夕映に憑依したダレカの物語 (ポコ)
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第0話 夕映になった私
夕映を選んだのは好きなキャラだというのもあるけど、チートじゃない程度に強キャラだからです。刹那やネギに憑依だと俺Tueeeeになる未来しか見えない。
主人公最強系は、読むのは大好きだけど書くのは嫌であります。
(ん……眩し……)
その眩しさに刺激され、薄らと瞼を開けると見慣れない天井が視界に入った。
これはどういう事だと思い、ここがどこかと確認しようとしたけど――――。
(あ、あれ? 身体が上手く動かせない?)
身体を動かそうとしたけど、指先くらいしか動かせなかった。それに声も上手く出せない。え、何これ。どういう状況なの?
必死の思いで首を左右に動かすと、どうやら木で出来た柵に囲まれたベッドに寝かされているみたいだった……ていうか、首を動かす度に視界に入ってくる赤ん坊みたいな手足って……。
(どう見ても私の手足だよねえ……)
これはもしかしてあれかな。二次創作でよく見る転生をしちゃった? でも私って神様に会った覚えとか無いんだけど……え、あれ? 神様どころか、自分の名前というか前世も思い出せないんだけど!?
前世が思い出せないという事にショックを受けてると、思わず大声で泣き叫んでしまった。うん、流石は赤ん坊。泣き声の大きさにかけては大人にも負けないね! そんなアホな事を考えてると、両親と思わしき男女が慌てた様子で入って来た。泣き止もうとは思ってるんだけど、これが精神が肉体に引っ張られるってヤツなのかな。頭は冷静なつもりなんだけど、どうにも体が言う事を聞いてくれない。
「どうしたの夕映? お漏らしはしてないんだけど……あ、ひょっとしてお母さんがいなくて寂しくなっちゃったのかしら?」
「成程。夕映は寂しがり屋だなぁ~」
(ゆえ? それが私の名前?)
お母さん(多分)が私を抱きかかえてあやしてくれてると不思議な安心感を感じて、気づいたら泣き止んでいた。なんか安心したら眠たくなってきたなぁ……これも赤ん坊だからかな。色々と考えたいことはあるけど、取り敢えずは寝だめをしてからにしよう。寝る子は育ちますけえ。
――――――――
私が転生してから5年が経ちました。え、時間が飛ぶのが早いですか? 別に神様にチートを貰ったわけじゃないんですから、平々凡々な幼児生活をしただけです。これが神様転生なら能力の訓練とかしてたんでしょうけど、残念ながら私の産まれたのはごく平凡な普通の日本家庭。ニュースや新聞でも女尊男卑とかコロニーとか機械獣とかブリタニアとかそんな物騒な単語は出てきませんし、私は普通に平和な日本に産まれたに違いないです。そう思わせてください。
何か口調が変わってないか、ですか? それなんですけど、拙いながらも喋れるようになってから、何故かこのような説明的というか、語尾に“です”をつける癖みたいなのが付いちゃいました。これも肉体に引っ張られるって事なんでしょうけど、何でなんですかね。
では気を取り直して。私の家族構成から説明しましょうか。祖父、両親、私の4人家族です。残念ながら、上にも下にも兄弟はいないです。ちょっと兄弟に憧れてたんですけど、いないのは仕方ないです。前世の事は相変わらず思い出せないですけど、きっと一人っ子だったんでしょうね。けど、残念ながら両親は不在で現在は祖父との2人暮らしです。両親の仕事が何なのかは知りませんけど、どうやら海外で働いてるらしく。私が3歳になって走りまわれるようになると、祖父に私を頼んで名残惜しそうに旅立ちました。お爺様は大好きだから私に不満は無いです。けど、まだ幼い子供を置いていったりなんかしたら、下手したら両親って自覚されなくなってもおかしくないと思うのですが。その辺りは考えてたんですかね?
前世の話が出たついでに、それについてもお話します。さっきも言いましたけど、前世の事についてはさっぱり思い出せません。これから先も思い出す事は無いでしょう。何故かは分かりませんけど、思い出せないという確信があります。ホント、何ででしょうね? あ、前世が思い出せないと言っても知識とかは覚えてますよ。そうじゃないと5歳児がこんなに色々考えられる訳が無いじゃないですか。それなりの知識はありますし、転生前が小学生や中学生という事はないと思います。というか、そんな若い身空で亡くなったとか思いたくないです。
あ、私は前世も多分女だったみたいです。その、女性特有の事態に関する知識がありますから。この知識があるのに前世が男だったら完全に変態さんじゃないですか……医者の可能性ですか? 残念ながら医学関係の知識は無いので、その可能性は0です。ですから、私は前世も今世も女です。雌です。♀です。分かったですか? 分からなくても分かってください。
さて、長々と話を引っ張りましたけど、そろそろ本題に入りましょうか。この世界はよくある転生物みたいに物騒な世界ではないでしょうと言ったですが。実は現実逃避でした。いえ、物騒な単語を聞かないというのは本当です。ですが、私が成長するにつれてどんどん嫌な予感が膨らんできてるです。というか、もうここまで来たら確定ですね。何でかと言うと――――私の名前が“綾瀬 夕映”なんです。ええ。“魔法先生ネギま!”という作品の重要人物の一人と同じ名前ですね。
最初はそこまで珍しい名字でも無いし、偶然同じ名前なんだろうと思ったです。いえ、思いたかったの間違いですけど。喋れるようになった時にこの口癖が出始めて、一気に嫌な予感は膨らんだです。それはもう、萎んでた風船を一気に膨らませたくらいに。朝、歯を磨く度に鏡を見るのですが、どんどん原作の“綾瀬 夕映”の面影が出てきてます。この光り輝くおでこはもう間違いないです。
前世の私は“魔法先生ネギま!”という作品が好きだったようで、ネギまについてはそれなりの知識があります。所謂原作知識というやつですね。ですが、所詮は何度も読み返して覚えてると言った程度の知識です。二次創作みたいに年代や国の名前と言った詳細までは覚えてません。例えばネギ先生……夕映の体に引っ張られてるんでしょうか。まだ産まれて間もないだろうネギ先生の事を、先生呼びしてしまいます。ネギ先生の故郷の村がいつ悪魔に襲われたとかはうろ覚えです。確かネギ先生がナギさんに杖を貰ったのが……原作の6年前でしたっけ? 大きくは外れてないと思うんですけど、まぁ私の原作知識なんてそんなもんです。
問題は“夕映”が作品に及ぼす影響の多さです。私の勝手なイメージですけど、“夕映”がネギ先生に与える影響はかなりのものです。3-Aの中では明日菜さん、千雨さん、エヴァンジェリンさん、超さんの次くらいに影響を与えてるんじゃないでしょうか。
こう書くと大した影響じゃなく思えるかもですが、“夕映”の存在が一番ネギ先生に必要とされるのは超さんとの戦い……所謂“麻帆良祭編”です。超さんとの決戦前にネギ先生を後押しした“夕映”の存在が無ければ、もしかすると超さんとの決戦での問答で致命的な隙を生んでしまっていたかもしれません。そうすると、エヴァンジェリンさんや学園長が介入でもしない限りは超さんの作戦は成功してしまうでしょう。そうなると私のちっぽけな原作知識は役に立たず、下手をすると魔法使い同士の戦乱に巻き込まれるかもしれないです。
超さんは上手くやると言ってましたが、
ですから、超さんの計画は何としても阻止しなければいけません……その後の“魔法世界編”を思うと憂鬱極まりないですが。魔法世界編での強さインフレはとんでもないですからね。ネギ先生は勿論、刹那さんや小太郎さん、古さんにのどかと言った
と言う私こと“夕映”もかなりのレベルアップを果たしてますが、それは記憶喪失というイレギュラーな事態があっての事です。当たり前ですが、私は記憶喪失になる気は全くありません。色々と理由はありますけど、一番の理由は“原作知識喪失の可能性”があるからです。私のような一般人から原作知識を取り上げれば、それだけで死亡率は跳ね上がりますから絶対に御免です。コレットやビーさん、委員長との出会いが無くなってしまいますけど、仕方がないです。まだ見ぬ友情よりも自身の安全です。それに、私と関わったせいでコレット達は参加する必要のない最終決戦に巻き込まれたとも考えられますし。どうしても彼女達がいなければならない状況というのも無かった筈ですし、やはり私の記憶喪失は回避一択です。
……あれ? そう言えば、何で私は深く考えずに原作に介入する方向で考えてるですか。原作から逃げるという手も……いえ、それは無いですね。さっきも考えましたけど、“夕映”がいない事で出る影響が恐いです。超さんという最大の脅威が居る以上、私の原作介入は必然です。楽観的に考えて何もせずにいて最悪の事態を招くなど、愚の骨頂です。世界の平和を、ひいては私の未来を守るために! 私はやってみせるです!
