鎮守府のイージス外伝集 (R提督(旧SYSTEM-R))
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湯煙の攻防戦

日本国防海軍横須賀鎮守府入渠ドック。戦闘で傷つき、母港に戻った艦娘たちがひととき、その身を休める場所である。しかし時には、そんなさなかでもとある「来客」によって、身体はともかく心は休まらないこともある。これは、ゆきなみ型ヘリコプター搭載イージス護衛艦「DDH-182 みらい」が、そんなちょっとした「事件」に巻き込まれた時のお話。

どうも皆さまご無沙汰しております。久しく小説を書くことから離れていましたが、久しぶりにリハビリもかねて短編を書いてみました。よろしくお願いします。


 入渠。人間にとっての入浴がリラックスのためのひと時であるのと同じように、私たち艦娘にとっては戦いで負った疲れやダメージを癒し、次の戦闘に向けて英気を養うための、欠かすことのできない時間だ。日々、戦闘や教練で目まぐるしい毎日を送る私たちも、この時だけは時間を忘れてゆったりと過ごすことができる。己と向き合い、任務に没頭しているとつい見失いがちな自分自身を振り返る意味でも、このひと時は私たちにとって重要な意味を持っている。

 なのだけど、残念ながら常に「ゆったり」とはいかないこともしばしば起きるのが、ここ日本国防海軍横須賀鎮守府の入渠ドックだ。今日も、どうやらそのパターンに落ち着きそうだった。一人湯船の中でたたずんでいた時、ふと私の周囲で何やら気配がした。戦闘の時とは違って艤装を身に着けてはいなくても、自分のレーダーの性能には自信がある。浴室内に響く重低音に交じって聞こえてくる「物音」に、私はじっと耳を傾けた。

 やがて、その音のする方向に概ねの見当がつく。こっちか。果たして私がそちらの方角に顔を向けたその瞬間、浴室の一角に空いた窓の端から何かが顔を覗かせる。私と目が合ったのに気付くと、「それ」はぎょっとした顔で思わずその場に硬直した。20歳そこそこの、作業服姿の若い水兵の顔がどんどん真っ赤になっていくのを見て、私の口からいつものように苦笑いが漏れる。「相変わらず懲りないな」と。

 

 艦娘としてこの世界に転生する前、まだ海上自衛隊護衛艦として艦艇の姿だった頃、「ゆきなみ型ヘリコプター搭載イージス護衛艦」という艦種に属する私は、基準排水量7735t、満載排水量9998tという大型艦だった。艦番号はDDH-182、諸外国の海軍で言えば「ヘリ搭載駆逐艦」だけれど、少なくとも第2次世界大戦期の基準で言えばこのサイズは駆逐艦のそれではない(大戦期と戦後では、艦艇の分類方法が全く変わってしまったから仕方ないのだけど)。私自身、日本海軍の高雄型と比較されたこともあったように、当時の基準ならむしろ重巡クラスだろう。

 そんな高雄型重巡洋艦姉妹が、艦娘に転生した結果世の中の男性が注目してやまないグラマラスボディの持ち主に生まれ変わったのと同じように、私たちゆきなみ型もまた人並み以上には恵まれた肢体を持つ女性として、この世界にやってきた。ここ横須賀や、実戦配備前に演習で訪れた舞鶴の入渠ドックで私たちの身体を初めて目の当たりにした同僚たちは、たいてい度肝を抜かれていたっけ。当時はまだ転生して間もなかったせいか、その反応の理由がいまいちピンと来ていなかったのだけど、流石に今はその意味が理解できる。どうやら私たち艦娘の裸は、世の中の男性にとっては多少のリスクを冒してでも拝めるものなら拝んでみたいと思えるようなものであるらしい、ということも。

 もちろんそのリスク、今まさに行われているのぞき行為は世間一般では迷惑どころか立派な犯罪で、もちろん国防海軍においても軍法上も職業倫理上もタブーであることも、私たちは知識として知っている。しかし一方で、いざ実際に自分がその当事者になったとしても、その行為に対する怒りや羞恥心というものがそこまでわいてこないのも、また事実だ(艦娘ではない、国防海軍の人間の女性軍人にこれを言うとたいていドン引きされるか、呆れられるかのどちらかなのだけど、事実だからしょうがない)。

 というのも私たち艦娘には、戦闘で中破以上のダメージを負うと着ている服が破れ、肌が露になってしまうという性質がある。そして、大艦巨砲主義全盛の時代に艦艇として建造された大日本帝国海軍出身の艦娘たちは、私たち海上自衛隊出身者とは対照的に装甲厚にも自信を持っており、戦闘においてのモットーは「中破上等」だ。年頃のうら若き乙女が戦闘後、あられもない姿で野郎どもの前に帰ってくるというのは、この世界の海軍においては別に珍しいことでも何でもないのである。

 しかも、中破以上の状態で帰還した艦娘には基地への帰投後、戦闘で負ったダメージの分析と状態把握のためにダメージチェックが課せられる。戦闘そのもので強いられる「露出」はせいぜい半裸で済むが、この時は入渠の際と同じく全裸。チェックを担当する整備士は特別な技能職とあって周りは男性ばかりだが、こちらも人間が医者にかかるようなものと割り切って、お構いなしで丸出しである。

 つまり、何もわざわざ入渠をのぞくようなリスクを冒さなくとも、「お目当てのもの」を彼らが拝める機会は一応あるわけだ。もっとも整備士の倍率は馬鹿みたいに高いので簡単にはなれないし、よしんばなれたとしてもスケベ心を払拭せずに務まる職でもないし、そもそも大破ともなれば拝むのはエロ画像というよりむしろグロ画像に近くなってくるので、私たちの側も奇麗な体を見せてあげられないのは少々心苦しいのだけど。

 そんな職場環境に慣れてしまっていること。深海棲艦との戦闘中に砲撃や雷撃に晒され、命の危険と隣り合わせになるストレスに比べれば、異性に裸の一つや二つ見られたところで精神的なダメージなんぞ皆無であること。そもそも、人間の女性の姿はしていてもあくまで「自分たちは船である」というアイデンティティを持っていることなどが重なって、私たち艦娘はこうして入浴シーンを見られたとしても平然としてられるのである。本気で頭に血が上るのは、私の姉妹艦でもあるあすか姉さんくらいだろう。

 被害者であるはずの我々が大して騒ぎもしないのは、鎮守府内での綱紀粛正を任務とする警務隊には申し訳ない話だけれど、まぁそれはそれとして取り締まり自体はきちんとしないといけないのですよね。仮にも軍隊である以上、体面だけでもこういうところを野放しにしておくわけにはいかないので。

 

 さて、どうしたものか。私は、緊張と困惑と気恥ずかしさとで硬直したままのその水兵の顔を見た。見た感じ、そこまで国防海軍の雰囲気にもまれている感じもない。まだ教育隊から部隊配属になって、そんなに経ってもいないのだろう。プルプルと震えてさえいるその姿は、悪意をもって自らのぞきを働いてやろうという輩のそれには見えない。

 とりあえず、黙ったままでは具合が悪いのでおしゃべりでもしてみようか。

 「フフッ、こんばんは。私に何か御用?」

 笑みを浮かべながら言葉を投げかけると、明らかにキョドった様子の水兵は思わず私から目を背けつつ、あたふたしながら言葉を絞り出した。

 「えっ、あのっ…、こ、こんばんは…」

 視線だけは明後日の方向に向けたまま、ぺこりと私に向かって頭を下げる。

 「そ、その…、みらいさん…、ですよね…?えっと、あの…」

 「はい、みらいですよ。で、どうしたの?」

 「そ、その…。…あ、あなたが、にゅ、入渠してるところを、のぞきに来ました…。」

 私は思わず盛大に吹き出した。いや、素直かよ。どれだけ正直なのよあなた。私が心配してあげる義理もないけど、警務隊の人間に聞かれたらぶっ殺されるわよ。そこはせめて、今まで似たようなことをやらかしてきた他の水兵たちみたいに、「たまたま近くを通ったら目に入った」とかうまいことぼかせばいいのに。まぁこのお風呂、「たまたま艦娘が入渠している姿が目に入る」ような位置には、もちろん窓なんかないんですけどね。

 「す、すすす、すいませんっ…!まさかこんなにあっさりバレるとは思わなくて…」

 「そりゃバレるでしょ。最新鋭イージス艦のレーダーをなめてもらっちゃ困るわよ。まぁ、今は艤装を身に着けてないから、あいにくSPY-1には頼れないけどね」

 ひとしきり笑った後、私は涙をぬぐいながら答えた。明らかに気まずそうな様子の水兵に向かって呼び掛ける。

 「大丈夫よ、今はここに私一人だし、私は別にこんなことでいちいち騒ぎ立てたりしないから。安心して。むしろ、話し相手がうまいことできてちょうどよかったわ」

 「えっ、あ、あの…。あ、ありがとうございます…?」

 予想もしなかったであろう私の反応に困惑しつつも、素直にまた頭を下げる水兵。彼の方からは、デコルテから下が水面下に隠れて見えない状態のままで、私はさらに問いかける。

 「ところであなた、所属と名前は?」

 「えっ…?」

 水兵の顔が途端に青ざめる。また私の口から苦笑いが漏れた。

 「違う違う、警務隊に告げ口なんかしないわよ。私たち、初対面でしょ?初めましてだから、どこの誰か知りたいだけ」

 「ほ、本当ですか…?」

 「本当よ。そんなことしたって、私には基本的に一文の得にもならないもの」

 まぁ、本来は艦娘の入渠に対するのぞき行為は内規違反には違いないから、もちろんどうなるかはあなた次第だけどね。私は割とこの手の事案には鷹揚な方だけど。

 「に、二等水兵、荻島薫です。横須賀教育隊66期、今月から横須賀鎮守府業務隊整備課に配属になりました」

 整備課。さっき説明した「ダメージチェック」を担当する部署だ。つまり、その中でもしかるべきポジションについた軍人は、業務の一環として我々の身体を堂々と拝める特権を手にできるということでもある。もちろん、整備士になれるチャンスがあるのは特別な技能試験に合格した、三等兵曹以上の士官または下士官なので、教育隊を出たての二等水兵にはかなわない話だが。

 「荻島二水、ね。なるほど。もう私は自己紹介の必要もないだろうけど、国防海軍第1艦隊所属、護衛艦みらいです。よろしくね」

 いやまぁ、こんな状況でよろしくも何もないのだけど。

 「で、荻島二水。今回は誰の差し金?」

 「へっ…?」

 驚いて目を見張った荻島に、私は問いかけた。

 「見た感じ、あなたが自発的にのぞいてやろうと思って来たわけじゃないんでしょ?誰か煽った人間が他にいるんじゃないの?」

 「な、なんで分かったんですか…?」

 「下級兵が入渠をのぞきに来るのなんて、たいていそんなものだから。警務隊が厳しく取り締まってる割には定期的に来るのよね、こうやって気楽に話せるようにさえなれちゃうくらいには」

 そう、そんなものなのだ。下級兵たちによるこうした「度胸試し」は、もちろん健全とは言わないがそれなりに恒例行事となってしまっている。たまに、陸海空自衛隊でも曹士がやらかして懲戒処分を受ける事案は起きるが、日本国防軍でもその辺の事情は同じようだ。まぁ、年頃の若い男が集団生活を強いられ、しかも海軍に限れば若く美しい女性が同じ鎮守府内で日々隣り合って暮らしているとなれば、ある意味起きるべくして起きることなのかもしれない。断じて「それでいい」とは言っていないが。

 「実は俺、仲間内での競争に負けまして…」

 「競争?」

 首を傾げる私に、荻島はなおも目を逸らしたまま答えた。当初と比べれば、発する言葉はずいぶんはっきりしてきている。

 「今日、朝の筋トレの時に同室の中野上水(上等水兵)に、どちらが先に腕立てと腹筋30回ずつをこなせるか、競争させられまして。負けた方が入渠をのぞくという罰ゲーム付きで。入隊早々に警務隊につかまって処分なんかされたくないし、俺は正直やりたくなかったんですけど」

