転生したらノムリッシュ (胡椒こしょこしょ)
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俺の村のジェノバ・プロジェクト

(俺の村の話)


俺は転生した。

死因は寒中水泳中にFFの最新作が出ると知って、テンションが下手に上がってしまい、足が攣って戻ってこれなくなってしまったから。

我ながらアホみたいな理由で死んだのだが、それがどうも神の目にも止まったらしく俺は転生することになったのだ。

 

与えられた能力はその世界のどんな魔法でも存在を知っていたらなんとなくで出すことが出来るという物。

これ、普通に強能力じゃない?っと思って喜んでいたのも束の間。

俺はとても大きな代償を払わされていたのだ。

それは物心がついて、自分が転生したのだと思い出した辺りから発現した。

 

「クリロス!今日も近所のセレンちゃんと遊ぶんでしょ?ちゃんとご飯食べていきなさい!」

 

「分かってる…預言書にも記されていることだが…~~~ッ!!!いただきまーす! 新生の未来へと希望を託すために。(わかってるって!いただきまーす!)」

 

たった二言の言葉。

しかしそれを口に出そうとした瞬間、凄まじい速度で勝手に口が動いて何故かよくわからない修飾をし始める。

預言書ってなんだ...そもそも飯を食う事がなぜ未来へと希望を託すことになるのか?

それは発言者である俺にも分からない。

ただ、この話し方の心当たりが俺にはあった。

 

これはノムリッシュ語だ.....。

動画サイトなどでも関連動画が数多作られているアレ。

まだグルガン族の男が語ってないのでまだ分からないが、俺の話す言葉全てがノムリッシュ翻訳されて出てくる。

軽く悪夢だと俺は思う。

ノムリッシュ翻訳といえば元の言葉との劇的な違いやカオスさが受けているコンテンツだ。

それを、人一人の言語にするか?普通?

もうね、この時点で特典をもってしても余りあるクソさ加減なんですわ。

日常会話に支障が出るレベルなんですわ。

 

今だってもう言葉がしっちゃかめっちゃかだもん。

これさ、明らかにあれだよね?

俺の死因に結びつけてこいつ代償でノムリッシュ語しか喋れなくなったら面白いんじゃね?みたいな軽いノリで付けられてそう。

ふざけるなよ....!

こちとらこの世界で生きて行かなくちゃいけないんだぞ....!

こんな不良債権なんか積まれてまともに生きていけるわけないだろ!!

 

俺が心中で神に文句を言っていると、マッマが口元に手を当てて笑う。

 

「まぁ、難しい表現ね....また勉強したの?偉いわねぇ....。」

 

マッマは微笑むとゆっくりと俺の頭を撫でた。

ほぎゃあああああ!!マンマァァァ!!!(幼児退行)

はっ...!いかん、溢れ出さんばかりの母性に一瞬赤ちゃんになってしまった。

この美人な若奥様風の女性こそが俺の母親。

どうにも、夫が行方をくらまして以降、女手一つで俺をここまで育ててくれたらしい。

頭が上がらない思いである。

 

それにしても、今回翻訳語がまだいただきますが残ってたりと意味の通じるものだったからよかったが、流石にこれが更に悪化したものになると、さすがのマッマも困り顔で笑みを湛えるだけになってしまう。

喋る言葉が全部ノムリッシュ語の息子でごめんなさい....いずれなんかの形で親孝行できたらいいな....。

 

俺は飯を食べると、歯磨きをして席を立つ。

すると、マッマが俺に声を掛けた。

 

「いってらっしゃい!」

 

「いってきます…貴様を殺すためにな!!(いってきます!!)」

 

おい。

人が親孝行しようと決めた瞬間、人の親殺そうとするの止めろや。

俺が親に掛けるには適していない言葉を吐きかけるも、マッマは反抗期かしらと笑いながら見送ってくれる。

なんてできた母親なんだ....。

貴方は俺には過ぎた母親だ....。

 

外に出ると、周りには牧歌的な光景が広がる。

なんか西洋のどっか田舎の村のような光景。

自然豊かな場所特有の清浄な空気を肺腑に満たすと、俺はただ野原の方へと歩いて行く。

 

現代日本では見ることも稀であろう視界一面に広がった野原。

そして、そこに一人の少女が佇んでいる。

彼女はこちらを見ると、手を振る。

 

「あっ!クリロス!おはよう!!」

 

金髪の少女が笑顔でこちらに手を振る。

それを見て、俺も手を振り返す。

俺も遂に....異世界転生して異性の幼馴染が出来たよ、前の世界の母さん....!

 

「おはよう、セレムンに繋がれし闇の化身。(おはよう、セレン。)」

 

セレムンってなに?

名前まで変わってるんだけど....。

それになんかボスキャラとかで居そうな闇の化身になってますねぇ!

幼い少女にぶつける言葉じゃないよ....。

 

幼馴染の少年に意味の分からぬ名前を付けられた少女は目を輝かせて俺に詰め寄る。

 

「なにそれ!なにそれ!かっこいい!それが今日のお話!?」

 

彼女はわくわくとした様子を隠そうともしない。

今日のお話。

ノムリッシュ語訳はどこか芝居がかっている。

だからこそ、彼女は俺がどっかの英雄譚の言葉を引用して話していると思っているらしい。

普通に困るから辞めて欲しいんだけど.....。

しかし、単純に変な言葉遣いの変な子判定されるよりはマシなので俺は首を取り敢えず縦に振っておく。

 

すると、彼女は野原に座り込むとポンポンと隣を叩く。

そして俺を見上げると、笑顔で口を開く。

 

「ほらっ!そこでボッーとしてないで話を聞かせて!」

 

促されるので、彼女の隣に座る。

話をすると言っても、ただ単に話している言葉が仰々しく変更されたせいで彼女が勘違いしているのであって、どうするか戸惑ってしまう。

こんな時に、コミュ障発揮するの止めろやお前ここ異世界やぞ。

....,まぁ、多分適当なこと言ってたら勝手に変換してくれるでしょ。

こういう時、ノムリッシュは役に立つな。

...まっ、ノムリッシュがなければこんなことにもなってないんですけどね!!

適当に昨日食べた夕食の話でもしておくか。

 

「昨日は我が血肉の元とスープクリエイト食ったんだけど、ジャガイモで筋肉質のトゥロス=ミ闇の声に抗いながらもてたんだよね。正直、ここに到来てから滅茶苦茶シチューとかポトフ騎士団のシルシモス・ノ…すなわち、“闇”ばっかで、”それ”にパン…俺たちの冒険はまだ始まったばかりだからオリーゼが目を閉じれば思い出すんだよね、元々太陽の民だから。

最後のクリスタルをめぐる争いは、新たな世代の物語の始まりでもあった。

 

(昨日はパンとスープ料理食ったんだけど、ジャガイモでとろみついてたんだよね。正直、ここに来てから滅茶苦茶シチューとかポトフ系の汁物ばっかで、それにパンばかりだから米が恋しいんだよね、元々日本人だから。)」

 

もう原型ないやん。

ちょくちょくポトフとかちゃんと用語が残ってるのが更に性質が悪い。

だが転生してからの不満をぶちまけても訳の分からない言葉に翻訳されるので、こういう時には胸の中鬱憤をぶちまけることが出来るのでそこは助かる。

逆にこういう時以外屁の役にも立たないけどな。

それに、最後だけそれっぽくまとめるんじゃないよ。

 

俺の言葉を聞いて、首を傾げる少女。

 

「うーん、やっぱり物語って難しいんだね....。あっ!でもポトフって言ったら昨日私ポトフ食べたんだぁ~。」

 

「庶民の感覚が何一つ分からない俺もだ。(俺もだ)」

 

ナチュラルに喧嘩売るなよ。

しかもお前も庶民だろうが。

しかし、目の前で真顔で喧嘩を売る少年に対しても少女は表情を変えずに楽しそうに笑っている。

 

「へぇ~、やっぱりクリロスは一味違うね!それでね!今日、クリロスに見せたい物があってね!」

 

彼女は笑顔で話題を変えつつ、ポケットに手を突っ込む。

見せたい物か....なんだろう。

それにしても...異性の幼馴染とこんな風に話せる日が来るなんて、毎度のことながら感極まってくる。

そう思っていると、彼女の挙動が段々不審になってくる。

あれ?あれ?と言いながらポケットを引っ張り出したりしている。

 

「どうしたんだ概念として存在するセレムン、だが私はそれを許さぬ。?(どうしたんだセレン?)」

 

最後ちょっと自信なくなって聞いているんじゃないよ。

しかもセレムンに繋がれし闇の化身から遂には概念になった。

いや、そもそもセレムンに繋がれし闇の化身ってなんだよ。

なんかよく分からんものからなんかよく分からんものに変化するの止めてくれよ。

 

俺が聞くと、彼女は動揺した様子で俺を見る。

 

「み、見せたい物、家に忘れてきちゃった.....。」

 

顔を青くする少女。

そんなにも俺に見せたい物だったのだろうか?

