ありふれていない『天の鎖』で世界最強 (如月/Kisaragi)
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第零章 
予告編


今日の本編投稿は小説が無事に書き終わったら、ということになります。

今日中に書き上げられる様に頑張りますが、無理だった場合は許してください。

 

タイトルにもある通り予告編になります。それではどうぞ。

注意!この話については賛否両論あるかもしれませんが、そこらへんは目を瞑って見て行ってください。

 

 


 

 

 

――遥か昔、神界と人界を繋ぐために製造された、一機の泥人形がいた。

 

神々から離れていく人々を再び繋ぐために、その泥人形は作られた。

天と地とを繋ぐ鎖。故に、その鎖は。

 

天の鎖(エルキドゥ)』と名付けられたのだ。

 

そして本来天と地とを繋ぎ合わせる存在(道具)であったはずの天の鎖は、その役目を放棄して人と共に歩むことを決めたのだ。

人と共に歩む、自らにできた友人と共に。

 

そして別離の時はやってくる。天と地とを繋ぐはずであった天の鎖は、土に返った。

 

全ての役割を終えたその躰は、複雑な運命と共に世界を渡った。

そしてその躰はある男の入れ物となったのだ。

 

これはそんな物語。

ありふれていない天の鎖が、新たな世界でまた人を繋ぎとめる錨に、否。鎖となって、歩む物語である。

 

 

 


 

 

 

斯くして物語の幕は降ろされた。

本流から離れた運命は分かたれて、やがて行きつくところを変えることになる。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――」

 

変わらぬ運命。避け続けることのできない必然。

変わり続ける物語の変化の足音が鳴り響く。

 

「 殺 し て や る 」

 

奈落で化け物(魔王)が産声を上げる。その身を怨嗟と復讐に突き動かされ、起動する。

 

「……だれ?」

 

奈落の姫がそれに答える。強き思いに応えて、奈落の姫と魔王が動く。

 

「私だってやれるんですぅ!」

 

忌われし亜人が更に続く。家族を、皆を助けるために、地獄と修羅の道をゆく。

 

「妾もやるときは、しっかりとやるのじゃぞ?」

 

竜人族の姫も更に答える。確固とした意志と強き心を以て、魔王の道を共に行く。

 

「私だって、負けないんだからね」

 

恋慕の情を燃やす友人が魔王に続く。ただ、魔王の隣に立つために。そして魔王の心を守るために。

 

「俺にも。やらせてくれ、ハジメ」

 

熱き漢が魔王に問う。(魔王)の進む道を共に支えるために。

 

「俺だってやってやるさ。だから、俺のことを認めてほしいんだ」

 

昏き深淵より生まれ落ちし卿が腕となる。最強の系譜を支えるための、強き支えとして立ち上がる。

 

「私に任せてくれるかしら、南雲君。――安心して頂戴。あなたたちに私が負けているつもりなんて、少しもないんだからね」

 

強き女の剣聖が、友のため(天の鎖)にその剣を振るう。高みに至りしその絶技を以て、その剣は万物を流転させる最強の剣へ昇華する。

 

「……天の鎖を引き継ぎし神の子、天臥久鎖李が今此処に、天の鎖の名を示す!

人と人とを今繋ぎ、引き起こすのは星の息吹!」

 

神に産み落とされし天の鎖が今、名を示す。

人と人とを繋ぎ合わし、呼び起こせしはただ一つの無二の輝き。

 

「ありがとう、神様。――最高の旅を、輝きを、見させてもらったとも」

「待ってよ!久鎖李!」

「さあ、最後の仕上げと行こうか。……さようならだとも。君たちの命の輝きは、美しいものだった」

 

受け継がれし最強の系譜。

進み続ける物語。

唯一無二の、ここでしか語られることのなかった最後にして唯一つの叙事詩が幕を開く。

 

是は、ありふれていない物語。

しかし、この物語は。

 

――愛と希望の、物語である。

 

ありふれていない『天の鎖』で世界最強

Present by (´・ω・`)

SpecialThanks

 

ありふれた職業で世界最強 by 厨二好き/白米良

Fate/Series by TYPE-MOON

ハーメルン運営様

読者の皆様

 

今始まる、最強の系譜と天の鎖の物語――

 

 

 


 

 

 

ということで予告編でした。

伏線みたいなものは所々にあるかもしれませんね。

 

本編の方も投稿できるように頑張りたいと思います。それでは。

 

追記:6/3

本日の投稿はやはりこれだけになります、すみません。

明日本編を投稿しようと思っているので、ご理解ご協力の方お願いします。



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Prologue

駄作ですが見て行ってください。
そもそも見てくれている人がいるかはわかりませんけど。


ハーメルンでは初投稿なので初投稿です。

 

 


 

 

 

普通に生きる、とはどういうことなのだろうか。

 

その問いを投げかけた相手がもし一般的で普遍的な学生なのだとすれば、朝起きて、食事を摂って、学校に行って、授業を受けて、友人と話して、また食事を摂って、授業を受けて、部活や委員会、生徒会に行って活動をして、家に帰って、食事を摂って、風呂に入って、寝る。そのような答えがきっと、帰ってくるのだろう。

 

もし問いかけた相手が社会人だったとするのなら、授業という概念が仕事という概念に代わるだけなのだろう。

部活も委員会も生徒会もない。そこにあるのはきっと、仕事と上司に付き合わされて出席する飲み会だけ。

 

きっとそれが、普通に生きるということなのだろう。

その生き方が、俺にとってはとても、とても。

 

――羨ましいなと、そう思える。

 

生まれた時から、俺は病弱だった。

他の人みたいに外に出ることすら、俺には毒だった。太陽の下で陽の光を浴びることも、ただ部屋の中を歩くことも、俺には毒となった。

暫くして、俺は俺以外の『人』と会わなくなった。

それから少し経ったころには、会いに来る人は病院の先生くらいのものになっていた。

それはなぜか。理由は簡単なことだった。

あまりに病弱だった俺は、少しのウィルスで病気にかかり、あっという間に身体にガタが来るくらい病弱だったのだ。

それ故に、厳重に管理された無菌室の中に俺は入れられた。

 

そのような状況になってから、親は二度と俺の前に姿を現さなかった。

何でも妹が生まれたらしく、そちらに手一杯らしい。

俺みたいな病弱ではなく、手がかからない子供にするために今、親は妹を育てているらしい。

 

――羨ましい。

 

妹のことが、羨ましい。

親に目をかけてもらっている妹のことが、羨ましい。

目一杯の愛を、与えてもらっている妹のことが、羨ましい。

親と共にいることのできる妹のことが、どうしようもなく、羨ましい(妬ましい)

 

そう思ったころには、自分の見ている白色の世界から、色が消えていた。

 

 

 


 

 

 

俺は色のなくなった世界から逃げるかのように、様々なことを試すようになった。

テレビゲーム、勉強、ボードゲーム、読書、執筆、書道、身体に負担にならないことをたくさんさせてもらった。

 

そして俺の世界に、何と色が戻ったのだ。

 

世界に色を戻してくれたのは、アニメと小説――とりわけ‶ライトノベル"――であった。

アニメのキャラクターは、それが悪役であっても、主人公であっても、ただの脇役であっても、その全員がまぶしいほどに輝いていたのだ。

俺の心をつかんだのは、とりわけ有名な作品の『Fate/』シリーズであった。

 

世界中の英雄たちによって描かれる、新たなる英雄譚。

その旅路が、その末路が、その過程が、そのすべてが、美しく見えた。

 

俺も、このような人間になれるのだろうか。そう考える。

英雄譚の英雄たちの道が格好よく見えたその日から、俺はよく夢を見るようになった。

 

自らが英雄になり、輝くさまを、夢に見るようになった。

 

それが叶うとは、思ったこともなかった。それにあくまで、俺は本当に彼らみたいな英雄になりたかったわけではない。

俺はただ、彼らの『生き方』に憧れた。ただ、それだけだった。

輝いていた。道行が、その存在が、生き方が、理想が、全てが、輝いていた。

その輝きに。唯一無二の人の輝きに、俺は魅せられたのだ。

 

その中でも俺が好きだったキャラクターがいた。

ギルガメッシュ叙事詩に出てくる神々の兵器であり、叙事詩の主人公たるギルガメッシュ王の唯一無二の親友という設定で書かれた美しい緑の麗人。

その名をエルキドゥという、英雄である。

 

何故そのキャラが好きなのかという理由は多岐に渡る。

まずビジュアルが神。何てったってあれイケメンでしょ。それに可愛いし。

次に声が神。小林ゆうさんの男にも女にも聞こえるあの声、マジで好き。

そして能力が格好いい。武器を作って能力を臨機応変に変更できる。更に好きな人物に擬態できる上に、気配察知のスキルがめっちゃ高い。

なんだよ、最高じゃないか。俺はそう思うね。

 

……テンションがいろいろおかしくなったのは置いておいて。

上記の点以外にも好きなところがある。

それは何よりも、叙事詩の中でのギルガメッシュとの美しい友情であろう。

ギルガメッシュとエルキドゥが死別するあのシーンを見た時に、俺はエルキドゥの生き方を美しいものと思った。

ただそれだけ。でもそれが俺にとっては、とても重要なことであったのだ。

 

 

 


 

 

 

刻々と、命がすり減っていくのを、その身を以て感じる。

最近は特に大きな異常もなく過ごせていたのだが、昨日発作に見舞われた。

俺が子供の時から診察してくれていた先生曰く、もう残り一ヶ月も持たない、とのことらしかった。

 

こんな所で死んでしまうのかと思う自分と、ああ、ようやく死ぬのかと思う自分の二つが存在している。

長いようで短かった俺の人生は、無色であり続けていた。そんな代り映えのしない真っ白の景色に色を与えてくれた俺の『英雄譚』。

そのことを思い出すと、意外とこの人生も悪くはなかったなと思う。

 

身体から力が抜けていく。

ふわり、と何かが浮いた気がする。それは果たして自分の身体か否か。

真っ白だった景色が黒くなっていき、ついに視界は純白から漆黒へと移った。

さらば俺の人生、俺の身体。

ずっと同じような日常だったが、案外楽しかったぞ。

 

そんなくさいセリフを心の中で言った後、完全に意識を失った。

いや、この場合は、死んだという方が正確か。

そんなこんなで俺の人生は終焉を迎えた。

 

「……迎えた、筈なんだけどね」

 

Q.何故か死んだはずなのに目が覚めて次に自分の姿を見た時に、その姿がエルキドゥになっていた場合の正しい反応の仕方と対応について、400字詰めの原稿用紙半分から1枚の範囲にまとめて答えなさい。

A.そんなこと聞かれても困るし、そもそもそんな非科学的なことが起きた場合人は冷静な判断を下せなくなるのでそんな多い字数で反応と対応について答えることなんて出来ません。

 

……本当にどうしてこうなった。

誰か教えてください、ついでに助けてください。

 

 

 


 

 

 

続きません。

ということで失踪します、探さないでください。




最後までの読了、ありがとうございました。
きっと続きません。気ままにつらつら書いていくだけなので。

それではまた、会うことがありましたら。


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第一章 起動 -The beginning-
Ep.1


続くとは思っていなかった中で続いたので初投稿です。

評価、感想を付けてくださった方々、ありがとうございました。

 

前回のあらすじ

・転生した

・ウルクの切れる斧になっていた

・???(困惑)

 

それではEp.1、どうぞ。

 

あ、それと注意です。

この回はオリ主(天の鎖)の心の声が色々とすごいことになっています。

見た目はエルキドゥなのに心の声がすごいことになっているエルキドゥ(憑依)をお楽しみください。はいそこ、前の話がシリアスだったのにとか言わない。

 

 

 


 

 

 

そんなこんなで転生しました、エルキドゥ(憑依)です。

何か現代日本らしい名前に変えたいなぁとか思いつつ、()()()都合よく用意されていた家に住むことにした。都合よくっていうのは二次創作じゃよくあるし仕方ないよね、是非もないヨネ。

 

転生したからきっとここは型月世界なのだろうなとか思いつつウキウキで地図帳とかPCを使ってFate/Stay Nightの舞台になった都市名とか型月で存在するとされているあれこれを検索してみたけど何にも引っかからなくて頭が宇宙猫になりかけていました。

ええいままよと思ってエルキドゥのスキルを使ってこの世界に干渉してみたけど重ね重ね存在が仄めかされている水星の一(タイプ・マアキュリー)のかけらすら感じ取ることができなかった上に、死徒っぽい気配の1つすらなし。おまけに聖杯みたいなものもなければ何とアインツベルンもマキリも遠坂すらも存在していない。この事実には流石に頭を抱えた。

 

つまりここから導き出される結論は、ここは型月時空ではない別世界。

簡単に言ってしまえばクロスオーバー時空である、ということである。

 

そんなことが分かったところで、どうしようかというと。

はっきり言ってしまえば、どうしようもないということが言えてしまうのである。

 

そもそも、この世界が何の世界なのかすらもわからないのである。

様々な可能性があるからだ。

エルキドゥが有能とは言え、この世界をすべて把握できるほどに俺の脳は強くできていない。故に情報を手に入れるにも小出しで出さなければ頭の痛さのあまりに動けなくなってしまうだろう。

つまり何が言いたいのかというと、この世界はもしかしたらロボット同士が平気で戦争する世界かもしれないし、平和ながっこうでのんのんしている世界かもしれないし、QBが闊歩して詐欺師まがいのことをしている世界かもしれない。はたまた、そんな二次元の存在なんてない世界かもしれない。

そんな世界で生きることになったのである。

 

目下の課題はこの躰のスペックを十全に引き出すことができるようにならなくてはいけない。

実際に躰を別の人物に変化させようとするとイメージがあやふやだったのかボロボロになっていたし、気配察知も全然だめだった。こんな状態では完全なる形の使用なぞ夢のまた夢である。

つまりこれからしなければいけないこと。それは即ち!

 

「特訓……だねぇ」

 

漫画とかアニメとかラノベでありがちな特訓パートである。

 

 

 


 

 

 

ということで近所に何と剣道場があるとのことで、早速行ってみようと思い立ち歩き始めた。

思い立ったが吉日。前世で思う存分動けなかった分今世でこの躰を使い倒し思い切り人生(?)を楽しむことにした。

 

そして剣道場の門前に着く。

門には立派な字で、『八重樫剣道場』と書かれた木の看板があった。

わーお達筆。こいつはすげえや……

 

いや、そうじゃないだろ。

 

八重樫。

やえがし。

ヤエガシ?

八重樫。

 

……まさか、ね?

いやまさかね。そんなまさかここが『ありふれた職業で世界最強』の世界だなんてそんなことあるわけないよn

 

「あの、入門希望の方でしょうか?」

 

――声が、聞こえた。

 

この声は間違いなく、彼女の声であった。

 

「うん。少し、気になってこの門を見ていたんだ。君は……?」

 

冷静に見せかけながら心はおっかなびっくりな状態で受け答えする。

いやっていうかもう少し言うことがあっただろう。病院の無菌室暮らしでコミュ障になったのか?俺は。と言いたくなるくらい話し方が終わってたぞ。

 

というか待って、ここに来たってことは貴女もしかしなくてももしかするよね?

日本語不自由すぎるでしょ俺。

 

「あ、自己紹介、忘れていましたね。すみません。

私は八重樫雫と言います。ここの剣道場の師範の孫です。よろしければ、」

 

貴方の名前を、教えてください。

彼女――雫は、可愛げのある顔で、そう言った。

 

どうしてこうなった!!!簡単に今の心境を表すならば、この9文字を発するだけで十分なレベルであった。

いや何となく察してたよ?察してたけどさぁ!それが本当に現実になるなんて思ったこともないでしょ!?

……いや待て、冷静に考えてみればこっちは転生した人間だし、こうでもしなかったら物語が進まないということだろうから別にいいか。

 

そんなことよりも今は名前だよ、名前。

名前。名前?名前……

そしてここで思い出した。

 

――日本人っぽい名前、考えてねぇよ!というかこんなことになるなんて思いもしていなかったし、こっちはネーミングセンスなんて持ってないんだよ!

と。

 

ああもう、こうなりゃやけだ!いい感じの名前にすればいいんだろ!?

なんかいい名前はないか?かっこいい感じで、なんか語呂のいい感じの名前は?

エルキドゥ……天の鎖(エルキドゥ)……天の、鎖……

 

……これだぁ!

 

「僕の名前は――天臥 久鎖李(あまが くさり)。呼び方は自由にしてくれても構わないよ、八重樫さん。何かの縁もありそうだしね。これから、宜しく頼むよ」

「……はい!よろしく、久鎖李!」

 

そう言って彼女は、満面の笑みを浮かべた。

――あっぶねぇ!まじでいい名前が浮かばなかった!

めっちゃキラキラネームじゃん!無意識のうちにこう言っていたけどさ!

 

因みに言うと、どうしてこうなったから名前を考えるまでにかかった思考時間は実に1秒程度であった。

なんかこれだけで思考力上昇した気がするのは俺だけなのだろうか。

 

……よし、落ち着こう。

エルキドゥの演技(ロールプレイ)でこんなに慌てふためいていてはいけないからね。

 

とりあえず今は八重樫さんの祖父……つまり師範殿に会いに行って、入門のあれこれを終わらせないといけないかぁ。

自分の強化のためにはやっぱりここに通う必要性がありそうだし。

……というかこの世界がありふれの世界ならまじで強くならないと絶対にぶち転がされる。あのクソ神(エヒトルジュエ)に確実に。

それなら早いところ強くなるために、やはりここに通う方がいいだろう。

 

というか。

さっきかめっちゃ視線を感じる。

 

何だっけ、八重樫の家って忍者もいるんだっけ?あ、もちろんニンジャはいないだろうけどさ。

ドーモ、ニンジャ=サン。クサリデス。(お辞儀)

そんな感じで視線の方向に向かって礼をしたら、「アイエエエ!ニンジャ!?ニンジャナンデ!?」と聞こえた気がした。アンタらがニンジャだろうに。

 

「……」

 

因みにばっちりとこの隣に居る八重樫さん(めっちゃかわいい)にも聞こえていた模様。

なんかフリーズしていらっしゃいますね。

 

「おーい?」

 

仕方ないので目の前で手を振ってあげる。驚いている顔もかわいいけど、やっぱり女性としてはアウトな気もするから早く戻っておいで。

 

「……あっ!ごめんなさい……少し驚いちゃって」

「大丈夫だよ。何せ僕も驚いたからね」

 

はいエルキドゥのロールプレイ入りましたー。

なんだよ……結構かっこいいじゃねぇか……

 

「というか入らないかい?是非とも、ここの剣道場について聞いてみたいんだ」

「そうなの?それなら私が案内するわ。こっちについてきて」

 

よし、と頷いて門をくぐる。

何と言うか立派な道場だ。転生前は映像とか写真としてしか見ることのできなかった建物があるのを見ると、健康って素晴らしいことなのだなと痛感することができた。

 

綺麗に整えられた石畳の上を通り*1、玄関の前に着く。

綺麗に履いてきた靴を揃えて床に上がり、八重樫さんの後ろをついて行く。

道場主の下……であろうところに向かう途中で何回も視線を感じたが、次はその方向を向くことをせずにただ八重樫さんの後をついて行った。

またお辞儀してニンジャリアリティショックにかかったら大変だからである。というか滅多にそんなことないと思うのは俺だけなのだろうか。

 

「さ、ここよ。おじい様?*2

 

声をかけた先にいたのは、一人の老爺であった。

しかしその立ち居振る舞いから『老い』の二文字は感じられない。波1つ立たない綺麗な水面のような、静かな心で老爺は俺のことを見つめていた。

その立ち居振る舞いに圧倒されないように、こちらも心を静かにさせて、老爺の目を見返す。すると老爺の方が、少し驚いたかのように目を開くのをサーヴァント特有の目の良さで感じ取った。

 

「……随分と、面白そうな子供を連れてきたのう、雫。案内ご苦労であった、下がりなさい」

「はい、おじい様」

 

短いやり取りの後、雫が部屋から退出した。

それを最後まで見届けたのち、目の前の老爺がゆっくりと、そして荘厳にその口を開いた。

 

「……よくきたな、()()()()子供よ。儂の名前は八重樫鷲三、この道場の師範をやっている。君は一体、何をしにここに来たのか。

――教えてくれたまえよ、規格外の子供よ」

 

……なんかめっちゃ警戒されているんだけど、どうして?

*1
実際にありふれ世界で描写されていた記憶がなかったのであくまでも作者のイメージで書かれています

*2
雫の二人称覚えてなかったからそれっぽいのを選択しました。原作読む時間がないので正しい二人称を知っている方がいたらコメントでご指摘のほうお願いします




ということで続きます。
何とか完結までもっていきたいとは思いますが、原作の確認と執筆時間の確保が厳しい状況が続くと思います。
今年は受験で何かと忙しいので投稿がかなり開く時があると思います。
その時はゆっくりと待っていただけると幸いです。

ということで失踪します。


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Ep.2

初の連続投稿なので初投稿です。

ということでまだまだ続いて行きます。

前回に引き続き、感想と評価、並びにUAありがとうございました。

 

前回のあらすじ

・特訓パート予告

・道場の娘さんとエンカウント

・現代日本っぽい名前になる

・何故か道場の師範殿に警戒される

 

どうしてこうなったと心の中で頭を抱える、オリ主(天の鎖)の明日はどっちだ……!

 

ということで本編始まります。

 

 

 


 

 

 

目の前の八重樫流師範――八重樫鷲三さん――は、その眼光を鋭くさせて俺に問うてきた。

場を支配している威圧感によって空気がひりひりしているような錯覚を受ける。殺気のようにも思えてくるその気配は、正しく強者であることを示すかのように俺の身体に降りかかってきていた。

 

規格外の子、とは俺の事だろう。間違いない。

では何を以て規格外と言われたのか。そこが重要である気がする。

この受け答え次第によっては、俺がさらに強化される可能性があるかもしれないのだ。

 

というのも、ネット版のありふれで仄めかされていたように、八重樫家は忍者の家系である可能性があるのだ。というかほぼ確定で忍者の家系であろう。

此処で勘違いしてはいけないのが、決してニンジャではないということだろう。このネタはよく使った気がするのでこれ以上は触れないが。

話を戻して。表の八重樫流を剣術などのものだとするのなら、裏の八重樫流は正しく忍術の流派である。あくまでも個人的なありふれ考察ではあるが。

此処で忍術を会得して自らの糧にすることができたのならば、少なくともあのクソ神(エヒトルジュエ)に勝つ確率が高くなることは間違いないだろう。

もし無理だったとしてもこちらはただの一般人(前世)である。剣術で戦闘の立ち回りを学習することも重要なので、別に忍術を会得する必要なんてない。

ではなぜ受け答えが大事なのか。その答えは、忍術が重要だからである。

 

前の文章と矛盾しているように見えるが、決してジョークで言ったわけではない。

完全に会得する必要はないのだ。そう、()()には。

では会得するべき技術とは何ぞや、と思うであろう。

まず一つは気配遮断。これは重要である。その気になればエルキドゥのサーヴァントとしてのスキルを使ってそれに近しいことはできるのであろう。

しかし先にも述べたが、こちらは前世一般人――一般人とも言い難いが――である。そんな初心の素人が大層な気配遮断とかできるはずがない。

ゴリ押しでやることもできるが、やはりスマートさは重要だ。それが理由の一つである。

 

他にもあることにはあるのだが、長くなりそうだし心の中でモノローグを垂れ流しにするのも大変である。

そう思い、目の前の師範殿に目線を合わせ、答える。

 

「……まず規格外の子と僕のことを言っていたけど、僕はそのような名前ではないよ。僕の名前は天臥久鎖李。立派な名前がついているのさ。そしてもう1つ、ここに来た目的だよね?それは簡単だ。僕を強くしてほしい、それだけだ」

 

エルキドゥっぽい喋り方にしたつもりではあったが、きっと全然遠い話し方をしているのだろう。

エルキドゥなら年上相手であってもズバズバと切りかかりに行きそうだから、このような話し方はしないと思う。

因みになんでそんなことをしなかったのかというと、こっちがビビって尊大な態度を取れなかったからという理由である。

 

「強くしてほしい、か。なるほど……1つ聞こうか。

君は、いや、久鎖李君は」

 

その強さを、なぜ求める?

静かに、但し荘厳に。道場の主たる師範は、俺に問うた。

 

その言葉には、重みがあった。万惑の思いがあった。優しさが、疑問が、そして悲しみが、その言葉にはあったのだ。

 

「それこそ簡単なことだよ。僕は無力だ。こんな弱い人間では、守るべき人ができた時に何もできない。何もすることができない。

――無力なままで、生きることを諦めたままでいるのは、嫌なんだよ」

 

だからこそ俺は、力強く言葉を発した。

無力なままで、生きることを諦めたままで、というのは前世の俺のことだ。

何もすることができずにただ死んでいく。それに俺は何も疑問を持ったことがなかった。

苦しみながら俺は死ぬのだと達観していたから。言い方を変えるのならば、生きることを諦めていたから。

しかしその考えは、死ぬ直前になって変わった。このまま死にたくないと。生きていたいと何度薄れゆく意識の中で思っただろうか。

 

後悔は二度としたくない。

決して最後まで、生きることを諦めたくはない。

そう心に強く刻んだからこそ、俺はこの言葉を言うことができた。

 

「だから僕は、力を望む。……鷲三さん。どうか僕を、弟子にしてください」

 

単純かもしれない。子供みたいで、何もわかっていない人間だからそのようなことが言えるのだと、そう思われているのかもしれない。

それでも僕は、進み続けることを決めたのだ。ただ、生きていることを誇りに思い、人生を駆け抜けていくために。

 

頭を床に付けて、手を前に出す。

俗に言う土下座だ。最大限の敬意を示し、鷲三さんに頼み込む。

 

「……君の意志は、しっかりと受け取った。訂正しよう、久鎖李君。君は規格外の子ではない。唯1人の、人間だ。

――ようこそ、八重樫流へ。歓迎しよう。さあ、顔を上げてくれ」

 

ゆっくりと顔を上げる。この胸の中は、感動と感謝、そして嬉しいという感情でいっぱいであった。

目から雫が零れそうになるのを抑え込み、鷲三さんに、いや。師範に向かって声を発する。

 

「ありがとうございます、鷲三さん。いや、師範」

 

そういうと師範は少し顔を綻ばせて笑った。

その微笑みはきっと常人では見ることができないほど微小な変化であった。現に俺にも、何も表情が変わったようには見えなかった。

しかし何故か、その顔が笑っているように俺には見えたのである。

 

兎にも角にも、俺はこうして八重樫流の門下生になることができたのである。

 

 

 


 

 

 

そして待ち受けていたのは途轍もなく大変な、茨の道であった。

朝早くから道場に通い、剣を振るう。俺の場合、師範に言われた通り午前3時には道場に向かうようにしていた。

しかし剣を振るうにも大変な仕掛けを用意しているのが八重樫流である。もちろん忍術コース同時受講のためである。

最近だと油の溜まっている落とし穴とかどんでん返しを使わないと竹刀を取れない様にしてあるとか、挙句の果てには門下生たちによる襲撃とかがあったりした。

特にヤバいなと思った時は空からタライがたくさん落ちてきた時であった。

たらいの一部に突起が付いており、刺さったら間違いなく致命傷レベルの攻撃が常に空から降り注ぐ状態で走り抜けるという地獄を味わった時は、「あ、俺、終わった」と思った。割と切実にである。

 

しかしそんな地獄も俺はこのハイスペックな躰とある癒しによって戦い抜くことができたのである。

癒しとは即ち、この道場の紅一点。八重樫雫の存在であった。

 

あれから呼び捨てで呼ぶように言われて彼女のことを呼び捨てで呼ぶようにした。それ以来何故か門下生と師範からの攻撃が強くなったが。

そして特訓が終わった後の俺をねぎらってくれるようになった。それ以来更に門下生と師範からの攻撃が強くなった。

そして今では俺のことを見つけるたびに彼女が喜ぶようになった。それ以来門下生と師範が殺す気で俺のことを攻撃するようになった。

 

常に俺の躰はボロボロであったが、そんな支えのおかげで何とかやっていけるようになっていた。

因みに俺は学校にしっかりと通いながらこのようなことをしていた。はっきり言ってめっちゃ疲れる。

 

そして最近更に俺の心労を加速させる原因が発生していた。それは即ち、一人の人間の存在であった。

 

始まりは雫から、友達を紹介したいと言われて連れて来てもらったことからであった。

純粋な興味と、予想している通りの人物なら良いのだけれどという希望的観測であった。

 

「お待たせ、久鎖李。連れてきたわ」

 

雫に連れられてきたのは、案の定というべき面子なのだった。

 

「わー、綺麗な髪の毛だね。あ、私は白崎香織!よろしくね、天臥くん」

「おう、お前が雫の友達か。初めまして、俺は坂上龍太郎ってんだ。宜しく頼むぜ」

 

ここまでは普通に良かった。将来病む予定の香織、脳筋になる予定の龍太郎。普通の面子だった。嫌悪の感じない、純粋な人間だった。

しかし、最後に連れられてきた人が一番の問題であったのだ。

 

「お前、雫とどういう関係なんだ!答えろ!」

「光輝、それってどういうことよ……というかその前に自分の名前を言いなさいよ!」

「少し黙っていてくれ雫!俺はこいつに聞かないとといけないことがあるんだ!」

「光輝、落ち着けよ!俺でもその態度はダメだってわかるぜ?」

「そうだよ光輝君、一回落ち着きな?」

「みんなまでそういうことを言うのか!?おい、お前!何か言ったらどうなんだよ!」

 

……うん。

まさかこんな小学校低学年で偽善的な人間になっているとは俺も思わなかったよ。まさか初手でこんなに怒鳴り散らしてくるとは思いもしなかったし。

というか一回落ち着いたらいいのに。独りよがりなとことも自分に都合のいい様に解釈するのもきっと変わりないんだろうな。

そう思いながら、ゆっくりと口を開く。

 

「僕は雫の友達だ。後、僕にはきちんとした名前がある。天臥久鎖李っていうね。そんな話し方をしていたら、君はその内嫌われると思うけどね。注意した方がいいんじゃないのかい?」

 

これで落ち着いてくれたら良いのだけれどね。

まだこれで言葉に耳を傾けることができる状態なら、助けることができる。まだ、やり直すことができる。

 

「っ!お前、そんな口の利き方はないだろ!?雫、こんな奴と本当に友達なのか!?」

「ちょっと待ちなさいよ光輝!こんな奴って何よ!?」

「なんでそいつをかばうような真似をするんだ!そんな奴と一緒にいるとお前が傷つくことになるぞ!?」

 

……散々な言われようだな。こんなに言われることにはなるとは思ってもいなかったよ。

現に彼と友達である筈の2人は固まってるし。とりあえず2人と話すことにしようかな。

 

「うん?……彼って、いつもこんな感じなのかい?」

「え?……いや、全然違う。光輝はこんな奴じゃないんだ。いつもはもっと冷静に、俺たちの声を聞いてくれるのに。今日はなんかおかしいんだ、アイツ」

「うん。私も龍太郎君の言っている通りだと思うな。今日の光輝くんは何だか変だし……」

「そういえば……僕は彼のフルネームを知らなかったな。教えてくれるかい?」

 

何時にもまして彼はおかしいらしい。

なんでなんだろうか。俺は特に思い浮かぶこともないし、何か彼の気に障ることをしたわけでもない。なら何故、このようにバリバリに敵意を持たれているのだろうか。

フルネームを教えてほしいという内容に2人の会話の内容を誘導し、名前を聞き出そうとしたところで、とんでもない音が聞こえた。

 

パシィン!、と。

何かの音が響き渡った。

 

俺と龍太郎と香織の3人そろって目線を動かすと、竹刀が床に転がっていた。

雫が格闘技の構えを出しているところから察するに、竹刀を持って俺のことを叩こうとしていた彼のことを、雫が止めたのだろう。

 

雫は憤怒の表情を浮かべていた。

ただ純粋に、目の前の男に怒っていた。

 

「……光輝。私はね、自分が友人と思った人のことを馬鹿にされるのは気分が悪いと思う人間だし、自分の友人関係を壊そうとしてくる人間のことが、あまり好きではないの。でもね。それ以上に怒っていることがあるの」

 

空気が緊張する。

雫が静かなる怒りを、ゆっくりと炉にくべて燃やし始める。

瞬間、辺りに威圧感が飛び交った。

静かな圧迫が、ゆっくりと場を支配していった。さながら、波1つない水面の上に一滴の水が落ちた様に、威圧が場の雰囲気を覆っていった。

 

「道場に通っているあなたなら、きっと解っていた事とは思うのだけどね……竹刀は、そういう目的の(暴力を他人に振るう)ために使うものではないのよ。竹刀は暴力装置ではないの。それを貴方は、この道場では習わなかったのかしら?」

 

雫の一言一言は、正しく的を射ていた。

俺も師範――鷲三さん――からいの一番に習ったことである。

生き抜くためにこの力を使うことがあっても、それを理不尽な暴力として使うな、と。重ね重ね、聞かされた。

きっと雫は、その教えが破られたことに対して怒っている。そしてきっと、友人である俺に向かって暴力の矛先が向いたことにも怒ってくれているのだろう。

前者はともかくとして、後者の方は果たして真実かどうか確証が持てないが。

 

「……だけどっ!」

 

彼は何かを言わんとした。

がしかし。ここにもう一人の人間が、現れたのだ。

 

「ふむ。話は聞かさせてもらったよ」

 

何時も聞く師範の声よりも、若い声。

しかしその声は、この空間によく響き渡る、すがすがしい声であった。

 

「此処は1つ。――決闘ということで、どうだろうか」

 

彼――八重樫虎一(こいち)は、俺たち全員に向かって、そう告げた。




ということで今日の投稿はここまでです。
感想は明日返信になると思います、ご了承ください。

基本的に書きだめせずに書き終わったら投稿していくスタイルですのでそこはよろしくお願いします。

ということで失踪します。


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Ep.3

ということでEp.3。

今回は前回みたいに長い文章にはならないはずです。

 

前回のあらすじ

・八重樫流門下生になった

・忍者の方々にボコボコにされた

・天之川、襲来。

 

そんなこんなで始まります。

あと、二次創作日間ルーキーランキング第6位、ありがとうございました。

 

 

 


 

 

 

正しく一触即発の状況になったその時、その人はやってきたのである。

その人は雫の父親であり、八重樫流の師範代。間違いなく道場の中で師範に次ぐ強さを持つ男。

 

それが目の前に立つ、八重樫虎一さんであった。

 

「さて。話は途中から聞かせてもらっていたよ」

 

緊張した空間の中で、彼は俺たちに向かってそう言ってきた。

途中から見ていたのなら止めてほしかったという気持ちを隠して、師範代の言うことに耳を傾ける。

 

「生き抜くために力を振るうことは多々あるはずだ。しかし、八重樫流の教えにもある通りだけど、その研ぎ澄ませてきた力を理不尽な暴力として振るうことは、決してならないことだよ。光輝くん、普通なら君は破門されてもおかしくないことを、今しでかそうとしていたんだ」

 

師範代の言ったことを理解したのか、光輝と呼ばれた男の顔が段々と青ざめていく。

きっと今になって冷静になり、自分のしたことの重大さに気づいたのだろう。

 

「しかし、君はこの道場で一番の実力者だ。それに地域の人たちからの信頼も厚い。だから君は、こちらから破門することができないんだよね。

そこで決闘だ。立会人は私が務めよう。そうだね……久鎖李くん、1つ実力を見せてみたらどうだい?」

 

そこで光輝と俺で決闘、という訳か。

なるほど、俺と光輝が決闘……か……

……え?

 

「虎一さん、馬鹿にしているんですか?こいつはどう見たって……」

「君の眼には、そう見えるのかい?……先に1つ忠告しておくよ。あまり相手を侮らない方がいい、とね」

 

馬鹿にされていることは置いておこう。

この際俺が決闘の相手に選ばれていることも置いておこう。

だがしかしである。虎一さん、何故貴方はそこでそうやって火に油を注ぐようなことをするのですか。

現に虎一さんの言葉を聞いた後、光輝の顔が赤くなっていた。自分が馬鹿にされたことによる怒りからか、それとも自分のことを正当に評価してくれていないと思ったことによる怒りからか。それはわからないが、そんなことは知ったものではないと言わんばかりの速さで、決闘の段取りが決められていった。

 

「そうだね。後、私一人だと立会人として不十分かもしれないね。そこの二人(香織、龍太郎)にもこの決闘に立ち会ってもらおう。後雫もね。光輝くん、これで言い逃れはできないよ。後は君たち二人がこの条件でも構わないというのなら決闘を始めようと思う。久鎖李くん、光輝くん。この条件で構わないかい?」

 

その問いかけに、俺は頷く。

そして視線を僅かに動かすと、ここまで俺たちの様子を傍観していた二人が顔を上下に振っていた。きっと了承の意を込めているのだろう。

俺としては別に立会人とか、そういうのは関係がないと思う。しかし、正式な試合にできない分こういうのが重要なのだろうと思って聞いていただけである。

そして俺は決闘を行うと決めたので、自らの竹刀を手に取った。そして防具は付けずに、静かに自らの開始位置に立って瞑目をした。

 

「光輝くん、君はやらないのかい?」

「っ!もちろんやります!というかお前!」

 

お前、とは俺の事なのだろうか。

こちらは集中しているというのに、何をいまさら話しかけてきたのだろうか。この男は。

 

「無視するんじゃない!話を聞け!」

「……はあ。君、忘れたのかい?僕は君に、名前を名乗ったはずだ。僕は決して『お前』なんて名前ではないよ。

僕の名前は天臥久鎖李だ。どうやら君が僕の名前を忘れているみたいだからね」

「失礼なことを言うんじゃない!俺をどこまで馬鹿にするんだ!というかお前、防具をつけろ!俺のことを舐めているのか!?」

 

まーたお前呼びかい。まあいいや、それに関しては言っても無駄だということが分かった分二度と指摘しない様にしよう。というか俺、多分原作に出てくるキャラクター達以上に嫌われたんじゃないかってくらい物凄い剣幕で怒鳴られていないか?

そして防具をつけろ、という発言だが。俺は確かに今、防具を付けていない状態で待っているのだ。

それはなぜか。その答えは至って簡単なことであった。

 

「別に舐めているわけではないよ。だってこれが、僕が一番戦いやすいと思う状態だからね。……というより、君はその発言の一つ一つを一回見直した方がいいと思うよ。このままだといらないやっかみとか、他にもいろいろ苦労することになると思うよ」

 

純粋に動きやすいから。防具はなくても十分である。そして長々と言いたかったことを言ったが、果たしてそれが伝わるかどうかは別である。

個人的にはこれで改心してくれると良いのだけれど、ある意味でご都合主義の領域に達している彼の自分自身の正義を疑わない心は、治る可能性が限りなく少ないとは思っている。

一縷の望みにかけて言ってみたのだが、果たして声は届いただろうか。

 

「うるさい!お前にとやかく言われる筋合いはないんだ!」

 

やはり届いていなかった。俺の声は、やはり光輝の心に突き刺さらなかった。

これは無理だ、と判断し俺は光輝の矯正――というより改心――について考えることを辞めた。

今はただ、この決闘に全力になることにした。

 

「……おい、お前」

「だから僕の名前はお前ではないと何回言わせるつもりなんだい?」

「っ、うるさい!そんなことよりもここで誓え!」

「……一体、僕が君に何を誓えというんだい?何の権利を以て、何のために。それを教えてくれないかな?」

 

決闘が始まる寸前になって突然話しかけてくる光輝。

何回目になるかもわからないやり取りを経たのち、光輝が誓えと言ってくる。主語が足りていなさ過ぎて、何を言わんとしているのか全然わからなかったが。取り敢えず聞いてみようと思い、エルキドゥらしさのようなものを出しながら問うてみる。

さすがの彼でも、論理の破綻している滅茶苦茶なことは言わないだろう。そう思っていたのが、思えば慢心だったのである。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れるような音がした。

 

 

 


 

 

 

<三人称>

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

その言葉が男――天之川光輝――から発された瞬間、光輝の前に立つ緑の髪を靡かせている男――天臥久鎖李――が、目に分かるようにその顔を歪ませた。

顔からは怒りの感情がありありと浮かんでいた。その顔の歪み方からして、相当に怒っているということが予想できた。

 

一方、その様子を見ていた八重樫雫は光輝のあまりに勝手な物言いすら忘れて、久鎖李が顔を歪ませているということに驚いていた。

 

雫の知る天臥久鎖李という男は、基本その端麗な顔を怒りで歪ませることなどない。

寧ろ何を言われても、飄々としているようにしか見えないほど彼の表情は変わることがないのだ。

怒っているときも、基本的には笑顔で口撃してくるだけ。故に、あのように誰にもわかるように顔を歪ませている久鎖李の姿に驚いていたのである。

 

「……黙って話を聞いていれば。君、どうやらよっぽどの馬鹿らしいね。それともあれかな、君は人を怒らせることがとても得意なのかな?いやはや、そうだとしたら恐れ入るね。君、そういう道で食っていった方がきっと生きやすいと思うよ」

 

これでもかという罵倒の数々が、光輝のことを襲っていく。光輝は既に、冷静さを失っていた。決闘はじめの声がかかった瞬間、手に持っている竹刀で久鎖李の身体を打ち付けようとしているのがはっきりとわかるほどに、今の光輝は冷静さを欠いていた。

 

「……それでは、始め!