 「でも、仮にも階級が上の相手だから断れないし、そのうえ負けたと」

 「…、元々筋トレはあまり得意じゃなくて…。教育隊時代にできるようにはなったんですけど」

 やれやれ。これはまたずいぶんくだらない理由でやらかしたもんだ。思わずため息が口をつく。なんだろう、この荻島くんを責めたいという気にはならないが、やはり気持ちのいいものではない。少なくとも、仕掛け人の中野とかいう上等水兵には、それなりの目には遭ってもらわないといけなさそうだ。

 「まぁ、だとしたらあなたもある意味被害者ってことよね」

 私の言葉に、荻島の口から小さく「えっ」という言葉が漏れる。

 「だってそうでしょ、元々あなたがやりたいと思ってやったわけじゃないんだから。のぞき自体はよくないことだけど、事情を聴いたらあなたを責める気にはならないわよ」

 まぁ、今回やらかした相手が私でまだよかったなとは思う。同じゆきなみ型でも、あすか姉さんが相手だったらこんな寛容な対応はされてないはずだからだ。艦娘の中では珍しく、一般的な人間の女性と同じくらい裸を見られるのを嫌がるあの人なら、煽った仕掛人はもちろんのぞいた当人相手にも、500㎞彼方からお仕置きのトマホークをブチ込んでいたかもしれない。艦娘サイズとはいえ、艦艇用と変わらない殺傷力を持つれっきとした兵器だから、人間相手に本当にやったらシャレにならないことになるけれど。

 「まぁ、あなたに対して何かしようとは敢えて考えないけど、その中野って上等水兵には一応お灸をすえておかないとね。とりあえず、今回は初犯ってことであなたのことは見逃してあげるから、警務隊に捕まらないうちに早めに帰りなさい。その代わり、中野先輩はしっかり捕まえておいてよね」

 可能な限り、寛容な解決策を提示してあげたつもりだった。自分で言うのもなんだけど、誰が聞いても「みらいの対応は優しすぎる」と言われるような提案だったと思う。それでも、素直にこの男が飲んでくれさえすれば、私は本当にそれ以上この行為を責めようという気はなかった。…、ところが。

 「すいません、みらいさん。まだ、帰るわけにはいかないんです」

 荻島は首を横に振った。

 「え、なんで?あなた、今の状態でも警務隊に見つかったらただじゃすまないわよ?」

 「そ、それは、その…、え、えっと…」

 また、顔を真っ赤にしながら口ごもる荻島。

 「み、みみみ、みらいさんの裸をちゃんと見てからじゃないと、帰れない約束なんで…」

 「はぁっ!?」

 ちょっと待ちなさい。そうなると話が変わってくるわよ。百歩譲って、今の状況ならまだ言い訳が効くけれど、そこからもう一歩進むと状況によっては擁護しきれなくなる。

 まぁ、正直に言うと仮に本当に荻島二水に裸を大っぴらに見られたところで、さっきも言ったとおり私自身には別にほとんど実害はない(既に水面越しに見られてるようなものだけど)。ただ、その状況を警務隊が知れば入隊早々の懲戒処分は不可避、もう後戻りはできないのだ。私とのかかわりでそんな目に遭う軍人が出てほしくはないが故の温情でもあるのに、この男はそれを自ら無にするのか。そもそも、それが目当てだとしてものぞいた当の本人にそれを言っちゃうってどうなのよ。

 「あのね、荻島二水。あなた今の状況をちゃんと分かってる?私はそこまで抵抗感ないから、こんな状況でもあなたと普通におしゃべりできちゃうけど、一応今あなたがやってることはれっきとした内規違反なんだからね?」

 私は努めて冷静に語りかけた。

 「私も艦隊の一員として遠征にも参加する身だからね。わざわざ勇気を振り絞って来た手前、『成果』なしで帰れない気持ちは分からないでもないわよ。でもね、あまりあなたが長居して結果的に見つかっちゃったら、私だってあなたのことは庇えなくなるの。今なら私が黙ってさえいればまだ何とかなるんだから、バレないうちに早く帰りなさい」

 実際には、別に拝ませてやったってそれ自体に個人的には特段の問題はないのだけど、それが発覚した時の面倒を避けるために敢えてそれには触れず、あくまで早期の退散を促す私。ただ、それでも荻島は頑なに首を横に振った。

 「すいません、みらいさん。自分でも、めちゃくちゃなことを言ってるのは分かってるんです。でも、どうしてもやらないわけにいかないんです」

 「どうして?いくら上の階級だからって、そんなにその中野先輩の命令は重いものなの?所詮相手は上等水兵でしょ?それとも、もしかしてあなたってなんだっけ、むっつりスケベってやつ?」

 私の問いかけに、荻島は「どっちも違います」とまた首を振った。

 「どうしても必要なんです。その…、将来三曹以上に昇任して、整備士になるために」

 「整備士になるため?どういうこと?」

 「俺、海軍にはもともと整備士になりたくて入ったんです。戦闘オペレーターと比べたら地味かもしれないし、みんな『整備士になりたい奴はどうせ艦娘の裸目当てだ』なんて言うけど、違うんです。一番直接的に、艦娘の皆さんの助けになれるポジションだから…」

 首を傾げた私に、荻島は一生懸命説明し始めた。元々、私が海自に所属していた時代と同じように、かつてはこの世界でも海軍においては人間が艦艇や航空機に乗り組み、自ら訓練や任務に従事していた。だが10年以上前、深海棲艦の襲来と私たち艦娘の出現をきっかけに、艦娘が戦闘員として彼らにとって代わるようになって以降、彼ら人間の軍人の役割は戦闘員から後方支援へと変わった。人間が戦闘で自ら命を落とすこともなくなった代わりに、陸軍や空軍、海兵隊と違って軍種の主役となることもなくなったのだ。

 そんな中で、一般的に「新たな花形」と見られがちなのは、陸上から戦闘に関する情報を海上にいる艦娘に伝達し、戦闘をサポートするオペレーターだ。かつての護衛艦で言えば、船務長の仕事がその役割に近いかもしれない。それと比べれば、戦闘に直接かかわるわけでもなく、ともすればスケベ目当てと誤解されがちでもある整備士は、倍率が高いとは言え日陰に位置しがちな役回りと言える。当事者である私たち自身は、別に彼らの仕事に対して偏見は持っていないしダメージチェックだって苦にもしないけれども、それでもどうしても彼らを複雑な目で見てしまう女性軍人がいることも知っている。

 その整備士になりたいと、荻島は言ったのだ。たとえ縁の下の力持ちでも、海軍にとっては欠かすわけにはいかない役回りだから、と。

 「俺たち海軍軍人は、ある意味恵まれてるんです。だって陸軍や空軍、海兵隊の奴らとは違って、軍人になったからってめったなことでは戦争で死ぬわけじゃないんだ。そのリスクは、ほとんど全て艦娘の皆さんが負ってくれてるから…。でも、皆さんだって戦場に出て戦って、それで終わりじゃないでしょう」

 戦って傷ついたなら、そのダメージは次の戦いに備えて、しっかりと取り去らなければならない。そうでなければ、いつ終わるのかもわからない深海棲艦との戦争など戦い抜けないのだ。彼らに対抗できる勢力は、私たち艦娘以外には存在しないのだから。

 そして、その攻撃で受けた傷を心身に残すことなく、完全に回復させるためには単にこうして入渠ドックで風呂につかるだけでなく、その前段階として実際に受けたダメージをしっかり分析し、次の戦闘で同じように傷つかないようにするためにはどうすべきかを考えることが必要になる。そのヒントを私たち艦娘に与えることこそ、特別技能職たる整備士の役割なのだ。

 「俺は、そういう形で皆さんの力になりたくて、海軍に入ったんです。もちろん三曹への昇任試験も、整備士の認定試験もまだ先の話ですけど…。でも、それ以外にも一つ大きな問題があって」

 「問題?」

 怪訝そうな顔を浮かべた私に対して、荻島はそこでまた決まりが悪そうに呟いた。

 「俺、彼女も全くできたことないし、何とは言わないけど『そういうこと』も実は未経験で…」

 「そういうこと?」

 「()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()一応みらいさんも女の人なんで、直接的には言いたくないですけど、察してください」

 あ、あぁ…。なるほど、ね。流石にこの姿になってしばらく経つと、そういうこともうっすらとは分かってくるものだ。ちなみに、私がそういう経験あるかどうかは聞かないでよね、それこそセクハラで警務隊にタレこむわよ。

 「つまり、艦娘整備士になりたいのにまともに女の子の裸を見たことがない、と」

 「…、ずいぶんあっけらかんと言いますね」

 「だってそういうことなんじゃないの?」

 私の直球の問いかけに、穴があったら入りたいとばかりに俯く荻島。やっぱりやれやれ、だ。追い打ちをかけるわけではないけど、ちょっと意地悪な質問もこの際ぶつけてみるか。

 「で?拝めるなら誰の裸でもよかったわけ?」

 「は?」

 「まぁ、横須賀の所属艦娘はスタイルいい人多いからね。大和とか金剛とか摩耶さんとか。一航戦のお2人なんかもいるし。あぁ、あすか姉さんはお勧めしないわよ。私と体格自体は変わらないけど、のぞきに対しては警務隊以上に厳しい人だからね」

 ニヤニヤしながら一通り名前を列挙する私を尻目に、荻島はまた黙りこくってしまった。よほど気恥ずかしいのか、何やら耳まで真っ赤になってしまっている。こうやって異性をいじる趣味があるわけではないのだけど、こういう姿を見ているとちょっと可愛いな、と思ってしまう。

 「えぇと、その、あの…」

 「何よ、今更この状況でごまかす必要ないでしょ。言ってみなさいよ」

 なんだか一周回って面白くなってきてしまった私の顔を、そこで初めて荻島は改めて直視した。おや、と感じたのもつかの間、彼は過去一衝撃的なセリフを口にする。

 

 「あの、本人にこんなこと言うの、それこそ本当にどうかしてると思うんですけど…。もし一人選べるなら、俺、みらいさんがいいと思ってました」

 

 「…、へっ!?」

 あまりに驚いて、目を思わず見開いた私の姿を見ながら、荻島はまた途端にあたふたし始めた。

 「いや、えっと、その…。みらいさん、すごくこの鎮守府の風呂がお気に入りで、戦闘帰りじゃなくても関係なくしょっちゅう入ってるって聞いたから、単純にチャンスもいっぱいあるかなって思ってて…」

 うん、まぁ確かにその通りだ。入浴という文化自体は、艦艇だった頃の自分にも風呂はもちろんあったから知ってはいたけれど、人間ではない以上自分には縁がないものだと思っていた。そして、艦娘に転生してから実際に初めて自分が入る側になってみて、なんて気分のいいものかと感動したのを今でも覚えている。長期航海から帰った後にやる「甲板流し」と呼ばれる作業のようなものかと思っていたけれど、それよりもずっと快適な何かだ。今だって単に非番で暇なだけで、別に戦闘帰りではないしね。とはいえ。

 「船とはいえ一応女性の姿でいる身としては、私の身体が魅力的だから見たいと思ったって言ってもらえる方が嬉しいんだけどな」

 「も、ももも、もちろんそれが一番大きな理由です…」

 からかい半分のその言葉に、荻島はどもりながらもそう答えた。私の顔に、それまでとは少し質の違う笑みが浮かぶ。彼の素朴でなんだかんだ素直な反応に、私の心の中ではある決意が芽生えようとしていた。

 「なるほどねー。まぁ、あなたの言いたいことは大体分かったわよ、荻島二水」

 私の言葉に、荻島の顔にほっとしたような表情が浮かぶ。そんな彼に、私は湯船につかったままですかさず問いかけた。

 「ところであなた、なんだかんだその状態でずいぶん長居してるわよね。そろそろ警務隊が来ないか、周りを警戒しといた方がいいんじゃないの?」

 私の問いかけに、荻島がハッとした顔をする。思わず、窓のところにいたままで後ろに振り向き、周りの状況を今一度確認する。私も、脱衣所の方に一度目をやった。誰も入ってくる様子はない。それならば。

