無限転生 ~LOST REQUIEM~ (とんこつラーメン)
しおりを挟む

無限転生

 目を開けると、視界に広がっていたのは清潔感のある真っ白な天井。

 頭や体から感じる感触から、自分がベッドの上に寝ている事が分かる。

 

(あぁ…成る程。今回は『このパターン』か…)

 

 普通ならば、ここらで半身を起き上がらせてからの周囲の様子の確認とかをするのだろうが、生憎とそんな事をするような気力は無い。

 ついでに言えば、全身に激しいまでの脱力感があり、指一本動かすだけでも億劫になりそうだ。

 

(もうこれで通算何回目の転生になるんだっけ……)

 

 一万回目を境に数えるのが馬鹿馬鹿しくなったのでよく分からない。

 少なくとも、天文学的な回数の転生を繰り返してきたのは間違いないんだけど…。

 

 ここでいきなりの自分語りをさせて貰うけど、私はよくいる『転生者』と呼ばれる部類の人種だ。

 死んだ人間が何らかの要因によって別の世界へと生まれ変わる現象。

 私の場合は一番最初だけ、神の力により転生した。

 そう…私の転生は一回ではないのだ。

 一度死んでも、その瞬間に間髪入れずに次の世界へと強制的に転生させられる。

 それこそが、今ではもう顔も声も名前も何もかもが思い出せないでいる神から与えられた傍迷惑な転生特典である。

 これだけを聞けば、頭の中がお花畑なバカどもは『なにそれ超いいじゃん!』とかと思うかもしれないが、そんな気持ちでいられるのは三回目ぐらいまでだろう。

 実際、私は三回目の転生で心が折れた。

 

 しかも、この無限に転生し続けるという特典、それ以外には何もメリットが存在しないのだ。

 転生先でどれだけの技術、技能、能力を身に着けたとしても、次の転生時には全てがリセットされてしまうのだ。

 最初は『それでも生きるためには頑張らないと』なんて思っていたが、そんな事が幾度も無く繰り返され続けると、流石に心が萎える。

 死ねば全てがゼロになる。誰にでも理解出来る当たり前の事ではあるが、次の転生が確定している身としては洒落にならない。

 私が引き継げるのは記憶だけ。しかも、それだって自分の記憶力依存になっているので、今ではおぼろげになっている記憶の方が大半だ。

 

 転生する時は基本的に私の肉体は完全にランダムで選ばれる。

 男である時もあるし、女である時もある。

 両性具有者であった時もあったし、人間ですらなかった時もあった。

 顔の形、スタイル、肌の色、髪の色。他にも色々な要素が全て完全にランダム。

 

 死という現象に対する恐怖心なんて当の昔に無くなってしまった。

 現在の私にとっての『死』とは、睡眠と大差がない。

 目を瞑ってから、再び目を開けた時に異世界にいるのか、いないのか。

 その程度の違いでしかなかった。

 だから、今回みたいなことが起きても私には至って日常的な事なので動揺なんてしない。

  

 転生した時の状況も様々で、今回のようにいきなり肉体が成長した状態で覚醒する時もあれば、母親の胎内から出産されるパターンもあり、人体実験用のクローンとして生まれた時もあった。

 言い出したらそれこそキリが無いのだが、およそ考え付くであろうありとあらゆる転生を経験してきたと思って貰えばいい。

 

 因みに、今回のように病院のベッドの上で目が覚めた状態で転生したのは、96841回目の転生以来になる…と思う。多分。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 頭の中で状況整理をしつつ、私は自分に着せられている病院服の内側に手を入れてから体をまさぐってみる。

 

(…成る程。今回は女か)

 

 前回も女ではあったが、とある組織によって体を改造されて無理矢理に両性具有状態にされてしまったので、股間に何も生えていないというのは久し振りかもしれない。

 

(髪は長いみたいだな)

 

 シーツの上にばらけている後ろ髪を手に取ってから視界に入れる。

 茶髪…天然か?

 

(今にして思えば、本当に色んな世界に転生してきたもんだよな……)

 

 ガールズバンドをしている女の子たちがいる世界。

 

 死神と呼ばれる存在がいる世界。

 

 カルデアと呼ばれる組織がある世界もあった。

 

 アラガミと呼ばれる人類の天敵がいる世界。

 

 ハンターと呼ばれる職業と『念』と呼ばれる能力がある世界。

 

 色んな忍たちが沢山いる世界。

 

 大海賊時代に転生した時もあった。

 

 キラキラと輝くアイドルたちが頑張っている世界。

 

 宇宙活動用のパワードスーツがある世界で学園に通った事もあった。

 

 ウマ娘なんて子たちが頑張っている世界にも行ったっけ。

 

 私と似たような境遇の骸骨なマジックキャスターがいる世界もあった。

 

 戦車道なんてものが流行っている世界もあったな。

 

 見ているだけでもどかしくなる男女がいる超エリート学校に行ったこともある。

 

 外には大量のゾンビが徘徊している世界にも転生させられたな。

 

 艦娘なんて女の子たちがいる世界で提督をさせられたこともあった。

 

 宇宙世紀に至っては、かなり長い時間生きていたような気がする。

 

 それ以外にも色んなMSがある世界に転生してきたな。

 

 フレンズとかいう獣っ子がいる変な世界にも転生しなよな…。

 

 かと思えば、凄く平和的な世界に転生して、とある喫茶店の店員をした時もあった。

 

 私と同じように転生した男の子がいるファンタジーな異世界もあって、そこではとんでもない駄女神がいて、改めて神なんて碌なもんじゃないと思い知らされた。

 

 凄いエリート料理学校のある世界に転生した時は大変だった。

 

 スタンドなんて特殊能力のある世界はかなり殺伐としていた記憶がある。

 

 巨人たちが跳梁跋扈していた世界がある意味で一番怖かったかもしれない。

 

 使徒とかいう化け物がいる世界では、私は最後まで傍観者を貫いた。

 

 ウィッチがいた世界では、色々と驚かされた。

 

 使い魔として召喚される形で転生した時は、柄にもなく呆けてしまった。

 

 私が一番嫌いな神々がいて、数多くの冒険者たちがダンジョンに潜っていた世界では碌な目に遭わなかった。

 

 転生後に精霊なんて存在になってしまった世界もあったな。

 

 私と同じ転生者なのに、超絶チートなスライムがいた世界は凄かった。

 

 学園都市がある世界……彼らは今でも元気にしているだろうか。

 

 幻想郷……あそこに転生した時が一番、楽しかったような気がする。

 

 サイヤ人に転生した時もあったが、すぐに殺されてしまったのでよく覚えていない。

 

 悪魔と天使と堕天使がいる世界はなんだか凄くピンク色だった印象がある。

 

 なんか変身ヒロインみたいのがいる世界にも転生したよな…。

 

 ペルソナという能力で戦う学生たちがいる世界では、少しだけ心が揺さぶられた。

 

 個性とかいう特殊能力が普通になっている世界にも転生をした。

 

 ポケモンがいる世界では、ずっとブリーダーだけをやっていた。

 

 外道とも言うべき白い獣がいる世界では、魔法少女達が必死に運命と闘っていた。

 

 私と同じように死んだ魚のような目をした彼とは、いい友人同士になれた。

 

 とあるカードゲームが大流行している世界では、一生分の頭を使った気がする。

 

 幼女に転生をした男がいる世界では、私もまた幼女に転生をしてしまった。

 

 スクールアイドルがいる世界……あれもまた非常に眩しかった。

 

 

 私が辛うじて印象に残っている転生の記憶はこれぐらいか。

 天井を眺めながらボーっとそんな事を考えていると、ふとある事が気になった。

 

(今の私の姿ってどんな風になってるのかな…)

 

 今となっては、不細工になっていても特に気にはしないが、それでも知っておきたいとは思う。

 これは私が転生をした時に毎回毎回やっている癖のようなものだ。

 

(手鏡…なんて、あるわけないか)

 

 そもそも、転生したての私に荷物があるのかどうかさえ怪しい。

 場合によっては、着の身着のままの状態で生きていかなくてはいけない。

 幸いなことに、女の身であるならば金を稼ぐ手段に事欠かない。

 援助交際でも、身売りでも、手段を選ばなければ金なんて稼ぎ放題だ。

 その事に関する抵抗感なんてとっくの昔に失ったし、これまでに産んだ子供も今までの転生の中で数えきれない。

 転生した時に処女膜も元に戻っているだろうが、破瓜の痛み程度でどうこうなるような生娘じゃないので大丈夫だろう。

 

(まずは体を動かせるようにならないとな…その後に情報収集しないと)

 

 これから何をするにしても、転生した世界の情報はどうしても欲しい。

 じゃないと、行動の指針自体が立てられないからだ。

 

(そうと決まれば、まずは寝てから体力の回復に専念するかな……)

 

 どうせ、動きたくても動かせないのが現状なんだし、それなら今の状況を利用させて貰おう。

 誰が私を此処に運び込んだのかは知らないが、今だけは感謝しておこう。

 転生直後にフカフカのベッドで寝られる機会は本当に貴重だから。

 

(あぁ~…眠たくなってきた…)

 

 よし、このまま行けばぐっすりと眠れる。

 後は瞼を閉じるだけ…と思った瞬間、いきなり病室の扉が開かれて一人の大柄な男性が入ってきた。

 赤いシャツを着ているが、筋肉のせいで半ばパッツパツになっている。

 彼を見た時の第一印象は『一体どこのプロレスラー?』だ。

 

「看護師から体調が回復したとは聞いていたが、どうやらナイスタイミングだったようだな」

「…………は?」

 

 このマッチョマンは何を言っている? ナイスタイミング? 何が?

 

「君がここに運ばれて来たから一週間ほどが経過したが、無事に意識が戻ったようでなによりだ」

「はぁ………」

 

 どうやら、この男が私をこの病院に運び込んだ張本人のようだ。

 別に私自身はいつ死んでも構いやしないのだが、それとは別に立派な寝床を与えてくれた事に関しては礼を言わないといけないだろう。

 何度も転生を繰り返して来た結果、随分と前から自分の死に方にも拘るようになってきたから。

 どうせ死ぬなら、安らかに死にたいから。

 

「ありがとう…ございます…」

「どういたしまして。意識が回復した以上、君に色々と聞きたい事があるのだが……」

 

 事情聴取か? けど、今の私から抜き出せる情報なんて何も無いぞ。

 たった今、私としての意識が覚醒したばかりなんだから。

 

「…今はやめておこう。また今度、お見舞いに来るから、その時に改めて話をさせて貰いたい」

「いいです…けど……」

 

 なら、こっちもその時までに何をどう話すか考えておかないとな。

 過去の捏造なら今までにも散々とやってきたことだ。

 

「取り敢えず、今回は自己紹介だけをしておくことにしよう。俺の名前は『風鳴弦十郎』だ」

「えっと…私は……」

 

 ヤベ。なんて名乗ろう…。

 前の転生先での名前にする?

 ここ数万回程の転生は出逢った連中が適当に名付けてくれたから、自分で名前を考えるなんてことは久しく無い。

 どうする…? 自慢じゃないが、私には命名の才能は無い。

 

「…無理をしなくてもいい。今は俺の名前だけを憶えてくれさえすればな」

「分かりました……」

 

 助かった。けど、問題を先延ばししただけで何の解決にもなっていない。

 この人が去った後でのんびりと考える事によう。

 目もすっかり覚めてしまった事だし。

 

「では、失礼する。お大事にな」

「…はい」

 

 なんとなく明朗快活なイメージが似合いそうな人物ではあったが、その表情はとても暗かった。

 何かあったのだろうか? いや…私には関係ないか。

 

 こちらの事を案じてか、弦十郎と名乗った男性は静かに扉を閉めていった。

 気遣いの出来る良い大人のようだが、感情のコントロールは苦手のようだ。

 

(鏡……)

 

 そんな事よりも、まずは自分の顔を見たい。

 看護婦が巡回にでも来たら、ダメ元で頼んでみるか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

これからどうしよう?

なんか、少し目を離した隙に凄い事になっていたので、また書いてみようと思います。

戦闘シーンなんかは殆ど無いかもしれませんが。







 赤いシャツの大男さんのげん…なんとかさんと会った次の日。

 あれから何回か看護師が来て私の様子を見ていった。

 その時に今回の私の名前でも分かるかと思ったが、こっちの事を呼ぶ時に限って何故か『えっと…』とか『んと…』とか言って言葉を濁した。

 もしかして、今の私って名無しの権兵衛さんになってる?

 これまでの転生で最初から名前が無かった事が無かったわけじゃないが、それはそれで色々と面倒なのだ。

 他の名前ならばいざ知らず、自分自身の名前を考えるのは本当に難しい。

 変な名前でも名乗ろうものなら、自分の墓にその名が刻まれるのだから。

 こればかりは幾ら無限の転生で精神が極限まですり減っている私でも僅かながら気を使う。

 

「ふむ……」

 

 そして、私の名前を呼んでくれなかった看護婦に頼んで、備品である手鏡を貸して貰った。

 転生をして一日経過し、ようやく自分の顔を拝む事が出来たのだが……。

 

(この顔って…何回見ても『彼女』と同じ顔…だよね…)

 

 ずっと昔…確か、24608回目の転生の際に訪れた『ムーンセル』とかいう場所で行われた聖杯戦争に参加した時に出会った『岸波白野』っていう女の子にそっくり…というか、完全完璧に瓜二つなんだよな…。

 このゆるふわな感じの茶色い髪に、まるでリスを彷彿とさせる顔。

 うん。どこから見ても『はくのん』そのものですわ。間違いない。

 因みに、月の聖杯戦争に参加した時の私のサーヴァントは『アーチャー』のサーヴァントである『ケイローン』だった。

 惜しくも4回戦で敗れてはしまったが、それまでの間にめちゃくちゃ勉強させられたお蔭で、引き継ぎ不可の対象外である知能指数がかなり向上したのをよく覚えている。

 

(どうする…? まんま『岸波白野』って名乗ってしまうか…?)

 

 その方が面倒が無くて助かりはするのだが、仮にも出逢った人物の名前を借りるというのは流石に気が引ける。

 そんなのは、9674回目に転生したアフターコロニーの世界で出会ったトロワ・バートンだけで十分だ。

 

(あの子には色々と世話にもなったし…異世界とはいえ、その名を貶めるような真似だけはしたくないしな……)

 

 同じ死ぬでも、どうせなら誰にも迷惑を掛けない形で死ぬのが理想だ。

 贅沢かと思われるかもしれないが、私に出来るのは本当にそれぐらいだから。

 

(まぁ…名前に関しては追々、考えていくことにしよう。今は、看護師さんに持って来て貰った新聞を読んで情報収集だ)

 

 転生をした際には真っ先に新聞を読む。

 色々と間違った情報も交じってはいるが、細かい所までは気にしない。

 基本的な情報、今の年代、国などが把握出来れば大丈夫だから。

 

(昨日会ったマッチョマンの名前を聞いた時から想像はしていたけど、やっぱりここは日本だったか)

 

 日本人がいるから日本だとは限らない。

 海外に渡航してきた日本人なんて、それこそ探せば腐るほどいるんだから。

 なので、ちゃんとした確認作業が大切なのですよ。

 

 新聞に使われているのは平仮名と片仮名と漢字と英語。

 実に立派な日本の新聞ですね。

 けど、問題なのはその年号にあった。

 

(近未来…ってやつなのかな…)

 

 窓から見る外の様子を見る限りでは、21位世紀前半と大差がないような気がするが、それはそこまでこの世界の文明が発達していないって事だろう。

 別の世界の同じ年代ぐらいでは、普通に車が空を飛んでたし。

 

(まぁ…MSやHM、ATやWMやAB、KMFなんかが存在している世界よりはずっとマシか……)

 

 人型機動兵器がある世界に転生した時には必ず、それらの操縦方法を一から学ばされる。

 そして、なし崩し的にパイロットになって、そこから兵士になって、あっという間に戦死。それが毎回のパターンだった。

 

(取り敢えず…最初の死亡フラグは回避できた…と思っていいのかな)

 

 私が今、ベッドの上で読んでいる新聞は今日発行された物なんだけど、出来れば昔の新聞とかも読んでみたい。

 何事も無く退院できたら、まずは図書館にでも行ってみるか。

 過去の情報を探るのに、これ以上の場所は無いからね。

 

「ふぅ……」

 

 もうこの新聞は一通り見てしまった。

 これ以上、ここから得られる情報は何も無いだろう。

 

(そういえば……)

 

 昨日からずっと気になっていたけど、私が今いる病室って個室だよな…。

 見ず知らずの人間の為にここまでできるだなんて、あの男が相当な金持ちなのか、それとも今まで私が沢山見てきた『度の過ぎたお人好し』なだけか。

 ……その両方って可能性は無い…と思う。

 もしもそうだったら、私はこの世の中の理不尽さってのを久し振りに憎まなくちゃいけなくなる。

 

「………寝よ」

 

 まずは体力を取り戻す事を最優先に考えよう。

 といっても、もう立って歩くとかは普通に出来るんだけどね。

 可能であれば、散歩とかして体を動かしたいんだけどな~…。

 

「失礼する。む?」

 

 ノックの後に昨日の大男がはまたやって来た。

 どうしてこの男は、私が寝ようとした時に限って来るんだ?

 どこかでこの部屋を見張っていて、タイミングを見計らって来てるんじゃあるまいな?

 

「もしかして、寝ようとしていたのか?」

「…大丈夫ですよ」

 

 ここで『そうですよ』というのは簡単だ。

 だが、それで彼に帰られてしまっては意味が無い。

 今の私にとって、この男は数少ない情報源なのだから。

 

「どうやら、昨日よりは回復しているようだな」

「お蔭様で」

 

 単純に疲労していただけみたいだし、一晩眠れば良くなるのは道理だろう。

 試しに自分の身体を調べてみたが、どこにも外傷の類は見当たらなかったし。

 

「新聞を読んでいたのか?」

「暇だったもので」

 

 こう言っておけば取り敢えずの誤魔化しは利くだろう。

 別に嘘って訳でもないし。

 

「その歳で新聞を読むとは、立派なものだ」

「はぁ……」

 

 そこまで感心するような事だろうか?

 子供でも新聞を読むような奴は今までにも沢山いたし。

 

「昨日に引き続き、またここにやって来たって事は、何か大事な用事でもあったんじゃないんですか?」

「む…分かっていたのか」

「試しに言ってみただけですけどね」

 

 大人の男がこんな真昼間から堂々と病院にやって来るだなんて、それこそ暇を持て余している無色の人間か、もしくは何か私に対して大事な話がある『あっち側』の人間か…そのどっちかになるだろう。

 私の予想が正しければ、彼は間違いなく『あっち側』の人間だ。

 

「……どうやら、君には下手な誤魔化しはしない方が良さそうだな」

 

 そう言うと、彼はベットの傍にある椅子にドカっと座ってから、力強い目でこっちを見てきた。

 

「病院側に許可を貰って、この部屋の鍵は閉めさせて貰った。これである程度の踏み込んだ話も出来る」

(踏み込んだ話…ね)

 

 一体どこまで話す気なのやら。

 一先ずは聞き手に回るとしますか。

 

「…まず、俺はとある部隊の司令官のような立場にいる人間だ」

「……で?」

「少し前の事になるが、我々は既に壊滅したある組織の残党が日本に密かに渡って来て何かを企んでいる事を知った」

 

 『とある部隊』とか『とある組織』とか、踏み込むとか言いながらもかなりぼかした表現をするんだな。

 万が一に備えて、敢えて固有名詞を言わないようにしているのだろう。

 

「その連中の拠点に踏み込んで、大きな被害も出さずに連中を捕縛出来たまでは良かったのだが……」

 

 あ…なんかもう話が読めてきた。

 恐らく、その謎の組織の残党共の拠点に掴まっていたのが私でした…とかって言うオチなんだろ?

 

「……………」

「私に遠慮なんてしなくてもいいですよ。気にしませんから」

「すまない……」

 

 苦虫を噛んだかのような表情をするだなんて、私の予想は当たっていると見ていいのかな。

 

「その拠点の中に、なんらかの人体実験が行われていた形跡があってな……そこに……」

「私がいた…ですか?」

「あぁ……。俺が実際に発見をしたわけではないが、見つけた時には君の体は培養液が入れられたシリンダーのような物に入れられていたらしい……」

 

 ふーん……今回の私の出生はそんな感じなのかー。

 どこからか浚われてから実験されたのか、もしくはこの体自体が人工的に生み出された物なのか。

 

「拠点内には君の身分を示す物が一切発見出来なくてな。そこで尋ねたいのだが……」

「私の事を教えてくれ…ですか?」

「鋭いな」

「いや、話の流れで予想は出来るでしょ」

 

 1438回目に転生をした世界にいた子供にされた高校生探偵クンなら、もっと早くに答えに辿り着いていただろうね。

 しっかし、私の事について…か。いつかは聞かれるだろうとは思っていたけど、まだこっちの答えが準備できていない段階で問われるとは……。

 久し振りのベッド生活で鈍ったか?

 

「うーん……」

 

 なんて答えよう? さっきからずっとこっちを凄い目つきで見てきて、下手な答えじゃすぐに嘘だってバレそうだ。

 まだ自分の名前すらも考え付いてないのに、バックボーンなんて何にも思い付いてないッつーの。

 

「何も…思い出せない…か?」

「えっと……」

 

 思い出せないと言うか、答えたくても答えられないと言うか。

 いっそのこと、このまま記憶喪失で貫き通すのも手か?

 実際、この世界で過ごした時間なんてまだ24時間程度なんだし、記憶が無いのは間違いない。

 

「では質問を変えよう。自分の名前は分かるか?」

「名前……」

 

 どうしよう…自分の転生する前の名前なんてとっくの昔に忘れてしまったし、前回の転生時の名前をそのまま流用するか?

 なんか、それが一番妥当なような気がしてきた。

 えっと…前の名前は確か……。

 

「矢張り…記憶喪失か……」

 

 あ…なんか向こうが勝手に結論出しちゃった。

 言い出すタイミングを失っちゃったよ。

 喉の所まで思い出しかけてたのに。

 

「酷な質問をして申し訳なかった。この通りだ」

「頭を上げてください。本当に気にしてませんから」

 

 まだ二回しか会ってない相手に頭を下げられる者の気持ちを少しは考えろよ。

 逆にこっちの方が困ってしまうわ。

 

「ところで、少しだけ気になった事があるのですが……」

「なんだ?」

「私を発見した時って、どんな格好をしてました?」

「そ…それは……」

 

 今度はバツが悪そうな顔でそっぽを向いた。

 その反応を見れば一発で分かる。

 私ってば、見つかった時には真っ裸ーニバル状態だったのね。

 そりゃ、そんな反応にもなりますわ。

 

(けど…これは本格的に参ったな……)

 

 まさか、本当に一文無しどころか着る服すらない状態だったとは。

 金が無いだけなら、なんとかなっていたかもしれないが、服まで無いとなるとな……。

 目覚めた場所が病院じゃなくて街中とかだったら、適当にそこらを歩いている不良やヤンキーをどうにかしてから服や金をかっぱらうのに。

 流石に病院でそんな事をすればタダでは済まない。

 一発で牢獄行きになってしまうだろう。

 

(いや…待てよ? 刑務所の中なら、着る服にも食事にも困らないのでは?)

 

 しかも、あそこ以上に安全な場所もそうあるまい。

 そう考えると、態と犯罪を起こして捕まるのもアリなような気もしてきた。

 

「けど、どうして司令官さんが直々に私の所まで足を運ぶんです? そう言うのは普通部下などに任せるものでは?」

「司令官だからこそ、足を運ぶんだ」

 

 あー…この人、馬鹿正直で絵に描いたような実直な人だ。

 今までにも、こんなタイプの人って沢山いたっけ…。

 

「本部に来て貰えば、君の体の本格的な検査も、ここでは言えなかった事も全て話せるんだがな……」

「では、どうして病院に?」

「君の体調回復を最優先させた結果だ。本部でも治療などは行えるが、専門機関の方がより確実だからな」

 

 ……今、ハッキリと分かったわ。

 この人…司令官向きの性格をしてないわ。

 寧ろ、前線に立って仲間を鼓舞するタイプの人間だ。

 宇宙世紀に沢山いたタイプだわ。

 

「……別に、そちらの『本部』とやらに行っても構いませんよ?」

「い…いいのか?」

「はい。その代り、条件がありますけど」

「何でも言ってくれ」

「情報端末…パソコンの類を使わせて下さい。今は少しでも情報が欲しいもので」

「そんな事でよければ喜んで。もしや、新聞を読んでいたのもその為か…?」

「それもあります。けど、暇を潰していたのも本当です」

「そうか…何か暇を潰せる物を持ってくれば良かったな……」

 

 どこまでこっちに親身になる気なんだ?

