TSして魔法少女になったけど質問ある? (TS百合好きの名無し)
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異世界転生した挙句、TSして魔法少女になった元男だけど何か質問ある?

いつか書いてみたいなと思っていた掲示板モノに、構想だけして長いこと放置してあった短編ネタを組み合わせてできたのが本作。
頭を空っぽにしてリラックスしながら読んでね。
TSモノもっと増えろ



 

 

 

1:TS魔法少女

とりあえず暇だから初スレ立ててみた!

 

2:魔法少女を愛する名無し

スレタイが既にツッコミ満載な件

 

3:魔法少女を愛する名無し

つくならもっとマシな嘘をだな……

 

4:魔法少女を愛する名無し

まーた、しょうもない釣りか。はい解散

 

5:魔法少女を愛する名無し

いやまて、嘘だと決めつけるのは早計かもしれん

イッチよ、とりあえず簡潔に状況を教えてくれ

 

6:TS魔法少女

おけ

・幼少時代に前世の社会人だった頃の記憶が甦る

・2年前に魔人に襲われたことをきっかけに謎の力が覚醒して魔法少女化 

・魔法少女化をきっかけに、元の性別まで変化して男に戻れなくなる

・なんやかんや魔法少女として活動を続けて2年 ちょっと暇だったから気まぐれでスレ立てた←イマココ

 

7:魔法少女を愛する名無し

魔法少女って若い女の子しかなれないんじゃなかったっけ

 

8:魔法少女を愛する名無し

だからTSしたんじゃろ

 

9:魔法少女を愛する名無し

自分、TS娘は性癖どストライクっす

 

10:魔法少女を愛する名無し

>>9

奇遇だな 俺もだ

 

11:魔法少女を愛する名無し

>>9

安心しろ ワイもそうやで

 

12:魔法少女を愛する名無し

このスレ変態多いな(TS娘は最高やで)

 

13:魔法少女を愛する名無し

実際、転生うんぬんはともかくTSして魔法少女化ってありえるん?

 

14:魔法少女を愛する名無し

ワイは聞いたことないな

 

15:魔法少女を愛する名無し

ワイも聞いたことないが、可能性としてなくはないで

根拠は東京4.5や

 

16:魔法少女を愛する名無し

ごめん、東京4.5って何だっけ?

 

17:魔法少女を愛する名無し

ああ、あの事件か……

 

18:魔法少女を愛する名無し

>>16

東京4.5っていうのは2年前に現れた反転能力持ちの魔人が引き起こした例の事件のこと

東京に住む多くの住民が突然性別を反転させられて大パニックになった事件や

ちなみに俺の知人も巻き込まれて一週間近く性別が反転した状態で生活してたらしい。 

 

19:魔法少女を愛する名無し

あの事件かwww

 

20:魔法少女を愛する名無し

>>18

サンクス おかげで完全に思い出した

あの日ほど東京に住む奴らが羨ましいと思った日はない

 

21:魔法少女を愛する名無し

ん? ということは『魔法によって性別を変化させる』こと自体は可能だと証明されとるんか

 

22:魔法少女を愛する名無し

せやな

 

23:魔法少女を愛する名無し

つまりイッチは……

 

24:魔法少女を愛する名無し

祝え! 我らが希望たるTS魔法少女の誕生を!

 

25:魔法少女を愛する名無し

ところで、イッチって今何歳なん?

 

26:魔法少女を愛する名無し

俺もそれ気になる

 

27:TS魔法少女

>>25

現在はJCやっとるよ

ほとんど学校へは行けてないけど

 

28:魔法少女を愛する名無し

JC!?

 

29:魔法少女を愛する名無し

できる範囲で良いのでイッチの普段の容姿が知りたい

 

30:魔法少女を愛する名無し

多分美少女なんだろな

 

31:TS魔法少女

>>29

肩にかかるくらいの銀髪&瑠璃色の瞳で、身長と体重は同年代では平均的な感じ

自分で言うのもアレだけど結構可愛い顔してると思う

 

32:魔法少女を愛する名無し

TS銀髪美少女キタコレ!

 

33:魔法少女を愛する名無し

ちなみに、TSしてから困ったことは何かある?

 

34:魔法少女を愛する名無し

TS娘の抱える悩みのほとんどを体験済みになってそう

 

35:TS魔法少女

>>33

たくさんあるけど一番はコレ

『女の子の日』

 

36:魔法少女を愛する名無し

いきなりガチなやつきたな

 

37:魔法少女を愛する名無し

女の子の日ってそんなにつらいん?

 

38:魔法少女を愛する名無し

>>37

ワイも女やから分かるが、人によってはめっさ症状重くてつらいんやで

 

39:TS魔法少女

>>37

本当につらい

まず朝から下半身に違和感があって頭とお腹が痛くなる。

さらに全身を強烈な倦怠感が襲ってきて日常生活どころではなくなる

初回はとにかくお腹をさすってひたすらベッドの上で耐えてた

 

40:魔法少女を愛する名無し

イッチってもしかして魔法少女の中でも魔力量が多い方だったりする?

 

41:TS魔法少女

>>40

多い方です

 

42:魔法少女を愛する名無し

魔力量が多いとなんかあるんか?

 

43:魔法少女を愛する名無し

>>42

基本的に魔力量が多い女の子ほどアレの日は体調が悪化しやすいと聞いたことがある

体内の魔力が乱れることで不調になるとか

 

44:魔法少女を愛する名無し

……女の子って大変なんやな

 

45:魔法少女を愛する名無し

俺、過去に同級生の女の子をアレの日のことでからかったことあるけど、今考えるとマジで最低なことしてたんだな

今度会った時にちゃんと謝っとくわ

 

46:魔法少女を愛する名無し

>>45

おう、しっかり謝っとけよ

 

47:魔法少女を愛する名無し

女の子って毎月こんなつらいこと経験しとるんか……

ワイも周囲にそれっぽい女の子がいたらもっと優しく接するようにするわ

 

48:魔法少女を愛する名無し

俺も気をつけるわ

 

49:魔法少女を愛する名無し

……ちなみに、二番目に大変なことって何なん?

 

50:魔法少女を愛する名無し

また女の子特有のつらい話題が出るんかな

 

51:TS魔法少女

>>49

二番目は……同僚たちとの距離感かな

 

52:魔法少女を愛する名無し

同僚っていうと他の魔法少女たちかな

 

53:魔法少女を愛する名無し

たしかに中身男なのに女の子だらけの環境とか色々気まずそう。

 

54:魔法少女を愛する名無し

イッチってもしかして周りと上手くいってないん?

 

55:魔法少女を愛する名無し

まあ実際イッチの立場を考えると……

 

56:TS魔法少女

>>54

周囲との人間関係は悪くないどころか割と上手くいっているんだけど……その……

 

57:魔法少女を愛する名無し

ん、どうした?

 

58:魔法少女を愛する名無し

安心せい

ワイらはどんな内容でもしっかり受け止めたるで

 

59:魔法少女を愛する名無し

せやせや

まずは話してみ?

 

60:TS魔法少女

えっと……最近、仲の良い同僚たちからのスキンシップが妙に激しくてですね

 

61:魔法少女を愛する名無し

ガタッ

 

62:魔法少女を愛する名無し

ほう……続けたまえ

 

63:魔法少女を愛する名無し

できればその同僚魔法少女ちゃんたちの情報もオナシャス!

 

64:TS魔法少女

>>63

特に仲が良いのは同じチームを組んでる同い年の子と一つ下の後輩の二人

同い年の子:マシュマロボディなゆるふわ系女子、癖毛ミディアムヘア

後輩ちゃん:めっちゃ慕ってくれる良い子、ゆるふわツインテ可愛い

二人とも贔屓目なしにマジで美少女

 

最近この二人からのスキンシップが特に激しい

なお、二人は私が元男であることを知りません

私はどうしたらええんや……

 

65:魔法少女を愛する名無し

は? 最高やんけ

 

66:魔法少女を愛する名無し

ゆるふわツインテの後輩ちゃんは俺の性癖にマジで刺さる

 

67:魔法少女を愛する名無し

JCのマシュマロボディ……

 

68:魔法少女を愛する名無し

なんやそのシチュエーション

ワイの好みドンピシャなんやが

 

69:魔法少女を愛する名無し

具体的にどんなスキンシップしてくるのか教えて!(全裸待機)

 

70:TS魔法少女

>>69

同い年の子(以下同期Aちゃん)は所構わずよく抱き着いてきたり、夜一緒に寝ようと誘ってきたりする

去年までランドセルだったとは思えないワガママボディを頻繫に押し付けてくるせいで理性がヤバい

 

後輩ちゃんは私に頭を撫でられるのが好きらしくてよく要求してくる

この子も同期Aちゃんに対抗してかよく抱き着いてくるけど年相応のボディだからまだ大丈夫

でも時々妙な色気を感じることがある気がする

多分気のせいだけど

 

71:魔法少女を愛する名無し

キマシタワー

 

72:魔法少女を愛する名無し

女の子たちのスキンシップに翻弄されるTS娘……ごちそうさまです

 

73:魔法少女を愛する名無し

はぁ~てえてえ

 

74:魔法少女を愛する名無し

TS百合……いいよね

 

75:魔法少女を愛する名無し

イッチめちゃくちゃ好かれとるやん

 

76:TS魔法少女

>>75

それについては悪い気はしないんだけど、女の子特有の距離感ってやつになかなか慣れないんや

 

この間なんかおやすみのキスをしようとか言われて危うく唇奪われそうになったわ

最近の女の子は友達同士のスキンシップもすごいんやなぁって

 

77:魔法少女を愛する名無し

ん?

 

78:魔法少女を愛する名無し

ん?

 

79:魔法少女を愛する名無し

え?

 

80:魔法少女を愛する名無し

ちょっと待って、これもしや……

 

81:魔法少女を愛する名無し

……ねえイッチ

そもそも2人のスキンシップが激しくなったきっかけに心当たりとかある?

 

82:魔法少女を愛する名無し

流れ変わったな

 

83:TS魔法少女

>>81

心当たりかぁ……

そういえば二人のスキンシップが激しくなる前に見知らぬ一般人から告白されたことがあったな

相手男だったから速攻で振ったけど

 

あの後二人から何故か好みのタイプとか好きな人の有無や告白された回数を詳しく聞かれたっけ

女の子って恋愛話が本当に好きなんだねえ

 

あとなんかこの頃から百合系作品の本やアニメをちょくちょくすすめられるようにもなったな

これについてはよく分からないけど何かしらの意味があるんだろうか

 

84:魔法少女を愛する名無し

あっ……

 

85:魔法少女を愛する名無し

あっ……

 

86:魔法少女を愛する名無し

あっ……

 

87:TS魔法少女

正直二人のスキンシップがこれ以上激しくなったら耐えられる自信がない

最近はお風呂でもふざけて「前も洗っていいですか」なんて言われるようになったし

裸で抱き着いてこようとしたり胸や際どいところを触ろうとしたりするのはマジで勘弁して欲しい

 

88:魔法少女を愛する名無し

……

 

89:魔法少女を愛する名無し

……

 

90:魔法少女を愛する名無し

これ……どう思いますかみなさん

 

91:魔法少女を愛する名無し

多分みんな考えていることは同じでは?

 

92:魔法少女を愛する名無し

さ、最近の女の子同士のスキンシップはすごいなぁ(白目)

 

93:魔法少女を愛する名無し

これイッチはそのうち確実に……

 

94:魔法少女を愛する名無し

き、気づかない方が幸せということも

 

95:魔法少女を愛する名無し

これで本人に自覚ないってマ?

 

96:魔法少女を愛する名無し

いや、本人だからこそ気づかないのかもしれない

 

97:魔法少女を愛する名無し

恐ろしいことに対象はJCとJSである

 

98:魔法少女を愛する名無し

女の子の成長って早いなぁ

 

99:TS魔法少女

え? え? みんな何に気づいてるの? すごく気になるんだけど!

 

……うう、できればもう少しスレを続けたかったけど、たった今仕事が入っちゃったんで抜けます

話を聞いてくれたみんなありがとう!

 

100:魔法少女を愛する名無し

仕事入っちゃったか

応援しとるぞ頑張れイッチ

 

……強く生きろ

 

101:魔法少女を愛する名無し

ワイもこれからは君のファンとして応援することに決めたで

ついでに今後は何が起こってもいいように覚悟しておくことをすすめる

 

102:魔法少女を愛する名無し

何かあったらすぐに俺たちを頼れ

俺たちはいつでも君の味方だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『魔獣警報発令! 魔獣警報発令! エリア3にて魔獣出現の予兆が観測されました! 市民の皆さんは直ちに避難してください! 繰り返しますーー』

 

 東京都某所にてけたたましくサイレンとアナウンスが鳴り響く。

 素早く地下シェルターへの避難を開始する人々のはるか頭上、彼らとは正反対の方向を目指して建物の屋上から屋上へと跳躍を繰り返す小さな影が一つ……その正体はまだ年端もいかぬ可憐な少女であった。

 

 輝く金の長髪の頭頂部には青のリボンスカーフ。胸元にリボンをあしらい、可愛らしいフリル付きの青と白を基調としたドレスに身を包んだその少女はふと視線を感じて下を見る。

 どうやら視線の主はこちらをびっくり顔で見つめる幼い子どものようであった。

 目が合ったので軽く微笑んで手を振ってやる少女。惚ける子どもが母親から急ぎなさいと注意を受け、再び上を見た時には既に少女の姿は消えていた。

 

 

 

「さて、出現予測地点は……あそこかな」

 

 数分後、少女が降り立ったのは人々の姿が消え失せた商店街であった。その奥から禍々しいプレッシャーが滲み出ているのを感じ、気を引き締める。

 そのまま警戒しつつ慎重に奥へと向かおうとしたところで耳元のインカムに通信が入った。

 

『こちら司令部。緊急連絡です』

 

「手短にお願い」

 

『はい。エリア3の魔獣出現地点に逃げ遅れた市民が2名確認されました』

 

「了解。急行するのでナビよろしく」

 

『はい!』

 

 ――〈加速魔法(アクセル)

 

 魔法で自身の俊敏さを底上げし、インカムから流れる指示に従って商店街を颯爽と駆け抜ける。

 幸いターゲットはすぐに見つかった。

 身の丈5メートルは有りそうな巨大な漆黒の狼の魔獣と、幼い女の子を抱えて必死で逃げる母親らしき女性。あれが今回のターゲットだろう。少女は間に合ったことに小さく安堵し、力強く地面を蹴った。

 

「司令部へ。市民2名及び魔獣を発見、交戦に入る」

 

『了解。健闘を祈ります』

 

 目の前の魔獣が親子を踏み潰さんと前脚を振り下ろす。だがその脚が親子を捉えることはなかった。

 

「せいっ!」

 

ギャンッ!?

 

 先手必勝。少女は真正面から魔獣の顔を思いきり殴り飛ばす。

 彼女は勢いよく魔獣がぶっとんでいくのを見届けた後、こちらを見て驚いている親子を安心させるため声をかけた。

 

「機関から来た今回の担当です。お怪我はございませんか?」

 

「は、はい。ありがとうございます……!」

 

 死の恐怖から解放され、ホッとしたように脱力してその場にへたり込む女性。一方で彼女の腕の中にいる子どもはキラキラとした顔でこちらを見つめ「アリスだ!」と呑気な声を上げていた。この子、意外と大物かもしれない。

 

「うん、アリスだよ。今からちょっとあいつを倒してくるからここで大人しく待っててね」

 

「うん!」

 

 笑顔でポンポンと子どもの頭を撫でた後、アリスと呼ばれた少女は再び前へと向き直る。視線の先では殴り飛ばした巨大狼の魔獣が怒りのこもった目で彼女を鋭く睨みつけていた。

 

グルルル……!

 

「待たせて悪いね、さあやろうか――ん?」

 

■■■■■ーーッ!!

 

 突然魔獣が大きく咆えた。

 すると周囲に次々と真っ黒な渦のようなものが出現し、そこから漆黒の狼型魔獣が大量に飛び出してくる。その数は爆発的に増え、みるみるうちに少女たちの周囲は魔獣の集団で溢れかえってしまった。

 

「うわぁ……(狼型だから群れを呼び出す予想はしてたけどこれはちょっと多すぎでは?)」

 

 だが圧倒的な物量を見せつけられてなお、少女の顔に焦りはない。

 ただ一言、誰かへ向けてこう呟いた。

 

「雑魚は任せる」

 

 少女が地を蹴って駆け出す。

 魔獣はそれを阻止せんと配下に命令を下す。

 

 ――カミコロセ!!

 

 魔獣は自身の配下によって四肢を無惨に食い千切られる少女の姿を幻視する。

 しかし――それが現実になることはなかった。

 

……ッ?!?!

 

 炎が、氷が、どこからともなく飛来し魔獣の群れを蹂躪した。

 一瞬で壊滅した群れの姿に呆然としたのもつかの間。

 気づけば一気に距離を詰めていた少女へ慌てて爪を振り下ろすもするりとかわされ、腹へ拳を叩き込まれ空へと飛ばされる。

 

ガアァッ!?

 

 腹に伝わる凄まじいダメージ。

 まだだ、自分はこんなところで終わるべき存在ではない! これから数え切れないほどの獲物をこの爪で、牙で、残らず仕留めて――

 

「〈ルナライト・ブレイカー!〉」

 

 いつの間にか少女が握っていたステッキから放たれた黄色の光の奔流。それが魔獣の見た最期の光景であった。

 

 

 

 

「アリスおねーちゃんカッコよかった!」

 

「ふふ、ありがとね」

 

「アリスさん、本当にありがとうございました。おかげで私も娘も無事です。ほら、ちゃんとお礼言わなきゃ」

 

「ありがとうアリスおねーちゃん!」

 

「いえ、こちらこそ間に合ってよかったです。じきに機関の者が迎えを寄越すので――あ、ちょうど来ましたね。彼らの指示に従って避難してください」

 

 魔獣討伐後、親子を事後処理のためにヘリでやってきた機関の人間たちに預けたアリスはホッと一息つく。

 本日の仕事もこれにて無事に終了である。

 そのまま場を去ろうとするアリス。だがその前に母親が彼女を呼び止めた。

 

「あの! 先ほどのアリスさんを援護していた方たちにもお礼を言いたいのですが……」

 

「ああそれなら直にここへ――」

 

「せんぱーい!」

 

「アリスー!」

 

「あ、来ましたね。二人とも、こちらの方が二人にもお礼を――むぎゅ!?」

 

 母親と会話するアリスの元へ件の人物たちはどこからともなく現れ――勢いよく両側から彼女へと飛びついた。

 一人は鮮やかなオレンジのミディアムヘアに同色を基調としたドレスに身を包んだ少女。

 もう一人は明るい水色のゆるふわツインテールに同色を基調としたドレスに身を包んだ少女であった。

 二人に両脇を固められたアリスは顔を赤らめながら慌てて声を上げる。

 

「ちょっと二人とも一旦離れて! まだ話の途中なんだから!」

 

「えへへー、今日もすっごくカッコ可愛かったよアリス!」

 

「せんぱい、遅くなってごめんなさい! 一つ前の現場がかなり遠くて……あ、今日もすっごく凛々しいお姿でした」

 

 突然始まったやりとりにポカンとしていた母親であったが、次第に微笑ましいものを見る表情で彼女たちを眺めはじめる。子どもは子どもで「サニーとサファイアだ!」とはしゃいでいた。

 

「ご、ごめんなさい、話の途中で」

 

「いえいえ、構いませんよ。むしろ良いものを見せていただきました。次の作品を出すときの参考にさせていただきますね」

 

「ん? えっと? ありがとうございます? ……って、二人ともいい加減は・な・れ・て!」

 

「「はーい」」

 

「くすっ」

 

 ようやく両腕を解放されたアリスは隣の少女たちに親子を紹介する。

 

「……お二人も私たちを助けてくださったようで、本当にありがとうございました」

 

「「どういたしまして」」

 

「三人とも仲がとてもよろしいのですね」

 

「「もちろん!」」

 

「私としてはもう少し距離感を考えて欲しいです……」

 

「ふふ。この御恩は決して忘れません。みなさんの明るい未来をこれからもお祈りしていますね。……では私たちはこれで」

 

「ばいばいおねーちゃんたち!」

 

 今度こそ別れを告げて去っていく親子を手を振って見送った三人。

 さて帰るかと踵を返したアリス――の両腕を再び二人の少女が奪う。

 

(だから! なんでこの子たちは当たり前のように両脇を固めるの!? っていうか胸当たってるから胸! ふよん!とかむにゅ!とかしまくってるからぁ!)

 

 内心で悲鳴を上げつつも決してそれを悟られないように表情筋を引き締めて耐えるアリス。

 ちらりと二人の様子を見れば、こちらの視線に合わせるように胸元へと彼女の腕を押し当ててくる。あれ? この子たちもしや確信犯?

 ……いやいやまさか。

 

(くっ、耐えろ私! これはあくまでお友達同士のコミュニケーション! やましい気持ちを抱くなど言語道断! 彼女たちにそういった考えは一切ない! 彼女たちは純粋無垢な女の子なんだから!)

 

「ふふふ、せーんぱい♡」

 

「えへへ、アーリス♡」

 

「ひゃんっ!?(耳元でささやくのダメええぇ!!)」

 

 耐えろ! 耐えるんだアリス!

 ()()()()()彼女は慣れない女の子同士のスキンシップに理性を崩壊させられつつも鋼の意思で耐えんとする。ちなみに前世であらゆるASMR作品を好んで聴きまくっていた彼女にとって、二人の少女たちによるささやきは性的嗜好にクリティカルヒットであった。

 

(あああああ耐えなさい私! 彼女たちは守るべきピュアッピュアな女の子! 私のような存在が決して手を出してはいけない不可侵の存在なんだからっ!)

 

(ほわああ〜、せんぱい可愛い。いい匂いしゅるぅ。しゅき♡ えっちしたい♡ あ、○れてきちゃった……♡)

 

(ふふ、今日も可愛いなあアリスちゃん。カッコいいのに可愛いとかもう反則だよ♡ あぁ、アリスちゃんの処女欲しいなぁ♡)

 

 純粋無垢な魔法少女たちの活躍により日本は今日も平和であった。

 

 

 

 

 

 




( ̄∀ ̄)やあ、こんばんは。

おや、見ない顔だね。ここへ来るのは初めてかな?
安心したまえ、この店は初心者にも優しいと評判のお店なんだ。

さあこちらがメニューだ。好きなのを選んでくれ。

……ほう、そいつを選ぶとはお客さんなかなか良い目をしているね。すぐに用意しよう。

ところでお客さん、君は魔法少女のスカートの中はドロワーズとスパッツのどちら派かな?

ん? レオタードや下着、スク水やノー○ンは選択肢にないのかって? もちろんそれらも有りだが、単に私が先に挙げた2つを君がどう思うか気になっただけさ。

……へえ、それを選ぶのかい。理由は……なるほど。どうやら君とはいい酒が飲めそうだよ。

まあいずれにせよ、周囲の視線を意識して女の子たちが恥ずかしそうにスカートを押さえている姿を見ればそれだけで満足できてしまうのだがね。

君もそうだろう? 女の子のスカートの中にはいつだって男の夢がいっぱいなのさ。

……ふむ。君、この後の予定は何かあるかい?

おお、それはよかった。いやなに、君のことが気に入ってしまってね。できればもっと話をしてみたくなってしまったんだよ。

おや君もかい? そいつは嬉しいかぎりだ。
さて……こちらが注文いただいた品だよ。存分に味わってくれたまえ。

さあ、今夜はお互い存分に語り明かそうじゃあないか。






※以下、本編に書き切れなかった設定を含む補完用の人物紹介

★姫宮凛(魔法少女アリス)

スレ主であり主人公。現在中学1年生。
銀髪に瑠璃色の瞳、人形のように整った可憐な容姿をもつ前世の記憶持ちTS娘。
最近は同僚たちの影響で普段の髪型がツーサイドアップで固定されている。なお、初見時に例の二人は彼女のその姿を見て鼻血を噴出したらしい。
また、魔法少女に変身すると長い金髪になる。衣装のモデルは不思議の国のアリスであり、ウサミミのように見える青いリボンスカーフが可愛いと周囲に評判。遠近共に隙のないバランス型の魔法少女。強い。
面倒見が良く、時々見せるイケメンムーヴや同性ですら見惚れる天使の微笑みにより周囲から極太矢印を向けられているが自覚なし。
カレーライスとカツ丼が大好き。


★天道ひより(魔法少女サニー)

同期Aちゃん。中学1年生。
オレンジのミディアムヘア(癖毛)&マシュマロボディの持ち主。
凛のことが大好きで彼女の処女を狙っている。なお、その凶悪なボディで魔法少女になる前まで通っていた小学校の男児の性癖を歪ませまくってきた経歴の持ち主。お前本当にJCかよ。
魔法少女に変身すると癖毛じゃなくなる。得意魔法が補助系のため後方支援がメインだが、もちろんステゴロもできる。
甘えん坊でよく凛に膝枕をねだっている姿を周囲に発見されている。
好きな食べ物は凛の手料理。


★氷川理沙(魔法少女サファイア)

後輩ちゃん。小学6年生。
明るい水色のゆるふわツインテール&年相応のボディの持ち主。
凛のことを深く慕っており、彼女との思い出は毎日欠かさず日記に記録している。
氷の魔法を得意とする魔法少女であり、主に近距離で戦うインファイター。凛からは誰かとタッグを組むなら一番はこの子と言われるほど信頼されている。
凛が実は年下好きであることをなんとなく察しており、後輩系ヒロインとして攻めている。
凛にしてもらう頭ナデナデが至福の時間。いつか彼女と結ばれる日を夢見て頑張る乙女。
好きな食べ物は凛の手料理。


★魔人

3年前に地球を征服せんと異界よりやってきた侵略者たち。
知的生命体の主に負の感情を糧としており、屈強な肉体と魔法により世界中を恐怖と混乱に陥れた存在。
同時期に突然現れた魔法少女たちの活躍によって半年前に打倒された。

 
★魔獣

魔人が使役していた生体兵器。破壊活動を行うことを本能的にインプットされている。
地球を侵略しようとしていた魔人のボスが死の間際に、魔獣を永久的に生み出す『魔獣コア』なるものを置き土産で無数に地球へとばら撒いたため、現在でも定期的に出現して人間を襲っている。


★魔法少女

魔人の出現からしばらくして現れた人類の救世主。
その正体はある日突然魔法の力に覚醒した若い少女たちであり、政府の機関に所属する魔法少女と所属しない野良の魔法少女が存在する。
 

★魔法少女機関

魔法少女たちをまとめる政府機関。魔獣による災害への対策を担っている。




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アリスとホワイトローズ

なんとなく確認したら評価バーが真っ赤になっててびっくり。
投票してくださった方々には本当に感謝。モチベーションにつながってます。
ついでに最近ハーメルンでまたTS系が流行ってて嬉しい。

嬉しさのあまり次話が書けたので投稿です。
前回に引き続きリラックスして読んでね。


 

 

 

212:TS魔法少女

ただいまー!

ごはん食べてなんとなく開いたら昨日のスレがまだ残っててびっくりなう

 

213:魔法少女を愛する名無し

お、イッチやんけ!

 

214:魔法少女を愛する名無し

おかえりー

 

215:魔法少女を愛する名無し

君の帰還を信じて保守しとったで

 

216:魔法少女を愛する名無し

わいも!

 

217:魔法少女を愛する名無し

それはそうと昨日はお仕事お疲れ様や

 

218:魔法少女を愛する名無し

お疲れー

イッチたちのおかげで俺たちは今日も平和を享受できとるからな

ほんまに感謝しとるで

 

219:魔法少女を愛する名無し

お疲れ様です

 

220:魔法少女を愛する名無し

そういやイッチってどこの地区担当なんやろ

 

221:魔法少女を愛する名無し

たしかに

場所によっては出現する魔獣の強さに結構差が出るからな

 

222:TS魔法少女

>>220

一応東京のとある地区をいくつか担当してるよー

 

223:魔法少女を愛する名無し

東京!?

普通に激戦区やんけ!?

 

224:魔法少女を愛する名無し

東京かあ……そこそこ高い頻度で上位魔獣が出るから、現場へ出る魔法少女たちの力量も平均的に高いって聞いたことがある

 

225:魔法少女を愛する名無し

しかも複数担当できるってことはほぼ確定でエース級やん

 

226:魔法少女を愛する名無し

ついでに言えば昨日もエリア3で上位一歩手前のBランク魔獣が出とったな

出現してから討伐されるまでがめっちゃ早かったけど

 

227:魔法少女を愛する名無し

へえ〜

俺んとこは田舎だから下位のD、Eランクしかみたことないわ

 

228:魔法少女を愛する名無し

ワイの住んどる大阪もなかなかの激戦区やな

 

229:魔法少女を愛する名無し

>>225

それな、俺も思ったわ

 

ところで、東京都のエース級魔法少女と言えばみんなは誰が好き?

 

230:魔法少女を愛する名無し

アリス

 

231:魔法少女を愛する名無し

アリスだね

 

232:魔法少女を愛する名無し

アリスかな

 

233:魔法少女を愛する名無し

サファイアたん

 

234:魔法少女を愛する名無し

アリス様

 

235:魔法少女を愛する名無し

サニーちゃん

 

236:魔法少女を愛する名無し

サニーとサファイア

 

237:魔法少女を愛する名無し

サファイアとアリス

 

238:魔法少女を愛する名無し

アリスちゃん一択

 

239:魔法少女を愛する名無し

私はホワイトローズかな

 

240:魔法少女を愛する名無し

ホワイトローズとアリスの二人

 

241:魔法少女を愛する名無し

サファイアたそ

 

242:魔法少女を愛する名無し

サニーちゃんとアリスちゃん

 

243:魔法少女を愛する名無し

ミントちゃん

 

244:魔法少女を愛する名無し

やっぱアリスちゃんかなー

 

245:魔法少女を愛する名無し

アリス強すぎワロタ

でもわかる

 

246:魔法少女を愛する名無し

アリスちゃんは私的にもうビジュアルがドンピシャ

 

247:魔法少女を愛する名無し

不思議の国のアリス風の衣装+金髪美少女とか完璧な組み合わせすぐる

そして何より天使級の可愛さ

 

248:魔法少女を愛する名無し

リボンスカーフがウサミミにしか見えなくて初見時に悶絶したわ

ほんと可愛いの暴力

 

249:魔法少女を愛する名無し

東京在住の俺氏、現場で彼女を見たことあるけど戦闘時の真剣な表情と仲間や市民に向ける微笑みとのギャップがもうなんかあれで気づいたらファンになっとったで

 

250:魔法少女を愛する名無し

小さい子たちからの人気もすごいからな

俺の娘も彼女が一番のお気に入りだよ

よく魔法少女アリスごっこして遊んでる

 

251:魔法少女を愛する名無し

実は俺、彼女を初期の頃から知っとる古参勢

彼女に関することで今でも鮮明に覚えている出来事があるんだが聞きたいやつおるか?

 

252:魔法少女を愛する名無し

>>251

初期勢ニキ!?

ぶっちゃけアリスの新人時代のことよく知らんからめっちゃ聞きたい

 

253:魔法少女を愛する名無し

ワイも聞きたい

 

254:魔法少女を愛する名無し

おけ、話すわ

これは二年前に俺がとあるショッピングモールへ買い物に出かけた時の話

 

当時そこに魔人が突然現れて市民を無差別に襲い始めたんだが、現場にちょうど居合わせた新人魔法少女ちゃんが俺たちを守るために一人でそいつに立ち向かってくれたんだ

 

ところが実力差がありすぎて新人ちゃんは見ているこっちが辛くなるほど敵から一方的に嬲られることになっちまった

後から知ったんだが相手の魔人は中位のCランクで、間違っても魔法少女に覚醒したばかりの新人が一人で挑んでいいレベルじゃなかったらしい

例えるなら一般人がライオンに素手で喧嘩を挑むような自殺行為だとね

 

全身血まみれで、衣装も血が滲んでボロボロ、今にも死にそうなくらいの満身創痍になっても立ち上がる彼女を見てみんな泣いてた

 

たしかに自分たちが助かりたいという気持ちもあったけど、それ以上に小学校すら卒業していないであろう幼い少女が自分たちのために悲惨な目に遭っている光景を見せ続けられることに心が耐えられなかった

なんで俺たちには戦う力が無いんだって怒りと、大人なのに見ていることしかできない罪悪感で死にたくなったよ

 

もういい、やめてくれ、もう十分だ、これ以上君が傷つく必要はないって俺たちは彼女を止めようとしたさ

 

だが、彼女は絶対に諦めようとはしなかったんだ

 

守るべきものがある限り、私は倒れない。ここにいる私がみんなにとって最後の希望だからって笑ってな

 

そうして彼女は戦い続けて――ついには遥か格上の魔人を見事討伐してみせたんだ

 

その時の新人魔法少女ちゃんが今のアリス

 

255:魔法少女を愛する名無し

泣いた

 

256:魔法少女を愛する名無し

え、ちょ、かっこよすぎん?

 

257:魔法少女を愛する名無し

マジモンの主人公やんけ

 

258:魔法少女を愛する名無し

小学生とは思えない覚悟の決まりように驚愕

 

259:魔法少女を愛する名無し

ますます彼女を推したくなったわ

聞かせてくれてありがとう

 

260:魔法少女を愛する名無し

は? こんなん惚れるわ

 

261:魔法少女を愛する名無し

ああ、やっぱりアリスが最強なんやなって

 

262:魔法少女を愛する名無し

あの日以来彼女のことが忘れられなくってなぁ……

今もできるだけ活躍を見守るようにしてるし、たまに感謝や応援の手紙を魔法少女機関に送ってる

 

263:魔法少女を愛する名無し

>>262

初期勢ニキの気持ちめっちゃわかる

自分たちのためにそこまで体張ってくれる子がいたら惚れる気しかしない

 

264:魔法少女を愛する名無し

……なんというか、アリスちゃんがみんなから愛される理由の一端が分かった気がする

 

265:魔法少女を愛する名無し

先月にあった東京都所属の魔法少女を対象とした人気投票もぶっちぎりの一位だったからな

しかもそれに対して他の魔法少女たちも納得してる模様

 

266:魔法少女を愛する名無し

ついでに小中学生女子に聞いた『憧れの人』部門でも一位でしたね

この話を知った後だと納得しかない

 

267:魔法少女を愛する名無し

素晴らしい話が聞けてワイ大満足や

このスレ覗いた甲斐があった

 

……ところでさっきからイッチの反応が全くないんやが

 

268:魔法少女を愛する名無し

せやな

おーい、イッチ生きとるかー?

 

269:TS魔法少女

>>268

あ、はい、生きてます

ちょっと暑くて部屋の換気してた

 

270:魔法少女を愛する名無し

イッチの好きな魔法少女も聞いてみたいから教えて?

 

271:魔法少女を愛する名無し

誰やろなー

 

272:魔法少女を愛する名無し

東京所属らしいし十中八九アリスじゃね

 

273:TS魔法少女

>>270

サファイアとサニーとホワイトローズ

ぶっちゃけ魔法少女はみんな好き

 

274:魔法少女を愛する名無し

>>273 ぶっちゃけ魔法少女はみんな好き

わかるマーン

 

275:魔法少女を愛する名無し

なるほど

サファイアとサニーもやっぱ可愛いよな

アリスとチーム組んでるからよく一緒に出てくるし、魔法少女と聞いてすぐに顔が出てくるメンバーだわ

 

276:魔法少女を愛する名無し

ホワイトローズはいいぞぉ

無表情系ロリっ娘最高

メディアや一般人に塩対応だけどそういうとこも含めてすこ

 

277:魔法少女を愛する名無し

ホワイトローズちゃんもいいよね……

 

278:TS魔法少女

あの子ああ見えて結構甘えん坊だけどね

 

279:魔法少女を愛する名無し

……!?

 

280:魔法少女を愛する名無し

……!?

 

281:魔法少女を愛する名無し

なん……だと?

 

282:魔法少女を愛する名無し

……いやイッチ、なんでそんなこと知っとるん?

 

283:魔法少女を愛する名無し

ホワイトローズ推しの俺氏

彼女が誰かに甘えている姿なんか見たことも聞いたこともないんだが

 

284:魔法少女を愛する名無し

ホワイトローズと言えば他の魔法少女と一切関わりを持とうとしないことで有名な娘やぞ?

イッチマジで何者や

 

285:魔法少女を愛する名無し

さすがに嘘やろwww

すぐバレる嘘はつかん方がええぞイッチwww

 

286:魔法少女を愛する名無し

>>285

同意

 

あのホワイトローズが甘えん坊とか全く信じられんわ

俺、ああいう愛想のないガキはマジで嫌い

内心で何考えてるか分からんしな

 

287:魔法少女を愛する名無し

>>286

おうてめえ表出ろや

 

288:魔法少女を愛する名無し

無愛想なのもホワイトローズちゃんの魅力だろうが

 

289:魔法少女を愛する名無し

>>288

それが薄気味悪いんだよ

きっと親も苦労してんだろうな

 

290:魔法少女を愛する名無し

おいおい、落ち着けってお前ら

 

291:TS魔法少女

>>286

ローズちゃんは良い子だよ

私が保証する

これが証拠

【画像】

 

292:魔法少女を愛する名無し

>>291

えっ、何これ……

 

293:魔法少女を愛する名無し

>>291

おかしいな……いつでも無表情がデフォルトのはずの娘が微笑んでこっちを見ているというお宝写真が画面に表示されとるんやが……幻覚かな?

 

294:魔法少女を愛する名無し

>>291

え、ちょ、誰この天使

すんごく抱きしめたくなる可愛さ

 

295:魔法少女を愛する名無し

俺氏、推しの神画像で無事死亡

ありがとうイッチ、これでもう思い残すことはない……

 

296:魔法少女を愛する名無し

これってもしかしなくてもとんでもない貴重画像なのでは?

それこそ彼女のファンたちが見たら喜びのあまり発狂しかねんくらいの

 

パッと見では本物っぽいけどまさか本当に……?

 

297:TS魔法少女

>>296

本物だよ

一応本人に許可とって載せてる

 

298:魔法少女を愛する名無し

>>297

画像はこれだけなん?

いや、これだけでも十分すぎる衝撃なんやが

 

299:TS魔法少女

>>298

許可をもらえたのはこれだけ

もちろん他にもあるけど本人が恥ずかしいからダメって言ってるので……

 

300:魔法少女を愛する名無し

すげえ、この短時間でホワイトローズのイメージがどんどん変化していく

こんな可愛い娘やったんか

 

301:魔法少女を愛する名無し

>>291

すまないイッチ、俺が間違ってたよ……

こんなに可憐な笑みを浮かべることのできる子が薄気味悪いとかありえない

反省して今日からずっとこの子推します

 

302:魔法少女を愛する名無し

とんでもないカウンター決めてて草

さすが俺たちのイッチやで

 

あ、画像はもちろん高速で保存しました

 

303:魔法少女を愛する名無し

恥ずかしいからダメとか普通に可愛い

今日からホワイトローズも推しに加えようかな

 

304:魔法少女を愛する名無し

これはまごうことなき神スレ

 

305:魔法少女を愛する名無し

あぁ〜無表情系白髪ロリっ娘のクッソ可愛い微笑みで浄化されるぅ〜

 

306:魔法少女を愛する名無し

いやいやちょっと待って

確かにホワイトローズの貴重画像もすごいけど、それ以上にこれを当たり前のように何枚も持ってるイッチが気になって仕方ないのは俺だけ?

 

307:魔法少女を愛する名無し

それな

 

308:魔法少女を愛する名無し

イッチの魔法少女名がめっちゃ知りたい

 

309:魔法少女を愛する名無し

なんか普通に知ってる名前出てきそう

 

310:TS魔法少女

私の魔法少女名は秘密!

みんなのご想像にお任せするよー

 

ついでにたった今家に来客があったので、今回はこの辺りで抜けます

またどこかでスレを立てると思うのでその時はよろしくー

ではまた!

 

311:魔法少女を愛する名無し

おつ

また君に会える日を楽しみに待っとる

 

312:魔法少女を愛する名無し

おつー

 

名残惜しいがひとまずのお別れか

応援してるから今後も頑張ってくれ

 

313:魔法少女を愛する名無し

イッチありがとう!

君のくれたお宝写真は家宝にします!

 

314:魔法少女を愛する名無し

……イッチは行ったか?

 

315:魔法少女を愛する名無し

行ったな

 

316:魔法少女を愛する名無し

いやー、なかなか謎の多い人物やったな

 

317:魔法少女を愛する名無し

ほんそれ

正体が気になる

 

318:魔法少女を愛する名無し

うーん……いや、まさか……

 

319:魔法少女を愛する名無し

>>318

お、どうした

何か気付いたことでもあるんか?

 

320:魔法少女を愛する名無し

やっぱり何でもない

多分気のせいや

 

それに、魔法少女の個人情報をあんまり詮索しすぎるのも良くないしな

イッチはイッチ、それでええんや

 

321:魔法少女を愛する名無し

>>320が何に気づいたのか気になるが……確かにその通りだ

 

322:魔法少女を愛する名無し

次はいつ会えるんやろな

 

323:魔法少女を愛する名無し

案外すぐに会えそうな気がするのは俺だけ?

