ばいおフレンズ (conpas)
しおりを挟む
改定前
目覚め
ザァーザァーと浜に波が打ち寄せる。辺りはすっかり夜のようで、雲間に月がぼんやりと輝いていた。そんないつもと変わらぬような朧月夜に“それ”は流れ着いていた―――。
「うぅ……。」
意識が覚醒する……。身動ぎをすればパキッパキッと音が鳴ると同時にひどく倦怠感を感じる。随分と長い間眠っていたようだ……。薄く目を開けてみるもまだ暗い。
「夜……?」
それにしては暗すぎる。軽く伸びをしてみると腕が何かに拒まれた。全身で回りを探ってみれば四方を何か硬い壁で囲われているらしい。
「箱の中、か……?」
そのまま探り続けると正面にあたる部分に溝があり、正面にある壁を二分割するように続いていた。おそらく“扉”のようなものだろう……。弄ってみれば緩んでいるのか少しだけ開く。しかし隙間からは潮の香りが流れ込んでくるばかりで光は射してこない。これはつまり――
「夜で合っていたか……。尚且つ海辺、またはその近く――」
耳を澄ませてみるが、わずかに聞こえる波風の音以外には何も聞こえない。匂いも先程から漂う潮の香りしかしない。恐らく、周囲には誰もいないのだろう。だが、もしかすると気配を殺して潜んでいるかもしれない……。
――用心するに越したことはないな……
気を引き締め、いよいよ外に出ようと“扉”を抉じ開けるために私は爪を生やし……?
「俺は……今、何をした?」
爪を生やす?何をしているんだ俺は……?爪は元から生えているものだ。その筈なのに、わざわざ……生やすだと⁉
慌てて体を確認する。まずは腕、長く鋭い爪の代わりに五本の細い指が生えている。その指は曲げる、伸ばすなど器用に動かすことができる。また原理は不明だが、意識を集中すれば虹色に発光した後以前のような爪の生えた手に戻る。いや、“なる”と言ったほうがいいのか……?
次は肌、ひんやりとしてすべすべした鱗の代わりに、温もりのある柔らかい肉の肌になっている。
続いて腕と足、両方ともいつものようにがっちりとしてはいないが、筋肉はしっかりとついている。
最後に……頭。首があって耳があって髪がある。以前のような首がないずんぐりとした体形で無くなっている。これではまるで…“人間”ではないか!?
……待て、落ち着け俺。焦るだけでは何もできない。冷静に、状況を見極め、最善手で行動するのだ。
……少し落ち着いた。そして今気が付いたが、身に何かをまとっているようだ。これは……“服”だ。“研究員”や“U.S.S”の奴らが身に着けていた。だが、暗くてどんな格好をしているか分からない。
――ひとまずこの中から脱出、その後周辺の確認…だな。
改めて気を引き締めなおし、ここから出ることにする。さっきやったようにまた爪を生やし、爪先を溝に沿えてから筋力に任せて一気にねじ込んだ。
ギャンッ!!
擦れるような、または裂けるような甲高い音を立て、爪が根本までねじ込まれる。そうして広がった隙間に爪を生やしたもう片方の手も差し込み、強引に抉じ開ける。
ガッ!!バキッ!!
