俺の妹が子持ちでバツいちの男と結婚した件 (加具)
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親戚とはお話のあとで交渉しました。
最新話はすいません、もう少しまってください。
パパのいうことを聞きなさい!の二次創作です。
佑太の性格、裕理や他の人との関係等色々改変しております。
小説とアニメを読んだあとで書いた自己満足小説です。
この小説はアルカディアにも投稿しています。
突然だが俺瀬川佑太は波乱万丈な人生を送っていると言っても過言ではない。
両親に先立たれ、残されたのは俺と妹の二人だけであった。
妹と二人助け合って暮らした。
この前妹がやっと結婚を果たし一安心したばかりの俺だったが、この度その妹宅から急な収集がかかったのである。
自前のバイクを乗り回し、俺は小鳥遊家へ向かった。
妹の呼び出しに答え玄関に辿り着く、家に入る前にする事がある。
まずは一服、俺は胸ポケットから煙草とライターを取り出し点火。
ぷか~ ぷか~
一本を吸い終わるとポケット灰皿に吸いがらを入れる。
ここから先で吸う事は出来ないから味わう様に吸った。
その後で、俺はインターホンに手を伸ばした―
「「「「「叔父さん(兄貴)(佑太君)!いらっしゃ~い!!」」」」」
そんな俺は今、明るく愉快な食卓にいる。
「おい、妹、こんな話し聞いてないぞ?」
皿には色とりどりの豪華な食事が並べられ、暖かな湯気をたたえている。
ジトッと下から眺める様に言う俺は、さぞかし機嫌悪そうに見えた事であろう。
ほらご覧、子供たちもビビってんじゃ・・・と思いきやなんかめちゃくちゃ笑顔だし。
「何って、兄の歓迎パーティーに決まってんじゃない。」
さも当然と云う様に言う妹。
「出張で手が離せないから留守番役を頼むって言うから来たんだぜ?」
確認するように俺は祐理を見た。
すると裕理は悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑顔で笑っていた。
「あれ嘘!!!!!!」
ドヤァと言う様な生意気な顔である。
「・・・久しぶりに一片拳骨落としとくか。」
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
俺の呟きを聞いた瞬間、土下座せんばかりに謝りはじめる妹。
「スイマセン、信吾さん、この馬鹿がお騒がせして。」
ペコリと頭を下げる俺。
「いやいや、いいんです、裕理さんが楽しそうでしたし、それに僕からもお礼が言いたかったので。」
そう言ってニコニコと笑っている妹の旦那である信吾さん。
いやぁ、ホントに良い人にもらわれやがったぜ妹よ。
「こんなに飯に金掛けやがって。」
出るのは溜め息。
「だって兄貴が来るんだもん。」
そうやってぷっくらと頬を膨らませる裕理。
「そういう問題じゃねぇよ。」
まぁいいか。
それより何より―
「元気にしてたか?ガキ共。」
俺はこの家に住む三人の少女+幼女に挨拶をした。
「「「うん!!!!」」」
元気に返事が返ってくる。
うむ、余は満足じゃ。
それぞれ母が違う彼女たちは三者三様の容姿を持ちながら仲良く暮らしていた。
「お兄ちゃん、久しぶりだね。」
頭にトレードマークの青いリボンをつけて微笑んでるのが小鳥遊空である。
「もっと家に遊びに来てくださいよ。」
そうやって笑っているのが金髪の美少女小鳥遊美羽
「おいたん、ゲームしよー!!」
無邪気にご飯そっちのけで笑う彼女が小鳥遊ひな
我が妹がお腹を痛めて産んだのは唯一ひなだけであるが三人ともが小鳥遊家の娘であり、裕理の娘なのだった。
「ひな、ちょっと待て遊ぶのはこの飯食ってからだ。」
俺は久しぶりの裕理のつくった飯を堪能した後、土産に持ってきていたひなへのゲームやら美羽へのアクセサリーやら空への漫画本等を渡した。
皆の笑顔が見られたのに安心し、皆とゲームで遊んで久しぶりにひなと風呂に入ってから寝た。
夜、布団に入っていた所でふすまの開く音がした。
「どうしたんだ裕理?こんな時間に。」
見ると其処には寝巻姿の裕理がいた。
何かを話したそうな、でも申し訳ない様な、そんな雰囲気を漂わせている。
「何突っ立ってんだよ。」
その一声に裕理は後ろ手に襖を閉め、部屋に入り込んだ。
「兄貴、お願いがあるんだけど。」
その瞳の凛とした事、さすが俺の妹である。
「言ってみろ。」
「子供たちを預かって欲しい。」
先程の躊躇は何処へやら、ポンとその一言は放たれた。
月明かりだけが照らすこの部屋は、薄ら暗かったが、その中で裕理の瞳だけが輝いて見えた。
「分かった。」
俺は直ぐに頷いた。
裕理は笑顔である。
儚い笑顔、何処か少しだけ罪悪感を背負った様な笑顔。
「何も聞かないの?」
そうやって返ってくる言葉。
前にもこんな事あったなぁ。
あれは裕理が信吾さんと結婚すると言いだした時だったか。
振り返ると懐かしい、もう三年も前の話になるのか。
あの時もこういったっっけなぁ。
「お前がそんな瞳をする時は間違ったことしねぇよ。」
「・・・ありがとう。」
それだけ言って裕理は部屋からでて行った。
次の日、朝リビングを見ると机には朝飯とは思えない程の量のサラダがつくられ、すごくハシャいだ様な字で“信吾さんの出張についていきます?”と書いてあった。
皆が起きる前に二人揃って出て行った様である。
何で皆が起きる前の早朝だったのか、三人の子供を置いて何処に行くのか、何時帰って来るのか、全てを俺に伝えることなく、謎のままにして二人は出て行った。
起きてきた美羽や空達から今日から一週間、父の出張に海外に母もついていくことになったということを聞いた。。
新婚旅行が忙しくて出来なかったから、行けて良かったと。
既に前もって裕理は俺が一週間面倒を見るようになると伝えていたらしく、そういう体で話は既に済んでいたらしい。
あいつ俺を全部騙して行きやがったな。
一先ずその説明に納得する。
だが、新婚旅行で一週間家を開ける為の話の展開としては、如何にも譜に落ちない俺がいた。
一日、二日と過ぎて行く、毎日三姉妹と遊び、飯をつくってやったりひなの面倒を見たり。
俺としても楽しい日々が過ぎて行く。
皆を寝かせ、客間の布団に入ってテレビを見ていたその時。
飛行機が墜落し乗員、乗客が行方不明になったという緊急速報が流れた。
沢山の名前が羅列され、また他の人の名前に塗りつぶされて行く中で、俺の妹、小鳥遊裕理とその夫小鳥遊信吾の名前があった。
――――――――――――――――――――
小鳥遊家の親族の対応は迅速であった。
行方不明の段階で、まだ事件から数日しかたっていない段階で、裕理と信吾さんの遺体のない葬式が行われた。
「~~~~~~~~!!!!」
「大丈夫だ、あんがとな。」
俺は礼を言って携帯を閉じる。
携帯には俺の妹が事故に巻き込まれた事を知った友人たちからの着信が殺到していた。
葬式の準備や着信への対応で時間を取られてしまったがどうやら一段落である。
遺影の前で手を合わせ、祈る。
―美羽ちゃんのお母さんには連絡はとれないの?