 

324:魔法少女を愛する名無し

ワイも同意見

多分数日以内に新しいスレ立ちそう

 

325:魔法少女を愛する名無し

これから毎日スレをチェックしなきゃ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 東京都某所にある日本魔法少女機関本部。その建物内に用意された個室にて一人の銀髪少女がパソコンと向き合っていた。

 

「うんうん、どうやら彼らもローズの魅力をきちんと理解してくれたようでなにより」

 

 そう言って銀髪少女――姫宮凛は満足げに頷いていたが、ふと耳に聞こえてきた『コンコン』という物音に画面から目を離して自室の窓の方を見た。

 

「あれ? ローズ?」

 

 外側から窓を叩いていたのは一輪の真っ白なバラを髪飾りのようにつけた白髪のおかっぱ少女。白を基調としたフリフリのドレスに身を包んだ少女の正体は世間からホワイトローズと呼ばれている魔法少女であった。凛はパソコンへ素早く何かを打ち込んで閉じながら彼女へ声をかける。

 

「いらっしゃい。入ってきても大丈夫だよ」

 

「……」

 

 開いていた窓からするりと室内に入り込んだホワイトローズはそこですぐに変身を解く。そうしてその場に現れたのはノースリーブの黒いワンピースを着た黒髪のおかっぱ少女だ。凛と同い年かそれ以下に見える少女の顔立ちは非常によく整っており、無表情であることも合わさってまるで精巧な日本人形のようであった。

 

 少女――真白ひな子は一瞬チラリと凛が操作していたパソコンへと視線を向けた後、ゆっくりとその口を開いた。

 

「……あの写真以外は見せてない?」

 

「もちろん! というか頼まれても見せるつもりはないよ。だってあれ以外の写真は私だけの宝物だもん」

 

「……ん。ならいい」

 

 どこかホッとしたような様子でひな子はつぶやき、そのままトテトテと凛に歩み寄って正面から抱き着いてくる。それに対して凜は慣れた様子で微笑みながら彼女を受け止め、その頭を優しく撫でていた。

 もしもこの光景を事情を知らぬ第三者が見ればさぞ驚いたことだろう。ホワイトローズは常に無表情かつ無愛想で誰とも関わりを持とうとしない排他的な人物……それが世間一般の彼女に対するイメージであるからだ。加えて彼女は機関に所属していない野良の魔法少女であるため、情報が少なく謎の多い人物であった。

 さらに言えば、こうして二人が交流関係を持っていることも本人たち以外は知らない事実である。

 

「……でもねひーちゃん、写真うんぬんはともかく、少しずつ私以外の人とも話せるようにならないと今後大人になった時に困っちゃうよ? しっかりしたコミュニケーションが取れないと人の心はどんどん離れていくものだから」

 

 しばらくひな子の頭を撫でていた凛であったが、ふと手を止めて心配そうな表情で自分に身を委ねる小さな少女へと声をかける。

 凛は自分の言葉にひな子の体が小さく震えたのが分かった。

 

「……私がこのままだったら凛はどこかに行っちゃうの?」

 

 ぎゅうと抱き着く腕に力がこもる。

 凛の顔を見上げながらそう聞く彼女の瞳は隠し切れない不安の色に染まっていた。

 

「私はどこにも行かないよ。でもこのままひーちゃんの世界が私とあなただけで完結してしまうのはとても寂しくてもったいないことだと思ってる。ひーちゃんも本当はもっと色んな人と仲良くなりたいはずだよね?」

 

「……うん」

 

 かすかにこくりと頷いた彼女の頭を再び優しく撫でる。

 世間から無愛想で排他的な人物とされている少女。その正体はなんてことのないただの人見知りが激しいだけの女の子であった。

 

「よし! それじゃあ今ここでしっかり目標を決めておこっか!」

 

「……目標?」

 

「うん。ひーちゃんは将来的に何人くらいの友達が欲しい?」

 

「……よ、四人……くらい?」

 

「じゃあまずは半分の二人を目標にしてみようか。そのための第一歩として……まずはお礼の言葉を素直に受け取ることから始めよう」

 

「……?」

 

「ひーちゃんって、いつも魔獣から助けた相手からのお礼の言葉を恥ずかしがって無視して帰っちゃうでしょ? 今日からはそれを素直に受け取って何かリアクションを返すようにしようか。ちなみにこの取り組みをさぼっていることが分かったら、今後一切ひーちゃんに私のお手製デザートは提供されません」

 

「……!?」

 

 凛が最後に付け加えた文言に激しく動揺するひな子。凛に甘えることと彼女のお手製デザートを食べさせてもらうことを最大の幸せとする少女にとってそれは文字通り死活問題であった。

 凛はこちらへすがるような目を向けてくるひな子に内心「少し強引だったかな……」と思いつつも、言葉を取り下げることはしなかった。この人見知り少女はこのくらい強く言わないとまず間違いなく日和って行動を起こさないのだ。

 凛が静かに見守る中、ひな子はやがて覚悟を決めたように口を開く。

 

「分かった。がんばる」

 

「ひーちゃん……! うん、吉報を楽しみにしてる! 私も応援するから頑張ってね!」

 

「……うん」

 

「よーし、それじゃひーちゃんの一大決心を記念して今日はデザートを奮発しちゃうよ!」

 

「……!」

 

 ぱあっと表情を輝かせるひな子をテーブルの前へ座らせ、冷蔵庫へと向かう凛。

 数分後、彼女が食器や飲み物とともに持ってきたのは大量の苺が乗った美味しそうなタルトケーキであった。

 

「わぁ……!」

 

「じゃーん、今回ご賞味いただくのは新作の苺タルトだよ。なかなかの自信作なんだ」

 

 手際よく準備を終えた二人は揃って手を合わせる。

 

「「いただきます!」」

 

「あむ……うん、やっぱり上手く出来てる」

 

「……~~っ!」

 

 タルトを口に入れるや否や幸せそうな表情で食べ始めたひな子の姿に凛は頬をゆるませる。

 

(いやぁ、タルトは初挑戦だったから苦労したけどこんなに喜んでもらえたなら作った甲斐があったよ)

 

 あっという間にタルトを食べ終えた二人は仲良く食器を洗い、休憩のためソファーへと移動する。

 ソファーでは凛の隣にぴったりとくっつくようにひな子が腰掛け、彼女の肩に自分の頭を乗せていた。

 

「……タルトは美味しかった?」

 

「うん……お店よりも美味しかった」

 

「ありがとう。ついでに次回のリクエストは何かある?」

 

「……凛の作るものなら何でも美味しい」

 

「そう? じゃあにんじんたっぷりのキャロットケーキでもいい?」

 

「……」

 

「いや、冗談だからそんな目をしないで」

 

「……にんじん、きらい」

 

「でもこれが意外と美味しいんだよ?」

 

「……」

 

「……」

 

「……うぅ」

 

「ごめんごめん、別のメニューを考えておくから安心して」

 

 凛はちょっぴり泣きそうになっているひな子を見て慌てて宥める。軽く抱きしめたり頭を撫でたりしながら何度か謝るとすぐに彼女の機嫌は良くなった。

 その後は彼女にせがまれてくっついたままのんびりと時間を過ごす。会話らしい会話もなく、ただ静かに彼女と過ごすだけのこの時間が凛は嫌いではなかった。そうして数十分ほどの時間が経過した頃、ひな子はぼんやりとどこかを見つめながら凛へと話しかけた。

 

「……凛は」

 

「……ん?」

 

「私に友達がたくさんできたら嬉しい?」

 

「嬉しいし、なにより安心するかな。信頼できる人が増えればひーちゃんは今よりもっと幸せになれるはずだから」

 

「……」

 

「大丈夫。ひーちゃんはとっても優しい子だからすぐに友達だってできるよ、私が保証する」

 

「……うん、がんばる。でも……」

 

 ひな子はそこで言葉を切る。気になった凛が彼女を見ると、こちらへ何かを訴えようとする瞳と視線が合った。

 

「……い、一番は凛だから」

 

「え?」

 

「凛が私の一番大切な人だから」

 

「う、うん」

 

 頬を赤らめながらも真っ直ぐな瞳でそう言い切った彼女に凛は妙な気恥ずかしさを感じて視線をそらした。

 だがそんな凛へとさらに畳み掛けるように彼女は続ける。

 

「凛は……?」

 

「えっ!?」

 

「凛が一番大切に――」

 

 

「せんぱーい! 理沙、ただいま戻りま――だ、だだ誰ですかその女ーーっ!?」

 

 

「……あっ」

 

 その瞬間、突然開いた自室のドア。

 そこからこちらを驚愕の瞳で見つめてくる理沙の姿を見て、さあどうしたものかと凛は頭を抱えた。

 

 

 

 

 

 

 




( ̄∀ ̄)やあ、こんにちは。

また会えて嬉しいよ。
最近調子はどうだい? 私の方は……ぼちぼちといったところかな。

そういえば今朝の新聞はもう読んだかい?
おや、まだ読んでいないのか。ならここにあるから是非読んでみたまえ。面白い記事が書いてあるよ。

……どうだい?
ふふふ、驚いた顔をしているね。私も最初に読んだ時は驚いたものだよ。

実をいうと、ここに来るお客さんの中にも彼女……ホワイトローズと短いやりとりをしたという人がいてね。
とても可愛らしい声で『どういたしまして』と会釈を返されて驚いたと言っていたよ。

一体彼女にどんな心境の変化があったんだろうね。
まあ理由がなんであれ、良い変化であることに違いはないと私は思うけどね。

……さて、それでは今日の注文を聞こうか。






※補完用人物紹介


★真白ひな子(魔法少女ホワイトローズ)
あだ名はひーちゃん。小学6年生。
東京都で活動する野良の魔法少女。
無表情がデフォルト。他者と一切の関わりを持とうとしないことから世間では愛想のない排他的な人物であるとされている。
しかしその正体はただの人見知りが激しい少女であり、唯一アリスの正体である凛には懐いている。ちなみに彼女が素を見せるのはアリス(凛)と二人きりになった時のみである。
魔法少女として抜群の戦闘センスを持っており、遠近共に高いレベルでこなすことができるバランス型。
無表情系キャラが信頼した相手にだけ見せる笑顔っていいよね。

★姫宮凛(魔法少女アリス)
お菓子作りが趣味の一つ。作ったものをよく周囲の人間に振る舞っており、腕前はかなりのもの。そのせいでチームメイトが最近体重を気にしていることは知らない。なお本人は太りにくい体質の持ち主。
ひな子(ホワイトローズ)のことは可愛い妹のように思っている。
 
★氷川理沙(魔法少女サファイア)
仕事が思いのほか早く終わってルンルン気分で凛の部屋を訪れたら、メスの顔で自分の想い人に迫っている謎の女を発見した。修羅場勃発である。



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仕事で突然お嬢様学校へ転校することになった魔法少女だけど何か質問ある?

お気に入り件数とかが見たことのない値になっててマジでビビった……
めちゃくちゃ嬉しかった。ありがとう。
感想がもらえたのもすごく嬉しかったです。

あと、誤字報告をしてくれた方々にも感謝を。自分だとどうしても気づけない部分っていうのがあるから本当に助かってます。

今回はちょっと長め(一万四千文字越え)だけど、いつも通りリラックスして読んでね。


 

 

 

1:TS魔法少女

なんか数日前に突然上司から『君、明日からこの学校の生徒になって仕事してね』と言われて超のつく名門お嬢様学校へ転校させられたんだけど

 

 

2:魔法少女を愛する名無し

いやどういうことやねん

 

っていうかTS魔法少女ってイッチあんたまさか

 

3:魔法少女を愛する名無し

ねえ、イッチってもしかしてこの前ホワイトローズちゃんのお宝写真貼ってた人?

 

4:TS魔法少女

>>3

イエス

 

覚えててくれる人がいて嬉しい

 

5:魔法少女を愛する名無し

ああ、君かぁ!

 

6:魔法少女を愛する名無し

待ってた

 

7:魔法少女を愛する名無し

数日ぶりやな

また会えて嬉しいで

 

8:魔法少女を愛する名無し

ワイも嬉しいでー

 

ところで何がどうなってそんなことになったん?

さっそく教えてクレメンス

 

9:TS魔法少女

>>8

おけ

 

上司『君、これまで働いてばかりでまともに学校行けてないよね』

 

私『せやな』

 

上司『最近は後輩の魔法少女たちも育ってきて戦力には余裕があるし、できればこれまで頑張ってきてくれた君にはちょっとした休暇的なものをあげたいんや』

 

私『なるほど』

 

上司『というわけで明日からこちらの学校へ転校してもらうことになった。向こうからの了承は既にもらっとるで』

超名門お嬢様学校への転校手続き書類(承認済み)ドン

 

私『は?』

 

上司『向こうで久々の学校生活を楽しんできてくれ。あ、制服とかは部屋に届けてあるから。ちなみに寮生活らしいから急いで色々準備した方がええで』

 

私『は?』

 

 

 

・仕事内容は新人魔法少女の指導教官(新人研修)

・対象は東京にあるお嬢様学校へ通う同い年の女の子(かなり有名な某企業の社長令嬢)

・期間は約一ヶ月程度を予定

・この仕事をしている間は他の仕事(緊急案件を除く)は入らない

・余計な騒ぎを起こさぬようこちらの正体(魔法少女名やランク)は基本的に伏せて仮の名を使う

・この後上司は怒り狂った私の同僚たちにリンチされとった

 

 

 

10:魔法少女を愛する名無し

ひでえ上司だと思ったけど最後で草

 

11:魔法少女を愛する名無し

最後笑った

 

12:魔法少女を愛する名無し

 

13:魔法少女を愛する名無し

イッチの同僚たち(例の二人)、イッチのこと大好きだもんなぁ

寮生活=イッチと会いづらくなるだからキレてもしゃーない

 

14:魔法少女を愛する名無し

上司のことはともかく、東京で超のつく名門お嬢様学校ってほぼ特定できちゃうな

ふむ、おそらくイッチは今あそこに通っとるのか

 

……学力偏差値かなり高いけど大丈夫?

 

15:魔法少女を愛する名無し

これまでまともに学校行けてないのにいきなりお嬢様学校へ通うことになるとかメンタルヤバそう

俺だったら緊張のあまり死んでまうわ

 

16:魔法少女を愛する名無し

イッチは多分というか間違いなく美少女だしお嬢様学校に居ても外面は違和感なさそう

 

17:TS魔法少女

>>14

学力の方は今のところ大丈夫

 

>>15

めちゃめちゃ緊張したよ……

意識切り替えて頑張ったけども

 

まあそんなわけでお嬢様学校へ通うことになって今日でもう五日目なんだ

 

 

18:魔法少女を愛する名無し

もうそんなに経っとるんか

イッチの転校初日の様子が気になるな

 

19:魔法少女を愛する名無し

大丈夫だった? 自己紹介で噛んだりしてない?

 

20:魔法少女を愛する名無し

いや、普段魔法少女として活躍してるから会話は大丈夫やろ

 

21:魔法少女を愛する名無し

大勢の知らない人の前で自己紹介するのって緊張するんだよなぁ……

 

22:TS魔法少女

>>18

了解、転校初日の様子を伝えるね

 

まず校舎がすごく大きくてびっくりした

あと、どこを見ても女の子しかいなくて『本物の女子校なんだなぁ……』って新鮮な気持ちで職員室に向かったよ

 

そこで先生と顔合わせ&打ち合わせをして、朝の会のタイミングで配属クラスにて自己紹介を行うことになった

自己紹介については……まあ無難にできたと思う

みんな転校生に興味津々みたいで、この時から一日中ずっと誰かしらの視線を感じ続けることになった

 

朝の会が終わったらさっそく一時間目の授業。

いきなり先生に問題を当てられたけど余裕で答えられたし、授業自体は全然ついていけそうなレベルで安心したよ

 

その後の休み時間は色々とクラスメイトから質問攻めにされて大変だったなぁ……

 

そんな感じで普通に授業を受ける→休み時間に質問攻めにされる→授業を受けるの繰り返しで、特にこれといったイベントもなく、あっという間に放課後になったよ

 

 

23:魔法少女を愛する名無し

>>22 まず校舎がすごく大きくてびっくりした

銀髪美少女JCが『すごく大きくて……』と言っている様子を想像してちょっと興奮しちまった俺はもうダメかもしれない

 

24:魔法少女を愛する名無し

>>23

悔い改めて

 

25:魔法少女を愛する名無し

>>23

おまわりさんこの人です

 

26:魔法少女を愛する名無し

おまえら真面目にイッチの話聞いたれ(呆れ)

 

27:魔法少女を愛する名無し

うーん、普通によくある転校生の初日って感じやな

 

28:魔法少女を愛する名無し

いやイッチのことや、ここから一大イベントが始まるに違いない

俺は詳しいんだ

 

29:TS魔法少女

続けていい?

 

30:魔法少女を愛する名無し

ええで

 

31:魔法少女を愛する名無し

オナシャス!

 

32:TS魔法少女

まあそんなわけで何事もなく放課後を迎え……

またクラスメイトたちに囲まれてそれに対応していたら突然モーゼのように人垣が左右に割れて、いかにも育ちの良さそうなお嬢様たちのグループが私のところにやってきたんだよね

 

一体何が始まるのかと彼女たちを見ていたら、グループの中心にいたお嬢様(指導対象の新人魔法少女ちゃん)が開口一番に、

『あなたが今日から私を担当する指導教官の方よね』

って話しかけてきた

 

まさかこんな人目のあるところで仕事の話をし始めるとは思わなくてびっくりしつつも肯定したら、

『(魔法少女としての)身分証明書を見せてちょうだい』

って言われたから機関の身分証明書(魔法少女名やランク偽装済み)を見せたんだ

そしたら――

 

『……は? Cランク!? もうすぐCランクに昇格する私が何故今更この程度の人間に教えを乞わなければならないのかしら。最低でもエース級か準エース級の者を割り当てるのが当然でしょう。あなた、私を馬鹿にしてるの?』

って感じでなんかすごく不機嫌そうに睨まれて怒られた

 

33:魔法少女を愛する名無し

うわ、めちゃくちゃプライド高くて面倒臭いやつだこれ

 

34:魔法少女を愛する名無し

これは最悪な第一印象

イッチかわいそう

 

35:魔法少女を愛する名無し

ランクのこととかの事情は伝えなかったん?

 

36:TS魔法少女

>>35

もちろん伝えようかと思ったけど、『すみません、あなた程度の人間にかける時間はありませんので。もう帰って結構ですよ』とまともに取り合ってもらえなかったんだよね……

 

ちなみに彼女が魔法少女であることは周知の事実らしくて、私が魔法少女であるという情報もすぐに広まっちゃった

 

37:魔法少女を愛する名無し

えぇ……

 

38:魔法少女を愛する名無し

これはイッチに同情するわ

 

39:魔法少女を愛する名無し

どう考えても人に教えを乞う人間の態度じゃないですねこれは

 

40:魔法少女を愛する名無し

初日がこれとかマジでキツい

 

41:魔法少女を愛する名無し

今日で五日目らしいが学校生活の方は問題なく送れとるん?

イッチがストレスためてないか心配になってきたで

 

42:魔法少女を愛する名無し

ワイも心配や……

 

43:TS魔法少女

>>41

ちょっと色々あったけど今は問題なく送れているよー

心配してくれてありがとう

 

44:魔法少女を愛する名無し

少しホッとしたわ

せめて学校生活だけでも楽しめないとイッチがあまりにもかわいそうだからな

 

45:魔法少女を愛する名無し

で、肝心の仕事(新人指導)の方はどうなっとるん?

初日の様子を見るに、まともにイッチの指導を受けてくれなさそうやが

 

46:魔法少女を愛する名無し

上司も何故こんな厄介な新人にイッチを割り当てたのか……

 

47:魔法少女を愛する名無し

確かに先行きが不安になる出会い方だけども………

一応期間は約一ヶ月程度あるらしいし、毎日少しずつコミュニケーションをとって地道に距離を詰めていくしかないやろな

 

48:魔法少女を愛する名無し

イッチも大変やなぁ

 

49:TS魔法少女

>>45

現在は仕事も順調だよー

 

例の新人ちゃんも『お姉様ーっ!』って私のことを慕ってくれてて可愛いし、思っていたよりもなかなか充実してる

 

上司もたまにはやるじゃんって思った

 

50:魔法少女を愛する名無し

え?……え?

 

51:魔法少女を愛する名無し

……あれ?

 

52:魔法少女を愛する名無し

ん……? あれ?

 

53:魔法少女を愛する名無し

>>49 『お姉様ーっ!』

高慢なお嬢様をあっさり攻略してて草生えますよ

 

54:魔法少女を愛する名無し

イッチってもしかしてコミュ力◎?

その能力を俺にも分けて欲しい

 

55:魔法少女を愛する名無し

>>49 『お姉様ーっ!』

君は誰?状態になったわ

 

あとリアルで同級生のことお姉様って呼ぶ人初めて見た

 

56:魔法少女を愛する名無し

>>49 上司もたまにはやるじゃんって思った

イッチが普段の上司をどう思ってるのか伝わってきて草

 

57:TS魔法少女

>>55

ぶっちゃけ同級生なのに何故『お姉様』呼びなんだろうかとは少し思っている

 

さらに言えば周囲の人からまでも何故か『様付け』や『お姉様』って呼ばれるようになっちゃったし……

私ってもしかして老けて見えるのかなぁ

 

58:魔法少女を愛する名無し

転校から数日で(同級生から)『お姉様』呼びの定着化は笑う

 

59:魔法少女を愛する名無し

直接的な関わりが多くなりそうな新人ちゃんはともかく、周囲からも『お姉様』って呼ばれとるんか……一体何をしたらそうなるんや

 

60:魔法少女を愛する名無し

>>57 私ってもしかして老けて見えるのかなぁ

それはない(あくまで勘だけど不思議と断言できる)

 

61:魔法少女を愛する名無し

>>60

君は正しい

俺のサイドエフェクトがそう言ってる

 

イッチよ、原因を解明するために君がこの数日間どんな風に周囲と関わったか具体的に教えて欲しい

 

62:TS魔法少女

>>61

別に普通だと思うけどなぁ……

 

クラスメイトから料理のアドバイスを聞かれたり、何人かに勉強を教えてあげたりしてるくらい

あと初日の放課後から見学や体験の名目で部活動を色々回ったかな

 

63:魔法少女を愛する名無し

ふむ、なるほど

 

では何か記憶に残っている特別な出来事はある?

 

64:TS魔法少女

>>63

特には……あ、でも、放課後に廊下を歩いていたら遠くからソフトボール部のボールが飛んできて、それに当たりそうになってた子を助けたことはあったな

熱があったのかずっと顔が赤くて保健室まで付き添ってあげたのでよく覚えてる

 

65:魔法少女を愛する名無し

察した

 

66:魔法少女を愛する名無し

俺も察した

 

67:魔法少女を愛する名無し

漫画とかでよくあるやつ

 

68:魔法少女を愛する名無し

なるほどなるほど

では続けてイッチに尋ねよう

君って運動得意? 苦手なスポーツある?

 

69:TS魔法少女

>>68

運動は得意かな

苦手なスポーツは特にないです

 

70:魔法少女を愛する名無し

うん、察した

これはもう確定かな

 

71:魔法少女を愛する名無し

・美人で家庭的で勉強ができて、素直に相談に乗ってくれる人柄の持ち主

・加えて運動も得意でおそらく高いレベルで何でもこなせるタイプ

・明らかにプライドが高くて有名そうなお嬢様が『お姉様』と呼び慕っている上、現役の魔法少女という肩書持ち

・おまけにさらっとイケメンムーヴをこなせる

 

いや君、女子校で周りにこんな姿見せてたらそらそうなるよ

 

72:魔法少女を愛する名無し

イッチのスペック高すぎィ!

 

73:魔法少女を愛する名無し

何この完璧超人

周囲から慕われる要素しかないですねこれは

 

74:魔法少女を愛する名無し

イッチが周囲から慕われる理由はよく分かった

ところで、そろそろ例の新人ちゃんをどう攻略したのか聞いてもいい?

 

75:TS魔法少女

>>74

別に攻略ってほどのことをした覚えはないんだけど……

とりあえずお姉様呼びをされる前にあった出来事を語るね

 

二日目の午後に、新人ちゃんが担当する地区に突発的な予期せぬ魔獣の出現が観測されて彼女が急遽出動する出来事があったんだ

 

76:魔法少女を愛する名無し

突発的な魔獣の出現……イレギュラーか

 

77:魔法少女を愛する名無し

あー、たまに起こるっていう

マジで何の前触れもなく起こるから対処が非常に難しいやつじゃん

 

78:魔法少女を愛する名無し

これさっそく緊急案件に遭遇してるよねイッチ

 

79:TS魔法少女

もちろん私も彼女と一緒に現場へ急行したよ

それで、なんとか被害が大きくなる前に駆けつけることはできたんだけど、現場でさらなるイレギュラーが発生しちゃったんだ

 

移動中に聞いた観測情報から魔獣の推定戦力はCランクって話だったのに、いざ現場に着いたらCランクどころかAランクは確実にあるような化け物が待ち構えていたの

 

80:魔法少女を愛する名無し

は?

 

81:魔法少女を愛する名無し

は?

 

82:魔法少女を愛する名無し

は?

 

83:魔法少女を愛する名無し

AランクをCランクとして報告するとか誤報告ってレベルじゃねーぞ!?

 

84:魔法少女を愛する名無し

ぜ、絶望しかねえ

 

85:魔法少女を愛する名無し

新人ちゃん逃げて! マジで逃げて!

 

86:魔法少女を愛する名無し

ちょ、ちょっと待って、Aランクってあれでしょ? 

たしか原則としてBランク以上の魔法少女たちが必ず三人以上で対処するように定められているっていう……

 

87:魔法少女を愛する名無し

>>86

それで合ってる

 

間違ってもタイマンなんてものを挑んではならないレベルとされ、Cランク以下の魔法少女は挑むこと自体が自殺行為なので戦力としてカウントされず、むしろ避難を求められる

 

88:魔法少女を愛する名無し

個体によってはAランク魔法少女三人がかりでも勝てるか怪しいとされるレベルのものもいるらしいで

 

89:魔法少女を愛する名無し

え、マジでイッチたち何故生きてるの……?

 

90:魔法少女を愛する名無し

ちょっと待て、最近の東京での話だよな?

そんな話全然聞いてないぞ!

 

91:魔法少女を愛する名無し

>>90

大きな混乱を招きかねんから情報規制されとるってことやで

 

ワイらが何も知らずにいつも通りの日常を過ごす裏で、彼女たちは人知れず命をかけてワイらのために戦ってくれとるんや

本当に頭が上がらんよなぁ……

 

92:魔法少女を愛する名無し

>>91

ほんそれ

 

93:魔法少女を愛する名無し

ほんまにイッチたちが無事で良かったで……

でもそうなるとどうやって生き延びたのかが気になって仕方ないんや

 

94:魔法少女を愛する名無し

>>93

それな

 

Aランク相手にDランクの新人ちゃんを連れた状態で対峙とは……

状況的にマジで絶望しかなかったと思うんですが

 

95:TS魔法少女

>>93

ごめん、どうやって対処したかについては流石に守秘義務に反するから話せない

 

ただ、一言だけあの時の感想を言わせてもらうと、

新人ちゃんがAランク魔獣に無謀な特攻をかまそうとしてめちゃくちゃ焦った

 

96:魔法少女を愛する名無し

はぁっ!?

 

97:魔法少女を愛する名無し

ちょっ、新人ちゃん何やっとるん!?

 

98:魔法少女を愛する名無し

その子は馬鹿なの?

 

99:TS魔法少女

>>97

>>98

駆けつけた場所でちょうど一般市民が殺されそうになっていて、それを助けるために動いたんだよ

 

確かに新人ちゃんの行為は決してほめられたものではなかったけれど、あの場面で誰かのために咄嗟に動くことのできるその姿を見て、私は彼女のことが結構気に入っちゃったんだよね

 

100:魔法少女を愛する名無し

ただの馬鹿かと思ったらめちゃくちゃ良い子だった

 

101:魔法少女を愛する名無し

新人ちゃん、君ってやつは……

 

102:魔法少女を愛する名無し

でも一歩間違えたらというか普通なら死んでてもおかしくない行為だから素直に褒められんくて複雑な気持ちや

 

103:魔法少女を愛する名無し

>>102

それな

 

104:TS魔法少女

まあそんなわけで、なんとか危機を乗り越えたら彼女から『お姉様』って呼ばれるようになって今に至るよ

一応名目上は休暇のはずなのになんでいきなりこんな事件に巻き込まれてるんだろうね私は……

 

さて、これ以上語るとそのうちボロが出そうなので今回はここで終わり!

また次のスレで会いましょう! さよなら!

 

105:魔法少女を愛する名無し

おつー

もう少し聞きたかったが守秘義務がある以上仕方ないか

元気でなイッチ!

 

106:魔法少女を愛する名無し

おつ

体調には十分に気をつけてな

また会えて嬉しかったで!

 

107:魔法少女を愛する名無し

おつ

頑張ったイッチが残りの休暇をしっかり満喫できるよう祈っとくわ

 

108:魔法少女を愛する名無し

いやー、今回もなかなかすごい話やったな

 

109:魔法少女を愛する名無し

ほんと話題に事欠かないイッチやで

 

110:魔法少女を愛する名無し

守秘義務があるから仕方ないとはいえ、やっぱAランク魔獣をどう対処したのか気になって仕方がない俺氏

 

111:魔法少女を愛する名無し

>>110

多分みんな同じこと思ってるぞ

 

112:魔法少女を愛する名無し

実際、Aランク魔獣と魔法少女がタイマンで戦ったらどうなるん?

教えて有識者!

 

113:魔法少女を愛する名無し

>>112

では僭越ながら私がお答えするよ

 

Aランク魔獣の強さは個体差があるとはいえ大半が文字通りの化け物レベル

もし魔法少女たちが奴らにタイマン勝負を仕掛けたら魔法少女ランクごとの結果はこんな感じだとされている

Cランク以下→瞬殺される

Bランク  →約一分もてば上出来

Aランク  →なんとか一分以上戦える

 

※Cランク以下が瞬殺される理由の一つとしては、常時発している威圧だけで並大抵の魔法少女では彼らの前で戦意を保てず硬直や気絶をしてしまうことが挙げられる

 

加えて、魔法少女の殉職理由の約半数がAランク魔獣との戦いによる戦死である模様

 

114:魔法少女を愛する名無し

…………

 

115:魔法少女を愛する名無し

……えっ、これマジ?

 

116:魔法少女を愛する名無し

とんでもない奴すぎて草も生えない

 

117:魔法少女を愛する名無し

やばすぎでしょ……なんなんだよこいつら……

 

118:魔法少女を愛する名無し

お荷物である新人ちゃんを連れた状態でこんなのと遭遇して生き延びてる時点でイッチすごくね?

 

119:魔法少女を愛する名無し

ていうかさ、まさかとは思うけどワンチャンAランク魔獣をイッチが一人でなんとかした説ある?

 

120:魔法少女を愛する名無し

>>119

流石にそれは……

 

121:魔法少女を愛する名無し

ありえないだろう……って言おうと思ったが、もし仮にそうだとすると新人ちゃんがイッチに即墜ちした理由があっさり説明できるな

 

……まああくまで仮にだけどね

 

122:魔法少女を愛する名無し

少なくとも特攻をかました新人ちゃんをなんとか助けてはいそうだし、それでイッチのことを意識するようになったっていうのが現実的じゃない?

Aランク魔獣については、おそらく他の上位ランク魔法少女たちの救援が間に合ってなんとかなったんじゃないかと

 

123:魔法少女を愛する名無し

>>122

多分そうだと思う

Aランク魔獣は個人の力でどうこうなる存在ではないし

 

124:魔法少女を愛する名無し

一体誰が担当したんだろうな

やっぱり東京のエースであるアリスが率いるチーム『ステラ』か?

 

125:魔法少女を愛する名無し

>>124

ワイも彼女たちが担当したんじゃないかと考えとる

とはいえBランク以上の魔法少女は別に彼女たちだけではないし他の子の可能性もあるけどね

 

126:魔法少女を愛する名無し

どちらにせよそんな状況からイッチたちが無事に生還してくれたことに心底ホッとしとる

 

127:魔法少女を愛する名無し

>>126

だな

イッチたちにはこれからもずっと元気でいて欲しい

推しの魔法少女の戦死報告なんて聞きたくないからな

 

128:魔法少女を愛する名無し

イッチたちの未来に光あれ!

 

 

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

 一条花蓮(いちじょう かれん)という少女は幼い頃からずっと妹と比較され続けて生きてきた。

 

 大企業をまとめる優秀な社長夫婦の長女として生まれ、その肩書きに見合う能力を備えるべく様々な教育を幼い頃より受けてきた少女であったが、その能力はどれもが平々凡々であり、一方で彼女より一年遅く生まれた妹の方はあらゆる分野において文句無しの天才であった。

 

 勉強も、運動も、その他習い事も、どれだけ努力を重ねても少女は常に二番手であり、輝かしい成績を収め続ける妹の方に周囲の人間たちはいつも夢中だった。

 

『世の中、やっぱり天才ってのはいるものだねえ……』

 

『流石はあの社長の娘さんだ、他とはまるで違う』

 

『長女の方もそこまで悪くはないが……なんというかいまいちパッとしないな』

 

『妹ちゃんほどじゃないけど、まあ一応頑張っているんじゃない?』

 

『妹を見た後だと全然物足りないな。あれじゃただの妹の劣化版というか……本当に姉なのか?』

 

『生まれる順番を間違えたのではないか?』

 

 少女は悔しかった。

 

 何においても妹を越えることができず、周囲はそんな自分を妹と比べて好き勝手に言う。

 両親ですらそれは同じで、彼らとの会話の中に妹の存在(彼らの一番)が含まれない時など絶対になかった。

 彼らと話すたびに嫌でも理解させられた。彼らはずっと優秀な妹のことしか見ていないのだと。

 可愛い妹のことは決して嫌いではなかったが、それ以上に彼女の持つ輝きが苦手だった。

 

 誰も彼もが妹、妹、妹と口する。

 何をするにも妹の存在がついて回り、いくら高い成績を収めようとすぐに妹に塗り替えられるそれに意味を見出すことが段々と出来なくなっていった。

 

 自分はいつまでもこのままなのだろうか。

 妹のようになれず、周囲からも期待されず、永遠にこの家唯一の凡人として満たされない日々を過ごし続ける。

 

 自分は……一体何のために生きているのだろうか。

 

 

 しかしある時、そんな少女に転機が訪れる。

 

 

 魔獣による災害に巻き込まれたことをきっかけに、自分の中で眠っていた魔法少女としての力が覚醒したのだ。

 

 少女は歓喜した。

 ついに見つけた【自分だけの特別】に。

 

 何においてもずっと天才である家族や妹を越えることはできないと思っていたけれど、これならば……と。

 

 少女の諦めかけていた心に再び火が灯った。

 

 妹や両親の強い反対を無視し、少女は魔法少女としての世界に足を踏み入れたのである。

 

 

 

 

 だが、そこで待っていたのは少女の希望を打ち砕く厳しい現実だった。

 

『残念だが、お世辞にも君の魔法少女としての資質は高いとはいえないね』

 

 魔法少女として覚醒したものの、少女の体内魔力量は残念なことに平均以下であり、大成することは難しいだろうと機関の人間に告げられたのだ。

 その事実に強いショックを受けた少女であったが、彼女に今更諦めるという選択肢はなかった。

 もう自分にはこれしかない……そう思っていたから。

 

 新人として身の丈に合った任務をこなし地道に経験を積んでいく中、風の噂で妹の活躍を幾度となく耳にした。

 各種演奏コンクールでの優勝、絵画コンテストでの最優秀賞の受賞、バレエの大会での優勝など、様々な表舞台で活躍しているようだった。

 妹が順調に様々な結果を出している一方で、自分はといえば未だ何も成せず無名の新人のまま。

 

 ここでも駄目ならもう……いやだ、諦めたくない。今度こそ、今度こそは自分も……

 

 妹の活躍を耳にするたびに大きくなっていく焦りと不安。

 ただ時間だけが流れ、全く変われない自分に焦燥感だけが募っていった。

 

 

 

 

 魔法少女となって数ヶ月が過ぎ、周りに遅れながらもようやく一端の魔法少女と呼べるCランクへの昇格も間近となったある日、少女は上から新人研修を受けるように通達される。

 新人研修とは、実戦経験を十分に積んだ高ランクの魔法少女が一度だけ新人魔法少女の担当に付き、そのノウハウを伝えながら後進の育成を行うものである。

 

 ――もしも優秀な高ランク魔法少女に担当してもらうことができれば、現状を変えられるかもしれない。

 

 自分の伸びしろがまるで見えず現状に行き詰っていた少女にとって、優秀な先輩からの直接的な教えによるレベルアップを期待できる新人研修はなんとしてでも生かしたい最大のチャンスであった。

 聞けば相手はどうやら研修のために自分が通う学校へと数日以内に転校してくるらしい。少女はどうか素敵な方が来てくれますようにとひたすら祈りながらその日を待った。

 

 

 

 

 そうして始まった研修の初日、自分が通う学校へとやってきた先輩は意外にも同い年の少女であった。

 てっきり年上の魔法少女が来るのだろうと思っていた彼女はそのことに少し不安を覚えたが、気にすることではないと頭を振る。

 大事なのは自分の指導教官となる相手の実力だけであり、それさえしっかりしていれば後はどうでも良いのだから。

 

 ――上から指導教官として選ばれているんだ。きっととても優秀な魔法少女に違いない。お願いだからそうであってくれ。

 

 だからこそ、相手が差し出してきた魔法少女としての身分証明書カードに記された表記を見て目を疑った。

 相手の魔法少女はまさかのCランク。書かれている魔法少女名もまるで聞いたことがない全くの無名であり、自分とそれほど変わらない凡庸な人間であることが分かってしまった。

 それは、彼女の元で学んでも自分が求めるレベルのものは得られないであろうことを意味しており――

 自分は最大のチャンスすらつかめなかったのだと少女は悟った。

 

 これで希望を失うなというのは無理な話だ。上は既に自分の伸びしろに見切りをつけているとでも言いたいのだろうか。

 

 期待を裏切られ、少女の心はぐちゃぐちゃにかき乱される。

 ようやくチャンスを得られると思っていたのに。この場所に来ても結局あの家にいた頃と何も変われないまま終わるのか。今度こそ諦めたくはないのにどうして何もかもが上手くいかない。どうしたらいい、どうしたら……

 

 ――もう、諦めた方がいいのかな。

 

 決して吐くまいと耐えてきた弱音が漏れそうになる。

 この数か月間、いつまで経っても変われない自分自身への不安や焦燥感に駆られ続け、ようやくつかめると思ったチャンスすらも一瞬で失った絶望感に少女の心はもう限界だった。

 

 少女はその日、指導教官を冷たくあしらい逃げるようにその場を去った。

 ……最低だ。彼女は何も悪くない。悪いのは勝手に期待しておいて勝手に絶望している我儘な自分だというのに。自分に対するそんな自己嫌悪も加わって少女の心はますますひび割れていく。

 

 その次の日の午後のことだ、少女の担当地区に突発的な魔獣の出現が観測されたのは。

 

 

 

 

 現場への移動中に少女は本部からの情報を聞き、敵がCランク魔獣であることを知る。

 自分の現在のランクはDであり、敵の方が格上。

 しかしここで少女の中にある考えが浮かぶ。この魔獣を単独で倒すことができれば自身の評価は間違いなく上げられる、と。

 実力に関してもリスクはあるがCランク間近の自分にとって不可能なレベルではないはず。

 だからこそ少女は断ったにも関わらず勝手に自分に着いてきた例の指導教官へとこう告げた。

 

 手出し無用。これは自分の獲物だと。

 

 そうして現場へと着いた少女はすぐに対象を発見し――その姿を見た瞬間に頭が真っ白になった。

 現場にいたのは一体の巨大な闇色のドラゴン。その姿を視界に入れただけで少女の頭の中では警鐘がけたたましく鳴っていた。

 

 ――逃げろ。アレには絶対に勝てない。殺される。気づかれない内に今すぐにここから離れるべきだ。

 

 あの魔獣がCランクであるはずがない。あれはもっと遥かに格上の化け物だ。

 本能的にそれを悟った少女は震える手で本部に連絡をとろうとして――それを見てしまった。

 

 今まさに魔獣が吐こうとしているブレスの直線上に幼い子どもの姉妹が震えて蹲っているのを。

 

 気づけば少女は通信機を投げ捨てて駆け出していた。

 

 気を抜けば一瞬で意識を飛ばされそうな重圧の中、震える手足を必死で動かしてその場に飛び込み、姉妹を抱きかかえたまま地面を激しく転がる。

 直後放たれたブレスの余波で大きく吹き飛ばされながらもすぐに起き上がって前を見れば、魔獣の視線が少女を完全に捉えていた。

 

 ――ああ、死んだな私。でも……せめてこの子たちは。

 

 心臓がバクバクとおかしな速さで鼓動しているし、全身の震えが止まらない。

 だがそれでもわずかに残った力で姉妹を指導教官のいる方へと放り投げ、魔獣と向き合った。

 どうせ大した時間稼ぎにもならないだろう。目の前の魔獣にとって自分は虫ケラ以下の存在だ。今更何をしたって状況は好転しないし自分は間違いなく死ぬ。

 

 ――けど、虫ケラなりに最後の最後まで抗ってやる。

 

 ずっと自分だけの特別が欲しかった。

 親や妹のように眩しい輝きをもつ人になりたかった。

 誰かに――自分という人間を心から認めて欲しかった。

 

 ――結局、最後の最後までつまらない人間だったなぁ……私。

 

『ーーーー!!』

 

 怯える身体を動かすためになりふり構わず声を張り上げ、魔獣へと突っ込んだ。

 迎撃の闇色のブレスが少女の視界を埋め尽くし――

 

 

 

『まったく、無茶ばかりする子だなあ』

 

 

 

 少女がいつまで経っても襲ってこない痛みに疑問を感じて目を開けば何故か目の前に指導教官の顔があった。

 

 ――どうして彼女が? 自分はたった今魔獣に無様に殺されたのではなかったのか?

 

 遅れて彼女にお姫様抱っこされていることに気づき、慌てて降りようとしたところでハッとなって彼女に姉妹のことを尋ねると『既に安全なところへと送ったから大丈夫』と返ってきた。この短時間でどうやってと思ったが不思議と嘘をついているようには見えなかった。

 

『さて、君には色々と言いたいことがある』

 

 そう言ってどこか責めるような目でこちらの顔を覗き込んできた彼女を見て思わず身体が強張った。

 

 ――ひどい態度や行動だらけだったもの、やっぱり怒っているんだろう。

 

 しかし予想に反して彼女がとった行動は大人びた優しい笑みを浮かべて少女の頭を撫でることだった。

 

『先輩として無茶したことについて許す気はないけど、君の勇気はしっかりと見せてもらったよ。……よく頑張ったね』

 

 呆然とする少女に彼女は告げる。

 

『少なくとも私は認めてあげる。一条花蓮さん――あなたは立派な魔法少女だってね。だから胸を張って誇りなさい、恐怖に打ち勝ってあの子たちを救った自分自身を』

 

 それは、少女がずっと欲しかった言葉だった。

 ゆっくりとその意味を理解するにつれ、じわりと温かいものが胸の内に広がっていくのが分かった。同時に空っぽだった心が満たされていくのも。

 自分を見つめる彼女の瑠璃色の澄んだ瞳はどこまでも真っすぐで、だから続く言葉も紛れもない彼女の本心だと受け入れることができた。

 

『私はあなたという人間を心から尊敬するよ』

 

 ――ああ、この人は私を認めてくれているんだ。こんな私を、本当に心から。

 

 胸の奥から湧き上がる喜びにこれまで感じていた多くの負の感情が嘘のように消えていく。

 急速に視界が滲み、ボロボロと涙が溢れて止まらなかった。

 彼女のたったほんの少しの言葉で、少女は本当に救われてしまっていた。

 

『……だから私に手伝わせてくれないかな。あなたがもっと輝ける素敵な未来のために』

 

 そう言ってこちらを優しく見つめる彼女の姿には不思議な安心感と温かさがあって――少女は声を上げて泣いた。

 ありがとう。ごめんなさい。様々な感情が溢れて口からこぼれ出る。そのたびに彼女はそっと少女の頭を撫で、優しく抱擁してくれるのだった。

 

 

『落ち着いた?』

 

 時間にして一~二分後、ようやく我に返った少女が目にしたのは自分の涙でぐっしょり濡れた制服を着て静かに微笑む指導教官の姿だった。

 それを見て今更のように恥ずかしさがこみ上げてきたが、同時に落ち着いてきたことで改めて先程までの状況を思い出してしまい、再びあの恐怖と緊張感が甦る。

 そうして次に浮かぶのは当然の疑問。

 

 ――あの化け物はどうなった?

