『存在』と『虚無』の力は神をも屠る(更新停止、凍結中&新シリーズ作成中)。 (狩村 花蓮)
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『存在』と『虚無』の力は神をも屠る オリジナルキャラクター設定集(変更や追加あり)

キャラクター設定集です。今回はオリジナルキャラクターのみの設定集となっています。原作勢はもう少しお待ちください。なお、オリジナル要素が多く出てきます。本編でいまだに使用されていないものや深く語られていないこと、本編で一度も明記されていないことまで明記されていますので、
ネタバレしたくない方はご覧にならないことをお勧めします。逆に今までの話を読んでてよくわからないという方やネタバレオッケーという方はぜひ見て行っていただけると嬉しいです。・・・・・・・・実際、駄作者の頭の中の漠然な設定を書く起こしているだけですので
これを読んでなおさらわからなくなったというのは無きにしも非ずですが・・・・・・・・とにかく、呼んでいただける御時間があるのでしたら、ぜひ読んでいただけると嬉しいです。

2021/12/05 真由美とユーマの技能の欄を修正、新技能を加筆


 

主人公(オリ主)side

 

・真城悠馬 18歳 男 身長:182cm 

 

少し都会に住んでいる、勉強もスポーツもでき、喧嘩も強いという万能系一般オタク。だが本人は超がつくほどの不幸体質。そこらへんで少しこけると、”不幸なことに”目の前にあった電柱に頭をぶつけて

 

”不幸なことに”打ち所が悪く病院のお世話になるとかいう負のコンボが決まるほどである。父親は有名IT企業の専務、母親は元有名ファッションデザイナーで現在は専業主婦。

 

夏休み終盤、両親の乗る飛行機がなぞの不時着事故を起こして両親は死んでしまった。その後、”不運なことに”学校にて爆弾テロに巻き込まれ、クラスメイトを助けるために奔走の後、命を落とす。

 

見た目は細マッチョ、黒髪で、左手には小さいころに料理の練習中、包丁でざっくりと切ってしまった切り傷の跡が残っている。右利き。アニメや小説、漫画などの文化に目がなく、部活をやらずに

 

そちらを優先するほど。しかし、頭の良さは随一で、学校の定期考査では常にトップ5入りしているほどの秀才である。本人曰く、将来苦労したくないから今のうちに努力する、とのこと。

 

人当たりは好く、学校随一のお人よしとも呼ばれ、クラスメイト、同級生だけではなく、後輩や教師からも好評である。なお人並みに恋愛には興味があるようで、命を落とす要因になった

 

助けたクラスメイトの女子は彼が片思いしている女性なんだとか。

__________________________

 

・ゼウス 年齢不明 男・神 身長不明

 

オリ主の魂を輪廻転生の輪から回収し、転生させた張本人。その正体は全知全能の神、ゼウス。全知全能をうたっておきながら人間が作る娯楽には目がないようで

 

オリ主を転生させた理由も面白そうだったから。なお建前は、彼がやっていた人助けの行動が純粋無垢にただ助けたいという思いだけで動いていたから

 

今回のような死に方をしたオリ主がかわいそうだったかららしい。その後、娯楽の一つなのか、オリ主と念話のようなもので何度か話をしていくうちにオリ主の面白さに心を打たれて

 

心を開き、オリ主にはゼウスのじっちゃんと呼ばれるほど仲良くなる。でも、神様なので、人間が言う倫理観とかはよくわかっていない。なおオリ主のせいで

 

サブカルチャーにドはまりした模様。他の神様を従える立場であるがゆえに、転生などを司る神様の行動を見て自身もやってみたいと思ってしまうのは仕方ないのであろう。

 

最初こそ主人公の新たな肉体を作っていたようだが、面倒くさくなり、主人公と魂の波長が全く同一でかつ死に体だった人間の体に移植するという暴挙に出た。

 

主人公にこっぴどく怒られ少しの間ガン萎えしてたらしい。

 


 

・真城真由美 17歳 女 身長:155cm

 

本来はありふれの世界にいて原作とは何の関係もなかった名前も全く登場せずその存在も描かれなかったただの一般人ポジで主人公のせいで本編にかかわることになったかわいそうなモブ。両親を不慮の事故で喪い、心が死に体になっているところを

 

悠馬の魂に入られて、ある種の多重人格者のような存在となった。性格は物静かであまり関わり合いを持つことが好きではない消極的思考の持ち主。しかし、勉強もできスポーツも万能であることから

 

周囲からは謎に包まれたミステリアスな女性という印象を受けていた。なお、眼鏡をしているが伊達であり、理由はあまりの美貌に嫉妬した女生徒から一時期いじめを受けていたからだそう。

 

悠馬が体の主導権を握った後は、武術や武道を好むようになり、剣道や空手、柔道、さらには中国の拳法全般にまで手を出し、それらを全て習得した。ゼウスが与えた力の一つ、鍛錬の度合いによって成長できる力によるものであり、彼女の実力はこの力で未知数になっている。

 

しかし彼女はそれだけでは止まらず、吸収したすべての武道を統合、自分に合うように再調整した結果オリジナルの流派、四奏流を完成させた。最近は、因果や概念に干渉できるか試行中らしく、彼女の放つ拳は

 

不完全ではあるが因果を破壊できるようになっているとのうわさがある。ヒュドラの攻撃を受けて瀕死の重傷を負い、集中治療のため眠っていた。目覚めた後はユーマの技能を全てユーマに返した代わりに超越する者(オーバーロード)に目覚めた。

 

これは少しの間だが、全能の眼を保有したため、素質が開花したからだと思われる。

 

・四奏流

 

彼女(ユーマ主人各時)が今まで習った武術などを統合&再調整し独自に編み出した武術。その業、一撃にて四撃。銃以外のすべての近接武器にて応用が可能。

 

その理は『技をもって力を制し、技を持って速さを越える』とのことだが、詳しいことはあまりわかっていない。本人曰く、理論と基本的なことをやっただけで

 

人に教えられるものではない、だから噂も全くのデマだ、ということらしい。まだ不完全だという彼の武術にはとても興味がそそられる。なお、真由美もこの武術を使えるようである。

 

だが、本人は気づいていない。

 


 

・各種技能

 

・機体作成

本来の真由美が持つはずで、仮初の器の中にて悠馬が使用していて、後に真由美へと返された技能。自身の記憶に内包されている起動兵器、二足歩行兵器にカテゴライズされているものを自身が使う戦闘用アーマーとしてそれ相応の資材を消費することで作れるという技能。

 

あくまで機体作成の工程をすっ飛ばせるだけであり、修理、メンテナンスは自身の手作業で行うしかない。なお、”武器作成”、”消耗品作成”、”動力作成”の付加技能も存在しており、機体と武器、そして弾薬や推進剤などの消耗品も作り出すことが可能。

 

自信のアーマーなので装甲強度などの各種性能を自分の望むような形に改変できるのが、強力な点である。元ネタはアイアンマンより。

 

・義体作成

ユーマの体を構成した技能。自身の分身を作り出すことができる。クローニング技術の様なもの。ただし、別な魂が入ってしまうというイレギュラーが起こったため悠馬の体は真由美の体のクローンではなくなってしまっている。

 

変質したからであろうか?その義体を他人に譲渡することも可能であるとかないとか。

 

・ルーン魔術(偽)

悠馬が、自身のステータスが見た目に引っ張られていると誤解するきっかけになった技能。元ネタはFGOより、本来ルーン魔術にはルーン文字と呼ばれる特殊な文字を使う必要があるのだが、悠馬は日本語を媒体とすることで

 

疑似的にルーン魔術を行使している。勿論模倣なので、本来のルーン魔術より威力はやや劣っている。真由美はまだこの技能を使いこなせてはいないようだ。

 

超越する者(オーバーロード)

 

厳密に言えば技能ではないが一応技能としてカテゴライズされるもの。かつて、神々が全知全能の力を持つ神の暴走を止めるために作った力である。なお、後に転生システムが作られたためお蔵入りとなっていた。

 

人のみで神を殺すために作られた力。某運命の用語を使うなら対神用の礼装である。最初に現れるのは、五感、特に視覚の変化であり、それに伴って、反応速度、情報処理能力、空間認識能力が上がり、まるで周りが遅く見えるような現象に陥る。

 

そしてこの力には神特攻の要素もあり、この力を持ったものは神を殺せるようになるらしい。

 


 

・未来の真由美 年齢不明 女 身長:不明(160cm程度と推測されている)

 

突如として真由美の目の前に現れた黄金のベルトを付けた自称、未来の真由美。真由美に新たな技能を与えた張本人。その力は未知数である。何かとてつもないことを知っているようだが・・・・・・・・

 

現在の真由美の姿とは大きくかけ離れており、見れば誰もが魅了されるその美貌には切り傷の跡が大量にあり、左目のあたりにやけどの跡がある。その体から発せられる氣は、歴戦の猛者を彷彿とさせるほど。

 

真由美の前に現れたときの彼女の服装は左肩が大きく破けている長袖の服であり、その破けた部分からのぞかせた左腕は、すでに義手だった。

 


 

・ユーマ(真城悠馬) 0歳? 女 身長:162cm

 

真由美の体が動かせなくなったことで、本来の真由美の人格が悠馬に与えた仮初の器。不完全な状態で作られたため、引き継げたのは悠馬の魂のみ。技能は本来の真城真由美が持つはずだった技能しかなく

 

体のステータスも、本来の真由美のなるはずだったステータスが反映されている状態である。ユーマという名前は、悠馬が自身の状態を説明するときに使った偽名である。

 

なお、本来義体作成といういわば自分のクローンを作るという技能で作られたものなので真由美の姿でないとおかしいのだがこの体は全く別の人物を模していた。・・・・・・・・実は、この姿こそゼウスが悠馬に与えるべく作っていた新たな肉体であり

 

それが不完全ながら悠馬の魂に刻まれていたことで、義体を生成した時に使った同化の作用と相まって変質した。なお、見た目が某スカ〇ハで声も全く同じなため、本人は『姿にステータスが引っ張られた』と思っている。

 

真由美が目を覚ました時、姿が真由美と同じものへと変化した。のちにユエ救出のため同化の技能を全力発揮した結果、髪の色素が抜け落ち白髪となっている。なお、真由美が本来持つはずだった技能はすべて真由美に返されている。

 


 

・各種技能

 

・同化

 

彼女(ユーマ)の持つ力のメインとなるもの。元ネタは蒼穹のファフナーより、ザイン、ニヒトを含むすべてのファフナーの能力並びにフェストゥムの能力が使えるようになるというもの。

 

しかしその能力で使われているのは、本人が把握していないのも相まって、ザインとニヒトの能力だけである。なおこの技能を持つことで彼の肉体はフェストゥム寄りに変化している。

 

効果は肉体の再生、欠損部位の再形成、各種身体能力の向上、感覚の鋭敏化などがあげられる。とても強力な技能である。しかしその技能はまだ本領を発揮できていない。

 

それは、発揮するためにはアーマーを纏う必要があるからだ。アーマーを着ていないときの能力の出力は通常の三分の一ほどだが、元が強いためあまり目立ってはいない。

 

しかし、思念体や心を同化する際にはアーマーを介した増強は必要ではなく、あくまで”スーツを着たほうが大きなダメージを受けなくて済むよ”程度のものである。

 

ユエの鎧の中の憎悪の思念体を生身でどうかしようとした際には体がどうか結晶で覆われるという事態になったため、完全にフェストゥム化しない限り

 

生身で心を同化しようとすれば相当なフィードバックが発生すると思われる。(なおゼウスはこれを”権能の暴走”だと思っている)

 

・魔眼

 

彼の眼は魔眼。その効果は様々である。精神に作用するもの、肉体に作用するもの、法則に作用するもの、世界そのものに作用するもの、因果に作用するものなどである。

 

しかし、いまだに封印がかかっており、全力は発揮できない。なお、この魔眼は主人公以外が何らかの方法で使おうとしてもあまりの負荷に耐えられずに使用することができない。

 

・機器作成、人工知能、制約無視

 

未来の彼女を名乗る人物から譲渡された技能。元ネタは仮面ライダーより。各種ベルト、変身アイテム、武器、更には人型の機械や人工知能まで生み出すことができる。

 

ベルトなどを他人に譲渡するときには、そのベルトなどが持つ制約を無視して変身できるようにしたり、逆に新たな制約を付けたりすることも可能である。なおこの技能は亡へと譲渡されているため現在は使用不可である

 

・機鎧複製

 

ユーマの技能が戻ってきた際、何故か亡から渡されたという技能。同化の力によって複製した鉱物をもとに記憶内にある二足歩行兵器やその武器、挙句の果てにはAIなどを文字通り複製できる。

 

要するにロボットだったら何でもありなどこかの銀髪少年が喜びそうな技能。なお、性能をいじることもでき、ユーマは実際にこの技能で作ったアーマー、アーバレストのAIであるアルの補助システムに

 

ラムダ・ドライバの発動補助の機能を追加している。

 


 

・亡 年齢不明 性別なし 身長:165cm

真由美が新たに増えた技能で作ったヒューマギアと呼ばれる人工知能搭載アンドロイド。元ネタは仮面ライダーゼロワンより。真由美がオルクス大迷宮攻略前夜に作ったものであり、真由美から受け継いだ機器作成などの技能で

 

真由美なき後のクラスメイトを支えるという使命を持っている。エンジニアリング専門のヒューマギアである彼は、クラスメイトのアーティファクトのメンテナンスを受けおおっており、真由美が清水や恵理、龍太郎に渡したドライバーのメンテナンスもしている。

 

いざ戦闘となると自身も滅亡迅雷フォースライザーによって仮面ライダー亡へと変身する。

 

・各種技能

真由美の技能説明欄を参照



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序章 転生編
第一話 プロローグ


檜山は殺します。えぇ、勿論。光輝は・・・・・・・・うん、まだ決めてませんがひどい目に合わせるのだけは確定しています。

2021/6/16 真城母の職業設定を変えました。
2021/7/08 主人公の学校への登校日を変えそれに合うように内容を改変しました。


悠馬side

 

俺こと真城悠馬は死んだ。原因は建物の崩落に巻き込まれての圧死だ。しかし俺の意識はまだある。もう一度言おう。俺は死んだのである。

 

・・・・・・・・うん、状況はよくわからないんだけどね?なんとなくで察しちゃったよ!なんだなんだよ何ですかっ!このラノベとかでありそうなこの展開はぁ!?

 

そんなことを思っていると突然視界が真っ白な空間から西洋風でどこかの玉座の間みたいな風景へと変わる。

 

そこには一人の大男がいた。うん、何となくだけどこの先の展開が読めて来た。そしてこのいかにもなお方がいうこともなんとなくわかっていますのよ!?

 

「おぬしにはこれから別の世界へと転生してもらう。」

 

デスヨネー!?・・・・・・・・落ち着け、そう、スティクールだ。まずは状況をまとめるために俺の過去を簡単にまとめて行こう。

____________

 

俺、真城悠馬はごくごく一般的な家庭に生まれた男の子だ。どこかのスキンヘットの自称ヒーローみたいにどんな奴でもワンパンできる力は持ってないし、どこかのシスコン最強系お兄様のように最強な魔法が使える訳でもない。

 

どっかの”不殺の誓い”を掲げた元暗殺者みたいに剣の腕があるわけでもない。ただ人よりちょっと動けただけのただの一般人だった。それほど頭も良かったわけじゃない。

 

父親は有名IT企業の専務をしていて、母親は元有名ファッションブランドの専属デザイナー。だからうちはそれほど貧乏という訳でもなく、少しお金持ちの一般的な家庭だったはずだ。

 

母親は猫が好きで家には二匹の猫がいた。名前は確か・・・・・・・・アインとオウルだったかな?母親はデザイン方面には才能があるのだが、ネームセンスにはいささか問題がある気がする。

 

まぁそんなわけでおれはすくすくと育ち、高校に入るころには身長は181cmとなり、まさに体育会系な体つきとなっていた。そんな体をしているもんだから、高校の運動系の部活からは散々勧誘を受けた。

 

でも俺はそれを全部断った。何でかって?それはすでにその時、俺がオタクだったからだ。オタク=運動嫌いって言うのはなぜか俺の中で当たり前になっている。まぁ世の中には動けるオタクもいるようだが。

 

でも、俺は断じて運動部に入る気はなかった。そのおかげでおれはアニメやラノベ、マンガなどを楽しむことができた。

 

蒼〇のファ〇ナーとか魔〇科高校の〇等生とか面白いんだよ。これがまた、本当に。

 

でもその容姿と、少し喧嘩に強いのも相まって俺は良く不良に絡まれていた。しかもそれは決まっておれが待ち望んでいた限定品や新刊が出るときだったので

 

某黒髪ツンツン頭の男子高校生のごとく「不幸だー!」と叫んでいたのはいい思い出である。そんなこんなで友人もでき、俺の高校生ライフは二年の時が過ぎた。すでに俺は3年生である。

 

大学に行くことは決まっていた。すでに指定校推薦も通っている。そんな矢先のことだった。夏休みが終わる最終日、たまたま結婚記念日で海外旅行に行った両親が乗る飛行機が墜落したというニュースが流れた。

 

しかもその飛行機はハイジャックで墜落したのだとか。それを起こしたのは何と日本人だったのだ。手製の期のナイフで乗客を脅し、機長を殺し、そのまま太平洋上に墜落させたらしい。

 

俺はそのニュースを見て頭が真っ白になっていた。二泊三日の海外旅行に行くといって家を出て、その控える前に飛行場から電話をくれた優しい両親は、死んでしまったのだ。帰っては来ないのだ。

 

その日俺は俺の不幸さを呪い、泣きわめき、そのまま疲れて眠ってしまった。その後、葬儀は俺の叔父にあたるひとが色々手配してくれたので無事にやることはできた。

 

けど、その棺の中には両親の遺体はなかった。水上に落下したのにもかかわらず大爆発を起こしたという、両親の乗っていた飛行機からは人の体の一部どころか所持品の一つも見つからなかったそうだ。

 

せめて重そうに持ってやろうという叔父たちの無言の気遣いに俺は別の意味で泣きそうになった。その後両親は俺の祖父母の墓に名前を刻まれることになった。それから一週間、俺は部屋から出ることができなかった。

 

幸い俺の部屋には深夜アニメ視聴用の夜食があったので餓死することはなかったが、俺の心に空いた穴はアニメやラノベ、音楽なのでは到底埋めることはできなかった。

 

両親の葬儀が終わってから10日ほどたってある程度は落ち着いた俺は学校へ行った。クラスに入るとクラスメイトは俺のことを心配してくれた。

 

中には別クラスなのにわざわざ教室に来て声をかけてくるやつや、何度も俺を部活に勧誘してきたやつも声をかけて来た。

 

皆ニュースで流れた死亡者リストの中にある名前でピンと来たようだ。まぁそのあとに俺が学校を忌引きで休んだことが決定打になったようだが。

 

そして俺はいつものように授業を受けた。しかしどうにも集中することができない。心の中でいろいろと考えてしまう。学校を休んでいた時おれは何度も自分の不幸さを呪った。

 

某ツンツン頭の不幸少年の両親もこういうことを危惧して少年を言い方はあれだが隔離したのかもしれない。そして俺は、これでおれの不幸が終わってほしいと願った。願ってしまった。

 

しかし、俺の不幸はここでは終わらなかった。

 

皆さんは”学校にテロリストが爆弾を仕掛け爆発させた”という証言を信じるだろうか?世迷言だと切り捨てるのが普通だろう。しかし実際おれの学校でそれは起こった。

 

突然くぐもった音と振動、立ち込める黒い煙、火災を知らせる警報。この日おれは再度自分の不幸さを呪った。

 

すぐに校庭に避難が始まり俺も避難する。そして火の手がもう少しでおれのいた教室がある階へと回ろうかというところで校舎内のすべての人の避難が完了し、点呼が行われた。その時おれは全員が避難していると思った。

 

そう、()()()()()()()()()。先生は点呼するが一人足りない。再度やっても一人足りない。俺はクラスメイトを一人一人確認する。

 

すると、なんということだろう。俺の席の横に座っていた華奢な体の女子がいないではないか。俺は焦った。名前は覚えていないが、色々と話をしたこともあったし、俺が勉強道具を忘れたときも貸してくれた心優しい少女だったのだ。

 

俺はその少女に自身の母親の面影を重ねてしまった。どうにも制御の利かないおれの体。そして次の瞬間、教師の制止も聞かずにおれは燃え盛る教室へと戻った。

 

俺は急いで自身の教室へと向かう。すると掃除用具入れが倒れてそれに片足が巻き込まれ動けないでいる女子を見つけた。

 

「大丈夫か!?」

「うん。でも、足が動かなくて・・・・・・・・」

「待ってろ今動けるようにしてやるからな。」

 

俺はその掃除用具入れを持ち上げ、壁に戻す。そして女子の手を取る。が、その女子は片足を抑えている、恐らく衝撃で骨が折れたのだろう。無理もない。華奢な体つきでは到底衝撃には耐えられない。

 

俺は仕方なく、その女子をお姫様抱っこと呼ばれる抱き方でもって、扉の方へと向かう。すでにおれのいた教室の近くにも火が回り始めている。

 

もたもたしていては煙で灰がやられてしまう。俺は急いで向かった。しばらく走り、扉まであと数メートルのところまで来た。しかし、入口の天井が崩れそうだ。しかし外にまでは火が回っていない。

 

俺はとっさに・・・・・・・・抱えていた女子を外へ放り投げる。女子は驚いた顔でこちらを見ていた。俺は微笑みながら崩落する天井に巻き込まれた・・・・・・・・

 

__________________

 

「うん、確かに俺はここで死んだはず。死んだはず・・・・・・・・なんだけどなぁ。ドウシテコウナッタ」

 

俺の目の前には神を名乗る男がいた。しかも・・・・・・・・

 

「我は全知全能の神・ゼウス。神の中でも上位に君臨するものである。」

 

なんとあのゼウス様だったのだ。もうね、開いた口がふさがらんのよ。でも俺だって一応男だ。まずはこんなことになった経緯を聞かなくては。

 

「あのー・・・・・・・・何で僕が転生することになっているんでしょうか?」

「ふむ。いささか性急すぎたか。すまぬな。常識に欠けるところがあった。」

 

あのゼウスが謝っただとぉォォォォォォ!?おおおお落ち着け俺こういう時は素数を数えて落ち着くんだ1・3・5・7・・・・・・・・あぁもうわかんねぇ!ってか1は素数じゃなかったっけか?

 

「いや何、おぬしのその純真無垢な自己犠牲の精神を見て、おもし・・・・・・・・ゲフンゲフンわれの目に留まったのでな。貴様を転生させることとした。」

 

何?今の神様ってそんななんとなく商品を選ぶ感覚で転生するかどうか決めるの?・・・・・・・・なんというか、色々と規格外だ。まぁでも、俺が望むことは一つしかない。

 

「は、はぁ。それは分かりました。でも一つだけお願いしたいことが。」

「なんだ?我に言ってみよ。」

「次の世界はなるべく平和で、かつ俺を含む友人や家族が死なないようにしてくれると嬉しいです。」

 

そう、俺はこれ以上誰かが死ぬのが嫌なのだ。特に俺とかかわった人たちが、である。

 

攻めて死ぬなら天寿を全うしてから逝ってほしい。それが唯一の願いだ。

 

「ふむ・・・・・・・・了解した。では、ソナタとソナタととかかわったものには我の加護を授けようぞ。これで天寿と全うする以外で死ぬことはないであろう?」

「ふぇ?」

 

おいおいまじかよ言ってみるもんだなおい。叶っちまったぞ。

 

「さて、では異なる世界でも善行を積むといい。という訳でだ。ほら行け。」

 

ちょっとぉ!まだ覚悟ができてるわけじゃないんですけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!

 

俺はそのまま異世界へと放り出されたのだった・・・・・・・・

 

一方その頃ゼウスはというと

 

「しまった。あ奴に転生時のギフトを渡すのを忘れておったわ・・・・・・・・」

 

なんということでしょう。彼は加護以外何も持たない一般ぴーぷるで送られてしまったようだ。まぁそれでも過激でない世界であれば大丈夫かもしれない。まだ希望はある。

 

「しかし、”ありふれた職業で世界最強”か。なんとなくで選んでしまったが、ちゃんと平和な世界なんじゃろうな?」

 

Oh・・・・・・・・そろそろ主人公のことをかわいそうだと思ってしまうぜ。寄りにもよって一番危ない世界に送り込むとは・・・・・・・・主人公の運命はいかに!?

 




次回にはしっかりと力を得ているのでご安心ください。というわけでまた次回お会いしましょう。


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第二話 異世界転移

これまでの三つの出来事。一つ:主人公真城悠馬は死んだ。二つ:全知全能の神ゼウスと名乗る人物が悠馬を転生させた。三つ:彼は転生先を知らないぞ。あ、あと恵理の両親は事故死という設定です。


 

三人称side

 

学校。それは日本に生きるすべての子どもが、社会に出るための最低限の知識と教養を付けるべく通う、公共の教育機関のことを指す。

 

学校には教えるレベルによって機関が沸けられている。有名なのは主に四つ、義務教育と呼ばれる必要最低限を習うために強制される

 

教育の始まりの小学校。義務教育が終了し、卒業後にはある程度の仕事が出来るようになる中学校。高度な学習を受けることができ

 

卒業後はほとんどの仕事ができるようになる高等学校。高等学校よりさらに高度かつ選んだものに関する専門的な教養を習うことができ

 

社会に出たとき、一定のアドバンテージを得られる大学校。有名なのはこの四つである。

 

そしてこの物語の主人公、そして転生者であり、これからの面倒ごとに巻き込まれるのが確定したその”女子生徒”真城悠馬改め真城真由美は

 

教室に来るなり、机に上半身を乗せ、眠たいという気配をガンガン出しながら顔を伏せていた。

 

その容姿はどこか小悪魔めいたところがあり、未成年特有のあどけなさを残しつつ、不思議と人を引き付ける魔性の魅力がある顔立ちである。

 

・・・・・・・・端的に言ってしまえば某最強劣等生の物語に出てくる七草真由美そのものである。しかし、彼女は眼鏡をかけているため、原作のキャラより知的な印象を受ける。

 

そんな彼女はいま、とても疲労していた。それこそ、学校を休んでもいいぐらいには。

 

「・・・・・・・・疲れた。流石に剣の素振りを夜通しやるのは堪えるなぁ・・・・・・・・いろいろと。」

 

彼女の体は同年代の女子に比べれば引き締まっている。それでいてそれをあまり感じさせないほど彼女の腕や体は細い。そのくせどこがとは敢えて言及しないが大きい。

 

剣をふるうにはとても向いていないような体つきをしている。しかし彼女は剣をふるう。これから起こるであろう厄介ごとを乗り切るために。

 

彼女が今こうなっているのには訳がある。それはこの人物が転生した直後にまでさかのぼる・・・・・・・・

 

 

悠馬?side

 

皆さんどうも。真城悠馬、転生者でごぜぇます。いやぁね、昨日は突然ゼウスとか言う神様を名乗るへn・・・・・・・・まぁ痛い人にいきなりなんかよくわかんないところに飛ばされましたよはい。

 

『聞こえておるぞ。』

 

ふぁ!?何でゼウスさんの声がキコエルンディスカ!

 

『ふむ?貴様には我の加護を与えたはずだが?』

 

何?加護ってそんなに万能なの?

 

『うむ。我が与えた加護はいうなれば神の力の一端、このぐらいのことはできる。というか、出来てもらわんと我としても困るのだ。』

 

ほぇー、そう言うものなんですな。んで、話は変わるんですけど私は転生したのですよね?

 

『うむ。我がこの手でしかと送り届けたぞ。』

 

ちなみに何の世界なんでしょうか?

 

『ふむ?確か・・・・・・・・”ありふれた職業で世界最強”という世界だったか。』

 

へぇー、ありふれの世界ね・・・・・・・・ん?”ありふれの世界”?ねぇねぇ神様、聞き間違いでなければ貴方様は今この世界をありふれの世界とおっしゃりましたよね?

 

『うむ。確かにそう言ったが?』

 

oh my god!ガッテム!/(^o^)\ナンテコッタイ。さらば俺の平和な生活よ・・・・・・・・

 

『どうしたんだ?そんな焦って・・・・・・・・』

 

ゼウスさん。あんたが送ってきた世界はね・・・・・・・・

 

「ありふれた職業で世界最強っていうバリバリの異世界バトルものなんですよー!」

 

俺は力の限り叫んだ。まぁ異世界バトルものという区分はいささかどうかなとは思うけどあながち間違いでもない気がする。

 

だってさ、トータスとかいう訳わかんない世界に召喚させられて、主人公である南雲君が魔王になっちゃうお話なんだよ?

 

ばちくその戦闘モノなんだよ?平穏な暮らしなんてできるわけないじゃないですかぁヤダー。ヤベオワタいろいろオワタ。

 

『お、おう。すまぬな。我もあまりそう言った文化は知らんのだ。適当に選んだ世界がまさか殺伐とした世界だとは思わんかった。』

 

「いやまだ勝機はあります。この物語の主人公の南雲ハジメと同じ学校にいなければっ!・・・・・・・・って?うん?なんかあたりが騒がしいな。」

 

俺はあたりを見回す。今更だが、俺が立っている場所は現代の日本と似たような作りをしている住宅街の前だった。

 

そしてその住宅街の先に見える橋の近くで黒い煙が上がってるのが見えた。悠馬もその煙は覚えがある。

 

「何か燃えてるのか?」

 

そう、火事などが起こった時に見られる黒煙だ。取り込むと呼吸ができなくなるあれだ。あんなものが立ち込めているということはつまり・・・・・・・・

 

「何かあったんだ。ごめんゼウスさん、俺行くわ。」

『うむ。其方はそういう人間だったな。我はお前をいつでも見ておる。だから安心して行ってくるが良い。』

「サンキュー、ゼウスさん!」

 

俺は急いで煙が立ち上る火元へと向かった。

______________

 

(それにしてもこの体、やけに胸のあたりが重いんだけど)

 

俺は現場に走っていくまでにそう感じた。そして、そこまで髪の毛は長くないはずなのに走っていると顔の横から髪の毛が顔の前に覆いかぶさってくる。

 

あれぇ?こんなに髪の毛長かったっけ?切ったはずなんだけどなぁ。まぁ何はともあれ現場についた。そこではボンネットのあたりから火を噴き今にも車全体に非が回って爆発しそうな車が一台あった。

 

どうやら事故を起こしたらしい。辺りに集まった人はそれぞれ動いている。形態でどこかに電話をかけている人。住所などを言っていたので恐らく救急車を呼んでいるのだろう。

 

またあるひとは車のドアを必死に開けようとしている人、中にまだ人が残っているようだった。警察は来ていない。

 

恐らくこの事故が起きてからそこまでの時間が経っていないのだろう。運転手と助手席にいる人は・・・・・・・・見てわかる。首がいけない方向に曲がってる様子から

 

即死していると素人目に見ても分かる。しばらく見ていると、後部座席の窓から小さい手が見えた。どうやらまだ生き残りがいるらしい。助けてあげないと・・・・・・・・

 

俺は急いで車の方へと向かった。

 

「お嬢ちゃん!?あぶねぇぞ!下がれ!」

 

お嬢ちゃん?失礼な。俺は健全な日本男児だぞ。俺はそう思いながら車の周りにいた大人たちを”素手”でどかし、ドアの取っ手をつかんだ。

 

「ウォォォォォアァ!」

 

俺は力の限りでドアを開けようとした。しかし、ドアはびくともしない。

 

(くそっ!力が、ねぇな!)

 

『おぉそうじゃったそうじゃった。其方には転生特典とやらを渡していなかったな。其方に与えるのは、『存在』と『虚無』の力。その力の余剰を使って動く魔眼。そしてそれに耐えられる強度を誇る体である。』

 

えぇ・・・(困惑)何そのチートスペック。

 

『其方の体と同期させる・・・・・・・・よし、同期完了だ。その体は鍛えれば鍛えるほど強くなるが、鍛えなくても素の耐久値は我の雷の権能をもってしてもささくれができる程度だからな。期待せい。』

 

oh・・・・・・・・なんという。でも何でそんな体をくれるんですか?

 

『我のミスで其方の望んだ世界に転生させることができなかったからな。せめてもの罪滅ぼしだ。そして改めてこの作品を調べた。どうやらおぬしは神と戦わんといけないようだ。我でよければいつでも力を貸す故な。いつでも呼ぶが良い』

 

いやまぁありふれは呼んだことあるからオチとか知ってるんだけど。というかおいおいおい・・・・・・・・神様がそんなホイホイそういう力を与えてもいいのかよ。まぁいいや、もらったんなら使わねぇとな!強化された?体でもって全力でドアを引っ張る。

 

するとさっきまでびくともしなかった扉が簡単に外れた。周囲の人たちは目を点にしていた。あるひとは自分の目の前で起こったことが信じられないという表情でそれを見ていた。

 

俺はそんな視線をすべて無視し、後部座席をのぞき込む。すると中学生くらいだろうか?眼鏡をかけた女の子が出て来た。

 

「大丈夫?」

 

あれ?声が不思議と高いような・・・・・・・・

 

「うん。大丈夫だよ。」

 

どうやら無事のようだ。良かった。

 

「動けそう?」

「ううん。動けない。」

「!?どこか怪我でもしてるのか?」

「ううん。ただ、体が動かないだけ。」

 

どうやら恐怖で体がすくんでいるだけのようだ。俺はその眼鏡の少女の手をつかみ、車から引っ張り出した。・・・・・・・・それにしてもこの眼鏡少女、どこかで見たことがあるような。

 

・・・・・・・・あっ、この子寝てる。緊張がとけて意識が落ちたのかな?俺はその少女は大人の人に任せ、その場から離れる。その時、なぜか俺は彼女の容態が分かったので

 

一応彼女の容態をそのおとなに説明し、救急隊に言っておくように頼んだので適切な処置をしてくれるだろう。というか、俺はどうして彼女の容態が分かったんだろうな?

 

『それは魔眼の効果である。名づけるとすればそうだな・・・・・・・・健癒の眼だな。其方の持つ魔眼には今のところ全能の眼が土台で存在する。

その中でも何かを”見ること”に特化してできるのが先ほどできた健癒の眼のような、特殊魔眼である。本来、これを開眼するには全能の眼を使いこなす必要があるのだが

其方に与えた体だと既に使いこなすに至っていたようだ。』

 

ほえー。そんなにすごいんだこの目。あそうだ。俺の容姿ってどんなもんになってるんだ?さっき「お嬢ちゃん」って言われたから気になって。俺って一応前世はガタイのいい男だったんだが・・・・・・・・

 

『・・・・・・・・すまん。おぬしはまず性別から異なる。名前も苗字は同一のものだが名前は違う。』

 

なんかいまとんでもないカミングアウトを聞いた気がする・・・・・・・・性別が異なるだって?あっははーそんなことあるわけなかろう!

 

『・・・・・・・・そこに川がある、自分で確認するのが早かろう。』

 

俺は川の方を見る。そこに写っているのは前世の俺のような男らしい顔・・・・・・・・って、これあの劣等生の七草会長の顔じゃねぇかぁぁぁぁぁあぁぁ!

 

『・・・・・・・・すまん。』

_____________

 

回想終了。時は現在へと巻き戻る。

 

はい、あれから時は流れました。今の状況を説明します。いやね?いろいろと頼んだことがかなってないのですよ。まずね?両親、いないんすよ。俺捨て子だったらしい。

 

生まれてすぐに孤児院に連れてこられ今もそこで暮らしてる。そして学校。高校生ですが俺がいる学校、あの後の魔王となる南雲ハジメと同じ学校なんですよ。

 

はい\(^o^)/。力を渡された時点で何となく察しがついていたけどやっぱこうなるんですねぇぇぇえぇぇ!おのれぃゼウスのじっちゃんめぇ!

 

そしてこっから驚きの連続ですよ。俺が転生した直後に助けた少女。あれ、中村恵理だったんっすよ。何を言ってるか分かんねーと思うが俺にもわかんねー

 

あの後孤児院にあの子がやってきて、何故かあの子にとっても好かれました。俺も悪い気はしなかったのでそのままにしたら

 

なんかあの原作で何かとずれたあの、えぇっと・・・・・・・・だれだっけ?ごみき、あ違った。こうき・・・・・・・・あそうそう、光輝バリに好かれました。まぁこれで闇落ちエンドは回避したかな。

 

原作での恵理の扱い可愛そうだったからなぁ。そうだ扱いと言えば、あの原作で魔人族側についた清水っていうことも知り合いっす。たまたま本屋で会って、意気投合しました。

 

うん、やっぱオタク文化っていいね。うん、控えめに言ってマジ神。OTAKU is GOD!間違いない。これで裏切りエンドは回避できたでしょう。後は俺自身に関して。

 

容姿は完全にあの七草真由美ですね。でも原作と違うのはどこがとは言わないけどでかいこと。頭はあのどこぞの一方通行さんの演算能力と我らが誇る大先生である比企谷八幡大先生の頭を足して二で割った感じ。

 

しかもこの体、スパコン並みに計算できるサブ脳と言えるものがあるんですよねぇ。なにこれチート。あと、八重樫道場に一時期通っておりました。いやね、成長できるって言われたからどれほどのものかなって思ったんだけど。

 

この体凄すぎるのよ。だって物の一週間ですべての型を覚えて、自己流にアレンジ出来て、しかも道場のの師範をフルボッコ+秒殺できるようになったんだもの。正直ね、え―って思ったよ。

 

だって最初っからチートなのにさ、サラに強くなるんだよ。これはもうねあのVRデスゲームの主人公のようにビーターって言われてもおかしくないと思うんだ。まぁこの世界にVRないけど。

 

そう言えばゼウスのじっちゃん・・・・・・・・もとい全知全能の神、ゼウスとも仲良くなりました。なんかね、しばらくしたら近所にいる親しみやすいじっちゃん張りにフランクになってさ、もうゼウスのじっちゃんって呼ぶようになったよ。

 

仮にも上位の神にあなたがそういう感じでいいのかよって思ったけど本人がうれしそうだったからいいかなって。そいえばゼウスのじっちゃんからもらった『存在』と『虚無』の力なんだけどさ。

 

あれまんま蒼穹のファフナーのマークザインとニヒトの能力そのまま引っ張ってきただけだったわ。つまりですね。このからはあのチート級の同化能力と広範囲を消せる能力とマジカルルガーランスが使えるんですよ。

 

もうこれさえあればもういいんじゃないかな状態。もうエヒトでも神の使徒でもなんでもかかってきやがれーって感じ。とまぁ色々言ったけどまんざらでもない暮らしができてるから満足。

 

さて、舞台を俺の思考の世界から学校へと戻そう。

____________

 

「おはよう!真由美っち。」

「おはよう、真由美!」

「はい。おはようございます、鈴っち、恵理さん。」

 

というわけで今日も平常運転のお二人、谷口鈴と中村恵理の二人です。全く、今日は月曜日だというのに元気だなぁ、特に鈴っち。

 

「相変わらず真由美っちは大きい胸をしてるねぇ・・・・・・・・揉ませろぉ!」

「させません。というか、やめてください。」

「あいたっ!」

 

俺・・・・・・・・いや、もう私か。私は音もなく席から立ち上がり、鈴っちの後ろに回り頭を軽くたたく。鈴っちはそれに痛がり、頭を抱える。それを見て恵理は口元に手をやり軽く笑う。

 

すると教室が騒がしくなる。と言っても原因はいつものなんだけど・・・・・・・・

 

「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」

 

一体何が面白いのかゲラゲラと笑い出す男子生徒達。

 

そう、ありふれの主人公こと南雲ハジメである。そんなハジメに声を掛けてきたのは檜山大介といい、毎日飽きもせず日課のようにハジメに絡む生徒の筆頭だ。近くでバカ笑いをしているのは斎藤良樹、近藤礼一、中野信治の三人で、大体この四人が頻繁にハジメに絡む。

 

これは癪だが檜山の言うことも間違ってはいない、彼はオタクだ。と言ってもキモオタと罵られるほど身だしなみや言動が見苦しいという訳ではない。髪は短めに切り揃えているし寝癖もない。コミュ障という訳でもないから積極性こそないものの受け答えは明瞭だ。

 

大人しくはあるが陰気さは感じさせない。単純に創作物、漫画や小説、ゲームや映画というものが好きなだけだ。世間一般ではオタクに対する風当たりは確かに強くはあるが、本来なら嘲笑程度はあれど、ここまで敵愾心を持たれることはない。

 

では、なぜ男子生徒全員が敵意や侮蔑をあらわにするのか。その答えが彼女だ。

 

「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」

 

ニコニコと微笑みながらその少女、白崎香織がハジメのもとに歩み寄った。このクラス、いや学校でもハジメにフレンドリーに接してくれる数少ない例外であり、この事態の原因でもある。

 

学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげだ。

 

スッと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。このような美女に声をかけられようものなら男女問わず落ちてしまうだろう。

 

いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。

 

そう、だからこそクラスメイトは香織がハジメに構うのかがわからない。そしてハジメはそんな彼女を少しぞんざいに扱っている・・・・・・・・ように見えるだけでそんなことはないのだが

 

傍から見ればそんな感じである。だからこそハジメはクラスメイトから嫌われているのだ。でも、私にできることはそれほど多くはない。だって、ここでの関係を捻じ曲げるとトータスで何が起きるか分からない。

 

つまり原作崩壊を引き起こしかねないということだ。いやまぁこの肉体を持った時点で十分チートで原作崩壊を引き起こしているが・・・・・・・・まぁ、大筋が変わらなければそれでいいのだ。

 

私は寝ることにした。これからのことに一切関係ないといわんばかりに。始業のベルが、今日も鳴る。

___________

 

お昼の時間となった。私は授業で使ったノートをまとめてバックの中へとしまう。ハジメは・・・・・・・・起きたところか。インゼリーもどきで文字通り10秒チャージするつもりだろうがそうはさせない。

 

20秒チャージさせてやる(さほど変わらないというツッコミはなしだ。)私はハジメのことを呼ぶ。

 

「ハジメ君。これどうぞ。」

「えっ?う、うん。ありがとう。」

 

実は南雲ハジメとも仲良くなっていた。馴れ初めは清水と同じなので省くが、彼は清水以上に趣味嗜好が合うと思う。今ではベストフレンドだ。っと、そんなことを言っていると足元に何かの陣が浮き出て来た。ついに転生かぁー

 

覚悟決めないとなぁ。私は目をつぶるほどの光に巻き込まれた。

 

 

 




肝が据わりすぎではなかろうかこの主人公・・・・・・・・まぁいいや。ではまた次回お会いしましょう。


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第一章 奈落編
第三話 異世界トータス


前回までの三つの出来事 一つ:主人公はTSしちゃったぞ 二つ:中村恵理を助け清水と仲良くなり、二人の死亡フラグを折ったぞ 三つ:異世界召喚されたぞ


三人称side

 

光が収まる。真城たちは目を開ける、目の前にあったのはいつもの教室ではなくいかにも高級そうな石材で出来た大きな広間だった。

 

 まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。

 

背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だがしかし、真城はなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。 

 

ここは美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

 

しかし、そこある肖像画の顔は、どこか不気味さを醸し出すような、うすら笑いを浮かべていたように見える。 よくよく周囲を見てみると、どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。

 

素材は大理石だろうか? 美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。

 

真城達はその最奥にある台座のような場所の上にいるようだった。周囲より位置が高い。周りには真城と同じように呆然と周囲を見渡すクラスメイト達がいた。どうやら、あの時、教室にいた生徒は全員この状況に巻き込まれてしまったようである。

 

真城はチラリと背後を振り返った。そこには、やはり呆然としてへたり込む香織の姿があった。怪我はないようで、真城はホッと胸を撫で下ろす。

 

そして、おそらくこの状況を説明できるであろう台座の周囲を取り囲む者達への観察に移った。

 

そう、この広間にいるのは真城やハジメ達だけではない。少なくとも三十人近い人々が、真城達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。

 

彼等は一様に白地に金の刺繍がなされた法衣のようなものを纏まとい、傍らに錫杖のような物を置いている。その錫杖は先端が扇状に広がっており、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられていた。

 

その内の一人、法衣集団の中でも特に豪奢で煌きらびやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうなこれまた細かい意匠の凝らされた烏帽子のような物を被っている七十代くらいの老人が進み出てきた。

 

もっとも、老人と表現するには纏う覇気が強すぎる。顔に刻まれた皺や老熟した目がなければ五十代と言っても通るかもしれない。

 

そんな彼は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音でハジメ達に話しかけた。

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。

私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言って、イシュタルと名乗った老人は、これまた壁画の絵にかいてあったあの女性の顔のような寒気を催すような微笑を見せた。

 

その後、真由美達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。

 

この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。

 

おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。真城は最後方だ。

 

ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろうが。

 

教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。

 

全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。

 

正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。

 

もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが・・・・・・・・。だが真城は男子の方を見向きもせず、たった今、メイドが持ってきて、クラスメイトの前に出したお茶(おそらく紅茶のような何か)

 

を凝視していた。真城は魔眼を行使する。この時期になるまで何も真城は訓練を怠っていたわけではない。日本では到底できない、戦闘用の魔眼こそ用意できなかったが、それ以外・・・・・・・・例えば今使ってる、対象物に成分を詳しく知ることのできる

 

特殊魔眼:検分の魔眼 などである。いささかチートである。それは置いておいて、このお茶には少しだけ思考能力を鈍らせる薬が入っているようだ。既に飲んでいるバカもいるので真城は忠告するのをやめる。

 

学校では意図して目立ってこなかった彼女である。まぁだからこそミステリアスのレッテルを張られた(鈴から聞いた噂)のだが・・・・・・・・そんなことをしているとイシュタルと名乗た人物が説明を始めた。

 

 

真由美side

 

皆さんどうも、悠馬改め真由美です。いやね、覚悟してたとはいえ驚いちゃったよ。突然目の前が真っ白になったかと思えば気づいたらここだもん。

 

そりゃ疑心暗鬼にもなるよね。まぁそんなことはどうでもよくて、さっきのあの腹黒クソ神官が言ってたことを要約するわ。

 

とはいっても言ってることは至極単純。要は人間ピンチだから戦ってくれや、というもの。なんともまぁ身勝手な話だよね。

 

まず我々じゃどうにもならないってあのクソ神官は言ったけど、いやいや待ってそこまで放置したのはあなた達でしょ?ってことよ。

 

前提としてそもそも間違ってんのよ。いくら異世界からの来訪者?でこの世界の住人より基礎スペックがあるからって戦闘ど素人の俺らに頼むかねって話。

 

日本はこのところ一度も銃を使った戦いがなかったくらいに平和だったんだよ。戦い方なんて知ってる奴いないし、せいぜいできて街中での不良同士の殴り合いが限界だよ。

 

俺や八重樫さん、クソオブクソの光輝みたいに剣術とか習ってても人とか切ったことある奴なんていない。当然だ。そんなことしたら捕まるもん。

 

そういうのはね、惨殺と化したことある殺人犯にでもやらせりゃいいのよ。特に俺らは成人してない学生。そんな奴らに頼むのなんて論外、とおれは思うんだよねぇ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

あっ、愛ちゃん先生キレてる。いやまぁ実際その通りなんだけど・・・・・・・・でもね愛ちゃん先生。この先の展開知ってるから言えるけど、それってできない相談なんだよね。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

おう随分ときっぱりいいやがるじゃねぇかクソ神官。

 

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

 

 愛ちゃん先生、叫ぶ。そりゃそうでしょうよ。”帰れない”何て言われたら誰だってそうなる、俺だってそうなる。

 

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」

「そ、そんな……」

 

おうやっぱエヒトのやろうはブチ殺決定ー。いいよねゼウスのじっちゃん。

 

『構わぬ。それにしてもエヒトとはな・・・・・・・・あ奴めこんなところで神の真似事をやってたのか。』

 

えっ?じっちゃんエヒトと知り合い?

 

『あ奴は一度、神の権能をむやみやたらに使いすぎたのでな。我が力の大半を奪って追放したんじゃ。そしたらあ奴めこんなところで生きながらえておったとは。』

 

へぇー、そんなことやってたんだあいつ。というかありふれって、創作物だからそこに出てくる神様って存在しないのかと思ってたんだけど違うんだね?

