人生ソロプレイヤーのNWO (名無しの固有名詞)
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始まりの街
単独スタート


初めまして、閲覧頂きありがとうございます。単刀直入に言いますと、この作品は作者の深夜テンションで書いたものです。ご理解頂けない箇所もあると思いますのでご容赦ください。モチベーションは問題ないです。既にアニメ1期分は終わってるのでパソコンが壊れない限り投稿できるはずです。まあ、個人用なので期待はしないでください。
それでも良ければごゆっくり。


「まさか、本当に当たるなんて…」

 

雪村聰真は貧乏な高校生。今まで運が良かったことなんて数えられるくらいしかなかったのだがようやく回ってきたようだ。なけなしのバイト代で買った小説についてきた懸賞が見事に当選したのだ。

 

「メールで来たときはびっくりした。詐欺かと思ったよ。まあ、そんなお金もないんだけど…おかしいな、目の前が霞んできた。始めるか。」

 

雪村の財布は常に風通しの良いがため、とても持ち運びに便利なのだ。現状を振り返って悲しくなったのか、目には涙が浮かんでいる。気晴らしにゲームを起動させた。

 

 

「ゲームなんていつぶりだろう…小学生以来かな?バイトもないし、時間は山ほどあるね。」

 

雪村はバイト先の店長から働きすぎとの警告を出されていた。勉強も既に準備をしていたがためにやることがランニングくらいになっているくらいである。

 

「お金は…1ヵ月もやしで乗り切ればいけるか。」

 

