偉大なる蛇をその身に宿して (ぬべし@助動詞)
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第一話 物語の始まり

 

 

 

 いつも通りの朝、6時30分にセットした目覚ましの音で目が覚める。二度寝したくなる欲求を抑えながら、枕周辺にある目覚まし時計のボタンを押して目覚ましを止める。

 

「…ねみぃ……」

 

 あくびを噛み殺しながら、ベッドからゆらりと起き上がる。これといって物の無い簡素な部屋の中を歩いて洗面台へと向かう。

 

 昨夜はしっかりと寝たはずなのだがあまり調子が良いとは言えない。さっさと顔を洗ってスッキリしたいところだ。……そういや今日って雄英高校の入学試験の日だったか?…まあ、時間もまだ有るし焦る程でも無いだろ。

 

 そう考えながら、寝室を出てそのまま洗面所へと直行し、朝の準備を始める。洗面台にある水道の蛇口を捻り水を出す。それを横目に鏡に映る今では見慣れてしまった、十数年前までとは違う自分の顔を見つめる。

 

 今でも時たま思い出す〝あの時〟。…あれは、そう。俺がちょうど4歳の時の事だ。

 

 

────────────────────

 

 

 その日〝僕〟は公園で姉である、つみきと共にボールを蹴って遊んでいた。

 

 お姉ちゃんと僕は4つも歳が離れている。それだけ歳が離れていると一緒に遊ぶ姉弟はそこまで多くないらしい。それでも、優しいお姉ちゃんはいっつも僕と遊んでくれる。僕が怪我をしたらいつも手当てしてくれて、とっても頼りになる大好きなお姉ちゃんだ。

 

 そんなお姉ちゃんといつもの様に公園で遊んでいた。

 

 お姉ちゃんが蹴ったボールは僕が居るところから大きく逸れて飛んでいく。僕はそれを見て取りに行こうと思い、走って追いかける。

 

 その時、ふと足元にある自分の影が蠢いた様な気がした。そして、次の瞬間には自身の影に足を取られて、派手に転んでしまう。身体も小さかった僕は受け身も取れず頭を盛大に地面にぶつけてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──瞬間。自身の脳内に溢れ出した、見覚えのない記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──それは、自身の前世の記憶であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 伏黒恵。それが今の自分に与えられた名前。

 

 それの意味する事を他でもない〝俺〟自身が1番知っていた。

 

 前世で大好きだった漫画である『呪術廻戦』に登場する伏黒恵と言う人物になっていたのである。

 

 呪術廻戦とは、主人公である虎杖悠仁とその仲間達が、人の負の感情から産まれる呪霊という化物を呪術で以て倒していくという、週刊少年ジャンプにて連載されているダークファンタジー・バトル漫画である。

 

 そんな漫画の登場人物の1人である伏黒恵。彼は主人公を支えるライバル的なキャラであり、俺の大好きなキャラでもあった。そんな彼は十種影法術という、影を媒体にして、式神を使役することが出来るという術式を持っていた。

 

 そんな伏黒恵になってしまった俺はやはりあのカッコいい術式を所持しているのではないかとウキウキとしていた。だって名前や見た目まで一緒なのだ。そんなの誰だって期待してしまうだろう?

 

 なんて考えている呑気な俺に、いつの間にか公園に来ていた両親が話しかけて来る。

 

「お、おい!恵!?大丈夫か!?…誰か分かるか?」

 

「お母さんとお父さんよ!?分かる!?」

 

(……う、うるさい。頭打ったからか、余計に両親の大きい声が響いて、頭痛がする)

 

「だ、だいじょうぶだよ。…あたまうったけど、へーきだよ?」

 

 両親を落ち着かせる為になんとか言葉を発する。それを聞いて両親はへたり込むように、すぐ側に腰を下ろす。

 

「「「…良かったぁ〜」」」

 

 姉も含めて3人の声が一致する。そこまで心配だったとは、少々過保護な気もする。

 

「取り敢えず、恵を病院まで連れて行こう!」

 

「そうしましょうか」

 

 お母さんはそう言って俺を抱っこすると、すぐさま公園の横の道路脇に停車している車へと歩いていく。それに続く様に姉と父もついて来る。

 

 全員で車に乗り込むと急いで病院へと向かうのであった。

 

 

──────────────────

 

 

 病院から家へと帰る途中、車の中で寝たふりをしながら色々とあり、混乱している今の状況を整理する。

 

 

 

 俺が転んだ後の事なのだが、前世の記憶を思い出してワクワクとしている間に、姉が両親を呼び出していたらしく、急いで公園にやって来た両親達に連れられて俺は病院で個性検査なる物を行った。

 

 というのもどうやら、今世の世界は〝個性〟という異能力のようなモノが当たり前になった時代であるようで、その個性を発現した子供達は病院で検査を受けて、個性の調査を行うらしい。

 

 しかし、俺の場合は違った。俺の診察を行った医者曰く、「君の個性は少々特殊であり、私達には調査の仕様がない…」との事であった。

 

 突然変異(ミューテーション)という単語が存在する。

 

 本来、親から遺伝するはずの個性。それらを継ぐ事なく、全くの未知な個性を発現する者がごく僅かではあるが存在する。その様な者達は検査での個性の把握が難しく、はっきりと正確な物を判断する事は難しいのだそうだ。

 

 俺はその突然変異であり、未知の個性を持って産まれたらしい。その個性は肉体にも現れていた様で、赤子の頃から背中に不思議な痣があったらしい。また、今日の診察で分かった事なのだが、肉体の能力が常人よりも少し頑丈らしい。

 

 そして、その痣とやらが気になったので、見せて貰ったところ思い当たる物が一つだけあった。

 

 そう、それは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──八握剣*1の絵であった。

 

 そうなのだ。俺の背中には八握剣の絵がタトゥーの様に黒く刻まれていたのだ。

 

 見た目と名前が伏黒恵である事、背中に刻まれた痣が八握剣であった事。以上より、俺は自身の個性が摩虎羅(まこら)の能力を使う事が出来る、という物なのではないかと予測した。もし、これが俺の個性と合致するならば、相当な個性であろう。

 

 しかし、困った事に病院で試しに使ってみた所、影を動かす事は出来るのだが、八握剣や法輪などが出現する事は無かった。自身の個性が全く分からない……。もはや今の自身にはどうする事もできない、お手上げ状態である。

 

 個性についてのアレコレは今の所、手の施し様が無い事なので置いておくとして、今度は今世の家族について考える。と言っても、これについては特に気にする程の事では無いだろう。前世を思い出す前の記憶もあり、とても良い人達なのであると分かっている。

 

 記憶を思い出し、人格に少し変化が起きはしたが、それでも今の家族を大好きなのだという気持ちは1ミリたりとも変わってなどいない。

 

 だからこそ、俺は今の家族たち(大切な人達)を守り、今を精一杯生きよう。

 

 なんて齢4歳にして変な誓いを立てたのであった。

 

 それから数日、俺は家族や周りと、前世の記憶を思い出した事によるトラブルなども一切無く、これといって変化のない幸せな日々を過ごしていた。

 

 

 

 こんな幸せな日々がずっと続くのだと、この時のお気楽でバカな俺はそう思っていた。

 

 

────────────────────

 

 

 ビチャッ。と、音を立てて水道から流れ出た冷水が顔を覆う。朝の肌寒い気温と相まって、更に冷たく感じる。冷水で濡れた顔をタオルで拭う。

 

 顔を洗った事によって、昔の事を思い出していた意識がフッと戻ってくる。

 

 こうして時々あの時の事を思い出すが、いつもあの時の自身の愚かさに嫌悪で吐き気がする。

 

「…気持ち悪りぃッ………」

 

(…クソが。朝から最悪の気分だ。いつまで経ってもあの時の自分の愚かさが憎い。さっさと切り替えねぇとな……。こんな調子じゃ入試に支障をきたしそうだ)

 

 自身を呪い殺しそうになるほどまでに暗い影に覆われた心を、深呼吸を行う事で鎮める。

 

 ふと時計を見ると先程から時間が経過しており、そろそろ急がないといけない時間になっていた。

 

 今日は雄英高校ヒーロー科の一般入試の日である。遅刻なんてしたら一生ショックから立ち直れない自信があるので遅刻しないようにさっさと準備を済まさなければならないのである。

 

 考え事もそこそこに急いで歯を磨くと、キッチンへと向かう。そのまま昼食と朝食を作っていく。完成した昼食を弁当に詰め、鞄に入れる。

 

 朝食を急いで食べると、昨日の夜に準備しておいた荷物を持ち、忘れ物が無いかを確認してから家を出て駅へと向かう。駅は今住んでいるマンションからは、結構近い位置にあるので何とか電車には間に合うだろう。

 

「………行ってきます」

 

「行ってらっしゃい」

 

 行ってらっしゃい。そんな言葉が返って来る事は無かった。…ハッ、そりゃそうだ。この部屋には俺しか住んでいないんだから返事なんかある訳ないんだ。

 

 ガチャン……。ドアが閉まる音が誰もいない部屋に響く。物寂しいリビングの机の上にポツンと置かれた、花瓶に生けられたオダマキからは、その優しい香りが漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
八握剣:十種神宝の内の一つ。その剣は魔を打ち払い、平和を齎すと言われている。




改稿した物です。新しい小説として投稿していきますが土台の部分や話の大筋は変わらないと思います。

ここまで読んで下さりありがとうございます。


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第二話 雄英高校入学試験

 

 

 

──現代、それは超常が当たり前になった時代であり、世界総人口の約八割が何かしらの個性(異能力)を持っている時代でもあった。

 

 事の発端は中国の軽慶市で『発光する赤子』が発見された事から始まる。数年のうちにそのような特殊な体質をした人々が生まれ始め、現代へと時は流れていく。

 

 〝個性〟は現代において絶対普遍のルールである。個性の強大な者は周りから持て囃され、無個性の人間は無能と嘲られ、周りからは酷く疎まれる。

 

 ヒーローとヴィランという二律背反な存在が日常の一部となり、世間はそんなヒーローに憧れを持ち、そんなヴィランを嫌悪する。

 

 

────────────────────

 

 

 ──昔から悪人が嫌いだった。

 

 更地みてぇな協調性と感受性で一丁前に息をしやがる。

 

 ──偽善者(ぜんにん)が苦手だった。

 

 そんな悪人を許してしまう。

 

 許す事を格調高く捉えてる。

 

 ──世界が嫌いだった。

 

 そんな奴らのせいで理不尽に遭う〝善人〟がいる。

 

 ──吐き気がする。

 

 

────────────────────

 

 

 俺は今、一人でかの雄英高校の校門の前に立っていた。

 

 雄英高校ヒーロー科。そこは、プロヒーローとしては必須の資格取得を目的とする養成校である。全国の同科中最も人気で、最も難しく、その倍率は例年300を超える程である。現No.1ヒーローのオールマイトを筆頭に数々のプロヒーローを育て上げ、偉大な(グレイトフル)ヒーローには、雄英卒業が絶対条件と言われる程の学び舎であり、文字通りの最難関でもある。

 

 今日は雄英高校ヒーロー科の一般入試の日である。全国から数多の受験者達がこの高校の数少ない席を狙って争う。そんな日である。漏れなく俺もその席を狙う者の一人であった。

 

(…思ったよりもでけぇな。案内の紙が無けりゃ間違いなく迷子になってんなコレ。…はぁ……。やべぇな、今更ながらに緊張して来た……。ここは深呼吸をして一旦落ち着こう)

 

 二度ほど大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。それから校門をくぐり抜け、その広大な校内へと入っていく。途中同じ中学の奴を何人か見かけたが、別のクラスだったのか殆ど知らない奴らだった。俺を見た瞬間に側から見ても分かるほどビクついて震えていたのはなんだったのだろうか。

 

 

 

 しばらく歩いていると、試験会場である広い部屋へと到着する。そのまま、部屋に入ると入試番号を確認してそれに対応した席へと着席し、黙って時間を潰す。

 

 ふと、前日に行った筆記試験を思い出す。あれは、中々に骨の折れるテストだった。

 

 というのもこの高校、全国でも有数のヒーロー育成校であると同時に、全国トップレベルの学力を誇る学校でもある。その偏差値はなんと驚異の79である。なので筆記試験のレベルも相当な物である。問題量もそこそこにあるので時間いっぱいひたすら解き続けたのであった。

 

 などと考えていると、遂に実技試験の説明会が開始された。

 

「今日は俺のライヴにようこそー!!エヴィバディセイヘイ!!!」

 

 プロヒーローである、プレゼントマイクの呼び掛けに答える者はこの場には誰一人としていなかった。

 

(…うるさいな。耳がキーンってしてるぞ……。てか、周りの奴も誰か反応してやれよ。流石にこの静まり具合は心に来るものがあるだろ)

 

 

 

 不安のある始まり方をした説明会もつつがなく終了した。途中、ちょっとした言い合いのようなものが起きたがそれは特に問題ないだろう。説明会が終了し、今は各々の試験会場へと向かっている。雄英高校は膨大な敷地面積を有しており、会場へはバスに乗って向かう。

 

 

────────────────────

 

 

 試験会場に着いて数分、俺は軽い運動着に着替え、試験開始に向けて軽くストレッチを行う。

 

 ストレッチを終えそろそろ始まるなと思った瞬間──

 

「──ハイ、スタートー!」

 

──スタートの開始が宣言された。

 

 他の生徒達が固まる中、俺は一人呪力で肉体を強化して、スタートダッシュを決める。

 

「どうしたぁー?!実戦にカウントなんざねぇーんだよぉ!!1人は既にスタートダッシュ決めちゃってんぞー!!」

 

 他の奴らも数十秒後にプレゼントマイクからの煽りを受けて慌ててスタートする。

 

 

 

 しばらく走ると前方に仮想ヴィランが現れる。

 

 それを視認するとほぼ同時に個性を発動させ、右腕に影を纏わせようとする。しかし、腕に纏わりつく寸前で影が霧散し、失敗に終わる。

 

(…クッソ!……まただ。どうしても摩虎羅のあの高い能力を引き出そうと、影を扱うが、失敗しちまう…。分かんねぇ。どうすりゃいい?)

 

 結局、〝あの時〟以来一度もまともに個性を引き出せてない。それに、影を纏おうとした時に感じる違和感の正体が分からない。根本的に〝影を纏う〟というのが違うのであろうか。疑問が募るばかりである。

 

(いや、そんな事今は切り替えて入試に集中しろ!)

 

 そうやって自身の心を鎮める。呪力の操作において必要なのは如何に感情をコントロールできるかである。どんな感情でも大き過ぎる感情は、呪力を大量に消費してしまい、無駄を生むだけである。

 

「ヒョウテキホソク。…ブッ殺スッ」

 

「…まずは1ポイント」

 

 先程の思考から切り替え、呪力を拳に集中させロボットを殴る。

 

 そして、自身の右側から移動して来ていた2体目の仮想ヴィランを殴り飛ばす。呪力で強化しているのでそれなりの威力が出ており、ロボットの顔面が吹き飛んでいた。

 

 殴った反動を利用して再び正面へと向きながら、影から黒剣*1を取り出す。それに呪力を込めながらどんどんと現れる仮想ヴィランを切り裂いて行く。

 

(思ったよりも脆く出来てるな…。そこまで身体能力の高くない人間でも、攻撃箇所によっては破壊出来そうだ。わざとそう作ってんのか?……まあ、いずれにせよそこまで警戒する程の物でもないな)

 

 そう心の中で呟きながら左に現れたロボットの腕による振り払いを、上に跳んで躱す。そしてそのまま黒剣を上段から振り下ろし、ロボットを真っ二つにする。

 

(これで13体目ぐらいか?コイツらの動きにももう〝適応〟した。特段問題は無い。もうちょい、ペース上げてくか?いや、それだと呪力が切れた時が怖えな。…まあ、今暫くはこのままでいいだろ)

 

 

 

 移動しながらロボットを倒していると背後から近づいてきているロボットに気づけていない奴がいた。

 

 すぐに、そのサイドテールの女の背後へと、呪力で強化して黒剣を投擲する。瞬く間にそれは仮想ヴィランへと突き刺さり、行動を停止する。

 

 その女の背後へと移動して、他のロボを黒剣で切り裂く。無事かを後ろの少女へと訊ねながら、周りを警戒する。

 

「おい、そこのサイドテールのアンタ大丈夫か!?」

 

「ありがとう!危うくやられるとこだったから助かったわ!!」

 

 安否を尋ねると元気な声が返ってくる。一瞬その姿に姉の姿が脳を掠める。それに少し顔を顰めながらもお互い気をつけようと言って再びロボットを倒しにその場を後にする。

 

 

 

 このぐらいのスピードならなんの障害にもなりはしないな。などと思考しながらも次々とロボットを破壊していく。

 

「……動きが鈍いんだよ。そんな速さじゃ障害にすらなりゃしねぇよ…」

 

 愚鈍なロボットを呪力で強化した拳で殴り倒す。気づけば、そこそこの広さのある場所へと到着していた。前方に見える8体のロボットを視認すると、個性を発動して、影を広げる。仮想ヴィランの全員が影に足を取られ体勢を崩し倒れる。その隙に次々と破壊していく。

 

(呪力にはまだ結構余裕がある。しかし、最後になにかありそうで少し不安だな……)

 

「あの0ポイントのヤツが気になるな。試験終了まで気を抜かずにいくか…」

 

 そう口にすると右手に持っていた剣を影に戻して、他の場所へと獲物を求めて走り始める。

 

 

────────────────────

 

 

 試験終了間際、ソイツは突然大きな地響きと音を伴って現れた。

 

 0ポイントの仮想ヴィラン

 

 ソイツはただ試験の妨害を行う為に作られた、超巨大なロボットだった。そんなロボットがその莫大な体積を誇る体で街中を進む。

 

 それを見た受験生達は即座に逃げ出す。数秒もすれば逃げる受験生達で道が埋め尽くされる。

 

 その受験生の川の流れに逆らうように一人の少年が歩いていた。その少年はキョロキョロと周りを見渡し何かを見つけるとすぐさま個性を発動させその少女の元へと向かう。

 

「おい、さっきのサイドテールのアンタ。…救助、手伝うぞ」

 

「お、さっきの人ありがとう。私の個性で瓦礫をどかすから下にいる人達をお願い」

 

「…分かった」

 

 少年は少女と言葉を交わすと、全身に呪力を流し肉体を強化すると、瓦礫の下に居た生徒達を次々にその場から移動させて行く。

 

 常人とは思えない速度で救助を行なっていく少年に、見た目とのギャップで少し固まってしまう少女。そんな少女へ横から突然、声が掛かる。

 

「…おい、あのでかいロボットは俺がどうにかする。アンタは他の奴らの避難を頼む」

 

「ちょ、ちょっと!1人でやるの?アンタ危険だよ?!」

 

 そう言って心配する少女に少年は淡々と返事をする。

 

「策ならある。それに、周りに人が居ると気が散る。…下敷きにでもなられたら最悪だ。だから頼む」

 

「…はあ、分かったわよ。避難誘導は任せて」

 

「すまん、助かる」

 

 少年は少女にお礼を言うと駆け出していく。

 

 

 

 それから数十秒後。

 

「さて、私も自分の仕事をこなさなきゃだな…」

 

 少年の背中が見えなくなるまで見送った少女は少年の何か確信を持っていた瞳を思い出して、それに対してクスりと笑うと、個性を使い自分の掌を大きくし、避難誘導を開始する。

 

 

 

 少年はロボットから十メートルほど離れた所で、全身を呪力で強化すると、近くのビルの屋上へと登っていく。

 

 ビルへと登り終えると、前方へと視線をやりこちらへと向かってくる巨大なロボットを見据える。

 

「俺の個性の能力は未だに、俺自身よく分かってねぇ。それでだ、いつからか俺は肉体を何らかのエネルギーを使って強化する事が出来る。……俺はそのエネルギーを呪力と仮称している」

 

── 伏黒恵は最初、〝影を操る〟事と〝適応〟する事しか出来なかった。しかし、いつからか彼は、自身の中に流れる呪力*2という物を自覚する。そして、血の滲むような努力の末、それを影と同じように自在に扱う事が出来るようになる。

 

「………ハハッ、こんなの意思の無い機械に言っても意味ねぇか」

 

 そう言うと少年は、ビルの壁を蹴って全速力で0ポイントヴィランへと肉迫する。そんな少年へとその巨大な拳を繰り出すロボット。しかし、それを難なくかわす。

 

「…言ったろ、動きが鈍いって。お前らロボットの動きは全部似てやがる。………既に適応は済んでんだよ!」

 

 相手の腕を足場に使い、さらに加速して近づいて行く。勢いよく跳び上がると、少年はロボットの頭部に蹴りを放つ。そして、その反動を利用して上空へと跳び上がると、ロボットの巨大な頭部へと拳を繰り出す。

 

(…今日はなんだかいつもより景色が澄んで見える。入試への程よい緊張感が良いスパイスになってんのか?周りも避難が終わってて静かだ。……それにしても、アイツ意外と手際良いな…)

 

 少年は周りの景色がとても遅いモノになっている事にも気づかずさらに思考を重ねていく。

 

 スポーツ選手などには多い経験だが、人は極度の集中状態に入ると周りの景色が遅れて見えたり、急に視野が広がるといったものがある。それはゾーンやフローなどと呼ばれる事もあるもので、そして、少年が今、踏み入ろうとしているソレでもあった。

 

(……ああ、今ならイケるかもしれねぇな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──『黒閃』

 

──打撃との誤差、僅か0.000001秒内に呪力が衝突した瞬間

 

──空間は歪み

 

──呪力は黒く光る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──黒閃ッ!!」

 

 黒い火花が受験会場の空で花開く。

 

 黒き火花が散るその拳は何十階建てのビルよりも大きい0ポイントヴィランの頭部へと突き刺さり、その巨体に多大な衝撃をあたえる。

 

 ロボットの巨大な頭部が大きく凹みその衝撃に後ろへと倒れ込む。少年はそれでも止まる事は無く、自身の影から巨大な鉄の棒を取り出す。

 

「──最後にダメ押しだ。まさかコレを使う事になるとはな…」

 

 そう呟きながら鉄の棒を0ポイントヴィランに向けて蹴り飛ばす。重力と蹴りによる衝撃で加速し、その大きな頭部へと突き刺さる。

 

 0ポイントヴィランの巨大な全身が、地面へと倒れた事による衝撃で煙が上がる。

 

 煙が晴れると、頭部の中は核もろとも色々な部分が潰れた状態の0ポイントヴィランが完全に機能を停止して倒れていた。

 

 会場内にプレゼントマイクの試験終了の合図が鳴り響く。

 

「試験、シューリョー!!!」 

 

 それを聞きながら、少年はそのまま肉体を呪力で強化し、近くにあった建物を蹴り、下への慣性を殺しながらアスレチックのように下へと降りて行き、スッと静かに着地を果たす。そして、何事もなかったかの様に個性を解くと、出口へと向かって歩いて行くのだった。

 

 また、先程の合図を以て、雄英高校ヒーロー科一般入学試験の全日程が終了した。

 

 

────────────────────

 

 

 0ポイントの仮想ヴィランを倒した後、俺は黒閃を決めた事による全能感もそこそこに、受験会場の外でさっき助けたサイドテールの女ーー拳藤一佳と少し話し、お互いに受かってれば良いなと連絡先を交換して別れた。

 

 家に帰って数日、体術の訓練や、呪力操作の練習をして過ごしていると、雄英高校からの合格発表が届いた。

 

 早速、雄英高校からの便箋を開けてみると、何やら小型の機械が入っており、それを取り出すと映像が空中に投影された。

 

『私が投影されたッ!!』

 

 そう言って明らかに画風の違う男──現No.1ヒーローのオールマイト──が画面に映る。

 

 俺は驚きのあまり思わず機械を落としそうになる。

 

『初めまして伏黒少年、HAHAHAHAッ!とても驚いているね』

 

(…は?……なんでNo.1ヒーローが雄英の合格発表なんてやってんだ?どうなってんだ。色々とありすぎて思考が止まりそうだ……)

 

『なんで私が雄英の合格発表なんて事をしているか不思議で仕方がないって様子だな伏黒少年。……それはね、私が今年からこの学校で教師を務める事になったからさッ!』

 

 とんでもない迫力でとんでもない事を言ってくる。そんなオールマイトに少々驚きつつも話を聞く。

 

『おっと、話が逸れてしまったね。入試成績だが、君は不思議に思わなかったかい?なんで天下の雄英高校ヒーロー科の入試で、わざわざお互いに妨害が出来るような内容にしたのか。いくら妨害などがご法度だのなんだのと言っても、やるヤツは平気でやってくるのにも関わらずにさ。疑問だったろ?……何故なら、私達審査員は敵を倒すだけではなく他の点も見ていたからさ!!………つまり、救助による加点も行っていたのさッ!』

 

 もっともな話である。ヒーローを育てる学校が入試でわざわざお互いを争わせる様なものを作るのはおかしい話である。本人の資質を問うのであれば個人での試験でもやりようはある筈だ。

 

 ヒーローは人を助けてなんぼの職業だ。入学前からその資質は皆が問われている。敵の排除だけでなく救助によっても加点されるのはおかしい事でもなんでもないのだ。

 

(確かに、理に叶ってるっちゃ理に叶ってるな……。でも、そんなの試験中に気付く奴なんかいんのか…?)

