蝿王の船団 (考えるゴースト)
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魔王の誕生日

新世界。加速島『ゼトルニ王国』。それがこのオレ、プルエダント王家第二王子『プルエダント・グラ』の住む国である。植物と気候が通常の何倍も速く成長、変化する不思議な島。だからここは加速島と呼ばれ、世界でも有数の食糧生産国だとされている。

 

だがそれにあぐらをかいて我ら王族は腐敗してしまった。

 

この国は今、世界貴族天竜人が来るということで上を下への大騒ぎになっている。天竜人は少し機嫌を損ねるだけで王族だろうと殺害するか奴隷にしてしまうような存在だ。誰も天竜人に逆らえない。もし逆らえば海軍本部大将がやって来てそいつを捕え、天竜人に弓引く者として処刑や投獄されてしまう。

 

「おい!さっさと用意を終わらせろ!」

 

そんな中、大急ぎで臣下に歓待の用意をさせるのは玉座に座り唾を飛ばして命令する太った男。それがこの国の王『プルエダント・トビト』。民衆は自分たち王族の生活を存続させるための奴隷と考える暗君で、オレの父親。

 

「は!すぐに!!」

「全くいつまでもトロトロと走り回りおって。飯が不味くなるではないか」

 

トビトは常に何かを食べている。脂ぎった口から発せられる罵声は様々な液体を飛ばしてとても汚らしい。

神聖なる玉座でもそんなことをしているので始めの内は先王から仕える忠臣が注意していたのだが、そんな者達はみんな左遷されたか適当な理由を付けて処刑されてしまった。天竜人の真似事かな?

 

「父上〜。もう遅い奴は処刑しちゃおうよお。仕事ができない奴はいらないじゃん。緊張感も出るしさあ」

 

トビトには二人の王子がいる。一人はオレで、もう一人が『プルエダント・トルソー』。トビトをそのまま子供に変えたかのような第一王子。太っていて、わがままで処刑に何も心を痛めない狂人。

ろくでもない子供だ。王族の立場を活かして怠けまくっているオレが言えたことじゃないが。

 

「おぉ。それは良い考えだなトルソー!お前たち!次に失敗した者や仕事の遅い者は殺してしまうからな!キリキリ働けよ!!」

「グラお前もだぞ!働け!」

 

働けと言われてしまった。同じ王族ではあるが、オレは妾腹の次男。長男で本腹のトルソーとは決定的に扱いが違う。

その違いはこの玉座の間に表れている。ここには四つの椅子がある。オレたち王族の椅子だ。一つは王の椅子。一際豪華で部屋の最奥、部屋全体より高く作られた段差の最上段に位置する。二つ目は妃の椅子。王の椅子に比べれば劣るがそれでも豪華。同じく最奥にあり、王の椅子より一段下がった上段に置かれている。三つ目の王太子の椅子。王、妃よりも装飾の数を減らした椅子。それでも豪華で、部屋の最奥、王と妃より下がった中段の高さに置かれている。

そしてオレ、グラの椅子。他の王族が部屋の最奥なのに対し、オレは部屋の端。他三人の椅子は玉座の間に入ってすぐ目に入るのに、オレの椅子は目線をわざわざ向けないと目に入らない設計。

 

オレ以外の王族は豪華で煌びやかな真の王族。そしてオレは現王が戯れに抱いた使用人の子供。扱いの差はこれだ。生まれが全て。自分で言うのもなんだがオレは長兄トルソーよりもずっと優秀だ。父に認められる為に努力したから。

しかし18年に及ぶその努力が実を結ぶことは無い。トビトは長兄で王妃の子だからとトルソーを次期王にすると発表し、努力したオレを見ること無く、肉を食べて服を汚している。オレの椅子を端に追いやり、目線を向けない限り見えない位置に置く。しかし仮にも王族の血が流れているので、玉座の間には置く。だがやはり他の王族より劣るので段差は無し。

これがオレの評価。生まれた時からの評価。覆ることのない評価。使用人の下賤な血と、それを覆すほどの神聖で高貴な(トビトの)血。自分の血が大事だから、偉いから玉座の間に置いている。トビトからそう言われているような気がする。

 

そんな生まれ、待遇のオレが玉座の間で話しかけられるのは大変珍しい。

 

「何をすれば良いのですか?お兄様」

「ふん!お前もコイツらみたいに走り回って天竜人歓待の用意をしろって言ってるんだよ!!お前も似たようなもんなんだからお似合いだろ」

「やめろトルソー。王族が民のように走り回って用意をするわけにはいかない。この俺の血が入っているのだ臣下共と同じ立場にはできない」

 

トルソーの提案を即座に却下するトビトだが、これはオレの身を案じてでは無くやはり自分の血がそれだけスゴいと考えているから。自分の血が流れているだけで他の民とは隔絶していると考えているからである。

 

分かりやすく例えるなら自分が虐めている相手が別の誰かに虐められるのが許せないのだ。

 

「知っているかトルソー。天竜人は奴隷を所有する文化があるらしいぞ」

「?だからどうしたのお父様あ」

「分からんか?グラは仮にも王族。今まで贅沢な暮らしをさせてきた。下賤な血が流れているとは思えない程にな。つまり健康なのだよ。天竜人に渡す奴隷にはピッタリだと思わんか」

「な!!お待ちください!ちちう「我らの会話に口を挟むな!!」っぐ···!」

「あ〜そっかぁー。良いねそれ」

「だろう?いくら天竜人でも王族の奴隷はそれ程持っていないはずだ。つい先日他国の王妃を攫ったという情報はあるがな」

「まあそんなことが!?どうしましょうワタクシが攫われてしまうのですか!?」

「落ち着けマアヤ。だからグラを使うのだ。グラをこの上ないほど褒め称え、天竜人の気を向かせれば良い。幸いこやつは齢20にして様々な学問を修めておる。嘘は吐かずに済みそうだな」

 

目の前で行われる会話に目の前が真っ暗になるような感覚を覚える。

オレが今までやってきた努力をこのような形で使われるなんて···。認められる為に修めた学をこんな···。

 

「でも父上ぇ。こいつを褒めなきゃなんでしょ?ヤダよ僕」

「トルソー。お前ももう25だ。いい加減これくらいの我慢はしなければならん。王になる為だ」

「王になる為かあ。···じゃあ分かったよ。僕がんばる」

「それで良い。そしてダメ押しに悪魔の実を取り寄せた。動物系らしいがなんの実かは分からんがな」

「···!そうか分かったよ父上!コイツにそれを食わせて奴隷としての価値を上げる気だね!!」

「さすがは我が息子トルソーだ!左様。天竜人はたくさんの奴隷を持つという。そんな相手に魅力的に見える品は奇妙で珍しい一点物だ。これで安泰よ!ふはは」

「そうだね。あはは」

「そうね。ホホホ」

「「「あーはっはっは」」」

「···」

 

仮にも子供や兄弟がこの世の地獄に行くというのに笑うのか。···もう何も考えられない。考えたくない。好きにすればいい。オレの20年の人生は無駄だった。2歳からはじめた努力も無駄だった。つまりはそういうことだったのだ。

 

「おい!なにをボサっとしてる!さっさと例の物持ってこい!」

「はっ!」

 

 

───

 

 

「これだ」

 

持ってきたのはアケビのような形の紫色の果実。表面にはびっしりと?のような模様が描かれている。

 

「これが?」「悪魔の実?」

「左様。これこそが悪魔の実。時価数十億はすると言われる伝説の果実。これを食せば海に嫌われ、一生泳げなくなる代わりに常識では考えられない変化をその肉体にもたらすとされている。天竜人の供物にはピッタリだ!」

「さあ。グラ」

「「「食べろ!」」」

 

凄んで見せても動く様子のないグラに王たちは使用人を使って無理矢理果実を食べさせた。これから絶望の未来が待っているグラが、この時思ったことは

 

(最後まで自分たちは喋り、命令するだけなのか)

 

だった。

 

「うっ!うぐええ!!」

「おい!吐くな!ちゃんと食え。おいちゃんと食べさせろ」

「んぐう!···ハア··ハア···」

「全部食ったか。さあ変身してみろ!天竜人のお眼鏡に適うのか判断してやる」

 

その時、グラの肉体が変化する。

 

成人男性程だった背丈は見上げる巨体に。腕は太く長く、青黒い虫のような肢に。胸からは上記の虫の肢がさらに四本、対になって生える。そして右前肢には頭蓋骨でできた小さな杖を持つ。背からは4枚の翅が生え、上翅には黒い髑髏マークが浮かび上がる。腹は膨らんだ蛇腹状に変わり、背中側には硬そうな殻と棘が生える。顔の周囲は一変して虎の模様になり、顔面は巨大な赤い複眼に長く白い口吻を持つ虫の姿。

後ろ肢で直立する威風堂々とした最強の悪霊が、そこに現れる。

 

「おっおお!これは···いや。うむ。良いぞ実に良い。最高だ!」

「···ようやくだ。我は今···辿り着いた。運命が変わる。光の世界が壊れるのだ」

「···あ?何言ってる?」

「我降臨せり。我現れり。我顕現す」

「なんだ?どうした?」

「怯え惑う罪深き魂霊よ。喜べ。王への謁見が今許される。さあ我が元に」

「?なに·言って···」バタッ

「?!おい!どうした!···息が···!?ない!!」

「死んだ!?殺された!!」

 

場は狂乱し、身分も何も無く皆泣き崩れる。だがそれもしばしの間。この城にいた全ての人間は何も分からないまま死に絶える。

 

「今ここに死を持って罪を贖わん。皆我に続けよ。王の覇道に続け“バエルの呪い”」

 

その瞬間城中の死体からおびただしい数の蝿が現れる。それら全ての蝿は全てそれを成した巨大なハエの王に寄り集まる。

 

「我に付き従え。共に地獄へ行こうぞ。我は『魔王ベルゼブブ』汝らが力で持って世を討ち崩さん者なり!」




ベルゼブブ···ベルザブル、ベルゼビュート、バアル・ゼブブなどとも呼ばれる大悪魔。その名は『蝿の王』『糞の王』『糞山の王』などを意味する。
最強の悪霊とも呼ばれる。ちなみに、悪魔を意味する言葉『demon(デーモン)』には『悪霊』という意味もある。このことからベルゼブブを『最強の悪霊=最強の悪魔』と解説する書籍も存在する。
実力だけなら悪魔の王『サタン』をも凌駕するともされる地獄の支配者。
元は神であり、『バアル・ゼブル(館の主)』と呼ばれていた。しかし、異民族に一文字変えた言葉『バアル・ゼブブ(蝿の王)』と名を改められ、邪悪な存在としてのイメージを定着させられてしまった。

(※作者の偏見等が混じっている場合があります)


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神をも恐れぬ

天竜人とはこの世界での神のような特権階級にいる『世界貴族』と呼ばれる者達。そしてその権威を認めるのが世界政府、そしてその下部組織であるこの世界での海上治安維持組織『海軍』である。···とはいえ大多数の海兵は天竜人の支配を快く思っていない。かくいうこの儂[海軍本部中将]レドウィッグもそうだ。

奴らが民間人を虐げる姿を見ると、怒りが込み上げ血管が浮かび上がるのだ。仕事にならんというのは気付いているがどうしても我慢ならん。

以前は上手く自分の気持ちにも嘘がつけたのだがな。

 

「だえぇ〜〜」

 

白を基調とした宇宙服のような物を着たおよそ人とは思えない程にブサイクな男。それこそがこの世界で神と呼ばれる世界貴族『天竜人』だ。天竜人は下々民と同じ空気を吸わないために頭をシャボンのようなもので覆っている。こちらから願い下げだがな。

 

レドウィッグ中将!あまり機嫌悪そうな顔をしないで下さい!天竜人に見られてしまいます!!

「うるさい。分かってる」

 

部下に言われる程なので表情を消す。

この船は今ゼトルニ王国に向かっている。我々が護衛するは天竜人はボルボ聖、イカルガ宮の夫婦だ。二人は典型的な天竜人で多数の奴隷を持っている。夫のボルボ聖は新婚の癖にたくさんの美女を侍らせている。天竜人としては天竜人以外の人間は動物と同列だから気にしないのだそうだ。鼻持ちならん。

ボルボ聖は今大いに寛いでいる。···奴隷を踏み台にしてな。踏み台にされているのは儂が特に目を掛けていた若い海兵だ。名はテルギア。

 

テルギアは20代という若さで少将にまで上り詰めた逸材。巨大な武器を振り回す力自慢で[巨兵法]という通り名まで付いた自慢の部下だった。強く若いテルギアは次代の海軍を引っ張るだろうと期待されていた。だというのに···。

 テルギアは天竜人の非道な行いに我慢ができなかった。ボルボ聖の邪魔をして奴隷にされたのだ。最初の天竜人護衛の任務だったのだ。様々な経験を積ませるという元帥の···センゴクさんの判断に間違いは無かった。だがまだこの世界の闇を教えてやるべきだった。まだ早かった。儂がもっとしっかりしていれば良かったのだ。

 

「楽しみだえ〜。一瞬で木が生えるという加速島。早く見てみたいえ」

「島が見えておりますのでもうじき到着致します」

 

 

「······少し席を外す。儂が抜ける分警備を強くしろ」

「はっ!」

 

部下に一言告げて風にあたる。年甲斐もなく落ち込んでいるのは分かっているがどうしようもない。40年以上ただ戦ってきただけの老兵にはテルギアを助ける手段を取ることができない。儂には妻も息子も、孫さえいる。テルギア一人のために彼らを犠牲にはできん。それがどうしようもなく悲しい。

 

今すぐにもテルギアを助けたい。言ってやりたい。お前は間違っていないと。訪問した国の女王を「美しいから」という理由だけで奴隷に落としたボルボ聖を邪魔したお前は正しいのだと。

 

「クソったれ···!」

 

拳を船の壁に叩きつける。この年になって八つ当たりするのか。心の中のもう一人の自分がそう言う。だってしょうがないじゃないか。天竜人に逆らえばどうなるかは皮肉にもテルギア自身が証明している。もう自分にはどうすることもできないのだ。

 

「おい!あれはなんだえ!!」

「は···?あれ···とは?」

 

甲板の辺りが騒がしい。大方天竜人が癇癪でも起こしているのだろう

 

「あの黒い塊はなんだと言ってるのだえ!!使えん奴らだえ!奴隷にされたいのかえ?!」

「お待ちをボルボ聖。それは後ほど。すぐに黒い塊を確認致します」

 

甲板を見てみると案の定天竜人が騒いでいる。足をバタバタさせてテルギアが苦しんでいる。糞共が。

ボルボ聖が新たに海兵を奴隷にしようとしているが天竜人直属の護衛『CP0』の役員が上手く誤魔化す。ありがたいが今はそれより黒い塊とやらを確認しなければならない。今のところ確認できないが。

 

「どこを見てるえ!島だえ!わちしたちの向かう島の方だえ!!」

「は!ご助言感謝します」

 

ボルボ聖が指し示す方をよく見ると確かに何かが···黒い点のようなものが遠くに見える。

 

年はとっても未だ現役の儂が目を凝らしてやっと見える何かを、どうして温室で肥え太るコイツらが確認できたのだ?

 

「お前たちさっさとあれを撃ち落とすえ!早くするえ!」

 

刹那の間に浮かんだ疑問をかき消す。天竜人から命令が下った以上、海兵は迅速にその命令を遂行しなければならない。私情を挟むことは許されない。

 

「総員大砲用意!目標ゼトルニ島近海を飛ぶ黒い塊!射程範囲に入り次第各自の判断で撃ち落とせ!!」

「はっ!」

 

迅速に部下に指示を下す。天竜人が黒い()と言った以上はどれだけ儂が黒い()と思っていても黒い塊と言わなければならない。でないといらない注意を受けてしまう。面倒なことに。

 

10秒、20秒、30秒程経った頃、それまでは海上を漂っていたその黒い塊は、急速にこちらへ接近してきた。それは大砲の射程範囲ギリギリから一瞬で船に乗り込んでくるほどの速さだ。

 

「···っ?!敵は船に乗り込んだ!迅速にボルボ聖、イカルガ宮の安全を確保せよ!安全を確保次第戦闘開始!急げ!!」

 

黒い塊が船に乗り込む。間近に来たことで分かった。コイツは夥しい数の羽虫の大群だ。声を張らなければ自分の声すら聞こえないほどの羽音を立てている。そのおかげで何やら騒いでいる天竜人の声が聞こえないのは不幸中の幸いか。

 

事態は深刻である。天竜人はあれを撃ち落とせと言った。乗船させてしまった時点で我々は命令を遂行できなかったのだ。これ以上失態を犯せない。既にボルボ聖が今回の失敗を理由に奴隷にしたり処刑したりを決めてしまっているかもしれない。それでも我々はこの虫の群れを駆除しなければならないのだ。皆気を引き締めている。

 

と我々が虫の大群と睨み合うこと暫し、不気味な程その場を動かない虫の大群はそろそろ天竜人も避難できたか、という頃になって一部が散っていく。

 

「己が使命を忘れた愚か者よ。己が使命を全うした愚か者よ。審判の時だ」

 

羽虫の大群の密度が薄れて、現れたのは赤く光る複眼。周囲の羽虫を何億倍にも大きくし、何億倍にも邪悪にしたような怪物が現れる。

 

「人よ。我が慈悲を享受せよ。直に目を覚ます我が眷属へ、情を。贈り物を」

 

そう言うと、巨大な虫の化け物は羽虫の大群に腕を突っ込み、丸いナニカを取り出した。

 

それはボルボ聖の生首だ。

 

 

 

 

 

「···っは!?」

儂は?!!

 

ここは?···どこかの波打ち際で目を覚ました。周囲には部下の海兵とCP0が倒れている。いるのはそれだけだ。天竜人や奴隷はいない。テルギアは···いない。

 

夢を見ていた気分だ。だが、CP0の役人が倒れている時点で夢ではない。儂らは天竜人護衛の任務に失敗した。恐らく下手人は羽虫の···蝿の化け物。ボルボ聖は殺された。

 

世界を揺るがす大事件が起こるだろう。儂は重大な罰あるいは降格、除隊も有り得るだろう。だが儂は嬉しい。正義の執行者である海兵として失格だが、天竜人が、世界の膿が死んで清々している。こんなザマではどの道海兵は遠からずクビになるだろう。

 

だが、それがどうしたというのか。このレドウィッグが掲げる正義は『変わる正義』!

 

人は間違いを犯す。儂はその間違いを認め、その都度修正する。それこそが必ず正義に繋がると信じている。その正義に従って、海軍に居場所が無くなるのなら、仕方ない。

 

「っ!ふぅ〜〜!」

 

深い深呼吸を行う。

 

そう考えると随分と気が楽になった。未来はこの老骨に堪えるだろうが、若い頃を思い出す。惜しむらくはテルギアが隣にいないことか。巻き込みたくはないが、きっと付いてきてくれただろうに。

 

「う···ぐ!······!!」

 

部下やCP0が目を覚まし始めた。当分はこの島からの脱出を考えよう。

 

これからを思うと。少しだけ。

 

ワクワクしてきた



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カリスマ不足

「やっちまったな·········」

 

実際にやったのはベルゼブブだが。

 

悪魔の実を食べた瞬間、オレの身体は奪われてしまった。身体を奪った存在はベルゼブブと名乗った。ベルゼブブはオレから奪った直後に国民や王を皆殺しにしてしまった。意識だけはあったのでそれを目の前に見せられたのはかなり堪えた。今は何も感じないが。

 

その後にベルゼブブは死者を蝿に変え、使役していた。頭には『死蝿』の名が浮かんだ。死蝿はオレの言うことも聞くだろう。今もオレの周囲を滞空している。この中の大半はオレの国民たちだ。王や天竜人もいるのだろうな···。

 

『気にする事はない。所詮、皆地獄行きよ』

 

オレの身体を奪ったベルゼブブは消えた訳では無い。オレの心とでも言うべき場所に居座り、他人には聞こえない声で話しかけてくる。

 

そんなベルゼブブが聞き捨てならないことを言い出した。

 

「天竜人や父上は仕方ないだろう。だが我が国民が地獄に堕ちると言われる筋合いはないぞ」

『人は何気なく人を傷つけるものよ。悪気もなく罪を犯す。それは我々悪魔よりも邪悪なこと。無知は罪なり』

 

どういうことだ?国民たちがなにか犯罪を犯していたとでもいうのか?

 

『悩めよ人の子よ。だが今に非ず。人の子の身なれど、汝は旗印なり。覇を見せよ』

「あー···恩人サマ?。一人で唸ってるとこ悪いんだが」

 

強面の男が話しかけてくる。彼はエイギル。天竜人に奴隷にされていた元海賊だ。奴隷だった者達のリーダーのような立ち位置である。

彼を含めた元奴隷はみんな麻布で作られた簡素な服を着ている。

 

「これからどうするんだ?あんたにゃ感謝している。あの地獄から救い出してくれたんだ。そこはいい。だがそんなアンタだからこそ俺たちに道を示してもらわなきゃならない

······あー。恩人にこんな事言いたくないんだが···なあ···項垂れてないでシャキッとしてくれよ!!」

 

周りを見れば天竜人の元奴隷十数人がこちらを···いやオレを見ている。彼らは皆不安気な顔をしており、ソワソワしているように見える。

 

彼等から見たオレは、奴隷から救ってくれた救世主にしてリーダー。なのだろうな。実際に助けたのはベルゼブブで、オレも巻き込まれただけとはいえそんなこと分かりもしないし、意味は無いだろう。

 

そんなオレは何をしていた?ウジウジと黄昏て、『やっちまったな』だと?そりゃあ文句も出るだろう。自分達を救った人が、自信なさそうにしているのだ。不安になるだろう。ただでさえ奴隷解放直後で不安定だというのに。

 

旗印たれ。覇を見せよ。

 

オレをこんな状況に追い込んだいわば怨敵の言葉だが、正鵠を射ている。オレには自覚が足りなかった。オレは助けたのだ。命を背負ったのだ。

 

「そんなカタっ苦しいこと言わないでさァ!笑おうよ!!エイギル君!嬉しくないのかい?もう僕らは自由なんだよ?」

 

ギスギスしてしまったオレとエイギルにヘラヘラした若い男が割り込んできた。彼はキル。笑みを顔に貼り付けた青年だ。奴隷だった筈だがそれでも笑える彼はとても強い精神の持ち主だと思う。

 

「嬉しいさ。クソッたれな天竜人から逃げ出せたんだ。だが不安でもあるんだよ。この人は天竜人を殺したんだ。追っ手が来る。んで、天竜人絡みで出張ってくるのは海軍最高戦力『大将』だ。恐ろしい。だから焦らなきゃならねえんだ!」

「にしても「オレたちは近場の島へ向かう。そこで君たちを降ろすつもりだ」···!」

 

キルがなにか言う前に予定を宣言する。オレのせいで仲が悪くなるなど見てられない。

 

ちなみに、近場の島とは言ってもゼトルニ島には行かない。人はオレが殺し尽くしてしまった。ゼトルニ島の特性である『加速』は主に植物の成長に作用する。目に見える速度で成長する植物に対応するため、獣たちは狡猾に、強靭にその身を進化させている。

つまり、新世界でも類を見ないほどに強い獣の巣窟なのだ。あの島では、人間は強者の一つでしかない。人がいなくなったことなどすぐに気付いて既に街は獣の巣窟だろう。ゼトルニ島は放棄するしかない。

 

「降ろす···か」

「待ってくれ!そんな···勝手に助けて適当な島に残すなんて!無責任だとは思わないのか!!?」

 

周りで聞いていた元奴隷の一人がそう切り出した。それも考えてある。

 

「それは「ア゙ア゙!?おいお前!今なんつった!!!」···エイギル?」

 

説明しようとしたら急にエイギルが怒り始めた。どうしたのだろうか。

 

「勝手に助けただァ?島に置いてくな。だァ?助けてくれた恩人に好き放題言ってんじゃねえよ!!てめえこんな生活嫌だと泣いてたじゃねえか!」

 

「は?!ま!待て!待って!オレは別に···エイギルさんがその人攻めるから便乗しただけで。ッ!アンタさっき責任がどうたら言ってたじゃないか!今更その人の肩持つのかよ!!」

「言っていいことと悪いことがあるだろう···!この恩知らずが······!!」

「それに関してだが、島で降りる人は海軍に追われる可能性は低いと考えている」

 

エイギルとキルの喧嘩を未然に防ぐとまた別の所から火が上がってしまった。これもオレの力不足故なのだろう。

 

「何?テキトーなこと言ってんじゃないだろうな?」

「今の海では海賊の覇権争いが激化している。大海賊『金獅子』が潰れて他の有力海賊が金獅子のシマを奪い合っている。海軍はその対応に追われる筈だ」

 

大海賊『金獅子のシキ』は海賊大艦隊という多数の部下を有していながら単身で海軍本部に乗り込み自滅したのだという。

何故そんなことをしたのかは分からないが、実に良いタイミングでの大騒動だ。存分に使わせてもらおう。

 

「天候を従える女『ビッグマム』。世界最強の生物『百獣のカイドウ』。主にその2人が暴れて海軍も大慌てだろう。海軍最高戦力『大将』も3人しかいない。先の2人に、天竜人殺しのオレ。これで埋まるだろう」

 

2年前に起こった海賊王『ゴールド・ロジャー』の処刑。それにより引き起こされた『大海賊時代』。海は荒れている。大将より下の海兵もまた有象無象の海賊討伐の為に駆り出されている。世界は今大混乱中だ。

逃げ切ってやる。今ならそれができる筈だ!