穴が通れるサイズに広がったことを手で確かめた後、頭を出しあたりを見渡す。光は一寸も射しておらず、周囲は完全に暗闇に包まれている。近くから波音がし、それ以外には何も聞こえない。潮の香りもグッと強くなった。つまずかないよう手で探りながらゆっくりと外に出る。足をつければ柔らかい感触と共にジャリジャリと音がする。全身が出たところで月が雲から顔を出し、周囲を照らし出した。
砂浜のようだ。すぐ目の前には海が広がっている。周囲に自分以外の姿はないようだ。振り向けば先程まで入っていた“箱”がある。確か……“コンテナ”だったか?それの表面はツルツルとしていて、冷たい光沢を放っている。無理やり広げたことで扉はぐしゃぐしゃにひしゃげ、哀れな姿をさらしていた。そしてその表面に映った何かの姿が目に入った―――
それはハンターグリーンの服*1を身に着けている。血の通った肌にスプルースのショートヘアー。そして黄色い瞳の三白眼。―――間違いない、これは“俺”だ。どうやら本当に人間の姿になっているらしい。薄々感づいていたせいか衝撃はなかった。それどころかこの姿を受け入れている自分がいた。
自身の姿に視線を走らせていると、その姿が映っているぐしゃぐしゃになった扉の隅に何かを見つけた。近づいてみなければ分からないほど小さな字で書かれていたそれは――
「『MA-121 Hunter α JP-Type』……?」
――
……気が付いたが自分の口で喋っている…な。だが、今更驚くことではない。少々違和感があるが問題はない、ところで『JP-Type』とはなんだ?他の兄弟とは何が違うのだろう……。
「ほかに何かないだろうか……?。」
コンテナの隅のほうに何かを見つける。手で握れるサイズのそれは何かの容器のようで、振ればちゃぷちゃぷ音が鳴る。
ーーーただの水のようだ……。ちょうどのども乾いている。誰が入れていたのかは知らないがありがたく頂いていこう。
……ほかにもまだある。“U.S.S”のやつらが腰に着けていたやつだ。見たところ傷一つない。ヒモの部分に先程の容器も着けられる。何かを持ち運ぶ際に使えそうだ。
……? 中に何か入っている。
血痕のついた手紙
これを読んでいるということは、君はフレンズ化を成し遂げじゃパリパークの何処かに流れ着いていることだろう。アンブレラじゃパリ秘密研究所はバイオハザードが発生し、隠ぺいのため私を含めた職員もろとも廃棄処分となった。私はせめて研究の証である君たちを脱出させようとしたが、全員を送り出すことは不可能だったため、君だけを外へ出し残りは冬眠処置を施しパーク中にある研究支部に隠した。うまくいけば彼女たちもフレンズ化を果たし、今も眠っていることだろう。
君はその3人の姉妹たちを見つけ出し目覚めさせてもいい。支部はそれぞれ“しんりん”“こはん”“じゃんぐる”にある。じゃパリパークはセルリアン以外には脅威といえるものが存在しない。君はもう自由の身だ。好きに生きてくれ。
アーネスト・グリーン
名前はにじんで読めない。
……どうやら俺宛の手紙らしい。俺がここにいる理由が書かれている。“研究所”は前にいた場所、“じゃパリパーク”は今この場所、“フレンズ化”というのはこの体になったことだろう。あと、俺には“姉妹”とやらが3人いるらしい。差出人の名前は分からないが……
―――『好きに生きろ』、か……。
ずっと命令に従って生きてきた。だから、自分が何をしたいかが分からない。何かを狩るのも……あんまり好きじゃない。とりあえず当面は“姉妹”を探すことにする。探す中でやりたいことが分かるかもしれない。
まずは寝るか。日が昇ってからのほうが探索しやすい。それに、まだ疲れを感じる。体調は万全にしたほうがいいだろう。水分はとった。コンテナに背を預け瞳を閉じる。
―――これから一体どうなるのだろうか……。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
探索
光を感じる……。おぼろげながら前に目を向ければ、ちょうど光が海面を割って出てくるところだった。……日が昇るにつれて世界が輝きを増していくさまに私はくぎ付けになっていた。……胸の鼓動が早まり体に僅かな熱を感じる。だが苛立ちや怒りなどそういった不快に感じる類のものではない。むしろ穏やかで、なのに気分が高揚している。これが"感動"というものなのだろうか……。今はただ、この気持ちに浸っていたい。何も考えず……この光景を見ていたい。そのせいで呆けて口が半開きになっていたかもしれない。
「……太陽ってこんなんだったっけ……。」
あそこ*1では時間帯によって訓練内容がある程度決まっていた。夕方に戦闘、深夜に追跡、日の出に隠密、といった感じで太陽は俺にとって『今日は何の訓練か』を知らせるもの、奴ら風に言うなら『時計』代わりに使っていた。あの時はチラッと確認する程度だったが……じっくり眺めたのは初めてだ。
日の光がこんなに綺麗で、穏やかで、暖かいものだと初めて知った。海はそれを反射し時折目を細めてしまうほど光り輝いている。……昨日はピリピリしていたせいで気にしていなかったが、月はどんな感じだっただろう?もう少し眺めていればよかった。……外にはこんなきれいなものがまだたくさんあるのだろうか?