 

立会人の虎一からの合図が出た瞬間、光輝は大きく前に出て竹刀を振り下ろしにかかった。

その剣は構えも何もない、ただ力任せに切りかかるという剣術であった。

いや、最早それは剣術とは形容することなどできないものであった。ただ剣を振りかぶり、振り下ろすだけ。攻撃にも見えないただの振り下ろしであった。

 

「……」

 

それを久鎖李は光輝とすれ違うようにして難なく回避する。

そしてすれ違いざまに竹刀を当てる――

 

「1回」

 

――ということもせずに、何かのカウントを貯めた。

自らの横を通られたことに腹が立ったのか、光輝は素早く反転し剣を上段に構える。そして、

 

「うおおおおおお!」

 

雄たけびとともに、剣をがむしゃらに振り始めた。

袈裟、左袈裟、左逆袈裟、左一文字、逆袈裟。ただがむしゃらに、剣を振るい、久鎖李の躰に当てようとする。

 

「……2回、3回……4回5回、そして6回」

 

それを冷静に、そして当たらない様に回避し続ける久鎖李。

謎のカウントは続行したまま、決闘が続いて行く。

 

踏み込みの音、空気が斬られる音。空気が斬られる度に増えていく数字の数々。

最早誰が見ても、この勝負で勝っているのが光輝であるとは言えなくなってきていた。

 

「……99、100回。さあ、ここで、問題、だともっ!」

 

100回のカウントが数えられた瞬間、久鎖李が言葉を発した。

その間も攻撃は続く。先に攻撃を当てたほうの勝ちだからである。

光輝は久鎖李の言葉に耳を傾けずにひたすら剣を振りかぶっては、振り下ろしていた。

 

「このカウントは、何を意味していたか、わかるかい?」

「うるさい!お前もまじめにやれ!なんで攻撃してこないんだ!」

 

繋がらない会話。それを聞き届けた久鎖李は、深くため息を吐き告げた。

 

「……そっか。それなら、これ以上長引かせるのも面倒だね。それなら正解発表といこう」

 

――その瞬間、久鎖李の纏っている雰囲気が急激に変化した。

何処までも鋭く、濃密に、そして静かに。久鎖李の纏う雰囲気が道場を覆っていった。

 

そして、その少し後の一瞬の時間の後。

 

ドォン!、と。鋭い踏み込みの音が、道場に響き渡った。

その場で見ていた全員――試合に出ている光輝も含めて――が、はっと意識を戻したころには。

 

久鎖李は、竹刀を振り下ろして残心の構えを取っていた。

並みの人間では見ることのできない圧倒的な速さの斬撃が振り下ろされていくのを知覚できたのは、雫と虎一の二人のみであった。

 

ではその斬撃はどのようにして繰り出されたのか。その答えは、神速の剣戟の最たるもの、抜刀術である。久鎖李はそれを使用していた。

 

遅れて、竹刀の音が響き渡る。

心地よい快音が道場の中に響いたのは、久鎖李が残心の構えを解き、剣先を床に向けた時であった。

 

神速の抜刀術をもろに喰らった光輝が、倒れ伏す。

骨は折れていないにしても、その一撃は体中に強い衝撃を残していた。

 

「このカウントはね。――君が、実際に真剣を使って戦った時に、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そっと竹刀を置き、光輝のそばに近寄っていく久鎖李の表情は、少し険が取れていた。

この決闘の最中で、久鎖李自身が抱える感情に変化があったのかもしれない。

そんな状況の中、久鎖李がゆっくりと光輝に近寄っていく。

 

「君はこの道場で一体何を習ったんだい?踏み込みも、斬撃も、構えも、何もかもが駄目だったよ。はっきりと言ってしまえば、初心者よりも、君は…………いや、ここで言葉を濁すのもよくないかな。敢えて断言させてもらうよ、光輝……君は、弱い」

 

弱い。

その一言が光輝の胸の中で反響していく。

 

「君は本当に何をしたかったんだい?僕には君が力を求めた理由も、僕に嫌悪を抱く理由もわからない。でもだ、光輝。君のしていたことは、間違いだったよ。なにせ君は、八重樫流に泥を塗ったのだからね」

 

賢い光輝には、その言葉の意味が理解できてしまった。

まず傷害未遂。次に相手の侮辱。これだけでもかなり泥を塗ったことになるというのに、光輝は更に八重樫流の教えを破ってしまっていた。

少しずつ、光輝の顔が青ざめていく。さすがの光輝でも、今回起こした行動が拙かったことだと気付いたのである。

 

「あ……ああ……」

「……決着はついたよね。それじゃあ今回は僕の勝ちってことで、いいかな?」

「うん。しっかりと見届けたよ」

「それじゃあ僕は帰っていいかい?やることは終わっただろう?」

 

久鎖李は静かに、目を瞑りながら言った。

その顔には達成感と、何かを祈るような、そんな表情が存在していた。

 

 

 


 

 

 

<久鎖李>

 

……もしかしなくてもやらかしましたね、これは。冷静になった俺が最初に考えたのはそんなことであった。

キレた理由は単純明快で、雫……まあ、言うなれば『友人』との関係を無理やり断ち切られそうになったからである。

前世で持っていた体質のせいで友人ができたことが俺にはなかった。故にきっと、俺は今世でできた友人を馬鹿にされたりその関係性を断ち切られそうになると分かると冷静でいられなくなるのだろうと考えられた。

……まあそんなことよりも、いろいろありすぎて脳が混乱している中でなんであんなことを言った挙句、もう帰っていいかなんて聞いてしまったのは何でなのですかね。

 

「……うーん。まあ、いいか。お疲れ様だったね、久鎖李君」

 

まあ、師範代から許可が出たので帰るんですけどね。にしたって、今回のあれは流石にやり過ぎたかね。

個人的に好きなキャラではないとは言え、天之川にきつく当たり過ぎてしまったかもしれないなと反省する。

 

その一方で疑問に思ったこともある。

この世界の天之川光輝は、原作以上に歪んでいるのではないか。そう思えてしまった。

バタフライエフェクトの可能性も考えた。現状だとそれが一番ありえそうな可能性の選択肢である。

まあそれが分かったところでその効果について如何こうするつもりもないのだが。

 

「ありがとうございました、師範代」

 

そう言った後に道場に礼をして、師範代に頭を下げる。

そしてゆっくりと立ち上がり、道場を出ようとした。

 

「「「――久鎖李(くん)!!!」」」

 

その時であった。

道場から、3人の声が響き渡って俺の耳に届いた。

 

「……また、来てね」

 

聞き違えるはずもない、雫の声が。

 

「また会おうぜ!そん時は、俺もお前みたいな強いやつになれるよう努力してるからさ!」

 

最高に格好良くて、誰よりも熱い熱血漢な龍太郎の声が。

 

「また今度、会おうね!とても格好良かったよ」

 

聖女のような微笑みで俺を見送りながら手を振っている、香織の声が、俺の耳に届いた。

 

少し泣きそうになりながらもその気持ちを押しとどめて、しっかりと顔を振り返らせる。

そこには八重樫流の門下生たちに加えて、さっきの3人がいた。

皆に向かって手を振り、声を掛ける。

かけがえのない、俺が欲しいと思っていた友人たちに向かって、声を掛ける。

 

「勿論だとも!()()()()、ここで会おうじゃないか!」

 

そう言って踵を返して、帰路を辿る。

本当に、彼ら彼女らはかけがえのない友人になる、と。そんな確信めいたことを考えながら、家に帰る。

 

きっとその足取りは軽く、希望に満ち溢れていたのであろう。




前書きであんなことを言っておいてあれですが、とても長くなりました。
というか文章が迷走しているところが多々あります。そこはご了承ください。

ということで原作確認と失ってしまった文章力を探しに出るので失踪します。


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Ep.4

Ep.4。

先に注意です。今回の話はもしかしたらキツイ話になります。

個人的にも書くときに辛いところや書いていて難しいところになりますし、更にあまりうまく描写ができずにあやふやな表現になるところがあるかもしれません。

 

これらの要素に留意したうえで、この話を読んでください。

 

前回のあらすじ

・決闘に勝利

・なんかシリアスになった

・香織、龍太郎と友人になった

 

 

 


 

 

 

ふと思えば、すでにこの世界に来てから一年ほどが経つのだなと思った。

現在は小学校にいる。実は去年が2年生だったので、今年で小学校3年生である。低学年から少し上がって、人格や個性が学校生活の中でどんどん生まれていく時期であると俺は思う。これはあくまでも病院の先生から聞いた話なので、転生している俺にとっては正直そう言われてもピンとは来ない。

 

しかし周りを見渡してみると、確かに様変わりしているように見える子供たちがたくさんいた。

俺?いつも通りです。エルキドゥロールプレイしながらのんびり暮らしています。

 

因みにではあるが、この学校には天之川光輝と香織、龍太郎。そして雫がいるのである。そして更に追記するなら、全員が同じクラスになっている。勘のいい方たちは察したとは思うが、雫がいじめを受ける時期になってしまったのである。

この前廊下を通りかかった時にヒソヒソと話している生徒たちがいたので聞き耳を立てたのだ。褒められた行為ではないと自分でも思うが、会話の途中で友人()のことを否定するようなことを言っているのを聞いてしまったからこのような行動に出た、という訳である。

 

聞いているだけでブチ切れそうになる罵倒の数々を何とか聞き流し、録音を取ることには成功した。しかし実際にいじめを行ったわけではないから、うかつな行動をとることができない状態という訳である。

 

チラッと、自分の近くで香織と話している雫の姿を見る。

今のところは何か辛そうな雰囲気のようなものを感じない。雫が感情を隠している可能性も高いが、果たしてその考察が正しいかどうか。少し様子を見ながら考えることにした。

 

何かがあってからでは遅い。被害に遭う前に何とかいじめを防いで、二度と同じことが起こらない様に対策を考える必要がある。

そしてもう一つの課題は、あの偽善者(天之川光輝)に先に雫のいじめについて知られてしまうことがない様にしなければならない。

その理由は天之川光輝の理論にある。彼は性善説を信じて疑わず、何事も自分が正義であると疑っていない節がある。故に、原作において雫は長い間苦しめられることになったのだ。そのようなことがない様に、俺が何とかしていきたい。救うことのできる人間は救っていきたい。それが今の考えである。

思考の海からいったん抜け出して、意識を浮上させる。既に休み時間は終わっており、授業が始まっていた。

 

ふと、窓から外の景色を眺めてみる。空は黒い雲で覆われていて、何か良くない未来を暗示しているように見えた。

 

 

 


 

 

 

いじめの事について考えてから一週間が経っていた。

今のところ、やはりいじめの形跡が雫からは見えていなかった。

 

しかしその表情には、どこか暗いものが見え隠れしているように見えた。従来では気付く事さえままならない微小な変化であったが、しょっちゅう一緒に行動していた雫の事である。それくらいの表情の変化には十分に気付く事が出来た。

しかし今から話しかけにいくのは得策ではない。さっきから強い視線を感じているのだ。

敵意と、嫉妬と、他の暗い感情が俺に突き刺さっている。きっとこれは、雫の事をいじめている人間たちからの視線であろう。

 

……嫌になってくる。

俺は第一、他人を蔑ろにして集団でそういうこと(いじめ)をしてくる奴らが好きではない。

それにこの世界にやってきて初めてできた友人が雫なのである。特別な思い入れだってあるし、それ故に彼女の事を攻撃してくるやつのことがあまり俺は許せそうにない。歪な感情であることを理解していてもやはり俺は、雫の事を大切に守ってやりたいとそう思うのである。

 

取り敢えず、今は打てる手だけを打っておこう。そう思い自席を立つ。

すると俺に向いていた視線が少しだけ軟化する。自分が話しかけて貰えるかもしてないという希望的観測を、皆が皆持っているのだろうと考えることができた。

 

「……雫」

 

静かに声をかけると同時に、1枚の紙切れを押しつける。傍から見ただけだと何かが諍いがあったように見えるが、敵意をもってやったわけではない。

こうすることで雫への攻撃を少しでも遅くできるようにという目論見が含まれていた。もしかしたら意味がないかもしれないが、やらないよりはましだろう。

 

雫から少し離れて、窓側の席から廊下の扉前に向かう。

雫は紙切れを読んだあと、扉の近くから雫を見つめている俺の視線に気づいたのか、俺の方を見て目線でうなづいてきた。

それを確認した俺は、素早く廊下に出てトイレに向かった。流石に扉付近まで来ておいてそこから席に戻るのは怪しまれると思ったからだ。

 

布石は一手撃つことができた。ここからが、俺の能力の見せ所になるだろう。

エルキドゥの能力をフル活用して、必ずいじめを排除してやろう。そう俺は心に誓いながら、流し台で手を洗っていた。

みんなも手洗いとうがいはしっかりとやろう。やらないと前世の俺はボロボロになっていたからだ。何かとウィルスは怖い。たかがウィルスだと思わずに、みんなもしっかりと病気の感染予防に努めよう。

 

 

 


 

 

 

そして放課後になって俺は指定した場所で雫の事を待っていた。

しかしいつまで経っても、雫が現れないのだ。指定した時間からかれこれ十分が経とうとしていたのである。

……さすがに異常だ。もしかしなくても雫は今、いじめに遭っているのではないか。そう思うと、なんだか心が落ち着かない。

苛立ちを隠すかのように指をトントン、と膝の上で叩く。そんな風にして雫を待っていると、不意に声がかかった。

 

「あ、天臥くん!」

 

指定した位置は普段誰も立ち寄らない教室の中である。それこそ、このように呼び出しをしない限り人が来るということはない。

――怪しい。雫以外にこの場所がばれない様にうまく行動をしたはずなのに、今こうして人がやってきているのを考えると目の前の女の子が怪しく思えてしまう。

警戒心を切らさずに、必要な情報を聞き出す必要があると判断を下す。なるべく目の前の女の子に悟られない様に情報を聞き出すことにする。

 

「君は確か、同じクラスの子だったはずだよね……?僕に何の用かな?」

「天臥くんに聞きたいことがあったんだ。どうして天臥くんは、あんな男女に構っているの?」

 

……もしかしなくても、この男女とは雫の事ではないのか。そう思うと目の前の女の子は雫をいじめているグループの一人ということになる。

昔の記憶を頭から引っ張り出す。いつか聞いたことのある声ではないか、どこかで見たことのある姿をしていないか。ここ最近の記憶に残っていないか、自らの脳をフル活用して記憶を引っ張り出していく。

 

「私だって……天臥君に見ていてほしいのに……」

 

ふと、そんな小声が聞こえてきた。その声色は、嫉妬と恨みに塗れている声であった。

もしかしなくてもこの子はいじめのメンバーだ。この声を聞いただけでそうだと分かってしまった。

その声を聞いた時に感じたのは、底なしの憎悪と嫉妬。そして理不尽な怒りの感情であった。どろどろとしていて黒く淀み切っているその感情は、理不尽なほどに雫のことを突き刺していることが容易に想像できた。

 

恐ろしくなる。雫はこんなものの攻撃に耐え続けていたのかと。

そして俺は同時に、原作では心が折れそうになりながらもこの視線に耐え続けていじめを乗り切っていた雫のことが凄いと思えた。

 

そして彼女の小さな声を聞いてさらに気付いたことがあった。いや、気づいてしまった。

この世界では天之川光輝と常にいたからいじめが起きたのではない。確かに天之川光輝と雫は一緒にいることが少なかったのかもしれない。

しかし、俺とはどうだったのだろうか。実際のことを言うのであれば、光輝と一緒にいた時間よりも俺と一緒にいた時間の方が長い。

 

つまり、つまりである。

雫のいじめの原因は、俺自身にもあるのである。

 

その事実に気づくと、自分の無責任さとなぜこのようなことに気づけなかったのかという自分への苛立ちが募る。

やり場のなくなりそうなこの感情を力任せにたたきつけない様に気を付けつつ、改めて目の前の女の子に向き合う。

 

「どうして、と君は聞いたけど。逆に何で君は僕の交友関係に文句をつけるかのような口調で聞いてきたのかい?」

「べ、別に文句をつけに来たわけじゃないの!私はただ、何で天臥くんが()()()()()()()と一緒に居るかっていう理由を聞きたかっただけよ!」

「……」

 

呆れてものが言えなくなってしまう。

この子、光輝といい勝負をしているのではないかと考えてしまうほどには考え方が捻じ曲がっている。

そして俺は、雫のことをあんな奴呼ばわりされたせいでかなり脳に血が上ってきていた。

 

「そうなんだ。それじゃあ何でか教えてあげるよ」

 

いらつきを言葉に乗せながら、目の前の女の子のことを見る。

雫への思いの丈をこの声と感情に乗せて届ける。

 

「……雫はね。ああ見えても繊細なんだよ。君たちみたいに集団になっていじめられても、決してばれない様に僕達に取り繕ってくる。それでも彼女は決して心を折ることなく常に強くあり続けているんだ。それってすごいことだと、僕は思うんだよ」

 

本心からの雫に対する尊敬の念と皮肉を交えて、目の前で信じられないという顔を浮かべている女の子に向かってさらに話を続けていく。

 

「君は彼女の事を男女って言ったけどさ。あの子は決して男ではないよ。人並みの女の子みたいに可愛いものが好きで、お洒落が好きな女の子。それが君たちの知らない、八重樫雫という少女の本当の顔だよ」

 

君たちの知らない、のところを少しだけ強くいってみるとやはり女の子の方は怒り心頭というような表情を浮かべて睨みつけてきた。

 

「……なんで……何であなたが、そんなことを知っているんですか!あんな地味で、全然可愛げもないやつのくせに!何で貴方はそういうことを言ってくるんですか!?」

 

目の前の女の子の言葉に耳を傾けて、重要なことを聞き逃さないように意識を集中させる。

なぜ彼女が、いや彼女たちが、雫のことをいじめているのかを聞き出せていない。さっきからの会話で何も原因を言っていないことに気づき、問い質してみることにする。

 

「何でか。それはね、僕と雫が友達だからさ。というよりも、君はその醜い嫉妬をやめた方がいいよ。そんなものからは何も生まれてなんか来ないのだからね」

 

醜い嫉妬という言葉が強く響きすぎてしまったのか、目の前の女の子は顔を歪ませてこちらのことを見てきていた。

どうしてそんなことを言うのか、という表情が見え隠れしている。

 

「あと悪いことは言わない。今のうちにいじめをやめておくことを推奨するよ」

「……()()()、そういうことを言うんですね」

 

ちょっと待ってくれ(オルガ団長並感)。

貴方も、ってことはつまりである。誰かが、既にいじめをやめるように言っているということになる。

しかし龍太郎や香織がそういうことを言っていたらきっと俺にも伝えてくれるだろう。二人からそのようなことは聞いていない。

 

これから予測できること。それはつまり。

 

「……もしかして、光輝かい?」

「……よくわかりましたね。そうですよ」

 

待ってくれよ。

それだったらまさか、俺が気付くずっと前から。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

無言で走り出し、教室から出ていく。

話していた相手には完全に失礼に値するが、そうしないといけないような気がしたからだ。

雫を一人にさせてはいけないと、そう強く思ったからだ。

 

「……天臥くん!」

 

後ろから聞こえてくる声に聞こえないふりをして、俺は走り出した。

ただ、雫を探し出して見つけて話をしなければいけない。

 

空の雲は、黒く淀んでいた。

一抹の不安を抱えながら、俺は走り出した。

 

 

 


 

 

 

暫くシリアステイストが続きます。

前書きにも書きましたが、描写が難しいところになっているのでこの小説が好きではないなと思った方はブラウザバックをしてください。

 

次回の投稿は土曜日になるといいなと思いながら〆たいと思います。

日曜日は少々苦しいかもしれません。なるべく毎日投稿を心掛けていきますので宜しくお願い致します。



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Ep.5

というわけでEp.5です。

なるべく納得のいくような文章にしているつもりなので、よろしくお願いします。

 

前回のあらすじはなしです。それでは本編の方、よろしくお願いします。

 

 

 


 

 

 

暗雲が立ち込んでいる住宅街を走り抜ける。遠くで雷の音が鳴っているが、そんなのは知ったことかと聞き流して雫のことを探し続ける。

歩みを止めて探すのを諦めた瞬間に雫がどこかに行ってしまうかもしてないという恐怖と、何か言葉で言い表すことが難しい責任感を抱え込み、俺はひたすらに走り回っていた。周りからは奇異の視線で見つめられている。しかしそんなことを気にすることができるほど、俺の心に余裕はなかった。

 

ぽた、ぽた、と。

水滴が落ち始める。

 

春先になって暖かくはなったとはいえ、まだまだ雨が降ると寒い季節である。

こんな状況下でずっと外に居たら身体も壊してしまうだろう。また一つ、俺の心に雫のことを見つけ出さねばいけないという責任感と恐怖が増える。悲鳴を上げて必死にこの責任につぶされそうになっている心に再び火を灯し、雨によって冷え込み始めた初春の住宅街を走り始めた。

 

最初は弱かった雨も今では土砂降りの豪雨になっている。

その雨はまるで、雫の心が悲鳴を上げて泣いているようにも見えた。寧ろ、俺の目にはそうにしか見えていない。

躰が重くなっていくのを感じる。雨を吸い、すっかり躰に張り付いている洋服の不快感から目を背けるようにして走り続ける。ただ、友人を救うために。

雨に濡れた洋服のせいか。自らが出している汗と雨が混ざり、さらに不快感が増しているように感じられた。

 

雨降る住宅街を抜けて、遂に俺は橋に辿り着いていた。

そして橋の丁度真ん中あたりのところに、八重樫雫は立っていた。その目はどこか遠い虚空を見つめていて、意識がここにはないように感じられた。

 

ゆっくりと近づいていく。怖がらせない様に、彼女の傷ついた心に寄り添えるように。

そしてなるべくいつも通りの外面(ロールプレイ)で雫に話しかけた。

 

「……雫。こんなところで何をしているんだい?このままでは風邪をひいてしまうよ」

 

心なしか自分の声が上ずっているように聞こえてしまう。

ここで何故雫が苦しんでいるのかも知っているのに、まるで何も知らぬかのような態度を演じているのを自覚して。これでは道化だなと自嘲した。

そんな考えがばれない様に、鉄の仮面を被っていると雫が話し始めた。

 

「……久鎖李。そっか、あなたにも」

 

ばれちゃったんだね。彼女は何処かあきらめたように、そしてとてもつらい気持ちを隠すようにしてそう口にした。

聞いただけでその声が泣いた後なのだということを知ることができるほどに、今の雫の声は震えていた。顔にも長い時間泣きはらした跡が残っていた。

 

「最初は、ばれない様に頑張っていたの。貴女にばれたら、香織たちにばれたら、大変なことになると思って、耐えていたの」

 

聞いているだけでつらい気持ちになる。

心を鷲掴みにされたような感覚を受けながら、雫は話を続けていく。

 

「……でも、我慢できなくなっちゃった」

 

彼女は何処か狂ったように、そして疲れ切ったかのように微笑みながらそう言った。

いつもは美しくて、そして可愛い彼女の表情()は濁り切っていた。

 

「光輝に相談してみたの。光輝ならきっと、正しい正義感の下で彼女たちを叱って、守ってくれるって。そう思っていたの」

 

光輝に相談した。それは原作と同じ末路であった。

自らの正義を疑わない天之川光輝という男は、このいじめの件でも自らの信じる正義を疑わなかったのだろう。そうでなければ、今目の前で泣いている理由がなくなってしまう。

 

「……光輝は、私にこう言ったのよ。『きっと悪気はなかった』って。『みんないい子たちだよ』って。……『話せばわかる』って。光輝は、私のことを助けてくれなかった。ずっと私はいじめられていたの」

 

救われることを諦めたかのように、雫は力なく言った。その声には光輝への絶望が感じられた。

光輝はやはり、自分の正義を疑っていなかった。泣きながら話す雫の声を聞いただけで、()()()への黒い感情が湧く。それがばれない様に取り繕いながら、更に話し続ける雫の声に耳を傾ける。

 

「光輝に相談に行くたびに、彼女たちのいじめは暴走を強めて行ったわ。……あるときね、こう言われちゃったの。『あんた本当に女だったの?』ってね」

 

原作でも書かれていたエピソードである。彼女の心はこの言葉で一段と崩れていったのだろうと当時の俺は読んでいて思った。

雫は誰かに頼るということを原作ではほとんどしてこなかった。その原因がこのことである。

今の俺なら彼女の心を救うことができるのだろうか。今の俺で、彼女の事を救うことができるのだろうか。

 

「私ね。貴方だけには、いじめに遭っているって気づいてほしくなかったの」

 

雫から語られる言葉に、俺は驚きを感じる。

友達とは、そういう苦しいことがあった時に助け合う存在ではないのか。前世で友達を持ったことのない俺は、雫の言っている言葉の意味が一瞬理解できなかった。

 

「あなたに、心配をされたくなかった。優しいあなたに、私がいじめに遭っているなんていうことは出来なかったの」

 

そんな俺の些細な疑問は一瞬にして崩れ去った。雫は俺のことを心配して、俺にその事実を伝えていなかったのだ。

水臭いな、と思う。しかし同時に、深く納得できてしまった。俺がもし逆の立場だったら間違いなく、雫にこのようなことは伝えていなかったからだ。

それでもやはり、理解はできても納得はできなかった。なぜなら、いじめの原因の一つは重ね重ね言っているが、俺が関わっているからだ。

 

そもそもの話ではあるが、俺は何故か周りからの視線を集めやすい人間である。天之川も視線が集まりやすいが、俺に集まる視線はもっと多いのである。物珍しさや中性的な顔が原因であるとは思うのだが。

そして俺自身が外部との接触を必要最低限にとどめているというのもある。あまり周りに人を近づけないし、近づいてきても必要以上に会話はしない。

 

しかし雫や香織、龍太郎に限っては別であった。俺が個人的に関わりたいと思うから、積極的にコミュニケーションを取る。香織は光輝とよくいるからいじめの標的にはされない。龍太郎は体が大きく怖いから手を出しにくい。だからこそ、光輝との関わりが少なく狙いやすい雫がいじめの標的になってしまうのは必然であったのかもしれない。

 

「あなたのせいではないの。それは心にとどめていてほしいわ。……私が女の子らしくないから、私が可愛くないから、私がっ、……」

 

そこから続きに言おうとしたことを、雫は話すことができなかった。再び泣いてしまったからである。

 

心が締め付けられる。自らの無力を呪い、俺も泣きそうになる。

しかしここで、俺が泣くわけにはいかない。彼女の心は今、壊れてしまっている。それをそっと守ってやって、心を直す。それが今、俺にできることだ。

 

そう判断した俺は両手を緩やかに広げて、雫の肩をそっと抱き寄せた。

一瞬雫はあっけにとられたような顔をした。何で、と言っているようにも見えた。

それを俺は気にも留めず、今にも折れてしまいそうな華奢な雫の肉体を引き寄せた。

 

「……もっと早く、気づいてあげられなくてごめん。これが終わった後、何でもしていいから。……今は、雫のことをこうやって守らせてほしい」

 

そう言って、俺は右手をすっと動かして雫の後頭部に腕を回した。

そしてゆっくりと、頭を撫で始める。雫が少しでも落ち着くように、少しでもつらい感情を吐き出せるように。

 

暫くした後、俺の胸元から静かに鳴き声が聞こえ始めた。

その声を聞くだけでこちらも罪悪感に押しつぶされそうになる。それをぐっとこらえて、頭を撫でる。肩に回していた左手は背中の方に回して、その小さくて悲しみに塗れた背中をさするために使う。

 

そうしてから一体、どれほどの時間が経ったのだろうか。

永遠にも感じられる長い時間が過ぎ去り、いつの間にか胸元から聞こえてきていた泣き声は小さく眠っている音に代わっていた。

 

すう、すうと可愛い顔で寝ている雫が愛らしく見えてくる。

しかしこのままだと風邪をひいてしまう。こちらは躰が頑丈だが、雫は生身の人間である。早く家に帰らせて体を温めてあげないと大変なことになってしまうだろう。

 

ふう、と一息吐く。

此処は俺が少し頑張る必要性がありそうだ。そう思い左腕を膝裏に、右腕は頭を抱えるようにして雫のことを持ち上げる。俗に言う『お姫様抱っこ』の形である。

雫の荷物を左肩に背負い、自分の荷物を右肩に背負う。両手に雫を抱えた状態で、俺は雨降る住宅街を歩き出した。

 

これで雫が少しでも救われたのならいいのだが、きっとこれだけでは駄目だ。

それならばどうするか。俺にできることは少ないが、まだできることが残っている。彼女の心を少しでも楽にさせるために、俺は更に歩く速度を上げて八重樫家に向かっていった。

 

 

 


 

 

 

気づけば空から雨雲は消え、空は灰色に染まっていた。

事情を雫の両親(虎一さん・霧乃さん)祖父(鷲三さん)に伝えると、それぞれが怒っていた。天之川にも、いじめてきていた相手の生徒にも、そしてそれを相談しづらいような育て方をしてきた自分自身たちにも怒っていた。感謝の言葉を俺に伝えたあと道場の中がにわかに騒がしくなり、討ち入りとか暗殺とか物騒な単語が聞こえてきたように感じたのはきっと気のせいだったのだろう。いや、気のせいであってほしかった。

 

俺は俺でできることを進めた。学校内部でできうる限りの情報を集めて流し、それを先生たちに伝えていじめが起きていることを周知の事実にさせた。

大人たちは最初から相談を受けていたがそれを黙って聞き流していたことが明らかになったため、生活指導部の教員や校長先生がこのことを知った俺の師範たちにボコボコにされそうになっていた。その後教育委員会にバレてもれなく全員減給と停職処分を受けることになったらしい。

 

そしていじめをしていた児童たちは保護者を呼んでの三者面談となり、謝罪の後に転校の処分が下された。この程度で済んだのはいじめを受けていた側であった雫がそれで十分であると言ったからであった。

ここから心を入れ替えて彼女たちには過ごしてもらいたいと思った。

 

しかしその一方で変わらなかった者もいた。それが天之川光輝であった。

彼はいじめを雫が受けていたのが事実であったということを知った後、雫にこう言ったのである。

 

『雫、何で君は俺にいじめを受けていたと言ってくれなかったんだい……?しっかりと伝えてくれていたら俺が君のことを守っていたのに……』

 

これを聞いた俺は血管がちょちょ切れそうになるくらい怒りを爆発させそうになった。当たり前である。

この男は歪み過ぎていた。小学校で有り得ないくらいには思考回路が捻じ曲がっており、短絡的で尚且つ自己の偽善を信じて止まない性格になっていた。道場の師範たちは光輝を破門にしようとした。勿論俺だって破門にさせようとした。

 

しかし天之川はとち狂ったのか、その事実を伝えた瞬間錯乱し俺のことを思い切り木刀で殴ろうとしてきたのだ。

さすがの俺も反応することができなかった。冷静である筈の師範たちも動くことができなかった。何故ならここで動いても危険であることが分かっていたからというのが分かってしまったからである。

 

しかしその暴挙はとある人物によって止められた。それが八重樫雫であった。

彼女は目にも止まらぬ速さで俺に振り下ろされる進路上に木刀を置き、その一撃を迎撃して見せたのだ。

 

「……光輝。あなた何しているの?」

「雫!?何故止めるんだ!こいつはお前の父さんを狂わせたんだぞ!?」

 

最早何も言えなくなるほどの罵倒の嵐がここから続いた。

書くのも億劫なので言わないが、最終的には光輝は破門になった。それは当然の結果であった。

しかしその後も光輝はしつこく道場に通い詰めて抗議をしてきた。その上、学校で俺に会ったら先ず罵倒ということを日常的に繰り返していき、その結果俺と天之川の人間関係は最悪となったのである。

 

因みに雫はいじめがなくなってから、ずっと女の子らしくなっていった。

短かった髪を綺麗に伸ばし、スタイルがますます女性らしさを増していき、大人らしさを小学校低学年にして表に出すようになっていた。

そして俺の前でよく笑い、よく甘えるようになった。一種の依存のように見えるが、決してそういう訳ではなくただ単に甘えているだけらしい。本当かは疑わしいのだが。

 

後これは意図してやっていることなのかは分からないが、甘えてくるときによく二の腕あたりに胸を押し付けてくるのだ。

こちらの理性が持たなそうなのでやめてほしいと切実に願う日々が、最近は続いているのであった。

 

 

 


 

 

 

さて、この作品のヒロインタグをつけるとしようか。

※ハーレムにはなりません

 

次回の話は未定です。シリアステイストか、もしくは何ともない日常の一コマか。

のんびり考えながらやることにします。



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Ep.6

Ep.6です。

あらかじめ言っておきます。この話も賛否両方の声があると思うので、それに関しては甘んじて受けます。

ということで今回の話は孤独のグルメです(?)。

 

前回のあらすじ

・メンタルブレイク

・光輝、天之川呼びになる

・雫、メインヒロインとなる

 

 

 


 

 

 

雫のことを救ったあの日から、既に季節は移り変わり夏になっていた。

春の暖かった陽気は何処へやら。じめじめした梅雨もすでに終わり、今はもう夏休みだ。うだるような夏の暑さと肌にまとわりついてくる湿気のせいで外に出る気にもならず、家の中でエアコンをつけてのんびり過ごすことしか最近はしていなかった。

 

因みに宿題は夏休み入ってすぐの一週間でほぼ終わらせてある。後は絵日記と毎日書く夏休みのしおりくらいしかない。

最終日にすべてを終わらせるなんて真似はしたくないのだ。因みに俺はそのようなことにはならないように学校に入ってから心がけている。

昔読んだ小説に泣きながら夏休みの宿題を終わらせているシーンを見ていてよかったなと思った瞬間であった。

 

そして俺は今、何もやることがないのでグダグダしているところである。

何せ家庭用ゲーム機もまだ普及していないような時代である。PCはあるにはあるが、やれることも少なく何もやることがない。最近は龍太郎や香織が家に遊びに来てくれるのだが、今日は全然来ない。誰も来ないときは全国高校野球甲子園を見ている。球児たちが炎天下の中で走り回り全力でプレーしているのを見ると、もう夏も終わり外は秋に近づいているのだなと前世の俺は思うことができていた。

 

「……うーん、暇だねぇ」

 

誰もいない我が家の風景を見ているとなんだか寂しさを感じてしまう。なんやかんやで俺は騒がしいみんなのいる風景が好きなようであった。最も友人の人数は少ないのだが。

改めて自らの友人関係について考えてみる。香織、龍太郎、雫……これだけか。

 

うん、少ないね。

改めて自らの交友関係を振り返ってみると悲しい気持ちになる。友人を増やした方がいいかもしれないという思いになりつつ、別にいいかとやはり思い友人を作ることを諦めた。

 

「あーあ、本当に暇だねぇ」

「そうね、貴方は暇そうに見えるわね久鎖李」

 

本当に暇だという気持ちを乗せて空中に言葉を吐くと、隣から返事が返ってきた。

この声は間違いなく雫である。……うん。ちょっと待ってくれ(鉄華団団長並感)。

 

「いつの間に入ってきたんだい?雫」

「あら、私は呼び鈴を鳴らした筈よ?その呼び鈴に出なかったからいつものごとくだらけているんだろうと思って合鍵を使って入ってきたのよ」

 

なんてパワーだ、奴の正妻力は!?

控えめに言っても強い。この世界の雫は可愛いしすでに美しい。

短く切りそろえていた髪もすでに長くしてポニテになっており、光を浴びてキラキラと光るその黒い髪の毛はえもいわれぬ美しさを秘めていた。

そして小学生にして完成しきった引き締まっているスタイルを持っている。女子の中でも特に高い身長と豊かに実ったその二つの胸元の膨らみは齢9歳にして妖艶な雰囲気を醸し出していた。

因みに最近の悩みはその胸のふくらみを二の腕に押し付けられて理性が溶けそうになってしまうことである。

 

他にも嬉しいやら辛いやらと思うことがある。雫の今の身長は130cm台後半なのだが、今後更に大きくなることが分かっている。その上、女性としての魅力についても今以上になることを知っている。そうなったら俺の理性は大丈夫なのだろうか。俺は一応この世界でも男である。

 

ここで疑問に思った人もいると思うが、この世界のエルキドゥは男なのだ。本来であれば性別:エルキドゥであることはご存知の事実である。

ではなぜこの世界のエルキドゥ……いや、俺は男になったのか。その原因についても少し考えたことがある。

元々のエルキドゥの霊基パターンが無性だとする。そこに入り込んできた俺の魂の霊基パターンを入れてかき混ぜたら――つまり憑依したら――どうなるか。

結果として俺の躰が男性の側によることになるということである。

 

長々と言っているがつまり何が言いたいかというと、雫は可愛いということであった。

合鍵の件に関しては雫に頼まれたから渡してあげたのである。その時の雫の喜び方が尋常でなかったのには驚いたが。

 

「……」

「やっぱり貴方って少し抜けているところがあるわよね。しっかりしないとダメよ?全く……」

 

はい可愛い(理性蒸発)。

もうこの微笑みだけで世界を救えるんじゃないのかというほどに可愛いよ、これ。

 

「そうだね。もう少し周りに気を配れるように気を付けるとするよ」

「……ええ、そうして頂戴」

「ところで雫。今日は何をしに来たんだい?」

「ええ。今日は暇かしら?」

 

訪ねてきたのだから何か用があってきたのだろうと思ったらやはり何かあるようだ。

夏ということもあり暑いから俺はあまり外に出る系のお話は受けたくない。俺は暑いのは嫌いなのだ。

 

「暇だとも。でもあまり外には出たくないね」

「そこは安心していいわ。外にはいかないもの」

 

どうやら外にはいかないようだ。それを聞いて安心した。

この躰になってから、ジメジメしたのと暑いのが極端に苦手になったから、これは助かるところである。

きっとこの苦手になったというのも恐らく先ほど述べた霊基の混同があるからであろう。

 

「なら良いのだけど。いったい何をしたいんだい?」

「……その、ね。久鎖李」

 

今日、貴方の家に泊まってもいいかしら。

雫は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら俺にそう言った。

どうしてこうなった。久しぶりに俺は心の中でそう叫んだのである。

 

 

 


 

 

 

「……ここが久鎖李の部屋なのね」

「うん。入るのは初めてだったかな?」

 

取り敢えず了承の意を込めていいよと言ったらやはり大喜びしていた。可愛かった。

そして俺の部屋に入ってみたいと言われたので部屋の中に入れてあげたのだ。

 

「ええ。……何というか、とても落ち着いた雰囲気がするわね」

「そうかな?僕はいつも通りだと思うのだけどね」

 

落ち着いた雰囲気と言われたことに関して、はて、と首を傾げる。

別に何か落ち着くような香水とかアロマとかを置いているわけでもないので本当に何故だか見当がつかない。

いつも通りと言ったことに対して雫が首を少しかしげながら何かを考えている姿を見る。やはり可愛いなと思いながら、雫の横顔をまじまじと見つめてみる。

 

やはり雫は美人だなと、横顔を眺めながら思う。

整った顔のパーツとくっきりした鼻梁は、横顔だけであっても雫を美人たらしめていた。

ふわり、と鼻腔をくすぐってくる甘い匂いがした。ふと横を見てみると、そこには俺の躰を抱きしめてご満悦の表情を浮かべている雫の姿があった。

その胸元にある二つのモノのせいで、こっちはもう動揺している。何せ相手は絶世の美女ともいえるあの八重樫雫なのである。緊張と動揺によって俺の心臓が早くなっているように聞こえてくる。その動揺を押しとどめて、雫にばれない様に表情を取り繕ってなぜこんなことをしているのか問い質すことにした。

 

「雫……何でこんなことをしているんだい?」

「この安心感を感じているのが久鎖李からのような気がしたから……こうしていればきっと落ち着くと思ったのよ」

 

なんだこの可愛い生物は。

もうこれなら抱き着かれたことなんて気にしないわ。

 

「……んー。落ち着くわね」

 

雫はそう言って、俺の背中に頬ずりをしてくる。まるで愛玩動物のような可愛らしさを感じさせる微笑みと甘え方を見ると、こちらも心が温まってくる。その様子を見て頭を撫でてみるとさらに頬を緩ませてくっついてくる雫。その姿を見ていると何やら猫の様に見えてきた。

 

「……怖いのよ。いつかこうしていられなく日が来るかもしれないって。また、誰かにいじめられるんじゃないのかって。そう思うと、怖くて……」

 

しかしその後の言葉を聞くと雫の姿が、何かにおびえる一人の女の子にしか見えなくなっていた。

その心配をなくすために、そっと頭を抱えて撫でてあげる。雫の心配を解きほぐすかのように、彼女の心を守るかのように。

 

「……ぁ」

「大丈夫だとも。僕が一緒にいてあげるからね」

 

すると雫は強張らせていた体から緊張をほぐすかのようにふにゃりと俺にもたれかかってきた。

その表情をうかがい知ることはできないが、これで安心してくれるといいなと思いながら過ごし続けていた。

 

 

 


 

 

 

とん、とん、とん、と。

台所から聞き心地の良い音が、リズムよく聞こえてくるのを目を閉じて聞き取る。

同時並行で何かを作っているのだろうか。台所からは心なしか、とてもいい香りがしてきている。

それを感じ取りながら、俺はニュースを見ていた。

 

では台所で作業しているのは誰なのか。それはもちろん雫である。

泊りに来たから私に料理をさせてほしい、と言われたのでそれを了承して俺は雫の好意に甘えている。いつもは簡単に料理を済ませているので、雫の作ってくれる料理に俺は多大なる期待感を持ちながらのんびりしていた。

しかし今日のニュースもすごいことになっているな。どこかで見たことのあるような玉ねぎみたいな頭をしている某国民的アニメのキャラに似た人の家が全焼していたり、ニンジャをスレイヤーすることがアメリカで人気になっているという報道が出たり、挙句の果てにはどこかの国の総統閣下の空耳が全国で反響を呼んでいるとのニュースまで出てきた。この国本当に大丈夫か?