 

『それでは伏黒少年、君の入試結果を発表する。………ヴィランポイント51点、レスキューポイント25点の計76点に加え筆記も合わせて総合成績2位での合格だッ!!!おめでとう伏黒少年!!』

 

『──来いよ。今日からここが君のヒーローアカデミア(呪術高専)だ!』

 

 そう締めくくり映像が終了した。まさか次席だったとは、あまり実感が湧かずしばらく呆然としてしまう。

 

(……でもこれで、やっと姉貴との〝約束〟を果たすための第一歩を踏み出せたな。結構不安だったが、合格していて何よりだ…)

 

 なんて少しホッとしながら、無意識の内に携帯をポケットから取り出しており、気づけば自分を引き取り、生活の資金援助まで行ってくれている幼馴染みの両親へと連絡を入れていた。ボーッと、していると数分もせずに返信が返ってきた。

 

『合格おめでとう恵くん。百も喜んでいたよ。今度、2人の合格祝いのパーティーをするから後で連絡する日時に迎えを寄こそう。たまには私達家族に顔でも見せに来なさい。改めて合格おめでとう』

 

 それに返信を送り訓練に戻ろうとすると、携帯が鳴る。どうやらメールアプリの通知のようだ。差出人は拳藤であった。

 

『あたしは合格だったけどアンタは!?』

 

 どうやら拳藤の方も受かっていたらしい。先程届いたメールに合格したと返信する。

 

『お互い晴れて雄英生だね!ヒーロー目指して頑張ろ!!』

 

 そんな元気なメールが返ってきた。やはりどうしてもあいつの姿が脳を過ってしまう。そんな事実に今更どうする事もできないだろと過去の自分を嫌悪しながらも携帯をしまって呪力操作の練習を再開した。

 

 

 

 

 

 雄英高校の会議室内では教師陣がモニターに映し出された試験結果を見て合否の判断を行っていた。

 

「レスキューポイント0で1位とはねぇ…」

 

「仮想ヴィランは標的を感知し、接近して襲ってくる。それによって周囲にどんどんと集まってくる。だが、それを抜きにしてもこの結果は試験終了まで闘い続けた彼のタフネスの賜物だな」

 

 そう零す2人の教師の言葉に他の教員が続く。

 

「対照的に8位の子はレスキューポイントだけで60点に加え、あの0ポイントヴィランをぶっ飛ばしやがった。もう1人ぶっ飛ばした奴がいたけど、こんな受験生久しぶりに見たよ」

 

 ある審査官の発言に1人の者が自身の違和感を口にする。

 

 自身の個性で身体を壊すなんて、そんなのまるで個性が発現したばかりの、幼子の様ではないか。と。

 

 事実、その発言は的を射ているのだが、それに気づく者はこの場にはいなかった。

 

「…0ポイントヴィランをぶっ飛ばしたやつといえば、2位の子もだよな」

 

 先の発言を聞き、1人がそう零すと、またもや審査官達は盛り上がる様に話し出す。

 

「この子の個性が全く測れない…。増強系の個性か、影を操る個性か、あるいはその両方か……。まあ、何よりもこの確固たる意志があるのだと言わんばかりの真っ直ぐな目ッ!良いねぇ、若いって!!」

 

 その後もしばらく続く審査官達の会話と試験結果を後ろから眺める、目の隈の酷い男がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
黒剣:伏黒が花御と戦っている時や八十八橋の時に使っていた呪具

*2
呪力:いつから使える様になったのかは不明。しかし、自身の負の感情をそれに変化させる事ができた事など、性質が一致していた事から、呪力と読んでいる。



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第三話 入学初日

 

 

 

──雄英高校ヒーロー科。毎年全国から大多数の受験生がその学び舎へと訪れる。そして篩に掛けられ、最終的に入学を許される者は極小数である。推薦入学者4名に一般入学者36名の計40名、これが毎年の定員である。合格者40名はそれぞれ2つのクラスに分けられヒーローを目指す事となるのである。

 

 入試の時にも使った電車に乗り、雄英高校へと向かう。本日は全国の高校が入学式を行うので、電車の中には学生服を着ている者も少なくないのだが、いかんせん雄英の制服を着ているだけでも周りの目を集めてしまうため、少しうざったい。その為、携帯へと集中して、気にしない様にする。今朝届いていた幼馴染みからのメールに適当に返信しつつ、目的の駅まで時間を潰す。

 

(…視線がウゼェ……。そろそろ、良い加減にして欲しいところである。いくらなんでもここまで露骨にジロジロと見られるとストレスが溜まってくる………)

 

 しばらく周りの視線に耐えて、目的の駅で電車を降り、足早に学校へと向かう。

 

 

 

 学校へ着くと、自身がこれから一年使う事になる教室である1-Aへと向かう。階段を登り、入り組んだ廊下を歩きしばらくすると目的の教室の扉が見えてくる。

 

 巨大な扉を開く。異形系の個性を持っている子などもいるためなのか、扉はやけに大きかった。中を見回すとどうやら生徒は意外と揃っているらしい。

 

 教卓の上に置かれた座席表を確認すると幼馴染みの隣の席だった。出席順だと思ったのだが違ったらしい。親しい者と近い席にしておくという学校側からの配慮だろうか。それならば余計なお節介である。

 

 自身の席に着くと左隣に座る幼馴染みが話しかけてくる。

 

「おはようございますわ、恵さん」

 

「…ああ、おはよう」

 

 幼馴染みである八百万百の挨拶にぶっきらぼうにそう返す。

 

「…あら?顔色があまり優れませんわね。…寝不足ですの?朝食はちゃんとお食べになられましたか?あまり疎かにすると体調を崩してしまいますわ」

 

「……別に、心配するほどの事じゃない」

 

 そう言ってそっぽを向く。この、時々見せる保護者(おねえちゃん)の様な態度がどうにも慣れず、対応がぎこちなくなってしまう。

 

(…そういえばコイツは昔から変わってねぇな。いつも誰かに気を配って優しくして、初めて会った時も"あの時"もコイツは──)

 

 

────────────────────

 

 

 最初の出会いは俺がまだ幼稚園に通っていた頃にまで遡る。個性の能力が少しだけ分かり、前世の記憶を取り戻したこの頃の俺は、木陰などで1人で適当な本を読みながら影を操って個性の訓練をする事が多かった。そんなある日のこと。俺は八百万百(おさななじみ)と初めての邂逅をはたす。

 

 

 

 その日はいつも通り、周りの園児達はヒーローごっこを楽しみ、自分がヒーローだのなんだのと騒いでいる。前世の記憶の所為なのかヒーローと言ったものには全くと言っていい程興味など無く、あるのは今の家族と過ごす幸せな日々を想うだけであった。

 

 そんな、騒がしく遊んでいた周りとは打って変わって俺は本を読みながら、折角手にした個性だからと影のコントロールを行なっていた。

 

「あの、ふしぐろくん。いつも1人だけれどみなさんとなじめませんの?……もしよろしければわたくしたちと、あそびませんか?」

 

 そんな時に八百万百は俺に話しかけてきた。どうやらこの時から既にその善人さと周りに気を配る委員長気質は健在だった様で、いつも1人寂しく読書をする俺を気にして話しかけてくれたのだろうと思った。それに対して特に断る理由も無いからと、遊ぶ事にした。

 

 

 

 遊んでみて分かったのだがどうやら彼女は習い事で姉と知り合ったらしく、その時に姉と喋っており、俺の事も色々と聞いていた様だった。曰く、子供のくせに達観しているだの、1人で本当はさびしがっているだの。姉のいらないお節介にため息が溢れた。

 

 そこから俺達幼馴染みは良く遊ぶ様になった。実家がお金持ちだという八百万の家に行かせて貰ったり、公園で姉も加えて一緒に遊んだり。

 

 そんな楽しい日々を送る事数年──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──俺が中学に上がる一月程前に俺以外の家族が死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィランの襲撃を受けたのだ。たったの一夜にして俺にとっての幸福が全て奪われた。心の中は深い影に覆われていて、頭の中お花畑だった過去の自身を恨むこともあったし、理不尽なこの世を恨む事もあった。

 

 

 

 家族の葬式には沢山の人が来た。皆両親や姉の友人などであり。みんながみんな家族の死を弔い、泣いていた。それを見て俺は気づけば泣いていた。

 

 葬式が終了し、これからどう生きていこうかと思っていると見覚えのある人達が近づいてくるのが分かった。それは、八百万達家族だった。

 

 わざわざ両親の為にありがとうございます。そう言おうとする前に誰かに優しく抱きしめられた。どうやら八百万に抱きしめられたらしい。そう無駄に働く頭で考えていると、八百万の父である八百万千蔵*1さんはとある提案をした。

 

「……伏黒くん。良かったら私達の元で一緒に暮らさないかい?…こんな事を言うのは酷かも知らないが、君はもう家まで失ってしまっただろう?それに、君はまだ小さい……。誰かの手を借りて生きていかなくてはならないのではないかい?」

 

 そう改めて言われて俺は派手にぶっ壊れた自身の家を思い出した。そして、まだ子供である俺にはどうする事も出来ないのだと悟り、千蔵さんの言葉に甘える事にした。

 

「…千蔵さん、ありがとうございます。……その…お言葉に甘えさせて頂きます」

 

「分かったよ。それじゃあ、養子と「──でも」し、て……」

 

 千蔵さんの言葉に被せる様にして声を発する。

 

「でも、1つだけ。この苗字だけは変えたくないんです…。俺の大切な人達(かぞく)の最後の形見の様な気がして……。もし、これさえも無くなったらあの人達の事を、自分を守るためにいつか無かった事にしてしまいそうで、だからこの苗字だけはどうしても変えたくない、です……」

 

 そんな我が儘を言う俺に千蔵さんは朗らかに微笑むと、俺の頭へと手を置いて優しく撫でながら俺の我儘を快諾してくれた。

 

「ああ。分かったよ。苗字は変えない、養子縁組の話は忘れてくれ。…でも、私達の事は本当の家族の様に頼って欲しい。……ごめんよ恵くん。私達にはこれぐらいしかしてやれないが許して欲しい」

 

 こんな事だなんて思わなかった。これ程まで良くしてくれるのはきっとこの両親が相当なお人好しだからなのだろう。おそらく八百万の、あのお人好しはこの両親からの遺伝なのだろう。この親にしてこの子ありとはよく言ったものだ。

 

 そんな事もあり、俺は八百万家の居候として幼馴染み一家と一緒に暮らす事となった。

 

 

────────────────────

 

 

(……やっぱりあの時から何も変わってねぇんだな)

 

 なんて過去の事を思い出しているとふと入り口が騒がしい事に気づく。

 

「今日って何するのかな?入学式とガイダンスだけなのかな?!」

 

 そんな溌剌とした女子の声が聞こえて来た。友達と話でもしているのだろう。しかし、早く席に着かなくても良いのだろうかなんて思っていると、ボソボソとした覇気のない声が新たに聞こえてくる。

 

「…お友達ごっこしたいなら他所へ行け。ここはヒーロ科だぞ」

 

 突然聞こえて来た第三者の声に、周りの声が次第に止んでいく。

 

「はい、静かになるまでに8秒かかりました。時間は有限、君達は合理性に欠くね」

 

 そう言いながら教卓の前に立つ。隈の酷い男。

 

 いきなり気配が現れた事の不気味さに思わず冷や汗をかく。…こんなのが教師かよ……。流石に最高峰は教師まで相当なレベルって事か?

 

「このクラスを担当する、相澤だ。早速だがコレ来て外に出ろ」

 

 自己紹介を簡潔に終わらせると、寝袋から体操服を取り出してそう言い残す。そしてそのままさっさと外へ歩いて出て行ってしまった。

 

 その時、クラスにいた全員の心の声が一致した。

 

(((こんな人が()達の担任の先生なのか……)))

 

 

────────────────────

 

 

「「「個性把握テストォ!?!?」」」

 

 今度は全員の声が揃う番であった。

 

 どうやら俺達は入学式やらガイダンスやらをすっ飛ばして個性把握テストなるものを行うらしい。

 

「雄英は『自由な校風』が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。お前達も中学の頃からやってるだろ?個性使用禁止の体力測定テスト」

 

 体力測定にて行っていた全8種目が書かれた映像が投影された。

 

「確か入試一位は爆豪だったか…。中学生の時、ソフトボール投げの記録何メートルだった?」

 

「…67メートル」

 

「そんじゃ、個性使ってやってみろ」

 

 爆豪とかいう肌色の髪がとんがったヤンキーみたいな奴が、入試一位という事でお手本を行う事になった。行う競技はボール投げのようだ。

 

「円から出なきゃ何しても良い。早よ、思いっきりな」

 

「そんじゃ、まぁ…」

 

 爆豪が位置に着くと、ボールを持って構える。

 

「死ねや!!クソがぁッ!!!」

 

(なんで掛け声が死ねなんだよ…。今のが掛け声で良いのか?……つか、見た目からして凶暴過ぎないか?)

 

 ボール投げの掛け声とは思えない様な暴言を吐いてボールを投げる爆豪。手の平で爆発が起こり、ボールの飛距離はグングンと伸びていく。

 

「まず、自分の最大限を知る。…それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 相澤先生が此方に結果の載った端末を此方へ向ける。それに視線を向ければ705.2メートルという驚きの記録が載っていた。

 

 それを見た他の生徒が面白そうだ、などと騒ぎ始める。

 

「面白そう、か……。ヒーローになるための3年間、そんな腹積りで過ごす気でいるのかい?」

 

 相澤先生の不穏な発言に、雲行きが怪しくなって来たな、なんて呑気に考える。

 

「…よし、8種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう」

 

「「「ハァーーー?!?!」」」

 

 まさかの理不尽な発言によって全員が驚きの声を上げる。

 

 威圧感の増した凶悪な笑みを浮かべながら相澤先生は語る。

 

「生徒の如何は教師(俺達)の自由。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 (ホントになんでも教師の自由って訳か…。でもコレは流石に理不尽過ぎる気がする。もし、こんなのが続くのなら来年には半数以上が減ってんじゃないか?考えるだけでゾッとするな……)

 

「除籍処分って、入学初日ですよ?!そんなの、理不尽過ぎます!!」

 

 そう抗議の声を上げたのは、先程教室の扉の前で喋っていた茶髪の女子だ。

 

「…理不尽、ね。自然災害、大事故、そして身勝手なヴィラン達──」

 

 この世は理不尽に溢れている。大切な人を失った、なんて不幸はこの世に溢れていて、ありきたりなものだ。毎日世界の何処かで誰かが不幸になっている。それが今の世の中の現状だ。

 

「──いつ何処からやってくるか分からない厄災。日本は理不尽に塗れている」

 

 相澤先生の発言に思わず顔を顰める。

 

「そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎、これから3年間、雄英は全力で君達に苦難を与え続ける。さらに向こうへ──Plus Ultra!さ。全力で乗り越えて来い」

 

 凶悪な笑顔を浮かべながら語る相澤先生に、此方側の熱意がグンッと上がるのを感じた。みんな先程の発言でやる気になった様だ。かく言う俺もそうなのだが。

 

(……コレが雄英か。今の全力を測る丁度いい機会だ。……俺はヒーローにならなきゃいけないんだ。こんなとこで止まってなんて居られない。"アイツ"との約束を果たすためにも…)

 

──静かに心の中に火が灯る。

 

 

────────────────────

 

 

 最初の50メートル走から行っていくらしい。

 

(…未だに、摩虎羅の力を引き出す方法は不明だ。だからこそ、今は呪力の強化だけでの全力を知る!……イメージしろ、肉体は謂わば、呪力という水が流れる一本の水路だ。思い出せ、先日の入試で掴みかけた呪力の核心!)

 

 スタート位置に着き、全身を呪力で強化する。

 

 やはり、黒閃を経験したからか呪力の質が上がった様な気がする。試しに身体を少し動かしつつ、スタートの合図を待つ。

 

──スタートの合図が鳴る。

 

 その合図と共に全力で駆け抜ける。

 

『──4秒08』

 

 ゴール地点に置かれた機械から記録が読み上げられる。どうやら記録は4秒ほどであったようだ。このクラスの中では速い方なのではないだろうか?

 

(まあまあの記録だな…。この調子で他の競技もさっさと終わらせるか)

 

 そう考えながら次の種目の場所へと歩いて移動していく。

 

 すると赤髪のツンツン頭の男と、金髪のチャラ男が、次の競技に行こうとしている俺の所まで来ると話し掛けてくる。

 

「なあなあ!」

 

「んぁ?」

 

 突然話しかけられた事に、少し驚きつつ声のした方へ向く。

 

「俺、切島鋭児郎っていうんだ。んでコッチの金髪が」

 

「上鳴電気だ!よろしくな」

 

「…ああ、伏黒恵だ。よろしくな」

 

 挨拶を交わし、お互いに握手をする。それぞれ軽く自己紹介を済ませると、軽い雑談をはじめる。

 

「そんなヒョロそうな見た目して、50メートル走の記録凄かったな!増強系の個性かなんかなのか?」

 

 意外とズカズカと聞いてくる上鳴だった。そんな2人に「まあ、そんな感じだ」と曖昧に答える。そんな感じで適当に喋りながら他の競技を終わらせていく。途中で肘からセロハンテープを出せる瀬呂範太って奴と、酸を出せる芦戸三奈も含めて5人で周る事となった。

 

 

 

 俺がボール投げを終えて4人の所に向かうと全員がとある1人の──緑谷出久という緑髪の男子のボール投げを心配そうに見つめていた。

 

(確か最初にドアの前で女子と喋ってた奴だな…。それにしても、さっきからずっと平均的な記録しか出してねぇけど大丈夫なのかアイツ?)