だとすれば、どんな物か更に気になる。

すると、彼女は上目遣いで俺を見て口を開く。

 

「ご、ごめん....そのっ、取りに帰ってもいいかな...?」

 

彼女は申し訳なさげにそう俺に言ってくる。

別に俺は構わないが...それなら。

 

「それなる――そして、神が人を滅ぼすというのなら、ふとした切っ掛けで聖剣を手に入れた俺も一緒に行くよ。

俺に見せてェ……オブジェクトなんだろ…俺は今、何をした?(それなら俺も行くよ。俺に見せたい物なんだろ?)」

 

お前は今、ノムリッシュ翻訳した。

俺聖剣なんかもってねぇだろいい加減なこと言うな。

すると、彼女は戸惑いつつも頷く。

 

「えーと、クリロスは今私と話してるけど...でも、一緒に来てくれるなんて嬉しいよ!うん!一緒に行こう!」

 

彼女は手を差し出してくる。

この年頃にありがちな異性への距離感の近さ。

これが段々と開いていくのだから大人になるって辛い事なんだと改めて確認させられる。

俺は頷くと彼女の手を取る。

こういう時はジェスチャーで話した方が意図が伝わる。

 

野原を抜けて、村へと戻る。

そして、道行く人とすれ違いながら彼女の家へと向かう。

 

「おっ!今日もセレンちゃんと一緒かクリロス!羨ましいねぇ!おじさんも昔はそんくらいブイブイ言わせてたなァ....。」

 

「アンタ!子供相手に何言ってんだい!...二人とも仲が良くて良いわねぇ。ほら、おばさんがランゴ上げるわね。」

 

日本で言えば八百屋に当たる店の夫婦が俺達に声を掛ける。

リンゴによく似た果実を受け取ると、セレンは笑顔を彼らに向ける。

お礼を言うのだろう。

俺も言うか。

 

「ありがとう!おばさん!」

 

「貴様に礼を言えるのも、今日が最後になるかもしれないな、、、。!(ありがとう!)」

 

えっ!?何俺どうなるの....?

口振りに不安を覚えているも、夫妻は笑って俺達の言葉を聞いてる。

すると、今度は通りすがりの兄ちゃんが足を止める。

 

「おっ!クリロス!今日も元気そうでなによりだな!アンタのお母さんに頼まれていた物はちゃんと届けたぜ!それで、今度いつもご愛顧になってるお礼にお食事でもどうかとミライルのおっさんが言ってたと言っといてくれ。...アッ、変な意味はないぞ!ただ白魔術師様がどんな物を欲しがっているのかとか知りたくてだなぁ...」

 

兄ちゃんは早口でまくし立てる。

俺の母親は一応白魔術師であるらしい。

だからこそ、色々なアイテムをこの雑貨屋の兄ちゃんから買うのだが、如何せん母が美人なのでそういう目で見てくる輩も多いのである。

しかし、それ息子の俺に言う?

お前隠しているつもりなのかもしれないけど、バレバレだぞ。

まぁ、でも伝えるくらいなら別に構わないだろう。

母さん断るだろうし。

 

「寝言は寝て言えと、啓示しときます。そして、恐怖は現実のものとなる―(はい、伝えときます。)」

 

どうやらノムリッシュ君は僕の気持ちを代弁したようです。

いや、そんな感じで呆れたけどさ....。

困るよ、そんな風に出されちゃ。

角が立つじゃないか。

 

現に目の前の兄ちゃんは面食らっている。

すると、夫婦が鼻で笑った。

 

「子供にまで言われてるじゃないかミライル。人妻を狙うのは辞めな。」

 

「そうだぞミライル。お前節操がなさすぎるぞ。ましてや子供を使おうとするだなんて恥を知れ。」

 

夫婦に言われて罰の悪そうに笑うミライルさん。

そして俺の頭を撫でながらも、口を開く。

 

「いや、確かにそうだ。こりゃ一本取られたな。やっぱ自分で言う事にする。それと、人聞きの悪い言い方はやめろ!俺はな、憧れの白魔術師様が魔法の事とか色々教授してもらいたいだけでなぁ....。」

 

夫婦に言い訳じみた言葉で弁解し続けるミライルさん。

すると、俺の袖を何者かがくいくいと引っ張る。

見ると、セレンが俺の袖を引いていた。

 

「早く行こーよ!」

 

「かくある限りにおいてだな。(そうだな。)」

 

二文字が一気に九文字になったんですけどそれは。

そうして、歩いて数分。

木組みの民家の前に着く。

 

「ちょっと待ってて!すぐに戻るから!」

 

「知覚した。(分かった。)」

 

何をだよ。

自分の言葉に突っ込みを入れながらも、少女を家の前で待っているとドアが不意に開く。

そこには百合を模した髪飾りを髪に付けた少女。

そして恥ずかしそうに身を捩りながら彼女は俺に聞いて来た。

 

「あの...これ、お母さんが行商人から買ったらしくて....その、似合ってる...かな?」

 

こちらの目を見つめて、頬を紅潮させながらもそう聞いてくる。

....なんていうかこの時点で、ある程度彼女がどう思っているのかはわかってしまう。

これでも俺は鈍感じゃない、敏感な方だ。

村で同年代の子供は俺くらいしかいない。

後は自分達より幼いか、それとも青年かだ。

だからこそ、自然と思いが向かってしまうのだろう。

 

恋に恋する年齢。

流石に俺は精神年齢は前の世界で死んだ時のまま、つまり高校生だ。

だからこそ、こんな幼い...大体小学生くらいの少女の想いに答えることなど、出来るはずがない。

.....とでも言うと思ったか?

転生したことでせっかく....!せっかく可愛い幼馴染を手に入れてしかもこんなおいしいシチュエーションにありつけているんだぞ!?

それに身体は同年代だからね!

そりゃ手くらい出しますわ。

逆にここで出さない方が失礼だと言えるんじゃないか?

そんなの欺瞞と変わりない、自分に正直に生きようぜ。

 

だからこそ、この返答は少しカッコイイ感じの返答にしよう。

このフラグは逃すわけにはいかない。

かぁっ~!つれぇわぁ、転生者つれぇ~。

 

「ぐわあああーーーッ、似合っ、そして俺を恨んでいる。魔晄炉に飛び込めば、真っ青な光に包まれて綺麗だ。(あぁ、似合ってる。綺麗だ。)」

 

俺の意図とは反して急に叫び始める俺の口。

何故か魔晄炉の話までし始める。

なんで普通に褒めようとしているのにこうなるんだよっ!!

 

「だ、大丈夫!?」

 

彼女はさっきまでの様子から一変して、こちらを心配している。

もはや雰囲気は台無し。

そりゃそうだ。

目の前の少年が急に苦しんでいるかのように叫び出したのだから。

なんだお前、重度の中二病患者かよ。

すると、俺の声を聞きつけて村人が近づいてくる。

 

「おいおい、これは何の騒ぎだ?」

 

「そのっ!クリロスが急に苦しみだして....。」

 

「なにっ!?大丈夫かクリロス.....?」

 

なんか事態が大きくなってきた。

なんとか問題ないってことを示さなきゃ....!

 

「世界は光と闇でできている─

な、現世の万事――そこに理由なんて、ないと呼べるものではなかった…….....、あ...クックックッ……黒マテリア.....(な、なんでもないです.....、あ...あはは.....)」

 

何が黒マテリアだよ、舐めてんのか?

弁解にすらなっていねぇじゃねぇか。

村人たちは顔を合わせると、頷く。

 

「こりゃ熱の前兆かもしれねぇな。」

 

「白魔術師様のお家に連れて帰ろう。」

 

そう言うと、俺をお姫様抱っこして歩き出す。

ちがっ....俺は病気じゃない!

俺は正常だ!!...いや、正しくは正常ではないが、少なくとも病気じゃないんだ!!

バタバタと暴れるも屈強な漁師の親父の腕の中で抱かれて身動きが取れない。

そして、視線の先ではセレンが真面目な顔でこちらを見ていた。

 

「お大事にね、クリロス.....。」

 

そう言って家の中に入っていく。

クソ.....俺のフラグが.....こんな所で折られた....。

それもこれも全部ノムリッシュ!お前のせいだ!!

