うちはイタチが御坂美琴の兄に転生したら (メンマ46号)
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1話

ふとアイデアが浮かんだので書いてみました。
以前投稿して削除したイタチがFAIRY TAILの世界に転生する話を流用してます。
ちょっと出来は微妙。展開と構成も雑な気がするし、急拵えで書いたのもあるのでコレジャナイ感もあるかも。


『俺はお前をずっと愛している』

 

 最後にほんの少しだけ伝えられた本当の想い。うちはイタチは昇天する中、意識が薄れながらも決して残った右眼で見える最愛の弟から目を逸らさない。

 

(サスケ……俺はお前の兄で、幸せだったよ……)

 

 うちはイタチの魂は穢土から浄土へと帰還したーーーーーはずだった。

 

****

 

 赤く光る空間の中、横たわっていた青年うちはイタチは意識を覚醒させる。

 

 ここは何処なのか。最低限の動きで万華鏡写輪眼の酷使で視力を殆ど無くしてしまった右眼を使い、周りを見渡す。左眼はカブトにイザナミを使用した影響で光を失ってしまっている。

 

「……俺はカブトの穢土転生を解き、サスケの前であの世へと戻ったはずだが」

 

「その状況判断力に自己分析力……想定した通りだな。やはりお前を選んだのは正解だった」

 

 背後から聞こえた声に気付き、イタチは立って振り向く。声の主もまたこちらに背を向けていて、羽織る服には九つの勾玉と波紋模様が刻まれていた。

 

「……誰だ?」

 

「ここにおいて、的確な質問ではあるが……儂の名を聞き先駆者の見聞と一致するかはいささか不安ではある」

 

 そして声の主は振り向き、その顔を見せる。老人だ。しかしその姿は異形という他なく、灰色と白の中間とでも言うべき肌の色と額から生える二本の角を持ち合わせていた。

 

「我は安寧秩序を成す者…名をハゴロモという」

 

 ハゴロモという名には聞き覚えの無かったイタチだが、その前に言われた言葉には聞き覚えがあった。大昔の神話のものだ。

 

 “我、安寧秩序を成す者”

 

 その言葉は忍術の元となった忍宗の創始者の言葉だ。そしてその言葉をこの場で言った老人の眼が何よりも特徴的だった。

 かつてイタチが所属していた組織、“暁”の表向きのリーダーであり、裏で暗躍していた男に利用されていたペイン長門と同じ物であることにイタチはすぐに気付いた。

 

「輪廻眼……」

 

 三大瞳術の中で最も崇高な眼と言われる輪廻眼。それを持っている者は長門の他に一人しかイタチは知らない。

 

「やはり人を観察する眼は抜きん出ておるようだな。後は己のこの状況を現実的に理解出来ると良いのだが……それは難しいだろう」

 

「貴方はまさか………」

 

「うむ。やはりお前はすぐに気付いたか。ナルトとは大違いだ。儂はお前と同じ既に死んでいる者だ。違うのは儂はチャクラだけでこの世を漂い世代を超えて忍宗の行く末を見届けてきた僧侶であるという点か」

 

 老人の正体に辿り着いたイタチに感心しながら彼は己の正体を告げる。

 

「名をハゴロモ。そして忍宗の開祖にして、六道仙人とも言う」

 

「やはり……」

 

 イタチからすれば彼こそが六道仙人だとは予想が出来ていた。まだ分からない事も多いがまずは六道仙人の思惑を知る事が大事だろう。

 

 ハゴロモはその手にチャクラで創られた錫杖を握り、この世界ーーー赤く光る空間の地一面に広がる水をその錫杖で刺激する。

 

 するとその水面に一人の男が映る。イタチはその男を見て、彼の眼が写輪眼であることに気付く。

 

「お前の弟サスケは我が息子“インドラ”のーーーいや、その話は後だ。ようやく条件が揃い、お前を呼び出せたのだ。お前に託したいことがある」

 

