運命/世界の引き金 (アルピ交通事務局)
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運命の日

テイルズもポケモンも筆進まず、設定だけ固まってたワールドトリガー書いちゃった。許せ。


 ワールドトリガー

 

 週刊少年ジャンプ及びジャンプスクエアで連載中の人気漫画

 28万人が住む三門市に、ある日突然異世界への(ゲート)が開いた。

 門からは近界民(ネイバー)と呼ばれる怪物が現れ、自衛隊の兵器が効かない怪物達の侵攻に恐怖したが、謎の一団が現れ近界民を撃退する。界境防衛機関(ボーダー)を名乗り、近界民に対する防衛体制を整えた。結果、依然として門からは近界民が出現するにも関わらず、三門市の人々は今日も普通の生活を続けていた。

 

 防衛体制を整えたボーダーは三門市に色々とやった。

 地球のあらゆるところから出てくる近界民を三門市の一部の区域にのみ出現するように誘導する装置を作り、三門市を戦場に変えた。言い方は悪いかもしれないが、やっていることは戦争だ。

 否定的な考えはあまりしたくは無いけれども、この世界を侵略もとい資源を奪いに来る奴等と戦争をしており、主な戦闘員は中学生から大学生。諸事情で若い人たちが戦っており、メディア方面には正義の味方とか色々とやっているが時折狂気を感じる。

 

「そろそろ時間か……時差ボケか」

 

 ボーダーが立入を禁止にしている区域の手前で待ち人を待つ。

 今日の夜にある人物が来ると僕とは別の転生者が連絡をくれており、待ち合わせをしている。

 僕が早く来すぎたのか、待ち合わせの時間になったがその人物の姿が見えない。ガセネタ……を掴まされた可能性はない。そもそもでする必要が無い。

 

「すみません」

 

 10分程待っていると白髪頭の小さな男の子が僕に声をかけてきた。

 

「あなたがリョーガですか?」

 

「ああ、僕が龍我だが……下の名前で呼ぶのはやめてくれ。あんまり好きじゃないんだ」

 

「じゃあ、なんて呼べばいい?」

 

「コシマエで頼む……さっさとこの場所から逃げるぞ。余計なのが来るとややこしい」

 

 ワールドトリガーの主人公の1人、空閑遊真とのコンタクトを果たした。

 下の名前で呼ばれるのはあんまり好きじゃないので愛称を教えると納得してくれる遊真。

 

「僕の事をなんて聞かされてるかな?」

 

 今日、空閑遊真が地球にやってくるから迎えに行って下さい。

 僕は別の転生者にそう頼まれたのでやって来たのだが、なにかをしてくれと具体的な事を言われていない。

 彼がこの世界でなにかをしたいのならばやり方を教えるけど、それだけだ。

 

「いざという時には頼れるけども、基本的には頼るなって言われた」

 

「成る程……他は?」

 

「この紙に書いてある事を手伝ってくれって」

 

 遊真から封筒を貰ったので開けて内容を確認する。

 遊真が此方の世界に住むにあたっての必要な手続き、遊真は僕と同じ15歳で義務教育の過程にいる。なので何処かの学校に行っておかなければおかしく、住所不定なのも色々とめんどくさい。

 

「よし、じゃあ歩きながら説明をするね……理解しておかないとややこしいから分からなければ聞いて良いし最悪録音もしてくれ」

 

「うむ、出来るだけ簡単に頼む」

 

 立入禁止区域から離れながら、遊真が今からすることを話す。

 僕と同じ年齢だから学校に通わないといけない。住むところを用意しておかなければならない。

 

「他にも色々とあるけど、1つだけ絶対にこれはして欲しいってのはあるよ」

 

「まだなんかあんの?」

 

「簡単だよ……こっちの世界の住人の友達を作ることだよ」

 

「……それなら簡単そうだな」

 

 ニヤリと笑う遊真。

 僕は万が一という時の存在であり、基本的には頼ってはいけない。余程の緊急事態でなければ僕は動かない。

 

「先ずは、今までの経歴の偽造と学校に編入か……保護者枠をどうしよう」

 

『それならば問題はない』

 

 なにをするにしても成人している大人の力が必要だ。

 だけど、僕も遊真も15で大人じゃない。どうしたものかと思っていると遊真が左手の人差し指につけている指輪からニュイッと管が伸びる。

 

「なにか方法でもあるのか?」

 

『私について驚かないのだな』

 

「一応、色々と聞いてるし知っているんだ」

 

 遊真の指輪から出てきたのはレプリカ。

 遊真の友達兼相棒で、解析、分析、ハッキング、その他色々な事が出来る炊飯器みたいな見た目からは思えないハイスペックな奴だ。原作では暫くはお別れだが、まだお別れしていないので此処にいる。

 

「……」

 

「ん、どうした?」

 

「いや、言ってた事がホントだったんだなって」

 

「まぁ、僕の唯一の利点みたいなものだからね」

 

 僕との会話からあることに気付く遊真。

 事前にその事について聞いていたが、実際に目の当たりにしてみると違和感を感じるみたいだ。

 そのせいか少しだけ僕に対する警戒心を強めている……ぶっちゃけ君が全力を出したとしても、僕の方が強いからそんなに警戒をしなくてもいいんだけどね。

 

「じゃあ、先ずは住むところの確保だね」

 

「おれとしてはその辺でも問題はないんだが」

 

「ここはそういう世界じゃないよ、郷に入っては郷に従え。この世界に足を踏み入れるならそれなりに筋を通さないと」

 

「ルールは人を守るためにあるものだろ?」

 

「逆だよ。人がルールを守ることで均衡と調和が取れるんだ。1つのことを大勢が守れば意思の統制が取れるでしょ?」

 

「成る程、そういう考え方もあるのか」

 

 ルールは皆で守ることで意思の統制が取れる。

 言い方は酷いかもしれないけど、言っていること事態は間違っているとは思っていない。現に遊真も納得はしてくれる。

 

『少しいいかね』

 

 市街地に向かっていると遊真の指についている黒い指輪からニュイっと黒い炊飯器の様な物が出現をする。

 

「君がレプリカだね」

 

『ああ、そうだ』

 

 こいつの名前はレプリカ。

 トリオンと言われるワールドトリガーの世界独自のエネルギーで出来たトリオン兵の一種で、遊真のお目付け役。

 炊飯器の様な見た目からは全く想像できない高性能な能力を持っておりハッキングなんかもお手の物らしい。

 

「僕になにかを聞きたいのかい?」

 

『この世界の医療技術はトリガーを用いた物ではない。もし体の損傷が激しい人がいたとして、この世界の医療技術で何処まで治せる?』

 

「う~ん、結構難しい話だね」

 

 僕は転生者になるために地獄で訓練をした。一般教養からマニアックな知識まで学んだけれども、医学はあまり学んでいない。ここで適当な事を答えるのは任された身としてはいけないことだ。

 

「トリガーを用いない医療技術は中々の物らしいけど四肢が損傷してたら義足とかを付けないとダメだよ……四肢の損傷をどうにかしたいなら、それこそ魔法みたいな力に頼らないとね」

 

「魔法か……」

 

 ジッと僕を見つめる遊真とレプリカ。

 僕がどういった存在なのか知っているので、僕の返答は完全に治せるとも治すことが不可能とも取れる。とはいえだ

 

「僕に頼っても、僕には無理だよ」

 

 四肢の損傷をどうにかする方法を知っていたとして、それを実行出来るかどうかは別の話だ。

 7人にいる転生者の中で序列7位の僕が出来ることなんて基本的には戦ったりすることで人を治すことは出来ない。そういうのは序列5位の深雪が出来る……かもしれないことだ。

 

「レプリカ、おれ達が此方の世界に来たのはコシマエ達に頼る為じゃない」

 

 本来の目的は別にある。

 遊真はレプリカにこの話はこれ以上はしないと終わり、次になにをすべきかと考えていると遊真の腹が鳴った。

 

「こっちの世界は飯が美味いから、楽しみにしとけ」

 

 難しい話をするのは得意じゃないけど、美味しい話をするのは得意だ。

 腹を鳴らせた遊真は繁華街に目を輝かせて腹を鳴らす。向こうの世界はあんまり飯が美味しくない。やっぱり地球の飯が1番である。

 

 

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「くがゆうまです!」

 

 翌日、三門市立第三中学校3年3組に遊真が転校をしてきた。

 今の今まで学校に通っていなかったので転校と呼んでいいものか分からない。編入した方が正しいのかもしれない。

 とはいえ、近界出身だと言えば学校どころか世間が騒ぎだす。今まで地味めな国に居たとか言う設定にはなっている筈だろう。

 

「空閑くんは……越前くんの隣の席に座ってください」

 

「越前は僕だよ」

 

 まさかの隣の席が空席だったので、隣の席になると思わなかった。

 手を上げて此処だよと教えるとトコトコと遊真は歩いてくる……。

 

「はじめまして、僕は越前龍我。気軽にコシマエと呼んでくれよ」

 

「はじめまして……くがゆうまです」

 

 互いに互いの顔は昨日知っている。けど、知らないフリをしないといけない。

 初対面だと挨拶をすると遊真は本当は知っているだろうと言いたげな間を開けて挨拶をしてくる。あくまでも僕とは初対面、自分が通っている学校のクラスメートだという設定は貫かなければならない。

 

「先生、そいつ指輪をしてますよ」

 

 学校では静かにしていたいが、そう上手くはいかない。

 クラスの阿呆が遊真の左手の人差し指についている指輪について指摘をし、副担任が没収をしようとするが親の形見ですと強くいい、冴えないが多分メガネを外せばイケメンの乙女ゲー真っ青な主人公、三雲修が事情があるからと先生の間に入った。

 

「ありがとう、メガネくん」

 

 助けてくれたことに礼を言う遊真。そう、その勢いでお友だちになるんだ。

 修は別にと素っ気ない感じで返事をしており、そのまま授業は始まるのだが空閑は微動だにしない。

 

「遊真、分からない文字があるのか?」

 

 あくまでも海外生活が長かった帰国子女的な設定の遊真。

 今まで学校にすら通ったことはなく、近界育ちであるので勉強らしい勉強はしてこなかった。

 

「いや、それどころかさっぱり分からん」

 

 公式設定でぶっちぎりのお馬鹿(成績)の遊真。中学三年の受験シーズン真っ只中なこの時期の勉強は辛すぎる。

 出ている単語が何時使うんだと疑問視する遊真だが、勉強なんて大抵使わないものだらけなんだぞ。特に中学三年の勉強なんて殆ど社会で使わない学者とかの専門職の人とかしか使わなそうなところばかり。

 

「まぁ、世界史とかの歴史なら聞いてくれよ」

 

 転生特典の影響で嫌でもその手の知識が深まる。

 休み時間に不良が絡んできたりもしたけど、見事にやり返して撃退した遊真。カッコ良かったが、その後の授業でも惨敗で色々と見るに耐えない。僕、結構な回数転生をしてるけど中々に頭が悪いな。地頭はいい筈なのに。

 

「お前、ああ言うのはよくないぞ」

 

「なんで?」

 

「やり返したら問題が更にややこしくなる。特にあそこまで恥をかかせたら、仕返しされる」

 

「修の言っていることは正しいぞ、遊真……とはいえ、あれはあれでスカッとしたけどな」

 

 暮らすのDQN、やり返されたの思い出すと本当に笑える。

 しかし、あれだな。素っ気ない初期修だが秒で遊真とコミュニケーションが取れてるな。

 

「越前、笑ってる場合じゃないだろう」

 

「そうは言うがな、あのままだと一方的にやられてただけだぞ」

 

「コシマエの言うとおりだ、メガネくん。ああいうのはやり返しとかないと調子に乗るだけだ」

 

 DQN、叩ける内に叩いておく。遊真の言っていることにも一理あるのでなんとも言えない修。

 さっさと帰るかと校門に向かっているとクラスの不良どもが僕達の前にやってくる。

 

「よう、チビ。ちょっと面貸せよ」

 

「嫌でも連れてくけどね」

 

 ひーふーみーよー……おぉ、遊真にやり返された不良がお礼参りに8人になって来たよ。

 

「ほう……いいよ」

 

「お前は帰ってメガネでもしまってろ」

 

「待て……空閑を離せ。大人数で報復なんてこの僕が」

 

「アトミックファイアーブレード!!」

 

「ぐふぉ!?」

 

 はい、もう無理です。

 出来る限り原作通りにと思っていたけども、この不良は腐った蜜柑の扱いであり我慢の限界を迎えた。いや、僕って割と短期なんだよな。

 

「越前!?」

 

「修……覚えておいた方がいい。喧嘩するのが決まったなら口よりも手を出すと」

 

「おぉ、確かにそれはそうだな」

 

 僕の言葉に納得する遊真。

 このまま喧嘩になるのは目に見えていたので、掛かってこいと軽く挑発をすると目に見えて興奮し、怒る。

 

「お前等、やれ!!」

 

「やれやれ……相手は見ておいた方がいいぞ」

 

 伊達に何回もバトル系の世界に転生していない。

 俺に襲いかかってくる不良を軽く受け流して転ばせる。

 

「殴ると後々、面倒になるからコカせ」

 

「了解」

 

 8人ぐらいいる不良は一気に挑んでくるが僕と遊真には敵わない。

 殴るとややこしくなるので襲いかかってきたところを的確に転ばせる事でこいつには勝てないと思わせる。

 

「く、くそ……覚えてやがれよ!!」

 

 雑魚をボコボコにした後は気持ちがいい。不良は敵わないと思い知ったのか逃げ去っていった……やっべ、どうしよう。

 本来ならここで立入禁止区域まで遊真と共に連れていかれてボコられてトリオン兵が出てきたりするんだが、その展開を潰してしまった。

 

「あいつら、まさか……」

 

「どうしたのメガネくん?」

 

「いや、警戒区域に向かったんじゃ」

 

「ん~それっぽい可能性は高いね。此処等で遊真を人知れず締め上げるだったら、警戒区域が一番だし」

 

 逃げた先を予測する修。

 バタフライエフェクトの様な事は起きない……何だかんだで未来を掴み取っている主人公補正がありまくりだ。

 逃げた方角が警戒区域だと分かると修は追い掛けに行く。遊真は追いかけなくてもいいのに、なんで追いかけるんだと問うと答えが帰って来た。

 

「僕がそうすべきだと思ったからだ!!」

 

 まさかのここでその台詞が出た。

 その台詞に心が動かされたのか遊真もついていき、暫くすると近界民が出現する警戒音が鳴った。

 

『コシマエ』

 

「やぁ、レプリカ……どうやら面白い事になったみたいだね」

 

 原作通りになったようで遊真が向こうの世から来た人間だと知られた。

 転校して早々にバレるのは流石に予想外だったようで、ちびレプリカがやってきた。

 

『笑い事ではない』

 

「いいや、笑い事さ……だって、遊真は自分の意思で修を追いかけてこうなっただろう」

 

『!』

 

 空閑遊真が三雲修に近界から来たことがバレたのは自分からバラしたからだが、そのきっかけは自分から作ったものだ。

 原作的な事を除いても空閑遊真と三雲修は運命的な出会いをする運命だった……修は劉備の様な運を持ち合わせているんだよ。

 

「自分がそうすべきと思ったのなら、それがこの結果さ……なに悪く受け止めるよりも良い方に受け止めようじゃないか。修と言う人間はある意味口先だけの人間だけど、そうならない様になにかと必死でね……少なくとも話が通じる人間だ」

 

『しかし……』

 

「レプリカ、君にも意思の様な物はあるんだ。僕にどうすべきかを聞くよりも一先ずは、見ておいた方がいい……まだ初日で三雲修がどんな人か分かっていないだろう?」

 

 レプリカは修の事を完全に信用しきっていない。

 出会って間もない人間を信頼や信用しろと言われても無理ならば見ればいい……きっとそれは面白いものが見れる。

 

「僕は君達に万が一が起きた時に協力する協力者であって完全な味方じゃない。そこは履き違えないでほしい」

 

『……そうか』

 

「なに安心してくれ。もしボーダーと全面戦争になったとしても勝つ自信はある。いや、勝つ自信しかない」

 

 伊達に長い間、転生者はやっていないんだ。

 原作通りならばトップチームが不在なボーダー。転生特典を持っていてオレTueeeeが出来る僕に死角は無い。

 サイドエフェクト無効化サイドエフェクトを持っている僕に実力派エリートが居ようが問題ナッシング。

 

「さて、出来れば僕の出番が無ければいいんだけど……そうはいかないのが現実なんだよな」

 

 明日、学校が物理的に壊されるんだよなぁ。




カバー裏風紹介


イケメソ コシマエ


転生する度にcv宮野真守キャラになる転生者。
そこそこな転生者で同期には転生する度に諏訪部キャラに転生する奴がいたりする。
ワールドトリガーの世界では主人公達と同級生だが、見た目が越前リョーガであり初対面の人に歳上だと思われたりするのが悩みな残念なイケメソ。


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襲来、モールモッド

「すまん、バレた」

 

「いやいや、気にしてないよ」

 

「な!?」

 

 翌日の事、何時も通り学校に登校すると遊真が僕に正体がバレた事を堂々と修の真横で謝る。

 彼が初日で近界からやってきた事がバレるのは想定内の事で怒る要素は何処にもない。

 

「どういうことだ空閑!?」

 

「出来れば、ここで堂々と言うのはやめてほしかったけどね」

 

 まだ色々と分かっていない修は僕が遊真が向こうの住人だと知っていることを問い詰める。

 もっとこうカッコいいところで僕がトリガーオンして正体をバラしたかったが仕方がない事だ。興奮をしている修に取りあえず深呼吸をして呼吸を整えてもらい、真剣な顔になる。

 

「……越前もボーダー隊員なのか?」

 

「おいおい、ボーダー隊員は公式サイトで名前が公表される。もしそうだったら三好がウザいぐらいに絡んでくるだろ?」

 

 最もらしい疑問をぶつけるので最もらしい答えで返す。

 修はボーダーの仕組みを思い出したのか確かにと納得を見せるが僕がボーダー隊員じゃないならばと更なる疑問を持つ。

 

「僕はボーダー関係者でもなんでもない、でも近界民関係は色々とあれこれあるだけの人間だ」

 

「色々とあれこれ?それっていったい……」

 

「悪いけど、今のところ僕の口から語れるのはこれぐらいだ。僕は所謂近界民じゃないから気にしないでいいよ。今、君が興味を持っているのは僕じゃなくて遊真だろ?」

 

 あれやこれやと聞いてきそうなので釘を刺しておく。

 あまりベラベラと語ると上の人が色々とうるさい、立場的にしたっぱの僕にはなにかと辛い話だ。

 僕の事も気になるだろうけど、遊真のことはもっと気になる修は僕が答えないと分かると興味の視線は遊真に向いた。

 

「修、色々と混乱しているから先ずは一歩ずつ歩み寄る事が大切だ。遊真も僕も基本的に喧嘩を売ってこない限りはなにもしない話し合いが通じる相手なんだ」

 

「そうそう……オサム、おれの事が気になるなら監視でもなんでもしてくれよ。そっちの方がいいし」

 

「……そう、か……それもそうだな」

 

 1日で色々な事を知った上で更に情報が入ってきて色々とややこしくなり、頭の処理が追い付かなかった修。

 僕や遊真の言葉をきっかけに段々と頭に上っていた血や興奮が納まっていき、冷静さを取り戻していく。しかし、僕は質問に答えない事を言っているので、答えてくれない人よりも答えてくれる人の方にと無意識に遊真に顔を向ける。

 

「空閑は越前と知り合いだったのか?」

 

「こっちの世界に来たら取りあえず会うんだって言われてただけだ」

 

「それも親父さんに?」

 

「いや、違う。こっちの世界に来るのを手伝ってくれた人が居るんだよ……あ、その人はこっちの世界にやって来てないから。今回、来たのはおれだけから」

 

 余計な事は喋らず修の知りたいことを教えてくれる遊真。

 だったら越前はいったいと謎が謎を深めるように、疑問が疑問を増やしていく。

 

「そろそろ教室だし、一旦お開きにした方がいい」

 

 近界民関係の事を色々と聞いているが、もうすぐ教室につく。

 遊真が近界民で修がボーダー隊員だとクラスメートに知られるのはまずいと会話をするのはここまでにし授業を受けるのだが、どうしても修は遊真の事を気にしてしまう。

 

「!」

 

 気にするなと言わないが、視線で見え見えだ。

 こちらを見てくる修に答えるかのように遊真は視線を返すとニヤリと笑う。

 

「まだまだですな」

 

「空閑、まだまだならこの問題の答えが分かるか?」

 

「どんまい」

 

 調子に乗っている瞬間こそ最も油断している時である。

 遊真は余裕があるなと先生に見られてしまい、黒板に書いてある問題の答えを聞かれて冷や汗を流すので助け船を入れてやろうかと思ったが、これも学生をやる上では大事なことなので助けを出さない。

 

「……3番で」

 

「違う、1番だ。受験で忙しい時期なんだからこれぐらいは分かってもらいたいものだ」

 

 遊真の学力を期待してはいけない。

 修の視線も気付かれていた様でこの後、修も当てられるのだが伊達にメガネじゃない。難なく答える。

 

「学校ってのは案外窮屈なところだな」

 

 そして昼飯。

 漫画以外はありえない屋上で僕と遊真と修は昼御飯を食べる。

 

「お前、学校をなんだと思ってるんだ?」

 

「皆が集まって勉強をするところって聞いてた……まさかこんな高度な勉強をしているとは」

 

 残念だな、遊真。

 ここから更に高校生で訳が分からなくなる感じの勉強をさせられるんだ。僕的には中卒でも問題は無いけれど親とか世間の目もあるし本当にめんどくさいと思う。

 

「向こうの世界には学校は無いのか?」

 

「無いな、勉強を教えるって言っても簡単な文字の読み書きぐらいでこんな難しいのは専門家でもやってない」

 

「来年になると更に難しくなる……ん?」

 

「おめーら、誰に断って屋上を使ってんだ?あ?」

 

 昨日のバカがやって来て騒ぎ出す。

 昨日、転ばせるだけ転ばせてやったのに次の日でこれとは三門市って治安が悪すぎないだろうか?多分、不良とかガラが悪い奴でランキング作ったら上位に食い込むね。

 

「おい、なにバカな事をやってるんだ」

 

「お前は!」

 

 ボーダーに逃げて以降の事は記憶を消されているが、それより前の事は覚えている。

 僕にボコボコにされた事で苦手意識を持った不良どもは嫌そうな顔をしており一歩引く。

 

「全く、受験シーズン真っ只中なんだから問題を起こすなよ……ほら、飯食い終わってる奴等はさっさと教室に戻れ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「礼を言われることなんてしてねえよ」

 

 ぞろぞろと戻っていく後輩および同学年の生徒達。

 僕の事をカッコいいと思ってくれる人も中には居るのだが、あまり表面だけ見てくれのもそれはそれで困っちゃう。

 

「まぁ、そういうことだからアホみたいな真似すんなよ……いや、アホだったか。修、遊真、いこうぜ」

 

「あ、うん」

 

「ごちそうさまでした」

 

 昼御飯を食べ終えていた二人は僕と一緒に屋上を離れ、教室に戻る。

 その間に僕は二人と離れ、下駄箱に向かいコッソリと持ってきたトリオン兵を探知するレーダーを取り出す。

 

「やれやれ……人海戦術じゃないと無理っぽいか」

 

 レーダーにはこれでもかと言うぐらいにトリオン兵の反応が映っていた。

 この後、それはそれは面倒な厄介事が巻き起こるので出来たら回避と思っていたけども思ったよりもトリオン兵が多い。

 僕のトリガー(と言う事になっている転生特典)、本当に近所迷惑な事しか出来ないのが多くて派手だからどうしようもない。

 

『緊急警報!!緊急警報!!』

 

 どうしたものかと頭を悩ませていると事態は深刻な所に進んでいく。出来れば聞きたくはなかった警報音が鳴り響くと学校全体がざわめき出す。学校のグラウンドに出てくる門はそれだけで脅威的なものなのだ。近代兵器通じないんだよね。

 

『門が市街地に発生します!市民の皆様は直ちに避難をしてください!繰り返します!市民の皆様は直ちに避難をしてください!!』

 

「無責任な事を言いやがる」

 

 トリオン兵であるモールモッドが2体出現し、学校に乗り込んでくる。

 学校の皆は急いで避難をしようとするがモールモッドが道を阻んで来ており避難が上手くいかない。

 

「越前!」

 

 大変だなと他人事の様に見ていると校舎から慌てて飛び出てきた修と遊真。

 僕が居たことに大層驚いた修は慌てている。

 

「急いで避難を、避難訓練通りにすれば、でも南館が」

 

「こらこら、なに言ってるかさっぱりだぞ」

 

 緊急事態故に慌てている修。

 原作知識のある僕だからこそ、状況を理解することが出来ているものの一般人とか原作知識が無い人ならば訳が分からない。

 修自身も興奮をしているのを自覚していたのか、僕が落ち着かせるとすごく冷静に焦り出す。

 

近界民(ネイバー)が学校に出現した」

 

「うんうん」

 

「校舎の南館にいた生徒達が避難に遅れている。僕は今から南館に向かうから越前は空閑と一緒に避難をしてくれ」

 

 トリガーを起動し全身白いジャージみたいな姿に換装する修。

 危機的状況でも僕や遊真を頼ろうとはしないとは……全く、この死にたがり屋め。

 

「オサム、モールモッドは戦闘用のトリオン兵だ。昨日のバムスターとは違う。オサムの腕じゃ死ぬぞ」

 

「おや、修はそこまで弱いのか?」

 

「弱っちいよ」

 

 修が出撃しようとするので忠告を入れる遊真は物凄くいい奴だ。

 ハッキリと言われたことに修は若干ショックを受けるものの、今の修にはちょうどいい薬なのでそれ以上は深堀はしない。

 

「だとしても……勝ち目が薄いからって逃げる理由にはならない」

 

 そんな事を言いながらも修の手は震えている。

 自分が弱いことをハッキリと言われても前に進もうとする姿はなんともエモいと言うか尊いね。

 

「空閑は越前と一緒に避難をしてくれ……僕は助けにいく」

 

 そう言うと修は校舎の南館に向かって突っ走っていく。

 

「アイツ、弱いのに……弱いのに……」

 

「ん~心がモワモワするか?」

 

 修は自分自身が弱いのを理解しており、その事を踏まえた上で忠告をした。

 それなのに修は飛び出していった。困っている人を見過ごせない秩序・善な人間に出会うのははじめてなのか困惑をしている。

 

「なぁ、コシマエ。オサムの事を助けられないか?」

 

「ん~そんな事を聞いてくるなら助けてあげなよ」

 

 色々と心の中にモヤモヤがあるものの修の事を既に気に入っている遊真。

 助ける方法を無いかと聞いてくるが、そんな事を聞くぐらいならば助けにいってあげればいいんだ。

 

「おれもなんとかしてやりたいけど、あんま目立つとお互いの為にならないだろ?」

 

 ボーダー隊員である修が近界からやってきた遊真を匿っていた。

 この事はボーダーの本部的にも宜しくないことで、近界民だとわかり目立つと揉める遊真も匿っていた修も下手すりゃスクラップだ。

 

『コシマエ』

 

「なんだい?」

 

 ニュイと遊真の指輪から出てきたね、レプリカ。

 

『トリガーを使えばトリオンの反応が残る。ユーマは昨日、トリガーを使用しており恐らくは痕跡を残している。ユーマの存在がボーダーに今知られるのは非常にまずい。オサムも何度もその事について釘を刺している』

 

「そうだね……ボーダー隊員には話が通じなさそうなのいるからね」

 

『君もトリガーを持っているのならば、どうか私達に代わって彼を助けてくれないか?』

 

 最も合理的な判断をくだすレプリカ。

 確かに僕が出ていけば、モールモッドなんて数秒どころか刹那的な速度で斬り殺せる。

 

「僕のトリガーは早々に使うわけにはいかないよ。緊急事態でも無い限りね」

 

『今がその緊急事態だと私は思うが?』

 

「本当に緊急事態だったらモールモッド2体で済むと思うかい?」

 

 今現在、緊急事態が起きているがこれは序章に過ぎない。

 本気で戦争を仕掛けて攻め入るならばもっともっとスゴいのを送ってくる。最近のトリガーって本当にスゴいんだよ。

 

『この侵攻には裏があると言うのか?』

 

「情報収集程度の裏があると思っているよ……さて、本題に戻るとして僕は力を貸すことは出来ない。決して意地悪とか修が大嫌いと言った私情を交えてはいない……僕が戦えば校舎はまず間違いなく倒壊する。なにせ僕達はこちらの世界の人間の代表みたいなものだからね」

 

 僕は7人いる転生者の中で最も下に位置する人間だ。

 しかし、それでも原作に出てくるどんな人にも負けない自信がある。

 

「君は知っているでしょ、江戸ベガスミッドを。僕はあれを破壊することが出来るとんでもない化け物なんだよ」

 

「あのワケわからん建造物をか!?」

 

「そうそう……とまぁ、御託を並べては見たけどもやれることはやってみる。無理だったら君に任せるよ」

 

 出来れば力を貸してやりたいけど、僕も近界の一国に仕える人間。

 大人としてなんて言わないけれども、ある程度の責務はあるので姿が露見していない限りはポンポンと動くわけにはいかない。

 とはいえこのまま修を見捨てるのも僕的には嫌なのでやれることはやってみようとポケットに入れているトリガー(と言う名の転生特典)を起動すると三門第三中学の制服から黒いスーツ姿に変化しており、左手には刀を握っていた……。

 

「なんかあんまパッとしないトリオン体だな」

 

 他の転生者のトリオン体を見たことがあるのか、驚かない。

 

「言っておくけどね、他の人達は色々と濃すぎるだけで僕が普通なんだよ」

 

「む……そういうものなのか?」

 

「そういうもの……とはいえだ……他のクラスメートにこの姿を見られるとややこしくなるのは事実。鬼神丸国重を貸すから、遊真が代わりに倒してくれないか?」

 

 僕が行ってパパっと倒しても問題は無い。

 それでもいいんだけど、それだと色々と原作的なこともあるし僕が目立つ……本格的に動いていいのはアフトクラトルが攻めてきた時からと決まっている。と言うか僕の仕事ってアフトクラトルのジジイをぶっ倒せって言うとんでもない命令なんだよね。

 

「この剣、トリオン兵を斬れるの?」

 

 とある英雄の姿を模したトリオン体に換装した僕は遊真に刀を貸す。

 本物の刀と同じ質量なので大丈夫なのかと心配してくれるが、問題は無いはずだ。

 

「斬れるし、無理なら無理で修からトリガーパクって起動すればどうにかなる」

 

「成る程、その手があったか」

 

 原作ならそういった感じで遊真が修の事を助けていた。

 既に修の事を気に入っている遊真は多分、なんの迷いもなく起動するだろう。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 鬼神丸国重を持った遊真は校舎の南館に向かって走り出す。

 これでもう安心だ。元の姿に戻りたいけど、戻ってしまえば遊真に渡した鬼神丸国重が無くなってしまうので近くの木影に寄り添う。

 

「まぁ、取りあえずこれで三雲修に貸しを作ることは出来た……女装でもしてもらおう」

 

 僕の見立てが間違いなければ、修の女装は物凄く似合う。

 母と言う名の年齢詐称な姉の容姿があれでそれを色濃く受け継いでおり、メガネを外すことでイケメンランキングが上昇する。ちょっとおっぱいを盛りロングヘアーになるだけで女子と思わせる姿になるのだから、一回ぐらいは女装させたい。

 そもそも彼って乙女ゲームの主人公みたいなものだろう。

 

「っと、連絡をしないと」

 

 修の女装も楽しみだが、僕も僕でやらないといけないことがある。

 近界民から侵攻があったと一応は上司になっている人に連絡を入れたりしつつ時間を潰そうとしていると、序列5位の転生者、蛇喰深雪から連絡が入る。

 

【木虎さんに正論をぶつけて笑顔を曇らせてください、お願いします】

 

「……ふぅ、全く深雪は本当に……なんてことを僕に頼みやがるんだ、こんちくしょう」

 

 これから起きる出来事を僕と深雪は知っており、そこにアンチ要素はそこそこある。

 そこを今から指摘してくれと頼んでくる深雪は中々に極悪非道な性格をしている……まぁ、だからこそ長い間転生者をやっていられるんだ。

 

「あ~辛い。僕って末端のパシリだから上の命令を聞かないといけない……いや、本当に辛いな~」

 

 今必死になってこっちに向かってきているボーダーの嵐山隊。

 その中の木虎ちゃんに色々と言わないといけないんだな、なんて残酷な事を僕はしなくちゃいけないんだろう。早くその時が来ないか楽しみすぎて思わず笑みがこぼれ落ちる。




言うまでもなく、主人公は変態です。

三雲修は乙女ゲームの主人公であると勝手に思い込んでる節があるので女装をさせたい(変態)


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見捨ててくれればよかった(愉悦)

「やぁやぁ、無事そうでなによりだ」

 

「越前、その姿は!?」

 

 やっぱり修の事が心配になった僕は修の様子を見に、戦場である南校舎にやってくる。

 トリオン体の換装は解けて元の姿に戻っている修はとある英雄の姿になっている僕の姿に驚く。

 

「なに、トリガーを使ってトリオン体に換装しただけだよ。君が変身だと思ってるやつを僕もしたんだ」

 

「越前もトリガーを……なんで持ってるんだ?」

 

「イギリスのとある場所で拾った」

 

「拾った!?」

 

「説明をすると色々と長いから、話す機会が来た時に思う存分話すよ。それよりも今は大丈夫か?」

 

 僕の転生特典やあれこれ説明するのはまたの機会だ。

 僕との無駄話で修の手助けに行くのに時間が掛かったか心配をしていたが怪我らしい怪我はしていない。

 

「大丈夫だ、空閑が助けてくれたお陰でなんとかなった」

 

「コシマエから貰った刀が役に立ったな」

 

 どやさと鬼神丸国重を掲げる遊真。黒いジャージ姿になっているということは修のトリガーをパクって使ったんだろう。

 やっぱり武器と言えば刀に限る。日本人云々を除いても、刀にはロマンが詰まっている事を再認識するとトリオン体を解除すると元の制服姿に戻り遊真の持っている鬼神丸国重は無くなる。

 

「お疲れ様って褒めたいんだけどね……どうもまだ事態は納まっていない」

 

「そうだ……皆、避難する事が出来たのか?」

 

『その事については心配は無いようだ。オサムが時間を稼いでくれたお陰で全員無事に避難することが出来た』

 

 1番の心配を解消するとホッとする修。

 怪我人がなくてなによりだが、事態は丸くは納まらない。

 

「僕と遊真は逃げ遅れた一般人と言うことにしておいてくれ……余計なのが来るから」

 

「コシマエ、なんでそんなニヤニヤしているんだ?」

 

 おっと、どうやら表情を隠すことが出来ていないようだ。

 修が僕達を救出した事で話は丸く納まり、それっぽい演出をする為に遊真に肩を貸す……因みにだが僕の容姿は越前リョーガであり身長が180ほどあるので、修を背負うことは出来ても肩を借りたり貸したりする事は出来ない。

 もうちょっと身長が低くてもいいんだよなと思う時が多々あるが転生する度に宮野真守キャラになる僕は高確率で高身長になるので諦めるしかない。

 

「……これは……」

 

「嵐山隊、現着しました」

 

 修と一緒に避難していた生徒達の所に戻って数分。

 ヒーローは遅れてやってくるなんて言うけれど、遅れてやってくるのはいけない……まぁ、性質上、ヒーローは悪が居てこそ成り立つ者だから仕方ないと言えば仕方ないな。

 

「遅れてすみません!負傷者は?」

 

 悲惨な状況を想定していた嵐山さん。

 思ったよりも悲惨な状況でなく、一先ずは状況の確認を急ぐと学校の保険医から全員が無事な報告を受けて安堵する。

 

「近界民がいたはずだが、いったい誰が……」

 

「ほら、オサム」

 

 今がヒーローになるチャンスだと後押しをする遊真。

 しかし、修の表情は優れない。それもその筈だ。修はボーダーの隊員ではあるものの、まだ訓練生である。訓練生はボーダーの基地でのみトリガーを起動する事を許されており、修はその事を分かった上でトリガーを起動した。

 遊真にその辺りの事を伝えて一歩前に出る修。怒られることを覚悟している顔になるのだが、肝心の嵐山隊の隊長である嵐山さんはすんなりとお礼を言った。

 

「なぁ、遊真」

 

「なんだ?」

 

「今からちょっと面白い事をするから協力してくれないか?」

 

「面白い事?」

 

「なに別に誰かを殴ったりしろとかそんなんじゃない。結果的には修を助ける行為だから、後、シンプルに面白い」

 

「面白いのか?」

 

「言い方を変えれば愉悦とも言う」

 

 本当はこういう事をする柄では無いけども、上からの命令なんだからするしかない。

 遊真は修を助けることならばと僕の頼みを引き受ける……好感度高くない?まだ出会って2日目だよね?なんなの修って、劉備の生まれ変わりかなんなのかな?

 

「彼がしたことは明確なルール違反です。違反者を褒めるような真似をしないでください」

 

 アホな事を考えていると、嵐山隊の木虎(でこっぱち)が修を褒め称えるのが気に食わないのか嵐山に注意する。

 

「確かにルール違反ではあるけれど、結果的にば市民の命を救ったわけだし……」

 

「人命を救ったのは評価します……けれど、彼をここで許せば他のC級隊員も同じ事を━━」

 

「三雲、次から俺達の事を見捨てて逃げてくれよ!!」

 

「越前!?」

 

 結果的に人の命を救われたから、それでいいとする嵐山さん。

 人の命は何よりも大事だが、それよりもルールとくだらない事を言うのであれば、それに乗っ取ってやってやろうじゃないか。

 

「三雲、なにに驚いてるんだ?要するにアレだろ?お前は俺達を見捨ててクラスの奴等と一緒に逃げておけば良かったんだ。そうだろ?」

 

「誰もそんな事は言っていないわよ!」

 

「ああ、言ってないね……だから、教えてくれよ。三雲はこの場合は俺や遊真を見捨てておけばよかったのか、あんた達を待っておけばいいのか、なにをすれば良かったのかを」

 

 僕の余計な一言で周りはざわめき出す。木虎の言っていることは間違いではない、しかし絶対に正しいと言うわけでもない。特にここにいる連中の殆どが修が時間を稼がなければ死んでいた……かもしれない。

 

「私達嵐山隊が到着するのを大人しく」

 

「おいおい、あんた達今になって到着したんだろ?」

 

 彼がやったことは間違っていると言いたげな木虎。

 ならば、答えを教えてくれと問い掛ければ自分達が来るのを待ってればいいと言うが、そんな甘い話が通じるわけがない。なにせ全速力でやってきて今、到着したと言う事実は変わらないのだから。

 

「それはっ……その」

 

「なぁ、皆、嵐山隊は今到着したんだ!!近界民が出てくるまで、どれだけの時間があった?僕は三雲に助けられてたから時間を測ってないが、どれくらいの時間が掛かった?」

 

 こんな事をしろと命令してくる深雪は本当に最悪な女である(愉悦)

 嵐山隊に背を向けて避難が完了して表に姿を出していた生徒達に演説の如く問い掛けると少しずつ表情が変わる。

 

「そうだ……私達、逃げ遅れて三雲先輩が来なかったら近界民に殺されてた!」

 

「避難訓練通りにやろうとしても、近界民がすぐ近くに現れたせいで地下のシェルターに避難出来なかった!!」

 

「ボーダーが門を誘導しているのに、こんなところに近界民が出るなんて聞いてないぞ!!」

 

 ボーダーが来てくれた事に対してホッとしていたが、僕の言葉で心動かされる学校の皆。修が助けてくれなければ今頃は死んでいた人達が居たのもまた事実。

 溜まっていた不安や不満をぶちまけられ、その怒りの矛先が向いているのが木虎であり、こんなことになるとは思ってもいなかったのか一歩、引いてしまう。

 

「後から来た癖にぶつぶつと文句を言う暇があるんだったら、さっさとおれ達を助けてくれよ」

 

「っ……」

 

 そして遊真がとどめを刺す。

 民衆に煽られて心が弱くなっていっている木虎にその言葉は効果は抜群でなにも言えない。

 

「取りあえず、状況の説明をこちらも求めたい。貴方達は街を守るのが仕事で門を誘導なんて迷惑な事をしているのに、警戒区域外のウチの学校に門が開いたことについてと三雲修の事については色々と文句を言ってやりたい……で、どういうことだ?」

 

「それは……」

 

「それは今、こちらの方でも調査中だよ」

 

 もう少し木虎をイジっておこうと思ったものの、キノコヘッドこと時枝が間に入る。

 流石に攻めすぎたが、これぐらいやってもバチは当たらないと僕はこの事については反省はしない。

 

「そうですか……ですが」

 

「この事についてはボーダー側に大きな不手際があった。三雲くんの賞罰に対して我々嵐山隊は尽力を尽くすつもりです」

 

「……抗議の文の1つや2つ、送らせてくださいね」

 

 ボーダーの顔でボーダー歴が長い時枝さん。

 色々と攻め立てようとするがその前にこちらの方が悪いことを認め、謝罪をしてきた上での修をフォローするとのこと。まぁ、それでも文句の一言ぐらい言っておこう。

 木虎が原因で燃え上がった熱も気付けば冷めていき、近界民を修が倒して後からやって来た嵐山隊が色々と言ってきたで終わった。

 

「越前、お前はなんてことをするんだ……」

 

 嵐山隊が帰ると何事も無かったかの様に授業は再開する。

 修は僕がボーダーに喧嘩を売ったことについて冷や汗を流している。

 

「なに……たまにはこういう事をしておかないと思ってね」

 

「越前くん、ボーダーに抗議文を出すんだよね?私も手伝おうか?」

 

「出来れば署名があればいいかな」

 

 なにはともあれクラスや学校の皆を修が助けたと言う事実は変わりはしない。

 日頃の行いがいいのがよく分かる。修がやった行いが悪いなら抗議すると言えば周りの皆はそれを手伝うと言ってくれている。そして何故か僕が抗議文を書くことになっている。

 いや、いいんだよ。木虎の表情を曇らせる事に成功していいものが見れてテンションが上がっているのでやってやろうじゃないか。

 

「本当は空閑が助けたのに、僕がやったことになっていて」

 

「いや、それは違うよ。遊真は確かに助けたけど、助けたのは修だけだ」

 

 自分がやったことじゃないのに、やったことにさせられている事に些か納得がいかない修。

 そもそもの話でそれは間違っている。遊真は助けたには助けたのだが、それは修ただ1人だ。

 

「おれが助けたのはオサムただ一人だ……おれが無理だって言ってるのに、突っ込んでそれで避難する時間を稼ぐことが出来たなら、おれの手柄でもなんでもない」

 

「でも、結果的に近界民を倒したのは僕じゃなくて空閑と越前じゃ」

 

「いやいや、僕はなにもしていないよ」

 

 割と今回はマジでなにもしていない。

 むしろ避難をせずに木影でボーッとしていただけで戦闘らしい戦闘はしていない。

 マジレスするとあの姿なら周りに迷惑をかけずにトリオン兵をシュパッと斬ることが出来ていたけど、姿を見られたり痕跡を残したりするとなにかとややこしいのでしなかった。

 修が一人で頑張ってくれたお陰で僕の存在が露見されることがなかったのでこれでも割と感謝をしている方だ。

 

「それでも心残りがあるのならば黙っている事が僕達へのお礼だ。僕も遊真も目立ちたくはない」

 

 語るだけがお礼じゃない、黙っている事もまた1つのお礼だ。

 修はなにか言いたそうだったが、一先ずの納得をしてくれてそれ以上なにかを言うことはなく、僕はゆっくりじっくりとボーダーに対する抗議文を書くことに集中が出来る。

 授業なんて聞いてれば大体分かるので適当に聞き流し、どういう感じの抗議文を書くかと考えていると授業は終わり、下校時刻になる。

 

「三雲くん、ボーダー本部に同行して貰うわ」

 

 原作とは異なりボーダーに対して厳しい目を向けられるようにした為に校門で堂々と立たず、修が校門から出てきたところを見計らってスッと出てきた木虎。

 修の同行云々を言っているけど、内心周りの視線にビクついている。周りもうわ、ボーダーの木虎だと若干だが嫌そうな視線を向ける……う~ん、面白い。

 

「わざわざ、そんな事をしなくても行けって言われたらオサムは行くのにご苦労だな」

 

「簡単にルールを破る人間を信頼できる?彼はただの訓練生、もう少し立場を理解した方がいいわ」

 

「そういう君は周りからの視線を気にした方がいいよ」

 

 今の尖った状態だと一言、一言がヘイトを集める。

 自尊心とかが強い奴が広報するのはどうかと思う……まぁ、僕みたいな変態が言うのもどうかと思うのだけど。

 

「…っ…」

 

 周りからの視線に気付かないフリをしていたのが僕の言葉で気付いてしまう。

 僕が色々と仕掛けていたせいでボーダーって大丈夫なのかと言う疑問視をされており、それらの視線が全て木虎に向けられる。広報でボーダーの顔だからその手の視線には馴れているだろうがさっきの今日なので心の傷は早々に回復しない。

 

「なんなのよ、貴方は……」

 

 何時もならワーキャー言われる側なだけになにかとナイーブな木虎。

 僕に若干だが八つ当たり気味で突っかかってくるところを見れば、大分傷心しているようだ……まぁ、僕の知ったことじゃない。

 

「僕がなにかって聞かれれば越前龍我としか答えようがない」

 

 修が逃げるわけないのにくだらない嫉妬でここまでやって来たのはスゴいけれども、僕に関しては語ることは特に無い。

 同じ転生者で序列3位の人が何処となくロクでなしの匂いがするとか酷いことを言うけれど、僕はロクでなしじゃない至って普通の凡庸型の転生者だ。

 

「じゃあ、また来週に……と言いたいけど、そう上手く行きそうにはないよね」

 

 出来ればこのまま被害者面をして修と一緒に基地手前まで同行してあげたいんだけど、案外僕も暇じゃない。

 遊真に修に万が一があったときはお願いと頼み込んで、ここで別れて家に向かうと家の前に顔が司波深雪、体が蛇喰夢子というなんともエロティックな女子高生が立っていた。

 

「おかえりなさい、どうでした?」

 

 彼女の名前は蛇喰深雪、僕と同じ転生者であり転生者の序列は5位の僕よりも上に位置する人間だ。

 転生者の先輩後輩で言えば同期にあたり、なにかと話が通じたり通じなかったり合ったり合わなかったりする。

 

「来て早々にそれを聞くのか?」

 

「当たり前じゃありませんか、その為に貴方に命令を出したのですよ」

 

 彼女が今日、僕の家にやって来た理由は至ってシンプルだ。

 先ほど、コッソリと撮影をしていた木虎が攻められまくる姿を見せてほしいと言うなんとも言えない理由でやって来た。この深雪と言う女、僕が言うのもなんだが結構酷い性格をしており、今回みたいに笑顔を曇らせているボーダー隊員の姿を見たいとか言い出す始末。

 立場上、下の僕は基本的には彼女の命令は逆らうことは出来ないので引き受けたが今回みたいなのは出来れば自分でどうにかしてほしい。

 

「どうと言われてもね……若干天狗になっている奴の鼻っ柱を民衆の力で叩き折るのは気持ちいいけど、覚えていけない快楽だよ」

 

 木虎の表情を思い出しただけで笑みが止まらない。

 あの攻められてることに馴れていない、自分の自尊心とかが制御できなくてつい言っちゃった一言でやらかした感じは見ている側には面白いけれど、あまり知ってはいけない味だ。美味しいけど食べてはいけない麻薬みたいなものだ。

 

「なにを言っているのですか?貴方は間違ったことは一言も言っていませんよ」

 

「正しいだけが正しいとは限らないでしょうが……もう何回も転生してるんだからそれぐらい分かるでしょうに」

 

「いいえ、私は理不尽な暴力は嫌いですけど正論をぶつけたり自業自得で自らで破滅フラグに行く人は大好きなのです……木虎さんは今回の件で終わりですが、まだまだ他にも笑顔を曇らせれる素質を持っている人達は沢山います」

 

 やっぱ、こいつとは合わないな。

 他の奴等は僕と深雪が似ているなんて言っているけども、似ていない。僕はエモかったりする笑顔を守りたかったりするが、深雪はエモい笑顔に正論と言う名の言葉の暴力をぶつけたりして曇らせたりする。

 正論をぶつけられて悩んでしまい苦しんでいて必死になってあがいている姿に興奮を覚えるどうしようのない変態だ。確かに笑顔が曇っている姿はいいものだけど、わざわざ曇らせるものじゃない。

 

「ああ、雨取さんに会ってあんな事やこんな事を言ってあげたい。考えるだけでゾクゾクします」

 

「お前、本当に勘弁してくれよ……」

 

 放置していたらなにかとんでもない事をやらかすクソアマであり、今もなんかアホな事を想像している。

 彼女のブレーキとなる存在はいない。いや、本当に転生者を転生させる運営側もなんでこんな凶悪な人物を野放しにしているのか謎だよ。

 

「ということで、頑張って三雲さんの好感度を上げてくださいね」

 

「……」

 

 こんな奴の命令を聞かないといけない僕は本当に貧乏くじを引いている。

 ところで千佳の笑顔を曇らせるって言うけどなにをするんだろう?やっぱりぐうの音も出ないド正論をぶつけるのだろうか?




ハイブリット変態 ミユキ

顔が司波深雪、体が蛇喰夢子というハイブリットな容姿をもつ転生者でコシマエとは転生者として同期であり腐れ縁の関係。
容姿端麗スポーツ万能家事も完璧と絵に描いた様な絶世の美女だが、推しの笑顔を曇らせかったり地雷を爆発させたいと常々考えているド変態。理不尽な暴力は振るわない。正論をぶつけたい。
主人公をからかったり挑発したりする系のヒロインが匙加減を間違えて主人公にぶち切れられて修復不可能な関係になり主人公がもっと素直な別のヒロインと付き合い始めて精神的に追い込まれてボロボロになっていく展開とかが見たいだけで暴力は嫌いで変なところでピュアである。


 木虎が修の功績を嫉妬しているシーンで民衆を味方につけることで後から出てきたくせに偉そうにすんじゃねえ、こっちは危うく死にかけたんだぞ、死ねって言ってるのかと怒りの矛先を木虎に向けさせて精神的に追い詰めるのは愉悦じゃないんです、ただ正論をぶつけてるだけなんです(満面の笑み)



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賽は既に投げられている。

「越前は何者なんだ?」

 

 時間は変わり夜の真夜中、場面は変わり三雲家の修の部屋の布団の中。

 イレギュラーな門が開いて、その時もトリガーを起動してあわやクビになりかけたものの実力派エリートのお陰でクビを免れた修はちびレプリカと通信を取る。

 サイドエフェクトについて色々と教えて貰い、分からないことに納得がいった修は気にはなっていたが聞けずじまいだったコシマエについて聞いてみる。

 

『彼は私達の支援者だ』

 

「支援者?」

 

『こちらの世界に来る前に彼の上司に当たる人物と出会い、こちらの世界に行くならばと色々と支援をしてもらった。コシマエはこの世界で私達を支援してくれるもの……と言うことになっている』

 

「じゃあ、越前も近界民なのか?」

 

『いや、違う。彼も彼の上司に当たる人物もこちらの世界の住人だ』

 

「でも、越前はボーダーじゃないって」

 

 ありえる話として越前がボーダーと繋がっている事を考えるが、それは違うと真っ向から否定される。

 トリガーは近界民の物でボーダーが使っているぐらいの認識の修は越前の事を遊真と似たような立ち位置かと思いきや、そうでないと言われる。

 

『彼等の事を簡単に言えば、ボーダー以外にトリガーを扱っている一団だ』

 

「ボーダー以外に……」

 

『今のところ姿を表に出すつもりはなく、向こうの世界での活動を主にしている。ボーダーの様にこちらの世界を守ろうとする気は薄い……私達の口から語れる事はそれぐらいだ』

 

「……」

 

 まだなにかあるのかと思わせ振りな発言をするレプリカ。越前以外にもまだ何名かの存在をほのめかしており、そこについて聞きたかったがこれ以上は答えそうにない。越前本人に聞いてみようにもはぐらかされるのがオチだろう。

 気になる事は多いが、それらが一気に解消することはない。問題を一個ずつ解決していこうと今起きているイレギュラー門をどうにかしなければ昼間の様な事が起きてしまうと修は若干の不安を抱きつつ眠りについた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 時は更に少し進み遊真がイレギュラー門の原因であるトリオン兵、ラッドを見つけた。

 ラッドが内側から門を開いていることでボーダーの門誘導装置を掻い潜っていた事が判明し、ボーダーはラッドを解析。レーダーに写る様にすると三門市全域に渡りラッドがいた。

 

 この事態にボーダーはA及びB級隊員だけでなく訓練生のC級隊員も総出でラッドの駆除に当たることに。

 そして場所は移り変わり星倫女学院高等部。ボーダー隊員が通う提携校とはまた別の所謂お嬢様高校。ここには何名かのボーダー隊員が所属しており、転生者の序列5位である蛇喰深雪も通っていた。

 

「深雪ちゃん、そこにいたら危険よ」

 

 三門市全域に渡りラッドがいた。三門市内にある星倫女学院もその例に漏れず、ゴキブリの如くラッドがいた。

 これにあたり、ボーダー側は駆除するのは勿論の事だが男子禁制の女子校と言うこともあり駆除するメンバーは選ばれた者しかいけない。むさ苦しい男は出来ればNGと言うことになり、星倫女学院に通うJKやJKが所属する部隊の隊員が派遣された。

 

「全く、1匹見たら30匹居ると思わなければいけませんね」

 

 トリガー(と言うことになっている転生特典)を持っている深雪だが、自らラッドを倒すことはしない。

 野次馬根性を引っ提げてB級のガールズチームこと那須隊の学校のラッドの駆除を見物している。

 

「いや、そこまでじゃないわよ」

 

 ゴキブリの例えを出した深雪にツッコミを入れる那須隊の熊谷。

 

「ですが、学校にはこれでもかというほどに近界民がいます。イレギュラー門の時もそうですが、なにか法則性はあるのでしょうか?」

 

「ええっと……」

 

 ラッドが集まっている場所は主に優れたトリオン能力を持っている人がいる場所だ。門が開く場所には優れたトリオン能力を持った人達がいる。その事について熊谷は一応は聞かされているのだがボーダーではない人に言ってはいけない事もあるので深雪になんて言えばいいのだろうかと迷ってしまう。

 

「熊ちゃん、ダメよ」

 

「あ……そうよね」

 

「語れないことですか……残念です」

 

 守秘義務があるので那須隊の那須は迷う熊谷に注意を促す。

 とはいえ、原作を知っている身なので深雪は答えを教えてもらわなくても問題は無い。こうやって迷ったり、たじろいだりする姿を見ているのが楽しいからしている。結構ロクでなしな女である。

 

「語れなくても考察する事は出来ますけどね……ボーダーは近界民の手のひらの上で踊らされていると」

 

「え!?」

 

 意味深な事をボソリと呟くと思わず声を上げてしまう熊谷。深雪は心でガッツポーズを取るが、表情には出さない。

 ゆっくりと目を細めて考えている素振りを見せるだけでそれ以上は語ろうとしない。

 

「どういう意味なの?」

 

 那須の耳にも深雪の呟きは聞こえていた。

 今こうしてイレギュラー門の原因を解明し必死になって近界民を駆除しているのだが、事態を終わらせる事ではない。

 

「素人の話ですので聞くだけ無駄ですよ?」

 

 あくまでも素人目線の意見だと一線を深雪は引く。

 内心では物凄く聞いてくださいと満面の笑み(ゲス)を浮かび上げているのだが、顔には出さない。

 

「そう言われると逆に気になるわ。私達が近界民(ネイバー)に踊らされているってどういう意味なの?」

 

「そうですね……一部オフレコでお願いしますね」

 

 周りに他のボーダー隊員(柿崎隊とか加古隊とか)がいる中で秘密っぽく人差し指を立てる深雪。

 既に彼女の術中に嵌まっている熊谷と那須は秘密にするわと深雪のロクでもない話に耳を傾ける。

 

「ここだけの話ですが、私の知り合いがイレギュラー門に遭遇しました」

 

「嘘!?その人、大丈夫だったの!?」

 

「熊谷さん、お静かに。幸い、C級の訓練生が時間を稼いでくれたお陰で近界民から逃げ延びましたが……まぁ、色々とありまして」

 

「それって……今回のイレギュラー門の原因を見つけたって噂のメガネの隊員?」

 

「はい、その方のお陰です」

 

 話題の食い付きがいい熊谷と那須。

 嘘は言っていないとこれからやることに若干の興奮を覚えながらも、真面目な顔をする。

 

「結構、怒っていましたよ。彼が居なければ危うく死にかけたのに、後から来た木虎さんがトリガー使うのは規約違反だと言い出して、それを言い出すならさっさとお前が来て助けろよと」

 

「木虎ちゃん……」

 

 因みにだが、深雪は木虎の事を嫌いとかそういう感情はない。ただ単に煽るのにちょうどいいカモだと思っている。

 なに一つ嘘は言っておらず、人命に関わることなのでルール云々よりも人助けが大事だと思っている2人は木虎の言動に引いてしまう。

 

「まぁ、いざ自分が動いた時は死人や負傷者を出してしまっていますので助けてほしいなんて言えないと笑っていましたが」

 

 修が下校時の本部に向かう際に起きたイレギュラー門で死人が出ている。

 負傷者でなく死人でしかもボーダーとは無関係の一般人と来るとなれば本当に洒落にならない。痛いところを的確につつき、木虎の株を落としている。なにも嘘は言っていないのがミソである。

 

「っと、無駄話が過ぎましたね……なにを話していましたか?」

 

「ボーダーが近界民の手のひらの上で踊らされている話よ」

 

「ああ、そうでした……今回の事態は今までに無いことです」

 

「まぁ、そうね。基本的には警戒区域内から近界民が出てくるから今回の事は今までにないわ」

 

「そう……襲われた私の知人曰くボーダーが何時も相手にしているフナムシに尻尾が生えた近界民が2体しか出てこなかったと言っています」

 

「2体しか……普通、2体もじゃないかしら?」

 

 近代兵器の効かないトリオン兵は一般人にとって脅威的だ。

 たった1体でもどうにもならない存在でたまたまC級隊員がいたとしても2体は恐ろしい。

 

「なにを仰っているのですか、今現在数百に及ぶ近界民の駆除をしているじゃありませんか」

 

 「も」ではなく「しか」の考えをしている深雪に疑問を抱く那須だが直ぐに納得をする。

 確かに言われてみれば今現在自分達は数百に及ぶトリオン兵を相手にしている。なんだったら普段門誘導装置を使って誘導してやって来たトリオン兵の方が数が多いことに気付く。

 

「私はこう思うのです。近界民はボーダーの存在に気付き、手口を変えてきたのだと」

 

「っ……」

 

「一連のイレギュラー門はその場にいたボーダー隊員がなんやかんやと対処して処理しました。しかし、近界民が本気を出せば4年半前にあった大規模な侵攻をすることが出来る……それなのに、してこなかった」

 

「ちょ、ちょっと待って。じゃあ、私達が今やってる事って」

 

「恐らく、ですが近界民の親玉か指揮者が監視をしていますね。この近界民、カメラっぽいのがついていますし」

 

 トリオン体で汗をかかない筈の熊谷は冷や汗をかく。

 深雪の言っている事を否定しようにも否定をする材料が何処にも無かった。ボーダーに入って約一年半、色々とあったもののこういった事が起きたのははじめてだ。

 

「まぁ、私の勝手な解釈ですのであまり気にせず……とは言えませんね」

 

 あくまでも個人的な想像だと一線を敷いてみるものの、2人の顔色は優れない。

 実際のところ深雪の言っていることは正しく、今回のはある意味前座、情報収集の様なものも兼ねており、本格的に攻めるつもりは向こう側は無い。

 もしかしてとんでもない事を聞かされているんじゃと悪い方向に考えが行ってしまっている2人に深雪は少しだけやりすぎたかもしれないと反省をする。

 

「熊谷、那須、大丈夫か?」

 

 手が止まっている2人を心配する柿崎隊の隊長である悩めるリア充こと柿崎。

 

「柿崎さん……その」

 

「あくまでも個人的な想像で場を乱すような事を言ってはいけませんよ」

 

 この人ならば頼れると知っている熊谷は語ろうとするが、深雪に踏み留まらせる。

 あくまでも深雪の想像で言うべきか言わないべきかの最後の判断は熊谷がするもの。

 

「なんの話かは分からないけど、悩みがあるなら相談に乗るぞ」

 

 なんの話か分からないのに、それでも大丈夫と笑う柿崎さんはイケメンである。

 本当はそこまで能力持ってないのに頑張ってるのはエモいとアホな事を深雪は考える横で熊谷は相談ぐらいならばと柿崎に相談をすると先ほどの自分の様に顔色は悪くなっている。

 

「成る程な……」

 

 思ったよりも重い案件で冷や汗をタラリと垂れ流す。

 ボーダー歴が長いだけあり色々と見てきた柿崎は今回の事が異例の事態だとこの場にいる誰よりも認識している。

 

「今度、迅や本部長に相談してみよう」

 

 一人で解決できる案件ではない。あまり頼りすぎるのもよくないのは知っているが、それでも実力派エリートに頼るしかない。

 迅の名前が出るとそうよねと納得する熊谷。日頃がアレなだけで頼れる実力派エリートであることには変わり無く、相談をするのにはちょうどいい。

 

「にしても、そんな事を考えていたのか」

 

 上の人達に相談してみるで話は収まると深雪に関心を見せる。

 ボーダー隊員ならば色々と考える機会はあったが、深雪は一般人(笑)でそこまで深く考えれるのは中々にいない。

 

「考えるだけなら誰でも出来ますよ……問題はこの後ですよ」

 

「この後か……そうだな」

 

 迅と本部長に相談をする事で話は終わったが、もし本当に大規模な侵攻があったら守りきれるのかと不安を抱く。否、抱かせる。

 

「深雪ちゃん、そこまで考えれるなら、ボーダーに入らないかしら?」

 

「那須さん……冗談を言うのは上の口だけにしておいてください」

 

 深い考察をしている深雪に那須はボーダー入隊を勧めるが心底呆れた顔をされる。そして下ネタを吐かれる。

 

「上の口?」

 

「ちょっと玲になんて事を言うのよ!?」

 

「勿論上の口ですよ」

 

「いや、口は上にしかないわよ!?」

 

「熊谷さん、なにを仰っているのですか!!女には4つあるのですよ!」

 

「え……え!?……ええっと」

 

 突如として吐かれる深雪の下ネタに頭がバグる熊谷。

 上の口と下の口とお尻の穴までは想像したが第4の口とはいったいなんだろうと深く考えてしまい、顔を真っ赤にさせる。この女はなにを言い出すかと思えば、本当にロクでなしであり下ネタも大好きである。

 

「4つ……4つってなんだ」

 

「柿崎さん、変な事を考えないで。深雪も変な事を言わないで!!」

 

「変な事は言っていませんよ……私の口は正直者ですよ。下の口は知りませんが」

 

「だから、やめろぉ!!」

 

 完熟トマトの如く顔を真っ赤にさせる熊谷にヘッドロックをされる深雪。

 結果的に熊谷のおっぱいが当たり役得ですねと内心で満足していると顔に出ていたのか熊谷はハッと気付いて深雪のヘッドロックを解除する。

 

「おやおや、ボーダー隊員が市民に向かって暴力なんて酷いことを」

 

「っく……」

 

 クスクスと笑う深雪に苛立つ熊谷。

 見た目は何処からどう見ても王道系清楚なお嬢様なのになんでこうなんだろうと残念がる。

 

「私の事は気になさらないでください。変態喪女(しんししゅくじょ)たる者、自分の身は自分で守れる様にはしてますので……今は1つ1つの問題を着実に解決しておくのが得策です。なにせ今回は死人が出て、次またこの様な事があれば三門市から出ていこうとする人達が増えますので」

 

「……そうよね」

 

 裏で色々とあったものの、事態がいち早く解決したとは言え、出してはいけない犠牲者を出してしまった。

 これから起きるかもしれない重い出来事を考えればこんな街に住んでいられるかと考えるのは当然の事である。非常識な事ばかり言う彼女だが、ちゃんとしっかりと見て考えている……ぶっちゃければ原作知識の逆用だが。

 

「特に進学とかが掛かってる人達は気を付けた方がいいですよ。中学卒業を機会にボーダーを止めさせるとか普通にいそうですし……今回の事をどう受け止めるのか、少なくとも三門市は世界一危険な街です」

 

「……」

 

 ボーダー隊員が尽力を尽くして街を守っている?そんな事は関係無いのである。

 むしろボーダーが三門市と言う街を戦場に変えている。それを見過ごすほど、親と言うものは無能ではない。自分の隊に中学生がいる二人の隊長は深雪の言葉を深く受け止める。

 

「今回の事でボーダーのこと、どう思ったのかしら……」

 

 基本的には戦闘しか出来ないボーダー隊員である熊谷は親の顔を思い浮かべる。

 危険なこの街に住んでいられるかと言い出してもおかしくはない。まだ高校生の熊谷は親の選択に逆らうことが出来ないのが痛い。

 

「まぁ、頑張ってくださいね……alea jacta estです」

 

 本当はこの場にいない日浦茜の事を言っているのだが、今はまだ気付かない。

 蛇喰深雪と言う転生者は正論をぶつけることにより推しの笑顔を曇らせる事に喜びや生き甲斐を感じているロクでもない女ではあるが、決して悪人ではない。

 今こうして原作知識を逆用して危険が迫っている事を教えるのはわざとであり、そうすることで尊い笑顔を守れるから……要するに変態である。

 

「さて、未来はどうなるか……頑張りませんと」

 

