独自の惑星防衛軍もまだ存在しています」

 

「我が情報部も数名がバルモーラに潜入しています。何せバルモーラは依然として軍需産業の一大生産地ですので」

 

この戦争が起こるまではバルモーラは中立惑星として新共和国軍にも軍需製品を送っていた。

 

「バルモーラの惑星防衛軍で新共和国崩壊から今日に至るまで、何か変わったことはないか?例えば部隊が突如喪失したとか」

 

ディゴール大臣はかなり奇妙なことを聞いていると内心で思っていた。

 

しかし優秀な2人の情報将校はすぐに答えた。

 

「確かラクサス侵攻の前にバルモーラでは惑星防衛軍の一部隊が反乱を行ったという通信を傍受した記憶があります。我々が介入する間も無く鎮圧されましたが」

 

「バルモーラ惑星防衛軍は数ヶ月に一度、遠征部隊を各国に送っているそうです。その内の一部隊が行方不明という事件も聞いたことがあります」

 

「……そうか、分かった。引き続きバルモーラの諜報は現状を維持しろ、後は私がなんとかする。それよりも諜報を強めなければいけないのは依然として第三帝国…」

 

大臣の一言と共にホロテーブルに第三帝国の支配領域の星図が映し出された。

 

シス・エターナル軍の退却により一時混乱するかと思われていた占領地域の維持は思いの外目立った出来事もなく進んでいた。

 

だが第三帝国の不穏な出来事は占領地の外域よりも内側のコア・ワールド内で多発していた。

 

代理総統暗殺未遂事件に続く新たな不穏な動き。

 

「コルサントで突如敷かれたポータルの封鎖に保安局の実働部隊がアンダーワールド内で何かしらの特殊作戦をしていたというスパイからの情報。どうにも気がかりだ」

 

「名目上は暗殺犯の掃討なのでしょうが……どうもそれだけとは」

 

第三帝国は既に数多くの残虐な犯罪行為を行なってきた。

 

それはジェルマンとジョーレンが持ってきた情報でも証明されている。

 

「それにシス・エターナル、撤退したとはいえいつ戻ってくるかは分からん……やはり“我々から打って出るしかないのか”」

 

ディゴール大臣が目線を落とした先にはある極秘の作戦が記されていた。

 

その名も“()()()()()()()()”。

 

レジスタンスの反撃の時が刻々と近づいている。

 

 

 

 

 

「クソッ!このデカブツ!一体何発の魚雷をぶち込んでやれば堕ちるんだ!!」

 

あるBウィング乗りのパイロットは湧き出る苛立ちを言葉にして眼前のバトルクルーザー級のスター・デストロイヤーに吐き捨てた。

 

既に何十回も反復して集中爆撃を行なっているのにも関わらずこのスター・デストロイヤーはビクともしない。

 

『せめてブリッジのシールド発生装置だけでも破壊しろ!そうすれば少しは攻撃が通りやすくなる!』

 

「了解!」

 

2機のBウィングが対空砲のレーザー弾や敵機の迎撃を掻い潜りつつブリッジに接近した。

 

2人は数々の戦いを生き延びた歴戦のBウィング乗りだ。

 

そう簡単にこの貴重な爆撃機を失うようなヘマはしない。

 

周りのAウィングやXウィングに守られBウィングの脅威は次々と駆逐されていった。

 

中でもBウィングの前方から迫る3機のシスTIEファイターを一気に殲滅したAウィングがいた。

 

ヴィレジコフ上級中尉の機体だ。

 

『ソード2援護に入る』

 

「助かった…!間も無く爆撃を開始する。コンポジット・ビーム・レーザーの準備を」

 

『了解、照準を合わせる!』

 

Bウィングはそれぞれ対空攻撃を回避しながら合成ビーム・レーザーの準備を行った。

 

照準を合わせ安全装置を解除し引き金に指を掛ける。

 

「左舷のシールド発生装置に攻撃を集中する。先にプロトン魚雷を撃ち込んでそこにレーザーを叩き込むぞ」

 

『了解!』

 

別の引き金を引きBウィング2機からそれぞれ1発ずつプロトン魚雷が偏向シールド発生装置に向けて放たれた。

 

赤ピンクの球体はシールド発生装置に着弾すると同時に周囲の偏向シールドを掻き消した。

 

今がチャンスだ。

 

「コンポジット・ビーム・レーザー発射!」

 

機体の4方向から放たれたレーザーがある一箇所で凝縮して1本の強力なビーム・レーザーとなって放たれた。

 

2本の合成ビーム・レーザーは偏向シールド発生装置に直撃しそのまま装置を焼き切った。

 

耐久地に限界が来た偏向シールド発生装置は爆散し周囲に破片をばら撒いた。

 

偏向シールド発生装置が破壊されジストン級全体を覆っていた偏向シールドが徐々に弱体化し消え始めた。

 

各スターファイターのセンサーでも感知出来るほどだ。

 

『偏向シールド発生装置を1基破壊完了!』

 

パイロットはコムリンクを繋いで全機に報告した。

 

この報告がレジスタンス軍の集中攻撃の合図となった。

 

「了解、全機船体下部の偏向シールド発生装置に集中攻撃!我々の仲間を大量に葬った大砲を破壊してやれ!」

 

ウェッジのXウィングを先頭に何十機ものスターファイターが続いた。

 

あのスーパーレーザーからはかなりのエネルギーが発射される。

 

であればそのスーパーレーザーのエネルギー源はどこにあるのか。

 

技術者や参謀達の見立てによれば船体下部に直接繋がっている反応炉の可能性が最も高い。

 

ならばその反応炉とスーパーレーザー砲塔を攻撃すれば逆に敵艦に大ダメージを与えられるのではないか。

 

このピンポイント攻撃に最も適応出来て最も有効な攻撃を打ち出せるのはスターファイター隊しか存在しない。

 

数千メートルもの主力艦をたった一撃で殲滅出来る悪魔のスター・デストロイヤーを数十メートルしかないスターファイターが撃破する。

 

多少なりとも戦場の高揚がパイロット達を包んだ。

 

当然シス・エターナル軍も黙ってやられる訳にはいかない。

 

迎撃の為に再び何十機ものシスTIEファイター部隊を送り込んできた。

 

黄緑色のレーザー砲が反応の遅れたレジスタンス軍のスターファイターを何機か撃墜した。

 

「全機応戦しろ、そして可能な限り反応炉とスーパーレーザー砲塔に攻撃を叩き込め!」

 

ラクティスはタラソフ大尉やソークー中佐と共に先行し迫り来る敵機の編隊を切り崩した。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

『了解!』

 

それにヴィレジコフ上級中尉の編隊も続きスーパーレーザー砲塔の周りで再び激しいドックファイトが始まった。

 

レーザー弾や震盪ミサイル、プロトン魚雷やイオン魚雷が放たれ乱戦状況を生み出していた。

 

当然ジストン級にとってこの状況は好ましいとは言えない。

 

ブリッジでは艦長や幕僚達が苛立ちを浮かべていた。

 

「アキシャル砲の周辺ではスターファイター戦が始まっており非常に危険な状態です」

 

「なんとか押し返させろ、全速力で現領域から移動しなんとか振り切れ。ジャマーの出力を強化し敵の爆撃を妨害しろ」

 

「了解!」

 

「地上の回収部隊はどうなっている、セドリス殿やテドリン殿はどうした」

 

艦長は部下に地上に送り込んだ部隊のことを尋ねたが部下からは「分かりません」としか返ってこなかった。

 

地上からはなんの報告もない為現状ジストン級のブリッジの中だけでは判断しようがない。

 

「一体何をしているのだ、彼らが戻らなければ我々も撤退出来ないぞ」

 

やられた訳ではないと思うがそれでもなんの連絡や報告ないことに艦長は焦りを感じていた。

 

そんな状況の中、ジストン級の船体下部では依然として戦闘が続いていた。

 

スターファイター同士が撃ち合い生き残った出力半分の偏向シールドがジストン級への直接的な被弾を防いでいた。

 

ある2機のYウィングが対空砲やシスTIEファイターの猛攻を掻い潜って反応炉への攻撃を行った。

 

「喰らえ!」

 

何発かのプロトン魚雷と震盪ミサイルが放たれ反応炉とスーパーレーザー砲塔を狙った。

 

だが周囲に展開されたジストン級のジャマーの影響で照準が狂いプロトン魚雷や震盪ミサイルが全弾あらぬ方向へ飛んでいってしまった。

 

他のXウィングやAウィングが放った攻撃も同様だ。

 

『ジャミングで自動追尾が出来ない!』

 

あるパイロットが苛立ちを込めてそう吐き捨てながら報告した。

 

「直接照準に切り替えろ、ギリギリまで接近して魚雷をぶち当てる。ソークー、ラクティスついて来てくれ」

 

『了解!』

 

『了解!タラソフ援護を頼む!』

 

護衛をタラソフ大尉らに任せ3機のXウィングがスーパーレーザー砲塔に直接攻撃を開始した。

 

近づいてくるシスTIEファイターを3機がそれぞれ仕留めていく。

 

ウェッジは敵機のレーザー弾を機体を回転させながら回避しその勢いのまままた別のシスTIEファイターを撃墜した。

 

ソークー中佐は周囲のターボレーザー砲を破壊して周り安全を確保しようとした。

 

ラクティスは背後から援護し敵機を潰して回った。

 

「よしこのまま行くぞ、システムを自動追尾からダイレクトに切り替えろ。全弾を反応炉とスーパーレーザー砲塔の合間に叩き込む」

 

『了解…!シビアな戦いになりそうですね…!』

 

「ヤヴィンで成功させた奴はもっとシビアだったんだ、これくらいなんてことはないはずだ!」

 

3機のXウィングが見事な機動力で敵の防御網を突破し遂に反応炉の近くまで接近した。

 

ここまで来ればもうシスTIEファイターも対空砲塔も誤射を恐れて攻撃出来ない。

 

まず最初にソークー中佐のXウィングから2発のプロトン魚雷が発射され砲塔周囲の偏向シールドを打ち破り船体に直撃した。

 

デュラスチールの装甲が最も簡単に打ち破られ僅かだが砲塔と反応炉にダメージを与えた。

 

『ウェッジ、ラクティス、被弾はさせたが装甲の一部を引き剥がしただけだ』

 

『ではこちらで更にダメージを広げます、大佐はトドメを』

 

次にラクティスのXウィングからプロトン魚雷が放たれた。

 

ソークー中佐と寸前も違わず同じ箇所に直撃させ更にデュラスチールの装甲を破りダメージを与えた。

 

反応炉と砲塔側から何回も小爆発が発生しており非常に危険な状態だ。

 

「よしよくやった、あとは任せろ」

 

スコープを覗きながらウェッジは狙いを定めた。

 

ジストン級の破損箇所はヤヴィンで戦った第一デス・スターの排熱孔よりは大きい。

 

だが目標に対してこちらは自動追尾システムを使わず直接真っ直ぐ当てるしかない。

 

ヤヴィンの時もウェッジは被弾が原因で辛うじて生き残れた。

 

一緒にいたビッグスはやられてしまったが。

 

ルークに出来た事が自分にも出来るだろうか。

 

ウェッジは一瞬だけ小さな不安に駆られた。

 

ウェッジはかれこれ11年以上パイロットとして戦い続け数々の激戦を生き延びてきた。

 

そんな歴戦のエースパイロットでも不安になる時だってある。

 

そんな中ウェッジはルークから言われたある言葉を思い出した。

 

フォースを信じて”。

 

その一言がウェッジの信仰心に火をつけたかどうかはともかく戦友の言葉はウェッジにやる気と加護を与えた。

 

ウェッジは自らのXウィングを限界まで接近させジストン級と衝突ギリギリのところまで近づきプロトン魚雷を破損箇所に叩き込んだ。

 

2発のプロトン魚雷は反応炉と砲塔の連結部を完全に破壊し双方に深刻なダメージを与えた。

 

直後発生した爆発がウェッジのXウィングの前に現れたが彼は恐れず爆発の炎の中を突破して離脱した。

 

「全機一応距離を取れ、どのくらいの被害が出るか分からん」

 

ウェッジの判断でレジスタンス軍機は可能な限りジストン級から距離を取った。

 

その間に反応炉とスーパーレーザー砲塔には爆発が広がり徐々に崩壊し始めていた。

 

ブリッジでも当然その様子は報告されていた。

 

「連結部が大破!反応炉とアキシャル砲双方にダメージがありこのままでは誘爆して本艦は大破します!」

 

「チッ!」

 

アキシャル・スーパーレーザー砲はこの超大火力のスーパーレーザーを発射する為に砲塔とソーラー・イオン化反応炉が直接連結していた。

 

その為どちらかに重大な損傷が与えられれば対策を打たない限り誘爆してジストン級自体が危険な状況になる可能性があった。

 

勿論通常ではアークワイテンズ級やヴィクトリー級といった護衛艦が付き、シスTIEファイター部隊が周囲を警戒し遠距離からアキシャル・スーパーレーザー砲を発射すればいいのでこのような危険な状況になる可能性は極めて低かった。

 

しかし今回は特殊な任務であった為護衛艦をつけず、しかも相手があのレジスタンス軍最強のパイロット達だったのが問題であった。

 

また“証拠隠滅”の為にスーパーレーザー発射の準備をしていた為それが問題であったかもしれない。

 

艦長達は対策に迫られていた。

 

「反応炉の全隔壁を封鎖しダメージコントロール!反応炉の出力を抑えろ!艦とアキシャル砲との連結も完全に解除するんだ!」

 

「しかし艦長このままでは連結を失ったアキシャル砲が崩壊し大破する可能性が!」

 

「やむを得ん!本艦全体を守る為だ!急げ!」

 

艦長の決断によりジストン級では破損部分周辺の隔壁が作動しこれ以上の被害を抑える為に反応炉の出力も抑えられた。

 

そして何よりもジストン級最大の特徴であるアキシャル・スーパーレーザー砲塔が連結を解除されそのまま大破し破壊された。

 

このまま連結させていればジストン級全体に被害が及ぶとはいえジストン級はこれで自らが持つ最大の兵器を失うこととなった。

 

それでもジストン級はアキシャル砲塔の爆発により損傷を免れなかったが。

 

「ちくしょう!接続を解除しやがった!」

 

敵機を撃墜しながらヴィレジコフ上級中尉はそう吐き捨てた。

 

『いや、偏向シールドが更に薄くなった。出力が落ちている』

 

コーラン少佐はセンサーを見ながらヴィレジコフ上級中尉を宥めた。

 

『全機、もう一度反応炉に集中攻撃だ。次であの艦は墜ちる、最後の一踏ん張りだ』

 

再びウェッジを先頭にレジスタンス軍のスターファイター達は攻撃を開始した。

 

これが反撃の狼煙だと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

アキシャル・スーパーレーザーが軌道上で爆散する中、カルは攫われた青年を抱えて走った。

 

あともう少しでBD-1が機体を持ってきてくれる。

 

この子を安全なところまで運べればそれで良し、ひとまずシスの手から遠ざける必要があった。

 

カルはこの青年の出自を知っている。

 

この青年がどうやって生まれたのか、誰の遺伝子を持っているのか、どうしてシス・エターナルが付け狙っているのか。

 

正直この青年の親にあたる人物のことを考えると胸が締め付けられる思いになる。

 

この少年の親にあたる人物のせいで大勢の仲間が殺された。

 

カルのマスターであるジャロ・タパルもだ。

 

それだけではない、あの時ついさっきまで笑い合っていた戦友達が自分達に突然牙を向けてきた。

 

彼らとの友情も引き剥がされてしまった。

 

それでもこの青年は全く関係がない。

 

親は親、子は子だ。

 

この青年はまだ何もしていない、きっとまともに生きることすら忌むことだとされたはずだ。

 

せめてこの青年だけは何の呪縛もなく己の生を全うしてほしいとカルは願った。

 

だが運命はそう簡単に彼の願いを叶えさせてはくれなかった。

 

青年は目が覚めた。

 

あの暗殺ドロイドに襲われずっと気を失っていた。

 

「…………ここは……」

 

「ッ!大丈夫だ!俺は敵じゃない!君を救いにきたんだっ!」

 

「…なんで……」

 

「ある人物に頼まれた、安心してくれ。俺たちには仲間がついている」

 

カルは優しく青年を宥めた。

 

青年はカルが敵ではないことも嘘をついていないことも何となく雰囲気で察した。

 

「無理はするな、俺が運んでいく。君は身体を休めておけ」

 

「……っ彼女は!?彼女はどこに!?」

 

「落ち着いて、君と一緒にいた女の子はもう俺の仲間が助けている。だからきっと大丈夫だ」

 

青年はその一瞬だけ混乱し大声を上げたがその一言で再び落ち着きを取り戻した。

 

だが青年の声を聞き逃さない人物が別にいた。

 

その男は2人に狙いを定め自らの武器をありったけの力を込めて投げ飛ばした。

 

男が持つパイク状の武器はクルクルと回転しすごい速さで2人に迫った。

 

寸前で危機を察知したカルは自らのライトセーバーを起動しその武器を弾き返した。

 

だがパイクはそのまま何かに引き寄せられるように男の下へと戻り、男はその武器を持ってカルに突進した。

 

「クッ!」

 

男はパイクから赤い光剣を起動し大きく振るった。

 

ライトセーバー・パイク、もしかするとこの人物は相当の手練れかもしれない。

 

「君は隠れているんだ!」

 

カルは青年を守る為に危険を承知で自ら打って出た。

 

こちらもダブル=ブレード・ライトセーバー、相手のライトセーバー・パイクに負けてはいない。

 

すると相手もパイクの下の柄の部分にもう一つの刃がついておりカルの攻撃を防いだ。

 

男はすぐにライトセーバーの剣先をカルに叩き込んだがすぐ防がれた。

 

2本のライトセーバーがぶつかり合い周囲が少しだけ明るくなる。

 

カルはその明るさで敵の姿を見た。

 

敵は皇帝のロイヤル・ガードそっくりの装備を身につけていた。

 

だがロイヤル・ガードと違うのは全身が赤くなく、むしろ真っ黒だということだ。

 

しかも不気味にゴーグルアイの部分と顔のヘルメットの周りの部分だけが赤く塗られている。

 

ロイヤル・ガード同様この男もヘルメットの奥底で一体何を考えているのか見当も付かない。

 

ただ分かることは男が敵であり、ダークサイドのフォースの使い手であるということだ。

 

男は再び両刀を用いて積極的に攻撃し始めた。

 

流石ロイヤル・ガードの装備を身につけているだけあって近接戦や格闘術に長けている。

 

「お前は一体何者だ!」

 

黒いロイヤル・ガードはカルの問いに全く答えようとせず沈黙を貫いた。

 

カルはその間にダブル=ブレードを解除し2本のライトセーバーで攻撃を行った。

 

身軽な元ジェダイの斬撃が黒いロイヤル・ガードを襲う。

 

黒いロイヤル・ガードはライトセーバー・パイクで斬撃を躱しつつ距離を取った。

 

まるでカルと戦うことが目的のようだ。

 

「まさか!」

 

カルは急いで青年が隠れた場所へ戻ろうとした。

 

途中黒いロイヤル・ガードが何度も妨害を行ったがカルは素早く全ての攻撃を回避した。

 

しかし黒いロイヤル・ガードの妨害のせいかカルが戻った時にはもう遅かった。

 

「たっ助けて!!助けて!!離せ!!」

 

「その子を離せ!!」

 

助け出した青年は背後から先ほどまで戦っていたダークサイドの使い手、テドリン=シャによって取り押さえられていた。

 

「大人しくしろ、やれるものならやってみろジェダイ!この“忌子”は我らが作りしもの、我らがどうしようと勝手だろうが」

 

「歪んだダークサイドの呪縛から解放しろ!クッ!」

 

黒いロイヤル・ガードは2人の前に立ちはだかり重たい一振りでカルを押さえつけた。

 

黒いロイヤル・ガードは自らのライトセーバー・パイクを周囲に振り回しカルを遠くに寄せて距離を取った。

 

首を振ってテドリンに「今だ」と合図する。

 

テドリンは合図に従って青年を捕らえたまま森の中に逃げ込んだ。

 

「待て!」

 

カルは青年を助けようとしたが再び黒いロイヤル・ガードが邪魔に入り鍔迫り合いの格好となった。

 

遠くから連れ去られる青年の声が響く。

 

「せっせめて!!せめて彼女だけは助けてくれ!!彼女は関係ないんだ!!関係あるのは……俺だけだ……」

 

青年の声は全てを諦めたような絶望に満ちた声音だった。

 

しかもカルに懇願するように必死に訴えかけた。

 

遠くで啜り泣く音も聞こえる。

 

怖いが恐怖を押し殺して愛する者を守ろうとしているのだ。

 

そんな青年にカルは大声で答えた。

 

「必ず助けに行く!!俺たちが全員で!!」

 

カルは全力でフォースの力を用いて黒いロイヤル・ガードを押し出した。

 

黒いロイヤル・ガードは防御していたはずなのだが遠くまで吹き飛ばされてしまった。

 

しかしもう退却するだけなのだからこれでよかったのだ。

 

青年が連れ去られ、黒いロイヤル・ガードが吹き飛ばされた地点から1機の輸送船が出現した。

 

銀河共和国時代から存在するサブライト・プロダクト社製のWTK-85A恒星間輸送船だ。

 

最大速度でその場を離れ、カルがフォースの力で引き寄せようとしてももう手遅れだった。

 

()()”は連れ去られ輸送船は仲間を助ける為に別の地点へと向かった。

 

 

 

 

アキシャル・スーパーレーザーの喪失は惑星内の地上からでもはっきりと見えていた。

 

閃光と共に周囲に爆発の光が広がり巨大な長細い砲塔が崩壊していくのだ。

 

このことにセドリスは大きなショックを受けた。

 

アキシャル・スーパーレーザー砲はシス・エターナル軍最大の兵器にして暗黒面の時代を再び甦らせる為の“長槍”なのだ。

 

その長槍が今セドリスの目の前で叩き折られた。

 

これは自信家でシスの軍隊を深く信奉しているセドリスのメンタルに多大なダメージを与えた。

 

「なっ!アキシャル・スーパーレーザーが…!?」

 

ただでさえアソーカとの戦闘で疲れ始めているセドリスにこの光景はあまりにも酷であった。

 

彼がこの衝撃を怒りに変える前にアソーカに隙を突かれてしまった。

 

まず蹴りを2回入れられ更にフォースで押し出され完全に体勢が崩された。

 

「クソッ!」

 

IG-99Eが間に入ってセドリスを守ったが2本のライトセーバーがIG-99Eの武器を押し返し更にフォースで押し出した。

 

その間に立ち上がったセドリスがライトセーバーを振り回し迫ってきたが彼の乱れた剣戟などアソーカの相手にすらならない。

 

軽く防御し受け流しながら逆にもう1本のライトセーバーで反撃に転じた。

 

アソーカの一糸乱れぬ洗礼された型の攻撃が更にセドリスを追い詰めていった。

 

セドリスは再び防御するだけで状況を何も変えられずにいた。

 

そのもどかしさが彼の冷静さを奪うと同時に怒りによる暗黒面のパワーを与えたが今のアソーカには通用しない。

 

一回転してパワーをつけた斬撃をセドリスは辛うじて受け止めた。

 

だがこのままでは力負けしてダメージを負う。

 

セドリスはあえてフォースで自身の身体を浮かせアソーカから距離を取った。

 

「クソッ!テドリンは離脱出来たのか!?状況が分からん!」

 

アソーカは余裕を持った表情のままライトセーバーを構え直し呼吸を整えた。

 

彼女の2本の白い光剣はこの真夜中では一際目立って光っている。

 

セドリスも急いでライトセーバーを構え直し再びIG-99Eと共に攻撃を開始した。

 

IG-99Eのパルスレーザーを敢えてセドリスの方へ弾き彼を更に疲弊させた。

 

「撃ち方やめろIG-99E!!こいつは近接戦でッ!!」

 

セドリスが横合いからライトセーバーで、IG-99Eが銃剣と鉈、更には左足のカッターでアソーカを襲った。

 

4方面からの同時攻撃、これを回避するのは無理だ。

 

せいぜい一旦距離を取ってこの攻撃を回避する程度しかないがそれをやればIG-99Eが小型ミサイルでダメージを与える。

 

それからセドリスが斬撃を加えればアソーカの体勢は崩れてトドメを刺せる。

 

2人にはしっかりとした勝利のビジョンがあり高揚があった。

 

故にセドリスの顔は邪悪な笑みに染まった。

 

だがアソーカの予想外の行動が彼らの勝利のビジョンを崩した。

 

突然アソーカがセドリスらの目の前から姿を消した。

 

彼女は攻撃を喰らう前に倒れるようにしゃがみ攻撃を全て防いだのだ。

 

それがどうしたとIG-99Eは踵落としで致命傷を与えようとしたが元ジェダイの素早さは暗殺ドロイドよりも高い。

 

踵落としを喰らう前にフォースで勢いをつけアソーカはセドリスに強力なタックルを喰らわせた。

 

「グァッ!?」

 

更にアソーカはセドリスの顔面に蹴りを入れ地面に叩きつけた、

 

攻撃をモロに喰らいセドリスの全身に激しい衝撃と痛みが回った。

 

地面に倒れ込み衝撃の影響か暫く立てなかった。

 

アソーカは静かにライトセーバーを突き立てセドリスにトドメを刺そうとした。

 

このままこんなトグルータのジェダイもどきに殺されるのかとセドリスは恐怖と怒りで全身が震えた。

 

IG-99Eも今の状況では間に合わない。

 

セドリスの瞳は大きく開いていた。

 

だがここでセドリスを死の危機から救い出す存在が訪れた。

 

アソーカは寸前で危機を察知し急いでその場から離れた。

 

すると数秒も経たずにその場に赤いブラスター弾が1発着弾した。

 

あのままセドリスを倒すことに集中していればブラスター弾は彼女の脳天を貫いていた。

 

「何!?」

 

アソーカがライトセーバーを構えた瞬間今度は更に大きな攻撃が来た。

 

1発のロケット弾が放たれアソーカは再びその場から離脱した。

 

爆発と煙幕が周囲に広まり視界が奪われた。

 

その隙にアソーカを狙った者は行動を開始した。

 

ジャンプして崖を飛び降りその間にナイフを取り出しセドリスの下に近づいた。

 

「オーチ!!」

 

2本の角が生え黄色い瞳を持つ特殊が角ばった仮面を被ったその男はセドリスを立ち上がらせた。

 

その間にIG-99Eが2人の前に現れてアソーカの前に立ちはだかった。

 

「ッ!あれは!?」

 

彼らの背後には1機のWTK-85A恒星間輸送船が浮遊していた。

 

昇降ランプが降りておりオーチはセドリスを抱えたまま船内に入った。

 

「待て!」

 

アソーカは輸送船を止めようとしたがIG-99Eがパルスレーザーを撃って妨害した為もうどうすることも出来なかった。

 

輸送船はハッチを閉めて急いでジストン級の下に向かった。

 

あれだけ距離が離されてはもうどうしようもない。

 

()()”は再び呪われた地エクセゴルに戻った。

 

 

 

つづく




はいどうもEitoku Inobeです〜!

ナチ帝国もこれで61話!だいぶ投稿期間がはいてしまいましたが今後はもっとゆったりとしたものになるでしょう(気象予報士並感)

今年中にはこの章を終わらせられるといいですねぇ

そいではまた〜


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来るべき脅威

「未来はきっと、明るいものが続いていると私は信じている。この未知領域でも楽しいことはたくさんあった。きっと明日も続いていくだろう。アカデミーを卒業した後もきっと」
-シーラ帝国アカデミーのドミトリー・ヤゾフ士官候補生の発言-


-未知領域 チス・アセンダンシー領 首都惑星シーラ 軌道上訓練施設-

ライトセーバーを持った数十人の“()()”達がルークとマラ・ジェイドを取り囲んでいる。

 

2人も同じくライトセーバーを構え彼ら彼女らを待ち構えていた。

 

当然ライトセーバーは訓練用に出力が調整されており、当たっても怪我をすることはない。

 

しかし辺りには神妙な空気が流れていた。

 

「フォースに流れを合わせて、必ず攻撃するタイミングがあるはずだ」

 

「もしくは自らフォースを引き寄せる」

 

2人はかなりの月日フォースについて教え込んだ弟子達にアドバイスした。

 

弟子達の中には人間種もいればチスもいたしそれ以外の非人間種の者もいた。

 

静かな訓練施設をブォンというライトセーバーが風を切る音が響いた。

 

それはあちこちで揃って聞こえる音でその直後ライトセーバーが重なり合う鈍い音が聞こえた。

 

「もっと意識を高めろ、そして教えられた型を正確に守るんだ。打つべき攻撃の位置はフォースが導いてくれる」

 

ルークは複数人のライトセーバーを躱しながら時々自らのライトセーバーで斬撃を受けてその光剣を弾いた。

 

まだライトセーバーの戦いに慣れていない弟子達は簡単に倒され、再び立ち上がってルークに向かった。

 

ルークはあえて反撃を最小限に抑え弟子達の攻撃を受け続けた。

 

そうすれば弟子達1人1人にまだ足りないものが見えてくる。

 

逆にマラ・ジェイドはもっと厳しく激しく弟子達の攻撃に一つずつ丁寧に反撃を加えていった。

 

彼女としては口頭で言うよりは直接身体に叩き込んでいった方がいいと考えていた。

 

教え方は多少違う2人だがフォースの師として弟子達に足りないものを確実に教えていた。

 

ルークはヨーダやオビ=ワンに言われたように、マラ・ジェイドはシディアスに教えられたように。

 

歩いた道は違えど2人の距離は近づきつつあり互いに尊敬の念を持つようになっていた。

 

1人のフォース使いとして、1人の人間として。

 

「くっハア!」

 

1人のチスがルークの横合いから全力でライトセーバーを叩きつけた。

 

ルークは事前に攻撃を察知しチスの斬撃を防いだ。

 

それでも中々良い一撃だ。

 

「リョーレク、今のは良い一撃だった!太刀筋がどんどん良くなってきている!」

 

ルークは弟子の成長を褒めた。

 

エリョーレクゴルデチ、それが今ルークに一撃を喰らわせようとしたチスの名前だ。

 

チスには長い名前を短縮したコア・ネームというものがあり公的な場以外ではコア・ネームを使っていた。

 

例を挙げるならかの有名な帝国宇宙軍大提督、“()()()()”がその一つだろう。

 

彼の本名は“ミスローニュルオド(Mitth'raw'nuruodo)”というのだがそれを短縮したコア・ネームが“スローン(Thrawn)”なのだ。

 

なので“エリョーレクゴルデチ(Yeryo’lek’Gordech)”もコア・ネームの“リョーレク(Ryolek)”という名で呼ばれていた。

 

でなければチスのフルネームをチス以外が発音するのは難しく手間も掛かる。

 

他の同僚達も彼のことはリョーレクと呼んでいた。

 

彼は元々チス・アセンダンシーで地方の若き公務員として働いていた。

 

そんな中チス・アセンダンシーと亡命帝国はフォース使いの部隊を設立する為にフォース感受者の積極的な募集を始めた。

 

今まで人目を憚り隠していたフォースの力が祖国を守る事が出来ると確信したリョーレクはこの部隊に志願した。

 

そうしてリョーレクは己の力を活かす為にルークとマラ・ジェイドの教えを受けることとなったのだ。

 

リョーレクに続いて負けじと他の弟子達もルークやマラ・ジェイドに斬り掛かっていった。

 

しかし彼ら彼女らはまだ攻撃に迷いがありフォースの流れを掴めていない。

 

マラ・ジェイドはそんな弟子達を容赦なく打ち倒しルークは攻撃を華麗に躱した。

 

「攻撃の迷いは逆に自らの命を危険に晒す。常に冷静に息を合わせるんだ、そうすれば経験以上の力が手に入る」

 

「でなければ本当の戦場で斬られるだけだ。我々か、我々以外に」

 

マラ・ジェイドはルークとは対照的に冷たい言葉を放ったがそうならない為に弟子達を鍛えているのだからある種の優しさであるだろう。

 

彼女は他のダークサイドの達人や尋問官、シス卿よりも優しさがありまだ完全にはダークサイドに染まり切っていなかった。

 

マラ・ジェイドはあくまでも帝国に仕える皇帝の仕事人であった。

 

だからこそ一度主人を失い様々なものを見続けたマラ・ジェイドは誰にも言えない悩みを抱えていた。

 

「さあもう一度だ、時間がある限り何度でも練習すれば必ず出来るようになる」

 

ルークの一言で再び弟子達はライトセーバーを構え戦闘訓練を開始した。

 

その様子を再び上階から何人かの高官が見学していた。

 

「あの剣……思い出すな、クローン戦争の時のことを、我々もあの剣を持った将軍達を沢山見た。みんな最後には反逆罪で打ち殺されたが」

 

「ハハッ、そうだな。だが今度の“()()()()”は我々が作る、国家が作る国家を守護する本当の騎士達になるはずだ」

 

ヴィルヘルムはどこか懐かしそうにタッグ元帥に語り掛けタッグ元帥も希望を込めてそう答えた。

 

タッグ元帥は「噂だとライトセーバーを持った特務将校の話は聞いたことがあるが」と付け加えた。

 

2人は共にクローン戦争に参戦した仲で恐らく最後に戦場での“()()()()()()()()()”を見た世代だろう。

 

2人にとっては普段口に出さないだけであの光る刃はどこか懐かしさを感じるものだった。

 

初めて加わったあの戦争を良くも悪くも思い出す。

 

「確かに皇帝陛下がまだライトセーバーを持った側近を連れていたことは確かだ。だが我々はそれを包み隠さず一つの部門として扱う。そうでもしなければあの“脅威”を防ぐ事は出来ない」

 

1人でも強力なフォース使い達を組織化し一つの部隊として運用する。

 

こうした戦力化は非常に有効だ。

 

単に強力な力を持つ者が1人よりもずっと強い力を生み出すことが出来る。

 

「若き新たな騎士達がこの銀河を脅威から守ってくれることを切に願う……いやそうでなくては困るのだ。我々の全ては願いだけではダメだ」

 

「……そうだな、負ければ何もかもが破壊され消え去ってしまう、なんの意味もなくただ悪戯に」

 

オルデランを容赦なく破壊した帝国よりも邪悪なる存在が銀河の彼方から今も迫ってきている。

 

チスも彼らも皆その破滅を防ぐ為に備え続けているのだ。

 

尤も今も帝国の邪悪なる部分を継承した存在がコア・ワールドに存在しているのだが。

 