 

「じゃあ。アンタについて行かない方が安全···なのか?」

「死んだ天竜人の所有物を回収に来るほど、今の海軍に余力はない。とオレは考えている。だが長くオレの傍に居るならきっと指名手配もされてしまう。降りるなら今しかないだろう」

 

天竜人に海軍以外の戦力が無いなら、彼らは安全だろう。

厳密には政府直属の組織CP(サイファーポール)がいる。彼らは市民ではなく政府を守っている。どれだけ市民に正義があっても天竜人の命令を聞くのだろう。

 

オレは自然と彼らを見捨てる判断を下した自分に驚いた。そして、それをなんとも思っていないことにも。

まあ彼らが確実にCPに狙われるとも限らない。先に言った通り、彼らは死んだ天竜人の所有物だ。いわば中古品。欲しがる天竜人はいないのではないかと思う。

 

確率としては半々ほどかな?

でもまあこれが最大の譲歩だ。正直、彼らの解放はベルゼブブが勝手にやったのでありオレにとっては彼らがどうなろうとどうでもいい。

 

「そ···そうなのか。そうなんだな!あー悪かったな。そんなに考えてくれてたのに噛み付いてしまって。本当に申し訳ない」

「俺も···怒鳴ったりして悪かったな」

 

何とか喧嘩の仲裁もできただろうか。少し現実逃避しただけでこれだ。前途多難で、この人数を纏めきれるとも思えないがまあ次の島までの辛抱だ。頑張ろう仮にもオレは王族なのだから。



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魚人との確執

「それで···。自己紹介が遅れてしまったな。オレはプルエダント・グラ。この船が向かっていた『ゼトルニ王国』の第二王子だ」

 

ゼトルニ王国はもう滅びたがな。

 

こういうとすごく悪者っぽく聞こえるし、間違ってはいないのだが。あえて言うならオレは被害者側である。

 

「エイギルだ。奴隷になる前は海賊の頭をやっていた。悪魔の実も食べたし、この中にも俺の悪行を知ってる奴はいるかもな」

「次。いいでしょうか?ワタシはアルマ。女ヶ島から連れられた者です。グラ様、一生ついて行く所存です。どうかご留意ください」

 

人目も憚らず告白してきた女の人はアルマさん。女ヶ島という産まれてくる子が100%女性になる島出身で、温暖な気候から薄着を好む民族である。

男性の奴隷は麻布の服を着て、女性の奴隷は薄着の服を着ているのは天竜人の趣味だろうな。

 

だが、アルマさんからは妙な···ナニカとしかいえないものを感じる。オーラというか雰囲気が

 

ベルゼブブに似ている

 

「グラ様!僕のことはキルって呼んでね。行くあてもないから連れて行って欲しいな。アハハ」

「グラ様な。OK。俺はテルギアだ!海軍少将だった。もちろんグラ様を捕らえるつもりは無いし、もう海軍は辞める。だから次の島までとは言わずに俺も連れて行ってくれ」

「グラ様。助けてくれてありがとうございます。そしてテルギアさんも海軍少将という立場を捨ててまで助けようとしてくれたこと、本当に感謝しています。わたくしはミッシェル・ナタトゥーユ。結晶の島『バリアクォーツ』の王妃です。祖国を寄る際は是非ともお礼をさせてください」

「いやあ。さっきはほんとに悪いことを言ったな。俺ァサーキブル。まあ···学の無いゴロツキだったんだ。許してくれ」

 

サーキブルは先程オレに噛み付いてエイギルを怒らせた人だ。オレも怒っていないので軽く流した。

 

その後も自己紹介は続いた。ベルゼブブから身体が戻った時にエイギルなど主要人物の名前ぐらいは聞かされたのだが、ちゃんとしたものははじめてだった。

 

奴隷とは思えないほど明るい。だが、それは先の5人くらいだ。あとの人は顔に生気がなく、オレの元に自己紹介しに来てもボソボソ言っていて正直よく聞こえなかった。ベルゼブブのせいなのか聴力が上がっているのに、である。

 

そして長い奴隷生活により、完全に人を信じない···信じられない人もいる。

 

「グラ。ありがとう···。感謝はしているんだ···!!だが許してくれ。おれは『フィッシャー・タイガー』。タイの魚人だ。アンタは恩人だ。この恩を返してぇ!!!だが!」

 

後退りをしながら、赤い肌をした大男が大粒の涙を流す。余程人間が怖いのか憎いのか、言葉とは裏腹にこちらを射殺さんばかりの眼力で睨みつけてくる。

 

そこに不快感は感じない。ただ哀れに思ってしまう。

魚人は100年や200年では効かない程の期間を差別種族として扱われてきた。人類ではなく魚類。それが世界政府の言い分であり、彼らに人権は無い。酷いとは思うが、オレも対岸の火事として見てきた。そんな彼らが目の前にいる。タイガー以外にも7、8人はいるのだ。

 

「おれは胸の奥に『鬼』を感じている!!!グラ!!アンタを!おれはァ!殺してぇと···思ってしまっている!!」

 

タイガーが悲痛な叫びを放つ。これが人間と魚人の溝なのだろう。喧嘩の仲裁で疲れたのだから勘弁してほしいと思うのだが、これも奴隷を助けたオレの責任である。何とか彼らとだけでも仲直りしたいものだ。

 

ッバチャア!

 

タイガーの想いを聞いていると、船縁から水が跳ねるような音が聞こえた。海からなにか出てきたのだろうか?

 

「···」

 

そこには見慣れない魚人の男がいた。青黒い肌で、異常に口が長く尖っている。両腕に巨大な円錐型の槍をグローブのように装備している。

その魚人は辺りを険しい目で見渡すと、一直線にタイガーの元へ歩いていく。

 

「···タイガーさん···。何故ここに?」

「ダーツ?おれは···。おれは人間に捕まって奴隷にされていた。それで···たった今そこの人間に救い出されたところだ」

「人間?···なあ、あんた。···この船に人魚はいなかったか?妹なんだ教えてくれ」

 

タイガーにダーツと呼ばれた鋭い口の男がオレに話しかけてきた。

 

「この船で人魚は見ていないな。でもこの船を全て見て回った訳じゃないからなんとも言えない」

 

黄昏ていたからだな。ここでも足を引っ張るとは。

 

「そうか···。この船を探索してもいいか?」

「ああ。いいよ」

「に···人魚だったら知ってるよ!」

 

タイガーの後ろで一纏めになっていた魚人の一人が発言する。周りの魚人はこちらと目を合わせようとしないが、彼だけはこちらを真っ直ぐ見つめてくる。

 

「人魚は···一箇所に集められている。船倉に備えられた水槽の中で飼われているんだ」

「···船倉だな。見てこよう」

 

ダーツが大股で歩いていく。オレもついて行こう。

 

オレがダーツと共に歩き出すとタイガーが、そして何故かアルマも着いてくる。

 

 

 

 

ダーツ、オレ、タイガー、アルマの4人は船の底部、船倉へと着いた。鍵付きの扉を壊し、先の順番通り中へ入ると部屋の大部分を占める水槽があった。水槽内部には人魚がいたが、扉を壊した音に驚いたのか水槽の隅に集まっている。

 

「この中にシャリランはいないか!妹よ!!」

「兄さん···?」

 

声をあげたのは美形揃いな周りの人魚と比べても、なお美しい人魚だった。

白い肌、青い尾ヒレ、そして何よりの特徴は首周りから伸びるたくさんの細く長い触手。他の人魚を見ても、自分の尾ヒレよりも長い、あの触手は伸びていないので彼女だけの特徴だろう。髪を前も後ろも長く伸ばし、ミステリアスな印象を受ける彼女がダーツの探し人。ミズヒキイカの人魚『シャリラン』。

 

「シャリラン!良かった···人攫いに攫われたと聞いた時は血の気が引いたぞ」

「良かった来てくれたのですね。私も不安でした」

 

ダーツとシャリランは再会を喜び、抱き合う。感動的な場面だが、困ることもある。シャリラン以外の人魚がオレとアルマを警戒して怖がっているのだ。これは親交を深めるのも難しいか。と思っているとタイガーが前へ出る。

 

「おれはフィッシャー・タイガー!!魚人島で冒険家をしている!おれはたくさんの人間を見てきたつもりだ。悪い人間はいる!君たちを攫い、ここに監禁した者がそうだ!だがここにいる人間2人は!その悪い人間を倒して、魚人を含めた奴隷全てを解放してくれた人だ!警戒してもいい!だが少しでいい···信じてくれ」

 

そう演説して、タイガーは頭を下げる。タイガーはオレを殺したいとまで言ってきた男だ。冒険家として、きっと他の魚人、人魚とは比較にならない差別、侮蔑を受けてきたのだろう。そんな彼が、自分の感情を押し殺して頭を下げている。

 

だが悲しいかな。そうまでしても、なかなか人魚の心は開かない。タイガーは頭を下げたまま動かず、まだその事実に気付いてはいないがこのままなんの反応もなければじきに気付くだろう。

 

盲者(エパナスタシー)

 

後ろにいたアルマが、オレに聞こえるギリギリの声でなにか呟いた。

 

そこから、劇的に状況は変化した。人魚たちはタイガーの言葉に感銘を受け、オレへは警戒心は残るもののなんとか会話をして誘導にも従ってくれた。

 

アルマがなにかしたのだろう。そう結論づけるのは簡単だった。話をしなければならない。彼女は、ベルゼブブと同じ気配を流し、人の心を操る?術を持っている。

 

ベルゼブブはアルマのことを聞いても沈黙し続けている。



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堕天使サマエル

アルマは他の元奴隷たちと溶け込み、喜びや不安を分かち合い、助かったことを笑い合っていた。

 

 

 

魚人、人魚との確執が多少は解消された日の夜。

 

オレはアルマを自室に呼び出した。船倉での人の心を弄ぶアルマと笑い合うアルマ、どちらが本性なのか見極めるために。

 

アルマがやってきた。

 

「お招きいただきありがとうございます。何用でしょうか?」

「なあアルマ。お前は何者だ?」

「何者とは?」

「なにかオレに隠していないか?船倉でお前がなにかを唱えたら急に人魚たちの態度が変わった」

「はあ···?ベルゼブブからはなにも聞いていないのですね?」

 

ベルゼブブ···。オレはその名を口に出したことは無い。心を読まない限りはこの場で出てこない言葉だ。オレの中で警戒心が上がるのを感じる。

 

「まあまあ落ち着いて。敵ではないのですから、そう身構えずに」

 

こころなしか、先程よりも妖艶さが増した気がする。

 

「ではお話しましょう。きっと都合が悪ければベルゼブブが止めるのでしょう。あなたは悪魔の実を食べましたよね?ワタシもです」

 

オレもアルマも人体では考えられない超能力を使っている。この海ではそのような存在は大抵、悪魔の実の能力者だ。隠しても遅いので頷く。

 

「ワタシ達が食べたのは『アクアクの実』。あなたはモデル『ベルゼブブ』。異界からの侵略者『魔王ベルゼブブ』がこの世界の悪魔の実を改造して作り出した物です」

「?!···異界とは?」

「『魔界』『神界』あるいは『死後の世界』···様々な呼び方がされていますが我々『悪魔』が住む、こことは別の世界です。その悪魔であるベルゼブブが異界から飛び出し、悪魔の実から『この世界の悪魔』を抜き取って成り代わることで『アクアクの実を作り出したのです』」

「···」

 

いつかベルゼブブから聞き出そうとしていた、どうしてオレの中に居るのかという疑問は出会ったばかりの謎の女から明かされてしまった。だが、そうか。ベルゼブブは悪魔···か。悪いヤツなんだな。

 

「悪魔の実は悪魔が入っていたのか···」

「悪魔の実に細工をしていたら霊的なエネルギーが出てきました。そのエネルギーを便宜上『悪魔の実の悪魔』と呼んでいます」

「そうか。ベルゼブブの···異世界の悪魔の目的は?」

「ん〜···。今は[打倒!世界政府!]とだけ覚えておいてください」

「なぜ異世界出身の悪魔が世界政府を?···と、答えられないんだったな。じゃあ最初の質問だ。お前はダレだ?」

「···うふふ。ふふふふふふ」

 

そうオレが質問した瞬間、アルマから赤黒い煙が吹き出す。煙はアルマの身を包み込み、ぐんぐん広がっていく。オレの部屋を完全に覆うまで続くか、と思われたその煙の侵攻は9割程覆ったところで止まる。

 

バサァ!

 

煙を吹き飛ばし、現れたのはコウモリの翼を大量に生やした赤い蛇。赤黒い煙が残留し地獄のような様相となった部屋で、長大なその蛇は5つの青い目をこちらに向けて仰々しく言葉を発する。

 

「我は『堕天使サマエル』!貴公に宿る神格“ベルゼブブ”と同じ『悪魔』である」

「サマエル···」

 

自らを堕天使サマエルと名乗った目の前の異形は言葉とは裏腹に極めて影···気配が薄く感じる。この船に乗っている元奴隷たちに見つからないようにしているのだろう。

 

「アルマもアクアクの実を食べたのか?オレもベルゼブブに人格を取られるのか?」

「女は実を食べた。なれど、汝が思考は杞憂である。貴公に宿るベルゼブブが牙を向くことはない。我は請われたまでのこと」

「請われた?」

「女は長き年月を隷属に費やした。然る後、女の心身は細く摩耗し、折れる。

女は我に希う(こいねがう)。わたしを助けて。と。契約は成った。我は受肉し、女は安らぎを得たのだ」

 

ということは悪魔と、実を食べた能力者では能力者の方が立場は上なのか。悪魔は能力者の許可がないと表に出られない?悪魔はどうしてそうまでしてこの世界に来るというのか。

 

いや実を食べた初期にオレは体を乗っ取られたな。なにか条件があるのか。精神が摩耗したら表に現れるとか?

 

「そうか。お前はオレの仲間なんだな?」

「然り。汝が覇道、我が補佐しようぞ!」

「ああ。頼りにしている。だが、人魚にしたような洗脳紛いのことは今後控えてくれ」

「よかろう。されど、我が主は貴公のみ。我は貴公の安否のみ、動く。忘れることなかれ」

 

ほぼ初対面なのにこの忠誠心の高さはなんだ?オレは不自然な程の忠誠に警戒心を持ってしまう。悪魔の目的に関係があるのだろうか?ありがたいが、同時に怖いと感じる。

 

サマエルは話が終わりだと判断したのか、赤黒い煙を吸い上げ、アルマの姿に戻り部屋を出ていった。

長いようで短い今の会談は驚きの連続だった。このことは、他の奴らには話せないだろう。少なくとも今はまだ。

 

 

 

 

会談後、昼下がり。

オレたちは予定していた島に着港した。

 

「さて、この島で君たちとはお別れだ。もう奴隷と呼ばれることもなく自由に過ごすことができるだろう。オレは別の目的もあるし、大将が敵になると思われる。着いてくるのは止めないが、来るなら覚悟のある者だけが来い!」

 

そう宣言して彼ら元奴隷の乗員たちとはお別れだ。彼らは別れの言葉をオレに残して次々と離れていく。

 

後に残ったのはエイギル、キル、アルマ、テルギア、ダーツ、シャリラン、タイガー、そして灰色のローブを纏った痩せぎすの男だ。

 

「···オレに続くのは茨の道だぞ。命も落とす可能性が高い」

 

 

「俺は海賊だった。船長をやっていたが、船員ももういない。戻る場所は無いんだ。ついて行くぜ恩人サマ」

エイギル。

 

 

「僕は···父さんに売られちゃったんだ。だから帰る場所ないからさ。置いてほしいなー」

キル。

 

 

「ワタシは貴方と共におります。死ぬその時まで」

アルマ。

 

 

「俺も、海軍にはもういられないからな。これから頼むぜ!」

テルギア。

 

 

「···妹を救ってくれて感謝する。売られてすぐだったからまだ酷い目にもあっていなかったようだ。妹と共に、魚人だ人魚だ、と差別しないあなたに敬意を」

ダーツ。

 

 

「グラ様。兄共々よろしくお願いします。人間だけではなく、魚人や人魚まで救ってくれたこと、誠にありがとうございました」

シャリラン。

 

「正直、おれはまだ人間が憎い。だが、アンタは不思議と大丈夫なんだ。最初に突っかかっちまったがよ。おれに···人間を信じさせてくれ」

タイガー

 

 

そして、初日の自己紹介の時はボソボソ言っていてよく分からなかったローブの男。

 

「·······レイス。···祖国は滅んだ。···国民はみんな奴隷にされた。···レイスも同じ。···だから連れて行ってほしい。役に立つから」

たどたどしくも確かな意志を宿して宣言したレイス。

 

 

以上の8人+オレ。この9人で、世界政府が指名手配した賞金首を捕らえて金を得る賞金稼ぎ集団を結成した。

名前は『人間裏感情』。オレとアルマ以外の団員全員が人間不信というイロモノ集団。

 

捕らえた賞金首は海軍に提出するのだが、オレたちはもれなく全員指名手配されるだろう。だが、オレだけは襲撃時にベルゼブブの姿だったため、顔バレしていない。上手く他の団員を隠せれば換金は可能だと考えている。

 

「それでここからどうするんだ?恩人サマ」

「物資と船を補給する。あの船は天竜人の物だ。使ってればすぐにバレるからな」

「お金はたくさん載ってましたしね」

「そして、準備が終われば、オレたちは新世界の奥へ行く」

「ほお?海賊王でも目指すんです?」

「そんなものはいらない。オレが欲しいのは安息だ。安全な島に行く」

 

 

「悪魔の住む島『マーナガルム島』!それがオレたちの目的地だ」




サマエル···様々な異名を持つ天使。代表的な名である『サマエル』は『神の悪意』『神の毒』を意味する。sam(サマ)が『毒』、el(エル)が『神』を意味する。
六対十二枚の翼を持つ赤い蛇の姿をしているとされる。『大いなる蛇』とも呼ばれる悪魔の王『サタン』の原型や同一存在ともされることがある。
グノーシス主義では不完全世界(人間界、物質界)の創造者『デミウルゴス』『ヤルダバオト』とも同一視される。
悪魔という説と天使という説が混在する謎の多い存在。悪魔であるという説が多い。
火星を支配する天使。死を司る天使。などがあるが、同じ死の天使である『カマエル』と混同してしまったのではないかとも云われる。


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海原技芸団編
海原技芸団


元奴隷のみんなは天竜人からお遊びで悪魔の実を食べさせられたらしい。実を食べ、びっくり人間となった人を笑っていたのだとか。高価な悪魔の実と一人の人生を使い、一時の娯楽とする胸糞悪い遊びだ。

オレ、エイギル、キル、アルマ、レイス。9人中5人が悪魔の実の能力者である。オレが殺した天竜人は、悪魔の実遊びにハマっていたのだろう。

 

「グラ様。それで物資や船はどう用意するのでしょうか?」

「盗むか?」

「賞金稼ぎになるんだろ?海軍に引き渡して金を受け取るんだし、表向き海軍と揉めるのはまずい。金なら天竜人が持ってたんだし普通に買い物だろ」

「この島にも海賊は停泊してますし、奪えばいいのでは?」

「···それで?どうします?」

「買う。そうだな···まずは服」

 

オレとダーツ、常に水中にいたシャリラン以外はみんな麻布の服を着ている。彼らはもう自由なのだし、服を変えなければならない。奴隷だと叫んでいるようなものだし、オシャレしてもいいだろう。

 

「そして、食糧と薬と武器といったところか」

「そういえば、マーナガルム島に行くんだろ?永久指針(エターナルポース)は持ってるのか?」

 

永久指針(エターナルポース)とは1つの島を示し続ける砂時計型の羅針盤である。

ベルゼブブから意識を取り戻した時に、何故かポケットに入っていた物だ。

 

「持っている。さて、シャリランと···ダーツ、タイガーは船の番をしてくれ。他のみんなで買い物に行こう」

 

魚人組には船番をしてもらう。連れていけば、不要な騒ぎが起こるだろうから。彼らも分かっているのか、すんなりと話が通った。

 

そして、おお!と魚人組を含めた皆が気合いを入れる。やることは地味だが、賞金稼ぎとしての初めての仕事だ。やる気があるのはいいことだ。

 

 

 

 

武器と薬を買った。これから服を買おうと服屋に入った時、にわかに外が騒がしくなってきた。

 

さあさあ皆様ご注目〜!今この街になァ〜んとォ!!かの世界貴族『天竜人』を殺害し奴隷を解放した悪魔のような男『蝿王』がこの街にいます!!それもその男は下等な魚人も含めて解放したのです!!!!!超超危険人物ですよぉ!!!!!