 お人好しもここまで来れば勲章物だな。

 

「改めて確認するが、こちらに同行して貰うという事で構わないんだな?」

「はい。今の私は文字通り、右も左も分からない状態なので。まずは行動の指針となる切っ掛けを見つけたいんです」

「いいだろう。だが、流石に今すぐには無理だから、また後日にでも迎えに来よう。その時は着替えなども持ってくるようにする」

「ご迷惑をかけします」

「それこそ気にしないでくれ。当然の事をしているだけなのだからな」

 

 当然の事をしているだけ…ね。

 それが言えるだけでも立派だとは思うよ。

 世の中には、その『当たり前』が出来ない人間が山ほどいるんだから。

 

「では、今日はここら辺で失礼する」

「お疲れ様でした」

 

 椅子から立ち上がり、弦十郎さん(たった今思い出した)が病室から出ていく。

 終始、彼はずっと私に対して申し訳なさそうにしていた。

 あれだけじゃ詳しい状況は分からないけど、どうやら相当に酷い状態で私は発見されたぽいな。

 それはそれで気になる所だが、今は取り敢えず……。

 

「寝よ」

 

 話をしている内に疲れてしまったのか、いい感じの眠気がやって来た。

 これならば気持ちよく眠る事が出来るだろう。

 

 そんなわけで……おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はじめまして?

なんつーか…本当に完全に行き当たりばったりな作品なのに、どうしてこんなにも好評なのだろう…?

書いている自分自身が一番分かりません。

それとも、私も成長しているって事なのかな?







 病院生活三日目。

 看護師さんもこちらに気を使ってくれるのか、あれから色々な差し入れがあった。

 まぁ…差し入れと言っても、持って来てくれるのは女性向けの雑誌や漫画とかなんだけど。

 こっちとしては暇が潰せる上に情報も収集できるから一石二鳥だった。

 ついでに、新しい新聞も貰ったしね。

 

(…普通の子達が読めば面白いと思うんだろうけど……)

 

 残念ながら私は『普通』じゃない。

 感情の起伏すらかなり薄くなってきている今の状態では、笑いたくても笑えないのが現実だ。

 木星戦役時の時代に転生した時に初めて話したザビーネ・シャルが言っていたように感情を処理できない人間ではなく、感情を表現する事すら出来なくなった人間が今の私だ。

 この場合、私もまた彼の言うように『クズ』の烙印を押されてしまうのだろうか?

 別に言われること自体は一向に構わないんだけどね。

 自分がクズだって自覚は大いにあるし。

 

(そう言えば、この雑誌に気になる事が書いてあったな……)

 

 手にしている雑誌のページをペラペラと捲っていくと、ちょうど真ん中辺りにその記事はあった。

 

【突如として消滅したノイズ被害! その真相に迫る!】

 

 ノイズってなんぞや。

 そう思って、その記事を熟読していくと、世間一般的に知られている情報ぐらいはゲットできた。

 ノイズとは、ある日突然出現した謎の存在で、数年前までは全世界規模で出現をしていたらしい。

 出現頻度自体は非常に少ないらしいが、何故か日本だけは他の国の数倍の確率で現れていたようだ。

 けど、重要なのはここからで、ノイズに触れられた生命体は例外なく灰となってしまうらしい。

 今はもういなくなってしまっているようだが、街中にノイズが跳梁跋扈していた頃には数多くの人々がノイズによって命を落としていたようだ。

 余りのも謎が多い生態と意志の疎通が不可能な事から、世界中でノイズは『特異災害』という括りになっているようだ。

 事故でも事件でもなく『災害』。

 つまり、人間の力では防ぎようが無い力だと言う事だ。

 

(…けど、こんなのはあくまで『世間一般の認識』に過ぎない。この裏には必ず何かが存在しているに違いない)

 

 これまでの転生にて沢山の奇跡や超常現象を見て、体験してきた。

 だからこそ分かる。

 人間、その気になれば奇跡の一つや二つ、容易く起こせるのだ。

 『起きる』じゃなくて『起こせる』。

 この違いが一番重要なのだ。

 

「何があっても絶対に諦めない奴にしか奇跡は起こせない…か」

 

 どこの誰が言った台詞かはもう忘れてしまったが、どこかの世界に転生した時に聞いたような気がする。

 私が思い出せる一番の奇跡…それは……。

 

(アムロ大尉がアクシズを押し返して、文字通り地球と人類の未来を守り抜いたことか……)

 

 あの時、あの瞬間、間違いなく全ての人々の心は一つになった。

 世界を守る為、全てを守る為に。

 かくいう私も、あの時はネオ・ジオンに所属していたにも拘らず、ギラ・ドーガでジェガン達やジムⅢ達と一緒にアクシズを押し返そうとしたっけ…。

 

『今この瞬間こそが、本当の意味で地球がダメになるか、ならないかの境界線なんだ!! だったら、命を掛ける価値は十分にありますよ!!』

 

 …我ながら、あの時は恥ずかしい台詞を言ったもんだ…。

 すぐに機体の方が限界を迎えて吹き飛ばされそうになったけど。

 

(あの時、私のギラ・ドーガの腕を掴んで助けてくれようとしてくれたジェガンのパイロットって誰なんだろう…?)

 

 結局…お礼も言えないまま転生しちゃったしな……。

 はぁ…なんて礼儀知らずな奴なのやら…。

 

 雑誌に目を落としながら物思いに耽っていると、いきなり病室の扉をノックする音が聞こえてきた。

 恐らくは、あの人だろう。後日また来るって言ってたし。

 

「どうぞ」

「失礼する」

 

 案の定、入ってきたのは風鳴弦十郎さんだった。

 今日も今日とて赤いシャツを着ている。

 もしかして、同じ服を何着も持っているのではないでしょうね?

 だったら普通にドン引きです。

 

「ん?」

 

 よく見たら、彼の後ろに二人程の人影が見えた。

 今日は彼だけじゃないのか?

 

「失礼します」

「失礼しま~す!」

 

 一人は大人しげで、もう一人は元気いっぱいな感じ。

 声の質から予想して、一緒にいるのは女の子か?

 

「えっと…その子達は?」

「彼女達は……そうだな。民間の協力者…のようなものだ」

 

 民間の協力者…ね。

 それと同じ単語、もしくは類似する言葉は今までにも腐るほど聞いてきたよ。

 だからこそ、たったそれだけで彼女達がどうして彼と一緒にいるのかが分かった。

 

(何らかの出来事によってなし崩し的に協力せざるを得なかったんだろうな…)

 

 通常ならば非常に珍しいことかもしれないが、私から言わせれば『そんな事は世界中に溢れている』だ。

 例を挙げていけば本当にキリが無いよ?

 

「元気そうで本当に良かった!」

「響。病院なんだから、もう少し声のボリューム下げて」

「あ…ゴメン未来」

「謝るのは私じゃないでしょ?」

「そうだった…ごめんね?」

「別に気にしてないですけど……」

 

 このオレンジ色の髪の子が『ヒビキ』って名前で、こっちの黒髪の子が『ミク』ね。

 取り敢えずは覚えておきますか。取り敢えずね。

 

「立花響です。初めまして…になるのかな?」

「小日向未来です。私は初めましてだね」

「これはご丁寧にどうも」

 

 どうしてヒビキさんが疑問形になるのかは謎だが、それよりもここは私も自己紹介をするべきなのだろうか?

 でも、まだこの世界での自分の名前を決めてないんだよね…。

 情報収集に夢中になって、すっかり忘れてた。

 

「…で、どうして彼女達が一緒に?」

「つい先程、君の担当医に話を聞いたところ、君は元から怪我や病気の類は一切無く、体が衰弱していただけだったそうでな。体力さえ回復すればいつでも退院は出来るそうだ。事後報告になってしまうのは申し訳ないと思っているのだが、こちらで退院の手続きをしてきた」

「あぁ~…」

 

 そこまで気にするような事でもないと思うけど。

 寧ろ、無駄な手間が省けて助かったとさえ思っている。

 彼が言わなければ、こっちの方から進言していた。

 

「大丈夫ですよ。私もそろそろ外に出てみたいって思ってたところですから」

「そうか。それを聞いて安心した」

 

 でっかい体してる癖に、どんだけ心配性なんだよ。

 仮にも司令官なら、ブライト艦長みたいにドーンと構えていればいいんだよ。

 

「それでな。退院するのはいいが、今の君は私服の類を一切持っていないだろう?」

「ですね……」

 

 現状、最大の問題の一つがそれだ。

 流石に病院服のまま外に出る訳にもいかないし。

 あと、普通に先立つ物が無い。

 それ自体は後でどうにもなるけど。

 

「俺自身、女性物の服には疎くてな…そこで」

「同年代で同性である彼女達を同行させた…と」

「その通りだ。相変わらず、話が早くて助かる」

 

 それは助かる。非常に助かるが…同時に懸念すべき事もある。

 この人達に借りを作らせ過ぎではないだろうか?

 

 いや、別に今までの転生の中で誰の助けも借りなかったって訳じゃないよ?

 助けられることなんて日常茶飯事だったし、私が誰かを助ける場面の方が少ないぐらいだったし。

 だからこそ、受けた恩は必ず返してから死ぬようにしている。

 そうじゃないと、死んでも死にきれないから。

 

(…この世界にどれだけいられるかは分からないけど、長い目で考える事にしよう……)

 

 最初から急ぎ足では何も大成などしない。

 まずは一歩一歩確実に前へと進む事が大事なのだと私は学んだ。

 

(よく見たら、ミクってこの手に紙袋が握られてる。あれに服が入っているのかな?)

 

 服装か~…そういや、私ってファッションに拘ったことって一度でもあったっけ?

 そんな暇も余裕も無い…と言う以上に、純粋に興味が無かったので特に何もしてはこなかったけど。

 取り敢えず、常識的な範囲でおかしくなくて、出来れば地味で目立たないような服装ならば何でもいい。

 勿論、スカートじゃなくてズボンとかであれば言う事は無い。

 

「そう言う訳だから、ここからは君達二人に任せる。俺は廊下に出ていよう」

「分かりました! 任せてください師匠!」

「ひ~び~き~?」

 

 また声がでっかいし。

 つーか『師匠』? ヒビキさんは彼から何かを教わっているのか?

 それを質問しようとしたら、彼はそそくさと廊下へと出て扉を閉めてしまった。

 部屋に残されたのは、彼女達と私の三人だけ。

 

「あの…因みにどんな服を持って来てくれたんでしょうか…」

「こんなのだよ」

 

 そう言ってミクさんが紙袋から取り出したのは、胸ポケットが二つある真っ白なノースリーブと、真っ赤なチェック柄のスカート。

 …これに対して私はなんて言えばいいの?

 

「前に一度試しに買ってみたは良いんだけど、私にはあんまり似合わなくて…かといって、このままクローゼットの中に入れっぱなしにするのは勿体無いから」

「持ってきたと……」

 

 大人しそうな顔をして、意外と大胆な性格をしているのかもしれない。

 この世界でも、人は見かけによらないという法則は健在のようだ。

 

「私も一度着てみたんだけど、やっぱり私服でスカートってのは落ち着かなくてさ~…」

 

 でしょうね。

 私から見ても、ヒビキさんはスカートよりもズボンが似合うイメージがある。

 

「体調はもう大丈夫だって聞いてるけど、一人で着替えられる? 難しそうだったら手伝うけど……」

「それぐらいだったら問題無いかと」

 

 今着ている病院服だって、濡れタオルで体を拭く時は普通に脱いだり着たりしているし、これぐらい単純な服なら心配いらないだろう。

 

「じゃあ、服はここに置いておくね。私達も出ていた方がいい?」

「別にいてもいいですよ? 同じ女同士ですし、恥ずかしがるような事でもないでしょう」

「「そ…そう?」」

 

 今更、自分の裸を見られたぐらいで動揺するようなことはない。

 女体化した状態での己の裸なんて今までに何度も見せてきた。

 男の上で腰を振っていた事だって一度や二度じゃないし。

 経験人数だけで言うなら、間違いなく私が全宇宙ナンバー1だと自負している。

 勿論、男女問わずで。

 

(んじゃ、とっとと着替えますか)

 

 まずは上から脱いで…っと。

 あ…そういや私ってばブラを着けてないじゃん。

 このまま着てもいい…わけないか。

 

(ん? これは…)

 

 紙袋の奥の方に同じ色のブラとショーツが入っていた。

 これも用意してくれたのか? 

 話題に出さなかったのは、普通に恥ずかしかったからか。

 何とも初々しい羞恥心だ。羨ましい程に。

 

(用意をしてくれたのなら、遠慮なく使わせて貰うのが礼儀ってもんだよな)

 

 ブラのつけ方は普通に知っている。

 私にとってはTS転生なんて当たり前の事だから。

 

(…今、気が付いたけど、私が着替え始めてから二人揃って後ろを向いてるし…)

 

 女同士なのに相手が着替えるのを恥ずかしがるとか、どんだけ純粋なんだよ。

 こりゃ、筋金入りの生娘だな。

 

(なんて言ってる間に、ブラを着けてノースリーブも着終えている私なのでした)

 

 後は、ショーツとスカートを履くだけか。

 このヒラヒラ感だけは、どれだけ転生をしても慣れそうにない。

 

(…こんなもんか)

 

 ここには姿見なんて贅沢な物は無いから、今の自分の姿は分からないが、まぁまぁいいんじゃないだろうか。

 この肉体とそっくりな岸波白野の尊厳さえ守れれば、それで十分だろう。

 

「終わりました」

 

 終了の言葉を聞いて、二人はゆっくりとこちらを振り向いた。

 私の姿を見た途端にその目が急激に輝き始めたが。

 

「おぉ~! すっごく可愛いよ!」

「想像以上によく似合ってる……」

 

 片方はシンプルなリアクション。

 もう片方は静かに感動している…のか?

 

「弦十郎さん。もういいですよ」

「そうか?」

 

 扉の向こうで待っているであろう彼に声を掛けると、静かに扉が開いて弦十郎さんが入ってくる。

 その顔は素直に驚嘆をしていた。

 

「うむ。良く似合っているじゃないか」

「ありがとうございます」

 

 例え世辞でも、礼ぐらいは言っておくのが常識だ。

 どんな時も、敬語を使ってお礼と謝罪さえしていれば、大抵の事はどうにかなるもんだ。

 

「御存じの通り、手荷物の類は全く無いので、今すぐにでも出られますよ?」

「ならば、行くとするか。駐車場に車を待たせてある」

 

 待たせてある? 弦十郎さんが運転をするんじゃないのか?

 まさか、お抱えの運転手でもいるのだろうか?

 

「そうだ。ねぇ、あなたのことはなんて呼べばいいのかな?」

「私の事?」

 

 ヒビキさんに言われて現実に戻される。

 誤魔化せたと思っていたのに、また考えなくちゃいけなくなる。

 なんかもう面倒くさくなってきたな…この際、適当でいいか。

 

「御存じかもしれませんが、私には過去の記憶も無ければ、本当に名前があったのかさえも定かじゃありません。なので、『名無し』でも『ネームレス』でもお好きな方でどうぞ」

「「「…………」」」

 

 …あれ? なんで急に黙るんだ?

 私なりに気を利かせたつもりなんだけど…。

 

「君の名前や素性に関しては、我々が全力で調べる。だから、自棄にだけはならないでくれ」

「いえ…別に私は自棄になんては……」

 

 なんか勘違いされてる? この人達には冗談が通用しないのか?

 

「じゃ…じゃあ、本当の名前が分かるまでは『ナナシ』ちゃんって呼ぶことにしましょうよ。ね?」

「そうだね。暫定的でも名前を決めておかないと、話もしにくいだろうし…」

「と言う事だが…それでもいいか?」

「そちらがそれでいいのでしたら、私は全然問題ありません」

 

 変に拘った仮名称をつけると、本名が判明した時に困るからな。

 繋ぎの名前なら、これぐらいで十分だろう。

 

「では、ナナシくん。行くとするか」

「はい。よろしくお願いします」

 

 そんなわけで、私は彼らの『本部』とやらに招かれる事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




劇中でナナシが着ていたのは、FGOの礼装である『もう一つの結末』の格好です。






目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

平和ってなんですか?

 病室まで来た三人に連れられて病院の駐車場まで降りてくると、そこには明らかに周囲の車とは雰囲気の違う高級車が。

 車種までは分からないけど、とにかく真っ黒でピッカピカに磨かれている。

 そして、車の前にはビジネススーツをビシッと着こなしている一人の男が立っている。

 もしや、あれがこの車のお抱え運転手か?

 

「待たせたな、慎二」

「いえ。その子が例の…?」

「そうだ」

 

 シンジ…シンジねぇ…。

 同じ名前だからなのか、なんとなく私が8942回目に転生をした世界で知り合った汎用人型決戦兵器で人造人間なアレに乗っていたナイーブな少年を思い出す。

 最終的には彼も大きく成長して一人の立派な『漢』になったけど。

 

「初めまして。僕は緒川慎二といいます。司令、彼女に我々の事は…」

「まだ詳しくは話していない。場所が場所だったからな」

「確かにそうですね。分かりました」

 

 …成る程。この雰囲気…確実に普通の人間じゃない。

 少なくとも表側の人間ではない事は確実だな。

 血の匂いがするとかそう言う意味じゃなくて、なんて言えばいいのか…。

 目の前にいるのに目の前にいない。そんな感じがする。

 分かり易く言えば、恐ろしく気配が希薄なのだ。

 

(まるで…黒子テツヤくんみたいだな……)

 

 彼と同様に、常時ミスディレクションを発動しているような…そんな感じ。

 こんな人間を飼っているって事は、この人達って暗部に属する連中なのか?

 

(…それは実際に彼らの『本部』とやらに行ってみればわかる話か)

 

 私の事を『救出』したという彼らが何者なのか。

 そして、この世界の真の姿を少しでも把握出来れば文句は無い。

 その為に、私は彼らが垂らした釣糸に自らの意志で食いついたのだから。

 対価として私の身体を調べさせろとか言って来ても問題は無い。

 別に隠すような事は何も無いし、それによって困る事もまた無いからだ。

 

「初めまして。私の事は『名無し』とでもお呼びください」

「ナナシさん…ですか?」

「はい。文字通り名前が無いもので、暫定的にそう名乗る事になりました」

「…分かりました」

 

 この顔は納得してないって感じだな。

 けど、こればっかりは受け入れて貰わないと困る。

 

「では、行くとするか」

「皆さん、乗ってください」

「「「はーい」」」

 

 さてはて、彼らの言う『本部』とは一体どんな場所なのやら。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 街中を走る車の後部座席から、私は外の光景を静かに覗き見る。

 ここは中央街とかなのだろうか? とても賑やかで大勢の人々が闊歩していた。

 

「どうしたの? 何が気になるものでもあった?」

「いえ…そうではないのですが……」

 

 まるで絵に描いたかのような平和な光景だ。

 けど、私は知っている。知り過ぎている。

 この世には本当の平和なんて一度も存在したことは無いのだと。

 

 一見すると平和そうに見える光景も、その裏には必ず小さな陰謀やら悪事やらが跋扈しているものだ。

 だけど、人々はそれらを進んで見ようとはしない。

 事件が発生してから初めて人々はそれらを視界に入れる。

 表側になる『見せ掛けだけの平和』に酔いしれ、現実を見ようとしないからだ。

 前に私がとある事件にて戦った男『ヴィンデル・マウザー』が言っていた言葉を思い出す。

 

『平和とは一種の麻薬だ。知らず知らずの内に人々の心の中へと浸透していき、やがては世界全体をゆっくりと腐敗させていく。だからこそ、その麻薬を駆逐する為に戦争という名の駆除作業が絶対に必要なのだ』

 

 奴の言っている事は理解出来るし共感も出来る。

 やろうとしたことは過激すぎるとは思うけど。

 永遠の闘争なんて現実的に考えても不可能だ。

 もし仮にそんな事が実現されれば、その先に待つのは絶対的な破滅だけ。

 腐る前に滅びてしまっては意味が無い。

 

「平和って……なんなんでしょうね……」

「え……?」

「ナナシちゃん…?」

 

 ふと零した私の呟きに答えてくれる人は、車内には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「まさか…潜水艦が『本部』だったとは……」

「驚いた?」

「そうですね……」

 

 車に揺られること一時間。

 到着したのは巨大な潜水艦の中でしたとさ。

 まさか、車ごと艦の中へと入って行くとは思わなかった。

 

(いや…今更、この程度で驚くような事は無いか)

 

 マクロスに比べたら、こんなのまだずっとマシだろうな。

 なんせ、戦艦の中に街が丸々一つ入ってるんだから。

 その後継艦も沢山生み出されていくし。

 因みに、あの世界に転生した時は私も立派なバルキリーのパイロットをしてました。

 好きな機体は『VF-11サンダーボルト』だ。

 あの何とも言えない量産機感がたまらない。

 アーマードになれば完璧。

 

「…で、ここから私はどうなるのでしょうか?」

「まずは、我々の事を詳しく話そうと思う。その上で、君が発見された時の事も詳細に説明しよう」

「分かりました」

 

 本当ならば部外者に話す事は禁じられているのだろうが、生憎と私は部外者じゃないみたいだしな。

 知らず知らずの内に関係者になっていたってのが正解だけど。

 

「響くん。未来くん、今回は助かった。後はこちらに任せて、君達は翼たちの所に行くといい」

「はい! お疲れ様でした!」

「ナナシちゃん。また後でね」

 

 また後で? まるで、話が終わった後に私がどうなるのかを知っている風な口ぶりだな。

 いや…そうだろうな。彼らがこのまま私をみすみすと逃がすような真似をするとは思えない。

 このまま『保護』と言う形でこちらの身柄を拘束してくる可能性が大いにある。

 まぁ…だからなんだって感じなんだけど。

 刑務所もココも、私にとっては似たり寄ったりだし。

 

「ここで話すのもアレだな……どこかいい所はあるだろうか? 流石にいきなり司令室まで連れて行くのもアレだしな…」

「でしたら、食堂ではどうですか? あそこならば飲み物もありますし」

「そうだな。変に堅苦しい場所で話すよりかはずっとマシか。分かった。では、俺に着いて来てくれ。これから食堂に案内しよう」

「分かりました」

 

 潜水艦の中にある食堂…。

 普通ならば大した期待などしないのだろうが、このデカさの潜水艦の食堂だ。

 一般的な常識は通用しないと考えた方が良いだろう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「これはまた……」

 

 やっぱり、かなりのデカさを誇る食堂でした。

 カルデアの食堂を彷彿とさせるな。

 エミヤやブーディカママの作る料理…また食べたいな。

 

「驚いてくれたかな?」

「まぁ…一応」

 

 決して抜けない貧乏性のせいなのか、こんなものを見せられると自然と考えてしまう。

 この潜水艦…どんだけの金がつぎ込まれてるんだよ…と。

 同時にこうも思ってしまうのだ。

 

(この人達…やっぱり普通じゃないな……)

 

 キョロキョロと食堂内を見渡しながら、そんな事を考えていると、弦十郎さんが適当な席に座るように促してきたので、遠慮なく空きまくっている席に座らせて貰う事に。

 恐らく、今はまだ仕事中なのだろう。

 先程別れた響さん達も見かけない所を見ると、どうやらこことは別の場所へと行ったようだ。

 誰かの所に行くようにと言っていたような気がしたけど。

 

「何か飲むか?」

「何があるんですか?」

「なんでもあるぞ」

 

 ほぅ…? 『なんでも』ときましたか。

 ならば、入院中に飲めなかった代物を頼もうか。

 

「では、ジンジャーエールはありますか?」

「あるとも。少し待っていてくれ」

 

 あるんかい。

 心の中でツッコんでいると、本当にジンジャーエールが出てきた。

 

「お待たせした。遠慮なく飲んでくれ」

「いただきます」

 

 コップを持ってから一口ゴクリ。

 うん、美味しい。

 こうしてコレを飲むのは何十年振りだろう。

 前の転生の時には、こんな物を飲む余裕なんて微塵も無かったしな。

 そういや、弦十郎さんは何を飲むんだろう?

 そう思ってふと目を動かすと、そこには美味しそうにコーラを飲む彼の姿が。

 

「ん? どうした?」

「いえ……」

 

 てっきりコーヒーとかを飲むと思ってた…。

 これは色んな意味で予想外。

 

「喉も潤ったところで話に入ろうと思うのだが、大丈夫か?」

「問題ありません」

「まず、我々の事だが……」

 

 ここからは、私が着いた話を掻い摘んで説明しよう。

 詳細を話していったら大変だし、頭もパンクするだろうから。

 

 彼らは、国連直轄の超常災害対策機動タスクフォース『S.O.N.G.』と呼ばれる部隊らしい。

 弦十郎さんは司令官であり、同時に作戦指揮も担当しているようだ。

 嘗ては『特異災害対策機動二課』と呼ばれる部隊だったらしいが、それを再編成した上で直轄組織が日本から国連に移行していて、安保理が定めた規約に従って国外での活動も許可されているとの事。

 詳しくは話してくれなかったが、これまでにも色んな大規模な超常脅威を何度も防いできたらしく、そのための手段がここには存在している。

 

「もしや、その『手段』とやらとは響さん達と関係しているのですか?」

「矢張り、君には分かってしまうか」

「このような特殊過ぎる部隊に、彼女達のような少女が属していること自体が違和感の塊ですから」

 

 これに関しては、私じゃなくてもすぐに分かると思う。

 黒の騎士団のゼロことルルーシュならば、少ないヒントで答えにまで辿り着いて見せるだろうけど。

 実際、私も彼の神憑りなまでの超絶的な頭脳に何度助けられてきたか。

 

「別にここで彼女達について話してもいいのだが、俺よりももっと詳しく説明できる人物に心当たりがあるのでな。詳しくは彼女から聞いた方が良いだろう」

 

 ふむ…餅は餅屋ってわけか。賢明な判断だ。

 

「超常災害…では、ノイズなども貴方たちがどうにかしていたのですか?」

「ノイズの事は覚えているのか?」

「いえ。病室で読んでいた雑誌に記事が書かれていたので」

「そうか…。その通りだ。確かに、奴らが発生していた頃は我々が対応に当たっていた。その後、とある方法にて我々はノイズを封じる事に成功はしたのだが、それとは別に作られたノイズ…『アルカ・ノイズ』と呼ばれる存在がテロリストなどに行き渡っていてな。まだ完全に安心できる状態とは言い難いんだ」

 

 まぁ…そうだろうな。

 どんな方法でその『アルカ・ノイズ』とやらを製造したのかは知らないが、そんな便利な物を見逃すほど奴らはバカじゃないだろう。

 

「ここで、君の事に話が行くのだが…」

「もしや、私はテロリストの所にいたとでも?」

「テロリストではなく、君がいたのはパヴァリア光明結社と呼ばれる錬金術師たちで構成された組織の残党のアジトなんだ」

「…………はい?」

 

 錬金術師って…あの錬金術師?