「俺に託す?いや、サスケとこの男に何の関係がーーー…」

 

 イタチにはハゴロモが自分などに何を託そうとするのか以上に愛する弟とハゴロモの息子に何の関係があるのかの方が重要だった。

 

「すまんがそれに関しては順序立てて話させてもらう。儂はお前にただ伝え、託すだけだ…。まずはワシの母と息子達、そして第四次忍界大戦とナルトとサスケ……」

 

 そこからハゴロモによって明かされた話はイタチにとって驚愕すべきものだった。

 

 六道仙人の母、大筒木カグヤ。チャクラの祖。

 

 神樹の十尾、六道仙人の息子、インドラとアシュラ。彼等の永きに渡る因縁、その転生体が千手柱間とうちはマダラ。その次の転生体こそがうずまきナルトとうちはサスケ。

 

 写輪眼の行き着く先が輪廻眼であること。長門の持っていた輪廻眼の真実、マダラだと思っていた仮面の男の正体はうちはオビト……はたけカカシに左眼を譲ったうちは一族。

 

 月の眼計画、無限月読の真の目的、復活した大筒木カグヤを六道仙術に目覚めたナルトと左眼に輪廻眼を開眼したサスケが封印したこと。

 

 そしてナルトとサスケの真の和解。ハゴロモの知る全てを知ったイタチは驚愕すると共に満足し、疑問に思った。

 

「……そうですか。しかし何故俺を呼び出しこの話を?俺はサスケのあの後を知れて、貴方には感謝していますが、それだけの為に呼び出したのではないのでしょう?」

 

「うむ。本題はここからだ」

 

 そしてハゴロモは語り出す。世界に迫る新たな脅威を。

 

「儂は浄土からナルトとサスケの決着を見届けた後、この輪廻眼で母の封印を監視していた。しかしある時、六道・地爆天星で母と共にナルトによって封じられた黒ゼツのチャクラがそこから消えたのだ」

 

「黒ゼツが?」

 

「うむ。どういうことかと調べてみたのだが、十尾の抜け殻である外道魔像の効力でもないようでな、恐らく膨張求道玉の影響かもしれん。全く別の異世界に黒ゼツが逃げ込んだのだ」

 

「……それが本当ならば、何を仕出かすか分かりませんね。しかし、そこが異世界ならば写輪眼の血統者はいないはず。輪廻眼を持つ者も尾獣も当然いません。カグヤ復活は不可能なのでは?」

 

「しかし放って置くわけにはいかん。黒ゼツが暗躍する以上その世界も儂らがいた世界もまた母の脅威に脅かされる」

 

 事情は分かった。イタチに託すということは黒ゼツの対処だろう。しかしイタチにはもう一つ解せないことがあった。

 

「何故俺なのですか?初代火影やうちはマダラの方が適任なのでは?」

 

 何故それが自分なのか。それがイタチには理解出来なかった。黒ゼツに対抗出来る忍は限られている。ならば千手柱間や黒ゼツに煮え湯を飲まされたうちはマダラの方がイタチより余程黒ゼツに対抗出来るだろう。

 

「確かに確実に黒ゼツを倒すのならば……柱間やマダラの方が良いのかもしれんな。マダラももう道を間違えることもないだろう」

 

「ならば何故?」

 

「お前に……自分の人生というものを見つめ直して欲しいからだ」

 

「俺の……人生?」

 

「お前は幼き頃からあの世界の地獄というものをその眼に焼き付けてきただろう。一族と里の闇を背負い、犯罪者として裏切り者として死んだ。名誉の代償に汚名を。愛の代償に憎しみを背負った」

 

「………」

 

「世界の為だけではない。その異世界で……お前に幸せを掴んで欲しい」

 

「俺に……幸せになる資格など………」

 

 イタチは事実、サスケ以外の同胞を皆殺しにした。父も母も、愛した女性(ひと)さえも殺した。尾獣を引き剥がした人柱力だってそうだ。

 