もしそうなら―――
「……楽しみだな。」
見たこともない景色、経験したことのない体験、様々なものとの出会い、そしてこのじゃパリパーク何処かにいるであろう兄弟たち。あそこでは時より命の危機があるという意味で刺激的で心休まぬ日々だったが、ここでは綺麗で初めて知るものと出会えるという新鮮で退屈でない日々になるだろうと考え思わず笑みが浮かぶ。
―――刺激的な毎日になりそうだ。あぁ、本当に……。
暫く余韻に浸った後、そろそろ出発することにした。荷物は昨日手に入れた袋、『ポーチ』だったか?それと水の入った容器、こっちは確か『水筒』だ。後はポーチの中に昨日読んだ手紙と、折りたたまれた紙が二つ。ひもでつながれた金属の棒と板。伸ばせる金属の筒。
一つはこの島の地図*2、“じゃパリパーク”と書かれているから間違いはないだろう。ちょっと遠くに雪山が見えるから……。ここはパークの南東に位置する『ゆきやまちほー』付近の浜辺といったところか。
もう一つは『説明書』と書かれている紙。水筒と『ファイヤースターター』?の使い方が書いてあるみたいだが……文字が多いな。読むのは後でいいか。
取り合えず向かうべきは『ロッジ』だな。『温泉』とやらもあるらしいが、ここからは遠いからな。少し登らねばいけないみたいだが、“ハンター”である俺には容易いことだ。面倒なところは跳んでショートカットすればいい。後は何者かと遭遇した時だが……どうする?知らないやつとの対処なんてどうすればいい?追うか狩るか隠れるくらいしかしたことがないぞ。……いや、喋られるようになったのだなそういえば。なら『会話』というものをすればいいんだっけか。奴ら*3みたいに……というのは中々難しそうだな。まぁ後にするか。考えているだけでは何も始まらないしな。
天気は良好、周囲に異常なし、目標『ロッジ』。さて―――
「待っていろ、新天地!」
―――俺の冒険は、これからだ!
―――数時間後……
「はぁ……。思ったより遠いな……。それに――』
―――暇だ。普通の人間と比べてハイペースで進んでいるのに件のロッジは影も形も見えない。始めは青々と茂る草木に目を輝かせたが数時間もすれば飽きが来る。道中の看板だったであろうものはボロボロで何も読み取れない。さらに不思議なことに誰とも出会わず、小動物でさえ俺の前に姿を見せない。たまに飛んでくる鬱陶しい虫どもは除くが…。冒険初日に目に見えた発見があるとはさすがに考えていないが、ここまで何もないと暇を通り越して虚しくなってくる。まぁ、収穫もあるにはあったが。
まずは身体能力が上がっていることだ。森に差し掛かった時、木々を結ぶ橋を見つけた。パンフレットによるとここのロッジは『ツリーハウス』という木の上に造られているそうだ。少々高い位置にあったものだから低い木を経由して登ろうと跳んだ時、一跳びで橋に移れてしまった時は本当に驚いた。体感2〜3倍は高く跳んでいたな。この様だと足だけでなく全身の力が上がっていると考えていいだろう。……そういえば初日に何気なくコンテナの扉を引き裂いていたが、あの分厚く機械でできた扉は以前の俺なら無理だろうな。
次に暇な間に読んだ説明書で分かったことがある。水筒と、ひもでつながれた金属棒と板の使い方だ。水筒の外側のパーツは外れるようだ。*4そしてあの金属棒と板があの『ファイヤースターター』だそうだ。“棒を板で擦ることで火花を散らし、枯草や乾いた樹皮などの火種に火をつける。”とあった。これと水筒を合わせて使うことで水を沸かす。食べ物を煮焼きできる便利な道具だそうだ。まぁ俺は食事として培養液にドブ漬けされていかたらまず食べ物が分からん。水は必要なことは何となく分かるが何故沸かす必要があるのだろうか?……後々使えそうだからいいか。
―――もうすぐ日が真上に昇る。つまり……。
「もう昼か……。腹が訴えてくるような感覚があるが…これが『空腹』か。一度気になると無視できんな。さて如何したものか……。『チョコバー』や『サンドイッチ』*5があるわけないしな……。」
……目を閉じ耳だけに精神を集中する……。
“ハンター”の身体能力を最大限に発揮し、最短経路で、真っすぐに向かう。やっと見つけたぞ見知らぬ“誰か”!!ようやく人に出会えそうな機会に内心浮かれながら、その見知らぬ“誰か”が誰かを呼んでいる事実が俺の思考を“狩猟者”へと切り替える。その“誰か”の声以外に複数の音が聴こえ、本能がそれを『狩れ!!』と訴える。どうやら件の人物は追われているようだが、それはダメだ。この見知らぬ地で遂に見つけた手がかりなのだ。どこかの誰かは知らないが邪魔をするのなら容赦はしない。それに―――
「ようやく退屈じゃなくなりそうだ…。暇つぶしに付き合ってもらうぞ!」
木々を抜け辿り着いた先で俺は見たものは、赤と青の変な奴らに囲まれた建物とその屋根の上にいる一人の少女だった。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
改訂版 プロローグ
目覚め
気長に待ってくれると嬉しいです。
「うぅ……」
意識が覚醒する……。身動ぎすれば、パキパキと体中から音が鳴り、ひどい倦怠感を感じた。随分と長い間眠っていたらしい……。少し息苦しく感じる。目を開けてみるが真っ暗だ。
――――夜……?