 私が知っている錬金術師って言えば、ミニスカ大好きな焔の錬金術師さんに、めっちゃマッチョでキラーンでダンディな剛腕の錬金術師さんに、爆発大好きな紅蓮の錬金術師さん、後は皆大好きな鋼の錬金術師くんだな。

 

「錬金術とは…あの錬金術の事ですか? 原子配列そのものを組み替える行為よりも既存の物質の形状を変化させたり、または化学反応を起こしたりすることを主としている…あの? 等価交換の原則で成り立っている?」

「俺も錬金術に関しては、そこまで詳しくは無いので何とも言えないが…どうしてそこまで詳しいんだ?」

「いや…これぐらいは普通では?」

「なに?」

「え?」

 

 …別におかしなことは言っていないつもりだが。

 少なくとも、私の知っている錬金術はそんな感じだし、この人達も錬金術師を相手にしているのだから、それぐらいの事は知っていて当然なのでは?

 専門書でも読めば、普通に書いてある事じゃないのか?

 

(まずったかな……)

 

 もしかしたら、私の知っている錬金術と、この世界の錬金術とは根本的に違うのかもしれない。

 私の知る錬金術はれっきとした『科学』だけど、この世界では『魔術』に近いものなのかもしれない。

 錬金術に関わる転生なんて非常に少なかったせいか、この違いが良くまだ分からない。

 これもまた私が知らなければいけない事なのかもしれないな。

 

「残党…ということは、そのパヴァなんとかという組織はもう壊滅しているのですか?」

「う…うむ。組織の幹部やトップを倒したので、事実上の壊滅状態とは言えるのだが…」

「生き残った連中がまだ世界中に存在している…と」

「そうなる。現在の我々の仕事の一つでもある」

「それはまた……」

 

 大変な事で。

 組織の残党狩りなんて、一番面倒くさい仕事の一つじゃないですかヤダー。

 

「私がそんな場所で発見されたとなると…まさか、人体改造でもされていたのでしょうか? もしくは、私自身が連中によって製造された人工生命体的な感じ…?」

 

 え? 今回の私ってまさかホムンクルスなの?

 この体の中には『賢者の石』が入ってるの?

 ホムンクルスって言えば基本的に不老不死だけど、私の『無限転生』という特典は『何があってもいつかは必ず死ぬ』ことが大前提となっているから、不老はあっても不死だけは絶対に有り得ないか。

 そうなると、今回は次の転生まで相当に長くなりそうだな。

 

「ん? どうしました?」

「…君は何も思わないのか? 自分が改造されたり、自然に生まれた存在ではないかもしれないという可能性に対して…」

「別に何も? そんなの、世界中を探せば似たような事例は幾らでもあるでしょう? 私だけが特別じゃないですよ」

「…………」

 

 なにやら弦十郎さんが悲しそうな目でこっちを見てきたので思わず訪ねてしまったが、そしたら今度は急に黙ってしまった。

 一体どうしてしまったのだろうか? 何か変な事でも言ったかな?

 空気が重くなりかけた時、食堂にいきなり元気な声が聞こえてきた。

 

「お腹空いた~。クリスちゃんは何食べる?」

「そうだな…って、おっさん? と…誰だ?」

 

 入ってきたのは響さんと未来さん、それと他にも五人の女の子が入ってきた。

 これまた違和感だらけの人達がやって来たもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

法律は守りましょう

私的に、転生特典とは『祝福』ではなくて『呪縛』なんじゃないかって思ってます。

強大過ぎる力に盲目的になって、自らの可能性を無意識の内に閉ざしてしまっているケースが多々見られるような気がするからです。

同時に、神の力で刻まれた力はそう簡単には覆せないとも思っています。







 話の途中で食堂に入ってきた女性陣。

 一気の場が華やかになりましたな。

 

「噂をすれば何とやら…か」

「響さんに未来さん。それに他の方々は……」

 

 他に人がいないのも相まって、彼女達はすぐにこちらの存在に気が付いた。

 特に響さんはこちらの顔を見た途端に表情が明るくなったほどだ。

 

「ナナシちゃん! 師匠と話をするって言ってたけど、ここにいたんだね」

「先程振りですね、お二人とも」

 

 まずは頭を下げてからのご挨拶。

 例え、別れたのがついさっきだとしても礼儀は大切だ。

 

「もしや、他の方々も響さん達と同様に先程の話に出てきた『対抗する手段』を持っているのですか?」

「その通りだ。我々は彼女達の事を『装者』と呼んでいる」

「そうしゃ?」

「装備の『装』に『者』と書いて『装者』だ」

「あぁ~…」

 

 装者…ね。漢字の意味合い的に考えると、装者は世界中にいそうなイメージだが、そう言う意味ではないんだろうな。

 

「おい。ナナシって、オッサンと話してる奴か?」

「そうだよ。今日退院してきて、そのままここに来て貰ったの」

「ふーん…」

 

 あの銀髪っぽい子は、なんだかこちらにはあんまり興味は無さげ。

 別に興味を持って貰いたいとは思ってないけど。

 

「あの少女は…あの時の……」

「そうみたいね。元気になったようでなによりだわ」

 

 で、あの青髪の女性とピンク色の髪の女性は私の事を知っている様子。

 というか、あの二人ってどこかで見た事があるような気が……。

 

(あ。思い出した)

 

 病院で読んでた雑誌に二人の事が記載されていたっけ。

 デカデカと記事があったから割と覚えてる。

 

「マリア。あの人の事を知ってるデスか?」

「そっか。あの子を救出した時には他の皆はいなかったものね」

「どういう事?」

「ほら、覚えてない? 少し前にパヴァリア光明結社の残党の拠点に踏み込んだ時に……」

「あぁ…思い出したぜ。確かあの時、奴らの研究材料にされてたと思われる人間を先輩とマリアが見つけて救出したって言ってたな」

「それが彼女だ。当時は本当に一刻を争う状況だったからな。皆に報告する前に病院まで運んで貰ったんだ」

「結果として事後報告にはなっちゃったけどね」

 

 …成る程。彼女達が私を救いだしてくれた張本人って訳か。

 もうこの時点で、この世界で生きている間に絶対に返せない程の借りを作ってしまってない?

 本当なら、適当に理由を付けてから一般人に戻らせて貰いたいところだが、何の礼もせずに去ってしまっては私自身が落ち着かない。

 

(にしても……)

 

 あの黒髪ツインテールの子と、金髪で元気いっぱいそうな子…明らかに他の子達よりも年下…だよね?

 中学三年生か、もしくは高校一年生ぐらいか?

 どっちにしても、常識的にはどえらい事だな。

 まぁ…世の中にはウッソ・エヴィンという13歳でMSのパイロットになってトップエースになった子もいれば、ジュドー・アーシタという弱冠14歳で最強クラスのニュータイプの一角にまで上り詰め天才児もいるわけで。

 それに比べれば、まだまだマシな方なのかもしれない。

 

「弦十郎さん」

「どうした?」

「労働基準法って知ってますか?」

「うぐ…! 君の言いたい事はよく分かる……」

 

 あ、其処ら辺の自覚はあるんだ。ちょっとだけ安心した。

 宇宙世紀とは違って、ここはまだ西暦の時代だ。

 しかも、ここは国連の下部組織的な存在な訳なのだから、例えそこにどんな事情があるにしろ、ちゃんとすべき所はちゃんとすべきだと思うのです。

 

「もしや、あの青い髪の女性は『風鳴翼』さんで、あのピンク色の髪の人は『マリア・カデンツァヴナ・イヴ』さんですか?」

「私達の事を知っているのか?」

「翼さん達は有名人ですからね!」

「いや…病院で暇潰しと情報収集を兼ねて読んでいた雑誌にお二人の記事が載っていたので……」

「そういうことね」

 

 あれ? なんか落ち込ませるような事言った?

 記事によると、この二人は非常に有名な歌手らしいが……。

 

(歌手…歌ね……)

 

 バルキリー乗りをしていた頃は頻繁に色んな歌を聞いていたっけ。

 伝説の歌姫『リン・ミンメイ』に、『シャロン・アップル』も聞いてたし、当然のように『ファイアー・ボンバー』も嗜んでた。

 『ランカ・リー』と『シェリル・ノーム』の二人は特に凄かった印象がある。

 そういや、マリアさんってどことなくシェリルと似ているような気がするな。

 髪の色とか、出してる雰囲気とか。

 

(にしても、なんだか皆揃っていい汗を掻いてるな。ついさっきまで運動してましたって感じだ)

 

 体を動かす事は、心身ともに健康でいるためには必須の事だ。

 どこの世界で軍人になっても、共通して教官から真っ先に教わっていた。

 

「ところで、おっさんはコイツと何を話してたんだ?」

「主に我々の事についてだ。今回の事で、彼女も部外者とは言い難くなってしまったかな」

「そっか……」

 

 正確には『部外者になる前に関係者にされてしまった』と表現した方が正しい。

 もし仮に何事も無く転生をしていたら、絶対に彼女達と関わり合いにはなろうとしなかっただろう。

 けど、こうなってしまった以上は仕方がない。

 自分にやれることを精一杯するだけだ。

 

「話したって、どこまでですか?」

「この部隊の事や、後は彼女を救出した時の様子。それから、装者のことだな。これに関しては、俺よりもエルフナインくんの方が詳しいからな。後で紹介がてらに説明して貰おうと思っている」

「エルフナイン…? その人が先ほど言っていた『専門家』なのですか?」

「そうなる。この時間ならまだ自身の研究室にいると思うから、後で機会を見つめて会せよう」

「よろしくお願いします」

 

 どんな人物なのかは分からないが、装者達を見る限りは大人なイメージはしない方が良さそうだ。

 兜十蔵博士や弓博士、早乙女博士たちのような根っからの研究者気質の人間ではない事を祈る。

 

「あの…そろそろ皆さん、ナナシちゃんに自己紹介をした方がいいんじゃ?」

「「「「「あ」」」」」

「なんだか流れで普通に会話してましたけど、まだナナシちゃんは私と響を除けば、マリアさんと翼さんしか知らない訳ですし……」

 

 ここでまさかの未来さんからのナイスアシスト。

 こっちとしては、ここで無理をして自己紹介をする必要はなく、生活の中でそれとなく知る事が出来れば何の問題も無い。

 だが、こうして機会を設けてくれたのであれば話は別。

 手間が省けるに越したことはないのだから。

 

 そんなわけで、突如として始まった自己紹介タイム。

 勝ち気で銀髪の少女が『雪音クリス』さんで、黒髪ツインテールの子が『月読調』さん、金髪元気っ子が『暁切歌』さんね。

 よし、後はこっちが覚えるだけだな。

 

「私の事は『ナナシ』とでも呼んでください」

「ナナシさん…ですか?」

「はい。お恥ずかしながら、今の私には過去の記憶が無いものでして。自分自身の素性すらまだ分からない状況で下手に凝った名前を付ければ却って後で困ると判断して、適当に『名無し』と呼んで貰う事にしたのです」

「「「「「………」」」」」

 

 …あれ? なんで急に暗い雰囲気になるの?

 ちゃんと名前も言ったし、その理由も説明したよね?

 もしかして、説明不足と思われた?

 

「あ~…ナナシくん。君の方から何か質問はあるか?」

「でしたら一つだけ」

「なんだ?」

「私の身柄を確保していたという残党の人間はここに捕えているのですか?」

「捕えてはいるが、ここにはいない。ちゃんとした収容所にて身柄を押さえている。だが、どうしてそんな事を聞くんだ?」

「いえ。単純に私がその人と直接話をすれば、自分の正体やらなにやらが分かるのではないかと思いまして」

 

 単純明快かと思われるかもしれないが、こんな時は回りくどいやり方なんてせずにストレートに行くのが一番確実だ。

 特に、今のような右も左も分からないような状況の時は。

 

「…分かった。今すぐには流石に無理だが、ちゃんと会えるように手配はしておこう」

「ありがとうございます」

 

 予想通り、この弦十郎と言う人物は基本的に話せばわかるタイプの人物だ。

 自分でも相当に無茶な頼みと分かっていたのに、それでも手配はすると言ってくれた。

 一部隊を預かる司令官として、これは相当な覚悟が無ければ出来ない筈だ。

 

「よろしいのですか? 叔父様」

「あぁ…実際問題、俺達では奴から情報を聞き出すのに限界が来ていたからな。ならばいっそのこと、彼女に掛けてみるのも悪くは無いと思ったまでだ。勿論、最大限の安全を確保した上でだがな」

 

 最大限の安全? 防犯ブザーでも持たされるんだろうか?

 それとも、護身用の拳銃か?

 一応、ハンドガンとライフル、マシンガンの撃ち方は知識として覚えてるけど…体の経験が完全にリセットされてるからなぁ…そこら辺は要練習かな。

 ここに射撃練習場ってあるのだろうか?

 

「取り敢えず、今日はここに泊まっていくといい」

「それは有り難いですが、ここには宿泊部屋もあるのですか?」

「勿論だ。響くん達も時にはここに泊まっていくことがあるくらいだしな」

「そうだったんですね」

 

 本当に、至れり尽くせりの潜水艦だな。

 これを開発、設計した人物はどんな事を考えながら製造していたのだろうか?

 

「それじゃあ、私が案内してあげるよ!」

「私も一緒に行くデース!」

「切ちゃんが行くなら私も」

「なんとなく心配だから、私も着いていくね」

 

 …完全に未来さんが保護者ポジションだな。

 あの歳にして既に気苦労が多そうだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 響たちがナナシを連れて行ったあと、食堂に残ったマリアと翼、クリスの三人は弦十郎と彼女についての話をしていた。

 

「三人から見て、あの子…ナナシくんはどんな風に見えた?」

「なんつーか…感情の起伏が無さすぎだろ。話してる時も表情筋をピクリとも動かしてなかったし……」

「そうね。あくまで私の主観だけど…あの子はとても疲れているように見えたわ」

「疲れている…か。私も似たような感じだが、それ以上にあのナナシという少女からは『諦め』のような感情が見えたような気がする」

「諦め…か」

 

 三人それぞれから意見を聞き、弦十郎は渋い顔をしながら腕を組む。

 

「おっさんはどんな風に感じたんだよ?」

「…俺が彼女の発見された状況の時の事を話すと、ナナシくんはいきなり自分自身の事を考察し始めた。人体実験でもされたか、人工的に作られた存在かもしれない…とな」

「マジかよ……」

 

 幾ら自分の事が分からないとはいえ、そんな可能性を真っ先に思いついて平気な顔をしてられるだろうか?

 少なくとも、クリスは自分には無理だと思った。

 

「しかも、それに対してナナシくんは何も思わないと言っていた。世界中を探せば似たような事例は幾らでもあると。自分だけが特別ではない…とな」

「確かにそうかもしれないけど…でも……」

 

 過去に同じような体験をしているマリアは表情を暗くして俯いた。

 どれだけ割り切っていても、自分の口からそんな事を言えるのはかなり異常だ。

 

「叔父様。彼女は一体何者なのでしょうか?」

「分からん。今は兎に角、情報が少なすぎる。ついさっきナナシくんが提案してきたように、捕えた錬金術師と彼女を会わせる事で僅かでも情報を手に入れられることを祈るしかない」

「だな……」

 

 謎が謎ばかりを呼ぶ少女『ナナシ』。

 警戒をする…とまでは行かないが、それでも注視しておく事に越したことはない。

 

「彼女の正体は不明ではあるが、たった一つだけハッキリとしている事がある。それは、ナナシくんは間違いなく『被害者』であるという事だ。三人共、彼女の事を頼んでもいいだろうか?」

「勿論よ。私としても、なんだか放ってはおけないし」

「あいつらに任せておいたら、どんな事になるか分かんねぇからな」

「了解しました」

 

 ナナシを取り巻く状況は刻一刻と変わっていく。

 これから先、彼女にどんな運命が待っているのかは誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 




ナナシちゃん、早くも衣食住を確保。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私にとっては贅沢です

連続更新になりますが、まずはネタを出し切ってから別の作品の更新をしたいと思ったからです。

現状、戦闘シーンは微塵もないですね~。

日常系に近くなるかもしれません。







 響さん達に案内されてやって来た宿泊部屋なのだが、これには普通に驚いた。

 顔には全く出なかったけど。

 兎に角、デカくて広くて清潔。

 ベットはフカフカだし、床はピカピカ。

 更には、置いてある家具は近未来的なデザインながらも使い易さ重視となっている。

 これは恐らく、私のように初めてここを使うものに対する配慮なんだろう。

 

「うわー…落ち着くー」

 

 ベッドの上でゴロゴロとしながら、ようやく心身共にリラックスさせることが出来た。

 どれだけ転生しても病院の雰囲気は余り好きにはなれないし、あそこはあくまでも患者の為の施設。

 私のように衰弱しただけの奴がいつまでも居座っていてもいい場所じゃない。

 病院と刑務所は二度と来ないぐらい気持ちでいた方がいいと、ずっと前に転生した時に入院した病院の看護師さんが言っていた。

 

(響さん達は帰ってしまったのか……)

 

 ここに来るまでに彼女達の事を少しだけ教えて貰ったのだが、響さんと未来さん、クリスさんはなんとかっていう音楽学校の高等部に通っているらしい。

 調さんと切歌さんも中等部に通っていたらしいが、今年から高等部に上がるらしいとの事。

 

(学校……か)

 

 私って、これまで一体どれだけの学校に通ってきたんだろう…。

 え~っと…花咲川高校に空座第一高校、穂群原学園に海軍の士官学校、アニメーターの専門学校にも行ったっけ。

 後は、IS学園に駒王学園、トレセン学園にも通ってたな~。

 大洗女子学園にも行ってたし、阿智賀女子学園って場所にも通った。

 遠月学園では色んな意味で美味しい思いをさせて貰ったな。

 とある異世界ではトリスティン魔法学院なんて場所にも行った。

 精霊たちも一緒に通っている来禅高校に、学園都市のお嬢様学校である常盤台中学、汎矢理高校、後は…聖エルミン学園に七姉妹高校、月光館学園に八十神高校、雄英高校って半ば専門学校っぽい所もあったし、国立魔法大学付属第一高等学校なんていう凄そうな学校も行った。

 美滝原中学に聖祥大付属小学校、他にはどんな学校に通ってたかな…。

 

(もしも、私の経歴を履歴書に書けって言われたら、絶対に超小さく書かないと埋まらないだろうな……)

 

 いや、どれだけ小さく書いても絶対に書ききれない。

 それだけの転生人生を送ってきた自負はある。

 

「…食事とかは、さっきの食堂を使えばいいのかな…」

 

 けど、誰が料理を作るんだろうか?

 やっぱ、食堂のおばちゃん的な人が常駐しているのかな?

 

「まぁ…いざとなればちゃんと許可を貰ってから自分で作ればいいか」

 

 その辺の知識もちゃんと脳内には記録してある。

 ちゃんと作れるかどうかはまた別問題だけど。

 

(あそこがシャワー室に、あそこがトイレ。私一人には勿体無いぐらいの好待遇だな)

 

 こんな部屋で寝泊まりをしたのは、恐らく私がIS学園に通っていた頃が最後だろう。

 あそこの学生寮は本当に金を掛け捲ってたからな。

 

「……着替え、どうしよう……」

 

 今になって、大事な事に気が付いてしまった。

 現在の私は正真正銘の無一文。

 替えの服さえ持っていないような状況なのだ。

 もしも浅はかな考えでシャワーなんて入ったら、それこそ裸で過ごさなくてはいけなくなる。

 いや…着ている服をもう一回着るってのもアリなのか?

 この場合は仕方がないしね。うん、そうだそうだ。

 

「流石にバスタオルぐらいは……」

 

 あった。

 ダメ元で部屋の中を調べて見たら、ちゃんと綺麗に洗濯されているバスタオルとハンドタオルが折り畳まれた状態で並べてあった。

 これで少なくとも、シャワーに入れないという事態は防げたわけだ。

 

「最悪の場合、裸で寝ようかな」

 

 裸で寝るのって意外と気持ちが良かったりするんだよね。

 一時期は、死ぬまでずっと裸で寝る事に嵌ってたぐらいだし。

 仲間からは『お前は裸族か』ってツッコまれたけど。

 

「そうと決まれば、まずはサッパリしたいな」

 

 入院中は風呂やシャワーなんて入りたくても入れなかったし。

 出来る事と言えば、濡れタオルで体を拭くぐらい。

 それでは全くスッキリしない。

 

「脱いだ服は…そこら辺に置いとけばいいか」

 

 別に誰かに取られるって訳でもないし。

 特に気にする必要はないでしょ。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 食堂にて話を終えた弦十郎は、司令室に戻って正面モニターを腕組みしながら見ていた。

 そこには、部屋で寛いでいるナナシの姿が映し出されている。

 

「今のところは何も特別なアクションはしていないな」

「どこにでもいる、至って普通の女の子ですね」

 

 ベッドの上でゴロゴロとしながら、気紛れに部屋の中を散策して回る。

 年頃の少女が初めて訪れた場所でする行動としては、何もおかしな所は無い。

 

「けど…なんだか気が進まないですね。幾ら、素性が不明とはいえ、女の子を監視するような真似をするのは…」

「それは俺だって同じだ。だが、我々の前では言えなかった事をふとした拍子に漏らすかもしれない。それがナナシ君の正体に繋がる可能性だってあるんだ」

「そうかもですけど……」

 

 オペレーターの一人である藤尭朔也は複雑な顔をする。

 モニターの向こうにいるナナシは、彼の目からはどこにも怪しい所が無いからだ。

 

『……着替え、どうしよう……』

 

 ナナシが呟いた言葉を聞いて、この場にいる全員がハっとなった。

 そう言えば、今の彼女には替えの着替えなんて代物は無いのだった。

 このままでは風呂にも入れないではないか。

 

『最悪の場合、裸で寝ようかな』

 

 それを聞いて、流石の弦十郎も焦りを見せる。

 ナナシの裸を全員で見るような事態だけは何が何でも避けなければ。

 主に大人の男として。

 

「…友里。後で彼女の部屋にパジャマを持っていってくれるか?」

「分かりました。あ…でも」

 

 いきなり司令室全体を見渡すようにして、もう一人のオペレーターである友里あおいが男性陣全員を睨み付けた。

 

「私が着替えを届けに行っている間、モニターを見るような事はしないでくださいね?」

 

 彼女から発せられる並々ならぬ殺気に、全員が声も出せずに頷くしかなかった。

 

「では、行ってきます」

 

 静かに、だが悠然とした感じであおいが司令室を後にする。

 彼女が去ってから、隣に座っていた朔也はホッと胸を撫で下ろした。

 

「こ…殺されるかと思った……」

「取り敢えず、モニターは切っておくか……」

「了解です…」

 

 モニターの映像が切り替わり、市街地の光景が映し出される。

 これまで通り、人々が行き交う平和な風景だ。

 

「司令、ナナシさんと捕縛した錬金術師を会わせるという約束…本当によろしいのですか?」

 

 これまで黙っていた慎二が、ふと弦十郎に質問をする。

 因みに、彼もまたあおいの殺気に本気でビビッていた一人だ。

 

「正直に言えば、俺は不安しかないと思っている。なんせ、ナナシ君の体を弄繰り回していた張本人だからな。幾ら、その時の記憶が無いとはいえ、余りいい感情は抱かないだろう」

「では、どうして…?」

「本人が望んだからだ。ナナシ君は自分自身の意志で奴と出会い、話を聞くことを望んだ。俺はその彼女の勇気を尊重してやりたい」

 

 通常ならば間違いなくトラウマに刻まれていてもおかしくない事だが、それでもナナシは向かい合う事を決めた。

 荒療治と言えばそれまでだが、何も分からない現状ではそれが最善なのもまた事実だった。

 

「それに、俺達には何も口を割らなかった奴が、彼女にならば何かを話すかもしれない。あくまで可能性の話だがな」

「でも、司令はその可能性に乗ると決めた…ですよね?」

「あぁ。ナナシくんは不可思議な雰囲気を出す少女ではあるが、決して悪人ではないと俺の勘が告げている。だからこそ、賭けてみる価値はあると踏んだ」

 

 理想論&根性論。

 司令としては絶対に発言してはいけない事だが、そんな彼だからこそ皆はついてきた。

 これもまた一種のカリスマなのかもしれない。

 

「しかし、問題はここからだな……」

「はい。捕縛した錬金術師に会わせるにしろ、会わせないにしろ、その後のナナシさんの生活基盤を考えなくては」

 

 今のナナシには戸籍なんてないし、住む家すらも無い。

 自分の名前すらも失っているような状態なのだから当たり前だが。

 

「暫くは、ナナシくんに狭苦しい思いをさせてしまうな…」

「その辺は、僕らが支えるしかありませんね」

 

 大人だからこそしなくてはいけない事がある。

 こんな事は今に始まった事ではないので、弦十郎は微塵も臆してはいない。

 

「まずは、彼女の服などをどうにかしなければな……」

「その辺りは装者の皆さんを頼るしかありませんね。こればかりは、男の僕達ではどうにも出来ませんから」

「うむ……」

 

 決意をしたや先にコレである。

 男とはつくづく無力な生き物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は少し短め。

本当はここで全てのネタを出し切る予定でしたが、なんだか思ったより長引いてしまったので、錬金術師との遭遇は次回に回します。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

こんにちは。そして、はじめまして。

冗談抜きでくったくた。

癒しが…癒しが欲しい……。







 宛がわれた部屋にて一晩を過ごし、体力は回復した…と思う。

 無駄にベットがフカフカで寝心地が良かったので、久し振りにゆっくりと熟睡出来た。

 そういえば、いつの間にか用意されてた着替え…誰が持って来てくれたんだろう?