 

『ああ、アイツのことかな? アイツなら……ほらそこに』

 

 少女は彼女が指で示す方向を見た。

 そこにあったのは光のリボンで全身をガチガチに拘束されたあの魔獣の姿。

 そしてその拘束は今にも破られようとしていた。

 

『流石は推定Aランクだね。これでも全然もたないかぁ……』

 

 そう言って苦笑する彼女に対し少女は絶句した。

 Aランク……それは文字通りの化け物を指す階級だ。高ランクの魔法少女たちが複数で対応することが必須とされ、自分のような新人が逆立ちしても勝てない存在である。

 

 ――そんな……Aランク魔獣なんてどうしようもないじゃない。

 

 最悪だ。せっかく彼女のような人と出会うことができたのに。

 あの拘束が解けてしまったら今度こそ終わってしまう。

 

『大丈夫、あなたは私が絶対に死なせないから』

 

 希望の見えない絶望的な状況――だというのに彼女は笑っていた。

 どうしてそんな顔ができるのだと困惑する少女はここでようやくとある事実に気づく。

 

 ――そういえば彼女……まだ変身していない!?

 

 ではあの拘束魔法は別の誰かが? いや、別に魔法少女は変身せずともある程度の魔法を扱うことができる。ただ、変身していないと上手くコントロールができないというだけで。

 だが、あの魔法はどう考えてもそんな状態で使用できるような低位の魔法には見えない。少なくともあの魔獣を一分以上拘束し続けている時点で並のレベルではないことは確かだ。

 そして術者が自分でない以上、やったのはこの場にいるもう一人の魔法少女である彼女しかいない。

 

 そこで少女はふと思う。

 そもそもだ、()()()()()()()()()()()()()C()()()()()()()()()()

 

 自分は最初から、何か大きな勘違いをしていたのではないか?

 

 こちらに背を向け、魔獣と向き合った彼女が変身呪文を唱えだす。そこで少女はようやく目の前の彼女が一体誰であるのかを悟った。

 

『――星よ集え、我が名のもとに。愛に勇気を、この手に光を。 我は無窮の闇を払いし光の戦士なり。〈変 身(マジカルチェンジ)――アリス!〉』

 

 ――ああ、知っている。自分は、自分たちはその変身呪文の文言をよく知っている。だってそれはみんなが憧れるあの人の――

 

『――待ってて。すぐに終わらせてくるから』

 

 そこから先の光景は少女にとって異次元の攻防であった。

 

 開幕から挨拶代わりに特大の魔力砲を放ち、その後には彼女の魔装である純白の長剣を手に魔獣と何度もぶつかり合う。

 

 巨体に見合わぬ速さで振るわれる尻尾による薙ぎ払い、爪による引き裂き攻撃、範囲攻撃のブレス、どの攻撃も一度受けたら終わりだと分かる即死級の攻撃の数々。自分だったら最初の一撃で塵となって終わりだろうと感じる凄まじい攻撃の嵐だ。

 彼女はそれらを的確に捌きながら反撃し、堅実に敵の体力を削っていく。

 時折、彼女に隙をつくるために魔獣が少女を狙おうとしたが、『つまらない真似をするな』と言わんばかりに彼女はそれらを全て叩き落とし、強力な一撃を叩き込んでいた。

 それはあまりにも展開が早い高速戦闘であり、少女では彼女の動きをかろうじて目で追うのが精一杯であった。

 

 ――すごい。

 

 あれがアリス。あれが東京都の魔法少女たちの頂点に立つ英雄の戦い。

 

 綺麗だと思った。

 見れば見るほど惹きつけられ、彼女の戦いから目が離せなくなる。

 きっと現実では一分も経っていない。だが一秒一秒がとても長く感じる目の前の戦闘を見ていると既に何時間も経っているかのように錯覚してしまいそうだった。

 

 やがて彼女は魔獣から大きく距離をとると、手に持つ長剣へと一気に膨大な魔力を込め始めた。

 魔獣の方も口内に膨大なエネルギーを溜めて構える。

 

 一瞬の静寂の後、両者はお互いに全力の一撃を放った。

 

 拮抗は一瞬。

 魔獣の放った闇色のブレスを眩い光の一閃が断ち切り、そして――

 

 

 

 

『……昨日はちゃんと伝えられなかったから改めて名乗るよ。私の名前は姫宮凛、またの名を魔法少女アリス。指導教官としてこれから一ヶ月よろしくね、一条花蓮さん』

 

 消滅していく魔獣から視線を切ってこちらへと振り返った彼女は、最高にカッコいい笑みを浮かべて笑っていた。

 

 

 

 

 

 




★一条花蓮(魔法少女スカーレット)
新人ちゃん。とある大企業をまとめる社長夫婦の娘である本物のお嬢様。プライドは高いが根は良い子でかなりの努力家なので他の生徒たちからの好感度は高い方。
ツリ目に赤いロングストレートヘアの持ち主で体は平均より若干小さめ。
優秀な両親の間から生まれながら凡人と同じ程度の能力しか持たず、幼い頃から天才である妹にことごとく負け続けてきたことで自分の存在意義を見失い心を病んでしまっていた。
初めて自分自身を真っ直ぐに認めてくれた存在である凛と出会って救われて以降、彼女をお姉様と呼び慕っている。ちなみにこのお姉様の意味合いは姉妹的なものではなく、敬愛する人物としてのお姉様であるらしい。
魔法少女としては中〜遠距離での魔法戦を得意とする後衛アタッカータイプ。炎属性。
実をいうと今回の新人研修を凛に回すように依頼したのは娘(姉)のことを心配した彼女の家族たちであり、後に和解した。
現在は凛と一緒にいられる時間を増やすため、新人研修の期間をなんとかして延長できないかと悩んでいる。

★姫宮凛(魔法少女アリス)
仕事でお嬢様学校へやってきたTS娘。
タイマン禁止のAランク魔獣にタイマンで勝つやべーやつ。
本編には描写されていないが、Aランク魔獣との戦闘時には強固な結界を広範囲に張って周辺に被害が出ないようにしていた。
現在は新人ちゃんを早々に攻略して楽しい学園生活を満喫中。
アイドル顔負けの容姿と無自覚イケメンムーヴで既に学校中の女子生徒のハートを射止めつつある。既にファンクラブが存在しているらしい。

★魔装
魔法少女の固有武器。
使用時は基本的に魔力を大量に消費するので慎重に扱わざるをえない魔法少女にとっての切り札的なモノ。その能力も魔法少女ごとに色々ある。

★Aランク魔獣
化け物。タイマン、ダメ絶対。
半端な攻撃は一切効かない上、一撃一撃が必殺級の攻撃力というチートモンスター。

★上司
眼鏡をかけたイケオジで凛たちの上司。影で色々と頑張っているらしい。

★チームメイトたち
お互いの仕事のせいで都合が全く合わず、凛と会える機会が大幅に減って、深刻な凛不足に陥りつつある。
最近は凛の自室のベッドに侵入することでなんとか耐えているらしい。


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拾った女の子の正体が悪い魔法少女だった件 前編 ―メア―

お久しぶりです。リアルの忙しさが一段落したので帰ってきました。
最近のハーメルンは魔法少女モノが地味に増えてて私的には最高の環境ですね。もっと増えないかなー(期待の目)

さて、今回はアンケートで一番だった悪の魔法少女回になります。
時系列が混乱しないように先に伝えておくと、掲示板シーン終了後からずっと過去の話(つまり過去編)になるのでご了承下さい。

今回も頭を空っぽにしてリラックスしながら読んでね。


 

 

 

224:TS魔法少女

というわけで、研修3週目も新人ちゃんの育成は順調だよー

あの子のガッツは本当にすごいからね

確かに魔力量は少ないけど、工夫次第でそれは補える場面が多いと私は思ってる

極端な話、最後にとどめを刺す分の魔力が残っていれば勝率はゼロじゃないもの

 

 

225:魔法少女を愛する名無し

はえー、新人ちゃんも成長してるんですねえ

 

226:魔法少女を愛する名無し

イッチみたいにちゃんと自分を認めてくれる先輩に出会えて彼女は幸せもんやなあ

 

227:魔法少女を愛する名無し

ガッツのある努力家お嬢様すこすこ

これからも応援する

 

228:TS魔法少女

さて、新人研修についての報告は以上かな

私にはまだ時間あるけど他に何か質問ある?

 

229:魔法少女を愛する名無し

うーん、色々ありすぎて絞れん

 

230:魔法少女を愛する名無し

>>228

じゃあ適当にイッチの過去話を何か聞きたいな

印象に残っている出来事とか

 

231:魔法少女を愛する名無し

>>230

ええな

俺も聞きたい

 

232:TS魔法少女

>>230

印象に残っている過去の出来事かぁ……

割と色々あるんだけど、まずパッと思いつくのはこれかな

 

・とある冬の日の夜、買い物帰りに道端でずぶ濡れの女の子を拾った話

 

 

233:魔法少女を愛する名無し

えぇ……いきなりすごいのが来た

 

234:魔法少女を愛する名無し

もうこの時点で興味深い

 

235:魔法少女を愛する名無し

すっげえ内容が気になるタイトル

 

236:魔法少女を愛する名無し

パンツ脱いだ

 

237:魔法少女を愛する名無し

>>236

履きなさい

 

238:TS魔法少女

みんな聞きたい?

 

239:魔法少女を愛する名無し

聞きたい!

 

240:魔法少女を愛する名無し

聞くに決まってらあ!

 

241:魔法少女を愛する名無し

オナシャス!

 

242:TS魔法少女

おけおけ

 

これは今から約一年半前の話ね

タイトルにもある通り、私は冬の夜に食材の買い出しに出かけんだけど、その日は午後からひどい雨が降ってたんだ

ちなみにこの年はクリスマスも土砂降りでひどかった

 

243:魔法少女を愛する名無し

……あー、確かに土砂降りだった覚えがある

 

244:魔法少女を愛する名無し

俺も思い出した

あの年のクリスマスは天気ひどかったよなあ

 

245:TS魔法少女

そんなわけで冬の大雨の中、近所のスーパーでの買い出しを終えていつものように家(この頃は自宅暮らしだった)に帰っていたら、ふと異様な光景を見つけて私は思わず足を止めちゃったんだよね

 

そこには幼い女の子が一人いたんだ

それが普通の女の子だったなら私はそのままスルーしただろうけど、その子は明らかに普通じゃなかった

見た目は私よりも年下の小学3〜4生ぐらい

そんな幼い子がひどい雨の中で雨具の一つも持たずに道端で膝を抱えて座り込んでいたの

 

流石に無視できなくて

「ねえ……傘も差さずにこんなところにいたら風邪を引いちゃうよ?」

って声をかけたら、彼女はゆっくりと顔を上げてこちらに視線を向けて――あの時のことは今でもよく覚えてる

 

ぞっとしたよ

まるで生きることそのものに絶望したかのように生気を失った暗い瞳

とてつもなく深い闇を覗いている気分だった

 

女の子「……なに?」

 

私「……こんなとこで何しているの? 用がないなら早く家に帰った方がいいと思うんだけど」

 

少女が声を出したことで我に返って再び声をかけてみたけどあまり反応はよろしくなかった。

 

女の子「……帰りたくない」

 

長い間を置いてそう返されたから、『家庭の方に何か問題がある感じなのかな?』なんて思いながら、次の自分の行動を考えた。

明らかにただ事でない様子だし嫌な予感がしたからとりあえず彼女を元の家に送り届けるのは却下

でも誰か他に頼れる人は残念ながらいない状況

そして私の中に見捨てるという選択肢は最初からなし

それで結局……

 

「じゃあさ、ひとまず私の家に来ない?」

 

なんて、気づけばそんなことを口走ってた

 

 

246:魔法少女を愛する名無し

小学生がそんな目をするって一体何があったんや……

 

247:魔法少女を愛する名無し

冬の夜にびしょ濡れ状態ってヤバそう

 

248:TS魔法少女

少女を家に連れ帰った後、私はもちろん速攻で彼女を風呂場へと押し込んだよ

当時のような寒い季節に雨に打たれ続けるなんて自殺行為もいいところだからね

体調を崩すことはおそらく避けられないだろうけど、少しでも早く体を温めることで症状を軽くしないとって必死だった

 

びしょ濡れの私たちの服はそのまま洗濯機へ突っ込んで、少女には私の持っている服の中でも比較的サイズの小さい物を着せることにした。

 

私「お、なかなか似合ってるじゃん。……ところでお腹は空いてる?」

 

女の子「……いらな――」

 

私「あはは、お腹の虫は正直だねぇ。待ってて。すぐに用意するから」

 

女の子が断ろうとしたタイミングで彼女のお腹が『ぐぅうう〜〜』って鳴ったのはちょっと面白かったかな

そんなわけで買ってきた食材は素早く調理して二人で食べた

食事中の少女はずっと無表情&無口だったけど、出した料理は残さずしっかりと食べてくれたので結構嬉しかった

その後はどこで今日の睡眠をとるか考えた末、私のベッドに少女を寝かせ、私は同じ部屋の床に布団を敷いて寝ることにしたんだ

 

――異変が起こったのは真夜中のことだった

 

真夜中に何やら声が聞こえてきて目が覚めてね

声の方を見たらそこで眠ったままひどくうなされている彼女の姿があったんだ

 

「いや……痛い、痛いよ……やめて……パパ……!」

 

「やめてよ……なんでみんな○○を無視するの……」

 

「もういやだ……いやだよぉ……」

 

彼女はそんなことを呟きながら、うわ言のように何度も「ごめんなさい」と繰り返して、苦痛に満ちた表情を浮かべてたんだ

 

額には脂汗が浮かんで、閉じられた瞳の端から涙があふれて頬を伝っていた

衝撃だったよ

一体何があったらこの年頃の女の子がこんな風になるのだろうかって

こんなの……どう考えてもまともじゃないって

 

彼女と私は所詮その日に出会ったばかりの他人で

きっと私じゃ彼女の苦しみを理解してあげることなんてできっこないって分かってた

だけどそれで納得できるわけなくて……

 

「大丈夫、大丈夫だよ。ここにはあなたを傷つけるものは何もないから」

 

乱れそうになる自分の心を落ち着かせながらそんな風に声をかけて

女の子の様子が落ち着くまで、私はずっとその手を握り続けてた

 

 

249:魔法少女を愛する名無し

……どうしよう、軽い気持ちで聞き始めたらなんかすごく重い話が始まっちゃった

 

250:魔法少女を愛する名無し

いや重い……重くない?

 

251:魔法少女を愛する名無し

虐待……だけじゃないな多分

なんにせよふざけた話だ

 

252:魔法少女を愛する名無し

うーん、この隠しきれない闇の気配

それはそうとイッチはやっぱりイッチやなって

 

253:魔法少女を愛する名無し

幼女をこんな目に合わせるとか加害者全員ぶん殴りたくなるで

 

254:TS魔法少女

 

翌日は、予想通りに女の子が熱を出したのでひたすら看病の時間

その時に少しだけ会話をしてちょっぴり打ち解けることができた

 

次の日に女の子は体調が回復して帰宅することになって

心配から言い出した家への付き添いはやっぱり断られたけど、代わりにいつでも私のところへ遊びに来ていいよって伝えて彼女とは別れたんだ

 

そしてこの日をきっかけに彼女は私の家に入り浸るようになった

 

ちょうど冬休みだったし近場での魔人・魔獣の出現も少なかったから時間はたっぷりあって、私は毎日彼女と遊んだ

最初の頃はぎこちない態度を見せていた彼女だったけど、日を重ねるうちに段々と素の姿を見せてくれるようになった

これまで一人っ子で兄弟もいなかった私からすれば、彼女は初めてできた妹みたいな存在だったからとにかく可愛くてねえ……楽しい日々だったよ

 

 

255:魔法少女を愛する名無し

イイハナシダナー

 

256:魔法少女を愛する名無し

よかった……彼女は安息の地を見つけられたんやな

 

257:魔法少女を愛する名無し

イッチって一人っ子だったのか

妹系ロリとたわむれるイッチ尊い……

 

258:魔法少女を愛する名無し

ちなみに保護した女の子の素ってどんな感じやったん?

やっぱり彼女とのやりとりを具体的に知りたくてな

 

259:TS魔法少女

そうだなぁ……仲良くなった後の素の彼女とのやりとりを覚えている範囲で軽く紹介するとこんな感じ

 

・食事にて

女の子「おねーさん料理上手なんだね」

 

私「料理は趣味の一つだからね。あ、こらニンジンよけちゃダメだってば!」

 

女の子「やだ。おねーさんの料理はおいしいけどニンジンは嫌い」

※この後ちゃんと全部食べさせました。お残しは許しませんので

 

 

・テレビゲームにて

女の子「ふふん! また私の勝ちだねおねーさん」

 

私「ば、ばかな……!?」

 

女の子「あれあれ〜? さっきあれだけ『私、このゲームには結構自信あるんだよ』って言い張ってたのにおかしいね? もうこれで○○の10連勝だよ? おねーさんざこざこだぁ。やぁい、ざぁこ♡ざあこ♡」

 

私「こいつ……! もう一回だ!」

 

女の子「いいよー。それじゃあ、またコテンパンにしてあげるね♡」

 

私「いいや、次こそは私が勝つ」

※この後はめちゃくちゃ負けまくった

 

 

・公園にて

 

女の子「おねーさんってさ……」

 

私「……?」

 

女の子「私服ダサくない?」

 

私「えっ」

 

女の子「なんかこう、『着れれば何でもいーや』って感じがすごいの。せっかく可愛いのにもったいないよ」

 

私「うっ(図星)」

 

女の子「今からお店行こうよ。○○がダメダメなおねーさんのためにお洋服選んであげる♡」

洋服店に移動

 

女の子「わぁ可愛い! すっごく似合ってるよおねーさん!」

 

私「あ、ありがとう……でもこれちょっとスカート丈が「タイツとかレギンス、くつ下で十分暖かくできるからね? あんなクソダサい格好は二度としちゃダメだよ♡」……はい」

 

女の子「……ところでおねーさん。○○、今ちょっと食べてみたいスイーツがあるんだけど」

 

私「あーうん、もちろんご馳走しますともお嬢様」

 

女の子「わーい」

※この後スイーツ店巡りした

 

 

……大体こんな感じだったかな

懐かしいなぁ

 

 

260:魔法少女を愛する名無し

まごうことなきメスガキで草

 

261:魔法少女を愛する名無し

なんと! 素晴らしいメスガキじゃあないか!

 

262:魔法少女を愛する名無し

ああ^~いいっすね^~

 

263:魔法少女を愛する名無し

はー、てぇてぇ……

 

264:魔法少女を愛する名無し

JS百合の上に片方はメスガキやと? 俺を殺す気かな?

尊みの過剰摂取で死んじゃうだろうが! もっとやれ!

 

265:魔法少女を愛する名無し

は? 最高かよ

 

266:魔法少女を愛する名無し

二人とも可愛いなぁ

 

267:魔法少女を愛する名無し

ちなみにその子とは今でも交流あるん?

 

268:TS魔法少女

>>267

あるよー

というか同じ魔法少女として機関で一緒に働いてる

 

269:魔法少女を愛する名無し

マジ? 

メスガキ魔法少女……最高やな

 

270:TS魔法少女

まあそんなわけで彼女とは今でも仲良しなんだ

当時のことはこれ以上詳しく語ると長くなる――というか彼女の場合事情があってプライバシーがマズいことになる可能性が高いからこれ以上は明かせません、ごめんね

ただ、彼女が今幸せそうであることは確かだよ

 

ま、一応これが私にとって印象に残っている過去の出来事の一つかな

 

 

271:魔法少女を愛する名無し

心に傷を負っていたはずのメスガキちゃんが今を幸せに生きている

それだけでおじさんはとても嬉しいです

 

272:魔法少女を愛する名無し

家庭の闇っぽいのとかどーしたのって聞きたかったけど事情があるなら迂闊に聞けんわな

ま、ぶっちゃけメスガキちゃんの無事が確認できただけで十分やし満足してるが

 

273:魔法少女を愛する名無し

メスガキちゃんとは今でも昔のようなやりとりをしてるの?

 

274:魔法少女を愛する名無し

あ、それちょっと気になるかも

 

275:魔法少女を愛する名無し

言うて一年半前やしあんまり変わってないんとちゃう?

 

276:TS魔法少女

ええと、昔のようなやりとりは今はそこまでしていないかな

同僚になってから言葉遣いが変わって私のことも『おねーさん』って呼ばなくなったし……

ああでも、根っこの部分はあの頃と変わってないし、二人きりでいる時はたまにあの頃のような姿を見せたりするね

そういうところもまた可愛いんだ

 

277:魔法少女を愛する名無し

デレデレやんけ!

 

278:魔法少女を愛する名無し

イッチデレデレで草

 

279:魔法少女を愛する名無し

二人きりの時だけ昔の姿を見せてくれるのってなんかこう……いいよね

 

280:魔法少女を愛する名無し

>>279

わかる

信頼関係が見えて尊い

 

281:魔法少女を愛する名無し

可愛い後輩じゃないか……

 

282:TS魔法少女

あ、そろそろ寝る時間なので抜けるね

今日も雑談に付き合ってくれてありがとー!

ばいばい!

 

283:魔法少女を愛する名無し

おつー

おやすみー

 

284:魔法少女を愛する名無し

おつ、今日も楽しかった

 

285:魔法少女を愛する名無し

おやすみ、良い夢を

 

286:魔法少女を愛する名無し

てぇてぇ話をありがとう、おかげで今日もぐっすり寝れそうだ

 

287:魔法少女を愛する名無し

百合……いいよね……

 

288:魔法少女を愛する名無し

……さて、俺も寝るか

 

289:魔法少女を愛する名無し

おう、おやすみやで

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 一年半前――東京都

 

 街中を多くの人々が行き交う週末のお昼時。

 大通りに談笑する子連れ夫婦たちや楽しげにはしゃぐ私服の学生たちの姿が多く見られる中、大通りから外れた人気のない路地裏を歩く一人の少女の姿があった。

 

 年の頃は10歳前後だろうか。

 多くのフリルのついた可愛らしい服装に身を包み、柔らかいセミロングの髪をツインテールにまとめたその少女は、時折周囲をきょろきょろと不安そうに見回しながら歩いている。

 彼女が歩みを進めていくにつれて周囲の喧騒は遠ざかり、まるで別世界のように静かで薄暗い場所へと変化していった。

 

「おやお嬢ちゃん、迷子かなぁ?」

「それはいけない。君みたいな可愛い子が一人でこんなところに来ると大変なことになっちゃうよ~?」

「そうそう、俺らみたいなヤツのせいでね。デュフフ……!」

 

 突然背後から声がかけられ、少女はびっくりした様子で振り返った。

 いつの間にか少女の歩いてきた道を塞ぐようにして、ニヤニヤといやらしく笑う男が三人立っていた。

 

「お、おじさんたちだれ……?」

「うっは! ロリツインテでこの顔とかアイドル負けてんじゃね!?」

「やべえ興奮してきた。今日はマジでついてるぜ」

「おじさんたちかい? おじさんたちは君のような子どもがだ~い好きな……悪い大人さ」

「ひっ!?」

 

 怯える少女の姿を見て興奮をあらわにする男たち。明らかにまともな人間ではない。

 じりじりと詰め寄ってくる男たちに身の危険を感じた少女は小さな悲鳴を上げて彼らと反対方向へ逃げ出した。

 

「へへ、おいかけっこかい? おじさんたちは負けないぞぉ」

「負けるも何も、そもそもこの先はなぁ……?」

「デュフフ。あの怯えた顔もそそりますなあ!」

 

 路地裏にて始まった逃走劇。しかしそれはすぐに終わりを迎えた。

 

「はあっ、はあっ! ……え?」

 

 逃げ出した少女の前に立ちはだかる壁。路地裏の先は完全な行き止まりであった。

 まさしく絶体絶命。

 男たちはすぐに追いつき、少女を逃げられないように囲いこんでしまった。

 

「ざ~んねん。行き止まりで~す。お嬢ちゃんの負けだね」

「それじゃ、お楽しみといこうか……」

「ひっ、な、なにするの?」

「ハアハア、お、大人しくしてればすぐに気持ちよくなるからね!」

 

 歪んだ笑みを浮かべた男たちの手がとうとう少女へ伸び――

 

「いやああああっ!! …………なーんちゃって」

 

 直後、眩しい光が彼女から放たれる。

 光が消えた時、男たちは地面から伸びた黒い光の縄のようなもので全身を拘束されていた。

 

「へ?」

「うおおおっ!?」

「な、なんじゃこりゃ!?」

「あはははははっ! 期待通りの間抜け面をありがとー」

 

 予想外の出来事に驚き慌てる男たち。

 続いて横から聞こえてきた声の主へと視線を向けた彼らは目を見開く。

 

「「「なっ……!?」」」

 

 そこにあったのは桃色の髪をツーサイドアップにまとめ、黒を基調とした可愛らしいへそ出しのフリフリ衣装に身を包んだ一人の幼い少女の姿。

 彼女は拘束された彼らを馬鹿にしたような目で眺め、その口元には嘲りの笑みを浮かべていた。

 先程までとはまるで異なる彼女の様子に困惑しつつ、男たちの一人が口を開く。

 

「……お嬢ちゃん、魔法少女だったのかい?」

「そーだよ? 結構可愛いでしょ?」

 

 くるりと一回転する少女の動きに合わせて短いスカートがひらりとはためき、男たちは思わずその動きに釘付けになる。

 

「(くっ、見えそうで見えない!)それには全面的に同意するけども……これ、ほどいてくれない?」

「だーめ♡ せっかくおじさんたちみたいなクソザコ童貞を捕まえたのに逃がすわけないじゃん」

「は……?」

「ど、ど、ど、ど、童貞ちゃうわっ!」

「デュ、デュフっ!?」

「えー、ほんとにぃ?」

 

 少女がニヤリと笑い衣装の胸元を軽く引っ張ると、彼らは非常に分かりやすく動揺する。確認するまでもなく図星だった。

 

「あは♡ ねえおじさんたち、私とここで……イイコトしたい?」

「「「……!!」」」

「うわあ、期待してるのバレバレ♡ でもごめんね。おじさんたち前髪スカスカだし、臭いし、服もダサいし、全然タイプじゃないの♡」

「「「こ、このガキ……っ!」」」

 

 大人が子供にここまで言われて黙っていられるわけがない。

 彼女の自分たちを心底馬鹿にした態度に彼らは激しい怒りを覚え、拘束を解くべく暴れ出した。

 

「ガキ! さっさとこいつを解け!」

「可愛いからって何でも許されると思うなよ!」

「フンヌヌヌ……!」

 

 しかし拘束は解けず、その間に彼女はどこからともなく謎の黒い球体を取り出すと、それを彼らに向かって放り投げた。

 

「さあて、それじゃあ……がんばってねぇ」

「お、おい、何だそ――」

 

 バクン!と巨大化した球体が彼らの姿を飲み込む。

 ドクンドクンと怪しく蠢く球体はまるで何かのサナギのようだった。

 やがてそれにヒビが入り砕け散ると、そこには三体の異形が立っていた。

 

「期待してるからねぇ、魔人さん♪」

 

 自身が生み出した魔人を見つめ、少女は楽しげに笑った。

 

 

 

 

 普段は多くの子供たちが元気いっぱいに遊び回る姿が見られる街中の大きな公園。

 だが今、そこで聞こえてくるのは子供たちのはしゃぎ声ではなく悲鳴であった。

 

「「「ヨウジョ……! ヨウジョ……!」」」

「うわあああんっ!」

「きゃあああっ!」

「ママァーー!」

 

 平和な公園に突然襲来した三体の魔人。

 滑りのある体液で全身をテカらせた二足歩行のカエルのような姿をしたそれらは、公園で遊んでいた幼い少女たちを標的と定めて追いかけ回していた。

 

「きゃあっ!」

「おねえちゃん!?」

 

 そんな中、魔人から逃げていた一組の姉妹。その姉が逃げる途中で転んでしまう。

 

「私はいいから早く逃げて!」

「で、でも……」

「ゲッゲッゲ! 安心しろ。二人まとめて仲良く味わってやるからよぉ!」

「「ひっ!」」

 

 姉妹を追いかけていた魔人は瞬く間にその距離を詰め、その魔の手を彼女たちへと伸ばす。

 彼らに捕まってしまうとどうなるのか。その答えを彼女たちは知らなかったが、濁りきった欲望まみれの視線を見ると全身の震えが止まらなくなる。女としての本能がしきりに警鐘を鳴らしていた。

 

(いやっ、誰か助けて……!)

 

 この距離ではもう逃げられない。迫る恐怖に彼女たちは身を縮めてきゅっと目を瞑る。

 

「……?」

 

 しかし、いつまで経っても魔人の手が触れる気配がないことに気付き、彼女たちはおそるおそる目を開いた。

 

「ひっ……え?」

 

 魔人は変わらず目の前にいた。だが動かない。

 当然だ。彼は全身を氷漬けにされていたのだから。

 

「……大丈夫?」

 

 ふわりと彼女の隣へ誰かが降り立つ。

 肩にかかるぐらいの水色の髪に、同色を基調とした可愛らしい衣装。小学生である自分とあまり年の変わらぬ少女が青色のステッキを持ってこちらの顔を覗き込んでいた。

 

「もしかして、魔法少女……!?」

「うん、アイスビューティーっていうの。よろしくね」

 

 魔法少女が来てくれた。その事実は彼女たちに大きな安心感を与える。

 

「は、はい。あっ、でもまだ他にもアレが!」

「知ってる。そっちにも同じ魔法を撃ったんだけど……避けられちゃったみたい」

 

 アイスビューティーと名乗った魔法少女の視線の先には、彼女を警戒するように睨みつけている二体の魔人の姿があった。

 

「今の内に逃げて。後は私がやる」

 

 ビューティーは短くそう告げると魔人たちに向かっていった。

 

 

 

 

「ビューティー・バレット!」

 

 戦闘の開始はビューティーの魔法からだった。

 構えたステッキから拳の二倍サイズの無数の氷弾が撃ち出され、魔人たちを攻撃する。

 

「「ゲッゲッー!」」

「嘘!? カエルの癖に意外と硬い……!」

 

 次々と直撃する氷弾。だが魔人たちは両腕で頭部と体を守るようにしながら、怯むことなく突っ込んでくる。

 

「(これじゃ大技を撃ちづらい……)なら格闘で!」

 

 距離を詰められたことでビューティーも格闘戦へと思考を切り替え、ステッキを槍へと変化させる。主武器である槍を用いて近・中距離の間合いで戦う……これが彼女にとっての基本的な戦闘スタイルであった。

 

(間合いに入った瞬間にまずは一撃入れる!)

 

 そう考え、待ち構えていた彼女だったが――

 

 ググンッ!

 

「――ぇ」

 

 いざ攻撃を。そう思った時には既に彼女は魔人の腕の中にいた。

 何故? 予想だにしない速さで何かに体を引き寄せられたのだ。その正体は魔人の持つ長い舌だった。

 彼女が知るよしもないが、カエルは獲物の補食に関して非常に優れた能力を持っている生き物である。

 ハエやトンボなどの羽を持って俊敏に動き回る生き物ですら簡単に捕らえることができる彼らの舌は強力な筋肉群の塊であり、その発射速度は驚異の秒間4000m。人間のまばたきの五倍の速さで獲物を捕まえることができるのである。

 

 つまり、ビューティーは無策で彼らの舌が届く間合いに決して入るべきではなかったのだ。

 

「ゲッゲッゲ!」

「がっ!? あああああああっ!?」

 

 魔人が胸に抱いた彼女の体をへし折る勢いで両腕に力を込める。ボキリと嫌な音が響き、彼女は凄まじい激痛に悲鳴を上げた。

 

「ざまあないねビューティー」

「……だ、れ?」

 

 ふと、そんな彼女へとかけられる声が一つ。

 激痛により額に汗を滲ませながら彼女が視線を空に向けると、そこに桃色髪の少女の姿が見えた。

 

「あなたは……っ!」

 

 その姿を認識した瞬間、ビューティーは桃色髪の少女を鋭く睨みつけていた。

 

「またあなたの仕業なのっ!? メア!」

「それを聞いてどうするのー? あっさり捕まったクソザコビューティーちゃん♪」

 

 メアと呼ばれた少女が笑う。

 正義の魔法少女と悪の魔法少女。彼女たちが出会うのはこれが初めてではなく、これまで何度も衝突を繰り返してきた関係にあった。

 

「っ! 同じ魔法少女なのにどうしてこんなことをするの!」

「……んー、何でだろうね?」

「ふざけないで! みんなを不幸にして何も思わないの? あなただって大切な友達や家族がいるはずでしょう!?」

「はぁー……あなたってさ、人間はみんな仲良しこよしってのを本気で信じてるタイプ?」

 

 必死に訴えかけるビューティーとは対照的にメアの目はひどく冷めきったものであった。

 

「私、あなたみたいな恵まれた良い子ちゃんが大嫌いなんだよね」

「ぐっ、ううう!」

 

 必死で痛みに耐えるビューティー。彼女の体が限界に達しかけたその時、どこかから一筋の光が魔人たちの急所を貫き、戦闘不能に追い込む。

 

「あーあ、時間切れか。じゃあノルマは達成したし帰るね。バイバイ」

「ぐっ、待ちなさ……」

 

 転移魔法で逃げようとするメアを止めようとするビューティーだったが体は動かせず、消えるメアを見送ることしかできない。

 メアを見送った彼女は先程の光が飛んできた方向を見る。そこにはこちらへ駆け寄ってくる別の魔法少女の姿があった。

 

「――大丈夫? 今治療するから」

「ありがとうございますアリスさん。本当に情けない限りです。また逃してしまいました」

「いいよ、気にしないで」

 

 やってきた魔法少女アリスから治療を受けながら俯くビューティーはポツリと言葉を漏らす。

 

「彼女はどうしてこんなことを……」

 

 アリスはその言葉に何も答えず、ただじっとメアが消えた場所を静かに見つめていた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おっ、今日は鍋の素が結構安い! 赤から鍋とちゃんこ鍋の二択かぁ……今日の気分的にどっちがいい?」

 

 スーパーの売り場の一角にて、姫宮凛は二つの商品(鍋の素)を手にそんな質問を傍らのツインテール少女に投げかける。

 それに対して凛よりも若干背の低い一つ歳下の少女は首を横に振って答えた。

 

「どっちも食べたことがないから分かんない」

「ちなみに私は赤から鍋の方が若干好きかな」

「じゃあそっちを食べてみたい」

「よし決定。今日は鍋パーティーだ。……家に材料あったかなー?」

「ねえおねーさん、今日もお菓子買っていい?」

「いいよ。ただし合計500円以内にすること!」

「はーい!」

 

 元気よく返事をした少女はさっとお菓子売り場へ消えていき、あっという間に選んだお菓子を抱えて戻ってくる。

 

「早かったね」

「食べたいやつは前から決めてたもん」

 

 凛はカート内の少女の持ってきたお菓子を見る。

 いつも少女には一応自分が欲しいものだけを持ってくればよいのだと伝えてあるのだが……

 中身が全て誰かと分け合えるタイプのお菓子ばかりなのは、つまりそういうことだろう。

 

「さて、もう食材は揃ったしレジへ行くよ○○……○○?」

 

 少女のちょっとした気遣いに嬉しさを感じつつ、凛はレジに行こうと彼女に声をかけるが返事がない。疑問に思って振り返ると彼女はあるものを見つめて立ち尽くしているようだった。

 

「どうしたの……?」

 

 凛は少女の視線の先を見る。そこにいたのはごく一般的な親子連れだ。談笑する夫婦の間に手を繋いだ子供が挟まり今晩の夕食について仲良く話している。

 そんな何てことのないごく普通の家族を少女は無言でぼうっと見つめていた。

 

「……てい」

 

 凛は自分の手を近くの冷凍食品売り場の冷気に近づけ数秒当ててから、それをピタリと少女の首に押し当てる。

 

「うひゃあっ!? ……ちょ、ちょっと何するのおねーさん!」

 

 驚いて飛び上がり、ほんの少し怒った目を向けてくる少女を見て凛はくすくすと笑い、冷えてない方の手をそっと差し出した。

 

「なんかボーッとしてたからつい。ほら、レジ行くよー」

「もー!」

 

 わいわいとそんなやりとりをしながら二人は手を繋いで歩く。

 それぞれ容姿に似通った点もなく、一目で血の繋がりがないと分かる二人の少女。しかし、それでも彼女たちの姿を見た者たちはきっと揃ってこう答えるだろう、『仲の良い姉妹のようであった』と。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 報告レポートNo.○○○ 

 

 20☓☓ ○/○ ○︰○○に魔法少女機関神奈川支部に魔人による襲撃が発生。

 神奈川支部はこれに対抗するも、当時はエース級が他所への出張によって不在であったため戦力不足に陥り対処しきれず、支部とその部隊が半壊。

 襲撃の際に現れた複数の魔人らしき存在たちは魔法を使用してこない代わりに耐久と身体能力が高い個体が多く確認され、現場に現れたリーダーと思われる一体の魔人に【実験体】と呼ばれていた模様。詳細なデータは後ほどまとめて提出する。

 この襲撃でB・Cランク魔法少女計7名が行方不明となっており、死体が見つかっていないことから魔人に捕らえられた可能性が高いと思われる。

 以降機関はこの魔人【リディキュール】を上位魔人と認定し、捕らえられた魔法少女たちの救出に全力で取り組むものとする。

 

 追記

 現場に残った魔力パターンの解析結果が最近東京都で話題になっている【魔法少女メア】が現場に残すものとやや類似しており、両者には何かしらの関係があるのではないかと思われる。

 

 

 

 

 

 




※以下本編の補足等

★変態三名

一応生きてる。変化が解けて病院に入院、その後余罪が発覚して全員がお縄になった。

★魔法少女メア

都内で存在が確認されている。よく魔獣や魔人と共に現れ、街や魔法少女に様々な被害をもたらしている悪のメスガキ魔法少女。
どうでもいいけど女の子が屈んで服の胸元をひらひらさせるのってえっちだよね。挑発的な笑みがセットだとなお良し。

★魔法少女アイスビューティー

都内で活動しており、魔法少女としての実力は中堅。いわゆる委員長キャラだがちょっぴりドジなところもあるらしい。


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拾った女の子の正体が悪い魔法少女だった件 中編 ―わらう者、ふるえる者―

はい、過去編の続きです。
今回掲示板がないのに何故か約1万3千文字(二話分)くらいあります……
長いので分割するか悩んだけどそのまま投稿することにしました。

※注意!
今回、一部胸糞シーン有り。耐性のない人はご注意を。

では、準備ができたら適度にリラックスして本編をどうぞ。


 

 

 

 時は週末の午前。とある娯楽施設内にて、一つの戦いの決着が今つこうとしていた。

 

「いけっ……いけ、いけ……! いっちゃえ!」

 

 ぎゅっと拳を握りしめ、凛は真剣そのものといった表情でじっとその瞬間を待ち続ける。

 

「がんばれ……がんばれ……!」

 

 前方を見つめ、必死でそれの応援をし始める凛。彼女の視線の先で今まさに獲物が外へと出――

 

「よ、よし、あと少しで出……ああっ!?」

 

 ああ無情。世界とはなんと残酷なのだろう。どうやら最後の最後で獲物に外へ出ることを拒まれてしまったようだ。

 がっくりと肩を落とし彼女はその場で項垂れる。

 

「うぅ……強敵すぎる。全然取れないじゃんか!」

 

 この貧弱者め!と心の中で罵倒する彼女の前には一台のクレーンゲームが鎮座していた。

 

(もう諦めて帰ろうかなぁ……いやでも……)

 

 ぐぬぬ顔でちらりと隣の台を見る凛。そちらは妙にムカつく顔の何かのマスコット的なぬいぐるみが景品になっており、その内の一体と彼女の視線が合う。なんとなくそいつに「ザッコw」と煽られているような気がし――

 

「ヘッタクソ♡」

 

 不意に背後からそんな幼い声が聞こえ、顔を上げながら振り向くとニヤニヤと笑う可愛い妹分がそこにいた。

 

「えっ、いつからそこに……?」

「十分くらい前から。色々と必死で面白かったよおねーさん」

「……ぐふぅ」

 

 色々とアレな姿を見られていたことを自覚して赤くなる凛。

一方で可愛い妹分である○○はそんな彼女がプレイしていたクレーンゲームの中身をじろじろと覗き込んでいた。

 

「おねーさん、そんなにこれが欲しかったの? 正直、女の子が欲しがるものじゃないと思うんだけどこれ」

 

 凛がトライしていたクレーンゲームの商品はとあるニチ○サ番組の変身ヒーローのハイクオリティフィギュアだ。それは全身を特殊な装甲に覆われたカッチョイイヒーロー……いわゆる仮面ラ○ダーの限定物フィギュアであった。

 

「そんなことはない! 仮○ライダーは男のロマンなんだよ!」

「いやおねーさん女の子でしょ」

「うぅ、もう○千円も持っていかれてしまった……」

「ふーん……」

 

 ○○はしょんぼりする凛とクレーンゲームを交互に見た後、スッと片手を凛へと差し出す。

 

「おねーさん、ちょっと二百円貸して」

「あ、うん」

 

 彼女は受け取った二百円をクレーンゲームへ投入し、慣れた手つきでプレイし始め――

 

「……ん?」

「こうかなー?」

「えっ!?」

「あ、取れた」

「嘘でしょ……?」

 

 あっという間に凛が悪戦苦闘していた景品を落としてみせた。

 

「私の苦労は一体……」

「別に無駄じゃなかったと思うよ? 実際かなり取りやすい位置に来てたし。というわけで、はいこれ」

 

 ポンと景品を渡され、凛は戸惑う。確かにお金を出したのは凛だが獲ったのは○○だ。しかし○○は笑顔で「プレゼントだよ♡」とそれを彼女に押し付けた。

 

「ありがとう○○!」

「ふふん、いっぱい感謝してくれていーよ。……それはそうとなんかお腹空いたかも」

「ああ、もうすぐお昼だしね。確か近くの公園に移動式のホットドッグ屋があったはずだから食べに行こうか」

「さんせー!」

 

 

 その後、景品を片手に真っ直ぐに近くの公園へと移動した彼女たちは目的のホットドッグ屋を無事に見つけて購入。公園のベンチでそれぞれ舌鼓を打っていた。

 

「ここのは初めて食べたけどおいしーね」

「でしょ? 結構気に入ってるやつなんだ」

「お礼に今度○○のおすすめのお店を教えてあげる」

「それは楽しみだね……おや?」

「にゃー」

 

 食事の終わり頃になって凛が足下を見ると猫が一匹近寄って来ていた。見たところ首輪はないので多分野良猫だろう。

 

「ホットドッグに釣られて来たのかな。よし、ちょっと待ってて」

 

 一口分のホットドッグを残して全てを食した凛は手のひらに乗せたホットドッグをそっと猫の目の前へと差し出す。

 猫は一度ホットドッグと凛の両方に視線を送った後、パクリと食いつき満足げに「にゃあ」と鳴いた。どうやらお気に召したらしい。

 

「ふふ、にゃーさんにもこの美味しさが分かるらしいね」

「みたいだね」

 

 そう返事をした○○の顔には笑みが浮かんでいたが、凛にはそれがどことなく硬い笑みに見えた。

 

「もしかして猫が苦手だったりする?」

「ううん、そんなことないよ。その……前に世話をしていた子のことを思い出しちゃっただけ」

「そっか」

 

 その子が「今どうなっているか」は聞かず、凛は言葉を続ける。

 

「撫でたりしないの?」

「え?」

 

 いつの間にか猫は○○の足下へと移動し、甘えるようにその体を彼女の足に擦りつけていた。

 

「……別にいいかな。懐かれても困るし」

 

 そう言って彼女は猫を無視し、ホットドックを頬張る。そんな彼女の態度に何かを感じとったのか、猫はこちらに興味を無くしたようにサッとどこかへ行ってしまった。

 去っていく猫を一瞬だけ見た時の彼女の目は言葉とは裏腹に少し寂しげであった。

 かける言葉が見つからず、なんとなく気まずくなった凛は周囲へと視線を移す。どうやら今日は手作り市の日らしく、周囲にそれらしき出店がたくさん出ており普段と比べてとても賑わっていた。

 

(あれは……)

 

 その内の一つの出店に目をつけた彼女はベンチから立ち上がって隣の○○に声をかける。

 

「ちょっとあっちのお店に見たいものがあったから行ってくるよ。食べながらここで待っててくれる? 五分くらいで戻るから」

「いいよ。行ってらっしゃい」

「じゃ、行ってくる」

 

 ひらひらと手を振ってベンチを離れた凛は出店へと向かっていき……宣言通り五分ほどですぐに戻ってきた。

 

「本当に五分で戻ってきたね」

「買うものはもう決まってたから」

 

 そう言って凛は商品の入った小さな包装紙を見せる。

 

「何買ったの?」

「これだよ」

 

 その場で包装紙を開けて中身を取り出す凛。出てきたのは2つの青を基調とした刺繍入りの可愛らしい髪留め用のリボンであった。

 

「リボン……? おねーさん髪型変えるの?」

「いや、このリボンは私用じゃないよ」

「?」

「これは私から○○へのプレゼント。大切に……する必要はないけど程々に使ってくれると嬉しいかな。きっと似合うと思うから」

「ええっ!? い、いいの?」

「さっきクレーンゲーム手伝ってもらったしそのお返しってことで」

 

 リボンを渡された○○は凛に強く促され、その場でさっそくリボンを使って自分のツインテールを結び直す。

 新しいリボンは彼女に非常によく似合っており、その姿を見た凛は我ながらいい仕事をしたぜと腕を組んで満足げに頷いていた。そしてそわそわとしながら「ど、どうかな……?」と聞いてきた彼女に向かって満面の笑みで答えた。

 

「すっごく似合ってる。うん、最高に可愛いよ」

「そ、そうなんだ……えへへ」

(んぎゃわいい)

 

 嬉しそうにリボンを指でいじりつつはにかむ○○。

 そんな彼女の姿にほんわかと癒やされつつ、凛は彼女の手をとって立ち上がらせた。

 

「せっかくだから他のも一緒に見に行かない?」

「うん! ……ありがとう、おねーさん

「何か言った?」

「言ってないよー? ほら行こっ! おねーさん」

「はいはい」

 

 互いに手を繋ぎ、二人の少女は出店の雑踏の中へと消えていった。

 

 

 ――ねえ、おねーさん。こんな幸せな日常がずっとつづいて欲しいって○○が願うのは許されないことなのかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ○○の家族はどこにでもいるような、ありふれた普通の家族だった。

 大きな会社で働くかっこいい父親がいて、保育園で働く優しい母親がいて、いつも休日は一人娘である○○と家族みんなでどこかへ出かける。そんなごく普通の幸せな家族だった。

 

 

 

 全ての始まりは父親のリストラからだった。

 その日は家に帰ってきた時から父親の機嫌がとても悪く、元気づけようと話を聞けば長年勤めてきた会社をクビになったのだと彼は話した。

 

『ねえママ、パパは大丈夫かな……』

『大丈夫だと思いたいけれど、あの人は昔から人一倍プライドが高いから心配だわ』

 

 その日から父親は人が変わったように乱暴になった。

 朝からずっとお酒やタバコを口にしていて、○○と母親をよく殴るようになった。

 

 ○○はこれまで学校から家までは真っ直ぐに帰っていたが、父親が変わってからは家に帰るのがとにかく嫌になり夜遅くギリギリまでどこかで過ごすようになった。

 大好きだったはずの父親が今は怖くてたまらない。

 今の父親はちょっとしたことにすぐに怒って、○○と母親を殴る。どんなに『痛い』『やめて』と泣き叫んでも絶対にやめてくれなくて、いつも怯える○○たちを見て怖い顔で笑うのだ。

 

 ――どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

 

 父親が変わってから一週間が経った頃、いつものように夜まで外で時間を潰してから家に帰るとリビングの床にうめき声を上げる母親が倒れていた。

 泣きながらなんとか救急車を呼んで母親を病院に送った後、突然警察官たちが○○を訪ねてきた。

 そして○○は自分の父親が一体何をしたのかを知ってしまったのだ。

 

 近隣住民への無差別傷害及び妻への殺人未遂。容疑者である父親は未だ見つからず逃走中であると彼らは言った。

 

 ――なんで? どうしてそんなひどいことをしたの? パパ……

 

 信じたくなかった。足元がぐらぐらと崩れていく気がした。彼らが言った言葉の理解を頭が拒んでいた。

 呆然と立ち尽くす○○を見て、警察官たちは気まずそうに何か声をかけて去っていった。

 こんな時、○○を慰めてくれる母親は怪我の治療中で会えない。

 

 ――パパが犯罪者? ママを殺そうとした? そんなの嘘だ!