 

「……はい、お待たせ」

 

そんなことを考えているうちにどうやら料理ができたようだった。早速並べられた料理を見ると、その完成度に舌を巻いた。

先ず白米。こちらは一粒一粒が光り輝いていて、立ち上っている湯気からもいい香りがしてきている。

日本人の大好きな香りの一つだと思われるそれに気分を高揚させていると、芳醇な香りがしてきた。これは味噌の香りであろうか。そう思い目線を動かすと、そこにはやはり味噌汁の姿があった。豆腐とほうれん草、そして油揚げが入ったこの味噌汁からはだしの香りと味噌の香りが漂ってきており、自分の食欲をどんどん刺激してきているのが感じ取られるほど魅力的な匂いと見た目をしている。

一つ一つの完成度の高さと本気度を感じ取った俺は早く口にしてみたいという感覚にとらわれた。しかしそれをする前にまずは香りを楽しまなければならない。かのテレ東系列のよく食べる孤独のグルメの人だって言っていたじゃないか。

そういうわけで主菜の方に目を向ける。そこにはハンバーグがあった。大根おろしをかけられているそれは、テイストを和に統一するための最高の要素としてそこに君臨していた。こいつはいいぞ。

副菜の方にも目を向ける。卵焼きと、漬物。一見すると重そうに見えるが、卵焼きの方には何かの野菜が切って混ぜてあり、漬物に関してもとても健康に良さそうな色をしているのが目に見えた。黄色い柑橘系の皮が入っていたことから察するに、きっと柚子皮が一緒に漬けられていたのだろうか。

 

「これはおいしそうだ。それじゃあ早速……」

 

両手を合わせる。食事前の儀式であり、食材に対する敬意と生産者さんへの感謝を込めて、この言葉を放つ。

 

「「頂きます」」

 

まずは卵焼きから。

……これは。シソの葉の様だ。すっと来るさわやかさと程よい卵の塩加減に舌鼓を打つ。

これはうまい。迷いなく白米を食べる箸が進むぞ。

 

さてさて、次はハンバーグだ。おろし大根と肉汁の調和。見せてもらおうじゃないか。

……うまい。これは正しく、味のオーケストラだ。重厚感があって、どこかすっきりしていて。そんな旨さが、ここにはある。

 

味噌汁の方はどうかな?こいつもうまそうだ。

良く香りをかいでみようか。……だしも、しっかりと取れている。だしの素では取れない、しっかりとした厚みのある匂いがするな。

早速一口。うん、これはうまいぞ。食材にも程よく味が染みついている。味噌の味も濃すぎず、他の食材を食べてもそれぞれの良さが損なわれないようになっているじゃないか。

 

これを食べられている俺って、果報者なのではなかろうか。別に付き合っているわけでもないのにこれほどにうまい食事を食べさせてもらっていると思うと、なんだか罪悪感が湧くような気がする。

……いや、気にしないでおこう。モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず 自由で何というか救われてなきゃあダメなんだ 独りで静かで豊かで……そう俺の中のゴローさんも言っている。

 

そう思いながら再びハンバーグを口にした。そのハンバーグはとてもおいしかったのである。

見る見るうちになくなっていく食事。そして空っぽになったところで、料理を作ってくれた人への感謝の気持ちと有難さを言葉に込めて伝える。

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 


 

 

 

そして孤独のグルメ(孤独ではない)を終わらせた俺は、遂に戦いの時を迎えていた。

その戦いとは即ち、理性との戦いであった。

 

別の部屋で寝るつもりだった俺は、雫から告げられた衝撃の一言にしばらく固まっていたのだ。

それは即ち、一緒に寝ようという趣旨の発言であった。

当然俺は反対した。それはさすがに無防備すぎるし、何より俺の理性が持たないからやめてくれと言った。しかし俺のそんな些細な抵抗は一瞬で崩れ去った。そのわけは涙目+上目遣い+ほんのり赤面の三段構え攻撃にあった。俺の抵抗は失敗に終わったのである。

そして深夜1時になった今でも、俺は寝ることができないでいるのであった。

 

因みにその後、俺はピンク色に染まっている思考との戦いに打ち勝ち、普通に睡眠をすることに成功したのである。

その時に密かに「何で襲ってくれないのよ……」と聞こえてきたのは俺の勘違いであってほしいと、そう思わずにはいられない俺なのであった。



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Ep.7

ということでEp.7です。

またシリアステイストになっていくのでよろしくお願いします。

 

後この話で救済を受ける彼女についてなのですが、かなり原作とキャラ設定が変わることになります。

そこに関してはご了承ください。

 

前回のあらすじ

・雫、襲来(家に)

・孤独のグルメ

・理性、勝利を収める

 

 

 


 

 

 

夏休みは終わり、秋の季節がやってきた。

といってもまだまだ暑い陽気が続き、夏のうだるような暑さが残暑として俺たちに襲い掛かってきている。今日から学校なのだが、正直言ってエアコンのガンガンに効いているこの家から出たくない。そう思って今日は仮病抵抗を試みようとした。

しかし俺の必死の抵抗は呆気なく崩された。我らが雫様の手によって俺は学校への登校を余儀なくされてしまったのだ。雫に逆らえるはずがなかったのである。おのれおのれおのれぇ!

 

隠し切れない嫌な気持ちを前面に押し出しながら、学校に登校する。途中で合流してきた龍太郎と香織には大層びっくりさせられた。そりゃ傍から見たら途轍もなく嫌な顔をしながら学校行きたくないと呟いている男の子を女の子が問答無用で引っ張っている、という図なのだから。後天之川がなんか言っていたけど無視した。あいつの自己中心的な考えなぞ聞いていられない。

 

そうして始業式を終えて宿題をすべて提出し、俺は帰路についた。

朝よりも数段階暑さの度合いが上がり、出てくる声がしわがれた声になってしまうのも納得がいくほどに俺は暑さによって追い詰められていた。

 

「ああ……星が……星が見えたスター……」

 

アスファルトからは蜃気楼が立ち上り、これでもかというほど暑さを主張してくる。申し訳程度の型月主人公要素を出しつつ、俺は信号待ちに突入した。

ゆっくりと信号が変わるのを待つ。此処の信号は変わるまで中々の時間がかかるので、暑いのが嫌いな俺にとってこの時間は正しく苦痛でしかない。気を紛らわせるために手で顔を仰いでみるが、余計に熱くなるだけで逆につらい気持ちになった。

 

「……とけそう。というかこれもう溶けてるんじゃないかい、僕」

 

泥人形だからね、溶けることもあるよね(白眼)。

そんなあほみたいなことを思いつつ、早く信号変われと高速詠唱並みの早口言葉を心の中で唱え続ける。

 

その時であった。

小さくではあったが、女の子の叫び声が聞こえてきたのは。

 

「――っ!?」

 

咄嗟にサーヴァントとしての能力を解放する。

鍛え抜かれし気配感知のスキルと聴覚の強化を使い、叫び声の中心地を特定する。

もしかしなくてもこれは、原作にもあった‶あのシーン"である可能性が高い。ここで一つ、不安要素の回収に向かわなければいけないか。そうすれば、原作で生まれた犠牲者の数が少なくなることにもつながるだろう。

 

そう考えた俺は、全力の気配遮断を使用して能力を全力で解放し、走り出した。

 

 

 


 

 

 

「……ここみたいだね」

 

声の中心地に着いて、標識の名前を確認する。そこには『中村』と書かれた標識がかけられていた。

……十中八九、あたりだろう。どうやら周囲の人たちの通報によって既に警察が出動したようであった。聴力を全力解放しているので、今の俺はどんなに小声であってもここから半径100m以上は正確に音を聴きとれるようになっている。家の門前で中の様子を見てみると、そこには小さくなって泣いている女の子と絶望したかのような表情を浮かべている男が住民たちによって拘束されている風景が見えていた。

……アレが中村恵理のようだ。この頃はまだ眼鏡をかけておらず、書籍やアニメで見た時と比べてずいぶんと印象が違うことが分かった。

そして彼女の顔を見て気付いたことがあった。それは、眼鏡を外している状態の彼女の顔が、とても可愛いということであった。これは彼女の親友であった谷口鈴も恵理のことを可愛がるわけだなと、周りに人がいる中で確信めいたことを思っていた。

 

そして家の道路前にパトカーが止まり、男が連れていかれる。

恵理の方はどうやら事情聴取に入るのだろうか?そう思っていたが、今日はやらないらしい。限界まで耳に神経を集中させていたからか、簡単に聞き取ることができた。

 

気配遮断を解除し、ふらりと門の前まで行く。

そしてちらりと門の中を見てみる。恵理は呆然としていたが、やがてふらふらと家の中に入っていった。

 

原作通りに事が運べば、明日の早朝恵理は自殺しようとしたところを天之川光輝に止められる。そして独占欲強い系の歪んだ愛情の持ち主になり、やがてとんでもない暴挙に出てボスになるわけである。俺がやるべきことはまず、恵理の自殺を止めること。そしてもう一つは依存癖がつかない様に精神を立て直すこと。そして何より、天之川光輝に会わせないこと。これを明日は細かくこなす必要性があるのだ。

 

頭がこんがらがりそうになるのを抑えながら、一つ一つのファクターに関する対策を考える。

自殺を止めるなんてたやすいことなのだ。しかしそれを行う為に精神を立て直すことが一番の難関になりそうで、この一連の救済において重要になることなのだと直感した。

 

天之川に関してはうまくあしらえばいいだろう。あいつは俺に突っかかってくるくせして正論を言われると兎に角弱い人間である。いつも通り徹底的に論破してやればいいのだ。歪んだ自己が正しい正義と疑わない心に惑わされることがないと良いのだが、と思いつつ俺は明日の流れに関して計画を練った。

 

 

 


 

 

 

<三人称>

 

まだ日の上りきらぬ早朝。中村恵理という少女は、独り家から出て歩いていた。それは偏に、自らの死ぬ場所を探すためである。

事の発端は昨日につながる。学校が早く終わり、家に帰ったところ、父親――義理の――に襲われたのがすべての始まりであった。

 

自らの防衛反応を放出するかの如く叫んで助けを求めた後、義父親は警察に連れていかれた。

それに関して特に感慨も何も浮かべることはなかった。自らの本当の父に起きたことを思い出しながら、自らの罪について改めて心に刻み付ける。

本当の父が死んだのは私の不注意ゆえの事であったのだ。そう思い込みながら、また母親に会いに行った。

これで母親は本当の父親のことを思い出してくれる。そう確信めいたこと思いながら、母親の愛情が戻ってくると信じ込み話に行った。

 

そう、思っていた恵理の期待は大きく外れることになった。

母親の憎悪が加速したためであった。

 

家に居た恵理が帰って来た母親から最初に受け取ったのは、愛情でもハグでもなく。一回の張り手であった。

憎悪のこもったその目に、恵理は恐怖した。そして吐き出されていく醜い暴言の数々。次々と、自らの中に貼っていた心の防壁が突き崩されていくのを感じ取りながら、恵理は理解してしまった。

 

これこそが母親の本性なのだと。嫉妬に狂い、実の娘に手を挙げる暴君であると。

聡明であった恵理は、気づいてしまったのだ。

 

心が崩れるのも当然の帰結であると、言うことができた。

物理的な暴力と精神的な暴力の前に、中村恵理は心を崩壊させた。

理不尽なまでの責め苦についに心を崩壊させた恵理は、脱走を決意した。

 

そうして今、中村恵理は歩いているという訳であった。

自分が死ぬために。何の当てもない。ただ、自らが正しいと思う方向に進んだ。

 

そしてその先にあったのは、自殺するのに正しくおあつらえ向きである川であった。

その川は昨日雨が降ったせいか、増水し流れが速くなっていた。さらに水深が深いことでも知られる川である。

 

これなら死ぬことができる。そう確信し、恵理は身投げをしようとして。

 

自らの隣に、薄緑色の男がいたことに気づいた。

その髪は男にしては長く、また顔も中性的なものであった。正しく男装の麗人と言われた方が納得できるな、と心の中で思い。彼の名前を思い出した。

 

天臥久鎖李。人気者である天之川光輝に対して物怖じせずに、正しいことを述べている自らの同級生。

とても優しいことはあまりにも有名で、恵理に対しても声をかけてくれる。よく言えばお人よしであり、悪く言えば奇妙な人間。それが彼に下している評価であった。

 

なぜこんなところにそんな人間が居るのか。気になってしまった恵理は、

 

「……どうして、貴方はここにいるの?」

 

と、問を投げかけた。

 

――それを認知することができた人間は久鎖李だけであったが、この瞬間運命が変わった。

様々な人間が救われて、夢のような終わり(ハッピーエンド)へと進む道が開かれたのである。

 

 

 


 

 

 

<久鎖李>

 

「……どうして、貴方はここにいるの?」

 

まさか相手から話しかけるとは思ってもいなかったな、と思う。

この時の中村恵理と言ったら周りに対して大きく壁を作り交友というものを徹底的に断っている人間であったはずだ。

それが何の因果か、ここで俺に話しかけていた。

 

「僕か。……僕はね、少し考えたくなってここに来たんだ」

「……考えたくなった?」

「うん。その前に名前交換といこうか……と言っても僕は君のことを知っているし、君も僕のことを知っているだろうね」

 

事実の確認を済ませる。小さくうなづいてきたのを確認したのち、遂に肝心の説得を始めることにした。

 

「それなら構わないよ。……僕の話をするとしようか。まず大前提だけど僕には家族がいない」

 

しれっとこれまでに伝えたことのなかった事実をしれっと告げた。

このこと知っているのは俺が積極的に関わっている人間のみであった。

隣からはっ、と息をのむ声が聞こえる。驚愕したようなそんな感情がありありと感じ取られた。

 

「生きるのには困っていないけど。やっぱり寂しくなることはある。嫌なものだよ、家族が離れるというのはね」

 

虚空に放つかのような雰囲気で俺は言葉を漏らす。前世への哀愁と辛さを言葉に込めてみると、その声は空に向かって飛んで行った。家族がいないのは本当につらかった。誰も来てくれない真っ白な部屋の中で独り過ごして、心はすり減っていたのだ。

 

俺という人間と中村恵理は何処か似ているように見えてしまう。それは果たして、俺が彼女に向ける同情心故の事か。それとも自分という存在を重ねているからかはわからないのだが。

 

「僕はだからこそ、ここにいるんだ。……昨日の騒ぎの時に、僕も近くにいたからね」

 

その言葉を聞いた中村恵理の表情が驚愕に染まる。

どうしていたのか、という疑念と驚きがその顔から読み取ることができた。

 

「一人で抱え込むよりも、誰かに言う方が精神的にも安らぐと思う。だから、教えて欲しい。あの日一体何があったのか。そしてなぜ君がここに来たのか。僕に、教えてほしいんだ」

 

全ては幸せな結末(ハッピーエンド)のため。その一心で、俺は中村恵理に向かって顔を合わせて、その目を見つめた。さあ、説得を始めるとしようか……

 

この出来事を起こしたことによって、未来にどのような変化が起きるかはわからない。しかしそれでも、やると決めた以上やり通して見せると決意した俺は、ぽつぽつと語られていくその話に耳を傾けるのであった。



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Ep.8

Ep.8です。この話の投稿によって、なんと記念すべき十話目を迎えることになります。

見切り発車&無計画で発進したこの小説がこのような節目を迎えることができるのも読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。

 

いつも感想を送っていただいている方には常に言っているのですが、感想送信ありがとうございます。

なるべく返信をしていけたらと思うので、これからもどうかよろしくお願いします。

 

そして注意事項です。この話の中で皆さんの中にこれは違うだろとか、筆者は何を言っているんだと思い不快になる方がいると思われます。それが気に食わなかった場合はブラウザバックを推奨したいと思います。

 

そんなわけで本編に参りたいと思います。それではどうぞ。

 

前回のあらすじはなしです。

 

 

 


 

 

 

小説版で読んだとおりの、壮絶で辛い人生の有様を俺は聞き届けた。

辛い人生だったのだろうと、当然のような感想を抱く。実の父親を早くのうちに失い、そこから受けてきた母親の厳しい虐待。聞けば聞くほど、俺はこの中村恵理の境遇に憐れみを抱くと同時に何が何でも助けなければという思考に至った。

 

「……そうか。辛い道を、歩んだのだね」

 

そのための一歩目となる言葉を発する。自殺を止めて、尚且つ普通の女の子として生きることができるようになるために、本当の父親の呪縛から恵理のことを解き放つために言葉を紡ぐ。うまく言葉がまとまりそうにないが、ここで彼女の事を救わない限り、きっとこの先に待ち受けているのは地獄になるのであろう。

だからこそ、俺は纏まらない言葉を何とか一つにして口を開いた。

 

「赤の他人だからこんなこと言われると嫌な気持ちになってしまうだろうけど。恵理、君に覚えてほしいことがあるんだ」

 

何故なのだろうか。今ならうまく伝えられそうになかった言葉が言えるような、そんな気持ちになる。これも一種の集中状態から入るゾーンなのだろうか。そんなことを考えながら口を開いた。

 

「恵理。君は父親に呪縛されているんだ」

「――呪、縛……?」

 

呪縛という言葉を聞いた瞬間、恵理の顔が少し顰められる。呪縛という言葉に納得がいかないというような表情で、彼女は俺のことを見つめてきた。やはり、きつくいわなければならないなと思いつつ俺は声を掛けた。

 

「そうだ。君は父親が死んだのは自分のせいだと、そう思っている。確かにそうかもしれない。……でも、それを何時までも自分のせいだと思うことは呪いだ。それは余りにも傲慢すぎることだよ」

 

そう、傲慢なのだ。

あくまでも個人の所感になるが、例えば自らの祖母が病気で亡くなったとする。それで死んだことを病に気づけなかった自分が悪いのだと思い、いつまでも自責の念に駆られることは個人的に傲慢だと思う。とてつもなく口の悪い言い方をするとすれば、人間なんていつか死ぬものなのである。それを自分がああしていれば止められた、とか思うのは筋違いな気がするのだ。事件は簡単には止めることはできないと思うが、事故や不慮の事態なんてこの世界で数えてみれば何件も存在する。

だからこそ傲慢。俺はそう断じて恵理に物申した。

 

「……それなら、私はどうしたらよかったの……」

 

弱弱しい声が耳に届く。彼女の聡明な頭脳は、その事実を早く認識してしまったのだろう。

こういうのは洗脳になってしまいそうで少し怖いが、やるしかないのだ。依存癖をなくすこと。そして一人の女の子として過ごしていけるように、できる限り助けてあげること。それが俺にできることなのだ。

 

「それなら、今から新しい自分として生きていけばいい」

「新しい、自分――」

「うん。今の母親も、自分のことを大切にしてくれてきたであろう父親のことを忘れるなとは言わない。でも君は立派な一人の女の子なんだ。自分の手で、自分の足で、自分の力で、道を切り開いていくんだ。そのための手伝いはしてあげるよ。……後は、君の意思次第だ。中村恵理、」

 

君は、どうしたいんだい。

俺は強い口調で、そう問いかけた。

 

これがきっと、運命の分岐点。

この先の道行を大きく決める、大きな大きな分岐点になるのだ。

 

恵理は、何かを決意したかのような強い目で、俺のことを見た。

そこには今までの中村恵理はない。真新しい中村恵理が、そこにはいたのだ。

 

「――私は、決めたよ。新しい自分に、なって見せる。だからこそ、天臥久鎖李君。力を、貸してくれますか……?」

 

力強さと勇気を感じさせる強い目で、中村恵理は遂にそう言い切った。

その選択に俺は満足して、恵理の顔をしっかりと見て告げた。

 

「勿論だとも。君の新しい道行を、僕が手伝ってあげようじゃないか。これはその偉大なる、第一歩だとも」

 

なんだかこういうことはグランドクソ野郎(マーリン)が言いそうなことだなと自嘲しながら、俺は恵理の差し伸ばしてきた手を取った。

そして俺たちは、早朝の橋桁から去っていった。

 

その後ろ姿は何よりも勇ましく、そして新たなる希望に満ちた大きな後ろ姿だった様だ。

後に中村恵理は執筆した自伝の中で、このワンシーンのことを『運命の早朝』と名付けて、その日のことについてこう語った。

 

【あの日こそ自らの人生が大きく変わった日。中村恵理という一人の少女が大きく変化を遂げて、自らの足で初めて道を切り開く決断をした日なのである】

 

因みにこの自伝に関しては何ととても高い評価を受け、文学界に長い間名を残すことになる著名的な本になったのである。

そのことを知る者は未だこの世にはいないが、少なくとも俺は思うことができたのだ。

 

これで、ハッピーエンドに向かって一歩前進することができたのだな、と。

 

 

 


 

 

 

【自分の手で、自分の足で、自分の力で、道を切り開いていくんだ。そのための手伝いはしてあげるよ。さあ、中村恵理。――君は、どうしたいんだい】

――中村恵理自伝『異世界召喚と自らの運命の物語』より

 

 

 


 

 

 

こうして中村恵理という人間は大きく変わった。

これまでよりも積極的に周りに溶け込むために努力をし始めた。そこから中村恵理に向けられる評価というのは大きく変わっていった。友人が沢山できて、前のような暗さを見せないほどには成長を見せていた。

また恵理は住んでいた家から逃げ出し、しばらくの間俺の家で住んだ後に雫の家に引っ越していった。一種の居候というかそんな感じである。そこから雫ともとても仲良くなり、よく学校でも仲睦まじく話しているのを目撃するようになった。

 

一方で恵理の義父親と母親は法の裁きを受けることになった。

それもそうである。これまでのことを恵理が洗いざらい吐いて、両名に懸けられる罪罰は更に重くなったのである。

 

そしてそれを達成するための大いなるきっかけになってしまった俺は、大きなため息を吐いた後に家のベットにごろんと寝ころんだ。此処に至るまでとてつもなく大変な道であったなと、これまでの道行を想起し始める。

しばらく自分がこの世界にもたらした影響を考えていると、なんだか眠くなってしまった。

 

「……やれやれ……僕もやはり、疲れていたってことなのかねぇ」

 

瞼を閉じる。

この目を閉じても死ぬ訳ではないのだ。死ぬことに対して諦めを持っていた前世の俺はもういない。ここまで自分なりに全力で駆け抜けてきたのだ。それなら少しくらい休んでも文句は言われないだろう。

そう思ったのち、俺は自らの手から意識を手放した。

 

寝る直前に、しっかり休みなさい、と聞こえたのはきっと幻聴ではなく彼女()の本心からの言葉なのだろうと思いながら。

心地よい微睡の中に、俺は誘われていった。

 

 

 


 

 

 

ということで第一章の起動 -The beginning- は終了となります。

ここから先も勿論話は続きます。原作に入る前の小噺的なアレを書いていきたいなと思います。

所謂閑話というやつですね。

 

しかし話の通し番号はそのまま続いて行きます。

暫く本編には入れないことになりますが、そこはご了承ください。

 

ということで読了ありがとうございました。



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Ep.9

第二章に入る前の閑話です。

所謂本編に入る前のお茶濁し的なアレになります。

 

閑話は短編を少しずつ投稿して繋げて一話にするみたいな判定で投稿していきます。

今回は影の薄いあの人とオリ主、そしてその周囲の人々の関わりについての小説です。

この人も原作よりかなりキャラが変わることになるかと思います。

 

ということでEp.9、どうぞ。

 

 

 


 

 

 

【疾牙影爪のコウスケ・E・アビスゲートとの出会い】

 

秋も終わりに差し掛かり、すっかり冷たい空気の吹く季節になった。

身の回りの人たちが冬の装いになっていくのを楽しむ季節。それが俺にとっての冬である。

因みに俺はもっぱら寒いのが苦手という訳ではない。むしろ苦手なのは高温多湿な夏である。

冬が好きかどうかと聞かれると、その問いには答えることができない。夏よりは好きではあるが。

 

そんなどうでもいいことを考えつつ、俺は目の前の光景を目にする。

 

「開け!開けってんだよこのポンコツ!」

 

……そこには。自動ドアの前に確かにいるはずなのに、自動ドアが反応してくれない可哀想な人物がいた。

間違いなく、そいつの名前は遠藤浩介。ありふれ世界において『人類最強格』とか『深淵のアビスゲート卿』とか『魔王の右腕』と呼ばれていた人物が、そこにはいた。

 

奴のことは当然ながら原作キャラなので知っている。こんなところで遭遇するとは思ってもみなかったが。

その影の薄さは世界一と言われており、自動ドアが三回に一回しか反応することがない。他にも話しかけていても気づかれない、大声で叫んでもスルーされる、挙句の果てには順番待ちの最中で他人に追い越される、そんな人間である。

 

「……」

 

何とも言えない気持ちで自動ドアと格闘する男を見つめる。

この男は生まれてくる時代を間違えてきたのではないか。戦国時代であったら確実に忍者として活躍できただろう。ここで肝心なのは、決してニンジャではないということである。そんなどうでもいいことは置いておいて、彼は強い人間である。その強靭な精神力、そして影の強さを用いて外伝主人公にもなった男。正直に言うのであればそんな浩介と友人になりたい。そう思った俺は目の前で悲しみに沈む男に話しかけていった。

 

「君、一体どうしたいんだい?」

「……え?おいアンタ、俺が俺のことが分かるのか!?」

「おぉ……びっくりした。うん、僕には君のことが正しく見えているとも」

 

すると浩介は目を輝かせて俺に詰め取ってくる。その姿はまるで尻尾を振る飼い犬のような忠犬みたいな雰囲気を醸し出していた。そしてその目からは涙が少し出てきていた。きっと見つけてもらえたことが嬉しかったのであろう。物凄く嬉しそうにしながら浩介が話し始めた。

 

「なあ、あんたの名前を教えてくれよ!それで友達になってくれ!」

「あ、ああいいとも。僕の名前は天臥久鎖李だ。君の名前は何だい……?」

「俺の名前は遠藤浩介!よろしくな、久鎖李!」

 

こうして俺は、新しい友達ができたのである。……嬉しい。これまで友達と呼べる存在が全然いなかったからこそ、とても嬉しい。あと言っておくが、別に俺は友人が少ないわけではない。少ないわけではないのだ。ただよく話す友達が少ないだけで、普通に友達はたくさんいるのだ。なんだか虚しくなってきたな。ついでに目からしょっぱい水が出できた気がするし。

 

そんな虚しい気持ちやこんな嬉しい気持ちは置いておいて。

こうして俺は、遠藤浩介と友達になったのだ。

 

 

 


 

 

 

【ありふれた日常の一幕】

 

ゆっくりと家の炬燵で暖を取る。本日は12月31日、年末であった。

テレビから流れてくる番組はみんながみんなバラエティー番組。去っていく年に思いを馳せながら、やって来る新しい年に願いを告げる。それが大晦日、そして正月の役割だと俺は思う。

 

そして今日という日は本来、家族と過ごすもののはずなのだ。

しかし今、俺の家にはたくさんの友人が来ていた。

 

まずは白崎香織。何やら天之川光輝に追われていたらしいが、ここに逃げ込んできたようだ。ここなら天之川も来ないと思ったのだろう。香織も中々に天之川のことを嫌いになったらしい。今はみかんを食べながら顔をふにゃりとほころばせていた。

 

次に坂上龍太郎。彼は何やらきらきらとした表情で俺の家をめぐっていた。

彼は単に暇だったから来たとのことであった。今は漫画のたくさん入った本棚から漫画を取り出して読んでいた。題名は『グラップラー刃牙』であった。……あっ(察し)。悟りを開いてしまった俺は、すべてを諦めた。これがまさかうちの龍太郎のルーツになるのか……そんなことないよね?

 

そして遠藤浩介。彼は俺たちの中でしっかりと認知されるほど俺たちの間ではしっかりと雰囲気を残していた。自らのことをしっかりと認識してくれる友人を得てからというもの、彼はよく俺や龍太郎たちと積極的に話すようになっていた。今もにぎやかにトランプを俺とさらに他二人としていた。

 

その二人のうちの一人が中村恵理である。彼女は眼鏡をかけることもなく、髪の毛を女の子らしくして俺たちに混ざっていた。

その内に恵理は学校の中で男子たちの憧れの的となったのだ。そんな彼女はこれまで告白の悉くを切り捨てていたが。

 

それでもって、俺の隣に当然の如くいるのが八重樫雫であった。

彼女はのんびりしながら炬燵にて香織の剥いたみかんをつまみながら恵理のトランプを引いていた。

そして早抜けしていった。因みにやっていたのはババ抜きである。

 

「はい、私の勝ちね」

「……負けた、かぁ」

 

そして勝ったのは雫のようであった。浩介は見事1抜けし、俺が二抜け。雫が三抜けで恵理の負けで終わったしまったのである。

年末なのにこんなのんびりしていてもいいのかと思いつつ、俺は再びトランプを切り始めた。

 

ゆっくりしながらグダグダしていると、何ともう11時を回った頃の時刻になっていた。

正直話の展開が早いが、それを気にしてはいられない。何故なら既に除夜の鐘が鳴っていたからだ。

 

「今年ももう終わりなんだね」

 

香織が感慨深そうに声を上げる。今年は一年間を通してずっと濃い一年間になったと思う。

ごーん、ごーん、と音が鳴るたび、これまでに起こった出来事を想起することができた。

龍太郎たちとの出会い。天之川との訣別、雫の救済。そして浩介に出会い、こうして恵理と共に年を越すことができることになった。

 

「おう。それでも俺たちの関係はまだ終わりにはならないぜ」

 

龍太郎がこれからの未来を予言する。俺も同じことを、考えていた。

きっと俺たちが変わっても、友人としての関係は変わらないのだと。そう、深く思うことができた。

 

「……俺、久鎖李たちと出会えて本当に良かったと思うよ。これからも、よろしくな」

「あーっ!?浩介、それ私も言おうとしていたのに!」

 

浩介が感謝の気持ちを言葉に乗せて伝えると、そのセリフを取られてご立腹になった香織が浩介に躍りかかっていった。何というかやはり、行動力高い系女子なのだなと再認識することができてしまった。

 

「私も。こうやって久鎖李君に出会えて、良かったと思うよ。明日からも、よろしくね」

 

恵理が儚い微笑みを浮かべながら、俺にそう告げる。心の奥深くが温かくなり、その微笑みに釣られるように俺も笑うことができた。

皆がいてくれることの喜びが、何よりも嬉しくて。何よりも、いいものだなと。そう再び思うことができた。

 

「……久鎖李。今までありがとう。そして……」

 

107回目の除夜の鐘が鳴る。

そして全員が声を合わせるようにして、俺に向かって告げた。

 

「「「「「明けましておめでとう。今年もよろしくね」」」」」

 

それに俺は精一杯の笑顔で答えた。

みんなと一緒に居られることの喜びと、嬉しさを込めてこう言った。

 

「勿論。今年もよろしく頼むよ、皆」

 

そう言って、俺はみんなの下に向かって微笑みかけながら言った。

108回目の除夜の鐘が鳴った瞬間。俺たちはみんなで走り始めた。目指していくのは、ここにほど近い神社。

 

走り始める。その先にきっと、俺たちのさらなる旅路は続いているだろうから。

 

儚くも脆い、けれどこの旅路は刹那の時しかないように見えて、実は無限に続いている物語であるのだ。

 

だから。これからも一緒によろしくね、皆。

口にも出したその一言を、俺は心の中で再び告げた。

 

 

 


 

 

 

【剣聖・八重樫雫】

 

正月になったということであいさつ巡りに出る。

全ての家に周り終わったことを確認した後、俺は雫の元を訪れていた。

 

「こんにちは、久鎖李。今日は一体どうしたのかしら?」

 

小首をかしげながら告げてくる雫に癒されながら、俺は他愛もない話をしようとして。

ふと気づいたことがあったので、尋ねてみることにした。

 

「……聞きたいことがあったんだった。雫、1つ聞いてもいいかい?」

「え?何よそんなに深刻そうにして。何かあったの?それなら私が力になるわよ」

「いや。別に何かあったわけじゃないんだ。雫」

 

――君は、斬撃を飛ばすことってできるのかい?

 

常人であれば卒倒しそうなことを、俺は聞いた。

 

漫画の世界において飛ぶ斬撃とは当たり前のように存在するものである。

男のロマンの一つに分類されるもので、誰しもやってみたいと思ったことがあると思う。俺は実際にやってみたいと思ったことがある人間の一人だ。

俺の好きな作品であったFate/シリーズにもこの飛ぶ斬撃は出てくる。佐々木小次郎の宝具、燕返しのことだ。

 

厳密には違うのかもしれないが、俺はわかりやすいからということで飛ぶ斬撃をイメージするようにしている。ただそれだけの事である。

格好いい技に憧れを示すのは、何というかオタクの性なのかもしれないな。そう自嘲しながら聞いてみる。

正直に言うと、きっと雫はできるわけないわよというのかもしれないなと思いながら、冗談半分で聞いてみることにしたのだ。

もしできると言われたらきっと俺は卒倒するだろうなと思いつつ、その問いの答えを待った。

 

「斬撃を飛ばす?……何を言っているのよ、久鎖李」

 

雫は若干呆れを交えながら俺に視線を向けてくる。

流石に無理なのだろう。俺はこの反応を見てほぼ確信に近い考えを抱いた。

さすがの雫であっても、そんなことはできないのだ。やはり雫は人の子であるのだ。俺はそう思い、安堵した。

 

「そんなこと、()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、雫が斬撃を飛ばすことができるという事実に安堵したのである。

そうかそうか、雫、つまり君はそういうやつなんだな。すごい人間だよ貴女は。まさか斬撃を飛ばすことができるなんて。

………………ほんとうに、すごい、やつだよ、雫は……。

 

この日から俺は、雫の逆鱗に触れるようなことは絶対にするものかと、そう強く心に誓った。

俺は自分の命をやすやすと捨てるほど死に急いでいるわけではないのだ。だから死んでたまるか。俺は雫に対する信頼感と畏れの感情を持ったのであった。

 

因みに俺もやってみたいと思って少し剣を振ってみたところ、できてしまったことを此処に報告しておきたいなと思う。

 

 

 


 

 

 

本日の連続投稿はここまでとなります。

もう一回閑話を挟むか本編に突入するかは未だに未定です。しかしそろそろ原作に行きたいとは思っているので、これからも動向を少しだけでもいいですから見守っていただけていると幸いです。

それではまた次回でお会いしましょう。



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第二章 始まりの合図が轟いて -Start to Enkidu-
Ep.10


大変長らくお待たせいたしました。少し落ち着いてきたので一話投稿していきます。投稿が遅れた理由は活動報告に記載してありますので、確認してないよという人は確認に行っていただけると幸いです。




Ep.10です。

 

第二章開幕。正に今此処から、この小説における最強の系譜が幕を開けます。

原作らしさを出しながら、さらに面白い小説にしていきたいと思います。応援のほど、よろしくお願いします。

 

 

 


 

 

 

月曜日。それは誰もが登校するのを嫌い、陰鬱な気持ちになる日。一週間の中で最も憂鬱で、世界の総てを呪いたくなるような、そんな日である。今もこうして登校していたり、仕事に出ていたりする人は皆、これからの一週間にため息を吐き、前日までの天国を思いながら逃げ出したくなる欲求に取りつかれることになるだろう。

 

それは俺――高校一年生になった天臥久鎖李――にとっても、同じことであった。

はぁ、とため息を一つ。昨日までの楽しかった日々を想起しながら、今日から始まる陰鬱な学校生活への嫌な気持ちを募らせる。

それは何故なのか。理由としては複数ある。

 

まず今年から、遂に原作が始まることになるから。

何時の季節になるのかは全然知らないのだが、間違いなく今年から原作が始まると言える。

 

そして次に、毎日の様にうるさいアイツがいること。最初の方は何も思うことがなかったのだが、少しずつ日時が経っていく度に辟易するようになり、最近では鬱陶しいを凌駕してもはや無関心の領域にまで至ったあいつのことである。もうお分かりであろう。その人物とは自己中心的な解釈と歪みに歪んだ正義、そして無駄に格好いいイケメン君のことである。

 

そしてこれが一番深刻。前に挙げた三つよりもさらに深刻な、俺の頭を悩ませる問題があった。

それ即ち、俺の幼馴染にして人外の境地に人間にして至ったサムライガール、八重樫雫のことである。

最近、というか高校に上がってからというもの、物理的な距離も精神的な距離もどんどん近くなっているのだ。具体的には俺の腕に柔らかい間隔が当たって、耳に息がかかるくらい。一般の男子たちならもはや血涙レベルの事であろう。学園の()()女神のうちの一人に抱き着かれて、しかも抱き着いている側もとてもうれしそうにくっついてきているからだ。

 

だが問題はそこではない。問題なのは俺の精神面である。

相手は八重樫雫。つまり当然のごとく美少女である。小学校の頃よりも遥かに成熟した肉体は最早そこら辺の女優が泡を吹いて失神するレベルで黄金律を行く肉体となっている。歩くだけで周りからの視線を独り占めにし、男女問わず好かれる。そんな美少女に、俺の最初の友達にして幼馴染はなっていたのだ。

 

正直に言おう。前世が童貞の俺には刺激が強すぎる。

今は最早オスミウムやオリハルコン何てレベルではない鋼の心でもってスルーするようにしているが、内心はもう恐ろしいくらいにビビっている。時折死にそうになって、自殺を試みようとするレベルで雫は成熟していた。コワイ。しかも気づいた時には背後に居たり隣に居たりするのである。アイエエエ!と心の中で言った回数は数え切れないほどだ。ニンジャコワイ。

 

そんなこんながあるので俺は学校には行きたくない。しかし行っておかないと召喚に巻き込まれることにもならない上に、雫が家に上がってきて捨てられた小動物を彷彿とさせる目で見てくるので行くことにしている。なんやかんやで俺は雫に甘いのだなと自認する。まるで親みたいだな。

 

そんなことを考えながら教室のドアを開く。

すると俺を殺意MAXの視線で見つめると同時に、舌打ちしてくる男子四人組がいた。彼らの名前は通称『小悪党組』である。檜山大介、斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の四人組で、原作でもロクな運命を辿っていない哀れな小鹿達だ。救済も考えたが、天之川同様救いようもない屑だったので救うことを諦めた。

 

他の男子たちはおおむね好意的な目で俺のことを見てきている。このクラスの意見や対立の仲裁を積極的に行っているからだろう。天之川もやるにはやっているが、どうしても禍根の残るような形で毎回仲裁しているのであまり好意的な目では見られていない。

 

そして女子たちも、男子たちと同じように好意的な目で見てくれている。だけど俺と雫が毎回話しているときに黄色い声を上げるのは勘弁してほしい。そこに香織や恵理が来た時に小声で「これが略奪愛!?」とか「リアルハーレム?」とか「此処にキマシタワーを建てよう……」とか言うのもやめて欲しい。切実に。この前なんて同人誌のネタにされるところだったんだぞ。

 

これも俺が学校に行きたく無くなる理由の一つになっている。毎回同人誌発行の許可を取るために突撃してくる女子たちを撒くのに疲れるからだ。最近はなんか雫が来た途端に萎縮しているけど。その時に顔も青ざめさせていたし、一体何があったのだろうか……?