 

『厳密に言うと我が知っているのは力があった時のあ奴だ。あ奴のような神は信仰を力に変えて生きる。それは人間でいう創作物でも可能である。我のような神は信仰なくても名が有名だから生きることができる

 

が、あ奴の場合信仰がなくなってしまえば、そのまま自然と消えてしまう。あ奴先後の力を振り絞り消える直前に創作物という基本的には信仰が途絶えることがない世界を作ったわけだ。後は信仰の力で己を直し

 

神格へもう一度至ろうとしているとそういう訳であろうな。』

 

じゃあつまり、忘れられると困るから忘れられない世界を作ったわけだ。

 

『まぁそういう認識でよい。ともかくだ、ここまでのことをしでかしておいて御咎めなしというのはあり得ぬ。よってゼウスの名において其方に神殺しの許可を与える。』

 

おーありがとゼウスのじっちゃん。本当は戦いたくないんだけどね。日本大好き、戦いなんてゲームの中だけで十分なんじゃい。

 

っと、話をこっち側に戻そう。つまり、だ。帰れないからみんな不安がってる。そしてな、原作だとここら辺であの害悪が動くんだけど・・・・・・・・

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。

それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。おうやっぱり動いたかこのの害悪くそ光輝。ほぉらみろ、てめぇのカリスマ力でみーんなやる気だしちゃったじゃねぇか。

 

やってやる、やってやるぞォー!とかフラグめいたこと言ってる奴いるし。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。・・・・・・・・俺もやるぜ?」

「龍太郎・・・・・・・・」

「今のところ、それしかないわよね。・・・・・・・・気に食わないけど・・・・・・・・私もやるわ」

「雫・・・・・・・・」

「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

「香織・・・・・・・・」

 

 

いつものメンバーが光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。

 

それ見たことか。全く、少しお説教だな。俺は自分の前にあるテーブルを叩く。勿論力は抑えてあるよ。

 

「雰囲気にのまれるな、馬鹿ども。」

 

俺はいつもの事務的な口調をやめて、素の口調で話す。

 

「バカとは何だ皆に向かって!失礼だとは思わないのかっ!」

「あんたの持論なんてどうだっていい。そして光輝の意見に賛同した人もだ、分かってんの?戦えってことは、命を奪うってこと。そしてそれは何もゲームに出てくるゴブリンみたいなやつばっかりじゃない。

さっきイシュタルさんはこう言ったよね?”魔人族”って。ゴブリンとかの異形の化け物だけだったら”魔族”という表現で事足りるし、そもそも知恵がない化け物にそう簡単に負けるほど人間は弱くない。

ここまで来たら、私の言いたいこと、分かってる人もいるんじゃない?私たち同様に人型の敵がいるってことよ。それも私たちと同じぐらいの知恵を持った敵が、ね。」

「それがどうしたっ!俺たちはこの戦いに必要とされたからここにいるんだ!戦うのが道理だろう!」

「そんな道理ががあるなら今すぐ捨ててやる。さて、皆に聞こう。”人殺し”の覚悟はできてるの?」

 

皆息をのむ。そりゃそうだ。誰だって人殺しはしたくねぇよ。俺だってそうだ。

 

「そっちの都合で勝手に連れてこられ、拒否権もないまま戦争に駆り出されて、人殺しできませんでしたなんて言ったら私たち、全員死ぬわよ。一人残らずね。」

「そんなことない。俺がさせない!それに第一、人殺しをする必要なんてない!h・・・・・・・・」

「捕虜にすればいい、でしょ。そんなことができてたら、私たちはいらないでしょうね。全員を守る?戦い方を知らない私たちをあなたが?できるわけないでしょ。」

「くっ!お前はこの世界の人たちがかわいそうだとは思わないのかっ!」

「論点をそらすな馬鹿光輝。私はいま人を殺す覚悟はあんのかって聞いてんの。・・・・・・・・まぁいいわ、論点をずらすってことはその覚悟がないってことだし。

はっきり言うわね。私はこの世界がどうなろうと知ったこっちゃない。私はただ元の世界に帰ってゆったりとした生活を送りたいだけ。死にたくないもの。

でもみんな勇敢だね。誰か分からない人のために自分の命をかけれるんだもの。私には到底真似できない。」

 

その言葉で光輝は完全に反論できなくなったようだ。あッれぇ?原作だともうちょい突っかかってくると思ったんだけどな。まぁいいや。ここまで言えば誰も言い返せまい。

 

覚悟はできてる。そのためにいろいろな経験を積んだ。だからって誰も死なせないなんて言うのは土台無理な話だ。これは戦争なんだよ。確かに俺はね、俺とおれに関係する人全員が正しい生き方ができるようにとゼウスのじっちゃんにお願いした。

 

けどね、ありふれの原作を知ってるからこそ、俺はこのエヒトとかいうくそ野郎が仕組んだお遊びとしての戦争で何が起こるか知っている。だからせめて、手が届く相手くらいは助けたい、と思う。

 

という訳でそのあとはイシュタルとかいう目にいれたくないような奴が俺たちを止めて、この山の下にあるハイリヒ王国というところで生活することになった。

 

先ほども言ったけど、俺たちは戦い方を知らない。ここに来た時点で戦いにかかわる運命には逆らえない。まずはどうにかして檜山と光輝は何とかしないといけない。

 

俺が深く原作にかかわって破綻させてもいけない。帰れませんってなったら俺としても困る。そのためにはハジメには申し訳ないけど奈落に落ちてもらわないと・・・・・・・・

 

まぁ俺もついて行くけどね。という訳で神山と呼ばれる場所からリフト的なもので降り、麓?にあるハイリヒ王国を目指した。後は原作通り事が運んだ。

 

えっ?それだけじゃわからないって?いやだって、あのクソ神官がハイリヒ王国の国王に手の甲キスをやらせて自己紹介があってとそんなもんだよ?

 

ということで部屋が割り当てられ私は一人部屋で寝ることになった。さて、明日からいよいよ訓練だ。どこまで強くなれるのかな?私。

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。ではまた次回お会いしましょう


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第四話 ステータス

前回までの三つの出来事 一つ:原作同様光輝が暴走した 二つ:主人公は戦う覚悟を決めた 三つ:クラスメイトに人殺しを強制させたエヒトは無論主人公の粛清対象となった


三人称side

 

~君は知るだろう

 

異なる希望が出会うことが 平和への道とは限らないことを

 

守ることが戦うことである限り 希望もまた争いの中にある

 

全てを失う可能性を抱きながら 僕達は未来を求めた

 

違う道を選ぶことは 許されなかった~

 

「んはっ!?・・・・・・・・何、今の声。」

 

彼女は不穏な詩のような何かが突然聞こえ、目を覚ます。彼女に割り振られたのは一人部屋だったため、彼女の様子をうかがう人物はいない。

 

本来であれば少し寂しくなるものであろうが、今の彼女にとってはありがたいことのようだ。動悸が激しく、汗が溢れて体中を濡らしていた。

 

「いやな・・・・・・・・予感がする。」

 

彼女はそんな一抹の不安を感じつつも服を着替え、部屋を出るのだった。

_______________

 

真由美side

 

朝食を食べ終えた私たちは王宮の中庭へと集められた。そこに立っていたのはいかにも戦い慣れしていそうな感じで

 

体つきががっちりしている男、メルドであった。その後訓練の説明をされた後、メルドから銀色の板が配られた。

 

名をステータスプレートというらしい。旧時代の遺産、いわゆるオーパーツの類らしい。現代では作成することは不可能であり

 

個のステータスプレートに自身の血を含ませることで、自身の能力がわかるというものらしい。クラスメイトは意気揚々としながら自分の血を

 

ステータスプレートに垂らしていた。私も渋々と自分の指をナイフで浅く切り裂き、血を流す。するとステータスプレートには

 

私のステータスが表示された。まるでゲームのメニュー画面にあるステータスの欄のような表示のされ方であった。

 

_____________________

 

 真城真由美 17歳 女 レベル1

 

  天職:祝祭の巫女

 

  筋力:70(増幅時最大値+10000)

 

  耐性:300(増幅時最大値+10000)

 

  敏捷:280(増幅時最大値+10000)

 

  魔力:300(増幅時最大値+10000)

 

  魔耐:300(増幅時最大値+10000)

 

  技能:同化[+消滅][+ワームスフィア][+形質変化][+形状変化][+増幅][+自己修復] 飛行 魔眼[+全能の眼][+封印][+進化] 言語理解

_____________________

 

(うへぇ・・・・・・・・想像した以上だぁ。)

 

やはりものすごく規格外なステータスだった。 いやぁ、あの光輝とかいう勘違い系害悪より性能が上とか言うね。やばくない?

 

やはり神様謹製の肉体はどこまでも異常らしい。あっ、メルドさんがこっちに来た。

 

「お前のステータスはどんな感じなんだ?」

「こんな感じですが・・・・・・・・」

「なっ?これはっ・・・・・・・・そのステータスプレートには偽装の技能がついている。もし光輝より上の実力ということが知れればたちまちお前は非難の渦中に放り込まれる。かくしておけ。」

 

私は普通にステータスプレートを見せただけなのに・・・・・・・・まぁでもメルドさんの言わんとしていることは分かる。イシュタルとかいうクソ神官による説明の場であれだけ光輝に対してボロクソに言ったんだ。

 

光輝よりステータスが高いことが光輝の取り巻きのやつらにしれれば、俺はハジメ以上にいじめの対象となる。というか多分、ハジメを巻き込んじまう。そんなことをさせてはいけない。だってこれは私が

 

本当に戦争に参加したいのかどうかを見極めるためにわざとやったんだもん。というか半分光輝を挑発する目的でやったんだけども・・・・・・・・まぁそれに無関係の人が巻き込まれてはいけない。というか巻き込んではいけない。

 

これがまたハジメに対するいじめに発展したらまずいもんね。という訳でちゃっちゃと偽装しようか。 

_____________________

 

 真城真由美 17歳 女 レベル1

 

  天職:祝祭の巫女

 

  筋力:35

 

  耐性:50

 

  敏捷:50

 

  魔力:60

 

  魔耐:60

 

  技能:同化[+消滅][+ワームスフィア][+形質変化][+形状変化][+増幅][+自己修復] 飛行 魔眼[+全能の眼][+封印][+進化] 言語理解

_____________________

 

こんなものでどうだろう?まぁあくまでも偽装だから出そうと思えばさっきと同じぐらいのステータスで力出せるけどね。

 

魔眼もしっかりと引き継がれているようだ。まぁ使えたんだから引き継がれてないとおかしいけどね。でもこの封印って何だろうか?

 

いやまぁ魔眼なのに○○の魔眼ってついてないのはおかしいなぁとは思ったけどね。もしかしてこの上のバージョンがあるんだろうか?

 

まぁそれはあとで調べようか。それにしても筋力が想像以上に低いのは難点ではあるが、まぁ同化の派生にある能力上昇でいくらか上げられるのだろう。

 

メルドが言うにはレベルというのは到達できる限界値を百等分に区切りステータスに応じて変化するとのこと。

 

つまりレベルがあがるとステータスがあがるのではなく、ステータスがあがると成長限界にどれほど近付いたか表示されるらしい。

 

レベルを上げてステータスアップ、という訳ではないらしい。何ともひねくれていると思うよ。うん。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。

詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。

それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

ふむふむ、それはつまり魔力がパワードスーツ的な役割を果たすのか。・・・・・・・・ん?それって危なくない?

 

普通、緊急停止などの機能がパワードスーツにはついているが、魔力が無意識にそれの役割を果たすということは、もし魔力が暴走なんてした日には

 

体が持たずに崩壊してしまうのではなかろうか?ここは異世界だ。油断なんてした日にはコロッと死んでしまうかもしれない。

 

警戒するに越したことはないだろう。俺は視線をステータスプレートから皆がいる方へと戻す。

 

各々自分の持つステータスに一喜一憂しているようだった。しかしハジメだけは顔をしかめている。

 

それはそうだろう。だって、ステータスがあまり高くはないのだから。まぁ錬成が使えるだけで十分チートだと思うんだけどね。

 

メルドさんも困惑している。が、異世界から来た錬成使いをなめちゃあいけない。あんたらとは発想力が違うのだよ発想力が。

 

そして相変わらず檜山はハジメのことをけなしているようだ。そういえば人の恐怖心を増幅させる魔眼が最近手に入ったっけ?

 

使ってみるか。俺は檜山達の方を見て、心の中で魔眼を発動させるキーワードを言う。

 

(人式:恐慌の眼)

 

恐慌の眼、それは対象の心の中にあるトラウマと呼ばれるもの、またはそれに準ずるものを一時的に増大させ一種の恐怖に支配されるトランス状態を作り出す魔眼だ。

 

多分おれが初めて使えた”攻撃”できる魔眼だろう。これが発現したのは今日の朝起きたとき、多分昨日のイシュタルとかいうクソ神官に対する敵意が具現化したんでしょう。

 

いやぁ初めて使う魔眼だったけど成功したようで何よりだよ。ん?檜山達はどうなったって?あまりの恐怖で失神してるよ。良かったねハジメ、と思ったらハジメも失神してるぅ―!

 

忘れてたっ!愛ちゃん先生が無自覚で無慈悲な一撃ハジメにかますってー!うわぁ!やってしまった!(ご乱心中)

_____________________________________

 

はい、あれから大体一週間ぐらいたちました。えっ?唐突過ぎるって?だってやったことと言えばただの訓練ですもん。あーでも、私の説明してなかったか。

 

それにしても私って一人称にもう慣れちゃったよ。これもTS化の弊害か?まぁいいや、どうせこれは心の声、じっちゃん以外には聞こえまい。

 

という訳で説明をば。まず一つ、同化の派生技能にあったワームスフィア、あれはまんまニヒト・・・・・・・・というか、ニヒトも含めたファフナー+フェストゥムみたいな感じかな。

 

と言っても、その派生技能は単体だとせいぜいほんの少しの距離のワープだったりぐらいしかできない、せいぜい1~2mぐらいかな?この派生技能はもう一つの派生技能の形質変化

 

と合わせて使うことで真価を発揮するみたい。この二つを使えばニヒトが使っていたようなチャクラムみたいなワームスフィアとか、あの伝説の無双回でニヒトがやったあの紫電を広範囲に散らして

 

フェストゥム蹴散らしてたあれとか、うん。とにかくチートオブチートな能力ですはい。うん?でももしこのまま力使い続けたら私”いなくなる”んじゃ・・・・・・・・。まぁそこはじっちゃんが何とかしてくれるでしょう。

 

というか劇中でニヒトがやってたあのルガーランスをどこからともなく作り出すってやつがどうしてもできなかった。まぁその代わり、弓とかに技能:増幅を使うと劇中でザインが披露したマジカルっ☆ルガーランス

 

のあの極太レーザーぶっぱみたいなことできましたはい。もうね、矢が出していい速度を余裕で上回ってましたよ。反動で照準が思いっきりブレましたけどね。やっぱ武器を強化するときは筋力もそれに合わせて強化しておかないとね。

 

というか弓だとダメだ。安定性に欠けるわ。ハジメに頼んでボウガンでも作ってもらうかなぁ。おっと、ハジメについてのお話をば。いやね、改めて思う。よくもあんなに知識溜め込めるなって。だってさ、世界地図丸暗記、薬草系とか

 

魔法論理とか生態系とか全暗記じゃ飽き足らず、錬成についてとか武器についてとか歴史とか、うん。ハジメじゃなくてハジペディアって呼んでもいいんじゃない?この世界のことだったら多分知らんことないと思うんだけど・・・・・・・・

 

そう言えば、錬成で使える技も増えたっぽいよ。なんかね某金髪兄弟錬金術師の兄の方見たく、地面からやりみたいに鋭利な突起を出せるようになってたし。その気になれば剣を無限に作れちゃったりすると思うんだ。

 

あとちゃっかり銃を作ろうとしてた。失敗してたけど。銃の構造に関してはこの世界に転生してからいろいろ学んだけど、あれを作れって言われたらちょっとというかもう全力で拒否させていただきます。

 

構造複雑すぎんよー。ってなわけで私は今日、訓練スペースの外にある森の中であいも変わらず弓で極太レーザー撃って反動抑える練習してたんだけど、なーんか下の方で声がするんだよねぇ。

 

・・・・・・・・あそっか。ハジメが檜山達にいじめられてんのか。よし、じゃああれだ、訓練中の誤爆とか言って檜山達にぶっ放そう。死にはしないよ・・・・・・・・多分。

_____________________

 

下の方を見てみたけど案の定というかドンピシャというか。ハジメを檜山達が囲んでる。・・・・・・・・アッ檜山が手を挙げた。よーし、これで正当防衛(自論)成立―。ってなわけで早速ぶっ放しましょうねー。

 

弓を構え、技能:同化[+増幅]を発動。まぁ武器構えると問答無用で発動するけどね。なんて便利なスキルなんだ・・・・・・・・(唖然)矢を取り出して、引く。するとその矢が青い稲妻のようなものを纏い始める。

 

そして私は、その手を、離した。その矢はおよそ屋が出していい速度を余裕で振り切り、青いレーザーとなって檜山に襲い掛かった。檜山が巻き込まれる。取り巻きも一緒になって、だ。

 

それで大爆発。爆風に若干遅れる形で爆音が響く。建物の壁はその面だけ完全に崩壊している。塵も残ってない。けど檜山達は死んでもいない。気を失ってるだけだ。何でそうなったかって?

 

私が調整したからに決まってんでしょ。ちゃんと考えてぶっ放しましたよさすがに。ここでこいつら消すと後が面倒になりかねんしなぁ。光輝には肉k・・・・・・・・ゲフンゲフン盾になってもらわないといけないからね。

 

こんなところでクラスメイトの中で変に孤立させてはいけない。でも機会が来たらその時は・・・・・・・・っと、そんなことを考えてたら件の光輝たちが来た。どうやらこの惨状を見て固まっているようだ。

 

さーって事情説明しに行かなければ(使命感)私はちゃっちゃと山を下りる。

 

「ごめんなさい。大丈夫でしたか?」

 

あくまでミスってことで話を通そう。

 

「真由美・・・・・・・・これは君がやったのか?」

「えぇ、まさかここまでの威力が出ると思わなくて・・・・・・・・練習不足でした。」

「そうか・・・・・・・・まぁそれなら仕方ない。この世界の人を守るためにお互いに頑張ろう!」

 

ふぅ、お決まりのご都合解釈で何とかなったわ。でもね光輝。私はこの世界の人たちを助ける気なんてこれっぽっちもないんだよ。私はただこんなことを引き起こした神様ぶっ殺して平穏な生活送りたいだけなんだから・・・・・・・・

 

そこの檜山達は治療され、訓練スペースの壁も治されたんだとか。

 

 




はーいというわけで今回は主人公の力の一端と心の闇?の一端をお見せできたかなと思っております。というかお気に入り件数がもう80になったという。皆さんがこんな文章を読んで下さるなって感謝でしかありません。という訳でまた次回お会いいたしましょう


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第五話 仮面でライダーな俺(未来)と仮面ライダー誕生

前回までの三つの出来事。一つ、真由美のステータスは異常だった。二つ、ハジメは愛ちゃん先生の無自覚ダイレクトアタックでクリティカルダメージを負った。三つ、ハジメがいじめられそうになったところに真由美が助けに入った。さて、今回から原作と決定的にずれる出来事と人物が登場するぞ。

そして仮面ライダーになるのは何ということだろう、アイツである。


 

???side

 

ここはどこだろうか?あたり一面は焼け野原になっており、真っ暗だ。そしてそんな真っ暗闇の中でひときは光を放っていたところがあった。

 

それはまるで玉座であり、そこには人の形をした何かが座っていた。黒に金色の意匠が入ったスーツのようなものを着ていて

 

その顔は丸く、そこにはライダーという文字が入っていた。

 

「ついに若き日の私ともう一人があの世界に飛ばされたか。では、私も行くとしようか。あの世界に。」

 

その何かは、後ろに発生した時空の裂け目のような何かに入っていった。

 

______________________________

 

真由美side

 

はーい皆さん、真由美ですー。いやー、スカッとしてる!今私はとってもスカッとしているぞォー!・・・・・・・・なんか言ってて悲しくなってきた。ハジメはどうなったかって? 檜山達をぶっぱした後、ハジメが倒れてしまったので医務室?

 

に運んできて、ハジメは香織さんに治療されているのでした。相変わらずの献身っぷりに私は涙も出てしまうねうん。これからのハジメの成長を見るのが楽しみだな。おらワクワクすっぞ!

 

ん?転生直後はあんなにいやそうにしてたのに今はノリノリじゃんって?だっていくら平和な世界からかけ離れた世界に転生させられたといっても、自分が知ってる物語の世界に入れるって

 

これはもうオタクの私としてはもう願ったりかなったりなわけで・・・・・・・・フフッ、ハジXかお、もっと流行れ・・・・・・・・まぁ、そんなことはあり得ないんですけどね。

 

ユエちゃんとかいう強敵出てきちゃうから。おぉ香織よ。なんと哀れな・・・・・・・・っと、これ以上言うとアンチみたく思われるからやーめよッと。ってなわけで私はいま部屋に戻ってきたんですけど・・・・・・・・なーんで自分の部屋に私くりそつな女性がいるんですかねぇ?

 

何この某最低最悪な魔王と若き日の魔王があっちゃう的な展開は―?某仮面でライダーな人を思い出すぞおい。あれクッソ有名だったからな?シリアスがあるのかなって思ったら急にギャグ突っ込んでくるし、かと思ったらシリアスだし。

 

なんか知らんが見入っちゃって、映画まで視に行っちゃって、それで平成作品?を全部見てしまうぐらいにははまったからね?あ、ちなみに私の記憶にあるのはゼロワンまでですはい。セイバー?見る前に転生したから知らない子ですねぇ。

 

それにしてもCG技術凄かったなゼロワン。いやぁ、技術の進歩ってすごいねぇ。でも私が好きな作品はカブトです異論は認める。

 

「誰ですか?というか、私に何の用ですか?」

 

まぁ当然こういうことを聞くことになるよね。だって誰なのか知りたいし。同じ顔なの気になるし、何か腰に見知ったベルト状の何かがまいてあるし!嫌な予感するよ!?

 

「私は、未来のお前だ。真城真由美。いや?真城悠馬と呼ぶべきか?」

 

はぁい言質いただきましたー!やっぱりそうかくそったれ!何で未来の私が介入してくるんですかねぇ?しかも前世の名前知ってるし!俺クラスメイトどころか今世であった人間に誰にも言ったことがないですけどねぇ!前世の名前!

 

なにしに来たの?そのベルトで魔王になってこの世界破壊でもするんか?そうなんか?

 

「未来の私が、私に一体何の用ですか?」

「なに、貴様の手助けをしてやろうと思ってな。過去の私。さっさと帰りたいんだろう?元の世界に。」

 

そりゃそうでしょうよ!私が望むのは平和な生活だ!こんな戦争バッチこいな世界なんていたくもねぇよ。いやまぁ存在と虚無の権能持った時点でなんとなく察してはいたけどさぁ!

 

「・・・・・・・・そうですが。いったい何をするつもりですか?」

 

そう返事をしてやる。絶対こういう時の手伝いってろくなことしねぇパターンよな。これ心理。

 

「クッ、クハハハハハハッ!警戒心の強い奴め。安心しろ、私はあくまで過去の私の手伝いをしに来たまでだ。」

 

絶対嘘だぁ!ろくでもないこと考えてるような眼をしているよ!いや私の顔だけどもさぁ!

 

「嘘ではない。本当のことだ。」

 

こいつ心読んだ?やばい奴やん。何で私の心読めるのぉ!?

 

「貴様は未来の私だ。であれば読めるのが道理であろう?」

 

そんな道理知らないよぉ!これ以上困惑させるのヤメロォ!(本音)

 

「ふむ・・・・・・・・、まぁこれ以上長々と話すのもあれだな。どれ、さっさと要件を済ませてしまおう。」

 

そう言って自称未来の私は、その手に巨大な箱のようなものを虚空から取り出した。

 

「なんですか?これ。」

「ささやかな贈り物だ。お前が使うも、誰かに渡すのも自由だ。ただし、私のことは話すなよ?」

 

くぎを刺された。

 

「分かりました。誰にも言いません。」

 

言っても信じてくれなさそうだしねー。ってなけで中身を拝見拝見・・・・・・・・っと、中に入ってたのは青い・・・・・・・・銃?みたいな何かと、四角い何かが複数・・・・・・・・あれ?これゼロワンのショットライザーじゃね?

 

しかも二つ?あ、これウルフのキーとチーターのキーだ。おぉ!まさかのゼロワン変身アイテムきちゃぁぁぁぁあぁ!・・・・・・・・でもさ、さすがにチート過ぎないかい?こんなにもらうのはさ。

 

いや、俺的にはザインとニヒトの力があるからさ、それで十分なのよ。これだけあれば神殺しとか余裕な気がするけども・・・・・・・・まぁいいか。別に私が使わなくてもいいもんな。フヒヒッ。

 

ん?なぜか唐突にステータスプレートを見たくなったぞ。どうしてだ?まぁいいや、見よう。

 

________________________________________

 

 真城真由美 17歳 女 レベル1

 

 

 

  天職:祝祭の巫女

 

 

 

  筋力:70(増幅時最大値+10000)

 

 

 

  耐性:300(増幅時最大値+10000)

 

 

 

  敏捷:280(増幅時最大値+10000)

 

 

 

  魔力:300(増幅時最大値+10000)

 

 

 

  魔耐:300(増幅時最大値+10000)

 

 

 

  技能:同化[+消滅][+ワームスフィア][+形質変化][+形状変化][+増幅][+自己修復] 飛行 魔眼[+全能の眼][+封印][+進化]機器作成[+ベルト][+変身アイテム][ロボット] 人工知能[+アーク][+ゼア]制約無視 [+譲渡][+条件追加] 言語理解

 

_______________________________________________

 

なーんか知ってるような知らないような技能が追加されてるんですがそれは。この制約無視って技能はあれかな?条件満たしてなくても変身できるってことかな?しかも譲渡て、他人にも渡せるってことでは?しかも条件追加とかさ、ぜーったい他人に渡したときに何かできるよね。

 

うん。面白そう。しかも仮面ライダーのベルトと変身アイテムが作れるってことは・・・・・・・・なに?某”作る、形成する”って意味の仮面なライダーの裏組織の人みたいなことできるんかな?悪役ごっことか燃える展開やんけ。

 

「どうだ?気に入ってくれたか?」

 

と未来の私。でもこんな力くれるなんて優しくない?

 

「・・・・・・・・えぇ、とても嬉しいですが、これでどうしろと?」

「言っただろう?私はただ貴様のことを助けようとしているだけだ。」

 

と、一点張り。うーん、ここは素直に受け取っておくとしますかね。

 

「ではまた会おう。過去の私、貴様を私は見守っている。」

 

と言って何か白いオーロラの様なものに入っていった未来の私。うーん?最初から最後まで胡散臭いって感じがしなかったんよなぁ。まぁいいや、今はこれをどうするかだなぁ。

 

そういや清水君、魔物とか従えられるんだっけ?どこかバルカンのランペイジを彷彿とさせるなぁ・・・・・・・・そや、ウルフのキーとショットライザーあげるの清水君でいいや。何かにあいそう。

 

ってなわけで早速清水君の部屋へレッツゴー!

 

________________________________________

 

清水side

 

僕は今の状況に心底うんざりしている。何でこんなことになったんだろうか?たしかに僕はハジメや真由美さんのようにオタクだし、こういう状況にあこがれを持つこともあった。けどいざ自分がとなるとどうしても、ね。

 

最初こそ浮かれていた。けどさ、思ったんだよ。真由美さんの言葉を聞いて。平和な国いたからこそああいったサブカルにはまれたし、妄想もした。けど僕たちがそういう戦いに関することには一切としてかかわったことがない素人だっていうのは

 

事実だ。こればっかりはどうしようもない。変えることができないんだ。だから僕は、せめて意地汚く生き残ろうと思う。あの腐った家には帰りたくないし、僕のうちにある他人を見下す性格は治ることはないけど、それでも僕は日本に帰りたい。

 

そんなことを思っているときだった。

 

「清水君。今いるかな?」

 

部屋の扉が軽くノックされ、その向こうから真由美さんの声が聞こえた。僕は急いで扉を開ける。こういう時に相手を待たせてはいけない。

 

「どうしたの?」

「うーんと、君に上げたいものがあって。」

「上げたいもの?」

 

そう言って彼女が取り出したのは黒い本体に青い装甲のようなものが取り付けられている銃のような何か・・・・・・・・いや、誤魔化すのはやめよう、ショットライザーと

 

シューティングウルフプログライズキー、パンチングコングプログライズキー、アサルトウルフプログライズキー、ランペイジガトリングプログライズキー、そしてアタッシュショットガン、オーソライズバスターだ。

 

最近放送された仮面ライダーの二号、三号ライダーが変身するときのアイテムと武器だ。でも何であるんだろう?

 

「これは?」

「私の技能で作れた変身ベルトだよ。君になら似合うかなと思って。」

「もらっていいの?」

「うん。ぜひ使ってほしい。使い方はこの紙に書いてあるから読んで使ってみてね。じゃ。」

 

そう言って真由美さんは僕の部屋を後にした。どうしてこれを僕に・・・・・・・・いや、確かに僕が使う闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは

 

基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されているし、僕の適性もそういったところにあったみたいで

 

相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができる。

 

つまるところ洗脳ができるということなんだけど、まだ試したことないし魔物を操れるかなぁと思ったこともある。多分バルカンの最強フォーム?であるランペイジは様々な動物の能力を使うことができるから

 

そこが似てると思ってこれを渡してきたんだろうけど・・・・・・・・僕、彼女に説明したことあったっけ?まぁ考えてもしょうがないか。やってみよう。どうせ暇だし。どうせなら不破さんみたいにやってみるか!

 

____________________________________

 

三人称side

 

清水は腰にベルトを巻き、ショットライザーを持つ。それをベルトについている固定具に取り付ける。そしてシューティングウルフプログライズキーをもち

 

そのキーについていたスイッチを押す。すると

 

《Bullet!》

 

と音声が聞こえる。それを両手で持ち、キーの展開部分を持ち、強引に開けようとする。

 

「僕にこじ開けられないものは・・・・・・・・何一つないっ!ウォォォォォォォォォォ!」

 

めきめきめきとキーから何か嫌な音がするが清水はそれを無視し、キーをこじ開けた。

 

「ふんっ!」

 

それをショットライザーに差し込む。

 

《Authorize!Kamen Rider… Kamen Rider…》

 

そして銃口を正面に向け引き金を引き、叫んだ。

 

「変身!!」

 

《Shotrize!Shooting Wolf!The elevation increases as the bullet is fired.》

 

銃口から弾丸が発射され、それは少し進んでから清水の方へと戻ってくる。清水はその弾丸を殴る。するとその弾丸は分裂し、清水の体を包み込み、青と白の装甲となる。

 

ここに、”仮面ライダーバルカン”が誕生した。

 




まずは清水君が変身しました。はい、清水君をバルカンにした理由は本編で清水君が説明してくれたように、大量の魔物を操る=ランペイジバルカンやろでそうしました。次回は迷宮と残りの仮面ライダーの誕生です。なるひとは・・・・・・・・
次回のお楽しみです。という訳でまた次回お会いいたしましょう!


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第六話 バッタとオオカミとチーターと

前回までの三つの出来事 一つ、真由美の前に未来の真由美を名乗る人物が現れた。二つ、真由美は新たに仮面ライダーを作る技能を手に入れた。三つ、清水は仮面ライダーバルカンとなった。あと、変身音声の表記についてですが、日本語で書ける部分は日本語で表記させていただきます。

英文のところはもちろん英語にしますが。作者の英語力が乏しい故の結果でこのようなことになってしまい本当に申し訳ございません。


 

真由美side

 

そろそろ人外になり果てた気がする。いやね、メタい話この物語はメタとカオスとギャグと時々シリアスで構成されてる(はずの)駄作なんだけどさ、さすがにやりすぎかなぁと思ってます。

 

まぁ、駄作者と違って私は遠慮する気なんてさらさらないわけだけどさ。でも、ここまでするとなーんか強敵が現れる気がするのよねぇ。(駄作者言うなしby駄作者)そんなことを清水君の部屋から戻ってきたときに考えていると

 

ふとゼウスのじっちゃんから声をかけられた。

 

『其方よ。』

「ん?なーに?ゼウスのじっちゃん」

『本当にあのものを信用するのか?未来のお前を語るものを。』

「信用・・・・・・・・正直今のこれは信用とは言わないと思う、ってか手のひらで踊らされてるのかな。でも、今はどんな手でも借りたいからね。私というイレギュラーが存在する以上、万事全てが原作通り何ては行かないはず。戦力は多いに越したことはない。」

『確かにその通りではあるが・・・・・・・・』

「向こうも信用されてるなんて思ってないんじゃない?あわよくば利用的なことを考えてると思う。なら私も全力でその思惑を利用してやろうって思ってるだけ。せっかくこんな力を手に入れたんだもん。使わなきゃ。」

『・・・・・・・・其方がそう思ってるならよい。我は基本視ていることしかできん故な。』

「まな、何とかするさ。そういうことがおこったら、さ。」

 

うん。胡散臭いとは思わなかったけど、それでも信用の有無はまた別の話。向こうは多分これからの私の行動を見て愉悦に浸るか娯楽としゃれこむかしようとしてるだけなんだと思う。

 

つまるところ、私をゲームやアニメの主人公として見てるんだと思う。だったらその役割(ロール)を全うしてやろうじゃないか。とりあえず入手した技能の確認よね。

 

作れることは分かったから、次はこの人工知能ってスキル試してみるか。技能:人工知能、発動!

 

『技能:人工知能の起動を確認。技能:機器作成とのリンクを確立、生産可能モデル確認中・・・・・・・・付加技能:アーク並びにゼアを確認、技能拡張、生産スペースにアクセス・・・・・・・・承認。

使用許諾確認。適性ユーザーです。現在人工知能の稼働状況はフリー、モデル:ヒューマギア・ガーディアンの、作成が可能です。』

 

おー、なんかそれっぽい音声が流れた。ん?音声が流れるってこの世界に元からある技能じゃないのか?まぁいいや、なんか作れるっぽいしなんか作るか。よーし、モデル:ヒューマギアの項目だして。

 

『了、モデル:ヒューマギアの項目を表示します。』

 

おぉ!いろいろあるな。でもほとんどがサポート要員だよなこれ。どちらかというと滅亡迅雷,netの方が・・・・・・・・ってあるんかい!うーむ・・・・・・・・亡辺りを作っておくか。いろいろと便利だし。という訳でよろしく。

 

『個体名:亡の製造を開始します。・・・・・・・・技能の譲渡が可能です。譲渡しますか?』

 

技能の譲渡?詳しく教えて下しあ。

 

『マスターの持つ技能の一部を使えなくする代わりにその技能を製造した個体が使用することが可能になります。』

 

へぇ、なるほど。ってことは私が手に入れた技能を別な奴が使えるようになるってわけだ。うん、いやこれで懸念事項の一つがなくなったわけだ。

 

懸念事項って言うのはあれね、私、ハジメと一緒に奈落に落ちるつもりだからこの仮面ライダーに関するものが作れるようになった技能をどうするべきかなって悩んでたんだよね。

 

だってこの技能ないと味方の仮面ライダーによる戦力強化できないじゃん。ってことで亡に技能:機器作成[+ベルト][+変身アイテム][+ロボット] 人工知能[+アーク][+ゼア]制約無視 [+譲渡][+条件追加]を譲渡!

 

『確認しました。個体名:亡に技能:機器作成[+ベルト][+変身アイテム][+ロボット] 人工知能[+アーク][+ゼア]制約無視 [+譲渡][+条件追加]を譲渡します。』

 

よし、これであとは亡ができるのを待つだけだなっと。

 

『製造開始、製造完了まで残り30秒。』

 

三十秒!?早くない?仮にも人工知能だよ!?

 

『製造完了。思考回路形成完了、AI搭載完了。CPUオンライン。個体名:亡の技能、設定完了。適応を確認中・・・・・・・・確認、正常に適応されました。亡を起動します。』

 

うお、私のベットに亡が寝ている。何を言ってるか分からねーだろうが私にもわからん。あっ、目を覚ました。

 

「初めまして、マスター。私は亡です。これよりマスターのサポートに入ります。」

 

おぉ!あの亡が生で目の前にいる!何この背徳感、すっげぇいいなこれ。よし、さっそく何かしてもらおう。

 

「亡、自分の持っている技能は確認できますか?」

「はい、少々お待ちください・・・・・・・・確認、技能:機器作成[+ベルト][+変身アイテム][+ロボット] 人工知能[+アーク][+ゼア]制約無視 [+譲渡][+条件追加] 言語理解が現在の技能です。」

「では、技能:機器作成 人工知能を使い、フォースライザー並びにジャパニーズウルフゼツメライズキーを作成、変身してください。」

「了解しました。これより所定の行動を開始します。」

__________________

 

三人称side

 

真由美の命令を聞いた亡は、さっそく滅亡迅雷フォースライザーを作成、ジャパニーズウルフゼツメライズキーも作成し、フォースライザーを腰に巻く。

 

《フォースライザー!》

 

亡はそのままキーをもってスイッチを押す。

 

《ジャパニーズウルフ》

 

そのキーをベルトに刺し、待機音声が流れ始める。そして亡はベルトの展開レバーの部分に手をかけ

 

「変身。」

 

レバーを引いた。

 

《フォースライズ! ジャパニーズウルフ!・・・・・・・・BREAK DOWN》

 

黒い装甲に白いケーブルの様なものがついたようなアーマーの仮面ライダー、仮面ライダー亡が誕生した。

 

__________________

 

真由美side

 

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!亡きちゃぁぁぁぁあぁ!あーヤバイ、マジかっけぇ。なにこれナニコレ!?このかっこよさずる過ぎるでしょう!

 

・・・・・・・・ゴホン。さて、これからは勇者パーティの援護をしつつ、適度に戦闘に介入させることにしよう。

 

亡さんはもうすでに元の姿に戻ってる。ってな感じで指示をし終えると

 

部屋にハジメと香織がやってきた。なんだろう?こんな時間に(※現在の時間は日本時間で午後十時ぐらいです。By作者)

 

「どうしたの?こんな夜中に。」

「うん、とりあえず、部屋に入ってもいいかな?香織さんが相談したいことがあるんだって。」

「そうなの。だから入れてくれないかな?」

「えぇ、構いませんよ。さぁ入って。」

 

私は二人を部屋に招き入れる。あぁそうか、明日は迷宮行く日だから、香織は今日ハジメのこと止めるんだっけ。そういうイベントあったねぇ。で、私のところに来たってことは多分私のところにもくぎを刺しに来たのかな?

 

でもさ、二人とも亡を見てびっくりしてるんだけどどうしたらいいんだろうか?

 

「あなたは誰?」

 

おそるおそる香織が聞く。やだこの子度胸ありすぎじゃない?

 

「私はマスターのサポートをするために生み出されたヒューマギア、個体名:亡です。よろしくお願いします。」

 

亡はそう返事をする。うっわぁ、様になってるぅ!キャー亡さんマジカッケー!

 

「さぁ、お互いの自己紹介?も済んだことだし、要件を聞きましょうか?」

「うん。・・・・・・・・あのね?真由美さんには明日の迷宮攻略にはいかないでほしいの!皆には私から説明するから!」

「どうして?何か怖い夢でも見た?」

「うん・・・・・・・・あなたが白い化け物に殺されちゃう夢・・・・・・・・」

 

oh・・・・・・・・やけに具体的だな。もっとkwsk

 

~~~少女説明中~~~~

 

「なるほどね。ハジメと同じように私もそのなんかよくわからない奴に殺されるかもしれないから来ないでほしいってわけね?」

 

私が聞いたのはおおむねそういうことだった。でもさ、途中で出て来た人型の何かとかさ、絶対になんか知らん敵出てくるフラグじゃん。なに?私の作った何かが利用されちゃうのかな?

 

いやー、その人型が”白髪天使?のあの人”*1だったらいいんだけどね・・・・・・・・

 

「そういうことだよ。だから、行かないでほしいの・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・ごめん、ハジメも同じように返したと思うけど、私もここに残ることはできない。」

「どうしてっ!?死ぬかもしれないんだよっ!?」

「それが戦争。私たちがやろうとしてることなんだよ香織。それに、私もさっさと日本に帰りたいからね。ここで立ち止まることなんてできない。だからごめん。」

「でも・・・・・・・・私は、真由美に死んでほしくない!だから死なないで、約束だよ?」

「うん。約束ね。」

 

香織は落ち着いたのか部屋に帰っていった。ふむ、それにしても心配しすぎじゃなかろうか?まぁ用心するに越したことはないよな。ってなわけで亡にこれからのことについて話さないとなぁ

 

____________________

 

~~~翌日~~~

三人称side

 

真由美たち勇者一行は【オルクス大迷宮】前に立っていた。そして今、その場所の光景に驚いている最中だった。亡はメモリに情景を写真データとして残しているようだ。よほど景色が気に入ったのだろう。

 

ちなみに亡は、真由美が手に入れていたスキルで作ったものとメルド団長に説明するとあっさりと受け入れられた。まるで”それが正しい”と”洗脳で暗示をかけられている”ように。またあの人物が手をまわしたのだろうか?

 

さて、そこには様々な店が乱立しており、そこには冒険者がうじゃうじゃいた。そして大迷宮の入り口には何かを記録している女性が立っていた。聞いてみれば、入った人数を記録して、何人死んだのか確かめているのだという。 

 

「さて諸君、初の戦闘だ。今まで鍛えたものを十分生かせるように頑張ってくれ。健闘を祈る。」

 

メルドは今回護衛の剣士数名を連れて、光輝たちの前に立つ。所謂先導役をしている。

 

クラスメイトの方を見ると、各々が別の表情をしている。楽しそうにしている人もいれば怖がっている人もいた。

 

その中でも不穏な表情をしている人物がいた。そう、檜山である。彼は昨日、香織を連れて自分の部屋に入るハジメの姿をたまたま見かけた。そして愚かにもそれを憎いと思っていた。

 

(あいつなんかより、俺の方がもっとふさわしいんだ!)

 

そして檜山はその考えのまま迷宮へと足を踏み入れた。それはのちにクラス全員を巻き込んで危険な目に合わせることになるのだが、この時の檜山にそんなことが想像できようもなかった。

 

しばらく迷宮の中を進んでいく真由美達。

 

すると魔物が襲ってきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ! 交代で前に出てもらうからな、準備しておけ! あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。

 

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

 

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

 

光輝は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度で振るって数体をまとめて葬っている。

 

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。

 

龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

雫は、サムライガールらしく〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。

 

真由美達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

 

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

 

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

 

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

メルド団長の言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調に階層を下げて行った。

 

道中の魔物と呼ばれる敵も難なく撃破し、歩みを進めていく。そして一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

 

真由美は持っていた弓型のアーティファクトを取り出し、亡もフォースライザーを取り出す。清水もショットライザーを取り出す。

 

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

真由美達は戦闘経験こそ少ないものの、全員がチート持ちなので割かしあっさりと降りることができた。

 

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

 

この点、トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるから八割以上はフェアスコープで発見できる。

 

ただし、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

 

従って、真由美達が素早く階層を下げられたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルド団長からも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

メルド団長の声は良く響く。そんなことを思っていると、なぜか清水が壁に向かってショットライザーの引き金を引いた。容易にマギアの装甲をぶち抜き破壊するその弾丸は寸分たがわず”壁に擬態していた”熊のような魔物の核を貫いていた。

 

真由美が逆方向を向くとそこにも”らしきもの”があったので、ニヒトの同化ケーブルを部分展開してこっそり同化しておく。どうやら技能:同化を発動すると部分的にザインとニヒトの見た目をしたアーマーを着ることができるらしい。

 

それは全面だろうが部分的だろうが同じであるようだ。

 

「ほぉー、よくロックマウントの擬態を見破ったな。みんなも気をつけろ。こんな魔物がうじゃうじゃいるからな。」

 

すると奥からうじゃうじゃとロックマウントの群れがはい出て来た。

 

「ひっ!?」

 

その飛び出てくる格好は、どうしてか某有名泥棒のダイブに似ていると来た。そんな光景を見てしまえば、見た目の気持ち悪さも相まって女子は動けなくなってしまう。

 

というか、動けないでいた。真由美の前で腰を抜かし、倒れこんでいる女子がいた。そのまま放置すればロックマウントの巨大な腕でプレス(物理)されてしまうだろう。

 

真由美はさすがにやばいと思ったのか、弓矢を同化し、威力を底上げしてロックマウントに放つ。無論威力最大ではない。直径5cm程度の光の螺旋となった矢は、縦に並んでいたロックマウントの核を寸分たがわず貫き

 

絶命させた。真由美はそれを確認すると、腰を抜かして動けなくなっている女子に手を差し出した。

 

「大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。」

 

ケガはないようだ。真由美はそう安心していると最前列にいた光輝がその手の聖剣を上に掲げていた。

 

「貴様、香織たちになってことを!絶対に許さない!」

 

光輝の視線は、また増えたロックマウント達に向けられていた。

 

(馬鹿光輝!そんな火力で撃ったら!?)

 

真由美は急いで矢を装填しなおし、同化で威力を底上げする。そして、光輝の顔の横すれすれを通し、光の螺旋をロックマウント達に当てる。ロックマウント達は核を撃ち抜かれたことで絶命した。

 

真由美は弓を背中に背負い、光輝のいる方へ向かった。

 

「真由美?ありがとう、助かった。でも俺が倒そうとしてたんだから邪魔しないでk「ふんっ!」ごばぁ!?」

 

真由美は光輝が変なことを言いきる前にそのあまたに強化した拳を振り下ろす。

 

「馬鹿光輝、あんな威力で技使って天井崩れたらどうすんの!」

「ねぇ、真由美?」

「ん?何、雫。」

「光輝・・・・・・・・気絶してる。」

「・・・・・・・・あっ。」

 

光輝は・・・・・・・・気絶していた。

 

_____________________

 

しばらくして、光輝が目を覚ますと、勇者パーティは進み始めた。するととても美しい鉱石を発見した。

 

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

 

グランツ鉱石とは、言わば宝石の原石みたいなものだ。特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり

 

加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

 

「素敵……」

 

香織が、メルドの簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりとする。そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫ともう一人だけは気がついていたが……

 

「だったら俺らで回収しようぜ!」

 

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。

 

「馬鹿野郎!トラップの有無も確認していないのに勝手な行動をするな!」

 

メルド団長は叫ぶ。しかし檜山達はベロを出しながらおちょくり、その鉱石をつかむ。すると足元に転移陣のようなものが現れた。

 

部屋の中に光が満ち、真由美達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

 

真由美達は空気が変わったのを感じた。次いで、ドスンという音と共に地面に叩きつけられた。

 

尻の痛みに呻き声を上げながら、真由美は周囲を見渡す。クラスメイトのほとんどは真由美と同じように尻餅をついていたが、メルド団長や騎士団員達、光輝達など一部の前衛職の生徒は既に立ち上がって周囲の警戒をしている。

 

どうやら、先の魔法陣は転移させるものだったらしい。現代の魔法使いには不可能な事を平然とやってのけるのだから神代の魔法は規格外だ。

 

真由美達が転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

 

橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。真由美達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。 

 

それを確認したメルド団長が、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

 

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

 

雷の如く轟いた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

 

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

 

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルド団長の呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

まさか……ベヒモス……なのか……

 

その空間にメルドの声は嫌というほど響いた。その声に反応し、ベヒモスは真由美たちの方へ向く。その目はまるで今日の獲物を見つけたといわんばかりに。そして、その化け物【ベヒモス】は戦闘開始と言わんばかりに

 

咆哮を上げた。

 

「総員、階段付近まで撤退しろ!今のお前らじゃ無理だ!」

 

メルドが叫ぶ。パニック状態になっているクラスメイトは一斉に階段付近まで移動する。が、そこで足止めを食らった。階段前に魔法陣が展開され、大量のトラウムソルジャーが出現したからである。

 

「亡っ!」

「了解!」

 

《ジャパニーズウルフ》

 

「変身!」

 

《フォースライズ! ジャパニーズウルフ!・・・・・・・・BREAK DOWN》

 

真由美の呼ぶ声に亡が反応し亡は変身する。亡はクラスメイトの前に立ち、蹴りや拳などでトラウムソルジャーを粉砕していく。

 

「さてと・・・・・・・・んじゃあ、このベルトを巻いて変身する人たちに渡しますか!」

 

真由美はそう言って持っていらサックの中からショットライザーともう一つ、黒に黄色の円形状のものがついたベルトと、黄色いプログライズキーを取り出して、ベヒモスの方へと走り出していった。

 

_____________________

 

《バレット!》

 

「ふっ!ぐうぉぉぉぉぉあああぁぁぁぁぁぁあぁあ!」

 

《オーソライズKamen Rider… Kamen Rider…》

 

「変身!」

 

《ショットライズ!・・・・・・・・シューティングウルフ!The elevation increases as the bullet is fired.》

 

清水はバルカンへと変身し、ベヒモスに弾丸を浴びせている。が、全然聞いている様子がない。

 

「清水!?その恰好は一体?」

「話はあとだ光輝!今はあれを止めるぞ!」

「!?分かった!万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟」

 

光輝が切りかかる、がベヒモスはびくともしていない。

 

「どうする?このままじゃじり貧だぜ?」

「あきらめるな龍太郎。せめて、クラスのみんながここを離れるまでの時間を稼がなきゃ!」

「二人とも!前を見ろ!」

 

光輝と龍太郎の目の前にはベヒモスの前足が来ており、このままでは二人とも奈落に落ちてしまう。二人はとっさに目をふさぐ

 

しかし、衝撃は来ず、鉄と鉄がぶつかるような音がした。二人の目の前に映ったのは右腕を掲げてベヒモスの足を止めてる青と白のアーマーの戦士

 

バルカンこと、清水だった。

 

「大丈夫か!?」

「あぁ、問題ない!」

 

清水はベヒモスの足を払い、銃撃する。ゼロ距離だとさすがに耐えられないのか、ベヒモスはひるむ。すると後ろから声がした。

 

「清水君、これを!」

 

声の主は真由美だった。真由美が投げて来たのはアタッシュショットガンだ。そして緑色のプログライズキー、ガトリングヘッジプログライズキーだ。

 

「ありがとう真由美さん!」

 

清水はアタッシュショットガンを展開する。

 

《ショットガンライズ!》

 

それをベヒモスに向けて撃つ。

 

「うわぁぁ!?」

 

しかし反動が強く、清水は後方に飛んで行ってしまう。それはベヒモスも同様で、壁の方まで滑っていった。しかしまだ倒れていない。

 

このままではじり貧だ。そう思った真由美はぽかんとしている龍太郎に叫ぶ。

 

「龍太郎君!これを!」

 

真由美は黒色のドライバー「飛電ゼロワンドライバー」を龍太郎に投げる。

 

「うお!?なんだこれ!?」

 

龍太郎はそういったが一瞬、意識を失う。次に目が覚めたときにはベルトを腰に巻いていた。

 

「なんだかよくわかんねぇけど、ラーニング完了!」

 

そして右手に持っていたそのキー、ライジングホッパープログライズキー

 

のスイッチを押す。

 

《ジャンプ!》

 

そしてそれをベルト部分にかざす。

 

《オーソライズ!》

 

「変身!」

 

《プログライズ!飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a rider kick.》

 

「ゼロワン!それが俺の名だ!」

 

真由美はそれを見て無事に変身が終えたことに安堵する。そして残りのショットライザーを渡すべく、もう一人の方へと向かった。

 

____________________

 

そこにいたのは恵理だった。自分が苦手な死霊系の魔法を行使し、必死に戦っている。真由美は恵理を呼んで、自分のもとに来させる。

 

「何?真由美。」

「恵理ちゃん。まだ戦える?」

「・・・・・・・・正直もうきついよ。僕はこの魔法が苦手だから、あんまり使い続けられない。」

「じゃあ、あなたにこれを上げる。これがあればあなたは戦える!」

 

 

真由美が渡したのは2つ目のショットライザーとラッシングチータープログライズキーだった。

 

「・・・・・・・・これを使えれば、僕は戦えるの?また、大切な人を失わずに済むの?」

「うん。『想いはテクノロジーを越える』だから気持ちをしっかり持って!」

「分かった。使うよ。」

「お願い。」

 

恵理はそう言ってショットライザーをつかむ。そして、まるで使い方がわかっているかのようにキーを握り、ボタンを押す。

 

《ダッシュ!》

 

そしてそれをショットライザーに刺す。

 

《オーソライズ!Kamen Rider… Kamen Rider…》

 

手でキーのカバーを展開し、引き金に指をかける。そして

 

「変身!」

 

《ショットライズ!・・・・・・・・ラッシングチーター!Try to outrun this demon to get left in the dust.》

 

「バルキリー。僕はこの力で大切な人を守る!」

 

恵理は仮面ライダーバルキリーとなり、敵を次々と倒していく。

 

___________________________

 

「これを使うか!」

 

《リボルバー!》

 

ガトリングヘッジプログライズキーをアタッシュショットガンのスロットに差し込む

 

《Progrizekey confirmed.Ready to utillize》

 

清水はそれをベヒモスに向けると、引き金を引く。

 

《ガトリングパワーショット!》

 

緑の槍状のエネルギー弾がその銃口から連射される。しかし、それで終わりではない。銃口を一度折り畳み待機状態に戻す。

 

《チャージライズ!》

 

そして再び、展開する。

 

《フルチャージ!》

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

清水は再び、引き金を引く。

 

《ガトリングカバンバスター!》

 

上空に緑色の槍状のエネルギー弾が発射されそれが次々と突き刺さる。

 

「GRUGAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 

ベヒモスは悲鳴を上げる。とそこへ、ゼロワンとバルキリーがやってきた。

 

「龍太郎!と・・・・・・・・誰?」

「中村恵理だよ、清水君。」

「恵理ちゃん!?まぁいいや、決めるよ3人とも!」

「応!任せろ!」

「うん!分かったよ!」

 

清水と恵理はショットライザーをベルトに戻す。そして、キーのスイッチを押す。龍太郎はベルトに刺さったキーを押し込む。

 

『バレット!』

『ダッシュ!』

 

『バレットシューティング』

『ダッシュラッシング』

『『ブラスト!フィーバー!』』

『ライジングインパクト!』

 

3人は上空へと飛びあがり、ベヒモスに蹴りを入れる。その威力はすさまじく、ベヒモスの堅牢な皮膚?を砕き中の肉を露出させる。

 

「いまだ!真由美さん!」

 

清水が真由美を呼んだ。そこには両手を合わせて錬成を発動しているハジメと、弓矢をもって走ってきている真由美と、その後ろには下がって魔法を発動しようとしているクラスメイトがいた。

 

時は3人が揃った直後までさかのぼる。

 

______________

 

「光輝!一旦引くぞ!」

「でも、龍太郎たちがまだ!」

「あれは大丈夫だ、それよりも早く後退して魔法の一斉射の準備をしろ!」

「でもあの化け物は俺が倒さないといけないんです!」

 

メルド団長のいうことを聞こうとしない光輝、しかしメルドは光輝のことを殴って話を聞かせる。

 

「いいか!これは作戦なんだ!。あいつらが陽動をしている間に俺たちは魔法を準備する。真由美とハジメはそのまま前線のやつらを後退させゼロ距離で攻撃の隙を作る。その間に俺たちが魔法を放つ!