 

店に面した大通りで、紳士服に赤いマントを羽織った中年の男が大声で演説をしている。オレたちのことだろう。ドキリとした。厄介なことになった。街は大混乱だ。

 

「ですがご安心ください!この街は決してそのような罪人に好き勝手させません!な〜ぜ〜な〜ら〜

 

この海原技芸団(うなばらぎげいだん)がいるのだから」

 

まるでそれがパフォーマンスであるかのように大きく手を広げ、熱く宣言する。

 

町人たちも集まり、演説を聞いているのでまずい。と思っているとキルが話しかけてきた。

 

「グラ様ぁ。海原技芸団はこの辺で影響力のある組織ですからすぐに捜索が始まると思いますよ?」

「詳しいなキル。なにか知ってるのか?」

「あはぁ。今喋ってた紳士マント、いるじゃないですか。あれ僕の父なんですよ」

 

一瞬、思考が止まる。

 

オレに着いてくると決めた時、キルは『父に売られた』と言っていた。父親とはいえ、キルにとっては怨敵の筈だ。

そのことに思い至った時、なんとも言えない激情がオレの中に生まれた。

 

「···キル。つまりあいつはお前を奴隷に貶めたやつなんだな?」

「ええ。そうですよ」

「分かった。なら潰そう」

「···ん?はっ?!···え?マジ···ですか?!」

 

キルがマヌケな声を漏らす。

 

「潰すって···。僕らはさっき結成したばかりだし、お互いを知らず、戦闘能力も分からない!」

「そうだな。オレたちはつい先日知り合いになり、ついさっき仲間になった。だが潰す!」

「···。海原技芸団は旅芸人の集まりだ。殺し合いは本業ではない。でも相手は!大海賊時代に新世界まで航海してくるようなヤツらなんだ!それに対して僕らは烏合の衆だ!無茶なんだよ!!」

「なあ、キル。オレは自分の子を虐げるヤツが嫌いだ。オレがそうだったからな。だから···殺す。相手が格上だとかは関係ないんだよ」

「ええ。ついて行きます。ワタシたちはグラ様と共に」

 

オレの言葉にアルマが同調してくれる。彼女の言葉を合図にしたかのように、この場にいるオレの仲間が頷く。

ありがたい。

 

「あはは。そっか···。嫌いだから殺すか。それで天竜人殺すんだもんね。そりゃ、説得無理だよね。

···ついて行くよ。グラ様。親だとか遠慮しないで。天竜人と共にいつか『殺してやる』って思ってたから」

 

天竜人にも海原技芸団にもグラ様の手を借りることになっちゃうね。

笑いながらキルが言い放った。他のみんなはキルに遠慮して黙っていたが、キルの発言に同意してくれた。

 

団を結成して早々、自分勝手に方針を告げたから不安だったがみんなは着いてくると表明してくれた。素直に嬉しいと思う。

 

「さあみんな。抗争だ。敵は海原技芸団。裏で奴隷売買を行う旅芸人だ。遠慮せずにいくぞ」

 

 

 

 

 

昼。方針を告げ、会計を済ませて天竜人の船に戻る。魚人組にも事情を話し、賛同を得られた。全員での戦いだ。不思議と負ける気はしない。

 

「戦闘になる。武器は大丈夫か?負傷もする。薬は?」

「武器、問題ないぜ」

「薬も準備万端です」

 

テルギアが武器、シャリランが薬を管理している。

 

「よし、襲撃は明日だ。今日は情報を集める。構成員、主要人物の戦闘能力を探るぞ」

「了解!」

「腕がなるな」

 

集会は解散し、それぞれ4人と5人で2チームに分けて情報収集に出る。まだ船が買えていないが、この街、島に長くは居られない。海原技芸団の船を奪う気持ちでいこう。

 

準備を進めているところで、アルマが話しを繰り出した。

 

「皆さんは『覇気』というものをご存知ですか?」

 

アルマはここ新世界で戦闘をするなら知っておかなければならない知識として『覇気』というものがあると言った。

 

覇気とは簡単に言えば『意志の強さ』だ。意志の強さを肉体や武器に纏わせ、見えない鎧を纏うような感覚の『武装色の覇気』。気配を強く感じたり、心の声や感情を読み取る『見聞色の覇気』。威圧し、意思の弱い者をこれだけで気絶させることもできる『覇王色の覇気』。この3種類ある。

 

武装色と見聞色は修行をすれば、才能の有無に関わらず習得できるが、覇王色だけは才能が全てであるという。覇王色は王の力、王の資質とも言われ、世の大物は大抵この力を持つという。

 

覇気を知っていて、使えると言ったのはエイギル、テルギア、タイガー、ダーツそしてアルマ。

知っているが使えないと言ったのはオレ、レイス、シャリラン。

存在すら知らなかったのはキル。

 

「戦闘者が本業ではない海原技芸団に、覇気使いは少ないでしょう。ですが0ではない。覇気を知らないからと手加減してくれる訳でもない。その点海原技芸団はちょうど良い踏み台なのです。覇気使いとの戦闘を経験しましょう。特にグラ様。あなたは覇王色の資質があります。あなたは王になるのです」

 

覇気を使えない者に向かってそういうアルマ。アルマはこの先を見ている。オレを王にしたいのだろう。そのためには旅芸人の集団なんぞは踏み台にしなければならない。

 

王···。思い浮かべるのはオレの父であり、死蝿としてオレに隷属するプルエダント・トビトだ。あの男はオレの生まれが気に食わないという理由でオレを虐げた。

だが、全ての王がこんなのと同じではないだろう。

 

「···」

 

オレはオレに付き従う仲間たちを見る。多くは他に行くところがないからとオレに付いてきてくれている。それでも彼らは、いわばオレの臣民だ。トビトにはならない。オレはそう覚悟を決めて宣言する。

 

「なるよ!アルマ。オレを王にしろ!たかだか旅芸人ごときに!オレの覇道を邪魔させるな!覇を示せ!!」

「はっ!それでこそワタシたちのリーダー」

 

他のみんなも口々にオレを称える。指揮は高い。負ける気がしない。

 

 

 

ああ。指揮は高まった。だがこの時点ではオレたちは弱者だったのだ。油断してはならなかった。

 

「呑気だよネ!既に補足されてるってノニ!」



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新世界の旅芸人

海原技芸団襲撃を計画していると、どこからか声が聞こえてくる。

 

黒い人影が物陰からヌルッと現れる。

 

「誰だお前は!!」

「ヒヒッ。俺は海原技芸団所属の諜報員だヨ。一致団結中悪いが、もう方位完了してんのサ。んで様子を見てみたら、なんかマヌケなことしてるじゃなイカ?お腹痛くて声かけちゃったヨ」

 

諜報員を名乗る男は、地味な絹の服を着た優男だ。小馬鹿にした笑いを漏らしながら男は話す。

 

総員戦闘準備完了んっんー!天竜人殺しが奴隷共を集めてなにか話していたようだなあ!!でもでも〜お前らほーんとバァカだよねぇーー!!!敵の目の前でクソ寒いセリフ吐いてさ!お前らを捕らえれば大金が入るんだ。仕事が楽でたぁぁすかるぜぇー!!!!!

 

旅芸人の団長が喧しい。無駄にデカい声をスピーカーでさらに増幅させて叫んでいる。見渡すと無数の船が周りを囲んでいる。

耳を塞いでいた諜報員の男が耳から手を離して喋りだす。

 

うるせーなアイツ。まあそんな訳で包囲完了済みなのサ。キミら強襲する気だったみたいだけど、もう襲撃は秒読みなんダ」

 

襲撃計画を立てていたらこちらが襲撃された。敵の言う通りなんとマヌケなことだろう。

明日襲撃などという計画では甘かった。

 

情報収集に徹する。それはいいが、まずは一刻も早く島から離れて逃げるべきだった。敵はこちらが島にいた事を知っていた。ならば見つかるのも時間の問題だったのだ。『島にいる』という情報を過去のものにしなければならなかった。

 

オレはミスを犯した。ではここで負けるのか?無様に?···それはダメだ。そんなことはあってはならない。

 

「オレは生き残る。来い!」

 

ベルゼブブ!

 

体が作り変わる。人の身が、醜い蝿に変わる。思考が、ベルゼブブに奪われ ()()

 

オレの体はゼトルニ島と天竜人を殺害した時と同じ、蝿型の悪魔に変わった。決定的に違うのは意識はハッキリしているということ。自らの思うがままにこの身を動かせる。そこに、ベルゼブブの意思は反映されない。

 

「全てはオレの意思に基づいて動く」

 

どこからともなく死蝿共が周囲に集まる。全能感が高まる。

 

「オレを出し抜けたと思ったか?ああ大成功だよ。お前らはオレに気付かれることなく包囲し、お前は船に潜入した。だが、いくら策が成功しようと!お前らじゃ実力が足りねえよ!」

「···動物(ゾオン)系ですネ。

さて。たかだか天竜人とかいうザコを殺した程度で粋がるなヨ?罪過を実力と勘違いしてるようだナ。海兵すら殺せなかったじゃなイカ?」

「殺さなかったんだ。お前自身が死の淵でオレを見定めろ!!」

 

“死蝿の穴衆”

 

諜報員の男に突進するよう死蝿共に命じる。死蝿はその身に不釣り合いな程巨大な角を生やし、命令に応じる。

男は体の中心に風穴が空いて倒れた。そして次の瞬間に男の体は死蝿共の群衆に呑まれ、消えていった。

 

「開戦だ!今はとにかく船で網を食い破るぞ!船は捨てる!!」

 

ダーツとタイガーの武闘派魚人を先に行かせ、後を船で追う。シャリランは戦いが得意ではないらしいので、海底近くへ潜り避難している。

船を動かした途端、周囲から砲弾の雨を浴びる。しかし、レイスが一歩前に出て、悪魔の実の力を行使した。

 

“ジャック・オ・ランタン”

 

レイスは火の玉を生み出し、飛ばすことで砲弾を相殺した。

レイスはヒトヒトの実 幻獣種[幽霊(ゴースト)]の能力者だ。オレと同じ動物(ゾオン)系。

動物系は身体能力が上がることが一番の特徴で、幻獣種はさらに特殊能力が使えるというもの。しかし、珍しいことにレイスの力は身体能力が上がらないという特殊能力特化型の動物系だ。

その力を端的に言えば、霊的現象を起こす力。

 

レイスが鬼火の力で砲弾を打ち消すが、それでもまだ足りない。そう思っているとアルマとテルギアが、レイスに並んで前に出る。

 

「フフフッ。鉄の雨では傷など付きません」

赤い霧を出しながら、アルマが赤く禍々しい蛇に変化する。

アクアクの実 [サマエル]。主に精神汚染を得意とするので無機物には無力に思われるが、動物系なので身体能力も上がる。レイスが特別なのだ。体もオレの部屋で変化した時とは比べ物にならない程巨大化しているので、身動ぎしただけで砲弾を弾けるだろう。

 

「悪魔の実は食ってないが、この身一つで大砲くらい落とせる」

テルギアが武装色の覇気で体を黒く硬化させる。海軍の特殊体技[六式]の一つ“月歩”を使い、空気を蹴り飛んで一つ一つ砲弾を叩き落とす。

 

そしてオレも、死蝿を操るベルゼブブの力で砲弾を撃ち落としていく。意外なことに、死蝿は砲弾と衝突しても1匹も死ぬことなく、無傷で戻ってきている。普通の蝿とは次元が違う強さを持っている。正体は人の魂だからか、オレの支配下にあるからか。まあ使えるということでいいだろう。

 

砲弾の雨を4人で退けながら、何とか敵船の一つに乗り込んだ。

しかし、乗り込んだ時には既に魚人2人が敵を全滅させていた。所詮は芸人。といったところか。弱い。脅威は砲弾程度だろう。

 

こちらの抵抗を見ていた他敵船は、それまでが嘘のように、一斉に港へ引き返していった。無駄を悟ったのだろう。オレたちも後を追う。

 

「逃がさない」

 

芸人たちは船を降り、一方向に逃げていく。アジトに逃げる気か?それを見て空を飛べるアルマが追いかける。レイスも飛べるが、ふよふよと浮くもので全くスピードが出ない。

アルマは6対12枚の翼で羽ばたいて圧倒的なスピードを出せる。他のみんなに後を追うよう指示し、オレも飛んでアルマを追いかける。

 

芸人たちが一つのサーカステントへ入っていくのを建物の裏に隠れて見張る。あれがアジトか。

 

死蝿に他のみんなを案内するよう命令する。

死蝿の持つ情報をオレが受け取ることはできないので、テントの中に入れてもスパイ的な行動はできない。が、死蝿にオレの情報を与えることはできるので、案内はさせられる。死蝿の情報が分かれば殺した相手から情報を吸い取ることもできるのだが。

 

!?

 

待て?いない?諜報員の男がいない!?蝿になっていない?馬鹿な?!確かに殺したぞ?!死体も残っていない!見逃している?

 

全ての死蝿を虱潰しに探していると、みんなが到着した。非戦闘員のシャリランもいる。クソっ後にするしかない!

レイスが浮きながらこちらに来る時に、芸人たちが逃げるのを見たという。隠れていたのは逆効果だったか。てっきり反撃に来ると思っていたが。

 

「キル!このテントの脱出経路は!」

「知ーらない。僕が奴隷にされたのって5年くらい前だから、その間に作られたんじゃない?」

 

こんな時でもキルは笑顔で答えた。キルの顔は笑顔で固定されている。奴隷時代の名残ということか。

 

「分かった。ついて早々悪いが、また走るぞ!」

 

陸上移動が苦手なシャリランはアルマに背負わせて、レイスが芸人を見た場所へ移動する。

どうでもいいが、シャリランは首から生えた触手を上手く使ってアルマに抱き着いているので、この移動はなかなかいい手段かもしれない。

シャリランを背負ったアルマには低速飛行を命じ、オレが一人先行する。

 

追跡していると芸人集団を見つけた。オレはすかさず死蝿を操り、蝿の壁を作る。

 

「さあ追いついたぞ。威勢のいいことを言って、やるのは鬼ごっこか?」

はっ!馬鹿を言え!この場こそが決戦の!バトルフィールドッ!一人でノコノコ現れやがってぇ!目にものを見せてやる!行け!シュルカー!!

 

途中まで威風堂々と言い放っていたキルの父親は危険な戦闘を部下に任せた。なんとも情けない。

呼ばれた部下シュルカーも「え?おれ?」といった顔をしながら渋々前に出てきた。

 

「フハハハハ!我が名はシュルカー!!巷で噂になっている“逆さの怪人”とは俺のことよ!!」

 

オレの前に出た途端シュルカーは元気な名乗りを上げる。逆さの怪人とは聞いたこともないが、強いのだろうか?

 

「じゃ。そういうことで」

 

オレの注意がシュルカーに逸れ、戦闘のために死蝿を自分に戻すと、団長はその他の部下を連れて一目散に逃げていった。

 

「······あれぇ?」

 

シュルカーの悲しい呟きが辺りに響く。



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シュルカー談

戦闘のために壁にしていた死蝿を周囲に戻したら、その対戦相手『シュルカー』が足止めとして1人残された。哀れな奴だ。

しかし、まさか仲間を置いていくほどゲスな奴だったとは。

 

「なぜだ?オールライト···。なぜ···」

 

シュルカーは項垂れ、酷く落ち込んでいる。戦闘の意思はないようだ。

 

···はあ。

 

「おい。海原技芸団について教えろ」

「·········イヤだね。仲間は売らないよ」

 

今にも泣きそうな顔で、笑いながらシュルカーは言った。

 

「その仲間に裏切られたのにか?」

「そうさ」

「···美しいな。だが、報われない。お前は今も律儀に殿をやっている。だが仲間は?団長は今どうしてる?

···なあ。相手は裏切ったんだ。お前は深く傷ついただろう?お前がこんな目に合うのはおかしくないか?憎くないのか?」

「憎くないね」

 

はっきりと目を見て即答する。

 

「団長は···!オールライトは!大切な仲間なんだ。売らない。売れないよ!!」

 

シュルカーは起き上がり始める。これ以上時間をかけるのもまずい。芸人どもが逃げる。

 

殺すか。

 

そう思い、死蝿に命令しようとすると、オレの仲間たちが追いついた。

オレは奴隷を解放したことで人望を得ている。今の状況は少しまずい。即死させられれば良いが、コイツの言い分を一つでもまともに聞いてしまえば多少なりともグラつく。

 

 

 

 

 

シュルカーは人数差を悟ったのか、立ち上がるだけで戦闘態勢は取っていない。対話を望んでいる。しかし素直に話さず、途切れ途切れに話し出す。時間稼ぎだ。

 

「めんどくさいな。もういい。行くぞ!」

 

シュルカーを置いて芸人どもを追いかける。先程と同じくオレが先行し、アルマにはシャリランを背負ってもらう。

 

「待って!あなたは···坊ちゃん!?『カーザ』坊ちゃん!」

 

 

シュルカーは追跡を始めようとしたオレたちを引き止めてそう叫び出した。

 

また時間稼ぎか。

 

そう思い、飛び立とうとすると、シュルカーはキルに走り寄った。『カーザ』とはキルのことか。

 

「坊ちゃん!カーザ坊ちゃん!何故ここに。なぜこんなヤツらと!?」

「何故か?そりゃあこのグラ様に助けられたからさ。あとカーザって呼ばないでよ。キルって名乗ってんのに」

「助けられた。ですって?なぜこんなヤツに!何を助けられることがあります?!なぜ我らに助けを求めなかったのですか?!こんな得体の知れないヤツではなく我らに!」

 

聞いていて、何か話しが噛み合わない。キルは父親、海原技芸団団長に、シュルカーが言うところの『オールライト』に売られたはずだ。

 

「···?そりゃあ奴隷として売ったヤツらに助けなんて求めないよね?普通」

 

キルが「あれ?なんか間違ってる?」という目でこちらを見てくる。

常識的に、憎い相手に助けなど求めない。団のリーダーがそういう行動をとったのだ。団員もまた憎しみの対象だろう。それが分からないということもないだろうに。

 

「···へ?······売っ···た?」

 

だが、シュルカーは思いもよらない解答を得たような反応を返す。···やはり話しが噛み合わない。

 

「売ったって?!売られたってどういうことですか?!坊ちゃん!団長が?オールライトが!そんなことをしたと?!!」

「したよ。見たもの。寝てる時に縛られてさ。きつく縛るもんだから目覚めたんだ」

 

シュルカーは知らなかったのか。団長の、オールライトの独断だったのか。

 

「だって···オールライトは······。坊ちゃんが消えた日からどんどん元気が無くなって···狂っていって。そう!おかしいことだ!おかしいんだ!自分でやったことなのに落ち込むなんて!!」

 

シュルカーは怒声を上げる。これが時間稼ぎで、一瞬で考えたことならとてもすごいことだ。嘘でも、他の芸人共に逃げられるとしても、聞いていたいと感じる。

 

シュルカーの言い分では『団長はキルが奴隷として売られ、消えた日から元気がない』

『長年共にいたシュルカーが本気で心配するほど元気がなかった』

『自分で行ったことでそこまで落ち込むわけがない』

『オレ(グラ)に騙されたんじゃないのか』と。

 

シュルカーはもとより、キルもオレに騙されたんじゃと言われたことで感情的になっている。これ以上は水掛け論にしかならないだろう。

 

「行くぞ」

 

仲間に呼びかけ、芸人どもを追いかけ始める。時間をかけすぎた。芸人どもは船足にもよるが大分遠くに行ってしまっただろう。追跡はできないかもしれない。

だが、面白かった。

 

オレは、オレの中の悪魔『ベルゼブブ』に寄っているのかもしれない。邪悪に近付いている。それはゆっくりとオレを蝕んでいる。俺自身はそれに気付けてもあまり、深刻には考えられない。

 

「この辺りカナ。まア、思ったよりキミは道化だったみたいだネ」

 

聞き覚えのある声が聞こえてくる。前回と同じように、事が終わったと思い、意識を切り替えた段階で現れる男。仕留めたと思っていた諜報員の男。

 

「キミは彼らの敵サ。置いていかれてもなにも思わナイ。キミは団長の道具ダロ?

 

グラ ヲ コロセ」

 

シュルカーはそれまでが騒いでいたのが嘘のように黙り込んだ。そして徐ろに長剣を抜き放ち、無表情でこちらに走り寄ってくる。

 

速い。

 

オレはそれまで戦闘らしい戦闘はしてこなかった。仲間や死蝿に任せていた。

ベルゼブブの肉体はシュルカーを正確に捉えていたが、意識は追いついていない。

 

切られる!

 

だが、オレが反応できていないと分かったのか、仲間が間に割り込んだ。テルギアだ。

 

「急げ!技芸団を追え!」

 

テルギアの叫びで意識が戻る。オレは諜報員の男を探す。いない!探す余裕はない。

 

すぐに意識を切り替え、テルギアを残して芸人どもを追いかけ始める。

 

 

 

 

 

「はっ。さあ殿同士、仲良くしようや」

 

俺以外のグラ配下は先に飛んで行ったグラを追いかけていった。さっきはともかく、今のシュルカーは放置できない。シュルカーと同じく、俺は居残り役だ。

 

 

 

テルギアは孤児だ。

 

家族は海賊に襲われて死んだらしい。その海賊を捕らえに来たレドウィッグ中将に連れられて海軍に入隊した。

 

今の世は『大海賊時代』。正直、俺のような人間は溢れるほどたくさんいるだろう。数えたくもないほど。

 

レドウィッグ中将には感謝している。中将は上司だが、父親のように慕っていた。

 

だが、今はグラの元にいる。

 

 

グラは悪だろう。だが俺はグラについて行く。

こんなになった俺を中将は幻滅するだろうか···?