「そういえばあのフォース感受者部隊はどういう名前になるのだ?まさかただの連隊名や大隊名で終わる訳ではあるまい」

 

タッグ元帥はヴィルヘルムに尋ねた。

 

フォース感受者だけの特殊な部隊を数字を羅列しただけの部隊にするとは思えない。

 

彼ら彼女らを総称して相応しい名前があるはずだ。

 

「ジェダイという名称は既に反逆者の名となったからな……だが彼ら彼女らも騎士であることには変わりないはずだ。人々の守護者であるライトセーバーを持った騎士」

 

ヴィルヘルムはそれほどフォースに対して信仰深い人間ではなかったがその力は正確に評価していた。

 

故にその力を何かを守護する騎士として役立てようとした。

 

「当然チス・アセンダンシーではまた別の名称となるだろうが私は簡単にこう考えている。“帝国の騎士(Imperial Knight)”、最もシンプルで最も相応しい名前なはずだ」

 

「帝国の騎士……か、良いなそれは。もう皇帝はいなくともまだ護るべき臣民はいる、そんな人々を護る帝国の騎士か」

 

これが始まりだ。

 

後に誕生する帝国を護る忠義の騎士、インペリアル・ナイト

 

今2人の眼前で慣れない武器を用いて訓練している彼ら彼女らが礎となるインペリアル・ナイト第一号なのだ。

 

 

 

 

 

-首都惑星シーラ 軌道上警備ステーション ハイパースペース・レーン管理室-

チス・アセンダンシーの各主要惑星には防衛兼警備用の宇宙ステーションが点在しておりアセンダンシーの領域を警戒していた。

 

そのうちの一つが惑星シーラに存在するこのステーションでは何十隻かのスター・デストロイヤークラスの軍艦を駐留させることが可能だ。

 

また帝国とチスの技術を結集して作った何十、何百門ものターボレーザー砲で武装されており仮に敵対する勢力の艦隊が攻めてきても地上への侵攻は防げる。

 

内部には常駐する幾つかの陸戦部隊があり仮にステーション内に敵が侵入しても即座に防戦が可能だ。

 

平時はハイパースペース・内の監視やシーラを行き交う艦船の管理を務めており今も管理室では数人の拡張防艦隊の将兵がハイパースペース内の管理任務に就いていた。

 

「チェック22-33456、ペスファブリからの輸送船団は後2分後に到着する模様です」

 

「分かった、輸送船団には事前にチェック表を貰っている。ドッキング・ベイ984に直行させろ」

 

「了解」

 

管理室長のヴォレタ少佐は手首のクロノメーターを眺めた。

 

彼はチス・アセンダンシーの拡張防衛艦隊将校で以前はチス重クルーザー“ステッドファスト”に勤務していた。

 

昇進と共にステーションの管理室に移動となり新しい艦船の艦長となるか別の軍艦の戦術長になるまでの繋ぎの職に据え置かれていた。

 

とはいえヴォレタ少佐本人はステーションの管理室長も悪くはないと考えていた。

 

ちなみにヴォレタというのは彼のコア・ネームであり本名はまた別にある。

 

「今日も予定通りだな、どの船団や艦隊も時間に遅れず来てくれる」

 

うち(チス)だけじゃなくて帝国も時間通りなのがありがたいですね。こちらの調整が楽だ」

 

管理室のセンサー士官は感想を述べるように呟いた。

 

実際初期にあった帝国軍とチス・アセンダンシー軍の軋轢のようなものは徐々に減退しつつある。

 

各地で次々とアセンダンシー軍と帝国軍の合同部隊が設立され共に演習を行うことなど日常茶飯事となっていた。

 

共に“()()()()()()”と立ち向かう以上分け隔てなく協力し合えるのはいいことだ。

 

「だな」とヴォレタ少佐は微笑んだが直後別のセンサー士官があるものを発見し1人表情を変えた。

 

「…室長、ハイパースペース・レーンより三隻の艦影が接近しています」

 

「ん?それはおかしいな。私がチェックした限りだとこの時間帯にジャンプアウトするのはペスファブリの輸送船団だけだが」

 

少佐が例に挙げた船団がジャンプアウトし真っ直ぐシーラを目指して航行している。

 

本来の予定ではこれで当分シーラに迫る大型の軍用艦船は存在しないはずだ。

 

管理室に常駐する航行管理士官の1人も「室長の言う通り、予定にはありません」と付け加えた。

 

「もしかすると緊急でシーラへ向かっている艦船があるのでは」

 

副室長のホーファスク大尉はヴォレタ少佐に進言した。

 

「だとすればここにも必ず連絡が入るはずだ。通信士官!」

 

「はい、どの施設及び部隊からも緊急でシーラに向かうといった連絡は受けていません。ですが該当する艦船が通信機能不全に陥っている可能性は十分にあり得ます」

 

「では緊急回線で通信に応答するか試してみろ。我々はその間に」

 

ヴォレタ少佐は部下達に指示を出し自身は室長席のコムリンクをステーションの司令部に繋いだ。

 

こう言う場合は司令部に即座に報告するに限る。

 

「管理室105からステーション司令部へ。連絡にない正体不明艦船三隻をハイパースペース内に補足、艦船に対して緊急回線を用いた通信を試みているが返答ななし。艦船は徐々にシーラ方面へ接近中、司令部の判断を仰ぐ」

 

『司令部、了解した。念の為重力井戸を展開し警戒部隊を展開させる。引き続き通信を継続せよ』

 

「司令部、了解」

 

「応答しません、室長…!」

 

通信士官は半ば焦りながらヴォレタ少佐の方を向いた。

 

少佐は通信士官を宥めながら次の指示を出した。

 

「落ち着け、重力井戸を展開して艦船を強制的に通常空間(リアルスペース)に引き摺り出す。通信の試みはそのまま続けろ」

 

「了解…!」

 

「なんだか大事(おおごと)になってきた気がするぞ…!」

 

ヴォレタ少佐の発言は随分と軽いものであったが内心はかなり深刻に捉えていた。

 

以前もシーラに向けて一個小艦隊ほどのならず者艦隊が向かっていたことがあった。

 

あの時は即座にプライド将軍や参謀本部のヴァシレフスキー少将が応戦に向かった為ことなきを得たがあのような事が二度三度あってもおかしくない。

 

しかも既にかなり奥深くまで浸透されてしまった。

 

ここで対応せねば相手は何をしてくるか分からない。

 

ステーション内には警報が鳴り響きステーション内の将兵が慌ただしく動いていた。

 

『正体不明船団がシーラに接近中、ステーション職員は第二種警戒態勢に移れ。繰り返す、正体不明船団がシーラに接近中、ステーション職員は第二種警戒態勢に移れ』

 

ストームトルーパー、宇宙軍トルーパーは武装して兵舎や持ち場に結集し、兵器技術者達はステーション中の砲塔を動かし始めた。

 

『ハンガーベイ226の職員は直ちに退避せよ。繰り返す、ハンガーベイ226の職員は直ちに退避せよ』

 

「一体何が?」

 

マラ・ジェイドは周囲を見渡しながらふと呟いた。

 

ルークは冷静に状況を観察し「この星に危機が訪れてるようだ」と呟いた。

 

隣にいたR2は先ほどまでステーション内のアストロメク・ドロイドと談笑していたのだがそのアストロメクが「いかなければ」と去ってしまったことにより少し落ち込んでいた。

 

「…分かりました、はい…それでは、ご武運を。どうやらハイパースペース内に正体不明の船団が接近中らしく、念の為守備隊が警戒に当たっていると言うことらしいです」

 

コムリンクで連絡を取っていたリョーレクは2人に事情を説明した。

 

「そうか、では我々はひとまず待機か」

 

「そうなりますね……ヴォスレク司令官が待機室を用意して下さったそうです、そちらへ行きましょう」

 

リョーレクはマラ・ジェイドとルークを案内しようとしたがルークは遠くを見つめたまま深刻そうな表情を浮かべていた。

 

「マスター、どうかしましたか?」

 

「いや……少し嫌な予感がするだけだ」

 

ルークの嫌な予感はフォースの直感でありやがて的中することとなる。

 

その頃ステーションの後方からは防衛の為に帝国軍のインペリアル級三隻と新型のチス・アセンダンシーの技術で建造されたシーラ級スター・デストロイヤー二隻が他の軍艦と共に前進した。

 

シーラ中の各方面から防衛の為の艦隊が集まっていた。

 

インペリアル級やチス重クルーザー、チス・デストロイヤーからTIEインターセプターやヌシス級が発艦した。

 

中にはTIEボマーや爆撃機仕様のヌシス級もおりその中でも一際目立つ存在が赤いラインが引かれたTIEインターセプターの編隊だった。

 

「セイバーリーダーより各機へ、模擬戦を一時中止しステーションの非常時即応司令部の指揮下に加わる。安全装置を解除し戦闘態勢を維持せよ」

 

セイバー中隊及び第181戦闘機大隊司令官のタール・フェナー大佐は自らのTIEインターセプターを操作しながら部隊に命令を出した。

 

先程までセイバー中隊の全機で宇宙空間での模擬戦を行なっていたのだがステーション司令部から要請を受け駆けつけた。

 

「目標の一隻は数キロの大型艦だ。もしかするとかなり大量の艦載機を保有している可能性がある、応援が来るまで我々だけで必ず防ぐぞ」

 

『セイバー3了解』

 

『セイバー4了解!』

 

『スターファイター各機へ、こちらインペリアル級“パーシュート”、正体不明の艦船は後30秒でジャンプアウトする。全機臨戦態勢を維持し命令があればすぐに戦闘を開始せよ』

 

シーラ守備艦隊の一隻である“パーシュート”から指示が届き出撃したスターファイター達はそれぞれ編隊を組んで待機していた。

 

そして“パーシュート”から発せられた時間通りに正体不明の船団はシーラからかなり離れた場所にジャンプアウトした。

 

本来はもう少しシーラの手前にジャンプアウトするはずだったのだが事前に作動させた重力井戸のおかげでかなり距離を稼げた。

 

『目標補足…!相手は……ルクレハルク級に燃料輸送用に改造されたCR70コルベット二隻……』


 

『しかもルクレハルクは貨物船タイプだ、バトルシップにすら改造されていない』

 

『まるで骨董品の集まりだな』

 

帝国軍のパイロット達は補足した船団の詳細を見るなりそう感想を述べた。

 

ルクレハルク級が活躍したクローン戦争やナブーの戦いからは28年、41年が経過している。

 

CR70などもっと前から存在するコルベット艦だ。

 

パイロット達からすれば骨董品と言いたくもなるだろう。

 

「油断はするなよ、十分脅威だ」

 

『こちらハイパースペース内管理室105、正体不明船団からの返答ありません。こちらの警告も聞き入れようとしません』

 

『了解、全部隊に告ぐ。攻撃を許可する、繰り返す攻撃を許可する』

 

管理室の通信士官の努力虚しく正体不明の船団は全く応答せず士官からの警告も無視した。

 

シーラの安全も考えてここは撃破する他ない。

 

「了解、セイバー中隊先行する」

 

フェナー大佐を先頭にセイバー中隊や他のスターファイターが一斉に敵船団に向かって全速力で迫った。

 

重力井戸で強制的にジャンプアウトさせられた敵船団は暫く行動不能の状態となっていたが先にCR70コルベット二隻が態勢を立て直した。

 

スターファイターが攻撃するよりも先にCR70コルベットがターボレーザー砲を放ってきた。

 

「全機、回避しろ!」

 

急旋回しTIEインターセプターやヌシス級は反撃を開始した。

 

エネルギーをチャージし一気に凝縮してレーザー砲をCR70に浴びせかけた。

 

しかしレーザー砲弾は全てCR70の偏向シールドによって阻まれ全くダメージを与えられていなかった。

 

『なんて硬いんだ!!』

 

『あのコルベット、予想よりも偏向シールドが頑丈に出来ている!並の攻撃じゃ打ち破れないぞ!』

 

ヌシス級のパイロット1人が先に毒付き僚機のTIEインターセプターのパイロットが付け加えた。

 

旧式ながら備え付けている偏向シールド発生装置はかなり良質なものらしい。

 

『落ち着け、爆撃機の偏向シールド貫通弾なら撃破出来るはずだ』

 

すぐに別の中隊長が部下を宥め提案した。

 

「私の隊で敵の攻撃を引き付ける。その間にこっちで示したポイントに貫通弾を撃ち込め」

 

『了解フェナー大佐…!』

 

フェナー大佐が真っ先にCR70に突っ込み船体のギリギリまで接近した。

 

迎撃する為にCR70はありったけの火力をフェナー大佐のTIEインターセプターにぶつけようとした。

 

しかしフェナー大佐は軽々とレーザー弾を回避し弾幕の合間を通り抜けていった。

 

TIEインターセプターを追う為に砲塔は回転したがそれが仇となった。

 

その隙にTIEボマーとヌシス級クロークラフト・ボマーが偏向シールド貫通タイプの震盪ミサイルを放った。

 

2発のミサイルはCR70の船体に着弾しそのままCR70の反応炉にダメージを与えた。

 

衝撃で一時的に偏向シールドが薄れ隙を見計らっていたヌシス級とTIEインターセプターが一斉に攻撃を開始した。

 

偏向シールドを打ち破りそのまま船体に直接ダメージを与える。

 

限界が来たCR70コルベットは崩れるように撃沈した。

 

もう一隻のCR70コルベットもシルバー中隊のシルバー3とシルバー4が攻撃を引き寄せその間に爆撃部隊が震盪ミサイルを放った。

 

こちらのCR70は6発の震盪ミサイルを撃ち込まれた影響でTIEインターセプターやヌシス級が追撃するまでもなく撃沈した。

 

『コルベット艦をやった!』

 

「全隊、ルクレハルク級に先行攻撃を行う。敵艦載機との戦闘があるかもしれん、心してかかれ」

 

『大佐、ルクレハルクから艦載機と思わしきものを3機発見しました。こちらに向かってきています…!』

 

セイバー7がフェラー大佐に報告し彼は自機のセンサーに目を通した。

 

すると出撃したと思わしき3機のスターシップの異変にフェラー大佐はすぐに気がついた。

 

センサーが感知した質量から言えばこれはスターファイターではなく兵員輸送船やシャトルの類だろう。

 

「捉えた…!ロー級輸送シャトル、マキシリピード・シャトル、シーシピード級輸送シャトルそれぞれ1機…!だが……!」

 

だが兵員輸送船やシャトルにしては明らかにおかしいことが一つある。

 

それをセイバー7は報告してきた。

 

『はい!全てのシャトルが通常の2、3倍の速度で接近してきます!!』

 

セイバー7がそう言った直後に3機のシャトルは攻撃の合間を抜けてシーラの方面へと向かった。

 

とてもシャトルとは思えない速度で3機はアセンダンシー軍と帝国軍のスターファイター隊を突破しつつあった。

 

すれ違った瞬間一瞬だけ見えた、あのシャトルは全てエンジンが改造され増強されていた。

 

追加ブースターのようなものがシャトルの速度を上げていたのだ。

 

「後方の予備隊はシャトルを迎撃しろ、残りは全てルクレハルク級の攻撃を続行する!行くぞ!」

 

口惜しいが今から行ってもあのシャトルには追いつけないだろう。

 

であれば大元であるあの大型貨物船に一撃を与えるのみ。

 

フェラー大佐の命令通り後方で待機していた予備のスターファイター隊はシャトル群の追撃を開始した。

 

シャトルは高速で当然彼らのTIEインターセプターやヌシス級ですら追いつけなかったが攻撃は出来る。

 

「喰らえ!!」

 

ヌシス級から放たれた黄緑色のレーザー弾が2発シーシピード級の追加ブースターに被弾しそのままブースターを切り離させた。

 

爆散する追加ブースターを軽々と回避しヌシス級はそのまま速力の下がったシーシピード級を撃墜した。

 

「1機やった!」

 

『残り2機、スーテーションに向かってるぞ!』

 

『1機でいい、威嚇して進路を変えさせる』

 

TIEインターセプター2機がレーザー弾を放ち攻撃を回避しようとマキシリピード・シャトルのが進路を変えた。

 

逆にそれが仇となった。

 

封鎖の為に派遣されたアークワイテンズ級とレイダー級のレーザー射撃を受けてマキシリピード・シャトルは回避が間に合わず機体が穴だらけになって爆散した。

 

これで3機のうち2機を撃墜し残りは1機となった。

 

だが残り1機のロー級輸送シャトルは全速力でひたすらステーションを目指して航行していた。

 

『チッ!なんて速さだ!!』

 

『これじゃあ間に合わん!』

 

『護衛艦の対空射撃も躱された、これじゃあ撃つ手がないぞ!?』

 

パイロット達は焦りながらもロー級への攻撃を続けた。

 

スターファイターが放ったレーザー弾のうち1発がロー級のエンジンを擦り損傷させたが速力に変わりはない。

 

このままでは間に合わないとパイロット達が半ば諦めかけていた時ステーション司令部から命令が届いた。

 

『追撃中の全機に告ぐ、目標をステーション・ハンガーベイ226にまで誘導せよ。ハンガーベイを封鎖してこちらで対応する』

 

「司令部、了解した。全機、行くぞ!」

 

中隊長と共に何機かのTIEインターセプターとヌシス級が続きロー級に執拗なレーザー攻撃を浴びせかけた。

 

中には震盪ミサイルを放つ機もおり攻撃を回避する為にロー級は回避行動を取りパイロット達の目論見通りハンガーベイ226まで誘導することに成功した。

 

何も気づかずロー級は偏向シールドで阻まれたハンガーベイの中に突入した。

 

既にステーションの中には武装したストームトルーパーと訓練を終えた2人のフォース使いがいるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音を立てて周りのコンテナや機器を弾き飛ばしながらロー級輸送シャトルがハンガーベイの内部に侵入した。

 

このロー級輸送シャトルは本来共和国軍、その後継である帝国軍が使用するシャトルであるのだが払い下げ品として売られたものでそれがどういう訳かこの襲撃者達の手に渡った。

 

表向きの理由はこうであり、本当は違う。

 

帝国に深く関わる者がこれを彼らに引き渡したのだ。

 

ある目的のために彼らを捨て駒にして。

 

ルクレハルク級を操る乗組員も先ほど撃墜されたシーシピード級とマキシリピード・シャトルに乗っていた戦闘員も皆一つの傭兵団の類であり仲介を介して雇われた。

 

仲介は雇い主の名前を出さなかったし雇い主が一体何者なのかも分からなかった。

 

ただ雇い主は前金として大量の第三帝国クレジット(ライヒスクレジット)を突き付けてきた。

 

そして依頼した目的はただ一つ、チス・アセンダンシーの首都惑星シーラに打撃を与えること。

 

雇い主からは件の前金とかなり多くの武器弾薬、燃料が与えられたが作戦や方法は傭兵達に全て一任された。

 

その為彼らは使わなくなった古い輸送船を補給船として地点地点で燃料補給しシーラまで目指す方法を取った。

 

広大で星図も少ない未知領域の旅は危険を伴い何隻も補給船を失ったがなんとか目的地に辿り着いた。

 

ようやく仕事が始まる。

 

ロー級のハッチが開き中から一斉に戦闘員達がブラスター・ライフルを持って走り出した。

 

しかしアセンダンシー側も完全に無抵抗だった訳ではない。

 

侵入と同時にすぐに自動防衛システムが機動しブラスター・タレットが戦闘員達にブラスター弾の嵐を放った。

 

先頭を走っていた2人の戦闘員が撃ち殺され更にもう3人の戦闘員が負傷した。

 

すぐに他の戦闘員達はブラスター・ライフルで応戦しつつ近くの障害物に隠れた。

 

ブラスター・タレットはロー級のレーザー弾によって破壊され更にロー級のレーザー砲塔が前方の正面ブラスト・ドアを破壊した。

 

「急げ!司令部を強襲するぞ!」

 

遮蔽物に隠れていた戦闘員達が一斉に身を出し破壊されたブラスト・ドアに向けて走り出した。

 

警備ステーションを一時的にダウンさせられれば次の作戦に移ることが出来る。

 

だが戦闘員達は目的を果たすことなく2、3人が煙が漂う破壊されたブラスト・ドアの向こう側から投擲された光る剣のような何かによって斬殺された。

 

一旦残りの戦闘員達が動きを止め、ブラスター・ライフルを構え近くの遮蔽物に身を隠した。

 

戦闘員を一撃で数人斬り殺した謎の光剣は吸い込まれるようにブラスト・ドアの奥へ消えていった。

 

戦闘員達はブラスター・ライフルを向け敵が姿を現すのを待った。

 

今弾丸を撃ち続けても必ずしも当たるとは限らない。

 

ハンガーベイの空調システムが原因ではない冷ややかな緊張を孕んだ空気感が辺りを包んだ。

 

静寂の中、ただの一音があたりに響き渡る。

 

ライトセーバーの刃が姿を現す独特な一音が静かに空気を伝わって戦闘員達の耳元にも届いた。

 

「撃てー!!」

 

戦闘員達は一斉にブラスター・ライフルの引き金を引き何十発ものブラスター弾を一気に放った。

 

破壊されたブラスト・ドアの奥には黒いローブを被った1人の男が緑色のライトセーバーを持って立っている。

 

男は戦闘員達から攻撃を受けても微動だにせず、ライトセーバーを使ってブラスター弾を冷静に弾き返した。

 

弾かれたブラスター弾に被弾して戦闘員達が1人つづ倒れていった。

 

なんとか動きを止めようと散開し周り込みながら銃撃しようとするが戦闘員達は回り込む前に弾丸を弾かれ、或いはフォースの力で薙ぎ倒されていった。

 

隠れていた障害物が突然動き出して突き飛ばされたり、身体が突然宙に浮いて床に叩きつけられたりした。

 

「グレネードを投げろ!!」

 

1人が指示を出して別の戦闘員が急いでインパクト・グレネードを起動して男に投げつけた。

 

しかしインパクト・グレネードは爆発する前に空中で突然動きを止め、逆に反対方向に動き始めた。

 

「爆発するぞー!!」

 

インパクト・グレネードはあろうことか戦闘員達の近くで起爆し周りにいた数人を負傷させた。

 

これがより殺傷能力の高いサーマル・デトネーターだったら不詳では済まなかっただろう。

 

尤も負傷した戦闘員もこの後横合いから迫り来る“2()()()”戦闘者によって始末されるのだから変わりはない。

 

爆発で戦闘員達の意識がそちらに向く中封鎖された別のドアが勝手に開き一瞬で何かがハンガーベイに入った。

 

「今だ!」

 

2本のライトセーバーが起動し先に飛び出したマラ・ジェイドと共にその刃が戦闘員達に牙を剥く。

 

何もかもを斬り裂く斬撃によって戦闘員達は抵抗虚しく倒されていった。

 

リョーレクもブラスター弾を弾きながら隙を見て攻撃に転じていた。

 

「無茶はするなよ、雑兵とはいえこれは訓練じゃない!」

 

「はい!分かってます!」

 

マラ・ジェイドはリョーレクの代わりに積極的に攻撃し戦闘員達を倒していった。

 

本当はリョーレクを連れていきたくはなかった。

 

まず最初に相手の注意を引く役をルークが引き受け攻撃をマラ・ジェイド1人が担当するはずだった。

 

しかしこの生真面目な弟子は「自分にも何か出来るはずだ」と共に戦うことを進言してきた。

 

最初は2人とも断ったがリョーレクの熱意に押され連れていくこととなった。

 

代わりにリョーレクは防御に集中するよう念を押されていたしマラ・ジェイドもリョーレクを守りながら戦っていた。

 

だがリョーレクは比較的戦闘センスが高く実戦は初めてなのにも関わらず既に何人かの戦闘員を自力で倒していた。

 

フォースの訓練をして、ライトセーバーを握ってまだ数ヶ月にも関わらずこれだけの強さは目を引くものがある。

 

そしてもう一つ、マラ・ジェイドの意識を引くものがあった。

 

それはルークだ。

 

彼は一番最初に戦闘員達の前に現れ敵の注意を引いた。

 

それが作戦なのだがインパクト・グレネードを投げつけられた後も彼1人でここの戦闘員を全員殲滅出来そうな勢いだった。

 

どこか冷酷に、静かな恐怖を纏ってひたすら戦闘員達の攻撃を弾き返していた。

 

マラ・ジェイドはふと、帝国にいた頃の噂話を思い出した。

 

スカリフの戦いの終盤、敵旗艦のモン・カラマリ・クルーザーは救援に駆けつけたインペリアルⅠ級“デヴァステイター”によって航行不能にさせられた。

 

情報を得る為、そしてスカリフ惑星内から受信したデータを確認する為に“デヴァステイター”から乗船部隊が出撃した。

 

その中には彼もいた。

 

ダース・ヴェイダー”、マラ・ジェイドの主人であるシーヴ・パルパティーンの右腕でありたった2人しかいないシス卿の1人だ。

 

全身を黒いアーマーで身に纏い不気味な呼吸音とその黒ずくめの姿が他者へ威圧感と恐怖を与える。

 

その戦闘力は衰えたと言われているのにも関わらず尋問官やダークサイドの達人とは比べものにならないもので数多くの生き残りのジェダイと帝国の敵を抹殺してきた。

 

恐怖の代名詞として君臨しその力で帝国をある一面で束ねてきた。

 

ある時期から裏側に“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”という考えも抱きながら。

 

ヴェイダーには彼すら知らなかった息子がいた。

 

それがルーク、彼がヴェイダーの血を引く者だ。

 

スカリフでヴェイダーはクルーザーの艦内にいた反乱軍の兵士を惨殺した。

 

必死に抵抗する兵士を1人づつ斬り殺し、フォースで天井に叩きつけ、最期は扉に串刺しにして恐怖と共に死を与えた。

 

閉所にいた反乱軍兵士達は逃げることすら出来ず皆殺しにされたらしい。

 

その様子が何故だか今のルークと重なって見えた。

 

どうすることも出来ない戦闘員達が抵抗虚しくルークに倒されていく。

 

まだ自らライトセーバーで斬り殺さないだけヴェイダーよりも慈悲があるということなのだろうか。

 

であれば彼にはそこで踏みとどまって欲しい。

 

ルークがヴェイダーのように怒りや悲しみを背負い殺戮マシンとなって血だらけの日々を送って欲しくはない。

 

何故だか自然とそう思うようになってきた。

 

理由はマラ・ジェイドの中でも釈然としないが。

 

バイブロ=ブレードを持って近接戦闘を行おうとする戦闘員をライトセーバーごと叩き斬り、強敵を排除しようとロー級の中に潜んでいた狙撃手の放ったブラスター弾はリョーレクが防ぎ正確に弾丸を狙撃手へと返した。

 

彼自身気づいていない見事な腕前だ。

 

するとロー級のレーザー砲が角度を変えてルークに狙いを定めた。

 

「まずい!」

 

マラ・ジェイドは急いでフォースを使ってロー級のレーザー砲塔を捻じ曲げた。

 

長細い砲塔がメキメキと音を立ててあり得ない方向に曲がり、今度はベキベキと音を立てて砲塔の装甲が凹んだ。

 

もう一方の反対側のレーザー砲塔はルークが破壊した。

 

彼は手の先からフォースを用いた雷を放った。

 

この電撃はレーザー砲塔に着弾し砲塔を吹っ飛ばした。

 

マラ・ジェイドはこの技を何度か見たことがある。

 

彼女の師であるパルパティーンが何度か使っていた、フォース・ライトニングというダークサイドのフォースに属す攻撃能力らしい。

 

しかしルークは「ダークサイドだけとは限らない」と言っていた。

 

確かにルークがあの技を使う時、ダークサイドのフォースを感じない時がある。

 

ルークはそのまま電撃を放って残りの数十人の戦闘員達を一気に無力化した。

 

戦闘員達の身体が痺れブラスター・ライフルも手から離して全員伸び切っていた。

 

「これだけの大人数を……流石ですマスター!」

 

「“()()()()”はこんなものではないさ」

 

ルークはローブのフードを下ろして謙遜しつつそう呟いた。

 

電撃を喰らった戦闘員達からはまだ生命の感覚がありルークが今のフォース・ライトニングでは誰も殺していないことが分かった。

 

「どうして殺さなかった?」

 

マラ・ジェイドはルークに尋ねた。

 

「彼らには答えてもらわなければ、誰の指示でこんなことをしたのか。少なくともただ闘争をしたいという理由だけでここまで来るのは不自然だ」

 

ルークは倒れた戦闘員達に近づき理由を答えた。

 

あくまでチスの為、ルークは冷静に先の事を読んでいた。

 

「しかし我々の領域に警戒艦隊の目を掻い潜ってくるなんて、凄い奴らですね。祖国や同胞を傷つけようとする時点で尊敬の念なんてものはないですが」

 

リョーレクは苛立ちを込めてそう吐き捨てた。

 

彼にとってチス・アセンダンシーとこの未知領域は彼の故郷だ。

 

怒りを覚えるのも当然だろう。

 

リョーレクはライトセーバーを下ろしロー級に近づいた。

 

「まだ中に誰かいるかもしれないぞ、気をつけろよ」

 

念の為ルークはリョーレクの後ろについていった。

 

ロー級の中にフォースで人の気配は感じられないが念の為だ。

 

だがこの判断がリョーレクの命を救うこととなる。

 

「このシャトルも誰かから渡されたんですかね」

 

リョーレクはロー級の中に入って行こうとした。

 

その時、ロー級のシャトルの中から何かが飛び出してきた。

 

リョーレクは気づいていなかったが後ろにいたルークは急いで飛び出した。

 

「避けろ!!」

 

ルークは瞬発的に動きリョーレクを押し飛ばした。

 

ライトセーバーを起動し自らを防御しようとしたが一足遅かった。

 

ロー級から飛び出してきた鋭い刃物のようなものはルークのライトセーバーに少し擦れ、残りはルークの腕を切り裂いた。

 

「クッ!!」

 

負傷箇所から血が出てルークは顔を顰めたがすぐにフォースで相手を押し出そうとした。

 

しかし明らかに“()()”がない。

 

「ルーク!!」

 

「マスター!!」

 

2人が心配しライトセーバーを構えて近づいてくる。

 

相手の存在が分かっていないのに2人を来させる訳にはいかない。

 

それに相手が飛ばしてきた鋭い刃物のようなもの、今度は鞭のように変形して2人を攻撃しようとしている。

 

このままでは防御してもルークのように負傷してしまう。

 

「このぉ!!」

 

ルークは意識と“()()”を高め再び手のひらから電撃を放った。

 

先ほどのフォース・プッシュは無意味だったが現実に影響するフォース・ライトニングならば攻撃が通ずるかもしれない。

 

ルークは暗黒面に一歩近づいて怒りの電撃を鞭に流した。

 

鞭を伝って電撃が相手に伝わるはずだ。

 

わずか数秒でライトニングは相手に届き呻き声と“笑い声”が響いた。

 

それから悶えるように相手はロー級の中から出てきた。

 

「…一体こいつは…?」

 

3人はライトセーバーを構えた。

 

ルークを襲った敵は立ち上がり今度は鞭をスタッフ状の武器に変えた。

 

相手は気味の悪いアーマーを纏っており肩からは棘のようなものが出ていた。

 

そして顔はもっとより不気味だ。

 

人間の骸骨を無理やり肉に変えたような見た目で歯は剥き出し、目は黄色く光っていた。

 

間違いなくこんな種族この銀河系にはいなかったはずだ。

 

こいつは一体何者なんだ。

 

()()()()()()”。

 

3人は一足早く対峙することとなる。

 

()()()()()()”、“遠くからのよそ者(Far-Outsiders)”、“選ばれし種族(Chosen Race)”。

 

Y()u()u()z()h()a()n() ()V()o()n()g()”、奴こそが来るべき驚異そのものなのだ。

 

 

 

 

 

-惑星シーラ軌道上 警備ステーション司令部-

ステーション司令部ではステーションのヴォスレク司令官とその場に居合わせたヴィルヘルムとタッグ元帥がいた。

 

その他にもステーションに常駐している幕僚や2人の副官らが司令部に集まっている。

 

各艦隊に指示を出しシーラを守る防御陣形を展開していた。

 

またそれと同じくステーションのハンガーベイ内での戦闘も監督している。

 

監視カメラの情報から戦闘を分析しルーク達をサポートしていた。

 

「艦隊の封鎖網は展開完了しました。これでルクレハルク級が惑星内に侵入することはありません。周辺には重力井戸も展開済みです」

 

「地上の避難誘導は」

 

「完了しています。防空部隊の展開も完了しています」

 

まず先行したスターファイター隊が第一の防波堤となり、防衛艦隊が第二の防波堤となり、ステーションを固める最後の艦隊が第三の防波堤となり、地上軍の防空及び対艦部隊が最後の防波堤となる。

 

この四層の盾が全て打ち破られればシーラに甚大な被害が及ぶこととなる。

 

少なくとも現段階では第一の防波堤であるスターファイター隊によって敵の攻撃は防がれていた。

 

だが同時に敵のある“()()”によってスターファイター隊も迂闊に手が出せない状態であったが。

 

「しかし元帥殿、どうする?あの敵艦は……」

 

ヴォレスク司令官は不安気な表情をヴィルヘルムに向けた。

 

あのルクレハルク級はシャトルを3機搭載していただけで他にドロイド・スターファイターなどのものは搭載されていなかった。

 

その代わりにルクレハルク級はこの巨大な船体のほぼ全てにライドニウムなど大量の爆発物を搭載していた。

 

下手にスターファイターが攻撃して1発でもライドニウムに被弾したら一気に誘爆して周囲の味方まで巻き込んで大損害を起こしかねない。

 

あれがもし地上で爆発すればシーラの首都クサプラーは地下都市ごと吹き飛ぶだろう。

 

なんならこのまま迎撃しても軌道上の艦隊に少なからず被害が出る。

 

「せめて動きだけでも止めよう。スターファイター隊各機、ルクレハルクのエンジンだけでも破壊出来ないか」

 

『セイバーリーダーより司令部へ、エンジンだけならば誘爆の危険性はありません。なんとかやれるはずです』

 

「ではエンジンを破壊して足を止めろ。対策を講じるまでの時間を稼ぐんだ」

 

『了解…!!』

 

ヴィルヘルムの命令でスターファイター隊が一斉にルクレハルク級のエンジン部分に攻撃を開始した。

 

流石にデリケートなエンジン部にまで爆薬は仕掛けられていないだろうと考えた上での命令であり、ヴィルヘルムの予測は当たった。

 

TIEボマーとヌシス級クロークラフト・ボマーの精密爆撃によってエンジンに一点集中のダメージが与えられた。

 