 たった一人の弟の為に多くの人の命を奪い、人生を狂わせてきた。その弟だって抜け忍にし、犯罪者にしてしまった。ナルトがサスケを救ってくれたのは結果論に過ぎない。ある意味では尻拭いをさせてしまったようなものだ。

 

「その世界で自分自身を見つめ直してくれんか。そしてそこで幸せになるかならないかを考えてくれれば良い。使命を受けてくれるか?」

 

「………俺に幸せになる資格などありません。……ですが使命は受けましょう。その使命で黒ゼツとカグヤから世界を守り、罪を贖います」

 

「そうか………。お前にそんな罪を与えてしまったのは、かつてインドラに目を向けてやれなかった儂に責任がある。手を出せ。此度はお前にも儂の力を託す。……その前にその眼を何とかせんとな」

 

 そう、黒ゼツに対抗する為にはまず、万華鏡写輪眼の使い過ぎで碌に見えなくなってしまった右眼とイザナミで失明した左眼の問題を解決せねばならない。

 

 ハゴロモは右手にチャクラを収束させ、時空間忍術である物をここに出現させた。

 

「それは………」

 

「ああ。サスケの眼だ」

 

 サスケは永遠の万華鏡写輪眼を得る際、イタチの眼を移植した。そしてその後、オビトによってアジトで保管されていたサスケが生まれ持った眼だ。

 それをここに呼び出したのだ。並大抵の時空間忍術ではないことは間違いない。ハゴロモの万華鏡写輪眼、もしくは輪廻眼の固有瞳術なのかもしれない。

 

 宙に浮いているサスケの眼を見つめるイタチ。死ぬ直前までサスケの眼を奪おうとする演技をしていた手前、何か思うところがあるのかもしれない。そんなイタチを見てハゴロモは両手を合わせた。その場に美しい光が輝く。その光が止めば、その場にはサスケの眼はそこには無く、イタチの両眼は視力を完全に取り戻し、永遠の万華鏡写輪眼となっていた。

 

「儂の力も一緒に託しておいた。輪廻眼は開眼せずとも、お前自身の地力も上がっていよう。イザナギやイザナミを使用しても光を失うことはあるまい」

 

 それからハゴロモはイタチにこれから行く異世界の情報を知り得る限り伝えた。文字の違いなどは厄介だがイタチならば短期間で解決出来るだろう。

 

「魔術……ですか」

 

「“忍術”と“チャクラ”を使うお前がいれば必ず黒ゼツはお前に接触してくるはずだ。頼んだぞイタチ」

 

 そしてハゴロモは最後に印を組んでイタチをその世界に送る為に蘇生させる。

 

「このような形で使うとはな……外道・輪廻天生の術!!」

 

 イタチは白い輝きを帯びてその世界から消えていった。

 

 こうして、うちはイタチは転生した。転生した彼の新たな姓は御坂。新たな名前は御坂イタチ。

 御坂美琴の兄である。

 

****

 

「えへへ……」

 

 背中におんぶする妹がぎゅっと自分の背中に抱き着いてくる。妹、美琴の膝は転んだ拍子にできた傷から血が滲んでおり、その痛みによって流した涙の跡がくっきりと残っているものの、泣き止んだ美琴の顔は兄の背におぶさっているからか、妙に嬉しそうだった。

 

「転んで泣いていた奴が何笑っている?もしかして、楽しようとしているだけじゃないのか?」

 

「ち、違うもん!」

 

 揶揄い気味にそう尋ねると美琴は顔を真っ赤にしながら潤んだ瞳で兄の言葉を必死に否定する。

 何の因果か単なる偶然か……うちはイタチとしての母と同じ名を持つ妹に対してイタチは既にサスケに向けるものと同じ感情を抱いていた。

 

 この妹は何処か……幼い頃のサスケに似ている気がした。素直だがそれを表に出すのがとんでもなく下手くそなところが正にそれ。本当にそっくりだ。

 