 「多分、大丈夫みたいです。すいません、ご心配ありがとうございます」

 「よかった。じゃあ、外を気にするのはそこまででいいわよ」

 私の声に、思わず荻島が振り向いた。そして…。その目に飛び込んできた光景に、驚きのあまり彼の目は大きく見開かれたのだった。

 

 「やっぱり決まってますよね、三種夏服。セレモニーの時だけじゃなく、戦闘の時でも着てるのは解せないですけど」

 「私たちゆきなみ型にとっては、戦闘服だからね。自分でも気に入ってるのよ、これ」

 あなたには、これよりももっといい姿を見てもらったけどね、と茶化すと、荻島は「デカい声でそれ言うの、やめてくださいよ」とばつが悪そうに俯いた。

 入渠を終えた私は制服に着替えてから、その後何事もなかったふりをして外で荻島と再び会っていた。ふりをして、と言ったのは、実際には何事かはあったからだ。もっとも、特別なことを何かしたとは思っていない。その後も、入浴している側とのぞいている側で仲良くおしゃべりしていただけである。ただし違うのは、荻島が外をいったん警戒して再び振り向いてからは、私はずっと湯船から立ち上がった状態だったということだ。そして入渠する時のこだわりとして、私は身体にタオルは巻かない。たとえその様子を異性に見られていたとしてもだ。

 入渠をのぞかれるのは、何も今に始まった話じゃない。そして同じゆきなみ型3姉妹でも、やらかした下級兵に対する対応は実は結構違う。長女のゆきなみ姉さんは、姉妹の中でも一番のダイナマイトボディということもあってか割と平気でお色気的な発言をするし、のぞき魔が来ても追い返すことはそこまでしないが、なんだかんだガードは固く大事なところはそう簡単には見せない。逆に口や態度では一番ガードが堅いはずの次女のあすか姉さんは、下級兵が来ると率先して鉄拳制裁を食らわせようと自分から殴りかかることも多く、その過程でなんだかんだ一番身体を見せてしまっていることが多い。

 そして三女の私。その時の気分にもよるが、やり口は大体2つである。1つは、今回当初そうしたように「黙っててやるから早く帰れ」と言う。もう1つは、わざと身体を隠すことも追い返すこともせず、のぞいた人間を自分の身体にくぎ付けにさせておいて警務隊の人間をおびき出し、犯人を捕まえさせることだ。大捕り物になっている様子が面白くて、いつもそれを見ながらゲラゲラ笑っているので、策士なんて言われることは多い。

 今回、結局最後には荻島に堂々と自分の身体を見せたのも、完全に自分の意思によるものだ。ただし、それは警務隊を呼び寄せるためのトラップとしてではなかった(むしろ雑談を続けながらも、「頼むから絶対に来てくれるな」と本気で祈っていた)。まだ部隊配属されて間もない、国防海軍という組織にも馴染みきってはいない一兵卒だけれども、それでも彼なりにはっきりとした使命感を持ってここに入ってきて、そして自分の夢をかなえるうえで障害となるものを何とか克服したい、という思いを感じ取れたので、それに応えてあげてもいいかと思ったのだ。

 誤解はされたくないけれど、のぞきという行為を働いたこと自体を肯定はしない。私はたまたま「見られただけなら実害があるとは感じずに済む」手合いなので、大目に見てあげられるだけである。他のほとんどの艦娘たちも、実際にはなんだかんだ寛容な対応をとることが多い―警務隊にバレさえしなければ。でも、それを当たり前と思ってはいけないし、ましてや海軍をやめた後に外の世界で一般の女性相手にやろうなんてことは断じてあってはいけない。それをやったら犯罪者にまっしぐらだ。もっとも、整備士を目指す荻島は任期制の軍人という身で終わる気はないようだけど。

 それにしても、荻島という男はなんだかんだ運がいい。元々乗り気だったわけではなかったとはいえ、最終的には私の裸を10分近く、それも警務隊に一切見つかることなく拝むことができたのだから。最初私に見つかった時にキョドっていたのと同一人物とは思えないくらい、全力で身体の隅々まで凝視されたのには流石に笑ったけれど、私はどうせならそうしてくれた方がよかったし、実際に思う存分熱い視線を向けてくれてむしろ嬉しかった。これでも満載9998tの大型艦、自分でも裸には自信はあるわけで、それを異性からお目当てにしてもらえて悪い気はしない。私も一応年頃の女性ですので。

 あぁ、ちなみに厚意で身体を見せてはあげたけれど、流石に手を出すことまでは許してませんよ。それは私でもおいそれと許せることじゃないので。当人同士が合意してようと、軍人同士の淫行はのぞき以上の重罪だからね。

 「言っておくけど、今回のサービスは特別中の特別よ。流石の私でも、普段ここまではやらないからね。まぁ、思う存分笑わせてくれて、暇つぶしに付き合ってくれたお礼かな」

 「お気遣いわざわざありがとうございます、みらいさん」

 荻島が恭しく頭を下げる。

 「だから、あいにくだけど二度目はなし。私もこれ以上リスクは踏めないしね。大体、いくら整備士を目指してるからって今回のやり方が正しいとは思わないわよ。今回は乗ってあげたけどさ」

 「…」

 荻島は口をつぐむ。その顔は、私の言葉がもっともだと言ってるようにも、二度目のチャンスが完全に消え失せて残念だと言ってるようにも見える。そんな彼に対して、私はこう続けた。

 「でもね、少なくともあなたが整備士になりたいという思い、私たちに対してあなたなりにいろいろと思ってくれてることはちゃんと伝わったわよ。それは立派なものだと思うし、最前線に立つ1人の艦娘としてありがたいとも思ってる。その思いはずっと大事にしておいてほしいかな」

 私の言葉に、荻島がハッとして顔を上げた。

 「だからね…。時間はかかるし大変な試験だろうけど、あと2年したら絶対三曹に上がりなさい。そして、整備士の試験も必ず突破して、国防海軍に欠かせない存在になれるよう頑張って。そしたら…、私が戦闘から中破して帰ってきた時は10分なんて言わず、あなたの気が済むまで何時間でもダメージチェックに付き合ってあげるわよ」

 応援してるからね、と私が差し出した右手を、荻島はしっかりと握り返した。彼が初めてその顔に浮かべた笑みには、これから待ち受けているのであろう困難な道のりも超えて言って見せる、という決意の色が浮かんでいた。横須賀の晴れ渡る空の下、私の心の中には何やら不思議な充実感がずっと残っていたのだった。




作中でみらいも再三触れていますが、この作品はのぞきという行為自体を肯定したり、ましてや推奨する目的のものでは断じてありません。あくまで、「今回のケースではたまたま結果的にうまくいった」というだけです。一応ファンタジーなんでね、創作の中でくらいは夢のある展開になってもいいでしょう。現実ではのぞき、ダメ絶対。まぁそもそもそれを言い始めたら、艦娘や深海棲艦自体がそもそもファンタj(ry

自分の作品のシリーズには挿絵が今のところないため、状況は全て想像で補ってもらうしかないですが、こんなご都合主義な展開が成り立つのもみらいが艦娘として恵まれたプロポーションを持っているから、というのが大きいです。原作でも高雄と比較されるシーンがありますが、艦娘になって以降の姿でも高雄型を比較対象として出してる時点で、どれくらいのレベルかは察していただけるかなと思います。こんな子がDDH(Helicopter Destroyer)名乗ってるの、従来型の駆逐艦娘からしたら理不尽でしかないでしょうね。

短編作品を書いてみたのは今回が初めてですが、また筆が乗ったら改めて書いてみたいと思います。連載しているNeptuneの方もあと2話ほどで完結させる予定なので、早くめどを立てたいですね。それではまたお会いしましょう。


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整備士・荻島薫

こんにちは、R提督です。前話で登場した荻島薫二等水兵が、その後夢を叶えて整備士になった後の話を思いついたので、描いてみました。

※今回は軍事ものとして、前回よりはミリタリーに関する話が増えていますが、引き続きお色気描写多いです。ご容赦ください。


 「全艦、艤装解除完了。艦隊収容終わり」

 「了解、ご苦労さん」

 ここは、日本国防海軍横須賀鎮守府内にある出港ゲート。出撃を終えて帰投した私たちの耳に、いつものような軍人たちの手短なやり取りが聞こえてくる。

 「おう、みらい。お前が中破して帰ってくるなんて、珍しいこともあるもんだな」

 この場を仕切っていた尾栗康平少佐が、引き上げようとする私に目をとめて声をかけてきた。この尾栗少佐、かつて私が海上自衛隊護衛艦だった時は、三等海佐の階級で私の航海長を務めていた人物である(厳密には、お互いに違う世界に生きる同一存在の別人同士だけど)。この世界に生きる今はかつてとお互いの立場は違うが、同じ国防海軍の一員同士として仕事を離れればフランクに接する間柄だ。

 まぁ、確かに今の私の姿は、彼からすれば思わず声をかけたくなるのも仕方ないかもしれない。元々夏の間の正装として国防海軍でも使われ、私たちゆきなみ型にとっては戦闘服でもある幹部常装第三種夏服は、今回の出撃で負ったダメージでズタズタに破れてしまっている。戦闘で私が中破まで追い込まれるのもずいぶん久々なので、その意味でもインパクトは小さくはないのだろう。

 「アハハ…、本当はここまでやられるつもりはなかったんですけどね。不覚を取りました」

 苦笑いしながら応じると、尾栗は一度私の全身を一瞥してからこう命じた。

 「まぁ、それだけ元気な返事が返ってくるなら、大したことねぇんだろうけどな。あいにくルールはルールだ、ダメージチェック行ってこい。サボるなよ」

 「はい、了解です」

 私は素直に頷く。が、その時は珍しく彼のある言葉が引っ掛かった。

 「尾栗さん、そういえばいつもダメージチェックに行く艦娘には『ルールはルール』って言ってません?」

 「そりゃまぁ、そういうことも言いたくなんだろ。…、必要な仕事だが、お前らにとっちゃもしかしたら精神的な負担になってるかもしれねぇしな」

 「別に気にしてませんって。…、もしかして『整備課の奴らは役得で羨ましいな』とか思ってたりして」

 ケラケラ笑いながらからかうと、尾栗は思わず顔を赤らめつつ声を荒げた。

 「馬鹿野郎、幹部をそうやってからかうんじゃねぇ!!いいからさっさと行ってこい!!」

 「アッハッハッハ!!はーい、行ってきまーす」

 予想以上に面白い反応に、私はより一層大きな声を上げて笑いながら、ダメージチェックを担当する整備課の検査室が入っている建物へと向かった。立ち去る私の耳に、尾栗の「ったく…」という声が聞こえたが、私は大してそれを気にすることはなかった。

 

 「整備課の奴らは役得」。私が尾栗少佐に対して言ったのは煽りの意味もあるが、実はある一面においては真実でもある。それは、彼らが手掛ける仕事のやり方が理由だ。

 建物の2階にあるロッカーに入ると、中は私以外無人だった。がらんとした空間の一角に、入渠ドックの脱衣所にもあるような大きなバスケットが置いてあるのが目に入る。私はそこで立ち止まると、ズタズタに破れて既に服としての機能を失いかけている三種夏服を脱いで(脱ぐというよりも、身体にかろうじて張り付いている布の塊を剝がしていくと言った方が正確かもしれない)、そのバスケットに服だったものの残骸を収めていった。

 このバスケットで回収された制服はこの後、検査でのダメージチェックを経て入渠という手順を踏むと、風呂から上がったタイミングで奇麗に元通り復活する。服だけでなく、戦闘で壊されてしまった艤装も同じだ。どういうメカニズムでこうした「復元」が行われるのかはいまだに謎で、誰もその原理を解明できた者はいないらしい。やがてその「作業」が完了し、目の前の壁にかかった鏡に一糸纏わぬ姿の私が映った。