 

「おはよう、久鎖李」

「ああ、おはよう浩介」

 

教室に入ってきていの一番に話しかけてきたのは遠藤浩介。その持ち前の影の薄さは今も遺憾なく発揮されている。現にこの教室にいる人間の中で浩介の存在に気づいているのは俺だけだ。今現在来ていない人以外に浩介を認知できるのは雫、恵理、龍太郎、そして香織。さらにもう1人だけである。

 

「今日も僕が一番最初に気づいたみたいだね」

「もう気にしていないさ。今は全力で気配を隠しているんだ。……気づかれるとは思わなかったけど」

「その気配の隠し方なら、恵理と龍太郎、香織は完全に気づかないと思うよ。()が気づくかは微妙だね。彼、そういうのには敏感だから気づくかもよ」

「雫は……まあ、絶対に気づくだろうな。なんなんだよ本当に、って言いたくなるほど人外染みてるし」

 

この会話から予想できた通り、浩介は既に深淵への第一歩を踏み出している。これステータス計るときになったら多分バグキャラになっているんじゃないかな。雫は当然のことだけど。最近の雫は飛ばす斬撃の数を増やす鍛錬とか、斬撃の時間をずらす鍛錬とか、縮地を応用して刀を振る速度と斬撃の速度に差があるように見せかける鍛錬とかをしているらしい。本当に何の高みを目指しているのだろうか。俺は訝しんだ。

 

「おはよう、久鎖李!今日も早いな」

「天臥君、おはよう。……やっぱりまだ来ていないかぁ」

「おはよう久鎖李。香織はいつも通りだから気にしなくてもいいわ」

「……あれ、私もう言うことない感じ?取り敢えずおはよう、天臥君」

 

そして俺の後に送れるような形でやってきたのはいつものメンバーである。全員が浩介には気づいていない様子。龍太郎はいつも通り豪放磊落なように見せかけておきながらクラスの様子に気を配っている。香織は話の中にも出てきた彼を探しており、雫は苦笑い。自分の幼馴染の恋を応援するような形で、最近は男を落とすためのアレコレを教えているらしい。それ普通の人に教えてはいけない奴じゃないですかね。恵理は言うことが全て取られたらしく、普通に挨拶を返してきた。

 

因みに恵理は学校の中の三大女神の一人に数えられるほどの美人となっている。香織や雫に比べると人気が低い様に見えるが、十人に聞いて九人以上が美人だと言ってくるような魅力を備えている。最近はどうやら告白されたらしく、それを呆気なく突っぱねていた。原作通り谷口鈴と仲が良いようだ。これなら裏切るなんてないね。

 

「おい、聞いているのか天臥!俺もいるぞ!というかお前、挨拶くらい返せ!」

 

そしてどこからか聞こえてくる声。一回祓った方がいいんじゃなかろうか。いやはや地縛霊とは恐ろしいね。さすがの俺であっても少し気持ち悪く感じるくらいだよ。本当に。因みにイツメンの方たちは全力でシカトしている。人望無くなりすぎで草。それでもうちのクラスの意見って大体天之川主体で進んでいるんだよね。これが不思議。

 

そんないつもの朝を満喫していると、教室に入ってくる人物が一人いた。

黒髪黒目。The、日本人という風貌と普通過ぎる顔の持ち主。体躯も大きくなく、本当にただの一般という感じしかしない男が教室に入ってきた。

彼の名前は南雲ハジメ。この世界の主人公にしてやがて最強に至る男。そんな彼が教室に入ってきた。

 

「あ、皆来ていたんだね。おはよう」

「おう、遅かったじゃないかハジメ。ところで新作はまだか?」

「あ~。まだデバッグとバグの修正、あと細かいところが完成しきっていないからもっと時間がかかるよ」

「それだったらみんなで手伝うぜ?困った時はお互い様だしな」

「うん、そうしようかな。ありがとう浩介君」

「「「「え、居たの(かよ)浩介(君)!」」」」

「いよっし!今日は俺の勝ち!」

「……貴方たちね……」

 

ご覧の通り、いつもの皆とハジメは仲がとても良い。この会話から予想できる通り、俺たちもハジメの仕事……というか趣味……?の手伝いをしている。デバッガー、プログラマー、その他諸々の仕事もしている。なんなら俺たちだけでゲームも作った。前世の知識を活用して面白いゲームを大量に作ったりもした。それは現在、ハジメの両親たちの会社で一般販売されている。

また、ハジメは確率は低いものの本気の浩介の隠密を見破ることができる。そこら辺は原作と大きく違うところだ。オタクであるとはいえ授業は寝ずにしっかりと受けているし、真面目だ。しかし常に人気者たちの視線を独り占めしているという理由で、ハジメは疎まれることになっていた。

 

「取り敢えず、授業の準備をするとしよう。今日は月曜日だ、ここでしっかりやってこの一週間を乗り切るとしよう」

 

そう俺が言うと、皆が思い思いの掛け声とともに自席へと去っていった。

……自分でも思ったことだが、この声に慣れてきたものだなと思う。エルキドゥのロールプレイもある程度はしっかり出来るようになったことだし、この躰に転生できて本当に良かったと思うことができる。

 

そんなことを考えながら俺は、朝のHRをのんびりと過ごしていた。

 

 

 


 

 

 

昼。

それは、戦争の時間でもあり、同時に食事の時間である。

 

午前最後の授業が終わったのち、生徒たちは購買へと駆け出した。お決まりの風景である。因みに俺は雫から食事をもらうので走りに行く必要もない。なんと素晴らしき世界なのだろうか。

 

「……はい。どうぞ」

「うん、ありがとう」

 

この会話も最早お決まりの事である。まるで新婚夫婦だなと思ったやつは正直に手を上げなさい。

誰に向かって言っているかはわからないけど。

弁当の中身は栄養のバランスが取れていて、尚且つとても量が多いという俺にとっては嬉しい以外の何物でもない弁当になっていた。

 

早速一口頂く。塩分濃度が濃すぎず、箸が進みやすい味付けの仕方になっているということに舌を巻いた。うまい。

いつものごとくこれを食べられている俺はやはり幸せということなのだろう。

 

もっきゅもっきゅと弁当を食べながら教室内を見渡すと、香織がハジメにアタックしていた。青春はいいぞ。本来ならハジメはここで香織の誘いを断るのだが、この世界のハジメは紳士である。とても眠たそうな顔をしながらもしっかりと香織に答えて、弁当を食べ始めた。

 

「……やっているねぇ」

「……やっているわね。何というか、幼馴染の成長をこんなところで感じるとは思いもなかったわ」

 

ここに老人が一名と保護者が一名湧いた。香織は何と言うか昔から行動力があったから、こうしているのを見ると成長を感じずにはいられないのだ。まるで我が子の成長を見守る母親と、孫が元気に育っていくのを見ているおじいちゃんみたいな気持ちになる。普通に考えるとカオスだが。

 

そして天之川がハジメに何か言っている。それに辟易するハジメと香織。これあれだろ、今頃ハジメこう思っているだろ。異世界召喚されればいいのにとか思っちゃってるだろ。

 

事実ハジメはそう考えていた。皆異世界召喚されればいいのに、と。

そしてそれを俺は直感センサーで感じた、という訳である。

 

そして俺の直感センサーは憎たらしいほどに有能である。全力でここから離れろと警鐘を鳴らしてきたのだ。

まさかと思い天之川の足元を見てみると、そこにはやっぱり魔法陣があった。

 

「みんな、教室から出て!」

 

社会科教諭にして担任の畑山愛子先生がそう言った瞬間、教室に光が満ちた。俺やいつものメンバー全員はいつも肌身離さず持っているようにと俺が言った鞄を持って、光に飲み込まれていった。

 

そして暫く経った後、世界から数十名の人間が消えた。

この超常現象は神隠しとして、しばらくニュースに取り上げられる大事件となったのである。

 

 

 


 

 

 

<???>

 

「……そうか。まさか、奴が来るとはな。これはなるほど、面白いことになりそうだ。我の依代としては十分すぎるほどよ。……のう」

 

そこから先の声を、聞き取れたものはいなかった。

恍惚の表情を浮かべながら、自らが全能の神だと信じて疑わない愚かなる者は考える。

唯一つの目的を、そしてそれを達成するための謀略を。

 

黒き悪意の渦は、大きなうねりを持って世界を包もうとしていた。

それを暗示するかの如く、その世界で黒い雷雲が天を一瞬の間覆っていた。



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Ep.11

お待たせしました。
文体に不安定なところがあるかもしれませんが、隔日で書いているためです。

ユーザーページの活動報告に投稿ペースに関しての事、自らの身の上話的なものを書いているので確認していただけると幸いです。投稿日時に関しても毎回活動報告に上げていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。





俺は止まんねえからよ!

お前たちが止まらねえ限り、その先に。俺はいるぞ!

 

……だからよ、(投稿)止まるんじゃねえぞ……

 

絶対に半年以上投稿を開けないようにはします。もしそうなりそうになったらしっかり報告をするのでご安心を。

という訳でEp.11、はじまるよ!(カニファン感)

 

 

 


 

 

 

次に目を開けた時には、慣れ親しんだ光景はそこになかった。

あるのは何かを書いた豪奢な絵。そして床は石畳へと変わっていた。

 

……ついに、始まるのだ。原作が。

気を引き締め直す。ここからが俺の戦いの始まりだ。これまでの出来事は前哨戦に過ぎなかった。

ここからが、俺の、否。俺たちの戦いの始まりなのだ。

決意を固め、目の前の錫杖を持つ老人を見つめる。

 

目の前の老人は、周囲にいる法衣を纏っている集団の中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、細かい意匠の凝らされた烏帽子のようなものを被っていた。

それでいて老獪で、どこか凄まじい雰囲気を感じさせる老人。それが目の前にいる老人であった。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教協会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

老人――イシュタルは、好々爺然した表情で笑って見せた。

 

しかし俺にはただ一つの事しか考えられていなかった。それは昔からの疑問。

即ち、イシュタルって名乗ってることをもし型月のあの人(金星の女神)が知ったらどうなるのかなということであった。

 

兎にも角にも、こうして最初の邂逅は果たされた。そしてここから、俺の真なる戦いが始まっていくことになったのだ。

 

 

 


 

 

 

そうして俺たちは大広間に通されていた。

この部屋も、召喚された大部屋に負けず劣らずの豪奢で煌びやかな装飾がされている部屋になっていた。

俺は何故か上座のグループの中にハジメとともに入っていた。原作との相違点を思い出しながら、ここをどう乗り切っていくかを考えることにした。

 

全員が着席したと同時に、メイドが入ってくる。あくまでも事務的に、色目を向けない様にして対応していく。ここでそんな目を見せたら、確実に傍にいる雫に切り殺される。そう俺は思うと同時に心を無にした。

 

全員に飲み物が行き渡ったのを確認して、イシュタル……この躰でイシュタルっていうのは何か癪だな。教皇と呼ぶことにしようか。教皇が話し始めた。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

そう言って話し始めた教皇の話は実にファンタジーであった。俺は元々それを知っているうえに本当の事実も知っているので完全に馬耳東風していた。要約していこう。

この世界の名前はトータスという。トータスには人間族、魔人族、亜人族の三個の種族がいる。人間族が北、魔人族が南一帯を支配している。亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと暮らしているらしい。本当に暮らしているのだが。

そして人間族と魔人族は戦争をしている。数百年戦争が続いているが、その内に戦争で魔人族が魔物を行使してきたらしい。これじゃまずいということで召喚されたのが俺たちだった、という訳だ。はっきり言って理不尽でしかない。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

教皇は恍惚とした表情で言った。神託を受けた時のことを思い出しているのだろう。あんなクソ神のことだからそんなことを言うはずがないと思うのだが。あいつは狂ってるし。

この世界は神の意志を疑うことなく進んでいる。それを見た我らが型月の英雄王は何を思うのだろうか。そう思っていると、突然立ち上がり猛抗議する人物が現れた。我らが担任の愛子先生である。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

俺は先生のこの言葉を聞いて、やはりすごい人だなと改めて思う。原作でも立派な教師として戦い続けていたその姿をこうして実際に見ると、何だかすごい気持ちになるのを感じる。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

しかしその声は、届くことなく消えていった。

場に重い静寂が満ちる。重く冷たい空気が満ちていき、場を伝播していくのを見つめる。誰もが皆、何を言われたのかわからないという表情で教皇のことを見つめていた。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「……先生。きっと彼らはただ、呼ぶことしか考えていなかったんです。だから僕たちのことを帰せと言っても、土台無理なことだと言うことしかできないんだと思います」

 

ハジメの放った一言が、場に動揺を広めていく。愛子先生が腰をすとんと落としたのと同時に、生徒たちの混乱が最高潮に達した。

 

「うそだろ?うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「なんで、なんで、なんで……」

「ウゾダドンドコドーン!」

「 ち く わ 大 明 神 」

「おい今なんかいたぞ」

「アイエエエ!」

 

パニックに陥るクラスメイト達。何だかものすごいことを言っている生徒たちもいるが、気にしてはいけない。だからこそ、ニンジャが混乱していてもよくわからん神がいてもオンドゥルルラギッタンディスカー!!状態になっている人がいても気にしてはいけないのだろう。

 

反対に俺の思考は落ち着いていた。それは無論、俺と共に行動している皆も同じことであった。最悪のパターンは回避できることは知っていたとはいえ、やはりハラハラするものである。

誰もが狼狽える中、教皇は特に口をはさむでもなく静かにその様子を眺めていた。その目にはありありと侮辱の感情が込められていた。今までの言動から察するに、神に神託を受けて召喚されたというのになぜ誰も喜んでいないのか、という気持ちが込められているように思えた。

 

未だにパニックが収まらない中で、天之川が立ち上がった。バン、という音が鳴り響き皆の視線が天之川に向いた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

はいここで天之川のカリスマA+(偽)が発動しました。歯をキラリと光らせて笑うのはまあ構わないが、その発言が戦争にみんなを誘う一言なのだということを理解しているのだろうか。

横目でハジメのことを見てみると、ありありと疑問の感情が浮かんでいるのが見えた。畑山先生や雫、龍太郎に恵理についても同様であり、光輝のこの発言を良しとしていないことがわかった。

 

因みに俺も光輝の言っている事について納得できていない、というか寧ろ反発しているレベルである。

さすがに傍観してクラスメイト達が戦争に巻き込まれるのは勘弁してほしい。命を奪うということについての覚悟ができていない人間が大半を占めているのだ。此処で無駄に戦争に参加すると言って精神を壊されたら、地球に帰った時に親御さんたちに申し訳が立たない。

 

ぶっちゃけて言えば、この後生まれる予定である魔王(ハジメ)に任せてしまえばトラウマなんて一瞬で記憶から消してしまえるだろう。

しかし事実というものは変わり様のないものである。故に俺は、決然たる意志を以て静かに立ち上がった。

 

「光輝。君は、自分の言っていることが犯罪に値するということに気づいてはいないのかい?」

「なっ!何を言っているんだ天臥!」

「君の言ったことは戦争幇助。簡単に言わせてもらえば戦争犯罪人、つまりは戦犯になることさ」

「でたらめを言うんじゃない!この世界の人が苦しんでいるんだぞ!?」

 

……は?

おい待て、どうして世界の人が苦しんでいるということと俺の言っているの間で話の整合性が消えているんだ?

俺が言っているのはこの行為が戦争犯罪であるということなのに、どうして天之川はそれすらも理解せずに、その上でこんなことを言っているんだ?

 

「天臥、そう言っているということは、お前はこの世界の人の為に戦わないということなんだな?」

「待ってくれるかい、どうしてそうなる?僕はただ、今君が行っていることが犯罪であるということを指摘しているだけなのだけど」

「それならなんでお前はこの世界の人が苦しんでいるのに何も思っていないんだ!?それに俺の言っていることが何で犯罪になる!」

 

ここまでくると呆れてものが言えなくなってくるな。第一自分の発言をよく考えていないだろうこれは。

……あまり言いたくはなかったけど、やっぱり言わないとダメか。みんなにも理解してもらわないとな。

 

「それじゃあ言わせてもらうけど。さっきも言った通り、君はクラスメイト達を戦争の道に誘った。これは立派な戦争幇助だ。それに君は戦争に参加させることで、みんなを人殺しにしようとしている」

「魔人族は人じゃないだろう!それに俺は殺すつもりなんてない!」

「魔"人"族なんだから僕たち人間と同じで心を持つ立派な人間さ。それに殺すつもりなんてないといったけど、戦争に参加するということは自らの命をかけた殺し合いになるということさ。命がとられそうになっても君は、相手を絶対に殺さないと言い切れるのかい?」

「俺が殺し合いなんてさせない!」

「事はそれだけで済む範疇ではなくなってきているのさ。君の意志なんて、ぶっちゃけて言ってしまえば戦争という行為の中では綺麗事さ。人間だれしもが聖人じゃないんだ、ここにいるみんなの中で果たして殺し合いを自ら望んでしたいと思っている人間が何人いると思う?」

「俺が殺し合いになんてさせないと言っているだろう!みんなのことも俺がしっかり守る!」

「それで済む話ではないと何回言えば君は分かってくれるんだい?」

 

これでは押し問答だ。いくら言っても天之川は自らの言ったことについて反省をしないだろう。

しかしここまで言えば、みんなも気づいたみたいだった。中にはこれから殺し合いになるかもしれないということで体を震わせている人もいた。

それを見計らって、教皇に意見を述べることにした。

 

「教皇さん。見ての通り、貴方たちが召喚した勇者たちは、戦争なんてものを一回も経験したことがないただの人間様なんだ。うまいこと勇者を扇動していたみたいだけど、それだけでどうにかなると思われちゃったらこっちだって困るんだよね。君たちの勝手で呼び出されたんだ、こちらの要望を飲んでほしいけどいいかな?」

「……わかりました。ある程度の事なら、叶えると誓いましょう」

「それは僕たちにですか?それでは薄い。あなたたちの最高神、エヒト様に誓ってくれるかい?」

「…………わかり、ました」

 

すこし殺気を滲ませながら教皇に言うと、教皇は苦虫を噛み潰したような表情でエヒトに誓っていた。

それを見届けた後、俺は条件を提示した。

 

1.戦争に参加するものと参加しないものをあらかじめ分ける

2.どちらの道に進んでも待遇に差が出ないように配慮する

3.精神的に影響が出てきた場合、直ちに療養することを許す

4.最低限の生活保障全般を、国もしくは教会が全額負担する

 

これを全て受け入れさせると、俺はみんなに話しかけた。

 

「此処でしっかりと道を決めておこう。今日言わなくたって構わないから、後で必ず先生のところに言いに行ってほしい。戦争に参加するか、しないか。僕はどちらの道に進んでも止めはしない。自分たちの意志で決めて、そこから進んでいってほしいんだ。明日までに、必ず答えを出して先生のところに行くんだよ、いいかい?」

 

その言葉を聞いた生徒たちは頷き、考え始めた。みんな思いがあるのだろう。何があるかはわからないけど、これできっと原作よりましな方向に進んでくれるだろう。そう信じずにはいられない俺なのだった。因みに光輝は雫によって物理的に黙らされていた。

 

小さな声で「……ありがとうございます、天臥君」と聞こえたような気がしたが、敢えて聞いていない振りをすることにした。

 

 

 


 

 

 

基本的に一週間2.3本投稿できるように頑張っていきます。

それでは次回。

 

追記:活動報告をもう一度確認していただけると幸いです。



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Ep.12

Ep.12です。前回の話の感想返しをしようとしたら運対コメントが多すぎて面食らってしまいました。

作者は基本的に夜中遅くまで起きていないので、いくつかのコメントの内容が確認できずに運対になった場合、答えられないことが多々ありますことをご了承ください。

 

というわけでほんへです、どうぞ。

 

一富士

ニ鷹

三森すずこ

四条大橋

五条悟

六道仙人

七聖抜刀

八 王 子

 

……もちろん本編とは関係ありません。八王子を見たり聞いたりしたときにいの一番にこういうことを考えたくなる人はいると思います。これは私なりの八王子までのプロセスです。

 

 

 


 

 

 

あれこれを決めた後、俺たちは保護してくれるという王国へと向かうことになった。

ハイリヒ王国という国らしい。俺の場合らしいではなくだと言うのが適切かもしれない。何故なら俺はこの世界に起こる出来事をある程度は覚えているからだ。

 

戦争参加については皆迷っている中であるのに王国は保護してくれるのだなと思いながら、今いる【神山】の様子を眺める。此処は神代魔法の一つが収められている場所だ。いずれ、ここに再び来ることになるだろうなと思い、この山の構造について目を凝らして細かいところを見つめていく。

それにしてもこの教会……というか世界はすごいところだと再認識する。教会は雲海のさらに上に存在しておりながらも、それを知覚できないほどに息苦しさを感じられない場なのだ。化学に馴染みの深い現代人にとっては納得できない部分もあるかもしれないが、クラスメイト達はそんなことを気にも留めずに目を輝かせていた。

 

案内している教皇はどこか満足げな表情を浮かべながら、俺たちをとある場所へと案内した。

そこには柵に囲まれた円形の台座が存在していた。台座に乗ると、そこには大きな魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海である。しかしクラスメイト達は気になっているのか、柵から身体を乗り出さないようにしてキョロキョロと周りを見つめていると教皇が詠唱を始めた。

 

「彼の者へと至る道、信仰とともに開かれん――"天道"」

 

それを唱え終わった途端、足元の魔法陣が燦然と輝きだした。そして台座はロープウェイの如く動き出し、滑らかに地上へ向かって進み始めた。丁度よい角度でゆっくりと下ってゆく台座の上でクラスメイト達は大騒ぎだ。初めて見る"魔法"という概念がさぞ楽しいものに見えたのだろう。

 

しかし俺はこれ以上に凄い物を大量に知っているので何も感じなかった。星の聖剣(エクスカリバー)世界の創世から世界を見つめ続けてきた剣(乖離剣・エア)、天と地とを繋いだ鎖――俺自身の事ではあるが――などを見たことがある俺は、何だか感慨を受けるようなこともなかったのだ。

無論、実物を見たことなどない。しかし見ることが出来たのならば、それはきっとこれよりも素晴らしく、英雄としてのこれ以上ないほどの唯一無二の輝きがあるのだろうと。そう思えてしまうからこそ、このような魔法を見たところで思うことなどはあまりなかった。寧ろこのパフォーマンスは、何と言うか皮肉なものに見えてならない。

 

神の意志を疑うことのないこの世界は戦前の日本に似ていると思いながら、思考をめぐらす。

もし、この世界を英雄王(ギルガメッシュ)が見た時に。彼はこの世界をどう裁くのだろうか、と。

 

何だか言葉では言い表せない感情を抱きながら、台座は遂にハイリヒ王国へと辿り着いた。

ここから、物語が本当の意味で始まっていく。何度目になるかはわからないその事実を確認してから、俺は一歩を踏み出した。

 

 

 


 

 

 

玉座の間へと案内されていく。

道中の装飾にクラスメイト達は見惚れながらも、脇道にそれることなく彼らは進んでいた。

すれ違っていく騎士やメイド、使用人たちの様子を見ていると、喜びや畏敬などの感情を感じ取ることが出来た。皆一様に、我々の到着を歓迎しているように見えた。

やはり【神の使徒】効果は素晴らしい物なのだろう。周りからの視線を独り占めにしつつ歩いていると、一際豪華な造りの扉の前へと辿り着いた。

 

堂々たる扉を兵士が開けると、そこには大きな広間が広がっていた。中央にはレッドカーペットが敷かれており、王者の進む道であるかのようにそれがそこに存在していた。イシュタルは堂々と中に踏み入る。クラスメイト達は萎縮したような面持ちで後をついて行った。

 

玉座を見据えると、やはり王はそこに直立して待っていた。これを見たハジメや他数名の生徒たちは、この空間の違和感を感じ取れていたようだ。現に俺の隣にいる雫は眉をひそめてその光景を見つめている。

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、レッドカーペットの両サイドには左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。

 

教皇は俺たちを留め置くと王の隣へと進んでいき、そしておもむろに手を差し出した。

それを恭しく手に取った王は、教皇の手の甲に軽く触れない程度のキスをしていた。俺やハジメ達はそれを見てこう思った。

 

――気持ちが悪い、と。

 

そも、国王より教会の権威が高いこともその光景を見て気持ち悪くなった要因である。男同士のキスなんて見るのも、するのも趣味ではない。それも理由の一つ……というか俺が気持ち悪いと思った理由の大半なのであった。

 

そこからは自己紹介が始まった。王国側の主要な人物たちの紹介が入った。国王、王妃、王子、王女。そして宰相と騎士団長、各大臣の紹介がなされたのち、【神の使徒】の代表者として天之川、愛子先生、そして俺が王国側に自己紹介をすることになった。教皇や天之川に痛いほどの視線を刺されながら自己紹介を終わらせた俺は中々にこの世界に毒されているのかもしれないな。独りそう自嘲しながら、俺は笑っていた。

 

自己紹介が終わった後は流れで晩餐会と相成った。見た目はともかくとして味は地球と変わらない食事に舌鼓を打ちつつ、俺はこれからの行動について考えることにした。この世界における主人公の南雲ハジメのことは、実は少しだけではあるが修正を入れている。修正というよりは強化といった方が正しいのかもしれないが。

因みに王子殿――ランデル閣下――は香織にアプローチを仕掛けてあえなく玉砕していた。この世界の香織さんは病み崎さんではなく白崎さんなのである。これも俺と雫の努力の成果なのだ。因みにハジメの強化よりもこっちのほうが大変であったことをここに記しておく。

 

因みに天蓋ベットには俺も驚いた。知識があるからこうなることは知っていたが、まさか本当に天蓋付きのベットで寝られるとは夢にも思っていなかったからである。まるで夢心地だな、と思いつつ呆けた顔をしているルームメイトのハジメの頭をぺしん、と叩いて俺は横になった。……ふかふかなのでよく眠れそう、だ……スヤァ……

 

 

 


 

 

 

翌日から早速訓練と座学が始まった。

結局戦争には全員が参加することになったらしい。良くも悪くも周りに流されやすい日本人の性質で、皆が参加するから俺も私も、という流れになったらしい。らしい、というのは俺はその時現場に居合わせていなかったからだ。

 

逃げ道を作ったのになぜ誰もそこに行かなかったのかと考えながら、俺は手に持つ銀色のプレートをしげしげと見つめる。クラスメイト達はこの配られたプレートを不思議そうに見つめていた。

全員にプレートが行き渡ったのを確認して、騎士団長のメルド・ロギンスさんがプレートについて説明を始めた。

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

彼は豪放磊落な性格で、配下の騎士たちからの信頼も厚い漢である。

また、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいであった。

気楽に接することができるというのはやはり素晴らしいことだ。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

聞きなれない単語に光輝が質問をする。

アーティファクト……人工物、工芸品などの意味を持つ単語であるが、この場合のアーティファクトというのは一種の古代の遺物を指す言葉になる。よくゲームの中で出てくるあれである。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

概ね俺の言っていることと団長の言っていることが一致しているので、これで正しい説明になっているだろう。誰に説明しているのかはわからないが。

これが所謂第四の壁、というやつなのだろうか。全くわからないものではあるが。

……しかしそう考えると俺は第四の壁を越えて、演劇に入り込んだ異物である。全くもって面白い存在だな、と自分のことを評価して俺は魔法陣の上に血を垂らした。

 

==============================

天臥久鎖李 男 レベル:???

天職:天の鎖(エルキドゥ)

筋力:???(技能によって変動)

体力:???(技能によって変動)

耐性:???(技能によって変動)

敏捷:???(技能によって変動)

魔力:???(技能によって変動)

魔耐:???(技能によって変動)

技能:完全なる形・変容・対魔力・宝具[+民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)][+人よ、神を繋ぎとめよう(エヌマ・エリシュ)]・剣術・気配遮断・気配感知・魔力操作[+魔力放出][+魔力収束][+魔力圧縮]・全状態異常耐性・投影魔術・ルーン魔術・強化魔術・言語理解、回帰する泥の人形・天の鎖の影・星の執行者・根源接続(仮)・情報更新・他多数*1

==============================

回帰する泥の人形:己が理性を破棄し、原初の姿へと回帰する。条件設定、そして終了設定をすることが可能。

天の鎖の影:遥か遠き神話の歴史にて、泥人形は冥府の底から帰ることが出来なかった。その際に、生まれ落ちしが天の鎖の影。自身と能力が全く同じな躰を一つ、作り上げる。しかし本来の影は宿主について回るもの。同時に自らと影を動かせば、それだけ動きも鈍る。

星の執行者:神話の時代、天の鎖は神の意志によって作られた。その躰は星の触覚であり、また星の意志の代弁者でもある。根源から力を借り受け、自らの能力を限界まで高める。

情報更新:並行世界より躰に入りし魂だからこそ持つことが出来た技能。同軸の全く同じ時空を進む自らの並行世界の存在と情報を共有し、取り込み、学習することができる。

 

……チートやん、これ。そんな感想しか浮かばないほどに、能力値がとんでもないものになっていた。

元よりサーヴァントなのでとんでもないポテンシャルがあるとはいえ、さすがにこのレベルになると冷汗しかかけないレベルで強くなっている。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

レベルに関しては、ここにいるメンバーの中の殆どが人間の出せる潜在能力をさらに超越して強くなることになる。それは俺もそうだろう。既にレベル表記がバグっているので人間を辞めているどころかバグキャラの域に至っているだろう。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

宝物庫、という単語を聞いたクラスメイト達が目を輝かせる。

……俺から言わせてもらえば、型月の英雄王並みに資産を持っていないと宝物庫なんて作れないんじゃないかと思ってしまう。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

俺の天職は天の鎖(エルキドゥ)か。最早まんまだな。

というかこの天職、下手したらあのクソ神(エヒトルジュエ)の依り代になってしまうんじゃないか?俺はそう思ってしまった。

それは何故か。理由として考えたのは、元々この躰はエルキドゥ……つまり神話の時代に人と神とを結び、その関係性を離れさせないように作られた言わば錨。人類と神を結ぶべく作られた存在なのだ。生まれの元を考えてから改めてこの天職をみると、完全に適合しやすい素体になってしまっているように思えて仕方ないのだ。

 

「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」

 

そしてこの言葉を聞いた瞬間、横目で様子を見守っていたハジメが挙動不審に陥るのを俺は目撃した。

……いやまさか、全ステータスが10なんてことはないよね。あり得るはずないよね。

この世界のハジメは並々ならぬ努力によって素の能力が高い。だからきっと、ステータスだって10なはずがない。俺は少なくともそう信じている!

 

心の中でそう俺が叫んでいると、雫が静かに近づいて来ていた。

 

「……どうだったのかしら?」

「……逆にどうだったと思う?」

「あなたのことだから、高いステータスと技能を持っていたんじゃないかしら?」

 

図星ですよ雫さん。なんていうかこういう時は途轍もなく鋭いよね。心を見透かされている気持ちになるから、俺としては少しだけ恐ろしくもある。

 

「ご明察。確かに僕はステータスも高かったし技能も大量だったよ。雫はどうだい?」

「私?それは少し待っていてくれるかしら?」

「……?まあいいけど」

 

この感じ、何かを隠しているみたいだな。

なんか少しだけいつもと違う感じがする。何が違うかはわからないが、何だか違和感があるのだ。

 

まあ気にするほどの事でもないか、と再考して俺はハジメの方に近寄ることにした。

 

 

 


 

 

 

ここで一旦切るって珍しいんじゃないかなと思います。

でもこれ以上続けて書くと量が半端じゃなくなるのでここでいったん終わります。

 

次回はハジメのステータスと雫のステータス開示、あと他いろいろを予定しています。それではまた。

 

追記:コメントにて、感想欄にて意見を聞くのがアンケートに分類されて規約に抵触する可能性があるとご指摘いただきました。当該部分についての修正を行い、活動報告にそれ専用の意見集約活動報告の欄を作ることにいたしました。ご指摘して頂いた方、ありがとうございました。

*1
他にも大量に技能があるのですが、作者の確認時間が足りず入っていない技能が多数あります。こいつならこれ持ってるだろ、という技能がありましたらどんどん活動報告にコメントしてください。お願いします。



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Ep.13

Ep.13、お待たせしました。

どんどん増えていくUA数とお気に入り登録、投票の評価におびえながらこの話を書き上げています。
毎回見てくださる方々、そして評価、感想を書いてくださる方々、ほんとうにありがとうございます。
これからも迷惑を掛けたりこいつ何言っているんだみたいな場面が出てくることがあるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。

後、入れた方がいいんじゃないかという技能に関しての募集は活動報告にあります。そこにコメントを落としていってください。規約違反に抵触する可能性があると指摘してくださった方、ありがとうございます。

詳しいコメントの仕方については後書きに残しておきますのでそれをご参照ください。
という訳で本編をどうぞ。


ステータス発表の先陣を切ったのは天之川だった。

興味もないので結果だけを知ってからハジメの方に行くか。そう考えて、俺は天之川のステータスを見る。

 

==============================

天之河光輝 17歳 男 レベル:1

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

==============================

 

原作と特に変わりのないステータスを見て、俺はこの程度かと思う。

こんなステータスで殺し合いなんてさせない、なんて申している天之川の頭のおめでたさが笑えてくる。思い切り笑いながら相手を煽りたくなる気持ちを抑えながら、俺はハジメに近づいていく。

 

「ハジメ、どうしたんだい?浮かない顔をして」

「……それがさ。僕のステータスなんだけど……」

 

そう言いながらハジメはゆっくりと俺にプレートを渡してきた。

 

==============================

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:150

体力:200

耐性:150

敏捷:100

魔力:200

魔耐:150

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・絆の鎖・投影魔術・解析魔術・強化魔術・変化魔術・千里眼[+鷹の目][+遠目][+夜目][+地形把握]・無限の剣製(アンリミテッド・ブレイドワークス)・言語理解

==============================

絆の鎖:天の鎖と絆を繋ぎし者の称号。思念通信、魔力の融通、情報送信。そして天の鎖を用いることができる。

 

これを見た時の俺の顔はきっと凄い物だったと思う。一番の驚くべきところは、なぜかすでに派生技能が生まれているところだ。もしかして現実でハガレンしていたのだろうか。そうでなければ納得がいかない。もしくは「投影、開始」ということでもしていたのだろうか。そんなことをしていたらハジメが英霊の座に行きそうで怖い。

というか投影魔術に加えて嫌な技能が見えた気がする。……え、本当に大丈夫?このままだと本当に英霊の座に行きそうなんだけど。まさかすでに封印指定されている魔術使いさんなのだろうか?思わず俺はそう考えてしまった。

というかだ。俺が少ししごいただけのはずなのにステータスがバグり過ぎだと内心で顔を引きつらせながら思う。……ああ、胃が痛い。

 

「高いステータスじゃないか。これがどうしたんだい?」

「いや……このステータスを見せたら、要らないやっかみをもらいそうだなと思ってさ」

「光輝にかい?」

「うん。言っちゃあれだけど、天之川君はいつも久鎖李とかにそういう態度取ってるじゃん」

 

だから挙動不審に陥っていたのか、と俺は一人確信を抱いた。

ハジメは確かに原作よりもまじめでしっかりしている人間になったが、やっぱりある程度は嫌われている人間だ。特に偽善者……じゃなかった、天之川や小悪党組の皆さんには特に嫌われている。

そいつらとの対立をハジメは避けたいと考えているのだろう。此処で対立しているのを見られたら、それを利用して相手側から何かアクションをかけてくるかもしれない。それが恐ろしいと俺とハジメはこの短い会話の中で互いに再認識した。

 

「……まあ、あれだよ。きっとハジメ以上のステータスの持ち主がこの中にいると思うよ。……というか雫とかが、ハジメよりもすごいんじゃないかい?」

「八重樫さんかぁ……確かに、この前の調理実習の時に包丁を使って空中に浮かせたニンジンを剣圧だけで切って全部均等な大きさになるようにしていたからね……」

「雫は一体何をやっているんだい?」

 

いつからうちの雫はこんなバグキャラになってしまったのだろうか。小一時間ほど問い詰めたい。もはや芸達者過ぎて笑えてくるレベルだ。現実逃避しながら、という言葉を付ける必要性があるが。

人外キャラなんて俺とかハジメだけで十分だろうに。もちろんハジメは奈落落ちした方ね。

 

「……そんなことを言っているうちに、八重樫さんの番になったみたいだよ」

 

うん、と一言告げて団長の方を見る。

団長は目を見開きながら何やら驚いていた。何について驚いているのだろうかと考えていると、団長が雫にプレートを返して言った。

 

「……まさか、ここまで強い人物が味方になっているとは俺も思っていなかったぞ。この天職は完全にこの時代で一人だけだろうな。規格外すぎる。まさか()()()()()()()()()()()()()とは……恐れ入ったぞ」

 

メルド団長はそう言いながら、俺たちに見えるようにしてステータスプレートを開示してきた。

 

==============================

八重樫雫 17歳 女 レベル:1

天職:剣聖

筋力:600

体力:700

耐性:550

敏捷:1300

魔力:500

魔耐:500

技能:剣術・達人・無念無想の境地・縮地・先読・明鏡止水・一意専心・忍術・気配感知・気配遮断・圏境・抜刀術・剣聖・直感・絆の鎖・言語理解

==============================

達人:武を極めし者(縮地、剣術などの派生技能全取得)

無念無想の境地:ただ、この身は業を切るためにあり

明鏡止水:我が心に乱れなし。故に我が剣に乱れなし

一意専心:我が剣に切れぬもの無し。一意に専心し、万物を切って見せよう

剣聖:剣技において、負けることなし。故に我こそ、剣聖なり

 

唖然とした気持ちを隠しながら、それを見てみる。なんだこれは、と本来のキャラをかなぐり捨てて叫びたくなる衝動を抑えつけながら、この規格外で阿保みたいな強さになってしまった幼馴染を見つめる。大体天職:剣聖って何さ。本当なら剣士だったはずだろう。それにスキルに関してもなんかすごいし。

そんなことを思っていると、こちらが視線を向けているのに気付いた雫が静かに近寄ってきて耳打ちしてくる。

 

「……どうかしら、私の能力」

「末恐ろしいものを感じるよ。こんなに強いなんて思ってもいなかった」

「ふふっ。それなら嬉しいわ」

 

何とか平静に見せかけているようにして回答したが、本当にここまで雫が強くなっているとは思っていなかった。

このステータスなら間違いなく負けることなんてないんじゃないか。そう思えるほどに、雫は天之川以上のチートキャラになっていた。能力的な意味でも、そして女性的な意味でも。

 