 

 これはきっと悪い夢だ。全部が嘘で本当の○○は今も布団の上でうなされているだけなんだ。次に起きたら夢から醒めて全てが元通りになっているはず。だって、そうじゃなきゃ○○は、○○は――

 全てを忘れたくて布団にこもった。

 でも、何度眠りについて目覚めても悪夢のような現実は何も変わらなかった。

 

 

 

 悪夢のような現実はまだ続く。

 ようやく母親の怪我の調子が良くなってきた頃、○○はあの家にこもっているのが嫌になって学校に復帰した。

 だがそこはもう○○の知っている学校ではなくなっていた。

 

『ねえ見てあの子が例の家の……』

『犯罪者の子どもなんだし、実はあいつも危ないやつなんじゃねーの?』

『あの子の父親のせいで私のパパは怪我したのよ!』

『学校に来んな犯罪者!』

 

 投げかけられるひどい言葉や嫌悪の視線の数々。ランドセルや教科書はぐちゃぐちゃにされ、体操服や上履きは隠され、誰に話しかけても当然のように無視される。

 父親のことが学校中に知れ渡って○○はみんなからいじめられるようになっていた。

 

『あはは! いい気味だわ! 前からあんたのことは気に入らなかったのよ。ちょっと可愛いからってみんなからチヤホヤされて調子に乗って……それが今じゃこんなに……本当に最高の気分だわ』

『さっさと学校やめちゃいなさいよ。分かるでしょ? あんたの居場所はもうどこにもないって』

 

 ――そっか。学校にも○○の居場所はもう無いんだ。

 

 パキン、と何かが割れる音が聴こえた気がした。

 おかしくなった父親はいなくなって、傷ついた母親は全然笑わなくって、○○の大好きだったあの頃の家族は多分もう二度と返ってこない確信があって。仲の良かった友達もみんないなくなってしまった。

 今は……生きているだけで毎日がただただ辛い。

 

 ならばもう、いっそのこと――

 

 

『――こんな世界、全部壊れてしまえばいいのに』

ならばその願い、ワタシが叶えて差し上げましょう

 

 

 ふらふらと街をさまよいながら迷い込んだ路地裏でそんなことを考えていたのが悪かったのだろうか。気づけば○○はあの魔人に目をつけられてしまっていて――

 

憎いのでしょう? 妬ましいのでしょう? 理不尽な世界を壊してしまいたいのでしょう? 優しいワタシがそのための力を与えて差し上げます。ああ……もちろんアナタに拒否権はありませんので

『だ、誰……』

ワタシですか? 私はリディキュール。今日からアナタの主人となる【魔人】ですよ

 

 まるでピエロのような姿をした禍々しいオーラを身に纏う魔人はそう言って嗤い、どす黒いアメ玉のような何かを○○の口に押し込み飲み込ませた。

 その何かを飲み込んだ途端、全身に走る激痛。悲鳴を上げてのたうちまわる○○を見て魔人は楽しそうに嗤っていた。

 

クフフッ……今日からアナタの名は【メア】。ワタシの研究の実験体としてこの街に恐怖と絶望をまき散らす悪の魔法少女となってもらいますよ

 

 

 

 それから、○○の悪の魔法少女としての生活が始まった。

 指定された場所に魔獣を放ったり、魔法少女の戦闘を妨害したり……○○は魔人に命じられるまま悪事を働いた。

 そこに○○の意思は存在しない。だが逆らうことはできなかった。逆らえば恐ろしいお仕置きが待っているからだ。

 一度だけ他の魔法少女に事情を話して助けを求めようとしたこともあった。しかしその瞬間何故か呼吸ができなくなり、次に目が覚めた時にはあの魔人の前で倒れていて……その時にされたお仕置きの内容はもう思い出したくない。

 さらにあの魔人は○○の母親の命も握っている。もしも○○が悪の魔法少女としてふさわしくない行動や命令違反をすれば容赦なく母親は殺されてしまうだろう。

 死にたくない、母親を失いたくないと必死で○○は悪を演じ続けた。

 今の彼女は魔人によって首輪を付けられた奴隷だ。

 もはやどこにも逃げ場はなかった。

 

 そんなある日、魔人が○○に突然休みを与えると言い出した。

 

研究のために少しの間この街を離れる必要がありましてね。メア、アナタにしばしの休みを与えましょう

『え……』

アナタはワタシがいない間、ノルマとして定期的に他の実験体を街に放ってくれるだけで良いので後は好きにしなさい

 

 ほんの少しの間だけとはいえこの魔人がこの街からいなくなる。それだけでも○○の気持ちは少しだけ楽になった。

 

 ――だが本当の悪夢はこの後に待っていたのだ。

 

 魔人と別れた後、帰宅した○○を待っていたのは頭から血を流してピクリとも動かない母親と、そんな母親を見下ろす男の姿。

 男の姿は普通ではなかった。体がおかしなくらい盛り上がっていたし、顔には化け物みたいな鋭い牙や角が生えていた。だがその顔はまぎれもなく……

 

『パ……パ……?』

『――ああ、なんだもう帰って来てしまったのか。久しぶりだな○○、また会えて嬉しいよ』

『何を……何をしてるのパパ……?』

『何って……見れば分かるだろう? ママを殺した、それだけだよ』

 

 何でもないことのように父親の形をしたナニカはそう言った。

 

『――』

『しかしこのタイミングで帰って来るとはお前も運が悪いな。まあ安心しろ、どうせ○○もすぐにこうなる。せいぜい良い声で鳴いてくれよ? その方が楽しめるからな』

『あ、あ……ああああああああああああっっ!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ザーザーと激しい雨の音が聴こえる。

 ふと気づくと○○は見覚えのない場所の道端で膝を抱えて座り込んでいた。

 

『……寒い』

 

 激しく降る雨が全身を容赦なく叩き、びしょ濡れの衣服が体温を奪っていく中、○○はぼんやりと思う。

 

 ――○○はなんでこんなところにいるんだろう?

 

 自分がどうしてここにいるのか分からなかった。

 不思議なことに彼女には魔人と別れてからここに来るまでの記憶が一切なかったのだ。

 

 何か……何かとても悲しいことがあったような……気がする。

 しかし何故かそれを思い出そうとする気持ちは湧かず、それどころかひどい頭痛と吐き気を感じたのでそれ以上考えるのをやめた。

 

 ――このままじゃ風邪を引いちゃうかも。

 

 そう思って立ち上がろうとしたが、何故か体は完全に疲れ切っていて全く動かなかった。

 それを自覚すると今度は動く気力もすっかりなくなってしまい、○○はただぼんやりと見慣れぬ景色を眺める。

 そうしてボーッとしたまま時間を潰し続けてどれくらい経った頃だろうか、急に体を叩く雨が消え、誰かの声が聞こえてきた。

 

『ねえ……傘も差さずにこんなところにいたら風邪を引いちゃうよ?』

 

 ○○と一つか二つしか変わらないであろう年上の少女が傘をこちらに差しながら心配そうに○○を見ていた。それを見て何か答えなければと口を開けば、出てきたのは自分でも驚くくらい冷たい声であった。

 

『……なに?』

『……こんなところで何をしているの? 用がないなら早く家に帰った方がいいと思うんだけど』

 

 家……その言葉を聞いた瞬間○○の全身には謎の震えが走った。同時に湧き上がったのは帰りたくないというかつてないほど強い気持ち。

 思い当たる記憶のない○○にその理由は分からなかったが、自分の中の何かに促されるまま口を動かした。

 

『……帰りたくない』

 

 ○○の言葉を聞いて目の前の少女は困ったような顔をした。それから少しの間一人で何事か考え込んでいたが、やがて何かを決心したような顔つきで○○に向けてこう言った。

 

『じゃあさ、ひとまず私の家に来ない?』

 

 その言葉に○○は小さく頷いた。

 

 

 

 

 そこからは夜まであっという間だった。

 少女に背負われる形で移動し彼女の家へとやってきた○○はすぐに冷えた体を温めねばと風呂へ入れられ、新しい服を着せられ、少女が作った夕食を食べさせられ、耐えきれなくなった眠気に身を任せて彼女の部屋のベッドで眠りにつく。

 そこに至るまでの間、少女は○○のことを詳しく聞こうとはしてこなかった。多分、聞きたいことは色々あったはずだ。だが彼女は○○の様子から何かを悟ったのか結局は何も聞いてこなかった。

 そしてその気遣いは心身共に疲弊していたこの時の○○にとって非常にありがたいものであった。

 

 その日、○○は夢を見た。

 父親が○○と母親を殴る夢だ。夢の中で○○が何度も殴られ、泣いて悲鳴を上げるたびに変わってしまった父親の嫌な笑い声が響き渡る。

 

 ――やめて……

 

 次に場面が切り替わるとそこは学校だった。ありとあらゆる誹謗中傷が○○に向けられ、仲が良かったはずの生徒たちの手によって○○の大切な持ち物たちが目の前で次々と見るも無惨な姿へと変えられていくのを何度も見せつけられた。

 

 ――やめて……もうやめて……

 

 その次は○○が悪の魔法少女【メア】としての姿で路地裏に倒れている場面だ。死なない程度に散々痛めつけられた○○の前には元凶である例の魔人がおり、その手に小さな小動物が掴まれていた。

 小動物の正体は○○が密かに世話を焼いていた近所の野良猫だ。

 

これはワタシを裏切ろうとした罰ですよ、メア

『やめてええええぇっ!!』

 

 魔人が取り出した何かを無理矢理口にねじ込まれた猫がもがき苦しみながら醜い異形へと変化していく。

 

『嘘……嘘だよ……くーちゃん、そんな……』

さて、さっそく戦闘データ採集といきましょうか。真面目に戦わないと死んじゃいますよ?

 

 魔人の命令で暴走するだけの異形となった猫と戦うメア。

 全てが終わった時、その場に残ったのは元の姿で事切れた猫とそれに縋り付いて泣くメアの姿だけだった。

 

 ――いや……やめて……やめてよ……

 

 今度はメアとしてあの魔人の指示で街を破壊している場面だ。

 魔人の実験体たちが暴れ回って街がめちゃくちゃになっていく様を○○はぼんやりと眺めている。当然悪いことをしている自覚はあるし本当はこんなことをしたくないと思っている。だが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、隠し切れぬ暗い喜びが胸の内に浮かび上がってきてしまうのも事実だった。

 

 ――どうして○○ばっかりこんなに苦しまなくちゃいけないの?

 

 そしてその度に○○はそんな自分に対するどうしようもない嫌悪感と他者への罪悪感に苛まれ続けるのだ。

 

 ――いや……いやぁ……助けて……

 

 場面がまた切り替わる。その場面もまた○○の心を抉る。

 

 地獄のような場面に次々と切り替わる。切り替わる。切り替わる――

 おそらくこの夢はまだまだ続くのだろう。どんなに苦しんで助けを求めたってもう誰も助けてはくれないのだ。

 

 ――――?

 

 だが突然悪夢は終わりを告げた。どこからともなく差し込んできた温かな光が全てをかき消すという不思議な出来事によって。

 

『――大丈夫。私がついてるから』

 

 夢が終わる直前、誰かの声が聴こえた気がした。

 

 

 ○○が目覚めた時、その傍らには何故か○○のいるベッドを枕にして眠る少女の姿があった。

 

『……』

 

 ○○は静かに自分の右手を見つめる。そこには○○のものよりもほんの少しだけ大きな手が重ねられていた。

 

 ――多分この人はいい人なんだろう。本当に、どうしようもなく。

 

 初対面の相手にここまで親身になってくれる程のお人好し。

 きっとこの人は○○が本当のことを話しても変わらず助けてくれるんじゃないか……漠然とそんな予感がした。

 しかし、だからこそ、そんな人をこちらの事情に巻き込みたくはないと思った。

 

 ――だけど……

 

 傷つき弱り、温もりに飢えた心と体は温かなその手を離したくないと思ってしまった。

 そうして揺れ動く心は答えをはっきりと出せず、○○は少女が目覚めるまで彼女の手をずっと握っているのだった。

 

 

 

 

『あ、いらっしゃい。来ると思って色々用意してたの。ほらほら遠慮せずに上がって』

 

 結局あの日から○○と少女の交流は絶えることなく続いていた。

 

『こらこら、ちゃんと食べないと栄養が足りなくなるんだから残しちゃダメだよ?』

 

『この服全部あげるよ。流行だとかでとりあえず買ったのはいいけど私にはなんか似合わないのばっかりだし』

 

『お風呂はいつでも好きに使っていいよ。どうせこの家には私しかいないからね』

 

『毎日遊びに来て迷惑じゃないのかって……全然そんなことないよ。見ての通りいつも基本的に一人で生活しているから、実を言うと○○が遊びに来てくれるのは結構嬉しく思ってるんだ。だから遠慮する必要はないよ』

 

『なんだか嬉しそうに見えるって? ○○が最近よく笑ってくれるようになったからだよ。素敵な笑顔の持ち主と一緒にいると人は自然と笑顔になれるからね』

 

 毎日少女の家に通う○○を彼女はいつだって笑顔で迎えてくれた。

 はじめはぎこちない態度しかとれなかった○○も次第にそんな少女の影響を受け、本来のちょっぴり小生意気な明るい姿を取り戻していく。

 そして少女もまた、そうした○○の変化を喜んで受け入れてくれた。

 

 しかし、だからといって○○を取り巻く問題が別に消えたわけではない。

 ○○は少女と出会った日以降一度も帰宅していない。頻繁に少女の家に泊まっていたが、そうでない日は自宅に帰っていると彼女に嘘をついてまで野宿をしていた。

 家のことを思い浮かべる度に○○の中の何かが必死で訴えるのだ、『あの家に帰りたくない、決して帰ってはいけない』と。

 だから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と考えることはあってもそれを確かめようとする気はまるでなかった。

 

 今の○○にとって安心して過ごせる場所は少女の隣だけであり、彼女といる時だけは全てを忘れてありのままの自分でいることができた。

 段々と自分が少女に依存していく自覚はあった。それが良くないことであることも分かっていた。だが心身共に追い詰められていた○○にとって、包容力のある少女の存在はあまりにも魅力的すぎたのだ。それこそ、無意識の内に少女の存在が家族と同等かそれ以上のものになってしまうほどに。

 

 本当は離れなくてはいけない。だけど離れたくない。相反する思いを抱えたまま少女との交流は続いていく。

 

『これは私から○○へのプレゼント。大切に……する必要はないけど程々に使ってくれると嬉しいかな。きっと似合うと思うから』

 

 ――このままずっとおねーさんと一緒にいたい。

 

 ○○は願う、この小さな幸せに終わりが来ないことを。

 しかし、少女という光に出会えたことで忘れかけていた悪夢は決して○○を逃してはくれず――ついに恐れていたことが現実になってしまうのであった。

 

――クフフ、元気にしていましたかメア? 主人が帰って来ましたよ?

 

 

 

 いつものように影で課せられたノルマを淡々とこなし、少女の家へと向かおうとした○○の前にあの魔人は何の前触れもなく突然現れた。

 

「……」

可愛げがないですねぇ……もっと喜んでくださいよ

 

 出来れば二度と会いたくなかった存在を前にして凍りつく○○を余所にペラペラと出かけていた間のことを愉しげに語る魔人。彼の機嫌を損ねないように黙ってそれを聞いていた○○だったが、ふと最後に魔人が呟いた言葉に思わず顔色を変えた。

 

……ところでアナタ、なかなか興味深い人間と一緒にいるようですね

「っ!? ……興味深いって何が? おねーさんはただの一般人だよ」

気づいていなかったのですか? まああれだけ巧妙に隠蔽されていれば無理もないですね。しかし魔人であるこのワタシの目は誤魔化せません。あれはなかなか素晴らしい魔力を持った人間ですよ、他に奪われる前に是非とも手に入れたいものです

「……っ! おねーさんには手を出さないで! あの人は――がはっ!?」

 

 怯えながらも反論しようとした○○の首を魔人が掴み上げる。その目には実に良い玩具を見つけたと愉しげな色が浮かんでいた。

 

クフッ、ああ本当にいい顔をしますねアナタは。実にワタシ好みの表情だ。どうやらあの人間のことが余程大切と見えます

「ぐぅ……だ、め……や…て……おねが……」

勘違いしているようですがアナタに拒否権などありません。命令です、あの人間をワタシの元へ連れて来なさい。あぁ、もちろん逆らえばどうなるかはお分かりですよね? 命令の聞けない部下がワタシは大嫌いなので……アナタだって自分の命は惜しいでしょう?

「う……ぁ……」

あれだけの魔力量を持った素体はなかなかいませんからねぇ……あぁ、本当に楽しみだ

「……げほっ! けほっ……!」

 

 雑にパッと手を離され崩れ落ちた地面の上で咳き込む○○を見下ろしながら最後にそう言い残して魔人は消えた。

 体を起こした○○は呼吸を整えながらじっと考える。

 突きつけられた二択――〈大切な少女の命〉か〈自分の命〉か。それは一度選んでしまったらもう絶対に引き返せない分岐点。逃げることはもうできない。

 

「……ごめんなさい。おねーさん」

 

 ぽたぽたと落ちた雫が地面に小さな染みをつくる。

 俯く彼女はそっと頭の大切なリボンを撫でた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 東京都某所にある、過去に魔獣による被害を受け閉鎖された廃工場。その地下に魔人リディキュールの研究所は存在していた。

 

ふむ、これも失敗ですか。なかなか上手くいかないものですねぇ

 

 リディキュールの周囲には大小様々なカプセルがあり、その中にはそれぞれ異形の存在たちが怪しい液体と共に閉じ込めれていた。これらは全て彼が生み出した実験体である。

 

うん? この魔力は……

 

 見知った魔力の接近を感じて彼は手元の実験器具から顔を上げる。それは彼が楽しみにしていたイベントの始まりを告げるもの。ピエロのようなその顔にはひどく嗜虐的な笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 人気のない薄暗い廃工場の奥からリディキュールは姿を現す。

 反対に彼が見つめる廃工場の入口にいたのは敵意を隠そうともせずに佇むメアであった。

 

愚かな……それがアナタの答えと言うわけですかメア?

「うるさい。お前みたいなヤツにおねーさんは絶対に渡さない。それがメアの答えだ」

残念です……ですが、アナタのその勇気に免じて最後に良いことを教えてあげましょう

「……良いこと?」

 

 訝しげに目を細めるメアに彼は話し出す。これまでの真実を。

 

ワタシたち魔人は人間のような知的生命体が持つ負の感情エネルギーを糧としているわけですが、ワタシたちにもそれぞれ好みの感情というのがありましてね。ワタシの場合は【孤独】や【喪失】による絶望が何よりも好物なのですよ

「……それがどうし――」

さらにワタシたち魔人は知的生命体の特定の感情に干渉して操ることも可能なのです。たとえば……そう、仕事を失って絶望している憐れな男の中にある負の感情を操って暴走させてみたりね

「……は?」

 

 はじめは何のことを言っているのか理解できなかった。

 だがその言葉の意味を理解するにつれ、メアの心の奥底から激しい感情の嵐が呼び起こされていく。

 

どうでした? 愛する者たちが変わっていく気分は? 周囲から孤立し、大切なものを次々と失っていった時の絶望は? ワタシ? もちろん最高でしたよ。アナタが生み出した絶望の感情エネルギーは大変美味でしたからねぇ!

 

 ○○の人生が狂った全ての元凶は自分であると明かし嗤うリディキュール。

 彼がその言葉を言い終えるのとメアが彼に殴りかかるのは同時だった。

 

「うああああああっっ!!」

おっと! 話の途中で攻撃なんて落ち着きのない子ですね。少し寝ていなさい

「がはっ!?」

 

 素早い身のこなしでそれを避けた彼が鋭い蹴りをメアの腹に入れて元へ位置へ飛ばすと、彼女は激痛に耐えるように腹を抱えて倒れ込む。だが強い憎悪のこもったその目は怯むことなく彼を睨み続けていた。

 

「ぜっ……たいに、ゆるさ…ない……」

ただ負の感情エネルギーを集めるだけなら適当な方法がいくらでもあります。しかしそれでは質が落ちることを避けられない。特にワタシのような魔人たちは量よりも質を重視しますのでね、吟味した一つの獲物を徹底的に追い詰めるのですよ。メア、あなたにしたようにね

「っ!」

 

 再び殴りかからんと怒りに震えるメアが体を起こそうとする。しかしその体は次の魔人の言葉を聞いた瞬間に固まった。

 

クフフフッ、哀れですねぇメア。ああそうだ、一つ是非とも聞いておきたいことがあったのでここで聞いておきましょうか。――親を殺した時の気分はどうでした? あの瞬間に得られた絶望の味は特に良質で美味だったので今後の参考に知りたいのですよ

「――え?」

 

 メアの思考が一瞬停止する。

 

 ――アイツは今、何て言ったの?

 

 硬直したメアを見て魔人は「おや?」と意外そうな反応を見せる。彼はてっきりここで激昂した彼女が殴りかかってくると思っていたからだ。

 

「何を言って……」

おや? おやおや? まさかアナタ、覚えていないのですか?

「覚え……? 確かにパパはどこにいるか分からないけど、ママは今も家にいるは――」

アナタは何を言っているんです? 母親は狂った父親によって殺され、その父親はアナタがその手で殺したんじゃないですか

「――」

 

 唐突にメアの脳裏にあの日の記憶がフラッシュバックした。

 動かぬ母親。異形と化した父親。娘である自分に手をかけようとした彼を○○は悪の魔法少女としての力で――

 

「う、嘘だ……そんなはずないもん。○○のパパとマ……マは」

 

 必死で自分の体を抱きしめ、焦点のあっていない虚ろな目でがくがくと震えだすメア。

 そんな彼女から溢れ出す深い絶望のエネルギーを受け取ったリディキュールは、ますます愉しげに彼女へと顔を近づけ耳元で囁いた。

 

もうアナタを愛してくれる人間はどこにもいません。アナタは正真正銘の独りぼっち。悪の魔法少女として社会と敵対し、実の父親すら手にかけた同族殺しのアナタを受け入れてくれる者などいるはずがない

「あ……あぁ……」

「……(ふむ、これはもう完全に壊れきる寸前ですね。精神が完全に壊れてしまうと良質なエネルギーは得られませんし、彼女はここで捨ててさっさと次の獲物を探すとしましょうかね)

 

 そしてリディキュールは最後の一言を告げようと口を開きかけ――

 

「――いい加減にしろよ。クソ野郎が」

 

 突然割り込んで来た――廃工場の入口に立つ人物を見て動きを止めた。

 それと同時にメアもまた、ここ最近で聞き慣れた、この場にいるはずのない――いてはいけない人の声を聞いてゆっくりとその顔を上げる。

 

アナタは……何故ここに?

「おねー……さん?」

「こんなに心の底からムカついたのは初めてだ。楽に死ねると思うなよお前」

 

 底冷えするような声が廃工場内に響く。

 ○○がおねーさんと呼び慕う少女がそこには立っていた。

 

 

 

 

 

 




※いつもの本編補足

★リディキュール

今回の事件の全ての元凶。見た目は胡散臭いピエロ。
メアのことは戦力として数えたことは一度もなく、最初から自分の欲を満たすための家畜だとしか考えていない。
○○の周囲の人間の心に干渉して負の感情を増幅させて操り、彼女が追い詰められていく様をずっと楽しんでいた。
本人の戦闘力は中堅の魔人よりやや強い程度(C+〜B-ランク)だが、改造によって通常よりも強化された魔獣や魔人を生み出す才能があり、その能力の将来的な危険性から上位魔人認定された。

★魔法少女機関本部

リディキュールを早急に討伐するため、手がかりとなるメアの動向を裏でずっと追いかけていた。

★魔人化

魔人によって因子を植え付けられ、負の感情を一定以上増幅させられた人間は魔人に変化してしまう。侵食度にもよるが魔法少女の浄化の力(個人差有り)で変化を解くことができる場合がある。

★○○の父親

多少プライドの高いところがあるが、基本的に優しい性格の人物。リディキュールによって操られ魔人化した後、愛娘の手によって殺された。

★○○の母親

穏やかな性格の人物。夫との仲は非常に良好で近所ではそこそこ有名なおしどり夫婦だった。

★○○(メア)

ゲーム全般が得意な感覚派。
魔法少女になると自分への寒暖効果を魔法で無効化できるので、野宿の際はそれを使っていた。
現在付き合いのある親戚等が一人もおらず、実は天涯孤独の身の上である少女。リディキュールによって人生をめちゃくちゃにされてなお、本当の意味で悪に染まりきれないくらい優しい子。既に本人の限界を越えて追い詰められており、主人公がいなかったらその辺の道端でとっくに死んでいる。

★姫宮凛

我らがイッチ。大の仮○ライダー好き。クレーンゲームが苦手。
現段階ではBランク魔法少女の肩書きを持つ少女。
リディキュールたちの胸糞なやりとりを見てしまい怒りが天元突破。



★次回予告(多分アニメ風)★

ついに姿を現した諸悪の根源〈魔人リディキュール〉!
彼を討伐するために本拠地の廃工場へ攻め込んだ凛と本部の魔法少女たちだったが、そこで待っていたのは彼の自慢の作品である大量の実験体たちだった!?
想像を越える敵戦力に追い詰められ、次第に劣勢となる魔法少女たち……
大切な人に避けられないピンチが迫ったその時、リボンの少女がとった行動とは――?

「魔法少女を……嘗めんな!」

次回
拾った女の子の正体が悪い魔法少女だった件 後編 ―あなたの隣で―

次回もお楽しみに!


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拾った女の子の正体が悪い魔法少女だった件 後編 ―あなたの隣で―

※前回までの簡単なあらすじ
悪の魔法少女現る→主人公が保護→彼女の人生をめちゃくちゃにした魔人の本拠地へ激おこ主人公が乗り込んできた。

おまたせしました。
何度も書き直す内に今回も前回と同じくらいの文量になってしまいましたがこれでようやく終わりです。

さて、突然ですが皆さんは誕生石というものをご存知ですか?
私が初めてその概念を知ったのは高校入りたての頃でしたが、その時に少し調べてみたところ「へぇー」となる色々な意味づけや象徴、エピソードがあってなかなか面白かったです。
ちなみに今回登場する魔法少女がその名を冠するとある宝石が持つ意味・象徴は「慈愛・誠実・徳望」。
その神秘的な色により古くから神聖な石とされ、また結婚指輪として贈ると「貞操を守り真実の愛を貫く、一途な愛のお守り」となるそうです。素敵ですね。

それでは、いつも通り適度にリラックスして本編をどうぞ。


 

 

 

 少女が彼女と出会ったのはとある冬の雨の日だった。

 

 彼女を初めて見た時、少女の頭にまず最初に思い浮かんだのは【絶望】という言葉だった。

 次に抱いたのは強い危機感と焦燥感。

 ぼんやりと向けられた何の感情も映さない空虚な瞳。雨に打たれ、打ち捨てられた人形のように力無くその場に座り込む姿。まるで死人のように生気を感じられない無の表情。

 

 直感で悟った。

 今すぐになんとかしないとこの子は手遅れになると。

 

 そこからの少女の行動は早かった。

 彼女に声をかけて我が家へ連れ込み、手厚くその世話をした。

 温かい食事を与え、寄り添うように声をかけ、魘されながら眠る彼女の手を握って夜を過ごした。

 

 彼女とはその日初めて出会った赤の他人という関係。

 その体に残る真新しい無数の傷の理由も、瞳の奥に強い孤独と恐怖が潜む理由も、魘されて口にする様々な言葉の意味も何一つとして知らない少女であったが、自分がやるべき……やりたいことは既に決まっていた。

 

 ――この子が本当の笑顔を取り戻すまで、この手を絶対に離さないようにしよう。

 

 それは義務感や正義感ではなくただのエゴだった。

 自分の手の届く範囲で泣いている誰かを放っておきたくない。自分が姫宮凛(自分)であるために勝手に彼女を救うと決めた。ただそれだけの話だ。

 

 

 

 

 

 

「○○……?」

 

 その日、凛がその場面に遭遇したのは本当にただの偶然であった。

 その日の魔法少女としての仕事を終えた帰り道に、最近仲良くなった彼女――○○の顔を見つけ、声をかけた凛。しかし距離が遠かったのか向こうはこちらに気づかずに歩き続け……何故か人目を避けるように暗い路地裏へと消えてしまう。

 不審に思った彼女は後を追い、そこで見た光景に思わず目を見張ることになった。

 

(……え?)

 

 それはちょうど少女の体が光を放ち、とある姿へと変身する場面であった。

 凛は知り合いが実は自分と同じ魔法少女だったことにまず驚き、続いて変身後の姿を確認して再度驚く。

 そこにいたのは露出の多い黒の衣装を着た桃色髪の少女――世間からは悪の魔法少女メアと呼ばれる存在だった。

 

(うそ……あれってメア、だよね? あの子が……○○がメア?)

 

 魔法少女メア……彼女は悪い意味で最近有名になっている魔法少女だった。

 魔人に対抗する人類の希望――魔法少女という存在でありながら、魔人ではなく魔法少女に対して敵対している謎の少女。

 常に複数の魔人や魔獣と共に現れ、人や街に被害をもたらすことから【悪の魔法少女】【人類の裏切り者】などと呼ばれており、世間が彼女に抱くイメージは最悪であった。

 

 国を守る魔法少女としてとるべき行動は決まっている。

 だが凛の中で悪意を撒き散らす少女と自分の知る○○の姿がどうにも上手く噛み合わない。

 凛はメアとなった少女が立ち去った後もその場でしばらく考え込んでいたが、やがて何かを決心した顔で何処かへと電話をかける。短いコールの後に電話から聞こえてきたのは若い男性の声だった。

 

『やあ私だ。君から電話をかけてくるなんて珍しいね。何か困りごとかい?』

「単刀直入に言います。本部が持っている【魔法少女メア】に関する情報を私に下さい」

 

 凛がとある廃工場へと向かったのはそれから数日後のことであった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「こんなに心の底からムカついたのは初めてだ。楽に死ねると思うなよお前」

 

 そう言って廃工場内へ足を踏み入れた凛の胸中は激しい怒りで満ち溢れていた。

 隠す必要のなくなった魔力が光と共に全身から溢れ出し薄暗い工場内を明るく染め上げる中、彼女は淡々とその言葉を紡ぐ。

 

「〈変 身(マジカルチェンジ)――アリス〉」

 

 魔法少女アリスへと変身した彼女を見てリディキュールがほんの少しだけ驚くような気配があったが、すぐにいつもの余裕を取り戻して口を開いた。

 

ほう! 可能性は考慮していましたがアナタは既に覚醒済みの魔法少女だったのですね! よろしければどうやってここを知ったのかお聞きしても?

「少し前に偶然その子の正体を知ってね、そこから本部と協力してお前のことを追っていただけだよ」

ふむ、最近ワタシの周囲を嗅ぎ回る鼠が増えたことには気づいていましたが……なるほど、この星の生物も存外やるものですね。それで? アナタは何の目的で――おおっと!

「その子を助けてお前をぶん殴るために決まってるでしょう」

 

 会話途中で殴りかかってきたアリスの拳をひらりとかわし、軽快なステップで彼女から距離をとるリディキュール。

 一方でアリスはリディキュールから引き離したメアを彼から庇うように立ち、背を向けたまま彼女へと優しく声をかける。

 

「遅れてごめんね。アイツはとりあえずぶっとばすから」

「どうして……」

「どうしても何も可愛い妹分を泣かせるクソ野郎がいたらぶん殴るのが常識でしょ」

「で、でも私は」

 

 あなたに守ってもらえるような資格のある子じゃない――そう続けようとしたメアの言葉は振り返ったアリスが彼女を抱擁したことによって遮られる。

 

「○○、あなたとアイツとの会話を全部聞いてたんだよ私」

 

 メアの体が震えた。

 

「その上で私は今ここに立っている……他の誰でもないあなたを救うために。それが私の答えだよ」

「あ……」

――クフフ! いやはや美しい愛ですねえ! そんなものを目の前で見せられるとワタシ、壊したくてたまらなくなっちゃいますよ! さあ、やりなさいメア!

「え――」

「っ!」

 

 リディキュールが声を上げた瞬間にアリスは身の危険を感じてその場を飛び退く。遅れて振るわれた凶刃が先程まで彼女がいた空間を切り裂いた。

 

「な、なんで? 体が勝手に……!?」

 

 いつの間にか握られていた双剣を大切な人へと振るった己の手を呆然と見つめ、震え声を出すメア。

 嫌がる彼女を余所にその体は獲物を仕留めんと次の行動に移っていた。力強く地面を蹴った彼女は休むことなくその凶刃をアリスへ向けて振り続ける。

 

「やだ……やだ! 止まって! 止まってよ!」

抵抗しても無駄ですよ。アナタの体に寄生させたワタシの魔人因子がある限りねぇ。さあ、そちらのアナタも頑張ることです。ちなみに彼女が死ぬまでその動きは止まりませんよ

「お前を消しても?」

ええ。そういう風に命令を出したのでね

「……下衆が」

クフッ! 我々にとってそれは褒め言葉ですよ

 

 まるで楽しいショーを見ているかのように上機嫌で話すリディキュールに舌打ちを返し、アリスは何十回目かのメアの凶刃を避けると同時にステッキを召喚し目眩ましの閃光を放つ。

 

「きゃっ!?」

おや、お逃げになるので?

「心配しなくてもそんな気はない。我が名の下に命じる――」

まあどのみちアナタに彼女は救えな――

 

 詠唱をしながらアリスは目を押さえて狼狽えるメアの背後へと回り込み、その魔法を発動する。

 

「――大いなる癒しの光よ悪しき魔を祓え。〈エンジェリックキュアー〉!」

 

 アリスの杖から放たれた光がメアに直撃する。すると光が数秒間メアの体を覆い尽くし、収まると同時に変身が解けた○○の姿が現れた。

 

――は?

 

いや、それだけではない。彼女をメアへと変化させた張本人であるリディキュールはその効果を正確に理解して思わず間抜けな声を出していた。

 

これは……彼女の中のワタシの因子が全て消滅している!? ありえない! たかが一人の魔法少女の力でそんなことをできるはずが!?

 

 先程まであった余裕が嘘のように消え、彼は気を失った○○を近くの壁に優しく寄りかからせる形で座らせているアリスを驚愕の目で見つめる。

 

 ――危険だ。

 

 それまで彼の中で過去に倒してきた他の魔法少女と何ら変わりのない、取るに足りない存在だろうと思っていたアリスへの認識が切り替わる。

 即ち、自分という魔人を滅ぼしうる脅威であると。

 

……アナタは危険です。ここで殺しておかねばならないようだ

「やれるものならね」

強がっていられるのも今の内だけですよ。お忘れですか? ここがワタシの基地であることを!

 

 リディキュールの声に応えるようにして薄暗闇の中から様々な異形――魔獣や魔人たちがぞろぞろと姿を現す。

 右も左もどこを向いても敵、敵、敵。加えて、おそらく一体一体が最低でも一般的なレベルの魔法少女と互角以上の強さ。

 常人ならば戦意を保つどころではない悪夢のような光景だった。

 

「その子は……」

 

 ふと、アリスは現れた異形たちの中に一体だけ異彩を放つ魔人がいることに気づく。

 それは他が明らかな異形である中、【人間】としての原形の大部分を保った上で植物系の異形と同化している一体の魔人だ。

 巨大な花から半裸の少女の上半身が生え、背後で妖しく蔦を揺らす様はさながらファンタジー物によく出てくるアルラウネのようであった。

 

よく出来ているでしょう? 残念ながら時間がありませんでしたので改造できたのはまだこれ一体だけですが

「お前をぶちのめす理由がまた一つ増えたよ」

お一人でどこまでできるか見物ですね

「一人で戦うなんて言った覚えはないけどね」

 

 その言葉を皮切りに、アリスの周囲に次々と転移してくる増援の魔法少女たち。アリスと彼女たちは無言で頷き合い、それぞれの敵へと向かい合う。

 

ふん……多少数が増えたところで何も変わりませんよ。お前たち、行きなさい!