 整備課に所属する整備士が手掛けるダメージチェックには、2つの手順がある。目視による身体表面の傷のチェックと、エコーを用いた身体内部の損傷のチェックだ。エコーを使用する際は滑りやすくするために身体にジェルを塗るので、どちらの作業においてもチェックを受ける艦娘には男性整備士の前で全裸になる必要性が生じる。「お前らにとっちゃ精神的負担かも」という尾栗の言葉の出どころは、まさにこの点に対する懸念だ。

 かつては、「流石にこんなやり方をするのは人権侵害の疑いがあるのでは」という議論が海軍内部でも上がったが、あくまでダメコン(ダメージコントロール)については「人の姿をした船」として取り組んでほしい当の艦娘側が、そのような議論には取り合わなかったそうだ。今でもこのやり方には、一部では賛否両論がなくはないが、私も艦娘の一人として特段の不都合があるようには感じていない。

 バスケットの脇には、バスタオルが山のように積まれている。検査室に向かうまでに身体を隠せるようにという配慮で、海軍側がわざわざ予算を割いて用意してくれているものだが、私はその気づかいに感謝しつつも使わないことにした。移動にかかる距離と時間は大した長さではないし、検査室に入ったら男性整備士の前で全裸、終わった後も入渠中にタオルは巻かないのだ。どうせこの後一番異性に凝視される場所で隠すことができないのだから、よしんば移動中にすれ違ったタイミングで見られたところで、大したこととは思えない。そもそも裸を見られること自体、戦闘でよほど大きなストレスに晒される立場の私にとっては、そこまで大きな問題ではないのだ。

 断っておくけれど、私には決して露出の性癖があるわけではないし、なんでもかんでも無防備でいて平気なわけでもない。ただ、日頃から職務として我々の身体を見ている整備課の人間相手なら、見られても大して気にならないという謎の安心感がある。これは私に限らず、他の多くの艦娘たちも多かれ少なかれ似たような感覚らしい。

 ロッカーを出てから、前を特段隠すこともなく3階にある検査室まで一度階段を上る。今回は幸い(?) 誰ともすれ違うことなく、目的地へとたどり着いた。ドアをノックし、「護衛艦みらい、入ります」と告げる。「どうぞ」の声を聞いてから、私は扉を開けた。

 ほの暗い室内には既に、大きなモニターが備わった医療用機械とベッドが鎮座していた。待機状態にあるらしいそのモニターの脇に、1人の若い整備士が立っている。その男の正体に、私はすぐに気が付いた。

 「お疲れ様です、みらいさん」

 「お疲れ様、荻島三曹。まさかあなたが今回私の担当だったとはね」

 今回の整備士は、荻島薫三等兵曹。今から2年前、当時の上等水兵に課せられた罰ゲームの一環で、私の入浴シーンをのぞきに来た、あの二等水兵である。あれから2年、彼は当時の行為を敢えて咎めなかった私との約束通り、三等兵曹への昇任試験と整備士の技能試験を立て続けに突破。自身の念願だった艦娘整備士として、新たなキャリアを歩み始めていた。

 「他の艦娘たちから評判は聞いてるわよ。あなたのアドバイス、いつも的を射ていて凄く的確なんだってね。前線で戦っている自分たちですら気づけないようなことにも気づかせてくれるって、みんな評価してるみたいよ」

 「俺は自分なりに思ったことを、そのまま伝えてるだけですよ。評価してもらえるのは嬉しいし、励みになりますけど」

 荻島は笑った。整備士の仕事の意義は、単に艦娘が負ったダメージを分析することだけではなく、そこから得られた情報をもとに「次の戦闘で同じような負傷をしない」ためのコンサルティングやアドバイスをすることにもある。これは海軍内部でも非常に重要な任務とされており、ダメージチェックでフィードバックされた内容は、いわゆる軍令(作戦時の指揮系統)を司る司令官や戦闘オペレーターにも共有される。直接戦闘には関与しないけれども、その意味で艦娘整備士というのは海軍においては重要なポジションの一つなのだ。

 「まぁ、今までいろいろな艦種の艦娘を担当してきましたけど、正直言うとみらいさんを今回担当できるの、俺としては結構楽しみなんですよ。こんな言い方すると、中破を期待してるようでなんだか不謹慎かもしれないですけど」

 「あら、ありがとう。そうなの?」

 「まぁ、俺にとっては初めてのイージス艦娘なんで。帝国海軍出身の艦とは設計思想も違うし、必ずしも今までの常識が全て通じるわけじゃないのは、ちょっと怖さもありますけどね。そこが楽しみでもあります」

 荻島はそう言うと、そこで一瞬私の身体の方に目をやってからちょっと気恥ずかしそうに「それに…、みらいさんの裸を拝めるのは『2年ぶり』ですし」と呟いた。二等水兵だった時と変わらないそのどこか初々しい言動に、思わず私の口から笑みがこぼれた。

 「アハハハ、まぁね。もう『あれ』から2年だもんねぇ。正直あなた、あれからよく頑張ったと思うわよ。結局あれ以来一度も『再犯』せずに、ちゃんとこうして夢を叶えたわけだから。あの時秘密にしておいてよかったわ」

 「あんまり大声では言わないでくださいよ、俺にとっては一応黒歴史なんですから…」

 「別にいいじゃない、そういう意味でも『楽しみ』にしてもらえてるのは、私としては嬉しいのよ?」

 苦い顔をする荻島。そんな彼に対して、私は一転して真面目な表情で告げた。

 「今回の戦闘ではね、本当は私としては中破するほどのダメージを食らうつもりじゃなかったの。にもかかわらず、私の予想を裏切る形でここまで追い込まれた。だから、私としてはちゃんと掘り下げてその原因と、今後の傾向と対策をしっかり知りたいの。この検査は、私にとってはすごく重要なものになると思ってる」

 私の言葉に、荻島も表情を引き締めた。

 「荻島三曹。あなたがあの時の約束を忘れずにここまで来たように、私もあの時の約束を忘れてはいないわ。時間に糸目はつけなくていいから、あなたの気が済むまで調べてほしい。よろしくね」

 

 室内の照明が明るくなり、さっそく目視による身体表面の傷のチェックが始まった。起立の状態で立たされた私の首から下を、荻島が真剣な表情を浮かべながら調べ始める。

 (しかしまぁ、覚悟はしてたけど本当にめちゃくちゃ一生懸命凝視してくるわね)

 私は内心呟いた。本人の顔が完全に仕事モードなのであれだが、間違いなく2年前に入渠をのぞかれた時よりも、私の肢体への視線は強烈に感じられる。「デリカシー?何それ美味しいの?」状態だ。もっとも、それが不快なわけでは別にない。その熱視線が、業務への集中力からくるものなら仕事熱心で結構なことだし、私の女としての魅力が原因ならそれもまたむしろ喜ぶべきことだ。

 思えば艦艇の姿だった頃から、兵装や艦体のフォルムがかっこいいという評価は当時の海自ファンからいただいていたし、艦娘に転生して以降も三種夏服姿がかっこいいと褒めてもらえることがあり、それはそれで嬉しいことではある。ただ、経緯はどうあれせっかく人間の女性の姿に生まれ変われたのなら、そういう部分に一切頼らない素の姿の部分でも魅力的と、私は言われたい。それは、艤装や制服のかっこよさを褒めてもらえるのと同じか、それ以上に嬉しいことだ。

 だから人によってもちろん考え方は様々あるだろうけど、私はこういうシチュエーションでは気を使って目を逸らされるより、素直に食いついてきてくれる方が嬉しい。しかも、どうせならできるだけ一生懸命見ていてくれる方がいい。自分が幸運にも、女性としての魅力あふれる姿に生まれることができたという事実を、再確認させてもらえるから。

 決して露出の趣味はないと言ったけれども、私はそういう相手が望むなら、時間が許す限り喜んで「鑑賞会」の延長に付き合ってあげるだろう。これだけ熱心に見ていてくれるのであれば、さっさと切り上げる方がもったいなくすらある。ここではそれは目的ではなく手段だけれども、少なくとも合法的にそれをやれる空間なのだ。

 と、そんなことを考えていた時に急に荻島が顔を上げた。何事か、という考えが頭に浮かぶまもなく、彼の視線と私の目が合う。

 「あの、みらいさん」

 「どうしたの?」

 私が聞き返したのに対して、荻島は何やら言いにくそうに口を開いた。

 「めちゃくちゃ変なこと聞くようであれなんですけど…、みらいさん、今日って本当に中破して帰ってきてます?」

 「へっ?」

 予想もしなかった問いかけに、思わず目を丸くする。

 「いや、当たり前でしょ。そうじゃなきゃ、わざわざダメージチェックなんて受けに来ないわよ。流石の私でも、いくらあなた相手だからってチェックにかこつけて露出プレイなんかやりに来る趣味はないもの」

 私の言葉に、荻島は「別にそこまでは言ってませんけど…」と頭をかいた。

 「いや、不思議だなと思って。っていうのが、見た感じ表面の傷がまるで見当たらないんですよ。他の艦娘の皆さんは、多かれ少なかれ中破でも痣とか焦げた跡とか作って帰ってくるものですけど」

 あー、なるほどね。そういうことか。まぁ、そういう疑問であれば実はちゃんと理由があるのだ。

 「今回は、中破したとはいっても直撃弾を食らったわけじゃないからね」

 「…、至近弾?」

 「そう、至近弾」

 私は頷いた。今回、いつも通り艦隊防空のため出撃した私の三種夏服をズタズタに切り裂いたのは、敵の戦艦ル級から飛んできて間近で炸裂した至近弾だった。帝国海軍出身の他の艦娘とは違い、設計思想の関係上装甲には重きを置かない私は、敵の射程外からのアウトレンジ攻撃を主体とする。今回も、決して自分は敵から被弾しないはずの距離をとって迎撃に当たっていたはずなのだけど、一瞬のスキを突かれて夾叉されたのだ。曲がりなりにも戦艦の砲撃、直撃していたらひとたまりもなかっただろう。

 「それで中破まで行っちゃったんですか…。話に聞いちゃあいましたけど、流石に装甲薄すぎません?話聞いてるだけで不安になってくるんですけど」

 「装甲を固めたところで、私の場合機動力が落ちるだけだし、そもそもレーダーだって守れないんだから意味ないもの。それに装甲が薄くとも、私の海自仕込みのダメコンは優秀よ?実際、中破してもそこまで攻撃力が落ちることはないしね」

 私の言葉に、荻島は「マジで今までの経験、全く参考にならねぇな」と頭を抱えた。今まで彼が担当してきたのであろう他の艦娘たちも、私が扱うオートメラーラ54口径127㎜単装速射砲をはじめとする、現代兵装へと装備を換装する「現代化改修」を受けているので、装備体系そのものは私と彼女たちでそう変わることはない。ただ、乗っかる装備が変わっても基本的な艦としての設計は別物なので、こういう時には差が顕著に表れるのだろう。

 「実艦と艦娘では違いもあるとはいえ、そういう意味じゃよく帝国海軍出身の人たちに混じれますよね。同じタイプシップの、ゆきなみ型の皆さん同士で固まるならわかりますけど」

 「それが任務だからね、仕方ないわよ。それに、出身が違うとは言っても秋月ちゃんなんかはむしろ合わせやすい部類だし」

 私たちゆきなみ型が着任する以前から、横須賀の艦隊防空の仕事を担っていた秋月型駆逐艦1番艦「秋月」は、火力よりも圧倒的な対空・対潜性能を押し出した戦闘スタイルが、私たちのようなイージス艦と相通じるところがある。今はシースパローやアスロックといったミサイルの類も操り、性能だけ見ればまさに「艦娘に転生した護衛艦あきづき」といった感じだ。この艦隊では彼女の方が先輩なのに、いつも礼儀正しく接してくれて私のことも慕ってくれる、真面目で素直で底抜けにいい子なとても可愛い女の子である。