これで何とか出来るはずだ!いいか!?これは少しでもおかしくなると全員が危険にさらされる!だからお前も俺の言うことを聞け!」

 

光輝は何も答えない。メルドはみんなを集め後ろに下がらせる。その間に真由美とハジメは準備を始める。

 

「良かったの?ハジメ。これはとっても危ない作戦だったんだよ?彼らをおとりに使うことを悟られずに準備を進める。そして私たちはその戦火の渦中まで行ってゼロ距離攻撃をする。とっても危ない。」

「でもあの状況で動けるのは僕しかいなかったから。もう気にしてないよ。」

「ごめんね。じゃあやろうか!」

「うん!」

『いまだ真由美さん!』

「ハジメお願い!」

「うん!”錬成”」

 

ハジメは錬成を発動し、ベヒモスの足を固定する。その間に前の3人は下がる。

 

真由美は弓を持ってそのままベヒモスの皮膚が砕けたところに突貫する。そして弓を同化で強化し、そのまま滑り込むような姿勢で構える。

 

「死ね、ベヒモス。」

 

真由美はゼロ距離で矢を放つ。威力を最大にした真由美の矢はそのままベヒモスを少し上げつつ体を貫通する。すかさず真由美の近くまで来たハジメがベヒモスの体を錬成で固定し、そこに生徒たちが撃った魔法が当たる。”一発をのぞいて”。

 

魔法はベヒモスに当たり大爆発を起こす。そしてその爆発でベヒモスがいた場所の床が砕けた。そしてそのまま、真由美とハジメは、落ちてしまった。

 

 

*1
分解とか言う技能持ちで、羽とか使える、感情がないノから始まりトで終わる四文字のあの人




という訳でバルキリーとゼロワンが登場しました。恵理のバルキリー化は少し強引だったかなって思ってます。さて、真由美とハジメが落ちた描写は次回詳しく書きたいと思います。ではまた次回お会いしましょう!


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第七話 奈落へと落ちたふたり

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る 前回までの3つの出来事。一つ、真由美は亡を生み出し、仮面ライダーに関することはすべて一任した。2つ、恵理と竜太郎が仮面ライダーになった。3つ、ハジメと真由美は奈落へと落ちてしまった。


三人称side

 

「うっそ・・・・・・・だろ?」

 

龍太郎が信じられないといわんばかりの顔をして言った。

 

「真由美さんとハジメ君が・・・・・・・・落ちた?」

 

恵理が絶望したような声で言った。そう、真由美とハジメは奈落へと落ちてしまったのだ。クラスのみんなを守った立役者の二人が。

 

清水、恵理、龍太郎の眼には、穴に落ちそうになる自分たちを床がある方に押し出して、笑顔を向けたまま落ちていく生々しい光景が焼き付いている。

 

あの時、声は聞こえなかったが真由美は確かに言ったのだ。”生きて”と。

 

「くぅぅっっ・・・・・・・・くっそがぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 

清水はありったけの声で叫んだ。彼の頭の中では様々な光景が駆け巡る。そして、ここでああすれば失敗しなかったのでは?という疑問が、彼の頭の中を埋め尽くす。

 

そしてそれは彼だけではなかった。香織もまた、ハジメと真由美が落ちるその光景を、まるでスローモーションのように緩やかになった時間の中で、ただ見ていることしかできない香織は自分に絶望していた。

 

香織の頭の中には、昨夜の光景が繰り返し流れていた。

 

月明かりの射す部屋の中で、ハジメの入れたお世辞にも美味しいとは言えない紅茶モドキを飲みながら二人きりで話をした。あんなにじっくり話したのは初めてだった。

 

夢見が悪く不安に駆られて、いきなり訪ねた香織に随分と驚いていたハジメ。それでも真剣に話を聞いてくれて、気がつけば不安は消え去り思い出話に花を咲かせていた。

 

浮かれた気分で部屋に戻ったあと、今更のように自分が随分と大胆な格好をしていたことに気がつき、羞恥に身悶えると同時に、特に反応していなかったハジメを思い出して自分には魅力がないのかと落ち込んだりした。

 

一人百面相する香織に、同室の雫が呆れた表情をしていたのも黒歴史だろう。そして、あの晩、一番重要なことは、香織が約束をしたことだ。

 

〝ハジメを守る〟という約束。ハジメが香織の不安を和らげるために提案してくれた香織のための約束だ。奈落の底へ消えたハジメを見つめながら、その時の記憶が何度も何度も脳裏を巡る。

 

そして、最初こそ嫉妬を向けていたが、何度か話すたびにそんな気持ちはなく、不思議と引き込まれるようなそんな感覚がする、学校随一のお人よしである、真由美。普段こそハジメと同じような感じではあるが

 

頼まれたことはやるし話しかければ答えてくれる、ハジメと似たような感じの彼女。ハジメと話した後意を決して彼女にも伝えに行ったあの光景が、死なないでと約束したあの記憶が、今はただ、絶望という形で浮かび上がる。

 

どこか遠くで聞こえていた悲鳴が、実は自分のものだと気がついた香織は、急速に戻ってきた正常な感覚に顔を顰めた。

 

「離して! 南雲くんと真由美の所に行かないと! 約束したのに! 私がぁ、私が守るって! 離してぇ!」

 

飛び出そうとする香織を雫と光輝が必死に羽交い締めにする。香織は、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど尋常ではない力で引き剥がそうとする。

 

このままでは香織の体の方が壊れるかもしれない。しかし、だからといって、断じて離すわけにはいかない。今の香織を離せば、そのまま崖を飛び降りるだろう。

 

それくらい、普段の穏やかさが見る影もないほど必死の形相だった。いや、悲痛というべきかもしれない。

 

「香織っ、ダメよ! 香織!」

 

雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない。

 

「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲も真城も、もう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

それは、光輝なりに精一杯、香織を気遣った言葉。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきでない言葉だった。

 

「無理って何!? 2人は死んでない! 行かないと、きっと助けを求めてる!」

 

誰がどう考えても南雲ハジメと真城真由美は助からない。奈落の底と思しき崖に落ちていったのだから。

 

しかし、その現実を受け止められる心の余裕は、今の香織にはない。言ってしまえば反発して、更に無理を重ねるだけだ。

 

龍太郎や周りの生徒もどうすればいいか分からず、オロオロとするばかり。そんな時、香織に近づいてその顔を叩く男の姿があった。

 

そう、それは真由美とハジメの友人であった、清水幸利その人だった。その目に涙を浮かべながら、立っていた。その光景にクラスメイトは驚く。

 

「清水!お前、香織になんてことを!」

 

光輝は空気も読まずに清水を糾弾する。

 

「うるせぇぞ馬鹿光輝!てめぇは黙ってろ!」

 

清水は、普段の清水らしからぬ言動で叫んだ。その威圧するような叫びに光輝はひるむ。清水は香織の両肩をつかみ、持ち上げ、顔を近づける。

 

「なぁ、香織さん。僕だって・・・・・・・・”俺”だってなぁ、信じたくねぇんだよ!あいつが!あいつらが!こんなおれの友達になってくれたハジメと真由美が!こんなとこで死んじまうなんてなぁ!信じたくも・・・・・・・・ねぇんだよ!」

 

香織はその言葉を聞いて清水の方へ目線を向ける。彼の顔は涙と鼻水でもうぐしゃぐしゃだった。

 

「でも、俺たちが今ここでどんなに叫んでもアイツらを助ける方法はねぇ!俺たちに出来んのは、ここから無事に脱出して、アイツらの無事を祈ることしかねぇだろぉが!あいつらが作ってくれたチャンスをここで無駄にする気かあんたは!」

「しみず・・・・・・・・くん。」

「守れなかった、アイツらを守れなかった俺たちは!もう立ち止まることなんて出来ねぇんだよ!だから、ここで泣き叫ぶんじゃなくて、前に進もうとしろよ!それでもハジメを好きに・・・・・・・・真由美に嫉妬するほどの恋心を持った女なのよかぉ!あんたはっ!」

 

その言葉を聞いて香織はハッとする。清水の言ってることは支離滅裂だが、彼はこう言いたかったのだ。”後悔するぐらいなら、信じて先に進め”と。今なら清水の言っていることがわかる。ハジメを信じているなら、香織は前に進むべきなのだと。

 

そして、そのことを自覚した彼女はそれで糸が切れたのか、気を失う。清水は両肩をつかんでいた腕を放し、雫に香織を預け、集団の中に戻っていく。”変身しながら”

 

《ショットライズ!・・・・・・・・シューティングウルフ!The elevation increases as the bullet is fired.》

 

彼はそのまま列へと行き、そこで腰を抜かしながら何か独り言をつぶやいている檜山の頭をつかんだ。そのまま彼は檜山を持ち上げる。

 

「いててててててて!?何するんだよ清水っ!」

「うるせぇぞ三下ぁ!もうテメェのタネは割れてんだよ。テメェだろ?あの緻密に操作されて床を砕いた炎弾を撃ったくそ野郎ってのはぁ!」

 

そのまま、清水は檜山の腹を蹴って近くの壁に叩きつける。

 

「おい清水!香織だけじゃなくて檜山にまで手をかけるのか!?」

 

また光輝がずれた発言をする。でもまぁ今回の発言に正当性がないかと言われればそうでもない。他のクラスメイトもそうだ。誰も”あの二人を手にかけた犯人が同じクラスメイトだった”とは想像できなかったのだ。

 

しかしそこに一石を投じる人物がいた。

 

「そうだな。俺も見てたぜ。あいつが風属性魔法じゃなくて火属性魔法を使ってたとこはな。」

「僕も見てたよ。いやはや、滑稽だったね。欲に目がくらんだかい?」

 

龍太郎と恵理だった。

 

「龍太郎、それに恵理。二人まで何を言い出すんだ!」

「光輝、すまねぇな。少しうるせぇから黙っててくれるか?俺はいま無性にはらわたが煮えくり返ってるんだ。」

「僕も同じ意見だね。僕の敬愛する真由美に手を出したんだ。その所業は万死に値する。」

 

2人もベルトを装着し、変身する。

 

「なぁ檜山。お前に残された道は二つに一つだ。文字通りな。」

「なななな何をするるるるる気だお前えぇぇぇ!」

「ここでの野垂れ死ぬか、俺たちにここで肉塊に変えられるかだ。」

 

もう清水には、我慢できるほどの理性は残っていなかった。某一方なんちゃらさんの口調のようになってしまうほど、どうしようもなく檜山に対してブちぎれていたのだ。

 

檜山はその怒気に縮こまり、ろれつが回らなくなっていた。それは他のクラスメイトもそうだ。腰を抜かすものもいれば、目をそらすものもいる。

 

檜山はその殺気に当てられて口を開けず、ガタガタと震えていた。

 

「答えねぇか。・・・・・・・・はぁ、モォいい。テメェさっさと死ねよ。おい龍太郎、これ使え。」

 

そう言って清水はアタッシュショットガンを龍太郎に投げ渡した。

 

「サンキュー清水。お前いい奴だな。」

「ここで言うか?まぁ俺もお前が嫌な奴でないことを知れてよかったって思ってるけどな。」

「ちょっと二人とも、ここは友情を深め合うところじゃないでしょう?」

「おぉッとそうだった。このクズをどうにかしねぇとな。」

「私怨でクラスメイトを殺す奴は、もういらない。だったら死んだほうがいい。」

 

そう言って清水と恵理はベルトからショットライザーを取り外し、龍太郎はアタッシュショットガンを展開した。

 

《バレット!》

《ダッシュ!》

《リボルバー!》

 

清水と恵理はショットライザーを檜山に向け、龍太郎はガトリングヘッジプログライズキーをアタッシュショットガンのスロットに差し込む。

 

《Progrizekey confirmed.Ready to utillize》

 

龍太郎は銃身を折りたたみ、再度展開する。

 

《チャージライズ!フルチャージ!》

 

「あばよ三下ぁ(檜山)。せいぜい自分の行いを悔いながら死ね!」

 

清水はそういい、ショットライザーの引き金を引いた。恵理と龍太郎もそれに合わせて引き金を引く。

 

《バレットシューティング》

《ダッシュラッシング》

《ブラスト!》

《ガトリングカバンバスター!》

 

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

それが檜山の断末魔だった。三人が放ったそれぞれのエネルギー弾はプログライズキーに記録された動物の形を取り、それぞれのやり方で檜山の体を破壊していった。

 

そしてそれは大爆発を起こし、檜山は跡形もなく吹き飛んだのである。後に残ったのは檜山が所持していたであろうステ―タスプレートのかけらだけだった。彼の存在を示すものは、跡形もなく消えたのだ。

 

跡形もなく吹き飛んだ檜山を見て実感がわかないのか他のクラスメイトは唖然としている。すると、光輝がまたもや近づいてきた。

 

「おい清水!何故だ!何故檜山を殺す必要があった!お前は自分が何をしたのかわかってるのか!?」

「まだわかんねぇのかよ?俺は、アイツを、殺意を持って殺した。それだけだ。」

「殺しは立派な犯罪だぞ!ましてやクラスメイトを手にかけるなんて、お前はどうかしてるぞ!」

「あいつは二人も手にかけてんだぞ?お前、それを分かって言ってんだろうな?檜山のことは棚に上げてやれ人殺しだのやれ犯罪者だのほざいてんじゃねぇぞ、この勘違いの無責任野郎。」

「お前な!」

「ほら、真由美さん・・・・・・・・いや、真由美も言ってただろう?人殺しをする覚悟はあるか?ってな。これがそうなのさ。俺はあいつを殺す覚悟をした。もちろんそこにいる二人もだ。文句あっか?」

「人を殺すことに問題があるといってるんだ!なぜおまえは平然と人を殺せるんだ!?」

「”戦争だから”だよ、馬鹿野郎。俺は死なずに地球に戻りてぇからな。後ろから刺してくるかもしれねぇ奴は例えクラスメイトだろうが殺す。そういうもんなんだよ戦争ってやつは。」

「訳が分からない!俺たちは戦争をしているわけじゃないんだ!俺たちがしてるのはただの人助けだ!」

「いいや違うね。俺たちは戦争をしてるんだよ。テメェが無責任なこと言ってクラスメイト全員を巻き込んだせいでこうなった!この世界について書いてある本にはこう書いてあったよ。魔人族って言うのは人の道からから外れた異端児だってな。

その本質は人間と変わらねぇ。つまりだ、俺たちは人間相手に戦ってるんだよ。これは立派な戦争行為だ。くそったれで、血で血を洗う戦争なんだよ!分かってるのか!」

「それは違う!俺は魔人族を打倒し、人類を守る!」

「はぁ・・・・・・・・もぉいいわ。こいつに何話しても聞きそうにねぇしな。俺は帰る。メルド団長殿、さっさと帰ろうぜ。」

「あ、あぁ。お前たち、撤収するぞ。」

 

メルド団長は部下に指示しながら、クラスメイト達を撤収させていた。幸い、真由美が残したヒューマギア”亡”が道を切り開いていたおかげで誰もケガすることなく迷宮から脱出できた。

 

しかし、クラスメイト達の心に、大きな影を落とす結果となったのは誰の目を見ても明らかだろう。

______________________

 

「うー・・・・・・・・うーん?ここ・・・・・・・・どこ?」

 

真由美は真っ暗闇の中、目を覚ました。近くから水の音が聞こえることから、川の近くにいるのだろう。

 

「あれ?私一体何でここに・・・・?」

 

周囲は薄暗いが、かろうじて見えるようになってきた。目が慣れて来たのだろう。

 

「弓は・・・・・・・・駄目か。完全に壊れてる。同化しても直せないだろうなぁ。予備のナイフもどっか行っちゃってるっぽいし・・・・・・・・はぁ、しばらく素手か・・・・・・・・」

 

彼女の得物である弓型のアーティファクトは、半ばから折れており、修復は不可能だった。予備のナイフも持ってきてはいたがポーチごとどこかへ行ってしまったらしい。

 

「多分ここは奈落。檜山が落としてくるのも本編通り・・・・・・・・亡は大丈夫だろうか?まぁ色々する混んでおいたし問題はないとして・・・・・・・・そういやハジメはどこいった?」

 

周囲を見回すが、人影はおろか、生物の痕跡一つ見えない。すると突然、耳をつんざくような音が聞こえた。銃声である。

 

「今の銃声・・・・・・・・まさかハジメ?・・・・・・・・!?」

 

再び銃声が聞こえた。今度はマズルフラッシュ*1がしっかりと見えた。

 

どうやら銃を使って何かと戦っているようだった。真由美は急いで音が鳴った方へと向かう。途中、地面が整備されていないのもあって何度も転びかけたが構わずに走り続けた。

 

ウサギのような魔物に襲われもしたが、同化ケーブルを突き刺して同化することで排除。そしてしばらく進んでいくとそこには、髪が白くなり、片腕がなくなっている少年がいた。

 

その前には、大きなクマのような魔物が倒れていた。全身から煙を出しながら。死因は感電死。よほどの大電圧を受けたのだろう。そしてそこに立っている少年こそまぎれもなく・・・・・・・・

 

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・・っ、そこにいるのは、ハジメ?」

「あん?・・・・・・・・お前真由美か?」

 

南雲ハジメその人だった。

*1
銃を撃った時に、発射火薬が銃口付近で燃焼することにより発生する閃光




という訳でここまで読んでいただき誠にありがとうございます。檜山はここで抹殺することにしました。まぁ性格クズは生かしておく必要ないよね(ニッコリ)清水の口調は某一方なんちゃらさんのを参考にしてみました。まぁ、多分大体の男子って口悪くなるとああいう言い使いすると思うんだ(偏見)

ってなわけで短いですが今回はここまで、次回はヒドラ戦前まで行けたらいいな。感想書いてくれると嬉しいです。ではまた次回お会いいたしましょう。さよなら


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第八話 真の大迷宮と金髪の少女、そして・・・・・・・・

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る。前回までの三つの出来事。一つ、真由美とハジメは檜山によって落とされた。二つ、檜山は清水、恵理、龍太郎の手で屠られた。そして三つ、真由美は奈落でハジメと再会する。


 

三人称side

 

「あん?・・・・・・・・お前、真由美か?」

「そうですよハジメ。生きてるようでほっとしました。」

「俺はお前が死んでるんじゃないかってひやひやしてたがな。」

「ふむ?私のことを心配してくれてたのですか?」

「助けてくれた恩人を心配しただけだ。別に他意はないぞ。」

 

真由美の目の前にいるのは左腕を半ばから失い、髪がアルビノのように白くなっている南雲ハジメその人だった。ただ、彼のもつ武器が異常であった。

 

「その左腕のことも聞きたいんですが、まずはその持ってるやつを優先します。それ、何ですか?」

「これか?これはドンナー。そこに寝てるクマ野郎を殺すために作った武器だ。」

 

右手に握られている漆黒のリボルバーを思わせるフォルムの兵器。それはかつてハジメが作り上げようとして失敗した、銃器そのものであった。

 

「そう、作れたんですね。銃。」

「すげぇ失敗したけどな。何度作り直したことか・・・・・・・・」

「あのー、ハジメ。私の武器壊れてしまったので・・・・・・・・新しいの作ってくれませんか?」

「これをもう一丁作れってか?・・・・・・・・仕方ねぇな。少し待ってくれ、すぐできる。」

 

そういうとハジメは奥の小さな洞穴?の方へと向かい、中から鉱石類などを取り出した。そしてそれを錬成で適切な形へと変えていく。

 

そしてそれはだんだんとハジメが持っているリボルバーと同じ形へと変えられていく。そして、銃を構成する各種パーツが形成され、ハジメはそれを組み合わせていく。

 

そして出来上がったのはハジメが持つドンナーと似ているが、銃身が少し延長されているタイプだった。

 

「スリングアウト式のリボルバーでよかったか?お前はレールガン使わないだろうし。」

「使えるなら何でもいいですよ。」

「分かった。弾薬は俺のと共有できるようにしてあるから、足りなくなったら言ってくれ。とりあえず12発分は渡しておく。」

「分かりました。ありがとうございます、ハジメ。」

 

真由美はハジメからリボルバーを受け取る。その見た目はメタリック。鉄を思わせるカラーリングだった。真由美はシリンダーを展開し、弾薬を詰めて戻す。

 

数度構えを取った後、弾薬を落とし、リロードの手順を確認し、弾薬をシリンダーから抜く。

 

「おぉ、なんだか様になってるな。」

「一度だけ海外に行ったことがあって、その時にあっちで撃ったんです。」

「へぇ、それで様になってるのか。おっと、これも渡しておくな。」

 

そう言ってハジメが渡してきたのはリボルバー用のホルダーだった。

 

「これって、ホルダーですか?」

「あぁ。さっきの爪熊の皮を使って作ったんだ。俺と違って五体満足のお前なら十分に使いこなせるだろ?」

「と言いつつあなたもちゃっかり作ってるじゃないですか。」

「まぁな。とにかくこれがあると楽だ。つけていけ。」

「分かりました。ありがとです、ハジメ。」

 

2人はこの奈落の底で再び出会い、前へと進み始めたのだった。

 

___________________

 

真由美side

 

どうも皆さん、真由美です。いやー、檜山に案の定落とされましたよ。今頃誰かに殺されてるんじゃない?まぁそんなことはどうでもいいけどね。

 

さて、何とかハジメと合流できてよかった。マジでどこだかわかんなかったからね。ハジメがすでに銃を作ってたことに驚きを隠せないけどね。案の定魔物を食って魔力の直接操作ができるようになってましたですはい。

 

そして私も、ハジメと合流するときに魔物を一匹同化したからなのか、魔力の直接操作ができるようになってました。魔力放出というおまけ付きで。どこぞの騎士王かってんだ!

 

とまぁ、なんだかんだで攻略を進めてた我々なんだけど、今まさにこの物語のターニングポイントに来ております。えぇ、50層まで下りてきました。えっ?場面飛ばしすぎだろって?

 

そう言われればそうっすね。てなわけで少しお話をば。あの後、ハジメと私は奈落の最初にいたところを調べてました。地上に戻る方法を探すために。

 

でも案の定上に上るルートはなく、どうしようかとなってるところで、ハジメが下に伸びる階段を見つけました。そう、皆さんお察しの通りここもまた大迷宮の一部だったという訳です。原作で言う真の大迷宮ってやつ。

 

私とハジメは下りきれば地上に戻れるかもしれないと思い、下ることにしました。いやーその道のりは地獄なってもんじゃなかったよ。こっちを石化させてくる蝙蝠的な奴とか、すっごい獰猛なサメみたいなやつとか

 

神経犯してくるカエルのような何かとか、切っても気っても動く巨大なムカデとか。もはやGレベルだね。あのカサカサ苦手だわー。後あれだ、変な奴もいたわ。

 

軍隊蟻のごとく群がってくるミノタウロス的な奴とか!こいつに至っては原作にいなかったでしょうが―!いやまぁ、ハジメのドンナーと私のリボルバーの殲滅力にはかなわなかったけどさ。

 

だってレールガンにあのザインの能力だぜ?電磁加速されて音速の壁を余裕で突き破る金属の玉と極太ビームやぞ。誰も防げるわけないやん。もうね、一発撃つだけで体が粉々になるか蒸発するのよ。

 

でも弱点がないわけでもない。ハジメのドンナーは水の中に対しては無力って言う弱点もある。けど、正直私はそんな弱点あってないようなもんだよ。だって水とかあっても蒸発させちゃうから意味がないんだもん。

 

しかも魔眼があるからいくらか楽になったしね。ここに来るまでに二つくらい魔眼を手に入れたのだよ。一つは捕縛の眼。これは文字通り、相手の体の自由を奪う。

 

大体の敵がこれで動かなくなるからあとはもうどうとでもできるんだよね。二つ目の魔眼は奪魂の眼。これは二つ効果があって、一つは死んだ相手の魂を魔力or体力としてドレインできること。そしてもう一つは

 

瀕死のやつ限定で、即死させることができる。範囲は結構広い。一度認識した相手だったらある程度離れてても行ける。ハジメのドンナーで運良く死ななかった奴はこれで確殺。ついでに魔力と体力回復できて一石二鳥!

 

まぁ途中で弾薬足りなくなりつつあって追加分作ったりもしたけどね。存外うまくやれてたと思う。でもハジメの錬成を見てると私も欲しくなるって言うね。ほんま羨ましいでぇ!まぁそんな訳で現在に戻ると。

 

私たちの目の前にはこれまた立派な扉があるではありませんか。なんだこの重厚感あふれる扉はぁー?あーユエさんが故あって幽閉されてるところですね。()()()()()。やっべー、言ってて悲しくなってきたわー。

 

あっ、ちなみに口調ね、素で話すことにしたんだわ。なんかハジメとしばらく話してたらですます口調がバカらしくなっちゃって・・・・・・・・嘘ですはい、単純にめんどくなって猫かぶってることもハジメにバレたんで

 

喋るのやめましたすいません。

 

「さて、この扉どうしますかねー。」

「開けるしかないだろ。この階層はここしか怪しいところないしな。」

「ですねー。という訳でさっさと開けますか。」

 

ここ開けないとハジメとユエの出会いなくなっちゃうからねー。ってなわけで強行突破だ。この扉相当堅いと思うんだよねー。一発でいけるように威力上げとかないと。

 

・・・・・・・・何かめんどくなったわ、バーッと行こうバーッと。

 

「おい待てなんでお前リボルバー取り出してんの!?」

「そりゃ決まってるでしょ。開けるのよ、この部屋。」

「脳筋かお前は!?」

「ハイいっきまーす!」

 

撃鉄起こせっ!ってね。私は迷いなく引き金を引きました。本気で撃ったので扉は粉々・・・・・・・・というか跡形もなく吹き飛びましたですはい。やりすぎた。

 

「やばい、やりすぎてしまった。」

「お前アホだろ。生粋のアホだろ。」

「何おう!私だってそこまでアホじゃないわよ!」

「じゃあこの惨状をどうやって説明する?」

 

ハジメ指さす先には融解して真っ赤な扉があったであろう枠組み。

 

「あははー・・・・・・・・めんどくさくって。」

「はぁー。もういいわ、これ以上言ってもしょうがねぇな。・・・・・・・・っと、また扉があるぞ。それにでかい石像的な何かがある。」

「こういう石像って、扉に触ったら動き出すパターンよね。」

「・・・・・・・・ぶっ壊しておくか。」

「ハジメ、あんたも大概脳筋だと思う。人のこと言えないのでは?」

「うるせぇわ。テメェみたいに常に何でもかんでも壊せばいい理論で攻略してるわけじゃねぇよ。考えてるのこっちは!」

「アーハイハイソーデスネー。」

「てんめぇ・・・・・・・・終わったら覚えとけよ!」

 

そう言ってハジメは懐からドンナーを抜く。私も持ってたリボルバーを構える。こういう石像は大体固くできてるから本気出してもいいよね。

 

ってことで最大出力。緑色の結晶がたくさん出るレベルでやっちゃうよー!

 

   ドパンっ!

   ギュワァー!

 

銃声とビーム音。もう現代兵器でもなっていい音じゃないのよ。見事石像は爆散。跡形も残ってないけど、爆散する瞬間、表情が泣き顔になってたような気がするけど気にしない。

 

許せサイクロップス。さっさと進行したいがためのコラテラルダメージなんだ。さて、もう一つの扉の前にいる訳なんだけど・・・・・・・・うん。大きいし開きそうにないなこれ。

 

「どうするよハジメ。開きそうにないよこれ。」

「・・・・・・・・はぁ。やっていいぞ、めんどくさいから。」

「あっ、今めんどくさいって言ったな。」

「アーハイハイ、イッタワー、サッサトヤリヤガレクダサイ。」

「カタコトムカつくぅ!まぁでもめんどくさいのは同感だからパーってやっちゃいましょうか。」

 

ってなわけではいどーん!扉は粉々私は笑顔ハジメは真顔通り越してあきれ顔。いやぁー全力全開はスカッとするねー。という訳で中に入ります。

 

あ、魔石入れてないから部屋真っ暗だ。うーん・・・・・・・・よし、適当に魔力流して明かりをつけてみよーか。ってなわけで魔力放出っと・・・・・・・・良しついた。案外やってみるもんだな。

 

____________________________________

 

三人称side

 

真由美が魔力を流すと、部屋の中でフラッシュがたかれたようにあたりが光る。思わず真由美とハジメは目をつぶる、が、それはすぐに収まり目を開けるとそこには久しく見てない光があった。

 

そして光がともったこともあり仲がうっすらと見えるようになってきた。

 

中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。

 

そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。

 

その立方体を注視していたハジメは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。

 

それは真由美も起これて気づき、二人は慎重に近づいてみる。トラップの類が仕掛けられている可能性があるからだ。しかし、そんな気配は全くなく、二人はこの構造物を調べようと近づこうとした。

 

しかしそれよりも早く事態は動いた。

 

「・・・・・・・・だれ?」

 

かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとして二人は慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人・・・・・・・・なのか?」

 

〝生えていた何か〟は人だった。

 

上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。

 

年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

流石に予想外だったハジメは硬直し、紅の瞳の女の子もハジメをジッと見つめていた。やがて、ハジメはゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

「すみません。間違えました」

「ちょっとー。おーい、ハジメさーん。流石にいきなりそれはないと思うよー。」

 

間髪入れずに、今までフリーズしていた真由美がここぞとばかりにそういった。

 

「いやだってお前、こんなとこにいるやつって大体ろくでもない奴じゃん。」

「それはゲームの中での話でしょうが。こんな少女をほおっておくのか君は。」

「・・・・・・・・そこまで言うなら助けてやる。」

「わぁお。清々しいくらいの上から目線。ってなわけでそこのあなた、すこーし待っててねー」

「・・・・・・・・ん。」

 

まずハジメが錬成でキューブを分解し始める。

 

「なんだこれ、魔力を弾くぞこれ!?くっそ!全然進まねぇ!」

 

が、全く進まない。まるで中に人が詰まった段ボールを押してるような気分だったとはのちの彼の話である。

 

”魔力を弾く„という性質を持つこの鉱石は、ハジメが錬成を使うために浸透させなくちゃいけない魔力を認識して弾いているようだ。

 

「ふむ・・・・・・・・このままだと時間かかりそうね。よし、ハジメどいて。サクッとやっちゃおう。」

「おう、頼むわ。」

「任されましたっと。」

 

真由美はキューブに触れる。すると、金髪の少女の周りのキューブを緑の結晶が包み込み始める。それが完全にキューブをおおうと、決勝は弾け、中から少女が出て来た。

 

「ほい。いっちょ上がりっと。大丈夫だった?」

「・・・・・・・・ん。」

「それならよかった。」

「まぁそれはいいとしてだ。お前、どうしてここにいた?」

「裏切られた・・・・・・・・叔父様に・・・・・・・・」

「裏切られた?どうして裏切られてここに幽閉されたんだ?」

「分からない・・・・・・・・でも・・・・・・・・幽閉された理由・・・・・・・・は分かる。」

「ほぅ。なんだ?言ってみろ。」

「私、先祖返りの吸血鬼・・・・・・・・すごい力持ってる・・・・・・・・だから国の皆のために頑張った。でも・・・・・・・・ある日・・・・・・・・家臣の皆・・・・・・・・お前はもう必要ないって・・・・・・・・おじ様・・・・・・・・これからは自分が王だって。

私・・・・・・・・それでもよかった・・・・・・・・でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

枯れた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。話を聞きながらハジメは呻いた。なんとまぁ波乱万丈な境遇か。しかし、ところどころ気になるワードがあるので、湧き上がるなんとも言えない複雑な気持ちを抑えながら、ハジメは尋ねた。

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

 

「……(コクコク)」

「殺せないってなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

ハジメは「なるほどな~」と一人納得した。

 

ハジメも魔物を喰ってから、魔力操作が使えるようになった。身体強化に関しては詠唱も魔法陣も必要ない。他の錬成などに関しても詠唱は不要だ。

 

ただ、ハジメの場合、魔法適性がゼロなので魔力を直接操れても巨大な魔法陣は当然必要となり、碌に魔法が使えないことに変わりはない。

 

だが、この女の子のように魔法適性があれば反則的な力を発揮できるのだろう。何せ、周りがチンタラと詠唱やら魔法陣やら準備している間にバカスカ魔法を撃てるのだから、正直、勝負にならない。

 

しかも、不死身。おそらく絶対的なものではないだろうが、それでも勇者すら凌駕しそうなチートである。

 

「助けて・・・・・・・・」

 

そう言った少女の頭にハジメは、手を乗せる。少女は最初それにびっくりしていたが、ハジメはそれをお構いなしに頭をなでる。すると少女は気持ちよさそうに目をつぶる。

 

どうやら彼の中で結論は決まったようだ。

 

「どうするハジメ?助ける?それともおいてく?」

「決まってるだろ?・・・・・・・・助ける。だろ?」

 

ハジメが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「・・・・・・・・ありがとう」

 

その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。ただ、全て切り捨てたはずの心の裡に微かな、しかし、きっと消えることのない光が宿った気がした。

 

繋がった手はギュッと握られたままだ。いったいどれだけの間、ここにいたのだろうか。少なくともハジメの知識にある吸血鬼族は数百年前に滅んだはずだ。この世界の歴史を学んでいる時にそう記載されていたと記憶している。

 

話している間も彼女の表情は動かなかった。それはつまり、声の出し方、表情の出し方を忘れるほど長い間、たった一人、この暗闇で孤独な時間を過ごしたということだ。

 

しかも、話しぶりからして信頼していた相手に裏切られて。よく発狂しなかったものである。もしかすると先ほど言っていた自動再生的な力のせいかもしれない。だとすれば、それは逆に拷問だっただろう。狂うことすら許されなかったということなのだから。

 

「気にするな。」

 

女の子は頷く。そして頭に置かれたてを握る。

 

「・・・・・・・・名前、なに?」

 

女の子が囁くような声でハジメに尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めながらハジメは答え、女の子にも聞き返した。

 

「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」

 

女の子は「ハジメ、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したようにハジメにお願いをした。

 

「・・・・・・・・名前、付けて」

「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるハジメだったが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。・・・・・・・・ハジメの付けた名前がいい」

「・・・・・・・・はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

おそらく、ハジメが、変心したハジメになったのと同じような理由だろう。前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。

 

ハジメは痛みと恐怖、飢餓感の中で半ば強制的に変わったが、この女の子は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前なのだろう。

 

女の子は期待するような目でハジメを見ている。ハジメはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが・・・・・・・・」

「ユエ? ・・・・・・・・ユエ・・・・・・・・ユエ・・・・・・・・」

「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「・・・・・・・・んっ。今日からユエ。ありがとう。そして、そちらは?」

「あ、やっと触れてくれた。忘れられてるかと思ったよ。私は真城真由美。よろしくね、ユエちゃん。」

「んっ。よろしく、真由美。」

「可愛いなぁ。私にもこんな妹がいればなぁ。」

「お前、ユエに変なことしたら許さないぞ。」

「あらまもうユエちゃんはハジメの所有物?」

「んっ。ハジメは私のもの。」

「それじゃ意味合い違ってくると思うんだけど・・・・・・・・まぁいいわ。」

「おう、取り敢えずだ・・・・・・・・真由美、頼む。」

「はいはーい。とりあえずハジメはこっち見ないようにしててねー。」

「?」

「ユエちゃんね。今裸なのよ。だから私が着ている服を同化して再構成してとりあえずのつなぎとして着ててもらうね。」

「分かった。任せる。」

「じゃあ少し待っててね。」

 

真由美は自分の服を握る。するとそこから緑色の結晶が服全体に広がる。そうしてそれは弾け、真由美の艶やかな裸体が惜しげもなくさらされる。

 

そして今度はその裸体の表面を緑色の結晶が覆っていく。そしてそれが弾けると、再び先ほど着ていた服と同じものが現れる。

 

「こんな感じで緑色の結晶みたいなものが体に発生するけどいいかな?」

「んっ。大丈夫。」

「おっけー。じゃあやっちゃうよ。」

 

真由美はユエの体に触れる。するとユエの体を緑色の結晶が包み込み、それが弾けると真由美と同じような服でサイズぴったりな服が着せられていた。

 

「んっ?魔力が・・・・・・・・満ちてる。」

「それはちょっとしたサービスだよ。ハジメ―、もうこっち向いてもいいよ。」

「分かった。すまんな、助かった。」

「こんなの朝飯前よ。」

 

真由美は奪魂の眼の応用で、上層で狩った魔物の魂を魔力としてユエにドレインしたのだ。

 

「それよりもハジメ・・・・・・・・〝空気が変わった〟よ。」

「あぁ、何か来る。」

 

場所はちょうど……真上!ハジメがその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。

 

咄嗟に、ハジメはユエに飛びつき片腕で抱き上げると全力で〝縮地〟をする。真由美も急いでその場を飛びぬく。一瞬で、移動したハジメが振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然とハジメの額に汗が流れた。

 

部屋に入った直後は全開だった〝気配感知〟ではなんの反応も捉えられなかった。だが、今は〝気配感知〟でしっかり捉えている。

 

ということは、少なくともこのサソリモドキは、ユエの封印を解いた後に出てきたということだ。つまり、ユエを逃がさないための最後の仕掛けなのだろう。それは取りも直さず、ユエを置いていけばハジメと真由美は逃げられる可能性があるということだ。

 

腕の中のユエをチラリと見る。彼女は、サソリモドキになど目もくれず一心にハジメを見ていた。凪いだ水面のように静かな、覚悟を決めた瞳。その瞳が何よりも雄弁に彼女の意思を伝えていた。ユエは自分の運命をハジメに委ねたのだ。

 

その瞳を見た瞬間、ハジメの口角が吊り上がり、いつもの不敵な笑みが浮かぶ。

 

他人などどうでもいいはずのハジメだが、ユエにはシンパシーを感じてしまった。崩壊して多くを失ったはずの心に光を宿されてしまった。そして、ひどい裏切りを受けたこの少女が、今一度、その身を託すというのだ。これに答えられなければ男が廃る。

 

「上等だ。……殺れるもんならやってみろ。真由美!」

「任された!」

 

真由美はその手のリボルバーで迎撃を始める。無論扉を完膚なきまでに破壊した最大威力で、だ。しかし、サソリの表面の装甲のような皮膚を砕くだけで、中の生身の部分にはダメージが通らない。

 

しかもその巨体の割に素早く動くサソリは、真由美の照準を一点に絞らせない。すると真由美をサソリで挟んだ向かい側から一閃。ハジメのレールガンの弾丸だった。それはサソリの脚部に命中しサソリはその巨躯を地面へと落とした。

 

「いまだ真由美!」

「OK!くらえ!このサソリもどき!」

 

真由美はリボルバーの撃鉄を下げ、シリンダーをまわす。そして迷わず引き金を引く。一条の螺旋は極光と化してサソリもどきの装甲を焼く。しかしやはり、まだ破れない。

 

サソリはその痛みに暴れようとするが、ハジメが錬成でサソリの体を固定する。真由美は再びシリンダーをまわし、再度引き金を引く。その極光は先ほど破壊した装甲の部分と寸分たがわず同じところに当たりその生身を破壊し、熱で蒸発させていく。

 

その勢いは生身で受け切れるはずもなく、核をさらけ出させる。

 

「ハジメっ!」

「あぁ!」

 

ハジメは極光で出来た穴に手榴弾をありったけ投げ込む。それは一個が爆発すると連鎖的に爆発していき、最終的にサソリの体を爆散させた。

 

「ふぅ、いっちょ上がりっと。お疲れ様、ハジメ。」

「あぁ、お疲れ、真由美。」

 

こうして一行はユエを新たな仲間として迎え入れ、下層へと向かうのだった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。少し補足いたしますと、真由美の使ったあの同課による再構成、あれはまだあまり使いこなせていない故に、銃などの細かいパーツ類で構成されたものは複製できません。弾丸も同様です。この先使い続ければいずれ作れるようにはなりますが

今はまだ使えていません。ってなわけで次回またお会いしましょう、さようなら。


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第九話 悲しき過去。迷宮のボスとの邂逅

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る。前回までの三つのあらすじ。一つ、真由美は新たにリボルバーを手に入れた。二つ、ハジメは魔物の肉を食らい魔力を直接操れるようになった。そして三つ、一行はユエを仲間に加えた。


三人称side

  

サソリモドキを倒したハジメ達は、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらをハジメの拠点に持ち帰った。あの石像、サイクロップスという魔物だったのだ。まゆみはその石化を半ば無理やり剥ぎ取ることでいくらか素材を入手したのだ。

 

しかし腐っても巨体な魔物の素材だ、その巨体と相まって物凄く苦労したのだが、ユエは、得意だという魔法で見事な身体強化で怪力を発揮してくれたため、三人がかりでなんとか運び込むことができた。

 

ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。

 

無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 

そんな訳で、現在ハジメ達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうすると、ユエって少なくとも三百歳以上なわけか?」

「・・・・・・・・マナー違反」

「あんまり女性の年齢を聞くのはやめといたほうがいいよ。大体の人はキレるから。」

 

ユエが非難を込めたジト目でハジメを見る。真由美も当たり障りがないレベルで、注意する。女性に年齢の話はどの世界でもタブーらしい。

 

ハジメの記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが

 

それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「吸血鬼って、皆そんなに長生きするのか?」

「・・・・・・・・私が特別。〝再生〟で歳もとらない・・・・・・・・最上級魔法も・・・・・・・・使える・・・・・・・・詠唱もいらない。」

 

聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。

 

ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。

 

ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

なるほど、最上級魔法とかいう戦略兵器レベルの魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は〝神〟か〝化け物〟か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。

 

欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが〝自動再生〟により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。

 

ユエ自身、当時は突然の裏切りにショックを受けて、碌に反撃もせず混乱したままなんらかの封印術を掛けられ、気がつけば、あの封印部屋にいたらしい。

 

その為、あのサソリモドキや封印の方法、どうやって奈落に連れられたのか分からないそうだ。もしかしたら帰る方法が! と期待したハジメはガックリと項垂れた。

 

ユエの力についても話を聞いた。それによると、ユエは全属性に適性があるらしい。本当に「なんだ、そのチートは・・・・・・・・」と呆れるハジメだったが、ユエ曰く、接近戦は苦手らしく

 

一人だと身体強化で逃げ回りながら魔法を連射するくらいが関の山なのだそうだ。もっとも、その魔法が強力無比なのだから大したハンデになっていないのだが。

 

ちなみに、無詠唱で魔法を発動できるそうだが、癖で魔法名だけは呟いてしまうらしい。魔法を補完するイメージを明確にするためになんらかの言動を加える者は少なくないので、この辺はユエも例に漏れないようだ。

 

”自動再生〟については、一種の固有魔法に分類できるらしく、魔力が残存している間は、一瞬で塵にでもされない限り死なないそうだ。逆に言えば、魔力が枯渇した状態で受けた傷は治らないということ。

 

つまり、あの時、長年の封印で魔力が枯渇していたユエは、サソリモドキの攻撃を受けていればあっさり死んでいたということだ。

 

「それで・・・・・・・・肝心の話だが、ユエはここがどの辺りか分かるか? 他に地上への脱出の道とか」

「・・・・・・・・わからない。でも・・・・・・・・」

「でも?」

 

ユエにもここが迷宮のどの辺なのかはわからないらしい。申し訳なさそうにしながら、何か知っていることがあるのか話を続ける。

 

「・・・・・・・・この迷宮は反逆者の一人が作ったと言われてる」

「反逆者?」

 

聞き慣れない上に、なんとも不穏な響きに思わず錬成作業を中断してユエに視線を転じるハジメ。

 

「確か歴史書に書いてあったわ、それ。何でも神様に喧嘩を売ったとか。」

 

真由美がそう呟く。ハジメの作業をジッと見ていたユエも合わせて視線を上げると、コクリと頷き続きを話し出した。

 

「喧嘩を売ったって・・・・・・・・言葉は・・・・・・・・よくわからないけど、その昔に、反逆者・・・・・・・・神代に神に挑んだ神の眷属がいたらしい。・・・・・・・・世界を滅ぼそうとしたと伝わってる。」

 

ユエは言葉の少ない無表情娘なので、説明には時間がかかる。ハジメとしては、まだまだ消耗品の補充に時間がかかるし、サソリモドキとの戦いで、短時間でサソリもどきを討伐できたが

 

真由美のあの一撃を仲の肉の部分にまで通さないという強度を誇る皮膚に対してはハジメのドンナーでは攻撃力不足なのである。それを今回の戦いで痛感したことから新兵器の開発に乗り出しているため、作業しながらじっくり聞く構えだ。

 

真由美はまるで教師の話を聞くかの如くユエの方を見ている。ユエ曰く、神代に、神に反逆し世界を滅ぼそうと画策した七人の眷属がいたそうだ。しかし、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走した。

 

その果てというのが、現在の七大迷宮といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか。

 

「……そこなら、地上への道があるかも……」

「なるほど。奈落の底からえっちらおっちら迷宮を上がってくるとは思えない。神代の魔法使いなら転移系の魔法で地上とのルートを作っていてもおかしくないってことか」

 

見えてきた可能性に、頬が緩むハジメ。再び、視線を手元に戻し作業に戻る。ユエの視線もハジメの手元に戻る。ジーと見ている。

 

「・・・・・・・・そんなに面白いか?」

 

口には出さずコクコクと頷くユエ。

 

「多分ね、ユエはハジメのしてる作業を見てるんじゃなくて、作業をしてるハジメを見てるんだと思う。勿論作業の方にも興味はあるんだろうけどね。」

 

と真由美が言うと、先ほどよりも首を激しく振るユエ。どうやら図星らしい。

 

「良かったじゃないハジメ。モテモテよ。」

「そんな柄じゃないんだがなぁ。」

「さっき”おれのもの”発言した人と同一人物とは思えないこと言うわねあなた。」

「やかましいわ。」

 

そう言いつつハジメは消耗品の補充を済ませていく。

 

「そう言えば・・・・・・・・二人は何でここに?」

 

ユエがそう聞いてきた。

 

「そうねぇ。話すべきだとは思うけど、それは多分初めに聞いたほうがいいと思うよ。」

 

真由美は寂しげな表情を浮かべつつも”表面上”は笑顔を取り繕ってそう言った。

 

_______________

 

「ここからは私は関わらない。ハジメ、言うのは任せるよ。」

 

真由美はそういうと、横になって目を閉じる。即席で作ったのだろうか?木で作られた耳栓のようなものを付けていることからもハジメが話すこととそれで起こることを一切として聞かないという意思が感じられる。

 

ハジメはため息をつき、話し始めた。ハジメが、仲間と共にこの世界に召喚されたことから始まり、無能と呼ばれていたこと、ベヒモスとの戦いでクラスメイトの誰かに裏切られ奈落に落ちたこと

 

魔物を喰って変化したこと、爪熊との戦いと願い、ポーション(ハジメ命名の神水)のこと、故郷の兵器にヒントを得て現代兵器モドキの開発を思いついたことをツラツラと話していると、いつの間にかユエの方からグスッと鼻を啜るような音が聞こえ出した。

 

「なんだ?」と再び視線を上げてユエを見ると、ハラハラと涙をこぼしている。ギョッとして、ハジメは思わず手を伸ばし、流れ落ちるユエの涙を拭きながら尋ねた。

 

「いきなりどうした?」

「・・・・・・・・ぐす・・・・・・・・ハジメ・・・・・・・・つらい・・・・・・・・私もつらい・・・・・・・・」

 

どうやら、ハジメのために泣いているらしい。ハジメは少し驚くと、表情を苦笑いに変えてユエの頭を撫でる。

 

「気にするなよ。もうクラスメイトのことは割りかしどうでもいいんだ。そんな些事にこだわっても仕方無いしな。ここから出て復讐しに行って、それでどうすんだって話だよ。そんなことより、生き残る術を磨くこと、故郷に帰る方法を探すこと、それに全力を注がねぇとな」

 

スンスンと鼻を鳴らしながら、撫でられるのが気持ちいいのか猫のように目を細めていたユエが、故郷に帰るというハジメの言葉にピクリと反応する。

 

「・・・・・・・・帰るの?」

「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。・・・・・・・・色々変わっちまったけど・・・・・・・・故郷に・・・・・・・・家に帰りたい・・・・・・・・」

「・・・・・・・・そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた。

 

「・・・・・・・・私にはもう、帰る場所・・・・・・・・ない・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 

そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、ハジメは、カリカリと自分の頭を掻いた。

 

別に、ハジメは鈍感というわけではない。なので、ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、ハジメが元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう。

 

ハジメは、内心「〝徹頭徹尾自分の望みのために〟と決意したはずなのに、どうにも甘いなぁ」と自分に呆れつつ、再度、ユエの頭を撫でた。

 

「あ~、なんならユエも来るか?」

「え?」

 