 

そう思いながら、漁師の親父の腕の中で運ばれて行き、漁師の親父はとある家の前で扉をノックする。

すると扉が開き、俺の母が顔を出す。

ここは....俺の家だ。

 

「あら、ゲンさん...とクリロス!?一体どうしたのですか?何かウチの子がやったのでしょうか....?」

 

「いやいや、違いますよ。ただなにやら錯乱した様子でして、熱の前兆かと思いましてな。」

 

そう言うと、俺を差し出してくる。

差し出された俺を抱きかかえると、頭を撫でながらマッマは口を開く。

 

「まぁ...本当ですか?ありがとうございます。」

 

「いやー、村の子供は皆の子供のような物ですから!アッハハハ!」

 

漁師の親父はマッマ相手に鼻の下を伸ばしていた。

まったく.....こんな連中ばかりだ。

しかし、この村に居る連中は俺がノムリッシュ語とかいう意味の分からない言葉を話していても寛容に見舞ってくれている。

良い人ばかりだ。

良い感じの幼馴染に、良い感じの大人たち。

そして、白魔術師の母親。

俺の第二の生は順調な物になる。

そう予感させるには十分な環境だった。

 

 

 

 

 

 

メラメラと赤い炎が揺らめき、目の前の村が赤く光っている。

チリチリと音が空気に響き、火の粉が空へと舞う。

バキバキと割れる音と共に、民家が崩れて行く。

そしてその炎の光に照らされて、子供くらいのサイズの体躯の影が小躍りするかのように無数に蠢いている。

 

茫然と、ただ口から言葉が漏れた。

それもそのはず、俺達の村が目の前で.....。

 

「・・・そのグルガン族の男は静かに語った・・・

神判の浄火に包まれていると誰もが信じていた.....。

クリスタルをめぐる熾烈な戦争に投入された 若き戦士たちの物語。(燃えている.....。)」

 

何がグルガン族じゃ、やかましいんじゃ。

目の前で村が焼けてるんやぞ。

唖然としながらも変わらずバカみたいな翻訳をするノムリッシュにキレる。

しかし、しょうがないだろう。

二度目の生とはいえ、自分の生まれ育った故郷。

それが目の前で惨い事に燃えているのだから。

 

村が森からやって来た魔物の群れの襲撃を受けたのだ。

村で戦闘経験のある者たちは、白魔術師の指導の下、戦いに赴く。

そして、子供や戦闘経験の俺達は離れにある別の集落へと避難させられそうになっていた。

 

「だから、クリロスお願い。母さんを行かせて。」

 

「…お話になりませぬな…だ…そうかっ……そうだったのかっ……!行くなら俺…いや、†kuraudo†も行くッッッ!!!(嫌だ!行くなら俺も行く!)」

 

何故か俺の名前が凄く痛いことになっているように感じるが、そんなことは後だ。

俺は特典で、知っている魔法であればなんとなくインスピレーション出すことが出来る。

知っている魔法はマッマが使っていたのを見た数個くらい。

それでも役には立つはずだ。

 

「貴方の名前はクリロスでしょ?...まったく、誰に似たのやら...困っている人が放っておけないなんてまるであの人を見てるようね...。」

 

マッマは呆れた顔をしながら、微笑まし気に俺の頭を撫でる。

多分、いなくなったパッパのことなんだろうな。

あの~、申し訳ないんですけどそんな高尚な理由じゃないんです。

ただ単に特典使えて戦えるからってそういう理由なんですがそれは....。

 

すると、不意に頭を撫でていたマッマの手が光る。

そのしゅん...かん...、意識が...ぼや...けて......。

なにを...し...た....?

 

「ごめんなさい、少し眠ってもらうわ。ウチの子を....お願いね。」

 

そう言ってマッマは俺を抱き上げる。

これ...多分、魔法で眠らせようとしているな....。

このっ!こんな方法で黙らせて.....いいんか!

もっと...話し...合おうよ!かぞ...くとの、こみゅにけーしょ...だいじに.....。

お、れも...たた...かえ.....。

 

 

 

 

 

 

 

「っ!『ジェノバ』と呼ばれている私の母、…そう言ってアイツは戻ってこなかった……!…くっ、お前たち、逃げろーーーッ!!!(っ!母さん!!)」

 

目が覚めると、そう叫んで周りを見回す。

そこは見たことのない村。

多分、避難先の集落か。

 

「あっ...!やっと起きた!もう、大丈夫だよクリロス!私達、安全な所まで避難できたんだよ!」

 

すると、セレンが叫んだ俺を見て安心させるように柔らかな声音で声を掛けながら、こちらに歩み寄る。

どうやら、周りの村人も安堵している様子。

だが....。

 

「天が贈りし忌まわしき者、ジェノバはいずこにだ!?(母さんはどこだ!?)」

 

人の母親を忌まわしき者呼ばわりやめろ。

つい、目の前の彼女の肩を抱く。

すると、彼女は驚きながらも困ったような表情をする。

 

「じぇ...じぇのば....?な、何の話なの....??」

 

クソッ!通じてねぇ!!

やっぱクソの役にも立たねぇなノムリッシュ!!!

こっちはマッマがどうなったか聞きたいって言うのに!!

それに今は空は青く、太陽が輝いている。

あれから...どのくらいの時間が経った!?

 

「俺はどのくらいまだ見ぬ明日に備えていた────!…ところで、伝説とは?要請するッ…そうだろう、セフィロス…!預言てくれ!!

 

――考えるな、感じろ。―(俺はどのくらい寝ていた!?頼むッ!答えてくれ!!)」

 

質問になってねぇだろうがぶっ殺すぞ。

 

「わ、私はセレンだよ!しっかりしてよクリロス!!」

 

まったくその通りだった。

ダメだ...本格的に人と意思疎通が出来ていない。

少女は目の前で発言だけ見れば錯乱している俺の肩を揺らす。

すると、後ろから誰かがその手を掴んだ。

振り返ると、八百屋の奥さん。

彼女は俺にまっすぐに視線を向けていた。

 

「クリロス君。あなたが、お母さんを心配する気は分かる。だけど大丈夫よ。あの白魔術師様だもの。信じて待っていましょう。」

 

「如何をオプティミズムに...ッ!(何を呑気に...ッ!)」

 

この世界に来て、ここまで人を忌まわしく思ったのは初めてだった。

ここを出たのは日の入りすぐ。

そして、今は朝。

結構な時間が経っている。

それなのに、合流していないってことはつまりは....そういうことじゃないか!

あんなにも俺のパッパに当たる人の帰りを待っていたマッマ。

俺を女手一人で育ててくれた人が、あそこで戦っていたんだ。

相手には遠目だがゴブリンとかオークっぽい魔物が居た。

彼女は年々、魔力量が低くなってきたと胸を抑えながら言っていた。

弱っていたんだ。

そんな死んだかもしれない、もしくはそれ以上に酷い目に合わされているかもしれないのに.....落ち着いてなんかいられるわけ!!

 

そう思った瞬間、村人の一人が声を上げる。

 

 

「帰って来た!帰って来たぞぉぉぉ!!」

 

帰って来た!?

そんなまさか....母さん!

 

集落の門の前に殺到する。

信じられない思いで門の方まで向かうとそこには。

 

「巨悪は全て掃討した。これも全て、村の団結のお陰だわ!!」

 

まるで勝鬨を上げるかのようにゴブリンの亡骸を天高く掲げるマッマ。

すると後ろの男達が大きく叫んだ。

えぇ....これはどういう状況だ?

後ろの男たちは何人か誰かに肩を借りているものの、みな生きている。

 

そしてなによりも母さんだ。

母さんが着ていた白い魔導師風の服は頭の先から足まで赤黒く染まっており、杖の間には肉片がびっしりついていた。

 

周りに居た村人たちは亭主の無事を祝ったり、信じていたと母さんの所へ駆け寄っている。

 

「『ジェノバ』と呼ばれている私の母.....(母さん....。)」

 

マッマに近づくと、彼女はこちらに手を振る。

 

「あっ、大丈夫よ?これ、全部返り血だから。一匹一匹杖で殴ってたら時間かかっちゃって....村も焼け野原だったし....。」

 

申しわけなさそうにすると、彼女は手を拭って俺の頭を撫でた。

えっ....殴ってた?

えっ....マッマ、あなた白魔術師じゃないの?