 

···するだろうな。中将は厳格だ。部下の命よりも、上司の命令を優先した。

 

中将には特に目をかけてもらった。だが、俺は中将殿を敵に回す道を辿った。

 

正しい道ではないのだろう。だが、悔いはない。

 

 

ギィン

 

っと。いけない。今は戦闘中だ。

 

「っは!相手にされないからって気を引くようなことすんのか?めんどくさい女みたいなことしやがって」

「···」

 

相手から目を離すな。

 

レドウィッグ中将の教えだ。正直、みんな言ってるようなことだろう。だが、中将は大切なことだと言っていた。

 

中将を裏切ったが、その教えに背く気はない。今のは俺が悪い。反省だ。

 

「今これを考えてることがもう目を離してることになるのかねえ」

「···」

 

シュルカーはなにも喋らない。寂しいねぇ。

 

コイツは少し、いやかなりおかしい。正直、弱い。考え事をする余裕があるほどに。

 

剣を振り回している。技量はあるが、それなりだ。

 

だが、少しずつ、目に見える速度で強くなっていっている。技量が上がっている。より型が洗練されていく。

 

異常だ。戦闘中に成長するということはあるが、これは無から技が生まれている。元の力量は知らないが、コロコロと剣技を切り替える。

 

初めは柔の型、次に剛、脚も使いだした。わざと剣を手放し、空いた手で殴ってくる。手放した剣の柄に肘を当て、刀身を突き出してくる。足先で剣の腹を蹴り上げ、剣を構え直す。

 

汗が垂れる。強い。もはや型なんてない。剣が舞っている。恐ろしい。

 

「だが、覇気も使えないヤツには負けねーぞ!」

 

勝てない敵ではない。



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蝿王担当海兵

「総員!レドウィッグ中将に敬礼!」

 

儂はレドウィッグ。天竜人護衛の任務に失敗した海兵だ。本来、この世界の神たる天竜人の護衛に失敗し、あまつさえ死なせてしまうなど、それだけで死刑すら有り得ることだった。実際、当時の部下たちは全員漏れなく処刑された。

 

だが儂は生き残った。本来は儂も死ぬ予定だったのだが、儂は漂流した島で、悪魔の実を食べた。

海軍のさらに上層部『世界政府』は儂が食べた悪魔の実の種類を聞くと手のひらを返したように態度を改め、結果儂だけが生き残った。

 

処刑を免れた儂は新たに勅命を受けた。あの日、天竜人を殺害した下手人“蝿王”を捕まえろと。

蝿王拿捕の功績で任務の失敗を帳消しにするのだという。ふざけた話だ。

一思いに死なせて欲しかった。自分以外、誰一人守れなかった儂は···もう絶望してしまっているのだから。

 

儂は流れ着いた島で再出発するつもりで、決意を新たにした。だがそれも一瞬で潰えた。部下たちの処刑と共に木端微塵に砕かれたのだ。それを生かされた。少し珍しいだけの果実を食べただけで、生かされたのだ。

 

自殺しようとした。だが、悪魔の実を食べた時から儂の中に居着いた『意思』は、儂に終わることを許さない。

 

『役を履行せよ』。意思はそう言う。感情を見せぬ機械的な声で、悪魔のような言葉を発する。

 

海軍本部より新たに借り受けた部下たちも、忠実に上官たる儂の命令に応える。それは、仮に死ねと言えば死にそうな程に。それが儂には辛い。

儂が間違えば、彼らも間違った道をそのまま突き進む。だから儂は狂うことを許されない。儂は···自らが奴隷となったことを自覚した。

···これは我が身可愛さにテルギアを救わなかった儂への罰か?儂はあの時、自分の立場を考えなければテルギアどころかあの場の奴隷全員を助けられたのだ。それを儂はしなかった。そう考えると納得できる。

 

「中将!目標の島が見えてきました!」

「よし。各員傾聴!儂らのターゲットである『蝿王』は新世界の小島にて停泊中との情報が入った。島には町が1つ。そして、同じ場所には『新世界に巣食う闇』の傘下『海原技芸団』の目撃情報もある。儂らの捕縛対象はあくまで“蝿王”だ!そのことを忘れるな!」

「「「はっ!」」」

 

内心とは別に、儂は威勢よく命令を下す。長年軍人をやっていると、もはや自分の心情など別にして行動できる。

 

儂が下した命令は要するに『海原技芸団』を無視し、『蝿王』だけを狙えというもの。仮に海原技芸団が目の前で悪さをしても見て見ぬふりをしろと。このような命令に満場一致で承諾する部下たちが、儂は怖い。

 

質問をして欲しかった。疑問を持って欲しかった。反対して欲しかった。正義の執行者として、それは間違いじゃないのか!と言って欲しかった。

 

この任務を受ける時、世界政府より海原技芸団は捕まえるなと厳命が下った。『海原技芸団を従える存在』と敵対するな。命令を遂行せよと、儂の中の意思も言ってくる。

 

もう儂は逃れられない。儂の中に善悪は無く。有るのは政府、悪魔の意思に忠実な身体のみ。

 

ああ無情

 

「では上陸ですよ。皆さん」

 

副官の“マット大佐”がそう締め括る。彼は儂の部下の中で最も階級の高い海兵だ。

頭脳派の海兵で、前線に出る儂とは対極的だ。長髪と丁寧口調が特徴的な海兵。マット大佐には儂が不在の間の現場指揮を期待している。

 

儂らは蝿王がいると思われる小島に乗り込んだ。程よく人が行き交い、盛んに売買が行われている。都市ほど大きくはないが、確かな『生活』『生命』が感じられる。

 

守らねば

 

強くそう思う。政府がどう思おうと関係ない。目の前には確かに平和があり、そして近辺に凶悪犯が潜伏している。なにか事件が起こる前に捕縛するのだ。

儂は自分を見失ったが、それだけは絶対に『正義』だと言い切れる。ここだけは全力だ。

 

「総員散開!とにかく蝿王を見つけ出せ!対象は悪魔の実の能力者だ!町人も疑うつもりで探せ!!」

 

そう命令を出すと、部下たちは一斉に走り出す。町人たちには悪いが、一時的な我慢で町の平和が保たれるのだ。ほんの少しだけ儂らに協力してほしい。

 

儂らは町人からの通報で蝿王の滞在に気付いた。町人が分かる程度には蝿王だと分かる特徴がある筈だ。きっと人海戦術もこの一瞬だけなはず···。

 

 

 

 

部下より、天竜人専用艦である“マリージョア艦”が停泊しているという報告が入った。

この島に天竜人の来訪者は現在いないはずなので、盗まれた船だろう。状況証拠から蝿王が、殺害したボルボ聖から盗んだものだと思われる。

 

マット大佐と相談し、儂らは船内に突入することにした。船は不気味なほど静かだが、蝿王本人もしくは痕跡が残っているのはほぼ確実。違うにしても、天竜人不在の地にある天竜人所有の船など調査しない訳にもいかない。

 

 

調査の結果この船の船倉は人魚用の水槽が備えられていることと、床に少量の海水が点々と零れているのが分かった。そして無人。船に備えられた設備以外、なにもない。

 

この船はつい最近まで使用されていた。それも魚人である可能性が高い。点々と零れている海水は海中から上がった魚人の体から零れたものだと思われる。

蝿王は魚人や人魚の奴隷を乗せた船を襲撃した。蝿王はそのまま魚人を配下に加えた。それならば違和感はない。

 

恐らくこの船は蝿王に放棄された船だ。町人に話しを聞いた部下によると、海原技芸団と何者かが海戦をしていたらしい。蝿王は海原技芸団の船を奪うつもりなのだろう。

 

「海原技芸団の船へ向かう!急ぐぞ!」

「技芸団の船はこちらです。レドウィッグ中将!」

 

部下が指し示す方向へ急いで向かう。

町人が言う海戦は数十分前の出来事だ。まだ蝿王はいる!

 

海原技芸団の船へ向かう道の途中に無数の蠅群を見た。

 

近いぞ!

 

儂がそう思った瞬間、儂の中の意思が暴れ出す。止められない。

儂の身体が変化する。人の身から、爬虫類を思わせる鱗のある身体へ。変化する身体と一緒に罪の意識も強くなる。行動を起こさなかった儂を強く締め付ける。意識が薄れる。

 

ああ、儂はただ利用されるだけなのか···。

 

 

その身体は6本の足がある黒いトカゲ。前足同士が鎖に繋がれ、脊椎に沿って釘が一列に刺さっている。肋骨が浮き出るほど肉付きの悪いそのトカゲの顔には白い人面が置いてあり、釘と鎖で貼り付けられている。

 

「聞けい!我は“大天使サタン”!我は敵対者!悪霊“バアル・ゼブブ”よ!ここは闇の者たる貴様がいてよい場ではない!早々に去ね!」

 




サタン···聖書(キリスト教、ユダヤ教、イスラム教など)で悪魔の統率者、王とされる存在。その名は『敵対者』『訴える者』などの意味を持つ。
大魔王や悪の大王というイメージが強いが、その知名度とは裏腹にその正体はほとんど分からない。『サタンという名の悪魔』『強大な悪魔(ベルゼブブ、サマエルなど)の異名』『悪魔の階級』などの捉え方が存在する。
サタンの正体として有名、有力なのがルシファー(ルシフェル)とサタナエルである。どちらも元は高位の天使であり、罪を犯して堕天した。

女神転生では、種族は大天使である。女神転生では天使を生み出した神が、自分を信仰させるためにサタンを生み出した。という設定だ。サタンが悪さをし、自分(神)がそれを解決することで人は自分(神)を崇める。サタンは神の命令で動いているから種族は大天使として登場する。
※女神転生のみでの話しなのでご留意ください

正体が不明なことを反映してか、登場する度に姿が変わる。上記の姿は『女神異聞録ペルソナ』(ペルソナ1)での姿。


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テルギアVSシュルカー

覇気が使えるか、使えないか。

 

戦闘はそれだけでは語れないが、覇気使いが覇気を使えない者に負けることはほとんどありえない。だから俺は中将に覇気を仕込まれた。

 

シュルカーは覇気を使えない。攻撃に武装色が乗っていない。

だが、俺は油断してない。

 

(成長···いや変化している)

 

シュルカーは刻々とその戦闘スタイルを変化させる。今までの経験で培われ、最適化されたやり方や癖というのは、そう簡単には変わらない筈だ。変えようと思って変えられるものではない。だが、それがぶつかる度に変わる。不思議なことだ。

 

そういう悪魔の実を食べたのか。

 

この海では常識では考えられない、不思議なことをする人間がいる。そういった輩は悪魔の実が原因であることが多い。あと考えられるのは生まれた種族や部族か。

 

俺の恩人グラも悪魔の実の力で常識外れな強さの蝿を操る。

だから常識外れな力は悪魔の実だろうと当たりをつけて考えている。知らんけど。

 

しかし、この予想は辻褄が合わない部分もある。シュルカーは別に、『壁に張り付く』能力も使っているのだ。

 

俺が殴ろうと振り被れば、大きく後方に飛び避ける。後ろが道だろうが壁だろうが関係ない。道ならその後こちらに急接近して斬りかかり、壁ならそのまま壁面を走って登り、姿を隠して奇襲してくる。

 

悪魔の実は2個目を食べると死ぬ。だから、どちらかは単純な才能や技術なのだ。

 

いや、もうひとつある。この戦闘の前に不審な点があった。グラ曰く『諜報員の男』。グラがその男に蝿を集らせた場面を俺は見た。グラが殺さなかったにしても見逃した所を見ていない。だから俺はその男は死んだものと思っていた。

 

だが、男は現れた。意味深な発言を残し、その直後シュルカーは様子がおかしくなり、攻撃的に変わった。

 

理解不能だ。常識外れだ。だったらそれは、十中八九『悪魔の実の力』だ。男の力はなんだ?人に影響を与える力?操るのか?蝿から逃げたのは?分からない。俺はまだ、男の力を正しく捉えられていない。ならば捨てる!

 

「っぎ!」

 

首を狙って放たれた剣を躱す。分からないなら考えるだけ無駄だ。今はシュルカーに集中する。

 

シュルカーの能力は分かりやすい。『張り付く、張り付ける能力』だ。ペタペタの実、といったところか。つま先だけで壁に張り付き、踊るように壁面を翔ける。懐から取り出したナイフは指先に張り付き、外れる様子はない。

 

シュルカーは『逆さの怪人』の二つ名を持つ賞金首。その二つ名に恥じない奇怪なバトルスタイルをしている。

 

壁際に追い込んで大きく振りかぶる。後ろに飛んでも意味は無い。

俺は右腕に覇気を込める。腕が黒く染まる。武装色の覇気の力だ。硬化し、破壊力も上がる。

相手を捉え、拳を大きく振りかぶる。

 

メガトン・バン!

 

思いっきり殴る。単純だが、覇気を使えないシュルカーには驚異的な一撃なはずだ。これで倒れるなら良し、防御するにも、なにかこれまでとは違う手札を切らなければならないだろう。

 

どうだ!?

 

シュルカーは()()()()()()()()()を俺の右腕に当ててきた。シュルカーは俺の右腕にぶら下がり、指に付けたナイフで胴を滅茶苦茶に切り刻む。

 

蝙蝠男(バットマン)

 

俺は覇気で防御したので大したダメージではない。俺の攻撃に合わせ、右肘を壊したシュルカーの方がダメージは大きいだろう。だが、俺は衝撃を受けている。

 

シュルカーが覇気を使った。

 

声を出さなかっただけ、お前は冷静だと自分を褒めてやりたい。覇気が使えることを隠していたにしても、もっと効果的な場面はあった。この攻防以前に覇気を使わなかったせいで負った傷も、決して少なくはない。

 

諜報員の男だ。俺は確信を持って予想する。それ以外に考えられない。

 

俺は人を操るような力だと思ったが、そんな優しい能力ではないのかもしれない。強化···もしくは改造。人相が変わったところを見るにきっと改造する能力だ。

 

条件は分からない。俺は改造されていない。上限は分からない。しかし少し時間をかければ覇気を覚えさせられる。驚異的だ。上限が分からない以上早々に決めなければいけない。まだ格下の今、殺さなければ。生きていれば、回復されるかもしれない!

 

俺は先程と同じく、右腕に武装色を込める。だが、さらに右腕を壁と擦り、火花が出るまで熱を上げる。

 

「俺が見た感じ、利用されてるってところだが、俺はグラ様と地獄へ旅行しに行くと決めたんだ。助ける方法も分からないし、死んでもらうぜ」

 

軽薄だが、味方に捨てられて敵に捕まっても大切な情報を吐かなかった仁義の男はもういない。

 

メガトン・バン・フォイア!!

 

六式の一つに『剃』という技がある。剃は一瞬のうちに地面を10回以上蹴り、高速移動する技だ。

俺はメガトン・バン状態の腕を剃のように高速で擦り、発熱させたのだ。高熱の右腕は俺も熱いが、慣れればどうということもない。ぶつかる瞬間に鉄塊を上乗せし、ぶん殴る。

 

炎にも劣らぬ温度の拳、さあどう来る。

 

シュルカーはこれまた簡単に躱した。後ろに大きく跳んで、壁にぶつかって止まる。

 

じゃあ次は避けられねえな!壁を走っても左右に避けても、対応可能だ!

 

今度は体前面に武装色を纏う。

 

メガトン・マグナム!

 

タックルだ!追尾できるこの技!潰れろぉ!!

 

シュルカーは避けなかった。代わりに指に付けた10本のナイフを壁に向かって飛ばす。ナイフは全て壁に突き刺さり、四角く壁をくり抜いた。シュルカーは力任せにヒビを広げて四角い壁を抜き取る。抜き取られた壁は瞬時に黒く硬化し、俺とシュルカーの間に置かれる。

 

盾か!その程度で止まるかよ!!

 

俺はさらに体の前面に六式の一つ『鉄塊』を発動させる。体を鉄のように硬くする技だ。

借り物の覇気に負けるつもりは無い!

 

ギガント・マグナム!

 

盾は一瞬受け止め、崩れ去る。粉塵が舞う中にシュルカーはいない。

 

クソっ!仕留め損ねた!!

 

逃げたのなら、経路は四角くくり抜かれた穴からだろう。鬼ごっこだ。俺は鬼な筈だが、たまに瓦礫やナイフが飛んでくる。

 

こうヒットアンドアウェイな戦い方する奴には見聞色の覇気があると楽なんだが、俺は使えない。とにかく今は追跡するしかない。

 

 

先程までは、シュルカーが姿を眩ませると決まって罠が仕掛けられていたり、待ち伏せされたりした。だが、今はそれがない。不気味だ。

 

壁をくり抜かれた建物。10階相当の高さの屋上に奴はいた。屋上の床は何故か氷に変わっており、とても滑る。

身体中に尖った瓦礫やナイフを貼り付けたシュルカー。武器庫から盗んだのか、膝や肘に長剣を、指にはナイフではなく10本の曲刀を付けている。

 

トゲトゲしい見た目になった。その姿は全身凶器。だが、全身に刃を付けても、さして驚異ではない。

真に脅威なのは覇気が強まっていること。

 

覇気は強敵と戦うと強まると言うが、それにしてもこの上昇量は異常だ。やはりここで仕留めなければ。

 

シュルカーは地面を滑るような速度で俺に近寄ってくる。いや実際に滑っている。ローラーが付いた靴を履いている。

 

俺はシュルカーが通るだろう場所を予測して拳を振るう。

 

しかし、シュルカーは急停止して拳を躱し、俺を切りつける。

そして逃亡。スピードが出たところでUターンしてまたこちらに迫ってくる。

 

「あー!!うっとおしい!姿が変わっても同じやり方か!?いい加減飽きたんだよ!“嵐脚・肉断”!!」

 

六式の一つ『嵐脚』。簡単に言えば飛ぶ斬撃。高速で空気を蹴り、鎌風を起こす体技だ。

これを2つ放つ。当然のようにシュルカーは躱すが、隣の床は切れて裂け目ができる。2本の裂け目に挟まれたシュルカーは前方から来る俺を避けられない。シュルカーは裂け目を跨ぐが遅い!

 

ギガント・バン!!

 

ついに命中する。地面に倒れるシュルカー。皮膚が切れ、内臓も傷付いたのか吐血している。

だが、シュルカーの傷が目に見える速度で塞がっている。とどめを刺すしかないか。

 

「まあ忠義を尽くして、この最期はあれだとは思うが。悪く思うなよな」

 

シュルカーは戦闘中ずっと、たとえ傷を受けても無表情であった。



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幽霊歌劇対戦

捕虜となっていたシュルカーさんは突如豹変した。凶暴化したシュルカーさんを抑えるためにテルギアさんが残った。

レイスたちはテルギアさんの言葉通りに逃げた海原技芸団の本隊を追っている。

 

 

♪♪♪

しばらく進むとなにか歌声が聞こえてきた。

 

なんだろう?

荒々しく、闘争心を湧かせるような歌だ。

 

さらにおかしなことが起こる。今度はどんどん暑くなってきた。まるで大きな炎がすぐそばにあるかのように。ここは海が近いから、涼しくはなっても暑くなることはないと思うんだけど。

 

「なに!?マグマだ!マグマがあるぞ!!」

 

周囲を確認してくれてたタイガーさんが建物の後ろにマグマがあることを知らせる。タイガーさんって赤い肌してるから、なんか感じたのかな。違うか。

タイガーさんがマグマの存在を知らせた途端に、マグマはボコボコブクブクと徐々に勢いを増してこちらに近付いてくる。まるで意思があるかのように。

 

「タイガー!後ろだ!!」

 

グラさまがタイガーさんへ注意を促す。

 

タイガーさんの後ろからはマグマがゆっくりと近づいていた。まるで不意をつくように。

 

「後ろ?おおおお!!」

 

しかし、タイガーさんは大きく跳んでマグマを避ける。魚人の人は人間の5倍、力が強いんだって。だから不意を突かれても難なくマグマを回避できる。

 

タイガーさんは周囲を伺う。これは海原技芸団の人たちが襲ってきたね。

 

「あらあら〜ん?避けられましたねえ!つまんな〜い」

「詰めが甘いのですよ。せっかくわたくしが手伝ったというのに」

「誰だ!」

 

建物の上から話し声が聞こえてきた。1人はピエロの格好をした小男の人。1人は純白のドレスを着こなすキレイな女の人。

 

「海原技芸団“客寄せピエロ”サクリエル。よろしくねぇーん」

「海原技芸団“歌姫”ミスカ。ご機嫌いかが?」

 

「まだ来るか。先を急ぐ!エイギル、レイス、ダーツ、タイガー!4人で倒せ!」

 

グラさま、キルさん、アルマさん、シャリランさんは逃げた団長オールライトを追い、エイギルさん、レイス、ダーツさん、タイガーさんがサクリエルさんとミスカさんを迎撃する。

4人残すのは絶対負けないでとか考えてるのかな。優しいね。

 

「おい!マグマ置いたのどっちだ」

「はいはーい。それはこのア・タ・シ」

 

タイガーさんがマグマの出処を尋ねるとサクリエルさんが手を挙げた。

タイガーさんはサクリエルさんの相手をするみたい。

 

「俺も付き合うぜ。フィッシャー・タイガー」

 

エイギルさんもサクリエルさん討伐に手を挙げる。

 

「···」

「···」

 

レイスとダーツさんが見つめ合う。2人ともあまり喋らないから目線だけで「よろしく」と伝え合っている。喋るの苦手だから割と心地いい。

 

「もー!勝手に決めるなザマス!!」

「別に良いではありませんか。どちらでも」

「それもそうでガンス。決める手間が省けてラッキー!アンタも頑張れよ!相棒!!」

「ええ」

 

ミスカさんが面倒くさそうに返事をして、2人との戦闘が決まる。足止めに来たんじゃないの?グラさまたち通していいんだ。まあなんでもいいけど。

 

「と言うわけで。鬼さんこーちら!向こうへ行こうぜ!」

 

そうサクリエルさんは言うと体をどんどん粉のように細かくして風に流れて行った。

そしてエイギルさんとタイガーさんも、びっくりした後に慌てて追いかけて行く。

 

「うちのピエロがお騒がせしましたね。まああなた方はわたくしの“ウタウタの実”で潰えるのです。

 

あ〜♪下人が愚かに刃向かう♪笑顔の旅人へ〜♪勝手に♪討ち果たす〜?♪自分勝手に♪愚鈍に♪気遣わず〜♪

なんて罪深い人達」

 

サクリエルさんが去ると、ミスカさんはキレイな歌声でレイスたちを罵倒してきた。

 

生憎だけどレイスもダーツさんも黙って聞くような愉快な性格はしていない。グラさまからは抗争と聞いている。殺し合いだ。

 

ミスカさんが遊んでいるならさっさと片付ける。

 

「···」

 

ダーツさんがミスカさんの立つ建物へ、両手に持つ槍を構えながら突進していく。

 

ダーツさんはダツの魚人だ。ダツという魚は口が鋭く尖っていて、海の中から光に向かって飛び出し、口を突き刺す魚。

 

ダーツさんの口と槍の3点で建物を攻撃し、突き崩していく。

 

「血に飢えた♪毒魚は〜♪支配者を♪蹴落とさん♪偉大な主は屈さぬ♪不快害魚に鉄槌を♪

ふふっ。“下降曲(ダウンテンポ)”」

 

建物へ攻撃していたダーツさんの動きが目に見えて遅くなった。ミスカさんがなんかしてるんだろうな。

 

“ポルターガイスト”

 

ならレイスはミスカさんの邪魔をする。ダーツさんが出した瓦礫の山を浮かせてミスカさんへ飛ばす。

 

ミスカさんは浮いた瓦礫を一瞥した後に、なおも歌い続ける。

 

「地獄の〜♪罪人が叫ぶ〜よ♪憎い!憎い!と石投げる♪

戦争歌(バトルソング)”」

 

ミスカさんは音の衝撃波を飛ばして瓦礫を撃ち落とす。

 

ウタウタの実。歌えば衝撃波や敵の速度を下げる力があるのかな。でも戦闘中に歌うなんてなかなか隙が大きいよね。

 

なんとか近づけないかな。ダーツさんは建物を崩している。注意をそらせれば。

 

「···“ダツ・ドリル突貫”」

 

ダーツさんは両腕の槍と口を合わせ、身体を回転させてドリルのように壁を穿ち始めた。見る見るうちに建物が倒壊していく。

ミスカさんがその力で迎撃しようと目線をダーツさんへ向け、歌おうと口を開く。

 

今だ。“後神《うしろがみ》”

 

レイスは瞬時にミスカさんの背後に移動する。後神は誰にも見られていない時に、人の背後に現れる技。急に現れたレイスに、ミスカさんはすごくビックリしている。隙だらけだ。

 

握霊(あくりょう)

 

ミスカさんの首を絞める。まもなくミスカさんも気を失うだろう。意外と呆気なかった。

 

「···仕留めたか。タイガーさんやエイギルの加勢に行こう」

「···うん」

 

「?···歌姫どこやった?」

 

ふと、気を逸らしている間にミスカさんが消えてしまった。気絶していたはずなんだけど。おかしいな。

 

「···エイギルやタイガーさんが負けて、ピエロが逃がしたのかもな。霧みたいに細かくなってただろ」

「ミスカさん···を···霧に···変えた?」

「予想だ」

「···。···まあ···気絶させた···から···別の···誰かが···やったと思う」

「どの道、新手だな。···とりあえず、エイギルとタイガーさんを探そう」

「···分かった」

 

ダーツさんと共にエイギルさんたちが走っていった方へ進んでいく。探してる内にミスカさんと会うかもしれないし。

 

「···」

「···」

 

黙々と進んでいく。2人とも必要なこと以外喋らないからね。

 

「···こういう時はシャリランがいると楽なんだが」

 

と思っているとダーツさんが喋りだした。

 

「···妹···だよね···?」

「ああ。自慢の妹だ。···首から生えた触手で、辛い思いをしていたこともあったが、妹は乗り越えた。

シャリランはな、触手で空気の振動を感じ取れるんだよ。それで知覚範囲がかなり広いんだ。人探しなら右に出る者はいない」

 

普段無口なダーツさんが饒舌に語ってくれた。心から妹を誇りに思ってるんだろうな。

 

「···いいなあ···」

 

レイスにはもう家族がいないからとても羨ましい。

 

「···ああ。国が滅んだんだったか。すまなかったな」

「···いいよ。気にしてない」

「ああ。···だからレイス(亡霊)か···。本名はなんていうんだ?」

「···ミタマ···カラルララ。でも···レイスって···呼んで」

「ああ。分かった」

 

レイスはとある国の墓守の一族の1人として生まれたけど、内乱でレイス以外みんな死んじゃったからな。

嫌な思い出だけど、今となっては懐かしいかな。

 

建物が崩れる音が聞こえる。

 

「···戦闘音だ。走るぞ!」

「うん」

 



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密度VS断罪

俺と魚人の冒険家“フィッシャー・タイガー”は粉になって風に乗る敵“サクリエル”を追いかけている。

 

不思議な能力だ。悪魔の実の能力者なのは分かるが、どういった能力だ?マグマを作り、自分を粉に変える。

分からん。なんだよそれ。

 

しばらく進んだところで粉が一箇所に集まり、サクリエルが現れた。

 

「鬼ごっこは終了か?」

「いやいやどうもどうも。ミスカ嬢の射程範囲内に居てはお互い不利益になるというもの。さ。この辺で殺り合いましょう」

「おれにマグマ送り込んだ報いを受けさせてやるよ!」

「あっはーん!笑わせるじゃなーいか!チミぃ!これが欲しいのかあー?“ドロリロール”!!」

 

グゴゴゴ。と周囲の家屋が一箇所に集まっていく。ブラックホールに呑まれたかのように。

集まり、割れ、なおも家屋は一箇所に集まろうと動き、圧縮される

 

「あふあふあふ!物は集まれば集まるほど熱ぅーくなるのさ!押しくら饅頭だよお!