 「でも、中破する予定じゃなかったのにこうなったっていうのは気になりますね」

 ふと、荻島が真面目な表情で呟いた。

 「自分が装甲薄いの分かってるなら、もちろん敵艦隊からは距離をとって戦ってたわけですよね?」

 「もちろん、それが私のスタイルだから。目視距離では危なっかしくて戦えないし。事前にもらってたデータでは、敵の射程外から攻撃していたはずなのよ」

 「なのに夾叉された?」

 「えぇ」

 私は頷いた。その反応に、荻島の表情がよりシリアスになる。

 「だとしたら、思ったより深刻な事態の可能性がありますね。敵の武装に関するこちらのデータが、役に立ってないということだから」

 「敵の主砲が改良されて、こちらの予想よりも射程が伸びてる可能性がある、と?」

 「もちろんそれもそうですし、こちらのデータにない新兵器の可能性もあります。目視距離で戦ってなかったんなら、みらいさんも相手の装備そのものは視認してないわけでしょ」

 新兵器か。確かに、もしそうだとすれば尋常ならざる事態だ。

 「一度、こちらの手元にあるデータを更新するための、威力偵察の実施が必要かもしれませんね。そこも含めて、後で梅津少将に具申します」

 「そうね、私もそうすべきだと思う。それで、私は次回以降どうすべき?」

 私の問いかけに、荻島はしばし頭をひねった。

 「正直、今の段階では具体的に何かというのは難しいですけど…」

 いや、これだけガン見しといて何もなしは私も困るわよ。仕事の一環でやむを得ないのは分かっているし、裸をガン見されること自体に文句は言わないけれど、とはいえ世の中はギブアンドテイクだ。何かしらの見返りというか、成果は欲しいのだけど。

 「一つ今の段階で指摘するとしたら…、みらいさん、敵艦隊からはどんな感じで位置取りしてましたか?どれくらい距離をとってたか、とか」

 「うーん、敵の射程範囲と範囲外の境界線あたりの、ギリギリ外側くらいだったかな。ミサイルを誘導しないといけないから、あまり離れすぎることもできないし、味方艦隊全体のバランスを考えるとね」

 「なるほど」

 荻島はしばし考えこんだ後、「そしたら、次の戦闘では今回よりもさらに20m後方に下がりましょう」と告げた。

 「20mで足りる?」

 「もちろん、今後の威力偵察の結果次第ではさらに距離を加える必要がありますけど…。今回の位置で夾叉されたなら、それより20m後方ならまず当たらないはずです。それに、20m程度ならミサイルの射程を考えると、微々たる変化ですから」

 まぁ、確かに射程500㎞のトマホークはもちろん、ハープーンですら140㎞先まで飛ばせる代物だしね。20mなんてミサイルからしたらあっという間の距離で、誤差みたいなものだ。射程ぎりぎりで燃料が尽きさえしなければ、の話だけど。

 「もちろん、みらいさんだけが下がると艦隊の陣形に影響が出てしまうので、他の皆さんも含めて今までよりも下がり目の位置取りをすべきでしょうね。現代化改修を経ているとはいっても、今までの癖で皆さん全体的に相手に接近しすぎるところがあるようなので。せっかく今は長射程で攻撃できる能力があるわけだから、それを生かさない手はないと思いますよ」

 荻島はそう話を結んだ。

 

 「みらいさん。艦娘のお1人として、率直なご意見を聞きたいんですけど」

 身体表面の傷のチェックが終わり、フェーズはエコーを使用しての内部の損傷状況のチェックに移行した。うつ伏せでベッドに寝ている私の背中に潤滑剤のジェルが塗られ、その上からエコーマシンを荻島がモニターを見ながら滑らせていく。ジェルはひんやりとして、しかもその上を走る機械は非常にくすぐったい。

 「ん?どうしたの?」

 寝そべったまま、顔だけを彼の方に向ける。

 「ぶっちゃけ、俺らの仕事についてどう思ってます?」

 「別に特段偏見とかはないわよ。艦隊運用を考えるうえでも、大事な仕事でしょ」

 お世辞を言ったつもりはない。あくまでも本心を言っただけだ。実際、こうして検査を受けてみて改めて感じるが、艦娘整備士というのはとんでもなく高度なことをやっている。当人たちはもちろん、実際に戦場に赴くことはない。目の前にいる艦娘が負っている怪我の状況と彼女たちの証言、その2種類の情報だけを頼りに頭の中で大まかに戦況を再現し、それを踏まえて次の戦闘に向けての傾向と対策を伝えなければならないのだ。しかも、実際に出撃した艦娘たちが納得できる程度には正確な水準で。特別技能職の1つとして指定されているのも、もっともだと感じる。しかし。

 「やっぱり、周りからはいろいろと言われることもあるんだ?」

 「えぇ、まぁ」

 荻島は頷いた。

 「もちろん、賛否両論のある役回りなのは知ってましたし、整備士を目指すと決めた頃から覚悟はしてました。ただ、うちの鎮守府にいる女性軍人はなにも艦娘の皆さんだけじゃないんで…。自分たちが真面目に仕事をすればするほど、周りから心無いことを言われる機会も増えるんですよね」

 「そりゃ、ある程度誤解を受けるのは仕方ないんじゃない?仕事のやり方を考えたらさ」

 彼の深刻そうな言葉にも、私はあっけらかんと笑った。荻島が「えっ」という表情で私の方を見る。

 「だって考えてもみなさいよ。横須賀鎮守府に限らない話だけど、そもそも艦娘なんて美人か美少女しかいないのよ。そんな可愛い女の子たちを検査の名目で拘束して、着てるもの全部脱がして素っ裸にして、長時間身体を隅々まで観察するんだから。はたからその様子を見ていたら、その目的や意図を誤解する人が出ても、全く不思議じゃないと思わない?」

 「それは確かに、そう言われてしまうと反論できないですけど…」

 そう答えつつも、流石にショックな様子でがっくりとうなだれる荻島。今まさに自分がチェックを担当している艦娘にそれを言われてしまっては、その反応も当然かもしれない。そんな彼に向かって、私は彼が思いもよらなかったであろう言葉をかけた。

 「でも、当事者の1人として言わせてもらうけど、それの何が悪いわけ?」

 「…、へっ!?」

 予想の斜め上から飛んできた私のカウンターに、荻島が目を丸くする。キツネにつままれた表情の彼に対して、私は思いのたけを畳みかけた。ここからは、私もシリアスモードだ。

 「だってそもそも、あなたたちは私たちにセクハラがしたくてそういうやり方をしてるの?違うわよね?これが『人の姿をとる船』である私たち艦娘の損傷状態を知るうえで、一番合理的なやり方だからでしょ?私たちはそれを分かってるからこそ、こうして一言も文句を言わずにこのやり方に付き合ってあげてるし、それどころか他ならぬ国防海軍が他のやり方を検討しようと声を上げた時に『変えなくていい』と先輩たちがわざわざそれを断ったんじゃない」

 荻島は、あっけにとられた表情で私の言葉を聞いていた。なおも私からの「反撃」は続く。

 「日本国防軍は、軍隊であると同時に役所よ。ここが国の機関である以上、そこで行われることは例外なく全て日本国の意思として起きること。つまり、今の国防海軍であなたたちのやり方が認められているということは、日本国そのものがこのやり方を追認してるってことなのよ。経緯はどうあれね」

 「国が…、認めてる…!?」

 「そうよ。当事者である私たちがこのやり方に合意していて、海軍や国も認めている。だったら、周りが何を言おうと正当性があるのはあなたたちでしょう。外野の雑音なんて気にする必要ないわよ」

 いきなり日本国がどうのという規模が大きな話に発展してしまい、荻島は分かったような分からないような顔で目をぱちくりさせていた。そんな彼の前で大風呂敷を広げてしまったのをいったん落ち着かせようと、私は一度大きく深呼吸をした。

 「まぁでもね、特に人間の女性軍人の皆さんがこのダメージチェックのことで、私たちのことを気にかけて心配してくれてるのも、それはそれでありがたいことなのよ」

 「そうなんですか?」

 「えぇ。人間のようで人間でない私たち艦娘という種族を、単なる人の形をした兵器としてじゃなく、自分たちと同じ心を持った尊厳のある存在として扱ってくれているということだから」

 私たち艦娘は、姿かたちこそ一見人間と全く同じだが、人間には持ちえない力も少なからず持っている。人体には有害なボーキサイトを食べても平気だし(私は好んで食べるわけではないけれど)、耳元で自分の主砲をぶっ放しても鼓膜が破れることはない。艤装をつければ水の上に浮き、戦闘艦としての任務達成の障害となる食欲や排せつといったあらゆる生理現象を、自分の意思で抑制できる力さえ持っている。そもそも生まれるのだって母港の建造ドックにおいてであって、母親のお腹から出てくるわけではないのだ。

 そんな私たちに、人間社会は海軍(必ずしも海軍だけでなく、海兵隊や沿岸警備隊所属である場合もあると聞くけれど)という居場所を与え、特殊戦闘員という肩書を与え、国民としての名前や法的地位、軍の一員として国防任務にあたることを条件とした免税特権さえ与えてくれた。同じ海軍の軍人たちはもちろん、外の世界の人たちだって艦娘だと名乗っても私たちを差別なんかしないし、それどころか「お疲れ様」「いつもありがとう」という言葉さえかけてくれる。それがどれだけ私たちにとって嬉しいことか。

 もちろんそれは、私たちが日々深海棲艦の脅威からその命を守っていることを、彼らが知っているためかもしれない。それとも、私たちがかつて違う姿でこの国の守護神として君臨していたためだろうか。でも理由はどうあれ、この世界に生きる人々が私たちを自らとは違う存在と知りながら、同じように受け入れてくれているのは私たちにとって喜ぶべきことだ。女性軍人の皆さんたちが心配してくれているのだって、きっと「人間の女の子ならこんな事させられない」という純粋な思いからだろう。

 そんな気遣いには心から感謝したうえで、改めて言いたい。「私たちは大丈夫です」と。もし本当に今のやり方に不都合があるなら、彼女たちに心配をかけるまでもなく私たちの方からやめてもらっているはずだ。現状としてそうはなっていないこと、それこそが私たちの出している答えなのである。

 「あなたたちの仕事は、日本国防海軍にとっては必要なものだと思う。実際、今日ここでだって威力偵察の実施とデータ更新の必要性に気が付かせてくれたのは、他ならぬあなたなんだから。他の職種と同じように、これからも私たちが戦い続ける限り、あなたたち艦娘整備士の役割はなくならないわ。だから、あなたは自信をもって胸を張るべきよ」

 私の言葉に、荻島はエコーの機械を握りしめたまま「ありがとうございます」と声を震わせた。その短い言葉には、心からの感謝の念が詰まっていた。自分の仕事をパートナーから肯定され、認められること。それほど、彼にとって意味のあることはないのだろう。私はそんな彼の姿を、笑みを浮かべて頷きながらベッドから見つめていたのだった。

 

 「あの、みらいさん。すみません」

 結局エコー検査でも特段の損傷が確認できず、2つ目のチェックを終えようとしていた時にふと、荻島が私に呼びかけた。

 「どうしたの?」

 「えっと、本当に可能ならでいいんですけど、もうしばらく付き合ってもらえませんか」

 「あれ、まだ何か検査項目残ってたっけ?」

 私が目を丸くしながら聞き返すと、荻島は何やら決まりが悪そうに「いや、検査自体は終わってるんですけど…」と途端に小さな声で呟く。その消え入りそうな声に、反射的に耳を傾けた。

 「そ、その…、せっかくその姿でいてくれてるのに今帰られちゃうの、個人的にめちゃくちゃもったいないんで…」

 どうやら、この手の欲望に素直すぎる発言は私の笑いのツボにクリーンヒットするらしい。今回も当然そうなった。しばしの間、素っ裸のままでその場で笑い転げる私の姿を、荻島がどのような目で見ていたかは分からない。やがて、深呼吸しつつやっとの思いで平静を取り戻すと、私はまだ息が荒いままで彼をからかった。