 

「えっ、物理属性で攻撃して殺したの.....……それを、信じろというのか?(えっ、殴って殺したの.....?)」

 

俺が尋ねる。

どうも今回は意味が通る翻訳だったからか、彼女は笑顔で杖を俺に見せつけた。

 

「えぇっ!お母さん、貴方を産んだ時から魔力が段々衰えて行ってるって話はしたでしょ?」

 

確かそんな話はしていた。

俺が頷くと、彼女は話を続ける。

 

「だからね、少ない魔力で済むように強化魔法を体や武器に掛けて振り回していたのよ。こうすればいちいち長い詠唱なんかしなくても手当たり次第、目に付く魔物を倒せるでしょう?」

 

それは魔術師の考え方じゃなくね?

それに魔術師が長い詠唱をいちいちすることを拒んだら魔術師と呼べるのか?

なんで転生者の俺より効率的に魔物殺すことに頭が回っているんだろうか?

戸惑っていると、後ろに居た男たちが俺に笑顔で言って来た。

 

「クリロス!お前の母さんはな、凄いんだぞ!魔物をちぎっては投げ!ちぎっては投げしてたんだ!」

 

「流石は見惚れる強さ....俺はそう言う所が....!」

 

男達は俄かに盛り上がっている。

なんだこの人たち、血まみれで喜んでるんだけど....。

 

「な、なんか凄いね....クリロス。」

 

「....う、…言うなッ!!。。(....う、うん。)」

 

なんで俺キレてるんだろう。

しかし、そんな自分のことよりも気になるのは母さんだ。

どう考えても周りの母さんへの賛辞がどう聞いても魔術職に対する誉め言葉ではない。

どっちかって言ったら格闘家とかそういうのに掛ける部類の賛辞だ。

そして、母さんもその賛辞にまんざらでもなさそうに頬に手を当てる。

血まみれで、持っていたゴブリンの亡骸を地面に放って。

 

周りのこの集落の人達は、そんな俺達を見てドン引いている。

そりゃどう見ても、この光景は......蛮族だもん。

やだ...俺の村、蛮族の村だったのか....。

好きだった村の知りたくない一面を見てしまった気分だった。



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神々の義眼の運命に翻弄されし純潔たる魂の器

(オッドアイの少女)


森の中、俺はマッマと相対していた。

手に持っているのは、木製のねじ曲がった杖。

そして、その杖はかすかに緑の光を放っている。

 

意識を集中させる。

イメージは杖から取り込んだ魔力を体に一本の芯として通す感じ。

それを維持し続けて30分。

繰り返し繰り返しこの魔法を使用して、段々と時間を延ばしていく。

 

一応、俺には普段口に出す言語がノムリッシュ翻訳される代わりに、知っている魔法は全て万全に使うことが出来る。

しかし、ここまで長く同じ魔法を行使するのは初めてだ。

結構疲れる。

すると、不意にマッマがパチンと手を叩く。

そして、笑顔をこちらに向けた。

 

「はい、終わり!うん、よくできたね~初めてでここまで持つなんて母さんとても誇らしいわ。」

 

笑顔で俺を労う母さん。

しかし、俺はげんなりとしていた。

もう我慢の限界だった。

 

「無礼が許されるのなら強化魔導技術は良いから...ぬっ、もしかして君はモノラルなのか?.....ぬっ、もしかして君はモノラルなのか?そろそろ詠唱魔法教えて....(もう強化魔法は良いから....そろそろ詠唱魔法教えて....)」

 

モノラルとは何か?

自分の口から出た言葉に一瞬意識が持っていかれそうになるも、それよりも重要なことに意識を戻す。

村が燃えて、この村に厄介になってから数日。

マッマはもし俺が大人になってあんなことがあった時に、自衛できるようにと今までは渋っていた魔法を教えてくれるようになった。

 

その時は大手を振るって喜んだものだ。

マッマは白魔術師であるため、沢山の魔法を知っているはずだからだ。

色んな種類の魔法を知れば知るほどに、特典によって俺は強化されるからだ。

出生と特典の噛み合いによる自動レベリングかぁ~!!と息巻いていた。

しかし、現実はそう甘くはなかったのだ。

 

今回の鍛錬は強化魔法の持続時間の延長。

そして前回は強化魔法の強度の上昇。

前々回は強化の速度上昇、そしてその前は物の強化。

そう、なぜかマッマは執拗に強化魔法しか教えないのである。

強化魔法といえばこの世界で一番容易な魔法の一つである。

 

正直、俺は滅茶苦茶詠唱魔法とか知りたかったのでめっちゃじれったいのである。

しかし、マッマの方は別段前のように渋っているわけではなく....。

 

 

「ものらるさん?ってのはよく分からないけれど....でも、詠唱魔法とか確かにかっこよく見えるけど、実際のところはいちいち時間かけないといけないし、魔力も結構使うし、隙が大きいしで良いところなんてまるで何一つないのよ?それなら瞬間的に使える強化を磨いて、魔物をたくさん叩き殺した方が効率的だと母さん思うんだけど....。」

 

およそ魔法職の発言とは思えない脳筋発言なんですがそれは....。

俺の言葉に本当に不思議と言わんばかりの表情をする母さん。

めっちゃ詠唱魔法がぼろくそに言われてる....。

確かに魔物を倒すっことに関しては滅茶苦茶理にかなっているとは思う。

でも、そうじゃないんだよ!

だって魔法だよ?魔法使えるんだよ??

それならなんか難しい詠唱とか使ってやりたいじゃん。

 

しかし母さんは何度俺がそう訴えても理解は示してはくれない。

ノムリッシュのせいでもあるが、母さんがそれが一番正しいと信じて疑っていないのだ。

確かに正しくはあるのだが、どうにもロマンというものに理解はないようである。

てかなんで現地の人間であるはずのマッマの方が転生者の俺よりもRTAじみたこと言ってんだ?

先日の血まみれで勝鬨を上げる母親の姿とそれを中心に盛り上がる村人といった蛮族じみた光景を思い出して、また少し怖くなった。

なんだこの母さん、殺意の波動にでも目覚めてんのか...?

 

正直ここで執拗に駄々を捏ねてもいいが、それはあまり得策ではない。

なぜなら言語は全てノムリッシュに変換される以上は、伝えたい言葉が伝わるとは限らないからだ。

だが、俺もただ手をこまねていたわけじゃない。

ノムリッシュの干渉を受けずに、意思表示する方法。

それは.....。

 

「つーん.....。」

 

俺はそっぽ向いてむくれる。

まるで、教えてくれないことに怒っていますよ!と言うように。

俺が編み出した切り札。

それは....態度で表すことだ!!

言語が全てノムリッシュ翻訳される以上、言葉という手段は使いにくい。

だが意思疎通ではなく、相手に自分の感情を表す場合は非言語的コミュニケーションであれば余計な干渉なく感情を表現することが可能である。

これを発見した時には感涙にむせび泣いたものである。

ただ、普段の会話などの意思疎通においては使えないといった弱点を持っているが。

 

「困ったわね....詠唱魔法なんて無駄に魔力喰うだけの役立たず、教えるにはまだ早いと思うのだけれど....。」

 

さっきから詠唱魔法に対して辛辣である。

なんでだろう?詠唱魔法に親でも殺されたの?

俺が彼女を半目で見つめていると、不意に思い立ったのか手を叩いて口を開く。

 

「そうね、でも確かにいくら万能な魔法とはいえ強化魔法だけだと飽きるし、偏っちゃうわね!じゃあ....。」

 

おっ、どうやら何やら教えてくれるらしい。

良いぞ、やっぱ態度に出してみるもんだ。

やっぱ言葉なんかなくても僕たち家族は繋がってる。

ノムリッシュ冷えてるか~?