ハジメの言葉に驚愕をあらわにして目を見開くユエ。涙で潤んだ紅い瞳にマジマジと見つめられ、なんとなく落ち着かない気持ちになったハジメは、若干、早口になりながら告げる。

 

「いや、だからさ、俺の故郷にだよ。まぁ、普通の人間しかいない世界だし、戸籍やらなんやら人外には色々窮屈な世界かもしれないけど・・・・・・・・今や俺も似たようなもんだしな。どうとでもなると思うし・・・・・・・・あくまでユエが望むなら、だけど?」

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。

 

キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながらハジメは頷く。すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまうハジメ。呆けた自分に気がついて慌てて首を振った。

 

なんとなくユエを見ていられなくて、ハジメは作業に没頭することにした。ユエも興味津々で覗き込んでいる。但し、先程より近い距離で、ほとんど密着しながら……

 

ハジメは気にしてはいけないと自分に言い聞かせる。

 

「・・・・・・・・これ、なに?」

 

ハジメの錬成により少しずつ出来上がっていく何かのパーツ。一メートルを軽く超える長さを持った筒状の棒や十二センチ(縦の長さ)はある赤い弾丸、その他細かな部品が散らばっている。それは、ハジメがドンナーの威力不足を補うために開発した新たな切り札となる兵器だ。

 

「これはな・・・・・・・・対物ライフル:レールガンバージョンだ。要するに、俺の銃は見せたろ? あれの強力版だよ。弾丸も特製だ」

 

ハジメの言うように、それらのパーツを組み合わせると全長一・五メートル程のライフル銃になる。銃の威力を上げるにはどうしたらいいかを考えたハジメは、炸薬量や電磁加速は限界値にあるドンナーでは、これ以上の大幅な威力上昇は望めないと結論し、新たな銃を作ることにしたのだ。

 

当然、威力を上げるには口径を大きくし、加速領域を長くしてやる必要がある。

 

そこで、考えたのが対物ライフルだ。装弾数は一発と少なく、持ち運びが大変だが、理屈上の威力は絶大だ。何せ、ドンナーで、最大出力なら通常の対物ライフルの十倍近い破壊力を持っているのだ。普通の人間なら撃った瞬間、撃ち手の方が半身を粉砕されるだろう反動を持つ化け物銃なのである。

 

この新たな対物ライフル――シュラーゲンは、理屈上、最大威力でドンナーの更に十倍の威力が出る……はずである。

 

素材はなんとサソリモドキだ。ハジメが、あの硬さの秘密を探ろうとサソリモドキの外殻を調べてみたところ、〝鉱物系鑑定〟が出来たのである。

 

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シュタル鉱石

 

魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石

 

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どうやら、サソリモドキのあの硬さはシュタル鉱石の特性だったらしい。おそらく、サソリモドキ自身の膨大な魔力を込めに込めたのだろう。

 

ハジメが、「鉱石なら加工できるのでは?」と試しに錬成をしてみたところ、あっさり出来てしまった。これなら錬成で簡単に外殻を突破できたと、あの苦労を思い返し思わず崩れ落ちたのは悲しい思い出だ。

 

いい素材が手に入って結果オーライと割り切ったハジメは、より頑丈な銃身を作れると考え、シュラーゲンの開発に着手した。ドンナーを作成した時から相当腕が上がっているので、それなりにスムーズに作業は進んだ。

 

弾丸にもこだわった。タウル鉱石の弾丸をシュタル鉱石でコーティングする。いわゆる、フルメタルジャケット・・・・・・・・モドキというやつだ。燃焼粉も最適な割合で圧縮して薬莢に詰める。

 

一発できれば、錬成技能[+複製錬成]により、材料が揃っている限り同じものを作るのは容易なのでサクサクと弾丸を量産した。そんなことをツラツラとユエに語りつつ、ハジメは、遂にシュラーゲンを完成させた。

 

中々に凶悪なフォルムで迫力がある。

 

「そう言えば・・・・・・・・真由美は・・・・・・・・どんな人・・・・・・・・?」

「それは本人に聞いてほしいんだが・・・・・・・・まぁ関わらないって言ってるからな、俺の主観でよければ話すが?」

「んっ。聞かせて、ほしい。」

「分かった。・・・・・・・・あいつはな、あぁ見えて寂しがり屋なんだよ。」

 

ハジメは真由美と友達になった時のことを思い出しながら、話す。

 

「これはアイツのいた施設の・・・・・・・・まぁここでいう孤児院だな。そこに行ったときに、そこにいた人から聞いた話なんだが、あいつの両親は、事故で死んじまったらしい。その時のことを当時まだ幼かったアイツはよく覚えていないそうだ。」

 

ハジメはただ暗い天井を見上げる。

 

「だからなのか、アイツは他人とのかかわりを望んでるような感じがする。ただ平和に生きたい。ただ普通に友達を作って普通に暮らしたかったってな。だが現実はどうだ?俺たちは戦争をするためだけにここに連れてこられた。

あくまでこれは俺の主観だが、今回の一件はいわゆるエヒトと呼ばれる神のお遊びみたいなもんなんだろう。それにあいつは巻き込まれた。」

 

ユエはその話をじっと聞いていた。ハジメももう、口が止まらなくなっていた。

 

「ここに初めて連れられてきたとき、みんなが集まっていろいろ聞いて、戦争に加担する・・・・・・・・まぁあいつらは最初、世界を救うという大義名分に騙されてたみたいだが、アイツは言ったよ。『お前ら人殺しをする覚悟はあるのか?』ってな。

俺もそう思ってたが言い出せなかった。だがあいつは言った。確実に戦争の引き金になるのが、戦いとは縁遠いど素人である俺たちが、戦争の道具としていいように使われることが想像ついたからだ。だが結局俺たちは戦争に加担させられた。」

 

ハジメは真由美の方を見る。

 

「そしてそのあと、アイツはクラスメイト達のほぼ全員から妬まれ疎まれるようになった。あいつの力はクラスメイトの中でも抜きんでてたからな。あいつは知らないだろうが、クラスメイト達の何人かは最初、アイツのことを殺そうとしてたみたいだぜ。

まぁでも、アイツの訓練してる姿を見て勝てないと踏んだのか、諦めたっぽいが。」

 

そしてハジメは視線を武器に落とす。

 

「あいつの願いは、出来る範囲でかなえたいと思ってる。あいつはあんなんだが人を思いやれる奴だ。そのくせ、人からの好意、そして友情や愛情に人一倍飢えている。だからお前も、アイツのことを気にかけてやってくれると助かる。」

「真由美も・・・・・・・・悲しい。どうしてそこまでできるのか・・・・・・・・不思議。真由美・・・・・・・・かわいそう。」

「俺もそう思うが、こればっかしは本人に聞いてみないとわからない。でも一つだけ言えるなら、アイツは極度のお人よしってことぐらいか。・・・・・・・・さて、行くか。ほら、耳栓とれって。行くぞ真由美。」

「ん?もう話はすんだの?それじゃあ出発しましょうか。」

 

三人は再び、下層へと下がっていった。

 

___________________________

「だぁー、ちくしょぉおおー!」

「・・・・・・・・ハジメ、ファイト・・・・・・・・」

「お前は気楽だな!そして真由美!お前も手伝えよ!」

「無理言わないでよ!私だってこれでも半分ぐらい殲滅を請け負ってるんだからね!」

 

現在、ハジメはユエを背負いながら猛然と草むらの中を逃走していた。(真由美は空を飛びながら紫電を放って魔物を同化しつつ殲滅している)周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。ユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。

 

そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、ハジメたちが逃走している理由は、

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

二百体近い魔物に追われているからである。

 

ハジメ達が準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。

 

全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確にハジメを援護する。

 

ただ、回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断しているのかもしれない。もっとも、ハジメには神水があるし、真由美は同化の能力の応用で自分の体を治せるのでなんの問題もなかったが。

 

そんな三人が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

ハジメと真由美、ユエが階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える二人の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。見た目は完全にティラノサウルスである。

 

但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが・・・・・・・・。鋭い牙と迸ほとばしる殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、ついっと視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 

ティラノサウルスが咆哮を上げハジメ達に向かって突進してくる。ハジメは慌てずドンナーを抜こうとして……それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「〝緋槍〟」

 

ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 

そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「・・・・・・・・」

 

いろんな意味で思わず押し黙るハジメ。

 

最近、ユエ無双が激しい。最初はハジメの援護に徹していたはずだが、何故か途中からハジメに対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ。

 

そのせいで、ハジメは、最近出番がめっきり減ってしまい、自分が役立たずな気がしてならなかった。まさか、自分が足手まといだから即行で終わらせているとかではあるまいな? と内心不安に駆られる。もしそんなことを本気で言われたら丸十日は落ち込む自信があった。

 

ハジメは抜きかけのドンナーをホルスターに仕舞い直すと苦笑いしながらユエに話しかけた。

 

「あ~、ユエ? 張り切るのはいいんだけど・・・・・・・・最近、俺、あまり動いてない気がするんだが・・・・・・・・」

 

ユエは振り返ってハジメを見ると、無表情ながらどこか得意げな顔をする。

 

「・・・・・・・・私、役に立つ。・・・・・・・・パートナーだから」

 

どうやら、ただハジメの援護だけしているのが我慢ならなかったらしい。確か、少し前に一蓮托生のパートナーなのだから頼りにしているみたいな事を言ったような、と、ハジメは首を傾げる。

 

「それにハジメは対ボス戦の切り札だからねぇ。雑魚は私とユエに任せて。」

「ん。真由美の言う通り。」

 

と、真由美もそんなことを言う。まぁこの群れの大半を叩いてくれたのが彼女なのだからハジメも文句は言えなかった。

 

その時は、ユエが、魔力枯渇するまで魔法を使い戦闘中にブッ倒れてちょっとした窮地に陥ってしまい、何とか脱した後、その事をひどく気にするので慰める意味で言ったのだが・・・・・・・・思いのほか深く心に残ったようである。パートナーとして役立つところを見せたいのだろう。

 

「はは、いや、もう十分に役立ってるって。ユエは魔法が強力な分、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は俺の役目だ。それに、真由美だっているわけだしな。」

「そうそう。広範囲殲滅はお任へあれ」

「・・・・・・・・ハジメ、真由美・・・・・・・・ん」

 

ハジメと真由美に注意されてしまい若干シュンとするユエ。

 

ハジメは、どうにもハジメの役に立つことにこだわり過ぎる嫌いのあるユエに苦笑いしながら、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから、ハジメとしてはもう何とも言えない。

 

依存して欲しいわけではないので、所々で注意が必要だろう・・・・・・・・と思いつつ、つい甘やかしてしまう。ハジメは、実のところ、そんな自分にこそ一番呆れているのだった。

 

ある意味、二人がイチャついていると、ハジメの〝気配感知〟に続々と魔物が集まってくる気配が捉えられた。

 

十体ほどの魔物が取り囲むようにハジメ達の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物か? と訝しみながらユエを促して現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。

 

円状に包囲しようとする魔物に対し、ハジメは、その内の一体目掛けて自ら突進していった。

 

そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「・・・・・・・・かわいい」

「・・・・・・・・流行りなのか?」

「・・・・・・・・いや、多分あれ、何かのビーコンだと思う。」

 

ユエが思わずほっこりしながら呟けば、ハジメはシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く。それを真由美は何らかの要因だと推測する

 

たしかにラプトルは、ティラノと同じく、「花なんて知らんわ!」というかのように殺気を撒き散らしながら低く唸っている。臨戦態勢だ。花はゆらゆら、ふりふりしているが・・・・・・・・

 

「シャァァアア!!」

 

ラプトルが、花に注目して立ち尽くすハジメ達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。

 

ハジメとユエは左右に分かれるように飛び退き回避する。

 

それだけで終わらず、ハジメは 〝空力〟を使って三角飛びの要領でラプトルの頭上を取った。そして、試しにと頭のチューリップを撃ち抜いてみた。

 

ドパンッという発砲音と同時にチューリップの花が四散する。ラプトルは一瞬ビクンと痙攣けいれんしたかと思うと、着地を失敗してもんどり打ちながら地面を転がり

 

樹にぶつかって動きを止めた。シーンと静寂が辺りを包む。ユエもトコトコとハジメの傍に寄ってきてラプトルと四散して地面に散らばるチューリップの花びらを交互に見やった。

 

「・・・・・・・・死んだ?」

「いや、生きてるっぽいけど・・・・・・・・」

「多分、あの花が何らかの方法で宿主を操ってるか、操るためのアンテナになってるんだと思う。」

 

真由美は、同化してラプトルを吸収する。ハジメは訳がわからないものの、そもそも迷宮の魔物自体わけのわからない物ばかりなので気にするのを止めた。包囲網がかなり狭まってきていたので急いで移動しつつ、有利な場所を探っていく。

 

程なくして直径五メートルはありそうな太い樹が無数に伸びている場所に出た。隣り合う樹の太い枝同士が絡み合っており、まるで空中回廊のようだ。

 

ハジメは〝空力〟で、ユエは風系統の魔法で頭上の太い枝に飛び移る。真由美は”飛行”で飛べるため、魔物の頭の上を飛んで、魔物を殲滅している。ハジメはそこで頭上から集まってきた魔物達を狙い撃ちにし殲滅し始める。

 

五分もかからず眼下に次々とラプトルが現れ始めた。焼夷手榴弾でも投げ落としてやろうと思っていたハジメは、しかし、硬直する。隣では魔法を放つため手を突き出した状態でユエも固まっていた。

 

 なぜなら・・・・・・・・

 

「なんでどいつもこいつも花つけてんだよ!」

「・・・・・・・・ん、お花畑」

「多分この回の魔物はほとんどが操られてるとみてよさそうね。」

 

ハジメ達の言う通り、現れた十体以上のラプトルは全て頭に花をつけていた。それも色とりどりの花を。

 

思わずツッコミを入れてしまったハジメの声に反応して、ラプトル達が一斉にハジメ達の方を見た。そして、襲いかかろうと跳躍の姿勢を見せる。

 

が、その魔物はハジメたちに近づく前に緑色の結晶となって消える。見てみれば真由美は両手を広げてその手のひらから紫電を出して周りの魔物をどんどん同化していく。

 

残った魔物はリボルバーの極太ビームで蒸発させている。ハジメもドンナーと新たに作った焼夷手榴弾などを駆使して魔物を殲滅してく。どうやらあのサソリもどきが強かっただけのようでハジメの武器はオーバーキル目で魔物を屠る。

 

結局十秒もかからず殲滅に成功した。しかし、真由美の表情は冴えない。ハジメがどうしたと聞こうとしたその時〝気配感知〟が再び魔物の接近を捉えた。全方位からおびただしい数の魔物が集まってくる。

 

ハジメの感知範囲は半径二十メートルといったところだが、その範囲内において既に捉えきれない程の魔物が一直線に向かってきていた。

 

「二人とも、ヤバイぞ。三十いや、四十以上の魔物が急速接近中だ。まるで、誰かが指示してるみたいに全方位から囲むように集まってきやがる」

「・・・・・・・・逃げる?」

「・・・・・・・・いや、この密度だと既に逃げ道がない。一番高い樹の天辺から殲滅するのがベターだろ」

「ん・・・・・・・・特大のいく」

「おう、かましてやれ!」

「じゃあ私はその間の時間を稼ぎましょうかね。ハジメ、合図はよろしく。」

「任せておけ。」

 

真由美は飛び上がって魔物の方へと突撃し、注意を引く。魔物は真由美の方へと集まっていき攻撃しようとするが真由美ははるか上空にいるため、攻撃が届かない。

 

「ハジメ?」

「まだだ・・・・・・・・もうちょい」

 

ユエの呼び掛けにラプトルを撃ち落としながら答えるハジメ。ユエはハジメを信じてひたすら魔力の集束に意識を集中させる。

 

そして遂に、真由美の眼下の魔物が総勢五十体を超え、今では多すぎて判別しづらいが、事前の〝気配感知〟で捉えた魔物の数に達したと思われたところで、ハジメは、ユエに合図を送った。

 

「ユエ!」

「んっ! 〝凍獄〟!」

 

ユエが魔法のトリガーを引いた瞬間、ハジメ達のいる樹を中心に眼下が一気に凍てつき始めた。ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。

 

魔物は一瞬の抵抗も許されずに、その氷華の柩に閉じ込められ目から光を失っていった。氷結範囲は指定座標を中心に五十メートル四方。まさに〝殲滅魔法〟というに相応しい威力である。

 

「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・」

「お疲れさん。流石は吸血姫だ」

「・・・・・・・・くふふ・・・・・・・・」

 

周囲一帯、まさに氷結地獄と化した光景を見て混じりけのない称賛をユエに贈るハジメ。ユエは最上級魔法を使った影響で魔力が一気に消費されてしまい肩で息をしている。おそらく酷い倦怠感に襲われていることだろう。

 

ユエは首にかみつきハジメから血を吸う。どうやら血を吸うことで魔力などに変換できるようだ。ハジメたちが出発する直前にちゃっかり吸っていたのだ。すると真由美は奥の洞窟の方から出て来た。

 

「おう真由美、今までどこ行ってた?」

「いや、この状況を作った魔物を潰しに行ってた。危なかったよ、自分の持ってる特殊な鱗粉で操る性質を持ってるなんて。まぁさっさと倒しちゃったんだけどね」

 

ハジメたちはその足で再び下層へと降りる。その先に待っているものに向けて。

 

______________________

 

ハジメたちの目の前にある重厚な扉。それはまるでここが最下層だといわんばかりの雰囲気を醸し出していた。

 

「さて、多分ここが最下層だ。気を引き締めていくぞ。」

「おー!」

「・・・・・・・・おー」

「乗り悪くない!?」

「おら、さっさと行くぞ。時間がないんだから。」

「はいはい了解しましたよっと。」

 

 

真由美は扉をこじ開ける。その瞬間、扉とハジメ達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。

 

ハジメと真由美は、その魔法陣に見覚えがあった。忘れようもない、あの日、ハジメが奈落へと落ちた日に見た自分達を窮地に追い込んだトラップと同じものだ。

 

だが、ベヒモスの魔法陣が直径十メートル位だったのに対して、眼前の魔法陣は三倍の大きさがある上に構築された式もより複雑で精密なものとなっている。

 

「おいおい、なんだこの大きさは? マジでラスボスかよ」

「・・・・・・・・大丈夫・・・・・・・・私達、負けない・・・・・・・・」

 

ハジメが流石に引きつった笑みを浮かべるが、ユエは決然とした表情を崩さずハジメの腕をギュッと掴んだ。

 

「まーた蚊帳の外だよー。まぁいいけどね。」

 

真由美はそれとなく抗議するが、ハジメはそれを聞かないふりをし、ユエの言葉に「そうだな」と頷き、苦笑いを浮かべながらハジメも魔法陣を睨みつける。どうやらこの魔法陣から出てくる化物を倒さないと先へは進めないらしい。

 

魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにするハジメとユエ。光が収まった時、そこに現れたのは・・・・・・・・

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、ここまで読んでいただきありがとうございました。そして、長くなったので戦闘描写は次回です。今回は真由美の過去について、ハジメの視点から少しだけ語らせてみました。詳しいことに関しては奈落編終了後のキャラ設定にて書こうと思います。
ではまた次回もお会いいたしましょう。さようなら!


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第十話 魂の座

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までの三つの出来事。一つ、ハジメたちはサソリもどきを撃破した。二つ、ユエはハジメのここに至る経緯と真由美の過去を聞いた。そして三つ、ハジメたちは反逆者の住処へとたどり着き、そこで魔物と対峙する。


三人称side

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光がハジメ達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気がハジメ達に叩きつけられた。

 

「来るよハジメ!」

 

同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

真由美は即座に飛行して回避する。ハジメとユエは同時にその場を左右に飛び退き反撃を開始する。ハジメのドンナーが火を吹き電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

まずは一つとハジメが内心ガッツポーズを決めた時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。白頭は回復魔法を使えるらしい。

 

ハジメに少し遅れてユエの氷弾が緑の文様がある頭を吹き飛ばしたが、同じように白頭の叫びと共に回復してしまった。

 

「クソっ!回復持ちがいるのか・・・・・・・・くそったれ!」

 

ハジメはドンナーで白頭を吹き飛ばそうとする。が、先ほどの赤頭が火炎放射で弾道をそらす。

 

「どんなお家芸だよくそっ!」

 

ハジメは念話を使って、真由美とユエに指示を出す。

 

”あの白頭を潰すぞ!あいつがいると勝てない!”

 

”了解!ユエちゃん、魔法でほかの頭を黙らせて!”

 

”分かった!”

 

ユエが様々な魔法でほかの頭を足止めする。青頭が氷の礫を撃つが、ユエがそれをことごとく撃ち落としていく。真由美はその間に、リボルバーを同化で強化し、白頭に向けて極光を放つ。ハジメもドンナーを撃つ。

 

緑と白が入り混じったような色の閃光とレールガンがが白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。

 

そして淡く黄色に輝きハジメのレールガンも真由美の極光も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している。

 

「盾役までいるのかよっ!」

「なんとも合理的かつ基本に忠実な生物だことで!」

ハジメは頭上に向かって〝焼夷手榴弾〟を投げる。同時にドンナーの最大出力で白頭に連射した。真由美は他の首の相手をしているユエと交代し、ユエはハジメに合わせて〝緋槍〟を連発する。

 

ユエの〝蒼天〟なら黄頭を抜いて白頭に届くかもしれないが、最上級を使うと一発でユエは行動不能になる。吸血させれば直ぐに回復するが、その隙を他の頭が許してくれるとは思えなかった。せめて半数は減らさないと最上級は使えない。

 

黄頭は、ハジメとユエの攻撃を尽く受け止める。だが、流石に今度は無傷とはいかなかったのかあちこち傷ついていた。

 

「クルゥアン!」

 

すかさず白頭が黄頭を回復させる。全くもって優秀な回復役である。しかし、その直後、白頭の頭上で〝焼夷手榴弾〟が破裂した。摂氏三千度の燃え盛るタールが撒き散らされる。白頭にも降り注ぎ、その苦痛に悲鳴を上げながら悶えている。

 

 

このチャンス逃すか! とハジメが〝念話〟で合図をユエに送り、同時攻撃を仕掛けようとする。が、その前に絶叫が響いた。ユエの声で。

 

「いやぁああああ!!!」

「ユエちゃん!?」

「!? ユエ!」

 

咄嗟にユエに駆け寄ろうとするが、それを邪魔するように赤頭と緑頭が炎弾と風刃を無数に放ってくる。未だ絶叫を上げるユエに、歯噛みしながら一体何がと考えるハジメ。そして、そういえば黒い文様の頭が未だ何もしていないことを思い出す。

 

(違う、もし既に何かしているとしたら!)

 

ハジメは〝縮地〟と〝空力〟で必死に攻撃をかわしながら黒頭に向かってドンナーを発砲した。射撃音と共に、ユエをジッと見ていた黒頭が吹き飛ぶ。同時に、ユエがくたりと倒れ込んだ。

 

その顔は遠目に青ざめているのがわかる。そのユエを喰らおうというのか青頭が大口を開けながら長い首を伸ばしユエに迫っていく。

 

「させるかぁああ!!」

 

 

ハジメはダメージ覚悟で炎弾と風刃の嵐を〝縮地〟で突っ込んで行く。真由美は同化ケーブルで魔法のほとんどを迎撃する、ハジメも致命傷になりえる攻撃は

 

ドンナーの銃身で弾いたり風爪で軌道をそらしたりしながらギリギリのタイミングでユエと青頭の間に入ることに成功した。

 

しかし、迎撃の暇はなく、ハジメは咄嗟に〝金剛〟を発動する。〝金剛〟は移動しながらは使えない。

 

そのため、どっしりとユエの前に立ち塞がる。魔力がハジメの体表を覆うのと青頭が噛み付くのは同時だった。

 

「クルルルッ!」

「ぐぅう!」

 

低い唸り声を上げながら、青頭がハジメを丸呑みにせんと、その顎門を閉じようとするが、ハジメは前かがみになりながら背中と足で踏ん張り閉じさせない。そして、ドンナーの銃口を青頭の上顎に押し当て引き金を引いた。

 

射撃音と共に噴火でもした様に青頭の頭部が真上に弾け飛ぶ。力を失った青頭をハジメは〝豪脚〟で蹴り飛ばす。次いでに、〝閃光手榴弾〟と〝音響手榴弾〟をヒュドラに向かって投げつけた。

 

「真由美!耳と目をふさげっ!」

「っ!?」

 

真由美はとっさに目をつぶり耳をおおった。〝音響手榴弾〟は八十層で見つけた超音波を発する魔物から採取したものだ。体内に特殊な器官を持っており音で攻撃してくる。この魔物を倒しても固有魔法は増えなかったが、代わりにその特殊な器官が鉱物だったので音響爆弾に加工したのだ。

 

二つの手榴弾が強烈な閃光と音波でヒュドラを怯ませる。その隙にハジメはユエを抱き上げ柱の陰に隠れた。

 

「おい! ユエ! しっかりしろ!」

「・・・・・・・・」

 

ハジメの呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震えるユエ。黒頭のヤツ一体何しやがった! と悪態を付きながら、ペシペシとユエの頬を叩く。〝念話〟でも激しく呼びかけ、神水も飲ませる。しばらくすると虚ろだったユエの瞳に光が宿り始めた。

 

「ユエ!」

「・・・・・・・・ハジメ?」

「おう、ハジメさんだ。大丈夫か? 一体何された?」

 

パチパチと瞬きしながらユエはハジメの存在を確認するように、その小さな手を伸ばしハジメの顔に触れる。それでようやくハジメがそこにいると実感したのか安堵の吐息を漏らし目の端に涙を溜め始めた。

 

「・・・・・・・・よかった・・・・・・・・見捨てられたと・・・・・・・・また暗闇に一人で・・・・・・・・」

「ああ? そりゃ一体何の話だ?」

 

ユエの様子に困惑するハジメ。ユエ曰く、突然、強烈な不安感に襲われ気がつけばハジメに見捨てられて再び封印される光景が頭いっぱいに広がっていたという。そして、何も考えられなくなり恐怖に縛られて動けなくなったと。

 

「ちっ! バッドステータス系の魔法か? 黒頭は相手を恐慌状態にでも出来るってことか。ホントにバランスのいい化物だよ、くそったれ!真由美!そいつはバッドステータスを付与させる首を持ってる!トラウマを想起させるようだ!気を付けろ!」

「了解!情報感謝するよハジメ!」

「・・・・・・・・ハジメ」

 

敵の厄介さに悪態をつき、真由美に指示を出すハジメに、ユエは不安そうな瞳を向ける。よほど恐ろしい光景だったのだろう。

 

ハジメに見捨てられるというのは。何せ自分を三百年の封印から命懸けで解き放ってくれた人物であり、吸血鬼と知っても変わらず接してくれるどころか、日々の吸血までさせてくれるのだ。心許すのも仕方ないだろう。

 

そして、ユエにとってはハジメの隣が唯一の居場所だ。一緒にハジメの故郷に行くという約束がどれほど嬉しかったか。再び一人になるなんて想像もしたくない。

 

そのため、植えつけられた悪夢はこびりついて離れず、ユエを蝕むしばむ。ヒュドラが混乱から回復した気配にハジメは立ち上がるが、ユエは、そんなハジメの服の裾すそを思わず掴んで引き止めてしまった。

 

「・・・・・・・・私・・・・・・・・」

 

泣きそうな不安そうな表情で震えるユエ。ハジメは何となくユエの見た悪夢から、今ユエが何を思っているのか感じ取った。そして、普段からの態度でユエの気持ちも察している。

 

どちらにしろ、日本に連れて行くとまで約束してしまったのだ。今更、知らないフリをしても意味がないだろう。

 

慰めの言葉でも掛けるべきなのだろうが、今は時間がない。それに生半可な言葉では、再度黒頭の餌食だろう。ハジメがやられる可能性もあるのだから、その時はユエにフォローしてもらわねばならない。

 

そんなことを一瞬のうちに、まるで言い訳のように考えると、ハジメは、ガリガリと頭を掻きながらユエの前にしゃがみ目線を合わせる。

 

 そして・・・・・・・・

 

「?・・・・・・・・!?」

 

首を傾げるユエにキスをした。ほんの少し触れさせるだけのものだが、ユエの反応は劇的だった。マジマジとハジメを見つめる。

 

ハジメは若干恥ずかしそうに目線を逸らしユエの手を引いて立ち上がらせた。

 

「ヤツを殺して生き残る。そして、地上に出て故郷に帰るんだ。・・・・・・・・一緒にな」

 

ユエは未だ呆然とハジメを見つめていたが、いつかのように無表情を崩しふんわりと綺麗な笑みを浮かべた。

 

「んっ!」

 

ハジメは咳払いをして気を取り直しつつ、ユエに作戦を告げる。

 

「シュラーケンを使う。真由美がいくらか援護してくれるとは思うがそれでも多少は飛んでくるはずだ。それの迎撃と防御を頼む。」

「ん、任せて。」

「よし、その意気だ。真由美!切り札を切りたい!時間を稼いでくれ!」

「了解!」

 

真由美は一旦首から離れると、ハジメの上空に待機し、その背中に緑の結晶を生やしていく。それが一定の沖差になり砕けると中からは紫色の円柱状の機器にブレードが喧嘩されたウイングパーツのような・・・・・・・・ニヒトのバックパックユニットが現れた。

 

「遠慮はいらないよね。ドカンと行っちゃうよー!」

 

円柱状の機器の上部から赤いホーミングレーザーが発射される。それは各色の首が出す魔法のこと如くを打ち払っていく。ブレード付きの同化ケーブルは、次々と頭を同化し消していく。白頭が即座に回復させていくが、誰がどう見てもその速度は落ちている。

 

どうやらキャパシティがオーバーし始めたのだろう。ユエも負けじと様々な魔法を使って首を落としていく。

 

「今だよハジメ!」

「あぁ!」

 

ハジメは対物ライフル:シュラーゲンを取り出し白頭に向けて照準する。黄頭が白頭を守るように立ち塞がるが、そんな事は想定済みだ。

 

「まとめて砕く!」

 

ハジメが〝纏雷〟を使いシュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。

 

シュタル鉱石は魔力との親和性が高く〝纏雷〟にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

 ドガンッ!!

 

大砲でも撃ったかのような凄まじい炸裂音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。

 

単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。異世界の特殊な鉱石と固有魔法がなければ到底実現し得なかった怪物兵器だ。

 

発射の光景は正しく極太のレーザー兵器のよう。かつて、勇者の光輝がベヒモスに放った切り札が、まるで児戯に思える。射出された弾丸は真っ直ぐ周囲の空気を焼きながら黄頭に直撃した。

 

黄頭もしっかり〝金剛〟らしき防御をしていたのだが……まるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達し、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。階層全体が地震でも起こしたかのように激しく震動する。

 

後に残ったのは、頭部が綺麗さっぱり消滅しドロッと融解したように白熱化する断面が見える二つの頭と、周囲を四散させ、どこまで続いているかわからない深い穴の空いた壁だけだった。

 

他に残った頭が真由美とユエの相手をほおりだしハジメの方を向く。しかし、そんな隙を見逃す二人ではなかった。

 

「油断大敵!たらふく食っちゃいなさいよ!」

「〝天灼〟」

 

そのスペックは勇者をも軽く凌駕し、戦闘能力はハジメやユエをもしのぐ真由美の規格外の武装、その威力は未知数。現代科学でもまだ再現できていないようなその光線という名の破壊兵器は

 

首にまとわれた〝金剛〟で防げるわけがなく、その首を蒸発させる。そして かつての吸血姫。その天性の才能に同族までもが恐れをなし奈落に封印した存在。その力が、己と敵対した事への天罰だとでも言うかのように降り注ぐ。

 

三つの頭の周囲に六つの放電する雷球が取り囲む様に空中を漂ったかと思うと、次の瞬間、それぞれの球体が結びつくように放電を互いに伸ばしてつながり、その中央に巨大な雷球を作り出した。

 

ズガガガガガガガガガッ!!

 

中央の雷球は弾けると六つの雷球で囲まれた範囲内に絶大な威力の雷撃を撒き散らした。三つの頭が逃げ出そうとするが、まるで壁でもあるかのように雷球で囲まれた範囲を抜け出せない。天より降り注ぐ神の怒りの如く、轟音と閃光が広大な空間を満たす。

 

そして、十秒以上続いた最上級魔法に為すすべもなく、残りの首も断末魔の叫びをあげたのだった。

 

「ふぅ。何とか倒せたか。」

 

いつもの如くユエがペタリと座り込む。魔力枯渇で荒い息を吐きながら、無表情ではあるが満足気な光を瞳に宿し、ハジメに向けてサムズアップした。ハジメも頬を緩めながらサムズアップで返す。

 

シュラーゲンを担ぎ直しヒュドラの僅かに残った胴体部分の残骸に背を向けユエの下へ行こうと歩みだした。

 

 その直後、

 

「ハジメ!危ない!」

 

真由美の切羽詰まった声が響き渡る。何事かと見開かれた真由美の視線を辿ると、音もなく七つ目の頭が胴体部分からせり上がり、ハジメを睥睨していた。思わず硬直するハジメ。

 

だが、七つ目の銀色に輝く頭は、ハジメからスっと視線を逸らすと動けないユエをその鋭い眼光で射抜き予備動作もなく極光を放った。先ほどのハジメのシュラーゲンもかくやという極光は瞬く間にユエに迫る。ユエは魔力枯渇で動けない。

 

ハジメは金剛を発動し、ユエの前、極光の射線上に躍り出る。奇しくもそれは冒頭の青頭の繰り返しのように見えた。このままではハジメは極光の光で焼かれてしまう。既に死の光はすぐそこまで来ていた。

 

ユエは目をつぶる。しかし、衝撃はなく、代わりに真由美のうめき声がする。何事かと見てみれば、なんと真由美が手のひらから黒い顔並みの大きさの球体を出して、極光を止めているではないか。

 

「二人は・・・・・・・・やらせないっ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

真由美はそのままその球体を維持し続ける。まるで極光が切れるのを待つかのように。ユエも、その前でかばう体制に入っていたハジメも、唖然としている。そしてついに極光の光が消えた。なんと真由美は極光を押しとどめることに成功したのだ。

 

そしてその極光を受け止めた黒い球体はそのまま肥大化していき、直径2kmはあるであろう巨大な球体へと姿を変える。

 

「お返しだ・・・・・・・・無に還れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 

真由美はそれを胴体部へと投げつける。それは胴体部分にぶつかると、ものすごい勢いで、その胴体を文字通り消していく。緑色の結晶を伴う同化のような消滅ではなく、まるでブラックホールを押し付けられたような消え方をする体。

 

ファフナーの世界で言う”ワームスフィア”なんでも消してしまう特異な現象の様なものであるそれは、再生能力をものともしない速度で胴体の九割と回復させる首を含めた6本の首を消し去った。

 

「今度こそ・・・・・・・・私たちの勝ち・・・・・・・・だ。くそったれ・・・・・・・・」

 

真由美は立つのも一苦労なぐらいにへばっていた。ハジメはそんな真由美をねぎらうために真由美に近づく、が次の瞬間。

 

「ぐがぁぁぁぁぁあ!?」

 

突然ハジメが目を抑え始めた。はたから見ると真由美がハジメに何かしたように見えるだろう。だがしかし、現実は違ったのだ。

 

ユエは真由美の方を見る。真由美は確かにそこに立ってはいるが、胸のあたりから向こうの景色が見えている。そう、”見えているのだ”。

 

そしてその向こうには、残っていた最後の首がハジメたちの・・・・・・・・真由美の方を向いていた。そしてその首はこと切れたかのように地面へと伏し、真由美も地面へと倒れこんだ。

 

そこからは赤色の液体がとめどなくあふれているのだった。

 

_______________________________

 

真由美side

 

はい私です。なにがあったのか全く把握できておりません。最後に覚えてるのは胸が焼けるような痛みと、ハジメが左目を抑えている姿と、変なものでも見たかのような顔をしていたユエちゃんだけです。

 

なにがあったのかしら?今はなぜか見覚えのあるようなないような真っ白い空間にいます。なので全く外の様子がわかりません。あーどうしようっかなー。って、およよ?前から私そっくりな人が近づいてきましたよ?

 

「あなたは誰ですか?」

「私は、あなた。あなたの体の昔の持ち主。」

 

えっ?何て言った?前の持ち主?この体の?ってことはじゃぁ・・・・・・・・

 

「初めまして、真城悠馬。私の名前は真城真由美、その体本来の持ち主です。」

「えっ?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

どーゆーことだぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!!!!えっ?何々どういうこと?全く持って話がつかめん。この体は転生特典でついたわけじゃないのか?

 

魂だけが上書きされた、この世界の住人の体ってこと?じゃあ何か?俺はゼウスのじっちゃんに魂の状態でこの世界に連れてこられたってわけ?それでこの子に魂が上書きされたと?

 

そんな荒唐無稽なこと信じ・・・・・・・・られるわ。俺がもうファンタジーの体現者だったわ。魔法ありきの世界に転移させられた時点で、というか転生した時点でメルヘンチックでファンタジー的な存在にクラスアップしてたわ!

 

「えぇっととりあえず・・・・・・・・本当にごめんなさぁぁぁぁぁい!」

 

”俺”はとりあえず全力で謝罪する。勿論ジャパニーズDO☆GE☆ZAも忘れていない。

 

「あーいや、別に何もそこまでしなくてもいいのですが・・・・・・・・」

「いいえ全く!こちらの都合であなたの体を勝手に利用して・・・・・・・・ほんっとうにすいませんでしたァァァァァァ!!!」

「あはは・・・・・・・・」

 

そしてゼウスのじっちゃん、どういうことだ、説明するんだってばよ!すると向こうから”前世の俺”の姿をした何者かが歩いてきた。

 

何で何者なのかって言ったのかだって?だって前世の俺の髪の毛・・・・・・・・というか一般人の髪ってあんなゲーミングPCバリに虹色に輝かねぇよ普通!

 

もう見ただけで『あッ、こいつやべーやつだ(言葉通り)』って思ったわ!

 

「なぁゼウスのじっちゃん。こりゃ一体どういうことなんだってばよ?」

「・・・・・・・・すまんな、其方・・・・・・・・いや、悠馬よ。実はお前の体を作ろうとしたときに、この少女がお前と同じ波長・・・・・・・・魂の形をしておって希薄だったので、魂の結びつきをほどいて悠馬の魂を入れてしまったのだ」

「・・・・・・・・つまり?」

「悠馬の体作るの面倒で、魂の器として最適で尚且つ死に体だったこの体に無断で入れちゃったという訳だ。」

「・・・・・・・・」

「どうしたのだ?」

「なっ・・・・・・・・」

「な?」

「なぁぁぁあぁぁにをしてくれとんのじゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!あんたって人はぁぁぁぁあぁぁぁぁああ!」

 

衝撃のカミングアウトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!?どういうことだってばよ!?全く話についてけねぇぞ!なんだよこの今明かされる衝撃の真実的カミングアウトの嵐!

 

俺も読者さんも全く話についてけねぇぞ一体どうなってるんだ作者ァ!というかおれもよくわかんねぇよ!じゃあ何か?俺はこの元の持ち主さん相手に

 

「あっ、俺転生者です。そして体がないのであなたの体勝手に借りるね!」ってな感じでおれのものムーブをかまして悠々自適に生きてたって言うのかぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

人のことなんも言えんわ!何やってんの!?倫理観どうなってんのお宅は!・・・・・・・・って・・・・・・・・

 

「神様に倫理観なんてないか(ボソッ)」

「おいこら悠馬ー今失礼なこと言わなかったかー」

「あの・・・・・・・・そろそろ話してもいいですか?」

「アッハイドウゾ。」

 

やべぇって、前の持ち主さんの気を悪くさせちゃったよー・・・・・・・・

 

______________________________

悠馬side

 

はい、という訳で前の持ち主さん。えぇッと長いので元の名前、真由美さんと呼びます。真由美さんから今の状況について説明していただくことになりました。

 

ゼウスのじっちゃん?あぁ、なんか帰ったよ。すっげぇ気分が重そうに見えた。

 

「えぇっと、今のあなたの状態を記憶を流すことで説明します。といっても簡単に言ってしまえば、あなたは今瀕死の状態です」

「えっ?俺瀕死なの?」

「はい、あなたはいま生死の境をさまよってます。魂と体のつながりが私並みに薄くなったので、今ここにいて、私と会えてるという状態ですね」

「なるほどなるほど。」

「意外と落ち着いてますね」

「んにゃ?落ち着いてはいないぞ。ただ今更ここで騒ぎだしてもなぁって感じでいるだけ。ここで死んでも正直仕方ないと思ってる。いくら最強の力を持ってるって言ったっておれは戦い方なんて喧嘩しか知らん只のパンピーだしな。無双できてた自分が怖いわ」

「そういうことでしたか・・・・・・・・いや失敬。で、本題はここからです。今あなたには二つの選択肢があります。」

「二つの選択肢?」

「一つはこのまま体の回復を待つ。瀕死とはいえ、ハジメさんが持つ神水の効果と、同化の力で着々と回復してはいますが、目を覚ますのはあなたが言う”原作”の時系列的に言えば、ライセン大迷宮を攻略した後、になるでしょう。」

「えー困るよそれ。あの大迷宮初見殺し多いし!」

「まぁまぁ落ち着いてください。そこで二つ目の案です。」

「二つ目の案?」

「端的に言えば分身体・・・・・・・・複製の体を作り、そこにあなたの魂を持っていくこと、です」

「つまりあれ?本体の回復を待つ間に代理の体でハジメたちの攻略を手伝うってことか?」

「えぇ。本来の私が持つ技能の中に”機体作成” ”義体作成”の技能があります。これは簡単に言えば材料さえあればそれが作れるという、錬成の下位互換で特化型のような技能となります」

「へぇ、そんなロマンあふれる技能を持ってたんですね。羨ましいな~。つまり、『俺がガンダムだ(物理)』ができる訳か。」

「でも、私の技能はあくまで義体と私が持つ技能をそのまま映すことしかできませんので、あなたが持つ存在と同化の力を宿す各種技能はしばらく使えません。そしておそらく私本来のこの技能を使用した場合、再生期間はもっと伸びる可能性があります。」

「具体的には?」

「時系列的に言えば・・・・・・・・ウルの町辺りまででしょうか?」

「なるほどね・・・・・・・・もう少し早くできない?」

「どんなに早く見積もっても、ウルの町攻防戦のあたりまで間に合うかどうかです。」

「そっか・・・・・・・・あーいやいや、俺もそこまでバカ丸出しってわけじゃないよ。理解してる。それでさ、再生している間、この体を使うのは真由美さんってわけだよね?」

「えぇ、そういうことになりますね。」

「ハジメたちにどう説明すればいい?」

「二重人格だったとでも説明しておいてください。それで何とか納得してくれると思います。」

「分かった。・・・・・・・・くどいようだけど、本当に申し訳ない。ほんとはあなたの体だったのに・・・・・・・・」

「いえ、多分あなたが入ってきてくれなければ・・・・・・・・私と同じかけがえのないものを失ったのにもかかわらず懸命に生きようとしたあなたがいなければ・・・・・・・・死に体の私はもう死んでいたと思いますから・・・・・・・・感謝こそすれ、邪険にはしません。」

「そっか・・・・・・・・そう言ってくれると助かるよ。・・・・・・・・じゃあ、またよろしくね。」

「はい、また会いましょう。」

 

こうして俺は、真由美さんとの和解に成功した。しばらくは真由美さんの持つはずだった技能しか使えないがさしたる問題はないだろう。だって、ハジメは十分に強いから。

 

俺は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 




という訳で、オリ主の魂は転生した時に作られた肉体じゃなくて死に体だったその世界でのモブだったオリ主のような存在の体の中に入ってしまい、尚且つ主導権を握っていたという何とも複雑な事情を抱え込んでいました。最も、タイトルの時点で

察しがついた猛者な読者様は少なからずいるのではないでしょうか?このプロットを作るときにACが登場する他の作者様方の二次創作を見て、「ワイもAC出したいな・・・・・・・・そや、魂が二つあるなら、義体作ってそこにAC作れる技能付けてオリ主に作らせよ」となって

二重の魂の後の設定を大幅に進路変更することにしました。最も、この変更をしたとしても大筋の物語が変わることは多分ないと思います・・・・・・・・ちなみにこの技能の元ネタは、これのもとになった自分の二次創作、『錬成士と魔弾の射手で世界最強』の主人公の持つ技能

”自動人形”から来ています。まだ、作品自体は残ってるので気になったら少しのぞいて見るといいかもしれません。・・・・・・・・っと、どんな上から目線だよと。という訳で次回でオリ主sideは終了ですが、そのあと清水たち勇者sideを少し書いて設定などをまとめてから

ライセン大迷宮編へと行きたいと考えています。ではまた次回お会いいたしましょう。さようなら


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第十一話 世界への反逆:Awakening

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までの三つの出来事。一つ、最深部にて多数の首を持つ魔物、ヒュドラと会敵する。二つ、ヒュドラを撃破するも真由美は致命傷を負い瀕死となる。そして三つ、悠馬は魂の座にて元の体の持ち主である本来の真由美と出会う


作者小話:駄作者はACが好きですがゲーム自体はハードの問題で一度もプレイしたことがありません。なので、ゲームの性能と全く異なるACの皮をかぶった何かになる可能性があります。AC愛好家のかた。申し訳ありません。


三人称side

 

「・・・・・・・・真由美、起きて。」

「・・・・・・・・なぁ、起きろって。真由美。」

 

どこか西洋風な作りの天蓋付きのベット、そこに横になっているのは、ハジメをかばって致命傷を負った真城真由美その人だった。

 

その近くで真由美のことを見守っているのは、左腕が黒い機械仕掛けの義手になっていて、左目を眼帯で隠しているハジメと

 

白いブラウス?に黒いスカートの上に白衣のようなものを着ているユエだった。ハジメたちはヒュドラを多大な犠牲を払いつつ撃破した。

 

そして、無事に解放者の試練を突破することができたのだった。しかし、ハジメをかばい、心臓を穿たれ致命傷を負い、瀕死になった真由美は未だ目を覚まさない。

 

ハジメは、今もまだ眠り続けている真由美の手を握りながら、目を覚ました時の光景を語るように、思い出していた。

________________________________

 

ハジメは、体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。これは、そうベッドの感触である。頭と背中を優しく受け止めるクッションと、体を包む羽毛の柔らかさを感じ、ハジメのまどろむ意識は混乱する。

 

(何だ? ここは迷宮のはずじゃ・・・・・・・・何でベッドに・・・・・・・・)

 

まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、右手はその意思に反して動かない。というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

(何だこれ?)

 

ボーとしながら、ハジメは手をムニムニと動かす。手を挟み込んでいる弾力があるスベスベの何かはハジメの手の動きに合わせてぷにぷにとした感触を伝えてくる。何だかクセになりそうな感触につい夢中で触っていると・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・ぁん・・・・・・・・」

 

(!?)