数の上ではこちらが有利、後は時間さえ稼げれば解決方法があるはずだ。

 

「大佐、我々の艦隊の中で最も単艦で尚且つ一撃の火力が高い軍艦はどれだ」

 

ヴィルヘルムは幕僚のメルトノフ大佐に尋ねた。

 

大佐はすぐに「この中ですと恐らくオナガー級“ヴァニッシャー”です」と答えた。

 

「オナガー級か、確かに強力な砲艦だが…」

 

「だがあの艦の火力では最大火力を持ってしてもルクレハルクを一撃で消滅させるのは難しい。必ず誘爆を起こして被害を出すはずだ」

 

オナガー級スター・デストロイヤー。

 

超重合成ビーム・ターボレーザーを備えるこの軍艦はその出力源をカイバー・クリスタルで補う超兵器搭載艦の一つであった。

 

火力はジストン級ではないがそれでもたった一撃で都市や山など吹き飛ばせるレベルの火力を有していた。

 

尤もタッグ元帥の判断通りオナガー級の火力ではルクレハルク級を誘爆することなく一撃で消滅させることは出来ない。

 

それが出来るのはジストン級などのスーパーレーザー搭載艦でなければ無理だ。

 

「だが箇所によっては誘爆を最小限に抑えられるはずだ。少なくとも通常の艦艇に砲撃を任せるよりは……」

 

「元帥、一つよろしいですか」

 

同じく幕僚のシェルノフ中佐が進言した。

 

「なんだ、言ってみろ」

 

「シス・エターナル軍の情報共有の中にあったあの理論を実践してみてはどうでしょうか。あの理論ならば“ヴァニッシャー”の主砲は2、3倍以上の火力を投射できます」

 

シェルノフ中佐の提案にヴィルヘルムを含め司令部の上級将校達は皆頭を悩ませた。

 

「あの理論はまだ実用化されていない、どの程度の効果があるのかさえもだ」

 

タッグ元帥はシェルノフ中佐に対して不安点を口にした。

 

彼が述べた理論は最悪オナガー級をオーバーフローで失いかねない。

 

「ですがシーラで開発中のスーパーレーザーが使えない以上、オナガー級でどうにかするしかありません」

 

チャルフ准将はシーラで扱える最大火力を例に挙げシェルノフ中佐を支持する側に立った。

 

「それにシス・エターナル側では何度か実験に成功していると記録されています。恐らく不可能ではありません」

 

シェルノフ中佐はそう進言した。

 

幕僚達も徐々にシェルノフ中佐の進言に賛同するようになっていた。

 

だが決めるのはこの場の最高位の階級を持つヴィルヘルムだ。

 

ヴィルヘルムの決断は早かった。

 

「分かった、中佐の案を取ろう。シャトルを手配しろ、確実に成功させたい。その為にはまず2人を回収せねば」

 

ヴィルヘルムはハンガーベイ226のカメラ映像に目を向けた。

 

ルークとマラ・ジェイド、そして候補生の1人のリョーレクがロー級輸送シャトルの中から出てきた敵と戦っていた。

 

敵の姿を見て上級将校達は皆顔を顰め、睨みつけるようにモニターを見ていた。

 

今ルーク達が戦っている敵が後に彼らの“()()()()()()”となる。

 

「あれが我々が対峙する…来るべき敵……」

 

幕僚の1人であるセシウス少佐はモニターを見つめてそう呟いた。

 

若い将校の中にはあの敵を初めて見るという者も多かった。

 

名前だけ知っているのと実際にその姿を見ているのでは大きな差がある。

 

「増援部隊を送って早急に敵を始末せよ。あの3人、少なくとも2人は急いでついれていきたい」

 

「了解…!」

 

ヴィルヘルムは至って冷静な表情で状況を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

ルーク達とロー級の中にいた刺客との戦いは熾烈を極めていた。

 

あの刺客が持っている武器、武器というより生物だろうか。

 

蛇のようなスタッフが時々硬くなってライトセーバーの攻撃を防いだり逆に軟化して鞭のようになったりした。

 

おまけに時々毒液を吐いてくるのだ。

 

辛うじてフォースで毒液を辺りに撒き散らして防いでいるが中々厄介な攻撃となっていた。

 

それに刺客の戦闘のセンスは大したものでかなり戦い慣れていた。

 

防御と攻撃を交互に繰り返し最悪防御が間に合わなくても全身のアーマーがライトセーバーの一撃を防ぐ。

 

刺客は随分と戦い慣れているようでそのせいだろうか、頭に大きな傷を負っていた。

 

「チッ!厄介な相手め!」

 

マラ・ジェイドは近くに落ちていたコンテナをフォースで刺客にぶつけ体勢を崩させた。

 

あの刺客にフォースの技は効かない。

 

マインドトリックもテレキネシスも効かない。

 

テレキネシスはせいぜい刺客を少しつまずかせられる程度に限定された。

 

マインドトリックが効かないのでは相手と意思疎通を行うことすら出来ない。

 

刺客は銀河標準語(ベーシック)どころかその他の主要な言語すら喋らず邪悪に近い呻き声と笑い声を上げるだけで会話が出来なかった。

 

だからこそマインドトリックの効果が期待されたのだがあの刺客には不思議なことにフォース全般の技が通じなかった。

 

通じるのはせいぜい物理的に相手にダメージを与えられるフォース・ライトニングかフォースで掴んだものを相手にぶつけるか、圧力の変化でダメージを与えるかの3つくらいだった。

 

最初にルークが攻撃を喰らった時もフォースで刺客の存在をキャッチ出来なかった。

 

この刺客だけまるでフォースとの繋がりが一切ないようだった。

 

そんなことあり得るのだろうか。

 

生き物である以上どんなものでも多少フォースとの繋がりはあるはずだ。

 

以前フォースとの繋がりがあるドロイドすらルークは目にしたことがある。

 

相手は生物ですらないのか。

 

いや、しかしだ。

 

もし相手が“()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

マラ・ジェイドは一気に刺客に近づきそのままライトセーバーの斬撃を与えその場を離れた。

 

今度はマラ・ジェイドの背後に隠れていたルークとリョーレクの版だ。

 

彼女が与えた箇所と同じ所に2人は斬撃を与えた。

 

流石に瞬間的に同じ箇所を3回も斬られたら耐久値が限界に達したのか斬撃が通り刺客の肉体に直接ダメージを与えた。

 

斬撃の痛みが刺客に伝わり刺客は大きな呻き声を上げた。

 

ルークは間髪入れずに再びフォース・ライトニングを浴びせ傷口に更にダメージを与えた。

 

再び刺客は痛みによる絶叫を挙げた。

 

まるで獣の雄叫びのような声音であり刺客はすぐに気味の悪いうめき笑いを浮かべた。

 

さっきもそうだ、ルークが一番最初にフォース・ライトニングを浴びせかけた時も刺客は痛みに苦しむばかりか何故か笑い声を上げた。

 

今の刺客は口角を上げまるで痛みを喜んでいるようだった。

 

「笑ってる…?」

 

「気味の悪いやつですね…」

 

2人とも刺客の謎の行動に不気味さを覚えていた。

 

姿形も不気味で戦い方も不気味で声も不気味で行動も不気味。

 

相手と戦えば戦うほど相手のことが何も分からず後気味の悪さを覚える結果となった。

 

痛みを堪え刺客は再び持っている武器を軟化させ毒液と共に振り回し始めた。

 

「来るぞ!」

 

ルークの合図で3人は地面に伏せたりフォース・ジャンプで高く飛び上がり広範囲の攻撃を避けた。

 

地面に伏せたマラ・ジェイドは周囲に落ちていた戦闘員のブラスター・ライフルをフォースで拾い上げた。

 

引き金を引き、宙に浮いた何丁ものブラスター・ライフルから一斉にブラスター弾が放たれた。

 

それと合わせてハンガーベイにまだ使われていなかった自動防衛システムが起動しブラスター・タレットが刺客を狙ってブラスター弾を撃ち始めた。

 

あちこちから一斉にブラスター弾を受けて刺客が纏うアーマーにも限界が来た。

 

身体に弾丸を受けあちこちから黒い血のようなものが垂れていた。

 

それでも刺客はまだ立って気味の悪い笑みを浮かべている。

 

「このぉ!さっさとくたばれ化け物が!」

 

リョーレクは苛立ちと共に戦闘員達がまだ持っていたインパクト・グレネードを投げつけた。

 

リョーレクの技量ではまだインパクト・グレネードを1発しか投げつけられなかったが効力としては十分だ。

 

インパクト・グレネードは刺客の近くに落下紫蘇の衝撃で爆発した。

 

爆発の熱と破片が刺客の肉体を少し抉ってダメージを与えた。

 

「どうだ…!?」

 

爆風が過ぎ去り攻撃を喰らった敵の姿が露わになった。

 

インパクト・グレネードの爆発で足が吹き飛んでおりアーマーもだいぶ傷ついて黒い血のような液体があちこちから垂れている。

 

顔は俯き頬から黒い血が垂れている。

 

持っていた武器も蛇のような頭が途切れ飛んでおり軟化したまま動かなくなっていた。

 

暫く何の動きもなかったので2人は死んだのではないかと考えた。

 

普通ならフォースで感知出来るのだが元々フォースが感じられないので目で判断するしかない。

 

「やったん…でしょうか……」

 

リョーレクは相手を倒したと考えライトセーバーを下げようとしたがマラ・ジェイドが注告した。

 

「いや、まだ油断するな」

 

相手が未知の存在である以上本当に死んだかの確証はない。

 

それにこれは戦闘だ、最後まで油断は出来ない。

 

彼女の戦闘者としての判断は正しく刺客の武器を持つ右腕がピクリと動いたのが見えた。

 

再びあの武器を鞭のように振るうつもりなのだ。

 

「また来るぞ!!」

 

マラ・ジェイドは急いでリョーレクに攻撃が来るのを伝え防御と回避の準備をした。

 

だが刺客が再び攻撃を行うことはなかった。

 

ブォンという一音と共に刺客の胴体が真っ二つに斬り裂かれて地面に崩れ落ちた。

 

それから本当に刺客はピクリとも動くことはなく完全に息絶えた。

 

「ルーク!」

 

「マスター!」

 

刺客の亡骸の後ろに立っていたルークはその振り下ろした刃をしまい、骸を見下ろした。

 

ルークは最初の広範囲攻撃を回避し回り込むように刺客の後ろを取った。

 

そしてインパクト・グレネードの爆発でも死ななかった刺客が再び攻撃する前にトドメを刺したのだ。

 

マラ・ジェイドとブラスター・タレットの攻撃にリョーレクのインパクト・グレネードの爆発によってアーマーは限界に近づいていた為ライトセーバーの一撃で斬り倒すことが出来た。

 

静かな一振りが襲撃者に最期を告げた。

 

刺客を倒したのとほぼ同時にブラスト・ドアが開きストーム・コマンドーの3個分隊が一斉にハンガーベイの中へなだれ込んできた。

 

先行した戦闘員や死んだ刺客にブラスター・ライフルを向け周囲を警戒した。

 

「戦闘員の何人かはまだ生きてる。監房室にまずは入れた方がいい」

 

ルークは端的に状況を説明しストーム・コマンドーの分隊長と思わしき人物が小さく頷いた。

 

気絶した戦闘員達はすぐ手錠をつけられ後から来たストームトルーパー部隊によって引きづられていった。

 

一方刺客の亡骸は何か特別なカプセルに入れられそのままストーム・コマンドーの1個分隊が厳重な警備態勢のままどこかへ運んで行った。

 

「スカイウォーカー殿、マラ・ジェイド殿、それとリョーレク准尉、ヴィルヘルム・フェル最上位元帥より協力要請が出ています」

 

宇宙軍の将校を2人引き連れた少佐と思わしき人物は3人に敬礼しそう告げた。

 

「出頭要請?」

 

「はい、あなた方の“()()()()()()”が必要なのです」

 

 

 

 

 

-惑星シーラ軌道上 オナガー級スター・デストロイヤー“ヴァニッシャー”艦内-

『セイバー中隊、ルクレハルクのエンジンを全て破壊した。これで目標は動けなくなったはずだ』

 

『セイバー中隊及び全スターファイター隊、よくやった。後退し安全圏である第二線で待機せよ』

 

『了解』

 

ルクレハルク級に対する攻撃を終了したフェラー大佐らスターファイター隊は最大速度でその場を離れた。

 

ゴザンティ級やクエーサー・ファイア級のような迎えの艦が先行して何機かのスターファイターを回収する。

 

その艦列の中に一隻、特徴的なハンマーヘッド・コルベットの向きを変えたようなスター・デストロイヤーが存在していた。

 

それがオナガー級スター・デストロイヤーの“ヴァニッシャー”だ。

 

安全圏のギリギリまで近づいてそこから超重合成ビーム・ターボレーザー砲を放つつもりだ。

 

「間も無く安全圏限界100メートル付近にまで接近します。これ以上の接近は艦の安全が保たれません」

 

「もう50メートル近づけさせろ、出来る限り近距離で放つんだ」

 

副長のルハイドフ中佐の進言に“ヴァニッシャー”艦長のヴラドン・ラノヴィチェンコ上級大佐は航行士官達にもう少し近づけるよう迫った。

 

彼はインペリアル級の艦長になった頃から超兵器や核弾頭などの戦略兵器の運用部隊の指揮を務めていた。

 

その功績があってラノヴィチェンコ上級大佐はオナガー級という帝国軍、特に亡命帝国の中では数の少ない超兵器搭載艦の艦長に任命されたのだ。

 

「安全圏限界50メートルに到着、機関停止します」

 

「艦を固定し、砲撃準備。目標をロックしろ」

 

ラノヴィチェンコ上級大佐の命令で“ヴァニッシャー”はその場に停止し超重合成ビーム・ターボレーザー砲による砲撃準備を始めた。

 

今回の砲撃は今まで演習で放ってきたような砲撃ではなく新たな概念を取り入れた実験的な要素の強い砲撃だ。

 

その分危険も大きいがシーラに迫る脅威を排除するにはこれしかない。

 

SHCBTL(超重合成ビーム・ターボレーザー砲)標準システム起動、ターゲットを前方ルクレハルク級LH-3210貨物船にセット」

 

「了解、照準入力開始します」

 

砲術長のティポシン中佐は照準システムのロックを解除し部下の砲術士官達が照準入力を行った。

 

大体はドロイドやコンピュータが狙いを示せば様々な計算を行なってくれるので人間の砲術士官は最終チェックを行う。

 

「誤差修正マイナス3度、直線上に味方及びデブリは確認出来ず、ターゲットロック…!」

 

「砲撃用意、安全装置を解除しエネルギーチャージ。エネルギー収束装置を起動」

 

「収束装置、チェックします」

 

専門の技術士官がブリッジでカイバー・クリスタルを用いた収束装置を監督していた。

 

同じ“ヴァニッシャー”の収束装置管理室では数十人の帝国軍兵器技術者達が共振装置を管理している。

 

管理室の室長はヴォスマン上級大尉、コレリア帝国アカデミー技術部門を卒業した後応用科学研究所を卒業し去年までシーラに出来た新しい工兵アカデミーのスタッフを務めていた。

 

生粋の技術将校であり“ヴァニッシャー”での経験を積んだ後、別の超兵器搭載艦に移動になるだろうとされていた。

 

「管理室よりブリッジへ、収束装置は安定して稼働中。フォース・パワーを用いたカイバー・クリスタルとの共振行動の許可を願います」

 

『ブリッジ、こちらでも稼働の安全性を確認した。共振行動を許可する』

 

「ブリッジ、了解した。それでは、お願いします」

 

ヴォスマン上級大尉は隣にいたルーク、マラ・ジェイド、リョーレクに頼んだ。

 

「分かった、2人とも意識を合わせて。瞑想を用いてカイバー・クリスタルと共振する」

 

マラ・ジェイドとリョーレクは頷き3人は目を瞑り意識を集中させフォースを用いてカイバー・クリスタルと共振した。

 

3人のフォースがカイバー・クリスタルと結びつきカイバー・クリスタルの能力を解き放った。

 

その様子をヴォスマン上級大尉は多少疑問を含んだ目で見ていたが収束装置の数値を見て既に変化を感じ取っていた。

 

チャージされた超重合成ニーム・ターボレーザー砲用のエネルギーが収束装置を通ってそのパワーが何倍にも膨れ上がっている。

 

通常ではあり得ないことだ。

 

当然その様子はブリッジでも確認されていた。

 

「エネルギーチャージ率250%を超えました、さらに上昇中」

 

「SHCBTLの全安全装置を解除し砲塔を最大まで拡大します」

 

ティポシン中佐は再び解除コードを打ってオナガー級の安全装置と超重合成ビーム・ターボレーザー砲の砲塔を拡大した。

 

通常サイズで撃ってはエネルギーの膨大さ故に艦が損傷する恐れがある。

 

「フォースによるカイバー・クリスタルの共振……何故ここまでエネルギーが倍増するんだ?」

 

「恐らくですがフォースの共振によってカイバー・クリスタルの収束能力と増幅能力が格段に飛躍したからだと思われます。本来はない機能もフォースによって引き出されたと」

 

技術士官であるブリシュコ中佐はラノヴィチェンコ上級大佐にそう説明した。

 

彼はヴォスマン上級大尉と同じコレリア帝国アカデミー技術部門を卒業した後応用科学研究所も卒業した。

 

その後暫くはスカリフの安全管理施設やヴァルト核融合実験施設など帝国軍先進兵器研究部門の一員として働いていた。

 

それから移動になりサンクト宙域の技術研究部門で研究を続けていた。

 

そんな技術部門の出世街道を歩んできたブリシュコ中佐でも予測でしかこの出来事は把握出来ていなかった。

 

かつてゲイレン・ウォルトン・アーソ博士が“()()()()()()”に携わる前に一時期行っていた研究ではカイバー・クリスタルとフォースについての研究がなされていた。

 

カイバー・クリスタルはフォースに共振する特殊な鉱石でありそれ故にジェダイのライトセーバーはカイバー・クリスタルが原材料となっている。

 

フォースはカイバー・クリスタルの眠れる力を引き出す能力があり我々はまだカイバー・クリスタルについて知らない能力があるのではないか、我々はまだカイバー・クリスタルの限界を勘違いしているのではないか。

 

この研究の後すぐにクローン戦争が始まりアーソ博士がこれ以上この論文を書くことはなかった。

 

そもそもここに出てくるジェダイは皆反逆罪で即時処刑されブリシュコ中佐が軍人になる頃には1人も存在していなかった。

 

だが今まさに同じ艦の中に同じ力を持った者がいる。

 

そして決して見ることはなかったであろうアーソ博士が言った“眠れる力”を目の前で見ている。

 

「充填率900%で停止、最大チャージです」

 

「分かった、最終確認だ。周辺に味方がいないか確認し砲塔周辺の人員を退避させろ」

 

「了解」

 

念には念を入れたラノヴィチェンコ上級大佐の確認によって“ヴァニッシャー”は得られる限りでの最大限の安全を保ったまま砲撃体制に移ることが出来た。

 

「周辺域に味方確認できず」

 

「乗組員の退避完了しました」

 

「SHCBTLのシステムを再確認しました、問題ありません。いつでも撃てます」

 

士官達は次々と報告し後はラノヴィチェンコ上級大佐の命令を待つだけとなった。

 

隣でルハイドフ中佐が「艦長…!」と指示を仰いだ。

 

上級大佐は静かに息を吸って吐くと緊張を噛み締めて命令を出した。

 

「超重合成ビーム・ターボレーザー砲、発射!!」

 

その一言で“ヴァニッシャー”の超重合成ビーム・ターボレーザー砲は今まで見たことのない巨大な極太のレーザーを撃ち放った。

 

オナガー級の船体の全高を遥かに超える巨大なビーム・レーザーが真っ直ぐ一直線に放たれ宇宙空間にビームの色を鮮明に残した。

 

他の軍艦からも“ヴァニッシャー”が放つビーム・ターボレーザーの姿がよく見えている。

 

ビーム・ターボレーザーの“投石(Onager)”などでは言い表せない巨大なエネルギーの塊がルクレハルク級を目指して突き進んでいた。

 

ルクレハルク級の船体装甲がレーザーに触れたと思った瞬間に一気に船体全てがレーザーに飲み込まれた。

 

ライドニウムなどが誘爆する間も無くルクレハルク級は溶解しもはや存在すら認識出来ないほど粉々になって消え去った。

 

目標のルクレハルク級を容易に消し去った後でもビーム・ターボレーザーはその全てのエネルギーを出し切るまで吐き出され続けた。

 

とてつもない衝撃が“ヴァニッシャー”を襲い艦内が激しく揺れた。

 

あまりの衝撃の大きさに“ヴァニッシャー”自体が後ろに下がりそうになっていた。

 

「くっ…!全速力を出して何とか衝撃を相殺しろ!!この艦の強度なら辛うじて押し潰されないはずだ!!」

 

ラノヴィチェンコ上級大佐の命令によって“ヴァニッシャー”のエンジンが吹き出し辛うじてその場に留まることが出来た。

 

衝撃はエネルギー収束装置管理室に当然きていた。

 

むしろここは衝撃よりもカイバー・クリスタルから放たれる謎の光の方が遥かに影響が強かった。

 

「ウワァァ!何の光だ!?」

 

「分かりません!!ですがカイバー・クリスタルから放たれています!!」

 

ヴォスマン上級大尉と兵器技術者の会話はルークには聞こえていなかった。

 

ただフォースが彼とカイバー・クリスタルを共振させていた。

 

そしてフォースはこの共振にあるものを流した。

 

ルークも光の中に包まれ“()()”を超えて未来も過去も全ての先へと流された。

 

ルークは静かに目を開けた。

 

ルークは見ず知らずの場所に立っていた。

 

ここはどこか、少なくともスター・デストロイヤーの艦内ではない。

 

ルークは辺りを見渡した。

 

一緒にいたはずのマラ・ジェイドもリョーレクも技術大尉もいなかった。

 

ただ夕陽が輝く塩の大地に立っていた。

 

ルークの前の前には帝国軍のAT-ATが進化したようなアサルト・ウォーカーの前に2人の男が遂になって立っているのを目撃した。

 

片方の男は全身黒い服で片手には赤い“()()()()()()()()()()”を持っていた。

 

もう片方の男は髭が生えた初老の年寄りといった感じでルークは何故だか“()()()()()”と感じた。

 

老人は若者に向かってこう呟いた。

 

-素晴らしい、今お前がいったことは全て間違っている-

 

その一言と共にルークがいる場面はまた大きく変わった。

 

今度は帝国軍の施設にた。

 

ここはどこだろうか、宇宙空間の中にあるステーションだということは分かる。

 

ある1人の帝国軍の女性将校の周りにはたくさんの帝国軍の将軍や提督がいた。

 

しかし彼らは皆纏まりのない自分勝手な事ばかり呟き、まるで議論になっていなかった。

 

そんな中女性将校が一言呟いた。

 

-帝国は一つ、艦隊は一つ、これが我々の勝利を保証してくれる唯一の戦略です-

 

その一言と共に時が少し先に流れ今度は同じ会場で辺りに毒ガスが流れ無意味な会話を続けていた将軍や提督がバタバタ倒れていた。

 

唯一助かったのは彼女に理解を示した立派な白髭を蓄えた老将校だけだった。

 

不思議なことにルークはこの将校を訓練中にシーラで見かけたことがあった。

 

再び場面は転換し今度はまた別の場所に移った。

 

目の前に自分がいる、そしてその隣にはマラ・ジェイドがいる。

 

2人はマラ・ジェイドが抱き抱える赤子に笑みを浮かべていた。

 

あの子は一体誰だ、どうして自分も優しい気持ちになる。

 

今度はまた別の場面に移った。

 

先ほどの初老のルークが燃え盛る寺院の前で絶望したように座り込み相棒のR2を撫でていた。

 

それからまた場面は変わった。

 

今度はルークがエクセゴルでシディアスの座っていた玉座に座っている。

 

ルークの前の前には2人の男女が彼に跪いていた。

 

1人はさっきのクロスガード・ライトセーバーの青年、そしてもう1人は一体誰だろうか。

 

何故か彼女から流れる血は“()()()()()()()()()()”でもあるし“()()()()()()()()”であるような気もする。

 

完全に理解することは出来ず別の場所へと送られた。

 

見慣れた帝国軍の施設内、1人の黒い帝国軍の軍服を着た男が淡々と復讐心と狂気と悲しみを込めて語りかけていた。

 

「第三帝国を許すな、未知領域から、いや銀河から彼らを駆逐した先に我々の未来はあるのだ。復讐せよ、雪辱を果たせ!奴らをこの銀河から一掃しろ!奴らに与える“()()()”こそが我々の最後に与える“()()()”となる!」

 

男の背後には双頭の不死鳥が帝国の紋章を掲げた黒い旗が掲げられていた。

 

だがルークは不思議なことにこれが自分の生きる世界の未来ではないことがわかった。

 

第三帝国は確かに今も存在している、だがこれはまた別の世界なのだろうと。

 

それも狂気と暗黒に満ちた黒い世界。

 

そう知覚した瞬間フォースは最後に彼に彼が今生きる世界の未来を見せた。

 

数年後のコルサント、美しい街だったはずのこの地は辺り一面廃墟になっておりあちこちから砲撃の音が聞こえる。

 

そこら中をストームトルーパーや兵士が闊歩しそれをまともな装備もない民兵が必死に守っていた。

 

あちこちから様々な軍旗が登っておりその中にはレジスタンス軍やチス・アセンダンシー軍のものもあった。

 

このコルサントの姿がある“()()()()()()()()”を何故だか想起させた。

 

人々は逃げ惑い悲鳴がどこからでも聞こえる。

 

そんな中ある一角の建物が爆発しその近くを1機のスターファイターが飛んでいた。

 

死と崩壊と報いに塗れたコルサントがこの世界の行き着く先の一つだと言うのか。

 

それはまだ分からない、決めるのは自分たちなのかもしれない。

 

そんな中ふとベンの声が聞こえた。

 

-ルーク、忘れるな。フォースはいつも共にある-

 

-ずっと我々も側にいる-

 

-未来の子供達を導け、若きスカイウォーカー-

 

ベンだけはなかった、自分の父と自分の師の声も聞こえる。

 

ルークは小さく頷き決意を新たにした。

 

我々はフォースと共にある、父がそうであったように、妹もそうであるように、これから生まれてくる子供達がそうであるように。

 

その為にはまず数万年に渡る対決に終止符を打たなければ。

 

5つの仮面を被った女官達が見守る中、ルークの意識はゆっくりと現実へ帰っていった。

 

 

 

つづく




わ し や ! ! !

ナチ帝国のお時間です

これで確か60数話、もう早いことでナチ帝国を投稿してから2年が経とうと(と言うか多分経った)しています

早いですね〜書いても書いても全然終わりませんね〜

まあこれからもゆっくりナチ帝国は書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします

後そういえば今日から2日後が帝国の日(ツイッターラント限定)なんですけど…



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決戦の後の月の下で

「皇帝陛下のいない銀河帝国なぞ、価値があるものか!」
-ある帝国特任総督の発言-


-コア・ワールド 第三帝国領 アルサカン宙域 アルサカン星系 惑星アルサカン 55-02演習場-

アルサカンの惑星内部には第三帝国の軍事施設が存在しその中には市街地戦、野戦、要塞攻防戦などの演習場が存在していた。

 

このうちの幾つかの施設はかつて新共和国が使っていたものでありアルサカンを奪還した第三帝国は施設をそのまま使っていた。

 

当然新共和国軍の紋章や名残などは消し去られているがそれでも所々面影が滲み出ている。

 

何せ当初の仮想敵は当然帝国軍だった訳で射撃演習場などの的は全てストームトルーパーを模していた。

 

現在ここではセキューター級“ライアビリティ”によって運搬された第9FF装甲擲弾兵軍団の一部将兵が戦闘演習を行なっていた。

 

当然演習内容は対ナブー奪還作戦、平原や市街地での戦闘を重視しストームトルーパーや軍団に所属する特殊部隊の隊員達が演習に励んでいていた。

 

中でも第345中隊、シス・エターナル軍から提供されたシス・トルーパー達は鬼神の如き働きで演習での作戦目標を実行していた。

 

彼らは1人1人の練度が高いだけでなく死んでも目標を達成するという気迫に満ち溢れている。

 

全員が常に死兵となった状態だ。

 

それに加えて彼らが持つ新装備が戦闘能力を向上させているのは言わずもがなだろう。

 

擬似司令部から受ける報告を聞いているだけでもその凄まじさが分かる。

 

「第557猟兵大隊が敵司令部の制圧に成功」

 

「第908装甲大隊は友軍の補給部隊と合流、他のウォーカー部隊と合流し敵残存兵力の掃討に移ります」

 

演習とはいえ作戦は優勢を保ったままかなり高速で進んでいった。

 

司令部ではジークハルトやアデルハイン大佐らが幕僚に囲まれて次の指示や戦術を練っている。

 

「装甲擲弾兵部隊を市街地と平原の敵の間に展開し退路を絶て、予備の歩兵部隊は市街地に」

 

「了解」

 

各部隊に通信士官が連絡を取り軍団全体を動かしていく。

 

その間にもホロテーブルを囲んで軍団の頭脳達は状況を冷静に見ていた。

 

「ハイネクロイツ大佐の航空旅団は前線での要請地点に航空支援を展開し戦線の突破を支援しています」

 

「このまま機動力に優れた軽ウォーカーやタンクを主軸に敵部隊を殲滅しましょう」

 

「ああ、砲兵部隊を……いやメルゲンヘルク大佐、この場合軌道爆撃は敢行出来るか」

 

ジークハルトは隣に控えていた“ライアビリティ”艦長のメルゲンヘルク大佐に尋ねた。

 

彼は今回艦隊のアドバイザーとして演習の司令部に参加していた。

 

ライアビリティ”の艦長を務める前は艦隊の参謀将校を務め軌道爆撃、上陸作戦の調整を務めていた。

 

「可能です、ですが地上の掃討となるとアークワイテンズ級やヴィクトリー級の爆撃で十分でしょう」

 

「分かった、指定したポイントに軌道爆撃を要請。爆撃が済んだら全部隊で掃討を開始せよ」

 

「了解」

 

「大尉、それとメルゲンヘルク大佐はちょっとついて来てくれ」

 

ある程度参謀達に命令を出しジークハルトはヴァリンヘルト大尉とメルゲンヘルク大佐を連れ出して司令部の外に出た。

 

警備のストームトルーパーや将校らが時々敬礼し4人は敬礼を返した。

 

そのまま4人は人気のない司令部から少し離れた場所に出た。

 

「このままだとこの演習は後1時間で終わる、既に作戦は市街地でも平原でも掃討戦に移行している」

 

「予定よりかなり早かったですね、演習ということもありますがこの練度なら奇襲さえ成功させればホズニアン・プライム以上に電撃的にナブーを制圧出来ます」

 

「31兵団との合同演習でも双方の練度と連携力は確認出来ましたし後は反復して訓練を重ねるだけですね」

 

第9FF装甲擲弾兵軍団は元々練度の高い部隊であったがこの数十ヶ月の休養と訓練の積み重ねにより更に高い練度にまで上げることが出来た。

 

戦闘ばかりでは確かに実戦の経験は積めるが部隊は疲弊し続ける。

 

今回も軍団の半数の戦力をアデルハイン大佐の指揮下の下、まだコルサントに残してある。

 

当然作戦が始まれば全戦力をナブーに投入する事となるが。

 

「本艦の揚陸能力も度重なる訓練とこのような演習の機会で飛躍的に向上しています。後は本番で予定通り進めれば良いのですが」

 

「そうさせるのが我々の仕事でもある。そういえば大佐が私と直接共にこのような作戦行動を行うのは十三防地以来だったな」

 

ジークハルトはふと何か苦々しいものを思い出したようにメルゲンヘルク大佐に呟いた。

 

メルゲンヘルク大佐も同じような表情で「そうでしたね…」と頷いた。

 

それ以外の作戦立案や艦艇の中ではよく会う事はあったのだが上陸戦ではあの思い出したくもない激戦以来であった。

 

「……あの戦いは私もよく覚えています、丁度フリズベン上級将軍の配下でした。心中お察しします…」

 

「……あの時大佐は私の部下達の遺体回収などに尽力してくれた、せめて遺族や仲間の下に還れたのは救いになったはずだ……指揮官が優秀だったらこんなことになっていないだろうがな」

 

十三防地の戦い、それはまだ銀河内戦の末期に新共和国軍が当時勢力を保っていたノートハーゼン宙域の帝国軍を撃破する為に行った上陸戦だ。

 

戦場となったのが第十三外縁衛星という居住可能な衛星であった為後にその名が名付けられた。

 

戦いは3回に渡り繰り広げられその全てに当時ジークハルトが率いていた部隊が参戦していた。

 

まだ第一次、第二次は新共和国軍の上陸戦力は少なかった。

 

当時中隊長、大隊長で手持ちの兵力も今ほど大きくなかったジークハルトの部隊でも撃破し防衛に成功することが出来た。

 

尤もそれはジークハルトの指揮官としての能力とアデルハイン大佐やゲアバルドの献身的なサポートのおかげでもある。

 

この戦いでジークハルトは少佐へと特例で昇進し佐官へと上がった。

 

本来喜ばしいことなのだが悲劇はこの少佐への昇進が正式なものとなる時に起こった。

 

ジークハルトが正式な昇進の為にノートハーゼン本国へと召還され部隊の指揮を臨時でゲアバルドが取ることになった。

 

それが悲劇だったのだ。

 

その間に新共和国軍による本格的な第十三外縁衛星への上陸戦が始まった。

 

新共和国軍の戦力5個師団に対しゲアバルドが率いる部隊の戦力は大凡一個大隊、あまりにも絶望的な戦力差であった。

 

上陸は素早い情報伝達で察知されすぐに救援軍が編成され衛星へと駆けつけた。

 

お陰で衛星への上陸は阻止し新共和国軍にも打撃を与えられた。

 

だがそれでも一足遅かったのだ。

 

既に部隊の半数が必死の抵抗の末戦死し代理の指揮官だったゲアバルドも指揮所に砲撃を受け戦死した。

 

ジークハルトが不在の間に彼の部下の半数以上と彼の親友が失われた。

 

その事は今もなおあの戦いを生き残りジークハルトと共に第9FF装甲擲弾兵軍団に所属している古参の将兵達は記憶している。

 

アデルハイン大佐も、他の多くの下士官将校の者達も。

 

「あの戦いは勝ちはしたが我々は勇気ある精鋭の兵士達を多く失った。ですが今回はそうではありません、再び必ず連中に報いを受けさせてやりましょう」

 