さて、決意をしたのは良いですけど。原作前に私に出来る事は無いでしょうか? 確か“夕映”が麻帆良学園に入学するのは中学生になってからの筈です。ですが、それでは原作までは僅か2年足らずしか無いです。師匠を探して訓練をするにしても、2年では時間が足りないです。
原作では数ヶ月であの強さになったとは言え、それは恵まれた環境故にです。エヴァンジェリンさんという優秀な師。アリアドネーという魔法学校での効率的な授業。のどかや委員長と言った好敵手の存在。ここまでの要因が揃って、初めて原作の夕映の強さを得られるのです。
原作2年前ではネギ先生がいませんから、のどかや千雨さんどころか、明日菜さんや木乃香さんすら魔法に関わってません。明日菜さんは厳密には違いますけど、記憶を封印されてる以上は一般人と一緒です。刹那さんは木乃香さんを避けてる頃ですし、古さんも一般的な内気功くらいしか使えないでしょうし……考えれば考えるほどマズいです。
二次創作に習ってエヴァンジェリンさんにいち早く弟子入り出来れば万事解決ですけど、ハッキリ言って無理です。原作の夕映がエヴァンジェリンさんに弟子入り出来たのは、ネギ先生あってのものです。私のようななんの実績も無い小娘が弟子入りを志願したところで、門前払いがオチです。いえ、門前払いで済めば良い方ですね。万が一、ここがネギまとよく似ただけの世界であった場合――――エヴァンジェリンさんが残虐な性格の可能性があるです。可能性は低いですけど、その場合は一発でゲームオーバー。一巻の終わりです。
同じ理由で魔法先生達も微妙ですね。どこに
うーん……見事に八方塞がりですね。大人しく原作開始を待つしか無いんでしょうか。エヴァンジェリンさんのような危険性が無く、学園の魔法先生達のように正義に酔ってもないフリーの最強クラスの魔法使いで、麻帆良にいる。そんな都合の良い師匠っていないですかねー……。
「……あ」
い た !
いましたいました! エヴァンジェリンさんのような危険性もなく正義に酔ってもいなくて尚且つ最強クラスという素敵な人が麻帆良にいるです!! ちょっと性癖に難はありますけど、この際細かい事は後回しです! そうと決まれば早速お爺様に相談しないと!!
「おじいさまー!」
「おや。どうしたんだい夕映。私に何かお願いごとかい?」
お爺様は私を抱き上げると、優しく語りかけてくれました。
いつも私に本を読んでくれる、尊敬する優しいお爺様。
そんなお爺様に無茶なお願いをするのは心が痛いですけど、こればっかりは譲れないです!
「わたし、まほら学園に行きたいです!」
夕映の語りを書くのが楽しすぎた。
両親は扱いに困るのでボッシュート。別に隠れた重要人物とかじゃないです。
次回は麻帆良にて師匠さがし。性癖に問題あるフリーで最強クラスの魔法使い……一体何ネル何ダースなんだ!
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第1話 おいでませ麻帆良学園
どうもです。去年11月に6歳になった綾瀬夕映です。
なんやかんやあって、やって来たです麻帆良学園!
なんやかんやで済ますなと言われても、本当にそんな感じなのです。お爺様に麻帆良に行きたいとお願いしたところ、何故か乗り気になったお爺様はあっという間に引っ越しの手続きをしてしまったです。どうしてそんなに乗り気なのか尋ねたところ、前々から麻帆良に興味はあったけど、まだ幼い私を自分の都合で引っ越させるのは可哀想だと思っていたとか。ですので、私が麻帆良に行きたいと言ったのは渡りに船だったという訳です。私が丁度小学生に上がる年齢だったというのも、要因の1つですね。哲学者のお爺様としては、色々と噂の絶えない麻帆良学園は興味深い場所だったのですね。え、噂の内容ですか? ハイテクノロジーがどうとか、有り得ない大きさの木があるとかですよ。学園の認識阻害結界も、学園の外までは完全にカバー出来ないみたいです。噂で収まってるのは、取材や確認に尋ねても結界で誤魔化されてしまうからと思うです。まぁ、それくらいできないとあんな馬鹿でかい世界樹を秘匿なんて不可能ですし。
なんだか順調すぎて怖いですが。こうして最初の難関である麻帆良学園への引っ越しはあっさり成功したです。現在の暦は3月。4月からは私も麻帆良学園初等部に入学する事が決まってます。
さて。ここで考えておかなければならないのが、初等部の頃から麻帆良に在住している原作メンバーが誰かという事です。こういう事はちゃんと把握しておかないと、不意打ちで出会ってしまった時に取り乱す可能性があるです。うっかり名前を呼んでしまったりしたら最悪の場合、魔法先生に目を付けられてしまう可能性もあるです。スパイの類と勘違いされたりしてですね。流石に私のような子供に警戒する可能性は低いですが、用心はするにこしたことは無いです。ふふ、私はそこらのオリ主や慢心王のように、油断から取り返しのつかない状況になんて事にはならないです!