 

「....ならこの睡眠魔法を...手を翳して.....」

 

「時既に見た。(もう見た。)」

 

それは以前、戦闘に赴く際に俺を強制的に寝かせた魔法だった。

俺は魔法の存在さえ明確に知っていれば、特典で使えるのでその魔法は既に使うことが出来る。

それに、その魔法は詠唱魔法ではなく強化魔法と同じ部類の魔法だったはずだ。

 

俺は態度を変えずに別の魔法にせい!と言外に圧力をかけた。

すると、マッマはこれもダメか~と頬を掻いて困った顔をしながらも考え込んで口を開く。

 

「それなら風魔法とかどう?ほら、貴方の頭乾かすときによくやってあげてるでしょ?あれと砂塵魔法を組み合わせれば複数の目を潰せるから良い魔法よ?」

 

「かの魂も見たし、ツカ=インカトゥスが汚い。」

 

使い方がなんか人名みたいになってる....。

やはりと言うか何というかマッマは首を傾げているため、今度も態度で示す。

それからマッマは沢山魔法を提案するが、どれも一度見たものや強化魔法と同じく非詠唱のものばかり。

そしてどうにも彼女は非詠唱についてはよく使うから教えることは容易いが、詠唱魔法については使う必要もないのでもはや使い方もあやふやで教えるには勉強しなおさないといけないようだ。

やっぱりRTA走者じゃないかたまげたなぁ....。

 

「まぁ、とにかく今日の鍛錬はこのくらいにしておきましょう?明日は強化魔法を50分持続させるのを目標に頑張りろうね!」

 

マッマは頭を撫でながら微笑みかける。

しかし、俺の内心は憂鬱でしかない。

また、あの地味で疲れる強化魔法鍛錬が明日待っていると思うと、気が滅入るのだった。

 

 

 

 

 

 

鍛錬を終えると、森から村の方へと戻っていく。

俺たち子供など戦えない者たちを受け入れてくれた隣の村だ。

今は一時的ではあるが、ここで生活している。

そして向かうのは一つの民家。

そこの扉を開けると、一人の女性が慌ただしく料理の仕込みをしていた。

 

「あっ、二人ともお帰りなさい。今、料理の支度をしていますから。」

 

柔和に微笑む彼女。

しかし隣の母さんは彼女を見ると、弾かれたように慌てだした。

 

「あら、もうそんな時間だなんて...すいません!私も手伝わせてもらいます!」

 

「いやいや座って待っててください。お客さんなんですから.....。」

 

「お客様なんてとんでもないですよぉ~!居候させてもらってるのに本当すみません~。クリロスはエレオラちゃんと座って待ってなさい。」

 

二人はいやいやとお互いに言葉を掛けながらも一緒に料理に取り掛かる。

俺たちは村を失った。

これからは親戚の筋など伝手を辿って各々が移り住むことになるという。

まぁ大体の人たちは近くの都市に住むつもりらしいが。

多分、長い間同郷で育ってきた仲間と出来れば一緒に居たいということなのだろう。

 

俺のところはまだ決まっていない。

母さんがずっとどうするか考えていた。

まぁ俺の家はさておき、とにかくその準備が済むまではこの村で厄介になっている。

そして、俺たち家族は母さんと俺の二人。

男の居る家に居候させるのは何かと問題があるだろうという話になり、村で未亡人であるこの女性、マリナさんの家にお世話になっているのである。

どうにも気が合うらしく仲良く料理を作っている二人。

 

「.....。」

 

そんな二人とは対照的に椅子に座る俺を仏頂面で見つめるオッドアイの少女。

マリナの娘であるエレオラ。

俺は未だに彼女と馴染めずに居た。

 

 

 

食卓。

4人で囲む食卓にも慣れたものだ。

お互いの母親はニコニコ笑い合っている。

 

「いやぁ、オリビアさんが来てから毎日本当に助かりますぅ~。この豆煮込みだってすごくおいしいんですけど、何かコツとかあるんですか?」

 

「ほんと大したことはしてないわ。そうねぇ...一度硬めに炊いてみてそれが結構おいしかったからそうしてるって感じかしらねぇ....。」

 

母親の方は、和気あいあいと話している。

逆に子供の方はお通夜雰囲気である。

なんだろうね、すごい睨まれているような気がするんですけどそれは.....。

いや、もしかしたら普通に目つきが悪いだけなのかもしれへんし.....。

 

エレオラは黙々と豆を食っている。

そして、目が合うとキッと細めるのだった。

そんな彼女に隣のマリナさんが笑顔で声をかける。

 

「エレオラは今日どうだったの?何か面白いことはあった?」

 

「...別に、いつも通り。」

 

彼女ははぐらかすように目を反らす。

そうっと寂しそうに笑うマリナさん。

反抗期であると思っているのだろうが、それが違うことを俺は知っている。

彼女がこんな様子なのは、その原因は.....彼女の目だ。

 

「....何?」

 

「な、万物預言書にない。(な、なんでもない。)」

 

「....なにそれ、意味わかんない。」

 

目つきを鋭くする彼女。

それにしても、自分でもそう思うけど人にこうはっきり言われると案外傷つくものだな....。

結構村のみんなはわからないなりに理解しようとしてくれていたから。

その予言書逆に何なら書いているんだよ.....。

 

「こら!エレオラ!!そんなこと言って.....!!」

 

「いや、大丈夫ですよ.....私もクリロスの言葉が分からないことがあるし.....。」

 

マリナさんがエレオラを咎める。

そんな二人を見兼ねてマッマはそうフォローを出した。

そのフォローが俺に突き刺さっているんですがそれは.....。

 

「...ご馳走様。」

 

「あっ、エレオラ!待ちなさい!!....本当、どうしちゃったのかしらあの子....。ごめんなさい、難しい年頃で....クリロス君もごめんね、気にしないでその喋り方、かっこいいわ。」

 

食べ終わると、弾かれたように机から自分の部屋へと行ってしまうエレオラ。

それを見て、溜息を吐くマリナ。

そして俺を励ましていた。

 

いや、別に意味不明なのはわかってるし....

逆にそんな風に気を遣われたら複雑な気持ちになっちゃうから!

 

「我らが主は笑って許してくださる……そうでございましょう?。神の意志とは異なり威光にしてお前はもう戦えない……戦う 目的がないだというのか……。(大丈夫です。別に気にしてないです。)」

 

なぜかクリスチャンになっていた。

別に戦ってないんだよなぁ....。

神の意志とか言い出してるし、俺ってば狂信者だったのか....。

 

「クリロス君は敬虔な信者なのね...。何か信じていらしているのですか?」

 

「えっ....、いや.....特に私もあの人もそういう信教はしていないはずなんですけど...。」

 

ほら、話がなんか拗れちゃってるよ....。

しかし、その話をした後に笑顔をマリナさんは見せる。

 

「そうですか...でも、それなら...これからもエレオラと仲良くしてくれたらうれしいわ。あの子には目の事があるから.....。」

 

「目....ですか?」

 

「えぇ、村の逸話で左右の目が違う魔物が出てくるものですから...ちょくちょくそのことで言われることがあるんです。...まぁ大半の人は優しいんですけど。」

 

「そう...ですか。」

 

マリナの話を聞いて、マッマは表情を曇らせる。

そうだ。

彼女の目は、この村の逸話に倣えば不吉な物であるらしい。

大人で明確に態度に出す人はいないものの、同年代くらいにそのことで何か言われてる姿は一度見かけたことがある。

まぁ、でしょうねと言った感じだ。

あんな一目見て分かる違いは俺の元居た世界でも普通に迫害の対象なりえた。

こんな村落で、しかも逸話において不吉の象徴と被るのであれば尚のことだ。

 

ただ俺にはどうも.....。

 

「あの子の目は不吉なんかじゃない。....探している人を見つけるための、素敵な瞳なんだって....そう教えてるんだけど.....。」

 

悲しそうに笑うマリナさん。

俺も同じだった。

多分部外者ゆえにそう感じるのかもしれない。

綺麗な目なのだから、なぜそんな窮屈な思いをしなければいけないのだろうと。

 

 

 

お客用の借りベッドから身を起こすと、リビングの方へと歩み出る。

喉が渇いたのだ。

トイレ行きてぇ....。

そう思ってゆっくりとリビングに出ると、一人の人影を認める。

 

そこに居るのは眼の色が違う少女、エレオラ。

水瓶から水をコップに注いで、呷っている。

喉の渇きから起きたのだろうか。

 

まぁでもトイレに行きてぇしなぁ....。

それに打ち解けていないし、話しても気まずいだけなのだ。

ここは何も言わずにトイレに向かうか....。

そう思って、一歩踏み出すと彼女がまるで弾かれたようにこちらを見る。

 

「....」

 

「....」

 

....なんだこの空気。

目が合っているんだからなんか言ってよ.....。

同年代との会話でここまで気まずくなったの初めてなんだけど.....。

俺から何か言った方がいい?