妹が死んだ、そんな実感が湧かない。
―する必要ないよ、第一言葉の通じない外国へ彼女を連れていけないよ。
信吾さんと並ぶように置かれた裕理の写真。
―空ちゃんのお母さんが生きていればよかったんだけど・・・
事故がどのように起こったのか、どれだけの人が死んだのか、そんな情報は事件の起こった場所が悪かったらしく殆ど分からない。
そんな状態で裕理の死を実感しろという方が無理だった。
―運がないよね、お兄ちゃん。
そして俺は頼まれごとの最中である。
見ると三人は小鳥遊家の親戚たちが話しあっているのを傍で聞いているらしい。
―ホント、運がないというかなんというか
瀬川家の出席者は俺と伯母さんにあたるよし子さんのみ。
不安そうな顔をしている三人に向かう。
「手は合わせたのか?」
その言葉に長女の空が頷いた。
しかしその動作は心ここにあらずで一心に目線を小鳥遊家の親族会議に集中させている。
美羽も不安げな目線で其処を見ていて、ひなだけが何が起こっているのか分かっていないのか眠たそうに目をこすっていた。
もう夕方だし今日は忙しかったもんな。
俺も親族会議の内容は聞こえていた。
つまりはこの三人の処遇を考えているのだ。
しかも、どうやら三人は別々になる流れで。
それを不安に思っているのは明らかで、寄り添う三人の姿はこれから先に広がる未来に対して無防備な身を守るかの様にきつく抱き合っていた。
「どうしたい?」
俺は投げ掛ける、親がなくなり、大事な物を守ることもできない、目の前の存在はそんなちっぽけな存在である。
社会に対する何の抵抗力もなく、存在するいくつものルールの前に何の知識もない。
かつては俺もそうだった。
「お前たちはどうしたい?」
俺は投げ掛けるだけ、何の決定もしてやらない。
決めるのはこいつらであって俺じゃない。
その結末がどうであれ、彼女たちの望む形を見つけさせる。
三人(実質二人だが)は互いを見つめ合う。
そこになんの感慨があるのかは知らない。
所詮俺はこの家族にとって部外者で、境界線の外からしか見ていないのだから。
「私は三人で暮らしたい」
空が言った。
「皆、・・・一緒がいい」
その声に美羽も頷く。
「私だって、おねぇちゃんやひなと一緒にいたい!!」
空も美羽も泣きそうになりながら俺をみた。
自分たちは一緒がいい、何の事情も、何の制約も無視した本音はそれであった。
でも、それぞれの目からはそれが叶いそうもない事を知っているかの様に暗かった。
この瞳は前にも見たことのある瞳だ。
親父とお袋が死んで、途方に暮れた時の裕理の瞳だ。
「結論をだそうか」
親族会議は一応の終結を迎えた様だった。
そこには三人に向かって親戚一同全員が向かい合っていた。
「皆のこれからの事が決まったから、静かに聞いて欲しい」
代表して話はじめたのは信吾さんの兄、信好さんだった。
傍で聞いていた子供たちは置き去りにして、決まった三姉妹の今後を信好さんは淡々と語っていった。
「ひなは真弓伯母さんが引き取る」
その言葉に空達はひなを見るが、ひなは空の太ももを枕にして既に眠っていた。
「美羽は私の家に、空は全寮制の中高一貫校に―」
「ちょ、ちょっと待ってください」
空がたまらずに口を出した。
俺は唯其れを見ているだけである。
「私達、・・・三人一緒がいいんです」
その声を聞いて困った顔をする信好さん。
「なにも地球の裏側まで行くわけじゃない、会いたい時は何時だって会える」
「絶対迷惑かけません」
空の声は続いた、相手の話を遮る様に、聞いてしまえば、もう元には戻れないという様に。
「お前達が一番しあわせになれる方法がこれなんだよ」
信好さんは優しく、言い聞かせるように、空に向けて言う。
美羽の手が空の手を固く掴んでいた。
「私達、何でも言う事聞きます」
「いつまでも、我がまま言わないでくれ、三人は無理と言ったら無理なんだよ」
信好さんは困った表情を浮かべながら三人をみた。
しかし、頑なな彼女たちの様子は変わりそうになかった。
空や美羽の思いは本気の様で、瞳には強い色が浮かんでいた。
やっぱり、本当の娘じゃなくても、あれが母親なら子も子なのだろう。
あれは裕理の瞳だ、あの夜の日に見せた、決意を秘めた瞳だった。
俺の好きな瞳だ。
決意を確認して俺は腹を決めた。
「空、美羽、ひな」
突然入ってきた声の主に視線が集まる。
泣きそうな顔が俺を迎える。
皆が離れ離れになるのを拒み、一生懸命守ろうとした家族が此処にいる。
「家に来るか?」
「……へ?」
信じられないとかそんな顔、灯った希望が真実なのか、受け入れられないという色。
「狭いし、ヤニくせぇし、時々変な奴が来るけど、三人でいいぜ」
クシャクシャとそれぞれの頭を撫でてやる
それに反応して、ひなも目を開けた。
「おにぃ……」
「簡単に言うんじゃない!君は自分の言っていることが分かっているのか?」
信好さんの声が背中にかかる。
「大丈夫っスよ、なんせ経験者ですから。」
その俺の言葉には、何か引っかかる所があったらしい。
「一人を育てる訳じゃない、大体、君は美羽や空とは―」
「血とかは、どうでもいいんじゃないすか?」
なんせ、俺の妹は実際血の繋がらない可愛い娘達を、一生懸命育て上げたのだから。
「裕理と俺は血が繋がってるから家族だったんじゃないですよ。」
一緒の家で暮らして、一緒の飯を食って、一緒に遊んで、沢山の時間を共有して。
唾液の交換なんざとっくに済んでるけど恋人じゃなくて、何時だって一緒にいるけど友達じゃなくて。
それは何とも不思議な関係なのである。
それは血が繋がってるからとかそうじゃないとか、そんな単純な問題ではないのだ。
「単純な人数だけの問題なんて思ってない、こいつらはまだまだ子供で、いろんなこと考えてきっと迷う。」
沢山の悩みを抱え、沢山の葛藤を越えて、ゆっくりゆっくり成長していくのだろう。
「その時に、一人じゃ寂しいじゃないですか。」
隣に兄弟がいて、悩みを話し合い、時には喧嘩して、バカな笑い話に花を咲かせるのである。
きっと、それがいつか実を結ぶ。
どんなに歳をとって、どんなに離れても、そんな奴がいたら頑張れると思うから。
どんなに疲れたって、どんなに辛くたって、挫けない強さをくれると思うから。
そんな一人よがりな考えを、空も美羽も、思ってくれていて、今は分からないひなも姉と離れる事は嫌がるだろうから。
「そんでこれは俺も経験したからこそ言えるんですけど―」
一度区切って向き直る、空も美羽も、寝ぼけ眼をこすりながらもひなも皆俺を見ていた。
「やっぱ家族は一緒じゃなきゃな。」
俺はこの三姉妹を育てていくことに決めた。
妹の頼みだからだとか、三姉妹がそうしたいからだとか、そんなのではなく、俺自身がそう決めた。
俺はもう一度パパになってやる。
感想……もらえたらうれしいな
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空の料理の際には美羽とひなは二人でひたすらじゃれていました。
別にいつも一緒にいる事が家族なんじゃない。
どんな形でも、どんな奴でも、家族だと思う奴が家族だ
「今更でワリぃが、お前ら油の匂いとか平気か?」
親族会議の後、俺のバカげた案を聞いた信好さんや小鳥遊の親戚連中、そしてよし子伯母さんを交えて話し合った。
一応俺は働いてるし、前の生活の癖で何かあった時の為にお金も溜めてある。
そこまで稼ぎがある方ではないかも知らんが三人を迎え入れる基盤は出来ていた。
俺の働いている所は地域の町工場を少し大きくした位の工場
自転車やバイク、車などを整備したりしている。
社長が俺の知人だったこともあり、裕理の結婚を期に住むんでいたアパートを引き払い会社に併設された住居に住み始めた。
喜ばしい事に工場は慌ただしく繁盛しており、社長は近くに新築の家を建てたという事で移り住んで行った後を借りた。
家賃は激安だし、元々家族で住まれていたという経歴の通り、俺が暮らすには広すぎる位の大きさだった。
さらにはある程度の家具まで置いて行ってくれているのだから社長には頭があがらない。
当初小鳥遊家から通うという事も考えられたが、ひな達が春休みである一週間程、俺に三姉妹の面倒をみれる能力があるのかの検査が入る事となり、環境の変化、それに対する子供への対応等様々な所をみられるのだとか。
という事で先の発言である。
俺は家を出る時にその難題に気付いた。
家は町工場である。
当然作業場は機械の油の匂いが充満しているし、そんな環境で過ごしている俺もその匂いが染み着いている。
女なんだし、機械だの油だのの匂いは嫌がるんじゃないんだろうか。
当然だが今回の訪問時にはちゃんと洗濯をし、匂いを落としてから訪問している。
まぁ裕理がいる時はそんな事もしてなかった。
あいつは油の匂い平気だったし、時にはこの匂いが好きとさえ言っていたから。
もし無理という様であったなら、無理矢理でも親戚連中と伯母さん納得させて、俺が家から通う覚悟だった。
すると、
「大丈夫だよ」
「気にしませ~ん」
「ないがくしゃいの~?」
と思い思いの返事が返ってきた。
俺はひなに歩み寄る
「これだ。」
俺はバイクのバックパックからレンチを取り出し匂いをかがせた。
「あはははは!!くしゃい~!!!」
匂いをかいで何故かテンションがあがるひな。
……大丈夫だよな?
一先ず俺の家に向かうのは問題なさそうでなによりである。
俺の家に向かう為に、三人には足がないのでバイクを小鳥遊家に置かせてもらい、電車を乗り継ぎ池袋から八王子へ、そこは東京は東京でも、大都会のイメージとは程遠い場所だった。
近くにあるのは通称タマブンの名で呼ばれている多摩文学院大学。
一応俺の出身校である。
近辺には馴染みの飯屋があったりするし、大学にもまだ俺の後輩が残っており、時々この工場にも遊びにくる。
途中電車から駅についたのち、また電車での移動。
「………………」
「遠いですね~」
「ちかれた~」
とそれぞれの反応が返ってきた。
ひなは俺が背負うことにし、美羽にはもう少しだと伝える。
無言で頑張る空にはポンポンと頭を叩いておいた。
そうやって辿り着いたころには既に正午をまわり、太陽は頭上に煌々と輝いていた。
「ほら、ここが入り口だ」
事務所の横に併設するようにして俺の自宅は二階にあった。
通りすぎる時に例の匂いも否応なしに香ってくるが少なくとも彼女達の表情に変化はなかった。
カンカンカンカン
金属製の音をたてながら俺達は二階へ向かう
ガチャン
かけていた鍵を開けて俺は娘達三人を我が家に迎え入れた。
「ようこそ、取り敢えず此処がお前達の一時の家だ、もしなんか必要なもんがあったら言えよ?」
俺の家の間取りを伝えておくと、工場の上につくられた建物の二階部分にあたるスペースである。
玄関を入ると早速台所と浴室、トイレがあり、そこからリビングに通じている。
かっこつけてリビングなんていったが畳敷きの日本家屋なのでお茶の間というのが正しいのだろう。
「ここが居間」
俺は部屋を説明して扉を指し示す。
「ここが俺の部屋」
前に住んでいたアパートの退去と同時に荷物は全部此処に運び込んだ。
「ここは内緒」
少なくとも今俺の部屋にあげる事は出来ない。
男には色々な事情があるのである。
「そんで今から紹介する部屋の中から一つ選んでお前たちの部屋にしていい。ひなは空か美羽どっちかの部屋にいれてやんな。」
この家には都合五部屋のスペースがある。
一つは俺の部屋、一つは物置で一つは居間、残りの二つが友人知人やそのたもろもろが来たときの為にあけている。
そこを娘達の新しい部屋にする。
「急な事だったんで片づけてねぇからそれは後で片付けとく、ベットじゃねぇけど大丈夫か?」
部屋にあるのは敷布団である。
押し入れに入っていて毎回入れて出してを繰り返してもらうつもりだ。
「大丈夫だよ」
「OKで~す」
「たためるベットだお~~~!!」
一応確認してみたが大丈夫そうでなにより。
ひなにいたっては敷布団でかなりテンションがあがっていた。
「部屋は各自で決められるか?」
俺もそろそろ仕事場に顔をださないといけない。
社長とも顔見知りだし、目を掛けてもらってるからこそ、一週間なんて長期の休みもとれたし、空達の面倒も見れた。
まさかそのまま一緒に暮らす事になるなんて思いもしなかったし、社長にもそんな事言ってなかったがまぁなんとかなるんじゃないだろうか。
あいにく所長も家族サービスで旅行に出かけているからつたえることはできないんだが。
とにかくそういうものももろもろ含めて事務所に顔を出しておきたい。
俺が目線を向けると三人揃って頷いた。
「そうだ、お前ら下着やら服やらは持ってきてるよな?」
一応の確認、ここから買い物に出るんならそれなりの距離、歩かないといけないし服なんかかさばるから荷物持ちがいるだろう。
「し、したぎ!?」
俺の発言を聞いて空の顔が真っ赤になる。
何か悪い事をしただろうか?