それで、今麻帆良にいるであろう原作メンバーの事です。3-Aの生徒に関しては、取り敢えずエヴァンジェリンさんは確定。原作の15年前から麻帆良に居るそうですから、今は……えーと、2003年で中学15年生ですよね。となると、今は原作8年前ですから中学7年生ですね。中学何年生とか言ったら、何だか浪人生みたいで笑っちゃいそうですね。本人の前で言ったら即死ですけど。きっと今頃はエヴァンジェリンさんが一番やさぐれてる頃でしょうし。
想像ですけど、多分中学3巡目くらいが一番鬱憤が溜まる頃だと思うです。1巡目は今か今かと待ち焦がれ。2巡目はナギさんに何かあったんじゃないかと心配し、そこで悲報が届くわけです。公式でナギさん死亡の報せが流れたのは、原作の10年前の筈です。ネギ先生が産まれる直前に死亡したって、原作で言ってましたから。つまり、エヴァンジェリンさんが中学5年生の頃に悲報が届いた筈です。きっと3巡目の今頃は、ナギさんの死を信じられないエヴァンジェリンさんがどうにかしてナギさんを捜しに行こうと色々やってる頃だと思うです。具体的には吸血で力を集めたり、呪いの術式解呪を試みたり。もしかすると魔法先生の襲撃とかもやってるかもです……絶対に今の時期はエヴァンジェリンさんに近づかないようにするです。触らぬ神に祟りなし。この場合は神は神でも魔神とか戦神と言った類でしょうけど。
エヴァンジェリンさんはそれで良いとして、他にいる事が確定しているのは……明日菜さんといいんちょさんですね。桜子さんと裕奈さんもいた気がするですが、確証はないです。千雨さんは初等部の中途編入だったと思うです。他の人は……刹那さんと超さんは中等部からですね。恐らくハルナとのどかもです。木乃香さんは……どうなんでしょう? 確か修学旅行の時に中等部で刹那さんと再会したと言ってたので、初等部の中途編入と思うのですが。他の方は完全にお手上げですね。原作で語られてたかもですが、私が覚えてる知識ではここまでです。
この中で気をつけないといけないのは、やはり出自からして魔法に深く関わっている明日菜さんと木乃香さんです。特に明日菜さんは、人格が定まるまでは高畑先生が目を光らせてるでしょうから。迂闊に近づこうものなら、居合拳の餌食です。いえ、流石に子供相手に居合拳は無いとは思うですが、念には念をです。少なくとも良い事にはならないでしょうし。
木乃香さんも似たような理由で危険ですけど、明日菜さんに比べれば大分マシです。ですが、中等部でのどか達が来るまでは必要以上に近づかない方が良いですね。
むぅ。こうして考えを纏めてみると、麻帆良ってかなりの危険地帯ですね。一般の方は関係ありませんけど、モグリの魔法使いにしてみれば死地も同然です……これから私は、そのモグリの魔法使いに教えを乞いに行くんですけど。いえ、学園長は恐らく黙認してるでしょうから、正確にはモグリではないんでしょうけど。
殆どの人が予想出来てると思うですが、私が来ているのは“図書館島”です。そうです。私が教えを乞おうとしているのは、かの
さて、問題はどうやってコンタクトを取るかですが。普段は封印の監視の為に地下に籠ってるでしょうし……クウネルさんが地下に籠ってるのって回復もあるでしょうけど、それ以上に創造主の封印を見張るという役割が大きいと思うです。学園長の依頼なのか、クウネルさんが自分からそうしてるかは分かりませんが。
ですから、司書の方に司書長であるクウネルさんを呼んでもらうというのは、恐らく無理です。幽霊部員ならぬ、幽霊司書長なんでしょう。クウネルさんの本体が魔導書らしいという事を考えると、あながち間違いでもないですけど。
さて、あれこれ考えても仕方ないです。周りに人もいないですし、ここはシンプルに大声で名前を呼んでみるです! さぁ、息を大きく吸ってー……せえのっ!
「ロリコンのアルビレオ・イマさんいるですか―――――――――ッッ!!」
…………
………………
……………………出てこないです。
まだクウネルと名乗ってないかもしれないので本名(?)で呼びましたけど、ここはやはりクウネルさんでないと聞いてくれないのでしょう。では名前を訂正してもう一度。すぅー……はぁー……よし、いくです!
「ショタもいける生粋のドSのクウネル・サンダースさんいるで「ストップです」すか?」
おお。最後まで言い切る前に来てくれるとは、流石は神出鬼没のクウネルさんです。
なんだか顔が引きつってる気がしないこともないですが、気のせいですね。フードを被ってるからそう見えるだけです。きっと。
「初めましてですクウネルさん」
「これはこれは可愛らしい御嬢さん。どうして私の名前をご存じなのか、お聞きしても宜しいですか?」
「知ってる事を知ってるだけです。そんな事より魔法を教えて下さい」
「ははは。少し落ち着きましょうか御嬢さん……色々と聞きたいことがありますので、宜しければ私の住まいにご招待させて頂いても?」
「良きに計らえ、です」
「ふむ……これは面白いお客様ですね。では私の手を握って下さい」
「変な事しませんか?」
「しても宜しければ」
「謹んで遠慮するです」
「それは残念」
本気で残念そうですね。流石のロリコンです。まさか6歳児まで守備範囲とは、恐れ入ります。
クウネルさんの興味を引くためにからかってみましたが、程々にしないとクウネルさんも機嫌を損ねるかもしれないので、さっさと連れて行ってもらうです。ニコニコしてるところを見ると大丈夫そうですが。
ここからはクウネルさんとの交渉という名の真剣勝負です。この人も興味が無い事は絶対にしないタイプだと思うので、上手く興味をひかないと。原作知識を餌にする事も考慮しないといけないですね……いえ、最初から公開する方向でいくです。クウネルさんのアーティファクト【イノチノシヘン】の半生の書がある以上、下手な誤魔化しは逆効果でしょうから。半生の書に前世での知識まで載るのかは分かりませんが、載ると考えた方が良いでしょう。とにかく、弟子にしてもらえるようやってみせるです!
0話より短めですが、キリが良いのでここまで。次回はクウネルとの弟子入り交渉。
夕映がクウネルにあれだけ言ってるのは、半分わざとで半分素です。
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第2話 変態紳士への弟子入り
主SSである電子の妖精は執筆に3時間以上かかるのに、このSSは半分くらいの時間で執筆出来る謎。こっちがメインになりそうで怖いわー。
電子の妖精の方は明日の晩に更新予定……と、ここで書く事じゃないですな。
クウネルさんに連れられて、やってきたです図書館島地下。学園祭後に白き翼の面々が招待されたあそこです。ベッドとか見当たらないのですが、クウネルさんはどうやって休んでいるのでしょう。本体に戻ったりしてるんでしょうか。
このクウネルさんの部屋(?)へは直通の転移魔法陣があちこちの隠し部屋に設置されてるようで、すぐに来れたです。こんな直通ルートがあるなら、学園祭編でネギ先生達を案内してくれても良かったのにと思うのですが……ああ、そう言えばあの時は図書館島からではなく、牢獄からの裏道を通ったのでした。
「では御嬢さん、お話を聞かせて頂けますか? 何故一般人の少女である貴女が私の事をご存じなのか。私がここにいる事は、学園長しかご存じない筈なのですが」
「直球ですね。クウネルさんならもっと遠まわしに厭らしくねちっこく聞いてくるかと思ったですが」
「おや? どうやら私の性格についても把握しておられるようで……益々興味深い。
直球で聞いた理由は簡単です。貴女をからかっても照れてくれなさそうですから」
「賢明ですね。そういうのは愛しのキティさんにやって下さいです」
「キティの事まで……あの子のミドルネームを知っている人物は極僅かだと思っていたのですが。ですが、貴女もキティに負けず劣らず愛らしいですよ♪」
「自重しろです変態」
「ふふ……こういう反応も悪くないですね」
……もしかして私、クウネルさんに新たな性癖を与えてしまったですか? やってしまった感が半端無いですが……まだ見ぬエヴァンジェリンさん、ご愁傷様です。
「それでは……おっと、私とした事が。まだ貴女の名前を聞いていませんでしたね。宜しければ教えて頂けませんか?」
「む。これは失礼しました。私は“綾瀬 夕映”です。この春から麻帆良学園初等部に通う事になってるです」
「では夕映さんと。ふふ、夕焼けに映えるとは貴女によく似合う名前ですね。昼と夜の狭間に住まう者、というところでしょうか」
「勝手に人の名前を厨二病にしないで下さいです!」
「おや? こういう方向性のからかいには耐性が無いご様子で。ふふふ……これは良い事を知りました」
むむぅ……いくら前世の知識と原作知識があるとはいえ、やはり数百年を生きる魔法使い相手に舌戦は分が悪すぎです。なんとかしてこちらのペースに引き込まなければ。
「……私がぴっちぴちの6歳児だからと言って、襲わないで下さいよ?」
「何を言うのですか夕映さん。この私がそのような紳士にあるまじき行いをするわけがないでしょう!」
「……Yesロリータ?」
「Noタッチです」
「この変態紳士!」
「褒め言葉ですね」
時代の先を生きすぎですこの変態! 今ってまだ1995年ですよ? エヴァンゲリオンの影響でオタク文化が世間に浸透し始めた頃なのに、何で10年近く先のネタを使いこなしてるですか! あぁもう、こういうオタク知識ばかり完備している前世の知識にも腹が立ってきたです。どんな人生を送ってたですか前世の私ー!