 転生して数年、イタチは生まれ変わってから得た家族と共に暮らしていた。本来ならすぐにでも黒ゼツを探す旅にでも出たかったが周囲の環境や国の仕組みなどがそれを邪魔していた。

 どうやらこの世界……特にこの国は忍の世とは違い、表面的な治安は火の国とは比較にならない程に落ち着いており、そもそも人が旅に出る事自体がほとんどなく、異常とも取れるような環境だった。

 

 故にイタチは今世の両親と妹と共に暮らしていた。

 ……いや、今述べた理由は言い訳だ。確かに理由としてはそれもあるが、あの残酷な忍の世界で生まれ、生きてきたイタチにとってこの家族との暮らしは抗い難い幸せだったのだ。それでも忍としての修行だけは誰にもバレないように欠かさずこなしていたが。

 

 

 

 家に帰ってからは両親と妹と夕飯を済ませ、今更イタチには簡単過ぎる教育レベルである小学校の宿題をこなし、遊んでほしいとせがむ妹の相手をする。いつもの日常と言えた。木ノ葉の里では短い間のごく稀にしか味わえなかった幸せだ。

 特に父は海外での仕事から帰ってくる頻度が非常に少ない。それ故に家族が揃う日は楽しかった。

 

 そんな家族の団欒の最中だった。

 

 その儚い幸せに終わりが告げられたのは。

 

 宅配便を名乗る声がして母美鈴が家の扉を開けた直後、腹に蹴りを食らって壁に叩き付けられた。その下手人は美鈴を蹴散らすと素早く土足のまま家の中に上がり込み、異変に気付いた父旅掛の顎を拳で捉えて昏倒させた。

 

「父さん!母さん!」

 

「ママ!パパ!!」

 

 その体術捌きは日本人のそれではない。まるで忍であるかのような動きだ。

 男はイタチを視界に収めると不気味に微笑み、その身に変化を見せる。美琴は涙目になりながらイタチの背に隠れる。旅掛と美鈴はいきなり暴行を受けた痛みで碌に動けない。子供を守りたくても何もできない。

 

「このチャクラ……!やはりお前はうちはイタチか……!!」

 

 男の半身が蠢き、黒く染まる。そしてまるでサスケの呪印から大蛇丸の八岐の術が発動した時のように、見覚えのある黒い異形の生き物が分離して顔を見せた。

 それはイタチがこの世界で生まれ変わった理由そのもの。

 

「黒ゼツ……!!」

 

 転生前のハゴロモの言葉がイタチの脳裏に過ぎる。そうだ。ハゴロモは言っていたではないか。イタチのチャクラを感知して黒ゼツの方が接触してくるだろうと。

 当然黒ゼツの狙いはイタチ。父と母はそれだけの為にこんな目に遭ったのだ。

 

「丁度良い……!お前のチャクラと身体を貰うぞ……!!経絡系の無いその身体ではチャクラがあっても練って術を使う事もできまい……!!俺が寄生して初めて意味がある……!!」

 

 とにかく、この世界にも魔術という力があるらしい事は分かっている。何処からカグヤ復活の糸口を奴が見つけるか分からない。今ここで仕留めておかねばならない。

 

 幸い、黒ゼツはイタチがチャクラがあっても新たな身体故に忍術が使えないと踏んで、寄生する為にそのまま本体を表に出して来た。これを見逃す手は無い。油断しているならここで仕留める。

 今世の家族の手前、チャクラによる忍術を目の前で使う事に抵抗がないわけではない。しかしここで黒ゼツを仕留めなければ彼らも危ない。イタチに迷いは無かった。

 

 ピチョン……

 

 床に液体が落ちる音がした。

 

 父も母も妹も唖然としてイタチを見る。彼の瞳の模様が赤い六芒星の中に三枚刃の手裏剣が浮かぶものに変化し、右眼から血の涙を流したのをその目で見たからだ。

 

 ーーー天照!!