 私がお風呂に入っている間に置いてあって、なんだか高級ホテルのルームサービスを彷彿とさせた。

 ホテルに泊まったのなんて物凄く昔になるけど。

 

「ふわぁ~…」

 

 体を伸ばしつつベットから起き上がる。

 コキコキと首や腕の骨を鳴らして体の点検。

 

「…よし。大丈夫」

 

 体の方は問題無し…と。

 洗面所で顔を洗ってサッパリしたら、用意して貰った服に着替えますか。

 パッと見ただけで詳しくは確認してないんだけど、そこまで変な物じゃないとは思う。

 

「ふぅ……」

 

 冷たい水で顔を洗って頭を再起動させる。

 さっきまで半分眠気があった状態から、完全覚醒モードに。

 ナナシちゃん、ウェイクアップ。

 

「さて…と。どれどれ?」

 

 綺麗に折り畳まれている服を手に取って広げてみると、目の前にはどこまで見た事があるような清楚系の服がありましたとさ。

 

「これは~……」

 

 なんだか、喉に魚の小骨が引っかかっているように記憶が微妙に引き出せない。

 軽く頭をポンポンと叩きながら記憶の引き出しを漁っていると、唐突にポコンと思いだした。

 

「あ…そっか。これ、桜ちゃんの私服だ」

 

 私がかなり前に転生をした冬木市。

 そこでもまた聖杯戦争に巻き込まれ、私は半ば強制的にマスターとなった。

 あの時は確か、第四次聖杯戦争だったな。

 召喚したのはキャスターで、真名は『メフィストフェレス』。

 色んな意味で一癖も二癖もあるサーヴァントで、一緒にいるだけで賑やかだった。

 ま、普通にアーチャーことギルガメッシュに惨殺されたんだけどね。

 

 その後、私だけが運良く生き残って普通に冬木市で過ごして、10年後の第五次聖杯戦争の年に彼女と知り合ったんだっけ。

 冬木の名門の一つである『間桐家』の養子である『間桐桜』ちゃんと。

 

「まさか、この服を私自身が着る事になろうとは……」

 

 これは一体何の因果か。

 私は彼女のように闇堕ちもしてなければ、白馬の王子様を待ってたりもしていない。

 かといって家庭的でもないし…共通点なんてそれこそ『女』しかないよ?

 

「…そもそも、ちゃんとサイズが合うんだろうか…」

 

 あの子…すっごい胸をしてたからなぁ~…。

 もしもこれで胸だけがブカブカだったら、普通に落ち込むかもしれない。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私を捕まえていた錬金術師がいる収容所へと入れる許可が下りた。

 それを弦十郎さんから聞かされたのは、私が何気なく食堂にて自分の朝食を作っている時だった。

 因みに、今回の朝ご飯はお手軽にベーコンエッグとトーストにコーヒー。

 本当は炊き立てのご飯に味噌汁&焼き魚と納豆のセットが食べたかったけど、流石に図々しいかもと思ったので自重した。

 

「…で、どうして私は目隠しをされているのでしょうか?」

 

 慎二さんが運転する車に乗せられると、助手席に座っている弦十郎さんからアイマスクを手渡されたので仕方なく着けることに。

 なんとなく事情は察しているけど、念の為に尋ねてみた。

 

「これから行く場所は国家レベルでの機密がある場所なんだ。記憶喪失状態の君には余り意味が無いかもしれないが、それでも向こうがどう思うか分らないからな」

「なので、そうして形だけでも目隠しをしてらおうと思ったわけです」

「成る程」

 

 だと思ったよ。

 こういう場合、大抵は部外者には絶対に見せられないものがあるのがお約束だしね。

 この人達が言いたい事も凄く理解出来る。

 私だって、とある世界では逆に目隠しをさせる側だったりもしたし。

 

(この音から察するに、今は高速道路にでも入ったのかな? だとしたら、まだまだ時間は掛かりそうだ。暇だし……寝ようかな)

 

 こうして目の前を真っ暗にさせられると、完全に消えた筈の眠気が少しずつではあるが復活してくる。

 走行時の振動もいい感じに眠気を促進させてくるし、ここは素直に睡眠欲に逆らわずに従ってしまった方が楽かもしれない。

 

 つーわけで、おやすみ~。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ナナシくん…ナナシくん。起きるんだ。到着したぞ」

「んん……?」

 

 体を揺さぶられる感覚で目を覚ます。

 この声は弦十郎さんだな。

 なんともいい所で目が覚めてしまった。

 あと少しで特大のにんじんハンバーグが食べれたのに…。

 

「ふわぁ~…。夜ちゃんと寝れるか心配になってきました…」

「それだけ言えれば上等だ」

 

 アイマスクを取り外しながら車から降りると、そこには見るからに『ザ・収容所』と言った感じの建物があった。

 

(どこの世界も、コレ系の場所は似たり寄ったりのデザインをしてるんだな…)

 

 いや、ド派手な収容所とかあっても普通に反応に困るけどさ。

 

「もう既に受け付けは済ませてある。行くとしよう」

「了解です」

 

 弦十郎さんと慎二さんの二人に先導されるようにしながら後ろから着いていき、警備員と思われる人に軽く会釈をする。

 向こうさんは私の顔を見て『なんだコイツ?』的な顔をしていたが。

 

 建物内は非常に殺風景で、文字通りの灰色の世界。

 一昔前の一人称視点型のダンジョンRPGを彷彿とさせた。

 ウィーザードリィは今でも神ゲーだと思っている。

 

「こっちだ」

「収容されている場所は分かっているのですか?」

「いや、今回は面会室に呼び出して貰って、そこで対面する手筈になっている」

「あ…そういう…」

 

 そりゃそうか。当たり前田さんのクラッカーだ。

 何故か自然と鉄格子越しに話をすることを思い描いていた。

 ちょっとだけ恥ずかしいな。

 

「面会時にはお二人も?」

「君はどうしたい?」

「…可能であれば、その錬金術師さんとは一対一で話したいですね」

「そう言うと思って、我々は別室で待機していることにした。室内には念の為の監視カメラがあるがな」

 

 そりゃそうだろうな。

 こうして廊下を歩いている間にも、軽く10個以上の監視カメラを発見してるし。

 

(これだけ厳重だと、出ようという気も失せるんだろうな…)

 

 国家機密系の収容所でこれなら、網走刑務所とかってどうなってるんだろう。

 今にして思えば、これまでの転生で余り刑務所とかに行ったことってなかったな。

 今回みたいに面会をしに来たことはあっても、捕まった事は一度も無い…と思う。

 だって、大抵の場合は捕まる前に殺されてるし。

 

「ここだ」

 

 考え事をしていると、いつの間にか目的地に到着。

 ドア一つとっても、何とも無機質な面会室ですこと。

 

「奴は既に中に入って待っているらしい。面会時間は最大で20分が限界との事だ」

「20分ですね。承知しました」

 

 それだけ時間があれば十分だろう。

 これでようやく、この世界での私の立ち位置が確認出来る。

 果たして、私は何らかの理由で生み出された人工生命体なのか。

 それとも、どこにでもいる哀れな一般人なのか。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 相手がどんな人物であれ礼儀は大事。

 つーわけで、ノックをしてからドアノブを回して入る。

 

「お前は……」

 

 強化ガラスを隔てた向こう側にいたのは、囚人服を着ている頭を丸坊主にされた一人の男。

 彼が噂に聞く錬金術師たちの一人なのか。

 パッと見はそうは見えないが、それは単純に彼が身包みをはがされているからに過ぎない。

 ちゃんと髪を伸ばしてローブやら何やらを身に着けていると、きっとそれっぽく見えるのだろう。

 

(警備員は…いないみたいだな)

 

 私の方にも、彼の方にもそれらしき人影は見当たらない。

 普通ならば端の方に最低でも一人は待機していると思うのだが、それだけここの警備に自信があるということなのか。

 

(いや…違うな。その代りの監視カメラ…か)

 

 カメラがあるから大丈夫…ってか。

 傲慢と人件費削減を一緒にしてるってことか。

 

「こんにちは。そして、はじめまして。あなたが私の事を捕獲していたという錬金術師さんですね?」

「あぁ。にしても、ちゃんと目覚めたんだな…」

 

 ちゃんと目覚めた? これはどういう意味だ?

 まるで、私が目覚める可能性が無い。もしくは低かったと思われるような発言だが……。

 

「まず、話をする前に一つだけ言っておきたい事が」

「なんだ?」

「あなたの自己紹介などは必要ありませんし、私の方もまた自己紹介をするつもりはありません。どうせ、この20分が私達の出会う最初で最後の機会なのですから、あなたは私の事を『お前』とか『貴様』呼びで構いません。私の方もそちらの事は『錬金術師さん』と呼びますので。よろしいですか?」

「別に構わないぞ。こっちとしても、変にお前に執着なんてしたくは無いしな」

「結構。では、改めて楽しい楽しいお話を始めましょうか」

 

 本当はここで相手の警戒心を少しでも解く為に作り笑いでも浮かべられたらよかったのだろうが、生憎ともう笑い方なんて忘れてしまった。

 なので、何も言わずに普通に椅子へと座った。

 

「では最初に聞きますが、私は一体何者なんですか?」

「…それはどういう意味だ? まさか、からかっているのか?」

「違います。私が目覚めたのはついこの間の事なのですが、病院のベットの上で目を開けるまでの間の記憶が全く無いのです。それから色々と情報は聞かされましたが、なんでも私の身分を示すような物があなた方のアジトには全く無かったというじゃありませんか。でしたら、後はもう私の事を捕まえていた張本人に直接聞くしかないと思いまして」

「記憶喪失…か。お前の言いたい事は理解出来るが、かといってここまで来るか普通?」

「このまま根無し草のようにふわふわとした感じは嫌なので。自分の正体がどんなのであれ、知っておくことに越したことはないじゃないですか」

 

 なんていうのは単なる口実。

 本当は単純に情報が欲しいだけ。

 この面談が終わって本部に戻れたら、昨日はし損ねたネットを通じての情報収集もやっておかないと。

 

「…お前は怖くは無いのか?」

「何がですか?」

「自分の正体を知るのが…だ。俺なら怖い」

「私は別に。例え正体が何であれ、自分は自分でしょうに。正体を知ったとしても何かが劇的に変化する訳でもあるまいし」

 

 精神的には色々と変化はあるかもだが、別に死にはしないんだから気にするだけ無駄なのではないだろうか?

 知った途端に体が爆発するとかなら話は別だけど。

 

「で、教えてください。私は一体何なのですか? 錬金術にて生み出された『フラスコの中の小人(ホムンクルス)』なのか。それとも、其処ら辺を普通に歩いていた私を適当に拉致してきたのか」

「…残念だが、どちらも違う」

「違う?」

「そうだ。そもそも、俺達にはホムンクルスを生み出せる程の能力はないし、かといって街中で誰かを攫うような真似をすれば、すぐにS.O.N.G.の連中に嗅ぎつけられる」

 

 S.O.N.G.というのは、私が今お世話になっている組織…だよね。

 だとしたら、私はどこで彼らと遭遇したんだ?

 

「では、あなた方は私をどこで見つけたというのですか?」

「山の中だ」

「……はい?」

 

 今…なんて言いましたか? 山の中?

 

「拠点を次々と変えながらの逃亡生活を続けていたある日、我々は山の中で倒れていたお前を見つけ、そのまま新しく作った拠点まで連れてきたんだ」

 

 

 

 

 




次回もまたお話しパート。

そして、意外な人物が登場するかも…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

私は魚座の女

クロスオーバー更に加速。

良い子の皆さんは、画面から離れて明るい場所でご覧ください。











「山の…中…」

「その通りだ」

 

 錬金術師さんのまさかの告白に、この世界に来て初めて表情筋が仕事をしてくれた。

 具体的には、思わずお口があんぐりとなりました。

 

「当時の俺達は成果を求めてなりふり構っていられない状況だったからな。だから、例え相手が身元不明の女であろうと問答無用で実験体にするしかなかったんだ」

「なんともまぁ……」

 

 そこまで切羽詰まるって、一体今までどんな生活をしてきたんだよ。

 錬金術師ってそんなにも貧乏な職業だっけ?

 いや…本当は大半がそうなのかもしれない。

 国家錬金術師たちの金銭感覚が狂っているだけだ。

 

「あなた方が私を発見した時、私はどんな格好をしてましたか?」

「どんな格好…か。そうだな…薄汚れたボロ布を身に纏っていた」

「他には?」

「何も着ていなかった。上着も無ければ靴も履いていない。着の身着のまま山に迷い込んで倒れたって感じだったな」

「迷い込んだ……」

 

 聞けば聞くほど、増々分からなくなる。

 覚醒する前の私は本当にどこで何をしていたんだ?

 

「言っておくが、嘘は言ってないからな。この状況で嘘なんか言っても意味無いしな」

「それは分かっていますよ。そちらにメリットなんてないことぐらいは」

 

 心なしか、今まで逃亡生活をしていた割には彼の顔は随分とスッキリしているような感じがする。

 まるで、ようやく人間としての安心を得られた…みたいな?

 

「私を拾った時、周囲に何か落ちてはいませんでしたか? こう…身分を証明するような代物は」

「運転免許所とか生徒手帳的な物か?」

「はい。何かありませんでしたか?」

「あの時は急いでいたからよくは覚えていないが…そんな物は落ちていなかったと思うぞ? さっきも言ったが、お前を拾ったのは山の中だ。そんな物が地面の上に落ちていたら普通に気が付くだろう。仮に俺が気が付かなくても、一緒にいた仲間達が回収している筈だ。だが、そんな報告は一切聞いていない。と言う事は…」

「私の正体に近づく物的ヒントは存在しない…ってことですか」

「すまんな」

「いえ…謝る必要はありません」

 

 正直、ダメ元だったし。ここで情報を入手できなかったとしても落ち込む必要は全く無い。

 生憎と、学校に通ってもいなければ働いてもいない実質的なニートである私には時間だけは沢山ある。

 その無駄に有り余った時間を使って地道に調べていけばいいだけの話だ。

 

「念の為に、私を拾った後の話をお聞かせ願いますか?」

「まぁ…いいだろう。人体実験に使う…なんて息巻いていても、実際にはそこまで出来なかったんだしな」

「それは、拠点に襲撃を受けたからですか?」

「あぁ。心身ともに疲弊していた俺達があんな形で強襲されれば、碌な抵抗も出来ないからな。精々が、僅かに残っていたアルカ・ノイズを放つことぐらいだったが、それも装者達に瞬殺されたし…」

 

 響さん…貴方達は一体どんな風に彼らを捕まえたんですか…。

 ほんの少しだけこの人達に同情してしまいそうになった。

 

「話を戻そう。お前を連れ帰った俺達が一番最初にしたのは、お前の体をチェックする事だった」

「チェック…」

「そうだ。人体実験をするにも、まずは被験体に健康状態が第一だからな。じゃないと、実験どころじゃなくなる」

「御尤も」

「で、お前の体…具体的にはバイタルだな。それを調べた。別に変な事はしていないから安心しろ」

「はーい」

 

 多少、何かされても何の文句も無いけどね。

 眠姦なんてこれまでに何度もされてきてるし。

 

「そうしたら案の定、お前の体は非常に衰弱していた。だから、実験の前にまずはお前さんの体を実験に耐えられるまで回復させることにした」

「私が聞いた話では、なにやら培養層のような物に入れられていたとか…」

「それが一番手っ取り早かったからな」

 

 その気持ちは分かる。

 面倒な事を手早く手間なく済ませられるのなら、それが一番だし。

 

「順調にお前の体調は回復していった。なけなしの資材で栄養剤なんかも投与していたしな」

「拉致と言うよりは、保護されたと言った方が正しいような気がしてきました」

「結果的にはそうなってしまったな」

 

 なんだろう…最初からこの人達に対して怒りとか憎しみとかの感情は全く抱いてはいなかったけど、それとは逆に感謝の気持ちが湧いてきたんですけど。

 というか、冷静に考えるとこの人達こそが本当の意味での命の恩人なのでは?

 

「えっと…ありがとうございます?」

「疑問形で礼を言われても普通に困る」

 

 ですよねー。

 

「それに、礼を言われる資格も無いさ。もしも奴らが来なければ、本当に人体実験をしていたんだしな」

「それはIFの話です。それこそ気にする必要はないと思いますが」

「…かもしれないな」

 

 大きく息を吐いているが、その顔はなんだか穏やかに見えた。

 彼の過去を知っている訳ではないが、まるで憑き物が取れたかのような、そんな顔だ。

 

「もしもここを出られたら、また錬金術師を続けたいとは思っているんですか?」

「いや。俺と同じように収監されている他の仲間達は錬金術師としての誇りがどうとか言っているが、少なくとも俺はどうでもよくなったよ」

「と言いますと?」

「プライドでは腹は膨れない…ってことさ」

「…今までで最も説得力のある言葉ですね」

 

 ある意味、この世の真理を突いている言葉かもしれない。

 私も激しく同意しますよ、錬金術師さん。

 

「ここにいれば、少なくとも逃亡生活中みたいにひもじい思いをせずに済むし、追っ手に怯える日々ともオサラバできる。やるべき事さえやっていれば何も言われないしな」

「それが普通なんですけどね」

「全く持ってその通りだ。こうして捕まる事で、ようやくその『普通』に気が付くだなんて、皮肉ってもんじゃないな」

「気が付けただけマシじゃないですか。世の中には、その『普通』を理解していない人々がまだまだ沢山いるんですから」

「違いねぇや」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 別室にて監視カメラを通じて部屋の様子を伺っていた弦十郎と慎二の二人は、何とも言えない顔をしていた。

 

「まさか、奴等でもナナシ君の正体を分かっていなかったとは…」

「山の中で拾ったと言っていましたが、どこの山なんでしょうか?」

「可能であれば詳しく問いただしたいところだが、聞いても無駄だろうな。逃亡中に山の名前なんて気にしている余裕なんて無かっただろうしな」

「そうですね……」

 

 モニターの向こうでは、残された時間でまだ錬金術師と話しているナナシが映し出されている。

 相回らずの無表情だが、いつもよりは舌が回っているように感じた。

 

「しかも、奴等もまた彼女の事を回復させようとしていたとはな…」

「実験される前に保護出来て良かったと言うべきなのでしょうが…」

「病院での検査では、ナナシくんの体は衰弱はしていても、そこまで致命的ではないと言っていた。彼女の命を救うための応急処置を奴らがしていたと考えると…」

「急に罪悪感が出てきますね…」

 

 そこにどのような意図があったとはいえ、はぐれ錬金術師たちが彼女の命を救ったのは紛れもない事実。

 慎二と顔を合わせてから、弦十郎は強く頷いた。

 

「上にこの事を報告して、奴の減刑でも言ってみるか…」

「報告では、収容されている錬金術師たちの大半がまだ色々と言っているようですが、彼のように落ち着いた様子で真面目に刑務作業をしている者もいるようですし…」

 

 もしも彼らの減刑が許されたら、その時は自分達で再就職先でも探してやってもいいかもしれない。

 そんな事を考えつつあった弦十郎だった。

 

「そろそろ時間のようですよ」

「では、ナナシ君を迎えに行くか」

 

 画面の中でナナシが部屋を出るのを確認してから、彼らもモニター室を後にした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「お待たせしました」

「いや、大丈夫だ。だが……」

 

 面会室を出て廊下を少し歩くと、向こうから弦十郎さんと慎二さんが一緒に歩いてきた。

 なんだか弦十郎さんが悲しそうな顔をしているが、私の事を気にしているのだろうか?

 確か、監視カメラでこっちの様子を見聞きしていたと言っていたし。

 

「大丈夫ですよ」

「ナナシくん……」

「これで全ての希望が閉ざされた訳じゃありません。寧ろ、彼とこうして話せたことは私にとってもいい事だったと思っています。少なくとも、スタートラインには立てたのですから」

「前向きなんですね、ナナシさんは」

「能天気なだけですよ」

 

 実際、私は落ち込んでもいないし焦燥もしていない。

 『この世界における自分の正体と探る』というやるべき事が具体的に決まっただけでも私的には大きな前進だ。

 何もせずに死ぬまで無為に時間を浪費するよりは、ずっと有意義だと言えるだろう。

 

「…そろそろ帰るか」

「その前に、お手洗いに行ってきてもよろしいでしょうか?」

「構わないぞ。場所は……」

「大丈夫です。面会室に来るまでの間に見かけた案内板で場所は把握してますから。先に車に戻っていて結構ですよ。ちゃんと警備員の方々に事情を話して貰うのをお願いして貰いますが…」

「分かりました。こちらから説明はしておきます」

「ありがとうございます。では……」

 

 廊下内は走ってはいけないと分ってはいるが、それでも急ぐために私は早歩きでトイレまで向かう事に。

 私の記憶が正しければ…こっちだった筈。少し急ごう。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 ジャー…。

 

 女子トイレの個室を出て、手を洗ってから備え付けのハンドペーパーで手を拭く。

 

「ふぅ……」

 

 スッキリしてからトイレを出て少し歩いてから、私は唐突に立ち止まった。

 

「……いつまでコソコソと隠れているつもり?」

 

 顔を横にし、視線だけを後ろへと向かせる。

 すると、そこには全身黒ずくめで、一度見たら絶対に忘れようが無い程に絶大なインパクトのある青年が立っていた。

 

「やぁ…久し振りだね」

「…アサキム・ドーウィン」

 

 嘗て私が転生した世界『多元世紀』にて引き起こされた史上最大の決戦『多次元戦争』にて幾多の策謀を巡らせ、最終的にはどことなく去って行った人物。

 時には敵で時には味方と言う、実に曖昧な立ち位置の男だったが、実は私と同じ宿命を背負っている男だと知った時には、私は彼に対する敵対心は完全に失せていた。

 

「目を覚ましてからずっと誰かの視線を感じていたけど、それってアンタなんだ?」

「さぁ…どうだろうね?」

 

 相も変わらずはぐらかす。

 疾風というよりは微風みたいな奴だ。

 正体が分かっても掴み所が無いのは変わらない。

 

「それが、この世界における君の姿なのかい?」

「そうみたいよ。そっちはどの世界に行っても姿形は変わらないみたいだけど」

「僕は別に転生している訳じゃないからね」

「そうだったね。お前の場合は転生じゃなくて『転移』なんだし。そりゃ、何も変わらないのは当たり前か」

 

 無限の転生と無限の不死。

 いや…アサキムの場合はその場で転生をしているようなものか。

 

「どうしてアサキムがこの世界に…なんて、聞くだけ野暮か。至高神ソルがいた頃とは違って、今のお前は風のように気紛れに並行世界を旅する彷徨い人だものね」

「その通り。僕がこうしてここにいるのも、単に君の姿をこの世界で目撃したからにすぎないのさ」

「人はそれをストーカーと呼ぶ」

「ははは……」

「笑って誤魔化すな」

 

 こいつ…やっぱりセツコのストーカーだったんじゃなかろうか?

 そうとしか思えない部分が多々あるしな…。

 

「私をずっと見てたって事は、もしかして…この世界における私の正体についても知ってたりする?」

「知ってるも何も、君は君だろう?」

「いや…そうじゃなくて……」

「僕が知っているのは、君がこの世界に現れた瞬間だけさ」

「え?」

 

 今…なんて言った? 私がこの世界に現れた瞬間?