これ以上話を長引かせても、どんどんクウネルさんのペースに嵌るだけです。なんとか私のペースに戻したかったのですが、もう無理です。お手上げです。私のようなちょっと賢しいだけの子供が敵う訳ありませんでした。さっさと本題に入るが吉ですね。
「はぁ……実はクウネルさんにお願いしたいことが」
「私への弟子入り……ですか?」
「はいです。お願いできませんか?」
「いいですよ」
「分かってるです。私のような怪しい幼女を弟子になんかするわけないですよね。であれば、私の持つとっておきの情報を――――――あれ?」
聞き間違いですかね。今、あっさりと許可を取れた気がするのですが。
「すいませんです。ちょっと空耳が聞こえたのですが……今、許可しなかったですか?」
「しましたよ?」
「…………
「その方が面白そうですから♪」
「……むぅ」
どうしましょう……この展開は予想外すぎるです。クウネルさんなら裏で何を考えててもおかしくないですし、逆に本気で面白いだけで許可されてもおかしくない気もするです……! こう何を考えてるか分からないという人種が、ここまで厄介だったとは……。
「クウネルさん。弟子にしてくれるのは有難いですが、よく考えて欲しいのです。私、これ以上なく怪しいですよ? 自分で言うのもなんですけど、エヴァンジェリンさんみたいな人外でも無い魔法世界の出身でもないただの人間の6歳児が、こんなに色々と知ってるわけないでしょう」
「そうですねぇ」
「分かってるですか!? もし私が【完全なる世界】の造ったホムンクルスだったりしたらどうするつもりですか! 貴方が護っている封印を解くために来たのかもしれないんですよ!?」
「おやおや。まさか【完全なる世界】や世界樹の封印の事まで御存じとは……ここまでは流石に予想していませんでした」
「あ」
……………………や、やっちまったです――――――!!
ええいアホですか私は! いいえアホですね! 空前絶後で前代未聞で抱腹絶倒で針小棒大なアホです!! どの口がオリ主や慢心王のように油断はしないとか言ってたですか! クウネルさんがあまりに訳わからないからとは言え、興奮して創造主の封印の事まで話してしまうとは……もうダメです。オワタです。ガメオペラです。これからはめくるめく尋問拷問凍結封印の日々です。あぁ、尊敬するお爺様ごめんなさいです。夕映は先に逝きます――――!
「……って、何をニコニコニヤニヤしながら私を見てるですかそこの変態紳士。私は絶望するのに忙しいので、放っておいて下さい」
「いえいえ。貴女の百面相があまりに面白かったので。ところで何をそんなに嘆いているのですか?」
「分かり切った事を聞くなんて、良い趣味してやがりますねこの野郎です。こんな紅き翼と学園長くらいしか知らないであろう情報を知ってる危険人物、尋問拷問封印しか未来はないでしょう」
「何故ですか?」
「何故って……ですから、今言った通り――――」
「何で私が自分の弟子を尋問しなければいけないんですか?」
「へ?」
……もう無理です。頭の処理能力を完全に超えました。クウネルさんが何を考えてるかさっぱりです。
「何で私みたいな危険人物を、まだ弟子にする気なんですか」
「夕映さんが頼んできたんじゃないですか」
「いえ、そうですけど……何でこんな情報を持ってるか聞かないのですか?」
「勿論聞きますよ。ですが、それと弟子にするのとは別問題でしょう?」
「……悪い魔法使いを目指してるのかもしれないですよ。もしかしたら、完全なる世界の手の者かもです」
「有り得ませんね」
「何でそう言い切れるですか!」
「勘です♪」
「もうイヤですこの人――――!!」
「では、貴女のその情報の出所を教えて頂けますか?」
「ここで言うですか!?」
多少の性癖には目を瞑ると思った過去の私にガゼルパンチを喰らわせてやりたいです……! これなら多少の危険があるとは言え、エヴァンジェリンさんの方に行った方が良かったかもしれないです。
はぁ……もう今更言っても後の祭りですし、観念して原作知識の事を話しましょうか。幸い弟子にしてもらうという目的は遺憾ながらも達成出来たみたいですし、後は流れに身を任せるです……もうどうにでもなーあれ!