軽く伸ばした四肢が何かに拒まれた。全身で回りを探ってみれば四方を何か硬い壁で囲われているらしい。カンカンと甲高い音が鳴り、冷たくて硬い。つまり、私がいるのは――――
「輸送……コンテナ?」
いつの間に入れられたのだろうか?いつもならば“奴ら”が私に任務を伝えた後、任務の時間になるまで眠らされる。だが、その記憶がないのは何故だろうか?
しばらく周囲を手で探ると、上の壁が持ち上がった。どうやら扉だったようだ。鍵はかかっていないらしい。隙間から光が差し込む。それから波の音と潮の香りも感じ取れた。気配は感じないことから周囲には誰もいないらしい。
……意を決して扉を開く。力を籠めて押し上げるとガンッ!!と音を立て勢いよく開き、雲一つない空に輝く星々が見えた。ゆっくりと上体を起こせば、正面の海は夜闇によって漆黒に染まり、月が辺りを照らしている。浜辺のようだ。私が入っているコンテナと、すぐそばにある何かの黒い残骸以外には何もない。後ろを向けばすぐそばに森が見えた。
「演習場か?いや、でも……」
こんな場所には覚えがない。演習なら事前に作戦説明がある筈だ。なぜ私一人だけ放り出されているのだろうか?誰が、どうやってこんなことを?今更だが――
「喋ってるな。うん……」
それも、さも当然のように……。奴らの“兵器”である私は聞く耳はあれど発声する機能は無い。それに体もどうやらおかしい。まずは腕、長く鋭い爪の代わりに五本の細い指が生えている。また原理は不明だが、意識を集中すれば虹色に発光した後以前のような爪の生えた手に戻る。いや、今は“なる”と言ったほうがいいのか?
また、ひんやりとしてすべすべした鱗の代わりに、温もりのある柔らかい肉の肌になっている。足はがっちりとしてはいないが、筋肉はしっかりとついている。最後に……頭。首があって耳があって髪がある。以前のような首がないずんぐりとした体形で無くなっている。後、何かを纏っているな。
コンテナから這い出て全身を調べる。奴らの黒い方、“U.S.S”が身に着けていたやつと似た服を身に着けている。深緑色で頭や胴体に着けていた防具は無く、代わりにジャケットにはフードが付いてる。靴も奴らと同じでくるぶしまで覆われたものだ。
……胸ポケットに何か入っている。取り出してみれば鏡のようだ。そして、薄橙の肌に緑の短髪、黄色い三白眼の“人間”が映りこみ、私と同じ動きをする。
うん、これは間違いなく――
「“人間”になってる」
見間違いようのない程に“人間”だ。理由は分からんが人間になっている。喋られるのはこのためだろう。このような異常事態だが、何の疑問もなく受け入れている自分がいる。人間の遺伝子を持っているからだろうか?
自身の姿に視線を走らせていると、コンテナの扉の隅に何かを見つけた。近づいてみなければ分からないほど小さな字で書かれていたそれは――
「『MA-121 Hunter α JP-Type』……?」
――
……“JP-Type”とは何だろうか?他の兄弟にはβやγはいるが、後ろにTypeとは付かない。恐らく人間になったことを指すのだろうが、何の略称だろうな?