「……そうだな、そうしないとあいつらに顔向け出来ないもんな」

 

「…何か…?」

 

ジークハルトは小声でそう呟き自らの心に再び戒めの杭を打った。

 

すぐに「いやなんでもない」と気を取り直しメルゲンヘルク大佐にあることを頼んだ。

 

「既に残りの演習内容は各連隊長や参謀達に伝えてある。それと私は一足先にコルサントに戻らなければならない。何か1機シャトルを貸してくれないか?」

 

「シャトルですか?ラムダ級が何機か空いていますが何かご予定でも?」

 

「准将はこれから国内予備軍の動員令作成会議にアドバイザーとして出席される予定でして」

 

どういう訳か国内予備軍と地上軍参謀本部の編成課の動員令作成会議にジークハルトが呼ばれた。

 

ナブーの作戦もあるというのにジークハルトの中では少し不可解な感情が生まれていた。

 

とはいえ呼ばれたのだから行くしかあるまい。

 

事情を納得したメルゲンヘルク大佐はすぐに了承した。

 

「ではこちらで許可を出しておきます。短い航路ですがどうぞお気をつけてください」

 

「苦労をかける、では頼んだ。出発は明日になりそうだ、パイロットの方は大丈夫そうか?」

 

シャトルを1機動かすにしても最低2人のパイロットは必要だ。

 

アルサカンからコルサントまでの距離はそこまで長くないとはいえそれでもパイロットには苦労をかける。

 

「予備として待機中の操縦手がいます。なんでしたらハイネクロイツ大佐に頼まれては?彼ならどんなことがあろうとすぐ了承してくれますよ」

 

「それは最後の手段だな、TIEファイターのように私達が乗るシャトルを操縦されては困る」

 

ジークハルトは冗談混じりに断りを入れた。

 

メルゲンヘルク大佐も苦笑気味だ。

 

結局あいつにコルサントのスカイ・レーンを運転させた時もかなり荒っぽいものだった。

 

せめてアルサカンとコルサントまでは安全に穏やかに行きたい。

 

「では我々も司令部に戻るとするか、作戦終了と共に各隊には休憩を取らせて1時間後には各隊毎に制圧後の残存ゲリラ戦力の掃討演習を行わせる」

 

「了解、その間に我々は演習の分析ですね」

 

ヴァリンヘルト大尉の言葉にジークハルトは小さく頷き3人は司令部に戻り始めた。

 

大尉も随分と副官職に慣れてきたようだ。

 

そろそろ彼も別の参謀職や部隊長になる頃だろう。

 

そうなれば少し寂しいが部下の出世は嬉しいことだ。

 

こうして新しい世代が育っていく、帝国軍は今後も続いていくだろう。

 

きっと平和な時代になっても、あの子達(マインラートとホリー)が大きくなった後でも。

 

もう少し戦い続けなければならない。

 

あの戦いで失われた全ての同胞達へ報いる為にも。

 

ジークハルトは制帽を被り直して司令部へと戻った。

 

 

 

 

-モッデル宙域 エンドア星系 惑星ケフ・バー 第二デス・スター墜落地点-

もう5年も前のことだ。

 

かつてここで戦いが起き、多くの人が死んだ。

 

ここで死んでいった人々は自由の為に戦った者もいれば秩序の下戦った者もいた。

 

その中に第一銀河帝国という最大の国家を建国した皇帝と皇帝の右腕として恐怖の代名詞となった暗黒卿が含まれていることは有名な話だ。

 

多すぎる帝国の中枢を司る人物がこのエンドアという辺境の地で死んだ。

 

帝国宇宙軍の精神たる“エグゼクター”も、モフジャージャロッドが心身を削って僅か数年で半ば完成まで持ち込んだ第二デス・スターは小さな一突きによって破壊された。

 

本当に僅かな小さな一突きだったがその一突きが帝国を崩壊に至らしめた。

 

これこそがエンドアの戦いと呼ばれる銀河内戦史上最大のターニングポイントであり今でも勝利や反乱の象徴だ。

 

第三帝国が台頭しシス・エターナルの艦隊が銀河系に襲来してもそれは変わらない。

 

むしろ負けた側の第三帝国はエンドアの戦いに対して非常に強いコンプレックスを抱いている。

 

「エンドアは全く変わりがないようで安心した。第三帝国との緊張悪化の際に念の為予備兵力を置いておいたのが功を奏したな。何もなかったら今頃エンドアの森は焼け野原、イウォークたちは皆殺しにされていたはずだ」

 

ハンはファルコン号のコックピットの中で副操縦席に座るチューバッカにそう呟いた。

 

エンドアの戦い陰の功労者があの森の衛星には住んでいる。

 

その名はイウォーク、モフモフした熊のような生物で知覚種族ではあるのだがエンドアの森の中で狩猟による原始的な生活を送っていた。

 

その為ハン達とイウォーク達のファーストコンタクトは最悪であった。

 

お腹を空かせたチューバッカがイウォークの仕掛けた罠の餌を取ろうとして全員が捕まってしまったのだ。

 

生捕りにされたハン達はそのままイウォーク達が住むブライト・ツリー村に連れて行かれハンは後一歩でイウォーク達のメインディッシュとして食べられるところであった。

 

幸いにもイウォーク達はその場にいたC-3POを“()()”だと勘違いしルークが機転を利かせてなんとかした為今ではこうして良き友人として一緒にいるのだが。

 

「ああ……それでなんだが……3PO、なんとかこいつらをコックピットから追い出せないのか!?」

 

彼らの前には勝手にファルコン号のコックピットのスイッチ類を押そうとしたり機器を無造作に動かそうとしているイウォーク達がいた。

 

今回の作戦、いつもの3人と3POで行うにしては人手が足りないしかと言って他から持ってくる訳にもいかない。

 

そこで協力してくれる存在として白羽の矢が立ったのがエンドアのブライト・ツリー村に住むイウォーク達であった。

 

ハン達はブライト・ツリー村に現れたゴラックスという巨大生物をついでに倒す代わりに2人のイウォークを借りていった。

 

1人はウィケット・ウィストリ・ウォリック、ハンやレイアと最も親交の深いイウォークの戦士だ。

 

彼と一番最初に出会ったのはレイアだった。

 

エンドア潜入時にパトロール中のスカウト・トルーパーとバイクチェイスの末気絶したレイアをウィケットが発見した。

 

最初は何者か分からない為用心していたウィケットだったが次第に敵ではないことを悟り、エンドアの森を勝手に開拓する帝国軍駐屯部隊と共に戦う為協力した。

 

彼ら戦士の活躍により同盟軍の潜入部隊は全滅を免れ作戦を成功させた。

 

そしてもう1人はパプルー、彼もエンドアの戦いで一番最初に活路を開いたイウォークの戦士だ。

 

いざエンドアの帝国軍施設に潜入するとなった時シールド・バンカーには3人の見張りがいた。

 

当初ハンは1人ずつ片付けるつもりだったのだがパプルーがウィケットと相談した結果、この勇敢な戦士は勝手に1人でバンカーの目の前まで行ってスピーダー・バイクを盗み出した。

 

それに気づいた見張りのスカウト・トルーパー2人がパプルーの追跡に向かった為バンカーは手薄となりハン達は侵入に成功した。

 

彼がいなかったら最初から作戦は成功していなかったかもしれない。

 

「それは難しいご要望ですねソロ将軍、彼らファルコン号の目新しい機能に随分と興味を惹かれているようでして言っても聞きません」

 

「ああ、そうかい。だが神様なんだからなんとか出来るだろ」

 

「また私に神を演じろと仰るんですか!?」

 

「早くしてくれ、あっこらそれは押しちゃダメだ。席に戻って」

 

「…なんだか無事に着けるか心配になってきたわ」

 

レイアは少し頭を抱えるような感じでそう呟いた。

 

C-3POはなんとかイウォーク達を席に戻しミレニアム・ファルコンは目的地のケフ・バーへと急いだ。

 

惑星内に突入し大気の雲間を抜けて地表へと進む。

 

「星系のデブリ帯に目的のものは見つけられなかった。そうなるとやっぱり情報にあった通りこの星に墜落した残骸の中だな」

 

第二デス・スターの破壊によりエンドア星系には巨大なデブリ・フィールドが形成されこのケフ・バーにも巨大な残骸の一つが海上に墜落した。

 

だが不思議なことに巨大な質量を持った第二デス・スターの残骸が宇宙空間からケフ・バーの海上に墜落したのにも関わらずケフ・バーの生態系が破壊されることはなかった。

 

尤もレジスタンスの命運を賭けた任務を背負っているハン達がその事実に対する疑問を持つことはなかったのだが。

 

ミレニアム・ファルコンは暫くケフ・バーの上空を飛行しセンサーで地表の様子を探査した。

 

するとチューバッカがセンサーのモニターを差してみんなに何かを訴えた。

 

「どうしたチューイ……こいつは、“()()()()()()()”」

 

ハンはファルコンが捉えたセンサー映像を見るなり操縦桿を握り着陸態勢を取った。

 

「降りるぞ、目的地についた。敵はいないと思うが念の為警戒してくれ」

 

ハンとチューバッカはコックピットを離れミレニアム・ファルコンからケフ・バーの大地へと降り立った。

 

辺りはとても静かで少し冷えた空気が漂い風が辺りの草木を靡かせていた。

 

「聞いてた通り知覚生命体はいないな。まあ墜落したデス・スターに生き残りでもいたら別だが」

 

当然これはハンの冗談で一行は目的地を目指して歩き始めた。

 

ウィケットとパプルーは初めて来たこの惑星を物珍しそうにキョロキョロしながら歩いていた。

 

「デス・スターの破片が落ちたにしては綺麗な惑星だな」

 

「ええ、不気味なほどに」

 

レイアは少しこの惑星に不安を覚えていた。

 

破片といってもこの地に落ちた欠片は第二デス・スターの破片の中でも特に大きな部分だ。

 

宇宙空間から巨大な質量を持った物質が墜落すれば地表は正に地獄のような有様と化すはず。

 

しかしケフ・バーは未だ美しい自然を保ったままだった。

 

「この惑星に本当にデス・スターの破片が落ちたとならばこの程度の被害では済まないはずです。何せ質量が…」

 

「何か奇跡でも起きたんだろう、それか情報が間違いか。だがファルコンのセンサーはここに間違いなく墜落したって……」

 

3POの発言を遮るように喋り出したハンですら目の前に広がっている光景を見て言葉を失った。

 

レイアもチューバッカも目を開き目の前にあるこの自然に溢れた惑星には不似合いの代物に驚きを覚えた。

 

なんとなく目にしたことはあるがその重要性がまだ完全に分かってはいかったウィケットとパプルーは顔を見合わせ静かにそのものを見つめていた。

 

「確かに……“()()()()()()()”……あの異物が」

 

ハンは忌々しくそう吐き捨てた。

 

彼らの目の前には“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

しかもデス・スターの特徴的なスーパーレーザーを放つ“()”の部分の残骸だ。

 

尤もあの特徴的な“()”は爆発と共に吹き飛び目の前の残骸はその部分が僅かに残るだけだった。

 

チューバッカは「情報は正しかった」と呟いた。

 

「ああ、ファルコンをもっと近づける。念の為離れていたがこれならもっと近くに寄せても問題はなさそうだ」

 

チューバッカとハンは急いでファルコンに戻ろうとしたがすぐにレイアが「待って!」と2人を止めた。

 

2人はすぐに戻ってきて「どうした」と尋ねた。

 

「あれを見て…!」

 

レイアが指を差した先には見慣れた帝国軍のシャトルが停泊していた。

 

あの形状はセンチネル級着陸船で遠くから見てもデス・スターの残骸から出てきたにしては綺麗な形状をしていた。

 

すぐにチューバッカから手渡されたエレクトロバイノキュラーで再びセンチネル球を見た。

 

綺麗どころかあれは新品の、しかも“()()()()()()()()()()”機体だった。

 

「羽の部分を見てみろ、あの紋章は昔の帝国のものじゃない」

 

レイアはハンからエレクトロバイノキュラーを受け取りハンに言われた通りセンチネル級の翼に注目した。

 

彼の言う通り昔の帝国軍の紋章ではない。

 

あれは“()()()()()()()()”。

 

しかもセンチネル級のハッチが開き中からストームトルーパーが出てきた。

 

ヘルメットの特徴的な形状からして間違いなく第三帝国のストームトルーパーだ。

 

「なんで連中が態々ここにいるのか知らんがとにかく急がないと」

 

ハンはホルスターからブラスター・ピストルを引き抜きそう呟いた。

 

レイアもエレクトロバイノキュラーを降ろし、静かに頷いた。

 

 

 

 

-未知領域 チス・アセンダンシー領 首都惑星シーラ クサプラー 地下極秘管理室-

「シーラの襲撃事件、最後はオナガー級がルクレハルク級を吹っ飛ばして事件は鎮圧したんだって?」

 

プライド将軍は事件の一部始終を知っていたヴァシレフスキー少将に尋ねた。

 

この日、各軍管区の司令官達が集まる調整会議があった為プライド将軍もマイギートーから遥々シーラにやってきていた。

 

会議は終了しプライド将軍は司令部の極秘管理室の倉庫に呼び出された。

 

まだ時間もあるしクサプラーのレストランで同期の将校と飲む時間にまでまだ余裕があった為ヴァルージン大佐に後は任せてこの場所にやってきたのだ。

 

「ああ、だが想定を超えた一撃を放ったオナガー級はSHCBTLのシステムに異常が発生してクサプラーの軍港で修理とチェックを行っている」

 

ルークとマラ・ジェイド、リョーレクのフォースを用いた共鳴による砲撃を行ったオナガー級“ヴァニッシャー”は予想外の衝撃とエネルギー発射により船体の一部が損傷してしまった。

 

データの採取と修復も込めて“ヴァニッシャー”はクサプラーの軍港に入港した。

 

「俄には信じられないが……既に報告書には目を通した。襲撃者の侵入経路は?」

 

「警備隊のゴザンティ・クルーザーが燃料補給用の無人輸送船を領域内に幾つか発見した。GR-45タイプで完全に無人運用されていた」

 

状況証拠やアセンダンシーの保安情報組織と旧ISBを統合した国家統合保安局(National Integrate Security Bureau:NISB)が行った“()()”によればこんなことが分かった。

 

今回の襲撃者達はあのルクレハルク級を未知領域の奥地であるシーラまで送る為に無人のGR-45輸送船を幾つかのポイントに配置し帰還する時に燃料補給の場として使おうとしていた。

 

一方でシーラの防衛体制がここまで厳重とは聞かされておらず“()()()()()()()()”だと思っていたらしい。

 

「連中、誰から雇われたのかまだ吐いていないんだろう?」

 

プライド将軍はヴァシレフスキー少将に尋ねた。

 

「ああ、むしろNISBの職員達の報告書では『追及は不可能』と書かれていて本当に知らない可能性が高い」

 

保安局員達は様々な手法や自白剤を使って口では言えないような方法を用いた尋問も行った。

 

それでも捕まえた捕虜達は「わからない、知らない」の一点張りでそれ以上は無理だと判断された。

 

何人かは正体不明のクライアントから第三帝国のクレジットを受け取ったと話していた為一部では「第三帝国が黒幕なのではないか」と疑う声もあった。

 

しかし第三帝国のクレジットは既に様々なところで共通通貨として流通している。

 

何処の馬の骨とも知らぬ組織の差金かもしれない。

 

「となると我々に出来るのは防衛能力の強化だけか」

 

「既に警戒艦隊の増設が決定した。イーライ・ヴァント司令官とフェルノ司令官が当分着手する」

 

2人が雑談しながら歩いていると目的地に辿り着いた。

 

警備のストームトルーパーと1人のチス・アセンダンシーの将校がいた。

 

トルーパーと将校は2人を見るなりすぐに敬礼した。

 

「管理室警備長チェルファプサロノフ大佐です。お待ちしておりました」

 

「エンリク・プライド将軍と参謀本部のヴァシレフスキー少将だ」

 

2人はコードシリンダーをロノフ大佐に渡し念の為のチェックを頼んだ。

 

2人のコードシリンダーは正常に作動しておりすぐに検査機は安全を示すOKのサインが出た。

 

それを見るありロノフ大佐は2人を扉の向こうに連れていった。

 

「どうぞこちらに、フェル元帥からの許可は受けております」

 

ブーツの足音が管理室の倉庫の中に広がり奥へ進んでいった。

 

プライド将軍はあちこちに保管されているどこかの民族のものと思われる武具や装飾品を見渡した。

 

どれもプライド将軍は今まで一度も見たことないものばかりであった。

 

ヴァシレフスキー少将は一度目にしたことがあるのか平然としていたが。

 

管理室の倉庫の中には警備のトルーパーや将校だけでなく技術者や様々な部門の研究者達がいた。

 

当然3人とすれ違うこともありその度に将兵から敬礼を受けていた。

 

2人の階級は少将と将軍(General)、殆どの将兵達は頭の上がらない存在だ。

 

その中でプライド将軍の意識を引く会話をしている2人の将校(階級章を見ると2人とも中尉のようだ)の姿が見えた。

 

「細胞のサンプルは先兵研(先進兵器研究部門)の生物兵器科に回しておけ。分析にかけたいそうだ」

 

「了解」

 

「上手くいけば対外生物特化の兵器が出来るかもしれん……!」

 

2人はすぐにプライド将軍らに気づき敬礼した。

 

将軍とヴァシレフスキー少将らも敬礼しそのまま目的のものを目指して歩いて行った。

 

「この中には“()()()()()()”に対抗する為今までチスと帝国が収取してきた“()()”に関連するものが全て保管されています」

 

ロノフ大佐は2人に、特にプライド将軍へ説明を行った。

 

アーマーのようなものや武器のような生物のようなもの、培養ポッドに浮かぶ肉片の一部など種類は様々だ。

 

だがよく見ると全ての意匠に共通性が見られた。

 

少なくともこの銀河のデザインではないことは確かだ。

 

「今回の襲撃は完全に予想外の出来事だったが、これから見るものは特に予想外だ。今まで肉体の一部や武器類など僅かなものしか収集出来なかったが“()()()()()1()()”確保出来たのは大きい。たとえ死体であってもだ」

 

何分か管理室を歩くと再び巨大な扉が3人の前に立ちはだかった。

 

数十人のストームトルーパーが警備しており今度はロノフ大佐の部下と思わしき中佐が3人の前に出て敬礼した。

 

「プライド将軍とヴァシレフスキー少将をお連れした。開けてくれ」

 

ロノフ大佐は中佐に特殊なコードシリンダーを渡しドアを開錠するよう要求した。

 

中佐は自らコードシリンダーを差し込み「少しお待ちください」と検査機が判断するのを待った。

 

検査機は当然すぐにOKのサインを出し常時施錠されている扉が開錠した。

 

「では少将、将軍。どうぞ」

 

ロノフ大佐に連れられ2人は扉の奥へ足を踏み入れた。

 

扉の中の室内には幾つかのコンソールが据え置かれ、何人かの研究者と警備のトルーパーが控えていた。

 

だがそんな様子が霞むほど室内で最も目を引くある一つの設備が3人の目に入った。

 

巨大なポッドに肉体を維持する溶液が入っており、中には見慣れぬ姿をしたエイリアンが1体入れられていた。

 

このエイリアンは身体のあちこちに傷があり、胴体が真っ二つに裂かれていることからすでにこの生命体は死亡していることが分かる。

 

顔は骸骨に無理やり血肉を埋め込んだような異形の見た目で通常知覚生命体であるなら存在しないようなトゲや特徴が身体全体に垣間見えた。

 

「これが先日の襲撃時の際、警備ステーションに突入してきた部隊に紛れていた“()()()()()”です。身体の特徴や細胞などを見てもこの銀河系に存在しない生命体なのです」

 

ロノフ大佐ははっきりと断言した。

 

どのエイリアン種族や近人間種族にも似ていないこの外来生命体からはどこか死を思わせる不気味さがある。

 

「奴がどうやって襲撃部隊と合流したかは不明ですが奴は間違いなく“来るべき驚異”の“尖兵”であり、これから我々が戦う存在です」

 

「これが…」

 

プライド将軍は感慨深く外来生命体の亡骸を見つめた。

 

死を思わせる恐ろしさ、そして不気味さ、獰猛さが死んでいるはずなのにこの骸からは感じ取れる。

 

しかもこの外来生命体は我々この銀河の生命と全く関わりや共通点がないようにも見える。

 

まるで何か生命を繋ぐ糸のようなものがこの外来生命体だけポツリと切れているようなそんな感覚だ。

 

「報告書によればこの外来生命体は我が方の訓練中の候補生1名とエターナル側からの教官2名と戦闘した末死亡したそうだ」

 

「先兵研生物兵器科によれば脳に損傷が見られる為もしかするとこの個体はなんらかの記憶の欠落がある可能性が指摘されています。尤も生命活動や戦闘能力にはなんなら問題なかったようですが」

 

ロノフ大佐の報告を聞いて再び外来生命体の全身を見つめた。

 

彼の言う通りこの外来生命体には今回の戦闘で受けた傷以外にも頭に治ってはいるがまだ浅く残っている傷があった。

 

記憶に欠落があると言うことは仮に彼を捉えてNISBに“尋問”させても有益な情報は吐かせられないだろう。

 

それどころかNISBの尋問が効く相手かも分からない。

 

相手は本当に未知の敵なのだとプライド将軍はこの時思い知らされた。

 

「我々はやがて“()()”と対峙しなければならない。負ければ我々どころかこの銀河系の未来はない」

 

ヴァシレフスキー少将は固唾を飲み重い表情でそう呟いた。

 

彼の言う言葉はなんら抽象的でも胡蝶が入っているわけでもない。

 

むしろヴァシレフスキー少将の放った一言一句全てが真実なのだ。

 

プライド将軍も道中するように「分かっているつもりだ」と返答した。

 

「だからこそ我々は銀河系の争いに関与している余裕はないのだ。私がファースト・オーダーから移ったのもその為、この敵を打ち滅ぼすためだ」

 

ステッドファスト”の戦闘群を引き連れてプライド将軍は最初はファースト・オーダーの側につこうとした。

 

だが戦友達やアカデミーの同期達が彼に事情を話しプライド将軍をチス・アセンダンシーと亡命帝国に率いれた。

 

今となってはそれは正しい判断だっただろう。

 

貴重なスター・デストロイヤーの戦闘群とプライド将軍という優秀な指揮官を引き入れられた。

 

「何年先になるかは分からんが、我々は必ず勝つ。今に見ていろ」

 

プライド将軍は外来生命体の亡骸を睨みつけ遥か彼方から迫り来る敵対者達に対して静かな宣戦布告を述べた。

 

 

 

 

 

ケフ・バーに展開された第三帝国の部隊は一般的な国防軍の部隊でもなく、親衛隊の地上軍部隊でもなかった。

 

ISBやFFISOが以前より保有していた直轄のストームトルーパー隊がケフ・バーに派遣されていたのだ。

 

ヘルメットに刻まれているはずの親衛隊の紋章は無理やり削られていた。

 

辺りの気温が低いのか将校や下士官は軍用トレンチコートに身を包んでおり海岸沿いで作業するストームトルーパー達にはそれぞれポンチョが配布されていた。

 

「兵員の展開は大方終了しましたが内部偵察用のドロイドと瓦礫撤去の重機が足りていません。本隊から更に増援を要請すべきだと思います」

 

振り分けられた区画の指揮を取るFFISOの大尉に部下の少尉は進言した。

 

大尉は辺りで活動する全地形対応建設トランスポート、通称AT-CTや全地形対応装甲貨物トランスポートを目にした。

 

この区画で活動するにしても今の数では足りないのは大尉も分かっていたのだがそれと同時に問題もあった。

 

「だがここで本隊を動かせば悟られる可能性がある。装備の不足は分かるが増援を呼べばそれだけ連中に察知されたら終わりだ。今は予備の装備を解禁して作業に当たらせるしかない」

 

「しかし予備装備を動かしても不足分は補えませんよ?」

 

少尉は大尉に詰め寄りそう進言した。

 

少尉としてはもっと大規模な部隊で捜索すべきという指揮が根底にあり本当なら現状の2倍の部隊が必要だと考えていた。

 

そんな少尉の熱意に押されたのか大尉はしょうがなく少尉の意見を飲むことにした。

 

「…分かった、ハイネンシュルツ中佐に掛け合ってみる。それでなんとかなるかは分からんがな」

 

恐らく中佐は了承しないだろうと思いつつも少尉を宥める為に大尉は面倒くさそうに約束した。

 

すると大尉の名前を呼びながら遠くから駆け寄ってくる1人のストームトルーパーが見えた。

 

トルーパーはポールドロンを身につけておりポールドロンの色からして軍曹であることが分かる。

 

「大尉!プローブ・ドロイドが内部への侵入に成功しました。ドロイドのカメラから内部の様子が確認出来ます」

 

「そうか、直ちに向かう。ドロイドを壊さぬよう気をつけろよ。行くぞ少尉」

 

「はい!」

 

2人は軍曹に連れられプローブ・ドロイドを操作する工兵のストームトルーパー達の下へ向かった。

 

プローブ・ドロイドをコントロールするコンソール・パネルにはドロイドが撮影したこの第二デス・スターの内部の様子が映し出されている。

 

「こちらです」

 

ストームトルーパー達は大尉が来るなり敬礼しその中の1人が自らのコンソール・パネルを見せた。

 

大尉と少尉はコンソール・パネルに映し出された第二デス・スターの内部の様子を見るなり顔を顰め何かを吐き出すように口を開いた。

 

「これは……酷いな。“()()()()()()”」

 

「…はっはい……」

 

別に予想が出来ていなかった訳ではない。

 

第二デス・スターには少なくとも120万名もの人員が乗っていたはずだ。

 

そのうち脱出出来たのはほんの僅かで大多数はあのバトルステーションの中で自らの一生を終えた。

 

爆発で消し飛んだか将又破片が墜落した時の衝撃で即死したか。

 

宇宙空間の戦闘で艦船類やバトルステーションに乗船しているのならそのどちらも有り得る死に方だ。

 

誰しもが自分もこんなふうに死ぬのだとやんわりとした覚悟を持っていた。

 

そしてこのケフ・バーに墜落した第二デス・スターの残骸は他の残骸よりも最も巨大なものだ。

 

しかも完全に爆発せず衝撃により施設内が大きく損傷しているがその中にいた将兵がみんな消し飛んだ訳ではない。

 

“遺体は必ず残るはずだ”。

 

プローブ・ドロイドが捉えた残骸の内部の様子はその全ての事象を正確に映し出していると言っていい。

 

辺りには数え切れないほどの“帝国軍将兵(同胞)”の遺体が転がっていた。

 

ストームトルーパーの白いアーマーの上にストームトルーパーの白いアーマーが乗っかり、鎖のように連なり敷き詰められて斃れている。

 

あるトルーパーは完全に首が捥げており別のトルーパーは墜落の衝撃か剥き出た鉄骨に串刺しになっていた。

 

そしてアーマーを着ていない将校や下士官兵の殆どはもっと酷い有様だった。

 

あの戦いから既に5年が経っているのだ。

 

即死した人間の遺体が元の姿を保っていられるはずがない。

 

殆どが白骨化しボロ切れのようになった帝国軍の軍服の中から骨の一部が見えた。

 

そうでなくても軍帽や宇宙軍トルーパーのヘルメットの下には一部が砕けた骸骨の姿がある。

 

アーマーで姿は見えないがストームトルーパーも状態は同じだろう。

 

一部のトルーパーは腕や足や頭が全て捥げてバラバラになっていた。

 

一体どういう経緯でバラバラになってしまったのかは考えないほうがいいだろう。

 

少なくともその時点でストームトルーパーは痛みを感じることなく死んでいるのだから。

 

「中はこのように乗組員の遺体だらけです。一部では漏電によるスパークも発生しておりシステムの不調かドアの開閉機能が故障し非常に危険な状態です。当然足下も非常に危険で有りどこが崩落しいつ天井が崩れるか分かりません」

 

「……分かった、このことは中佐や他の捜索隊にも連絡しろ。あまりに酷い光景だから流石に見るかは自己の判断に委ねるが……」

 

「了解」

 

遺体が転がっているだけならばドロイドだけでなくストームトルーパーを編成した生身の捜索隊を突入させられただろうが、このように危険だらけの場所では無理だ。

 

これ以上この地に新たな遺体を遺していく訳にもいかない。

 

アンダーワールドの掃討作戦に参加し幾つかの収容所で勤務したことのある大尉も流石にこのかつての同胞達の姿には堪えたようだ。

 

ずっと後味の悪い表情が消えていない。

 

このようなものを見て神経が鋭くなっていたせいだろうか、大尉はあるものを察知した。

 

「ん?おい今向こうの草叢が動いたぞ…?」

 

一斉にストームトルーパー達は大尉が指差した方向に振り返った。

 

大尉には確実に何か茶色いものが草叢から動く瞬間を目にした。

 

「何もありませんよ…?」

 

少尉はすぐにそう呟いたが大尉はまだ疑っていた。

 

「何かあると危険だ。2人、少し見てこい」

 

大尉は近くに控えていたストームトルーパー2人に偵察を命じた。

 

この時の大尉の判断は正しいものだったであろう。

 

問題は偵察に向かった先に“()()()()()”ということであるが。

 

暫くしてストームトルーパーの2人が戻ってきた。

 

偵察に向かったにしては少しばかり時間が掛かり過ぎていたがそれでもまだ許容範囲だった。

 

「周囲を捜索してみましたが特に異常はありませんでした」

 

「そうか、気のせいだったか……」

 

部下の報告を聞き大尉は首を傾げ先ほどの疑念を忘れようとした。

 

丁度いいことに彼のトレンチコートに入れていたコムリンク・ホロプロジェクターが振動し他の部隊からの通信が届いていた。

 

ポケットからホロプロジェクターを出し通信を繋げる。

 

「こちら捜索区画チェレク、どうした」

 

『捜索区画エンス、人手不足でそちらのトルーパーを何人か貸して欲しい。3、4人程度で十分だ』

 

「そうか、なんとかしよう。少し待ってくれ」

 

『なるべく早く頼む』

 

そう言うとエンスからの通信は途切れた。

 

大尉はすぐに周囲のストームトルーパーに「誰か手の空いている者はいないか」と声を上げた。

 

すると先ほど偵察に向かった2人のストームトルーパーが「我々が行きます」と名乗り出た。

 

時間もないので大尉はまず2人を固定し後2人を選ぶことにした。

 

「伍長、後上等兵はこの2人と一緒に区画エンスの応援に迎え」

 

大尉は警備に当たっていたストームトルーパーの伍長と上等兵を呼びつけた。

 

「どちらかスピーダーは操縦出来るな?」

 

「自分が操縦します」

 

大尉の問いに上等兵が先に名乗りを挙げた。

 

「よし、ではそこのランドスピーダーでエンスまで迎え。道中の指揮は伍長に任せる、エンスに着いたら現場の指揮下に入れ。頼んだぞ」

 

「了解、よし全員着いて来い」

 

4人は敬礼し伍長に先導されてスピーダーに乗り込んだ。

 

区画チェレクから区画エンスまではそれほど遠くなく15分も掛からずに目的地に辿り着いた。

 

他の区画からも応援を呼んでいたようで区画エンスには3台のランドスピーダーが停泊していた。

 

「区画チェレクから応援に駆けつけた」

 

確認に来たストームトルーパーに伍長は敬礼と共に状況を報告した。

 

すぐに事情を理解し出迎えのトルーパーは「あちらの駐機場へどうぞ」と案内した。

 

スピーダーを操縦する上等兵はハンドルを傾け駐機場の方へ回り込んだ。

 

他のランドスピーダーと間を開けつつ静かに駐機場へランドスピーダーを停めた。

 

4人がスピーダーから出るより先に駐機場を管理しているトルーパーが近づき「区画指揮所まで直ちに向かってください」と声をかけた。

 

「了解、聞いた通りまずは指揮所まで行くぞ」

 

4人はランドスピーダーを降りて言われた通り指揮所まで向かった。

 

「どうした2人、そんなに珍しいものでもあったか?」

 

伍長は後ろを歩いていた2人のトルーパーに声をかけた。

 

先ほど程まで大尉に命じられ偵察に出ていたトルーパー2人だ。

 

「いっいえ、目の前のあれを見るとどうしても…」

 

片割れのトルーパーは焦ったようにそう呟き最後微笑を浮かべた。

 

もう片方のトルーパーは偵察に出てから一言も発していない。

 

「確かに、こうやって見ると衝撃的だな」

 

恐らくこの伍長はエンドアの戦いに参戦していないどころかエンドア以降にストームトルーパーになった類だろう。

 

もうあの戦いから5年が経った、たった5年でこうなってしまった。

 

エンドの戦いに“()()”した2人にとってはやはり思うことがあった。

 

そうこの2人のストームトルーパーの中身は偵察に出た時の2人ではない。

 

あの時“()()()()()()()()()()”。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()”に。

 

2人には他のストームトルーパーには聞こえない回線にヘルメットの通信機を繋ぎ合わせ秘密の会話を行っていた。

 

「どうにか潜入出来たけどこの後どうするの?」

 

レイアはふとハンに尋ねた。

 

ハンは度々ストームトルーパーやパイロットの服装を奪って潜入する作戦を思いつき今回も実行した。

 

初めてレイアと出会った時も彼女を救出する為にルークと共にストームトルーパーの格好をして監房内に侵入していた。

 

だが大抵の場合この手の潜入は行き当たりばったりで行われることが多かった為レイアは少しばかり不安になった。

 

「この様子じゃ連中もまだ目的のものを見つけていないはずだ。ドロイドの1体を操作して手に入れるか、連中が手に入れた瞬間強奪する」

 

「出来るの?」

 

「やってみなけりゃ分からん」

 

ハンの一言でレイアの不安感は一気に増した。

 

そんな中2人のヘルメットのコムリンクに残してきたチューバッカ達から通信が入った。

 

急いで接続し「どうした?」と尋ねる。

 

『ソロ将軍、それと議長、たった今レジスタンス軍の特殊作戦司令部所属の機体から通信が入りました。増援に来たと』

 

「なんだと?ディゴールの差金か?」

 

『分かりません、ただ向こうは着陸してこちらに合流すると仰っています』

 

2人はヘルメット越しだが顔を見合わせレイアが彼らに指示を出した。

 

「3PO、チューイ、よく聞いて。特殊部隊と合流して残骸の東側に展開している舞台に攻撃を仕掛けて。敵がそちらに集中している間に我々で例のものを探し出す」

 