 

 そうしてついに両者は激突した。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 ○○は夢を見ていた。

 自分と両親が三人で仲良く手をつないで歩いている夢だ。

 ○○が我儘を言えば父親が二つ返事で了承し、母親に嗜められ、言い合いながら二人がイチャつき出して最後はみんなで笑い合う。そんなありふれた家族の姿。

 右を見れば父親が、左を見れば母親がこちらへ優しい笑みを向けてくれる。

 

 本当に――本当に幸せな夢だった。

 

 このままずっとここに居たい――○○がそう思ったその時、隣に立つ母親が彼女に突然声をかけてきた。

 

「○○、あなたこのままここにいていいの?」

「ママ……?」

 

 最初は何のことかよく分からなかった。

 だが母親の言葉をきっかけに、眠りにつく直前までの記憶がすぐに甦ってきた。

 

「あ……」

「行きなさい。大切な人なんだろう?」

「うん……」

「なら迷ってちゃ駄目だ。行きなさい○○」

 

 そう言って父親が○○の右手を離す。

 

「不甲斐ない父親でごめんな○○。でも……」

「ええ、私たちはずっとあなたを空から見守っているわ」

 

 そう言って母親が○○の左手を離す。

 

「パパ! ママ!」

 

 ――どうか幸せになってね。私たちの最愛の娘――

 

「うん……行ってくるね」

 

 夢が終わるその瞬間、○○は温かい2つの塊に優しく抱きしめられたような気がした。

 

 ――行ってらっしゃい、理沙。

 

 

 

 

「……?」

 

 目が覚めて最初に○○の目に入ったのは異形の群れたちと見慣れぬ魔法少女たちが入り乱れて戦う戦場の様子だった。

 戦闘の余波で工場内はあちこちが破壊されており、大きな天井においては何かの技で吹き飛んだのか完全に無くなってしまって夕日が差し込んできていた。

 

「あれ……?」

 

 現状を把握しようと自分の体に目を向けた○○は変身が解けていることに気付き驚く。さらに再び変身しようとしても何も起こらない。何故かは分からないが【メア】としての力がすっかり自分の中から消えてしまっているようだ。

 

(もしかしてあの時のおねーさんの魔法が……)

 

 間違いなく原因はそれだろう。つまり今の○○は何の力も持たないただの女の子でしかないということだ。

 そんな自分が今こうして戦場の中で無事でいられている理由はこの体を覆う半透明の球体バリアと――

 

「はあっ! ……あら、ようやくお目覚めですか?」

「アイス、ビューティー……」

 

 たった今○○を覆うバリアを破壊せんと飛びかかってきた魔獣を槍で貫きながら声をかけてきたのは、自分がメアとしてこれまで何度も顔を合わせてきた魔法少女だった。

 ○○は改めて周囲の様子をよく見る。自分のいる場所だけ、他と比べて綺麗なままだった。

 

「ずっと守ってくれてたの?」

「ええ、そうですよ。なかなか骨が折れましたがね」

「……ありがとう」

「っ!? ど、どういたしまして。……あなたから素直にお礼を言われるとなんだか調子が狂いますね」

 

 ○○の言葉に虚を突かれたようにビューティーは驚きの表情を浮かべ、少しだけ困ったように笑う。その目には敵対していた頃のような棘々しさはない。いや、棘々しくしていたのは自分だけで彼女は最初からこうだったような気がする。

 

「ねえビューティー、おねーさんはどこ?」

「おねーさん……アリスさんのことですか? 彼女ならばあちらですよ」

 

 そう言ってビューティーが示す方向を見ると、そこには確かに魔獣たちの群れと戦うアリスの姿があった。どうやら彼女は一人で元魔法少女の植物型魔人と改造魔獣の群れを同時に相手取って戦っているらしく、激しく動き回りながらその手に握った剣型の魔装を振るい敵の猛攻を凌いでいた。

 こうして見ている間にも彼女は手際よく魔獣を次々と切り裂き消滅させていく。硬い装甲を持つタイプであるはずの魔獣すらやすやすと切り裂いた姿に○○は思わず小さな歓声を上げた。

 

「すごい……おねーさんってあんなに強かったんだ」

「そうですね。確かにアリスさんはこの場にいる魔法少女たちの中で一番の実力者です。ですが……」

 

 アリスの勇姿に心を躍らせる○○。しかし側に立つビューティーの表情は何故か反対に暗いものであった。その様子に不安を覚えた○○は彼女にその理由を尋ねる。すると彼女は現状を正しく見た姿を○○に説明してくれた。

 

「【魔装】はその能力が強力なものであればあるほど消耗が激しいんです。それこそ顕現させているだけで負担になるほどに。アリスさんのような方の場合は特にそうだと聞いています。加えて、先程から底の見えない敵の物量。あのままでは先に魔力が切れて潰れてしまうのは明白……いくら彼女が強い魔法少女だとは言っても一人じゃ限度があります」

「じゃ、じゃあこのままだと」

「負けてしまうでしょうね。魔力の切れた魔法少女など一般人と変わらないので」

「なら! 今すぐにおねーさんの所へ行って!」

「し、しかしそれではあなたの守りが……」

「見た限り近くに魔獣もいないから大丈夫! こっちはもういいから!」

 

 ○○の提案に逡巡する様子を見せたビューティーだったが、彼女もアリスのことが心配なのか頷いて提案を受け入れる。

 

「……分かりました。ただ、念の為に防御魔法を強化してこの場に残します。絶対にその中から出ないで下さいね」

「分かった」

「よろしい。それでは行って参ります」

 

 アリスの元へと合流するビューティー。その場に残された○○は彼女たちの戦いを祈るように見守る。

 

「おねーさん、ビューティー……」

 

 彼女たちの連携はとても息の合ったものだった。その証拠に先程以上のスピードで駆逐されていく魔獣たち。

 だがやはり数が多すぎるのか次第に彼女たちは目に見えて押され始める。焦りを覚えた○○が助けを求めようと周囲の他の魔法少女たちを見るが、彼女たちもまたそれぞれの敵の相手で手一杯の様子であった。つまり救援は期待できない。

 ――このままだと彼女たちが死ぬ?

 

「そんなの……いやだ……!」

 

 魔人が嗤い、魔獣の群れが彼女たちの体をバラバラに引き裂き雄叫びを上げる――そんな最悪の未来を幻視してしまい、○○は震える。

 

(○○は……)

 

 自分は何をしている? ここでただ見ていることが本当に正しいのか?

 

(そんなわけがない。○○はもう誰も失いたくないんだ)

 

 無意識の内に伸びた手が頭のリボンへ優しく触れる。

 あの日から自分はずっと彼女に助けてもらっていた。そして今、目の前には窮地に陥る彼女の姿がある。

 ならば……今度は自分の番だ。

 

「【メア】になれたのなら○○にだって【素質】はあるはず……!」

 

 深呼吸し、目を閉じる。そうしてイメージするのは強さに満ち溢れた自分自身の姿。あの人に守られる存在ではなく、あの人の隣で並び立てるような存在になりたいと心から強く願う。

 すると、まるで初めから知っていたかのようにその呪文は頭の中にフッと浮かび上がってきた。

 

「……我が愛は真実にして永遠の輝き。邪悪なる者は畏れよ。我こそは悪を滅する慈愛の戦士なり。〈変 身(マジカルチェンジ)――サファイア〉!」

 

 想いに応えるように、青く暖かな光が少女の体からあふれて弾けた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「ああもう! しつこいっ!」

 

 敵正面鞭状攻撃――バックステップで回避。

 後方から一体特攻――振り向きざまにかわして魔装でカウンター。

 両側面から挟み撃ち――ギリギリまで引き付けて同士討ちへ。

 正面からの三体――一体を足場に飛んで回避、即座に空中で時間稼ぎの閃光魔法。

 次から次へと仕掛けてくる敵の群れを瞬時の判断で的確に捌いていくアリスであったが、その華麗な戦いぶりとは裏腹に彼女の表情は苦渋に満ちていた。

 

(こいつら、妙に装甲が硬い上に数がとにかく多すぎる……! 雑魚ですら魔装による一撃じゃないと完全に落ちないとか耐久面が異常だ!)

おやおや、どうしました? あれだけ啖呵を切っておいてワタシにまだ一撃も入れられていませんが?

「奥に一人だけ引っ込んでおいてよく言う!」

合理的な判断というやつですよ。……それにしても、人間とは不可解な生き物ですねぇ。あのような小娘一匹のために何故そこまで必死になれるのか理解に苦しみます。そもそもアナタはあの小娘の家族でも何でもないはずですが

 

 会話の最中に頭上から急襲の気配――カウンター……をキャンセルして前転、地面を割って飛び出してきた蔦から間一髪で逃れる。

 

「私はあの子の笑った顔が好きなんだ。戦う理由なんてそれで十分!」

バカバカしい。ワタシならそのような何の得にもならない理由で命をかけるなど御免ですよ。……む?

 

 後方から飛んできた氷の刃たちが魔獣の群れの一部に突き刺さりアリスの包囲網に穴を開ける。そうして出来た穴から彼女の隣へビューティーが降り立ち、互いに背中合わせになった。

 

「アリスさん! 加勢します!」

「ビューティー!? あなたにはあの子のことを頼ん――」

「その彼女のたっての願いです! それにどの道彼らを倒さねば私たちは全員終わりです。アリスさんもこの状況がどれだけまずいのかは分かっているでしょう?」

「……そう、だね。本部も私たちも想定が甘すぎた」

 

 この場にいる本部の魔法少女は彼女たちを入れてたったの六名。本部がいくら常時人手不足とはいえ、なんとかもう少し人員を増やすべきだったのは間違いない。

 再びじりじりと包囲の輪を縮めだした魔獣たちを睨みつけながら、アリスはビューティーへと問いかける。

 

「本部の先輩たちがここに来るまで何分かかると思う?」

「……Aランクの先輩方は現在も仕事中でしょうし、一番早くて三十分後くらいでは?」

「きっついなぁ」

 

 最悪だとアリスが苦笑する。それを受けてビューティーは小さくため息をつく。

 

「でも引く気はないのでしょう?」

「うん。アイツをぶん殴らないと気が済まない」

「即答ですか……私も手伝いますよ。アリスさんの無茶は今に始まったことではないので」

「ありがとう。今度のケーキは期待してて」

「ええ、期待してお――来ます!」

 

 魔獣たちが一斉に動いた。

 先鋒として突撃してきた巨大なカラスような鳥型魔獣の鉤爪を身をよじってかわし、二人は同時に攻撃魔法を行使する。

 

「〈ライトバースト〉!」

「〈ビューティーブラスター〉!」

 

 眩い光の爆発が魔獣たちを吹き飛ばし、討ち漏らしを冷気の光線が薙ぎ払う。

 包囲網の大部分がこれによって戦闘不能となったが、すぐに増援が湧いてきたため、二人は囲まれないように場所を移しつつ息の合ったコンビネーションで魔獣を討伐していく。

 それは彼女たちの魔法少女ランクを考えれば十分過ぎる程の健闘ぶりだった。しかし現状はやはり多勢に無勢。さらに耐久力のある魔獣を相手に少なくなっていく残存魔力を考慮し消耗を抑えた戦いをしつつ、四方八方から襲い来る攻撃を休みなく捌き続けなければならない状況は確実に二人の心身に大きな疲労を蓄積させていった。

 

「あぐっ!?」

「――ぐうっ!?」

 

 ほんの僅か、立ち回りを誤ったビューティーの背を鳥型魔獣の鉤爪が抉り、それに気を取られたアリスをついに魔人の蔦が捉え凄まじい力で殴り飛ばす。殴り飛ばされたアリスは地面を何度かバウンドした後、工場内の機械の一つに激突して静止した。

 

「かふっ……!(いっつぅぅ……油断した。あー、また骨折れまくってるなこれ。一発でこれってやっぱりあの魔人の子の攻撃力は普通じゃないね)」

 

 とはいえ、ここで立ち止まるわけにはいかない。まだあのクソ野郎に一撃だって入れられていないのだから。

 

(魔力がもったいないけど早く回復魔法で――っ!?)

 

 フッと複数の長い影が彼女にかかる。見上げた彼女の目に入ったのは先の鋭く尖った蔦たちが一斉にこちらへ狙いを付けている光景であった。

 

やれやれ……基地内戦力の大部分を個人に集中させたというのにこれ程まで時間がかかるとは……。しかしまあ、散々手こずらせてくれましたがこれで終わりですね。どうやらアナタ以外に植物型魔人(彼女)を止められる実力者はいないようですし、残りは楽に処理できそうです。では……さようなら!

「まだっ……!(間に、合えっ――!)」

 

 獲物を串刺しにせんと迫る蔦。重い体に鞭打って咄嗟に回避しようとするアリス。

 だがその攻防は思わぬ第三者の横槍によって予想外の展開を迎えることとなった。

 

「――たああぁっ!!」

……ギッ!? キャアアアアッッ!?

な、何っ!?

 

 突然両者の間に割り込んで来た少女が青く輝く双剣で頑丈な蔦をまとめて切り裂く。痛覚が繋がっていたらしい植物型魔人が悲鳴を上げ、リディキュールは新たに現れた敵に警戒の目を向けた。

 

(ビューティー……? いや、違う……!)

 

 青と水色を基調とした魔法少女衣装に身を包んだ少女は攻撃を終えるとすぐにアリスの元へと駆け寄り、その目に涙を浮かべながら彼女を抱え起こす。

 魔法少女には認識阻害の魔法が常時かかっているため変身後の姿や変身前の姿を別々で見ても両者を結び付けることは難しい。しかし不思議と少女の持つ雰囲気や魔装、どこか見慣れた水色のゆるふわツインテールを見て、アリスはその正体になんとなくで思い至る。

 

「おねーさん大丈夫!?」

「その呼び方……やっぱりあなたは」

「うん、私だよ。今は魔法少女サファイアだけど。ってそんなことより! 本当に大丈夫なの!? いっぱい血が出てる!」

「平気だよ。怪我をするのには結構慣れてるし。治すのも……〈エンジェリックヒール〉……ほら、これで動く」

「全っ然良くない!」

 

 回復魔法を発動し、腕をぐるぐると回して見せるがサファイアの様子は変わらない。それどころかますます泣きそうな顔になってしまいアリスは狼狽える。

 

「そ、その……」

「私も戦う」

「え?」

「私も戦う! 絶対におねーさんを一人で戦わせないから!」

 

 そう宣言したサファイアは異論は認めないと言わんばかりにさっさとアリスから視線を切ってリディキュールたちを睨みつける。

 

その魔力……本物の魔法少女として覚醒したのですか。メア

「メアじゃない! サファイアだ!」

ふん、どちらでも良いことです。さっさと逃げれば良いものをわざわざ死ににくるとは愚かですね。……殺せ!

 

 怯みから立ち直った植物型魔人が新たな蔦を繰り出す。それら全てをやや拙い動きで切り払いつつ、サファイアはアリスへと言う。

 

「おねーさんはあの子をお願い! 道は私がつくるから!」

 

 言い終えた彼女は返事を待たずに敵の方へと駆け出し、それを見たアリスも慌てて後へ続く。

 

「聖なる刃よ、我が敵を薙ぎ払え!〈サファイアスラッシュ〉!」

 

 駆けながら詠唱と共に強い輝きを放つ双剣を振り下ろすサファイア。相当な魔力が込められた青い斬撃が勢いよく前方に飛んでいき、魔獣の群れと魔人の蔦を派手に吹き飛ばした。

 

「足止めなら私も手伝います!」

 

 続けてビューティーがなけなしの魔力を振り絞って魔獣たちの足下を凍らせ動きを止める。

 強化された魔獣たち相手ではほんの数秒しかもたないが、それでもその数秒があれば彼女たちのエースには十分であった。

 

(一撃で決める……!)

チッ、お前たちっ! 彼女を止めなさい!

「「させないっ!」」

 

 安全圏である後方に立つリディキュールの指示を受けて魔獣たちがアリスを止めようとするが、二人がそれを許さない。

 そうしてついにアリスと植物型魔人は一対一で向き合った。

 

タ……ァ……スケ

「うん、今助けるよ」

 

 接近してきたアリスへと魔人の下半身の花部分から大量の花粉が飛び出す。間違いなく何らかの状態異常を引き起こすであろうそれを彼女は自身に状態回復魔法をかけっぱなしにすることで無理矢理打ち消し、手にした魔装へと強く魔力を込めて振り抜いた。

 

アァーーーー

 

 魔装によって切り裂かれた魔人の少女を光が包み込む。

 直前の手応えからおそらく彼女は浄化によってなんとかなるはずだと確信したアリスはすぐさまサファイアたちへ加勢しようと視線を送り――異変に気付いた。

 

「……!(()()()()()()()!?)」

 

 いつの間にか。

 戦闘開始からほぼずっと同じ場所に立っていたハズのリディキュールの姿が消えていた。

 

「どこに――」

「アリスさんッッ!!」

 

 ぞわり、と全身の肌が粟立った。

 

 瞬間、アリスの感じる世界の全てがスローモーションになる。

 突然背後で膨れ上がった気配と殺気。必死の形相でこちらへ駆け寄ろうとしているビューティー。

 振り向いた彼女の目に映った【こちらの心臓目掛けてナイフを突き出しているリディキュールの姿】。

 迫る凶刃に回避は――もう間に合わない。

 

「え――」

 

 鮮血が舞う。

 だがそれは標的となったアリスのものではなかった。

 

おのれっ! せっかくのチャンスに余計な邪魔を!

 

 苛立った声を上げてリディキュールが血濡れのナイフを手にその場を飛び退く。

 スピードの戻った世界でアリスが見たのは胸の中心から大量の血を流してこちらへもたれ掛かる彼女の姿だった。

 

「う、そ……」

「えへへ、よかっ……た。絶対に、死んじゃいや……だよ、おねーさん」

 

 そう言って力無く笑った彼女は目を閉じてそれっきり動かなくなる。

 

 ――――ブチッ

 

 その瞬間、アリスの中で何かが完全にキレた。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「はぁ……はぁ……え?」

「な、何――!?」

 

 魔法少女アリスと共にこの場に現れ、魔獣たちと戦っていた本部の魔法少女たちは突然感じた強い力の波動に驚いて動きを止めた。

 

「何……あの強い光」

「綺麗……」

「なんだかとても暖かい……」

「アリスさんたちが……?」

 

 廃工場の中の何かを中心として吹き荒れる黄金の嵐。それがみるみるうちに広がって戦場を埋め尽くし、その輝きに触れた魔獣たちを残らず消滅させていくのを見て、彼女たちは漠然とこの戦いの終わりが近づいていることを悟った。

 

 

 

な、何です!? 一体何が起きているのですか!? ど、どうしてあの者の力がこれ程までに膨れ上がって……!

 

 嵐の中心付近に立つリディキュールはかつてないほど激しく動揺していた。

 自らが手掛けた作品たちが訳も分からず一瞬で全て浄化された事実は彼の心に強い恐怖を植え付け、冷静さを完全に失わせていた。

 

この力、これではまるで――――まさか!?

 

 ふと何か気付いたようにリディキュールが光の嵐の中心に立つ少女を見る。

 純白の翼を背に広げ神々しい光を全身にまとうアリスを見る彼の目は、まるで何かとてつもなく恐ろしいものを見るかのように酷く怯えていた。

 

【真なる光の戦士】……!? なぜそのような恐ろしい存在がこんなところにいいぃ!

「うるさいよ。お前」

ガハッ!?

 

 光の中から矢のように飛び出したアリスがリディキュールの顔面を拳で殴り飛ばす。

 

ぐっ、このっ! やめろ! このワタシに――ギャッ!?

 

 加速したアリスは相手の反撃を許さずに無言で休むことなく彼の全身を殴る、殴る、殴り続ける――殺意を滲ませながらも標的が簡単に死なないよう絶妙に浄化の力を抑えた攻撃で。

 彼女がようやくその手を止めた時、彼の全身は不格好に折れ曲がり襤褸切れのような姿になっていた。

 

「……ずいぶんと良い格好になったね」

……キ、サマァ……!

「でも、許すのは無しだ」

ヒッ!?

 

 全身に光をまとった彼女はゆっくりと片手を彼に向けて最後の魔法を唱える。

 

「開け。〈エターナルプリズン〉」

なな、何を、ぐうっ……!?

 

 光輝く門のようなものが現れ、その中から飛び出した光の鎖が彼の手足と首を縛り上げ自由を奪った。さらに門は彼の体をその中へズルズルと少しずつ吸い込んでいく。

 最大の身の危険を感じ、逃れようと必死にもがく彼。それを冷めた目で見つめながら彼女は淡々とその魔法の効果を伝えた。

 

「それは一度入ったら二度と出られない永遠の牢獄への入口。魔人であるお前にとっては猛毒となる光で満ちた場所だよ」

ろ……牢獄、ですって?

「お前はそこで逃れることも狂うことも決して許されない。最期のその瞬間まで、一人で孤独に自分の消滅に怯え続けていろ」

……や、やめろ、やめろやめろやめろおおおおおーーっ!!

 

 絶叫する彼の体が完全に吸い込まれる。

 閉じた門がかき消えるように消えた時、そこにはもう何も残っていなかった。

 あの魔人が今後この世界に現れることは二度とない。

 

 こうして廃工場での戦いはついにその幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「――なるほど。話を聞かせてくれてありがとう、なかなか興味深い内容だったよ」

「……そうですか」

 

 廃工場での戦いから二日後、魔法少女機関本部の最上階にて凛は本部長と一対一で向き合っていた。

 年齢の割にずいぶんと若く見えるイケオジである彼は女性受けが良さそうな爽やかな笑みを浮かべ、凛へと尋ねる。

 

「その後の体調の経過はどうかね?」

「問題ないです。強いて言えば急に保有魔力量が増えたので魔力のコントロールが多少難しくなったことくらいですね」

「保有魔力量の増加か……戦いの中でパワーアップをする魔法少女の例は既にいくつか確認されてはいるけど、その中でも君はとびきりの一例だね。詳しい測定結果はまだ出てないけど多分保有魔力量だけならこの国で3本の指に入るかもしれないよ」

「魔力だけあったって強いとは限りませんよ」

「並ならぬ鍛錬と修羅場を経験してきた君が言うと説得力があるねぇ……」

 

 まあそれはそれとして……と彼は机の上から一枚の紙を手に取り凛へと差し出した。彼女はそれを受け取りすぐに目を通す。

 

「これは……チームの申請書ですか?」

「ああ。いい加減君もそろそろ誰かとチームを組んだ方が良いと思ってね。これは私以外の人間も常々思っていることだが、君はよく一人で無茶をするから心配なんだよ。チームを組めばそれも多少はマシになるだろうと考えてのことだ」

「……」

「ちなみにメンバーは既に一人決めてあるから後で挨拶しておいてね」

「は……えっ?」

「本人たっての望みだし、君との相性も問題ないはずだから安心してくれたまえ」

「ちょ、ちょっと待って下さい。そんな大事な話を勝手に……!」

「こうでもしないと君はいつまで経っても一人で戦い続けるだろう? さあ、話は終わりだ。もう行きたまえ。私は忙しい」

「これ以外にもまだ話すことが――」

「それについても行けばすぐに分かる。私を信用したまえよ」

 

 

 

 

「うーん、チームかぁ。いきなりそんなことを言われても……」

 

 本部長の部屋を後にした凛は渡された書類を歩き読みしながら困ったように呟く。

 本部長の話では既にメンバーが一人勝手に決められているとのことだし、不本意とはいえそのうちきちんと挨拶をしないといけないだろう。

 

「というか一体誰と組――うぐっ!?」

「おねーさん!」

 

 ドンッと腹部に走る衝撃。視線を下に向けるとそこにはあの戦いで彼女が助け出した少女の姿があった。

 

「……どうしてここに?」

「あれ? おじさんから聞いてないの?」

 

 疑問符を浮かべる凛の反応にきょとんと首を傾げる少女。やがて何かに納得したようにポンと手を打った彼女は、続いて凛から一旦距離をとって姿勢を正し、満面の笑みでこう言い放った。

 

「今日から姫宮凛さんと一緒のチームで活動することになった氷川理沙です! 魔法少女サファイアとしてこれから末永くよろしくお願いしまーす!」

「えっ……」

 

 突然のカミングアウトに目を見開いて固まる凛。

 そんな凛の腕に抱きついた彼女はそっと耳元に顔を寄せると楽しげに囁いた。

 

「……えへへ。これからもよろしくねおねーさん……いいえ、せ・ん・ぱ・い♡」

 

 

 

 

 

 




※いつもの本編補足説明

★魔法
魔人や魔法少女たちが扱うことのできる超常の力。
詠唱があるとコントロールや威力を安定させやすいが慣れると省略も可能なので、戦闘中の隙を減らすためにベテランの魔法少女は基本的に詠唱をカットしている。詠唱文は勝手に頭の中に浮かんでくるらしい。
知らない魔法の詠唱文を他人から教えてもらって発動することも可能だが、適性がないと上手く扱えない。

★魔法属性
魔法少女たちはそれぞれ得意とする属性を持っており、基本的にその属性の魔法をメインウェポンにしている。
ちなみにアリスは光属性、アイスビューティーは氷属性、サファイアは水(氷を含む)属性である。

★真なる光の戦士

魔人の天敵となる強大な力を持った存在らしい。

★捕まっていた魔法少女たち

戦闘終了後、全員無事に救出された。魔人化していた子も元の人間へと戻っている。

★理沙ちゃんの事後処理

怪我に関しては覚醒したアリスが完全治癒したので心配無し。
彼女がメアであった事実はごく一部の関係者しか知らず、事件の記録にも残されず処理された。
身寄りがないので本部が保護し、保護者は一応本部長ということになっている。
本人の希望により姓は変わっていない。

Q 理沙はどうして凛を「せんぱい」と呼ぶようになったのですか?
A 「おねーさん」ではいつまで経っても庇護されるだけの存在(妹分)になってしまうと思ったから。彼女は大切な人の隣に並び立てる対等な存在になりたいのです。


最後に主人公ちゃんと理沙ちゃんの絵を描いてみたので置いておきますね。
やっぱり絵を描くのって本当に難しい……誰か描いてくれないかな(チラッ)
※普段絵なんて全く描かないド素人が描いたものなので画力等は期待しないでください。


【挿絵表示】


追記
アンケートへのご協力ありがとうございました。
そのまま派が多く、元タイトルの雰囲気を保つためにもわりとシンプルな省略でいいんじゃないかとのご意見もいただき、こちらも納得してスッキリしたのでその通りになりました。
今後ともよろしくお願いいたします。


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魔法少女専用掲示板 雑談Part184

ただいま(小声)
多分ほとんどの人が本作の存在なんて忘れていると思うけどこっそり投稿しておく。


1:名無しの魔法少女

ここは魔法少女専用の雑談スレです

ここでの書き込み内容は魔法少女以外の人間には閲覧不可となっているので、安心して自由に書き込んで下さい

ただし悪質な誹謗中傷等の書き込みはNGでお願いします

荒らし・煽りはスルーしましょう

次スレは>>970さんお願いします

 

2:名無しの魔法少女

スレ立てありがとー

 

3:名無しの魔法少女

立て乙

 

4:名無しの魔法少女

さっそくだけど今日とっても良い事あったから自慢していい?

 

5:名無しの魔法少女

いいよ

 

6:名無しの魔法少女

どうぞどうぞ

 

7:名無しの魔法少女

暇だしとりあえず聞いてやろうじゃないか

 

8:名無しの魔法少女

今日のお仕事の担当現場が他の人と被ってて、その人と共同で魔獣の対処をしたんだけど……相方がまさかのアリス先輩だったのよ

 

もうそれだけで最高だったのに、仕事終わりにお願いしたら快くサインまでもらえちゃって今私めっちゃ幸せなの……

 

9:名無しの魔法少女

は? 羨ましいにも程があるんですけど

 

10:名無しの魔法少女

額縁に入れてしっかり保管しとけ

 

11:名無しの魔法少女

ねえ君、そのサインをメ○カリに出品する予定はないかい?

今なら私が即日入金で引き取ってあげるから

 

12:名無しの魔法少女

いいなー

私も生のアリス先輩と会話してみたいです

あとサイン欲しいですね

 

13:名無しの魔法少女

私も私も! サイン欲しい〜!

 

14:名無しの魔法少女

>>10

サインはもちろん厳重に保管することにした

>>11

売る予定なんてないよ、こんなの一生モノのお宝だもん

 

はぁ……アリス先輩カッコ良かったなぁ……

 

15:名無しの魔法少女

気持ちは分かる

あの人はマジでカッコ良すぎるからな

 

16:名無しの魔法少女

前に映像で彼女の戦闘を見たことがあるけど、動きがとにかく的確で安定感がすごかった

 

17:名無しの魔法少女

戦闘中のあのキリッとした真剣な表情が素敵すぎて、クラスの男子相手に全くときめくことができなくなっちゃった私です……

 

18:名無しの魔法少女

>>17

わかるー! あの顔すっごくいいよね!

 

19:名無しの魔法少女

>>17

アリス様と比べたら同級生の男子共なんて月とすっぽんよ

 

20:名無しの魔法少女

>>19

男子がちょっとかわいそうになるけど実際その通りなんだよね……

 

21:名無しの魔法少女

>>19

付き合いたい有名人ランキング(男女両部門)一位ですから

 

22:名無しの魔法少女

アリスちゃん相手なら同性でも全然恋人とかアリ

むしろ抱かれたい

 

23:名無しの魔法少女

アリス先輩が恋人に……?

あの素敵なスマイルが毎日目の前で炸裂するの?

何それ幸せすぎて死にそう

 

24:せんぱいLOVE

なんだか興味深いお話をされているようですね

 

25:名無しの魔法少女

うわでた

 

26:名無しの魔法少女

サファイアちゃんチーッス!

 

27:名無しの魔法少女

でたわね、アリスちゃんガチ勢筆頭

 

28:名無しの魔法少女

サファイア先輩こんにちは

 

29:せんぱいLOVE

まったく……せんぱいが誰よりもカッコイイことは当然の事実ですが、せんぱいは決してカッコイイだけの人じゃないですよ

せんぱいを語るならせんぱいの可愛さについてもきちんと触れるべきです

カッコ良さと可愛さが両方合わさって最強のせんぱいなんですから

あとせんぱいは私のものなので誰にも渡しません

 

30:名無しの魔法少女

ヒエッ!? ユルシテ……

 

31:名無しの魔法少女

いつものことだけどアリスちゃん関連のレス早すぎて笑っちゃう

 

32:名無しの魔法少女

安心してちょうだいサファイアちゃん、あなたの大好きな先輩をとるつもりはないわ

 

33:名無しの魔法少女

独占欲全開やなあ

可愛い

 

34:名無しの魔法少女

アリスちゃんの可愛さかー

絵本に出てくるお姫様みたいに可愛い容姿(うさ耳みたいなカチューシャ可愛い)はもちろん、ふとした瞬間に見せてくれる柔らかい笑顔がこう……キュンときます!

 

35:せんぱいLOVE

>>34

ありきたりですが、まあギリギリ及第点とします

 

36:名無しの魔法少女

許された……!

 

37:名無しの魔法少女

というか、私たちはプライベートでのアリスちゃんとの交流がほとんどないから、格好良い所は知ってても可愛い所を知る機会がなかなかないんだよね

というわけでアリスちゃんのプライベートでの可愛さを是非教えて下さいサファイア先生!

 

38:名無しの魔法少女

先生、お願いしまーす!

 

39:名無しの魔法少女

サファイア先生〜!

 

40:せんぱいLOVE

仕方ありませんね……

 

あ、ここでの話を他者に拡散するのはNGです

今日のことは私とここにいる皆さんだけの秘密ですよ?

 

41:名無しの魔法少女

分かったよ先生!

 

42:名無しの魔法少女

了解です!

 

43:名無しの魔法少女

分かりました〜!

 

44:せんぱいLOVE

ではさっそくせんぱいの可愛い秘密を一つ教えてあげます

 

実はせんぱいは……大の仮面ライダー好きです

というか男の子が好きそうなアレコレが大抵好きだったりします

 

以前自室で一人隠れて「変身っ!」って声出しながらヒーローポーズをとってドヤ顔しているせんぱいを見た時は可愛さのあまり気絶しかけました

 

45:名無しの魔法少女

かわいい

 

46:名無しの魔法少女

かわいい

 

47:名無しの魔法少女

かわいい

 

48:名無しの魔法少女

かわいい

 

49:名無しの魔法少女

かわいい

 

50:名無しの魔法少女

かわいい

 

51:名無しの魔法少女

かわいい

 

52:名無しの魔法少女

かわいい

 

53:名無しの魔法少女

かわいい

 

54:名無しの魔法少女

かわいい

 

55:名無しの魔法少女

かわいい

 

56:名無しの魔法少女

かわいい

 

 

―――――――――――

―――――――――

――――――

―――

 

 

162:名無しの魔法少女

お、ようやく収まってきたかな

 

163:名無しの魔法少女

いつものことながら、どこからともなく一斉に湧いてきて笑っちゃうんよ

まあ私もかわいいコールしたけども

 

164:名無しの魔法少女

あんなの聞かされて反応するなって方が無理ですわ!

 

165:名無しの魔法少女

やはりアリスちゃんこそが最かわ

異論は認めない

 

166:名無しの魔法少女

あんなに格好良いのにリアルでもクッソ可愛いのずるい

一生推していきます

 

167:名無しの魔法少女

流石は私たち魔法少女のアイドル様だ

 

168:名無しの魔法少女

アリスちゃん様万歳!

 

169:名無しの魔法少女

アリスちゃん様万歳!

 

170:名無しの魔法少女

アリスちゃん様万歳!

 

171:名無しの魔法少女

ばんざ~い!

 

172:名無しの魔法少女

あ、そう言えば最近アリスさんが新人研修の指導教官を務めているという噂話を小耳に挟んだのですが、あれは本当なんでしょうか?

 

173:名無しの魔法少女

え? アリスちゃんの指導を受けてるスーパーラッキーガールがおるの?

 

174:せんぱいLOVE

>>172

はい、本当ですよ

現在せんぱいはその新人のいる学校(全寮制)に転入しています

そのせいで最近はせんぱいと一緒に過ごせる時間がかなり減ってしまって……

うぅ……せんぱい早く帰って来て下さいよぅ……

 

175:名無しの魔法少女

泣かないで

 

176:名無しの魔法少女

泣かないで

 

177:名無しの魔法少女

あらら……

 

178:名無しの魔法少女

全寮制の学校だと……?

もしかしなくてもアリスちゃんの転入先って結構良いところなのでは?

 

179:せんぱいLOVE

せんぱいの転入先は有名な某お嬢様学校なので、多分皆さんも名前くらいは聞いたことがあると思います

 

180:名無しの魔法少女

本物のお嬢様学校か……なんだアリスちゃんにぴったりじゃん

 

181:名無しの魔法少女

お嬢様アリスちゃんだと!? ……うん、違和感がないね

 

182:名無しの魔法少女

運動とか得意そう

そして授業や部活動で活躍してモテてそう

 

183:名無しの魔法少女

絶対モテる(確信)

 

184:名無しの魔法少女

同意

あんな良い子が普段からモテていないわけがない

 

185:せんぱいLOVE

皆さんの予想通りせんぱいはあちらで少し……いえ、かなりの人気者になっているみたいです

転入してから二日で他の生徒たちから「お姉様」呼びや様付け呼びが学年問わず定着しちゃったらしくて、本人がとても困惑していましたから

まあせんぱいなら当然ですけどね!

 

186:名無しの魔法少女

 

187:名無しの魔法少女

 

188:名無しの魔法少女

さすがアリスちゃん様、期待を裏切らない

 

189:名無しの魔法少女

私もアリスさんのクラスメイトになりたいです~

 

190:破壊神(姉)

なんじゃ、最近あやつの姿を見ないとは思っていたがそんなことをしとったのか

 

191:名無しの魔法少女

メアリー(姉)さん!?

 

192:名無しの魔法少女

おー、メアリー(姉)ちゃんこんにちは〜

 

193:破壊神(姉)

うむ、皆も日々のお勤めご苦労じゃの

 

それでサファイアよ、あやつの仕事はいつ頃終わりそうかの?

 

194:せんぱいLOVE

……研修期間自体は明日までですがそれが何か?

 

195:破壊神(姉)

そうか! ならばあやつに「近い内に我のところへ顔を出しにこいバカ者」と伝えておけ

2ヶ月以上もロクな連絡を寄こさずこの我を放置したのじゃから、罰としてその分しっかりと暇潰しに付き合ってもらわねばな

 

196:破壊神(妹)

端的に言えば「最近ずっと放置されてて寂しいからアリスさんと会って存分に構ってもらいたい」という意味ですね

それはそうとお久しぶりですサファイアさん

 

197:せんぱいLOVE

なるほど

あ、お久しぶりですホワイト先輩

 

198:破壊神(姉)

おい妹よデtラメを言うdない!

そnなこと我h一言も言っtらんわ!

 

199:せんぱいLOVE

動揺しすぎて文字打ててませんよぺt……ブラック先輩

 

200:破壊神(姉)

サファイア貴様ァ!

というかぺたんこなのは貴様も同じじゃろうが!

 

201:せんぱいLOVE

えっ、3つ年下の私と先輩を同じように比べられても……

 

202:破壊神(姉)

ええい! そうやって余裕ぶっていられるのも今の内じゃぞ!

貴様もいずれ我と同じ絶望を味わうはずじゃ!

 

203:せんぱいLOVE

まあどちらにしろ、ブラック先輩よりは将来性ありますから大丈夫です

ああそれとせんぱいの今後の予定は私とサニー先輩でほぼ埋まっているのでせんぱいと遊ぶのは諦めてくださいね

 

204:破壊神(姉)

えっ……

 

205:破壊神(妹)

サファイアさん、少しだけで良いのでお願いできないでしょうか?

実を言うと私も寂しさを感じておりまして、アリスさんと久々に遊びたい気分なのです

その……ダメ、でしょうか?

 

206:せんぱいLOVE

仕方ありません……ホワイト先輩のたってのお願いとあれば一日譲るくらいはいいですよ

 

207:破壊神(妹)

ありがとうございますサファイアさん

 

208:破壊神(姉)

ちょっと待て、我と妹で態度が違い過ぎるんじゃが!?

 

209:せんぱいLOVE

だってぺたんこ先輩はぺたんこ先輩ですし……

 

210:破壊神(姉)

お? やる気かの?

今すぐ本部の模擬戦場へ来いサファイア!

ぼっこぼっこのぎたんぎたんにしてやるぞ!

 

211:破壊神(妹)

姉さんは黙っててください

せっかく話が上手くまとまりそうなんですから

 

サファイアさん、今度の土日にアリスさんをお誘いしようと思います

 

212:せんぱいLOVE

了解しました

その日はホワイト先輩にお譲りしますね

 

213:破壊神(姉)

……

 

214:破壊神(妹)

ふふ、週末が楽しみです

ではさっそく今日の昼休みに直接アリスさんへお誘いをかけてきますね

 

215:破壊神(姉)

ん? なんじゃ、誘うためだけにわざわざ学校を抜け出すのか?

 

216:破壊神(妹)

え? 何を言ってるんですか姉さん

そんなことをせずともアリスさんには会えますよ

 

217:せんぱいLOVE

えっと、ホワイト先輩はせんぱいの通っている学校をご存知なのでしょうか?

 

218:破壊神(妹)

ご存知も何もアリスさんが転入したお嬢様学校とはウチの学校のことですし

 

219:破壊神(姉)

は?

 

220:名無しの魔法少女

えっ

 

221:名無しの魔法少女

えっ

 

222:名無しの魔法少女

えっ

 

223:せんぱいLOVE

えっ

 

224:破壊神(姉)

お、おい、ちょっと待て

妹よ、近頃昼になるとすぐにお主が教室の外へ出ていくのはもしかして……

 

225:破壊神(妹)

アリスさんと教え子の新人さんと私の三人で昼食を食べるためですがそれが何か?

というか校内であんなに話題になってるのに気づかない方がおかしいかと

 

ちなみに、アリスさんの教え子さんはとっても良い子ですよ

彼女にとても懐いていますし、努力家でなかなか好感が持てますね

 

226:破壊神(姉)

 

 

227:名無しの魔法少女

ブラックさん……

 

228:名無しの魔法少女

姉が寂しさを募らせている横で妹はちゃっかり交流してて草

 

229:名無しの魔法少女

妹殿が見事?に姉を出し抜いておられる

 

230:名無しの魔法少女

ブラックちゃんがショックでフリーズしちゃった……

 

231:せんぱいLOVE

ちょちょ、ちょっと待ってください!

それが本当ならホワイト先輩はほぼ毎日せんぱいと会っているってことじゃないですか!?

羨まsじゃなくて! 寂しいって話はどこにいったんですか!?

 

232:破壊神(妹)

(休日に)会えなくて寂しいのは本当ですよ?

ふふ……それではサファイアさん、約束通り今週末はアリスさんをお借りしますね

 

233:名無しの魔法少女

肝心な情報を目的達成まで伏せておく

これは策士ですわ

 

234:名無しの魔法少女

サファイアちゃんドンマイ

 

235:せんぱいLOVE

うぐぐ……! 今週末! 今週末だけですからね!

私たちだって最近は全然せんぱいと一緒に過ごせていないんですから!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、どうぞ」

「ありがとう花蓮」

 

 良家や資産家の女子が多く通う聖百合園女学院。

 国内でも最大規模の敷地面積を保有する本校には学業に関するあらゆる施設はもちろんのこと、飲食や娯楽に関する施設までもが完備されており、昼食の際に令嬢たちのほとんどが利用するカフェテリアもその一つである。

 普段であればとても賑わっているカフェテリアであるが、この日のカフェテリアは利用者の数が普段と全く変わらないにもかかわらず完全に静まり返っていた。

 令嬢たちが何故か皆で示し合わせたように口を閉じ、ある場所へと静かに視線を送っていたからだ。

 彼女たちの視線の先――カフェテリアの一角には、研修生である花蓮と共にのんびりと昼食後の紅茶を口にする凛の姿があった。

 

「明日でちょうど一ヶ月だね」

「……はい」

 

 凛が発した言葉を受けて花蓮が明らかに落ち込んだ様子で頷く。

 彼女は膝の上に置いた両手で制服のスカートをきゅっと握りしめ、寂しげな表情を浮かべて凛を見つめていた。

 

「研修の延長はできないのですよね……?」

「……うん。ここでの生活はとても新鮮で楽しいものだったけれど、そろそろ帰らないとあの子たちが寂しがっちゃうから」

「……そうですか。寂しくなってしまいますね……」

「そんなに落ち込まないで。研修が終わった後でも会える機会はきっとあるから。ね?」

「大丈夫です。数日前よりこの日が来ることは覚悟していましたから」

 

 そう言って花蓮は微笑む。

 ただ、覚悟はできていてもやはり寂しい気持ちが勝ってしまうのだろう。花蓮の目尻には小さな涙が浮かんでいる。

 この一ヶ月ですっかり二人と打ち解けた本校の令嬢たちもまた、それぞれが心配そうに二人の様子を周りからそっと見守っていた。

 

「ねえ花蓮、あなたはこの一ヶ月本当によく頑張ったよ。私が叩き込んだ基礎技術を見事にものにした今のあなたなら、努力次第でBランク、そしてAランクを目指すことも決して不可能じゃない」

「ありがとう、ございます……」

「うん。それで、その……私としてはそんな頑張った花蓮に対して何かご褒美をあげたいな〜と考えているんだけど」

「ご褒美……ですか? お姉様が私に?」

 

 驚いたように凛を見る花蓮に彼女は笑顔で頷いてみせた。

 

「うん、ご褒美。何か希望はある? 私にできることなら何でもいいよ。そのくらい本気で花蓮の頑張りを私は認めているから」

「え、えっと、それでしたら……」

「いいよ、何でも言ってごらん?」

「お姉様のき、き……」

「き……?」

 

 遠慮がちに話す花蓮の緊張を和らげようと優しい声で続きを促す凛。この時は普通に平静を保っていた彼女であったが、それは次の花蓮の言葉を聞くまでであった。

 

「キス……が欲しいです」

「そっかキスかぁ……えっ、キス……?」

「はい。それがあれば一人になった後も頑張れるような気がして……」

『きゃああああーーっ!!』

 

 「キス」……いつの間にか静まり返っていたカフェテリア内にその声は驚くほどよく響き、それを聞いた令嬢たちは我を忘れて歓声を上げる。が、そんな周囲の様子が目に入らないほど慌てていた凛は内心の動揺を抑えつつ――それでも誤魔化しようのないほど赤くなった顔で花蓮に向けて尋ねる。

 

「ど、どこに? まさか口? 流石にそれは――」

「ひ、額にです! く、くくく口なんて恐れ多くてとてもできませんわ!?」

「そ、そうだよね!? ……額か、それならまあいいかな」

「ほ、本当ですか!? で、では……」

 

 頬を上気させ、潤んだ瞳で凛を見上げる花蓮はそっと前髪を指でかき上げ、シミ一つない綺麗な額を彼女へと向けると静かに目を瞑った。

 

「えっ、ここでするの!?」

 

 ガタッ! ガタガタッ! ガタン!