いや、でも口から飛び出してくるのノムリッシュだし.....。

 

こんな時、今は眠っているであろう同郷の少女が恋しくなる。

セレンは明るいしなぁ....。

この村でもその明るさは健在で、結構友人を作っているらしい。

あの村では同年代くらいの子が俺くらいだったからなぁ.....。

新しい環境にすぐ順応する彼女に安堵する一方、自分以外の同年代と接することになって立っていたフラグどっかに霧散していないかという懸念もあるのだが。

ほら....選択肢増えたら心変わりが起こりやすくなるから....。

最近は魔法の練習ばかりであの子にあんまり会っていないので、猶更だった。

 

「...お前さ、私がくだらない奴らに絡まれてるの。ママに言った?」

 

なんかすごい形相でこちらに睨みを利かせる少女。

でもこんな形相でもママとか言っているのでまだまだ子供なんだと再確認させられる。

....まぁ、こんな子供にビビり散らかしている男が居るらしいっすよ。

情けないンゴねぇ....。

 

「いや、言ってない、だからキマリは通さない…女を殺したくはないが…....。(いや、言ってないけど....。)」

 

「なにそれ、大声出すわよ。」

 

俺の言葉を聞いて、警戒心を露わに後ずさる少女。

まぁ物騒なこと言ってるし、多少はね?

でも大声だけはやめてもらって....僕はただ言わされただけなんです!

そんなつもりはないんですよ!!

エレオラは獣人だった....?

本編でもキャラ性能でも不遇そう。

 

「まぁ、言ってないならそれでいいし....今後も、そういう感じで。」

 

ウェーブのかかった髪を指で弄りながらもそう溢す彼女。

そして、不意に目を鋭くする。

 

「...一応前も言ったけど、私に関わらないで。...どうせ、あんたがここに居るのは一時なんだから。私はあんたの事を知ることはないし、あんたが私に関わることもない。良い?」

 

「あ、噂程にもない…ぐぁあ!?......…お話になりませぬな…そっち、全てはクリスタルの力を求むるがため話しかけてき、そして私を恨んでいるじゃん......。(あ、あぁ......いやそっちから話しかけてきてるじゃん......。)」

 

苦しみながらも、俺は言葉を紡いでいた。

相変わらず原型ないやん。

それにしても関わるなと言っておきながら自分から話しかけてくるのはどういう....?

 

「...別に、恨むんでないし。...でも、あんたいつも口を開けばオーバーでうざい。...おやすみ。」

 

彼女は俺の言葉を聞いて、視線を外すも再度しかめ面で目線を合わせて後ろを向く。

そして自らの部屋へと歩いて行った。

うざいって中々ストレートだなこの子....言葉のナイフはやめてくれぇ?

 

「お、私は思い出にはならないさ.....(お、おやすみ.....)」

 

返事をしたつもりがなんかノリが軽いセフィロスのようになってるんですけど....。

招待されていないのに乱闘に参加しそう。

ワイは片翼の天使だった!?

 

そんな馬鹿な事を考えながらも、自分の部屋へと戻る彼女の背中を見つめる。

彼女はよそ者である俺を拒絶している。

だから俺は、彼女の事情に深く踏み込むことに躊躇しているのだった。

心まで子供だったら、こんな風にいちいち考えることもなかったんだろうに....。

今だけは転生前からの自意識を保っていることを恨めしく思った。

 

あぁ....セレン、君が恋しいよ....。

まともにちゃんと話してくれる幼馴染の女の子の希少性を再認識したのだった。




女の子がもう一人!?
名有りの女の子が二人、来るぞクリロス!!


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救済〈サルヴァティオ〉してこれほどの風に囁いてない

(助けてなんて言ってない)


まだパパが居た時。

パパは優しく笑いながら私の頭を撫でながらもこう言っていた。

 

『その目はほかの人とは確かに違う。でもね、それは強みなんだ。エレオラは特別だから...他の連中はやっかんで足を引っ張ってエレオラを折ろうとしてくる。でも、そんなどうしようもない奴らなんかには負けない、強い子になりなさい。』

 

ママはその言葉を聞いて、エレオラは女の子なんですから!とパパは怒ったが私はその言葉が胸に染み入るように入っていった。

そうだ、そんな奴になんか負けたくない。

私は強い子になるんだ。

 

パパが死んだという知らせが来た時、その思いははっきりと確固たる形を得た。

日頃明るく振舞っているけど、影で泣いていたママ。

その分、私が強い子にならないといけないんだ。

他の子たちは集まったりしているけど、あれは弱いから群れてるんだと自分に言い聞かせた。

他の子たちと遊ぶ暇があるなら、ママの手伝いをしなければいけない。

私はほかの子とは違って強い子だから。

 

だから.....。

 

「何無視してんだよこの目違いがよぉ!!!」

 

「っっ痛っ!!」

 

いつもの奴らに髪を引っ張られる。

何を言われても反応すれば喜ばせるだけ。

そう思って無視していたのに、痛みに声が出てしまった。

そんな私を見て、アイツらは笑みを浮かべた。

 

「ようやく声を出したぜ。」

 

「それで良いんだよ、目違いが俺たちを無視するなんて生意気だよなぁ?」

 

突き飛ばされる。

泥が服に就く。

嫌な感触に顔を歪めるも、腕を掴まれて髪を引っ張られていく。

振り払おうとしても髪が引かれる痛みや力の違いから振り払うことが出来ない。

 

「っっ..やめっ...痛い、やめて!」

 

「最初からそんな風に言ってればよかったんだぞ!」

 

「村を襲った魔物の末裔め!退治してやるぞ!!」

 

ただ、私は目の色が違っただけなのに。

こんな目になりたくてなったわけじゃないのに。

 

私は強い子だ。

だというのに、今何も出来ずにただみじめにやられるがままになっている。

私は、自分が思っているほどに強い子じゃ....なかったのかな?

泣かないって決めたのに、目の前が潤んでくる。

情けない。

もう居ないってわかってるのに、どうしても思ってしまう。

パパ....助けて。

 

私には友達が居ない。

いつも一人で、どんな時も一人ぼっちだった。

だから、今助けてくれる人なんか居ない。

そのはずなのに.....。

 

「背中がガラ空きだ、今すぐその掌を放せ。」

 

普段は訳の分からないこと言っている奴の癖に。

どうせ、すぐこの村からも居なくなる癖に。

碌に私と話したこともない....癖に。

あれほど、関わるなと言ったのにそいつは悠然と立っていた。

 

 

 

 

 

 

「それで、修業はどんな感じなの?クリロス!」

 

村の外れ、久しぶりに会った彼女は目をキラキラと輝かせながら俺にそう聞いてくる。

俺の幼馴染であり持ち前の明るさで新天地であるここでも友人を多く作った少女、セレン。

修業が今日一日休みなので、久しぶりに彼女と会うとそのまま二人で村の外れの原っぱへと遊びに行っていたのだ。

 

「まぁ表向きは、それなりに.....いや全くもって我が叡智をもっても詠唱実数世界に無理矢理、虚数領域の法則を適用させる術教えてもらえない。だが、お前は俺を裏切った....(まぁ、それなりに.....いや全然詠唱魔法教えてもらえないけど....)」

 

「えぇっ!?う、裏切ったなんて....私何かしたかな.....?」

 

驚愕し、表情を曇らせる彼女。

いや、別に何もしていないけど.....。

こういうことがあるのでノムリッシュ君は許されない。

それなりって言ってるのに、表向きになってるしな。

原型がほぼないんよ。

言語活動において致命的だと再認識させられた。

 

しかし、その数秒後まるで伺うかのような表情でこちらに問いかける。

 

「その...もしかしてさ、私の勘違いじゃなければ...私が、他の子たちともよく喋っているから...とか?」

 

なんだろ....すげぇ反応に困る。

それも考えてた時もあったけど、今言ったのはそのつもりじゃないっていうか....。

 

「いや、もう…どうでもいい……、そう…いや、これは何者かが仕組んだ事件じゃない。運命の悪戯…偶然の産物さ――そこに理由なんて、ない。(いや、そうじゃない。)」

 

否定しろ。

もう意味の分かる言葉が出るとは期待しちゃいないから最低限否定してくれ。

どうしてそうじゃないって言葉がそんなはぐらかしに変わるんだよ。

逆に知りたいわ。

 

「ふ~ん...やきもち焼いたんだぁ~...。」

 

彼女は俺の言葉を聞いて、にやにやと笑っている。

いや、別にやきもちなんか焼いてませんしぃ?

そんな子供には子供の付き合いがあるっていうか?

ただフラグなくなってるんちゃうかなって一瞬不安になっただけで、なくなってたらなくなってたで別に構わないしぃ?

....いや、強がり言うのはやめとこ。

普通にきっついわそれ。

 

なんとはなしににやつく彼女を見ると、恥ずかしくなって視線を逸らす。

すると、彼女は腕にひっついてくる

おっふ!....いや、別に何もないっすよ?