これ以上貧乏話が続いてもだれの得にもならないので早送り

 

~~~~~

 

「よしっと、粗方片付いた。最近のゲームは設定が多くて大変だな。」

 

 

残る設定は名前と武器、ステータスのみであった。なお、これらは初めのほうにあったのだが悩みすぎたのでパスされていた。

 

「うーん、こういうときの名前ってどうすればいいんだろう?本名は流石にまずいだろうし…よし、後回しにしよう。(2回目)」

 

次に武器の選択に移動すると

 

「片手剣、盾、弓、杖…実際に使ってみなきゃ何がいいのかわからないしなぁ。まあ、やり直せばいいか。フィーリングフィーリング…」

 

パッと手に取ったのは自分の身長よりも大きな剣だった。一応雪村の身長は全国平均近くあるので小さいわけではない。。

 

「よし、これにして…って重っ」

 

それも当然だ。自分よりも大きな鉄の塊を持っているのだから。そうでなかったら余程の筋肉バカである。

 

 

「逆に考えよう、これでステータスは【STR】に多く振る決意ができた。うん、問題はない。」

 

デメリットを考え過ぎても何かと優柔不断になりがちになる。だから、こういうときは考えるよりも先に行動することを心がけているようだ。

 

「こんな感じかな、ちょっと重いけどいいか。」

 

 

大剣を持ったり離したりしながら【STR】を調整する。他のステータスのことを考えて重いと感じるくらいで打ち切った。次にほかの数値を弄りだす。

 

 

「耐久に速さ、あと2つはなんだろう?」

 

【DEX】と【INT】、普段は慣れない略語に頭を抱えているようで、

 

「まあいいや、全部均等に振ればいいか。」

 

という暴挙に出た。

 

「よし。名前を考えよう。うーん…」

 

 

〈しばらくして〉

 

 

「よし、マテリアルでいこう」

 

最近覚えた英単語でたまたま思いついた単語にしたようだ。こうでもしない限り永遠と考え続けることができることが雪村の特徴である。優柔不断の鑑といっても過言ではない。

 

Lv1 マテリアル

HP  140/140

MP  112/112

STR 30

VIT 15

AGI 15

DEX 15

INT 15

 

 

「ふぁーあ、眠くなってきた。後は明日でいいか」

 

時計は既に設定画面に入ってから6時間経ったことを示していた。

 

 

〈翌日〉

 

 

「昨日は設定だけで終わっちゃったからなぁ。今度はサクサク進めるようにしよう。」

 

ちなみにあの調子で進めるとなるとレベル20になるまで通常の人より5倍、第一層をクリアする頃にはトップは既に第三層に手をつけているくらいである。

(当社比較)

 

 

「確か、考えるよりも先に行動するんだったっけ?」

 

誰かの言葉を思い出しながら《始まりの街》へ入り込む。既にかなりの人口がプレイしているようで、ガチ勢ではもう30レベルを超えてしまっているらしい。あくまでもネットの情報なので信用ならないのだが

 

 

「よし、早速ダンジョンへ行くか。」

 

 

優柔不断は時間の無駄と割り切ったマテリアルは、「ゲームといえば」と考えて真っ先にダンジョンへ行くことを決めた。装備を揃えるわけでもなく、パーティを組むわけでもなく、真っ先に思いついたのはソロプレイである。果たして、うまくレベル上げができるのか?

 

 

 

「さて、ここらでいいかな?」

 

 

手頃そうな森に入っていき、ちょうどそこには兎型のモンスターだった。

 

 

「うさぎ、か。見た目は可愛らしいけどこういうのって強さと反比例することって多いよね。」

 

 

マテリアルよ、それはボス戦に限る話だ。序盤で初見殺しなんて余程のクソゲーじゃないとないぞ(多分)

 

 

「先手必勝!」

 

 

背中の鞘から取り出した大剣が兎を切り裂く。

昨日のSTR調整による大量の素振りは無駄ではなかったようだ。

 

 

「ちょっと罪悪感。いやいや、こんなので止まってたらキリが無い。心を無にして進めよう。」

 

 

そういうと、モンスターを見つけ次第倒していくマテリアルであった。

 

 

 

 

今までのハイライト

 

 

兎を倒した。 レベルが上がった。

 

百足を倒した。 レベルが上がった。

 

毒蜂を倒した。 レベルが上がった。

 

その他諸々

 

 

 

「よし、こんなもんかな。」

 

 

マテリアルが森に入ってから5時間が経過した。一心不乱、無我夢中に剣を振り続けた結果レベルは24に到達していた。

 

 

「ちょっと状況を確認しようか。えっと、ステータスステータス。!?」

 

 

驚いたことにステータスが微動だに変化していないのである。いや、これは語弊であった。HPは半分近く減っていた。それ以外のステータスは全く変化していない。

 

「これって、もしかして…運営のミスかな。」

 

 

勘の良い人はお気付きだろう、マテリアル君はVRMMOの初心者、そして旧世代のゲーマー。その上、オンラインゲームは未経験である。ここから導き出される結論は、ステータスは自動に上がるという誤認であった。先程の理由の他にも原因として、隠れゲーマーなこと、ゲーム内でも他人との接触がないことが挙げられる。この時のマテリアルの判断は

 

 

「まあいいや、今はまだ困らないだろうし。」

 

 

保留、であった。もやし生活のマテリアルにとってこの程度の縛りプレイはもはや縛りにすらならない。

レベル1だって、ある程度までなら戦える。なお、本人のプレイヤースキルが必要なためお勧めはしない。

 

 

そう考えたマテリアルは画面を閉じようとした瞬間

 

 

「あれ?これは」

 

 

おっと、ここでマテリアル選手、ステータスについて気づいたのでしょうか?

 

 

「スキルって何?」

 

 

残念、スキルでした。

 

 

「えっと、全部で3つか。使えるスキルでありますように」

 

そう念じつつ、スキルの確認に入る。

 

 

【探知】

獲得条件

一々周囲を確認しながらモンスターを50体倒すこと

 

効果

周囲100m以内のプレイヤー及びモンスターの位置情報などがわかる。隠れ道を発見しやすくなる。MP消費で範囲拡大可能。

 

 

【新星】

獲得条件

レベル1のステータスのままモンスターを100体以上倒すこと

 

効果

自己創作スキルの取得権利が可能(1つのみ)

 

 

 

【天邪鬼】

獲得条件

通常プレイヤーのうち0.5%に満たない行動を5回連続で行うこと

 

効果

スキル等による能力変化が真逆になる。

レベルアップ、装備によるステータス上昇には適用されない。

 

 

 

「うーん、ちょっとよくわからないなぁ。【探知】は文字通りの意味だからパスとして、自己創作スキルって何?文字通りだったら運営とは違うスキルをなんか作ることができるってことかな?あたり…なスキルだよね。」

 

 

 

自己創作スキルとは…

 

運営の「こんなことするプレイヤーはないだろw」という無意味もしくは不可解な行動をすることによって取得することができる。酒の席で賭け事として設けられた、言い換えればただのおふざけ。制作者のボーナスが賭けられている。

 

 

「ほう、説明どうも。いや、酒の席で仕事の重要事項決めちゃダメでしょ…お金も絡んでくるし。まあいいや、その副産物をありがたくもらっておくとしよう。で、次に【天邪鬼】か。これはちょっと納得できないな。」

 

マテリアルが不満な点は獲得条件の通常プレイヤーのうち0.5%に満たない行動を5回連続で行うことである。

 

 

「絶対そんな行動してないし、」

 

 

マテリアルの適用された行動

 

1.設定時、6時間以上時間をかける

 

2.始まりの街から直行でダンジョンへ向かう

 

3.回復なしで100体以上のモンスターを倒す

 

4.5時間以上続けて同じダンジョンに居続ける

 

5.スキル【新星】の獲得

 

 

完全にアウトです。普通のプレイヤーはこんなことはしません。という割には、スキルによるステータス上昇の反転、といういつ使うのか全く見当のつかない効果である。

 

 

「【探知】は即採用。【新星】はダンジョン出た後になんとかするとして、【天邪鬼】は一旦保留。使い道があるかもしれない。ん?そういえばさっきの説明で…」

 

【天邪鬼】の画面を見て重要そうなことに気がついたマテリアル、急に表情が深刻になり始めた。

 

いや、【天邪鬼】使うのって一体いつに使うんだ。

それはさておき、画面をよく確認して触れると

 

 

「増やせる、だと…」

 

触れているのはステータス、どうやらポイントが振れることにやっと気がついたようだ。

 

マテリアルは驚いているようだがこれは至極普通のことであった。

 

 

「流石に振るか。」

 

 

【天邪鬼】の取得は本人にとってはかなりのダメージだったようでこれ以上おかしなことはしたくないようだ。

 

「そんなに変なことしたのかなぁ…」

 

 

本人も少し気がついていた。自分が周りとはちょっと違うことを。まあ。それを本人が誰かに肯定するとは思えないが

 

現在のマテリアルのステータス

 

lv24 マテリアル

HP 140/140

MP 112/112

STR 30

VIT 30

AGI 30

DEX 30

INT 30

 

「よし、これで5つとも綺麗に並んだ。」

 

というガチ勢には1ミリも理解できないようなところで満足したところを見ると、やはり変わり者のようである。

 

 

 

「さて、戦闘を続けるとしよう。といっても、ここら一帯はかなり倒しちゃたからなぁ。もう少し奥へ行くとしよう。」

 

 

 

森の奥底へ向かっていると、クマが現れた。体長はマテリアルよりも一回り大きく爪はかなり尖っている。

 

 

「ちょ、これは」

 

 

マテリアルも動揺しているようで頭の中では

 

(くくくくクマと遭遇したときって、どうするんだっけ。確か死んだフリが有効だったような…いや、ゲームだから襲われるわ。)

 

 

としているうちに、クマは雄叫びを上げて攻撃を開始する。

 

 

「あー、もうどうとでもなれ!」

 

 

大剣を取り出し、クマに向かって一直線に突く。

 

 

その一撃はクマの真正面を貫き、クマは倒れた。

 

 

 

「そういえば、ステータスのおかげでかなり動きやすいんだった。誰だよ、ステータス振らなくても困らないだろうって思ったやつ」

 

お前だよ、ステータスの振り方がわからなかった時のお前の発言だよ。

 

 

「それはそうと、なんか出てきた。これは、知ってる。」

 

 

モンスターを倒すとたまにドロップでアイテムが出てくるのだが先程までは何故か一つも出てこなかった。流石マテリアルである。

(性格とドロップ率は関係しない模様)

 

 

「えっと、指輪か。効果は…」

 

 

〈魔除けの指輪〉

モンスターの攻撃を1/4軽減する。状態異常も同様

 

 

「これは、なかなか使える方…だよね?」

 

 

迷っているようだがこれはかなりの当たりのアイテムで対モンスターには強力なアイテムである。なお、第一回イベントは対人戦らしいので無意味。

 

 

マテリアルは左手に〈魔除けの指輪〉をつけた。

 

〈装備〉

【装飾品】魔除けの指輪

 

「へぇ、装備に装飾品なんてあるんだ。つけられるのには制限がある、のか。確かに上限なかったら身体中重そうな人が出てくるもんね。ふふ」

 

 

マテリアルは1人で腕輪や指輪、ブレスレットなどの装飾品をカンストさせた人を想像したようでかなりツボに入ってしまったようだ。

 

 

〈数分後〉

 

 

 

「ふぅ、やっと落ち着いた。そういえば、装備はこれ以外全部初心者用か。まあ、初心者だししばらくはこのままでいいか。買うにも手持ちはそんなにないし。」

 

 

そんなことを考えながら歩いていると、とある場所に着いた。

 

 

「ここは…」

 

マテリアルの目の前に広がっていたのは遺跡の入り口であった。

 

 

 

 

 

 

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。楽しめていただけたら光栄です。次回はボス戦果たして勝てるのだろうか...


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単独ボス攻略

はい、サクサク進めていきましょう。




「ここは…」

 

 

ダンジョンの奥深くにある大きな扉、その扉の先にはボスがいる。それは初心者のマテリアルにもわかることであった。

 

 

「HPはさっき落ちてた回復ポーションで問題なし、疲労は溜まってるよりも調子が上がってきてるくらい…うん、いける。」

 

そう自分を鼓舞し、扉を開けたマテリアル。その奥に潜むのは…

 

 

「鎧の、竜?」

 

 

そこにいたのは全身を硬い鱗で覆った竜。しかも、マテリアルよりも何倍も大きい。扉を閉めた音によって眠りから覚めたのか怒号する。

 

 

「あ、【探知】」

 

 

 

ハッと思い出し、【探知】を使う。敵の大まかなステータスや状況がわかる。

 

 

鎧竜

 

HP 2100/2100

MP 530/530

STR 450

VIT 350

AGI 15

DEX 15

INT 200

 

 

「………知らない方が良かったかも。」

 

 

絶望的なまでのステータス差を確認したマテリアル。

AGIとDEX以外全て負けている。STRに至っては15倍までの差がある。ここからどうするのか

 

 

「戦うか、逃げるか…」

 

 

鎧竜は戦闘準備をしているようで身体の模様が変わり始めた。

 

 

「鉄?」

 

 

どうやら準備が完了したらしく、既に扉は固く閉められている。もう、逃げる機会は失われた。しかし、

 

 

「どうすれば勝てるかな?」

 

 

初めから逃げるつもりはなかったようだが退路は取っておきたかったようだ。そのままマテリアルは剣を構えた。そして、

 

 

 

「もらった」

 

 

竜の首元まで跳び、大剣を一振りし勢いのまま降りる。

 

 

「やったか?」

 

 

マテリアルよ、それは完全なフラグだ。

 

 

 

「あー、はい。全然元気そうですね。そりゃまあ、HPもVITもあんなもんじゃできないか。」

 

 

むしろ、文字通り逆鱗に触れたのようで攻撃を開始し始めた。その爪でマテリアルを捕まえようとする。だが

 

 

「ちょ、危なかった。」

 

 

 

咄嗟の判断で鎧竜から離れた。結果、攻撃を避けることができた。

 

 

「攻撃を全部避けられれば勝てるはず」

 

 

鎧竜は鱗を発射させるも、装填までに時間がかかる上に方向までがわかりやすい。速さが遅すぎる。

 

 

「これなら、問題ない…!?」

 

 

油断したマテリアルの脇腹に一片の鱗が当たる。当たった部分からは少なからず赤いエフェクトが飛び散る。

 

 

「速度が変わった、のか?いや、違う」

 

 

装填までの時間は変わらず、発射の時間をズラすことにより判断を鈍らせたのだ。その上

 

 

「数が多すぎる、これじゃ近寄れない。」

 

 

マテリアルがボスとの打ち合い(一方的な攻撃)をなんとか乗り切っているのは鎧竜とかなりの距離を取って遠距離攻撃への判断する時間を作っているからである。マテリアルは初めて間もない初心者なので遠距離系の魔法などは覚えているわけがない。これではジリ貧だ。

 

 

「っていうか、こんなの要塞でしょ。デメリットなしでこんなのを打つのって…ッ!?」

 

 

マテリアルは相手の攻撃を見切れないかと【探知】を発動させると驚くことに

 

 

「さっきよりも耐久値が減っている。もしかして」

 

 

鎧竜の鱗攻撃は自身のHPとVITを費やして打っていたのだ。これを確認するや否やマテリアルは

 

 

「持久戦だ。」

 

 

〈しばらくして〉

 

 

「よし、やっと半分。」

 

ようやく鎧竜のHPを半分まで削り切る。対するマテリアルはなんとか8割近くに抑えている。

 

 

「相手の動きが遅くて助かった。」

 

単純な考え方でマテリアルは鎧竜の2倍の速さで動ける。その上、巨体なため動きが見切りやすくマテリアルはなんとか生き残れている。心なしか、鎧竜の大きさも少し小さくなったように見える。心に余裕が生まれたからであろうか。

 

 

 

「さて、残り半分。集中力を切らさないように」

 

 

と言った瞬間、鎧竜の身体が光り始める。

 

 

「ちょっと待って、それは聞いてない」

 

 

そして、洞窟中が光に包まれた次の瞬間、轟音が鳴り響く。

 

 

「!?」

 

そこにいたのは姿の変わった鎧竜であった。大きかった身体は人間並の大きさになり、身体が光っている。

鎧竜は錯覚ではなく、本当に小さくなっていたのだ。自身の身体を削ることによって新しい姿になるために。

 

 

 

咄嗟に出した剣で攻撃を防ぎ切ったものの、余波によってかなりのダメージを負ってしまった。8割近くあったHPが半分を割っている。その上、大剣もボロボロでいつ壊れるかもわからない。所詮は初期装備だ。

 

 

「落ち着け、状況把握が先だ。【探知】」

 

 

HP 1050/2100

MP 200/530

STR 255

VIT 35

AGI 320

DEX 35

INT 255

 

【形態変化】

HPが変化すると姿が変わる。

 

「あれ、なんか色々変わってない?なんか、スキル見え始めたし。」

 

思いがけない変化に驚く。初見のプレイヤーは大体こうなり、ギャップで負けてゆく。が

 

 

「いや、ここは楽観的に考えよう。防御がかなり低くなった。一撃でも強力な攻撃が当てられれば倒せる、はず…」

 

 

と、最初と同様に自身を鼓舞する。

 

 

その時、鎧竜は光の剣を作り出し、切りかかったてきた。

 

 

「速すぎるでしょ」

 

 

マテリアルよりも10倍ほどの速さで動いてくる。当然、いきなりマテリアルの目の前に立ってくる。これでは普通の攻撃はもちろん、奇襲は決まらないだろう。

 

 

かくいうマテリアルも相手の剣を押さえ込み、蹴手繰りで相手の姿勢を倒す。その勢いで光剣は鎧竜から離れた。

 

 

「終わりだ!」

 

 

だからフラグを立てるんじゃない。

 

 

当然の如く、大剣を振り下ろす間もなく鎧竜は上空へ飛び去る。

 

 

「飛行も可能か。」

 

 

しかし、その手には光剣がない。既にマテリアルが手に取っている。ボロボロだった初期装備を外し、身軽になったマテリアルは先程よりも素早く動けるようになる。

 

 

「これ、随分と軽いな。」

 

光だけにライトな剣のようだ。

 

 

光剣を手に取り、構え直す。大剣よりも小さいが断然使いやすい。

 

 

しかし、それを馬鹿にするかのように鎧竜は多量の光剣を作り出す。放たれた光剣はマテリアルを集中放火する。絶望的かと思いきや

 

 

「良かった、動き方は変わってないみたいだ。」

 

 

マテリアルは相手の攻撃を見切って全て攻撃を避け切り

 

 

「食らえ!」

 

 

近くに落ちていた光剣を鎧竜に投げつける。

 

 

それは、鎧竜にあたりこそしたがかすった程度で有効なダメージにはならない。マテリアルはその場に落ちている光剣を拾い直し、また構え直した。

 

 

〈しばらくして〉

 

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

残りHPが残り1割弱になった双方、次の一撃で勝負が決まると言っても過言ではない。

 

 

「大丈夫、状況は把握した。」

 

 

 

マテリアルの負け筋としては、多量の光剣に身体を貫かれることである。一本ではほとんどダメージにならないのだが攻撃が上がるたびにダメージが増すようだ。

 

 

 

技スキル

【追撃】

攻撃が連続で当たれば威力が上がる。初発の威力は本来の1/4になるが2回目以降はその2倍に増えていく。

 

 

※技スキルは技のみに反映されるスキルのこと。この場合は〈光剣〉のみを指す。

 

 

そのため、威力が低めの大量の光剣がほぼ休憩なしで打ち続けられる。一瞬でも気を抜いてしまったら蜂の巣だ。

 

 

他の負け筋としては、鎧竜が更に変化を遂げたときである。

 

そして、マテリアルの見つけた弱点は2つ。1つはゲームならではの複雑な攻撃が出来ず、単調になってしまうこと。もう1つは……

 

 

 

「結界!」

 

 

マテリアルが叫ぶと、マテリアルの周囲1mほどに壁が張られる。

 

 

スキル

 

 

【結界】

 

獲得条件

自己創作スキルより

 

効果

自身のMPを使用することにより、敵の攻撃を弾く、もしくは防ぐ壁を作り出す。使用したMPとその時のVIT、INTの値に比例して結界は強くなる。

 

 

「間に合ったみたい。もしもの時のために申請しておいて助かった。」

 

 

マテリアルは遺跡の前で自己創作スキルを申請していた。どうやら、戦いの最中でそれが認定されたようであった。

 

 

 

「鎧竜の攻撃じゃ結界を壊すことはできない」

 

 

結界は攻撃1つずつに反映されるようで、強力な一撃を撃たれれば消え去ってしまうものの一撃が軽ければ壊れないのだ。

 

 

当てはめてみると、鎧竜が結界を破壊できる一撃を撃たなければ結界は破壊されないということである。そのため、大量の光剣はただのお飾りであり、結界の前では無力となる。

 

 

仮に、結界を破壊できるダメージ分の攻撃を何回かに分けて撃っても、一発一発で結界が壊れるか判断されるので結界は破れることはない。

 

 

「さて、あとは強い一撃を回避しながら相手のMP切れを狙う。」

 

 

鎧竜は【結界】の仕様に気がついたようで、光剣の生産を打ち止める。そして、先程よりも大きな光剣で結界に斬りかかる。

 

 

結界は壊れた。

 

 

しかし、マテリアルは未来を見たかのように鎧竜の攻撃をいなす。

 

 

「接近戦になると思ったよ。それなら、こっちが有利になる。動きは読めてるんだよ」

 

 

所詮は第一層、実質チュートリアルのボスの攻撃パターンを覚えることなんて難しいことではない。

 

 

 

〈少しして〉

 

互いにノーダメージでの攻防戦が続いたのだが

 

 

「はぁ、はぁ。」

 

 

相手の攻撃を見切れるものの、疲労が溜まってきたマテリアルはついに膝をつく。鎧竜も削れてはいるが、マテリアルのように身体的な疲労はない。

 

 

鎧竜は絶えずマテリアルに攻撃を続ける。

 

 

「はぁ、はぁ、まだだ…」

 

 

鎧竜の攻撃は全てマテリアルに読まれている。動くための少しの力さえ残っていればマテリアルが負けることはない。

 

 

 

急にマテリアルから距離を取り始める。

 

 

 

「何を、するつもり」

 

 

 

鎧竜は自身も輝きながら、光の大剣を作り出した。

 

 

 

「これは、防げない」

 

 

どこにどう避けてもダメージは避けられない。逃げ場も既に失われている。マテリアルにこれから避ける術はない。

 

 

 

鎧竜の怒号と共に、光の大剣はマテリアルに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、それは効かないんだ。全MPを消費、完全反射」

 

 

 

結界の細分化されたスキル、反射は全MPを消費するがどんな攻撃でも跳ね返す壁を作り出す。なお、反射できる回数は一回のみ。

 

 

 

 

「こっちの、勝ちだ。」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「ふぅ、なんとか勝った。」

 

 

鎧竜は倒れたようで、報酬の宝箱が目の前に置かれている。

 

 

マテリアルは立ち上がり、宝箱を開いた。

 

 

しかし、その中身は空であった。

 

 

 

「ちょ、それはないだろ…あいつ倒すためにどれほどの労力を使ったと思ってるんだ」

 

 

残った体力で静かに怒る。気晴らしがてら、上がったレベル分のステータスをあげようとしたそのとき

 

 

「スキルの、獲得?」

 

 

宝箱の中身はなかった、のではなく既に拾っていたようであった。

 

 

「【追撃】と【身体装甲】?」

 

 

【追撃】は前のを参照していただきたい。簡単に言うならば、最初の威力が下がってだんだん上がっていくスキルだ。適用技数は1つのみ。

 

 

「さて、問題は【身体装甲】だ。文字だけ見ればかなり強そうに見えるんだけど、どうだ?」

 

 

【身体装甲】

 

獲得条件

一人で鎧竜を倒しつつ、戦闘開始時に使用できるスキルが一つのみであること。

 

効果

身体に各種属性を纏うことが可能。それに従する攻撃もできる。MPの1/10を随時使用、熟練度により消費MP軽減

 

現在所有の属性 鋼、光

 

 

獲得条件からの説明をしよう。マテリアルの保有していたスキルは【探知】、【新星】、【天邪鬼】の3つであったが、【新星】は運営側に返しているため、【天邪鬼】に至っては採用していないのでカウントされなかったのだ。【結界】が届いたのは戦闘開始してからかなり時間が経っていたためすり抜けられたようである。

 

 

「なるほど、結構いいスキルな気がする。だって、各種属性って炎とか水とかもできるはずだし。うん、これは強い…と思う。」

 

予想外のことが起こりすぎて疑心暗鬼になってしまっているマテリアル。そう簡単には信用しないようだ。

 

 

実際、このスキルは運営が手に入るとは思わなかったスキルの一つである。そもそも、1つしかスキルを持ってないのは普通はあり得ない。敵を倒せば何かしらのスキルは手に入り、それらは大抵採用される。それ以前に、スキルを街で買うことすらあるだろう。

 

 

 

「MP回復してっと。試しに、【身体装甲】鋼」

 

 

マテリアルの身体に鋼の鎧が現れる。中世の甲冑のような見た目だ。そして、手には

 

 

「まさか、武器もついてくるなんて。ちょうど欲しかったんだ。」

 

 

Lv.24 マテリアル 【鋼の鎧】

HP 12/140

MP 39/112

STR 60

VIT 60

AGI 15

DEX 30

INT 15

 

装備

【右手】鋼鉄の剣

【左手】鋼鉄の盾

【身体】黒金の甲冑

【靴】アルミブーツ

 

追記 鋼の姿のとき、STR,VITが2倍になり、AGI,INTが半分になる。

 

 

「いや、なんで靴だけアルミなんだよ。まぁ、動きやすからいいんだけど。ステータスが変わってる、確かに少し動きにくい。もう一つは…」

 

 

Lv.24 マテリアル 【光の鎧】

HP 12/140

MP 28/112

STR 15

VIT 15

AGI 60

DEX 30

INT 60

 

装備

【右手】なし

【左手】閃光槍

【身体】光速の鎧

【靴】輝くスニーカー

 

 

追記 光の姿のとき、AGI,INTが2倍になりSTR,VITが半分になる。

 

 

 

「なるほど、ステータスは変わると。」

 

 

 

驚愕しつつ、少し喜ぶ。槍からも何かできないかと試してみると槍が光出す。

 

「発射」

 

大声で叫んでみるも変化なし。しかし、そのまま槍は光り続けている。

 

 

「どうやったら止まるのかな?一度素振りでもしてみるか。」

 

 

そう思ったマテリアルは槍を岩に向かって空振る。すると光がとてつもない勢いで飛んでいき、岩を砕く。

 

 

「この槍、岩に何か恨みでもあるのかな…」

 

 

そんなわけもなく、ただマテリアルが武器を使ったからである。

 

 

 

「でも、これでかなり戦いやすくなった。これなら飛べる気すらする。」

 

 

と言い、軽くジャンプすると宙に体が浮く。

 

 

「え、本当に飛べるのかよ。」

 

 

〈しばらくして〉

 

 

「飛ぶのにもやっと慣れてきた。やっぱりこれでかなり強くなったと思うし、他のボス戦も行ってみるかな。やっぱり、ゲームは周回が大事だからね。」

 

 

 

そして第一回イベントへ続く

 

 

 

 




作 「さて、なんとかボスを倒せたマテリアル。次は第一回イベント、どこまで順位を伸ばせるのでしょうか?」

マ 「いや、何を言ってるんですか。っていうか誰です?」

作 「作者です。マテリアル君の性格を知ってもらうために軽く雑談をしようかと。」

マ 「確かに、前回も今回も誰とも喋ってなかったですね。」

作 「まあ、ソロプレイヤーだからしゃあない。次回はちゃんとプレイヤーと話せるから。」

マ 「CPUとかいうオチはないですよね?」

作 「あ、やべ。書き直さなきゃ」
  (もちろん、平気に決まってるでしょ。)

マ 「逆になってますよ。それに、何で自己紹介文とかじゃなくて対談なんですか?」

作 「え、私の実力がないからですが」

マ 「そ、そうですか。」

作 「というわけで次回は第一回イベント、何位を目指しますか?」

マ (え、そのまま話題変えるのかよ。)
  「そうですね、10位以内には景品があるそうなのでちょっと高めに7位くらい目指します。」

作 「そこは1位って言えよ!!」

マ 「初心者にできるかっての!!」

作 「すまない、睡眠不足で。最近は「はい、次回も楽しみにしていただけると光栄です。」



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第一回イベント

疾風のごとく初めてささっと終わらせていきましょう。

ちなみに文字数は作者の読みやすいようにしてます。決して表現力が足りないわけではないと思いたいです。


「そろそろ、時間だろうか。」

 

暫く最初の広場で待っていると参加者が続々と集まってきた。

 

「こんなに人が集まったの見るのは初めてだな。」

 

単にマテリアルが人と接していないだけではなく、はじめてのイベントということもあり、かなりの人が集まっていた。

 

空中には巨大スクリーンが浮かんでいる。どうやらそれで中継を行うようだ。

 

「それでは、第一回イベント!バトルロワイヤルを開始します!」

あっちこっちからうおおおおおといった怒号が響く。

マテリアルはその空気の中でも黙ってスクリーンの方を眺めていた。そこで大音量でアナウンスが流れる。

 

 

「それでは、もう一度改めてルールを説明します!制限時間は三時間。ステージは新たに作られたイベント専用マップです!

倒したプレイヤーの数と倒された回数、それに被ダメージと与ダメージ。この四つの項目からポイントを算出し、順位を出します!さらに上位10名には記念品が贈られます!頑張って下さい!」

そう言い終わるとスクリーンに転移までのカウントダウンが表示され、ゼロになった瞬間光に包まれ転送された。

 

 

「さて、さっさと終わらせてしまうか。」

 

 

先程のアナウンスで言われたことは既にイベント通知で知っていた。問題はいかに相手からの攻撃を避け、いかに自分の攻撃を相手に当てるか、とマテリアルは考えた。そして、目指すは10位以内とかなり高めの目標である。

 

 

「そのためにも、悪いけど倒させてもらうよ。最初から全力で。【身体装甲】光」

 

 

というと、とてつもない速さで空へと上昇して飛んでいくマテリアル。そして槍を地上へと向けて

 

 

「光の爆発」

 

 

プレイヤー達に瞬く間に光の粒が当たり、爆発する。これはマテリアルの編み出した技の一つだ。鎧竜の光の剣を参考にしており、MPをあまり消費しないように最大限にまで抑えている。

 

 

「そこそこの耐久がない限り、一撃で落とせる。そうでなくとも、数がえげつないから問題はないかな。」

 

かなり高い位置から落としているのでかなり加速してあっという間に爆発は地上を侵食していく。

 

マテリアルの作戦はこうだ。

 

①光速で移動する

 

②そのまま攻撃する

 

③相手を倒しながら移動

 

 

「ふふふ、我ながら素晴らしいアイデアだ。でも、これには問題点があるのだがまだ問題はなさそうだね」

 

 

〈1時間後〉

 

 

 

「出だしは好調、そろそろ次のプランに入る方がいいかもかな?」

 

飛行に疲れたついでに地上の様子を見に来たマテリアルは先ほどまで自身が破壊していた荒地を歩き回る。砂埃が舞う中、マテリアルの目の前現れたのは

 

 

「よう、俺はシン。お前は…強そうだな。」

 

 

 

見てくれは普通の剣士、何ら不思議なところはない。しかし、どこかわからないプレッシャーがある。

 

 

「戦うんですか?」

 

 

マテリアルは軽く交渉をしに行った。しかし、圧力はかなりかけてある話し方だ。【探知】で粗方のステータスを把握したのだ。それで他のプレイヤーとは別格の強さであると判断したのである。ここで戦うのはあまり適作とは言えない。

 

 

 

「ああ、せっかくのイベントだからな。楽しむしかないだろ?」

 

 

 

交渉は決裂したようだ。どうやら、この男はイベントを楽しんでいるらしい。

 

 

「なら、仕方ないですね。【身体装甲】鋼」

 

 

光では反応されたとき、盾で守られてしまうと思い、重装甲の鋼に切り替える。

 

 

「先手はもらった。【崩剣】」

 

 

あまりの出来事にマテリアルは驚く。何が起こったかというとシンの剣が崩れ、バラバラになり、マテリアルを攻撃してきたのだ。10に分かれた剣はマテリアルを襲い、そのうち3つが防ぎきれずに直撃する。

 

 

「え…これ、どうなってるの。」

 

 

戸惑うマテリアルだがそんなことに構わず攻撃は続いていく。

 

 

「どうだ、これが俺の戦闘スタイルだ」

 

独特の戦い方に驚くマテリアル。ちなみにこれがマテリアルのある意味初の対人戦である。

 

「なら、こっちも少し頑張らせてもらいます。硬化」

 

 

鋼の鎧が大きくなり、マテリアルごと丸く包み込んで崩剣からマテリアルを守る。鉄球によって守られたマテリアルに崩剣は弾き返される。

 

 

「ダメージが通らなくなった、だと。いや、だとしてもあっちも攻撃はできねぇはず」

 

 

マテリアルへのダメージが0になる。

 

 

「さて、こっちへの攻撃は入らない。けど」

 

 

マテリアルが突然シンの背後に現れ

 

 

「!? いつの間に後ろに」

 

「こっちの攻撃は当たる。では、さようなら。」

 

鋼鉄の剣がシンの腹を突き刺す。そして、剣は四方向に刃を伸ばしていく。刺された部分から赤いエフェクトがシンを侵食し、消えていった。

 

 

「さて、やっと慣れてきた。ダメージ少し受けたのは流石に舐めてたかも、挽回しなきゃ。【身体装甲】光」

 

 

鉄球の中にいたかと思われていたマテリアルは地中を潜って【探知】を使って器用に背後に回ったようだ。

 

 

強者との戦いを制したマテリアルだったが思わぬ伏兵がいた。時間だ。

 

 

既に制限時間は残り一時間となっていた。

そんな中、大音量でアナウンスが鳴り響いく。

 

 

 

「現在の一位はペインさん二位はドレッドさん三位はメイプルさんです!これから一時間上位三名を倒した際、得点の三割が譲渡されます!三人の位置はマップに表示されています!それでは最後まで頑張って下さい!」

 

 

時間は1/3になってしまっていた。このままではまずいと考えたのか新たな作戦に出る。

 

「うーん、ダメか。もう少しギアを上げるか。いや、せっかくだ、行ってみよう。3人の中で1番近いのは…」

 

 

 

 

光の速さでマッピングされたところへ向かうマテリアル。

 

 

 

「お邪魔します。」

 

 

「わわっ、びっくりした。」

 

 

上空から突然降りてきたマテリアルに驚くメイプル。状況を理解させる時間をマテリアルは与えるわけもなく

 

 

 

「もらった」

 

 

剣がメイプルを捉えていた。次の瞬間何かが切れる音が聞こえた。

 

 

 

 

「危なかった」

 

 

メイプルを捉えたはずの剣が捉えたのは大盾。さらに驚くことに

 

 

 

「剣が、食われた?」

 

 

理解が追いつかないマテリアル。それもそうだ、盾が剣に侵食される光景なんて普通見るわけがない。

 

 

「今なら」

 

 

メイプルは追い討ちをかけるように杖をマテリアルに向かって叫んだ。

 

「【毒竜】!」

 

 

三本の首を持ち全身劇毒で出来た毒竜が、マテリアルの剣によって蓄えられたエネルギーとして襲う。辺り一面は毒の海となり、周りのプレイヤーが吹き飛んだ。

 

 

「わぁ、すごい。さっきの人の剣がこんなに威力を上げたのかな?」

 

 

 

かくいうマテリアルは

 

 

 

「【身体装甲】毒 毒竜を倒しておいて助かった。」

 

 

間一髪のところで生き延びていた。装甲には毒が滴っている。

 

第一回イベントに備えて、マテリアルはいくつかのボス戦を回っていた。そのおかげで、かなりレベルも上昇している。何よりも、毒竜から得た毒耐性の鎧が付与されたことで、マテリアルは毒の鎧に切り替えてなんとか毒の海から耐え凌ぐことができたのだ。

 

 

「嘘、今のでも倒れないなんて」

 

 

驚くメイプルだが、それ以上に

 

 

「毒耐性がある人ってどうやって倒せばいいの」

 

今までではなかった壁にぶち当たったようだ。ゲームバランスもまだわかりきっていない当初に毒耐性を備えたプレイヤーがいたのはかなり珍しいことだった。

 

「問題があるのがあの大盾、よくわからないけど攻撃を飲み込むようだ。それを原動力として毒を出せる、と。どうしたものか。」

 

 

打つ手がないのはマテリアルも同じであった。そして2人が思い付いた策略とは

 

 

 

「「悪食で吸収しつくす/盾に攻撃しないで本体を仕留める」」

 

 

 

2人の意見は一致したようだ。すなわち徹底抗戦だ。

 

 

 

「行きます」

 

 

 

先に動いたのはマテリアル、動きやすい光に切り替え背後を取る。

 

 

「っ!」

 

咄嗟のところで避け切るメイプル、【大盾の心得Ⅳ】を所持しているため、体がスムーズに動いて大盾が槍を受け止めて、槍を吸収する。

 

 

 

「【毒竜】!」

 

 

 

毒竜がマテリアルに襲いかかる。

 

 

「【身体装甲】毒」

 

 

光から毒へ切り替え、毒竜の攻撃を受け止める。しかし、そうすると動きが遅くなってしまうため攻撃が当たらなくなってしまう。

 

 

「困った、やはり一度大盾から手を離させないとダメージを与えるのは難しいか。」

 

 

マテリアルはそう考えたが、プレイヤーが武器を離す機会なんて普通はない。そんなことを考えていると我先にとプレイヤーがメイプルを倒しに寄ってきた。

 

 

「【パラライズシャウト】」

 

 

キンッという音が響き、周囲にいた人メイプルを狙っていた人たちが倒れていく。

 

 

「【致死毒の霧】」

 

 

紫の霧が湧き出し、周囲へと蔓延していく。パタパタと倒れていたプレイヤー達が致死毒から逃げられる筈もなく。最前列から順に粒子に変わっていった。

 

 

しかし、マテリアルは

 

 

「危なかった。まさか、麻痺状態まで使えるなんて」

 

 

なんとかメイプルの攻撃を躱し、立っていた。そもそも、毒霧は効かないので麻痺さえ避けてしまえば問題はない。

 

 

「次はこっちのターン。」

 

 

マテリアルの手から剣が現れる。

 

 

 

「すごい。それって一体どうやってるんだろう?」

 

 

マテリアルが攻撃することよりも突然に現れた剣の方に目がいってしまったようで

 

 

「これは自身で作り出した剣、作り方は残念だけど教えられないです。」

 

 

と、優しく告げる。そして

 

 

「毒竜の剣 【毒竜】」

 

 

剣から三つ首の、メイプルと同じ毒竜が現れ、メイプルに噛みつき、地上から10mくらい吹き飛ばす。

 

 

「ふふふっ、私にもそれは効かないよ」

 

 

と、メイプルは誇らしげに言うが

 

 

「いや、これでもらった。」

 

 

マテリアルの思惑はそれではなかった。上には既にマテリアルが毒竜を使用した反動で登って鋼の鎧で待機しており、メイプルへ剣を振り下ろす。

 

 

 

と、同時にメイプルは地上に勢いよく落とされる。

 

 

 

「やったか?」

 

 

その言葉はダメなんだってば

 

 

「うぅ、怖かった。」

 

 

さも当然かのようにノーダメージのメイプル。これにはマテリアルも驚きを隠せずにいた。

 

 

「おかしいな、盾は持ってなかったはず。」

 

 

 

確かに、マテリアルの攻撃はメイプルに直撃した。しかも最高のタイミングで。しかし、メイプルはとてつもないVIT値で受け切ったのだ。

 

 

 

そして、そのとき

 

 

「終了!結果、一位から三位の順位変動はありませんでした。それではこれから表彰式に移ります!」

 

 

 

アナウンスが流れる。それはマテリアルの敗北と同義であった。

 

 

 

第一回イベントの結果、マテリアルは11位であった。なお、終了1時間前の順位は5位である。

 

 

 

 

 

 

「うーん、どこで間違えたんだろうなぁ。」

 

 

当然思いついたのは一つで最後約1時間を無駄にしてしまったことだ。

 

 

 

「あのとき、メイプルさんを狙わないで地道にコツコツ倒していけば10位以内狙えたのでは?そもそも、与ダメ0だったからそれでさらに稼げなかったし。被ダメは序盤の油断がよくなかった、か。」

 

 

結論からいうと

 

 

「メイプルさん狙わなかったら行けた。」

 

 

ということである。しかし、諦めるタイミングは何度でもあった。

 

 

 

「行けると思ったんだけどなぁ、想像力が足りなかったか。本人が完全に隙がある状態で通常時の2倍のSTRから放たれる攻撃を素で1ダメージも受けないってみんな普通思うもんね。」

 

 

 

と、自分でももう何が何だか訳のわからないことを言っていた。しかし、これが現実だ。受け入れる他にあるまい。

 

 

 

「あの、」

 

 

 

後ろから、突然話しかけられていた。マテリアルはあの戦いが終わってからずっと一人で座って反省会をしていたのだ。誰から見ても不審に思える。ぶつぶつ呟きながら、店で買ったメモに反省点を書いている。どこからどう見ても不審だ。

 

 

「あの、」

 

 

「いや、違うな。最初からもっと飛ばせたか。MPも意外と残っているし」

 

 

 

 

2回目の呼びかけにも気づかない。

 

 

 

困った少女は

 

 

「【毒竜】!」

 

 

 

「!? 【身体装甲】毒 いきなり何ですか」

 

 

攻撃を察知し、なんとか防ぐ。そこにいたのは

 

 

「すみません、手荒な真似をしちゃって」

 

 

さっきまで考えていた本人(メイプル)であった。

 

 

 

 

 




作 「11位か、惜しかったね。」

マ 「くっ、もっとSTRがあれば…」

作 「残念だったな、お前はこれからも全部同じ数値の予定だ。」

マ 「なんで?」

作 「数値をいちいち考えるのがめんどくさいから」
  (戦闘スタイルは自己完結型だから)

マ 「また逆…いや、あってるのか。」

作 「というわけで、次のイベントはもっと頑張ってくれ。」

マ 「はい、次こそは…」


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嵐の過ぎた後の嵐

はい、ついにまともな会話回です。マテリアルがなれていないおかげで文字数が少なめです。ご了承ください。


そこに立っていたのは本人(メイプル)であった。

 

 

 

「えっと、3位おめでとうございます。落とし物ならありませんよ?」

 

 

先程までのことは忘れて素直にメイプルの入賞を祝った。マテリアル自身はかなり順位に後悔があるようだがそれは置いておいて。ここに来るような理由は皆目検討がつかないようなのだが

 

 

「教えて欲しくて」

 

 

 

教えて欲しい、マテリアルは戦闘中にメイプルが驚いていた毒竜の剣のことを思い出した。

 

「これ、ですか?」

 

 

再度、剣を作り出す。一度作り出したものは次に作る時には更に効率良く作り出せるようになる。使えば使うほど強くなるスキル、それが【身体装甲】だ。

 

 

 

「わー、本当に作り出せるんだ!ってそうじゃなくって」

 

 

再度、驚きを隠せないメイプルであったがどうやらそれが主目的ではなかったようだ。マテリアルは少し考えながら

 

 

「もしかして、勝ったから何か欲しいってことですか。良いものは持ってませんよ。スキルの譲渡なんてできないでしょうし。」

 

マテリアルが持っている珍しいものといえば〈魔除けの指輪〉くらいである。今回は役に立たなかったもののかなり珍しい代物である。

 

「ぶ、物騒なこと考えるね。そうでもなくって」

 

 

「じゃあ…」

 

 

 

〈しばらくして〉

 

 

マテリアルが考えついたことをいくつか話してみるがことごとく違うと言われる。降参して答えを聞くと

 

 

 

「フレンド登録、してもらってもいいかな?」

 

 

マテリアルは、なるほど、と斜め上のことを言われたかのように納得しているが普通はもっと早く気付くものである。むしろ、なぜゲーム内で落し物をすると思ったのだろうか。これも、極貧生活の影響で周りと話す機会が少なかったことによる弊害であった。

 

 

ここで、マテリアルはもちろん

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。」

 

と言ってフレンド登録をした。普通は断る理由なんてない。しない理由があるとするのならば、マテリアルの気分が相当悪くもうトップランカーの顔なんて見たくない時なのだがそれほど酷くはなかったようだ。素直に結果を受け入れている。

 

 

「あ、少しお聞きしてもよろしいですか?」

 

 

マテリアルが珍しく口を開く。

 

「敬語なんて使わなくていいのに。」

 

メイプルが少し不満そうに言うが

 

「敬語を使う機会が多くて…。そのうちタメで話せるようになると思うのでお気になさらず。」

 

 

バイトによる弊害で大抵の人は年上なので必然的に敬語を使わざるを得なくなってしまう。なお、学校ではほとんど口を開かないためそれがなおさら悪化してしまった。

 

「うん、わかった。で、聞きたいことって?」

 

 

 

「言いたくないなら言わなくても良いのですけど、どうしてそんなにVITが高いんですか?最後の攻撃はかなり自信があったのですが。」

 

 

最後の攻撃はマテリアルの1番火力が出せるタイミングでしかもそれでいてメイプルの完全な隙をついた完璧な一撃だった。思わず、やったかと口に出してしまうほどに。しかし、そんな攻撃を耐え切るどころかノーダメージというショッキングな結果となった理由が知りたかったのだ。

 

 

「えっと、私のVITってスキルとか合わせて4桁超えそうなんだよね。」

 

 

「………あー、なるほど。」

 

 

 

マテリアルは少しフリーズしたのち、思いっきり棒読みで返事をした。

 

 

「信じてないよね。」

 

 

マテリアルの半信半疑の様子がわかったのか、自分でも信じてもらえないと思っていたのか、不満気に言う。

 

 

「バレました?」

 

 

と、取り繕うこともなく言う。そもそも、声に隠す気が伺えない。仕方のないことだろう。自分よりも2桁違う数値があると言われたのだから。

 

 

「えっと、このスキルとこのスキルでステータスが倍になってて。あと、装備でも増えるから……」

 

 

 

と、メイプルは何気なく自身のスキルや装備の手の内を明かす。マテリアルの方はなるほどと頷きながら聞いているのだが

 

 

「いや、ちょっと待ってください。これってそんなに気軽に喋っていいものなんですか?」

 

少しした後に気づくマテリアル。コミュ力はなくてもほとんどの一般常識は持ち合わせている。

 

メイプルは思い出した、友人が言っていたことを。そして

 

「あ……今のはなかったことにできないかな?」

 

 

顔にはなんとも言えない笑みが残っている。取り返しのつかないことをしてしまったようだ。

 

 

「忘れられたら良いんですけどね。」

 

 

申し訳なさそうに言うが、どうしようもないことだってある。かなり印象深い話だったので記憶から完全に削除することは難しいだろう。

 

しばらく沈黙が続いた中、口を開いたマテリアルは

 

「じゃあ、こうしましょう。次のイベント、メイプルさんのお手伝いをさせていただく。これでチャラってことになりませんか?」

 

 

一つ、提案を出す。聞いてしまった分の働きはしてあげたい親切心8割と、あわよくばメイプルのプレーを盗ませてもらおうという邪心2割の一言である。

 

 

 

「は、はい、もちろん。むしろ私からお願いしたいくらい」

 

 

少し変わった提案に驚くメイプルであったが、その方が楽しそうだと言い、快く了承した。そして、2人の話し合いはそのままお開きとなった。

 

 

 

「さて、足りないものがわかったかもしれない。あいにく、条件は既に揃っているから試してみるか。」

 

 

 

そう口にしたマテリアルは静かに目的地へと向かうのであった。

 

 

 

 

数日後

 

 

〈現実世界にて〉

 

 

 

 

 

 

「何か良いことあったのかなっ!」

 

とある教室で、白峯理沙が本条楓に話しかける。

 

 

 

「べ、別に何でもない!」

 

 

 

理沙は楓についにゲームが解禁されたことを伝える。

 

 

どうやら一緒にゲームをするために楓はNWOをプレイしていたようで待ち侘びていた言葉であった。理沙とそのまま話していると楓がゲームの今までのことの経緯を話す。そして、困ったことに昨日の失敗談を思わず口に出してしまった。

 

 

「へぇ、そうなんだ。でも優しそうな人でよかったね。っていうか、そもそも楓の情報聞いても使えそうなところないでしょ。」

 

 

「ほ、ほんとだ。」

 

 

理沙に指摘されるまで、自分がさも普通のプレイヤーであると思っていた楓であったが認識を正され、納得してしまったようだ。

 

 

「その子も大盾使いとかじゃない限り真似ができないんじゃないかな。だって、なんかもう楓専用みたいになってるし」

 

 

「じゃ、じゃあ言ったのは間違いじゃなかったってことかな?協力してくれるって言ってくれたし。むしろ良かったんじゃ」

 

 

話を聞き、楽観的になる楓だったが

 

 

「いや、そういうわけでもないかな。普通だったら、その子が自分のスキルとか言えばいいと思わない?」

 

 

「た、確かに。でもどうしてそんなに回りくどいことを言ったんだろう?」

 

 

疑問に思う楓であったが、理沙はすぐに何かを思いつく。

 

 

「楓から盗めるところがないか探ろうとしてるんじゃないかな。」

 

 

「盗む!?」

 

 

聞き慣れない言葉に驚き、教室内に大声を出してしまう楓。周りからの視線を一気に集めてしまった。

 

 

「そんなに大声出さないでよ。」

 

 

理沙が少し恥ずかしそうに言う。

 

 

「うぅ、だってぇ」

 

 

涙目になりながら更に恥ずかしそうに話す。少しして落ち着いた頃

 

 

 

「で、さっきのはどういうことなの?」

 

 

「あー、楓が持ってる道具を奪うんじゃなくって多分だけどプレイヤースキルとか見て学ぼうとしてるんだと思う。ほら、楓プレイヤースキルとは違うけどかなり独特でしょ?だから近くにいたらその恩恵がもらえるかもしれないって思ったんじゃないかな」

 

 

筋道が立つ理沙の説明に納得する楓。続けて理沙は

 

 

「今からでもその予定なしって言える?」

 

 

「ううん、無理だよ。約束しちゃったし。善意で言ってくれてるだけかもしれないよ?」

 

 

「そうなんだよね。でも、本当にそれはないと思うんだけどなぁ」

 

 

疑い深くマテリアルを考える理沙であった。信用されずに可哀想に。まあ、会ったことないから仕方のないことなのだが。

 

 

「それより、そのイベント、私とも一緒に行動してくれるよね?」

 

 

「うん、もちろん。3人で行動しよっか。そっちの方が効率良く進められそうだし。」

 

 

「そうだね、でも怪しかったら切るからね。いい?」

 

 

「うん、わかった。」

 

 

 

 

 

「ハクション 誰かに噂でもされてるのかな。いや、そんなわけないか。」

 

 

少し怖い話をされていることも知らず、今日も一日頑張ろうとする雪村であった。

 

 

 

 

 

〈ゲームの中で〉

 

 

 

「『すみません、次のイベントの話なんで私の友達も一緒のパーティーに入れてもらって良いですか?』送信っと。よし、理沙まだかなぁ」

 

 

 

理沙が初期設定をしている最中にマテリアルにメッセージを送るメイプルであった。

 

 

〜〜〜

 

 

「よし、もう一周。」

 

 

そのマテリアルは目前に迫った二層の攻略と約束のイベントのためにレベル上げとスキル集めをしていた。

 

 

周回によってレベルを上げつつ、めぼしいスキルを探していた。

 

 

「うーん、これじゃあないかな。なかなかあたりのスキルが見当たらない。次までには間に合わないかな。念のため対策はしておきたいんだけど、逃げればいいか。」

 

 

なお、第一回イベントでメイプルに一対一で負けたと思っているのはマテリアル本人のみであり、他の誰もが引き分けと認識しているのはまた別の話。もし何かしらの影響でメイプルが敵となった時の対策をしているようだ。

 

 

 

「メイプルさんには申し訳ないけど、念には念を入れておかないと危険だからね。ん?メッセージだ。噂をすればってやつか。」

 

 

先程メイプルが送ったメッセージが届いたようだ。マテリアルの反応は

 

 

「『もちろん、大丈夫ですよ。』これでいいかな。別に人数が一人増えたところで困ることはないでしょう。それに、メイプルさんの友達ってだけでかなり期待しちゃう。おっと、こういうのは失礼だからやめとこう。それより、続きをやるか。」

 

 

その後、すぐに戦闘に戻るマテリアルであった。

 

 




作 「周回お疲れ様…って帰ってこないんだが。かなり長引いてるみたい。まあいいや、今回はこのままやることにしよう。」

メ 「えっと、ここはどこだろ?」

作 (え、なんでメイプルが来てるんだよ)

メ 「すみません、ここに行きたいんですけど」

作 「あ、はい。そこへは確か…」
  (なんだ、ただの迷子か。とっとと案内して戻ってもらわなきゃ困る。)

メ 「ありがとうございました、こっちが二層への道でそっちがイズさんのお店へ行く方法ですね。さようなら」

作  (あ、やべ。次回の進路言われた。)
   「次回は二層に行って装備揃えます。マテリアル、ちゃんと注文できるかな?」


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東奔西走
二層進出


一人語りをすると文字数が増える傾向にあるみたいです。ソロプレイヤーだから仕方がないですね。(言い訳)


二層が解放された当日、もちろんマテリアルはログインしていた。

 

 

「確かここ、だな。」

 

 

マテリアルは二層へとつながるダンジョンの目の前に立っていた。運営の地図にしか頼っていないため、若干の方向音痴であるマテリアルは不安だったが予告で発表されていた見た目と一緒だったので迷わず入ることに決めたようだ。

 

 

「ボスを倒せばいいらしいね。成長した具合を見るチャンスだ。周回やってると感覚が麻痺して良くわからなくなるからなぁ。」

 

 

イベントが終わってから今日まではかなり集中してレベル上げをしていた。だが、マテリアルの辺りからレベルが上がりにくくなる。そのため、一層の敵では満足できないように思えてきたのでマテリアルは真っ先にこの場所に来た。

 

 

次から次へと現れるモンスターたちを剣の一撃で仕留めていく辺り、マテリアル自身もかなり力がついていることに気がつく。

 

 

「良い調子、【探知】で敵の居場所がわかるのが本当に便利。奇襲受けないだけでダメージが通らないし。ん?」

 

曲がり角を曲がると目の前に現れたのは熊である。

 

 

「中ボスかな?」

 

 

マテリアルが構えを取り、一旦様子を見る。始めたばかりの頃は驚いて挙動不審になってしまっていたのだがかなり慣れてきたようだ。

 

 

熊がその太い腕をブンッと振ると、爪の形の白いエフェクトが飛んでくる。

 

 

 

「【身体装甲】鋼」

 

 

マテリアルは瞬く間に装備を切り替え、熊の攻撃を受け切る。

 

 

「これくらいならノーダメージ。では、こちらの番」

 

【結界】と併用しているがためにダメージを完璧に抑えることができたのである。攻めの方はというと、熊の反応する間も与えず目の前の懐に潜り込む。そして剣が熊を貫き、見事に四等分していく。

 

 

 

「よし、この姿もなかなかに動きやすくなってきた。経験が物を言うかも。」

 

 

そして、すぐ奥にボス部屋へと続くであろう大扉があった。マテリアルは迷わずにその大扉を開けて中に入る。

 

 

天井の高い広い部屋で奥行きがあり、一番奥には大樹がそびえ立っている。

 

 

 

「天井がかなり高い、これなら上からの攻撃もできるかな。」

 

 

大樹がメキメキと音を立てて変形し、巨大な鹿になってゆく。

樹木が変形して出来た角には青々とした木の葉が茂り、赤く煌めく林檎が実っている。

樹木で出来た体を一度震わせると大地を踏みしめ、睨みつける。

 

 

 

「さて、ボスのお出ましか。中ボスは熊だったのにボスは草食動物の鹿でいいのか。いや、関係ないか。見たところ大樹だっただけに燃やせばいいと思うのは普通かな?」

 

 

そういうと、イベント後に手に入れた炎の姿になる。

 

現在のステータス

 

Lv.40

HP 238/240

MP 192/212

STR 70

VIT 35

AGI 35

DEX 35

INT 35

 

装備

【右手】火炎の斧

 

 

 

鹿が地面を踏み鳴らすと魔法陣が輝き、何本もの巨大な蔓が次々に地面を突き破って現れ、マテリアルを襲う。

 

 

 

「燃え上がれ!」

 

 

マテリアルが叫ぶとかざした斧から炎が湧き上がり、

蔓を燃やし、そのまま鹿に襲いかかる。現れた炎の勢いは止まることを知らず、部屋中に広がる。

 

 

「ちょっと暑い。でも、終わったようだ。」

 

 

火が鹿に燃え移り、あっという間に灰色のエフェクトに変化してしまった。

 

 

「なんか、あっけなかったなぁ。」

 

 

開始数分でボス戦を終わらせてしまったマテリアル、しかし、力試しはしっかりできたようであった。

 

 

 

かくして、マテリアルの二層への入場権を手に入れたのであった。

 

 

 

「よし、早速行かせてもらおうか。」

 

 

二層が解放されてすぐにログインしたため、まだまだ気力の残っているマテリアル、勢いのまま二層を探索することに決めたようである。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、一層よりかはモンスターの強さも上がるか。ボスモンスターがどれほどの強さか楽しみだなぁ。でも、やっぱりしばらく潜ってると装備もかなりボロボロになっちゃうか。」

 

 

トップクラスのプレイヤーは、大体ユニーク装備で、それはほとんどボス戦後にドロップされる。数多くのダンジョンを回っていたマテリアルであったが、何故か一つもユニーク装備や有用そうなアイテムはドロップできずにいた。

 

 

マテリアルの装備は市販で安く売っているものでそのため一日に一回ほど買い替えなくてはならない強度だった。これを辞めるとなると、生産職の人から買うことくらいしか方法は残っていない。

 

 

ボロボロの装備を見てマテリアルはとある決心をしたようだ。

 

 

「そろそろ装備、買ってみようかな。」

 

 

何度にもよる破壊と交換の末、決意したことであった。しかし、これはマテリアルにとっての大きな壁となるのである。

 

 

「えっと、どこで買えるんだろう?」

 

 

マテリアルはログイン中はほとんどダンジョンにおり、街にいるときはほぼないに等しい。あるとしてもログインやログアウトするときくらいだ。

 

 

まずここでどの店に行けば良いか迷ってしまう。

 

 

「テキトーにおすすめに出たところにでも行くか。」

 

 

マテリアルはマップを取り出し、一番近い店に行くことに決めたようだ。

 

 

「一番近いのは、イズ工房?」

 

 

当然、知っているわけもなく軽くマップを見ながら目的地へと向かう。

 

 

「…あった。ここかな?」

 

 

そしてここでも問題が起こる。マテリアルのコミュ力は異常なまでに乏しい。バイトやゲーム内での戦闘時には普通に話せるようだが、こういった必要不可欠でないことでの会話は何故か弱いのだ。

 

 

「いや、装備は必要なものだ。」

 

 

そう自分に言い聞かせて、ドアを開き中へ入る。

 

 

「失礼します。」

 

 

「いらっしゃい。初めまして、よね?」

 

中には女の人が一人カウンター越しに作業をしていた。

 

 

「はい、そうですね。初めまして。」

 

お店には現在誰も来店客はいなかったようでマテリアルに店主はマテリアルに集中する。

 

マテリアルはゆっくり、整理しながら一つずつ話していく。

 

 

「私の名前はイズ。見ての通り生産職で、その中でも鍛冶を専門にしてるわ。」

 

 

 

「マテリアルって言います。よろしくお願いします。」

 

 

「見たところ、武器は持っていないみたいだけど」

 

 

側から見ればマテリアルは武器のない、しかも戦闘時ではない時はほとんど初期装備のままでただの初心者である。

 

 

「あ、そ、その武器は要らなくて」

 

 

ゲーム内で人と話していないことがかなり響く。また、自分のことを客観的に見てくれる人がいなかったがために気にしていなかったことを指摘される。

 

 

咄嗟に口に出すが、イズは不思議そうに、それでいて何かを察したかのように話を進める。

 

 

「わかったわ、だったらどんな装備が欲しいか教えてもらえるかしら?」

 

 

マテリアルは持っていた装備を取り出し、

 

 

「これよりも良い装備って作れませんか?」

 

 

「ちょっと待ってて、ふむふむ、この装備はどこで手に入れたの?」

 

 

「えっと、市販です」

 

 

「そう、これよりいい装備くらいなら何だって作れるわ。」

 

確かにこれは専門店に行って100均グッズよりも良い製品をくださいと言っているようなものだ。

 

 

「じゃあ、これで作れるものをお願いします。」

 

 

所持金から適当に出すと

 

 

 

「!? これ、本当に使って良いの?」

 

 

出した額はなんと五千万ゴールドであった。

 

 

「もしかして、足りないですか?」

 

 

マテリアルはこの界隈の相場がわからないがために、少し多めに出したつもりだったのだがと疑問に思う。

 

 

「そんなことないわ、これなら大体の装備は作れるわよ。でも、こんなに出していいの、困らない?」

 

 

「はい、どうせ使う宛てなんてないでしょうし。」

 

 

と、遠い目でマテリアルは言うと

 

 

「良いわよ、これで私の最高傑作作らせてもらうわ。期限はいつまでが良いかしら?」

 

 

自信ありげなイズの姿に少し安心したマテリアル。

 

 

「だったら、第二回イベントの前日にお願いします。それで大丈夫ですか?」

 

 

「前日で本当にいいの?もっと早くできないわけでもないわよ?」

 

 

「はい、お忙しいでしょうし。当日にでも間に合えばいいですよ。たとえ気に入らない装備だったとしても今までよりかは絶対に使えますから。」

 

 

と、安心させようと言ったのだが

 

 

「満足させる装備、期待してて」

 

 

かえって火をつけてしまったのかもしれないマテリアルであった。さすが、言っていいことと悪いことの区別が微妙すぎる。

 

 

 

 

〈イベント直前緊急メンテナンス〉

 

 

「まさか、イベント2週間前に緊急メンテナンスが入るだなんて。思いもしなかったな。」

 

 

自室のパソコンからメンテナンス内容を確認する。

貧乏生活なのにパソコンを持ってるのは親の形見ということにしてある。そのため、少々古い。

 

 

ログイン中だったマテリアルの元に突然現れた通知が届いたときは本当に驚いていた。

 

 

「えっと、メンテ内容を軽く要約すると一部スキルの弱体化とフィールドモンスターのAI強化か。他には、

防御力貫通攻撃スキルの実装と、それに伴い痛みの軽減…少し確認してみるか。」

 

 

次に開いたのは自分のページだ。そこにはステータスやスキルに関する情報が載っている。

 

 

マテリアルが持っているスキルのうち、弱体化したものは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なかった。

 

 

 

そもそも、マテリアルがイベント前までに保有していたスキルを並べてみよう。

 

 

【探知】 【結界】 【天邪鬼】 【身体装甲】

 

 

【探知】は確かに優秀なスキルだ。しかし、それは敵やプレイヤーの居場所や動きを大まかに見れるだけでゲームバランスが壊れるほどの問題はない。そもそも戦闘専用スキルですらない。そのため、便利だが弱体化はされなかった。

 

 

次に【結界】だ。このスキルはこのゲーム内で使えるのがマテリアルだけのオリジナルスキルだ。そして、ゲーム内で【結界】を見たことがあるプレイヤーはマテリアル以外存在しない。そのため、どれほどの強さは未知数だ。そもそも、わざわざ運営と話し合って決めたのだから易々と変えられてもらっては困るのだ。

 

 

【天邪鬼】は使ったことすらないのでどうしようも無い。むしろ、自身のステータスすら弱体化させてしまうかもしれないので変える必要性が見当たらない。

 

 

【身体装甲】はマテリアルが最も多く使ったスキルだ。この中で一番活躍したスキルでもある。マテリアルの生命線であり、有用それでいて使いやすい。何故弱体化されなかったのだろう?

 

 

 

 

「その理由は一つ、大した功績を挙げていないからだ。」

 

 

このことはマテリアル自身が最も良く分かっていた。

 

 

 

 

 

 

そう、功績を挙げていないのだ‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

 

第一回イベントの順位は11位、運営から報酬をもらえて、プレイヤー達から注目されたのは10位までであり1位のマテリアルはほとんど見向きもされなかった。

 

 

さて、日本一大きな山は富士山だ。2番目に大きい山は北岳で3番目は奥穂高岳と間ノ岳が並ぶ。ここまでなら知っていたとしてもそこまで可笑しくはない。さて、11番目に高い山はどこだ?

 

 

 

前穂高岳、飛騨山脈にある山の一つだ。さて、この山を一般アンケートで聞いてみたら何人が答えられるだろう?地元の人や山マニアくらいしか知らないだろう。

 

 

 

というわけで、マテリアルの評価はゼロ。あったとしても、最後のメイプル戦くらいでマニアックな人なら見るだろう。しかも、レベル差と【身体装甲】でなんとかしていたくらいでほかに目を見張るものもない。ここまで何も言われないと逆に悲しくなってくる。現に、マテリアルは重傷だ。まあ、かといって注目されたとて緊張で倒れるだろうけれど。

 

 

 

「はっはっはー、これ以上取るものなんてないもんな。」

 

 

このまま小一時間が経過した。やはり重傷である。

 

 

 

「さて、気も済んだしイベントも近いんだ。さっさとログインをしよう。あれ、おかしいな。目が霞んでよく見えないな。」

 

 

軽く目から汗でも出ていたのだろう。このままではいたずらに時間を無駄にしてしまうだけなのでさっきの情報について考え直すことにした。

 

 

「確か、フィールドモンスターの強化と防御貫通スキルも実装されるんだったっけ?フィールドモンスターってことはボスは強くならないのかな?良くわからないや。で、問題があるのは防御貫通スキルだ。」

 

 

防御貫通スキル、すなわちいくらVITが高くても少なからずダメージが通るかもしれないのだ。

 

 

 

「ってことはメイプルさんにも攻撃が通るってことか。敵なときはいいんだけど味方の時に少し惜しいかな。一長一短かな。」

 

 

もちろん、マテリアルもそれを習得するであろう。対メイプルのときだけでなくとも、防御の高いモンスターが出てくることは目に見える。習得することに損はしないだろう。マテリアルはオールラウンドなプレイヤーなのでいまいち火力が足りないことだってある。現在対策をしている最中なのだが、それは置いておいて。

 

 

「よしっ、行くか。」

 

 

気持ちを切り替えて、フィールドへ向かうマテリアルであった。

 

 

 

〈約2週間後 第2回イベント前日〉

 

 

 

イズ工房にて

 

 

 

店の看板にOpenの標識があることを確認して中へ入る。

 

 

「こんにちは」

 

 

 

「あら、いらっしゃい。お待ちかねの装備はできているわよ。」

 

 

イズはマテリアルが来たことを確認すると店の奥から装備を持ってくる。

 

 

 

【魔人の鎧】

全ステータス30上昇(HP,MPも含む)

 

【魔人の籠手】

全ステータス10上昇(HP,MPも含む)

 

【魔人の脚甲】

全ステータス10上昇(HP,MPも含む)

 

 

 

「あら、似合ってるじゃない」

 

 

黒と紫を基調としたその鎧は不気味な雰囲気を醸し出している。至る所に棘のような凸凹がありもう内外ともに近付き難いと言えよう。

 

「それって褒め言葉ですか?」

 

「ええ、もちろん褒めてるわよ。」

 

それはそれでと複雑な心境になるマテリアルなのだが

 

「見た目はともかく、性能はいいから」

 

気持ちを汲み取ったのか話題を変えようとするイズ。マテリアルも試してみたくなったようで

 

 

「では、少し試させていただきます。【身体装甲】鋼」

 

鎧の上からさらに鋼が重なってもう一段階ゴツくなる。

 

「…重そうね」

 

「そんなことないですよ。とても動きやすいです。」

 

嘘である。社会経験を通したマテリアルの判断としては社交辞令が身体に染み付いているがために無意識に言ってしまうようである。

 

 

「そう、なら良かったわ。次のイベントも頑張ってね」

 

「はい、ありがとうございます。」

 

 

返事をするとそそくさと店を出る。

 

 

「もう少しSTRあげるべきかな…」

 

 

再びステータスに思い悩むマテリアルであった。

 

 

Lv.40

HP 290/290

MP 262/262

STR 35+50

VIT 35+50

AGI 35+50

DEX 35+50

INT 35+50

 

装備

頭 【空欄】

体 【魔人の鎧】

右手 【魔人の籠手】

左手 【魔人の籠手】

足 【魔人の脚甲】

靴 【頑丈な長靴】 破壊不能

装飾品 【魔除けの指輪】

 

 

スキル

【探知】【結界】【身体装甲】【天邪鬼】【絶対防御】

 

 

 




作 「はい、次回は第二回イベント。マテリアルは満足の行く結果を出せるのでしょうか?」

マ 「多分大丈夫です、何せメイプルさんがついてますから。それに、そのお友達さんもいますし。」

作 (その友達お前の首狙うかもなんだが)

マ 「きっとご期待に添える結果を出せるでしょう」

作 「ああ、そう願ってるよ。」
  (本当に大丈夫か?コミュ力なしでトラブルとか起こさないよな?)

マ 「そういえば待ち合わせ決めてなかった。」

作 「マジで大丈夫?どこか抜けてる二人が組んでも結局抜けてると思うんだが。」


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第二回イベント

はい、6話めにして第2回イベントに入ってしまいましたね。それより共闘に入ります。マテリアルの特訓の成果をとくとご覧あれ。


二層の街にて

 

「ここ、か。」

 

マテリアルはイベント会場についた。既に多くの人が待っている。それもそのはず、第一回イベントは大成功で幕を閉じ、プレイヤーだけでなくその映像(主にメイプル)によって人気が増えたからである。俗に言うメイプル効果だ。そして、時間もあったためイベントに参加できる人が倍増したのである。理由はまだあり、探索型というわけで前回よりもチームプレーが重視されているため、芋づる式に人数が増えたこともあるのだ。

 

 

「そうだ、メイプルさんと待ち合わせをしているんだった。どこにいるんだろう?」

 

 

キョロキョロと見渡すマテリアルだが一向に見当たらない。いささか捜索対象が小さすぎる。

 

 

「イベント1時間前に待ち合わせしておいて良かった。っていうか、場所決めてないってどう言うことだよ。」

 

と自分にツッコむ人がいる中

 

「ちょっと、待ち合わせしてないってどういうこと!」

 

サリーの怒鳴り声が響く。

 

「ご、ごめん。忘れてた。」

 

メイプルがうぅ、と言葉にならない声を発しながら走り回る。

 

 

「見た目教えて、一緒に探すから。」

 

 

「ありがと、サリー」

 

悪いな、見た目はかなり変化してるんだ。

 

 

〈しばらくして〉

 

 

ここで、運営からのアナウンスが入った。

 

「今回のイベントは探索型です!目玉は転移先のフィールドに散らばる三百枚の銀のメダルです!これを十枚集めることで金のメダルに、金のメダルはイベント終了後スキルや装備品に交換できます!」

そうアナウンスが流れ、ステータス画面が勝手に開き表示されたのは、金と銀のメダルである。

 

 

 

「前回イベント十位以内の方は金のメダルを既に一枚所持しています!倒して奪い取るもよし、我関せずと探索に励むもよしです!」

幾つかの豪華な指輪や腕輪などの装飾品、大剣や弓などの武器などの画像が次々に表示されていく、全てこれから行くフィールドの何処かに眠っているのだ。

 

 

「死亡しても落とすのはメダルだけです!装備品は落とさないので安心して下さい!メダルを落とすのはプレイヤーに倒された時のみです。安心して探索に励んで下さい!死亡後はそれぞれの転移時初期地点にリスポーンします!」

取り敢えずは一安心である。

装備品を奪われないのならばある程度は気楽に出来ることだろう。

 

 

「今回の期間はゲーム内期間で一週間、ゲーム外での時間経過は時間を加速させているためたった二時間です!フィールド内にはモンスターの来ないポイントが幾つもありますのでそれを活用して下さい!」

つまり、ゲーム内で寝泊まりして一週間過ごしても現実では二時間しか経っていないと言う訳だ。全く便利な仕様である。

 

 

 

アナウンスされた内容は既に告知で見ていたため、マテリアルは聞かずにメイプルたちを探していた。そのため金のメダルによるダメージはない。知らぬが仏というものだ。

 

 

「そうだ、【探知】」

 

忘れていた、【探知】は見えないものを見つけることができる。むしろ、これが本質である。

 

「見つけた。【身体装甲】光」

 

文字通り光の速さで移動してメイプルの元へ駆ける。

 

「お待たせ、しました。」

 

 

マテリアルがメイプルたちのところへ着いたのは、体の一部が光ってしてしまっているときだった。

 

 

 

 

 

転移先にて

 

 

 

 

「良かった、見つけられて。」

 

 

マテリアルには安堵がもたらされる。

 

 

「ごめんなさい、場所決めてなくて。」

 

 

メイプルが小さな声で頭を下げる。

 

 

「いえ、こちらこそ。」

 

 

マテリアルも同様に頭を下げて、2人は顔を上げる。

 

 

「えっと、初めまして。私はサリー、イベントが終わるまでよろしく。」

 

 

「初めまして、マテリアルって言います。こちらこそよろしくお願いします。」

 

 

もう一度マテリアルは深く頭を下げ、イベントの目標と作戦、各自のスキルについて話し合った。

 

 

「回避盾、ですか。」

 

 

「うん、サリーはね、どんなスキルも全部避けちゃうの。」

 

 

「それは楽しみですね。」

 

「ちょっとメイプル、あんまり持ち上げないでよね。」

 

それでも褒められて嬉しいのか少し笑みが浮かんでいるように見える。

 

「さて、準備もできたし行こうか。」

 

 

 

3人がいたのは開けた草原のど真ん中。

空には重力の影響を受ける事なく浮遊する島々が見え、遠くの方には山岳地帯なども見えている。そして広く、澄み渡る大空を竜が優雅に飛ぶ姿も見る事が出来た。

 

「あれと戦うことになったら嫌だなぁ」

 

マテリアルはボソッと呟くがそのまま遠くへ飛び去って行った。

 

運営が用意した今回のフィールドは自然豊かな、モンスター達の理想郷。

誰もが夢見た事のあるファンタジーの世界を写し取ってきたような幻想的な世界だった。

 

 

 

「さて、見れば見るほど運営もかなり凝ったことをしますね。」

 

 

「おおー!綺麗!」

 

「すっごい…綺麗すぎてぞくぞくした」

3人は草原を話しながら歩いていく、もちろんマテリアルはほとんど会話に参加していないのだが。そんなことはともかく、プレイヤーは見当たらない。前回、メイプル達がすぐに会敵したことを考えると今回はかなり広めに設定されたステージなのかもしれない。

 

「メダルとか見つかるかなあ…」

 

「さあ?まあ、じっくりやろう?まだ時間はあるしね」

 

「えっと、お二方。戦闘態勢になられた方がよろしいかと。」

 

 

「「え?」」

 

 

地中からゴブリンが現れた。しかも、2,3匹の話じゃ無い。すぐにマテリアルたちは山のような数のゴブリンに包囲されてしまった。

 

 

「わわっ、どうしよう」

 

 

「落ち着いて、メイプル。ここは「任せてください」え?」

 

 

「【身体装甲】炎 炎燒」

 

 

そういうと、地面から炎が湧き上がりゴブリンたちを燃やしていく。そのまま数分して

 

 

「ふぅ、やっと全部倒せた。お待たせしました。」

 

 

 

本の数分で山ほどいたゴブリンを全員倒したのだ。

2人は驚愕して空いた口が塞がらない。

 

 

「えっと、話してたのと違うんじゃ」

 

 

マテリアルは【身体装甲】の説明で相手からの攻撃を防ぐ、とだけ言っていたためであった。もし、事前にこんな攻撃もできるということを実演でもしていたらこうはならなかっただろう。まあ、MPを消費するので気づいたとしてもやらなかっただろうが。

 

 

「なんか、すみません。隠すつもりはなかったんです。」

 

 

申し訳なさそうに頭を下げる。(本日2度目)

 

 

「まあ、悪気がないならいいんだけど」

 

 

「すみません。」

 

 

 

 

3人はそのまましばらく草原を歩き続けた。しかし、以前として景色は変わらない。

 

 

「右、草原!左、草原!後ろ、草原!前、草原っ!」

サリーがヤケになって叫ぶ。何処をみても草原しかない。地平線まできっちり草原だ。

 

 

「広すぎるよ~…さっきからゴブリンしか出てこないし…」

 

メイプルも元気がなさそうに言う。

 

「マテリアル~、何か使えそうなスキルない?」

 

サリーがマテリアルにどこぞのロボット感覚で聞く。

 

 

「ありますよ、てれれてっててー【たーんーちー】。

このすきるをつかえばこのむだにひろくとってあるそうげんからなにがどこにあるかまではっきりとわかるのだ~」

 

 

マテリアルも少しテンションがおかしくなってしまっていたようだ。平仮名が読みにくくて申し訳ない。マテリアル自身は2人が草原を歩きたくてやっていると思っていたようでなかなか口に出せなかったのである。

 

 

「よし、早速それを使ってよ。」

 

 

「了解、解析します。」

 

 

〈30分後〉

 

 

 

「オーケー、大体把握しました。」

 

 

【探知】は通常なら一瞬でダンジョン内の様子を確認することができるのだがこの馬鹿げた広さの草原を確認しきるまで30分もかかってしまった。それほど運営が本気を出したのだろう。

 

 

「何がわかったの?」

 

 

「まず、そこです。」

 

 

マテリアルが指を刺したのは何もないただの草原、

 

 

「そんなところに何があるって言うの?」

 

 

サリーが不思議そうに聞くがマテリアルがその場所へ行くと

 

 

「ま、見ててください。って、ちょ」

 

 

その場所に立った瞬間、床が抜けたかのようにマテリアルだけがフェードアウトする。

 

 

「え!え、どういうこと!?」

 

 

メイプルもそれに呼応するかのように驚く。それに対して、サリーは何かに気付いたようで

 

 

 

「【蜃気楼】みたいなスキル…それで入り口を隠してた。もしかしたら、他にも入り口はあったかも。この草原広いしね…」

 

「入る?」

 

「当然!念入りに隠したこの洞窟…きっとメダルの一枚や二枚あるって!それにマテリアルももう行っちゃったし。」

 

「よーし!じゃあいこう!」

二人は洞窟の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

「よしっと、お掃除完了。」

 

 

2人が見たのはゴブリンの山を積んでいたマテリアルであった。ゴブリンスレイヤーの称号を上げよう。(非公認)

 

 

「何してるの?」

 

 

「見れば分かるでしょう?降りかかった火の粉ならぬ襲いかかったゴブリンの始末です。」

 

 

「じゃ、マテリアル。【探知】でボスのところまで連れてって。」

 

 

「了解、っていうかかなり扱いがラフになってきましたね。」

 

 

「それじゃまずい?」

 

「いえ、特に。右、右、左、右、左でボスです。」

 

逆にこうして気軽に声かけてくれるのは少し嬉しいようだ。表情には出ることはないだろうが

 

〜〜〜

 

 

 

 

「ボス部屋っぽい部屋発見!」

目の前には道中には一つも無かった扉の存在があった。五メートル程の木製の扉を開き中へと入る。中は広く、薄暗い。天井までは十メートル近く、周りを見るに横幅も同じくらいだ。

 

そこにいたのは今まで会ってきたゴブリンの中で最も大きく、醜悪な見た目をした巨大ゴブリンであった。

 

 

「さて、とっとと終わらせましょう。」

 

 

「いや、マテリアルはここで待ってて。」

 

 

サリーからそう言われて不思議そうに首を傾げる。

 

 

「だって、さっきからかなりMP消費してない?そろそろ休んだ方がいいよ。」

 

 

サリーの言った通り、【探知】で広い場所を解析した上、洞窟内のほぼ全てのゴブリンを掃討したため、かなりMPが削れてしまっている。

 

 

「いえ、問題ありません。」

 

 

そんなことは気にせず、戦おうとするマテリアルであったが

 

 

「ううん、そろそろ私たちにも任せてくれないかな」

 

 

メイプルも口を開く。

 

 

しかし、巨大ゴブリンの咆哮のせいでその声が掻き消される。

 

 

「あー、もううるさいな」

 

 

「さっさと倒しちゃおう、マテリアルはそこで私たちを見てて。」

 

 

「はい、わかりました。」

 

 

と、その場に椅子代わりに結界を張って座るマテリアルであった。

 

 

先に仕掛けたのはサリー、走って距離を詰めようとするが、ゴブリンは傍においてあった剣を手に取り、振り回す。

 

 

「【カバームーブ】!」

 

その瞬間、メイプルが剣を大盾で防ぎ切る。既に闇夜ノ写に盾を切り替えており、剣は失われた。

 

 

「【悪食】、攻撃を全て吸収するのか。流石にそんな高等スキルにも少なからずデメリットはあるはず」

 

 

サリーはそのまま走り、ゴブリンへ向かう。拳を振り上げて押し潰そうとするが

 

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

 

 

メイプルがまたもやサリーの目前でゴブリンの攻撃を防ぐ。ゴブリンが驚いている隙に

 

 

「【ダブルスラッシュ】!【ウィンドカッター】!【パワーアタック】!【ダブルスラッシュ】!」

 

 

サリーの猛撃がゴブリンを襲い、

 

 

「【毒竜】!」

 

 

メイプルの声が三つ首の毒竜を呼び出す。

サリーを追いかけてより大きな脅威を放置してしまったゴブリンはその背に毒竜の攻撃を受けることになってしまった。

ゴブリンは光輝いて消えてしまった。

 

マテリアル達はゴブリンが座っていた玉座の元へ向かう。そこには装飾は無いものの大きめの宝箱があった。

 

「開けるよ?」

 

「おっけー!開けちゃって!」

サリーが宝箱を開ける。

中に入っていたのはゴブリンが持っていたのと同じ見た目の巨大な剣。そして、銀色に輝くメダルが二枚だ。

 

「やった!メダルだ!」

 

「しかも二枚、二枚だよ!」

二人は剣などそっちのけでメダルに夢中になる。そもそも、剣は二人とも装備出来ないのだから興味がなくて当然とも言える。

 

 

 

「えっと、じゃこの剣もらいます。」

 

 

 

【ゴブリンキングサーベル】

【STR+75】

【損傷加速】

 

 

「ふむふむ、すぐ壊れちゃいそうだけど重要な一戦で使えそう。」

 

2人がメダルに気を取られているうちにマテリアルは冷静に武器の分析をし始める。

 

 

「あれ?そんなのあったの?」

 

 

ようやくこちらに気づいたようで剣の話になる。

 

 

「もらっていいですよね?」

 

 

「うん、私達使えそうにないからね。」

 

 

短剣装備と大盾装備がこんな大きなサーベルを使うことなんてないだろう。まあ、マテリアルも使う可能性が高いわけではないのだが。

 

 

 

 

「次のダンジョン探しに行く?玉座の裏に魔法陣あるし、乗れば外に出れると思う」

 

「……あと一つくらいなら今日中に行けそうかな?スキルも持つと思う!」

 

 

一瞬、【スキル】についてマテリアルが首を傾げるが聞かなかったことにしたようだ。

 

 

3人は魔法陣に乗ると、戻ったのは元にいた草原だった。

 

 

「さて、どこに行きます?」

 

 

「前進!多分それが一番。最初から見えてるあの高い山までずっと草原ってことは無いはず」

 

「それもそうだね!」

3人は山岳地帯を目指して歩き出した。

 

 




作 「なんだ、意外と滞りなく進行してるみたい。杞憂だったかな」

サ 「あれ?ここどこだろ?」

作 (またこの展開かよ)
  「お嬢さんは迷子かな?」

サ 「はい、そうですけど」
  (メイプルとダンジョン行ってたらはぐれちゃった。)

作 「出口なら向こうだよ」
  (何かやらかす前に退場してもらおう。)

サ 「あ、今週は毎日投稿するらしいよ。じゃ、バイバイー」

作 「ちょ、何を勝手なことを…もういない、恐るべしサリー」


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無茶振り

お知らせします。本作において【絶対防御】の仕様を一部変更させていただきます。原作ではVIT以外のステータスを振るのに三倍必要になるようなものでしたが本作ではステータスを1/3にするに変更します。ご理解のほどお願いします。




 

3人はあれからしばらく歩き、山岳地帯の中腹に差しあったっていた。日は既に傾いていて、夕焼けで赤く染まった空が綺麗だ。

 

 

襲いかかってきたモンスターは全て3人であっという間に始末した。とはいっても、ほとんど前のボス戦で温存されていたマテリアルが倒したのだが

 

 

「マテリアル、他のプレイヤーが出てきたらどうする?」

 

 

サリーがマテリアルに聞く。

 

 

「相手の出方次第です。攻撃してきそうなら倒す。敵意がないなら無視、場合によっては共闘でもしましょうかね。」

 

 

「ふーん、やっぱりお人好しなだけかな?」

 

 

サリーは小声で言ったのでマテリアルは聞き取れなかった。まだ完全な信用が得たわけではないようだ。

 

 

「2人とも、待ってー」

 

 

メイプルが少し離れたところから叫ぶ。

 

 

「「あ、」」

 

 

メイプルのステータスの振り方は防御特化なのでAGIは0だ。その分、歩くペースにも差が出てしまうようで気をつけないと2人は置いていってしまうほどだ。

 

 

「うーん、何か良い策はないものでしょうか。」

 

 

「メイプルを背負って進むとか?」

 

 

そんなことを話しながらようやく山頂に着く。日はすっかり落ちて夜空には星が輝いている。しかし、残念ながらゆっくりと見ている暇などない。

 

 

 

山頂には転移ができる魔法陣があった。既に何度も見ているためすぐにわかった。

3人がその魔法陣に近づこうとしたその時。

3人が登って来た方とは逆側から、プレイヤーが4人登って来た。

大剣、大盾、魔法使い二人のパーティーだ。

向こうもメイプル達に気付いたようで3人の方を見る。PvPを覚悟したサリーとマテリアルだったが、そうはならなかった。

 

 

 

「あっ!…クロムさん!」

 

「おっ?……メイプルか…ここで会うとは思わなかったな……ああ、俺達に戦闘の意思は無い。勝てるとも思わないしな」

そう言ってクロム達が武器をしまって、両手を上げてみせる。

 

 

メイプルの知り合いのようで、敵意はないようだ。

 

それに呼応するようにマテリアルも武器をしまう。しかし、警戒は怠らないようだ。

 

 

「私も戦いたく無いです。……いいよね、サリー?」

 

「まあ、そうだね。私達も浪費はしたくないし…警戒しておくに越したことは無いけど…多分大丈夫…かな?」

 

 

「問題ないかと、最悪人数差も大きくないので」

 

この後に続く言葉は問題なく始末できるかと、だ。敵意が無くて助かった。

 

【探知】によって相手のステータスを伺うマテリアル、レベルはメイプルよりも上だが問題ないと判断したようだ。

 

 

 

「それで…ここはどうするの?どっちかしか報酬は貰えないんじゃない?」

サリーの言うことはもっともで、クロムかメイプルのどちらかが先に入ることになり、もし攻略に成功した場合はダンジョンの報酬はなくなってしまうかもしれない。

メイプルはしばらく思案し話し出した。

 

 

「ごめん、2人とも。今回はクロムさん達に譲ってもいい?」

 

 

「私はメイプルが言うならいいけど、マテリアルは」

 

 

「構いませんよ、まだ時間は山程ありますし。」

 

 

マテリアルの計画では順調のようで余裕があるらしい。

 

 

 

 

「うん……分かった!……じゃあ、どうぞ先に行って下さい!」

メイプルはクロム達に向かって言う。

 

「い、いいのか?こういうのは普通早い者勝ちだと思うが…」

 

「いいんです!私の気が変わらないうちに行った方がいいですよ。」

メイプルがそう言うとクロムは礼を言って魔法陣に乗って消えていった。

 

 

クロムたちが行ってからマテリアルが口を開く。

 

「さて、どうします?移動でもしますか」

 

 

「うーん、戦ってるなら負けるかもしれないし…スキルも温存したんだから待ってみる?」

 

「サリーさん、失礼ですよ。仮にも10位以内の方なのですから。」

 

自分が11位であるがために一応自分よりも強いと考えているようだ。クロムをみくびるというのはすなわちマテリアルもみくびっていることとなる。

 

そんな考えとは裏腹に魔法陣が再び輝きを取り戻した。再侵入可能の印だ。

 

「「「えっ!?」」」

3人が驚く。クロム達が入ってからまだ一分程しか経っていない。予想外の速さだ。

 

「入場したと同時に即死レベルの攻撃が来たか、それともボスモンスターのステータスが異常だったか…もしくはその両方」

 

マテリアルの推察と共にそのまま沈黙が続く。

 

 

「で、どうするの?行く?」

 

 

重い空気からサリーが口を開く。

 

 

「私は、行きたい。この先に何があったのか確認したい。」

 

 

メイプルは強い決意を抱いて言う。

 

 

「じゃ、行きましょうか。準備をしましょう。」

 

 

マテリアルも賛成したようで装備の確認をし始める。

全員、装備に異常はないようだ。

 

 

 

「取り敢えず、入ったらすぐに私が大盾を構えるから後ろに隠れて」

 

「了解。それでその後は私が斬りかかる。さっきみたいに【カバームーブ】で援護をお願い。マテリアルは後衛でサポートを。」

 

 

「はい、了解しました。」

 

3人はその後も二十分程話し合うと、立ち上がり魔法陣に向かった。

 

「よし!いこう」

 

「うん!」

そして、転移と共に3人の姿は光となって消えていった。

 

 

 

3人がたどり着いた場所は広い、円形の部屋だった。予想していた先制攻撃はなく、ひとまず胸を撫で下ろす。

 

 

空からは雪が降り始めた。奥には鳥の巣があり、遠いためよくは見えないが何かがおいてある。宝箱か何かだろうか。

 

 

 

「おっけー……分かった。絶対鳥型のボスが来る。【大海】は使えないかも」

 

「どうする?鳥の巣に近づいてみる?」

 

 

「警戒を怠らずに、落ち着いて。」

 

 

2人は鳥の巣に近づき、マテリアルは戦う準備がてら周囲を【探知】で確認し始める。

 

「二人とも!伏せて」

 

 

その時上空から轟音と共に、何かが高速で広間に撃ち込まれた。

 

「【結界】!」

 

 

3人を襲ったのは鋭い氷の礫、それに続いて雪のような白の翼を持った怪鳥が急降下してくる。

ギラついた目に鋭い嘴と爪、強者の持つ風格をその身に纏い怪鳥は広間に降り立った。

 

 

 

「では、作戦通り。【身体装甲】光 光の爆発」

 

 

怪鳥が動くごとに光の攻撃が続くがそのダメージは微々たるものだった。

 

 

 

「ま、ダメージ目的じゃないからいいんですが」

 

 

 

部屋のサイドが崩れて瓦礫が怪鳥の両翼を抑える。

 

 

「ナイス、マテリアル。【ウィンドカッター】」

 

 

サリーは【超加速】で駆け出し、怪鳥に一撃を喰らわせる。

 

 

 

「嘘、」

 

 

確かに、サリーの攻撃は見事に怪鳥に直撃した。しかし、やはりダメージが通らない。そして、怪鳥はようやく動き出し、魔法陣を展開する。

 

 

「【カバームーブ】!」

 

 

「ありがと、メイプル。」

 

 

「うん、でもこれじゃ」

 

 

 

 

「いてて、どうしたものか、」

 

 

氷の攻撃の余波がマテリアルまで届いており、ダメージがひびく。

 

 

 

「マテリアル、プランβで」

 

 

サリーがそう叫ぶと

 

 

「了解! 【身体装甲】炎 火炎の斧 猛撃の豪炎」

 

マテリアルは静かに頷いた。そして、斧を振りかざし怪鳥に炎が降り掛かる。

 

 

プランβは当初の作戦とは違いマテリアルが前衛に出て負荷をかけ、メイプルが守り、サリーがその補佐をするというものだ。しかし、これはかなり短期決戦を目指した形となる。マテリアルのMPは有限だ。

 

 

当然、怪鳥が一方的にやられるわけなく反撃をし始める。

 

 

「【カバームーブ】!」

 

間一髪のところでメイプルが【悪食】で一撃を防ぐ。

 

 

「ありがとうございます、助かりました。」

 

 

 

強力な一撃を放ったことにより、少しの間が生まれる。その隙をサリーは見逃さなかった。

 

 

「【大海】!」

 

怪鳥の背中を起点にして水が広がる。

それは一瞬にして怪鳥に染み込んだ。

怪鳥が怒りの声と共に暴れ始めた時にはサリーはもう飛び退いていた。

怪鳥の速度が落ちる。

 

「【毒竜】!」

速度の落ちた怪鳥が至近距離のその攻撃を交わすことが出来るはずも無く、HPバーがさらに減少する。

 

「【ダブルスラッシュ】!【ファイアボール】!」

メイプルがインファイトで怪鳥を削る。

サリーがヒットアンドアウェイで麻痺毒を入れつつチャンスを伺う。

 

 

「【ゴブリンキングサーベル】に切り替え。炎属性を付与、熱光斬!」

 

 

 

マテリアルも連続で攻撃をしかける。その一撃は、2人が作ったチャンスを生かしたものだった。熱と光で辺りが眩しく輝く。

 

 

 

怪鳥のHPバーが7割を切った。

その時。

 

怪鳥が3人から距離を取り、地面にその爪を深く差し込む。

 

 

 

 

その嘴が大きく開かれ、メイプル達の倍ほどはありそうな魔法陣が広がる。

全員が本能でこの後の危険を察知した。

 

「【カバームーブ】!【カバー】!」

メイプルが叫んだ直後。

 

 

 

3人の視界全てを白銀のレーザーが埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ。」

 

 

メイプルが悪食を使ってなんとか一撃を凌いだ。が、

 

 

「メイプル、【悪食】は残り2回だよ」

 

 

「うん、わかってる。」

 

 

 

もうあと2回この攻撃が続けば攻撃を防ぎきれずにやられる。それは、半分以上HPを残した怪鳥を目の前にしたメイプル達にはかなり苦しいことであった。

 

 

 

「ここから先は任せてください。」

 

 

「「え?」」

 

 

 

 

 

マテリアルは【結界】を何度も重ねて2人を閉じ込める。

 

 

「ちょっと、どういうこと」

 

サリーがマテリアルに尋ねる、声には力がこもっている。

 

「言った通りですよ、ここから先は一人でやるのでそこで待っててください。」

 

 

「一人でなんて、無理だよ。みんなで戦おう」

 

マテリアルはメイプルの言葉を無視して怪鳥の方へ歩く。

 

「さて、お待たせしましたね。お遊びはお終い。本気で相手しましょう」

 

 

と、同時にマテリアルの身体が光出す。

 

 

「これは」

 

 

 

「発動 【天邪鬼】」

 

 

スキル

【天邪鬼】

効果

自身のステータスの変化を逆にする。装備によるステータスの変化は含まれない。

 

 

 

Lv.49

HP 224/480〈+150〉

MP 198/424〈+150〉

 

STR 117〈+150〉

VIT 19〈+25〉

AGI 117〈+150〉

DEX 117〈+150〉

INT 117〈+150〉

 

 

 

「【身体装甲】鋼  鉄針」

 

 

怪鳥の両翼に巨大な鉄の一線が貫通し、怪鳥の動きを抑える。

 

 

マテリアルは手に持つゴブリンキングサーベルを変化させた。

 

 

 

「鋼鉄の剣 鋼の一斬」

 

 

ただでさえ大きかった剣がさらに大きくなり、怪鳥と同じくらいの大きさの剣となる。そして、剣が怪鳥の身体に直撃し、鋼鉄の剣、もとい、ゴブリンキングサーベルは反動で壊れてしまった。

 

 

 

「まだ、ダメか。」

 

 

「あんな強力な一撃を耐えるなんて、」

 

「私達にもまだできることが…」

 

 

 

 

 

怪鳥が叫び、その波動によって部屋の氷が崩れ落ち、マテリアルに降りかかる。

 

 

「【結界】」

 

 

いとも容易く防いだマテリアルだったが

 

 

「!? まずい」

 

 

氷によって視界が狭まり、怪鳥がその隙を逃さずに足でマテリアルを掴む。

 

 

「【身体装甲】毒 ヴェノムカプセル」

 

 

「あれって、」

 

「私の」

 

マテリアルの周囲に毒を閉じ込めた球が出来上がり、毒が怪鳥の足を溶かす。

 

 

「危なかった、メイプルさんの技見ておいて助かった。」

 

 

しかし、怪鳥は暴風と礫での弾幕攻撃を繰り出す。暴風が竜巻のようにマテリアルの周りに乱立する。

 

マテリアルはなんとか避け切るものの、

 

「まずい、風の流れで移動を制限されてる。」

 

 

暴風に巻き込まれないように礫を避けるには風の流れをよく見る必要があるのだが、それによって気づいたのは、少しずつ怪鳥が近づいていると言うことだ。

 

これ以上、近づくと怪鳥の間合いに入ってしまう。

 

 

「どうする、このまま行くのはまずい。いや、逆か」

 

 

何かを閃いたマテリアルは風の吹くままに移動する。

 

 

「【身体装甲】水 渦潮」

 

 

マテリアルの周りに水が発生し、暴風にまとわりつき渦巻きに変わる。そして、礫を吸収し怪鳥へ攻撃する。

 

 

 

「どう、だ。」

 

 

 

マテリアルの心境とは裏腹に、まだ怪鳥のHPは3割残っている。そして

 

 

「タイム、オーバーか」

 

マテリアルの身体が消耗し始める。天邪鬼が切れかかっているのだ。

 

 

「マテリアル!」

 

 

叫んだのはメイプルだった。【結界】を破壊して中から出てきたようである。

 

 

「どうして」

 

 

「私に全力の一撃をお願い」

 

 

「?」

 

 

一瞬、意味がわからなかったマテリアルであったがメイプルに何か考えがあると信じて

 

 

「全力でいきます、【身体装甲】炎 爆裂炎」

 

 

マテリアルの手から高密度の魔力が込められた炎の塊が勢いよく発射される。

 

 

「【悪食】」

 

 

メイプルは悪食でマテリアルの攻撃を受け切り

 

 

「【毒竜】!」

 

 

吸収した分を2倍にして強力な【毒竜】を作り出す。

 

 

「ダメ、まだ足りない」

 

 

サリーはこのままでは怪鳥を倒しきれないと言う。それが聞こえたのか、【毒竜】の前にマテリアルが光の姿で待っていた。

 

 

「なら、更に2倍にさせてもらう。全MPを消費、反射」

 

 

 

【毒竜】の目の前に2枚の反射板ができ、勢いが増して怪鳥を飲み込む。

 

 

怪鳥は眩い光に包まれ、消えていった。

 

 




作 「今回はやったかって言ってないからやったな」

マ 「言う気力すらなかったんですけど。あれはひどくないですか?」

作 「運営に言ってくれ。そういや、【天邪鬼】使い道あったんだな。元々違うスキル用意してたのに」

マ 「仕方ないでしょ、【天邪鬼】の使い道がこれくらいしかないんですから。だったら初めから作らないでください。」

作 「ごもっともです、申し訳ない。」


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時間の有意義な使い道

始まる前に

はい、前回説明をし忘れたので【天邪鬼】の詳細を連絡します。【天邪鬼】は装備を除くステータスの変化を逆にします。すなわち、スキルや道具による変化を逆にするという認識で問題ないです。マテリアル君は【絶対防御】(一部改変あり)を取得することによってVIT値を下げて他ステータスを上げたようですね。なお、【天邪鬼】は常時使うのと数分間使うのがありまして、理由は反動が大きいからです。




イベント2日目

 

怪鳥との戦いで体力を使い切り、倒れるマテリアル。目覚めたのは、数時間後だった。

 

 

 

「うぅ、ここは」

 

 

起きたときには、既に違う洞窟にいた。隣にはメイプルとサリーが仲良さそうに眠っている。

 

 

「移動した、のか。安全エリアに。」

 

 

少し歩いて洞窟の外へ出るマテリアル。ステータス画面を開いた。

 

 

「やっぱり、レベルは上がるよね。他には…」

 

 

マテリアルの戦果として、【身体装甲】に氷、風の追加された。怪鳥を倒したことが原因と思われる。

 

 

 

「ふむふむ、氷はINTとDEXを2倍でVITを半分、風はAGIを2倍。悪くはない、かな。」

 

 

 

「ふぁーあ、眠い。時間は…2時か。」

 

 

イベントは既に二日目に突入しており、休んだおかげでマテリアルの調子は完全に戻っている。3人で集めたメダルは全部で5枚。草原2枚、怪鳥3枚の内訳だ。

 

当初の目的としては一人十枚ずつというかなりハードと思われる目標だったのだがこの調子でいけばうまくいくだろう。しかし、油断はしないようだ。

 

 

「少し、探索するか。」

 

 

安全エリアから離れ、近くにあったのは廃墟だった。

 

 

 

「こういうところって、物凄くある気がする。」

 

 

そんなことを呟きながら【探知】を発動する。案の定、2枚のメダルを確認する。

 

 

 

「案外あっけなかったな。」

 

思わぬところでメダルを獲得し、棚からぼた餅状態だ。こんなに順調で良いのだろうか?いや、あとで酷い目に遭うのだろう。

 

「なんだか寒気が…気のせいであってくれ」

 

こういったときの予感は大抵当たるものだ。逆に、良い予感というのはほとんど的中しない。これが人生である。

 

安全エリアに戻ってきたマテリアルはメイプルとサリーの元へ近寄るが

 

 

「ん?これって何かしら問題になりそうな」

 

 

何かしらの危険を察知し、3mほど離れたところへ座るマテリアル。一応他の危険性も感じたのかマテリアルは【探知】で確認をする。

 

 

「ん?何か怪しいものを持っている。タマゴ?」

 

 

モンスターのタマゴ

 

暖めると孵化する。

 

 

 

「いや、かなり説明雑だな。敵とか生まれたら面倒だけどわざわざ孵化させるんだったらそんなことするわけないよね…」

 

 

マテリアルも敵モンスターが出てはこないだろうという捉え方になった。NWOの運営はなかなかに有能なのでそんなことはしないだろう、多分。しかし、そもそも

 

 

「孵化したては流石にレベル1のはず。問題はあるまい。」

 

敵になった瞬間、始末してしまえば良いのだ。まあ、極論なのだが。と、考えていても暇で仕方がないので軽く散歩することに決めた。

 

 

「そうだ、一応」

 

二人が攻撃されないように結界を更に強めておく。襲うような輩はそうそういないと思うのだが。

 

 

それはさておき、マテリアルは少し歩いてやはり二人とは離れた場所に来ていた。

 

 

「よし、ここらでいいかな。」

 

 

廃墟とは逆方向の、森の方へ行ったマテリアル。手頃なモンスターが何体か湧いてきた。

 

 

「試し打ちでもしますか。【身体装甲】氷」

 

氷の鎧がマテリアルを包み込む。氷柱が防具として働いているようで少し動きにくそうだ。一方、攻撃はというと少し出力を多めに出したためか、森の一部とモンスターが凍りついてしまった。十分な火力といえよう。

 

「……寒い。」

 

 

自分の展開している装甲自体は寒くないのだが周りの空気が寒いのは防ぐことはできないようだ。

 

 

「あと、もう片方。【身体装甲】風 竜巻」

 

 

現れた風は周囲を巻き込んで勢いをどんどん増やしていく。森の一部を吹き飛ばしてしまった。お陰で森のど真ん中に日光が差し込んでくる。

 

 

「もう、朝か。戻ろう。」

 

 

思いの外、熱中してしまったのか時間が過ぎるのが早い。MPの節約のために歩いて戻っていった。

 

 

 

戻ってくると既にサリーが起きていた。

 

 

「あ、おはよ。マテリアル」

 

 

こちらにも気づいたようで挨拶をする。

 

 

「おはようございます、サリーさん。」

 

 

すかさず挨拶を返す。以前のマテリアルではできなかったかもしれないことである。成長が垣間見える。

 

 

「何をなさっているのですか?」

 

 

「軽く朝ごはんをね、マテリアルもいる?」

 

 

「いえ、お腹は空いてないので」

 

一応遠慮をしておいたのだが

 

「美味しいよ?」

 

食欲とサリーの圧によって屈服してしまう。まあ、お腹が空くというわけではないのだが

 

「…いただきます。」

 

 

 

「どう?」

 

 

「美味しいです。」

 

思えばゲームも合わせて4日ぶりのご飯である。既にもやしすら買う金がなくなっていた。給料日前は辛い。

 

 

「今日はどうする?」

 

 

「良さそうな洞窟を見つけてきました。そこに行ってもいいですか?」

 

 

「うん、いいよ。じゃ、メイプルを起こさなきゃね」

 

 

サリーはメイプルを揺すり起こそうとするが一向に起きる気配がしない。メイプルも昨日の一戦でかなり疲れたのだろう。

 

 

「いや、眠いならまだ眠らせておきましょう。時間はまだありますから。」

 

 

 

 

「そうだね、ふぁーあ私も少し眠くなってきちゃった。」

 

 

「もう少しここで休んでいきます?」

 

 

「うん、おやすみ」

 

 

と、すぐにスヤスヤと寝息を立ててしまった。

 

 

「まずい、あくびでも移されたか。」

 

 

マテリアルも試運転で少し疲れてしまったのか眠気が襲ってきた。

 

 

「ま、結界あるし問題ないか…」

 

 

倒れるように眠ってしまった。

 

 