それはさておいて。浩介や龍太郎、恵理もここにいるから、俺はきっと彼らのステータスを見ることになるのだろうけど。

この分だと浩介も龍太郎も恵理も恐ろしいステータスになっているのだろうな、と思えて仕方がなかった。

 

 

 


 

 

 

当然のごとく浩介も龍太郎も恵理も、そして香織までもがバグキャラの仲間入りを果たしていた。

 

==============================

遠藤浩介 17歳 男 レベル:1

天職:暗殺者[深淵卿]

筋力:170

体力:120

耐性:300

敏捷:300

魔力:200

魔耐:300

技能:剣術・気配遮断・気配感知・暗殺術・投擲術・弓術・深淵卿・先読・全属性耐性・絆の鎖・言語理解

==============================

 

==============================

坂上龍太郎 17歳 男 レベル:1

天職:拳士

筋力:250

体力:250

耐性:200

敏捷:150

魔力:100

魔耐:100

技能:格闘術・剣術・達人・縮地・物理耐性・全属性耐性・絆の鎖・言語理解

==============================

 

==============================

中村恵理 17歳 女 レベル:1

天職:降霊術師

筋力:100

体力:200

耐性:250

敏捷:200

魔力:400

魔耐:400

技能:降霊術・闇属性適正・剣術・全属性耐性・霊感・絆の鎖・言語理解

==============================

 

==============================

白崎香織 17歳 女 レベル:1

天職:治癒師

筋力:100

体力:100

耐性:400

敏捷:200

魔力:500

魔耐:400

技能:回復魔法・光属性適正・剣術・高速魔力回復・全属性耐性・絆の鎖・言語理解

==============================

 

と、皆異様なほどに強くなっていた。

もうこいつらだけでいいんじゃないかな、と思うくらいに戦力過剰な状態になっている事実に気づいた団長は何とも言えない表情を浮かべながらも、ガハハハッと豪快に笑って俺たちのことを面倒見ると誓っていた。こういうところがやっぱり人気の一因なのだろう。

 

死なせるのは惜しいな、と思う。騎士団員の皆さんは、全員が死ぬには惜しいほどの人格者だった。原作では死んでしまったからこそ、この世界では生きていてほしい。そう思いながら、俺は団長にステータスを見せていなかったと思い出した。

直ちにプレートを持って団長の処へと向かう。団長は今はにっこり顔であった。心強い味方の存在が嬉しかったのだろう。

 

ステータスプレートを提出する。メルド団長は少し眉をひそめながら、ステータスを見ていた。

一通り見終わったのか、皆に聞こえる声で俺のステータスを伝える。それを聞いて沸き立つ中で団長に肩をひかれた。

 

「……久鎖李。この"魔力操作"系統の技能は隠しておけ。いらぬやっかみを受け取ることになるぞ」

「それはどういう……ああ、なるほど。分かったよ、団長」

 

魔力操作を持っている者は魔物と勘違いされる可能性があるからだろう。そのスキルの部分を声に出さずにトントンと叩いてそれとなしに教えてくれたことに感謝して、俺はステータスを隠ぺいした。毎度思うが本当に便利な機能である。

こういうのは二次創作でありがちな展開だな、と心の中で思ってから俺は再び雫の元へ歩き出した。

 

「……何となくは分かっていたけど、あなたも大概可笑しい強さをしているわよね」

「そうかな?僕としては雫の方が強い様に見えるけど」

「そう言われると嬉しいやら、なんだか複雑な様な……まあいいわ。兎も角、これから頑張りましょ」

「そうだね」

 

いったん話を切って、ちらりとハジメの方を見てみる。

ハジメは香織と何やら親しげに話していた。香織が嬉しそうな顔をしていることから察するに、ハジメが香織の事を褒めたのだろう。この世界の香織は病み崎さんでも空気の読めない天然さんでもない。正しくラノベのヒロインにありがちな同級生キャラなのだ。

因みにここにたどり着くまでの間に、俺の他にも胃に穴が開くんじゃないかというくらい苦労していたメンバーが多数いたことをここに記しておこうと思う。俺たちの努力の証を消さないために。そして俺たちのストレスで毛根が全て死滅するんじゃないかと思うくらいに痛快で、濃密で、過酷で、楽しかったあの夏の日々を忘れないために。これを忘れないようにしていてもそれが誰得なのかは全然わからないのだが。

 

「……香織も、青春してるわね」

「雫、そのコメントは保護者と取られるんじゃないかな?」

「そういうあなたも、父親みたいな表情をしているわよ?」

「……そうかな?」

 

他愛のない会話をしながら、小悪党組の方を一瞥してみる。

彼らは皆一様に、悔しそうな顔をしていた。オタクで無能だと思っていたハジメが自分たちよりも遥かに強く、尚且つ三大女神の一柱である香織がべったりしているからだろう。天之川の方も何やら不満気な表情を浮かべていた。どちらかというとこの顔は、子供の嫉妬の様な類のものだと思う……というかだろう。

そろそろ自らが歪んでいるという認識にたどり着いてもらいたい。そう思いながら、俺は寄りかかってきた雫の頭を撫でてやることにした。

 

視界の端で白い粉状のもの(砂糖)を噴出している女子たちや、|目が血走っている《同人誌のネタを見つけてテンションが臨界突破している》女子たち、後鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしながら怨嗟の声(リア充爆発しろ)を上げている騎士団員の姿もあった気がするが、俺は何も見ていないし気付いてすらもいない。そう言うことにしておこう。

 

 

 


 

 

 

そんなこんなで翌日から、訓練がものすごい勢いで始まっていった。

基礎的な戦闘での立ち回り、呪文の暗記、技能の使い方、基礎能力アップ。俺はそれらに、教える側として参加しつつ更なる自己鍛錬に励み続けた。

因みにハジメに関しては図書館にて知識の獲得に努めている。知識の習得速度が有り得ないくらい早くなっているハジメを見て、こいつやべえと思った俺はきっと間違った感想を抱いていないはずだ。流石は後の魔王、既に素質は十分ということか。

 

因みに俺はエルキドゥらしく、地面に手をついて鎖を使って相手を拘束したり刺突したり斬撃を加えたりさせる練習をしていた。後は宝具である『民の叡智』の使い勝手の確認、そしてメインの宝具である『人よ、神を繋ぎとめよう』の威力確認もしていた。魔法に関しては自らの習得済みである魔術の投影やルーンの確認をしていた。

 

ルーンに関しては正直なことを言うと、全然知らないというのが純粋な感想である。

前世で興味があって少し調べた気もするが、ルーンは奥が深い上に覚えることも多い。術ニキのよく使っていたルーンくらいしか記憶に強く残っていなかったので、こっちの世界に来てから自分自身で研究を重ねた。

 

実を言うと俺の家の本棚にもルーンに関する本が多数ある。あまり目につきにくいところに置いておいたからか、誰もそれの存在に気づかなかったのが幸いであった。ルーンに関して書かれた本を読みふけっている子供とかホラーでしかない。しかも何か考えながらそれを読んでいるのだ。薄気味悪すぎてヤバいでしょう。少なくとも俺は気味悪く思う。

 

ルーンの研究、クラスメイト達の能力強化のための特訓相手、雫の愛玩動物役、ハジメをしごk……ゲフンゲフン。特別強化させる相手役。後自己鍛錬が最近の日課である。この世界において、ハジメはイジメの被害を受けていない。それは偏に、ハジメの能力が高く他にもみんなに信頼されているメンバーの一人だからだ。檜山はこれでもかというほどくやしそうな顔をしていた。こんなことを言っていいかわからないが言わせてもらおう。ざまあ、と。これエルキドゥボイス(CV.小林ゆう)で言われたらなんか興奮するよね。

 

ハジメの魔法適正はやはりなかったが、その代わり魔術が使えそうな雰囲気がしたので調べてみようと思ったがやめにした。ハジメには錬成があるからである。この世界線のハジメは錬成だけで既に無双できるような強さになっているのだ。それなら奈落に落とさなくとも俺はいいのではないか、と思うようになってしまった。

しかし物事には必然的に起こる事と、回避することができる事の二つのパターンがある。俺は何故か、感覚的にハジメが奈落に落ちる、ということは必然的に起こる事なのではないかと思えてしまう。

 

……考えるのはやめにしよう。今はとにかく、この状況を回避する方法を考えるとしよう。

そう思いながら俺は、目の前にて()()を向けてきている修道女のことを睥睨する。

 

「我が主からの命令です。……付いてきて貰いますよ、規格外(イレギュラー)

 

この修道女の名前はノイント。クソ神(エヒトルジュエ)に使える()()()使()()であり、作中でも無類の強さを誇った敵役が、俺に敵意を向けてきていた。

 

「悪いけど。僕は君の下に行くことが出来ないんだ。……こんな真似をしてくる理由、少し聞かせてほしいものだね。さて、どこを切り落とそうか」

「……残念です。それならば切ります。切り落とされるのは果たしてどちらの方になるのでしょうかね」

 

呼び出されし神の使徒と、真に神の作りし神の使徒がここに、戦いの火ぶたを切って落とそうとしていた。

……なんて格好良くいってみたけどさ。これ、どうしたらいいんだろうね?




書き方についてです。このEp.に関しても専用の技能募集欄を設けようと思います。なので、送り先を間違えないように気を付けて送るようにして下さい。

それではここから説明です。まず該当する活動報告に飛んで、スキルを追加した方がいいと思う人物名と追加するスキル、あと何故それを選んだかをコメントしてください。
オリジナルスキルの場合には、なんか格好いいスキルの名前と格好いい説明書きがあると作者が泣きながら感謝します。
説明文なんて考えられるかコノヤローという方は格好良くなくても別に構いません。
なんならいっそのことネタまみれにしてくれても構いません。別に、書いてしまっても構わんのだろう?アイエエエ!スワベサン!?スワベサンナンデ!?

……はい。ということで気が向いた方、これが気になるなという方、他にも色々な方々、お願いします。

あと最近の執筆遅れの要因に関しても活動報告にあります。それを確認してください。

投稿予定に関しても活動報告に載せていきますので、ちょくちょく確認して下さるとこちらとしてもありがたく思います。これからも作者と、この小説をお願い致します。それではまた。


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Ep.14

お待たせいたしました。
今回の話は三人称視点になっています。

最近は長い話ばかりでしたが、この話はいつもと比べると短いかもしれません。ご了承ください。

ということで、本編をどうぞ。


天を舞う美しき銀の修道女。神々しい銀の羽と一対の大剣を持つ女は、その羽から、周りに浮かぶ魔法陣から、弾丸を射出していた。

銀の弾丸。魔力によって構成された、言うなれば魔弾の群れが飛び交う。

絶対的な神の使徒。宙に浮かぶ女性を表現するとするのならば、その言葉が正しく正しいものであった。殺人的な魔弾の群れ。流星群にもみえるその魔弾の中を潜り抜け、駆け抜けるようにして、独りの人間(泥人形)が駆け抜けていた。

 

緑髪の麗人。恐ろしいほどに中性的な顔立ちながら、その眼はまるで本当に人を殺すかのような鋭い眼光を蓄えている。

対する修道女は銀髪銀眼。身に纏いし戦装束も銀色の光を蓄えており、その神秘的な光のことごとくが緑髪の麗人に対して牙を向けていた。

 

両者――天臥久鎖李と神の使徒・ノイント――は、ハイリヒ王国の王都から離れ人気の少なくなった地にて戦っていた。

否、これはもはや戦いなどではなくなっていた。今彼らが行っていたのは、純粋な殺意だけで出来ている殺し合いであった。

銀弾が飛べば、鎖が落とす。

鎖が伸びれば、握られし大剣と銀弾によって切り落とされる。

殺意渦巻く戦場はすでに、地面に大量のクレーターと小高く盛り上がった山を構成するようなレベルの戦いにまで変貌を遂げていた。

 

「《民の叡智(エイジ・オブ・バビロン)》」

 

久鎖李が一瞬のうちに手を地面に付き、一言唱える。

すると地面から様々な武具が出現し、主の命令を待つ。一言唱えるだけで、英雄王に並ぶほどの弾幕を投射する準備を整えたのである。

 

創造の理念を鑑定し、

基本となる骨子を想定し、

構成された材質を複製し、

制作に及ぶ技術を模倣し、

成長に至る経験に共感し、

蓄積された年月を再現し、

あらゆる工程を凌駕し尽くし――――

ここに、幻想を結び剣と成す――――!

 

「ふっ!」

 

手を大きく一振り。そうすると、剣が、用意された武器が、意志を持ったかのように射出された。

襲い掛かってくる剣山。予測不能、回避不能に思われるほど早く、鋭く、繊細で、尚且つ複雑な投射は。

 

「――甘い」

 

刹那のうちの攻防で敗れ去っていった。

ノイントが大きく双大剣を振るう。すると、一瞬で周りに斬撃が展開され武具のことごとくが剣圧によって叩き壊されていった。

正しくこれは、八重樫雫や型月の剣豪たちが使っていた現象と確実に類似しているものであった。

多重次元屈折現象。武の高みに至りし者が振るう強者の力が、造られし幻想を地に墜とした。

 

しかし彼の本命はそれではない。

ノイントは空中にて、凄まじいものをその両目に捉えていた。

 

「それは、どうかな?」

 

空中を自在に飛び回り、接近してくる久鎖李の姿にノイントは感情を持たない身の筈なのに、僅かばかり驚愕する。

刹那の間にノイントは久鎖李の右手に握られている剣に気が付く。ノイントは瞬時に思考を元に戻して対応を仕掛けた。

 

久鎖李が袈裟掛けを仕掛けるのに合わせて、その軌道を読み剣を置いて得物を破壊しようとする。

計算され尽くしたその一閃を、ノイントは圧倒的な強さにおいて粉砕しようと剣筋に添わせるようにして自らの得物を構え、完璧なタイミングで攻撃をした。

 

その、瞬間の出来事であった。

 

ノイントは僅かばかりの違和感を覚えた。

自分は確かに相手の剣の軌道に合わせて、大剣を置き、その得物と担い手(久鎖李)に攻撃をしたはずであった。

なのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

可笑しい。いくらなんでもでたらめであった。

剣圧を飛ばすことが出来る身であっても、この一撃は純粋にぶつける為に振るったはずだ。

なのになぜ、私は何の感覚も抱いていないのだ?

思考を回す。あの一閃は互いに回避不能、途中で軌道を変える事すらもできないほどの刹那の攻防であったはず。訳の分からない感覚に囚われてたノイントであったが、ここで一つの考えに至ったのだ。

 

――まさか、最初から攻撃すらもしていなかったのではないか――

 

怖気が走る。

だとすれば、この目が捉えていたのは……

 

「おや、案外早く気付いたみたいだね。これは想定外だとも……と言いたいところだったのだけど、全て読んでいたさ」

 

ノイントの仮説は半分当たっていた。ノイントはこの現象を高速移動による錯覚――所謂残像のこと――と読み、背後に視線を向けた。それが一番確実に相手の認識範囲外から殺すことが出来る方法であったから。その読みは半分が当たっていたのだ。

 

ならば対処は出来る。ノイントは瞬時に身体を回して右手の大剣を思い切り振りかぶり、久鎖李の頭に向かって一撃を叩き込んだ。

必殺にして、必至の攻撃。誰もがそう認識するほどに、完璧な一撃であった。

 

しかし、その攻撃すらも規格外の者(イレギュラー)である久鎖李には意味のないことであった。

 

「――かはっ」

 

声を上げて苦しんだのは、ノイントの方であった。

何故。彼は攻撃などしていないはずだ。

なのに、なのに何故。

 

――私はこうして、出血しているのだ――

 

激しい混乱に見舞われながらも、体勢を整えたノイントは一瞬のうちに距離を取った。

追撃を与えられて傷つくことを避けるためであった。

 

「不思議そうな顔をしているね。まるで、何で私は攻撃を喰らっているんだみたいな考えかな?」

 

内心を見透かしていく久鎖李。鋭い言葉の一つ一つがノイントのことを煽っていく。それに追随するかのように、心を持たないはずのノイントが表情を歪めていた。

 

「簡単なことだよ。それは偏に……」

 

――君が、見落としをしているからさ

 

まるで刑事ドラマの事件解決のシーンかの様に始まる、観客はおらず聞き手と話し手しかいない芝居。

その美しい緑髪を優雅にはためかせながら、久鎖李は一言一言"答え合わせ"を始めた。

 

「まず最初の勘違いから。あれは残像なんてものじゃない」

 

仮説を真っ向から挫き、認識の訂正を行う久鎖李。

その事実を告げるときに口の端を歪めながら相手のことを睥睨し、さらに得意げな様子で話を続けていく。

 

「あれは僕の技能――天の鎖の影。文字通り、自らの影さ」

 

そんなばかな、と思考するノイント。

高々影程度が、このような威力と複雑な動きをできるはずがない。そう考えたのは、自らが影程度の存在に虚仮にされたということが信じられない気持ちになったからであった。

 

「高々影ごとき、と僕のことを侮っているのかい?そうだとするのなら――」

 

――それが、君の敗因さ

 

その言葉が発せられた瞬間、辺りの空気が突然重くなった。並の人間では息を吸うことすら覚束なくなるほどに、濃密で、残酷な"死"の気配が辺り一帯を急速に包んでいた。

その元である威圧感とも、殺気とも取れるそれを発していたのは、言うまでもない。目の前にいる、端麗な顔を歪ませてこちらのことを睨みつけている戦乙女(ノイント)だ。

 

「決めました。本来であれば貴方のことを連れ帰るように命じられていましたが、貴方は我が主に不相応です。よって、ここで貴方のことを排除します」

 

彼女はそう告げると、先ほどまでとは比べ物にならないほどの速さでもって久鎖李へと襲い掛かった。

ここまでの彼女には、驕りがあった。高々ただの人間程度、と高を括って本来の力を全く使っていなかった。その驕りは今でも残っている。使えるべき主に言われた命令を独断で破り、目の前の男を謎の衝動で殺すことしか、今のノイントは考えていなかった。

 

大剣を振るう。自らの技巧に馬鹿みたいに高いステータスを乗せて、かするだけで肉体が吹き飛ぶくらいの威力を持つ一撃にまで昇華させて襲い掛かる。

対する久鎖李も負けてはいない。天の鎖の名に懸けて、ここで負けるわけにはいかないと固く決意すると、一振りの刀を取り出した。

 

鬩ぎあう両者。大剣を振るえばそれを流し、刀が振るわれればそれは大剣の腹で受け止められる。

埒が明かない。同じタイミングで、両者はそう判断した。

となれば、やることは明白であった。互いが互いの全力を武器に込め、ぶつけ合う。ソニックブームが吹き荒れ、両者が弾かれて距離を取る形になった。

 

距離を取ったことを確認した後、互いは全速力で次の一手を考え始める。

 

(――純粋な力の強さ、技術力ではあちらと同等。この身体についてきて、さらに全力の一歩手前まで力を出しても倒しきれない。

なら、ここからは手加減も、容赦もなし。我が主の脅威となる存在なら、ここで――)

(――ここまでとは。原作においても強キャラ扱いされてはいたが、強すぎる。……あんまりこの手は使いたくなかったけど、やるしかない。もう、引き返せないところまで物語は進んでいるんだ。俺が、ここで、お前のことを――)

 

「「……倒(しま)すよ」」

 

先手を取ったのは久鎖李の方だ。《星の執行者》のスキルを使用し、より深いところまで力を引き出し始める。

さらに強化を使い、能力値の底上げをする。二つ強化によって得られた倍率は――10倍。星の執行者によって素のステータスを5倍にまで大きく引き上げ、強化によってその力を2倍に増幅させる。

ノイントは自らの力の制限を撤廃させ、一気に久鎖李に向かって躍りかかった。

 

先ほどまでとは比べ物にならない攻防が始まる。

この世界の人間や神であっても、この攻防を肉眼でとらえることが出来なかった。

しかし戦っている当人たちは別であった。ノイントは、はっきりと自分が圧されているということを認識していた。

 

(――強すぎる。本当の全力を持ってしても、この人間に勝て、ない)

 

正しく規格外。正しく理不尽。世界を超えし天の鎖が、その圧倒的な力を発揮していた。

先程までとは比べ物にならない速度で振るわれる剣閃は、鋭さと重さ、そして速さが違い過ぎた。

さらに死角から襲い掛かってくる『天の鎖(エルキドゥ)』の制御能力も、また圧倒的なものになっていた。

少しずつ体力を削られていくノイント。()()()()()久鎖李の全力についてきているノイントもまた圧倒的であった。

もうだめか。ノイントはそう認識した瞬間、致命的な隙が生まれた。

 

(――申し訳ありません、我が主。私ではやはり、勝つことが出来なかった)

 

急速に迫ってくる死。それから逃げることは最早、できないことであると気付いていた。

目を閉じる。脳裏に思い浮かぶ記憶は何もない。ただ、主に仕えて神の使徒として暮らしていた記憶が残っているだけだった。

 

しかし何故か。

ノイントは思ってしまった。

 

――生きたい、と。

 

 

 


 

 

 

――ああ。何て、罪深い。




中途半端なところですがここで切ります。続きが気になるかい?俺も気になるところなんだよ。

書いてるのはおめーだろ、と思う方が多いでしょうがこの先の展開はもちろん決まっています。今日か明日のうちに出せたらなと思うのでお楽しみに。

試験コワイ……勉強コワイ……小説書くのたのちい……


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Ep.15

よっし間に合った。ということで投稿します。

ハイ注意。この回は賛否両論に分かれるものになりました。主に後半です。
それでもいいよという人は最後まで見ていってください。


「……」

 

恐怖によって気絶しているノイントのことを抱える。勝負に俺は勝つことが出来た。

横抱きにして、このようにノイントの顔を見ると本当に綺麗で素敵な女性に見える。でも俺の近くにはこれに勝るとも劣らない美貌の持ち主がたくさんいるのだ。本当にどうなっているのだろうか。

 

というかそんなことよりもだ。俺がこうしてノイントのことをお持ち帰r……ゲフンゲフン。拉致しているのにはきちんとした理由があった。

それは偏に、ノイントも俺の中で改変したいキャラだったからである。

 

あのクソ神(エヒトルジュエ)の眷属としてこれからも戦っていくのは、何と言うか忍びない。

そしてこのまま放置していたら、奈落に落ちて劇的ビフォーアフターを遂げた魔王様にドパン!されて希望の花になってしまうので救済するとしたらここしかないと思ったのだ。

それに、この躰になった影響なのだろうか。躰はギルガメッシュの友人であり、俺も転生前はノイントのことを可哀想だと思っていたから、なんだかこうして救ってやって、普通の人間として過ごしてもらいたいと思ったのだ。意味の分からないことを言っているのは自覚しているが、俺のエゴということで目を瞑っていてほしい。

 

この子を人間とするために足りないもの。それは即ち、感情だ。

心というものがない可能性もあるが、その時はその時だろう。別にこの程度は()()()()()()()

 

というのもだ。エルキドゥというサーヴァント……というか英霊は、霊長の抑止力と星の抑止力の双方に接続できる存在なのだ。それ故に、魔力を込めれば万能の願望機――即ち聖杯と同じ働きをすることが出来るのだ。

万能の願望機としての活動ができるのであれば、願いを叶えさせることも容易いというものだ。本来であれば魔力が足りなくなることではあるものの、幸いなことにこの世界は完全に前の世界と法則が違う。ならば、願望機になって願いを叶えることなど簡単だろう。

 

簡単に魔法陣を書く。その中心部にノイントを安置し、彼女の心臓部分に手を当てるようにして魔法陣を起動する。

それと同時に《根源接続(仮)》を発動させて、力ある言葉を唱える。

 

「――我、聖杯に願う。憐れなるこの神の使徒、ノイントに心を与え、天上の神からの支配から解かれんことを。1人の心を持つヒトとして、歩んでいくことを。我、天に繋がりし天の鎖。この願い、この願望を、叶えたまえ。――"我、聖杯に願う"」

 

力ある言葉が天に溶けると、魔法陣から光が立ち昇る。朝焼けの紅い太陽の光が、純白たる白の光を鮮やかに照らしていく。

神秘的なこの様子は、生まれ変わる目の前の使徒のことを祝福しているように見えた。

光が収まっていく。ノイントは、目を閉じたまま膝をついていた。

 

「ありがとうございます、マスター。お陰様で、私も自由に生きていくことが出来そうです」

 

……うん。うん?

 

「この身は我が主(久鎖李)のためにあります。何でも命じてください。夜伽の相手は、さすがに務まらないかもしれませんが」

 

ちょっとまて。色々と言いたいことがあるんだけど。

 

百歩……いや。一万歩譲って、マスターとか我が主は許すよ。うん。

でもさ、いくらなんでも好感度おかしくない?第一可愛い女の子が夜伽なんて言葉使うんじゃない。ただでさえ雫でこっちは大変だっていうのに、ここにノイントが来たら確実にどこかで理性切れるわ。

 

「ありがとう。でも、人前でマスター呼びは控えてほしいかな」

「わかりました。……何か、やることはありませんか」

「あるかな。僕が命じるまでは、これまで通り王宮の中で情報収集していてほしい。なるべく、僕の知人たちに悪影響が出ない様に介入してくれるかい?」

「ご命令の通りに。完璧に熟して見せます」

 

頼もしすぎません?この子。もうなんていうか出来る仕事人みたいで頼もしすぎるわ。

これなら安心して任せられるわ。……なんていうか、あんまり予想だにしていない展開にはなったけど。

 

「うん。それじゃあ、頼むよ」

 

そう言うとノイントは一礼して、去っていった。

……周りに人がいないことを確認する。さっきから込み上げて生きているこの不快感を放出する場所を探す。

 

「ぐっ……かはっ!?」

 

いい感じに抉れていた地面があったので、そこに隠れると遂に限界を迎えた。

口から出てきたのは、血。鉄の香りと味が、口内を駆け巡る。

咳き込みが止まらない。予想以上に、躰に与えられていたダメージは大きかったようだ。

 

「がはっ……はあ、はあ……」

 

10分ほどむせてから、漸く躰が落ち着きを見せた。不快感と嘔吐感は止まることを知らないみたいだが、そんなことを気にしている余裕はなかった。

ギシギシと軋む躰。少し動かすだけでも、躰全体を襲う痛みによって動けなくなってしまう。限界突破や、覇潰の後に来るというリバウンドとは比べ物にならない程の痛みに、意識が切れそうになるのをぐっとこらえる。

 

原因は明白だった。生身の肉体で、サーヴァントの力を全力行使しさらにその力を倍率10倍の強化をした状態で振るったのだ。躰がボロボロになっても納得がいくだろう。鍛えてきたつもりだったが、まだまだ足りないということなのだろうか。

この世界に来てから、元のエルキドゥの素体よりも能力値は遥かに上昇したはずであった。やはり受肉しているせいなのか、俺は予想以上に弱い状態になっているらしい。

この躰に慣れていない。その事実は何よりも重く、これからの懸念となるものであった。

 

いや。これは躰の問題というよりも。

……()()()()()()()()()()()()()()()()()。俺はそう思いながら、躰を引き摺るようにして王国へと戻っていった。

 

 

 


 

 

 

それから俺は、何食わぬ顔で日々を送っていた。

なんだか地形が丸々変動していて、少し高い山が半分以上も抉れていたりクレーターがあちこちにできているという話を聞いたが、俺は何も悪くない。というか何も聞いていない。そんな私何も知りませんよという態度で日々を過ごしていた。

 

訓練場に出る。騎士剣を一本手に取り、軽く振るってみる。

何も能力に強化を入れているわけでもないというのに、それだけの行為であっても躰がズキズキ痛む。内側から肉体を破壊されて、永遠に治らない痛みの中にいると想像するのが一番わかりやすいのかもしれない。もっとわかりやすい言い方をするのであれば、男の勲章(男性器)を一秒かそれ以上の間隔で蹴られ続けている状態というのがわかりやすいと思われる。

 

因みに俺は躰は天の鎖なので、変容のスキルを使って能力値に変化を与えることができる。

基本的には敏捷と魔力を優先。場合によって筋力を強化みたいな感じで戦っている。

変容を使えば戦い方に幅を持たせて戦えるので、よく使用するスキルだ。

 

そんな解説を第四の壁の向こうに居るであろう人々にした後、俺はハジメの方に目線をやった。

そこには、小悪党組に絡まれているハジメの姿があった。珍しく今は一人になっているから狙われたのだろう。あいつらも懲りないものだな、と思いつつ俺はハジメに加勢しようと思い歩み始めた。

……しかし、その歩みはハジメの視線によって止められた。珍しくハジメが何かを決意したかのような表情を俺に向けてきていたので、その視線を受け止めて俺は一歩後ろに下がった。普通にありがたかった。躰がギシギシ言っているからである。

 

会話だけでも聞いておくか。そう思った俺は耳を傾けて、声を聞き取り始めた。

 

『……本当?それならありがたいかも。僕はあまり戦いがうまくないから、檜山君たちが相手になってくれるのなら嬉しいかな』

『お前、本気で言ってんのか?こっちは4人もいるんだぞ?』

『人数なんて所詮飾りでしょ?それに僕、戦いはうまくないとは言っても君たちよりは確実に強いよ?』

 

……あれ絶対、俺の物真似少し取り入れてるでしょ。俺というかエルキドゥのだけどさ。

さらっと毒舌混ぜて相手煽っている時点でハジメ、この状況楽しんでるだろ。

 

『っ!てめえ!』

『あ、おい待てよ檜山!』

 

あーあ、先に手を出そうとしちゃったらだめだろ檜山くぅん。

そんなことをしちゃうから無残な死に方するんだよ原作とか二次創作で。

 

『ここに焼撃を望む――"火球"っ!』

『あーもー!どうにでもなれってんだよ!ここに風撃を望む――"風球"!』

『おーらよぉ!』

『羨ましいんだよコノヤロー!』

 

もう最後の……誰だっけ。ああ思い出した、近藤に関しては嫉妬じゃないか。コワイな。

というかさすがに魔法はやりすぎだろお前ら。ハジメ大丈夫なのか?強くなったとはいえ、さすがに多対一はきついはずだけど……

 

『全く、能のない動き方をしてるね。……この程度で僕のことをやれると思っているなら、舐めすぎだよ。――"錬成"』

 

そんな心配は、一瞬にして掻き消えた。ハジメが発動した錬成が、とんでもないものであったからだ。

ハジメが錬成したのは土の人形。この場合なら、ゴーレムと呼ぶ方が正しいのかもしれない。それが四体、ノータイムで出現して守りに入ったからだ。

ハジメのことだ。土の中の鉄分を凝固してあれを鋼鉄製のゴーレムにしているに違いないんだろうな。そこらへんはオタクの性なのか、尋常じゃないほど詳しいからな……

 

『うおっ!?』

『なぁにこれぇ』

『開けろ!デトロイト市警だ!』

『アイエエエ!ゴーレム!?ゴーレムナンデ!?』

 

おい小悪党組の檜山以外のメンバー。お前たちなんでそんな台詞言っているんだよ。雰囲気台無し&圧倒的場違いだぞ?

……あ、ブーメランだこれ。俺は一人膝から崩れ落ちた。

 

『……はい、これでお終いかな?檜山君、模擬戦受けてくれてありがとう。おかげで勉強になったよ』

『クソっ、覚えてろ!?』

『おい待てよ!』

 

崩れ落ちてる間にあっちは決着がついていたようだ。あっという間に小悪党組が見事なモブムーブしてして去っていったよ。

俺?まだ心にブーメラン刺さったままですが何か?それなりにきついんだぞこっちは。外見はウルクの切れた斧だったとしても中身は一般人人間Peopleだからね?……頭悪そうな単語の並べ方してんな俺。

 

自分で自分の傷口を抉っていると登場、いつものみんな&自己肯定感半端ない系勇者(笑い)くん。

こいつは修羅場の予感がする。あと愉悦の予感。第四の壁の向こうにいるであろうみんなが一番好きなものだろうってげほぉ!?

 

……やべ、血出た。バレないうちに退散しとこ。

こういう時に限って雫とかあと影が薄いのにこういう時だけは影が薄くないアビスゲート卿とかが気付くから早めに逃げるとしよう、そうしよう。駆け足になって退散していく、これならバレへんやろ。よゆーよゆー。

 

「……久鎖李。ちょっといいかしら?」

 

この現象を説明する前に言っておくッ! おれは今 やつの特殊能力を ほんのちょっぴりだが 体験した

 

い…いや… 体験したというよりは まったく理解を 超えていたのだが……

 

あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!

 

「おれは 奴の前を通り抜けて何食わぬ顔でここから

逃げ出そうとしたら いつのまにか雫に回り込まれていた」

 

な… 何を言っているのか わからねーと思うが 

 

おれも 何をされたのか わからなかった…

 

頭がどうにかなりそうだった… 催眠術だとか超スピードだとか

 

そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 

もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…

 

……はい、ポルナレフさんお疲れ様でした。というか本当に何が起きたんだこれ。ニンジャか?ニンジャか!?ニンジャなのか!ニンジャだと言ってくれ!

 

「拒否権はないから。付いてきなさい」

「いや、お断りさせてもらってm」

「つ い て き な さ い」

 

肩に力を込められてミシミシと音が鳴り始める。シャレにならんからやめていただきたい、切実に。

というか本当にやめて!このままだと俺の肩が、肩がー!

 

「……はい」

 

弱弱しくそういうと、引っ張られる形で俺は雫に連行されていった。

<(´・ω・`)出荷よー

<(´・ω・`)そんなー

って声がクラスメイト達から聞き取れたのは疲れているからかもしれない。

あとお前たち(いつものメンバー)、尻に敷かれているとか言うんじゃない!

 

 

 


 

 

 

「……で?貴方の話をまとめると。喧嘩売られたからそれを買っていつも以上の全力を使って戦って勝ったと思ったら、躰ボロボロになってた挙句の果てに女の子1人拾って来たって訳なのね?」

「……はい」

「ふーん……ふーーーん?」

 

誰か助けてください。

絶賛ベットの上で寝っ転がっているなうなのですが、雫さんが不機嫌です。般若が後ろに見えています。更に今、拘束されています。そのご自慢の胸とスタイルでもって拘束されているので、抜け出すことが出来ません。抜け出そうとしたら男として最低な行動を取ることになるのでどうしようもありません。

おいワザップ!この状況から抜け出す方法を教えてくれ!

 

簡単で

す!

 

やめろぉ!

……一人茶番って虚しいね。

 

「……まあこの際ね。あなたが無事だからどうでもいいのよ」

「?」

 

流れ変わったね?少し顔も赤いし。どうしたんだろうか。

 

「……でも、久鎖李がどこかに行っちゃうんじゃないかと思うと、不安なの。いつも遠いところを見つめてて、みんなから一歩離れたところで生活していて。このままだと、どこかに行っちゃうんじゃないかって思って、心配で……」

 

雫は僅かに声を震わせて、目尻に涙を溜めていた。……想定外だった。ここまで雫が、俺に親愛の情を向けてくれているとは思わなかった。

というかこれは言われずともわかる。雫のこれは、親愛なんてものじゃ収まらないってことには気づいている。ここに来て自覚したのは、これまでこの気持ちから目を背けてきた報い、ということだろう。

 

――彼女はきっと、俺のことが好きなのだ。

そしてまた、俺もきっと。雫のことが、好きなのだ。

 

自惚れだと笑ってくれてもいい。傲慢だと罵ってくれてもいい。

それでも俺は、この気持ちが間違いなんかじゃないということが出来る。根拠はないけど、本気で俺はそう思っているのだ。

 

「気付いているかもしれないけどね。私は貴方のことが好きよ。1人の人間として、異性として。……歪んだ人間かもしれない。こんなことを言っているなんて、私もどうかしているかもしれない。……でも、気持ちは本心からだから。……ねえ、久鎖李」

 

好きよ。

そう言った後、雫は俺の唇を奪いに来た。




ここにキマシタワーを建てよう。
告白への返事とその他もろもろは次回です。

さあ、今度こそ勉強と試験対策だぁ!
楽しい楽しい時間が俺を待っているぞぉ!嬉しいなぁ!(SAN値直葬済み)

あ、明日の英検二次を受ける方々頑張ってください。俺も一緒に頑張ります。

お前らのアクセスが止まらねぇ限り、その先に。俺はいるぞ!
――だからよ。(勉強)止まるんじゃねえぞ……

追記:投稿直後にまさかのつけるタイトルを間違えるというポカをやらかしました。すぐに直したので許してください……


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Ep.16

こちら作者。投稿の準備が終了した。

流石だな作者。テスト期間中のブランクがあるとは思えない。

待 た せ た な !


とまあそんな茶番はさておき、本当にお待たせしました。Ep.16です。
少し短めにはなりましたが、楽しんでいただけると幸いに思います。

投稿が遅れた理由についてはいつものごとく活動報告を参照していただけると幸いです。技能募集に関しても特定の活動報告のところに書いて投稿していただければ作者が確認して採用します。リンクに関してはこちら。

主人公の技能→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262820&uid=350638

他キャラクターの技能→https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=262980&uid=350638

貼ってあるリンクこれで正しいよね……?もし違いましたらご指摘と正しいリンク添付お願いします(土下座)

長くなりましたが、本編どうぞ。


口先に触れる柔らかい感覚。

遅れてやってくるのは、甘い刺激とドロドロに溶けてしまいそうなほどに目を潤ませた雫の姿だった。

 

このままでは戻れなくなる。脳を痺れさせる刺激は、麻薬かそれ以上の中毒性を孕んでおり、俺の理性という名のタガを全力で外しに来ていた。

呼吸が苦しくなる。長い永い口付けによって意識が飛びそうになる。永遠とも、刹那ともとれる時間は俺と雫の互いのことをこれ以上ない幸福感と充足感で満たしていた。

 

魔性の女だなと思う。俺が好きになった女は、どうやら相当に乙女であり強い大和撫子でもあり。何よりも、愛が重い女性だった様だ。そう思うと、何だか嬉しくなる。これ以上にないほどに可愛く、美しい。学校の男どもや道行く人々の視線を独り占めにしていた女が、自分のことが好きだと言ってくれたことが俺はよっぽど嬉しかったのかもしれない。彼女の腰を抱き寄せて、もう一度キスをした。

 

自分も愛が重い人間だな、と思う。

前世から誰のことも好きになることはないと思っていたが、このような形で人のことを好きになるとは夢にも思っていなかった。

しかも相手は絶世の美女だ。幸せ、なんてチープな言葉だけでは表せない。表そうものなら、きっと天から罰が下るだろう。

 

二回目のキスが終わる。雫は頬を染めながら俺の上体にもたれかかってきた。

自然と俺の躰は雫の身体に下敷きにされ、顔が近くなる。雫の目に映っている俺の表情は、鉄仮面の様に硬かった。面白みのない人間だな。俺は自分自身のことをそう自嘲した。

 

「嬉しい。久鎖李の方からキスしてくれるとは思わなかった」

「それを言うなら僕もだけど。こんなにぐいぐい来るとは思ってもみなかった」

 

互いに顔を綻ばせる。幸せな時間が、ゆっくりゆっくりと過ぎていく。

無言で見つめ合う。時々俺が笑ってみれば、雫も釣られて微笑んでくる。何にも代えることのできない、二人だけの幸せな時間が過ぎていた。

 

全身に幸せの雰囲気を感じていると、何だか視界がぼやけてくるのを自覚した。

どうやらこの雰囲気に安心しきったのか、俺の躰は眠りを求めてきているらしい。目をしょぼしょぼさせていると、耳元から蠱惑的な声が聞こえてきた。

 

「……眠いのかしら?それなら安心しなさい。私も一緒にいてあげるから……ね?」

 

悪魔の囁きであった。俺にはこの攻撃を回避する手段なんてものはない。言われるがままに落ちていく意識。

ああ。なんて、幸せなのだろう。溺れるくらいの愛と優しさに俺は包まれていた。

そして、俺は――

 

 

 


 

 

 

「……すぅ……」

「…………本当に寝るなんてね」

 

体勢を変えて、久鎖李の頭を自分の膝の上に乗せる。一般的に男のロマン……と言われている膝枕をしながら、手櫛で久鎖李の頭を梳く。男なのにも関わらず、一本一本がサラサラで枝毛のない久鎖李の髪の毛を見ていると、羨ましい気持ちになってくる。久鎖李のことだ。大した手入れもなしにこの髪の毛の質を保っているのだろう。だからこそ、羨ましい。

 

「……ところで。さっきからドア越しににやにやしている香織?ちょっとこっちに来なさい?」

「…………」

「居ないのかしら?そう。なら仕方ないわね……今度渡そうと思っていた映画のチケッt」

「ごめんなさいでした!」

 

気配感知に何か引っかかっていると思ったら、やっぱり香織だった。間が悪かったわね。

映画のチケットだけで釣れるものなのか、と思ったんじゃないかしら?どこに向かって言っているかは分からないけど。まあそんな誰かに向かって答えを言うなら、これカップル限定の映画チケットなのよ。つまりはそう言うことよ。

目の前で五体投地して土下座している幼馴染の香織の姿を見る。この子も可愛いのに、南雲君は何で告白しないのかしらね。というか香織もそうだけど。いまここでプルプルしながら土下座している香織は小動物のような愛嬌と魅力がある。こんな美少女口説こうとしないなんて……もしかして南雲君ってヘタレ?それともチキン?はたまた鈍感なのかしら?