――――――――
「前世の知識に原作知識ですか。これはまた、予想の斜め上の理由ですね」
「クウネルさんは」
「夕映さん。私の事は
「……師匠は私の知識の出所は何だと思ってたですか?」
「そうですね……一番可能性が高いと思ったのは未来予知系のレアスキルですね。過去と未来の全てを見通す、ある種の千里眼のようなものかと」
「そんなスキルを持ってたら、頭が情報を処理しきれなくなって廃人一直線です」
「そうですね。ですが他の理由では説明がつきませんでしたから……それにしても夕映さんは本当に面白い。私の方から弟子になって下さいとお願いするレベルですよ」
「喜んでいいのか微妙ですね。師匠は自分が漫画の存在かもしれない事に、何も思わないですか? 今は私もそうですけど」
「ええ。特に何も。創られた存在というなら魔法世界人もそうですしね」
「あぁ、そう言われてみれば」
魔法世界の亜人の皆さんは、魔力で創られた存在なんでしたっけ? ですから魔力が薄いこちらの世界では、普通には存在出来ないとかそんな感じだったような。うん。漫画の住人とそこまで変わりないですね。流石は師匠。発想が柔軟です。
「夕映さんの言う“原作”は約8年後。夕映さんが中学2年生の3学期から始まるのですね?」
「はい。本格的に始まるのは3年生の春休みですけど。それまでの1~2ヶ月はネギ先生……ナギさんの息子さんが麻帆良に馴染む為の準備期間のようなものです」
「産まれたばかりのナギの息子が先生と呼ばれるのは、変な感じですねえ」
「言わないで下さいです。原作知識に引っ張られてるのか、どうしてもそう呼んでしまうんです」
「ふふ。分かってますよ。それで夕映さんは原作開始までに力を付けたいと思い、私のところへ来たと。私を選んで下さったのは嬉しい限りですが、学園長やタカミチ君達学園の魔法先生、キティではダメだったのですか?」
「学園長は色々な意味で怪しすぎます。強いとは思いますが、実力も不明瞭ですし。西洋魔術と陰陽術のどちらを使うのかも分からない相手に弟子入りを頼むのは博打要素が強すぎです。
高畑先生には申し訳ないですけど、魔法を使えない時点でダメです。感卦法は魅力的ですけど、やはり優先すべきは魔法です。魔法先生達はもっと論外です。正義馬鹿に洗脳されるのは御免被ります。
エヴァンジェリンさんには原作でも白き翼の面々が師事してましたが、それはネギ先生あってのものです。それに今のエヴァンジェリンさんは、ナギさんの死を聞いて自暴自棄になってそうですから。
というわけで、あらゆる面で考えてクウネルさんしかいなかったのです」
今はちょっと後悔してますとは言えないです。まぁ、クウネルさん以外に選択肢が無かったのは本当ですし、仕方ないですね。
「ふむ……よく現状を把握していらっしゃる。確かに今のキティに弟子を取る余裕はありませんし。近右衛門に関しては……そうですね。個人としては悪い人物ではないのですが、本国の陰謀に巻き込まれる可能性が少なからずありますし」
「そうですか。判断が間違って無かったみたいで良かったです」
「それで夕映さん。弟子にするのは良いんですが、何故そこまで早く強くなろうとしているのですか? 原作が無事に終わったのならば、ネギ君が来てからでも遅くは無いと思うのですが」
「かもしれないですが、“私”というイレギュラーが“夕映”になってしまった以上、不測の事態というのは間違いなく起こるです。それに原作通りだと、魔法世界に行く時に私がマズい事になるです」
「と言うと?」
「魔法世界では白き翼の皆さんは破格のレベルアップをするのですが、私だけは“記憶喪失”と“行方不明”という事態があって、初めてレベルアップするのです」
「それは……確かにマズイですね」
「ええ。最悪の場合、私の唯一のアドバンテージである“原作知識”が失われるです」
かと言って原作通り記憶喪失にならなければ、最終決戦では足手纏いになるのは必然。あの風のアーウェルンクスに手も足も出ないでしょう。原作でもどうにかなったとは言い難いですが、あそこで“夕映”が麻痺解除をしなければ、下手をすれば明日菜さんを解放できない可能性が出てきます。
「ようやく納得出来ました。ネギ君という親友の忘れ形見の為。貴女という愛弟子の為。そして私の趣味の為に。原作開始まで貴女を育て上げる事を確約しましょう!」
「待つです。最後に嫌な単語を付け加えなかったですか」
「何か問題でも?」
「問題しかないです!!」
弟子になれたのは良いですが、本当にこんな変態紳士に師事して大丈夫でしょうか。先行き不安です……。
無事にクウネルの弟子になる事が出来ました。
次回からは特訓をしつつ麻帆良探索ですかね。
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第3話 第1原作クラスメート発見
まさか3話で評価と感想がこんなに付くとは。お気に入りも400いきそうだし、もう感謝感激であります。更新は2~3日に1度くらいのペースでいけたらと思ってるので、どうぞよしなに。
※この作品の主人公は“逆行夕映”ではなく“夕映”の口調をした“ダレカ”です。こんなん夕映じゃねえという感想は勘弁してくださいです。と、予防線を張っておく。
肝心の魔法は使えるようになったかですか? ええ。変態師匠の特訓の
原作の夕映が【火を灯れ】を習得したのって、どれくらいかかってましたっけ。確かネギ先生がエヴァンジェリンさんの弟子になってから練習し始めて、学園祭のネギ先生とのデート(?)の時にはなんとか使えるようになってたですね。えっと、だから……多分1ヶ月と少しくらいですね。うん。原作夕映並の才能はちゃんと有るようで一安心です。
私の修行状況は置いといて。現在、1995年4月半ば。私こと夕映が原作キャラが蔓延る麻帆良学園初等部に入学してしまってから半月です。麻帆良に来た事が間違いとは思わないですが、原作キャラに過度な影響を与えないようにするのは気を遣うです。別にそこまで気にするほどの事ではないかもしれないですが、止むを得ない事体にならない限りは、出来るだけ避けるつもりです。慎重に動くに越したことはないと、師匠との一件で思いしりましたから。特に明日菜さんには気を付けないとです……同じクラスになりませんように!
――――――――そう思っていた頃が、私にもあったです。
「…………」
「…………」
何で同じクラスどころか隣の席になってるですか!? しかも何故かこっちを凄い見てるです! どうしてこんな状況に……いいんちょさーん! さっきまで明日菜さんと喧嘩してたいいんちょさーん! 席を替わって下さ――――いッ!!
「それ……」
「はい?」
「それ、美味しいの?」
「それと言うと、私が飲んでる“これ”ですか?」
「ん」
真顔で頷かれたです。何で見られてるのかと思ったら、私の飲んでる“これ”のせいでしたか。もしかしたら私が魔法を拙いながらも使えるようになったのがバレたかと思ったです。
私が何を飲んでるかですか? ふふふ……それは勿論、原作でも夕映が好んで飲んでいた謎ジュースの類です。その名も“微炭酸ラストエリクサー”です!! 図書館島の自販機で売っているのを見た時は衝撃でした。まさか本当にあるとはと。普通なら見向きもしないのでしょうが、生憎私は“夕映”なのです。謎ジュースを飲まずして誰が夕映か!! 謎の使命感に押されて購入したのですが、何と言うかこう……堪らない味です。美味しい不味いではなく、堪らない味なのです。こう、謎ジュース! 飲まずにはいられない! と言った感じに。これは原作夕映が中毒になるのも納得です! 思わず少ないお小遣いをはたいて、買えるだけ買ってしまったです。3本で打ち止めだったので、全財産を使う事にはならなかったですが。
「…………」
「……はっ!」
謎ジュースの素晴らしさに心を奪われて、つい明日菜さんの事を忘れてたです。どうやら私がトリップしている間も私の手元を見つめ続けていたようで。というか近いです! どれだけ興味があるですか! 原作で明日菜さんが謎ジュースに興味があるような描写は無かったと思うですが。いえ、明日菜さんだけでなく、誰も興味を持ってなかったですが。もしかして書かれてないとこで飲んでたりしたのでしょうか? ……引き下がる気は無いみたいですし、仕方ないですね。
「……もう2本あるですが、飲みますか?」
「……! 飲む!」
おおう。物凄い勢いで首を縦に振ったですよこの子。もう記憶封印の影響が出始めてるのかもです。そうでないといいんちょさんに喧嘩売ったりはしないでしょうし……あの原作過去編の感情の起伏が薄いアスナさんはどこに行ったのやらです。
まぁ今はそんな事は後回しです。折角の謎ジュース好きの同士が出来る機会なので、早速飲んでもらうです! ストローを刺して渡すと、明日菜さんは何故かパックをあちこちから確認してから、意を決したように口を付けました……何故そこまで警戒しながら飲むのでしょう。
「…………」
「どうです?」
「………………」
……何で1口吸ってから固まってるですか。
聞いても微動だにしませんし……もう一度聞いてみるです。
「…………味の方はどうです?」
「……………………ひ ど い」
「は?」
「ひどい味。人間の飲むものじゃない」
「な……なななな…………ッ!」
「これならタカミチの入れた苦いコーヒーの方がマシ」
ひどい? 私が愛する謎ジュースが? 貴重な1つを差し上げたというのにこの反応ですか。折角同好の士が出来るかもと思ったのにこの仕打ち…………ふ、ふふふ……!!