 

『キマ――むぐっ』

『ちょっと! まだ早いわよステイ!』

『ああ、お二人とも尊いですわ……』

『ふつくしい。これが聖域か……』

『貴方、鼻血が出ていましてよ』

『……鏡をお貸ししましょうか?』

 

「よ……よし、これは頑張った花蓮へのご褒美だもん。恥ずかしがってる場合じゃないよね」

 

 やがて覚悟を決めたのであろう、俄に色めき立つ周囲を余所に席を立った凛はほんのりと顔を赤らめたまま、ゆっくりとその口を近付け――花蓮の額に優しくキスを落とした。

 

「ん……」

「……っ!」

「……どう? これで私がいなくなった後も頑張れそう?」

「……はい

 

 聖母のような微笑みを向ける凛と幸せそうに笑う花蓮。

 まるで完成された絵画のような美しさと尊さが溢れるその光景に、一連の流れを見守っていた令嬢たちは一斉に胸や鼻を押さえて悶絶した。

 

『キッ、キマシタワー!』

『ふつくしい』

『この紅茶クッソ甘いですわ』

『ここがエデンか……』

『嗚呼……この世にはこんなにも美しい光景があったのね』

『私、この学院に来て本当に良かったわ』

『後光が眩し過ぎてもう耐えられないよぅ……しゅきぃ……』

『ふおおお! 新刊のネタはこれで決まりですわぁ!』

『くっ、尊みの過剰摂取で体が持ちませんわ!(鼻血)』

『てぇてぇですわぁ……』

『我が生涯に一片の悔い無し……!』

 

 拳を掲げる者、感嘆のため息を漏らす者、胸を押さえて蹲る者、浄化されて灰になる者、メモをとる者、鮮血で衣服を染める者、悟りを開く者などetc。少しばかりカオスではあるが、これは今のこの学院における日常的な光景であるため何ら問題はない。尊いものを見て尊いと感じるのは人間として当然の反応である(学校長談)。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「……どう? これで私がいなくなった後も頑張れそう?」

「……はい」

 

 どうしよう……教え子が可愛すぎてつらい。

 

 ご褒美にキスを要求されたのは流石に戸惑ったし恥ずかしかったが、なんだかんだでこの手のスキンシップの経験はあるのでそつなくこなすことができたと思う。

 こんなことで本当にご褒美になっているのか疑問ではあるが、嬉しそうにしている花蓮の表情に嘘はないのだろう。

 彼女との新人研修が始まって早いもので約一ヶ月が経ち、明日で研修は終わりとなる。

 

 もう少し残って鍛えてあげたいという気持ちはもちろんあるんだけど――正直そろそろ戻ってあげないとあの子たちが限界のようなので。

 

 寂しい&会いたい&早く帰ってきて云々のメッセージがね、毎日のように送られてくるんだ、それはもう大量に。

 今思えばこんな風に長期に渡って別行動をとることなんてほとんどなかったから、なかなか新鮮な毎日だった。ここ数ヶ月はだいぶマシになったとはいえ、ちょっと前まではずっと3人で起きて、戦って、食べて、戦って、寝て、戦って、起きて、たまに休むといった平穏からかけ離れた毎日の繰り返しだったからなぁ。

 

 あの子たちは今頃何をしているのかな。

 規則正しい生活ができているのだろうか。ちゃんとご飯と睡眠はとっているのだろうか。勉強をサボってはいないだろうか。気づけばそんなことを何度も考えてしまうほど、私もまたあの子たちのいない日々に寂しさを感じてしまっていて――

 

「お姉様? どうかされましたか?」

「あぁごめん、ちょっと考え事をね。個人的なことだから花蓮は気にしなくていいよ」

「ふぁ!?」

 

 っとと、いけないいけない。今はまだ仕事中なのだから私事は後にしなくちゃ。

 改めて労いの意を込めて花蓮の髪を優しく撫でる。花蓮はそんな私の行動に最初はあわあわと慌てていたが、やがて照れた顔で遠慮がちに頭を押し付けてきた。

 うむ、やはり私の教え子は今日も可愛いな……なんて。親バカならぬ先生バカ?のようなことを考えていた時だった。()()の声が聞こえてきたのは。

 

「――まったく。真っ昼間から何をやっとるんじゃお主らは」

 

 声の方へ顔を向けるとそこには呆れ顔の小柄な少女が一人。

 グレーの髪を左側へサイドテールでまとめた赤眼の少女は私たちへとジト目を送りつつ、テーブルまでゆっくりとやって来る。

 それに対して私はちょっぴり驚きつつ少女へと声をかけた。

 

黒羽(くろは)先輩?」

「久しぶりじゃな凛。お主に言いたいことは色々あるが……まずは後輩に挨拶といこうか。我はこやつの先輩の早乙女黒羽(さおとめ くろは)。初めましてじゃな後輩よ」

「は、初めまして、一条花蓮です」

「ふむ……」

 

 突然現れた黒羽先輩にどこか緊張した様子で話す花蓮。対する黒羽先輩は何かを見定めるような目でじっと花蓮を見つめ――突然目にも留まらぬ速さで彼女の顔面へ貫手を繰り出した。

 

「きゃっ!?」

「……ほう、今のに反応するとは大したものじゃな」

 

 とっさに首を傾けて貫手をかわした花蓮を見て黒羽先輩は小さく「合格」と呟く。ちなみに彼女の貫手は繰り出すのも引っ込めるのも一瞬であったため、この場にいる魔法少女たち以外でその行動に気付いた者はいなかった。

 

「黒羽先輩、花蓮をいじめるのはやめて下さい」

「分かっとる。軽く試しただけじゃ許せ」

「お、お姉様……こちらの方は一体……?」

「ん? 我のことを妹から聞いておらんのか?」

「花蓮、黒羽先輩は白羽(しろは)先輩のお姉さんだよ」

「白羽先輩の……」

 

 早乙女白羽……聖百合園女学院中等部の三年生で、グレーの髪を右側へサイドテールでまとめた赤眼の少女である。

 この学院の生徒会副会長として人気のある彼女であるが、実のところ魔法少女としてもすごく有名な人間だったりする。

 私としてはこの学院に来るまで魔法少女としての彼女しか知らなかったものだから、この前突然学院内で彼女から声をかけられた時は驚いたものだ。

 

「確かに似ていらっしゃいますが、なんというか、その」

「あぁ、うん。気持ちは分かるけど彼女の方が姉だよ。間違いなく」

 

 黒羽先輩と白羽先輩は双子の姉妹、これは紛れもない事実だ。とはいえ先輩を見た花蓮が困惑してしまうのも理解できるので苦笑しつつもう一度伝える。

 確かに見れば見るほど一部を除いてその容姿は目の前の黒羽先輩と非常に似通っているのだけれど……

 

「ええと……(妹さんの間違いでは……?)」

「おい後輩、何故今首を傾げた。返答次第では今ここで貴様を締めるぞ」

「ふぇ!?」

「先輩諦めましょう。その胸と身長では誤解されても仕方のないことです」

「誰がぺったんこのちんちくりんのつんつるてんじゃ!? 馬鹿にしとるのか貴様ァ!」

「ひぃっ!?」

「どーどー。先輩落ち着いて」

 

 お年頃な黒羽先輩にとって身長と体型の話はタブーなのである。

 予想通り黒羽先輩がキレたので私は慌てることなく彼女の頭を撫でて宥める。もう絵面が完全に先輩と後輩ではなく小さい子供とお姉さんだけど、撫でられている本人はそれでひとまず満足したのかすぐに落ち着きを取り戻した。チョロい。

 

「……」

 

 そのやりとりを見て、やはり妹さんの間違いでは?と目で語るけれど口にはしない花蓮。彼女は空気の読める子であった。

 

 そうして一旦落ち着いた黒羽先輩は、私の手を頭に乗せたまま口を開く。

 

「……凛、お主に聞きたいことがあるのじゃが」

「はい、何ですか?」

「お主……何故この学院に来てから一度も我に会いに来なかったのじゃ?」

「黒羽先輩……?」

 

 ふと感じた違和感。自分の知る普段の彼女からはかけ離れた暗い声色に驚いて私は彼女の顔をよく見る。そこにあったのは普段の勝ち気で自信に満ち溢れた彼女の姿ではなく、まるで何かを恐れるかのように不安そうな表情を浮かべる彼女の姿だった。

 

「妹から聞いたぞ。お主はここにいる後輩の指導教官として学院に特別編入してきたのだと。短い期間ではあるが、お主と交流できる機会が増えたおかげで最近の学院生活がとても楽しいと大層喜んでおった」

「そ、そうですか」

「……何も知らない我が一人で時間を潰している間、お主らは仲良く三人で交流していたのだな」

「あー……ええと、一応弁解させてください。私は黒羽先輩の存在を白羽先輩から聞いてすぐに会いに行こうと思っていたんですよ。私も黒羽先輩には会いたかったので」

「それは本当か?」

「はい」

「嘘は……言ってないようじゃな」

 

 黒羽先輩はそう言って大きなため息をつく。

 なんとなくだが、どこかほっとしたような雰囲気を彼女から感じた。

 

「ふむ、続きを聞こう」

「……でも白羽先輩に『姉さんは忙しい方ですし、手が空いている時に私が説明して一緒に連れてくるので気にしないでください』と言われまして。黒羽先輩のことは完全に白羽先輩に任せていたんです」

「は? 我も妹も学院内で会って話をする時間なんていくらでもあったんじゃが? むしろ暇じゃったのに一切声なんぞかけられてないんじゃが?」

 

 あれ? なんだか話が食い違っているような?

 一体どういうことだ!と額に青筋を立てて怒る黒羽先輩に私と花蓮は思わず顔を見合わせる。

 

 黒羽先輩の都合を妹である白羽先輩が把握していないはずがない。しかし何故か白羽先輩が姉に私たちのことを一切伝えていないのだという。

 おかしい……私の知る彼女はこのようなことで嘘をつくような人ではないはず。

 

「ん?」

 

 不思議に思っていると私のスマホに突然着信が入る。かけてきたのは今まさに話題に上がっている白羽先輩からだった。

 黒羽先輩に断りを入れ、少し離れた場所で電話に出る。

 

『すみません凛さん。姉さんがそちらに向かったと思うのですが』

「あ、はい、黒羽先輩ならこちらにいますよ? ついでに言うと白羽先輩に対して何故か私たちのことを内緒にされていたと絶賛お怒り中です」

『……ああ。姉妹ともどもご迷惑をおかけして申し訳ありません。たった今お電話させていただいたのはまさにその件です。凛さん、姉さんにこうお伝え下さい、『これでプリンの件はチャラにしてあげます』と。それで大人しくなるはずなので』

「え? プリン?」

『こちらの用件は以上です。何かご質問はありますか?』

「結局のところ、黒羽先輩に私たちのことを伝えなかった理由は……」

『それは姉さんに聞いてください』

「あっ、はい」

『他にありますか?』

「いえ。ないです」

『ああ、ところで凛さんは今週末の予定は空いていますか?』

「今週末ですか? それなら空いてますけど……」

『でしたら姉さんと私と花蓮さんの四人で一緒にどこかへ出かけませんか?』

 

 

 

 

「――戻ってきたな。仕事の電話か?」

「いえ、白羽先輩からですよ」

「なんだと? あやつから謝罪の電話でもあったのか? 遅いな。言っとくがこの件に関して我はかなり怒って――」

「『これでプリンの件はチャラにしてあげます』だそうです」

「――むぐぅ」

 

 場に戻って白羽先輩の言葉を伝えると、黒羽先輩はなんともいえない表情で閉口した。ああ、やっぱり何か心当たりがあるんですね。

 

「心当たりがあるみたいですね。今回は一体何をやったんですか? 白羽先輩は姉さんに聞いてくださいとしか言ってくれなかったので」

「……少し前に妹が冷蔵庫に入れておいたプリンを勝手に食べて喧嘩になったのじゃ。心当たりと言えばそれしかない。あの時はたかがプリンごときで何故あそこまで怒ったのかが分からず困惑したが……今理解した。あの妙に美味いプリンを作ったのはお主なんじゃろ?」

「あー……確かに再会の日に白羽先輩に頼まれてとっておきの自家製プリンをプレゼントしました。でもあれって喧嘩にならないようにちゃんと二人分頼まれて渡したはずなんですが」

「美味くて気づいたら2つ食っとったんじゃ……」

「「えぇ……」」

 

 それはない……それはないよ黒羽先輩。

 白羽先輩は大の甘党でありプリンはその好物トップ3にランクイン(私調べ)するスイーツだ。

 白羽先輩はきっと姉と二人で仲良くプリンを食べながら私たちの話を切り出す予定だったんだろう。

 きちんと気を利かせて姉の分も用意したのに勝手に両方食べられたらそりゃキレるよ。

 

「いや完全に自業自得じゃないですか」

「ぐふぅ」

「というか前も同じようなことで喧嘩していたのに懲りませんね」

「うぅ〜」

 

 流石に悪いことをしたという自意識が強くなったのだろう。黒羽先輩はしょんぼりと項垂れていた。

 

 ――さてと、彼女を弄るのはこのくらいでいいかな。白羽先輩も既に許したからこそ姉に私たちの存在を伝えたのだろうしね。

 

「まあ白羽先輩もその件についてはもう怒ってないみたいですが、後でもう一度謝っておくのが良いと思います。ちゃんと仲直りしてくださいね? 先輩たちがギスギスしてると私も悲しくなりますから」

「うん……」

 

 黒羽先輩がきちんと頷いたのを確認した私は、彼女の体を身体強化魔法を使って抱え上げ、座席に着く私の膝の上に乗せる。

 何やらずいぶんと寂しい想いをしていたみたいだし、ここからは可愛い先輩を存分に構ってあげねば(使命感)。

 

「よしよし」

「あ、あの……」

「花蓮もおいでー?」

「はいっ!」

 

 可愛い先輩と後輩に囲まれのんびりと過ごす今のこの時間はとても心地良い。ああ……平和って本当に素晴らしいなぁ。

 

 

 

『やりましたわ』

『やっぱり紅茶がクッソ甘いですわ』

『我が生涯に(ry)』

『ああ〜たまりませんわ〜浄化されちゃいますわぁ〜』

『先輩後輩逆転おねロリ……使える……!』

『キマシタワー』

『くっ、かろうじて致命傷で済みましたわね……』

 

 ――それはそうとしてこの学院、妙に癖のあるお嬢様多くない?

 

 

 

 

 

 

 




★早乙女黒羽(魔法少女ブラックメアリー)
勝手にプリンを食べて反撃の罰を受けた人。中学3年生。
理沙にすら数ミリ単位でバストも身長も負けているちんちくりんな容姿が大きな悩み。
おじいちゃん子で、大好きな祖父の影響を受けて今の口調となった(本人は真面目にかっこいいと思っている)。
双子の妹との仲は良好だが結構雑に扱われることが多い。
名実共に日本を代表する魔法少女の一人で東京都の魔法少女たちのリーダーポジション。めちゃくちゃ強い。彼女によって救われた命は数知れず、他の魔法少女たちからもすごく慕われている。
教え子である凛のことをとても可愛がっている(実際は大抵逆に可愛がられている)。

★早乙女白羽(魔法少女ホワイトメアリー)
プリンの恨みを晴らした妹。中学3年生。
双子の姉とは異なりそこそこ発育の良い体の持ち主。
姉のことを慕っているが弄って反応を見る方が楽しいので大抵雑に扱っている。
東京都の魔法少女たちの副リーダーポジションとして姉を補佐している。強い。
姉と同じく教え子である凛のことを可愛がっている。
この後、姉たちと共に休日デートを存分に楽しんだ。

★姫宮凛(魔法少女アリス)
自分の知らないところで勝手に恥ずかしい話が共有されているTS娘。中学1年生。

★一条花蓮(魔法少女スカーレット)
研修を無事に終えたアリスの教え子。中学1年生。
アリスが張り切って鍛えたため以前の数倍は強くなった。

★学院のお嬢様たち
立派な淑女たちですわ。



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久々の帰宅、そしてデート

最近のハーメルン、地味に魔法少女系の作品が増えてて開くのが日々の楽しみになってる。やっぱりハーメルンは最高だね。

それはそうとして……はい、今回でやっと主人公が帰宅です。
さらに一話以降、めちゃくちゃ影が薄くなってしまっていた同僚ちゃんをようやくメインで出せました。

一部注意事項があるけど、いつも通りリラックスして読んでね。

※陵辱系に耐性の無い人は一部閲覧注意かも(一応普通にスクロールするだけなら見えない仕様なのでこのまま読んでもらって大丈夫です)


 

 

 

 

「あー、やっと帰ってきたなぁ」

 

 魔法少女機関本部に用意された自室の扉を見ながらしみじみと呟く。

 一ヶ月という短いようで意外と長く感じた新人ちゃんの研修を終え、私はようやく我が家へと帰ってきていた。

 

「ただいまー」

 

 一人用の自室なのでまったく必要ないのだが、つい癖で挨拶をしつつ扉を開けて中へ入る。

 

 次の瞬間、凄まじい勢いで顔面におっぱいが飛んできた。

 

「――ふごぉっ!?」

 

 視界が真っ暗になり、顔面がたわわなおっぱいに押しつぶされる。あっと思った時にはそのまま真後ろへひっくり返り、私の体は床に押し倒されていた。

 

 柔らかくていい匂いがする。そして息が……息が苦しい。というか締まってる。

 

「凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん凛ちゃん――」

 

 はい。凛ちゃんですよ。

 なんとなく状況は理解できたけどどうしようか。

 帰る前から薄々感じていた通り限界寸前だったらしい同僚はごらんの有様で、先程から何度も彼女の背中を叩いてギブアップ宣言をしているのに一向に離れる気配がないのだ。

 

 ……やばい、そろそろ息が苦しくなってきた。

 

「んー! んんーー! んむぅーーー!!」

「凛ちゃん本物凛ちゃん本物凛ちゃん本物凛ちゃん本物凛ちゃん本物――」

 

 あの……このままだと私、窒息しちゃうんだけど。

 

(……ご、ごめん!)

 

 流石にそれは勘弁したいので私は彼女の弱点である脇腹を全力でくすぐった。

 ごめん、許して。本当に苦しいんですよ。

 

「ひゃあんっ!? り、凛ちゃんやめ、ひいんっ!」

「――っぷはあ!」

 

 身をよじって私から離れた同僚の姿を見ながら私は素早く息を整える。

 

「ふぅ……」

 

 視界に映るのは見慣れた自室の景色と顔を赤らめてこちらを見る可愛らしい同僚の姿。それを見てようやくここに帰ってきたんだという実感が強くなり、私は自然と微笑んでいた。

 

「ただいま、ひより。元気にしてた?」

「おかえりっ! ……ずっと凛ちゃんに会えなくて寂しかったのに元気なんて出るわけないよ」

「そっか。実は私も向こうで結構寂しくなっちゃってさ、今こうして会えてとても嬉しいんだ。ひよりの顔を見たらなんだかすごく安心したよ」

「凛ちゃんも……?」

 

 きょとんとするひよりに頷き返し、手荷物を適当な場所においてベッドに腰掛ける。

 そうしてポンと太ももを叩いて彼女の方を見れば、ハッとしたような表情の後に期待のまなざしをこちらに向けてきた。

 

「……いいの?」

「うん。というかいつも許可なんて取らずに飛び込んでくるよね?」

「凛ちゃん!」

 

 バッと飛びついてきたひよりを受け止め彼女の頭を私の太ももの上に置いて膝枕の姿勢をとる。

 彼女は私の膝枕が大のお気に入りなので喜ばせてあげるにはこうするのが一番なのだ。私も私でこうして甘えられて悪い気はしないし。

 オレンジ色の癖毛をあやすように優しく撫でてやると彼女は気持ち良さそうな声を出して脱力した。

 

「ふにゅう……凛ちゃんしゅき」

「はいはい。私も好きですよー」

「……えへ、前よりちょっとだけお肉が付いたねぇ」

「えっ、本当? 運動系の部活動もやってたしやたらと豪華な食事ばかりとっていたからそのせいかな……」

「気にするほどじゃないと思うよ。それに私、今の凛ちゃんの太ももの方が好き」

 

 そう言ってすりすりと頬を太ももに擦り付けられる。くすぐったい。

 

「それならまあ……いいのかな?」

「そうそう、健康的な素晴らしい太ももだと思います。凛ちゃんの太ももマスターの私が言うんだから間違いないよ」

「私の太ももマスターって何?」

 

 よく分からないけど太ったわけじゃないなら別にいいか。

 

「そういえば」

「んー?」

「理沙はどこに? こういう時真っ先に会いに来そうなのに珍しいね」

「あー……理沙ちゃんはねえ……」

 

 姿の見えないもう一人の同僚について尋ねると彼女は苦笑しつつ説明してくれた。

 

「理沙ちゃんなら急なお仕事が入っちゃって今は他県に行ってるよ。出発の直前までものすっごい嫌がってたけど」

「あはは……その光景が容易に想像できるよ」

「というわけで今日は私が凛ちゃんを独り占めできる日なんだよー」

「なるほど。ひよりと二人っきりになるのは久しぶりかも」

「そうだよー。あ、一応聞くけど凛ちゃんってこの後の予定空いてるよね?」

「ん? 空いてるよ」

「じゃあ今日は一緒に新しいお洋服を買いに行こうよ! 今着てるやつだとなんかサイズが合わなくて困ってたんだぁ」

 

 そう言った彼女の胸元でポヨンと弾む二つの大きな山。

 ……なるほど。ご立派な胸部装甲をお持ちですものね。成長期なので当たり前と言えば当たり前だけどここからまだデカくなるのか……理沙が聞いたらキレそうだ。

 

「えへへ、二人っきりの買い物デートだね!」

 

 まあそういうわけで今日は彼女と二人で買い物デートへ行くこととなったのだった。

 

 

 

 

 

「ふん、ふふ〜ん♪」

「……」

 

 ひよりに買い物の誘いを受けてから数十分後、私たちは洋服屋を目指して仲良く街中を歩いていた。

 

 自身の髪色に合わせた橙色のカーディガンとチェック柄のミニスカートをオシャレに着こなす彼女は贔屓目なしに魅力的だと思う。さらに十人中十人が可愛いと答えるであろう人受けの良さそうな無邪気な笑みを浮かべているせいで道行く人の多くが私たち――というよりひよりの方へとチラチラ視線を送ってくる。

 

 ――私? パーカー(グレー)に短パン+キャスケット帽(黒)の地味コーデですが何か? なんとなくおしゃれな服って変に気後れして着づらいんだよね。地味コーデ最高。

 

 なので普通にしていればそれほど注目されないはず……なのだけど、ニコニコとご機嫌なお嬢さんに右腕を抱き締められているせいで少なくない注目が私に対しても向けられていた。

 

「〜〜♪」

「……ねえ」

「なぁに?」

「そろそろ腕を離してもらってもいいかな。というか歩きにくいでしょそれ」

「なんで?」

 

 右腕にむにゅむにゅと感じる柔らかい感触をできるだけ意識しないようにしながら彼女にそう言ってみるも心底不思議そうな顔で首を傾げられた。こいつめ。

 ……お願いだからそろそろ離して。色々と精神的なアレコレがゴリゴリ削られてるんです。

 

「んー、じゃあ……」

 

 パッと私の腕を解放した彼女はそのまま自然な動きでお互いの指を絡ませて握る。いわゆる恋人つなぎというやつだ。

 やや控えめに握られた手からは私のものより少しだけ冷たくて柔らかい手の感触が伝わってくる。

 

「これならいいでしょ?」

「……」

 

 きっとこれもまた女の子同士のよくあるスキンシップの一つなのだろうと考えて――彼女の妙に熱のこもった視線を受けてドキッとした。

 

「凛ちゃん?」

「あっ、うん。これなら邪魔にならないしいいかな。うん」

 

 ――いやいや何をときめいているんだ私は。相手は去年までランドセル背負ってたJCだぞ? そういう目で見るのはNGなのだ。分別のある大人として気を引き締めなければ。

 

「い、行こうか」

「うん!」

 

 私はほんのり熱くなった頬の熱を誤魔化すように彼女の手を引いて歩き出した。

 

 

 

 

「凛ちゃん凛ちゃん! 次はこれ着て! これ!」

「あ、はい……」

 

「きゃあああっ、可愛い! 可愛過ぎるよ凛ちゃん! 次はこれね!」

「はい……」

 

「ああああっ! 太ももがえっちすぎる! これはもう犯罪! 犯罪だよ凛ちゃん!」

「……」

 

「しゅき」

「……」

 

「よし、じゃあ次は――」

「――あのさ」

 

 ウキウキとした様子で次の服を取りに行こうとする彼女を呼び止める。流石にそろそろ文句の一つでも言っていい頃合いだろう。

 

「さっきからずっと私を着せ替え人形にして遊んでるけどおかしくないかな? 今日はひよりの服を買いに来たはずだよね?」

「……そうだった!」

「え、まさか本当に忘れていたの……?」

 

 目的の洋服屋に着いてから約1時間。

 顔には決して出さないが、かれこれ約40分ほど着せ替え人形にされていたせいで私は既に色々と疲れ始めていた。

 女の子の買い物が長いことはこの体になってからよーく知っていたことであったが、やはり慣れないものは慣れない。というかやたらと丈の短い羞恥心を煽る衣装ばかり持ってくるのは何故? 私がそういう服を好まないの知ってるよね?

 そんな内心の不満をこちらの視線から読み取ったのだろうか。慌てて彼女は謝ってきた。

 

「……ご、ごめんね。久しぶりに凛ちゃんと二人っきりだからって嬉しくてはしゃぎ過ぎちゃった。迷惑……だったよね」

「別に怒っているわけじゃないから安心して。ただ、少し疲れたから私を着せ替えするのはこれでおしまいね。さ、次こそは自分の服を選んでおいで。感想が欲しければちゃんとあげるから」

 

 しゅんと落ち込んでしまった彼女の頭をぽんぽんと撫でて慰めつつそう言えば、元気を取り戻したように笑顔で「だいたい決めてあるからすぐに持ってくる!」と洋服コーナーの向こう側へ消えていった。

 

「とても仲がよろしいんですね」

「えっ? はい」

 

 すると彼女が場を離れてすぐに近くで私たちを見守っていた女性店員さんがこちらに話しかけてきた。

 

「学校の先輩さんと後輩さんですか?」

「いえ、同い年ですよ。二人とも今年から中学生になりました」

「ええっ!? 嘘……あの発育で中学1年生なの!? ……あっ、すみません驚いてつい……!」

「気にしないでください。お姉さんみたいな反応には慣れてるので」

 

 うんうん、気持ちは分かるよ。私も彼女の発育はやばいと常々思っているからね。

 

「ありがとうございます。……お客様は気に入った商品、またはお探しの商品はございますか?」

「あー、今日は付き添いのつもりで来たので……よろしければ彼女の方をサポートしていただけると助かります」

「なるほど、了解いたしました」

 

 一旦会話が途切れ、その場で店員さんと一緒にひよりの帰りを静かに待つ……が、どことなくそわそわした様子を見せる店員さんが少しだけ気になって視線を向けると、彼女はおずおずとこちらへ耳打ちしてきた。

 

「……あの、ところでお客様たちはお忍びの芸能人とかだったりするんでしょうか?」

「へ? ただの一般人ですけど……」

「そうなんですか? すみません、お二人とも『実はアイドルやモデルをやってます』と言われても違和感のない方なのでてっきり……」

 

 アイドルやモデルか……確かにひよりや理沙の容姿はかなり整っているし、そういう職業についていても違和感がないかもしれないな。私も喜んでいいのか微妙なところだけど美人の部類に入るっぽいし。

 まあ、ただ単にこの世界の顔面偏差値が高いだけではと思わなくもないけどね。

 

「凛ちゃんただいま! 早速着てみるね!」

「おかえり。慌てなくていいからねー」

 

 いくつかの服を両手に抱えて帰ってきたひよりが早速目の前の試着室で着替え始める。そうして1分ほど待つと試着室のカーテンからひよりの手が出てきてこちらを手招きした。

 

「凛ちゃーん、ちょっとこっち来てー?」

「もう着替えたの?」

「うん」

 

 ……やけに早いな。魔法でも使ったのかな。

 そう思いながら何気なくカーテンを開けた私の目に飛び込んで来たのはアダルティーな下着のみを身に付けた彼女の扇情的な姿であった。でっっっか。

 

「ぶっ!? 着替えたってそっち!?」

「どうどう? 似合ってるかな……ってちゃんとこっち見てよ凛ちゃん!」

「い、いやそれはちょっと」

 

 やばい、油断していた! これは罠だ!

 私は慌てて試着室から離れようとするが、その前にひよりに手を掴まれ脱出を阻まれる。やられた!

 

「ふふっ、別に女の子同士だから恥ずかしがらなくてもいいのに。凛ちゃんは可愛いね」

「ちょ、ちょっと!」

「ねえ凛ちゃん、凛ちゃんはこの下着どう思う? 好き? 嫌い? 答えてくれるまで離してあげないよー?」

 

 悪魔かな? うん、今の私にとっては悪魔そのものだな。

 目で見なくとも彼女がイタズラっ子のような顔で笑っているのが気配で分かる。

 

「ほらほら、早く答えてよー」

「べ、別に私の意見はいらないんじゃない? 服ならともかく下着なら別の詳しい人に聞いた方がいいと思うよ。私がそっち方面に疎いの知ってるでしょ?」

「……? 凛ちゃんにしか見せないのになんで他の人に聞く必要があるの?」

「え?」

「え?」

 

 ど、どういう意味なんだろうそれは。……いや落ちつけ、きっとそんなに深い意味はないはず。ただのからかいに違いない。

 言葉を詰まらせる私に彼女は顔を寄せて囁く。

 

「ねえ、本当にダメかな? 私、凛ちゃんの本音が聞きたいなぁー?」

「……その、すごく大人っぽくて似合ってると思う」

「そっか。思わずドキっとする?」

「……する」

「んっ♡」

 

 結局耐えられなくなり感想を言うと彼女の機嫌がとても良くなった。はい、私の負けです。

 

「ありがとう! じゃあ次は服を着るから一旦出ていいよ」

 

 パッと手を離され、私は試着室の外へと出る。

 

「お客様、少しお顔が赤いようですが大丈夫ですか?」

「いえ、大丈夫です。気にしないで下さい」

 

 彼女は下着で私をからかって満足したのか、この後は特に何事もなく普通に何着か服を試着して気に入ったものを複数購入する形で買い物は終わった。

 

 

 

 

 買い物を終えて次に私たちがやってきたのは公園だ。

 お腹が空いたのでちょうど見つけた出店で私たちはたこ焼きを購入し園内のベンチで食べていた。

 

「はい、あーん」

「いやいや、自分で食べられるから」

「あーん」

「……」

「あーん!」

「……あーん」

 

 強い笑顔の圧に負け、大人しく口を開いてたこ焼きを受け取る。

 味の方は可もなく不可もなしだ。専門店でもなければ大体こんなものだろう。

 

「あーん」

「え、これ一回で終わらないの?」

「ダメ?」

「だって恥ずかしいじゃん。周りに結構人いるし」

 

 今だって向かいのベンチに座る老夫婦から微笑ましいものを見る目を向けられていて気恥ずかしいのだ。

 

「でもほら、向こうのベンチにもやってる人たちがいるよ?」

 

 そう言って彼女が指で示したのは少し離れたベンチに座る一組の若い男女。

 彼らは私たちと同じたこ焼きを手に持ち、交互にあーんで食べさせ合いながらイチャイチャとラブオーラを周囲へ放っていた。つまりはただのバカップルである。

 

「うーん……あれは見るからにカップルだしなぁ……」

「じゃあ私たちも問題ないね!」

「……うん?」

「あーん」

「あむ」

 

 何がじゃあなのか分からないが、私は再び差し出されたたこ焼きをつい流れで食べてしまう。

 

「ねえ凛ちゃん、私にもちょーだい?」

「自分で食べ……まぁいいか。ほら、口を開けて」

「あーん」

 

 寂しい思いをさせていた分、多少のわがままは聞いてやるべきか。そう思いながら爪楊枝で刺したたこ焼きを彼女の口元へと運び――

 

 

「ねーねー、ちょっといいかなそこの君たち」

 

 

 直前でかけられた声に手を止めてそちらを見る。

 ベンチに座る私たちの前にチャラい男たちが三人立っていた。見た目と雰囲気的に大人という感じではなく、せいぜい同じ中学生かその上の高校生といった感じだ。ああ、面倒な匂いがぷんぷんする。

 

「……何でしょうか?」

「見ての通り俺ら暇しててさぁ、良かったら一緒に遊ばない?」

「安心してよ。俺たち女の扱いには結構自信あるからさ」

「男の良さってやつをたっぷり教えてあげるよ?」

 

 ナンパか? ナンパなのかこれ。うわ、面倒だな。

 私はひよりを背後に庇うように立ち、彼らの顔を見上げる。

 彼らは全員断られるとは微塵も思ってなさそうなニヤケ顔を浮かべてこちらを見ていた。

 

「結構です。今日は友人とのお出かけを楽しんでいるんです」

「まあまあそう言わずにさぁ、何事もまずは経験ってやつだよ」

「別に必要ないので」

「ハハハ、緊張しなくても大丈夫だって。俺らこーゆーのちょー慣れてるから。初めてなら色々と優しくするぜ?」

「俺、後ろのおっぱいのデカい姉ちゃんがいいな! 顔と体がマジで好み! つーか色々とエロすぎっしょ! 揉んでみてえ!」

 

 ……こいつら全員人の話を聞かないな。感じる視線も酷く不愉快なものだし。

 こうして話している間も彼らは値踏みするように不遠慮な視線をチラチラと私たちの胸や足に向けているのだ。まさか気づいていないとでも思っているのだろうか。

 

「なぁ、いいだろー?」

 

 不意に男の一人が手を伸ばしてひよりの手を掴もうとしてきたので、私が咄嗟にそれを手で払う。

 

「やめてください。断っているのが理解できないんですか?」

 

 強い口調で行う最終警告。私は彼らの顔を見上げながら鋭く睨みつける。

 そんな私の態度が気に入らなかったらしく、彼らは露骨に表情を歪めて声を荒らげた。

 

「っち! こっちが下手に出てれば調子に乗りやがって、いいから大人しく来いよ!」

「おい、もうこのまま連れて行こうぜ」

 

 ――うん、もう怒っていいよねこれ。だってコイツら話が通じないんだもん。

 

 先程からずっと私の服の袖を掴んで無言を貫いている背後の彼女を安心させるようにその手を一度握り返し、私は一歩前へ出る。

 

「……分かりました。では遊びましょうか」

 

 先制でニッコリと笑顔を作ってそう言えば彼らは途端に顔を赤くして大人しくなる。

 こういう時、無駄に整ったこの顔は便利だ。

 

「お、おう、分かりゃいいんだよ分かりゃ」

「やっべ……笑顔マジ可愛い。へへ、今日はツイてるぜ」

「じゃあ早速――」

 

「――ねえお兄さんたち、サッカーは好きですか?」

 

「うん? ああもちろん好きだぜ! つーか俺たちこう見えてクラブチームのレギュラーメンバーだしな!」

「ちなみに俺がエースストライカー! 最高にイケてるだろ?」

「サッカー好き同士なら相性抜群じゃん!」

 

 ほう、それはよかった。

 

「いやぁ私、今無性に何かを蹴っ飛ばしたくてたまらなくてですね。一緒にサッカーをしましょうか」

「おーいいね、女子とサッカーで遊ぶのは初めてだけどこうゆうのも面白そうじゃん」

「サッカーデートってやつか?」

「あ、でもボールが無――」

「ボールならあるじゃないですか、ここに6()()

「「「……えっ?」」」

 

 さて、反省しろチャラ男ども。うちの子を怖がらせた罪は重いぞ?

 

「ふんっっっ!」

「「「ぎっ……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」」」

 

 軽い身体強化魔法の発動と同時に神速のダブルハットトリックを見事に決めた私はひよりの手を引いてすぐにその場を離れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「たこ焼きが冷めちゃったね」

 

 公園から離れるためにしばらく歩いた後、この世で最も愛しい人( 凛ちゃん )はそう言って苦笑した。

 

「……ひより?」

 

 黙ったまま歩き続ける私を見て先程の出来事のせいで怯えていると勘違いしたのだろう。心配そうに「大丈夫?」「もうだいぶ離れたから安心して」と私に声をかけてくる。

 ……正直あのゴミたちのことは心底どうでもいいと思っていたし、なんなら既に顔すら記憶に残っていない。

 

 あの瞬間、私の頭にあったのは普段私たちには決して向けることのない鋭い目つきをした凛ちゃんに対する「かっこいい、しゅき」という感情だけであって、怯えるどころか興奮して濡…お腹がきゅんきゅんしていたのが実際の姿なので彼女の心配はただの杞憂なんだけど。

 

 でもこれはこれで悪くないので私はそれっぽく怯えた振りをしつつ彼女にぎゅっと抱き着いた。

 

「おっと」

「……少しだけこのままでいい?」

「うん……いいよ」

 

 優しい笑みとともに軽く抱き締め返される。

 

 ――ああ、やっぱり好きだなぁ。

 

 彼女に触れていると何もかもが満たされ、あったかくてふわふわとした幸せな気持ちになれる。それこそ彼女さえいれば他には何もいらないと本気でそう思えるほどに。

 それは一度知ってしまえば二度と手放そうなんて思えなくなるほどの依存性を持つ麻薬のようなもの。でもそれを嫌だと思ったことは一度もない。

 

 ――少なくとも私は彼女がいなければ全てを諦めてしまっていたのだから。

 

 この世界の人々はきっと誰一人として知らない。今の平和がどれほどの奇跡によってもたらされた尊いものなのかを。こうして当たり前の日常を送ることのできる本当の意味を。

 

 ――敗北と同時に滅ぼされ瓦礫の山となった日本も、魔人が管理する悲鳴と嬌声と怨嗟の声が鳴り止まぬ養人場も、魔人に尊厳を破壊し尽くされて殺される或いは自決する魔法少女たちの姿も、誰一人として知らないのだ。

 

 だけど私は覚えている。

 ――心が壊れて目の前で自決した友人たちを、私を庇って地獄へ飛び込んだ後輩たちとその変わり果てた姿との再会を、魔人や魔獣の孕み袋となり泣きながら殺してくれと懇願してきた先輩たちを、何度も魔人に敗北し自分の尊厳をめちゃくちゃにされたことを。

 私が――私だけがその全てを今でも覚えている。

 

「――り!」

「……」

「――ひより!」

「……ふぇ?」

「ボーッとしてたけど本当に大丈夫? 気分が悪いなら今日はこのまま本部に帰ろうか?」

「ううん、もう平気だよ」

「でも……」

 

 心配そうに凛ちゃんが視線を向けていたのは今も彼女の体を抱き締め続けている私の腕だった。どうやら無意識の内に力を入れ過ぎていたらしい。

 本当はもっとこのままでいたかったけど、これ以上心配をかけるのも良くない気がして、私はゆっくりと彼女から体を離して前を歩き出す。

 

「ほら、次こそはちゃんと落ち着ける場所で休もうよ。私お腹空いてきちゃった!」

「ひより……」

「さっきのことは気にしてないよ。これは本当に本当。ただなんていうか、幸せすぎて逆にちょっと嫌なことを思い出しちゃっただけっていうか……あはは、訳分かんないよね。やっぱ忘れて!」

 

 一ヶ月も触れ合えなかった反動が一気にやって来て油断していたのかもしれない。こんな私、見せるつもりはなかったのに。

 

 何かを言おうとして、でもやっぱり何を言えばいいのか分からない……そんな様子で迷っている彼女を見て苦笑する。

 こういう時の彼女は妙に鋭いので大変だなぁ。

 

 どうやって誤魔化そうかと思考を働かせはじめたその時、彼女が大きなため息をつき、フッと肩の力を抜いた。

 

「……はぁ。やっぱり良いよ、何も言わなくて」

「聞かないの……?」

 

 驚いて思わず聞き返す。彼女は「そりゃ気にならないと言ったら嘘になるけど」と呟いた後、強い意思を感じる瑠璃色の瞳で私を真っ直ぐに見つめて言った。

 

「ずっと前から……ひよりが心に大きな何かを抱えているってことにはなんとなく気づいてた。それが、容易に踏み込んではいけない類いのものだってことも」

 

 「でも」と彼女は続ける。

 

「ずっと前に全部守るんだって決めたから」

 

 ――ああ、本当に。

 

「別に君が何を抱えていようと関係ない。私はただ――君が私を必要とした時に力になれればそれでいい。その時は何を相手にしようと、君を悲しませる全てのものから君を守り抜いてみせるよ。……『絶対に一人にはしない』って約束したしね」

 

 ――ずるいなぁ。

 

「だから話さなくていい。何があろうと私のやることは変わらないんだから」

 

 ――どうしてこうも私の一番欲しい言葉がわかっちゃうのかな。

 

「……本当にずるいよ、凛ちゃんは

 

 ただでさえ大好きなのに、これ以上惚れさせてどうするのさ。

 

「さあ、暗い話はこれでおしまい! せっかくのお出かけをもっと楽しまなきゃ! 行くよひより!」

 

 私の隣へやってきた彼女がそのままこちらの手を握る。私のそれよりも少しだけ温かくて力強い、大好きな手の感触が伝わってきた。

 

「……あはっ、珍しいね。凛ちゃんの方からしてくれるなんて」

「なんとなくこうしたい気分でね。いやだった?」

「全然! すっごく嬉しい!」

 

 さっきまでの暗い感情はもうとっくに消えていた。今の私にはもう彼女しか見えていない。

 繋いだ手をぎゅっと握り、私たちは二人で足並みを揃えて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更だけど実はこの作品、バッドエンド9割メリーバッドエンド1割からなる架空の18禁の鬱有り陵辱百合エロゲーの世界を舞台として書き始めたという裏設定があったりする。

ついで言うと元々のプロットでは鬱陵辱百合ゲーに転生した主人公(姫宮凛)が製作陣の罠である糞選択肢を選びまくってバッドエンドへ一直線な原作主人公ちゃんを正体を隠して影から必死こいて助ける物語だった。
ボツになった理由はこの設定だと短編に全く向かないから。

一応主人公がつよつよじゃないパターンの案も当然あったけど、その場合主人公も周りも曇りまくってバッドエンド一直線の鬱展開にしかならなそうなのでそれもボツになった。


いつものおまけ人物コーナー

★姫宮凛(魔法少女アリス)
ついに帰宅したTS娘。
お嬢様学校での経験により意図せず美少女力が上がった。
この後一ヶ月分の我慢が爆発した同僚たちにあれこれされることが確定している。

★天道ひより(魔法少女サニー)
最近影が薄かった同僚その一。凛欠乏症による禁断症状になりかけていたが、すんでのところで持ち直した。
正義感が強く、明るく常にポジティブに物事を考え、決して諦めない性格の持ち主。いわゆるメインヒロインタイプ。
魔法少女としては古参で、凛よりも魔法少女歴は長い。

――実は元ループ系時間遡行者で、人類敗北の歴史を何度も繰り返し続けた経験を持つ。かつては慈愛に満ちたその姿から『聖女』の二つ名で呼ばれ、敗北の度に忘れられない陵辱の記憶を刻まれ続けるも、世界を救うためにただ一人で戦い続けていた。
時間を繰り返し勝利への道を探す過程で、様々な魔法少女たちとそれぞれの世界線で交流してきた記憶があるため、日本の魔法少女たちのことは大体知っている。
かつては固有魔法:リスタート(使用者の心が完全に折れない限り、使用者の死をトリガーとして特定の時間軸まで時を巻き戻す魔法)を持っていたが、今はもう失っている。

★氷川理沙(魔法少女サファイア)
クソみたいなタイミングで仕事を与えられて憤怒バーニングファッキンストリーム。

★百合の間に挟まろうとした男たち
この日以降、銀色の物を見る度に『金玉サッカー少女』なるものを思い出して震えるようになったらしい




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第3弾 魔法少女ウエハーススレPart1

お久しぶりです。生存報告代わりに投稿。
今回は掲示板オンリー回です。許して。



 

 

 

1:魔法少女を愛する名無し

時はきた

皆の者、(金の)用意はいいか

 

2:魔法少女を愛する名無し

もちろんさ兄弟

 

3:魔法少女を愛する名無し

今月の給料全部下ろしてきたぜ!