 

「アイツ大丈夫か?確か他の競技の記録、平均的だったよな?」

 

 他の4人に近づきながら話し掛けると、上鳴と瀬呂から緑谷を心配した類の返事が返ってくる。

 

「このままじゃアイツ、ホントに除籍処分になっちまうぞ?!」

 

「なんか先生と喋ってっけど、何言われてんだろーな?」

 

 1度目の投球を行った際に、相澤先生の『抹消』の個性によって、個性が発動出来なかった緑谷は相澤先生と何事か喋っていた様だった。そのまま2度目の記録に入った緑谷の顔付きを見ると先程までの不安と焦りを混ぜた様なモノから変わっていた。

 

「──スマーーッシュッッ!!!」

 

 緑谷の指が酷く腫れ上がっていた。代わりにボールはとんでもない勢いで飛んでいく。緑谷は痛みで泣きそうになるのを我慢して拳を握ると、ぎこちない笑みを浮かべながらもまだやれるのだと宣言する。

 

「…なんだアイツ……イカれてる…」

 

 それを見て思わず本音が口から溢れ落ちる。

 

(なんだこのとんでもないパワーは……?こんなのオールマイト並だぞ!?………それに、個性に体が耐えられていないのか…。なんつー個性だよ……)

 

 クラスの奴らもその結果に酷く驚いていたり、興奮している者が殆どだった。

 

 

 

 その後、爆豪が相澤先生に縛られたりと色々あったが、残りの競技を全て終わらせた。最終的な結果は百が1位で俺が3位だった。

 

「因みに除籍処分はウソね。君達の個性を最大限引き出す合理的虚偽!」

 

 この先生の発言に周りは大層驚愕していたが百だけは当たり前だと言わんばかりだった。てか、実際に「当たり前ですわ」とか言っていた。

 

 

────────────────────

 

 

 個性把握テストが終了し、今は更衣室で、保健室に怪我の治癒に向かった緑谷以外の男子全員が着替えていた。

 

「なあなあ、伏黒ォ!さっき聞けなかったんだけどよぉ、朝喋ってたおっぱい大きい女子と仲良いいっぽかったけど、知り合いなのか?!?!」

 

 上鳴のデリカシーの無い発言に周りの男子数名も此方を見て近づいてくる。

 

「オイラの名前は峰田な!なあなあ、オイラにもそれ聞かせてくれよ。てか紹介してくれよ!」

 

 ぶどう頭の背の小さい奴が此方に近づいてくる。

 

(なんだコイツ?……まあ、特段隠す事でもねぇよな。それに、隠して余計疑われるのも面倒だな……。ここは普通に答えとくか…)

 

 そう考えた後に口を開く。

 

「別に、ただの幼馴染みで、俺を引き取ってくれた恩人ってだけだ」

 

「「「「幼馴染みだぁーー!?!?」」」

 

 あまりのうるささに顔を顰め、思わず耳を塞ぐ。なんで幼馴染みってだけでそんなに騒げるのだろうか。俺は不思議でならなかった。憂鬱さに思わず溜息が出そうだった。

 

 

────────────────────

 

 

 一方女子もまた、男子と同様に1人の生徒を囲んでの質問が行われていた。

 

「──それでそれで、朝教室で喋ってたけどさ!あの伏黒君とはどんな関係なの?!」

 

 そう質問するのは芦戸三奈であった。周りを囲むのは勿論1年A組の女子生徒達。質問を受けたのは八百万百であった。

 

「私の幼馴染みですわ。昔から一緒にいて、ある時から居候として一緒に暮らしていますの。…べ、別に男女の仲などといったモノではありませんわよ?!?!?」

 

 八百万の慌てた様な返答に爆発が起きたと錯覚するほどの声が上がる。

 

 いくらヒーローを目指す若き金の卵達であっても、未だ未成年の多感な時期であり、他人の色恋にはスイーツ以上の食い付き様を見せる年齢だ。『幼馴染み』なんていう言葉や『一緒に暮らしている』なんて言葉が出てきてしまったら興奮して騒いでしまうのも必然であった。

 

 なお、数人の女子は八百万と伏黒くっつけちゃおうぜ、なんて良からぬ事を考えている女子がいたとかいないとか。真実は神のみぞ知る事であろう。

 

 

 

 そんなこんなで無事に、除籍者を誰一人として出す事もなく、雄英高校での初日を終えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
八百万千蔵:八百万百の父。勝手に考えた八百万の父の名前です。




ここまで読んで下さり本当にありがとうございます。


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第四話 ヒーロー基礎学

 

 

 

 2日目の朝、登校を終えて、昨日も潜ったデカい扉を開けて教室の中に入る。

 

 教室の中を見渡すと疎らだが生徒が揃っていた。よくよく見ると昨日と生徒の席順が変わっている。黒板に貼ってあった座席表を確認してみると、しっかりと五十音順になっていた。やはり、昨日の席は生徒に配慮したものだったのだろう。

 

爆豪勝己耳郎響香尾白猿夫青山優雅
伏黒恵瀬呂範太上鳴電気芦戸三奈
緑谷出久常闇踏陰切島鋭児郎蛙吹梅雨
峰田実轟焦凍砂糖力道飯田天哉
八百万百葉隠透障子目蔵麗日お茶子

 

 どうやら俺の席は爆豪と緑谷の間の席のようだった。それを確認して自身の席に着くと、そのまま読書を始めた。

 

 

 

 朝のホームルームが終了し、午前の授業が始まる。

 

 雄英高校ヒーロー科のカリキュラムは他の科とは少々異なる。午前中は他の科と同じく、必修科目が行われる。英語や数学などの普通の授業が行われるのである。

 

「んじゃ、この英文の内、間違っているのは?」

 

 プレゼントマイクの授業が普通過ぎて普段の姿とのギャップに、殆どの奴が驚いて固まってしまっている。そのせいか授業は全く盛り上がらない。

 

(スゲェ普通だな……。やり方も教科書で文法をチェックしてから、問題を解くって感じだし。あんなテンションしてるから、もっと変な授業なのかと思ってた…)

 

「エブリバディヘンズアップ!!!盛り上がれお前らーー!!」

 

 先生からの問題には、真面目な百や飯田が率先して授業中に手を挙げて答えていた。

 

 

 

 お昼は大食堂でプロヒーローのランチラッシュが作った、一流の料理を安く食べる事ができる。

 

「やっぱ、漢と言えば米だよな!!」

 

「そんなん聞いた事ねぇぞ」

 

「ラーメンうめぇ〜〜」

 

 変な持論を展開する切島にツッコミつつ、ランチで頼んだカレーを食べる。そんな俺の横では上鳴がラーメンの美味さに感激していた。他には瀬呂などもおり、昨日の今日ですっかり仲良くなったメンツである。

 

「そういや伏黒よぉ、幼馴染みと飯食わなくてよかったのかァー?」

 

「あ?…ああ、別にいつも一緒って訳でもないしな。…それにアイツはアイツで他の奴らとランチを楽しんでんだろ」

 

 瀬呂の質問に適当に答える。他の奴らもふーんと言った感じで、特に気にした様子もなかった。そんな風に友達と駄弁りながら食べるランチの味はなんだか優しい味がしたような気がした。

 

 

 

 そして、お昼を過ごしていよいよ午後の授業が始まる。午後の授業はヒーロ基礎学である。

 

 全員が席に着き、今か今かとヒーロー基礎学担当であるオールマイトの登場を待っていた。ヒーロー基礎学って何すんだろうなと考えていると、遂にヒーロー基礎学担当の先生が現れる。

 

「わーたーしーがーー、普通にドアから来たッ!!!」

 

 そう言いながら現No.1ヒーロー、オールマイトが前の扉から教室へと入ってくる。周りの生徒達が興奮の余り声を上げる

 

「すげぇや!ホントに先生やってんだな!!」

 

「…アレ、シルバーエイジのコスチュームじゃない?」

 

「…画風違い過ぎて鳥肌が……」

 

 切島、蛙吹、尾白がそれぞれ感嘆の声を発する。

 

 合格発表の時も思ったが、画風が余りにも違いすぎる…。それに、映像で見るよりもデカくて迫力が段違いだ。こんな一流のヒーローから学ぶ事が出来るのだから、我ながらとんでもない学校に来たものである。

 

「私の担当はヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作るため、様々な訓練を行う科目だ!単位数も最も多いぞ!!……さて、早速だが今日はコレッ!!!戦闘訓練!!」

 

 マッスルポーズをしながら、ヒーロー基礎学について軽く説明したオールマイは、"BATTLE"と描かれた紙を此方に掲げて見せる。

 

 オールマイトの言葉に、目の前の爆豪が興奮気味に戦闘訓練という言葉を繰り返す。それを見て思わず、コイツ実は戦闘狂なんじゃないのかと少々疑いの目を向けてしまう。

 

「そしてソイツに伴ってコチラ──」

 

 その言葉と共に左の壁から番号が描かれたロッカーが現れる

 

「──入学前に送ってもらった個性届と要望に沿って誂えたコスチューム!」

 

「「「うおぉぉーー!!!」」」

 

 男子の何人かは興奮し過ぎて叫んでいた。

 

「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」

 

 その言葉で一旦の自由となった。さっさと自身のロッカーからコスチュームを取ると、更衣室へと足速に向かう。

 

 はてさて、コスチュームは要望書に書いておいた通りの物になっているのだろうか。なんて僅かな期待感に、思わず歩く速度が速くなる。

 

 

────────────────────

 

 

 着替えを終えてグラウンドβの入り口の前に向かうと、既に百がいた。百のコスチュームは随分と肌の露出の多い、寒そうな物であった。

 

「着替えるの早いんだな」

 

「あら、恵さん。そうですわね。個性の都合上肌を出すため、着る物が少なくて着替えも早く済むんですの。…それにしても、恵さんのは……何処かの制服でしょうか?」

 

「まあ、そんな感じだな。…コスチュームにするならコレしか無いって、決めてたんだ」

 

 俺のコスチュームは至ってシンプルだ。漫画、『呪術廻戦』に登場する呪術高専の制服。それが俺のコスチュームである。ただし、要望通りであるのなら、耐熱、耐寒、耐刃仕様の優れ物である。それとは別に、サポート会社側の趣味なのか知らないが、黒の薄くて丈夫なグローブが入っていた。スーツケースに同封されていた説明書によれば、俺の組む影絵が正面の敵から察知されにくくするために、コスチュームと同じ色のグローブを付け加えてくれたらしい。正直そこまで思考が回っていなかったのでありがたいくらいである。また、コスチューム自体にはあまり重さが無く、とても動きやすい物となっていた。

 

(ああ……。俺は今〝彼等〟と同じ、あの制服を着てるんだな。……そう思うとヤベェな。ちょっとニヤけそうだわ……)

 

「どうしたんですの?そんな顔して、何かいい事でもありましたの?」

 

 どうやら百に見られてしまっていたらしい。なんとか表情を元に戻すと、何でもないと慌てて答える。それに対して百は「はぁ…?」と、曖昧な返事をして首を傾げていた。

 

 

────────────────────

 

 

 1年A組の全員でオールマイトの待つグラウンドβの中へと歩いて入っていく。そんな俺達を見ながら目前に佇むオールマイトが語り出す。

 

「格好から入るってのも、大切な事だぜ、少年少女!!……自覚するのだ。今日から自分は──」

 

「──ヒーローなのだと!!!」

 

 被服控除。ヒーロー科入学者が、入学前に自身の個性届や自身の身体情報やデザインなどの要望を紙に書いて送ると、学校専属のサポート会社がそれに沿ったコスチュームを制作してくれるというシステムである。自身のコスチュームという、ヒーローを目指す者ならば誰もが一度は妄想している様な物が、あっさりと手に入ってしまうのだから贅沢なものである。

 

「良いじゃないかみんな!カッコいいぜ!!」

 

 

 

「──さぁ、戦闘訓練のお時間だ」

 

 オールマイトのその宣言で授業が始まる。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」

 

 そんな飯田の質問に答える形で今回の戦闘訓練の内容説明が始まる。

 

「いいや、もう二歩先に踏み込む。…ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪ヴィラン出現率が高いんだ」

 

(そうだったのか…。屋内での出現率が高いなんて、言われて初めて気づいた……。それにしても、ヒーローになると屋内戦の割合が多くなるのか?……屋内戦は周りに障害が多くて気を遣ってしまうから、少し苦手なんだがな…)

 

 屋内戦は少し苦手である。狭い通路などでの戦闘では長物の武器は扱えないし、移動範囲が限られている事もあり動きでの翻弄があまり出来ないのである。満象とか使えたならば、もう少し苦手意識も無くなっていたのかも知れない。

 

 なんて馬鹿な事を考えている俺とは違い、オールマイトの発言を全員真剣に聞いていた。

 

「監禁、軟禁、裏商売。このヒーロー飽和社かi……」

 

 何かを言いかけていたのを、咳き込んで誤魔化すと改めて続きを語る。

 

「真の賢しいヴィランは闇に潜む。という事で、君達にはこれからヴィランとヒーローに別れて2対2の屋内戦を行ってもらう」

 

 凶悪なヴィランの犯行は時にヒーローや警察と言った者達の目を容易く欺く事もある。昨日まで居たはずの人が、ある日を境に忽然と姿を消すなんて事件もザラにあるのだ。

 

「基礎を知るための実戦だ!ただし、今度はぶっ壊せば終わりなロボットじゃないのがミソさ」

 

 蛙吹の質問に答えたオールマイトに、他の生徒から次々と質問が投げつけられる。余りの質問の多さに、オールマイトは聞きとる事ができず、緑谷などはオドオドとしていた。

 

(さりげなく1人だけ質問でもなんでもねぇ奴がいたな……。それに、こんだけ色々言われると何言ってるか全く分かんねぇな……)

 

「んーーー、聖徳太子ィー!!」

 

 そう叫ぶと、オールマイトは懐からカンペを取り出してそれを読み上げ始めた。

 

 説明された内容をまとめると、ヒーローチームは制限時間内に建物の何処かにある核のレプリカを回収するか、ヴィランチームの人間を捕縛する。ヴィランチームは核を模したレプリカを時間制限の間守り切る事。または、ヒーローを捕まえる事。これらがそれぞれのチームの勝利条件のようだ。そして、コンビおよび対戦相手はくじ引きによるランダムで決めるという事のようであった。

 

 くじ引きの結果、各コンビが決定する。

 

チームA:麗日・緑谷   チームB:障子・轟

チームC:峰田・八百万  チームD:飯田・爆豪

チームE:青山・芦戸   チームF:砂糖・伏黒

チームG:上鳴・耳郎   チームH:蛙吹・常闇

チームI:尾白・葉隠    チームJ:切島・瀬呂

 

 以上のコンビで戦闘訓練を行う事となった。どうやら、俺は砂糖という奴とペアらしい。確か昨日の個性把握テストでは何個かの競技で結構な記録を出していたはずだ。

 

「…最初の対戦相手はー、コイツらだ!!」

 

 そう言ってオールマイトが引いたボールには、ヒーローチームの方のボールにA、ヴィランチームの方にはDと描かれていた。

 

「Aコンビがヒーロー、Dコンビがヴィランだ!他の者はモニタールームへ向かってくれ」

 

 いきなり、緑谷対爆豪か……。昨日の緑谷へのあの反応は、明らかに何かあるんだろうな。何の因果か、凄い組み合わせだな。…まぁ、アイツらの関係性は大して興味無いが、入試一位がどれくらいなのか少し気になるな。

 

 これから対戦する4人はオールマイトに対戦を行う建物へと連れて行かれ、他のクラスメイトは揃ってモニタールームへと移動を開始した。

 

 

 

 モニタールームに着いてしばらくするとオールマイトがバトル開始の宣言をする。

 

「それでは、Aコンビ対Dコンビによる屋内対人戦闘訓練、開始ッ(スタートォ)!!!」

 

「……さぁ、君達も考えてみるんだぞ」

 

 戦闘訓練が始まって数分、いきなり戦闘が開始した。周りを気にしながら慎重に建物の中を進むヒーローチームの麗日と緑谷に、爆豪が奇襲を仕掛けたのである。

 

「爆豪ズッケェ!奇襲なんて男らしくねぇ!」

 

「奇襲も戦略。彼らは今、実戦の最中だぜ」

 

 爆豪の奇襲をギリギリで躱した緑谷は、そのまま突っ込んでくる爆豪の腕を避け、背負い投げを決める。

 

「……今の上手いな。しっかりと相手の動きを読んでた…。まるで昔から動きを研究してたみてぇだな」

 

 緑谷の行動に思わずそう呟く。先程の反撃は完璧に読んでいたが故に行えたモノであろう。緑谷は爆豪が右の大振りで攻撃して来ると、確信している様な動き方をしていた。

 

「あの緑髪くん、無個性ながらしっかりと、入試1位と渡り合ってるよ!!」

 

 一度お互いの距離が空き戦闘が止む。その間、爆豪と緑谷は何かを喋っている様だがコチラ側からは何を言ってるか全く分からないのが酷くもどかしかった。

 

「爆豪の奴、何話してんだ?定点カメラで音声ないと分かんねぇな」

 

 切島がそんな風に文句を言うと、オールマイトがそれに答える。それにプラスして今回の戦闘訓練のさらに細かいルールを説明していく。

 

 どうやら確保テープと建物の地図がそれぞれに渡され、テープを対象に巻く事で拘束した事になるらしい。また、制限時間は15分と非常に短く、ヒーロー側は核の場所まで分からないという、ヒーロー側が酷く不利な内容であった。

 

「ピンチを覆してこそのヒーローさ!それに、相澤先生にも言われたろ?アレだよ。アレ──」

 

「「「──Plus Ultra!!」」」

 

 全員でその言葉を叫ぶ。

 

 その後もしばらく、波乱の戦闘訓練は続いていく。

 

 

────────────────────

 

 

 Aチーム対Dチームの戦いは突然に終わりを告げた。爆豪と緑谷のぶつかり合い。緑谷は爆豪の爆破を片腕で受け止め、右のアッパーの拳圧で建物の中心をぶち抜く事によって核のある部屋を崩す。そして、その隙に麗日が飯田へと瓦礫を使った攻撃を行い、自身の重力を無くして核に飛びつく事によって、ヒーローチームの勝利をもぎ取った。

 

(まじかよ……。ここまでボロボロになってまでやるなんて、流石にどうかしてんぞ……。こんな作戦、常人じゃ思いついても普通実行しねぇぞ!?)

 

 緑谷のイカれ具合に改めて戦慄させられる。

 

「…なんだこれ、負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてらぁ……」

 

 全員が訓練の結果に驚いて、空いた口が塞がっていなかった。

 

 緑谷が保健室へと運ばれ、残りの3人がモニタールームに到着すると、講評が始まった。

 

「つっても……、今戦のベストは飯田少年だけどな!」

 

「…そうだなぁ、何故飯田少年がベストなのか分かる人?」

 

 飯田少年がベストだと言うオールマイトの発言に、周りが困惑を浮かべる中、百が手を挙げる。ああ、幼馴染みの講評が始まるぞ……。と、考えて思わず頭を抱えそうになる。

 

 

 

 自身が言いたかった事を殆ど言ってしまった八百万に、オールマイトは少し気落ちしているようだった。

 

「ま、まぁ、飯田少年もまだ硬すぎる節はあったりする訳なのだが。まあ…、正解だよ……!!」

 

「常に下学上達!一意専心に励まねばトップヒーローになど、なれませんので!」

 

「…はぁ……」

 

 幼馴染みの相変わらずのクソ真面目さに溜息が溢れた。

 

(やっぱ変わってねぇよ。……そのクソ真面目さは相変わらず健在のようで俺は嬉しいよ……。…はぁ……)

 

 

 

 その後場所を変えて訓練を続行する。そのまま何組かの訓練を終えると、とうとう俺の番がやってきた。

 

「それじゃあ…、ラストはコイツらだ!ヴィランチームFコンビ、ヒーローチームEコンビだ!それじゃ、早速行ってみようか!!」

 

 やっとか。なんて思いながら、訓練を行うビルへと歩いて行く。

 

 

 

 とある建物の中の最上階の一室、砂糖と2人で話す。

 

「なぁ砂糖、お前の個性ってどんな感じなんだ?」

 

「俺の個性はシュガードープって言って、糖分を摂ると身体能力が上がるっつー個性だ!」

 

「…そうか、良い個性だな。……そんじゃ、守備は任せた。俺の個性で2人とも何とかなりそうだ」

 

「任せろ!危なかったら通信しろよ!!………そんで、役割は分かったんだがよ、伏黒の個性って何なんだ?個性把握テストの50メートル走の時の記録、速かったよな?俺と同じ増強型の個性なのか?」

 

 そんな事を聞いてくる砂糖に、こっちだけ教えないのも不公平か、などと考えて、自身の個性を少しだけ、話す。

 

「俺の個性は……。まあ、肉体を強化するのが今のところ、主な能力だ。…あとはまあ、影を操る事も出来る」

 

 そう言うと、砂糖はよく分かっていないのか首を傾げる。

 

「…影を操る?まあ、取り敢えず肉体強化って事で良いのか?」

 

「…そう考えてくれて良いぞ」

 

 そんな感じで、訓練開始までの時間を砂糖と喋りながら過ごした。

 

 

────────────────────

 

 

 オールマイトの合図を聞いた青山と芦戸の、ヒーローチームの2人がスタートする。建物に入って進んで行く2人。

 

 しばらくすると、とある部屋の中を通って、先へ行こうとしている2人の元へ、ゆっくりと伏黒が歩きながら近づいて来る。

 

「余裕って感じだけど、そんなに油断してるとアタシ達に負けちゃうよ!」

 

 そう言って戦闘体勢に入る青山と芦戸の2人。それを見た伏黒は全身を呪力で強化すると、一瞬のタメを置いて駆け出す。

 

 そんな伏黒に対して2人は個性での迎撃を行う。

 

 酸を使っての攻撃と、ビームが伏黒へと向かって行く。それを難なく躱すと、近くにいた芦戸へと接近する伏黒。

 

 迎撃しようと芦戸が蹴りを放とうとしたところで、芦戸と青山の2人が泥の様な何かに足を取られてバランスを崩す。

 

「ちょっ!ナニコレ!?動けないんだけど!!」

 

 突然の出来事に呆気に取られ、隙を晒してしまう2人。そんな2人の隙を見逃す事なく。ある程度、手加減をした拳を腹に叩き込み気絶させる。

 

「…これで、一丁上がりだな」

 

 2人を瞬時に封殺した伏黒は意識の無い、青山、芦戸の両名に確保テープを巻いて戦闘訓練を終わらせる。

 

 こうして、伏黒1人であっさりと最後の戦闘訓練は終了した。

 

 

 

 戦いが終了した事により、静寂に支配されている建物内とは違い、モニタールームは驚愕に包まれていた。

 

「……マジかよ。伏黒の奴、あんなに強かったのかよ!しかも、あの黒い泥みたいなのなんだよ!?」

 

「轟の時もすぐに終わったけどよ、こっちも決着つくの早すぎるだろ…!!」

 

 そんなモニタールームへと、先程まで戦闘訓練をしていた4人を連れてオールマイトが帰ってくる。

 

「あぁーー、伏黒強すぎるよぉ〜。何あの個性!?あの泥みたいなのズル過ぎるよぉー!!」

 

「とてもスマートで良いパンチだったよ☆」

 

 そして、そんな事を言う2人に他の生徒はうんうんと頷いていた。

 

「泥じゃねぇ……。影だ」

 

 芦戸の言葉にボソッと呟いて、訂正を入れるのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 講評が終了し、全員で最初の場所に戻ってオールマイトからの話を聞いていた。

 

「お疲れさん!緑谷少年以外は大きな怪我もなし。…しかし、真剣に取り組んだ。初めての訓練にしちゃみんな上出来だったぜ!!」

 

 そんな事を言うオールマイトに蛙吹が昨日の相澤先生の後だと拍子抜けだと語る。そんな蛙吹の発言にみんなと一緒に首を縦に振って頷く。

 

「真っ当な授業もまた、私達の自由さ!」

 

 そう言った後、無理矢理授業を締め括ると急いで帰っていった。オールマイトの相変わらずの速さにみんなが驚く。それにしても、昔見た映像より遅かった様な気がするのは自身の思い違いだろうか?……やはり、オールマイトでも歳には敵わないのかと呑気に一人考えていた。

 

 

 

 午後の授業を終えて、今は教室でヒーロー基礎学の反省会を、残った何人かの生徒と行っていた。因みに爆豪は下らないとか言って帰っていった。爆豪と同じく既に帰宅している轟は用事があるとの事だった。

 

 自宅での自主訓練の時や、昨日の体力測定の時も思ったが、あの時の黒閃を経験してから、呪力の質が上がった気がする。やはり、黒閃経験前と後では感覚がまるで違っていた。呪力の訓練も続けつつ、早く摩虎羅の力を引き出せる様にならないといけないな。

 

 そうやって、1人で反省会をしながら色々と考えていると緑谷が教室へと帰ってくる。ボロボロだった右腕はどうやら未だに完治していない様であった。

 

 扉の前にいる緑谷に何人かの生徒が集まって自己紹介などをしているのを、俺は遠くからぼーっと眺める。緑谷は他の奴らとしばらく話した後、爆豪が先に帰った事を知ると、走って何処かへと行ってしまった。爆豪に何か用でもあったのだろうか。

 

「忙しない奴だな…」

 

 そう呟きながら帰る準備を済ませると、百の席へと向かう。

 

「…おい、百。お前か、千蔵さんに頼みたい事があるんだが、今日家行っていいか?」

 

「……私かお父様に頼みたい事ですか?」

 

「ああ」

 

「ど、どんな内容でしょうか!?何でも言って下さいまし!私に出来る事であれば、何でもお任せ下さいですわ!!」

 

 突然テンションが高くなる幼馴染みに、少し戸惑ってしまう。こんなにテンションが高い幼馴染みを久しぶりに見た気がするのは気のせいではないのだろう。

 

「さあ、帰りましょう!恵さん!ディナーは私の家で食べていきますよね?…ああ!お母様とお父様に連絡しないと!2人ともとても喜びますわ!」

 

「……お、おお。……とりあえず、早く行くぞ」

 

 周りの目がコチラに集中していて恥ずかしい。峰田なんかはコッチを見る目が血走っていたくらいだ。これは呪われてしまうのではないだろうか?