「伯父さん、デリカシーを持ってください!!」
「……了解」
そうだった、仮にも女の子そんな話は恥ずかしいか。
まぁ、家の妹がオープンだっただけなんだろう。
下着選びには毎回連れて行かれたし、平然と下着姿で歩くし、夏場なんて二人で扇風機回しながらパンツ一丁と下着一丁で過ごしてたこともあるし。
とにかく、そんな感覚に慣れてしまっていた俺は、彼女たちが言う様にデリカシーにかけてしまうのだろう。
「とにかく、何か必要なものがあればいえよ、一応、これ置いとくから。」
そういって五千円札を机の上に置いて、俺は家をでて職場に顔を出しにいった。
「そうそう、内緒の部屋は入るのはNGだ、理由は後でのお楽しみ。」
軽い気持ちでそう言ったこの時の俺の判断が後々になって響いてくることをこの時の俺は考えてもいなかった。
―――――
“部屋、ヤニ臭いけど大丈夫か?”
あれだけ親族の前で啖呵をきったあの人は、いざ家を出て行く時少し申し訳なさそうにこちらに聞いてきた。
タバコを吸っていたのは知っている。
毎回家に来たときにはほんのかすかに臭っていたし、何よりも、裕理さんがあの人の話をする時にいつも言っていたから。
“兄貴を語るときにタバコの話は外せない。”
愛煙家であり、バイクに跨りいろんな所に連れて行ってもらったこと。
どんなに辛い時でも笑っていたこと、金がなくて二人ですすったひと束のソーメン。
幸せな出来事も辛い出来事もあの人がいたから乗り越えられたと。
“そんな兄貴から匂った機械油とタバコの匂いが私は大好きだった。”
そう裕理さんは言っていた。
かく言う私もそうで、小さい時から何度か来てくれて、その度に私をバイクの後ろに乗せてくれて、背中に掴まって顔をうずめている私には、気を使っていたのだろう、洗剤の良い匂いの中で微かに臭う、この苦い様な匂いが好きだった。
“そうだな、俺の事は兄貴と呼べよ。”
冗談でいったその一言をあえて真に受けて、私はあの人の事を兄と呼ぶ。
憧れなのかなんなのか、私の気持ちを今正確に表現することはできないけれど。
私こと小鳥遊空は瀬川佑太というあのかっこいい兄の事が大好きなのであった。
「じゃあ、早速部屋を決めましょうか。」
そんな兄の負担になりたくない気持ちは私の中に十分にあった。
それぞれの内装を見るがどれも畳がひかれた和式の部屋であり、そんなに内装も変わらない。
ただそれぞれの特徴としては、一つは鏡が置いてあり、その鏡一面に隙間を残さないように様々な化粧品が置かれていたり、鏡の下のたなにはストッキングが入っていた。
他にもキッチン、トイレ、浴槽、居間など家の中を散策してまわった。
「後残ってるのはここだけだね。」
「たんけんもうおわいなのー?」
そして最後の一部屋、お兄ちゃんの部屋の前である。
扉を開けると―
「へ~、おじさん意外だな~」
美羽はそこに広がる光景をみて一言
「うわ~ほんがいっぱい~」
ひなも目の前に広がるアニメチックな表紙の数々にご満悦である。
そこは漫画が所せましと置かれている本棚のある部屋だった。
「これならあの部屋、おじさんに見せても平気だね」
イタズラッぽく微笑む美羽
「イ、イヤイヤ、無理だから!!」
あの部屋っていうのは裕理さんの部屋のことで、そこにはとてもお兄ちゃんには見せられないような秘密が散乱しているのだった。
とにかく、
「決めた、私この部屋がいい」
この部屋には私の夢がある、希望がある。
ラインナップをみると今時のものより古いものが揃っていることがわかった。
それに、ここはあの人の部屋の前だし・・・
「分かった、じゃあ私はあっちの部屋ね」
美羽は聞き分けよくもう片方の部屋を選んでくれた。
「ひなはどうしよっか?」
今まで一緒に冒険を重ねてきたひな隊員は目をキラキラさせながら私達のことをみているのだった。
「ひなはお姉ちゃんと一緒でもいい?」
そうやって聞くと
「うん、ひな、そらおねえちゃんといっしょー」
パタパタと駆け寄ってきて足に抱きつくひな。
「ズルーい、ひな、後で私の部屋にも遊びに来てね」
それをみた美羽がひなに抱きつく。
そんな光景をみているだけで、あの時の選択は間違ったものじゃなかったと改めて実感した。
「さて、それじゃ部屋も決まったし、荷物運ぼっか」
後でお兄ちゃんから指示があるかも知れないので広げる事はせず、あくまで運び込むだけ。
各自運び込みが終わると再び居間に集合した。
時計を見ると、朝以来見ていなかった時計は既に三時を回っていた。
雑貨の買い物はお兄ちゃんがついていくといっていたから今はいいとして、何かの為にと置いて行った兄の五千円札がきらめいていた。
冷蔵庫をみるとニンジンや玉ねぎ、卵など少しは備蓄がある。
「・・・ご飯をつくろうと思います」
少しでもあの人のためになることを、純粋な気持ちで言った。
その言葉が後々、あんな事件を巻き起こす事になろうとは考えてもみなかった。
横から美羽が小さな声で
「あかん、それフラグや」
と言う理解できない言語を放っていたが私の耳には届かなかった。
―――――――――
近くのスーパーを散策によって見つけ、私は食材を買い込んだ。
卵がタイムセールで安売りになっていたので思わず買ってしまったり色々なことがあったがまぁミッションコンプリートと言ってよいだろう。
家に帰り食材を確認する。
玉子、ニンジン、玉ねぎ、etc、etc
「よし、チャーハンにしよう」
よしもなにも確認なんかしなくても私に出来るのは野菜炒めて、玉子ぶっこむチャーハン位のものだった。
野菜を切りにかかる際にはいつ包丁が自分のことすらもみじん切りにしかねないか恐ろしかったし、玉ねぎを粉みじんにした時には某タ〇イタニック等の感動巨編をみた時以上の涙を流した。
悪戦苦闘してるうちに時間はどんどん過ぎて行き、夕焼けが沈み始める時間となっていた。
なんで!?
まだ野菜を刻むことしかしていないのに・・・
そこでご飯を炊き忘れていたことに気付き絶望し無力感に打ちひしがれた。
そんな時―
カンッ カンッ カンッ
階段をあがってくる音が聞こえた。
お兄ちゃんが帰って来た!?
慌てるがどうしようもない。
何もかも中途半端なままあの人の目に入ってしまう。
ガチャ
私は扉が開く音とともに何に備えてかは知らないが、身構え、目をつぶった。
「親父~、今日は帰ってきてんだよなぁ~、今日は良い肉・・・」
耳慣れない声に目を開けると、そこにはラフな格好に制服を着崩した綺麗な女の人が立っていた。
「あん?お前誰?」
眉をひそめて問う女の人、多分私より年上。
「あ、あなたこそ誰よ?」
勇気を振り絞って私は聞き返した。
「俺か?俺は瀬川真愛美(まなみ)、ここに住んでる瀬川佑太の娘だよ」
その一言に、私は体が凍りつく感覚を実感した。
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余ったチャーハンは空達がおいしく頂けたかといったらそんなこともなく・・・前編
お前たちの名前をつけたのは俺じゃない、でも、今一番お前たちの名前を呼ぶ資格があるのは俺だと思ってもいいか?