「なんて事を言いやがるですかこのガキ――――――ッッ!!」
「……ッ! ガキはそっちも! こんな変なジュース飲むなんて、絶対に変!!」
「まだ言うですか!! 人の好きな物をそこまで言うなんて、貴女には肉体言語で常識と言うものを叩き込んで差し上げるですッ!!」
「常識が無いのはそっち!! 口だけじゃなくて他もおかしいんじゃないの!?」
「うが――――――ッ!!」
「ちょっと貴女達! 神聖な学び舎で騒がしいですわよ!」
「「金髪は黙って(るです)!!」」
「な……っ! き、金髪で何が悪いんですの――――!!」
途中でいいんちょさんまで乱入してきて酷い事になりましたが、最後は先生からの制裁で喧嘩両成敗になったです。おのれ神楽坂明日菜……! いいでしょう。貴女を私の不倶戴天の敵として認めてやるです! …………あれ? 何か当初の目的を忘れてるような…………あ。
――――――――
「というわけで
放課後、いつものように図書館島へ修行に来ました。あの後明日菜さんとは放課後まで事あるごとに睨み合ってたです。大人気ないとか言わないで下さい。謎ジュースを侮辱した罪はそれほど重いのです!! ……ええ。現実逃避です。クウネルさんに続いてまたやっちゃったです。
「それはそれは。中々に楽しい学園生活を送ってらっしゃるようで」
「楽しくないです!! あぁ……明日菜さんとエヴァンジェリンさんにだけは原作開始まで近づくまいと思っていたのに、どうしてこうなったですか……」
「夕映さんが大人げなく喧嘩を買ったからでしょう。前世の知識とやらはどこへ行ったのやら」
「したり顔で言わないで下さいです。よくある“肉体年齢に精神年齢が引っ張られてる状態”とでも思っておいてください」
「ふふふ。夕映さんは色々とアンバランスですねぇ。ですが、それも貴女の魅力の1つですよ♪」
「うるさいです。修行の時は初等部の制服で来るように強制する変態に褒められても、嬉しくないです」
「他意はありませんよ。部活動の名目でここへ来ているのですから、部活中は制服を着るのは当然でしょう?」
「その通りですが、
「却下です」
「やっぱり趣味じゃないですか――――!」
この変態
「それでは夕映さん。貴女も初歩の初歩とはいえ、魔力を扱えるようになりましたし。今日は貴女に合った属性を調べたいと思います」
「私に合う属性? それって調べられるのですか?」
「ええ。これを使えば」
そう言って師匠が取り出したのは、サッカーボール大の大きさの水晶球でした。なんだか中身の無いダイオラマ魔法球みたいですけど、なんですかこれ?
「これは魔力の質を調べる
「偶然……?」
「ええ、偶然ですよ。近右衛門に無理やり貸して貰ったりはしてませんから」
「無理やり借りたのですね」
「ええ♪」
全く発言を取り繕う気がないですね……うちの変態がすいませんです学園長。
「あれ? もしかして
「ええ。夕映さんが魔法を使えると知られた時、近右衛門まで貴女の存在を知らなければ、下手をすれば侵入者として捕まってしまいますから」
「あぁ。そう言えば魔法先生への対策を忘れてたです。ありがとうございます
まさか前世の知識や原作知識がある事までは言ってないと思うのですが。
「心配なさらずとも、最低限の事しか言ってませんよ。私に愛弟子が出来ましたが、公にはしないで欲しいとだけ」
「それ逆に警戒されないですか?」
「近右衛門なら大丈夫ですよ。そもそも私が公に出来る存在ではないので」
「そう言えばそうですね。師匠は非実在青年でした」
エヴァンジェリンさんや高畑先生も麻帆良祭まで知らなかったくらいですからね。学園長が手を回してくれれば、魔法先生から必要以上に狙われたりする事はないでしょう。
「それで
「簡単ですよ。その水晶球に両手で触れて魔力を流し込めば、水晶内で属性に合った現象が起きます。光が得意なら光り、闇が得意なら暗くなると言った感じですね」
どこの水見式ですかそれ。
得意属性を調べると言っても、私は夕映ですから原作通りに“風”と“雷”だと思うのですが……まぁ、やるだけやってみるです。もしかしたら他にも得意属性があるかもしれませんし。
「これで良いですか?」
「ええ。そのまま魔法を使おうとしてみて下さい。そうすれば自然に魔力が流れますから」
「分かったです」
魔法を使う感覚で……あ、何か水晶内に水が溜まってきました。私は水も得意なんですね。
「……あれ?」
今度は溜まってた水が、少しずつ凍り始めました。氷も使えるのですか。
「……んん?」
と思ったら、今度は出来た氷が火で溶けてしまったです……。火も使える、と。
「…………」
それからはいくら魔力を流しても、水晶球は他の反応を示しませんでした。
あれ? 風と雷はどこに行ったですか?
「おや。夕映さんは“水“ “氷” “火”の3属性に適正があるのですね。素晴らしい素質です」
「あの、
「はい?」
「原作の“夕映”の得意属性は“風”と“雷”だったのですが」
「ほう……ですが夕映さんにはその2つの適正は無いみたいですよ」
「どういう事ですか?」
「そうですねぇ……きっと原作の“夕映”さんとは“魂”が違うせいではないでしょうか」
「むぅ」
こんなところでもイレギュラーが出ましたか。別に“雷”と“風”に拘りは無いですし、むしろ3属性に適正のある今の方が恵まれていると言えばそうなのですが。まぁ、なるようにしかならないですね。まずは目指せ
初っ端から危険人物第2位に出会ってしまった夕映。勿論1位はエヴァンジェリン。
この夕映は基本的にバカです。あれこれ考えてはいても、結局は勢い任せ。
あれこれ考えてしまうクセがあるのは夕映の影響。勢い任せのバカなのは前世の影響。
こうして見事に“頭の良いバカ”が出来上がったわけであります。あれ、それってネギの理想形?