 何処ぞの実力派エリートとは言わないが未来に目を向ける深雪。

 最高の未来を勝ち取りたいとは思わないが、出来ることはやっておく。自分達の存在がどう未来に影響するか、それはやってみないと分からない話だ。まぁ、その気になれば未来を見放題なのは内緒であるが。





運命/世界の引き金こそこそ裏話

ラッドの一斉駆除の際に星倫女学院は女子校なので通っている生徒とその生徒が所属する部隊、ガールズチームが出来れば来てほしいとのオファーがあったが1オペレーターと言う嘘をついている小南は全く違うところで活動している。
深雪は原作を知っているので小南が攻撃手と言うのは知っているが小南が普段は猫を被っているので「何処の部隊に所属しているのですか?」と聞いたりしてボロを出したりするのを見て楽しんでいる。その為に小南に苦手意識を持たれている。

因みに柿崎が星倫女学院に足を踏み入れる事について女性陣が「まぁ、柿崎さんだし」と誰一人文句を言わない。これが迅だったらNGをくらう


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救いの手を繋ぐ

「越前、相談があるんだ」

 

 近界民を駆除し終えたけふこの頃。修が真剣な顔で僕に話しかけてきた。

 

「僕に相談とは珍しい……遊真の成績の悪さに対してはノーコメントといかせてもらうよ」

 

 物理的に倒壊した学校の校舎はあっという間に修復され、普通に授業が行われている。

 その間に露見していく遊真の頭の悪さ。地頭は決して悪くはないのだが如何せん中学の問題は難しすぎて、レプリカに頼ろうとした前科がある。

 

「いや、その事じゃない」

 

 流石の修も遊真の成績を気にしているが、その事について聞いてきていない。

 じゃあ、なんだろうと一先ずは耳を傾ける。

 

「会ってほしい人がいるんだ」

 

「ほう、会ってほしい人ね……ボーダー関係者かい?」

 

 誰なのかは何となくの予想はつくけれども、一応は聞いておかないと怪しまれるので聞いておく。

 

「いや、ボーダーじゃない……その、空閑にも相談しようと思っている」

 

「成る程、近界民関係なのか……うん、僕には話さなくていいよ」

 

「え?」

 

「ちょっと勘違いをしてもらったら困るから先に言っておくけど君と僕は友達ぐらいの関係で決して仲間や味方じゃない……僕にも一応は立場はあるから出来ないことは多々ある。なによりあまり力を貸しすぎると君が本当の意味で成長出来なくなる」

 

 三雲修と言う人間は秩序・善なとてもとても善性な人間だ。

 しかし残念な事に善性であるだけでそれに伴う実力を持っていない。言い方を変えれば口先だけの人間とも言える。

 本人もその事を自覚しており、何とかしようとしているが世の中はそう上手くはいかない……そう、本当に上手くいかない。

 ワールドトリガーは転生者が介入しまくれば原作主人公があんまり育たない恐れがあるなんともシビアな世界。僕的には力を貸してあげたいけれど、それだと本当の意味で彼が成長せずいざと言う時に死んでしまう。

 

「僕の事じゃないんだ、その」

 

「そう焦るな、多分だけどその悩みは僕じゃなくて遊真の方が答えをあっさりと教えてくれる」

 

 彼の相談の内容は幼馴染み(この漫画のヒロインって誰なんだろう)の千佳ちゃんの事だろう。

 トリオン関係の事を遊真はあっさりと喋ってくれるので僕の存在は基本的に邪魔だろう……何よりも僕の存在がボーダーに見つかるのはまずい。

 

「そう、なのか?」

 

「向こうの関係なら遊真の方が色々と詳しいよ、なにせ僕は1番のしたっぱで1番若いから知らないこととか多々ある」

 

 僕って基本的な事はそつなくこなせるけど、それ以外の事は苦手だ。

 トリガー工学とか深雪は出来るけど、僕は全く出来ない……まぁ、その分僕の方が強いけどね。

 

「そうか……無理を言って」

 

「いやいや、こっちこそ力になれなくてすまない……とまぁ、言うもののこのままなにもしないと言うのも如何なものか。君に一言、アドバイスを送ろう」

 

「アドバイス?」

 

「今回の事を深く考えてもらった方がいい」

 

「……?」

 

 千佳ちゃんの事は修一人でどうにかなる問題じゃない。

 この理不尽で素晴らしい世界のシステムをどうにかしない限りは根本的な解決にはならないけど、やれることはやっておいた方がいい。僕の言っていることがイマイチ理解できていないが、それを理解するのは未来の話……うん。

 

 

□■□■□■□■□■

 

 

「やぁ」

 

「お、コシマエ」

 

 時刻は更に進んでと言うほどではないが、翌日の休みの日。

 修は千佳ちゃんと遊真を会わせようとした結果、三輪隊に色々とバレてしまい結果的に修は実力派エリートを名乗るセクハラ魔と共に本部に向かっている頃。

 

「全く、修はバカなのかな……三門市の外に出ておけばいいのに」

 

 三輪隊につけられている云々を除いても修は意外とガバッている。

 千佳ちゃんの事を遊真に紹介したいのならば警戒区域付近で待ち合わせなんてするもんじゃないよ。三門市の外にさえ出ればボーダーも下手に動くことは出来ない。

 

「いや、三門市の外で待ち合わせとかおれが無理だ」

 

「そこはほら、修の家で待ち合わせとかあるでしょう。確か隣の蓮乃辺市との境界線上にあった筈だよ」

 

 一回も行ったことは無いから詳しいことは知らないけど、公式設定でそんな感じだった筈だ。

 もうちょっと危機感と言うのを持っていてほしい……意外とその辺りの感覚がおかしいんだよね、彼。

 

「貴方は、確か修くんの……」

 

「はじめまして、僕は……そうだね、う~ん」

 

 僕の顔を見て、この前の木虎のリンチ(笑)を思い出す千佳ちゃん。

 彼女とはこれが初対面なので自己紹介をしようとするのだが、悩んでしまう。僕って転生者の中で1番のしたっぱだけど、一応はそれなりの権力は持っており給料もそこそこ貰っている。一般人(屑)と名乗るわけにはいかない。

 

「カルデア……と言うのは得策じゃないな。かといってグランドくそ野郎は深雪の方がお似合いだしね」

 

「?」

 

「僕の名前は越前龍我、この業界ではコシマエで通っているので気軽にコシマエと呼んでくれ」

 

「雨取千佳です……えっと……コシマエさんも修くんに呼ばれたんですか?」

 

 ゆっくりと事態を飲み込み、質問をしてくる千佳ちゃん。遊真と顔を会わせた様に僕とも顔を会わせようとしていたのかと考える。

 

「一応は誘われたよ……まぁ、断ったけど」

 

 ここでつまらない嘘をついても意味はないので正直に答える。すると遊真は首を傾げる。

 

「なんで断ったのに来るんだ?」

 

 誘いを断ったのにノコノコと姿を現した僕に疑問を抱く。

 遊真の疑問は最もだ。昨日、あんな事を言ったのに翌日には何事もなく出て来て恥ずかしくないんですかと聞かれると恥ずかしい。

 

「いや、色々と事が動いたと思ってね……バレただろ」

 

「バレました……まさかつけられてるとは思っていなかった」

 

 意味深な事と遊真を納得させれそうな事を適当に言いはぐらかす。

 僕的にはグイグイ関わってもいいんだけど、面倒な事に今回は実力派エリートや三輪隊と言ったボーダーの面々が出て来て遊真の事であれやこれや言ってくる。

 三雲修が迅悠一と一緒にボーダー本部に向かっている僅かな時間しか僕は姿を見せることは出来ない。実力派エリートを相手に出来ないことは無いけども、相手をするのは一苦労……お互いにね。

 

「怒ってる?」

 

「まさか、君はボーダーに用があってこっちの世界に来たんだ。遅かれ早かれ知られる運命にあった……僕にとって重要な事は僕達の事を黙っているかいないかだ」

 

 僕達の立ち位置はボーダー以外にもトリガーを使っている一団だ。

 既に表立って色々とやっているボーダーに存在がバレるとなにをしてくるのか分からない。話し合いが通じる相手だが、話し合い以外も使ってくる相手でもある以上は用心する事に越したことはない。

 

「大丈夫だ、オサムもおれもコシマエに関してはなにも言っていない」

 

「ならいい……千佳ちゃん、悪いんだけどここで僕と出会ったことは内緒にしてほしい。勿論、修にもだ」

 

「修くんにもですか?」

 

「彼が真剣な顔で相談があると言われて断った手前、やって来たって色々と恥ずかしいんだ」

 

 事が動いたからやって来たけども、やっぱり最初に断ったことについて色々と思うところがある。

 最初から顔を貸してくれたらいいのにと思われたりするのを想像するだけでお腹が痛くなる。暗躍系クラスメートはなにかと大変だ。

 

「黙ってくれるならば、この魔法のお守りを君にあげよう」

 

「こ、こんな物、もらえません!?」

 

 七色の石が特徴的なアミュレットを取り出すと引いてしまう千佳ちゃん。

 まだ貴金属には興味の無いお年頃……ピュアなのはいいね。こういう感じの子は本当に尊いよ。

 

「でもこれ近界民(ネイバー)に狙われなくなる魔除けのアミュレットだよ」

 

「え!?」

 

 僕がただ単にこんな装飾品を持ってくるとでも思ったのかい。

 深雪に頼んで作らせた近界民のトリオンレーダーに写らなくなる特殊なアミュレットを作って貰ったんだよ。

 

「なんか胡散臭いな、それトリガーなの?」

 

 いきなりこんな物を出したので色々と疑惑の目を向けてくる遊真。

 ならばとアミュレットを遊真に渡すと遊真のトリガー(指輪)からレプリカが出て来てアミュレットを調べる。

 

「なんでチカが近界民の事で困っているの知ってるんだ?」

 

「真剣な顔で修が自分の事じゃないと言っていてね……後は大体の想像がつくよ。修は真面目なメガネだけど、この業界に関する知識は少ないから」

 

 ワールドトリガーの世界にはトリオンというものがある。

 心臓の横にあるトリオン器官という見えない臓器がトリオンという生体エネルギーを生み出しており、雨取千佳はそのトリオンを物凄く有している。どれくらいかと聞かれれば測定するのが難しいぐらいだ。Fate風に言えばランクEXだ。

 電気に変わるエネルギーであるトリオンを用いてトリガーは動いており、トリガーの文明が根付いている近界民の国々ではトリオンこそが絶対というところもある。

 しかし、電気による文明が当たり前の地球では、ボーダーはその事を隠している。一部のスポンサーとかには開示してるとかなんか何処かで見た記憶はあるけれど、基本的にはボーダー関係者以外は知らない。

 

『解析が完了した……コレは微弱だがトリオンを消費することでレーダーから写らなくなる機能が備わっている』

 

 色々とあれやこれやと言っている内にレプリカがアミュレットの解析を完了した。

 制作者が深雪であまりいい気はしないものの真面目に作ってもらった物で、その効果は絶大でありレーダーには写らなくなる……バックワームと性能が一緒とか言ってはいけない。

 

「つまり?」

 

『コレを身に付けている限り、近界民がチカを狙いに来ることが無くなる』

 

「!!」

 

 近界民関係でどうしようかと悩んでいたタイミングで出てきたね超絶便利なアミュレット。

 僕達が動けば殆どの事態が一瞬にして解決するんだなと改めて自分達のチート具合に関心をする。いや、本当に転生特典に頼りまくりだけども、深雪スゲエなおい。

 

「何時の間にこんな物を作ったんだ?」

 

「作ったのは僕じゃないよ……それよりもどうする?コレがあれば近界民に狙われることがなくなるよ」

 

 まぁ、正確には狙われなくなるじゃなくて近界民のトリオンを計測するレーダーに写らなくなるだけなんだけど。

 それでも今、千佳ちゃんには必要な物でコレがあれば的な顔でアミュレットを見つめている。

 

「あの、これって物凄く高い物じゃ」

 

「大丈夫、大丈夫……二束三文な代物だ」

 

 深雪がその気になればトリオンのシールドをオートで発生させたり、安全なところにワープさせる事の出来る物を作れた。製作時間が短くてこんなんになったが、こんなのだったら何百とも作れる……そう。

 

「まぁ、不必要なら受け取らなくてもいいよ……ただね、この話だけは聞いてほしい」

 

 いきなり現れた人間によく分からない物を貰えるほど千佳ちゃんは大胆じゃない。

 僕としても受け取って貰えなくてもいいと思っている節があり、本当の目的を果たそうとする。

 

「君がどうして近界民に狙われるか、それは全てトリオンのせいだ」

 

 近界民がこちらの世界にやってくる主な目的は優れたトリオン能力を持った人間だ。

 千佳ちゃんは優れたどころの騒ぎじゃないトリオンを持っており、誰が見ても狙われるだろうなと納得するトリオンを有している。

 

「けど、それは他にも言えることなんだ」

 

 千佳ちゃんクラスは多分居ないだろう。

 しかし、優れたトリオン能力を持った一般人は探せばそれなりにいる。なにせボーダーに入隊出来るのは優れたトリオン能力を持った一般人だ。僕達みたいな存在は異端だ。

 

「君がもし、新たなる一歩踏み出す勇気があるならばもう一歩踏み出してほしい」

 

「もう一歩……」

 

「そう、君以外にももしかすると気付いていないだけでとんでもないトリオンを有している人が居るかもしれない……残念な事に僕にはそれをどうこうすることは出来ない」

 

 三門市在住の僕だが、ボーダーが表に姿を現してから今日に掛けてまでボーダーは街の人のトリオンを計測しようとしない。ボーダーに入りたいと志望する人のみトリオンの計測している。

 別にそれが悪いとは言わないが、今回相手が門を開いてトリオン兵を送り込むだけでなく門を開く機能を備えたラッドを送り込んできていた。一応何体かコッソリと回収して解析に回したが、アレは優れたトリオン能力を持った人の近くに集う様にプログラミングされていた。三門第三中学でイレギュラー門が発生したのは多分、千佳ちゃんのトリオンが原因だと思う。

 

「けど、君ならば救いの手を差し伸べる事が出来るかもしれない」

 

 僕はあくまでもボーダーとはまた別のトリガーを持っている一団の末席に居る者だ。こちらの世界を守るボーダー隊員じゃない。一応の心配はすることは出来ても、そこから先をすることは出来ない。そういうのは一応は正義の味方的な事になっているボーダーにやってもらわないと……僕達って本当にロクでなしだよ。

 

「救いの手……」

 

「君が始まりになればね」

 

 千佳ちゃんがきっかけとなって街の人のトリオンを計測しようとの意見を出せばいい。

 規格外のトリオンを有した子が居るかもしれないでなく実際に居たのとラッドの事を考慮すればしておいて損は無い……と言うよりはそれぐらいしておかないと何時か大変な目に遭う。

 

「おっと、そろそろまずいな」

 

 もうすぐ修と迅悠一がこちらに向かってくる。

 こんなところで鉢合わせをして知られるなんてうっかりミスをしてしまえば、上から結構ガチな説教をくらう。

 もうとっととボーダーと同盟かなにか結べよと思うのだが、そう上手くいかないのが現実であり先行部隊の僕は精々、恩を売っておくぐらいしか出来ない。

 

「あの、ペンダントを忘れていますよ!!」

 

「それは今回の口止め料と依頼料だ。お守りとして持っておきたまえ」

 

「チカ、貰えるなら貰った方がいいぞ」

 

 人の好意には時には甘えることが大事だ。

 来た道を戻っていけば修達と遭遇するので全く別の方向から家に向かって歩いていく。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□

 

「行っちゃったね……」

 

「行ったな」

 

 嵐の様に現れては去っていったコシマエの事を考える遊真と千佳。

 さっきまでその場に居た痕跡は全くといって残っておらず、残ったのはお守りのアミュレットだけだった。

 

「……遊真くん、私のトリオンってそんなにすごいの?」

 

「スゴいぞ……おれの何倍もあるから、何処の国に拐われても物凄く大事に扱われる」

 

「そうなんだ……」

 

 いきなりトリオンだなんだと言われて、ピンと来ない。

 近界民である遊真の意見を聞いて真剣に考える。

 

「多分、チカと同じ人は居ないよ」

 

 救いの手云々はイマイチだが、なにをしろと言っているかは分かっていた遊真は千佳の考えている事を読む。

 自分がきっかけになればもしかすると自分と同じ苦しみを味わっている人を助けれるかもと思っている千佳に一言だけ忠言しておく。千佳は規格外で千佳レベルは早々にいない。

 

「でも、近界民はトリオンが目的なんだよね?」

 

「そうだけど、わざわざ危険な事をしなくても」

 

「千佳、空閑」

 

 自らが危険な目に遭う必要はない。そう言おうとすると修が迅と一緒にやって来た。

 

「修くん、大丈夫だった!?」

 

 修を見るや否や心配をする千佳。

 危うく自分が近界民だと思われて武器を向けられかけたりしたのに他人を心配するとはと遊真は焦りながらも冷静に千佳の事を見る。

 

「レプリカ、コシマエの事を言った方がいいと思うか?」

 

 コシマエの事を千佳は一切言おうとしない。

 さっきまで起きていた出来事が無かったかの様に千佳は修が無事だったかを心配しており言わないでの約束は守っている。しかし千佳に色々と余計な事を吹き込んでいたのでその事を言うべきかとレプリカに相談をする。

 

『やめておいた方がいい、末席とは言え彼はサーヴァントの1人だ。無理に敵に回す様な事をする必要はない』

 

「そうか……そうだよな。コシマエもサーヴァントの1人なんだよな」

 

『それに彼は意地悪をしにこの場にやって来たのではない。チカの事を案じ、周りの事も考えた上でああ言った』

 

「……なるようになれか」

 

「……んん?」

 

 千佳が言わないのならば、今起きた事は無かった事だと遊真は修の帰還を安心する方向に気持ちを切り替える。

 その姿を見た実力派エリートの迅は少しだけ首を傾げている。

 

「……さっき見えていた未来とは別の未来が見えた……読み逃したか」

 

 高校に入学した修達が身体測定の際にトリオン能力もチェックされているというなんとも不思議な未来、ほのぼので変わった未来が見えるようになった。

 なんでこんな未来が見えるかと聞かれればコシマエの影響だが、あの男はサイドエフェクトが効かないサイドエフェクトを持っており、迅悠一の未来視のサイドエフェクトには一切引っ掛からないので単純に読み逃したと勘違いをしている。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

コシマエはサイドエフェクト無効化サイドエフェクトの持ち主。
未来視、嘘を見抜く、強さの色を見るといった他人がいるタイプのサイドエフェクトは効かない。
強化聴覚や強化睡眠記憶、完全並列思考などの自己強化系のサイドエフェクトは無効化出来ない(感情受信は無効化できる)迅の天敵だったりする。


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あくまでただのお友だち

「おはよう、コシマエ」

 

「ああ、おはよう」

 

 遊真が近界民だとバレた休みの日が開ける月曜日。

 何時も通りすんなりと遊真は学校に登校してきて何気なく僕に挨拶をしてくれる。

 

「うん……見られてるね」

 

 何事もなく登校してきている遊真だけど、ふと視線を感じる。

 恐らくは三輪隊の狙撃手のどちらかが遊真が余計な事をしないのか監視をしているのだろう。しかし、僕みたいな戦闘が得意じゃない転生者に見抜かれるとはまだまだだな。

 

「家を引っ越したよ。今、ボーダーの玉狛支部って所で世話になってる」

 

「そうかそうか……一応、念の為に確認をしておくけど、ボーダーに言ってないよな?」

 

「言ってないし、気付いている素振りもなかったよ」

 

 僕達の存在は露見してはならない……とは言わない。

 ただ出来ればボーダーとは仲良くしたい。本気で喧嘩をするとなると弱い者いじめになるからしたくないんだよ。

 

「そう……それでなにか進展はあったかい?」

 

「それは」

 

「空閑、越前、もう来ていたのか」

 

 本来の目的は果たせたかどうかを聞こうとすると修が登校してきた。

 どちらかと言えば早目に登校している自分よりも早く来たことを意外だと感じる。

 

「修、色々と大変そうだったじゃないか」

 

「……なんで知っているんだ?」

 

「僕に知らない事は無い……なんて言わないけどもある程度は、まぁ、遊真に色々とあったことを尋ねていたところだ」

 

 あの時、あの場には僕が居なかったのにどうしてと言った顔をする修。

 そこは僕達だからと無理矢理にでも納得をして貰わないと、説明をするのは難しそうだからね。

 

「遊真が玉狛支部に引っ越したぐらいを聞いただけで、機密そうな情報は聞いてないよ……なにか言いたいことはあるか?文句は受け付けるよ」

 

 受け付けるだけで、実際に反映するかどうかは別だけど。

 遊真が引っ越したと話題を上手くすり替えてみると考える素振りをする修。僕になにか聞きたいことがあるのだろうか?

 

「越前……力を貸してくれるか?」

 

「力ね……力とはいったいなんの事だ?言っとくけど財力は期待しないでくれ、相撲の十両ぐらいの給料は貰ってはいるものの将来出会う運命の人の為に貯蓄はしておきたいんだ」

 

「お金じゃない。実は━━」

 

 そこから語られるは原作を知っているのならば誰しもが知っていること。

 近界に行って雨取千佳の兄である麟児さんや友達を助けに行きたいと言う千佳ちゃんの事やチームを組んだこと等、僕に対して警戒心が無さすぎるんじゃないかと思えるぐらいにポロポロと語ってくれる。

 

「状況は大体分かった、君は僕にどうしてほしい?」

 

「えっと……」

 

「言っておくが、ボーダーに入隊なんてしないよ。僕はこれでもそこそこ偉かったりするんだ、最年少でパシリだけど」

 

 もし違う形で出会えていたのならば、ボーダーに入隊するのもありだ。

 そうなった場合は敵に回る可能性は大きいけど、その時はその時として今について考えよう。

 

「近界に遠征する時、一緒になってついて来ようか?」

 

「そんな事が出来るのか!?」

 

「はっはっは、多分、いや、結構怒られるからあんまりしたくない……いや、本当だよ」

 

 君達がどんな感じで近界を旅するか、楽しみではあるがそれはそれだ。

 あんまり力を貸しすぎると余計なのが出てきたり疑われたりするからね。

 

「ボーダーの先輩にはあまり出来ない相談とか色々と乗ってやるよ……ああ、でも勘違いをしないでほしい。あくまでも僕は君の友達として相談に乗ったりするだけで完全な味方なわけじゃない。時にはとんでもない事をしでかす」

 

 しつこいと思われるかもしれないが線引きと言うのは大事なことだ。

 あくまでも友達として力を貸すだけだと言われると悩む修。なにか聞きたいことがあるのだろうか?

 

「……大怪我を治すトリガーって、あるか?」

 

「大怪我を治すね……」

 

 チラリと遊真に視線を向ける修。

 遊真の肉体はトリオンで出来ている。生身の肉体は3年ほど前に敵に死ぬ寸前までやられており目や四肢を損傷している。なら、なんで生きているかと言えば遊真のつけている黒トリガーのお陰だ。

 遊真は黒トリガーを元の人間に戻す方法を探しにこの世界に来ており、レプリカは遊真の怪我をどうにかしたいと思っている。修はどちらかと言えばレプリカと同じ考えをしているのだろう。

 

「死んだ人間を生き返らせるのは無理だけど、四肢の損傷とか目玉がやられたとかの傷をどうにか出来るよ」

 

「なら━━」

 

「ただし、絶対とは言えないしタダとも言えない。本来なら死ぬはずの怪我を治すのだから、それ相応の代価は頂かないと」

 

 遊真の怪我を治す方法はあるにはあるが、絶対に出来ると言う確信はない。

 いや、多分出来るんだろうけども問題はそれになるかどうかで、そうなると運の要素が含まれたりする。剣である僕が遊真を治すにはアルゴー船の船長(イアソン)にならないとどうにもならず、確実性を上げるのならば深雪に頼んだ方がいい。

 ただまぁ、深雪に頼むと本当にロクな未来が待ち受けていない。絶対に余計な事を言ってきたりするのでオススメは出来ない。

 

「代価ってなにを払えば」

 

「黒トリガー及びそれを使える使い手の身柄とか、有益な情報とか……この辺りは僕に決める権利は無いからなんとも言えない。だから、僕に頼られても困る……剣を振るえとかそういう感じの仕事なら僕の独断でどうにかなるから」

 

 払えるのならば支払う気満々の修。

 支払いはクレジットでもキャッシュでもなく本当に使えるもの……多分、黒トリガー及び遊真の身柄数年とか言ってくるだろう。黒トリガー数百本分に匹敵するトリガー(と言うことになっている転生特典)を持っていても黒トリガーは欲しいから。

 

「そうか……」

 

「因みにだが僕がどんな感じの立ち位置でどういう感じの人間なのかを遊真から聞いているか?」

 

「いや、なにも……」

 

「コシマエが言うなって言ってるし、そういう約束だからな」

 

「一応、ボーダー以外でトリガーを持っている集団ぐらいしか……」

 

「大体、そんな感じだ……だけどまぁ、色々と気になるだろうし続きを説明しよう」

 

 僕も黙って見続けているのは辛いし、喋れるときは喋りたい。

 出来ることならもっともっと力を貸してあげたいんだが、そうなると彼が全然成長しなくていざというときが危うい。

 

「僕達はトリガーを持っている集団で昔はそれはそれは極悪非道の限りを尽くした」

 

「ご、極悪非道?」

 

「ピンと来ないだろう?でも、これが事実なんだよ。僕は今でこそ大人しくなったけどかつては近界全体を騒がせた世界界賊の1人……どれだけ悪いことをしたかと言えば国を滅ぼしたりしたかな」

 

 僕も昔は若かった。

 奪った黒トリガーを王族の目の前で堂々とぶっ壊したり、指を一本一本切り落としたりとヤンチャをしていた。

 

「ヤンチャをしていた僕達だけど、ある日近界(ネイバーフッド)の一国を手に入れた。当時の王族貴族を皆殺しにしてね」

 

「な!?……空閑」

 

「コシマエの言っていることは多分、本当だよ」

 

 僕からあまりにもバイオレンスな事を聞かされて頭の処理が追い付かない修。

 嘘をついているんじゃないかと疑いを持ち遊真に尋ねるが、僕はサイドエフェクト無効化サイドエフェクトがあるので嘘を言っているかどうかは見抜けない。

 僕のことをある程度は知っているので遊真は嘘じゃないと否定しない。

 

「今はそこを拠点に面白おかしく日々を過ごしている。ああ、勿論この世界を襲撃するなんてバカな事はしていないよ」

 

 どう言った経緯で国を手に入れたかは説明はしない。

 そこを説明すると色々とややこしいし、なにより修からの評価ががた落ちする。

 

「遊真が此処に来る前に居た国と貿易をしていて、こっちの世界に来るならばと僕の上司とかが色々と支援したんだ」

 

「だから、支援者なのか……」

 

 色々と腑に落ちない点を少しずつ納得に変わっていく。

 遊真が此処に来る前に居た城塞都市カラワリアと僕達の国は貿易をした。戦争でなにかと疲弊しきっていたカラワリワに救援物資を送る変わりに色々と貰った。そしてその際に遊真は僕の上司に出会った。

 

「とはいえ、ボーダーに厄介になる以上はもう支援らしい支援をすることは出来ない」

 

 これからはボーダーで世話になるんだ。世話らしい世話をした覚えはないけどね。

 

「僕に関してはこんな感じなんだけどなにか質問はあるか?」

 

 ざっくりと語ったので色々と気になる点は多いだろう。

 質問の機会を与えると修が挙手してくれたので質問を聞く。

 

「越前はなんでこっちの世界に?向こうの世界で色々とやっているなら、こっちに居るのはおかしいんじゃ……それにどうしてボーダーみたいに表に出ないんだ」

 

「おおっと、一気に2つの質問か」

 

「え、ダメだったか?」

 

「いやいや、構わないよ」

 

 でも、一度に同時は出来ればやめてほしいな。

 答えれない質問ではないけど答え方を間違えてはいけない質問なので、慎重に考えて答える。

 

「まず、表に出ない理由は……色々とある。一言に纏めれば僕達が表に出ればボーダーに迷惑をかける。4年間も掛けて色々と築き上げた近界民に対する印象やイメージを全て消し飛ばしかねない。それと目的とか色々と異なるんだ。ボーダーは一応、近界民から此方の世界を守ることになっているが、僕達は向こうの世界で面白おかしく過ごすのを主としている。ある程度は仲良くする事は出来てもある程度までだ。ボーダーにだって色々と派閥があるんだし、余計な事はしない方がいい」

 

 これは僕を含めて7人全員の総意だ。世間の目とも戦っている組織に対して後から出て来て横槍を入れるのはお門違いだ。

 

「ボーダーも一枚岩じゃないし、下手な事は出来ないんだ」

 

 近界民は何がなんでもぶっ殺す派閥もあれば仲良くしようとする派閥もある。

 そんな感じの組織と仲良くしようとは下手に言えない……組織の総意をある程度纏まっていないとこちらも困る。

 

「それで僕の立ち位置だけど、僕はこちらの世界で万が一が起きたら守護してこいとパシられている」

 

「パシられてるのか」

 

「ああ……こう見えて偉いんだけど7人の中ではビリでね。都合よくパシられていて遊真の面倒を見たり、万が一なにかあったら自力で対処しろと結構な無茶振りをされているんだよ」

 

 僕達の影響で原作通りに事が進むとは限らない。

 僕は主に僕達が原因で起きるバタフライエフェクトの様な物を対処するのが仕事であり、原作への介入はある程度は許されたりしている……が、原作が原作だけにポンポンと力を貸すわけにはいかない。

 

「そんな無茶ぶりをされてるのか……大丈夫なのか?」

 

「ああ、気にしないで。馴れてるから」

 

 心配をしてくれてありがとう。

 今の段階で話せることは話すと今まで納得できなかった事や腑に落ちない事がスッキリと無くなり、少しだけ表情が緩くなる。やっぱりと言うか僕のことを色々と考えていたんだね。教えてくれって言われたらすんなりと教えてたのに。

 

「僕のことは困ったら何だかんだで助けてくれる爽やかイケメン(笑)の同級生だと思ってくれればいい……今は君が成すべき事を見つけて成し遂げる。その為にはしっかりと強くなるんだ」

 

 三雲修は千佳ちゃんと遊真と共に遠征を目指している。

 遠征を目指すにはボーダーの精鋭であるA級を目指す必要があり、その為には基礎となる強さが必要だ。

 

「それとボーダーや近界民関係の事で話があるのなら越前と呼ぶのはやめてほしい。一応、一線を敷いている意味合いを兼ねて向こうの世界でも越前でなくコシマエと呼ばれている。今度から相談がある時は越前でなくコシマエと呼んでくれ」

 

 僕がコシマエと呼ばせている理由をついでに教えておく。

 転生する度にコロコロと宮野真守キャラに変わり名前も変わったりするので、時に自分の名前が気に食わなかったりする時がある。越前という名前を気に入らないわけじゃないが、あくまでもサーヴァントの1人として踏ん切りをつける為にも名前で呼ぶのを出来ればやめてほしい。

 

「そうか……分かったよ、コシマエ」

 

「こらこら、今はクラスメートの越前だよ」

 

「……君の事をボーダーの先輩に話していいか?」

 

「ダメに決まってるじゃないか。ボーダー以外にトリガーを持っている組織が居たなんて厄災の種にしかならない……ここはただのお友だちでいようよ」

 

 多分、実力派エリートに僕のことを紹介しようとしている。

 未来を視る事の出来る迅なら僕の未来を見て安全かどうかを見極める事が出来ると思っているのだろうが、すごく残念な事に僕にはサイドエフェクトが効かない。更に言えば僕の髪の毛とかをベースに持っている間はサイドエフェクトが効かなくなるお守りを持っているから他の転生者も効かないんだよ。

 

「友達……」

 

「そうそう、無駄な争いは持ち込まない……僕達は1人で黒トリガー数百個分の兵力だからね、喧嘩はしたくない」

 

「なっ!?」

 

 修の驚く反応を見るのは楽しいな。

 黒トリガーがどれだけ優れていて一個あるだけでどれだけ戦況をひっくり返すのかを知っているので修は驚きを隠せない。僕達の持っているトリガー(と言うことになっている転生特典)は本当に危険なもので、ある意味こちらの世界の代表だ。

 

「オサム、コシマエの言ってることはマジだ……コシマエと同じトリガーを持ってる人を知ってるけどおれと迅さんとたまこまの人達が協力しても多分、まともにダメージを与えられない。いや、顔を見ることも出来ない」

 

「あの人、序列一位だからね」

 

 遊真がこの世界に来る前に出会った僕達を纏めるリーダーを思い出す。

 あの胡散臭さがなんとも言えない後輩の転生者で、一番危険な人だったりする。

 

「序列?」

 

「ああ、僕達は全部で七人いるって言っただろ。それにランキングみたいなのを一応つけているんだ」

 

 転生者序列は戦闘力以外にも人間として危険とかそういう色々な分野を踏まえた上で決まる。

 単純な実力だったら僕は3本の指に入るが変態なのと性格が優しすぎたり年齢が一番下なのを理由にびりっけつだ。

 

「……本当に色々とあるんだな」

 

「まぁね……因みにだが僕達の国は色々とスゴいぞ」

 

 色々と知識を蓄えていく修に更なる知識を授ける。

 僕達が支配することに成功した国はとにかくスゴいぞ。なにがスゴいかって一言で表せないぐらいにスゴいんだ。

 

「どうスゴいんだ?」

 

「フライドチキンが物凄く美味かった」

 

「遊真、ストップ」

 

「フライドチキンが名物なのか?」

 

「いや、ただ単に鶏肉が余ってたからフライドチキンにしたって1位の人が」

 

「ストップ!!まだ許される範囲だけどストップ!!」

 

 どんな感じの国なのかを語ってくれる遊真だが、それ以上は非常にまずい。

 フライドチキンだけだとまだまだ気付かれないがアレとかを話されると非常にまずい。トリガー(と言うことになっている転生特典)のお陰だけど本当に心臓に悪い。

 

「コシマエ達の国は遊ぶところがとにかくスゴくて、他所の国が遊びに行きたいから和平交渉をするんだ」

 

「頼む、それ以上は言わないでくれ!!」

 

「なにをそんなに隠そうとしているんだ?」

 

 必死になって遊真を黙らせに行くがここぞとばかりに喋る遊真。

 それ以上は言ってはいけないと僕の直感が言っているが、それでも遊真は止まらない。

 

江戸(えど)プト・ベガス・ディズニーランドのケンタッキーのフライドチキンが美味しかっただけで別に隠す事じゃないだろ」

 

「……なんて?」

 

 っく……すまない。修に知られてはいけない情報を知られた。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

転生者の地球に残っている組はトップからお給料をもらっている。
越前は相撲取りの十両ほどで、深雪は小結ぐらいのお給料をもらっており、彼氏彼女と言った浮いた話を作れないのでお金は使われず貯蓄されており、それなりに金は持っている。


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栄光のクリスマスロード(バカ) 

ワールドトリガー恒例の炒飯ネタをやろうとしたが取りあえずこっちの方をすることにした。


「クリスマス?」

 

「うん!……もしかして知らないの?」

 

 遊真がボーダーに入隊云々を阻止すべく、黒トリガー争奪戦があった。

 基本的に余程の災厄が起きばい限りは傍観に徹している越前達はなにか原作とズレは無いかとコッソリと監視したりするぐらいで特に介入はしてこない。

 実力派エリートこと迅が黒トリガーである【風刃】を本部に差し出して遊真の入隊を許可してもらい、はや数日と言ったところ。季節は既に冬であの季節……クリスマスがやってくる。

 

「聞いたことがある。フライドチキンを食べる日だと」

 

「そうじゃないよ」

 

 間違った認識(一位の奴に)をしてしまっている遊真の認識を訂正する千佳。

 フライドチキンを食べてお祝いをする日なのを伝えると舌を出して美味そうだなとアピールをするのだが、赤い服を着たお爺さんが家に侵入してプレゼントを置いていくと言われて変な想像をしてしまい食欲が失せてしまう。

 

「そのサンタっていったい何者なんだ?」

 

「いい子にしてる子供にプレゼントを送るお爺さんだよ」

 

「むぅ……聞いた限り、ただの不審者としか思えない」

 

 そんなこんなで学校も終わり、仲良く玉狛支部に向かう千佳と遊真。

 端から見れば仲のいいカップルかと思えるがどちらも小学生みたいなちんまい見た目をしておりそうは思われない。

 

「おはようございます」

 

「ただいま~」

 

 玉狛支部に足を運ぶ(帰宅)、遊真と千佳。

 何時もならばここに修が居るのだが生憎な事、本日不在である。

 

「来たわね!!って、修はどうしたのよ?」

 

 帰って来た2人を出迎えるは元ボーダー1位(元)の小南。くぎゅうボイスが似合う深雪を苦手とする人物で、2人を待ち構えていたのだが修がいない事に直ぐに気付く。

 

「オサムなら本部に呼び出されたよ」

 

 この場に居ない理由を遊真から聞かされると直ぐに納得をする小南。

 先を越されてしまったと少しだけショックを受けるのだが、直ぐに持ち直す。

 

「修くんになにか用事があったんですか?」

 

「修に用事って言うか、あんた達全員に用事があったのよ」

 

「ほほぅ、おれ達全員にですか」

 

「ええ!あんた達ならきっとやってくれるって思ったのだけど、あのおっさん達も流石に動くわね」

 

 既にボーダーの隊員の修なら呼び出されて当然かと妙に納得をする小南。

 ボーダーから支給されている携帯端末を確認するとメールが入っていることに気付く。

 

「あの、なんの話をしているんですか?」

 

「いい、これはボーダーの機密だから絶対に喋っちゃダメよ」

 

「それならまだボーダー隊員じゃないおれ達に喋ったらダメなんじゃ」

 

「1月8日になれば入隊するんだからいいのよ……驚くんじゃないわよ」

 

「なにがあるんですか?」

 

「……サンタクロースは、実在するのよ」

 

「……え?」

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 

「久しぶりだな、本部に来るのも」

 

 時刻はちょこっと遡り、修に視点は切り替わる。

 ボーダーから与えられている携帯端末から支給本部にやって来るようにと命じられた修。遊真の一件で色々とあり、本部に顔を出しづらい状況になっており本部でなく玉狛支部で色々と鍛えていた。

 敵対しているとは言いがたいが、それでも顔を合わしにくい立場であるにも関わらず呼び出されたら行くのは修の素直なところである。

 

「よぅ、修」

 

「林藤支部長……」

 

「そう緊張するな。別に誰かを怒るとかそういう感じじゃない」

 

 周りには見知らぬボーダー隊員だらけで心臓がバクバクの修の背を叩くは玉狛支部の支部長、林藤。

 今からなにをするのかを知っているので思わず笑ってしまう。

 

「時間内に全員集まったようだな。何時もなら忍田本部長が色々と説明をするが、今回は玉狛支部の支部長である林藤匠が挨拶をさせてもらう……」

 

「本部長じゃない?」

 

 集められたボーダー隊員の中には見たことがある人達もそれなりにいる。

 そんな中で挨拶を始めるのは本部の部長である忍田本部長でなく自身が世話になっている林藤支部長が顔を出す事に疑問を持つ。

 それは修だけでなく本部所属の那須隊や諏訪隊、三輪隊と言った面々がなんでと言った疑問を浮かび上げる。

 

「なんで今回皆が集められたかというとだ、極秘ミッションの為だ。くれぐれもこの事は口外をせず、もし無理そうだったら断ってもいい。今回ここに集められたのはミッションの当日休みの連中だ」

 

「当日つったら、クリスマスか。林藤さんよ、こっちも暇じゃねえんだ。勿体振らずに言ってくれよ」

 

 真面目に喋ってるものの胡散臭さと笑みを隠さない林藤支部長。

 なにか裏があると察した諏訪隊の諏訪さんは用件をとにかく聞きたがる。

 

「ああ……名付けてサンタクロース捕獲計画だ」

 

「おーし、帰るぞ堤。クリスマスは徹夜で麻雀って決まってんだよ」

 

 くだらない。

 実にあまりにもとにかくくだらない内容で帰ろうとする諏訪さん。

 他の面々もなに言っているんだこいつと言った顔をしており、断っていいのならば帰ろうかなと帰る姿勢を見せる。

 

「林藤支部長、流石にそれはないだろう。サンタクロースが存在しないことぐらい、オレでも知ってるぜ」

 

 呼び出した用件がそれかと呆れる米屋。

 この場に居るのは中学生以上の面々でサンタクロースが実在しているなんて思わない。そういう年齢はとっくの昔に過ぎているなんとも心がすさみ汚れてしまった連中である。

 

「ところがどっこい、これが実在するんだよ」

 

 しかし、そうはいかないのが現実である。

 いい歳したおっさんがなにを言っているのだろうかと周りが冷たい視線を向ける中、那須隊の日浦茜が挙手をする。

 

「あの、私、去年サンタさんにプレゼントを貰ったことがあります」

 

「お、やっぱり心当たりがある奴がいたか」

 

「あの、自分も貰ったことがあります」

 

 茜に続くかの様に手を上げる柿崎隊の巴。

 それに続いてサンタからのプレゼントに心当たりがあるボーダー隊員達は手を上げる。

 

「そう、お前達がもしかしてと思うプレゼント、あれは実はサンタクロースがお前達に送ったプレゼントなんだ」

 

「馬鹿馬鹿しい。なにがサンタクロースだ」

 

「おい、秀次、何処に行くんだよ」

 

「こんなくだらない任務なんてやっていられるか!!」

 

 最もらしい意見である。

 サンタクロースなんてフィクションの存在で実在はしないんだと三輪隊の三輪は帰ってしまう。一応は自由参加の任務なので参加しないなら参加しないでこの任務は極秘だから口外しないでねと言っておいた。

 

「てか、迅さんが裏でなんかしてんじゃねえの?」

 

 サンタクロースに捕獲なんて年頃じゃないと何名かは出ていった中で残った米屋。

 一番サンタクロースっぽい事をしそうである実力派エリートである迅がサンタ、迅サンタじゃないのかと疑惑を上げる。

 

「残念だが、迅はサンタじゃない。本人も違うと言っているし、なによりプレゼントが配られたであろう犯行日時に迅は玉狛にいた」

 

「犯行日時って……」

 

 もう少しまともな言葉はないだろうかと冷や汗をかく修。なんだかスゴく嫌な予感がする。

 

「ってことはアレか?ボーダー隊員でもない誰かがボーダー隊員の家に侵入してプレゼントを置いていったってか」

 

「まぁ、そうなるな」

 

「おいおい、そりゃ警察沙汰だろう!!」

 

 聞けば明らかに自分達案件じゃないことに叫ぶ諏訪さん。

 何処からどう見ても警察案件なのだが、季節と犯行時刻からしてマジのサンタクロースなのかもしれない。

 

「確かに警察沙汰だが……もしかしたらサンタクロースは近界民(ネイバー)かもしれない」

 

「どんな結論だ……つか、こういう事をやらせるんだったら迅はどうしたんすか?」

 

 困った時には実力派エリートだ。

 こういう時こそ迅の未来視のサイドエフェクトの利用だが、肝心の迅は何処にもいないことを指摘する諏訪さん。

 

「それがどうもサイドエフェクトが上手く噛み合わなくてな……クリスマスを楽しんでる未来は見えるんだが、誰1人としてクリスマスにサンタクロースと戦ってる未来は見えない。恐らくだが、サンタクロースの顔を見ていないからその未来が見えないと断定されている」

 

「マジかよ……」

 

 なんだかんだで頼れて便利なサイドエフェクトを持っている迅。

 ボーダーの重要なポストに居る筈の彼だが今回は彼が全く使い物にならない事に何名かのボーダー隊員は驚きを隠せない。

 

「それってサンタさんが今年は来ないからじゃないんですか?」

 

「いや、それがプレゼントを貰って喜んでいる未来は見えてるらしい」

 

「プレゼントを貰う過程が見えないのね……」

 

 今までにない前代未聞な事に頭を悩ませる那須。

 一見、馬鹿馬鹿しい様に見えるがボーダー隊員の家に不法侵入してはプレゼントを配ると、冷静に考えてみればサンタクロースは犯罪者かなにかじゃないかと深く考え込んでしまう。

 

「今のところこちらの結論ではもしかするとサンタクロースは近界民(ネイバー)なのかもしれないことだ」

 

「サンタが近界民……?」

 

 そういえば空閑がクリスマスを知らなかったことを思い出す修。

 向こうの世界の事を知っているのならばサンタ=近界民は無いのではと疑問に思うが口にはしない。

 

「子供の頃、サンタクロースを捕まえれば無限にプレゼントをゲットできるって夢を見たけどまさか捕まえる日が本当に来るとはな」

 

 今回の作戦にノリノリの米屋は笑う。

 サンタを信じていた幼き頃サンタを捕まえてプレゼントを沢山ゲットするんだと言うよくある欲深い事を考えており、今回それを本当に実行するある意味ロマンが溢れる話だ。

 

「因みにだが玉狛の面々もこの事は伝わっている……サンタクロースを捕獲するぞ」

 

 なにを言っているんだろう、このおっさんは。

 流石に付き合いきれない隊員も続出しており、純粋にクリスマスを楽しみたいと言う面々は帰っていきほんの一握りしか残らなかった。

 

「あの、僕も帰っていいですか?」

 

 流石に修も付き合いきれないので帰りたがる。

 

「ええ、参加してくれないのか?」

 

「参加しませんよ」

 

 如何に世話になっている支部長と言えども、はいそうですかと参加するほど修はお人好しじゃない。

 なにやらロクな未来は待ち受けないと修はある人物の事を頭に浮かべるのだが、喋ってはいけない約束なので修は喋らず、林藤支部長のやってくんないのと言った顔を無視して普通に帰路につく。

 

「ウェルカム、修」

 

「……」

 

 そんな帰路に着いた時の事、頭に浮かべた人物ことコシマエが自分の目の前に現れる、と言うか待ち伏せをされていた。

 

「越前……いや、コシマエ。お前がサンタクロースだろ?」

 

 こんな偶然があってたまるか。

 話題になっている人は恐らくはと言うか絶対にこいつだと少しだけ呆れた視線を越前に向けつつ、こっち関係の事なので名前を呼ばず愛称で呼ぶ。

 

「う~ん、残念だな」

 

「残念?越前がボーダーで噂になっているサンタじゃないのか?」

 

 こんなところで自分を待つなんてそれこそサンタと言っているみたいなものだ。

 遊真がサンタとかクリスマスを知らなかったし、サンタは近界民ではないならば目の前に居る男がそうであろうとなるのは至極当たり前の考えだが、少しだけ気難しそうな顔をする。

 

「残念だが、去年のサンタと今年のサンタクロースは別なんだよ」

 

「別?……」

 

「サンタクロースは毎年ローテーションで回すことが決まっててね、去年サンタした人と今年サンタをする人は別なんだよ」

 

「……そういえば7人いるって言ってたな」

 

 昨年、ボーダーの隊員にプレゼントを配った人ではないと手で×印を作るコシマエ。

 彼以外にも何名か仲間が居ることを思い出した修は納得をするのだが、この場に来たと言う事はと少しだけ嫌な予感がし、一歩だけ引いてしまう。

 

「そう身構えるな、今はサンタとしてお前にプレゼントを持ってきたんだ」

 

「プレゼント?」

 

 ロクな事をしなさそうな彼から貰える物はなんだか嫌な予感しかしない修。

 放送に包まれている細い長方形のプレゼントを貰うと、安全な物なのかと一先ずは振ってみて音はしないので大丈夫な物だとホッとするとコシマエからの視線を感じたのか恐る恐る包装を破る。

 

「こ、これは……!!」

 

「え、なにこれ?」

 

 中身を知らないコシマエは驚く、中身を知った修は目を輝かせる。

 

「絶対にみたい世界の橋……」

 

「こんな物をもらっていいのか!?」

 

 修が手にしてる物もとい本、それは絶対にみたい世界の橋と言うかなりシンプルなタイトルの本だった。

 サンタの能力で相手が望むプレゼントを出すことが出来るがどんなプレゼントが出てくるかは分からず、出てきたもののあまりの地味さにコシマエは思わず引いてしまう。もっと言えば、それに喜んでいる修に対しても若干だが引いてしまう。

 

「お前、こんな物が欲しかったのか……」

 

「あ、わ、悪い。つい取り乱してしまって」

 

「いや、うん……公衆の面前だからあんまりテンションを上げないでくれよ」

 

 今までこんなにテンションを上げている三雲修が居たのだろうか?否、存在していない。

 まさかこんな地味なプレゼントでここまでテンションを上げるとなるとサンタとしても困ってしまう。公式設定で修の好きなものは橋であり、橋に関する本をあげただけでここまでテンションを上げるとなるとジオラマとかあげるとどうなるか恐ろしい。確かにこういう本は元々それなりの値段がついていて絶版に近く、最低でも数千円で取引される代物だが、もう少し豪勢な物は無いのかと修の物欲に若干の心配をする。

 

「本当にもらってもいいのか?」

 

「今の僕はサンタクロースだからね。子供が本当に欲しいと思っている物をプレゼントしないと……例えそれが地味な物だとしても」

 

 もうちょっと良いものを要求して欲しかった。コシマエは少しだけ遠い目をしているが修はそれに気付かない。それだけ貰ったプレゼントの喜びに浸っているのだから。

 

「コシマエは……越前はこれからどうするんだ?」

 

 プレゼントを貰った熱も冷めていき、少し冷静になった修。今後の予定を尋ねる。

 

「なにサンタクロースとしての責務を全うするだけだ」

 

「そうか……ボーダーがサンタクロースを捕まえようとして作戦を練っている。今、ボーダーに向かうのは危険だ」

 

 ボーダー隊員でなく1人の友人として忠告をする修。

 もし彼が捕まったらどうなるのか分からないが大変な事になるのは確かだ。1人の友人として彼には捕まってほしくはないと願っている。

 

「安心しろ、古来よりサンタを捕まえてプレゼントを沢山頂こうと考えるクソガキは多い。そしてそういった輩を相手にサンタは幾度となく乗り越えてきた。例え相手が世界を繋ぐ者達だとしても構わない、むしろ相手になってやろうじゃないか」

 

 シュッシュとシャドーボクシングをするコシマエは誰にも止められない。

 なにせ現在彼のトリオン体は施しの英雄と言われた男のサンタクロース版と全く同じであり、物凄いまでの早さになっているのだら。

 

「まず最初に目指すは玉狛支部……今年、クリスマスがはじめてな遊真は……へぇ……うん……なるほど」

 

 遊真が欲しいプレゼントを見て、納得して微笑むコシマエは走っていく。

 本来ならばサンタクロースはソリに乗ってプレゼントを配るのだからコシマエは騎兵(ライダー)でなく剣士(セイバー)、否、拳士である為に走っていく。

 本来ならば不審者を見るような目を向けられるが、そこはサンタクオリティ。物凄い速さで駆け抜けていき、誰にも気付かれない。サンタクロースと言うのは古来より堂々と姿を現してプレゼントを配ったりするが、時には姿を潜ませて夜中にプレゼントを配ったりする。つまりなにが言いたいかと言えば

 

「気配遮断EXは伊達じゃない」

 

 クリスマスはまだまだ続く。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

サンタクロースをやろうと言い出したのは音としからであり、転生者序列1位の人が一番最初にサンタをやった。
昨年のサンタクロースは深雪でありローテーションでサンタの役を回していく事になっておりプレゼントは謎のサンタパワーで手に入れており、物的なプレゼントを要求してくる人にも対応している
尚、修の橋好きは公式設定


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栄光のクリスマスロード(アホ)

「遊真、メリークリスマス」

 

 修にプレゼントを渡し終え、次に向かうはボーダーの玉狛支部。

 屋上に1人ポツンと座っている遊真は空を眺めていた。

 

「コシマエ、メリークリスマス」

 

「ところで知ってるか?メリークリスマスと言うのはいいクリスマスをという意味なんだ」

 

 だから、去り際に言うのが一番正しくて今言うのは間違いである。

 自分で真っ先に言っておいてなんだけども、間違った知識が物凄く広まっているよ。

 

「そうなのか?」

 

「そうだよ。因みに今からクリスマスパーティかい?」

 

 時刻は間もなく夜になろうとしている。

 冬は夜が早く、あっという間になるものだけど今日はクリスマスのせいか余計に早く感じる。

 

「うん。今から皆でクリスマスパーティーをする」

 

「そうか、フライドチキンはケンタッキーがおすすめだよ」

 

 と言うか、ケンタッキー以外にフライドチキンを売っている店が思い付かない。

 スーパーとかコンビニの惣菜でチラチラと見るが、それ以外で置いているところに心当たりがない。

 

「レイジさんが鶏を丸々一匹買ってきて、なんか調理してた」

 

「七面鳥とは随分とまた本格的だね」

 

 日本じゃフライドチキンが定番になってはいるけれど、海外じゃ七面鳥を食うのが定番だったりする。

 筋肉ゴリラもとい木崎レイジさんはフライドチキンを作ることはせずに七面鳥をオーブンで焼く方を選んだか。フライドチキンはケンタッキーで何時でも食べれるけど、七面鳥はこのシーズンじゃないと中々に手に入らないからそっちを選んじゃうよな。

 

「それでコシマエはなにしに来たの?」

 

「見て分からないか?」

 

 如何にもな格好はしてはいないが、流れ的にわかって欲しかった。

 

「サンタクロースだ」

 

「ほうほう……小南先輩が言ってたこと、本当だったんだな」

 

「ボーダーに出現するサンタクロースの事か?残念ながらそれは僕じゃなくて別の奴等だ……」

 

 既に噂になっているサンタクロース。

 一昨年、一位の人がやって翌年深雪が便乗し、なんだかんだで3年目に突入する始末。

 

「気を付けた方がいいよ。ボーダーは本気でサンタクロースを捕まえようとしている」

 

「うん、知ってる……」

 

 去年、一昨年と騒いだせいで指名手配的な扱いになっているサンタクロース。

 最初はすんなりといけたのになんで僕の年にはこんな事になっているのか。いや、確かに不審者としか思えない行動しかしていないけど、なんか僕だけ重労働な気がする……6位のバーサーカーに下克上でも仕掛けてやろうか。

 

「それでなにくれるの?」

 

 おおっと、いきなり現金な話になってきたな。

 プレゼントを貰えるならばと三3三の顔になる遊真。

 

「遊真に渡すプレゼントは、え~っと、楽しい時間だ」

 

「……ん?なんだそれ?」

 

 遊真が欲しい物と書かれた紙を取り出すと、そこには楽しい時間と記載されていた。

 もっとこう現ナマとかゲームとか調理器具とかの物質的な物を欲していると思ったが遊真のプレゼントは中々に面倒な物で当の本人もあまりピンと来ていない。僕も最初、どうすれば良いのかと悩んでしまったが楽しい時間ならなんでもいいのならばと答えが出た。

 

「今からボーダーの本部に侵入して来るから、それを生配信で見せてやろう」

 

 楽しい時間とは面白い一時なのだろう。

 それならば今からボーダーの本部に侵入してあれやこれやしてくる。きっと面白おかしい事が起きるだろう。

 

「レプリカが居るだろう。あれを貸して欲しい」

 

「ふむ……どうするレプリカ?」

 

『私自身、ユーマの側を離れるわけにはいかない。しかし、ユーマのプレゼントもある。子機を貸そう』

 

 ニュインと小さな豆粒のちびレプリカを出現させるレプリカ。

 これがあればボーダー本部に不法侵入してみたを遊真に生配信することが出来る。

 

「分かっているとは思うけど、くれぐれもこの事は内密だぞ」

 

「分かってる……こんな事やってるのバレたら一大事だ」

 

「その割にはノリノリじゃないか」

 

「だって、面白そうじゃん」

 

 はっはっは、人は面白いというものには抗う事は出来ない。

 万が一バレたらなにも知らぬ存ぜぬの協定は結ばれ、生配信することが決まる。

 

「ところでここにもプレゼントを配らないといけない子供が居るだろ」

 

「ああ、バカ王子じゃなかった。林藤くんね……」

 

「今、おれ達以外が侵入したら警報が鳴るように鳴ってるから気を付けろよ」

 

「ふ、甘いな」

 

 サンタクロースは誰にも捕まらない。姿を見せても、誰かの物になることは絶対に無い。

 ボーダーが色々と警備を敷いているのは修がそれっぽいことを言っていたので知っている。そしてサンタクロースはそれを乗り越える力を持っている事を僕は知っているんだ。

 

「お~い、遊真。そろそろ七面鳥が焼ける……え」

 

「サンタジャブ!」

 

「ぐふぉ!?」

 

 例えば遊真を善意で呼びに来た実力派エリートを名乗る無職を一瞬で倒すボクシングが出来たりする。

 

「一番危険性のある男を真っ先に排除した……これでサンタクロースとして動きやすくなる」

 

「ジンさんの事を知ってるの?」

 

「まぁ、色々と知っているよ。これでも街中をコッソリと監視している変態がいるからね」

 

 この男の危険なところはサイドエフェクトで未来が視れること。

 僕はサイドエフェクト無効化サイドエフェクトというチートを持っているが、この男にどう見えるか謎である。しかし危険分子であるのは変わり無いので倒しておく。

 

「全く、サンタクロースを捕まえるつもりなら最初からトリガーを起動しておけばいいのに」

 

 この男、トリオン体ではなかった。

 どれだけ優れたトリガー使いであろうともトリガーを起動しておかなければ雑魚も同然。トリガーを起動した状態だったら、少しぐらいは勝負になったかもしれない。たらればの話はあまり宜しくないからこれ以上はしない。

 

「っと、この人にも一応はプレゼントを送らないと……ご当地ぼんち揚だ」

 

 情けない姿を見せられてしまったものの、この人はこんなのでもボーダーの要だ。

 通常のぼんち揚以外のご当地のぼんち揚の詰め合わせをプレゼントする……ぼんち揚自体、ご当地のお菓子なんだけど。

 

「ついでだ。この支部の隊員達のプレゼントも置いておこう」

 

 このままここに侵入してもいいのだが、時間は限られている。

 迅さんの上に他の隊員達のプレゼントを乗せておき(嫌がらせ)、ボーダーの本部がある方角に顔を向けてプレゼントが配る書かれた紙を確認する。

 残念な事に玉狛以外の支部の人達は今年はプレゼントは無しだ。いい子にしていないからとかではなく、これはランダムに選ばれる仕様だ。

 

「え~……なんか難易度が高いプレゼントもあるな」

 

 これ、僕が結構頑張らないとダメな感じのプレゼントがある。本当に貧乏くじを引いてしまうタイプの人間だな、僕は。

 

「迅、遊真を呼びに行くのにどれだけ時間を掛けてる……嘘!?」

 

 遊真を呼びに行ったっきり戻ってこないので屋上にやってきた小南パイセン。

 ぶっ倒れている迅とその上に乗っかっているプレゼントを見て、固まる。

 

「……メリークリスマス!!」

 

「え、ちょ、待ちなさい!いや、待ってください!!」

 

「安心しろ、その男の上に皆のプレゼントは乗せている。あ、でもメガネの彼は別に渡してるから!!」

 

「待って!!お礼を言わせて、サンタさん!!」

 

 え、嘘。

 思っていたのと違う感じの展開になり思わず固まる。

 

「その、毎年ありがとう」

 

 嘘、もしかして小南パイセン、この歳になってもサンタクロースを信じてるの?

 確かに去年、一昨年と小南パイセンにプレゼントを渡したとは聞いているけども……え、マジで?

 

「私達、いい子かどうか分からないのにプレゼントをくれて……来年もいい子にしているから」

 

 う~ん、尊臣秀吉。

 モジモジしながら頑張っているアピールをすつくぎゅうなんて中々に見ることは出来ない。今年、サンタなんて貧乏くじを引いてしまったと思ったが、これは中々にいとエモし。

 

「HAHAHA、サンタはいい子の味方だよ!」

 

 もう少し小南パイセンを見ていたいが、これ以上すれば気絶している迅が目覚めたり他の面々がやって来たりする。

 サンタクロースを捕獲しようというなんとも罰当たりな計画をしている以上はここに残ることは出来ないと目にも止まらぬ速さでジャンプ。屋上を飛び降りて忍者の如くビルを飛び交う。

 

「こなみセンパイ、サンタクロースを捕まえるんじゃなかったの?」

 

「……は、そうだったわ!!」

 

「おれ達にプレゼントを渡し終えたから多分、次は本部に向かったんじゃないのか?」

 

 さらりと僕の次の行方を教えてくる遊真。

 小南パイセンは追いかけようとトリガーを起動してレーダーで何処に逃げたのかを探ってみるものの見つからない。サンタクロースというものはレーダーに写らないのだ。

 既に姿を見失ってしまい、こうなってしまっては探すものは探せない。

 

「宇佐美、サンタよ!!サンタクロースが出たわ!!」

 

「え、嘘!?レーダーに写らなかったよ!!」

 

「レーダーに写らないみたい!私達にプレゼントを配り終えたから、多分次は本部よ!!」

 

「……誰かこのプレゼントを退けてくれないかなー」

 

  自分の上に玉狛の皆へのプレゼントが置かれているので動くに動けない迅は哀れなり。

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「メリークリスマス……って、これは最後に言うべきことか」

 

「だ、誰ですか!?」

 

 マッハで移動し、やって来たのはボーダー本部付近。

 クリスマスだと言うのに何時も以上に警備を敷いているのは十中八九、僕が目当てなのだろう。

 サンタクロースを捕らえるといい歳したおっさん連中が計画してるのを想像してみるとなんとも言えない、と言うか爆笑だ。

 

「見て分からないか?そうだす、わたすがサンタクロースです」

 

「……ほ、ホントにやって来た!?」

 

 本部勤務の1人目のターゲットである日浦茜の接触に成功。

 まさか本当にやって来るとは思いもせず、動揺する茜ちゃん……う~ん、ピュアなのはいいね。

 

「ええっと、ええっと」

 

 どうすればいいんだろうと慌てる茜ちゃん。まさか本当に現れるとは思いもしなかったのだろう。

 遊真や修は僕のことを知っているからなんとも言えない気持ちになっていたので、こんな新鮮な展開が見れて心が癒される。そしてそんなエモい茜ちゃんの笑顔を曇らせたいとか言う深雪は本当に畜生である。

 

「まぁ、落ち着けよ。別になにか悪いことをしに来たわけじゃない。今年のサンタクロースとしていい子にしている君に」

 

「皆さん、サンタが出ました!!」

 

「って、おい聞けよ」

 

 さっきの小南パイセンのいい反応から一転し、僕の事を通報する茜ちゃん。

 暫くすれば人がやって来るのは確実……プレゼントを渡さなければならない隊員が居てくれれば楽なのだがな。

 

「全く、サンタを不審者扱いとは世も末だね」

 

「す、すみません」

 

「なに気にしないでくれ、此方もお遊び半分でやっている。ここにサンタが現れたとなればそこにいるチビッ子にプレゼントを渡すのが道理だ」

 

「チビッ子って、私ちっちゃくありません!!」

 

 プンプンと怒る茜ちゃん。そんな茜ちゃんには試練を与えよう。

 

「貴方が欲しいのは猫のシルエットが入っているキャップですか?それとも犬vs猫、肉球大戦争と言う映画ですか?」

 

「え……りょ、両方はダメなんですか?」

 

「サンタクロースは頑張ってる子にプレゼントは配るけど、何でもかんでもプレゼントはしないな……そもそもでサンタクロースってそういうものじゃないし」

 

「え、サンタって子供達にプレゼントを配る人の事じゃないんですか!?」

 

「違うよ。サンタクロースの起源は4世紀の東ローマ、今で言うトルコにいたカトリック教会司教セントニコラウスが元ネタで貧困に苦しむ子供達の家に金貨を投げ入れたらたまたま靴下の中に入ったというんだ」

 

「あ、だからプレゼントを入れるのは靴下なんですね!!」

 

 そうだよ。これでまた1つ賢くなったね、茜ちゃん。

 特に意味の無い雑学を知ったことを嬉しそうに笑う茜ちゃん。う~ん、いいね。

 

「いい子にしている茜ちゃんには両方ともプレゼントをしよう」

 

「わーい!……あれ?名前を教えましたっけ?」

 

「HAHAHA、サンタはなんでも知っているものだ。とりあえず受け取りたまえ」

 

 いけないいけない、うっかりとボロが出てしまうところだった。

 何はともあれチビッ子にプレゼントを渡すことが出来てサンタとしての責務を全うできる……そう思っていた。

 

「っ!!」

 

「え!?」

 

 その矢先に無数の弾が僕に向かって撃たれる。

 銃撃音と共に撃たれるその弾を茜ちゃんは気付くことは出来ず、僕は撃たれてから当たるまでの一瞬の間に避ける。

 

「っち、外したか」

 

 僕に弾を撃ってきた男……漆間隊の漆間亘は舌打ちをする。

 この男、茜ちゃんが居ることをわかっていて堂々と撃ちやがったよ。緊急脱出機能があるからいいんだけど。いや、よくないか。

 

「う、漆間先輩なにをするんですか!?」

 

「なにってサンタクロースを退治してるんだよ……クリスマスで特別手当てが出ると思ったら馬鹿馬鹿しい仕事で、ただでさえ何時もより人が多いから討伐分の給料が少なくなると思ったらまさか来てくれるとは思わなかった」

 

 突撃銃を僕に向けてくる漆間。

 

「ま、待ってください!サンタさんは私達にプレゼントを届けに来ただけで悪い人じゃないです!!」

 

 出会ってまだ一時間もしていない僕を庇ってくれるとは……天使かなにかか!?

 

「五月蝿いな。上から捕まえるか倒すかの命令が出ているのを知らないのか?」

 

 そしてこの男は悪魔なのだろうか?