 

(そういや2人で帰るのなんて、小学生以来か?…あん時は姉貴も一緒に居たっけか…。懐かしいな……)

 

 そんな感じでその日は2人で家へと帰った。

 

 

 

 

 それから数日後、俺達1年A組はさかしいヴィランの、その本当の恐ろしさを目の当たりにする事になるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んで下さり本当にありがとうございます。


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第五話 USJ襲撃事件─壱─

 

 

 

「すいませーん!そこの2人!オールマイトの授業を受けてみて、どう感じましたか?!」

 

 朝っぱらから騒がしいマスコミに囲まれてしまった。昨日は遅くまで呪力操作の訓練をしていて、睡眠時間が足りていないので朝からここまで騒がれるとストレスが溜まる。しかも、このうざったいマスコミ達は連日雄英高校の前に押し寄せて来ているのである。

 

「……チッ!」

 

 余りのウザさに大きめの舌打ちをしてしまう。

 

「舌打ちなんて失礼ですわよ、恵さん!」

 

(…そうだった、今日は百と一緒に登校しているんだった……)

 

 流石に百の前で舌打ちするのはミスだったか。だが、それも仕方のない事だろう。ここまで騒がしいと正直、寝不足じゃなくても耐えられない。

 

「すまん、ちょっとイラついてた…。気をつける」

 

 それだけ言うと人混みの中という事もあり、さっさと歩いて行く。歩調を早めた俺に百も急いで着いてくる。

 

「ちょっと!何か、思う所はなかったんですか!?あのオールマイトの授業ですよ!?!?」

 

「…………」

 

 どこの番組の記者かは知らないが、質問に答えることも無く無視を決め込む。相手側に視線を向ける事もせずに、そのまま校内へと入っていく。俺が完全に無視している事に気付いたのか、記者の女性はそのまま止まって此方に文句を言ってくる。

 

「なんなんですか!?こっちの質問に少しくらい答えてくれても良いじゃ無いですか!?!?」

 

 そんなヒステリックな発言を背に自身の下足箱に靴を入れ、上履きに履き替えるとさっさと教室へと向かう。

 

「…無視してしまって本当に良かったのでしょうか……」

 

「問題ないだろ。質問に答えてて遅れるよりかはマシだろ?」

 

「それは…、そうですけれど…」

 

 …いくら職業柄、色んな奴から話を聞かないといけないとはいえ、ここまで露骨に騒がれてはいい迷惑だ。あの記者の人には迷惑を掛けるが、一度質問に答えたら最後、捕まって数分動けなくなるのは目に見えてるので、仕方のない犠牲だ。申し訳ないな。

 

 なんて考えながら教室の扉を開けて中へと入る。自身の席につき時計に目をやると、時間は8時10分と朝のホームルーム開始までまだしばらくは時間があるようだった。その間に昨日の事をふと考える。

 

 

────────────────────

 

 

 戦闘訓練が終わった後の夜、百の部屋で紅茶を飲みながら2人で話す。

 

「…帰りにお前に話したヤツってもう出来てるか?」

 

「帰りの時の物ならば既に出来ておりますわ!……それにしてもこんな武器を頼むなんて珍しいですわね?」

 

 そう言って百は部屋の奥のクローゼットから〝とある物〟を取り出しながら、此方へと訊ねてくる。

 

「新しい武器を扱える様にしたくてな。色んな武器を扱えた方が、さらに戦いの幅が広がるだろ?」

 

「なるほど。確かに手札を増やしておいて、困る事はありませんものね。訓練して多くの武器を扱えるようにするというのは大事だと思いますわ!しかし、訓練ばかりやり過ぎてはダメですよ?自分の体は労ってあげてくださいね?」

 

「……分かってるよ」

 

「…色々と、ありがとな」

 

 そう言って百から〝薙刀〟を受け取って影に入れておく。いつからかは知らないが俺が使う武器は大抵、百に作ってもらうか千蔵さんに買ってもらうようにしているのである。と言っても、百に作ってもらう事が大半なのだが。

 

 百の個性は創造である。どんな物でも作れるが、作り方などの詳細を知っていなければ作る事が出来ない。だからこそ、戦闘時のために百に武器を作らせて、知識を蓄える訓練にしているのである。

 

 そのせいで俺の影の中の武器やアイテムなどの約9割が百が個性で創造した物で埋め尽くされているのである。まあ、俺は武器をタダで手に入れられるし、百は個性の訓練が出来るしで、文句などあるはずが無いのだが。

 

 

────────────────────

 

 

 やはり、長物は扱える様にしておいて損はないだろう。薙刀は初めて使うから、また独学で色々と学ぶ事になるだろう。しかし、〝適応〟のおかげで武具の訓練にあまり時間を取られないのが唯一の救いだろうか。

 

 チャイムと共に相澤先生が教室へと入って来て、朝のホームルームが始まる。それによって、考え事に耽っていた意識がコチラに戻ってくる。

 

「ホームルームの本題だ!今日は急で悪いが学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校ぽいのキタァーーー!!」」」

 

 そんな相澤先生の言葉を皮切りにどんどんと周りからやりたい!という声が上がる。学級委員長をこんなにも、みんながやりたがるというのは他の科では見られない珍しい事であろう。というのも、ヒーロー科の学級委員長は普通のモノとは違い他を牽引するというトップヒーローとしての素地を鍛えられる役という事で、大人気の役職なのである。

 

 しかし、ここまで全員が食いつくとは少々予想外でもある。この中であまり反応を示していないのは俺と緑谷ぐらいであろう。

 

 

 

 そんな喧騒からしばらく経ち、飯田の提案で投票を行う事となり、今はその結果発表の時であった。

 

 黒板にズラリと、名前とその横に票数が書かれている、1番上には緑谷という名前の横に、3票と書かれていた。どうやら緑谷が学級委員長になる事が決定したようだ。因みに副委員長は2票を獲得した百である。

 

「なんでデクに!?…誰が入れたんだよ?!?!」

 

「んまあ、お前に入れるよか分かるけどよ…」

 

 緑谷の3票獲得に驚く爆豪に対して瀬呂が言う。

 

(確かに、俺も爆豪に入れるくらいなら緑谷に入れるだろうな…。しかし、百が2票は思ったよりも少なかったな……。もうちょい入ると思って別の奴に入れたんだが、コレは後から何か言われそうだ。……めんどくせぇから黙っとくか)

 

 そんなこんなで緑谷が学級委員長になるのであった。因みに投票を提案した飯田は1票だけ獲得していた。

 

 

 

 そして昼休みに起こった食堂での騒動の後。他の委員決めの時に、緑谷が突然、突飛な提案をする

 

「──けど、その前に良いですか?」

 

「…委員長はやっぱり、飯田くんが良いと思います!!」

 

 緑谷の話を聞けば、あの食堂での騒ぎの時に、周りを纏め上げ落ち着かせた、飯田の行動を見て自身よりも飯田の方ががリーダーに向いていると思ったとの事であった。確かに、あの時の飯田の咄嗟の判断は目を見張る物があった。あれならば、リーダーとしては何かと頼りになるだろう。

 

 そんな緑谷の提案を他の食堂にいた奴らも賛成した事により結局、学級委員長は飯田、副委員長は百という事で最終的に決定した。

 

 

────────────────────

 

 

 それから日を跨いでの午後、ヒーロー基礎学の時間である。教卓の前に立つのは我らが担任の相澤先生である。

 

「今日のヒーロー基礎学だが…、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見る事になった」

 

 …なった?急遽そう決まったのか?…理由はなんだろうか、昨日のマスコミの件だろうか。かなり引っ掛かる所ではあるが、それよりも今回の授業は何をするのだろうか?

 

「今回の訓練って何するんですか?」

 

 瀬呂が相澤先生に質問を投げかける。それに対して先生はRESCUEと書かれたカードを掲げると今回の授業についての説明を始める。

 

「災害、災難、何でもござれ──レスキュー訓練だ」

 

 レスキュー。一般人に「ヒーローの仕事といえば?」という質問をすれば、最も多く回答されるであろう物であり、ヒーローの本職と言っても過言ではない程にとても大切な活動である。

 

 そんな救助の中でも、特に有名な物はオールマイトのデビュー当時の救助活動であろうか?俺達がまだ産まれるよりも前に起こった大災害での救助活動であり、10分と経たずに殆どの市民を救い出すという、今尚語り継がれる伝説である。あの当時の映像等を見てヒーローという者達に憧れを抱き、目指すようになった者も少なくないだろう。

 

「──おい、まだ途中!…今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定する物もあるからな」

 

 自身の個性などに合わせて作った結果、特定の場所でしか使えない。なんていうコスチュームは結構多い。プロヒーローでもその様な物を着ているために、活動の幅を絞っている者も数多く存在するぐらいである。

 

「訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗って行く。…以上、準備開始!」

 

 先生のその宣言と共に各自、自由に訓練への準備を進めて行く。

 

 前の訓練でコスチュームを着た時も思ったのだが、一体どんな素材で出来ているのだろうか。全くもって疑問だ。…まあ、着心地は良いし、軽いし動き易いしで、とても利便性が高いのでコチラとしてはとても助かるのだが。…それにしてもこの服を着ると何だかスイッチが入るというか、気が引き締まる気がする。これさえ着てれば負ける気がしないな……。

 

 などと下らない事を考えながら外で待っていると全員が揃ったのか、飯田が笛を鳴らして、番号順で並ぶ様に指示を出す。それに従いバスへと乗り込んで行く。因みにバスの座席の形は横向きシートとなっており、飯田の指示はあまり意味の無いものであった。……ガンバレ飯田くん、ドンマイである。

 

 

 

「──まぁ、派手で強えつったら、爆豪と、轟だよな!」

 

 そんな切島の言葉で外を眺めてボーッとしていた意識がそちらに向く。

 

 爆豪の爆発の個性も轟の氷の個性も、どちらも子供達が好きそうな派手で強力な個性だ。ヒーローとなる上ではとても大事な稀有な才能と言っても過言ではない。

 

「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう…」

 

 確かに出なさそうではある。子供が、もし爆豪を見たら恐怖で泣いてしまいそうである。俺が子供なら号泣してるだろう。それぐらいの迫力が爆豪にはあるのである。

 

「んだとゴラッ!出すわ!!」

 

「この付き合いの浅さで、既にクソを下水で煮込んだ様な性格と認識されてるってスゲェよ」

 

「…フッ、クソを下水で煮込んだ様な性格(笑)……」

 

 上鳴の変なボキャブラリーに思わず笑ってしまう。

 

「テメェのボキャブラリーは何だコラ、殺すぞッ!!テメェ!!ウニ頭も笑ってんじゃねぇよ、クソが!!」

 

「爆発頭と大して変わんねぇよ」

 

 俺が爆豪に言い返すと、それに上鳴が爆笑し、更にキレる爆豪。そしてそれを注意する飯田。バスの中はもはや混沌としていた。そんな光景を見て幼馴染みは軽く引いていた。そうやって騒いでいると何かの建物が見え出した。

 

「もう着くぞ!良い加減にしとけ」

 

 相澤先生の鶴の一声により、そんな騒ぎは一瞬で収まるのであった。

 

 

 

 そして、目的の場所に着いた俺達を出迎えたのは今回担当する3人目の教師であった。

 

──スペースヒーロー、13号

 

 ブラックホールという物を吸い込み分解するという非常に強力な個性を使って、救助を行う紳士的なヒーロー。その登場に騒然となる。そして、彼に案内され建物の中に入れば、中は一種のテーマパークの様になっていた。

 

「水難事故、土砂災害、火災、暴風、etc(エトセトラ)あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。…その名も──」

 

()ソの()害や()故ルーム。…略してUSJ!!」

 

(((本当にUSJだった!?)))

 

 まさかの名前に全員が驚く。まさか、某テーマパークと同じ略し方をするとは思いもよらず、微妙な顔になってしまう。

 

 そんな事はまあ良いとして、オールマイトの姿が見当たらない。何か急用でも出来たのだろう。今は教師をしているとは言え、依然No.1ヒーローである事には変わらない。その忙しさは相当な物なのであろう。

 

 などと考えて居ると、言葉に形容し難い胸騒ぎに襲われる。

 

(何だ?この感じ。…なんか見逃してんのか?なんでこんなに胸騒ぎがするんだ…。クッソ、よくわかんねぇな。とりあえず何も無いと良いんだが…)

 

「訓練を始める前に、お小言を1つ、2つ…3つ……4つ…」

 

「みなさんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんな物でも吸い込んで塵にしてしまいます」

 

「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

 

 興奮しながら、そう言葉を発するヒーローオタクの緑谷。ここ2、3日で分かったのだが緑谷は重度のヒーローオタクである。しかし、莫大な研究によって蓄積された、その知識は侮れない物だ。

 

「ええ。…しかし、簡単に人を殺せる力でもあります。みなさんの中にもそういう個性の方がいるでしょう」

 

 そんな13号の言葉に全員がハッとさせられる。個性は人を救うための道具にも成れば、人を傷つけ簡単に殺めてしまう凶器にもなる。その事を俺達ヒーローを志す物達は忘れてはならないのだ。いくらヒーローであろうと、関係の無い人間を傷付けてしまえば、もはやヴィランと変わらないのである。

 

「超人社会は個性の使用を資格性にし、厳しく取り締まる事で一見成り立って居る様に見えます。…しかし、一歩間違えば容易に人を殺せる、行き過ぎた個性を持っていることを忘れないで下さい!」

 

 全員が13号先生の言葉に耳を傾けている。この言葉を茶化す者など、このヒーロー科には存在しない。みんなそれぞれがヒーローを本気で志し、日々励み合って居り、自身の先達の言葉の重みをしっかりと受け止め、自身の成長の糧としているのだから。

 

「この授業では、個性をどの様に使って行くのかを学んでいきましょう!君達の力は人を傷つけるためにあるのではない…。人を助けるためにあるのだという事を心得て帰って下さいな。……以上、ご静聴ありがとう御座いました」

 

 ブラボー!。と、大きな拍手と共に感嘆の声が上がる。些か過度ではあるが、まあその気持ちは分からないでも無い。それ程までに為になるお話であった。

 

 

 

「よーし、そんじゃまずは──」

 

 いよいよ訓練を始めようとしたその時であった。相澤先生の言葉を遮る様にして演習場の電気が消え、中央の噴水の前に何か黒いモヤの様な物が現れる。それを視界の端に捉え、咄嗟に背後へと顔をやる相澤先生。

 

 俺もそちらに意識を向ければ、その黒いモヤが突如広がり、中から次々と人が這い出て来る。

 

「何だありゃ?まーた入試みてぇな、もう始まってんぞパターンか?」

 

「…ありゃどう見ても違うだろ」

 

「一塊になって動くな!!…13号、生徒たちを守れ!」

 

 そんな俺たちに相澤先生が言外に訓練では無いと告げる。そう、これは訓練などでは無く、本当に俺達はヴィランからの襲撃を受けているのだと嫌でも理解させられる。そんな状況に周りの奴らへと、不安と焦りがまるで流行病かのようにどんどんと、伝染して行く。そんな間にもどんどんとモヤからヴィラン達が出てくる。

 

 その内の1人、脳味噌が露出しており、顔が人間からはかけ離れた見た目になっている黒い化け物が現れると同時に、その不気味さと異様さに背筋に寒気が走る。

 

(……一目見ただけで分かる。アイツはヤバい。…何だあの気配、まるで御伽噺に登場する化け物に出会った様な気分だ……。あの脳味噌野郎をどうにかしないと俺たちは──)

 

 

 

 

 

 

 

──死ぬ。

 

  

 

 

 

 

 

 3年程前の〝あの日〟以来に感じる、死ぬかもしれないという恐怖。それを俺は、奇しくも人の命を救うための訓練の時間に、痛感させられるのであった。

 

 

 

 1年A組、最初の試練(りふじん)が今、目の前に現れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話も読んで下さりありがとうございます。
誤字報告やお気に入り登録ありがとうございます。
6話目はなるべく早く書ける様に頑張っていきたいです

以上、作者の後書きでした。


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第六話 USJ襲撃事件─弐─

 

 

 

 ヴィランによる奇襲。先生の指示により上鳴と13号先生が連絡を試みたが、繋がらない。つまり、俺達は教師2人と共にこの事態を乗り越えなければならない。最悪の場合、全滅のバッドエンド。これを回避しなければならないのである。

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。…任せた、13号」

 

 その言葉と共に下の広場へと駆け抜けて行く相澤先生。先生がヴィランを削る間に、俺達は出口へと急ぐ。

 

 

 

 出口まではあと半分。と言ったところで目の前に黒い霧が現れ、道を塞がれる。

 

「初めまして、我々はヴィラン連合。……僭越ながらこの度、ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは──」

 

「──平和の象徴、オールマイトに息絶えていただきたいと、思っての事でして」

 

 その言葉に驚愕する。今の時代、オールマイトを本気で殺そうとするヴィランなんて、滅多に存在しない。それは単にオールマイトの力が強大過ぎるが故にだ。オールマイトに勝てる奴も、勝とうと本気で思ってるヴィランも殆どが絶滅危惧種のごく僅かだけである。

 

 そして、コイツらはある種の確信を持ってこの場に現れている。それはつまり、オールマイトに勝てるだけの強力な駒が存在するという事。そして、俺の感じた気配から察するに、その駒こそがあの脳味噌丸出し野郎なのだろう。

 

 そう考えると、即座に呪力を全身に流し戦闘に備える。油断は禁物だ。戦場では集中力と危機感を無くした者達から脱落していくものだ。

 

 13号先生が霧男を倒すために、個性を使い吸い込もうとした所で不測の事態が起こる。13号先生の射線上に、爆豪と切島が出てしまったのである。それにより、攻撃が行えなくなってしまう。

 

 そして、その隙に黒い霧の嵐が俺達の周りを囲う様にして広がって行く。そして──

 

 ──次の瞬間。俺達は知らない場所へと飛ばされていた。

 

 

────────────────────

 

 

 霧が晴れると、(わたくし)、耳郎さん、上鳴さんの3人はおそらく山岳ゾーンと思しき場所へと飛ばされていた。

 

 そして現在、周りを囲むように陣形を組んでいたヴィラン達と私達3人は戦っていた。

 

 数は私達のおよそ6倍程。各個撃破を狙おうにも上手く距離を保ち、私達一人一人にそれぞれ数名のヴィランが相手をする様に動かれてしまい、膠着状態が続いていた。

 

「な、なぁ!?俺にもその武器くんねぇかなぁ!?」

 

「アンタ、電気男じゃん。バリバリとやっちゃってよ!」

 

「あのなぁ!戦闘訓練の時に見たろ!?俺の個性は電気を纏うだけなの!放電出来るけど、操れねぇ。2人まで巻き込んじまうの!」

 

 なるほど。だから先程から個性の使用を躊躇していたのであろう。私達は大きな岩を背にして一塊になって、敵の処理にあたっている。もし、上鳴さんが判断を誤って放電していれば全滅していただろう。

 

「助けを呼ぼうにも通信機はジャミングでヤベェしさ!…良いか2人とも、俺は今頼りにならねぇ。頼りにしてるぜ!」

 

 その言葉を聞いた途端、耳郎さんが上鳴さんをヴィランに向けて蹴りとばす。すると、ヴィランにぶつかった上鳴さんが放電し、あっさりと敵1人を気絶させる。

 

「…ヤベェ、俺強えぇ…。2人とも、俺を頼れ!!」

 

「最初からこうすれば良かったんだ…」

 

「2人とも、真剣に!」

 

 2人にそう言いながら、この場を切り抜ける最善の策を模索する。敵は大勢。この数を一気に片付けるために必要な上鳴さんの個性は、私達2人を巻き込んでしまうので、使えない。ならば──

 

「──アレを創りましょう」

 

 そう言うと同時に、個性を発動する。今回創り出すのは、厚さ100ミリの絶縁体シートである。しかし、大きな物なので、かなり時間がかかってしまう。

 

 10数秒程、ヴィランと戦いながら、シートが出来るまでの時間を凌ぐ。後ろの岩の上から現れたヴィランを鉄パイプで突いて倒しつつ、耳郎さんを此方へと呼び出す。

 

「耳郎さん、私の方へ寄ってきて下さいませ!」

 

 背中からコスチュームを突き破って絶縁体シートが飛び出す。それを2人で被って上鳴さんに個性発動の許可を知らせる。

 

「上鳴さん!厚さ100ミリの絶縁体シートですわ。これで巻き込む恐れはありません!」

 

「OK!八百万。これなら俺はクソ強えぇ!!」

 

 上鳴さんの放電により何とか全ての敵を倒す事に成功する。

 

「ヤオモモのコスチュームが超パンクに……」

 

 耳郎さんのその声で自身の身体を見下ろす。すると、肩から下のコスチュームが破れボロボロになっていた。しかし、それは大した問題では無い。何故ならば私の個性でいつでも創り直せるからである。

 

「個性で創り直すので問題ありませんわ」

 

「…発育の暴力……」

 

 私の返答に何かを呟く耳郎さんに首を傾げてしまう。

 

(…何かあったのでしょうか?私の胸に何かついているのでしょうか?)

 

「…まあ取り敢えず、こっからどうする?」

 

「耳郎さん、念の為に索敵をお願いしますわ」

 

 周囲にいたヴィランを上鳴さんの電気で一気に倒すと、隠れているヴィランが居ないか、確認のため耳郎さんに索敵をお願いする。

 

 個性の使い過ぎによる弊害か、変になってしまった上鳴さんを呼び戻しつつ、お互い周囲の警戒を行いながら、耳郎さんの索敵が終わるのを待つ。

 

 そうしてしばらくすると、耳郎さんから報告が上がる。

 

「ヤオモモ!ここから少し右側に移動した所で、人の話し声が聞こえる。………この声は多分、伏黒の声だと思うけど、…どうする?行ってみる?」

 

(ここで恵さんと合流出来れば、一先ずの安全が確保出来るかもしれませんわね……。恵さんの強さは、私が1番近くで見て来て分かっている。やはり、ここは合流を優先しましょう!)