 

何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。その瞬間、まどろんでいたハジメの意識は一気に覚醒する。

 

慌てて体を起こすと、ハジメは自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢ごうしゃな天蓋付きの高級感溢れるベッドである。

 

場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。

 

建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

さっきまで暗い迷宮の中で死闘を演じていたはずなのに、とハジメは混乱する。

 

(どこだ、ここは・・・・・・・・まさかあの世とか言うんじゃないだろうな・・・・・・・・)

 

どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの脳裏に不吉な考えが過ぎるが、その考えは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「・・・・・・・・んぁ・・・・・・・・ハジメ・・・・・・・・ぁう・・・・・・・・」

「!?」

 

ハジメは慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わないユエがハジメの右手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。

 

「なるほど・・・・・・・・これが朝チュンってやつか・・・・・・・・ってそうじゃない!」

 

混乱して思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れるハジメ。若干、虚しくなりながらユエを起こす。

 

「ユエ、起きてくれ。ユエ」

「んぅ~・・・・・・・・」

 

声をかけるが愚図るようにイヤイヤをしながら丸くなるユエ。ついでにハジメの右手はユエの太ももに挟まれており、丸くなったことで危険な場所に接近しつつある。

 

「ぐっ・・・・・・・・まさか本当にあの世・・・・・・・・天国なのか?」

 

更に阿呆な事を言いながら、ハジメは何とか右手を抜こうと動かすが、その度に・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・んぅ~・・・・・・・・んっ・・・・・・・・」

 

と実に艶かしく喘ぐユエ。

 

「ぐぅ、落ち着け俺。いくら年上といえど、見た目はちみっこ。動揺するなどありえない! 俺は断じてロリコンではない!」

 

ハジメは、表情に変態紳士か否かの瀬戸際だと戦慄の表情を浮かべながら自分に言い聞かせる。右手を引き抜くことは諦めて、ハジメは何とか呼び掛けで起こそうと声をかけるが一向に起きる気配はなかった。

 

その内、段々と苛立ってきたハジメ。ただでさえ状況を飲み込めず混乱しているというのに何をのんびり寝ていやがるのかと額に青筋を浮かべる。

 

そして、イライラが頂点に達し・・・・・・・・

 

「いい加減に起きやがれ! この天然エロ吸血姫!」

 

〝纏雷〟を発動した。バリバリと右手に放電が走る。

 

「!? アババババババアバババ」

 

ビクンビクンしながら感電するユエ。ハジメが解放すると、ピクピクと体を震わせながら、ようやく目を開いた。

 

「・・・・・・・・ハジメ?」

「おう。ハジメさんだ。ねぼすけ、目は覚め・・・・・・・・」

「ハジメ!」

「!?」

 

目を覚ましたユエは茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。もちろん素っ裸で。動揺するハジメ。

 

しかし、ユエがハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。

 

「わりぃ、随分心配かけたみたいだな」

「んっ・・・・・・・・心配した・・・・・・・・」

 

しばらくしがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのはユエなので気が済むまでこうしていようと、ハジメは優しくユエの頭を撫で続けた。

 

それからしばらくして、ようやくユエが落ち着いたので、ハジメは事情を尋ねた。ちなみに、ユエにはしっかりシーツを纏わせている。

 

「それで、あれから何があった? ここはどこなんだ?」

「・・・・・・・・あの後・・・・・・・・」

 

ユエは口ごもる。まるで、真実を伝えていいものか、迷っているような。普段感じられないような真剣で険しい感じを肌に感じたハジメは、覚悟を決める。

 

「教えてくれ、ユエ。いったい何があった。」

「ハジメ・・・・・・・・んっ、分かった。」

 

ハジメは、ユエの説明を聞く。聞けば、あの後、神水を飲ませたものの、ハジメが目覚めることはなく。どんどん顔がおかしな色に変色していったそうだ。呼吸もすごい早いサイクルで繰り返されていたようだ。

 

すると、なぜか心臓を穿たれたはずの真由美が、自身の力を使ってハジメの体を診断しはじめた。その時には胸の穴は閉じていたという。そして真由美は一通りの診察を終え、ユエのハジメの状態を説明し始めた。

 

曰く、ハジメの左目に当たった極光の光は、ハジメの眼球を完全に破壊し、そのまま神経を通って脳にまでその毒素の猛威を振るっていたようだ。このままでは完全に脳が破壊され始めは死に至ると、そう言ったらしい。

 

そして真由美は、その毒を何とか出来るかもと言い出した。魔力枯渇であまり思考がまとまっていなかったユエは、真由美に任せることにしたようだ。すると真由美はハジメの頭に手をやって

 

ハジメの、毒素に汚染された脳を同化で直し、毒素だけを吸収した。ハジメの顔は目に見えるほど劇的に治っていき、顔色が正常に戻り、呼吸も普通レベルに落ち着いた。しかし問題だったのが真由美だった。

 

どうやら修復が完璧ではなかったらしい。ハジメの毒素を吸収した後、突然胸を押さえ苦しみ始めた。抑えていた手の隙間からは大量の血が絶え間なく出ていたらしい。そのまま真由美は意識を失いたおれた。

 

ユエは神水を飲ませる。傷こそ治ったようだが、完全に血の気が引いた彼女の顔が元に戻ることはなかった。それと同時に決戦の場となった空間の奥にあった大きな扉が開き、ユエは、すでに疲労困憊な体を酷使してハジメと真由美を運んだそうだ。

 

「んで、そこにあったのが・・・・・・・・」

「んっ、反逆者の住処・・・・・・・・もとい、解放者の住処」

 

そして、今に至る。

 

「真由美は・・・・・・・・まだ、目を覚ましてない。」

「そうか・・・・・・・・くそっ!俺があそこで油断しなけりゃこんなことにはっ!」

「ハジメ・・・・・・・・」

「でもまずは、使えるものを探さなくちゃな。」

 

ハジメはベットから出る。そばにはもともと来てた服があったのでハジメはそれを着た。今更だが、ハジメは自分がなんで裸だったのか、気にしないことにした。

 

ベッドルームから出たハジメは、周囲の光景に圧倒され呆然とした。

 

まず、目に入ったのは太陽だ。もちろんここは地下迷宮であり本物ではない。頭上には円錐状の物体が天井高く浮いており、その底面に煌々と輝く球体が浮いていたのである。

 

僅かに温かみを感じる上、蛍光灯のような無機質さを感じないため、思わず〝太陽〟と称したのである。

 

「・・・・・・・・夜になると月みたいになる」

「マジか・・・・・・・・」

 

次に、注目するのは耳に心地良い水の音。扉の奥のこの部屋はちょっとした球場くらいの大きさがあるのだが、その部屋の奥の壁は一面が滝になっていた。

 

天井近くの壁から大量の水が流れ落ち、川に合流して奥の洞窟へと流れ込んでいく。滝の傍特有のマイナスイオン溢れる清涼な風が心地いい。

 

よく見れば魚も泳いでいるようだ。もしかすると地上の川から魚も一緒に流れ込んでいるのかもしれない。

 

川から少し離れたところには大きな畑もあるようである。今は何も植えられていないようだが……その周囲に広がっているのは、もしかしなくても家畜小屋である。

 

動物の気配はしないのだが、水、魚、肉、野菜と素があれば、ここだけでなんでも自炊できそうだ。緑も豊かで、あちこちに様々な種類の樹が生えている。

 

ハジメは川や畑とは逆方向、ベッドルームに隣接した建築物の方へ歩を勧めた。建築したというより岩壁をそのまま加工して住居にした感じだ。

 

「・・・・・・・・少し調べたけど、開かない部屋も多かった・・・・・・・・」

「そうか・・・・・・・・ユエ、油断せずに行くぞ」

「ん・・・・・・・・」

 

石造りの住居は全体的に白く石灰のような手触りだ。全体的に清潔感があり、エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。薄暗いところに長くいたハジメ達には少し眩しいくらいだ。どうやら三階建てらしく、上まで吹き抜けになっている。

 

取り敢えず一階から見て回る。暖炉や柔らかな絨毯、ソファのあるリビングらしき場所、台所、トイレを発見した。どれも長年放置されていたような気配はない。人の気配は感じないのだが・・・・・・・・言ってみれば旅行から帰った時の家の様と言えばわかるだろうか。

 

しばらく人が使っていなかったんだなとわかる、あの空気だ。まるで、人は住んでいないが管理維持だけはしているみたいな・・・・・・・・

 

 

ハジメとユエは、より警戒しながら進む。更に奥へ行くと再び外に出た。そこには大きな円状の穴があり、その淵にはライオンぽい動物の彫刻が口を開いた状態で鎮座している。

 

彫刻の隣には魔法陣が刻まれている。試しに魔力を注いでみると、ライオンモドキの口から勢いよく温水が飛び出した。どこの世界でも水を吐くのはライオンというのがお約束らしい。

 

「まんま、風呂だな。こりゃいいや。何ヶ月ぶりの風呂だか」

 

思わず頬を緩めるハジメ。最初の頃は余裕もなく体の汚れなど気にしていなかったハジメだが、余裕ができると全身のカユミが気になり、大層な魔法陣を書いて水を出し体を拭くくらいのことはしていた。

 

しかし、ハジメも日本人だ。例に漏れず風呂は大好き人間である。安全確認が終わったら堪能しようと頬を緩めてしまうのは仕方ないことだろう。

 

そんなハジメを見てユエが一言、

 

「・・・・・・・・入る? 一緒に・・・・・・・・」

「・・・・・・・・一人でのんびりさせて?」

「むぅ・・・・・・・・」

 

素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断るハジメ。ユエは唇が尖らせて不満顔だ。

 

それから、二階で書斎や工房らしき部屋を発見した。しかし、書棚も工房の中の扉も封印がされているらしく開けることはできなかった。仕方なく諦め、探索を続ける。

 

二人は三階の奥の部屋に向かった。三階は一部屋しかないようだ。奥の扉を開けると、そこには直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。いっそ一つの芸術といってもいいほど見事な幾何学模様である。

 

しかし、それよりも注目すべきなのは、その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている。薄汚れた印象はなく、お化け屋敷などにあるそういうオブジェと言われれば納得してしまいそうだ。

 

その骸は椅子にもたれかかりながら俯いている。その姿勢のまま朽ちて白骨化したのだろう。魔法陣しかないこの部屋で骸は何を思っていたのか。寝室やリビングではなく、この場所を選んで果てた意図はなんなのか・・・・・・・・

 

「・・・・・・・・怪しい・・・・・・・・どうする?」

 

ユエもこの骸に疑問を抱いたようだ。おそらく反逆者と言われる者達の一人なのだろうが、苦しんだ様子もなく座ったまま果てたその姿は、まるで誰かを待っているようである。

 

「まぁ、地上への道を調べるには、この部屋がカギなんだろうしな。俺の錬成も受け付けない書庫と工房の封印……調べるしかないだろう。ユエは待っててくれ。何かあったら頼む。」

「ん・・・・・・・・気を付けて」

 

ハジメはそう言うと、魔法陣へ向けて踏み出した。そして、ハジメが魔法陣の中央に足を踏み込んだ瞬間、カッと純白の光が爆ぜ部屋を真っ白に染め上げる。

 

まぶしさに目を閉じるハジメ。直後、何かが頭の中に侵入し、まるで走馬灯のように奈落に落ちてからのことが駆け巡った。

 

やがて光が収まり、目を開けたハジメの目の前には、黒衣の青年が立っていた。この青年の名はオスカーオルクス。反逆者改め解放者の一人だそうだ。そしてハジメは知った。この世界のこと、創造神エヒトのこと。そして彼は神代魔法の一つ、生成魔法を託された。

 

そして、その昔、偉大な錬成士とたたえられたことのある彼が残した数々のアーティファクトも、である。ハジメは、そんな彼を、庭に埋葬してやることにした。その誇りをたたえて。もし彼がひとりで奈落に落ち、ユエとここにたどり着いていたらこんなことはしなかっただろう。

 

しかし、彼の隣にはユエと真由美がいた。そして真由美はそんな彼を称えずにぞんざいに扱ったと聞いたら、小言を言ってくるだろう。人の死をよく知る真由美を、それをそばで見ていたハジメは、何となくこうしないといけない気がした。

 

埋めるときその骸の顔が少し笑顔になったように見えたのは気のせいではないだろう。その後、ハジメはいろいろなものを作った。新しい武装や移動手段、そして咄嗟のアーマー代わりになるお守りのようなものまで。

 

それはまるで、ハジメの後悔と執念が作り上げた集大成のように見えた。

_____________________________

 

「ってな感じのことがあったんだよ。お前にもしっかり話してやりたい。俺を救ってくれたことも含めて、お前には話しておきたいことが山ほどあるんだ。だから頼むよ・・・・・・・・目を開けてくれ!」

 

ハジメは、自分の回想を終え、再び真由美の方を見る。すると真由美の体が、突如として光りだす。

 

「真由美ッ!?」

「おいおい・・・・・・・・一体何が起こってやがる!?」

 

真由美の体は緑色の結晶に覆われて行き、全身を覆うと、今度はそれが一点に収束して、巨大な結晶が真由美の体の上で浮遊する。

 

それはベット横のスペースに降りると、それはどんどん人型をなしていく。足ができ、体ができ、腕ができ、手ができ、頭ができ。

 

するとその人型の結晶が光を放つ。そして光が収まると、そこには紫色の髪の毛に赤い瞳、そして紫色の扇情的なドレスを着た女性らしき人型がたっていた。

 

「あ、あー・・・・・・・・この声。いつもの声と違う・・・・・・・・違う体になったのかこれ。」

「お前・・・・・・・・誰だ?」

「おっ、ハジメじゃないか。無事そう・・・・・・・・には見えないけどとりあえず元気そうで何よりだよ。」

「なぜおれのことを知っている?」

「知っているも何も、私は真由美の裏の顔・・・・・・・・えっと、二重人格といったほうがわかりやすいかな?」

「二重人格・・・・・・・・だと?」

「そう、二重人格。真由美の喋り方が女性としてははっちゃけた喋り方だっただろう?あれは”私”の影響。」

「そんな与太話が信用できるか!」

「これはファンタジーでもフィクションでもない。・・・・・・・・ノンフィクションなんだよハジメ。」

 

裏の真由美?の顔が険しくなる。

 

「私は、真由美が死に体の時、アイツが作り出した偶像だ。でも、それは突然、いわゆる”別の人物像”、一つの体に二つの人格ができている状態になった。でも今の今まで俺はずっと眠っていた。それが今回こいつが致命傷を負ったせいで覚醒してしまった。」

「じゃあつまり、お前は真由美であって真由美ではないと?」

「そういうことだ。本来の真由美・・・・・・・・めんどくさいから宿主でいいや。宿主が致命傷を負って動けない。でもハジメたちの旅の歩みをここで止めるわけにいかない。だから私が出て来た。

宿主の管理とお前のサポートのためにな。最も、戦力的には宿主には劣るし、技能も”自身がもし個体を与えられたら持つはずだった技能”しか持ち合わせていない。多分、本当の意味でのサポートに徹することになる、という訳だ。」

「・・・・・・・・分かった。とにかくお前が出張ってきてるってことは、真由美は一応無事ってことでいいんだな?」

「あぁ、しばらくは目覚めないとは思うが。」

「それが確認できただけ十分だ。それで?その某人理修復する物語に出てきそうな紫髪のキャスターみたいな恰好のお前は何と呼べばいい?」

「えぇッと、そうだな・・・・・・・・ユーマって呼んでくれ。で、え”?私ってばそんな姿してんの?」

「・・・・・・・・把握してないのか?」

「当り前だろっ!私はさっき目が覚めて気が付いたらここにいたんだ!自分の姿なんて確認できるか!」

「・・・・・・・・分かった。こっちにこい。鏡があるから。」

「分かった・・・・・・・・猛烈に見たくないけど・・・・・・・・」

 

こうして第二の人格はハジメと一緒に姿を確認しに行ったのだった。

_____________________

 

「なんじゃこりゃあ!?」

 

ユーマはハジメに案内され、鏡のある部屋に来ていた。しかし、その顔は鏡を見るや、ムンクの叫びにも似たような絶望の表情を浮かべる。

 

「な?言ったろ?」

「イッタイドウシテコウナッタ・・・・・・・・」

 

そう言って泣き崩れる姿はその美貌と相まってとっても幻想的に見える。本人にとっては皮肉以外の何でもないのだが。

 

「なんというか・・・・・・・・うん、ドンマイ。」

「うわぁぁぁん!ハジメぇ。お前優しいなぁ!」

「だぁぁぁぁ!その姿にその声でこっちにくっつくんじゃねぇ!ゆえに余計でいらん誤解されるだろうが!」

「それもそっか。今の私は真由美であって真由美じゃないからなぁ。」

「大丈夫・・・・・・・・気にしない。」

「うわぁぁぁぁ!?ユエちゃん!いつからそこにいたの!?」

「ついさっき。叫び声が聞こえたから、どうしたのかと思って。」

「そっか・・・・・・・・ありがとう、ユエちゃん。」

「それで?お前はいったい何ができる?」

「技能の話か?」

「あぁ、勿論。」

「メインの技能は、”機体作成” ”義体作成”。前者はアイアンマンのスーツを想像してくれるといい。要はロボット、ひいては人型の起動兵器にカテゴライズされてるもので私の記憶にあるやつであれば

それ相応の資材があればアイアンマンみたいにスーツを着て戦えるようなアーマーを作り出せる。後者は純粋に私のこの義体の予備を素材さえあれば大量に作れるって技能だ。後はまぁ魔術に関するアシスト系スキルとかだし、今んとこはこんなものかな。」

「お前・・・・・・・・それ普通にすごくないか?」

「ハジメほどではないだろう?自由度はそっちの方が上だし、俺の機体作成のスキルはあくまで作れるだけ。補修とメンテナンスは自分でやんなきゃいけない。錬成の技能の下位互換+特化型と言える代物だ。」

「でも記憶があれば作れるんだろう?普通にすごいと思うんだが・・・・・・・・」

「謙遜は過ぎると嫌味だぞハジメ。それよりハジメ。資材をくれ。アーマーを作る。」

「今からか?」

「さして時間がかかるわけじゃない。最も、生身でもある程度は戦えるが・・・・・・・・ステータスがこれだもんなぁ・・・・・・・・」

______________

 

 ユーマ 年齢不明 女 レベル92

 

  天職:機鎧の魔術師

 

  筋力:50

 

  耐性:30

 

  敏捷:28

 

  魔力:30000

 

  魔耐:30000

 

 技能:機体作成[+武器作成][+消耗品作成][+動力作成]義体作成 ルーン魔術(偽)

 

_________________________

 

「まさか、義体の肉体にステータスが引っ張られるとは思わなかった・・・・・・・・泣けるぜ。」

「あーうん。もう何も言うまい・・・・・・・・」

「もういいや、ハジメ。私は作業してくる。できるまでユエと一緒に居てくれ。勿論くんずほぐれつしててもいいぞ。私は別に気にしないからな。」

「そんなことするかぁ!・・・・・・・・ってユーマ、お前その作業着どこから出した?」

 

そこにいたのは、先ほどまでの扇情的なドレスではなく、どこかの金髪錬金術師の義手の調整をやっていそうな少女の着ているつなぎのような服にそっくりな服を着たユーマだった。

 

「これ?魔術だけど?」

「魔術?」

「ルーン魔術(偽)って技能があったのはお前も見たよな?あれすっごく便利でさ。日本語を魔力込めて書くとその文字通りのことが起こるのよ。つまり日本語の文字がルーン文字の代わりをしているってわけ。だからツナギって服に書いて服を魔力で変えたとそういう訳だ。」

「お前も多分大概以上だと思う。」

「言ってて私も思ったわ。」

 

そう言ってユーマはハジメが用意してくれた鉱石を使って自分のアーマーを作り始めた。ハジメはユエと一緒にベッドルームへと入っていった。なお、ユーマは作業している途中、男の悲鳴とベッドが激しくきしむ音と水の音を聞いたが無視することにした。

 

 

そうして2時間程度たった後、ユーマはそのアーマーを完成させた。そこになぜかつやつやなユエと、少しやつれたハジメが入ってきた。

 

「ユーマ。これって・・・・・・・・」

「そう。これが俺が作った戦闘用アーマー!ホワイト・グリントだ!」

 

そこには、白い装甲色をしたアーマー。ホワイト・グリントが鎮座していた。

 

「性能は折り紙付き。でもいろいろと魔改造してみた。まずQB、これは最高8000まで出るようにしてある。おかしいね。続いてOB、こいつは25000まで出せる。アハハおかしいね。

武装は右手の武装が051ANNR、左手の武器が063ANARでちゃんと再現。でも中身まではあまり再現できてない。理論上はこいつの動力をそのまま電力に変換し、撃ちだすレールガン方式を採用している。

弾薬は”消耗品作成!のスキルで鉱石さえあれば無限に作れる。動力はコジマ粒子を、ルーン魔術(偽)で無害化&効率化した通称ν-コジマドライブ。これで最長20時間の無補給作戦行動が可能になりました!」

「お前アホだろ。うん、アホだな絶対。というか原作の設定無視して何してるんだお前は!」

「・・・・・・・・ユーマ、ドンマイ。」

「とりあえず、だ。戦力はこれでそろった。これからこのくそったれな世界に喧嘩を売るぞ。」

「ん!」

「言われなくても。」

「俺や真由美・・・・・・・・もといユーマの武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

「ん・・・・・・・・」

「そうだな。彼らにとってはオーバーテクノロジーもいいとこだ。」

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「ん・・・・・・・・」

「あぁ。」

「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

「ん・・・・・・・・」

「あのクソ神が喧嘩売ってくれるなら買うけどな。」

「世界を敵にまわすとかいうトチ狂ったヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「今更・・・・・・・・」

「それこそ今更だ。」

 

ユエとユーマの言葉に思わず苦笑いするハジメ。真っ直ぐ自分を見つめてくるユエのふわふわな髪を優しく撫でる。気持ちよさそうに目を細めるユエに、ハジメは一呼吸を置くと、キラキラと輝く紅眼を見つめ返し、望みと覚悟を言葉にして魂に刻み込む。

 

「俺がユエを、ユエが俺を守る。そしてユーマはそれを支え、俺たちがユーマを支える。勿論真由美もだ。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

ハジメの言葉を、ユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた。返事はいつもの通り、

 

「んっ!」

「あぁ!」

 

第一章 主人公side Fin

 




という訳でここまで読んでいただきありがとうございます。さて、主人公の状態について少しばかり説明を。現在オリ主は、主となる肉体である”真城真由美の肉体”を同化の技能によって全力で修理中のため同化の技能が使えない状態になっています。

そこで、本体のコピー品、つまるところ義体を作ることになったが、その義体の性能が大きく劣ることもあり、本体が持っている技能がコピーできないという状態となってしまった。そこで代案として出たのが、本来の真城真由美が持つはずだった技能を義体に移すことで

義体でも十分に使える技能として使わせる、というような感じです。つまるところハードがダメで高性能なソフトが入れられないからハードに見あうソフトいれたった、というのが今のオリ主の状態です。これは後々、設定を出すのでそちらを参照していただくといいかもしれません。

ということで次回は設定か、清水たちクラスメイトsideのお話のどっちかになると思いますのでどうかよろしくお願いしますではまた次回お会いしましょう。さようなら


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アナザーside 犠牲という影

 

 

 

はじめと真由美が奈落に落下した。それは確かに彼らに影を落とした。

                                 ■■■■■■■、■■■■■■■■■■■■■、■■■■■■■。~

 

 

 

三人称side

 

真由美とハジメが奈落に落ちてから数日が経った。肉体的にも精神的にも披露していた勇者一行は王国へと帰ってきていた。

 

勇者一行を護衛ないし指導していたメルド率いる騎士団には被害はなかった。だが、勇者一行には死者が出たのだ。それも二人。

 

その知らせはすぐさま王国中に知れ渡ることとなった。最初こそ、哀愁というかなんというか、死んだ人のことを悲しむ心はのこっていたのだろう。

 

しかし、それもすぐになくなった。貴族たちは、奈落に落ちた人物がハジメと真由美だと知ると手のひらを返すように二人を罵ったのである。

 

片や最弱の勇者、片や勇者のみでありながら神の意思に背き反逆せしめんとした異端者。そうなることは勇者パーティのメンツでもわかることだった。

 

当然二人は、弔われることもなかった。むしろ二人は、笑いものとして話のタネとなっていたのだ。最初こそ勇者パーティに在籍していたメンバーは反感を覚えた。

 

しかし、光輝が「これは仕方のないことだ。彼らはこうなるまでのことをしでかしたんだから」と要約できる長ったらしい言い訳のようなもので、大多数のクラスメイトを”落とした”。

 

クラスメイトを言葉という”毒”で少しづつ溶かしていく。それはまさに・・・・・・・・悪魔の所業である。カリスマを持つ者は総じてこういう悪循環へと行くケースが多い。こと、自身の中の正義は絶対と思っている輩は特に。

 

しかし、そんななか反発し続けているものがいた。言わずもがな清水達仮面ライダー組と香織、雫であった。真由美が作ったという亡はもとより、龍太郎までこっち側だとは清水も思っていなかったらしい。

 

理由を聞いたとき、龍太郎はこう答えたそうだ。曰く「戦える力をくれて、戦う勇気までくれたあいつらを悪く言われるのは癪に障る」ということらしい。そして彼らは日ごろの鬱憤を晴らすことを目的に

 

亡に言われて始めた戦闘訓練をすることにした。今日も今日とて戦闘訓練・・・・・・・・の皮をかぶった模擬戦をやるための準備に入る。いつも使っている闘技場のような場所に入り、入念に体をほぐす。

 

しばらく続けているからか、彼らの体は少しずつ柔らかくなっている。そして四人は、それぞれのベルトの目視での点検を始める。万が一に動かなかったという事態を防ぐためだ。

 

そして点検が終わると、清水が龍太郎に声をかけた。

 

「なぁ龍太郎?お前はあのバカのとこで練習しなくていいのか?アイツ、お前を探しておれんとこまで来たぞ。」

「いやぁ、そいつはすまねぇな。でもあいつんとこで練習する気はねぇな。いくらアイツが友人だからつっても限度がある。はっきり言ってあれは洗脳とかの類だ。反吐が出るぜ。あんな言葉巧みに丸め込むなんてよ。」

「それは僕も同感だね。あの感じ・・・・・・・・とても普通の人が抗えるとは思えない。もし、精神が不安定だったときの僕が、彼に”守ってやる”なんて言われたら簡単に落ちてた自身がある。」

「あの方は、ある種の洗脳術のようなものをお持ちなのですね。」

「あぁ、亡さんはああいう人種になんてかかわる必要ないよ?絶対人生壊される。」

「ご忠告感謝します、中村さん。」

「恵理でいいって。それより、今日も始めますか。」

「そうだな。俺もそろそろ龍太郎と決着付けたいんでな。」

「今回も俺が勝つぜ。ゼロワンをなめるな!なんてな。」

「じゃあ亡さん。僕たちも始めようか。」

「そうですね。では、本日も誠心誠意、戦わせていただきます。」

 

4人は自身のベルトを取り出す。

 

《ゼロワンドライバー》

《ショットライザー》

《フォースライザー》

 

そして、それぞれのプログライズキーを取り出す。

 

《ジャンプ!》

《バレット!》

《ダッシュ!》

《ジャパニーズウルフ!》

《オーソライズ!》

《オーソライズ!kamen rider.kamen rider.kamen rider.》

 

「「「「変身!」」」」

 

《プログライズ!》

《ショットライズ!》

《フォースライズ!》

《飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a rider kick.》

《シューティングウルフ!The Elevation Increases As The Bullet Is Fired.》

《ラッシングチーター!Try to outran this demon to get left in the dust.》

《ジャパニーズウルフ!・・・・・・・・BREAKDOWN!》

 

「さぁ、やろうぜ清水!」

「望むところだ龍太郎!」

「じゃあ、行きますよ!亡さん!」

「えぇ、いつでもどうぞ!」

 

今日も彼らの戦い(模擬戦)が始まる・・・・・・・・!


龍太郎と清水の戦いは佳境へと差し掛かっていた。龍太郎は喧嘩に似た戦い方をする。勿論殴ったり蹴ったりのことである。

 

対して清水は、銃撃を織り交ぜたカウンターヒッター的な戦い方をする。龍太郎が右ストレートを放つとそれを髪一重で避け、左の拳を龍太郎に叩き込む。

 

が、龍太郎はそれを予測していたとばかりに、右足で清水の胴体に蹴りを入れる。たがいに衝撃を殺し切れずに後ろに下がる。先ほどからこういう戦いが続いていた。

 

一方、恵理と亡の模擬戦も同様だった。恵理は、戦いの面で不足している知識を、その身に戦士の霊を取りつかせ、限定的に体の主導権を渡すことで、疑似的にその戦士と同等のレベルまで

 

戦闘力を高めめることができる。しかし、彼女の努力はそれ以上を行っている。彼女の使うプログライズキーでの戦闘は一撃離脱戦法を得意とする、対多数における戦闘に有利な特性がある。

 

そのため自身の動く速度を限界まで上げることで、インファイトと銃撃を瞬時に切り替えられるトリッキーな戦い方をマスターしていた。そのおかげか、今では戦士の霊を取りつかせなくても亡とある程度は渡り合えるほどの戦闘力を身につけたのだ。

 

しかし、それでも亡にはまだ一歩届かなかった。恵理がインファイトをしようと踏み込んだその瞬間、亡は恵理の軸足をそれとなく払う。勿論軸足のバランスが崩れれば体制は崩れる。その隙に亡はベルトのトリガー、フォースエグゼキューターを待機状態に戻し

 

再度、引く。それは亡の持つ必殺技の発動の合図だった。

 

《ゼツメツディストピア!》

 

恵理の胴に蹴りを一発いれる。恵理はエネルギーをじかにぶつけられ大きく後方に吹き飛ばされ、爆発した。爆円から出て来た彼女はダメージの許容オーバーで変身が解けた。

 

「あー、また負けた。僕ってやっぱり弱いのかな?」

 

恵理がダメージをあまり気にしていないように立ち上がる。そして腕を軽く回し、動くかどうか確かめていた。どう考えても一般人の持っていい強度ではない。

 

そしてそれは男同士の戦いでも似たような展開となってきている。殴る蹴るといった喧嘩殺法の様なものでも一撃で何tをたたき出す彼らの拳や足がぶつかり合うのだ。

 

どちらも確かにダメージが蓄積している。そろそろ勝負を決めないとまずい段階に入っているのだ。二人は切り札を切ることにした。

 

「これで決めるぞ龍太郎!」

「あぁ、来やがれ、清水!」

 

《バレット!》

 

清水はプログライズキーのスイッチを押し、待機状態にする。龍太郎もプログライズキーをベルトに再び押し込む。

 

《バレットシューティングブラスト!フィーバー!》

《ライジングインパクト!》

 

2人は同時に飛び上がり、片足を前に突き出し、蹴りの姿勢に入る。

 

「はぁぁぁぁぁぁ!」

「うぉりゃぁぁぁ!」

 

2人の足はそのまま接触、大爆発を起こす。その爆炎の中から2人ははじき出されるように飛び出し、地面に転がるとダメージが許容範囲を超えたのか変身が解除される。

 

その光景を、すでに訓練を終え変身を解除し、二人の戦いを見ていた恵理と亡は見ていた。

 

「あー、また今日も引き分けだねあの二人。」

「しかし、二人の動きは日に日によくなっています。勿論、中む・・・・・・・・恵理さんもですが。」

「よろしい!でも、そっか・・・・・・・・、あの日よりは強くなってるんだ。僕は。」

 

恵理は亡が中村さんと呼びそうになるとむくれ顔をし、亡はそれを見ると失言とばかりに、言いなおした。

 

すると恵理は、哀愁漂う顔で天井を見上げた。彼女は、真由美が落ちてからというもの、ずっと後悔したような顔をしている。これでもまだましになった方なのだ。

 

ひどいときは、自責の念に堪えられなくなったのか、ショットライザーを自身に向けて自殺しかけたこともある。その時は清水がショットライザーを弾き飛ばすことで事なきを得たのだが

 

それでも彼女の心の傷が癒えることはない。それは、彼女にとって真由美がどれだけ大きな存在だったかを示している。しばらくするとダメージから回復した男二人が起き上がった。

 

「あー、今日も引き分けかー・・・・・・・・俺はいつになったらお前に勝てるんだよぉ。」

「俺も同じだよ清水。いつまでたってもお前を越えられる気がしねぇ。それに、”別なキー”もまだ”解除”されねぇしなぁー俺たちはまだ努力と経験が足りねぇってことだろうぜ。」

 

清水は悔しそうな声で。龍太郎は、自身の不甲斐なさに呆れたのか、少し不機嫌そうな声でつぶやいた。彼が言った別のキーが解除されないというのは、強化するためのキーのこと

 

つまるところゼロワンで言えば、シャイニングやメタルクラスタなどが該当する。バルカンで言えばアサルトバレットやランペイジバレットなどである。

 

(ちなみにバルキリーのライトニングホーネットとバルカンのパンチングコングに関しては解放されてはいるが本人は意図的に使っていない。)

 

これは、真由美がキーにつけた新たな制約のせいである。経験値と実力が一定値に達さないとキーが解除されないのだ。キーが解除された場合、変身中ならば頭部のHUDに表示され

 

それ以外の場合、亡から知らせが行くようになっている。

 

「・・・・・・・・なぁ、龍太郎?」

「なんだ?清水。」

「俺たちは・・・・・・・・本当に彼女の・・・・・・・・彼女たちのように強い人間になれるのか?」

「清水、お前・・・・・・・・」

「俺は不安だ・・・・・・・・この力を手に入れたのに、誰のことも守れやしない。そんな自分になるのがどうしようもなく不安なんだよ・・・・・・・・」

「俺だってそうさ、清水。でも、俺たちはもう後戻りはできない。檜山をクソに生まれ変わらせたときから俺たちは、もう後戻りなんて許されねぇ。だったら、前に進もうぜ。

どうしようもなく不安でもさ、お俺たちにこの力を託してくれたアイツらのために、さ。それに、また会うんだろ?あいつらに。」

「・・・・・・・・あぁ、彼女たちがそう簡単にくたばるわけがねぇ。だって彼女たちは、あの光輝すら凌駕する、最強のふたりだぜ?」

「ハハッ、違いねぇ。違いねぇな!」

「ちょっとー?僕抜きで勝手にあの二人のことはなさいないでくれるー?心外だぞー!」

「おっといけね。さぁ、もう一度やろうぜ!」

「あぁ!もう一度!」

 

~真由美とハジメが奈落に落ちた。それは確かに彼らに影を落とした。

                             しかしそれでもまだ、立ち上がろうとする者たちは、確かに存在した。~




最初の四角は最後の文章の隠された部分だったというオチでした。初めての試みでしたがどうでしたでしょうか?次回からはライセン大迷宮編が始まります。ハウリア族はそのままですが、武器の方に強化が入る予定です。そしてミレディに真由美は何を思うのか・・・・・・・・
それは次回をお楽しみにということで・・・・・・・・さて、話は変わりまずが、光輝君どうするアンケートはこの章で終了です。光輝君に対しての反応はすさまじいですねなんて少し思っていたり・・・・・・・・まぁとにかく次回より第二章ライセン大迷宮編です。これからもどうかこの作品をよろしくお願いします。
ではまた次回お会いいたしましょう。さようなら!


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第二章 ライセン大迷宮編
第十二話 ハウリア族の残念ウサギ


『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までのあらすじ。一つ、精神世界で悠馬は本来の体の持ち主の人格である真城真由美と会い真実を聞く。二つ、悠馬は動けない真由美の体から技能を使って分離した。そして三つ、悠馬はユーマと名乗り、自身のアーマーを作りハジメをサポートすることにする。
自信の真実を明らかにせずに・・・・・・・・


 

三人称side

魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気にハジメの頬が緩む。

 

やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは・・・・・・・・洞窟だった。

 

「なんでやねん。」

 

魔法陣の向こうは地上だと無条件に信じていたハジメは、代わり映えしない光景に思わず半眼になってツッコミを入れてしまった。正直、めちゃくちゃガッカリだった。

 

「なんで突っ込んだか何となく察しつくから敢えて言うけど、隠し通路ってのは隠してなんぼなんだぞ?」

「・・・・・・・・ん。当然こうする。」

 

ハジメのツッコミに即座に反応したのは、紫がかった黒髪の美女?のユーマである。しかし、彼女の作ったアーマー”ホワイト・グリント”はどこにもない。彼女はいま紫色のドレスを身にまとった生身なのである。

 

そしてそんな彼女に相打ちを撃ったのが我らが金髪吸血姫ことユエである。

 

「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」

 

そんな簡単なことにも頭が回らないとは、どうやら自分は相当浮かれていたらしいと恥じるハジメ。頭をカリカリと掻きながら気を取り直す。緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが

 

ハジメもユーマもユエも暗闇を問題としないので道なりに進むことにした。

 

途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。二人は、一応警戒していたのだが、拍子抜けするほど何事もなく洞窟内を進み、遂に光を見つけた。

 

外の光だ。ハジメはこの数ヶ月、ユエに至っては三百年間、求めてやまなかった光。

 

ハジメとユエは、それを見つけた瞬間、思わず立ち止まりお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。その後ろをあきれ顔を浮かべ、それをすぐ笑顔に変えてユーマがついて行く。

 

近づくにつれ徐々に大きくなる光。外から風も吹き込んでくる。奈落のような澱んだ空気ではない。ずっと清涼で新鮮な風だ。ハジメは、〝空気が旨い〟という感覚を、この時ほど実感したことはなかった。

 

そして、ハジメとユエは同時に光に飛び込み・・・・・・・・待望の地上へ出た。

 

地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、

 

幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

【ライセン大峡谷】と。

 

ハジメ達は、そのライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々さんさんと暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 

たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていたハジメとユエの表情が次第に笑みを作る。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

「・・・・・・・・戻って来たんだな・・・・・・・・」

「・・・・・・・・んっ」

「・・・・・・・・でも油断するn」

 

二人は、ようやく実感が湧いたのか、太陽から視線を逸らすとお互い見つめ合い、そして思いっきり抱きしめ合った。

 

「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」

「んっーー!!」

「おーいあんまり騒ぐな・・・・・・・・って、聞こえてないし・・・・・・・・」

 

小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

ようやく二人の笑いが収まった頃には、すっかり……魔物に囲まれていた。

 

「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。・・・・・・・・確かここって魔法使えないんだっけ?」

 

ドンナー・シュラークを抜きながらハジメが首を傾げる。座学に励んでいたハジメには、ここがライセン大峡谷であり魔法が使えない場所であると理解していた。

 

「・・・・・・・・分解される。でも力づくでいく」

 

ライセン大峡谷で魔法が使えない理由は、発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまうからである。もちろん、ユエの魔法も例外ではない。しかし

 

ユエはかつての吸血姫であり、内包魔力は相当なものであるうえ、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している。勿論、ユーマのルーン魔術(偽)によってさらに最適化済みだ。

 

つまり、ユエ曰く、分解される前に大威力を持って殲滅すればよいということらしい。

 

「力づくって・・・・・・・・効率は?」

「・・・・・・・・本来なら、十倍くらい。でも、ユーマのおかげで、多分2倍・・・・・・・・」

「ふふん。どうよ俺のルーン魔術!・・・・・・・・って、おーい?ハジメさんやーい。」

 

どうやら、本来は初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。しかし、ユーマのおかげで初級魔法に使用する魔力は二発分で済むらしい。

 

ユーマの使うルーン魔術の技能が割とチートなことを改めて実感するハジメだった。しかし、それでも必要な魔力量が跳ね上がってるのは確かなわけで・・・・・・・・

 

「あ~、じゃあ俺がやるからユエは身を守る程度にしとけ」

「うっ・・・・・・・・でも」

「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ」

「ん・・・・・・・・わかった」

「スルーデスカ、ソウデスカ」

 

ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。

 

そんなユエの様子に苦笑いしながらハジメはおもむろにドンナーを発砲した。相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の一体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。

 

あまりに自然すぎて攻撃をされると気がつけなかったようで、取り囲んでいた魔物の一体が何の抵抗もできずに、その頭部を爆散させ死に至った。

 

辺りに銃声の余韻だけが残り、魔物達は何が起こったのかわからないというように凍り付いている。確かに、二倍近い魔力を使えば、ここでも〝纏雷〟は使えるようだ。問題なくレールガンは発射できた。

 

未だ凍りつく魔物達に、ハジメは不敵な笑みを浮かべる。

 

「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」

 

スっとガン=カタの構えをとり、ハジメの眼に殺意が宿る。その眼を見た周囲の魔物達は気がつけば一歩後退っていた。しかも、そのことに気がついてすらいない。本能で感じたのだろう。自分達が敵対してはいけない化物を相手にしてしまったことを。

 

常人なら其処にいるだけで意識を失いそうな壮絶なプレッシャーが辺り一帯を覆う中、遂に魔物の一体が緊張感に耐え切れず咆哮を上げながら飛び出した。

 

「ガァアアアア!!」

 

ハジメは引き金を引こうとして・・・・・・・・凍り付いた。

 

「えっ?」

 

突然魔物が爆散したのだ。そして、魔物がいた場所には、後ろにいて存在感が全くなかったユーマが立っていた。

 

「ふむ・・・・・・・・”四奏流”はこの体でも使えるのね。・・・・・・・・ハジメに散々スルーされ続けたせいでアーマーも使えないし、こんなんだったらハジメの宝物庫になんて入れてもらうんじゃなかったわ。さて、我流の拳法”四奏流”、お前ら実験に少し付き合え」

 

そう、彼女の作ったアーマーは持ち運びが面倒という理由でハジメの宝物庫に入れてあるのだ。散々スルーされ続けたせいで取り出せなくて困っていたのだ。そこで彼女は自分の持つ手札を一枚切ったのだ。

 

自信に備わっていた鍛錬すればするほど無限に成長できるという規格外の特典で身に着けた武術のすべてを自身の使える形にアレンジしなおしたオリジナル、つまるところ我流。

 

「わが四奏流は一撃にして四撃、技をもって力を制し、技をもって速さを越える・・・・・・・・ってね!」

 

ユーマが脱力し、体を傾けたと思ったら、すでにユーマは魔物の目の前に立っていた。そして立っていたと認識した直後には、その魔物は”内部から”はじけた。

 

そしてはじけたと認識した直後にはほかの魔物がまた弾ける。その光景はハジメをもってして異常と言わしめるほどだった。ほとんど何も見えない。見えるのは”結果”だけ。

 

ユーマが敵を屠ったという結果だけ。そこから先は、もはや戦いではなく蹂躙。魔物達は、ただの一匹すら逃げることも叶わず、まるでそうあることが当然の如く体内から吹き飛ばされ骸を晒す間もなく消える。辺り一面が魔物の血で埋め尽くされるのに五分もかからなかった。

 

「お前・・・・・・・・何をしたんだ?」

「何をって・・・・・・・・見えなかったのか?ただ相手に近づいて、内功を破壊して爆散させただけ。要は近づいて殴っただけだよ。」

「お前・・・・・・・・筋力なかったはずだろ?何でそんなことできるんだよ・・・・・・・・」

「氣って言うのは人間の体内にあるぎりぎりの均衡を保っている精神的エネルギーだと俺は思ってる。これはあくまでおれの手ごたえからの推測だけどな?俺はそのエネルギーの均衡を崩してるだけさ。後は勝手にエネルギーが暴走してはじけ飛ぶ。」

「・・・・・・・・いやわかんねぇよ。それにお前、敏捷もそれほど高くないだろ、なんだよあの動き。見えなかったぞ。」

「うーん・・・・・・・・あれは説明できるか怪しいんだけど・・・・・・・・俺の使ってる武術というか拳法というかは、我流なんだ。四奏流って言ってな、こいつは本当に簡単に言ってしまえば”一手で四手”が重要になってくるんだ。」

「一手で四手?」

「例で言えばさっきお前が行ってきた動き、あれで例えるなら一歩で四歩動けるってことさ。後はあれを縮地・・・・・・・・技能の方じゃないぞ?武術の方で、やってやれば高速で動くことができるって寸法さ。でもこれはたかが基礎さ。真髄はこんなものじゃない。」

 

ハジメは絶句した。先ほどの絶技をたかがと言い切る彼女の技量が怖くなったからなのか、少し右腕が震えている。ユエも顔を少し青ざめさせている。『もしかしたら俺の弾丸でも彼女を殺すことは不可能なのでは?』ハジメにそう思わせることは容易だった。

 

「それにしてもやっぱ手応えないなぁ。魔物が弱いのか?」

「・・・・・・・・ユーマが規格外すぎるだけ。」

「oh・・・・・・・・なかなか容赦のない言われようだなぁ。ま、そんなことは置いておいて、これからどうする?ハジメ」

「そうだな・・・・・・・・そうだ、ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」

「・・・・・・・・なぜ、樹海側?」

「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」

「・・・・・・・・確かに」

「それもそうだな。」

 

ハジメの提案に、ユエもユーマも頷いた。魔物の弱さから考えても、この峡谷自体が迷宮というわけではなさそうだ。ならば、別に迷宮への入口が存在する可能性はある。

 

ハジメの〝空力〟やユエの風系魔法、真由美の本体が持っている〝飛行〟を使えば、絶壁を超えることは可能だろうが、どちらにしろライセン大峡谷は探索の必要があったので、特に反対する理由もない。

 

ハジメは、右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

 

地球のガソリンタイプと違って燃焼を利用しているわけではなく、魔力の直接操作によって直接車輪関係の機構を動かしているので、駆動音は電気自動車のように静かである。

 

ハジメとしてはエンジン音がある方がロマンがあると思ったのだが、エンジン構造などごく単純な仕組みしか知らないので再現できなかった。ちなみに速度調整は魔力量次第である。

 

まぁ、ただでさえ、ライセン大峡谷では魔力効率が最悪に悪いので、あまり長時間は使えないだろうが。

 

「俺のも出してくれ。ついでにそのバイクの燃費もいじっておくなー。」

「あぁ、頼む。」

 

ハジメは再び宝物庫に魔力を流し、ユーマのアーマーを取り出す。正直これを出す意味はないと思うのだが、彼女が欲しいというなら聞かないという選択肢はない。

 

その間にユーマはハジメの魔導駆動二輪にルーン魔術を施していた。ユーマはその作業をしつつハジメに聞いた。

 

「そう言えば私の本体ってどこにあるの?」

「四輪の方の荷台のスペースに横たわらせてる。そんな扱いで申し訳ないが、恐らくそこが一番安全だ。」

「まぁなんでもいいさ。それに、あの空間にいると何か回復にブーストかかるっぽいんだよねぇ。まぁ微々たるもんだけと。」

 

そんなことを言いつつ、ユーマは作業を終わらせ、アーマーの方に向かう。そして、ルーン魔術で服を某新世紀のぴっちりスーツを思わせる紫色のスーツに変えた。

 

アーマーに近づく。すると、アーマーの背面が開き完全なオープン状態になった。ユーマはその中に入り、背面が閉まる。右腕が動き、指をおおうマニピュレータが動き可動域を確認していく。

 

一通りの確認が終了したのか、背部にマウントされたウェポンラックからライフルを取り出す。

 

『準備完了。いつでも行ける。』

 

機体に搭載されているのだろうか?スピーカーを通したような声でユーマの声が聞こえる。

 

「OK、んじゃ行こうか。ユエ。」

「んっ」

 

ハジメもユエも、迷う心配が無いので、迷宮への入口らしき場所がないか注意しつつ、軽快に魔力駆動二輪を走らせていく。車体底部の錬成機構が谷底の悪路を整地しながら進むので実に快適だ。

 

ユーマの方もとんでもない速さで飛行しているため、基本ハジメたちを見失うことはない。むしろハジメたちが見失うほどである。

 

しばらく魔力駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。中々の威圧である。少なくとも今まで相対した谷底の魔物とは一線を画すようだ。もう三十秒もしない内に会敵するだろう。

 

魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 

ハジメは魔力駆動二輪を止めて胡乱うろんな眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。

 

「・・・・・・・・何だあれ?」

「・・・・・・・・兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」

「・・・・・・・・聞いたことない」

「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」

「・・・・・・・・悪ウサギ?」

 

ハジメとユエは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるという発想はないらしい。別に、ライセン大峡谷が処刑方法の一つとして使用されていることから

 

ウサミミ少女が犯罪者であることを考慮したわけではない。赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がなかっただけである。

 

相変わらずの変心ぶり、鬼畜ぶりだった。ユエの時とは訳が違う。ウサミミ少女にシンパシーなど感じていないし、メリットが見当たらない以上ハジメの心には届かない。助けを求める声に毎度反応などしていたらキリがないのである。

 

ハジメは既に、この世界自体見捨てているのだから今更だ。

 

しかし、そんな呑気なハジメとユエをウサミミ少女の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のままハジメ達を凝視している。

 

そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。・・・・・・・・ハジメ達の方へ。

 

それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届く。

 

「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そのすぐ後ろには双頭ティラノが迫っていて今にもウサミミ少女に食らいつこうとしていた。このままでは、ハジメ達の下にたどり着く前にウサミミ少女は喰われてしまうだろう。

 

流石に、ここまで直接助けを求められたらハジメも・・・・・・・・

 

「うわ、モンスタートレインだよ。勘弁しろよな」

「・・・・・・・・迷惑」

 

やはり助ける気はないらしい。必死の叫びにもまるで動じていなかった。むしろ、物凄く迷惑そうだった。ハジメ達を必死の形相で見つめてくるウサミミ少女から視線を逸らすと、

 

ハジメに助ける気がないことを悟ったのか、少女の目から、ぶわっと更に涙が溢れ出した。一体どこから出ているのかと目を見張るほどの泣きっぷりだ。

 

「まっでぇ~、みすでないでぐだざ~い! おねがいですぅ~!!」

 

ウサミミ少女が更に声を張り上げる。それでもハジメたちは速度を緩めない。目の前にティラノがいるのにもかかわらずである。理由は一つ、だってここにいるのは何もハジメとユエだけではない。

 

〝ダダダダダッ〟

 

ハジメたちのいるはるか上空から、何かを連射する音が聞こえ、その数秒後、ティラノの体が穴だらけになる。ハジメは片手をハンドルから放し、掲げるように腕を上げ、サムズアップする。

 

先ほどの攻撃は言わずもがな。ユーマの駆る戦闘用アーマー『ホワイト・グリント』の武装によるものだ。ハジメの武装よりはるかに大きいそれは、もはや魔力を使わずともレールガン兵器を運用できるレベルに至っていた。

 

ハジメはバイクの歩みを止める。無論、ティラノの残骸を回収するためだ。魔物の肉からは技能が手に入る可能性があり、それは自身よりレベルが高ければ高いほど確率があるのだ。そしてレベルも上がる可能性もある。

 

ハジメとしては回収しないわけにはいかないのだ。その後ろにユーマの駆るアーマーも着陸した・・・・・・・・うさ耳少女を巻き込んで。彼女のアーマーはそれはそれはおかしいほどの重量をしている。軽くtは入っているだろう。

 

それが思い切りブーストを吹かして減速するのだ。辺りには相当な衝撃波が飛ぶ。そしてウサギは、それで吹き飛ばされてきた。”ハジメの方に”。

 

「きゃぁああああー! た、助けてくださ~い!」

 

眼下のハジメに向かって手を伸ばすウサミミ少女。その格好はボロボロで女の子としては見えてはいけない場所が盛大に見えてしまっている。たとえ酷い泣き顔でも男なら迷いなく受け止める場面だ。

 

「アホか、図々しい」

 

しかし、そこはハジメクオリティー。自身の足元にあった石を蹴ってうさ耳少女の顔面に当て軌道を変えたのだ。

 

「ぐへっ!?」

 

ウサミミ少女は驚愕の悲鳴を上げながらハジメの眼前の地面にベシャと音を立てながら落ちた。両手両足を広げうつ伏せのままピクピクと痙攣している。気は失っていないが痛みを堪えて動けないようだ。

 

「・・・・・・・・面白い」

 

ユエがハジメの肩越しにウサミミ少女の醜態を見て、さらりと酷い感想を述べる。

 

『おいおい、さすがに石当てて地面とキスさせるのはダメじゃねーか?』

「いやなんでだよ。汚ねぇだろ。」

『お前はもう少し考えたほうがいいぞ?いくら最強だっつったって、面倒ごとはごめんだろ?巻き込まれないのにこしたことはない』

「だとしても今の行為は最適解だ。さて、魔物も回収したし、行くぞ。」

 

しかしそれはかなわなかった。ハジメのコートの裾をギュッと掴み、絶対に離しません! としがみつくウサミミ少女を心底ウザったそうに睨むハジメ。後ろの席に座るユエが、離せというように足先で小突いている。

 

「おい放せよ。」

「い、いやです! 今、離したら見捨てるつもりですよね!」

「当たり前だろう? なぜ、見ず知らずのウザウサギを助けなきゃならないんだ」

「そ、即答!? 何が当たり前ですか! あなたにも善意の心はありますでしょう! いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!」

「そんなもん奈落の底に置いてきたわ。つぅか自分で美少女言うなよ」

「な、なら助けてくれたら・・・・・・・・そ、その貴方のお願いを、な、何でも一つ聞きますよ?」

 

頬を染めて上目遣いで迫るウサミミ少女。あざとい、実にあざとい仕草だ。涙とか鼻水とかで汚れてなければ、さぞ魅力的だっただろう。実際に、近くで見れば汚れてはいるものの自分で美少女と言うだけあって

 

かなり整った容姿をしているようだ。白髪碧眼の美少女である。並みの男なら、例え汚れていても堕ちたかもしれない。

 

だが、目の前にいる男は普通ではなかった。

 

「いらねぇよ。ていうか汚い顔近づけるな、汚れるだろが」

 

どこまでも行く鬼畜道。

 

『はぁ・・・・・・・・。駄目だこりゃ・・・・・・・・。ん?この反応は・・・・・・・・なぁそこのウサミミ少女』

「は、はい?というかどこから声が?」

『あんたの目の前だ目の前。白い鎧があるだろうが。』

「えぇ!?この白い石像みたいなやつですか?」

『そうだ。まぁその話は置いておいて、あんた。ハウリアだろ?しかも、相当な厄介ネタに見舞われてる。』

「はっ!そうでした!どうか私の家族を助けてください!」

「いや助けねぇから。なにユーマも普通におっけ―みたいな雰囲気醸し出しちゃってんの?」

『だってお前、こいつは”ハウリア”だぞ?樹海の案内人に適してるだろ。それにここで恩を売っておけば無償で案内人が手に入る。向こうは助かる。winwinだろ?』

「はぁ・・・・・・・・仕方ねぇな。話だけでも聞こうじゃねぇか。」

 

こうしてうさ耳少女の頼みを聞くことになった一行。この先どうなることやら・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。次回はハウリアの救出から始まります。そして、やっと我流拳法、四奏流を出すことができました。体のスペック関係ないわけではないけど鍛えればそれなりにっていう感じです。

・・・・・・・・まぁ実際のところルーン魔術で体にバフかけてただけなんですけどねwさて、話は変わって第二小でもアンケートを実施したいと思います。まぁ光輝君についてなんですが・・・・・・・・

作者の考えではいったん殺してからいろいろと利用されるor新しい光輝を作るかのどっちかで迷っています。なので今回は、死んで利用されるか、新しく生き返らせるかについてアンケートを実施したいと思います。

期限は第二章が終わるまで。奮ってご参加ください。あと、感想や意見などは引き続き受け付けておりますので、出来れば書いていただけると嬉しいです。ではまた次回お会いいたしましょう。さようなら!