 

「ほぅ、世界を繋ぎし者達は我等サンタを捕獲しようという魂胆か……全くサンタクロースという存在を甘くみられたものだ。漆間亘、お前にも一応のプレゼントは用意してあるのだぞ」

 

 今回のプレゼントリストの中に何故かこの男も入っている。

 普通はもうちょっと歳が下の人じゃないかと思うのだが、この男にもプレゼントはある。

 

「生憎、プレゼントを貰うよりもサンタを捕獲した方が豪勢なクリスマスを過ごせそうなんでね」

 

「そう言うな。このアメリカのメジャーリーグの選手達の野球カードをお前にプレゼントし━━おい、なにをする!?」

 

「そんな物は欲しくない!!」

 

 人が喋っている時に堂々と攻撃してくるとはなんたる外道だ。

 

「流石はオペレーターにDVしてそうなボーダー隊員、平然と撃ってくるな」

 

「おい、それ誰が言ってたんだ?」

 

 しかし、参ったな。渡そうとしていたプロ野球選手のカードが蜂の巣だ。

 

「このカード、然るべきところで売れば1枚で数十万はするのに」

 

「……え?」

 

 もう当の昔に引退している選手の初版のカードとかマニアからすればヨダレが出る代物のみを詰め合わせたプレゼント。

 元ネタの人は直に金をプレゼントしていたが、サンタである以上はそのままの金を渡すわけにはいかないと金に換金しやすい物を出したのに受け取ろうとしないとは残念だ。

 

「あ~あーダメになってる」

 

 一応の為に中身を確認するも蜂の巣になっている。

 こりゃダメだ。MLBの稀少なカードは普通に数十万するってのに、穴が空いたりしたら価値が一瞬にして暴落する。カード系は保存状態が良くないとダメなのは常識なんだよ。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。たかがカードでそんなにするのか」

 

「サンタはプレゼントでは嘘をつかない。コレクション要素のあるカードは古くて保存状態が良ければマニアはちゃんと買い取ってくれる……まぁ、売る手続きとかは自分でやれと言うしかないが、残念だ」

 

 冗談抜きでいいプレゼントだったのにそれを無駄にしたのは君が悪い。

 まさかそんなに値が張るものだとは思いもしなかったのか漆間はプルプルと震えており、明らかに落ち込んでいる。

 

「こうなったら、お前を捕まえて残るプレゼントを頂いてやる!!」

 

「やれやれ……それは最も悪手だぞ?」

 

 自棄を起こしたのか突撃銃を向ける漆間。

 サンタクロースに銃を向けるとどうなるのかを知らない様なのでボクシングの構えを取り、銃を撃とうとする漆間の目の前に移動する。

 

「覚えておけ、左を制する者がクリスマスを制する!!」

 

 左での軽めのジャブを数発漆間に入れると漆間のトリオン体は損傷して使い物にならなくなる。

 

『トリオン体損傷、活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)

 

「ふ……サンタクロースと戦うならばそれ相応の覚悟を持っておけ」

 

「あ、ああ……サンタさんって滅茶苦茶強いんですね!!」

 

 う~ん、茜ちゃんよ着眼点がズレてるな。

 普通は漆間さんが一瞬で!と驚くところなのに、全くと言って驚いていない……やっぱあれだろうか?金にがめつかったりでいい人と思われてない日頃の行いが原因なのだろうか?

 

「今年のサンタはボクサーでもある……っと、無駄に長居をし過ぎたようだ」

 

 此方に向かってきたしているボーダー隊員がチラホラといる。

 相手にとって不足どころか雑魚で問題は無いのだがサンタクロースが無闇矢鱈と暴力にひた走るのはよくないことだ。プレゼントを渡す人のリストを確認し、僕はこの場を後にする。

 

 メリークリスマスにはまだ早い




運命/世界の引き金こそこそ裏話

当小説に出てくる転生者は転生者になるべく地獄で地獄のような訓練を受けている。
ラブコメだろうが日常系だろうがおっさんの趣味を美少女がやってる系だろうがバトル物だろうがどんな世界に転生しても問題なく、ロクでもない事(褒め言葉)をしてくれる。


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栄光のクリスマスロード(メリークリボッチ)

 茜ちゃんから離れるがボーダー本部には更に近付く。

 

「ところでどういう感じで遊真に伝わっている?」

 

 今更ながら遊真にはどういう光景が見えているのかが気になる。

 

『私が見たものをそのまま写している。生放送というやつだ』

 

「ほぅほぅ……他の奴等には見られるなよ」

 

『抜かりはない』

 

 そうやっている時ほど人は油断をするというもの。

 絶賛、アホなことというか罰ゲームみたいな真似をしている僕が言えた義理じゃないか。

 

「サンタさん、見っけ!!」

 

 そんなこんなで更にボーダー本部に近付くとやって来るチビッ子。

 数少ない中学生A級隊員こと緑川がこちらに向かってきており、その手には(スコーピオン)が握られている。

 

「ふむ……」

 

「よねやん先輩、いずみん先輩、サンタさん居たよ!!」

 

 (サンタクロース)を見つけてテンションを上げる緑川。

 同じバカであり先輩である出水と米屋に報告すると、2人も近付いてくる。

 

「おお、マジでサンタの野郎居やがったのか」

 

「でも、なんかサンタっぽくないな。普通、真っ赤な服に真っ白な髭だろ」

 

「それはお前達が後付けしたイメージで、サンタクロースとは元々聖ニコラウスが貧しい子供達に金貨を与えたことが起源となっている」

 

「へ~そうなんだ」

 

 マジでサンタが居たのかとテンションを上げる3バカトリオ。

 さっき茜ちゃんに言ったことを教えると緑川は納得する……ふむ。

 

「米屋陽介……申し訳ない」

 

「ん、オレになんか悪いことをしたのか?」

 

 いきなり謝られて困惑する米屋。

 今年渡すプレゼントが書かれたリストに目を通すと彼の名前が載っており、プレゼントが非常にややこしい物になっている。

 

「お前にサンタからプレゼントがあるが、少々ややこしくてな。今すぐに渡すことは出来ない……他の面々にプレゼントを配り終えた後になってしまう」

 

 このプレゼントは今すぐに渡すことが出来るが時間が掛かってしまう代物だ。

 

「よねやん先輩、なんか欲しいものでもあるの?」

 

「いや……A級だし金に困ってるわけじゃないし、欲しい物は大体買えるから特にこれと言ったものはないな」

 

 プレゼントに心当たりがない米屋。それもそのはずだ。

 なにせ今回のプレゼントは物質的な物じゃない。遊真と同じく概念的な代物だ。

 

「なにお前が物凄く喜ぶプレゼントであることは事実だ……期待しておけ」

 

「マジか、なにくれるんだろ?」

 

「ねぇねぇ、オレ達にプレゼントは?」

 

 プレゼントを想像する米屋を横に緑川は物欲しそうな目で聞いてくる。

 この野郎、お前もA級隊員ならば固定給+出来高でそれなりに給料貰ってるだろうに……。

 

「残念だが、今年はお前達2人にはプレゼントは無い!!」

 

「えーっ!?よねやん先輩だけなの!?」

 

「いや、他にもまだ何名かプレゼントを送る人はいるよ……え~っと、黒江ちゃんとか」

 

「双葉だけとかズルい!!」

 

「オレ達にもプレゼントをくれよ!!」

 

 高給な14歳と17歳がなにを言ってやがる。

 

「すまないな、オレだけプレゼントを貰って」

 

 貰うことが確定している米屋は物凄いキメ顔で申し訳ないと思っていない。

 今年の勝ち組と書かれた襷を掛けても許されるんじゃないかなと思えるぐらいにはドヤってる。

 

「いずみん先輩、こうなったらサンタさんを捕まえよう!!」

 

「おう、てか元からそれが仕事だからな」

 

 プレゼント欲しさにサンタクロースを襲うのは世の常か。

 出水はトリオンキューブ(弾)を出し、緑川はスコーピオンを取り出す……。

 

「サンタクロースを舐めるな!!」

 

 さっきと似たような展開が起きても動じない。

 よっしゃバトッてやろうと意気込む出水と緑川の元に緑色の閃光が走る。具体的に言えば聖闘士星矢のライトニング・プラズマ的なのが発生する。

 

「え……」

 

『トリオン体、損傷、活動限界』

 

「嘘だろ!?」

 

緊急脱出(ベイルアウト)!』

 

 僕の拳をモロに受けた2人のトリオン体は粉々になって消え去り、2人は緊急脱出機能で本部へと帰還した。

 

「古来よりサンタを捕まえてあんなことやそんなことやこんなことをしようと企む者は星の数ほどいる。それをサンタは難なく乗りきった……サンタをただの中年太りの親父と思うな!!」

 

「サンタ、パねえ……お前等、無事か?」

 

 考えることを放棄した米屋はそれでと納得し、一応やられた2人を心配する。

 やられたのはトリオン体なので怪我とかそういうのはないのだが、心の方は無事だろうか?

 

「さて、僕はプレゼントを━━」

 

「韋駄天」

 

 引き続き配りに行こうとするのだが、その前に一筋の閃光が走る。

 例えるならばそう。ポケモンのピカチュウのボルテッカーの如く速度を上げながら此方に向かって突撃し切り込んで来るのだが、僕はそれを難なく避ける。

 

「外した!?」

 

 不意打ち+高速での攻撃で確実に攻撃が当たると思っていた小さな戦士もとい黒江双葉。

 まさか向こうからやって来てくれるとは、いや、それよりもこんなバカげたことに参加しているのは意外だが、だからといって手を抜かない。サンタたるもの子供相手に真剣に取り合わなければならない。

 

「スカンダの名を使いし技だがあまりに遅い。それではスカンダの名が泣いてしまう」

 

「……スカンダ?」

 

「韋駄天の事だ。韋駄天とはヒンドゥー教の神、スカンダの仏教での呼び名と思えばいい」

 

 仏教の十二天は主にインドの神々の事であり、国や地域によって言い方が異なる。

 神話に関して詳しくなさそうなのでざっくりとした説明をすると納得してくれる。

 

「サンタクロースってキリスト教じゃ」

 

 代わりに別の疑問を持つ。

 

「細かいことを気にするな……というかこの国では宗教の自由やごった煮が許されているだろう」

 

 イースターやってこどもの日をやってお盆やってお月見やってハロウィンやってクリスマスやって大晦日やってお正月をやって節分をやってバレンタインデーをやってととにかくこの国はなんでもありなんだよ。

 

「それもそうですね」

 

 なんでもありなのがこの国だ。そう納得をした黒江ちゃんは弧月を構えるのだが、襲いかかってこない。

 必殺技とも言うべき韋駄天がいとも容易く避けられたどころか韋駄天がなんなのかを教えられており、警戒心を極限まで上げ、無理に攻めようとはしない。

 

「そう身構えないで、僕はサンタクロースとしてプレゼントを届けにやって来ただけだ。交戦する意思はない」

 

 茜ちゃんはあっさりと行ったけども黒江ちゃんは中々に上手くいかないな。

 

「貴方に無くても、私にはあるんです」

 

「ほぅ……サンタとして人に感謝されることはあれども嫌われる理由はあまり思い当たらないな。差し支えがなければ、事情を話してくれないか?」

 

 去年、一昨年と色々バカをやっていて指名手配をされてるのは分かっている。

 しかし大半のボーダー隊員がサンタなんて居るわけないとかマジでサンタクロースが居たとテンションを上げるかの二極であり、真面目に捕獲しようとする素振りがあまり見えない。

 

「……今日、加古さんが誕生日なんです」

 

 ……あ。

 

 しょんぼりした感じ黒江ちゃんが教えてくれると僕に向かって複数の弾が飛んでくる。

 あまりに突然の事で驚いてしまうが、この程度でやられるサンタクロースではなく簡単に避ける事は出来た。しかし、問題はそこではなくこれを撃った人がいるということだ。

 

「見つけたわよ」

 

 セレブリティ溢れる一般人、ボーダーが誇るA級ガールズチームのリーダーであるBBAもといファントムババア、加古望……本日が誕生日である。

 

「貴方のせいで私の誕生日が台無しよ」

 

 表情や声色は変えていないものの明らかに怒っている加古さん……。

 

「しかしそれはお前だけではないはずだ。この日に生まれた者は皆、【クリスマスと誕生日を一緒にされる】と言う業を背負ってしまっている」

 

 僕の誕生日はクリスマスじゃないから苦しみは知らないが、この日付近で生まれた人は皆、面倒な宿命を背負っている。

 こればっかりは神の子にでも文句を言え。セイヴァーでロン毛のあの男を引き当てる時が来るかもしれない。

 

「それもあるけど貴方の存在自体が邪魔なのよ。折角、皆が今日を祝ってくれるのに貴方の登場で台無しよ」

 

「まぁまぁ、加古ちゃん。相手はサンタなんだから」

 

「そうそう、プレゼントを配るのがサンタの仕事だろう」

 

「太刀川さんに堤さん……今日は居ないと思ったら、何処にいたんだ?」

 

「何処って加古ちゃんの誕生日を祝ってたんだよ……危うく呪われそうになったけど

 

「そうそう。今日から酒を飲める凄い大事な日なんだよ……酒に飲まれたらよかったんだけど

 

 加古さんに従うかの様に出てくる糸目の堤さんとアゴヒゲ太刀川さん。

 誕生日を祝っている姿を見せてはいるものの、最後の辺りで愚痴を溢しているのを見るとなんとなくなにがあったかを予測することは出来る。

 

「それでサンタクロースは私になにをくれるのかしら?」

 

「……なにを言っている?」

 

 貰えて当然な顔をしている加古さん。本当にこの人はなにを言っているのだろうか?

 

「サンタクロースとは子供にプレゼントを送る者であり、そこの二十歳3人にはプレゼントなんて物は無い!!」

 

 サンタとはプレゼントを渡す大人だ。

 今日からそんな大人の仲間入りをする加古さんに渡すプレゼントはない。むしろあんたは渡す側だ。

 

「堤くん、太刀川くん、殺るわよ」

 

 おっと、随分と好戦的だな。

 逆鱗に触れまくっているのは薄々分かっていたので警戒は怠っておらず、何処から誰からでも何時攻撃されても問題は無いようにしているが、うん……。

 

「戦う前に黒江ちゃんにプレゼントをさせてくれ」

 

「ちゃん付けはやめてください」

 

「え~やだよ」

 

 実年齢なら当の昔に、100を越えているジジイの僅かながらの楽しみなんだからやめない。

 こっちに向かって襲ってくる前にやることはやっておかないといけないとプレゼントが入っている箱を取り出し、黒江ちゃんに渡す。突っぱねるかと思ったが意外と律儀に貰ってくれるのは根はいい子なんだからだと思う。

 

「重い……もしかして!」

 

「おいおい、それは朝にすることだろう」

 

 包装を破る黒江ちゃんを暖かい目で見守る太刀川さん……直ぐに表情は一転する。

 

「あら、それって……」

 

「中華鍋だよね」

 

 僕が渡したプレゼントは中華鍋とお玉のセットだ。

 ただの中華鍋とお玉でなく数十万程の値がする最高級品の中華鍋で、子供の黒江ちゃんには中々に手が出せない代物だ。

 しかし、料理が得意でも今から始めるわけでもないのに何故か中華鍋を貰ったことに疑問を持つ黒江ちゃん。直ぐにその疑問は解消される。

 

「加古さん、誕生日おめでとうございます」

 

 黒江ちゃんの欲しいクリスマスプレゼント、それは加古さんへの誕生日プレゼントだった。

 僕から貰ったクリスマスプレゼントを誕生日プレゼントに変えると笑顔を浮かべる加古さん。黒江ちゃんも良いプレゼントを渡せたと喜び、笑顔を見せる。

 

「サンタさん、ありがとうございます……その、加古さんになにを渡せば良いのか悩んでて、あんまり高い物もどうかなと」

 

「HAHAHA、サンタクロースは子供のために頑張るんだからお礼なんていいよ。それよりも加古さんとクリスマスいや、加古さんの誕生日を祝って上げなさい。ほら、追加のプレゼント!フルーツ盛り合わせだ!」

 

 こういう良い感じの尊い姿を見れるから、この罰ゲームはやめられねえよ。

 さっきまでとは一転してウキウキとした感じになっている黒江ちゃんはきゃわいい(尊)

 

「お前、なんてことをしてくれるんだ」

 

 その一方で死んだような顔をしている太刀川さん。

 

「こんな良いものを貰ったら、早速使わなきゃ損よね!」

 

「……とんでもないことをしてくれたね。折角、炒飯から話題が逸れていって被害者を1人も出さずに終わろうとしたのに」

 

 どれだけ怖いのだろう、あの人の炒飯は。

 エリちゃん的なのが出てくるのかと想像したら口からトリオンを吐き出しそうだ。幽体離脱しそうだ。

 

「……サンタクロースは本来は子供にプレゼントを配るが、まぁ、その、なんだ……このスペシャルな胃薬をくれてやる。×××(ピーー)料理人の料理を食べても治る特別製だ」

 

「あ、ありがとう」

 

「サンタクロースからのプレゼントが正露丸か……」

 

 いいえ、由緒正しい霊草で出来た胃薬です。

 死んだ表情をしているが彼等の死の晩鐘はまだ示されていない……要するに死ぬほど辛いが実際には死なない運命にある。しぶとい運命だ。

 

「じゃ、僕はこのままプレゼントを配っていきます」

 

「って、おい!オレのプレゼントは!?」

 

「だから、最後だよ!!」

 

 君のプレゼント、本当にめんどくさいんだよ。

 加古さん達を放置し、マッハでボーダーの本部へと向かう。本部への入口は幾つかあり、堂々と入れる場所を知っているので本部へと堂々と侵入。既にA級B級と隊員達が何名かやられており、ボーダーの警戒レベルはMAXだが、サンタクロースを不審者だと警戒するのは現代でもよくあることなので気にすることはない。

 

「右!左!左!右!見よ、サンタクロースの華麗なフットワークを」

 

 時折僕を捕まえたり倒したりしようとする輩が出てきたがサンタの前では無力に等しい。

 警報音が鳴り響く中でもサンタクロースとしての本分を忘れることなく、プレゼントを配っていき遂には米屋以外のプレゼントを配り終えた。

 

『流石は1人で一国を落とせると言われるサーヴァントだ……殆どの隊員を圧倒している』

 

「なにこの身が超一級の英雄だからこそ成せる技だ。本来ならばもう少し弱いさ」

 

 僕のこの圧倒的な強さに驚くしかないちびレプリカ。

 僕の強さはこんなネタみたいな強さではなく技術的な強さにある。1位の人が言うには剣だけで技術16までいっている。でも、世の中にはもっと上がいる……転生する度に諏訪部キャラになるマイフレンドとかマジで化物だ。あいつ、本当にどんだけ強いんだって話だ。

 

『もう少しか』

 

「ああ、それでも三門市を破壊できるぐらいには強いがな』

 

 慢心と言われようが、構わない。これが僕なんだから。

 次々とプレゼントを渡し、時には敵を倒していき、ボーダーの本部を脱出。四方八方敵だらけで、ボーダー内は大騒ぎの中、僕は米屋の元へと向かう。

 

「待たせたな」

 

「あんた、滅茶苦茶騒ぎになってるぞ」

 

「なにサンタクロースが出現したのを見たのならば騒ぐのが人の道理、些細なことだ」

 

 皆、サンタクロースを見ればサンタさんだとはしゃぐものだ。

 

「絶対違う気がする……それで、オレになにをプレゼントしてくれるんだ?」

 

 自分がなにをプレゼントされるのか分かっていない米屋。

 金で買えるものは大体買えるし、欲しい物とかは特にはない。仕事明けのうまい水とかは飲みたいが、それはまたプレゼントとは違うしと考えるので僕は答えるべくボクシングの構えを取る。

 

「米屋、お前は強い相手とのバトルを欲しているな」

 

「ああ……え、まさか?」

 

「ああ、そのまさかだ」

 

 米屋はボーダーでランク戦をすることが好きなバカなボーダー隊員の代表だ。

 そしてそんなボーダー隊員にするプレゼントは1つしかない。

 

「このサンタクロースとのタイマン、それがお前へのプレゼントだ」

 

 今までは向こうから勝負を吹っ掛けて来たから、倒したのであって向こうがなにもしなければ僕はプレゼントを渡すだけだった。しかし今回は違う。プレゼントを渡すサンタとして自らの意思で戦うつもりで軽くシャドーボクシングをして威嚇する。

 

「いいな、そういうの」

 

 ニヤりと笑みを浮かび上げる米屋。

 下手なプレゼントを貰うより、こっちの方が何万倍も嬉しいようで槍を構えて戦闘態勢に入る……

 

「やはりこのプレゼントを最後にして正解だったな」

 

 曲がりなりにもA級隊員……それなりには強い。

 何度も何度も見ているので流石に学習はしてくれるだろうと高速で距離を詰め寄り、右手の拳を握り振るう。

 

「っぶねえ、マジか」

 

 右手を振っただけで大地を抉る一撃を撃ったことに驚きを隠せない米屋。

 この攻撃は防御してはいけない。防御できない攻撃で、すれば貫通させられると本能が察する……。

 

「これは軽いストレートだ」

 

 右手の拳を避けたのは見事だが、これは所謂通常攻撃だ。

 

「その槍で僕を捉えられるか」

 

「嘘だろ!?」

 

 残像を残すほどの素早さでぐるりぐるりと米屋の周りを回る。

 物凄く素早い人は目にも止まらぬ早さだが、僕の素早さは軽く残像が見えるほどの素早さだ。

 

「舐めるな!」

 

 素早くても円形に回っているだけならばどうにかすることは出来る。

 一般教養は残念だが、こういうことならば簡単に見抜ける知恵を持っている米屋は槍で一回転しようとするが、僕はその槍の棒の部分を掴み、そのまま槍ごと米屋をぶん投げる。

 

「フィニッシュだ!!いくぞ!右!左!左!右!左!右!!スーリヤの力よ、我が拳に宿れ!聖人連続拳(ウイニング・アルカプトラ)!!」

 

 本当ならクロスカウンターでカッコ良く決めたいところだが、生憎相手の武器は槍とリーチが長い。

 怒涛のラッシュに米屋のトリオン体は今までで1番な程に砕け散り、喉はやっていないので声は出すことができ

 

「畜生、サンタクロース強すぎるだろ……」

 

 最後に負けたことを悔んでいた。

 今年のサンタは去年、一昨年のサンタとはレベルが違うんだ。残念だったな。

 

「さて、あまり長居をし過ぎると今日がシフトだったボーダー隊員に迷惑をかける……どうだった遊真?」

 

 最後のプレゼントを渡し終えたかの様に見えたが、1番最初のプレゼントをちゃんと渡せていないかもしれない。

 そんな不安が過りながらちびレプリカに遊真に与えたプレゼントはちゃんとしていたかどうかを聞いてみる。

 

『中々に面白かったぞ』

 

「そうか、このプレゼントで合ってるかどうか僅かながら不安だったが喜んでくれて何よりだ」

 

 こんな光景、1年に1度しか見れないだろう。と言うかクリスマスが1年に1度だ。

 

『ただ、槍使いの人に戦う権利をプレゼントしたんだったらそっちの方が欲しかった』

 

「お前、僕達がどれだけ恐ろしいのか知ってるのによく言えるな」

 

 これでも複数の国を滅ぼしたり、王族を皆殺しにしたりと色々ヤベー事をやってるんだぞ。

 

『それでもだ……コシマエ相手にどれだけやれるか試してみたい』

 

「ふむ……そうだな。なら、その内試してみるか?」

 

『いいのか?』

 

「なに、何れはボーダーにバレる……向こうが此方と仲良くするつもりがあるならば合同訓練の1つでもやってやろうと思ってな、その時には僕は戦わないがサーヴァントが強い要因を知ることが出来る……要するに滅茶苦茶強い人と戦う場と時間をくれてやる」

 

 大規模侵攻の際に程よくボーダーに力を貸しておいてくださいと1位の人に頼まれている。

 白兵戦に強い僕がいれば修が死ぬ未来は無くなる……ああ、でもどうだろう。ハズレを引き当てる可能性もあるので油断は出来ない。

 

『サーヴァントが強い理由って使う度に能力が変わるけど物凄い強さを持ったトリガーのお陰なんだろ?』

 

「大雑把に言えばそうなるな……まぁ、細かい話をするとなるとこの世界の古い歴史を学ばなければならない」

 

『勉強か、こっちの世界に来て色々とあったけど、それは苦手だな』

 

「ある程度は頑張れよ、でなきゃ修に迷惑が掛かる……ちびレプリカ、そろそろお別れだ」

 

『了解した……中々に面白い時間だった。感謝する』

 

「なにサンタクロースは子供にプレゼントを配るのは当然の事だ」

 

『成る程、ところで気にはなっていたのだが君の分は無いのかね?』

 

「……それは、聞かないでくれ」

 

 今まで他人にプレゼントを配っており、自分のプレゼントを手にする素振りを見せなかったのでちびレプリカは心配して聞いてくるが残念な事に僕にはプレゼントは無い。

 サンタクロースをやるのは嫌か好きかの二極論で聞かれればどちらでもない微妙としか言いようが無い。

 

「本音を言えばね、僕だって彼女を作ってキャッキャウッフフなクリスマスを過ごしたいんだよ」

 

 容姿が越前リョーガだから、かなりモテる方なんだ。

 でも、彼女を作るならば真剣に交際しなければならず色々と秘密がある僕は一般人の彼女を作って良いのかと悩んだりしている。後、深雪が居るせいで一般の女子が近付いてこない。あいつ、顔が司波深雪で体が蛇喰夢子と中々にハイブリットな女子で外面は良い方だ。中身がかなりの屑だけど。

 

「モノホンのサンタクロース……頼むから良縁が欲しいです」

 

 メリークリスマスとは言うものの、いいお相手がいないのは悲しいことだ。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

その後、加古さんは新品の中華鍋を振るい、太刀川さんと堤さんは今回の加古炒飯はやべえと察し先に胃薬を飲んだ為に味を感じない体となり加古炒飯の味がしない事に困惑をしつつもなんとか乗り切った。しかし、3日ぐらい味を感じなかったのでヤベー薬に手を出したと勘違いしてしまった。

もう1つおまけのこそこそ話

コシマエはモテるにはモテるのだが、外面のいい深雪と関わりがあるせいで大抵の女子は引いてしまう。
イケメソだけど、彼女はおらず変なところで真面目なので彼女には近界民関係であれこれやっていることを正直に話そうと思っている。


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お年玉には夢と浪漫がある

 栄光のクリスマス・ロードを終えてから1週間が経過した。そう、1週間が経過をした。

 12/25から1週間ということはつまりは年が開けてお正月、新年の最初の日こと元旦を迎える。

 

「……ふ、今日は面白そうな事が起きそうですね」

 

 お正月、1年に1度、始まりを告げる日。深雪は今日という日が面白い事になると直感が告げている。

 何故かって?それは勘としか言いようがないが、とにかく今日は面白い1日になる。自らの占いでもいい感じになっていると見える。

 きっとなにかいいことがあるのだろうと深雪は着物に着替えて初詣に向かう。

 

「はぁ……こういう時に居ないのは面倒ですね」

 

 初詣の行列に紛れ込む深雪だが大きくため息を吐く。

 顔が司波深雪、体が蛇喰夢子とハイスペックな容姿をしている為にめっさモテる。具体的に言えば歩くだけでモテる。

 人混みは嫌いじゃないが、人混みの中に紛れ込もうとすると否が応でも目立ってしまう。チラチラと自分の事を見てくる視線が鬱陶しい。

 

「ねぇ、もしかして1人で」

 

「お黙りなさい」

 

 案の定と言うべきかナンパされる深雪。

 こんな事には馴れているので物凄いドライな対応を見せる。

 

「そう言わずにさ~、暇だったら俺達と遊ぼ━━っ」

 

「五月蝿いと言っているのが聞こえませんか?」

 

 ナンパしてくる集団のリーダー格である男の顔を掴む深雪は少しだけ殺気を向ける。

 感情受信体質ではないリーダー格の男だが深雪の殺気には気付いたようで怯えた目をしている。

 

「もう、待ち合わせ場所に居ないと思ったらここに」

 

「っ、ひぃ!?」

 

「ここにいた……あ……」

 

「おや、確か熊谷さんですね……どうかしましたか?」

 

「え、あ……あけましておめでとうございます」

 

「はい、あけましておめでとうございます。それとそういうフォローはしなくてもいいですよ」

 

 ナンパされている深雪を助けようと知り合いのフリをして出てきた熊谷だが深雪の殺気にやられたリーダー格及び一団は逃亡してしまい、作戦を結構する前に失敗した。

 あまりに予想外の展開だった為に思わずどうしようと悩んでしまい、口から出たのは新年の挨拶で深雪はそれを返した上での心配無用だという。

 

「ああいう輩をぶちのめす程度には鍛えていますの」

 

「そ、そう……」

 

 変わった人だなと一歩引いてしまう熊谷。

 ナンパをしてくる人達が引いていったのは良かったことだとホッとしている。

 

「ところで熊谷さんはお一人で?」

 

「ううん、茜と一緒に来ているわ……玲はその」

 

「知っています、クラスメートですよ……なにかいいお土産を買わないといけませんね」

 

 那須玲は病弱だ。病弱(笑)ではなく正真正銘の病弱であり、こういう人混みに連れていくことは出来ない。

 その事を知っている深雪は退屈させない様にと人混みの更に奥にある社に目が向く。

 

「熊谷先輩、急に動いたら離れ離れに……あ!」

 

「おや、可愛らしいお嬢さんっと一回会っていますね」

 

「深雪さん、あけましておめでとうございます」

 

「はい、あけましておめでとうございます」

 

 茜の登場によりウフフとほのぼのとした空間が出現する。

 なんとも言えないほのぼのとした空間は第三者が手出ししにくい空間である。しかし視線は嫌でも向けられる。

 

「ここで会えたのも何かのご縁ですし、ご一緒にお参りに行きませんか?」

 

 狙ってではなく、たまたま出会えた。那須隊とは奇妙な縁を感じる深雪は二人を誘う。

 二人は初詣に来ているので深雪を断る理由はなく、一緒に行くこととなる。

 

「深雪さん、その着物とっても似合います!」

 

「ありがとう、茜ちゃん……お二人は着物を着ないのですか?」

 

「そうね……私はちょっと」

 

「私は着てみたいんですけど、家に着物が無くてレンタルしようにも結構高くて」

 

「そうですか……やはり着物は着所が難しいですね」

 

 熊谷と茜の着物姿を想像する深雪。

 元が良すぎるぐらいにいい二人の着物姿はとても似合っており、着ないことに少しだけ残念だと思いながらも行列を進んでいく。

 

「太刀川、あんたお年玉は無いわけ?」

 

「おいおい、確かにサンタにプレゼントを渡す側の人間だって言われたけどお年玉は渡さないぞ」

 

「別に要らないわよ」

 

 行列を進んでいくとそこには着物姿の小南パイセンと太刀川、遊真がいた。

 お年玉の入っている袋を見つめて深く考える小南。

 

「お年玉って、そもそもなんなのかしら?」

 

 考えていることは子供並だったりする。

 毎年貰っていて当たり前になっており疑問を持たなかった小南。しかし、今年は違う。外国育ちもとい近界育ちの遊真がおり、遊真が「お年玉ってなに?」と言う疑問をぶつけられて答えることが出来なかった。

 隣にいる遊真はお年玉はなんでお金なのかと疑問を持っており、太刀川は餅をウニョーンと伸ばしながら答える。

 

「そりゃお年玉って言うくらいだ。金玉だろう」

 

「なるほど!!」

 

 なるほどじゃねえ。

 

「まぁ、小南さんったら金玉だなんてはしたないですよ」

 

「うげっ!?」

 

 そしてそんな反応をした小南の前に深雪は現れる。何故かって?ここで小南を煽らなきゃ変態じゃないから。

 小南は深雪の顔を見た途端に声を荒げる。あまりにも突然な事だけに太刀川達は何事かと驚いてしまう。

 

「酷いですね新年早々に顔を合わせただけなのに、そんな化物を見るような目で人を見るだなんて」

 

「も、申し訳ありません。つい驚いてしまって」

 

「こなみセンパイ」

 

「やめとけ。あいつ、今猫被ってるから」

 

 何時もとは違う口調を疑問に思う遊真。太刀川は面白いものが見れるぞとニヤつきながら遊真に教える。

 そう、小南は猫を被っている。なんでかって聞かれればなんでだろうと思うのだがとにかく1オペレーターだと女子校で嘯いている。

 

「あ、どうもはじめまして。ボーダーの1位の太刀川さんですね。何時も街の為にありがとうございます。私はこういうものです」

 

 しかしここで予想外の事が起きた。

 何時も通りなにかをしてくるんじゃないかと警戒していた小南だったが、矛先が太刀川に向いた。

 まぁ、太刀川と初対面なので挨拶をすることは当然の事だがここでも深雪は少しだけ嫌がらせをする。自己紹介をするのならば自分の名前を名乗るのが普通なのだが、あえて名刺で行った。

 

「へび…くう?……ふかゆき、いやでも、女子だよな……」

 

 名刺には名前がはっきりと書かれているのだが、読み仮名が書いていない。

 日本でもそれなりに珍しい名字にな蛇喰を太刀川は読むことはできない。辛うじて蛇と言うことは分かるのだがそれ以上が読むことが出来ない。

 

「……深雪、あんたわざとやってるわね」

 

「ふ、面白い人間が面白いことをするのが大好きなんです……流石に初見で読むのは難しいですよね」

 

「そうか、深雪って読むのか」

 

 あ、諦めた。

 太刀川の頭の悪さを知っている熊谷は自分が名前を呼んだから理解したことに気付く。なんとも残念な男、それが太刀川である。

 

「しかし、随分と面白い話をしていましたね。金玉ですか」

 

「ちょ……深雪さん、はしたないですよ」

 

「そうですね。では、睾丸と言いましょう」

 

「いや、大して変わらないわよ!!」

 

 やっぱりこの女は危険だ。

 熊谷は深雪から放たれる下ネタに耐えつつもツッコミをいれる。頑張れ熊谷、負けるな熊谷。

 

「なにを言っているのですか!性器とかゴールデンボールとかもっと下品な言い方がある中での正式名称ですよ!!」

 

「……おい、小南、俺が言うのもなんだが友達は選べよ」

 

「まぁ、酷いですね。では、なんて言えばいいんですか!!」

 

 日中どころか新年早々に下ネタを吐きまくる深雪。

 クリスマスはなにも出来なかった事のストレスをここで発散するかの様にあれやこれや言っており周りをドン引きさせる。しかし彼女は反省しない。変態だから。

 

「何て言えばいいかって言われれば、やっぱり金玉しかないな。お年玉って金だし」

 

「そうですか……お年玉が金玉だとすれば金玉から捻出する、つまりお年玉は」

 

「な、なにを言おうとしてるの!?ですか」

 

 公衆の面前で恥ずかしげもなくとんでもない事を言おうとしている深雪の口を小南は防ぐ。

 なにを言おうとしているのか気付いてしまった茜と熊谷は顔を真っ赤にさせており、太刀川も流石に恥ずかしさを感じている。

 

「なにを言っているのですか!娼婦は古来より続く伝統的な商売です!!神話や叙事詩にも娼婦は登場するのですよ!!」

 

「そういう問題じゃないでしょうが!!」

 

「……ふ」

 

「え、あ……そういう問題ではありませんわ!!」

 

 ボロを出す小南を見て、いいものが見れたと笑みを浮かび上げる深雪。

 やべっと口調を戻して言い直すのだが既に遅く、深雪はニヤニヤと汚い笑みを浮かび上げる。やはり小南パイセンは煽って騙されたりしている時こそ真に輝くものだと改めて感じる(変態)

 まぁ、それはそれとして金玉の話は一旦置いておく。置いておいてはいけないぐらいに下ネタを吐いていたが、それはそれだと片付けておかないとこの女の相手はやっていられない。

 

「じゃあ、私達はここで帰るわ」

 

 お参りとくじ引きといった一通りの事をこなしたので那須の元に向かう熊谷と茜。

 彼女達とは奇妙な縁を結んでいるなとなんとなく感じつつも、深雪は先を見据える。

 

「太刀川さん、お雑煮でも食べませんか?」

 

「ん?置いているところあるのか?」

 

 ウニョーンと餅を食べている太刀川さん。

 彼の好物は餅であり、お雑煮にも餅が入っているのなら喜んで食べるのだが置いているところを知らない。彼も何だかんだで少し前に来たところだから。

 

「私の忠実なる下僕が餅を打って雑煮にしているんですよ」

 

「お、突き立ての餅かいいな」

 

「小南さんも空閑くんもご一緒にどうですか?私、出しますよ」

 

「え、まぁ、奢るって言うなら」

 

「……」

 

 お参りを終えた小南達は最前列から場所を移動する。

 そんな中で遊真は無言でジッと深雪の事を見つめているので小南パイセンは注意勧告をする。

 

「気を付けなさい、深雪は見た目は綺麗だけどなんか怖いわ」

 

「それはなんとなく分かる……ただ、おれ、あの人に自己紹介してないんだ」

 

 教えたわけでもないのに、名前を呼んだことに疑問をもつ。

 何時もならばなんで知ってるんだよと堂々と聞くところだが、深雪が持つ独特の雰囲気からかそのまま聞いてもはぐらかされる気がしており上手く聞ける気がしない。

 敵か味方かどうなのかと警戒しつつ雑煮が売られている場所にまで向かうとそこには修がいた。

 

「い、いらっしゃいませって空閑に小南先輩」

 

「オサム、なにやってんだ?」

 

「バイト……お金で困ってるなら相談に乗るわよ」

 

 物欲がどちらかと言えば薄い修。

 こんなところで働いているのは並々ならぬ事情があるものだと察した二人は心配をする。新年早々に会って祝われるのでなく心配されるのは修らしいと言えば修らしい。

 

「貴方が三雲修くんですか。何時もうちのバカがお世話になっております!」

 

 修とは初対面なので一先ずは挨拶をする。

 

「ええっと、誰のお姉さんですか?」

 

「いえいえ、誰かの姉ではありませんよ。貴方のクラスメートのコシマエが色々と世話を」

 

「コシマエ……越前じゃなくてですか?」

 

「ええ、コシマエです……今は内緒にしてくださいね」

 

 越前の本名は越前龍我だが、近界ではコシマエと呼ばせている。

 その事を知っている修はもしかしてとなり、深雪は人差し指を立ててウィンクをして黙って貰うように頼み込む。

 

「修、なんでこんなところで働いているの?」

 

「町内会の手伝いです。僕の家、三門市と蓮乃辺市の境界線上にあって色々とややこしくて町内会でもどっちはなのか色々とあって……越前と一緒に雑煮を売ってます」

 

「ったく、体力があり余ってるとはいえ受験シーズン真っ只中な学生をいれるか普通」

 

「あ、来ました」

 

 ぶつくさ言いながらも雑煮の主役でもある出汁が入った大鍋を持ってくるコシマエ。

 大鍋の蓋を開くと仄かに香る魚の出汁に食欲はそそわれていき、皆がついつい視線を向ける。

 

「ぶつくさ言っている割にはちゃんと仕事をこなしているじゃありませんか」

 

「ん~まぁ、そりゃあ新年なんだから祝わわねえと……」

 

「深雪さん、深雪さん」

 

「どうかしましたか?」

 

「どうかしましたかじゃありませんよ、こんなカッコいい殿方とお知り合いだったんですね」

 

 小南は思った。

 さっきから深雪に踊らされてばかりで、これでは太刀川以上にアホの子であり直近の弟子や後輩達に舐められる。それは非常にまずいと反逆の狼煙を上げる準備をする。

 女子校に通っている以上は浮いた話など無い。ボーダーに通ってても浮いた話なども無いのだが、とにかく男日照りな現状。そんな中で太刀川よりも背が高く顔も良い男が居るのならば煽りたくなるのは仕返ししたい子供の気持ち。

 

「……これ、カッコいいですか?」

 

 少しだけ間を開けて首を傾げる。

 コシマエとはカッコいい男なのだろうかという疑問。顔的な意味で言えばこの男性陣でぶっちぎりのトップだが、カッコいいの定義による。中身が中々に残念なのを知っているので、はいそうですかと頷けない。

 

「ええ、カッコいいです……知り合いだなんて、いったい何処で」

 

「コシマエ、喜びなさい。小南さん基準で貴方の顔はイケると判断されました!」

 

「え、マジで?ウォッシャー……じゃねえだろう。なに子供みたいな事をしてんだよ」

 

「だって、明らかに向こうが挑発的なんですもの……ここは一杯、付き合いましょうよ」

 

「地獄への片道切符じゃねえか」

 

 今さらだか、この2人の関係性は同僚で上司と部下だが締める時以外はそういう感じの素振りを見せない緩い感じの組織である。カルデアの地球支部の支部長であるのが深雪で、有事の際に動き現場を指揮するたった1人の戦闘員がコシマエであり、そこにあるのは友情ぐらいだ

 

「では、なんの関係もないと?」

 

「そうです……もし私に男が出来るのならば骨の髄までしゃぶりつくしたいです」

 

「もうちょっと言葉を選べバカヤロー」

 

「お~い、俺のお雑煮がまだだぞ」

 

「あ、はい、ただいま」

 

 ああだこうだ言い合いながらも越前は仕事はきっちりこなす。

 紙の容器に雑煮の汁と具材を入れ、最後に主役である餅を一個いれる。

 

「これは僕からの日頃街を守ってくれているお礼です」

 

「お、サンキュー」

 

 本当ならば餅が1つのところをおまけして2つにする越前。

 餅が大好物の太刀川は嬉しそうな顔で雑煮と箸を受け取り、汁を啜る。味に満足したようでやっぱ新年はこれじゃなきゃ始まらないと身に染みる。

 

「む……おれには餅が一個だけか」

 

「いいや、遊真にももう一個。僕からのお年玉だよ」

 

 太刀川と同じく雑煮を貰う遊真だったが、餅が一つしかない事に不満を抱いた。

 越前はコレは僕からのサービスだと言わんばかりに餅をもう一つ追加をすると遊真は首を傾げる。

 

「お年玉って金玉の事じゃないのか?」

 

「空閑、こんな場所で堂々と言うんじゃない」

 

 さっきのやり取りを見ていたので不思議がる遊真だったが、修が口を封じる。

 新年早々に金玉とはなんと下品なんだろうと言い出した張本人である太刀川は美味そうな顔で雑煮の餅を頬張る。

 

「お年玉は金玉じゃなくて御歳神という神様へのお供え物が由来だ」

 

「お供え物……じゃあ、お年玉ってなんなんだ?」

 

「餅だ」

 

 お年玉とは決してお金のことではない。

 鏡餅に都市神様という福を運んでくる神様が宿り、その神様の魂を分けていただくのが起源にあると真面目な話をする。

 

「つまり、お年玉は鏡餅か……出水達にお年玉強請られたら餅をやればいいんだな」

 

 余計な事を言ってしまっただろうか。

 太刀川はいいことを聞いたと笑みを浮かびあげる。

 

「というか、深雪、お前知ってる筈だろう」

 

 地味に長い説明を終えると呆れる越前。

 なにせお年玉がなんなのかを深雪が説明しておらず、遊真が堂々と金玉という辺り面白そうだから言っていない辺り本当に性格が悪い。

 

「はて、なんのことでしょう?」

 

 あくまでも知らぬ存ぜぬを貫く深雪。

 コイツは本当に最悪な性格をしているとこれ以上はなにを言っても通じないと分かったのでそれ以上はなにも言うまい。

 

「小南さん、金玉のお味は如何ですか?」

 

「んぐぅ!?」

 

 でも、やっぱりこいつを討伐しておいた方がいいんじゃないかな〜。

 餅を食べている小南に堂々と下ネタを吐いている深雪を見て、深雪が本気で嫌がる事でも教えてやろうか考える。




運命/世界の引き金こそこそ裏話 

深雪が本気で嫌がる事の1つは、雪女と呼ばれること。

しかし、小南パイセンのリアクションが面白いのでその事は教えない。


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決戦準備、急げ

FGOの世界に転生したはいいものの、毎回ロクな目に遭わずサーヴァントが自分のせいでと悔やみ気付けばヤンヤンする話とか書きたいが、早くこの話のバトルとか書きたい(テイルズとかも早く書きたい)


 新年の挨拶回りやめんどくさい手続き等を終えて三学期。

 こう見えて成績優秀な僕は三門第一高校の推薦入試を受けることができる。周りは受験勉強にスパートをかけている中で余裕のよっちゃんなのだ。

 

「おはよう。今更ながらだけど、B級に昇格おめでとう」

 

 三学期、中学3年生にとっては残りの時間をどう過ごすか大事な季節。

 何時もの様に早目に学校に向かって登校していると修と遭遇したので挨拶がてらにB級に昇格したことを祝う。

 

「……なんで知ってるんだ?」

 

 僕が祝う事には疑問を持たないけど、僕が知っていることには疑問を持つ修。

 どうやって知ったかと聞かれれば、それは原作知識の利用だと言いたいがそんな事は言えないので、これだよと携帯電話を見せる。

 

「覚えておいた方がいい。ボーダーの公式ホームページに正隊員の名前が載せられるんだ」

 

 一応は表向きには正義の味方な組織だが、未成年が大半の組織。

 18歳未満がいるのは当たり前だが本名を堂々と公表するとかちょっと恐怖を感じる……まぁ、やってることが戦争だから名前の1つでも公表しておかないと万が一が怖いんだろう。

 

「越前」

 

 僕から祝われると素直に喜ぶのかと思いきや、真剣な顔に変わる修。

 

「君もしつこいな……そういう話の時は越前龍我じゃなくコシマエだと言っているじゃないか」

 

 仕事とプライベートを公私混合するわけにはいかない。

 深雪は仕事の中で愉悦を見つけるのが楽しいなんてほざいているが、僕はそう思わないようにする為に一線を敷いている。

 前回はギャグ回だったのであまり言わなかったが今回はシリアス回、締めるところはちゃんと締めておかないとやってられない。

 

「……コシマエ、実は」

 

「もうすぐ大きな国が侵攻してくるんだろ」

 

「知ってるのか!?」

 

 話していいべきか悩んでいるので先に言うと驚く修。原作知識の逆用ってすごい便利。

 

「なに、これでも街中に目をっと、これ前にも言ったな」

 

 天丼はやらない主義なんだ。同じことを言っていたら飽きられるからね。

 

「それで、僕になんの相談だい?」

 

 事情を説明する前に先手を打っておいたけど、修の口から聞きたいな。

 周りの視線に注意しながら修の顔を見る。

 

「近い内に近界民(ネイバー)が三門市に侵攻してくる……力を」

 

「全く、僕を働かそうだなんていい身分だね……出来ないことは出来ないから無茶を言うなよ」

 

「まだ最後まで言ってないぞ」

 

 いや、本当に僕を動かそうだなんて君は強欲だね。

 こう見えて僕は……あれ、僕って立ち位置で言えばどれくらいだ?深雪が林藤支部長ぐらいの偉さで、僕はその部下だから……もしかしてぼくって実力派エリートと同じポジションなのだろうか!?やっべ、テンション上がってきた。

 

「えち……コシマエ」

 

 言い直すのはやめてくれ。エッチに聞こえる。

 

「コシマエ達なら何処の国が襲ってく」

 

「アフトクラトル」

 

「……分かるのか!?」

 

 要件を言い切る前に答えてくる事に少しだけ困るがすぐに驚く。

 本当に修は見ていて面白い……でも、リアクションは小南パイセンの方が何枚も上手だね。アレを超える素質を持った人は早々にいない。

 

「最近、色んな国を荒らしてるって情報があるからね」

 

「情報……コシマエ達はいったい」

 

「そうだね……もし修が今日の昼過ぎぐらいから攻め込んでくるアフトクラトルを何とかすることが出来れば話そうじゃないか」

 

 どうせ今回、表に姿を出してボーダーに僕達の凄さと存在を知らしめろって上から言われているんだ。

 マイフレンドで大して実力は無いくせに存在がなければ大変な事になっている修ならば知る権利はある。というかうちのトップが彼みたいな善性で正しくあろうとしている人間が好きだ。性格が歪んでるからだろうか。

 

「オサム、コシマエはおはよう」

 

「空閑、ちょうどよかった。えち……コシマエが何処の国が襲撃してくるか知っていたんだ!」

 

 学校に近付いてくと遊真と遭遇をする。

 修は遊真に出会って早々に僕からの情報源で何処の国が攻めてくるかを教える……危機的状況なのは分かっているが。そこまで堂々とされると困るな。

 

「おれ、なんにも教えてないのになんで知ってるんだ?」

 

「基本的に僕が知らない事は無いんだよ」

 

 実際のところはというと未来とか現在のあらゆるところを見たりとか色々とやっている。

 向こうの世界に詳しい遊真でも分からない事をあえて教えてはぐらかす……そうしておけば、こいつ等物凄く出来ると強キャラ感を醸し出す事が出来る。こういうイメージを与えておかないと修が僕に頼りっきりになるからある程度は厳しく謎めいておかないと。

 

「アフトクラトルか……」

 

「確か襲撃してくる可能性がある国の一つだったな……黒トリガーが一番多くて神の国と呼ばれていて……」

 

 襲ってくる国が分かってきても、もう遅い。

 今日の昼頃には近界民が襲撃してくる未来は既に確定している。

 

「他は?」

 

「なにを教えてほしい?」

 

 アフトクラトルが襲撃してくると分かっただけども御の字だが更なる要求をしてくる遊真。

 流石は現役バリバリで最前線に立っていた男だ。相手が何処の国か分かってもそこでホッとする素振りを見せない。

 

「全部だよ、全部。持ってる情報、全部寄越せよ」

 

 この野郎、ここぞとばかりにカツアゲをしてくるな。

 

「全部と言われても困るな。曖昧な質問だと中途半端な答えしか返すことができない」

 

「使ってくるトリオン兵、相手の目的、手段、どんなトリガー使いが来るのか、カルデアはそれに対してどう動くのか、サーヴァントは何人出てくるのか、どんな能力を持っているのか……」

 

「……いいね、遊真」

 

 普段は真っ白な玉狛の悪魔をやっている遊真だが、今だけは戦場で勝ち続け立ち続けた人間の顔をしている。

 何処か気が抜けているようで実は全然気が抜けていないしっかりとしている一面を見ることが出来る……これだから最前線での仕事はやめることは出来ない。こういう一面を見れるのは面白い。

 

「使ってくるトリオン兵は君が持っている情報通りだ。A級でもそこそこ苦戦するから名前ばかりのA級とかチームでの連携とかサポート特化の奴にタイマンさせるな」

 

「そんな相手がやって来るのか!?」

 

「ん〜まぁ、近界(ネイバーフッド)でも1,2を争うぐらいの大国だからね。消耗品でとんでもない物を使ってきやがる」

 

「そうなんだよな、トリオン兵でそれだけなんだよな」

 

 驚く修とは正反対に状況を冷静に考える遊真。中々にいい凸凹コンビになっている。

 とはいえ、呑気に見守っている場合じゃないので僕もそこそこのサポートをしておこう。

 

「まぁ、遊真がご自慢の(ブラック)トリガーを使えば簡単に倒せる……ところで遊真、有事の際に黒トリガーを使用してもいい許可は貰ってるか?」

 

「む……」

 

 タラタラと汗を流す遊真……うん。特にこれといった介入はしていないからしょうがないとはいえ、一言だけ言わせてくれ。

 

「この阿呆が!有事の際には黒トリガーの使用許可ぐらいもぎ取って来いよ。交渉に使えるカードは何枚もあった筈だろう」

 

「いや、レプリカがおれの身の安全の保証に使ったから」

 

「ボーダー側も大規模な侵攻があるの分かってるから、ヤバそうだったら黒トリガー使っていいかの一言で頷いてくれるかもしれないだろうに……全く、君達は変なところで抜けているね」

 

 僕が言うのもなんだけど結構ガバッてるよ、RTAとかならいっそのこと一回やり直した方が良いんじゃないかなと思うぐらいに。

 まぁ、最終的には上層部も仕方ないなぁの空気で遊真の黒トリガーの使用許可を認めるので世の中、なんとかなるもんだ。

 

「あ、僕の方はあまり期待しないでくれよ。下手に期待されてハズレを引いてしまったときはなんとも言えないからね」

 

 一応の為の仕掛けはしておく。

 

「ハズレ?」

 

 僕もトリガーを持っているのは知っているのでその辺りは驚かない修。

 トリガーを持っているのならば事前にプログラミングされた機能を用いて戦うものじゃないのかと首を傾げる。

 

「僕のトリガーはちょっと特殊でね、使う度に能力が切り替わるんだよ」

 

 僕達が使っているトリガー(ということになっている転生特典)は一言で説明しづらい。

 Fate的な話をすればクラスカードと言えば大体通じるのだが生憎な事、この世界に型月は無いので通じはしない。

 

「それって黒トリガーじゃ」

 

「う〜ん、どうだろう。黒トリガーってのは誰かの命と引き換えに作られる物で僕達のはちょっと違う気もする……僕達のトリガーをひとことで現すのならば地球人の代表と言うのが一番かな」

 

 もっと良い言葉を深雪なら知っているかもしれないけど、口下手な僕から言えるのはこれぐらいだ。

 

「地球人の代表?」

 

 あまりにも意味不明な事なのでよく分からない修。

 こういうのは口で言ったりするよりも見せた方が早い。しかし、ここでトリガーを起動すれば周りに主に修に迷惑をかけてしまう。

 

「僕達のトリガーはそりゃあもう凄まじいものだ。当たりを引いたら、後先考えずにぶっ放す黒トリガー使っている遊真さえ足元にも及ばない程にな」

 

「僕を助けてくれた時は空閑に日本刀みたいなのを貸してたけど……」

 

「コシマエの当たりがどんなのか知らないけど、別の人の凄いのは知っている。向こうの国に遊園地」

 

「遊真!」

 

「……別にそんな物騒なものじゃないだろう。何処からどう見てもこっちの世界にある遊園地なんだから」

 

 だから、それを言ったらダメなんだって。

 遊真からすれば楽しい楽しい遊園地だが僕等からすれば訴えられれば負けてしまう危険な代物なんだ。

 

「向こうの世界にも遊園地があるのか」

 

「ああ、コシマエ達が乗っ取った国だけどな。因みにおれのオススメはビック」

 

「だから言うなつってるだろう!」

 

 あれは僕達が果てしなくやらかしてしまった一種の黒歴史で諸悪の根源とも言うべき深雪も深々と反省している。

 今ではカルデア(僕達の国)の一大名所で、外交の際にも技術力と国の豊かさを見せつけるために使われている……絵面は本当に愉快だけど。

 

「なにがあるんだ……」

 

「……修が向こうの世界に行けるようになって、ある程度自由に進路を決めれるようになったら招待してやるよ」

 

 やったね、修。向こうの世界に行く理由がまた1つ増えたよ。

 僕の名義があればカルデアで丸一日遊びたい放題だから好き勝手出来る……メインイベントは千佳ちゃんとのデートか。オサチカはいい文明だ……果たして修は誰を選ぶのだろう。オサキトとかオサナスとかの世界線もあるので非常に楽しみだ。

 

「遠くの将来よりも目先の未来、昼過ぎぐらいからアフトクラトルが襲撃してくる未来は決まっているんだ」

 

 バカな話はここまでにし、真面目な話をする。

 襲撃してくると分かった修はなにをするのだろうか?僕はその事が気になって仕方がない。

 

「今日の昼過ぎにアフトクラトルと言う国が襲撃してくるんだな?」

 

「おいおい、今さら疑うのか?」

 

「オサム、コシマエはふざけてるけど嘘はついてないよ……多分」

 

「多分?」

 

「コシマエはサイドエフェクトを無効化するサイドエフェクトを持ってて反応しないんだよ」

 

「HAHAHA、これでもチートなんだよ」

 

 こんなところで僕を疑うだなんてとんでもない。

 ボケ担当の僕だが今は非常に真面目な話をしているので一切の悪ふざけをせずに修に情報を売っている。

 

「昼過ぎまで残り4時間程度……なにをすればいいんだ……」

 

 襲撃してくるとは分かっていたけども、いざ迫ってくるとなるとどうすればいいのか慌てる修。

 ここで○○をしようと言わないところが頭が良くて慎重派な人間だなと暖かい目で見守っていると修は遊真(プロであり相棒である男)に意見を求める。

 

「大規模な侵攻がどれくらいかの規模による。今日の防衛任務をしている隊員でも無理な数ならおれ達が変に動くよりも上の人に任せた方がいい。戦争はとにかく数が多い方が有利だからな」

 

「じゃあ、迅さんに」

 

「いや、迅さんじゃダメだ」

 

 おっと?これはまた珍しいことを……いや、これはある意味正解を行っているな。

 

「迅さんは未来視のサイドエフェクトに依存した行動を取ると思う」

 

「見えた未来の知識を利用することになんの問題が?」

 

「普通だったら問題無いけど、コシマエのせいでそうはいかないんだ」

 

「え〜僕のせいにするの?」

 

 裏でバカな事をやっているのは認めるけど、僕は悪いことをした覚えはないんだよ。

 

「ジンさんが見えてる未来は多分だけどコシマエが一切介入しなかった場合の未来だ」

 

 僕のサイドエフェクト無効化が迅の未来視のサイドエフェクトに効力を発揮するか?

 人を見ることでその人の未来が見える視覚タイプのサイドエフェクトならば恐らくは僕が出てくる未来は見えない。未来視で見える未来の中で僕が登場すればその時点でサイドエフェクトが無効化される。なんともまぁ、めんどくさい能力だ。

 

「待ってくれ、じゃあえち……コシマエが力を貸せば迅さんは未来が見えなくなるのか!?」

 

「いやいや、僕のサイドエフェクトはそこまでのものじゃない……今日僕が直接登場する未来が見えないんだろう。例えばこの光景とかね」

 

 迅の強烈凶悪な未来視を免れることはできるが、あくまでも僕一人の話だ。僕が関わったけど既に舞台から去っていった未来なんかは見ることが出来るはずだ。僕のサイドエフェクト無効化は他人がいて効果が発動するタイプのサイドエフェクトに引っかからないだけで視覚や聴覚を強化するタイプのサイドエフェクトは無効化出来ずに引っかかり、サイドエフェクトそのものを使えないようにしているわけじゃないんだ。

 

「そんな……」

 

 無敵に思える迅のサイドエフェクトの唯一の天敵が居るとは思いもしなかったか、ショックを受ける。

 既に迅の未来視に依存しているな。未来視は便利であって強靭でも無敵でも絶対でもなんでもないんだよな。ぶっちゃけ相手が対処しきれない動きや情報のオーバーロードでバグらせれば勝てるって諏訪部なマイフレンドがサラッと教えてくれたし。んなもん出来るのアイツだけだからな。僕みたいな中途半端な転生者はそんな事は出来ないんだ。

 

「なにショックを受けてるんだ……たかが未来が見えなくなっただけだろ?」

 

 結構本気で落ち込んでいる様だが僕から見れば、この程度で落ち込むようじゃまだまだだぜ。

 ボーダーが迅に依存している体制なのは知ってはいるけれど、そんなに落ち込んでいるようじゃいい未来は訪れない。

 

「僕は今日の昼過ぎにアフトクラトルという国が襲ってくるのを教えて力を貸してやると言っているんだ。本当だったら何処の国が襲撃してくるか分からないのに、その事が分かっているんだよ?しかもその上で黒トリガーみたいなのが1人力を貸してやるってんだ。未来なんか視えなくたって充分なアドバンテージを得ている」

 

「……そうか、そうだったな」

 

 そうそう、未来を導くサーキット的なのは用意されてるんだよ。

 

「コシマエ、先ずはどうすればいい?」

 

「そうだね……とりあえずこんなところで駄弁ってないでさっさと学校に向かわないか?」

 

 真剣な話をしていたせいで既に遅刻が確定してしまった。

 中学1年から中学3年の一学期までの成績を高校に送られると言われてはいるが、万が一があると恐ろしいのでさっさと向かいたい。

 

「そうだ……千佳達にもこの事を教えないと」

 

 ん〜千佳ちゃん達にこの事を教えようとするぐらいなら、とっとと本部長に教えた方がいいと思う。

 しかし、これは修とボーダーの戦いで僕の戦いじゃないので言わないでおく……ほら、僕ってロクでなしのクソッタレだから。

 既に遅刻が確定しているのでゆっくりと僕達は三門第三中学校に向かっていった。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

コシマエ達がいるワールドトリガーの世界には幾つか存在していない漫画やアニメ、ホビーがあり、それらはコシマエ達の容姿の元ネタである。

型月関連

テニスの王子様関連

賭ケグルイ関連 魔法科高校の劣等生関連

NARUTO関連

BLEACH関連

火ノ丸相撲関連

人造昆虫カブトボーグVxV関連

黒子のバスケ関連

がこの世界にはない


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大規模侵攻開始!

「はぁ、疲れた」

 

 遅刻してきた為にクラスから注目を受けたもとい、ボーダーの公式HPに載った事により三好くん(ボーダー大好きクラスメート)からのおめでとうコールに始まり、一躍クラスの人気者に。

 なんだかバック・トゥ・ザ・フューチャーを見ている気分になり、助けてくれのサインを僕に送るが躊躇いなく見捨てる。君はヒーローなんだよ。

 

「人気者だな、オサム」

 

 お昼どき、屋上に逃げても周りの視線は熱い。流石は修だと誇らしげになる遊真。

 

「それだけの素質が彼には眠っている……そう、人徳の王の素質が」

 

「煽てないでくれ、僕はそんなんじゃない」

 

 いや、冗談抜きで修は乙女ゲームの主人公か劉備玄徳ぐらいの素質はある。

 疑似鯖になった時、修は多分劉備になる……中の人も劉備やってたし。ガンダムだけど。

 

「それでなにかいい案が閃いたか?」

 

 授業を受けている修は何処となく上の空だった。勿論、アフトクラトルがやってくることを考えているからだ。

 事前に遊真から話を聞かされいったいどんな国なのか知っている。そのせいか表情は暗い……う〜ん、これはいけないな。

 

「無理に1人で背負い込もうとするな。君はかの人徳の王並に恵まれた環境下にいるんだ……頼れる仲間は多いだろ?」

 

 三雲修という人間は特段のバカじゃないが、優秀というほど賢くはない。多少、人よりは考えるだけだ。

 しかし、クソがつくほどに真面目なメガネであり悪に染まろうとしない正しくあろうとする人間であり……まぁ、いいやつだ。

 

「修くん、遊真くん」

 

 そんな事を言っていると頼れる仲間がやってくる。屋上に居たんだねと嬉しそうに手を上げる千佳ちゃんはいとエモし。

 

「!」

 

 2人に近付いていると僕の存在に気付く千佳ちゃん。

 なんでここにと一瞬だけ戸惑うので僕は人差し指を千佳ちゃんに見えるように立てる。あの時の事は本当に内緒にしてほしい。

 

「あれ、あの人って確かメガネ先輩が助けた時に騒いでた生徒会長」

 

 おっと、お客様が一人じゃないか事を忘れていた。

 何処となく猫目な千佳のクラスメート、名前は……なんだっけ?