女児に引っ付かれたくらいでなんともないっすよ。

こちとら経験豊富な大人ですよ....いや経験なんかないけど。

 

「そんな心配する必要ないのに~、クリロスって案外可愛いところあるんだね!」

 

!!?!?!?!?

ニコニコと笑顔を浮かべる少女。

そんな彼女の顔を見て、胸が高鳴った。

いや、違うでしょ。

向こうにフラグが立っているのであって、俺が立てられる方じゃないから....。

普通転生者って逆だから。

子供に手玉に取られている精神年齢高校生が居るらしい。

はい、俺です。

 

「そっちは神話の時代どんな感じ‥その疑問が私の心を捉えて離そうとしないのである(そっちは最近どんな感じ?)」

 

滅茶苦茶かしこまった物言いになってるんが、まぁ意味合いは間違いじゃないからええか。

神話の時代ってなんだよ、紀元前か?

 

「神話.....?よくわかんないけど...まぁ元気だよ!色んな人とも仲良くなれたし...そうだ!クリロスも忙しくて話す暇がないだろうから私がクリロスの事周りの子たちに教えてあげたりしてたよ。」

 

「”それ”はマダガスカル.....。(それは助かる.....。)」

 

マダガスカル!?

ノムリッシュ君の言語野でもバグったのか?

どしたん?話聞こか?

まだ助かるまだ助かるマダガスカルってか?

やかましいわ。

 

「まだがすかる....なんだろ?語感がいいね!」

 

彼女は首を傾げる。

まぁこの世界にはマダガスカルという土地はないからな。

ただなんかいい感じの語感の言葉に聞こえるだろう。

 

「まぁそれは今は良いとして....。」

 

セレンは一言呟く。

そして彼女は笑顔をこちらに向ける。

しかし、その笑顔を見ているとなぜだか薄ら寒い感覚が背中を走った。

 

「それでさ今クリロスってさ、クライネさんの家にお世話になってるんだよね?」

 

俺は彼女の言葉に頷く。

口を開くと話がこじれることはわかっているからだ。

マリナさん達の姓名がクライネなのである。

しかし、よく知っているものだ。

そこらへん、女の子たちの間で情報が出回っているのだろうか?

それこそ....エレオラ関連で。

 

「それじゃあさ...あの、えれおらちゃん?って子とも一緒に住んでるんだよね?」

 

俺は再度頷く。

そりゃクライネさんのところの娘なのだからそうだろう。

なんだ、何が聞きたいんだ?

いや....まさか.....まさかこれは!!

 

「そっちはどうなの?女の子と二人なんだから色々やりづらいなぁとかあったりしたんじゃない?私、気になるなぁ.....。」

 

目を細める彼女。

これは....まさか!

まさか嫉妬か!?

嫉妬なんか!!!??

俺の勘が正しければ生前ではまったく縁のなかった女の子の嫉妬だ!!!

ほら、なんかフラグ立ってた感あったし...まだ立ってるっぽいし!!

 

ひゃ~!まさかこんなことになるなんて異世界転生万々歳ですわ。

言語がノムリッシュになっててもおつりが来るんじゃない?

実際全然そんなことないだろうけど、今だけはそんな風に思えるわ!!

テンション上がってるから!!!

 

しかし、実際のところ俺は未だにエレオラとは馴染めていない。

なんなら関わるなとまで言われたのだ。

正直、この世界でもまともに話せる同年代の子は現状セレンだけである。

だから正直話せることなんか仲良くなれてないくらいの事しかない。

しかし、口を開くとまた話がこじれること請け合いであるので、俺はただ首を横に振るしかない。

強いられているんだ....。

 

「...言いたく、ないの?...私に....?」

 

なんだこのどんよりとした感じは....。

明らかにこれはバッドコミュニケーションだな....。

畜生、人間種が言葉を用いなくても意思疎通が出来るようになれば良いのに....。

こうなればやけだ。

このままにしておくのは、なんか本能的にいけない気がする。

俺は咄嗟に口を開いた。

 

「そういうわけじゃなきことが世界の理を間断なく破壊せんとしている。ただ、エレオラとは蜜月に支配されて変貌を遂げて…死なないで、あなたは誰にも触らせたくないくらい大事な人だからから話すことがないっていうか....。(そういうわけじゃない。ただ、エレオラとは仲良くなってないから話すことがないっていうか....。)」

 

なんか人の言葉すごい好き勝手訳してんなお前な。

なんならすげぇ恥ずかしいこと言わされてるような気がする。

そもそもこんな状況下で死ぬようなことないだろお前。

しかも蜜月に支配されて変貌を遂げて....って答えになってなくないか?

 

「そんな風に言ってくれるのは嬉しいけど...でも、そんな言葉じゃ誤魔化されないもん....。」

 

ジト目でこちらを見つめるセレン。

あぁ...本当になんてことはないのに、まさかこんな風に自分の首を絞めることになるなんて。

ノムリッシュさえなければ円滑に意思疎通できたのに...。

そもそもジェスチャーの方が円滑に話せるこの現状がヤバいんだよなぁ....。

そんなん人間のコミュニケーションちゃうやん。

 

「いや、本当に大したことじゃなかったのではなく、記憶の淵に閉じ込めていただけとは、皮肉なことじゃな…いうか......その、話聞いて授かってもいいすか?(いや、本当に大したことじゃないっていうか......その、話聞いてもらってもいいすか?)」

 

「つーん」

 

そっぽ向く彼女。

困ったな....。

どうにも機嫌を損ねてしまったようだ。

どうしたらいいんだ....。

ことコミュニケーションに至っては俺は完全に無力だ。

 

フラグが立っていればいいってわけでもないのか....。

コミュ力がノムリッシュに置き換わってしまっている俺には目の前の少女すらこませないというのか...。

なんとも情けない話である。

途方に暮れていると、微かに声が聞こえる。

なんだ....。

 

「地獄からの呼び声が聞こえないか?

――考えるな、感じろ。―(声が聞こえないか?)」

 

「...聞こえる。多分あっちから。」

 

顔を逸らしたまま、ぶっきらぼうに彼女は俺の言葉に賛同する。

あっ...ちゃんとお話しはしてくれるんですね....。

地獄からの呼び声ってなんかビジュアルバンドめいてんなぁ....。

 

それにしても声の主が何とはなしに気になるな。

聞いた感じでは獣ではないとは思うが....。

まだ村の敷地から出ていないだろうから、あんま魔物が居るとは思えないし....。

 

「あっ、どこ行くの!」

 

「なんか視界の端に捉えに行ってくる。(なんか見に行ってくる。)」

 

視界の端じゃなくてちゃんと見ろ。

自分の言葉にセルフ突っ込みを入れながらも、声がする方へ歩みを進めてみる。

後ろから彼女も付いてきているのが分かる。

 

歩みを進めて数歩。

昨日の雨のせいか地面がどこかぬかるんでいた。

転んだら服が汚れるだろうな。

そう思っている矢先に、それは目の前に現れた。

 

一人の少女を取り囲んでいる三人の少年。

その少女にはとても見覚えがあった。

あれは....。

 

「肉体を6分割したエレ・ディストピアオラ......(エレオラ......)」

 

エグゾディアかよ。

いやそれにしても一分割多いわ。

 

3人は少女ににやにやとした笑みを浮かべて声をかけるも、少女は取り合わない。

あんな場面を前にも一度見た。

彼女の目、それによって絡まれている所。

 

「あれって....えれおらちゃん...だよね。その、今のって嫌な事されてるんじゃ....」

 

さっきまでの不機嫌さが噓のように心配そうな声音で彼女を慮るセレン。

もしかしてエレオラの事情を知っているのだろうか?

いや、名前を知っていたくらいだ。

セレンは村の同年代と仲良くなっている。

だからこそ、そういう情報が耳に入っているのかもしれない。

 

「事象を預言書に記されてるのか...?(事情を知ってるのか...?)」

 

「よげんしょ....?よく分からないけど、どうしよう....。」

 

あ~~~!ほんま糞!!

こちとらセレンがエレオラの事情を知っているのか聴きたいのにこれじゃ碌に聞けねぇだろうが!!