え?熱くしてどうするかって?チミの予想通りだよ」

 

集まった家屋は木も石も煉瓦も関係なく赤熱していく。だがまだ圧縮される。温度が上がる。

 

だが、フィッシャー・タイガーが邪魔をする。

 

「見てるだけだと思ってんのか!」

 

タイガーの手から水が滴り落ちる。みるみるうちに増えた水を、圧縮された家屋にぶつける。『ジュウウウウ!』という音を立てて辺りを水蒸気が満ちる。

 

既に相当温まってたようだな。ん?あのピエロどこ行った!?

 

サクリエルの姿が見えない。

 

「マグマは囮だ!タイガー!!」

「遅ぉい!自ら視野を狭めるとは抱腹絶倒でお腹が痛い!“クラァック”!!」

「っぐふ!」

 

声がした場所とは別の方角からタイガーが殴られ、吹き飛ばされる。

 

「はあっ。軽いな!こんなもんかよ!マグマ頼りのピエロ!!」

「ふんっ。そりゃ軽いでしょ。腰···入れてないからね」

 

タイガーが吹き飛ばされた先でサクリエルが右拳を構えて待っていた。

タイガーが殴られた場所を見るとサクリエルの左腕だけが不気味に浮いていた。

 

「美味しく味わえよォ!“クラックハイドゥーン”!!」

「ぐああ!!」

「タイガー!!」

「あふぁふぁふぁふぁ!どーよ痛いだろう?俺様は“ミツミツの実”の密度人間!圧縮された拳はさぞ重かっただろうよ!!

って!そんなこと話してる間にデデーン!マグマのかんせーでーす。ドンドンドン、パフパフ」

「なに!」

 

おしゃべりなピエロがぺちゃくちゃ話している間にマグマができてしまった。自分の能力をひけらかすもんだから馬鹿だと思っていたのに。

 

「あふふ。いやあ見事にハマってもらって気分いいね!じゃあどんどん段階進めようか!圧縮圧縮〜♪」

 

マグマが出来あがっても気にせずなおも家屋を集め続ける。

 

「一体いくつ集める気だよ!いい加減町壊すのやめやがれ!」

「はあん?な〜に偽善者振ってるんですぅ?天竜人殺しの犯罪者“蝿王”グラの仲間、エイギルぅ〜。罪深いアンタらを倒すためだ。きっと町人の皆様もご理解頂けますよォ頂きますよォ!」

「···罪深い······ね。たしかに俺らは罪人だ。悪だ。

だが、罪人を倒すためなら何してもいいなんてほざくてめぇは!俺らなんぞよりもバカでけえ世界の膿に見えるぜ!!」

 

俺は拳を振り上げながら、サクリエルに向かって走る。

 

「“罪深い(ギルティー)”!!」

「振り上げた拳でぶん殴るってか?甘い甘い甘い!見え見えなんだよ!小悪党!!“クラウンムー”!」

 

サクリエルは最初の、歌姫と共に現れた時同様、体を粉のように細かくして俺の攻撃を躱してしまった。そして殴られる。

 

「“クラック”。ん〜威勢だけだなあ。そんな実力で家を壊すなってかぁ?新世界、舐め腐ってるねえ」

 

サクリエルがなにか言っているが無視だ。愚直に攻撃を加える。

 

「当たらねえよ!馬鹿が!」

 

先程と同じく体を粉に変えたサクリエルに返り討ちにあう。

 

「っ!“罪深い(ギルティー)”!!!」

「当たらねえっ言ってんだろぉが!!殴るだけなら子供でもできるぜ!?ガキの喧嘩かよ!!あ!!?」

「エイギル!今だ!!」

 

粉化を解除し殴ろうとしているサクリエルを、タイガーが羽交い締めにして動きを止める。

 

ドスンッ!

 

だがおれの拳を受けたサクリエルはニヤリと笑って見せる。

 

「軽い軽い。クソほど軽い。馬鹿みたいなワンパターンで殴りかかってくるもんだから、どんな威力かとヒヤヒヤしたが、大したことねえな。仲間を使ってこれとは。とんだ腰抜け!腰が入ってねえんだよ」

 

おれの攻撃はサクリエルに効かなかった。タイガーの助力があってもこれだ。タイガーに申し訳ねえ。怒りがおれの中で大きくなる。

 

「見ろよ!もう完成したぜ。マグマはさらに圧縮され、既に重力場となったんだ!!分かるか?小さなブラックホールなんだよ!!“ブラッグラーヴ”!!」

 

サクリエルの宣言と共におれとタイガーはブラックホールへ引き寄せられる。

 

「あっふぁー!無限の重力にすり潰れろぉ!!」

「無関係の人の家を壊した。色々と胸糞悪いが、俺はその一点が気に食わねえ!!」

「ぺちゃくちゃと文句垂れてねえでさっさとやって来いよ!三下ァ!!」

 

俺は再度拳を振り上げ、サクリエルに迫る。

 

「···同じかよ。つまらん。もういいわ。お前。一発受けてやるから。もう死ね」

 

一度攻撃を受け止めたからか、サクリエルは余裕だ。だが、一度受けただけで俺の力を全部知ったとは思わないことだ。

 

「“破壊(デストロイ)”!!」

 

俺は『ギルギルの実』を食べた刑罰人間。先程までの技『罪深い(ギルティー)』は攻撃対象の犯した罪を知っていれば攻撃の威力が上がるという能力だ。

だが、今使う技は自分の負った傷に応じて威力の上がる技。リスクが大きい分、罪深い(ギルティー)よりも威力が上がりやすい。

 

「っぐふ。な···に······!!」

「新世界を語るなら。相手を甘く見ないことだな。三下」

 

「やったか!おい!早くあの黒球消せ!!」

「·········はぁ。よーござんす。今消しますよ。敗者に人権無いからね」

 

サクリエルは負けを認めると素直にブラックホールを消した。作るのに時間はかかるが、消すのは一瞬らしい。後には石や木が圧縮されて混ざった、よく分からない物体が残る。

 

「お前には聞きたいことがある。諜報の男。あいつは何者だ?正直に答えろよ?ギルギルの実には『悪』を感知する力がある。嘘吐いてもすぐに分かるぜ。“審判(ジャッジメント)”」

「···。『アーハート』のことかな。彼は新入りだからね。詳しくは知らないよ。

でも、彼が来てから仲間のみんながおかしくなってきたね。特に団長」

 

諜報の男『アーハート』のことを素直に話してくれるサクリエル。だが、その背後からダッダッダ!という足音が聞こえる。

 

サクリエルの腹から剣が突き出た。

 

「?!がはっ!!···あ」

 

刺したのはアーハートだ。

 

「口封じというやつダネ」

「サクリエル!!」

 

アーハートは突き刺した剣を捻り、傷を広げる。だが、サクリエルは飛び散った自分の血や肉を集めてくっつける。

 

「ぐああ!!···っ!てめぇ!俺を刺すなんてどうゆうことだ!!?裏切りやがったな!!」

「元々仲間じゃなかっタ。というかしぶといネ。シュルカーよりもキミの方が厄介だったカ?」

「てめぇ!シュルカーにもなんかしやがったのか!!じゃあやっぱ団長を壊したのもお前か!?許さねえ!!」

 

そう言うとサクリエルは体を小さくさせる。筋肉や骨を圧縮させて密度を高めたのだろう。

 

俺とタイガーはまだ動かずに様子を見る。

 

「許すとか許さないとかどーでもいいじゃなイカ?オールライトは()()()()()()?」

 

“時間旅行”



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蝿の王VS敵対者

オレ、キル、アルマ、シャリランの4人で海原技芸団本隊を追いかけ、ついに追い付いた。

奴らは船に乗るところだったが、こちらはキル以外なら単独で船に追い付ける。

 

「やばい!キタキタ」

「ヒィィィ!」

「悪魔だよぉ!怖いよぉ!」

うるっさいなあ!そこまで怖いならさっさと殺せよ!!

「イエッサー!ボス!!」

 

なんだ?アイツら。こちらを怖がってると思ったら急に敵意を向けてきた。

先に船に乗り込んだ団長オールライト。ヤツの言葉で恐怖心が闘争心に変わった。なぜ?

 

「ふふっ。グラ様たちは船へ。ここは······我に!」

 

アルマがサマエルに変身する。

 

「ヒャッハー!ありゃあ海戦で大砲の弾叩き落としてた蛇だぜ!」

「怖ぇ!」

「だが、殺せば怖くねえ!」

「そうさ怖くねえ!」

 

「狂い曲がった人の子よ。恐れを口にし、猛き動を示す狂言の徒よ。汝らは信じるか!旗頭を。旗頭の言にて猛き動をなすならば、我は汝らを勇有る者とは認められぬ!

我が齎す疑念。破ってみよ。自らを由とせい!“神の悪意(ディマルス)”!」

 

サマエルは毒々しい紫のブレスを吐き出す。こちらへ向かっていた芸人たちへ当たり、地面に紫の煙を残す。

 

「団長は俺たちの団長···?」

「このまま従っていていいのか?」

「なんで団長は俺らを置いて船に乗ってる?一人で逃げるためなんじゃ!」

「そうだ!」「そうだ!」「そうだ!!」

『そうだ!!!』

 

「汝らが霊は虚弱なり。傀儡と成り果てよ。黒き翼(ニグルムァラス)!」

 

サマエルの翼が黒く染まり、ブレスの当たっていない芸人どもへ叩きつける。

武装色の覇気で強化された翼は容易に地面を砕き、爆風を起こす。風が吹き、残留した紫の煙を辺りへ散らす。

 

「オールライトは敵だ!」

『敵だ!!!』

 

煙を吸い込めばブレスに当たった者と同じく仲間だった海原技芸団へ攻撃を仕掛ける。

 

その様子を見れば、万が一にもサマエルに負けはないことが容易に分かる。

 

「ここは大丈夫そうだな。オールライトを追おう」

 

あと少しで逃げる芸人の親玉へ追い付ける。だが、オレの運が悪いのか団長の悪運が強いのか。ここで思いもよらない邪魔が入る。

 

 

 

「聞けい!我は“大天使サタン”!我は敵対者!悪霊“バアル・ゼブブ”よ!ここは闇の者たる貴様がいてよい場ではない!早々に去ね!」

 

 

 

オールライトの乗る船へ向かおうとすると、鎖を纏った六本足の巨大なトカゲが現れた。さらに、トカゲの遥か後方には海兵の白い制服が見える。

 

何はともあれ、敵だ。

 

「トカゲはオレに用らしいな。キル。オールライトを倒してこい。シャリランはキルを船へ送ってあげてくれ。頼んだぞ」

「りょうかーい」

「了解です。恩人様」

 

「黒トカゲ。オレに用か?」

「失せよ!蝿の王。界を渡り、何をしに来た!」

「残念だが、オレはベルゼブブじゃない」

「我と相対すは貴様ではない。蝿の使徒。何を考えている!バアル・ゼブブ。肉体を明け渡すとは」

 

オレの中のベルゼブブに話しかけているようだが、ベルゼブブは何も喋らない。何もしない。

 

「···ベルゼブブは話したくないらしい。お前の目にオレが写っていなくとも、お前はオレの敵だろう?“死蝿の斬列”」

 

角を生やさせた死蝿を一列に突撃させる。

無駄に多い足の1つでもぶった斬ってこい。

 

「ぬうっ!」

 

だがサタンは群がる死蝿を蹴散らし、無傷。

 

「うるさいぞ!ムシケラがぁ!“天使の裁き”!!」

 

サタンが全身から光を放つ。その光に当たった死蝿たちはボトボトと地面に落ちてしまう。

 

死蝿は海戦の時に砲弾と衝突して無傷だったんだがな。あの光の正体を探らなくては危険だ。

 

「いけ、死蝿ども。爆撃だ」

 

“死蝿の酸撃”

 

死蝿はオレの命令を受けると腹部を異様に膨らませ、サタンの上空に集まる。

 

「手下ばかりかっ!貴様が来い!蝿の使徒!!」

「落とせ」

 

死蝿どもは腹の中に生み出した強酸を口から吐き出す。酸は地面をジュクジュクと溶かした。さすがのサタンもこれほどの酸には無傷ではいられない。

 

「うっとおしい!!“天使の裁きィ”!!っぐああ!」

 

死蝿を倒したとしても、生み出された酸はたしかにそこに存在する物質だ。吹き飛ばさない限りはそのまま降ってくるに決まっている。

死蝿は死ぬとその身の強度が著しく下がるようで、自分が生み出した酸に負けて簡単に体が溶けてしまう。光に当たって死んでもその身を溶かしながらオレの役に立つのだ。

 

「いけ。蝿ども。酸で溶けた所へ突っ込め」

 

“死蝿の穴衆”

 

「···邪魔だと言うのが聞こえんか!ならば死ねィ!!“神の裁き”」

 

しかし、サタンは先程までとは比べ物にならない強い光を放つ。その光は、死蝿を殺し尽くすだけではなく、オレ自身へもダメージを与える。

サタンは酸を浴びて背中の一部が溶けながらも不遜に笑ってみせる。

 

「もはや蝿は死滅した。残る障壁は蝿の使徒のみ。もう一度言うぞ?さっさと蝿の王を出せ。用があるのは使徒ではない」

 

サタンはこちらににじり寄ってきながら要求を告げる。

それはオレのことを全く考慮していない命令だった。

 

「······思い出すんだよ···その態度。オレの親父を!トビトを!オレは変わったんだ!あの日に!ベルゼブブが変えてくれた!」

「···悪魔に救われるとは···所詮は人間。神の失敗作よ」

「黙れ!ベルゼブブを出せと言われて!そのまま従うのは!あの日々と変わらねえ!オレを見ろ!『大天使サタン』!!」

「人ごときに忖度する気はない。神の代理たる大天使に逆らうとは嘆かわしい。まあいい。依代たる貴様を嬲れば、蝿の王も現れよう。今、神罰を」

「“蝿王の鉄爪”!」

「“唯一神の裁き”」

 

オレの爪とサタンの光は拮抗することなく光が勝る。

 

「ぐあああ!!?」

「その身は最高位の悪魔···しかし霊がその程度ではな。所詮は失敗作の中の失敗作。己が父を不出来と言うなら、それに刃向かえぬ貴様はそれ以上の不出来者よ。

蝿の王に救われた?救うだろうよ。依代が虚弱すぎておよそ戦いなど出来ぬのだからな」

「ハア···ハア···。なんだと···!?」

「授けるだろうよ。その身に過ぎるほどの才を!人如きには分不相応な力を与えなければ!悪魔へ近付く程の誘導をしなければ!貴様は人すら殺せず、己に自信すら持てない!」

 

···不思議だとは思っていた。オレは才能が無いからトビトに見捨てられ、散々な思いをしていた。だというのに、芸人との戦いでは何をすればいいか瞬時に思い付くのだ。

一番不思議だと思ったのは、アルマから覇王色の覇気の素質があると言われた時。有るはずが無いと思った。お世辞の類だと。

 

だが、ベルゼブブが与えてくれたのなら納得だ。やはりベルゼブブは、悪魔は!オレにとっては何よりも!神よりも神聖な存在!!

 

「···ハア···ハア···。失敗作か。お前ら···神や天使が···失敗作と···言って···捨てた···なら···。オレを···救った!悪魔を···崇めるのは···当然···だな」

「···その思考そのものが失敗だというのだ。人は神を信じていればそれで良い。やはり貴様はもはや使えん。死ね」

 

サタンが前足を持ち上げ、オレの頭を踏み潰さんと振り下ろす。

 

だが、横から黒い翼が現れ、トカゲを吹き飛ばす。翼の主は血のような、綺麗な赤色の蛇だった。

 

「救う神有れば拾う神有り。悪魔の王にして捨てる天使サタンよ。人の子はこの堕ちた天使が拾おうぞ!」

 

堕天使サマエルが現れた。



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死天使&蝿王 VS 敵対者&悪天使

「サマ···エル」

「我、主へ助太刀せん。虚弱な猛き者どもは既に殲滅済み」

 

頭を潰されそうになったオレを救ったのは堕天使サマエル。サマエルが戦っていた芸人はもう1人残らず死んでしまった。死蝿がオレの元に集まる。

 

もうそこまで時間が経っていたのか。だったらサタンの後ろにいた海兵は···。

 

「レドウィッグ中将!マット大佐ならびに全蝿王捕縛部隊集結しました!」

「ああ。敵は“蝿王”と『堕天使サマエル』を名乗る存在だ。この2者の捕縛に全力を尽くせ!!」

「「「はっ!!」」」

 

「来るぞサマエル!ここで迎え撃つ!」

「待たれよ我が主。敵は人の皮を被りし者。眼を凝らせよ」

 

レドウィッグ中将と呼ばれたサタンの号令で突撃してくる海兵たち。だが、彼らの輪郭は徐々に歪み、形を変えていく。

 

その姿は様々だが、全員が純白の白い翼を備えている。

 

「なに!?」

「あれらは『天使』。神の命令を遂行する機械が如き存在。我ら悪魔の不倶戴天の敵である」

「海兵が天使に変わった?···サマエル。お前、驚いてないな。知ってることを教えてもらうぞ」

「主よ。汝が友たる王に聞くがいい」

 

海兵が変化して現れた天使たちの一部が立ち止まり、掌から様々なものを飛ばしてきた。

 

「アギ!」「ブフ!」「ザン!」「ジオ!」

 

炎、氷、風、雷の四種類がこちらへ向かってくる。

 

「あれらは魔法。魔界魔法と呼ばれる、我ら悪魔の技術だ」

「天使が悪魔の力を使うのか」

「天使もまた悪魔なり」

 

魔法は個々の威力に乏しく、オレやサマエルには全くと言っていい程効いていない。

 

「油断なされるな我が主。上級天使が現れん」

 

「アギダイン!」「ブフダイン!」「ザンダイン!」「ジオダイン!」

 

先程よりも遥かに強力な四種類の魔法が飛んでくる。だが、まだ軽い。サタンの光の方が痛かった。

 

「効かねえ!」

「···それでこそ我が主。共に参らん!黒き翼(ニグルムァラス)!」

 

サマエルが魔法を放つ天使に近付き翼を叩きつける。だが、数体の赤い鎧と槍を持つ天使が立ちはだかり、その身を犠牲にサマエルを食い止めた。

 

人間程の大きさしかない天使が、船を覆えるほど巨大なサマエルの翼を受け止めるとは···。

 

死んだ天使はその身を光の粒へと変え、空気中に溶けていく。

 

「天使パワー。中級、物理型の天使なり。実行の天使よ。我を止めるとは」

「溶けた···?」

「主よ。悪魔は死しても死体は残らぬ。悪魔は肉を持たぬ異界の化生なり。常識は通じず」

 

「止まるな。突き進め!“天使の裁き”!」

 

死蝿を殺した光が辺りに満ちる。だが、死蝿を避難させていたので、オレが数瞬硬直しただけで済んだ。

 

だが、硬直した。

 

気付くと目の前にサマエルの指した上級天使の一人が現れていた。

 

「“黒き尾(ニグルンカウダ)”!主よ!大事ないか?」

 

だが、サマエルが尾を天使に突き刺して倒してくれた。

 

「あ、ああ。助かった。あの光、お前や天使には効かないのか?」

「そのようだ。なれば、雑兵でも役に立とう。“神の悪意(ディマルス)”」

 

サマエルの放った毒のブレスで天使の一部が反旗を翻す。

人間以外にも効くんだな。

 

「サタンは神の大敵だ!」「なぜ悪魔たるサタンに我々は従うのか!?」「神の敵を討て!!」

 

「愚か者どもが!堕ちた天使に惑わされおって!全軍後退せよ!命令である!!」

 

「了解!」「了解!」

「神の敵の命令なぞ聞かん!」「魔王サタンよ!その首貰ったァ!!」

 

「愚かな神の下僕よ。そんなに悪魔を望むならくれてやる!“悪魔の裁き”!!」

 

サタンは部下の天使の様子がおかしい事に気付くと、体から闇を放ち、切って捨てた。

 

「味方ではないのか?助けようとは···思わないのか···」

「ヤツらは神のみを第一に動く。正義の名のもとに。所詮は機械よ。正義とは時に残酷なり」

 

「全軍散開!惑わされた者は即座に殺せ!そして···!マット大佐!!」

「ええ。ええ。こちらに。マット大佐はここに居ますとも」

 

サタンは『マット大佐』なる男を呼び出した。黒い長髪の男だ。華奢で、あまり戦闘は得意ではなさそうである。

 

「手を貸せ!貴様はサマエルを!」

「ふふふ。かの赤き蛇。神にも匹敵する毒の強さ。()()のワタシには少々手に余る」

「···寝惚けたことを。現われよ!『マンセマット』!」

「ええ。ええ。冗談ですとも。神の命を果たしましょう。それが天使の務め」

 

マット大佐と呼ばれた長髪の海兵は輪郭が歪み、姿を変えていく。

現れたのは同じく黒い長髪の天使。天使の光輪を浮かべた黒い翼の天使

 

「ええ。ええ。『大天使マンセマット』はここに!」

「任せたぞ。蝿の使徒は我が」

「任されました。死の天使はワタシが。これも神の意思です」

 

「さあ!蝿の使徒よ!王を出せ!用があるのは貴様ではない!」

「何度も言わせるな。ベルゼブブは出てこない!オレが相手だ!サタン!!」

 

正直、先の光によるダメージは抜けていない。だが、負けない。負けられない。

 

ベルゼブブはオレに力を与えたのだ。出来損ないのオレに。オレは、オレのことが嫌いだ。信じられない。だが、ベルゼブブのことは信頼している。同じ悪魔のサマエルのことも。

ベルゼブブが力を与えたとサマエルが言うならば、オレは力を持っているはずだ!