 

「はじめまして、僕は越前龍我。気軽にコシマエと呼んでくれ」

 

「あ、どうも。夏目出穂っす」

 

 そうそう、思い出した思い出した。夏目ちゃんだ。

 意外性がありすぎるキャラだから素で忘れてる……なにせ何度も還暦を迎えちゃってるからね。

 

「なにやら大事な話がありそうだし、僕はちょっとオサラバという名のお手洗いを行かせてもらうよ」

 

 彼の周りに人が集まったのならば、僕が無理にしゃしゃり出ることはしなくていい。

 修がまだ力を貸してほしい、聞きたいことがあると目で訴えてくるが残念な事にここまでだ。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 コシマエが去り残された修達。

 修は携帯電話を取り出してチラチラと時間をこまめに確認する。

 

「なにそんなに時間を気にしてるんすか?」

 

 昼休みは始まったばかりで、昼御飯を食べるにはまだまだ時間がある。

 事態を知らない夏目は修の行動に首を傾げる。

 

「C級にも連絡が来てただろ?大規模な侵攻があるって……もしかしたら今日かもしれない」

 

 コシマエの事をポンポンと喋ってはいけないのでそれっぽい理屈を並べていく遊真。

 C級隊員にも事前に連絡が来ていたことを二人は知っているのでその事について心配をしてることに納得する

 

「メガネ先輩、来るものは仕方ないっすよ」

 

 あれこれ考えても意味はない。

 頭を悩ます原因を知らないので夏目は軽口を叩けるのだが、コシマエの事を知っている千佳はもしかしてと勘付く。

 

「コシマエさんになにか言われたの?」

 

「それは……」

 

「隠さなくていいよ。私、知ってるよ」

 

 コシマエが近界民関係者のことを。

 一応は知らぬ存ぜぬを決め込まなければならないが、大事な人が頭を抱えてるのを見過ごすわけにはいかない。後で物凄く怒られると思っているのだが、全く関係のない第三者に教えたわけではないので怒る案件じゃない。

 

「コシマエ先輩もボーダー関係者なの?」

 

 どうせ今日で全てがバレるのだから。

 その場にいた夏目はなんのこっちゃとなるので、まぁそんな感じと適当に対処して一先ずの休息を得るべく弁当をパクリと食べる。何時も通りの味で何処となくホッとする。

 

「……!」

 

 軽い談笑、何気ない日常が続くかに思われたその時だった。

 千佳がなにかに気付いたかのようにハッと立ち上がった。

 

「……!?」

 

 急に立ち上がった千佳に驚く修。

 なにかあったのかと聞こうとした瞬間だった。その日は快晴とは言えないものの雲行きは普通な天気だったのに一瞬にして雲行きが変わる。

 

「なっ!?」

 

 目に見える変化に気付かないほど修達は鈍感ではない。

 屋上から見えるボーダー本部側を見ると黒い亀裂のようなものが何十個も走っているのが見えた。

 

――ヂヂヂヂ

 

 これはいったい、そう修が口にしようとする前に修が持つボーダーから支給されている端末に連絡が入る。

 

「緊急呼び出し……もうなのか!?」

 

 コシマエから昼過ぎに来るとは言われていたが、こんなに真っ先に来るとは思いもしなかった。

 連絡を受けた修は内容を確認すると急いで自分のクラスに向かって走っていく。

 

「なにあれ……」

 

「基地の方が真っ暗だ」

 

 大規模侵攻があることを事前に知らされているのはボーダー関係者のみ。

 修達しか知らないことなのでクラスメート(一般人)達は状況を掴むことができない。

 

「先生!」

 

「三雲くん」

 

 そんな中で現れる修。

 担任の教師は三雲がやってきたことに少しだけホッとする。事態がこれで飲み飲むことができるのだから。

 

「呼び出しがあったのでこれから現場に向かいます。学校の皆をなるべく基地から遠くに避難をさせてください」

 

「わかったわ」

 

 修からの言葉で少しだけホッとして安心する先生。これからなにをすればいいのか分かり、少しだけホッとする。

 しかし、ホッとしたのは担任だけでクラスメートは静まらない。

 

「三雲!」

 

「もしかしてこれってヤバいのか……」

 

 つい最近、学校が襲われた事を思い出すクラスの面々。

 またあんなことがと不安がっており、修の返事を待っている。

 

近界民(ネイバー)が防衛ラインを超えるかもしれない。先生に協力して避難をさせてくれ、頼んだぞ」

 

「わ……分かった」

 

「気をつけてね……」

 

 修の言葉に恐怖を感じながらも、クラスの面々は真面目になる。

 これで良しと前回と違い学校側が襲われる心配はないとホッとするのも束の間、コシマエがこの場にいないことに気づく。

 

「先生がコシ……越前は何処にいますか?」

 

「越前くんなら、ついさっきトイレに、そうだわ!もし僕に用事があったらこれを渡せって頼まれてたの」

 

「手紙?」

 

 この場にコシマエはおらず、残されたのは手紙な事に疑問に思う修。

 この学校の何処かのトイレにコシマエは居るはずで声掛けぐらいはしておきたいが事態は一刻を争うので探すことを諦め、校舎から出る道を歩みながらコシマエが残していった手紙を開封する。

 

「黒い丸?」

 

 手紙を開くと大きな黒い丸が書かれていた。

 これがいったいなにを意味しているのだろうかと疑問に思っていると手紙の黒い丸が急に動き出し、形を買えて文字となる。

 

【やれやれ、力になるとは言ったけれど早々に僕に頼るのはよろしくないな】

 

「文字が動いた!?」

 

【なにちょっとした手品だと思えばいい。僕になにか用件があって手紙を開いたんだろ】

 

 基本何でもありのコシマエにいちいち驚いていてはキリがない。

 こういうものだと直様受け入れて、本題に入る。

 

「警報音が聞こえてるからわかると思うけど、緊急事態だ。力を貸してくれ」

 

【う〜ん……やだ】

 

「な!?話が違うじゃないか!」

 

 力を貸して情報を与えると公言していたのにいざとなったら力を貸さない。それは話が違う。

 修の怒りは最もであるが、その事については意見があるのか手紙の文字は変化をしていく。

 

【確かに力を貸すとは言ったが君は僕の力をどう使うつもりだ?君に力を貸したくないと言ったのは君が曖昧な事を言っているからであって、決して約束がめんどくさくなったからじゃない】

 

「曖昧……どの辺りがだ?」

 

【力を貸してくれという言葉だ。君にとって今欲しい力はなんだ?知恵か知識かトリオンか】

 

「それは」

 

【違うだろう。君は僕を使える駒的な感覚で接しているが、今回僕が君に貸す力はただ一つ、暴力という力だ。今から君達は市民の避難とか色々とやらなきゃならないだろう。そこに暴力は不要、僕はそれに関しては一切関与しないつもりだ】

 

 人助けするならばテメーがやれ。あくまでもこっちは戦うだけで、その辺りは一切関与しないスタンスを貫く。

 意外と非常かもしれないが、そういう風に約束している。

 

「だったら、一緒に」

 

【君達だけで解決出来そうな敵をわざわざ倒しにはいかないよ。なに、本当にヤバそうな時は出てくる……今ちょっと上に連絡をしていて忙しいんだ。また後でだ】

 

「っ!?」

 

「コシマエ先輩が残していった手紙が燃えたぁ!?」 

 

 携帯の通話を切るかの様に燃えて塵となる手紙。

 既に校門の前に立っており、校舎の何処かにいるであろうコシマエを引きずり出すために後戻りをすることは出来ない。

 

「相変わらず変な技術使ってるな……オサム」

 

「ああ……コシマエが来るって言うなら信じるしかない」

 

 最初からついて来てくれると期待していた分、ショックは大きいものの直ぐに持ち直す。そして今からすべき事に目を向ける。

 

「千佳、お前はこの場に残って皆を避難させてくれ。警戒区域には絶対に近づくな。必要な時は迷わずトリガーを使って皆を助けるんだ」

 

「うん、わかった」

 

「夏目さんは千佳の事を頼む」

 

「了解っす」

 

「空閑、一緒に来てくれ。トリオン兵を食い止めるぞ」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 その場の最年長として各々にすべき事を指示する修。

 やるべきことは決まったと学校を出ようとするが、その前にと遊真は千佳にちびレプリカを渡した。

 

「危ない時は呼んでくれ。おれかオサムが助けに行くから」

 

「……うん」

 

 危険な事に挑む千佳だが、その目には怯えていない。

 ちびレプリカを渡した遊真は修と一緒にトリガーを起動し、警戒区域へと向かっていった。

 

「ふぅ、なんとか行ってくれたみたいだね」

 

「ぅお!?」

 

「コシマエさん!」

 

 2人が完全に学校から消え去るとひょっこりと姿を現したコシマエ。

 2人が完全に去ったのを見て何処かホッとしているのだが、彼等が去っただけで脅威が去ったわけではない。

 

「メガネ先輩が探してたっすよ」

 

「HAHAHA……これでも結構忙しい身でね。色々とやることやってたんだよ」

 

「こんな非常事態に何やってたんすか?」

 

「なにちょっとばかし増援を頼んだんだ……あの人に頼むとロクな未来待ち受けないからホントは嫌なんだけど一応は表に顔出すからね……万が一が起きなければいいが」

 

 いや〜ヤバいことは勘弁となにかに困り果てた様子のコシマエ。

 言っていることがイマイチ分からない二人はなんのことだと頭に?を浮かべており、色々と知っているレプリカが代わりに喋る。

 

『増援を呼んだということは元日に出会った、ミユキが力を貸してくれるのか?』

 

「アイツはアイツで今、やってることがあるから……まぁ、少しぐらい力を貸してくれるんじゃねえの?僕が呼んだのは別人だ」

 

 あいつは系列だけ言えば僕の直属の上司に当たるけども、現場で動いたりあれやこれや言ったりする権力はそんなにない。

 ある物を今から三門市に持ってこようと、それなりの時間を消費するだろうが、それでもなんだかんだで力を貸してはくれるだろう。あの女は理不尽な暴力は嫌い、言葉による正論をぶつけて笑顔を曇らせたりするのが好きな変態だが、決して悪人じゃない。秩序・善に分類される……謎だ。

 

「コシマエ先輩もボーダーっすよね?メガネ先輩を追いかけなくていいんすか?」

 

「ん〜……違うよ」

 

「……え!?」

 

『コシマエ……いや、もはやなにも言うまい』

 

 どうせ今日バレるのだから、なにも問題はない。

 今までは秘密にしていたが、語るときが遂に来たのだとコシマエは懐から全身を甲冑を纒った騎士が描かれたカードを取り出す。

 

「我こそは嘗て近界(ネイバーフッド)を荒らしに荒らした世界界賊、サーヴァントの1人にして現カルデア7人の最高幹部の1人。序列7位、剣の英気を集いし者、セイバー(Saber)なり。我が剣は人類史が打ち鍛えし剣、我が剣術は人が生み出した技、一騎当千、戦国無双足りうる剣よ」

 

 見よ!と言わんばかりに高らかとカードを掲げるコシマエ。

 何時もと違う雰囲気を醸し出しており、見ている2人は口を開けてポカーンとしていた。

 

「本当なら、ここでこのトリガー(ということになっている転生特典)を起動してカッコいいトリオン体を見せてやりたかったんだがそれするとトリオン反応が出て大変な事になるんだよな……」

 

 もう少しカッコいい登場をする事が出来ないのだろうか。

 固まっている2人に真剣な眼差しを向けると意識は元に戻り、ハッとなる。

 

「ええっと、つまりコシマエ先輩はボーダーの関係者じゃないってことっすよね……」

 

「ボーダー以外にトリガーを持って向こうの世界で活動していた日本人(約1名を除く)だよ」

 

「ま……マジなんスか」

 

 あまりの驚きのせいで大声を出さなくなってしまった夏目。

 今まで見知っていた情報が一気に破壊されていくのか頭からプシューと白い煙の様なものが出てくる(ギャグ描写)

 

「ボーダー以外に活動してる組織なんてあったんすか!?そんなん初耳っすよ!!」

 

「僕も本邦初公開だからね!夏目ちゃん、もしこの戦いで無事に生き残ることが出来たら色々と教えてやるよ」

 

「ちょ、それは死亡フラグっす!やめてください!」

 

 死亡フラグ程度で怯えていてはいけない。

 なにせ修には死の未来が待ち受けていてその上で未来をひた走ろうとしているんだ……修の未来がコシマエ達の介入のせいで見にくくなっているのは言わぬが花だ。

 

「越前くん、ここにいた。早く避難するわよ」

 

 そんなこんなとアホをやっていると担任の先生が迎えにやってきた。

 先生はガッチガチの一般人なのでトリガー云々は言えないと、そそくさと避難民に紛れ込んだ。

 

「レプリカ」

 

『うむ、そうだな……コシマエ自身が語るならば、もう問題はないだろう」

 

「じゃあ!」

 

『だが、その前に学校の皆を避難させるんだ。それからでもゆっくりできる』

 

「うん。出穂ちゃん行こう」

 

 千佳は出穂と一緒に避難誘導へと向かった。




越前龍我《えちぜんりゅうが》

【PROFILE】
クラス:セイバー
年齢 :15歳
誕生日:12月23日
身長:180cm
血液型:O型
星座:鍵座
職業:中学生兼カルデア最高幹部序列7位
好きなもの:オレンジ、エモいもの、キラキラと心の底から輝く笑顔

【FAMILY】

父、母

【RELATION】

三雲修←3年間クラス一緒だった友達
空閑遊真←今後ともいい関係を築こうじゃないか
迅悠一←残念なことにボーダーの利点を奪ってすまない(笑)
雨取千佳←これから君が頑張れば未来は大きく変わっていくよ。
蛇喰深雪←本当に困った超弩級の変態
日浦茜←守りたい、この笑顔

【PARAMETR】(通常トリガー使用時)

トリオン 9
攻撃 15
防御・援護 9
機動 12
技術 16
射程 1
指揮 6
特殊戦術 1

TOTAL 69

レプリカ㊙レポート

 

 サーヴァントについて。

 

 サーヴァントとは嘗て近界を荒らしに荒らした世界界賊の通り名で全部で7人いる。

 

 それぞれが絵札型の特殊なトリガーを持っており、そのトリガーは一説には黒トリガー数百本分の価値があると言われている
 近界でその名を轟かせている冠トリガー、黒トリガー使いを撃破して破壊したという記録が残っている。


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変わりゆく未来

「トリオン兵は集団で行動し幾つかの方向に分かれています」

 

 場所は移り変わり、ボーダー本部。

 巨大なモニターに三門市の全体図が映し出されており、忍田本部長は補佐官である沢村から情報を受け取る。

 

「現場の部隊を3手に分けて東・南・南西それぞれの敵に当たらせろ」

 

「了解」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。西と北西はどうするのですか!」

 

 忍田本部長の指示に意見するはメディア対策室の室長である根付。

 本部長が出した指示には含まれていない警戒区域もあり、その辺りをどうするかの慌てながら尋ねる。

 

「心配はいらない西と北西には迅と天羽が向かっている。あの二人に任せておけば問題はない」

 

 困った時の実力派エリートとS級隊員だ。

 二人の名前が出ると、こういう時こそ役に立つと安心をする根付さん。

 

「問題は東・南・南西だ。防衛部隊が来る前に警戒区域を超えられる恐れがある。鬼怒田開発室長」

 

「分かっとる。既に冬島と組んで対策済みだわい」

 

 モニターに映るトリオン兵達をトラップに仕掛けていく。

 事前に作っていたトリガーのトラップが効果を発揮し、一先ずの足止めには成功したことを沢村から報告を受ける。

 

「大変です!」

 

「今度はなんじゃ!?」

 

 色々と切羽詰まる中での緊急事態。

 今忙しいのにと若干キレ気味の鬼怒田開発室長は沢村になにごとかと聞く。

 

「レプリカからの通信が入っています」

 

「なに……どうします忍田本部長!?」

 

「連絡が入ったということはなにかが分かったのだろう。急いで通信を繋いでくれ」

 

「は、はい!」

 

 急な通信にいったい何事かと身構える本部の偉い方。

 既に情報は貰っていて、その上で通信を取ってきたとなると何かがあったに違いない。沢村がレプリカと通話できる状態にする。

 

『急な連絡、申し訳ない』

 

「そんな謝罪、今はどうだっていいわい。何かあったから連絡をしたのだろう!」

 

『ああ、その通りだ。何処の国が襲撃したのか判明した』

 

「!?」

 

 レプリカのその一言に一同に戦慄が走る。

 近界民攻めてきて10分するかしないかの時間で判明したとなれば驚くしかない。

 

「そうか。それで何処が攻めてきたんだ?」

 

 何時もならば何処が攻めてこようが一緒だが、この規模の侵攻となれば話は別だ。

 情報のアドバンテージが欲しい鬼怒田さんは勿体振らずにとっとと教えんかと耳を立てる。

 

『アフトクラトル、それが今回襲撃してきた国だ』

 

「アフトクラトル……」

 

 今回、どの辺りが襲撃をしてくるか事前にレプリカから情報を貰っていた。

 貰った情報の中で最も大国で黒トリガーを12(・・)個も所有している近界の中でも大国中の大国で並大抵の相手ではない。

 

『そちらの状況を完全に把握は出来ていないが、劣勢に立たされる可能性がある。ついてはユーマの黒トリガーの使用許可をもらいたい』

 

 今、なんとか持ちこたえているがここから状況がひっくり返される。

 それを防ぐ為には遊真の黒トリガーの力が必要とし、使う許可を貰っていなかった為にこれはチャンスだとレプリカはコシマエから貰った情報を交渉の材料にした。

 

『今、姿を現しているトリオン兵はバムスターやモールモッドといった正隊員でも簡単に倒せるトリオン兵だ。恐らくは様子見をしており、間もなくトリガー使いを捕まえるトリオン兵、ラービットが出現する。A級の隊員ならまだしもB級には荷が重い』

 

「嵐山隊、荒船隊、柿崎隊、茶野隊、風間隊、トリオン兵を排除しつつも現場に向かっております。東隊、諏訪隊は現場に到着。トリオン兵と対峙しております」

 

「どうしますか?このまま彼に黒トリガーを使わせてもよろしいのでは?」

 

 遊真が現在使っているトリガーは訓練生が使うトリガーで、どうしても正隊員のトリガーより出力が低い。

 出力が低いと出せる力に限界がある。それでもトリオン兵をバッサバッサと倒していっているのだから遊真が如何にして強いのかがわかる。とはいえ、今から物凄くヤバい敵がやってくるとなれば訓練用のトリガーで限界があるのも確か。

 なるべく被害を抑えたい根付さんは最終的な権限を取り持つ城戸司令に目を向ける。

 

「……何故、アフトクラトルがやってくると分かった?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「こちら側ではまだ異常は起きていない。盤面上でも異変は見られないというのに、何故アフトクラトルと断言できる?」

 

 これから状況が悪化すると言われれば何処となく納得はできる。

 しかし、レプリカは状況が悪化するだけでなく何処の国がやってきているのかをピンポイントで当てた。普通ならば緊急事態で流すのだが、この男は流さずに疑問を抱く。確かにまだ大きな異変が起きていないのになんで分かったんだとその場にいる皆が疑問を抱く。

 レプリカは遊真の身の安全の為に自身の情報を売った筈なのに、まだ自分達が知らない事を隠していたとなると約束が違う。

 

『襲撃してくる国がアフトクラトルという情報を売ってもらった』

 

「売ってもらっただと!?貴様、何処かの国となんらかの繋がりがあるのか!」

 

 正直に答えると当然の如くキレる鬼怒田さん。

 こっちでは騒ぎを起こさなければ身の安全を保証することになっているが、その事を自らで破ったことになるならば当然だ。しかし、レプリカは声色1つ変えずに答える。

 

『私達が情報を売ってもらったのは世界界賊からだ』

 

「世界……なんじゃそれは」

 

『世界界賊サーヴァント、5年程前に突如として現れた7人の事で1人で黒トリガー数百本分の力を秘めていると言われている』

 

「な!?なんじゃと、何故そういう話を最初にせんかった!?」

 

『彼等が許可をしない限りは情報を渡さない。私達をこちらの世界に導くのを条件に交わした契約だ』

 

「つまり、君をこの世界に連れてきた支援者が居たというわけか」

 

『そうなるな』

 

 突如として出てきたキーワードに頭を抱える一同。

 どうしてそんな重要な事を教えなかったのかと言いたくはなるが、今は叫んでいる暇はない。

 

『サーヴァントからの情報によれば今回襲撃したのはアフトクラトルとのこと』

 

「待て、近界民からの情報なんぞ信じれるか!」

 

 誰も何も言わないので話をはいそうですかと信じれるほど城戸派はあまくはない。しかし、鬼怒田開発室長の言っていることには一個だけ穴がある。

 

『彼等は近界民でなく全員がこちらの世界の住人だ』

 

「なん、だと……」

 

 近界民の支援者が居たかと思えばそれは違っていた。

 旧ボーダーの一人であった忍田本部長や城戸司令に目を向けるとありえないといった顔をしている。探したことはないだろうが、ボーダー以外にトリガーを持っている団体はいない。そのつもりで今まで活動を行ってきた。

 

『信じるか信じないかはそちら次第だが、少なくとも向こうはこちらの世界の住民だと証明する術を持っている。私から伝えれることはこれぐらいだ』

 

 これ以上を知りたければ、直接本人から問い質すしかない。

 しかし、何処の誰がサーヴァントなのかボーダー側は不明で今は遊真の黒トリガー使用を許可するか否かの問題に目を向ける。

 

『忍田さん、こちら東、新型トリオン兵と遭遇した。身長は3メートルで人に近い形態(フォルム)で二足歩行。小さいが戦闘力は高い。特徴として隊員を捕らえようとする動きがある。各隊警戒されたし以上』

 

『それは恐らくラービットだろう』

 

 目を向けていると東隊の東から連絡が入った。それは新しいトリオン兵との交戦したとの通信でありレプリカから送られてきた情報に嘘は無かったとのことだ。

 

「……君達に情報を売ったサーヴァントにコンタクトは取れるのか?」

 

 ここまでくれば無視することは出来ない。

 そっと額の傷に触れながらサーヴァントへのコンタクトが取れるかの確認を取る。

 

『「今回のゴタゴタが終われば顔を出してやるから少し待て、こっちも暇じゃないんだ」とのことだ』

 

「この非常事態に何様のつもりだ!?」

 

「『こっちのことをああだこうだ言う前に次を指示しとかないと駄目なんじゃないの?』だそうだ」

 

 怒る鬼怒田さんの揚げ足をキレイに取るのはコシマエ流。

 しかし、言っていることは間違いなく、本部に不吉な報告ばかりが飛んでくる。特に新型の報告が来ている。

 

「基地東部、風間隊が新型と戦闘を開始!諏訪隊は1名捕獲された模様。基地南部、東隊は1名緊急脱出(ベイルアウト)!柿崎隊と合流して新型と交戦中!南西部では茶野隊、鈴鳴第一がそれぞれ新型と遭遇しています!新型の妨害でトリオン兵の群れを止められません!警戒区域を突破されます!」

 

「いかん!それはいかん!市民に被害が出ればボーダーの信用が……」

 

 そんな事を言っている暇ではないがてんやわんやのボーダー本部。

 色々なところであまり耳にしたくない情報ばかりが流れ込み根付は肝を冷やす。

 

「捕獲された諏訪の様子は?」

 

「トリオン体の反応は消えていません。緊急脱出は出来ないようです」

 

「よし、諏訪は風間隊が取り返す」

 

「忍田本部長、すぐに部隊を回してくださいこのままでは街が……」

 

 万が一、市街地に被害が出たらボーダーという組織の存在が危うくなってしまう。

 なによりも市街地がと焦る根付だが忍田本部長は首を縦に振ることが出来ない。

 

「部隊の合流が先だ。戦力が劣った状態で新型に挑むのはそれこそ敵の思う壺だ」

 

 根付対策室長の言っている事に間違いはない。戦うことすらできない一般市民に被害が出れば後々組織の存続に抱わる。

 かと言って忍田本部長の言っている事も間違いではない。単独で挑めばやられてしまう可能性がある敵が出てきてしまっている。この場合、どちらが正しいかと言うよりはどちらを優先すべきかの話だ。

 

「戦力をここで失えばこの先が苦しくなる私。は本部長の判断を指示する」

 

「城戸司令……」

 

 どちらを優先すべきかの論争に割って入る城戸司令。

 

「だが……新型に手古摺ればその間に市街地が壊滅するぞ」

 

 本部長の意見を指示するだけで欠点を指摘しないわけではない。

 部隊の合流や新型に手古摺るなどに不備があれば街は攻め落とされる。その辺りについてどうするのかを尋ねる。

 

「分かっている。待つのはA級が合流するまでだ。新型はA級が止める」

 

 それが今回の指示だと決断をする本部長、その時だった。

 

『ハローハロー、エブリバディ』

 

 1つの通信が突如として入った。

 聞いたことのない声で誰かからの通信かと沢村は確認をするのだが、通信をされている状態でない事に驚く。

 

「何者だ!?」

 

 突如としてこちらに対して通話をしてきた謎の人物に警戒心を強める本部長。一瞬足りとも隙は作るまいと真剣な顔をする。

 

『いえいえ、何やらそちらが大変そうなのでお力の1つでもお貸ししましょうかと連絡を取っただけです。邪魔ならばさっさと消えますが』

 

「力を……まさか、貴方が空閑遊真を支援していたサーヴァントか!?」

 

『いえいえ、私は彼を支援していませんよ。それは部下の仕事ですから』

 

 この場でこちらとコンタクトを取ってくる未知の存在は2つ、今回襲撃してきたアフトクラトルかサーヴァントでアフトクラトルは敵対しているので消去法で自動的にサーヴァントとなり本部長は驚く。向こうは少し待てと言っていたのでコンタクトを取ってくるとは思ってもみなかった。

 

『私の事よりも今は色々と大変じゃないんですか?例えばそう、動かせる駒が揃わなくて思い通りに戦えないと』

 

「それは、そうだが」

 

『トロッコ問題とは言いませんが大変ですね……こうなる事が事前に分かっていたのならば、もう少し上手く立ち回れる筈なのに』

 

「おい、それはいったいどういう意味だ!!お前は一体何者でなにを知っている!」

 

 ボーダーのトップシークレット中のトップシークレット。迅悠一の未来視をさも当たり前の如く知っている素振りを見せる謎の通信者。

 敵か味方か分からないあやふやな存在に痺れを切らしたのか鬼怒田開発室長はバンとデスクの上を叩いて声を荒げる。

 

『私は近界(ネイバーフッド)を荒らし覇道の道を歩んだ、サーヴァントの1人にして現カルデア7人の最高幹部の1人。序列5位。神秘の叡智を集いし者、魔術師(Caster)……まぁ、しがないインチキ魔法使いと思ってくれて構いません』

 

「……サーヴァント……一人で黒トリガー数百本分の価値があるという」

 

『一応の名誉で言っておきますがそんなですよ。他所の国をビビらせる為に言っているだけです……と、無駄話をしに来たのではありません……力、貸しましょうか?』

 

 自己紹介を軽く済ませるとキャスターは本題に入る。

 

『貴方達はとんでもない数で尚且つ精鋭部隊であるA級でも手古摺る使い捨ての駒が来るというのをそれとなく分かっていた筈なのに部隊(チーム)で動く人達を何時でも動ける様にしておかなかったボカをやらかしました……本当に困った人達です』

 

「……」

 

 キャスターはぐうの音も出ない正論をぶつける。

 実力派エリートが正隊員の中で死人や拉致者が出たと未来が見えていたのにも関わらず、何時でも動けるように部隊を揃えていなかった。

 1月という学生にはとても大事な時期なので休ませることは下手には出来ないだろうが、それでももう少しなんとかすることは出来ただろうに。あまりにも普通の正論なので城戸司令はなにも言い返せない。

 

『なので、ほんの僅かながらですが力をお貸しします。流石にこちらの世界が悲惨な目に合えば色々とこちらも大変ですのでね』

 

「力を貸す、とは言うが具体的にはどうするつもりだ?」

 

「城戸司令、どんな者か分からない相手と交渉するのは得策ではありませんよ!」

 

 キャスターに耳を傾けた城戸司令を慌てて止めるメディア対策室長。

 顔の見えない相手ほど交渉をするのは危険だ。味方かどうか定かでない者ならば尚更だろう。しかし、城戸司令もそれは分かっている。その上でキャスターに何をする気かを尋ねる。本来ならば突っぱねたりするが今はなにかと切羽詰まっている状況故に聞く耳を持つ。

 

『あ、そーれ』

 

「!」

 

 奇妙というか軽い掛け声を出すキャスター。

 城戸司令の目の前にボールペンが出現する……そう、なにも無いところからボールペンが出現した。

 

『こう見えて三門市のそこかしこに陣地を敷いていますのである程度は好きなところにワープさせる事が可能ですよ』

 

「ワープ、そんな事が出来るのか!」

 

『ええ、私達の力を貸しましょうか?このままだと強い人達が動くに動け……あ、玉狛の空閑くんが黒トリガー起動しましたよ。あ〜……』

 

『本部、こちら茶野隊!人型近界民と交戦中!』

 

 色々とグダグダとやっている間に事態はより面倒な方向へと進んでいった。

 具体的に言えば遊真の黒トリガーの使用許可を得る前に遊真が黒トリガーを起動したが為に全く情報が行き届いていないB級下位の茶野隊に近界民に間違われて攻撃をされた。黒トリガーが使用許可を事前に取っていなかったツケが今になって回ってきている。

 

『気をつけてください。ドカンと来ますよ』

 

「本部前方に巨大なトリオン兵出現、これは……市街地で発生したイレギュラー門から出てきた爆撃型の――っ!?」

 

『こちら嵐山――新型撃破――』

 

 キャスターの忠告と同時に狙われる本部。

 爆撃型のトリオン兵、イルガーの爆発に飲み込まれる。

 

「っく、一度に舞い込む情報量が多すぎて処理が出来ん!」

 

 緊急事態で色々と舞い込むこの状況に泣き言を言う鬼怒田開発室長。

 本来であれば本部にある砲台の砲撃を撃とうとすることが出来たがキャスターとの対話でそんな暇が無かった。

 

「第二波が来ます!今度は3体です!」

 

「いかん、外壁のぶち抜き事件以降に装甲を強化したが3発もこれをくらうとなれば装甲が持たん!」

 

『すみません、私が原因で指示が遅れたみたいなので少々責任を取りますね……コリュキオン!神言魔術式・灰の花嫁(ヘカティック・グライアー)!』

 

「!、上空に高トリオン反応!これは……」

 

「トリオン兵が撃ち抜かれている!?」

 

 謎のトリオン反応を探知する沢村。

 こちらに向かってくる自爆モードに切り替わったイルガーをいともたやすく撃ち抜くトリオンの砲撃が遥か上空から舞い落ちる。

 

『私が邪魔したお詫びにイルガーを全滅させておきました』

 

「あのバカでかいのを一瞬で……」

 

『あれぐらいなら、簡単に倒せますよ……それよりもさっさと次を指示しなければ』

 

『忍田さん、なんか上空からの砲撃でデカいの倒されたんだけど』

 

 本部は驚く間もなく通信が入る。

 たまたま本部にいたA級及び個人1位のボーダー最強の男だ、太刀川から連絡が入る。

 

「慶か、すまない。こちらも今、色々と混乱している状況だ。お前は新型のトリオン兵を斬れるだけ斬ってこい」

 

『了解、了解』

 

「嵐山隊、通信が乱れてしまった。新型を撃破したということだな」

 

 太刀川への指示を終えると通信が入っていた嵐山隊の報告を受け取る本部長。

 

「おお、流石は嵐山隊。新型討伐一番乗りですね」

 

 ボーダーの顔はやるなと根付は笑みを浮かべる。

 

『いえ、我々が到着した頃には既に玉狛の三雲・空閑両隊員が交戦中でした』

 

 あくまでもとどめを刺しただけで討伐に成功したわけじゃない。

 その辺りについて言及をする嵐山。

 

「なるほど、先程の人型近界民は遊真くんのことだな」

 

『忍田本部長、玉狛支部の三雲です。ぼくたちをC級隊員の援護に向かわせてください!』

 

「C級隊員の……」

 

『その地区にはぼくたちのチームメイトがいます』

 

「……!そうか……よしわかった。玉狛の隊員は別行動で」

 

「待て」

 

 別行動の許可を取ろうとした、その瞬間だった。城戸司令から待ったがかかった。

 

「C級の援護には三雲隊員だけ向かい、空閑隊員には残ってもらう」

 

 向かわせるのはあくまでも修だけで遊真には残ってもらう。

 その事について何故だと疑問視する声を修は上げるので城戸司令は答える。

 

「空閑隊員が市街地で戦えば情報が行き届いていない隊員が人型と間違えて交戦をする恐れがある」

 

 現に一度、茶野隊に間違われているという城戸司令。

 遊真には引き続き警戒区域に残ってもらって嵐山隊と共に引き続き新型とトリオン兵の討伐を命じる。

 

「しかし、それでは」

 

「黒トリガーの使用についてはこの際、許可をしよう。だが、警戒区域外での戦闘は市民と隊員を混乱させる可能性がある。こちらの指揮に従ってもらう」

 

『……黒トリガーを使わなかったら修についていっていいの?』

 

 やっと降りた黒トリガーの使用許可をだが、すんなりとはいかない。

 向こうの増援に行きたい遊真は黒トリガーを使わなければと聞くが城戸司令は呆れる。

 

「無意味な話だな……お前は危険が迫ると黒トリガーを必ず使う」

 

 父親とよく似ているからよく分かる。遊真は修達に危険が迫ると絶対に使うと見ている城戸司令は行くことを許可しない。

 そしてそれを聞いている修は焦る。ここまでなんとか上手くやって退けているのも、大半は遊真のお陰だ。新型を破壊出来たのも遊真の黒トリガーのお陰であり、自分に大した実力が無いのを自覚している修は1人でやれるのかという不安を抱く。

 

『三雲くん、不安を抱いているのはいいですがなにか肝心な事を忘れてはいませんか?』

 

『この声は』

 

『ええ、お久しぶりです……と言うほど、長い間会っていないわけではないですね』

 

「おい、三雲!まさか、お前空閑の支援者の事を知っていたのか!?」

 

『えっと……それとなくは知っています』

 

『まぁまぁ、狸のおじ様、そう怒らずに。歳なんだから興奮すると血圧が上がってぶっ倒れますよ』

 

「誰がたぬきだ!」

 

 とは言うものの、ぽん吉というあだ名まであるのが開発室長である。

 公式でも三大マスコットだなんだと言われているのだが、それはここでは関係のない事なので一旦置いておく。

 

『貴方が雨取さんを心配するのは分かりますが、あのバカの事をお忘れですか?』

 

『千佳達の近くにコシマエがいるのか!?』

 

『ええ、本当に危なそうなら力を貸してますよ』

 

「待て待て待て、そのコシマエと言うのは何者なんだ!?」

 

 二人だけが分かる会話をしているので割って入る鬼怒田開発室長。

 他の面々もなんの話をしているんだと言った顔をしております状況の説明を求める。

 

『三雲くんが向かいたい場所に空閑くんを支援していた私の部下が居るんですよ』

 

「つまり、サーヴァントの1人がいると言うことだな?」

 

『ええ、そうです……スゴいですよ、彼は。なにせ過去にアフトクラトルの国宝である黒トリガーを完膚なきまでに叩きのめしたのですから』

 

 ハードルを上げるな、この野郎。黒トリガーを撃退したと聞き本部の一同は驚く。

 どういうトリガーを使っているのかと色々と聞きたいことはあるが今は誰を何処に向かわせるかの指示をするのが優先であり、修をC級隊員の元に向かわせる事となるのだが木虎が私もついてきますと修に同行する事となった。





運命/世界の引き金こそこそ裏話

コシマエ達は近界の幾つもの大国相手に戦い全てにおいて勝利をした。
アフトクラトルとの戦いはコシマエがとある英雄を引き当てることに成功し、アフトクラトルを徹底的にボコボコにし、それ以降コシマエ達が乗っ取った国はアフトクラトルを容易く撃退した国という一種のブランドがついており狙われなくなった。


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仮面セイバー検非違使

「いや〜大変だね」

 

「ちょっ、コシマエ先輩。見てるんだったら少しぐらいは手伝ってくださいよ」

 

「ええ、僕みたいな一般人になにをしろって言うんだい」

 

「コシマエ先輩、ホントは戦えるんですよね!」

 

 ハッハッハ、中々にいいリアクションだよ夏目ちゃん。

 修とデコッパチもとい木虎がこちらに向かってくる間、呑気に茶を飲んでいると怒られた。

 

「いやいや、これでも結構忙しい身でね。すんなりとは戦えないんだ」

 

 今はまだ、こちらのエリアにトリオン兵はやって来ていない。とはいえトリオン兵がこちらにやって来るのも時間の問題。トリガー(ということになっている転生特典)を起動する前に色々とやっておかなけれ後々めんどくさくなる。

 千佳ちゃんの側にいるちびレプリカにはこっちに来てもらい、ボーダー本部の管制室に繋げて貰う。

 

『ボーダー本部と繋がったぞ』

 

「僕の声はダミ声で頼むよ」

 

 宮野真守ボイスはイケボだし、そっちの方が盛り上がるからね。

 無駄な事を要求しつつも話は本題に突入する。

 

「やぁ、サーヴァント序列7位の剣士(セイバー)、気軽にコシマエとでも呼んでくれ」

 

『コシマエ……それは本名か?』

 

近界(ネイバーフッド)ではその名で通っている……そうだね。今はこっちの世界のゴタゴタだしセイバーと呼んでくれ」

 

 声からしてヤクザ顔の城戸司令だろう。

 名前というのはとても大事な物なので今が非常事態でも呼び方を改めさせる。

 

『ではセイバー、お前達に聞こう。なにが目的だ?』

 

「目的とはなんのこと……ああ、そういうことね」

 

 こちらに対して疑いを持っているボーダー本部。

 そりゃそうだ。何処からともなく現れた自分達以外にトリガーを使う奴等が自分達以上に情報と戦力を持っていてボーダーをバンバン支援してくるならば裏の1つでもあると疑ってしまうのは当然のことだ。

 

「別に裏なんてないよ、こちらの世界を攻め落とされるのは困るんだ」

 

『ならば何故、そちらからなにもしようとしない?』

 

 こちらの世界が攻め落とされて困るのならば、それ相応の動きはするはずだ。

 しかし、やったことと言えば遊真達に情報を売るだけで特になにかを倒したとか誰かを助けたといった事はしていない。今の状況から見てもっと積極的にするのが普通だと感じる……はぁ。

 

「一応、君達の事を気遣っているんだよ?」

 

 どちらかといえばデリカシーがない変態の僕だけれど、空気が読めないというわけじゃない。

 ボーダーの事を気遣っており、堂々と動かないんだ。決してめんどくさいとかそういうんじゃない。

 

「ボーダー以外にトリガーを持っている組織がボーダーが対処しなければならない事案をあっという間に解決。それをすればボーダーという組織の存続が危うくなる」

 

 一応、向こうの組織としての立場とかを気にはしているんだ。

 もし僕が当たりの中の当たりを引き当てたのならば、アフトクラトル相手に無双が出来るからね。

 

「それでもまだ力を貸せって言うならいいけど……ああ、違うな」

 

「ぎゃあ!こっちに来た!」

 

 力を貸さなきゃいけない状況だ。

 そこそこの数のトリオン兵がこちらにやって来てしまい、夏目ちゃんは泣き言を言いながらも必死になって一般市民の避難をしている。

 

「もうすぐ修がやって来るけど、若干間に合いそうになさそうだよ」

 

 こちに修達が向かってきてはいるものの若干だが間に合いそうにない。

 本当に極々僅かな僅差で修達が間に合いそうにない……一人ぐらい隊員を派遣しておいた方が良かったんじゃないかと思う。いや、でもそれやったらBかA級の隊員が拐われる可能性があるんだよな。

 

「修にあれこれ言った手前、ここで何もしないわけにはいかない」

 

 セイバーの絵が描かれたカードを手にし、逃げる一般市民とは逆の道を歩きモールモッドと対峙する。

 

「なにが出るかな、なにが出るかはお楽しみぃ!……あ〜、うん」

 

 トリガー(ということになっている転生特典)を起動した。

 修の目の前で使った時よりかは強いと思わしき英雄の姿になっていた……。

 

「仮面セイバー検非違使、いざ進軍!」

 

 とりあえず、ぶっ倒せるやつはぶっ倒すか。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

「これは……」

 

 時間はほんの数分進み、修と木虎は現場に到着した。

 警戒区域を超えてトリオン兵がやって来たとの報告を受けていたので直ぐに戦えるように準備をしていたのだが、現場に到着すると驚いた。

 

「お前達、遅かったな」

 

 トリオン兵がピラミッド状にが山積みされていた。

 C級隊員しかいないと聞いているのにこれはと驚いているとピラミッドの前に立っている男……コシマエが振り向いた。

 

「あまりにも遅かったからトリオン兵をピラミッドに積み上げさせてもらったぞ」

 

「コシマエ、なのか……」

 

 修はコシマエの姿を見て、驚く。

 前回トリガーを起動したときはサンタっぽい服装をしており、自分を間接的にトリガーを起動した時とは全くことなる姿。具体的に言えば平安時代の時代劇に出てきそうな格好をしている。

 

「僕のトリガーはね、使う度に能力が切り替わる少々特殊なトリガーでね……今は仮面セイバー検非違使とでも言っておこうか」

 

「なによそれ、丸っきりパクリじゃない」

 

 コシマエの時代劇な格好に呆れる木虎。

 コシマエが全てのトリオン兵を一瞬にして撃退することに成功したので一先ずの警戒心を解く。

 

「貴方、トリガーを持っていたのね……」

 

 おかしな仮面を付けてはいるものの、木虎はコシマエの事をハッキリと覚えている。

 まさかトリガーを持っているとは思ってもおらず、修への嫉妬から余計な事を言ってしまい周りから責めたてられたのは苦い思い出だ。

 

「これあんまり使いたくないんだよ……ハズレを引いた時が怖いから」

 

「ハズレ?トリガーなら事前に設定してあるトリガーで戦うものじゃないの」

 

「僕達のトリガーはそうは行かない。ちびレプリカ、本部に音声流して。後から説明するのめんどくさいから」

 

 コシマエがあっという間にトリオン兵を倒したので、僅かばかり説明の時間が生まれた。

 本当ならばさっさと次に行けよとか安全な基地に避難しろとなるのだが、コシマエの格好があまりにも逸脱しているので耳を傾ける。

 

「僕達のトリガーは起動するたびに能力が切り替わるもので色々と使用用途がある。1つは今みたいにトリオン体に換装することなんだが、実はこのトリオン体はあるものを再現しているんだ」

 

 コシマエの格好を見る修。

 平安時代の時代劇に出てきそうな格好をしており、腰には刀が添えられているから侍かなにかかと考える。

 

「そう、それはこの世界の人間達だ」

 

「……どういう意味?」

 

「簡単に言えば歴史上の偉人や神話や伝承に出てくる英雄達の力を再現したトリオン体がランダムで出てくるんだ」

 

「英雄……じゃあ、貴方が平安時代に出てきそうな格好をしているのも」

 

「ああ、平安時代のとある英雄の力を使っているからだ」

 

 平安武者な格好にも理由がある。

 仮面セイバー検非違使に好き好んでなっているわけではなく、ランダムで出てきたから使っている。彼的には不死身の竜殺しが出てきて欲しかったが、これはこれで悪くはないと納得をしている。

 

「そして僕達はボーダーで言うポジションの様なものがある。剣兵、セイバー。僕はこれで剣に関する逸話を持った英雄、聖剣エクスカリバーで有名なアーサー王やギリシャ神話最強の英雄ヘラクレスが該当しこれらの力が扱える」

 

「アーサー王にヘラクレス……」

 

 詳しい内容は修は知らないが、流石に聞いたことはある。とてつもないビックネームに冷や汗をタラリと流す。

 

「次に弓兵、アーチャー。このクラスは弓で逸話を残した人が該当するんだがなにかを投擲したとかも該当するみたいで英雄王ギルガメッシュやヘラクレス、アーラシュがこのクラスに該当する」

 

「アーラシュ?」

 

 誰だそれとなる木虎。

 残念な事にこの世界にはFate関連が無いのでアーラシュと言われても誰だそいつとしかならない。Fateのお陰で日本での知名度が上がっている東方の大英雄、誠に残念なり。

 

「3つ目、槍兵、ランサー。槍に関する逸話を持った英雄のクラスで個人としての俊敏さならトップクラス。クー……源頼光、ブリュンヒルデ、ヘラクレス、レオニダス一世がこれに該当する』

 

 アーラシュの反応を見てか、クーフーリンの名前を出すのをコシマエはやめる。

 奴もまた型月のお陰で知名度を上げた英雄の一人だと思い知る。

 

「4つ目、騎兵、ライダー。乗り物に関する逸話を持った英雄のクラスでコロンブス、カーネル・サンダース、呂布、ヘラクレスがこれに該当する」

 

「ちょっと待って。さっきから聞いてたらヘラクレスが多くないかしら!?」

 

 毎回出てくるヘラクレスにツッコミを入れたくなる木虎。

 しかし残念な事にこれは型月の公式も認めている事実であり、気にしてはいけない。

 

「ヘラクレスはギリシャ神話最強の英雄で逸話には色々と欠かさないんだよ。言っておくが源頼光もセイバー、アーチャー、ランサー、ライダーに適合してるからな」

 

 ギリシャ最強と肩を並べる平安最強の神秘殺しマジパねえである。

 

「5つ目、暗殺者、アサシン。アサシンの語源である19人の山の翁、風魔の忍者の首領、風魔小太郎、ヘラクレス、源頼光がこれに該当する」

 

「またヘラクレス……いえ、もうなにも言わないわ」

 

「言わなくていいよ。6つ目は魔術師、キャスター。これはちょっと特殊でコルキスの王女メディアやアーサー王に仕えていたマーリンの様に魔術やそれっぽいものを使っていた安倍晴明みたいに逸話を持っている英雄以外にも作家や学者と言った人物も該当していて例を上げればウォルト・ディズニー、エジソン、手塚治虫がこれに該当する」

 

「ヘラクレスはいないのか」

 

 ここまでくれば全部出てくると修は思ったがそう上手くはいかない。

 指を曲げて数えていた検非違使仮面は最後の指を折り曲げる。

 

「最後に狂戦士、バーサーカー。怒り狂い暴れたとかの逸話を持った英雄がこれに該当しヘラクレス、アキレウス、ナイチンゲールがこれに該当する」

 

「ちょっと待って、なんでナイチンゲールが」

 

「歴史の教科書を一回読み直してこい……ナイチンゲールは中々にバイオレンスな逸話を残してるぞ」

 

 白衣の天使だなんだと言われているが、実際のところはすごいバイオレンスな女である。

 こうして全てのクラスについて説明は終わったので引き続きの避難をさせようとすると、検非違使仮面が作り上げたトリオン兵の山から小さな人の頭ぐらいの大きさの見た目がフナムシの様なトリオン兵、ラッドが出てきた。

 

 ラッドを見た修と木虎はまずいと頭に不吉な事を思い浮かべるが、既に遅い。

 こちらの世界に現れる黒い穴こと(ゲート)が出現し、修達が来るほんの少しの間で倒された新型トリオン兵、ラービットが数体姿を現した。

 

「遅いな」

 

 門が開いてラービットが姿を表すまで数秒かかった。

 普段のコシマエならばなにも出来なかったが今のコシマエは検非違使仮面になっている。腰に添えるはこの国の国宝級の刀剣である。

 地面に向かってズドンと鈍い音をたてて降りてくる色違いのラービットに向かい居合抜きをし、刀身を真っ赤に染め上げると刀の周りに炎が出現し、そのまま1体、2体と目元を切り刻み3体目は焔をまとった斬撃と思わしきものを飛ばして切断、溶解した。

 

「なにも、見えなかった」

 

 検非違使仮面は新型のラービットが姿を現してから10秒も満たない内に撃退した。

 一体だけならばボーダーのトップ達でも出来る芸当かもしれないが、少なくとも今の修には何が起きたかが分からないまでの速さだった。

 

「なにそう驚くことはない。今の僕は人属性に置いて最強と言っていい英雄の力を使っている……トリオン兵程度は有象無象の雑魚だ」

 

 周りがスゴイだなんだと言っているので静める検非違使仮面。

 その瞳には降りてきたラービットの残骸が宿っており、嫌なことを考えてしまい少々重苦しい息を吐いている。

 

「大変だ、ここ以外でもラッドが新型の多くを出していて殆どが警戒区域の外に」

 

「そんな……まさか狙いは最初からこれだったの!?」

 

 今回のこの侵攻に些か疑問を抱いていたレプリカから疑問内容を聞いていた2人はそうかとなる。

 本国の守りが手薄になるほどのトリオンを注ぎ込んだトリオン兵を集中させずに分散させた。本気で敵の大将の首を取りに行ったりするならば、戦力を分散させるわけにはいかない。それなのにしていて腑に落ちなかったが、目の前に複数のラービットと上層部からの報告を受けて全てに納得がいった。

 

「気をつけろよ。相手はC級狙いだ……特にやべーの居るからな」

 

 トリオンが洒落にならない千佳をチラ見する検非違使仮面。

 とはいえ、ここは一先ずの安心はある。ラービットをコシマエが秒殺したのだから。

 

「忍田本部長、現在新型3体が送り込まれましたがセイバーがそれを撃退しました」

 

「まさか……」

 

 急に現れたラービットを見て、嫌な予感をする木虎。

 ラービットは戦力を分散させる為に各地に現れた筈なのにここだけ一度に3つも、しかも色が違う個体が出てきた。なにか意味がある筈だと色々と考え、検非違使仮面をチラリと目が行くが、それは関係のないこと。

 

「C級です、忍田本部長!敵の狙いはC級隊員です!」

 

 極端な話をすれば緊急脱出機能のお陰で人的被害を0にすることは出来る。

 しかし、緊急脱出機能をC級隊員の使っている訓練生用のトリガーにはその機能がついておらず、その事を学校で起きたイレギュラー門の一件でアフトクラトルへ知られてしまった。イレギュラー門からアフトクラトルの侵攻ははじまっていたのだ。

 

『状況はほぼ把握した。東部と南部にも新型の色違いが出現している』

 

「まだまだラッドがいるから出てくるトリオン兵を倒さないと……ラッドの動きを強制的に停止させる装置とか作ってないのか?」

 

 他にも似たような事が起きているとの報告を受ける。

 出てくるならば斬って倒せばいいだけだが、毎度毎度出てこられたらきりがない。ラッドそのものをどうにかしなければならず、そのラッドは数だけは無駄に多くて対処している暇はない。

 

『そんなもん、作っているわけないだろう!』

 

「極端な話をすればトリオン兵はロボットなんだから行動停止のプログラムを送れば止まるって浦原もというちのトップの人が言っていて、うちの国では既に実装されてるぞ」

 

 そんなものはないと言い切る鬼怒田開発室長。

 既にとある国ではそれが実用化にまで至っているとポロリと検非違使仮面は零す。

 

「新型の色付きが一度に何体襲ってこようがこっちにとっちゃ、屁でもねえ……ボーダーさんは次はどう手をうつ?」

 

『そちらに今、ボーダーの最強部隊を派遣している』

 

「最強部隊を派遣したとしてどうする?そっちがボーダー最強ならこっちは平安最強だぞ」

 

『平安最強?君は今、英雄の力を身に纏っている様だがいったいなんの英雄の力を纏っているんだ?』

 

「さて、何者なんでしょうな」

 

 忍田本部長の疑問を検非違使仮面は答えない。

 

「今は僕達が善意で力を貸してあげてる状態だ。これ以上を望むのならばそれ相応の代価は頂かなければ」

 

『なに!?』

 

 あくまでも検非違使仮面は勝手に動いていて勝手に協力している。

 

「同盟を結ぼうじゃないか」

 

 個人として力を貸すことはここまでにする。組織として力を貸す事にしようと検非違使仮面は笑みを浮かべる。

 ここからは三雲修個人に力を貸すことはやめてボーダーと言う組織に力を貸す。その為の交渉のカードを切る。

 

「僕達と、カルデアと同盟を結ぼうじゃないか」

 

『同盟……』

 

「一時的な物か継続的な物なのかを決めるのはそっちで構わない。一時的な物ならばこの大規模な侵攻の後処理を終えるまでの同盟、継続的な物ならば大規模侵攻の処理後も仲良くしようじゃないか。ああでも、そこから先は僕からじゃなくて上司を通さないといけなくなるからその辺りはあのアマもといキャスターに聞いてくれ」

 

『キャスター、そうだ。彼女はどうなっている!?』

 

『今までの会話をちゃんと聞いてますよ。検非違使仮面の言う通り、同盟を結びませんか?こちら側はセイバーを貸し出しましょう。此度のセイバーは並大抵の黒トリガーならば討ち倒す事が出来る当たりです』

 

『黒トリガーを!?』

 

「ハードルを上げないで……」

 

 とはいえ。検非違使仮面の実力が半端じゃないのは事実。

 A級でもそれなりに苦戦するラービットをいとも容易く倒す黒トリガーみたいなのが味方になってくれるのは心強い。

 

『……いいだろう。そちらとこの大規模侵攻の後処理を終えるまで一時的な同盟を結ぼう』

 

 今ここで彼等に姿を消されるのもそれはそれで困る。

 黒トリガーの様な戦力が加わるのはボーダー側にとって有益になる。不安要素はあるものの城戸司令はカルデアの者と同盟を結んだ。




仮面セイバー検非違使

クラス:セイバー

真名:□□□

トリオン 30
攻撃 33
防御・支援 12
機動 18
技術 24
射程 2
指揮 0
特殊戦術 3


TOTAL 122


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神の国進軍

何時かは【まゆゆんの人理修復記(地獄)】というタイトルのとにかく悲惨な目に遭うFGOの小説を書きたい。


「なんだあの玄界(ミデン)の兵は!?」

 

 場所は次元を超えて少し代わり、襲撃してきた国ことアフトクラトルの遠征艇。

 C級隊員に狙いを定めて色付きの通常とはちょっと性能が異なるラービットを数体派遣したのはいいものの、コシマエが新型の色付きを秒殺した事にアフトクラトルの強化トリガー使いであるランバネインは驚きを隠せない。

 

「ラービットが出てくるほんの僅かな時間を狙ったぞ」

 

 ラービットを倒せるトリガー使いが居るのはなんとなくの予想はついていた。

 現に検非違使仮面以外にもラービットを倒すことに成功しているところはあるものの、それは部隊(チーム)として動いたからで個人となるとまた話は別であり、ここまでの速度で瞬殺出来るとなると流石に驚異的となる。

 

「落ち着きなさい」

 

 検非違使仮面の強さに興奮するランバネインを黒い角がはえた女性、ミラが落ち着かせる。

 

「トリオンを計測してみた結果、私達に近い数値を持っていたわ。恐らくは玄界(ミデン)が所有する黒トリガーの1つ」

 

 修達がいる地域とは違う区域が更地に変わっており、とんでもない出力のトリガーが動いているデータを算出。

 そこから検非違使仮面が玄界が持つ黒トリガーの1つだと推測をする。

 

「ほぉ、随分と変わった黒トリガーがあったものだな」

 

「しかしそう考えるのが妥当だろう」

 

 この船のリーダー的存在であるミラの考えを認める。

 こんな事が自国の強化トリガー使い以外で出来るとなれば黒トリガー使いぐらいだ。というか、そうでなくては困る。地球側のトリガー技術の進歩が如何に早くとも近界でも1,2を争うほどの大国と渡り合うことはない。あってはならないことだ。

 

「おう、この黒トリガー、オレに回せよ」

 

 今すぐぶっ殺してやると意気揚々なエネドラ。

 黒トリガーを相手にする機会なんて早々にないと殺る気を滾らせている。

 

「いや、お前は行ってはならない……この者とお前では相性が悪い」

 

 検非違使仮面が戦った後をハイレインは凝視する。

 地面や周りに焼け焦げた後があり、トリオン兵から送られてきた映像を巻き戻してみると攻撃の際に刀が赤く染まり炎を纏っている姿が見られる。エネドラの使用している黒トリガーの性能がどういったものか理解しており、黒トリガーが相手となると万が一が起きるかもしれないと危惧する。

 

「では、他の区域にのみ出陣をしますか?」

 

 トリオン兵が暴れているのはなにも検非違使仮面がいる地域だけではない。

 手薄となっている区域もあり、そこ以外を攻めればC級隊員を簡単に捕らえる事が出来ると島崎信長ボイスの青年、ヒュースは提案をする。

 

「それこそ玄界の思惑通りに事が動いてしまう……む……」

 

「どうかなされましたか?」

 

 何時もとは何処かに弱気になっているハイレイン。

 その目にはトリオン兵から送られてきた検非違使仮面の映像が写っており、ミラが少し心配をする。

 

「よくわからないが、危険だ」

 

「……は?」

 

 なにか理由があって色々と言ってきたハイレインがここに来ておかしなことを言った。

 黒トリガーだし危険なのは当然なのに、なにを根拠も無いように言っているんだとミラは冷たい視線を向けるが、ハイレインは気にせずに語る。

 

「理由は分からないが、この者を見ていると危険だと本能が言っているんだ」

 

「黒トリガーだからでは?」

 

「いや、そうじゃない。確かに黒トリガーだから脅威的ではあるが、それ以外で危険だと言っている」

 

「……?」

 

 長年の経験とかこの時点での情報からの危険ではなく、なんとなくの危険だと曖昧なハイレイン。

 これはいったいなにが原因かと言われれば検非違使仮面の持っている刀が原因だが、残念な事にその事には気付かない。

 

「では、どうしますか?」

 

 検非違使仮面が驚異的であるのは送られてくる情報から嫌でも伝わってくる。

 初老の男性であるアフトクラトルでもトップクラスの実力者であるヴィザはどの様な対応を取るか問う。

 

「ヴィザ翁、ヒュース、お前達二人がこの区域を当たれ」

 

「我々二人ですか?」

 

「相手は黒トリガーだ。全ての性能が分からない以上は取れる最善の手を取る」

 

 個人として最強なヴィザとその特殊なトリガー故に万能をヒュース。

 この二人を派遣しなければ瞬殺されるかもしれないと自分のなにかが言っている。

 

「この仮面をつけた黒トリガー使い、何処かで見たような……はて、何処でしたかね?」

 

 検非違使仮面を何処かで見た記憶があるが思い出せないヴィザ。

 主に例のあの仮面が邪魔で素顔が見えず勘違いかと思うのだが、何処かで見た気がする。こういう時に訴えかけてくる自分の勘というものは信頼できるもので何処の誰だったか記憶から探すのだが思い出せない。思い出せば最後、苦い思いをするだけだが。

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「待たせたわね!」

 

 今回の僕のお仕事は敵を倒すことで人を避難させたりする事じゃない。

 一先ず此処から動くだろうが、その前にボーダー最強の部隊である玉狛第一がやって来た。

 

「小南先輩?」

 

「猫を被っているのバレない対策だろう」

 

 ショートヘアの小南パイセンのトリオン体。

 声や容姿からして小南パイセンだろうが、見るのが初めてな修は困惑しているので補足しておく。

 

「あんたが検非違使仮面……ふーん、新型を一掃したの。中々やるじゃない」

 

「……?」

 

「否、褒められるべく行為ではない……ここからが本番だ」

 

 小南パイセンはトリオン兵の残骸の山を見て、僕を評価する。

 しかし、この程度の事で褒められていてはキリがなく意味もない……所詮はトリオン兵、使い捨ての駒だから。

 

「……まさか」

 

「お前達、無事だったか?」

 

 小南パイセンの発言に少し違和感を感じる修。

 大した問題じゃないのだが、もしかしてと思っていると師匠にあたる烏丸が安否を確認する。

 

「あ、はい……セイバーが居てくれたお陰でなんとか」

 

「セイバー……あいつ、確か」

 

「おおっと、今の僕は検非違使仮面だ」

 

 この姿、割と気に入っている。

 

「お前がセイバーか……話は上から聞いている。一時的な同盟を結ぶとなるなら、ある程度の情報の開示をしてくれ」

 

「アフトクラトルがやって来るのと僕という戦力を貸し与える。自慢じゃないが今の僕は一級品の英雄を引き当ててる、並大抵の黒トリガーなら相手をできる」

 

 筋肉ゴリラことレイジさんがこちらに助力を求めてるので適当にあしらう。

 と言うよりはこれ以上出来ることと言えばボーダーの屋上で水晶玉を使ってあちこち見ている深雪を表に叩き出すぐらいしか出来ない。

 

「英雄……そういえばあんた英雄の力を纏ってるのよね。なんの英雄の力なのよ?」

 

「小南パイセン、そこはかっこよくあんた〇〇ねって言うのがスーパーなエリートじゃないかね?」

 

「そんな事、言ってもそんな変な仮面をつけた英雄なんて聞いたことはないわよ」

 

「なにを言っているんだ!中国にはイケメンすぎて指揮が下がるからという理由で仮面を付けている英雄がいるんだぞ」

 

「あのねぇ、そんな嘘に騙されるわけないでしょう……え、なによ、その真顔……マジでいるわけ!?」

 

 やべえな、小南パイセンを弄るのすごい楽しい。

 とはいえ乙女ゲームに出てきそうな男じゃないのだ……ああ、でも僕の容姿って越前リョーガだから乙女ゲームに出てきそうな見た目なんだよな。

 

「お前が今、使っている英雄の力を教えてくれ」

 

「はいじゃあ、英雄真名当てクイズ〜」

 

「おい、今はふざけている場合じゃ」

 

「生憎、こっちはふざけていない。マジでやっているんだ……英雄の真名聞いて、誰だそいつと言われる可能性もある。今の僕がフェルグス・マック・ロイと言われて、あのフェルグス・マック・ロイなのか!なんて君達は言えるのかい?」

 

 なにも僕は意地悪をしたいから、こんな回りくどい事をしているんじゃない。

 英雄の真名を知って誰だそいつと言うことが待ち構えていないとは言えないんだ。決して僕達が面白そうだからやってるとかそんなんじゃない。

 

「ヒント1。西暦953年誕生、1025年3月17日に死亡したのとこの格好がヒントだ」

 

「……源義経か?」

 

 おーい、義経その時代に生きていないよ。

 

「ハズレだけど系列的には近い……ヒント2、この国のとある行事と深く関わりがあり、後世にまでこの英雄達と同じ名前を持つ人はその行事に参加しなくていい」

 

 これはそう、物凄いヒントだ。

 現在が1月中旬でもうすぐすれば2月に入り、あの行事がある。そろそろしないといけないんじゃないかとボーダーも思っているんじゃないだろうか。

 

「英雄の名前を当てるゲームは後にしましょう。今はまずC級達を本部に」

 

 この話をここまでとする木虎。

 この辺りにいた散り散りになっていたC級隊員達が全員集まったので本部へと連れて行こうとした、その瞬間だった。

 

(ゲート)っ」

 

 黒い穴が、門が開いた。

 なに驚くことじゃない。空にもドローンの様なトリオン兵が飛んでいて、地にはラッドがウジャウジャといる。C級隊員を拐う為でなく僕達の足止めをする為にトリガー使いが出てきてもおかしくはない。

 

「ふ〜ん」

 

 出てきたのは角が生えた男性と初老のおじいさん。ヒュースとヴィザ。概ね原作通りなのだが、ここで疑問を持つ。この二人がどうして選ばれたのかを。

 ヒュースの使うトリガー、蝶の楯(ランビリス)は戦闘以外にも応用の効くトリガーでC級隊員を捕まえるのにはうってつけだ。

 ヴィザの使う黒トリガー、星の杖(オルガノン)は戦闘に超特化している黒トリガーであり使用者の腕を含めて黒トリガーを使っている遊真が勝てないと断言するレベルの実力者だ。

 その二人が協力したとなればそれは強力なもので、戦闘や捕獲は簡単に出来るのだが……問題はなんでこの二人が出てきたかだ。原作では木虎が噛ませ犬が如くやられてC級隊員がラービットから逃げようとし、最終的には千佳ちゃんがアイビスをぶっぱしてなんだコイツはとなり狙われるようになってこの過剰戦力がやってきたのだが……僕が原因か。

 

「子供を攫うのはいささか気が重いですな」

 

「これも任務です、ヴィザ翁」

 

 ……うん。頑張る。

 

「やぁやぁ、久しぶりだね国宝の爺さん」

 

 フレンドリーに爺さんに話しかける。

 

「やはり知り合いでしたか……申し訳ありませんが何処かでお会いしましたでしょうか?何分、顔は広い方でして色々と知りあいが多くて」

 

 僕の事を分かっていない国宝の爺さん。

 やっぱりあれだろうか……検非違使仮面をつけているからだろうか。これ、顔の大半を隠すから気付かない人は気付かないんだよな。

 

「余の顔を忘れたというのか」

 

「あ、貴方は!?」

 

「嘘、あいつ修のクラスメートじゃない!?」

 

「え、あの……小南先輩気づいていなかったのですか?」

 

 ジャッジャジャーン、今明かされる衝撃の事実。検非違使仮面の正体は修のクラスメートでマイフレンドである越前龍我だった。

 素顔を明かすと驚くヴィザと小南パイセン……やはり気付いていなかったんだな。木虎、呆れてるぞ。

 

「このモニュメントが目に入らぬか!」

 

「そうか……あいつ、水戸黄門になってたのね」

 

「違います。小南先輩、冷静になってください」

 

 水戸黄門はキャスターとかのクラスで出てくるから、セイバーは多分出てこない。

 しかし悪ふざけに見えてちゃんとしているのは僕であり、色々と知っているヴィザ翁は驚く。

 

「奴が何者なのかご存知なのですか?」

 

「ええ……彼はセイバー、7人のサーヴァントの1人です」

 

「サーヴァント!?奴等はカルデアから出てくることはないのでは!?」

 

「ええ、その筈ですが……いったい何故此処に居るのかお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 

 僕達が手に入れた国ことカルデアは基本的には何処かと貿易はしても侵攻関係の事はしない。

 基本的には喧嘩を売ってこない限りは戦おうとしない事で有名な国で、その国の最高幹部の1人がここにいることに疑問を隠せない。

 

「なに至ってシンプルな理由だ……ここが地元だからだ!」

 

「……そうか、そういうことでしたか」

 

 どうして僕がここにいるかと聞かれればここが地元だからとしか言えない。

 そりゃ此処でなにかあったら対処してくださいと上から言われているが、それを話すのはあまり得策じゃないし、地球と貿易をやってるってボーダーにバレると色々とうるさい。

 

「5年前、何処からともなく現れた世界界賊サーヴァント、何処の国かと思えばまさか玄界(ミデン)出身だったとは」

 

「衝撃の事実を受けているところ悪いが、アフトクラトルには苦い思い出があるのを忘れちゃいないか?」

 

 今から2年前のこと。

 後にカルデアとなる国を手にして内政チートとかに手を出していた頃、何処かから噂を聞きつけてか僕達を討ち倒そうと様々な国が立ち上がった。これから原作で出てくる国も恐らくは入っているぐらいかなりの数がカルデアに攻め入ってきた。

 

「ええ……忘れませぬ。我が人生において一番の大敗を」

 

 結果は言うまでもない。

 サーヴァントの誰一人も欠けることなく怒涛の侵攻を乗り切った。

 

「ああ、そうだな……アフトクラトルはあんたともう1人、黒トリガー使いを寄越してきた……結果はあんたの相方は死んで相方の黒トリガーを僕達は粉微塵に破壊した」

 

 23巻までの原作で未登場の黒トリガー。

 能力は流石だったが、僕に掛かればお茶の子さいさい……運がよかったのが1番の要因だが。

 

「僕はこれでも甘い人間でな……このまま帰るんだったらそれでいいぞ」

 

「な、貴方何を言ってるのよ!?」

 

「るせえな、交渉だよ交渉」

 

 暴力で全ての物事を解決できるほど、僕は強くはない。

 ワールドトリガーの二次で東さんより倒しづらい事に定評のあるジジイ、今回は倒せるかどうかの自信は微妙にない。当てた英雄は一級品だが、相手もまた一級品だ。

 

「申し訳ありませんが、その話にはお答えできません」

 

「そうか……ならば殺るしかあるまい」

 

「っ!」

 

 ずっと腰に備えたままの刀を抜いた瞬間、角付の男、ヒュースは威圧された。

 理由はよく分からない。しかし、この男から感じる威圧感がとてつもない物でこのままでは危険だと察したヒュースは蝶の楯を起動して磁力に反応する黒い欠片を出現させて集束し、手裏剣の様な形にして僕に向かって飛ばす。

 

「これは珍しいこともあったものだ」

 

 交渉の余地はない。

 そう分かった途端に僕の髪は熱した鉄のごとく赤く染まり、刀に豪炎を纏いヒュースが飛ばした黒い欠片の塊を溶解しながら切り落とした。

 

「我が愛刀、鬼切は鬼にとって畏怖する物。お前は鬼ではなく改造人間の筈だが……この刀は鬼と認定しているようだ」

 