 

 そう判断すると、口を開く。

 

「ここは合流を優先しましょう!一応、警戒は続けておいて下さいませ!」

 

2人に声を掛けて、恵さんの所へと向かう。何個かの大きな岩を越えると幼馴染みの姿が目に入る。そうして見えた、恵さんは──

 

 

────────────────────

 

 

 霧によってこの場所に飛ばされてからおよそ1分と経たずに周囲のヴィランを一掃した俺は、ソイツらの上に座っていた。

 

「他人と関わる上での、最低限のルール。何か分かるか?」

 

──足が折れて動けない者、気絶している者、ボコボコにされ戦意を失った者。数にしておよそ、20人程の大人達が山の様に積まれて行動不能にされていた。そして、その上に座るのは無造作に跳ねた黒い髪に、端正な顔立ちをした少年。この山は全て、この少年に挑み敗れた者達なのであった。

 

「……分かりません」

 

「『私は貴方を殺しません。だから、貴方も私を殺さないで下さい』だ。…殺しを何に置き換えてもいい。要は相手の尊厳を脅かさない線引き。互いの実在を成す過程、それが〝ルール〟だ」

 

 人は誰かに、自身が脅かされるのを恐れる生き物だ。だからこそ、自身の知り得ない事や物を、排除する。人間はいつだって自分本位な生き物だ。それでも、稀にそれとは真逆な者達も存在する。

 

 姉貴もそんな人間の1人だった。疑う余地のない善人だった。幸せに生きる権利があった筈なんだ。それを──

 

「──破って、威張って。周りから腫れ物みたいに扱われて。…さぞかし心地よかったろうな?……俺はお前らみたいな人間が死ぬ程嫌いだよ。ヒーローなんか目指してなかったら、殺してたくらいにはな……」

 

 そうやって喋りながら先程から聞こえてくる足音の主を待っていると、百、上鳴、耳郎の3人が岩陰から現れた。

 

「……恵さん?今の発言は…?」

 

(最悪な奴に聞かれた。コイツにだけは今の発言は聞かれたく無かった……。……久々に気持ちが荒れて、調子に乗りすぎてしまったようだ。反省だな…)

 

「…脅しみたいな物だ。気にすんな」

 

 そう言いながら立ち上がると、全身に呪力を込めながら身体を少し解す。

 

「悪いな、相澤先生が心配だ。俺は1人で先に行く。…お前らはどうする?」

 

 先程から不安そうな表情で此方を見つめてくる幼馴染みに顔を向けながら、質問する。それに百は、ついて行くと言った。

 

 その言葉を受けるとさっさと移動を開始する。そうしたのはきっと、先程の発言を聞かれてしまい気不味いというのもあるが、それ以上に一緒にいられると〝もしも〟の時の決断が鈍ってしまう様な気がしたからなのだろう。

 

「…俺は先行するから、怪我とヴィランに気をつけろよ」

 

 それだけ言い残すと地面を蹴って加速する。「待って下さい!」という百の声に振り返る事は無かった。

 

 相澤先生の強さなら、そこら辺の有象無象にやられるとは思えない。それでも、あの脳味噌野郎だけは不味い。相澤先生の個性は強力だ。それだけに、やられた時の損失が大き過ぎる。最悪の場合、今維持している前線が崩れる。その場合、他の生徒達にその矛先が向かってしまう。そうなると、まだまだ発展途上な俺達じゃどうしようもなくなる。

 

 そう思考しながら中心の噴水前の広場へと急いで向かう。胸の中には不安と焦りだけが延々と募っていく。

 

 

 

 全力で走る事、数十秒。遂に、噴水を視界に収める。地面を蹴って跳び、上から状況を把握する。そして、視界の先に捉えたのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──脳味噌野郎に抑えつけられ、地面に血塗れで倒れ伏す相澤先生の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを見た瞬間、身体が自然と動き出す。地面に着地すると、普段の倍の呪力を全身に込めて、思い切り地面を蹴り飛ばす。その力に地面が抉れる。一瞬で脳味噌野郎に肉迫すると、影を使って体勢を崩し相澤先生を掴んで離れる。

 

「おいおいおい、いきなり誰だよ。先生取られちゃったじゃん…」

 

 そう言って騒ぎ始める、体中に手を付けた白髪の男。

 

 相手から目線を外す事なく、近くにいた緑谷達に相澤先生を預ける。幸いな事に相澤先生は腕こそ折られているものの、死ぬ程の負傷はしていなかった。

 

「伏黒くん!?どうして此処に……」

 

「相澤先生が心配だった。…それに、あの脳味噌野郎は、他の奴らと明らかに雰囲気が違った。だから、念のために急いでこっちに向かって来た」

 

「そうだったのか…。……あ!あの、白髪の男、あいつの手に捕まるとボロボロに崩れるんだ!!相澤先生の肘もあれで崩れた。…だから、気をつけて!」

 

「…分かった。ありがとな、助かる」

 

 白髪の男の情報を教えてくれた緑谷にお礼を言う。そのまま広場へと戻ろうとした所で後ろから声が掛かる。

 

「お、おい伏黒!お前1人で戦う気かよ!?」

 

「…まあな。お前ら立ってるのもやっとだろ?…自分の恐怖心には従っとけ。それが長生きする秘訣だ」

 

「でもよ!アイツ相澤先生を倒した化け物だぜ!?勝てる訳ねぇって!?」

 

 どうやら峰田は俺の事を心配してくれているらしい。それはとてもありがたい事だ。コイツは変態だが、それでも良い奴なのだろう。だからこそ、たとえ勝ち目がなくとも安心させるために、俺は嘘を吐く。

 

 思い浮かべるのは、2人の最強。

 

 1人は白髪の無限を操る現代最強。そして、もう1人は圧倒的なパワーを持つNo. 1ヒーロー。

 

 2人の様な笑顔を思い浮かべて、精一杯の虚勢を張って言葉(うそ)を吐く。

 

「──大丈夫。俺は負けねぇ…。死んでも勝つさ」

 

「死んだら意味ねぇんだよぉぉ!!」

 

 そんな峰田の心からの叫びにフッと微笑むと歩き始める。

 

 一度近づいて分かる、その異常さ。気配がチグハグで、まるで色んな人間を無理やり1つにした様な、そんな気色悪い気配を放つ脳味噌野郎。先程から嫌な汗が止まらない。

 

「やるしか、無いよな…」

 

 そう、自分に言い聞かせながら構える。恐らく、今の自分は大層不甲斐なく見えるだろう。

 

(…恐怖も、焦りも、不安も。全てを呪力に変えて、雑念を振り払え。せめて、増援が来るまでは持ち堪えろ。……先程から脳味噌野郎は動きを止めている。恐らく、あの白髪か、誰かの指示でしか動けないのだろう。だから、そこを突く。…先に、あの白髪を潰す!)

 

 白髪の男へと一瞬で肉迫すると、空中で一回転しながら右脚の踵を空から落とす。

 

 が、当たる直前に脳味噌野郎に防がれる。どうやら、俺が近づくまでの間に指示を出していたらしい。思い切り蹴り込んだ筈なのだが、相手にダメージが入った感触はなく、寧ろ衝撃を全て吸われた様な気さえする。

 

 相手を蹴って距離を取り、一瞬で呼吸を整えるともう一度肉迫する。先程よりも強い力で地面を蹴り左のフックを顔面へと放つ。

 

 それを相手は、俺の懐へ入り込む事で躱す。しかし、それは既に想定済みである。自身の影に相手の足を沈める。それによりバランスを崩した相手の首を先程躱された左腕で抱える様にこちら側へと引き寄せながら、右の掌底を顎へと打ち込む。

 

 しかし、あまりダメージになっていないのか、バランスを崩しながらも俺の胴体へと脳味噌野郎の拳が突き刺さる。

 

「…ヴッ、なんであんましダメージが入ってねぇんだ?」

 

 一旦距離を取り思考する。

 

(腰が入っていなかったのか、パンチのダメージはそこまで大きくはない。問題はそこでは無く、さっきから自身の攻撃が全く効いている気がしない事である。そういう個性なのだろうか。ダメージ無効?それともダメージを吸収している?何が正解かは分からないが、試してみる必要がありそうだ)

 

 そう考えていると、今度は逆に相手が突貫してくる。大振りの右横拳を躱して懐へと潜り込み、その無防備な胴体へと右拳を一閃する。しかし、またもや、衝撃を吸われた感覚に陥る。そのまま地面を蹴り、空中で体を捻って遠心力を加えた回し蹴りを剥き出しのその頭へと放つ。しかし、その蹴りは躱されてしまう。

 

 このままインファイトでの肉弾戦を続けるのは埒があかないと考え、一度距離を取るために離れようとするが、此方を上回るスピードで追いかけて来る。仕方が無いので、急いで影から剣を取り出して、相手の右足を切り落とす。俺以上の速度ではあるが、適応してしまえば脅威と言うほどのものでも無いのが唯一の救いだろうか?

 

「さっきの俺の攻撃……、衝撃が吸収された様な気がした…。だから、武器による攻撃に変えた…。流石に斬撃までは防げないだろ?」

 

 そう呟きながら白髪野郎の方へと意識を向ければ、ソイツは笑っていた。

 

「…残念だけどさぁ、この脳無は対オールマイト様に連れて来たジョーカーさ!!足が落とされた程度で勝った気にならないでくれよ?それに、さっきまでは唯の様子見に過ぎないよ?」

 

 横から突っ込んで来る脳無と呼ばれた化け物。切り落とした筈の右腕、それがいつの間にか再生していた。ソイツの右縦拳をギリギリで躱しつつ、背後へと回って頭から切り裂こうと剣を振り下ろす。しかし、その直前で脳無の体が後ろへ振り向くのが分かった。それに驚愕を露わにしてしまう。何故ならばそのスピードが先程までと比べ物にならない速度であったからだ。

 

 そして、そのスピードに完全な不意を突かれる。

 

 …ッマズッ!?!?

 

 そう思った瞬間には脳無の拳が此方を捉えていた。

 

「「「…ッ、伏黒くん(ちゃん)ッ!?」」」

 

 緑谷、蛙吹、峰田の3人の悲鳴を聞きながら後ろへと吹き飛ばされる。それでも脳無の追撃は止まらない。いつの間にか俺の背後へと周っておりボールの様に蹴り飛ばされる。また吹き飛んでは追いつかれて殴られる。スーパーボールの様に自分の身体があっちこっちを勢い良く跳ねる。

 

 一際大きな衝撃に吹き飛ばされ、噴水へと激突する。なんとか全身を呪力で守った事と、個性により肉体が頑強であった事もあり、死ぬ程のダメージは避けた。だが、全身の骨がやられたのか、身体の至る所が痛む。頭から出血しているのか、視界が紅く滲む。

 

「……やべえなぁ。これでゲームオーバーってか?……ハハ。笑え、ねぇ…」

 

 その声を最後に意識がプツンと、テレビの電源を消すかの様に途切れる。

 

「…ねぇ、恵。お姉ちゃんね、ヒーローになりたいの」

 

 懐かしい声が聞こえた様な気がした。

 

 

────────────────────

 

 

 恵さんが居なくなってから数分。私は呆然としていた。

 

 最後に見せた、今にも居なくなってしまいそうな程に、儚い雰囲気を滲ませた背中。そんな姿に思わず、待ってと叫んでしまった。

 

(…先程の恵さんの発言は何だったのでしょうか。その裏に隠された、恵さんの本意は?……まさか今まで聞いた事の無い本音?…もしや私は恵さんの上部だけを見ていて、その裏を知ろうとしていなかったのではないか?)

 

 そんな不安が泥の様に絡みついて離さない。もしかしたら、このまま死んでしまうのではないか?そんな最悪が頭の中でイメージされる。

 

 そうやって呆然と思考の海に溺れていると、耳郎さんの声で意識が戻ってくる。

 

「ちょっと!?ヤオモモ大丈夫!?酷い汗だよ?」

 

「す、すみません。少し、考え過ぎてしまいましたわ…」

 

「そう?あんまり無理し過ぎないでよ?…こっからどうする?先生戦ってるんだよね?そこに向かうのは危険じゃない?」

 

(確かにそれは一理ある。私達が先生の所へ向かったとして、恵さんならいざ知らず、私達では足手纏いにしかならないであろう……)

 

──それでも、それでも彼の後を追わなかれば。

 

(そうですわ。あの時に誓ったではありませんか!)

 

『私、決めましたの!いつか、恵さんと並んで一緒に誰かを救える様な、そんなヒーローを目指しますわ!』

 

(恵さんにそう誓ったではありませんか!!恵さんを救うために、恵さんと並んで歩ける様に。私はヒーローを目指したのでしょう!)

 

 恵さんが救いを求めたならば、救えるのは私しか居ないのだ。家族を無くした彼には小さな頃からずっと一緒にいた私しか居ないのだ。だから、彼を救うためにヒーローを目指したのではないのか。彼と一緒に生きてきたのではないのか。

 

「しっかりしなさい!八百万百!」

 

 そう言って、自身に喝を入れる。もし、彼が過去に囚われているのなら、私が救い出す。それだけだ。

 

「ど、どうしたの!?ヤオモモ!?」

 

「ごめんなさい耳郎さん。…私達は恵さんを追いますわ!もし、怪我人がいたならば、その救助も行いましょう!」

 

 そう言って3人で動き出す。こんな事で落ち込んでいては、最高のヒーローになどなれない。いつどんな時だろうと、見通しを立てて行動する。深謀遠慮を忘れずに。

 

 

 

 3人での行動を始めて、数分。噴水近くの岩場にて、相手にバレないように様子を伺う。そこには既に恵さんがおり、化け物と1人戦っていた。

 

 圧倒的速さによるぶつかり合い。押されているのは化け物の方であった。恵さんが一度距離を取ろうとするが、相手に追いつかれてしまう。突然、影から剣を取り出すと、それで相手の片足を切り落として何とか離れる。

 

 それを見ていて、少しホッとする。しかし、それから数秒とせずに恵さんが吹き飛ばされる。そのまま、相手の攻撃が止まる事は無く。恵さんがどんどんとボロ雑巾の様に傷ついていく。

 

「あ、あれやばいよ!?流石に伏黒が死んじゃうよ!?」

 

「やべえよ、伏黒が死んじまう……」

 

 そのまま、恵さんは噴水へと吹き飛ばされて、動かなくなる。

 

「そんな……。恵さん…?嘘ですわよね!?」

 

 思わず、そう叫んでしまう。増援は今の所無し。相澤先生は既にボロボロで、恵さんもやられてしまった。このままでは全滅は必至だろう。

 

(どうすれば!?恵さんを、みなさんを助けてこの場を切り抜けるにはどうすれば……)

 

 絶望という闇が、3人の心を覆い始める。全員の頭の中に死という最悪のビジョンが思い浮かぶ。

 

「お、俺達ここで死んじまうんだ……」

 

「アンタね!弱音吐いてんじゃないよ!」

 

「恵さんが、死ぬ?そんな……。そんなの──」

 

「ちょ、ちょっとヤオモモ!?どこ行こうとしてんの!!」

 

 恵さんが倒れてから既に1分が経過した。目覚める気配は無い。このままいけば死ぬ。そんな最悪な考えに突き動かされる様に、駆け出そうとして──

 

 

 

──背筋が凍る程のプレッシャーに押し潰される様な錯覚を覚える。

 

 

 

 襲撃が開始されてから10分弱。ヒーローは未だ現れない。

 

 

 

 

 

 

 




いきなり非公開にしてすいませんでしたぁ!!!
事情をお話ししますと、オリ主の個性を十種影法術で書いてたら「変なオリジナル式神とか出すのはどうなんだ??」ってなりまして……。変更する事にしました。しかし、書いてる途中で色々と変えたりしてたら混乱しそうだなぁと思い、一旦非公開にしました。

本当に自分勝手で申し訳ない。私が無能な完璧主義なので、ちょっと満足いかなかったんです。本当にごめんなさい。

とりあえず最後は既に考えてあって、このまま個性を変更する事なく書けそうなので続くと思います。私の頑張り次第です……。

話は変わり、今回も読んでくださり誠に有難う御座います。今回の事は本当にごめんなさい。(豆腐メンタルなのがバレそうやな……)

以上、作者の後書きでした。本当に読んでくださりありがとうございます。


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第七話 伏黒恵:オリジン

 

 

 

──懐かしい記憶を見ていた。

 

「…ねぇ、恵。お姉ちゃんね、ヒーローになりたいの」

 

 姉貴はよく、そんな事を言って笑っていた。誰よりも優しくていつも誰かのために生きている。そんな典型的な善人だった。自分の夢を叶えて幸せになるべき人間だった。

 

 でも、世界はそんなに甘くは無かった。

 

 姉は今の世代では珍しい〝無個性〟の人間だった。それでも、俺の前では強がって、笑顔でヒーローになるのだと言う姉貴は、とても眩しくて、俺にとってのヒーローだった。

 

 どうしてこの個性が姉では無く俺に発現してしまったのか、それを歯痒く思った事も一度や二度では無かった。

 

 

 

 俺が小学4年生の頃、無個性だという理由で姉を虐めていた中学生共をボコった。

 

 百と遊んだ後に、家に帰るとボロボロの姉が居た。両親も近くに居て、3人とも俺が帰って来た事に気づいていないみたいだった。

 

「私、ヒーローになれないのかな?……無個性でも、ヒーローになれるよね!?」

 

 姉のそんな叫びに、俺に笑って語っていた裏でこんな葛藤があったのだという事を知った。

 

 両親が話しているのを聞いてみれば、無個性だというだけで虐められているのだという。それを聞いて、腑が煮えくり返る思いだった。

 

 それからの行動は早くて、次の日の放課後、姉の中学校に乗り込んで姉を虐めてた奴らを全員ボコボコにした。小学生と中学生が殴り合いをしている、なんて騒ぎが起きたら、先生が来るのは当たり前で、すぐに姉と両親が学校にやって来た。

 

 なんでこんな事をしたのかと言われ、全てを話した。姉が虐められているのを知った事、それが許せなかった事。だから幼い精神に任せて暴力で解決しようとした事。包み隠さずに全てを話した。

 

 学校側は虐めを知らなかった様で、虐めを行なっていた奴らは姉に謝罪の後、しばらくの謹慎が下された。謹慎処分で済んだのは、姉が今までの行い全てを許し、剰えあまり責めないでと庇った事が大きいのだろう。俺自身にも謹慎処分が下されたが、理由が理由であったため、公にはされず小学校側には体調不良による長期的な休みだと伝えられた。

 

 学校からの帰り。俺は虐めてた奴らを許した事がどうしても納得いかなくて、姉に理由を聞いた。

 

「誰かを許せないのは別に悪い事じゃないよ?それも恵の優しさだと思うの。……でもね、私は誰かを呪う暇があったら、大切な人(かぞく)の事を考えていたいの」

 

 姉のそんな言葉聞いて、ただ黙る事しか出来なかった。そんな俺を見かねてか、姉はしゃがんで俺の顔を抱えて前を向かせると、笑いながら語りかけてくる。

 

「…じゃあさ、恵が私の事を守ってよ!私は無個性で弱いから、恵が私の事を救うヒーローになってよ。…大丈夫。きっと恵になら成れるよ!」

 

 そう言って小指を出してくる姉貴。どうやら指きりする様だ。それを見て小指を出した俺は前世を含めて久し振りに指きりをしたのであった。

 

「約束だよ!…ゆーびきーりげーんまん。嘘吐いたら、針千本のーます!ゆーびきった!!」

 

 そうして結んだ約束と誓い。この時、俺は生まれて初めてヒーローを目指そうと思ったのかもしれない。

 

 しかし、この約束と誓いが果たされる事は無かった……。

 

 

 

 2月も終わり頃。俺が小学校を卒業する1ヶ月程前のある日。唐突に、幸せな日々が崩れ去る。

 

 その日は2月の終わりという事もあり、寒く雪の降る日であった。

 

 俺はその日、家で宿題を終わらせると姉とゲームをして過ごしていた。

 

 緩く家族と過ごしていると、大きな音と共に家の壁が崩れ落ちる。そして目の前で父と母の首が刃物で撥ねられるのを目にする。その現実とは思えない光景に驚いて固まっていると、自身の腹を鋭い異物が貫く感覚を最後に意識が途絶えた。

 

 意識が戻ると、腹に空いた穴の違和感と痛みに思わず呻く。体は既に瀕死のボロボロの状態であった。周りは驚く程の静寂を保っており、それも相まって自身の〝死〟を予感する。

 

 今にも眠ってしまいそうになる意識の中で、自分の内側をナニカが蠢くのを感じる。ぐるぐると、ナニカが全身に行き渡るのを感じた後、背中に違和感を覚える。其方に意識を集中させると、車輪の様な物が背中の上でゆっくりと動き出すのを薄らと感じた。

 

 ……ギギギ…ガコンッ…

 

 軋む様な音と共に背中の法輪が回転すると、腹の穴などの傷が一瞬で無くなり、朦朧としていた意識が覚醒する。

 

 突然の事に驚きつつ飛び起きて、周りを確認すると、そこには元の原型すら留めていない瓦礫の山が出来ており、そのすぐそばには──

 

首から上の無くなった両親と思しき死体と、腰から肩にかけてを深々と切り裂かれた姉が倒れていた。

 

 それを見て胃の中の物をその場にぶち撒ける。胃酸が逆流して来た事で喉が焼ける様に痛く、視界が涙で滲んでいた。

 

 嘘だ。こんな事、嘘に決まってる。きっと夢に違いない。タチの悪い悪夢なのだと、現実から逃避する様に頭の中で考える。そんな思考をするこの時の俺の頭の中には、偶発的に使う事の出来た個性の事など、既に忘れ去られ消えていた。

 

 深い絶望。生まれて初めて味わうその深味に、呑まれていく。どっぷりと、泥の中へと堕ちて行く様に、呑まれていく。どうすればいい?本当にこれは現実なのか?そんな考えが今も止まずに延々と巡っている。

 

 そんな折、姉の体が少し動いた。それに気づくと、藁にもすがる思いで姉の体を優しく抱き上げる。

 

「……め、ぐみ、、なの?」

 

 姉の掠れた声で名前を呼ばれる。生まれて初めて聴く様な姉の弱々しい声。いつもと違い、その声から溌剌とした印象を受ける事は無く、そこに有るのは今にも消えてしまいそうな儚さだけだった。

 

 ごめん、なさい…。ごめんなさい。…あの時の姉貴との約束守れなかった。父さんも、母さんも、姉貴も、誰も守れなかった……。ごめんなさい。……ごめんなさい…。

 

 謝る事しか出来なかった。あの時の俺が守るのだという約束も果たせず、救う筈だった人すらも死んでしまいそうな、最悪の状況。泣きながら姉に謝罪を告げる。

 

「…いい、の。……だ、だい…じょう、ぶ。誰も…貴方を、せめ…たりしないよ?」

 

 そう言って震える手で俺の頭を優しく撫でてくる姉。自身の存在を姉に知らせるように、その手に自身の手を重ねて包み込む。

 

「わたし…ね、今で、も…ヒーローに、なりた…いって、思う…時が、あるの…」

 

 もういい、もういいんだ。それ以上喋らないでくれ!…それ以上は体がもたない!