 

「来いよ!現れろよ!『覇王色の覇気』!!」

 

ブゥゥゥン

 

あっさりというか、呆気なくというか。何かが放たれた感覚があった。サタンの後ろを見れば、まだ大勢残っていた数多の天使が全員倒れていた。気絶しているのだろう。

 

「これが···覇王色···!」

「···危険だ。悪魔との親和性が高すぎる。やはり貴様は殺しておかなければ!“唯一神の裁き”!」

 

サタンが光を放つ。先程オレに大ダメージを与えた光だろう。だが、負ける気なんてしない!

 

オレは今、全能感を感じている。

 

「武装色!“蝿王の鉄爪”!切り裂けぇぇぇ!!」

 

武装色の覇気を腕に纏わせ、サタンの放つ光と衝突させる。光という本来、触れることの出来ないものにも、ベルゼブブの与えてくれた覇気の力ならば触れられる。そんな気がした。実際、触れられた。

 

だが、僅かに負けて、少しずつ押されている。

 

「押し切る!貴様はここで!王諸共死ね!!!」

「ベルゼブブの力を舐めるな!来いよ!死蝿ども!!」

 

死んだ芸人や天使を元に産まれた死蝿を爪の周りに纏わせる。それだけでも大多数の死蝿が死ぬが、これで勢いを盛り返した。

 

「馬鹿な?!神の光が?!こんな悪魔モドキに?!」

「ぶった斬れやぁ!!」

 

ついに!サタンの放った光を切り裂いた。

 

「おのれ!蝿の使徒!!やはり貴様はここで!「ええ。ストップですよ。大天使サタン」!?止めるな!マンセマット!!」

 

光を破ったオレへ突っ込もうとするサタンをマンセマットが止めた。仲間割れか?

 

「退却ですよ。サタン」

「何故だ?!否!どの道、貴様に指図される謂れは無い!!」

「神の命です大天使サタン。ええ。彼らはまたの機会に」

「否!ヤツらが分断し!まだ力をつけていない今が!好機!またの機会など訪れぬ!!」

「···神への反逆ですか?同士サタン?」

 

本格的に仲間割れのようだ。隣にサマエルが舞い降りる。

 

「···。······。·········。神がそう言うのならば」

「ええ。それでこそ大天使サタン!忠実なる神の下僕!さあ共に戻りましょう。力を使って消耗したでしょう?」

「我に触れるな。貴様からは野心を感じる」

 

サタンとマンセマットは空を飛んでどこかへ行ってしまった。疲れた。

 

そして、サマエルが一つ提案をしてきた。

 

「主よ。我は後を追おう」

「なに?なぜ追う!サマエル!お前もマンセマットと戦い、傷を負ったはずだ!」

「ヤツらが他の『人間裏感情』へ仕掛けぬとも限らぬ。監視すべし。

主よ。我らは争い合わず。我とマンセマットは先の時、主らを傍観に徹したなり」

「なに?マンセマットとは戦っていないのか」

 

サタンは最後にマンセマットから野心を感じると言っていたな。それと関係あるのか?

 

「···分かった。サタン達が他の奴らにちょっかいをかけそうだったら割って入ってくれ。だが、絶対に無理するなよ?」

「我、承諾せん!いざ行かん!」

 

サマエルは飛んで行った。今更だが、サマエルの言葉は難しいな。行かん!って言って行くんだな。

 

「さて。キルは無事か?他の奴らも。出ろ!見聞色!」

 

気配などを探る覇気『見聞色の覇気』を使う。これもきっとベルゼブブが与えてくれたものだ。ならば使える。

 

数キロ離れた所に船が浮かび、そこで戦闘の気配を感じる。片方が劣勢だ。どちらがキルかは分からない。




マンセマット···マステマ、マスティマなどとも呼ばれる天使。その名は敵意や憎悪を意味する。
悪霊(悪魔)を部下として扱い、人間を堕落させて滅ぼすことを認めて欲しい。と神に懇願した天使。神はこれを、承認した。
モーセの十戒などで有名な聖人モーセと敵対した天使。天使たる自分は表立って敵対せず、エジプト人を誑かしてモーセを襲わせた。なお、前述の滅ぼす人間にはエジプト人も含まれている。
これらの行いから、悪魔の王サタンの原型ではないかとされている。


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親子の決別

僕はキル。凄そうな蝿に変身する人『プルエダント・グラ』に救ってもらった元奴隷だ。

 

僕には殺してやりたいと思う人間が3人いた。2人は僕を飼っていた天竜人の夫婦。そっちはグラ様が殺した。

 

もう1人は僕を売った実の父親『海原技芸団団長』ヒエラレテ・ザルガン。芸人名はザッツ・オールライト。

 

父親の真似ではないけど、僕もみんなの前では名前を変えている。『キル』ってね。意味は『殺してやる!』だ。

 

同じく奴隷仲間のエイギル君、レイス君も名前を変えているらしい。奴隷に堕とされた時、もう人じゃないから、名前を捨てろと飼い主の天竜人に言われたんだ。だから、偽名を名乗っている。

 

解放されたけど、名前を戻す気はない。奴隷時代はたしかに存在して、僕らは解放されたんだ。と覚えておくために。

 

「君はどうなのかな?シャリランちゃん」

 

僕は同じく元奴隷の人魚『シャリラン』に捕まって、船で逃げる親父を追いかけている。シャリランちゃんは首から触手が生えてるから僕を雁字搦めにして運んでいる。

 

「···喋る元気あるの?」

「無いけど?ヘトヘトですけど?」

 

僕は能力者だ。能力者は海に浸かると力が抜けてヘロヘロになる。シャリランちゃんは泳いで追いかけてるから僕は大分グロッキー。

 

「ハア···そんなんで戦えるの?」

「できるできるぅ。信じて?」

「私はすぐ海底に避難しますからね。怖いですし」

「おうけー」

 

とか話していると船に追い付いた。早いなあ。さすが人魚。

 

「投げればいいのかしら?」

「待って待って。僕を持ち上げて?海に当たらないくらい」

 

こう?と言って触手ごと持ち上げてくれる。そうそうそんな感じ。もっと船体に近づけて。

 

「んじゃあ見とけよお!僕のマジック!タネも仕掛けもあるぜ!」

「あるのね」

「ジャジャーン!なんと掌から()()()!」

「は?!まさかそれ「撃ちます!」やめてーーー!」

 

ズッドオォォン

 

轟音と水飛沫を上げながらオールライトの乗る船にどデカい穴が空く。

 

僕の食べた実は『アナアナの実』。自分の体に穴を空ける能力で、体の中の空間に大砲を隠し持っているんだ。

 

Mission complete(ミッションコンプリート)!」

「反動は全部私に掛かったんですけど?触手ちぎれたら兄様に言って海の藻屑にしてもらいますからね」

「おうけー」

 

「おうけー。ちゃうわドアホ!!!お前これ···どデカい風穴空いてるやんけ!外から船の中身モロみえやんけ!!そんでお前ワシの息子やんけ!!!!

「シャリランちゃん。紹介するね父のザルガン。オールライトって呼んだら分かるかな」

「ザルガンです。人々を笑顔にするためにグランドラインにて芸人をやっております。最近新世界に進出してまいりました!精一杯頑張りたいと思います!よろしくお願いします!!」

「はあ···?ご丁寧にどうも······」

「てことで死ねやあ!!親父ィ!」

 

僕は掌と肩から銃を出してオールライトに放つ。不意打ちだ!

 

「ゲボバァ!!」

Mission complete(ミッションコンプリート)!」

「ただのクソ野郎ね」

「復☆活。父は偉大なり!」

「くそっ!まだ息があったか!!駆逐してやる!!」

「避難しますねー」

 

 

───

 

 

「息子よ。感動の再会がこれはどうかと思うぞ?反抗期か?」

 

親父は柱にロープでぐるぐる巻きにされながら文句を言っている。ははっワロス。

 

「僕を奴隷に陥れた仕返しとしては安い方なんじゃない?」

「···あ?何の話だ?ワシがお前を奴隷に?するわけないだろ」

 

親父は質の悪い冗談を聞いたような反応を返す。嘘を吐いているようには見えない。

まあ親父は嘘も吐き慣れてるだろうから、僕が見抜けていないだけかもしれないが。

 

「親父ぃ。今は嘘を吐かないで欲しいな。僕が寝てる時に攫ったろ?」

「記憶にございません」

「ふざけんなよ!」

「き、記憶にございません」

「だから!」

「きき、きおくにににごごごごごごご」

「親父?」

 

「記憶ににななないいい!死死死死死死死死。“チャカットマン”ンンン!」

 

親父は突然、懐から銃を取り出し胸へ向けて発射してきた。僕を売ったくせに勝手に壊れるんだあ。ふーん。

親父、今朦朧としてるんだろうなあ。なら介錯してやらないとね。

 

銃弾は体に穴を開けて躱す。ついでにその穴から大砲を撃つ。

 

「“小道具現出マジック”!!」

 

ズドオオオーン!!!と派手な音を立てて親父は吹き飛ぶ。

船縁に引っかかり、海には落ちなかったが大ダメージを受けたようでぐったりしている。

 

弱いなあ。奴隷から解放されたばかりで僕は強くないはずなんだけど。

僕は悠々と親父に近づく。

 

「ちっぽけな親父。どうして新世界に入ってきたの?シュルカーとミスカとサクリエルが強いから勘違いしたの?親父自身は強くないじゃん」

 

親父は···オールライトは人を笑わせることしかできない。他人を傷つけることは苦手だ。なのに···分不相応に奴隷商なんかに手を出して。

 

「親父······酷いことなんて似合わないよ。笑わせることしかできなかったじゃないか。身の丈に合わないことをして、操られてしまって···」

 

僕を売った憎い相手なのに、どんどん親父が小さくなっていく。親父を追いかけていたはずなのに、いつの間にか追い越してしまっていた。

 

「情けないじゃないか。オールライト。可哀想じゃないか」

「“海原スペクタクル”」

 

親父は僕へ海水をぶつける。海水は能力者の天敵だ。とはいえ、飛沫程度なら多少、力が抜けるだけ。

 

「“アルァテマウェポン”」

 

親父は剣を振りかぶって追撃してきた。その目はこちらを向いておらず、中空をさまよっている。

 

目の前に息子がいるのに眼中に無いのか?楽にしてあげよう。

 

「“小道具消失マジック”!」

 

何もしなければ、斬られていたであろう肩へ穴を開け、剣を避ける。そして穴を通り抜ける剣を、真剣白刃取りのように穴を閉じて捕まえる。剣を奪った。

 

「“血飛沫殺人ショー”!」

 

奪ったばかりの剣を体から出して親父へ突き刺す。

親父は血を吹き出す。だが、親父は両手をこちらに突き出し、なおも僕へ襲いかかる。

最期まで洗脳解けなかったね。

 

「哀れなオールライト。さよなら」

 

“人体消失ショー”

 

掴もうとした親父の腕を穴を開けて躱し、そして勢いよく閉じる。皮と肉を断ち、骨で止まる。叫ぶ親父の喉へ手を伸ばし、同じように穴に挟んで切断する。血を吐きながら悶える親父。苦しみ、そして事切れる。親父は最後まで、僕を見ていなかった。

 

しばらくぼーっとした後で、海に向かって叫ぶ。

 

「おーい!シャリランちゃーん!!終わったよー!」

 

ポチャン

 

海から人魚が顔を出す。戦闘が始まって逃げたシャリランちゃんだ。

 

「···肉親を殺したのにあなたは笑うのね」

 

あー。笑ってたのか。

 

僕の顔は、天竜人の奴隷になってから、笑顔しか浮かべられない。親父と戦っていた時も······笑っていたのだろうか···。それとも泣いていたのだろうか。

 

「オールライトは芸人だよ?笑わせることしかできない人なのさ。そんな人と2人きりだったんだよ?そんなの笑うに決まってるじゃないか」

 

もう会えないけどね。



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名無しのアーハート

“時間旅行”

 

 

 

時が逆巻く。クルクルクルクルクルクルクルクル。

 

サクリエルクンが、タイガークンエイギルクンで戦ってるところに乱入したワタシ。アーハート。

 

そこから時間が巻き戻る。

 

海賊王ゴールド・ロジャーはまだ海へ出たばかり。ロックス・ジーベックという巨悪が全世界へ恐怖を振り撒いていた時代。

場所も変わる。新世界の街から前半の海へ、穏やかな気候の島の古びた孤児院。

 

「サクリエルクンごあんなーイ。さあさア!いらっしゃイ!過去の世界ヘ」

「過去ぉ?それよりもオールライトに何やったんだ?!吐きだせ!オラァ!!」

「吐いてもいいケド。キミは()()()()()()()()()。あと死ぬシネ」

 

「はぁ?」

「ここは孤児院だよ。キミたち海原技芸団が結成された場所だネ」

 

孤児院の前で4人の子供が集まり、夢を語っている。

 

僕の名はオールライト!!夢はお父さんとお母さんを!世界中の人を笑わせること!!

「俺の名はシュルカー!!夢は平和に笑うこと!!」

「あたしの名はミスカ!!夢は笑顔で歌うこと!!」

「オイラの名はサクリエル!!夢は仲良く笑うこと!!」

「うなばらぎげいだーん!」

「「「「けっせーい!!!」」」」

 

子供たちは威勢の良い声で夢と団体名を宣言する。幼いが力強く、希望に溢れた声だった。ワタシはその子供たちに近付く。

 

「やあ。キミたち楽しそうだネ。ワタシもナカマに入れてくれヨ」

「おじさんもあたしたちの海原技芸団に入りたいの?」

「あア。そうだヨ。キミたちも大人がいた方が何かとツゴウがいいよネ?」

「うん!いいよ!仲間だね」

「あっちに船が有るんだよ!一緒にいこ!」

 

走り出す子供たちの1人、まだ小さなサクリエルクンへ銃口を向ける。

 

 

パァン!!

 

 

「ワタシは『バグバグの実』を食べた不具合人間。過去へ戻り、未来を改変スル」

 

矛盾を生み出す力。

 

「海原技芸団結成に立ち会い、信頼を獲得。オールライトに近付き、少しずつ人格をねじ曲げタ。ようするに、オールライトにしたのは洗脳だヨ」

 

洗脳したことで発生するオールライトの人格の変化、行動の変化。それらをバグバグの実は発生させない。変わる筈だった大小様々な改変は無効化される。ワタシのいた時代まで。

 

ワタシが元の時代に戻ると共に改変は始まる。戻ると同時に、つまり新世界へ進出を決めた頃に、オールライトは洗脳状態に変わる。洗脳したのは子供時代なのに。

 

これがバグバグの力。矛盾や不具合を生み出す謎の力。

 

 

 

幼少期の自分が射殺されて放心しているサクリエルクンへオールライトにしたことを語ってあげる。約束通りに。まあ意味ないんだけどね。

 

「キミは死ヌ。サクリエルクンは不幸にも幼少期に亡くなった最初の仲間。とオールライトには覚えられるだろうネ。ワタシの力量不足でシュルカークンとミスカチャンは誤魔化せないからサ」

 

サクリエルクンはサラサラと砂に変わって消えていく。

 

サクリエルクンは死んだ。幼少期に亡くなった古い友人としてオールライト、シュルカークン、ミスカチャンの記憶に残る。だが、彼らはサクリエルクンと共に歩んできた芸人人生もまた、覚えている。そこには明確な矛盾が残る。不具合が生まれる。

 

「···帰ろっカ」

 

ワタシの能力は簡単に人を殺せる。だからあんまり俗世には関わらず、傍観していたい。1人の悪人がいるとして、どうして悪の道に走ったのか。それを観るのに、この力は大変便利だ。でも、それはできない。

 

ワタシは奴隷売買を主に扱う闇の組織『メルカトル商会』の誘拐部門部長アーハート。1つの組織に属している。

望んで入会したのではない。商会長の罠にハマったのだ。

 

ホウホウの実の法律制定人間。能力者の定めた法を厳守させる能力。法を犯せば、どこに居ても『リーパー』と呼ばれる異形の怪物が召喚される。ワタシの実力ではリーパーに勝てないから、メルカトル商会には逆らえない。

 

法などという大層な名前をしているが、所詮は力による意志のゴリ押し。だが、それが真理なのかもしれない。ロジャーが死に、大海賊時代となったこの世は、海は無法だ。海軍という警察機関も存在するが、海軍を超える暴力を持つ者は聞く耳など持たない。

 

メルカトル商会も、力ある組織。いや、それどころか海の覇者と言っていいだろう。世界で最も険しいといわれる海『偉大なる航路(グランドライン)』。グランドラインは前半『パラダイス』と後半『新世界』に分けられる。メルカトル商会は新世界で幅を利かせる巨大な闇。世界政府とも手を結び、天竜人へ奴隷を届けている。

 

今、新世界は荒れている。ロジャークンが財宝を残したまま死に、海賊が溢れている。

中でも、奴隷としての価値が高い魚人を保護する“白ひげ”クン、メルカトル商会を打倒して海の頂点に立ちたい“ビッグマム”チャンと“百獣”のカイドウクンの大海賊は明確にメルカトル商会に楯突いている。新世界は、この四つ巴にさらに無数の、しかし新世界に到達できる程度の実力はある木っ端海賊がしのぎを削る。そして奴隷を解放した正体不明の賞金稼ぎ“蝿王”クン。これからも海は荒れる。

 

本当ならこの争いに巻き込まれずに外から眺めたい。でもそれはできない。仕方がないね。

 

海原技芸団は終わった。あとは様子のおかしい海軍中将レドウィッグクンと、人間裏感情とかいう組織をメルカトルに報告して終わりだ。

 

きっと奴隷解放とかいう明確に逆らうような真似をした蝿王クンを、メルカトルは許さないだろうね。個人的に蝿王クンは面白そうで好きなんだけど、まあその時はその時だ。

 

···報告するなら悪魔とやらも探らないとダメかなあ。異世界の生物、悪魔。過去に飛んでも全く分からないんだよねえ。グラクンも謎なんだよね。過去は探れるんだけど、途中から···ていうか悪魔の実を食べた瞬間から全く分からないんだよね。悪魔の力なんだろうね。厄介だねえ。

 

「シュルカークンと、オールライトも死んじゃったか。残るのはワタシが保護してあげたミスカチャンだけだネ」

 

海原技芸団からは1つの命令が出ていた。“歌姫”ミスカチャンの保護だ。味方の能力を底上げするウタウタの実をメルカトルは欲しがった。ついでにワタシ個人のミッションとしてサクリエルクンの存在抹消があった。

 

メルカトルにはサクリエルクンのお兄サマがいる。立場はワタシより低いけど実力はお兄サマの方が上だから、仇討ちとか考えられると面倒臭い。だから遥か昔に死んだことにする。これで多分OK。

 

 

人間裏感情の彼らは今、1箇所に集合している。海原技芸団の船を一隻奪って出航したようだ。サクリエルクンと戦っていたタイガークンとエイギルクンはワタシたちが消えたあと、しばらく探してから仲間との合流を果たした。過去飛んでるから見つかるわけないしね。

 

あとは海軍を追いかけたアルマチャンだけど、結局レドウィッグクンとマットクンには逃げられちゃったみたい。それ以外の海兵?天使?は皆殺しにしてグラクンの所へ帰った。収穫無しで凹んでたね。

 

グラクンとアルマチャンの話を盗み聞くに、アルマチャンが悪魔をレクチャーしてくれるらしい。これはぜひ御教授願いたい。予定合わないんだけどね。

 

メルカトルから帰還命令が出ている。帰らなくっちゃ。

 

暗躍だけをしてる時間が1番楽しいんだけどね。縛られてるから仕方ないね。



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登場キャラクター 登場順

プルエダント・グラ···一人称オレ。新世界のとある島『ゼトルニ島』ゼトルニ王国の第二王子。国王トビトの妾の1人との間に産まれた。

何をやっても上手くいかない出来損ないの王子だった。ある日、父親のトビトに天竜人の奴隷として売られそうになった時、希少性を上げるために悪魔の実を食べさせられた。『アクアクの実 ベルゼブブ』。この悪魔の実は特殊で、実には『悪魔』と呼ばれる神格『ベルゼブブ』が宿っていた。ベルゼブブはグラに対して高い戦闘センスを始めとする才能を与え、一時的に体を乗っ取り国民全てと天竜人を殺害している。

天竜人から解放した奴隷たちには強い親近感を覚え、守りたい、死んで欲しくないと思っている。反面、それ以外の人間にはあまり興味が無い。奴隷を扱う商人や奴隷を買う人間など、立場の弱い人を虐めるような人間を見ると殺したくなる。

行き場のない元奴隷を引き連れて『人間裏感情』という賞金稼ぎグループを立ち上げたが、天竜人の遺産が多く残っており金には当分困らない。

今の目的はベルゼブブが指し示した『悪魔の住む島 マーナガルム島』へ行くこと。

名前は捕食者を意味するpredator(プレデター)をもじったプルエダント、暴食を意味するラテン語Gula(グラ、グーラ)

 

プルエダント・トビト···グラの父。ゼトル二王国最後の国王。自信過剰で傲慢な王。国民や臣下を道具だと思う愚王。国民から搾取した金でたらふく飯を食い、その身体は醜く肥えている。自分たちプルエダント家、特に自分は優秀でありと信じて疑わない。

世界貴族天竜人が国にやってくるという報告を受け、トビトは優秀な一族である自分たち王族が奴隷にされてしまうのではないかと不安になった。そして、どうせ奴隷にされるなら、不出来だが実の息子のグラ1人を生贄に自分たちだけ助かろうと考えた。

だが、やはりグラでは天竜人を満足させられるか不安だった。そこで件の天竜人が奴隷同士で殺し合いをさせる趣味があるというのを聞き、グラに悪魔の実を食べさせることで価値を底上げしようとした。

名前の由来は特になし。

 

プルエダント・トルソー···死亡。グラの兄。ゼトルニ王国第一王子。トビトの正妻マアヤの一人息子。トビトと同じく自意識過剰で傲慢、トビトをそのまま小さくしたような王子。自分以外を見下しており、グラはもちろん父のトビトや母のマアヤのことも内心でバカにしている。

名前の由来は特になし。

 

プルエダント・マアヤ···死亡。ゼトルニ王国王妃。トビトの正妻。

名前の由来は特になし。

 

魔王ベルゼブブ···禍々しく巨大な蝿の姿をした化け物。こことは違う異世界からやってきた『悪魔』と呼ばれる異生物。悪魔の中でもとりわけ強い種族『魔王』で、さらにその中でも高い実力を持つ超強力な悪魔。

邪悪な悪魔たちを統率する『魔王ルシファー』の右腕的存在。ワンピース世界には、とある目的を持ってやってきた。

宿主がグラに決まったが、あまりに貧弱だったので力を与えた。そして思考回路も、戦闘を好み、他者を凌辱する悪へと誘導している。死者を蠅に変えて弄び、操るなどというのはグラを悪へ傾けるための一手に過ぎない。ベルゼブブの力はこんなものではない。

1話の後書きにベルゼブブの豆知識を書いたが、『七つの大罪の暴食を司る』という記述を書き忘れた。でも何となく伝わればいいか!と思って特に手直ししていない。

 

 

ボルボ聖···死亡。ゼトルニ王国へ上陸しようとした天竜人。典型的な天竜人と同じような性格、容姿をしている。買った奴隷は女なら愛玩用に、男なら自分の所有するコロシアムで使い物にならなくなるまで殺し合いをさせる。彼が来ようとしたことでグラがベルゼブブを宿したとも言える。

奴隷同士の殺し合いを「趣味が良い」と認識しており、周りの天竜人に殺し合いの様を話すので毛嫌いされている。

軍人であるレドウィッグ中将よりも先に飛んでくるベルゼブブに気付いたのは···?