 

「ぐっ!?」

 

 黒い炎が黒ゼツに発火する。半身を焼き尽くそうとする黒炎に身を焼かれて悶えながらも自分の身体の一部を分離して天照から逃れる。

 

「万華鏡写輪眼!?何故うちはの肉体を失ったお前に……!?ハゴロモの仕業か!?」

 

「そういう事だ。お前を始末してカグヤ復活は阻止させて貰う」

 

 加えて言えば黒ゼツはうちは一族を利用して数々の悲劇を生み出した元凶。うちは一族を皆殺しにした事はイタチ自らが手を下した事。その遠因とはいえこいつをうちはの仇と言う気は更々無いが、それでもこいつがマダラやオビトを誘導しなければまた別の未来があったかもしれないのだ。

 

 黒ゼツにトドメを刺そうと印を結ぶ途中、黒ゼツの苦し紛れの言葉がイタチの手を止める。

 

「まだ忍の世の為、木ノ葉の為に身を捧げるのか!!懲りない奴だ!!そんな事をしてもお前の業は消えない!!何度忍の世を守ったところで自分の罪が消えると思うなよ!!それとも次はそいつらを犠牲に木ノ葉を守るか!?」

 

 うちはフガクとうちはミコト……うちはとしての両親の顔がイタチの脳裏に浮かんだ。

 

 黒ゼツは地面に溶け込むように沈んでいく。完全に地面に沈むと写輪眼でも地中にあるはずの黒ゼツのチャクラは確認できなくなっていた。

 初代火影の木遁の応用だろうか。白ゼツと一体化していたのなら、使えてもおかしくはないが。実際この術で移動するのを暁にいた頃に何度も見た。

 

 そしてそこには黒ゼツに寄生されていた男とその男の身体で黒ゼツに痛め付けられた旅掛と美鈴、怯えて泣きそうになっていた美琴、そして右眼から血涙を流すイタチだけが残った。

 右眼を閉じて天照を鎮火する。

 

「な、なんだったんだ……アレは……」

 

 腹を抑え、疑問を口にする旅掛の言葉はイタチの耳を素通りする。代わりに黒ゼツの言葉が頭に響く。

 

『何度忍の世を守ったところで自分の罪が消えると思うなよ!!』

 

 万華鏡写輪眼の模様が普通の写輪眼のものに変わる。

 

 一族を殺した罪は消えない。

 

 最初から分かっていたではないか。自分に幸せになる資格など無いと。この優しく、愛情に満ちた家族と共にいる資格などない。

 

 もうこれ以上巻き込めない。

 

 黒ゼツがいる以上、近くにいれば必ず三人に悲劇が訪れる。離れなければならない。

 

 かつてナルトやサスケに言った事は忘れてはいない。一人で全てを背負い込むつもりはない。しかし()()()()()()()。少なくとも、この家族を忍界の都合に巻き込むつもりは毛頭無かった。

 

 旅掛は訳の分からない出来事が続いた事で混乱しそうではあったが、冷静に事を見る力を持っていた。まずは何か知っていそうな息子に話を聞こうと声をかけ、()()()()()()()()()

 

「イタ……」

 

 幻術・写輪眼

 

 傷を負った両親に写輪眼の幻術をかけて意識を奪う。六道仙人から貰った力を使って密かに修行した掌仙術で傷を癒す。

 写輪眼で記憶を一部消して代わりに幻術を見せ、記憶として刷り込んだ。自分が誘拐された事にすればいなくなった理由も辻褄が合う。

 戸籍など瞳力で誤魔化しが効かない社会情報はどうにもならない。それが無ければそもそも最初から自分が存在しない事にもできたが。

 

 これから今世の両親は……存在しない誘拐犯を追う無駄な徒労に尽力するだろう。

 

 金も時間も、あらゆるものを浪費してそれでも何の成果も得られないだろう。

 子供を失った親がどれ程の悲しみと苦しみに苛まれるか。それが分からないイタチではない。しかしこうするしかない。黒ゼツとの戦いに家族は巻き込めない。

 