「・・・スマン」
俺はホカホカのチャーハンが並ぶお茶の間で、そこにいる少女たちに謝っていた。
「どういうことか説明しろや」
みるからに不機嫌そうなのは二人。
空と、そして目の前にいるこの不良な感じの女
美羽はどうしたらいいのかわからず戸惑い、ひなはそもそもなにが起きているのか理解しておらずポカーンと口を開いていた。
今の発言はその不良な少女からである。
「伝えてなかったな、こいつらは今度から一緒に暮らすことになる小鳥遊空、美羽、ひなだ」
それぞれに矛先をむけながら紹介を行う。
美羽はペコリと、ひなは「ひなです、さんさいです!!」とドヤ顔で挨拶をし、空はチラリとこちらをみた後少しだけ頭を下げた。
それにたいし、この女はぶすくれたまま一瞥して行くだけ。
とりあえずコイツのことを皆に紹介しなければ。
「こいつは瀬川真愛美、俺の娘だ」
本人から聞かされることで再度の衝撃だったのだろう。
俺の口からでた言葉を聞いた少女たちは驚きに顔をひきつらせた。
そりゃ驚くよなぁ、二十代中盤にしてまさかの高校生の娘である。
お前は何歳で子を孕ませたのかと・・・
「むすめって?」
空はオウム返しに俺の言ったことを繰り返した。
「聞いたまんまの意味だよ、俺はコイツの娘だ」
ぶっきらぼうに言う真愛美、父親をコイツ呼ばわりとは本当にフテェ野郎である。
「血は繋がっちゃいねぇけどな」
吐き捨てるように言う。
その言葉に再び疑問符の二人。
いきなりの爆弾投下にみんなどうしていいのかわかっていない。
「……とりあえず飯を食おうか、うまそうだな、このチャーハン」
せっかく暖かいご飯が目の前にあるのだ。
話はそれを食べてからでもいいと思う。
という現実逃避を初めてみた。
一口食べる。
……これは
「言っとくけど俺じゃないかんな」
そういいながら真愛美もバクバク食い始める。
「油でギトギト、味も偏りがあってちぐはぐ、テキトーに切った野菜にゃ火が通ってなくてしまいにゃこれだ。」
ペッと吐きだしたそこには卵の殻。
「テメェ、なんてもん食わせやがる、こりゃあれか?お前なりにアレンジした殺人兵器か?」
皮肉も冴えている、今日の真愛美は殺る気だ。
「親父、こんなん食うことねぇ、待ってろよ、すぐうまいのつくってやっから、今日は良い肉―」
「いいよ、これもうまいさ、空がせっかく作ってくれたんだしな」
完全にチーンとなっている空への援護射撃のつもりだったんだが。
それを聞いて嬉しそうな顔をした空の反面、真愛美は―
「あ?俺の飯は食えねェってか?そうかい、わかったよ、じゃあ俺もこんなクソまずい飯いらねぇ」
居間から立ち上がると真愛美は家から飛び出して行った。
しばらくして下からバイクのエンジンを噴かす音が聞こえてきた。
あいつ俺のZZR乗っていきやがった。
「お兄ちゃん」
慌てて腰を浮かし、追わなくていいのかと目線で問いかけてくる。
「大丈夫、あいつはこんなんしょっちゅうだし、行くとこも分かってる。」
毎回行き先は同じである。
あいつと俺の取り決めもあることだし、今はこいつらを優先する。
「本当に悪かった、俺が説明しなかったから」
この三姉妹にまだ、重大な話しをしていなかったから。
「あいつは、真愛美はあいつも言った通り俺とは血が繋がってない」
家族になるということを甘く見ていた。
良かれと思ってしたことなんて簡単に裏目にでる。
「あいつはちょっとした事情で俺が拾ったのよ」
表現は間違っているし、複雑な事情があるけれど、それは俺の口から言う事ではない。
それはいつしか本人が、気が向いたら彼女達に話せばいいことである。
ましてや、あって一日もたたない空達に話すなんてそんな簡単な問題でもない。
「あいつも家族、伝えなかった俺が悪い、新しい家族が出来るっていうのは、真愛美にもお前たちにも喜んでもらえると思ったんだ。」
楽観的に考えていた。
真愛美には妹たちができて、空達には姉ができる。
それだけだと思ってた。
真愛美がああみえて手がかからなかったし、バイトで外に出ていることも多い。
仕事に出てばかりの俺とは別に、彼女にも別の繋がりをつくってやりたかった。
それが俺の友人であったり、今の空達であり、誰かであればいいと思った。
それは空達をその為にと思ったんじゃなくて、皆で家族になれないかと思ったんだ。
姉妹ができる事を伝えなかったのはサプライズ、そのつもりだったんだが、真愛美にとってそれは逆効果になってしまったようだ。
本当に、成長しようが、結婚まで妹を育てようが、何をしようが父になるのは本当に難しい。
母親もおらず、家で常に出迎えてくれる存在のいない彼女たちに、何かできないかと考えた結果がこれである。
「本当に悪い、後は俺の口からは言えない」
彼女たちの反応をみる。
俺の話しを聞いてくれた彼女たち、どんな反応が帰ってくるのか。
「お兄ちゃんに家に来るかって言ってもらえた時、すごくうれしかった」
最初に声をだしたのは空。
「未来が私達の手の届かない遠い所にいってしまって、何も考えたくなくなった」
あの時にどんな気持ちをもっていたか。
「事情は分からないけど、真愛美さんもそうだったのかなって考えた」
推測になるけど、出て行ったあの不良少女はどんな気持ちだったのか。
「ホントに偶然なんですけど、私達、だれも血は繋がってないんですよね」
美羽が笑いながら言う。
「お兄ちゃんもいったじゃない、血の繋がりは関係ないんだよ」
空も笑いながら言う。
「「だから、もう一人ぐらい増えたって、大丈夫だよ(ですよ)、きっと」」
二人は何処か嬉しそうに言うのだ。
「ひなも、お姉ちゃん増えたらうれしいもんね?」
美羽が笑いながらひなに聞いた。
「おねえちゃんふえゆの?」
首を傾げながらひなは俺の方をみた。
「さっきここにいた奴なんだけど、ひなのお姉ちゃんになっていいか?」
ひなは少し考えた後で弾けるような笑顔を見せてくれたのである。
「おねえちゃんふえるのひなうれしい!!」
本当に意味が分かっているという事はないのだろう。
それでも、ひなはあのきかんぼうを姉にもっていいと言った。
「ありがとよ」
クシャクシャとひなの頭をなでる。
えへへ~と嬉しそうに笑っているひな。
「じゃあ、あいつ迎えに行ってくるからよ、お前らは寝ときな、きっと帰ってくるのは朝になるから」
俺も立ち上がり、玄関から外にでる。
「部屋、汚いまんまでごめんな、今日は我慢してくれ」
三姉妹の快い“いいよ”の返事を耳にして、俺は階段を下りた。
カン カン カン
一段一段階段を降りながら、俺は胸のポケットに入れていたクシャクシャの星のロゴの入った特徴的なパッケージを取り出す。
ぷか~
肺に煙を送り鼻腔から抜けて行く煙を味わいながら吐く。
煙はそのままゆっくり夜の空に消えて行った。
階段を降り終えた所で俺は車庫から俺のバイクがなくなっていることを確認すると階段の一段目に座りこんだ。
実のところ俺は真愛美を追う気は今回ない。
それは俺と真愛美の二人で決めた取り決めがあるからである。
ぷか~
あいつと決めたルールは三つ。
今日はその内の一つに該当する日なのだ。
とにかく俺はいつあいつが帰ってきても良い様にここで待っておくだけである。
まだ春になったばかりの夜は少し肌寒く、薄着ででてしまったことを後悔したが、さっき啖呵きってでてきた手前戻れない。
ぷか~
俺はひたすらタバコを吸い、空の星を見上げ、時間をつぶすことに専念した。
ここらの空は結構都心からも離れているから比較的綺麗だ。
星座がどうとか、そんなのは分からないがやることもないので空を見上げていた。
俺が決めた彼女とのルールはこうだ。
その一
「家出を認めるのは一つの喧嘩につき一回まで」
一人になる時間、何処かに逃げ出したい時間が欲しい時が誰にだってあると思う。
家族の顔なんて見たくもない時だってあるだろう。
だから、俺は一回目の家出は追わない。
好きな時に家からでて、好きな時に帰ってきたらいい。
考える事、一人の時間を、彼女にとって有意義に使える様に。
その二
「二回目以降で見つかった時は決して逃げてはいけない」
1のルールを破り家出をしてしまうこともある。
そうなったら逃がさない。
どこに行こうが、どうやってでも捕まえる。
だから、もし見つかった時には諦めること。
その三
「いつでもいいから、一日一回は家に帰ってくること」
どんなに嫌でも、絶対に一回、家に帰ってこいと伝えている。
顔を合わせたくないなら俺が出勤のときでもいいし、別に部屋に引きこもっていてもいい。
俺と顔を合わせる事が重要なんじゃなくて、ここが真愛美の家なのだという事を知ってもらう為に。
以上が我が家の喧嘩の時の三カ条である。
約束を破ったら俺の拳骨が容赦なく飛んでいく。
あいつと一緒に暮らし始めてもう三年になるが、その間、このルールが存在し続けていた。
あいつが来た時の最初の喧嘩の後でつくった俺たちにルールである。
“もう一人ぐらい増えたって大丈夫だよ”
あいつらはそう言った。
それが本心からでたものだとはまだ俺には思えなかった。
あってまだろくに話してもいない。
しかも真愛美の外見があんなだし、機嫌も悪かった。
そんな奴とあってすぐコイツと一緒にこれから暮らして行くと言われたって不安に決まっている。
でも一つだけ安心したことは、三人はそれでも真愛美を受け入れようとしてくれている。
受け入れないと仕方ない状況をつくってしまったのは俺なのかもしれないが、これから先、家は二つあるのだ、最悪な所までは一応考えてある。
できれば、みんな一緒に暮らしたいと思うがそれは俺が決める事ではない。
ぷか~ ぷか~
“さて、うちの長女はどう思ってんだろうな……”
前から細かい事で機嫌をすぐに悪くする娘だった。
それでもそれなりに聞きわけも良かったし、自分の金は自分で稼ぐからとバイトもしている。
バイト代を家計にも入れようかと言われた時にはどうしようかと思ったもんだ。
色々考えてんだろうな。
家出をする時はむしゃくしゃしてだったり、一人になりたかったり、色々あるだろうが、ああみえて繊細なあの女は結局いつも最後は決まった場所で膝抱えて色々考えてやがるのだ。
俺はそのことに口出しするつもりもないし、あいつがそうしたいならそれでいいとも思う。
何でも話しを聞けばいいってもんじゃない。
悩み方なんて人それぞれだし、あいつが必要だと判断したら、話してくれることは知っているから。
真愛美はああみえて面倒見もいいし、もっと気楽に自分に三人妹ができたことを喜んで欲しかったんだが・・・
主役の意見を聞いていない状態での思考がまとまる筈もなく、とりとめもなく考えて時間はすぎ、辺りは少しづつ明るくなってきていた。
ブォン ブォン ブォン
遠くの方から聞きなれたバイクのエンジン音が響く。
車庫に俺の愛車を入れヘルメットをはずす、自分の原付やらヘルメットやらがある癖に全部俺のを使ってやがった。
制服のまま出て行って寒いんじゃないかと心配していたが、バイクに入れていた俺のジャンパーを羽織っていた。
事務所を開けて俺のバイクの鍵をなおし、出てきた所で階段に座っている俺を見つけた。