名前の由来は特になし。

 

イカルガ宮···死亡。ボルボ聖の妻。夫が女の奴隷と過ごしているのは知っているが、特になんとも思っていない。夫婦仲が冷めているのではなく、彼女にとっても奴隷とは物でしかないのだ。

名前の由来は特になし。

 

レドウィッグ中将···海軍本部中将。中将は大将の1つの下の階級。ボルボ聖、イカルガ宮を守る任務に着いていたベテラン海兵。しかし、天竜人に反感を持っている。

部下であり、自分の子供同然に見ていたテルギアが天竜人に反逆し、奴隷へ堕とされたことで絶望。守れなかった自分への自信が無くなるが、敵であるベルゼブブが奴隷を解放したことで希望を見出す。

活力が湧いたが、すぐに部下を天竜人皆殺しの罪で処刑されて絶望。直前に食べた悪魔の実『アクアクの実 サタン』に心の隙を付け込まれて体を奪われる。

名前の由来は特になし。

 

エイギル···本名ギルダーツ・エイク。一人称俺。ギルギルの実を食べた裁断人間。元海賊の船長で、捕まって奴隷にされていた。一団を率いていたため、兄貴肌な性格。警戒心が強く、助けてくれたグラのことも内心ではあまり信用していない。反面、奴隷仲間は全面的に信頼しているので、時間と共にグラにも心を開くだろう。

共に戦ったタイガーと仲が良い。

名前の由来は特になし。

 

サーキブル···天竜人の元奴隷。面倒見のいいエイギルを慕っていた。自分の身を第一に考え、グラから離れることを選択したその他大勢の奴隷の1人。

名前があるということは···?由来は特になし。

 

キル···本名ヒエラレテ・カーザ。一人称僕。アナアナの実を食べた奈落人間。海原技芸団の団長オールライトの実子。しかし、実父であるオールライトに奴隷に売られるという経験から強い殺意を抱く。奴隷時代に泣いても何も改善しないと言うことを学び、常に笑顔を浮かべるようになった。心から笑っている訳では無い。

グラに対しては奴隷から解放してくれたことと、オールライト殺害の幇助をしてくれたので強い感謝の念を持っている。

父親を殺したかったから殺すを意味するkill(キル)

 

アルマ···本名サイラ・アルマ。一人称ワタシ。アクアクの実を食べたサマエルを宿す人間。女ヶ島で産まれ、育った美女。女性だけで構成された海賊「九蛇」に在籍していたが、攫われて奴隷にされてしまった。過酷な仕打ちに耐えられず心が壊れて、サマエルに体を奪うことを頼む。仲間になっているのはサマエルであり、本来の彼女ではない。

女奴隷は愛玩用···天竜人···心を壊す···美女···はっ!

名前の由来は特になし。

 

テルギア···元海軍本部少将。一人称俺。幼少期に親を海賊に殺され、その時海賊を拿捕してくれた海兵レドウィッグについて行って、海軍に入隊した。巨大な武器を振り回す力自慢で“巨兵法”の通り名を持つ。ボルボ聖はゼトルニ王国に向かう前にバリアクォーツ国にも寄っており、そこで王妃を自らの奴隷にした。テルギアはその時に天竜人に逆らっており、そして奴隷にされた。奴隷から救ってくれたグラに感謝し、海軍を抜けてついて行くことを決めるが、同時に道を踏み外さないか監視もしている。

名前の由来は特になし。

 

ミッシェル・ナタトゥーユ···天竜人の奴隷にされていた『バリアクォーツ』という国の王妃。

グラが助けたことを祖国でお礼してくれるらしいから、いつか行こうね。

名前の由来は特になし。

 

フィッシャー・タイガー···原作キャラ。一人称おれ。技とか紹介されてないから戦闘描写がとても描きにくい人。とりあえず水を纏わせてる。

 

ダーツ···ダツの魚人。奴隷にされていた妹のシャリランを助けるために決死の覚悟で船に乗り込んだが、天竜人は既に倒されていた。先に奴隷を解放してくれたグラには深く感謝している。シスコン。

両手に槍を持ち、自前の口吻と合わせて海水を貫きながら進むという、独自の泳ぎ方をする。地面も同じ要領で掘り進めることができる。

名前の由来は元の魚ダツから。

 

シャリラン···ミズヒキイカの人魚。一人称私。首からイカの触手が11本生えているという奇形児。美しい人魚で、さらに珍しい身体的特徴を持っていたので同じ奴隷人魚の中でも特別厳重に囚われていた。直接助けてくれ、魚人や人魚だと差別せず、さらに自分を気持ち悪いとも思わないグラには深く感謝している。兄にダーツがいる。ブラコン。

戦闘はできない。

名前の由来は特になし。

 

堕天使サマエル···赤い蛇の体に12対の翼を生やした五つ目の堕天使。強力な毒を操る死の天使。ベルゼブブと同じく大いなる目的があってワンピース世界にやってきた。

女神転生では種族『邪神』として登場することもあるって書き忘れた。邪神サマエル。

 

レイス···本名ミタマ・カラルララ。一人称レイス。ヒトヒトの実 幽霊(ゴースト)の能力者。王家の墓を守る墓守の一族に産まれた。墓守の一族に代々伝わる幽霊の悪魔の実を食べさせられるような優秀な子だった。しかし内乱が起こったことで一族も祖国も滅び、無気力になる。フラフラと海を渡って気付けば奴隷になる。感情が死んでいるが、奴隷時代は辛かったのでグラには感謝している。

最初、祖国はクライガナ島シッケアール王国(ゾロが飛ばされ、ミホークとペローナがいた島。2年修行した)の設定だった。しかし全然情報が無いのでどこかの滅んだ国に変わった。

祖国が滅んだことから亡霊などを意味するWraith(レイス)を名乗る。

 

 

ザッツ・オールライト···本名ヒエラレテ・ザルガン。海原技芸団の団長。死亡。赤いマントを羽織った紳士然とした男。高いカリスマで一団を纏める優れた人格者···だった。数年前に加入したアーハートの洗脳で団員を道具とみなし、子供を奴隷商に売るようなクズに変わった。

戦闘能力は海原技芸団の幹部以上の中では最下位。そもそも芸人なので戦うことを想定していない。グランドラインで航海するうちに荒事に慣れただけ。

名前の由来は特になし。

 

アーハート···海原技芸団の諜報員。···に偽装したメルカトル商会誘拐部門部長。

商会長に脅されてメルカトル商会に加入している。世の中のあらゆる出来事に関わらず、ただ傍観していたいという願いを持つ。

名前の由来は争いの道具繋がりで、対戦車砲台アハト・アハトから。

 

シュルカー···海原技芸団の悪役。逆立ちの怪人シュルカー。死亡。傲慢な口調とは裏腹にビビりな態度で笑いをとる芸人。しかし、その戦闘能力は本物で、ペタペタの実の力で元海軍少将テルギアとも勝負ができる程度に高い。

ペタペタの力は物を貼り付けたり張り付いたりする能力。地味な能力だが、シュルカーは主に肉弾戦の合間に急ブレーキを掛けて相手を翻弄する使い方をしている。

使用感は貼り付いた箇所から根を生やすようなもの。シュルカー自身が離れようと思わない限り離れない。力が加わったなら、その箇所の力だけで体を止めることになる。急ブレーキ格闘はかなりの修練の成果。

アーハートの洗脳によって人を殺すことのみを考えるキラーマシンに変わった。

名前の由来は特になし。

 

マット···柔らかな口調、態度をとる海軍本部大佐。テルギアの後釜としてレドウィッグ中将の部下になった。

その正体は大天使マンセマット。アクアクの実を食べて人の体を奪ったのではなく、悪魔が人に擬態している。

名前は正体であるマンセマットから。

 

大天使サタン···敵対者を意味する名を持つ大魔王。女神転生では神の敵であることを神本人に命じられた天使。

サタンが潜む悪魔の実をレドウィッグ中将が食べ、心の隙を突いて体を奪った。部下にマンセマットと多数の天使を貰うが、あまり信用していない。

 

サクリエル···海原技芸団の道化。消滅。おどけた口調と行動をする小太りの小男。海原技芸団最強の男。余裕が無くなると短気な本性を表す。

ミツミツの実の能力者。密度を操り、岩を集めて温度を上げ溶岩に変えたり、逆に散らして自分を霧状に変えたりできる。ただし、作り上げた物は操れないので、霧や溶岩は流れるだけだったりする。

メルカトル商会にアーハートが恐れる兄がいるらしい。

名前の由来は特になし。

 

ミスカ···海原技芸団の歌姫。歌姫ミスカ。拉致。清楚な話し方の美女。冷静で物事を俯瞰的に見る性格。

ウタウタの実の能力者。歌うことで様々な現象(主に能力上昇、下降)を起こす能力。影響範囲は歌が聞こえる場所全て。広大な範囲なので、サクリエルが霧化して逃げた。戦闘は得意ではない。

アーハートに洗脳され、望まない争いをさせられた。

 

大天使マンセマット···敵意や憎悪を意味する名を持つ天使。丁寧な物腰で話すが、その胸中では神以外の全てを見下している。マット大佐としてレドウィッグ(サタン)の部下になった。サタンには野心を持つと思われているが、真偽は不明。

神の命令でグラと戦うサタンを引き上げさせた。

一切戦闘しておらず、戦闘能力は不明。

 

 



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悪魔の島 マーナガルム
新世界の海賊


芸人集団を倒した。

テルギアが芸人の『悪役』シュルカーと戦い、シュルカーを殺した。

レイスとダーツが『歌姫』ミスカと戦い、乱入したアーハートがミスカを逃がした。

エイギルとタイガーが『道化』サクリエルと戦い、またも乱入したアーハートがサクリエルを消滅させた。

アルマが他団員と戦い、皆殺しにした。

キルが『団長』オールライトと戦い、殺した。

 

ついでにグラとアルマがその場に居合わせた海軍のレドウィッグ中将、マット大佐と戦い、追い払った。

 

彼らは分かれて戦闘したが、全員が敵を打ち倒した。そして芸人が占拠していた港で出港の準備をした。海原技芸団をたおした人間裏感情への町人のめは厳しかった。戦うなら他所でやっくれという目だ。危険な団体だと認識されたのだろう。物資の再調達をすれば怯えながら持って行っていいと言われた。

 

兎にも角にも航海だ。

 

船上では各々が思い思いに過ごす。グラは死蠅に対して実験をしている。異様に硬いこの蠅は何故サタンの光に負けたのか。考えても分からないので銃の練習をし始める。

 

死蠅を弾丸の代わりにしようと考えたのだ。死蠅は問題なく、火薬の爆発を推進力に変えた。死蠅を拳銃で撃つ“死蠅の弾巣”。後は射撃精度を高めれば十分武器として通用する。

 

そんなグラにアルマが話しかけた。悪魔について話すと。グラは素直について行った。

 

その間、他のメンバーは覇気を学んでいた。使える者が使えない者へ。

昼は覇気習得で汗を流し、夜は芸人たちとどのような戦闘をしたかを肴に、共に戦った臨時のコンビと談笑する。

 

そうして平和な日々を過ごす。その様は荒くれ者だったが、奴隷時代には無い確かな平和があった。

 

しかし、ここはグランドライン後半の海『新世界』。少し前まで晴天だったのが、突然大嵐になるなどは日常茶飯事の海。

そして今は大海賊時代。死去した海賊王の宝を狙って数多の海賊が海を荒らす時代。

 

グランドラインの荒波をものともしない屈強な海賊が、この海には跋扈している。

 

 

ヒュー!ズドォーン!!!

 

 

船の近くに大砲の弾が落ちたことで、荒くれ者の平和は終わる。

 

砲弾を飛ばしてきたと思われる船の帆には大きな海賊旗が掲げられている。海賊の襲撃だ。

この船は元々芸人が使っていた船だし、人間裏感情も海賊ではないので海賊旗は掲げていない。向こうはこちらを商船か何かだと思い、蹂躙して積荷を奪う気だろう。乗員も皆殺しにしようと考えている可能性が高い。

 

「任せろ!」

「···!」

「···レイスも」

 

普通の船ならば一目散に舵を切り、海賊船から逃げ出すだろう。実際、シャリランは逃げ出した。

しかし、船から人が飛び出して海賊船へ向かう。レイス、ダーツ、タイガーだ。

 

海賊たちは船に大砲を当てるのは得意だが、距離の離れた人間程の的に当てることは不得意だ。

 

レイスはふわふわ飛ぶため、先にダーツとタイガーが船に近付く。海賊船に近づいたことで大砲の精度が上がるが、2人はスイスイと海中を進んで砲弾を躱す。

近付かれたことで海賊は焦ってレイスへ飛ばしていた分の大砲も2人へ向ける。だが、躱す。

 

そうこうしている内に2人の魚人が海賊船内に侵入する。まずは砲手を仕留め、レイスと本船を呼び寄せる。

 

海賊たちが慌てて2人に襲いかかるが、武闘派魚人の2人は苦もなく海賊を蹴散らす。

 

レイスが乗船し、人間裏感情の船も近付く。

 

「てめぇら!生きて帰れると思うな!!」

 

ここで海賊の船長が現れる。名はファンシーネイル。部下がやられて怒り心頭だ。

 

「うちのボスは生かして返さないことが前提の能力だ。生死を脅しに使うとは、温いな。」

「あ?あーそうかい。死にたいらしいな。魚類ども!」

 

一瞬の口撃の後、ダーツが飛び出る。体を高速回転させて槍と吻を突き刺す。

 

“ダツ・ドリル突貫”!

 

黙ってやられるマヌケな海賊はいない。ファンシーネイルもまた悪魔の実の能力者。キバキバの能力で体から牙を生やす。

 

“攻勢牙城”!

 

体の前面から鋭い牙が無数に生え、横向きの山のようにダーツへ伸びる。白い山は、酷く攻撃的な城に見える。

 

ギガガガガガガ!

 

硬いものが硬いものを削る音が響く。爆音だ。力は拮抗している。人間の5倍力が強い魚人と互角だ。ダーツは悔しそうな顔をする。

 

「···。」

「お前ら、人間より優れてるって吹聴してるらしいな。そんな糞みたいな主張オレが折ってやるよ!!“魔牙牙鬼”!」

 

ダーツと競り合っていた牙の塊がパカリ。と縦に割れる。それは巨大な口だ。人間も魚人も関係なく噛み砕く凶悪な牙を生やしている。

ダーツは動けない。口が現れても、牙城との押し合いはまだ続いているのだ。余力は無い。

 

ガギン!!

 

牙を噛み合わせただけとは思えない、金属的な音がする。

 

「ハア···ハア···っ!」

 

フィッシャー・タイガーは仲間を見捨てない。間一髪でダーツを抱えてその場を離れた。結果無傷で大口を切り抜けたが、体力の消耗は激しい。タイガーは精神的な、ダーツは肉体的な疲労を負ってしまった。

 

「逃げんな!“飛牙”!!」

 

ナイフのように鋭い牙が腕に生えた。ぶん!と腕を振れば牙は簡単に抜け、ダーツとタイガーへ飛んでくる。

 

“ポルターガイスト”

 

辺りに倒れている海賊が持っていた武器が浮かび上がり、飛ぶ牙を撃ち落とす。レイスの力だ。

 

「···合···流···した」

「······鬱陶しい鬱陶しい鬱陶しい!!邪魔なんだよ!!お前ら!!俺はこれからなんだ!!」

「“ダツ・アイスピック”!」

 

体に牙を生やしながら、海賊の船長が喚く。隙だらけのその姿に、ダーツが素早く回り込み牙ごと貫く勢いで槍と吻を突き刺した。

 

「グアアア!舐めんな魚類!!“魔牙─”」

 

ズドォォーン!!

 

船長がダーツを迎撃しようとすると、海賊船を大きな衝撃が襲った。人間裏感情の船はすぐそこだ。砲撃が海賊船に当たったのだ。

 

エイギル、キル、テルギアが合流した。船に穴が開き、6対1で海賊船長が不利だが、船長は余裕を崩さない。

 

彼には分かるのだ。敵は6人いるが、()()が無い。もしくは弱いのだ。覇気の修行は始めても、まだ修めていない。

グランドラインの前半ならば通じたのかもしれない彼らの実力は、しかし自分には届いていない。数は多いが一人一人始末していけばいい。船も敵の物を奪えばいいのだ。

 

「“嵐脚・肉断”!」

「“ジャック・オ・ランタン”」

 

「“飛牙”!」

 

テルギアが先行して攻撃する。飛ぶ斬撃を足で放ち、海賊の船長を切り裂こうとする。テルギアの斬撃に合わせてレイスも火の玉を放つ。

 

船長はどちらも避けることができたが、捨てる予定だが、まだ船を燃やされるのは困ると火の玉を飛ぶ牙で弾き飛ばす。

 

「“罪深い(ギルティー)”」

「!っぎあッッッ!」

 

その隙を突いてエイギルが怒りの拳を叩き込む。仲間の海賊がやられて微塵の動揺を見せない彼を、エイギルは下郎と認定した。威力は高い。

 

「ッてめぇ!」

「“後神(うしろがみ)”」

 

船長は背後に回ったエイギルの方へ向いた。レイスから視線を外したので“後神(うしろがみ)”の発動条件を満たした。

船長の背後にワープしたレイスだが、船長も新世界の海賊。挟まれたことを察して、横に飛んでその場を離れることを選んだ。が

 

「···“ソウルイーター”」

 

レイスは禍々しい大鎌を生み出した。巨大な鎌は船長が回避した距離など容易くカバーし、船長を切り裂いた。しかし、船長は覇気で身を固め傷はついていない。

 

しかし、船長の膝が崩れる。“ソウルイーター”は斬った範囲に応じて相手を気絶させる特殊な鎌だ。傷ついていないのはそもそも傷を付ける物ではないから。

 

それでも船長はすぐに立ち上がる。気絶は一瞬だ。膝が崩れると同時に目覚めた。だが、そばにエイギルとレイス、ダーツも近寄る中で一瞬とはいえ気絶すればそれは大きすぎる隙だ。

 

「“罪深い(ギルティー)”」

「“ダツ・アイスピック”」

 

鎌を振り抜いた姿勢のレイス以外、2人が攻撃を仕掛ける。崩れる船長。これで終わりだ。

 

 

 

結果だけを見れば全員が無傷だ。戦闘時間も長くない。

だが、6対1、キルは船に穴を開けただけだとしても5対1。それでやっと倒せる。これが新世界。これが海賊。芸人を壊滅させて喜んでいる場合ではなかった。

 

捕らえた船長含めた海賊を備え付けてあった牢屋に入れ、各々はより真剣に修練に励む。

 

概ね順調に航海できている。だが、彼らは1つのことを思っていた。シャリランは別として、グラとアルマは何をしていたのか?と。



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悪魔の計画

悪魔について教える。そうアルマに言われ、部屋に誘われた。いつかの時、魚人たちの精神を変質させた頃と同じように。アルマはサマエルへと変わる。

 

「主よ。悪魔は1つの目的を持ってこの地へ来たる」

 

悪魔は9種類に分かれているという。

 

創造的な性格のLight(ライト)悪魔。

破滅的な性格のDark(ダーク)悪魔。

どちらでもないNeutral(ニュートラル)悪魔。

 

調和と束縛の立場や血筋を尊ぶ世界を求めるLaw(ロウ)悪魔。

混沌で自由な力有る者が偉い世界を求める、Chaos(カオス)悪魔。

どちらでもないNeutral(ニュートラル)悪魔。

 

悪魔は種族ごとにそれぞれ1つずつ属性を持っている。

 

神の定めた法と秩序を絶対のものと考える『天使』はLight-Law。

何者も信じず、世界を破滅へ導く『魔王』はDark-Chaos

神へ反逆し、人に欲望を教える『堕天使』はNeutral-Chaos

 

といった感じで9種類。LawとChaos、特にLawの象徴たる大天使とChaosの象徴たる魔王は敵対しており、未来永劫終わることの無い光と闇の大戦が続いている。

 

「······ベルゼブブの行く先は···破滅か」

「我に蠅王の真意は読めず。なれど、主の考えに否と物申す」

「なに?」

「蠅王は多様性を肯定する者。正反対のLaw以外を受け入れる程度の度量はあろうぞ!」

「世界を壊さないように配慮してくれる···か?」

「否。蠅王は受け入れるのみであろう」

 

ベルゼブブは何もしない。欲しいなら自分で頑張れ。ってことか。

 

この道にベルゼブブの導きはないんだな。

 

「悪魔にも良い奴はいるんだな。悪魔なんて言うから全員悪いやつだと思っていた」

「主よ。善の悪魔などそうそう現れぬ。Lawは大のために小を切り捨てる者共なり。Chaosは個人主義な者共。善の悪魔とは志を共にした者のみなり」

 

ワルぶりたいだけに思えてきた。

 

「Neutralはどうなんだ?」

 

Neutral悪魔は相手によって態度を変えないのが特徴だそうだ。相手がどんな思想を持っていようと、面白いかどうかで判断する『妖精』。超常の力を持つが、元が獣で善悪も思想も持たない『魔獣』。巨人や小人を内包し、怪力だが自ら事を成さず、土地と共に在る『地霊』などである。

 

「思想のNeutral、性格のNeutral。双方、日和見者共なり」

「辛辣だな」

「事実のみ。主よ。我らChaosと天使のLaw、闇と光の争いは終わっておらぬ。見ただろう。天使に侵された海軍を!政府を!Lawはこの世界に根を張り始めた。Lawの支配など認めぬ!!我らChaosは神を打ち倒すために訪れた」

 

別世界の存在である天使が侵略をしていた。天使と同じ存在の、しかし敵対している悪魔が侵略を食い止めようとしている。悪魔がこの世界に進出してくるのはそれが目的ということか。

 

「主よ。ベルゼブブの神子よ。我らに力を与えたもう。共に神の支配を退けようぞ!」

 

悪魔の囁きだ。神への冒涜を口にし、悪の道へ引きずり落とそうとする悪い言葉だ。サマエルの話に乗るのはきっと間違った道なのだろう。神が正しいとは言わない。だが、サマエルの言葉も正しいとは限らない。神を倒して終わりとは思えない。

 

「ああ。Lawを倒そう」

 

()()()()()()()()()

 

オレを出来損ないと蔑んだ世界だ。そんなオレを救ってくれたのはベルゼブブ(悪魔)だ!オレは恩返しがしたい。悪魔に!ベルゼブブに!