 

 そんな俺の必死の説得を聞いても、従う事は無く尚も話を続けていく。

 

「めぐみ、は…た、ぶん夢を、…無くし、ちゃ、うと思うの……、だ、から…私が、あ、貴方に、夢を…託すわ……」

 

 その言葉と共に姉の体からナニカが溢れ出す。それはきっと、周りから無個性だと虐められていた姉が、生まれ持った個性。何故、今になって発現または、使用可能になったのかは不明だが、姉には確かに個性があったのだ。

 

「こ、んな、、最後に…なって、ごめ、ん、ね?……あなた、は、たくさ、んの…人を、助、ける、……ヒーローに…なって、ね」

 

 そのナニカはどんどんと膨れ上がっていく。

 

愛してるわ

 

 気づけば姉の唇と自身の唇が重なり合っており、先程まで膨れ上がっていたナニカが一気に自身の中へと流れ込んでくる。まるで濁流の様にどんどんと流れ自身の心臓へと集まっていく。何かに身体を侵され作り変えられている様な錯覚を覚える。

 

 とてつも無い違和感に襲われながら、またもや意識を失うのであった。

 

 ガコンッ……。

 

 そんな音が最後にもう一度聞こえた様な気がした。

 

 

 

 次に目が覚めたのは病院のベッドの上であった。知らない天井だ。なんて事にはならず、身体を起こすと全身に痛みが奔る。が、それに耐えて周りを見渡すと、入り口に立っていた看護婦さんと目が合う。

 

「ふ、伏黒さん!?お目覚めになったんですか!?」

 

 どうやら、この看護婦さんは騒がしい人の様だ。なんて呑気に考えていると、記憶を取り戻した時に診てもらった、医者の先生が部屋に入って来て話し掛けてくる。

 

「おはよう伏黒くん。意識が戻った様だね。…目覚めてすぐにこんな事を聞くのは、少々酷かもしれないが、あの日の事は覚えているかい?」

 

 そんな先生の言葉に、首を振って肯定する。しっかりとあの日の忌々しい記憶は残っている。しかし、姉の最後のあの言葉だけがどうしても靄がかかった様になっていて思い出せない。

 

 その事を先生と、後からやってきた警察の方に語る。

 

 後から聞いた話に寄れば俺はまる2日眠っており、その間に一度だけ生死の境を彷徨っていたらしい。先生はそれを酷く不思議に思っている様だ。俺自身にも、死にそうになった理由がさっぱり分からないのだ、お手上げである。

 

 そして、警察の方に事情を聞いたところ。あの日、家を襲ったヴィランの名は『サクリフィス』というらしい。凶悪なヴィランの様で、個性は不明。本名も不明。ただ外見と、その犯行の手口だけが分かっており、誰もその存在を掴む事の出来ないアンノウンなのだと言う。そんなヴィランによる犯行で間違い無いとの事であった。

 

 どうやら俺の復讐相手は一筋縄ではいかない程に強力で凶悪なヴィランのようであった。

 

 コイツが家族を殺した。そう思うと心の奥でドス黒いナニカが溢れる。

 

 でも、俺がもっと強くて家族を守る事が出来ていれば。そう思うと自身への怒りで心を影が覆う。それはとても昏くて暗い影であった。

 

 不思議な気分だった。家族を殺したヴィランへの強い恨み。家族を守れず、約束も果たせなかった不甲斐ない自身への恨み。そんな、2つの感情が混ざり合っていく。

 

 それらが混ざると胸の辺りで渦を巻いていたナニカが弾ける。体から弾けたナニカが溢れ出し、力の奔流が俺を中心に竜巻の様に広がっていく。

 

「……ぐろ…ん!!し…かりしろ!!落ち着くんだ、伏黒くん!!」

 

 その声で我に帰る。それと同時に竜巻も止み、自身の周りを渦巻いていた力も綺麗さっぱり消えていた。ふと、周りを見渡せば病室は酷く荒れていた。

 

「大丈夫かい!?個性が暴走でもしたのか…?」

 

「わ、分からないです…」

 

 俺自身にすら全く分からない先程の謎の力。12年間生きて来て、一度も発動した事の無い未知の能力。それが、先程の感情の爆発をトリガーにして起動した。危うく、大事故に繋がっていたかも知れない、個性の暴走による事故であった。

 

 だが、幸いな事に怪我人は居らず、被害も自身の病室だけであったらしい。

 

 

 

 そんな事故の後、1人病室のベッドの上で、あの日姉に託された言葉を思い出す。

 

 俺は──

 

 

────────────────────

 

 

──ヒーローに成らなくちゃいけないんだ…。

 

(…どれだけ気を失ってた?……懐かしい記憶を見ていた気がする。俺がヒーローを目指した原点(オリジン)。今まで何故かずっと忘れていた、俺がヒーローを目指す理由……)

 

──不平等な現実のみが、平等に与えられている。

 

 この世はいつだって理不尽だ。姉貴の様な疑う余地の無い善人。そんな人達がいつだって不平等を押し付けられて、苦しめられている。

 

 俺の大切な人達を殺したクソ野郎は、今も何処かでのうのうと生きている。…因果応報は全自動じゃない。どんな罪を犯した人間であろうと、悪人は法の下で初めて裁かれる…。ヒーローは、そんな報いの歯車の一つだ。

 

 だから俺はヒーローを志した。姉との約束もあったけれど、それ以上に強い願い(おもい)があったから俺は今、ここにいるんだ。

 

 少しでも多くの善人が平等(こうふく)を享受出来るように、理不尽によって潰えてしまわない様に。そうやって──

 

 それでも、もうこんな状況になってしまってはどうする事の出来ない詰みだ。お手上げである。

 

「……〝ここまで〟か…。このままじゃどの道、死ぬだけか……」

 

 ならば、もう〝アレ〟をやるしか無いのだろう。…俺如きの犠牲でこのクラスの尊い命が守られるのなら、それはきっと〝最善〟なのだろう。

 

「──俺は不平等に、人を助ける…」

 

 そう、意を決して、俺はゆっくりと立ち上がり、個性を発動させた。

 

──最強の切り札が今、顕現する……。

 

 

────────────────────

 

 

 伏黒が倒れてから、状況は既に絶望へと傾いていた。相澤先生と伏黒が脳無に敗北し倒れ、その場に残っているのは緑谷、峰田、蛙吹の3人。対するヴィランは、未だ健在の脳無に、リーダーであろう死柄木と、先程の入口付近での大きな音の後に此方へと帰って来た黒霧。

 

 緑谷達は圧倒的不利な状況に陥っていた。

 

 死柄木が黒霧からの報告を受け、数十秒程喚くと、最後に痕を残すため、緑谷達3人の内の誰かを殺そうと動き出す。しかし、その瞬間に〝ソレ〟は起こった。

 

 伏黒が気絶してからちょうど1分が経った頃、八百万が飛び出そうとした頃と同じ時であった。気絶していた筈の伏黒が起き上がったのである。身体中ボロボロで、頭から血が出ている。しかし、そんな状態でも動き出す。

 

 立ち上がると何事かを呟き、不思議な構えをする。両手を握り、掌が上へ向く様にして左腕を前へ出し、その手首付近に右腕を添えるようにして構える。そして、その構えを維持したまま、今度は何かを唱え始める。

 

「…ふるべゆらゆら……」

 

 影が蠢き出して、人型へと形を変えていく。それはどんどんと大きくなっていく。その異様な雰囲気と気配に、その場に居た全員が呑まれる。今まで感じた事のない恐怖に一気に伏黒への警戒度が跳ね上がる。

 

「脳無!!ソイツを殺せぇ!!」

 

 死柄木の指示を受けた筈の脳無が一切動かない。脳無はただ1人、本能によってその気配に気づき恐怖していた。コレはダメだ。突っ込んではいけない。先に待つのは〝死〟だけなのだと。

 

 そして、脳無は警戒のあまり、思わず距離を取ってしまう。それを見兼ねた死柄木が激昂する。この時点での死柄木という男は精神面での成長が著しく遅いだけの子供大人だ。だからこそ、自身の思う通りに物事が上手く進まなければ、怒りを抑えきれずに激昂してしまう。

 

「どうした脳無!?さっさとこのガキを殺せよ!!お前は何も感じない駒の筈だろ!?」

 

 対オールマイト用に作られた化け物。それが恐怖する程の神将がその姿を形作っていく。どんどんと影はその大きさを増していき形を成していく。あと少しで、伏黒の個性の発動が完了し、その怪物の神剣が猛威を振るう。

 

 その直前でUSJの扉が大きな音と共に開かれる。

 

──ヒーローが現れた。

 

「もう大丈夫、私が来た」

 

 襲撃事件発生から、およそ20分が経過した頃。ついにオールマイトが到着した。

 

 オールマイトの登場。それに、伏黒を含めた全員の意識が其方へと向かう。生徒達にとっては希望、ヴィラン達にとっては絶望が現れた。

 

 それを見た伏黒はなんとかなったか、と安堵の息を溢すと個性を解除する。そして、今までのダメージによる疲労と安堵感からか、全身の力が抜けてその場に崩れ落ちる。

 

 オールマイトが動き出すと、次の瞬間には相澤先生、伏黒、を含めたその場に居た5人を回収して、広場から離れた場所へと移動する。そのまま5人を優しく地面へと降ろすオールマイト。それを見て礼を言おうとする伏黒。しかし、それを遮る様にオールマイトが謝罪を口にする。

 

「…すまない、伏黒くん。私がもう少し早く到着していれば!」

 

「大丈夫、ですよ…」

 

 そう言って、先の戦闘で受けたダメージと疲労から寝ようとする伏黒に1人の少女が走って近づいて行く。

 

 

────────────────────

 

 

「ッ!恵さん!!……ああ、良かった。生きてて本当に良かったですわ…」

 

 疲れで寝ようとしていた所を、百の声で強制的に起こされる。どうやら、俺について来ていたらしい。…流石に危険だから着いてこないと思っていたのだがな。

 

「よお…。そんなに、焦って、どう、したよ…?」

 

「だって、さっきの〝アレ〟は…」

 

 百の言っているアレとは、先程俺が脳無達相手に使おうとした摩虎羅の強制召喚だろう。

 

 俺の個性は摩虎羅の能力を使う事が出来る。それは既に一度、偶然使えた事からも明らかだ。だがしかし、俺は未だにその方法を分かっていない。そんな俺の個性は未だに謎が多いのだ。

 

 そして、今回発動しようとしたアレは最後の切り札だ。

 

 『呪術廻戦』本編において、伏黒恵は十種影法術の調伏の儀の特性を使い、裏技的に摩虎羅を召喚した。それと似た様に俺自身も摩虎羅を喚び出す事だけは出来るのだ。ただし、操る事は出来ない。召喚したら最後、自身を含む発動時に効果範囲に居た全ての者を殺し切るまでは止まらない。文字通り〝最後〟の切り札なのだ。

 

 そして、そんな切り札について俺は百に教えていた。だから、百は俺が死を覚悟した事を悟り、こんなに焦っているのだろう。大事な人を亡くすことの辛さ。それは、俺自身が痛い程に理解している。百には悪い事をしてしまった。…反省しなければな。

 

「…悪かった、な」

 

「生きていて、良かったですわ…」

 

 そう言って涙ぐむ幼馴染みに、少し笑ってしまう。すると、後ろの方から上鳴と、耳郎の声が聞こえてくる。

 

「おーい!八百万ー。伏黒運ぶの手伝うからさっさと此処から離れようぜ!」

 

「そうだよ!オールマイトが来たとはいえ此処は危険過ぎる」

 

 2人が俺の側によると、八百万が担架を2つ作り出すと、それぞれに俺と相澤先生を乗せて運び始める。相澤先生は緑谷、蛙吹、峰田の3人に運ばれていた。

 

 3人に運ばれながら俺は疲れに任せて今度こそ眠りに着く事にした。

 

「お前ら……ありがとな…」

 

 その言葉を言い終わると、今度こそ意識は深い闇へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回も読んでくださりありがとうございます。2話連続投稿となります。

お気に入り登録や評価、感想などを下さっていた方達には勝手に変更して申し訳ないです。

呪術廻戦とヒロアカの面白い作品もっと増えて欲しい。なんて事を考えながらも、もっと面白い二次小説になるよう頑張っていきます。

以上、作者の後書きでした。


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第八話 USJ襲撃事件─慴─

 

 

 

 先程まで戦いの繰り広げられていた広場では、オールマイトと3人のヴィランが相対していた。今にもぶつかり合わんとする程の雰囲気に、多くの生徒達が固唾を飲み、それを見守っていた。

 

 そんな状況でオールマイトは自身への不甲斐なさに、酷くキレていた。

 

「…全く己に腹が立つ。子供達がどれだけ怖かったか!後輩達がどれだけ頑張ったか!」

 

「助けるついでに殴られた…。フッ、国家公認の暴力だぁ」

 

 いつものヒーローとしての笑顔を浮かべる事なくヴィランへと向かっていくオールマイト。そんな彼とは違い死柄木は酷く楽しそうに、ニヤニヤとその不気味な笑みを浮かべて何事かを呟いていた。

 

「流石に速いや。目で追えない…。けれど、思った程じゃない。………やはり本当の話だったのかなぁ?弱ってるって話」

 

 先に動いたのはオールマイトの方であった。

 

 地面を蹴り、一気に加速したオールマイトはそのスピードと自身のパワーを乗せたクロスチョップを放つ。

 

CAROLINA SMASH(カロライナスマッシュ)!!」

 

 しかし、その攻撃は死柄木の指示によって壁になった脳無に完璧に防がれてしまう。続け様に放たれたオールマイトの打撃も全て防がれ、ダメージになっている様子はない。

 

「マジで全然効いてないなぁ!…なら──」

 

 そう言ってオールマイトは脳無の顔面へと打撃を打ち込むが、やはり効かない。

 

 一度後ろに下がりつつ距離を空けるオールマイトへと、今度は脳無が突っ込んでくる。しかし、距離を詰めて来た脳無へと自身から近づいて、懐へと潜り込んだオールマイトは両拳の連打を繰り出す。

 

「攻撃が効かないのはショック吸収だからさ。脳無にダメージを与えたいなら、ゆっくりと肉を抉り取るとかが効果的だねぇ。それをさせてくれるかは別として!」

 

 攻撃が効いている様子のない脳無をひたすら殴り続けるオールマイトを眺めながら、まるで自身の玩具を自慢でもするかの様に、脳無の能力をぺらぺらと喋り出す死柄木。

 

「わざわざサンキュー!そういう事なら、やりやすいッ!」

 

 それを聞いたオールマイトは脳無の背後へまわると、バックドロップを行う。自身よりも大きな脳無の肉体を抱えると、ブリッジの要領で後ろへと倒れながら脳無を地面へと叩きつける。

 

 大きな爆発音に似た音と共に、地面へと叩きつけた事による衝撃で砂が舞って広場一帯の視界が悪くなり中の様子が伺えなくなる。

 

 それを見ていた入り口付近の生徒達から歓声が上がる。オールマイトが来たのだから自分達は助かる、そう言わんばかりに希望を宿したその瞳でオールマイトが戦っている広場を見つめていた。

 

 

 

 しかし、緑谷だけがその場を不安そうに眺めていた。

 

「なんでバックドロップで爆発みたいになるんだろうなぁ…。やっぱ、ダンチだぜオールマイト!!」

 

「授業はカンペ見ながらの新米さんなのに」

 

 峰田と蛙吹の発言を聞きながら、緑谷は自身の中の不安を忘れ去るかの様に自分に言い聞かせる。

 

(殺す算段があるのかもしれない。それでも今、僕らは何を出来るでもないんだ!……むしろそうだ、人質にとられでもしたら足手纏い以下!ヴィランへの憶測よりオールマイトを信じるんだ)

 

 心の中でそう呟きながら、自身の胸の奥から湧き上がる不安を必死に抑える。大丈夫なのだと。自身の師であり、憧れでもある彼を信じるのだ、と必死に言い聞かせる。

 

「そんなクソヴィランなんかボッコボコにしちまえ!!」

 

「やれぇ!金的を狙えぇ!」

 

「みなさん!彼方の様子が気になるのは分かりますが、今は怪我人を運ぶのが先決ですわ!巻き込まれない様に周りへの注意は怠らずに!」

 

 野次の様な声援を飛ばす、上鳴と峰田を注意すると同時に警戒を忘れないように伝える八百万にその場にいた全員が真剣な顔付きに戻る。いくらオールマイトが来たと言っても、未だに襲撃犯達は健在なのである。油断は禁物なのだ。

 

 そんな周りとは違い、緑谷は未だに思考の海の中を彷徨っていた。

 

 緑谷は毎日、通学中にリアルタイムのヒーローニュースを見ているために知っていた、と言うよりも気づいていたのだ。オールマイトが既に活動限界まで個性を使い過ぎてしまっているという事を。

 

 そして彼はごく僅かな人間のみしか知らない、オールマイトの秘密を本人から聞いていた。オールマイトが傷によって活動限界が1日に約3時間程しか無いという事を。

 

(僕だけが知っている。オールマイトの秘密と、そしてピンチを……)

 

 

 

 煙が晴れる。そして現れたオールマイトの姿を見て誰もが言葉を失った。

 

 先程まで気配を消して潜んでいた黒霧によって、脳無の地面に突き刺さっている筈の上半身がオールマイトの足元から現れており、脳無のその左手はオールマイトの傷のあった脇腹に爪を立てていた。

 

「そ、そーいう感じか…」

 

 古傷を抉られ、ブリッジの体勢から動けなくなったオールマイトは脇腹の痛みに苦悶の表情と冷や汗を浮かべていた。彼は戦いが始まってから影を薄くして潜んでいた黒霧に気付けなかった。その原因は己への怒りによる視野狭窄か、はたまた……。

 

「コンクリに深く突き立てて、動きを封じるつもりだったのか?…それじゃ、封じれないぜ?脳無はお前程のパワーになってるんだから」

 

 オールマイトに訪れた絶体絶命の危機的状況。死柄木はそんな状況が酷く楽しくて仕方なかった。殺すべき対象のオールマイト、そんな彼をいとも容易く追い詰める事が出来たのだ。

 

 それだけで彼はこれまでに感じていた苛立ちを全て水に流してしまう程の愉快さに内心したり顔であった。

 

「いいねぇ、黒霧。期せずしてチャンス到来だ!」

 

 その声を聞いた黒霧はゲートを広げると、オールマイトをどんどんと中へと引き摺り込んで行く。逃れようと抵抗するオールマイトだが、傷を抉られ痛みで上手く力を出せず、さらに脳無にしっかりと抑え込まれてしまい、万事休すといった状況であった。

 

 死柄木達の作戦は言葉にすれば酷く単純で、オールマイト程のパワーと、ショック吸収を待つ脳無が抑え、その隙に霧の中で半端に留まった彼の身体をワープを閉じて引きちぎるという物であった。

 

 どんどんと沈んでいくオールマイト。このままでは──

 

 

 

 ──死んでしまう!

 

 そんな事実に思い至ってしまった緑谷。オールマイトの秘密をしり、彼のオタクであり後継者である彼だからこそ、気づいてしまった。

 

「蛙吹さん、担架持つの変わってもらっても良い?」

 

「ケロ?良いけど、なんで?」

 

 蛙吹の了承を得た緑谷は疑問に答える事はなく、広場へと近づいていく。

 

(嫌だ!嫌だよ、オールマイト!貴方に教えて貰いたい事が、まだたくさんあるんだ!)

 

 心の中で叫びながら走り出す。緑谷の頭の中で、約10ヶ月間のオールマイトと過ごした過酷なトレーニングの日々と、自身の人生が大きく変化した〝あの日〟の出来事が流れる。

 

 突然の行動にその場に居た全員が驚き、固まってしまう。

 

「ちょっと緑谷!?アンタどこ行くの!?」

 

「うぁぁぁぁ!!」

 

 叫びを上げて自身を鼓舞する。自分がオールマイトを助けるのだ!、という気持ちでオールマイトの元へと突っ込んで行く。

 

 しかし、現実とは常に残酷で甘くは無い。

 

 あと少しでこの手が届く。そう思った瞬間、黒霧が目の前に現れる。

 

 全力で走っていたため、躱す事は不可能。ここで終わってしまうのか、そうしてワープゲートの中へと全身が入る直前で、目前が爆ぜた。

 

「邪魔だ、デクゥ!!!」

 

 爆豪が黒霧を爆破し、その本体である鉄の鎧の様な物を掴んで地面に叩き付ける。

 

 また、オールマイトを抑えていた脳無は轟の氷結によって右半身を凍らされ、動きを封じられる。

 

「テメェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」

 

 脳無が凍らされた事により、力が弱まり抜け出す事に成功するオールマイト。ぎりぎりの所で、生徒達の応援が駆けつけたお陰で、九死に一生を得たオールマイトであった。

 

 脳無は凍らされ、黒霧は本体ごと抑えられて動けない。周りには優秀な雄英の生徒に、No.1ヒーローのオールマイト。完全に包囲されてしまった死柄木であった。

 

 

────────────────────

 

 

 そんな広場を眺めて、爆豪達が駆けつけた事により一安心だと、一息ついた蛙吹達は怪我人を運ぶため、入り口へと急ぐ。

 

 そんな怪我人2人を運ぶ4人に、入り口の近くにいた麗日達が気づく。

 

「おーい!梅雨ちゃーん!」

 

 そんな麗日の呼び掛けに気付いた4人は其方へと視線を向け、助けを求める。

 

「おーい!相澤先生と伏黒運ぶの手伝ってくれぇー!」

 

 それを聞いて、運ばれている傷だらけの2人が誰なのかに気づき、驚く。

 

 プロヒーローである、相澤先生と、クラスでも上位の強さを誇る伏黒がここまでボロボロになっているのである。それはつまり、相手にそれ以上の存在が居る事を意味している。

 

 自身達を襲って来たヴィラン達がどれ程の存在であったのかを改めて思い知らされるのであった。

 

「あれって……、相澤先生に伏黒くん!?」

 

「待っててくれ!今手伝いに行くー!」

 

 そう言って駆け出す砂糖と、それについて行く麗日達。怪我人の避難が一応完了するのであった。

 

 

────────────────────

 

 

「黒霧を、出入り口を抑えられた…。こりゃあピンチだなぁ?」

 

 そんな死柄木を尻目に爆豪は黒霧の首元を掴んで抑えながら、逃がすまいとヒーローらしからぬ脅しをかける。

 

「怪しい動きをしたと俺が判断したら、すぐに爆破する!」

 

 黒霧は実体部分である胴体を抑え込まれ、少しでも怪しい動きをすれば即その場で爆破によって、気絶させられるだろう。また、脳無もその右半身を轟に凍らされ、オールマイトも自由になってしまっている。

 

 今度は死柄木自身が追い込まれる事となった。しかし、特段焦った様子もなく、現状を語りながらも、手で隠されたその顔は未だに不敵な笑みを浮かべていた。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷。凄いなぁ最近の子供達は。恥ずかしくなってくるぜ!ヴィラン連合」

 

……やれ、脳無。

 

 死柄木が凍って動けない筈の脳無へと指示を出す。それだけで脳無はワープゲートから無理矢理上半身を出すと、その凍った右足を使って無理に立とうと動き出す。

 

 それを見ながら緑谷は、先の伏黒との戦いを思い出していた。

 

(………死柄木の指示で無理に動けるという事なんだろうが、何で無駄に使い潰す様な指示を出したんだ?何か、回復系の個性で、も…………)

 

「…そうだ、あの時!……オールマイト!あの脳無って奴、傷を再生する個性を持ってる!!」

 

「緑谷少年、本当かそれは!?」

 

 オールマイトからの言葉に慌てつつも、先程の伏黒と脳無との戦いであった事を説明していく。

 

「は、はい!さっき伏黒くんが脳無と戦ってた時、彼はショック吸収対策として、剣を使って攻撃してました。……でも、彼が切り落とした筈の足が何故か元に戻ってたんです!!」

 

 緑谷のその発言を肯定するかの様に、脳無の凍った右半身が崩れ、その断面から肉と骨が生え、肉体が元に戻っていく。そんなグロテスクな脳無を見て微かに、驚愕を露わにする轟達。

 

「奴の個性はショック吸収だけじゃなく、複数存在するという事か……」

 

「さっきの伏黒とかいうガキのせいでバレちゃったよ……。まあいっか。…そこの地味野郎の正解だよ!コイツはショック吸収だけじゃなく、もう一つ〝超再生〟って個性も持ってる」

 

 その言葉に全員が驚く。それも無理の無い事で、この世界において個性とは基本的に1人1つという特別な物だ。無個性やワン・フォー・オール、複合型個性などの特殊な物を除き、基本的には1つだ。それが、この脳無は2つも持っているのだ。普通の人間はまず驚くだろう。

 

「脳無はお前の100%にも耐えられる様に改造された超高性能サンドバッグ人間さ!!………まずは出入り口の奪還だ。行け、脳無」

 

 地面を蹴り加速する脳無。その圧倒的な速度で黒霧を抑えていた爆豪へと突っ込んでいく。

 

 そんな状況に爆豪は呆気に取られた。見えないのだ、脳無の速度が速すぎているのだ。反射神経の高さでいえば、クラスの中でもトップ3に入る程の爆豪ですら、その速さに目が追いつかない。何が起こっているのかすらも分からなかった。

 

 大きな爆発音がした後、其方へと意識を向ける爆豪。何かがおかしい。先程まで爆発音のした位置に自身は居た筈なのだ。それが一瞬で違う場所に座っていた。

 

 では、あの脳無の攻撃を食らったのは誰だ?誰が俺を庇った?俺が庇われた?