『ですが議長、あのデス・スターの残骸の中から目的の物質を探し出せる可能性は…』

 

「時間がないの、私達の行動にレジスタンスの命運が掛かってる。チューイ、イウォーク達を頼んだわ。彼らはきっとゲリラ戦で役に立つ」

 

チューイからは不満感の溢れる声音が聞こえたが渋々了承した。

 

ハンはふとレイアに尋ねた。

 

「それで、あれは俺が言った方法で取るつもりか?それとも他に秘策が?」

 

「ええ、私の力だけじゃ不確かだけど……確実な方法があるわ」

 

レイアはヘルメットの奥でルークと同じ意志の強い光を宿した瞳で強く頷いた。

 

忘れることはない、彼女にもルークと同じ“()()()()()()()()()()”が流れていることを。

 

 

 

 

 

 

-未知領域 シス・エターナル領 惑星エクセゴル 玉座の間-

北東銀河での“()()()()()()()()()()”を含めた一連の戦役を終えたシス・エターナル艦隊は一部を残してエクセゴルに帰還。

 

連戦による戦闘データの確保と艦の本格修復、兵員の補充、アキシャル・スーパーレーザーの状態チェックが行われていた。

 

その間に司令官のフリューゲルはブリッツェ中佐や他の指揮官と共に最高指導者の玉座の間へ呼び出された。

 

戦役の結果報告を直接聞きたいそうだ。

 

「我々のシス・エターナル派遣艦隊は後退する第三帝国艦隊と入れ替わる形でトゥーングルからドミナス宙域に侵入。ガレル軌道上のレジスタンス艦隊を殲滅しまず橋頭堡として確保。それからバロスのレジスタンス軍を惑星ごと殲滅し戦略目標の一つであるロザルを制圧。カラマリ宙域のサンクチュアリまで進撃し当初の戦略通りロザルを除く占領地のほぼ全てを第三帝国に委ね、我々は撤退しました」

 

「損害は地上軍、宇宙軍、スターファイター隊を含め全て軽微です。ですがメルヴァー将軍はロザル攻略戦の際に負傷し復帰は1週間後になるかと予想されます」

 

フリューゲルが戦果を、グレッグ提督が損害をパルパティーンに報告した。

 

彼らの発言には微塵も誇張はなく実際に派遣艦隊が失った艦艇はなく、地上部隊とスターファイターに幾つかの損害が出たが全体数に比べれば微々たるものだ。

 

それに派遣艦隊はバロスからサンクチュアリまで何度もレジスタンス軍と大きな衝突があった。

 

この事を鑑みれば多くの将校は“()()()()()”という印象を受けることだろう。

 

恐ろしい兵器に最高峰の指揮能力が加わり正しい方法で運用されれば無敵の軍隊となるのだ。

 

「素晴らしい…」

 

パルパティーンも玉座から戦果の報告を称えた。

 

彼がある軍隊の名実的な最高司令官であったのはもう31年以上前からだ。

 

その長い経歴の中で何度も同じような報告を将校や国防省の官僚から聞かされていた。

 

中には今のような報告とは真逆な耳を塞ぎたくなるような散々な戦果もあったが。

 

「ロザルで得たカイバー・クリスタルは全て超兵器開発に回せ。僅かであっても1門でも多くアキシャルの砲を揃えるのだ」

 

「既に輸送ルートは確保しています。調達局と共同しあの造船所を本格稼働させれば長く見積もっても6年で艦隊の方は“()()”を上回る戦力を確保出来ます」

 

フリューゲルは断言したが内心ではまだ不安感があった。

 

ジストン級を建造するパーツ、そしてその他の艦船の建造パーツは既にクワットと確かな約束を取り交わした。

 

向かわせた締結官によればクワットの指導者であるヴァティオンは少し気分が悪い顔だったらしいが。

 

それでも確かな約束を結べていたのならそれでいい。

 

クワットには帝国の時代からここに僅かだが軍用パーツを流すよう約束を取り付けていた。

 

このことは銀河内戦が終結した後も更新され続いている。

 

シス・エターナル軍を維持する為には“()()()”の力が必要でありクワットはその一つだ。

 

だが問題は集めたパーツを一つの艦船にする造船所の方にあった。

 

この造船所は驚異的な力でシス・エターナル艦隊を生み出し最新鋭のドレッドノートすら難なく建造出来た。

 

しかしシス・エターナルの技術者達、パルパティーンは度々この造船所が全ての力を出し切っていないと断言していた。

 

エクセゴルの造船所はあるシス卿達がかけた“()()”ともいうべきシスの術により人智を超えた能力を発揮する。

 

造船所は造船所の中だけの“()()()()()”、その無人の中でひたすら兵器を生み出し続ける。

 

僅か1年で数十年分の兵器が出現することになるのだ。

 

彼ら曰く古代のシス卿の中には時に歴史に全く名を残さず1人争いに敗れて、或いは争いの場に出ることなくシスの聖地や全く関係のないところで己の集大成ともいうべきフォースの秘術を遺して消えていった者達がいるらしい。

 

このエクセゴル造船所に秘術をかけたシス卿もその代償として自らの命を無機質な造船所に捧げた。

 

一度だけその秘術を誰かが試したことがあるらしいが時間を歪ませる事は出来ずただ無人で艦船を建造し続ける場所が出来上がったそうだ。

 

古代の秘術は未だに解明出来ないものも多くあるという。

 

あまりにオカルトチックな話の為全てを信じるに値しないだろうが幾つかは本当のことだろうとフリューゲルは思っていた。

 

フリューゲル達の開祖であるクイエム・ヴァント元帥も一千と数十年前に最後のシスとの戦いで名を上げた。

 

シスは実在する、かつてジェダイが実在したように。

 

だからシスが扱う秘術が存在しそれが効力を発揮するということもなんとなくだが実在すると感じていた。

 

「造船所はやがて本格的に稼働させる、あの代物は扱い切れずとも必要だ。後は人材、かつての帝国が揃い其方の下に幾百億の将兵が揃えばこの銀河に対する脅威は完全に消えて無くなるはずだ」

 

「ファースト・オーダー、それとチス・アセンダンシー、セスウェナや中小規模の独立勢力は陛下の下に降るでしょう。ですが問題が一つ」

 

パルパティーンは軋む機械のようにゆっくりと頷いた。

 

シス・エターナル指導部が兼ねてより危惧していた不安要素の一つ。

 

かの終末司令でも予想に入れていなかった要素が今や銀河系を席巻し新共和国すら打ち倒した。

 

「第三帝国、あのちょび髭の総統とその一味はそう簡単に陛下に降らぬでしょう。国防軍と呼ばれる旧帝国の正規軍を利用してクーデターを起こさせても恐らく総統が抱える親衛隊との全面衝突になる」

 

親衛隊の戦力は国防軍にはやや劣るものの本格的な軍事衝突となれば力で制圧するのは難しい。

 

本来は銀河協定で制限されるはずだった軍事力を秘匿保有する為に誕生した私兵軍だったそうだが今では完全に第三帝国の軍事部門の一つとして存在している。

 

親衛隊はスター・デストロイヤーが主力の艦隊やウォーカーなどを含めた機甲兵団だけでなくエグゼクター級やアセーター級といったスター・ドレッドノートも保有している。

 

既に一つの軍隊として確立し戦力的には中小規模の旧帝国勢力を遥かに上回っている。

 

帝国軍人達の伝手を用いて国防軍にクーデターを起こさせたとしても親衛隊が存続している限りはそのまま政権を簒奪するのは不可能に近い。

 

「ヴァント元帥、どうだね。親衛隊にも介入して国防軍と親衛隊の双方でクーデターを起こすというのは」

 

1人のシス信者がフリューゲルに提案した。

 

フリューゲルは一応テルノ中将やグレッグ提督らに目線を送ったが彼らも考えはフリューゲルと同じであった。

 

皆即座に首を振り諦めたような表情であった。

 

「親衛隊も元帝国軍の将校が大多数ですので一部は呼びかけに応じるでしょう。ですが総統に忠誠を誓う者、或いは中立を決め込む者が大多数を占めるはずです。恐らくこれは国防軍も同じかと」

 

バエルンテーゼやヘス辺りなら我々に靡いてくれるかもしれない、だがシュメルケやフューリナーは無理だ。

 

国防軍もヴィアーズやオイカン辺りなら乗ってくれるだろうがカイティスや今の参謀本部のメンバーではダメだろう。

 

昔のローリングならいざ知らず、今の“第三帝国大将軍”としてのローリングは完全に総統に忠誠を誓っている。

 

報告では親衛隊との反目があるらしいがそれでもあの総統と第三帝国の国体がある限りは決して動かないだろう。

 

今や第三帝国にはかつての帝国とは全く違う生態系が確立している。

 

「それと一つ、仮にクーデターを起こす際の不安要素は第三帝国の保安組織です。ISBと帝国情報部、親衛隊のFFISOは徐々に指揮系統が統合され一つの勢力として確立しています」

 

グレッグ提督はもう一つの不安要素を進言した。

 

そもそもシス・エターナルが介入したからと言ってクーデターがそのまま起こせる訳ではない。

 

常に内乱の脅威を監視し国家の維持を職務とする存在が帝国時代から存在している。

 

それが今ではFFISOという存在になってきているだけだ。

 

「提督の言う通り、ISBとFFISOの存在は無視出来ません。彼らの監視網と彼らの持つ戦闘部隊が第一の脅威となるでしょう。調略も現在の長官であるハイドレーヒという人物に効くとは思えません」

 

フリューゲルはあのハイドレーヒという男を一度だけ目にしたことがある。

 

昔は宇宙軍の将校で艦隊勤務に就ていたはずだ。

 

何故そのような男が縁もゆかりもない保安組織の長官を務めているか疑問ではあるが報告書や入ってくる噂を総合して考えるに彼もシュメルケやフューリナーと同じタイプだ。

 

腹の底で何を考えているか分からんが簡単に総統を裏切るような人物ではない。

 

「其方らの懸念は尤もだ。第三帝国にしては兼ねてより決めていた手法でことを為す。其方らは第二の“()()()”に備えよ」

 

「了解」

 

第二の再征服、今回のような一部艦隊を用いた侵攻ではなくシス・エターナル全軍で行う本格侵攻。

 

レジスタンスとシス・エターナルに仇なす敵を全てアキシャル・スーパーレーザーの一撃で消し飛ばし再び銀河を一つに統一する。

 

そして銀河系の全ての戦力を用いて“()()()()()”。

 

遥か彼方、遠くからきたる“()()()”。

 

その為に我々は存在している。

 

「余と、余の前から続く悲願を達成する為に。再びシスの世を作り出すために」

 

「陛下の為に全力を尽くします。それでは我々はこれにて」

 

フリューゲルは敬礼し玉座の間を去った。

 

最後の一言、やがてあのような何かに取り憑かれたような発言を仰ることが増えていくのだろう。

 

フリューゲルはなんとなくだがそう感じ取っていた。

 

だが再び銀河を一つにする為には“()()()()()()()”の力と手腕が必要だ。

 

玉座にはそれに相応しい座り手が必要で、帝国には皇帝が必要なのだ。

 

代理総統もスローネもヴィルヘルムもターキンの末裔も、静かに舞台から消えたズンジもケインも大提督達も、そして彼らを消したラックスも1人残ったヒルデンロードも皆銀河を束ねる玉座に座るには役者不足だ。

 

彼ら彼女らは一つの大国、超大国の指導者にはなれても全てを統一し一つの“()()()()”の指導者として存在するにはまだ足りない。

 

無論所詮一軍人でしかない私も私以外のヴァントの血族もだ。

 

陛下には本当の最悪を防ぐために唯一の人として成し遂げてもらうしかない。

 

たとえもう“()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

暗黒が漂うエクセゴルの空を見つめフリューゲルは過去の誓いを胸に軍帽を深く被り直した。

 

 

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー レジスタンス領 ヤヴィン星系 衛星ヤヴィン4司令部-

『遠征飛行師団各機は第46ハンガーベイを使用せよ。整備班は直ちに第46ハンガーベイへ』

 

アソーカやカルの要請と共に派遣されたヤヴィン4の精鋭スターファイター隊は任務を終え、ヤヴィン4の地上基地へと帰還した。

 

当然シス・エターナル軍の攻撃は凄まじく還らぬパイロットも少なからずいたがそれでも今回の戦いはレジスタンスにとって大きな戦果を齎した。

 

「アンティリーズ大佐!ご無事の帰還、なによりです!」

 

主任整備士の下士官が敬礼し機体から降りてくるウェッジを敬礼で出迎えた。

 

ウェッジも敬礼を返しすぐ下士官に頼み事をした。

 

「機体のフライトレコーダーと戦闘データ、後ドロイドのデータを全て分析チームに送ってくれ。急いでだ」

 

「了解しました!」

 

下士官は頼まれた通り早速フライトレコーダーの取り外しを始めた。

 

ウェッジはヘルメットを持って部下の下へ歩き始めた。

 

多くのパイロット達は今回の戦いに手応えを感じ、兵員運搬機の中で満足気に喜びを噛み締めていた。

 

「パトロール隊は残りの部隊と予備隊に任せろ。艦隊のスターファイター隊もまだ残っているはずだ。参加した部下達は今のうちに休ませておきたい」

 

「了解!」

 

ウェッジが近づくと指示を出していたラクティスと隣で待機していたソークー中佐は敬礼した。

 

「司令部に行って簡易報告をする。ライカン将軍達もきっと報告を待ち望んで……」

 

ウェッジが何かを言い終える前にハンガーベイに小さな男の子が走ってくるのが見えた。

 

2人もその姿が見えたようで優しく微笑んでいた。

 

ウェッジも少し困ったような笑顔で走ってくる男の子に声をかけた。

 

「ポー!格納庫の周りは1人で来ると危ないぞー!」

 

ウェッジの声に気づいたのかその男の子はウェッジの方に近づいてきた。

 

「アンティリーズ大佐ー!」と幼い声で彼の名前を呼び覚えたての可愛らしい敬礼を送った。

 

この男の子の名前はポー・ダメロン、ケス・ダメロンとシャラ・ベイの息子でこの時の年齢はまだ7歳であった。

 

()()()()()”であればこの男の子が銀河系に名を残すパイロット兼将軍となるのだがそれは遠い先の話だ。

 

「ポー、格納庫は爆弾や機材がいっぱいで危ないんだぞ?せめて誰かと一緒に来なさい」

 

ウェッジはまだ幼いポーに注意した。

 

確かにポーは母親のある種の英才教育で同い年の子より機械やスターファイターに詳しいがそれでも7歳の子供を1人にするには少し目に余る危険が多い。

 

戦友達の子供であるが故にウェッジもポーとは面識があった。

 

ウェッジも度々ポーに操縦の仕方やスターファイターの構造について話したものだ。

 

この戦争が起きるまでは母や父の活躍ぶりを話そうとすると2人とも嫌がるからしなかったが。

 

「ポー、お父さんはどうした?」

 

ソークー中佐はポーに尋ねた。

 

彼の父親ケス・ダメロンは反乱同盟軍時代からの特殊部隊員であり今は上級曹長として特殊部隊員の教育や自らも特殊部隊として任務に就いている。

 

「任務だからって今はいないの」

 

「…そうか、お母さんに会いに来たのかい?」

 

「うん!」

 

ポーは大きく頷いた。

 

ラクティスもソークー中佐も「連れて行ってやりましょう」という顔でウェッジの方に微笑んでいた。

 

ウェッジも仕方なさそうに、されど少し嬉しそうに頷いた。

 

「分かった、お母さんのとこに連れてってやる。はぐれるなよ?」

 

「ありがとうございますアンティリーズ大佐!」

 

「分かった、分かった。さあ、行くぞー」

 

ウェッジは立ち上がって会いている片手でポーと手を繋ぎポーの母がいるはずの着陸場まで4人で向かった。

 

辺りにはXウィングやYウィング、AウィングやBウィングが並んでおりポーは様々な機体に目を輝かせていた。

 

オレンジ色や緑色のパイロットスーツを着た周りのパイロット達もポーに手を振っている。

 

常に自らの命を賭けた仕事の場にいると子供というのが無性に可愛く見えてくるのだろう。

 

尤もポーがあのシャラ・ベイの息子というのもあるかもしれないが。

 

「なあポー、将来はやっぱりパイロットになりたいか?」

 

ふとウェッジはポーに聞いてみた。

 

彼の周りにいる大人は殆どがパイロットか軍隊の兵士だ。

 

シャラだって最初に退役した時は自分の乗っていたAウィングを貰っていた。

 

ポーの周りには自然とパイロットとスターファイターが揃っていた。

 

「うん!母さんみたいなみんなの役に立つパイロットになりたい」

 

彼は当然のようにそう答えた。

 

ウェッジはなんとなくだが彼が自分達のように軍のスターファイターに乗り込むようになるのだろうと感じていた。

 

これはフォースではなくただのウェッジの感だった。

 

しかしポーは自分と同じで貨物船や客船のパイロットのような刺激の少ないものは選ばないだろうなという確固たる自信があった。

 

「へえ、じゃあポーも将来はAウィング乗りかな?」

 

ラクティスは冗談混じりにそう呟いた。

 

ポーの母であるシャラ・ベイはずっとAウィングのパイロットだった。

 

彼女はあのインターセプターを巧みに操り優れたパイロットとして活躍していた。

 

今回のジストン級攻撃にも参加し多くのシスTIEファイターを撃墜して仲間の命を救ったのだ。

 

「でも僕は…Xウィングが…いいかな」

 

ポーは近くに着陸していたXウィングを見ながら照れくさそうに小さく呟いた。

 

3人は顔を見合わせ少し驚いたような表情を浮かべていた。

 

だがそれと同時にちょっと嬉しかった。

 

何せ3人とも今はXウィングのパイロットである。

 

ウェッジとソークー中佐はAウィングにも乗ったことがあるがこの数年は殆どXウィングばかりだ。

 

ラクティスはパイロット家庭を卒業してから今に至るまでずっとXウィング乗りだった。

 

その為3人ともポーがXウィング乗りを目指していると聞いて嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「Aウィングもいい機体だが……そうかXウィングかぁ」

 

「Xウィングは頑丈でいい機体だぞ。TIEなんかとは比べ物にならない」

 

「4機の中からXウィングを選ぶなんてお前は見る目があるなぁポー!」

 

3人は急に饒舌になった。

 

特に一番調子に乗っていたのはラクティスであろう。

 

尤も全員少しづつテンションがおかしくなっていたが。

 

「それで、どうしてXウィングがいいんだ?何か理由はあるのか?」

 

ふとウェッジはポーに尋ねた。

 

ポーは空を見上げながら質問に答え始めた。

 

「このヤヴィンで……このヤヴィンと銀河を守った“あの人(スカイウォーカー)”が乗っていたのはXウィングだったから…」

 

ポーはふと少し前の出来事を思い出した。

 

数年前、ポーは一度だけ彼の憧れの人と会っている。

 

なんでもある任務の合間にヤヴィン4に立ち寄ったそうだ。

 

ポーの両親とは昔からの知り合いだそうでとても仲が良く話していた。

 

ポーにもXウィングの操縦技術や思い出を語ってくれた。

 

彼はジェダイだそうだがポーはジェダイであることよりもパイロットとしての彼に憧れた。

 

Xウィングパイロットの、ヤヴィンの英雄であるルーク・スカイウォーカーに。

 

ポーの口ぶりからルークの存在を察した3人は肩を竦めつつも小さく微笑んでいた。

 

特にルークと共にヤヴィンで戦い、何度も共に戦ったウェッジはとても嬉しそうだった。

 

「ポー、お前の時代に私やルークが経験したような戦争や今みたいな戦争がまだあるかは分からん。だが忘れるな、Xウィングはいつの時代も“()()()()()”だ。あのSフォイルの翼は戦いの時代も、平和な時代もみんなに勇気と希望を与える。私も短い間だったが平和な時にそれを感じた」

 

TIEファイターが帝国の栄光の象徴であるならXウィングは自由と希望の象徴だ。

 

自由を望む人々はあのX字に開いたSフォイルの翼を見て感動しそこに希望を見出す。

 

それは他のどの機体でも成し得ないことだ。

 

Xウィングというのはもはやただのスターファイターではなく何者にも壊すことの出来ない大きな象徴となっていた。

 

「Xウィングのパイロットであるということはそれだけでみんなの希望になるんだ。だからポーも自分の夢に誇りを持て、ポーもきっとルークと同じような人々に希望を持たせるパイロットになれるさ」

 

ウェッジはポーの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 

ポーはウェッジの言葉を聞いて心の底から無邪気に嬉しそうに微笑んでいた。

 

「ほら、お母さんがいたぞ。ベイ大尉!」

 

「母さんー!」

 

ポーはAウィングの近くで整備士と会話をしている黒髪の女性の下に走った。

 

彼女がポーの母であるシャラ・ベイだ。

 

シャラは駆け寄ってきた愛おしい息子を抱き抱えた。

 

「ポー!どうやってきたの?」

 

「連れてきてもらった!」

 

「危ないから着いてきてやった」

 

3人はシャラに微笑んだ。

 

シャラは「ありがとうございます」と3人に頭を下げた。

 

ウェッジやソークー中佐とは長らく共に戦った戦友だが階級は彼らの方が圧倒的に上だ。

 

それでも気さくで面倒見の良い3人はあまり気にしていなかった。

 

「母さんは任務終わった?」

 

「ええ、みんなのお陰で無事に帰って来れたわ。ポーやフォースのおかげね」

 

ポーは頭を撫でられ嬉しそうに目を瞑っていた。

 

「父さんはまだ任務?」

 

「うん、じいちゃんが『無事に帰ってくるといいね』って言ってたよ」

 

「そうね…」

 

特殊部隊の任務はパイロット以上に危険が伴うものだ。

 

捕まったら命はないし死ぬより恐ろしい目に遭う可能性だってある。

 

それでもケスはシャラと同じく再び志願し軍務に復帰した。

 

2人とも本当は銀河内戦が終わる前に退役しヤヴィン4で余生を過ごしていた。

 

しかし第三帝国の台頭と今回の戦争が原因で全て変わってしまった。

 

新共和国は奇襲により崩壊し新共和国軍は大打撃を受けて一時は完全に空中分解していた。

 

その程度で逆境に争い続けた歴戦の猛者達は諦めなかったが。

 

各地で多くの退役軍人やその子供達が依然として領域を維持し続けている新共和国残党軍の下に集った。

 

多くが「まだ何か出来るはずだ」、「私にもやれることがあるはずだ」と復員を申し出た。

 

それはレジスタンス軍になっても変わることはない。

 

シャラもケスもそうだった。

 

シャンドリラとホズニアン・プライムの陥落を聞いた2人は新共和国がどうなってしまうかすぐに悟った。

 

それと同時にこの銀河が再び2人が戦っていた時代に逆戻りするだろうということも。

 

2人はそれから深く考えた、また子供を置いて軍に戻るか否か。

 

だが2人は現実から目を背けることは出来なかった。

 

自分たちが作り上げたものが破壊される恐怖、そして幼い息子が生きる時代に第三帝国という悪魔が存在し続ける恐怖。

 

2人は立ち上がらずにはいられなかった。

 

シャラとケスは再びポーを父達に任せ軍に戻った。

 

ケスは特殊部隊の教官として、シャラはAウィングパイロットとして。

 

戦場で命を落とすことになるとしてもこれはやらねばならぬことだと2人は感じていた。

 

我が子が生きる未来のために。

 

「暫くは予備隊と艦隊の艦載機部隊に任せるつもりだ。ベイ大尉もゆっくりしてくれ」

 

「はい」

 

「さて、我々は司令部に行くとするか。結局反対側の方向に来てしまったが」

 

本来は司令部に直行する予定だったがやむを得ない事情があった。

 

帝国軍ならどんな顔をされるか分からないがライカン将軍なら許してくれるだろう。

 

そんなことを思っていた矢先、司令部付の将校が3人の名前を叫びながら走ってきた。

 

「アンティリーズ大佐!!ソークー中佐!!ストライン中佐!!」

 

「どうした中尉」

 

ウェッジは彼に見覚えがあった。

 

名前は確かモーズといい元は新共和国防衛艦隊出の将校で中尉の階級章を身につけている。

 

モーズ中尉はすぐに息を整え3人に敬礼した。

 

「ディカー最高司令部より緊急連絡です!!現在、大セスウェナ領域のエリアドゥ、セスウェナ及びサラストら複数箇所で収容されていた我が軍の捕虜が脱走!!アノートやナブーに流れ込んでいます!!」

 

3人は顔を見合わせた。

 

モーズ中尉のこの表情から言って恐らく今し方入ってきた情報でヤヴィンの司令部も混乱しているだろう。

 

衝撃的な事件ではあるが囚われていた仲間達が解放されたのは喜ばしいことだ。

 

あまりの衝撃にまだそこまで頭は回らないが。

 

「至急上級部隊指揮官には司令部に集まって頂きたく…」

 

「分かった、直ちに向かう。それじゃあポー、お母さんと仲良くな」

 

「うん、バイバイ!アンティリーズ大佐!」

 

最後にポーに一言だけ声をかけ3人は司令部に向かって走り出した。

 

混乱する状況下ではまず情報を得ることが最優先だ。

 

間違った命令で出撃しない為にも。

 

まずは今出来ることから始めなければ。

 

 

 

 

 

 

「敵視認、重火器を持っている兵士はいない。スカウトが数人、スピーダー・バイクも何台かある。後は……作業用ウォーカーが厄介だな……」

 

ジョーレンはエレクトロバイノキュラーで敵の陣地を見ながら呟いた。

 

2人は地上からビーコンで誘導されケフ・バーの大地に着陸した。

 

すぐにチューバッカと3POから事情を聞き戦闘準備を整えた。

 

まず眼前の敵陣地のプローブ・ドロイドをハッキングして幾つかの爆弾を設置しさらに索敵を開始した。

 

敵陣地には周囲の様子を確認するためかスカウト・トルーパーが何人か控えている。

 

それにスピーダー・バイクがあれば通信を妨害しても即座に他の展開中の部隊に情報が漏れる可能性がある。

 

敵を引き付けるのが役目だが情報は全てこちらで管理したい。

 

偽の情報で誘い出して小分けにした敵部隊を一つづつ制圧していけば負担も減る。

 

「AT-CTはともかくランドスピーダーには一部Eウェブがついてる。あの火力は厄介だ」

 

「それにウォーカーはAT-ACTもいるらしい…航空支援があれば余裕だがないんじゃ歩兵からした脅威はAT-ATと大差ない」

 

あの全長35メートル弱、全高32メートル弱ある巨体にブラスターを通さない装甲、AT-ATより遥かに弱いとはいえ重火器を装備していない歩兵からすればとてつもない脅威だ。

 

AT-CTもあのアームや脚部を用いて暴れまわれたら対処が難しくなる。

 

歩兵のストームトルーパーは見る限り保安局の実行部隊らしいが治安維持戦や対テロ戦に精通している分通常のストームトルーパーより厄介かもしれない。

 

「さっき粗方仕掛けたがもっとやった方が良さそうだな。まずスピーダー、それと上手くいけば停まっているAT-CTを潰したいんだが…」

 

ジョーレンは困ったように目を瞑って近くにいる小さくて可愛い毛むくじゃらの連中を押し除けた。

 

「誰かこいつらをなんとかしてくれ!!」

 

2人のイウォークはジョーレンやジェルマンが持つ最新の兵器やエレクトロバイノキュラーに興味津々でずっと「貸してくれ、貸してくれ」と肩を揺さぶっていた。

 

もうジェルマンは諦めているようでよほど危ないものでなければイウォーク達に貸し与えていた。

 

こんなんでもエンドアの戦いの勝利の立役者達なんだよなとジェルマンはなんとも言えない気分に陥っていた。

 

「2人ともバスチル少佐とジルディール大尉のことをとても気に入っているそうです」

 

C-3POは困り顔の2人にそうイウォーク達の気持ちを伝えた。

 

だが2人から困り顔が消えることはなくその様子を見てチューバッカはモフモフ笑い声を浮かべていた。

 

気がつけば全体的に毛むくじゃら率の高い空間が広がっている。

 

「とてもこいつらが皇帝も死んだ戦いにいたとは思えん。イウォークだぞ?」

 

まだ半信半疑のジョーレンはジェルマンに尋ねた。

 

あの戦いにジョーレンはいなかったし話を聞いたのもさっきまでいたUウィングのコックピットの中だ。

 

ジェルマンはギリギリ知っていたがそれでも実際に戦いに参加した訳ではない為他人の又聞きであった。

 

「ああ…本当らしい……同盟軍特殊部隊の危機を救ったのは彼らイウォークの戦士だって…」

 

「未だに信じられんな、イウォークだぞ?昔共和国軍にいた性格の悪い上等兵が狩ってジャーキーにして食った時にしか聞いたことない種族だぞ?まあそいつはゲリラに襲われて死んじまったが」

 

そんなイウォーク達もそろそろ戦闘が始まると空気感で察知したのかそれぞれ持ってきた武器を手に取り始めた。

 

すると通訳の3POを介して何かを尋ねてきた。

 

尤もイウォーク達からすれば神様を通じて話をしているようなものだが。

 

「あのバスチル少佐、ウィケットが早く指示を出してほしいそうです」

 

「私に?」

 

「ええ、ソロ将軍も議長も不在の状況では貴方がこの中でトップですので」

 

チューバッカは基本的に他の指揮のプロフェッショナルの面々に指揮権を譲っている。

 

今回もジョーレンが仲間を率いるのが最適だと分かっているのだ。

 

だが当のジョーレンは少し困り顔だった。

 

「ああ…分かった……弓か……」

 

ジョーレンはウィケットとパプルーが持つ原始的な弓を見つめふと思い出した。

 

そういえばあの上等兵が戦死したのもゲリラが持つ弓矢によるものだった。

 

音がブラスター・ライフルより小さく上等兵は一撃で頭を貫かれ即死した。

 

今回は殆どのストームトルーパーがアーマーを着ているがアーマーの隙間やゴーグルの部分に命中すれば確実に殺せるだろう。

 

意外と支援としてはいいかもしれない。

 

「私とジェルマンで敵地に潜入して的確な箇所にさらに爆弾を仕掛ける。ウィケットとパプルーはそれを遠くから弓で援護してくれ。知ってると思うがアーマーの隙間を射抜けば十分効果的だ」

 

3POはジョーレンが話した内容を翻訳して2人のイウォークに伝えた。

 

2人は頷いて早速矢を取り出し戦闘準備を整えた。

 

ウィケットとパプルーは弓矢の他に槍やナイフなど近接戦闘にも備えた装備を携帯している。

 

どれも本来は仮に使う武器だが殺傷能力は抜群だ。

 

また2人はすでに周囲に草木や持ってきたロープを使った罠をジェルマンやジョーレン達が最初に爆弾を仕掛けるのと同時に行っており備えは万全だ。

 

見た目に反して戦う技術と勇気をしっかり兼ね備えている。

 

「チューイは待機して攻撃の合図が出たと同時に火力支援を頼む。敵を殲滅したら合流して防御態勢に移行する。3POは連絡係を頼む、戦闘中は隠れていてくれ」

 

この中で最も力があり最も強力な火器を備えているのはチューバッカだ。

 

彼の持つボウキャスターはとても高い火力を誇り攻撃支援に適している。

 

そして3POはバトル・ドロイドではないプロトコル・ドロイドの為戦うことは出来ない。

 

的にバレないように隠れてもらう他ないのだ。

 

「はい、わかりました」

 

「それじゃあ各自持ち場について、フォースと共にあらんことを」

 

その一言と共に各自が一斉に動き出した。

 

3POは戦いに向かう者達を見送りながら「こういう時お前さんがいたら心強いんだけどな」とここにいない親友への愚痴をこぼした。

 

ジェルマンとジョーレンは遮蔽物を利用し草陰に隠れながら敵地へ侵入した。

 

ストームトルーパーは周囲に展開しているが皆残骸に意識が寄っており2人には気づいていない。

 

そのまま人目を避けてまずランドスピーダーの近くに接近した。

 

2人は近接反応爆弾を設置し確実にスピーダーが行動不能になるだけ仕掛けた。

 

周囲を見渡しジョーレンは前進を指示した。

 

ジェルマンも初めて会った頃に比べれば随分と特殊部隊員として腕が上がった。

 

出会って2年だがその間に何度も修羅場を潜り抜けた。

 

その経験故か迫り来る危機にもジェルマンはすぐ察知しジョーレンに伝えた。

 

死角からストームトルーパーが1人接近していたのだ。

 

ジョーレンは足を止めサプレッサー付きのA180を構え敵を待ち伏せた。

 

しかしジョーレンが相手を倒すよりも先に2発の矢がトルーパーの首とゴーグルを射抜き静かに絶命させた。

 

ウィケットとパプルーの素早い援護射撃だ。

 

ジョーレンは急いでトルーパーの死体を遮蔽に隠し遠くに控えている2人にグッドサインで礼を伝えた。

 

再びジェルマンとジョーレンは進みスピーダー・バイクの近くに接近した。

 

同じように爆弾を設置する。

 

スカウト・トルーパーは2人が来る前に移動し辺りは手薄になっていた。

 

「設置完了、残りはAT-CTだけど…」

 

「1台残しておけ、鹵獲して使う。もう1台は片足だけ潰せば十分なはずだ」

 

2人はAT-CTの駐機場を目指して走り出した。

 

最後はスライディングするようにAT-CTの足元に滑り込み近接反応爆弾を1台の左足に取り付けた。

 

これで準備完了だ。

 

しかも準備完了を見越したかのようにレイア達から通信が入った。

 

『状況は』

 

「いつでも行けます」

 

『始めて』

 

「了解」

 

その身近い会話と共に戦端は開かれた。

 

仕掛けられた近接反応爆弾が一斉に作動し周囲は爆発に包まれた。

 

ランドスピーダーもスピーダー・バイクも全て吹き飛びAT-CTも足が折れ機体は横転した。

 

ストームトルーパーにも多くの死傷者が発生し辺りは爆煙と混乱に包まれた。

 

「なんだ!?状況報告を!?」

 

「攻撃開始だ」

 

無傷のAT-CTの脚部を盾にしながら混乱するストームトルーパー部隊に銃撃を開始した。

 

起き上がって応戦しようとするストームトルーパーから優先的に撃ち倒され組織的な反撃が来る前にその能力を削ごうと攻撃を行った。

 

生き残った将校は「応戦しろ!!」と部下に命令を出したがすぐにウィケットとパプルーの矢に射抜かれて絶命した。

 