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第十三話 ハウリアという亜人族

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る 前回までの三つの出来事。一つ、ハジメたちは地上へと戻った。二つ、ユーマは我流武術、四奏流を使った。そして三つ、ハジメたちはハウリアと名乗る少女と出会った





三人称side

 

「どうか私の家族を助けて下さい!」

 

峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から相当強くユエに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。

 

ユーマはすでにアーマーを脱いでいる。それはもうあまりに必死に懇願するので、ハジメは仕方なく・・・・・・・・〝纏雷〟をしてやった。

 

「アババババババババババアバババ!?」

 

電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、しばらく動けなくなるくらいの威力はある。シアのウサミミがピンッと立ちウサ毛がゾワッと逆だっている。〝纏雷〟を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。

 

「全く、話を聞けば支離滅裂、で、あまつさえ家族を助けろとか・・・・・・・・非常識なウザウサギだ。ユエ、ユーマ、行くぞ?」

「ん・・・・・・・・」

「えぇ・・・(困惑)ここで見捨てるのさすがにかわいそうじゃね?それにこれからのシーンをお前らが見たら多分やばいと思うぞ。」

「知るか。ほら早くアーマーを着ろよ。行くぞ。」

 

ハジメは何事もなかったように再びバイクに魔力を注ぎ込み発進させようとした。

 

しかし・・・・・・・・

 

「に、にがじませんよ~」

 

ゾンビの如く起き上がりハジメの脚にしがみつくシア。流石に驚愕したハジメは思わず魔力注入を止めてしまう。

 

「ほらな?」

「「えぇ・・・(困惑)」」

「それで、えぇっと・・・・・・・・シア・ハウリアさん?でいいんだっけ?」

「えっ?あ、は、はい!私がシアです!」

「OK。じゃあ細かい話はあとにして、だ。この先にいるのはシアさんのいる亜人族ってことでいいのかな?」

「はい・・・・・・・・魔物に襲われて、ここに・・・・・・・・」

「よし、言質はとった。ハジメ、シアさんを頼む。」

「はぁ!?何でおれがこのウサギを保護しねぇといけねんだ!」

「今死なれると困るからだ。私は先に行く。来るかどうかはハジメの裁量で構わない。」

 

そう言うとユーマはアーマーを着装し、ブーストを吹かして一気に峡谷出口まで飛んでいく。

 

「おい!・・・・・・・・はぁ、行っちまいやがった。」

「ハジメ、どうする?」

「・・・・・・・・アイツの言ったことは理にかなってる。どうせ樹海に行くには亜人族の案内は必須だ。ここで恩を売っておくべきだろ?」

 

ハジメは鉱石を宝物庫から取り出し、何やら作っていく。そうして出来上がったのは、バイクにつけるシート・・・・・・・・つまるところサイドカーである。

 

ハジメはそれを二輪に錬成でくっつける。

 

「ほら、乗れよウザウサギ。お前の家族を助けられるチャンスだぞ。」

「・・・・・・・・はいっ!」

 

ハジメはユエを後ろに、シアをサイドカーに乗せて二輪を走らせる。その間、ハジメはシアから事情を聴く。

 

シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく

 

突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており

 

エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。

 

しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。

 

国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。

 

また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。

 

全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし

 

ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。

 

しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。

 

そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い・・・・・・・・

 

「今では六十人ほどいた家族も僅かしか残っていません。このままでは全滅です・・・・・・・・どうか、どうか!我々を助けてはくれませんか!」

 

ハジメはそれを聞いて少し考える。確かに彼女たちの境遇は同情こそすれ忌み嫌うものではない。それにユーマが言った通り、メリットもある。しかしハジメはそれでもユーマがいなければ・・・・・・・・真由美がいなければ『否』と答えていただろう。

 

ただでさえ勇者のお勤めかなぐり捨てて地球に変える手段を見つけなきゃならないのだ。時間がないときにこんな些細なことに割いている余裕はない。だが、真由美という戦力的にとても助かるやつがいるのだ。・・・・・・・・まぁ今はユーマが変わりだが。

 

少しは余裕がある。ならば同情を優先しても怒られないだろう。ハジメはユエの方を見る。ユエもどうやら同じ気持ちらしい。元よりハジメたちは、ユーマが・・・・・・・・真由美が決めたなら断る道理はないのだ。

 

「まぁ、今回はお前たちの境遇に免じて・・・・・・・・アイツのお人よしに免じて引き受けてやるよ。元よりそのためにお前を乗せたんだがな」

「っ!ありがとうございます!」

「そのあとはお前たち次第だ。まぁ、頑張るんだな。」

 

シアはその目に少しだけ涙を浮かべていた。それを見てユエはハジメに・・・・・・・・地雷をぶつけた。

 

「・・・・・・・・やっぱり大きいほうが好きなの?」

「ぶふぉ!?ゆ、ユエさん?あなたはいきなりなにをおっしゃってるのでせう?」

「・・・・・・・・ハジメ、大きいほうが好きなの?真由美もそう、ユエより大きいし、ハジメも好意、持ってる。」

「それはな?あくまでもこうなる前の価値観であって今は違う・・・・・・・・からな?」

 

何とも言えない空気が漂う。するとハジメの前方で爆音が響いた。

 

「ひゃぅ!?なななんですかこの音!」

「・・・・・・・・ユーマのやつ、おっぱじめやがったな。」

「んっ。大盤振る舞い。」

「えぇっと・・・・・・・・それはいったいどういう・・・・・・・・?」

「ウザウサギ。しっかり捕まって一言もしゃべるなよ?舌噛んでも知らねぇからな?」

「うぇ!?いったい何がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

ウザウサギことシアの回答を聞く前に、ハジメはバイクを加速させた。

 

____________________

 

ユーマは純白のアーマー、ホワイト・グリントを駆り、魔物の反応がする方まで急いでとんでいた。無論ハウリア族を救出するためだ。ユーマは背部のウェポンラックからライフルを二丁、取り出す。

 

が、その武器が使われることはなかった。現場についてみると、魔物の数が予想よりもはるかに多いのだ。その数・・・・・・・・およそ12。

 

(原作だとこんなに多くはないはず・・・・・・・・やっぱ私の存在が影響与えて正史とずれ始めているのか?・・・・・・・・とにかく今は殲滅するのが先だ。数が多いならこれだ!)

 

突然ホワイト・グリントの両肩部の表面が開き、中から白い筒のようなものが見えた。それは勢いよく発射されると白い尾を引きながら魔物の方へと飛んでいき、分裂した。そしてその分裂した何かは

 

ハジメの手榴弾を彷彿とさせるような爆発を引き起こし、魔物を地面に追い落とした。それはすでに、原形をとどめてはいなかった。

 

「ふぅ・・・・・・・・いっちょ上がりっと」

 

彼女が着る白いアーマーの眼前には、肉塊が大量に転がっていた。その先には、シアと名乗ったあのウサミミ少女と似たような人型が身を寄せ合っていた。

 

ハウリア族である。彼女はハウリア族を襲おうとしている魔物を肩部にひそかに装備していた小型の多弾頭ミサイルで肉塊へと変えたのだ。

 

ん?ホワイト・グリントにそんな装備はないだろ!って?この作品にそんなことを求めちゃいかんよ。既にシリアスのような何かとギャグのような何かを混ぜて煮込んでできたくそみたいな作品だからね

 

気にしちゃいけないよ。・・・・・・・・まぁとにかく、そんなこんなでハウリア族を襲おうとしていた魔物を一網打尽にしたユーマは、ハウリア族のもとへと降りた。

 

『大丈夫ですか?』

 

ユーマはそう声をかける。しかしハウリアは首を縦に振るだけで一言も声を発しない。怖がっているのだ。

 

(そりゃそうだよね。こんなものがいきなり声かけてきたら誰だっておびえる。私もそうだ。)

 

ユーマはアーマーの後部を解放する。そして本来の姿をハウリア族に見せた。ハウリアは全員驚いていた。

 

「・・・・・・・・驚きました。まさか人間だったとは。失礼な態度を取ってしまい誠に申し訳ありませんでした。」

 

「よく誤解されますから別にかまいませんよ、こんなものを使ってるとね。これがないと私はただの魔力が高い非力な女でしかありませんから、こんな大掛かりなものが必要になっちゃうんですよね。」

 

ユーマはホワイト・グリントの装甲を軽くたたく。本当はそんなことを言われた例はないのだが、会話をする上の言葉のあやとしてユーマはそう言った。

 

「ですが、しっかりと戦えているように見えました。戦いの心得はあるんですね。」

 

「まぁこう見えても武術の類は嗜んでまして。・・・・・・・・それで、あなたのお名前は?」

 

「これは失礼。私はカム。ハウリア族の族長をしております。」

 

「そうか、あなたが・・・・・・・・安心してください。シアさんは無事ですよ。」

 

「っ!そうですか・・・・・・・・それは、良かった。」

 

カムは心底安心したようにつぶやく。他の人もみんなそれぞれ歓喜したりしている。すると、何かが走っているような爆音が響いてきた。ユーマはにやりと笑う

 

「噂をすれななんとやら・・・・・・・・あなた方のお連れ様が来ましたよ。」

 

カムたちはハッとする。そしてその直後、彼らの耳には聞こえた。あの女の子の、家族の声が。

 

「父上―!皆―!」

 

こうしてカムたちは、シアと再会することがかなったのだ。

 

_________________________

 

ハジメたちと合流したユーマは、ここまでの事情を話した。そして、ユーマたちが樹海に行きたいということも話した。そしてその水先案内人をっ止めてほしいとお願いした。

 

カムは少し唸った後、二つ返事でOKをくれた。どうやら助けたことは正解だったようだ。そして、ハジメたちの方もシアからの話で少し有益なものがあったそうだ。

 

シアには未来視というものがあるらしい。それを使うと、リチャージがものすごく長いが、少し先の未来が見えるというもの。それを使ってシアはハジメたちを見つけたようだ。

 

これがもし精度よくリチャージが短く使えるのだとしたら、それは戦闘で大いに役に立つ。先を見れるということは初見殺しが効かなくなるということなのだ。

 

何が起こるか分からない戦いにおいてこれほど有利な能力はない。ハジメたちはどうにかその技能が手に入らないか試しているようだ。そううまくはいかないと思うが。

 

そんなこんなでハウリア族を連れたハジメ一行は出口の方へと向かっていた。目的地は樹海である。ウサミミ四十二人をぞろぞろ引き連れて峡谷を行く。ユーマは上空から警戒している。

 

万一にもあり得ないと思うがハジメが危なくなったときや仕留めそこなった魔物を潰す係だ。まぁそんな大所帯で移動しているのだから

 

当然、数多の魔物が絶好の獲物だとこぞって襲ってくるのだが、ただの一匹もそれが成功したものはいなかった。例外なく、兎人族に触れることすら叶わず、接近した時点で閃光が飛び頭部を粉砕されるからである。

 

乾いた破裂音と共に閃光が走り、気がつけばライセン大峡谷の凶悪な魔物が為すすべなく絶命していく光景に、兎人族達は唖然として、次いで、それを成し遂げている人物であるハジメに対して畏敬の念を向けていた。

 

もっとも、小さな子供達は総じて、そのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るうハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。

 

「ふふふ、ハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

 

子供に純粋な眼差しを向けられて若干居心地が悪そうなハジメに、シアが実にウザイ表情で「うりうり~」とちょっかいを掛ける。

 

額に青筋を浮かべたハジメは、取り敢えず無言で発砲した。

 

ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

「あわわわわわわわっ!?」

 

ゴム弾が足元を連続して通過し、奇怪なタップダンスのようにワタワタと回避するシア。道中何度も見られた光景に、シアの父カムは苦笑いを、ユエは呆れを乗せた眼差しを向ける。

 

「はっはっは、シアは随分とハジメ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら安心か……」

 

すぐ傍で娘が未だに銃撃されているのに、気にした様子もなく目尻に涙を貯めて娘の門出を祝う父親のような表情をしているカム。周りの兎人族達も「たすけてぇ~」と悲鳴を上げるシアに生暖かい眼差しを向けている。

 

「いや、お前等。この状況見て出てくる感想がそれか?」

 

「・・・・・・・・ズレてる」

 

ユエの言う通り、どうやら兎人族は少し常識的にズレているというか、天然が入っている種族らしい。それが兎人族全体なのかハウリアの一族だけなのかは分からないが。

 

そうこうしている内に、一行は遂にライセン大峡谷から脱出できる場所にたどり着いた。ハジメが〝遠見〟で見る限り、中々に立派な階段がある。

 

岸壁に沿って壁を削って作ったのであろう階段は、五十メートルほど進む度に反対側に折り返すタイプのようだ。階段のある岸壁の先には樹海も薄らと見える。

 

ライセン大峡谷の出口から、徒歩で半日くらいの場所が樹海になっているようだ。ハジメが何となしに遠くを見ていると、シアが不安そうに話しかけてきた。

 

「帝国兵はまだいるでしょか?」

 

「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが・・・・・・・・」

 

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら・・・・・・・・ハジメさん・・・・・・・・どうするのですか?」

 

「? どうするって何が?」

 

質問の意図がわからず首を傾げるハジメに、意を決したようにシアが尋ねる。周囲の兎人族も聞きウサミミを立てているようだ。

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵・・・・・・・・人間族です。ハジメさんと同じ。・・・・・・・・敵対できますか?」

 

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

 

「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを・・・・・・・・」

 

「だったら・・・・・・・・何が疑問なんだ?」

 

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと・・・・・・・・」

 

シアの言葉に周りの兎人族達も神妙な顔付きでハジメを見ている。小さな子供達はよく分からないとった顔をしながらも不穏な空気を察してか大人達とハジメを交互に忙しなく見ている。

 

しかし、ハジメは、そんなシリアスな雰囲気などまるで気にした様子もなくあっさり言ってのけた。

 

「それがどうかしたのか?」

 

「えっ?」

 

疑問顔を浮かべるシアにハジメは特に気負った様子もなく世間話でもするように話を続けた。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

 

「そ、それは、だって同族じゃないですか・・・・・・・・」

 

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

 

「それは、まぁ、そうなんですが・・・・・・・・」

 

「大体、根本が間違っている」

 

「根本?」

 

さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから連れて行ってる。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

 

「うっ、はい・・・・・・・・覚えてます・・・・・・・・」

 

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ。まぁ、アイツはどう思ってるのか知らないけどな」

 

「な、なるほど・・・・・・・・」

 

何ともハジメらしい考えに、苦笑いしながら納得するシア。〝未来視〟で帝国と相対するハジメを見たといっても、未来というものは絶対ではないから実際はどうなるか分からない。

 

見えた未来の確度は高いが、万一、帝国側につかれては今度こそ死より辛い奴隷生活が待っている。表には出さないが〝自分のせいで〟という負い目があるシアは、どうしても確認せずにはいられなかったのだ。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

カムが快活に笑う。下手に正義感を持ち出されるよりもギブ&テイクな関係の方が信用に値したのだろう。その表情に含むところは全くなかった。

 

一行は、階段に差し掛かった。ハジメを先頭に順調に登っていく。帝国兵からの逃亡を含めて、ほとんど飲まず食わずだったはずの兎人族だが、その足取りは軽かった。亜人族が魔力を持たない代わりに身体能力が高いというのは嘘ではないようだ。

 

そして、遂に階段を上りきり、ハジメ達はライセン大峡谷からの脱出を果たす。

 

登りきった崖の上、そこには・・・・・・・・

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、ハジメ達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

 

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

 

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

 

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

 

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

 

帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやくハジメの存在に気がついた。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族・・・・・・・・じゃあねぇよな?」

 

ハジメは、帝国兵の態度から素通りは無理だろうなと思いながら、一応会話に応じる。

 

「ああ、人間だ」

 

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そうハジメに命令した。

 

当然、ハジメが従うはずもない。

 

「断る」

 

「・・・・・・・・今、何て言った?」

 

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。

 

「・・・・・・・・小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

 

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

ハジメの言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気でハジメを睨んでいる。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、ハジメの後ろから出てきたユエに気がついた。

 

幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、ハジメの服の裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

その言葉にハジメは眉をピクリと動かし、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。

 

しかしそれを制するように、空からユーマの着ているアーマーが”落ちて来た”。誤字ではない、そのままの意味だ。そしてホワイト・グリントは、地面すれすれでブーストを吹かし、着地する。

 

その衝撃波は帝国兵を襲う。その間にユーマはアーマーから出て、アーマーをハウリア族の警備へと回らせる。そしてユーマは声を上げた。

 

「これはこれは、自身の性欲を垂れ流して命を道具としてしか見れない哀れな帝国兵の皆さんじゃありませんか。」

 

「くそっ!誰だテメェ!」

 

「お初にお目にかかります。私、ユーマと申します。以後お見知りおきを。」

 

ユーマは相手を挑発するように、そう言った。当然、帝国兵はきれる。

 

「なんだこの女ァ!・・・・・・・・いや、いい。テメェの体もよさそうだ。おい女、その体でおれたちを満足させろ、そうすれば許してやる。」

 

「あら?そうですか。でもわたし、あなた達に謝ったって意味ないんですよね。」

 

そう言ってユーマはおどける

 

「なんだとこのアマ!」

 

小隊長はまたもやキレる。が、彼女の顔を見た瞬間青ざめた、まるで、人殺しを娯楽としてしか見ていないような、得物を前に高笑いする異常者のように見えたからだ。

 

ごきげんよう(こんにちは)。そして、ごきげんよう(さようなら)。」

 

彼女は懐から杖のようなものを取り出し、兵士たちの目線程度まで腕を上げるとそれを横薙ぎにふるった。帝国兵が覚えていたのはそこまでだ。自身が何をされたのか把握できず、意識は闇の中へと沈んだ。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。次回はフェアベルゲンとカムたちの魔改造まで進めたらいいなと思います。カムたちはどうなることやら・・・・・・・・。

そして、第3章からはオリキャラが増える予定です。これで原作ブレイクが進んでしまう・・・・

意見感想なども受け付けていますのでどしどしお寄せください。ではまた次回お会いいたしましょう。さようなら!


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第十四話 亜人の集まる里 フェアベルゲン

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までの三つのあらすじ。一つ、ハジメはシアたちハウリア族を助けることにした。二つ、ユーマはカムたちを助けた。そして三つ、ユーマは帝国兵を殺害した


 

三人称side

 

「いったい何を・・・・・・・・したんですか?」

 

シアがそう呟く。目の前には頭部が上下真っ二つに分かれている帝国兵だったものが転がっていた。

 

「何って・・・・・・・・殺しただけだが?」

 

何言ってんのこいつみたいな顔をしてユーマが聞き返す。

 

「そう言いたいのではありません!あなたは何でそんなにためらいもなく同族を殺せるんですか!あなたには、抵抗というものはないんですか!?」

 

そういうシアの両手は固く握られている。その肩をカムがつかんでいる。ためらいもなく人殺しをしたユーマが信じられないのだ。

 

「なんでって言われてもな。ああいう輩は何言ったって聞かない、近づけるのさえ嫌なぐらいに気持ち悪い。であれば殺すのは当たり前だろう?あまつさえ私の体にまで欲情するような奴らだ。

 

交渉しても無駄だ、ならば殺すしかあるまいよ。・・・・・・・・おっ、良さげなの発見。・・・・・・・・くっ!」

 

ユーマは帝国兵の持つ武器を漁りながらそう答える。そうして割と新しめの片手剣を一本取り、顔をしかめながらもしっかりと握りこみ、ルーン魔術を使って、何かをしていた。

 

「そんな・・・・・・・・」

 

ユーマは剣を取った兵士の持っていた剣の鞘を腰のベルトから取り外し、剣を戻す。そしてシアの方に振り向いた。

 

「それにな、シアさん。私たちが今しているのはあなた達の護衛だ。そこに人殺しをしないって勘定ははなから入ってないんだよ。護衛、それを遂行するために敵となるなら同じ人間だって殺す。

 

ハジメも言ってただろう?戦うってのはそういうことなんだよ。戦うってことは相手の命を奪うことと同義だからな」

 

ユーマは、かつてクラスメイトに言ったことと同じようなことを言った。

 

「・・・・・・・・」

 

「ハウリアのことは俺も知っている。戦いを忌むべきものとして、逃げることで争いを避け続ける温厚な種族。事実、それで何とかなってるんだからその行動指針は尊敬に値する。

 

でも私たちは護衛だ。何度も言うようだが、護衛って言うのは戦って敵性存在を切り依頼主を守るのが仕事だ。私だって積極的に人殺しをしたいわけじゃない。これでも人並みに嫌悪感は感じているんだ。

 

人の血を見ることに耐性はあまり持ってないから。でも結局誰かが手を汚すしかない。これはあくまで私の個人的な意見なんだが、なるべくならあんたたちの手を汚したくはないんだ。

 

汚れるのは私だけでいい。ハジメたちにだって人殺しをさせたくはないんだ」

 

シアはそれでも反論しようとしたが、ユーマはその前に「私にはそんな資格ないけどね」といった。そしてユーマは再び口を開く。

 

「私は、さ。見た目以上に善人ってわけじゃない。自分さえ生きていればって思ったことは何回もあるし、さっきのアレだって血を見たくないってだけで、人殺しは必要経費みたいなものって軽く見てる自分がいる。

 

力が欲しいと何度思ったことか。・・・・・・・・って、さっきと矛盾してるな、これ。」

 

ユーマは自信を嘲笑するように言った。

 

「・・・・・・・・私は誰一人として守れた例がないんだ。家族は突然死んで、私の親友は友人にはめられて落ちて、左腕と右目を持っていかれた。他のクラスメイトにはあれだけ大見えきっておいて!私は誰として、守れなかったんだ!」

 

それは彼女の口から出た懺悔の言葉だったのだろう。ハジメもユエもユーマの懺悔を止めようとしない。溜め込むよりは吐き出させたほうがいいと判断したからだ。

 

「私も他のクラスメイトと変わらんさ。身に余るほどの力と技術を手に入れて、天狗になってた。俺が力を渡したあの三人はいまどうしてるか分からないし、私自身も今の体ではハジメたちと肩を並べて戦うことができない!

 

所詮そのアーマーがないと満足に戦えない・・・・・・・・ただの搾りかすだ。力を手に入れたと思ってただの幻想にしがみついてたバカの一人だったんだ!・・・・・・・・そう言えばハジメは見てたよな?私が魔物を素手で倒していってたの。」

 

ユーマはハジメの方を見る。その目にはいうことを強制しているようなそんな意志が感じられる

 

「・・・・・・・・あぁ。しっかりと見てた。」

 

「これ、見てよ。」

 

そう言って彼女は、着ていたドレスの、右腕の長袖部分をめくって、手袋も外した。そしてその腕は大部分が壊死しているのか黒ずんでいる。そこに筋肉はほとんどなくほぼ骨と皮だけのようだ。

 

「・・・・・・・・なんだよ、これ。」

 

ハジメもユエも、そしてシアもハウリア族たちも、その光景を見て唖然としていた。

 

「私の扱う武術は不完全ながらも、世界とか因果とか、そんな、神様にしか触れられないようなものを破壊することができる。というか、それのためにこの武術を作った。でも不完全だから、反動が来たんだよ。

 

もう、右腕の感覚があんまないんだ。あのアーマーがあってもきつい。この体はあくまでも代理品だから、本体のような耐久値がないんだよ。だから反動をもろに受けたんだ。」

 

もう、何も言えなかった。ハジメたちは何も言えなかった。ユエはあまり得意ではない回復魔法を使って直そうと試み、ハジメは神水を使って直そうとした。しかし、彼女の腕が元に戻ることはなかった。

 

「もういいんだよ。この傷は文字通り世界の修正力によってできた傷。世界を壊した反動だ、だからもう、新しい腕を作らない限り治らないんだ。今あそこの兵士からとってきたこの直剣だって

 

魔術で極限まで軽くしてようやく片手で振れる。この腕切り落として義手にすることも、度胸がなくてできやしない。」

 

ユーマは右腕をつかんでそう言った。

 

「いやぁ、ほんとバカだな。自棄を起こして自滅して、本当にバカみたいだ。ほんとは人殺しなんて、したくはなかったけどね。ついむしゃくしゃしてやってしまった。」

 

シアは自身の言ったことが見当違いだということに気づいた。彼女は、ユーマは、人殺しに抵抗がないわけではなかった。むしろ極度に嫌っているきらいがある。それはまるで、戦いたくないと戦いから逃げてきたハウリア族のように。

 

人殺しをなした女性こそ、一番命を重くとらえられてる人だということに。

 

「我ながら言っていることが支離滅裂だな・・・・・・・・まぁ、何が言いたいのかというと、力がない私でも、頼まれたことは最後までやり通さないといけないという覚悟がある。そのためだったらいくらでも殺す。同族だろうが何だろうが

 

敵であればなんでも殺す。それが仕事だからだ。分かってくれとは言わないけどあまり触れてくれないと嬉しい」

 

ユーマはそう言って捲っていたドレスの袖口を元に戻す。そしてハジメたちの方を一瞥する。その目は「もう大丈夫か?」と問いかけている。ハジメたちもそれを察したのか頷く。ユーマもそれにうなずき、アーマーを再び着込む。

 

そしてそのアーマーははるか上空へと飛んで行った。

 

「・・・・・・・・ハジメ」

 

ユエは、飛んでいくユーマの姿を見た後も上空から視線を戻さないハジメの方を見た。その目は虚ろだった。ユエはそれを心配し声をかける。

 

「あ、あぁ。すまない。大丈夫だ。」

 

ハジメはうなずく。しかしその答え方はどこか生返事だ。ユーマのことが心配なんだろう。

 

「ユーマは大丈夫。・・・・・・・・それに、”私は何があってもハジメのそばにいる”から。だから安心して?ハジメ」

 

「・・・・・・・・あぁ。ありがとう、ユエ。」

 

「んっ!」

 

ユエはそんなことを言った。一見ハジメとユーマのどちらも心配しているように聞こえる。でも、ユエはユーマのことをあまり心配はしていなかった。

 

先ほどはなれない魔法を使おうとしていた彼女だが、あくまでも優先順位はハジメの方が上である。むしろ真由美とユーマをどこか敵視しているきらいがあるのだ。

 

恋敵とでもいうのだろうか?確かにハジメはユエのことを大事に思っている。でもそれ以上にハジメは真由美に気を持っているのだ。そのことに何となく気づいていた。

 

だからこそユエは真由美が寝ている間にハジメの初めてを奪ったし、強引に振り向かせようとした。結果、精神が壊れていたハジメは本能的にユエに依存するようになっていた。

 

行動指針がユエ優先に代わってしまうぐらいに。しかし、ユーマが出て来たことで状況は一変した。真由美の復活する可能性が高くなってしまったからだ。

 

そしてユエは、それを許容することができなかった。”大切なものが失われる感覚(私の大切で愛おしい南雲ハジメ)”ユエはそれが何よりも耐え難かったのだ。

 

ユエは決して極悪非道な性格ではない。しかし善意の塊でもない。いたって普通に嫉妬をする人であった。どこまで行こうとそれは変わらない。

 

ユエは、再び歩き出すハジメの後ろをついて行った。それはまるで新婚夫婦のそれのように。勿論帝国兵の死体はユエが風魔法で谷へと落とした。

 


 

ユーマside

 

お久しぶりです。ユーマこと真城悠馬です。えっ?ここでそんなネタバレしてもいいのかって?この声を聴いているのは私と読者の皆様だけですから心配ご無用!

 

いやぁ、それにしてもまさか右腕がこうなるとは・・・・・・・・やっぱり興味本位で因果とか世界とかに手を出すべくじゃなかったですねぇ。おかげで右腕が使い物にならなくなってますよ。

 

ほとんど動きません。さっきの片手剣だって、左手使って、動かない右手で握りこんでルーン魔術で固定してるだけですし、腕も少し曲げた状態で固定して肩でぐるぐるしてるだけですしねぇ。

 

だったら右腕切り落としてハジメと同じ義手にすればいいだろって?そうは問屋が卸してくれないんですよ。でも資材がないから満足なのを作れないってわけじゃないんです。

 

この体はあくまでも代理品みたいなもんですからね。義手を作ってもらったところで本体が復活すれば新しいのを作ることができる訳で。つまるところ資材の無駄ってわけですよ。

 

あっ、そうそう。さっき私が使った四奏流。あれ、本来は格闘術ではなく剣術です。まぁどの武器でも使えますが最初にできたのが剣術としてのあの型です。それを自分で格闘術にまで落とし込みました。

 

元々生身で因果とか世界の法則とかを破壊しようとするのは自殺行為らしいですよ?ゼウスのじっちゃんが言ってた。ちなみに、帝国兵の頭を真っ二つにしたのはルーン魔術で使われる刻印用のレーザーみたいなやつです。

 

ほら、某運命のゲームで今のこの体の元ネタの人が攻撃で使ってたあれです。桃色?のレーザーっぽい奴。威力がすさまじいのなんの・・・・・・・・。それにしても、初めて人殺しをしたわけなんですが、罪悪感はあるのに

 

あまり気にしていないような自分の感情が怖いです。何?私殺人鬼にでもなっちゃうんかな?・・・・・・・・まぁそれはおいおい考えるとして。私は今ハジメたちのはるか上空を飛んでいます。まぁこんな役立たずが地上にいてもこんな見た目からして火種増やすだけなんではい。

 

いやね、ハジメはハウリアの護衛の対価にフェアベルゲンの大迷宮への案内を要求したわけで・・・・・・・・まぁそんなわけで今絶賛移動して、フェアベルゲンついたところなんですけど・・・・・・・・すでにハジメたちとひと悶着あったみたいっすねぇ。

 

ハジメたちが亜人に槍を向けられて、その奥からなんか知らん亜人たちがうじゃうじゃ出て来てるんでそろそろアルフレリックさんのご登場かな?・・・・・・・・うん、出て来たね。ん?何でこんな落ち着いてるかだって?私は見てる分には興味をあまり示さない人でなしだからSA☆

 

っていうか大迷宮に行くには霧が薄くなるのを待つしかないから一週間だか位かかるんだけどハジメたちは知ってるのかな?あっ、ハジメがカムさん似合いアンクローかましてる。ハッハーん。さてはおえてなかったな?(迷推理)

 

あー、ハジメたちが中に入っていく。私もそろそろ行かないと。この霧ってばレーダーまで無効にしちゃうんだもんね、さすが解放者、チートだわぁ。ってなわけでおりましょう!トゥ!(某種死のハーレム赤服さん風)

 

「うわぁ!?なんだこいつは!?敵か!」

 

そう言って亜人族の型は槍を向けてきます。このまま誤解されても困るんでこれ脱ぎましょうねー。

 

「私は敵ではないし、化け物でもない。れっきとした彼らの仲間で人間だ。」

 

話し方が違うのは気にしなーい気にしなーい。見た目に合わせて役者ロールしてるだけですしお寿司。まぁ私のセンスなんてガバガバなんですぐに崩れますけどねぇ。アーカナシ(棒読み)

 

ってなわけでフェアベルゲンまでイクゾー! デンデンデデデン!

 


 

つきました。中々に圧巻ですねぇクォレハ。流石霧の中の町。ライトがいい感じに幻想的な風景を醸し出してるぅ!こういう空間にいると心が安らぎますね。

 

あっ、男の子がこちらに近づいてきました。無垢な笑顔が私の腐った心にクリティカルしてくるっ!

 

「おねえちゃんはどこからきたの?」

 

「ん?この森の外からだ。この森の奥に用があるのであいさつしに来たんだ。」

 

「そおなんだ!ぼくたちのまち、フェアベルゲンにようこそ!」

 

「フフッ、歓迎痛み入る。小さな案内人君。」

 

「あんないにん?よくわからないけど、たのしんでいってね!」

 

「そちらも気を付けてな。」

 

ア”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”ァ”!”か”わ”え”ぇ”な”ぁ”!(迫真)

 

駄目だ、何かいけないものに目覚めそうだ・・・・・・・・。だってさ、これから一人長老を血祭りに上げるのにそんなこといざ知らず声かけてくれるとか優しすぎやでぇ。

 

てぇてぇ!まじてぇてぇ!庇護欲誘いますわぁ。っと、こんなことしてたらハジメたちがアルフレリックたちに連れていかれましたね。私はここでこの子と一緒に・・・・・・・・あれ?なんか引っ張られてる?

 

ちょっとハジメさん?そんな勢いよく引っ張らないぐえっ!?

 


 

三人称side

 

「・・・・・・・・なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か・・・・・・・・」

 

現在、ハジメとユエは、アルフレリックと向かい合って話をしていた。なおユーマはハジメが宝物庫から取り出した縄で縛られている。口はテープのような何かでふさがれている。

 

内容は、ハジメがオスカー・オルクスに聞いた〝解放者〟のことや神代魔法のこと、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。不思議に思ってハジメが尋ねると、「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」という答えが返ってきた。

 

神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だという。

 

ハジメ達の話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと

 

そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。

 

フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「それで、俺は資格を持っているというわけか・・・・・・・・」

 

アルフレリックの説明により、人間を亜人族の本拠地に招き入れた理由がわかった。しかし、全ての亜人族がそんな事情を知っているわけではないはずなので、今後の話をする必要がある。

 

ハジメとアルフレリックが、話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。

 

ハジメとアルフレリックは顔を見合わせ、同時に立ち上がった。ユーマを置いて。階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。

 

部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。ハジメとユエが階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック・・・・・・・・貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど・・・・・・・・返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

 

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

 

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

 

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

 

「そうだ」

 

あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そしてハジメを睨む。

 

フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。

 

今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。

 

だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「・・・・・・・・ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、ハジメに向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、ハジメに向かって振り下ろされた。

 

亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。シア達ハウリア族と傍らのユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となったハジメを幻視した。

 

しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

 ”ガァン!”

 

鉄と鉄がものすごい勢いで衝突した時のような轟音が響いた。音がした方を皆はいっせいに見る。そこにいたのは、ハジメの前に立ち、熊の亜人の拳を片手で受け止めている、上の階で縄で縛られていたはずのユーマだった。

 


 

「ユーマ・・・・・・・・?お前どうしてここに・・・・・・・・」

 

「本体とのリンクが復活した。どうやら、だいぶ回復してきたらしい。おかげでステータスがある程度戻って、使えなかった技能もある程度なら使えるようになった。」

 

ユーマの右腕が緑色の結晶に包まれる。その結晶が消えると、ドレスの袖がなくなっており、右腕があらわになる。が、そこにあった右腕は、骨と皮だけの使い物にならなくなっていた腕ではなく、しっかりとした腕に戻っていた。

 

ユーマはその右手を握りこむ。左手は亜人の拳をしっかりとホールドしている。

 

「さて、熊の亜人の長とやら。少し・・・・・・・・歯を食いしばれよ?」

 

そう言ってユーマはそのクマの亜人の顔面を右の拳で殴った。熊の亜人は数メートル後ろまで殴り飛ばされた。他の亜人は絶句している。そんなのには目もくれず、ユーマはその熊の亜人の頭をつかんで強引に立たせる。

 

「ぐぅぅぅぅぅ・・・・・・・・貴様ぁ!この私に向かってなんてことを・・・・・・・・!」

 

「黙れこの人でなしが。貴様が私に殴られてるのをとやかく言う資格はない!ふんっ!」

 

ユーマは手を放す、そしてその無防備にさらされた腹部に蹴りを入れる。亜人は思い切り吹き飛んだ。壁に当たるがそれでも止まらず、壁を貫通し、外にまで飛んで行った。

 

ユーマもそれに続く。そしてハジメたちもまたそのあとに続く。ハジメたちがユーマに追いつくと、すでにユーマは熊の亜人を一方的に殴っていた。

 

「貴様たちがハウリアに何をしたか、最初は私も知らなかった。私もただこの場所から追い出されたと聞いただけだからな。しかしどうだ?話を聞いてみれば、たかが魔物と同じ力を持っていた子供を隠していたという理由だけで

 

ハウリアたちを迫害し、あまつさえ掟と称し、なんの罪もない奴らを追い出したというではないか。そして今、ハジメたちに対して掟を守らず、一方的に攻撃しようとする。これ一種族の長老だと?ふん、笑わせてくれるわ。」

 

そう言いながらユーマは拳と足による連撃を容赦なく叩き込む。武術は一切使っていないそれは所謂喧嘩殺法だった。無学らをつかまれ殴られ、倒れれば足蹴りにされる。もう見ていられなかった。

 

「そういうことをするお前たちは、お前らを奴隷にして飼殺している帝国兵と、お前たちが忌み嫌う人間と本質は変わらん。現に秩序だ法だど騒いでいるお前たちはその掟を守っていないではないか。そんなものの言い分なぞ通るわけがなかろう。

 

それがまかり通ってる現状がおかしいのだ。ろくに話も聞かず、忌み嫌う人間だからという理由で掟を破る。そんなものに長を名乗る資格などないっ!」

 

ユーマはとどめとばかりに亜人の顔を思い切り殴った。その顔はすでに原型が見えなくなるほど晴れている。殴られたときに脳が揺さぶられたのか、その亜人は立ち上がることはなかった。

 

「お前たちに一ついいことを教えてやろう。お前らは魔力を持ったものを追い出すという習慣があるそうじゃないか。そんなお前たちに朗報だ。お前ら全員、”魔力持ち”だ。感じられぬほど微弱だがな。」

 

亜人の長たちはユーマのその言葉に驚きを隠せていない。今まで自分のやってきたことは何だったのだろうか?彼らはみな一様にそのような表情をしている。

 

「ほぅ?なんだその顔は。信じられないとでも言いたげだな?だが考えてもみろ。この森に漂う霧は魔力を含み、その魔力で方向感覚を狂わせる。だが、その霧と同質の魔力を持つお前らは迷うことはないんだ。

 

ルーツが一緒なのだ。迷う訳があるまい。それともなんだ?お前たちがこの森で迷わない理由がまさか亜人だからとでもいつもりか?あり得ないだろう?貴様らが亜人だからという理由で解決してるなら

 

お前らの種族を奴隷にしている帝国兵はすでに亜人奴隷を使わずともこの森を侵略できるぞ。実験し放題だ。そういう実験をしてもおかしくはない、何でいまだに成功していないのか。理由は単純

 

お前らが死んだもしくは何らかの方法で魔力を抜かれたかするとその魔力はその効力を失う。つまり意味がなくなるからだ。もっとも、あまりにも微弱だから魔力があるということも知られていないようだがな」

 

ユーマはそう言って長老のもとへ向かう。その時の顔は笑っているように見えるが怒りを隠しきれていない、まさに冷酷な笑みであった。長老はアルフレリックをのぞき全員その顔にビビっている。

 

「さて長老諸君。これを聞いてもまだ、ハウリアを迫害するかね?もし掟を優先させるというんであれば私は・・・・・・・・ここに住んでいる亜人を女子供一人も残さず皆殺しにするぞ?

 

お前らが今までいかに愚かなことをやってきたか、それを体に教え込んでやる。・・・・・・・・さぁ、どうする?フェアベルゲンの長老諸君。ハウリアを迎え入れるか、ここで皆殺しにされるか。さぁ、選べ!」

 

そう問いかけるユーマの手は手刀の形をとっている。それはすでに長老たちの眼前にまで突き出されている。しかし長老たちは答えない。

 

「そうか・・・・・・・・この場での死を選ぶか。その潔さは認めてやる。それをもう少しだけハウリアに向けてやれれば良かったのだがな・・・・・・・・では、さらばだ。亜人の長たちよ。」

 

ユーマはその手刀を真上にかかげ、振り下ろす。その手刀は容易に亜人の長の体を両断するかに思えた。しかし、そうはならなかった。現に周りは驚きを隠せていない。それはそうだ。

 

「お待ちください!我々はそんなことは望んでいない!」

 

その死神の鎌を止めたのは、他でもない迫害されたハウリア自身だったのだから。

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。今回で訓練まで行ければよかったのですが分量が多くなりそうな予感がしたので分けることにしました。次回はしっかりと訓練を入れようと思います。という訳で次回お会いいたしましょう。さようなら!


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第十五話 ハウリア族の運命

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までの三つの出来事。一つ、ユーマは自身の心の内を吐露した。二つ、一行は無事にフェアベルゲンについた。そして三つ、紆余曲折ありユーマは、フェアベルゲンの亜人を皆殺しにする宣言をしたが、ハウリアに止められた。


 

三人称side

 

「お待ちください!我々はそんなことは望んでいない!」

 

そう言ってユーマを制したのは、先ほどまで不当な暴力を受けていたはずのカム・ハウリアその人であった。

 

「・・・・・・・・良いのか?この話が撤回されればお前たちは安住の地を得られるんだぞ?その機会を棒に振るのか?」

 

「我々はすでに里を追い出された身。今更戻っても他の亜人が納得するわけがないのです。ですから我々はそれ以上を求めません。」

 

「・・・・・・・・覚悟はできているのだな。分かった、すまなかったな長老諸君。脅すような真似をしてしまって。ハジメ、あとは任せる。私はこれからのことについて何も関わらん。」

 

「ここまでやっておいてこっちに丸投げかよ、ったく。・・・・・・・・まぁいいか。んじゃ、そちらの話を聞こうか。」

 

その後改めて会談の場が設けられた。当然ユーマは参加していない。ちなみにユーマがぼこぼこにした熊の亜人は内臓破裂、ほぼ全身の骨が粉砕骨折という危険な状態であったが、何とか一命は取り留めたらしい。

 

高価な回復薬を湯水の如く使ったようだ。もっとも、もう二度と戦士として戦うことはできないようだが・・・・・・・・

 

現在、当代の長老衆である虎人族のゼル、翼人族のマオ、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼ、そして森人族のアルフレリックが、ハジメと向かい合って座っていた。ハジメの傍らにはユエとカム、シアが座り、その後ろにハウリア族が固まって座っている。

 

長老衆の表情は、アルフレリックを除いて緊張感で強ばっていた。戦闘力では一,二を争う程の手練だった熊の亜人(名前はジン)が、文字通り手も足も出ず瞬殺されたのであるから無理もない。

 

「で? あんた達は俺等をどうしたいんだ? 俺は大樹の下へ行きたいだけで、邪魔しなければ敵対することもないんだが・・・・・・・・亜人族全員としての意思を統一してくれないと、いざって時、何処までやっていいかわからないのは不味いだろう?

 

あんた達的に。殺し合いの最中、敵味方の区別に配慮する程、俺はお人好しじゃないぞ」

 

ハジメの言葉に、身を強ばらせる長老衆。言外に、亜人族全体との戦争も辞さないという意志が込められていることに気がついたのだろう。

 

「こちらの仲間を再起不能にしておいて、第一声がそれか・・・・・・・・それで友好的になれるとでも?」

 

グゼが苦虫を噛み潰したような表情で呻くように呟いた。

 

「は? 何言ってるんだ? 先に殺意を向けてきたのは、あの熊野郎だろ? アイツは返り討ちにしただけだ。再起不能になったのは自業自得ってやつだよ」

 

「き、貴様! ジンはな! ジンは、いつも国のことを思って!」

 

「それが、初対面の相手を問答無用に殺していい理由になるとでも?」

 

「そ、それは! しかし!」

 

「勘違いするなよ? 俺達が被害者で、あの熊野郎が加害者。長老ってのは罪科の判断も下すんだろ? なら、そこのところ、長老のあんたがはき違えるなよ?」

 

おそらくグゼはジンと仲が良かったのではないだろうか。その為、頭ではハジメの言う通りだと分かっていても心が納得しないのだろう。だが、そんな心情を汲み取ってやるほど、ハジメはお人好しではない。

 

「グゼ、気持ちはわかるが、そのくらいにしておけ。彼の言い分は正論だ」

 

アルフレリックの諌めの言葉に、立ち上がりかけたグゼは表情を歪めてドスンッと音を立てながら座り込んだ。そのまま、むっつりと黙り込む。

 

「確かに、この少年は、紋章の一つを所持しているし、その実力も大迷宮を突破したと言うだけのことはあるね。僕は、彼を口伝の資格者と認めるよ」

 

そう言ったのは狐人族の長老ルアだ。糸のように細めた目でハジメを見た後、他の長老はどうするのかと周囲を見渡す。

 

その視線を受けて、翼人族のマオ、虎人族のゼルも相当思うところはあるようだが、同意を示した。代表して、アルフレリックがハジメに伝える。

 

「南雲ハジメ。我らフェアベルゲンの長老衆は、お前さんを口伝の資格者として認める。故に、お前さんと敵対はしないというのが総意だ・・・・・・・・可能な限り、末端の者にも手を出さないように伝える。・・・・・・・・しかし・・・・・・・・」

 

「絶対じゃない・・・・・・・・か?」

 

「ああ。知っての通り、亜人族は人間族をよく思っていない。正直、憎んでいるとも言える。血気盛んな者達は、長老会議の通達を無視する可能性を否定できない。特に、今回再起不能にされたジンの種族、熊人族の怒りは抑えきれない可能性が高い。アイツは人望があったからな・・・・・・・・」

 

「それで?」

 

アルフレリックの話しを聞いてもハジメの顔色は変わらない。すべきことをしただけであり、すべきことをするだけだという意志が、その瞳から見て取れる。アルフレリックは、その意志を理解した上で、長老として同じく意志の宿った瞳を向ける。

 

「お前さんを襲った者達を殺さないで欲しい」

 

「・・・・・・・・殺意を向けてくる相手に手加減しろと?」

 

「そうだ。お前さんらの実力なら可能だろう?」

 

「あの熊野郎が手練だというなら、可能か否かで言えば可能だろうな。だが、殺し合いで手加減をするつもりはない。あんたの気持ちはわかるけどな、そちらの事情は俺にとって関係のないものだ。同胞を死なせたくないなら死ぬ気で止めてやれ」

 

奈落の底で培った、敵対者は殺すという価値観は根強くハジメの心に染み付いている。殺し合いでは何が起こるかわからないのだ。手加減などして、窮鼠猫を噛むように致命傷を喰らわないとは限らない。その為、ハジメがアルフレリックの頼みを聞くことはなかった。

 

しかし、そこで虎人族のゼルが口を挟んだ。

 

「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

その言葉に、ハジメは訝しそうな表情をした。もとより、案内はハウリア族に任せるつもりで、フェアベルゲンの者の手を借りるつもりはなかった。そのことは、彼等も知っているはずである。だが、ゼルの次の言葉で彼の真意が明らかになった。

 

「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。そいつらは罪人。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。

 

忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ。

 

「この期に及んでそれか?やめておけ。今回はハウリアの連中が止めたからよかったものの、今度そんなことをやろうとすれば本当にアイツはお前ら全員皆殺しにするぞ?あいつはキレると、俺より容赦がないからな。」

 

「それでもだ。これは掟なのだから、我らにとって掟は絶対なのだ。」

 

「そーかい。なら俺は止めないけどな。」

 

そこでシアが口を開く。

 

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

 

「シア! 止めなさい! 皆、覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

 

「でも、父様!」

 

土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな」

 

ワッと泣き出すシア。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。おそらく、忌み子であるということよりも

 

そのような危険因子をフェアベルゲンの傍に隠し続けたという事実が罪を重くしたのだろう。ハウリア族の家族を想う気持ちが事態の悪化を招いたとも言える。何とも皮肉な話だ。

 

「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

それが嫌なら、こちらの要求を飲めと言外に伝えてくるゼル。他の長老衆も異論はないようだ。しかし、ハジメは特に焦りを浮かべることも苦い表情を見せることもなく、何でもない様に軽く返した。

 

「お前、アホだろ?」

 

「な、なんだと!」

 

ハジメの物言いに、目を釣り上げるゼル。シア達も思わずと言った風にハジメを見る。ユエはハジメの考えがわかっているのかすまし顔だ。

 

「俺は、お前らの事情なんて関係ないって言ったんだ。俺からこいつらを奪うってことは、結局、俺達の行く道を阻んでいるのと変わらないだろうが」

 

ハジメは長老衆を睥睨しながら、スっと伸ばした手を泣き崩れているシアの頭に乗せた。ピクッと体を震わせ、ハジメを見上げるシア。

 

「俺から、こいつらを奪おうってんなら・・・・・・・・覚悟を決めろ」

 

「ハジメさん・・・・・・・・」

 

ハジメにとって今の言葉は単純に自分の邪魔をすることは許さないという意味で、それ以上ではないだろう。しかし、それでも、ハウリア族を死なせないために亜人族の本拠地フェアベルゲンとの戦争も辞さないという言葉は、その意志は、絶望に沈むシアの心を真っ直ぐに貫いた。

 

「本気かね?」

 

アルフレリックが誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光でハジメを射貫く。

 

「当然だ」

 

しかし、全く揺るがないハジメ。そこに不退転の決意が見て取れる。この世界に対して自重しない、邪魔するものには妥協も容赦もしない。奈落の底で言葉にした決意だ。

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

ハウリア族の処刑は、長老会議で決定したことだ。それを、言ってみれば脅しに屈して覆すことは国の威信に関わる。

 

今後、ハジメ達を襲うかもしれない者達の助命を引き出すための交渉材料である案内人というカードを切ってでも、長老会議の決定を覆すわけにはいかない。

 

故に、アルフレリックは提案した。しかし、ハジメは交渉の余地などないと言わんばかりにはっきりと告げる。

 

「何度も言わせるな。俺の案内人はハウリアだ」

 

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

アルフレリックの言葉にハジメは面倒そうな表情を浮かべつつ、シアをチラリと見た。先程から、ずっとハジメを見ていたシアはその視線に気がつき、一瞬目が合う。すると僅かに心臓が跳ねたのを感じた。視線は直ぐに逸れたが、シアの鼓動だけは高まり続ける。

 

「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

 

「・・・・・・・・約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう。」

 

「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ・・・・・・・・」

 

ハジメは一度、言葉を切って今度はユエを見た。ユエもハジメを見ており目が合うと僅かに微笑む。それに苦笑いしながら肩を竦めたハジメはアルフレリックに向き合い告げた。

 

「格好悪いだろ?」

 

闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ。殺し合いにおいて、ハジメはこれらを悪いとは思わない。生き残るために必要なら何の躊躇いもなく実行して見せるだろう。

 

しかし、だからこそ、殺し合い以外では守るべき仁義くらいは守りたい。それすら出来なければ本当に唯の外道である。ハジメも男だ。奈落の底で出会った傍らの少女がつなぎ止めてくれた一線を、自ら越えるような醜態は晒したくない。

 

ハジメに引く気がないと悟ったのか、アルフレリックが深々と溜息を吐く。他の長老衆がどうするんだと顔を見合わせた。しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した。

 

「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。

 

樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。

 

・・・・・・・・既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

「アルフレリック! それでは!」

 

完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた。

 

「ゼル。わかっているだろう。この少年が引かないことも、その力の大きさも。ハウリア族を処刑すれば、確実に敵対することになる。その場合、どれだけの犠牲が出るか・・・・・・・・長老の一人として、そのような危険は断じて犯せん」

 

「しかし、それでは示しがつかん! 力に屈して、化物の子やそれに与するものを野放しにしたと噂が広まれば、長老会議の威信は地に落ちるぞ!」

 

「だが・・・・・・・・」

 

ゼルとアルフレリックが議論を交わし、他の長老衆も加わって、場は喧々囂々の有様となった。やはり、危険因子とそれに与するものを見逃すということが、既になされた処断と相まって簡単にはできないようだ。悪しき前例の成立や長老会議の威信失墜など様々な思惑があるのだろう。

 

だが、そんな中、ハジメが敢えて空気を読まずに発言する。

 

「ああ~、盛り上がっているところ悪いが、シアを見逃すことについては今更だと思うぞ?」

 

ハジメの言葉に、ピタリと議論が止まり、どういうことだと長老衆がハジメに視線を転じる。

 

ハジメはおもむろに右腕の袖を捲ると魔力の直接操作を行った。すると、右腕の皮膚の内側に薄らと赤い線が浮かび上がる。さらに、〝纏雷〟を使用して右手にスパークが走る。

 

長老衆は、ハジメのその異様に目を見開いた。そして、詠唱も魔法陣もなく魔法を発動したことに驚愕を表にする。

 

「俺も、シアと同じように、魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。次いでに言えばこっちのユエもな。あんた達のいう化物ってことだ。

 

だが、口伝では〝それがどのような者であれ敵対するな〟ってあるんだろ? 掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないんだ。

 

シア一人見逃すくらい今更だと思うけどな。それに、アイツも言ってたように、亜人だってごくわずかに魔力を持ってるんだ。そして、それを操作する技能も。

 

ただ、その魔力が作用するのがこの霧だけっていう制約がついてるから魔法などが使えないだけであって、お前たちも立派な化け物だよ。・・・・・・・・と、これがアイツの言い分だな」

 

しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる。

 

「はぁ~、ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。

 

以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする・・・・・・・・以上だ。何かあるか?」

 

「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

 

「・・・・・・・・そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが・・・・・・・・」

 

「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 

ハジメの言葉に苦笑いするアルフレリック。他の長老達は渋い表情か疲れたような表情だ。恨み辛みというより、さっさとどっか行ってくれ! という雰囲気である。その様子に肩を竦めるハジメはユエやシア達を促して立ち上がった。

 

ユエは終始ボーとしていたが、話は聞いていたのか特に意見を口にすることもなくハジメに合わせて立ち上がった。

 

しかし、シア達ハウリア族は、未だ現実を認識しきれていないのか呆然としたまま立ち上がる気配がない。ついさっきまで死を覚悟していたのに、気がつけば追放で済んでいるという不思議。「えっ、このまま本当に行っちゃっていいの?」という感じで内心動揺しまくっていた。

 

「おい、何時まで呆けているんだ? さっさと行くぞ」

 

ハジメの言葉に、ようやく我を取り戻したのかあたふたと立ち上がり、さっさと出て行くハジメの後を追うシア達。アルフレリック達も、ハジメ達を門まで送るようだ。

 

シアが、オロオロしながらハジメに尋ねた。

 

「あ、あの、私達・・・・・・・・死ななくていいんですか?」

 

「? さっきの話聞いてなかったのか?」

 

「い、いえ、聞いてはいましたが・・・・・・・・その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか・・・・・・・・信じられない状況といいますか・・・・・・・・」

 

周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。

 

「・・・・・・・・素直に喜べばいい」

 

「ユエさん?」

 

「・・・・・・・・ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

 

「・・・・・・・・」

 

ユエの言葉に、シアはそっと隣を歩くハジメに視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める。

 

「まぁ、約束だからな」

 

「ッ・・・・・・・・」

 

シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シアが必死に取り付けたハジメとの約束だ。

 

元々、〝未来視〟でハジメが守ってくれる未来は見えていた。しかし、それで見える未来は絶対ではない。シアの選択次第で、いくらでも変わるものなのだ。

 

だからこそ、シアはハジメの協力を取り付けるのに〝必死〟だった。相手は、亜人族に差別的な人間で、シア自身は何も持たない身の上だ。交渉の材料など、自分の〝女〟か〝固有能力〟しかない。

 

それすら、あっさり無視された時は、本当にどうしようかと泣きそうになった。

 

それでもどうにか約束を取り付けて、道中話している内に何となく、ハジメなら約束を違えることはないだろうと感じていた。

 

それは、自分が亜人族であるにもかかわらず、差別的な視線が一度もなかったことも要因の一つだろう。だが、それはあくまで〝何となく〟であり、確信があったわけではない。

 

だから、内心の不安に負けて、〝約束は守る人だ〟と口に出してみたり〝人間相手でも戦う〟などという言葉を引き出してみたりした。実際に、何の躊躇いもなく帝国兵と戦おうとしてくれた時、どれほど安堵したことか。結局始末したのはユーマだったが。

 

シアは内心ユーマを詰ったことを後悔していた。あれほど何のためらいもなく手にかけたことに対して不安を感じたから衝動的に言ってしまったのであって、本心ではなかったのだ。

 

それもあって、今回はいくらハジメでも見捨てるのではという思いがシアにはあった。帝国兵の時とはわけが違う。言ってみれば、帝国の皇帝陛下の前で宣戦布告するに等しいのだ。

 

にもかかわらず一歩も引かずに約束を守り通してくれた。例えそれが、ハジメ自身の為であっても、ユエの言う通り、シアと大切な家族は確かに守られたのだ。

 

先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも・・・・・・・・

 

シアは、ユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ハジメに全力で抱きつく!