「ほかには何かないか……?。」
コンテナから離れ残骸を調べる。残骸にはアンブレラのロゴに3つのモーター、黒くしぼんだ跡。モーターボートだな。よく上陸作戦の際に枷をつけられ載せられたものだ。よく見れば、黒いビニールの袋が載っていた。中を確認すると円筒形の何かを見つけた。これは確か“水筒”だ。白いやつら“研究員”がよく使っていた。中身はないが後々水辺で使えるだろう
……ほかにもまだある。“U.S.S”が腰に着けていたやつだ。見たところ傷一つない。ヒモの部分に先程の容器も着けられる。何かを持ち運ぶ際に使えそうだ。
……? バッグに何か入っている。
名もなき君へ
これを読めているということは、君は研究通りフレンズ化を成し遂げ、運よくじゃパリパークの何処かに辿り着いていることだろう。アンブレラじゃパリ秘密研究所はバイオハザードが発生し、隠ぺいのため私を含めた職員もろとも極秘に廃棄処分となった。そのための掃討及び研究データ回収のための部隊が送られてくることに知った私は、せめて研究の証である君たちを残そうと冬眠処置を施しパーク中にある研究支部に隠した。
君の3人の姉妹を隠し終え、君に冬眠処置を施している間に今こうして手紙を書いているのは、先程本社からの掃討部隊が間もなく到着すると知ったからだ。他の姉妹のように君をじゃパリパークへ運ぶ猶予がないので、仕方なく君をコンテナごとゴムボートに載せて送り出すしかなかった。幸か不幸か今日の空は荒れている。ヘリで見つかることはないだろうが、君は海へ投げ出されてしまうかもしれない。
このことを分かりながら私は君を暴風吹き荒れる闇黒の中へ送り出そうとしている。本当にすまない。許さなくていい。私は君の生死を天に任せたのだから。ただ、本社の連中にサンドスターやフレンズのデータを死体の燃えカスでさえ残すにはいかないのだ。研究のためにフレンズと交流する中で、我々じゃぱり秘密研究所の全職員はすっかり彼女らに絆されてしまった。今では彼女らをアンブレラから護るために動いている。あれ程非道な実験を行ってきた外道である我々が、今更この様なことはしだすのは虫のいい話だとは分かっている。それでも、善性の塊である彼女らが我々のエゴにより食い荒らされることはあってはならないのだ。
ボートには少ないがU.S.Sの装備も載せている。ぜひ役立ててほしい。あと、君の姉妹は3人だ。君が良ければ見つけ出して目覚めさせてほしい。それぞれ“しんりん”“こはん”“じゃんぐる”に隠された研究支部で眠っている。じゃパリパークはセルリアンという疑似生命体以外には脅威といえるものが存在しない。逆に、君と同じ存在であるフレンズはいい子たちばかりだから、仲良くしてあげてくれ。君はもう自由の身だ。君が一人の人、フレンズとして幸せであることを切に願っている。
■■■・■■■■
名前はにじんで読めない。
恐らく私宛の手紙だ。“研究所”は前にいた場所、“じゃパリパーク”は今この場所、“フレンズ化”というのはこの体になったことだろう。あと、私には“姉妹”とやらが3人いるらしい。差出人の名前は海水で滲んで分からない。だけど、内容から察するにこの手紙の差出人が私をここへ送り出したらしい。
いきなり自由と言われても、何をすればいいのか分からない。奴らの命令を聞くことが当然だったし、命を散らすことに何の疑問もなかった。これからは私自身がすべきことを考えなければならないらしい。取り合えず、3人いるという姉妹を探すか?それともフレンズとやらを探してみるか?しかし今は――
「……明日にするか」
今は夜だ。日が昇ってからのほうが探索しやすい。それに、まだ疲れを感じる。体調は万全にしたほうがいいだろう。ビニール袋の中には未開封のペットボトルが数本あった。思い出したように喉が渇きを訴えたので、思わず1本飲み干した。その際に、舌で何かを感じたがそれを考えるのもおっくうになる程眠い。コンテナに背を預ける。
――これからどうなるのだろうか。
そんなことを考えながら、私は眠りについた。
彼女の格好のイメージはバックパックと戦闘服だけのU.S.S隊員です。
目次 感想へのリンク しおりを挟む