「よぅ、寒くなかったかよ?」
とりあえず声を掛ける。
「ハ、よれよれのうっすい作業着着てる親父にいわれたくねぇよ」
確かにごもっともである。
「ハハ、違いねぇ」
笑いながらタバコを吸う。
「なんでそんなとこじっと座ってたんだよ?」
「お前待ってたに決まってんだろ?」
「ずっとそこでかよ?」
「まぁな」
「……バカだろ」
その声の後、両方少しの沈黙。
「で、どうよ?」
「まだムシャクシャしてるにきまってんだろ」
頭をガシガシと掻く真愛美。
まぁそうに決まってるわなぁ。
「とりあえず家にはいっか」
「いや、その為に家に帰って来たんだよ!」
それでも、少しは落ち着いてくれたようだ。
カン カン カン
「なぁ」
「なんだよ?」
階段をあがりながら声を掛ける。
真愛美は俺の後ろについてきながら振り返った俺の顔をみていた。
「俺、お前の親父だからな」
とりあえず一言。
それがどういう意味とかそんなのない。
でも、なんとなく言っときたかった。
だから何かしろとか、何考えてるか話せとか、そんなことは一切考えてない。
ただの確認。
カン カン カン
また俺は真っ直ぐ向いて階段を上がり始めた。
後ろからはなんの反応もない。
ガチャ
そのまま階段を登り切り玄関を開く。
居間を通りそこで真奈美と別れる。
「親父」
別れ際、真愛美から声がかかった。
「当たり前のこと言ってんじゃねぇよ」
そうやって自分の部屋に入って行った真愛美。
空達を確認しようと自室の前の扉を開いた。
すぅー すぅー
布団をひいて気持ちよさそうに眠っている三人がそこにいる。
どうやら今日はみんなで一緒に寝る様にしたらしい。
一安心して俺は自室に入る、今日も仕事でいまから寝ると確実に寝坊してしまう自信がある。
だから自室でしばらく時間をつぶし、そっから飯を食って出勤だ。
居間でテレビみててもよかったが、いつも飯をつくるのは真愛美である。
俺が居間にいたら今日は気まずいだろう。
部屋に入って少しすると、真愛美の部屋の扉が開く音がした。
それに続いて居間の扉が開き、台所に出る。
トントンと包丁の音や電子レンジの音など料理をする音が聞こえ、それが終わったら居間で飯を食う音と食器を洗う音が結構な早さで連続して聞こえてくる。
朝の補習授業があるからもう出て行かないといけないらしい、ホント最近の高校生は勤勉である。
朝から勉強なんて朝が弱い俺からすると本当に勘弁してもらいたい。
とにかくそんな慌ただしい音が玄関から出て行ったことを確認して俺は部屋から出る。
台所をみると昼の俺の弁当と“みんなでくえ”そう書き置きをした大量のサンドイッチがそこにはあった。
忌わしいものでも消去するかのように大量にあったサンドイッチに添えられていた溢れる程の卵焼きと、ごみ箱に溢れていた卵の殻は彼女の中での空の料理に対する恐怖が見え隠れしていて思わず苦笑してしまった。
感想あったらくださいな。
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余ったチャーハンは空達がおいしく頂けたかといったらそんなこともなく・・・中編
願わくば、俺はお前達の幸せを願う。
真愛美や空、美羽やひな、それぞれの幸せじゃなく、お前達皆の幸せを願いたい。
「クソッ!!」
ガシャン!!
派手な音をたててフェンスが揺れる。
ムカつく、マジでムカつく。
学校を急ぐ道すがら、俺はたまりかねて悪態をついた。
「あの糞親父、マジで死なねぇかな」
本当にイライラする。
これ以上負担を増やしてどうすると言うのか。
分かってる、もう分かってしまっている。
あの親父はやるといったらやる男だ。
俺を引き取ると言った時も本当に引き取って娘にしてやがったし……
もうあの三人を引き取ることは決定してしまっている。
だからこそ考えなければならない。
自分が経験したことがないから何とも言えないけれど。
きっと、きっと子供を育てるって大変な事なのだ。
社会の授業で先生が蘊蓄(うんちく)を語っていたのを思い出す。
正確な値段なんて憶えていないけれど、子供を育てるのはまずたくさんのお金がかかるのだ。
それだけじゃない、それに倍する時間を子供相手にとられ、息つく暇なんてねぇのである。
そんなことをいいだしたら親父は“そんなのきにすんな”と豪快に笑うだろうが、俺は知ってる。
俺らの生活は何も変わらないのだ。
テスト費がいるからとせがめばくれるし、服が欲しいと言えば“そんなの自分で買え”と言いながらも買ってくれる。
最初はおこずかいとしても、高校生にもなった女は色々と手間がかかるからと少なくない金額を貰っていた。
俺達は普通に暮らしているのと何一つ変わらない、苦労もない生活を送ることになる。
でも、俺は知っているのだ。
そうなった時、親父の食事は平気で貧しいものになる、自分の服なんて買うことはほぼなくなる。
第一に、やっと金がたまってきたからか、減らしていたタバコの本数が、きっとまた減るのである。
親父がそうやって、視えない所で無理をしていく……
「…ゼ、ゼヒュー、ゼヒュー」
私は息を慌てて整える。
深呼吸、深呼吸。
さもないとこれから過呼吸を起こしてまた親父の手を焼かせることになる。
「ほ、ほんとに、メンドイよな、この体も、あんたもよ……」
そろそろ行かないと本当に学校に遅刻する。
俺は学校への道を急いだ。
そして学校で聞くのである。
お節介なクラスメイトから、小鳥遊家という家族に起こった出来事を―
――――――――――
次女というのはけっこう気を使う。
姉からは世話を焼かれ、時々焼いて、妹には世話を焼く。
そんで親がこのまえ亡くなった。
自分的には弱い所を見せるのは大嫌いである。
妹はまだ何が起きたのか理解はしていないが、姉はとても沈んでいた。
もちろん私だってそうだったけれど、私が泣くと姉が泣けないのである。
世話焼きなうちの姉は私が泣くと私の心配をしてしまうから。
私は、誰かを心配することはあっても誰かに心配されることは大嫌いなのだ。
という所で、私こと小鳥遊美羽は頭を抱えていた。
何といっても突然現れた新しく姉となる人のことである。
真愛美さんは口調や性格なんかは荒いけど、でもいい人だと思う。
最初の出会いの際も文句を言いながらも私達に出て行けとは言わなかったし。
私達の分もおいしい朝食をつくってくれた。
あの時怒ったのだってそうだ、父親が娘である自分を置いて、他人をかばったから。
私達を置いて部屋にこもり、おじさんが帰ってくるとすぐに飛び出し、詰め寄ったのだ、“これはどういうことだ?”と。
そうして飛び出していったあの人も不安なんだと感じた。
家族になるのだ、あの人の苦しみや痛みなんかも分かち合っていきたい、そう思うのは駄目な事なんだろうか。
「本当の娘じゃないんだってさ、お姉ちゃん」
私は伯父さんが出て行った後で、少し呆けている姉に声をかける。
ニヤニヤと笑って、イタズラッぽくするのがコツである。
「だ、だからなんだっていうのよ!?」
姉は慌てた声をだして真っ赤になる。
ウム、元に戻った様でなによりだ。
「べっつに~~~」
笑いながら私はひなをなでた。
難しく意味も分からないような話をじっと我慢して聞いていた子へのご褒美である。
「新しいお姉ちゃんが出来たよ、ひな、よかったね~」
「うん、ひな、ねぇたんとままごとするー」
元気に言う相変わらず可愛らしい妹。
「そっかぁ、私も混ぜてくれる?」
「いいお!みうねぇたんはごぼうさん!!!」
ままごとだと言っているのに食材になっているという妹のエキセントリックな配役に
「じゃあ、水抜きちゃんとしなくちゃね」
そうやって受け答えていた私もそうとうアレであると思う。
ピリリ、ピリリ
そんな話をしている中で電話がかかってきた。
「お兄ちゃんの携帯からだ……」
音は直ぐに仕事終わらせてあがってくるからといっておいて行った携帯からしている。
「どうする?」
私は姉を見た。
「分かんないよ、お兄ちゃんまだ仕事中だろうし」
そう言いながらもずっと携帯は鳴り続け―
「うるさ~い!!!」
我が家の末姫の逆鱗に触れた。
その瞬間覚悟を決め、携帯の通話ボタンを押していた。
「もしもし」
「やぁっと繋がった!!」
その大きな声は私の答えを無視して帰って来た。
「先輩、割のいいの見つけてきましたよ、これが急がないと流れちゃう話なんで、急いで電話させてもらったんですけど……先輩?」
受話器の向こうで黙っているこちらが気になったのだろう。
すこし困惑しながら確認する声が返ってきた。
「あの、伯父さんは今お仕事中で……」
「真愛美ちゃんではないね、君、誰?」
「あ、美羽って言います。伯父さんの家でお世話になっているものです」
「そ、そうなんだ、僕は佐古というものです。…………この声、僕のジャスティスと見た」
納得の声の後、何か小さな声で呟いていたけれど、その声は私には聞こえなかった。
「伯父さん、今お仕事中なんですけど……」
「いや、いいよ!!いくらでも待つ、この僕の命にかけて待たせて見せる!!」
途端に元気になってやるきになった声。
「その変わり、佑太さんに僕のこと良く言って伝えといてね!」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「……もう一回言ってもらえる?」
「ありがとうございます(はぁと)」
「うあぁぁぁあぁあっぁあキタコレ!神キタコレえぁぁぁっぁあ!!」
壮絶な奇声を発しながらその通話は切れた。
「……なんだったの今の?」
その声はお姉ちゃんの所まで聞こえていたのだろう。
姉は少し冷や汗の様なものを流しながらこっちを見ていた。
私はニッコリほほ笑んで―
「お兄ちゃんの友達みたい、バイト探してくれてたんだって、良い人みたいだよ?(はぁと)」
と突っ込みどころ満載で言ったのだが……
「バイト?」
「あ」
姉はさっきの人の事よりもそっちが気にかかった様で、
「私達のせいなのかな……」
あぁあ、また姉が落ち込んだ。
「―そんなんじゃねぇよ」
突然の後ろからの声に振り向くとそこには伯父さんの姿があった。
「佐古からの電話があったって?ほいほい」
伯父さんは私が未だ持っていた携帯をするりととると通話を始めた。
「よぉ、佐古」
「~~~!~~~~~~!」
「へぇ、そんなに良い条件でいいのかよ?」
「~~~~、~~~~~~~」
「了解、その日あけとくよ、……美羽にあわせろだぁ?」
その会話の後、怪訝な顔でこちらをみる伯父さん、私はあんまり意味が分からずコテンと首を傾げてみせる。
「……本人、意味が分かりませんみたいな顔してるぞ?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そこだけは聞こえる位に大きな雄たけびが轟いた。
「うるせぇな、分かったよ、ちょうど皆に紹介しようとはしてたんだし、そんときにな」
「~~~~~!~~~~~~~!」
「分かったか泣くなよ」
・・・
どんな会話が繰り広げられているのだろう?