~~~

 

 

 

「起きて、マテリアル。」

 

 

「……?」

 

 

ようやく目覚めたマテリアル、目の前に広がっていたのは見たことのある森林だ。

 

 

 

「あれ、今何時ですか?」

 

 

「10時、よく眠ってたね。」

 

 

「す、すみません」

 

二度寝はいけない、時間の無駄だ。しかし、駄目だと言われても眠ってしまう悪魔のようなもの、それが二度寝だ。

 

「別にいいよ、台車もあったし。」

 

 

「メイプルさん用に用意したのですけれどね。」

 

「へぇ、ちゃんと対策考えてたんだ。」

 

昨日のメイプルを運ぶ件のあれである。自分が使うこととなるのは思いもしなかっただろう。

 

「それより、挽回させてもらいます。」

 

 

「大丈夫だよ、メダル見つけたから。」

 

 

どうやら探索で新たに2枚のメダルを獲得したようである。

 

 

「そうだ、タマゴの様子はどうだろう」

 

 

「それは一体どこで?」

 

「怪鳥の巣に置いてあったんだ。」

 

 

「ってことは鳥が生まれるんですかね?」

 

 

「うーん、ちょっと違う気がする。」

 

 

「二人とも、どうやって暖めればいいのかな?」

 

 

「やっぱり人肌?」

 

 

「任せてください。【身体装甲】炎」

 

 

マテリアルに炎が包まれ、燃え盛る炎がタマゴを暖める。

 

 

「ちょ、そんなに強いのは」

 

 

「いや、大丈夫。この炎」

 

 

「熱くない!?」

 

サリーが驚いたのは触れても全く熱くない、温かいくらいの温い炎だった。

 

「これ、どうやってるの?」

 

「感覚ですが」

 

二人からは人外を見たような目で見られるのだが二人の方がやばいのはまた別の話

 

 

〈少しして〉

 

 

 

「そろそろ、かな?」

 

タマゴにピキッとひびが入る。

 

 

「ちょっと休んでいいですか?温度維持するの意外と辛いんで」

 

 

「あ、ごめん。ありがとね」

 

 

「では、少し休ませて「「ダメ!!」」おっと、危ないところだった。」

 

 

マテリアルが少しウトウトしていたときに即座に反応する二人、この様子だとしばらく休む機会はなさそうだ。

 

 

メイプルの持っていたタマゴからは亀が生まれ、サリーの持っていたタマゴからは狐が生まれた。

 

 

「タマゴから哺乳類が生まれるとは…」

 

マテリアルが驚くと

 

「モンスターだからその辺りは関係ないのかもね」

 

サリーが相槌を打ちながら言う。そんなところを気にしても得はしないから無視するべきだろう。

 

 

それと同時に卵の殻が薄く輝き始める。その輝きは次第に強くなり、二つの卵はそれぞれ紫の指輪と緑の指輪に変わった。二人はそれを手を伸ばして拾う。

 

「アイテム名は……【絆の架け橋】。これを装備することで一部のモンスターとの共闘を可能にする…だって!…これはもう外せないかなぁ」

サリーの説明は指輪の最も重要な能力のことだけだった。メイプルも自分の目で見てその能力を確かめる。

マテリアルも同時に見せてもらう。まあ、【探知】で独自で見ることも可能なのだが

 

 

【絆の架け橋】

装備している間、一部モンスターとの共闘が可能。

共闘可能モンスターは指輪一つにつき一体。

モンスターは死亡時に指輪内での睡眠状態となり、一日間は呼び出すことが出来ない。

 

 

「なるほど、戦闘不能になっても消えるわけではないと。」

 

 

「なら、安心だね。」

 

 

マテリアルは少し何かに気づいた様に2体を見つめる。

 

 

ノーネーム

Lv1

 

HP 250/250

MP 30/30

 

STR 30

VIT 150

AGI 15

DEX 10

INT 20

 

スキル

【喰らいつき】

 

 

 

ノーネーム

Lv1

HP 80/80

MP 120/120

 

STR 10

VIT 15

AGI 70

DEX 75

INT 90

 

スキル

【狐火】

 

上が亀、下が狐のステータスだ。

モンスターの子どもなだけあって生まれたてでもステータスがある程度確保されている。

 

 

「レベル1なのに結構高い…」

 

 

装備抜きだったら2体に負けているステータスも多いマテリアルは若干がっかりする。

 

 

「ほんとだ、この子のステータスが見れるようになってるね」

指輪の効果なのだろう、自分のステータス表示の下にもう一つステータスがある。二人はその内容を確認した。

 

 

 

「ちょっと周りを見てきます。」

 

 

こんなふんわりと隙だらけの2人を見て少し不安になったのと、少々場違いのような雰囲気だったので周囲の様子を見廻ることにした。

 

 

「うん、ありがと」

 

 

 

 

しばらくして

 

 

 

「ふぅ、襲ってきたプレイヤーからメダルをもらえて良かった。」

 

 

もらえた、というより返り討ちにしたというのが妥当である。

 

 

「さて、お二人さんは…」

 

 

「いけ、【喰らいつき】」

 

「【狐火】」

 

 

 

早速テイム化させたモンスター達のレベル上げをしているようであった。

 

 

「これは、まだしばらくかかるかなぁ」

 

 

キラキラとした表情を浮かべる二人と二匹を眺めたマテリアルはもう一度周囲を探索するのであった。

 

 

 

 

〈夕方〉

 

 

「レベル上げも順調だね、……!?」

 

 

「サリー?どうしたの、そんな顔して」

 

 

「時間、もう日が傾いてる」

 

 

「あー!?」

 

 

 

 

「レベル上げ、順調そうですね。」

 

 

待ちくたびれたかのような声に二人は反応する。声の先には岩の上で退屈そうに座っていたマテリアルがいた。

 

「「!?」」

 

 

 

「どうでしたか?今日はいい天気でしたからね。」

 

夕焼けに赤く染まった空を見上げて言う。少し眩しそうで、目を細めた。

 

「「ごめんなさい」」

 

 

「さて、待っているだけでも意外と罠にかかってくれる人がいますからね。助かりましたよ。」

 

 

ポケットの中からメダルを3枚取り出す。

 

 

「え?動いてなかったんじゃ」

 

 

「ええ、ほとんど動いてませんでしたよ。けど、隙だらけのトップランカーという名の恰好のカモがいれば話は別です。」

 

 

「まさか、私たちで誘き寄せたの?」

 

まあ、顔が効くのはメイプルだけなのだがサリーもちゃんと異常である。

 

「はい、すみませんね。利用して。代わりに」

 

 

メダル2枚を一人1つずつ渡す。

 

 

「いいの?」

 

 

「はい、一人じゃできないコトでしたし。でも、コスパは良くないのでそろそろ動きましょう」

 

「「はい」」

 

 

 

本日の収穫 メダル7枚

 

合計12枚

 

〈3日目〉

 

 

 

「さて、行きましょう」

 

 

昨日の反省を生かし、アラームをかけておいたマテリアルはアラームと同時にスッと起き上がる。

 

今日の出発先は昨日見かけた広い渓谷だった。3人は道を歩いていると洞窟の中に足を踏み入れる。

 

 

洞窟に入って少したったときだった。

 

 

「あれ?二人ともいない。はぐれたか。まあいいや、【探知】を使えば………!?」

 

 

マテリアルが【探知】を発動させようとした瞬間、目の前に赤いエフェクトが輝く。それは他の誰でもないマテリアル本人のダメージだった。

 

しかし、なによりも驚いたのは

 

 

 

「…何のつもりですか、サリーさん」

 

 

 

襲ってきた相手がサリーだったのだ。

 

 

すぐに距離を取り、構え直す。そこに

 

 

 

「【毒竜】!」

 

 

「【身体装甲】毒 2度、しかも直後に奇襲にはかからないです。それにしても、そんなにはぐれしまったことに御立腹とはね。」

 

 

 

マテリアルは気づいていた、これが本物ではないことを。そして、それに対してもう一つ不安なことがあった。

 

 

「まずい、早く本物に合流しないと」

 

 

~~~

 

 

「【身体装甲】光」

 

光輝くマテリアル(偽物)は高速で二人周囲を回って撹乱する。

 

「速い」

 

 

「目が回るよ〜」

 

 

 

「【身体装甲】鋼 磁力剛破」

 

突然メイプルの目の前に止まったマテリアル(偽物)から金属音が響く。

 

「それくらいの攻撃なら」

 

鋼の塊が現れ、勢いよくメイプルへ飛んでくる。

 

闇夜ノ写を手放し、悪食を残して受け切ろうとする。

しかし、

作り出された鋼の塊がメイプルにぶつかったとき

 

 

「!?」

 

 

 

目の前で塊が爆発する。メイプルが気づいたのは、スムーズに消えていくHPバーである。貫通ダメージ、しかも連続攻撃だ。

 

 

「メイプル、早く【悪食】を」

 

 

「でも」

 

 

「今使わないでいつ使うの!」

 

いつも余裕のあるサリーが叫ぶ。すなわち、非常事態ということだ。

 

 

~~~

 

 

 

「早く合流しなきゃ二人が危ない」

 

自分が二人の分身と戦っているのならその逆も然り。かなり厄介なところに迷い込んでしまったようだ。

 

「【ウィンドカッター】」

 

 

 

「【身体装甲】風 そよ風」

 

 

マテリアルへの攻撃を軽く風であしらう。

 

 

 

「所詮はコピー。本物よりも少しステータスが高いからって負けるわけない。」

 

と、偽物なので冥土の土産代わりに弱点を教える。とはいっても聞いているわけではないのだが

 

 

「【パラライズシャウト】!」

 

 

 

「【身体装甲】水 水碧」

 

マテリアルの周りに青い水が取り囲み壁を作り出す。

 

マテリアルに麻痺耐性はない、だから当たらなければ問題ない。流れる水の流れによってパラライズシャウトは遮断された。

 

 

 

「さて、負けはしないのだがどう倒そう。」

 

マテリアルの攻撃では決定打に欠ける。メイプルに攻撃できても容易く耐えられ、サリーに攻撃を放っても当たらない。

 

気を緩めたマテリアルは水碧を弱めると形取られた水の塊がどっと崩れて辺りが水浸しになった。中心にいたマテリアルはびしょびしょである。水は洞窟を伝ってどこかへ消えていった。

 

「うぅ、どうやって避けろっていうんだよ今のは…!?」

 

何やら良い作戦を思いついたようだ。

 

