天国に一番近いトレーナー (みっちぇる)
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天国に一番近いトレーナー

息抜きと現実逃避に書いた1発ネタ

リハビリつらたん……


「トレーナーさん……」

 

「スズカ……」

 

 大歓声に包まれる中、二人の男女がターフの上で抱き合っている。まるでドラマのワンシーンのような、幻想的で神秘的な光景に茶々を入れる者は誰もいない。一人、また一人と次々に始まる拍手の嵐。その中で二人は一体何を思うのか。

 

(あっぶねえぇぇ!!ギリギリ間に合った!)

 

 感動的な光景とは裏腹に、男の内心はギリギリであった。異性に人生初めて抱き着かれたという童貞特有の思考。そして、自分の命が助かったという事実に。

 

 二人が未だ抱き合っている中、たくさんの観客たちの中に混じって、誰にも気付かれずそっとその場から消え去る三人の姿があった。

 三人の内の一人が、姿を消す前に人の耳では解読不能な言葉を呟くと、ターフ上から照れながらその場を離れようとしている男のポケットに入っていた手紙が一瞬の内に消えてしまった。

 

 消えた手紙の内容は、持っていた本人とそれを手渡した三人にしか分からない。だが、男の記憶には一生残るだろう。

 

『○○○○年○○月○○日午後4時までに

 サイレンススズカから抱き締められなければ即死亡』

 

 こんな内容でなければ、きっと素敵な思い出として残っていただろう。男はそう思わずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「初めましてトレーナーさん。

   私達は神です」」」

 

「は?」

 

 今日も変わり映えのない日を過ごし、唯一の楽しみである風呂上がりの一杯を味わおうとした瞬間、俺の前に突然現れた三人の不審者。

 一体どこから入って来た?こいつらは誰だ?どんどん頭の中に疑問が浮かんで来るが、なぜか口に出すことが出来なかった。

 

 目の前にいる三人は全く同じ帽子を深く被り、こちらに表情を伺わせないようにしているのか口元しか表情が分からない。

 背丈はそれぞれ違うようだが、彼女たちから発せられるオーラというか、存在感が人間ともウマ娘とも違う、逆らってはいけない威圧感があり、こちらを萎縮してくる。

 普通ならいきなりそんなことを言ってくるやつなんか無視するのが一番だが、俺の中の本能がずっと警告を出していた。

 

「えっと、それで神様が俺なんかに何かご用で?自分で言うのもあれですけど、俺なんて大した人間じゃないですよ?」

 

「はい、そんなの当然知っていますし分かりきっています」

 

 ……まぁあれだ。よくマンガとか他の創作物でも自称神様ってやつらは碌な連中ではないしな。今回だけは許してやる俺の慈悲深い心に感謝しろよ?クソッタレどもが!

 

「私たちがあなたの元に来たのは、あなたに”命題”を与えるためです」

 

「命題?」

 

「はい。あなたにはこれから私たちが出す様々な命題を乗り越えて貰います」

 

「はぁ……?えっと、ちなみに断ったりそれが達成できなかった場合は……?」

 

「死にます」「殺します」「ブッ殺します」

 

 ふむ、なるほど。どうやらこいつらは神じゃなくて邪神だったらしい。あとあれだ。学園が祀っている三女神様たちは仕事してどうぞ。不審人物(神)の侵入許してるじゃん。セキュリティガバガバやないか。

 

「失礼な。ちゃんと仕事してますよ」

 

「えっ?」

 

「こほん……いえ、何でもありません。ともかく、あなたは命題をクリアしなければ死にます」

 

「えぇ……」

 

 有無を言わさず俺にそう告げる自称神たちは、内容はともかくその言葉を口にする強さは本物だと感じた。たちの悪いドッキリとか、実は夢だったとか、そんな淡い期待を粉砕するような彼女たちからの威圧感に只々腰が引けていた。

 

 そんな俺の内心を無視するかのように、三人の内の一人が俺に向けて封筒を差し出してくる。疑問に思いつつ封筒を受け取ると、強烈な光が辺りを照らし、堪らず俺は思いっきり目を瞑る。

 そろそろ大丈夫か?と恐る恐る目を開くと、先ほどまで確かにいた筈の三人が綺麗さっぱりいなくなっていた。先ほどのやり取りが夢だったのではないかと一瞬錯覚しそうになるが、力強く握りしめている封筒の存在が、俺を現実に引き戻す。

 

 念の為周囲を確認するが、三人の姿はどこにもなかった。大きく深呼吸をしつつ、無駄に疲れた体を休ませるためにベッドに飛び込む。横になりながら、先ほどのやり取りを思い返す。

 

 仮にさっきのことが全部本当のことだとしても、分からないことが一つだけある。どうして俺なのかということだ。俺は何か偉業を成し遂げた訳でもなく、ただ漠然とその日を生きているだけのつまならい人間だ。

 トレーナーとしても担当した子がGⅢレースに入賞したくらいの実績しかない一流とは程遠い結果しか残せていない。そんな俺がなぜ……?

 

 そんな疑問に答えが返ってくることも当然なく、ずっと掴んでいた封筒から中身を取り出していく。一体何が書いてあることやら……

 

 中身を見て俺は、やっぱり神様ってクソだなと思い直し、今まで一応拝んでいた三女神像への信仰をこれからはやめる決意をしつつ、そのまま夢の中に逃げ込むのであった。

 

『○○○○年○○月○○日午後5時までに

 シンボリルドルフを負かせなければ即死亡』




ただの思いつきネタです
続きはモチロンありません

まさかヘルニアになるとは……


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