BEST FRIEND FOREVER (烊々)
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BEST FRIEND FOREVER
『……あんたのイメージって剣一本って勝手に思ってたけど、どうやらそうでもないみたいね。だったら、私みたいに二刀流にしてみたら?』
*
久しぶりに昔の夢を見た。まだわたしが旅人になる前、故郷での記憶。
それは誰の言葉だっただろうか。おそらくはわたしのお友達だった子の言葉だと思うけど、もう顔も名前も思い出せない。
当時はまだ戦い方なんて知らないくせに、昆虫採集してたら夢中になって気づかずに危険なダンジョンの奥まで行ってモンスターと鉢合わせたわたしを、その子が助けてくれたのが出会いだったかな。
そうだ、戦い方の基本はその子から習ったっけな。昆虫採集の行き場を増やしたくて、ダンジョンとかでモンスターから自衛できるようになりたいってわたしが言い出したんだっけ。
そういえば、確かその子は「将来は教会で働く!」って言ってたっけ。
夢、叶ったのかな? 叶ってたら良いな。
*
寝起きの状態から身体を起こして、とりあえず街に出てお散歩でもしながら考える。
その子との思い出は少しずつ頭の中に蘇ってきたけど、肝心の顔と名前がいつまで経っても思い出せない。
『お前が過去を振り返るなんて珍しいじゃねえか、ネプテューヌ』
「クロちゃんもそう思う? わたしも過去はあんまり振り返らない主義なんだけど、夢を見ちゃったからどうしても気になっちゃってさ」
『俺がお前と会ってからのことなら俺が覚えてるだろうけど、それ以前のことは俺にはわかんねえな』
「だよねー」
そう、わたしは過去は振り返らない主義! 故郷に未練が全くないわけじゃないけど、今はクロちゃんと一緒に旅をしてる方が楽しい。
けど、自分が大事に思っていた友達のことを忘れてしまったというのは、少し寂しいなぁ。
「……見つけたわよ!」
そんなことを思っていると、急に誰かに腕を掴まれた。
「わわっ! なに⁉︎ ってあいちゃんか」
「……ごめんなさい、間違えたわ。あんた大きい方ね。小さいネプ子が今日も仕事をやらずに逃げたから、イストワール様たちと協力して追いかけてたのよ」
「もー、小さいわたしとわたしを間違えるなんて、あいちゃんはこの次元でもおっちょこちょいなんだからー」
…………あれ? わたし、今なんて言った?
この次元? あい……ちゃん……?
…………ぁ……
『もう、なんで丸腰の人間がダンジョンなんかに迷い込んでるのよ』
『ごめんごめん、いやぁ昆虫採集に夢中になってたらいつのまにかこんなところに来ちゃったんだよね。とりあえず、助けてくれてありがとう!』
『どういたしまして。これに懲りたら一人でこんなところに来ないこと』
『はーい! そうだ、自己紹介が遅れたね! わたしの名前はネプテューヌ! 君は?』
『私は……』
……わたしの記憶の中、黒塗りだったその子の顔が鮮明になっていく。
「間違えたのはわたしだから何も言い返せないわ……って、ちょっ! どうしたのよ⁉︎ なんで泣いてるの⁉︎」
「え? わたし……泣いてるの?」
「どう見ても泣いてるじゃない!」
「ええと、な、なんでもないよ! そうだ、小さいわたしを追いかけに行かないの?」
「なんでもなくても、泣いてる知り合いを放っておけるわけないでしょ!」
「そっか……」
……全部、思い出した。
わたしの大好きだったお友達の名前。
その子の名前は…………
『……アイエフ。ゲイムギョウ界に咲く一陣の風よ』
*
「大丈夫? 落ち着いた? じゃあもうわたしは小さいネプ子探しを再開しに行くけど、本当に大丈夫よね?」
「大丈夫だよ。そんなに心配しなくていいから!」
「そう……ならいいけど。じゃあ、またね」
「うん! じゃーねー!」
久しぶりに人前で泣いちゃった。ちょっと恥ずかしい。
けど、涙を出し切って気分が落ち着いたら、わたしの中で一つの決意がまとまった。
「ねえクロちゃん」
『わかってんよ。お前の故郷の次元だろ?』
「うん。座標とか分かる?」
『いつかお前がそう頼まれるんじゃねーかって、データを残してあるんだよ』
「ありがと、クロちゃん」
『へっ』
「じゃあ、お願い」
『わかった。てか、帰るってことは旅は終わりか?』
「そんなわけないよ。少し帰るだけだから」
わたしの、大好きだった……いや、今でも大好きな友達に会いにね!
大人ネプの解像度が低すぎる問題を抱えています。
この作品は「なぜ大ネプは二刀流なのか」という疑問がきっかけで思いついたものです。銃を使うことや戦闘スタイルが女神に比べるとなんというか行儀悪かったりっていうのは「人である脆さ故に生存のみを追い求めた戦闘スタイル」みたいな理由づけはできたんですけど、二刀流な理由はなんとなく自分の中で納得できる理由を見つけられずにいました。なんといいますか、先程述べた生存優先の拘りのない戦闘スタイルにしては逆にに二刀流スタイルは素直すぎるというか、女神として生まれてきた小ネプは女神として先天的に一刀流スタイルだったけど、別に女神でもなんでもない大ネプは先天的に決められた戦闘スタイルなんてないわけで、大ネプが二刀流となった理由が別にあるんじゃないかと思ったわけです。
そこで、ふとあいちゃんも二刀流だったのを思い出して「大ネプに戦闘の基礎を叩き込んだのは大ネプの次元のアイエフなんじゃないか」って理由づけをしてみて「『二刀流』という、顔も名前も忘れてしまった大事な友達から教わった戦闘スタイルを今でも続けている」って感じにしたらなんかしっくりきたので作品にしちゃいました。
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