「【毒竜】!」

 

 

「【身体装甲】毒 だからそれは効かない…!」

 

 

切り替えた瞬間、懐にサリーが飛び込んでくる。

 

 

「【ディフェンスブレイク】」

 

 

 

マテリアルのど真ん中を仕留めたその一撃は、確実にダメージを蓄積する。しかし

 

 

「まだまだ」

 

 

攻撃を受けても驚くくらいにダメージが通らない。

 

 

「魔除けの指輪、モンスターに適用されるからね。」

 

 

モンスターの攻撃を25%軽減する道具によって攻撃を受けても致命傷は避けることができる。

 

 

「さて、準備はできた」

 

 

そして、辺りは既に毒の海と化していた。毒に切り替えてからずっと周りに毒を放出していたのだ。

 

 

 

「【毒無効】がなきゃここは無理なんで、さよなら」

 

 

毒竜を加えて更に毒の海を増やしていく。流石に【毒無効】は持っていなかったようで、偽サリーは場外に避難しようとするが

 

 

「逃げられやしない、【結界】はとっくにできてる」

 

 

幾重にも重ねられた結界は偽サリーの攻撃では破壊しきれず、毒に飲まれた。

 

 

「さて、あとは君だけ。」

 

 

 

偽メイプルは相も変わらず毒竜を連打するも

 

 

「効かない。さて、こちらの番」

 

 

 

【身体装甲】の毒と周りの毒の海を解除して風に切り替える。そして

 

 

 

「竜巻」

 

 

凄まじい勢いの風がメイプルを襲う。しかし、やはりダメージは見た目に反してあまり効かない。

 

 

 

「ダメージ目的じゃないんだ【身体装甲】炎 炎燒」

 

 

 

熱に覆われた空間は洞窟内の岩すらも溶かし、偽メイプルの盾も燃え尽きる。偽メイプルはただ立ち尽くしていた。

 

 

「本物のだったら復活するけど、違うようで良かった。」

 

 

とは言っても、状況は一転していない。とてつもなく高い防御力に阻まれるのだ。

 

 

「【天邪鬼】を使えば…いや、まだ何があるかわからない。なら、残す手は」

 

 

何かを案じたのか、マテリアルは策を取らなかった。代わりに

 

「爆裂炎」

 

光り輝く炎が渦巻き、偽メイプルの周りを囲む。

 

「【毒竜】」

 

 

毒竜は現れこそしたが、周りの熱によってすぐに蒸発してしまった。

 

 

「燃え尽きろ」

 

 

渦巻いた炎から細かい炎の針が発射され、偽メイプルを貫く。攻撃が当たった部分から熱が浸透し、赤いエフェクトが染まっていく。

 

 

「貫通ダメージ、与えられるダメージは1でも100発も撃ったらお終い。」

 

単純にこっちの方が効率が良かったようだ。

 

 

〈数分後〉

 

 

「やっと終わった。さて、二人は大丈夫でしょうか」

 

 

 

 

「誰のことを考えてるの?」

 

 

「うん、大丈夫だよ。」

 

 

後ろから現れたのは

 

 

 

「メイプルさん、サリーさんご無事でしたか。」

 

 

ほっと胸を撫で下ろしたマテリアルであった。

 

 

「それにしても、どうやって倒したのですか?」

 

 

「ほんとに酷い目に遭ったんだから」

 

サリーがため息をつきながらいう。

 

「すみません。」

 

 

「まあまあ、マテリアルも私たちの偽物と戦ってたんだし」

 

機嫌の悪いサリーを宥めようとするメイプルだった。

 

 

〜〜〜

 

 

 

「【身体装甲】炎 獄炎の舞踏」

 

 

燃え盛る黒い炎がメイプルたちの足元に現れる。

 

 

「まずい、避けられない」

 

 

 

しかし、

 

 

 

「【身体装甲】水 水碧」

 

 

遠い場所からエコーがかかったような音が聞こえる。

 

突然現れた水によって炎は蒸発し、無力化された。

 

 

「今のうちに」

 

 

「わかった、【毒竜】!」

 

 

「【身体装甲】毒」

 

 

「【ダブルスラッシュ】!」

 

 

「鋼」

 

 

 

「【毒竜】!」

 

 

「【身体装甲】毒」

 

 

「…!? メイプル、いい作戦思いついた」

 

 

「え?」

 

~~~

 

 

 

はい、ここから先はご想像にお任せいたします。

 

 

「なるほど、そんな手が」

 

 

「まあ、本物には効かないんだけどね。」

 

ちょっと残念そうにサリーがつぶやく。

 

「そういえばメダルは」

 

今のは聞かなかったことにしたかったマテリアルは話題を変える。確かに、これだけの労力を叩いてなしでは笑いことにならない。

 

「落ちてるかも、探そう。」

 

 

 

辺りを探すと3枚のメダルが見つかった。

 

 

 

 

「うーん、3つだけか。」

 

 

 

「まあ、無いよりかはマシと思いましょう。」

 

 

 

「そうだね、そろそろ外に出ようか。これ以上何かあったら困るし。」

 

 

「2回戦は勘弁したいですね、とっとと出ましょう」

 

洞窟を出た後、ドッと疲れが出たのか3人は倒れるように眠ってしまった。

 

 

本日の収穫 3枚

合計 15枚

 




あれ、今日もマテリアルがいないな。では、一人語りということで。

作者はアニメ勢なのですがせっかくでしたので原作も読ませていただきました。個人的に偽物対決はとても面白かったので使わせていただきました。原作のほうが絶対面白いので未読の方はこんな作品よりも読んでください。もちろん今作を読んでいただいても構いませんが比較はしないでください。差が圧倒的ですから。


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受難

本日2本目、投稿に余裕があったのでやりました。来週は頻度が落ちるかもです。許してください。


4日目

 

 

3人は森林から出ようとしばらく歩いていると

 

「砂漠…」

 

 

目の前に広がるのはどこまで続くかすらわからない砂漠だ。一面に広がった砂は永遠にも見えるくらい。

 

プレイヤーは視界には映らない。

 

 

「さて、進みます?」

 

 

「うん、メダルがある予感がするから」

 

 

 

道中、砂漠ならではのサソリやサボテン型のモンスターが現れたが難なく突破した。見つけた瞬間マテリアルが風で斬るのだから2人はやることがなく暇である。

 

 

 

「【身体装甲】砂」

 

そう呟いた瞬間、身体が砂の粒となった。そして、突然の強風によってマテリアルだった砂は吹かれて飛んでいった。

 

 

「サ、サリー!マテリアルが消えちゃった」

 

 

「おおお落ち着いて、まずは砂を集めなきゃ」

 

サリーがマテリアルがいたところの砂をかき集める。しかし、元に戻る気配がしない。残っているのはマテリアルのものと思わしき靴だけである。

 

2人がドタバタしているとどこからか

 

 

「問題ないです」

 

 

マテリアルの声がするものの、どこにも見当たらない。

 

 

 

次の瞬間、背後の砂から人型になりマテリアルが元へ戻る。

 

 

「危なかった。あと少し気を緩めてたら迷子でした。すみません、なんかイメージしたらこんなことに」

 

 

「急に消えちゃったからびっくりしたよ。」

 

 

「攻撃とかどうなるんだろ…」

 

やめて、サリー。そんな目でマテリアルを見ないで。

 

「それはさておき、オアシスを見つけました。」

 

話題転換、クタクタの2人の注意を見事に逸らすことができたようだ。

 

「よし、行ってみよう」

 

 

 

そういうと、3人はマテリアルの飛ばされていた方向へ歩き出した。

 

 

 

〈オアシス〉

 

 

 

「むー…何もないね」

 

「残念だけどそうみたい」

 

ダンジョンに続く道を探してみたものの特に何も見当たらなかった。

 

 

「ちょっと休憩してから行く?」

 

 

「別に構いませんが、それどころじゃ無いみたいですよ」

 

 

マテリアルが見た方向には誰かの人影が見えた。

 

 

 

 

「おっと…先客か。それも、メイプルとは……私も運が悪い」

やってきたのは和服を着た女性。

上半身は桜色の着物。それに紫の袴。

そして刀を一本装備しているのがぱっと見て分かる特徴だろう。

 

「あの人前回イベント6位の人だよ」

 

「えっ!?本当」

 

「結構調べてあるから、それくらいなら知ってるよ。マテリアルは11位だったね。」

 

 

「いいな、6位」

 

 

「だめだ、これは話を聞いてない」

 

マテリアルの目は遠くを見つめている。

 

「こちらに戦闘の意思はない、できれば見逃して欲しいのだが」

 

敵意を見せないために両手を上げて意思を示すのだが

 

「やっちゃう?」

 

「やっちゃおっか」

 

クロムのように知り合いでもないので決心がついたようだ。すなわち、メダルの強奪である。

 

「…。」

 

一方、マテリアルが現実に戻る気配はしない。元々ゲームなのだが

 

「…【超加速】」

 

刹那の沈黙の末、女性が取った行動は逃走だった。

 

「【超加速】!」

 

サリーが逃すまいと後を追う。速さは同じくらいだろうか。

 

「え、待ってー」

 

【超加速】のような移動スキルを持っていないメイプルはそのAGIで走って追いかける。追いつくのはいつになることやら

 

一方、まだマテリアルはその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

〈しばらくして〉

 

 

「あれ、いつの間にか2人ともいない。もしかして、置いて行かれた?」

 

女性を追っていったサリーを追いかけ、メイプルも走り去ってしまったことまでなんとか推測した。

 

 

 

「うーん、どうしよ」

 

このまま移動して良いものかどうか悩んでいた。

その時、マテリアルの目の前に画面が映し出された。

 

 

「フレンドチャットか、結構前からのやつかな。サリーさんからだ。えっと」

 

 

 

『流砂に飲み込まれたのでしばらく戻れなさそう。先に探索を進めてて。』

 

 

「…あー、まあ無事ならよかった。さて、仕事に取り掛かろう」

 

 

マテリアルは砂に両手をつき目を閉じる。

 

 

「【探知】」

 

 

広大な砂漠を解析しているため、かなり時間がかかってしまうようだ。背後は無防備になっているため恰好のカモだ。

 

 

「もらったー」

 

 

突然、後ろからプレイヤーが剣を振り下ろし、襲いかかってきた。

 

 

しかし、切り裂かれたのはマテリアルではなくプレイヤーの方だった。

 

 

「罠発動 カウンタートラップ。【結界】を張っておいて助かった。」

 

 

奇襲されるという可能性を考慮したマテリアルはそんなこともあろうかと結界を張って攻撃してきた相手に反撃を与えたのだ。

 

 

「まあ、そこまで強力なものじゃ無いからちょっと強いプレイヤーが来たら壊されちゃうんだけど。」

 

 

その心配はなかったようだ。そもそも、【探知】でプレイヤーがいたのは分かりきっていたことである。あの後、少しして砂漠の解析が完了した。

 

 

「【身体装甲】光」

 

 

探知でメダルを確認したところに速攻で向かい、回収する。合計3枚のメダルが見つかった。広大な砂漠から一体誰が見つけられると運営は思ったのだろう?

 

 

 

「それにしても、メイプルさんたちは遅いなぁ」

 

 

と、つぶやくと

 

 

 

「【炎帝】」

 

 

静かに呟かれたその言葉に応じて巨大な火球がマテリアルへ向かって飛んでいく。

 

 

「【身体装甲】水 水碧」

 

 

なんとか防ぎ切ったものの、爆風によって砂が舞い、辺りがよく見えない。

 

 

 

「こういうのは、とっとと逃げたほうが得策か。」

 

 

素早く飛び去ろうとしたものの

 

 

「【噴火】」

 

 

地面から火柱が現れ、マテリアルの進行を妨げる。

 

 

「どうやら簡単には逃がしてはくれないようだ」

 

 

地上に降りると、十数人の赤い服を纏ったギルドメンバーのような人達が現れる。そして、真ん中に現れたのは

 

 

「どうやら、偵察隊の1人を倒したのは貴様のようだな」

 

 

 

【炎帝】の二つ名を持ち、赤いマントを羽織った女性、ミィだった。第一回イベントの順位は4位である。杖を持っていることから後衛の魔法使いであると推測される。

 

 

「なんとことやら?ただの放浪プレイヤーですよ。」

 

 

わかりやすい声でとぼけるマテリアル。しかし、目をつけられてしまったようで

 

 

「並のプレイヤーだったらさっきの一撃で飛んでいる。そうではないということは」

 

 

マテリアルの心の中では、さっきの爆風に紛れて隠れておけば良かったという強い後悔が残っていた。

 

 

「困ったなぁ」

 

 

探知による解析と早急に済ませたメダルの回収によってかなりのMPを消費している。敵も1人だったらまだ倒せたかもしれないという希望があったので良かったものの、かなりの人数、しかもなかなかの手練れが何人か控えているようだ。

 

 

 

逃げる事はできない、かといって真っ向から勝負したら物量で負ける。そう思ったマテリアルは逃げる程度まで敵を削ることに決めた。

 

 

 

「【身体装甲】風 風刃」

 

マテリアルの両サイドから風でできた小刀が現れ、プレイヤーたちを襲おうとする。しかし

 

 

「【爆炎】」

 

 

炎によってそれは阻まれてしまった。

 

 

「私は【炎帝ノ国】ギルドマスターのミィだ、貴様は?」

 

 

「マテリアルと言います。」

 

 

爆風を避けながら簡単に自己紹介をする。今更のことなのだが、第一回イベントが終わってからいくつかの派閥ができていた。公式からはまだギルドというものはできていないが近々実装予定という噂がある。当然、マテリアルには関係ないことであった。

 

 

 

「どうだ?私のギルドに入るつもりはないか」

 

 

ミィが口を開くとギルドの勧誘である。マテリアルとしては悪い話ではないのだが

 

 

「…遠慮します。」

 

人が多いところには行きたくないようだ。

 

「そうか、それは残念だ。総員、攻撃開始」

 

 

ミィの合図と同時に多種多様な魔法攻撃がマテリアルを襲う。逃げ場もなく、マテリアルはもろに攻撃を喰らってしまった。

 

 

「…やったか?」

 

 

その発言はよろしくない。

 

 

 

爆発の跡地、砂漠の一角にてマテリアルを探したものの何も見つからなかった。

 

 

「可笑しいですね、あれほどの実力を持った者が一つもメダルを持っていなかったなんて」

 

1人のプレイヤーがミィに話しかける。

 

 

「そう、だな」

 

 

ミィはどこか気がかりがあるかのように遠くを見つめていた。

 

 

 

その頃、メイプル達一向は元の砂漠に戻ってきた。ミィ達とは反対側にいるので安全圏である。

 

「夜空だ。」

 

輝く夜空は彼女達がダンジョンから脱出できたことを祝福しているよう

 

「そういえば、マテリアルは!?」

 

はっと思い出したようにマテリアルの名を出す。

 

「オアシスのときに一緒にいた子か?」

 

「うん、おいてきちゃったんだけど大丈夫かな」

 

そのまま3人はマテリアルを捜索するようだ。

 

 

 

「ねぇ、2人とも」

 

 

「何、メイプル…!?」

 

 

3人が見たのは砂漠の上にも関わらず黒い焦げ跡の残った場所だった。そして、焦げた跡地からはどこか見覚えのある指輪が落ちていた。

 

 

「もしかして、マテリアルは」

 

 

「連絡しなきゃ」

 

 

チャット欄を開いたもののマテリアルの反応はない。

 

 

「ごめん、マテリアル」

 

 

〜〜〜

 

 

 

「危なかったー」

 

 

火山の麓にマテリアルは座っていた。砂漠からは随分と離れた場所に存在している。なぜ、マテリアルは無事だったのだろうか。

 

 

 

「【身体装甲】の砂があって助かった」

 

 

 

あの攻撃に当たる直前、マテリアルは既に砂となっていたのだ。そして、攻撃を無力化しあの勢いのままに飛んでいった。

 

 

細砂化

どんな攻撃からもダメージを受けない無敵状態になる。しかし、その状態時攻撃は不可。移動も制限される。1日1回使用可能。使用後10分間は反動で動けない。装備を高確率で1つ落とす。

 

 

 

「デメリットは運が悪かったら敵のところに行って戻る前に倒される可能性がある、ってことか。」

 

 

使用状況はかなり限られるものの、強い技である。

 

 

「それにしても、どうしたものか。」

 

 

何故かはわからないが【探知】が働かない。働くには働くのだがなぜかなすなわち、自身の居場所すらわからないのだ。いや、これが普通なのだが。

 

 

「無差別に飛び回れば…いや、効率が悪すぎる。運任せじゃ流石に無理だ。ん?」

 

 

考えていると、チャット欄にサリーから連絡が来る。

 

 

『ごめん、私達が急いだせいで。』

 

 

その一言しか書かれていなかった。まずい、これは非常にまずい。

 

 

「合わせる顔がない…」

 

 

メイプル達はマテリアルがリスポーンしたと思っている。しかし、普通に生きていたとなると顔が合わせづらい。探知も効かないことから導き出された答えは

 

 

「しばらく単独行動しよう」

 

 

であった。

 

 

本日の収穫 5枚(メイプル&サリーで2枚)

 

合計20枚

 

 

目標まで残り10枚!!

 

5日目

 

 

 

丁度よく目の前にあった火山にて、マテリアルは探索を続けていた。周囲の様子は降り注ぐ火山灰の影響でよくわからない。そのおかげで午前中を無駄にしてしまった。午後は山登りをするようだ。

 

 

「進むにつれて熱くなってる。」

 

 

【身体装甲】炎で耐熱性はあるものの、じわじわと迫る熱気にはどうしようもない。ダメージは一応はゼロだ。

 

 

 

「モンスターもほとんど出てこないし、どうなってるんだろ」

 

 

さっきから現れるのは焼けた石やろうそく型のモンスターだった。レベルは大したことなく、軽く斧を振り下ろしただけでなんとかなった。

 

 

「そもそも、こんなダンジョンに人が来れないと運営は思ったのかな」

 

 

 

普通のプレイヤーだったら火口近くで焼け倒れてしまうであろう。よほどの魔力耐性や防御力がない限り、ここには踏み入ることができない。マテリアルはそのうちの1人だ。

 

 

 

「ボス部屋かな?」

 

 

山頂に着くと、燃え盛る火山の中から何かが光っている。1日目で見た怪鳥と一緒だ。

 

 

 

「ノーダメ、MPは9割、メンタルも平気。よし、いくか。」

 

 

 

そういうと、火山へ飛び込むマテリアルであった。

 

 

 

 

 

着いたのは火山の地下、しかし今にでもボスが襲ってくる、そんなプレッシャーが放たれていた。

 

 

 

「…来る」

 

 

背後からの気配を感知し、結界を張って敵の攻撃を防ぐ。

 

 

「炎の攻撃、まあ火山だし」

 

 

 

暗い洞窟の中、明るく輝いて現れたのはあまりの美しさに見惚れてしまうような不死鳥だった。そんなことはマテリアルはするはずもなく

 

 

「熱の定数ダメージはない、切り替えても大丈夫」

 

 

と判断すると、マテリアルは水の姿に切り替える。炎は水に弱い、これは小学生でもわかる事実だ。

 

 

 

不死鳥から放たれた炎の吐息がマテリアルを燃やそうとするが

 

 

「水碧」

 

 

水の壁で防ぎ切った、そう思った。しかし

 

 

「!?」

 

 

水の壁が蒸発し、そのままマテリアルに直撃したのだ。

 

 

「熱い」

 

 

この攻撃でマテリアルのHPは7割を切ってしまった。

 

 

マテリアルは忘れていた、1日目の怪鳥の強さを。運営は作っていたのだ、怪鳥のようなぶっ壊れ性能のモンスターを。

 

 

「あの時はメイプルさんとサリーさんがいたからなんとかなったものの、一人であれをどうにかしろと?」

 

 

失笑のような、絶望のような笑いが込み上げる。

 

 

「ま、ちょうどいい。1人でもやれることを証明しないとね。」

 

 

と、一周回って振り切った。マテリアルの判断に迷いはなく、ただ不死鳥を倒すことにだけ集中した。

 

 

 

「攻撃はやはり複雑ではない。避ける事は可能だけどやはり相手の動きを見ないといけない」

 

 

燃え盛る炎の威力は凄まじく、ある程度の攻撃なら一撃くらい耐え切れる結界でも破壊し尽くしてしまうスピードと火力がある。すなわち、受け切ることはできないということだ。

 

 

 

「でも、時間を稼ぐことはできる」

 

結界で不死鳥の攻撃を弱めて避ける、これがマテリアルの防御の手段だ。だがこのままだと防戦一方で攻めることができない。

 

 

「このままじゃジリ貧、隙を見て攻撃しないと」

 

 

丁度、マテリアルのHPが半分を切ったところだった。

 

 

「【天邪鬼】スタート」

 

 

マテリアル

 

Lv.49

HP 224/480〈+150〉

MP 198/424〈+150〉

 

STR 117〈+150〉

VIT 19〈+25〉

AGI 117〈+150〉

DEX 117〈+150〉

INT 117〈+150〉

 

 

 

スタートとともに攻めに転じたマテリアルは最初からかなり全力で攻めていた。

 

 

「大海の雫」

 

 

 

それは雫と形容するにはあまりにも大きく、物凄い勢いで不死鳥を飲み込んだ。すでに部屋中が水浸しの洪水状態である。

 

 

「やったか」

 

 

 

はい、またですね。

 

 

 

水が引き、灯火が消されたかと思われた不死鳥であったがほのかに炎が輝いていた。

 

 

「嘘、だろ」

 

 

 

本の1ミリに満たなかった灯火は瞬く間に燃え盛り、さっきと同じ、いやそれよりも大きく燃えていた。

 

 

【不死鳥】

炎が全て消えない限りHPがゼロにならない。

 

 

 

「えぇ…」

 

 

運営のあまりにも酷いスキルに小さく絶望するマテリアル。しかし、次の瞬間新たな作戦を思いつく。

 

 

「一気に消し去る。」

 

 

これは作戦というにはあまりにも抽象的すぎた。だが既にやることは決まっている。

 

 

 

マテリアルの水技の中で最も強い技が先程の大海の雫だ。それが効かないとなれば打つ手はないことということだ。

 

 

 

水魔法に限っての話だが

 

 

 

「【身体装甲】風 暴風域」

 

 

鋭敏な竜巻の集合体が不死鳥を切り刻む。強力なダメージを与えることはできたものの、やはり全てかき消すことができず復活してしまう。

 

 

「でも、追い詰めた。」

 

 

暴風の中に閉じ込められた不死鳥は身動きを取ることができない。動いたと同時に暴風に炎が消されてしまうのだから。

 

 

「不死鳥の本質は炎、それも普通は消えることのない。けど、少しずつ弱めることができる。」

 

 

みるみると不死鳥が小さくなっていく。しかし、マテリアルのMPも残り3割を切り、制限時間は1分を切っていた。

 

 

「次の一撃で決める。【身体装甲】複合 水+風 風雲水流渦」

 

 

雲と水が押し上がるように不死鳥を飲み込んでいく。不死鳥は再燃しようとするも、雨雲にまとわりつかれて、雨粒に当てられて消されていく。

 

 

 

 

「勝った…」

 

 

安堵とともに疲労がやってきて、マテリアルはその場に倒れ込んでしまった。

 

 

 

本日の収穫 3枚(マテリアルのみ)

途中で1枚、倒して2枚の内訳

メイサリで2枚

合計 25枚

 

残り5枚!!

 

 




マ 「理不尽に飛ばされたんですけど。それになんかふざけたスキルのボスにも戦ったし」

作 「なんか、お疲れさん。大丈夫、次回はもっとひどい目に遭うから」

マ 「大丈夫って意味わかってます?」

作 「自分だけが辛いと思うなよ、お前のことを心配してる二人のことも考えておきな」

マ 「は、はい。なんで怒られてるんだろ」


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長旅と終盤

本話で第二回イベント終了です。ストックも半分ないです。


イベント6日目

 

「うぅ、ここは」

 

 

目が覚めると、そこは洞窟だった。

 

 

「そうだ、確か不死鳥を倒して…ここに生き残ってるってことは勝ったのか。」

 

 

既に時刻は7時を回っている。8時間ほどは眠ってしまっていたのだろう。身の回りの整理をしていると、とんでもないことに気がつく。

 

 

「チャットの通知がえげつないことになってる」

 

 

5日目の深夜に安否確認の連絡を見た以来、その後は火山登りに夢中だったため、完全に送るのを忘れていたのであった。

 

恐る恐る、チャット欄を開くとおびただしいほどのメッセージが送られている。5日目の朝まで遡ると

 

 

『昨日はごめん』

 

2人からそのようなことが続かれて書いてあった。

 

 

昼に移ると

 

 

『こっちは砂漠を抜けたよ。今はどこにいるの?』

 

 

近況報告が少し書かれていた。

 

 

夜になると

 

 

『ごめんなさい』

 

こういった綴りが止めどなく書かれている。まるで反省文のようだ。

 

 

そして、ついさっき

 

 

『戻ってきて』

 

その一言だけだった。

 

 

 

「なんか、すごく申し訳ない。何か送るか。」

 

 

 

『昨日はごめんなさい。【探知】がうまく使えなくて見つけるのを諦めて一人で探索をしていました。置いていったことを怒ってません。むしろ、置いていかれたのはこっちの責任です。【探知】の調子が戻り次第そちらへ向かいます。』

 

 

「っと、送信完了。向こうも平気かなぁ…いや、問題ないか。」

 

 

あのメイプル達だ、と一抹の不安を抱えながらも4日間ほど一緒に行動した結論として負けることはそうそうあり得ないと確信していた。

 

 

 

「【探知】!」

 

 

 

探知を働かせてみるものの、反応しない。どうしてか頭を悩めているととあることが思いつく。

 

 

 

「探知が働かなくなったのは火山に来てからだった。ってことはこの場所が原因?そもそも、かなり飛ばされたんだけど一体どこにいるんだろう。」

 

 

 

インベントリから滅多に使うことのない電子マップを漁りだす。

 

 

「良かった、こっちはちゃんと働いてる。」

 

 

マップの位置で現在地を見つけるも、周りに思い当たるものがない。というか、周りは真っ白になっている。

 

 

 

「ちょっと外に出てみるか。」

 

 

 

洞窟から出てみると、そこは一面の

 

 

「海!?」

 

珍しく声を上げる。

 

天気はやけに良く、水平線が綺麗に見える。火山灰で周囲が確認できなかった昨日とは大違いだ。

 

 

「なるほど、不死鳥を倒したことで火山灰が止んだのか。って、そうじゃなくって」

 

 

マップをルーズにしていき、しばらくスクロールするとやっとのことで本土を見つける。

 

 

 

「なるほど、【探知】の範囲外だったのか。解析したのは島だけだったからのと、大陸と遠すぎたのが原因かな。ともかく、早く戻ろう。」

 

 

それにしても、砂になったとしても【炎帝ノ国】によって飛ばされたのはかなりの距離だということを知るとやはりトップクラスのプレイヤーが多くいるということを痛感する。

 

 

 

「調子は万全、飛んでいける。【身体装甲】光」

 

 

マテリアルの身体は光に包められ、海を越えて飛んでいった。

 

 

 

〈しばらくして〉

 

 

 

「全然つかない」

 

 

 

マテリアルは大海の上に結界を張り、そこで座って休んでいた。飛ぶだけでMPが半分以上飛ばされるという予想外の距離に驚愕していた。

 

 

「あ、メッセージが更新されてる。えっと」

 

 

 

『今、私達は洞窟にいるよ。シロップと朧のレベル上げ中。メダルはサリーがPKしてくれたお陰で2枚増えたよ。気をつけて戻ってきてね。』

 

 

メイプルからであった。

 

 

「さて、後1日残して残り3枚はかなり調子がいい。戻る途中に見つけられるといいな。」

 

 

 

メッセージで元気を取り戻したマテリアルは再び飛び立つのであった。

 

 

 

 

またしばらくして

 

 

 

「はぁ、はぁ。やっと着いた。」

 

 

日は既に落ちており、マテリアルのMPもほぼ0に等しくなっている。敵との戦闘がなかったおかげでHPは満タンになっているのだがMPがないとほぼ戦えないマテリアルには辛い。

 

 

そこに、誰かの足音が聞こえてきた。

 

 

 

MPはもちろん、長旅で体力もメンタルも疲労し切っているマテリアルを倒すのは通常時と比べたら遥かに容易であろう。

 

 

残り少ないMPで剣を作り出すと

 

 

「待って待って、僕に戦闘の意思はないよ。ほら、僕のレベル5だし」

 

赤色の癖毛にスペードの形のイヤリング、色白の肌に髪と同じパッチリとした赤い瞳。身長はマテリアルより一回り小さく、総評すると美少年…美少女?であった。頭装備のイヤリング以外は、ぱっと見たところ初期装備だった。

 

ステータス画面を見ると、たしかにレベルは5だ。

 

「いえいえ、警戒するに越したことはありませんから。変な道具でも持ってたら形勢逆転なんて難しいことではありません。」

 

そう、第一回イベントのときのマテリアルは初期装備だった。なお、装甲は常時用いていた模様。

 

「確かに、それはごもっともだねー」

 

両手を挙げながらマテリアルに近づく。マテリアルはその行動に驚きつつも敵意はないと感じたのか、剣をしまう。マテリアル自身だったら絶対にこんなことはしないだろう。得体の知れないプレイヤーに近づくことと戦闘を放棄することのどちらかというと両方だ。

 

 

「僕の名前はカナデ、君は?」

 

 

「マテリアル、どうして話しかけてきたんですか?」

 

 

「マテリアル…メイプル達の仲間かな?」

 

 

「!?」

 

 

驚くマテリアルにカナデは続ける。

 

 

「本当に悪いと思ってるみたいだよ。早く仲直りしてあげたらどうかな?」

 

 

「?」

 

 

情報が追いつかないマテリアルと誤解をしているカナデ。いや、誤解をしたメイプルによって伝えられたカナデとでも言おうか。コミュ力が疲労で低いのが更に著しく低下しており、ついに喋ることを放棄している。

 

「それは…」

 

口を開いた瞬間、マテリアルは倒れていた。

 

 

〈少しして〉

 

 

目が覚めると、そこは浜辺だった。少し場所が変わって風が落ち着いたところにいる。

 

 

「あ、起きたんだ。大丈夫?」

 

「カナデさん…でしたっけ?」

 

「うん、そだよー」

 

しばらく話は続く、何かというとここまで移動した経緯とかそれに感謝だのの内容だ。本人から恥ずかしいから非公開である。

 

 

「あー、そういうことだったんだ」

 

 

マテリアルはカナデの誤解の経緯を説明した。ほんの数分で理解したところを見るにカナデはかなり頭が良いという印象を受けた。

 

 

 

「なんか、すみません。メイプルさん達の愚痴に付き合わせてしまって」

 

 

「いいよ、僕も一緒にゲームして楽しかったからね。」

 

「ちなみに何を?」

 

「オセロだよ。ちょっと遊んでいく?」

 

 

「やめときます」

 

 

マテリアルはびっくりするくらいオセロが弱い。全て相手の色に変えれてしまうことがほとんどである。ただボードゲームが下手というわけではない。むしろ、将棋やチェス、囲碁の類は滅法強いのだ。オセロが弱いのはもう諦めている。理由すらもうわからない。

 

 

「おーい、マテリアル、大丈夫?」

 

 

「おっと、すみません。大丈夫です。ここでなら見つけられるはず」

 

 

マテリアルが両手を地につけると

 

 

「周りに誰か来たら教えてください。」

 

 

「うん、わかった」

 

 

カナデもマテリアルが何をしようとしてるのかなんとなくわかったようだ。後で2人に自分のスキルをあまり他言しないようにと忠告しておこうとも思った。カナデが良い人で良かった。

 

「見つけた。では、次会ったときに必ずや御恩を返させていただきます。」

 

 

「うん、バイバーイ」

 

 

カナデの見送りの元、巣立っていくマテリアルであった。フレンド登録は一応してある。

 

 

 

本日の収穫 0枚 (マテリアル自身は0)

サリー2枚

 

合計27枚

 

あと3枚!!!

 

7日目

 

 

「やっと、見つけました。」

 

 

マテリアルが洞窟の前に降りる。どうやら洞窟内は毒で満たされているようで普通のプレイヤーでは入ることすらできないだろう。

 

 

「【身体装甲】毒」

 

 

何もないかのように毒の海を泳いでいくマテリアル。マテリアルは泳ぐのも苦手だ。泳ぎ方は一通りできるのだが極端に遅い。

 

 

「やべ、息継ぎミスった」

 

 

これが原因の一つだ。息継ぎがうまくできない、水泳が苦手な人の多くが息継ぎができないことで決まる。マテリアルにしては珍しく典型的なタイプだ。

 

 

「たちが悪いのが溺れても死なないことか。」

 

 

毒の海の上でぷかぷかと浮かびながら漂う。しばらくすると頭に何かがぶつかったことに気づいた。

 

 

「陸地だ。」

 

 

 

洞窟内、そこまで長い距離ではなかったのだがおかげさまでかなりの時間を要した。だが、リラックスはできたようでかなり調子が良い。

 

 

 

少し歩くと、誰かの気配を感じる。

 

 

 

「一の太刀 陽炎」

 

 

「【身体装甲】鋼」

 

突然襲いかかってきたものの、自慢の反応速度で攻撃を受け切る。襲ってきたのは

 

 

「あなたは、オアシスでの」

 

 

「マテリアル、だったか?無事で良かった」

 

 

ほぼほぼ初対面の人に心配をされる。マテリアルには意味不明の状況だ。

 

 

そこで和服の女性、カスミは今までの経緯と自己紹介をする。

 

 

「なるほど、うちのパーティメンバーがお世話になりました。改めてマテリアルって言います。よろしくお願いします。」

 

 

カナデのおかげかコミュ力もやけに調子がいい。

 

 

「で、お二人は」

 

 

「そこで気持ちよさそうに眠っているさ。」

 

 

「ならよかった。カスミさんもお疲れでしょう?見張りなら変わりますよ。」

 

 

「いや、さっき変わったばかりだからな。私だけ働かないというのはダメだろう?」

 

 

「いえいえ、2回も助けられたんですから。生憎元気ですのでどうぞお休みなさって」

 

 

 

「なら、お言葉に甘えるとしよう。」

 

 

そういうと、カスミは奥へと行くのであった。

 

 

 

「よしっ、まずは【結界】」

 

 

部屋の周りを結界で防ぐ。破壊されたら音が鳴るアラーム付きという謎の器用さすら身に付けた。やけに便利だ。

 

 

 

「あとは、毒をもう少し強くしようか。」

 

 

 

【身体装甲】の氷で毒海の表面を凍らせた。しかし、一歩でも踏み入れたらボチャンだ。念のためこの先注意の看板を添えておく。

 

 

「うん、これでよし。」

 

 

謎の親切心で自己満足するマテリアルであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ、」

 

 

どうやら寝落ちしてしまっていたようだ。しかし、周りは何も変化はなく敵襲はなかったようである。

 

 

「あ、やっと起きたんだね。」

 

 

「おはようございます、メイプルさん。」

 

 

実に2日ぶりの再会だ。積もる話は…マテリアルは特に話すつもりはないようだ。

 

 

「ご無事で何よりです。」

 

 

「うん、そっちこそ。ごめんね、置いてっちゃって」

 

 

「そう何度も言わないでください。大丈夫ですよ、機嫌も悪くないですし。」

 

 

少し気まずい空気が流れ

 

 

「これ、お願いします。」

 

今まで獲得した分のメダルを渡す。

 

 

「え?」

 

「3枚、足りないんですよね。今から取ってきます」

 

 

 

マテリアルはPKでメダルを獲得しにいくようだ。

 

 

「うん、頑張って」

 

 

そういうと、毒海を少し強く凍らせて歩いていくマテリアルであった。

 

 

 

「昨日はMP足りなかったからね。よし、9割以上ある。準備は万端」

 

 

 

 

目標はメダル3枚。探知を使えばすぐに標的は見つかるだろう。しかし、マテリアルとしてはあまりPKはしたくはない。色々な意味で疲れるからだ。まあ、襲ってこられたら話は別になるのだが

 

 

 

「…ここの落ち葉の下」

 

 

難なく見つかった。その間わずか10分、こんなに上手くいくとは思わなかった。さて、あともう2枚。こんなに簡単なお使いがNWOであったでしょうか、いやない、あるわけない。

 

 

というフラグ全開のことをマテリアル君は考えてます。

 

 

 

「【神速】!」

 

 

「【身体装甲】鋼 バレていないとでも思いました?出てきなさい。」

 

速攻でマテリアルを捕らえようとしたのだろうが、やはり【探知】で誰かがいることは気づいていた。奇襲なんて受けるわけがない。誰かがマテリアルを待ち伏せしていた。いや、さっきのメダルはただの撒き餌だったのだ。より大きな獲物を捕らえるために。

 

 

「あー、ミスったか。まあいい、ここで決めるからよ。」

 

第一回イベント第二位のドレッドである。二つ名は【神速】、アサシンスタイルという情報諸々をマテリアルは得ていた。

 

 

「えっと、戦いたくないのですがそちらに戦闘の意思があるならどうぞ。でも、遠慮はしませんよ。」

 

 

丁寧な口調で、少し弱々しくいう。

 

 

「怠いがやんなきゃなんねえんでな」

 

 

マテリアルは怠いならやらなきゃいいのにと思いつつ戦闘態勢に入る。生憎、あのタイプの攻撃じゃ鋼の姿に大した傷はつけられないだろう。しかし、マテリアルは知っていた。既にかなりの数のプレイヤー、しかも敵に囲まれていることに。

 

 

「このまま逃げたらまずい、せっかくの安全地帯が辛くなる。調子もあるし、少しばかり暴れさせてもらおうか。【身体装甲】氷」

 

 

マテリアルが切り替えた瞬間、プレイヤーに寒気を感じさせる。それは決して外的な表現だけではなかった。

 

 

「冬将軍」

 

 

北風と共に、大規模な猛吹雪が訪れる。

 

 

「凍てつけ」

 

 

 

森だった辺りの木は全て葉が落ち、代わりに雪化粧をしている。まるで冬が訪れてしまったようだ。

 

 

「さて、戻るとしますか。」

 

 

「させねぇよ」

 

 

「氷柱の短刀」

 

 

ドレッドのダガーを即席の短剣で防ぐ。丁度両手に短刀を構えているので条件は一緒だ。

 

 

「さて、まだ戦います?」

 

 

フィールドを完全に支配したマテリアルは余裕の表情を見せる。周りの凍った地面で戦うのはあまりにも不利だ。

 

 

「…しょうがねぇ、今回は引く。だが、次は容赦しねぇからな。」

 

 

そう言って去っていった。

 

 

「危なかった」

 

 

実はマテリアル、この技を使うのは初めてで氷上もかなり慣れていない。ドレッドが立ち去ったあと、即座に尻餅をつく。

 

 

「冷たい、冬将軍 退場」

 

さっきまでの寒さが嘘のように飛んでいき、暖かくなる。

 

 

「あのまま戦闘になってたら本当に笑えなかった。」

 

 

策はあったものの、流石にいきなり実戦というのは自滅しないとも限らないので危険だ。どうやら‘勘’が働いてくれたらしい。実際、戦ったら7割近くの確率で負けていただろう。

 

 

「彼の予想だったら勝てた、もしくはかなりの重傷を負わせられたというわけ?アドリブでもできないわけでもないということか。挑戦は大事だからね。」

 

 

と、自己分析を続けていると連絡が入る。

 

 

「終わったら早く戻ってきて。何があるかわからないから。」

 

サリーからの助言であった。終わったらというのは、メダルを1枚手に入れたら。というわけでとっとと残り2枚を見つけることとした。

 

 

 

「【探知】 うーん、メダルがたくさんあるところは見つかったんだけど…」

 

 

ご想像通り、そこは戦場だ。

 

 

「背に腹はかえられぬ、か。」

 

覚悟を決めたマテリアルは戦場へ駆け出すのであった。

 

 

 

「うーん、なかなかいないか。」

 

 

数百人を空からの爆撃で始末したのだがメダル持ちはいなかった。実に効率の良い攻撃方法だ。誰も上から攻撃されるなんて思いもしないだろう。防がれなかったらほとんどのプレイヤーは倒せるようだ。

 

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

運悪く、そこには耐え切れるほど十分な耐久を持ったプレイヤーがいたようだ。マテリアルの第一印象は金髪でちょっとチャラいとのこと。

 

「【身体装甲】鋼 鋼鉄の剣」

 

背後に回られたことにより、反応できたとしても力負けし飛ばされる。

 

「おかしい、【探知】には反応しなかったはず」

 

疑問を持ちつつも、魔力を感じたおかげか致命傷は避けれたようだ。

 

 

「もっと、戦おう」

 

小声で言っていたのではっきりとはわからないがそんなことを言っているように聞こえた。

 

そんなことを考える間もなく、聖剣が貫こうとしてあるのだから休む間もない。

 

お気づきかと思うが第一回イベント、第一位のペインである。マテリアルもそれに気づいていたようでメダルを得る良い機会だと思ったようだ。果たして勝算はあるのか?

 

「勝算なんてない」

 

と、小さくつぶやく。剣は2度聖剣と相見えたことで鉄の鈍である。噂だと既にレベルが60後半というのだから少なくとも火力においてステータス差で勝てることはないだろう。立ち回りが重要だ。

 

 

「なかなか、やるな。」

 

ならばと後に続くのだろう。マテリアルは身構える。しかし、距離はかなりあるのだが

 

「【超加速】!」

 

 

突然の接近によって、マテリアルは判断できず

 

 

「終わりだ、【断罪ノ聖剣】!」

 

 

「!?」

 

聖剣がマテリアルに斬りかかり、倒れる。追い討ちを掛けようとしたペインだったがそれは無駄だったようだ。

 

 

「なっ!?」

 

そう、氷の像だったのだ。本物のマテリアルは既に遠くへと逃げている。手には7日目に得た3枚の銀のメダルを握って。

 

 

さて、どうしてこんな芸当ができたのだろうか?

 

やはり、ここで用いられたのは氷と、今回も砂であった。砂にすることで地中に潜り、地下から氷の像を操っていたのだ。メダルはどうやって取ったかというのは風に切り替えて器用に取ったという何の面白みもない方法だ。

 

 

「うっ、傷が」

 

かといって、全ての攻撃が効かなかったわけではない。消耗はかなりしていた。元から戦うつもりはなかったから更にHPを減らす要因となった。

 

 

洞窟に戻ったマテリアルは何事もなかったのように3人と合流した。どうやらオセロで遊んでいたようだ。せっかくなので、とマテリアルも混ぜされられる。

 

 

 

「うぅ、また負けた。」

 

 

「将棋なら負ける気はしませんよ。」

 

 

メイプルとマテリアルは偶然持ち合わせていたボードゲームで遊んでいた。ちなみにこの前にやったオセロはマテリアルの6戦6敗、将棋はハンデを少しずつ与えていったものの6戦6勝だった。

 

 

「なんで王将しかいないのに負けてるの、メイプル」

 

 

「だってぇ」

 

 

「まあ、オセロは全部負けましたが。」

 

 

「それにしてもすごかったな、全部黒になるとは」

 

観客として見ていたカスミも思い出す。

 

「サリーさん、オセロやってみません?」

 

「うん、いいよ。私が白で」

 

さて、ここまではメイプルがただ強いと思うだろう?それだけではないのがマテリアルだ。

 

 