 僕の現在の武器こと鬼切は鬼や魔性の存在が見るだけで恐怖を感じる力を持っている。

 角を持っているヒュースはどうやらその判定に引っかかったようで、刀身を見た瞬間に危険と察したようだ。

 

「あのお爺さんの相手は僕がしよう……誰か角付を頼む」

 

「だったら、俺と小南が残ろう。京介、木虎達と一緒に本部に向かってくれ」

 

「了解っす」

 

 誰が何をどうするか決めるとこっちだととりまる先導の元、ボーダーの本部へと向けて走っていくC級及び修。

 

「行かせるか!」

 

 ここでC級が逃げれば出てきた意味が無くなってしまう。

 ヒュースは少しでも爪痕を残そうと黒い欠片を飛ばすのだが、僕はそれを斬り落とす。

 

「ヒュース殿、焦ってはなりません。相手がサーヴァントとなると一瞬の隙きが命取りに」

 

「以後刃は禁止!」

 

「っ!」

 

 ヒュースに色々と言うのはいいが、あんたもあんたで怯え過ぎだ。

 大敗が余程応えているのか隙を作るなと言っている矢先に自分の持っている杖に目を向けてしまったヴィザ。杖はまだ自分の手元に残っており、嵌められた事に気づくも時すでに遅し。

 

「悪いな、此度の姿は源頼光に仕えし源氏四天王が筆頭、正五位下丹後守渡辺綱。鬼を切ることは出来ても刀を取り上げることは不可能だ」

 

 ヴィザの両腕は切り落とされた。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

2年前に世界界賊殲滅戦がありその時には

セイバー 豊臣秀吉

アーチャー トリスタン

ランサー カルナ

ライダー オデュッセウス

キャスター 小野寺章太郎

アサシン 岡田以蔵

バーサーカー ヴラド三世

で、なんだかんだと勝利をした。
睡眠が出来たとはいえコシマエは数日間ぶっ通しでトリガーを起動し続けた。


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国宝VS重要文化財

テイルズの方を更新しようと思ったら、こっちばかりが進んじまう。主人公チートなのに戦わないのが原因だろうか。


「詰んだな、爺さん」

 

 手で持って武器として使うタイプの黒トリガーの弱点は手で持てなくすること。

 ヴィザの両腕は肘の部分までキレイに切り落とされており、星の杖(オルガノン)は起動時には文字にした通り杖の状態なのでもう持つことが出来なくなっている。

 星の杖の能力はサークルを出現させて円線上に物凄い切れ味のいい刃を複数乗せて超高速で動かすという至ってシンプルであり、中々に殺意が高いもの。何がやばいってとにかく早くて切れ味が抜群だ。

 

「僕達と一回殺り合った分、角付よりも上手く立ち回れると思っただろうが、甘かったな」

 

 だがまぁ、今はもう関係の無い話だ。要となる腕は既に切り落としている。

 過去に1度だけ殺り合った経験があるので少しは上手く立ち回れると思ったが、過去の苦々しい思い出が逆に邪魔をした。

 

「渡辺綱……」

 

 勢いに任せて真名をポロッと言ってしまった。

 レイジさんは真名を呟くのだがあまりピンと来ていない。渡辺綱は歴史の教科書で出てくるか出てこないかと聞かれれば出てこない。平安時代といえば源、藤原ばっか出てくるイメージで細かなところを学んでいない限りはあの渡辺綱なのかとはならない。う〜ん、残念。

 

「ヴィザ翁、大丈夫ですか!?直ぐに、穴を防ぎます」

 

「……万能だな」

 

 黒い欠片を腕に集めて擬似的に手を作り出しヴィザの爺さんにくっつける。

 磁力がチートなのは色々な漫画で証明してるがこれは中々に反則だ。トリオン漏れを防いでいる。出来ればそのままトリオン漏れのトリオン漏出過多で生身の肉体に戻ってしまえばよかったんだが無理になった。

 

「申し訳ありません、油断を……いえ、警戒をしすぎました。サーヴァントは黒トリガー数百本分のトリガーを持っていると自負しそれに見合う実力を持っていますが、その実態を忘れるとは……あの時とは違うと言うのに」

 

「セイバー、お前あの爺さんを知っているのか?」

 

 こちらのことを知っている素振りを見せるヴィザの爺さん。

 顔見知りかとレイジさんは聞いてきたので僕は首を縦に振ってちびレプリカをぶん投げる。

 

「2年前の殲滅作戦の事を暇が出来たらちびレプリカから聞いてくれ。そん時にドン引きするぐらいにボコボコにしてやった……具体的にどんな力かといえば以後刃は(1588)禁止とだけ言っておく」

 

「以後刃は禁止、豊臣秀吉か」

 

 あの時は我ながらというかなんというかハイってやつになっていた。

 渡辺綱はピンと来ないが流石に豊臣秀吉は知っておりピンと来るレイジさんだが、豊臣秀吉でどうやって勝ったんだと少しだけ疑問に思う。

 その人の逸話が必殺技になってるとかの説明をしていなかった。まぁ、今はしたところで豊臣秀吉じゃない僕には刀狩りは出来ない。

 

「じゃあ、あの磁力使いを頼む」

 

「ああ、任せろ」

 

 流石に二人同時相手は疲れる。

 鬼切を握り、ヴィザの爺さんに向かって突撃するとヴィザの爺さんは杖を剣にするのだが、何処か動きはぎこちない。

 

「その場しのぎの義手じゃ僕を倒せないよ!」

 

 ヴィザの爺さんの義手はヒュースが使う黒い欠片を集めて出来たものだ。

 無理矢理くっつけてはいるので腕の部分を動かせば連動して動くが手先を動かすのは無理な様で動きに制限がある。

 

「直ぐにフォローに、っち!」

 

 万全の状態でなければ僕の相手は不可能だ。

 ヒュースはその事を直ぐに理解し、フォローに回ろうとするのだがレイジさんの通常弾(アステロイド)(機関砲)で攻撃をしてきた為に黒い欠片を傘の様な形状に収束して攻撃を防ぐのに意識を持っていかれる。

 

「老人の介護をしながらの戦いは大変だねぇ」

 

「失礼な。私が年配なのは事実ですが、そこまでではないです」

 

 おっといけないいけない、つい口が滑って本音が出てしまった。

 ヴィザの爺さんは口では怒りながらも冷静さを保っており、上手い具合に僕の攻撃を受け流しつつも、ヒュース達との距離を開けていく。

 

「以後刃は禁止!」

 

「同じ手はくいませんよ」

 

 明らかに人気の無いところに誘い込んでいるヴィザの爺さん。これはあれかな、星の杖の真の力を開放しようというのだろう……随分と甘くみられたものだ。

 近隣の住居の倒壊なんて傍迷惑な事をやられると後々の処理で責任を押し付けられることになるのでそろそろ決めに行く。

 

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前──我が剣、魔性を斬る!」

 

 鬼切を立たせる様に持ち九字を切ると背中に九字が出現してぐるりぐるりと円を描く様に動く。

 九字を切り終えると、鬼切を鞘に納めて腰を深く降ろし、目にも止まらぬ。早さで突撃する。

 

「そう来ると思っていました」

 

 ニヤリと笑みを浮かべるヴィザの爺さん。

 手にしている星の杖が複数のサークルを作り出しているところから、こちらが攻め入ってカウンターを撃ち込むのが狙いだろう……うん。

 

「遅いな」

 

「な!?」

 

 腕がまともに使えない以上は自分から攻め入ることは得策ではないだろう。

 カウンターを狙うという行為は間違いではない……唯一、今自分が九字を切って自己暗示で自分にバフを掛けている状態でなければそれに成功していた。

 ヴィザの爺さんがカウンターを決めるよりも更に早く鬼切の刃はヴィザに爺さんの喉元に届き、一閃。脳伝達神経と思わしき部分を破壊するとこれでもかと言わんばかりに爆炎を巻き起こす。

 

「神秘と混沌に溢れる魔の都、京都を守護せし我が剣は人界において最強の剣……あんたが国宝ならばこちらは重要文化財の剣を使わせてもらった。あんたの敗因を上げるとするならば、一番最初に僕を警戒しすぎた事だ」

 

 トリオン体が破壊されると同時に豪炎は消え去り生身の肉体に戻ったヴィザの爺さん。

 僕との苦々しい思い出が逆に足枷になっており、それさえなければ対等に渡り合えたかもしれない。腕を持っていかれたのは本当に痛い。

 

「予想外だろうな、今回の総指揮官は。アフトクラトルの国宝使いが真っ先に倒されて、倒した相手がサーヴァントだってのは」

 

「いやはや、耳の痛い話です」

 

 アフトクラトルが今回送っている戦力の中で一番とも言うべき存在が真っ先に倒された。

 倒されただけでなく黒トリガーと冠トリガーを合わせた感じのヤベー奴が待ち構えているとなると顔色が真っ青になるだろう。

 

「ここで命と黒トリガーは取らないのですか?」

 

 生身に戻ってしまえば歴戦の勇士もただの老人に過ぎない。

 ヴィザの爺さんはある程度の覚悟はしているようで、何もしてこない僕を疑問に思う。 

 

「生憎、僕は血生臭い事は苦手でね……いや、本当にね」 

 

 殺してほしいのならば殺してやるが、出来れば非殺生なのがいい。殺したとなるとボーダーへの印象が悪くなる。

 今回はボーダーに力を貸して僕達が有能で話し合った方がいい存在だとある程度は見せつけておかないと上がうるさい。こういうところは怖いんだよ、あの人は。

 

「あんたを倒しておけば、後はこちら側のトリガー使いでもどうにかなる……僕の1番の仕事は終わりだ」 

 

「買い被り過ぎですよ」 

 

 いやいや、今回は勝つことが出来たけども次やったら勝てない可能性がある。

 能力系の黒トリガーならばまだしもこういうシンプルな黒トリガーって逆に相手をしづらいんだよ。今回は運良く渡辺さんを引き当てることが出来たけど、一級じゃない英雄を引き当てていたら負けていたかもしれない。

 僕達のトリガーは強い反面、ハズレを引いたときがヤバい。一寸法師とか引いた時はそれはもう酷かった。 

 

「いやいや、地球の進歩も目覚ましいですよ……まぁ、僕達と比べれば劣るけど」

 

「随分と自信がごありなんですね」

 

「ならば貴方に問おう。生身の肉体で鉄で出来た刃物を用いて岩を真っ二つに出来ますか?」

 

「流石にそれは……星の杖を使えば簡単だが」

 

「ならば覚えてた方がいい。こちらの世界の歴史上の偉人、英雄達は岩を真っ二つに切る、水の上を走る、雷を切り裂く、2500km程の矢を放つなどの偉業を生身の肉体でやっていて僕達はそれと同じことを出来る」

 

「……本当ですか?」

 

「嘘だと思うならばこちらの情報をカルデアから買えばいいさ。凄まじいよ、この世界の英雄達は」

 

 特に僕みたいな凡人型の転生者は実感させられる。英雄達がどんだけチートなのかを。

 特にステラとか頭おかしい。この世界の住人達1キロの狙撃出来たらスゲ~の中、50km先からの狙撃とか普通に出来るからね。

 

「それは是非とも見てみたいですね……残念ながらここまでのようです」

 

 ヴィザの爺さんは何処からともなく開いた門を経由して自身の遠征艇へと帰っていった。

 

「さて来るか……」

 

 爺さんの目の前に門が出現したのはアフトクラトルの黒トリガー、窓の影使いであるミラの力だろう。

 何処かに潜んで僕を攻撃するチャンスを伺っているのかと警戒を怠らないが襲ってこない……それほど星の杖が大事かそれとも予想外過ぎたのか、どちらか……まぁ、後者だろうな。

 

 

 

 

□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「ちょっと離れてってるわよ!」

 

 セイバーがヴィザと剣をまじ合わせている頃、小南は徐々にセイバー達が自分達から離れていっている事に気付く。

 

『心配する必要はない。彼は勝てると思ったから挑んでいる』

 

 自分達から離れていっているのはセイバーも理解している。

 その上で誘いに乗っているのだとちびレプリカは小南を落ち着かせて目の前の敵に集中させる。

 

「レイジさん、一気に決めていいかしら?」

 

「いや、少し待て」

 

 機関砲の通常弾を黒い欠片を収束して傘の様な形にして弾いている。

 レイジの弾を防ぐのは中々に強力な物だが自分の武器ならば真っ二つに切れると自信があるが、セイバーが磁力使いだと事前に教えている為、無理に手出しをすれば危うくなるとレイジは判断し機関砲から突撃銃へと切り替える。

 

「何度やっても同じ――!」

 

 武器の種類が変わろうが黒い欠片の盾に弾かれる。隙あらば攻め入ろうとヒュースは様子を見ていると、側面から弾が飛んできて頬を掠る。突撃銃の弾を通常弾から追尾弾に変えて盾の真横に弾を撃つことで盾を無視して弾を当てる事に成功した。

 

「どう来る……」

 

 攻撃の手は緩めず、相手の出方を見る。

 レイジはもう一度追尾弾(ハウンド)を撃つと今度は読まれたのか、黒い欠片を渦の様にぐるりぐるりと回して360度あらゆる方向からの攻撃を防ぐのだがこの展開をレイジは読んでいた。

 

「今だ|」

 

「OK、レイジさん」

 

 黒い欠片も万能に見えるが全能でない。

 今の様にぐるりぐるりと回して360度全方位から弾を防ぐ様に扱えば黒い欠片は拡散し、傘の様な形状の時と違い防御力が激減する。具体的に言えば普通の弾は防ぐことが出来るけど、攻撃手の近距離攻撃は防ぐことは出来ない。

 小南の巨大な斧、双月(コネクターON)が振るわれ、手薄となった部分を斬りに行くと違和感を感じつつもヒュースの頭を撥ねる事に成功した。

 

「危なかった。これ、レイジさんととりまるじゃ失敗してたわ」

 

 攻撃をする際に黒い欠片にほんの僅かだが触れてしまい、磁力により攻撃とは全く真逆の方向に引っ張られる。

 これが普通の攻撃手だったら思う様に動けず攻撃力が軽減されてしまうが、そこはそれ玉狛トリガー。トリオンの消費量は多いものの一撃の威力は半端でなく、磁力で若干の軽減をされながらも切り落とす事に成功した。

 

「……っ!」

 

 ありえない。

 歴戦の猛者とは言わないがアフトクラトルの強化トリガー使いになるべく必死になり、今に至り驕りも慢心もしていなかったのにただ一度の些細なミスが原因で負けるとは思いもしなかった。

 本来ならばここで攻撃するのがレイジならば防ぐことが出来たのだが、セイバーが根刮ぎトリオン兵をぶっ倒しヴィザの相手をした為に手持ち無沙汰になってしまった小南がやってしまった。

 

「レイジさん、ここ任せるわね。アイツの援護に行って」

 

「終わったぞ」

 

 とりあえず生身の肉体に戻ったのは確認できたので、ここをレイジに任せようとするとセイバーが戻ってきた。

 それを見たヒュースはありえない様なものを見る目でセイバーを見る。

 

「バカな、この短時間でヴィザ翁を倒したと言うのか!?」

 

「見たらわかるだろう……国宝使いの歴戦の猛者と言えども腕がまともに使えなければ弱くなるし、星の杖は周りの事を気にせずに戦える状態じゃないと真の力を発揮しない。後、シンプルに僕が強かった」

 

 もう少し形が違えばこうなることはならなかった。

 要因を上げるとすれば一番最初の言葉に騙された事で、それさえなければ凄まじい勝負にはなっていた。

 

「そちらが国宝のトリガーを使うならばこちらは国の重要指定文化財の一振りを使った」

 

「なんか締まらないわね」

 

 国宝VS国宝とならないのは是非も無し。

 

「僕だってね、国宝級の刀剣持ってきたいよ。でもこればかりは運だから……触媒があったらな……」

 

「触媒?」

 

 また新しいキーワードが出てきたぞと耳を傾ける小南。

 

「僕達の使うトリガーは毎回能力がランダムだけど、望んだ者を当てる方法があるんです」

 

「そんなのあるなら使いなさいよ。あんた達のトリガー、ランダム要素あるんでしょ」

 

「望んだ者を当てる方法がこれまた面倒くさくて、英雄達に関連する触媒が必要なんですよ……何個か持ってますけど、万が一に備えて国に保管されててそれ以外を現地調達出来るならしてこいって結構な無茶を言う……でも、アレあったら凄く便利なんですよ」

 

「アレってなによ」

 

「秘密です……多分、言っても分からないだろうし」

 

 小南の事は決して馬鹿にはしていない。面白がってるけども馬鹿にはしていないのだが英雄達に関する話をしたとしておりますちんぷんかんぷんなのは目に見えている。

 

「倒した爺さんは何処だ?」

 

「ああ、帰ったよ」

 

「帰ったって捕まえなかったの?」

 

「生憎、血生臭い事は苦手でね、向こうも万が一に備えている……相手を捕縛して黒トリガーをぶん取る事は出来たけど、それすると後で揉める未来が待ち構えてそうだし、相手は国宝だからこっちで変な事すると逆襲が怖い」

 

 色々と考えた末に逃した合理的な判断をしたと見せるセイバー。

 いざという時に帰るプランは用意していたのがわかるとレイジ達の視線はヒュースに向く。

 

「どういう感じで帰還していた?」

 

「どこでもドアみたいな感じで遠征艇に帰っていった」

 

 同じ国からの刺客ならば帰還するかもしれない。

 生身の肉体に戻ったがまだ油断は出来ないとヒュースに突撃銃を構えるのだが、一向になにも起きない。

 

「!?」

 

 そう、何も起きないのだ。

 万が一自分達が倒された時にミラの助力で帰還する手筈なのだが、ヒュースには一向に迎えに来ない。警戒を最大にされて近寄り難い状態になっているがミラの黒トリガー、窓の影ならば突破することは出来るが来ない。

 

「来ないわね」

 

 目の前に敵はいるので警戒心を緩める事はしないが、なにもないのはそれはそれで困る。

 

「上が揉めてるんじゃないんですかね……なにせ星の杖(オルガノン)が真っ先に倒されたんだから」

 

「あの爺さん、そんなに凄いの?」

 

『私の記録が正しければアフトクラトルの国宝と呼ばれる黒トリガーの筈だが……やはり最初の一撃が大きかったか』

 

 勝利の決め手となる要因は言うまでもなく一番最初の両腕を切り落としたこと。

 それさえなければもう少し上手く立ち回ることは出来たのだろうが、そう上手く行かないのが勝負である。

 

「さてと、修達のフォローに行ってくるか……修達はどうなっている?」

 

 1番の山場は切り抜けたものの、まだまだ問題は山積みだ。

 修達は既にここから見えないぐらいには離れてはいったもののラッドという何処からでも門を開く存在がいるので油断はならない。

 

『修達は本部に向かっている……が、ラッドが門を開いてトリオン兵を送り込んでいる。キトラ達が上手く対処しているが時期にこの状態が崩れる』

 

「じゃあ、さっさとフォローに」

 

「待て、小南……来るぞ」

 

「ああもう、次からわらわらと」

 

 フォローに回ろうとするとこの近くにいたラッドが門を開き、ラービットを含むトリオン兵が出現をする。

 

「小南、オレはこいつを捕縛する。後は任せたぞ」

 

 迎えが来ないヒュースを誰かが抑えておかなければならない。

 レイジがその役を買って出て、出てきたトリオン兵を小南に託す。

 

「セイバー……修達を頼む」

 

「あんまり期待はしないでくれ」

 

 ハードルは低い方が飛び越えやすい。

 セイバーは鬼切を納刀し、修達が向かった方向に走り出した。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

セイバーの源頼光を引き当てた場合、ヒュースとウィザの両方を纏めて相手に圧倒することが出来た。

感想が作者のやる気を起こさせる


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変えられた未来と変えられなかった未来

「いやいやいや、どゆこと?」

 

 実力派エリート(自称)迅悠一は呟いた。

 彼は未来視のサイドエフェクトを持っており、見たことのある人物の未来を見ることが出来る。その未来視を利用してなるべく最善の未来へ導こうとしていたのだが、ここに来ての未来が見えなくなるという不測の事態が発生。

 

「迅、なんでこんなところにいるんだ!?」

 

 西と北西を担当している筈の迅がこの場に居ることに嵐山は驚く。

 西と北西のトリオン兵を全て倒したのかとなるが、1人で一つの区域を担当するとしてもあまりにも早すぎる。

 

「未来が色々とおかしくなってきたんだよ」

 

「未来が……外したのか!?」

 

 未来視で未来は見えるが複数の未来が見えて、それ以外の未来も存在する。

 よくある台詞だが未来は決まっておらず、迅の焦りはここにある。

 

「オレが視たどの未来とも異なる新しい未来が生まれてる」

 

 迅の未来視が外れた。

 今回の大規模侵攻は迅の未来視と遊真の近界の情報を頼りにしており、その内の片方が当てにならなくなったとなれば驚異的だ。

 

「……サーヴァントが原因か?」

 

 迅の未来視がハズレた原因を考察する嵐山。

 彼の反則に近いサイドエフェクトには穴があり、見たことのない人間に対しては通用しない。襲撃してきたアフトクラトルの顔は見えないことは勿論の事、現在起きているイレギュラーといえばサーヴァントでしかない。

 

「ああ……顔は見ていないけど、一向に未来が見えない」

 

「それは大丈夫なのか!?」

 

 既に姿を表に出しているのに、迅の未来視は一向に彼等に対して反応はしていない。

 今はどんな人物かは見えていないがこのままいけば顔を見る機会はあるはずなのに見ることはできない。

 

「全然大丈夫じゃない……なんか太刀川さん達がグラサンを掛けて物凄いテンションを上げてる未来が見える様になったけど、それ以外に進展は無いよ」

 

 謎の未来が視えている迅。この未来が意外な未来というか太刀川達らしいなと思える未来だったりするのだが、今とは関係の無い話である。

 未来が見えない事はとにもかくにも危険な事で、今までこんな事は無かったのにと軽く冷や汗をかいて焦る。

 

「やっぱ迅さんでもコシマエは引っかからないか」

 

「なにか知ってるのか?」

 

 今まで見えていた未来が見えなくなり、代わりに見えるようになった変な未来について知っている素振りを見せる遊真。

 

「今、ボーダーに手を貸してるサーヴァント、コシマエはサイドエフェクトが効かないサイドエフェクトを持ってるんだよ」

 

「はぁ!?」

 

 あやふやで変な未来しか見えないよ1番の原因、それは力を貸しているセイバーことコシマエが1番の大きな要因だ。

 まさかサイドエフェクトが効かないサイドエフェクトを持ってる奴が居るとは思わず声を上げる迅。なにせコシマエは唯一無二、迅の天敵なのだから。

 

「待ってくれ、それはつまり」

 

 迅のサイドエフェクトが効かない人間が場を滅茶苦茶に荒らしているとなると物凄く嫌な予感がする嵐山。

 

「今回は迅のサイドエフェクトが頼れないと言うことか?」

 

 コシマエが出ている限りはコシマエが介入している未来は一切見えない。

 現在、コシマエは修達を追いかけており、その修達はボーダーの本部に向かっている。今回の未来の鍵を握る修の未来が見れなくなるのは一大事、いや、それ以前に未来が見えなくなったという時点で一大事だ。

 

「まぁ、そうなるよ」

 

 コシマエ達が動いている限り未来は見えない。

 未来視の予知を前提に色々とやっていた事が全てパーになるとなれば笑い話にすらならない。

 

「けど、それでいいと思うよ」

 

「なにを言ってるんだ、迅の予知が無かったら」

 

「いいんだよ、これで」

 

 何時もなにかと頼っていた未来視が使えないとなると此処から先の指示を間違えるかもしれない。

 未来視の予知の大事さを知っている嵐山だが遊真はそれでいいと断言をする。

 

「サーヴァントが力を貸してくれる。これだけで充分過ぎるほどに強い……迅さんの未来視よりも信頼が出来る」

 

「そんなに、なのか?」

 

 サーヴァントがなんなのか詳しい説明を受けていない嵐山。

 引き合いに出された迅の予知よりもとなるとそれはもう凄いのだろうと更に説明を求めるので遊真は説明をする。

 

「たった7人で近界(ネイバーフッド)の色んな国を荒らしに荒らしただけじゃなくて、文字通り国を滅ぼしたんだよ」

 

「国を……」

 

「序列最下位のコシマエでもおれは勝てない」

 

 遊真は当事者ではないので詳しいことは知らない。

 しかし、噂は知っている。近界をとにかく荒らしまくっただけでなく文字通り国を滅ぼした……まぁ、滅ぼしたのはコシマエでなく別の人物だが、それはさておき迅の予知が使えなくなったのを含めたとしてもコシマエの助力は強い。

 

「ジンさん、コシマエが介入してない未来は見える?」

 

「見えるには見えるけど……殆どがこの大規模侵攻が終わった後だ」

 

「だったら問題無いよ。ちゃんと終わるって未来は見えてるみたいだから」

 

 迅の未来視で見えている大規模侵攻後の未来。

 それが平和的な未来に見えるのならば、逆説的に見てこの大規模侵攻は乗り越える事が出来る。

 

「そう簡単に言うが、見えてる未来は中々だぞ」

 

 コシマエ関連じゃない未来は中々に危険な未来が待ち構えている。具体的に言えば普通に死人が出ている未来が視えている。

 

「彼等と協力して最善の未来を選ぶのは出来ないのか?」

 

 最悪な未来は出来る限りは回避したい嵐山。

 今は同盟を結んでいるので、協力関係にあるので協力は出来ないかとなるのだが、それをすることは出来ない。

 

「オレのサイドエフェクトが効かない以上は向こうが完全に退場してくれないと無理だ」

 

 サイドエフェクトが効かないサイドエフェクトがある以上は迅のサイドエフェクトは頼れない。

 コシマエ達とどれだけ協力しても未来が見えない以上は誘導することが出来ない。未来視のサイドエフェクトが意味を為さないのはまずい。

 

「全く、なんで隠してたんだ」

 

 コシマエ達の事を秘密にしていた遊真に文句の1つでも言いたい。

 まさかここに来てボーダー以外でトリガーを扱っている集団が居るとは誰が予想するだろうか。

 

「おれがこっちの世界に送ってもらって色々とやってもらう代わりに黙ってる約束だったんだよ」

 

 修と千佳には自ら正体をバラしていると言えばややこしくなるので言わない。

 遊真にも遊真で事情はあったので喋るに喋られない。そういう契約を交わしていたから。

 

「で、どうすんの?」

 

 コシマエ達はこの場から退場するつもりはない。迅悠一はコシマエ達がいる為に未来が見えない。

 それを踏まえた上で迅に次にどう出るかを尋ねる。

 

「う〜ん、前に見えてた最悪の未来を前提に動くしかないな」

 

「最悪の未来……なにが見えてたの?」

 

「……メガネくんが死ぬ」

 

「!」

 

 これまでに見えていた最悪の未来、それは修が死ぬ未来だ。

 役職があるわけでも特段強いわけでもないがなにかととんでもない運命力を持っている修。今回の大規模侵攻でもある意味鍵を握っており、そんな彼が死ぬと言われれば流石の遊真も目を見開く。

 

「……どんな感じで死ぬの?」

 

 一瞬だけ動じたがそこはそれ、プロだ。

 下手に慌てて行動すれば墓穴を掘るだけで、冷静にその時の状況を分析する。

 

「敵にやられる。相手の顔が分からないからそこまでしか分からない」

 

「レプリカ、今は修達はなにをしている?」

 

『C級隊員と共にボーダーの本部に向かっている……しかし、ラッドが門を開きトリオン兵を送り込んでいるせいで思う様に進んでいない……』

 

「こなみ先輩達とコシマエは?」

 

「コナミは市街地に出ようとしているトリオン兵を相手に、レイジは倒した角付を捕縛の為に身動きが取れない。コシマエはアフトクラトルの黒トリガー使いを倒して、今修達の援護に向かっている」

 

「だそうだ……ジンさん、どう?」

 

 今の修達の状況を詳しく聞けた。

 未来視で見えていた未来と現状を照り合わせてみて、今の修達が無事な未来にいるかどうかを確認する。

 

「1つ、千佳ちゃんはどうしてる?」

 

『チカならばオサム達と共に行動をしている』

 

「そうか……」

 

『チカが狙われる可能性は低い』

 

 トリオン量が黒トリガー並の千佳。

 狙われまくる未来を迅のサイドエフェクトは告げていたが、その可能性は限りなく低い。

 理由としてまず千佳のトリオンが規格外だと露見するラービットをアイビスで撃退する出来事が起きていない。トリオンを測定する機能をトリオン兵にも付けてはいるものの、コシマエがその前に一手を……トリオンをトリオン兵に測定されず尚且近界民が自分の近くに出てこないと言う効果を持ったお守りを託している。

 

「……」

 

「まだなにか不安要素があるのか?」

 

 ここに来て黙る迅。冷静に未来を分析しているのだが、言葉が詰まっている。

 人型が何名かまだ出ているのここからの未来が本番と嵐山は思っており、迅の不安を聞こうとする。

 

「いや……狙われないならそれに越したことはないんだけど……どうするか」

 

 見える未来は侵攻後の未来ばかり。

 見えていた未来も頼る事は出来ないぐらいには変動をしており、どう動くべきか悩む。今までサイドエフェクトに頼っていた分のツケがここでやってきた。まさか自分にとっての天敵が存在するとは思いもしなかった。

 

「ジンさん、オサム達を迎えに行こう……C級隊員も居るならキトラととりまる先輩が強くても意味がない」

 

 C級隊員狙いで共に戦うのではなく守らなければならない対象となっている。

 防衛の戦いは出来ても守りながら移動して戦うにはとにもかくにも数が必要でA級でも苦戦する敵がいるならば、自分達が必要だ。

 

「アラシヤマさん、オサムが死ぬ可能性があるから行かせてもらうね」

 

「ああ。ここは任せてくれ、三雲くんと木虎の事を頼んだ」

 

「それが1番か……」

 

 色々とあれこれ考えたりやったりはしたものの、結局の所は現場に向かうのが1番だ。

 敵が修達の元に現れる未来は多く存在し、後々のボーダーの被害を極力減らす為に彼等を囮にしなければならない。苦渋の決断を1人でしている。既にある程度マシな未来に向かっていっているのだが。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「バカな……」

 

 一方、場所は少し変わりアフトクラトルの遠征艇。

 今回のリーダーであるハイレインは驚きを隠せず、開いた口が塞がらない。

 

「ヴィザ翁が真っ先に倒されただと」

 

「申し訳ありません……一生の不覚です」

 

 この玄界(ミデン)の雛鳥を捕らえる作戦、玄界の進歩は目覚ましく万が一は想定していた。

 具体的に言えばランバネインが玄界のトリガー使いに負けたり、エネドラが作戦通りに動いてくれなかったりと色々と想定していた。しかし、まさかの自分達が絶対に倒されることはないと信頼を置いていたヴィザが真っ先に倒された。

 国宝と呼ばれる黒トリガーを持ち剣も達人という向こうの世界でも数えるほどしかいないであろう歴戦の猛者だが、そんな事は関係無いと騙し討ちからの正々堂々の真正面からの攻撃を受けて退場した。

 

「しかし、その話は本当なのですか?」

 

「ええ……私が相手にしたのはサーヴァントです」

 

「っ!サーヴァントが、何故ここにいる!?奴等はカルデアに閉じ籠もっているはずだ」

 

 サーヴァントの名を聞いて恐れるハイレイン。それもそうだ。

 2年前に大国を含めて総力戦とも言うべき戦力で挑んだのに結果はまさかの大敗で終わり、黒トリガーを丸々一個破壊されたのだ。

 基本的に喧嘩を売りさえしなければ安全だと言われており事実その通りで、アフトクラトルも狙わない様にしている。それなのにまさかこんな辺鄙な所で出会うとは誰も思ってもいないだろう。

 

「どうやら彼等はここが地元のようです」

 

「なん、だと……」

 

 ここにどうして居るのかを知っているヴィザはハイレインに教える。

 コシマエ達がどうしているのかと言われれば地元だから……それがどれだけ恐ろしい言葉なのか分かるだろうか。5年前にふらりと何処からともなく現れた世界界賊サーヴァント、何処からともなくでなく玄界から現れたということが判明した。

 向こうから挑んで来ない限りは争うとはしないカルデア。そんなカルデアに知らず知らずの内に喧嘩を売ってしまった。

 カルデアの極悪非道っぷりはハイレインは知っている。一番酷い物になると文字通り世界を滅ぼしたもので、その時を知る者は世界を滅ぼしたサーヴァント以外は知らない。

 

「どうしますか?私の窓で雛鳥達から遠く離れさせる事は可能ですが……」

 

 複数の黒トリガーに強化角トリガー使いを乗せたこの遠征は失敗するわけにはいかない。

 なんの成果も無しで後戻りは出来ないぐらいに兵力を導入しているのでミラはコシマエを遠くに飛ばしてその間に雛鳥達を回収する案を出す。

 

「ヴィザ翁の星の杖よりも素早く動ける相手に窓を開く余裕はあるのか?」

 

「それは……失礼しました」

 

 ミラの窓は何処からともなく出せるが何処でも出せるわけじゃない。

 ある程度の条件はあり、コシマエを遠くに引き離すには目の前に現れなければならない。瞬間最高速度がアキレウス並の化物染みた現在のコシマエを相手にそれは愚策というもの。

 

「雛鳥の捕獲の進行具合はどうなっている?」

 

 後戻り出来ないぐらいには事は進んでいる。

 今の所、どれだけ成果が上がっているのかをハイレインは確かめる。

 

「サーヴァントが現れた地域は1人も捕獲することは出来ていません。ですが、それ以外の地域は何人か捕らえることが出来ています」

 

 一応の成果は上がっている。しかし今までかけた労力と比べれば、圧倒的に成果が低い。

 ここに至るまでそれ相応の労力を有した以上、もう少し成果が必要だ。折角人が多い玄界を襲ったのに、これでは何処かの国を襲っただけの成果と一緒だ。

 

「雛鳥でない者達は?」

 

「……1人捕獲に成功しましたが奪還されました」

 

 こうなったら雛鳥以外を捕まえなければ割に合わない。しかし肝心の雛鳥以外は捕まえれていない。

 成果が思うように上がらず若干の苛立ちを覚えるが、それでも冷静さを欠かないのは流石とも言うべきか。

 

「なにか成果を……なにかないか……」

 

 手ぶらで帰るわけにはいかない。

 なにか無いかと色々と模索していると1つの知らせが届く。

 

「ランバネインがやられました」

 

「っ……そうか」

 

 ここに来ての自軍がやられたという悲報。

 一応の想定はしていた事の為にそこまで驚く事じゃないが、ここに来ての悲報は痛い。

 

「撤退いたしますか?」

 

 相手が相手だけに、これ以上勝負に出ると手痛い目に合う。

 ヴィザは撤退をすることを視野に入れ始めるが、中々に決断が出来ない。それほどこの遠征は重要なものだから。

 

「はっはっは、すまん。玄界(ミデン)の兵も思ったよりやるようだ」

 

 どうすべきか悩んでいるとミラに連れられ帰還したランバネイン。

 ここは玄界の兵を相手にしたランバネインから意見を聞くのも1つかと尋ねてみる。

 

「金の雛鳥になりえそうな者はいたか?」

 

「流石にそれはなかったな……こちらのトリガーを持たせれば面白くなる強者は中々にいたがな」

 

 面白い奴はいても金の雛鳥は早々にない。

 どうしたものかと考えているとヴィザがボーダーの本部に向かって走っている一団(修達)に目が入る。

 

「おや、計測器の故障ですかな?」

 

「どうかなさいましたか?」

 

 首を傾げるヴィザ。

 モニターに移されている一団のトリオンを計測しているのだが、約1名のトリオンを計測することが出来ていない。計測器が故障したのかと思ったのだが、他の人達の計測は出来ており、計測器自体が故障しているわけではない。

 

「これは……トリオン量を計らせない様にしている?」

 

 トリオンを測定する装置があるならば、それを遮断する装置もある。

 唯一測れていない違和感をハイレインに報告をする。

 

「トリオンを測定させない装置を一人だけ持っているか……」

 

 殆どが似たりよったりのトリオン量の雛鳥達。その中でただ一人だけ測定出来ない雛鳥がいるとなると色々と考える。

 雛鳥の中で唯一トリオンを測定させない装置を用いている。その手の装置を持たせるという事はなにか理由があり、1番の理由となればトリオンが多いからだろう。

 

「……少し、つついてみるか」

 

 これが金の雛鳥の可能性にハイレインは賭ける。





運命/世界の引き金こそこそ裏話

コシマエ達が乗っ取った国は改名してカルデアになっているが、その前の名前はエンディミオン。


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属性と相性ゲーム

「やばい、面倒な事になった」

 

 急いで修達の救援に向かう遊真と迅。

 修達とはまた別のところ……具体的に言えば、ボーダーの本部で色々と厄介な事が起きる未来が見えた。

 

『侵入警報!侵入警報!』

 

 ボーダー本部に警報が鳴り響く。

 ただの警報でなく、ボーダーの本部に侵入してきた警報であり管制室にいる沢村は何者かを確認する。

 

「基地内部、未識別のトリオン反応。通気口から侵入されたようです」

 

「通気口、例の小型トリオン兵か!」

 

 さっきからあちこちに出てくるトリオン兵の原因を予想する鬼怒田開発室長。

 戦える人が皆無なこの状況でトリオン兵を出現させる小型トリオン兵は危険だと焦るが、直ぐに沢村は訂正する。

 

「いえ、これは……人型です、人型近界民が侵入してきました!」

 

「なっ、黒トリガー!?」

 

 侵入してきたのはラッドにあらず。

 A級3位の風間隊の隊長である風間を倒した黒トリガー使い事、エネドラが侵入を果たした。

 

「さぁ、出てこい猿ども。遊んでやるよ」

 

 あくどい笑みを浮かびあげるエネドラ。

 自らの身体を刃へと変えて基地の通信室の壁を破壊する。

 

「おーおー、ウヨウヨと居るじゃねえか。能無しのネズミ共が」

 

 通信室にいるのは戦うことが出来ない人達。

 通信室の壁を破壊すると同時に何名か負傷者が発生したのでエネドラは雑魚がと見下し、嘲笑う。

 

『エネドラ、基地への侵入は命令していない』

 

 暴れるエネドラだったが、ハイレインから通信が入る。

 エネドラはある程度はボーダーとやり合う事は指示されたものの、ボーダーの本部を狙えといった命令は一切しておらず、これはある種の命令違反だ。

 

『我々の目的は雛鳥の捕獲、余計な事はするな』

 

「テメーのやり方はまどろっこしいんだよ。先に巣を潰しゃ雑魚兵も捕獲し放題だ。理にかなってるだろ」

 

 命令通りに動こうとせず、一つの論を興じるエネドラ。

 ハイレインはこれ以上はなにも言ってこず、自分を強制帰還させようとするミラも現れない。暴れ放題だと嗜虐心を剥き出すエネドラは先に進もうとする。

 

「全く、ゴキブリはこれだから嫌なんですよ」

 

「あ?」

 

 その時だった。

 何処からともなくフードを被った女性が現れる。

 

「テメエ、今なんつった?」

 

 さっき言ったことをもう一度聞くエネドラ。頭には青筋を浮かべており、既にキレている。

 

「ゴキブリと言っているのです」

 

 殺す。

 殺意を滾らせたエネドラはフードを被った女性を殺しに掛かるが、その前にエネドラの足元に魔法陣が出現する。

 

「知っていますか?最近、ゴキブリを凍らせるスプレーが出たのですよ」

 

 ここでエネドラの黒トリガー、泥の王(ボルボロス)について簡単な説明をしよう。

 エネドラの持つ黒トリガー、泥の王は体を液体や気体に形状変化させるワンピースで言う自然系(ロギア)な能力だ。

 脳伝達神経とも言うべき核は変化させることは出来ないものの、核さえ狙われなければ銃や剣、拳による攻撃を全て受け流す事が出来るチートっぷり。形状変化で体を気体にして体内に潜入して内部から破壊といった事も可能で倒すのは難しい。

 

「相性ゲーすぎますね」

 

 しかし、何事にも例外がある。一見無敵に思えるエネドラの弱点を、フードを被った女性は……魔術師(キャスター)の力を纏った深雪はつく。

 エネドラは体の形状を変化する事が出来る。それが唯一無二の売りであり、無敵に近い力の秘密だが、その弱点をつく。具体的に言えば液体に体を変化させたエネドラを氷漬けにした。

 普通ならばそんな事は出来ないだろうが、今の深雪は魔術師。トリオンを用いた特殊な術を使うことが可能でカチンコチンに凍らせることに成功する。

 

「どれだけ持ちますか?死にたくなければ頑張ってくださいね」

 

 普通、凍らされたら死ぬ。しかし今は普通ではなくトリオン体、呼吸を止めて数分間海に潜ることが出来るチートボディであり氷漬けにされても意識は残っている。

 エネドラは意識が残っているので氷漬けにされたことを直ぐに理解し、氷が溶けて出来た液体に自分の核を移動させて体の再構成を狙うが、そんなミスを深雪がするわけもなく、氷は一向に溶ける気配を見せない。

 

「ぬぅお、なんだコイツぁ!?」

 

 エネドラがこのままくたばるか足掻くかを興奮しながら待っていると驚いた声を出してやって来たのは諏訪隊。

 ラービットに真っ先に捕まった正隊員こと諏訪は驚いた声を上げる。誰だってこんなものを見れば声を上げたくはなる。

 

「ああ、ややこしそうになるので片付けておきましたよ」

 

「君は……誰だ?」

 

「堤、日佐人、油断すんな」

 

 深雪を見て銃を構える諏訪。

 残念な事に、サーヴァントの事が上から伝わっておらず深雪のことを敵の一人だと勘違いをしている。

 

「待ってください……上にサーヴァントと報告してください。私は暫しの間は味方ですよ」

 

 しかし、動じない深雪。諏訪の見た目はどこからどう見てもヤンキーだが実のところは理知的なところがあるのは知っているので、交戦する意思は無いのだと両手を上げると諏訪は深雪の話に耳を傾ける。

 

「こちら諏訪、サーヴァントと名乗る人型を発見。味方だって言ってるけど、どうなんすか?」

 

『サーヴァント!……ああ、彼は味方だ』

 

「彼?声からして女性ですが』

 

「もしもーし、私をセイバーさんと間違えていますよ」

 

 ファサッとフードを外す深雪。

 こんなんでも顔だけは超一流であり、それをたまたま見ていた日佐人は思わず見とれてしまう。

 

「『私はキャスター、一言で言えば魔法使いです』」

 

 魔術を用いて深雪はボーダーの上層部に連絡を取る。

 既に深雪の声を聞いているボーダーの上層部は彼女だったのかと驚く。

 

『何故ここに……いや、今はそれよりも侵入してきた人型だ。どうなっている?』

 

 どうしてこの場に居るのか疑問はあるものの、今は気にしている場合じゃないとする忍田本部長。

 諏訪隊を経由して、今現在襲ってきた人型近界民ことエネドラは現在カチンコチンに凍らされている事が上に報告される。

 

「うし、このままぶっ飛ばすか」

 

 カチンコチンに氷漬けにされているエネドラにさらなる追い討ちをかけようとする諏訪。

 身動きが取れていない状態ではあるもののまだ完全に倒してはいないので、倒しておかなければならないという判断だ。

 

「待ってください、これはこのままでいいんです」

 

「なに言ってるんだ、まだ完全に倒したわけじゃねえだろ」

 

「相手は黒トリガーなんだから叩ける内に叩いておかないと」

 

 制止する深雪に最もらしい意見をぶつける諏訪と堤。

 こうでもしておかないと後が大変なのは最もな意見なのだが、深雪は汚い笑みを浮かべる。

 

「でしたら、このままでいいんです」

 

「このままって、確かに凍ってたらなにも出来ないけどよ」

 

「氷漬けにされているこの人、後何分持つと思いますか?私の見立てでは、あと数分も持たないとみます」

 

「お前、何をする気だ!?」

 

 明らかに何かを狙っている深雪。

 ロクでもない事を企んでいると勘付いた諏訪は深雪に問い詰める。

 

「なにもしませんよ。ただ軽く酸欠で苦しんでいただこうと思っているだけです。このままだと酸素をまともに吸うことは出来ませんから如何に強力なトリガーを持っていても無意味、無駄……生身の肉体に影響が出て嫌でもトリガーを解除して、氷から脱出しようとします。狙うならそこですよ」

 

 どれだけ優れたトリガー使いだろうがトリガーを使う前ならば雑魚も同然。

 トリガーをオフにしている僅かな隙を狙えば簡単に倒せると笑みを浮かびあげている深雪に3人は軽く引く。

 

「さぁ、どうしますか!此処から抜け出るには、トリガーを解除するしかありません。しかし四方八方敵だらけで、ここは敵の砦。貴方の持つ黒トリガーが素晴らしい性能で貴方が凄まじい猛者だとして、この状況を生身で切り抜けることができようでしょうか?見せてください!神の国の力を!」

 

「そこまでにしておけよ」

 

 物凄くエネドラを煽りまくる深雪に諏訪はツッコミを入れる。

 本来ならばそれをやるのはコシマエだったりするのだが、流石は年長者。大人なところを見せてくれる。

 

『諏訪隊、人型を仕留める事が出来るか?』

 

 流石に倒せる相手を倒さないのは上も認められない。さっさと倒せと命令をくだすのだが、その命令を深雪は勿論の如く盗聴している。

 

「移動する核を砕かない限りは何処を攻撃しても一緒ですよ」

 

 アクションゲームのボスの如くエネドラを倒すには弱点をつかなければならない。

 カチンコチンに凍らされているエネドラの核が何処にあるかは撃ってみないと分からないものです、ここでエネドラを粉々にするのはあまり得策じゃないと進言する深雪。

 

「ここは是非とも酸欠で苦しんでもらって、と言いたいんですが流石に今回は組織の顔を立てないといけないので私が倒しておきますね」

 

「いや、さっき核を砕かなきゃって、ええ!?」

 

 巨大な魔法陣を何処からか出現させる深雪に驚く堤。

 動いている巨大な魔法陣からトリオンの砲撃が撃たれ、凍らされているエネドラ全てを飲み込んだ。

 

「皆さん、驚いている場合じゃありませんよ!生身の肉体に戻ったのならば殺すか捕縛するかのどっちかしないと」

 

「どっちって、どっちにします諏訪さん」

 

「そりゃ捕縛だろ」

 

 殺すとか論外。ボーダーは界境防衛機関で軍隊ではない。

 何時でもエネドラを捕縛出来る体制に入り、砲撃が止むと氷は塵すら残さず跡形もなく消え去っており、ポツンと生身の肉体に戻ったエネドラが現れ、そこに立っていた。

 

「オレは足をやる。堤と日佐人は上をやれ」

 

「了解です。日佐人、左半身は俺が抑えておく」

 

「はい!右ですね」

 

 どんな黒トリガー使いも生身の肉体に戻りさえすればトリオン体になっている奴には勝てない。

 仲睦まじい連携を速攻で見せる諏訪隊はエネドラにタックルをかましてそれ以上は何もさせないと動きを抑える。

 

「離しやがれ、玄界のクソザルがぁ!」

 

 必死になって暴れようとするエネドラ。

 しかし生身の肉体をトリオン体で抑えられているので抜け出る事は出来ない。

 

「さて……これは貰いますね」

 

「っ、テメエ汚い手で触れるんじゃねえ!!」

 

 ああ、怖い怖い。左手に装備されたなんとも気色の悪い見た目をしている指輪だか腕輪だかわからない装飾品を取り上げる。

 この見た目がなんとも言えない目玉みたいなのがついている気色の悪い装飾品。コレこそが待機状態の黒トリガー、泥の王(ボルボロス)。原作ではその得意性を見抜くために無限コンテニューが出来る仮想訓練室に閉じ込めて忍田本部長が出てきてその上で不意打ちというリンチをしてやっと倒せるエネドラの力の源とも言うべき泥の王の本体を取り上げた。

 

「負け犬は負け犬らしく現実を受け入れてくださいよ」

 

「て……てめえ」

 

 震えるエネドラを見て深雪はクスクスと笑う。

 自分が威張れる1番の要因を取り上げたのだから、そりゃまぁ楽しいだろう。

 

「自己紹介がまだでしたね。私はかつて近界を荒らしに荒らした世界界賊の紅一点、キャスター。此度はアルゴノーツの一人、コルキスの王女メディアの力を貸りて戦っております」

 

「サーヴァント、だと……なんでこんなところにサーヴァントがいやがる!」

 

 流石のエネドラもサーヴァントの名には驚く。彼等は近界の小国を乗っ取ってひっそりとしており、喧嘩を売らない限りは襲ってこない話だ。

 

「地元だからです」

 

 なんでここにいるかと言われれば、それはシンプルにここが地元だからとしか言えない。

 もっとなにか凄い理由があると思っていたエネドラは思わず固まるので深雪はそのまま続ける。

 

「私達はこちらの世界の住人で、私はこちらの世界とカルデアの間であれこれ担当している支部長的な存在……残念ですねぇ、折角の狩り場が最大級の地雷原だったのは。今どんな気持ちですか?」

 

 悔しいでしょうねと最大限に煽る深雪。

 エネドラの怒りは頂点に達するも諏訪達に取り押さえられているので身動き一つ取れない。

 

「お前、なんかスゲエ偉いのか?」

 

 詳しい事情は知らないものの、話の内容から深雪が偉い事を気付く諏訪。

 実際のところ深雪はかなり偉い地位にあり、最前線で現在修達を追い掛けているコシマエの直属の上司に当たる。地球でのあれやこれやの権限を持っているだけでなくとんでもないものを制御下に置いているのだが、その話はまた今度である。

 

「まぁ、関取の小結ほどお給料は貰っています……っと、それから離れてください」

 

 邪悪な笑みを消して真面目な顔に戻る深雪。

 突然の変化に何事かとなるが直ぐにその理由に気付く……諏訪達の直ぐ近くから門の様な物が開き、そこから黒い角がはえた女性、ミラが現れる。

 

「っ、ミラ!さっさと此処から助けやがれ!」

 

 今の状況から抜け出せると叫ぶエネドラ。

 新しい敵が現れた事により諏訪隊はエネドラを抑えつつも、何時でもその場から離れられる様に警戒心を高める。

 

「ええ、回収……!」

 

 エネドラの手元の異変にミラは気づく。

 本来ならば手には黒トリガーの泥の王が装備されているのに付いていない。それだけを回収しに来たのに無いとはどういうことかと驚く。

 

「探し物はこちらですか?」

 

 何故泥の王を持ってないのか考えるミラに起動前の泥の王を見せつける深雪。

 

「それを返しなさい!」

 

「そう言われて返す奴が今まで居ましたか?」

 

 こんな事をしでかして、返すわけがなかろう。

 返す素振りすら見せぬ深雪に対して、ミラは深雪の直ぐ近くに小窓と呼ばれる黒い刺の様な物を出現させるのだが、当然の如く深雪は自分の周りに障壁を出現させて攻撃を防ぐ。

 

「っ!?」

 

 ほぼ回避不可能で初見殺しにも程がある小窓を初見で防いだ事にミラは驚く。

 そしてすぐに理解する。彼女もまたサーヴァントと呼ばれる化物集団の1人であり、真正面から戦ってはいけないものだと。

 

「あ、そーれ」

 

 相手が攻めて来ないと分かると深雪は起動前の泥の王を空中に投げ、トリオン砲を放つ。

 如何に凄まじい黒いトリガーも起動前の状態であれば見た目が気色の悪い装飾品。物凄く簡単に壊れた。

 

「なんてことを……」

 

「黒トリガーを破壊する時の感触はいいものですね」

 

「!」

 

 2年前に起きたサーヴァント殲滅作戦でアフトクラトルは黒トリガーを一個失った。

 破壊したのはなにを隠そう、この女、深雪であり当時アフトクラトル以外にも導入してきた黒トリガーをとことん破壊したヤバい女であり、今も黒トリガーを破壊したという事実の快感に浸っている。

 

「どうします?黒トリガーの仇討ちでもしますか?今の私、結構強いですから負ける気がしませんよ」

 

 黒トリガーを壊した事によりアフトクラトル側が動揺をしている。

 その事に気付いている深雪は興奮しながらとことん煽り、挑発をするのだが流石に見え見えなので乗ってこない。

 

「ミラ、さっさと」

 

「ええ……分かってるわ」

 

「っが!?」

 

 黒トリガーが破壊された以上は騒いでいても、どうにもならない。

 目の色が文字通り変化していったエネドラは船への帰還をミラに頼むが、ミラは小窓を作り上げてエネドラに突き刺した。

 

「味方を攻撃しただぁ!?」

 

 突然の仲間割れに驚く諏訪。

 ドバドバと胸から血が出ているエネドラは倒れながらもミラを睨みつけ、恨み言を吐く。

 

「てめえ……」

 

「悪いわね……エネドラ、貴方はもう用済みなのよ。気づいているかしら?貴方の角が脳を侵食していってるのを」

 

 エネドラの目玉の白目のところは現在、黒く染まっている。

 これは何かと言われればトリガー角と呼ばれる角が脳に悪い意味で影響を与えており、元から凶暴な性格のエネドラを命令無視するぐらいに更に凶暴にした。こうなれば殺すしか道はなく、元々エネドラを処分するつもりだったので殺しに掛かる。

 

「……ハイ、レイ、ン……」

 

 エネドラはこの時になって自分は最初から嵌められた事に気付く。

 黒トリガー、泥の王を回収する為に捨て石とされた。今回の計画、全てを握っているハイレインの恨みを呟きながら倒れていき、ミラは1人船へと帰っていく。

 

「あ〜、心臓を抉られてますね」

 

「んな事が分かるのかって、なにやってんだよ!?」

 

 手を翳してエネドラの様子を確認する素振りを見せると遺体に触れて死体漁りをはじめる深雪。

 あまりにも不謹慎な行為に諏訪は声を荒げるが深雪は気にすることなくエネドラの体を弄り、小さな装置を発見する。

 

「はい、どうぞ」

 

「どうぞって……んだ?」

 

「先程の黒トリガー使いの発信機みたいなものです」

 

「んなもんが……って、これを持ってたら危ねえだろう」

 

 門を開くことが出来る黒トリガーを持つ女がやってくると慌て発信機を落としかける諏訪。

 深雪は地面に落ちそうな発信機をすかさずキャッチして諏訪の手元に戻す。

 

「もう、ダメですよ。敵の重要なトリガーなんですから壊したりしたら大変ですよ」

 

 これもまた相手の国の重要な物。壊すなんてもったいない。

 深雪は完全に事が終えたのを確認すると上層部へと通話をする。

 

『ボーダーの上層部の皆様、黒トリガー使いを撃退しておきましたね』

 

『……いったいなにが目的だ?』

 

『おやおや、折角助けてあげたというのに、その言い草ですか』

 

 ボーダーの上層部は、城戸司令は深雪を警戒する。

 いきなり現れたかと思えば黒トリガーを1人で撃退した者がいるならば一時的な味方とはいえ警戒するのは当然のこと。しかし礼の一言も無いのかと深雪は呆れてしまうがそれ以上はなにも言わない。彼女もこの女、ボーダーの本部が襲撃されることが知っており、その気になれば最初から襲撃を防げたのだが、敢えて防がなかった中々のクズであるから。

 

『今の今までレーダーに写っていなかった、何処に潜んでいた?』

 

「『……ああ、屋上でスタンバってました』」

 

 礼を言う素振りを見せない城戸司令に少しだけイラッと来たのでお返しと言わんばかりに、声を出して答える。 

 念話的な感じで通話をすることが出来るのだが諏訪達に教えたら面白い事になるなという完全なる遊び心でやっている。

 

『屋上、だと』

 

「『ええ、最初からそこにいました』」

 

 意外な場所に潜んでいた事に驚く。

 この女、大規模侵攻が起きてすぐにボーダーの屋上でくつろいでおり、水晶玉を使って街の様子を一望していたのだ。

 

『……お前達の目的はなんだ?』

 

「『目的だなんて酷いですね。私達はただ面白おかしく過ごしたいだけですよ……今はそういう話はやめませんか?』」

 

 口約束だけとはいえ、一時的な同盟を結んでいる間柄。

 腹の読み合いをしている暇があるならば、少しでも被害を抑えるのが大事だ。

 

「『既に死人が出てるんですよ』」

 

 なにせ既にボーダー側に死者が出ているのだから。

 これを狙っていたかどうかは秘密だが、既に生身の人間が大怪我や死ぬという自体が発生しており、味方になってくれる団体を疑っている場合じゃない。少なくともサーヴァントは喧嘩を売らない限りは襲ってこない。そういう存在である。

 

「『トリガーを使うボーダーとは全く違う団体を相手に腹の探り合いもいいですけど、街の平和を守らないと今まで築き上げた物が無駄になりますよ』」

 

 深雪は躊躇いなく揺さぶりにいく。

 本部の危機は去ったものの、街の危機は去っていない。今こうしている間もトリオン兵は街で暴れておりC級を捕らえたりしている。

 

「『腹の探り合いがしたいのならこの様な場では無いところでしましょう』」

 

 口論をしている場合ではない。今すべきことは口を動かすことでなく手を動かすこと。

 何事も大事な場所や場合があり、今はその時ではないと語ると深雪は再びフードを被った。

 

「『それではボーダーの皆さん、隠れている人も通信の向こう側に居る人達も残念ながらここでお別れです』」

 

『待て、まだ話は終わっとらんだろう!』

 

「『詳しい話は後程、越前もといセイバーが通達いたしますのでご心配には及びません……またお会いしましょう』」

 

 深雪は魔法陣を出現させると消え去っていった。

 

「あの野郎、わざとオレ達に聞こえるように会話しやがったな」

 

 途中から声を出して会話をしていた深雪。

 明らかに自分達にトップが秘匿しておかなければならない情報をわざと聞かせていると察する。

 

「お前等の事もバレてたし……本部長、これどういうことですか!?」

 

 声に出てた事だけでも恐ろしいぐらいの情報があり、処理しきれない諏訪。

 一先ずはトップで話し合いの通じる忍田本部長に一先ずの連絡を取ってみる。

 

『すまない。こちらの方でも少し理解できていない部分が多い。秘匿しておかなければならないことだが……少なくとも今は味方だと思っていてくれ』

 

「いや、味方も何も完全に消えたっすよ……これから、どうすればいいですか?」

 

 深雪は完全に去ったものの、やらなければならないことは沢山ある。

 一先ずはエネドラの遺体を安全なところに持っていくのをカメレオンという透明化のトリガーを用いて姿を消していた風間隊の歌川と菊地原と共に命じられ、本部を襲撃された事もあってか本部内を襲撃してきた近界民を相手にという名目での待機が命じられる。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

過去にアフトクラトルの黒トリガーを破壊したのは深雪で、その時は逢魔時王必殺撃で破壊した。

感想お待ちしております。


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終結 大規模侵攻

「……」

 

 ハイレインは考えていた。

 地球こと玄界について入念にチェックを入れた。その結果、玄界のトリガー使いは多くいるのだが白い服は緊急脱出機能が搭載されていない事を知った。祖国であるアフトクラトルが一大事で覇権を争う状況に扮しており、それをどうにかする為に今回襲撃を仕掛けた。

 だが結果はどうだろうか。アフトクラトルの優秀なエンジニア達が作り上げてきたトリオン兵は、国宝を使う洗練された兵は世界界賊サーヴァントにより、たった2人によってボコボコにされた。

 

「なんとしてでも金の雛鳥を見つけなければ」

 

 大量の戦力を、黒トリガーを使っているのだからなにもないでは済ませられない。

 一応の万が一を想定はしているがこのままでは想定を上回ってしまう。ハイレインは自分の手元に光る卵の様なものを出現させると卵からスズメバチ、燕等の卵から生まれる空を飛ぶ事が出来る生き物がウジャウジャと出てきた。

 

「金が出るか鉄屑が出てくるか」

 

 ハイレインの視線の先にはボーダーの本部を目指そうとしている修達が居る。

 道中にラービットやモールモッド等が出てきて、C級隊員を守りながらの移動の為に苦戦を強いられている。なにをしてくるのか分からない、狙えるのは一度きり。何故かレーダーにトリオン能力が映ることがなかった雨取千佳に、C級隊員に向かって卵より生まれる獣を放つ。

 

「……修くん!!」

 

「どうした千佳」

 

「なにかが、来る……」

 

 本部を目指して逃げている千佳は気付く。サイドエフェクトによるものだ。

 危険を察知した事をいち早く修に伝えると修は辺りを見回し警戒心を強めていく。

 

「な、なんすかアレは!?」

 

 夏目が飛んでくる鳥に気付いた。

 この非常事態にやってくるということはなにかあると大慌てで逃げるのだが、燕やスズメバチ達がかなりの数でやって来た。それもかなりの速度で。

 

「下がってなさい!」

 

 この燕やスズメバチは敵の攻撃によるものだと即座に判断する木虎は夏目に逃げる様に言う。

 夏目は触れない様に一目散に逃げるのだが、追いかけてくる。夏目だけじゃない、他のC級達にもぶつかろうとしている。最初の木虎の読み通りアフトクラトルの狙いはC級隊員だと分かれば木虎は拳銃のアステロイドを燕達に向けて撃った

 

「トリオンキューブになった!?」

 

 撃ったアステロイドは燕に命中した。燕は爆ぜる事も貫かれる事もなくグニャッとネジ曲がりトリオンキューブに変化した。

 まさかと木虎の脳裏にある事が過ぎるのだが、それが原因で隙を生んでしまう。まだまだ沢山の燕や鉢が宙を舞っており、木虎は撃ち漏らしてしまい燕の1体が木虎に触れると木虎の腕がグニャッと変化する。

 

「これは」

 

「木虎!」

 

 自分の身に起きている事を理解する木虎だが段々と意識を手放していく。

 修が心配そうに声をかけていくが意識が薄れていく中で返事をする事は出来ず……トリオンキューブに変化した。

 

「ぬぅああああ!A級の木虎がやられた!」

 

 トリオンキューブに変化した事に1人のC級隊員が叫ぶ。あの嵐山隊のA級隊員である木虎がやられてしまったとなれば叫ぶしかない。

 燕や蜂を捌く者が居なくなったのかC級隊員に向かいC級隊員は徐々にトリオンキューブに変えられていった。

 

「烏丸先輩、これは」

 

「落ち着け、弾系の武器で撃ち落とすんだ」

 

 触れれば終わりの即死攻撃にどうすればいいのか分からず慌てる修。

 烏丸に指示を仰ぐと烏丸は突撃銃(アサルトライフル)のアステロイドを乱射し、燕達を撃ち落としていく。

 

「僕も、アステロイド!!」

 

 燕達の対処の仕方が分かると修はアステロイドを2×2×2に分割して撃った。

 

「っ!!」

 

 アステロイドは命中した。しかし大量の蜂達は燕達は消えなかった。

 修のトリオン量では一度に分割出来るアステロイドに限界がある。アステロイドを動く的にぶつけるだけでも一苦労の修には飛んでくる相手を対処しきれない。

 

「修くん!」

 

「千佳!」

 

「使って、私のトリオン()を」

 

 千佳は修の右手を握った。すると機械的な音声が流れ、修のトリガーと千佳の訓練用のトリガーが接続される。

 

「アステロイド!!」

 

 これならばいける。そう思った修はアステロイドを出した。

 自分のトリオンでなく千佳のトリオンを用いた事によりをそのアステロイドは修の出した手のひらサイズのアステロイドと比較する程が烏滸がましい程に大きなアステロイドだった。

 10×10×10と1000発に分割したアステロイドを燕達に向けて撃つと質量の暴力か、燕やスズメバチはアステロイドに触れてグニャッとねじ曲がりトリオンキューブになっていく。

 

「っ、しまっ!」

 

「メガネくん、そりゃロマン溢れるけど雑だぜ」

 

 アステロイドを掻い潜る燕達がいた。

 修の取り零しであり、修に向かって突っ込んできて万事休すかあわやと言ったところで修の横をトリオンキューブが通り過ぎた。

 

「よぉ、メガネボーイ。久しぶりだ」

 

「米屋先輩、それと」

 

「オレは出水、出水公平だ。にしても今のスゲえな」

 

「あ、いえ、僕じゃなくて千佳のトリオンを使ったんです」

 

「あ〜噂のトリオン怪獣か」

 

 旧三門大学から移動して助っ人にやってきたA級隊員の出水、米屋、そして緑川。

 ここに来ての増援に修は少しだけホッとしているが現状は変わりはなく直ぐに状況を報告する。

 

「あの光る燕や蜂は触れるとトリオンキューブに変化させられます。触れた時点でトリオンキューブ化が進行していってしまいますので撃ち落とす必要があります」

 

「マジか〜……どうする弾バカ?カッコよく来たんだけどもな」

 

「俺達、邪魔者だね」

 

「バーカ、ついさっきまでお前達が活躍してたんだ。ちょっとはオレにも見せ場を作らせろや」

 

 攻撃手の米屋と緑川はここにいても対して役には立たない。

 出水は心配そうにしている修に任せろというと両手から大きなトリオンキューブを出し、飛んでいる蜂達目掛けてぶつける。

 

「す、スゴい……」

 

「三雲先輩、いずみん先輩に驚いてる場合じゃないよ。新型を撃退しないと!」

 

 出水の射手(シューター)としての技量に感服している修。そんな修の意識を緑川が現実に戻す。

 出水のおかげでC級への被害を抑える事が出来てきたのだがここに来て色付きラービットが出てきてしまった。

 

「やはり金の雛鳥だったか」

 

 ハイレインの賭けは成功した。金の雛鳥と呼ぶに相応しいトリオン能力を有した雛鳥がいた。それも意図的に隠されている存在でだ。

 金の雛鳥さえ連れ帰る事が出来ればそれでいいと残っているラービット等の使える駒をラッドを経由して修達の元に出現させ、自分も金の雛鳥に……雨取千佳に近付こうとする。

 

「……出水先輩、米屋先輩、後は頼みます」

 