 

「……ねえ雫ちゃん。今心の中で南雲君の事ぼろくそに言ったでしょ?」

「さあ?何のことかしら。隙間から見ていた覗き魔さん?」

「うぐっ……」

 

背筋がヒヤッとしたのを感じつつ動揺を表に出さないように努めて言い返してみれば、場の会話の流れは完全に流れていった。さすがに追及されるとボロが出そうだしね。私は生憎久鎖李みたいに会話が得意という訳ではないのよね。

 

「それにしてもいいなぁ……膝枕。私も南雲君にこういうことしてあげたいんだけどね」

「あら?それなら私みたいに告ってしまえばいいんじゃない?」

「む、無理だよそんなこと!あんな積極的に行くことなんてできないよ……」

 

まさか最初から見ていたのかしらね……?

だとしたら少しばかり、やることが出来てしまったみたいね。

ゆっくりと起こさないように、久鎖李の頭を降ろす。そして私は"縮地"を使って香織の目の前に現れる。

 

「……雫ちゃん?」

「最初から見られていたとは思わなかったわよ、香織……!」

「ちょ、ちょっと待って!目が怖いから!覚悟が決まったみたいな目になってるから!」

「どうしたのよ香織、私は怖くないわ。だから安心して私に身を委ねなさい」

「ま、待っ――」

 

そこから私たちの戦いは始まった。

何があったかはここでは詳しく言えないが……結果として私たちは本気で怒っている久鎖李の姿を目に焼き付けることとなったのである。

そしてそれから、私たちの間で囁かれる暗黙のルールの中に、『ぐっすりと寝ている久鎖李のことを起こさないようにする』という新しいルールが決まったのである。

 

怖かった……

 

 

 


 

 

 

そして翌日の訓練の最中。()()は唐突に告げられた。

 

「……え?雫、久鎖李と付き合い始めたの?」

 

始まりは、恵理と雫が小声で話し始めたところから始まった。

俺はそのころハジメと実戦形式での試合をしていたので、その会話を横で聞き流すことしかできなかったのだが。

 

「そうよ。……何も言わないのね」

「まあ納得しているし……それに昔からそんなことだろうなとは思ってた」

「……悪いことをしたかしらね?」

「ううん。全然平気」

 

最初は問題なんてなかった。平和で争いなんて起こる筈もない、ただのおしゃべりであったはずなのだ。

……そう、()()()()()()()()()()

 

「……ハッ!ネタの気配がする!者ども行くぞ!」

「Yes,ma'am!」

「敵の潜水艦を発見!」

「「「駄目だ!」」」

「大和魂を見せてやる!」

「止まるんじゃねえぞ……」

 

皆さんは覚えているであろうか。ここにキマシタワーを建てよう、なんてほざいていやがりましたあの女子たち(同人誌のネタに飢えた狂戦士)のことを。

案の定彼女たちはパパラッチ属性も持っていた。そしてそれをさらに後押しする形で持っている属性はおしゃべり好きで話すなと言われたことを容赦なく拡散していく近所のおばさん属性だ。此処まで言えば聡明な皆様方(どこの誰に向かって言っているかはまったくもってわからないが)ならわかってしまったのではないか。

 

案の定クラス全体に広まりましたよコノヤロー。

 

お陰でさっきから天之川の視線がくそうぜえ。そしてさらに言うならその嫉妬の感情の大きさがあまりにおかしすぎて意味が分からない。これ勇者君魔人族に魂売るルートになんて入らないよね?大丈夫だよね?

そんな可能性にビクビクしながら、俺は取り敢えずこのストレスをハジメとの模擬戦で発散させることにした。

 

「さあ、どこを切り落とそうか」

「本気!?まって、待つんだ久鎖李。ここでそんな発言をしたら彼女たち(同人誌のネタに飢えた狂戦士)たちの絶好の的だ!今すぐに正気に戻るんだ!」

「安心してくれハジメ。僕の機能に異常は見られないから」

「ちょ、それ絶対まずいやつ……あーーーーっ!?」

 

因みにこの後、俺もハジメも仲良く筋肉痛になりました。まだハジメの方はダメージが少ないのにこっちなんてもう立ち上がれないくらい痛くなりましたよ。

自業自得すぎて自虐することすらできねえ……はーつら、マヂムリ、ねよ。

 

「……ぐおお……恨むよ、久鎖李……」

「ステータス上がったんだから許してくれよ……僕はしばらく話しかけても反応できないから。お休み」

「そんな自由が許されるとでも!?」

「……( ˘ω˘)スヤァ」

「ほんとに寝てるし……」

 

そんなことがあったりしたが、俺は元気ではありません。躰痛い……ああ、眠るのは最高だよ……。

 

 

 


 

 

 

そして次の日の訓練に、久鎖李はいなかった。

全身筋肉痛とどれだけ話しかけて起こそうとしても起きなかったためである。

 

ハジメはいつも通りの訓練を終え、いつものメンバーで帰ろうとした。

しかし何と言うことか、メルド団長が「伝えたいことがある」と言って全員を引き留めたのである。

 

ハジメは眉を顰めつつ、一体何が言い渡されるのかということを全力で思考していた。ここに頼りになる久鎖李はいない。今はとにかく自らで考えて予測し、筋道を立てて行動していかなければならない。いつまでも久鎖李に頼ってばかりではいられない。ハジメは思考し、やがて一つの結論に至った。

 

――オルクス大迷宮。ハイリヒ王国にほど近く、実戦訓練にはうってつけのダンジョン。我々をそこに連れていくつもりではないかと、ハジメは気付いた。

 

「明日から、実戦訓練の一環として【オルクス大迷宮】へ遠征に行く。必要なものはこちらで用意してあるが、今までの王都外での魔物との実戦訓練とは一線を画すと思ってくれ! まぁ、要するに気合入れろってことだ! 今日はゆっくり休めよ! では、解散!」

 

そしてその考えは見事に的中した。

ハジメは心の中で言うことだけ言って去っていったメルド団長に恨みがましい視線を向けつつ、本当に前途多難だなと息を吐いた。

 

 

 


 

 

 

「……ふふふ。中々に面白いことになってきたではないか、規格外(イレギュラー)。それだからこそ、面白いというものだ。

――さて、貴様はどの様な結果を作ってくれるのかな?」

 

何処かもわからないその空間に、愉悦に満ちた嗤い声が響き渡る。

その目線の先には、様々なヒト(舞台装置)が鎮座していた。

 

皆が皆目から生気を失っており、焦点が定まっていない。

しかしひとたび命令を下せばその目に生気は戻り、己の心行くままに愉しむ兵器が簡単に出来上がるのだ。

 

「ふふふ、あっはっはっは!そうだ、これならさらに面白いことになる!素晴らしいではないか!そうと決まれば早速準備に取り掛かるとしよう。そうだろう?」

 

――――。そして―――――。

その声は、虚空に向かって消えていった。

 

「……」

「……」

 

そしてここに、呼ばれし2人は反応を返していない。

 

 




読了ありがとうございます。

次の更新もいつになるかわかりません。よって、皆さまの中で小説の投稿がいつになるか気になるんだが!?という方がいらっしゃいましたら基本的には活動報告に投稿する旨を報告するので、それを見ていただけると幸いです。

あと、最新の活動報告に質問を投げたので回答できる人はしていただけると幸いです。
乞食みたいだなと思った人がいたら心の中で言いつつ、回答してくれると嬉しいです。ご協力お願いします。

それではまた。


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Ep.17

待たせたな(二回目)

大方のテストが終わり、時間に大いなる余裕ができたため少しだけ投稿ペースが上がるかなと思います。
夏休み中はさらに偏差値を上げるために学校に通ってマンツーマンすることになりそうです。

ということでお待たせしましたEp.17です。
展開はほぼ決まったようなものです。ここからついに物語の核心が始まることになるんじゃないかなと思います。

てな感じで、本編をどうぞ。


王国図書館にて。ハジメは七大迷宮の一つとして知られている大迷宮、次の実戦訓練の舞台ともなるオルクス大迷宮についての情報を調べていた。

 

オルクス大迷宮。

それは、全百層からなるとされている大迷宮だ。先にも述べた通り七大迷宮の一つであり、RPGでお決まりの通り階層が深くなればなるほど魔物の強さが上がっていく他、強い魔物も出現する。

しかしその一方で冒険者、傭兵、新兵の訓練場として人気があるのだと司書の方が教えてくれた。階層式になっているが故に魔物の強さが測りやすいからというのと、出現する魔物が地上の魔物に比べ遥かに良質の魔石を蓄えているから、と理由まで懇切丁寧に教えて頂いた。ハジメはこの時、神の使徒パワーに感謝すると同時に司書さんにも深い感謝の念を抱いた。

 

因みに魔石とは魔物を魔物たらしめる力の核の事である。簡単に言えば強い魔物はこれが大きく質も良い魔石を持っている。そしてこの魔石は魔法陣を描くために必須になる材料でもある。粉末状にして使うよりも石のままとして使う方が効率もいい。魔力の通りが良いからである。

ちなみに、良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う。固有魔法とは、詠唱や魔法陣を使えないため魔力はあっても多彩な魔法を使えない魔物が使う唯一の魔法である。一種類しか使えない代わりに詠唱も魔法陣もなしに放つことができる。魔物が油断ならない最大の理由だ。

 

情報をある程度まとめ終わったハジメは、明日に迫った出発に思いを馳せる。明日に宿場町の【ホルアド】へと出発する。その次の日――今日から数えると明後日の事――から迷宮に挑戦だ。

天蓋付きのベッドの上で横になる。相方は何やら外の風を浴びてくると言って出ていっていた。行きたい気持ちもあったが、今は明後日のことで心がいっぱいであったので外にはいかなかった。夜の散歩も乙なものだな、とは思うが。

 

ふと気になって外を見てみる。空には、ただ一人きりの月が浮かんでいた。

くらい夜だというのに、その月はずっとキレイに輝いていた。そこは元の世界とは変わらないんだな、と思いつつ窓から星を見ることにした。

 

月を見て、思う。

この綺麗に輝いている月は、何かを暗示しているのかな?なんて意味もないことを思いながら、すぐにその思考を放棄した。

そんなはずはない。何かにおびえるようにしながら、ハジメは天体観察の続きを始めた。

 

空に雲はかかっていない。

月のそばには他と比べて見ると紅い星が浮かんでおり。

ハジメが横に顔を向けると、そこにいた蝙蝠が空へと飛び立っていた。

 

空に手を伸ばす。

見果てぬその先の彼方へと思いを馳せて、ハジメはゆっくりと手を伸ばした後、部屋の中へと戻っていった。星を観察する気分にもなれなかったからだ。

 

 

 


 

 

 

翌日の夜。ハジメやその他のクラスメイト達は、オルクス大迷宮の近くの宿場町【ホルアド】に到着していた。

久しぶりの普通のベッドを見て嬉しい気持ちになったハジメは早速そのベッドへとダイブした。

 

「元気だねえ。ここに来るまででもこっちは疲れてしまったよ」

「まだ体は万全じゃないの?」

「そうだね。多少の戦闘くらいは平気だけど」

 

ルームメイトの久鎖李が何やら呆れたような視線を向けてきているのも気にせずに、ハジメは普通のベッドの感触を楽しんでいた。

ああ、良きかな庶民のベッド、庶民の暮らし。天蓋付きも慣れれば平気なものであったが、やはり自分はこっちの方が好きだ。悟りを開いたハジメはそう確信していた。

 

「それじゃ、今日も外の空気を浴びてくるとしよう。ハジメ、また後でね」

 

ベッドに夢中になっているハジメを横目に見つつ、久鎖李はそう告げて外の空気を浴びに行った。またの名を恋人()とのデート(逢引きという名の散歩)とも言うが。それを知るのは野次馬根性のあるパパラッチ集団(同人誌のネタに飢えた狂戦士集団)といつものメンバーだけである。なおその後記憶の改ざんが行われて、そのことを覚えているパパラッチはいなくなったらしい。怖いね。

因みに最近王都では壁を叩く音に関する被害の報告が増えているらしい。あと路上に大量にばらまかれている白い粉末(砂糖)の撤去依頼もだが。もうお分かりだと思うが、犯人はもちろんこの2人(新婚熟年カップル)の事である。

 

そんなことは置いておいて。

 

ダイブしていた時のテンションが落ち着いてきたハジメは、改めて明日のことに関して考え始める。明日はお試しということで浅い層――具体的には二十層までしか下りないことが決まっていた。メルド団長から直々に期待の一言をいただいてもいる。期待なんてされても困ります、むしろ王都に置いて行ってください、と言えなかったのはハジメのヘタレさもあるが同時にこのままではだめだとなけなしの勇気を振り絞ったからでもあった。

 

借りてきた本を読もうか、と考えたハジメであったが明日は早いだろうと思い直し寝ることにした。ショートスリーパーなので夜更かしは大丈夫だとは思うのだが、明日集中力が切れました何もできませんじゃただの阿保だと思ったからであった。

逢引きに行った久鎖李が返ってくるのを待とうかとも思ったが、彼のことだし十分に楽しんでから帰ってくるだろうなと思い直すと目を瞑った。十分に楽しんで、とは言ったが流石に一線は超えてこないだろうと思いつつ。

直ぐにやってくる心地よい眠気。ぐんぐんと眠りに誘われていくその意識は、ドアがノックされる音によって瞬く間に覚めていった。

 

誰だ!誰だ!誰だ!なんて昭和のロボットアニメの曲を思い浮かべながら警戒を高める。深夜の訪問者にロクな奴はいない。実際これまでもそうだったからだ。これまでの偏見からそう判断したハジメは錬成の準備を整え始めた。

試験管(擬き)の中に入っている水銀の流体性を高める。水銀の破壊力はシャレにならないレベルで高い。それはFate/シリーズに出てくるアーチボルト家九代目当主の魔術礼装の強さからもわかることだろう。

ハジメはそれとなくアドバイスを渡してくれた久鎖李に言われた通りにこの技術を高めた。錬成特化であるハジメは魔法適正すら満足にないため、ただでさえ多い魔力を活かして錬成を使って戦うことにしたのである。

 

しかしその警戒は、杞憂であったとすぐに気づくことになった。

 

「南雲君、起きてる?白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

訪ねてきたのはなんと、学園の美少女三柱の一角にして幼馴染グループの一人、白崎香織だったのだ。ハジメはなんですと、と内心困惑しながらもこの客人を招き入れることにした。紳士たるもの、常に余裕をもって優雅たれ。という久鎖李の教えを破ることなくハジメはこの招かれざる客人を部屋に入れるために、ドアの錠前を外してゆっくりと開いた。

 

そこに立っていたのは、間違いなく女神にして女神と言っても過言ではないほどの色気と美しさを内包していた香織だった。

純白のネグリジェに、薄手のカーディガン。限りなく薄着であり、肉体のラインが見えそうなほどに目の前に立っている女性は美しかった。一方でこんな格好をしてきたことに頭を抱えそうになった。これではまるで、自分が誘っているみたいに見えるし、意図していなくとも香織の方がハジメを誘惑しているようにも見えてしまったのだ。

 

これではいけない。即座にハジメは香織の手を取り、自室に招き入れた。

 

「……えっ?」

「しー。……さすがにその恰好はまずいでしょ」

「それは、どういう……こと……あっ」

 

手を握られ動揺しているところにその一言を告げられた香織は、誰が見ても恥ずかしがっていると思えるくらいに顔を赤らめさせていた。今になってこの恰好の無防備さと恥ずかしさに気づいたのだろう。穴があったら入りたいという気持ちがありありと伝わってくるのを感じながら、ハジメは香織が再起動するのを待つことにした。

 

その間に紅茶を淹れることにする。某刑事ドラマの和製シャーロック・ホームズに憧れて身につけた紅茶淹れの方法でお茶を入れる。

最近はこれを意識することなく出来るようになった。身に着けるまでに犠牲になったティーカップとポットの量は計り知れない金額にもなっているが。

 

ソーサーの上にカップを乗せて、いまだにショックから立ち直れていない香織の前にカップを置く。

カタン、という音に気づいたのか。香織は少し恥ずかしがりながらも「ありがとう」とつぶやき、口に一杯のお茶を含んでいた。

 

「それで、どうしたの?明日の打ち合わせとかかな?」

「それはね……」

 

話を振ってみると、香織の表情が少し暗くなる。地雷を踏みぬいたか、と少し身構える。自分が悪いことをしたのならその非を認めて謝罪するべきだと常に考えていたからだ。この時点でどこかのご都合勇者とは違う。

 

「明日の迷宮だけど……南雲くんには町で待っていて欲しいの。教官達やクラスの皆は私が必ず説得する。だから! お願い!」

 

放たれた言葉が意外なものであったハジメは少しばかり驚く。この世界のハジメは足手纏いである筈もない。むしろ主戦力レベルだ。なのに何故、ハジメはこんなことを言われているのか皆目見当が付いていなかった。

自分がいるとパーティー内に不和が起きているからだろうか?気の利く白崎さんならそこら辺の調整役を任されているかもしれないな。ハジメはそう考えたが、これは飽くまでも自分の感想だなと思い香織に向かって理由を聞くことにした。

 

「……ええっと。突然言われても理由が分からなかったら僕としては納得がいかないからさ。理由を教えてほしいんだ」

「……それ、は……」

 

問うてみると、香織は少し怯えるかのような表情を浮かべながらハジメのことを見つめる。その目は、見えない恐怖――未来に怯える目であった。どうしてそんな目をするんだ、と問いたくなる気持ちを抑えつけ、ハジメは続きを促してみる。香織はそれに気づくと、小さく頷いて話し始めた。

 

「……あのね、なんだか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど……夢をみて……南雲くんが居たんだけど……声を掛けても全然気がついてくれなくて……走っても全然追いつけなくて……それで最後は……」

 

嫌な予感に取りつかれる。

一体自分の身に何が起きたのか。自分はどうなってしまったんだ、と声を高らかにして聞きたくなる気持ちをもねじ伏せたハジメは、静謐に香織に問うた。

 

「最後は?」

 

香織は今にも泣きだしそうな表情を浮かべながら、ぽつりと言葉を零す。

 

「……消えて、しまうの……」

「……そっか」

 

静謐な時間が始まる。

薄い緊張感と、未来への恐怖に包まれたこの部屋は、暗い雰囲気に包まれかけていた。

 

涙を零しそうになっている香織のことを見つめるハジメ。

 

確かに、不穏な夢だとは思う。しかしそれが現実に起こる確率なんて正直言ってないに等しい。それに、そんな不穏な夢を見たからと言って戦力として最高峰であるハジメが休んでいい理由にはならない。故に、たとえその先が地獄であるとしてもハジメは進むことしかできないのである。

 

「夢は夢だよ、白崎さん。それに、こんなところまで来て止まるわけにはいかないんだ。僕は、僕たちは、クラスメイト達の希望として戦っていかないといけない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ここまで来た以上は引き返せないんだ」

 

傍から見たら、とんだ思い込みの塊だと思う。

それでもこのようなことをいう理由は、自分自身が押しつぶされないようにするためのハジメの心の守りであった。

 

不安そうな表情で見つめてくる香織。こんなことを言うのは、正直柄じゃないのだが。ハジメは独り言ちながら、香織の目を見つめる。

 

「それでも、不安なら。僕のことを、守ってほしいな」

「……私が、南雲君のことを?」

 

慣れないことを言っているのは分かっている。自分にこういう役柄は似合っていない。

それでも、ここでこれを言わないといけないような。そんな気持ちに取りつかれたハジメはその一言を告げた。

 

「白崎さんは"治癒師"だよね?その力があれば、きっとみんなのことも、僕のことも守れると思うんだ。それがあるなら、きっと僕は大丈夫だから。白崎さんが……ううん。()()()、僕のことを守ってくれないかな?」

 

ハジメに名前で呼ばれたことに驚きながら、香織は笑った。昔から、何にも変わっていない南雲ハジメという初恋の人のことを見つめながら、香織は笑っていた。

 

「……うん。私が絶対に、南雲君のことを。ううん、()()()()のことを、守ってみせるよ」

「女性の人に守られるなんてプライド的にあれなんだけどね。……でも、そっか。香織が守ってくれるなら、安心かな」

 

そう言い終えると、どちらからかは分からないが互いが笑っていることに気づいた。

恥ずかしいセリフを連呼したことに気づいた時には時すでに遅しではあったが、その場は少し落ち着いた雰囲気に包まれていた。

 

それからしばらく雑談した後、香織は帰っていった。

初めて会った時にあったこと、皆と出会っていく中で変わっていった自分のこと、夏に久鎖李に呼び出されて駆け回り続けたあの夏の日(香織を純真無垢な女の子にする日々)の事を話していた。そこに重苦しい雰囲気はなく、あったのは優しく落ち着く風景なのであった。

 

 

 


 

 

 

――だが。いつの時代にも、お粗末な悪意は実在しているものである。

 

「……なんで、あいつなんかが香織と仲良くしているんだ……」

 

独りよがりな勇者は、また一歩足を踏み外した。

崩れていく正義。消えていく罪の意識。

 

そしてもう一人は、ただその両目に純粋な殺意を宿して、香織とハジメのことを見ていた。

 

「……くっはっはっはっはっは!これは面白い!これほどまでに面白いことが起ころうとはな!……さあ、見せてもらおうか規格外(イレギュラー)!貴様とその付属品どもたちによる、最高に面白い道化のショーをな!」

 

そして自らを絶対と信じてやまないクソ神(憐れで滑稽な道化)は、独り神殿にて高笑いする。

ただ自分の道楽のために、ここで彼は嗤っているのだ。

 

 

 


 

 

 

そして、今。

運命の日が、やってきた。




次回投稿は、ついに迷宮内の出来事です。
ここからペースを上げていきたい……!みんなー!俺に感想を投げてくれー!

という訳でまた今度。ばいばい。


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Ep.18

過去最高の長文になりました。後遅れてすみません。

身体が疲れによって思うように動かない日々を過ごしながら何とかここまで書き上げることに成功しました。本当にガンバッタヨ……

ということで本編どうぞ。



あ、あとアンケート取ります(唐突)。


翌日。ホルアドの旅館を出発したハジメたちは、オルクス大迷宮の正面にある広場に集まっていた。

ハジメとしては薄暗く陰気な感じの入り口を想像していたのだが、そこにあったのは博物館の入場ゲートみたいな見た目をしている入口があり、受付嬢までいた。窓口において笑顔で入場者チェックをしている。ここでステータスプレートをチェックをするらしい。ここで出入りを記録することで死亡者数を正確にチェックするそうだ。戦争を控え、多大な死者を出さないための措置なのだろう。

 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。ハジメはこれを見てまるでお祭り騒ぎだと思う。浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

 

ハジメたちは今から挑む迷宮がこんなにもファンタジーチックなのに驚きながらも、先頭で案内するメルド団長の後ろを付いてきていた。

 

 

 


 

 

 

迷宮の中は静かだった。その静かさは、今の自分の心の中とは正反対の状況になっている。

そんな中で俺は、ついにこの日が来てしまった、と内心で頭を抱えながら迷宮の道を進む。

 

原作内の今日この日に、ハジメは奈落へと落ち、変貌を遂げる。ありふれた職業の持ち主が最強の系譜を繋いでいく物語のスタートは正しくそこからである。

俺はそう信じ、今日この日にハジメが奈落に落ちるのを見届けるつもりでいた。そうしなければ、この物語自体が破綻して予期せぬ因果を発生させるかもしれないと危惧しているからであった。

だからこそ、最初ハジメに出会った時は己と世界の運命を呪った。万有引力の法則に従って互いが出会ったと言えば聞こえはいい。だが一方で、そんな彼のことを修羅の道に墜とそうとしていることもまた事実なのである。

本音を言ってしまうのなら、会いたくはなかった。会って、話していくうちに、友達になった。話していて、楽しいとも思えた。でも、本当は友達になりたくなかったんだ。友達になってしまったら、彼を墜とすことを見守ったままでいることに躊躇いが生まれてしまうから。

 

俺は今正しく、岐路に立たされているといっても過言ではない。

といっても本質的に考えるのなら、この岐路の大まかな概要はこういうことなのだ。

 

俺が楽するために、友を見捨てるか。

友を見捨てない代わりに、俺自身を使い潰すか。

 

この二つに一つ。それこそが、俺が今考えるべき選択なのだ。

 

考え方だけを聞くのなら、一つは外道の選択肢である。ハジメが魔王になれば、放っておくだけで物語の幕は閉ざされるだろう。彼はそういう存在(主人公)なのだから。

しかし、本当にそれでいいのかと心の中の自分が問うてくる。今日この日までお前は何のために力をつけて、それを何のために振りかざそうとしているのか忘れたのか。内なる自分が、そう声高に叫んでいるように聞こえてくるのだ。

 

物語はもはや後戻りできない域にまで進んだ。否、進んできてしまった。

 

……俺は。……()()

 

一体どうしたらいいのだろうか。

 

 

 


 

 

 

 

隊列を組みながら進むクラスメイト達。

迷宮内はうすぼんやりと発光しており、松明も何も持っていない状況であるにも拘らず十分な活動ができるレベルの光量が確保されていた。洞窟内には緑光石というのが埋まっているらしく、この大迷宮は巨大な緑光石の鉱脈を掘ってできているらしい。

 

隊列を組みながら進んでいると、広間に出た。ドーム状の大きな広間となっており、多数の人間が同時にいても息苦しさを感じさせない広さがその空間にはあった。

 

その時、物珍しげに周りを見ている一行の下に灰色の毛玉に包まれた畜生どもが現れてきた。

そいつらは兎に角、ネズミに似ていた。にも拘らず、そのネズミの胸はムキムキであり、二足歩行でその場に立っていたのだ。

これまでの知識から推測したハジメは、目の前の毛玉を即座にラットマンという魔物であると看破した。その魔物の特徴は、すばしっこいこと。それ以外は大したことのない獣だ。

大したことない、といっても命を懸けた戦闘はこれが初なのである。ハジメは慢心を捨て、目の前の敵に本気で当たることにした。

 

「……ふっ!」

 

横を見つめてみれば、流れるようなモーションから抜刀した雫が次から次へと相手のことを屠っていた。瞬く間に細切れにされていくラットマンたちの姿を見たハジメは、ある種の芸術性を感じていた。辺りに散らばっている肉片が星型だったり正四面体だったり星型だったりしていても、それが雫だからという理由だけで納得がいくような気持ちになっていた。

 

「せいっ!」

 

一方で全力の気配遮断を使っている浩介は、戦場の中を一陣の風と言わんばかりの速度で走り抜けながらラットマンの急所に一撃も外すことなく相手を殺していた。正しくアサシンである。この人は本当に生まれてくる時代を間違えてしまったのではないか、と言いたくなった。現に今は、余裕ができたのか苦無を使ってパフォーマンスをしていた。前世で某一人称限定バトルロイヤルを楽しんでいた久鎖李がその光景を見たら、それ確実に虚空に入っていく人やん、と言っていただろう。

 

回復役の香織は、どんどん負傷した人を回復させていっていた。怪我をしてしまっても一瞬でそれが消えていくので、もはや際限なしのゾンビアタック状態である。取り敢えず相手にはご愁傷様と言っておこう。ハジメは両手を合わせて祈りを捧げた。

 

拳士の龍太郎はというと、一撃でラットマンの頭部を吹き飛ばしながらさらに相手を倒していた。ハジメは見ていないことにした。何なら見てもいないし気付いてもいない。自分に言い聞かせながらハジメは現実逃避した。

 

一方で勇者の天之川光輝は聖剣を振りつつ戦っていた。しかしその戦い方はあまりにも幼稚と言えるもので、戦士としての基本などはそこに存在すらしていなかった。

事前に訓練したはずの立ち回りは全然できておらず、時折ハジメの方を睨みつけながら戦っていた。その後メルド団長に光輝は一発ひっぱたかれいた。

 

しかし本当に妙であった。何故ここまで光輝の動きが荒々しいのか、ハジメやほかのクラスメイト達には原因が突き止められずにいた。勿論メルド団長についても同じであり、時折首を傾げながら困ったような顔を浮かべていた。

 

そんな中でついにハジメが戦闘する順番が回ってきた。

首を回しながらハジメは前へと出る。そして自らの中で撃鉄を落とすイメージをした後、ただ一言だけを告げた。

 

「――投影、開始(トレース、オン)

 

イメージするのは雌雄一対の夫婦剣。するとハジメの手元には、陽なる剣の『干将』、陰なる剣の『莫邪』が握られていた。これには傍から様子を見ていたクラスメイトたちや騎士団員までびっくり仰天であった。何せ傍から見ていたら呪文を唱えるだけで手元に剣があったからである。

 

これはハジメがなぜか持っていた技能の一つ、投影魔術によるものであった。投影と言っても、使うのは稀代の作る天才のハジメである。限りなく本物に近い贋作を作り出すことや、新しい何かを作ることなどの"作る"行為全般においてハジメは規格外の才能を誇っている。

 

故に、こうして剣を作り出し戦うことにおける才能もまた一級品なのである。

 

「ふっ!」

 

一呼吸し、一瞬のうちに距離を詰める。

夫婦剣を振りかざし、すれ違い様に一閃を加える。それだけで、首と胴体が泣き別れになっていた。地面に転がっていたラットマンの顔は、驚きに満ち溢れた表情をしていた。

 

騎士たちもこの技量の巧さに舌を巻いていた。切断面は完璧に平面図となっており、硬い骨すらも綺麗に切られていたからだ。元々叩き切ることが目的の騎士剣――俗に言う西洋剣――では"切る"ことよりも"叩き切る"ことが目的なのでこのような場面にはなかなか遭遇できないのだが。

さらに間髪入れずに地面が沈む。ハジメの錬成だ。詠唱一節のみで最高の効果を発揮しているその錬成は、一気にハジメの周囲数メートルを沈ませた。それに反応したかのようにラットマンが次々と出てくる。一瞬で空間にいる敵をすべて認識したその時。空中に大量の剣が浮かんだ。

ただ、その得物たちは敵を刺し貫くその瞬間を今か今かと待ち受けていた。すべてはただ、相手のことを屠るために。

 

停止解凍(フリーズアウト)――全投影連続層写(ソードバレルフルオープン)……!」

 

そして得物たちは、ハジメの一言によって射出されていった。

さながら、指揮棒を一振りするかのように優雅に手を動かしたハジメ。ただそれだけで、ラットマンはその命を散らしたのである。

 

ここにいるのは最早、他の世界線において"無能"と蔑まれていたハジメではない。ただ完成させられた、一人の戦士。それこそが錬成師の南雲ハジメなのである。

 

「やるじゃあないか、坊主!ここまでやるやつだったとはなぁ!」

 

メルド団長が心底嬉しそうにハジメの事を褒める。悪気のない純粋な誉め言葉にハジメは恐縮しながらも、その頬を僅かばかり緩ませていた。

 

「それに他の全員もだ!いい連携ができている。ここからさらに気を引き締めつつ、先へと進んでいくぞ!」

 

生徒たちは「応!」と声を揃えて答える。隊列を組み直したハジメたちは、次の階層へと歩みを進めていった。

 

 

 


 

 

 

一行は順調なペースで迷宮を攻略していき、ついに二十階層に到達していた。

ここにたどり着くまでにハジメは何度もねばつくような、悪意の大量に含まれた視線を感じてやってきていた。時折その方向に向かって視線を飛ばすハジメであったが、少し顔を動かしただけでその視線は消え失せ、またしばらく経つと視線が戻るという鼬ごっこ。ハジメは視線の主を確かめることを止めて、迷宮攻略に集中することにした。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

 

静かな広間に、メルド団長の声がよく響き渡る。

メルド団長は光輝に話しかけている場面が多く見られていた。聞こえてきた話だと戦闘中の荒々しい動きについて咎めるような話をしていたらしい。光輝はそれを認める一方で何か不満のありそうな顔をしていた。そこから先の会話は香織が話しかけてきたということで聞くことが出来なかった。

 

そして今もこうして、ハジメは香織と話していた。ここまでしっかりと戦えているかどうか。辛いところはなかったか。互いが互いを想い合うことで、この二人は無類の強さを誇っていた。

 

「……むー」

「……ええっと……白崎さん?」

「……香織」

「それはさすがに衆目の前だと呼びにくいから……!」

「ばれないように言えば大丈夫だよ、ハジメ君」

 

聴力のいい久鎖李や雫、浩介に恵理、そして龍太郎はこの会話を一言一句聞き逃してなどいなかった。すぐにハジメや香織をいじるための記憶保管庫へとこの内容すべてが持っていかれた。ハジメ君と香織さんにはご愁傷さまという単語を送っておこう。

 

「絶対気付かれているから……!あの八重樫さんと久鎖李が気づかないわけないから……!」

「……確かに。それなら、我慢する」

 

でも、と付け加えながら香織が言う。

二人の距離が急速に縮まっていく。ハジメは顔を背けることなく、香織の目を直視した。

 

「……絶対に、無事に帰ってきてね」

「……勿論」

 

ここでもラブコメの波動は発動されているのである。現に今もここで、尊さの過剰摂取による急性トウトニウム症候群による患者が搬送されていった。すぐに尊さの原因である香織によって治療されているが。

 

閑話休題(そんなことは置いておいて)

 

先頭を進んでいた久鎖李が不意に立ち止まる。それに釣られるように雫も抜刀した。

少し遅れてアクションを起こした浩介は、苦無のパフォーマンスをやめると手に持つそれを前方に向かって構えた。

 

「流石にお前たちは気付くか。お前ら!この近くに魔物が擬態しているぞ!よ~く周りに目を凝らしておけよ!」

 

忠告が飛んだ瞬間に、せりあがっていた壁から魔物が現れた。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」

 

その忠告が飛ぶや否や、光輝が相手をするべく前に出る。メルド団長は最初は止めようともしていたが、光輝のことを止めることなくそのまま相手をさせることにして静観の構えを取った。

 

「はぁっ!」

 

鋭い掛け声と共に繰り出されていく光の筋。切り方、足運び、重心移動の何もかもが綺麗に噛み合っているその動きは正しく"勇者"と呼ぶにふさわしいものに変化していた。

先程までとは打って変わって流麗な剣の振り方になっているのを見た団長は少しばかり驚いたような表情をしながら光輝の戦いぶりを見ている。突然の急成長にクラスメイトたちも皆、驚いている表情をかおにありありと浮かべていた。

 

そして戦いは終始光輝の優勢に進んだ。ロックマウントはたまらず後ろに下がる。

 

「貰った!」

 

その隙を逃さずに、一瞬のうちに距離を詰める。

そして手に持つ聖剣に向かって魔力を急速に集め始めた。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ――"天翔閃"!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

 

メルド団長の声を無視して振り下ろされた大上段の振りかぶりは鍾乳洞の様になっていた地形を大きく抉り、甚大な爪痕を後に残していた。

ロックマウントに逃げ場などなかった。一瞬のうちにその体は魔力の熱量と衝撃によってずたずたに引き裂かれた後、跡形もなく消滅させられていた。

 

ぱらぱらと迷宮の壁面から破片が零れ落ちる。息を一つ吐き、光輝はきらっきらの王子様スマイルを浮かべて香織の下へと向かった。その瞬間、頭部に痛烈な一撃が加えられた。

 

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」

 

年長者としてしっかりと叱るメルド団長。光輝は言葉に詰まり、ばつの悪そうな顔をしながらただ話を聞いていた。

 

そんな中で、香織が崩れ落ちた壁面の方を見つめる。

 

「……あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

その一言に、クラスメイト達が首を動かしてその方向を見つめる。

そこには青白く発光している鉱物が花を開いているかのように壁から顔を出していた。その美しさは元の世界における鉱石と比にならないくらいの美しさをしている。一部を除いた女子たちは、その輝きに皆一様に目を奪われていた。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

ハジメは知識ボックスみたいになった自分の脳内辞典からグランツ鉱石について調べた内容について思い浮かべる。

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだったはずだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。街中の皆様、質問に答えてくださりありがとうございました。

 

「ふーん……」

 

説明を聞いた雫が久鎖李に顔を向ける。それを見た久鎖李は「欲しいのかい?」と耳元で囁きながら雫に問いかけをしていた。永遠に爆発してほしい。

一方の香織もハジメに視線を飛ばしていた。二人が思うことは一様に、アレが欲しいというおねだりの視線であった。

 

「だったら俺たちで回収しようぜ!」

「おい、待て!まだ安全確認もまだなんだぞ!」

 

そう言って団長が止めるのすらも無視して回収に動いたのは檜山たち子悪党組であった。ひょいひょいと壁を登っていきグランツ鉱石の元へと向かっていく。檜山たちはそれを無視しながらついにグランツ鉱石へと辿り着いてしまう。

騎士団員の一人がフェアスコープを使って確認した時には、すべてが手遅れであったのだ。

 

「っ!団長、トラップです!」

 

警句に驚いた檜山がグランツ鉱石に手を触れた。その瞬間、転移の魔法陣が展開されて辺り一面が光に包まれた。あまりの唐突さに抜刀して魔法陣を切り裂こうとした雫も動きが追い付かず、一行は転移によって飛ばされていった。




読了ありがとうございました。

アンケートについてですが、オリ主君を奈落行にするかそれともハジメ君オンリーにするかのどちらかを選んでいただこうと思います。

オリ主君も落ちる場合は奈落編が第二章になります。そこからは原作と同じ視点で物語が進んでいきます。
あとシナリオ改変もばちくそに入ってきますよ。

ハジメ君オンリーの場合はハジメ君視点の間章を書き上げます。ほぼ原作と変わりないものになりますが、きっとオリ主君の影響で変貌の仕方が変わったハジメ君を見ることになると思います。
間章完結後に、時系列を少し遡って一方その頃的な小説にしながらそこからは章の中で頻繁に視点移動をするような形で書くことになるかな、と思います。

アンケートの集計は7/14の20:00までにします。
そこまでに投票したい人は表を入れておいてください。

じゃあの。

あと、疲れたので寝ます。テストナンテヤッテラレッカヨコノヤロー。

もうやだまじむり。ありがとうございました。

追記:アンケートの回答ありがとうございました。これで締切とさせていただきます。


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Ep.19

お待たせしました。

まず初めに、アンケートへのご回答ありがとうございました。
読者様の中にはあれ以外の選択肢についてのコメントをしている方もいましたが、今回は二択の中からということにさせて頂きます。申し訳ございません。

もしかしたら連続投稿が今日明日でできるかもしれませんので、ほどほどに期待しつつお茶を啜りつつ全裸待機しつつお待ちください。

これまでの評価者様一覧を載せておきます。これまで取り上げてこなかったのでここら辺で一回取り上げようと思い立ったので載せさせていただきます。

田吾作Bが現れた様、鈴有希様、ババキャノン様、Bull's eye様、らりりり様、リリンリン様、真っ黒クロスケ様、メイン弓様、鳳翔 朱月様、雨那衛ゾアカ様、クロシロ大神様、センリ様、日常自販機様、おがとん様、異次元の若林源三様、柔らかいもち様、Izumi san様、lkjhg様、ドラゴニア様、ビルガメス様、霧熊様、カリギュラ様、ノロケル様、とらとらとらとらとら様、KOBASI様、サイ岩様、マクト様、kaz0429様、東等旧派様、もっつぁれら123様、テオラ様、みけねこごんべ様、秋花様、南無ゥ!?様、柳川 椿様、kojinen様、村井ハンド様、赤飯軍曹様、ぬくぬく布団様、煌大様、因幡の赤兎様、路徳様、明日奏様、かじバン様、とんとん虫様、牛鍋SMASH様、紅月 雪様、SEVEN様、本星人様、磯辺様、歪曲王様、チョコラスク様、ユウ・十六夜様、服部平次様、一森様、封印されし玉ねぎ様、ナット5様、tttomm様、karia payat様、山山山田様、財布様