~~~

 

 

「負けました。」

 

 

 

一面綺麗に真っ白である。

 

 

「どうですか?オセロで完全に負けることのできる特技」

 

 

「それを特技というのはどうだろうか…」

 

カスミの指摘が軽くマテリアルに突き刺さったものの、サリーに王将単独勝利をしたので気分は晴れたようだ。

 

そんなこともあり、無事第二回イベントは幕を閉じたのであった。

 

 

「では、また会いましょう。」

 

 

マテリアルは3人にそう挨拶すると一足先にスキルを選びに行くのであった。

 

 

 

マテリアル 合計獲得枚数 10枚

 

Lv.50

 

HP 240/240

MP 212/212

 

STR 40+50

VIT 40+50

AGI 40+50

DEX 40+50

INT 40+50

 

スキル

【探知】【結界】【天邪鬼】【身体装甲】

【絶対防御】

 

 

 

 

〈スキル選択の時間〉

 

 

 

「あれ?スキル未だに5つしかないんだけど。何かしら使えそうなスキルが欲しい…」

 

とはいっても、身体装甲だけで普通のプレイヤーのスキル数は簡単に超えることができるのでほぼほぼ問題がないに等しいのだが。

 

 

 

「ステータスアップ系統は【天邪鬼】あるから一旦パスするとして、戦闘系スキルとか生産系スキルが無難かな。」

 

 

その二択で考え、しばらくすると

 

 

「戦闘系スキル、要らなくない?」

 

 

身体装甲さえあれば問題ないとのことだ。

 

 

「じゃ、生産系スキルにしよ……あれ?必要ないんじゃ…」

 

 

マテリアルは気づいてしまった、生産関連も【身体装甲】だけでどうにでもなることを。

 

 

「……保留にしよ」

 

 

1時間悩みに悩んだ挙句の答えがこれであった。

 

マテリアルの持つ銀のメダル10枚は静かに仕舞われた。

 

 

 

 




作 「はい、怒涛の最終日だったね。」

マ 「本当、攻撃されてばっかのイベントでした。」

作 「そりゃまあ、そういうもんだからな。仕方ないだろ、っていうかお前が言えたことじゃないだろ」

マ 「それもそうですけど…トップランカーと遭遇の率が高いって言いたかったんです。」

作 「本当は君よりも順位上のを全員出したかったんだけど時間がないから割愛した。」(面倒臭さかったから)

マ 「心の声漏れてますよ、ドレッドさんだってほとんど登場しなかったに等しいですし。」

作 「大丈夫だ、奴の出番は後である。それより、カナデ君の口調が心配だ」

マ 「オリ主の体調より原作キャラの口調を気にする作者の鑑。というわけでブレてたらすみません。」



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第三回イベント

第三回イベントとかきつつ、前半は珍しくオリジナル回です。後半はいつも通り爆速で進めていきます。


第二回イベントが終わったマテリアルは、しばらく第二層攻略の戦線から離脱していた。その理由は

 

 

 

「今行きます!」

 

 

バイトの激化であった。ようやくバイトの面接の通知が来て、一週目。週5というかなり多い部類にシフトを入れてもらったおかげで、収入は多いのだがその分、疲労も大きくなってしまっている。そのため、ここ1週間近くはログインができていない。

 

 

 

とあるファミレスの夕刻、しかも休日ということもあり混雑している。新人のマテリアルも、バイト経験はカンストしているくらいにあるので慣れた手付きで客の元へと向かう。何故こんなに転々としているのだろう?まあ、働きすぎでクビになるという変わった始末を受けているのが雪村である。あと、ついでにコミュ力不足も含まれている。

 

 

 

「ま、言われたことをやるだけなんだけれど」

 

 

そんなことを呟いていると、高校生くらいの話し声が聞こえる。

 

 

「でさー、ここのダンジョンがすごく難しくて」

 

 

「あー、あの一つ目の怪物が出るやつか。攻略法がまだアップされてないやつな」

 

 

 

どうやらNWOの話をしているようだ。雪村には一瞬でわかった。もう既に廃人に片足を突っ込んでいるようなものなのだから。

 

 

 

(ん?待てよ。良いこと思いついてしまったかもしれない。)

 

 

どうやら良いこと?を思いついてしまったようだ。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「ただいま、NWO。」

 

 

実に1週間ぶりである。マテリアルの目標はただ一つ。3週間後に控えた第三回イベントだ。

 

 

「情報はまだ入ってないけど、噂だとドロップとかのイベントらしいな。」

 

 

次のイベント内容について掲示板で少し話題になっていた。バトロワ、探索ときて次はモンスターの撃破関連だろうという予想がメジャーだった。そうなるとも限らないのだが

 

 

 

「そんなことより、とっとと潜るか。」

 

 

 

周回はレベル上げの基本、マテリアルのレベルは50とトップクラスなのだが1週間も休んだおかげで少し出遅れている。

 

 

「【身体装甲】風 そよ風」

 

 

襲いかかってくるモンスターを軽く吹き飛ばす。身体装甲の使い方にも慣れてきたようで切り替えも消費MPも最短でできるようになっている。まあ、莫大な時間をかけたのだが

 

 

 

「うーん、レベルが上がり悩んできた。」

 

 

ボス戦を幾度か周回してもどうもレベルが上がらない。レベルが上がりにくくなったと思ってしまうのはレベルの急速な上がりすぎによるものだろう。

 

 

第二回イベントでは強敵と戦ったおかげでその分レベルが上がりやすかった。しかし、そんな敵はなかなか出てきてはくれない。

 

 

「あー、ダメだ。飽きてきた」

 

同じ作業をすることはあまり苦ではないマテリアルも収穫のなさに音をあげてしまう。そこで決めた。

 

 

「気分転換に散歩でもしよう」

 

 

NWOは通常通りにプレイするのも良いが景色も見所だ。思わず息を呑んでしまう風景がいくつもある。

 

 

しばらくして

 

 

「………どうしてこうなった。」

 

 

マテリアルは二層にいた。しかし、少しぼーっとしているうちに一層、しかも始まりの街にまで戻ってしまったのだ。公園のベンチでコーヒーを飲むというゲーム内では奇行に走っている。

 

 

「まあ、いいか。急いでるわけでもないし。」

 

 

 

と、のんびりと散策しようとしたマテリアルの近くに誰かが寄ってきた。

 

 

 

「すみません、パーティーに入れてもらえませんか?」

 

小さな女の子だった。見たところ初期装備で初心者と言ったところだろうか。

 

 

マテリアルは周りを少し眺めて、誰もいないことを確認して、自分に話しかけてくることに気づく。まさか自分に話しかけてくるプレイヤーがいるとは思ってはいなかったのだから。

 

 

 

「…どうかしました?」

 

 

年下の女の子にすらコミュ力不足を露呈させるほど、マテリアルのプライドは廃れてはいない。一瞬で頭をフル回転させて状況を立て直した。

 

 

「あの、パーティーに入れて欲しいんです。」

 

 

2回目、マテリアルよ、これ以上同じことを言わせるんじゃない。

 

 

そんなことは置いておいて、マテリアルはどこからどう見たってソロプレイヤーだ。パーティーのパの字も存在しない。初心者という線が濃厚になった。まあ、マテリアルも何かを待っている様子をしているのだけれど

 

 

「良いですよ、でもパーティーは組んでないので1人だけなのですが」

 

 

「え、良いんですか」

 

 

ダメ元で聞いてみたようだった。マテリアルの暇人そうな行動が彼女の勇気を奮い立たせたのだ。

 

 

「はい、ちょうど気分転換してたところだったので」

 

 

 

「あの、すみません。妹を呼んでくるので」

 

 

「はい、お好きにどうぞ」

 

 

 

初心者が1人増えようと大した差ではない。と、ここでマテリアルの脳裏によぎったのはいつも現れる嫌な予感だ。

 

 

「もしかして、妹が3人くらいいるパターンだったり…」

 

 

と、呟いたマテリアル。偉いぞ、これでフラグは壊された。

 

 

まあ、驚くのは変わんないけど

 

 

 

「ほんと!?お姉ちゃん、パーティーに入れてもらったの」

 

「うん、だから一緒に行こう」

 

 

 

「すみません、お待たせしました」

 

二人は背の高さと顔と武器が完全に一致していた。誰もが双子という第一印象を持つだろう姿だった。

 

 

「双子、ですか。」

 

 

「はい、もしかして嫌ですか?」

 

 

いや、双子だったら嫌って何だよ。超極度の集合体恐怖症か何かですか。

 

 

「いえ、お構いなく。では、そこらのダンジョンにでも潜りましょうか。」

 

 

マテリアルには一層に来たのはただぼーっとしていたからではない。ちゃんと目的もあった。ただそれが少し速くなっただけである。

 

 

「え、いきなりダンジョンなんて…足を引っ張っちゃうかもしれませんけど」

 

 

「まずは簡単なクエストから始めさせてもらってもいいですか?」

 

 

「んー、まあいいですよ。」

 

 

と言いつつ、思いっきりダンジョンに潜っていくマテリアルであった。初心者の二人には流石に気付かれていない。

 

 

「ステータスの振り方はどんな感じです?」

 

 

「私もお姉ちゃんもSTR極振りです」

 

 

極振りが流行ったのは他の誰でもない、メイプルが原因だ。ゲーム初心者にも関わらず、第一回イベントでは第3位という輝かしい成績を上げた彼女は大きな注目を集めた。そして、その大きな特徴の極振りというのが急激に流行ってしまったのだ。

 

 

まあ、大体のプレイヤーは途中で諦めてしまう。バランスが悪すぎるのだ。ステータスというのはどれも重要で、何かに偏らせてしまうと確実に何かが圧倒的に足りなくなってしまう。それをなんとかする実力やスキルがあれば話は別になるのだが。それができたのがメイプルというわけでみんなができたわけではない。

 

とにかく、極振りにしただけで勝てるほど簡単なゲームではないということだ。運営もきっちり仕事をしていることがはっきりわかる。

 

 

「了解しました、ではサポートは任せてください。」

 

 

正直、レベル1だったとしても極振りであればマテリアルのステータスは超えることができる。参考に、レベル1のときのメイプルのVITは100で、現在のレベル50のマテリアルは装備込みで100に満たない。HPを含めればマテリアルの方が硬いかも知れないがSTRでは話は別だ。

 

 

 

「え…でも」

 

 

「大丈夫です、サポートはしますから。」

 

 

軽く微笑むマテリアルを信じてくれたのか、二人は前に出る。襲ってくるモンスターに勇猛果敢に突撃するも避けられてしまった。

 

 

モンスターのお返しの攻撃が二人を襲うが

 

 

「【結界】」

 

 

マテリアルの発動させた結界によっていとも容易く防がれる。

 

 

「二撃目、お願いします」

 

 

合図と共に二人は同時にモンスターへ攻撃を再開する。またもや避けられるかと思われたが

 

 

「【結界】」

 

 

結界に閉じ込められたモンスターは結界ごと破った二人の攻撃によって倒される。

 

 

結界は一撃なら攻撃を耐え切れるので敵を閉じ込めることにも満足できるほどの万能スキルである。マテリアルが気づいたのはついさっきではあったのだが…。

 

 

 

「やったー、倒せた」

 

 

二人は声をあげて喜んでいるうちに

 

 

「っと、次行きますよ」

 

 

既に山のようにモンスターを片付けたマテリアルの姿が、その奥にあった。

 

 

「は、はい」

 

若干、いやかなり引かれている。

 

〈しばらくして〉

 

 

 

「ふぅ、やっとここまで来れた。」

 

 

初心者の連れのカバーということで、いつもよりも時間がかかってしまうマテリアルだがこれはこれで新鮮で二人が喜ぶところを見ると少し嬉しかったようだ。

 

 

というか、何故かボス部屋の前に来ても違和感に気づかないようだ。本人ですらいつもの流れとして感覚が麻痺してしまっている様子

 

 

 

「じゃ、行きましょう」

 

 

勢いのままにボス部屋に入る。

 

 

「私達、足手纏いになりませんか?」

 

 

「はい、火力はお二人の方が出ますからね。逆にここのボスだったら少し楽ですよ。」

 

 

怒号と共に現れたのは、マテリアルが初めて戦ったボス、鎧竜の登場である。

 

 

「えぇ、こんな強そうな相手」

 

 

「大丈夫、指示通りに動いてくれたらすぐに終わりますから。」

 

 

「は、はい!わかりました」

 

 

速やかに作戦を伝えると、鎧竜が攻撃を始める。鱗を飛ばしてくるあの攻撃だ。

 

 

「今ならもう余裕で防げるよ」

 

 

結界を鎧竜の周りに張って攻撃を無力化する。それに続いて、マテリアルの攻撃も始まる。やけになったのか、鎧竜は飛ばす量を増やすも減るのは自身のHPと VITのみ。すぐに輝き始めた。

 

 

「じゃ、ここからはお願い。」

 

 

「「はい!!」」

 

 

二人の元気の良い返事と同時に鎧竜は動き出す。しかし、どこかにぶつかっているのだろうか、動きが不自然だ。

 

 

「既にフィールドはこっちのもの。部屋中に【結界】を張ったから動く場所は制限されてる。」

 

 

仮に結界を破かれたとしても、マテリアルが結界を張り直す方が鎧竜が攻撃する速度よりも上回るため、どうしようも無く作られた道を走り続ける。

 

 

しかし、一向にマテリアルに近づかない。鎧竜もそれに気づいたようで遠距離攻撃を始めようと、その場に立ち止まり構えて魔力を貯める。

 

 

「今だ!」

 

マテリアルが叫んだ。それと同時に二人は鎧竜の左右から攻撃を始める。マテリアルのみに集中してしまったいたせいだろうか、鎧竜に攻撃がもろに届く。

 

 

当然耐えられるわけもなく、鎧竜は消えていった。

 

 

 

 

 

「では、また会いましょう」

 

 

こうして、マテリアルの原点回帰は終わったのであった。

 

 

 

~~~

 

 

 

ここまではおまけ、本編に入ろう。

 

 

 

「【結界】 【身体装甲】風 風刃」

 

 

第三回イベントの内容をざっくり説明すると牛を倒すだけのイベントだ。

 

 

そして、このイベントはかなりマテリアルに有利であった。理由は大まかに2点ほどあるのだがそれは追々説明するとしよう。

 

 

 

 

「もらったー」

 

 

プレイヤーが牛に斬りかかる。何かを斬った感触があった。しかし、牛は倒れていない。

 

 

「すみません、ここら一帯はもらったので」

 

 

「え?」

 

 

プレイヤーはマテリアルが何を言っているのか理解できずに、マテリアルは飛び去ってしまった。

 

 

プレイヤーが攻撃したのは結界だった。これは、牛が逃走しないようにするための檻というのが主目的だったが他プレイヤーの横取り(場合によってはマテリアル側もそっちに含まれるのだが)を防ぐことにも役立たれた。

 

 

結界は並のプレイヤーじゃ破壊できるものではない。

 

 

 

「【結界】は強度関連はMP消費するけど、大きさは決まってないんだよね」

 

 

ここぞとばかりに裏技を発揮させて圧倒するマテリアル。次のメンテナンスが来るまで結界の仕様が変わることはないだろう。開始数時間で成果は既に5桁を回っている。

 

良かったな、マテリアル。これでトッププレイヤーの仲間入りだ。

 

 

 

「【探知】」

 

 

フィールドで牛の多い区画を確認する。

 

 

「いや、そこは無理か。」

 

 

誰かはわからないがレベルがかなり高いプレイヤーが密集している。密集といっても、1平方キロメールに何人かみたいな感じなのだが

 

 

 

「こっちが空いてるかな」

 

 

 

牛の数とプレイヤーの数が少ないところに行けばほぼ確実にうまくいく。マテリアルの邪魔をされない限り数は訳も分からないくらいのペースで増えていく。

 

 

 

探索型やバトロワ以上に【探知】が役に立つ。

 

 

 

「風刃」

 

 

同じ技になってしまうがかなり凄まじい威力となった風刃が更に牛を貫く。ドロップ数はどんどん上がる。理論上、マテリアルの成果は鰻登りになる…しかし、そんなにうまくはいかない。MP切れだ。

 

 

 

「まだまだ、この日のためにいくつMPポーション手に入れたと思っているんだ」

 

 

半端ない数の周回を繰り返したマテリアルにMP切れを狙うのはほぼ不可能だ。少なくとも、一対一の時にMP切れで勝つというのはないだろう。

 

 

「この分なら……イベント終了まで保つ。」

 

 

しっかりとMP管理をしつつ、一心不乱に狩り続ける。

 

 

しばらくして

 

 

「こんなもんか、今日は打ち切ろう」

 

 

個人で断トツで一位にのし上がったマテリアル、イベント終了までには6桁後半が見えてくる結果だ。

 

 

 

〈イベント最終日〉

 

 

「光剣」

 

 

 

輝く小さな刃が牛の集団に突き刺さる。

 

 

「こんな感じかな。」

 

 

 

二位とは倍近く差をつけたマテリアルは胸を撫で下ろす。イベント終了まであと3時間だ。

 

 

 

「もう少し、あと少しで何かが掴める気がする。」

 

 

 

イベントの1週間を通して、マテリアルは何かの勘を掴み始めていた。それが何なのかまだ何もわからないけれど。

 

 

 

 

「まだ、まだ」

 

 

 

そのとき、マテリアルの装備にヒビが割れ砕け落ちる。

 

 

 

 

「痛て、どうなって」

 

 

マテリアルは自身の装備を確認するも、見えるのは半分くらい、いやそれ以上に壊れてしまった鎧だっだ。

 

 

「……どうしたものか。」

 

 

 

マテリアルは装備ができてから身体装甲を装備に付与していた。そのため

 

 

 

「まずい。この状況からどう脱しよう」

 

 

牛に囲まれた、いつもの借りを返そうと言わんばかりの目でこちらを睨んでくる。

 

 

 

1匹の突進と共に、一斉にマテリアルに走ってくる。

 

 

「【結界】」

 

 

問題はない、結界さえあればそこら辺のモンスターに負けることはない。

 

 

「うーん、防戦一方?」

 

 

攻撃は身体装甲頼りだったのでイマイチ決め手にかける。

 

 

「【結界】」

 

 

結界を剣の形に作り出し、両手に握る。

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…なんとか倒せた。」

 

 

 

最近は遠距離攻撃のみだったので近距離戦闘が鈍っていた。しかし、軽い運動でしっかりと取り戻せたようだ。

 

 

「それより、どうしよう」

 

 

壊れた装備を一先ずインベントリに入れて悩んだ。

 

 

 

「まずは、イズさんのところに行かなきゃ」

 

 

装備を作ってくれた本人のところへ頼みに行くことにしたようだ。

 

 

 

 

「…意外と遠かった。」

 

 

探知を頼りに歩いてきたためにかなり時間がかかってしまった。

 

 

 

怒られるのは省いておきましょう。

 

 

 

~~~

 

 

 

「……すみません。」

 

 

俯くマテリアルにイズも同情する。残念ながら怒られはしなかったようだ。

 

 

「まあ、しょうがない部分もあるわ。できる限りは尽くす、けどすごい時間がかかるから覚悟しておきなさい。」

 

 

「はい、直るならいつまでだって待ちます。」

 

 

「うーん、この分だと1ヶ月くらいかかるかもしれないわね」

 

 

ということは、第四回イベントには間に合わないということを意味していた。

 

 

「はい、わかりました。」

 

 

「あら、案外落ち込まないのね」

 

 

「くよくよしてたって何にも変わりませんから。三層も間近なので後ろばっかり見てても何も始まりませんし」

 

 

「でも、【身体装甲】なくて平気なの?装備に付与していたんでしょ?」

 

 

「【身体装甲】しか取り柄がないと思ってもらっては困ります。それくらい自力でなんとかしますよ。ではまた来ます。」

 

「気をつけてね」

 

 

 

イズに心配させないように言ったものの、身体装甲を失ったマテリアルはかなりの戦力が削がれてしまったことに変わりない。

 

 

「まぁ、代替手段があるだけまだ良い方か。」

 

 

マテリアルには固有スキルの結界がある。身体装甲の創生物よりかは精度は落ちるものの、戦えないわけではないくらいのポテンシャルを保有している。

 

 

 

「よし、やってやる」

 

 

 

 

新たに強い決意を固めたマテリアルであった。

 

 

 

第三回イベントはぶっちぎりの一位のマテリアル。注目度が上がりました。おめでとう

 

 

 

Lv.55

HP 240/240 +100

MP 212/212 +25

 

STR 42 +10

VIT 42

AGI 42 +15

DEX 42

INT 42 +10

 

スキル

【探知】【結界】【天邪鬼】【絶対防御】

 




作 「やれやれ、ちゃんと装備の点検しないからこんなことになるんだ。猛省しな」

マ 「はい、改めて【身体装甲】がなかったら何もできないって痛感しました。」

作 「まあいいや、どう足掻くかが楽しみだ。」

マ 「この人性格悪い」

作 「聞こえてぞ、あとよく言われる。」

マ 「わざと言ったんですよ。」

作 (次回もっと酷い目に遭わせようかな)


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ギルド

土日の反動で少なめです。勘弁してください。


三層が解放され、マテリアルは早速三層へ続くダンジョンの攻略に訪れていた。

 

 

「よしっと、ここまでは順調。あとはボスだけ」

 

 

三層へのチケットを手に入れるのも既にチェックメイト、あとはボスを倒すのみである。

 

 

 

「【結界】」

 

事前にボスの攻撃を耐えるために自身の身体に結界を張っておく。マテリアルの耐久はあるとしても現在は装備が市販のものだからほとんど働いていないのでVIT値が不安なのである。まあ、平均以上はあるのだが

 

 

「残念ながら、【結界】にも下方修正入ったんだよね」

 

 

 

【結界】

 

獲得条件

自己創作スキルより

 

効果

自身のMPを使用することにより、敵の攻撃を弾く、もしくは防ぐ壁を作り出す。使用したMPとVIT、INTの値に比例して結界は強くなる。

 

 

変更点(追加点)

強度の他に大きさに関してもMP消費を追加。

詳しくは概要欄を参照

 

 

 

概要欄はあまりに長かったので簡単に訳すと

 

0.5m以下は基本MP消費なし

0.5〜3mまでで今までと同じ

3m以上はn倍になる(n≧3 、nは長さ、単位はm)

仮に5mの場合3倍使用となる

 

なお、全て立方体とする。

 

 

強度に関しての追記

 

連続攻撃による損傷を一回一回で判定するわけでなくダメージは蓄積するものとする。

 

という感じなので何か不明点があれば連絡お願いします。            』

 

 

とのことだった。

 

 

「でも、抜け道がある。」

 

 

おい、マテリアルよいきなり2mの創生剣を作って……!?

 

 

「大きさに関する消費MPはゼロ、0.5mの立方体よりも体積が小さいから。まあ、強度は少し強めにしたけど」

 

 

 

準備万端の形でボス部屋に移動するマテリアル、

中に入るとやはりボスは木型のモンスターだった。

 

 

「うーん、運営さんはこういうタイプが作りやすいのかな…」

 

 

と、1人考えつつ戦闘態勢に入る。

 

 

ボスは早速尖った葉をマテリアルに向けて放つ。マテリアルはそれに対応し、剣を振って葉を落とす。

 

 

「意外と鋭利だな、当たったらちょっとまずいかも」

 

 

一撃当たったらそこからどんどん追い込まれていくハメ技だとマテリアルは推測し、攻撃に転換する。

 

 

「【身体装甲】が使えればどれほど楽だろう…いや、無いものを考えても遅い」

 

 

マテリアルがボスの方向へ走り出す。ボスはラッキーと思わんばかりに攻撃する葉の量を増やす。

 

 

「…!?」

 

 

多くなったせいか、剣では捌き切れずマテリアルの脇腹に当たる。しかし、ダメージは通らない。

 

 

「身体に結界を張ってたんだった。これもある意味身体装甲?」

 

 

と、くだらないことを考えながら既にモンスターまでほんの少しのところにたどり着く。剣はモンスターの足元を削るも、大したダメージが入らない。このままでは結界が全て破れてマテリアルが先に倒れてしまう。

 

 

「作戦変更」

 

 

マテリアルが軽くジャンプすると、そのまま上空を走り出す。もちろん、身体装甲の技ではない。

 

 

「っ、ちょっと滑る」

 

 

結界を空中に設置し、それを階段のように使って走っているのだ。ステータスのおかげで現実よりも数段速く走ることができる。

 

 

「もらった」

 

 

モンスターの目の前で剣が巨大化し、モンスターを貫く。もちろん、これも細工済みだ。

 

 

「たくさんの結界を張ったからね、それを集めれば」

 

 

一度に大きな結界を張るのではなく、細かい結界を1箇所にまとめることにより、巨大な剣を模したのだ。ちりも積もれば山となるというのはこのことだろう。

 

 

ボスのHPゲージは順調に減少していき、ゼロになった。

 

 

「ふぅ、終わった。」

 

 

いつもよりも体を動かしたマテリアルはかなり疲れ気味のようでその場に座り込む。

 

 

「装備が出来上がるまでこれでなんとかしなきゃ。そういえば、第四回イベントって」

 

 

 

第四回イベントはギルド対抗戦である。そのため、ギルドに加入していないプレイヤーは参加することができない。

 

 

「盲点だった、どうしよう」

 

 

一先ず、ボス部屋で悩むのはやめておいて三層に入る。三層は機械と道具の町だった。

 

 

「良い道具ありそう、後で見ておくか。」

 

 

ちょくちょく機械を使って空中を飛んでいるプレイヤーを見かける。まだ三層は解放されたばかりなのでプレイ人口も少ないが見かけた殆どが飛んでいた。

 

 

「機械、だよね。…あれか?」

 

 

近くへ寄ってみるとどうやらゴールドを消費して空を飛べるアイテムのようだった。

 

 

「まあ、使わないんだけど」

 

 

空を飛ぶのは結界があればなんとかなる。節約家のマテリアル君は決して無駄なゴールドを払わないんだね、流石だよ(皮肉)。

 

 

 

「修理代でかなりかさんでるんだ、しかも簡単なのだけど装備も買ったし」

 

 

肝心の武器は自身で作れるのだが、もしそれを鎧とかの部分にしてしまったらどうだろうか。どのタイミングで壊れてしまうかもしれない結界で代用するには少々勇気が必要だ。

 

 

 

「今必要なこと、それは…」

 

 

 

マテリアルが来たのは地下道。探知で探し当てたようだ。

 

 

「うーん、なんだか良いアイテムが見つかりそう」

 

 

マテリアルは今作で一度もダンジョンで良い装備を入手したことがない。そろそろ出てきてくれても構わないはずだ。

 

 

「まあ、指輪はなかなかの上物だったけど」

 

 

魔除けの指輪はモンスターの攻撃を軽減させるというかなり優秀な道具だ。対人戦のときには微塵の役にも立たないだろうが…

 

 

 

「ここ、かな。」

 

辿り着いた先には

 

 

「あれ?マテリアル」

 

 

そこには完全武装したメイプルがいた。身体から武器が生えていていつでも発砲してきそう。

 

 

「あー、これは完全に先を越されたという感じですか…」

 

その場の状況を理解したマテリアルにメイプルが近づく。

 

「ちょっと待って、その武装解除してから近寄って」

 

銃口を突きつけられながら満面の笑みで近づいてくるのは恐怖以外感じられるものはない。しかし、一定の層の方々には喜ばれるかもしれない。

 

「あ、ごめん」

 

ガシャガシャと音を立てて武器が仕舞われていく。

 

 

「それにしても、何だったんですか」

 

 

「実はね…」

 

 

簡単に言い換えるならば、三層の裏ボスのようなものを倒した戦利品だそうだ。こういったクエストを探し当てるところ、メイプルはかなり運が良い。どこかの誰かとは違って

 

 

暇つぶしにと、互いに近況報告をし合い、情報共有をする。

 

 

「へぇ、私の装備は【破壊成長】があるからそんなことは考えたこともなかったなぁ」

 

「【破壊成長】かぁ…」

 

メイプルの一言でマテリアルは流石と思う反面、もう訳がわからなくなって遠い目をしている。

 

 

「そうだ、マテリアルはギルドに入った?」

 

 

「それがまだ入ってないんです…。メイプルさんはどんなギルドからもお誘いがあるのでしょう?」

 

 

「ううん、そんなことないよ。それに」

 

社交辞令だな、と聞き流そうとした瞬間

 

 

「ギルド作ったから」

 

 

思考が止まった、マテリアルからしたら思いもよらぬ方向だった。

 

「なるほど、その手があったか。」

 

まあ、マテリアル自身は人望がかなり乏しい方だと分類されるので自らギルドを作ろうとはしない。その上コミュ力不足なので統率もままならないだろう。

 

 

「っていうことをチャットで送ったんだけどなぁ」

 

そういえば、といったような表情でチャット欄を見るとかなりおぞましいことになっていた。

 

「うわぁ…」

 

フレンドはメイプル、サリー、カスミ、カナデ、ユイマイであった。

 

逆にフレンド欄が全員【楓の木】という謎の連鎖となったマテリアルはこれもメイプルの仕業かなと思い始める。

 

「で、どうするの?」

 

「……入ります」

 

一息の間考え、知っている人が多いならとギルド加入を決めた。

 

 

「じゃ、行こうか」

 

第三層にある【楓の木】本拠地へと向かう2名。途中、メイプルと一緒に歩くことになるのだがメイプルがトッププレイヤーということもあり、周りからかなり注目を浴びるため少し良い気分ではなかった。

 

 

ついでにマテリアルも前回イベントで一位を取っています。本人はそれには気づいていない模様。

 

周りはギルド関連の話でほとんど上がることのない話題なのだが…本人は注目はそこまでされたくないのでちょっとラッキーと考えるそんな余裕はない。装備が大破してしまっているのだから…

 

 

ようやくギルドに着き、中に入る。中にいたのは…

 

 

「おかえり、メイプル。そこの人は」

 

 

「クロムさん、でしたっけ?お久しぶりです。」

 

マテリアルは一度クロムと会ったことがある。いつかと言われれば第二回イベントの初日の怪鳥戦前だ。

 

「合ってるぞ。確かマテリアル…だったか?」

 

「はい、その通りです。」

 

と、クロムと違和感なくフレンド交換する。

 

ということもあり、【楓の木】のメンバー全員マテリアル君の顔見知りです。偶然ってあるんだね(故意)

 

 

兎にも角にも、マテリアルが馴染めるようなギルドだったようだ。

 

 




良かった、難なくギルドは入れた。これで次回も投稿できる。問題とか、起こさないよな?