 

 そんな思考がぐるぐると爆豪の脳内を巡っていた。

 

「加減を知らんのか……」

 

 煙が晴れた先に居たのは、腕をクロスして脳無の攻撃を防いだオールマイトであった。

 

「仲間を助けるためさ。仕方ないだろ?さっきだって彼処の地味な奴が俺に殴りかかろうとしたぜ?他がために振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ?ヒーロー!」

 

 そう前置きをしてから滅茶苦茶な思想を語り出した死柄木。だが、その思想がただの嘘でしか無いのだとオールマイトにすぐに気づかれる。

 

 そんな悪を一刻も早く生徒達の前から退かすためにも平和の象徴(オールマイト)は立ち上がる。生徒達を危険から遠ざけるため、離れるように言うオールマイトだが、それは轟に断られてしまう。

 

 さらに、緑谷に制限時間すらも心配されてしまう。だが、ここはプロの現場であり、オールマイトはそんなプロの中でもトップに立つ男なのだ。

 

「プロの本気という物をそこで見ていなさい!」

 

(緑谷少年の言う通り、時間は残り1分と無い。力の衰えは思ったよりも早い!しかし、やらねばならない!………何故なら私は平和の象徴なのだから!!!)

 

「脳無、黒霧、やれ。俺はガキ共を抑える。………さあ!クリアして帰ろう!」

 

 USJ中央の広場でぶつかり合う平和の象徴(オールマイト)対平和の象徴(脳無)

 

 まずは1発、オールマイトが脳無の腹へと1発打ち込む。それに続いて高速のラッシュが始まる。互いの拳の速度はどちらもほぼ同じ。しかし、相手へのダメージは一緒では無い。オールマイトの方には少しずつダメージが蓄積されていく。

 

 その戦いの余波はとても多大な物で、その戦いを見ていた死柄木や黒霧が、生徒達に近づく事も出来ず立っている事すらキツい程の物であった。

 

 オールマイトはただ全力で脳無を殴っていた。1発だろうと、2発だろうと、100発だろうと、全てのパンチが全力であった。そのオールマイトのラッシュを見ていた緑谷は気づいた、全てが自身では1発が限度である100%以上の打撃であるのだと。

 

「おいおい、ショック吸収って、さっき自分で言ってたじゃんか」

 

「そうだな!だが──」

 

 そう言ってなおも高速の殴り合いは続く。

 

 伏黒と脳無の戦闘が霞んでしまう程の高速戦闘。それに誰もが目を奪われる。ある者は自身が目指したNo. 1という物の遠さを痛感させられ、またある者は、自身が目指すプロの本気の凄さに圧倒され、またある者は、自身が憧れた存在の戦う姿に余りにも遠いその背中に、さらに憧れて、各々が思いを抱いてその戦いを見ていた。

 

「──君の個性がショック無効では無く、吸収ならば!限度があるんじゃないか?!………私の100%に耐えるのならば、それ以上の力で捩じ伏せるだけだぁ!!」

 

 そう言って脳無を殴り飛ばすオールマイト。此処で初めて脳無が相手の攻撃のショックを吸収しきれずにその打撃で空中へと吹き飛ばされる。そんな脳無へと、地面を蹴り、跳んだオールマイトはある言葉を投げ掛ける。

 

「なあ、ヴィランよ。君はこんな言葉を知っているか!!」

 

 空中へと投げ出された脳無の腕を掴み、空宙で回転しながら投げ飛ばす。その後を追う様にまるで宙にある足場を蹴るように上空を蹴り、その衝撃波で加速して地面へと着地を果たす。

 

 脳無は再生が追いつかず、ショック吸収すらも意味を為さない攻撃の嵐にさらされ、ボロボロであった。そんな状態で地面へと叩きつけられ、完全に無防備な隙を相手へと晒してしまう。

 

──ヒーローとはピンチに陥いる事の多いものだ。常に死と隣り合わせの仕事である。それでも市民の平和のため、その度にピンチを乗り越え、ねじ伏せ、粉々に破壊して、何事も無いかのような笑顔で悪を倒さなくてはならない。そうやって進歩し続ける事でしかヒーローという職業は続けられない。

 

「……さらに向こうへ!Puls Ultra(プルスウルトラ)!!!」

 

 オールマイトの渾身の一撃によって、USJの天井を突き破って吹き飛んでいく脳無。平和の象徴対策としての駒が倒されてしまった。これによってヴィラン側の勝機はほとんど無くなったも同然であった。

 

「なんだよ!?全然弱って無いじゃん。アイツ、俺に嘘を教えたのかよ!!」

 

 そう言いながら自身の首を掻きむしる死柄木。その癇癪を抑えるように黒霧がオールマイトの負傷と今こそがチャンスなのだという事を語る。その言葉で冷静さを取り戻した死柄木はオールマイトへと黒霧と共に接近する。

 

 その状況で生徒達は棒立ちを決め込み、それを見ているだけだった。オールマイトが負けるなんて事はあり得ないのだと、彼の事情を知らないが故の楽観視。無知が引き起こしてしまう行動であった。

 

 しかし、緑谷は気づいた時には足を犠牲にオールマイトを守るために黒霧へと突っ込んでいた。全員の虚を突いた攻撃。先のオールマイトに匹敵するほどの速度での接近である。そこらのチンピラ程度のヴィランならば反応すら出来ずに終わるだろう。

 

「……オールマイトから、離れろぉ…!!」

 

 しかし、それにすら反応されてしまう。ゲートを通して死柄木の掌が緑谷の顔面を捉えようとする。触れられて仕舞えば最後、その顔はボロボロに崩れ去り死ぬだろう。

 

 そして、緑谷が目を瞑った瞬間──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──3発の銃声が鳴り響く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんよみんな、遅くなったね。至急動ける者を連れて来たッ!!」

 

「1年A組、飯田天哉。ただいま戻りました!」

 

 斯くして、雄英に所属する多数の教師──プロヒーローが駆けつけたのだった。

 

 

 

 

 

 

 





ここまで読んで下さりありがとうございます。
お気に入りや評価、感想、誤字報告など、いつもありがとうございます。執筆の励みになるのでありがたいです。
オリ主くんは睡眠中なので出番は無しです。取り敢えずUSJ襲撃事件を終わらせたい。次でアニメ一期は終わると思います。
以上、後書きでした。


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第九話 事件の終わり

 

 

 

 先生達が駆けつけた後、これまでの出来事が嘘だったかのようにあっさりと事件は収束した。死柄木は黒霧と共に脳無と他のヴィランを置いて逃走し、残されたヴィラン達も先生達の活躍により、ものの数分で戦闘不能へと追い込まれ、警察へと引き渡された。

 

 今はUSJの外の広場にて、警察主導の下、生徒達の確認が行われていた。

 

「……16、17、18…。両足重傷と、全身重傷だった彼等2人を除いてほぼ全員無事か……」

 

 そう言って、生徒達の人数確認を行なう塚内警部。

 

 確認が終了し、それを皮切りに生徒たちがざわざわと騒がしくなる。黒霧により分断されたため、生徒達はあまりお互いが何処でヴィランと戦っていたのかを把握していない。ましてや、通信が妨害されていたので尚更であろう。それゆえ、みなそれぞれが何処にいたのかや、そこでの状況などを話し合い、それぞれの気持ちを共有していた。

 

「僕がいた所はねぇ、何処だったと思う☆?」

 

「そうか、やはりみんなの所もチンピラ同然だったか……」

 

「ガキだと舐められたんだ」

 

「しかし、そのおかげで俺が1人で戦う事が出来たのも事実……」

 

「でもよ、中央でオールマイトと戦ってた奴らはヤバかったぜ!?伏黒もその内の1人にやられちまってよ…」

 

 今回の襲撃の際、1人だけ暴風・大雨ゾーンに飛ばされた常闇は孤独にヴィランと戦っていた。暴風と大雨による足元と視界の不良の中で、チンピラ同然とはいえヴィランを何人も相手取っていたのである。それだけで、常闇の戦闘センスの高さが伺えるだろう。

 

 1人だけ、無視されている者が居るがそんな事はもはや日常である。今更無視されるのなぞ、御愛嬌だろう。

 

「とりあえず生徒らは教室へ戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」

 

 部下との話し合いを一度終えた塚内警部は生徒達を教室へと返そうと指示を出す。しかし、そんな彼に蛙吹が相澤先生の安否を確認する。

 

 襲撃事件による最終的な怪我人は、相澤先生、13号先生、オールマイト、伏黒、緑谷の計5人である。そしてその内の3人が病院へと搬送され、治療を、受けていた。

 

「あの、相澤先生は……」

 

「彼なら、両腕粉砕骨折、顔面骨折とかなりの重傷だが、幸いな事に脳系の損傷は見受けられなかったそうで、後遺症も特に無いとの事だったよ」

 

「ケロ……」

 

 伏黒が途中で脳無から相澤先生を助け出した事により、後遺症が残る程の怪我は無かったのである。伏黒の無謀な戦いは、ある意味で無駄では無かったのであろう。

 

「あ、あの、恵さん達の容態は……」

 

 塚内警部の話を聞いていた八百万などの生徒達が詰め寄る様に、彼に他の怪我人の状態を尋ねる。

 

「恵?……ああ、伏黒くんか。彼は、身体の至る所を骨折していたのと、肋の骨にヒビが入っていたそうだが、命に別状はないそうだ。13号の方は背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし。オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能との事で保健室へ」

 

「デクくんは……」

 

「緑谷くんは……!?」

 

「緑……ああ、彼も保健室で間に合うそうだ」

 

「「良かったあ……」」

 

「私も保健室の方に用がある。三茶!後は頼んだぞ!」

 

 怪我人全員が命に別状がない事を聞いて一安心した生徒たちは塚内警部の指示に従い、教室へと帰って行った。そして、指示を出した本人も用のある保健室へと足を進めるのだった。

 

 

 

 夕暮れ時、保健室にて、オールマイト、塚内警部、リカバリーガール、緑谷の4人が話していた。

 

 オールマイトが1年A組の生徒達のこれからの成長を確信している時、病院へと搬送され、治療を終えた伏黒は──

 

 

────────────────────

 

 

──夢を見ていた。

 

 家族4人で楽しく過ごしている夢だ。

 

 プロヒーローになった俺の活躍をテレビで見て、楽しそうに談笑している姉貴と両親。そんな3人を見て幸せを噛み締める様に微笑む自分。そしてそれを見ていた姉貴と両親がいっそう楽しそうに笑い出す。

 

 ごくごくありふれた日常のひとコマの様な景色。

 

 そんな絶対にあり得ない存在しない記憶。何かが違っていればあり得たかもしれない未来。

 

──そんな夢もすぐに崩れ去る。

 

 何者かによって引き裂かれたのである。

 

 後に残ったのは何もない真っ暗闇。まるで影の中にいるかの様な暗闇、そんな空間だけが残った。

 

 そんな暗闇の中で、自身の視界の先に誰かが居る事に気づく。

 

 そのシルエットに見覚えがあった。右腕に装着された一振りの剣と、背後に浮かぶ法輪。常人の二周り以上の大きさをした筋骨隆々な肉体と、後頭部から背中にかけて流れる様に伸びた蛇の尾。

 

 それは摩虎羅であった。

 

 此処はいったい何処なのか?何故こんなところに摩虎羅が居るのか?何故、何故、何故……。

 

 そんな分からない事だらけの状況に置かれ、思考の渦に呑み込まれる。

 

 思考で完全に動きを停止してしまった俺とは裏腹に摩虎羅は此方の方を向くと、ゆっくりと歩き出す。

 

 摩虎羅の腕が俺に触れる程の距離にまで近づくと、俄に摩虎羅の右腕が動き出す。すると、そのまま俺の腹を貫いた。

 

 あまりに突然なその行為に、目の前の存在へと顔を向ければ何かを伝えたいかの様に此方を見て首を横に振っていた。

 

 俺はそれが何を意味しているのかを理解する事なぞ出来るはずもなく、そのまま意識が遠のいていく感覚に身を委ねた。

 

「ごめんね恵、いつか話せる時が来るから。…………いつも近くに居るからね…」

 

 

 

──意識が浮上する。

 

 ふと、目が覚めて視界に入ったのは先程までの真っ暗闇の世界とは真逆な白い天井。それは何処か見覚えのある天井であった。

 

 あ、これ病室だわ…、と一瞬で理解した俺はゆっくりと上半身を起こす。

 

 すると、全身にこれ以上ない程の痛みが奔り、思わず歯軋りと共に小さな呻き声が口から漏れる。

 

 この痛みはおそらく、器のキャパ以上の呪力を肉体に流して無理に酷使していたからか、それともあの脳無にやられた傷がまだ痛むのか、それともその両方か。

 

 などと考えながら、窓に反射して映る自身の姿を見てみれば、そこには包帯がぐるぐるに巻かれた1人の男が写っていた。

 

 外から差し込む光も既に茜色になっており、今が夕暮れ時である事を示していた。

 

 そんな夕日によりオレンジ色に染まった病室を見渡しながら考える。

 

(俺が病院に居るって事は、なんとか助かったって事か……。まぁ、オールマイトが来てたんだし当たり前か。…それにしても、俺って結構自惚れてたのかもな………。雄英高校に次席で合格したことといい、その後の戦闘訓練での圧勝といい、最高峰でもさらに上に位置していたからこそ、俺はプロの世界でも通用出来るかも知れない、と何処かで自惚れてたんだろうな………)

 

「……情けねぇ…」

 

(俺は誰かを救えるのだと、守れるのだと、そういう慢心が無かったと言えば嘘になる。そうだ、誰かを守る事が簡単な事じゃないなんて、痛い程に身に染みている筈なのに…………クソッ、こんな強さじゃ誰も守れやしねぇ、もっとだ。もっと強くならないと)

 

 そうだ、伏黒恵(おれ)という人間はヒーローにならなくちゃいけないんだ。誰かを救って、誰かを守って。

 

 そのためには強くならなければならない、誰にも負けない程に、もっと強くならないと。今よりももっと、もっともっと、もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっt──

 

「伏黒さーん、失礼しま、ッ!?お、お目覚めになられてたんですね!?!?」

 

「……あ、はい。ども」

 

 危うく変なドツボにハマるところだった思考が、看護師さんの声により逸れる。危ないところを看護師さんのおかげでギリギリまともな状態に戻ってこれた。

 

「……み、見られてないよね?大丈夫だよね?お、おはようございます!お体の方、何か違和感とかございますか?」

 

「いえ、特には…」

 

 俺は何も聞いていないし見ていない。そうだ、変な独り言を喋りながら見るからに怪しい動きで病室に入ってきた看護師さんの存在なぞ俺は知らないし見ていない。

 

「まあ、先生の治療はしっかり終わってますし、違和感なんてある訳ないんですけどね!」

 

「じゃあ、なんで聞いたんすか……」

 

 とてつもなくイラつく看護師さんだった。本当になんでそんな質問したんだ。ウザ過ぎて殴りたくなってきた。

 

「いやぁ、定型文ってやつですよ〜、気にしちゃダメです!」

 

「あぁ、はい……そっすか…。まじなんなんだこの人…頭痛くなってきた………」

 

 しばらくこの人と喋っていて分かった事があった。俺はこの人のテンションについて行けないという事である。

 

 正味話すにつれてどんどん疲れてきた。そのせいなのか知らないが体の力が抜けてベッドに倒れ込み寝転ぶ。それを見た看護師さんは急に真面目な顔付きになり、語り出す。

 

「疲れが出ちゃったって感じですね。詳しい事情とかは、明日先生から聞くと思いますから、今日はそのまま寝ちゃって下さい。治療が終わったとは言え、まだ怪我人なんですから無理は禁物ですよ。……それではおやすみなさい伏黒さん」

 

 そう言って看護師さんは扉を開けて病室から出て行った。

 

 あの人何のためにこの部屋に来たのだろうか。俺と喋った後にそのまま帰っていってホント何なのだろうか。

 

(……ホントなんなんだあの人)

 

 そんな思考を最後に眠りについたのだった。

 

 

 

 そして翌日目が覚めた俺は担当の先生から怪我についてと、今日様子を見て大丈夫そうなら明日の朝には退院出来るのだという説明を受けた。

 

 その後、俺は見舞いに来た上鳴、瀬呂、切島、芦戸、耳郎の5人と何故か病室でハンバーガーを食べていた。

 

「──で、なんでマ○クなんだよ」

 

「まあまあ良いじゃねぇか」

 

「俺、怪我人なんだが?」

 

「こういう時こそガッツリ食う方がイイじゃん?」

 

「俺、入院中なんだが?」

 

「看護師さんとかにバレなきゃ問題ナシよ!」

 

 周りの奴らと喋りながらもそもそとハンバーガーとポテトを頬張る。正直昨日の昼からまともな物を食べていないので死ぬほど美味しい。病院食についてはノーコメントだ。

 

 なんて事を考えていると耳郎が心底疑問だという風に上鳴に問いかける。

 

「それにしても、上鳴はなんでマッ○にしたわけ?バレたらヤバくない?」

 

「それにはとっても深ーい理由があるわけよ」

 

 そうなのか。どんな理由なのか素直に気になるところだ。別にお見舞いの品なぞ不要なのだが、明日退院出来るし。でもまあ、善意での行為なので口には出さず、素直に受け取っておく。

 

「ほら、相澤先生が最初の時に、『放課後マックで談笑したかったのならお生憎……』って言ってたじゃん。だからさ、お見舞いに乗じて、放課後じゃねえけどマック食いながら談笑すれば良いんじゃね?って思ったわけよ。その方が伏黒も気が楽かなって思ってよ」

 

「それあんまし深く無いじゃん」

 

「俺的には深いの!!……そんな事を言うなんて、お母さん悲しいわ耳郎ちゃん」

 

 そう言ってオヨヨヨと変な泣き真似を始めた上鳴の頭を耳郎が容赦なく叩く。スパーン!という小気味良い音がなり、上鳴の頭から煙が上がる。

 

「ふざけたのは悪かったけど叩く事ないじゃん!さらにバカになったらどうすんだ!?」

 

「アンタはそれ以上バカになる事は無いんだから安心しな」

 

 そんな2人のやり取りを眺めながら、先程のツッコミのあまりの威力に顔が引き攣る。流石にその威力は上鳴が本当に余計バカになるのでは?と変な心配をついついしてしまう。

 

 まあそれでも、ここまで自身の事を考えてお見舞いに来てくれた上鳴達には感謝の念しかない。

 

「……その、お前らありがとな…」

 

 そう言ってソッポを向いてしまう。やはり照れてしまうのは仕方ない様な気がしないでもない。

 

「「「照れたな」」」

 

 全員がニヤニヤしながら、そう言ってこちらを見つめてくる。恥ずかしいから非常にやめてほしい。

 

 生ぬるい視線と恥ずかしさに耐えきれず、俺が倒れたあの後何があったのかを訊ねて無理やり話題を変える。

 

(((あ、無理やり話題変えた…)))

 

「もうさ、オールマイトが凄かったんだよ!? 1人でとんでもない化け物みたいなヴィランをぶっ飛ばしちゃってさ!それに、飯田が先生を引き連れて戻って来た時はアタシ泣きそうだったよ!」

 

 そう興奮しながら語る芦戸。それほどオールマイトの戦いは凄かったのだろう。プロの中でもトップの戦いを身近で見れたというのは中々ないとても貴重な体験だ。正直、俺も見たかった程だ。

 

 その後も他の轟や尾白に、切島などの他の場所に飛ばされた奴らがどう戦っていたのかや、先生が駆けつけてからの大まかな状況を聞いたりしていた。すると、切島が俺に、脳無がどんな奴だったかという質問をしてくる。

 

「脳無がどんな奴だったかぁ??」

 

「ああ。伏黒は直接脳無と戦ったんだろう?やっぱり見てるのと実際に戦ってみたのとでは全然感じ方が違うと思うんだ」

 

「……そうだな、正直あれは俺達生徒じゃ全く歯が立たないと思う。それくらいには強かったと思う。でも、相性次第じゃそうでもない。轟なら凍らせて終わりだと思うしな。………相性次第とはいったけど、俺が何よりヤバいと思ったのは、アイツ人間みたいな形は保ってたけど戦い方というか、意識が人じゃなかった」

 