 

「主よ。我は『堕天使サマエル』。今後ともヨロシク」

「···なんだそれ?」

「契約の言葉だ。我は正式に仲()となろう」

「そうか。よろしくなサマエル」

 

 

 

「主よ。外へ出るといい。人間裏感情が海賊を捕らえた」

「は?戦ってたってことか?なんで言わなかった?」

「勝つのは分かっていたこと。我らの対談を進めよう。と」

「······オレの仲間が戦ってたらすぐ教えろ」

「御意」

 

サマエルは少し人間を軽視しているのかもしれない。前も洗脳紛いのことをしていたし。まあ少しずつ変わってくれると嬉しいな。1度言えば分かってくれるから根気よく行こう。

 

サマエルの進言で部屋を出る。縄に縛られた見知らぬ男を見つける。海賊だろう。死蠅にしてしまうのもいいが、ここは換金しよう。天竜人の財産が残っているからまだまだ余裕はあるが、慣れておきたいからな。

 

「あ。グラ様だ。どこ行ってたの?」

 

キルが話しかけてくる。オレはアルマと部屋で話していた。と言おうとする。

 

『旗印たれ』

 

ベルゼブブの声が聞こえる。それはいつかと同じ言葉だ。旗印······他の仲間達も悪魔親和派にさせろ。ということだろうか。

 

······ベルゼブブの種族は魔王だ。人間の都合など考えない自分勝手な種族。

 

分類がそうだからベルゼブブもそうだ。というのは早計なのかもしれない。だが、ベルゼブブは人間裏感情の仲間たちのことを考えているのだろうか···。オレ自身は都合の良い道具だが、仲間は···こんなオレについてきてくれるあいつらは道具ではない。

 

「アルマと話していた」

「へー。大砲バンバン撃ってたんだけどな。だいぶ話し込んでたね。なんかイイ感じなの?」

「そういうのじゃない。悪魔について教えてもらっていた」

「アルマとかグラ様とか海軍が変身してたやつ?」

「そうだ。みんなも聞いてくれ。これから向かう『マーナガルム島』悪魔が住む島だ!」

 

オレは仲間たちにサマエルとの話しを共有する。悪魔の危険性や思想。それらを伝えたうえでオレについてくるよう頼み込む。命令じゃない。

 

彼ら自身の意思で悪魔を好きにさせる。

 

 

 

 

 

新世界。とある島のとある町。大勢の部下を従える、角の生えた巨漢が酒を飲んで酔っていた。

 

「ウォロロロ!ヒック」

 

彼の名は『カイドウ』。『百獣』の異名を持つ後の世で『四皇』と呼ばれるようになる海賊だ。

今はまだ勢力拡大中の彼は現在1つの報告を聞いていた。

 

「傘下の海賊が海軍に捕まっただァ!!?」

 

カイドウの強さに屈し、下ることを選択した木っ端海賊、その1つが海軍に捕まり、監獄送りにされたというのだ。

ただし捕まえた者は海兵ではなく、『蠅王』を名乗る者。

 

「ウォォーン!!!ヒドイじゃねぇか!!!おれの大事な部下を倒しちまうなんてよお!!!」

 

カイドウは号泣し、近くにいた部下を殴り飛ばす。

 

「おれに喧嘩売ってるとしか思えねえな!!!オマエら!!おれァハエをぶっ潰しに行くぞ!!!」

 

ひとしきり泣いた後は急に怒り出して敵討ちを宣言する。カイドウは酒癖が悪く、泣き上戸の後に怒り上戸となったのだ。

 

身内の海賊が倒されて怒るカイドウが蠅王へ迫る。

 

 

 

 

 

海軍本部。マリンフォード。そこで。レドウィッグ中将とマット大佐が話しをしていた。

 

「何故バアルゼブブを見逃した!マンセマット!!」

「神の「御託はいらん!真実を話せマンセマット!!」···おお。同士サタンよ。なるほど。さすがはワタシが見込んだ天使ですね。ふふふ」

 

「サタンよ。ワタシ達は神を引き立たせるための存在です」

「サタンよ。神は悪であるワタシ達を打倒することで信仰を生じさせる策を実行しました」

「サタンよ。それはとても素敵で実用的な策でしょう」

「サタンよ。これは、偉大なる神がワタシ達に示した道標です」

 

「つまり?」

「悪の蠅を打首にしてワタシ達の信仰を磐石なものへとするのです。今はまだ悪としては弱すぎる。今は待つ時です。蠅が人を狩るその時まで」

「成功するといいがな。敵に塩を送るだけならないといいが」




天使:法と秩序を絶対のものとし、神へ献身的に尽くす飛天族の悪魔。Light-Law

大天使:大いなる光に仕える高位の飛天族。大いなる光の放った言葉を各々が判断して行動する。Light-Law

堕天使:かつて天使だったが、神に反逆したり、自ら魔界へ堕ちた飛天族。人に欲を囁く者どもにNeutral-Chaos

魔獣:超常の力を持つ獣族。冥界の住人だったり、歳を経た獣が化生した存在。多くが弱肉強食の理を重んじているが、邪悪ではない。Neutral-Neutral

地霊:大地を起源とする鬼族。巨人や小人を内包し、総じて怪力。Neutral-Neutral

妖精:奔放で無邪気、自由気ままに生きる、人に近い感性の魔族。Neutral-Neutral

魔王:悪意に満たされ、何にも従わない傍若無人な魔族。幾重もの策謀を闇に巡らせ、大罪をなすもの達。Dark-Chaos


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海難

マーナガルム島を目指し、新世界の海を進むグラ一行。

 

仲間たちは悪魔についてはまだ考えさせてくれと答えた。強制せずに気ままに待つつもりだ。願わくば悪魔を認めて欲しいが。

 

海原技芸団との抗争から数日。いつものように航海しているとエターナルポースの指す方角に島が見えてきた。

 

「あれは!」

「あれが···『マーナガルム島』!!!」

「よーし。長い航海もあと少しだ。目的地に着く。もうひと踏ん張りだ!」

 

オレの号令に仲間たちは『おおー!』と返事をし、やる気を示してくれる。そんな仲間たちとは対称的に船は速度をどんどん()()()()()()

数分で完全に止まってしまった。

 

「なに?何故止まった?」

「おいおい早く動かそうぜ!島が見えてるのになんで止まるんだよ!」

「誰も止めてない」

 

ペタリ

 

バキボギ!バギバギバギ!!

 

木が折れる音が聞こえる。たくさんの木が折れる音だ。ここは海だ。木とは船だ。船が折れる音だ。

 

音がする方には巨大な、イカかタコの触手が海から伸びていた。触手はオレたちの乗る船に絡み付き、今もなお破壊しようと締め付けている。

 

「まずい!!“メガトン・バン”!」

 

テルギアが触手を殴る。少量の船の残骸と共に触手は離れるが、まだ数本船に絡みついている。

 

他の仲間たちも触手に攻撃して船を守る。せめて島に上陸するまで保ってくれ。

 

全ての触手を沈めた。だが油断なんてできない。みんな分かっている。船の真下にバカでかい頭足類の化け物がいると。

 

「海王類なら何匹も倒してきた。タコだかイカだか知らないが串刺しにしてくる」

 

ダーツが名乗りをあげる。タイガー以外の手出しができない面々が声援を送り、タイガーがおれも行くと言い出した瞬間

 

 

目が合った

 

 

緑色の丸い目だ。

 

ダーツが海に飛び込もうと進んだ先に、船よりも大きな影が水面に近づいていた。その影は2箇所だけ光っている部分があった。直感で分かる。見られていると。

 

影は海水を持ち上げる。ザァーと海水が流れ、現れた姿は紫色のタコだ。イカの触腕を8本生やした巨大なタコの怪物。

 

妖獣クラーケン。

 

「ギャアガアアアア!!!」

 

「気をつけろ。あれも悪魔だ」

 

オレの言葉で仲間たちが気を引きしめる。相手はベルゼブブやサマエル、サタンと同じ『悪魔』。油断なんてできない。

 

クラーケンは8本の触手で船を包み込む。ギチギチと締め付け、再度オレたちの船を破壊しようとする。慌てて仲間たち全員でクラーケンを攻撃する。

 

「主よ。彼奴は知性無き悪魔なり。LawもChaosも求めぬ暴れるのみの獣。倒して糧としようぞ!」

 

悪魔の体は肉ではなくエネルギーで構成されている。『マグネタイト』と呼ばれるエネルギー物質だ。マグネタイトは悪魔に必要不可欠な物だ。

 

マグネタイトは人間の感情から生じる。喜びや笑いなどの正の感情。悲しみや怒りなどの負の感情。どの感情から生じたマグネタイトを好むかは悪魔によって異なる。

 

クラーケンは負のマグネタイトを好む。知性は無くとも、船が壊れると恐怖を与えられることを知っている。人間を苦しめ、マグネタイトを回収して自分の肉体とする。悪魔であるクラーケンにとって、人を襲うことは食事なのだ。

 

マグネタイトは生成された感情に関わらず、人間に良い影響を与える。

悪魔を殺せば肉体を構成していたマグネタイトは霧散し、近くの生き物へ吸収される。吸収した生き物は強化される。岩をも砕く怪力を持ち、魔法を扱い、超能力を操る人外となる。その姿はまるで悪魔。

 

糧にするとはそういうことだ。

 

「“フォイア・メガトン・バン”!」

 

テルギアがクラーケンを燃やそうと動く。触手に高熱の拳を叩きつけた途端、クラーケンが苦しみだした。

 

悪魔には余程高位の存在でない限り弱点となる属性がある。クラーケンは炎が弱点のようだ。どんなに威力が低くとも、弱点属性を受けると体が硬直して動けなくなってしまうようだ。

 

動きが止まったクラーケンへ仲間たちが総攻撃を仕掛ける。テルギアとレイス、キルはそれぞれが炎をクラーケンへ浴びせる。

 

ある程度クラーケンを攻撃していると、クラーケンが動きを見せる。体全体をわなわなと震わせ、怒っているように見える。

 

「ギチギチュ!クウ!クウ!!」

 

そして、ゆらゆら揺らしていた触手の1本をエイギルヘ伸ばす。

 

“地獄突き”

 

ギリギリ躱したが、先端がエイギルの脇腹を掠めて血を流す。

 

「エイギル!?」

「問題ねえよ···!かすり傷だ。それよりさっさと倒すぞ!」

 

好機と見たのか、エイギルヘ3本の触手が迫る。確実に1人落とすつもりだ。

 

やらせないがな。

 

「“死蠅の斬列”」

 

オレの放った死蠅共がクラーケンの触手を3本断ち切った。

 

それを見て他の仲間たちもやる気を出す。我先にとクラーケンの触手を切り落とそう突撃する。先に仕掛けるのは武闘派魚人の2人。

 

「沈みやがれ!!」

「“ダツ・ミサイル”」

 

2人は海に飛び降り、海中からクラーケンを叩いている。

 

他の仲間もタイガーとダーツに続こうと準備を始める。

 

ザパァ!

 

しかし、タイガーとダーツが海面を飛び上がりすぐさま船に帰ってきた。

 

何故海中から攻めないのか。みんな疑問に思ったが、すぐにその答えを理解する。

 

ドガァァーン!!

 

突如大きな音が鳴り、大きく海面が揺れる。クラーケンが飛び上がったのだ。

···いや。クラーケンは打ち上げられた。

 

打ち上げられたクラーケンの下に巨大な影が現れる。新たな敵だ。

 

「贄がいる。復活の糧を捧げよ!我は『魔王ダゴン』なり!我が神へ供物を与えん!!」

「ギチギアアアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

現れたのは魔王ダゴン。4本の腕を持つ邪悪な人魚のような見た目だ。

 

2体の悪魔が戦う。邪悪なタコと邪悪な人魚が互いのマグネタイトを欲している。

 

逃げよう。両者はこちらを見ていない。今がチャンスだ。しかし問題もある。クラーケンが船に張り付いていた時にダゴンに打ち上げられた。つまり船が壊れた。

 

バラバラに砕けた船の中で一際大きな欠片、船首付近のパーツへオレたちは避難している。

 

とにかく。まだまだ遠いが、見える位置にあるマーナガルム島へ辿り着かなければならない。

オレ達の力を合わせて残骸を動かす。

 

オレの死蠅とレイスの“ポルターガイスト”で僅かながら残骸を浮かせ、タイガー、ダーツ、シャリランが残骸を引っ張る。

 

アルマは2体の悪魔を牽制しに行った。本来、『堕天使サマエル』はクラーケンやダゴンよりも強力な悪魔なのだが、悪魔の実の力としてこの世界に顕現している以上、海中に潜む2体とは絶対的に相性が悪い。

 

サマエルは高速で飛行できるから後で合流できる。今は迅速に島を目指す。オレの死蠅がもっと多ければ仲間を全員持って運ぶこともできたんだがな。サタンに消し飛ばされてしまったのが痛い。

 

 

 

水の跳ねる音が聞こえる。3者の攻防音だ。島に着いた。クラーケンとダゴンはそれまでこちらに気づかず、何事もなく上陸できたのだ。

 

サマエルへ死蠅を飛ばす。残骸を押していた筈の死蠅が周囲を飛べば、着いたことを知らせられる。

 

 

「トラブルも有ったが!着いたぞ!マーナガルム島!!」

 

見ているか!ベルゼブブ!!

 

『大義であるぞ人の子よ。この地こそが我ら悪魔の前線基地。魑魅魍魎が跋扈する魔境なり。平定せよ人の子よ。汝が覇道を示せ。悪魔を率いよ!』




妖獣:普通の獣よりも攻撃的で邪悪な獣族。自分勝手で貪欲な、神や英雄に敵対するものたち。Dark-Neutral

クラーケン:北欧に語られる海の怪物。巨大なタコやイカといった頭足類の姿で描かれることが多いが、ほかにも、シーサーペント(怪物としての大海蛇)やドラゴンの一種、エビ、ザリガニなどの甲殻類、クラゲやヒトデ等々、様々に描かれてきた。姿はどうであれ、決まって驚異的な巨体を誇る特徴がある。島と間違えて上陸した者がそのまま海に引きずり込まれるように消えてしまう。という逸話も残るほど(なお、ワンピースでは似た逸話を金魚が持っているもよう)

ダゴン:聖書に語られる悪神。名前の由来は、ヘブライ語のダグ(魚)と混同し下半身が魚形の海神と考えられた。
もともとダゴンは邪悪な神ではなかったはずだが、ユダヤ教で悪神とされ、ユダヤ教から発生したキリスト教でも同様の扱いを受けたことから悪神として定着した。
ダゴンの名はクトゥルフ神話にも登場する。深きものどもを信者に持つ、とある神の従属神、邪神の1柱として存在する。


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巨人の領域

ゲームとかしてて遅れました。これからも遅れます。不定期更新になりますなりました。


悪魔の島マーナガルムの制圧。

 

ベルゼブブはオレに悪魔を従えることを求めた。悪魔の王になれと。

 

「·········みんなのおかげでマーナガルム島にたどり着いた。ここには先住民がいる。悪魔だ。オレは悪魔を下し、従える」

 

オレは仲間たちに宣言する。仲間たちはオレの決定に従う姿勢を見せる。だが、中には微妙な顔をする者もいる。先のクラーケンやダゴンを思っているのかもしれない。危険な存在である悪魔を仲間として見られるかを不安に思っているのだろう。

 

···これもオレの能力が低いからだろうか。統率力が足りない。悪魔にも負けないと信じさせられないことが原因で、仲間を不安にさせている。···頑張らねば。

 

 

 

アルマが合流した。···さて。ウジウジするのも終わりだ。まずは島の探索をしよう。見たところ、海岸と密林の2つに分かれている。

 

さてどうしようか。考え事をしていると、違和感を感じた。

 

マーナガルム島が何故、悪魔の住む島と言われているのか。それは上陸してすぐに分かった。悪魔の養分であるマグネタイトが多いのだ。地面から溢れていると言ってもいい。

 

無限かと思うほどのマグネタイトにより、悪魔は簡単に実体化し、力を付けられる。

 

代わりのようにこの島以外にはマグネタイトがほぼ存在しない。人の感情から生じる筈のマグネタイトが海原技芸団と争った島では感じられなかった。

 

クラーケン戦で初めて見たのだ。マグネタイトは。

 

サマエルが言うにはありえないことなのだが、それがマーナガルム島の異常な点なのだろう。

 

『マグネタイトを周囲から根こそぎ奪う島』。ということだ。周囲というのがかなり広大だが。もしかしたらグランドラインを超えて、世界中からマグネタイトを吸い尽くしているのかもしれない。

 

そんな特性を持つマーナガルム島には、莫大な量のマグネタイトが渦巻いている。悪魔にとって都合の良すぎる島なのだ。

 

そんなマーナガルム島からマグネタイトの脈動が一時的に消えた。

 

すぐに補充されたとはいえ、絶えず流れていたマグネタイトが一瞬だが枯れるほど使われたということだ。

 

マグネタイトは願いを叶えるエネルギーだ。マグネタイトさえあれば、何者にも負けない絶対の力が手に入る。強大な悪魔とは、すなわち膨大な量のマグネタイトを保有する悪魔なのだ。

 

いる。この島に、強大なナニカが。マグネタイトを扱えるのは悪魔に限らないが、マグネタイトを吸収すれば悪魔に近づく。

 

オレは悪魔を従えなければならない。王にならなければ。こいつは明確な障害になる。潰さなければ。

 

「森へ入るぞ」

 

仲間に行き先を告げ、ぐんぐん進んでいく。島の中心だ。予感がするのだ。強者の気配が。きっとそいつが『障害』だ。

 

 

 

森は不気味なほど静かだった。鳥もいない、虫もいない、悪魔もいない。動くものがない、不気味な密林。

 

おかしいな。ここは悪魔の島だ。なのに悪魔もいないとはどういうことだ?

 

「主よ。魔が来たる」

 

サマエルがオレに忠告をする。魔とは悪魔のことか。そう思い至ると同時、目の前に青い腕に握られたハンマーが現れる。

 

ドガン!

 

咄嗟に躱す。ハンマーは地面を大きく抉り、込められていた力が強大であったことを示す。

 

腕は空間を割るように開いた『門』から伸びている。『門』は次第に大きく広がり、ハンマーの持ち主が内より現れる。

 

巨大な単眼に頭頂より生える巨大な一本角。青い肌に黄色い服を着た、8m程の巨人が現れる。

 

「おうおう!なんでここに人間がいやがる!?ここはおれら悪魔サマのシマだぜ!とっととでてけや!」

「オレはグラ。ベルゼブブの遣いだ。お前ら悪魔を従えに来た」

「ああん?ベルゼブブ?聞いてねえな。まあ聞いてようがなんだろうが人間はお呼びじゃねえ!この『邪鬼サイクロプス』サマに食われちまいな!」

 

有無を言わさずにハンマーを振り下ろす。話し合いは通じないか。彼らは天使を止めに来たようだが、決して人間の味方ではない。むしろ、天使の代わりに人間を支配しようと考える奴らだ。

 

敵だ。

 

「“死蠅の弾巣”」

 

銃で撃ち出した死蠅がサイクロプスの目玉を狙う。が、サイクロプスは腕で顔を覆い死蠅を受け止めてしまう。

 

「隙だらけだ」

 

がら空きのサイクロプスに向かって仲間たちが一斉攻撃に出る。目を覆ってしまったサイクロプスはそれに気付かず、気付いた時にはもう遅かった。

 

サイクロプスは、いつか天使を倒した時と同様に微細な粒子に変わる。これがマグネタイト。力だ。

 

オレは意識して吸収してみる。力がみなぎる。気分が高まる。なんという全能感。

 

これを独占する奴がいる。

 

不愉快だ。

 

「主よ。門の中へ」

 

サイクロプスが現れた門。その中は『異界』へ通じている。悪魔の住む『異世界』と人間の住む『人間界』が混ざって生まれたどちらとも異なる世界だ。

悪魔は異界の中に住んでいる。異界はマグネタイトで満ちている。人間界からマグネタイトを吸い取る性質を持つのだ。だから悪魔は異界に住む。

 

そして、異界は強力な悪魔が作り出すものだ。

人間界に漂う微量のマグネタイトでは存在を維持できなくなった悪魔が作り出したマグネタイト吸収装置。それが異界。

 

願いを叶えるマグネタイトはなんでもできる。世界を作ることだってできる。

 

この先はそんな悪魔の世界だ。悪魔に都合の良い世界。

 

オレは特に気負わず門へ入る。支配しなければならないのだから、こんなところで屈してはいけない。

仲間たちもオレに続く。誰一人欠けることなく。

 

 

 

異界の中は荒地だった。

焼けた草原だ。所々にある血を流した死体から、戦争跡地なのではないかと予想させる。

 

そして大量の巨人。大きさは様々で、姿も異なる者たちが皆一様に俺たちを見つめている。

 

巨人を刺激しないようじっとしている。が、巨人は一斉にこちらへ走り出した。その目に敵意の炎を宿して。

 

だが、オレ達が迎撃しようとすると、またも状況が動いた。1つの命令が響き渡る。

 

「オオミツヌが命じる。引け!その方々は客人である」

 

声の主は100mや200mもある一際大きな巨人『地霊オオミツヌ』。石の鎧や兜を装着している、石人形だ。

 

オオミツヌの号令により、巨人たちは素直に引き上げた。巨大な筈の自分たちを踏み潰せそうなオオミツヌを恐れているのかもしれない。

 

「来島、感謝するベルゼブブ。ようこそ巨人の島『ブリテン島』へ」

「···ん?ブリテン島···?マーナガルム島ではないのか?」

「左様。ここはブリテン島。マーナガルム島の属島だ」

「そうか。歓迎してくれたオオミツヌには悪いが、上陸する島を間違えたようだ。オレたちはマーナガルム島へ向かう」

「待て。悪魔を従えるのだろう?我ら巨人もまた範疇の筈。巨人はいま二分している。我が治める巨人と、白き巨人が治める巨人に」

「オレに、勢力争いに加われと?」

「白き巨人はマグネタイトを集めている。我らが枯れるほどの量を。我らを救えば、従おう。ベルゼブブよ。『アルビオン』を倒してくれ」

「···いいだろう。お前らを最初の臣民にしてやる。民を守るのは支配者の義務だ。アルビオンはどこにいる?」

「おお!感謝するベルゼブブ王。神殿へ。白き巨人の根城へ。マグネタイトの殿堂へ」

 

臣下となったオオミツヌ。その敵対者、アルビオンを討伐することになった。白き巨人と呼ばれる、膨大なマグネタイトの保有者が、オレが悪魔を統一するための最初の障害だ。




サイクロプス···キュクロプスとも呼ばれる1つ目の巨人。ギリシア神話(ゼウスなどの神話)に登場する。神話では鍛冶の神として登場し、ゼウスの親戚(サイクロプスはウラノスのこであり、ゼウスはウラノスの子のクロノスの子)である。かなりの高次存在なのだが、近年では旅人を襲う粗野な怪物としてしか描かれない。

オオミツヌ···日本神話の神。八束水臣津野命(ヤツカミズオミヅヌノミコト)のこと。また、だいだらぼっちとも呼ばれる。大陸から小国を集めて国を創り出したという、国引き伝説の神。日本列島を歩き回り、その足跡が湖になったとされている。

イザナギやアマテラスなどの神は仏教伝来と共に現れたいわば新参者、侵略者である。それらの神の侵略は成功し、新たな神は『天津神』、オオミツヌなどの土着の神は『国津神』と呼ばれ区別された。国津神は他の神話の悪魔、悪霊などにあたり、悪さをする存在『妖怪』としても区別されてしまうようになった。

※国津神はかなり古い神なので、その多くが謎に包まれています。オオミツヌも天津神に混同したか、取り込まれたか、元々天津神だったかで、wikiなどではスサノオの子供と表記されています。上記が間違いである可能性もご考慮ください。

マグネタイト···悪魔の体を構成するエネルギー物質。悪魔は細胞を持たず、幽霊のようなあやふやな状態で存在する。マグネタイトには思いを叶える性質があり、これによって悪魔は魔法などの超常現象を引き起こす。魔法で使うマグネタイトは、体を構成するマグネタイトとは区別されて『MP(マグネタイトポイント)』とゲームでは表記される。
マグネタイトは人間の感情から生まれる。怖いという感情からマグネタイトが生まれると、その怖いと思った対象を作り出してしまう。そうして作られた存在が悪魔だ。こうして新種の悪魔は作られる。その悪魔を作り出した人間が抱くイメージが違うため、同じ名前でも姿や性質が異なる。ということが起こる。

現実に磁鉄鉱、Fe3O4、四三酸化鉄としてマグネタイトという物質が有るので混同しないようご注意ください。


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