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波乱万丈
下準備


第四回イベント次回からスタートです。ルールを知ってる人は一緒なのでパスが時間の節約になります。


イベントの詳細を確認しましょう。

 

 

第四回イベントについて

 

期間 5日間

 

内容 自軍のオーブの防衛兼他軍オーブの奪取

イベントはポイント制

防衛

自軍のオーブを6時間防衛しきったらポイント獲得

中大規模の場合1ポイント

小規模の場合2ポイント

攻撃

他軍オーブを自軍に持ち帰り、3時間防衛することで自軍に1ポイント獲得、奪われたギルドは-1ポイント。

ギルド規模小に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはー3ポイント。

ギルド規模中に奪われた場合、オーブを奪われたギルドはー2ポイント。

 

他軍オーブはポイント処理が終わり次第元の位置に返還される。

防衛時間3時間以内に奪還された場合、ポイントの増加や減少はなし。

同じギルドメンバーの位置と自軍のオーブの位置はステータスと同じく、パネルに表示されるマップで確認することが可能。

 

奪取したオーブはアイテム欄に入る。

ギルド規模が小さいほど防衛しやすい地形になる。

 

 

4回まで復活可能。しかし1回の死亡につき、ステータス減少は以下の通りとなる。

 

1回 5%減少

2回 10%減少

3回 15%減少

4回 20%減少

5回 戦闘不能

 

例として、4回目の復活時にはステータスが50%減少

してしまうこととなる。

 

 

 

「って、感じです。【楓の木】は小規模なのでやはり不利ですね。」

 

クロムとマテリアルがギルド内で話す。奥にはイズがマテリアルの装備を弄っていた。

 

 

「そうだな、だが防衛しやすい場所になっているのがあるだけまだマシだろ」

 

クロムが答える。

 

 

「大丈夫よ、うちにはメイプルちゃんがいるんだから。それに、装備直ったわよ」

 

イズがマテリアルの装備を台車に乗せながら持ってくる。

 

 

「え……もう終わったんですか。」

 

2ヶ月は時間がかかるとイズは言っていた。これはどういうことだろうか。

 

「ええ、確かにそう言ったわ。私じゃなければね」

 

 

改めて、【楓の木】のメンバーの異常さが伝わる。

 

 

「一ついいか?」

 

クロムが2人を見ながら話したのは

 

 

「なんか、ゴツくなってないか?」

 

 

もともと、マテリアルの装備はどちらかというと見た目が怖い部類に入っていたものの、更に見た目が恐ろしくなっていた。所々、トゲが増え、色も暗い色が基調のため近寄り難い。

 

 

「確かに……もしかして、何かつけました?」

 

 

「いいえ、私も少し違和感はあったんだけど……前に持ってきてもらった素材を使ったのが原因かしら」

 

 

マテリアルが装備が壊れてしまったときに、不死鳥の断片をついでに渡していた。

 

 

「もしかして、あれを付け加えたんですか?」

 

「ええ、そういう要望なのかと」

 

「いや、ほんのチップのつもりだったんですけど」

 

 

不死鳥自体に負の部分があるわけでは無いがマテリアルの装備と融合したおかげでアンデットのような、そんな何かが覚醒したようだ。

 

「まあ、大して見た目は変わってないわよ」

 

 

「それもそうですし、気にしないでおきます。」

 

 

「それでいいのか…」

 

クロムは少し呆れつつ、話を元に戻そうとする。そのとき、メイプルとサリー、ユイマイが戻ってきた。

 

 

「ただいまー、ってどうしたのマテリアル!?」

 

 

いきなりドアが開いたはずみで近くに置いてあった工具が宙を舞い、マテリアルの頭に突き刺さる。

 

 

「どうかしました?」

 

 

何事もないようにケロッとしたマテリアルを見て、周囲は驚く。

 

 

「頭に工具が刺さってます」

 

 

マイが静かにいうと

 

 

「……本当だ、教えていただきありがとうございます」

 

頭に手で少し探って工具を掴むと何事もなかったように工具を取る。この行動にメイプル以外はまたも驚愕する。

 

 

「…どうかなさいました?まだ付いてたりします?」

 

 

再び頭に手を当てて確認するも何もない。

 

 

「私もそれたまにやっちゃうんだよね」

 

メイプルもマテリアルを励ます。

 

『………』

 

え、何この空気。誰か何とかして、話が進まない。

 

「そ、それよりイベントの作戦考えよう!」

 

 

サリーの一言で止まったような空気が動き出す。

 

 

「そ、そうだな」

 

クロムがそれに続いて呼応する。

 

 

 

〈しばらくして〉

 

 

カスミとカナデが合流した。その後も話し合いはスラスラと進み、イベントの一通りの作戦が決まる。

 

「じゃ、確認ね。防衛はメイプルとユイとマイは確定。クロムさんとカスミ、私とマテリアルが基本動くって算段で。イズさんとカナデには防衛の援護をしてもらう。これでいい?」

 

 

皆、頷いて賛成する。

 

 

「じゃ、みんなイベントまでにできることをやろう」

 

 

メイプルの一言で解散する。

 

 

「ねぇ、マテリアル」

 

 

「何ですか?」

 

 

移動しようとしていたマテリアルが身体装甲の予備動作を止める。

 

「イベントが始まったらすぐに【探知】を発動して。私がその分動くから。」

 

 

「わかりました。でも、第ニ回イベントよりかはかからないと思いますけどどこに何があるかの確認をしてたらそれの比にならないですよ?」

 

探知は解析する面積が多ければ多いほど時間とMPを要する。いくらマテリアルが多いマテリアルといえどかなり消費してしまうのは確かだ。

 

 

「うん、それでいいの。最悪大まかな大規模ギルドの居場所さえわかればいいから。」

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「うーん、久しぶりだ。この感覚」

 

 

イズに頼まれてゴールドを稼ぐためにダンジョンを周回する。ダンジョンの縦走のようなことをし始めたマテリアルはなかなかに止まらない。

 

 

 

「おしまい、封印してたおかげでどれほど価値があるのかわかったよ。」

 

 

イズから頼まれた分のゴールドは既に回収済み。三層の最大効率の周回は嫌というほど試行錯誤した身だ。

 

「戻るか…」

 

 

動き出そうとしたマテリアルはいきなり後ろに攻撃を始める。

 

 

「気づいてなかったとでも思いました?」

 

 

「またバレたか」

 

現れたのはドレッド、第二回イベントぶりである。

 

 

「気配消されてても気付くんですよ。そういう性格してるんで」

 

 

ペイン同様、【探知】では反応がなかった、しかしマテリアルの気質でわかる。

 

 

「まあ良い、今日はお前と決闘しに来たんだ。」

 

 

「? 怠くはないんです?」

 

以前、口癖のように言っていた言葉を返す。

 

「ああ、ないと言えば嘘だな。だが、条件付きだ」

 

「聞くだけ聞きましょう」

 

意外と興味があるやつだ。

 

「勝った方が負けた方に一つ情報を教える、自分のギルドでもいいし、他のギルドでもいい。」

 

 

「……わかりました。受けましょう」

 

 

少しの沈黙の末、マテリアルは了承する。以前のマテリアルだったら面倒すぎて決闘の前に攻撃して逃げ去っていただろう。まあ、ドレッド相手だと難しいだろうが

 

 

 

「では、始めましょう」

 

 

決闘場に場所を移して対峙する2人、先に仕掛けたのはドレッドだった。

 

目にも止まらぬ速さでマテリアルの背後を取り、ダガーで貫かんとする。

 

 

「【身体装甲】鋼」

 

 

それに対応して攻撃を防ぐ。そして

 

 

「磁力剛破」

 

 

 

マテリアルを中心に爆発が起こる。すかさずドレッドは退避した。そして、技が終わると同時にマテリアルに短刀を向ける。

 

「端くれの鋼」

 

なぜこんな装備になったかというとそれが思いついたからだ。【身体装甲】は術者の想像力によっても効果が左右される。

 

だが、端くれと言っても鋼、腐っても鋼、きっちりとドレッドの攻撃を受け止める。いや、腐ってたら壊れるか。

 

「【神速】」

 

ドレッドの姿が見えなくなり、気配も薄れる。

 

「【結界】」

 

しっかり結界で守りを固める。しかし、みるみる破壊されていく。

 

最後の一枚になった瞬間

 

「【身体装甲】光」

 

マテリアルも同様に目には止まらぬ速さをなる。が、 相対的にスピードは一緒なのでただの近距離戦闘に成り代わる。

 

「はぁ、はぁ」

 

【神速】の効果が終わり息を切らす。

 

 

「…!?」

 

ドレッドの休む間も無く次の展開に移る。

 

「既に我が術中内。終わりです、【身体装甲】炎 猛撃の豪炎」

 

 

足元から燃え上がる炎がドレッドに迫る。しかし、逃げ切れない。結界だ、結界を幾重にも張っていたがために逃げ道を失わせたのだ。

 

 

「あー、降参だ。」

 

 

やる気のない声でマテリアルに言う。マテリアルは攻撃をやめ、少し不機嫌そうな顔でドレッドを見る。

 

「なんだ、まだやり足りなかったか?」

 

「…足りたといえば嘘ですね。でも、続きは次会った時にでもできますから」

 

 

「そりゃ勘弁だ。で、情報だったな。【炎帝ノ国】、このギルドのマルクスはトラッパーだ。攻めるときは気をつけるんだな。」

 

 

「ほぅ、そうですか。」

 

 

「そんだけだ、じゃあな」

 

 

それだけを言って去っていった。マテリアルが一応自分でも情報を集めているのだがコミュ力がないばかりに戦闘でもない限り誰かと話す機会がない。こういった情報は嬉しい限りだ。

 

 

この後、サリーも【集う聖剣】のフレデリカと同じことをやらされて言われたことの反応がこちらです。

 

 

「まさか、マテリアルの方も行ってたなんてね。しかも、同じ情報を持ってかれた。マテリアル、もしかして本気で戦ってないよね?」

 

このとき、ドレッドの目的がマテリアルから情報を引き抜くことではなく、マテリアルの情報を得ることだということに気がついた。

 

「そそそそんなことするわけないじゃないですか」

 

めっちゃ動揺している。

 

「まあ、マテリアルの戦闘スタイルだったら問題ないけどね。」

 

というのも、マテリアルには戦闘手段が多すぎる。【身体装甲】がほとんどなのだがそこに【結界】を組み合わせた戦い方は知っていても対処するのは至難の業と言えよう。【身体装甲】のバリエーションはえげつない数もある。

 

 

ちなみに、対人戦で使った技一覧

第一回イベント

対シン  光と鋼

対メイプル 光と鋼と毒

第二回イベント

対ミィ 光と水と風(と砂)

対ドレッド 鋼と氷

対ペイン 鋼と光と氷(と砂)

ついさっき

対ドレッド 鋼と炎 結界

 

結論として、【身体装甲】光、鋼、毒、炎、水、氷、風、(砂)と【結界】はバレている。いや、ほとんど全てバレてるんだが。本当に大丈夫だろうか?

 

 

 

「あー、なんでさっき炎と【結界】使ったんだよ」

 

ギルドホームの個室で一人になったマテリアルは枕に顔を埋めて叫んでいる。実際はもっとはっきりは聞こえないだろう。

 

この様子からかなりの失態をしてしまったのだが、本人はNWOで最大のミスをしたと思っている。なお、自身のコミュ力ミスは考えていないようだ。

 

 

〈しばらくして〉

 

「すー、はー、落ち着け。イベントまではまだ少し残ってる。」

 

落ち着いたのか、思考がまともになった。現在の手の内がバレているのならば、新しい手を得れば良いだけのことだ。かくして、マテリアルは今日もダンジョンに潜るのであった。

 




作 「マテリアルは…周回中か。」

メ 「あ、前に道を教えてくれたお兄さん」

作 「あ、こんにちは」
  (なんでまたきてるんだよ)

メ 「マテリアル見ませんでしたか?よくここに来るってサリーから聞いたんですけど」

作 「今日は見てないかな。確かダンジョンにいるらしいよ。」
  (今回こそ早めに退場してもらわないと。いや、ネタバレされるような内容はなくないか?次回は第四回イベントだし)

メ 「さっき【身体装甲】の新しいの試し打ちさせて欲しいって聞いたんですよ。」

作 「あ、ミスった。次回に続く」


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疾風怒涛

イベントの初日は一日で終わります。長いのは2日目です。


ついにイベントがやってきた。

今回はフルメンバーの9人での参加である。

 

「目指すは上位で!」

 

「異議なし!」

ギルドを立ち上げたメイプルとサリーのこのゲーム初の団体戦。

少数精鋭の力を見せつけてやろうと意気込んで、9人揃って光に包まれてバトルフィールドへと転移した。

 

 

 

「じゃ、早速始めます。【探知】」

 

 

両手を地面につき、解析を始める。

 

 

「サリーさん。後はお願いします。」

 

 

「了解、じゃよろしく」

 

 

うーん、どうしたものか。マテリアルが探知に使ってる時間はかなり無駄だな…。しょうがない、他のメンバーの方に移るか。メイプルは…無理だ、防衛組はやめとこう。無難にサリーで良いか。

 

 

 

 

 

(マテリアルがいなかったら私がやろうとしてたマップ作りもやらなくて良い、だったらできることは…)

 

 

「オーブの奪取に行きましょう」

 

 

サリーはクロムとカスミと共に近くの小規模ギルドを潰しにかかる。

 

〜〜〜

 

「カスミ、これを先に持って帰ってくれる?」

 

「いいが…サリーは何を?」

 

 

「もう少し奪ってから戻ってくる」

 

 

(いくら強者が揃っていたとしても数による暴力と真っ向勝負となっては不利。できるうちにオーブを回収しておかないと。メイプルがいる限り、防衛には難がない。先行逃げ切り、ここで頑張れば勝てる…)

 

 

 

かくしてサリーは必死の戦法でオーブを集めていった。

 

 

〜〜〜

 

 

「やっと終わった、地図できましたよ。」

 

 

スタートから日が少し傾くまでの間、ずっと探知で解析し続けたマテリアルがようやくそれを終了する。MPはもちろんのこと、体力もかなり消費してしまったようだ。

 

 

「こんな地図…一体どうやって」

 

 

フィールドの地形とギルドの場所、そしてそのギルドの大まかな様子が書かれている。いくつかのギルドにはばつ印が書かれていた。

 

「このバツは?」

 

メイプルが不思議そうに聞くと

 

「オーブを取られた場所です、まあ3時間後には元に戻ってしまいますがね。」

 

 

苦笑しながらも、この情報はとても役に立つ。

 

 

「…これって」

 

 

ユイが指を指す。そこを見ると

 

 

「【集う聖剣】のオーブが取られてる」

 

 

 

 

「すごいギルドもいるもんだねぇ」

 

 

カナデが感心しつつ、

 

 

「僕も偵察に出てくるよ。うまくいけばオーブも取ってこようかな」

 

 

「うん、わかった」

 

 

メイプルの許可を得たカナデはすぐに走り去っていった。

 

 

「防衛は3人で平気でしょうし」

 

 

この後には私も行きます、というのが続くのだろう。もちろん、メイプルは首を縦に振った。

 

「では、行ってきます」

 

 

光の姿となったマテリアルは極力みんながいない方に飛んでいった。

 

 

〜〜〜

 

「待てよ…光じゃ目立つからすぐに狙われるんじゃ」

 

 

しばらく飛んだ後、ようやくそのことに気づく。日は沈んできているので明るいのはかなり目立つ。敵からの攻撃がやけに多いのにも頷ける。

 

 

「まあ、捕らえられないけれど」

 

 

迫る攻撃を全て避けてお返しの攻撃を放つ。小規模ギルドは光に包まれ、そこにはオーブのみが残った。

 

 

「うん、良い調子」

 

 

合計5個目のオーブを手に取る。大抵の強プレイヤーの位置は把握していたのだが移動しているうちに何となく程度にしかわからない。ペインとドレッドに至っては居場所すら分からなかった。警戒するに越したことはない。

 

 

 

「よし、戻るか。」

 

 

戻るときだった

 

 

 

 

「「!?」」

 

「マテリアル、こんなところで一体何を」

 

サリーだった、全く驚かせるんじゃない。

 

 

「オーブを回収してました。それより、ずいぶんと動きましたね。」

 

先程チェックしたところとはかなり離れている。サリーのフットワークの軽さには感心するばかりだ。

 

 

「それより、気づいてる?」

 

サリーが急に深刻な表情になった。

 

「はい、周囲に敵が1,2.3…たくさんいますね。やっつけます?」

 

マテリアルには探知があるため、周囲の情報が把握できる。囲まれてもこの様子、余裕そうだ。

 

 

「総員、一斉攻撃」

 

その一言と共に多種多様な魔法攻撃が二人を襲う。

 

「【身体装甲】鋼 硬化」

 

マテリアルとサリーの周囲に鋼の塊が現れて攻撃を防ぐ。が

 

「ちょっと狭いんだけど」

 

二人が背中合わせでピッタリになるようにくっついている。こんなところでラブコメみたいな展開するんじゃない。

 

「すみません、これ一人用なので。嫌なら出て行ってもいいですよ」

 

「あー、やっぱいいや。」

 

音で外の様子がわかったのか、外へ出るつもりはないようだ。

 

 

「これっていつまで保つの?」

 

「ある意味永遠に保ちますよ。MPつきない限り【結界】張り続けて援護も可能ですし。」

 

「それは勘弁かな、外の攻撃が弱まった瞬間に出るよ。私が接近戦で行くから」

 

「了解、遠距離と防御は任せてください。」

 

 

術者たちの疲労が溜まってきた頃、それが何故か見えないサリーに気づかれていたようで

 

「今だよ」

 

その言葉でサリーが【超加速】で駆け出す。サリーには一発でも当たればほとんど終わるので狙い撃ちにするも

 

 

「【結界】 傷つけさせやしません。」

 

マテリアルの支援によって攻撃が防がれる。着実に切り裂いていくサリー。出る前にイズのドーピングシードを使用していたため、そして【剣ノ舞】も使用したのも合わさり火力はかなり上がっている。

 

 

「先にマテリアルの方から叩いて」

 

指揮者がマテリアルへの集中放火を指示するも動く気配がない。何故か?それは既に

 

 

「【身体装甲】炎 猛撃の豪炎」

 

 

焼き払われてそれどころではないからだ。マテリアルと一対一で戦うとき、ペインもドレッドもそこまで大したことがないと言った。(メイプル&サリーが比較対象)しかし、マテリアルが真価を発揮するのは相手が多いときだ。瞬く間に仲間達がやられていく。そこに

 

 

「【毒竜】」

 

何故かメイプルの参入だ。時間がかかると言ったのだがお迎えに来てくれたらしい。二倍速で敵が減っていく。

 

「メイプル……どうやって……?」

 

メイプルと合流したサリーは理解ができなかった。メイプルの移動速度はテイム化した亀、シロップのAGI15が限度であるということを。こんなに早く来るのはおかしい。

 

 

「話は後で!ユイとマイだけを残してきちゃったから早く帰らないと!私に掴まって?」

 

メイプルはサリーの手を取ると、武装して

 

 

「【全武装展開】!【攻撃開始】!【毒竜】!」

 

 

空へと打ち上げられたメイプルは空高くからおびただしい数の攻撃を仕掛ける。フレデリカ達の中に【毒無効】を持っている物は殆どいなかった。今回はメイプルと戦う気でいた訳ではないため、メイプル用の装備でもない。そんな装備では【毒竜】は止められない。

 

 

「ううっ……何あれー……」

全力の防御と【毒無効】によって辛うじて生き残ったフレデリカは毒の海に倒れ込んだ。

 

「でもただでは終わらないよー……!」

ボロボロになったフレデリカはしかし一つ機転を利かせていた。

 

 

 

〜〜〜

 

 

「っ!ユイ、敵!」

 

「えっ!?」

二人がそれぞれ大槌を構える。入り口からゆっくり歩いてくるのは一人のプレイヤー。

 

 

「はぁ……フレデリカも人使いが荒い。だが、本当にメイプルがいない?なら……いけるな」

ぶつぶつと呟くドレッドはフレデリカからメッセージを受け取ってすぐにここにやってきていた。

 

 

 

入り口を見る2人、そこにはドレッドが立っていた。どうやらメイプルが本拠地から出たことを知っていたようだった。

 

 

 

「マイ!倒すよ!」

 

「うん!」

 

「はっ……そりゃ無理だ」

ドレッドが走って距離を詰める。

それに対してユイが大槌を振り下ろす。

 

 

「まず一人!」

ドレッドの短剣がマイを切り裂く。

マイがその攻撃を耐えられる筈がなかった。

 

 

「なんて、思いましたよね。」

 

マイとドレッドの間に入り、ダガーを籠手で抑える。

 

「「マテリアルさん!?」」

 

「なっ、なんでお前がここに」

 

驚くドレッド、それもそうだ。フレデリカから連絡されたときにはマテリアルもそこにいるとのことだった。詳しくは、そこにいた、と表記するのが正解だったのに。

 

 

「え、ここは【楓の木】の本拠地ですよ?」

 

いや、ドレッドの質問はそういう意味ではない。

 

 

代わりに解説しよう。メイプルがサリーと合流したとき、既にマテリアルはいなかった。バトンパス形式でマテリアルはギルドへと向かっていたのだ。だから、残念なことにフレデリカがドレッドに連絡する頃にはもうかなり近くにいたのだ。

 

 

「あー、もう面倒くせぇ」

 

【神速】でオーブを回収しようとするも何かにぶつかる。

 

「残念、【結界】があるんですよ。」

 

背後から聞こえたのはマテリアルの声だった。咄嗟の判断でオーブの近くから離れる。しかし

 

「なっ、足元が」

 

ドレッドの足場とした場所が柔らかくなり足が浸食されていく。

 

「【身体装甲】砂 砂上の楼閣 敵のホームで戦うのに注意が足りてませんよ。」

 

既にここはマテリアルの思うがままに動く要塞と化していた。これが大型ギルドのような吹き抜けた場所では不可能であっただろう。

 

 

「では、さようなら。」

 

砂に取り囲まれたドレッドはHPを吸収され、倒れていった。最後にドレッドは

 

「……オーケー、今回は俺の負けだ。次は万全の状態で……な?」

 

と言っていた。これでマテリアルの1つの隠し球がなくなってしまった。

 

 

「良かった、マテリアル間に合ったんだね。」

 

少しして、メイプルとサリーが戻ってきた。サリーに黙って作戦を実行していた二人は後でサリーにたっぷりと怒られました。

 




作 「1日目乗り切ったか…あれ、どうしてだろう。【楓の木】攻略する方法なくね?いや、物は試しだ。ちょっとお邪魔するとしよう。」

マ 「いらっしゃいませ、こちら大変足元がぬかるんでおりますのでご注意ください。」

作 「まずここで足場を取られる、これはさっき見た。」

マ 「上方からの落石にご注意ください。」

作 「で、一発でも当たったら即死の鉄球が流れてくる。ついでにマテリアルの【結界】で避けにくい。」

マ 「次に、【毒竜】が参ります。」

作 「【毒耐性】がないとここでほぼ詰みか。」

マ 「最後にオーブをどうぞ。【結界】は破ってくださいね。」

作 「うん、【結界】壊せない。そしてこの間にも攻撃されると。【集う聖剣】よ、頑張ってくれ」


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強襲

イベント2日目の前編です。今日明日は忙しい方々のために短めです。


翌朝

 

 

メイプルが地図通りに作戦を始めた。マテリアルはというと

 

 

「うぅん、よく寝た。」

 

目覚めの良い朝、今度こそしっかり身体も動く。

 

 

「出るのか?」

 

クロムが話しかける。

 

「はい、昨日の分も働かなきゃ。サリーさんも疲れているでしょうし、皆さんは防衛に集中をお願いします。このあと、すごい数の人が来ますよ」

 

 

「ああ、任せた」

 

 

「【身体装甲】光」

 

 

 

 

 

 

 

 

朝の訪れと共に光が空から降り注ぐ。しかし、それは恵の太陽によるものではなく、次の瞬間プレイヤー達の身体が光に包まれる。

 

 

「よしっ、これで5つ目。」

 

 

マテリアルの攻撃は奇襲性能が高かった。スピードがあるので相手に気づかれるより早く相手を攻撃し、その上一撃で葬り去る。誰にも見られず、誰にも気づかれず動くその姿はある意味暗殺者の一種なのかもしれない。

 

 

「ん?あの毒飛沫は」

 

 

毒竜という叫び声がここにも聞こえる。それよりも大きく聞こえるのはプレイヤー達の叫び声だ。

 

 

 

「メイプルさん、調子はどうですか。」

 

「うん、絶好調だよ。5つもオーブ取っちゃった。」

 

「奇遇ですね、こっちもですよ。」

 

 

ケロッとして言っている2人であるがとてつもなく凄いことである。

 

「じゃ、これお願い。私の足じゃ遅くなっちゃうから」

 

「了解、では」

 

 

「うん、気をつけてねー」

 

 

メイプルの移動手段として機械神の一部を破壊して飛ぶという常人では絶対に気付かないことをやってのけたがそれよりもマテリアルの方が速い。まっすぐ飛ぶ光の方が速いのは当然だ。むしろ、勝てなきゃマテリアルの存在意義が一つ減ってしまう。

 

 

「ほんと、追ってこないなぁ」

 

 

空を飛び、一直線でギルドへと戻る。あちこちで戦闘が行われている様子でかなり消費しきっているイメージがある。

 

 

 

 

「って感じなので、こっちに構ってる感じじゃないですね。」

 

 

メイプルにオーブを奪われたのだ。普通だったら取り返すに行くのだが真っ向で奪われたオーブを取り戻せと言われてもほぼ不可能だ。

 

 

「そうか、私達はしばらく待機だな。」

 

 

カスミが少し不満があるような、ないような感じで言う。

 

「そうだな、防衛はユイとマイで足りるし」

 

そのご本人達はというと鉄球でキャッチボールをしている。

 

 

「すごい違和感のある様子ですね。」

 

「そ、そうだな」

 

イズとカナデは武器の点検を行っていた。とは言っても時間がかなりかかりそうなのだが

 

 

「じゃ、続けて行ってきます。」

 

 

「ああ、気をつけてな」

 

 

〜〜〜

 

 

新たにもう5つオーブを回収してきたマテリアルはメイプルを回収してギルドに戻っていた。カスミはあの後プレイヤー狩りで【崩剣】と出会い倒したようだ。その他はあまり変化がない。あ、あとはサリーがようやく起きた。

 

 

カナデとサリーとマテリアルが話していた。

 

「やっぱり【集う聖剣】と【炎帝ノ国】が頭抜けてるね。」

 

やはりと言った口調でサリーが確認する。

ついでに【楓の木】は6位である。

 

「ちょっと数を減らしに行きます?」

 

 

「それはトップギルドのこと?」

 

「はい、まずいでしょうか?」

 

「僕は賛成だね。次の展開のためにも大規模ギルドに圧をかけた方がいいと思うんだ」

 

カナデがマテリアルに賛成する。

 

「カナデがそこまで言うなら…」

 

 

「じゃ、こういう案はどうですか?」

 

 

〜〜〜

 

 

空を飛ぶ亀、シロップに乗って空高くから地上を見下ろす4名。メンバーはメイプル、ユイ、マイ、マテリアルである。

 

どうしてこの編成となったかというとメイプルのみでは火力がイマイチ足りないとのサリーのご指摘であった。ついでにマテリアルを入れることで機動力と補強をすることで更に制圧力が上がる。

 

 

「見えてきましたね、【炎帝ノ国】です。」

 

ユイがそういったのと同時に罠が発動し、4人と1匹を襲う。

 

「【結界】」

 

咄嗟でマテリアルが防ぐ。その間に

 

「【身捧ぐ慈愛】」

 

メイプルが更に防御を固めていく。

 

 

 

さて、今回の【炎帝ノ国】の防衛を紹介しよう。

まずは第一回イベント7位のマルクス。ドレッドやフレデリカからも伝えられたように【トラッパー】である。第一回イベントでは上手く罠を使ったことを隠していたが、後にギルドメンバーが話していた内容から流出してしまったのだ。マテリアル曰く、「人を信用するのは難しい」とのこと。誰だよ…

 

次に第一回イベント10位のミザリー。【聖女】の通り名を持つその能力はやはり範囲回復だ。しかも、範囲攻撃も得意とする。まあ、今回は攻撃しても無駄になってしまうだろう。マテリアル曰く「10位まではみんなに知られてるんだよね。」とのことだ。個人的な恨み(完全に自分が悪い)を持たれているちょっと可哀想な人である。

 

 

4位の【炎帝】と8位の【崩剣】は登場した時にでも紹介しよう。とはいっても、シンとは会敵済みなので説明は省くのだが。今作では不憫なシン、可哀想に。

 

 

あとは大規模ギルドの所以の圧倒的な人数がいる。しっかりと盾役や魔法役などと分かれていて統率しやすい。

 

 

そんなことはさておき、メイプルと双子が地上に降りたようだ。【身捧ぐ慈愛】は発動したまま、罠をことごとく踏み潰していく。マルクスの準備が台無しとしか言えない。

 

 

さて、マテリアルはというと、何故か空高く登っていた。何をするのかというと

 

 

「【身体装甲】炎 爆裂炎」

 

空中からの大規模攻撃である。勢いを増していく炎が【炎帝ノ国】を襲う。ギルド名に炎とあるのに炎にやられていくギルドの図を見たかったのだがしっかりと盾役が抑え、魔法役が障壁で粘っている。流石と言える連携だ。消耗した盾役にはミザリーが回復させていく。

 

 

マテリアルの攻撃か失敗しているかといえばイエスとは言えない。この隙にマテリアルの攻撃すらも何食わぬ顔で進んでいくメイプルが刻一刻と【炎帝ノ国】本陣へと近づいているのだから。マテリアルの役割はメイプル達の侵攻の手伝いをすること。せっかくメイプル対策の貫通魔法を覚えたプレイヤーの手が回る気配がない。【炎帝ノ国】の皆さん、これが【楓の木】です。

 

 

側から見れば、空から爆撃を受けている【炎帝ノ国】が圧倒的にピンチだ。確かに、一人ずつプレイヤーが散っていく。大損害というに相応しい状態だった。が、彼らの犠牲は決して無駄ではなかった。

 

 

「待たせたな」

 

 

爆炎と共に現れたのは【炎帝】こと、ミィだった。ギルドメンバー達はミィが来ただけで歓声が上がり、状況が変化する。

 

「人が一人増えただけ、問題ない。」

 

自分にそう言い聞かせるも震えが止まらない。第二回イベントがマテリアルのかなりのトラウマとなってしまっているのだ。

 

 

「ミィ、何をするつもりですか?」

 

ミザリーが何か足元を準備しているミィに尋ねる。

 

「この空爆を止めてくる。【フレアアクセル】」

 

『!?』

 

フレアアクセルで上空へと飛んだミィ。しかし、マテリアルへの高度が足らない。しかも、そこに敵の爆炎が襲いかかる。ギルドメンバーでさえダメかと思った瞬間だった。

 

「は!?そんなのありかよ…」

 

マテリアルの爆炎を蹴り、利用して更に上へと駆け登る。思わずマテリアルも攻撃の手を緩める。それがダメだった。

 

 

「【炎槍】!」

 

炎の槍がマテリアルを貫き、落ちていく。

 

 

「【身体装甲】風 そよ風」

 

地上付近でなんとか着陸に成功するも、ダメージは負っている。しかも、不意な一撃、クリティカルヒットだ。

 

「いや、まだだ。もう一度登れば」

 

もう一度空へ向かっていこうとしたのだが

 

「貴様の相手は私だ」

 

 

ミィが空から豪快に着陸し、マテリアルを阻む。ここからは直接対決だ。

 

一対一ではあまり強くないマテリアルの方が悪いか…そんなこともない。なぜなら

 

 

「【身体装甲】水」

 

相手が最強の矛ならばこちらは自身の最硬で挑む。属性的な相性も良いのでドローだろう。

 

 

「【炎帝】」

 

ミィは自身の最高火力、マテリアルはというと

 

「水碧」

 

水で防ごうとするが、蒸発の方が速度がある。攻撃を直接に喰らってしまった。

 

「このまま退場してもらう、【フレアアクセル】【炎槍】!」

 

 

倒れ込んだマテリアルに容赦なく接近し追い討ちを掛けようとする。が

 

 

「【身体装甲】複合 水+風 暴雨の剣」

 

体勢を立て直し、なんとか【炎槍】を抑える。

 

 

「まさか、人間相手にこれを使うことになるとは」

 

言ってることが完全に悪役なのはさておき、相性不利が故にマテリアルよりもMPを消費しなければならないミィ。長期戦になればなるほど不利となる。速攻で決めたいがマテリアルには隙がなかった。

 

 

「【爆炎】」

 

槍と剣が接しながら、互いに動けない状況でミィが仕掛けた。

 

「水球」

 

負けじとマテリアルも攻撃を防ぐ。高水準の技の応酬が続いたときだった。

 

 

「くっ、」

 

我慢比べはミィが先に音を上げた。ミィの欠点として燃費がメイプル並みに悪いところがある。ひとまずはマテリアルの勝ちと思えたのだが

 

 

「【リザレクト】!」

 

ミザリーだった。後援にきたのだ。削れたHPが瞬く間に回復していく。

 

「私のことはいい、それよりメイプルを」

 

「回復したところ悪いですがもう一度倒れてもらいます。」

 

 

剣から放たれた一撃がミィとミザリーを襲う。もう少しくらい待ってやれよマテリアル。

 

「【遠隔設置・反射】!」

 

貫くと思われた一撃がマテリアルの元へと返ってくる。マルクスの罠が発動したのだ。

 

 

「【結界】」

 

結界で防いだが自分の一撃で死にかけるというのは気分が良くない。

 

「マルクス、お前まで」

 

「ごめんね、ミィ。でもミィがここでやられるのはもっとダメなんだ」

 

マルクスは怒られることを承知の上でここに駆けつけたのだ。ミィがやられればメンバー達の士気にも支障が出る。その判断があってこそだったのだろう。

 

「お前達が抜けたらメイプルが」

 

止められないと言おうとしたのだがメイプルの方を見ると

 

「あれを見てもまだそんなことが言えますか?」

 

メイプル相手に善戦するメンバー達。ノックバックをうまく駆使してユイとマイを追い詰めている。

 

 

ここで焦ったのは当然マテリアルである。このままではまずいと思ったのか

 

「メイプル、ユイとマイを上空に退避させて!」

 

珍しく大声で叫ぶ。そして敬語も抜けている。余裕のない証拠だろう。

 

 

「でも、罠が…いや、大丈夫だね。」

 

 

マテリアルの判断で何かを確信したのか、シロップを使ってユイマイを上空へと避難させた。

 

 

「さて、もうひと暴れしましょうか。」

 

 

その一言で空気がガラッと変わった。プレイヤー達も何か得体の知れない寒気が襲う。

 

 

「【毒竜】!」

 

 

 

「【身体装甲】毒 【毒竜】」

 

 

2匹の毒竜が【炎帝ノ国】を翻弄する。【毒耐性】がある者はなんとか耐え切れるものの、それ以外には凄惨な結果だ。10位以内の3名も避けるのが精一杯だ。

 

 

「一時はどうなるかと思ったよ。」

 

毒竜の暴れているうちにメイプルの元に合流したマテリアル。メイプルに話しかけられる。

 

 

「ええ、全く。想定外の方が多すぎましたよ。」

 

とはいえ、その更に想定外のプレイヤーが隣にいる。

 

 

「皆、撤退だ」

 

 

ミィもギルドメンバー達の元へ戻り指揮する。

 

 

「しかし、」

 

一人が反対意見を言おうとしたが

 

 

「大丈夫、僕たちでなんとかするから」

 

 

「皆さんは最悪の事態を考えて下がっていてください。これ以上無駄な犠牲は出したくありません。」

 

マルクスとミザリーの言葉で引き下がらざるを得なかった。

 

 

「2人とも、いくぞ」

 

 

3人を残して全員を退避させた【炎帝ノ国】の反撃の時間だ。

 




作 「キリが悪いけど、本日はここまで。」

マ 「え、めっちゃ中途半端じゃないですか。もっと戦わせてくださいよ。」

作 「ここから先、書き直したんだよ。元々なかった展開だから作るので手一杯なんだ」

マ 「マジですか。」

作 「うん、マジ。本当は変なオリキャラ混ぜてたけど途中で訳分からなくなっててやめた。」

マ 「だから【炎帝ノ国】を強化したのか。なるほど。」

作 「そう、ちなみにシン君は君のせいで8位に降格してるから。」

マ 「では、また明日。」


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強襲2

次の日曜日で完結できそうです。それはさておき、第四回イベントの2日目中盤です。


「始めましょうか。」

 

 

戦場には【楓の木】はメイプル、マテリアル。【炎帝ノ国】はミィ、マルクス、ミザリーが残っていた。ユイマイもシロップに乗せて一足早く撤退させている。ここから先は尋常ではない戦いが始まるのだから。

 

 

「行くぞ、【炎帝】!」

 

挨拶代わりのミィの一撃。二人を飲み込む炎は

 

「【悪食】」

 

闇夜ノ写によって吸収された。

 

「【毒竜】!」

 

メイプルがお返しに威力が増加した毒竜で攻撃する。

 

 

「【遠隔設置・反射】」

 

マルクスが毒竜を抑えようとするも

 

 

「【結界】」

 

罠ごと結界で覆われ、無力化された罠は毒竜に始末された。毒竜をなんとか避けた3人だがミィのMPが前話のギルドメンバー退避のためにかなり消耗している。

 

「今、回復を」

 

ミザリーは回復魔法のスペシャリスト、HPにMP、状態異常まで何でもできるらしい。早めに倒しておきたいかなめだ。

 

 

「どうする、マテリアル。このままじゃこっちが押し負けちゃう。」

 

 

「あれ、使っちゃいましょうか。」

 

「え、本当にいいの?」

 

「はい、背に腹はかえられないですから。」

 

 

これが、結界で相手の攻撃をものともせずに行なっているやりとりだ。もっと緊張感を持ってくれ。そんなことをしているからか

 

 

「【火炎牢】」

 

 

「「え?」」

 

 

メイプルを中心として天に向かって炎が伸び、メイプルは炎の壁で囲われた。唐突に結界が解除され、二人にスリップダメージが入る。

 

 

 

「これで迷いはないですね?」

 

「うん、わかった。【全武装展開】」

敵三人の前でメイプルの姿が変わっていく。ガシャガシャと音を立てて出来上がったのは全身武装のメイプル。マテリアルは自力で牢から出たのだが炎の姿でいればおそらく定数ダメージはなかっただろう。

 

 

メイプルに今のままでは勝てないと判断させたことにより、また一つの枷が砕けて散って新たな力が解放された。

 

「今度は……私が攻撃するよっ!」

 

そんなメイプルを見て一度退避したものの

 

「マルクス、どう思う?」

 

「無理……あれはむーりー……」

 

「私もそう思います……あれが奥の手だと思うので、見ることが出来ただけ良いといったところですね」

二人の意見を聞いたミィは少し悔しそうに話し始めた。

 

「……仕方ない、負けだ。だが、ただでは負けない」

ミィは青いパネルを出すとギルドメンバーに素早くメッセージを送った。

 

「行くか」

 

「そうですね」

ミィはミザリーとマルクスを連れてその場を離れようとする。しかし、ミィのそれとは段違いの爆発音に思わずその動きを止めて音のした方を確認してしまった。

 

 

「みーつけたっ!」

マテリアルの【探知】で居場所を伝えてもらったメイプル、最大速度で3人の元へ追いつく。そして、ミィが【爆炎】を放つよりも早く、剣と化したメイプルの左腕がミザリーを貫いた。

 

「くっ……!」

 

「【刀剣展開】」

メイプルの左腕からさらに追加で武器が展開され次々にミザリーを貫いていく。

冷静な思考が戻らないうちにメイプルはミザリーを光に変えた。

 

 

「【爆炎】!」

ミィがメイプルを弾き飛ばし、マルクスの手を掴んで【フレアアクセル】で逃げようとする。

だが走り出したミィの速度を追い抜いて、メイプルが迫る。

メイプルは自爆による勢いのままにマルクスの背中から剣を突き刺した。

ミザリー同様追撃の剣が追加で腕や足を貫いていく。

 

「あ……」

マルクスは胸元から突き出た大きな剣を見て、諦めたように目を伏せ散っていった。

 

「くっ……MPが……!」

ミィの燃費はメイプル並に悪い。

【フレアアクセル】を使い続けて駆けつけた上に大技をいくつか使っていたミィは【アイテムポーチ】の中にポーションが残っていなかった。

魔法は使えてあと一回というところだ。

 

「……【自壊】!」

ミィは逃げる姿勢から一転メイプルに接近すると背中側に回って密着した。

 

「えっ……!道連れ狙い……!?」

ミィの体を炎が覆っていく。そして、それはメイプルにも燃え広がっていく。これがミィの今できる最大威力の必殺技だった。

 

 

凄まじい爆発音と共にミィは散っていった。が

 

 

「びっくりした。いきなり自爆してくるなんて」

 

いや、武装展開しているメイプルも思いっきり自爆してますけど。メイプルは痛くも痒くもなかったようだ。

 

 

さて、オーブを取りに向かったメイプルなのだが

 

「あれ…………オーブを持って逃げた?」

 

先程、ミィの判断によってメンバーがオーブを持って逃げていたのだ。それを受けたメイプルの反応は

 

「まあ、予想通りだね。マテリアル。」

 

誰もいない方向に向かってつぶやく。当のマテリアルは

 

 

「ふぅ、結構疲れた。」

 

足元には【炎帝ノ国】が何十人も光に変わっており、その手にはメイプルが取ろうとしたものがあった。

 

 

マテリアルは【火炎牢】を脱出した後、真っ先にオーブの奪取に向かっていた。メイプルの新技に気を取られていた3人には気づかれないことであった。

 

 

「良くも悪くも、メイプルさんの方が目立つってことですか…」

 

不満があるようなないような、そんな声で言う。

 

 

「まあいいや、何かあったら嫌だし合流しよう」

 

 

〜〜〜

 

光の姿のマテリアルがメイプルの元へと戻る。

 

「よかった、回収できたんだね。」

 

手には【炎帝ノ国】のオーブがある。

 

「はい、首尾はどうですか?」

 

 

「もちろん、仕留めさせてもらったよ。」

 

 

「なら、安心です。戻りましょうか。」

 

「うん。」

 

機械神の姿でそのまま爆発移動しようとしたメイプルだったがマテリアルに止められる。

 

 

「武器が勿体無いですよ。捕まっててください。」

 

 

「わかった」

 

 

というと、メイプルはマテリアルの手を掴む。はい、本拠地まで割愛。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「お疲れ様、流石だね。」

 

 

サリーが出迎えに来てくれたようだ。

 

 

「サリーも体調が治ったようで良かったよ。」

 

「現状はいかがでしょうか?」

 

 

「うん、まずまずってところかな。この調子だったら【楓の木】の十位以内は堅いと思うよ。」

 

「そう、ですか。」

 

 

中に戻るとカスミとカナデ、クロムは既に出払っていた。ユイとマイは防衛の準備、イズは武具の生産をしていた。

 

 

2日目も日が落ち始め、メイプルも元気を取り戻した頃

 

 

「じゃ、次の作戦に移りたいんだけど…マテリアル体調悪いの?」

 

 

通常では表情がほとんど変わることのないマテリアルが少し具合が悪そうである。

 

 

「何ですか…装備なら万全ですよ」

 

会話が成り立たない。かなり疲れているようだ。

 

 

「疲れてるなら休んだほうがいいよ。昨日から働きっぱなしだったし」

 

サリーに身を案じられ、防衛に残されることとなったマテリアル。これが単なる疲労だけだったら良いのだが…

 

 

 

「本当に大丈夫かしら?」

 

防衛組のイズとカナデが話し合っていた。オーブの周りで結界を張ってぐったりとしているマテリアルを見て。

 

 

「本人も気にしないでくださいって言ってたし、僕たちは防衛に集中しよう。おっと」

 