 千佳に脅威の魔の手が迫る中で烏丸は1つの決断をする。

 裏でコソコソしていた迅から聞き出した情報によれば自分が修たちをどうにかする出番は無い。コシマエの介入により未来は大きく乱れており、その未来は無くなったが今が正念場である事には変わりない。ここを切り抜けさえすれば良い方向に未来は切り替わる。

 

『ガイスト起動。トリオン体崩壊まで残り232秒』

 

 烏丸は自分の持つ玉狛トリガーであるガイストを起動する。白兵戦特化の形態に切り替えて色付きの頑丈なラービットを切り裂いた。

 

「お、京介のズルいやつじゃねえか……いいよな、それ。オレも使ってみたいわ。でもイケメン限定なんだよな」

 

「米屋先輩もカチューシャ降ろしたら充分イケメンです」

 

 尚、米屋の場合は米屋のトリオン能力が低くてガイストがそんなに持たない。

 それをわかっていて尚、その事について触れない烏丸はなんだかんだでイケメンである。

 

「遅れてごめん!!」

 

「コシマエ!」

 

 徐々にハイレインが修達の元へと近付く中で、コシマエがやってきた。

 烏丸と同じく色付きのラービットを一閃、綺麗に真っ二つに切り裂いた。

 

「コスプレ!?」

 

「いやいや、僕のトリガーは色々と特殊なんだ。細かな説明は修にしてあるから時間が空いている時に修に聞いてくれ緑川」

 

「え、あんたに名乗ったっけ?」

 

「HAHAHA、コレでも色々と情報網があるんだよ!滅!」

 

 斬撃を飛ばし、ラービットを熔解させるコシマエ。

 コレもトリガーの一種なのか緑川と米屋は目をキラキラと輝かせるが、今の敵はコシマエでなくているトリオン兵だ。

 鬼切を納刀し、神速の抜刀術でラービットを切り裂いてくコシマエだが、肝心のトリオンキューブ化してくる燕達をどうにかする事は出来ていない。

 

「もう無駄だ……サーヴァント、お前がどれだけ強かろうとトリオン体である事には変わりない」

 

 遂に目の前に姿を現すハイレイン。周りにグルグルと魚が渦巻いて回転しており、コシマエの剣戟は届かない。

 例えどれだけの猛者であろうともハイレインの黒トリガー卵の冠(アレクトール)は防御を問答無用で貫通する即死攻撃である事実には変わりはない。コシマエと言えどもただでは済まない。ハイレインはコシマエに向けて蜂を飛ばすとコシマエは蜂を鬼切で切り裂くのだが鬼切がグニャリと歪んで捻じ曲がる。

 

「コレはまずい……と言えば君は慢心してくれるのかな?……残念だ、実に残念だよ……」

 

「なに?」

 

「僕達を相手にした時点で君達は逃げればよかった」

 

「どういうい──!?」

 

「おい、嘘だろ!」

 

「アレって矢!」

 

 どういう意味なのかハイレインが尋ねようとするとハイレインの頭に矢が突き刺さった。

 突如として現れた矢に米屋と出水は驚き、矢が飛んできた方向を見る……そこには誰も居ない。この辺りに居るのはC級隊員と後は本部付近に潜んでいる狙撃手達ぐらい。そもそもでボーダーのトリガーに弓矢なんてものは存在しない。

 

「バカな、警戒は怠っていない」

 

「ああ、そうだね。貴方は慢心せずに臆病になって魚の膜を作った、その中にいる貴方を狙撃するのは至難の技だ……並大抵の人間ならばね。僕達サーヴァントの扱う力は並大抵の力じゃない。地球の人類史に刻まれた英雄と呼ばれる猛者達を模した力を使っている……故に教えておこう。5km先から狙撃した」

 

 コシマエが念には念を入れて呼んでおいた助っ人が、ハイレインを撃ち抜いた。ただそれだけなのだがそれがあまりにも規格外な事で出水は冷や汗をかいてしまう。

 

「おい、嘘だろ。ボーダー(うち)の変態スナイパーですら1kmの狙撃で凄えってのに5kmって、しかも弓矢で」

 

「出水さん、驚いてもらっては困ります。サーヴァントの弓兵の最大射程は……2500kmぐらいです」

 

「……マジで?」

 

「大マジですよ。僕達の力は人類の歴史の力で、過去に国を作る一矢を放った大英雄がいる。その英雄の力を使えば5km先の物を命中させるなんて朝飯前。もっとも、あの人は今別の力を纏っていますが」

 

「いったい、どんな奴なんだ……」

 

 矢を撃った奴が気になる中、頭を撃ち抜かれたハイレインは元の生身の肉体へと戻る

 

「さて……修、僕はやれるだけの事はやったよ」

 

 コシマエはアフトクラトルが送り出したラービットを倒した。アフトクラトルの国宝、星の杖(オルガノン)の使い手であるウィザを倒した。

 その上で深雪はエネドラを倒して泥の王を破壊、更には姿を潜めている弓兵(アーチャー)は敵の総大将であるハイレインを撃ち抜いた。暴力という力を修に充分な迄に貸し与えた。

 

「鬼切が無い事が実に残念だよ、君の首は刎ねておいて損は無いんだけど……」

 

 コシマエにはもう鬼切が無い。

 トリオン体に身を任せてハイレインをぶん殴るという手段が無いわけではないが他人を無闇矢鱈と痛めつける趣味は無い。殺せるならば殺しておきたいが武器は無いので仕方がないとコシマエは潔く諦めた。

 

「っく……撤退だ、ミラ!」

 

 エネドラがヴィザがそして自身までも破れた。

 3人目のサーヴァントが遠くに潜んでいて自身を容易に狙撃する事が出来る。何処にいるのかすら分からない相手がいて、こちらには残された手札はもうない。ハイレインは撤退を選ぶと門の様なものが開かれる。

 

「おい、捕まえなくて」

 

「それは君達の仕事だ。僕の仕事はぶっ倒すことで管轄外だ」

 

「そんなマニュアル対応をすんじゃねえよ」

 

 逃げようとするハイレインを捕まえないのか出水は尋ねるがコシマエは最初から捕まえるつもりはなかった。

 最初に言った通り暴力という力を貸すだけで捕獲については一切するつもりはない。米屋が呆れながらもハイレインを追いかけようとするがハイレインは門(窓)を潜って自身が乗ってきた遠征艇に戻ってしまい、逃げられた。

 

「ボーダー本部、こちらコシマエ。敵の総大将と思わしき人物が撤退を指示した。どうぞ」

 

 逃げられたものの、ボーダーは勝った。

 暴力という力を貸しているコシマエはちびレプリカを経由しボーダーの本部に連絡を取る。

 

『……君達の目的はなんだ?』

 

「そういう小難しい事はうちの上司を通して言ってくれ。僕はこっちの世界でゴタゴタがあったら力技で解決してくれと指示を受けている……ボーダー以外でトリガーを持っている組織が現れた、もしくは居たと考えてください……もし貴方達が力技で物事を解決するならば、そこにいる通称A級3バカに極秘で僕達を捕える様に連行する様に命じているのならばそれなりに抵抗はさせてもらう」

 

 詳しい事は上司に聞け。なんともマニュアル通りな対応をコシマエは見せる。

 相手は撤退を選択してこれ以上はトリオン兵は現れる事は無いと判断したコシマエはつけていた仮面を外す。もうこれ以上は戦うつもりはないのだという意思表示だ。

 

「修、僕は君の力になる事が出来たか?」

 

「……ああ。越前が、コシマエが居なかったら危なかったよ」

 

「そうか。戦闘に向いてない僕でもどうにかなったか」

 

 これが主人公の成長を妨げるものかどうかは分からないが、死ぬ未来は回避する事が出来た。

 数少ない友達を助ける事が出来てコシマエは満足そうにしこの場を後にしようとするのだがその前に三輪が立ち塞がった。

 

「お疲れ様です、残りの敗残兵を始末するのは任せましたよ」

 

「待て!動くな!」

 

「……なんの真似ですか?」

 

 三輪に後を託して去ろうとするコシマエだが、三輪は銃口をコシマエに向ける。

 

「お前達は何者だ!」

 

「そういう話は後で上司が色々とやってくれるから僕の口からはポンポンと言えないよ。今のところ言えるのはボーダーとはまた別にトリガーを使っている団体、または組織」

 

「ふざけるな!そんな組織は聞いたことはない」

 

「ならよかった。貴方はこれでまた新しい知識と知恵を得た、上層部の事だから有耶無耶にするか秘密にするつもりだ……さっさとその銃口を下げろよ。君、結構危ない事をしてる自覚ある?」

 

 近界民でない一般人に対して銃口を向けている。これだけでも充分にヤバい。

 ボーダーの弾系のトリガーは被弾防止対策として生身の肉体にぶつかっても痛いだけで済む様になっているが現在のコシマエはトリオン体である。撃たれれば生身の肉体に戻ってしまう。

 

「……お前達は何故近界民と戦わない!」

 

「そういう禅問答は飽きたよ。僕の1番の友人の言葉を借りるなら……めんどくさい」

 

「ふざけ──」

 

「黙れと言ってるんだ」

 

 大声を出して叫ぼうとする三輪の口をガッシリとコシマエは掴む。

 その目は心底どうでも良さそうで三輪の胸の内にある感情なんて知ったことではない。どれだけ悲劇的な過去があろうと過去は過去、前に進む事しか人間は出来ない生き物だ。

 

「あの……ありがとうございました!!」

 

 三輪の口を握る手の握力を強めていると千佳がペコリと頭を下げてお礼を言う。

 なにはともあれコシマエが修達に力を貸した事により事態はいい方向に向かっていった事には変わりはない。それだけでも千佳はお礼を言いたかった。

 

「お礼は要らないよ。僕は僕の責務を全うしただけだ……それでも感謝の念を抱いているのならば、強くなるんだ。君は快楽の為にボーダーに所属しているんじゃない。大切なものを取り戻す為に入った……君が強くなれば勇気を出して一歩前に進むことが出来れば、救われる人だっているんだ」

 

「っ……はい!」

 

 そんなこんなでコシマエは帰っていく。大規模侵攻はここで幕が引くのだからもう自分の力は不要で、友達である修をデッド・オア・アライヴな怪我を負わせずに済んだ事をホッとしている。

 

「むっ、出遅れてしまったか」

 

 ホッとしていると黒トリガー換装状態の遊真が現れる。

 

「遊真、遅いぞ。なにやってたんだ」

 

「これでも割と全速力でやってきたんだけどな……コシマエ、滅茶苦茶早いな」

 

「そりゃまぁ、今回は滅茶苦茶頑張ったからね……僕は基本的にはこっちの世界に居るから安心して色々とやりなよ」

 

「サーヴァントが味方に居てくれるのはホントに頼もしいな」

 

「おっと、勘違いしちゃダメだよ。味方じゃなくて同盟や協力関係にあたるんだよ」

 

 あくまでも今はボーダーと一時的な同盟を結んでいるだけで、100%ボーダーの味方ではない。

 その辺の一線はコシマエは譲るつもりはない。このままグダグダやってボーダーの同盟でなく傘下になっては溜まったものではない。一線は譲らない姿勢を見せると今度こそコシマエは現場から去っていく。もういいとちびレプリカを遊真に返し、生身の肉体に換装し深雪と連絡を取る。

 

「ヒュースはどうなってるの?」

 

 唯一の心残りであるアフトクラトルの尖兵であるヒュースについて尋ねる。

 レイジ達が足止めをしてくれているのかそれとも倒されたのか、彼の今後によって修達の未来は変わってしまう。

 

『大丈夫ですよ。例によって取り残されて、実力派エリートを名乗るセクハラ魔がやってきました』

 

「そう……僕は頑張ったんだから、後の処理は頼むよ」

 

『ええ、勿論……ですが、その前に私達の拠点を持ってこなければなりません……きっと皆さん、驚きますよ』

 

「バルスって言うのは確定だろうな」




いや〜……テイルズオブの息抜きにね、ね。まともに完結していないのになにやってんだって言うけどもね、ね。


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求めるものが特に無し

テイルズオブを更新しないといけないのは分かるんだけどね……うん……こっちも楽しいし色々と書きたいのがあるんだよ。
イナズマイレブンとか魔法科高校の劣等生とかブラッククローバーとか色々とネタが浮かび上がってくるんだよ……ポケモンも続き書かないといけないし、マジでホントに手が付かない。感想と評価お待ちしております


「……やれやれ、話し合いの場を設けるのが普通でしょうに」

 

 大規模侵攻の次の日のこと。何事も無かったかの様に僕は家で過ごしているのだけれど、見張られている。

 誰に見張られているなんて言うまでもない、ボーダーだろう。あの後、一方的にボーダーとの連絡を絶って後処理を任せたから仕方ないといえば仕方ない。けど、僕にああだこうだ言われても僕には現場で色々と決める権利はあっても組織云々の決定権は持ってはいない。

 その辺は深雪の担当なので丸投げしたら……いや、それだけの事はやっているか。

 

「浦原さんに作って貰って正解だったか」

 

 自分の部屋の机にパラボラアンテナとパソコンを取り出す。

 このパソコンは普通のパソコンじゃない。トリオンを動力源として動いているパソコンでトリガー関連のあれこれが出来る一品であり、カルデアの開発部門のトップで序列1位の浦原喜介さんに作って貰った特注品だ。

 パラボラアンテナで現在トリオン体である人が近くに居るかどうかのアンテナを貼ると案の定、僕の部屋の窓が見える方向と玄関が見える方向にスタンバイしている人達がいる。詳しい事は不明だけど、コレは城戸派と呼ばれる一派が命令で動いてるんだろうね。

 

「ま、向こうにとっては百害あって一利なしな存在だから仕方ないか」

 

 ボーダーはトリガー技術を独占している唯一無二の組織で、それを理由にスポンサーから金をふんだくってる。

 もしボーダーと違う組織がトリガーを扱いボーダー以上に技術を提供してくれる存在ならばボーダーの価値は一瞬にして落ちる。ボーダーよりもいい組織があるからそっちに守ってもらいたいと言われればボーダーは存在意義が無くなり終わってしまう。今は表面上の同盟があるが何時ひっくり返されるか分からない。今回の一騒動でカルデアは黒トリガーを撃退する黒トリガーみたいなものを複数所持している事になる。原作では黒トリガーが2つだけ有るだけでボーダーという組織内のパワーバランスが傾いてしまう描写がある。ならば黒トリガーを数百個分の価値があるクラスカードは1枚だけでボーダーの勢力が大幅に変わる……これがボーダーという組織のゴタゴタならば適当な理由を付けられるけども今回はボーダー外の組織、力技に出てはいけない。

 

「さて……とりあえず汚いところだけは纏めておくか」

 

 最終的なあれやこれやの交渉は深雪がやってくれる。

 交渉とかはメンタルが黛さんの次に強い深雪に任せるしかない、器用貧乏な僕はボーダーを追い詰める詰みの一手を用意しておけばいい。

 トリオンで動くパソコンを操作してボーダーを追い詰める為の一手を用意していると母さんが部屋をノックして入ってきた。

 

「龍我、お客さん……ボーダーの関係者みたいよ」

 

「……そう、悪いけど帰ってもらって」

 

 因みにだが母さんは僕が近界民関係であれこれやっているのを知っている。

 ボーダーの関係者がやってきたと言っているので帰ってもらう様に言う。誰が来たのかは大方の予測が出来る。

 

「けど、なにか大事な話があるって」

 

「はぁ……ま、1回は顔を合わせておかないといけないか」

 

 このまま何事もなく終わればいいけども、世の中はそんなに甘くはないか。

 友の言葉を借りればめんどうだけど仕方なく玄関に向かうとそこにはぼんち揚をバリバリと食べている実力派エリートを名乗る無職がそこにいた。

 

「ぼんち揚、食べる?」

 

「……迅悠一、19歳。好きなものは女の子のおしりとぼんち揚でボーダーの中でも随一の実力者で守りながらの戦闘においては右に出る者はいない。現A級1位個人総合1位の太刀川慶と1位の座を争っていた経験あり。未来視のサイドエフェクトを持っており、ボーダーになくてはならない要の様な存在。容姿は嵐山准のパチもん」

 

「最後のは要らなかったな〜……どうやってそこまで知った?」

 

「さて、どうやってでしょうね」

 

 迅悠一が現れたからと言って特別な態度を取ってはいけない。警戒心を強めつつ迅のプロフィールを語ればぼんち揚げを食べる手と三3三な顔を止めて真剣な顔に切り替わる。僕はサイドエフェクトが効かないサイドエフェクトを持っている。迅にとって今までに会ったことのない強敵だろう。どう出てくるつもりだ?

 

「とりあえず色々と話をしたいし、ここで話すのもなんだからさ……玉狛支部(うち)に来ない?」

 

「ふむ……迅、君は今回どういう立場で来てるの?」

 

「どういうもなにも話し合いをしに来たんだよ」

 

「それは玉狛支部の迅悠一として?それともボーダーの迅悠一として?どっちですか」

 

 ボーダーの玉狛支部は支部ではあるがボーダーの本部とは異なる感じの組織である。

 現に原作でもボーダーの玉狛支部と独自に近界の国であるガロプラと協定をしている。その辺りはどっちかと問い詰めるとやれやれと迅はため息を吐いた。

 

「玉狛支部の迅悠一としてやってきた……出来ればボーダーの迅として活動をしたいんだけど、君が居るから上手く出来なくてね」

 

「サイドエフェクトは便利ですけど頼り過ぎもいけないことです……玉狛支部の迅としてやってきたのならさっさと帰ってください。僕達はボーダーに交渉するつもりですボーダーの玉狛支部と協定を結ぶつもりはないです」

 

「そう邪見にするなよ。カルデアの為に言ってるんだ……未知の黒トリガーを簡単に倒すトリガーを合計で7つも所持しているんだ。ボーダーとして放って置く事は出来ない。城戸さん達は力づくで来るかもしれない」

 

「暴力ですか……いいですよ、それもそれで」

 

 忠告を迅はしてくれる。このまま行けばボーダーと真正面からぶつかり合う可能性がある。

 それもそれでありかと言われればありだ。転生する度に諏訪部キャラになるアイツと違って暴力で物事を解決する事は得意じゃないけど、ある意味そっちの方が楽だ。全てをボコボコにして最後に立っていた人が勝利者なんて実にシンプルで事が運びやすい。

 

「僕達は別に貴方達の仕事を奪うつもりは無いですよ。これから街を守りたければ守ればいい、近界(ネイバーフッド)を遠征するならすればいい。トリガーの技術を独占した状態を保ちスポンサーに出資をしてもらいお金を得るのもいい。その辺りについて邪魔をしたりすれば共食いになる。そんな事はしないから安心してよ」

 

「オレ達はそれで安心する事は出来ても城戸さん達ははいそうですかと首を縦には振らないよ」

 

「だろうね……でも、そんなもんだよ」

 

 ボーダーと仲良く出来るのならば仲良くしたい。けど、出来ないのならばそれは仕方がないことだ。

 こっちは組織で動いていて向こうも組織として動いている。相容れない事だってあり交わる事が出来ないのならばそれはそれで仕方がないことだ。無理に仲良くしようとしてもそれは歪な形に終わってしまう。ならば最初から手を取り合うのをやめればいいだけん話だ。

 

「頼む、玉狛支部に来てくれ」

 

 迅は頭を下げてきた。こうもあっさりと頭を下げに来たという事は後がもう無いんだろうね。

 僕という絶対の天敵がいる。更には深雪達には僕の一部をベースに作り上げたサイドエフェクトが効かなくなるお守りの様な物を持たせている。何時もの様に余裕をぶっこいての暗躍なんて出来ない。

 

「嫌だね……自称実力派エリート、お前なにか勘違いしてないか?お前はボーダーの中でもそれなりに発言権を持っているだろうが、ボーダー内であって外じゃなんの力も持ってねえんだよ」

 

 これが小説に出てくる主人公的な存在であれば、ふぅやれやれとか言うけども僕は首を縦には振らない。

 迅が頭を下げるという事は余程の事なのだろうがそれが効くのはボーダーの中で、ボーダーの外部との交渉においては全く役立たない。頼みの未来視が効かないとなれば彼はただのセクハラ魔に過ぎない。

 

「そもそもで貴方は勘違いをしている。僕は下っ端で、どれだけ説得に応じられても僕が組織をどうこうする権利は持っていない、セイバーである僕はこっちの世界でボーダーだけでどうにか出来ないゴタゴタを解決してくださいと頼まれている。ただそれだけで他に色々と権限を持っているのはキャスターなんだ」

 

 口出しする事は出来ても直接的な決定権はなんにも無いんだ。

 下っ端で最年少である僕には発言権なんて無いに等しいし僕自身、器用貧乏でなにかに対して突出した才能を持っているわけではない。深雪の様にイカれたメンタルを持ってるわけじゃないし、諏訪部んみたいに戦闘に長けてるわけではない、天王寺の旦那の様にカリスマ性に溢れているわけでもないんだ……ホント、僕は才能が無い。なんで地獄の転生者運営サイドは無限に転生出来る権利を与えてるのか。

 

「そのキャスターと連絡を取ることが出来ないんだ。現状、カルデアの住人でコンタクトが取れるのは君しかいない」

 

「だから僕に話を……ですが、それは今じゃなくても良い筈。いや、違うか、貴方達は今じゃないとダメですよね」

 

 今、迅はボーダーの人間でなくボーダーの玉狛支部の人間として来ている。

 ボーダーは現在大規模侵攻の火消しに回っているのでその隙にカルデアと玉狛支部が協定を結んだり色々とやろうという腹なんだろう。だが何度もしつこく言うが僕にはそんな権限は一切無い。進言する事は出来るかもしれないが、上の人達は取り見繕ってくれるかどうかは別な話だ。

 

「話し合いの場は後々設ける、そういう話だ……これ以上、話に付き合ってられない。ボーダーという組織が大きくなったからってなんでも出来るようになったと思ってるんじゃねえぞ。僕達の中には戦うという選択肢があるんだから」

 

 僕はそう言うと迅に帰る様に言う。これ以上は話相手にならないと判断したのか迅は諦めて僕の家から去っていく……念の為に後で塩を撒いておこう。厄介なものは祓っておいて損は無い。

 迅を追い返す事に成功したので自分の部屋へと戻り、パラボラアンテナを動かしてなにか異変がないか確認をする。案の定、コッソリと見張っている連中が移動している。大方、僕と迅のやり取りを見てなにをしたかの確認だろう……そうなるとミスをおかしたな。

 迅となにやら怪しげな密会を交わしてしまったと言う事実が出来ればそれを利用する。もしかして玉狛と繋がってるんじゃという疑いを向けられる……めんどくさいな、ホントに。

 

「っと、遊んでる暇は無いか」

 

 厄介な事は色々と抱えている。スマホに【アーチャー(虹)】と出ており、僕は電話に出る。

 

「もしもし」

 

『やっと出たか』

 

「すみません、実力派エリートを名乗る胡散臭い男の相手をしていまして……深雪の奴、後を託したのにあの後全然ボーダーと連絡してなかったみたいで」

 

『おいおい、大丈夫なのか?』

 

「大丈夫でしょう。あいつはなんだかんだで世渡り上手ですし……それよりも昨日はありがとうございます」

 

 ハイレインを撃ち抜いた事に対して改めて礼を言う。

 鬼切が無くなった時点で僕はまともに戦うことが出来なかったので、増援として呼んでおいて正解だったよ。

 

『気にするな。敵をぶっ倒さなきゃいけねえ戦争なんだから、力ぐらい幾らでも貸してやる』

 

「カッコいいですね……僕も貴方ぐらい男前にならないと」

 

『お前にはお前の強さがあるだろう』

 

「僕の強さなんてちっぽけなものですよ……これから色々と大変になってきますが、頑張りましょう虹村さん」

 

『ああ、ここからが正念場だな』

 

 その為には先ずは基地を移動させておかないと

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

「記者会見は一旦さておいて、カルデアをどうしますか?」

 

 場所は変わりボーダー本部、時計の針は少しだけ進み昼過ぎだ。

 メディア対策室室長である根付はボーダーに被害が及ばない様にする為の仕込みを色々と考えている中でもう1つの悩みの種であるカルデアを話題にする。

 

「一応はセイバーを名乗る越前龍我を監視していますが今のところは目立った動きは無いそうですが」

 

 根付は今行っている事を口にすると鬼怒田開発室長は興奮して声を荒らげる。

 

「カルデアとやらはそいつだけではない。キャスターとかいうのも、他にも5人も似たようなのが居るんだろう。他の面々について分かっている情報はないのか!」

 

「それがキャスターが現れた際の映像が残っていないみたいです……あの時はボーダーの本部が襲撃されていて襲撃地点に彼女が居たので顔をハッキリと覚えているのは諏訪隊と風間隊の面々のみで」

 

「ぐぅ……玉狛はどうした!こういう時はなにかある筈だろう!」

 

 相手の情報があまりにも少なすぎる。

 こういう時に裏で余計な事とかをしているのに定評のある玉狛を鬼怒田は出すが、外務営業担当の唐沢は首を横に振った。

 

「残念ですけど、迅くん自らが交渉に行ったそうですが断られたそうです。セイバーを名乗る越前龍我はあくまでも下っ端で現場で指揮を取ることはあってもカルデアの組織運営に対して発言する権利は無いそうです」

 

「ならば、キャスターについて、他のサーヴァントについての情報は?」

 

「交渉とか話し合いの場は設けるからそれまで待てとのこと……お手上げですよ」

 

 叩いてもなにも出てくることは無い。向こうから来るとの予告だけはしている。

 唐沢としては話し合いの場を設けてくれるのだからその時にあれやこれやの交渉をすればいいと思っているのだが、根付は顔を青くする。

 

「マズい、マズいですよ……もしカルデアが表に出れば」

 

 ボーダーと異なる毛色のトリガーを扱う組織が出れば今まで積み上げてきたものが崩壊する。

 これから今回の大規模侵攻に対して世間に対する言い訳を考えていたが、もしカルデアが表に出ればそれだけで全てがひっくり返る。

 

「それは無いでしょう」

 

「何故そう言い切れるのですか!」

 

「ボーダーの邪魔をしても向こうに利益はない、あくまでも異世界の侵略者から地球を守る組織であるボーダーの顔は立てるつもりだと私は思います。そうでなければ前に出る機会は幾らでもあったのだから」

 

 ボーダーの組織運営についてカルデアは、サーヴァントは邪魔するつもりは無いと断言できる。

 唐沢はもし自分ならばともっと上手くやる方法を根付達に教えると興奮したり怯えていたりする2人の気持ちを落ち着かせる。

 

「表に出てこないのならば何故今回力を貸した?」

 

「彼等は地球の人間らしいです。ボーダーが今回の大規模侵攻で負けたり酷い結果になると、彼等なりに困ることがあるんでしょう……問題はそれがなんなのかということ。ボーダーの様に地球を防衛するつもりは特に無さそうですし……互いに不干渉という可能性もありえる」

 

「不干渉ですと!?未知の黒トリガーを容易く倒すことが出来るトリガーを7つも持つ組織を見過ごせと言うのですか!」

 

「ええ、そう言っているのです……根付さん、1つだけ勘違いをしている」

 

「勘違い?」

 

「向こうの方が上手だ」

 

 コシマエと深雪がまだ未成年だから見誤っているかもしれないので訂正をしておく。

 あの二人は、サーヴァントは、カルデアという団体はボーダーよりも上の存在である。黒トリガー1つでパワーバランス云々とモメるのにそれが7つ存在しているのだからその時点で上で、更に言えばこちらの世界の住人という点もある。ボーダーの様に表に出ていないだけで組織としては底がまだ見えていない未知数のものであり、現段階で上にある事だけは確かだ。

 

「貴方の交渉術でなんとかならないのですか?」

 

「なにが使えてなにが使えない手札なのかすら分からない状態です」

 

 金は求めていない。強い相手は求めていない。便利な道具は求めていない。優秀なエンジニアを求めていない。

 相手が交渉出来るには出来るのだが相手が求めているものはなんなのかがハッキリと明確に判明していない。どのカードを使って交渉をすればいいのかが分からない。交渉上手な唐沢でも交渉のカードをどう切ればいいのか分からない現状、至難の技である。

 

「彼等が干渉せずメディアに露出しない秘密の組織の様な立ち位置でいるのならばそれはそれで良いことです」

 

「しかし、私達の敵になりうる可能性が」

 

「戦力が向こうの方が上ならば武力による支配を試みる筈ですよ……とにかく向こうは話し合いの場を設けてくれるそうですし、気長に待ちましょう」

 

「呑気に言いおって……しかし……」

 

 向こうは中々に情報を開示しようとしてこないのが現状。

 力技で押し切ろうにも黒トリガー使いを相手に勝利した実績を持っているので下手に武力による制圧は出来ない。更にはこちらの世界の住人である為に下手な事をやればなにしてくるか分からない。メディア戦術とか表舞台に立つとかやられたらその時点でボーダーは詰んでしまう。

 

「クソっ……交渉の場では好き勝手にさせんぞ」

 

「その辺りについてはやれるだけの事はやってみますよ……ただ期待しすぎないでくださいね」

 

 求めるものが特に無い相手から引き出すのは一苦労だ。唐沢は気持ちを落ち着かせる為にタバコを一服する。




運命/世界の引き金こそこそ裏話

【PROFILE】
クラス:キャスター
年齢 :17歳
誕生日:7月14日
身長:168cm
血液型:B型
星座:剣座
職業:高校生兼カルデア最高幹部序列5位
好きなもの:エモいもの 笑顔を曇らせる事 メロン 牛カツ

【FAMILY】

父、母

【RELATION】

那須玲←友達、友達
小南桐絵←友達、友達と言いたいけどなんか時折怖い
熊谷友子←友達の友達、友達に変な事を教える友達の友達
越前龍我←転生者として同期の変態仲間、こっちの方が変態
雨取千佳←曇らせたいこの笑顔

【PARAMETR】(通常トリガー使用時)

トリオン 11
攻撃 10
防御・援護 7
機動 10
技術 17
射程 4
指揮 9
特殊戦術 3

TOTAL 71

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ラピュタを見れば皆そう言っちゃう

 

 大規模侵攻が巻き起こり間もなく一週間が経過しようとしていた。

 僕達サーヴァントはアレからボーダーに対してコンタクトを取ろうとしていない。出来れば早い内に交渉しておきたいところもあるけど、先ずは目先の問題を1つずつ解決していくことが大事な事……しかし僕の監視は中々に止まない。ホントにめんどくさいね。

 

「深雪、一応は出来たよ」

 

 監視すべきはこの女の方なんだけどもね。

 深雪に纏めたボーダーがちょっと表に出すことが出来ない事を纏めた資料を渡す。深雪はパラパラと資料を捲る

 

「この程度の量ならA4サイズの紙数枚で纏めてくださいよ。若干どうでもいい事まで書かないでください」

 

「はい、すみません」

 

 パシリな僕は基本的には彼女には逆らうことは出来ない。

 仕方ない事でありやり直しは要求されないけれども次からはもっと読みやすくて簡潔に纏めたものを出せと言われる……こういうの僕よりも君の方が滅茶苦茶得意なんだから君がやってくれたらそれで万事解決、なんて言ったら怒られるんだろうな。

 

「それでアレはこっちに向かっているの?」

 

「ええ、順調にボーダーに向かっていっています。虹村さんが安全に動かしているので間もなくやってきます……それよりも記者会見はどうしますか?侵入する事は容易ですが……ボーダーがどう出てくるのやら」

 

 間もなくボーダーが今回の大規模侵攻の一件について記者会見を行う。

 その記者会見の出方次第ではカルデアは対応を変える……筈だ。僕にその辺りの権限は無いからなんとも言えない。心理戦とか考え事とかそういうの僕はあんまり得意じゃないからね。

 

「じゃあ、僕はこれで失礼するよ」

 

 深雪に渡す物を渡し終えたので公園を後にする。次に向かうのは……三雲修の家である。

 修の住んでいる家に向かうとそこには高そうな左ハンドルの車が路駐しておりコレは面白い事になっているなと玄関前で待機していると家から修と修のお母さんと……外務営業担当の唐沢さんがいた。

 

「これはこれは面白そうな事になっているね」

 

「越前、なんでここに」

 

「僕にも色々とあるんだよ、色々と……修のお母さん、何時も修と仲良くさせてもらってます」

 

「何時もうちの息子と仲良くしてくれて……この子どちらかといえば内気だから大変じゃない」

 

「いやいや、修はいい友達ですよ」

 

 修とは本当によく出来た友達の関係でありそれ以上でもそれ以下でもない。

 修のお母さんと仲良く談笑をし終えたので視線は唐沢さんに向く。

 

「君は……越前龍我くんだね」

 

「違います」

 

「とぼけなくてもいい。ボーダーも総力を上げて君の事を調べ上げている」

 

「だから違いますよ……コシマエと呼んでもらわないと困ります」

 

 僕は越前龍我だけどこの業界じゃコシマエで通っているんだ。

 唐沢さんはボーダーの人間として僕に接しているのならば僕もコシマエとして接するしかない

 

「今から記者会見で修にチャンスを与えるといったところですね」

 

「……分かるのかい?」

 

「割に合わないでしょう。修の人徳とスター性を記者会見で吐き捨てるのは……修は人徳の王の素質を持ち合わせてますからね」

 

 まぁ、本当は原作知識を利用しているけれどもそれっぽい理由を適当に並べて見る。

 そこまで先を読んでいるのかと唐沢さんは驚いた顔をする……これこそまさにオレTueeeeだ。

 

「記者会見は全国放送されているが君にも出来れば来てもらいたい」

 

「いいですけど……僕達を出すのは百害あって一利なしですよ」

 

「安心してくれ、それはもう根付さんに口が酸っぱくなる程に伝えてある……ただ君には見てもらった方が好印象になるかと思ってね」

 

「やだなぁ、唐沢さん……プライベートと仕事は別ですよ」

 

 それはそれ、これはこれなんですよ。

 実年齢は唐沢さんの数倍逝っているので時には精神は大人になっている。割り切る時は割り切れる。

 唐沢さんの車に乗って記者会見が行われる会場に向かうとそこには遊真がいた

 

「お、コシマエ」

 

「越前さん!」

 

「千佳ちゃん出来れば越前でいたいけどもコシマエと呼んでくれ……なんでここにいるんだい?」

 

「私が呼んだんだ」

 

「そうですか」

 

 遊真と千佳も呼ばれたのか。そうなるとまぁ……原作通りに事が動いているということだろう。

 転生先によっては主人公をある程度は活躍させておかないと後々大変な事になる。ワールドトリガーだと修を成長させておかないと厄介な事になる……多分。

 

「基地内部に侵入者が出た。防衛隊員の数が戦力が不足しているとの意見ですが、そうとは言い切れません」

 

「ああ、そうそう。コレを渡しておきます。キャスターと交渉する時に使ってください」

 

 記者会見をはじめている中で僕は資料を取り出す。

 ついさっき深雪に託したボーダーがちょっと表沙汰に出来ない色々な情報を纏めたものであり唐沢さんは目を通すと顔色が悪くなる。

 

「忍田瑠花、林藤陽太郎、ミカエル・クローニンと言う名のカナダ人……」

 

「どうやってこの情報を仕入れたんだ?この情報はボーダーの内部でも極秘事項」

 

「地下にバカデカい厄介なものが眠っている事も知っていますよ」

 

「……何処で情報が漏れた」

 

「コシマエ、なに渡したの?」

 

「この記者会見でボーダーの株価を一瞬にしてガタ落ちさせるどころか石をぶん投げられるぐらいに酷い事が書かれている。大きな組織にはちょっと語れない事が多々あるものだよ」

 

 君も見てみるかい?とスマホを取り出すが遊真はこっちの世界の文字の読み書きは拙いので断った。

 正直な話見ていてあまり気持ちのいいものではないから見なくていいもの……コレは人には見せちゃいけないものだね。

 

「それでカラサワさん、なんでオサムをここに連れて来たの?」

 

 記者会見の話題が切り替わる。

 緊急脱出機能がついていない事について記者達が問い詰め出したので遊真は今回ここに連れてきた理由を尋ねる。

 

「ヒーローにも反撃する機会(チャンス)を与えないとね」

 

 修は記者会見の場に出る。

 ここからは基本的には原作通りであり修は自分はヒーローではないと言い切り、遠征の事をバラして今回が初の遠征の様に言うのだが実際のところは違う。過去に何度も何度も遠征をしている……その辺りについて暴露してやりたい気持ちはあるのだが、僕はそこそこ大人なのでそれなりに我慢は出来るので我慢する。遠征について色々と語ると記者達はとくダネを掴んだと記者会見は幕を引いた。

 

「見させてもらいましたよ、貴方達の流儀を」

 

「君は……」

 

「改めまして自己紹介をしましょう。カルデアの最高幹部7人の1人、最下位のセイバーです」

 

 記者会見が終わり記者達がこの場を去ろうとしているので僕は姿を現した。

 はじめて顔を合わせる忍田本部長さんに挨拶をするとボーダーの幹部一同が身構える。僕は敵じゃない味方とも言い難いけども。

 

「君がセイバーか」

 

「ええ、はじめましてと言っておきましょうか……記者会見、見させてもらいました。大きくなった組織を運営するのは大変ですね」

 

 他人事の様にサラリと語る。実際に他人事だから仕方ない事だけども。

 城戸司令は僕のことをジッと睨んでくる。普通に怖いので僕は目線を合わせない様にする。怖いよ、このヤクザ顔。

 

「記者会見は今ので終わりでよろしいでしょうか?」

 

「今回の大規模侵攻に関する記者会見はこの一件で終わりだ……しかし三雲修が遠征を公表した為にこれから色々と細かな取材が増えていく。出来ればその前に、公開遠征の前に君達と交渉をしたい」

 

「互いにどちらも不干渉な関係性は……無理ですよね」

 

 ぶっちゃけた話、カルデアがボーダーと関わり合いを持ったとしても旨味は無い。

 カルデアはかつてエンディミオンと呼ばれていた国を占拠して支配下に置いてあれやこれやと日夜遊びながら色々とやっている。

 

「ふざけるな!黒トリガーを見過ごせと」

 

「たぬきのおじさん、ストップ……まだ記者はいるよ」

 

 不干渉なんて絶対にありえないと叫ぶ鬼怒田開発室長。

 黒トリガーなんてボーダーじゃないと分からない用語をここで叫べば記者達は否が応でも反応してしまう。場所を弁えないと、TPOってのは大事なんだよ。流石にこの場で怒鳴るのはまずいのは分かってくれた様で声を上げるのを止める。

 

「ボーダーという組織はカルデアという組織と交渉には応じてくれますか?」

 

 ボーダーは戦後処理の記者会見が終わるまでカルデアと一時的な同盟を結んでいた。

 その戦後処理が今終わったのでここでカルデアとどうするか。敵と認定するならそれはそれ、これはこれである。

 

「……いいだろう。ボーダーはカルデアとの交渉に応じよう」

 

「ありがとうございます……じゃあ、明日辺りにちゃんと交渉しましょう。互いに色々とありますし……」

 

 ヤクザ顔もとい城戸司令は交渉に応じてくれる。

 いい感じに交渉の場を設ける事が出来る……ここまでが僕のお仕事……いや、まだ1個残っているか。

 

「なによりも僕達の基地がまだ来ていない」

 

「基地……君達の基地は移動するのか?」

 

「移動しますよ……まぁ、その……うん……」

 

「そんな移動する基地が三門市にやってきたのならば街の人に見られるのでは!?」

 

「ああ、大丈夫です。見えないように光学迷彩的なの貼ってますから」

 

 根付さんが色々と心配しているけれど心配には及ばない。

 

「基地が移動するって、コシマエどんな基地なんだ?」

 

「修、そういうのは見てのお楽しみだよ」

 

 口で説明するのは簡単だけど実際に見た方が早い。

 交渉の場を設ける事が出来たのでコレで僕は満足だと家に向かって帰っていき深雪にちゃんとした交渉の場を設ける事が出来たと伝える。深雪が後は上手くやってくれる……でもまだやらないといけない事があるんだよ。意外と僕って忙しいと思いつつ日を跨いだ翌日のこと。

 

「修、ボーダーの本部に案内をしてくれないか?」

 

「え、コシマエ達の基地で行うんじゃないのか?」

 

「基地を紹介する為に色々とあるんだよ」

 

 遠征を目指してランク戦に挑もうとしている修には申し訳無いけれどもボーダーの本部に案内をしてもらう。

 修は一躍有名人になったのでボーダー本部を歩いていると昨日のあの眼鏡と視線が向けられており、修は冷や汗をかいている。メンタルは強い方だけどこういうことには馴れていないのか。これから段々と主人公(ヒーロー)の道を歩むから馴れておかないと結構キツいよ。

 

「よぅ、メガネくん。コシマエ」

 

 ボーダー本部を歩いていると実力派エリートこと迅がやってきた。

 サイドエフェクトを経由して……じゃなさそうだね。僕にはサイドエフェクトが効かないから僕以外の誰かの未来を見てここにやってきたというところか。まぁ、実力派エリートがなにをしようが今回は無駄に終わる……サイドエフェクトが通じない僕がいるからね。

 

「やぁ、実力派エリート……今日は面白い事になりますよ」

 

「……オレにとってはそんな面白い事じゃないけども」

 

「迅、ランク戦をしようぜ!!」

 

 面白い事になると笑うと迅は少しだけ暗い顔をする。そんな事はお構い無しだと太刀川さんが迅にランク戦を挑みにやってきた。

 

「太刀川さん、今から大事な話があるからランク戦は出来ないよ」

 

「なんだよまた暗躍か?」

 

「いや……今回は正面から堂々と行く感じだよ」

 

 チラリと僕に視線を向ける迅。裏で暗躍している迅だけど今回は堂々と乗り込む感じである……まぁ、その前に裏で暗躍をしようとしてきたけど。太刀川さんは迅が僕に視線を向けている事に気付くと僕のことに気付く。

 

「お前、正月の時の」

 

「お久しぶりです……ああ、そうだ。ついでだから太刀川さんも来ますか?護衛役の1人や2人必要でしょう」

 

「ん?どっかに連れてってくれるのか?」

 

「面白い場所に連れていきますよ……屋上に向かいましょう。修、ボーダー本部の屋上に案内してくれ」

 

 ここで会ったのもなにかの縁である。

 なにか厄介な事が巻き起きた万が一の時にボーダー最強の男が護衛をしてくれるのはそれはもう心強いだろう。

 修についていくとボーダー本部の屋上に出る。修は屋上を右見て左見て確認するが何処にもなにも見えない。何時も通りの三門市の光景が見えているだけだった。

 

「コシマエ、基地が移動してやってくるって言ってたけど何処にあるんだ?」

 

「ちょっと待ってね、確かここに……あった。はい、コレかけて」

 

 基地が何処にもない事に疑問を抱く修。既に基地は本部付近にあるのだが、特殊な迷彩で見えなくなっている。

 見えなくなっているので見えるようになるサングラスを取り出して修に装備させて基地がある方向を指差した。

 

「っな、なんだアレは!?」

 

「あれこそが僕達の居城だよ」

 

「三雲、なにが見えてるんだ。ちょっと俺にも見せてくれよ」

 

 見えているものに声を荒げる修。なにが見えているのか分かっていない太刀川さんは修からサングラスを借りるとボーダーの上空を見つめる。

 なにか反応はあるのだろうかと見守っていると無言で空を太刀川さんは見つめている。嘘だろと小さく呟いている

 

「太刀川さん、なに見えてるの?コシマエがいるからサイドエフェクトが全然使えなくてなにが見えてるのか分からないんだけど」

 

「…………バルス!!」

 

「言うと思いましたよ」

 

「ねぇ、なにが見えてるの?オレにもそのサングラスを貸してよ」

 

「ほら、お前も滅びの呪文を唱えるんだ」

 

 太刀川さんは迅にサングラスを貸す。迅は早速サングラスをかけると乾いた笑みを浮かび上げる。

 僕もサングラスを取り出して空を見る……そこには天空に聳え立つ城があった。

 

「ラピュタだ!ラピュタは実在していたんだ!!」

 

「嘘だろ、コシマエの拠点がラピュタだったのか……バルス!」

 

 天空に聳え立つ城を見て太刀川さんや迅はテンションを爆上げする。

 ボーダー本部よりもバカでかいものが空中を浮いているって事実は恐怖でしかないのだが、迅達はそんな事をお構い無しだと滅びの呪文を唱える。言いたいことは分かる。

 

「ここにいたんだね」

 

「唐沢さん、アレみてくれよ!ラピュタは実在してたんだ!」

 

「……なにを言ってるんだ?」

 

 僕がボーダー本部にやってきた事を聞きつけて屋上にやってきた唐沢さん。

 テンションが物凄く高まっている太刀川さんは迅からサングラスを剥ぎ取り唐沢さんに渡すと唐沢さんの表情が固まった。

 

「出水達にもに教えてやらねえと。ラピュタはホントに実在していたって」

 

「まさか君達の拠点が、いや、居城がラピュタだったとは……いったいどうやってこんな物を……バルス!」

 

 おっさん、あんたもやるのかよ。まぁ、あんな物を見せられてバルスと言うなというのが無茶というものか。

 

「交渉の場を設けるけれども具体的に何処でやるのかを決めていませんでしたよね……ボーダー本部でやりますか?それとも虚栄の空中庭園(ハンギングガーデンズ・オブ・バビロン)でやりますか?」

 

「……君達の拠点で行おう。ただその前に少しだけ時間をくれないか?」

 

「30分だけならいいですよ……流石にあんな物を見せられたら誰だって調子崩しますよね」

 

 ボーダー本部の基地はキャンピングカー的なものでも想像していたのだろうか。

 まさか天空の城を持ってくるとは誰も思いもしない。どんな人でも分からないだろうな。

 

「太刀川さん、ラピュタがあったって急にどうしたんすか」

 

「出水、来たか!アレ見ろよ、アレを!」

 

「アレって、何処ですか」

 

「サングラス無いと見えないか。唐沢さん、借りますよ」

 

「ぬぅお、なんだこりゃあ!?」

 

 ラピュタを見てテンションをバカみたいに高くなっている太刀川さんは出水さんを呼び出した。

 唐沢さんからサングラスを取り、出水さんに渡すと出水さんは虚栄の空中庭園を見て驚き

 

「バルス」

 

 滅びの呪文を唱えた…………。

 

「あのぉ、皆さん。バルスと言いたい気持ちは分かりますけど、バルスは滅びの呪文でその通りに効果が発揮するとアレが崩れて落ちてくるんですよ」

 

「あ……」

 

 バルスは滅びの呪文だ。ラピュタを崩壊させる呪文で唱えればラピュタは崩壊する。

 虚栄の空中庭園は滅びの呪文で滅びない仕様になっているけれども、落ちてこないとは限らない。太刀川さんや出水さんは冷や汗を流すのでアレはラピュタじゃない事を伝える。

 

「アレはラピュタじゃねえならなんなんだ?」

 

「アレは世界七不思議の1つであるバビロンの庭園を模した物ですよ」

 

「世界七不思議……聞いたことはあるけど実際はなんなんだ?」

 

「ギザの大ピラミッド、バビロンの空中庭園、エフェソスのアルテミス神殿、オリンピアのゼウス像、ハリカルナッソスのマウソロス霊廟、ロドス島の巨像、アレクサンドリアの大灯台の7つです。詳しくはWikipediaにでも聞いてください」

 

 1から説明するとホントにややこしくなる。七不思議は特にそうだ。

 出水さん達はアレはラピュタを模した居城だと割とあっさりと納得して受け入れてくれる。

 

「やっぱりアレか。ビームとか発射するのか?」

 

「ええ、やろうと思えば出来ますよ……まぁ、やる必要は無いですけど」

 

「……コシマエ、あんな物をどうやって作ったんだ?」

 

「中東のとある所で素材を仕入れて無人島でチョコチョコっとって、世間話をしに来たんじゃないです……気持ちの整理が出来ましたか?」

 

 交渉する相手がこうも規模がデカいとは思っていなかった唐沢さんは気持ちの整理をしている。

 やはり虚栄の空中庭園を持ってきて正解だったな。カルデアという組織の威厳を保つどころから圧倒する事が出来ている。

 

「ボーダーの隊員達を何名か引き連れて来てもいいですよ。互いに不干渉を貫くのは無理な様ですし仲良くしようの意味合いを込めて親睦を深めようじゃありませんか」

 

「ん……?太刀川さん、コレってどういう感じの場所なんですか?」

 

「さぁ?俺も面白いものが見れるからついてこいって言われたから詳しいことは知らない。三雲、お前なんか知ってるんじゃないのか?」

 

「えっと……」

 

「凄く分かりやすく言えばボーダー以外でトリガーを持っている組織があったので今から交渉に応じる感じですね」

 

「……は?」

 

「出水くん、くれぐれもこの事は内密に頼む……ボーダー以外にトリガーを持っている組織の存在はボーダーの存在意義を揺るがすレベルの問題なんだ……ふぅ、まさかこれほどの組織だとは思いもしなかったよ」

 

 唐沢さんは今、果てしなく困っているな。

 カルデアという組織を自分のモノサシで測ったけれども予想外の大きさで、色々と考えていた交渉の手段や手札を使えなく潰している。それだけ空中庭園の存在は恐ろしさを醸し出していた……

 

「僕がやれるのはここまでだ。後は頼んだよ、深雪」




運命世界の引き金コソコソ裏話


時系列的に言えばテイルズオブの暫く後でポケモンのちょっと前である。


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そして運命の引き金は引かれる

ポケモンも更新したいけどこっちも更新しておかなければ


 

「まさかラピュタをこの目で拝む日がやってくるとは思いもしなかった」

 

 太刀川は再びサングラスをつけて空を見上げる。そこには天に浮いている城があり、いいものが見れたと拝んでいる。

 さっきまでバルスと滅びの呪文を唱えまくっていた彼だが滅びの呪文は唱えない。コシマエに滅びたらアレが物理的に上から落ちてくると言われてしまったのでふざけられない。

 

「うちの基地もあんな感じだったらいいのにな」

 

「あ〜それ分かります」

 

 四角形な形のボーダーの本部と虚栄の空中庭園を見比べる出水と太刀川。

 空飛ぶ城に男の浪漫を感じている。もっとこう秘密基地感があった方が浪漫を感じる。

 

「この際だ、君達が来てくれ」

 

 護衛役として唐沢は修、出水、太刀川の3人を選ぶ。迅はサイドエフェクトが通じないので自ら辞退する。

 やっとこんがらがってきた頭を整理する事が出来たので準備が出来たとコシマエに報告するとコシマエはタブレット端末を取り出した。

 

「唐沢さんだけでよろしいのですか?一応はボーダーの今後を決めることになりますので城戸司令が出てきた方がいいのでは」

 

「いや、その辺りは大丈夫だ。外務担当の殆どの権限は私に委ねられている……出来る限りの事はやってみせるさ」

 

 幹部ではあるがトップではない唐沢でいいのかとコシマエは最後の確認を取る。

 余計な心配は無用だと言うとコシマエはタブレット端末で電話を取り、そちらに向かうことを伝える。

 

「そういえばどうやってあそこまで向かうんだ?」

 

「決まってるだろう。空賊達が乗ってた謎の空飛ぶ乗り物で行くんだ」

 

「太刀川さんラピュタの見過ぎです」

 

 どうやってあの城まで向かうのか修が問いかけると太刀川は自慢げに語るがコシマエは否定する。

 

「太刀川さん。アレは世界七不思議の1つであるバビロンの空中庭園を模して作られた偽物であって本物じゃないんです……本物は本物で別にあるんです」

 

「ラピュタ、もう1個あるのか!?」

 

「らしいですよ。僕はまだこの目で一度も見たことないですけど……ネブカドネザル二世を引き当てたら出せるとは聞いてます」

 

「引き当てたら?……」

 

「メガネくん、こいつと知り合いでしょう。知ってることがあったら色々と教えて」

 

「あ〜はいはい、その手の問答は後でしますからとりあえずラピュタに行きますよ」

 

 太刀川と出水はイマイチ状況が飲み込めていない。

 コシマエは腕に装備している時計を操作するとサークルの様なものが展開されていく。

 

「皆さん、サークルの中に入ってください」

 

 唐沢達をサークルの中に入れる。

 全員がサークルの中に入ったことを確認すると腕時計が光り出し、眩い光に包まれるとボーダーの屋上から何処かの庭園を思わせるかの様な場所に移動していた。

 

「コレは……」

 

「貴方達で言うところの緊急脱出(ベイルアウト)機能を応用した技術です。ああ、トリガーを起動するなら今の内に起動しといてくださいね」

 

「……」

 

 サラリと語られるがかなりの技術力を有している事がこれだけでも分かる。

 ボーダーより格上の組織として認識をしているがこうもあっさりとボーダーでは実装されていない技術を使われていると脱帽でしかない。トリガーを起動しておけと通達があったので起動していなかった修はトリガーを起動してトリオン体に換装する。

 

「さて、皆様をここに連れてくるのが僕の仕事です。ここからは別の方がこの庭園を案内させていただきます。っと、言ってたら来ましたね……」

 

「お客さんを連れて来たようだな」

 

 庭園の奥から人がやってきて、ボーダーの一同は固まる

 奥からやってきた人は上半身は黒子のバスケに出てくる虹村修造なのだが下半身が馬の姿をしている。

 

「俺は虹村修蔵、カルデア最高幹部の1人で序列4位の弓兵【アーチャー】……此度は交渉の場を設けていただき感謝致します」

 

 ペコリと頭を下げて虹村は自己紹介をする。見た目のインパクトがあまりにも強すぎており言葉を失っている。

 出水と太刀川に至っては俯いておりプルプルと震えている。上半身が純日本人な男の下半身が馬の人間を見ると笑うな言うのが無茶な事である。

 

「コシマエ、アレは……」

 

「アレもまたサーヴァントの力だよ……ということで皆さん、虹村さんについていってくださいね」

 

 あの姿について修は問い詰めると、コシマエは頷く。ここからは僕の仕事は終わりだと虹村から離れていった。

 

「じゃあ、案内しますのでついてきてください」

 

 爆笑を終えたので虹村は奥へと案内する。

 出水と太刀川はヒソヒソと小さな声で話し合う

 

「アレもトリガーの一種なのか?」

 

「そりゃそうでしょう。ケンタウロスなんて居るはず無いでしょう……にしても本格的な格好だな」

 

 如何にも古代のギリシャに出てきそうな格好をしている。

 トリガーでそれっぽい服装を再現していても下半身は馬とか無いだろうと小さく2人は笑い合う。無論虹村の耳にはその事が伝わっている。虹村は怒る事はしない。ケンタウロスの姿で現れれば爆笑されるのは間違い無し、受けを狙ってのこの格好である。

 

「どうぞ」

 

 庭園の奥に進むと巨大な扉があり、虹村が手を翳すと扉が開かれる。

 中に入れという事なのだろうと今までの緩い感じの空気が一変し、シリアスな空気が流れ出す。ここからは大事な話し合いの場がやってくる。自分達は万が一を想定して唐沢を護衛しようと考える。

 

「お待ちしておりました……虹村さん、資料をお配りください」

 

 扉の向こう側には円卓がありそこには深雪が座っていた。

 

「はいよ」

 

 虹村は書類を渡す。唐沢だけでなく出水にも修にも太刀川にも配る。

 

「先ずはお礼を申し上げます、カルデアをボーダーとは異なるトリガーを扱っている組織として認めた事を。私も虹村さんもコシマエも暴力は嫌いです。皆様を血祭りに上げる事をしなくて良かったです」

 

「……マジかよ」

 

 ボーダー以外にトリガーを使っている組織との交渉をしていると分かると太刀川は顔色を変える。

 何度も何度も向こうの世界に遠征した経験のある彼だがボーダー以外でトリガーを扱っている組織は聞いたことも見たこともない。そんな組織が居たのかと驚くしかない。それと同時に唐沢も考える。深雪達はボーダーと交渉する事が出来なかった場合は実力を行使する、暴力に走ることを躊躇わない。ここは敵地で相手は若いが、軽く見てはいけない。

 

「カルデア及びサーヴァントに関しては一部の情報を秘匿していますが手元の資料に色々と書かれております。詳しい事が知りたいのであれば質問に応じます」

 

 準備万端だなと配られた資料に目を通す。

 配られた資料はサーヴァントに関する個人情報やカルデアに関する情報はあまり書かれていない。とはいえ無いか有るかで言えばあってくれた方がいい資料で、実によく出来ているなと目を通して気になる点はないか、交渉に使えるカードは無いのかと探してみる。技術力では遥かに上で、戦力も充分なまでに揃っている……この感じだと金に困っているという様子は無さそうである。

 

「交渉の場でこういう結論を先に語るのは実に禁則事項な事ですが、私達はボーダーと仲良くしたいのです」

 

「仲良く、か……具体的にはどの様にしたいつもりで?」

 

「そうですね。別に表に出るつもりはありません。遠征先で偶然に出会ったボーダー以外にトリガーを扱っている組織と適当に経歴を適当に偽造していただいても構いません。私達は基本的にはカルデアに引きこもっているだけですので」

 

 唐沢は手探りで深雪から情報を聞き出そうとする。

 なにが望みなのか、なにを求めているのか。そこから交渉ははじまるのだが深雪の答えは曖昧なものだった。

 仲良くしたいという気持ちは伝わっている。だが具体的にどの様な形で納まるのかが見えていない。

 

「引きこもっているなら何故こちらの世界にいるんだ?」

 

「そうですね。カルデアに色々と持ち込める技術等がこちらの世界にあるからですね……例えばそう、こういうものとか」

 

「電球?」

 

 深雪は円卓の中心に電球を置いた。

 この電球は特別な電球、ではない。その辺の電気屋で普通に購入する事が出来る電球であり、こちらの世界で大量生産を可能としている一品である。唐沢もこれはなにかあるのだろうかと確認を取ると普通の電球だった。

 

「向こうの世界に遠征の経験がある太刀川さんや出水さんはご存知かもしれませんが、向こうの世界では明かりを一つ灯すだけでもトリオンを動力源にした物を使います。カルデアではトリオンでなく電気で動く道具の量産等を目指していてこういったものを持っていったりする事もあります」

 

「なるほど……カルデアはトリオンによる文明から電気による文明に切り替えようとしている、そんなところか」

 

「まぁ、そんな感じです……私達としては仲良くしたいですが貴方達からすればこの上ない厄介な組織でしょう。貴方達は具体的にはどうしてほしいですか?」

 

「我々としては……そうだね……」

 

 ボーダーの傘下に加われと言っても却下されるだろう。

 黒トリガーを7つも持っている組織を相手に下に降れと言うのは無茶というもの。時と場合によっては暴力に訴えに来る事も躊躇わない

 

「こちらも是非とも仲良くしたいと思っている」

 

 故に和平の道を辿るしかない。

 サーヴァントについて色々と知っている遊真から勝つことは不可能だと言われている存在を相手にするのは愚策である。

 

「よかったです……ボーダーも同じ事を考えていただいて」

 

「ただ、君達が危険な存在だと言う意見もある。本格的な同盟を結ぶのならば君達が使っている黒トリガーを共同して使うという事をしたい」

 

「それは出来ない事ですね。サーヴァントの持つクラスカードは貸し出すつもりはありません……ただ街を防衛する為にサーヴァントの誰かを派遣するということは出来ますが。クラスカードを貴方達に貸しても宝の持ち腐れ状態ですし、なにより臨機応変に使いこなす事が出来ません……」

 

 クラスカードは貸さない、けれどもクラスカードを持ったサーヴァントを貸すことは出来る。

 重要なのはクラスカードで使い手自体はボーダーで選ぶつもりだが、深雪はそこを譲るつもりはない。クラスカードは貸し出さない。

 

「……唐沢さん、諦めてください」

 

 なにか交渉のカードは無いのかと考えていると深雪は冷たい目を唐沢に向ける。

 唐沢は冷静になって交渉に使えるカードは無いのかと考えるが、ボーダーがカルデアに対して出せるカードが皆無に等しい。

 ボーダーの様に街を守る組織ではない、金はある、独自の進歩を遂げている、喉から手が出る程に欲しい物があるとは言えない。相手の望みはあくまでも仲良くすること。ボーダーとしてもカルデアとしても不干渉を貫くのは出来ない事……故に諦めるしかない。

 

「私達がタダで出せるカードはサーヴァント達が有事の際に街を防衛する事を手伝う事、それに加えてボーダーの隊員達を強く鍛え上げる事の2つです。それ以上は、例えば近界(ネイバーフッド)の航海図等は金銭や技術を売って購入してください」

 

「……そうか」

 

 比較的に友好な国である事には変わりはない。これだけでも充分な成果はあった。

 話し合いが通じる相手で今日ここで全てを終わりに向かわせるものではない。ゆっくりじっくりと時間を掛けて交渉していく事が出来る。

 

「私達がボーダーに求める事はカルデアという組織に対して不干渉を貫いてほしいのです。私達はこちらの世界の技術は取り入れますが人を拐うといった事を一切しません。当時エンディミオンと呼ばれていたカルデアで王族や重役を皆殺しにして政の実権を全て握っていますのでそうしないと誓えますよ」

 

 だからもう諦めるしかない。深雪の出した交渉のカードは中々に渋い物だが決して悪くはない。

 黒トリガーを撃退する力を持った黒トリガーの様な物が有事の際に動いてくれる……今回の一件で死人が出てしまった。ボーダーと無関係な三門市民に死者は出なかったがそれは相手の狙いがボーダーのC級隊員だったからであり、街を狙う作戦で来ていたのならばまた結果は違っていた。

 

「一旦、城戸司令と話し合って構わないかい?」

 

「ここで電話でならいいですよ。流石にこの虚栄の空中庭園はバカデカい物で邪魔ですからね、何処か別の場所に移動させたいんですよ」

 

 考える時間を与えてはくれるが、猶予はもう無いに等しい。

 唐沢は携帯を取り出すと城戸司令に連絡を入れて、深雪がボーダーに提示した交渉のカードについて説明をする。

 

『カルデアはボーダーと同盟を結ぼう』

 

「よろしいのですか?」

 

 割とあっさりとカルデアとの同盟を結ぶ事を決める。

 

『今ここで彼等を野放しにする方が危険だ……故に君達が表に出てこない事も条件に加えていただきたい』

 

「それは表に、メディア出現等をするなとの認識でよろしいでしょうか?」

 

『その認識で構わない』

 

 こうしてボーダーとカルデアは同盟を結ぶ事になった。

 ボーダーはカルデアに対して不干渉を、カルデアはボーダーに対して有事の際にサーヴァントを派遣する、一件ボーダーの方が不利に見えるがカルデアは存在を表に出さないという条件を出しているので一応の釣り合いは取れている。後で正式な書類を作り上げるからサインを頂きたいと言えば城戸司令は応じる。

 

「ではでは、小難しい話は終わりましたのでお楽しみタイムと参りましょう!!」

 

 交渉はコレにて終わると深雪は今まで抑えていたテンションを上げに行く

 パンパンと手を叩くとコシマエが部屋に入ってきたのだがコシマエの手には福引の時に回す抽選機が握られており、円卓の上に置かれる。

 

「先程申し上げた通りカルデアは有事の際にサーヴァントを派遣します。それとは別にボーダー隊員達を今よりも強く鍛え上げる訓練をすると……ボーダーでは隊員達同士で激闘を繰り広げるランク戦がありますがアレでは自分の可能性を探すことは出来ても未知の相手に対しては逆に弱くなってしまうおそれがあります」

 

「まぁ、確かに言っている事には間違いとは言い難いな」

 

 トリオン能力云々はさておいて全員が同じトリガーを使っている。

 戦いを重ねることで自分が出来ることを模索する事が出来る反面、ボーダーのトリガーを相手に想定した戦闘スタイルになっている。未知の相手に対しては弱いと言われれば出水は納得する。

 

「サーヴァントが未知のトリガー使いとして相手になりましょう」

 

「バトルしてくれるのか!?」

 

 ここに来て未知の相手とバトルする事が出来ると太刀川は喜ぶ。バトル脳である。

 深雪は勿論ですと頷くと抽選機にセイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーのモニュメントピースを入れる。

 

「サーヴァントは全員で7人、一度に全員を相手にしてしまうとそれこそボーダー壊滅タイムアタックになりますので1人ずつお相手をします……名付けて界境防衛機関御前試合人間兵器七番勝負、面白いでしょう」

 

「面白いし、戦いたい!」

 

「誰が戦うかはこちらがある程度決めます。ですがご安心ください、太刀川さんが楽しめる相手が出てくる筈です……多分」

 

「おい、最後怪しいぞ……」

 

 深雪の最後の言葉を聞いて出水は心配をする、しかしそれは仕方がない事である。

 サーヴァントが引き当てる英霊は基本的にはランダムなのだから。

 

「三雲さん、貴方がこのガチャを回してください」

 

「僕が、ですか?」

 

「ええ、是非ともお願いします」

 

 ぶっちゃけた話、別に誰が引いても変わりはないのだが、ここは主人公に身を委ねる。

 修はこのガチャで未知の相手と戦うことになるとゴクリと息を飲み込んで抽選機に手を触れて回す。

 

「強い奴、来い。強い奴、来やがれ!」

 

 必死になって強い奴が来いと太刀川は祈る。

 そんな事をしなくても強い奴は居る。なんだったら全員強いのである。

 

「トップバッターは……セイバー!」

 

 修がガチャを回した結果、飛び出てきたのはセイバーのモニュメント。

 セイバーが誰なのかを知っている修はコシマエに視線を向けるのだがコシマエは微動だにしていない。

 

「では、セイバーとの訓練に出る為の参加条件を申します!セイバーと戦う事が出来るボーダー隊員は剣を使うことが出来る隊員、即ち攻撃手(アタッカー)の方限定で参加可能です」