 「なーんだ、やっぱりあなたもそういう目で私のこと見てたんじゃない、スケベ♪」

 「ウッ」

 軽いノリの言葉もモロにグサッとハートに刺さった様子の荻島を見ながら、私は一転してやれやれといった様子の苦笑いを浮かべてみせた。せっかくいい話で終われそうだったのに、こんな酷いオチが付くなんて。やはりこの世は一筋縄ではいかないのか。

 「まぁ、あなたの気が済むまでやってくれと言ったのは私だしね。それに、あれだけ一生懸命見てくれるって思ったら、こっちもさっさと帰っちゃうの忍びないのよね」

 あくまでもダメージチェックのための手段とはいえ、艦娘の裸を誰にも邪魔されず合法的に堂々と拝めるのは、彼ら整備士の特権のようなものだ。せっかくのその権利を使わないと男としてもったいない対象だと思ってもらえるのは、私としては悪い気はしない。こういう時にそういう目ですら見てもらえない方が、私にとっては悔しいことだから。ここも、人間と艦娘での感覚の違いかもしれないが。思わぬ一言に、荻島が目を丸くした。

 「しょうがない、入渠ドックに空きが出るまでは付き合ってあげるわよ。どうせ私も待ってる間することないし。その代わり、ちゃんと仕事してるふりくらいはしなさいよね」

 というわけでごめんなさい尾栗少佐、彼にはもう少し美味しい思いさせてあげようと思います。2年前、彼の最初で最後ののぞきに付き合ってあげた時、彼が私の身体を見ていた時間は10分ほどだった。今回は既に1時間、あの時と比べて6倍も長い時間が経過している。ここから課業終了まではまだ2時間くらいだ。さて、いつまで続くかな。




この2つの短編、どちらもある意味同じようなシチュエーションのお話になってしまいました。いわゆるCMNFってやつですね。敢えてここではどういう意味かは触れないので、ご存じない方はご自身で調べてみてください。

演出の都合上、前回と今回はみらいにガッツリ脱いでもらいましたが、本来は艦娘は脱がすより勇敢に戦わせる方が好きです(とか言いつつ、本編でも2回くらいヌードシーンありますけど)。実際に艦これをプレーされてる提督の皆さんも、同じ感覚の方が多いとは思いますが。まだ細部が固まってませんが、一般人を観覧でいれた状況での戦闘展示をやる話のアイデアなんかも実はあったりするので、いずれ細部が固まったら書いてみたいですね。それではまたお会いしましょう。


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秋月とみらい

皆様お久しぶりです。久しぶりに外伝に載せたいと思える話を思いついたので、投稿したいと思います。今回は秋月が主人公です。

※本編(無印)で言うと、「第六章:パラダイムシフト(中編その2)」で描かれる現代化改修プロジェクトで、秋月が改修を受けてから演習に臨むまでの間くらいのタイミングのお話になります。
※過去2話とは違い、第三者視点で描いています。

※みらいも出てきますが、今回は脱ぎません。
 繰り返します。みらいは脱ぎません(大事なことなので2回言いました)。


 早朝。総員起こしのラッパが鳴り響いてから間もない鎮守府の一角で、朝の海辺の寒さにも負けず人を待つ一人の少女の姿があった。そのいでたちは白と濃い灰色を基調とした、セーラー服姿。見た目から推察される年齢は、大体中学生くらいだろうか(もっとも実際のところ、彼女のような存在に対してこのような推測は、あまり意味を持たないのだが)。まだ時間帯的にも周りに人は少なく、その姿は傍目には色合いに反してやけに目立つ。

 やがて少女の目に、「お目当て」の人物の姿が映った。岸壁の向こう側から歩いてきたその2人が、少女に気づいて向こうから手を振ってくる。間違いなく、少女が出会うのを待っていた2人組だ。それぞれ、和のテイストを醸し出す白い巫女服と、少女自身も身に着けることのあるこれまた白い海軍制服がトレードマークの、彼女にとっての憧れの存在でもある綺麗なお姉さんたち。

 「Hey, アッキー! Good morning!」

 「おはよう、今日もお互い朝早いわね」

 巫女服のお姉さんが、人懐っこい満面の笑みを浮かべながらブンブンと手を振り、連れ立っている海軍服姿の女性もフレンドリーな笑みを浮かべて語りかけてくる。その、事前にある程度は予期していた通りの反応にどこか安堵しながら、アッキーと呼ばれたその少女、秋月型防空駆逐艦1番艦「秋月」はこれまたいつも通り、恭しく頭を下げるのだった。

 「おはようございます。金剛さん、みらいさん」

 

 3人が所属する、ここ日本国防海軍横須賀鎮守府。みらいをはじめとする、ゆきなみ型3姉妹と秋月が顔を初めて合わせたのは、3人の着任セレモニー直前に行われた顔合わせにおいてだ。この鎮守府における最古参である、金剛型戦艦1番艦「金剛」に引き連れられて自室にやってきた、見慣れない艦娘3人組への第一印象は、「大人っぽくて綺麗な人たちだなぁ」というものだった。

 彼女たちが名乗った、「ゆきなみ型ヘリコプター搭載イージス護衛艦」という聞きなれない艦種名や艦級名には、正直言ってその時はあまりピンとは来なかった。だが、彼女たちが自分と同じく艦隊防空を得意とする船であること、そしてこの3人が身にまとう、それまでに自分が出会った艦娘たちとはどこか違った空気感だけは、強く印象に残ったのは事実だ。

 そんな3姉妹への見方がガラリと変わったのは、舞鶴で彼女たちが初めて戦闘演習を実施した時の映像を、他の艦娘たちと一緒に見せられた時のこと。

 正直に言えば、彼女たちの演習相手が川内型軽巡洋艦3姉妹と一航戦コンビに決まったと知らされた時、「やけに最初からハードルを上げるな」と秋月は内心感じたものだった。川内型も一航戦も、いずれも横須賀鎮守府では主戦力として確固たる地位を築く猛者揃い。本来なら、まだ実戦に出てすらいない新人にあてがうような陣容ではない。特に一航戦コンビの実力は、防空駆逐艦である秋月にとっては身に染みたものでもあった。

 元々備えていた天才的な対空戦闘能力と、着任してからずっと続けてきたたゆまぬ練度向上の努力(秋月の魅力は、いついかなる時でも向上しようとし続けることができる、その真面目さにある)の甲斐あって、秋月は着任以来ずっとバディを組んできた高雄型重巡洋艦3番艦「摩耶」ともども、たいていの空母相手なら最早相手にならないほどの、圧倒的な実力をやがて手にするようになった。川内型3姉妹がそれぞれ率いる水雷戦隊において、「殴り込み部隊」の旗艦としての地位を確立しているのと同じように、摩耶と秋月もまた対空戦においては右に出る者がいないと言われるほどの存在に、いつしかなっていたのだ。

 その2人を以てしても、いまだ芳しい成績を残すには至らない数少ない空母こそ、一航戦こと第一航空戦隊を構成する「赤城」と「加賀」の両名なのである。かつて、艦艇の姿だった頃から大日本帝国海軍においては看板戦力の一角であったこの2人だが、その後身にあたるここ日本国防海軍でもやはり金剛に匹敵する古参で、「人外」とさえ恐れられる練度を演習でも実戦でもいかんなく発揮してきた。

 秋月たちの実力が伸びた今でこそ、一航戦相手でもある程度互角と呼べるレベルには近づきつつあるが、着任当初は何度挑んでもまるで歯が立たず、どれだけ涙をのんだかしれない。まさに摩耶と秋月のコンビにとって、一航戦は乗り越えるべき高い壁であったわけだ。

 そんな彼女たちをいきなり演習相手にあてがわれたわけだから、いくら「大丈夫」が口癖なポジティブ思考の秋月と言えど、先行きに一抹の不安を感じたのは当然のことだろう。もちろん同時に、この見慣れぬ艤装を背負う新しい艦娘がどのような戦闘を見せるのかにも、興味がわいていたのは事実だ。そんな、相反する2つの感情の間で揺れ動きながら見届けた彼女たちの戦いぶりは…。

 

 衝撃だった。もはや、目の前で何が起きているのかすら理解できないレベルの。

 

 経験豊富な川内型3姉妹の砲撃を、全て余裕の笑みさえ浮かべながら躱しきる圧倒的な機動力。たった一門しかない主砲から放たれる、1発につき1機の航空機を叩き落せるほど正確で、連射能力も尋常ではない砲撃。背中に背負ったコンテナが放つ、空中を素早く飛翔し敵機に襲い掛かる白い魔弾や、パラシュートと一緒に空中を舞う空飛ぶ魚雷。どれもこれも、それまで秋月が見たことも聞いたこともない、想像すらつかないような代物だったのだ。これは本当に自分と同じ艦娘が戦っているのか、とさえ疑ったほどだ。

 とりわけ、一航戦コンビが登場した後半戦での戦いは、同じ防空艦である秋月にとっては衝撃そのものだった。艦隊の主戦力としての地位を確固たるものにした今でさえ、演習でほぼ互角には戦えても自分たちでさえ圧倒することなどできない怪物・一航戦コンビを、まだ実戦に出てすらいない新人がそれも初見で一方的に押し込んでいるのだ。あまりの衝撃に、現地で見学していた友人たちは眼前の光景を理解できずに失神しかけたらしい。おそらく、秋月も現地で目撃していたなら同じことになっていただろう。

 だがやがて、秋月がその戦闘を見る目は驚嘆から彼女たちへの羨望へと変わっていった。そのきっかけは、ギャラリー誰もが絶句するようなあり得ない戦いぶりを繰り広げる当事者たちが、涼しい顔で戦い続けていることに気が付いたことだ。第三者の目から見れば常識外れでも、戦っている彼女たちからすればごく自然なものであるらしかった。

 もちろん艦娘としての戦闘経験やそれによって得られる練度で言えば、いずれも百戦錬磨の川内型や一航戦の方が、当時のゆきなみ型よりも圧倒的に上のはずだ。だがこの演習を見る限り、この全く新しい艦娘3姉妹は練度という次元で戦ってなどいなかった。そもそも、積んでいる基礎的なスペックが我々とは完全に別の次元なのだ。それも、あの一航戦でさえも歯牙にかけないレベルで。

 そんな思考を正確に言語化できていたかはともかく、秋月はゆきなみ型3姉妹の鮮やかな戦いぶりに、いつしか感動を覚えるようになった。凄い、こんな戦いができる艦娘がまさか実在するなんて。この人たちのことをもっと知りたい。そして、この人たちのように自分も強くなりたい。

 舞鶴での演習後、幸運にもこの3姉妹と満州への船団護衛任務で一緒になった際、そんな純粋な思いを秋月は彼女たちに素直にぶつけた。そして、3姉妹から返って来た反応はいたって好意的なものだった。優れた戦闘能力の持ち主である彼女たちは、1人の女性としても素晴らしい人格の持ち主でもあったのだ。

 中でも、特に秋月に優しくしてくれたのが末っ子のみらいだ。演習では特に川内型に対して挑発的な姿も見せていた彼女だが、話してみると正体は明るく気さくでフレンドリー。同じ場を共有できることからくる興奮のせいか、時折拙くなる自分の話にもにこやかかつ真摯に耳を傾けてくれる、とても優しいお姉さんだった(あれは演習で勝つための戦略上やむを得ずやったことで、素の姿はこっちなのよ、と本人は苦笑いしていたが)。

 艦娘としての鮮やかすぎるほどの戦闘能力と、女性としての魅力を兼ね備えるみらいと話し込むうち、秋月が(本来第1艦隊では自分の方が先輩であるにもかかわらず)同じ防空艦としていつしか彼女を慕うようになるのは、自然な帰結だったかもしれない。

 

 「お2人とも、普段からよく一緒にいらっしゃいますよね」

 一緒に連れ立って歩きながら、秋月がみらいに話しかける。この日みらいと金剛は、鎮守府内を一周する恒例の早朝ウォーキングの真っ最中だった。みらいたちの着任前、金剛がたまたまみらいに声をかけて2人で始めたものだ。歩くコースや時間は大体いつも一定なので、普段の傾向を知っていれば捕まえるのはそれなりに容易いものではある。今日は、秋月もそれに飛び入りで参加した形になっている。