噂をすればなんとやら、入り口からぞろぞろとプレイヤーが入ってくる。

プレイヤー達は遠目で二人の装備を見て生産職と後衛であることを把握した。

 

「いけるぞ!前衛無しだ!」

剣と盾を構えたプレイヤー達が前線を上げ始める。

 

「さて、やりましょうか」

 

「そうだね」

イズは両手に爆弾をカナデは浮かぶ本棚をそれぞれ出した。

 

この後、プレイヤー達が油断したのを後悔するのは少しだけ先の話。

 

 

 

さて、場面は打って変わって【集う聖剣】では

 

 

 

「よし、皆準備はいいな?」

 

ペインが【集う聖剣】の精鋭、十数名を率いて【楓の木】に侵攻しようとしていた。彼らにわざわざメイプルを倒す必要性は微塵もない。が、ペインを含めた数名は【楓の木】と戦って勝利したいという単純な欲求があったのだ。ランキングに大きく影響することはないにしろ、少なからずは良くも悪くも変わるかも知れない。

 

 

「では、行くぞ」

 

 

【集う聖剣】と【楓の木】への道のりは長い。運営もこのカードを早めに切りたくなかったのか、敢えてやったのかも知れない。全ては神のみぞ知るだ。

 

ペイン達は防衛が少し不安定になるために、昨日のようにまぐれでオーブを取られないように完全な配慮をしている。しかも、自分たちの我儘で行っていることなのでより一層細心の注意を払っているようにも思えた。

 

 




作 「次回は【集う聖剣】が襲ってくるかな」

マ 「2日目忙しすぎやしませんか?」

作 「大丈夫だ、4,5日目はボーナスステージみたいなものだから。」

マ (嘘にしか聞こえない。)


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防衛戦

本日3回更新します。ホントに明日で終わるかな…


2日目夜

 

 

体調が戻ったマテリアルはもう一度外に出てオーブ集めをしていた。

 

 

「【探知】のお陰で捗る捗る。」

 

通常だったらオーブがあったりなかったりで一喜一憂するのだがマテリアルにはその必要がない。【探知】

のお陰でオーブがあるかないかの判別ができるのだ。本当に便利なスキルだ。

 

 

戦闘を避けてささっとオーブを掠め盗ったマテリアルは時間を確認し、急いでギルドへ戻っていった。

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

マテリアルが戻った頃には全員が揃っていた。そして何故か少し緊張感が迸っている。

 

 

「マテリアル!後ろ」

 

サリーが叫んだ頃にはもう既に遅かった。

 

「え?」

 

 

マテリアルの背中に赤いエフェクトが響く。その勢いままにマテリアルはメイプル達の元へ飛ばされる。

 

 

「大丈夫!」

 

メイプルが心配そうに聞くも

 

「ええ、こんなこともあろうかと【結界】を。ダメージはないのですが。」

 

飛ばされた衝撃でオーブが落ちてしまった。それを拾ったのはペインだった。【集う聖剣】の精鋭の総勢15名が【楓の木】攻略にやってきたのである。

 

 

対峙する2つのギルドの均衡を先に破ったのは【集う聖剣】だった。

 

「【多重加速】!」

 

フレデリカによって【集う聖剣】全員のスピードが上がる。ドレッドとペイン、続いてドラグが前に出る。

 

 

「【結界】」

 

 

何名かのプレイヤーはマテリアルの用意した結界に動きを制限されて立ちすくむ。その間に

 

「「【飛撃】!」」

 

 

すかさずユイとマイが止まったプレイヤーを狙い撃つ。

 

 

しかし、半分以上が【結界】を破壊して迫ってくる。

 

 

「やっぱり、仕様変更が辛いな」

 

そんなことを呟きながら、ドラグに斬りかかる。

 

 

「【土波】!」

 

 

衝撃波によってマテリアルは姿勢を崩すも

 

「【身体装甲】風 竜巻」

 

 

自身を竜巻に取り込むことによって外からの攻撃を遮断する。その場の地形が削れていく。

 

しかし、ドラグの衝撃波によってノックバック効果が反映されたようでメイプルが後退する。それによって、ユイとマイが前線に取り残される。

 

作戦通りにそのままドレッドとドラグがユイとマイを仕留めようとするも

 

 

「【カバームーブ】!」

 

「やらせるか!」

 

「【魔力障壁】!」

カスミがドレッドをクロムがドラグを止め、カナデが魔法で守りを固める。

メイプルが崩れてもクロムやカスミもトップレベルのプレイヤーだ。

攻撃をいなすことには慣れている。

 

 

しかし、ペインはまだ一直線でメイプルの元へ走る。

 

 

サリーが前に出て時間を稼ごうとするも

 

 

「【超加速】」

 

ペインとサリー、一対一で戦えばサリーの調子にもよるが互角、いやそれ以上の結果が見込めるだろう。しかし、それは戦わなければならない、そんな状況でないと意味をなさない。積み上げられたレベルによるステータス差によってサリーはペインの後ろ姿を見ることしかできなかった。

 

 

「くっ、【結界】」

 

 

メイプルの周りに【結界】を張り時間を稼ごうとしたマテリアル。その技もペインの剣の一振りで消えてしまう。

 

 

 

「ど、どこ!?」

ペインを探しつつ大盾を構えるメイプルは大盾のない側を警戒していた。

その背丈よりも大きい大盾はその身を守ってくれるだろうと。

それ故に大盾の向こうから声が聞こえたのは予想外だった。

 

「【断罪ノ聖剣】!」

姿を現したペインの光り輝く剣が一瞬の溜めの後に振り抜かれる。

 

 

「うっ……ぁ……」

数える程しか味わったことのない感覚にメイプルの思考が一瞬停止する。

 

 

ペインの剣は迫る化物とメイプルの大盾を真っ二つに切り裂いて、鎧すら破壊してメイプルの体を深々と抉り、メイプルを壁まで弾き飛ばし、メイプルのHPを1にするまでに至ったのだ。

 

 

メイプルが激しい音を立てて壁に叩きつけられたことでそのメイプルが致命的ダメージを負っているのを見てしまった【楓の木】のメンバーのほとんどに隙が生まれる。ここまでメイプルが追い込まれたのは誰もが初めて見るからだ。

特にユイとマイの表情からは誰の目にも動揺が見て取れた。

 

「…まずい、状況が変わった」

 

【集う聖剣】はマテリアルの初見殺しの【結界】トラップとユイマイの【飛撃】で8人になっていた。

 

その後、2名をサリーが斬り、1人がイズの爆弾で吹き飛ぶ。そしてもう1名をメイプルの【捕食者】で始末した。数による優位を速攻で変えたはずだった。しかし、数の優位というのはどちらにも関係なかった。

 

ドレッドにカスミとサリーが対峙し、ドラグにクロムが抑えに入りその後ろでユイとマイが止まっている。

後衛にフレデリカ、イズ、カナデ、そしてマテリアルがいる状況だ。

 

 

ペインはそのままメイプルにトドメを刺そうとする。

 

 

 

「【黒煙】!」

メイプルの元へはそう簡単に辿り着かせないとカナデが放った魔法がペインの視界を奪う。

そこに投げつけられたイズの爆弾が轟音とともに炎を上げる。

 

「【退魔ノ聖剣】」

ペインが剣を一振りすると場を覆っていた黒煙は消え去り目の前にイズとカナデを捉えることが出来た。

 

「【身体装甲】鋼」

 

咄嗟に作られた鎧でイズとカナデを守る。そして、マテリアル自身は

 

 

「鋼の一斬」

 

離れたところから瞬時に駆けつけてペインにマテリアルは作り出した巨大な剣で斬りかかる。

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

それに見透かしたように剣で抑える。

 

 

ペインとマテリアルのレベル差はそこまで大したものではない。ステータス変化のおかげで力負けもしていない。だが、近距離対人戦経験はペインの方が圧倒的に上だ。

 

マテリアルの剣にヒビが入り瞬く間に崩れ去る。そしてマテリアルはメイプル同様に反対側の壁に打ち付けられた。

 

「まだまだ、【身体装甲】 !?」

 

 

発動しない。そう、装備の中心が壊されたことで【身体装甲】が機能しなくなったのだ。

 

だが、マテリアルは時間を稼いだ。

 

「ありがと、マテリアル。」

 

 

メイプルの装備が完全に治る時間、そして反撃に出るまでの用意を。

 

「【カウンター】!」

 

メイプルが第三回イベントで手に入れたらしいスキル。ダメージを受けた際、その攻撃の威力を次の自分の攻撃に乗せる。

 

 

マテリアルを飛ばした反動で動けないペインに砲口から放たれた一条のレーザーがペインの体を焼き尽くす。自身の最大威力攻撃が跳ね返ってくる。

 

 

「ぐっ……まだだ……!」

ペインもまたHPをたった1だけ残してメイプルにまだ斬りかかる。

 

 

「【破砕ノ聖剣】!」

 

 

「【暴虐】!」

黒い靄が形を成して現れたのは一瞬前までメイプルだったもの。

逆転した手数とリーチにペインが目を見開いて迫る化物の数本の腕を見る。

 

 

そこに現れたのは化物の形をしたメイプルだった何かだった。

 

 

さらにその後に伸びてきた醜悪な口がペインの上半身を食い千切ったのである。

 

しかもそれだけでは飽き足らず、残った手足を動かしてドレッドとドラグに迫っていく。

 

「マジかよ!?おい!?」

 

「あー?……まだ変形……?」

困惑と絶望を貼り付ける二人に向かって口から炎が吐き出され、怯んだところでドレッドは腕で掴まれドラグはそのまま捕食された。

 

「いっそ安らかな気持ちだ……」

ドレッドは静かに目を閉じて諦観と共に捕食された。

 

 

「に、逃げなきゃ【多重加速】!」

 

 

1人残されたフレデリカは逃げようとするも

 

 

「【結界】」

 

 

運悪くマテリアルの【結界】によって閉じ込められ

 

 

「「【飛撃】」」

 

「っ!【多重障壁】!」

咄嗟に展開した魔法。

しかしフレデリカはそれを後悔した。

ユイとマイ相手に防ぐタイプの防御は意味を成さないからだ。マテリアルの【結界】ごと破壊しフレデリカは光となって消えていった。

 

 

 

かくして、【楓の木】と【集う聖剣】の一戦は終焉を迎えた。

 




作 「また装備壊れたのかよ。」

マ 「いや、自分で壊したわけではないんですけど」

作 「次回はやっと3日目に入ります。」

マ 「無視しないでください。」


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最終決戦

本日第2本目です。わざわざ分けているいる理由は読みやすいようにしたいという自己満足です。


時刻はいつの間にか過ぎ去って3日目となっていた。【楓の木】にいたのはマテリアルとイズの2人のみである。

 

他の7名は化物メイプルと一緒に他のギルドのオーブを奪取しに回っている。

 

「すみません、また装備の修復をお願いしてしまって」

 

「いいのよ、さっき守ってもらったしね」

 

ペインに壊されてしまった装備を直してもらっていたのだ。生憎、今回は一部損壊ということで何日も修理に時間がかかるわけではなく1時間もしたら直った。

 

 

「ありがとうございます」

 

「装備が壊れたときの代替案も考えておいた方が良いわね」

 

「そう、ですね…。【破壊不能】とかあったらいいんですけど」

 

「残念だけど、私には無理ね。ゲームの仕様上できないわ。」

 

人間は神(プレイヤーは運営)には勝てないということか。なお、神を翻弄することは可能。

 

 

「じゃ、私達も行きましょうか。」

 

「はい、【身体装甲】光」

 

マテリアルとイズが光の鎧に包まれる。

 

 

「身体が軽いわ、器用ね」

 

「まだ同時に2人しか保ちませんけどね。一瞬ならもっとできますけど」

 

 

オーブの周りに何重にも【結界】を張り、2人は夜空を飛ぶ。

 

 

「ふぁーあ…眠い」

 

 

「ずっと戦ってばかりだったものね。これが終わったらゆっくり休めるわ」

 

 

あ、フラグ…あれ?何も起こらない。

 

 

「どうしたの、マテリアル?」

 

「いや、物凄い悪寒が一瞬のうちに来てすぐに去って行った感覚がしました。」

 

「どういう感覚なのかしら…」

 

 

〜〜〜

 

 

時は変わり朝6時、あの後途中でメイプル達と合流し辺りを破壊し回った。ひどい通り魔である。

 

 

 

「はー……疲れたー!こんなに走ったの初めてだよ……」

未だ化物形態のメイプルがそう呟く。

サリーの危機管理によりほとんどダメージを受けなかったメイプルだが、疲労は別である。

しかもここまで動いたのは初めてとなれば疲れるのも仕方ないことだろう。

 

 

「休みます?代わりに侵入者返り討ちにしておくので」

 

 

「うん、お願い。何かあったら起こしに来てくれたら……」

 

「了解」

 

そう言うとメイプルは元の姿に戻ることなく奥へと消えていった。壊される前に解除するのは流石に惜しいため当然だろう。

 

さぞかし眠りにくいだろうと考えつつも、侵入者の方に切り替える。

 

 

「始末は任せてくれませんか?」

 

 

「え、いいけど本当にあの数を?」

 

外にいるであろう数百のプレイヤーを1人で相手にしようというのだ。サリーが驚いたように聞く。

 

 

「はい、これくらいなら。多分大丈夫です」

 

 

そう口にしたマテリアルは洞窟の入り口へと足を向かわせた。

 

 

 

「なんだ?」

 

 

潰しあってくれている大規模ギルド達の前に1人の少年が現れる。

 

 

「【身体装甲】氷 冬将軍」

 

 

一瞬のうちにやってきた寒さと吹雪、そして雪崩はプレイヤーたちを飲み込み、その大半を凍らせる。

 

 

「どうなってやがる」

 

 

一部の運の良いプレイヤー達は凍らずに済んだものの

 

 

「【身体装甲】風 暴風域」

 

 

荒れ狂う竜巻に切り刻まれ、吹き飛ばされ、赤いエフェクトとなって散っていく。

 

 

「広範囲魔法、結構慣れてきた。」

 

 

残ったのは一面木だった森が氷や風によってボロボロにされた姿だった。

 

「うーん、流石にこれはまずいか。」

 

 

そう思ったマテリアルは違和感のないように

 

 

「【身体装甲】水 大海の雫」

 

 

洞窟前を湖にして違和感を無くしましたとさ…

 

 

 

何この化物。歩く厄災か何かですか…

 

 

さすがのマテリアルもここまでのことをしておいて、余裕の表情ではいられない。MPは半分以上消費してしまった。

 

 

「ちょっとやり過ぎた。まあこれだったら攻め難くなるでしょう、多分」

 

難攻不落の要塞は地の利に富んでいる。その要素は、石垣や迷路、そして川だ。飛んででも来ない限り、湖を簡単に渡るには時間がかかってしまう。泳いでくるのだとしたら恰好なエサだ。ユイとマイのトレーニングになるだろう。

 

 

 

逆に、攻めに行く方も戻るのは困難になるわけなのだがその時は飛ぶ亀や潜水スキル、足元を凍らせれば問題ない。他には湖に衝撃を与えて道を作ることもできる。ああ、もう訳がわからないよ。

 

 

「ふぅ、戻るか。」

 

 

〜〜〜

 

 

あの後、サリーが偵察に出てしばらく経過しました。

サリー以外はみんな休んでいます。

 

中規模ギルドも大体潰されて大規模ギルドもかなりの数が全滅している。この分じゃ最終日に残るのはトップ10くらいだろう。

 

 

 

「そういえば、【探知】が使えるからある程度はわかるんだった」

 

 

そう思い出したマテリアルは現在の状況を確認する。

 

 

「ん?すごい勢いで大規模ギルドが解体されてる。」

 

 

示し出された【探知】の地図が写されるとカスミが言う。

 

 

「これは…おそらくは【炎帝ノ国】だろう。」

 

 

ここでサリーから連絡が入る。

 

『大規模戦闘が始まった、座標を送るから今すぐきて』

 

とのことだった。

 

 

眠っていたメイプルを叩き起こし、湖を渡るまでの間凍らせて場所へ向かう。向かったのはメイプル、カナデ、カスミ、マテリアルの4人だ。もう4人には一応防衛をしてもらっている。必要はほとんどないだろうが

 

 

それより

 

 

「わー、氷が砕ける」

 

 

湖を全て凍らせていないため、化物メイプルが歩くと割れてしまう。マテリアル達のところにもその余波が伝わりいつ崩れ去るかわからない。

 

「あれ、なんとかしようよ」

 

カナデの一言でマテリアルが動く。

 

 

「【結界】」

 

色をつけたブロック状の結界が湖の端まで作られる。

 

「ありがとう、マテリアル」

 

「これで一安心だな」

 

「ええ、ここ渡ったらメイプルさんに乗せてもらえばすぐ着きますし。」

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

「行くぞ! 【炎帝】」

 

一方、大規模ギルド達に囲まれた【炎帝ノ国】は決死の覚悟で立ち向かおうとしていた。

 

 

【炎帝ノ国】はメイプル襲来によって順位は5位となっていた。美味しいところを貰わんとばかりに蜜に群がる虫が如く集まってきたのである。

 

 

同時に【炎帝ノ国】目掛けて魔法攻撃が繰り出される。

 

 

 

襲いかかる攻撃を全て焼き尽くし、カウンターに炎に包まれる。

 

 

「ミィ、いつの間にこんな攻撃を?」

 

 

ミザリーが感心し、救世主をみるようなキラキラした目で言う。

 

 

「いや、これは私ではない。」

 

はっきり言い切ったミィに

 

「じゃあ誰が? ミィ以外でこんな攻撃をできる奴なんていないだろ」

 

シンが答える。

 

「もうどうでもいいよ、味方してくれるなら」

 

マルクスが諦めたような目で言う。

 

 

場所は変わり

 

 

「本当に良かったのか、サリー」

 

サリーに斬りかかりながら尋ねる。剣ノ舞でSTRを上昇させているのだ。

 

「うん、【炎帝ノ国】にはここでやられてもらったら困るからね。」

 

避けながら答える。

 

あの炎の正体はやはりマテリアルだったのだ。

 

 

【楓の木】の目的は【炎帝ノ国】に群がる大規模ギルドの壊滅。

その際に【炎帝ノ国】の中でもより強いプレイヤーは出来るだけ倒されないようにするということになっている。つまりミィ、マルクス、ミザリー、シンの四人は生かされる。四人が大規模ギルドに重大な損害を与えてくれるからだ。

 

 

メイプルとカナデは既に戦場で戦っていた。

 

 

「お疲れ様です」

 

先程まで中心にいたマテリアルが合流する。通ってきた道には火柱が立っており、何人のプレイヤーが犠牲になったのかわからない。

 

 

「やっぱり、パニックが起こってるね」

 

マテリアル達の攻撃によって大規模ギルドの足並みは崩れ、大乱闘が起こったのだ。裏切りが起こったとでも思ったのだろう。冷静に考えれば【炎帝ノ国】を倒す前に裏切るメリットはないというのに…。戦闘に集中している彼らにはそんな判断はできなかった。

 

 

「サリーとカナデの作戦通りだね」

 

化物メイプルがプレイヤーを喰らいながら話す。

 

「メイプルさん、お食事中はおしゃべりはダメですよ」

 

と、冗談口調で言う。

 

「あー、うん。わかった。」

 

黙々と敵を喰らい続けるメイプル、強力な範囲魔法で周囲を攻撃するカナデ、爆炎に身を纏いミィがいると錯覚させるマテリアル。そこにサリーとカスミが合流する。

 

 

と、同時に

 

「まずい、【暴虐】が」

 

 

化物メイプルがノーマルメイプルに戻る。今だと同時に攻撃するも

 

「うぅ、びっくりした」

 

咄嗟に出した攻撃は貫通攻撃だったとしてもメイプルには貫通攻撃を減少させるスキルがある。ほとんどダメージが通らない。

 

 

「メイプル!来るよ!だから……」

 

「うん!【暴虐】!」

昨日の分の【暴虐】が壊れてもまだ今日の分が残っている。

絶望が再臨する。

さらに。

 

「「【幻影世界】!」」

カナデとサリーが叫んだ魔法。

3分後対象の分身を3つ作り出す魔法。

それらはメイプルに吸い込まれていき化物メイプルが

7人…7体になった。

 

 

「どこからどう見ても世紀末なんだが」

 

合流したカスミが言う。

 

「そうですね、7人もいればハンドボールで1つのチームができますね。」

 

 

遠い目でメイプルを見つめる。

 

他の何にも変わりない、一方的な殲滅が始まったのだ。

 

 

 

近づいてきていたのはペイン以外にもドラグとフレデリカとドレッドもいた。

メイプルの姿が元に戻った今、攻撃のチャンスだと一歩を踏み出していたのだ。

 

「見る度におかしくなってるぞ、おい!【地割れ】!」

ドラグが慣れと諦めと共に地面を割る。

どのメイプルが近づいてきても危険なのだから足止めしなくてはならない。

 

 

襲われる側からしたら悪夢以外の何とも形容し難いだろう。マテリアルも負けじと竜巻でプレイヤーを喰らう。やはり一対一よりかは相手が多い方がマテリアルの戦闘は輝く。

 

 

3分後には既にいた半数以上のプレイヤーが光となった。

 

 

しかし、化物メイプルも小さなダメージが蓄積し元の姿に戻ってしまった。

 

今度こそと言わんばかりにプレイヤー達はメイプルに狙いを定めるが

 

「【全武装展開】!」

空中にいるメイプルから地面に向けていくつもの銃口砲口が向けられる。

ガシャガシャと音を立てて次々に黒い兵器が展開される。

 

「あーあ、馬鹿だ。実に馬鹿だね」

 

マテリアルはメイプルの方を眺めて言う。なぜメイプルを仕留められると思ったのかという嘆きのような一文でもある。

 

殲滅力は下がったものの、【毒竜】や武器の攻撃、【捕食者】などと多彩な攻撃がある分こちらの方が厄介だ。

 

 

〜〜〜

 

 

ほとんどのプレイヤーが去った後、残ったのは【炎帝ノ国】の4人とメイプル達であった。

 

【炎帝ノ国】は満身創痍であり、もう既に多くの切り札も使ってしまった。ここから【楓の木】とは戦えないだろう。ミィもそう判断したようで、ちょうどメイプルと自分達との間にある自軍オーブを回収に向かうことすら諦めて炎をその体に纏わせた。

 

 

「【結界】」

 

マテリアルが【楓の木】メンバーを結界で守る。

 

直後起こったのは大爆発。

そう、ミィはありったけのMPを使ってメイプルの自爆飛行を真似て、ミザリーとシンとマルクスをつれてその場から緊急離脱したのだ。

メイプルとは違い回復をミザリーに頼るのだが、結果としてそれは成功した。

これは【炎帝ノ国】のギルドメンバーの総意だった。

上位に留まることをギルド内最強の4人に託したのである。

 

メイプル達は再びオーブを手に入れることに成功したのであった。

 




作 「3日目の山場は越えたな」

マ 「ほとんどメイプルさんが持ってったんですが」

作 「安心して、明日たくさん活躍してもらうから。」

マ 「安心ができないんですが」


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ボーナスステージ

はい、本日のラストです。明日も2本立てのつもりです。


3日目も日が暮れ始めた。

 

メイプル達は無事、あの混沌から拠点に戻った。むしろ、混沌を創り出していた方なのは置いておいて。オーブをいくつか奪ってきたものの、拠点内は静寂そのもので皆ゆっくり休んでいた。

 

 

「サリー?何見てるの?」

メイプルはサリーが青いパネルを空中に出しているのを見てサリーに近づく。

 

「んー?ああ、えっと……凄いことになってるなあって」

 

「凄いこと?」

メイプルがサリーの出しているパネルを覗き込むとそこにはランキングが映っていた。

そしてそのランキングにおいて今までと違う所は壊滅している大規模ギルドがあるということだった。

 

「あ、また一つ……これは【集う聖剣】か【炎帝ノ国】が暴れているのかも、うん、多分」

 

 

「【炎帝ノ国】ですね。これ以上は戦えないから道連れにしてるんでしょう。ありがたい」

 

サリーの思惑通り、【炎帝ノ国】が大規模ギルドを殲滅している。これで【楓の木】の10位以内も安泰だろう。

 

 

 

 

「じゃあもう外に出ていく必要は?」

 

「まあないよね」

サリーがそう言うとメイプルはにっこりと笑いつつ座った。

 

「今回は今までで一番頑張ったから……ほんと疲れたなあ」

 

 

「あれ?マテリアルどうしたの?」

 

 

「いえ、何でもないですよ。ちょっと外の空気を吸ってきます。」

 

 

 

現状、全員の疲労が蓄積しておりぐったりとしている。これ以上戦わせるのは危険だ。そんな中

 

 

「本日は店仕舞いですよ。帰った方がいいです。」

 

 

「君が出てくるなんてねー、あ、初めまして。私はフレデリカ。よろしくね。」

 

 

「サリーさんに喧嘩を売りに来たなら代わりに買いますけどいいですか?」

 

「あー、待って待って。今日はね、提案しに来たの。」

 

「提案?」

 

「ほら、ペインがねメイプルに負けたのどうしても納得いかないらしくてね。再戦したいらしいの」

 

「結果はかわらないと思いますよ。」

 

「私も言ったんだけど、ああなったら止められなくてさ」

 

それでいいのか【集う聖剣】…

 

「ほら、ハンデでこっちは全員一回死に戻ってるからさ。」

 

「はぁ、それでいいと思ってます?」

 

「!?」

 

次にフレデリカが見た光景は予想外以外に形容し難いものだった。

 

「ちょっと待っててくださいね。」

 

落ち着いた声とは裏腹に、マテリアルの腹には氷の破片が突き刺さっていた。みるみると減少していくHPゲージ。それはフレデリカがあまりの驚きで動けない間にマテリアルは倒れた。

 

 

(え…どういうこと?敵襲、いや、さっきのは確かにマテリアル自身の技だったはず…どうして自滅なんかしたんだろう?)

 

マテリアルが戻るまで割愛

 

〜〜〜

 

 

 

「ふぅ、お待たせしました。一度死ぬだけでもちょっと調子が変ですね。」

 

「さっきのはいったい?」

 

 

「あー、そちらだけステータスが下がっているのは少し申し訳ないと思ったので一度倒れさせていただきました。」

 

「そ、そんなことしなくていいのに」

 

「え、もしかして足りないと」

 

人の話を聞くつもりのないようだ。あの後3回死んだ。

 

「ちょ、待って。これ以上はもういいから。」

 

「ルールを教えていただいてもよろしいですか?」

 

 

「うん、ルールは」

 

ルールと決定事項

・4対4の勝負

・場所は【炎帝ノ国】跡地

・【集う聖剣】からはペイン、ドレッド、ドラグ、フレデリカが選出

・【楓の木】からはメイプル確定選出

・条件を飲めないなら【集う聖剣】が総攻撃

・時間はイベント4日目正午

・勝利条件は相手の全員が戦闘不能及び降参したとき

 

 

「なんか、私の出番飛ばされた気がしたんだけど」

 

「…わかりました。でも、うちのギルドマスターにも聞かないといけないので夜にでも連絡します。」

 

「うん、前向きな検討よろしくね。」

 

 

〈以下を連絡〉

 

「面倒なことに巻き込まれたね、マテリアル。」

 

サリーに言われる。

 

「それより、誰を選ぶ?」

 

カスミが口を開いた。

 

「私は確定なんだよね…」

 

メイプルが少し残念そうに言う。まあ、選ばれたと言われれば嬉しいが強制されたのは話が別だ。

 

 

「さっきの話じゃ、マテリアルも出したほうがいいよな?」

 

マテリアルの4デスによってハンデが帳消しということになっているので選出はするべきだ。

 

「私も出る。」

 

サリーが手を挙げた。

 

「サリーさんただでさえ疲れていますし」

 

サリーの戦闘スタイルはかなり自身に負担をかける。わざわざ自分から行くのは止めておきたいのか

 

「いいよ、それにフレデリカも出るんだからさ。」

 

対抗意識なのか、火がついてしまったようだ。となると後一人は…

 

 

「仕方ない、私がやろう。」

 

カスミだった。

 

 

かくして、メイプル、サリー、カスミ、マテリアルという第二回イベントの並びとなった。

 

 

 

 

「俺が出てもメイプルに役割を取られるからな」

 

「そんなことはないですよ、メイプルさんは【暴虐】だの機械神だので盾役に専念できない場合だってありますから。需要は十分あるはずですよ。」

 

マテリアルがフォローしようとしているのだがこれはフォローしていると言っていいのだろうか?いや、メイプルの強さを際立たせているだけであった。

 

 

「何かあった時のために防衛は必要だから、ユイとマイとクロムで安定するわね。」

 

イズがクロムに励ます。マテリアル、これが見本だと言わんばかりに。まあ、攻めてくるギルドなんてほぼないに等しいと思うけれど。しかも、十位以内ももう確定しているけれど。

 

 

4日目正午

 

 

【炎帝ノ国】に集まった強者8名。運営もどこからか聞きつけたようでしっかりと録画をしようとしている。

 

 

「さて、始めようか。」

 

ペインの一言で空気がガラッと変わる。画面の向こう側で見ている観客にもそれが伝わるくらいに。

 

 

 

【集う聖剣】の作戦はこうだ。メイプルの強さは前回身を持って分かった。だから、倒すのは先送りしたようだ。当然、4人の中で1番柔いのは

 

 

「【神速】」

 

「【流水】!」

 

サリーだった。先にサリーを全員で総攻撃して倒そうと言う魂胆である。

 

ドレッドの目に見えない攻撃にも反応し、ダガーで攻撃をいなす。

 

「【土波】!」

 

しかし、すかさずドラグが追撃する。

 

「【身体装甲】砂 砂上の楼閣」

 

迫り来る衝撃が和らげられ、サリーのところに来る頃にはダメージは既になかった。このままマテリアルはドラグを抑える。

 

「【身体装甲】炎 火炎の斧」

 

力と力のぶつかり合い、純粋な殴り合いではSTRの負けているマテリアルに勝ち目はないのだが

 

「なっ!?」

 

放たれた炎を打ち消そうと一振り、それが仇となり炎が崩れて爆発する。マテリアルが勝つには力技にも戦略を混ぜ込まなければならなかった。

 

 

 

【集う聖剣】がサリーを狙うなら、【楓の木】は全員でサリーを守るまでだ。

 

 

「【一ノ太刀・陽炎】」

 

カスミがペインに向かって攻撃を開始する。ペインは何とか剣で受け止めたものの、カスミは攻撃する間を与えない。次々と攻撃を繰り出し、ペインを追い込んでいく。

 

「くっ…【破砕ノ聖剣】!」

 

「【三ノ太刀・孤月】!」

 

カスミが空中で避ける。その一瞬だった。

 

「【超加速】」

 

 

ペインは走った。しかし、カスミではなく

 

 

「!?」

 

フレデリカの遠距離攻撃で避けていたサリーを仕留めんとしたのだ。

 

「【カバームーブ】!」

 

メイプルが必死の速度でペインを止める。咄嗟の判断で移ったのだが

 

「今だ、フレデリカ!」

 

「オッケー、すぐに決めてよね。」

 

フレデリカが全能力を使ってバフをかける。当然、咄嗟で動いたメイプルにそれを対処する余力は残ってなく

 

 

「【断罪ノ聖剣】!」

 

光と共に斬られていく。ペイン達の目的はこれだ。【カバームーブ】は通常の2倍のダメージを受けてしまう。これならいくら硬いメイプルでもかなり削れると言うのだ。そして、メイプルが倒れたかに見えた。

 

 

 

 

 

「【天邪鬼】発動 【身体装甲】鋼 水晶の大槌」

 

 

(なっ、4デスして半分のステータスしかないのにどうして俺の攻撃を…)

 

 

ペインの脳裏をよぎったその考えは次の瞬間どこかへ消え去り、残ったのはこの化け物への対処法を考えるだけであった。

 

 

Lv.60

HP 208/240

MP 192/212

STR 1140

VIT 190

AGI 285

DEX 570

INT 285

 

【絶対防御】の反転でVITを半分、それ以外を3倍

 

【身体装甲】鋼でSTR,VITを2倍、AGI,INTを半分

 

そして、4デスのステータス降下を【天邪鬼】で反転させて2倍にしたのである。お陰でSTRは今回限りの4桁という化け物クラスとなった。

 

 

というのを、同じく【探知】を所有しているペインのみがわかった。メイプル並み、いやステータスだけならメイプルよりもゾッとする。1番低いVITですら3桁を超えている。【集う聖剣】4人はメイプルが化け物化したときの作戦を今使った。それは、

 

「【多重加速】!」

 

フレデリカの支援による一時撤退、4人がバラバラに移動することで時間を稼ぐというのだ。メイプル対策にはもう少し細かいものがあったのだが今はそれどころではない。

 

 

 

「【身体装甲】光 光剣」

 

マテリアルはペインを追った。それは、やはり【集う聖剣】の中ではペインが1番厄介だからであった。

 

 

距離を取られたペインに追撃をする。速さは尋常ではないのだがそれ以上に威力も馬鹿げている。一発でもまともに食らったら即アウトである。

 

 

「まだだ、【退魔ノ聖剣】!」

 

数の暴力を最小限に攻撃を抑え切る。しかし、流石のペインでも全ての攻撃を対処できずにダメージを蓄積していく。ここまで来たらマテリアルのMPが切れるまで耐久する他ない。

 

〜〜〜

 

 

「はぁ、はぁ」

 

 

満身創痍のペインに比べて、余裕があるマテリアル。だが、マテリアルのMPは残り3割を切っている。

 

 

「あと、少し」

 

ペインは自身を鼓舞し、マテリアルに立ち向かう。

 

「ここまでとは、想定外でしたよ。でも今度こそ終わりにします。【身体装甲】闇」

 

❇︎【身体装甲】闇 全能力を1.5倍。使用時間は10分間

 

闇に包まれたマテリアルは暗く、周りの光を吸収しているように見えた。

 

「くっ、まだ本気を」

 

「暗黒星雲」

 

光を遮ってのみ存在できるその姿はペインにとって正に天敵であった。闇は光を吸収するがために引き寄せる。重力の力場ができた。

 

 

「これは…」

 

 

一瞬だった、気を緩めたその瞬間にペインはマテリアルの目の前にいた。

 

 

「闇ノ枢軸」

 

ペインの身体を漆黒より黒い闇が喰らい尽くす。

 

「では、おやすみなさい。」

 

ペインはその一言を聞き目を瞑った。

 

 

ここからはあっという間だった。光に切り替えたマテリアルがドレッドをスピード対決で勝利し、メイプルも機械神でドラグを倒した。フレデリカはというと、またもやサリーにやられてしまった。

 

 

マテリアルはステータスがバグレベルで3人と合流するのであった。

 

 




作 「ふぅ、最後は思いっきり完全燃焼できたみたいだな、マテリアル。」

マ 「はい、全力でやり切れたと思います。」

作 「心残りも無いわけで次回はエピローグ書いて本編終了です。」

マ 「ここまで閲覧ありがとうございました。最終回はドキドキハラハラする2本立てだそうです。」


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あとがき

最終回第一弾、急展開にご注意を。本の少しのオリキャラにもお許しください。(最終回だから何してもいいというは発想)


 

 

 

 

「ふぁーあ、よく寝た。今は…」

 

マテリアルが起きたのは5日目夕方。ほとんど丸一日を睡眠に費やしてしまった。これも【天邪鬼】の反動で使用時間に比例して疲労も増していく。その上、今回は【絶対防御】の他にも反転させたものがあったがために余計に疲労したのであった。

 

 

「なんだか頭がぼーっとする。4日目の夕方までなら記憶にあるんだけど」

 

 

ペインと戦った後から記憶がないようだ。これは新作の【身体装甲】闇を使ったのが原因だろう。みんなの様子を見ようと【探知】で合流すると

 

 

メイプルは、全身を完全に包む羊毛の塊からニョキニョキと兵器を生やして、ユイとマイに担がれながら拠点を歩き回っているという状況だった。

 

 

何をやってるんだろうという考えは当の既に置いてきた。受け入れるしかあるまい、これがメイプルなんだということを。

 

 

「あ、起きたんだ。よく眠れた?」

 

サリーが話しかける。

 

「はい、でもちょっと体調が優れないですね。昨日はあの後いったい何があったんですか?」

 

「マテリアル、昨日戦った後に突然倒れちゃったんだよ」

 

あの合流後、マテリアルは【身体装甲】を解除したと同時に倒れてしまったのだ。

 

「そう、ですか。すみません。運んできてもらったんですよね。」

 

 

「あー、うん。まあシロップに乗せてもらったから後でシロップに感謝したらいいと思うよ」

 

「はい、メイプルさんにもお礼を言わないといけませんね。」

 

「うん、すぐに言っておいた方がいいよ。」

 

サリーに急かされ、マテリアルはメイプルの元へ向かう。

 

 

 

 

「あ、サリーさん」

 

何かを思い出したかのようにサリーの元へと戻る。

 

「どうしたの?」

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 

何気に今作、初めてまともにマテリアルが笑顔を見せた場面だった。

 

 

 

 

そうしてランキングも特に変動することなく五日目を終えたメイプル達は通常フィールドへと転移した。

転移してから数秒後、各プレイヤーの目の前に青色のパネルが浮かび上がり今回の最終順位を表示する。

 

「今回も三位だ!」

 

ちなみに一位は【集う聖剣】、散々振り回された【炎帝ノ国】は八位という結果であった。

 

「そう言えばメイプルは最初のイベントも三位だったね」

十位までならば報酬は変わらないためより上位を目指そうとはしていなかったが、大規模ギルドのオーブのポイントをまとめて手に入れることが出来たことが大きかったのだ。

そうしている内に最高ランクの報酬がパネルに表示される。

 

銀のメダルが五枚に木製の札が一枚。ギルドマスターであるメイプルには全ステータスを5%上昇させるギルド設置アイテムも贈られた。

 