 

4:魔法少女を愛する名無し

早めにお目当てのカードが当たることを祈るよ

 

5:魔法少女を愛する名無し

どうも、初心者です

今回のラインナップってどれが当たりなんです?

 

6:魔法少女を愛する名無し

>>5

基本的に推しのカードが出れば当たりだと思うが、単純に限定レアで言うなら巫女コスプレシリーズかな

めっちゃ欲しい

 

7:魔法少女を愛する名無し

運営の発表があった当日はどこのスレもお祭り騒ぎでしたねえ

まあいつものことなんですが

 

8:魔法少女を愛する名無し

推しの魔法少女の巫女コスプレ写真が印刷されたブロマイドカードとか絶対欲しいに決まってんだよなあ

 

9:魔法少女を愛する名無し

くそっ、魔法少女機関め! 俺たちの財布の紐の解き方を心得てやがる!

バイト代をくらえ!

 

10:魔法少女を愛する名無し

まあ、これで得た収入のほとんどは魔法少女たちの支援や給料に充てられているみたいだし別にいいんだけどね

 

11:魔法少女を愛する名無し

>>10

おかげで心置きなく金を出せるぜ

 

12:魔法少女を愛する名無し

とりま、いつも通り14時に再集合ってことで

 

13:魔法少女を愛する名無し

おk

 

 

 

 

 

 

ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

28:魔法少女を愛する名無し

ゆくぞ皆の者

さあ開封の時間だ(3箱買い)

 

29:魔法少女を愛する名無し

行きまーす(2箱買い)

 

30:魔法少女を愛する名無し

くっ、近所のスーパーのお菓子売り場にはもうこれしか(2個買い)

 

31:魔法少女を愛する名無し

ついさっき通販で届いた(1箱買い)

 

32:魔法少女を愛する名無し

絶対に引き当ててみせる!(2箱買い)

 

33:魔法少女を愛する名無し

このスレ箱買い勢ばっかやなー(10個買い)

 

34:魔法少女を愛する名無し

開けるぞー!(4個買い)

 

35:魔法少女を愛する名無し

最初の報告やで

ワイ、開封2個目で見事巫女サニーちゃんを引き当てる(満面の笑み)

 

36:魔法少女を愛する名無し

>>35

おまっ! 俺の推しを真っ先に!

 

37:魔法少女を愛する名無し

>>35

大当たりじゃん おめ

 

38:魔法少女を愛する名無し

うおおお! 巫女黒メアリーちゃん出た!

ロリ巫女最高ーーーーーー!!!!

 

39:魔法少女を愛する名無し

>>38

裏山

のじゃロリちゃんの巫女衣装とか最高やんけ……

 

40:魔法少女を愛する名無し

>>38

え、マジで欲しいやつなんだけどそれ

 

41:魔法少女を愛する名無し

>>38

ブラックちゃん俺も欲しいわ

 

42:魔法少女を愛する名無し

っしゃあああああっ!! 巫女サファイアちゃんでますた!!

あざとい表情でポーズ決めててくっそ可愛いいいい

 

43:魔法少女を愛する名無し

俺も巫女サファイアちゃん出たわ

マジで可愛いなこれ、スリーブに入れなきゃ

 

44:魔法少女を愛する名無し

どうしてお前らそんな簡単に推しが出るの(血涙)

 

45:魔法少女を愛する名無し

全員が推しの私に死角なし(ダブル巫女メアリー揃いました)

 

46:魔法少女を愛する名無し

でねええええええ!!

 

47:魔法少女を愛する名無し

>>45

大勝利してるやん……

 

48:TS魔法少女

盛り上がってるねぇ

 

49:魔法少女を愛する名無し

!?

 

50:魔法少女を愛する名無し

TSちゃん! TSちゃんじゃないか!

 

51:魔法少女を愛する名無し

TS殿! 何故このような場に!?

 

52:魔法少女を愛する名無し

TSちゃん来た!

 

53:TS魔法少女

魔法少女ウエハースの新作発売日だから興味本位で適当なスレを覗きに来ました

 

54:魔法少女を愛する名無し

魔法少女ウエハーススレに魔法少女本人が来ちゃってて草

 

55:魔法少女を愛する名無し

TSちゃんはウエハース買ったのかい?

 

56:魔法少女を愛する名無し

ん? 待て、よく考えたらウエハースのラインナップの中にTSちゃんもおる可能性が?

 

57:TS魔法少女

>>55

買ったよー

>>56

ご想像にお任せしまーす

 

58:魔法少女を愛する名無し

いやこれ絶対に入ってるやん……

 

59:魔法少女を愛する名無し

一体誰がTSちゃんなんだ……

 

60:魔法少女を愛する名無し

というか魔法少女本人が機関にお金を落としてるのか(困惑)

 

61:魔法少女を愛する名無し

いやでも知り合いのブロマイドカードが売ってたら興味本位で買っちゃうのも分かる気が

 

62:魔法少女を愛する名無し

TSちゃんはお目当てのカードを引けたん?

 

63:TS魔法少女

>>62

チームメイトのSSRカード(限定ver)を目当てに買って無事に二人共確保

わりと早く揃ったので今回は大勝利

今はウエハースを食べながらスレ閲覧中

 

64:魔法少女を愛する名無し

大勝利したんか……おめでとう

 

65:魔法少女を愛する名無し

運が強くて羨ましい

 

66:魔法少女を愛する名無し

SSRは一箱に5枚しか入っていないから当てるの結構大変なんだよなぁ……

しかもそこから通常SSR(魔法少女衣装)と限定SSR(巫女衣装)に分岐するっていうね……

 

67:魔法少女を愛する名無し

ぬあああああっ! 推しのSSRが出たけど通常verだった!

可愛いけども……可愛いけども……!

 

68:魔法少女を愛する名無し

>>67

推しのカードが出るだけでも十分幸せ者なんやで?

 

69:魔法少女を愛する名無し

せやな

とりあえず出た推しのカードを保護して飾っとこう

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー

 

 

 

 

178:魔法少女を愛する名無し

結果報告

2箱買いで推しの限定SSR一枚確保でした

 

179:魔法少女を愛する名無し

結果報告

一箱買いで推しのカードなし(泣)

 

180:魔法少女を愛する名無し

ううむ……ここまで例の存在の報告は無しか

一応聞くが誰か出したやつおる?

 

181:魔法少女を愛する名無し

(何も出て)ないです

 

182:魔法少女を愛する名無し

正直ちょびっとだけ期待してたけど出ませんでした

 

183:魔法少女を愛する名無し

え? あれって都市伝説的なやつじゃないんですか?

 

184:魔法少女を愛する名無し

>>183

気持ちは分かるが存在してるのは確かだぞ

 

185:魔法少女を愛する名無し

あれって実際どのくらいの割合で封入されてるんだろうか

 

186:魔法少女を愛する名無し

限定SSRだけでも出すのが大変なのにシークレット枠まであるとか機関ってやつはホンマに……

 

187:魔法少女を愛する名無し

今回は一体誰の特殊カードなんだろ

めっちゃ気になる

 

188:魔法少女を愛する名無し

毎回誰かが出すまで詳細が一切分からんからなー

 

189:魔法少女を愛する名無し

……あのさ、ふと思ったことがあるんだけど言っていい?

 

190:魔法少女を愛する名無し

>>189

どうした? 言ってみろ

 

191:魔法少女を愛する名無し

>>190

隠し情報が欲しいならワンチャンTSちゃん様に聞いてみれば良いのでは?

我らがTSちゃん様ならばこの手の情報もなんだかんだ持ってそうだなぁと

 

192:魔法少女を愛する名無し

……!!

 

193:魔法少女を愛する名無し

なるほど

 

194:魔法少女を愛する名無し

確かにTS殿ならば……

 

195:魔法少女を愛する名無し

でも知っていたとして答えてくれるのか?

 

196:魔法少女を愛する名無し

まあダメ元で聞いてみましょ

 

197:魔法少女を愛する名無し

というわけでTSちゃん様!

もしよろしけばシークレット枠の情報を下さい(土下座)

 

198:魔法少女を愛する名無し

俺からもお願いします!

 

199:魔法少女を愛する名無し

ワイからもお願いします!

 

200:魔法少女を愛する名無し

私からもお願いします!

 

201:魔法少女を愛する名無し

お願いします!

 

202:魔法少女を愛する名無し

お願いします!

 

203:魔法少女を愛する名無し

お願いします!

 

204:TS魔法少女

あー……もう発売しちゃってるし情報公開してもいいのかな?

でもあまり一気に広めないでくれると助かる

 

205:魔法少女を愛する名無し

これは……!!

 

206:魔法少女を愛する名無し

やはり知っているのか!

 

207:魔法少女を愛する名無し

約束は守るのでお願いします!

 

208:魔法少女を愛する名無し

下手な拡散はしないと誓おう

 

209:魔法少女を愛する名無し

お願いします!

 

210:TS魔法少女

えー……私が知ってる限りでは一部の高ランク魔法少女の直筆サイン入り巫女衣装カード(特別記念ボイスQRコード付き)が今回のシークレット枠になってるらしいよー

具体的な対象者が誰なのかは知らない

 

211:魔法少女を愛する名無し

えっなにそれは

 

212:魔法少女を愛する名無し

直……筆……!?

 

213:魔法少女を愛する名無し

そんなの出たらマジモンのお宝やんけ!

 

214:魔法少女を愛する名無し

うわあああああああ、めっちゃ欲しいいいいいいいい

 

215:魔法少女を愛する名無し

聞けて良かったような聞かない方が良かったような

どうしよ、まだどっかに在庫残ってないかな……

 

216:魔法少女を愛する名無し

サ、サイン&ボイス付きだと……!?

 

217:魔法少女を愛する名無し

特別記念ボイスめっちゃ気になるやつううううううう

 

218:魔法少女を愛する名無し

推しのコスプレ+直筆サイン+特別ボイス=天下無双

 

219:魔法少女を愛する名無し

だ、誰か出したものはいないのか!? この際カードは諦めるから記念ボイスのQRコードだけでも共有してくれ!!

 

220:魔法少女を愛する名無し

(持って)ないです(血涙)

 

221:魔法少女を愛する名無し

前回の特別イベント優待券といい、シークレット枠が毎回やばい

 

222:魔法少女を愛する名無し

今回のウエハースもずっと次回入荷未定の札が付きそう

 

223:魔法少女を愛する名無し

>>222

いつものことじゃん

 

224:魔法少女を愛する名無し

しっかし手にしたやつがマジで羨ましくなるわ

 

225:魔法少女を愛する名無し

一生分の運使ってそう

 

226:TS魔法少女

一生分の運かぁ……

まあ確かに今回対象者一人一枚しかサイン書いてないから当たる確率はお察しだねえ

 

227:魔法少女を愛する名無し

当たるわけないじゃん!?

 

228:魔法少女を愛する名無し

一枚しかないんかい!

 

229:魔法少女を愛する名無し

オークションとかやったらすごそう(小並感)

 

230:魔法少女を愛する名無し

>>229

まず出品されないぞ

 

231:魔法少女を愛する名無し

>>229

ファンが至上のお宝を自ら手放すと思うか?

 

232:魔法少女を愛する名無し

今チラッと他所のスレも覗きに行ったがどうやらまだシークレットを出したやつはいないっぽい

 

233:魔法少女を愛する名無し

まあ出したやつがスレ書いてるとは限らんしね

 

234:魔法少女を愛する名無し

やばい

 

235:魔法少女を愛する名無し

>>232

案外その辺の小・中学生が手に入れてたりしてな

 

236:魔法少女を愛する名無し

>>234

どうした?

 

237:魔法少女を愛する名無し

やばい

 

238:魔法少女を愛する名無し

ん?

 

239:魔法少女を愛する名無し

……?

 

240:魔法少女を愛する名無し

やばい

 

241:魔法少女を愛する名無し

なんだこいつ

 

242:魔法少女を愛する名無し

やばいしか言っとらんやんけ

一体どうした?

 

243:魔法少女を愛する名無し

もしや……

 

244:魔法少女を愛する名無し

なんか限定カードでもサイン入りカードでもない特殊カードっぽいやつが出た……

 

245:魔法少女を愛する名無し

……

 

246:魔法少女を愛する名無し

……

 

247:魔法少女を愛する名無し

ふーん……えっ

 

248:魔法少女を愛する名無し

……は?

 

249:魔法少女を愛する名無し

ほう?

 

250:魔法少女を愛する名無し

大丈夫? 疲れてただのノーマルカードを特殊カードだと思い込んでない?

 

251:魔法少女を愛する名無し

とりあえず詳細はよ

 

252:魔法少女を愛する名無し

>>250

確認したけどラインナップにも無いし、カードのナンバーも名前も空欄だから絶対にノーマルじゃない

というかカードの内容がどう見ても普通じゃないのよ

ノーマルを含む全てのカードにある彼女たちの一言コメントすら記載ないし

 

253:魔法少女を愛する名無し

それは……かなり気になるな

 

254:魔法少女を愛する名無し

一体どんなカードなん?

 

255:魔法少女を愛する名無し

詳細はこんな感じ

正直こんなところで公開してもいいやつなのか悩むけども

 

登録カードナンバー:空欄

カード名:空欄

カード内容:どこかの建物の壁際に座って寄りかかったまま船を漕いでいる(居眠り中?)アリスちゃんの写真。ちょっと涎垂れてて筆舌に尽くしがたい可愛さ。なんだかものすっごくイケナイものを見てしまった気分。というかどう見ても隠し撮り写真ですねこれは……

一言コメント:空欄

 

 

256:魔法少女を愛する名無し

――――――――――――??????

 

257:魔法少女を愛する名無し

………………………ふぁっ!?

 

258:魔法少女を愛する名無し

はあああああああああ!???

 

259:魔法少女を愛する名無し

ちょっ!? なんかやばい……やばすぎるカードじゃないのかソレぇ!?

 

260:TS魔法少女

 

261:魔法少女を愛する名無し

マジモンのお宝じゃんか(震え声)

 

262:TS魔法少女

ちょっと待って

 

263:魔法少女を愛する名無し

す、すげえ! でもそれ本当に正規品なのか……?

なんか色々不審な点が多いぞ

 

264:TS魔法少女

なにそれ私そんなのしらな

 

265:魔法少女を愛する名無し

マジでちょー見たいんですが!

 

266:魔法少女を愛する名無し

アリスちゃんの寝顔だと!?

 

267:魔法少女を愛する名無し

あ、あわわわてててるな

ただの嘘の可能性もあるだろう?

 

268:魔法少女を愛する名無し

そ、そうだな

たちの悪い冗談かもしれないし

 

269:魔法少女を愛する名無し

そんなとんでもカードが入ってるわけ……

 

270:魔法少女を愛する名無し

はい

【画像】

 

271:魔法少女を愛する名無し

 

 

272:魔法少女を愛する名無し

 

 

273:魔法少女を愛する名無し

 

 

274:魔法少女を愛する名無し

 

 

275:魔法少女を愛する名無し

 

 

276:魔法少女を愛する名無し

 

 

277:魔法少女を愛する名無し

( ゚д゚)ハッ!

 

278:魔法少女を愛する名無し

( ゚д゚)ハッ!

 

279:魔法少女を愛する名無し

( ゚д゚)ハッ!

 

280:魔法少女を愛する名無し

なんかよくわからんが今完全に意識が飛んでた

私は一体……

 

281:魔法少女を愛する名無し

ほ、本物じゃん……

 

282:魔法少女を愛する名無し

鼻から尊みが溢れて止まらなくなったんだが

 

283:TS魔法少女

わあああああああああ

 

284:魔法少女を愛する名無し

なんつーか想像の斜め上をいくシークレットだわ……

流石機関……と言いたいところだが普通に犯罪臭するの俺だけ?

 

285:TS魔法少女

燃やして

 

286:魔法少女を愛する名無し

確かになんだかこう……背徳感あるよね

 

287:魔法少女を愛する名無し

おや……TSちゃん様の様子が……?

 

288:TS魔法少女

消して燃やしてシュレッダーにかけてはやく

 

289:魔法少女を愛する名無し

ど、どうしたTS殿!?

 

290:魔法少女を愛する名無し

TSちゃんがご乱心!?

 

291:魔法少女を愛する名無し

え、どしたんマジで

 

292:TS魔法少女

そのカードに使用されている画像は本人の許諾を一切得ていないので間違いなく非正規品です

恐らく販売会社側のミスで誤って混入したものだと思います

完全な盗撮かつ無許可での使用なので今すぐに処分してください

 

293:魔法少女を愛する名無し

あ、これやっぱりガチでやばいやつ?

 

294:魔法少女を愛する名無し

これまでのカードと比べて明らかに異質だし盗撮っぽいなと思ったらマジで盗撮だったのか

 

295:魔法少女を愛する名無し

>>292

えっ、つまりこのカードは冗談抜きで存在しちゃいけない代物ってことなの?

 

296:TS魔法少女

確実に非正規品だから完全にアウトだよ!!

さあ今すぐにシュレッダーにかけて!さあ!さあ!

 

297:魔法少女を愛する名無し

……これは仕方ない

 

298:魔法少女を愛する名無し

流石に盗撮&無断使用はシャレにならんからな……

 

299:魔法少女を愛する名無し

辛いだろうが処分してやれ

 

300:魔法少女を愛する名無し

そんなぁ……

本当に処分しないとダメ……?

 

301:TS魔法少女

ダメに決まってるでしょバカヤロー!

特別に未開封の魔法少女ウエハースを一箱そちらへ送るからそれで我慢して!

 

それと大事な用ができたので今日はこれで失礼!

 

 

 

 

 

 

 

 

絶っっ対に処分してね! 私、信じてるから!

 

302:魔法少女を愛する名無し

……ふむ

 

303:魔法少女を愛する名無し

行ったか

 

304:魔法少女を愛する名無し

行ったな

 

305:魔法少女を愛する名無し

……で、結局処分するんか?

 

306:魔法少女を愛する名無し

いやこれはもう処分一択でしょ

 

307:魔法少女を愛する名無し

もちろん処分することにした。

唯一無二のお宝であることは間違いないけど、良識あるファンとして推しに迷惑をかけてまでこれを保管しようとは思わない

それにTSちゃんを裏切りたくないし

 

308:魔法少女を愛する名無し

えらい

 

309:魔法少女を愛する名無し

えらい

 

310:魔法少女を愛する名無し

えらい

 

311:魔法少女を愛する名無し

よく言った貴様はファンの鏡だ

 

312:魔法少女を愛する名無し

あとさりげなく推しにバカヤローって罵倒されて気持ちよかったので心残りなくこいつをシュレッダーにかけられるぜ

 

313:魔法少女を愛する名無し

いや草ァ!

 

314:魔法少女を愛する名無し

 

315:魔法少女を愛する名無し

 

316:魔法少女を愛する名無し

途中までいい話だったのに台無しだよw

 

317:魔法少女を愛する名無し

気持ちはなんとなくわかるけどさぁw

 

318:魔法少女を愛する名無し

シュレッダーにかけて処分完了

さようなら幻のお宝ちゃん……

最初のカードの画像も削除依頼出しとくわ

【画像】

 

319:魔法少女を愛する名無し

うおお……マジで処分しちゃった

 

320:魔法少女を愛する名無し

ちょっともったいない気もするけどこれが正しいんだよな

 

321:魔法少女を愛する名無し

ああ、幻のアリスちゃんがバラバラに……

 

322:魔法少女を愛する名無し

非正規品だから仕方ないね

 

323:魔法少女を愛する名無し

さて、残りのウエハースの確認作業に戻るとしますか……

 

 

 

 

 





★姫宮凛
TS魔法少女。
問い合わせの電話で例のカードがこの世に一枚しかないことを知って心底安堵。
実はウエハース販売会社から発売前に確認用としてもらった自分たちのカードをメンバー内でトレードし合っているのでお互いのカードは既に入手済み。買って新たに手に入れたカードは保管用である(トレードしたものは鑑賞用)。

★例のスレ民
例のカードをすぐに処分したファンの鑑。
後日家に新品の魔法少女ウエハース一箱が届き開封したところ、見事推しの限定カードを引き当てた。推しが誰なのかは言うまでもない。

★例のカード
販売会社の職員の一人が自分用に作った秘蔵カードが紆余曲折の末に事故で混入したことが後に発覚。

★魔法少女衣装
実は普通に脱げるので変身したまま別の服に着替えることが可能。

★魔法少女ウエハース
その名の通り魔法少女のカード付きのウエハース。
ラインナップは毎回変わるが基本的にSSR枠のメンバーはほぼ不動(Aランク魔法少女)。レア度はN(ノーマル)、R(レア)、SR、SSRの4種類+シークレットレア。シークレットの詳細はいつも不明なので発売日は情報交換のスレが乱立する。

★登場人物イメージ絵
Picrewの「妙子式2」で作成しました!https://picrew.me/share?cd=ZyF6K6Ux5J #Picrew #妙子式2

ものは試しと使ってみたら想定していた以上にほぼこちらのイメージ通りの人物絵ができちゃってびっくり。世の中にはこんなに便利なサイトがあったのか……
AIイラストとかも生まれて世の中どんどん変化してるなあと思う今日
だいたいこんな感じの容姿だと思ってくれてOKです。

姫宮凛(アリス)

【挿絵表示】


【挿絵表示】


氷川理沙(サファイア)

【挿絵表示】


天道ひより(サニー)

【挿絵表示】


真白ひな子(ホワイトローズ)

【挿絵表示】


笹原詩織(アイスビューティー)

【挿絵表示】


一条花蓮(スカーレット)

【挿絵表示】


早乙女黒羽(ブラックメアリー)

【挿絵表示】


早乙女白羽(ホワイトメアリー)

【挿絵表示】




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魔法少女とアクメビーム

タイトルでお察しの通り今回はちょっぴりHな要素があるので苦手な方はご注意ください。

前半に掲示板、後半に過去話となっております。

それではいつも通りリラックスして本編を楽しんでいってね!


 

 

 

107:TS魔法少女

という感じで同僚ちゃんと久々のお出かけを楽しんできました

 

108:名無し@魔法少女親衛隊

近況報告たすかる

元気そうでなにより

 

109:名無し@魔法少女親衛隊

無粋なナンパ男共にきちんと制裁加えられてえらい

 

110:名無し@魔法少女親衛隊

新鮮なてぇてぇをありがとう

これで来週も生きていける

 

111:TS魔法少女

なんというかさ、最近は本当に平和で良いなって感じてる

夜間に叩き起こされることもなくなったし、仲間と普通に休日を楽しめるし、面倒な魔獣もそこまで多く発生しないから負担も減ってるし

 

112:名無し@魔法少女親衛隊

それが普通だよ

未来ある若者としてもっと人生楽しんでどうぞ

 

113:名無し@魔法少女親衛隊

やりたいことをどんどんやればいい

君はもう十分働いたんだから

 

114:名無し@魔法少女親衛隊

>>112

同意する

今ある平和は他でもない君たちが勝ち取ったものだ

 

115:名無し@魔法少女親衛隊

最近は魔獣の大被害が〜ってニュースをほとんど見かけないからな

本当に平和だよ

 

116:TS魔法少女

ありがとう

というか軽く振り返ってみても私が過去戦った敵って面倒なやつだらけで我ながらよく無事だったなと思う今日この頃

 

117:名無し@魔法少女親衛隊

そういや魔人や魔獣の個体ごとの詳細データって一般的には周知されてないけど何処かで見れたりするの?

 

118:名無し@魔法少女親衛隊

機関のサイトで一応そこそこ詳しく見られるぞ

一部情報が隠されているのもあるが

 

119:名無し@魔法少女親衛隊

マジ? 見られるの知らんかったわ

 

120:名無し@魔法少女親衛隊

>>118

これ意外と知られてないよね

 

121:名無し@魔法少女親衛隊

後で見に行ってみようかな

 

122:名無し@魔法少女親衛隊

ところでイッチが過去に戦ってきた魔人・魔獣の中でも面倒なのって例えばどんなのがいたの?

あ、無理だったら答えなくてもいいから

 

123:名無し@魔法少女親衛隊

イッチの過去戦闘話か 

俺も気になるな

 

124:TS魔法少女

うーん、そうだなぁ……

ぶっちゃけ色々いすぎて特にコレだっていうのが決めづらい

 

125:名無し@魔法少女親衛隊

厄介度に順番はつけずにパッと思い浮かんだ敵でいいよ

 

126:TS魔法少女

そう? じゃあ今思い出したやつで――【色欲の魔人アマなんとか】

名前なんてもう覚えてないけど、こいつの戦い方は最悪だったから結構印象に残ってる

 

127:名無し@魔法少女親衛隊

アマ……?

聞いたことがないな

 

128:名無し@魔法少女親衛隊

機関のサイトを定期的に見てるがアから始まる魔人でそれっぽいやつがいた記憶がない

もしかして訳アリ魔人か?

 

129:名無し@魔法少女親衛隊

そいつはどんな魔人なんや?

 

130:TS魔法少女

ええと、こいつはいわゆる色欲魔人衆の一人なんだけど

まさかの強制絶頂光線(通称アクメビーム)をメインウェポンに戦うっていうふざけたやつだったよ

こちらの陣営に結構な数の人的被害が出て当時は大変だったんだよなぁ

 

131:名無し@魔法少女親衛隊

エッッッ

 

132:名無し@魔法少女親衛隊

……へ?

 

133:名無し@魔法少女親衛隊

うん……うん?

 

134:名無し@魔法少女親衛隊

おかしいな見間違えか……?

今なんだかすごい単語が見えたような気がする

 

135:名無し@魔法少女親衛隊

いやまあ、魔人にそういうタイプの存在がいるってのは聞いたことがあるが……うん

 

136:名無し@魔法少女親衛隊

メインウェポン名がど直球すぎる

 

137:名無し@魔法少女親衛隊

ママー、【アクメ】ってなに?

 

138:名無し@魔法少女親衛隊

それはね、フランス語で頂点を意味する言葉よ

 

139:名無し@魔法少女親衛隊

ためになるなあ

 

140:名無し@魔法少女親衛隊

くそっ、電車の中なのに変な声出たじゃねえか

 

141:TS魔法少女

当時は後輩ちゃんとツーマンセルだったから二人だけで現地へ突入

たしか先に突入した部隊と連絡がとれなくなって応援として向かった気がする

あちこちにアクメビームの被害者である魔法少女やら一般人やらが倒れていて、辺りにはものすごい匂いが充満中……まさに地獄だったなぁ

後輩ちゃんがすごい顔してた

そんでそこにアイツ――名前覚えてないから以降アクメ魔人とするね――がいたんだ

なんか黒いマント羽織った中二病みたいな見た目の魔人だった

 

142:名無し@魔法少女親衛隊

うわぁ……

 

143:名無し@魔法少女親衛隊

ごめん、アクメビームの字面が強すぎて内容が頭に入ってこない

 

144:名無し@魔法少女親衛隊

アクメ魔人……エロゲとかにめっちゃいそう

 

145:名無し@魔法少女親衛隊

っていうかこれまだチームが揃ってない時代の話か

 

146:名無し@魔法少女親衛隊

JSになんてモノを見せているんだ……

 

147:名無し@魔法少女親衛隊

これは一般公開できませんわ

 

148:TS魔法少女

さて、ここで皆さんに一つ問題です

このアクメ魔人だけど最終的にコイツに付けられた危険度ランクはいくつだったでしょうか?

回答時間は今から2分間

 

149:名無し@魔法少女親衛隊

うーん、特に戦闘力が高いような気はしないからD〜Cくらい?

 

150:名無し@魔法少女親衛隊

メインウェポンに殺生能力がなさそうだからCランクと予想

 

151:名無し@魔法少女親衛隊

C〜B-くらい

 

152:名無し@魔法少女親衛隊

いやまておまえら、コイツはどう考えてもB以上あるやろ

 

153:名無し@魔法少女親衛隊

同意

よく考えなくても持ってる能力がヤバすぎる

 

154:名無し@魔法少女親衛隊

え、じゃあBランクとか?

 

155:TS魔法少女

はい、では解答の時間です

 

正解は――――――【A−】ランクでした!

 

156:名無し@魔法少女親衛隊

ファッ!?

 

157:名無し@魔法少女親衛隊

ええええええええ!?

 

158:名無し@魔法少女親衛隊

ヤバいですね!?

 

159:名無し@魔法少女親衛隊

……え、コイツそんなに危険だったの?

 

160:名無し@魔法少女親衛隊

さらっと予想を越えてきた……やべぇ

 

161:名無し@魔法少女親衛隊

なんでそんなに高いんだ???

 

162:TS魔法少女

コイツがこのランクになった理由だけど、最大の要因はやっぱりアクメビームだね

このスレにもし女性の方がいるなら戦場で強制的に絶頂させられることのヤバさがよく分かるんじゃないかなと思う

 

163:名無し@魔法少女親衛隊

女性だとよく分かる……?

 

164:名無し@魔法少女親衛隊

あー、私分かったかも

確かに……これはヤバいわね、凶悪だわ

 

165:名無し@魔法少女親衛隊

え、どういうことなの

 

166:名無し@魔法少女親衛隊

※下ネタ注意!! 閲覧は自己責任で!!

 

結構センシティブな内容になるんだけどさ、男の子って一回イクと賢者タイムがすぐに訪れるじゃん?

 

でも女の子の場合違うのよ

必ずしも全員がそうだというわけではないけど、大抵の女の子は一回イッても絶頂の快感の波がなかなか引かないし、それどころかさらに追加で絶頂が訪れることもよくある

絶頂時に感じる快感も女性の方が強いと言われているくらい

 

つまるところこのアクメビームってやつは女の子が受けたらほぼその時点で行動不能になる

 

そして魔法少女は全員女の子

 

結果としてこの攻撃は魔法少女に対して大特攻を持っているってことになる

 

167:名無し@魔法少女親衛隊

……やばくね?

 

168:名無し@魔法少女親衛隊

確かに男と比べて女は何回もできるって聞くしな

 

169:名無し@魔法少女親衛隊

なるほどよく分かった

間違いなくこれは危険度Aクラスだわ

 

170:名無し@魔法少女親衛隊

エロゲみたいな敵が現実に出てくるとこんなに危険なのかよ……

 

171:名無し@魔法少女親衛隊

っていうか多感な時期の少女が人前で絶頂なんかさせられたら心に一生消えない傷を抱えることになるんじゃ……

 

172:名無し@魔法少女親衛隊

不特定多数の人間に自分のイキ様を見られるとかガチで自殺もんだぞ

 

173:名無し@魔法少女親衛隊

マジで天敵じゃんか

 

174:名無し@魔法少女親衛隊

あー……その、イッチはそのアクメビームとやらをくらっちゃったりは……

 

175:名無し@魔法少女親衛隊

エッ、イッチがイッちゃったかもしれないって!?

 

176:TS魔法少女

実を言うと何発かくらっちゃったんだけど、私は状態異常回復魔法を自身にかけ続ける荒業で無効化できたのでなんとかなったよ

 

というかコイツこんなに凶悪な武器を持っていながら自身を対象とした素早い転移魔法まで使えたんだよねえ

 

177:名無し@魔法少女親衛隊

状態異常回復魔法をかけ続ける……確かにそれなら無効化できそう

というかアクメビーム×転移魔法とか何その最凶コンボ

 

178:名無し@魔法少女親衛隊

力技だけど間違いじゃなさそう

 

179:名無し@魔法少女親衛隊

ヤバすぎて草枯れる

 

でもさすがイッチやで

 

180:名無し@魔法少女親衛隊

あれ? ちょっと待って

私【は】?

 

181:名無し@魔法少女親衛隊

ん?

 

182:名無し@魔法少女親衛隊

どうし……あっ

 

183:名無し@魔法少女親衛隊

あっ(察し)

 

184:名無し@魔法少女親衛隊

あっ(察し)

 

185:名無し@魔法少女親衛隊

ふむ……

 

現場に向かったのはイッチと後輩ちゃんの二人

 

飛んでくるアクメ魔人のアクメビーム!

 

イッチは状態異常回復魔法を【自身に】かけ続けて無効化に成功!

 

魔人の自慢のメインウェポンが効かないなんて流石イッチ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの、ところで一緒にやって来た後輩ちゃんは……

 

 

186:名無し@魔法少女親衛隊

ねえイッチ、後輩ちゃんって回復系魔法が使えたりは……

 

187:TS魔法少女

※後輩ちゃんはバリバリの戦闘特化タイプ

 

※そもそも回復系統の魔法が使える魔法少女はごく小数

 

※アクメ魔人は転移魔法による不意打ちが得意だった

 

188:名無し@魔法少女親衛隊

あっ

 

189:名無し@魔法少女親衛隊

あっ

 

190:名無し@魔法少女親衛隊

あっ

 

191:名無し@魔法少女親衛隊

お労しや後輩ちゃん……

 

192:名無し@魔法少女親衛隊

>>191

ま、まだ確定ではないやろ!

 

193:TS魔法少女

後輩ちゃんは……まあ色々あったけど最悪の事態は避けられたとだけ

 

真面目な話をすると、こういう搦め手でくる敵は純粋に力で押してくる敵よりも厄介なことがほとんどだから侮れない

特にこの手のやつは被害者のアフターケアも手がかかるしね

 

194:名無し@魔法少女親衛隊

搦め手を使うやつは基本的に狡猾だからなぁ

 

195:名無し@魔法少女親衛隊

アフターケアってどんなことをしたの?

 

196:TS魔法少女

一般人については本部の魔法少女が魔法で記憶処理をしてそもそも魔人災害に巻き込まれたこと自体を忘れてもらった

 

被害にあった魔法少女については個別のメンタルケアを行った後に、望んだ者には記憶処理をして復帰または引退だったね

 

197:名無し@魔法少女親衛隊

記憶処理か……確かそういうこと専門の魔法少女がいるんだっけ、聞いたことがある

 

198:名無し@魔法少女親衛隊

嫌な記憶を忘れられるのって結構な救いだよね

 

199:TS魔法少女

>>198

そうだね

ただ、何度もかけられると耐性が付いて記憶が甦っちゃうから利用できる回数が限られているらしいよ

 

200:名無し@魔法少女親衛隊

えぇ……

 

201:名無し@魔法少女親衛隊

マジ? 回数制限あるのかよ

 

202:名無し@魔法少女親衛隊

でも魔人のいなくなった今なら利用者そのものが減っているのでは?

 

203:TS魔法少女

>>202

うん

そもそもの利用者が減っているから制限回数が問題になることはないと思う

 

204:名無し@魔法少女親衛隊

>>203

それはよかった

 

205:名無し@魔法少女親衛隊

>>203

ホッとした

 

206:名無し@魔法少女親衛隊

今更だけど初期と比べて日本もだいぶ平和になったんだなって

 

207:名無し@魔法少女親衛隊

魔人が消えてから目に見えて国が明るくなったもんな

奴らの最後っ屁で魔獣は残っちゃったけど

 

208:名無し@魔法少女親衛隊

ぶっちゃけ魔人はやべー奴が多すぎた

 

209:名無し@魔法少女親衛隊

>>208

それな

 

210:名無し@魔法少女親衛隊

時々ふと考えちゃうんだよな

もしもあの日、俺たちの希望が負けていたらどうなっていたんだろうかって

 

211:名無し@魔法少女親衛隊

それは……

 

212:名無し@魔法少女親衛隊

きっと……いや、間違いなく人類の終わりだった

 

213:名無し@魔法少女親衛隊

あの戦いから約半年

それを「もう」半年と捉えるか「まだ」半年と捉えるかは人それぞれ

 

214:名無し@魔法少女親衛隊

なんか改めて今の平和の持つ意味を実感できたような気がするわ

 

215:名無し@魔法少女親衛隊

お前らとこうやって駄弁ることもなくなってたと思うと恐ろしいな

 

216:名無し@魔法少女親衛隊

ま、つまりは……

 

217:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

218:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

219:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

220:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

221:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

222:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

223:名無し@魔法少女親衛隊

魔法少女万歳!

 

224:名無し@魔法少女親衛隊

感動したので今月の食費を機関に寄付してきます!

魔法少女万歳!

 

225:TS魔法少女

>>224

ちゃんと自分のご飯に使いなさい!!

 

226:名無し@魔法少女親衛隊

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 一年と四ヶ月前――東京都

 

 

 

「うわっ、薄気味悪い色の結界ですね。見てるとなんだかぞわぞわします」

 

 その日、魔法少女アリスとサファイアが本部より緊急の応援要請を受けて向かった先にあったのは都内のとある野球場とその周囲一帯を覆う紫色のドーム型結界であった。

 

『既に突入した部隊とは通信途絶。現地では本日ちょうど女子ソフトボールの大会が開かれていたらしく、その参加者たちがほぼ丸ごと魔人の結界内に囚われています。確認されている魔人は一体のみですが十分に注意を』

「了解です。これよりチームステラは結界へ突入、目標を捕捉次第討滅します」

「サクッと終わらせるので大丈夫でーす」

『……ご武運を』

 

 インカムの通信が切れたのを確認し、アリスはサファイアと共に結界内部へと足を踏み入れた。

 

「――ッ!?」

「うえっ! な、なんですかこの臭い!?」

 

 結界内に入った瞬間に二人が感じたのはひどく鼻につく謎の臭いであった。

 結界内に充満する甘く匂い立つ濃密なそれに驚き、思わず揃って鼻を押さえてしまう。

 

「敵の攻撃、というわけではなさそうだね……サファイア、大丈夫?」

「うぅ、慣れるまで時間がかかりそうです……」

「一体何の臭――あれは!」

 

 アリスは視界に映った横たわる人らしき影に気付き駆け出す。

 近づくと見えてきたその人物はソフトボール部のものらしきユニフォームを着た中学生ぐらいの女の子であった。

 

 ――恐らく被害者の一人。もしかしたら何か情報が得られるかもしれない。

 

「これは……」

「彼女、気絶しちゃってますね」

 

 ぴくぴくと小さく痙攣を繰り返す少女の瞳は閉じられており、念のため回復魔法をかけつつ声をかけてみるも反応はなかった。

 

「というかこの臭い……」

 

 その際にアリスは目の前に横たわる少女からもこの場に充満する臭いと同じ臭いが放たれていることに気付く。

 悪いと思いつつも少女の体を細かく調べていくアリス。その結果分かったのは少女のユニフォームの股間部が妙に濡れているということだけだ。

 

「あっ……(多分失禁しちゃったのかな。思ったよりそれっぽい臭いはないけど)」

 

 アリスは意図せずうら若き乙女の痴態を暴いてしまったような気がして申し訳なくなった。

 

「分からない。彼女に一体何が起こったんだろう」

「この人……それにこの臭いって……」

「サファイア?」

「あ、いえ! なんでもないです!」

 

 何はともあれまず魔人を見つけて討滅せねば。

 気持ちを切り替えようとしたその時、彼女たちは何らかの魔法の発動を感じ取った。

 

「向こうだ! 行こうサファイア!」

「はい!」

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「おっ? また新しい獲物がやって来たか。歓迎しようではないか!」

 

 野球場の応援スタンドの前列に彼女たちの目標である魔人は腰掛けていた。

 見た目は紫色の眼帯とマントを付けた若い青年のようだ。一見すると人間に見えなくもないが人間ではありえない青色の肌が彼を魔人だと告げている。

 周囲には大勢の被害者たちが荒い息と共にビクビクと謎の痙攣を繰り返しながら倒れており、その中には先に突入した魔法少女だと思われる姿も混じっていた。

 

「お前がこの結界を張った魔人だね?」

「そうとも! 我が名は魔人アメクマン! 君たちに忘れられない快楽と羞恥を刻み込む者さ!」

 

 軽薄な笑みを浮かべてベンチから立ち上がった魔人にサファイアが嫌そうな顔で一歩後ずさった。

 

「せんぱい、私コイツ苦手です」

「安心して。私も大嫌いだから」

 

 相対して一分も経っていないがよく分かる。コイツは絶対ろくでもない奴だ。

 軽いやりとりをしつつもアリスは周囲の情報を少しずつ集めていく。

 

 ――恐らく被害者のほとんどはこの場に集められている。

 ――敵に仲間の姿や存在は感じられないので単独犯の可能性は高め。

 ――倒れている一般人と魔法少女のどちらにも目立った外傷は見られないので戦闘能力が不明。

 

「……(可能性として考えられるのはコイツの戦闘能力がずば抜けて高いか、もしくは――)」

「せんぱい、多分この場の敵はアイツ一人と考えて良さそうです」

「うん」

「私は回復系魔法がつかえないので、せんぱいは先に他の人たちを頼みます」

「分かった。できるだけ早く済ませるけど気をつけてね」

「作戦会議は終わったかな? 二人でまとめてかかってきても構わないぞ?」

「……大した自信だねぇ!」

 

 双剣を召喚したサファイアが魔人へと斬りかかるのを視界の端に入れつつ、アリスは倒れている被害者たちへ駆け寄り彼女たちの状態を素早く確認していく。

 

「皆さん大丈夫ですか!?」

「は、ああぁ……んんっ♡」

「ひっ、んんんんんっ……んああ♡」

「お゛♡……んお゛ぉっ♡」

「ッ――♡――――ッッ♡♡」

「――――――――――♡♡」

 

(やっぱり大きな傷を負っている人は一人もいない……でもそれじゃあ彼女たちのこの様子は一体……)

 

 彼女たちへ向けて自分が使える回復系魔法を全て使ってみるも特にこれといった変化は見られない。それどころか刺激を与えてしまったのかプシャッと何かが噴出するような音と一緒に足下に謎の水たまりが広がった。もっとも、その前から既に周囲の地面には何かの染みのようなものがまばらに存在していたのだが。

 

 魔人や魔獣によって酷い傷を負って苦しむ人間の姿はこれまで何度も見てきてたし癒やしてきた。でも目の前にいる彼女たちの様子はそれらとはひどくかけ離れているのだ。

 生まれて初めて遭遇する状況にアリスはひどく困惑した。

 

(ど、どうしよう訳が分からない……っていうかあんまり考えないようにしていたけど彼女たちの様子は苦しんでいるというよりもまるで――)

 

 頭に一瞬浮かんだのは最低な予想。だができれば外れて欲しいとアリスは思った。もし予感が当たっているならアイツは満場一致で女の敵だ。塵一つ残らず消し去らねばならない。

 

「あ、なた……魔…ほんんっ♡」

「……! 君、意識があるの!?」

 

 目の前の状況に困惑していたアリスはハッと声の方を向く。声の主は先行して突入していた魔法少女たちの一人であった。

 

「気を…つけて……アイツの光線んんっ♡ に当たっちゃ……んああ♡」

「無理しないで! ……光線に気をつければ良いんだね?」

「お願……はあぁ……♡ もうだめ――――♡」

「……ありがとう」

 

 光線に気をつけろ――それだけを伝えると彼女は気を失った。

 

(原因はアイツの光線か……なんだか嫌な予感がする。現時点で治療が必要な重傷者はいないし急いでサファイアの加勢に行こう)

 

 周囲の人間たちを守るためのバリアをその場に展開し、アリスはサファイアの元へ向かった。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 アリスが被害者たちの様子を確認している最中、魔人とサファイアの二人は球場の応援スタンドを縦横無尽に飛び回っていた。

 

「このっ!」

「フハハハ! 今のも惜しかったが残念! 体がもう少し大きければ届いたかも知れぬな! ハッハッハ!」

 

 高笑いと共にするりと剣の射程から逃れられる。

 その顔に浮かぶのは出会った時から変わらぬ軽薄な笑み。戦意というものがまるで感じられず、それでいて攻撃をかわすたびにからかうような声をかけてくる魔人。

 その上で繰り出す攻撃をことごとくかわされ続け、サファイアの鬱憤は溜まりに溜まっていた。

 

(うがああああっ!! ムカつくムカつくムカつくぅ!! さっきから逃げ回るだけで全然攻撃してこないし何なのコイツ!!)