 

「君はある日突然、とある山の中にその姿の状態で出現したんだ。まるで、何かに導かれるように」

「それって…転移してきたって事?」

「流石にそこまでは分からない。君には前の世界で死んだ記憶があるのだろう?」

「それは勿論。だからこそ転生したんだし……」

 

 それだけは間違えようが無い。

 確かにあの時、私は死んだ…というか殺された。

 完全なる即死だった。痛みを感じる暇すらなかった。

 だけど、その瞬間までの記憶はちゃんと残されている。

 

「全く訳が分からない…」

「もしかして、異質な形で転生したのは『アカシック・レコード』の仕業かもしれないね」

「だとしたら、もう私にはどうしようもないじゃないか」

 

 少なくとも、個人でどうにかできるレベルの相手じゃない。

 気紛れな神の次は、気紛れな大いなる意思に振り回されている…か。

 もし仮に本当にアカシック・レコードの仕業だとしたら、かなり早い段階で介入して来ていたと見るべきだろう。

 

「だけど、君は決して諦めない。無気力になっても、排他的になっても、その心の奥底にはいつも『希望』を…いや、『夢』を持ち続けている。そうだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『夢見る双魚』のスフィア・リアクター。洗礼名『バキエル・ザ・ローズ』」

 

 

 

 

 

 




もうめっちゃめちゃです。

気にしたら負けです。

私も気にしません。

皆で頭を空っぽにしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

おはなしたいむ

今回は自分語り中心です。

話は殆ど進みません。







 『夢見る双魚』

 それが、私の持っているスフィアの名前。

 

 あれはいつだったか…いつものようにとある世界に転生した私は、テスラ・ライヒ研究所という場所で開発者兼テストパイロットを務めていた。

 その頃は丁度、地球は二度目になる異星人からの侵攻を受けていて、本当に大ピンチな状態だった。

 正直、その世界がどうなろうとも私にはどうでもよかったが、死ぬ前に職場を失うのは嫌だったので、仕方なく上からの命令に従う形でとある人型機動兵器の完成を急いでいた。

 それこそが、後に図らずも私の愛機となるPT『ケストール』だった。

 

 ケストールは、PTX-007-03C『ヴァイスリッター』の予備パーツを中心に、ビルトシュバインやゲシュペンストシリーズのパーツも流用されて開発された経緯がある。

 射撃戦重視であるヴァイスとは違い、ケストールは高い機動力で相手の懐に潜り込んでの近接戦を得意をしている。

 主武装は専用の剣『ダーインスレイヴ』で、モーションにはグルンガストのものをアレンジしたものが使われていた。

 

 PTとしては非常に高い性能を誇っていたが、そんな事が気にならなくなる程に懸念すべき問題があった。

 上層部から秘密裏に齎された謎の動力源『Pシーズ』の存在だ。

 後の調査でブラックホールエンジンすらも大きく上回る出力を出していたこれに、私は恐怖する以上に不気味さを感じていた。

 戦争中盤で、機体が暴走寸前にまでなった時、初めてこれが『スフィア』と呼ばれるものだと知った。

 その時に起きた巨大な次元震によって、スフィアを持っていた私だけが飛ばされて多元世界へとやって来る羽目になった。

 色んな勢力やアサキムから狙われまくって本当に大変だったが、そこは省略しよう。

 

 激化していく戦いにケストールはガタが来ていて、多元世界で知り合った仲間達に助けて貰う形で機体を強化、改造した。

 機体名に『平和』と言う意味の言葉を勝手に追加され『ピース・ケストール』という名になった。

 

 紆余曲折あり、私は最終的には死ぬことになるのだが、それでもスフィアは私の身体から離れる事は無かった。

 

 本来、スフィアは所有者が死ぬことでようやく離れてくれるのだが、その理由も私には分かっている。

 人間だけに限らず、全ての生き物の魂は一度死ぬと全てがリセットされて輪廻の輪に入る事になる。

 だが、スフィアは至高神ソルの魂の欠片とも言うべき存在。

 輪廻の輪に組み込まれる事は決して有り得ない。

 その時に、まるで振り分けられるかのようにして死んだリアクターの魂とスフィアは分離し、一番近くにいた相手…つまり、自身を倒したスフィアリアクターの所有物になる…のだが、その相手がスフィアを発動させる条件を満たしていなければ、そのまま何処かへと消え去っていく。

 

 だが、私の場合は例外で、輪廻の輪に入る事無く、そのまま次の世界へと転生しているので、スフィアが離れることが無いのだ。

 しかも、前の段階でサードステージにまで至ってしまっているので、更に離れにくくなってしまっている。

 

 本来ならば、スフィアとは機動兵器の内部に組み込まれているのだが、何事にも例外は存在しているのが常だ。

 例えば、メール・ピーターの命を救う為に体内へと入った『傷だらけの獅子』。

 例えば、機体本体ではなく武装の方に組み込まれた『悲しみの乙女』。

 

 転生をした際に、機体から私の身体…というか、魂の方に融合するような形でスフィアが入り込み、切除したくても出来ない状態に陥ってしまう。

 文字通り、一心同体になってしまったわけだ。

 

 一応、私のスフィア『夢見る双魚』についても話しておく。

 このスフィアの発動キーとなる感情は『夢』であり、アサキム曰く『君には自分でも気付いていない程に大きな夢の力が存在している』…らしい。

 夢なんて、今の私からは最も縁遠い言葉の筈なのにね。

 

 因みに、この『夢』というのは皆がすぐに思い付くであろう『眠っている時に見る夢』ではなく、何かを望む意志…即ち『将来の夢』などの事を指している。

 発動する条件が簡単な一方で、破綻する条件もまた簡単。

 夢を叶えられずに挫折したりなんかするとすぐにスフィアは反応しなくなる。

 

 夢見る双魚のスフィア・アクトは『未来予知』。

 未だに到達していない事柄に意識が向けられる、ということからこの能力が発現したんだと思う。

 要は、能力が発動すれば限定的ではあるがニュータイプのような超絶的な反応速度を得られるのだ。

 星座の配置的に対極に位置している『悲しみの乙女』の能力が悲しみという感情への同調、過去の出来事を力に変えるのに対して、この『夢見る双魚』は『未来を求める思い』を力に変えている。

 自分でも知らない内に未来を求めていると知った時、軽く鬱になりかけたが。

 

 セカンドステージに至った際に全てのスフィア・リアクターに訪れる反作用。

 私の場合は『想像力の大幅な減衰』だった。

 夢見る双魚は文字通り、夢を見る力があって初めて真の力を発揮する為、それを阻害する…つまり『想像力』が失われる事で私の心を苦しめる。

 実際、反作用が発現した時、想像力が失われつつあった私の自意識は殆ど無いに等しく、まるでロボットかアンドロイドのような挙動をしていたらしい。

 私にとっては完全なる黒歴史なので、自分でもよく覚えていないのが本当に災いした。

 

 スフィアには12個それぞれに異なる特徴を持っている。

 それは私の持つ『夢見る双魚』も例外ではなく、これの場合は私限定でかなり質が悪い。

 先程、『夢見る双魚』の力の源である『夢』とは将来の羨望などを指していると言ったが、睡眠中に見る夢も全く無関係と言う訳じゃない。

 『夢見る双魚』には12のスフィアの中で唯一、反作用が二つ存在している。

 そのうちの一つはサードステージに至る事で克服できるが、もう一つは何があっても絶対に逃れられない。

 それ以前に、もう一つの反作用は生きている内には絶対に発動しないのだ。

 もう一つの反作用…それは、『死んだ後にリアクターの存在がその世界から抹消される』というものだ。まるで最初から『夢幻』であるかのように。

 痕跡、記憶、記録、全てが完全に消滅する。

 これから逃れるたった一つの方法は、私が死ぬ前に別の並行世界へと移動すること。

 そうすれば、スフィアの反作用に巻き込まれずに済む。

 だからこそ、アサキムは私の事を覚えている唯一の昔馴染みになる。

 

 スフィアを手にしてから、私は今まで以上に世界に関わらないように心掛けるようにした。

 どれだけ仲良くなっても、どれだけ心を許しても、私が死んで次の世界に転生したら、私のことを全て忘却してしまうから。

 この反作用の事を教えてくれたのもアサキムで、とある世界にて並行世界へと移動する方法を見つけ、ちょっとした好奇心で以前いた世界に行ったことがあるのだが、その世界では私の存在全てが完全完璧に抹消されていた。

 直後、私は生まれて初めての自殺をした。

 

 この世界も一緒だ。

 本当ならば誰にも深く関わらずに一人でひっそりと死ぬまで生きていればそれでいいのに、目を覚ました瞬間から私は彼らと関わってしまった。

 全く…始まる前から詰んでいたら、抵抗しようという気すら失せてしまう。

 どうせもう遅いのならば、利用できるものは何でも利用してやろう。

 情報、衣食住、生きていくうえでは重要な事だ。

 可能であれば、色々と理由を付けて独り立ちできれば最高だ。

 その為には色々と用意するべきものがあるが…そこは彼らに頼らざる負えないだろう。

 もう何度も言ってきたが、何事にもまずは先立つ物が無ければ何も始まらない。

 まずは、そこからだ。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「どうしたんだい? 急にボーっとして」

「別に。少し昔の事を思い出しただけ。誰かさんが余計な名前を言ってくれたお蔭で」

「どういたしまして」

「…お前には皮肉ってのが通用しないの?」

 

 なんだか、随分と長く考え事をしてしまったような気がする。

 お蔭で、胸の奥でスフィアが大きく鼓動しているような感覚がある。

 

「その様子だと、まだ夢見る双魚は次元力を出し続けているみたいだね」

「余計なお節介だけど」

 

 夢…希望…私には不必要で、同時に無意味なものだ。

 だというのに、この私の一体どこにそれらがあるというのだろう…。

 

「いっそのこと、この世界では洗礼名である『バキエル』を名乗ればいいんじゃないのかな?」

「イ・ヤ・で・す。アレで呼ばれるの、あんまり好きじゃないんです。洗礼なんて受けた覚えはないし、そんなに信心深いわけじゃない。そもそも、バキエルって何なのか知ってるの? 『証聖者(コンフェッサーズ)』なんだよ? もはや天使どころが生き物ですらない。人間がいつか至るであろう霊的な境地の名称なんですよ? そんなのを堂々と名乗ったら、恥ずかし過ぎて死ぬわ」

「なら、それとは真逆の『不誠実な者(インフィデレス)』とか……」

「いい加減にしないと、マジでその顔に蹴りを一発お見舞いするぞ」

 

 アサキムの一番怖い部分は、その実力でも雰囲気でもなく、この天然ボケなのかもしれない。

 

「怖い怖い。では、そろそろ失礼しようか」

「是非ともそうしてくれ。こちらも人を待たせてるんでね」

「あの男達かい? 随分と仲が良さそうだったけど…」

「別に。単なる助けた側と助けられた側ってだけだよ」

「……そうか」

 

 それだけを言い残し、アサキムは目の前から足跡も出さずに消え去った。

 またぞろ、どこかの並行世界にでも行ったのだろう。

 私とは違い、あいつは自分の意志でいつでもどこでも移動し放題だから。

 

「…急がないと。余り待たせては流石に失礼だ」

 

 戻ったら、まず最初にこの世界に関する詳しい情報収集だ。

 本当は弦十郎さん達に教えて貰うのが一番手っ取り早いのだが、仮にも組織に属している彼らがそう簡単に口を割ってくれるとは思わない。

 なので、知れる範囲で情報を手に入れるしかない。

 今の私には、圧倒的なまでに情報が不足しているのだから。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 帰りの車の中。

 

「随分と遅かったが、何かあったのか?」

「それを私に聞くんですか? セクハラですよ?」

「む……すまん…」

「司令…流石にそれは……」

 

 適当に誤魔化したつもりだが、図らずも弦十郎さんに悪い事をしてしまった。

 戻ったら、お詫びに何か料理で振る舞おうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スフィアに関してはウィキを参照しました。

後は自分流の適当な設定ですね。
 
余り深く考えないでくれると嬉しいです。

じゃないと、恥ずかしくて爆発しそうですから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

れっつら自立

現在、脳内でこの作品の主人公がISの世界にいた頃の話を構築中です。

気が向けば投稿するかもしれません。










 本部(潜水艦)に戻ってから、私は弦十郎さんにノートパソコンを一台貰った。

 なんでも、『何かを調べたいのならばコレを使うといい』との事。

 所謂『支給品』のような物だと思って、遠慮なく受取って欲しいと言われたので、素直に貰う事にした。

 こんな代物をポンと渡せる剛毅さに若干の驚きを感じつつも、同時にこの程度ではビクともしない程の組織力があると推察できた。

 着実に『S.O.N.G.』とやらの大きさを感じている。

 

「ふむふむ……」

 

 潜水艦内だというのに余裕でネットに繋がるとは恐るべし。

 どんな仕組みになっているのだとか、考えるだけ無駄…というか、面倒くさいのでしたくない。

 

(翼さんは以前『ツヴァイ・ウィング』なるユニットを組んでいた…と。で、その片割れである『天羽奏』さんとやらが突然の急死により事実上の解散…ね)

 

 艦内の与えられた部屋でココア片手に画面と睨めっこをする。

 機密だらけの環境にいる翼さんが一般人相手にユニットを組むとは考えにくい。

 恐らく、この『奏さん』とやらもS.O.N.G.…いや、その前身となる特異災害対策機動二課の一員で、彼女と同じように戦闘要員だった可能性が非常に高い。

 突然の急死というのも、本当は戦死と表現した方が正しいのだろう。

 

(少し話を聞いてみるべきか…? いや、流石にそれは拙いかな。ここにある写真から見て、この二人は公私ともに非常に仲が良かったように感じる。自ら、蛇がいると分っている藪を突く愚行を犯す意味は無い)

 

 変に不快感を与えてしまえば、最悪の場合、彼女達を敵に回してしまう可能性すらある。

 仮にも命の恩人その2なので、そんな事は出来るだけ避けたい。

 万が一にでもそうなった場合は、速やかに自殺でもしてから転生し、夢見る双魚の二つ目の反作用で全てを無かったことにすればいい。

 なに、死ぬ方法なんて探せば幾らでもある。

 転生者多しといえども、私以上に人間の死因を知っている奴は絶対にいない。

 

 

「え? 月が欠けるという異例の事態が発生した…?」

 

 月って…あの月だよね? 地球の衛星にして、ガガーリンが人類で初めて降り立って例の有名な台詞を言った…あれ。

 ずっと前に転生をした時、そこでは私は極々普通の一般人女性だったが、ちょっとした気まぐれで宇宙飛行士を目指そうと思って一生懸命に勉強して、JAXAの試験を受けたっけ。

 そこで知り合ったもじゃもじゃ頭の男性の言葉には、久し振りに心が震えた。

 あの人の言葉は、その全てが真理であり名言ばかりだった。

 

「そう言えば……」

 

 入院中、ちょっと眠れなくてなんとなくカーテンを開いて夜空を見上げたら、月が変な形をしているような気がしたけど…あれって私の気のせいじゃなかったんだ…。

 

(にしても…月が欠ける…ねぇ…)

 

 もしも、この時代にマイクロウェーブ送信施設や月面都市フォン・ブラウン、ムーンセルとかがあったらどんな事になってたんだろう?

 まぁ…いずれにしろ、絶対に碌な事にならないのは確実だな。

 

「ここからは、特にこれと言った事は書かれてないけど……」

 

 なんか、マリアさんがいきなり来日してから、翼さんと一緒にコンサートをしたりとか、ノイズによる多大な人的被害が出た…とか。

 ある日突然、そのノイズとやらもいなくなったみたいだけど。

 この手の怪物がある日突然にいなくなるというのは絶対に有り得ない。

 そこには必ず、万人が納得出来る理由が有る筈だ。

 私にはさっぱり分からないけど。

 

(バジュラや次元獣、インベーダーなんかがその最たる例だしな。宇宙怪獣は例外だけど)

 

 あれは災害というよりは、大宇宙の意志による人類に対する試練に近い。

 無慈悲なる破壊魔という点ではインベーダーと一緒だけど。

 

「………………」

 

 カーソルを上下させたり、違うページを開いたり。

 色々と見てはいるけど、一般的に知られている情報ではこれが限界か。

 

(いやさ……別にそこまで深く踏み入りたいとは思わないけどね。変に機密事項とかに触れて身動き出来なくなるよりかはずっとマシだし……)

 

 なんか疲れた……。

 体を伸ばしてから立ち上がり、息抜きに散歩でもしようと思って立ち上がる。

 

「いや…潜水艦内で散歩って……」

 

 自分で言って自分にツッコむとは…私もいよいよ末期だな。

 孤独に対して余りにも慣れ過ぎている。

 一人でいる時の過ごし方を熟知しまくってるからな…。

 

「はぁ……」

 

 無限転生を始めてから、もうどれだけの回数の溜息を吐いたことだろう。

 一京回は軽く超えてるんじゃなかろうか。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ボケーっとしながら艦内の廊下を歩いていると、向こうから超知っている赤いシャツの男性がやって来ているのが見えた。

 

「ん? ナナシくんか。もう調べ物は良いのか?」

「一先ずの情報は見れましたので。今は小休止タイムということで、散歩ついでに食堂まで行こうかと思いまして」

「そうだったのか。しかし、君の方から来てくれるとは丁度良かった」

 

 ちょーどよかったとな?

 それはどーゆー意味ですか?

 

「実は、君に是非とも紹介したい人物がいてな」

「ほぅ?」

 

 彼が視線を下げると、そこには白衣を着た金髪美幼女が立っていた。

 こんな恰好をしているという事は、間違いなくこの子も組織の一員なのは確実だろうけど……。

 

「は…初めまして。ボクはエルフナインといいます」

「これはご丁寧にどうも。私は……」

 

 ここでふと言葉が止まる。

 別に『ナナシ』と名乗っても良いのだが、それはあくまでも仮の名前。

 そのままで通すのもアリかもしれないけど、それがずっと続くのはお互いにとってもいい事ではない。

 どうしようか考えていると、さっきのアサキムの言葉が頭をよぎる。

 

『いっそのこと、洗礼名である『バキエル』を名乗ればいいんじゃないのかな?』

 

 あの時は全力で拒否したけど、それは相手がアサキムだったから。

 こんな子相手にそれは出来ないし、したくない。

 

(まぁ…これもある意味は『仮の名前』だしな……)

 

 後でネット検索をして、ちゃんと日本人っぽい名前を考えよう…。

 

「どうかしたのか?」

「あ…いえ。なんでもありません。すみませんでした。私の事は『バキエル・ザ・ローズ』とでも呼んでください」

「バキエル? それは確か、黄道十二宮の一つである双魚宮の……」

 

 あら。よく御存じですこと。

 予想通り、この子は頭脳労働専門なんだろう。

 

「バキエル…だとぉっ!? まさか、名前を思い出したのかッ!?」

「いえいえ。これは本名ではなくて、所謂『洗礼名』というやつでして」

「洗礼…? 君は何処かの宗教にでも入っているのか?」

「まさか。どっちかというと私は宗教大嫌いですから。この名前は、どこぞの自称『至高神』な勘違い大馬鹿野郎が勝手に私の事をそう呼んできただけです」

「そ…そうか……」

 

 アイツの顔を思い出すだけで、心の奥底から怒りの感情が復活しそうになる。

 な~にが『全ては私の喜びと共に!』だよ。ふざけんな。マジでもう一回死ね。

 あれならまだジ・エーデルの方がずっとマシだわ。

 

「う~ん…やっぱり、ナナシの方が良いかもしれませんね。自分で言うのもアレですが、私って『バキエル』って顔してませんし。なので、前言撤回です。私の事はナナシと呼んでください」

「分かりました。ナナシさん」

 

 少し腰を低くしてからの握手。

 なんといいますか…この組織も相当に業が深いようで…。

 

「にしても弦十郎さん……」

「分かってる…ナナシくんが言いたい事は分かる。だが…」

「事情がある…でしょう? 知ってますよ。特に気にしてませんから」

 

 世の中には、13歳でMS乗ったり、ご先祖が残したスーパーロボットに乗ったり、小学生で社長をやってたり、挙句の果ては銀髪ツインテール美幼女なオペレーターもいるぐらいだし。

 これぐらいじゃ驚くには値しない。

 この私を本気で驚かせたいのならば、それこそ6歳で召喚獣を操る以上の事をやってみせてくれないと。

 

「この白衣で分かるとは思うが、エルフナインくんは主に我々の技術的な部分を補ってくれている」

「技術顧問的な役割って事ですか?」

「そうなるな」

「そ…そんな! ボクが技術顧問だなんて……」

 

 恥ずかしそうにモジモジしているエルフナインさん。

 成る程。技術顧問と同時にマスコット的な役目もしているのか。

 これはまた大変重要な役回りだな。

 

「前に俺が食堂で話したことを覚えているか? 響くん達の戦う手段の事を…」

「はい」

「あの時に話した『もっと詳しく説明できる人物』というのが、このエルフナインくんなんだ」

「ほぉ~…」

 

 バックアップ専門ってわけなのね。

 決して派手ではないけど、かといって蔑には出来ない。

 かなり重要なポジじゃないの?

 

「まぁ…世の中、色々ですよね」

「それだけで片付けていいのか?」

「実際にそうなんだから仕方がないと思いますけど?」

「むぅ……」

 

 はい論破。

 別にしたくてしたわけじゃないけど。

 

「そうだ。実は、私からも弦十郎さんにお聞きしたい事…というか、頼みたい事がありまして」

「頼みたい事? その内容にもよるが何でも言ってくれ」

 

 どっちやねん。

 

「私の戸籍って用意できたりします?」

「ナナシくんの戸籍? まぁ…出来なくはないが…いきなりどうしたんだ?」

「いえね。このまま皆さんのお世話になりっぱなしというのは性に合わなくてですね。出来れば、どこかで働いて金を稼いで、部屋でも借りようかと思いまして。けど、今の私は身元不明の根無し草状態。だけど、戸籍さえなんとかできれば後は全て自分でなんとか出来ますので。その一点だけどうにかお願いできないかと…」

「自立したい…ということか?」

「端的に言えば、そうなります」

 

 自立…凄く久し振りに聞いた言葉だな。

 私って自立出来てるのかな……。

 

「我々は別に気にはしないのだがな……」

「私が気にするんです。勿論、部屋が見つかるまではここでお世話になってしまいますが……」

「それは一向に構わない。だが…寂しくなるな」

「いや…まだ一週間も一緒に過ごしてませんよね?」

 

 どんだけ私に執着してるねん。

 それに、本当に部屋が見つかるかどうかも分からないし、これが永遠の別れになる訳じゃないんだし。

 少なくとも、私が死んで転生するまではいつでも会えるんだから。

 

「暫くはフリーターになりますね」

「履歴書はどうする気だ?」

「そこは適当に誤魔化しますよ」

 

 それこそネットの出番だろう。

 ネット最高。ネット万能説浮上。

 

「分かった。君のその自立心は無下には出来ないからな。可能な限り、我々がなんとかしよう」

「ありがとうございます」

 

 かなりデカい借りを作ってしまったが、こればかりはマジで仕方がない。

 戸籍なんて自分の手で作ろうと思えば作れるが、変な真似をして疑われるのは勘弁願う。

 ここは敢えて、この人達に助力して貰う事で信用を得るのが一番だろう。

 

「安心したら小腹が空きました。よかったらご一緒にどうですか? 何か作りますよ?」

「え? ナナシさんってお料理が出来るんですか?」

「昔取った杵柄というやつです」

 

 伊達に昔、料理の専門学校に通っていたわけじゃないって事ですよ。

 

(…増々、ナナシくんの正体が分からなくなるな…。確かに彼女に関するデータは全く無い。記憶が無いのも本当かも知れないが、それはあくまでも『今の世の中』に関する事だけ。それ以外の事はかなり鮮明に覚えているようだ。彼女は一体……)

 

 なんだか後ろからジロジロと見られてますね~。

 どれだけ見ても何も変わりませんよ~。

 ん~…エルフナインさんにはホットケーキでも作ってあげましょうか。

 材料…あったかな? 出来れば、ハチミツよりもメープルシロップの方が良いんだけど……。

 

 

 

 

 




次回、ナナシちゃんバイトを始める。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

へいらっしゃい

この作品は基本的にクロスオーバー祭りなので、話によってはシンフォギア要素がかなり薄い場面もあります。

今回もそんな話になる予定ですので、嫌だって人はブラウザバック推奨です。







 銀色に輝くヘラを両手に持って、私はエプロン姿でカウンターに立っている。

 弦十郎さん達に戸籍を作って貰い、その後にせっせと履歴書を書いてから電話をして応募したのが、私が今いるお店『ふらわー』だった。

 ここは所謂『お好み焼き屋』なのだが、それだけではなく他にも色んな鉄板焼きのメニューが取り揃えられている。

 ここの店長であるおばちゃんがかなりいい人だったので、即効で採用して貰った。

 面接自体も凄く簡素なものだったし、そこら辺はかなりテキトーなのかもしれない。

 

「はい。豚玉いっちょー」

「お! こいつはまた美味そうじゃねぇか! いただきます!」

 

 ここの常連と思わしきおじさんが嬉しそうに私の作ったお好み焼きをパクリと食べる。

 すると、一気にその顔が笑顔に変わった。

 

「う…う…美味い!! 匂いから想像はしてたが、これは想像以上の味だぜ!! おばちゃん! いいバイトを見つけたな!」

「でしょ? いや~…まさか、ナナシちゃんがここまでの腕前だとはいい意味で予想外でね! お蔭でアタシの負担が減って本当に大助かりだよ!」

「そいつはよかったじゃねぇか! ウチの娘とは大違いだぜ! この間もよ…やれ『一緒に洗濯するな』やら『加齢臭がキツイ』やら言いやがってよ…」

 

 ここでおじさんの愚痴モードに突入。

 悲しいですけど、思春期ってそんなもんですよ。

 誰もが一度は必ず通る道ですから。

 大丈夫。あと10年もすれば、昔みたいに仲良くなれますよ。

 

「あ~マジで美味かった! ごちそうさん! またナナシちゃんのお好みを食いに来るぜ!」

「「まいどありー」」

 

 食べ終わったおじさんが、お金を払ってから手を振って店を後にした。

 私がここで働くようになってから一週間。

 気のせいか、日に日に男性客が増えていってるような気がする。

 

「ナナシちゃんは、すっかりウチの看板娘になったね」

「それほどでも」

「料理が上手で可愛くて。こんなんじゃ、世の男共がほっとかないでしょ?」

「いやいや。私なんて全然モテませんて」

「またまた~」

 

 事実である。

 実際問題、私よりも可愛かったり美人だったりする女性なんて世の中には星の数ほどいる。

 現状、数少ない身近な同年代である響さん達だって全員が美人&美少女揃いだ。

 私なんて一瞬で霞んでしまうに違いない。

 別に異性にモテたいだなんて願望は微塵も無いんだけど。

 今までの無限転生の中で、良い意味でも悪い意味でも男と女の両方の『幸せ』ってのを身を持って味わってきてるから。

 割とマジでその辺の事はどうでもいい。

 

「けど、店長には本当に感謝してます。まさか、アパートまで紹介して貰えるだなんて」

「それぐらい全然いいのよ。ナナシちゃんの身の上を聞かされちゃったら、協力しない訳にもいかないでしょ?」

「恐縮です」

 

 身の上…なんて言っているが、そこまで大したことは話してない。

 精々、S.O.N.G.や私の転生の事を省いた内容を話しただけ。

 ちゃんと面倒くさい所は端折ったけど。

 

「お給料を前借してくれたお蔭で、ちゃんと生活雑貨も買えましたし。感謝しかありません」

「別にいいのよ。その分、ナナシちゃんにはこれかも頑張って貰うから」

「勿論です」

 

 これが労働っての喜びってやつか…。

 この感覚も久し振りなのだぜ。

 転生した世界によっては、働くことは愚か人間扱いさえされないなんてことは頻繁にあるからな。

 

「さて…と。もうそろそろ『あの子達』がやって来る時間帯だね」

「あの子達?」

 

 あのおじさん以外にも常連がいるのだろうか?