評価ありがとうございました。忌憚なき評価ですので、これを糧にしつつこれからも邁進して参ります。

ここでは載せきれないですが、お気に入りしてくれている方もどんどん増えていっており、感謝に堪えません。誠にありがとうございます。
これからも時間の許す限り、そして自分の娯楽を取る時間との釣り合いも取りながら執筆していきますのでご声援の程よろしくお願いします。

長くなりましたが、次から本編でございます。お楽しみください。


転移の光が収まる。

クラスメイト全員が警戒感を高める。突然の転移と状況の変化に戸惑うものも多く、混乱が広まっていた。

 

ハジメたちが転移した場所は、巨大な石造りの橋の上であった。長さは目測にしておよそ100m。天井の高さもこれまでとは隔絶した高さを誇っており、20mほどはありそうであった。そして横幅は10mほど。しかし末端部分には手すりもなく、一歩踏み外せばその下は底の見えない奈落の中という状況下である。ハジメたちはそんな石橋の中央部分に転移させられていた。

 

「お前たち、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

メルド団長から全体に向かって指示が飛ぶ。響き渡る雷のような号令。そこからさらに、先に落ち着きを取り戻していた雫や光輝、その他の実力者たちの指示がクラスメイト達に飛んだ。指揮権を握っているメルド団長の声が混乱の渦から抜けきっていないクラスメイト達を正気に戻す。

直ぐにまとまりをある程度取戻し、クラスメイト達は階段の下までわたわたと歩き出した。

しかし、迷宮のトラップがその程度で済むはず等はない。クラスメイト達や騎士団員達は撤退に失敗した。階段側の橋入り口に魔法陣が出現し、そこから現れた骸骨兵達に逃げ道を塞がれたからである。さらに反対側である通路側には、橋の入り口に魔法陣が出現し、ある魔物が出現した。

 

その魔物を目にしたときにぽつりと響いた声を、ハジメはしっかりと聞き取っていた。

 

「――まさか……ベヒモス……なのか」

 

ベヒモス。

その単語を聞いたハジメは大いに戦慄を覚えた。

父がゲームクリエイターであるハジメにとって、ベヒモスとは馴染みの深い存在である。

ベヒモスとは旧約聖書の中に出てくる陸の怪物だ。語源はヘブライ語で『動物』を意味する「behemah」の複数形に由来するもの。あまりの大きさに、一頭しか存在していないにもかかわらず複数形で数えられたとする説もあるくらいであった。一説には豊穣のシンボルであり、またある時は悪魔として見られることもあるとのこと。この世界にヘブライ語があるのかどうかなんて野暮な突っ込みはしない方がいいだろう。ハジメはそう考えながら、もう一つの情報を思い出して思いっきり顔を歪ませた。

 

その情報とは、かつて最強であったと言わしめていた冒険者をして勝つことのできなかった化け物ということであった。今のハジメたちは確かにステータスが高いかもしれない。しかしこの状況下でそのスキルを思う存分発揮することが出来るかと言えばそれは否である。

クラスメイト達は逃げ道を塞がれたことによって大きな混乱に誘われている。少しまとまっていたはずの連携は最早跡形もなく消え失せ、一部の人を除いたほかのメンバーたちは目の前に迫ってきている濃密な"死"の気配に中てられて自我を喪失しかけていた。

 

改めて状況を整えるべく、ハジメは冷静に思考を回転させ始める。

魔法陣は橋の両サイドにあり、通路側には直径十メートルほどの大きな魔法陣が一つあった。

対して階段側の魔法陣は直径一メートルほどしかないものの、その数が両手両足の指を使うだけでは数えきれないほどに大量に存在している。

小さな魔法陣から出現してくる敵は"トラウムソルジャー"であるとハジメは断定する。これまでに積み上げてきた膨大な知識の中からその結論に至ると、ハジメは少しばかり()()()()()()。何故なら、あの程度の敵相手に自らが信頼を置いている仲間たちが負けるはずがないと断じたためである。八重樫雫、坂上龍太郎、中村恵理、遠藤浩介、白崎香織。そして何よりも、天臥久鎖李。最早ただのチートで表しきることなど出来ない、圧倒的な力の持ち主たちである。それに彼らには至らないかもしれないが、自分だって戦うことが出来る。ハジメは折れそうになっていた心を自分で持ち直させると、表情を変えて団長に意見を具申した。

 

「団長!」

「坊主、どうした!早く撤退するぞ!」

「撤退するまでの時間をどうやって稼ごうっていうんですか!?」

「俺達大人があいつを足止めしてやる!お前たちの方が確かにステータスは高いだろうが、俺達はお前たちのことをしっかりと地上まで送り届けてやらねえとならないんだ!」

 

覚悟の決まったかのような眼差しを向けながら、メルド団長はハジメにそう告げる。

そして騎士団員たちに矢継ぎ早に指示を下し始めた。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

 

先程までの団長との会話を聞いていなかったのだろうか。メルド団長は光輝の発言に耳を疑いながら、信じられんというような表情を一瞬だけ浮かべる。その間にも光輝は体制を整え、奴を止めるために出ていこうとしていた。

 

「それはだめだ、天野川君」

 

――そしてそんな光輝のことを、ハジメが諫めた。

 

本来であればあり得るはずのない光景。そこに居たのは、いつもはオタクで何だか冴えていないクラスの男子である南雲ハジメではなく、一人の戦士として出来上がっていた南雲ハジメという男なのであった。

 

「なぜ止めるんだ、南雲!お前はメルドさんたちを見殺しにするつもりなのか!?」

 

しかしその言葉は、自らのことを信じて疑わない天之川光輝の耳には届かなかったのである。

ハジメはなぜ引かないと苛立ちを強くする。自らの後方では混乱に陥ったクラスメイト達が大勢いる。それをまとめることが出来るのは騎士団長のメルド以外には天之川光輝しかいないのである。それをハジメは痛いほど理解していた。

故に、声を張り上げて天之川に向かって怒鳴ろうかと考えた。

 

その、瞬間の出来事であった。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

 

ベヒモスが、天に向かって吼えた。その声はまるで、宣戦を布告するかのような、そんな重みが込められていた。

そしてベヒモスが一気に加速し、咆哮を上げながらクラスメイト達の元へ、ひいては騎士団員たちの元へと駆け出してくる。

撤退は始まったばかりであった。このままではクラスメイト達があの巨体によって引き潰されてしまうだろう。

そうはさせるか、とハイリヒ王国最高戦力が最高度の魔法障壁を貼る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――"聖絶"!!」」」

 

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

 

ベヒモスはその巨体による突進を止められると、その守りをぶち抜くためにさらに体当たりを仕掛けてくる。その衝突のたびにソニックウェーブが吹き荒れ、橋に衝撃が加わってくる。石造りであるにもかかわらず、その橋は大きく揺らぎ、撤退中のクラスメイト達から悲鳴が上がった。再び混乱を誘発させられると、その雰囲気は一気に全体へと伝播していき、転倒するものがどんどん増えていく。

 

しかし撤退していくその先にはトラウムソルジャーたちが、落ち武者を狩るかのように待ち受けている。それを見て半狂乱に陥った者たちが我先にと、階段へ向かって駆け出す。

団長から一時的のこの場の指揮を任されているアランがこの混乱を収めるべく声を張り上げるが、ひとたび混乱に陥った人間が直ぐに正気を取り戻すことは難しく、目の前に迫ってきている死という恐怖にさらに怯え耳を傾ける者はいない。

 

そしてついに、1人の女子生徒が転倒してしまう。小さくうめき声をあげてハッとなり上を見てみると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振り上げていた。

 

「あ」

 

近くにいる誰かが言ったのかもしれない。それとも今まさに剣を振り下ろされて思考停止に陥っている少女が言ったのかもしれない。短くつぶやいた一言は、その迷宮の中でやけに明瞭に響いたような気がした。

それを見ていた者たちが皆一様に考えたことは、"死"。その一文字であった。回避不可能で、ただ惨いもの。ある生徒が顔を背ける。またある者は声を張り上げる。そんなことをしたところで、死がどうにかなるものではないと知っていながら、皆一様に彼女の生還を祈って、慟哭を上げた。

 

――その瞬間、一陣の風が靡いた。

 

倒れ伏していく、骸骨兵。

生気を失った頭蓋骨が、からん、と音を立てて転がっていく。

少女は何が起こったのかわからないというような表情で目の前の現実を見ていた。

 

そしてそんな不思議な現象を実現させたのは、南雲ハジメであった。

 

(――ここから、どうすればいい?)

 

冷静に、そして着実に、ハジメはこの状況を打開するための策を考える。

状況はお世辞にもいい物とは言えない状況が続いていた。指揮を執ろうとしているアランの声は生徒たちの耳に届いていない。この状況を打開できそうである頼りになる仲間たちは光輝の傍にいて彼を説得しており、とても動けるような状況ではない。

では、自分はどうだ?そう一瞬だけ考えてみるが、自分ではこのクラスの希望になんてなれやしない。やはりここは絶対的なリーダーが必要になる。

 

その働きが務まる人物は、やはり天之川くんしかいないな。ハジメはそう断ずる。

久鎖李ならどうだとも考えてみたが、彼は何というかそういうのを嫌っている。こういう状況になったら働いてくれるとは思うが、やはりこのクラスの求心力が高い人物は天之川しかいないと苦虫を100匹くらい噛み潰したような表情をして言っていたので、リーダーとして相応しいのは天之川しかいないとハジメは判断した。

 

ならば、やることは1つのみである。

心の中でそう締めくくると、ハジメは疾風のごとく駆け出した。




読了ありがとうございました。

少々気になる切り方にはなっていますが、あまり気にしないでもらえるとこちらとしては嬉しいです。
アンケートについては7/14の20:00までです。それまでに投票をしたい人は票を入れておいてください。

連投できるようにこれから頑張って執筆してきます。それでは。


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Ep.20

待たせたな。
ネタの使いまわしになってるけど、待たせたな。

ということでEp.20です。

前書きで言うことのネタが何もないので、本編行きます。それではどうぞ。


橋の上では、メルド団長と光輝が口論をしている。光輝のリーダーシップが必要であることを理解している雫やその他の実力者グループは、光輝のことを後ろの応援に行かさせるために全力で説得を試んでいた。

 

「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」

「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

二人の口論はいつまでたっても納まるところを知らなかった。口論が平行線の状態で終わりが見えないことと光輝が話を全く聞いてくれないことに対して、メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。一方の光輝は自らの力があればあの怪物を倒せると本気で考えている。このようにして互いが互いの考えをぶつけ合い、引こうとしていないのだ。

ベヒモスは依然として障壁に向かって衝突を繰り返していた。

障壁に衝突するたびに壮絶な衝撃波が発生し周囲にまき散らされており、石造りの橋が悲鳴を上げている。障壁もすでに破られる瀬戸際の段階に至っている。最高硬度を誇っているはずの騎士団員たちの"聖絶"は全体に亀裂が入っており、メルド団長が重ね掛けする形で障壁を貼り、さらにその下から香織が障壁を貼ることで耐え忍んでいた。

 

ハジメはいざこうして前線に出張ってきたものの、これでは自分の考えを遂行することができないことに気づく。

この閉鎖空間の中でベヒモスの突進を躱すことはほぼ不可能に近い。それ故に障壁を貼ったり、自らの技能である"錬成"を使い地面を陥没させたり障害物を作ったりして逃げることが一番良い。その指揮もメルド団長であれば確実に行ってくれるだろう。

 

しかしそれは同時に、メルド団長でしか達成させることのできない微妙な匙加減の上で成り立っている。

メルド団長はただ強いだけの自分たちとは違って、圧倒的に場数を踏んできている。とどのつまり、経験値が段違いなのだ。

今の状態の天之川光輝にはどうすることもできない、決定的な差がそこにはある。

若さゆえの過ちと評するには行き過ぎた勘違いと自らの力を信じて疑わない愚かさが組み合わさり、光輝は今こうしてメルド団長に反抗していた。

 

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

「撤退した方がいいぜ、光輝!これ以上はもう無理だ!」

 

雫や龍太郎は状況がしっかり分かっているので、今にも躍りかかっていきそうである光輝のことを諫めていた。

実際に障壁を貼っている香織は辛そうな表情を浮かべながら耐えている。騎士団員の貼った聖絶は()()()()()()()()()、今は香織一人で障壁を維持している状態であった。

 

「雫!?それに龍太郎まで、何を言い出すんだ?俺はメルド団長のことを見殺しにするつもりはない!」

 

そしてここにきて勇者のご都合主義的な考え方が前面に出てくる。その姿は勇者とは程遠く、ただ駄々をこねている子供の様にしかハジメの目には映っていなかった。

このままでは本当に皆が共倒れしかねない。ハジメはそう理解すると、光輝を説得するべく一歩を踏み出した。

 

 

 


 

 

 

戦場では各地で乱戦が始まっていた。連携のれの字もない、ただ純粋に己の力をぶつけ合うだけの戦い。それだけしかここの戦場には存在していなかった。

そしてそんな戦場を駆け抜けるているのが俺こと天臥久鎖李なのである。

 

すでにハジメは説得に入った。つまり落下するのはほぼ確定したといっても過言ではない状況になっている。

俺の介入で止めるべきなのかとも考えたが、このまま止めてしまっては恐らく俺たちではあのクソ神には勝つことが出来ない。そのため、ハジメには落ちてもらうことにした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この選択によってどのような歴史の変換が起きるかはわからない。何なら自分という存在が混じった状態になってから、こうなることは何となく想像できていた。

なら、俺だって好きにやらさせてもらうとしよう。俺がこの選択をすることで、少なからず悲しむ人だっているかもしれない。自惚れではないが、きっとそう思ってくれている人は多数いてくれるはずだ。そんな彼らの気持ちを蔑ろにすることは俺にとって地獄のような苦痛になる。そんなことは分かっているのだ。

 

でも俺は、こうしなければ気が済まない。言っていることが支離滅裂でめちゃくちゃかもしれないことだってわかっている。

でも自分はこうすると決めたのだ。決めたなら、やり通せ。覚悟を決めろ、天臥久鎖李。

この選択がたとえ、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

俺は止まってはいけない。いや、止まってはいられないのだ。

 

決意を固めると、俺は両手から鎖を放ち縦横無尽に操作する。

トラウムソルジャーの群れを蹴散らし、叩き潰し、切り裂き、砕きつくす。

天の鎖(エルキドゥ)』を操作するたびに迸っていく黄金の魔力のことを気にも留めずに、俺はただその心を冷徹に研ぎ澄ませていく。

 

見せてやろう。

これが俺の――

 

「――覚悟、だとも」

 

俺は(僕は)

 

この世界で、

 

天の鎖の名を示す。

 

 

 


 

 

 

「天之川君!」

「な、南雲!?」

「ハジメ?」

 

突然響き渡った第三者の声に、光輝は驚いたような表情を浮かべた。

他にも驚いている人はいたが、そんな一同にまくしたてるようにハジメは早口で言葉を紡いでいく。

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

 

光輝が南雲ハジメという戦士を侮辱していることに憤りながら雫はこの状況を驚いたかのように見つめている。

八重樫雫の目に映る南雲ハジメは、このようなことを言うような人間ではなかった。つい最近までは、という前置詞はつくものの。

その目は南雲ハジメが天之川光輝に物申したということと、そこまで勇敢な人間になったのかということの二つの感情が込められていた。

 

「あれが見えないのか!みんながパニックに陥っている。君というリーダーが、そこにいないからだ!一体何のために君は戦っているんだ!?正義の為か?殺しの為か?そんなものではないだろ!?少なくとも今此処では、クラスメイト達を守るために戦っているんだろう!?」

 

普段の物腰柔らかで優しい人間である南雲ハジメとのギャップに香織は少し驚きながらも、頬を緩ませる。

大好きな人が頼りがいのあって、格好いい人間であることが知れたから。それだけで白崎香織は満たされていた。

 

「クラスメイトを守るためには君の力が必要なんだよ!勇者なら、この状況からみんなのことを救って見せろ!偽善で塗れてないで、今此処で戦え!天之川光輝!」

 

らしくもない過激な言葉になったことを反省しながら、ハジメはそう言い切って見せた。

怒号を上げ、悲鳴を上げ、逃げ回るクラスメイト達。その目には絶望と、諦めと、他にも様々な感情がごっちゃになった状態で存在していた。

ハジメの声を聞いた光輝は呆然としながら、クラスメイト達のことを見つめている。やがて逡巡しながらも、それを振り払うようにして大きく首を振った光輝はハジメの意見に内心は渋々といった感じながらも従うことにした。

 

「…………わかった、直ぐに行く!メルド団長、すいませ――」

「下がれぇ!」

 

意を決して言い放った光輝の言葉はしかしながら、メルド団長の大きな声によってかき消されていった。

「下がれ」。この言葉が意味すること、それは即ち。

 

戦士の直感がハジメの体内を強烈に駆け巡った。

このままでは危険だ。どう危険なのか今考えていると、きっと皆やられてしまう。そんな感じを受けたハジメは、地面に手を付け一言いい放った。

 

「――"錬成"!」

 

その瞬間、障壁が破られた反動で倒れている香織と自らの近くにいたメンバーを隠すように石の壁が出現した。

瞬間、響き渡る咆哮。凶悪な超音波の塊が石壁を突き崩さんと襲い掛かってくる。もしこれを生身で受けていたらどうなっていたのだろうか。ハジメはその光景を想像するのが怖くなり、首を振った。

手を離し、錬成の制御を行いながら香織の下へと近寄る。一番消耗しているのはきっと彼女であろう。近寄って様子を確認してみると、やはり苦しげな表情を浮かべていた。

 

「香織、大丈夫か?」

「……ハジメ、君?」

「うん。一回下がって魔力を回復させてきて。しばらくは僕が、この場を引き受けるよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、香織が心配そうな表情を浮かべる。やはりあの夢のことが頭から離れないのか、その目は怯えのような感情を持っていた。

 

「……うん。でも、必ず、」

 

無事で帰ってきてね。

二回目となるその言葉を聞いたハジメは、今度は不敵な笑みを浮かべながら香織に言い放った。

 

「勿論。ああ、無事に帰ってくるのはもちろんだけど……

 

――別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

咆哮の止んでいたその空間に、ハジメの一言が鋭く響き渡っていた。

傍から見れば、絶望的にも見えるこの状況下で。ただ一人、南雲ハジメは笑っていた。

 

錬成によってできた壁が崩れ去る。

それと同時に、ハジメは全力の強化魔術を掛けながら両手に夫婦剣を呼び出した。

 

「グルアアアアアアアアア!」

 

咆哮を上げながら突っ込んでくるベヒモスに狙いを向けて、ハジメは詠唱を開始する。

 

「――――鶴翼、欠落ヲ不ラズ(しんぎ、むけつにしてばんじゃく)

 

両手に持つ夫婦剣の一対を投擲する。

ブーメランのように回転しながら、陽剣と陰剣は飛んでいく。その威力は正に、鉄塊をも砕く必殺の一撃だ。

 

心技、泰山ニ至リ(ちから、やまをぬき)

 

投げられていた夫婦剣にさらに加えて、もう一対の剣を投影――正確には停止解凍――し、接近する。

この夫婦剣は、投影する剣の中でも特に使いやすいものだ。

だが、ただ使いやすいだけではない。

夫婦剣の性質はただ一つ。互いに惹かれあうこと、ただそれだけであった。

 

「――――心技 黄河ヲ渡ル(つるぎ、みずをわかつ)

 

これはそんな利点を生かして作られた、絶技の一つ。

自らの振るえる、自らが戦うことが出来る、力。

 

引き寄せられてくる一回目に投擲した剣。

それと手に持つ剣を同時に振るい、攻撃する。

しかしその一撃は、ベヒモスに多大なるダメージを与えるには不十分なものであった。

 

――だからこそ、もう一回同じことをする。

 

反対の手に持つ投影品に惹きつけられてやってくる、先に投擲しておいたもう一本の剣。

先程の光景の焼き直し。しかし、その威力は絶大なものであった。

 

「――――唯名 別天ニ納メ(せいめい、りきゅうにとどき)

 

そしてここで、三対目を手に持ち、刀身を巨大化させる。

干将・莫邪オーバーエッジ。便宜上そう名付けた一品で、可動の限界に陥り動けなくなっているベヒモスに接近し両手に持つ二対を同時に振り下ろした。

 

「――――両雄、共ニ命ヲ別ツ(われら、ともにてんをいだかず)……!」

 

先程の二回とはまるで威力の異なる一撃が、ベヒモスの巨体を襲う。

苦しげな咆哮を上げて崩れ落ちていくベヒモス。三連の攻撃をまともに食らい、満身創痍といった感じであった。

 

これこそがハジメが自らの力のみを使って辿り着いた境地の一、鶴翼三連。

鉄塊をも砕く一撃を三連に連ねて放つ。原作のハジメとは違い経験値と強靭な肉体、そして何よりも戦士としてのセンスがあったからこそハジメはこの行きに自らの力のみで辿り着いたのである。

 

そしてハジメは慢心することなく、大きく後ろに飛びのいて一本の剣と名もなきカーボン製の弓を取り出して構えた。

心の中にある、自らのイメージを高める言葉を口にしながらハジメは照準を痛みで悶えているベヒモスに定める。

 

「――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

 

その一言と共に、紅い閃光が空間を捻じ切りながらベヒモスに向かって飛んで行った。

剣の真名は『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』。実際のカラドボルグからアレンジを加えたハジメだけの武器である。

真名開放と共に飛んでいき、その先で爆発。本来であれば必殺の一撃。

ハジメも内心で「やったか!?」と言いながらその光景を見つめている。

 

現実が、そう甘いはずもないのに。

 

「――グルァァァァァァァァァァァァ!」

 

響き渡る咆哮。

その声を聞いた。聞いてしまった。

あれだけの攻撃を受けても尚、ベヒモスは健在であったのである。

化け物は、その頭の角を赤く染め上げ、これ以上ないほどに怒っていた。

 

咄嗟の判断でベヒモスの足元をぬかるませ、巨体を沈ませる。

さらに沈み込んだ足を出せないようにするために足元を再び固める。石の硬度以上に硬いものへと錬成で作り替え、時間を稼ぐためにハジメはここに残る決断を下した。

 

「……やれるんだな、坊主?」

「勿論です。分の悪い賭けなんてものじゃない。全員無事に帰ってやりましょうよ」

「はっ!言うじゃねえか。ならお前さんがしっかりやれよ」

 

メルド団長はそう言い残すと、光輝たちを連れて後ろの血路を開くために突撃を開始した。

それと入れ違う形でハジメの傍に寄るのは久鎖李であった。

 

「久鎖李?」

「もし危なくなったら僕を頼るんだ。それにこれ(天の鎖)は、あいつを縛るのにうってつけだと思わないかい?」

「……ははっ!これ以上ないピンチだってのに、変わらないんだね」

「そりゃ勿論。……さあ、来るよ」

 

二人して不敵な笑みを零す。

その瞬間にベヒモスは、その巨体を固定から引っ張り上げてきて赤熱化させていた角を振り下ろす。

それを久鎖李は『天の鎖』で防御し、ハジメは盾を投影して散らばってくる破片から身を守った。

必然的にベヒモスの頭は再びめり込むことになる。そこにハジメが"錬成"を仕掛けて頭を埋める。そして魔力を送って突破されないように押さえ続けるという、精神との戦いが幕を開けた。




中途半端ですが今回はここまでです。
このまま書き続けていたら一万字超えてしまうような気がしたので、ここから先の展開は次Ep.に持ち越しです。

ということで読了ありがとうございました。


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Ep.21

長らくお待たせ致しました。
Ep.21です。

夏休みに入ったってのに課題が多い……本当なら受験勉強の傍らで執筆するつもりだったのに。

言い訳はあとがきに書いておきます。今はとりあえず本編をお楽しみください。

(新話の投稿を)やって見せろよ、作者!
(執筆することは)何とでもなるはずだ!
(一週間以上開いたところで)新話投稿だと!?

鳴らない言葉をもう一度描いて~


「――――"錬成"!」

 

鋭い一声が響く。

その声は戦いの始まりを伝える、始まりの合図であった。

 

そんな中で久鎖李も、『天の鎖』を使ってベヒモスを縛り付ける。巨体を揺らし、目の前の怪物は拘束を逃れるべく暴れまわっている。

後ろでは団長が、光輝が、雫が、そして皆が、窮地から抜け出すべく戦っている。彼らもまた、埒外の化け物と戦う久鎖李たちと同じように、全力を尽くして戦っている。

 

「――――消えなさい」

 

流麗な一振りのたびに、骸骨どもはその身を砕かれる。

ある(骸骨)は急所を十七等分に切り裂かれ。

またある(骸骨)は頭蓋を刺し貫かれて絶命。

まさしく、必殺の一撃と呼ぶに相応しい攻撃。その戦い方はどこまでも磨き上げられており、どこまでも殺すということに長けている。

力と技の暴力ともいうべき戦いによって、骸骨の数は次第に減っていった。

 

しかしどこまで斬っても、いくら斬れども、骸骨たちは減っていかない。

次第に雫にも疲れが見え始めてきていた。

 

「――――"天翔閃"!」

 

そんな中で、その身に宿す身勝手な感情に気付かない(気付こうともしていない)勇者の一撃が、骸骨どもを一息に消し飛ばす。

戦うその姿はまさしく勇者と呼ぶに相応しい神々しさを持っている。その裏に隠れる黒き感情を、その害毒を内に隠しながら放たれた一撃は、まさしく希望をもたらすものであった。

 

白き光の大津波が、橋の両端にいた骸骨どもを奈落へと落とす。光の斬撃は確かにその場を貫いて行ったが、直ぐにまた骸骨どもが大勢群がり道を塞ぐ。

しかし、生徒たちの目には確かなる光が存在していた。それは脱出への希望。即ち、階段が再び見えたという事実。生徒たちの心の中に脱出への、逃走への希望が生まれ落ちる。

 

「皆、諦めるな!道は俺が切り開く!」

 

勇者の甘美なる一言は、生徒たちの心を揺さぶるのに十分すぎる誘惑をもたらした。

今は誰も天之川光輝という人間の本当の姿を知らない。心の中に宿す闇の深さを、心の中に巣食っている獣の姿を、誰もが知らないまま戦いは進んでいる。

 

そんなことを知っている中でも、ただ一つだけ言えることがある。

 

それは即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということであった。

 

誠に遺憾ではあるが、天之川光輝の持ち合わせている主人公らしさは誰よりも高いものだ。それに関しては認めるほかない。中にどれだけの黒い感情が満ちていたとしても、今の天之川光輝は英雄に、勇者にしか見えない。例えを言うのであれば、聖剣の騎士王――実際はあちらの方がすさまじいのだが――が聖剣を振るい、高らかに勝利を宣言するのと似たようなものだ。

 

再び"天翔閃"が敵を切り裂いていく。

その姿はまるで、英雄がここに見参したかのような神々しさを孕んでいた。

 

「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」

 

そしてそこに、誰よりも頼りになる大の大人メルド団長が加勢する。

豪快に剣を振るい、"天翔閃"に負けずとも劣らない一撃を加えながら、さながら重戦車かのように前進を続けていく。

 

その姿を見たクラスメイト達も次第に平静を取り戻していく。沈んでいた気持ちが復活していき、手足に力が漲ってくる。先ほどまではもやがかかっていたような思考の数々も、どんどんクリアになっていた。それには香織の魔法効果も影響していた。精神を落ち着かせる魔法と、光輝の英雄的な姿が効果を発揮して落ち着きを取り戻していく。

 

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

 

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。

 

「皆、続け!階段前を確保するぞ!」

 

階段前の道が開かれ、そこに向かって人々が殺到する。

元から後ろの戦線を支え続けていた暗殺者の浩介は息も絶え絶えになりながら「遅かったじゃないか……」と、どこかで聞いたことのあるような(METAL GEAR SOLID Ⅴ)セリフを口にしていた。それに合わせるのは龍太郎。無駄にうまい声真似をしながら、「待たせたな」と一言を放つ。もしこの光景をオタク二人(ハジメと久鎖李)が見ていたらきっと突っ込みを入れていただろう。

 

そんな小ネタを挟みながらも、クラスメイト達は脱出に成功した。絶望的な状況からの解放によって、皆が安堵の息を漏らす。疲れ切った表情を浮かべる者もいれば、先程の恐怖を思い返し少し震えている者もいた。彼らに共通して言えることは、皆がそれぞれ心の深くにちょっとした"トラウマ"を抱えてしまったということ。それを薄々感じていた雫は、これからの戦いは苦しくなっていくだろうなと一人考えていた。

 

だがそれでも、彼らの戦いは未だに終わっていない。

 

 

 


 

 

 

階段前にたどり着いたというのに、引こうとしないクラスのエースたちの姿を見て皆がいぶかしげな表情を浮かべる。

それもそうだろう。目の前にはすでに脱出するための道があるのだ。安全地帯へと撤退して、さっさとこの空間から解放されたいと思うのはだれしも考えることだ。

 

「おい、あれって……!」

 

そんな中で、クラスメイトの一人が気付く。

遠くでベヒモスと戦っている人影に気づいたのだろう。その目は驚愕によって開かれていた。

 

「ああ。ハジメと久鎖李が、あそこでベヒモスを抑えつけるために戦っていたんだ」

 

龍太郎がそう呟くのを聞いた皆は、ハジメに対する評価をさらに上げた。

元からこの世界の南雲ハジメという生徒は評価の高い人物だ。クラスの中では本人が自覚していないだけで、トップカーストの一員として所属するほどには人気と評価を集めている。最も、当の本人の考えは久鎖李の友達だから自分もそれに乗っかる形で恩恵を受けているんだ、という認識だったが。

 

「すげえなハジメ……あの化け物の身体を埋めてやがる!」

「あいつ、やっぱりすげえな……」

 

次々と称賛、そして驚愕の声が上がる。皆が一様に、この場に撤退するために戦っていた二人のことを声を揃えて褒めたたえていた。

最初に目に映った、天之川光輝という勇者よりも。今のクラスメイト達には、後ろでベヒモスを抑えていた二人の方がより勇者らしく、そして英雄らしく見えていたのだ。

 

「そうだ!坊主たちであの化け物を抑えているから撤退できたんだ!前衛組!ソルジャーどもを寄せ付けるな!後衛組は遠距離魔法準備!もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」

 

そこに下される、メルド団長からの鋭いオーダー。

英雄たちの姿を見てすでにクラスメイト達の戦意はMAXだ。今にも丸太を持って全員で突撃しそうなほどに、彼らのテンションが上がっていた。

そこにあったのはついさっきに死にそうになって、戦意を喪失していたクラスメイト達ではない。意志を強く、強靭に打ち直した戦士たちがそこには存在していた。

 

しかし、いつの時代も悪意に囚われた人間というのは存在している。

 

誰もが英雄たちの姿に見とれている中で、そんな彼らに敵意以上の感情を向けている人間が一人。

濁り切った瞳で二人のことを見つめているのは、檜山大介という人間であった。

 

彼の脳裏に一つの光景が浮かび上がる。それは、迷宮に入る前日にホルアドの宿で一泊した日の事であった。

 

緊張のせいか中々寝付けずにいた檜山は、トイレついでに外の風を浴びに行った。涼やかな風に気持ちが落ち着いたのを感じ部屋に戻ろうとしたのだが、その途中、ネグリジェ姿の香織を見かけたのだ。

 

初めて見る香織の姿に思わず物陰に隠れて息を詰めていると、香織は檜山に気がつかずに通り過ぎて行った。気になって後を追うと、香織は、とある部屋の前で立ち止まりノックをした。その扉から出てきたのは……ハジメだった。

 

檜山は頭が真っ白になった。檜山は香織に好意を持っている。しかし、自分とでは釣り合わないと思っており、光輝のような相手なら、所詮住む世界が違うと諦められた。しかし、ハジメは違う。自分より劣った存在(檜山はそう思っている)が香織の傍にいるのはおかしい。それなら自分でもいいじゃないか、と端から聞けば頭大丈夫?と言われそうな考えを檜山は本気で持っていた。

 

そもそも前提として、ハジメは檜山に劣っていない。当然のことである。

しかし檜山は、ハジメがオタクだからという理由でハジメのことを嫌悪し、オタクだから無能であるという勇者以上に捻くれていて、かつ理解しがたい考えを持っていた。

 

そしてその矛先は久鎖李にも向いていた。

常にハジメの傍にいて、いけ好かない人間。ハジメのことを無能からできる人間へと変えた人間。そして何よりも、白崎香織と南雲ハジメの距離を近づけさせた張本人。檜山はすでに、久鎖李に対しても悪感情を抱いていた。

 

たまっていた不満は、最早制限の利かないところまで膨れ上がってきていた。

ほの暗い笑みを浮かべる。その悪意にまみれた視線に気づく者はだれ一人もいなかった。

檜山は嗤う。欲望と自らの欲求を満たすために、その双眸は標的を見つめていた。

 

 

 


 

 

 

魔力の限界をハジメが感じ始める。

限界まで力を振り絞り、なるべく長く、一秒でも長くと持ちこたえさせたハジメの手腕はただの錬成師として片付けるには値しない。

 

そんなハジメであっても、ベヒモス相手に大量にあった魔力の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

これでは離脱は絶望的だ。自らの桁外れな身体能力を出すためには強化魔術を身体能力の上に重ね掛けしなければ、あの化け物からの離脱はできないだろう。しかしハジメにすでに魔力は残っていない。

 

この時ハジメは死を覚悟した。己の犠牲を対価にして皆が生きることを選ぼうとした。

 

しかしハジメは、香織との誓いを思い出す。必ず無事に、帰ること。皆と共に、この世界から元の世界に帰ることを誓ったのだ。故に、諦めることはしない。

隣に居る久鎖李に目線を向ける。彼もまた、辛そうな顔をしながら戦っていた。すでにクラスメイト達は撤退に成功している。それを目線だけで伝えると、久鎖李は1つ首肯した。

 

タイミングを合わせる。

 

――5

 

心臓の音が早鐘のように鳴り響く。

 

――4

 

これまでにない極度の緊張。死と隣り合わせの逃走劇。

 

――3

 

恐怖に身体を縛られそうになる。本当に生き抜くことが出来るのかと、どこかから声が聞こえてくる。

 

――2

 

だがそれがどうした。必ず自分は生き抜いて見せると、あの日に誓ったのだ。

 

――1

 

錬成が途切れる。ミシミシと、嫌な音を立てて怪物が起き上がってくる。

 

――0!

 

その瞬間に、二人は全力で走り出した。

身体が重い中でも、全力を出して走るハジメ。追いつかれてなるものか、死んでたまるものか。そんな生存への強い意志が、ハジメを突き動かす。久鎖李も猛然と掛けながら、後ろのことを気にかけていた。

 

そして錬成が切れて3秒ほどたった後、ベヒモスが亀裂から解放された。地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し。

 

ついにその眼光は、二人のことを捉えた。

 

怒りの声を上げる。四肢に力がたまり、爆発しそうなその波動がベヒモスから漂ってきているのを身をもって実感する。

 

だがその瞬間、自分たちの上を流星群と見間違うほどに綺麗な色の数々が横切っていった。

 

ありとあらゆる属性の魔法が、ベヒモスを打ち据える。ダメージには入らないほどの、いわゆるベヒモスにとって豆鉄砲くらいにしかならない攻撃。しかし足止めとしてはその程度だけで充分であった。

 

いける! と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走るハジメ。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じて駆ける。自分がその中の筆頭格であるということも忘れてひた走り、ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がっていた。

 

久鎖李とハジメは目線を合わせて互いに思う。これなら行ける、と。

 

しかしその直後、ハジメの表情は凍り付いた。

 

自らに向かって飛んでくる火球。誘導されて、その火の玉はこちらに向かって明確な殺意を持って飛んできていた。

そして久鎖李もわずかばかり動揺しながら、もう一つの風の玉を見つめていた。それは明らかに、久鎖李を罠に墜とすための一撃であったからだ。

 

ここで二人の位置関係を思い出してほしい。二人は並ぶような形で、互いが互いのことを援護できるように距離が近い状態で走っていた。

火は酸素があるとよく燃える。これは自明の理だ。火事が起きた時に窓を閉めるのには風の通りを悪くして少しでも火の勢いを弱めるという目的があることは、誰しもが知っていることであろう。

 

ここでさらに思い返してほしい。今飛んできているのは火の玉と風の玉だ。風の玉は周りの空気をかき混ぜるような形で渦を巻きながら近づいてきている。さらに近くにある火の玉はその影響を受けて勢いを強くしていた。

 

魔力によって作られた火の玉だ。着弾すれば当然周りに衝撃波をエネルギーの放出という形で出すことは明白だろう。

では、そのエネルギーがさらに強化されている場合はどうなるのだろうか。

 

火の玉と風の玉が、ハジメと久鎖李の近くに着弾する。直撃は避けたものの大きく二人は吹き飛び、内臓と三半規管にダメージが加わってしまった。

平衡感覚が崩れた中でハジメたちは前進しようとふらふらになりながら立ち上がる。遠くで怒号や悲鳴が聞こえるのを無視して、何としてでも彼らのところに戻るために力を振り絞る。

 

だが絶望とは、常に近くに存在するものであった。

 

ハジメたちが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかり二人を捉えていた。

 

赤熱化した頭を二人に向けて、突撃してくるベヒモス。

スローモーションになっていく視界。ハジメは、時を感じていた。全てに諦めを持って、ハジメは生存を諦めようとした。

 

瞬間、どしん、と体に伝わってくる衝撃。

ハッとした表情を浮かべて元をたどってみれば、久鎖李が自分の身体を押していた。

 

哀しげな表情を浮かべながら落ちていく、親友の姿。

ハジメはこの時、心が音を立てて崩れていくのを感じていた。

 

そしてもう一発、身体に当たる衝撃。

遅れてやってくる暑さと、鼻につくにおい。浮遊感。遠ざかっていく、地表。

 

ああ――そうか。

僕も、落ちているのだ。

 

橋が崩れていく音。

悲鳴を上げて落ちていくベヒモス。

 

そして――必ず帰ると誓った、女の子の声。

 

天に向かって手を伸ばす。

光に向かって、手を伸ばす。

 

届かないということが分かっていても、伸ばさずにはいられなかったのだ。

 

世界がだんだん消えていく。

その中で、ずっと綺麗に輝いている。

 

気がつかなかった。

死がこんなにも急速に迫ってくるものなのだと、そして常に近くにあるものなのだと。

 

ああ、本当に気がつかなかった。

 

本当は見えないはずなのに。

 

本当は知らないはずなのに。

 

今日はこんなにも。

 

月が、綺麗――だ――

 

 

 


 

 

 

そして奈落に向かって、彼らの姿は消えていった。




Ep.21でした。

まず初めに、本当に期間が開いてすみませんでした。

受験勉強が嫌になって、娯楽の方に逃げていました。具体的にはApexとか他人の小説を読むこと、あとVtuberとかです。

それでなんですかね。自分の書いている作品に何だか自信が持てなくなってしまいまして、エタっていました。あと自己嫌悪。

書きたい文章がある筈なのに、うまく表現できない。
そんな状態にずっと囚われていまして、こんなにも遅くなってしまいました。本当に申し訳ありません。

精神的に今不安定なところで、小説投稿が本当に止まるかもしれません。そうならないように善処はもちろんしますし、皆さんのことを待たせておきながら逃げるなんてことはしたくないのでもう少し頑張ります。

言い訳だろ、と思っている人だっているかもしれません。また逃げるだろ、とか思っている人ももしかしたらいるかもしれません。

ですが、この小説を連載すると決めた以上は完結までいくら時間がかかっても持っていくつもりです。

これからも頑張りますので、この言葉を信じて待っていただけると幸いでございます。

最後に、通算UA100,000件突破、お気に入り登録1,300件越えありがとうございます。筆者の次回作にご期待ください。

(次回作の投稿も)やって見せろよ、作者!
(きっと執筆だって)何とでもなるはずだ!
(次の投稿がいつになるか)わからないだと!?