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

 

「どわっ!? いきなり何だ!?」

 

「むっ・・・・・・・・」

 

泣きべそを掻きながら絶対に離しません! とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。

 

それを見たユエが不機嫌そうに唸るものの、何か思うところがあるのか、ハジメの反対の手を取るだけで特に何もしなかった。

 

喜びを爆発させハジメにじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか、隣同士で喜びを分かち合っている。

 

それを何とも複雑そうな表情で見つめているのは長老衆だ。そして、更に遠巻きに不快感や憎悪の視線を向けている者達も多くいる。

 

ハジメはその全てを把握しながら、ここを出てもしばらくは面倒事に巻き込まれそうだと苦笑いするのだった。

 

「まず礼を言う相手が違うだろ。俺はあくまでもあいつの納得がいくようにことを進めただけだ。感謝するならあいつにするんだな。」

 

ハジメはフェアベルゲンの入り口の方を指さす。シアたちがそちらを見るとそこには腕を組んで目をつぶりよりかかっていたユーマの姿があった。

 

シアたちはユーマの方へ行く。

 

「終わったのか?」

 

「一応、な。出禁にはなったが基本手を出さないことを確約してくれたよ。」

 

「そうか・・・・・・・・やはり私には交渉事は向いておらんな。ハジメの方が性に合ってるようだ。」

 

「やめてくれ。俺だってこんなのはもうごめんだ。」

 

「フフッ。さて、出禁を言い渡された身だ。さっさと出て行こうじゃないか。」

 

「迷宮まで行けるのにはまだ時間があるがどうするんだ?」

 

「ん?ハウリアを特訓するのではなかったのか?」

 

「・・・・・・・・確かに。それもそうだな。さてお前たち、行くぞ。」

 

ユーマたちはこうしてフェアベルゲンを出て行った。

 


 

ユーマside

 

はい皆さんどーも。ユーマでございます。いやぁねぇ、あれはダメだわ。流石に我慢ならなかったわ。いやだってびっくりしたんよ?私だって。

 

フェアベルゲンに来てふと亜人族を調べたらさ、かすかに魔力の反応があってね。その魔力が霧と同質のものだって知った時は驚いたさね。

 

原作ではそこ追及されなかったからなぁ。先祖返りだっていうのは分かってたんだけどそれでも仕上が魔力持ちで直接操作が可能だった理由があんまり理解できてなかったんよ。

 

でもこれで納得できたわ。どおりで亜人だけがこの霧を突破できるわけだよ。・・・・・・・・全くとんでもないことになったな。ん?今何やってるかって?何ってそりゃあ・・・・・・・・

 

「オラオラどおしたぁ!ペース落ちてんぞー!」

 

ハウリア鍛えてるに決まってるでしょ。ハジメが。ハウリアの隠形?は目を見張るものがあるからねぇ、ナイフを持たせて暗殺者やればそれなりに行けるでしょ。

 

敵は殺す。そこに感情が入る余地はよほど弱い相手の時のみ、それ以外は基本余地はない。だから、ハウリアには切り替えを覚えさせようと私は思う。

 

原作だとハジメがそこら辺を教えなかったせいでナチュラルキラーになったわけだけど、基本は自愛の塊みたいなハウリアをナチュラルキラーにするのはかわいそうなので

 

仕事と通常を分けられるようにする。武器に関しては・・・・・・・・どうしようかな?ナイフは確定として飛び道具は欲しいよね。・・・・・・・・あぁそうだ。ハジメから鉱石をもらおう。

 

それで作ればいいんだ。よし、即行動だ。ってことでハジメ―鉱石ちょうだーい。

 

「あん?何に使うんだよ。・・・・・・・・ハウリアの飛び道具を作るぅ?まぁそれならいいか、ほら、宝物庫を持っていけ。いくらでも入ってるぞ。」

 

さっすがー。ハジメってば優しいなぁ。まぁという訳でちゃっちゃと作っちゃいますかね。あ、そうだ。ちなみに今のステータスはこんな感じね。

 

______________

 

 

 

 ユーマ 年齢不明 女 レベル92

 

 

 

  天職:祝福の機鎧巫女

 

 

 

  筋力:50000 (最大強化時10,000,000)

 

 

 

  耐性:30000 (最大強化時6,000,000)

 

 

 

  敏捷:28000 (最大強化時5,600,000)

 

 

 

  魔力:300000 (最大強化時60,000,000)

 

 

 

  魔耐:300000 (最大強化時60,000,000)

 

 

 

 技能:機体作成[+全武装作成][+想像作成][+武器作成][+消耗品作成][+動力作成]義体作成 ルーン魔術(偽)同化[+消滅][+ワームスフィア][+形質変化][+形状変化][+増幅][+自己修復] 飛行 魔眼[+全能の眼][+封印][+進化]言語理解

 

 

 

_________________________

 

とまぁこんな感じで完全に本体・・・・・・・・本来の真由美さんのステータスと同期されましたですはい。でもこれ向こうのレベルが上がってないからこれで全部ってわけじゃないんだぜ?ん?分かりずらかった?ようは大本が更新されてないからこれで値が止まるわけじゃない

 

ってことさ。もっと上がるってことだね。そして、全武装作成と想像作成って言うのは簡単に言えば武器だけはオリジナルなものが作れるってことさね。これでハウリアに渡す武器が作れるぜ。自由にいじれるオリジナル武装ってロマンだよな。

 

・・・・・・・・よし、こんなもんでいいかな。さて、あとはハウリアを訓練しなきゃ。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。次回はハウリアの訓練の成果と新武装のお披露目、亜人族の襲撃までは入れたいと思います。叶うなら樹海の大迷宮のシーンまで行ければなぁと思っています。ではまた次回お会いいたしましょう。さようなら!


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第十六話 ハウリア魔改造

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る、前回までの三つの出来事。一つ、ハジメはユーマの体が限界であることを知った。二つ、一行は無事にフェアベルゲンについた。そして三つ、亜人族の長老たちにキレたユーマは熊の亜人をぼこぼこにした。


 

三人称side

 

あれから数日が経過した。ハジメとユーマはハウリアに戦闘訓練を実施していた。厳しく、時には丁寧に殺しについて教えて行った。

 

といっても彼らにそういう経験はほぼなく、映画なので見たものやネットに上がっていたものの知識をそのままハウリアに刷り込んでいったのだ。

 

まぁ、まだ聖人もしていない男女が、既に成人してそうな見た目の人たちに殺しのやり方を教えている時点で怪しさ満点なのだが・・・・・・・・

 

ハウリアは二人の訓練によってその才覚を伸ばしていった。元々、隠密行動に優れていた彼らは、暗殺術を教え込まれたおかげで亜人族一の暗殺術の使い手になっていた。

 

試しにハジメが魔物を倒すように言ってみれば、近くの魔物の首を魔物に悟らせることなく落とすほどの隠密行動を可能としていた。

 

だが、彼らのあり方はまるで軍隊であった。それも大隊規模の、である。ユーマのことを大隊長と呼び、ハジメのことを総隊長と呼び慕っているのである。

 

何故ハジメが総隊長と呼ばれ、ユーマが大隊長と呼ばれているのか。それは彼らの役割がそれぞれ違ったからだ。日ごろの訓練をハウリアに課していたのはユーマであり

 

そのメニューを考えたり、任務を与えたりしていたのがハジメだったからだ。最初の方はハジメが直々に訓練することもあったが、メニューを考えるべきだとユーマに言われた後は基本ユーマが担当した。

 

そんなメニューをこなしたからなのか、彼らは狂人にはならず、理性ある獣。殺人を仕事と割り切り、こちらからは手出しをしない、だが仕事となれば一切の容赦をしない。本当に軍人そのもののあり方を体現していた。

 

そしてそんな彼らに今日この日、新たな武装が支給される運びとなった。作ったのはユーマだ。錬成士でない彼女がどうして武器を作れたのか。

 

それは彼女の持つ技能[機体作成]の追加技能に当たる[全武装作成][想像作成]のおかげだ。この技能は、それ相応の資材が要求される代わりに、オリジナル武装が作れるというもの。

 

なおこの技能には、二足歩行兵器にカテゴライズされるものという制限はない。そしてこの技能、作った武器に様々な機能を付与することができる。

 

その効果は様々だ。どこぞのバイオなハザードのゲームみたいに武器の弾薬を無限にしたり、鉄の歯車なゲームに出てくる耐久値無限サプレッサー付きの銃にしたりできるなどがあげられる。

 

しかしあくまで作成の工程をすっ飛ばせるだけであり、自動で修復したりなどはそういう機能を付与しない限りできない。錬成の武器作成特化版と思えばいいだろう。

 

さて、話を戻そう。早朝、日が昇って間もないころ、ハウリア族は全員で森の中にあるちょっとした広場に集められていた。その前には大型の木箱が数個置いてある。

 

その奥から人影が近づいてきた。ユーマである。ユーマは、ハウリアの前に立つとカムが口を開く。

 

「総員、傾注!」

 

ハウリアが一斉に姿勢を整える。その行為には乱れは一切としてない。

 

「さて、ハウリア諸君。まずは今まで我々が課した訓練をクリアしたことを労おうと思う。本当に良くやった。」

 

「滅相もございません!我々の強さは”少佐殿”のご指導のたまものですから!」

 

「謙遜も過ぎると嫌味だぞ?カム”大尉”。」

 

「これはこれは、失礼しました。」

 

「では本題に入ろう。諸君、これから諸君に新たな装備を配給する。カム大尉、パル中尉、ラーナ中尉は前に来てそれぞれの指揮する隊の装備を配給せよ。」

 

『了解!』

 

そう言われ、各列の最前列にいたハウリア族の人が木箱の前に移動する。そしてふたを開け、中のものを取る。そしてその箱の向かいに、あとに並んでいたハウリア族が整列し装備を受け取っていく。

 

ハウリア族には、某ロリ少佐がいく戦争物語よろしく階級で振り分けがされている。各小隊の隊員は少尉、各小隊の小隊長が中尉、それらを統括する総括隊長と呼ばれる地位にいるものが大尉、そして大隊長であるユーマが少佐。

 

総隊長のハジメは大佐という感じに分かれている。あくまでもハウリアの中独自のもののためハジメたちはあまり気にしてはいない。

 

時間が過ぎ、各小隊への装備の配給が終了した。

 

「カム大尉の率いる突撃班には、圧縮魔力破裂式速射突撃銃”EME=AR18”を、パル中尉の率いる狙撃犯には圧縮魔力破裂式狙撃銃"EME=SR75”を、ラーナ中尉率いる偵察、暗殺部隊には圧縮魔力破裂式短機関銃”EME=SMG56”をそれぞれ支給した。不備がないか確認せよ。」

 

ユーマが作ったものに不具合は基本起こりえないのだが念には念を入れる。全員がチェックを終え、不具合がないことが確認できた。

 

「さて、装備の支給が終了してこれから完熟訓練を行う・・・・・・・・といいたいところだが、お前たち。その前に仕事(殺し合い)だ。」

 

「仕事、でありますか?」

 

「そうだ。先ほどラーナ中尉の率いる偵察部隊からの連絡があった。熊の亜人の残党がこちらに向かっているとの報告があった。すでにハジメが確認を取りに行っているがおそらく結果が返ってくる前に戦闘が開始されるものと思われる。」

 

「・・・・・・・・」

 

「そこでだ。我々は自衛のためにこれに対応する。なおこれは、我々が最後に課する試験を兼ねていることも言っておく。なぁに、武装の完熟訓練と最終試験が前倒しになっただけだ。

 

カム大尉、あとの作戦内容は任せる。・・・・・・・・私から諸君に課す課題(オーダー)はただ一つ、殺すのではなく無力化しろ。諸君の実力なら可能なはずだ。誠に遺憾ながらフェアベルゲンからは

 

亜人の殺害を控えるようにとの願いが出されている。無論これを無碍にすることもできるが・・・・・・・・ここはひとつ、しっかりと守って奴らをぎゃふんと言わせてやろうではないか。」

 

『はい!』

 

「では諸君。作戦開始だ。吉報を期待する。」

 

そう言ってユーマは森の奥へと消えて行った。後に残されたハウリア族は自身の得物を入念にチェックしつつ、襲撃に備えていた。

 


 

ズガンッ! ドギャッ! バキッバキッバキッ! ドグシャッ!

 

樹海の中、凄まじい破壊音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、更には、燃えて炭化した樹や氷漬けになっている樹まであった。

 

この多大な自然破壊はたった二人の女の子によってもたらされた。そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。

 

「でぇやぁああ!!」

 

裂帛の気合とともに撃ち出されたのは直径一メートル程の樹だ。半ばから折られたそれは豪速を以て目標へと飛翔する。確かな質量と速度が、唯の樹に凶悪な破壊力を与え、道中の障害を尽く破壊しながら目標を撃破せんと突き進む。

 

「・・・・・・・・〝緋槍〟」

 

それを正面から迎え撃つのは全てを灰塵に帰す豪炎の槍。巨大な質量を物ともせず触れた端から焼滅させていく。砲弾と化した丸太は相殺され灰となって宙を舞った。

 

「まだです!」

 

〝緋槍〟と投擲された丸太の衝突がもたらした衝撃波で払われた霧の向こう側に影が走ったかと思えば、直後、隕石のごとく天より丸太が落下し、轟音を響かせながら大地に突き刺さった。バックステップで衝撃波の範囲からも脱出していた目標は再度、火炎の槍を放とうとする。

 

しかし、そこへ高速で霧から飛び出してきた影が、大地に突き刺さったままの丸太に強烈な飛び蹴りをかました。一体どれほどの威力が込められていたのか、蹴りを受けた丸太は爆発したように砕け散り、その破片を散弾に変えて目標を襲った。

 

「ッ! 〝城炎〟」

 

飛来した即席の散弾は、突如発生した城壁の名を冠した炎の壁に阻まれ、唯の一発とて目標に届く事は叶わなかった。

 

しかし・・・・・・・・

 

「もらいましたぁ!」

 

「ッ!」

 

その時には既に影が背後に回り込んでいた。即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那、豪風を伴って振り下ろされた。

 

「〝風壁〟」

 

大槌により激烈な衝撃が大地を襲い爆ぜさせる。砕かれた石が衝撃で散弾となり四方八方に飛び散った。だが、目標は、そんな凄まじい攻撃の直撃を躱すと、余波を風の障壁により吹き散らし、同時に風に乗って安全圏まで一気に後退した。

 

更に、技後硬直により死に体となっている相手に対して容赦なく魔法を放つ。

 

「〝凍柩〟」

 

「ふぇ! ちょっ、まっ!」

 

相手の魔法に気がついて必死に制止の声をかけるが、聞いてもらえる訳もなく問答無用に発動。襲撃者は、大槌を手放して離脱しようとするも、一瞬で発動した氷系魔法が足元から一気に駆け上がり・・・・・・・・頭だけ残して全身を氷漬けにされた。

 

「づ、づめたいぃ~、早く解いてくださいよぉ~、ユエさ~ん」

 

「・・・・・・・・私の勝ち」

 

そう、問答無用で自然破壊を繰り返していたこの二人はユエとシアである。二人は、訓練を始めて十日目の今日、最終試験として模擬戦をしていたのだ。内容は、シアがほんの僅かでもユエを傷つけられたら勝利・合格というものだ。その結果は……

 

「うぅ~、そんな~、って、それ! ユエさんの頬っぺ! キズです! キズ! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私の勝ちですぅ!」

 

ユエの頬には確かに小さな傷が付いていた。おそらく最後の石の礫が一つ、ユエの防御を突破したのだろう。本当に僅かな傷ではあるが、一本は一本だ。シアの勝利である。それを指摘して、顔から上だけの状態で大喜びするシア。

 

体が冷えて若干鼻水が出ているが満面の笑みだ。ウサミミが嬉しさでピコピコしている。無理もないだろう。何せ、この戦いには訓練卒業以上にユエとした大切な約束事がかかっていたのだ。

 

そして、その約束事はユエにとってあまり面白いものではない。故に、

 

「・・・・・・・・傷なんてない」

 

〝自動再生〟により傷が直ぐに消えたのをいい事にしらばっくれた。拗ねたようにプイっとそっぽを向く。

 

「んなっ!? 卑怯ですよ! 確かに傷が……いや、今はないですけどぉ! 確かにあったでしょう! 誤魔化すなんて酷いですよぉ! ていうか、いい加減魔法解いて下さいよぉ~。さっきから寒くて寒くて・・・・・・・・あれっ、何か眠くなってきたような・・・・・・・・」

 

先ほどより鼻水を垂らしながら、うつらうつらとし始めるシア。寝たら死ぬぞ!の状態になりつつある。その様子をチラッチラッと見て、深々と溜息を吐くとユエは心底気が進まないと言う様に魔法を解いた。

 

「ぴくちっ! ぴくちぃ! あうぅ、寒かったですぅ。危うく帰らぬウサギになるところでした」

 

可愛らしいくしゃみをし、近くの葉っぱでチーン! と鼻をかむと、シアは、その瞳に真剣さを宿してユエを見つめた。ユエは、その視線を受けて物凄く嫌そうな表情をする。無表情が崩れるほど嫌そうな表情だ。

 

「ユエさん。私、勝ちました」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・ん」

 

「約束しましたよね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・ん」

 

「もし、十日以内に一度でも勝てたら……ハジメさんとユエさんとユーマさんの旅に連れて行ってくれるって。そうですよね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん」

 

「少なくとも、ハジメさんに頼むとき味方してくれるんですよね?」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今日のごはん何だっけ?」

 

「ちょっとぉ! 何いきなり誤魔化してるんですかぁ! しかも、誤魔化し方が微妙ですよ! ユエさん、ハジメさんの血さえあればいいじゃないですか! 何、ごはん気にしているんですか! ちゃんと味方して下さいよぉ! ユエさんが味方なら、九割方OK貰えるんですからぁ!」

 

ぎゃーぎゃーと騒ぐシアに、ユエは心底鬱陶しそうな表情を見せる。

 

シアの言う通り、ユエは、彼女と一つの約束をした。それは、シアがユエに対して、十日以内に模擬戦にてほんの僅かでも構わないから一撃を加えること。

 

それが出来た場合、シアがハジメとユエの旅に同行することをユエが認めること。そして、ハジメに同行を願い出た場合に、ユエはシアの味方をして彼女の同行を一緒に説得することである。

 

シアは、本気でハジメとユエの旅に同行したいと願っている。それは、これ以上家族に負担を掛けたくないという想いが半分、もう半分は単純にハジメとユエとユーマの傍にいたい、もっと三人と仲良くなりたいという想いから出たものだ。

 

しかし、そのまま同行を願い出てもすげなく断られるのが目に見えている。今までのハジメやユエの態度からそれは明らかだ。まぁ、ユーマは何も言わないだろうが。そこで、シアが考えたのが、先の約束という名の賭けである。

 

シアとしては、ハジメは何だかんだでユエに甘いということを見抜いていたので、外堀から埋めてしまおうという思惑があった。何より、シアとて女だ。ユエのハジメに対する感情は理解している。

 

自分も同じ感情を持っているのだから当然だ。ならば、逆も然り。ユエもシアの感情を理解し同行を快く思わないはずである。だからこそ、まず何としてもユエに対してシア・ハウリアという存在を認めてもらう必要があった。

 

シアは、何もユエからハジメの隣を奪いたいわけではない。そんなことは微塵も思っていない。ハジメへの想いとは別に、ユエに対しても近しい存在になりたいと本気で思っているのだ。

 

それは、この世界でも極僅かな〝同類〟であることが多分に影響しているのだろう。つまり、簡単に言えば〝友達〟になりたいのだ。想い人が傍にいて、同じ人を想う友も傍にいる。今のシアにとって夢見る未来は、そういう未来なのだ。

 

一方、ユエは何故、シアとそのような約束を交わしたのか。ユエ自身には何のメリットもない約束である。その理由の二割は、やはりシンパシーを感じたことだろう。

 

ライセン大峡谷で初めてシアの話を聞いた時、自分とは異なり比較的に恵まれた環境にあることに複雑な感情を覚えつつも、心のどこかで〝同類〟という感情が湧き上がったことは否定できない。

 

僅かなりとも仲間意識を抱いたことが、シアに対する〝甘さ〟をもたらした。

 

そして、八割の理由は・・・・・・・・女の意地だ。シアとの約束をユエはこう捉えていた。すなわち「私が邪魔なら実力で排除してみて下さい。出来なかったら私がハジメさんの傍にいることを認めて下さい」と。

 

惚れた男をかけて勝負を挑まれたのだ。これがその辺の女ならどうとも思わなかっただろう。

 

だが、シアは曲がりなりにも〝同類〟と思ってしまった相手であり、また、凄まじい集中力と鬼気迫る意気込みで鍛錬に励む姿に、その想いの深さを突きつけられ黙ってはいられなくなったのだ。

 

そして、約束をかけた勝負の結果がシアの勝利だったのである。

 

「・・・・・・・・はぁ。わかった。約束は守る・・・・・・・・」

 

「ホントですか!? やっぱり、や~めたぁとかなしですよぉ! ちゃんと援護して下さいよ!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・ん」

 

「何だか、その異様に長い間が気になりますが・・・・・・・・・ホント、お願いしますよ?」

 

「・・・・・・・・しつこい」

 

渋々、ほんと~に渋々といった感じでユエがシアの勝ちを認める。シアは、ユエの返事に多少の不安は残しつつも、ハジメ同様に約束を反故にすることはないだろうと安心と喜びの表情を浮かべた。

 

不機嫌そうなユエと上機嫌なシアは二人並んでハジメ達がいるであろう場所へ向かうのだった。

 


 

ユーマside

 

どうも。ユーマでございます。いやぁね、紆余曲折ありまして、シアが旅に同行することに相成りました。良かったね。これで打倒エヒドに一歩近づきました。本体こと、この世界の真由美さんの体もだいぶ戻ってきたようで

 

同化の力に関してもだいぶ使えるようになってきました。あー、なんか念話もどき(真由美→ユーマの一方通行)がいつの間にか使えるようになってました。いやー、寝ている最中だったのにいきなり真由美さんの声が聞こえてきてびっくりしましたよ。

 

既に8割方治っているとのこと。もうすぐでまた一つに戻れるらしいです。でも個人的に私は分かれたままでいいと思ってたりするわけで。だってほら、本来の体の持ち主は違う訳ですしおすし。であればこのまま分かれたままでもいいかなぁなんて思ってたり。

 

でも治ってきてる弊害なのか、私の体にも変化が出てきました。というより元に戻ってきてるのかな?今なんてもうスカサハさんの顔の原型がなくなってきつつありますもん。ルーン魔術に顔を変えるものがあってよかったと心底思ってます。

 

この際はっきり言いましょう。顔とか体つきとかが真由美さんに戻りつつあるのですはい。やっべぇこのままだと真由美さん復活したように思われちゃう。いやまぁ別にこちらに不都合あるわけじゃないんだけどね?あの、ユエさんがね、あたりが強いんすよ。

 

私・・・・・・・・というか真由美さんに対して。まぁ恐らく原因は嫉妬なんでしょうけど。大方私にハジメがとられるとでも思ってるのでしょう。といっても私はTSしただけで元男ですから別にその気はありませんし、真由美さんは元々人嫌いなとこありますしね。

 

ユエさんからハジメを取ったりはしませんよ。・・・・・・・・でもハジメってば、真由美さんに恋してるっぽいんですよね。奈落に落ちてからもなんだかんだ言いながら真由美さん(まだ主人公が主導権握ってた頃)への献身っぷりがやばかったので。

 

銃作って☆(無茶ぶり)って言ってすぐ作るやつは恋してる証拠だってハッキリワカンダネ。痛い痛い痛い!(ユエさんの嫉妬の攻撃を受けて)まぁそんなことは置いておいて今私は何をしているかというと、新しく増えた技能:”姿変化”と”能力変化”を試している

 

最中であります。えっ?熊の亜人との戦闘はどうしたかって?あの化け物部隊に勝てる相手はこの森にはいませんよ。今頃死なない程度にコロコロされてるのでは?(やけくそ)お前がやったんだろって?おっ、そうだな(適当)

 

魔術で顔を変えていた弊害なのかは知りませんが、いつの間にか入ってましたね技能欄に。どうやら望むような姿と能力を再現できるらしい。まぁあくまで再現なのでステータスが大きく変わることはないみたいですが・・・・・・・・

 

試しに代わってみるか。という訳で、行きますよー。ハイドーン!

 

「おぉー。おぉ?誰だこれ。」

 

うーん・・・・・・・・あっ、思い出した。あれだ、白猫プロジェクトのセレナってキャラだ。褐色肌の女の子で男勝り?な性格が特徴のイベントキャラ。

 

意外と強いんよ―あの子。・・・・・・・・知らんけど。さてさてー能力はッと・・・・・・・・たくさんあるなこれ。なになに?【体力回復に魔力回復、魔力攻撃時強化補正+100%】

 

・・・・・・・・えっ?もしかしてヴぁけものですかこれ?えぇ・・・・・・・・(困惑)何でさっ!ドウシテコウナッタ。しかもこれアクティブスキルなんだよね。パッシブスキル・・・・・・・・いやオートスキルもあるんよ。

 

【常時移動速度上昇、移動速度・攻撃速度+50%、通常攻撃のダメージ+350%、ステータスダウン無効、魔力攻撃強化・闇属性ダメージ+250%、即死回避(一度のみ)】

 

うっわー化け物すぎんだろこれ。いやまぁ戦闘で使うならこれほどまでにない戦力にはなるだろうけどさ・・・・・・・・。しかも必殺技みたいなの使えるし。

 

【黒翼剣】【ルナ・プレーナ】の二つだね。黒翼剣の方は付き技みたいな感じで、刀身に闇属性の魔力を纏わせて直線状に突く。その時に闇属性の魔力スフィアを二つ設置して、それを味方が触ると

 

近くの敵を自動ロックオンして攻撃するっていうおまけつき。ルナ・プレーナは相手を切りつけてどんどんエネルギーを貯める。そしてそれがマックスまで貯まった時にそのエネルギーをスフィアとして相手に投げつける。

 

解放された魔力は敵にはダメージ、味方には回復の効果があるっていうやつ。インフレの激しい白猫でも割と上位に食い込むステータスだからね元ネタのキャラ。いかんなく高性能っぷりを発揮してくれるわ。

 

まぁでもチートだとか言ってらんないわな。さっさとエヒド潰して帰りたいのよ私は。・・・・・・・・ん?どうやらハウリアの方も終わったっぽいね。じゃけん姿を元に戻しましょうねー。能力?もちろん戻しませんが何か?

 

さて、話を聞くとどうやらさっきの一件を”貸し”にしたみたい。ここもまぁ原作通りっすね。

 

お?シアさんが近づいてきましたよ?

 

「あの、ユーマさん。」

 

なんだいシアさん。ハウリアの激変っぷりに怒ってらっしゃるのかな?でも鍛えたのは私だけど言い出しっぺはハジメなわけで

 

「違いますっ!私が言いたいのはそうじゃありません!」

 

あれ?違うの。じゃあ一体何の用ですかねぇ。私あなたと何の接点もないと思うんですけど・・・・・・・・

 

「私たちを守ってくれておまけに形はあれですけど戦える力までくださり、本当にありがとうございます!」

 

お、おう。とりあえずシアさん頭上げようか。私は別にやりたいからやっただけで別にお礼を言われる筋合いもないわけで。

 

お礼ならハジメに言ってくれよー頼むよー。お礼を言われるほどの人間じゃないって私は。

 

「それでもです!私たち家族を、・・・・・・・・ここまで守ってくれて、・・・・・・・・本当に、・・・・・・・・ありがとうございました。」

 

あらあら泣き出しちゃった。でもまぁその気持ちは分かるよ。つらかったんだよなぁ。今まで家族に散々迷惑かけて来たって言う重圧に耐えてたんだもんなぁ。

 

えらいと思うよ。必死に家族を助けようとするシアさんは。ほらこっち来いよ。親代わりではないけど胸はいくらでも貸してあげるから、さ。

 

「ゆっ、ゆーまさぁぁぁぁぁん!」

 

よしよし、思う存分泣きなされ。泣きたいときは泣いてもいいのよ。全部私が受け止めたげるからね。・・・・・・・・ちょっと?ユエさん?ハジメさん?そんなにやにやしないで?

 

えっ?姉妹に見えるって?やめてくれよぉ!こんな人でなしとこんな健気な少女一緒にするなよぉ!シアさんかわいそうだろ!・・・・・・・・ん?あれ?シアさんもしかして寝ちゃった?

 

泣き疲れて寝ちゃった?えっ?っちょ待って?この姿勢地味につらいんですけど。正座だから足つらいんですけどぉォォォォォォ!

 

(なお、三時間は眠っていた模様。By作者)

 


 

はい。ってなわけであの地獄のような時間を耐えきって大樹の真ん前に来たわけなんですけども。へぇ、ものの見事に枯れてますねぇ。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。

 

周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。

 

まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが・・・・・・・・」

 

はぇーそうなんすねー。でも枯れてるなら中には入れなさそうですねぇ。

 

「ねぇハジメ、ここ・・・・・・・・」

 

「こりゃあ、オルクスにあったのと同じ文字だな。」

 

ユエちゃんが何か見つけたようですね。これは・・・・・・・・、石板ですか。そこに書いてあるのはオルクスの扉に書いてあったのと同じ文字、っと。

 

こ↑こ↓が入り口なんですねぇ。でもどうやって入りましょうかね?・・・・・・・・って、ユエさん?いったいあなたは指輪を取り出して何をしようとしてるのでせう?

 

・・・・・・・・ほう。大樹の根元に指輪が入りそうなくぼみがあったと。何かありそうですね。そうと決まれば、邪険はめてみましょうね。それっと。

 

おぉ、なんか文字が浮かび上がってきましたねぇ。

 

〝四つの証〟

 

〝再生の力〟

 

〝紡がれた絆の道標〟

 

〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

ほほう、どうやらここに入るには条件があるみたいですねぇ。んで我々は満たしていないわけだ、条件を。ユエさんが再生魔法を行使しても反応なし。

 

やっぱりライセン大迷宮探して攻略しないとダメそうですね。ってなわけでほらいくどー。ん?ハウリアはどうするんだって?そりゃ勿論この森にいてもらいますよ。

 

後々でここに来るときにてg・・・・・・・・もとい、案内役がいないとどうしようもないので。ってなわけで行くぞー!

 

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。次回はライセン大迷宮攻略に入ります。さて、主人公のインフレが加速していくぞー...( = =) トオイメ目。ってなわけでまた次回お会いいたしましょう。さようならー!


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第十七話 ブルックの町

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る 前回までの三つの出来事。一つ、ハウリアをユーマたちは魔改造した。二つ、激戦の末シアがハジメの旅に同行することとなった。そして三つ、彼らは樹海の迷宮の攻略をあきらめライセン大迷宮へと向かった。


 

三人称side

 

平野に響く爆音。それはまるで大型の二輪駆動車”バイク”を彷彿とさせる音だ。およそ中世の雰囲気には似つかわしくないような音を轟かせているのはハジメが乗る魔力駆動二輪である。

 

ハジメはタンデムシートにユエを、サイドカーにシアを乗せ平野を疾走していた。

 

「まさかお父様たちがあんなにあっさり引き下がるとは思いませんでした。」

 

「こればっかりは”アイツ”の教育のたまものだな。」

 

「・・・・・・・・ユーマ、発破をかけるの、うまい。」

 

そう、彼らが予想以上に早く樹海を抜けられたのには訳がある。これは約三時間前にさかのぼる。

 


 

「ハジメ殿!我らを旅のお供の末席に加えていただけませんでしょうか?」

 

「無理だ。」

 

ハジメたちは樹海の迷宮がまだ攻略できないことがわかって樹海を出て行こうとしたその時、ハジメをカムが引き留めたことから始まった。

 

「そこを何とか、お願いできませんか?」

 

「確かにお前たちは強くなった。何なら戦術にもよるが俺ら異世界の勇者一行にも負けず劣らず、な。だが俺らには目的があるし第一にお前ら大所帯をやしなうほどの余裕はない。」

 

「くっ、確かにそうですが・・・・・・・・それでも我々は引くわけにはいきません!」

 

ハジメが正論を言ってもハウリアが引き下がる気配はない。しかし、そこで口を開いたものがいた。ユーマである。

 

「確かに諸君たちは強くなった。しかし、その強さはまだ序の口であるとしれ。お前らを簡単に屠れる奴はまだごまんといる。それこそ私たち異世界組にもな。」

 

ハウリアたちはさっきまでの喧騒はどこやら。ユーマのそれを聞いてだんまりとしている。

 

「今の強さに酔っているやつを連れていけるほど我々の旅は甘くない。せいぜい肉壁になって魔物畜生の餌に代わるのがオチだ。だからお前たちには強くなってもらう必要がある。」

 

その言葉でハウリアの表情が変わる。何でだろうか?

 

「何のために私が教えてやったと思っている?お前らを一人立ちさせてやるためだ。次に我々がここを訪れるまでに各々で鍛えておけ。分かったな?」

 

「サー、イエッサー!」

 

以上が事の顛末である。

 


 

「ほんっと、アイツは昔っから少しどこかおかしい奴だなぁとは思ってたが、ここに来てからというものそれがどんどん加速していってないか?」

 

「ん。流石にあれは引いた。」

 

「ですねぇ。まさか『新しい技試すね』で、地面をえぐるどころか新たに川を作るとは思わなかったですよ。」

 

そう、ユーマは新たに手に入った技能で使えるようになった技を試したところ、地面をえぐり、近くにあった池へとそれが貫通し新たに小川が完成してしまったのである。

 

三人はその光景を思い出し苦笑いを浮かべる。そんな中、サイドカーに乗っていたシアが質問する。

 

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

 

「あ? 言ってなかったか?」

 

「聞いてませんよ!」

 

「・・・・・・・・私は知っている」

 

得意気なユエに、むっと唸り抗議の声を上げるシア。

 

「わ、私だって仲間なんですから、そういうことは教えて下さいよ! コミュニケーションは大事ですよ!」

 

「悪かったって。次の目的地はライセン大峡谷だ」

 

「ライセン大峡谷?」

 

ハジメの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるシア。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば

 

【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。

 

確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのだ。その疑問を察したのかハジメが意図を話す。

 

「一応、ライセンも七大迷宮があると言われているからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」

 

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか・・・・・・・・」

 

思わず、頬が引き攣るシア。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、つい最近、一族が全滅しかけた場所でもあるため、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺する。

 

「お前なぁ、少しは自分の力を自覚しろよ。今のお前なら谷底の魔物もその辺の魔物も変わらねぇよ。ライセンは、放出された魔力を分解する場所だぞ? 身体強化に特化したお前なら何の影響も受けずに十全に動けるんだ。むしろ独壇場だろうが」

 

とハジメがあきれたような声で言う。すると、シアの身に着けていたバッジから声がした。

 

『そうだよシアさん。ユエちゃんに勝ったほどの実力で、おまけに魔力ある限り体を強化できる身体能力特化と来た。しかも私みたいな鎧型と違って機動性も抜群なんだから問題ないって。むしろ活躍してほしいぐらいだよ』

 

というのは色々とおかしくなりつつあるユーマである。

 

「それでユーマ。そっちはどうだ?」

 

『うん、見た感じだと野宿は推奨できないなぁ。盛大にやらかしちゃったせいで魔物の動きが活発になっているみたい。やっぱり町に行ったほうがいいと思う』

 

「了解。じゃブルックの町に行くか。ユーマは先行してくれ」

 

『了解。先にいくねー、待ってるよー』

 

それと同時に何かが前方へと向かっていく爆音が聞こえた。ユーマのアーマーだろう。

 

「さて、俺たちも行くぞ」

 

ハジメはバイクの速度を上げた。

 


 

数時間ほど走り、そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。ハジメの頬が綻ぶ、奈落から出て空を見上げた時のような、〝戻ってきた〟という気持ちが湧き出したからだ。

 

懐のユエもどこかワクワクした様子。きっと、ハジメと同じ気持ちなのだろう。僅かに振り返ったユエと目が合い、お互いに微笑みを浮かべた。

 

「あのぉ~、いい雰囲気のところ申し訳ないですが、この首輪、取ってくれませんか? 何故か、自分では外せないのですが・・・・・・・・あの、聞いてます? ハジメさん? ユエさん? ちょっと、無視しないで下さいよぉ~、泣きますよ! それは、もう鬱陶しいくらい泣きますよぉ!」

 

遠くに町が見える。周囲を堀と柵で囲まれた小規模な町だ。街道に面した場所に木製の門があり、その傍には小屋もある。おそらく門番の詰所だろう。小規模といっても、門番を配置する程度の規模はあるようだ。それなりに、充実した買い物が出来そうだとハジメは頬を緩めた。

 

「・・・・・・・・機嫌がいいのなら、いい加減、この首輪取ってくれませんか?」

 

街の方を見て微笑むハジメに、シアが憮然とした様子で頼み込む。シアの首にはめられている黒を基調とした首輪は、小さな水晶のようなものも目立たないが付けられている

 

かなりしっかりした作りのもので、シアの失言の罰としてハジメが無理やり取り付けたものだ。何故か外れないため、シアが外してくれるよう頼んでいるのだがハジメはスルーしている。

 

そろそろ、町の方からもハジメ達を視認できそうなので、魔力駆動二輪を〝宝物庫〟にしまい、徒歩に切り替えるハジメ達。流石に、漆黒のバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。

 

道中、シアがブチブチと文句を垂れていたが、やはりスルーして遂に町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。

 

格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男がハジメ達を呼び止めた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。ハジメは、門番の質問に答えながらステータスプレートを取り出した。

 

「食料の補給がメインだ。旅の途中でな」

 

ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男がハジメのステータスプレートをチェックする。そして、目を瞬かせた。ちょっと遠くにかざしてみたり、自分の目を揉みほぐしたりしている。その門番の様子をみて、ハジメは「あっ、ヤベ、隠蔽すんの忘れてた」と内心冷や汗を流した。

 

ステータスプレートには、ステータスの数値と技能欄を隠蔽する機能があるのだ。冒険者や傭兵においては、戦闘能力の情報漏洩は致命傷になりかねないからである。ハジメは、咄嗟に誤魔化すため、嘘八百を並べ立てた。

 

「ちょっと前に、魔物に襲われてな、その時に壊れたみたいなんだよ」

 

「こ、壊れた? いや、しかし・・・・・・・・」

 

困惑する門番。無理もないだろう。何せ、ハジメのステータスプレートにはレベル表示がなく、ステータスの数値も技能欄の表示もめちゃくちゃだからだ。

 

ステータスプレートの紛失は時々聞くが、壊れた(表示がバグるという意味で)という話は聞いたことがない。

 

なので普通なら一笑に付すところだが、現実的にありえない表示がされているのだから、どう判断すべきかわからないのだ。

 

ハジメは、いかにも困った困ったという風に肩を竦めて追い討ちをかける。

 

「壊れてなきゃ、そんな表示おかしいだろ? まるで俺が化物みたいじゃないか。門番さん、俺がそんな指先一つで町を滅ぼせるような化物に見えるか?」

 

両手を広げておどける様な仕草をするハジメに、門番は苦笑いをする。ステータスプレートの表示が正しければ、文字通り魔王や勇者すら軽く凌駕する化物ということになるのだ。例え聞いたことがなくてもプレートが壊れたと考える方がまともである。

 

実は本当に化物だと知ったら、きっと、この門番は卒倒するに違いない。いけしゃあしゃあと嘘をつくハジメに、ユエとシアは呆れた表情を向けている。

 

「はは、いや、見えないよ。表示がバグるなんて聞いたことがないが、まぁ、何事も初めてというのはあるしな・・・・・・・・そっちの二人は・・・・・・・・」

 

門番がユエとシアにもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でユエとシアを交互に見ている。

 

ユエは言わずもがな、精巧なビスクドールと見紛う程の美少女だ。そして、シアも喋らなければ神秘性溢れる美少女である。つまり、門番の男は二人に見惚れて正気を失っているのだ。

 

ハジメがわざとらしく咳払いをする。それにハッとなって慌てて視線をハジメに戻す門番。

 

「さっき言った魔物の襲撃のせいでな、こっちの子のは失くしちまったんだ。こっちの兎人族は・・・・・・・・わかるだろ?」

 

その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷いてステータスプレートをハジメに返す。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族なんて相当レアなんじゃないか? あんたって意外に金持ち?」

 

未だチラチラと二人を見ながら、羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番がハジメに尋ねる。ハジメは肩をすくめるだけで何も答えなかった。

 

「まぁいい。通っていいぞ」

 

「ああ、どうも。おっと、そうだ。素材の換金場所って何処にある?」

 

「あん? それなら、中央の道を真っ直ぐ行けば冒険者ギルドがある。店に直接持ち込むなら、ギルドで場所を聞け。簡単な町の地図をくれるから」

 

「おぉ、そいつは親切だな。ありがとよ」

 

門番から情報を得て、ハジメ達は門をくぐり町へと入っていく。すると、入ってすぐの広場のところで、聞きなれた声がする。

 

「おーい、ハジメ―」

 

「おぉ、ユーマか。お前も無事に入れ・・・・・・・・はっ?」

 

ユーマの声である。しかし、そんな彼女の姿は変わっていた。

 

「お前、その姿・・・・・・・・」

 

ユーマの姿は、髪の色が紫になった程度の違いしかない、真由美の姿そのものだったのだ。

 

「あぁ・・・・・・・・まぁ、そういうことだ。パスが完全につながった」

 

「じゃあつまり・・・・・・・・」

 

「目覚めたよ。この体の本来の持ち主(真城 真由美)がね」

 

ハジメたちは、唖然としていた。

 


 

ユーマside

 

どうも皆さん、ユーマでございます。えぇ、分かってます。分かってますとも。ちょっと真由美さん治るの早すぎませんかねぇ・・・・・・・・?(震え声)

 

あなたエリセンまで目覚めないとか言ってませんでしたっけ?心の準備がまだ出来てないんですがあの・・・・・・・・

 

(気にしなくて構いませんよ。それに、あの中では魔力の循環がとてもしやすかったので予想よりも早く復活することができました)

 

だわぁ!?びっくりしたぁ。心臓に悪いなぁもう。まぁ、それは良かったです。ハジメたちもあなたのことをとっても心配してましたよ?

 

(私ごときをこれほどまで心配してくださったのですね。なんてお優しい・・・・・・・・)

 

あー、多分ハジメはあなたのこと好きですよはい。どう考えたって好きでしょあれは。

 

(えっ!?そ、そんな。私の容姿なんてユエさんにも劣るのに・・・・・・・・)

 

・・・・・・・・それ、ユエちゃんの前では絶対に言わないほうがいいっすよ。マジでお怒りになると思います。あなたの方が容姿的に優れてますんではい。

 

(そんな・・・・・・・・。恥ずかしいです)

 

という訳で、はい。とっととハジメの前に出ましょうねー。説明しないといけないんですから。

 

(あっ、ちょっと、ドナドナしないでぇ)

 

問答無用!

 

「ってことが私の頭の中で繰り広げられてましてですね」

 

「む。ユーマ、誰に話してるの?話の途中」

 

「おっとこれは失礼」

 

という訳で皆さま、改めてユーマでございます。えっ?現在何をしてるって?そりゃあもちろん現在の状況確認ですよ。

 

まぁ、この体のオリジナルこと真由美さんが無事に復活されましたので。事情説明の真っ最中なのですはい。あっ、換金はもう済ませましたよ?