 『あの子』という表現をしている辺り、学生とかなのかな?

 

「こんにちわー!」

 

 入り口から聞こえてきた、この無駄に元気そうな声は…まさか?

 

「もう響。いつも言ってるけど、もう少し声のボリュームを抑えるように」

「はーい」

「完全にオカンじゃん」

「しかも、尻に敷かれるタイプ」

「あらあら」

 

 続いて聞こえてきたのは未来さんと…誰?

 あ、すぐにこっちに気が付いた。

 

「あれ? もしかしてナナシちゃんっ!? 師匠からアルバイトをし始めたって聞いたけど、ふらわーだったんだ!」

「いらっしゃいませ、響さん。未来さん。学校帰りですか?」

「うん! 今日は体育があったからお腹が空いちゃって~」

 

 成る程。それは何か分かる気がする。

 体育があった後の放課後ってなんでか凄く空腹になるんだよね。

 そんな時に寄り道をして食べるものがまた美味いのなんの。

 

「エプロン、よく似合ってるよ」

「ありがとうございます」

「というか、ナナシちゃんって料理出来たんだ!」

「聞いてないの響? この前、弦十郎さんとエルフナインちゃんがナナシちゃんの料理を御馳走になったって言ってたよ?」

「ホントっ!? 私も食べたかったなぁ~」

 

 そういや、そんな事もあったね。

 私の作ったホットケーキを美味しそうに食べているエルフナインさんを見ていると、なんだか懐かしい気分になったのを覚えている。

 

「嘆かなくても、お金さえ払ってくれれば今から私が作りますよ」

「そうだった!」

 

 忘れてたんかい。

 

「つーか、二人だけで盛り上がってないで、私達にも紹介してよ」

「そうだよビッキー。完全に私達だけ置いてきぼり状態じゃん」

「お二人とこの方はどんな御関係なんですか?」

「「えっと~…」」

 

 この金髪の子…いきなり確信をつくな…。

 二人揃って困ってるし。仕方がないですね。

 

「初めまして。私は『天薙(あまなぎ)ナナシ』と申します。詳しく話せば長くなるのですが、響さんや未来さんとはちょっとしたことでお知り合いになりまして」

「ちょっとしたこと…ねぇ……」

 

 おや? なんだか怪しまれてる?

 因みに『天薙』という名字に特に意味は無い。

 ネット上を徘徊している時にふと目に入った文字を適当に組み合わせただけ。

 こーゆーのは瞬間的なインスピレーションが大事なのだよ。

 

「まぁ…いいか。二人と仲がいい時点で良い子だってのは確定なんだし」

 

 なんなの? その意味不明な信頼感は。

 単なる友人にしては信頼度が天元突破してない?

 

「私は板場弓美。よろしくね」

「安藤創世。ビッキーやヒナと友達なら、あなたともすぐに仲良くなれそうだね」

「寺島詩織と申します。以後お見知りおきを、ナナシさん」

 

 なんといいますか…見事に三者三様な子達だな…。

 熱血そうな子に、ちょっとクールそうな子、そんでもってのんびり屋な子。

 なんだかゲッターチームを思い出させる三人組だ。

 彼らも、個性の塊みたいな三人組だったけど、その絆は間違いなく無窮レベルだったし。

 

「なんだい。ナナシちゃんと響ちゃん達は知り合いだったのかい?」

「はい! 大切な友達です!」

 

 いつの間にか私も友達扱いに。

 なった覚えは微塵も無いのですが……。

 

「それじゃ、ここはナナシちゃんに任せて、あたしは店の奥の整理でもしてこようかしらね。ナナシちゃん、お願いね」

「了解しました」

 

 そう言ってから、店長は奥に引っ込んでいってしまった。

 別に緊張とかはしないが、五人分のお好み焼きを一人で焼くの?

 それはちょっと面倒くさい。

 けど、これも立派な仕事。頑張らなくては。

 

「では、ここからはお客とお店側のお話でもしますか。皆さん、何にしますか?」

「ナナシちゃんのお任せ!」

 

 響さん、それが一番困るんですよ? 分かってます?

 

「ごめんねナナシちゃん。私は豚玉を貰おうかな?」

「未来さんは豚玉…と。他の皆さんはどうしますか?」

「あれ? 私の注文は?」

「響さん。ちゃんと固有名詞で注文してください」

「ハーイ……」

 

 大体『お任せ』って…そんな風に言われたら、それこそマジで適当な物を出すからね?

 お好みと見せかけてもんじゃ焼きとか出すからね? それでもいいなら注文を通すけど。

 

「あれ? ここって広島風とかってあったっけ? なんかそこに書かれてるけど」

「はい。私がバイトに入った日から追加したらしいです。私が広島風も作れると言ったら、紙とペンを持ってきてすぐに……」

「おばちゃんらしいや…」

 

 気が付いた時には、焼きそば用の麺が沢山入荷されてた。

 普通はちゃんと受けるか心配するところなのに、なんでか店長は『大丈夫』の一点張り。

 実際、お客さん達には好評だったからよかったけど。

 

「それじゃ、折角だし私はその広島風を食べるよ」

「私も。詩織はどうする?」

「では、私はシーフードミックスを頂きます」

「分かりました。では、準備をするので少しお待ちください」

 

 シーフード1に広島風2、豚玉1…と。

 どの順番で作っていくのがいいかな?

 

「あの~…私がまだなんだけど~…」

「そうでしたっけ? いっそのこと、未来さんと同じ豚玉でいいのでは?」

「私の意志を完全無視っ!? けど、ナナシちゃんの作ってくれるのならなんでもいいか! 私も豚玉にするよ!」

「では、豚玉追加という事で」

 

 ま、一つ増えた所で大した差じゃないから問題無いんですけどね。

 それじゃ、こんな私の事を『友達』と呼んでくれた人達の為にも頑張りますかね。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 可能な限り、すぐに準備を終えてから注文された品を焼き始め、未来さんの豚玉から完成させていく。

 全員分を作り終えた時には、私の顔は汗だくになっていた。

 

「美味しい!! これ、すっごく美味しいよナナシちゃん! おばちゃんのも美味しいけど、ナナシちゃんのも全然負けてない!」

「そうだね。焼き加減も完璧だし、ナナシちゃんって料理が得意なの?」

「そうですね……一応、和洋中は一通り出来ますし、やろうと思えばお菓子作りなんかも……」

「うわぁ~…ナナシちゃんって女子力が高いんだね~」

「そうなんでしょうか?」

 

 女子力の高い低いは余り、よく分からない。

 世の中には、家事スキルが絶望的な女性も数多くいたし。

 まぁ…誰とは言わないけど。

 

「料理が出来て、気立ても良くて、美少女で……うん。間違いない。ナナシちゃんはアレだ。世の男共が求める理想の嫁だ」

「私程度が理想なら、その中には理想の嫁が山ほどいる事になりますが?」

 

 話によると、未来さんもまた家事全般が得意だと聞く。

 私などよりもずっと理想の嫁なのではなかろうか?

 

「けど、これはマジで美味しいよ。最近になって急にふらわーに男性客が増えたって聞いたけど、理由はこれだったんだ」

「ナナシさんに胃袋を掴まれたってことですね」

 

 詩織さん、その言い方だと誤解を招くから止めてくれません?

 

「やっば…この焼きそばも最高だし…こりゃ、また来たくなるわ。つーか、絶対にまた来るし」

「だね。今までも割と頻繁に来てたけど、来る回数が増えそうな気がする」

「看板娘のナナシさんにも会えますしね」

 

 あなたまで私のことを看板娘にしたいんですか?

 こんな無愛想な看板娘なんて嫌でしょうに。

 

「ナナシちゃんの他の料理とかも食べてみたいかも」

「ちょっと響? それは少しがめついよ?」

「その機会があれば私は別にいいですよ?」

「ホント? やったー!」

「はぁ…ごめんね。ナナシちゃん……」

「気にしないでください。慣れてますので」

 

 この手の相手の扱い方なら熟知してるから問題は無い。

 変に無視したりせずに、気が済むまで構ってやればいいのだ。

 満足したら勝手に向こうからいなくなってくれるから。

 

 皆が食べ終えるまで、店内は半ば女子会のようなピンク色の空気がずっと漂っていた。

 響さん達が帰ってから、店長が嬉しそうに私の頭を撫でてくれたけど…なんだったんだろうか?

 

 

 

 

 

 

 




次回、胡散臭い奴等がやって来る?

それから、なんだか飯テロっぽくなってしまいすいません。

お腹が空いたら各自で勝手に食べてください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なんでやねん

今回も多重クロスオーバー。

なんと三作品も一気にクロスします。






 今日も今日とてふらわーでのバイトを終えて、私は現在の自分の拠点となっているアパートへと帰る。

 お世辞にも広々としているとは言えない部屋ではあるが、下手をすればホームレス一直線だったかもしれない状況から考えれば贅沢過ぎるほどだ。

 因みに、私の身元保証人は何故か弦十郎さんになっていた。

 私が目覚めて初めて会った人物なので、ある意味では相応しいのかもしれない。

 

「お疲れ様でした私ー。偉いぞ私ー」

 

 …言わないでください。分かってますから。

 『おかえり』の代わりに、こうして部屋に入る時に自分を鼓舞しておかないと虚しさで嫌になりそうなんですよ。いやマジで。

 

「「「おかえりー」」」

「え?」

 

 靴を脱ぐために足元に視線をやっていたので、誰もいない筈の部屋から返事が聞こえてきたことに思わず間抜けな声を出してしまった。

 恐る恐る前を見てみると、そこには物凄く見た事のある顔が三つ並んでいた。

 

「やぁ、久し振りだね」

「元気にしてたかい?」

「本当に姿形が変わってるのね。中身はそこまで変化してないみたいだけど」

 

 比率的には男3に女が1。

 絶対に交わる筈のない、完全に別々の世界の住人である三人がどうして仲良く並んで座ってるの?

 

「色々と問い質したい事はありますが、まずは……」

 

 部屋に上がってから、呑気に茶を飲んでいる黒ずくめ野郎ことアサキムに詰め寄った。

 

「どうして、まだこの世界にいるんですか。別の世界に旅立ったんじゃないんですか?」

「ボクも本当はそのつもりだったんだけどね。けど、その途中で出会った隣の彼に誘われてね。面白そうだから一緒に来たんだ」

「そうですか。で、どうやって私の部屋の場所を突き止めたんですか?」

「突き止めたというよりは、彼の後ろをそのままついて来たら、到着したのがこの部屋だっただけさ」

「あー成る程。その一言で全てに納得しました」

 

 つまり、今回もまた全ての元凶は、そこでまだアホみたいにニコニコしている花の魔術師(笑)ってわけですね。ハイハイ了解ですよっと。

 取り敢えず、話しかける前に挨拶代わりに一発顔面にぶち込んでおきますか。

 

顔面パンチ(ゲッタービーム)

「ぶふぉっ!?」

 

 幾ら千里眼を持っていても、似たような力を持つ私の前では無力なようで、変な声を上げながらグランド糞野郎ことマーリンは見事に私の拳を顔面にめり込ませた。

 

「お久し振りですねマーリン。なんとなくムカつくので殴ってもいいですか?」

「その一文にどれだけツッコミ所を盛り込むのさっ!? どうして挨拶前に殴るのかなっ!? せめて殴る前に一言に何かあってもいいんじゃないのッ!? 君と僕は本当に物凄く久し振りの再会なんだよッ!?」

「確かにそうですね。全ての異聞帯を攻略し終え、異星の神との戦い以来ですね。私自身は、あの最終決戦で死んでしまいましたけど。あの後、ちゃんと地球の白紙化は元に戻ったんですか?」

「あの戦いの結末について、別にここで話しても構わないんだけど、それは是非とも君の目で確かめてほしい」

「…そうですね。もしも奇跡的にその機会があれば…必ず」

 

 本当のそんな機会があったら…だけど。

 

「僕から言えることがあるとすれば、君が死亡した時、誰も彼もが心から悲しんでいたってことかな」

「…私の事なんて、とっとと忘れてしまえばいいものを」

「それは無理だろう。カルデアにとって、君の存在は完全に無くてはならないものになっていたからね」

「…さいですか」

 

 私自身は、どこにでもいて替えの効くモブキャラAぐらいの感覚だったんですけどね。

 

「つーか、なんでこの世界にいるんですか? どうせ、その体も第7特異点の時みたいな分身体とかなんでしょうけど」

「まぁね。僕が君の元まで来れたのは…ソレのお蔭さ」

 

 そう言って、マーリンは私の胸元を指差す。

 それだけで彼が何を言いたいのかが分かったが、ここはお約束として一拍挟んでおこう。

 

「いきなり人の胸を指差さないでくれませんか? セクハラですか? いい度胸です。出るとこ出ましょうか? では、今度は法廷で会いましょう」

「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉっ!? なんでいきなり裁判沙汰に発展してるのかなぁッ!? 今から完全に説明タイムに入る雰囲気だったよねっ!?」

「冗談ですよ。それぐらいでいちいち大声を出さないでください。ご近所さんにご迷惑でしょう。発情期ですかコノヤロー」

「君の冗談は洒落にならないんだよ……その気になれば、本当に僕を法廷に立たせるかもしれないし……」

 

 え? 絶対に立たせますけど? それがどうかしましたか?

 

「さて、茶番はこれぐらいにして」

「茶番て……」

「マーリンが言いたいのは、私と融合している『夢見る双魚』の事ですね?」

「その通り。文字通り『夢』を司るそのスフィアが、僕をこの世界まで導いてくれたのさ」

「そっか…マーリンは夢魔と人間のハーフでしたね…」

 

 完全完璧に忘れてた。私的にはマーリン=クソ野郎のイメージしかなかったから。

 

「伊達にカルデアで過労死寸前まで働いてませんね。流石です」

「うん…お蔭で、スカディや孔明、玉藻の前と自然と話す機会が増えてたよ…。キャストリアからは出会う度に命を狙われてたけど」

 

 それに関しては同情の余地は無い。

 

「マーリンがこの世界に来れた理由は分かりました。来た理由は聞きたくもありませんけど」

「久し振りに君の顔が見たくなったからさ」

「本当は?」

「暇潰しに君の顔が見たくなった」

「死んでください」

「酷っ!?」

 

 暇潰しにマーリンに会わせられる方の身にもなってくださいよ。

 私の城に土足で上がりやがって。

 いや、ちゃんと靴は脱いでるけどね。

 

「んで、そんな『胡散臭いブラザーズ』の隣に、どうしてこれまた久し振りに会う八雲紫(自称17歳)がいるんですか?」

「なんか名前の後に余計な物が付いてるような気がしたけど…まぁいいわ。そこのアサキムという人物から、あなたが別の世界で生きているって聞かされて様子を見に行きたくなっちゃったの」

「基本的に気紛れですもんね、あなたって」

 

 気紛れでも大抵の事は解決できてしまうのが、このスキマ妖怪なんですけど。

 

「ちょっと待ってくれ。さっきの『胡散臭いブラザーズ』ってのはなんなんだい?」

「そのまんまの意味ですよ。二人揃って胡散臭いですし」

「「否定は出来ない……」」

 

 でしょうね。自覚があるだけ立派です。

 

「では、どっちが兄で、どっちが弟なんだろうね」

「マーリンなんじゃないんですか? なんとなく」

「そうか。では…兄さん!」

「弟よ!」

 

 はいはい。そこでバカやってる二人は放置して、私はゆかりんとお話でもしましょうかね。

 

「本当に、私が知ってる貴女とは完全に変わってるのね…」

「幻想郷は幻想郷。ここはここですからね」

 

 それが転生ってものですし。世間には転生しても姿形が変わらない人もいるようですが、あれってフィクションでしょ?

 だって、生まれ変わるのに姿形が変化しないって絶対に有り得ないですし。

 

「けど、魂の色までは変わってない。こうして実際に話してると、それがよく分かるわ」

「そう…ですか」

 

 前にも女尊男卑の世界で同じような事を言われたけど、私の根本ってそんなにも変わってないのかな。

 もし本当にそうだとしたら、どんだけー。

 

「紫がこの世界に来れた理由はなんとなく察しがつきます。どうせまた『スキマ』を使ったんでしょう? あれって本当に万能ですからね」

 

 スキマの前では、それこそ時間も次元もあってないようなものだし。

 どんだけ汎用性高いんだって話。

 

「貴女が幻想郷に転生をして、幼い頃からの付き合いになるのかしらね…私達」

「そうなりますかね。あの頃はまだ私も『夢見る双魚』を持っていなかった。だから、紫は私の事を覚えていられる」

「仮に持っていたとしても、私は全力で抗うけど。だって、あなたの事を忘れるとか絶対にしたくはないし」

「紫のそーゆーとこ…嫌いじゃないですよ。ほんと」

 

 いつもは掴み所のない飄々とした美女なのに、ふと見せる人間らしさが私は好きだ。

 なんだか、紫の隠された一面を見たような気がするから。

 

「ところで霊夢はどうしてます? 元気にやってますか?」

「えぇ。のんべんだらりとしながらも、ちゃんと巫女としての役割は果たしてるわ。貴女に言われた通りにね…先代の博麗の巫女様」

「昔の話ですよ」

 

 紫が言った通り、幻想郷での私は霊夢の母親…つまり先代の博麗の巫女をやっていた。

 弾幕なんて便利な物が無い時代に誕生したので、妖怪退治は基本的にステゴロでやってたけど。

 だって、色々と小細工するよりも近づいて殴った方が手っ取り早いんだもん。

 

「なんなら、昔あなたが着ていた巫女服でも持ってきましょうか?」

「いや…別にいいですよ。って、なにスキマを開いてるんですか。いらないって言ってるでしょうが」

「嫌よ嫌よも好きのうちってね」

 

 私の抗議も虚しく、紫はスキマから昔懐かしの巫女衣装を取り出した。

 これ…巫女服なのに無駄に露出が多くて恥ずかしいんですよね。

 インナーなんて完全にハイレグですし。

 動き易さ重視と言われれば、それまでなんですけど。

 

「今から着てみる?」

「……後で」

 

 今はまだ男共がいるからね。

 別に異性に裸を見られるぐらいは何とも思わないが、こいつらに見られるのは何か嫌だ。

 

「そうだ。実は君に忠告しておかないといけない事があるんだった」

「忠告? またいきなりですね」

「本当は、この前会った時に言っておくべきだったんだろうけど、すっかり忘れてしまっていてね」

「健忘症ですか?」

「かもしれないね」

 

 …アサキムには本当に冗談が通じない。

 せめて、お酒ぐらいは飲めるようになりなさいな。

 

「君がいるこの世界は、嘗て僕や君がいた『多元世界』のように幾多の可能性が交わる世界のようだ。正直、これから先に何が待ち受けていても不思議じゃない。下手をしたら、マーリンのいる世界や紫のいる幻想郷とも何らかの形で繋がる可能性も否定できない」

「そんなまさか……」

 

 というのは簡単だが、珍しくアサキムが真剣な顔をしているので、ここは素直に忠告を受け取る事にした。

 

「だが、今の君には戦う力は無い。魔術回路はあるみたいだし、スフィアから抽出される次元力である程度の事は補えるけど……」

「現状、この世界に危険性は感じてませんからね。私が転生する前は相当に危なかったようですが」

 

 それらの厄災は全て響さん達が払拭してくれたのだろう。

 事実として、それらしいニュースは一切聞かない。

 

「けど、油断は禁物よ。今は大丈夫でも、これから何が起きるかは分からないんだから。なので……」

 

 またもや紫がゴソゴソとスキマの中を漁っている。

 あの中…マジでどうなってるんだろう?