得意属性を変えた事には特に意味は無いです。ただ、中身が違うのだから得意属性くらいは変わるんじゃないかと思ったので。
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第4話 初めての友達
新作の方どうするかなぁ……びっくりするくらい上手く書けんかったのよね。何とかせねば。
「…………熱いです」
さて、何でこんな修行を始めたかですが。師匠曰く、この世界の魔法は精霊との親和性が重要らしく。まぁ要するに、精霊と仲よくなれば魔法も使いやすくなるとの事です。原作にそんな描写は無かったと思うのですが、よくよく考えれば修行風景って、エヴァさんのスパルタ特訓しか知らないです。エヴァさんは何というか、精霊を力で支配してそうですからね。師匠の言うような精霊と仲良くなる修行なんかとは縁が無いんでしょう。
そう思い師匠に世間一般の魔法使いも同様の訓練をしているのか聞いてみたのですが、なんと魔法学校でも精霊との親和性についての授業はしていないとの事です。というか、そもそも精霊に意思があるという事自体が眉唾な扱いだそうで。まぁ、精霊と話が出来なければそんな発想は出てきませんよね。どうやらこの修行法は、精霊とある程度の意思疎通が出来る師匠独自のものらしいです。師匠が精霊と意思疎通出来るのは、本体が精霊に近いかららしいのですが。師匠の本体って、もしかして古本じゃないんでしょうか? それとも精霊が書いた本とか……まぁ、どうでもいいです。師匠の正体が何でも、私の師匠である事は変わらないです。これであの性癖さえ何とかなれば最高の師匠なのですが……何だか最近あの性癖にも慣れてきてしまった自分がいるです。
肝心の修行の成果ですが、ちゃんと効果はあるみたいです。以前は数秒で消えていた【火よ灯れ】ですが、今では10分はもつようになったです。一日数時間の修行なのに一週間でこの成果は、中々のものだと思います。原作夕映が麻帆良祭のネギ先生とのデートで使った時は、10秒もったかどうかでしたし。いえ、漫画媒体なので、正確な持続時間は分からないですが。成功してからネギ先生が一言喋る間に消えてましたし、大体そのくらいでしょう。多分。こんなに成果が明確に出るなら、ネギ先生も師匠に教われば良かったのに。
と、思ってこれも師匠に訊いたのですが。師匠曰く、あまりに魔力が強いと、精霊は強制的に従ってしまうらしいのです。強い魔力は精霊にとっては麻薬のようなものなのでしょうか。ネギ先生やフェイト級の魔力の持ち主には、この修行は意味があまり無いという事ですね。魔力に限らず、力が強すぎるのも困りものです。私のような中堅レベルの魔力量からすれば、この修行はとても有り難いのですが。
とにかく、この世界の魔法は良くも悪くも精霊ありきのものらしいのです。つまり、厨二病の代名詞と言っても過言ではない【合成魔法】は無理という事です。【雷の暴風】や【闇の吹雪】といった属性複合呪文がある事を考えるといけそうな気もしますが、精霊同士の相性というものがあるらしく。仲の悪い精霊の複合呪文は無理なそうです。まぁ普通に考えても【火】と【氷】なんて相性悪すぎですよね。皆大好き極大消滅呪文は夢で終わりそうです。
ここで何かのきっかけで精霊と話せるようになり、火と水の精霊を仲よくさせれるようになるというのがお約束なのでしょうが、生憎私は主人公でも特別な一族の出身でも神様チートの持ち主でもないので、そんな美味しい話は無いです。師匠はこの修行を長く続けていれば、精霊の感情くらいは何となく分かるようになるかもとの事ですが。年齢3ケタ以上の師匠の
まぁ、今からそんな究極呪文の事を考えても仕方ないですし。とにかく今はひたすら基礎の練習と精霊と仲良くなる事です。【火よ灯れ】が15分続けば
「もしかして私……友達がいないですか?」
……うん。師匠と出会って4ヶ月。初等部に入学してからは3ヶ月。魔法の修行と原作への対策にばかりかまけていて、自分からは人付き合いというものを全くしてないです。学校で話した事がある人物って、宿敵の明日菜さんだけですね。いいんちょさんも時々話しかけてくれますが、殆どが明日菜さんと私へのお説教ですし。
というか、いいんちょさんって初等部1年の頃から委員長だったのですね。9年通して委員長とか、私からすれば何の拷問かという印象しか持てないのですが。驚くべきことに自分から立候補したんですよね、いいんちょさん。あの調子だと、これからも毎年立候補するんでしょうね。そんな真面目ないいんちょさんが、どうしてあんな病的なショタコンになるのか……小太郎さんには靡かなかった事を思うと、幼なければだれでもいいという訳では無さそうですが。うちの
…………いえ、いいんちょさんがショタコンが無くなってネギ先生への愛が人並みになると、ちょっとマズイです。【完全なる世界】との決着後にはいいんちょさんがネギ先生にとって最高の協力者になりますから。ショタコンじゃないいいんちょさんでは、万が一ですがネギ先生と仮契約をしない可能性があるです。考えすぎかもしれませんが、不安要素は出来るだけ減らしたいです……明日菜さんと宿敵になっておいて何を今更とも思うですが、それはそれです。まぁ、いいんちょさんがショタコンでもネギ先生以外には殆ど影響無いですし、ネギ先生には犠牲になってもらうです。
と、考えがまたずれてしまいました。私に友達がいないという話です。と言っても、既に入学から3ヶ月。今の時期から友達を作るというのは、何とも恥ずかしいものがあるです。6歳児なら皆が遊んでいるところに『私もまーぜてっ!』と、子供らしい笑顔で突入すればいけると思うですが………………無理です! 想像しただけで顔が真っ赤になったです! 子供社会も楽じゃないですね……あれ、そもそも何で友達を作ろうという考えになったのでしたっけ? 勿論友達はいるにこした事はないですが……ああ、一人でプールに行くのは寂しいからでした。もうこの際、明日菜さんにしときましょうか。明日菜さんなら泳ぎの勝負とか言えば、一緒に行ってくれそうですし。折角の宿敵ですから、こういう時に使わない手はないのですよ。原作が少し心配ですが、出来てしまった関係は使わなければ。無理に無視して、原作開始時には険悪になってましたの方が洒落にならないですし。
「そうと決まれば、早速明日菜さんを捜しに行くです!」
幸い今日は土曜日ですから。明日の日曜日にプールに行けるかどうか、誘ってみるです! 水の精霊に慣れる為と言えば、師匠も許可してくれると思いますし。
こんな時に携帯電話があれば便利なのですが、お爺様は普段は気が良い方なのに変なところで厳格なので、10歳になるまではダメだと携帯電話を持たせてくれないのです。まぁ、明日菜さんも持ってないと思うので今は別に構わないですが。……この時代に携帯電話が普及してるかどうかは考えないようにしたです。麻帆良だからの一言で説明がつきそうですし。
それでは、いざ! 明日菜さんを捜しに!