 

もう冒険者登録はすませてあるんで。いつの間にやってたとか、お前のステータスプレートないやろとかのツッコミはなしでお願いしたいなぁ。

 

ちなみに私が使ってた真由美さんの技能は真由美さんにお返ししましたよ。んで、元々特典でもらってた同化と魔眼は返してもらいました。

 

ひっさびさの同化の感覚はやっぱいいですねぇ。全力を出しても同化の技能ですぐに再生。しかも、銃まで戻ってきた。これで勝つる。

 

「それで、お前はどうするんだ?ユーマ」

 

ふぇ?何の話?ユーマワカンナイ

 

「何の話って、お前のオリジナルが復活したんだ。お前はオリジナルに統合されんのかって話だよ」

 

あーそれね。私このまま出ることにしますわ。多分再統合してもまた迷惑かけるだろうし。

 

「そんな、迷惑ではありませんよ。あなたが私の中にいてくれた方が私も安心できますし・・・・・・・・」

 

(うまいこと話合わせてくれてんだなぁ)でもそれはオリジナルの話だぜぃ。実際問題、前みたいに重傷を負った時におんなじ状態になったらハジメたちはまた悲しむ。

 

その点その鎧に入ってたら基本は問題ないと思う。なんせこの世界で実現しうる最高強度を誇るんだからそこら辺の有象無象には倒せはしないさ。でもその鎧を着ると今度はこっちの技能が生かせなくなってきちゃう訳で。

 

だからこそ分かれてたほうがいいのよ。結局は。適材適所ってやつ?・・・・・・・・いや、違うか。まぁ、そんな感じだから、戻る気はないよ。

 

「・・・・・・・・分かりました。そこまで言うのであれば納得します」

 

良かった。これで何とかなりそうだ。あそうだ。私少し作りたいものあるからあとの話し合いはそっちでよろしくねー。

 

「あっ、おい待てユーマ!」

 


 

ってなわけで新しい真由美さん用の鎧を作っちゃいましょう。あの迷宮だと小回り効かないからね。ん?お前の技能じゃ作れないだろって?・・・・・・・・いやね?なんか知らんけどハイリヒ王国にいるはずの亡からなんか技能が送られてきたんだよ。

 

何を言ってるのかわからねぇと思うが俺にもわかんねぇ。・・・・・・・・んで、その技能って言うのが[機鎧複製]って技能。簡単に言えば真由美さんの持ってた技能の上位互換。同化の能力につく付加技能っぽくて、同化の力さえ使えばパワードスーツ

 

程度の大きさで機体を”再現”できるんだよね。しかも色々変更したり追加したりできるというチートっぷり。ってなわけでこの技能を使って、ちゃちゃっと作っちゃいましょう。なにを作るって?ふっふっふー、それはね、ASだよ。

 

《TS人外 パワードスーツ作成中・・・・・・・・》

 

できた!ミスリル陣営ASのM9とアーバレスト!しかもM9は狙撃仕様と格闘戦仕様の二種類あるよ。マ〇機とク〇ツ機だね。アーバレストにはもちろんラムダ・ドライバがついてますよ。でもAIであるアルにはちょっち手を加えさせていただきました。

 

具体的にはラムダ・ドライバの発動の補助に関するプログラムを大幅に上方修正しました。これで発動しない!ってことにはならないと思います。さてと、これを格納するための何かを作らないとなんだよねぇ。どうしたもんか・・・・・・・・おっと、誰か来たようだ。

 

はーい今出ますよ。

 

「ゆ、ユーマさん!」

 

お、シアさんじゃん。どったの?

 

「今すぐ広場に来てください!ユエさんと真由美さんがぁ!」

 

えっ?




今回は短いですがここまで。いやぁ、予想よりも早くに真由美さんを復活させることができました。そして、アナザーsideへの伏線も少しあったりします。さて次回かその次あたりにはライセン大迷宮に入れるようにしたいと思います。

そしてアナザーsideを挿んだらいよいよ新オリキャラ登場の第三章が始まる予定です。こうご期待!それでは皆さん、また次回お会いいたしましょう。


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第十八話 覚醒。その名はオーバーロード

前回までの三つの出来事

一つ ユーマたちはライセン大迷宮へ行く前にブルックの町へとよることになった

二つ ユーマの肉体のオリジナルである真城真由美が目を覚まし、ユーマとのリンクが回復。ユーマの技能が戻った。

そして三つ ユーマは真由美の体に戻るのを拒否し、真由美のための新たなパワードスーツを作成した


三人称side

 

ハジメたちが入れるようあらかじめ予約しておいた部屋で作業をしていたはずのユーマはシアに呼び出された。

 

「ユーマさん速く来てください!私とハジメさんだけでは止められないです!」

 

「おいちょっと、待ってくれ!いったいどういうことか説明してくれ!」

 

「んなもん見ればわかります。とにかく来てください!私にはもう手の施しようがありません!というかあんな中に入りたくない・・・・・・・・」

 

「訳が分かんねぇ・・・・・・・・」

 

ユーマは愛銃を手にシアへとついて行く。シアに連れられてきたのは先ほど合流した広場だった。

 

「ここです!」

 

「いったい何があ・・・・・・・・って?」

 

ユーマが見た光景は信じられないような光景だった。そこにあったのは、何かを吹かしたせいで出来たのであろう円形の黒いあとと、魔法でやられたのであろう焦げ跡と炎。

 

そしてその地面のはるか上、上空では金髪のロリっ子と白いアーマーが何やら争っているのが見えた。

 

「ハジメ!いったい何なんだこれは!」

 

「いや・・・・・・・・それがだな・・・・・・・・」

 

「私たちにもわからないんです。真由美さんと話していたら、突然ユエさんが怒り始めて・・・・・・・・」

 

「状況がつかめないな。ハジメ、いったいどういうことか説明を頼む。」

 

「・・・・・・・・さっき、久々に真由美との会話に花を咲かせていたんだが・・・・・・・・」

 

ハジメはここに至るまでの理由を説明しだした。

 


 

ユーマが先に宿へと向かった後、残った四人は話に花を咲かせていた。

 

「改めて、私の名前は真城真由美といいます。皆さん、よろしくお願いしますね」

 

「シアといいます。真由美さん、よろしくですぅ!」

 

「そう言えばあなたと”私”が面と向かって話すのはこれが初めてですかね。初めまして、ユエさん」

 

「・・・・・・・・ん。よろしく」

 

「どういうことだ?シアはともかくユエとはあってるはずだが?」

 

「あの時私の人格はそのほとんどをユーマ・・・・・・・・もう一人の”私”に渡していましたから。体だけ私で、人格は”彼”というのが一番わかりやすい例えですかね」

 

「つまりがわだけだったと?」

 

「えぇ。奈落に落ちた時点で私は気絶していましたから」

 

「成程な。まぁそれはどうでもいいか。とにかくお前が戻ってきてくれてよかった。真由美」

 

「えぇ、ご迷惑をおかけしました。ハジメ”君”」

 

「・・・・・・・・ほんと、いい迷惑」

 

「ユエさん!?」

 

「おいユエ。流石に言い過ぎだぞそれは」

 

「私たちの旅のお荷物になってる。それなのに”これ”を守ってるハジメの気持ちがわからない。どうして”これ”を守るの?」

 

「彼女はこの旅の役に立つ、立派な戦力だからだ。奈落での戦いを忘れたのか?」

 

「違う!あれはユーマの力だ!これの力じゃない!」

 

「ユエさん!」

 

「うるさい!シアは黙ってて!」

 

「ユエ?お前さっきからどうしたんだ?」

 

「ハジメは最初から私を見てくれてなんていなかった!あの日!あの部屋で初めて会ったハジメは!私じゃなくて、私を守るという行為をだしにして、笑顔になった真由美を見ていたんだ!さっきもそうだ!ハジメは私なんかよりもずっと嬉しそうにしてた!」

 

「ユエ・・・・・・・・」

 

「ユエさん・・・・・・・・」

 

ユエのそれは、まるでユエの心の裏側を独白しているような、そんな感じだった。しかし、彼女はもう止まらない。

 

「こんなはずじゃなかった!真城真由美!貴様さえいなかったらハジメは!私のものだったんだ!」

 

ついに言ってしまった。ユエの、真由美への明確な拒絶の意思。ユエは、真由美を入らないもの、現代風に言うとすればガンのようなものだという認識を言葉で表してしまった。

 

「おいユエ!もうやめろ、それ以上言うならたとえお前でも容赦しないぞ!」

 

「やっぱり・・・・・・・・私なんかより、真由美の方が大事なんだ。私のことなんて少しも大切になんてしてくれてなかったんだ!」

 

ユエは、その手に炎の剣を宿し、真由美に切りかかる!

 

「くっ!」

 

ハジメはドンナーを抜き放ち、その剣を狙って引き金を引く。しかし、その銃弾は剣に当たったと思いきやその灼熱の炎で一瞬で蒸発してしまった。

 

ユエの剣は止まることなく真由美の頭をロックしている。

 

「死ね!真城真由美っ!」

 

そしてユエはためらうことなくその剣を真由美の脳天へ振り下ろした。

 

      〝ガキンっ!〟

 

その剣を防いだのは、ユーマが作ったアーマー、ホワイト・グリントだった。ホワイト・グリントはユエの剣をレーザーブレードで止めている。その間に真由美は急いでアーマーを着こむ。

 

「くそっ!邪魔だっ!」

 

ユエは鍔迫り合いを力技で払うと、剣を横に薙いだ。それはホワイト・グリントの腹部に当たり大きく後方へと吹き飛ばす。

 

「真由美さん!うわっ!?」

 

シアがユエを助けに行こうとするが、それより早くユエが炎の剣を持って真由美のもとへと飛翔する。

 

「貴様さえいなければ、ハジメは私のものになってくれたはずなのに!貴様がすべてを奪ったんだっ!」

 

「待って!話を聞いてください、ユエさん!」

 

「貴様のいうことなど聞くものか!」

 

ユエは何度も何度も切りつける。そしてそれに耐えられなくなりつつあった真由美は、ブースターを吹かし、上空へと飛び立った。そして現在に至る。

 


 

「やっぱり駄目だったか・・・・・・・・」

 

「ダメだったとは?」

 

「ユエちゃんってさ、コンプレックス持ってたみたいなんだよね。私のオリジナル(真城 真由美)にさ。『私はハジメのことをこんなに愛してるのにそれをオリジナル(真由美)がとっていった』みたいな」

 

「えっ!?」

 

「なにっ!?」

 

2人はそれを聞いて驚く。

 

「きっかけは樹海での一件の直後だったかな?なんとなく視線が怖くてね。なんかあると思っていたが、こりゃ当たりだったわけだ」

 

「そんなことが・・・・・・・・」

 

「もとはと言えばハジメの女誑しが原因だと私は思うがね。全く、奈落で身を重ねた相手を放っておくとかどこかの”死んで喜ばれる主人公”みたいじゃん。だめだよ、ちゃんと自分の気持ち伝えないと」

 

「あ・・・・・・・・あぁ。そうだな」

 

ハジメはどこか反省している様子。しかし、ユーマはユエを見て何か違和感があることに気づいた。

 

「・・・・・・・・やっぱり、何かがおかしい」

 

「おかしいとは?」

 

「ねぇシアさん。樹海でユエちゃんとやりあったんだよね?」

 

「はい。旅の同行の許可へ口添えをしてもらう条件だったので・・・・・・・・」

 

「その時さ、ユエちゃん君に接近戦仕掛けたことってある?魔法じゃなくて物理的に、インファイトってやつ」

 

「いえ、そんなことはありませんでしたよ。魔法ばかりでああいう風に剣を生成して振り回す真似なんて一切・・・・・・・・あっ!」

 

「気づいたみたいだね。そう、ユエの適性は剣士じゃなくて魔導士。つまり私みたいなインファイターじゃなくて後方でどでかい一発を撃つようなタイプ。それなのに今は剣を使ってる。いくらオリジナルが憎いからってわざわざ自分の得意な距離を捨てると思う?」

 

「そんな真似はしませんね。私もユエさんと戦った時、離れちゃいけないって思ってずっと張り付いてましたから」

 

「あのユエが得意な距離を捨てるわけがない・・・・・・・・。それ以前にそんな感情を表に出すようなタイプじゃなかったはず・・・・・・・・。じゃあまさか・・・・・・・・。もしこの推理が当たってるならまずい!」

 

「まずい?いったい何が?いや今のままでも十分まずいですけど・・・・・・・・」

 

「精神支配だ!何らかの外的要因で精神が操られてる!意図的に負の感情を増幅させて対象を敵視するように仕向けてるんだ!目的は恐らく、・・・・・・・・危険度の高いイレギュラーの抹殺」

 

(くそっ!何でこんなことに気づかなかった!樹海での一件から明らかにユエらしからぬ行動ばかりしていたのに!ぬかった!)

 

既にユエの体には見覚えのない漆黒の鎧のようなものが発生している。恐らく、アクティブで起動するプログラムだったのだろう。鎧はその自己防衛プログラムの最終段階といったところか。

 

ユーマは相棒である、リボルバーを取り出した。が、それと同時に真由美の動きが変わった。今まで防戦一方だった真由美とユエの立ち位置が逆になったのだ。

 

真由美は目で追えないほど早くなり、ユエはその速度から繰り出される攻撃に対応できなくなってきていた。確かにホワイト・グリントの加速性能は高い。あそこまでの加速を可能とはしているが

 

真由美自身、動かしたのはつい先ほどが初めてだったはずだ。それなのにあんな風に使いこなせるのは不自然だ。

 

(まず第一にあのユエちゃんが追い付けないほどの速度を真由美さんが出せるはずがない。経験がない人間があそこまでのことをすれば手に余るのは間違いないんだけど・・・・・・・・何かが起こった?)

 

『其方よ』

 

「えっ?」

 

それは唐突に知らされた。

 


 

ユーマside

 

『其方よ』

 

えっ?じっちゃん。どうしたのいきなり

 

『あのものに何か変化があったようじゃぞ』

 

変化?それって何?あの現象と何か関係があるの?

 

『どうやらその様じゃ。まさか適合者がおるとは・・・・・・・・』

 

適合者?ごめん全く話が見えてこないんだけど、ドユコト?

 

『あのもの、真城真由美には適性があったのだ。その名も”超越する者(オーバーロード)”』

 

オーバーロード?ナニソレ。何かの能力?

 

『かつて我々が作った抑止力。髪は同じ神を撃破せしめる能力はない。その絶対権を与えられるのは全知全能の神の力を持つ者だけだ。

 

我々はもし、全知全能の神が何らかの理由で暴走した時の保険を用意しようとした。それの試作品が”超越する者(オーバーロード)”だ。

 

ある特定の条件と適性がないと適合者にはなれない諸刃の剣にして、特別な能力だ。最も、転生システムが開発されてからはお蔵入りになったがな』

 

へぇーそんなものが。・・・・・・・・それで、その効果は?

 

『最初に現れるのは、五感、特に視覚の変化だ。それに伴って、反応速度、情報処理能力、空間認識能力が上がり、まるで周りが遅く見えるような現象に陥る。あのものの動きが変わったのもそれだろうて』

 

そんな能力が、真由美さんに?

 

『あぁ、まさかあの乙女が覚醒するとは思わんかった。案外侮れんな、あの乙女は』

 

ふむ・・・・・・・・、やっぱりなんかあるな。真由美さんには。・・・・・・・・ってそんなことはどうでもいい!さっさと二人を止めなきゃ!

 

『その必要もなさそうだぞ?』

 

見上げた先には、剣を鎧の胸部の中央に突き刺している真由美さんと、体から何か黒い靄が出て苦しんでいるユエの姿があった。

 


 

三人称side

 

時は少し巻き戻る。ユーマがゼウスと話している直前、上空で戦っている真由美は、ユエに押されていた。機体は各所がボロボロで、ツインアイセンサーも、片側が切られ、使い物にならなくなっている。

 

ユエが持つ炎の剣はいつの間にか鎌状へと変形している。ユエは真由美に次々と攻撃を当てその機体のダメージをどんどん高めていく。そしてついに、ユエの鎌は真由美の正面を捉えた。

 

「貴様を切り刻んで、私はハジメの一番になるっ!」

 

その鎌は、真由美を切り裂かんとその凶刃を押し込む。

 

(このままじゃ・・・・・・・・”死ぬ”!)

 

その刃は止まらない、確実に切断せんと迫る。それは映像にノイズが走り始めている真由美のモニターにも表示されていた。漆黒の鎧を身にまとい、目を紫色に輝かせている風貌は

 

さながら死者の世界に引きずり込まんとする死神のそれだ。

 

「・・・・・・・・けて」

 

その時、真由美が何かを呟いた。

 

「・・・・・・・・けて!」

 

それはだんだんと大きくなるっ!

 

「負けて、たまるかぁ!」

 

真由美が、吼えた。ユエを見るその目は赤色に輝いていた。真由美はユエの鎌を弾くのではなく後方に流す。

 

「なにっ!?」

 

それと同時に真由美が視界から消えたことでユエは混乱する。が、次の瞬間、真由美の駆るホワイト・グリントが目の前に現れ、その剣でユエの鎧を突く。

 

にぶい金属音がし、ユエは後方に大きく押される。

 

「バカなっ!?真由美にこれほどの力はなかったはず!ぐはっ!?」

 

また真由美がユエの鎧を突く、ユエはそれと同時に鎌を振り下ろすが、避けられ、素早い移動で真由美は視界から消える。すると今度は後ろから切られ、ユエが後ろを向いて鎌を振り下ろせば、今度はその背後をまた切る。

 

ユエの攻撃はほとんど先読みされているが如く当たらない。

 

「なんだ・・・・・・・・あれ?」

 

「いったい、何が起きているんですか・・・・・・・・」

 

ユエは距離を取り一気に飛翔しそのままの勢いで切断しようとするが、それを見る真由美はその光景はまるで止まっているように見えた。

 

(なに・・・・・・・・これ?)

 

真由美はユエのその攻撃をものともせずに、ユエの鎧の胸部を剣で突く。そしてそのまま雨あられと切り続けていく。そしてユエは大きく後方に吹き飛ばされる。

 

その瞬間、真由美は持ってる剣を刃を上に向けて刀での突きのような構えを取った。

 

『Laser blade, maximum power』

 

ホワイトグリントの武器管制AIがそう告げる。すると手に持っていたブレードの輝きが増した。そのブレードを持ち真由美はホワイトグリントの最大加速でユエへと突っ込む。

 

そしてそのまま右腕を前に突き出し、ユエのアーマーの胸部中央へとブレードを突き刺した。

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

 

鎧の胸部中央を突き刺したことで、何かが砕けたのか鎧とユエの体から黒い霧が出始めた。それと同時にユエがおよそ本人には似つかわしくないような悲鳴を上げる。

 

真由美はさらに剣を突き刺した。それで完全に鎧は砕け、その悲鳴は断末魔となり消えていく。そしてユエの体から出ていた黒い霧は靄となって空へと消える。そしてユエは意識を失い落下していく。

 

「よっと!危ないなぁ」

 

それをユーマがキャッチすることで最悪の事態は免れた。が、真由美の方もやばかったのであった。鎧に剣を突き刺した右腕から漏電のような現象が起き、その数秒後、大きな音を立てて爆発し砕け、生身の腕が露出してしまった。

 

そのままの状態で真由美はアーマーごと落下していく。あらかじめユーマが仕込んでおいたパージプログラムが発動し、真由美はホワイト・グリントから排出される。

 

ハジメは、縮地を使い真由美のもとへと飛ぶ。空中でキャッチするとそのまま落下し、うまいこと衝撃を吸収する。真由美もまた落ちることはなかった。

 

そこへユエを受け止めたユーマが下りてくる。

 

「真由美は無事?」

 

「あぁ。気絶してるだけみたいだ、外傷はなさそうだし、出血もない。問題ないだろう。ユエは?」

 

「同じだ。気絶しているだけみたい。精神支配もなさそうだね。良かったよ」

 

「二人とも無事でよかったですぅ!」

 

「とにかく宿まで運んじゃおう。二人にはシアがついていてくれる?」

 

「分かりました!」

 

こうしてユーマたちは真由美たちを連れてユーマがとっていた宿へと向かったのだった。

 


 

ここはユーマがとっていた宿。その一室にユーマとハジメはいた。

 

「やっぱり、仕掛けられてたね。精神支配をするための魔法」

 

「あぁ。くそっ!質の悪いもんつけやがって」

 

「でも、幸いなことに迷宮で発動する前にこれが見つかってよかったよ。流石に連戦であれと戦うのはいささかきついものがあるしね」

 

「不幸中の幸いだな。でも、不甲斐ねぇな」

 

2人と宿に連れてきた後、ユエに簡単な身体検査を実施。すると出て来たのは魔術の刻印だった。アクティブに起動するタイプの術式であり、周りの情報を常に収集しているようだ。

 

しかし、その用途がそもそも違ったのだ。

 

「でもこの魔法、イレギュラーの排除じゃないんだよね?」

 

「あぁ、恐らくユエ以上の脅威になるか一定値以上の負の感情が貯まると発動するもののようだ。まるでNT-Dだぜ全く」

 

NT-D、機動戦士ガンダムUCの主人公 バナージ・リンクスが駆る機体ユニコーンガンダムに搭載されたシステム。ユニコーンを作った技術者にはニュータイプドライブという名で説明されたシステム。

 

しかし正式名称はニュータイプデストロイヤーという、ニュータイプ殺戮用のシステムだった。それはニュータイプを感知すると勝手に起動し、ニュータイプと同等の戦闘技術を与えるやばい代物。

 

この魔術にはこのシステムと似た部分がある。

 

「とにかく今は、一刻も早くシアの武器を完成させて戦力の増強ね。この先何が起こるか分からないから」

 

「そうだな。・・・・・・・・さて、俺はシアのところに行ってくる。武器のすり合わせをしておかないとな」

 

「うん、頑張って」

 

ハジメは部屋から出て行った。

 

「さってと、こっちもこっちでやりますか」

 

ユーマはベッド際に置いてある大きな扉を開ける。そこには胸部と脚部以外ほとんど原型が残っていないかつてのアーマー、ホワイト・グリントが鎮座していた。

 

「フレーム類は完全にイかれてるね。やっぱ新造するしかないかなぁ。とするとやっぱりあれかな?じゃあこのパーツをこうして・・・・・・・・」

 

ユーマのアーマー修理?作成は翌日まで続いたそうな。




ここまで視てくださって誠に感謝いたします!さて、次回はいよいよライセンへと向かいます。・・・・・・・・んで、今回の戦闘シーンはまんまダンボール戦機ウォーズのオーバーロード覚醒回のドットフェイサーVSグルゼオンをパk・・・・・・・・リスペクトしました。

ユエが身にまとっていたものもグルゼオンの顔だけないバージョンだと思ってくれればそれで問題ないかと思います。オーバーロードに関しても設定はまんま劇中の通りです。タグ追加しておかないとね。

さて、裏話をしたところで今回はここまでです。また次回お会いいたしましょう。さようなら!


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第十九話 ライセン大迷宮へ

『存在』と『虚無』の力は神をも屠る前回までの三つの出来事

一つ ユエは突然真由美に勝負を挑んだ。

二つ 真由美は新たな力、オーバーロードに覚醒した。

そして三つ ユエは何かの精神支配で負の感情を増幅させられていた。


 

三人称side

 

刻印術式が見つかった後、ユーマはしばらく部屋で何かをしていた。それはハジメも同じだった。ハジメはシアのために槌状武装、ドリュッケンを作成。シアのとてつもない身体強化の力を最大限に引き出すために作られた武器である。

 

既にドリュッケンを受領したシアは、町の外に出てトレーニングを積んでいる最中だ。(なおこのトレーニングをさせるため、ユーマが冒険者として依頼を一件引き受けている)

 

ユーマの方も作業を終わらせた。作ったものは白銀の騎馬兵の持つ槍のような形をした身の丈ほどある巨大な武器だった。そう、それはザインやニヒトに限らず、多くの竜宮島ファフナーパイロットが使っていた武器、”ルガーランス”である。

 

ユーマが亡から受け取った技能【機鎧複製】の追加技能に、[+想像武器複製]という、頭の中に浮かべたものをもとに同化の力でそれを再現するというものである。はっきり言ってますますチートが加速していると思うのは私だけであろうか?(By作者)

 

もっとも同化の力がなければゴミ同然の技能なのでユーマ以外には使いこなせないが。そんなことをしているうちにすでに三日が経過していた。既にユエと真由美は目を覚ました。ユエはあの漆黒の鎧を着ていた時の記憶がなく、真由美は頭が痛いと愚痴をこぼしていた。

 

そんな中、ユーマはハジメに一つの提案をする。

 

「あの鎧をまたユエに使わせるだと!?」

 

ハジメは叫ぶ。当然だ、あまつさえユエの体を乗っ取り、真由美を殺そうとしたものをまた使わせようとしているのだから。

 

「あぁ。その方が戦力になると思うんだ」

 

「だがあれを使わせてまた暴走でもしたらどうするんだ!」

 

「それをなくすためにあの術式を改変する必要がある。それにはもう一度あの術式を起動するしかない。責任は私が負う、だからやらせてくれ!」

 

ユーマは土下座をする。その姿にはしっかりとした覚悟が垣間見えた。ハジメは少しの間黙る。考えているのだ。再びあの鎧を起動していいものなのかを。

 

「・・・・・・・・分かった。やってみてもいい。だがもし失敗したら、ユエのあの術式を壊してお前を殺す。これは絶対条件だ」

 

「うん。分かってるよ。万が一の場合はユエを止める。そしたら私の管理責任の問題だ。撃ち殺すなりすればいい」

 

「わかってるならそれでいい。それで、どうするんだ?あの鎧をどうやって起動する?」

 

「あの術式は一定の敵意を感知すると自動的に起動するというアクティブなものだ。今回はそれを利用する。ようはプレッシャーを思いっきりユエにぶつけて故意に起動しようって腹だ」

 

「確かにその方法が手っ取り早いな。んで、そのあとはどうするんだ?」

 

「私に考えがある。最もこの考えはある種の博打だがね」

 

(もし、もし本当に俺の考えが当たってるなら、行けるはずだ)

 


 

ユーマたちは町を出る。町から出てすぐには草原が広がっている。そこに、ユーマとユエが向かい合って立っている。

 

「ごめんねユエちゃん。こんなことに付き合わせて」

 

「ん。別にかまわない。ユーマたちには迷惑をかけた。それに、ハジメたちを守る力が手に入るんだったら、なんだってやる」

 

「そう言ってくれると助かるよ。じゃ、始めるよ」

 

「ん。いつでも来て」

 

ユーマは息を大きく吸い、魔眼を発動する。

 

(人式:恐慌の魔眼)

 

ユーマの両目に紋章が現れる。それと同時にあたりに強力なプレッシャーがまき散らされる。その威力はハジメの殺気をゆうに超える。

 

そんなものを当てられれば、誰でも危険人物だと感じるだろう。それは、魔法も変わらない。ユエの周りに黒い靄が発生した。魔法陣が起動したのである。

 

その魔法はユエの意識を奪い、別な心を作り出す。ユエとは全く違う別の誰かになり替わる。そうすることで、所有者に一切の抵抗をさせることなく”敵”を排除することができる。

 

魔法が刻まれたものに絶望を、敵には終焉を。そのような目的で作られたそれが、再び牙をむく。

 

「始まった!ハジメ、真由美さん、シアちゃん下がって!」

 

「分かった。頼むぞユーマ」

 

「必ずユエちゃんを連れ帰ってきてね」

 

「どうか二人ともご無事で」

 

「ありがとう。任せて!」

 

ユーマは再びユエの方を見る。

 

(この魔法を作った人物が誰なのかはわからない。でも、この魔法から何となく感じるんだ。憎しみを、かつての海神島のミールのような激しい憎しみを)

 

「今、私がその憎しみから解放する。これが私の、祝福だ!」

 


 

ユーマside

 

さて、大見栄切ったからには絶対に成功させなきゃね。

 

『其方よ』

 

(ん?どったのじっちゃん。これからちょいと仕事こなさなきゃなんだけど?)

 

『かの者を蝕むあの魂、どうやって御すつもりだ?』

 

(あ、やっぱり魂なんだ、あれに使われてるの。)

 

『どちらかと言えば思念体に近いものだ。人間でいう憎悪、憎しみの感情を増幅し、内包しているのだろう。そしてそれがある種の人格を形成している。まるで心のように』

 

(そこまで分かるんだ。まぁでもおおよそ予想通りかなー)

 

『最初から分かっていたという訳か?』

 

(うんまぁ、あくまで推測だったけどね。この世界の技術背景を考えると、強力な自己暗示とか催眠とかはまだ解明されてない。そしてそれがなければ魔法で再現することすらできやしない。それなのに当の本人には記憶がない、つまり催眠状態の様なものに陥っている。

 

そこまで考えたらもう答えは一つしかないよね。別の人格を用意すればいいんだよ。俺が真由美さんの体に入っていた時みたいにね。)

 

『なるほど。確かにそこまで条件が絞り込めているなら想像はできるか。それで、どうやってかの者を助けるのだ?』

 

(心があるなら話は簡単。その心を消してやればいい。そうすればユエの人格が前面に出てくるから制御することが可能になる。後は当人に魔法を改造してもらえばいい。人の命が使われているなら私もためらったけど、思念からできたものなら心置きなくやれる。)

 

『そこで其方の力の出番という訳か』

 

そう、同化の力。フェストゥムが使った力。心に侵食し相手を同化する。でも、これは賭けだ。もしユエの体ごと同化するのであればこの方法はできない、あとは魔法陣を破壊するしかない。

 

『我とて細かい未来を観測できるわけではない。ただ、今のところは成功するようだぞ。其方の検討を期待する』

 

(そう言ってくれてありがとう。さて、やりますか!)

 

私は前を向く。その目には今にも突撃せんとするユエの、いや魔法陣に組み込まれた憎しみの心が映っている。

 

(憎しみは確かにわかる。でも、憎しみは特定の人物にのみ向けることを許される。不特定多数には向けちゃいけないんだ。だから、止めてあげる。あなた達の憎しみを。)

 

右手を前に突き出す。その腕が金色に輝く。そして目の虹彩の色が金色に変化する。準備万端、お決まりのあのセリフを私は口にする。

 

(あ な た は そ こ に い ま す か ?)

 

右手の輝きが増す。それと同時にユエに張り付いていた鎧が苦しみはじめ、その体が翡翠色の結晶に包まれる。

 

憎しみの塊が、心のようなものが今同化されたんだ。

 


 

三人称side

 

ユエをおおっていた黒い鎧が翡翠色の結晶体に包まれた。それを見たハジメはあろうことか、ドンナーを取り出した。シアがそれを見て慌てて止める。

 

「ちょっとハジメさん!?何をしようとしてんですか!」

 

「今すぐあれを止めさせる!あの野郎、俺との約束を破りやがった!絶対に殺す!」

 

「そんなことユーマさんがするわけないじゃないですか!ユーマさんは絶対に約束を破ったりするはずがないじゃないですか!きっとあれも作戦の一つなんです!だから抑えて・・・・・・・・」

 

「どけ!邪魔をするな!」

 

「いいえどきません!私はユーマさんを信じてます!必ずユエさんが戻ってくるって信じてます!ハジメさんは、ユーマさんが信用できないんですか!?」

 

「できるはずがねぇだろ!真由美の中に生まれたぽっと出の別人格、そんなものをおいそれと信じられるほど甘くはねぇ!」

 

「じゃあ今までの行動は何ですか!あのお互いに信用していたようなあの行動は嘘だったと!?」

 

「そうだ!真由美が戻ってくるかどうか確かめる必要があったからな、利用させてもらった!だがな、真由美が戻ってきた。そうすればあいつは用済みだ!心配だったのさ、やつが真由美の体に戻ってまた乗っ取るかもしれないってな。

でもその心配はなくなった!あいつはそのまま残っている。これで邪魔なアイツを消すことができる!確かに奴の力は魅力的だがあいつは俺の元クラスメイトより信用できねぇ!」

 

ハジメは最初っからユーマを信用などしていなかったのだ。ただふりをしていただけで、利用し続け、用済みになれば切り捨てる駒。それがハジメがユーマに抱いていたものだった。

 

「そんな・・・・・・・・そんな風に思ってるなんてっ!」

 

シアは激昂した。自分が見たあの光景は嘘だったのだと暗につきつけられて、頭に血が上っていたのだ。シアはドリュッケンを取り出した。ハジメを止めるために。

 

真由美はただ手を前で合わせ目をつぶっている。まるでシスターが祈りをささげているように。その時、うめき声のようなものが聞こえた。

 

ハジメとシアは驚いて上を見上げる。声を上げたのはユエ・・・・・・・・、ではなくユーマだった。見るとユーマの体もほとんどが翡翠色の結晶に覆われている。

 

頭しか見えない状態であったのだ。対してユエの方は、翡翠色の結晶は消えており、その鎧の見た目が変化していた。白をメインカラーに赤が混ざったような見た目の鎧に変化していたのだ。

 

(見た目はまんまドッ〇ブラス〇イザー by作者)

 

「ん・・・・・・・・んぅ?」

 

ユエが目を覚ました。いまいち状況が把握できていないだろうか?辺り一帯を見回している。

 

「ユエッ!」

 

「ハジメッ!」

 

その眼下でハジメがユエのことを呼ぶ。ユエはハジメの方を向き鎧を着たままハジメの方へ降りていく。そしてそのまま抱き合った。

 

「ユエ、いったい何があったんだ?」

 

「声が、した。私の姿をした何かが、私の体をよこせって。でも、そのあとにユーマの声がした。『君はまだここにいろ。そっちに行っちゃだめだ』って」

 

「何っ!?」

 

「ユーマ、『そのままそれを否定しろ』って言った。『まだここにいるって叫べばいい』って。だから、まだ私はここにいるって叫んだ。そしたら目が覚めた」

 

「じゃあ、アイツは本当にユエを助けるつもりで・・・・・・・・じゃあなにか?俺は恩人を手にかけようとしたのか?」

 

ハジメはようやく、自身が何をしようとしていたのかを知った。ユーマはちゃんとハジメの約束を守っていたのだ。そしてきっちりユエを取り戻し新たな戦力まで与えてくれた。

 

「これで分かりましたよねハジメさん。ユーマさんは約束を守るひとだって。だから、信じてあげましょうよ。」

 

「シア・・・・・・・・、あぁ。お前の言うとおりだったよ。あいつを信じれてやれなかった。これからはもう少し信用することにする。」

 

「全く。素直じゃないんですから・・・・・・・・」

 

ハジメは確かに認識を改めた。シアはそう確信した。そんな中、ユエが口を開く。

 

「ん?真由美。さっきから動いてないけどどうしたの?」

 

「確かに。ユーマさんのことなら真っ先に止めそうな真由美さんですけど・・・・・・・・」

 

その時真由美の口が開いた。

 

「ハジメっ!真由美を連れて皆と逃げろ!」

 

それは、真由美の声で喋ったが真由美が言った言葉ではない。ユーマのものだった。

 


 

「ぐ、うっ!まさか、ここまできついとはね・・・・・・・・ぐぅぅっ!」

 

ユエが解放された直後、ユーマは突然襲い掛かってきた”何か”の痛みと戦っていた。その時の彼女の体は翡翠色の結晶に覆われていた。

 

『大丈夫か其方よ!?』

 

「ゼ、ゼウスのじっちゃん・・・・・・・・、珍しいじゃん。心配してくれるなんて」

 

『そのようなことを言ってる場合ではなかろう!どういうことだ・・・・・・・・、我が与えた力が所有者に牙をむくなぞあり得んはずだ・・・・・・・・』

 

「元々、こういう力だけどね。こいつは・・・・・・・・」

 

『・・・・・・・・どうするつもりだ?』

 

「なに・・・・・・・・、簡単な話だよ。これを・・・・・・・・、抑え込む!」

 

『無茶な!そのようなことをすれば其方の体がどうなるか!』

 

「問題ない。この程度、本来の持ち主だってやってのけたこと。私にできないなんてことはない!」

 

(真由美さん、体を借りるぞ)

 

(大丈夫なのですか!?)

 

(君たちの方が心配だ。私は大丈夫だから)

 

(・・・・・・・・分かりました。)

 

真由美の体とユーマの体が”同期”した。ユーマはそのまま口を動かす。

 

「ハジメッ!真由美を連れて皆と逃げろ!」

 

視線を向ければ驚いたようにハジメたちは固まっている。

 

「もたもたするな!いいから逃げろぉ!」

 

ハジメはそれを聞いて、ユエを抱いたまま走る。シアは真由美を担いで走っていく。

 

(行ってくれたみたいだね。さぁ、始めるぞ!)

 

ユーマはもはや体の部位がわからないくらいの結晶に包まれた両腕を両側に突き出した。

 

「私は、あなた。あなたは、私だ。だから、憎悪に身をゆだねるんじゃなくて、自分のしたいこと、願ってみてよ。選んで、みてよ」

 

ユーマはそう言った。するとユーマの体を包んでいた翡翠色の結晶体が全て砕け散り、辺りには緑色が混ざったようなワームスフィアが広がった。

 

それと同時にあたりに原因不明の突風が吹き荒れ、草木が大きく揺れ始める。避難していたハジメたちはその光景をまじまじと見つめていた。

 

「一体、どうなったんだ?」

 

「分かりません。私にも何が起きたのかさっぱりです」

 

「でも、ユーマは帰ってくる」

 

「そうです。彼が帰ってこないわけありません!」

 

「真由美・・・・・・・・」

 

真由美ははっきりと言い切る。ハジメたちも、ユーマなら大丈夫と謎の確信があった。そしてそれは確証となる。ワームスフィアが晴れるとそこには、目を瞑ったユーマが両手を前に突き出し何かを掬い上げるような格好のまま立っていた。

 

「ユーマ君!」

 

真由美はいの一番にユーマの元へ駆け出す。そのままの勢いでユーマに飛びついた。

 

「おっとっと。どうしたんですか?真由美さん」

 

「私、心配だったんですよ?ユーマ君が戻ってこないんじゃないかって。でも、信じてました。必ず帰ってくるって」

 

(今、”俺”のこと君付けで呼んだ?)「それはそれはご迷惑をおかけしましたね。でも大丈夫ですよ。”俺”はまだここにいます」

 

「はい!・・・・・・・・、あれ?ユーマ君。今、自分のこと俺って言いましたか?」

 

「えっ、俺そんなこと言いましたっけ?・・・・・・・・、あ。ほんとだ」

 

「でも、良かったのかもしれません。あなたは本来・・・・・・・・」

 

「おーい、ユーマ!大丈夫かー!」

 

真由美は何かを言いかけた。が、その時ハジメたちがこっちに走ってきた。

 

「ユーマさん。おかえりなさいですぅ!」

 

「ん。私も無事に帰れた。ありがとう」

 

「それは良かった。頑張った甲斐があったよ。シアさんも、ただいま」

 

2人が声をかける中、ハジメはユーマの前に出て、頭を下げた。

 

「どうしたのハジメ?」

 

「俺はお前に謝らなくちゃいけない。俺はお前を信用できてなかった。あまつさえを前を道具と切り捨て、殺そうとした。お前は分からなかったかもしれないが、謝らせてほしい。本当にすまなかった!」

 

ハジメは深く頭を下げた。そしてハジメはユーマに何を言われてもいいように覚悟を決めた。罵倒されてもしょうがないことを未遂とはいえ自分はしたのだから。しかし・・・・・・・・

 

「なんだ、そんなことか。別にいいよ。気にしてないし。というか、気づいてたし」

 

ユーマから返ってきた返事は、馬頭でも恨み言でもなく、只の許しの言葉だった。

 

「なん・・・・・・・・、で?」

 

「いや、当たり前だろ?こんなぽっと出の得体のしれないものに信用を持てなんて無理な話だろ。というか、”俺”も無理だ。それにハジメは用心深くて、身内を大事にする人種だ。そう思ってても不思議じゃない」

 

「それでも!」

 

「だから、もういいって。大切な人を守りたい気持ちの裏返しだろ?むしろそれは今後ずっと大切にしなくちゃいけないものだと思う。目で見たものすべてが真実じゃないのが世の常だ、気にする必要はない」

 

「ユーマ・・・・・・・・、お前ってやつは全く。優しいな」

 

「優しさは唯一の取り柄だからな。さて、ユエちゃんも無事に戻ってきたことだし、俺たちも行こう。ライセンに」

 

「ん?ユーマ、言い方変わった?」

 

「一人称のことか?いつの間にか変わってた。でも、なんかしっくりくるし、戻さないことにするよ」

 

「確かにな。それにお前の見た目がようやく真由美と区別つくようになったしな。白髪の方がユーマ、黒髪の方が真由美だ」

 

「成程・・・・・・・・、覚えたですぅ!」

 

「そりゃどうも。じゃ、各自準備済ませたら行きましょうかね。トイレとかはすませときなよー!」

 

こうしてユーマたちは無事に仲を取り戻し、ライセン大峡谷へと向かうのだった。

 


 

死屍累々。

 

そんな言葉がピッタリな光景がライセン大峡谷の谷底に広がっていた。ある魔物はひしゃげた頭部を地面にめり込ませ、またある魔物は頭部を粉砕されて横たわり、更には全身を炭化させた魔物など、死に方は様々だが一様に一撃で絶命しているようだ。

 

当然、この世の地獄、処刑場と人々に恐れられるこの場所で、こんなことが出来るのは・・・・・・・・

 

「一撃必殺ですぅ!」

 

ズガンッ!!

 

「・・・・・・・・邪魔」

 

ゴバッ!!ズシャッ!!

 

「うぜぇ」

 

ドパンッ!!

 

「どいてください!」

 

ズガンッ!!

 

「帰りな、お前たちのいるべき場所()に」

 

ギュワァァァ!!!

 

ハジメ、ユエ、シア、真由美、ユーマの五人である。ハジメ達はブルックの町を出た後(ユエシアのファンらしき人々の見送り付き)、魔力駆動二輪を走らせて、かつて通った【ライセン大峡谷】の入口にたどり着いた。

 

そして現在は、そこから更に進み、野営もしつつ、【オルクス大迷宮】の転移陣が隠されている洞窟も通り過ぎて、更に二日ほど進んだあたりだ。

 

【ライセン大峡谷】では、相変わらず懲りもしない魔物達がこぞって襲ってくる。

 

シアの大槌が、その絶大な膂力をもって振るわれ文字通り一撃必殺となって魔物を叩き潰す。攻撃を受けた魔物は自身の耐久力を遥かに超えた衝撃に為す術なく潰され絶命する。餅つきウサギも真っ青な破壊力である。

 

ユエは、空の上から魔物を魔法で屠っていく。ユエ自身の魔力が膨大であることもあるが、魔晶石シリーズ(ユーマがユエの鎧を使えるようにする作戦が失敗した時にハジメが渡すつもりだった指輪の形をした外付け魔力タンク)

 

に蓄えられた魔力が莫大であることに加え、ユーマが解放し、その術式を同化し改変したことで、性能が大幅アップしたあの白い鎧:モナートアーマーによる増幅効果で威力が跳ね上がり

 

尚且つ空を飛びながら撃てるというアドバンテージによる攻撃はまるで弾切れのない爆撃だ。

 

攻撃の届かない高硬度から超高温の炎がノータイムで発動し振ってくるので魔物達は一体の例外もなく炭化して絶命する。(なお漆黒の鎧の時に使っていた鎌状の武器はハジメが鉱石で同様の武器を作っている)

 

ハジメは、言うまでもない。魔力駆動二輪を走らせながらドンナーで頭部を狙い撃ちにしていく。魔力駆動二輪を走らせながら〝纏雷〟をも発動させ続けるのは相当魔力を消費する行為なのだが、やはり魔力切れを起こす様子はない。

 

真由美は元々魔力をあまり消費していない。ユーマが作ったアーマー、アーバレストの持つ火器、ボクサーは、本来の銃同様に火薬で撃ちだす方式なので魔力を使わない。超越する者による高速機動もそれを助長している。

 

真由美の”超越する者”による高速機動から繰り出される必中の弾丸により魔物は攻撃する間もなくその命を散らしている。

 

ユーマは、もう語るまい。彼女がルガーランスをひとたび上にかかげれば、あたり一面を翡翠色の結晶が覆い、魔物を同化する。魔物は攻撃はおろか一歩も動くことができずに虚無へと還っていく。

 

その姿はまるで某白いパイロットの寿命を治締めるやべーやつのようであったとここに記しておく。

 

谷底に跋扈する地獄の猛獣達が完全に雑魚扱いだった。大迷宮を示す何かがないかを探索しながら片手間で皆殺しにして行く。道中には魔物の死体が溢れかえっていた。

 

「はぁ~、ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、やっぱ大雑把過ぎるよなぁ」

 

洞窟などがあれば調べようと、注意深く観察はしているのだが、それらしき場所は一向に見つからない。ついつい愚痴をこぼしてしまうハジメ。

 

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

 

「ごめんなさい。大体の位置はなんとなくわかりますけど、詳しい位置まではちょっと・・・・・・・・」

 

「真由美さんは場所がなんとなくわかるんでしたっけ?」

 

「えぇ、魔力がなんとなく違うので・・・・・・・・」

 

真由美は元来感覚が鋭敏だった。特に大気など、肌で感じるものへの感覚がとても鋭いのだ。それがあってか、魔力の微妙な違いを感じることができるのだ。

 

「でも、あの解放者たちが魔力の隠ぺいをしてないとは思えないんだけどな」

 

「私が感じているのは、人が発する微量の魔力の残滓なんです。本当に微量なので、どんなに感覚が優れていても気づくのは不可能ですし、どんなに気を付けようとできてしまうものなんです」

 

「それを感じ取れるとか、真由美さんも大概チートだよね」

 

「あら?ユーマ君ほどではないですよ」

 

「・・・・・・・・そのユーマ君ってのやめません?一応俺女なんですけど・・・・・・・・」

 

「ユーマ君が俺って言うのがいけないんですよー。俺って言うのやめたら考えてあげます」

 

「ありゃりゃ、クォレハダメミタイデスネ」

 

「まぁ確かに、ユーマさんも大概やばいですよね。なんですかその大きい槍。ちょっと振り上げるだけで敵が結晶に変わって砕け散るとかどうかしてると思うんですけど」

 

「いや、これはあくまでおれの能力であって、この槍の性能じゃないよ。ただ敵に突き刺すか、ハジメのドンナーみたいに刀身開いてプラズマ弾撃つかぐらいしかできない」

 

「いやいやいや、十分強いじゃないですか!」

 

「まぁでもそんなこと言ったらここにいるメンバー大概やばい奴らだと思うけどね。一撃必殺、百発百中のガンマンに度を越えた動体視力と反射速度を一時的に発揮できて、思い浮かべたことが現実に起こるとかいうブラックボックスの塊のアーマーを使う秀才に

 

膨大な魔力を持ってて空飛べる鎧持った魔法の天才に拳の一撃だけで周囲の地面を数m単位で陥没させられる獣人とかもうね。勝てる奴いるのかと」

 

「某鮒の能力使える人外も追加な」

 

「おいハジメ!確かにその通りだけど人外っておかしくない!?」

 

「あのね、今だから言うが、ザインとニヒトの能力が使えて多分レゾンの能力が使えてSDPも使えると思われるお前が人外じゃないわけがない。まず人間は腕飛ばされても復元しねぇよ」

 

という他愛もない話をしつつ、内心魔物の多さに辟易しつつも、更に走り続けること三日。

 

その日も収穫なく日が暮れて、谷底から見上げる空に上弦の月が美しく輝く頃、ハジメ達はその日の野営の準備をしていた。野営テントを取り出し、夕食の準備をする。

 

町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。この野営テントと調理器具、実は全てハジメ謹製のアーティファクトだったりする。

 

野営テントは、生成魔法により創り出した〝暖房石〟と〝冷房石〟が取り付けられており、常に快適な温度を保ってくれる。

 

また、冷房石を利用して〝冷蔵庫〟や〝冷凍庫〟も完備されている。さらに、金属製の骨組みには〝気配遮断〟が付加された〝気断石〟を組み込んであるので敵に見つかりにくい。

 

調理器具には、流し込む魔力量に比例して熱量を調整できる火要らずのフライパンや鍋、魔力を流し込むことで〝風爪〟が付与された切れ味鋭い包丁などがある。

 

スチームクリーナーモドキなんかもある。どれも旅の食事を豊かにしてくれるハジメの愛し子達だ。しかも、魔力の直接操作が出来ないと扱えないという、ある意味防犯性もある。

 

〝神代魔法超便利〟

 

調理器具型アーティファクトや冷暖房完備式野営テントを作った時のハジメの言葉だ。まさに無駄に洗練された無駄のない無駄な技術力である。

 

ちなみに、その日の夕食はクルルー鳥のカレーである。クルルー鳥とは、空飛ぶ鶏のことだ。肉の質や味はまんま鶏である。この世界でもポピュラーな鳥肉だ。

 

一口サイズに切られ、先に小麦粉をまぶしてソテーしたものを各種野菜と一緒にカレールー(ユーマの自作したもどき)で煮込んだ料理だ。

 

肉には少し辛いスパイスの風味があり、匂いもカレーそのものである。口に入れた瞬間、それらの風味が口いっぱいに広がる。

 

肉はホロホロと口の中で崩れていき、ルーがしっかり染み込んだジャガイモ(モドキ)はホクホクで、ニンジン(モドキ)やタマネギ(モドキ)はルーの味をしっかりさせながら本来の味を舌に伝える。

 

ユエが目覚めてからユエのファンを作ったというあの商店街でたまたま見つけたお米(もどき)もふっくらたけていて実に美味しい。(これらは全てユーマが作り、他のメンバーからの反応も良かった)

 

大満足の夕食を終えて、その余韻に浸りながら、いつも通り食後の雑談をするハジメ達。テントの中にいれば、それなりに気断石が活躍し魔物が寄ってこないので比較的ゆっくりできる。

 

たまに寄ってくる魔物は、テントに取り付けられた窓からハジメが手だけを突き出し発砲するか、ユーマが手を掲げて同化するかして対処する。

 

その日も就寝時間となった。最初の見張りはユーマである。ユーマはユエの漆黒の鎧に入っていた思念体を同化してからというもの、睡眠や食事をあまりしなくなった。

 

人としてはどうかと思うが見張り番としてはこれほどの逸材はいない。いつものように外に出て敵を見張ろうとすると、シアがテントから出て来た。

 

どうやらお花を摘みに行ったようだ。そしてしばらくするとシアの声が聞こえた。

 

「ユーマさん!皆さん!大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

と、シアが、魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかのように大声を上げた。何事かと、ハジメとユエは顔を見合わせ同時にテントを飛び出す。

 

シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。

 

「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

 

その見た目はまさしく迷宮への入り口だった。




という訳でユエちゃん超強化&ユーマの見た目変化+一人称変化+人外化の回でした。えっ?見た目変化は技能であっただろ、いい加減にしろって?こまけぇこたぁいいんだよ。ぁちなみに姿変化ですが、本編ではまだ語られていない(駄作者が書き忘れてただけ)ので次回かきますけど

ユーマの技能じゃなくて真由美さんの技能になってます。真由美さんの技能使ってた時に発現したんだし当り前だよなぁ。本文中だとユーマはまだ気づいてない感じになってますけど、次回気づきます(おそらく多分メイビー)それとそれと、某鮒ことファフナーのアニメに関してですが

ハジメの世界でもやっており、ハジメはこのアニメを見ています。だからユーマの技能の元ネタが鮒だって知ってんだね(ガバガバ推理)ザインニヒトのアーマーを着て戦闘しないのは単に敵がアーマー着るほどでもない程度に弱いためです。設定で追加しておきますが

アーマーを着ていないときの同化能力の出力は、おおよそ3分の一程度です。まぁ同化って力弱めても十分チートだし威力劣っているように見えるわけがないよね(支離滅裂)という訳で次回、久々にアーマーが登場するかも。ではさようならー!


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