指揮官の戦死に動揺するトルーパー達にジェルマンとジョーレンはさらにブラスター弾を叩き込んだ。

 

2人の攻撃に合わせてウィケットとパプルーも接近しながら矢を放って敵兵を攻撃した。

 

ようやくストームトルーパー達もE-11を用いてブラスター弾を放ち反撃を開始した。

 

だが即座に反対方向からチューバッカの援護射撃が始まり残りのストームトルーパー達を撃ち倒した。

 

ボウキャスターの威力でストームトルーパー・アーマーは砕かれ敵兵は宙に舞った。

 

「残りはチューイに任せてウォーカーに急げ!」

 

「了解!」

 

2人はAT-CTに取り付けてある昇降用階段を登りAT-CTのの中に入った。

 

それぞれ操縦席に座りジョーレンが機体を動かし始めた。

 

「使い方は、当然分かってるんだろうな?」

 

「ああ……まあAT-STと大体同じだろう」

 

操縦桿を用いてAT-CTを動かし徐々に反転させた。

 

2人を乗せたAT-CTが一歩づつゆっくりと前進を始めた。

 

前方からは敵兵を乗せたAT-CTが近づいてくる。

 

チューバッカはボウキャスターでAT-CTを攻撃するがあまり効果は見られない。

 

AT-CTもAT-STと違って兵装がなく反撃することは出来なかった。

 

「思いっきり突進して敵機を突き飛ばす。捕まってろよ!」

 

「えっうん!」

 

ジョーレンは思いっきり操縦桿を前に倒してペダルを踏み込んだ。

 

AT-CTは速力を上げ助走をつけて敵のAT-CTに向けて突進した。

 

敵のAT-CTは突然の謎の行動により対応する事が出来ず突進の衝撃をモロに受けてしまった。

 

姿勢を変えて防御したり回避行動を取れば何とかなったかもしれないがもう無理だ。

 

衝撃により装甲が凹みAT-CTは地面に叩きつけられた。

 

「くっ!!」

 

機体を急停止させ自身が倒れるのを防いだ。

 

「よし、これで相手の機体は行動不能のはずだ」

 

「もっと他の方法ないの!?」

 

「ない!」

 

ジョーレンははっきりと断言しAT-CTの通信機能を立ち上げた。

 

通信妨害をすり抜けるように回線を合わせ別の敵部隊と繋げる。

 

「連中を誘き寄せる、外の奴らには防御耐性をとるように伝えてくれ」

 

「分かった」

 

ジェルマンはコックピット・ハッチを開きチューバッカやイウォーク達にハンドサインで指示を出した。

 

イウォーク達がジェルマンの意図を理解したかは分からないが後はチューバッカに任せておけば何とかなるはずだ。

 

その間に通信が繋がりジョーレンは偽の通信を帝国軍に流した。

 

『誰か……!誰か聞いているか!?』

 

「捜索区画エンス、区画グレックどうした。何かあったか」

 

区画エンスの通信兵がジョーレンの偽の通信を受け取った。

 

区画エンスは至って平常のままであり特にこれといった異常事態はなかった。

 

レジスタンス軍の将軍と議長が紛れ込んでいる事以外は。

 

『突然奇襲攻撃を受けている!こちらは現在戦闘中!応援を要請する!!』

 

「なっ……分かった、大尉!」

 

区画エンスを指揮する大尉を通信兵は呼びつけた。

 

大尉は部下の中尉を引き連れて通信兵の下に寄った。

 

「区画グレックより緊急通信、現在敵部隊の攻撃を受けており応戦中とのことです」

 

「敵だと?グレック、襲撃者の武装は判別出来るか?」

 

『今チラリとだがA280が見えた!敵は恐らくレジスタンス軍だ!』

 

その報告を聞いて中尉は後ろで驚いていた。

 

大尉も内心「どうやって入った」だとか「一体なぜ」と不安感が募っていた。

 

「分かった、どのくらいの部隊が必要だ」

 

『今他の区画からも増援を要請しているから一個分隊ほど送って欲しい。敵を逆包囲して殲滅する』

 

「了解した、念の為もう一個分隊送っておく」

 

『助かる…!』

 

その一言と共に通信が切れ大尉は急いで指揮所のテントの外に出た。

 

ポールドロンをつけた2人のストームトルーパーの軍曹を呼び出し命令を下した。

 

「軍曹2人、今すぐ分隊を率いて区画グレックの救援に迎え。どうやらレジスタンス軍の攻撃を受けているらしい……即座に戦闘になる可能性がある。気をつけろよ」

 

「了解」

 

「直ちに急行します」

 

軍曹2人は敬礼し直ちに分隊員を集めた。

 

分隊員をEウェブ付きのランドスピーダーに乗せてすぐに出撃した。

 

残ったのは残り一つの分隊と数人の工兵、指揮所の兵士だけとなりこれで区画エンスの兵員はだいぶ減少した。

 

出撃した分隊を見送った大尉と中尉は指揮所のテントに戻った。

 

「しかしレジスタンス軍など一体どこから入ってきたのでしょうか」

 

「分からん、ただそれほどの大部隊ではないことは確かだ。Ⅵ局の報告が正しければレジスタンス軍の大規模な地上戦力は確認されていない」

 

テントの中に入りセンサーを見張っている兵士に「念の為範囲を広げろ」と命令した。

 

「司令部への報告はどうします」

 

中尉は大尉に尋ねた。

 

一応このような事態が発生したからにはさらに上位の司令部にも伝える必要がある。

 

しかし大尉は「必要ないだろう」と首を振った。

 

「各部隊に応援を要請しているのだ、ハイネンシュルツ中佐の本部も状況を把握しているはず。むしろ我々がいつ奇襲を受けるか分からん、我々も増援を要請して防備を固めなくては。分隊長をここに」

 

「了解」

 

この時点で大尉はまんまとジョーレンの撒いた罠に騙されていた。

 

ジョーレンは救援要請をこの区画エンスにしか出していない。

 

その為他の区画は救援要請を受けていないどころか区画グレックが敵の攻撃を受けたことすら知らないのだ。

 

当然それは本部も同様であり区画グレックは今もなお正常に任務に就いていると区画エンスを除く全ての部隊がそう思っていた。

 

だが実際には区画グレックは壊滅し区画エンスへの救援要請すら偽の情報だということに誰も気づいていなかった。

 

「ん?」

 

そんな中ある1人のストームトルーパーがテーブルの上に何かが置いてあるのに気がついた。

 

ストームトルーパーに配られる装備の一つ、N-20バラディウム=コア・サーマル・デトネーターだ。

 

先ほどまでこんなところに置いていなかったはずだ。

 

それにこのサーマル・デトネーターは基本的にアーマーのベルトに取り付けられているはず。

 

「FTK-9781、到着しました」

 

それは別のストームトルーパーの軍曹が指揮所のテントに入ったその瞬間、ストームトルーパーがサーマル・デトネーターを手に取ろうとした瞬間だった。

 

サーマル・デトネーターが作動し指揮所のテントは木っ端微塵に吹き飛んだ。

 

轟音と衝撃と爆発の熱が周囲にも撒き散らされ、指揮所の近くにいたストームトルーパーは地面に倒れた。

 

「なんだ!?何があった!」

 

「指揮所がやられたぞ!」

 

指揮所のテントはその残骸が燃え上がり辺りに散っていた。

 

「生存者を確認しろ!」

 

立ち上がったストームトルーパーの数人が指揮所の残骸に駆け寄ったが遠目から見てもこれでは助からないとすぐに分かる。

 

もはやどれが遺体かすらも分からない状態だ。

 

「ダメです、これでは誰も助かりません」

 

「大尉も中尉も軍曹もやられたのか……」

 

指揮官が一気に失われトルーパー達にも衝撃と不安感が募った。

 

生き残った他の下士官達が慌てて指示を出し始めた。

 

しかし彼らは皆未だに気づいていなかった。

 

トルーパーの中に潜む敵の影を。

 

「急いで本部に応援の要請をっ……!」

 

ある伍長が命令を出した瞬間1発の銃声と共に伍長は背後から撃たれた。

 

伍長が地面に斃れる前に更に銃声が鳴り響いた。

 

伍長の背後に控えていたストームトルーパー2人が突如発砲し始めたのだ。

 

「撃ち返せ!」

 

もう1人の伍長は反撃の命令を出しブラスター弾を喰らい斃れた。

 

他のストームトルーパー達もE-11やSE-14Cを用いて反撃を開始したが既に2人は近くの遮蔽物に隠れていた。

 

トルーパー達はそれぞれ散開して取り囲むように2人を銃撃するがこの2人を制圧するには少し人数と練度が足りない。

 

2人は手持ちのE-11で確実にトルーパー達の数を減らした。

 

接近しようとすれば即座に狙い撃ちされブラスター弾を放った瞬間にそのストームトルーパーは撃ち倒された。

 

飛び交うブラスター弾も徐々に数が減りトルーパー達の数は減る一方だった。

 

片方がトルーパー達の隠れる遮蔽物の中にサーマル・デトネーターを投擲し起爆した。

 

爆弾を投げ返す暇もなくストームトルーパー達は一気に数名が死傷し行動不能になった。

 

残りのストームトルーパー2、3人も圧倒的不利の中懸命に戦ったが即座に全員が2人の一斉射撃の前に斃された。

 

「これで敵は全員制圧したはずだ」

 

ヘルメットを脱いだハンは辺りを見回しながらそう呟いた。

 

レイアも隣でヘルメットを脱いで着ていたアーマー類も全部脱ぎ始めた。

 

流石に元々生きていた衣服の上から更にトルーパーのアーマー用の戦闘服を着るのは暑過ぎる。

 

ハンもこの邪魔なアーマーと戦闘服を脱ぎ捨て元の服装に戻った。

 

「工兵の奴らが使っていた機材があるはずだ。それを使ってドロイドを操る」

 

落ちていたプローブ・ドロイドの操作パネルを拾いモニターを触った。

 

「使ったことあるの?」

 

「一度だけミンバンで使ってる奴を見たことなら」

 

「ミンバン?」

 

「昔の話だ」

 

今の会話でハンがこのパネルを使ったことがないのだなと察した。

 

尤もレイアがこれから行おうとする探し方も確実性の低いものなのだが。

 

それでもやるかやらぬかなどと言っている場合ではない、やるしかないのだ。

 

レイアは目を閉じて意識を集中させ心を落ち着かせた。

 

目的は一つだけ、それはホロクロンに記されていた必要なもの。

 

シス・ウェイファインダー”。

 

レジスタンスがシス・エターナル軍を打ち倒すためにはどうしても必要なものだ。

 

そのうちの一つが第二デス・スターの残骸の中にあると聞きレイア達はやってきた。

 

レイアは探し物を手に入れる為に己の眠れる力を引き出した。

 

フォース、彼女だって“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

オルデラン王室の姫である以前に選ばれし者の血を継いだ双子の片割れ。

 

レイアにもルークと同じ力が備わっている。

 

ただ誰もその力を引き出すことはなくレイア自身も知らなかった。

 

帝国にその力を奪われないためにずっと隠し続けられてきた。

 

だがもうその必要はなくなった。

 

むしろ今は彼女の生命に宿るフォースの力が必要なのだ。

 

レジスタンスと未来の希望のために。

 

夜明けから出でる銀河のために。

 

自らに宿るフォースの力をレイアはダークサイドの籠った一つのオブジェクトを探すために使った。

 

まさか使うとは思っていなかった自身のフォースの力がここで役に立つとは。

 

レイアは自身の双子の兄妹であるルークに感謝しなければと思っていた。

 

彼が「使い方だけでも学んだら」と提案してくれた通りだ。

 

こうして自分たちの役に立っている。

 

意識が深まるにつれてレイアのフォースは過敏になっていった。

 

このケフ・バー中の生命が持つフォースを伝ってレイアの目的を手助けした。

 

彼女の感覚は遠くへ遠くへと行き、遂に目的に辿り着いた。

 

残骸の中に1箇所だけ背筋が氷柱でなぞられたような寒気と形容し難い悪寒を感じた。

 

レイアはこの感覚をナブーの格納庫で感じたことがある。

 

冷たさを感じる姿は見えないが確かにそこにある暗黒の力。

 

この冷たさの感覚こそレイアが探し求めていたものが放つ力だ。

 

「……見つけた……」

 

レイアは小さくそう呟いた。

 

「本当か!?位置を教えてくれ」

 

ハンは停止中のプローブ・ドロイドを動かし進ませた。

 

レイアはフォースを辿って彼に位置を伝えていく。

 

「ドロイドをまっすぐ進ませて……それから左へ……路地を曲がってまっすぐ進めばそこが玉座の間になる…」

 

レイアに言われた通りハンはプローブ・ドロイドを操作し前へ進めた。

 

リパルサーリフトで浮かぶプローブ・ドロイドは朽ち果てた残骸内であっても問題なく移動出来た。

 

もしこれが生身の人間であればフォース使いでもなければ相当苦労するだろう。

 

最悪死ぬ者も出てくるかもしれない。

 

プローブ・ドロイドはレイアの言う通り遂に玉座の間に辿り着いた。

 

「玉座の間……辿り着いた」

 

「そのまま左の扉に……その先にある」

 

「分かった」

 

ドロイドを左の扉に近づけたがドアは固定されており動かなかった。

 

「待ってろ無理やりこじ開ける」

 

ハンはプローブ・ドロイドに搭載されたブラスター砲でドアを破壊し無理やり中に入った。

 

プローブ・ドロイドは奥へ奥へと進み遂に目的のものを見つけた。

 

1本の柱の真ん中に浮遊するピラミッド状のオブジェクト。

 

これこそレイアやハン達が探し求めていたシス・ウェイファインダーだ。

 

プローブ・ドロイドのアームがウェイファインダーを掴み引き寄せる。

 

「確保した…」

 

2人は顔を見合わせひとまず安堵の表情を浮かべた。

 

それからハンはプローブ・ドロイドを慎重に元来た場所を辿って残骸の中から撤収させた。

 

ウェイファインダーさえ確保出来れば後は簡単だ。

 

プローブ・ドロイドは残骸の隙間から抜け出てレイアとハンの前に姿を現した。

 

そのアームにはしっかりシス・ウェイファインダーが掴まれている。

 

2人が安心して立ち上がった。

 

だがその瞬間一気に緊張感が周囲を包み込んだ。

 

突然シス・ウェイファインダーを持ったプローブ・ドロイドがグシャグシャと潰され軋む音と共に爆発した。

 

突如持ち手を失ったシス・ウェイファインダーはそのまま重力に引かれて地面に落下し始めたかに思われた。

 

しかしシス・ウェイファインダーは突如空中で動きを止めある一方方向に引き寄せられた。

 

「何!?」

 

シス・ウェイファインダーはレイアとハンの間をすり抜けて更に遠くの方へ引き寄せられた。

 

2人が振り返るとそこにはシス・ウェイファインダーを片手に持った黒いロイヤル・ガードが立っていた。

 

「…フォースの使い手…!」

 

レイアは感覚でこの黒いロイヤル・ガードがフォース使いであると判断した。

 

その証拠のように黒いロイヤル・ガードはライトセーバー・パイクを起動し2人に向かって突進した。

 

黒いロイヤル・ガードはライトセーバー・パイクを思いっきり振るったが既に2人は斬撃を回避していた。

 

ハンは近くで拾ったSE-14Cと自身の改造されたDL-44重ブラスター・ピストルを手にし2丁のブラスター・ピストルで応戦した。

 

黒いロイヤル・ガードは距離を取りライトセーバー・パイクの刃で弾丸を弾き返した。

 

そして銃撃の終了と共にロイヤル・ガードはフォースでハンを吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

「ハン!」

 

レイアはハンの側に寄った。

 

黒いロイヤル・ガードは再びライトセーバー・パイクを構え前進する。

 

レイアはハンの無事を確認すると立ち上がり黒いロイヤル・ガードの前に立ちはだかった。

 

「まさか本当に使うことになるなんて……本当に頭が上がらないわ」

 

レイアはふとそう呟いた。

 

レイアは隠していたホルスターからある1本の筒状のものを取り出した。

 

本当にルークには感謝している。

 

この武器の作り方から使い方まで時間を割いて教えてくれた。

 

そのおかげでこうして愛する夫を守り戦うことが出来る。

 

レイアは筒から“()()()()”を出し教えられた通りに構えた。

 

これが彼女のライトセーバー、彼女の武器だ。

 

黒いロイヤル・ガードはこうなることを予想していなかったらしく多少驚きはしたがすぐに撃破すれば問題ないと鋭い突きの一撃を繰り出した。

 

しかしレイアはフォースを用いてこの攻撃を見切り回避した。

 

逆に隙が出来た黒いロイヤル・ガードに距離を詰め横合いから斬りつけた。

 

黒いロイヤル・ガードは寸前で防御し斬撃を防いだ。

 

だが黒いロイヤル・ガードは防御に気を取られてハンのことを忘れていた。

 

ベルトのポーチにしまっていたシス・ウェイファインダーがどこからか突如放たれたロープに絡め取られ、ポーチごと奪われてしまった。

 

黒いロイヤル・ガードがロープの方向を見るとそこにはハンがいた。

 

彼はニヤリと笑い「どうもロープの使い方は慣れていてね」とDL-44の引き金を引いた。

 

彼は近くに落ちていたトルーパーのグラップリング・フックを利用して黒いロイヤル・ガードからシス・ウェイファインダーを奪い取った。

 

ブラスター弾を弾き返しつつ再び黒いロイヤル・ガードは距離を取った。

 

レイアも距離を取りハンとと共に黒いロイヤル・ガードと対峙した。

 

シス・ウェイファインダー、過去の聖遺物を巡ってこの決戦後の月の下で戦い合う。

 

少し先の未来の若者達と同じように。

 

 

 

つづく




お久しぶりです!Eitoku Inobeです!

実は数日間寝込んで死にかけていたんですがだいぶ良くなりました!(過去形)

そしてナチ帝国も63話です!

ナチ帝国なので当然の如く全く夏らしくない話です!

夏らしさは全部タトゥイーンに置いてきました!

それでは!(謎のVサインを掲げる)


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暗黒との戦い

「私はあの時大セスウェナ連邦の首都警察に勤めていた。丁度いい時間だったのでカフを入れ、同僚達と雑談をしていたところだ。暫くすると2、3個上の先輩が血相を変えて休憩室に飛び込んで来た。かなり興奮した面持ちで彼は言ったんだ。『護送中の囚人が脱走した』って。そこから後のことはよく覚えていない。余りの忙しさで記憶が飛んでしまったよ」
-元大セスウェナ連邦警察官の証言-


-アウター・リム・テリトリー 第三帝国領 サラスト宙域 ボートラス星系周辺 捕虜護送船団-

FFISO第Ⅴ局のコンシーラー級監獄船とゴザンティ級の船団はエリアドゥの捕虜刑務所から元新共和国軍の捕虜を各地の収容所へ移送していた。

 

総統府の命令でまず南銀河のレジスタンス軍、及び元新共和国軍の捕虜は全て通常の捕虜拘留所からFFISO直轄の収容所へ移送することが決定された。

 

理由は幾つかあるのだが一つはレジスタンス軍の拘留所襲撃だ。

 

レジスタンス軍は最近特殊部隊や軽歩兵の精鋭部隊を用いて拘留所を襲撃し捕虜を解放する事例が相次いだ為、より警備が厳重な収容所に移送こととなった。

 

それは捕虜を一元的に管理しようとするFFISOに反対した大セスウェナ領域も例外ではなかった。

 

総統命令としてFFISO第Ⅴ局の職員がエリアドゥやセスウェナに到着し捕虜の移送を始めた。

 

今ボートラス星系を航行中の捕虜護送船団はその第一陣でありアド・スパインから回り込むようにリマ・トレード・ルートに入って収容所に向かう予定だ。

 

尤もこのコンシーラー級は全長50メートルのトランスポートでありあくまで先遣隊という枠組みである。

 

本隊のインペリアル・プリズン・バージは後から1万人以上の捕虜を乗せて発進する予定で1時間ほど前に第二陣がハイパースペースに入ったそうだ。

 

今は第三陣と小規模の護送船団が出発し最終便がまだエリアドゥに待機している。

 

もう間も無く発進可能だそうだが手続きなどで送れる可能性がある。

 

輸送中の捕虜の監督は全て第Ⅴ局所属の警務部隊が務めており、船内には警務の兵士達が周囲を警戒していた。

 

彼らは皆地上軍トルーパーと同じ装備を身につけており、その為親衛隊トルーパーとの呼び名で呼ばれることもあった。

 

一般的なストームトルーパーより練度は劣るが警備任務という点では十分であった。

 

「ボートラス星系に入りました、上手くいけばサラストの星系パトロール隊と合流出来ます」

 

船団の旗艦を務めるゴザンティ級のブリッジで乗組員の1人が船長に報告した。

 

護送船団には一つの不安点があった。

 

それは捕虜の移送中にレジスタンス軍の攻撃を受け船団が制圧され捕虜が解放されないかという不安だ。

 

この移送は極秘任務であり大セスウェナの拘留所職員にも伝えられていない。

 

秘密裏に、そして極秘かつ脅威を分散して捕虜を移送しているのだがそれでもレジスタンス軍の攻撃という不安は消失しなかった。

 

各ゴザンティ級には護衛用のTIEファイターを搭載している為最低限の戦闘は出来る。

 

それでもいざ機動部隊の攻撃を受けた時どのくらい持つかは正直不明瞭なところだ。

 

その為パトロール隊でもいいからより戦闘能力のある部隊と早期に合流したかった。

 

「星系のパトロール隊は親衛隊だったな。それなら合流後暫く護衛してもらうことは可能だが」

 

「しかし我々は既にサラスト宙域に入っています。流石にレジスタンス軍もここまで浸透して攻撃はしてこないでしょう」

 

副船長はそう断言した。

 

スターファイター隊での浸透攻撃なら可能だろうが流石にMCクルーザーやスターホーク級のような主力艦は送り込めそうにない。

 

サラスト宙域は既に親衛隊の完全なる影響下にある。

 

何かあれば親衛隊の部隊がすぐに飛んでくるはずだ。

 

「そうだな……ボートラス星系を抜けたらハイパースペースに入って一気にアド宙域まで向かう、各艦には予定通り変更なしと伝えろ」

 

「了解」

 

船長の命令通りゴザンティ級の通信士は各艦に指示を伝達した。

 

だが船長の判断は間違いだったと言える。

 

ここで安全策を取ってパトロール隊と合流しルートを変更してサラストからリマ・トレード・ルートに乗って向かうべきだった。

 

そうすれば“仮に囚人たちの暴動が発生しても対処できたのはずだ”。

 

事件が起きたのは船団がハイパースペースに入る前のことだ。

 

そろそろアド宙域に向けてハイパースペースへの座標計算を行い始めていた頃、ゴザンティ級の監房ブロックでの出来事だ。

 

監房ブロックには一個分隊ほどの親衛隊トルーパーが警備の任に就いていた。

 

兵士達はE-11より前のモデルであるE-10を装備しベルト周りには弾薬や武器類を収納するポーチがついていた。

 

アーマーは旧帝国時代の地上軍トルーパーと同じものだがヘルメットは前のモデルよりも変化があった。

 

より防御耐性が向上し現在のストームトルーパーのヘルメットとある程度の共通性を持たせた。

 

第三帝国独自のヘルメットであり他の帝国軍の軍閥勢力とは大きく異なる点の一つだ。

 

尤も練度はまた別の問題になってくるが。

 

「後何時間くらいで収容所に着くと思う?」

 

分隊の1人が仲間に問いかけた。

 

話しかけられた分隊の兵士はブラスター・ライフルを壁に立てかけ自身は床に座っていた。

 

話しかけた方の兵士もE-10を一応持ってはいるがいつでも撃てる体勢ではなかった。

 

「さあな、だがどうせ囚人を運ぶだけの仕事だ。のんびりしてようぜ」

 

兵士はふとズボンのポケットに手を入れようとした。

 

相方の兵士はそのポケットの中に何が入っているかを知っていた為すぐに軽く注意した。

 

「おい、勤務中だぞ。タバコは控えろよ」

 

「へっバレたか」

 

「当然だ」

 

本来このような光景を長官のハイドレーヒ大将やさらに上のヒェムナー長官らに見られたら彼らに明日はない。

 

すぐに別の部隊へ配属され第224装甲師団配下の特別移動任務部隊に組み込まれるだろう。

 

ヒャムナー長官は親衛隊将兵や警察、治安維持組織に勤務中の喫煙を制限するよう命じた。

 

だが第三帝国も国防軍も親衛隊もFFISOも急速な拡大により全ての将兵や職員がかつての帝国レベルの練度や規律ではなくなっていた。

 

その為末端の将兵では帝国軍よりも規律の緩みが生じており完全に撲滅するのは難しかった。

 

「長官閣下は勤務中は控えろと言っていただろ?」

 

「バレなきゃいいだろ、最近じゃケッセル産のタバコも高くなってる。配給品も少なくなってるし」

 

ケッセル産のタバコは質が高く特に人気で銀河系の多くの人に吸われていた。

 

しかし第三帝国との関係が悪化するにつれて徐々にケッセルから輸出されるタバコも少なくなり値段は上がっていった。

 

COMPNORによる反タバコ運動の影響もあって今ではすっかり第三帝国領内ではケッセルのタバコは高級品となってしまった。

 

「仕方ないだろう、シャンドリラ・モンジャヴとかもあんまり吸えないし」

 

「これならホックの警官をやっていた方がマシだったぜ」

 

2人は苦笑を浮かべていたところ何か監房の方からガコンと何かが落ちると音が聞こえた。

 

流石に何かおかしいと思ったのか2人はブラスター・ライフルを手に取って音の出た方へ向かった。

 

辺りを見回りながら歩いていると左側のある監房室からドアをドンドンと叩く音が聞こえた。

 

しかもドアの奥からは人間の呻き声のようなものが聞こえる。

 

「どうした!?大丈夫か!?」

 

2人はこれはまずい大事だと思いすぐにドアの解除キーを差し込んでその監房室のドアを開けた。

 

監房室の中には捕虜の1人が苦しそうに蹲り唸っていた。

 

「どうした、どこが痛い?気分が悪いか?」

 

「今すぐ衛生兵を……」

 

心配する2人を他所に監房ブロックでは1発の銃声が響いた。

 

兵士の1人がそのまま床に斃れ瞳孔を開いたままピクリとも動かなくなった。

 

「は?」

 

更に銃声が響きもう1人の兵士も撃ち殺された。

 

蹲っていた捕虜は別に何もなかったかのように立ち上がり斃れた兵士達のポケットを漁った。

 

捕虜の右手にはしっかりとDH-17ブラスター・ピストルが握りしめられていた。

 

そのまま捕虜は先ほど兵士がドアを開ける際に使った解除キーを入手し他の監房室のドアも解除した。

 

「敵兵の装備はE-10、ホルスターにはEC-17が入ってる。直ちに回収して使え」

 

「了解」

 

ドアを開け他の仲間を解放するなりその捕虜の男は仲間に命令を出した。

 

全員がDH-17ブラスター・ピストルやブラーグ1120ホールドアウト・ブラスターを既に手にしていた。

 

男がまだ開錠していない監房室のドアに向かっていた時反対側の通路から1人の親衛隊トルーパーがやってきた。

 

どうやら先ほどの銃声を聞きつけてやってきたようで「どうした、何があった」と声をかけた。

 

トルーパーはまだ仲間の兵士が生きていると思っていたのだろう。

 

だがそれは大きな間違いであり親衛隊トルーパーが姿を現した瞬間捕虜達が持つブラスターで即座に始末された。

 

「よし、エンジン区画とブリッジを目指して全員前進。計画通りに艦を制圧しろ」

 

男は捕虜達に命令を出し開放された元新共和国軍の捕虜達は一斉にブリッジとエンジン区画を目指して攻撃を開始した。

 

まだ状況を把握していないゴザンティ級の乗組員や他の親衛隊トルーパー達は一斉にブラスターを放ちながら駆け出す捕虜の姿を見た瞬間に死を迎えた。

 

捕虜達は斃れた敵兵の武器を奪い武装を強化した。

 

DH-17はいいブラスター・ピストルだがやはりブラスター・ピストルでは限界がある。

 

「クソッ!どうして捕虜が!」

 

「早くブリッジに連絡しろ!!」

 

監房ブロックを抜け出した捕虜の群衆は瞬く間にゴザンティ級の乗組員を圧倒していった。

 

辛うじて防衛線を構築しブリッジに連絡する頃には既にゴザンティ級の殆どが捕虜達によって制圧されていた。

 

『こちらエンジン制御室…!!武装した捕虜の大群に囲まれている…!!早く救援を…!!』

 

「なんだと、それは本当か?数は、人数はどのくらいいる」

 

『大勢だ!!全員がブラスターで武装してる!!このままじゃあすぐにやられる!!』

 

制御室からの報告を聞き船長は一気に青ざめた。

 

捕虜が脱走した上に何故か捕虜は全員武装している。

 

このゴザンティ級に常駐している乗組員や警備のトルーパーの武器を合わせたって全員に武器は行き渡らないはずだ。

 

それに制御室まで接近されたということは既に船内の殆どが…。

 

しかも最悪の報告は他の船からも入ってきた。

 

『こちら監獄船194-2…!緊急要件!監房ブロックから捕虜が脱走し現在戦闘中!!増援を要請する!!』

 

「なんだと!?」

 

『監獄船194-3!こっちも捕虜が監房を抜け出した!このままじゃあ持たない!!助けてくれ!!』

 

『クソッ!この囚人どもが!!ウワァァァァァ!!』

 

「監獄船194-9との通信が途絶、ブリッジからの応答ありません」

 

「ほぼ全ての監獄船で捕虜の脱走が確認されています…!」

 

「あり得ない……」

 

船長は狼狽しフラフラと倒れそうになった。

 

だが副船長の「船長指示を!」という言葉で辛うじて正気を取り戻した。

 

「よっ予備船の兵員を各艦に回して鎮圧を図れ!だがまずは本艦だ!本艦の鎮圧を…!!」

 

「捕虜がすぐそこまで迫ってる!!脱出を!!」

 

船長が命令を出す前にドアが開き1人の親衛隊トルーパーが入ってきた。

 

額から汗が滝のように流れ落ちており息遣いも荒れていた。

 

開いたドアの奥では必死に戦う親衛隊トルーパーの姿が見えた。

 

当然その奥には武器を持った捕虜達の姿もだ。

 

「急いで脱出を!」

 

親衛隊トルーパーはそう進言すると遠くから放たれたブラスター弾を頭に喰らい即死した。

 

船長の目の前で糸が切れた人形のようにバタンと斃れ奥で戦っていた親衛隊トルーパー達も全員撃ち殺された。

 

邪魔者がいなくなったことにより捕虜達は一斉にブリッジへと駆け出した。

 

「ヒィ!?」

 

1人の乗組員が恐怖の余り引き攣った悲鳴を上げた。

 

ブリッジへ突入してきた捕虜達は乗組員や船長に向けてブラスター・ピストルの銃口を向けた。

 

さらに奥から数人の捕虜が姿を現した。

 

そのうちの1人が捕虜達のリーダーだったようで全員に指示を出した。

 

「武装を解除して監房ブロックに、我々は“無事に帰れればそれでいい”」

 

捕虜達は頷き乗組員達の武装やコムリンクを取り上げ連行した。

 

リーダーはブリッジのビューポートから外の様子を眺めた。

 

同様にビューポートから船団の様子を眺めている人物がいた。

 

船長が直前になって呼び寄せようとした予備のゴザンティ級の乗組員達だった。

 

一部の監獄船で何かしらの異常事態が発生した時に対処する為に兵員のみを乗せたゴザンティ級を三隻用意していた。

 

三隻とも外部接続機にはTIEボーディング・クラフトがついておりいつでも他の監獄船に乗り込めるようになっている。

 

「他の監獄船との通信回線からシャットアウトされ始めています」

 

「旗艦との連絡も取れません」

 

「やはり何かあったのだ、トルーパー隊を出動させろ!まずは旗艦からだ」

 

「いえ船長、旗艦から予備通信です。各艦の通信状況の悪化が発生した為その場で待機されたしと」

 

通信士はゴザンティ級の船長にそう報告した。

 

すると旗艦からはTIEファイターが発艦し始めた。

 

他のゴザンティ級からもTIEファイターが発艦し辺りを飛行し始めた。

 

「各艦からTIEファイターが発艦しています」

 

「全機、こちらに接近しています」

 

「一体何が始まったんだ」

 

飛行するTIEファイターは編隊を組みゴザンティ級を取り囲んだ。

 

確実に“()()()()()()()()()”。

 

TIEファイターはチャージしたL-s1レーザー砲を一気に放出し三隻のゴザンティ級に掃射した。

 

TIEファイターから放たれる雨のようなレーザー射撃は脆弱な偏向シールドしか張っていないゴザンティ級の船体に大きなダメージを与えた。

 

船体が何箇所も爆発しエンジンが吹き飛びあるゴザンティ級はレーザー射撃によってブリッジが破壊された。

 

援護するかのように周りのゴザンティ級も二連レーザー砲と重レーザー砲で砲撃を開始した。

 

「たっ対空射撃!!」

 

「無理です間に合いません!!」

 

「そんなっ…!」

 

船長が命令を出した瞬間ビューポートには1機のTIEファイターが映った。

 

それも今から魚雷を放ちトドメを刺そうとしているTIEファイターにだ。

 

本来友軍機であるはずのTIEファイターがこんなに恐ろしいと思ったのはこれが人生で初めて、そして最後であろう。

 

彼らの人生はここで終わる。

 

三隻のゴザンティ級は木っ端微塵に爆散しTIEファイターは各艦に戻った。

 

「全ての船が制御下に入りました。いつでもハイパースペースに入れます」

 

乗組員の席に座り捕虜の1人がリーダーに報告した。

 

彼は元MCスター・クルーザーの乗組員でゴザンティ級を動かすなど簡単なことだった。

「どちらに向かいますか、この地点ではアノートもコメルも距離的には変わりませんが」

 

「コメル宙域へ、ナブーへ迎え。我々はあの方の下に集う必要がある、なんたって我々も“レジスタンス”だからな」

 

リーダーの言葉に彼の仲間達は微笑を浮かべ各艦にナブーへのハイパースペース・ジャンプを伝達した。

 

これがまず最初の捕虜脱走者達であった。

 

同じような捕虜の脱走は全ての護送船団で起こっていた。

 

セスウェナ宙域からサラスト宙域を航行中のインペリアル・プリズン・バージの船団も同様のことが起こっていた。

 

こちらは一隻につき捕虜が1万人も収容出来る為一箇所でも捕虜が脱走すると一気にその火種は広がった。

 