純粋に疑問に思った。
「ふぅ」
通話が終わると少しの嘆息の後、伯父さんは居間の私達が顔を突き合わせているに腰を下ろした。
「何かの時の為にと思って、前から金を溜める様にしてるんだよ」
そういってテレビをつける伯父さん。
「ひな、ルナルナやってるぞ?春休みスペシャルだとさ」
「みる~~~~!!!」
ひなは嬉しそうに俺の膝の上にのってきながら画面を食い入る様に見つめていた。
アニメの中では起承転結とばかりに一度は追いつめられピンチのルナルナ。
“お~っほっほっほ、ルナルナあなた達もこれでおしまいね!!”
“でたな、シーカー仮面!!”
「おぉ、胡桃ちゃん頑張ってんじゃん」
ぽつりと呟いた言葉に反応したのは当然ひな
「えぇ?ルナルナはくるみなんてなあえじゃないお」
「違うさ、俺はシーカー仮面と友達なの」
「えぇ~、シーカーかえんはわるいひとなのよ~?」
「いやいや、根は良い奴なんだよ」
「そうなお?」
「おう」
「そうかぁ~」
ほにゃっとした顔に戻るひな、我が妹ながら、かわいいな。
テレビに集中しだしたひなはそこに置いておいて伯父さんは私達に目を向けた。
「何か言いたいことがあるかな?」
その問い掛けに我慢出来なかったのか姉が口を開いた。
「お兄ちゃん……無理はしてない?」
「無理?今の俺が無理してる様にみえるかよ?」
笑って自分を指す伯父さん。
確かにそれは自然体だった。
「本当に?」
「当然だ、こちとらお前ら育てる前から裕理と真愛美を育ててきてんだよ」
からからと笑う伯父さんの体から、前ほどタバコの匂いがしなくなったのは気のせいだろうか。
でも私は、その言葉を飲み込んだ。
姉はそこにはまだ気付いていない様だ。
「うん、わかった」
「飯食い終わったら、また下に降りるからよ」
姉は一応の納得を見せた様である。
そういってひなを地面に降ろし立ち上がると冷蔵庫から真愛美のつくったご飯を取り出しレンジで暖め始めた。
「おまえらも食うだろ?」
「「「たべる(たえる!)」」」
三人は揃って声をあげ、昼ごはんを食べる事になった。
――――――
「だからそうじゃねぇって!」
「ハイッ!」
「馬鹿、そんな切り方したら自分の指切っちまうぞ!!」
「ハイッ!!」
「てめぇまず皮を剥け!!」
「スイマセン!!!」
仕事場から帰ってくると、調理場は戦場とかしていた。
熱血指導……というかスパルタ指導のもと、空は右往左往しながら真愛美の指示を受け料理に励んでいた。
「ほら、帰って来た、間に合わなかったじゃねぇか!!」
「おかえりなさい、お兄ちゃん、ごめんなさい、ご飯もう少しかかりそう」
申し訳なさそうに言う空。
「別にかまわねぇよ、ゆっくりやんな」
そういって台所を通り過ぎる。
「あんまり、いじめてやんなよ?」
「ふん、物覚えがワリいのがワリいんだよ」
そっぽを向いて真愛美は再び空に目を移した。
「だから、なんで湯気でてんのに凝視するだけで引っくり返さねぇんだおめぇは!!!」
「だって見てろって……」
「臨機応変って言葉をしれやぁぁぁぁぁ!!」
再び怒号があがる。
食卓はまだ遠い……
「あ、おかえりなさい」
「おかえいなさい!」
居間では二人の娘がテレビを見ていた。
「もう少しでご飯だとさ」
「……まだまだかかりそうですけどね」
苦笑気味の美羽。
彼女は空が悪戦苦闘している中ずっとひなの面倒を見てくれていたのだろう。
「次女は気を使って大変だな」
笑って言う俺にキョトンとした後
「そう思うなら伯父さんもなんとか言ってやってください」
そんな返答が返ってきて。
「面目ない」
そうかえし二人で笑い合った。
―――――
「家出をしようと思います」
かしこまった感じで言ってのけたのは真愛美
ご飯として少し焦げたハンバーグが出てきて、焦げはしたものの、食べられない事はなかった。
皆でもくもくとご飯を食べ、全て食べ終わった後、皿をしっかりと洗い場まで持って行き、真愛美はそう言った。
俺を見る視線は別にいらついているわけでもなく、寂しげでも無く、なんというかスッキリとした顔だった。
「了解」
その返答に―
「空」
真愛美は空に声を掛けた。
「ハイ!!!」
姿勢を正して真愛美の方を向く空。
「明日は卵焼きだかんな」
それだけ告げると真愛美は玄関を開け外に出て行った。
それからすぐに、聞きなれた原付の音がする。
俺は食卓に目を向けた。
「あ、ああ、あのう、私の……せいですか?」
目線を向けると落ち込んだ風な空。
手が震え、可哀想な位に顔を青くしている。
「違うよ、空、お前のせいじゃない」
「じゃあ……」
「真愛美と話をつけてくるから」
俺は視線を美羽に向ける。
視線を察したのか美羽は任せてとばかりに胸を叩いて頷いてくれた。
「もしお前のせいなら、真愛美が明日の話なんてすると思うか?」
立ち上がって俺のバイクの鍵をとる。
「あ」
「そうだろう?あんなに楽しそうな真愛美久しぶりだったんだぜ?」
「楽しそう?」
「ああ、しかもかなり」
未だ涙目の空の頭を撫でる。
「大丈夫、ちょっと真愛美と話をしてくるだけだよ」
そう言って俺は玄関を出た。
風がまだ寒い。
愛用のバイクに鍵を差し込みエンジンをふかす。
「さぁ、いっちょ行きますか」
目指す先は家族のだんらん。
空は星の瞬きがみえる位に澄んでいた。
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余ったチャーハンは空達がおいしく頂けたかといったらそんなこともなく・・・後編
私のせいでとか、私がいけないとか、あ~だこ~だ言うのはもうやめよう。
私達はあの人に迷惑をかけることにした。
―――
“月の見える丘に行こう”
そうあの人は呟いた。
父親がいなくて、親とも疎遠で、近所付き合いも下手クソで、録に稼げもしなかった母親の言葉である。
高校を卒業したまでは良かったけれど、そこで母親はそれまで付き合っていた男と結婚することにした。
その男も高卒で、体も弱かったらしく現場で働くなんてことも出来ず。
それでもなんとか働いていたらしいんだけど結局は体を壊して寝込む羽目になった。
正直に想う。
後になって正直な感想なのだけれど、あの人はその時に死んでしまっていればよかったのだ。
あの人の入院費や薬代で母がパートをこなして溜めた、俺達のなけなしの生活費はほとんどが飛んでいったし、どんどんと悪くなっていくあの人の体は、その内録に話をすることも出来なくなった。
日に日に意識を保っている時間も少なくなって、少しづつ増え、段々と払えなくなっていく治療費。
あの人は毎回面会に来るたびに申し訳なさそうに“スマン”と呟いていた。
俺達の目なんて見る事が出来なかったんだろう。
日に日にうつむきがちになって、最後は俺達の顔なんて見なくなった。
あの人も耐えられなかったんだろう。
自分が痩せ、衰えていく姿を認識すると同時に、母も無理をして、段々と、少しづつ、やつれ、疲れ果てて行ったから。
“月の見える丘に行こう”
そう母が言ったのは、あの人が病院で眠る様に息を引き取った日の事だった。
俺達が住んでいた家の近くには小高い丘があって、誰が付けたのかは知らないけれど“満月の見える丘”という名前だった。
昔、家族で行ったことがある、うちの家族にとってほとんど唯一と言える家族での外出をした場所。
その日の空もとても澄んでいて、星が零れそうな位輝いて、冷えた空気が徒歩で来た俺達の暑くなった頬に心地よかった。
俺達は近くに生えていた木の根元に座り込んだ。
母が腰を下ろし、その前に俺が腰を下ろす。
自分が来ていた粗い布のマフラーとカーディガンを俺にも回して、包みこむ様に抱きしめてくれた。
今まで張りつめていた糸がピンと弾けて、今まで泣かなかった母には、そこが限界だったらしい。
ワンワン泣いたのである。
当時小学生だった俺が、顔負けする位大きな声で、え~んえ~んと、そりゃあもう泣き叫んだ。
俺の背中に顔を埋めて、垂れる鼻水が俺につかない様に一生懸命拭って、ポタリポタリと大粒の涙を流した。
なんで分かるかって?