 紫とはかなり長い付き合いになるけど、未だにあのスキマの中がどうなってるかはよく分からない。

 

「はいこれ」

「これは……」

 

 それは、赤い紐が交差して輪になり、金と銀の鈴が一対となって飾られている装飾品。

 忘れる筈がない。忘れようも無い。

 年数的にはもう数百年も前になるが、彼女の事は物凄く克明に覚えている。

 崩壊が約束された世界にて出逢った私の大切な『友達』。

 彼女の刃であり愛機でもあった存在の待機形態だ。

 

「貴女の辿った軌跡が気になって色んな場所に行きまくってたら、偶然にも『彼女』と出会ったのよ。で、私の事情と貴女の事を話したら『それ』を託されたのよ。『もしも貴女が千影と出会う事があったのなら、これを渡して欲しい』って」

「…………」

 

 どれだけ時間が経っても…彼女はちっとも変ってないんだなぁ……。

 思わず泣きそうになってしまうが、ここで泣くのはダメだと思ってなんとか堪えた。

 

「約束通り、あなたに渡したわよ」

「えぇ…ちゃんと受け取りました」

 

 一番いいのは使う機会が無い事だけど、万が一にもその時が来たら……。

 

(遠慮なく使わせて貰います。『君』と一緒ならば、どんな敵とも戦える)

 

 君の刃は…私が受け継ぐ。

 これは間違いなく、私に取って掛け替えのない宝物だ。

 

「ありがとうございます。久し振りに思い出に浸れました」

「それは良かったわ」

 

 紫には本当に世話になりっぱなしだな…。

 いつの日か、この大き過ぎる借りを返せる時が来ればいいのだけれど。

 

「そういえば、これからどうするんですか?」

「もう用事は済んだし、そろそろ帰ろうかなとは思ってるけど…」

「よろしければ、今日は泊まっていきません? 私も久し振りに紫と色々と話をしたいですし……」

「あら、いいの?」

「勿論です。あ、そこの二人はお帰り下さい。出口はそちらです」

「「だと思った」」

 

 今から女子会をやるんですから、男は邪魔なだけなんですよ。

 特にマーリン、テメーはダメだ。

 

 その夜、アサキム&マーリンの胡散臭いブラザーズは本当に帰り、紫と二人で懐かしい話で盛り上がった。

 途中でアルコールが入って、二人で仲良く裸のプロレスごっこもしちゃったけど。

 まぁ…気持ち良かったからいいか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




再び登場のアサキムに、まさかのマーリン。
ついでに紫もやって来た。

もう一つの『無限転生』とも地味にクロスオーバーしました。





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

はなのまじゅつし

         偉大な栄光とは失敗しないことではない。
         失敗する度に立ち上がることにある。

                          エマーソン






 非常に意外過ぎる人物達との再会があった次の日。

 三人ともがそれぞれに元いた場所に帰ったり、また別の場所へと旅立っていった…そう思っていた時期が私にもありました。

 

「やぁ」

「…なんでまだいるんですか」

 

 私はいつものようにお好み焼き屋『ふらわー』にてバイトに勤しんでいた。

 常連さんの相手をしたり、はたまた新規のお客さんがやって来たり。

 今日も今日とて大忙し…とまでは行かないが、それでもそれなりに繁盛はしている。

 そこに突然、今度こそもう二度と顔を見ないと思っていた人物が普通に店内へと入ってきた。

 しかも、あろうことか客として。

 

「もうとっくに帰ったかと思っていましたよ…マーリン。いや、その体はあくまで幻影だから帰るもなにもないんですけど」

「そーゆーこと」

 

 流石にいつものローブ姿では確実に悪目立ちすると思ったのか、今のマーリンは以前にラスベガスで見せた黒い服になっている。

 見た目だけで言えば、本当にごく普通の一般人のように見える。

 実際には、全身から立ち上る独特の気配と、その髪色&顔で一般人とは程遠い。

 非常に腹立たしいが、顔だけは本当にイケメンだからなコイツ…。

 

「というか、どうして私のバイト先を知ってるんですか。また千里眼でも使ったんですか?」

「よく分かってるじゃないか。因みに、ちゃんとお金ならあるよ。日本円で」

「どうやって入手したのかは…聞かない方が良さそうですね」

 

 聞いたら聞いたで後悔しそうな気がする。だから聞かない。

 

「よりにもよって、店長が買い出しに行っている時間帯を狙うとは……。あなた、絶対に千里眼の使い方を間違ってますよ。ギルガメッシュ王の方がもっとマシな使い方をしますよ」

「だろうね。ああ見えて、根っこの部分じゃ彼は超真面目だし」

 

 伊達にウルクの王じゃないって事ですよね。

 私も、第七特異点で実際に彼の仕事っぷりを見せつけられて、本気で尊敬の念を抱いてしまったし。

 

「そういえば、幻影なのに飲み食いとか出来るんですか?」

「その辺は問題無いよ。幻影とはいってもちゃんと実体はあるし、幻影が得た経験はちゃんと本体の方にもフィードバックされるようになっているから」

「アナタはどこの七代目火影ですか」

 

 マーリンの事だから、その気になれば普通に螺旋丸とか使えそうな気がする。

 因みに、私は前に『あの世界』に転生して中忍ぐらいになって試しに頑張ってみたけど全然習得できませんでした。

 

「そう言う訳だから、遠慮なく作ってくれたまえ」

「ソーデスカ」

「いやー…君の手料理なんて食べるのは初めてだな~」

「そういえばそうですね。カルデアにいた頃は一度も料理なんてしたことは有りませんでしたし」

 

 正確には、まだマスターしてなかったが正解だけど。

 エミヤやブーディカに教わって、ようやく人並みに食べられる代物は出来るようになった。

 その後に例のエリート料理学校のある世界に転生して、本格的に料理を学ぶ羽目になったけど。

 

「で、ご注文は何にするつもりですか?」

「君のオススメとかは無いのかな?」

「オススメですか……」

 

 私がマーリンに出せるオススメと言えば……。

 

「この水道水なんていかがでしょうか? 最近、少し気温が上がって来てますからね」

「わーい。マスターがくれた水道水だー…ってなんでお好み焼き屋で水道水を注文しなくちゃいけないのさっ!?」

「だってマーリン、前に味覚が無い的なことを言ってませんでした? だったら、お好み焼きを食べても意味ないんじゃないかなーと思いまして」

「あぁ…その事か。それなら大丈夫だよ」

 

 私が渡したお冷(本当は水道水じゃない)を飲みながら、マーリンは得意げに微笑んだ。

 

「確かに、以前までは味覚を初めとして幾つかの感覚が鈍かったけど、その辺は魔術で幾らでもカバーできるからね。実際、同じ魔術を良くカルデアでも使ってたんだよ? 知らなかったっけ?」

「ハイパー初耳です」

「だろうね。この事を知っているのは、食堂で料理を作っていた面々だけだし」

 

 誰でもいいから、この公式超絶チート野郎をどうにかしてくれませんか?

 キャスター・アルトリアかモルガン辺りがいてくれれば最高の抑止力になりそうなのに……。

 

「というわけだから、今の私はどんな料理も美味しく食べられるのさ」

「はぁ…分かりましたよ。それじゃあ、豚玉で良いですか?」

「それで構わないよ」

 

 仕方がない…こうなったら、大人しく豚玉を作って、とっとと帰って貰おう。

 それが一番だ。そう信じよう。うん。

 少なくとも、店長が帰ってくる前にはどうにかしないと。

 変に誤解とかされたらマジで最悪だし。

 

「えーっと…豚玉の材料は……」

 

 もう完全にどこに何があるかは把握しているが、それでも常に頭の中でおさらいをしながら探すようにしている。

 どんな事であっても、油断こそが最大の敵なのだ。

 

「「ん?」」

 

 必要な材料を集めていると、いきなりスカートのポケットに入れているスマホに着信が来た。

 この音は通話ではなくてメールの類か。

 

「こんな時間帯に誰からでしょうか……」

 

 まだ材料をかき混ぜてもいないので問題は無いが、それでもとっとと見るに限る。

 変にマーリンを調子づかせてはいけない。

 一度でも自分の流れになったが最後、怒涛の勢いで押し寄せてくるから。

 

「これは……響さん?」

 

 彼女からのメールだなんて珍しい…って事も無いや。

 一応、彼女を筆頭に全員の番号やアドレスなどは登録してあるが、その中でも最も頻繁に電話やらメールやらをしてくるのは響さんだ。

 因みに、このスマホは私が自立をする時に弦十郎さんから支給品の一つとして貰った物だ。

 

「なになに…?」

 

『今日は翼さんやマリアさんも仕事が無くて、久し振りに皆でS.O.N.G.に集まるんだけど、バイトが終わったらナナシちゃんも来ない?』…ねぇ。

 

「お友達かい?」

「…どうでしょうね」

 

 これまでに無数の世界に転生をしてきた私だが、それでも本当に大切に想っている友達と言えば非常に少ない。

 私にとって最も愛する親友と言えば、やっぱり……。

 

(あなたしかいないよ……)

 

 右手首に付けている『紅い紐』を見つめながら、私は彼女の顔を思い出す。

 こんな私に『剣』を託してくれた大切な人……。

 

「つーか、どうせ私が何かを言わなくても全部知ってるんでしょう? 千里眼を誤魔化せるだなんて思い上がった考えは持ってませんよ」

「バレたか」

「バレますよ。伊達に契約をしてなかったんですから」

 

 …今にして思えば、私がカルデアで契約をしていたサーヴァントってどれもこれもが曲者揃いだったなぁ…。

 場合によってはマーリンすらも霞んでしまうほどにキャラが濃い奴もいたし……誰とは言わないけど。

 

「誘われたのならば行った方が良い。この世界は君にとってまだまだ未知の場所だ。人との関係を大事にするに越したことはない」

「それぐらいは私だって分かってますよ」

 

 どんなに強がっても、人は一人では何もできない。

 いずれ誰もが必ず理解する世界の真理の一つだ。

 

「仮に行くとしてもバイトが終わってからですけどね。という訳で、まずはご注文の品を作ってしまいましょう」

「待ってました。私も知識としては知っているんだけど、こうして実際に目にするのは初めてでね。実は柄にもなくワクワクしているんだ」

「では、いっちょ本気で作りましょうか。絶対に『美味しい』と言わせてみせますよ」

「それは楽しみだ」

 

 その後、マジモードでお好み焼きを作ったら、マーリンから虚飾無しの絶賛を受けてしまって普通に戸惑ってしまった。

 美味しい料理を作る事でマーリンに本気の顔をさせられるのなら…これからも作ってやってもいいかもしれない。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 バイトが終わり、私は学校帰りの響さん達と待ち合わせしている場所へと向かう事に。

 最初は直接向こうに行くのかと思っていたら、あの後で再びメールが来て、待ち合わせをしてから一緒に行くことになったのだ。

 

「……で。どうして一緒に着いて来てるんですか?」

「私もそのS.O.N.Gとやらに興味があるんだよ。仮にも私は君と契約をしているサーヴァントの一人だ。君が世話になっている人達に挨拶ぐらいはするべきだと思ってね」

「契約ってまだ継続中なんですか?」

「あれだけ長い付き合いをしたんだ。そう簡単に切れるわけがないだろう?」

「……そうですね」

 

 契約というよりは『絆』と言った方が正しいかもしれないけど……。

 

「それに……」

「それに?」

「君が知り合った子達と私達サーヴァントとは意外と深い関係性があるかもしれないよ?」

「ふーん…?」

 

 またマーリンが意味深な事を言っている。

 昔からコイツは冗談を言う事はあっても嘘だけは絶対に言わない。

 その代り、重要な事は全てぼかしていう癖があるけど。

 

「あ…いました」

 

 街中にある歩道橋の近くに彼女達はいた。

 あれは…響さんに未来さん。それからクリスさんと切歌さんに調さんもいる。

 響さんが私の姿に気が付いて、こっちに手を振っている。

 

「ところでマスター。一ついいかい?」

「なんですか?」

「君…彼女達に隠し事をしているだろう?」

「隠し事じゃありません。言う必要性が無いと思っているだけです」

「それを世間一般では『隠し事』って表現するんだよ」

 

 知ってますよ…それぐらいは。

 けど、話したって意味のないことだってあるでしょうに。

 

「前にも話したけど、この世界は幾多の可能性が交わる場所だ。その中心にいる彼女達と組織ならば、カルデアと同様に大半の超常的なことを経験していると思っていいだろう」

「何が言いたいんですか?」

「君の正体やこれまでの事を話しても、彼女達は普通に受け入れてくれるかもしれないって事さ。じゃないと、いつまで経っても話がややこしいままになるだけだよ? 大丈夫、いざとなれば私もフォローするから。君の事情を知っている数少ないサーヴァントとしてね」

「…………」

 

 そうなのだ。マーリンは千里眼を持っているが故に私の正体と事情を全て把握している数少ない存在の一人になっている。

 だからこそ、必然的に頼る事も多くなりがちになった。非常に不本意だったけど。

 他に私の事を知っていたのは、ギルガメッシュやロムルス・クィリヌス、BBや蘆屋道満や殺生院キアラ、後は何故かマッチョな方のオリオンと初代ハサンおじいちゃんも私の裏事情を把握していた。

 冠位級の英霊は伊達じゃないってことなんだろうか。

 

(まぁ…別にいっか)

 

 どうせダメ元だし。正直な所、いつかは必ず話さなければいけないとは思っていたし。

 ちゃんと話しておかないと、それはそれで面倒くさい事になりそうだし。

 

(けど…なんて言って切り出そう)

 

 その辺は到着するまでの間に考えておきますか。

 何も思いつかなかったらマーリンに丸投げすればいいだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




        自分に打ち勝つことが、最も偉大な勝利である。

                              プラトン







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それでいいの?

随分と間が空いてすいませんでした。

最近になって色んな事が起きすぎて、疲労が蓄積しまくっているのです。

でも、ここらで頑張らないと絶対に後悔しそうなので、なんとか気合で頑張ります。








 こちらに向かって手を振る響さん達の元へと歩いていく私とマーリン。

 最初は笑顔を浮かべていた響さん達だったが、私の隣にいるマーリンの姿を見た瞬間に表情が固まってしまった。

 

「お待たせしました」

「う…うん。それはいいんだけど……」

「ん? 私がどうかしたのかな?」

 

 当然ではありますけど、そりゃあ気にはなりますよね。

 いきなり私が自分達の知らない男性と一緒に歩いて来てるんですから。

 

「その人……誰?」

「ま…まさか彼氏さんデスかっ!?」

「か…彼氏だぁッ!?」

「おぉ~…」

「いやいや…流石にいきなりすぎじゃ……」

 

 切歌さんと調さんが案の定な反応をして、クリスさんに至っては何とも初心な反応。

 そして、未来さんだけが冷静に判断してくれた。

 きっと彼女はメンバーの中で一番の苦労人に違いない。

 私のゴーストがそう言っている。

 

「彼氏なんかじゃありませんよ。冗談でも質が悪い」

「うん。確かに彼氏ではないけれど、それはそれで酷くはないかな?」

「え? どこが?」

「お願いだから素の反応は止めて」

 

 素の反応というよりは純粋な疑問だったんですよね。

 私のどこが酷いというんでしょうか? 失礼だな。

 

「彼は単なる知り合いです。そこまで皆さんが勘ぐるような深い関係じゃありませんよ」

「「「なーんだ」」」

「そ…そうだよな!」

「だと思った……」

 

 クリスさんと未来さんはともかくとして、どうして響さんと調さんと切歌さんは残念そうにしてるんですか。

 

「んで、名前はなんていうんだ?」

「あぁ…私の名は……」

「セクシャルバイオレット悟朗です」

「そうそう。私はセクシャルバイオレット悟朗…って、なにそれっ!? 偽名を使うにしても、もうちょっとマシな名前をチョイスしてくれないかなっ!?」

「では、もぎたてハレンチカリカリ梅とどっちがいいですか?」

「最低最悪な二択!」

 

 そうかな? 割と本気でどっちもいいと思うんですけど。

 個人的にはセクシャルバイオレットを推奨。

 

「では、もう合体させて『セクシャルもぎたてバイオレットハレンチカリカリ梅悟朗』でいいじゃないですか」

「無駄に長い! 融合して悪化してるじゃないかッ!?」

「私のデッキは融合モンスターを活躍させる系ですので」

「だから何ッ!?」

 

 むぅ…私の融合モンスターデッキを余り舐めない方がいいですよ?

 少なくとも、あの城之内くんには圧勝してますから。

 遊戯くんと海馬くんには完敗してますけど。

 

「息ピッタリだ……」

「やっぱりカップルなんじゃ?」

「だから違いますって調さん。有り得ませんから」

「そこまで強く否定されると、流石の私も傷つくな~」

「嘘つけ。笑いながら言っても説得力ないんですよ」

「バレたか」

 

 テヘペロやめい。

 どれだけ顔が良くても、男のテヘペロなんて誰特なんだよ。

 

「つーか、さっきから誰も言わないから言わせて貰うけどよ……」

「何だい?」

「今から本部に行くッつーのに、普通に部外者を連れてきてもいいのか?」

「「「「あ」」」」

 

 …ですよね。はい。それこそが最も普通の意見です。何も間違ってません。

 

「その点については大丈夫かと」

「なんでだよ」

「どうせ、役目を終えればすぐに消えると思いますし、強ち『部外者』とも言い切れないですし」

「「「「「え?」」」」」

 

 どうせ、後で話すことにはなるんだし、先に少しだけ言っておいても別に構わないだろう。

 その方が話も切り出し易いし。

 

「実は、私の事について皆さんに非常に大事な話があります。本部に到着してから、他の皆さんも交えてお話ししたいと思ってます」

「ナナシちゃんからの大事な話って……」

「もしかして、記憶が戻ったの?」

「そうではないのですが、それと関係ある話ではあります。なので、向こうに到着したら弦十郎さんやエルフナインさんも同席して頂いた方が宜しいかと」

「師匠達もってなると……」

「本当に大事な話みたいだね…」

 

 いや…大事な話というよりは、単純に私の事を話すだけなんですけど…。

 そこまで畏まれると、こっちの方が悪いような気がしてくる。

 

「兎に角、まずは本部に向かいましょう。話はそれからです」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 …という訳で、本部へと到着したのはいいのですが。

 

「ここがS.O.N.G.の本部か~。まさか潜水艦の中にあるとは思わなかったよ。あそこといい勝負だ」

「それには同感です」

 

 さっきからキョロキョロと興味深そうにあたりを見渡すマーリン。

 どうせ千里眼で全部見てたんでしょうに。何がそんなに面白いのやら。

 因みに、彼が言っている『あそこ』とはカルデアの事だ。

 

「んで、結局は普通に入れちまってるし…本当に良かったのかよ?」

「大丈夫だよクリスちゃん。ナナシちゃんの知り合いなんだし」

「何の根拠にもなってねぇし…」

 

 どうやら、クリスさんも苦労人気質のようだ。

 気が向いた時にでも栄養ドリンクをプレゼントしてあげよう。

 修羅場モードすらも一気に駆け抜けられる代物を。

 

「まずは師匠の所に行く?」

「となると司令室だね」

「この時間帯ならいる筈だ。おっさんの事だから、事情を話せば一発で了承してくれそうだし」

「うんうん」

「マリアと翼さんはなんていうか分からないけど」

 

 真面目なあの二人ならば、色々と苦言を呈しそうな気がするけど…。

 そうなった時はマーリンお得意の口車に期待しよう。

 

 なんて思っていたのですが、それは私の杞憂で終わってしまった。

 

「ナナシ君について重要な話…? 分かった。そういうことは司令室で話した方がいいだろう」

 

 私達が司令室に行こうとしている途中で弦十郎さんと遭遇し、そのまま事情説明。

 想像通り、二つ返事でOKサインを出してくれた。

 それは良いのだけれど、もうちょっと警戒心を持った方がいいのでは?

 

「ということは、私もこのまま同行してもいい、ってことかな?」

「勿論だとも。ナナシくんの知り合いという事ならば、俺からは何も言う事は無い」

 

 これだもの。良い人過ぎるのも考えようだ。

 

(彼…本当にこの部隊の司令官なのかい? なんというか……)

(言いたい事は分かります。ですが、私が彼に助けられたのもまた事実ですよ)

(世界が違えば、価値観も変わる…ってことなのかな)

 

 マーリンが耳元で私にそっと囁いてきた。

 ちょっとだけくすぐったいけど、これぐらいなら我慢できるので平気だ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 今度こそ司令室へと到着。

 そういえば、何気に私ってばここに入るのは初めてになりますね。

 なんだか急に新鮮な気持ちになってくる。

 

「うん。まさに『司令室』と言った感じの内装だ。素晴らしい」

 

 これまたマーリンが子供のように目を輝かせている。

 どこまでが芝居で、そこまでが素なのか分からないが。

 

「来たわね皆」

「ナナシもよく来た。…で、その男性は誰だ?」

 

 司令室には翼さんとマリアさんもいて、少し離れた所にはエルフナインさんの姿も見える。

 どうやら、特に集合を掛けなくても話を聞いてほしいと思う人達はここに集合していたようだ。

 これは呼ぶ手間が省けて助かった。

 

「マスター。そろそろ自分で自己紹介をさせてくれないかな? 流石にもう変な名前で呼ばれるのは勘弁だ」

「別にいいですよ。十分に面白かったですし」

 

 本部に来るまでの間、マーリンはずっと響さん達から『悟朗さん』と呼ばれていた。

 円卓の騎士の皆がいたら爆笑しながら転げまわっていたに違いない。

 特にアルトリアやモードレットとかは。

 逆にガレスちゃん辺りは目を丸くして慌てそう。

 

「えー…ごほん。では、改めて自己紹介をさせて貰おう。私の名はマーリン。この名前だけで分かる者は分かると思うけど」

「マ…マーリンッ!? まさか、あなたはあの『花の魔術師』のマーリンですかッ!?」

「その通りだよ。ホムンクルスのお嬢さん」

 

 おやおや。エルフナインさんはコイツの事を知っていたようで。

 正確には、伝承などを知っているんでしょうけど。

 

「エルフナインちゃん、この人の事を知ってるの?」

「知ってるも何も…マーリンと言えば、円卓の騎士たちが仕えていたアーサー王の居城『キャメロット』に勤めている宮廷魔術師であり、最上級クラスの魔術師なんです! アーサー王の誕生を予言し、導いた人物でもあるんです! 伝承では、アーサー王が生まれた時に父王であるウーサー王から譲り受けて、騎士エクターの元で育て、岩に突き刺さった選定の剣の前に姿を現してから王の運命を告げたとか……」

「よく知っているね。確かにその通りだ」

 

 エルフナインさんは間違いなく、このS.O.N.G.の頭脳役だな。

 ここまで詳しく知っているとは思わなかった。

 私は特に興味も無いので調べようとはしなかったし。

 

「ど…どうして、そんな人物がここにいるんですか? マーリンは最果ての地『アヴァロン』にある塔に幽閉され、永遠に出る事も死ぬことも許されない身となっている筈じゃ……」

「エルフナインさんの言っている事は間違ってないですよ。ここにいるこいつは単なる分身ですから」

「ぶ…分身ッ!?」

「はい。彼の魔術によって作り出された分身です。本体はまだアヴァロンに普通にいますよ。こいつは千里眼を持ってますから、アヴァロンからでも普通に全世界の様子を伺えますし」

「せ…千里眼って……」

「まぁ…特に気にする必要はないですよ。彼については『顔がいいだけの胡散臭い男』って認識で良いと思います」

「はぁ……」

 

 話している間に皆の視線がこっちに注目している。

 これもマーリンって奴の仕業なんですよ。

 

「え…えっと、つまりマーリンさんは凄い人って事なんだよね!」

「そうだとも! それなのに彼女ったら、私の事をいつもいつも……」

「いいじゃないですか。いつもは自分が誰かを弄る側なんですから。偶には誰かに弄られる側になっても」

「それはそうだが……」

 

 マーリンがツッコみをしている光景は本当に激レアですしね。

 出来るだけ目に焼き付けるようにしないと。

 

「しかし、どうしてそんな人物とナナシ君が知り合いなんだ?」

「それを今から話したいと思うんです。このバカのせいで話が逸れちゃいましたけど」

「バカって…酷いなぁ…」

 

 事実を言って何が悪いので?

 首を切り落とそうとしないだけマシだと思ってくださいよ。

 

「皆さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『転生』って知ってますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、ナナシちゃんに関する完全ネタバレ回。

といっても、読者の皆さんにはとっくに知られているので、あくまでシンフォギアキャラ達に向けてのネタバレって感じですけどね。







目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ばくろ

遂に自分の事を話す事になった主人公。

彼女達はどんな反応をするのか?








「転生…ですか?」

 

 私が出した単語を前に、司令室にいる全員が小首を傾げていた。

 別に、そこまで難しい事を言ったつもりはないんだけど。

 

「言葉だけならば知ってはいるが……」

「どうして、いきなりそんな事を言い出すのかしら?」

「それは……」

 

 私が理由を説明しようとしたら、約二名の頭から知恵熱が出ているのが見えた。

 他の皆以上にウンウンと唸っていて、どう見ても本気で理解していっぽい感じだ。

 

「てんせー…って…何?」

「なんか聞いたことがあるような…ないような? 全然わかんないデース…」

「響……」

「切ちゃん……」

 

 未来さんと調さんが呆れた目で二人を見ている。

 申し訳ないけど、これに関しては何も擁護が出来ない。

 

「はぁ…仕方があるまい。立花に暁。私が説明してやろう」

「うぅ…すみません…翼さん…」

「申し訳ないデース…」

「そう思うのなら、これからはもっと勉強をする事だな」

「「うぐ…!」」

 

 あ…勉強不足だって自覚はあるんですね。

 

「二人にも分かりやすく説明をすれば、転生とは生まれ変わりを指す言葉だ」

「「生まれ変わり?」」

「そうだ。輪廻転生という言葉を聞いたことは無いか?」

「「う~ん…?」」

 

 今時なら、ラノベとかでもよく聞く言葉だとは思うんですけどね。

 けど、この人達の事だから文字が沢山並んでいるラノベとかは余り読まなさそうな気もする。

 

「一度死んだ者は、巡り巡って別の存在へと生まれ変わる…と覚えておけばいい」

「成る程…」

「デース…」

「本当に分かってるのか…?」

 

 多分、分かってない可能性が高そうかと。2ポンド賭けてもいいですよ。

 

「しかし、どうしてまたいきなり私達にそんな事を聞くんだ?」

「純粋に知識を確かめようと思いまして。知っていれば、こちらから説明をする手間が省けますし。約二名ほどは理解不能だったようですが」

「「申し訳ありません……」」

 

 反省しているのなら、後でちゃんと勉強をしましょうね。

 

「確認も終わったし、そろそろ本題に入れるんじゃないのかい?」

「そうですね」

「転生とナナシくん…一体どんな関係があるというんだ…?」

 

 弦十郎さん…そんな風な目で見られると、ちょっと説明しにくいのですが…。

 

「回りくどい言い方は好きじゃないので、ストレートに言わせて貰います」

 

 少しだけ息を吐き、呼吸を整える。

 自分の根幹に付いて話すのはあんまり経験が無いので、地味に緊張する。

 

「…私は『転生者』…と呼ばれる存在なのです」

 

 言っちゃった。言ってしまった。

 さて、皆はどんな反応を見せてくれるのか。

 

「転生…者…? それはつまり、呼んでの字の如く…と捉えればいいのか?」

「はい。それで構いません」

「あなたは…一度死んで、その後に生まれ変わった存在だという事…?」

「信じられないでしょうが、その通りです」

 

 マリアさんが絶句するのも無理はない。

 普通ならば絶対に信じられないような事だから。

 私ならば、すぐに精神病院へ行くことを勧める。

 

「確かに…俄かには信じがたいが……」

「そうかもしれないね。だがしかし、君達はこれまでに幾度となく信じられないような超常的な現象に立ち会っている筈だ」

「うん…言われてみればそうかもしれない」

「そういえば、私達って一度は月にまで行ってるんだよね…」

「フィーネとかシェム・ハとかも似たようなもんだったしな…」

 

 …どうやら、ここにいる皆さんも私に負けず劣らずの体験をしてきているようで。

 マーリンの奴…これを知ってて私に話すように促したな?