「これも俺の罪だ」

 

 最後に怯えながら黙ってこちらをずっと見ていた妹にも同じ改竄を施す為に歩み寄る。

 美琴にも写輪眼の幻術をかけて記憶を一部改竄する。その強いショックで三人は目を閉ざして意識を失う。

 

(結局……何も変われていないな……)

 

 仕方のない事でもある。御坂旅掛はうちはフガクとは違う。御坂美鈴はうちはミコトとは違う。御坂美琴はうちはサスケとは違う。うちは一族の血継限界・写輪眼やチャクラの力が備わっているわけではないのだ。

 

 御坂という姓を受け入れられなかった。うちはという姓を捨てられなかった。木ノ葉の忍である事をやめられなかった。

 もうこの家に戻る事は無いだろう。せめて最期まで木ノ葉の忍としての使命を全うするだけだ。

 そう己に言い聞かせて歩き始める。

 

「待って……お兄ちゃん……」

 

 足が止まった。写輪眼の幻術をかけられたチャクラも持たない幼い妹が意識をすぐに朧げながら覚醒させる。異常という他無かった。故にイタチは思わず振り向いてしまう。美琴は泣きながらその手をイタチに向けて伸ばしている。

 しかしその手を決して掴む事はない。

 

「いかないで……」

 

 イタチは右手を美琴の額に伸ばし、指先で軽く小突く。

 

「許せ美琴。これが最初で最後だ」

 

 かつて、サスケを遠ざけたように。

 

 美琴が最後に見た兄の顔は……泣いていた。

 

****

 

 10年後、御坂美琴は学園都市と呼ばれる超能力の研究機関にいた。

 

 この街では人工的な超能力の開発が行われており、美琴はそんな能力者達の頂点、超能力者(レベル5)となっていた。それも努力で低能力者(レベル1)から超能力者(レベル5)にまで上り詰めた。

 

 その全ては兄を探し出す為だった。誘拐犯への怒りに歪む父と涙を流す母の姿を忘れた事は一度も無い。だから美琴は学園都市に来た。

 超能力者(レベル5)の力があれば、誘拐された兄を取り戻せる。そう信じていた。

 しかし何も変わらなかった。どれだけ調べても誘拐犯の手掛かりは一切掴めない。これでは力がある無い以前の問題でしかない。

 

 それでもこの街でできた友人と笑い合いながら楽しく過ごせてはいた。

 しかしそんな日々に唐突な終わりが告げられた。

 

 絶対能力進化(レベル6シフト)計画。

 学園都市最強の超能力者(レベル5)一方通行(アクセラレータ)絶対能力者(レベル6)に到達させる為に御坂美琴のクローン2万人を虐殺するという悍ましい実験。

 

 美琴が幼い頃に病気の人を助けたい……と不用意に提供したDNAマップによって引き起こされた悲劇だ。

 

 それを知ったのは数日前、実際にクローンである妹達(シスターズ)に出会ったからだ。

 クローンというからにはオリジナルである自分に害を成す存在ではないかと警戒したが、接する内にその認識は瞬く間に変わった。我儘を述べて美琴を振り回すものの、一緒にいる時はまるで本当の姉妹であるかのように思わせてくれる存在だった。

 

 同時に妹をどこか“兄の代わり”にしていた自分を嫌悪した。

 

 しかしだからと言って自分のクローンが作られていた事を看過できるわけではない。そんなクローンを誰が何の目的で製造したのか……それを調べる内にこの実験の存在を突き止めた。

 

 そしてその直後、初めて出会った妹達(シスターズ)、9982号は美琴の目の前で殺された。

 

 一度は一方通行(アクセラレータ)を倒そうとしたが絶対的な力の差を思い知らされた。絶対に勝てないと分かってしまった。だから別の方向からあの実験を潰そうと模索してきた。

 