 

 このままでは埒が明かないと判断し一旦攻め手を止めるサファイア。そのタイミングで魔人はアリスのいる方を見て馬鹿にするような声色で呟いた。

 

「さっさと向こうで遊んでいる相方を呼んだらどうだ?」

「別に遊んでるわけじゃない。せんぱいにはあの場の人たちの治療を先に頼んだだけだから」

「フフッ、先にやって来たお仲間たちの戦線復帰を狙っているのなら無駄なことだ。そもそも向こうにいる人間共に治療など全くの不要だというのに」

「……は? 不要ってどういうこと?」

 

 自信ありげにそう言った魔人が気になり彼女は眉をひそめる。

 

「なんせ――()()()()()()()()()()()()()()()治療など必要ないだろう?」

「…………」

 

 短いの沈黙の後、サファイアは恐る恐る口を開いた。

 

「……や、やっぱりお前の能力って」

 

 最初の被害者を見た時点で薄々感づいてはいたものの、せんぱいの前では言い出しづらかった予想がどうやら正しかったらしい。

 サファイアが引き攣った顔で魔人を見れば、彼は全てを悟った彼女を見て憎たらしいほど愉しそうに笑っていた。

 

「ではそろそろ君にも我が奥義を味わわせてあげるとしよう。忘れられぬ快楽と羞恥の味を……ね!」

 

 スッと手のひらをこちらに向けた魔人を見て慌ててその場を飛び退くのと同時、どぎついピンク色の光線が着弾した。

 

「ひっ……(い、いやあああ絶対当たりたくないいいいいぃ!!)」

「フハハハ! 逃げろ逃げろ! だがいつまで避けていられるかな小娘!」

 

 一転攻勢。

 先程までとは打って変わって攻撃的になった魔人が両手からビームを乱射しつつサファイアに迫った。

 当たれば自分も彼女たちの仲間入り……それだけはゴメンだと彼女は悲鳴を押し殺して光線から逃げ回る。

 

 完全に逆転してしまった力関係。

 だが彼女は必死の形相で逃げ回りつつも次の一手を打つタイミングを窺っていた。

 

 客席スタンドから下のグラウンドへと飛び降りた彼女は、魔人が彼女を追って地面に着地するタイミングでその一手を打った。

 

「――ここ!」

「ぬうっ!?」

 

 突然足下に現れた氷塊によって下半身を地面に固定された魔人が慌てる。両手で氷塊を壊そうとするも成長し続ける氷塊によって両手も固定され、彼はあっという間に頭だけを残して完全に氷漬けとなる。サファイアの一手が完全に決まったのだ。

 

「しまった!? これでは身動きが――」

「これで終わりだ変態!!」

 

 後はトドメを刺すだけ。

 致命的な隙を突かれた魔人へ彼女の刃が迫ったその時。

 

「――なんてね」

 

 瞬きの間に魔人の姿が消失した。

 

「えっ」

 

 空を切る刃。

 そしてほんの一瞬動きが止まってしまった彼女を背後から一本の光線が貫いた。

 

「チェックメイト。我が奥義の味をご堪能あれ」

「あ、え……ん゛ッ♡」

 

 バチン! と一瞬で全身を駆け抜けたそれ。

 一般的なそれ自体には一応の経験はあるものの、普段のようにじわじわと高めるのではなく、無理矢理一気に天辺まで高めるような強引すぎる未経験の強烈な刺激に一発で彼女の思考は真っ白になる。

 

(な、んで……)

 

 チカチカと点滅し、ゆっくり倒れていく視界がどこか他人事のように見えた。

 

「あぅ……♡ う……♡」

 

 ビクッ!

 

「ひゅッ……♡」

 

 立て続けに第二波が襲いかかりビクンと腰がはねる。だが波はまだ終わらない。

 

「あ……あぁあ♡(またくる……キちゃう……やだ、やだぁ……)」

 

 気力をふり絞って体を動かそうとするがどこにも力が入らず、ぴくぴくと痙攣を繰り返すだけ。

 そうして抵抗虚しく次の波がやってくる。

 

「あ゛♡ あ゛ッ♡ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ♡」

 

 ――その瞬間、彼女の幼い脳は本能によりそれ以上の認識を拒んだ。

 

 まるで全ての神経が麻痺してしまったかのような真っ白な感覚。

 身も心も焼き尽くそうとする暴力的な快楽に彼女の心は一瞬で折れかける。

 

「ふ……うぅ♡ あぁ……♡(だ……め、耐えなきゃ……理沙は負け……ない……!)」

 

 辛うじて意識は保たれていたが、既に行動不能。次の波が来てしまえば終わりだという予感もある。それでも意地で諦めることだけは認められなかった。

 

「……これは驚いた。このような幼子がここまで耐えるとは。先程の者共はたった一度で意識を手放したというのに……うおお!?」

「――〈スターバレット〉!」

 

 待ち望んだ声と共に星の形をした無数の弾丸がその場に殺到し、魔人が再び姿を消す。

 続いてサファイアの傍に降り立ったアリスがすぐに彼女へと魔法を放った。

 

「〈エンジェリックキュアー〉!」

 

 温かな癒やしの光に体を包まれながらサファイアは来るはずだった次の波がかき消されたことを理解したが、失った体力は当然戻っておらず、全身を襲う快感もそのまま残っている。今はなんとか目と口を動かすことで精一杯であった。

 

「せ、ん…ぱ……」

「大丈夫!? 怪我は!?」

「だ…ぁ……」

「ごめん。イエスなら1回、ノーなら2回瞬きして」

 

 体が上手く動かせないことを悟ったアリスはすぐに問答の仕方を切り替えてくれた。

 

「怪我はない?」

 

 ――1回。

 

「このまま安静にしていれば状態は良くなる?」

 

 ――1回。

 

「こうなった原因はアイツの光線?」

 

 ――1回。

 

「アイツは純粋な戦闘タイプ?」

 

 ――2回。

 

「ありがとう。後は任せて」

 

 ――1回。

 

 そこでサファイアの意識は一度途切れた。

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

「フッ、小娘その2よ、我を放置して呑気に会話とは油断しすぎじゃあないか?」

 

 アリスたちの背後に回った魔人が得意の光線を放つ。

 死角から放たれた光線は彼の狙い通り、無防備に立つアリスに直撃した。

 

「フフフ……これでお前も小娘たちの仲間入りだ!」

「……」

 

 新たな犠牲者の痴態をもう少し近くで眺めようとワクワクしながら魔人は彼女の元へゆっくりと近づき、そこで異変に気付く。

 

「……ん?(おかしいぞ。なんでコイツはさっきから普通に立っているんだ?)」

「――〈加速(アクセル)〉」

 

 一閃。

 彼はふと何かが自分の真横を駆け抜けたような気がして――確認するために右を見て、地面に落ちていく自分の腕を見た。

 

「は?」

 

 予期せぬ出来事に一瞬硬直した彼が再び前を見ると既にそこに彼女の姿はなかった。

 

「……なるほど。どうやらお前にとって私は最高に相性が悪い相手みたいだね」

 

 彼の背後から聞こえる声。振り向くとそこに純白の剣を右手に持って立つ彼女がいた。

 その佇まいは見るからに自然体で、何の変化の兆候も現れていなかった。

 

「なっ!? 何故! 我の奥義は確かに命中したはずだ!」

「ああ、確かに当たったけど……魔法で絶え間なく体の異常を取り除き続ければ効かないみたいだね」

「……は?」

「お前のその魔法は厄介だけど体に作用する初動さえ潰してしまえば無効化できる。そして私の魔力量ならこの戦いが終わるまでそれを維持し続けることは難しくない」

「…………は?」

 

 つまるところ、自分の一番の武器はもう通用しないぞと宣言された魔人は固まった。

 彼はその強力無比なメインウェポンとそれを確実に当てるための転移魔法を活かした不意打ち技術で敵を倒し続けてきたが、逆に言えばそれしかできない存在。これらの能力を除いてしまえば彼に残るのは同族の中で平均以上に高い回避能力だけである。

 

「フ、フハハ…………小娘よちょっと話し合わないか?」

「あははっ…………するわけないでしょこの変態野郎が!

 

 数分後……情けない断末魔が一つ、静かな野球場に響いて消えていった。

 

 

 

 

 

 




★魔人アメクマン

色欲魔人衆の一人。
対象を強制的に絶頂させるアクメビームと初見殺しである転移魔法の最凶コンボを駆使する。逆に言うとこれ以外の戦法がないが、正しく対応できる相手がそもそも少ないのでほとんどの魔法少女にとっては天敵と言える魔人。
回避能力が高く、なんだかんだでアリスの猛攻から数分間生き延びたがジリ貧には変わらないのでそのまま敗北した。

★色欲魔人衆

基本的にエロい攻撃ばかりしてくる最低最悪の魔人たちの総称。ロクな奴がいない。

★アリス

TS魔法少女。アメクマン視点だと天敵以外の何者でもない。色欲魔人衆と戦うのはこれが初めてだった。

★サファイア

この戦いをきっかけに本格的に性に目覚めてしまった。
女の子の成長は早いから仕方ないね。
がんばれアリス! 負けるなアリス! 君なら勝てる!(何に?)


追記

前回はたくさんのご感想をありがとうございます。いつも執筆の励みになってます。


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閑話 魔法少女と紳士の集い/魔法少女と宿題

お久しぶりです。
おにまい(作者をTS沼に沈めた元凶)のアニメ完成度が頭おかしくて毎週幸せになっている作者です。OP最高にすき。
最近のハーメルン内でも新規のTS作品が増えてて結構嬉しい。

今回は生存報告として短い閑話を2本。
最後に今後の方針アンケートがあるので回答してくださると助かります。
お茶でも飲みながらいつも通りリラックスして読んでね。



 

 

 

 ――閑話1 魔法少女と紳士の集い――

 

 

 

49:名無しの紳士

魔法少女の絶対領域ってえっちだよね

 

50:名無しの紳士

チラチラと見え隠れするスパッツが俺を狂わせる

 

51:名無しの紳士

偶然にも見えたその日は一日中やるきで満ち溢れる

 

52:名無しの紳士

>>51

それ何に対するやる気なんですかね……

 

53:名無しの紳士

おい待て、スパッツもいいがドロワも捨てたもんじゃないぞ

 

54:名無しの紳士

ひらひら舞うスカートは何故ああも魅力的に映るのか

 

55:名無しの紳士

いけないと分かっていてもつい目が吸い寄せられちゃうんだよね

 

56:名無しの紳士

推しの衣装が短パンスタイルの俺氏

無事に太ももフェチに目覚める

 

57:名無しの紳士

太もも……いいよね……

 

58:名無しの紳士

太ももが大胆に露出してる衣装の娘って結構多いよね

 

59:名無しの紳士

魔法少女という存在自体が叡智すぎる

 

60:名無しの紳士

太ももフェチからすると現代は天国そのものなのか

 

61:名無しの紳士

太もも最高! 太もも最高!

 

62:名無しの紳士

スパッツ最高! スパッツ最高!

 

63:名無しの紳士

チラリズムは神!

 

64:名無しの紳士

太もも等の良さは認める……だが俺はあえて横乳派

ノースリーブ系の衣装の娘ってめっちゃエロくね?

 

65:名無しの紳士

>>64

脇フェチのワイ全力で同意

 

66:名無しの紳士

あーダメダメえっちすぎます

 

67:名無しの紳士

推しの太ももに挟まれたいだけの人生だった

 

68:名無しの紳士

死ぬ時はアリスちゃんの太ももに挟まれて死にたい

ついでにスカートの中に一生住みたい

 

69:名無しの紳士

アリスちゃんに膝枕されたいな〜俺もな~

 

70:TS魔法少女

その、そういう気持ちは分からないでもないけど程々にね……

 

71:名無しの紳士

( °Д°)

 

72:名無しの紳士

( °Д°)

 

73:名無しの紳士

(((( ;゚д゚)))

 

74:名無しの紳士

( ˘ω˘ )スヤァ…

 

75:名無しの紳士

(゜ロ゜)

 

76:名無しの紳士

(((゜Д゜;)))

 

77:名無しの紳士

( ˘ω˘ )スヤァ…

 

78:名無しの紳士

( ˘ω˘ )スヤァ…

 

79:名無しの紳士

( ˘ω˘ )スヤァ…

 

80:名無しの紳士

( ˘ω˘ )スヤァ…

 

81:名無しの紳士

寝たふりしてんじゃねーよ変態ども

 

82:名無しの紳士

ごめんなさい

 

83:名無しの紳士

ごめんなさい

 

84:名無しの紳士

ごめんなさい

 

85:名無しの紳士

変態でごめんなさい

 

86:名無しの紳士

オラ、なんだか急に死にたくなってきたぞ……

 

87:名無しの紳士

よし、一緒に逝こうぜ

 

88:名無しの紳士

俺も混ぜてくれよー

 

89:TS魔法少女

……ごめん、コテハン付けずに発言すればよかったね

迂闊だった

ついいつもの癖で

 

90:名無しの紳士

いや、その……

 

91:名無しの紳士

ああああああその気遣いが心に突き刺さるううう

 

92:名無しの紳士

やめて、その優しさが逆に辛い……

 

93:名無しの紳士

ぐああああああああ

 

94:名無しの紳士

というか何故TSちゃんがこのスレに……?

 

95:名無しの紳士

ここはあなた様が来るような場所ではござらんよ

 

96:TS魔法少女

いや、スレのタイトルにちょっと興味を引かれて覗いただけなんだけど

 

97:名無しの紳士

今日のスレタイトルなんだっけ?

 

98:名無しの紳士

>>97

〈現代日本における魔法応用技術の可能性について語るスレ〉だね

 

99:名無しの紳士

無駄にかっこよくて草

 

100:名無しの紳士

相変わらず内容と1ミリも合ってないスレタイですねぇ

 

101:名無しの紳士

>>98

これTSちゃん全然悪くないでしょ

ただの被害者では?

 

102:名無しの紳士

>>98

このタイトルから中身がこんなんだって想像するのは無理やろ

 

103:TS魔法少女

何故こんなスレタイに……?

 

104:名無しの紳士

この手のスレを普通に立てるのは気が引けるのでカモフラージュしているのです

 

105:名無しの紳士

ちなみに前回のスレタイは〈ボブと学ぶ聖剣士ヤマトの英雄譚 最終章Part19〉

 

106:名無しの紳士

聖剣士ヤマトの英雄譚おもしろいよな

 

107:名無しの紳士

あれって今どうなってるんだっけ?

聖女が加入したところから見てないんだが

 

108:名無しの紳士

>>107

マジ?

怒涛の展開の連続で今めっちゃ面白いで?

 

109:名無しの紳士

今主人公が魔王城に乗り込んで魔王と対峙しているんだが、これまで聖剣だと思われていた主人公の愛剣が実は聖剣でもなんでもないことが分かった上に、本物の聖剣は主人公の股間のイチモツだったことが判明

魔王を倒すには聖剣の力が必須のためヤマトは自身の聖剣を抜き放つことを決意

イチモツを模した浮遊ビットを多重召喚するチ〇ファ〇ネルによる物量攻撃で魔王を追い詰めていったものの、実は裏切り者だった仲間の魔法使いが背後から主人公の股間を蹴り上げたことで戦況は拮抗状態に

瀕死の魔王が放った一撃をヤマトが股間の聖剣で受け止めたところで最新話は終わっている

 

110:名無しの紳士

えっ、ヤマトって今そんなことになってたのか

 

111:名無しの紳士

続きがめっちゃ気になる……

 

112:名無しの紳士

バカっぽいのに話普通に面白いのホント何なの……

 

113:名無しの紳士

ついでに作画レベルも結構高くて戦闘シーンが無駄にカッコいい

 

114:TS魔法少女

す、すごい作品なんだね……今度読んでみようかな

 

115:名無しの紳士

>>114

読むなら周囲に誰もいない一人きりの時をおすすめするゾ

 

116:名無しの紳士

ああ、腹筋ク〇ーシオされるからな

 

117:名無しの紳士

あと下ネタ普通にあるから女の子と一緒に読むのはやめとけ

 

118:名無しの紳士

おまえら話が盛大に逸れているぞ

 

119:名無しの紳士

……何の話してたっけ

 

120:名無しの紳士

TSちゃんにこのスレについて教えているところだろ!

 

121:名無しの紳士

まあそういうわけで一見普通のスレに見せかけた変態スレがこの世には存在しているというわけなのです

 

122:名無しの紳士

ちなみにこの手のスレは本スレ以外にも複数存在しているので気をつけて欲しい

前スレ、次スレが存在せず、無駄にカッコいいスレタイとかあったら高い確率でこういうスレだと思っておいてくれ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ついでに太ももに挟まれて死にたい云々のことは忘れて下さいお願いします

 

123:TS魔法少女

>>122

ごめんなさい無理です

 

124:名無しの紳士

シニタイ

 

 

 

 


 

 

 

 ――閑話2 魔法少女と宿題――

 

 

 

 義務教育……それは国が国民に対して強制する教育である。日本国憲法26条にて、国民は自分の子供に九年の普通教育を受けさせる義務を負うことが記されている。

 事情が事情だけに多少の特別扱いを受けられるとはいえ、普段から魔法少女としての任務をこなしている私たちもまた、その例に漏れることなく義務教育の対象だ。

 魔法少女機関としても学生の本分である学業に関してはそれぞれに合わせた手厚いサポートを行っている。

 つまり何が言いたいかというと――魔法少女だろうと勉強からは逃げられないということだ。

 

「あ、そこ間違ってるよ。きちんと単位を揃えないと」

「うがあああああ!!」

 

 勉強開始から1時間。理沙が唸りを上げて鉛筆を放り投げた。

 

「もう意味が分かりません! 時速(㎞/h)と距離(m)の単位違いだけでは飽き足らず、かかった時間を秒単位まで答えろって! こんなの求めて何になるって言うんですかああああ!!」

「あー、まあそういうものだと思って受け入れるしか。ちなみに答えは1時間28分45秒ね」

「知りませんよ! 約1.5時間で別にいいじゃないですか!」

 

 そう言って、ブスっと不貞腐れて頬をテーブルに擦り付ける理沙。机に広がった彼女のふわふわのツインテールも心なしか萎れているように見えた。

 

「――課題は進んだ? お茶持ってきたよ二人とも」

「ありがとうひより」

「……ありがとうございます」

 

 キッチンからトレーに湯呑みを乗せたひよりが姿を現す。

 彼女から湯呑みを受け取った理沙はちびちびと中身を飲みながら恨めしそうに呟いた。

 

「ひより先輩はいいですよね。せんぱいと一緒で勉強ができますもん」

「うーん、私の場合は単に全部覚えてこなしているだけだから。見たことのない問題はやっぱり解けないことが多いし」

「うぅ、その記憶力の良さが羨ましいです……」

「あはは……」

「理沙も地頭はいいんだから頑張ればちゃんとできるようになると思う」

 

 文章を読み飛ばす癖があるせいでよく文章題に引っかかっている彼女だけど、きちんと内容を読めば理解できないわけでもないのだ。

 

「課題あと何ページあるの?」

「10ページだね」

「提出期限が短すぎます……なんで明日までなんですかぁ」

「いや理沙がサボってただけで宿題自体は一週間以上前に出てるからね」

「宿題なんて嫌いです……」

「うーん……」

「ねえ凜ちゃん、ご褒美があったら理沙ちゃんも頑張れるんじゃない?」

「なるほど。理沙、今日中に全部終わらせたら私から何かご褒美をあげるよ」

「ほんとですか!?」

 

 ガバっと体を起こした理沙がキラキラとしたまなざしを私に向けてくる。

 ご褒美一つでここまで反応されるとちょっとびっくりするな……

 

「……あの、あくまで私にできることだけだからね」

「大丈夫です! せんぱいにしかできないことを頼むので!」

「そ、そっか」

「待ってて下さい! そっこーで終わらせるので!」

「がんばれー(やる気になったのならまあいいか)」

 

 

 

 ――2時間後。

 

「――――終わったあああああ!! ほら! 終わりましたよせんぱい!! ほら!」

「……うん。全部ちゃんと解けてる。頑張ったね理沙」

「理沙ちゃんお疲れ様〜」

「やった! これでせんぱいからご褒美がもらえます!」

「あはは、約束は守るけど何を要求するつもり?」

「甘やかして下さい」

「え?」

「いっぱい褒めていっぱい甘やかして下さい。今日はもう十分すぎるほど頑張ったので!」

「よし分かった」

 

 褒めて甘やかすか……思ったより普通の要求だな。よし、その程度のことならいくらでもやってあげようじゃないか。

 褒めて褒めて!と甘えるように両手を広げて待機していた理沙を正面から抱き締めながらその耳元に口を寄せてささやく。

 

「――よしよし、理沙はえらいね。あれだけあった宿題をこんなに早く解いてしまうなんて成長したね。最初の頃は文章題なんてダメダメだったのに頑張って勉強したんだね。私には分かるよ。理沙は頑張り屋さんのとっても良い子だもの。魔法少女の訓練だっていつも私たちに追い付こうと影で頑張っているの私は全部知ってるよ。理沙は本当に私にはもったいないくらい自慢の仲間だ」

「――ひゅっ*1

「それと……普段だと言う機会がないから今伝えるけど、いつも私が昔あげたリボンを大事に使ってくれているよね。こうして言葉で伝えるのは初めてだけど本当に嬉しく思っているんだ。あの時にも言ったけどすっごく似合ってる、最高に可愛いよ理沙。こんなに素敵な子と一緒にいられるなんて私は幸せ者だよ」

「ふあぁぁ……*2

 

 なんだろう……これ結構楽しいかも。

 

「すっかり赤くなっちゃってかわいいね。かわいい……かわいいよ理沙。かわいすぎて食べちゃいたいくらい」

あっあっあっ……*3

「あ、あの〜二人とも、一応私もいるんだけど……というか凜ちゃんのそれは明らかになんか違う気がする(後で私もやってもらおう)」

 

 

 

 ――ひたすら褒めて甘やかして30分後。

 

「どう? 満足できた理沙? ……あれ? 理沙? 寝てるの? おーい」

「」

「理沙ちゃん……頑張ったね……」

 

 ある程度時間が経ったところでふと理沙の様子を確認すると彼女は眠ってしまっていた。

 いつ頃から眠っていたのだろう……途中からなんだか楽しくなってきて彼女の様子を確認するのを忘れていたから気付けなかった。

 見た感じ幸せそうな寝顔をしてるから満足はしてくれたのかな。

 

「とりあえず私のベッドで寝かせとくか」

 

 やるべき課題は終わったのだからこのまま眠らせておいて問題ないだろう。

 私はベッドへ彼女を運んで寝かせた。

 

「ね、ねえ凜ちゃん」

「ん?」

「理沙ちゃんにやってたやつを私もして欲しいなーって」

「ひよりに?」

「……ダメ?」

「別にいいけど」

「よっしゃ(ふふ、理沙ちゃんはあっさり負けてたけど私はそう簡単にはやられないよ〜)」

 

 

 

 

 

 

 ――10分後。

 

あっあっあっ……*4

「ひよりー?」

「」

「あれ? ひよりってば寝てるの? そんなに疲れていたのかな……しばらく寝かせといてあげよっと」

 

 

 

 

 

 

*1
初撃で最高火力が来てオーバーキルされたメスガキの図

*2
完全敗北したメスガキの図

*3
瀕死の身で容赦のない追撃をもらって痙攣するメスガキの図

*4
やっぱり勝てなかったよ……



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かえりみち

一か月ぶりです。なんとか次話ができたので投稿です。

それはそうと、最近あることに気付きました。
実は作者の密かな夢の一つは自作小説のファンアートをもらうことなのですが、つい先日、「あれ? 作者名を匿名にしてマイページへのリンク切ってたらそもそもファンアートが来ないし受け取れないのでは?」と気付いてしまいました。馬鹿かな?

というわけで匿名剝がしました。誰かイッチたちを描いてくれないかなーチラチラ(期待の目)
(あといつも誤字報告、素敵なご感想をありがとうございます)


さて、前置きが長くなりましたが今回は掲示板なしの日常回です。いつも通りリラックスして読んでいってね。


 

 

 

 私が通う中学校の校舎裏には、学校創立から一本の巨木が存在している。

 

 通称【告白の大樹】。

 歴代のOB・OGによって現代まで語り継がれてきた噂話によると、この木の下で結ばれた男女には永遠に幸せな未来が約束されるらしい。まるでどこぞの恋愛ゲームにでも登場しそうな伝説の木だ。

 

 多感な時期の少年少女はこの手の話が大好物なのだろう。このことは全校生徒が知っており、この木の下ではそこそこの頻度で告白を行う男女の姿が見られる。

 

 そして今日もまた、一組の男女がそこで恒例の告白イベントを発生させていた。

 

 ――いやあ青春だねぇー……などと呑気にしている場合ではない。

 

「好きだ! 姫宮凜さん……どうか俺と付き合って欲しいっ!」

(えー……)

 

 何故なら告白されているのが他ならぬ私だからだ。

 

(この人……たしかサッカー部のエースとして有名な3年の先輩だったよね)

 

 自信に満ち溢れ、キラキラの陽キャオーラを纏った自分よりずっと背の高い先輩の顔を見上げながら、私はぼんやりと考える。

 彼の顔立ちは確実にイケメンの部類に入る。噂を聞く限り性格も悪くなさそうだし運動・勉強は共に優秀。女子視点で見るならば普通に優良物件なモテ男であることは間違いない。ぶっちゃけイケメンであるというだけで人生の勝ち組だ。

 

 とはいえ既に私の返事は決まっている。というか一択だ。

 

「ごめんなさい。先輩とは付き合えません」

 

 魔法少女化のせいで完全な女の子になってしまった私だけど、自意識は男の時のままなので恋愛対象として見ることができるのは女の子だけ。当然これまでも男相手に一切そういう気持ちを抱いたことはない。当然ながら0に何をかけても0なのである。

 実際こうしてイケメンに告白されてもまるでときめかないのだ。

 

 私はできる限り申し訳なさそうな顔をつくり、頭を下げて彼の告白を断った。

 

「なっ!? 一体僕のどこが不満なんだい? この学校に僕ほど君にふさわしい男はいないはずだ!」

「先輩……?」

「もしや既に付き合っている相手でもいるのか!?」

「いえ、いませんけど」

「ならば何故断る! 君のように優れた人間は同じく優れた人間である僕と付き合うべきだろう!」

 

 ――おや? なんかこの先輩普通にヤバい人なのでは?

 

 ぞわりと鳥肌が立った。私は本能的な身の危険を感じ、興奮した様子で詰め寄ろうとする先輩から距離をとろうと後ずさりし――

 

「待――「バウバウ!」――ぐはあっ!?」

 

 彼が突然横から現れた大型犬に突き飛ばされる姿を目撃した。

 

「へ?」

「ぐっ!? な、なんだこの犬っころは!? 一体どこから現れ「ピィー!」――うわあああ鳥の糞が僕の顔にいいぃ!!」

 

 敵機直上急降下。

 起き上がろうとした彼に追い打ちをかけるようにどこからともなく鳥の糞が降ってきて顔面に直撃。

 さらに彼を突き飛ばした大型犬は地面で悶える彼に向けて情け容赦なく股間の主砲を発射した。

 

 ジョボボボーーー……

 

「うわあああああああ!?!? 生温かい! 臭い! 気持ち悪い!」

「え、えぇー……」

「「「「ピィーーーー!!」」」」

「あっ(察し)」

 

 これで終わりかと思いきや、最後に鳥の群れがやってきて彼に怒涛の糞爆撃をお見舞いして飛び去っていった。無慈悲。

 

 憐れ。後に残ったのは糞尿塗れで地面をのたうち回る一人の男だけである。

 

「えっ? えっ? これどうすればいいの?」

「凜ちゃん」

「ひゃ!? ひ、ひより、いつからそこに?」

「日直の仕事が終わったから迎えに来たの。凜ちゃんの用事も今終わったみたいだしこのまま一緒に帰ろ?」

 

 いつの間にか足下にやってきていた大型犬の頭を慣れた様子で撫でながらひよりは私にそう言った。

 

「え、でも先輩が」

「先生を呼んでおいたから大丈夫だよ」

「そ、そうですか……」

 

 先生が来るなら……後は任せて帰っていいな! ヨシ! 後のことは知らん!

 

 私たちは彼を残し、その場を後にするのだった。

 

 

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 

 帰り道。

 

「これで今月に入って5回目だっけ?」

「うん。告白はされる方も疲れるんだってことをものすごく実感してるよ……」

「大変そうならもう呼び出しの時点で無視しちゃったら?」

「それは流石に悪いかなーって思って……」

「律儀というか優しすぎるよ凜ちゃんは」

 

 私の好きな人は今日も世界一可愛い。

 可愛すぎてもはやどう語れば良いか分からなくなるくらいに可愛い。異論は認めない。

 ただ、その可愛さ故に余計なものも寄せてしまうから注意が必要だ。

 今日だって、私が少し目を離した隙に鬱陶しい害虫が寄ってきていた。

 

 ――あの害虫。私がヤマト*1たちをけしかけなかったら凜ちゃんに何をするつもりだったんだろうか。後で徹底的に潰しておかなくちゃ。

 

「そもそもなんで私に告白するんだろ。普段も男子とはほとんど会話なんてしてないのに惚れられる要素がよく分からないな……この学校には私よりも可愛い子が他にいっぱいいるのにね」

 

 そう言って彼女は困ったように笑う。

 たしかに普段から彼女は男子とほとんど会話をしていない。だけど挨拶されたらちゃんと返しているし、男子に対する偏見とかを持っていないどころか同じ女の子として心配になるレベルで無防備すぎる面があるので男子たちからの人気は恐ろしく高いのだ。……本人はまるで気づいてないけど。

 

(男子たちにとっては何もかもが刺さるんだろうねぇ)

 

 風にたなびく幻想的な銀の髪と澄んだ瑠璃色の瞳は、この学校での彼女の二つ名である【銀天使】にふさわしい魅力を今日も周囲に振りまいていた。

 

「私に言わせれば純粋に可愛さで言ったら凜ちゃんが(世界で)一番だと思うけど」

「えっ……い、いや、そんなことはないって。3組の聖奈さんとか読モやっててすごく可愛いじゃん」

 

 動揺を誤魔化すように髪の毛先を右手でいじりつつ、彼女は言った。

 

「聖奈さん……ね」

 

 同学年3組の聖奈さん……読者モデルとして活動している売れっ子さんで、彼女もまた男子からの人気は高い。

 だけど私からしてみれば……

 

「私は聖奈さんより凜ちゃんの方がよっぽど可愛いと思うけど(だってあれは計算された可愛さってやつだし)」

「んえっ!?」

 

 的確に媚を売るために作られた可愛さと何一つ意識していないありのままの可愛さ。聖奈さんと凜ちゃんはそれぞれそんな感じだ。

 馬鹿な男子の多くはその違いに気付くことはできないだろうけど、女子は当然それに気付いている者が多い。

 

「凜ちゃんは可愛いよ」

「ひ、ひより……?」

 

 彼女のほんのり赤く染まった頬に目が吸い寄せられる。ちょっと触ってみてもいいかな――ってもう触ってたなもちもちプニプニで気持ちいい最高だねずっと揉んでたい好き。

 

「んぅ……」

 

 両手を彼女の頬に添え、正面から覗き込むようにして目を合わせる。

 私の行動に彼女は最初きょとんとして、こちらが顔を近づけると赤面してわたわたと慌てだした。なんだこの可愛い生き物は結婚したい。

 

 ――ああもう、本当に可愛いなぁ。

 

「ど、どうしたの?」

「いや、凜ちゃんの可愛い顔をじっくり眺めたい気分になって」

「へあっ!?」

 

 困惑する彼女の頬を挟み込み、手のひらから伝わってくるもちもちな肌の感触を楽しむ。

 

「あ、あの、これいつまで続けるの? ここ通学路だし普通に人目が……」

「この時間ならそんなに人もいないし大丈夫。というか人目がなかったら別にいいの?」

「え、そ、それは……」

「えいっ」

「わぷっ!?」

 

 おろおろと視線を彷徨わせる姿が可愛すぎたのでとりあえず抱き締める。鼻が優しくて甘い――私の大好きな香りでいっぱいになり、自然と全身がリラックス状態になった。

 

「うへへ、やっぱり凜ちゃんにくっついてると落ち着くねぇ。私これ好き」

「……もう。ちょっとだけだよ?」

 

 見えないけど多分ジト目をした彼女がそう言って脱力し体を預けてくる。

 胸に感じる幸せな重み。そこにある無防備な身体。

 彼女から身体を委ねられたという事実に、ほんの一瞬だけ、ぞくっとした快感を感じてしまった。

 

「……」

 

 ふと顔を上げると視界の端に同じ学校の制服を着た男子生徒たちの姿が映った。

 彼らはある程度近づいたところで私たちにハッと気付き、数秒固まった後に赤い顔でこちらに声をかけることもなくそそくさと遠ざかっていった。

 気のせいだろうか、なんとなくその目は「どうぞごゆっくり」と言っているような気がした。

 

 ――うんうん、それが正解だよキミたち。凜ちゃんは私たちのものだからね。空気が読めてえらいね。

 

 そうして5分くらいの時間が経ち、痺れを切らした彼女が私の背をタップしてきたので仕方なく抱き締めを解除した。

 

「満足した?」

「ちょっとだけ」

「はぁ……続きは帰ってからにしてね。早く帰りたいし」

「うん」

 

 そう言って歩き出した彼女に続いて私もその隣へ移動した。

 

 他愛もない学校での出来事を二人で話しながら私たちは帰り道を歩く。

 その最中にも感じる周囲からの無数の視線。それは私に向けられるものも多いけど、ほとんどが最終的に彼女へと吸い込まれていくことを私は知っている。

 

 それはきっと理屈ではなく本能的な何か。多くの人にとっては無意識に感じ取っているものなんだと私は思う。

 

 お人形さんのように整った容姿もさることながら、時折どこか神聖で幻想的な雰囲気を見る者に感じさせる彼女はまるで――純粋な人間ではないみたいで。

 

 ――だから時々不安になるんだ。あなたが、ふとした瞬間に消えてしまわないかって。

 

 私の今見ているあなたはただの幻なんじゃないのかって――そんなおかしなことを考えてしまうんだ。

 

 あなたが消えてしまわないか不安で。今見ている世界が本物であることの確証が欲しくて。ふとした瞬間に襲ってくる、言い表しようのない漠然とした大きな不安から解放されたくて。

 

 私が何かと彼女に触れようとするのは、そこに私の天使様(彼女)が存在していることをきちんと確かめたいから。

 単純に好きだからという理由もあるけど、半分以上はそんな漠然とした不安から逃れるためにやっているのが真実。

 

 彼女と一日以上離れただけでまともに眠ることすらできなくなる私はきっと、どうしようもないほど彼女に依存してしまっている。

 

あはは……我ながらめんどくさい子だなぁ私

「ん、何か言った?」

「んーん。なんでもないよ銀天使様♡」

「っ! ちょっと! その呼び名はやめてってば!」

「えー? 私は似合ってると思うんだけどなー」

「ひよりのそれは面白がってるだけでしょ! 恥ずかしいからやめて!」

「ごめんごめん。もう呼ばないから許してぇ」

「次言ったら私の部屋に一日入室禁止にするからね」

「本当にごめんなさい」

 

 その罰はシャレにならないので全力で謝った。

 これから天使様呼びは心の中でだけにしておこう。

 

「まったくひよりはいつも――!!」

「わっ!?」

 

 一瞬の出来事だった。ちょっとだけ怒った顔をしていた凜ちゃんが急に真顔になって私の手をグッと素早く引っ張る。

 

 ――ブオオオン!!

 

 ふわりと優しく抱き寄せられた次の瞬間、私のすぐ後ろを暴走気味な一台の車が勢いよく通り過ぎていった。

 

「――」

 

 真剣な表情の彼女と至近距離で目が合い、一瞬息が止まる。

 美しく凛々しい天使が私を心配そうに見つめていた。

 

「――ったく、危ない車だなあ。ひより平気? 怪我してない?」

「あ……う、うん」

 

 遅れてブワッと急激な体温の上昇がやってくる。

 バクバクと激しく鼓動する心臓の音に気づかれないよう、私はできるだけ平静を装って返事をした。

 

 どうしよう、不意打ちすぎて顔の熱が全然引かない。こんなのずるいよ。

 

「ん? 少し顔が――」

 

 再び顔が近付きそうになり、私は慌てて彼女から離れた。

 

「だ、だだだだ大丈夫!! この通り怪我一つないから!」

「そう? ならいいけど何かあったらすぐに言ってね」

「……うん」

 

 怪訝そうな顔をしながらも彼女はそれ以上何も聞かず、静かに私の左手をとって歩き出した。

 こういう時、彼女は距離の取り方が絶妙だ。踏み込みすぎず、かといって放り出すこともせず、相手の心の機微を的確に読み取って、それに合わせた対応をしてくれる。

 ……あっち方面には未だに疎いけど、それもまたある意味彼女らしくて魅力的だというかなんというか……。

 

うぁー……」

 

 色々な感情が渋滞を起こして唸る私を見てクスクス笑う彼女。それが余計に恥ずかしくて、顔がさらに暑くなる。

 

「ふふっ。珍しいね、ひよりがそんな変な顔をするなんて」

「えっ、わ、私今どんな顔してるの?」

「さあ?」

「いじわる……」

 

 私だけが余裕を無くしている状況になんだか悔しくなって彼女を睨むけど楽しげにからかうような笑みが返ってくるだけだった。これじゃあいつもと立場が逆だ。

 たまにいじわるなそういうところも好きなんだけど……好きなんだけども!

 

「むうううーー!」

「どうどう、落ち着いて。ね」

 

 小さな子をあやすような慈しみのこもった声。彼女に笑いながらぽんぽんと頭を数回撫でられる。

 

「むう……」

 

 たったそれだけで私はふにゃりと全身の力が抜けてしまう。あれ? 私ってばちょろすぎでは? でも実際耐えられないから負けるしかないのだ。やっぱり凜ちゃんはずるい。

 

 結局この日は本部に着くまで彼女から小さな子供扱いをされたまま手を引かれて歩いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ――きっとこの先、こんなにも私の心を振り回す人はあなた以外に現れない。

 

 あなたには常に私を見つめて、私の髪や頬を撫でて、抱き締めながら、私の名前を呼んでほしい。

 あなたに対してはいつだって求めたくなってしまう。身も心も委ねてしまいたくなる。

 

 絶対に嫌われたくないから好きになってもらえるように頑張り続けるし、そのために醜い願望には蓋をして我慢だってする。

 

 ……本当は、誰も知らない場所で頑丈な檻の中にあなたを閉じ込めて一生守り続けたいと思うけれど、あなたはきっとそれを許さないだろうから。

 

 ねえ私の天使様(凜ちゃん)。あなたに救われたあの日から、私は永遠にあなたを一番に愛し続けると誓ったんだ。

 

 だから――死がふたりを分かつまで、私たちはずっとずっとずうーっと一緒だよ。

 

 

 

 

 

 

*1
例の大型犬の名前




ただ家に帰るだけなのに、こいつらまたいちゃついてるよ……

設定がごちゃごちゃしてきたので、まとめ用のページを作りました。
https://sites.google.com/view/tsmagicalgirl

愛の重い子大好き。


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