 

「それに、君達が知らないだけで、意外と転生という行為自体はかなりの頻度で発生してるんだよ?」

「そうなのか?」

「少なくとも、私が知る限りでは死亡した人間達の殆どが色んな異世界などの転生をしている筈だよ。これに関してはまず間違いない。向こうでどんな人生を歩んでいるかまでは知らないけどね」

「もしや…奏もどこかの世界に転生をして……?」

「セレナも…もしかして……」

 

 なにやら翼さんとマリアさんが神妙なお顔に。

 触れてはいけない事にでも触れてしまったんでしょうか。

 

「ってことは、ナナシちゃんも一度は死んで、その後に私達の世界に生まれ変わったって事になるの?」

「そうなるね。ただし、彼女…ナナシちゃんは普通の転生者じゃない。彼女は数多い転生者達の中でも、ある意味で唯一無二の存在を言っても過言じゃないんだ」

「ナナシちゃんが普通じゃない…?」

 

 未来さんが心配そうな顔でこっちを見てくる。

 別にそんな顔をされるような事は何も無いんですけどね?

 

「それは自分で説明します」

「大丈夫なのかい? 言い難いのなら私から言ってあげようと思ったんだが…」

「気遣いは無用です。この程度、特異点攻略や異聞帯攻略に比べればどうって事無いですから」

「そりゃそうだ」

 

 あれらと比べるのは烏滸がましいとは思うけど、なんとなく引き合いに出してしまった。

 

「私が転生をしたのは今回が最初ではありません。これまでにも沢山…それこそ無限にも等しい回数を転生してきているのです」

「無限の…転生だとぉっ!?」

「はい」

 

 弦十郎さん。驚く気持ちは分かりますが、声が大きいです。

 

「ちょっと待てよ…。ってことは何か? お前は今までに何度も何度も死に続けて、その度に色んな世界に転生してきたって事になるのか?」

「まさしく、クリスさんの仰る通りです。そのせいでしょうか、どうも私の精神は摩耗し過ぎてしまったようで…感情表現が下手になってしまいました」

「私の見解では、君の場合は精神の摩耗というよりは自己防衛の末に自然とそんな風になっていってしまったんだと思うよ」

「自己防衛…ですか?」

「そうさ。マスターは心のどこかでこう思っている。『どうせ死んでも、また別の世界に生まれ変わるだけだ』ってね。普通の人間にとって最も恐れるべき現象であり、同時に人生で一度しかない『死』が、君にとっては最も身近で日常的になっている。死に慣れ過ぎると心の方が死んでしまう。それを少しでも防ぐ為に、君は虚無でいようとしている。以前までの君にはまだ少なからず人間らしい感情が残されていたが、ここ数百万回の転生ではその傾向が特に顕著だ」

「まさか、マーリンからそんな事を言われるとは思いませんでした。というか、私が転生している様子を見ていたんですか?」

「勿論。丁度いい暇潰しになるしね」

「うん。やっぱり一度でいいからぶっ飛ばさせて下さい」

「なんでっ!?」

 

 それを私に聞きますか。この鬼畜チート野郎。

 

「自分の心を守る為に…ね」

「ナナシの感情が薄いように感じたのには、そんな理由があったのか……」

「死ぬのに慣れるって…そんなの悲しすぎるよ……」

「響……」

 

 悲しすぎる…か。その『悲しい』って感情も最近は良く分からないんですよね。

 涙の流し方も忘れてしまいましたし。

 辛うじて、この前に紫から『アレ』を受け取った時にだけ少し『嬉しい』とは感じましたけど。

 

「何か複雑な事情を抱えているとは思ってはいたが、これは俺達の想像を遥かに超えていたな……」

「それはそうだろうね。誰だって『生まれ変わり』なんて現象が本当にあるだなんて信じられないものさ。だが、こればかりは信じて貰うしかない」

「そうだな……」

 

 言葉では幾ら説明しても難しいかもしれない。

 だって、私が転生者だっていう確固たる証拠がどこにも無いのだから。

 こんな事を信じるのは、目の前で似たような事象を目の当たりにした者か、もしくは余程のお人好しかのどちらかだ。

 この人達の場合、その両方に該当しそうだけど。

 

「マーリンさんとは、無限の転生の途中で知り合ったんですか?」

「そうだよ。詳しく話せば長くなるんだが、簡潔に話せば…世界存亡の危機を前に私と彼女が契約をした…って感じかな」

「簡略化し過ぎです。間違ってませんけど」

「間違ってないんだっ!?」

「世界の危機って、割とどこにでも転がってんだな……」

 

 なんかクリスさんがしみじみと呟いてる。

 それに関しては私も激しく同意ですよ。

 場合によっては、何十回も連続で世界の危機に立ち向かってますから。

 

「実は、前に話したことで弦十郎さんに謝らなければいけない事があるんです」

「俺に謝る事? なんだ?」

「私が病院で目を覚ました時、私は何も話せずに記憶喪失だと判断しましたよね?」

「そうだったな。それがどうかしたのか?」

「あの時、私は半分本当で半分嘘をつきました」

「半分の嘘…?」

「はい。先程も申しあげた通り、私は転生者…生まれ変わった者です。生まれ変わった際には常に能力などは全てリセットされるのですが、たった一つだけ次の生に引き継がれるものがあります」

「それはまさか……」

「そのまさか…記憶です。つまり、私には所謂『前世の記憶』というものがあるのです。ですが、あの時は咄嗟に言葉が出なくて、結局は記憶喪失という事になってしまい……」

「いや、あれに関しては俺の早とちりももある。もっと冷静に判断すべきだったな」

「気にしないでください。仮にあの場で色々と聞かれても、当時の私ならば普通の誤魔化していたと思いますし」

 

 まだ、あの時は状況が不透明でしたからね。

 自分に関する情報を簡単に曝け出すのは危険ですから。

 

「ですので、完全な記憶喪失という訳ではありません」

「ならば、本当の部分とはなんなんだ?」

「それこそが、現在の私にとって最も重要なことでもあります」

 

 気を入れ直す為に少しだけ咳払いをし、首を動かして楽にする。

 

「私には…目を覚ます前までのこの世界での記憶が一切ありません」

「…? それってどういう事?」

「それに付いて話すには、まずは『転生』のパターンに付いて話す必要があります」

「また長くなりそうデース…」

 

 すみませんね切歌さん。もう少しだけ我慢してください。

 

「一言に『転生』と言っても、幾つかのパターンが存在しています。まずは、胎児の状態に戻って文字通り全てを一からやり直す転生。通常はこれが一般的です」

「いや…転生に一般的に何もあるのかよ……」

 

 最近はあるんですよ。割とマジで。

 

「二つ目は、体がある程度、成長した状態で別世界に生まれ変わる転生。これは転生というよりは転移に近いのですが」

「三つ目はなんなの?」

「『憑依転生』と呼ばれる類の物です。その世界にいる人物の体に乗り移る形で転生をするパターン。私も憑依転生自体はあんまり経験したことがありません」

「憑依された側はどうなるのだ?」

「私にも詳しくは分かりません。意図せず身体だけを乗っ取ってしまうようなパターンもあれば、二重人格のように一つの体に二つの人格があるようなパターンもあります」

「時と場合によって違う…ということなんだね」

「そうなりますね」

 

 あまり経験したことが無いって言っても、それでも軽く10万回以上は経験してるんだけど。

 

「私が発見されたのは確か、錬金術師たちの施設…だったんですよね?」

「その通りだ。私とマリアが、培養液のような物で充たされていたシリンダーの中に浮いていたナナシを見つけたんだ」

「話を聞いた錬金術師も、私の事を『逃亡中の山の中で見つけた』と言っていました。という事は、恐らく今回はこの体の状態のまま転生したと考えるべきなのでしょうが……」

「それだけで全ての疑問が氷解する訳ではない…か」

「そうなります。もしかしたら、私はこの世界のどこかの家庭で生まれ育ったという可能性も否定は出来ませんから。だけど……」

「マスターにはその記憶が無い。この世界で過ごした記憶も、この世界での家族の事も」

「はい。なので、この線は最もないと考えているのですが、それはこの世界で過ごした記憶が無い事の説明にはなりません」

「転移に近い転生をしたとしても、山で発見されるまでの間に必ず何かがあった筈。その記憶も無いのは流石におかしい…か」

 

 ここで私と弦十郎さんは、さっきから黙って話を聞いていてくれた緒川さんの方を向いた。

 彼もまた私達が何を聞きないのか一発で理解してくれたようで、どこからか出した資料を片手に説明をしてくれた。

 

「我々もあれから色々と調査はしてみましたが、ナナシさんの出生記憶や戸籍といったものは見つけられませんでした」

「矢張りか……」

「なんとも、もどかしい感じがします。転生した先での自分の正体が分からないというのは…こう…魚の骨が歯に引っかかったようなモヤモヤ感がありますね」

「例えが庶民的だし……」

 

 え? 私はどこまで行っても庶民ですよ?

 庶民以上でも、庶民以下でもありません。

 

「これまでにも似たような事は無かったの?」

「ありはしましたが…それでもすぐに何らかの形で判明したりしていました。少なくとも、こんなにも時間が経過しているのに手掛かり一つとして見つからないのは珍しいですね」

 

 正確にはヒントらしきものはあるんだけど。

 アサキムが言っていた『いきなり山の中に出現した』という言葉。

 そのまんまの意味だって言ってたけど……。

 

「ともかく、ナナシ君に関してはこれからも調査を続けていこう」

「ありがとうございます」

「いや…礼を言うのはこちらの方だ。自分から己の秘密を話すのは相当な勇気がいる筈だろうに……」

「もっと大変なことなんて、探せば幾らでもありますから。話す事よりも、信じて貰えるかどうかの方が心配でしたけど」

「それに関しては問題は無い。我々も、伊達に様々な修羅場を潜り抜けてきた訳じゃないからな」

「みたいですね。こうして話をしていて、その事を改めて実感したような気がします」

 

 私が安堵の溜息を吐くと、いきなりマーリンが私の頭に手を置いてきた。

 

「だから言っただろう? 心配はいらないって」

「そうですね……マーリンの言う通りだったのが癪ですけど」

「最後まで弄るのだけはやめないんだね……」

 

 こんなに面白い事を止める訳がないでしょうに。

 

 こうして、私の事を話したことで少しだけ皆と距離が縮まったような気がした…と思う。多分。

 けど…なんでかな。これからがもっと大変なような気がする。

 まだ話してない事もいっぱいあるし…それは追々教えていけばいいか。

 急ぐ必要性はどこにも無いんだし。

 

 

 

 




割とそこまで驚かれなかった展開。

これがまた別の世界ならば話が違ってくるんでしょうけどね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

すふぃあ

またもや説明回。

主人公の特性上、疑問を抱かれるのは仕方がない事なのです。








 私の身の上話が一通り終わり、さてこれからどうしましょうかと考えていると、いきなりエルフナインさんからの質問が来た。

 

「あの…一ついいですか?」

「どうしました?」

「前にナナシさんが僕に教えてくれた『洗礼名』ってなんなんですか?」

「……それ、聞いちゃいます?」

「はい。ずっと気になっていたもので」

 

 本当は話したくない。絶対に話したくない。

 普通に話が長くなるのと、純粋に面倒くさい。

 けれど、エルフナインさんから発せられる純粋無垢な視線には勝てそうにない…。

 こんな私に誰がした。あ、私自身か。

 

「洗礼名?」

「なんだそりゃ?」

 

 ほら~。他の皆も食いつき始めてるよ~。

 なんかもう説明しなくちゃいけない空気になってきてるし~。

 

「ははは…別にいいんじゃないかい? もうとっくの昔に終わった事だし、別に話してはいけないって事でもないだろう?」

「それはそうですけど……」

 

 あの時の戦いは後に『天獄戦争』と呼ばれ、歴史に名を残しているらしい。

 あんなにも大規模な戦いは、後にも先にも無いだろうしな…。

 

「だったら、マーリンも説明を手伝って下さいね。どうせ、千里眼で全部見てたんでしょ?」

「バレたか」

「当たり前です。どれだけ頭が良くて、魔術師としての腕前が超一流だとしても、マーリンの行動は単純すぎるんですよ。だからガレスちゃんに怖がられるんです」

「え? 僕って彼女にそんな風に思われてたの? うーん…円卓の騎士最年少の女の子に怖がられたってのは普通にショックだな……」

 

 将来有望間違いなしの美少女騎士を怯えさせるだなんて、世界中のオタク達を敵に回すの同義ですよ?

 そこのところ、ちゃんと理解してます?

 

「はぁ…仕方がありません。どうせ、いつかは話さないといけなかったでしょうしね……」

 

 ここにいる人達ならば、遠からず私のスフィアである『夢見る双魚』の事も看破してみせそうだし。

 その時に慌てて説明するよりはずっとマシか。

 

「俺もずっと気にはなっていた。話してくれるか?」

「えぇ…いいですよ。けど、その前に飲み物を取りに行ってもいいでしょうか? 長話し過ぎて喉が渇きました」

「そうだな。小休止の後にナナシ君の話の続きを聞こう」

 

 さて…少し頭の中を整理する時間は稼げたか。

 一体どこから話そうかしら……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 手元にあるアイスココアをチビチビと飲みながら、私はスフィアの事に付いて話す事にした。

 因みに、マーリンはしれっと昼間からビールを飲もうとしたので拳骨を一発お見舞いしておいた。

 飄々とした顔の頭の上にタンコブがあるギャップが普通に面白い。

 

「さて…洗礼名に付いて話すにはまず、スフィアに付いて話さないといけませんね」

「スフィア…? なにそれ?」

「直訳すると『球体』という意味になるけど……」

 

 マリアさん。そのものズバリなんですよこれが。

 

「…スフィアとは別名『十二の至宝』と呼ばれる存在で、基本的に一つの並行世界に一つしか存在していません」

「並行世界に付き一つ…か。そりゃまた凄いレアな物なんだな」

「実際には、そんなにいい物じゃありませんけどね」

 

 これを持ってから、私の不幸体質に更に磨きが掛かってるし。

 名前とは真逆に、私には全く夢を見せてくれません。

 

「実際、私もとある世界に転生した時に偶然に近い形で手に入れたんですけどね」

「アレに関しては誰も予想は出来ないだろうね。スフィアの動きに関しては僕の眼でも観測は不可能だ」

「それは初耳ですね。マーリンでも覗けない物があるだなんて…」

「僕だって言うほど万能じゃないって事さ」

 

 マーリンで万能じゃなかったら、世界中の人間が不自由って事になりますね。

 いや…普通にそれで間違ってないとは思いますけど。

 

「スフィアにはそれぞれ『黄道十二星座』に対応した名前が与えられているんだ。そして、それに対応した人間の精神に呼応する形で発動する」

「星座の名前って聞くとロマンチックだけど……」

「なんだか、それだけじゃ済まなさそうデスね……」

 

 あら鋭い。

 切歌さんには本質を見極める能力があるのかもしれませんね。

 

「スフィア自体は大人の人間よりも一回りぐらいの大きさを持つ緑色の球体で、次元力と呼ばれる特殊なエネルギーを引き出そうとすると翠緑の光を放つんです」

「そんなにデカいのかよ…。ってことは、そのスフィアってのはオッサンの体よりも大きいって事なのか?」

「そうですね。弦十郎さんが丸々一人入るぐらいの大きさはあると思います」

「俺よりも巨大なのか……」

 

 弦十郎さんも相当の大柄だとは思うけど、実際のスフィアは機動兵器のコクピットと同等の大きさがありますからね。

 それぐらいないと意味が無いんですよ。

 

「因みに、次元力とは簡単に言うと、異次元から引き出される強大なエネルギーと思っていてくだされば結構です」

「割と大雑把なのだな」

「そうとしか言いようがないんです。まだ次元力が厳密にどんな存在なのかは判明していないので」

 

 今のところは『巨大なエネルギー』ぐらいの認識しかない。

 私だってずっとそう思ってるし。

 

「けど、どうして星座の名前で呼ばれるんだろう?」

「いい質問ですね、未来さん。お答えしましょう」

 

 なんか地味に楽しくなってきたぞ。

 これまでの転生先では教師も何回かやってきたせいかもしれない。

 

「どうしてスフィアが星座の名を冠しているのか。それは、太陽に集約されている、それぞれの星座の次元力を効率よく引き出す為なのです。その為には地球上にあるのが最善であるので、スフィアはよく地球のどこかにあるとされています。実際、私だって地球で見つけましたし」

「『地球で見つける』って時点で、話のスケールが違い過ぎるだろ…」

 

 クリスさん。これで驚いていては、ここから先の話に付いていけませんよ?

 もっとスケールは大きくなっていくんですから。

 

「スフィアには『ステージ』と呼ばれる段階が存在していて、それにより引き出せる力の大きさが変わってきます」

「勿論、決して無条件という訳ではないけどね」

 

 マーリンの一言で皆が緊張した要に唾を飲む。

 そこまで仰々しく構える必要はないんですけど……。

 

「ファースト・ステージ。この段階ではスフィアは普通の動力源であり、その気になれば誰でも使う事が出来ます」

「それは私達でも?」

「はい。ですが、問題はここから…セカンド・ステージからです」

 

 はぁ…やっぱ話さないとダメ? 地味に鬱になるから嫌なんですけど…。

 あ、話さなきゃダメ。はぁ~い……。

 

「セカンド・ステージに至るには、それぞれのスフィアが司る感情を根幹に持つ…即ち、スフィアに適合した資質が必須になってきます」

「感情が資質…? どういう事だ?」

「そのままの意味ですよ。十二のスフィアにはそれぞれに司っている『感情』が存在していて、それを強く発現させることでセカンド・ステージへと至れるのです。一応、参考までに教えておきましょうか」

 

 

 『嘘』を司る『偽りの黒羊』

 『欲望』を司る『欲深な金牛』

 『矛盾』を司る『いがみ合う双子』

 『虚無』を司る『沈黙の巨蟹』

 『忍耐』を司る『傷だらけの獅子』

 『悲哀』を司る『悲しみの乙女』

 『意志』を司る『揺れる天秤』

 『憎悪』を司る『怨嗟の魔蠍』

 『反抗心』を司る『立ち上がる射手』

 『好奇心』を司る『知りたがる山羊』

 『慈愛』を司る『尽きぬ水瓶』

 『夢』を司る『夢見る双魚』

 

 

「…これで全部です」

「名は体を表す…か」

「そうなりますね。そして、これらの名前はセカンド・ステージに至ってから初めて判明するのです」

「それまでは、自分が何のスフィアを持っているのかも分からないってことなのか……」

「はい。なので、何が覚醒のトリガーになるかは、その瞬間まで本人にも判別のしようが無いんです」

 

 こればかりは本当にランダム性が高いと思う。

 まぁ…スフィアの種類にもよるんだけど。

 

「けど、スフィアの覚醒は良い事ばかりではありません。セカンド・ステージに至ると、スフィアを持つ者は『スフィア・リアクター』と呼称されるようになります」

「ということは、ナナシさんも『スフィア・リアクター』なんですか?」

「えぇ。私は現在進行形でスフィア・リアクターです。スフィアとはそう簡単に離れられませんからね」

 

 スフィアが離れる方法は…別に言わなくてもいいか。

 今、重要なのはそこじゃないしね。

 

「セカンド・ステージに至ったリアクターには、スフィアが司る感情に応じた『反作用』が発生します。そのいずれもが、下手をしなくても死に至る可能性が非常に高いものばかりです」

「大半の場合は、その反作用に耐えきれずに脱落…即ち『死』を迎える者達ばかりだったようだ。実際には、意図的にリアクターを殺そうとしている訳ではなく、スフィアからリアクター達に対する試練のような物らしいが」

 

 ここで案の定、全員が黙り込んでしまう。

 そりゃ、下手したら死んでいました的な話を聞かされて平気な顔をしてられるのはマーリンぐらいだ。

 

「けど、その反作用に耐えつつ、司る感情を維持し続けると…そこから更に上の段階、サード・ステージへと至ります」

「サード・ステージに至ると、反作用は完全に無くなるばかりか、完全にスフィアと同化して『スフィア・アクト』と呼ばれる事象干渉能力を使えるようになる」

「ナナシくんも、その…スフィア・アクトが使えるのか?」

「勿論、使えます」

 

 これもまた、いつも突発的に発動する能力で困ってるんだけどね。

 けど、これに助けられたことがあるのもまた事実なわけで。

 

「ナナシちゃんは何のスフィアを持っているの?」

「私が持っているのは『夢見る双魚』…つまり魚座のスフィアです。スフィア・アクトは『未来予知』ですね」

「未来予知! それって本物の超能力じゃないデスかっ!?」

「そう…なるんですかね?」

 

 あの頃の私の周りには、超能力の類を使える人間なんて山ほどいたしな~。

 スフィア・アクト程度じゃもう驚くに値しないって言うか…。

 私以外にもリアクターが4人もいたから、もっと驚かないと言いますか…。

 

「…で、セカンド・ステージ以上に至ったスフィア・リアクターに『とある連中』から勝手に『洗礼名』が与えられるんです」

「ここで洗礼名が出てくるんですね」

「因みに、洗礼名は基本的に『黄道十二宮を守護する天使』と『リアクターを表す単語』から構成されているんだ」

「成る程…だから『バキエル』だったんですね……」

 

 やっと話の本筋に至れた…。

 だから、スフィア関連の話は嫌いなんですよ。

 そこに至るまででも凄く長いんですから。

 

「正確には『バキエル・ザ・ローズ』だけどね。確か意味は……」

「言わなくていいです! 黙りなさいマーリン!」

「『暗闇の中でも美しく咲き誇る薔薇のように、決して夢を諦めない心』…だったかな?」

「黙れって言ってるでしょうが!! その口を縫い付けるわよ!!」

 

 完全に調子に乗ってる、この花の魔術師を黙らせる為に頬をビヨーンと伸ばすが全く効果が無く、結局は全部言われてしまった。

 

「薔薇…ねぇ……」

「お願いします…それだけはマジで忘れてください…。私にとっての黒歴史なんで……」

「えぇ~? 『ローズ』なんて綺麗で素敵だと思うけどなぁ~」

「それを実際に言われた方は溜まったもんじゃないんですよ……」

 

 はぁ…どうして、ランドの『ウェルキエル・ザ・ヒート』みたいにカッコいい名前じゃないんでしょうか……。

 もしくはセツコの『ハマリエル・ザ・スター』みたいに可愛い名前でもよかったし、クロウの『ズリエル・ジ・アンブレイカブル』みたいなクールな名前でもよかった。

 ヒビキくんの『アムブリエル・ザ・オーバーライザー』は王道で好きだ。

 

「ところで、洗礼名を付けてる『とある連中』ってのは誰なんだ?」

「それを話し出すと、今日一日じゃ済まなくなりますよ?」

「…マジで?」

「マジです。それを話し始めるたら、スフィアのルーツから説明しなくてはいけなくなりますし……」

「奴らは、生きとし生ける者全てにとっての天敵であり仇敵だからね。話が長くなるのは当然だろう」

 

 もしも話す機会が出てきたら、その時こそは全ての説明をマーリンに委ねよう。

 絶対にそうしよう。うん。今決めた。

 

「そんなのがいたのかよ……」

「いました。壮絶な苦労と死闘の末に倒すことには成功しましたが」

「あの時の君達の功績は本当に大きい。なんせ、全ての並行世界と全宇宙の平和を見事に護ってみせたんだからね」

「そんなに大きなことをした自覚…私達には全く無かったんですけどね…」

 

 あの時は兎に角、みんな必死に戦っていただけだ。

 『御使い』の横暴を許せなかったってのもあるが、それ以上に引く事が出来なかった。

 そうするにはもう私達は先に進み過ぎた。

 色んな人達から希望を未来を託されて、私達は最終決戦の地まで降り立ったのだから。

 

「最後に一つだけ教えてくれ。ナナシくんが持っているというスフィア…それは今どこにあるんだ? さっきの話では相当に巨大だったという事だが…」

「確かにスフィアのサイズ自体は巨大ですが、だからといってサイズ変更が出来ない訳じゃありません。アレ自体が次元力の塊みたいなものですからね。紆余曲折あって、今では私の体内…というか正確には私の魂と完全に同化しています。なので、取り出すとかは絶対に不可能ですね」

「魂と同化…か。複雑な心境ではあるが、誰かに奪われたりする心配が無いだけマシか」

 

 あぁ…成る程。弦十郎さんはそれを懸念していたんですね。

 他のスフィアならばいざ知らず、私の『夢見る双魚』に関しては奪われる事は絶対にないんですよね。

 寧ろ、譲れたら喜んで差し上げますよ。いやマジで。

 

 これでようやく、私の無駄に長ったらしい説明は終わり。

 そもそも、私はこんな説明キャラじゃないんですよ。

 自分から言い出したこととはいえ、もう二度とこんな事は御免こうむります。

 

 はぁ…今日はもう…本当に疲れた。別の意味で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




説明ばかりで申し訳ありません。

次回こそはシンフォギアっぽい話に出来たらいいなと思います。





目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。