あっという間に警備の親衛隊トルーパーは蹂躙されバージの制御権は強奪された。

 

生き残った者もいただろうがそれらは全て逆に監房ブロックの中へ叩き込まれた。

 

そして捕虜の脱走はまだバージへ乗船中のエリアドゥでも発生していた。

 

囚人を殆ど乗せ終わった状態で一斉に暴動が発生しバージが停泊するハンガーベイでは銃撃戦が発生していた。

 

親衛隊トルーパーを倒して奪ったブラスター・ライフルやどこからか強奪した重ブラスター・ライフルでトルーパー達を蹴散らした。

 

「クソッ!レジスタンスのクズどもめ!」

 

「どうして全員武装してるんだ!!」

 

遮蔽物に隠れながら親衛隊トルーパー達はE-10やE-11で応戦した。

 

あくまで捕虜の移送任務ということでサーマル・デトネーターやインパクト・グレネード類の爆薬は持ち合わせていなかった。

 

「現地の駐屯隊とセスウェナの部隊はどうした!?」

 

「駐屯隊は現場に急行中!ですがセスウェナの警察隊はエリアドゥ市民の安全確保の為周辺の封鎖と包囲に専念しこちらには来れないそうです!」

 

部隊長の問いに部下の親衛隊トルーパーはそう答えた。

 

大セスウェナ連邦警察及び連邦軍は出動したものの第一命令はエリアドゥ市民の安全確保と現場の封鎖だった。

 

その為内部のことはほぼ全て第三帝国の派遣部隊と駐屯部隊に任せることにしていた。

 

自分で蒔いた種なのだ、その種が厄災に育つのだとしたら刈り取るのは彼ら(ルビ 第三帝国)であるべきだ。

 

しかし現場で戦闘中の親衛隊トルーパー達はそうは思っていなかった。

 

「チッ!南アウター・リムの成り上がり者どもめ!さっさと増援を寄越せばこんなことには…!」

 

「バージとの固定具が解除されていきます!」

 

ハッチが閉まりインペリアル・プリズン・バージは徐々に発進態勢を強化していった。

 

「封鎖はどうなってる!?」

 

「ダメです!宇宙空間でも首都圏防衛艦隊は演習中の為すぐにはこれないとのこと!」

 

「このままでは…!」

 

親衛隊トルーパー達はありったけの火力をバージのエンジンに向けたがブラスター・ライフル程度では全く意味がない。

 

やがて数十秒もしないうちにバージのエンジンが点火しハンガーベイを離れた。

 

親衛隊トルーパー達がブラスターを放って撃墜しようとする頃には既にエリアドゥの大空を飛び抜けていた。

 

その様子は封鎖中の大セスウェナ連邦警察や連邦軍も目撃していた。

 

当然警察装備では撃墜は無理だがこの時点ではまだ連邦軍が持つ装備で迎撃可能だった。

 

「大尉、この距離ならまだ撃っても当たりますが撃ちますか」

 

中隊長の大尉に対して隊員の1人である伍長はエレクトロバイノキュラーを覗き込みながら尋ねた。

 

しかし大尉は「やめておけ」と首を振った。

 

「ここで撃墜したら地表に墜落し予想外の被害を生み出す可能性がある。我々はまず市民の避難誘導と周辺の警戒だ。脱走した捕虜が市街地に身を潜めている可能性がある」

 

「了解!」

 

大尉の判断の影響もあってか奪取されたインペリアル・プリズン・バージは無事にエリアドゥの大気圏を抜けてハイパースペースへと入った。

 

だが彼らが目的地であるナブーやアノート宙域に辿り着くのはもう少し先のことである。

 

同じような脱走はエリアドゥだけではなく他の箇所でも発生していた。

 

サラスト、マラステア、ダークネル、ヴァンドア、南銀河の捕虜達が護送の隙を見計らって脱走したのだ。

 

彼ら彼女らはレジスタンス軍の勢力下であるコメル宙域とアノート宙域を目指した。

 

レジスタンスはこの衝撃的な事件を脱走した捕虜の船団と共に初めて知った。

 

彼ら彼女らはレジスタンス軍の捕虜もいればまだ新共和国軍だった時に捕虜になった者もいた。

 

しかし彼ら彼女らは皆拘留所にも届いたレイアの演説とイセノ、ナブーでの勝利が忘れかけていた希望を取り戻した。

 

これでピースは揃ってきた。

 

銀河を夜明けへと導くピースが。

 

 

 

 

-モッデル宙域 エンドア星系 惑星ケフ・バー 捜索区画グレック-

「議長と将軍、上手くやってるかな」

 

ジェルマンはブラスター・ライフルのティバナ・ガスを交換しながらそう呟いた。

 

彼らはハンとレイアが任務を達成する為に出来る限り敵の戦力をこちらに集中させておく囮の役割を担っていた。

 

2人が早めに任務を達成出来ればそれだけ彼らも脱出出来るのだ。

 

「まだ撤収の命令が出ていないということは任務は継続中ってことだ。ならば我々の任務も続いている」

 

ジョーレンは敵のランドスピーダーに取り付けられていたブラスター砲を取り付け持ち出し構えた。

 

そしてブラスター砲のスコープから遠くの状況を監視する。

 

「そろそろ敵の部隊が来てもおかしくない頃だが……」

 

呼び寄せてからかなり時間が経過している。

 

相手の機動力にもよるがランドスピーダーやスピーダー・バイクを保有していればもうすぐ到着するはずだ。

 

そして予測通り帝国軍は来た。

 

ランドスピーダーの機種はT-44の改良型だろうか。

 

1台に5人が乗車可能でそれが4台、しかも4台のスピーダー・バイクを護衛につけていた。

 

「仕掛けた地雷と……こいつらが作動すれば半分は削れるだろう。後は的に接近される前に殲滅するしかない、冷却器の調整頼む」

 

「分かった」

 

チューバッカは身振り手振りでウィケットとパプルーに次にやることを伝えた。

 

2人は理解したのかしていないのかよく分からない状態だったがそれでも武器を手に取り始めた。

 

チューバッカも自らのボウキャスターを構え敵兵を待ち伏せた。

 

「後もう少しで地雷原に突っ込むはずだ……」

 

ブラスター砲に指を掛けジョーレンは静かに敵を待った。

 

一方スピーダーに乗り込む帝国軍は敵が待ち構えているとはまだ気づいていなかった。

 

逆に戦闘の様子がなくもう既に鎮圧したのかと思っていた。

 

だがそれは大きな間違いだった。

 

「スカウト、先行して区画に突入してくれ。あの様子では戦闘が終了した可能性がある」

 

「了解!」

 

「我々も急ぐぞ」

 

「はい!」

 

分隊長を乗せたランドスピーダーと前方を走るスピーダー・バイクが速力を上げた瞬間突如地面が爆発した。

 

爆発に巻き込まれランドスピーダーとスピーダー・バイクは横転し燃え盛る残骸と成り果てた。

 

「何!?」

 

爆発に驚き部隊は急停止したがある1台のスピーダー・バイクが止まれずに再び爆発に巻き込まれた。

 

更に吹っ飛んだバイクがランドスピーダーに直撃しそのままランドスピーダーも横転した。

 

「防御陣形を作れ!」

 

生き残ったストームトルーパーやスカウト・トルーパー達はスピーダーを集めその下に隠れた。

 

数名のストームトルーパーが横転したランドスピーダーからまだ戦えるトルーパーを救助し武器を与える。

 

「一体これはどういうことだ!」

 

「恐らく対車両用地雷が敷設されていたと思われます!」

 

これではランドスピーダーを用いて接近する事が出来ない。

 

しかもこの地雷が敷設されたということは恐らく区画グレックは制圧されてしまったと思われる。

 

この文体の軍曹は「他の区画へ応援要請を」と命令したが通信妨害の影響で仲間を呼ぶことは出来なかった。

 

もう1人の分隊長は一番最初に爆発したスピーダーに乗っていた為その時点で戦死してしまった。

 

しかもこの状況を作り出したジェルマン達は彼らを好きな様に出来る。

 

「グレネードを投擲、俺とチューイで集中砲火を浴びせる」

 

「了解」

 

A280-CFEに取り付けられたグレネードランチャーの引き金を引き敵の防御陣形にグレネードを投擲した。

 

それに合わせてチューバッカとジョーレンもそれぞれ攻撃を開始した。

 

ブラスター砲が敵兵を薙ぎ払い、最大火力のボウキャスターがスピーダーの装甲を打ち破った。

 

「反撃しろ!撃て!」

 

ストームトルーパー達も手持ちのE-11やT-21軽連射式ブラスターで応戦したがブラスター砲は全てグレネードで破壊されてしまった。

 

それだけではなくストームトルーパー達にも死傷者が発生し敵のペースに対し後手に回るしかなかった。

 

だがジョーレンが扱うブラスター砲の冷却中に僅かながら隙が生まれた。

 

「煙幕を展開しその隙に接近する!」

 

ランドスピーダーのスモーク発射機能を使い周辺に煙幕を展開する。

 

辺りに白い煙が立ち込め目視では周辺の様子が全く分からなくなった。

 

その間にと軍曹はストームトルーパー達に命令を出した。

 

「散開して突撃!行くぞ!」

 

軍曹と共にストームトルーパー達は煙幕の中を突っ切り全身を開始した。

 

トルーパー達は散開し全方位から接近している為無闇矢鱈に攻撃したところで意味がない。

 

それは当然ジェルマン達も分かり切っていた。

 

「まあ敷設したのはリパルサー反応型だけだし良い判断だが……」

 

A300に持ち替えたジョーレンはそう呟きながら2人のイウォーク達の方に目を寄せた。

 

彼らが敷設した罠は確かに原始的だがもしかすると我々が持っている装備よりも遥かに厄介かも知れない。

 

接近するストームトルーパー達はE-11を構えながら駆け足で敵陣地へ向かった。

 

距離的にはそこまで離れてはいない為煙幕を抜ければ一気に攻撃が出来るはずだ。

 

そんな中ある1人のストームトルーパーが草叢に突っ込みそこで何か縄のようなものが足に引っ掛かった。

 

「なんだ!?」

 

直後どこからか飛んできた矢に首が貫かれそのストームトルーパーは地面へ斃れた。

 

別のトルーパーも同じように足に縄が絡まり矢に貫かれた。

 

「気をつけろ…!何かが仕掛けられてっ!」

 

忠告しようとしたストームトルーパーは突如何もないところで転けた。

 

よく見ると足元が草を結び合わせた仕掛けに絡まっていた。

 

同じように仕掛け矢に掛かって負傷する者や転ぶ者が続出した。

 

「やはりイウォークの罠は効果抜群だなっ……!もう少し時間があったら落とし穴や乱杭も撃てたんじゃないか…?」

 

A300のスコープを覗きジョーレンは引き金を引いた。

 

彼のA300にはコンピューター式ヒートビジョン・スコープが取り付けられており煙幕が辺りを取り囲んでいても周囲の様子が探知出来た。

 

煙幕の中を突っ込んでくるストームトルーパーを1人ずづ狙い撃つ。

 

ジェルマンも同じように自らのA280-CFEにヒートビジョン・スコープを取り付け敵にグレネードを投擲した。

 

予想外のトラップと狙撃により再びストームトルーパー達は苦戦し始めた。

 

しかも煙幕から出た瞬間チューバッカのボウキャスターがストームトルーパーを吹っ飛ばす。

 

もはや逃げ場などなかった。

 

「クソッ!レジスタンス共め!」

 

「一旦後退!後退だ!」

 

「本部に増援をっ!」

 

不利を悟りストームトルーパー達は撤退を開始したが当然生かして帰すつもりは毛頭なかった。

 

背中からでもジョーレンは敵を撃ち抜いた。

 

ここで一気に敵部隊に来られては流石に対処し切れなくなる。

 

最後の敵兵を狙撃する頃には他のスカウト・トルーパー達も全員地面に倒れていた。

 

「敵部隊の全滅を確認」

 

「よし次だ、通信を繋げる。出来れば次はもっと小ぶりの隊を呼び寄せる」

 

「分かった…!」

 

敵兵が持っていたコムリンクを利用し敵部隊に通信を取った。

 

あえてこの時だけ妨害を弱めに設定することで他の部隊とも通信が繋がるようになるのだ。

 

その間にチューバッカもジョーレンも自らの武器のチェックを行なっていた。

 

「こっちは今んところ順調だが……議長達はどうだか……」

 

ジョーレンはケフ・バーの大空を見つめながらそう呟いた。

 

 

 

 

-同惑星 捜索区画エンス-

ジョーレンの希望に反してこちらでは突如現れた襲撃者との睨み合いが続いていた。

 

シス・ウェイファインダーはハンとレイアの下にあるが襲撃者である黒いロイヤル・ガードからこのまま無事に逃げ帰れるとは思えない。

 

あの赤いライトセーバー、このライトセーバーを持つ者が簡単に一度執着したものを諦めるはずがない。

 

自らの命に換えてでも奪いにくるだろう。

 

「ロイヤル・ガードか、お前達の主人はもう5年も前にくたばっちまったぜ?それともお前の新しい主人はあの“()()()()()”とか言う奴か?」

 

ハンは敢えて黒いロイヤル・ガードに対し挑発的な態度を取った。

 

シーヴ・パルパティーンとダース・シディアスという人物が同一の人であるという情報は既に“()()()()()()()”。

 

あの黒いロイヤル・ガードがそれを認識しているかは定かではないが。

 

「それともちょび髭の…」

 

ハンが言い切る前に黒いロイヤル・ガードは手を前に翳しフォースの力で彼らを押し出そうとした。

 

しかしその力が届く前にレイアが割って入りなんとか攻撃を食い止めた。

 

その隙にハンは自らのDL-44で再びロイヤル・ガードを銃撃した。

 

ブラスター弾は全て黒いロイヤル・ガードが持つライトセーバー・パイクによって弾かれたがその隙に再びレイアが斬り掛かった。

 

黒いロイヤル・ガードは斬撃を受け流しレイアから距離を取った。

 

レイアは自らの呼吸と型が乱れていることを自覚し黒いロイヤル・ガードを追いつつも自らの意識を落ち着かせた。

 

エンドアの森で教わったことを思い出せ、今重要なのは相手を打ち倒すことではない。

 

少なくとも我々を追撃出来るようにすればいいのだ。

 

レイアはライトセーバーの斬撃以外にもフォース・プッシュや近くに置いているブラスター・ライフルを多用し様々な方法で攻撃を行った。

 

相手の黒いロイヤル・ガードは防戦しつつ反撃の機会を狙った。

 

格闘術ではレイアではなく黒いロイヤル・ガードの方に分があるかも知れない。

 

もし相手が本当にロイヤル・ガードであるならば話に聞く厳しいトレーニングを行なってきたはずだ。

 

レイアもかなりの戦いで場数を踏んできたが格闘戦ではどうなるか分からない。

 

しかし彼女には強力なフォースがついている、彼女もスカイウォーカーの血族なのだ。

 

もしかしたらそれはやがて“血の呪縛”となるかも知れない。

 

レイアの実の父はスカイウォーカーでありながら銀河系の恐怖の代名詞でもある。

 

そのことが今後彼女を苦しめるかも知れない、だが同時に希望ともなり得るはずだ。

 

自らの血の呪縛に抗う最初の1人として。

 

一瞬の隙をついて黒いロイヤル・ガードは反撃に打って出た。

 

突きを繰り出し相手が回避した瞬間にライトセーバー・パイクを持ち上げて斬撃を繰り出す。

 

ライトセーバーの刃は両面どころか刃の全ての部分に切断力がある。

 

その為少し触れただけでも相手にダメージを与えられるのだ。

 

黒いロイヤル・ガードはそのままライトセーバー・パイクを振り回しレイアと距離を取った。

 

ハンとレイアはブラスター弾を放って遠距離からでも攻撃を行うが全て弾かれてしまった。

 

黒いロイヤル・ガードはトルーパーの亡骸の側にあったプローブ・ドロイドのコントローラーをフォースで引き寄せ手にした。

 

「まさか…!」

 

ハンはすぐに察知しDL-44で慌てて黒いロイヤル・ガードを撃った。

 

無論ロイヤル・ガードは全て弾き返しコントローラーのあるスイッチを押した。

 

それはこの区画のプローブ・ドロイドを全て戦闘モードへ移行するスイッチだった。

 

「やられたっ!」

 

ハンはレイアと共に急いでもの影に隠れブラスター・ピストルを構えた。

 

第二デス・スターの残骸の隙間から数十体のプローブ・ドロイドが一斉に姿を現した。

 

プローブ・ドロイドはハンとレイアを見つけるなり自身のブラスター砲で2人を攻撃し始めた。

 

レイアはブラスター弾を弾きながらその間にハンがDL-44で狙い撃った。

 

ブラスター弾が命中したことにより2、3体のプローブ・ドロイドが撃墜された。

 

しかしその程度の数倒しただけでは全く数が減らない。

 

プローブ・ドロイドはブラスター弾を周囲にばら撒きつつ浮遊しながら2人に接近した。

 

2人は徐々に後退しつつドロイドの数を減らした。

 

しかしドロイドの数は一向に減らずむしろ増えるばかりだ。

 

しかも黒いロイヤル・ガードはプローブ・ドロイドの突撃に合わせて再び攻撃を開始した。

 

ブラスター弾を弾きつつ黒いロイヤル・ガードの斬撃を受け止めるレイアの労力は限界に近かった。

 

ハンもレイアを助けようとプローブ・ドロイドを何体か撃破したが直ぐにドロイドの集中攻撃を受けて応戦出来ずにいた。

 

「チッ!このままじゃあまずい…!」

 

ハンが援護射撃をすれば即座にプローブ・ドロイドが穴を埋め、レイアは黒いロイヤル・ガードの攻撃を受け止めている為助けに入れない。

 

万事休す、もうどうすることも出来ない状況だった。

 

数的優勢を確保した黒いロイヤル・ガードは攻勢を強めた。

 

ライトセーバー・パイクの連続した攻撃はセーバー戦に完全には慣れていないレイアを追い詰めた。

 

ロイヤル・ガードは破壊されたプローブ・ドロイドの残骸を投げ飛ばし搦手でレイアの集中を削いだ。

 

ハンも攻撃の合間を縫って近接反応爆弾を黒いロイヤル・ガードの前に投擲しすぐに起爆させた。

 

しかし事前に回避していた黒いロイヤル・ガードには何のダメージもなかったが辛うじて黒いロイヤル・ガードの攻撃を一旦止めることに成功した。

 

レイアが再び攻勢に出ようとするもすぐにプローブ・ドロイドが妨害し黒いロイヤル・ガードが体勢を立て直せる時間を作った。

 

再び黒いロイヤル・ガードの猛攻が始まりレイアはまた防戦一方になった。

 

ハンにもより一層圧力が掛けられ自身の身を守ることで精一杯だ。

 

「チッ!あいつらを呼び出せれば!」

 

せめてチューバッカやあの特殊部隊がいればこの程度の数捌けるだろうに。

 

ハンは何体かのドロイドを撃墜しながら心からそう思った。

 

一方レイアはそんなことを考えている余裕はなかった。

 

今はまず、目の前の敵に集中する必要があったからだ。

 

この黒いロイヤル・ガードはかなり戦い慣れており、そう簡単に打ち倒せる相手ではなかった。

 

フォースの能力をロイヤル・ガードとしての技能でカバーし、積極的な攻撃によって相手が手を出す隙を生まれないようにしている。

 

能力や伸び代では圧倒的にレイアに軍配が上がるだろうが今の所の経験の差では黒いロイヤル・ガードが上であった。

 

「せめてあの地図だけは…!」

 

レイアは辛うじて黒いロイヤル・ガードから距離を取ったが今度はプローブ・ドロイドの攻撃を受けることになってしまった。

 

ブラスターの雨がレイアとハンに降り注ぐ。

 

この機をチャンスと考えたのか黒いロイヤル・ガードは一気に攻撃をかけようとした。

 

レイアはどうやって攻撃を躱そうか考えていたが全ては杞憂に終わった。

 

突如上空からプローブ・ドロイドや黒いロイヤル・ガードに向けてレーザーが放たれたのだ。

 

レーザー砲が発生させる爆風やレーザーの直撃によってプローブ・ドロイドは破壊され、黒いロイヤル・ガードは防御に徹した。

 

ハンとレイアはレーザー弾が放たれた上空を横切るものを目にした。

 

T-6シャトル、旧共和国のジェダイ達が使ったシャトルで本来は非武装である。

 

しかしそれを改造しこの銀河系で未だ使っている人物。

 

レイアはすぐにその名を呼んだ。

 

「アソーカ!」

 

かつてトグルータの幼き少女だった麗しの戦士はT-6から飛び降りプローブ・ドロイドに白いライトセーバーを突き刺し衝撃を緩和しながら着地した。

 

2本の白刀を構えアソーカは次々とプローブ・ドロイドを斬り倒していく。

 

気がつけば周囲のドロイドは全て破壊され、残る敵は黒いロイヤル・ガード1人のみとなっていた。

 

「私が相手をする、2人は今のうちに船へ」

 

アソーカと黒いロイヤル・ガードの間にピリついた殺気が渦巻いた。

 

近くにT-6シャトルが着陸しハッチが開く。

 

アソーカは敵を牽制しつつ2人が船に入るのを見守ろうとした。

 

しかしレイアは彼女の隣に立った。

 

彼女の父と同じ青色の光剣を構え、彼女の父と同じ風貌を漂わせながら。

 

「先に行って!」

 

レイアはライトセーバーを構えハンにそう告げた。

 

ウェイファインダーを持ったハンを逃すのは最重要課題だ。

 

あれがなければシス・エターナルに対する反抗作戦が実行出来ない。

 

それはハンも重々理解しており、彼は苦渋の選択の末にT-6に乗り込むことを決めた。

 

本当だったらハンも戦いに加わっていただろう。

 

「ファルコンで迎えに来る、それまで待っていてくれ」

 

「ええ」

 

人を乗せたT-6シャトルはすぐに浮遊しその場を離れた。

 

黒いロイヤル・ガードは発進を阻止しようと手を伸ばしたがすぐにレイアとアソーカに邪魔をされ2人の斬撃を受け止めつつ後退した。

 

黒いロイヤル・ガードも流石に2対1、しかも相手があのアソーカ・タノでは苦戦はまず間違いない。

 

大粛清を生き残ったジェダイは仮にパダワンであっても強い。

 

カル・ケスティスとの戦いで黒いロイヤル・ガードは十分にそれを思い知っている。

 

しかしまだ引き下がる訳にはいかない。

 

もう少し戦っておかないと“()()()()()()()”。

 

黒いロイヤル・ガードはライトセーバー・パイクを構え、2人を迎え撃った。

 

ライトセーバーの刃が触れ合う音が何度も響き、再びライトセーバー線が開始された。

 

 

 

 

-アウター・リム・テリトリー 大セスウェナ連邦首都惑星 惑星エリアドゥ 連邦国防省本庁舎-

数十人の制服を着た連邦軍の将兵達がモニターに向き合い軍務についている。

 

現在連邦軍、特にエリアドゥの全地上軍基地、宇宙軍基地、航空軍基地は非常時態勢に移行し、宇宙艦隊は連邦領域内の警備任務に就いていた。

 

本庁舎司令部では各艦隊や展開中の部隊の情報を集約し警戒任務を実行している。

 

何せ捕虜が監獄船を奪取して逃走したのだ、連邦領域の安全に著しく損なわれた。

 

連邦軍に加え警察や警備隊も領域内のパトロールを続けていた。

 

「長官、カバル宙域軍司令部から報告です」

 

2人の宇宙軍少佐が敬礼し国防長官、ハインズ・リノックスに報告書を渡した。

 

彼は元々旧帝国の戦争省の人物で惑星アヴェラムの生まれである。

 

銀河内戦の混乱期に大セスウェナ連邦へと亡命し、現在は大セスウェナ連邦国防長官として働いていた。

 

大セスウェナ連邦も元を辿れば帝国軍勢力の1つ、コア・ワールドやその他の領域からの亡命者が政府の役人として働いていることも少なくなかった。

 

「カバル宙域には問題はないそうです。2時間前の報告ではステニプリス宙域も同様でしたが」

 

国防省に視察に来ていたヘルムートに報告した。

 

「現状、レジスタンス軍が展開している地域は近隣だと2つあります。1つはナブーを含めたコメル宙域周辺、そしてもう1つはアノート宙域方面」

 

「統合本部のメンバーは今、どのくらいエリアドゥに残っている?」

 

「本部長ホルト元帥とハブリン航空軍司令官はフェラー統合軍基地にいます。リンスフォード作戦部総長はセスウェナの軌道上ステーションに、ホルコム海兵隊総司令官はユヴェナ・プライムの海兵隊キャンプに」

 

統合本部は旧帝国軍の統合本部と同じく大セスウェナ連邦軍の最高機関であり地上軍、宇宙軍、航空軍、海兵隊のトップが主要メンバーに置かれていた。

 

また連邦構成国が保有する惑星防衛軍の代表として惑星防衛軍総局長もメンバーに加わっていた。

 

現在この国防省本庁舎にいるのは地上軍参謀総長と惑星防衛軍総局長の2名である。

 

「第三帝国、特に国防軍と親衛隊からの反応はどうだ」

 

第三帝国は名目上同盟国であり連邦国防省は第三帝国軍とのカウンターパートを用意していた。

 

リノックス長官は「何もありません」と首を振った。

 

「サラストの親衛隊もマラステアの国防軍にも動きはありません。アノート方面の艦隊は未だ戦闘中のことですが」

 

「どう言い繕うか迷っているのでしょう」

 

モッティ提督は冗談混じりにそう呟き、ヘルムートも皮肉を込めて「もしくは我々の説明不要と思っているのかもな」と付け加えた。

 

少なくとも連邦側の看守や警官達に死傷者は出ていない。

 

第三帝国側の警備兵、特に監獄船に乗っていたメンバーはそうもいかないだろうが。

 

「ですが、以前より気になっていることが1つ。第三帝国がウルマトラとブーンタに戦力を集中させていることです」

 

リノックス長官は近くの士官に頼んでモニターに星図を映し出した。

 

惑星ウルマトラと惑星ブーンタのある地点が赤く光り、情報が映し出された。

 

「以前FCSIAとのミーティングを元に作成したものです。ウルマトラには元々現地駐留軍の基地がありますがブーンタはそうではありません。新たに物資集積所とプレハブですが基地を建設したとのこと」

 

「一方でウルマトラの方にはISDを基幹とした十分な艦隊にSSD(セキューター級スター・デストロイヤー)と輸送艦の揚陸部隊……」

 

リノックス長官は頷き説明を続けた。

 

「物資の詳細は完全には把握出来ていませんが主に陸上兵器、武器弾薬、医薬品などだそうです」

 

「これは間違いなく何らかの地上侵攻を視野に入れた軍事行動を取るつもりでしょう」

 

リノックス長官の背後に控えていた連邦地上軍参謀総長、キャレッド・マルシャル将軍はキッパリとそう答えた。

 

彼は非常に堅物で副官にも同期にも自身のファーストネームを呼ばせたことがなかった。

 

長らく彼と共に仕事をしているリノックス長官もそのことについてはよく知っているしヘルムートも彼のことは常にマルシャル将軍、もしくは参謀総長と呼んだ。

 

「単なる国境の警備であるなら艦隊で十分、それにウルマトラにはもとより十分な戦力が配置されていたはずです」

 

「何より後方にはスレイヘロンがある、指揮機能はあそこで十分賄えていたはずです」

 

ザーラ司令官もマルシャル将軍の発言に付け加えた。

 

流石は亡きウィルハフ・ターキン総督の弟子である、即座に星の位置とそこから出来る分析を打ち出した。

 

「輸送艦の往復回数から言って両惑星に溜まっている物資の量は3個兵団を動かすのに十分なものです。それにハット・スペース全体が第三帝国の制圧下だとすると、1個野戦軍がそのまま雪崩れ込んでくる可能性もある」

 

マルシャル将軍は更に「ハット・スペースの兵力増強が進めば確実に彼らは戦争を始める」と断言した。

 

同じ地上軍の将軍として分かる所があるのだろう。

 

第三帝国は惑星制圧も含めた侵攻を展開するつもりだ。

 

「現状、シス・エターナル軍の介入で北東戦線に余裕があります。ナブー奪還は親衛隊主導という情報もありますし余剰戦力を東部に展開してもおかしくはありませんが…」

 

モッティ提督の表情はそれでもまだ信じられないといったものだ。

 

いくら狂気が蘇らせた中央の帝国とはいえそこまでやるのか。

 

誰しもが一度は思っただろう、ヘルムートも、恐らくは新共和国の死んだ議員や官僚達も皆。

 

だから第三帝国をここまで増長させてしまった。

 

彼らはコルサント制圧から今日に至るまで留まることなく戦争行動を続けている。

 

その理由は政治思想もあるだろうが一番は既に“()()()()()()()()”を構築してしまったからだろう。

 

あの軍事大国が一度立ち止まればその崩壊は新共和国や旧帝国よりも容易い。

 

「現状、これ以上の情報がないので何とも言えませんが分析では『第三帝国が連邦の“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”』と出ています」

 

盟友国、はっきりと明言されなくともそこがどこかはヘルムートはよく分かっていた。

 

それにウルマトラとブーンタの地理的関係から行って侵攻予定地はもうあそこしかない。

 

「引き続き、調査を頼む。彼女達には出来れば早めに伝えておきたい。それと“()()”の準備も」

 

「首相や各長官と協議し、進めていきます」

 

今出来るのは警戒と準備のみ、だがこの2つを怠れば厄災がすぐに降りかかってくる。

 

尤も、その厄災と手を結んでしまった時点で十分の罰は受けているだろうが。

 

「失礼します!閣下、スピーダーの準備が完了しましたのでご準備を」

 

室内に入ってきた運転手がそう報告しヘルムートは「すぐ行く」と伝えた。

 

「せっかくだ長官、乗って行くか?」

 

ヘルムートはリノックス長官に同席するか尋ねた。

 

彼らはこれから政府官邸に向かい各省庁長官や統合本部長などが出席する緊急会議に向かうところであった。

 

行き先は同じ連邦政府官邸である為時間短縮の為にも丁度良かった。

 

「私はもう暫くここで情報を収集してから参ります。官邸でまたお会いしましょう」

 

「分かった、では官邸で」

 

ヘルムートは長官達に敬礼し司令室を後にした。

 

モッティ提督やザーラ司令官もヘルムートの後に続き司令室の人気が少し減った。

 

リノックス長官は近くのモニターに寄って出てくる情報を確認した。

 

「閣下は今年で……確か19歳だったか?」

 

長官はふと背後に控えているマルシャル将軍に尋ねた。

 

将軍は「ええ、来年で20歳になると以前閣下が」と答えた。

 

「本来であれば閣下も今頃ロイヤル・アカデミーを卒業し少尉か中尉……我々の後輩になるはずが我々の上司になってしまったとはな」

 

「仕方がありません、閣下は大セスウェナ連邦盟主です。今後も連邦を維持する為には閣下が必要です」

 

そこは「スピード出世ですね」と言うような冗談が欲しかったのだが生真面目なマルシャル将軍は真面目に理由を答えた。

 

リノックス長官は苦笑を浮かべながらも「確かに、将軍の言う通りだ」と頷いた。

 

大セスウェナ連邦はかつてよりこの地を守護し繁栄させてきたターキン家の名の下に諸邦が参集して成り立ったのだ。

 

その当時からターキン家の主人であったヘルムートは単なる連邦盟主ではない。

 

大セスウェナ連邦の精神的支柱であり、銀河内戦末期の混乱状態の中で連邦を今の状態にまで持ち込んだのは間違いなく彼の手腕も一因にある。

 

奇跡の人、或いは現人神と思う者もいるだろう。

 

その神秘性とカリスマ、そしてあの若く秀麗な風貌とターキン家の家柄が連邦盟主として連邦の結束力を高めている。

 

「しかしだな将軍、私は時に思うことがある。閣下は19歳、つまりまだ10代の若者の肩に連邦の重責が掛かっているのだ」

 

リノックス長官もここまでの役職になるには様々な経験と年月を経ている。

 

それより上の役職を僅か10代の少年が担っているのだ。

 

いや、正確には“()()()()()()()”と言った方がいい。

 

ヘルムートが連邦盟主に選ばれた最大の要因はその年齢と最も本流に近い血統という2つにあった。

 

本来彼は象徴、もしくは飾りの盟主であり、様々な外敵や政敵を欺く為には御し易く見える必要もあった。

 

だがお陰でデルヴァードスのような簒奪者が直接大セスウェナ量を手にする防ぎ、今の連邦体制を維持出来た。

 

当然ヘルムートが望まれた以上の働きをしたというのもあるだろうが。

 

しかし彼はこの巨大な国家の盟主である為に、それ以前にターキン家の人間として普通の青少年とは違う育て方を受けて生きてきた。

 

「閣下自身、今の生活に納得されていると良いのだが……」

 

長官は言葉を選んだ末に心配そうな声音でそう発した。

 

本音を全て口にすることは流石に憚られた。

 

「しかし我々が閣下の代わりを務める事は出来ませんし少しでも邪な考えを浮かべれば我々は皆デルヴァードスと同じ目に遭うでしょう」

 

「それは……そうだが」

 

「国民選挙で選ばれる首相とは違い、盟主たる閣下には絶対的な存在でいて貰わなくては困ります。我々は旧帝国の轍を踏む訳にはいかない」

 

かつてヘルムートの地位を、空席となった銀河帝国指導者の地位を奪おうとした者は大勢いた。

 

誰しもが私利私欲に溺れ、結果的に帝国は全体では新共和国に勝っていたののも関わらず統一された指揮系統のもとで戦うことが出来ずに崩壊した。

 

これは正に故ウィルハフ・ターキンがターキン・ドクトリンの前述で記した通りの結末だ。

 

だからこそ大セスウェナ連邦はその轍を踏む訳にはいかなかった。

 

「すべては大セスウェナ連邦が生き残る為です。閣下とてそれは理解しておいででしょう」

 

リノックス長官は「そうだな…」と小さく頷く他なかった。

 

彼がヘルムートへの哀れみや良心を見せたところで最早どうすることも出来ない。

 

恐らくヘルムートが盟主の席を降りたいと自分で言い出してもだろう。

 

連邦が存続しアウター・リムの希望となる為にはまだターキンの血が必要であった。

 

過去も、未来も。

 

 

 

 

 