彼女はこちらにどうするのか視線を向けてくる。

 

本来であれば止めるべきなのはわかっている。

しかし、あの時の彼女の言葉が頭を過った。

 

『私に関わらないで。』

 

それが一瞬一歩踏み出すのに躊躇させた。

彼女は自分がああなっているのを俺が見たのを知っていた。

それでなお、関わるなと言ったのだ。

 

しかし、躊躇った瞬間に連中は彼女の髪を引っ張り始める。

顔を一瞬歪ませる彼女。

それを見逃すことなく連中は調子づく。

そして....地面に倒した。

続けて髪を引っ張る。

それはもはや嫌事などの域を超えて、ただの蹂躙であった。

 

そして、何よりも。

あれほど気丈に振舞っていた彼女の瞳が潤んでいった。

 

駄目だ。

いくら何でもそれはダメだろ。

それは、子供同士の不和と見なすにはあまりにも行き過ぎている。

 

こんなのは....見逃せるはずがない。

これを見逃す奴は人間の屑か、臆病者だけだろう。

たとえ彼女自身が俺の介入を望んでいなかったとしても.....。

 

それに、なによりも...あんなに寄せ付けないような彼女が泣いている姿は。

なんというか見ていられなかった。

 

「クリロス!!?」

 

俺は駆け出す。

そして、ただ喉を振るわせて声を張り上げた。

 

「背中がガラ空きだ、今すぐその掌を放せ。(やめろ、今すぐその手を放せ。)」

 

おぉっ!?マジか....。

俺の言葉をノムリッシュが初めてかっこいい感じに訳してくれていた。

それが、なんというか...俺は今正しいことしていると神様が言っているように感じていた。

まぁ、実際はただの偶然なのだが。

 

彼女は視線をこちらに向けていた。

驚愕しているのか目を丸くしている。

そして、他の連中もこちらに目を向けている。

 

「はぁ?誰お前?」

 

「仲間に入りたいなら入れてやってもいいぜ。」

 

「つか、コイツよそ者じゃね?ほら、最近来た奴ら。」

 

3人は口々にそう言葉を述べている。

....さて、考えなしに突っ込んでいったのだがこれはどうしたものか。

実際、彼らはただの子供だ。

俺とは出発点が違う。

ボッコボコにすることは容易いだろう。

なんていったってマッマが強化魔法とかを教えてくれているからな。

 

しかし、どうだろうか?

他所から来た子が曲がりなりにも村の子供を傷害してきたとしたら。

だとすればマッマも含めて俺の村に人間が村で過ごしにくくなるだろう。

それに.....せっかく友達が沢山出来たセレンが嫌な思いをするかもしれない。

 

だとすれば...どうしようか....。

 

「じゃあさ、止めに来たんじゃねぇの?」

 

「なんだよ正義の味方気どりか?勘違いすんなよ?こいつは昔村を襲ったっていうアザトリプスと同じで目の色が違うんだ。魔物の生まれ変わりなんだよ!だから俺が正義ってわけ!!」

 

「つかコイツ顔は良いもんな、実はコイツの事好きなんじゃねぇの??」

 

にやにやと連中は言葉を言っているが、まぁクソガキの言うことなんでスルーでいいだろう。

大方自己正当化と嘲笑であることは想像に難くない。

精神衛生上無視安定だ。

 

強化がダメならどうする....燃やすか?

いや、それは殴る以上にアウトだな。

そう考えていると、あることを思いつく。

あるじゃないか....傷つけずに相手を無効かするお誂え向きの魔法。

瞬間的に出せて、ガキ相手なら問題なく起動する俺の魔法が。

 

「...てめぇも,.なに無視してきたんだ!!」

 

するとガキの一人がこちらに走って拳を振り上げる。

避けたりは...出来る気がしないな。

ならば、全身に強化魔法を行使。

そのまま相手の攻撃を受けた。

仰け反りはしない。

でも、痛い物は痛かった。

 

「クリロス!!」

 

後ろでセレンが声を上げる。

まぁ、強化しているのでまったく問題ない。

 

「へっへ、ざまぁみ...ろ.....?」

 

得意げに笑う彼。

しかし、その瞬間全身の力が抜けて、そのまま倒れこむ。

すると、さっきまでニヤついていた二人が表情を一変させる。

 

「テイラー!?お前、何したんだよ!?」

 

「このっ....!!」

 

二人は取り乱すと、エレオラの髪から手を放して二人がかりでこちらに殴りかかってくる。

まぁ、相手は俺が何もせずに仲間が倒れたように見えただろうからな。

実際はただ触れて睡眠魔法かけたってだけだが。

 

だから、別段人数が増えようが....。

 

二人がこちらに殺到する。

一人は蹴りで、一人は拳か。

別段多分特別な技能もない、普通の暴力。

とはいえ、俺自身も別段そんな徒手空拳の心得があるわけでもない普通の子供。

だからこそ、ここは魔法に頼らせてもらう。

 

「かてぇ....なんだよコイツ!!」

 

「蹴った足がいてぇ!!」

 

蹴られた脛と顔が痛む。

でも、強化をしているから損傷自体はないはずだ。

二人の腹に手を当てる。

そして、睡眠魔法を行使する。

 

「あっ...く..そ...急に...ねむ.....」

 

「いし...きが.....」

 

眠たげな表情に仰向けになって倒れこむ彼ら。

ヨシ!これで無力化は成功したはず。

なんだ、俺も結構やれるじゃん。

とりあえず強化は解除して、ちゃんとかかっているか確認を...。

 

「これで、おわ,,ると,,,思うなぁ.....!」

 

「クリロス!!」

 

仰向けに倒れこんでいた一人が足を最後の力を振り絞って蹴りだす。

ちょうどしゃがむ混んでいた俺の顔、鼻面を捉えていた。

痛みと共に、視界が横にブレる。

そして、痛みと共に鼻から何か流れ出ているような生暖かい感覚。

どことなく呼吸がしにくい。

 

手を当てると、そこには真っ赤な液体。

これ...鼻血か。

生前もこんな風に殴られて鼻血出すことはなかったな。

 

そして、魔法が完全に作用したのか蹴ってきた奴はそのまま眠り込んでしまう。

完全に油断していたな。

そもそも確認するなら強化魔法解除する必要はなかったな。

いや、まぁ正直ずっと魔法維持するの疲れるから解除したんだが。

 

「クリロス!大丈夫!?クリロス!!!」

 

後ろからセレンが歩み寄ってくる。

慌てた様子でこちらを心配する。

まぁ、痛いけどのたうち回るほどじゃないっていうか....。

昔足の骨が折れた時の方が痛いし....所詮子供の力で殴られただけだからそこまで重大じゃない。

 

「あぁ、全ては神の御心のままに僅かな犠牲が同胞の未来を築く。(あぁ、大丈夫大丈夫。)」

 

「そんな...大変、頭を蹴られたから....しっかりして!!」

 

彼女は深刻な顔で俺の頬を手で包む。

いや、いつも通りのノムリッシュだから。

僕は...正常だよ。

つか、顔近。

畜生、この子こうして見ると顔が良いなぁ.....。

見ていると、こっちが恥ずかしくなってくるよ。

まぁ、そんなことよりも....。

 

「神の御心のままに…か、奏でるか?(大丈夫か、立てるか?)」

 

何を?

相変わらず滅茶苦茶な翻訳である。

でもまぁ、手を差し出しているから立てるか的なこと聞かれてるのはわかるだろ、...分かるよね?

 

いや、それにしてもこれは所謂良いことに当たるんじゃないか?

これ、転生ものとかだったら普通にフラグ立つ奴でしょ。

いや~、つらいなぁ~。

幼馴染が居るだけでも恵まれているって感じなのに、まさか自分につっけんどんな子相手にも建っちゃうかもなんてなぁ....。

これ、フラグ建築士とか名乗っていいんじゃない?

かぁ~、一級建築士の道も遠くないってか!

 

そう浮足立つ俺。

しかし、そこまで現実は甘くないということか。

彼女は涙目のまま、こちらを上目遣いで見る。

そして、差し出した手を取ることなく立ち上がる。

 

....え?

困惑する俺を他所に、彼女はゆっくりと立ち上がると服についている砂埃を払うとこちらを睨みつけるような表情で見つめる。

そして、震える声で言葉を口にした。

 

「私は...助けてなんて...、言ってない。こんなことされたって...何も変わらないんだから。」

 

そう言ってそのまま走り去ってしまう。

予想外の出来事に俺はただ手を差し出した姿勢のまま、停止してしまう。

こんなことされても何も変わらない。

....まぁ、確かにそうだ。

俺たちはどうせこの村を去る。

もし連中が俺に対して仮に恐れを為しても、俺が居なくなれば元に戻るだろう。

もしかしたら、俺が居て出来なかった分、彼女にその鬱憤をぶつけるかもしれない。

 



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