 「そうねぇ、金剛は横須賀鎮守府で初めてできた友達だし、ずっと色々とよくしてもらってるからね。確かに一緒にいる機会多いかも」

 「えへへ、仲良しさんだヨー♪」

 みらいの言葉に呼応して、足を止めた金剛が満面の笑みを浮かべながら彼女に抱き着く。その姿は、まるで飼い主に無邪気にじゃれつく大型犬か何かのようだ。2人とも鎮守府でも屈指の美形なので、一緒にいるとその様子はやたら絵になる。

 抱き着かれたみらいの方も、「うわっ、びっくりした」と口では言いながらも、特にそれを嫌がる素振りなどは見せない。日頃から「同じ鎮守府で生きる者はみんな友達」と言ってはばからず、他人と仲良くなることにかけては誰が相手でも天才的な才能を発揮する金剛だが、この護衛艦ともうわべだけではなく、本当に仲が良いのだろう。

 「それにしても秋月ちゃん、ずっとあそこに立ってて寒くなかった?私たちのこと、わざわざ待っててくれてたんでしょ?」

 「はい、大丈夫です。お2人とも大体あれくらいの時間に来られるかな、という目星はついていたので」

 みらいの問いかけに秋月が答える。

 「まさかあそこで秋月ちゃんが待ってるとは思わなかったけどねぇ。元々あなたはこっちから誘ったわけじゃなかったし。もちろん、飛び入り参加は大歓迎だけどね」

 「私は、アッキーなら何となくこういうことやりそうな感じすると思ってたヨ。アッキーもみらいのこと大好きだもんネー」

 みらいから腕を振りほどいた金剛が、ニコニコしながら今度は秋月をからかう。それに呼応するように、みらいも相好を崩した。

 「あら、そうなの?嬉しいこと言ってくれるじゃない♪」

 「えっ!?あ、えーと、その…」

 突然の予想もしないブッコみに慌てたのと、事実をいきなり指摘されて面食らったのとで、とたんに秋月は赤面しつつしどろもどろになる。

 「き、嫌いというわけではもちろんま、全くないんですけど…」

 「ないんですけど?」

 お姉さん2人が、ちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべながらわざとらしく首を傾げる。その反応に、早朝からますます秋月の顔が赤くなった。

 「ご、ご本人の前でそういうことをあけすけに言われるのは、は、恥ずかしいです…」

 そのピュアさ全開の返答に、金剛とみらいは思わず「可愛い…」と揃って呟いた。この純粋で嘘がつけず、人を疑うことも知らない性格故に、秋月は時折こうしてからかわれつつも鎮守府の誰からも愛されている。真面目で素直で礼儀正しく、健気で何事にも一生懸命な頑張り屋とくれば、とりわけ金剛やみらいのような面倒見の良いお姉さんからすると、可愛がらずにはいられなくなるタイプなのだろう。

 「もう、アッキーは本当素直で可愛いネー♪」

 金剛が満面の笑みを浮かべながら、秋月の頭をわしゃわしゃと撫でる。「第六十一駆逐隊」の文字が入った額のペンネントが、その弾みでズレそうになった。

 「あうう、あんまりからかわないでくださいよぉ…」

 頭を撫でられるのは嫌がらないながらも、真っ赤になりながら俯く秋月。素直な性格の持ち主と知っているとはいえ、想定していたよりもガチな反応を返すその姿に、みらいは思わず苦笑いを浮かべた。

 「ごめんね、からかったりして。いきなり私の前でそんなこと言われたら気まずいわよね」

 秋月が黙ったまま一度頷く。

 「でも、そんなに恥ずかしがらなくても大丈夫よ。どんな理由であれ好きって言ってもらえるのは、私は嬉しいから。ありがとうね」

 「私からもごめんネ」

 「は、はい…。ありがとうございます」

 2人からの謝罪を受け入れ、こちらも素直に頭を下げる秋月。そんな彼女に、みらいはふと話題を変えるように問いかけた。

 「ところで、何でわざわざあんなところで私たちを待ってたの?もしかして、何か私たちにもっと大事な話とかあったんじゃない?」

 「へ?あぁ、えぇと、はい」

 唐突な話題転換に少々戸惑いながらも、秋月は姿勢を正してみらいの顔を見据えた。その表情が、一転していつもの真面目なものに変わる。

 「実は、同じ防空艦としてみらいさんに是非、教えていただきたいことがありまして」

 「教えてほしいこと?」

 「はい。戦闘時の武器選択と目標の脅威度判定について、イージス艦であるゆきなみ型の皆さんがどのようにやられているのかを、お聞きしたいんです。私も、現代化改修でミサイルを運用できるようになったので、少しでも知恵を取り入れたくて」

 その言葉に、みらいは興味深そうに「ほう」という表情を浮かべた。ちょうどこの頃、横須賀鎮守府では旧来の艦娘たちに現代兵装を搭載する、「現代化改修プロジェクト」が進んでいた。秋月自身も、みらいと同様にシースパローやアスロックといった各種ミサイルを積み、性能的には「艦娘の姿になった護衛艦あきづき」と呼んでも差し支えないスペックを手にしたばかりだった。

 それにしても流石、仕事への真面目さがトレードマークの艦娘だ。これまた思っていたより「ガチ」な質問である。

 「うーん、そうねぇ…」

 しばし思案する彼女の顔を、秋月は内心ワクワクしながらも黙ってじっと見つめる。金剛もお互いの様子に興味津々だ。やがて、みらいは何かを決心したように一人頷くと、秋月に視線を向けた。

 「うん、いいわよ。私の説明で、正直どこまで参考になるかは分からないけど」

 「本当ですか!?」

 「もちろん。私も、仲間の相談には基本的に乗ってあげたいもの。でも、正直言って立ち話でするような話題でもないのよねぇ」

 みらいは思案顔でそこまで言うと、笑みを浮かべながらこう続けた。

 「というわけで、これが終わったら一緒に朝ご飯行きましょ。秋月ちゃんも今日は確か非番よね?」

 

 24時間365日、国防の最前線で稼働し続けることが求められる日本国防海軍では、戦闘員たる艦娘も後方支援を担当する人間の軍人も、部隊の別を問わず出勤すべき日がカレンダー通りではないシフト勤務が通例である。ちなみに他軍種では、独自の艦隊を運用する海兵隊も、この点については全く同じ。陸軍と空軍は自衛隊と同様に月~金の勤務で、上官に許可された者のみが週末に営外に出られる、というシステムを採っている。

 この日、秋月とみらいは幸運にも非番で、一日中一緒にいることも可能なタイミングだった。出撃予定こそないものの、訓練のため上番が必要な金剛と別れた後(出勤予定者は食事に長々と時間をかけるわけにいかないので、同じ鎮守府内でも出勤する者と休みを取る者では、必然的に食事は別行動となるのだ)、2人の防空艦娘はトレーに乗せられた朝食を手に、食堂内の一角にある座席に腰を下ろした。この日の朝食は白米に豆腐とわかめの味噌汁、焼き魚とだし巻き卵に漬物。典型的な日本食の朝ごはんだ。

 「で、聞きたかったのは戦闘時の武器選択と目標の脅威度判定について、だっけ」

 食べ始めてすぐ、みらいが秋月に問いかける。

 「はい!!イージス艦の皆さんが、どういう風にやられているのかを詳しく知りたいんです。私、今までミサイルの運用は全くやったことがないので、ゆきなみ型の皆さんにお聞きするしか方法がないですし」

 「どういう風に、か…。もう少し具体的に言うと?」

 「皆さんは、目標を捕捉してから攻撃準備を完了させるまでが、物凄く速いじゃないですか。どうやったらあんなにスムーズに動けるんだろうって、ずっと知りたくて」

 秋月の返答に、みらいはしばし何事かを考えこむ仕草を見せた。その様子を、また内心ワクワクしながら見つめる秋月。だが、やがて口を開いたみらいが投げかけた答えは、秋月が予想していたものとは違っていた。

 「うーん…。そういうことであればさっきも言ったけど、やっぱりあまり参考にはならないかもしれないわね。私たちの場合、基本的に武器の選択や脅威度判定を自分でやってるわけじゃないから」

 「えっ…?」

 秋月は、想像もしない答えにピンとこず、首を傾げた。

 「自分でやっていないって、どういうことですか…?」

 「詳しく説明すると難しい話なんだけどね…。私たちの場合、武器の管制方法が大きく分けて3つあってね。普段はその中で、『セミオート』と呼ばれるモードを主に使っているの」

 「セミオート?」

 「簡単に言うと、発射のタイミングだけは自分でコントロールするけど、目標の捕捉から脅威度の判定、武器の選択、照準を合わせるところまでの段階は、全部イージスシステムが勝手にやってくれる、という方法よ」

 「全部システム任せなんですか!?」

 秋月は目を丸くした。

 「そういうこと。戦闘の時はそうするのが、一番スムーズに対応できるし効率がいいから。発射まで全自動でやってくれる『オート』モードもあるけど、自分の意思に関係なく勝手にどんどん弾薬を消費しちゃうケースもあるから、補給が大変なのよね」

 「じゃあ、逆に今までの私たちみたいに、全部手動でやる方法もあるってことなんですか?」

 「『マニュアル』モードね、あるわよ。艦艇だった時に使ったこともあるし。ただ、全部自分でやるとどうしても反応速度が一番遅くなるから、私は出来るだけ使いたくないし、今は戦闘ではあまり使わないようにしてるのよね」

 みらいによる実戦でのマニュアル射撃と言えば、サミュエル・D・ハットン中佐率いる空母ワスプ航空隊との対空戦闘、いわゆる「1対40」が有名だろう。反応速度が一番遅いとは言っても、基礎的なスペックが太平洋戦争中の機体とは雲泥の差であるイージス艦は、それでもなお圧倒的な実力差をアメリカ海軍に見せつけた。少なくとも途中までは、たった1隻の巡洋艦(彼らの目から見れば)相手に、40機の空母艦載機がまるで歯が立たなかったのだ。

 だが、生身の人間の反応速度に頼るが故の対応の遅さ、そして本当の戦場というものを知らず、専守防衛の原則に縛られて訓練を積んできた自衛官としての限界が生み出した一瞬のスキを突かれ、装甲の薄いみらいは一矢を報いたハットン機に多くの乗員を奪われることとなった。その悲しい記憶を艦娘となった今なお持ち続けているからこそ、現在のみらいはマニュアル射撃といういわば「舐めプ」を意図的に忌避するようになったのだ…、演習での戦略上、やむを得ない場合を除けば。

 「秋月ちゃんは、私たちの実戦での武器選択や脅威度判定が尋常じゃなく速いから、どうやってるのか知りたくて聞いてくれたんだけど、処理速度が速いのはある意味当たり前なのよ。機械が代わりにやってくれてるわけだから。多分、マニュアルでやったら私たちだって同じような速度では対応できないと思う」

 「そう、なんですか…」

 「もちろん、秋月ちゃんも新しいシステムを現代化改修で積んだから、それを使えば今後は間違いなく処理速度は上がるわよ。なんだっけ、FCS-3A?」

 みらいの問いかけに、秋月が頷く。

 「まぁお互い、攻撃のやり方そのものは防空システムとして共通する部分もあるけど、コンセプトからして全く別物だから。運用思想が違う以上、同じミサイル艦と言っても私たちに聞いたところで、参考にできる情報を共有するのは難しいかもしれないわね」

 残念な結果に、秋月はがっくりと肩を落とした。立場上は後輩とはいえ、同じ艦隊防空を司る艦娘としてその実力を誰よりも尊敬し、憧れる相手。そんなみらいが一緒に実戦に出るようになってから、主力武器が「長10㎝砲」や「25㎜対空機銃」だった当時の自分は、最新鋭の現代兵器を駆使する彼女にはとても敵わないな、と感じさせられる場面も多かった。