一生懸命拭っても、俺の首筋に、何度もその水滴がおちてきたから。
それが鼻水だとか、考えたくないだろうが。
俺はその母の泣き声をバックに空を見上げていた。
本当に月が綺麗で、子供の頃の俺はその空に死んだあの人を探した。
「……好きだったのよぉ、やっぱり…………好きだったのぉ」
少し子どもっぽい母親の口調ではあったが、どんなにきつくても、どんなに辛くても、あの人に生きていて欲しかったんだろうか。
その悲しそうな呟きに、俺まで途中からワンワン泣いたのを憶えている。
「―よぉ、待たせたか?」
意識を元に戻し、俺は背中からかかってきた声に振り向いた。
「おせぇよ、結構待ったぞ」
「ワリィワリィ、ほら」
そうやって缶を投げてくる親父。
「馬鹿!暗いんだぞ!受け取り損なったらどうすんだよ!!」
「どんな心配してんだよ」
俺の言葉に笑う親父、そして俺の前まで歩いて来ると止まる。
「お話をしにきてやったぜ?」
ドヤ顔がうざい。
「いいからさっさと座れよ」
俺は展望台のベンチ、自分の横に目をやる。
親父はそれをみて黙って俺の隣に座った。
カチョ、っとプルタブの開く音がして一息のんだ親父の口から白い息がこぼれた。
俺もそれにならいプルタブを開ける。
「…………」
「…………」
しばらくの間無言の時間が流れた。
親父も俺も、チビチビとコーヒーを呑んで空を見上げている。
「星、綺麗だよな」
親父がそう呟いた。
「そう、だな」
実際俺は空を見上げてはいたが景色なんて目に入っていなかった訳で、その一言に焦る。
「流石は“満月の見える丘”とか言うだけあるわな」
「……そうだな」
再びの沈黙。
それ以降、親父は何かを話そうとする素振りも見せず、ただ空を見上げ、コーヒーを飲んで時間を過ごしていた。
「飛行機の事故、聞いたよ」
その返しに少し親父が緊張したのが伝わる。
「……そうか」
その一言だけが帰って来た。
「何で俺に言わなかった?」
少しづつ怒りがこみ上げてくる。
あぁ、やっぱり俺はいらついてたんだなぁ。
「俺、あいつらに酷い事言ったぞ?あんたがいない所で、俺はあいつらに両親の話をした……」
「“元々の親はどうした?”って、とっくに両親なんざいなくなって、葬式だした連中に俺は言っちまったぞ?」
「……すまん」
その一言に私はきれた
「“すまん”じゃねぇンだよ!!!そう言うのが一番だいっきらいな俺が、俺が、あいつらに酷い事言っちゃったじゃねぇかよ!!」
家族を失って、頼る所もなくて、それを親父が救って、やっと助かったと思った矢先に、俺みたいな奴からグリグリと傷口に塩を塗りたくられるのである。
「大体親父だってそうだ、何でいわねぇ?少しの事情の説明位、娘の俺にあっても良いじゃねぇかよ!」
「両親が死んだとか、頼れる人が親父だけとか、そう言うこと言ってくれれば俺だって黙るよ!」
「それとも、やっぱり俺はあんたの娘じゃねぇか?血の繋がった妹の娘達の方がそりゃあ大事だよな!所詮俺なんて血も繋がってないし、そう言うことなんだろう?」
叩きつけるようにそう叫んだ。
親父はそれを遮る事はしないで、ずっと聴いていた。
そして、俺が一段落した事を確認すると口を開いた。
「俺はさ、仕事も結構忙しくて、家にだってずっといない」
静かに、少しづつ、絞り出す様に親父は話す。
何を言ってるんだとおもった。
「家で一人っきりでいるのってつまらなくないか?」
そうやって親父は俺を見た。
「俺はよかったんだよ、することがあったから」
バイトして、金作って学校行って家に帰れば裕理がいた。
「でもな、裕理は違った」
バイトできる年齢でもない。
家に帰っても一人きり。
「遊びゃあ良かったんだろうけどな、ぶっちゃけあいつを遊ばせてやれる金がなかった」
そうやって親父は少し悔しそうに呟く。
「さいわい、裕理は元気な奴だったから友達はたくさんいてな」
それだけは少し安心したように。
「お互いに助け合おうって言ったのに、あいつは家で一人家事をして、外で俺は仕事仲間作って、申し訳なかった」
しみじみと話をする。
親父の顔は空を見上げていて、どんな表情かは分からなかった。
「当時の俺はそれに気付いてなくてよ、裕理が結婚するって言って裕理を旦那さんの所に送り出した後の家で思った」
タバコに火をつける。
夜の闇の中でそこだけが赤くて、自然とそこに目が向いた。
「家で一人ってさびしいなぁってさ、だから俺は家を飛び出してあいつと行った“満月の見える丘”に気まぐれで行った」
親父は俺を見る。
「そこで俺は一人あの幹で膝を抱えて泣いてたお前に出会った」
親父は少しだけ笑う。
「なんやかんやあって俺はお前の親父になったけど、……本当にうれしかった」
…………
「天の邪鬼でガサツで、乱暴者で、褒められた所なんかなかったかもしれない」
「でも、お前は学校に通いはじめて、下手だった料理もはじめた」
いてくれるだけで嬉しかったのにと。
自分の娘になってくれただけでも嬉しかったのにお前は頑張ろうとしてくれたと。
「愛してるよ」
親父は真顔でそんな事をのたまったのである。
「本当に愛してる。お前の事を、胸を張って誇りに思う」
私は、何も言わない。
というか言えない。
迷惑をかけて押しかけてきた俺を、胸を張って誇るといったバカ親父に、何と声をかけていいのか分からない。
頭は真っ白で何も言葉なんか浮かんでこなかった。
「そんな大切な娘に家で一人っきりの寂しさを味あわせるのは嫌だった」
―俺の我儘だけどな
そういってタバコに火をつける。
「それが全てじゃない。というかそんな理由だけで家族を増やそうなんて間違っても思わない」
「でも、みんな一緒がいいとあいつらが決めた」
俺は腐っても裕理の兄で、その妹の娘達が自分の意思で一緒がいいと言った。
「なら、助けてやりたいと思った」
自分でなんの力もない彼女たちの、少しでも力になれたらいい。
親父はそう言った。
「…………それはもういいんだよ」
事情を知って、父の思いを知って。
それを無理だと言える訳がない。
「でも、なんで俺に事情を説明しなかった?」
それが一番ムカツクのである。
「俺はいいよ、確かに親父が頭悩ませたのも理解した」
「でもさ、俺も事情を知ってたらあんなこと言わなかった……」
俺だったら相手を殺してやろうと思う。
そんな酷いことをあいつらに言ってしまった。
「……それは俺には出来なかった」
「なんでだよ!!」
「俺があいつらにお前の過去を伝えてねぇのと同じだよ」
「…………」
振り返って考えてみる。
たとえば、私の過去を彼女たちが知っていたらどうだったか。
「……そうか」
だから納得した。
他人に勝手に興味で知られたくはない。
他人の口から言うのではなく、言うのなら私の口から。
そう考えた親父は彼女たちの過去を告げることなく俺と彼女たちを会わせたと……
「ムリヤリすぎるだろ!!」
もっとうまい接し方が私達にはあったはずで、もっと無難な落ち着き方があったはずなのだ。
たとえば、前もって親父が双方の過去のことまで話しておくとか、どちらかに言い含めておくとか。
仲良くしてやってくれとか何かいっとけば少なくともあの三人は断らないだろう。
そうして私達はもっとありふれた家族になれたはずだった。
互いに遠慮だの同情だの変な気持ちを胸に宿して、私達は家族となったのだろう。
「……めんぼくない」
親父はそれが嫌だった。
互いの過去に気兼ねして、言いたいことも言えないで、大きくなって家を離れて、次第に疎遠になっていく。
そんなのが嫌だったんだろう。
「めんぼくないじゃねぇよ!」
俺だって嫌だ。
いつも遠慮して過ごすなんてゴメンだし、いつも遠慮されて過ごすのもゴメンだ。
でも―
「でも、家族同士で喧嘩がないのはつまらねぇな」
確かに私達家族は普通じゃない。
姉妹の母親はみんな違うし、私なんか赤の他人だ。
父親と少しでも血の繋がりがあるのも一人だけ、こんな家族構成みたことがない。
みんな父親が死んでいるんだもの。
私達の家族は普通ではない。
でも、私達の家族は不幸ではない。
「そう思うだろ?」
その言葉に途端に元気になるバカオヤジ。
「調子にのんな!」
「あだっ!!」
ポカリと一発お見舞いして私はベンチを立った。
「親父、タバコ一本くれよ」
「ダメだ」
即答であった。
「なんでだよ、そんなうまそうに吸いやがって」
親父はニヤリといやらしそうに笑うのだ。
「タバコは20歳になってからだ」
「親父が言っても説得力がねぇよ!」
「残念ながら我が家のルールだからな」