 脳無の恐ろしかった所はそこなのだ。普通の人間を相手にしている、なんて認識をしていると足を掬われてしまう。再生系の個性とおそらく肉体を弄り回されたであろうフィジカルと、存在しない自我。これらが合わさっている事により、腕を切り落とされようと、足を切り落とされようと、止まる事のないバーサーカーとなっているのだろう。

 

「脳無はさっきお前らから聞いた話からも分かるけど、再生系の個性を持ってた。んで、普通の人間が脳無の様に再生系の個性を持ってたとしても、自身が傷付く事への恐怖で躊躇する筈なんだ。けど脳無はそれが一切無い。俺が足を切り落とした時も次の瞬間には再生して動いてた」

 

 ここまで色々と語ったが、俺の感じた事を述べた所で何か意味があるのだろうか、なんて思ってしまう。俺が今語った事はあの場で脳無を見ていた奴らなら誰でも思いそうな事ではないだろうか。なんて考えていると。

 

「ここまで俺の質問に真剣に答えてくれてありがとな。………俺は伏黒をスゲェ奴だと思ってる。あんだけ強いのもそうだけど、1人であんな強えヴィラン相手に相澤先生助けて、1人で命張って戦ってたなんて誰でも出来る様な事じゃねぇ。それに俺は今回の事件何も出来なかったから尚更だ……。お前はホントに〝漢〟だと俺は思う」

 

「「「切島………」」」

 

 まさか切島がこんな事を思っていたとは知らなかった。でも、やっぱりそうだよな。みんな何か悩みを抱えて生きているんだ。

 

「正直俺も切島とおんなじだわ。13号先生が目の前でワープ野郎にやられて俺はなんも出来なかった。俺はヒーロー志望の人間として死ぬ程悔しい……」

 

「アタシも一緒!アタシも、ただ見てるだけしかできなかった。そんなのヒーローを目指す者としては最低だよ!」

 

 そう言って口々に悔しさを語る切島、瀬呂、芦戸の3人。やはり、今回の事件で悔しさや自身の不甲斐なさを感じた者は俺だけでは無いのだろう。いや、クラスの奴らほとんど全員なのかもしれない。それぐらい俺達生徒にとっては大きな経験だった。

 

「こっからだな。この悔しさを忘れずに強くなる。それでしかこの気持ちは晴れない。俺は成すべき事のために強くなる……」

 

 そんな俺の言葉にどんどんと同意の言葉が重なっていく。俺も、アタシも、俺も、俺も、ウチも、と聞こえてくる声に、良い学友を持ったものだと意味もなく感慨に耽っていると……。

 

「あら、恵さん?他に誰かおりますの?……入りますわよ?」

 

 そんな幼馴染みの声が扉の前から聞こえてきた。

 

 そして、扉が開き声の主が部屋のベッド周りでマックを食べながら熱く語り合っていた俺達を目にした瞬間、幼馴染みが爆発した。

 

「ちょっとアナタ達!?何を食べておりますの!!ここは病院であり、恵さんは怪我人ですわよ!?……あ、ちょっと!待ちなさい!?」

 

 百が怒りの声を上げながらベッドへと近づいてくる。その声を聞いた上鳴達は「ヤバっ!?」と呟くとゴミを集めカバンにそれを突っ込むと、そそくさと扉から逃げる様に出ていってしまった。出て行く着前に、芦戸と耳郎が、あとはお若いお2人でごゆっくりー、とニヤつきながら言っていたのを俺は見逃さなかった。

 

 もはや打ち合わせをしていただろ、とツッコミたくなる様なスピードで帰っていったあの5人は後日絶対ぶん殴るとして、今は幼馴染みの相手をしなければならない。

 

「──まったくもう!聞いていますの恵さん!?」

 

「ああ、聞いてる聞いてる」

 

 それにしても百が直接お見舞いに来るとは思っていなかった。いや、そもそもアイツら5人が見舞いに来た事すらも予想外だった。今時個性や、科学技術の進歩により怪我による入院というものが殆どなくなった現代なのだ。普通に考えてお見舞いには来ないだろう。それでも此処に来たアイツらといい百といい、本当に良い奴ら(ぜんにん)なのだろう。

 

 なんて長々と考えて、目の前で喋っている幼馴染みの言葉を聞いていなかったのが仇となってしまったのか、百をさらに怒らせてしまう。

 

「ちょっと恵さん?先程からボーっとして、聞いていますの?」

 

「……あ、あぁ」

 

「……むぅ、もう怒りましたわ!そこに正座なさい!!アナタはいつもそうです!!人の話を聞いている様で無視して、(わたくし)がどれだけアナタの事を思って言っているのか理解しておりますの!?」

 

 あーやらかしたなぁ、と考えてながらも正座して、百のお説教を甘んじて受け入れる。今回は完全にこちら側に落ち度があるので仕方ない事だ。足が痺れて来たがあまり考えないようにして意識から外す。

 

 

 

 それから約10分程の間、その病室にはお淑やかな少女の怒声が響いていたという。

 

 そんな病室の扉を少し開けて、ニヤニヤと気持ち悪い顔をしながら病室の中を覗いている看護師が居たとか居ないとか。

 

「若いって良いなぁ〜、青春だなぁ〜」

 

 

 

 

 

 




看護師さん:名前とかは特に考えてない。なんか生まれたキャラ。


今回も読んで下さりありがとうございます。
お気に入りに登録、誤字報告やら色々とありがとうございます。励みになります。
漫画読んでたら前回から2週間近く経ってました。恐ろしいね。ホントにごめんなさい。
この夏からはしっかり勉強しろ!と怒られたので失踪します………多分。
以上、作者の後書きでした。



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第十話 地元じゃ負け知らず

 

 

 

 朝と昼の合間ぐらいの時間である11時頃。俺は八百万家で働く執事の運転する自動車に揺られながら雄英高校へと向かっていた。

 

「雄英高校までもうすぐですよ、坊ちゃま」

 

「分かりました、羊次郎さん。あと、坊ちゃまはやめて下さい。恵で良いって、いつも言ってるじゃないですか」

 

「ホッホッホ。最近、また物忘れが酷くなりましてな。次から気をつけますよ、坊ちゃま」

 

「揶揄わないで下さいよ」

 

「老ぼれの冗談はお気に召しませんでしたかな?()()()

 

 なんて、執事である羊次郎さんと話すこと数分。雄英高校の大きな校門が見えて来た。

 

 先程、病院にて担当医の先生から退院の許可を貰い、百の家に帰った後、学校の支度を済ませて車に乗り今に至る。

 

 何故、百の家に自身の荷物などがあるのかというと、それは昨日の事である。

 

 

────────────────────

 

 

 百に散々怒られた俺は、痺れた足に悶絶しながらベッドの上で百と雑談に花を咲かせていた。

 

 そんな折の事である。

 

「そういえば、恵さんに言わなければいけないことがあったのでしたわ」

 

 そう言う百に首を傾げながら続きを促すと、とんでもない事を口走りやがった。

 

「恵さんのお家の事なのですが、今まで使っていた部屋は解約しておきましたわ」

 

「……え?」

 

 突然、自身が住んでいた賃貸の部屋を解約されたと告げられた。いきなり顔面を殴られたかの様な衝撃に見舞われた気がした。

 

「ど、どう言う事だ?」

 

 流石に住む家がなくなるのはまずいだろう。というか、何故幼馴染みはこんなとんでもない事をいきなり言ってきたのであろうか。ましてや本人の承諾なく解約って酷いと思うのだ。

 

「そのままですわよ?今日から恵さんは私達と同じ家で暮らすことになるんですのよ」

 

「ですのよって……。荷物は?解約金は?どうせ解約予告なんて事してないんだろ?」

 

「今日中に荷物は全て家の部屋に運ばれますわ!解約金もしっかりと払っていますのでご安心ください!」

 

 色んな意味で痛くなってきた頭を抱えながら百に問いかけると、さも当たり前だと言うかの様に胸を張りドヤ顔をかます。

 

「最初からそう決めてましたのよ?一人暮らしは、恵さんが遠い中学校に通っているという理由からなのですから、同じ雄英高校に進学した以上マンションで暮らす必要もありませんでしょう?」

 

「確かに……」

 

 ぐうの音も出ない正論をくらい無理矢理に賃貸を解約された事を納得してしまう。

 

 結局、千蔵さん達も喜びそうだしそこまで文句がある訳でもないので、そのまま別の話題に変え雑談を楽しんだのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 という事があり、俺の荷物は全て家に運ばれているというので、百の家に帰っていたのだった。

 

 昨日の事を思い出しているうちに雄英高校に到着したようで、校門の前で停車し扉が開く。羊次郎さんにお礼を言ってから別れ、靴を履いて相澤先生の下へと向かう。

 

 なんと驚くべきことに俺よりも酷い怪我を負っていたはずの相澤先生は既に退院しており、一足先に学校に戻り教師としての仕事をこなしていたらしい。プロとは凄いものだ。

 

 しばらく歩く事数分、職員室に到着する。

 

 朝のホームルームで色々と連絡事項があったらしく、その連絡と相澤先生から話したい事があると言われていたために、学校に来てすぐに相澤先生の下へと向かっていた訳である。連絡事項とやらは大体の予想はつくのだが、もう一つの話したい事というのが皆目見当も付かない。

 

 職員室の扉を開き、用のある相澤先生を呼び出す。

 

 すると奥の方に佇んでいたミイラの様な人物がこちらへと向かってくる。おそらくそのミイラが相澤先生なのだろう。

 

 それにしても、酷い状態である。ここまでの怪我を負っておりながら、後遺症が残らなかったのが救いといったところだろうか。

 

「ども、おはようございます」

 

「ああ、おはよう問題児2号(ふしぐろ)

 

 心なしか自身の名前を呼ぶ声に、何か不名誉な意味合いが込められていた様な気がしたが、特に気にせずに続ける。

 

「その、傷は大丈夫なんですか?そんな包帯でミイラみたいになってますけど…」

 

「問題ないよ。それよりも色々話したいこともあるし、給湯室まで付いて来い」

 

 そう言って歩き出す相澤先生を眺めながらもしっかりとその後ろを付いて行く。

 

 何故か今日の相澤先生からは、チクチクと肌を刺すような威圧感を感じる。今からするのは相当真剣な話なのだろう。

 

(何かやらかしたか?全くわかんねぇな…)

 

 先程チラッと職員室にて時計を確認したところ、時間はそろそろ12時を回るところであった。あと40分とせずに昼休みに入る様な時間である。他の生徒達は4時間目の真っ最中であろう。

 

「…ここだな。まあ、そこのソファにでも腰掛けてくれ」

 

 そんな相澤先生の言葉で部屋に着いた事に気づく。見た感じ普通の休憩室のような場所である。2人掛けのソファが2つ向かい合う形で配置されており、その間に膝の高さ程のテーブルが設置されていた。

 

 相澤先生と対面する形で座り、目前の何を考えているのかイマイチ分からない担任へと目を向ける。

 

「さて、まずは一昨日にあった襲撃事件の話からするか」

 

 重い口を開くかのようにゆっくりと話し始める相澤先生。その言葉に意識を向ける。

 

「あの日、お前が俺を助けた後の事について詳しく聞きたいことがある」

 

 その言葉にゴクっと生唾を飲み込む。先程から威圧感が物凄いのだ。冷や汗もダラダラと流れている。今から本気の戦いでも起こりそうな勢いである。

 

「俺を助けてくれた事は凄く感謝してる。でも問題はその後の行動だ。……お前、なんで死のうとした?」

 

「それは……」

 

 思わず息を飲む。

 

 相澤先生のその言葉は本来なら何を言っているのか要領を得ないものだが、それが俺には分かってしまった。心当たりがあったからだ。もしかしなくても摩虎羅の事だろう。

 

「……百から聞いたんすね」

 

「悪いな。お前が個性届けに書いていない事だったし、八百万から聞かせてもらった。お前の過去の事も色々な。勿論言いふらすつもりはない」

 

「そうですか。………あの時、アレを使おうとしたのは、それが最善だと思ったからで、それ以上でもそれ以下でもありません」

 

「最善ね。結果的にオールマイトが間に合ったからお前は生きてるが、もしそのまま摩虎羅とやらが解き放たれてたらどうなってた?お前が死んだ後、残された奴らはどう思う?」

 

「…………」

 

 何も言えなかった。結局アレは自分が弱かったからこそ使わざるを得なかった技であり、アレが最善であるのかと改めて考えればそうとも限らない。

 

「その様子だと、反省点は理解してるようだな。俺から言うことがあるとすれば、そんな簡単に自分の命を手放そうとするな。お前と緑谷の問題児2人は、自分の命を勘定に入れてないだろ?」

 

 そう言うと、相澤先生はこちらへと身を乗り出しながら個性を発動させる。目が赤く染まり髪が逆立つ。ギラギラと赤光を放つその瞳の中に俺を捉えながら額にデコピンを放つ。

 

「いいか?命の価値を履き違えるな。お前がヒーローを目指すのなら、まずはお前自身を救え。自分自身の命を軽く扱うな。取り残された人間がどれ程辛い思いをするのか、それが分からないお前じゃないだろう?だからこそ、それができないのであれば俺はお前に退学処分を下す。ヒーローになりたいのなら死ぬ気で強くなれ」

 

 圧倒されていた。その言葉の重みが違った。今までの冷めたというか、あまり生徒に興味の無さそうに感じた立ち振る舞いとは打って変わり、まるで炎の様な熱を持った言葉。それが自身の脳内で響き続けていた。

 

「とまあ色々語ったが、まずは目先の出来事からだ」

 

「何か、あるんですか?」

 

 未だに先程の言葉を反芻している中で、相澤先生の言葉に相槌を打つ。

 

「雄英体育祭が例年通り開催される。ヴィランによる襲撃もあったが、雄英高校の対応は依然変わらない。そして、体育祭はプロのヒーローも多く見に来る。自己アピールの場としてはまたとない良い機会だ。まずはそれを乗り越えろ。『Plus Ultra!!』だ。気張れよ問題児(ふしぐろ)、俺達教師はいつだって生徒を見てる。次は無いと思えよ」

 

「うす」

 

「じゃあ、話はこれで終わりだ。そろそろ昼休みだろうからちゃんとクラスの奴らと話しておけよ。緑谷なんかはお前のこと結構心配してたからな」

 

「分かりました…」

 

 そう言ってソファから立つと扉を開け、給湯室を後にするのだった。

 

(あの時、夢で見た過去の記憶。アレに摩虎羅の力を引き出すヒントがあった。体育祭まで残り僅かだ。それまでに少しは物にしたいな………)

 

 こっからだ。もう自分の命を犠牲に他の命を救うなんて自己犠牲はしない。これからは自分も周りも、俺は不平等に人を救けるだけだ。そのためにも強くならなければならない。自分の憧れた優しいヒーロー(あねき)との約束のためにも。

 

 課題は山積みだ。未だ摩虎羅の力を全くと言って良い程引き出せない自分には程遠い未来の姿。それを現実にするためにもここからさらに進化し続けなければ、適応し続けなければいけない。

 

 そう考えながらチャイムの音を背に教室に向かうのだった。

 

 

────────────────────

 

 

 午後の授業も終わり、迎えた放課後。

 

 昼休みは緑谷など、色んな奴から怪我などを心配されたりしながら喋って過ごし、午後のヒーロー基礎学などはしばらく安静のために見学し、今日の日程を片付けた。

 

 荷物の準備も終わりいざ帰ろうかとしたところで、廊下が騒がしい事に気づく。ふと廊下の方を見てみれば大量の生徒で埋め尽くされており、その生徒達は此方を好奇の目で見ていた。

 

「なんだありゃ……?」

 

「なんだよアレはよぉ!?出れねぇじゃねえかよ!!」

 

 そう言って抗議の声を上げる峰田の横を爆豪がさもなんでもない事かの様に歩いて人集りの方へと歩いていく。

 

「敵情視察だろ雑魚。ヴィランの襲撃を耐え抜いた連中だもんな」

 

 確かにそうだ。俺たち1年A組はヴィランによる襲撃を受けるも死者0人で耐え抜くという今までにない経験をした。それは他の者からしてみればそれは興味の対象だ。また、体育祭が近いのだから自然と警戒して情報が欲しくなるというものだ。身近にプロの世界を肌で味わった者達がいるのだからこうなるのも仕方ないのだろう。

 

「体育祭の前に見ときテェんだろ。そんな事しても意味ねぇから。どけモブ共!」

 

 さっさと帰りたいがために道を開きそうな爆豪の後ろへと着いていく。が、いきなり廊下の、群集から出てきた1人の生徒によって歩みを止める。

 

「おい、止まるなよ。後ろがつっかえる」

 

「ああ!?うっせぇわ、ウニ頭が。怪我人がでしゃばんなや!!」

 

「早く帰りたいだけだ」

 

「俺の前を歩こうとすんじゃねぇよ!!」

 

 それは理不尽過ぎないだろうか。流石にそんな事を言われたらどうしようもない。やはりこの男、理不尽と自尊心の塊の様な男だ。あと俺の名前を全然呼んでくれない。

 

 なんて話していると、その前に出てきていた紫色の髪を逆立たせて隈のある男が何かを言い出した。

 

「噂のA組。どんなもんかと見に来たら、随分と偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴はみんなこんななのかい?」

 

 そんな言葉にクラスの奴らが一斉に首を横に振り出す。流石に爆豪1人のせいでクラス全員がああだと思われるのは嫌らしい。ちなみに俺も嫌だ。

 

「こういうの見ちゃうと幻滅するなぁ。……普通科とか他の科ってヒーロー科落ちたから入ったって奴結構居るんだ、知ってた?…そんな俺らにも学校側はチャンスを残してくれてる。体育祭のリザルトによっちゃあ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ?」

 

 その言葉に何人かは驚いて固まっていた。

 

「敵情視察?少なくとも俺は、いくらヒーロー科だからって調子に乗ってっと足元掬っちゃうぞっていう宣戦布告しに来たつもり」

 

 普通科にも爆豪みたいな敵を作るタイプの人間はいたらしい。でも、どっちかっていうとこの普通科の奴は打算的な考えで敵を作っている様に感じられた。

 

 爆豪とその普通科の奴が睨み合いを続けること数秒、先に動いたのはそのどちらでもなく別の生徒だった。

 

 そいつは先程宣戦布告をした生徒に近づくと焦った表情で喋りだした。

 

「バカ、やばいって心操。なに伏黒さんに喧嘩売ってんだよ!?」

 

 その言葉が放たれた瞬間空気が凍りついた。

 

(((伏黒さん……?)))

 

 一瞬の静寂の中クラスの殆ど全員の視線が此方に突き刺さる。あの爆豪ですらこっちを見ていた。

 

 一瞬の間を起き上鳴達が此方へと近づいてくる。件の普通科の生徒は相手が言っている事の意味が理解できないのか、要領を得ない返事をしていた。

 

 腕を引っ張られ周りを厄介な奴らに囲まれてしまう。

 

「へいへい、伏黒く〜ん。君、同級生にさん付けで呼ばれるって何したのよ〜??」

 

 そう言って此方に問い詰めてくる上鳴たち。

 

「中学生の頃かなぁ?それとももっと前からかなぁ?何してたのよ〜?」

 

 ここぞとばかりに聞いてくる。流石にこれをいうのは憚られる。先程野蛮な爆豪な普通科の奴に色々言われたばかりだ。それにこれは黒歴史の様なものだ。あまり人には言いたくない。

 

「伏黒くん、なんか他の何人かから怯えられてないかな?」

 

 緑谷が核心を突く一言を放つ。そう、入試の時にもそうだったが俺は中学の時の同級生から恐れられている。

 

「吐けぇ!吐くんだ、何をやらかした伏黒ォ!?」

 

 そのメンツに峰田まで乗ってくる。俺の周りは色々とカオスな事になっていた。正直このままでは解放されなさそうだったので仕方なく言うことにした。

 

「……ボコってた」

 

「よく聞こえないななぁ?伏黒くーん!?」

 

「中学生の頃、ヤンキーとか纏めて全員ボコってた………」

 

「「「……え?」」」

 

 俺のその言葉で今度こそ全員がフリーズした。

 

「これマジなの?」

 

 上鳴が先程からビビっている普通科の生徒に確認をとる。すると、その生徒は物凄い勢いで頷くと詳しく話し出した。

 

「俺らの中学、伏黒さんにヤンキーとか荒れてた生徒は全員ボコされてます……だから、正直怖くて関わりたくないっす……」

 

 黒歴史がバレたことにより恥ずかしくて他所の方を向いて俯く。俺は今、死にたくなるほどの羞恥心に襲われていた。忘れたくてたまらない黒歴史である。百にも黙っていたほどだ。

 

「爆豪よりヤバい奴がすぐ側に居たな」

 

 切島のその言葉に周りの奴らが一斉に顔を縦に振る。流石に今は変わっているからやめてほしいところだ。

 

「あの爆豪と一緒にするのはやめてくれ、流石に今はもうやってない」

 

「あぁん!?あのってなんだクソが!!」

 

「色々あって荒れてる時期だったんだよ、本当に黒歴史だからやめてくれ……」

 

 そう言って両手で顔を隠す。あまりの羞恥心に耐えられない。こんな辱めを受けるとは思ってもみなかった。

 

 だが、ここで俺は失念していたのだ。

 

「へぇ、恵さん。……アナタ、中学の頃そんな事してたんですのね?」

 

 すぐ側に鬼がいた事を。

 

 めきめきっと音が聞こえそうな程の力で肩を掴まれる。「振り返ってはいけない」と俺の本能が叫ぶ。それに従う様に俺は前を見続ける。

 

「さあ、恵さん。早く帰りましょうか?詳しい事はたっぷりと聞かせていただきますからね?家に帰ったら覚悟しておいて下さいね?」

 

 そう言って俺の腕を掴むと引き摺り歩き出す(もも)。他の奴らは、憐れみの目で此方を見ながら合掌して俺を見送っていた。

 

「みなさん、私はお先に失礼いたしますわ。それではまた明日。さようなら」

 

「「「さ、サヨウナラー」」」

 

 俺はこれから地獄へと向かう事となるのであった。

 

 

 

 その後、連日で百からこってりと叱られた俺は、とある教訓を胸に正座していた。

 

(学生時代の黒歴史はまともな事にならない。黒歴史は作らないようにしよう)

 

 黒歴史の危うさを知ったのであった。

 

「地元じゃ負け知らず、か……」

 

「何 か 言 い ま し た か ?」

 

「いえ、何も」

 

 

 

 

 

 

 

 





羊次郎さん:八百万の家で働く執事さん。もこもこした毛を体から発生させる『羊』の個性を持っている。細マッチョな優しいおじいさん。服とか色々作れる。元プロヒーローという噂があったりなかったり


今回も読んで頂きありがとうございます。
呪術廻戦の連載再開でテンション上がって書きました。
時間があまり確保できないから執筆はクソほど遅くなってます。ごめんなさい。それでも、ガス抜きにでも書いていくつもりです。
失踪はしたくないですね………。
お気に入り登録などありがとうございます。誠に感謝です。
以上、作者の後書きでした。


 


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