 しかしどれだけあの実験に関連する研究所を潰してもすぐにそれらは他の研究所に引き継がれた。いくらやっても無駄だった。

 そもそも最初に気付くべきだった。この計画の予測演算に『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』が使用されている時点で学園都市全てが敵なのだと。

 

 その『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』に細工して実験を止めようとしたが、肝心の『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』は大破していた。

 

 何をやっても実験は止められない。自分のせいでまた妹達(シスターズ)は殺される。ヤケになって悪足掻きと八つ当たりで襲撃した研究所では実験の生中継が行われていた。

 画面の中でリアルタイムで一方通行(アクセラレータ)に痛め付けられ、血を流す妹。それを止められずにこうしてただ見ている事しかできない自分。

 

「あ、やだ…待って!待ってよ…!」

 

 何でも解決してくれるママはここにはいない。

 困った時だけ神頼みしても奇跡が起きる訳じゃない。

 幼い頃、絶対に守ってくれたお兄ちゃんはもういない。

 

 一方通行(アクセラレータ)が妹にトドメを刺そうと手を伸ばす。

 

 その瞬間、その妹達(シスターズ)の真下の地面が砕け、赤いエネルギーが彼女を覆った。

 

「え……?」

 

 妹達(シスターズ)の10031号を覆うように現れた赤透明のエネルギー。それが拳の形となって彼女を包み、一方通行(アクセラレータ)の手から守ったのだ。

 

『まさか、こんな事になっているとはな』

 

『……何だ?オマエ』

 

『……お前に名乗る必要など無い』

 

 その赤く透明なエネルギー体の主と思わしき男が監視カメラに映る。その男も妹達(シスターズ)同様、美琴によく似た風貌をしている。

 またクローンの類いか。そう思った直後に美琴はある点に気付いた。

 

 その男の眼だった。

 

 黒い瞳の中に赤い六芒星。更にその中に三枚刃の手裏剣の模様が入った瞳。奇妙な眼だった。それが変化し、三つの勾玉模様が入った赤い瞳となったのだ。

 

『許せ美琴。これが最初で最後だ』

 

 あの日から一度たりとも忘れた事のない、巴模様の刻まれた赤い瞳。美琴はその名を知らないがそれは確かに写輪眼と呼ばれる眼だった。

 

「お兄ちゃん……?」




絶対能力進化計画で絶望しながら母親を例に出す美琴を見てると一方さんとかから守ってくれるお兄ちゃんとかいたらなーと思いました。でもオリ主で書いてもあまり面白くなるとは思えなかった。他作品のキャラをそのまま出してももうREBORNのツナでやってるし、そもそも兄じゃなくなってるし。
で、一方さんとやり合えそうで何が何でも妹ってか兄弟を守る兄キャラ……と考えたらもう自然とイタチが出ましたね。

イタチの永遠の万華鏡写輪眼の模様はサスケと同じです。肉体が変わっても写輪眼を使えるのはオビトがカカシに一時的に憑依して写輪眼を貸し与えたのと同じ原理です。多分。ハゴロモにチャクラを貰って六道の力の一部を得たからこそですが。
あと写輪眼の幻術なら演算封じられそうだし。

イタチには真っ当に兄貴やらせてやりたいのに、記憶消しての純粋な転生じゃ写輪眼が持ち越せないし、イタチじゃなくなるし。けど記憶消さない上に写輪眼持ち越すなら相応の理由も必要……必然的に真っ当な兄貴やる余裕がなくなる。自分でもちょっとモヤモヤした。

本当は名前も変えた方が良いんだろうけど、良いのが思いつかなかった。

設定雑でかなりザックリ書いたのもあるし、自分じゃちょっと続き書けそうにないな……。イタチの葛藤とか細かく描写したくはあるんだけど。

てか、仮に写輪眼の幻術で演算封じられるなら一方さん殺されんじゃね?これだけやらかしたならカブトと違って生かしとく理由無くなってそう。

感想とか諸々お待ちしてます。


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