-第三帝国首都惑星コルサント 親衛隊本部 FFSIO第一作戦室-

護送中の捕虜の脱走は警備を担当した第三帝国の各保安機関、特にFFISOに衝撃を与えた。

 

捕虜の護送を担当していたのはFFISO第Ⅴ局であったからだ。

 

FFISOでは現地でパトロール中の部隊から情報を受け取り、捕虜達の行方を追っていた。

 

「護送船の発信機が全て途絶、遠隔での追跡は不可能です」

 

「第四十六封鎖部隊は後2時間ほどでアド宙域に到達します」

 

下士官達の報告にハイドレーヒ大将は「遅すぎる」と苛立ちの言葉を述べた。

 

彼の後ろではFFISOの将校達が書類やデータ端末を持って右往左往しており、作戦室は喧騒に包まれていた。

 

「オイカン大提督麾下の封鎖部隊を特例で派遣出来ないのか」

 

ハイパースペース・レーンから敵艦を引き摺り出す重力井戸の能力を搭載した軍艦は数に限りがある。

 

第三帝国は何とか重力井戸搭載艦のイモビライザーやインターディクター級スター・デストロイヤーを再建造し機動部隊を編成したがそれでもアウター・リム方面へ回すにはまだ数が足りなかった。

 

現在ハイパースペース・レーン封鎖の為に2つの封鎖部隊が展開されたが部隊が到着する頃には捕虜達は皆アノートなりコメルなりに逃げているだろう。

 

その為最も近くにいるインターディクター級を是が非でも動員したいのだがそもそも所属が違うということと、ハイドレーヒ大将は艦隊の直属上官たるオイカン大提督とある不祥事以来仲が悪い為そう易々と頼むことも出来なかった。

 

「大提督の麾下艦隊はアノート宙域攻略中で一隻たりとも動かせないと事前通知が……」

 

「であれば既存の艦隊で最低限度でもいいから封鎖線を展開させろ。居住惑星には保安局の直轄部隊を置いて警戒に当たれ」

 

「了解!」

 

時間的に鑑みて最初に護送船団を強奪した捕虜達はもうアノート宙域かコメル宙域に辿り着いているだろう。

 

逃げ出した全員を再び同じ監獄に放り込むことはもう不可能だ。

 

「長官、大セスウェナ連邦より公式の非難声明が」

 

本部付の大尉が敬礼しハイドレーヒ大将にタブレットを手渡した。

 

ハイドレーヒ大将はタブレットを受け取り不機嫌な顔で一瞥する。

 

内容は当然今回の捕虜脱走のことで大セスウェナ連邦側は『連邦領域の安全を著しく損なった』とかなり強い言葉で非難を打ち出していた。

 

ハイドレーヒ大将はタブレットをフリシュタイン上級大佐に手渡し大尉に一つ尋ねた。

 

「この文章は外務省からか」

 

「はい、外務省よりこちらにも回ってきました」

 

そのことを聞いたハイドレーヒ大将は少し考え別の将校を呼んだ。

 

その将校は敬礼し「御用でしょうか」とハイドレーヒ大将に尋ねた。

 

彼は第Ⅵ局に所属するFFISOの中佐で作戦室に連絡要員として待機していた。

 

「24時間以内に大セスウェナ連邦の国内情報を纏めて提出してくれ。少し気がかりだ」

 

「分かりました…!」

 

中佐は敬礼して作戦室を後にしハイドレーヒ大将は再び大尉の方へ話を始めた。

 

「宣伝省や各機関には緘口令を。情報を遮断させるんだ」

 

「了解、前線の部隊に対してはどうしますか?」

 

大尉は大将に尋ねた。

 

現段階で箝口令を出し、情報を遮断してもいずれ何らかの理由で今回の事件は少なからずコア・ワールドにも伝わってくるだろう。

 

特に前線で事件に関わった部隊から漏れ出ることはよくある。

 

「当然箝口令は出す。それと同時に各隊の忠誠将校に監視させておけ、少なくとも1ヶ月は保たせる」

 

命令を聞いた大尉は周りの将校達を集めて箝口令の伝達に向かった。

 

ひと段落着いたハイドレーヒ大将は司令官席に座り報告を待った。

 

今の所新しい報告は入っておらずハイドレーヒ大将は椅子に深く座り込んだ。

 

「…フリシュタイン。アンダーワールドに置いている兵力はどのくらい他に回せる?」

 

ふとハイドレーヒ大将は隣に控えているフリシュタイン上級大佐に尋ねた。

 

彼は何かを確認するまでもなく「“()()”は大体完了しましたのでポータルの警備隊以外は全て使えます」と答えた。

 

ハイドレーヒ大将は何やら満足気に微笑み、フリシュタイン上級大佐に命令を与えた。

 

「後で司令官達に各捕虜収容所と強制収容所に展開するよう伝えろ。警備強化を行う」

 

フリシュタイン上級大佐は無言で小さく頷いた。

 

「ポータルでは良くやった。これでナブー奪還さえ乗り越えれば君は晴れて准将だ」

 

ハイドレーヒ大将の代理として前線で各隊の調整を行なっていたフリシュタイン上級大佐はポータルでの“()()”が成功した事により準層への昇進が内定した。

 

帝国宇宙軍ではアカデミーを卒業した少尉が准将になるまで最低でも15、16年掛かるとされている。

 

フリシュタイン上級大佐が保安局出身だとしても彼はまだ30歳、通常よりも4、5年早い昇進だ。

 

これは彼が優秀ということもあるがそれ以上に旧帝国に比べて第三帝国には人がいないという証明でもあった。

 

「准将に昇進したら私の副官職から離れる事になる。もしかしたらコルサント外の仕事に就くかもしれん」

 

「忠誠こそ我々最大の名誉、どこへでも行きましょう」

 

フリシュタイン上級大佐の返答にハイドレーヒ大将は再び満足げな表情を浮かべた。

 

彼が親衛隊の将兵に求めているのはこのような心がけだった。

 

「尤もこの情勢下で予定通りの作戦を実行出来るかは不安がありますが」

 

「安心しろフリシュタイン、彼らとてナブー奪還は必須だ。いつまでもレジスタンスにあの場を渡しておくのは誰だって望ましくないだろう」

 

フリシュタイン上級大佐が言う不安点とは主にシス・エターナルのことだった。

 

シス・エターナルは銀河系に派遣したスーパーレーザー艦隊を突如本国に帰還させた。

 

それと同時にシス・エターナルは第三帝国に対し密かに再び艦隊を連れて銀河系に戻ってくるという旨を撤退後に伝えてきた。

 

あくまで銀河北東部における攻勢はデモンストレーションでしかない。

 

これからシス・エターナル軍の本格攻勢が始まることを暗に伝えていた。

 

そうなれば当然第三帝国もシス・エターナル軍と連携する必要がある。

 

もしかするとその過程でナブー攻略に使われる分の戦力を引き抜かれる恐れがあった。

 

「ナブーの政治的価値は高い。むしろナブーを確保したい欲で言えばシス・エターナルの方が強いだろう」

 

「正直、それも心配です。アーヴァラ7に派遣された忠誠将校の報告書を見るに軍同士の連携となると軋轢が……」

 

アーヴァラ7には当然保安局から多くの忠誠将校が従軍した。

 

セドリスらの言動も把握しており報告書には派遣された国防軍側とシス・エターナル軍の間に微妙な軋轢があったことが記載されていた。

 

より大規模な連携となった場合この軋轢が広がる可能性がある。

 

ましてや戦場の手柄の取り合いともなれば抑えるのは中々難しい。

 

「その件については我々が派遣する忠誠将校を増やす他ない。最悪ヒェムナー長官に進言して国防軍の憲兵隊に我々で手を加えるのも視野に入れる」

 

ハイドレーヒ大将はフリシュタイン上級大佐を近づけ耳打ちした。

 

「国防軍に気をつけろ。最近“()()()()()()()()()()()()()()()()()()”」

 

以前より国防軍は代理総統に対して反発的な人間も少なからずいた。

 

特にコルサント奪還以前から行われていた一部の領土奪還の際には国防軍からも「博打が過ぎる」と言う声が出た。

 

保安局は以前より反帝国的とマークされた人物や組織を黒いミラーブライトと呼んでいた。

 

ミラーブライトは今から9年前に破壊されたオルデランの子守唄であり、オルデラン出身の反帝国主義者が増加したことからオルデランの文化を取ってこう称した。

 

第三帝国において黒いミラーブライトは第三帝国内の、特に国防軍内の反総統派達を呼ぶ総称になっていた。

 

「分かりました」

 

「ハイドレーヒ大将…!」

 

急足で作戦室に入ってきた親衛隊将校が彼に敬礼し息を整えを整え話し始めた。

 

第Ⅴ局B部に所属するガンツェル中佐だ。

 

息が荒れている前に彼の顔色は随分と青く、何かまた良からぬ事態が発生したことを想起させた。

 

「ケフ・バーのハイネンシュルツ中佐からです。現在同地の調査隊はレジスタンス部隊の襲撃を受け戦闘状態に入りました。しかも黒いロイヤル・ガードが現れたという報告も……」

 

その単語でフリシュタイン上級大佐は状況を察し、ハイドレーヒ大将も表情は変えなかったが少し間を置いて命令を出した。

 

「ハイネンシュルツ中佐に命令。調査は中断、麾下部隊を撤退を開始しろ」

 

「了解…!」

 

「モーヴェル中佐」

 

「はい!」

 

ガンツェル中佐と入れ違いになる形で呼び出された第Ⅰ局A部のモーヴェル中佐がハイドレーヒ大将の前にやってきた。

 

「データベースのケフ・バー調査隊の項目を削除しろ。後参加した部隊の書き換えも頼む」

 

「分かりました。アルテン、ヨークス来てくれ、新しい仕事だ」

 

モーヴェル中佐は同僚を連れて作戦室を後にした。

 

フリシュタイン上級大佐はふと「何故レジスタンスが…」と呟いた。

 

あの黒いロイヤル・ガードがあらわ荒れる理由は分かる、だがレジスタンスがケフ・バーのことを知っているはずはない。

 

レジスタンスが現れた理由がどうしても分からなかった。

 

「考えられることは一つ、誰かが情報を漏らした。我々か“()()”のどちらかが」

 

ハイドレーヒ大将の目つきは彼の湧き上がる不満を鋭く固めたように悪くなっていった。

 

また銀河系が大きく変わる。

 

しかしやるべきことは一つだ。

 

「我々は第三帝国“()”秩序を守り帝国を幾千年も先に繁栄させていく。そのための我々だ」

 

 

 

 

 

-シス・エターナル本領 エクセゴル星系 惑星エクセゴル 玉座の間-

失敗した人間を叱りつけ、或いは罪を償わせる仕事は皇帝のやるべきことではなく、彼の片割れにいる弟子の暗黒卿の仕事であった。

 

その鉄の拳は帝国内外にとって恐怖の象徴であり、彼がいる場所に安全地帯などなかった。

 

勿論彼の怒りを免れ、或いは彼に認められた者達もいた。

 

そのうちの1人は第三帝国国防軍の大将軍となり、また1人は未知領域で才覚を露わにしていた。

 

だが大多数は理不尽ともいうべき粛清の対象となった。

 

今、セドリスとテドリンがかつての皇帝の手によってされているように。

 

「くぅ……がぁ……めっ……面目ありませんっ……!」

 

「申し訳……ございません……うっ……!」

 

シディアスの魂を入れる器は不完全とはいえ、その力は十分にあった。

 

セドリスはダークサイドの術によって己がやらかした失敗の罰を受けていた。

 

彼は与えられたジストン級のアキシャル・スーパーレーザーを失ったのだ。

 

レジスタンス軍のスターファイター隊の攻撃によって。

 

セドリスとテドリンはあの時アソーカとカルの相手に集中しすぎたせいで戦闘瞑想や軌道上にいる部隊への指示が疎かになっていた。

 

その結果アキシャル・スーパーレーザーに攻撃を受け、あわやジストン級ごと撃沈するところであった。

 

しかもジェダイとの戦闘でセドリスとテドリンは敗北寸前まで追い込まれた。

 

彼らが狙いとしていた“()()”を確保することは出来たとはいえ、シディアスからしてみればとても満足行く結果ではなかった。

 

「其方らはジェダイの生き残りどもに追い詰められ、数少ない超兵器を失った。ジェダイとレジスタンスの雑兵に敗北するほど其方らは力量不足なのか」

 

シディアスはダークサイドの力を強めた。

 

セドリスとテドリンは苦しみ、呻き声を強めた。

 

やがて苦痛に耐えられなくなり、玉座の間に倒れた。

 

「立って見せよダークサイドの達人達よ。其方らがこの程度すら耐えられぬ軟弱者であるならば、其方らには死があるのみだ」

 

「お許しをっ…!お許しください陛下…!!うわぁっ!」

 

「我らはっ……我らは必ずやお役に立ちます!!」

 

皇帝は苦しむ2人には耳も貸そうともせず、再び力を強めた。

 

周りに控えている信者達も、皇帝を守るソヴリン・プロテクター達も、ゼクル・ニストも何も言わなかった。

 

この罰は当然のものであると皆確信していた。

 

セドリスもテドリンもかなり踏ん張っていたがそろそろ限界であった。

 

もうダメかと思われた瞬間彼らに救いの手が差し伸べられた。

 

「陛下、チス・アセンダンシーに派遣した艦より現在帰還するとの報告が」

 

シディアスは2人への罰を一旦やめ、玉座に深く腰掛けた。

 

報告に来たのはフリューゲルで彼は周囲を静かに見渡し、一呼吸置いてから報告を始めた。

 

「首都シーラでフォース感受者への教育過程を終えたそうですが、その途中で“()()()()()()”に出会したと」

 

フリューゲルは最後に「もしかすると“()()()()()()”と接触した可能性もあります」と付け加えた。

 

そのことはシディアスの興味を強く刺激したようであった。

 

「スカイウォーカーと余の忠実なる手はいつ戻る」

 

シディアスの問いにフリューゲルは「後5時間ほどで帰還するそうです」と答えた。

 

一瞬だけピリついた空気が流れシディアスはフリューゲルに命令した。

 

「送り込んだ者達が帰還したら余の玉座の前にすぐ連れてくるよう伝えよ。特にスカイウォーカー、そろそろ仕上げを行う必要がある」

 

「分かりました」

 

フリューゲルはシディアスに敬礼しその場を後にした。

 

シディアスは再びセドリスとテドリンに目を向けた。

 

2人は顔を引き攣らせ、怯えているようだった。

 

もしこの場にダース・ヴェイダーがいたら間違いなく彼らを処刑しているだろう。

 

少なくともシディアスはヴェイダーよりは寛容なところがあった。

 

「セドリス、テドリン」

 

シディアスは静かに2人の名前を呼んだ。

 

2人は深々と頭を下げ、主の判断を待った。

 

彼らの諦めの良さがどうかは分からないが、少なくとも死を恐れてシディアスの叛逆したところで勝ち目はない。

 

抗えない絶対的な恐怖と力が肉体は不完全で一度は死んだこの暗黒卿にまだ残っていた。

 

「其方らに次はない。来るべき“()()()”で真価を発揮して見せよ」

 

「ハッ!必ずやご期待に応えて見せます…!」

 

「我が命を賭けて必ずやシスの悲願を…!」

 

これを許されたと捉えるか常に己の首元に刃が掛けられているのかは個人の判断に委ねられるだろう。

 

だが一つ言えることは彼らが次に失敗したらその時は本当に“()()()()”だということだ。

 

セドリスもテドリンもこれから死に物狂いで武功を立てねばならない。

 

そうでなければ必ず死よりも恐ろしいものを味わうことになるだろう。

 

「其方らに話すことはもうない。下がれ、余の僕達よ」

 

その場にいる全員がシディアスに対し頭を下げ、玉座の間を後にした。

 

2人のダークサイダーは玉座の間を出た後も拭いきれない恐怖に見舞われただろうが。

 

静かになった玉座の間でシディアスは控えさせているシス信奉者を呼んだ。

 

フード付きの黒いローブを身に纏い、深々と主に頭を下げた。

 

「お呼びでございますか、我が主」

 

敬虔深い信奉者は嗄れた声で主に尋ねた。

 

「直ちにあの装置を起動せよ。選ばれし者の末裔に“()()”、“()()”は揃っておる」

 

「分かりました、起動を急がせます」

 

信奉者は深々と頭を下げ、玉座の間を後にした。

 

あの装置を起動すればようやくこの不完全な身体で苦しむこともなくなる。

 

かつてのようにライトセーバーを持ち、戦うことも出来よう。

 

そうすれば5年のうちに失われた全ては取り戻せる。

 

己の帝国、己の力、己の弟子。

 

再びスカイウォーカーの名を持つ者を弟子にすることも出来よう。

 

シスの繁栄はまだ始まったばかりだ。

 

数千年かけて積み重ねてきたシス卿達によって生きながらえた最後のシス卿の絵空事に近い野望は達成されつつあった。

 

 

 

 

 

ジェルマン達は囮の役を担い、現在も戦闘を続けていた。

 

だが通信機を用いた偽の増援を呼ぶ作戦にも限界があり、敵にジェルマン達のトリックがバレてしまった。

 

今やジェルマン達の周りには対処し切れないほどの帝国軍部隊が現れていた。

 

辺り一帯ストームトルーパー達によって完全に包囲されていた。

 

四方八方から赤いブラスター弾が飛び交い顔も出せずにいる。

 

「チッ!まずいことになったな!」

 

ジョーレンは牽制射撃をしつつそう吐き捨てた。

 

チューバッカは自慢の火力で敵兵を数人吹っ飛ばしたが全く数が減らない。

 

ウィケットとパプルーも一生懸命に矢を放って戦うがそれこそコンヴォアの涙と言う諺通りの状態である。

 

「ええいこの!」

 

ジェルマンは敵から奪ったブラスター砲をコンテナに固定して引き金を引いた。

 

ブラスター砲の一斉射はストームトルーパー2名を撃ち倒し、敵兵1個分隊を牽制させるには十分な火力だった。

 

されど抑えられたのはたった1個分隊のみ、他のストームトルーパー分隊は攻撃を続けていた。

 

その間に工兵ストームトルーパーが地雷撤去用の機材を用いてジェルマン達が施設した地雷を吹き飛ばして道を作った。

 

爆発が聞こえジョーレンは「やられた!」と声を上げた。

 

すかさず対応に出たジョーレンとチューバッカの集中射撃によって前に出てくる敵兵を食い止めることには成功した。

 

しかしその間にもう片方の地雷原も工兵隊によって突破されトルーパー達がブラスター弾と共に前進してきた。

 

ジェルマンが再びブラスター砲で応戦するもストームトルーパー達は後数十メートルのところまで接近してきた。

 

しかも最悪なことにブラスター砲は冷却タイムに入り撃てなくなってしまった。

 

「チッ!最悪だこの!」

 

急いで武器をA280-CFEに持ち替え、姿の見えている敵兵に狙いを定めるがブラスター砲とブラスター・ライフルでは面制圧力が大きく違う。

 

攻撃を受けているトルーパーが応戦している間に別のトルーパー達が前進され、さらに距離を詰められる。

 

ジェルマンはインパクト・グレネードを投擲し敵兵にダメージを与える。

 

その様子を見たウィケットとパプルーはあることを思いついたのか徐に荒縄を取り出してきた。

 

「待って何に使うのそれ!?」

 

ジェルマンの声を無視し2人のイウォークはインパクト・グレネードを手に取った。

 

荒縄に付けて器用にくるくる回し遠くにインパクト・グレネードを投擲してストームトルーパーを撃破した。

 

後方の爆発に気を取られた隙にジェルマンの素早い射撃によってなんとか全てのトルーパーを撃ち倒す事が出来た。

 

しかしストームトルーパーの1個分隊を撃破したところで次の1個分隊がやってくるだけだ。

 

しかも工作用とはいえウォーカーを引き連れて。

 

「前方からAT-CT!」

 

そのことを聞いたジョーレンは「ここは任せた」とチューバッカに声をかけ、ジェルマンの方に向かった。

 

A300をスナイパーモードに切り替え、前方のスピーダーに乗っている軍曹とスピーダーのエンジンを狙い撃った。

 

エンジンが爆散しスピーダーは止まった。

 

スピーダーに乗っていたストームトルーパーがブラスター・ライフルの一斉射撃と共に接近してくる。

 

AT-CTはハッチに取り付けてあるEウェブ・ブラスター砲でジェルマン達を射撃した。

 

赤い弾丸が周辺にばら撒かれ、ジェルマンとジョーレンはイウォーク達を抱き抱えて遮蔽物の近くに蹲った。

 

いくら非武装のウォーカーとはいえ歩兵からしてみれば十分強敵だ。

 

「あのウォーカーを潰さんことには話が進まない。グレネードは」

 

「あるけど、これじゃあ関節も破壊出来ない」

 

2人のブラスター・ライフルについているグレネードではAT-CTの装甲にダメージを与える事は出来ない。

 

かと言って足元にサーマル・デトネーターを投げても根本的な解決には至らないであろう。

 

「一か八か接近してデトネーターを…」

 

「流石に危険過ぎる!せめてもっと遠距離からでも撃てるものを…」

 

2人はふとウィケットとパプルーが使っていた弓を目にした。

 

彼らは今、インパクト・グレネードの投擲で忙しい為弓を使っていない。

 

ジョーレンはこの弓を使った突拍子もないウォーカーの撃退方法を思いついた。

 

「ウィケット弓借りるぞ!」

 

通じてはいないとは思うが一応本人に声をかけウィケットの弓と1本の矢を拝借した。

 

急いで簡易テープを取り出し、矢にサーマル・デトネーターを巻き付け始める。

 

その光景を見てジェルマンは「一体何を…?」と困惑していた。

 

「こいつで投擲の飛距離を稼ぐ。ジェルマンは先にブラスター砲手を狙い撃ってくれ」

 

「分かった!」

 

もう四の五の言っている場合ではない為ジェルマンは早速位置についた。

 

スナイパーモードに換装したA280-CFEを構え、狙いを定める。

 

敵のブラスター砲は制圧射撃を優先して行なっている為精度はそれほど良くない。

 

冷静に、機体から身体を出して銃撃する兵士の頭に狙いを定め、静かに引き金を引いた。

 

砲手は脳天にブラスター弾を喰らい即死した。

 

一先ずブラスター砲による攻撃は止み、チャンスが生まれた。

 

もし相手がAT-CTではなくAT-STであったならばこのようなチャンスは訪れなかったであろう。

 

ジョーレンは弓矢を持って野原に躍り出た。

 

ストームトルーパー達はジョーレンを見て「逃すな、撃て!」と一斉に発砲するがジェルマンの援護射撃によって妨害された。

 

ギリギリまで接近し、近くの草原に身を隠し弓を引き絞る。

 

矢の先端に取り付けたサーマル・デトネーターの起爆スイッチに指をかけ、彼はかつて上官のジェダイ達がよく口にしていた言葉を発する。

 

「フォースよ、我と共にあれ」

 

祈りの言葉と共に矢は放たれ、ウォーカー目掛けてまっすぐ飛んでいった。

 

矢は丁度AT-CTの胴体部に直撃し、丁度良いタイミングで先端のサーマル・デトネーターが起爆した。

 

デトネーターの爆発により胴体部が破損しAT-CTは上半身と下半身に分かれて地面に崩れ落ちた。

 

「AT-CT撃破!」

 

ジョーレンは撃破の報告を終えると弓をバックパックの間に挟み、速やかにブラスター・ライフルに持ち替える。

 

ウォーカーとスピーダーを失ったことにより、ストームトルーパー分隊は一旦前進を停止した。

 

彼らもこの状況を見て、重装備なしでは苦戦すると見抜いたのだろう。

 

その隙にジョーレンはジェルマン達の場所まで後退しブラスター・ライフルの冷却を行なった。

 

「ウィケット、ありがとうな。このまま残りの分隊を制圧する。俺がインプローダーを投げたら一気に集中砲火を…!」

 

ウィケットに弓を返し、ジェルマンに指示を出しているとチューバッカが全員に聞こえるくらいの大きな声で叫んでいた。

 

彼が指を差す方向にはトルーパー達が放ったと思われる信号弾が上がっていた。

 

度々帝国軍内にも潜入していたジョーレンならあの信号が何の指示を出しているか何となく分かった。

 

「あれは……撤退命令か…?」

 

「絶対にそうだ、あれを見て」

 

ジェルマンが指を差した方向を見ると先ほどまで戦闘していたストームトルーパー分隊がスピーダーに乗り込んで戦闘から離脱し始めている。

 

しかもスピーダーが撃破された分隊の為に兵員輸送機まで到着していた。

 

「まさか議長達の方に兵力を向けるために…?」

 

「いや、きっとあれだよ!」

 

ジェルマンはまた別の方向に指を差した。

 

彼の差す方向には3機のスターシップが真っ直ぐジェルマン達の方向へ向かっていた。

 

ミレニアム・ファルコンとUウィング、そしてT-6シャトルだ。

 

移動操縦のUウィングは着陸の為に一旦周囲にタレットとブラスター砲が周囲に攻撃をばら撒き安全地帯を確保した。

 

2機はゆっくりと機体を地表に近づけ、ハッチを開いた。

 

ファルコン号の方には先に退避していたC-3POが身を乗り出していた。

 

「バスチル少佐!撤退命令です!急いで自分の船にお乗りくださいー!」

 

「了解した!チューイはイウォーク2人を連れて先にファルコンへ、何かあったら俺たちで援護する!」

 

チューバッカはすぐに「分かった」と告げ、ウィケットとパプルーを担いでファルコン号に急いだ。

 

ジョーレンは3人を見送りながら心の中で今回はイウォークに助けられたなと微笑ましくなった。

 

チューバッカ達がファルコン号に乗り込むと今度はジョーレンとジェルマンの撤退が始まった。

 

「ジェルマン、お前が先に乗り込め。殿は俺がやる」

 

「分かった!」

 

ジェルマンは持てるだけの武装を手に持ってUウィングに走った。

 

ジョーレンはブラスター・ライフルを構え、後ろ歩きでゆっくり後退した。

 

「乗り込んだ!」

 

ジェルマンの報告を聞くとジョーレンは手に持っていたスイッチを押し、周囲に敷設した地雷を全て爆破させた。

 

爆発の煙と炎で一旦視界が遮られ撤退する余裕が生まれた。

 

ジョーレンも急いでUウィングに乗り込み、コックピットの座席に座った。

 

自動操縦から有人操縦に切り替え、機体を浮上させる。

 

敵の攻撃を全く受けぬまま、ミレニアム・ファルコンとUウィングは次の目標へ向かい始めた。

 

今もなお暗黒と戦う、2人のフォースの申し子を助けるために。

 

 

 

 

同じ頃、黒いロイヤル・ガードとの激闘はまだ続いていた。

 

黒いロイヤル・ガードは先ほどまでとは打って変わってライトセーバー戦や武術を用いた正攻法による戦いを駆使していた。

 

アソーカとレイア、2対1であるにも関わらず黒いロイヤル・ガードはかなり上手く立ち回っている。

 

彼女らと長時間の鍔迫り合いになる回数は減り、むしろ連続した斬撃で2人に攻勢の隙を与えないようにしていた。

 

しかしアソーカはクローン戦争の時から数々の修羅場を潜り抜けてきたこの中で最も戦闘経験があるベテランだ。

 

レイアはまだフォースの技術を学んだばかりだが才能は十分にあり、この先頭の中でも徐々に開花し始めている。

 

アソーカはレイアに目で合図を送り彼女を一旦後ろへ下がらせた。

 

そうはさせるかと黒いロイヤル・ガードはレイアに斬撃を加えようとする。

 

だがアソーカが前に立ちはだかり、斬撃を全て防いだ。

 

白色の光剣が赤い光剣を受け止め、逆に反撃を加えようともう1本の白色の光剣が振り下ろされた。

 

黒いロイヤル・ガードもそう簡単に攻撃を受けるはずもなく、斬撃を受け止め続けた。

 

しかしこれではレイアに対し攻撃を加えることが出来ない。

 

黒いロイヤル・ガードは徐々に防戦一方となり、追い込まれているように感じた。

 

そしてそれは事実であった。

 

後方に下がったレイアが自身の集中力と持てるだけの力を込めてフォースで黒いロイヤル・ガードを押し出した。

 

アソーカの攻撃を防ぐのに精一杯だった黒いロイヤル・ガードはレイアの攻撃をもろに喰らってしまった。

 

フォース・プッシュによるダメージを受け、全身が痛む。

 

しかし間一髪のところで体勢を立て直し、ライトセーバー・パイクの先を地面に押し立てて攻撃を耐え抜いた。

 

おかげで即座に攻勢に転じたアソーカの猛攻にも耐えることが出来た。

 

彼女は何度も2本のライトセーバーで多方向から攻撃を繰り出し、時には蹴りやフォース・プッシュも多用してくる。

 

戦い慣れ、身体の使い方のコツを知っているからかアソーカに疲れの色は全く見えなかった。

 

これも彼女の師の教え方が良かったからなのだろうか。

 

アソーカの凄まじい継戦能力は精神面でも黒いロイヤル・ガードを押しつつあった。

 

「貴方も尋問官の1人?それともまた別のフォース使い?」

 

アソーカは相手のライトセーバーを押し付け、黒いロイヤル・ガードに問い詰めた。

 

聞いた話によればかつて存在していた尋問官の何人かは彼女の手によって抹殺されたらしい。

 

以前聞いた報告によればマラコアでの戦闘で死亡したらしいがやはり嘘だったようだ。

 

彼女の師を報告した者は数年経ち、皇帝を殺した。

 

その成れの果てがこの地だ。

 

黒いロイヤル・ガードは再びくる攻撃を察知し事前にその場を離れた。

 

再びレイアのフォース・プッシュが繰り出され辺りの草木が揺れ動く。

 

今度は事前に回避していたこともありダメージはなかった。

 

フォース・ジャンプで空中に一瞬だけ浮かんだ黒いロイヤル・ガードはレイアに狙いを定めた。

 

当然そのことはレイアも察知している。

 

彼女はライトセーバーを構え、防御の態勢を取る。

 

レイアは確かにフォースの強い者だ。

 

しかしフォースを用いた戦闘は自分の方が経験の差があると黒いロイヤル・ガードは考えていた。

 

加速をつけ、一突きで防御を崩そうと画策する。

 

レイアも流石にこのままでは危険だと思ったのか苦しい表情が顔に出ていた。

 

これでトドメだと黒いロイヤル・ガードは全力をかけた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

黒いロイヤル・ガードに突如レーザー弾が放たれ、遠くに吹き飛ばされた。

 

辛うじて防御する事は出来たが攻撃の算段は完全に崩れた。

 

一方レイアはレーザー弾の放たれた方向に目を寄せた。

 

やはり彼はここぞという時にやってくれる男だ。

 

レイアは戦闘中にも関わらず微笑みを溢した。

 

上空には円盤状のスターシップが1機、伝説のミレニアム・ファルコンだ。

 

9年前のヤヴィンの時のように、今度はレイアの命を救った。

 

ファルコン号からハンの声が聞こえる。

 

『迎えに来たぜ、少し遅れたかもな!』

 

レイアはその声に安心感を覚えた。

 

アソーカはライトセーバーを構え、レイアに「先に行って」と伝えた。

 

レイアは小さく頷き、ファルコン号に向かって走った。

 

ファルコンもハッチを開いてギリギリまで地表に近づいた。

 

ファルコン号がレイアを回収している間にジェルマンとジョーレンが乗り込むUウィングが黒いロイヤル・ガードを攻撃した。

 

度重なるレーザー弾を躱し、攻撃のタイミングを探る。

 

その間にレイアはファルコン号に飛び乗った。

 

レイアを回収したファルコン号はそのまま上空に舞い上がり惑星から離脱する。

 

『フルクラム、こちらで援護します。今のうちに退避を』

 

ジェルマンはアソーカのコムリンクに通信を繋いだ。

 

しかしアソーカは「いえ、貴方達も先に脱出しなさい」と答えた。

 

「もう暫くここで食い止める」

 

アソーカの応答にジェルマンはまだ納得がいっていないようだった。

 

しかしクローン戦争中のことを知っているジョーレンは『了解した』と告げ、ファルコン号に追随した。

 

Uウィングが飛び去るのを見送り、アソーカは目の前にいるダークサイドの使い手と対峙した。

 

ライトセーバーを構え、一呼吸置くことなく走り出す。

 

黒いロイヤル・ガードはライトセーバー・パイクを構え、再び防御の態勢を取った。

 

一見すれば全く隙のない防御の構え。

 

しかしこの場合相手が悪過ぎた。

 

アソーカはまず一撃目の斬撃でライトセーバー・パイクを跳ね除け、二撃目の斬撃でヘルメットを切り裂いた。

 

黒いロイヤル・ガードのヘルメットが砕け、ほんの少しだけヘルメットの中の素顔に傷を付ける。

 

アソーカは勢いを殺さずにそのまま走り抜けた。

 

黒いロイヤル・ガードは体勢が崩れ、顔の傷を押さえている為動けない。

 

アソーカがフォースを用いて高く飛んだ瞬間、彼女の背後を飛行していたT-6シャトルがアソーカを回収した。

 

黒いロイヤル・ガードが対応を取る間もなくT-6シャトルは飛び去り、ファルコン号やUウィングの後に続いた。

 

3機のスターシップは大気圏内を抜け、早々にハイパースペースへ突入した。

 

不思議なことに軌道上に控えているはずの帝国軍部隊の攻撃は特に受けなかった。

 

だがおかげでウェイファインダーを、勝利に必要な鍵を手に入れることが出来た。

 

アソーカは操縦席に座り、ようやく一息つくことが出来た。

 

戦い慣れているとはいえ戦闘は心と身体を消耗させる。

 

「どうだったかね、完璧なタイミングだったと思うが」

 

T-6シャトルを操縦するアーキテクト・ドロイド、ヒュイヤンは彼女に尋ねた。

 

ヒュイヤンとアソーカは古くからの友人であり彼の言う通りタイミングもバッチリだった。

 

「ええ、おかげで助かった」

 

ハイパースペースの中でアソーカはふと思いに耽った。

 

この戦いのこと、あの敵のこと、未知領域にいるシスの軍勢のこと、戦争の後の未来のことを。

 

「彼の言う通り地図は手に入れた。後は…」

 

向かうだけ、アソーカの中では結論が出ていた。

 

銀河の夜明けはもう少しだ。

 

 

つづく




お久しぶりですEitoku Inobeです!!

だいぶ期間が空いてしまいましたが久々のナチ帝国です!

なんとか今年中にはたくさん進めたいですね!!

そいでは!!(そそくさとどこかへ逃亡を図る音)


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