コソコソ裏話

虚栄の空中庭園には転生者7人のそれぞれ個別に部屋が存在している


さて、セイバーvsボーダーの攻撃手、セイバーはなんの英霊で来るのでしょうかね


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ガチ泣きパイセン 曇らせたいこの笑顔

パイセンの笑顔を曇らせたい
ボーダー関連で色々とあり高校卒業後は三門市から出ていきたいのでその為の金を得ようとボーダーに入ったAくん(三輪と同期)
高校二年の時に原作開始で遊真達と関わり、遊真は悪ではないと理解するも近界民だからどうすればと苦しみ黒トリ争奪戦を見て、これ以上ボーダーという組織にいれば自分はおかしくなると感じボーダーを辞めて受験や資格取得に勤しむ。
新年の初詣で小南パイセンに挨拶をされるがボーダーにいたらおかしくなるとやめたのでこれ以上は深く関わりたくないとどちら様ですか?と記憶を封印されてるふりをし、小南パイセンを病ませる話を何時かは書いてみたいものだよ



 

「嘘……そんな!こんな事が、こんな事があっていいの!!」

 

 界境防衛機関ことボーダーと同盟を結び数日が経過し2月1日(土曜日)

 今日からランク戦が開幕されるが僕達はボーダー隊員ではないので細かな事は気にしなくて済む。修達はA級目指して最下位からスタートする……原作通りに上手く行くことを祈ろう

 

「小南先輩、なに驚いてるんです?」

 

「とりまる、本当に本当にあったんだわ!!」

 

「いや、ちょっとなに言ってるか分かんないすね」

 

「とりまるさん、コレを掛けて見てください」

 

「ん…………バルス!!」

 

「ラピュタは、ラピュタはホントに実在していたのね!!」

 

 やだ、小南パイセン騙されやすすぎ……虚栄の空中庭園をボーダー本部の上空でなく玉狛支部に移動させた。

 別にボーダー本部の真上に陣取ってても良かったが狸と狐が色々と喧しかったのとコレから行う特別訓練は本部でなく玉狛支部で行った方がいいんじゃないか、となり場所を移した。

 林藤支部長に事前に虚栄の空中庭園を玉狛支部に移動させると伝えてあったんだけど、本人がうっかりと忘れていたらしくたった今玉狛支部の面々に伝えたので今回一緒に来てくれた虹村さんと一緒に玉狛支部の面々に虚栄の空中庭園を見せる。

 

「知らないんですか?小南パイセン……我々の祖先はラピュタを作りし一族なんですよ」

 

「え!!」

 

「パイセン、こんな事を考えた事はなかったですか?トリガーは火薬を用いた近代兵器が通じない兵器で向こうの世界では百年以上前から存在している。だったらこちらの世界を大規模に侵攻していないのかと。あの1回目以前に大規模な侵攻があったんじゃないかと」

 

「確かに……言われてみればそうね」

 

「我々ラピュタ一族は人知れず世界を影から守っていたのです。このラピュタの力を用いて」

 

「そうだったの……ラピュタなら近界民を相手に出来るわよね」

 

「おい、お前なに嘘こいてんだ」

 

 あ、いて。

 乗せたら面白そうだったので小南パイセンを乗せてみると思った以上に乗っかってきたけど虹村さんが僕に制裁と言う名のアイアンクローを決める。素手で林檎を握りつぶせる握力の持ち主だから地味に結構痛い。でもあの時の痛みと比べればまだマシな方なので耐えれる

 

「嘘なの!?」

 

「オレ達は別にラピュタの末裔じゃねえよ。約1名……いや、何名か除いて極々普通の日本人だ」

 

「騙したなぁああああ!!」

 

 うがぁああと僕に絡もうとする小南パイセンだけど僕は身長が180cmほどあるので腕が届かない

 そういう感じのリアクションは修にやった方がいい。修はなんだかんだでモテメガネだと思う(偏見)。まぁ、モテメガネじゃなくても可愛い幼馴染が居るだけで人生勝ち組みたいなもんだよ。僕なんて……いや、僕のことはいいか。

 

「お前等、ラピュタを堪能する事が出来たか?」

 

「アレに乗ってビームを撃ってみたいっす」

 

 恒例行事とも言うべきバルスを言い終えたので虹村さんは満足したのかを確認する。

 ラピュタに乗ってみたいとの要望をとりまるさんは出すけれども、ラピュタは今回は浮いているだけで終わる。

 

「その内乗せてやる……まぁ、流石に運転するのはさせねえけども」

 

「マジすか、あざあっす!」

 

 若干クールじゃなくなっているとりまるさん……コレもまたラピュタの呪いか。

 小南パイセンが記念に写真を撮っていいかと聞いてくるのでラピュタは撮影禁止だとNGを出すとちょっとだけシュンとする。

 

「で、なんでラピュタを玉狛支部に持ってきたわけ?」

 

 しかし直ぐに立ち直る。純粋なパイセンである。

 

「んだよ、適当に選出してこいっつったのに話が通ってねえのか?」

 

「林藤支部長からなにも聞いていないのですか?」

 

 今回ここにラピュタを持ってきたのは玉狛支部で特別訓練を行うから。

 セイバーである僕が玉狛の腕利きの攻撃手たちと色々とバチバチ繰り広げる……別に玉狛でなく本部でやっても問題は無いんだろうけども、本部でやればボーダー以外のトリガーを持った組織が居ることを知られてしまう。一応は僕達の存在はトップシークレットの扱いになっていて、そこら辺のモブ訓練生にバレてはいけない。

 

「いや〜すまんすまん、こっちも色々と立て込んでてな。ボーダーと同じでトリガーを持っているこっちの世界の住人の組織とどう向き合うべきか毎日討論しててな」

 

 その辺りについて説明をしていると林藤支部長が出てくる。

 話を聞いていた様で小南パイセン達に事情を伝えていなかった事を詫びてくる……まぁ、唐沢さんがなんとか纏めたけどもボーダー以外でトリガーを持っててボーダーより強い組織が居たら揉めるのは仕方ないことか。

 

「別にあんた達と正面からバチバチにやりあってもオレは構わねえぜ」

 

「虹村さん、発言は選んでくださいよ……暴力で解決するのは最終手段です」

 

 嫌味をいうので挑発に敢えて乗る虹村さん。

 この人、転生者としてまだまだ若い方だからかこういう安い挑発に乗っかりやすい……リーダーとしては充分な素養を持ち合わせてるんだけどな。

 

「あんた等、ボーダーと全面戦争して勝つつもりでいるわけ?」

 

「おや、そういう風に聞こえなかったんですか?」

 

 とか言っている僕もまだまだ青二才である。玉狛や城戸派等の派閥を越えたボーダーと全面戦争をしたとしても確実に勝つことが出来る。慢心じゃない自信がある。

 

「例えボーダー最強と謳われる貴方達が相手になっても僕1人で片付けられますよ……ああ、そうだ!特別訓練まで時間がありますし、交流も含めて勝負しますか?」

 

「いいじゃない!あんた達をケチョンケチョンにしてやるわ!!」

 

「いや、オレはパスさせてもらう」

 

 ボーダー最強と謳われる小南パイセンと勝負しようって時に虹村さんは水を差す。

 とりまるさんが居るんだから2vs2でのバトルをするのがセオリーってものなのに……國崎さんだったら乗ってくれるのに、こういうところではノリが悪い。

 

「流石によ、弱い者いじめはまずい……普通の人を訓練と称してリンチするのはな」

 

「ムカッ!」

 

 と思っていると遠回しに小南パイセンを挑発する。

 この人、まさかここまで計算して発言を……ありえるな、虹村さん意外どころか結構賢い人だし……流石は天性のリーダーシップを持っている御方だ。

 

「じゃあ2対1でやりますか」

 

「とりまるは必要はないわ!私1人であんたをボコボコにしてやるんだから!!」

 

「いやぁ……2人で挑んだ方が良いと思いますよ……こっちは正しい手順を踏まないと倒せない存在になりますから」

 

「どういう意味よ?とにかくとりまるは要らないわ!」

 

「京介、お前はどうする?」

 

「小南先輩の好きにやらせてください……後、コシマエ。お前は小南先輩の事をナメすぎだ。その人はボーダー最強なんだ」

 

「いやいや、ナメてませんって……事実を言っているだけですから」

 

 完全に見下しているとかそんなんじゃない。僕はただ単に事実を述べているだけだ。

 虚栄の空中庭園を見終えたので玉狛支部の屋上を後にするのだけどその前にやることがあると虚栄の空中庭園にある僕の部屋に向かい、真空パックに保存されている一枚の菩薩樹の葉っぱを取ってくる。

 

「さて、戦う前に幾つか確認をしておきたいんですがよろしいでしょうか?」

 

「なによ。負けた時の言い訳なら後で聞いてあげるわよ」

 

「いや、そうじゃなくて……ボーダーの機械に繋げて擬似的に何度も戦える事が出来るこの装置、僕達の持つクラスカードに接続する事が出来るのか気になったんですよ。修達が帰ってきたら特別訓練ははじまりますけど、このやり直しが出来るシステムが無いと……秒で訓練が終わるかもしれないんです」

 

 いや、ホントに気になったんですよ。

 クラスカードはトリガーの一種になっているけどもボーダーのやり直しが出来るシステムとくっつける事が出来るかどうか気になった。もし出来ないとなればそれこそ秒で終わる可能性がある。修達にいい経験値を得てもらう為には何回も繰り返してもらわないと困る。

 

「だったら試してみなさい」

 

「ええ……と言いたいところなんですけどね」

 

「なによ、まだ問題があるわけ?」

 

「……果たして貴方が僕を傷付ける事が出来るでしょうか」

 

 真空パックに詰められた菩薩樹の葉を手にしてセイバーのクラスカードを起動する。

 すると急激に髪の毛は腰の辺りにまで伸びていき背中に自分の体格よりも大きな大剣を背負う……さて、7割ぐらいの確率で成功するので失敗しないでくれという僕の祈りは通じてくれた様だね。

 

「前とは別の姿ね」

 

「ええ……彼もまた大英雄の名に相応しい英雄です」

 

 前の仮面セイバー検非違使とは異なる姿になると小南パイセンの雰囲気が変わった。

 アホの子のチョロインではないボーダーで1番強いと名乗るだけの実力者の風格を漂わせる。

 

「とりまるから無事に仮想訓練モードと繋がってるって連絡があったわ」

 

「それは良かった……これでもう思い残す事はない」

 

 トリオン切れとかの概念は消失した。

 大剣を両手で握ると小南さんは双月を振りかぶってくるのだけれど僕は気にする事はなく剣を……バルムンクを両手で持つ

 

「もらった!」

 

 素早く移動し、脇腹目掛けて斬り込む小南さん。

 その動きに迷いはなく洗練されたものがありこれが普通の人だったらもう倒されていただろう……ただ今の僕は普通の人じゃない。英雄と呼ばれる人類の代表の力を手にしている。

 

「……嘘!?」

 

「なにかしましたか?」

 

 小南さんから攻撃は受けた。この事実は変わりはない。

 今の一撃が公式なランク戦でも点数となる一撃だったがそんな事は知ったことじゃないと僕は剣を振り下ろすと双月で受け止めるけれど僕の持っている大剣の方が大きく重く、小南さんは吹き飛ばされるが空中で体勢を立て直す

 

「……」

 

 攻撃は確かに当たったが全くと言ってダメージになっていない。

 普通の人ならば攻撃そのものが当たっていないと勘違いするケースが多いが流石はそのの大ベテラン。攻撃は確かに当たっている事を認めて僕が何をしてくるのかを読もうとしている。

 

「どうしました……ボーダー最強はこんなものですか?」

 

 だから思考を乱す挑発をしてみる。

 戦闘中は普段と大きく異なる為に乗っては来ない。まぁ、ここで簡単に乗ってくるならば取るに足らない雑魚と同じ。

 

「ヒント、必要でしょうか?」

 

「いらないわよ、そんなの!」

 

「そうですか?今、困っているんですよね……なんで攻撃が通じないかを」

 

「っ!」

 

 小南さんは攻めてくる。双月のコネクターを繋げて巨大な斧にしてこずに手数で攻めてこようとするので僕はその攻撃を適度に流す。

 時折胸や腕に双月の刃が届くけれどコレはわざとやっている。避けようと思えば防ごうと思えば防ぐ事が出来るが敢えてせずに攻撃が当たっているという感触を小南さんに与えて戸惑わせる。

 小南さんも攻撃は確かに当たっているというのに全くといってダメージを受けていない事に困惑をする……

 

「どうしました……コレで終わりですか?」

 

「ナメんじゃ、ないわよ!!コネクター接続!!」

 

 小南さんは双月をくっつけて一本の巨大な斧に切り替える。

 僕の不死身のシステムはまだ分かっていない。攻撃が通じていないのだから別の手を用いてのアプローチをしてみると言ったところかな?

 小南さんは巨大な斧になった双月を大きく振りかぶるので僕は手に持っている大剣を手放して小南さんの一撃を受け止める

 

「ふん!!」

 

「!?」

 

 一本の巨大な斧になった双月の渾身の一撃を以てしてもダメージを与える事が出来ていない。

 それどころか体を張って真正面から受け止められたのでありえないといった表情を浮かび上げている。

 

「小南さん僕は今、異常なまでに頑丈になっているんですよ。ある一定以下の威力の攻撃を問答無用で防いで一定以上の威力の攻撃を受けたとしてもある一定の威力分差し引いているんです」

 

「な、なによそれチートじゃない!!」

 

「ええ、チートですよ……ただ忘れてもらったら困ります。僕達サーヴァントが使っている力はこの世界の英雄達の力でチートなんですよ」

 

 押さえていた双月を手放して、一旦バックステップを取ると床に突き刺さった剣を手に取る。

 

「そろそろ終わりにさせていただきますね」

 

 剣を両手で持つと剣から眩い光が放たれる。

 小南さんは直ぐに冷静になり双月で斬りに掛かるがダメージは一切無い。

 

「盛者必衰!邪悪なる竜は失墜し、世界は今落陽に至り撃ち落とす幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「っちょ、ビーム!?」

 

 大剣……バルムンクから眩いビームの様なものが放出される。

 小南さんは直ぐにシールドを展開するのだがそんな物は効果は無いとパリンとあっさりと砕け散り、バルムンクの砲撃に飲み込まれた。

 

「さて、問題。あらゆる攻撃が効かず、バルムンクという剣を使った有名な剣士と言えば誰でしょう?」

 

 バルムンクの砲撃に飲み込まれてもコレは仮想訓練なのであっさりと小南さんは復活する。

 全身を吹き飛ばされていたので再生に若干時間がかかっていたけれどもバルムンクを受けて普通に生き残れる人はいない、当然の結果だ。

 

「バルムンク……外国人の剣士……世界史でそんな人居たかしら?」

 

「とりまるさんと通話が出来るでしょう。インターネットで検索すれば一発でヒットしますよ」

 

「……嫌よ!とりまるとインターネットに頼ったらなんか負けな気がするわ!」

 

「そうは言いますが正しい手順を踏まなければ貴方は今の僕を倒すことは出来ません……この姿の僕を倒したいのなら風刃を持ってくるのが1番です。意外とこの姿と相性が最悪なんですよ」

 

 僕には迅のサイドエフェクトが効かないから迅もこの姿の僕を倒すのに一苦労すると思う。

 と言っても背後に壁が無ければこの姿を風刃で倒すことが出来ないけれども……まぁ、そこは相性ゲーというところ

 

「風刃なら倒せる……つまりあんた、どっかに弱点があるわけね」

 

「ええ、ありますよ」

 

 うっかりと情報を溢してしまう。小南さんはいいことを聞いたとコネクターに接続していた双月を元に戻して二刀流になる。

 何処かにあるであろう僕の弱点を探すつもりだろう……甘いな、甘すぎる。

 

「ここではトリオンが無制限に使えるんだ……容赦はしない。幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 いや、ホントにね……ホントに申し訳ないと思っているんだ。

 自分で挑発しておいてはなんだけどもコレってただのいじめになる。虹村さんがコレに参戦してたらマジでなにをしてたか分からないよ。あの人、数km先から狙撃できる弓兵だからな。

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 容赦はしない。慈悲というものは捨ててきた。

 トリオン残量を一切気にしなくていいのでとにかくバルムンク……暴力、やはり暴力。トリオンに物を言わせた圧倒的な暴力に訴えかけた宝具の暴力ゲーこそが勝利の証だ。小南さんが何かを仕掛ける前に、高速で移動する前に、全てをバルムンクのビームで飲み込む。

 

「ちょっ、あん」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 なにかを言っているけれども気にせずバルムンク。

 小南さんはバルムンクのビームに飲み込まれては再生する。そして僕が再び飲み込む

 

「やめ──」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

「……グス、うわぁああああ!!そこまでやらなくたっ」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

 僕は、貴女が、負けを認めて、諦めるまで、バルムンクを、一切、やめない。

 不死身の英雄ことジークフリートの力を思う存分に振るっていると段々と気持ちが昂ぶってきて涙を流している小南さんに思わずバルムンクする。

 

『ストップ!ストップ!小南先輩が泣いているからもうやめろ!!』

 

 この対決を観戦していたとりまるさんが止めに入るまでバルムンクは雄叫びをあげた。




クラス:セイバー

真名:ジークフリート

トリオン 20
攻撃 27
防御・支援 53
機動 11
技術 22
射程 5
指揮 0
特殊戦術 15

TOTAL 153

風刃で挑めばワンチャン倒せることが出来る英雄です。逆に言えば風刃以外だとボーダーでは倒せないです。



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界境防衛機関御前試合人間兵器七番勝負 1番目 セイバー

 

「コシマエ、何やってんだ?」

 

「いや、ちょっと調子に乗りすぎましてね」

 

【私は弱いものイジメをした馬鹿な男です】とプラカードをぶら下げ、正座をしている。

 ランク戦を終えて帰ってきた修がなにやってんだ?と首を傾げているので適当にはぐらかす。小南パイセンをボコボコに心を砕くのは楽しかったけどもやり過ぎであるととりまるさんから注意を受けた。因みにだが虹村さんは虚栄の空中庭園で色々とやっていてこの場にはいない。

 

「あんなの卑怯じゃない」

 

「そう言われましてもサーヴァントは皆チートで僕に至っては序列7位の最下位で最弱なんですけどね」

 

「あんたで最弱って逆に最強はどんなのよ!!」

 

「………………まぁ、チートですよ」

 

 小南パイセンは僕に対して苦手意識を持ってしまった。残念だよ。

 僕より序列も実力も上の人はどんな人なのかと聞かれたので返事に困る。他の人が如何にチートなのかは口に出来ないの。僕って口下手だからさ。

 

「大体小南パイセンは烏丸さんに答えを聞けばよかったんですよ。そうすれば僕を攻略する糸口ぐらい見つける事が出来たのに」

 

「むっ、コシマエ、コナミせんぱいをボコボコにしたのか?」

 

「ああ……烏丸さん、答えは分かりますか?バルムンクという剣を使う不死身の剣士は誰なのか」

 

 小南パイセンがボコボコにされているのを見ていたとりまるさん。

 インターネットを用いればあっという間に正体を知ることが出来る存在、不死身の竜殺し(ドラゴンスレイヤー)は誰なのか?

 

「ジークフリートか?」

 

「はい、正解です」

 

「じーくふりーと?誰だ、そいつは」

 

「ドラゴンというファンタジーのド定番である魔物でもあり神獣でもある存在を撃ち倒した北欧に伝わる大英雄で殺したドラゴンの返り血を浴びた結果不死身になった竜殺しの代名詞みたいな人間です」

 

 詳しくはwikiを調べてくれと遊真に勧めておく。

 

「小南をボコボコにしたのか……」

 

 この場(玉狛支部)にやってきた忍田本部長はボソリと呟く。

 ボーダーの頂点に立つと言っても過言ではない小南パイセンをボコボコにする事に成功した……それだけでとんでもない事である。

 

「小南さんが意地を張らなければこんな結果にはなりませんでしたよ」

 

 小南パイセンには僕がジークフリートになったことを、ヒントを与えた。

 バルムンクという時点で答えを言っているみたいなもので小南パイセンは背中の菩薩樹の葉の部分を狙いさえすればダメージを与える事が出来たんだ。ただジークフリートがチート過ぎた、小南パイセンは充分な強さを持っている。

 

「それで今回は誰が出てくるんですか?」

 

 小南パイセンはさておき今回は誰がこの特別訓練に参加するか尋ねる。

 と言っても誰が参加するのかは分かっている

 

「小南をボコボコにだと……面白いじゃねえか」

 

 個人総合1位の太刀川さん

 

「じーくふりーと、レプリカ後で調べてくれ」

 

『了解した』

 

 入隊試験新記録を叩き出した遊真

 

「ホントに僕が参加していいのか?」

 

「弾系のトリガーを使わなきゃOKだよ」

 

 今日が初のランク戦で一気にポイントを稼いだ新規精鋭の部隊の隊長である修

 

「ジークフリートってアレだろ。拳銃みたいな見た目で霊力を高める奴だろ」

 

 槍バカこと米屋さん、そして忍田本部長の合計5名である。

 本来ならば小南パイセンもここで挑む予定だったけども鼻っ柱を叩きおってしまったので今回は不参加である。

 

「では改めまして界境防衛機関御前試合人間兵器七番勝負にようこそ、今回の道先案内人を務めるコシマエだ。この業界ではコシマエで通っているので決して本名で呼ばないでくださいね」

 

「おぅ、分かった……で、コシマエ、さっさと勝負してくれよ」

 

 オレはバトルをしたいんだよと血を滾らせる太刀川さん。

 

「僕は戦いませんよ」

 

「は?どういうことだ?」

 

「今回から行われる界境防衛機関御前試合人間兵器七番勝負の対戦相手は僕達サーヴァントじゃありません」

 

「君達が相手ではないとするのならばいったい誰が……」

 

 聞いていた話と違うと言いたげな太刀川さんと忍田本部長。

 まぁ、まだ何も詳しい事は説明をしていないのでとりあえずは仮想訓練を行う事が出来る訓練室に入るとセイバーのクラスカードを取り出した。

 

「我々サーヴァントが用いるクラスカードは色々な使い方があります。例えば英雄の力を使う事、英雄の武器を使ったり英雄の力を身に纏ったりと色々な用途があり大まかに分けると3つ、1つは大規模侵攻で僕達が使った英雄を再現したトリオン体に換装すること、2つ目は英雄の武器を取り出す限定召喚……そして今から3つ目の使い方をします」

 

「3つ目の使い方?」

 

「え〜と……何処だったけな」

 

 懐に手を入れてメモ帳を取り出す。

 何処のページに記載していたっけとメモ帳のページをパラパラと捲ると目当てのメモが書かれているページが開けたのでクラスカードを地面に置いた。

 

「え〜ちょっと黙ってて見ててくださいね、これ結構面倒な事なので……素に銀と鉄、礎に石の契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て王国は至る三叉路に循環せよ」

 

「カードが光り出した!?」

 

閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、されど汝の魂の宿りし剣は悪鬼羅刹をも切り裂く。我は全てを切り裂きし者なり、汝我の剣であり鞘でもある。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 Fateのサーヴァントの召喚フル詠唱+αをするとカードが眩く光を放つ。

 ここにいる一同は眩く光り出すクラスカードに視界を奪われるのだが段々と眩い光を放つクラスカードの光は人の形になり変わる。

 

「セイバー、やぎ─」

 

「ストップ!!」

 

 和服姿の時代劇から飛び出したかと思わせるようなお爺さんが喋ろうとしたので黙らせる。

 むっ!とお爺さんは警戒心を強めるがなにやらワケアリだと察してくれたのか喋るのを止める。

 

「……はっ、カードが人間になった!?」

 

 イマイチ状況が飲み込む事が出来ていない忍田本部長は頭が少し冷静になった。

 カードがお爺さんに変化をした事に驚き、太刀川さん達もなにが起きているのか理解する事が出来たが状況の説明を僕に求めてくる。

 

「クラスカードの最後の使い方はそのクラスに適応する英雄を模したトリオン兵の使い魔を召喚する……凄く分かりやすく言えば貴方達が相手にするのは僕達世界界賊サーヴァントじゃない、歴史上の偉人、神話や伝承の英雄達……そしてこの御方こそが今回の貴方達の対戦相手だ」

 

「ふむ……どうやらそなたらと戦わなければならない様だな」

 

「……剣の稽古をつけてやってください」

 

「主殿、我が真名をご存知ならば我が逸話も知らぬ訳ではあるまい。我が剣は御留流……とはいえ日本という1つの国に統一された今では無用なものか」

 

「ああ、その辺りなら大丈夫ですよ。遊真、修の首を撥ねて」

 

「了解した」

 

「え、っちょ」

 

 修の首を切り落とす遊真。

 突然の出来事に修は対応しきれず呼び出したセイバーは何をしていると言いたげな顔で睨んでくるのだが今居るこの部屋は仮想空間での訓練をする事が出来る部屋で致命傷になる傷を受けたとしても即座に無かった事に出来る。

 現に首を撥ねられた修の首はあっさりと元に戻る。

 

「この部屋では貴方の子の様な事は起きない……そして彼等は日本をいや、地球を代表して異世界からの侵略者から地球を守る組織の人間です。貴方との実戦経験を積めば必ず強くなれる」

 

「……ふぅ、分かり申した。この場で彼等に剣を指南しよう」

 

「はい、話をつける事が出来ましたので後は頑張ってくださいね」

 

 セイバーは首を縦に振ってくれた。もしかしたら嫌だと言う可能性もあったが、この仮想訓練が決め手になったな。

 長々とやってきたがやっと戦闘に入る事が出来ると太刀川さんは笑みを浮かび上げて弧月を鞘から抜いた。

 

「コシマエの話がマジだったらあんた歴史上の偉人の様だが……江戸時代の人間か?」

 

「さて、我が真名は主に語るべからずと言われている。我が真名を当てるのも汝らに与えられた課題ではないのだろうか?」

 

「その通り。セイバーの真名を当てるのも貴方達の仕事……未知の相手が何者なのかを調べるのも戦いをする上では必要な事です」

 

「歴史……頭を使うのは苦手なんだけどな……けど、戦う事は滅茶苦茶得意だぜ!!」

 

 太刀川さんは弧月を振るうとセイバーは鞘から刀を抜いた。

 目にも止まらぬ速さでセイバーは太刀川さんを切り倒す……ボーダートップと呼ばれている人でも本物の侍、武士を相手にするのははじめてか……

 

「ほら、なに突っ立って見てるんだ。コレは1対1の真剣勝負じゃない実戦を想定した戦いなんだぞ、セイバーと戦うんだ」

 

「お、おう!時代劇で出てきそうな爺さんだが見た目だけじゃなく剣の腕も本物みたいだな」

 

 米屋さんは意識を現実に戻して弧月(槍)を手にする。

 遊真もそれに続くかの様にセイバーに襲いかかり修はレイガストを手に止まっていた。どうすればいいのか判断に悩んでいる。今回は弾系のトリガーの使用は禁止しているので上手くフォローする事が出来ていない。近距離戦闘が上手く出来ていない証拠だな。

 

「もらった」

 

「ふ、甘いな」

 

 太刀川さんが、米屋さんが、遊真がセイバーに襲いかかるがそれでもセイバーの防御は崩す事は出来ない。

 純粋な剣の腕が太刀川さん達を遥かに凌駕している。忍田本部長も襲いかかるのだが一掃されてしまう。

 

「いったい誰なんだ、あの剣士は」

 

「それを知るのも貴方達の課題ですよ。未知の敵がわざわざ自分の能力を解説してくれると思ったら大間違いです」

 

 あまりにも強いセイバーの名前を気にする忍田本部長。

 僕に答えを求めている様だけれど僕がはいそうですかと答えを教えると思ったら大間違いだ。

 

「見た目からして江戸時代以降の日本の英雄の様だが……これほどの腕前だ、相当高名な人に違いはない」

 

「やべぇ、忍田さんより強いぞこの爺さん」

 

「擬似的な仮想訓練を行う事で実戦経験を積んでいるが……青いな。お主程の腕前の実力者は戦国の世には江戸の始まりにはゴロゴロと居た」

 

「おいおい、どうなってんだよ江戸時代は」

 

 圧倒的な強さでセイバーは太刀川さん達を叩きのめす。

 太刀川さんは決して弱くはないのだがコレばかりは相手が悪い……

 

「さて、流石になにも教えずにただひたすらにボコボコにされているのを見ていると心苦しいからね。ヒントをあげよう……その人はかの有名な徳川家光に剣術無双と言われている」

 

「それの何処が……ヒントなんだ!!」

 

「いやぁ、ぶっちゃけ真名が分かったところで何処かに弱点があるタイプの英雄じゃないんだよ」

 

 圧倒的な強さを見せつけるセイバー。

 とにかく1手1手に迷いがなく素早い動きで翻弄しており太刀川さん達も警戒心を最大にまで高めるがその網をかいくぐりセイバーは太刀川さん達をあっという間に切り捨てる。

 

「ヤバいな……この爺さん、おれの全部より上だ」

 

 遊真は有吾さんに鍛えられた6年間と1人で戦い抜いた3年間の重みがあるがセイバーは遊真の重みを遥かに上回っている。

 次元が違う……このセイバーは本物の戦国時代と江戸時代を生き抜いた一騎当千の猛者である。近代史でも稀に見る圧倒的な強さを持っている剣聖の領域に足を踏み入れている。ホントに神秘も薄れている筈の時代の人間なのかと思わず疑ってしまう。

 

「あ、言い忘れたけどもセイバーは生前に生身でその動きが出来ていたからな」

 

「はぁ!?嘘だろ!!」

 

「いやいや、嘘じゃないですよ。生身でそれなんですよ」

 

 ありえないと言いたげな米屋さんだが江戸時代や戦国時代にはコレぐらいの動きをする事が出来る猛者がいる。

 そもそもで整備されていない獣道を駆け抜けて東京とか九州とか京都とかを数日間で行き来していた時点で化け物じみた脚力を持っているぞ江戸時代の日本人は。飛脚の脚力冗談抜きで半端ないよ。

 

「参る。我が心は不動。しかして自由にあらねばならぬ。即ち是これ、無念無想の境地なり。剣術無双・剣禅一如(けんじゅつむそう・けんぜんいちにょ)

 

「っ!!」

 

 一瞬の内に太刀川さんは切り裂かれる。

 ……さて、どうするべきか。剣の腕では遥かにセイバーが上で忍田本部長達は全くと言って敵わない。多対一で挑んではいるものの全くと言って敵う気配はない。シンプルにセイバーが素早すぎて反応がしきれていない。

 

「ふむ、もうよい」

 

「あ?やめるって言うのか?」

 

「此度は主に命じられたのはそなたらの剣の術を教える事。そなたらの剣は何度も失敗を経験して得たもの……負けは死に繋がる戦とはまた違う剣で面白いが、覇気というものは感じられない……負けても次がある、そういった考えを持ってしまっている」

 

「あ〜……確かにありそうですね」

 

 倒されたとしても緊急脱出機能がある。負けたとしても復活して何度でも挑戦することが出来る。

 訓練としてはベストなのかもしれないが気の緩みの様なものがある……こっちの世界の戦争は負けても次があるといった可能性は少ない。10本勝負の内に2本取られても8本取り返せば勝ったという計算をするところもボーダーにはある……。

 

「そこの眼鏡の少年、他の4人と比べて全体的に動きがぎこちない……剣の種類も違うようだ。片手で剣を使うのならば、もっと持ち方を変えたり動きを洗練させた方がいい」

 

 5人の中で最も動きが悪かった修に剣の指南をしてもらう。

 

「剣術指南役に剣を教わるとか修、滅茶苦茶高待遇だな」

 

「剣術指南役……まさか柳生か?」

 

「おや、流石に分かりますか」

 

 ポロリと零したワードに忍田本部長は反応を示す。

 剣術指南役で柳生だと分かるとは流石と言うべきだが……まだ答えには辿り着いていない。

 

「柳生って言うとあの柳生十兵衛か?眼帯をつけてねえぞ」

 

「後6刀流でもねえぞ」

 

 太刀川さん惜しい、そして米屋さん戦国BASARAの見過ぎです。米屋さんが言ってるのは伊達政宗だよ。

 

「柳生十兵衛がどうして眼帯になっているのか知ってますか?」

 

「そりゃあ……あれ、なんでだ?」

 

 答えにほぼほぼ辿り着いたので導く事にした。

 柳生十兵衛が眼帯な理由を尋ねてみればなんでだと太刀川さんは首を傾げる。忍田本部長もなんで柳生十兵衛が眼帯を付けているのか、誰が柳生十兵衛の目を奪ったのかは知らない。眼帯キャラと言えば柳生十兵衛か伊達政宗のどちらかだが、肝心の眼帯になった理由を知らない。

 

「伊達政宗の眼帯は病気で失明したからとの噂ですが柳生十兵衛の眼帯は違います父である柳生但馬守宗矩との稽古中に目をやってしまったんです……」

 

「柳生但馬守宗矩……それがあの老人の正体なのか?」

 

「左様。我が真名は柳生但馬守宗矩、かの徳川剣術指南役であり我が剣の流派は御留流である柳生新陰流なり」

 

 真名を教えてあげるとセイバーは頷く。

 

「ヤギュウってそんなにすごいのか?」

 

「殿様……国の重鎮に剣を教えたり色々とサポートしていたりしていたかーなり偉い人だよ」

 

 柳生をイマイチ理解できていない遊真は首を傾げる。

 まぁ、柳生といえば柳生十兵衛の方が圧倒的なまでに知名度が高い。柳生の爺様の方は知名度は微妙である……が、剣の腕前は一級品どころの騒ぎじゃない。正真正銘の武士、侍である。

 

「乱戦ばかりでは芸は無い、次は1人ずつかかってくるがいい」

 

「じゃあ、トップバッターはオレって事で」

 

 多対1を止めて1対1を提案するセイバー。

 米屋さんがセイバーに挑みに行くものの全くと言って相手にならない

 

「どうですか?サーヴァントの恐ろしさは……いや、英霊達の強さは」

 

「……まさかここまでとは思いもしなかった」

 

 もうちょっと互角に戦う事が出来ると思っていた忍田本部長。

 現在弟子である太刀川さんがセイバーである柳生の爺さんと戦ってはいるものの全くといって倒すことが出来ない。

 

「言っときますけど、こんなのは序ノ口……序列7位最弱のセイバーで他にも恐ろしい上が居るんだよ……ボーダーの傘下にするとか同盟と言う名の主従関係なんてくだらない事は考えないでくださいね。流石に地下に眠っている(マザー)トリガーごとぶっ壊してボーダーに成り代わるのは骨が折れますから」

 

「っ、どうしてそれを」

 

「僕達の情報網はトップシークレットなので秘密です……さぁ、忍田本部長、思う存分にズタボロになってくださいよ」

 

 ボーダーの中でも知る者は少ない機密情報をポロリと零すけど気にしない、気にしない。

 どうやって母トリガーをゲットしたか知ったって聞かれると原作知識なんだけども……まぁ、いいか。太刀川さんもズタボロにされたので忍田本部長はセイバーこと柳生の爺様に挑みにいくのだがあっさりと返り討ちにあう。

 

「くそっ、水みたいな感じで全然動きが掴めねえな……タイマンでも多対1でも勝てないとか黒トリガーも顔負けじゃねえか」

 

「HAHAHAHA、忘れちゃいけない。この国の御先祖様達はコレが標準だって事をね」

 

 米屋さんは柳生の爺様に挑んだ感想を呟く。

 昔の日本人、こんなチートの塊なんだよ。とんでもない化け物の集まり……しかし江戸時代であり、平安時代はもっとエグい。





クラス:セイバー

真名:柳生但馬守宗矩

トリオン 13
攻撃 19
防御・支援 12
機動 24
技術 30
射程 1
指揮 11
特殊戦術 1

TOTAL 111


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千佳ちゃんの笑顔を曇らせたいんだ!

 

 結局のところ柳生からは誰一人1本も取れなかった。

 まぁ、それも無理もないと言う話だ。向こうは基本的には生身の肉体でハッスルしていた人達である。

 

「連立方程式は1歩ずつ解いていくんです……例えばここはですね」

 

 激闘が繰り広げられた翌日のボーダー玉狛支部に深雪は居た。

 くだらない事を企んでいると言うわけではない。暴走する事はあれども秩序を持った善人である深雪は理不尽は普通に嫌いなのである。じゃあ、なにをしてるの?と聞かれれば勉強である。

 

 深雪の実年齢は100をとうの昔の超えているババアである。この女、色々とクソみたいな部分はあるけれども根は真面目で善人である。

 学業的な意味では何処の誰とは言わないけれどもところてん形式で英単語が抜けていく転生者と異なり英語どころかベトナム語もペラペラで複数の言語を喋れる。

 

「う〜頭が痛いッス……」

 

「諦めたらダメですよ……高校に行く気があるのならばこの辺をめんどくさいと言ってはいけません……遊真さん、逃げないでくださいね」

 

「なんでなんでこんなにも文字があるんだ。50個あれば充分じゃん……」

 

「まだ1年生のレベルだぞ……最低限の読み書きは出来るようにならないと」

 

 勉強をしているのは遊真、修、千佳、そして千佳の友達のC級隊員である出穂である。

 なんで勉強しているかと聞かれれば……間もなくテストである。忘れちゃいけないが作中の時間は受験の成果の時期、2月である。中学3年生である遊真と修はボーダー推薦という闇ルートで三門第一高校に入学する事が決まっている。コシマエはアレでも学年1の成績をキープしており推薦で三門第一高校に入学する予定である。じゃあ、2年生の千佳と出穂はというと普通にテストシーズンである。

 

「オサム、こんな事をしてていいのか?ランク戦対策を」

 

「文武両道……特にボーダー推薦で入学する以上はそれを理由に成績を落としたりしたらいけない」

 

「真面目なメガネが仇となった……ガク」

 

「意識を失うフリをしないでくださいよ」

 

 苦手な勉強をしているので遊真は頭から煙を上げる。

 尚、彼がやっているのは小学生1年生の漢字のドリルである。ひらがなとカタカナはなんとか極めたけれども、まだまだ漢字は拙い。1からのスタートであり修はそんな遊真にマンツーマンでレッスンをしている。無理だと机に顔を伏せている遊真に少しだけ深雪は呆れる。

 

「でも、メガネ先輩ホントにいいんすか?向こうの世界に行くって啖呵切ったんだからランク戦に備えた方が」

 

「そうしたいんだけど……本部長に文武両道で頼むって言われたんだ」

 

 昨日、セイバーこと柳生の爺様にボーダーの精鋭達はボコボコにされた。

 上には上がいるというか歴史上の偉人半端じゃねえなと再認識したりしているのだが1位のアゴヒゲがレポートを溜め込んでる事が発覚した。公開遠征という啖呵を切ったからにはA級1位である太刀川隊は遠征に行く候補者である。そんな候補者が留年をしては洒落にならない。

 

 忍田本部長は当然の如く怒り、今頃は風間の元でレポートをしているだろう。

 そして忍田本部長と太刀川のやり取りを見て更には忍田本部長から出来れば文武両道、赤点を取らないレベルに成績を維持しておいてくれと言われていた。真面目なメガネな彼は勉強にも勤しむ。と言っても修自身は自分から進んで勉強する事が出来るタイプの人間である。

 

「でも、深雪先輩大丈夫なんスか?」

 

「なにがですか?」

 

「ウチ等もテストシーズンですけど、深雪先輩もテストシーズンじゃないスか……教えてくれるのはありがたいッスけど……」

 

「大丈夫です、テストなんて授業を真面目に聞いておけば赤点なんてありえないんですよ」

 

「うわ、頭良い人の発言だ!」

 

 自分のことを紳士淑女だなんだと言っているだけあって深雪は才色兼備である。

 基本的にはテストなんて授業を真面目に聞いておけば赤点なんて絶対に取ることはないぐらいには素で賢いのである。頭はロクな事に使わないけれども。

 

「それにですね……ホントに大変なのは私じゃないんですよ。雨取さんがとても大変なんです」

 

「チカ子は私より賢い、そりゃぶっちぎりってわけじゃないっすけど赤点を取るヤバい成績じゃないっすよ?」

 

「ええ……おや、もしかしてなにも知らないんですか?雨取さんが遠征に行きたいのは連れ去られた友達を救いたいと」

 

「チラリと聞いたことがあるけどなにが関係あるんすか?」

 

「……フッ……」

 

 周りの面々は普通に頭に?を浮かびあげている。

 深雪はなにが言いたいのかを理解していないことを理解している。そして例によってドブみたいな性格を発揮する深雪はこういう時に限って物凄いIQを発揮する。出穂は千佳が遠征目当てで探し人が居るというのを知っており、遊真と修は細かな事情を知っている……ならば曇らせるしか道は無い。

 

「雨取さん……雨取さんの友達が攫われたのは最初の侵攻ですか?」

 

「いえ……ボーダーが表に出てくるよりも前です」

 

「だったら尚更、勉強を頑張らなければならないじゃないです」

 

「学校の勉強と遠征がどう繋がるんだ?」

 

「遊真さん、嫌ですね…………大規模な侵攻よりも前という事は最低でも5年間、地球に居なかった。雨取さんは14歳、14ー5は9歳……最高で9歳になります。私は拉致をされたことがないので向こうの世界で具体的になにをしているかは知りませんが…………文化どころか文明すら大きく異なる世界で5年以上過ごしているんですよ?……9歳つまりは小学生3年生の勉強までしか出来ていませんよ」

 

「あ〜確かに言われてみればそうッスね。向こうの世界がどんな感じか知らないッスけど……日本の文字を数年も読んでないなら」

 

「ええ!そうです!日本語を忘れている可能性だってあるんです!!」

 

 ニチャアと深雪は笑みを浮かびあげる。

 言っている事はなにも間違いじゃない。5年以上日本のあれこれ触れていない可能性は普通にある。勉強というのは身に付くものもあれば身につかないものもある。小学生レベルの問題なら簡単に覚えられても中学生以降の問題を覚えられないのが良い一例である。

 

「玉狛第二が遠征の権利を手にし、向こうの世界を大冒険!そこで囚われの友を救うことが出来たとして、果たしてそれはホントの意味で救うことが出来たと言えるでしょうか?少なくともボーダーが誰かを助けたと言う情報は聞いていません!ボーダーは向こうの世界の遠征の成果として攫われた友達を祭り上げる!そうでなければボーダーの意義に関わるから……そして連れ去られた友達はどうなっているのか?向こうの世界は常時戦場に近い代物、連れ去られた人達は大抵は戦わされる!戦場があまりにも当たり前すぎて平穏な日本に耐えられないなんてこともあります!」

 

「ぁ…………ぅ…………」

 

「ボーダーが助けた人をどうするのか?もしかしたら使える兵士だから機密情報を多く持っているからボーダーの手元に置くかもしれない。普通の人として生き返る事が出来ない……ボーダーの傀儡になるかもしれない!でも雨取さんは挫けてはいけませんよ!文化や文明が大きく異なる人間になっていてもそれは貴方の友達である事には変わりません!ゆっくりと受け入れるんです!」

 

 ボーダーは今のところは誰かを助けたと言う成果は聞いたことが無い。

 仮に過去に連れ去られた人達を助けることに成功したとして……果たして元の生活に戻ることが出来るのか?その答えはまだ分からないが、少なくともボーダーはボーダーという組織にとって有益な存在として帰還者を祀り上げるのは確かだろう。

 

「知っていますか?外国では昆虫を普通に食べる。おっと、日本でもイナゴの佃煮がありましたね。もし虫を食べたりしていても受け入れるんですよね。小学生はとても大事な期間です、個人の人格や信念等を作り上げる大事な期間でそんな期間を戦場に立って戦っていたとあるならばきっと倫理観も狂っています。雨取さんはカラスを狩ってはいけない等を1から学ばせなければなりません!」

 

 深雪の言っている事は想像上の事だ。想像上の事だがありえないと否定する事が出来ない代物だ。

 千佳はマイナスな事を考える。

 

「向こうの世界は人を殺すのも当たり前で、私はもう人殺しだから貴女に関わる資格が無いと必死になって差し伸べた手が弾かれるかも」

 

「ぁ……そんなこと、は……」

 

「1%でも可能性があるならば否定は出来ません」

 

 必死になって手を伸ばせば助けることが出来ると千佳は信じている。

 しかしその手を拒まれる。自分は人殺しだからという極々普通な理由で拒まれる可能性があり……千佳の笑顔が曇る。そんな事は無いと否定したかったが0と言い切れる自信は無い。むしろその可能性があるんじゃないのかなと言う思いが何処かにある。

 

 深雪はそれを見て興奮する。

 やはり尊い笑顔を曇らせるのは最高である。純粋で真っ直ぐな気持ちを持った人間の心を真正面から正論をぶつけて笑顔を曇らせる事は最高である。蛇喰深雪という女は秩序を持った善人であるが他人の笑顔を曇らせたり破滅フラグに叩き落とす事により快楽を得ているクソである。

 

 千佳は目の焦点が合わない。

 今まで助けることだけ考えていたがもしかしたら助けの手を拒まれると言うのを考えた事が無かった。1%でも可能性があるならば助けたい見つけたいという思いがあり、深雪というクソアマはその笑顔を曇らせたい。この女、コレで秩序を持った善人である。何処ぞの名無しの権兵衛は秩序を持った悪人とのことだがどっちが善悪か分からねえ。

 

「大丈夫!きっとボーダーがなんとかしてくれる!向こうの世界は最悪だったと奴隷の日々を嘘として語り──ゲフゴォ!?」

 

「お前は…………なんでそんなアホな事しか出来ないんだ!」

 

「ギャアアアアアア!!痛い!痛い!100kg越えの握力で握らないでください!」

 

 そんなクソアマにブレーキ役こと虹村修蔵が腹パンをした後に顔面を握る。

 虹村は握力が100kgを越えているので冗談抜きで洒落にならないぐらいに痛いのだが虹村は手を休めない。

 

「雨取……先ずは受け入れる器になれ」

 

「器、ですか?」

 

「お前の友達を助けたいって思いはマジな筈だ……だったらこう言うんだ。一緒に家に帰ろうって」

 

「!」

 

「助けるんじゃない。長い長い迷子になっていた友達と一緒に家に帰るんだ。確かに深雪の言っている事は一種の正論で間違いとは言わねえ。お前が必死になって勉強して攫われた友達を助けた後に勉強を教える側の住人にならなきゃならねえ……助けるんだろ?」

 

「っ……はい!」

 

 虹村の言葉で前向きに切り替わる千佳。

 それを見た虹村は深雪の顔を握る力を緩めた。

 

「えっと…………誰スか?」

 

「俺はカルデア最高幹部の1人で序列4位の弓兵【アーチャー】の虹村修蔵だ」

 

「カルデアって事はコシマエ先輩とかの上司っすか?」

 

「まぁ、平たく言えばそうなる…………三雲、悪いなこの有害指定女を放置して」

 

「あ、いえ…………言っている事は間違いじゃないです………助けるとか見つけるとか考えてましたけどもそういうことは考えてませんでした……」

 

 深雪に一種の正論をぶつけられた修の顔も曇る。

 それを見た深雪はニヤリと笑みを浮かび上げており、この光景が物凄く見たかったんだと満足げでありそれを察している虹村はどうすべきかと考える。深雪は己の快楽の為だけに千佳の笑顔を曇らせた、結果的に修の笑顔までもが曇らせている。コレが理不尽なやり方ならば深雪にさらなる制裁がくだるのだが、深雪は一種の正論をぶつけているだけに過ぎない。

 

「あ〜……よし、詫びとして訓練に付き合ってやるよ」

 

「え?」

 

「この馬鹿がお前達に対して心を傷付けた……心の傷は早々に治せねえから代わりと言ってはなんだけどもお前のランク戦に付き合ってやる」

 

「その……お気持ちはありがたいんですけど自分達で考えるのも訓練の一環だって言われているんです」

 

 修達は初のランク戦デビューをしている。

 小南パイセンはとりまるはB級のチームの特色やアレコレを教えようとしたのだが隊長であるレイジが考えるのも訓練の1つだから答えをポンポン教えるなと言われている。その事に関して修は不満も異議も無い。自分が弱い人間だと分かっているから創意工夫をして戦わなければならないのは事実で自分で考えろと言う言葉はちゃんと飲み込んで納得している。

 

「分かってるよ、それぐらい……だから鍛えるだけにしておく」

 

 虹村はそう言うとアーチャーのクラスカードを取り出した。

 

「素に銀と鉄、礎に石の契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て王国は至る三叉路に循環せよ。閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、されど汝は投擲するもの狩人なり。我はあらゆる物を撃ち抜くもの。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

「カードが光った!?」

 

「ランダムとは言え私を召喚するとは、また奇特なマスターだね!我がクラスはアーチャー、真名は今のところ伏せさせてもらうとするか!」 

 

「あ〜……まぁ、当たりっちゃ当たりか」

 

 アーチャーのクラスカードを用いてサーヴァントを召喚した。

 召喚した老紳士のサーヴァントを見てマジかと虹村は少しだけしらける。

 

「どうなってるんスか?」

 

「深雪、説明しといてくれ……教授、最高4人最低1人のチームで最低でも3チーム、最大で4チームなチーム戦のFPSもどきの勝つ算術出来るか?」

 

「ほほぅ…………なるほど、小隊での戦闘で勝つ方法を覚えたいのか」

 

 呼び出したサーヴァントに頼み込む虹村。

 なにをしたいのかを察したアーチャーは目の前に居る修の瞳を見るのだが直ぐに困る。

 

「困ったねぇ……」

 

「なんかオサムに問題があるのか?」

 

「いやいや、こうも真っ直ぐな人間は早々に居ないんだよ……私が揺さぶっても意味は無さそうだ。その歳でそれだけの貫禄が出るとは中々だよ」

 

 修を見て困るアーチャー。

 修に悪の種でも植えてから色々と指導するかとロクでもない事を考えていたのだが、修は悪の種を植えることが出来ない善人で真面目な眼鏡である。

 

「貴方は……何者なんですか?」

 

 クラスカードで英霊を模したトリオン兵もどきを作れる事を修は知っている。

 何処となく不気味な雰囲気を醸し出している老紳士のアーチャーは何処の国の英霊なのか気になる。

 

「私の存在は秘密にしておいた方がいい……彼もそれを承知の上で私をあまり本に載せなかったのだから」

 

「本に載ってるんですか?」

 

「ああ、それなりに知っている名前だ……残念だがそれを教えれば厄介だからそうだね……さて、君は戦場で戦う上で大事なのはなにか?それは数値化することだ」

 

 修の疑問を軽くはぐらかしたと思えば修を鍛える。

 戦場で戦う上で大事なのは数値、無論データだけが絶対とは言わないが1つの数値化は大事である。

 

「何故数値化が大事なのかは分かるかね?」

 

「……具体的な指標が分かるからですか?」

 

「概ねその通りだ。2は1よりも大きいのはこの世の真理だ……具体的な数字があれば分かりやすいことこの上ない。ただしコレはチェスではじゃない、駒同士がぶつかり合って先にぶつかった駒が負けると言う不確定要素Xが絡んでいる。このXは常に変動する……君ならばどうする?」

 

「…………Xじゃない部分がより強い数字になればいいと思います」

 

「数学として見るのであればそれが正解だろう。しかしコレは数学で納まりきらない問題だ…………君が数字の3で君が敵対する人が7や8ならばどうあがいても勝つことが出来ない。せいぜい出来ても足止めくらい……足止めじゃダメなのだろう」

 

「はい……どうすれば」

 

「自分の3を4や5にするには時間が掛かる。イレギュラーな天才は時折居るというが君はイレギュラーな天才ではない、凡人に過ぎない。君1人と言うのならばここでチェックメイトだが君には仲間がいる。ならばどうすればいい」

 

「……9や8をぶつけます」

 

「それが妥当だがここにXが加わる。勿論君もXいや、君達の場合だとYが加わる……確実に勝てるという保証は無い。物事において0%は存在しないに等しい事だ…………足し算と掛け算、どちらが数字を大きくする事が出来る?」

 

「1と2以降は掛け算の方が大きくなりますけど」

 

「それが分かっているならよろしい。3である君が4になるのに時間が掛かる。そんな時間が存在しないというのならば3で足し算をするのでなく掛け算をする事を覚えればいい」

 

「それは……いったい……」

 

「そこが君に与えられた宿題だよ……ついでに言っておけば3で割る方法も学ぶ。XやYという不確定な要素がある以上はただ普通にやったとしても意味は無い。知は力だが力は知ではない」

 

 具体的になにをしろとは老紳士のアーチャーは一切言わない。

 ただ……修の意識を上手く切り替えるように誘導をする。真っ直ぐにやっても意味は無い、足し算と引き算だけが数学じゃない、XやYは勿論のこと掛け算や割り算も存在していると言う。

 

 遊真はこのおっさんは危険だなと認識している。

 嘘は何一つ言っておらず、自分自身も一部は納得と理解をする事が出来る事を言っている。ペンチメンタルな修を誘導している口の上手さは危険だなと感じる。だが、今の修は普通にやっても意味が無いのもまた事実なのである。

 

「以上の点を頭に叩き込みたまえ」

 

「はい」

 

「なんか……スゴく難しい事を話してたッスね」

 

「理論でなく理屈を話していましたからね……出穂さん、忘れてはいけませんよ。貴女も近い将来B級になるんですから考える知識は持っていないといけません」

 

「あたしに出来るかなぁ……」

 

 難しい事を話しているなと感じる出穂。虹村にボコられた深雪は復活しており、出穂も何れはその領域になるんだとだけ言っておく。

 老紳士のアーチャーは聞きたいことは無いのか?と尋ねればフィールドを選ぶ権利を持っているのは自分達だからどうすればいい?と聞くので基本的には自分の得意なフィールドで戦うことが優位だと言うのだが肝心の玉狛第二に得意なフィールドが無いのである。

 

 色々と老紳士のアーチャーは修に教授する。

 小南達がやってきてもそれは変わることはなく、勉強会は何処に行ったんだとなるのだが老紳士のアーチャーは具体的な答えは言わない。修にヒントだけを与えており、自分で考えるように誘導している。

 

「ありがとうございます」

 

「なにこれぐらいどうとでもない……真っ直ぐに歩くだけが成功法じゃない。それだけは頭に叩き込みたまえ」

 

「はい!」

 

「では私はサラバと行こう……出来ることならば悪巧みの際に呼び出してほしいかな」

 

「あんたをそれで呼び出したら洒落にならない事になるから無理だって」

 

 老紳士のアーチャーは光の粒子になって消えたと思えばアーチャーのクラスカードに戻った。

 

「……なんの英雄だったの?」

 

「犯罪界のナポレオン」

 

「犯罪者なの!?」

 

「かなり洒落にならないレベルでヤベえおっさんだよ…………」

 

 最後まで真名を告げる事が無かった老紳士のアーチャー。

 只者ならぬ雰囲気を醸し出しており小南は虹村に対して何者だったのか聞いたのだが具体的に何処の誰とは言わない。ただ犯罪者である事は確かであり小南は驚く。

 

「犯罪界のナポレオン、19世紀のロンドンの社会の闇とも言える数学者……具体的な名前は言わないぞ。気になるんだったらググれ」

 

「え〜っと、犯罪界のナポレオン…………はぁ!?」

 

「小南さん、誰かは秘密ですよ」

 

 犯罪界のナポレオンの異名で検索した小南パイセンは驚いた声を上げたのであった。




Qワールドトリガー作品で、転生者は迅の予知が効かない設定のモノがあったと思いますが
予知が効かない理屈とか説明できますか?
(サイドエフェクトは人間の機能の延長みたいで、カゲさんの様子や菊地原の髪からオンオフは出来無さそうですし
黒バスの赤司征十郎
トリコのココ
【シルヴァリオ・トリニティ】のギルベルト
などの例もありますし
迅の予知は、素粒子や電磁波などを無意識に認識して、野生の勘みたいな直感も含めて得たデータを演算して導いている可能性があったりして)


A サイドエフェクトは優れたトリオン能力を持った人間が他の臓器等を強化します。
  コシマエのサイドエフェクトを無効化するサイドエフェクトは優れたトリオン能力が人体に影響を及ぼす際に変化させないようにした抗体みたいなものです。毒があんまり効かない対毒とかのサイドエフェクトの一種で道具作成のスキルとコシマエの髪の毛や爪を素材にすればサイドエフェクトを無効化するお守りが作れます。


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食は最大の兵器である

 犯罪界のナポレオンであるとある英霊が修に火種を与えたらしい。

 色々とたまってた仕事を処理していたのでその現場に鉢合わせする事が出来なかったのが実に残念であるが例によって深雪はクソである。

 すわべんは僕と深雪が似ていると言っているが断じて違う。深雪は笑顔を曇らせたい、僕は欠陥がある正ヒロインよりも王道的なサブヒロインの方が素晴らしいと思っている。そこは履き違えてはいけないんだ。

 

「ふぅ〜やっぱり緊張するなぁ」

 

 ワールドトリガーの原作はここからランク戦と遠征選抜試験に入る。基本的には平和であり忙しいか暇かと聞かれれば割と暇なのである。

 

「そう緊張すんな。ガチャを引かせるだけだからな」

 

「自分の土俵ならまだしも相手の陣地でなにかするのは心に来るものがありますよ」

 

「そうか?」

 

「そういうものです……失礼しまーす」

 

 現在僕は虹村さんと一緒にボーダーの本部にやってきている。

 本日はランク戦を行わない日である。ボーダー隊員でない僕達はランク戦を行わないので来るのは色々と理由がある。

 

「お前達がカルデアの人間か…………聞いてたように若いな」

 

「ふっ、人を見かけで判断したらダメですよ…………東さん」

 

 ボーダーのとある一室に僕達はやって来た。そこには忍田本部長となにかとスゴい大学院生である東さんが居た。

 東さんはどうやら僕達カルデアの存在について知っている。この感じだと上層部からカルデアの存在を教えられたパターンかな?

 

「……俺の事も知ってるのか」

 

「まぁ、その気になれば未来とかも見れるので。自己紹介をします。僕は越前龍我、この業界ではコシマエの通り名でやっているのでくれぐれも仕事中は越前でなくコシマエと呼んでください。うっかり越前と呼んだら拗ねて無視する時がある。無論、その逆もです」

 

 東さんは自己紹介も全くしていないのに自分のことを知っていることに驚く。

 原作知識で色々と知っていると言うわけにはいかないので未来を見れると適当な事を言っておき今の僕のポリシーを言っておく。仕事中はコシマエなんだよ僕は。

 

「カルデア序列4位の弓兵、アーチャーの虹村……って言ってもピンと来ねえから一昨年の虹村で覚えといてくれ」

 

「一昨年?…………一昨年なにかあったか?」

 

「あれ、知らないんですか?虹村さんは走り高跳びと走り幅跳びの世界記録を持ってるんですよ?」

 

 僕に続いて虹村さんも挨拶をする。

 向こうの世界じゃ割と悪名高いけれどもこちらの世界では知名度は皆無に等しい。しかし虹村さんはバスケのU−19で日本を世界一に導くだけでなく陸上の走り幅跳びと走り高跳びの世界記録を手に入れている。割と知っている人は知っているんだが東さんと忍田本部長はピンと来ていない。

 

「そう、なのか……そっち系のニュースはあんまり見ないからな、悪いな」

 

「別にいいっすよ。俺の記録はそこまで自慢することが出来るものじゃねえんだから…………東さんは俺達をどう聞いている?」

 

「ボーダー以外に地球出身のトリガーを扱う組織が居た。ボーダーと正式に同盟を結んで、ランク戦がある日に合同演習を行う……色々と知っているが要点を纏めればそんな感じだ」

 

「まあ概ねあってる…………で、なんで東さんが居るんだ?」

 

「知っての通り次は公開遠征を行う…………次の公開遠征、私が遠征艇のリーダーを務める可能性が高い。私達が遠征に行っている際にこちらの世界が手薄になる。カルデア側が具体的にどの様な形で協力してくれるか定かではないが……私が居ない間の現場の指揮を頼もうと検討中でな」

 

「あ、じゃあ虹村さんを遠征に連れていきますか?色々と可能性が上がりますよ」

 

 東さんがここに居る理由を聞けばなんかおかしな答えが帰ってきたので爆弾をエキサイティングシュート!!