くだらない言葉をもう一度叫んで~

ネタの使いまわしはNG。


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Ep.22

お久しぶりです(定例の挨拶)。

生存報告ということで文章量は少ないし、面白くないかもしれませんが楽しんでいただけたらなと思います。

第二章のタイトル考えてねえ……どうしよ。
タイトルは自分で考えたいと思うのですが、何もアイデアが浮かばなかった場合は募集掛けるかもしれません。

ところで皆さまは月姫Remakeをプレイしましたか?
プレイした方は感想と一緒に感想欄に書いていただいても……多分構いません。
因みに主は買いはしたものの時間がなく全然プレイできておりません。

前置きはここまでにして。
本編、どうぞ。


消えていく光。響き渡る慟哭。その事実を認めたくない者たちの、獣のような声が耳に届く。

 

あれだけ広く、大きかった石橋が砕け、崩れ落ちていく。その音が無念の気持ちに包まれて、ただ叫んでいる者たちの声と混ざり合い、溶け合い、飛び交う。

 

一言告げるとするならば、その光景は正しく阿鼻叫喚。崩壊していくその姿は地獄の様で、いっそ美しいものに見えていた。

 

空が遠ざかる。音も遠ざかる。

この選択を選んだのは自分だ。こうしなければ、何かが起きそうな気がして怖かったから。自分が何かをしても、この運命からは逃れられないのかもしれないと諦めていたから。だから、こんな道に進んでしまった。

 

下に目を向けてみれば、その先には果てしない闇が広がっていた。

……怖い。覚悟を決めて、意思を定めたハズの強い自分は、とっくの当に消えていた。

断言しよう。今の自分は、ただ自分に襲い掛かってくるであろう未知への"恐怖"に囚われたただの人間である。

 

届かないことが分かっているはずなのに、手を伸ばしてしまう。

そうすれば、何かが起きるのかもしれないと思ってしまいながら。

 

――そんなこと、ある筈がないのに。

 

頭に降ってくる大きな石礫。

衝撃によって頭を揺すられる。

 

意識が消える。

やめてくれ。

 

怖い。

嫌だ。

 

自分はまだ、■■■■ない。

 

 

 


 

 

 

一方で陸上のクラスメイト達は、目の前で起こった光景を信じられないかのような目つきで見つめていた。

さっきまで戦っていた同胞がここまであっさりと死んだことに、取り乱す者たちがそこに大勢存在していた。

 

特に動揺が激しいのは白崎香織だ。

彼女にとって南雲ハジメとは、いつだってヒーローのような存在であった。あの日の夜の誓いを頭に思い浮かべながら、彼女は泣き叫んでいた。

喉が嗄れることも厭わずに、周りに他の人がいることも厭わずに。

 

「ハジメ君!ハジメくん!帰ってきてよ!」

 

これまで見たことのないような、悲しさを全面に押し出したような表情で、声で泣き叫ぶ香織。

それを痛ましい表情で見つめているクラスメイト達と、彼らと仲が良かった雫たち。

皆が皆、それぞれ心の中で様々な感情がないまぜになりながらそれを見つめていた。

 

無念の表情を浮かべるもの。

事実を認められず、錯乱するもの。

絶望し、その場に膝をつくもの。

 

まるで絵画のようにもみえるその光景を、八重樫雫は遠くから見つめていた。

 

(……なんで、どうしてなのかしら……)

 

そして彼女は、心の中で顔に出さない様に悔しさを募らせる。だがその中で刀に指がかけられて、今にも飛び出していきたそうな雰囲気を漂わせていた。

 

その感情を噛み殺し、あふれてきてしまいそうな涙をこらえながら。

 

「ハジメ!久鎖李!どうしてだよ!」

 

そして遠藤浩介もまた、いつもとは違う雰囲気で慟哭する。その両手は固く握られ、ぽたぽたと地面に紅い痕を残していく。それが、自分にできる懺悔であると示すかのように。それしか、自分にはできないのだと自戒するかのように。

 

「くそっ!くそっ!」

 

坂上龍太郎は、強く地面を叩きながら涙を流し感情を発露させる。

その大きな図体から常に感じられる威圧感なんてものはすでに失われ、覇気が完全に消え失せながらもその目は輝きを失ってはいなかった。

 

「……」

 

そんな中で、中村恵理は氷の様に冷めたような目を、とある集団に向けていた。

冷徹で、残酷な目。憐れみと怒りのこもった目。その目が見つめるものとは、いったい何なのだろうか。それを理解できるものは、ここには誰もいない。

 

一方で。その人の輪から離れたところで、ある一人の男は狂喜していた。

その男とは檜山大介だ。彼は心の中で、人を殺したという罪悪感を少し抱えながらも"邪魔者(南雲ハジメ)"を排除できたという高揚感と白崎香織を手に入れることが出来るという事実が心の中でないまぜになりながらも喜んでいたのだ。彼の口元はひどく歪み、壊れた人形のようにカタカタ震えながらそこに存在していた。

 

(やった、やったぞ……!これで俺は、邪魔だったあの二人を排除できた上に白崎香織を手に入れることが出来る!やはり俺が一番なんだ!あんな目立たない地味なヲタク(南雲ハジメ)とかいけ好かない野郎(天臥久鎖李)とは違うんだ!)

 

歪んだその人間性は、さらにその矛先を歪めて毒牙と化していく。

そのことを理解できている者は、この場には存在していなかったのである。

 

そして何よりも。

南雲ハジメが、天臥久鎖李がいなくなったことで白崎香織が手に入ると勘違いしている自分こそが一番滑稽な人間であるということに気付く事も、誰かがその様子に気づくこともなかったのである。

 

 

 

 


 

 

 

――夢を、みていた。

 

もう、この迷宮に封印されて何年が経ったのかすらもわからない。

時間の感覚は消え失せて、ただ自分はここに存在するだけのモノとしてずっと在った。

 

そんな自分が、夢をみた。

 

どんな夢だったのかは思い出せないけど。

そこにいた自分の姿は晴れ晴れとしていて、希望に満ち溢れていて。

羨ましいな、と。その陽だまりに、自分は永遠に存在していたいなと。そう思えるような光景が広がっていたのだ。

 

吸血鬼の自分は、そんな希望に満ちた夢を見ながら今日も再び眠る。

明日の自分が、陽だまりに在れるように。そんな淡い願いをこめながら、わたしは今日も眠るのである。




ということで読了ありがとうございました。
長い期間が空きましたが、こうして再び投稿できたことを嬉しく思うと同時に、毎回感想を書いてくださる皆さまの暖かい声によって、復帰することが出来ました。

本当に、ありがとうございます。

さて、今後の予定なのですが。
最低月一で一話更新のスタイルで活動していけたらなと思います。

受験期において重要な二学期で、PCデスクから遠ざかる時間が増えるかもしれません。日々のストレスによって心が折れることも、あるかもしれません。

それでも、いったん始めたこの作品を完結までもっていくのが筆者たる自分の役目なのだろうと思っております。

長い間のお付き合いになるかもしれませんが、これからも(´・ω・`)のことをよろしくお願いいたします。

最後に、一言。

勉強が
とてもつらいよ
逃げていい?

逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……ああああああああ!


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第三章 奈落の月 ――Abyss princess and Red Moon――
Ep.23


早めに投稿できてうれしく思います、(´・ω・`)です。

この話から二章です、よろしくお願いします。

最近の自分は英検を受験してきました。次の大きな試験は漢検です(受験級は二級)。
漢検も頑張りつつ執筆も頑張ります、よろしくです。

漢検やったら自分の文才向上したりしません?しない?……あっ、そっかぁ。

てことでほんへ、どうぞ。


――夢を、みた。

 

ありえざる、夢を。

 

 

 


 

 

 

洞窟の中は暗い。

 

一寸先は正しく闇。そんな状況下に、青年がただ一人存在していた。

 

ざあっ、と水の流れる音がする。

地下にある水だからだろうか。その水温はとても冷たく、本来は温かい人間の体温を凍えさせるには十分すぎる冷たさが内包されていて、ここに気を失って存在している青年の身体から体温を絶えず奪い続けていた。

 

そんな気味悪さに気付き、青年はついにその双眸を開く。

そして、真っ先に感じたのは。

 

「うわっ、寒い!」

 

寒い。正しくこの一言に尽きた。

それに脳も十全に働いていないな、とおぼろげながら思考する青年。身体中が悲鳴を上げており、その痛みはズキズキという言葉が似合うほどに辛いものだ。

 

「痛つつ……、ここは……」

 

ふらつく頭を抑えながら、青年――南雲ハジメは再び思考の沼に身を落とす。

記憶の中にあった最後の記憶を呼び起こし、そして思い出した。

 

ここにはおそらくであるものの、石橋のあった階層――65階層から落ちてやってきたのだろう。

そこから落ちる途中で幸運にも近くに流れていた鉄砲水に身体が浸かり、ここまで流されて遭えなく遭難、というのがここまでの流れ。

水没は生存フラグ、と事あるごとに言っていた親友の言うとおりになったな、と小さく笑いながらハジメはここまでを思い出すことに成功した。

 

「まさしく幸運……なんだろうけど、はっくしょん!」

 

水没して生きたとはいえ、身体はボロボロである。その証拠に未だに思考の一部は薄もやがかったようになっており、ピリピリと身体の節々から悲鳴のようなものを感じていた。

凍えるような寒さの中にいたことによって、ハジメの身体からは熱がほとんどない。

 

低体温症。

そんな恐ろしい状況になることを恐れたハジメはすぐに火をつける準備を始めた。

 

 

 


 

 

 

この世界には"魔法"という便利なものがある。

火を起こす魔法、水を起こす魔法、他多数。そんなファンタジーな力が、実際にこの世界には存在している。

 

……しかし、この()()()()()()()行為一般について、南雲ハジメは絶望的な力しか持ち得ていなかった。

 

まず、ハジメの魔法適正は"0"。これが、南雲ハジメという人間は魔法を発動するために一般人よりも大掛かりな準備が必要ということをありありと示している。

そして、魔法行使の効率を上げるための魔石もここにはない。よって、ハジメは火種一つ起こすのに一メートル近い魔法陣を描かなければならない。

 

五分ほどの時間をかけて"錬成"を行い術式を用意し、錬成によって作られた術式――地面を術式の形になるように削り出したイメージ――に魔力を流す。

 

「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、"火種"。……あれ、僕、こんなこととしててよかったんだっけ?」

 

生き残るために良かったことなんです、ハジメさん。

 

ともあれ、何とか火を起こしたハジメは暖を取り始める。この火は正しく文明の火。奈落に炎が灯った瞬間であった。

濡れていた衣服を脱ぎ捨て、下着姿になって暖を取っているハジメ。身体が温まることによって思考が正常化していき、現状の打開についてを考え始めようとする。

 

そしてそんな時に心――胸のあたりを抉る、不安と恐怖。

 

元々ハジメは、親友たちとは違ってただの人間である。

緑髪の麗人の如く心が図太いわけでもない。ましてや今のこの状況は、誰もが口をそろえて「遭難した」と言えるような状況だ。胸中を抉っていく、色彩豊かな感情の暴力は、癒されていっているはずのハジメの心を容赦なく傷つけていた。

 

目に雫がたまる。

滴り落ちそうになる。

 

胸中に襲来して、心を抉る「諦め」の感情。

 

「……でも、」

 

それらの感情の悉くを、ハジメは切り捨てた。

 

パシン、と頬を叩く音が響く。

やけに狭く感じる奈落の中に、その音はやけに明瞭に響き渡った。

 

「やるしかない。なんとか地上に戻ろう。大丈夫、きっと大丈夫だ」

 

目を強く拭う。

俯けていた顔を起こし、決意を固めてハジメは炎をジッと眺める。

 

――その炎が、頼りなく揺れていることに何となく気付きながら。

 

 

 


 

 

 

服が乾いたハジメは、さっそく周囲の探索を開始する。

ここは一体どこなのか。迷宮の中であることに違いはないはずなのだが。そう考えつつ、周囲への警戒を怠りもしていなかった。

迷宮の中である以上、確実に魔物は存在している。闇の中に潜んでいるかもしれない。堂々と、待ち構えているかもしれない。そんな恐れを抱きながら、ハジメは慎重に洞窟の中を進んでいた。

 

この進んでいる道は、正しく「洞窟」であった。

 

オルクス大迷宮低層の規律正しく整えられた感じの迷宮とは異なり、自然物の洞窟感の強いこの階層はハジメの脳に確かなる警戒心を植え付けていった。

また、この洞窟は二十層の洞窟とは全く違い、優に二十メートルを超しているであろう幅があった。どれだけ狭いところでも十メートル以上あるのだから、間違いなくここは広いのだろう。

 

そして、疲れを少し滲ませてきた頃。

遂にハジメは、運命の分岐になるかもしれない道にたどり着いた。

 

巨大な四辻。自分が進んできた一本の道を除けば、その道は立派な三叉路としてそこに鎮座している。

ハジメは悩んだ。その理由は、こういう道はだいたいの場合、進んだ方向によって難易度が変わるタイプのあれだろうと思ったから。簡単に言い表すならば、ここは正しく運命の道。ディスティニーロード。

そんな選択になるであろう道を、おいそれと気楽に決めるわけにはいかない。

ハジメは逡巡した。悩みに悩んで、そして。

 

――視界の端に、何かが動いているのを見つけた。

 

否。ハジメはそれを見つけたというよりも、それを見つけてしまったのだ。

 

すぐに近くの岩に身を隠す。

冷汗が流れる。

見つかってしまったのではないか、と恐怖を抱く。

 

視界の端に映り込んでいたのは、ぴょんぴょんとはねる白い毛玉。

すなわちウサギであった。

 

ただし、そのサイズはウサギと呼ぶにはあまりにもでかすぎたのだが。

 

何と言っても、そのウサギは、でかかった。

体格も、そして後ろ足も。

 

極めつけとして、そのウサギはとても不気味な見た目をしていた。

これまで普通の世界に住んでいた者たちがこれを見てしまえば、間違いなく正気度(SAN値)を削られてしまうというほどに。

赤黒い線が体中を駆け巡っており、その線は心臓の如くドクンドクンと脈打っている。

 

もう一度だけ、あえて言おう。不気味であると。

 

こいつはヤバい。改めて自分の身体に流れている冷汗の存在を感じ取ったハジメは、直進を避けて右か左の道に進もうと決意する。

 

そして、そんな決意を嘲笑うかのように、ウサギが動き出した。

 

(……!)

 

気取られない様に息をころす。

目に映っているウサギは、ぴくぴくと耳を動かしている。

 

まるで、獲物の心音を聞き逃さない様にするかのように。

 

恐怖で身体が竦む。

何よりも、奴の見た目が強そうなせいでハジメは自分のステータスが強いことを忘れて恐怖に震えている。

慣れない環境と、独りぼっちを強いられたことによる精神の苦痛によって、ハジメは精神的に過敏になっていた。

 

改めてウサギの方を見てみる。

 

「グルゥア!!」

 

最初にいたウサギは、何か別の獣と相対していた。

見た目はウサギと同じく禍々しい。赤黒い線が走っているのを見るに、ここの魔物はすべてが同じ見た目らしい。

 

やつはワン公……いや、狼だった。

モフモフのしっぽを二本持ち、それを振りながらウサギへと突進していく。

 

一体目に続くかのように、さらに別の岩陰から二匹のワン……狼が突撃していく。

 

「グルゥア!!(あのウサギめ、ただもんじゃないぞ。イヌテガ、ワンシュ!ジェットストリームアタックを掛けるぞ!思ったより素早いぞ、いいな?)」

「ワン!」

 

お前その鳴き声はただの犬だろと心で突っ込みながら、狼の突進を見つめる。

とはいっても奴らは肉食。対してウサギは草食。ハジメの目には、どこからどう見てもウサギが食われる側にしか見えていなかった。

 

よし、そうと決まればどさくさに紛れて移動しよう、そうしよう。

テンションがバグりながらも、ハジメは歩き出そうとして、

 

「キュウ!」

 

――ウサギの発したかわいらしい鳴き声の後に、

 

ドパン!

 

「グルゥア!?(ああっ、俺を踏み台にした!?)」

 

狼の悲鳴が聞こえて、

 

ドサッ、と落ちた狼の身体にくっついている首が、あらぬ方向に回っているのを見てしまった。

 

(……はあっ!?」

 

驚きのあまり心の声が少しだけ口から出てしまうハジメ。

そして一匹目の死を悼むかのように突撃していく二匹目。

そいつは空中にいるウサギめがけて、攻撃を仕掛けようとして。

 

――そのオオカミの身体も、また宙を舞った。

 

ゴギャッ、という音。

 

ウサギは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

踵落とし。人間が人間に繰り出せば、頭蓋事が陥没することもあるかもしれない一撃を狼に繰り出し、狼は末期の慟哭――断末魔を上げることを許されぬまま、その命を終えていた。

 

ウサギの眼は狼に食われるはずの草食獣の、怯えるような眼ではなく。

ウサギのその眼は、狙った相手を必ず屠る肉食獣の眼をしていた。

 

そしてその捕食者に向かって、無謀にも立ち向かっていく狼。

ウサギが着地した瞬間を見計らって、遺された三匹目が二人の仇を打たんと言わんばかりの勢いで突進していく。

最後に一匹残った狼からは、二人の仇を必ず取ると言わんばかりの執念深い意志が漂っている。

 

唸り声が上がる。

狼のしっぽから、紫電が放出されていた。

 

知識を蓄えてきていたハジメは、それが何なのかを正しく理解していた。

固有魔法。魔物がそれぞれで持つ、その魔物の能力である。

 

「グルゥア!」

 

咆哮と共に、紫電が駆け巡る。

とんでもない電力放出だ。ヒトの身である自分が少しでも喰らったら、真っ黒こげで済むかどうかというくらいの濃密な電気が場を支配していた。

相対するウサギは、華麗なステップで身体を横に揺らしながらものすごい勢いで狼に接近を果たしていた。苦し紛れに狼が放った紫電さえも避け、ウサギはその頭に向かってサマーソルトキックを叩き込んだ。

 

ゴギャッ。

戦いが終わったと知らせるその音は、あまりにも簡単にこの場に響き渡っていた。

 

軽々しく行われた三タテ。

狼三連星を容易く打ちのめしていった連邦の白い悪魔。

 

ハジメはこれでもかという勢いで冷汗をドバっと流していた。

間違いなくあいつは強い。上にいたトラウムソルジャーは当然として、あれはもしかしたらベヒモスよりも強いかもしれない。

 

身体が竦む。

恐怖で歯がカチカチと鳴っているのを感じ取る。

あれは強者だ。やつは間違いなく、喰らうものだ。

 

では自分はどうか。

自分は確かに強かったのかもしれない。

でも、ここにいる今の自分は紛れもなく、弱者だ。

 

逃げなければ。

逃げなければ、きっと■ぬ。

 

自分はまだ、■にたくない。

 

そうおもって、一歩を踏み出した。

 

 

――カラン。

 

 

響き渡った石の音は、水面に波紋が広がるかのように静寂に包まれた空間の中で響き渡っていた。




読了ありがとうございました。

最近の自分は、某一人称バトロワの大会を見ることにはまっております。
カスタムマッチと本番の戦いはどれもこれも白熱していてとても好きです。

あとVtuberにも今更ながらにハマりました。

感想と高評価、活動報告で投稿お知らせもしようかなと思っているのでもしよろしければお気に入り登録もお願いします。

あと、自作品の宣伝もさせてください(言うほど作品上げてないですけど)。

『魔王学院の剣聖にして不適合者』
息抜きで上げた短編小説です。あまり面白くありません(おい)。
次連載するんだったら魔王学院やります。アノス様かっこいいやったー!
https://syosetu.org/novel/261152/

『Dear ” A hollow world. ” ―― From a novelist』
型月大好きな主が初めて書いた、型月世界線メインの短編小説。
プロローグだけですけど。
https://syosetu.org/novel/267628/

こちらの小説たちも読んでいただけると、作者が喜んで連邦に反省を促すダンスを踊ります。

ってことで、ここらへんで宣伝終わります。
……これって規約違反じゃないよね?


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Ep.24

一か月ぶりです。

久しぶりにこうして書いてみると、文才が落ちているということを痛感せざるを得ないところでございます。
暇があるときに書きたいと思った物語を書いたりはしているんですけどね。

やるせない感情と疲れのたまり続ける日々に憂いを抱きながら書き上げたEp.24、ご覧ください。


――そして今日もまた、夢を見ている。

 

あたたかなゆめを。

 

何かがかけた夢を。

 

そして、何よりも、きっと――

 

 

 


 

 

 

■にたくない。

 

彼の心はきっと、その言葉だけでいっぱいだった。

だからこそ、そんな彼は今とんでもないことになっている。

 

自らの不注意が祟り、ハジメは絶体絶命の大ピンチへと誘われている。

圧倒的な強さを見せつけた白いウサギへの恐怖が、自らの心に『■にたくない』という気持ちを呼び込んでいく。

 

そんなことから生まれ落ちたありふれた感情だったが、それは何よりも南雲ハジメの()()()を駆り立てている。

 

現にハジメは、額から冷汗を流しつつも冷静に思考をしていた。

目の前のウサギは、自分を狩ろうとしている。そんな野生に生きるモノの、純粋すぎる殺意に中てられたハジメは否応なしに臨戦態勢を整えさせられた。

 

赤黒い眼に睨まれたハジメは、身体が竦んでいくのを確かに感じ取っている。

闘気。殺気。肉食獣――捕食者として研ぎ澄まされたその膨大な気配は、戦士であるハジメの精神すらも蝕む怪物として嗤っているように見えた。

 

瞬間、爆発する地面。

ハジメは本能で身体をひねり、白い弾丸が先程まで自らのいた場所を通過していくのを確認した。

 

ハジメの目には、そのウサギが一瞬だけではあるが分裂しているように見えた。

目の前にいるのは確かにウサギ一体である。だがその一体の爆発的な加速力がハジメの脳の認識、反応、直感すらも凌駕してその先を進んでいる。

 

ウサギの着陸地点は、そこに大砲の弾でも直撃したのかと問い詰めたくなるほどに抉られていた。

砂煙が舞い、視野が曇る。身体をひねり回避していたハジメは、砂煙にウサギが包まれたその一瞬だけで敵を見失ってしまった。

 

そして、その隙をもちろん捕食者は見逃してはいなかった。

再び爆発。先程よりもさらに早く、鋭く、重く。相手を確実に屠るという意思のこもった一撃は、ハジメに直撃――

 

「ッ!"錬成"!」

 

――することはなく、タッチの差で届かずに終わった。

ハジメが作り出したのは鉄の壁。咄嗟の判断ながらも、反射的に地面の中の鉄分から金属を生み出したのである。

 

「――投影、開始」

 

そして僅かに用意することのできた時間を使って、武器を呼び出す。

呼び出すのは、干将・莫邪の夫婦剣。信頼のおける一対を握り締め、精神をさらに落ち着かせていく。

 

忘れるな。

イメージするのは常に、最強の自分だ――――!

 

作戦は決まった。成功するかもわからない一か八かの手立てだが、それさえ決まっていれば今の自分にとっては十分――――!

 

目を開く。

その瞬間に、ハジメは錬成で作った壁を()()()()()

 

壁を壊さんと突き進んでいたウサギは、エネルギーの行き場を失いそのまま突き進んでいく。もちろん、その先にハジメの姿はなかった。

錬成で作った壁が自壊することによって、一気に壁を構成していた金属がウサギの突進先で降り注ぐ。これを回避するために、ウサギは自らの固有魔法を使って空中を踏んでいた。

 

それすらも、ハジメの筋書き通りとは知らずに。

 

粗方の鉄塊が降り注いだのを確認したウサギは、固有魔法を使って浮いた状態から地面に立った状態へと戻った。

地面に着いたウサギは、一瞬のうちに姿をくらませたハジメを探すことに夢中だ。目は心なしか血走っているようにも見え、鼻息も荒くなっている。興奮状態になり、感情のコントロールが効きにくくなっているウサギ。

 

その足元には、()()()()()()()()()()()()

 

 

 


 

 

 

ハジメは、最初から武器を使ってウサギを倒すつもりすらなかった。

間違いなく固有魔法を使われて、一撃も当てることが出来ずに逆に手玉に取られるとわかっていたから。

 

それ故にハジメがとった行動が、この一連の動きであった。

野生も強く、賢いようにはとても見えないからこそできた動き。そしてそれをうまくやり遂げられたことに、ハジメは安堵した後ほくそ笑んだ。

 

捕食者を殺すべく誘導するのはうまくいった。

 

後は自分が錬成を使って鉄塊を鋭く伸ばし、剣山のようにして獲物を屠れば勝つことが出来る。

勝利の道筋が立ったことに満足して、錬成の一言を告げようとして。

 

――その瞬間、息を呑んだ。

 

ウサギが、震えていた。

先程まであんなに、鼻息を荒くし無双していたウサギが震えていた。

 

いや。

この感情は、言うなれば。

 

(……怯えて、いる?)

 

そしてハジメもまた、気づいてしまった。

右の通路からのっそりとやってきた、一体の魔物の存在に。

 

その魔物は巨体だった。例によって身体中には赤黒い線が走り、白い毛皮との相性も相まってグロテスクな見た目をしている。

その姿を例えるならば、正しく"熊"であった。二本の前足が異常に発達し、太く大きくなっていることと、とてつもなくでかい爪が生えていること以外は。

 

その爪熊が、いつの間にか接近しており一人と一匹を睨んでいた。

 

背筋が凍るのを、痛感していた。

あれはヤバい。

絶対に戦ってはならない。

そう思うほどに、目の前の熊はプレッシャーを放っていた。

 

重圧。息が苦しくなるような、そんな殺気。

視野が狭まる。膨大なまでの、強烈な気配が全身を駆け巡り、自らの身体を乗っ取っていくかのような。

そんな苦しさを感じていた。

 

「……グルルル」

 

まるでこの状況に飽きた、と言わんばかりの低いうなり声が放たれる。

その声は、この場にいた有象無象共を正気へと誘う声だった。

 

「!」

 

まず先手を取って動いたのはウサギだった。

ビクッと一瞬だけ震えた後、踵を返し脱兎のごとくその場から逃げ出した。爆発的な速度を出す踏み込みを用いて、ここから一目散に立ち去ろうと目論む。

 

その手立ては、成功しなかったが。

 

爪熊が、ウサギの速度すらも凌駕してその巨体を動かし、ウサギを攻撃したからだ。

長い腕から振るわれる殺傷能力に満ちた一撃を、ウサギは危なげなく躱した。少なくとも、ハジメの目にはそう見えていた。

 

だが、着地したウサギを見てみると。

ウサギの肉体は、いつの間にか二つに引き裂かれていた。

 

血と共に臓物が四散する。

先程まで圧倒的な強さを誇っていたウサギが、ああも簡単に死んだ。

 

恐怖で歯の根が合わない。

カチカチ、と無機質な音が鳴り響く。

 

寒くはない。

むしろ身体はこれでもかというほど熱かった。先ほどまでは。

急速に冷えていく身体。バリバリと貪られるウサギの死体と、それとは真逆の音を響かせるヒト(弱者)

圧倒的な強さを目の当たりにして感じた感情は、■にたくないという畏れだった。

 

戦士として確かな強さを持つハジメであっても、この目の前に見えている光景は精神を破壊させるのに十分すぎる破壊力を内包していた。

壊れた心に、爪熊の純粋すぎる野生の殺気が向けられる。次はお前だ。そんな空耳までもが、聞こえた気がした。

 

「うわぁぁぁぁぁあああああ!」

 

そして、戦士は恐慌へと陥った。

 

 

 


 

 

 

意味もなく叫び声をあげる。

誰よりも恵まれていたそのステータスを活かして、一目散に爪熊から逃げ出す。

 

しかし速度は十全に出てはいなかった。

何故かはわからないが、身体がとても重かったのだ。

 

戸惑いを隠しきれなかった。なぜこれほどにも速度が出ないのか、全くもって理解ができなかった。

 

混乱している頭に衝撃を加えられる。

避けようと思っても、身体は動かなかった。自分の意志とは反して、鉛の如く凝り固まった自分の身体は、為すすべもなく迷宮の壁に叩きつけられていた。

 

混乱する暇もなく、左半身が軽いなと思って自らの半身を見てみたら。

ドクドクと、自分の身体から、血が出ていた。

 

そして目の前にいる化け物は。

ヒトの腕を、食べていたんだ。

 

誰の腕を食べているかなんて、直ぐに嫌でも分かった。わかって、しまった。

 

脳が、心が、理解することを全力で拒んできていた。

それでも、とめどなく溢れてくる赤黒い液体と鼻につく鉄の匂いで、すべてを理解してしまった。

 

そして遅れてやってくる、全力の痛覚。

 

「あ、あ、あがぁぁぁあああーーーーーー!!」

 

気づけば、全力で絶叫していた。

覚えていたくもなかったのに、この身体はすべてを覚えてしまっていた。

腕が、なくなった瞬間の感覚も。

そして、この後に続くことの全ても覚えてしまっていた。

 

左の腕が、きれいさっぱりとなくなった。

その事実に気づいてから、無意識のうちに追い詰められていた迷宮の壁に右手を付けていた。

 

固有魔法で切り刻まれたのか、と考える自分の思考もあった。

そんなことを考えたところで自分の腕は戻ってこないのに、なぜかそんなことを考えていた。

 

左腕一本で済んだのが僥倖だと考える自分もいた。

もしかしたら死んでいたかもしれないと考える自分もいた。

 

「ぐぅぅう、――――"錬成"!」

 

何故そんなことまで覚えているのかもわからないまま、自分は眼中に迫ってきていた爪熊に怯えながら無意識にこう唱えていた。

背後に広い空間ができる。そこに向かって、思い切り転がって入っていた。

 

「"錬成!"」

 

そしてすぐさま追って来ようとする爪熊に怯えて、ノータイムで次は壁を作った。

 

そこからは、ひたすら涙を目に溜めながら同じことを繰り返した。

消えることのない痛みを抱えながら、ひたすらに唱えて、転がって、唱えて、転がって。

 

そして壁を作ったのにもかかわらず、それを掘って自分を喰らおうとしてくる化け物からひたすらに逃げ続けた。

 

左腕の出血で血がどんどん抜けていく感覚と共に、魔力が尽きるのを感じ取った。

どれほど掘ったかもわからない。今自分がどこにいて、何をしていているかすらもわかっていなかった。

 

この辺りには灯りになる緑光石もない。ただ、暗闇がそこに存在するのみである。

意識も消えかけ、走馬灯のようなものが流れていく。

 

保育園のことの自分。

小学校、中学校、高校のじぶん。

 

ともだちのきおく。かぞくのきおく。

 

そして、じぶんをつきおとした奴のキオク。

 

「ぁぁ……」

 

繋がっている右腕を、虚空に伸ばす。

だれも、この手を握ってくれない。ここには誰もいない。何もない。

 

ただ、取り残された昏い世界で一人きりだった。

 

――(奇跡)はなく――

 

――(希望)もなく――

 

――(誓い)は闇に溶けた(消えた)――

 

――それでも まだ……――

 

身体が、残っている。

 

 

 


 

 

 

――誰かが苦しむような。

 

助けを求めているかのような。

 

そんな淡い声が、この誰もいない昏い迷宮の中で響いている。




ご読了ありがとうございます。

最近は文才を失わない様に、読書を積極的に行っているところです。
魔王学院の不適合者が一番の愛読書です。
いつか二次創作も書きたい(見てくれると非常に嬉しいです)。

それではまた、いつか会う日まで。


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Ep.25

お久しぶりです。長らくお待たせしてしまい誠に申し訳ございません。
リハビリなのであまり文量はありませんが、お楽しみいただけると幸いです。


――また、この迷宮に声が響いている。

 

苦しむかのような、苦痛に耐え続けているかのような、そんな声が。

 

暗闇の中で、わたしは藻掻く。

わたしはあがく。

 

そしてまた、声が響いた。

 

……ああ。

 

わたしは、そんな声が。

 

――どうしようもないくらいに、嫌いだ。

 

 

 


 

 

 

内側が灼けるように熱い。

それは果たして、失ったことでジュクジュクと黒いナニかが燻っている己の心なのだろうか。

 

それとも、単純に失った腕の痛みが発したものなのだろうか。

今のハジメには、それすらも考えることが出来なくなっていた。

 

身体が灼けるような感覚と相反して、頬には冷たい水が落ちてきていた。

 

ぴたん、ぴたん。反響して、木霊する。

ぴたん、ぴたん。燻る黒いモノを鎮めていく。

 

起きなければ、と思った。

何故かはわからない。このまま寝ていれば、きっと楽になれるはずなのに。心の奥が強く叫んでいたのだ。

 

──起きろ、と。

 

横殴りにされたかのような感覚を受けて、目を覚ます。

無機質な洞窟の中には、当然殴ってくるような敵なんてものは存在していない。

でも心の奥底で、声が鳴り響いていた。

 

助けて。たすけて。タスケテ。

 

その声はうわごとのようで。

でも、確固とした意思を秘めた、そんな声だった。

 

ねえ、あなたは誰?

届くはずのない声を心で紡ぐ。

 

ひんやりと冷えたこの洞窟は、まるで今の自分の状況のようで、少し涙が出そうになった。

 

 

 


 

 

 

縮こまるように身体を丸めて、寒さに耐える。その寒さとは、心だったか、それとも身体だったか。

それすらもわからないが、ただ一つ確信して言えることがあるとすれば、このままでは()()()()()()()()()ということだけだった。

幸いなことに、この洞窟の中には不思議な水が湧き出ている。飲むだけで疲れと傷を癒してくれる、そんな水が。

だから少なくとも1週間は耐えられる。でもその後は?このままでは自分は死んでしまうのか?

癒えていく身体とは反対に、精神は摩耗を繰り返している。ギチギチと、空耳が聞こえた。

 

再び身体を折り曲げると、さらにギチギチと声が聞こえた。

耳を塞いで、目を閉じると、もっと音が聞こえた。

 

「ぁぁ……」

 

発狂しそうになりながら、今度は自分がうわごとを放つ。

掠れた喉から飛び出た「タスケテ」に、答えてくれる人は────

 

いない、はずであった。

 

『……この迷宮に、誰かいるの?』

 

奇跡的にも、助けの手というものはあったようだ。

ハジメはそんな詩的な感想を抱いてから、ゆっくりと目を閉じてしまった。

心に満ちていく安堵。自分と、今はここにいない親友以外に、人がいる。その事実だけで、十分であった。

 

誰かもわからない、ひどく弱々しい、そんな誰かの声が再び聞こえた。

 

『……あなたなら、私を助けてくれる?』

 

もちろんだ、と言葉を放つ。

すると、顔も見えない誰かの雰囲気が、笑ったかのように感じた。

 

『……ずっと、待ってるから。私を、助けてくれること』

 

 

 


 

 

 

その日、洞窟の奥底にて。

 

少年と()()()は、互いの“運命“と出会った。

 

 

 


 

 

 

何かの使命感に、突き動かされるように、飛び跳ねて起きた。

あの声の主は一体誰なのだろう。会いたくて仕方がない。

一種の魅了のよう、だった。でも、魅了なんて、安っぽい言葉で片付けていいものなんかじゃなくて。

 

────絶対に、会いにいく。

 

それでも確かに、この心が、身体が、火を灯した。

静謐な声が身体に活力を与えた。

助けを求めるか細い声が心に呼びかけた。

 

────この迷宮の何処かにいる正体不明(Unknown)さんに。

 

だからこそ、ここで燻っているわけにはいかない。

目を瞑って、逃げている場合じゃない。

 

足掻け。足掻け。

 

生存本能に、紅蓮が灯る。

 

南雲ハジメは、この時、紛れもなく"1回目"の覚醒を迎えた。

 

────瞬間、鳴り響く腹の音。

 

なんだか恥ずかしくなって、また少し洞窟の床に突っ伏した。

 

 

 


 

 

 

しばらく羞恥に悶えていたハジメだったがすぐに復活し、確保するべきものが何かを考え始めた。

 

「……まあ、一つしかないんだけどさ」

 

ハジメがまず取り掛かろうとしたのは食糧の確保だった。

水分は神水で確保できている。今でもバスケットボール大のこの石は神水を生み出し続けている。

 

であれば自分の確保しなければならないものは、人体を構成する栄養素の確保のみである。

流石の神水でも、人体構成に必要な栄養素は確保できない。

 

この迷宮にある食糧と聞いて、パッと思い浮かぶのは魔物の肉。

それ以外の食糧はこの洞窟にはない。少なくとも、今は。

 

「……やるしか、ないのか」

 

生き残るためには、食事が必要だ。

しかしここにある食糧は魔物の肉のみ。

 

……あのウサギを狩るくらいはわけない。余裕ですらある。

しかしあの魔物を、喰らうとなれば、話は……違う。

魔物の肉は人間には有毒だ。いや、猛毒と言っても過言ではない。

仮にそれを喰らったとして、生きて帰れる保証はない。だが、残された時間で脱出するなどという無謀も、できない。

 

でも、とハジメは心で考えて、己に理解させるように、言い放つ。

 

「……とやかく言ってる場合じゃない」

 

生き残るために、手段を選ばないと決めた。であるならば、自分に出来ることは、一つのみ。

 

「──投影、開始」

 

イメージするのは一対の夫婦剣ではなく、無銘の剣。

細く、硬く、鋭く、そう鍛え上げられた業物。

 

その瞳には、昏くも、希望が灯っていた。

 

 

 


 

 

 

ここは、くらい。

ここは、つめたい。

ここは、かたい。

 

脳裏に過ぎる、たのしかった頃の、記憶。

天真爛漫で、いつも底なしに明るくて、そして強かった、わたしの■■■■■。

彼女も同じ吸血鬼なのに、不思議な性格で、不思議な力を持っていた、そんな素敵な■■■■。

 

頭がどうにかなりそうだった。

壊れかけの世界。────崩れそうで、眩暈。

空っぽな身体。────歪な視界。

 

マイナスをシャットアウトして、再び■■■■■のことを想う。

 

■■■■■は、不思議な眼を持っていた。なんでも、■■■■としての機能らしい。

それが何か、わからないけど。それでも■■■■■は自慢の肉親だった。

 

……月が見えなくなってから、随分と時間が経った。

ああ、と願う。

 

いつかまた、■■■■■と、一緒に……月を、見ていたい、と。

 

……そういえば、姉はよく言っていた。

 

──時には月を。月には愛を。

  愛には罪を。罪には罰を。

  罰には人を。人には夢を。

  夢には貴方を。貴方には誓いを。──

 

あれは一体、どんな気持ちを込めて言っていたのだろうか。

わからない。わからないからこそ、わたしは、あの日に別れた、■■■■■に会いたいのだ。

 

そんな■■のことを思いながら、歌う。

 

「ねえ誰か教えて 月が見えるなら。

 消さないで まだ、消さないで。

 消えないで まだ、消えないで」

 

この歌は、迷宮に落ちてきた"星"に届いただろうか。

 

それすらもまだ、わからない。




ということでEp.25でした。

まず初めに。投稿がここ最近全くなくて申し訳ございませんでした。
創作意欲が全く湧かず、いわゆるスランプ状態に陥ってしまい、創作から離れていました。
しばらく趣味に没頭する間にある程度状態を戻せるようになってきたので、今回あまりクオリティが高くないながらも投稿させていただきました。

そして、今自分は迷っています。
自分が風呂敷を広げて始めた物語を、果たしてここから完結させられるか、とても心配になっています。

ですので、オルクス大迷宮を終わらせて、それから先の物語を続けられる保証がないことをご了承いただけると幸いです。

もちろん、できるだけのことやっていきます。
書きたい物語を書いて、書いて、書き続けて、もっと皆さんを楽しませられる作者になれるように頑張っていきます。

あと蛇足なんですが、Pixivでも夏月で活動しています。そちらでも小説を読めるので、気になる方はそちらも読んでいただけると嬉しいです。
あとTwitterやってます。日常のことを気ままにツイートしたり趣味について触れていたり投稿報告もしたりなんやかんやしているのでフォローしてもいいよという方はしていただけると嬉しいです。
https://twitter.com/Natsuk1_o

ではまた、次の小説でお会いしましょう。ご読了ありがとうございました。


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