「ぜったい今決めただろ!!」
「うるせえなぁ、ほら」
そういって親父は自分の吸っていたタバコを俺に差し出してきた。
「一回だけだぞ?」
「分かったよ」
そういって俺は手にしたタバコを思いっきり吸いこむ。
「ウオェ!!ゲホッ……ゲホッ!!」
私が踏み出した大人の一歩は猛烈に煙たくて、とてつもなく苦いものだった。
―――――
「お兄ちゃん遅くない?」
伯父さんが出て行ってから、姉の態度はそれはそれは落ち着きのないものだった。
おちつきなくご飯を食べ、落ち着きなく皿を洗って、落ち着きなくお風呂に入った。
皿を洗っていた間に実は数枚落ちて割れていたのは内緒である。
「少し落ち着こうよ」
ひなの濡れた髪を乾かしながら姉に言ってみる。
「でも……」
そう言ってうつむいて姉は黙った。
落ち込んでいるというかおそらくまた気負っている表情だ。
「“また伯父さんの負担になった”そう思ってる?」
見るともなしに見ていたテレビから目を離し、姉は私を見た。
「思ってるよ、お兄ちゃんにバイトさせて、その言い訳まで考えさせちゃって、あげくにお兄ちゃんには娘がいて戸惑っている内にその人は家出しちゃった」
そこまで一息でいうと姉は再び黙り込む。
「ねーたん、おいたんのことしんぱいなの?」
ひながきいて来る。
「そうね、心配かな、とても心配」
姉は儚げに笑う。
自分がしたことを後悔して。
燻り続けていた私の中の思考だったけれど、噛み締めていた私の唇から、私の本当の気持ちを悟った。
「そうやっていつまでも悩むの?」
私は実の姉にムカついていた。
「え?」
姉は私の顔を見る。
「私のせいだとかいって、一生そんな顔してるつもりなの?」
「…………」
姉は黙って私の顔を見ていた。
「私達は自分から決めて伯父さんの所にいることを選んだんだよ」
部屋の中に音が反響する。
「伯父さんは笑って私達の苦労を背負うって言ったんだよ?」
寒さ故にしめきった部屋で、静けさの中こぼれる声は独特の響きを持ってその空間に響いていく。
「それなのにお姉ちゃんはそんな伯父さんの気持ちも無視して、そうやってウジウジ悩むの?」
姉のことは大好きだ。
私達のことを何時も心配してくれる姉のことが私は大好きだ。
でも、姉が決めた事をいつまでも後悔して、前に進めないでいるのなら、私は少し荒っぽくても、背中をおしてやりたい。
「ウジウジとか言わないで!!」
その言葉を聞いて姉が叫んだ。
「お兄ちゃんの負担になってる、お兄ちゃんに迷惑かけてる……やっぱり、そんなのやだよぉ」
うつむいた姉の顔は見えないけれど、その声がうわずってきていた。
「お兄ちゃんが無理するよぉ、おにいちゃんが我慢してるよぉ、おに゛いちゃ゛ん゛がきずづく゛のがいやなのよぉ!!」
ポタリポタリと涙が落ちて、それでも、姉はうつむいて、私に泣き顔は見せない。
「できることしたいよぉ、でも、なんなのよ娘って、きいてないよぉ」
新しい姉が出来ると聞いた。
一応私達は納得したけれど、笑顔で大丈夫だって言ったけれど、今まであったこともない女の人と、簡単に家族になるなんて出来るわけがない。
そしてあの人は私達に言ったのだ。
多分私達の事情なんてしらなかったんだろうけれど、私達の親はどうしたのかと、私達をおいていったのか?薄情な親だなぁと、あの人は言ったのだ。
そんな人が姉になるなんて言われて、安心なんて出来るわけがない。
「や、やめてよ、おねえちゃ゛ん゛、なんかわたしまでなきたく……」
じわりと、目元に涙がたまってきているのが分かる。
「おねーたんたち、なんでないてうの?」
ひなが私達の顔を覗いこんでくる。
「だ、大丈夫だよひな、ちょっとお姉ちゃんと、伯父さんの心配をしてたの」
慌てて涙を拭う。
ちゃんと笑ってひなに喋りかけれているだろうか。
そんな私をみて、ひなはとてとてとこちらにきて、ぎこちなく私と姉の背中をさすった。
「なきたいおきにわらったらめーなのよ」
ひなの心配そうな顔。
その一言が限界だった。
涙が止まらなくなる、止めようと思っても止まらなくなる。
「ひな……あ゛りがどう゛」
ひなを抱きしめて、姉と向かい合わせに泣く。
「「ヒ……ヒッグ、、、、エグ」」
しゃくりあげる音、しばらく無言で私達は泣いていた。
何が悲しくて泣いているかとか、どんなことがいやなのかとか、自分でもよく分からなかった感情が溢れて溢れて、気付けば姉とわんわん泣いていた。
漠然と胸の中には不安があって、何をしていいかも分からないまま私達の中で燻っていた焦燥感があった。
皆一緒がいいと言って私達はこの道を選んだけれど、そこにもやっぱり嫌な事はあるみたいで、どんな道を選んでも、結局楽しいだけで終わることはなかったんだろう。
「ひながぎゅ~ってしてあげうね」
泣いていた私達を包む込むように、ひなが私達に抱きついてきた。
腕の長さが足りていなくて、私とお姉ちゃんの肩をきゅっと自分に引き寄せる様な形になる。
そうやって抱きついたひなの体の暖かさに姉として恥ずかしながら心地よさを覚えてしまった。
「ありがとうね、ひな」
若干声は上ずっているけれど、ひなにお礼を言う。
「いいのよ~」
そうやってひなは私達を抱きしめながら嬉しそうに笑っていた。
良く考えたら、パパとママが死んだことを知ってから、私達は初めて泣いていた。
「お姉ちゃん」
「……なに?」
顔を真っ赤にしている姉に話しかける。
鼻も、目も、耳も、真っ赤にしたみっともない泣き顔だった。
「伯父さんに、……お父さんに、迷惑をかける覚悟をしよう」
私も同じ様なことになっているのだろう。
涙を服の袖で強引に拭いとって私は姉と向き合った。
「負担をかけよう、お父さんが無理をする姿と向き合う覚悟をしよう」
私達はあの人と本当の家族になろう。
「心配掛けよう、面倒見てもらおう」
遠慮なんていらない。
真正面からイタズラっぽく笑って、ちょっかいをだそう。
だって、本当のパパに私は遠慮なんてしたことがない。
「パパと一緒の洗濯はいやだって困らせよう」
洗濯を二回に分けさせて困らせてやろう。
「休みの日ぐらいどこかに行こうっていって困らせよう」
面倒くさがりながらもバイクで何処かに連れて行ってもらおう。
「疲れてこたつで寝ているパパに布団を掛けてあげよう」
ついでに顔にイタズラをしたら面白そうだ。
「お腹すかせてかえってくるパパに、おいしいご飯を作ってまってよう」
それはこれからの努力と新しい姉との話しあいである。
「私達が楽しいと思える思いでをいっぱいいっぱい作ろう」
私達の笑顔がパパの元気に繋がると信じて。
「新しいお姉ちゃんとたくさん遊ぼう」
料理を教えてくれたり、朝ご飯を用意していてくれたり、見た目とは裏腹に面倒見のいい姉とあそんで。
「私達はそうやって家族になろう」
ゆっくりでいいから、そうやってすすんでいこう。
「そんな感じでどうかな?」
そうやって私が姉に笑いかけると。
少しだけ、考え込んだ後―
「わかった、迷惑かける分、たくさん恩返ししよう」
そうやってニヒヒと猫の様に、姉は泣き腫らして真っ赤な顔のまま笑った。
私達が選んだ道は大変なことが一杯で、幸せになれる事を願って選んだ道だったけれど。
そこにもどうやら嫌なことはあるようで、他の道を選んでいたらどうなったのかと少し思わないでもない。
でも、私達が選んだこの道は、その中で一番マシな道だったと信じたい。
みんな一緒がいいと無理を言って選んだこの道が私達にとってどんな道なのかはまだ分からない。
本当にそうかは分からないし、答えなんて確かめようもないけど、だからこそ、その答えは私達でだして良いものなんだと思う。
私達の家族は普通じゃない、でも決して不幸ではない。
私達は私達の形で、少しづつ進んでいけばいい。
「ただいま~」
「……ただいま」
ちょうど帰って来たようだ。
玄関からはよく聞いた声が二つ聞こえてくる。
まずは何をするかは決まっている。
今まで伯父さんと呼んでいたあの人に、まだなんと呼んでいいか分からないあの人に。
“おかえりなさい”と言おう。
続く言葉に“お姉ちゃん”や“パパ”と付け加えて―
真愛美と三姉妹のあんな悪口言っちまったという部分にかんしては話しとして描写をしていません、いつか取り上げられてらなぁとは思いますがとりあえず一番最初に三姉妹と真愛美が出会ったチャーハンを作った日の出来事です。
今回はクオリティが低くてすいません。
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