 そんな自分が、現代化改修を経てシースパローやアスロック、SM-2などの真新しい弾頭を手に入れた時、「これでみらいさんにもっと近づける、自分もみらいさんのようになれる」と、彼女は大いに喜んだものだ。自分の艤装ではサイズが小さすぎたのと、イージスシステムそのものが複雑すぎて新規に艦娘サイズに落とし込んだバージョンが作れなかったことで、自分自身はイージスシステムを積むことは叶わなかったが、それでも優秀な対空戦闘システムを代わりに搭載できたことは、喜ぶべきことには違いなかった。だが、結果的に「イージス艦になれなかった」ことは、予想以上に影響が大きかったらしい。武器選択や脅威度判定のやり方さえ、参考にすることができないなんて。

 「ごめんね、せっかくこれを聞きたくて、朝早くから寒い中待っててくれたのにね」

 みらいが、申し訳なさそうな顔で声をかける。こういう時、みらいは相手が秋月であろうがなかろうが、相手のことをきちんと慮ることができる優しい人だ。彼女と日々付き合う中で、秋月はそのことをよく知っている。だから自然と、彼女を心配させまいと秋月も振る舞った。他人のことを考えて動けるという意味では、秋月もまた同じなのだ。

 「いえ、大丈夫です。イージスシステムの話、普段は聞けないことを色々と教えていただけたので、勉強になりました。ありがとうございます」

 礼儀正しく頭を下げる秋月。その姿に、みらいは微笑みを浮かべた。

 「でも、一応後輩の私が言うのもなんだけど、秋月ちゃんは本当に凄いと思う」

 「へっ!?いやいや、そんな…。みらいさんと比べたら全然…」

 思いがけない言葉に、秋月は慌ててかぶりを振った。

 「謙遜しなくたっていいわよ。そりゃ確かに、たまたま船として建造された時代が違うから、兵器のスペックは私の方が上なのかもしれないけど。艦娘として少しでもより強くなりたい、向上したい、日本のために尽くしたいっていう気持ちを、あなたからは物凄く感じるの。そういう部分では、私だって敵わないかなって思うもの」

 みらいの言葉に、秋月は恐縮しきりだった。傍目に見れば、みらいのセリフは結構クサいものにも聞こえるが、それを嫌味なく言えてしまうのはその人柄のおかげか、それともこの涼しげな美貌のおかげだろうか。

 「実際この第1艦隊でだって、私たちが来る前からあなたは摩耶さんともどもずっと対空戦の要だったし、私たちが着任してからもなんだかんだ言って、前線から外されることなんて一切ないじゃない?」

 「そんな、買いかぶりすぎですよ。私なんてまだまだ」

 「そんなことないわよ。実力がまだまだの艦娘を前線に置いたままにしておくほど、国防海軍だって甘いもんじゃないでしょ?まだ着任して数か月の私だって、それくらいは分かるわよ。あなたのことはそれだけみんな評価してるんだから、もっと自信持って胸張ってもいいんじゃない?もちろん、向上心を忘れてないのはいいことだけどね」

 この瞬間、本来の今日最大のミッションを達成できなかったことなど、秋月の頭からは吹っ飛んだ。みらいから直接こう言ってもらえたこと(その口調から、お世辞で言っているわけではないことはすぐに分かった)は、彼女にとってはそんなことよりも遥かに大切で、光栄で、喜ぶべきことだったのだ。

 「あ、ありがとうございます、みらいさん!!」

 思わず立ち上がりながら大声をあげてしまい、周りの目が一気にこちらに向く。それに気づいたみらいが、苦笑いしながら秋月に着席を促した。ハッとした秋月は周囲に対して慌てて頭を下げると、急いで席に腰を下ろす。

 「そういえば秋月ちゃん。全然話は変わるけど、最近ご飯はちゃんと食べてるの?」

 場の空気を何とか変えようとしてか、みらいが話題を変えて秋月に問いかける。

 「朝はこうしてちゃんと出していただいたものを食べてますけど…。昼はどうしても仕事優先なので、たいてい戦闘糧食のおにぎりで済ませちゃいますね」

 「夜は?」

 「夜はその分豪華にしてますよ!!麦飯に沢庵、牛缶に…」

 「牛缶に、お味噌汁だっけ」

 秋月が言い終わる前に自分で続きを言ってしまってから、みらいは食事の手も止めたまま一度ため息をつき、黙り込んでしまった。その反応にきょとんとする秋月。

 「そういえば、船団護衛で一緒に満州に行った時もそんなこと言ってたわよね…」

 「な、何か私、問題あることでも言いましたか…?」

 「問題があるというか…、『豪華』の水準があまりにも低すぎるのよね」

 「そう、なんですかね…?」

 秋月は首を傾げた。確かに、みらいたちが着任する以前から、自分の食事している光景を見て首を傾げたり、不思議そうな顔をしたりする艦娘たちは少なからずいた。そんな周囲の反応が、秋月にはどうもピンと来なかった。艦艇の姿で活躍していた当時、既に日本が食糧難の時代に突入しつつあった彼女にとっては、質素倹約は当たり前の思考だったのだ。

 だから時代が過ぎ、現代において艦娘に転生して以降も、秋月にとっては自分が贅沢をするなんてことは、とても考えられなかった。周りから見れば質素に見えるのかもしれない食事こそが、彼女からすれば自分の身の丈に合っていて安心できるものなのだ。それが故だろうか、この時代に生きる普通の日本人なら誰でも知っている料理すら、彼女にとっては縁遠いものが少なからずあった。

 「例えばさ、秋月ちゃんはカツカレーって食べたことある?」

 「カツカレー…?ここの食堂のカレーは、金曜日にいつも食べていますけど…」

 「ここの食堂だと出てこないのよね…。私もこの間上陸(外出)した時に初めて存在を知ったんだけど、カレーライスの上にトンカツが乗って出てくるの」

 「カレーライスの上にトンカツが…!?どっちも豪華なご飯じゃないですか!!それが一緒に出てくるなんて、見たことも聞いたこともないです!!」

 秋月は目を丸くした。その反応に、また苦笑いするみらい。質素な暮らしが身上の秋月から見れば豪華な食事に聞こえるのかもしれないが、カツカレーなんて地元の定食屋やチェーンの蕎麦屋で、1000円弱も出せば誰でも気軽に食べられるような、庶民の味にすぎない。それでさえ、秋月にとっては想像もつかないような、雲の上の世界の食事なのだ。

 「秋月ちゃん、そしたら後で一緒に外出許可取りに行きましょ。今日ちょうど金曜日だし、お昼は外のカレー屋さんに連れて行ってあげる。もちろんここのカレーも美味しくて大好きだけど、美味しいカツカレーが食べられるところ知ってるの。私のおごりでいいからさ」

 「えええええ!?」

 予想もしないみらいからの申し出に、またまた目を丸くする秋月。思わずまた素っ頓狂な大声をあげてしまい、再び周りの視線がこちらに集中する。それに対して申し訳なさそうに頭を下げた後、秋月はみらいに向かってしどろもどろになりながらもかぶりを振った。

 「いや、そんな、みらいさんにわざわざおごっていただくなんて、申し訳ないというか…」

 「申し訳ないなんて、そんなの気にしなくていいのよ。私が秋月ちゃんと食べに行きたくて誘ってるんだから」

 みらいは笑いながらそう言うと、ふと真面目な表情で続けた。

 「これはあくまでも、私の個人的な考えだけどね。私たちが任されてる艦隊防空の仕事って、長時間にわたって高度な集中力を維持することが求められるでしょ?」

 「確かに、そうですね」

 「ってことはさ、私たちほどしっかりとした食事でのエネルギー補給が大事なポジションってないと思わない?仕事への活力って、結局食事でしか得られないものだから。私たちにとってはさ…」

 みらいはそこまで口にしてからいったん言葉を切ると、秋月の顔をしっかりと見据えた。

 「ちゃんと食べるべきものを食べることも、任務の一部だと思うのよね」

 秋月は、その言葉にハッとした表情を浮かべた。みらいが言葉を続ける。

 「もちろん、秋月ちゃんは艦艇だった時に活躍していた時期が時期だから、質素倹約が当たり前になっちゃってるんだろうなっていうのは、ここ数か月付き合ってきて何となく分かるわよ。すぐに『自分なんて』って卑下しちゃうのも、多分そういうところよね?」

 図星だった。ドンピシャで言い当てられて何も言葉を発せない秋月を尻目に、みらいの言はさらに続く。

 「でも、私は自分が船の姿だった時代のことにとらわれすぎるのは、よくないことだと思ってる。私たちが艦娘となった今一番考えなきゃいけないことは、目の前にある戦いに勝つためには何をすべきかだから。私も船としては一度沈んだ身、『あの時』と全く同じことを繰り返していたら、また当時の二の舞になる気がするのよね」

 「大事なのは、今…」

 秋月は、小さな声でその言葉を繰り返した。その言葉は、今まであまり自分自身は考えたことのないものだった。だが、確かに言われてみればその通りなのかもしれない。秋月自身も、1944年10月25日のレイテ沖海戦で船として轟沈を経験した身だ。空母「瑞鶴」を護衛していた際の、アメリカ海軍のヘルダイバーによる急降下爆撃。あの時、自分の乗員が事前に満足な補給を受けられていたか否かは分からないが、もし仮にスキを突かれた一因がそこにあったのだとしたら…。

 「それにさ、仮にイージスシステムを積んでなくて、システム的に私と全く同じことが出来なかったとしても、少なくとも同じ艦娘としてこうやって同じご飯を食べることはできるでしょ?私みたいになりたいなら、そこから始めてみるのも悪くないんじゃない?」

 みらいが白い歯を見せて笑う。その表情に、秋月も笑みをこぼした。やっぱり、みらいさんは一緒にいて楽しいと思える人だ。時折見せるその奇想天外な戦法には驚かされることも少なくないけれど、戦場では物凄く強い。でも、戦いの場を離れると明るく気さくで優しくて、いつでもこうやって自分の話を聞いてくれて、そして一本芯の通った自分なりの考えをしっかりと語ったりもしてくれる。横須賀鎮守府では基本的に自分には優しくしてくれる人が多いけど、その中でもこういう人と仲良くなれて、本当によかったなと思う。

 多分、人から褒められた時にすぐに一歩引いてしまうのは自分の性格的なものなので、これからもそこはすぐには変わらないのだろうと秋月は思う。でも、食生活については少しずつでも変える努力をしてみてもいいのかもしれない。艦娘としてより強くなりたいという、自分自身の思いを叶えるためにも。

 「ありがとうございます。そういうことであれば、是非ご一緒したいです」

 「決まりね。じゃあ、食べ終わったらさっそく総務課に行って書類取ってきましょ」

 「フフッ、朝ごはん食べ終わったばっかりなのに、もうお昼の話してるなんて2人とも気が早いですね」

 秋月のその言葉に、明るく笑いあう2人。秋月はみらいとの交流をより深めあいながら、週明けに控えている舞鶴鎮守府での対空戦闘演習に向け、決意を新たにしたのだった。




鎮守府のイージスの世界観では、みらいと金剛は大の仲良しです。みらいと秋月も大の仲良しです。そして、いずれも横須賀鎮守府にはみらいより先に着任しており、お互いに付き合いの長い金剛と秋月も(今作でもそこまではっきりとは描かれてませんが)仲はいい設定です。

金剛って人懐っこくて仲間のことが分け隔てなく大好きなタイプというイメージなので、秋月みたいな素直で裏表のない子は好きだと思うんですよね。あまりこの組み合わせのカップリングって書かれること多くないですが。多分、実艦の方の活動時期もそこまでかぶってないでしょうし(ちゃんと調べたわけではないですが)。

今作の秋月の「みらい大好き」ネタ、艦隊防空についての話、質素すぎる食事ネタと秋月がらみで書ける話の要素は大体盛り込めたのかなと思います。ずっと仕事が忙しくなかなか時間が取れなかったのですが、久しぶりに書いていて楽しかったです。それではまたお会いしましょう。


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