 次の公開遠征は過酷な旅になるのは確実であるので虹村さんを連れて行くかどうか打診してみる。

 

「お前、なにサラッと爆弾投下してんだよ!つか、俺リーダーだからな!」

 

「リーダーがなんだって言うんですか!皆、個人MCの番組を貰ってる中で島を開拓している。大野くんなんて船舶免許を取って徐々に徐々に」

 

「なんのリーダーの話をしてんだよ!」

 

 リーダーってカッコいいか不遇のどっちかじゃないか。

 一応は僕達を束ねるリーダーをやっている……いや、どっちなんだ?浦原さん、めんどくさいしエンジニアとして働きたいから虹村さんにリーダーをパスしてて、僕達は虹村さんがリーダーである事に関して不服は無い。普通に強いし賢くて理知的だから文句は無いんだよね。

 

「気持ちだけ受け取っとくよ」

 

「いやいや、東さん。虹村さんをナメちゃいけないですよ……虹村さんは戦争の概念をひっくり返すヤベえ物を持ってるんです」

 

「おまっ、それは基本的には言うなって浦原さんにも言われてるだろうが!!」

 

「別にいいじゃないですか…………虹村さんが居れば遠征におけるある問題点を殆ど解決出来るんですよ……いやぁ、マジでヤバいっすよ。近界民(ネイバー)がこの世界にはそんな物が存在してるのか!って黒トリガーを遠征に持ち込んで強奪に来るの間違いなしですよ…………アレはホントに反則だ……」

 

「遠征の問題点の解決……それはいったい」

 

「あ、聞きます?ぶっちゃけバレるとスゲえヤバいんですけどね……喋らないのを前提にしてくれるのなら」

 

「お前そういう事を言うやつに限って喋られるパターンなのを学習しろ…………確かにアレは戦争の概念をひっくり返すヤベえ物だけど」

 

「…………参考の為に聞いておきたい」

 

 虹村さんと僕がアレについて言っていると気になる東さんと忍田本部長。

 アレは正直な話、この世に存在して良いのか存在してはいけないのかよくわからない物であり管理を怠ればどの時代の世の中でも滅ぼす事が出来る危険な代物だ。

 

「俺達が使ってるトリガーは歴史上の偉人や神話の英雄なんかを模したトリオン体に換装するトリガーだ。聖剣エクスカリバーで有名なアーサー・ペンドラゴン、十二の試練を制覇して様々な武勲を立てたヘラクレスと色々な英雄からランダムに出てくる……触媒を使えばランダムでなく狙った英雄を出すことが出来るんだが…………アレはなぁ…………色々と反則なんだよなぁ………」

 

EX(規格外)の宝具ですからね」

 

「……それはいったい……」

 

藤原秀郷(ふじわらのひでさと)です……もうホントふざけんじゃねえよと言われてもしょうがない……虹村さんを連れていけばあの問題点を解決出来る……」

 

「藤原秀郷……知っているか?」

 

「いえ…………藤原と言う名字と歴史上の偉人という事は平安時代の英雄か?」

 

 名前を言われてもあまりピンと来ない忍田本部長。

 確か東さんは戦史を学んでおり戦史関係は強いので東さんに聞いてみるが東さんもあんまりピンと来ていない。ただ藤原という名字は平安時代ではかなり見る名字なのを知っているので平安時代の人間かと聞いてくるので僕達は頷く。

 

「ああ、そうだ……コレがホントに洒落にならねえヤベえ物を持っている英雄でな」

 

「いったいなにを持っているんだ?」

 

「理論とか原理とか理屈は不明だけれども最高級の新潟県産コシヒカリを一流の職人が釜炊きした銀シャリよりも美味しい米を出すことが出来る米俵とか山海の食材を出すことが出来る鍋とどれだけ切っても尽きない最高級の布を持ってるんですよ」

 

「…………それだけか?」

 

「はい。まぁ、当人の腕も1流と言えるんですけど……宝具がとにかくヤバい」

 

 アレはマジで反則である。

 

「本部長、遠征に彼を連れて行く事を考えておいてください」

 

 藤原のヤバさにあんまりピンと来ていない忍田本部長だったが東さんは直ぐに気付く。

 それこそ不安要素や不確定要素があるとしても虹村さんを連れて行った方がいいと進言した。

 

「今の話が嘘じゃない場合は虹村を、彼を連れて行く事により遠征の安定性が何段階も上昇します……なんてヤバい物を持っているんだ」

 

「そ、そんなになのか?聞く限りではそれこそ核兵器やゲームに出てきそうな武器を持っている感じじゃないが」

 

「そんなにじゃありません……遠征における食糧問題を全て解決する事が出来るんです!原理や理屈は不明ですけれども遠征に無限の食糧を持ち込む事が出来る。戦争において必須な兵料の問題を解決する事が出来る!どの時代のどの戦争でも食糧問題を多く抱えている、今の話が嘘じゃないならば飢えの恐怖から解放される……カルデアはなんて恐ろしい兵器を持っているんだ」

 

「そうか……食の問題を解決する事が出来るのか……確かに言われてみれば凄まじいな」

 

「いや、流石に水とかは出せねえからな……」

 

「水なんて現地で調達出来る!だが食糧は難しい!俺達がここからやって来た人間だと知られれば食糧を売ってもらえない可能性がある。だが本当に無限に米が出る俵や山海の食材を出すことが出来る物が存在するのならば数年単位の遠征すら可能になる!」

 

 東さんは虹村さんが如何にヤバいのかを理解する。正確には虹村さんがなる英霊にだ。

 食事という人間の問題を完璧じゃないが殆ど解決する事が出来る…………マジで色々とぶっ壊れた宝具である。

 

「見せてくれ!無限に米が出る俵を」

 

「ちょ、分かった。分かったから…………お前、話をややこしくすんなよ」

 

「いやでも、普通にヤバいですからね」

 

 年甲斐もなく興奮している東さん。

 虹村さんの肩を掴んで見せてほしいと頼み込むと虹村さんは承諾した後に僕を睨んだ。虹村さんは色々とヤバい……本人は上には上が居るのを知っているからあんまりだけども、遅咲きだけどもこの人は紛れもない天才なんだよな。

 

「コレでいいか?」

 

 藤原もとい俵藤太に虹村さんは換装した。

 当然の様に米俵を担いでおりコレがその米俵なのかと忍田本部長と東さんは見るので虹村さんは大きくため息を吐いた。

 

「好きな食材はなんだ?」

 

「……牛の第四胃のギアラだな」

 

「ギアラ出てこい」

 

 好きな食材を聞かれたので素直に答える東さん。

 虹村さんは大きな鍋を取り出したかと思えば東さんの好物であるギアラを何処からともなく出現させた。

 

「いくぞ!美味しいお米がドーン!ドーン!」

 

「虹村さん、こんなところでお米を出した、ぎゃああああああ!?」

 

 ついでだからと美味しいお米をコレでもかというぐらいにというか担いでいる俵よりも多い米を出して部屋中を米で埋め尽くす。

 お米が膝の辺りまで届くぐらいには部屋が米に埋め尽くされてしまっている。

 

「虹村さん、米を出すなら食料庫的なところで出さないと」

 

「いやだって、まだ若干だが疑ってる感じだから…………ていうかよ、普通にネットでググればよかったんじゃね?」

 

「それ今言います?」

 

 ネットでググれば大体の事を知ることが出来る。

 俵藤太だってインターネットに載っている。ホントに今更な事を言ってくる。

 

「コレは…………ホントにヤバいな……………こんなのが日本に存在していたのか」

 

「東さん、感心するよりもSOSを、このお米を食べてくれる人を呼んでください。顔広いですよね?」

 

「ああ…………このギアラと米を炊いて後で食べてもいいか?ホントに新潟県産のコシヒカリ以上の味ならば遠征に持っていく価値がある」

 

「まぁ……ちゃんと食ってくれるならいいっすよ」

 

 馬鹿みたいに出した米の回収を行う。

 東さんはスマホを取り出す。忍田本部長もスマホを取り出す……部屋を埋め尽くすレベルの量だから、結構な人数が居るだろう。

 身動きが取るに取れない状況なので固まっていると数分後には原作でよく見た事がある人達が大勢やってきた

 

「東さん……何やってたんですか?」

 

「戦争の概念をひっくり返す凄まじい兵器を見てたらこうなったんだ」

 

 三輪隊の三輪もやって来る。

 部屋中が米だらけで身動きが取れない東さん。いったいなにをやっているんだと気になったので聞いてみれば東さんは真実のみを伝えた。

 

「戦争をひっくり返す凄まじい兵器が部屋中埋め尽くす米って……てか、コシマエ居るじゃん!なに、もしかしてまた演習か!」

 

 三輪を経由して米屋さんもやって来る。

 お米を回収しつつも僕達の存在に気付いたのでまた演習かと聞かれたので今やっと思い出す。ボーダーの本部にやってきた理由をだ。

 

「ああ、そうだったそうだった……ガチャをしにきたんだった」

 

「お前が話をややこしくしたの理解してるか?」

 

 ここに来たのはボーダーとの合同演習的なのをする打ち合わせである。

 本当ならば深雪が行かなきゃ行けないんだけども深雪はテスト期間だったりするわけで、僕とリーダーである虹村さんが行けと言った。一応は虹村さんがリーダーだが虹村さんは特に嫌な顔をする事はせずに来てくれたんだった。

 

「さて、前回はセイバーだった……残りは6つ、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカー……本音を言えば修に引かせたいんだけどさ…………じゃ、回してください」

 

 米屋さん達がお米を回収してくれて東さんが三輪に食堂のおばちゃんに無尽俵の米を炊いといてと依頼して再び僕と虹村さんと東さんと忍田本部長だけになった。さっきまではギャグな感じだったけれども真面目にやるかと福引きでよく見るガラガラにセイバーのモニュメントピース以外を入れた。このガチャを東さんが引く。本音を言えば修に引いてほしいのだがあんまり贅沢は言ってられない。

 

「コレは……弓を持っているからアーチャーか?」

 

「はい、アーチャーですね」

 

 東さんがガラガラを回すとアーチャーのモニュメントピースが出てきた。

 弓を持っているモニュメントなので東さんは察してくれて僕は視線を虹村さんに向けた。

 

「アーチャーは投擲する物が該当するポジション、クラスだ……ロビン・フッドやビリー・ザ・キッドなんかがこのクラスに該当する……今回は狙撃手(スナイパー)のみが参戦していい。ただし搭載していい攻撃系のトリガーは狙撃手(スナイパー)のトリガー、つまりはイーグレット、アイビス、ライトニングの3つだけ……後は何人来ても構わねえぞ」

 

 虹村さんは自分の番だなと説明をする。

 セイバーの時は試験運用を兼ねてだったから少人数だったけども、今回は違う。どれだけ来ようが別に構わないと言い切る。

 

「多対一の狙撃戦をするのか……ボーダーの何度でも戦えるシステムがあっても訓練の意味が無いんじゃないのか?」

 

 その事に関して大丈夫なのかと東さんは心配をする。

 

「じゃあ、シモ・ヘイヘと1vs1で戦いますか?」

 

 多対一が無理だって言うならばマンツーマンも出来なくもないんですよ。

 

「…………………流石にシモ・ヘイヘを相手に狙撃で勝負をして勝つのは無理だ」

 

「シモ・ヘイヘ?」

 

「フィンランド最強の狙撃手(スナイパー)で500人以上を殺ったヤバい人です」

 

 東さんはシモ・ヘイヘを知っていたのでシモ・ヘイヘの相手をしたくないという。

 シモ・ヘイヘと言われてもピンと来ていない忍田本部長にシモ・ヘイヘをすごくざっくりと教える。

 

「待ってくれ、シモ・ヘイヘと戦うのか?1人の狙撃手(スナイパー)として戦ってみたいって気持ちはあるにはあるが、それが訓練になるのか?」

 

「……シモ・ヘイヘと戦うと見せかけてロビン・フッドとか那須与一と戦うことになるかもな……相手は何者か分からねえ未知の存在と戦うのもこの訓練の一環だ。未知の相手に対して自分が今まで鍛えてきたカードとコンボで戦えるのかの確認も大事だ」

 

「なにが出るかはお楽しみなんですよ……ただ中距離以上から攻撃してくるヤバい奴が出てくることだけは確かです………界境防衛機関試合人間兵器七番勝負、二番目、アーチャー…………さぁ、誰が来るでしょうか?」

 

 心理戦は深雪の方が得意だけども取り敢えずは揺さぶりをかけておく。

 虹村さんはなにを呼ぶんだろ?なにが出てくるんだろ?少なくとも一級品なのは出てくるのは確か、アーチャーのクラスは性能的な意味合いではハズレは比較的に少ないサーヴァントだからな。

 

 歴史上の偉人と対決をするのが分かれば東さんは色々と考える。

 未知の相手に対してどう戦うか?今回与えられた武器は狙撃銃のみで向こうも中距離以上の攻撃に関してプロフェッショナルである。狙撃合戦になるのは確かで、今のボーダーの狙撃の腕前がどれくらいか自覚できるいい機会だと考えてる。

 

 その後は東さん達と一緒に食堂に向かった。

 無尽俵で出た米は新潟県産の最高級のコシヒカリを釜炊きした物よりも美味かった。ギアラはコリコリしていた……僕は焼肉の好きな部位は牛たんなんだよ。




実際問題、俵藤太がワールドトリガーに居たら洒落にならねえぐらいにヤベえと言いたかっただけの話です。


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十人十色

 

「よし、炊けたぞ」

 

 コシマエの馬鹿に乗せられた結果、俵藤太になった。

 無尽俵を使って馬鹿みたいに米を出したんだけど、東さんがコネで米を回収して自分達の分も回収して余ったので玉狛支部にお裾分けに来た。ついでだから食ってけとも言われた。

 

「なんか悪いな、お裾分けに来たのに貰って」

 

「気にするな、1人や2人増えても構わない」

 

 コシマエの奴はソロランク戦を見物してから帰るって言っていたのこの場には俺しか居ねえ。

 レイジさんは食客が一人増えた所でなにも問題無いと然程気にしていない。

 

「ただいま〜夕飯はなに?」

 

「小南、帰ってきたなら手を洗え……鶏の唐揚げだ」

 

「邪魔してるぞ」

 

「あんたは…………誰だっけ?」

 

「虹村、虹村修蔵だ」

 

「お裾分けだよ、お裾分け……ついでだから夕飯食ってけと言われてな。あ、ギアラもあるぞ」

 

「なんでギアラがあるの?」

 

 夕飯の準備を終えて後は更に盛り付けるぐらいの頃に小南が防衛任務を終えて帰ってきた。

 一応は面識があるがちゃんと自己紹介した事はないので改めて自己紹介し鶏の唐揚げ以外にギアラが存在していることを教える。

 

「しかし……その話がマジならお前を遠征に連れてけば遠征の成功率や遠征の期間を何十倍にも向上させる事が出来るな」

 

 林藤支部長が無尽俵の話を聞いてすごく納得をする。

 遠征をする上では、サバイバルや閉鎖空間の中で食事というのは最高の娯楽、宇宙飛行士が食事を楽しみにしてると言うからな。

 

「いや、でも出せない物もあるっすよ?パンみたいに調理されてる物とか小麦粉とか塩とか……胡椒とかの香辛料は出せるんだけど」

 

「それだけで充分過ぎる…………日本にそんなお宝が眠ってたとは驚きだな」

 

「なんの話をしてるの?」

 

「コイツが遠征に参加してくれれば食事の問題が殆ど解決するって話だよ」

 

「料理上手なの?……いただきまーす…………うっま!レイジさん、また腕を上げたわね!今日のご飯、滅茶苦茶美味いわ!」

 

 林藤支部長が納得している理由をざっくりと語れば小南は夕飯をいただく。

 唐揚げを口に入れてからご飯を入れると目を見開く。林藤支部長もご飯を食べれば美味いと言う。

 

「いや、何時も通りに作っただけだ」

 

「え、じゃあなんでこんなに美味しいの?炊飯器を買い替えたの?」

 

「米が違うんだよ、米が……新潟県産の最高級のコシヒカリよりも極上の米をお裾分けに来たんだよ」

 

「お米をお裾分けって……あんまり聞かないわね」

 

 安心しろ、俺も聞かない。今回はほんとに偶然なんだ。

 レイジさんも食事を始めてご飯を食べれば眉をピクリとだが動かす。

 

「コレが遠征についてくるか……成る程、恐ろしいな」

 

「え、なにが?」

 

「俺のトリガーが理論や原理は不明だけども無限に極上の食材を出すことが出来るんだよ……今、食べてるご飯は無尽俵っていう俵から出した米なんだ」

 

「ふ〜ん…………スゴいわね」

 

 あんまりピンと来ていない小南。

 遠征で半永久的に美味しいご飯を食べることが出来る、兵糧が永遠と尽きる事が無いというのがとてつもなく恐ろしい事を自覚してねえ。戦史関係の歴史を学んでなきゃ兵糧が尽きる事が無い戦争が如何にしてやべえのか分からねえよな。

 

「こんなスゲえのがあるとはカルデアはヤバいな」

 

「……いや……俺の記憶が正しければコレの上位互換が存在してる」

 

 兵糧が尽きる事が無い事の恐ろしさを理解している林藤支部長はボソリと呟く。

 確かに俵藤太の無尽俵は色々とぶっ壊れた性能を秘めているランクEX、規格外の宝具だ。けど、俺の記憶が正しければコレの上位互換が存在してる。

 

「無限に食材を出す道具よりも上位互換?」

 

「具体的に言えばドラえもんのグルメテーブルかけだ」

 

「あんた達のトリガーが歴史上の人物を模したトリオン体になるのは知ってるけど、ドラえもんは歴史上の人物じゃないでしょ。むしろ未来を生きてるわ」

 

「なにを言う……キャスターのクラスで藤子先生になると言う荒業があるんだぞ…………とまぁ、冗談はさておき北欧に伝わる魔法のテーブルクロスがあってだな、その能力がまんまドラえもんのグルメテーブルかけと一緒なんだよ」

 

「…………マジで?」

 

 グルメテーブルかけ。

 注文した料理を出してくれるドラえもんに出てくるひみつ道具の1つだ。北欧の方に注文した料理を出してくれる魔法のテーブルクロスが存在している。Fateでギルガメッシュがそれを出してたみたいで……無尽俵よりぶっ壊れてるんじゃねえかと思う。

 

「だから俺が居れば戦争や冒険における飯という1つの問題を完璧とは言い難いが殆どカバーする事が出来るんだよ……現に俺が参加してからカルデアは1回も飯関係で困った事はねえ」

 

「反則よ!卑怯よ!なによそのトリガーは!美味しいご飯を無限に出せるだなんてチートにも程があるじゃない!!」

 

 今やっと無尽俵や魔法のテーブルクロスのエグさを理解する小南。

 ランクEXは色々な意味でぶっ壊れた性能を持ってるんだからしゃあねえだろうが。

 

「小南、こう考えろや。俺達が敵じゃないって……浦原さんがその気になればトリガーに強制停止や緊急脱出機能を備える事が出来る。緊急脱出機能を備えた10人以上の凄腕なトリガー使いがトリオン兵は率いてこねえけども地球の周回軌道からズレるまで毎日襲撃してくるっていう悪夢を作れるんだぞ?」

 

「……………虹村、後で勝負して!」

 

「悪いが、手の内を早々に曝け出すつもりはねえよ……大体、俺はアーチャー、弓兵だ。近距離戦メインのお前と中距離以上がメインの俺じゃ距離を近付けば離せばの関係性で終わる」

 

 まぁ、近距離戦が出来るアーチャーは結構多いけども一応は中距離以上の戦闘がメインだ。

 小南とやりあえば勝率は高いだろうが、負けた時は確実に近付いて斬られたってパターンだろう。小南は釈然としないと言いたげな顔をしているが俺は無益な事はしねえよ……國崎だったら自前のトリガーを使って戦うだろうがな。

 

 レイジさんが作ったご飯を頂いて満足したのでラピュタに帰る。

 ラピュタは玉狛支部の上にあるので直ぐに帰る事が出来る。

 

「お前等よく聞け。次の界境防衛機関御前試合人間兵器七番勝負は弓兵、アーチャーが相手だ。前回は試験運用も兼ねて極少数でやったけども今回はボーダーの本部で狙撃手(スナイパー)だったら誰でも参加する事が出来る」

 

 翌日、玉狛支部に向かう。

 昨日、合同訓練について説明をするのを忘れていたのを思い出した……無尽俵がヤベえ物だという説明をしただけに終わっただけだったからな。

 

狙撃手(スナイパー)って事は千佳とレイジさんが参加する事が出来るわね」

 

「言っとくが攻撃に使用していいのは狙撃銃だけ、アステロイドとかメテオラとかは禁止…………んでもって…………いや、これはいいか」

 

「なによ、またなんか隠し持ってるの?」

 

「いや、別に言わなくてもいい事だから言わなくていい」

 

「そう……レイジさん、千佳、この前ボコボコにされた遊真の敵を撃ちなさい!!」

 

「敵を撃つかどうかは別として合同訓練である以上は手は抜かない……お前達が、サーヴァントが黒トリガー以上の存在であるのはセイバーの一件でハッキリと認識している。油断はしない」

 

「頑張ります!」

 

「むぅ…………おれもサーヴァントと戦ってみたいな……」

 

 今回は狙撃手縛りがあるので参加する事が出来ねえ遊真は少しだけ羨ましそうにする。

 悪いが今回は狙撃手縛り……本音を言えば銃手も参加させてえけど、深雪が狙撃手だけにしておけって言ってるからな……先見の明を見切ることが出来る深雪が言うんだから、間違いはねえだろう。

 

「三雲の奴はどうしたんだ?」

 

「……修、まだ考えてるのね……」

 

 三雲がこの場に居ない事に気付く。

 その事に関して聞けば小南は呆れており、今いるリビングから訓練室に向かえば三雲を連れてきた。

 

「修、虹村が宣戦布告に来たのよ!千佳とレイジさんと全狙撃手を相手にするって言ってるから、ガツンと言ってやりなさい!」

 

「あの……」

 

「…………根気を詰め過ぎだ。俺達との合同訓練負けても問題ねえけどランク戦は負けたらアウトだけどよ……」

 

 三雲達は遠征を狙っている。その為には上に上がらなきゃならねえ……アーチャーと出会って火種を与えた結果、色々と考える様になったみたいだがそれが逆に視野を狭めているな。

 

「三雲……ちょっと気晴らしにバスケをするぞ」

 

「明日にランク戦を控えてるんです……なんとか戦うフィールドは決めれましたけど、最後を詰めを誤りたくないんです。心配してくれるのはありがたいのですが、ここを」

 

「強くなるヒントを与えてやる」

 

「……ホントですか?」

 

「ああ」

 

「待て、虹村……答えを教えるのは禁止だ。考えさせて修の血と肉に変えないと修は本当の意味で成長しない」

 

 三雲にさらなる火種を与えようとすればレイジさんが止めようとする。

 三雲は弱いから自力で色々と考えないとダメ……答えを教えたら意味は無いという。

 

「安心しろ、俺は必殺技の概念を教えるだけだ……具体的な必殺技は教えねえ……っと、コシマエも呼ぶか」

 

「……なら万が一に備えて監視させてもらうぞ」

 

「ああ、いいぞ」

 

 修の成長をホントの意味で願っているレイジさん。万が一を想定するが俺はそんなヘマをやらかさねえよ。

 ラピュタに戻って自分の部屋に向かってバスケットボールを持ってきてレイジさんと三雲と千佳と遊真を連れてバスケットコートに向かえば先客がいた。

 

「あ、レイジさん……珍しいっすね、こんな所で会うだなんて」

 

「なに、ちょっとな…………それで、お前は必殺技のなにを教えるつもりなんだ?」

 

 柿崎隊の柿崎と風間隊の風間さんと歌川と那須隊の熊谷と三輪隊の米屋がいた。

 レイジさんがあんまり現れない場所であるバスケットコートで会わないので少しだけ意外そうにする柿崎。

 

「お前は確か昨日の」

 

「サーヴァント、アーチャー。虹村修蔵……さて、ボーダーの諸君…………ランク戦において是非とも必殺技を会得してほしいと俺は思っている……まぁ、口で言うよりも見せた方が早いから普通にバスケやるぞ」

 

 昨日、俵藤太の米を回収しに来た時に柿崎と出会っている。

 カルデアに関して詳細が伝えられてるかどうかは知らねえから適当に自己紹介をした後に普通にバスケを……いや、バヌケをはじめる。

 

 

───ドーン!ドーン!

 

 

 

「な、なにこのドリブル!?」

 

「今回は試合じゃなくて説明だからな…………5本指のガチで行かせてもらう」

 

 爆音を鳴り響かせるドリブルをすれば熊谷は驚く。

 さっきまで纏っていた雰囲気を一転する様に集中力を高めれば熊谷はディフェンスに入ろうとするがそれよりも素早くあっさりと抜いた後にレイアップシュートを決める。

 

「……スゲえな」

 

 柿崎はドリブルの凄さに感服する

 

「コレでも元日本代表だからな……じゃ、続けるぞ」

 

 具体的な事はなにも言わない。先ずはと三雲に色々と見せる。

 フェイダウェイの3Pシュートとか色々と見せる

 

「バスケに詳しくないですけど……虹村さん、スゴいですね……」

 

「さて、まだ色々とあるけれども……お前や多くのボーダー隊員に足りないものがある。それは必殺技だ……必殺技があれば色々便利だ」

 

「……確かに必殺技があれば敵を倒せますが」

 

「ちげえよ、そういうのだけが必殺技って言わねえんだよ」

 

 三雲に必殺技があればいいと言えば弱い自分に必殺技の1つでもあれば敵を倒す事が出来ると考える。

 けど、俺が言いたい必殺技ってのはそういう必殺技だけじゃねえんだよ。他にも色々と必殺技なんだよ。

 

「三雲……必殺技ってのはなんだと思う?」

 

「えっと…………敵を必ず倒す技です」

 

「そう、普通はそう認識する。実際問題その認識で間違いはねえけど、それ以外にも必殺技は存在している……必殺技ってのはその人の得意な武器なんだよ」

 

「得意な武器?」

 

「さっきバスケで色々と見せただろ?ドリブル、パス、シュート……バスケにおいて絶対なのはシュートだけどもそこに至るまでに色々とある。一番最初にやったドリブルがその一例だ…………相手をぶっ倒すだけが必殺技じゃない、劣勢な状況をひっくり返して自分の得意な盤面を作り上げるのも必殺技と言い、更には自分の個性、得意な事の延長線にある他の人に負けないものが必殺技だ…………コレを見ろ」

 

 五角形のパラメーターを三雲達に見せる。

 これはなんだと三雲達は疑問を持っている……説明が無いなら誰もそう思うので俺は説明をする。

 

「この五角形のパラメーターは1から5段階でスピード、パワー、スタミナ、メンタル、テクニックのパラメーターだったとする……どんなパラメーターが理想形だと思う?」

 

「……スピードもパワーも全部がオール5です」

 

「確かにそれが理想形だ……だが、それが出来ないのが現実だ。トリオン能力の都合上を含めて様々な理由でオール10は不可能、そこにいる全部のポジションを熟すことが出来るレイジさんでもオール10に近しい存在でもオール10ではない……理想を見るのはいいが現実を見ねえといけねえ」

 

 俺は五角形のパラメーターに☓を入れる。

 風間さん達も真面目に聞いているので悪ふざけは一切しねえ。

 

「だから自分の得意な方向性を伸ばす。スピードのパラメーター、パワーのパラメーター、テクニックのパラメーター、メンタルのパラメーター、スタミナのパラメーター……全てのパラメーターを伸ばす事も大事だが自分にとって得意なパラメーターを重点的に伸ばすのが大事で、その伸ばしたパラメーターを実戦で戦える武器にすればそれはもう必殺技と言えるんだ」

 

「つまり……僕らしい強さを見つけろという事ですか?」

 

「……頭が抜けて強い奴は何れかのパラメーターが飛び抜けている、無論全てのパラメーターが平均値よりも高くてなにかがずば抜けてないけど強い人間も中にはいるが基本的には何かしらのパラメーターが高い、パラメーターが低くて強い奴は存在してねえ……自分の能力に合わせて自分の色、個性を見つける。ボーダーは武器を統一しているが武器の使用方法や戦術は自由にしていいとしている、自由度がある程度は高いから様々な戦法を模索する事が出来る…………グーだけがチョキだけがパーだけが最強じゃねえ」

 

「……理屈は分かったし言いたいことも分かるけど…………それでも上に上がる事が出来ねえのはどうすんだよ?」

 

 俺の言いたいことを柿崎も理解した。だからそれで上に上がる事が出来ねえ事に関して聞いてくる。

 

「そういうのは個人の能力が平均値より低いかチームの能力とチームの方針が合わないパターンが多い…………ボーダーのランク戦は試行錯誤を繰り返す事が出来る場所の筈だ。だったら色々と挑戦してみろ、今の自分達が弱いダメな奴だと思っているなら1シーズンを棒に振っても構わないと覚悟を決めて腹を括って今までにないやり方を模索しろ、失敗を許される練習の場なんだから必殺技の領域にまで至った型が無いならば上に行きたいなら安定性を、安牌を求めるな……後バランスが良いのが悪いとは言ってねえぞ。綺麗なパラメーターは安定性と安心性が生まれる、たまに物凄いハイスコアを叩き出せるけども基本的には平均値よりも低いスコアを叩き出す事が出来るのと物凄いハイスコアを叩き出せないけれども常に平均値よりも上のスコアを叩き出す事が出来るのは方向性違うだけでどちらも凄まじいものだ」

 

 安定した2〜5までを出すタイプと安定しない1か6かのどっちかしか出さないタイプ、どっちも価値がある。

 まぁ、世の中には基本的には6しか叩き出さねえマジな天才とか化け物が存在してやがる……赤司とかスワベエとかが良い一例だな。

 

「自分の性格、能力を見つめる。そこで自分の色を見つけて伸ばす……バスケもそうだ、ドリブルという技術を伸ばして必殺技にする。パスという技術を伸ばして必殺技にする。フェイクという技術を伸ばして必殺技にする。フェイントという技術を伸ばして必殺技にする……シュートを決めてゴールにボールを入れることが出来るだけがバスケじゃねえ…………お前の色を伸ばして確立された個の力を会得して必殺技や必殺の型を見つけろ」

 

「僕の、色を…………」

 

「1から5段階の評価のパラメーターでオール5になるのが不可能だと思ったのならばどれかのパラメーターを6にする事を視野に入れろ……マジものの天才は何かしらのパラメーターが6とか7で外がオール5とかあるが」

 

「虹村さん、来ましたよ……あれ、お取り込み中ですか?」

 

「今、終わったところだ…………ついでだから面白いものを見せてやるよ」

 

 言いたいことを言い終えた。三雲や柿崎、風間さんもなにが伝えたいのか分かってくれた。

 三雲が色を見つける事が大事なのを分かってくれたのならばそれでいい……柿崎も色の見直しをしようかって考えてるけども。

 

 言いたいことを言い終えた。レイジさんがそれ以上は言うなと言ってこないのでなにも問題無いと思っているとコシマエがやってくる。

 思ったよりも時間がかかったが中々にナイスなタイミングでやって来た。再びバスケをするのでコシマエに耳打ちをする。

 

消える(バニシング)ドライブをする」

 

「……仕込みは出来てるんですか?」

 

「ああ、もう充分なほどにな」

 

 俺が三雲に対して出来る最大限のヒントを与える。

 レイジさんに怒られるかどうかは分からねえが、答えを言っているも同然な事だ。三雲にパスをもらい軽くドリブルをした後にコシマエにパスをすれば歌川がディフェンスに入るので動いた

 

「なっ!?」

 

「消えただと!?」

 

「よっと……こんな感じでいいですかね?」

 

 俺が動いたと思えばコシマエがドライブで切り込み普通にレイアップを決める。

 歌川達は見ていた筈のコシマエが消えたのだと錯覚している…………

 

「こういうタイプもある」

 

「……なにしたんすか?」

 

 真面目にディフェンスをしようとしていた歌川を米屋は見ていた。

 米屋だけでなく他の面々もちゃんと見ており、見失った原理に関して説明を求める。

 

「引っ掛かったんですよ、虹村さんの巧妙な手口に」

 

「どういう意味だ?」

 

「ここに来るまでに虹村さんは目立っていた……皆さん、虹村さんがなにかをすると心の何処かで思っていて見ようとしなくても無意識に見ていた。だから僕がボールを持った際に虹村さんはほんの少しだけ皆さんの視線を僕じゃなくて自分に向くように誘導した……ミスディレクションという視線を誘導する技術を応用した技術…………その人がスゴいと思わせてその人を頭に意識させて意識を誘導する手品のテクニックの1つ」

 

 コシマエがなにをやったのかを歌川に教える。

 コレは前の世界ことラブライブの世界で黛さんと手を組んで奇跡の世代がいるB1リーグを勝ち抜く為に会得したミスディレクション・オーバーフローの技術を応用した消えるドライブ、1人が目立ちコイツはヤバい奴、エースだと認識をさせて逆に目立ち他の選手への意識を奪う技だ。

 

「伝えたい事は伝えたから、後は頑張れよ……さ、コシマエ。バスケやろうぜ」

 

「はいはい、分かりました」

 

 コレで三雲がパワーアップするかどうかは……謎だな。



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リンカーンはレスリングの達人かもしれない

 

「お、いい顔になってるじゃねえか」

 

 2月5日水曜日。

 昼過ぎ頃にラピュタから玉狛支部に降りれば玉狛第二の面々が居て三雲がいい顔付きになっていた。

 

「虹村さん、アドバイスをありがとうございます……お陰で色々と作戦を考える事が出来ました」

 

「……ぶっちゃけた話、俺は雨取と三雲がどういう感じに成長すれば良いのかを知ってる。それを教えてない以上はお礼を言われる筋合いはねえな。頭を下げるな……俺はただ単に自分の能力や個性と向き合うこと、2は1よりも大きくてXという式が存在すれば1は2よりも大きくなる可能性を秘めていて、更には3以上の数字があるならばぶつかるのでなく自分の持つ3以上の駒にかけ算すりゃより大きな数字になるっていう戦術云々の以前のホントに基礎中の基礎を教えただけに過ぎねえ。お前にアステロイドの飛ばし方とか戦い方の指導はしてねえ……ただ単に頭のスイッチの切り替える方法を教えただけで……現にお前自身は思考が少しだけ柔軟になった以外はなんもパワーアップしてねえんだ」

 

 いい顔付きに変わったけど、三雲がパワーアップを果たしたかどうかと聞かれれば答えはNOだ。

 原作のスパイダーやアステロイドに見せかけたハウンド戦法なんかを教えることをしていない以上は頭を下げられるのは困る。

 

「じゃあ、オサムにそれを教える…………ってのはダメなんだよな」

 

「答えは自力で見つけ出さなきゃならない……ただし99%の努力も1%のひらめきやキッカケには勝てねえってのも事実だ…………だからこっそりとヒントを与える…………雨取も三雲も向いてる向いてない云々は置いといてB級の、今の時点で使える全てのトリガーをありとあらゆる組み合わせで使え…………俺の口から言えることはコレが限界だ」

 

「それって結局のところ答えになってないんじゃないのか?」

 

『いや、逆に考えるんだユーマ。オサムとチカに最適なトリガーの組み合わせをニジムラは知っている……オサムはトリオン能力の問題で、チカはトリオン能力以外の能力の問題で1度も触れたことが無いトリガーも存在している。恐らくはまだ試したことがない組み合わせの中に2人と適合する組み合わせが存在しているのだろう』

 

「……レプリカ、分かってるんだったら言うなよ……」

 

 コッソリとヒントを与えた意味がねえだろうが。

 考えさせて血に変えて肉に変えなきゃいけねえ……これ以上は存在していないヒントを、きっかけを与えることが出来たからそれでよし。

 

「お前等、行くぞ」

 

「とりまるは既に向こうにいるけど今回は全員だから、油断するんじゃないわよ!」

 

「…………小南達も来るのか?玉狛のテレビで見れるんじゃねえの?」

 

 林藤支部長とレイジさんが車を出してくれるんだが小南達もなんか来るみたいだ。

 記憶に間違いないなら確か玉狛のテレビでランク戦を観戦する事が出来るはずだが…………。

 

「お前、聞いてないのか?」

 

「ボーダーとの貿易関係は深雪担当だからな……どういうことだ?」

 

「ボーダー以外にトリガーを持ってる組織が居たら色々と厄介だから名目上はこの前の大規模な侵攻を経験してボーダーが極秘裏に開発している歴史上の偉人を模したトリオン兵との対決をするっていう設定になってるんだ……極秘裏って事だから本部でしか映像を見ることも出来ないし音声記録なんかも一切残さない様にしてる。だから玉狛支部じゃ見れないんだ」

 

「成る程、そういう感じね…………ちゃんと仕事はしてるみたいだな」

 

「とはいえ支部を完全に空けるわけにはいかないから俺は皆を送れば帰ってくるけど」

 

 ふざけていたり性根が腐ってたりするけれどもなんだかんだで深雪はちゃんと仕事を果たしている。

 あいつは笑顔を曇らせる事さえしなければ完璧な人間なんだけども……何処で頭のネジが狂ったのか分からねえな。俺は林藤支部長の車に乗せてもらう。玉狛第二の面々はレイジさんの車に乗せてもらう。

 

「それで、なにを呼び出すつもりなんだ?」

 

「それ聞くっすか?」

 

「いや、純粋に気になるだろ……大規模侵攻の際にコシマエは渡辺綱になり(ブラック)トリガーを撃退した、遊真の話がマジならば敵対する国家が手を取り合ってお前等を黒トリガー導入して潰しにかかってきたら逆に撃退して黒トリガーを破壊したんだろ?この前の柳生の爺さんは忍田が手も足も出ないレベルのスゲえ剣客だったとも聞いてる……ボーダーの隊員がボコボコにされる可能性が高い」

 

「言っとくが柳生の爺さんは純粋な剣の技術では人間世界でもトップレベルだ……」

 

「人間世界?」

 

「英雄にも属性というものが存在している……スゴくざっくり言えば神様、化け物、人間の3つで三竦みの関係性になってる……柳生の爺さんの属性は人間で、人間の世界で神秘的な力を一切用いておらず素の実力で瞬間最高速度がアキレウス並なんだよ」

 

「…………あたしも戦えばよかったわね」

 

 1回目のセイバーの戦いは試験運用等を兼ねて極少数、極秘裏に玉狛支部で行った。

 ボーダーの実力とサーヴァントの実力の差を知るという意味合いでやったから実力差がハッキリと明確に分かった。俺達の持っている転生特典はぶっ壊れている。

 

 小南は戦えなかった事をかなり後悔している。

 

「安心しろ……残り5人の誰かがボーダー隊員総出で掛かってこいって言うからそん時に戦えばいい」

 

「残りって確かランサー、キャスター、バーサーカー、アサシン、ライダーよね……なんかランサー以外に無双してるイメージが無いんだけど」

 

「それはお前の知識不足だ…………出てきた英雄によっては壊れた性能を持っている。例えばそうだな、アメリカの大統領のリンカーンが仏教の開祖のブッダとレスリングで勝負したら互角に戦うことが出来るとか」

 

「いや、何処からツッコミを入れればいいのよ!なんでリンカーンとブッダがレスリングをするのよ!」

 

「なんだ知らねえのか?リンカーンはレスリングの達人、ブッダはカラリバヤットという武術の達人なんだぞ」

 

「……わけわかんないわ」

 

 安心しろ、俺も時折わけがわからなくなる。

 どの英雄がどんな能力を持っているかは定かではない……マジで謎が多い。

 

「そういえば英雄のゆかりの物があればその英雄をピンポイントで呼び出せるんだったっけ?だったらKFCのフライドチキンを触媒にしたら……呼び出せるの?」

 

「呼び出せるけどもフライドチキンのレシピは社外秘だから絶対に教えてくれねえ……道頓堀に沈めた瞬間問答無用で戦闘不能になる、阪神の呪いを持ってる」

 

「なんでよ!阪神関係ないじゃない!」

 

 いや、優勝したから呪いが生まれたんだよ。関係大有りだよ。

 

「ていうかあんたがこの前出したアーチャー、おかしいでしょう!モリアーティ教授はフィクションの存在でしょ!」

 

「モリアーティ教授って、シャーロック・ホームズのライバルのモリアーティ教授か?おいおい、フィクションの人物も呼び出せるのか?」

 

「………なら聞くが桃太郎は実在しているか?」

 

「バカにしないでよ!桃太郎はフィクション!実在はしていないぐらい小学生でも知ってるわ!」

 

「ハズレ、桃太郎は実在しているんだよ……お伽噺の中には実在していた出来事や伝承を子供向けにしたものがある。有名どころで言えば桃太郎、浦島太郎、金太郎、西遊記、一寸法師なんかがそうだ」

 

「え…………じゃあつまり、シャーロック・ホームズは実在してたって事なの!?」

 

「さて……少なくともアサシンのクラスでアルセーヌ・ルパンを出したことがあるからな……信じるか信じないかはお前次第だ」

 

「なんか都市伝説みたいな感じなんだな…………しかし、ホームズが実在していたのか…………面白い話だ」

 

 果たしてシャーロック・ホームズは実在していたのかどうか……この世界では謎である。

 少なくとも型月世界ではシャーロック・ホームズは存在している。モリアーティ教授も存在している。

 

 小南はスゲえ事を知ってしまったと驚き、林藤支部長は感心する。

 ……俺は一言もシャーロック・ホームズは実在しているとは言っていない…………信じるか信じないかは貴方次第である。

 

「お〜い、虹村さん」

 

 そんなこんなでボーダー本部に辿り着いた。

 この前足を運んだばかりで別に緊張することは特にねえ。ゆったりと中に入っていけばコシマエと深雪が夏目と一緒に居た。

 

「深雪……ちゃんと仕事はしてるんだな」

 

「ええ、コレでも仕事はちゃんとしますから…………ちょっとお願いがあるのです」

 

「なんだ?」

 

「夏目さんも参加させてはくれませんか?」

 

 深雪が珍しく俺に頼み事をしてきた。実に珍しい事だ。

 夏目は確かC級の狙撃手…………。

 

「いや……悪いけどもダメだな……心が折られる可能性だって存在している」

 

「どうしてもダメですか?」

 

「ダメだな……依怙贔屓してて将来の役に立つ為に参加させてえって気持ちは分からなくもねえが夏目と言う特例を認めれば他の奴等も認めなきゃならねえ。ボーダーが定めた現場に出ても問題無い狙撃手じゃないならば今回は観戦側だ…………コシマエ、深雪、徹底的に解説はしてやれ」

 

 個人的な依怙贔屓だろうが、少なくともボーダーが定めた狙撃手の基準を満たしていない。

 将来の役に立つ可能性は確かにあるが夏目という一例を認めれば他の特例を認めなければならない。そういう特例みたいな存在は組織を運営するにあたってはあまり良くないこと、深雪とコシマエが解説するだけで終わらせる、それが俺に出来る依怙贔屓だ。

 

「ごめんね……僕達も一応組織の人間だから上司の言うことはしっかりと聞かなきゃいけないんだ……虹村さんの言ってる事にも一理あるからね」

 

「そうすか…………あたしも救助とかじゃなくてちゃんとした現場を知りたかったんすけど……無理なら無理で諦めて見て学ぶっす!コシマエ先輩、深雪先輩、色々と教えてください!」

 

 おぉ、元気があっていいことだな。

 コシマエと深雪は夏目を依怙贔屓するけれどもその辺に関してはあまり深くは咎めない。咎めればややこしくなるからある程度は緩くしねえと。

 

「ところで今回はなんの英雄が出てくるんスか?」

 

 気持ちを切り替える夏目は単刀直入で聞いてくる。

 コシマエと深雪は見つめ合うと頷いてコシマエはスマホを取り出して深雪と一緒に構える。

 

「本能寺の変

 本能寺の変

 本能寺の変

 本能寺の変

 

 1582年本能寺で起こった悲劇

 織田さんが家臣の明智に

 シバかれる話

 

 どうして~?どうして~?

 どうして織田はシバかれた~ん?

 

 明智さんは織田さんに

 長い間イジられた

 みんなの前で

 呼ばれたあだ名は…………ハゲ(キンカ頭)

 

 どうして~?どうして~?

 どうしてハゲに負けたの~?

 

 あのハゲ(明智)出張するゆて

 嘘ついて攻めてきたん!

 ハゲ(明智)の軍勢1000に対し

 織田の軍勢30!!

 

 どうして~?どうして~?

 どうしてそんなに少ないの~?

 

 ハゲ(明智)の勧めで戦の休憩

 数人で寺の坊主の元へ

 ハゲ(明智)は家臣と一致団結

 織田は坊主とティーパーティー(茶会)

 

 多くな~い?多くな~い?

 毛が無い奴が多くな~い?

 

 いや多くな~い!多くな~い!

(この時代)毛の有る奴が多くな~い!

 

 変じゃな~い?

 NO!変じゃな~い!

 変じゃな~い?

 NO!変じゃな~い!

 

 変!

 変!

 変!

 変!

 変!

 変!

 変!

 変!

 変!

 

 これが本能寺の変

 本能寺の変!

 本能寺の変

 本能寺の変

 

 本能寺の変

 本能寺の変

 本能寺の変

 本能寺の変

 

 諸説あり」

 

「……昔、流行ったっすね…………信長が相手なんすか?」

 

「いえ、手頃だったので踊っただけです……アーチャーの信長は色々と性能がおかしいんですよ」

 

 本能寺の変を踊りきった深雪とコシマエのバカ二人。

 その歌を聞かされれば誰しもが信長を連想するけれどもこの2人に対してなんのサーヴァントを呼び出すかは言ってねえ。

 

「安心しろ、アーチャーのヘラクレスを呼び出すことはしねえ」

 

「虹村さん……アーチャーのヘラクレスなんて呼び出したらボーダー隊員が防衛任務とか放棄して挑んできても2時間あればボーダー隊員全滅させられますからダメですって」

 

「そんなにヤバいんすか!?」

 

「音速で飛んでくる追尾機能を持った矢を10km先から撃ってきます。しかも1度に9発も」

 

「え〜………」

 

 アーチャーのヘラクレスを呼び出すなと念押しをしてくるコシマエ。

 アーチャーのヘラクレスの理不尽さを知っている深雪はイマイチピンと来てねえ夏目にどんな事が出来るのか教えると疑いの眼差しを持つ。

 

「お前等、ボーダーに迷惑かけずにランク戦見物だけにしとけよ……俺は打ち合わせあるから、じゃあな」

 

 まだやらなくちゃいけねえからこの場を後にし、忍田本部長の部屋に向かった。

 忍田本部長の部屋には東さんと忍田本部長と沢村さんが居た。

 

「遅れて申し訳ない、ちょっと無駄話が長引いた」

 

「いや、大丈夫だ…………しかし、ホントに大丈夫なのかね?10人をも超える狙撃手を相手に弓矢を用いてたった1人で戦いを挑むのは不利にもほどがある」

 

「大丈夫大丈夫…………むしろこれぐらいじゃなくちゃダメです……それともシモ・ヘイヘとタイマンやりますか?」

 

「……1人の狙撃手としてシモ・ヘイヘと本気で戦ってみたいと言う気持ちはある。だが、今回はそれが目的じゃない」

 

 東さんはシモ・ヘイヘとの対決をしたいという欲望を抑える。

 この戦いの目的は未知の相手とかを想定しての戦いだから未知じゃない相手を戦っても意味は無い……それ言い出したら地球の英雄全てがアウトだけども。

 

「我々の方で色々と話し合いをした結果、今回は全てを東隊員に任せる事にした」

 

「指揮権を与えたって事ですか?」

 

「そうだ。もし東隊員がここに残るのであれば指揮を任せようかと検討中だ」

 

「ほ〜………滅茶苦茶信頼されてますね」

 

「まぁ、年長者の隊員として色々と任されてたからな…………それでなんの英雄を呼び出すんだ?」

 

「おい、それ聞くか?」

 

「情報戦は既に始まってるって認識してくれたらいい」

 

「そうだな……………多分、誰だそいつ?って言うぐらいには日本じゃ認知度は低い、日本語のwikiが存在しないぐらいだ…………真名を教えるのを条件にこちらもある事をやらせてもらうぞ」

 

「なんだ?」

 

「東春秋、奈良坂透、当麻勇、佐鳥賢、雨取千佳の5名の顔写真を見せてこの5人はなるべく優先して倒せという……名前は夜のランク戦終了後にあんたにだけ教える。そこから色々と組み立ててくれよ」

 

「……分かった……」

 

 相手の情報の一部を開示する事が出来たので東さん的には儲け物だろうが、今上げた5人の狙撃手をぶっ倒した方がいいとオススメする事が出来るとじゃ5人の情報の方がデカい……東さんは天秤にかけた結果、それ良いと了承してくれた。

 後はサーヴァントを召喚すればそれでいい、実に気楽な事だとアーチャーのクラスカードと触媒を取り出した。

 

「素に銀と鉄、礎に石の契約の大公。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出て王国は至る三叉路に循環せよ。閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)閉じろ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ!誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者、されど汝は投擲するもの狩人なり。我はあらゆる物を撃ち抜くもの。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 さて、戦いの開幕だ。



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界境防衛機関御前試合人間兵器七番勝負 2番目 アーチャー

 

「ナイス!チカ子!メガネ先輩!おチビ先輩!」

 

 B級ランク戦夜の部が終わりを告げた。

 結果は原作通りであり、玉狛第二が見事な勝利を決めたので夏目は3人にハイタッチを送った。

 

「ま、あんた達にかかればこんなものね!!」

 

「ありがとうございます」

 

 よくやったと修に絡む小南。

 後輩が勝利した事に関しては誇らしげになれるのだが、何故に自分に絡むのだろうとイマイチ修には理解出来なかったがまぁ、褒めてくれるという事は分かるので素直に受け取る。

 

「まぁ……ちゃんと作戦を建てられたが……問題点もあるのを忘れるなよ?」

 

 レイジも今回の戦績は充分な合格点だと認める。

 しかしたった1つ、遊真に依存しすぎているという問題点があるのを頭に入れておくことを注意する。玉狛第二のエースである遊真は絶対に倒れてはいけない支柱であり、エースを語るだけの実力はあるものの上には上が居ると言えるのがボーダーの猛者達でレイジは遊真を作戦でなく純粋な実力のみで倒せるB級隊員を何名か知っている。

 

「はい……次からは自分の得意なフィールドを選ぶ事が出来ません……次からが本番です」

 

 中位の中で上位に繰り上がったのでランク戦でフィールドを選ぶ権利を手にしていない。

 得意なフィールドは今のところは無いのだが、今度は逆にフィールドを生かした戦法を取ってくる相手と戦わなければならない。今までは遊真に依存し過ぎた戦法を取っていて上手いこと噛み合っていたが次からは違うのだと修は油断はしない。

 

「そういえば夏目さんはどうなったんですか?」

 

「無理だったっス……依怙贔屓と特例を作ればややこしくなるって言われて」

 

「まぁ……言っていることに間違いはないからな」

 

 この後に行われるスペシャルマッチ、夏目を参加させる事が出来ないのかを試したが無理だった。

 極々普通の正論を言われたので烏丸も仕方がない事だと受け入れつつも、レイジと千佳を見る。

 

「チカ、連戦だけど大丈夫か?」

 

 この後にスペシャルマッチが行われる。

 千佳はほんの数分前まで戦っていたので精神的な意味合いで問題は無いのかを遊真は尋ねると千佳は大丈夫と言う。

 

「東さんに千佳の大砲にレイジさんが居るからこの狙撃勝負、絶対に負けないわ!」

 

「小南さん……そういうのフラグですよ」

 

「っげ、深雪、コシマエ……」

 

「もう人を見て嫌そうな顔をしないでください…………見事な試合でしたよ。キャラメルがありますので栄養補給をしてください」

 

「ありがとうございます」

 

 小南が今回は勝てると言い切り見事なまでにフラグを立てる。

 深雪とコシマエが現れて深雪が疲れた体を癒やすためにとキャラメルを与えると玉狛第二の面々はキャラメルを食べた。

 

「さて、アドバイス云々は禁止だから見事な試合だったとだけ言っておくけども……解説と実況をするね」

 

「そういえば虹村は何処なの?」

 

「あ、噂をすれば影がさしましたよ」

 

 2人で正しく実況解説を行うという。

 肝心の今回の主役は何処に居るのだろうと小南は探せば噂をすればなんとやらと深雪が1人の男を引き連れた虹村を手で指すのだがコシマエは苦い表情をしてる。

 

「虹村さん……イジメはダメですよ……」

 

「別にいいだろう、ヘラクレスよりはマシだ」

 

 虹村と共に居る男を見てコシマエは呆れる。

 アーチャーのヘラクレスではないもののアーチャーとしては十二分なまでにぶっ壊れた性能を持ったサーヴァントである。例によって弱い者いじめと言える。狙撃合戦でそいつを召喚するとかただのイジメでしかない。

 

「え〜っと」

 

「オレはアーチャーのクラスで召喚されたサーヴァントだ……なに、この国じゃ聞いたこともねえ名前だから気にするな!それよりもいい試合を見せてくれたな!」

 

 この前の柳生の爺様と比べて雰囲気が異なるサーヴァント。アーチャーを名乗る男は修にフレンドリーに接してくれる。

 なんというか裏表も無い感じの人だなと思っているとアーチャーは千佳を見つめた。

 

「お前……人を撃てないだろ?」

 

「っ!?」

 

「大丈夫だ、言い触らすような真似はしないさ…………ただお前は命を奪う罪悪感に関しては問題は無い、自分達がやっている事を戦争の軍事演習の一環だって認識してて友達や仲間が斬る事に関しては平気だ……ただただ怖いって思っている……撃った後の事が怖いって思うのは誰もがだ。あんなスゲえ大砲を持ってる人間は化け物か英雄のどちらかにしかならない。人間であり続ける事が出来ない…………でも、友達は、仲間はお前を英雄とも化け物とも扱わない。1人の人間として扱ってくれるぞ」

 

「え…………」

 

「おい、そういうアドバイス禁止だ……って、殆ど答えを言っちまってるか」

 

 千佳は人を撃つことが出来ない。

 まだ周知の事実ではないものの、玉狛の面々は千佳が人を撃つことが出来ないと認知しているのだがアーチャーはその気になれば千佳が人を撃つことが出来ると見抜く。その気になれば未来や心の内側すらも見通す千里眼の能力を用いて千佳が気づいていない心の内側を見抜いた。

 

 基本的にはアドバイスは禁止なので余計な事は言うなと虹村は釘を刺すのだが既に全部言っている。

 

「ど、どういう意味ですか?」

 

「……あ〜…………」

 

「雨取さんはその気になれば人を撃てるという話ですよ」

 

「え!?」

 

 今までは千佳は人を撃つことが出来ないと考えていたが、深雪はぶっちゃける。

 千佳がその気になれば人を撃つことが出来る……玉狛の面々はそれが出来れば苦労はしないと言いたげだがコシマエや虹村の反応を見れば言ってはいけない事を言ってしまったなと困っていた。

 

「千佳が人を撃てる……」

 

「ど、どうしたら人を撃てる様になるんですか?」

 

「気持ちを整理して素直になれば撃てる様になる……オレの口から言えるのはここまでだ。最初の一歩と最後の一歩を踏み出せるのは何時だって自分自身だ……頑張れよ!」

 

 千佳が撃てないと考えていた修は呟き、千佳はどうすれば撃てる様になるのかを聞いた。

 アーチャーから帰ってきた答えは気持ちの整理をすること、素直になることだが千佳は嘘らしい嘘は吐いていない。嘘を見抜くサイドエフェクトを持っている遊真にも引っかからない。アーチャーは最後は頑張れとだけ言えば虹村と共にスペシャルマッチの準備に向かった。

 

「私が、撃てる…………」

 

「……雨取さん、あのアーチャーは見た目こそは人間ですがレプリカやドラえもんの様に自我を持ったトリオン兵、ロボットに近いです……頑張ってくださいね」

 

「……はい……」

 

 自分が人を撃てると言われて困惑をしている千佳。

 いきなりの事に困惑をしており千佳を参加させない方がいいんじゃないのかと修は思ったのだ千佳は参戦するつもりである。深雪が後押しをして逃げ場を無くしたと言われればそうかもしれないのだが。とにかく、千佳とレイジはスペシャルマッチに向かった。

 

「間に合った!!」

 

「太刀川じゃない……今日は無理よ?」

 

「見るのもランク戦の醍醐味だろう」

 

 狙撃手達が戦う準備を行っている中で太刀川隊の太刀川と出水が現れる。

 小南は狙撃手じゃない太刀川や出水に今日は無理な事を言うのだが見るのもランク戦の醍醐味である。

 

「こんな面白いの見れない風間隊は残念だな」

 

 このスペシャルマッチは記録を一切残さない決まりになっている。

 太刀川隊と入れ替わるように防衛任務に入った風間隊を少しだけ可哀想に思う出水だが深雪は微笑む。

 

「果たしてそれはどうでしょうか……現場に居合わせなくてトラウマを刻む事が無くて済んだ可能性もありますよ」

 

「トラウマって……相手、アーチャーなんだろう?弓矢を使う相手が銃を使う相手に勝てるんだったら戦争で銃が流行らねえよ」

 

「確かに人を殺すのに銃は最適解な武器とも言えます。100人中100人が確実に人を殺すことが出来る武器で、対する弓矢は100人中5人ぐらいしか確実に人を殺すことが出来ません…………ですが、問題はその5人がおかしいのです」

 

「例えば?」

 

「那須与一という英雄をご存知でしょうか?」

 

「知らねえ」

 

「平安時代に居た優れた弓兵です。現代の様に完成された蒸気機関の船でなく、木製の小舟の上で弓矢を構えて遠くにある扇子を撃ち抜いた逸話を持っています……ボーダー隊員が狙撃銃でそれと同じ事が出来る人は何名居るでしょうか?」

 

「……東さんと奈良坂と当真なら出来そう、いや、揺れる足場なんだろ?……」

 

 那須与一の逸話を出されて答えに悩む太刀川。

 現代の様に完成された船でなく木製の小船の上で旋空弧月を決めたとして果たして確実に相手を倒すことが出来るのか?という疑問に関して答えが出しづらい。

 

「さぁ、はじまりましたスペシャルマッチ!!実況は引き続き私こと武富桜子がお送り致します!」

 

 色々と悩みつつも席を確保していく玉狛と太刀川隊。

 今日はスペシャルマッチが行われる予定であると実況に命をかけている武富桜子が夜の部に引き続き実況を行う。

 

「このスペシャルマッチ、ボーダーが極秘裏に開発をしていた歴史上の偉人や神話の英雄などを模した人型のトリオン兵とボーダー隊員が戦うスペシャルマッチです。なんでも先の大規模侵攻で未知のトリオン兵が出てきて困惑したりする方が多かったりしたので、未知の相手に対する対策を取ろうとの事で……詳しい情報は私も一切知りません!解説のお2人方、お願いします!」

 

「どうもはじめまして、解説の虹村だ。お前誰だ?って思うがそこは気にせずにいてくれ……今回は弓兵(アーチャー)なんで狙撃合戦になってる」

 

「諏訪隊の諏訪だ…………そういう感じになってるのか」

 

 解説席に座る虹村と諏訪。諏訪はボーダー以外にトリガーを扱う組織が存在しており、ボーダーと同盟を結んでいる事を一応は知っている。

 勿論口外はしないでくれと言われているので余計な事は言わない。前回の大規模侵攻で新型が出てきて苦戦したから皆は未知の相手に対しては弱いんじゃないのか?と言う疑問を出して、それに対する回答を出しているという設定なのを飲み込んだ。

 

「今回は人型のトリオン兵を1人狙撃すればいいだけなのですが……これ、あっという間に終わっちゃいませんか?」

 

「流石にそれじゃ訓練にならねえよ……大丈夫、弓兵(アーチャー)を信じろ」

 

「つってもよ、弓矢だろ?弓矢を馬鹿にしてるわけじゃねえけども」

 

「じゃあ、今居る銃手(ガンナー)志望の人間は頭の上に乗ったリンゴを1発で撃ち抜く訓練をしてくれよ」

 

「ウィリアム・テルの真似事か?……散弾銃じゃキツイぞ」

 

 あっという間に試合が終わるかどうか心配をする武富だが虹村は動じない。

 諏訪は弓矢が相手ならば狙撃銃に負けるんじゃないのかと考えるのだが、虹村は銃手志望の人間にウィリアム・テルの真似事をしろと言う。かなりの難題である。

 

「市街地Bの昼間を選ばれました!さぁ、狙撃銃達がフィールドに転送!」

 

 市街地Bの天候晴れの昼間のフィールドが選ばれた。

 通常のランク戦通りランダムに転送されるのだが、今回は動じない。

 

『お前達、コレはランク戦と異なる訓練だ。相手を確実に倒さないとダメなものだ』

 

「分かってますよ、それぐらい」

 

 何時もやっている多対多のランク戦でなく多対一の勝負、頭の処理や状況判断能力が異なる。

 1人の相手を倒すことにだけ意識を割けばいいのは気楽な事だと東からの注意勧告を気にせずにレーダーを展開する。

 

「お、直ぐ近くじゃん」

 

 運が良かった。

 No.1狙撃手の当真が転送されたのは今回の敵から割と近かった。これはラッキーだったなと狙撃に使えそうなポイントを探して住居を伝いイーグレットを相手に向ける。いきなりの発砲はしない、確実に仕留める事が出来る時にしか発砲をしない、牽制の弾を撃たないのが彼の流儀で一先ずはとレーダーに映る対象をイーグレットのスコープで見ようとしたその時だった

 

「え……」

 

『脳伝達神経損傷 緊急脱出(ベイルアウト)

 

 スコープのレンズが矢に貫かれて当真を撃ち抜いたのであった。

 

「え?え?え?」

 

「さて……スゴく今更な事だがボーダーの狙撃銃は風に影響する事は無く真っ直ぐに飛ぶように設計されている。狙撃銃をターゲットに向けてるって事は逆を言えばターゲット側から狙撃する事も可能だ」

 

「いや、あの、なにが起きたんですか!?」

 

「だからターゲット側から撃ち返しただけだって」

 

 いきなりNo.1の男が倒されて動揺が走る。

 狙撃の腕は勿論の事、隠れることや逃げることに関しても一流と言ってもいい当真がイーグレットを向けて対象を確認しただけで何もする事が出来なかった。なにが起こっているのかと武富は驚くのだが虹村は冷静に解説する。

 

 ボーダーの狙撃銃は真っ直ぐに飛ぶように設計されている。

 狙撃手は狙撃銃を構えてターゲットを捉えるのだが、逆を言えばターゲット側からも狙撃手を撃ち抜く事が出来る。だから狙撃銃を向けてきた当真のイーグレットのスコープを貫いて当真の頭を撃ち抜いた。

 

「さて、ただ見てても面白くねえからチャンスタイムだ……トリオンを除く7つのパラメータの内の1つを開ける事が出来る、諏訪さん、弓兵(アーチャー)のパラメータの内の1つを選んでくれ」

 

「あ〜……………技術って言いてえところだけども、射程を教えてくれ」

 

 狙撃する相手を狙撃される位置から狙撃する、しかも弓矢でやるという変態技を成し遂げた。

 果たしてどれくらいの技術を持っているのかと気にはなるのだが、それよりもと射程が気になったので諏訪は射程を選択して射程をモニターに映し出すとどよめきが起きた。

 

 

 射程 99(測定不能)

 

 

「おい、おかしいだろ!!99って、黒トリガーを持った迅でも天羽でも叩き出す事が出来ねえ数字だろ!」

 

「いや……これで間違いはないんすよ」

 

 諏訪がツッコミを入れている間にも観客達が動揺している間にも狙撃手達は数百メートル先にいる弓兵に撃ち抜かれる。

 当たる当たらない以前に射線が通る場所にいれば問答無用で撃たれる。那須隊の日浦が、三輪隊の古寺が、荒船隊の穂刈と荒船が狙撃銃すら向けていない、狙撃の的を絞っている素振りをまともに見せていないのにあっさりと弓兵(アーチャー)に撃ち抜かれる……と思えば撃ち抜いた矢は地面に突き刺さりクレーターが生まれた。

 

「はぁ!?どうなってんのよ!?」

 

 皆の気持ちを小南が代弁した。

 普通に弓矢を放っているだけなのに、クレーターが生まれた。頭がおかしいんじゃねえのと言えるような威力を叩き出している。

 

『東さん、相手はなんなんですか!?こっちがイーグレット向ける前に射線が通ってるからって撃たれましたよ!?』

 

 倒された古寺は東に今回の相手が何なのかを尋ねる。

 100m以上先にいる自分達を器用に撃ち抜くだけでも異常なのに、射線が通ってるからと言うだけで撃たれた。

 

「……それが、分からないんだ」

 

『今回の相手は歴史上の人物や神話の英雄を模したトリオン兵だと聞きますが?』

 

「いや、誰かは教えてもらっているんだが……アーラシュって言う英雄だが聞いたことはあるか?」

 

『いえ……無いですね』

 

 東は夜の部が終わってから今回呼び出された英霊の真名を知った。

 アーラシュ、戦史関係では博識な東だったがアーラシュという名前は聞いたことはなかった。発想が柔軟な東は直ぐにインターネットを使ってアーラシュの情報を出そうとしたが……全くと言って出てこなかった。

 

 奈良坂に聞いたことがあるかどうかを尋ねるのだが奈良坂も知らない。

 

「え〜このままだと一方的なクソゲーになるから一応は解説をする。今回の相手はアーラシュと呼ばれるイランという国の神話に出てくる英雄だ」

 

「イランですか?」

 

「あ〜…………全く分からねえな…………」

 

 矢の雨が降り注ぎクレーターが大量に生まれる。

 腕のある狙撃手達は射線が通ると同時に撃ち抜かれるという事態に襲われており、虹村はこのままだと塩試合なクソゲーになるからと一応は解説をしておく。アーラシュの名を上げて何処の英雄かと言っても深雪とコシマエ以外にはピンと来ない。横の知識は広い見た目の割には博学な諏訪もイランの神話に出てくるという英雄と言われてもピンと来ない。

 

「宗教で言えばゾロアスター教とかに出てくるレベルの英雄で……まぁ、日本じゃマジでちゃんとしたゾロアスター教とかちゃんとしたイスラム教とかちゃんとしたイラン人じゃないと知らないレベルの知名度の英雄で…………弓矢に関してヤバい逸話を持っている」

 

「ヤバい逸話?」

 

「ペルシャ、今で言うところのイランという国と今で言うところのトルコという国が当時戦争をやってて締結したんだけども弓矢を放って飛んだところを国境にしようぜとなって神様がその決め方は理不尽すぎるからと最上級の弓矢の作り方を教えてペルシャで1番の勇者であるアーラシュが放ったんだがな………………………」

 

「どうなったんですか?」

 

「文献によって異なるけど……最低でも2500km以上の距離を撃ったらしい」

 

「はぁ!?」

 

 諏訪の叫び声に誰もがつられそうになった。

 小南が耐えたのが奇跡とも言っていいぐらいであり当然の如く周りはざわめく。

 

「2500kmが分かりにくいならば北海道から沖縄に向けて弓矢を撃って当たったぐらいの認識を持てばいいぞ」

 

「2500kmってマジですか!?」

 

「その辺は曖昧だ……文献によっては6000kmとか言うのもあるし……でまぁ、千里眼を持っている」

 

「千里眼というと千里の先まで見える目。遠方の出来事や未来、人の心の奥底を見通す能力ですか!?」

 

「そうそう、その千里眼だ……だから数百mぐらいの狙撃はクイックドロウ、いや、準備運動にすらならねえ……仮に戦場が東京だったら東京の何処でも撃ち抜くことが出来る」

 

「東京って確か2000平方km以上あんだろ…………」

 

 ありえないと言いたい諏訪だが目の前で起きている事に関しては受け入れないといけない。

 射線が通ると同時に撃ち抜かれるというとんでもない事が起きており、レイジを始めとするマスタークラス以上の狙撃手達も撃ち抜かれて……40分で全滅した。

 

「銃は100人使って100人とも殺すことが出来る便利な道具だ。対する弓矢は100人使っても5人ぐらいしか殺すことが出来ねえが……その5人は時には銃を持った人間よりも上回る……アーラシュにとって十数kmの的当てなんざ余裕なんだ」

 

 アーチャーという点ではアーラシュはぶっ壊れた性能を持っている。

 1kmの狙撃でヤバいボーダーの中で2500km以上の狙撃が出来て十数kmの狙撃は準備運動と言うぶっ壊れにも程がある力を持ったアーラシュ。

 

「ミユキさん」

 

「なんでしょうか?」

 

「サーヴァントってこっちの世界で実在してた人を模したトリオン兵、であってるよね?」

 

「ええ、その認識で間違いはありません……アーラシュは1000年以上前の英雄です。日本のネットで検索しても引っかからないので超がつくほどに日本ではマイナーな英霊ですが地元であるイランではジャシュ・ネ・ティルガンという祭りがあるほどの英雄ですよ」

 

「そっか……」

 

「どうしたんですか?」

 

「ずっと疑問に思っててさ……こっちの世界、トリガー文明が全然発達してないなら何処かの国が支配下に置こうって企まなかったのかって……あんな事が出来る人間が滅茶苦茶居たらそりゃこっちの世界を支配する事なんて不可能だよなって」

 

 こっちの世界が何処かの国に支配されていたという一例は聞かない。

 遊真は狙撃手じゃないが今回アーラシュがやった事がどれだけイカれた事なのかは熟知している。それを踏まえた上で、この世界の歴史上の人物や神話の英雄はとてつもない化け物だと認識する。

 

「言っとくけどアーラシュは1流で勇者であっても1番強いわけじゃねえ……まだまだ上な英雄は存在してる……それやったら流石にイジメでしかないからやらないようにしてるけれども」

 

 ついでだからとコシマエも補足しておく。

 それを聞いていた玉狛や太刀川隊はマジで?という顔をしているのだが残念ながら事実である。

 

「え〜流石に塩試合なので次の試合を決めたいと思います」

 

 アーラシュが普通に矢を放つだけで勝利を決めた。

 圧倒的なまでの力を見せつけられたが見る人にとってはつまらない塩試合、虹村は次に行われる試合を決めようとガラガラを取り出して修の元に向かった。

 

「夜の部のMVPは三雲隊だからな……引けよ」

 

「はい……」

 

 ガラガラを修は回す。

 残っているクラスはランサー、ライダー、アサシン、キャスター、バーサーカーの5つでありなにが出てくるのかと周りも息を飲み込んだ。

 

「お、キャスターか……じゃ、後は頼むわ」

 

 ガラガラを回せばキャスターのモニュメントピースが出てきた。

 これが出てきた以上は進行役は自分じゃなくて深雪に相応しいとピンマイクを深雪に渡した。

 

「さぁさぁさぁ!皆様、次にボーダーが対戦する相手はキャスター、主に魔術や呪術等を使った逸話や文学史に歴史を残した英雄達がコレに該当いたします!さて…………アーラシュ相手に滅茶苦茶ボコボコにされたので今回は色々とハンデを用意しましょう!次に戦っていいのは迅さんと現在部隊を組んでいる全ボーダー隊員!反則級なトリガーを持っている玉狛もOKで、更にはトリオン兵でなく私が戦いましょう!」

 

 再び行われる多対一にざわめく。

 なにせ今回は迅と部隊を組んでいるボーダー隊員、ボーダーの主戦力全員でかかってこいと言ってきている。狙撃合戦で完敗したのだからもしかしたらボーダーの主戦力を動員しても勝つことが出来ないとてつもない相手じゃないのかと考える。

 

「オマケです!次に戦う相手の能力の元となっている名前は…………ズバリ、闘戦勝仏!!…………さぁ、現在防衛任務しかなくて絶賛暇なA級の皆様……果たして闘戦勝仏を倒すことが出来るでしょうか?…………期待だけはしておきますね」




アーラシュが壊れた性能をしすぎてないかって?なにもおかしくはないのである。
なお、この後に普通にアーラシュは消えました。ステラは撃っていない。


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