 

~~~

 

 

メイプルの無事十位内に入ることが出来たことを祝ってパーティーでもしようという案に全員が賛成したため、数日後に【楓の木】で打ち上げを行うこととなった。

イズは【料理】スキルも最大まで上げてあるため料理も絶品らしい。

 

 

 

〈パーティー当日〉

 

 

しかし、メイプルが食材を買ってくると言ったきり帰ってこないのだ。

 

 

「おかしい、こうなることも見越してマテリアルも一緒に連れて行かせたっていうのに」

 

 

サリーが不安がるのも仕方ないが結局はいつものことで済まされるのだろう。そんなことを考えているとちょうどメイプルが帰ってきた。

 

「おかえり、メイプル。で、後ろのみんなは?」

 

後ろに立っているのは【集う聖剣】と【炎帝ノ国】の人たちが4人ずついた。連れてきた原因はと言うと成り行きだそうだ。マテリアルもこのコミュ力見習って欲しい。

 

 

イズがそれに対応して8人前の料理を追加で作り始める。【楓の木】メンバーが少なくて助かった珍しい場面だろう。

 

 

「あれ?そういえばマテリアルは?」

 

お守り係として連れて行かされたマテリアルの姿が見当たらない。

 

「え、そこにいない?」

 

メイプルは後ろを向くがいたのはミィだった。流石のマテリアルもそこまで身長は低くない。

 

「私達がメイプルと会った頃にはいなかったが」

 

ミィが答える。となると結構前になる。

 

「え、もしかして迷子になっちゃった!」

 

「いや、メイプルが迷子になったんじゃないの」

 

サリーが呆れた顔で言い放つ。

 

 

「いや、彼は【探知】が使えるからそんなことはないだろう」

 

ミィのご明察。さすがはカリスマリーダーというところだ。

 

 

サリーの推測によると、マテリアルは自らメイプルと別れた、もしくは【探知】が使えなくなって帰れなくなった、もしくはその両方だった。

 

 

マテリアルは極度の方向音痴にもなり得るので街中ではほぼ常に【探知】を使用している。故意的にいなくならなければどうやってでもギルドへ着けないわけがない。

 

 

 

 

さて、サリーの予想だったがどうやら両方とも違ったようだ。

 

 

 

〈現実世界にて〉

 

 

 

「いらっしゃい、雪村君。」

 

目の前にいたのは落ち着いた声をした初老の男性だった。

 

「…あなたは誰ですか」

 

どこからどう見ても嫌そうな顔をしている。それもそうだ、ゲームから突然強制ログアウトされた上に知らない場所に移動させられていたのだ。夜景の綺麗そうな一室である。まあ、男同士で見ても1ミリも嬉しくはないだろうが

 

「まあまあ、そう怒らないでくれ。急に連れてきたことは謝ろう。すまない」

 

 

 

「いや、謝罪を要求しているわけではありません。ここにいる理由を知りたいんですが」

 

 

「君も薄々気づいているんではないのかな?私はNWOの制作責任者だ。」

 

雪村は落ち着きながら次の言葉を発する。

 

「…そんな人が何の用事があるっていうんですか」

 

 

「さて、雪村君。ここで質問だ。人々は何故能力を手に入れることができる?」

 

「…能力、ですか?」

 

唐突な話に雪村は理解が追いつかない。

 

「ああ、人間は歩き、自転車に乗り、ときに難しい数学の問題を解く。何故そんなことができると思う?」

 

 

雪村はしばらく口を閉ざした後、ボソッと呟いた。

 

 

「…努力したからではないでしょうか」

 

 

それを聞いた老人はにっこりと微笑み

 

「おおよそ正解だ。私はね、能力は個人が時間と労力を割いて、努力してできるものだと思っているのだよ。ここで、だ。時間も労力も使わずに得た能力はあると思うかな?」

 

「ないと思います。」

 

即答で、はっきりと言い切った。

 

「まあ、そうだね。何もせずに得られる能力なんてないんだ。呼吸ができるのだって赤ちゃんのときにたくさん泣いたお陰だからね。」

 

ゆっくりと老人は話し続ける。

 

「だから結局、何が言いたいんですか」

 

いまいち話の焦点が掴み切れない雪村は口調を強めた。

 

「まあまあ、そう早まらないで。老人の話に付き合ってくれよ」

 

それ対して全く声色の変わることのない老人。

 

「ここからが本題さ。人間が本来、10の時間と労力を使って得る能力があるとしよう。しかし、君は5だけでそれを得た。何が起こると思う?」

 

 

「……………」

 

 

雪村は答えることができなかった。思いついた答えがあまりにも口には言い出せなかったことだったから。

 

 

「ツケが回ってくるんだ。その分の5が更に大きな負担となってね。思い当たる節はあるかね?」

 

 

「……はい」

 

しばらく考え、頷く。それは自分の身に何か良くないことが起こっているのを認めることであった。

 

 

「君は本当に物分かりが良いね、だから君はここで知らなければならない。何で君がここに連れてこられたのかを。」

 

 

老人の口から出た言葉は雪村にはあまりにも衝撃的だった。

 

 

「NWOをもう辞めてくれ」

 

落ち着いた、しかし悲しげな声だった。ゲームを楽しんでいた雪村に言うのは酷だったのだろう。

 

「…どうして」

 

珍しく声が震えていた。

 

「だからどうして君はそんなにも確認したがるのかね?」

 

 

「まだ、まだ始まったばかりなのに」

 

 

「君がNWOで行ったこと、それは危険を重ね過ぎたんだ。」

 

「違う」

 

「自己創作スキル、本来は誰の手にも渡るはずのなかったスキル。これは危険だ。」

 

「違う、あれは運営からのスキル。危険なわけない。」

 

「それだけならまだ良かった、【天邪鬼】これも良くない。元々あったものを反転させる、これは対モンスター用に作られたスキルだった。もし、自分に使いでもしたら使用者に大きな負担がかかる。」

 

「違う、使い方が間違っていたなんてことは」

 

「最後に、トドメとなったのが第三回イベントの4日目、12時39分。【天邪鬼】による運営からのステータス降下の反転。4回分の降下を一瞬で捻じ曲げた。川の流れに逆らうことは流れに乗るよりも断然負担がかかるんだ。」

 

「違う、そんなわけ」

 

「現状、君の脳には多大な負担がかかり、疲労しきっている。ゲームをやめさせようと間接的に頑張ったけど全部無駄だったしね。」

 

不死鳥の出現、装備の大破、【天邪鬼】を使用すればするほど増えていった急激な疲労。この全ては偶然を装って雪村をゲーム離れされるための運営の仕業だ。直接言ったとしても雪村には気づかれなかっただろうし、気付いたとしても無視していただろう。

 

 

「あれはただ運が悪かっただけで」

 

 

「こんなに上手くいかないプレイヤーがいたと思うかい?いや、そんなわけない。ゲームの世界だとしても現実と同様に確率は収束する。」

 

現実を突きつけられた雪村、口が固く閉ざされた。そのまま沈黙が続き、脳内の処理が落ち着いたのか声を発した。

 

「どうしろって言うんですか」

 

結局、話をまとめ切れなかったのだろう。これも、脳の負担による影響なのだろうか。

 

 

「さっきも言った通りだ。2度とVRの世界に潜ってはいけない。これが私からの警告だ。破ったら、わかっているね?君の健康に支障が出る。最悪の場合、死ぬよ?」

 

 

「そんなこと言われたって、納得いきません。」

 

 

雪村の意見もごもっともだ。しかし、

 

 

「利用規約に書いてあるんだ、第6章5節今作において健康に害を及ぼすと判断された場合、プレイを中止して貰います。どちらにしろ、君はこのゲームでできることはないんだ。」

 

 

「うぅ」

 

利用者に害が出た場合、止めるのは運営の役割だ。雪村にNWOへログインする術はもうなかった。

 

 

「これは、運営としての私の責任でもある。君がNWOで稼いでいた分の示談金はもちろん払おう。今後、君が生活に困らない程度に給付もするつもりだ。」

 

 

雪村は独自にNWOの攻略法を書き記した記事を投稿していた。その広告料で少なからず生活の足しにしようとしていたのだ。

 

 

 

「お金が、欲しいわけじゃないんです。」

 

声が震えている、目には涙が溢れんばかりだ。

 

 

「…私達が君にしてあげられることはこれだけしかない。本当に申し訳ない。」

 

 

最後に渡されたのは病院の紹介状と必要な治療費だった。しかし、その額は日本の治療では有り余るほどある。慰謝料も追加されているのであろう。そのまま雪村は手術のため、病院に搬送された。

 

 

 

~~~

 

 

 

この知らせが【楓の木】に届いたのはマテリアルが失踪してから1週間経った頃だった。しかし、文面には本人の意向で『規約違反を犯した』ということになっている。心配させないがために起こした行動だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手術は無事成功した。その1週間後に雪村は目覚めた。

 

 

 

 

1週間眠っていたとはいっても、大したものではない。日頃の疲労が放出されていたのだ。それよりも、メンタルケアの方が重要とされている。本人は『大丈夫』と言っているが明らかに目が虚ろである。生きているものを見ているようには見えない。まるでゲームを没収されたときの子供のようだ。…いや、今がその状況だ。他に例えるなら、糖尿病患者に甘いものを食べることが許されない甘党である。

 

 

「雪村さん、食事の時間ですよ。」

 

看護師が昼食を持ってきた。さすが病院食と言ったような、雰囲気が既に薄味の食事である。

 

 

「すみません、食欲がないので」

 

 

出された食事を拒否する。それに対して

 

 

「3日も何も食べていないと危険です、いくら点滴をつけているからって」

 

点滴での栄養補給、これがあれば最悪死ぬことはないだろう。しかし、身体は維持できても精神は維持することができなかった。

 

 

「すみません、そこに置いておいてください。後で食べますから。」

 

 

その言葉を聞くと、看護師はその通りにして病室から去っていった。

 

 

 

「はぁ…」

 

ため息をこぼす雪村、虚ろな目で窓の外を眺める。大樹が1つ、季節相応に葉を落としていた。

 

 

「最後の葉っぱが落ちた時、僕の命はもうない」

 

 

「…またあなたですか。これで3回目ですよ。」

 

 

入り口から入ってきたのは病院に搬送した張本人の老人だった。雪村は残念そうに入り口を見る。

 

「まあまあ、いいじゃないか。それより、ここの病院親族から入れないから内緒だぞ?」

 

「それ、昨日も聞きました。」

 

「今にでも追い出そうとしそうだから言っているんだよ。」

 

雪村はナースコールをしようと手にリモコンを握っていた。雪村に見舞いに来るような親族はいない。田舎には祖父母がいるが心配をかけたくがないために内密にしていた。

 

「今日は何の話をするんですか、また経済とか」

 

老人はどうやら雪村の暇潰しにといつも話をしてくれる。まあ、本人がどう思っているかは知らないのだけれど。

 

「えっと、確か株の話はしたかな?」

 

「それ、昨日しました。仮想通貨で例えたやつですよね」

 

「おやおや、嫌そうな顔して覚えているんだね」

 

「それ以外やることないですから」

 

前回同様、雪村は老人の話を流し聞きした。老人は「また来るよ」と言って部屋から退出した。

 

「くだらない投資の話だった…」

 

今日もまた1つ、無駄な知識が増えてしまった。結局は株の話である。

 

そんなことを考えていると部屋の前に誰かの気配を察知する。部屋を見渡すと老人の帽子が掛けてあった。最初も忘れていたなと思い、珍しくベットから立ち上がり帽子を渡しに行こうとした。

 

 

「お爺さん、また忘れも…!?」

 

 

違った、そこにいたのは老人でもなく看護師でも医師でもなかった。

 

 

「良かった、やっと会えたね。マテリアル」

 

メイプルこと、本条楓だった。

 

 

 

 

 




本当に急展開で申し訳ありません。けど、伏線みたいなのは撒いておいたのでご勘弁を。次で本当に最終回です。



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エピローグ

無事に投稿完了しました。最終回です。




「…人違いだよ、っていうか誰それ、外国人の方?」

 

 

一瞬の沈黙の末、考え出した答えはこれだった。

 

 

「そう、ですか。すみません」

 

残念そうに楓は部屋から出て行っ

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、なんでそこに座ってるんですか?」

 

 

 

てはくれなかった。雪村は聞いた。そして、予想外の言葉が出た。

 

「だって、入り口にマテリアルって書いてあるから」

 

 

確認すると確かにそう書いてある文字があった。おかしい、さっきまでは雪村聡真とあったはずなのに。

 

 

「へぇ、悪戯する子供でもいたんだろうね。」

 

文字の位置は雪村がギリギリ届く程度、そんなわけがない。犯人は

 

(あの爺さん、一体どうしろっていうんだよ)

 

あの老人しかいないだろう。雪村の素性を知ってるのは彼しかいない。

 

 

「嘘はもういいよ」

 

 

先程までにっこりと笑顔を保っていた楓の雰囲気が変わる。小柄な身体ながらも、何か得体の知れない、これ以上ふざけたことは言えないような雰囲気だ。

 

 

「はぁ、お爺さんから話は聞いているんですよね。もう戻れませんよ?」

 

この場合、雪村が読めていたのは楓が何故入院しているのかまで言われていたということ。不正をしていたらこんなところまでわざわざ来るわけ…楓だったら来るかもしれない。

 

 

「うん、今日はマテリ…雪村くんとお話しに来たんだよ」

 

「そうですか…面白いことは話せませんよ?」

 

「別にいいよ、私が来たかっただけだもん」

 

 

雪村はそれを聞くと、ベットに勢いよく倒れ込む。

 

「え、大丈夫!?」

 

「はい、ちょっと疲れたから横になっただけですよ。ギルドの皆さんは息災ですか?」

 

「うん、みんな元気にしてるよ。マ…雪村君が来れなくて少し残念がっているけど」

 

「そうですか」と雪村も心なしか残念そうに呟き、軽く目を閉じる。

 

 

「昨日ね、第四層が解禁されたんだよ。それでね、三層のボスが本当に大変で…」

 

 

 

 

〈しばらくして〉

 

 

 

 

「ユイとマイだったらあっと言う間に「本条さん」な、なに?」

 

滅多に話を遮ることのない雪村が口を挟んだ。当然だ、楓の脳裏によぎったのは雪村がゲームをできないのに自分たちの楽しそうな様子を述べていること、それは雪村にとっては苦痛なことではないかということだ。

 

 

 

 

「そこのモンスター、おそらく【暴虐】では突破できないと思うので機械神で着実に攻略した方がいいです。」

 

「え?」

 

 

「あ、もしかして試しましたか?」

 

 

「あ…そういう意味じゃなくって。癪に障ったのかと思って」

 

 

「別に、そんなことありませんよ。」

 

「ゲームはもうしたくないの?」

 

「それはもっとあり得ないです。でも、皆さんが楽しんでいられるなら嬉しいんです。何故か自分のことのように」

 

 

以前の雪村だったらそんなことは思わなかった、いや思えなかっただろう。それを変えたのは

 

「だから、ありがとうございます。日もかなり落ちてきましたし今日のところはお帰りになられた方がよろしいですよ。」

 

 

「う、うん」

 

楓は荷物をまとめて部屋から退出しようとした。別れ際に

 

「また来るから」

 

 

「はい、待ってますよ。」

 

 

その一言を聞いて安心したのか、楓はエレベーターに乗って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…趣味が悪いですよ。」

 

 

「あれ、バレてたか。」

 

 

病室の花瓶に話しかける。生けている花に小型カメラが設置していたのだ。

 

「そっちの声は聞こえませんので一方的に話します。人の個人情報勝手に教えちゃダメじゃないですか。いくらギルドマスターにだからってメンバーの個人情報教えていいかとはなりませんよ。それに…」

 

 

〈しばらくして〉

 

 

「隠しカメラならもっと場所選んでください。光の反射で気付きましたし。けど、わざわざ呼んでくれてありがとうございました。」

 

 

最後の言葉は聞こえるか聞こえないかくらいにボソッと呟いた。言い終えると、雪村はカメラを握りつぶした。握力は何故か50kgを超えている。

 

 

〈翌日〉

 

 

「雪村さん、お見舞いの方ですよ。」

 

看護師が笑顔でこちらへ呼びかける。また爺さんだろうなと気だるそうにベットから上体を起こした。

 

「来たよ」

 

メイプルだった。予想外の2日連続に驚きつつもそれを悟られないように誤魔化す。

 

「そういえば、ここの病院って親族しか来てはいけないらしいんですけどどうやって?」

 

 

「え、普通に通してもらったけど」

 

 

ガバガバセキュリティである。しかも、雪村の病室はNWOの運営側の配慮で最上階であった。

 

もしくは、楓のコミュ力の賜物だろうか?その両方かもしれない。

 

 

「そういえば、雪村くんってお金持ちなんだね。こんなところに入院してるなんて驚いたよ。」

 

 

「そんなわけないですよ。あのお爺さんに半ば無理矢理入院させられたんです。実はお金持ちだなんてことはないですよ。」

 

雪村の入院する前の所持金は3桁。これでどうやって生活費を賄えというのか…

 

 

「そうだ、昨日言われたことを試してみたら上手くいったよ。」

 

「それは良かった。あ、みんなに言ってないですよね?」

 

雪村の事情を知っているのは楓だけだ。そして、他言はしないようにと警告されている。

 

 

「う、うん」

 

この表情はクロだ。完全にやっている。

 

 

「はぁ、約束の守れない人ばかりだ」

 

「で、でもみんな嬉しそうだったよ」

 

「そういう問題じゃないですよ。で、早速来ている人が1名」

 

 

雪村が病室の入り口を見つめると何かの音がした。

 

 

「サリーさん…いや、名前は聞いてませんでしたね。バレてますから出てきてください。」

 

 

「マ…雪村、久しぶり。私、白峯理沙っていうの。」

 

「そうですか、お元気そうでなによりです。」

 

「雪村も結構元気そうだね。いつ退院できるの?」

 

「健康状態ならもう問題ないですよ。でも、お医者さんがまだダメって仰っておりまして」

 

「へぇ、それにしてもこんなにお金持ちだったんだね」

 

「その下りはもうやりましたし、聞いてましたよね」

 

「気づかれてたか、流石だね」

 

「ちょっと、私だけ置いていかないでよ」

 

 

「「あ、ごめん/ごめんなさい」」

 

 

二人が息をぴったり合わせて言う。楓はまだ不機嫌そうに二人を見つめていた。

 

 

「…で、お聞きしたいことがあるのですが」

 

 

「どしたの?」

 

「私たちに話せることならなんでも言うよ」

 

 

「もしかして、ギルドメンバー全員にこのこと教えました?」

 

 

「うん、でもお見舞いには来られないって。住んでる場所が遠いから。」

 

どんなに遠くに居てもすぐ近くにいるように感じられるゲームの世界の凄さを改めて実感する。少し残念そうな表情になったのだが

 

 

「その代わりに手紙を書いてもらってきたんだよ」

 

ゲーム内で書いたものを現実世界で印刷してきたようだ。全く便利なものである。

 

 

「……長いですね。」

 

 

「雪村にみんなこれだけ感謝してるってことだよ。」

 

 

「そう、ですか。ありがとうございます。」

 

 

二人は手紙を渡して少し話したら退出した。

 

 

 

 

 

「お友達、お見舞いに来てよかったですね。」

 

 

看護師が雪村に話しかける。

 

 

「はい。」

 

 

 

雪村の虚ろな目が少し輝いていたように見えた。

 

 

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、外の空気は美味しい。」

 

 

あれから数日後、雪村は医者からの退院の許可が降りた。医者曰く、精神状態が急激に回復していったらしい。本人は何故かわからなかったそうだったのだが。

 

 

雪村に残ったのは後遺症として月に一回の検査と普通に生活していたら死ぬまで有り余るであろう莫大なお金だった。

 

 

出口で鈍った身体を伸ばす。深呼吸したたき、心地よい風がちょうど吹いて気持ちがより安らいだ。

 

 

「待ってたよ。」

 

そこにいたのは楓だった。

 

 

「白峯さんはどこに?」

 

「先にダンジョンに潜ってるって。私たちも早く行こう。」

 

 

 

少し歩いて二人がついたのはいかにも家賃が高そうなタワーマンションだった。

 

 

「まさか、こんなところに住むところになるなんて」

 

雪村はマンションを見ながらそう言う。

 

「ほ、本当にお邪魔していいの?」

 

「はい、荷解きもちょっと手伝って欲しいですし。」

 

 

雪村の身体はゲームを始める前とは随分と変わってしまった。疲労が溜まりやすくなり、長距離を歩くことが苦しくなった。階段を数回登るだけでも息切れをしてしまう。

 

 

「やっぱり最上階になんてするんじゃなかった。」

 

 

雪村はゲームはともかく、現実では高いところが苦手だ。そのため、出来るだけ一階に近いところにしようと決めていたのだが例の老人よりそれは阻まれた。どうやら親切心で(勝手に)部屋を決めていていたようで元々のアパートに戻ろうとしていた雪村は度肝を抜かれた。

 

 

「でも憧れるな、最上階って」

 

「本当に?」

 

 

楓の言った言葉には今までで1番の疑問が込められていた。人間には時折、人の考えが理解できない時がある。それが今のことである。

 

 

そんなことを話しているとあっという間に最上階に着く。部屋に入るとやけに広い空間に不相応な段ボールが一つ、真ん中に置いてあった。

 

 

「良かった、所有物は全部ある。」

 

段ボールの中にあったのは少しの衣服と父の形見のパソコン、他には小物がいくつかあった。

 

「雪村くんって学生だったよね?」

 

以前、学生という話を聞いていたのだが教科書類が一切ない。

 

「はい、でもこの身体じゃどうしようもないから。それに、就職先も見つけたし。」

 

「え!?」

 

その一言でいつもは人を驚かせる側の楓が驚く。

 

「そんなに驚く?」

 

 

「だって、ずっと病院に居たのに」

 

 

「舐めないで欲しいな、これでも何年も一人で生きてきた身なんだよ。自立なんかとっくにできてるよ。」

 

 

雪村の両親が亡くなったのは彼が小学生だったとき。それが原因で誰とも自ら関わろうとせず日々を孤独に過ごしてきた。

 

「で、なんで私のハードがあるの?」

 

 

「ゲームをしてもらうために決まってるじゃないでしょ?ほら、早く着けて」

 

 

「ちょ、そんなに急かさないでよ。」

 

雪村に半ば強引にゲームを開始された楓はそのままNWOの世界へ潜り込む。

 

 

「そういえば、マテリアルからサプライズがあるって言ってたけど何だったんだろう?」

 

 

 

 

「…これでいいんだ」

 

 

 

~~~

 

 

 

メイプルは雪村に言われた通りにギルドホームへ行く。7人のギルドメンバーはそれぞれ探索に出ているとの連絡だ。しかし、ギルドホームでくつろぐプレイヤーが若干1名。

 

 

「!?」

 

それは本来、メイプルが二度と見ることのないはずだった。しかし、それは目の前にいた。

 

 

「マテリアル、どういうつもりなの」

 

 

「…………」

 

 

口を閉ざしたままのマテリアル、何かを話すつもりはないようだ。

 

 

「今すぐログアウトして。そうじゃないと…」

 

 

メイプルは知っていた、医者の助言を。そして、老人からも頼まれていた。雪村を見守って欲しいということを。

 

 

「こんなこともあると思ってお願いしておいてよかった。【毒竜】!」

 

 

メイプルが老人からもらったのはもしマテリアルが現れたときに強制的にログアウトさせる術。条件はマテリアルを戦闘不能にさせることだ。

 

 

三本の首を持ち全身劇毒で出来た毒竜が、マテリアルに襲いかかる。それを知っていたのか

 

 

「【身体装甲】毒」

 

 

毒に覆われたその装甲はいかなる毒も通さない。マテリアルへのダメージはゼロだ。しかし、メイプルは負けじと

 

 

「【全武装展開】!」

 

 

ガチャガチャと音を立てて現れたのは全身を機械で纏ったメイプル。銃口は全てマテリアルの方を向き、一斉放射された。

 

 

「【身体装甲】光」

 

 

いくらたくさん打ったとしても、必ずしも当たるとは限らない。メイプルの攻撃を全て避けてギルドホームから出た。

 

 

「逃がさない」

 

メイプルも自爆してマテリアルを襲う。不意に背中に付かれたマテリアルはなす術もなく

 

 

「捕食者」

 

 

捕食者によって光が喰われ、赤いエフェクトが響く。マテリアルは地上へと急降下するが間一髪のところで着地した。

 

 

「【身体装甲】鋼」

 

「【暴虐】」

 

 

「硬化」

 

化物メイプルの攻撃を防ぐがために硬化を発動させたのだがそれがダメだった。爪が鋼を侵食し、マテリアルにダメージを与える。

 

 

「………」

 

 

何も言わぬまま、マテリアルは倒れた。

 

 

「これで強制ログアウトできたはず…様子を見に行かなきゃ」

 

メイプルもログアウトし、雪村の様子を見に行くようだ。

 

 

 

「雪村くん!」

 

 

「酷いじゃないか、いきなり攻撃してくるなんて。」

 

そこには雪村が元々設置してあった椅子に座っていた。何事もなかったのような表情で。

 

 

「そんなこと言ってないで、今すぐ病院に」

 

楓が病院に連絡しようとするも、雪村に止められた。

 

 

「落ち着いて。ここにハードはいくつある?」

 

 

楓は辺りを見回して確認するも自分の分しかない。

 

「じゃあどうやって」

 

 

「これを使ったんだ。」

 

 

机に置いてあったパソコンを見せながら言う。画面にはNWOの鮮やかな文字が書いてあった。

 

 

「まさか、パソコンで」

 

「そう、まさかVR MMOのゲームをパソコンでやることになるとはね。でも、これくらいなら問題はないみたい。」

 

開発者側に連絡し、特別にパソコンでもプレイできるようにしてもらったようだ。

 

 

「まあ、まだ音声が安定していないらしいんだけど」

 

先程のマテリアルの声は運営が以前録画で保存しておいたものを利用したそうだ。そのため、普通の会話はまだできない。

 

「それも少ししたらできるらしいけどね。」

 

 

「そう、だったんだ」

 

 

 

「それより、いきなり攻撃してくるなんて酷いよ。いくらサプライズにしたからってそこまでする必要ないよね」

 

 

「だって、取り返しがつかないことなんだよ」

 

 

楓は声を震わせて言った。これは雪村に非があるとしか言いようがない。

 

 

「でも、これでまた一緒にゲームができるんだね。」

 

 

楓は先程とは打って変わって目を輝かせながら言う。

 

 

「はい、これからもよろしくお願いします。」

 

 

 

 

 

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。展開が速い上に、話の作り方がわかりにくい中、ここまで読み切ってくださった方には感謝以外に言い換えられる言葉がありません。本当にありがとうございました。

では、また会う機会がありましたらそのときも暇潰しがてらお願いします。


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補足
設定集


補足と致しまして、マテリアルの設定やスキル等を紹介します。グダグダと書くので「へぇ~、そうなんだ~」程度に読んでください。


 

 

 

マテリアル 雪村聡真

 

〈見た目〉

黒髪黒目。メイプルよりかは短髪だがそこそこ長い。前髪がために目にかかるが自分で切ると酷いことになったので滅多に切らない。身長は170cmくらい。痩せ型のせいか実際より高く見える。装備は黒と紫を基調とした不気味な雰囲気で至る所に棘のような凸凹があるもの。修理後はさらにゴツくなった。

 

〈身体能力〉

運動神経はまあまあ良い方。文化部だけど体育祭とかで活躍する感じのタイプ。もちろん、生粋の運動部には勝てない。他は普通。頭は若干良い方に分類される。

 

〈生い立ち〉

小学生のときに両親が事故で他界し、それがトラウマで人と関わるのが少し怖くなる。ゲーム内では現実と隔離されているため影響は少なかった。元々コミュ力は高い方ではなかったがこれが原因で悪化した。敬語を使っていたのはバイトでしかまともに会話をすることがなかったため。

 

〈性格〉

性格は優柔不断気味で律儀で空気を読む。言い換えると受動的な性格。積極性はほとんど感じないが必須なことや大多数の人が参加することにはちゃっかり参加している。意外とお人好しな一面がある。コミュ力が壊滅的で人と会話するのは必要最低限。メイプルのコミュ力が高いためにここは相殺され、少しずつ能力が向上していっている。

 

独りでいることに関しての抵抗感は薄い。しかしメンタルはかなり弱い。ついでに緊張に耐性もない。普段は考える余裕もないため問題なし。

 

 

 

〈スキル・技まとめ〉

 

【探知】

周囲100m以内のプレイヤー及びモンスターの位置情報などがわかる。隠れ道を発見しやすくなる。MP消費で範囲拡大可能。

 

【天邪鬼】

スキル等による能力変化が真逆になる。

レベルアップ、装備によるステータス上昇には適用されない。

 

【結界】

自身のMPを使用することにより、敵の攻撃を弾く、もしくは防ぐ壁を作り出す。使用したMPとVIT、INTの値に比例して結界は強くなる。攻撃を反射することも可能。

 

【絶対防御】

VITの値を2倍にし、VIT以外のステータス値を1/3倍にする。

 

 

【身体装甲】

身体に各種属性を纏うことが可能。それに従する攻撃もできる。武器の生成も可能。MPの1/10を随時使用、使用回数により消費MP軽減

 

鋼 STR,VITが2倍に上げ、AGI,INTが半分になる。

技 硬化 半径1.5mを鉄球で包む

  鉄針 鋭く大きな鉄骨で貫通させる

  磁力剛破 金属音が響き、周囲に鋼の破片をぶつける

  鋼の一斬 鋼の剣で相手を切り裂く

 

光 AGI,INTが2倍に上げ、STR,VITが半分になる。

  光の爆発 小さな光を作り出し相手にぶつけて弾けさせる

  光剣 光でできた剣で攻撃する

 

毒 全ステータス1.2倍 毒無効を付与

  毒竜 メイプルと同様

  ヴェノムカプセル メイプルと同様

 

炎 STRを1.5倍

  炎燒 地面から炎を湧き出す

  猛撃の豪炎 燃え盛る炎をぶつける攻撃

  爆裂炎 高密度のエネルギーの炎の塊を打つ。

  獄炎の舞踏 燃え盛る黒い炎が湧き出す 炎燒の上位互換

 

水 VITを1.5倍

  渦潮 水を湧かせて渦潮を作る

  水碧 周囲に青い水が取り囲み壁を作り出す

  大海の雫 膨大な量の水を作り出し、辺りを洪水状態にする

  水球 水でできた小さな球(バレーボールくらい)を作り出す

 

氷 INT,DEXを2倍に上げ、VITを半分

  冬将軍 大規模な猛吹雪を起こす。

  氷像 対象にそっくりな像を作り上げる

 

風 AGIを2倍

  竜巻 竜巻を発生させる

  そよ風 相手の攻撃を受け流す

  風刃 風でできた小刀で攻撃する

  暴風域 竜巻の上位互換

 

砂 全ステータス1.2倍 フィールドを自在に操れる。

  細砂化 どんな攻撃からもダメージを受けない無敵状態になる。使用後10分間は反動で動けない。装備を高確率で1つ落とす。

  砂上の楼閣 足場を砂に変えて動きを制限させる

 

【身体装甲】闇 全能力を1.5倍。使用時間は10分間

  暗黒星雲 重力の力場を作り出し、対象を引き寄せる

  闇ノ枢軸 闇が対象を喰らい尽くす

 

複合

水+風 VITとAGIを1.5倍

風雲水流渦 暴風域と大海の雫の合体技

 

 

 

 

〈対人関係(マテリアルから)〉

 

メイプル

NWOでの初めて後悔をさせた人。かつ、NWO内で初めてまともに話し、コミュ力を向上させることになった原因。明るいタイプは苦手なのだが共通の話題(NWO)があったため気にならなかった。感謝はしているが恋愛感情は一切なく親しい友人と思っている。独特な行動をする点が似通っているせいか気が合うことが多い。なお、メイプルが何をするかは予想不可能。一対一で勝負したらおそらく受け切られて負ける。

 

サリー

NWOでまともに話した2人目。メイプルの友人ということで実力を期待していたが予想より遥か上だった。会話は話しかけられたら返事をするくらいだが向こうから話してくれるので意外と会話が弾む。プレイする上での考え方が似ているため意思疎通がスムーズに進む。メイプル同様恋愛感情はない。一対一で勝負したらサリーの調子にもよるのだが勝てると思われる。

 

クロム

第二回イベントで初めて会ったときは警戒していたが次に会ったときのギルドではかなり打ち解けていた。話題は主にギルドメンバーのこと。裏では一緒にダンジョンに潜ることもしばしば。脅威の再生力は正直気持ち悪いと思っている(褒め言葉)。

 

イズ

戦闘員と生産職という関係。優柔不断で曖昧なマテリアルのイメージを再現してくれるため密かに尊敬している。異常な仕事の速さに正直引いている。いつかあの日食べれなかった料理を作って欲しいが自分からお願いすることはできない。

 

カスミ

第二回イベントで初めて会ったときはクロム同様警戒していた。2回目に遭遇したときはメイプルとサリーを自分の代わりに守ってくれたことを感謝した。技のスタイルが比較的似ているため親近感がある。裏ではクロム同様、一緒にダンジョンに潜ることが多い。

 

カナデ

第二回イベントでの恩人。倒れた自分を介抱してくれたことには一番感謝している。自分の考えを理解してくれるのでより恩義を感じている。メイプルの行動の予想を二人でするのだが未だに当てられた覚えがないので一緒に研究している。

 

ユイ&マイ

困っていることを自分に投影してしまい、お人好しを披露してしまった原因。お兄さんのような存在になろうと頑張ってはいるが実際本人はかなり限界を感じている模様。たまに名前が間違えそうになってしまうことがあるのだがその度に心の中で猛省している。

 

ミィ

マテリアル最大のトラウマ。砂漠で飛ばされた時は生きた心地がしなかったらしい。シャキッとしている教官体質が苦手なマテリアルにはより一層苦手意識を助長している。本人の心の内を知ったら仲良くなれるかもしれない。

 

マルクス

気が弱めなところが共通しているため気が合うかもしれない。戦闘では罠と結界の打ち合いとなるので決め手に欠けたら永遠と終わらないかもしれない。

 

ミザリー

マテリアルに個人的な恨み(完全に自分が悪い)を持たれている。攻撃ができるのに支援ばかりに回っているのは少し理解できないらしい。

 

シン

第一回イベントの被害者。本人は降りかかった火の粉を払ったまでだそうだがあの後またカスミに負けたらしいので少し同情している。

 

ペイン

戦闘スタイルもあるのだが初戦闘での経験の差が歴然としていた。メイプルに固執している考えが理解できないがプレイヤーとしては似ている。(レベルを上げてステータスを上げていくスタイル)

 

ドレッド

ペイン同様、初戦闘では勝算は薄かった。めんどくせぇとよく言う割には戦闘に移っている辺り、理解ができない。(めんどくさければやらなければいいのに)

 

ドラグ

マテリアルとはある意味真逆の戦闘スタイル。初戦闘でのノックバックとボーナスステージでの驚異的な攻撃力に個人的に一番動揺していた。

 

フレデリカ

色々な魔法を使うところが共通しているためかなり親近感がある。ペイン同様、サリーに固執する理由が理解できない。

 

 

(マテリアルへ)

 

フレデリカ

メイプル同様人の形をした化け物という認識。突然自分の前で4回も自滅したことが衝撃的だったが逆に利用されたことを予測できなかったことを悔いている。

 

ドラグ

純粋な殴り合いから小細工を仕組んでくるため苦手なプレイヤーだと思われている。二度と真っ向から勝負はしたくない。

 

ドレッド

珍しく勘に反応しなかった異質な存在。勘に反応しないように化けているのかそれが普通なのかは不明。勝ち筋はなくはないが薄いし面倒なので自ら戦いたくはない。

 

ペイン

メイプルと戦うための障害程度にしか思っていなかったが実際に戦ってみてかなり厄介だった。ボーナスステージでもメイプルの対策でマテリアルに関しては怠っていたため惨敗したのでメイプル同様、いつかは倒そうと決意した。

 

シン

第一回イベントではマテリアルが10位以内にいなかったことに驚いた。カスミとマテリアルをギルドに勧誘しようと探したが噂で【楓の木】に入ったことを聞いて諦めた。密かに対策を練っていた。

 

ミザリー

メイプルほどではないがかなり相性が悪い。それは、広範囲を回復させてもすぐに攻撃してしまうから。マテリアルの個人的な恨みを若干感じ取っていた。

 

マルクス

【探知】で罠を避けられてしまうため一対一ではメイプル以上に相性が悪い。遠距離での打ち合いならなんとかなるが接近戦では降参するしかないと思っている。

 

ミィ

初めて会ったときにはギルドに本気で勧誘しようとしていたが部下がいたため本音で話すことができず圧を強めてしまったことをかなり後悔している。次に会ったときに腹を割って話せたらいいなと思っている。

 

ユイ&マイ

困っている時に初めて助けてくれたお兄さん。あと少しで極振りをやめてしまうところだったのでメイプルに出会うまでの時間を稼いでくれたことを感謝している。プレイスタイルが何でもできて羨ましいと思っている。

 

カナデ

メイプルやサリーの友達ということもあり、本人の考えもよくわかっていたので意外と話ができる。人付き合いの思考が似ているためということもある。オセロをマテリアルに教えているが何故か一向に上手くならないことが最近の悩み。

 

カスミ

メイプル見守り枠の同志。ダンジョンに一緒に潜ったときは汎用性の塊のような二人が合わさると驚くくらいスムーズに進んでいくから楽。クロムが合わさるとさらに安定感が増す。

 

イズ

生産職と戦闘員という関係。なかなか速い周期で装備を壊してくるので手が焼ける顧客。初対面のときは性格が掴めなかったが何回か話すことでなんとなく理解した。第四回イベントではマテリアルの戦闘を直に見て装備(身体装甲)をフル活用していて驚いたそう。

 

クロム

メイプル見守り枠の同志。攻撃と防御と役割がはっきりとしているため意外と安定している。マテリアルの悪気のない言葉に傷つくことがしばしばある。不気味な装備という点でも類似している。

 

サリー

初めはメイプルに悪い虫が付いていると警戒していたが徐々にそれは解除された。注文したことのほとんどをやってくれるため若干引いているが有効に手伝ってもらっている。話の波長が意外と合っていて川の流れのようにスムーズに進む。サリーからの恋愛感情というよりかは友達としての意識が強すぎる。

 

メイプル

色々なことに興味があるメイプルと色々なものを作り出せるマテリアル。しっかりとサポートしてくれるので戦闘では頼っている。メイプルから見てはコミュ力が不足しているとは思っていなかったそう。恋愛感情ななく、一緒に遊んでくれる友人の立ち位置。

 

 

一般

集団戦においては単体メイプル以上に強さを発揮する化け物。遠距離攻撃でほとんどのプレイヤーが倒れてしまうので耐性をつけていくが【身体装甲】が便利すぎて結局意味がなくなるという対策の仕様がない。運営から見ても弱体化しても全然弱体化できていないため手を焼いている。

 

作者

ちょっとコミュ力を高く設定しすぎたと思っている。話しかけられたら何を言ってるかわからないくらいにはしないけれどそれより少しマシくらいにしておきたかった。全ては私の責任だ。強さに関しては集団戦に強くしすぎたかと思う。単体のステータス異常値は目を瞑っておく。なお、ステータスはやろうと思えば最大で通常の40.5倍となるのを知っている。弱点があるとするならMPが高くないので通常攻撃(威力ぶっ壊れ)を連打しないと簡単に溶けることくらいと思われる。

 

 

 

完全体マテリアル

 

Lv.60

HP 240/240

MP 212/212

STR 3847.5

VIT 3847.5

AGI 3847.5

DEX 3847.5

INT 3847.5

 

(45+50)×3×3×3×3÷2

 

【身体装甲】【結界】【探知】【天邪鬼】【絶対防御】【侵略者】【???】【???】【???】

 

 

なお、ここから【身体装甲】でステータスは変化する。今更だが【身体装甲】は装備の能力としてカウントされるため【天邪鬼】の効果は適用されない。

 

 

 

※【侵略者】の効果も【絶対防御】(改)と同様。

 

 

※【???】は【絶対防御】(改)のそれぞれAGI版、DEX版、INT版とする。

 

 

 




蛇足 作者 完走の感想

長々と設定を書きました。まだまだ書き足りないですがこれ以上書くと最早見る気が失せると思いますのでここらで終わりにしようと思います。しっかりと爆速完結ができた(約2週間合計22話)と思っていただけたら光栄です。初めての作品だったのですが、他の小説を書く時にはゆっくりした投稿ペースでやっていけたらいいなと思いました。


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