――――――――
「…………見つからないです」
明日菜さんを捜し始めて1時間。もう10時半ですが、全く見つかる気配がしません。お昼すぎからは図書館島で修行ですから、お昼御飯の事を考えるともうあまり時間が無いです。
よくよく考えたら明日菜さんが見つからないのは当然でした。この頃の明日菜さんは外で遊ぶような性格じゃなさそうだし、新聞配達のバイトなんかもしてるわけないですから。きっと高畑先生の家でのんびりしてるんでしょう……少し考えれば分かる事なのに、後先考えずに思いつくまま飛び出した自分の浅慮さには溜息しか出ません。
はぁ……これ以上捜しても仕方ないですし、もう帰って御飯にしましょうか。
「あー! 夕映ちゃんだー!」
「え?」
突然後ろから呼ばれて振り向くと、お母さんらしき女の人に連れられた、私と同じ年くらいの女の子が私を指さしていました。この子が私を呼んだみたいですが……誰でしたっけ? どこかで見た事があるような気もしますが。多分クラスメートなんでしょうが。
私が思い出そうと頭をひねっている間に、その女の子はお母さんの手を離すと、私の方へと走り寄ってきました。うーん、本気で名前が思い出せないです。
「夕映ちゃん、こんなとこでどーしたのー?」
「……ちょっと知人を捜していただけです」
「ちじん?」
「あ、えっと……クラスメートです」
知人なんて言っても、普通の子供には分からないですよね。いいんちょさん辺りなら余裕で通じると思うですが。
さて、私の名前を知っているこの子はクラスメートである可能性が濃厚なのですが。この流れで「貴女の名前はなんですか?」なんて聞いた日には、下手をすれば泣かれてしまうかもしれないです。ここは用事がある事を口実に、早急にこの場を離脱するのが得策でしょうか? ですが、何だか気になるんですよね……クラス以外でも見た事があるような気が……うーん、本当に誰でしたっけ?
と、考えてたらお母さんの方が駆け寄ってきました。気にはなりますが、また学校であるでしょうし。今日のところはやはり帰る事に――――。
「こら桜子! 急に走り出したら危ないでしょ!」
「えへへー。ごめんなさーい」
「………………ん?」
……今、聞き逃せない名前が聞こえたような。
「……桜子?」
「うん! 椎名桜子だよー!」
「…………あー……」
わざわざフルネームで答えてくれてありがとうございます。その純真さが胸に痛いです……自分の間抜けさに、思わず空を見上げてしまいました。うん、どこかで見た事がある気がしたわけです。まさか明日菜さんといいんちょさん以外にも原作キャラがクラスメートにいたとは……いえ、むしろ気づけよ私と言いたいですが。
言い訳をさせてもらうと、影響力の低い原作キャラは捜索範囲外だったというか、まったく気にしてなかったです。別に遭遇しても大丈夫ですから。とっくに遭遇してたのは流石に驚愕ですけど。しかし、何でこんなに仲良さげに話しかけてきたのでしょうか。今まで話しかけられた事は無いと思うのですが。
「えっと、桜子さん。何で私の事を知ってるですか? 学校で話したことは無いと思うのですが……」
「えー? だって夕映ちゃんと明日菜ちゃんって、いっつも面白いケンカしてるんだもん。みんな2人の事は知ってるよー」
「……そうですかー」
完全に自業自得でしたー! 明日菜さんとの諍いが、こんなところにまで影響してるとは……私の行動がどんな形で影響するか、全く分からないです。これはもう、原作が始まる頃にはどうなってるやらです。
「それで夕映ちゃん。捜してたクラスメートって、もしかして明日菜ちゃんー?」
「え? ええ、そうです。明日プールに行こうと思ったのですが、一人では寂しいので明日菜さんを誘おうかと思い……残念ながら見つかりませんでしたが」
「プール!?」
私がプールと言った瞬間、桜子ちゃんが凄い勢いで身を乗り出してきました。
「いいなー! おかーさん、私も夕映ちゃんとプール行きたーい!」
「え?」
「うーん……でも急に言ったら、夕映ちゃんのお家の人が困っちゃうでしょ? ねぇ夕映ちゃん」
「え、いえ……まだ御祖父様には言ってないので、明日菜さん誘えたらお願いしようと思ってたので」
「お祖父さん? ご両親は?」
「り、両親は海外で働いてるので、御祖父様と2人暮らしなんです」
「あら! じゃあ夕映ちゃん、おばさん達と一緒にプールに行かない? 御祖父さんはお年でしょうから、大変でしょ?」
「へ?」
「うん、それが良いわ! 私も桜子が心配だし!」
「おかーさんも一緒に行くの? わーい!」
「よーし! それじゃあ夕映ちゃん、お家に案内してくれる? 御祖父さんに許可して貰わなくっちゃ!」
「ぅえっ!?」
な、なんですかこの押しの強さは! いつの間にか桜子さん親子とプールに行くことに!?
「ちょ、ちょっと待ってくださいです! 私は行くとは……」
「え? でも、明日菜ちゃんと一緒に行くつもりだったんでしょー?」
「それはそうですけど……」
「……もしかして、私とじゃダメなのー?」
「い、いえ、そういうわけじゃないです。でも、友達でもないのにお世話になるのも――――」
「え? 私と夕映ちゃんは友達だよ?」
「へ? いえ、ですが今日初めて話をしたばかりで」
「友達だよ?」
断れないです!? いえ、別に桜子さんと友達になりたくないわけではなくむしろ望むところですが、何故こんなに頑ななのですかー!? 正直、いきなり友達になるのはコミュ障気味の私にはハードルが高いのですが……うぅ、そんなに真っ直ぐ見つめられては、これはもう観念するしか……こうなったら開き直ってやるです!
「……そうですね。私と桜子さんは友達です!」
「だよねー! じゃあ私の事は桜子って呼んでね!」
「い、いきなり呼び捨てですか!?」
「だめ?」
「うぅ……! わ、分かったです桜子!」
「わーい!」
「あらあら。二人とも仲良しねぇ」
「うん!」
「……友達ですから」
この親にしてこの子ありでしょうか。明らかにたった今友達になったのに、普通にその言葉が出てくる事に脱帽です。
完全に予想外の結果になったですが、友達が出来たのは普通に嬉しいですし……うん、ここは素直に喜んでおくです。後で師匠にからかわれそうですが。
久々に書いたら、筆が超進んだ。やっぱこの書き方が一番書きやすいんだよなぁ……。
新作よりこっちのが人気あるっぽいし、こっちを中心に書いた方が良いんだろうか。ふふ、皆さんの意見や評価に振り回されまくる自分がちょっと嫌になっております。
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第5話 原作知識の使い道
今日はメインで書いてる“電子の妖精”の方を更新する予定だったけど、執筆時間が無さそうなので、3時間くらいで書けるこっちを更新。前も書いた気がするけど、この作品本当に書きやすいんです。まぁ、戦闘するようになったら別ですが。
今言う事じゃ無いかもだけど、呪文詠唱は日本語のみになりそうです。一応ラテン語辞書で少し調べてみたけど、“魔法の射手・水の一矢”ですらルビが分かんなかったです。原作で出てる
「はぁ……」
「おや、どうしましたか夕映さん?」
「小学生も色々と楽じゃないのですよ
桜子さん親子とプールへ行ってから数日。今日も今日とて師匠の元で魔法の修行です。
プールへ行った本来の理由である、水の精霊と体で触れ合うという目的は多少は効果があったと言うべきか、水の魔力は以前よりも巧くイメージ出来ていると思うです。あくまで私自身の印象としては、ですが。
その進歩した筈の魔法制御も今日は中々巧く出来ず、さっきからビー玉大の水球を創っては溜息を吐きの繰り返しです。原因が私の精神的疲労にあるのは明らかなのですが、どうしたものやら。
「ふむ……学園生活を楽じゃなくしている要因の半分は、夕映さんの自業自得のようですが。察するに、先日出来た桜子さんという御友人絡みの悩みでしょうかね?」
「……当たらずとも遠からずと言ったところです」
「では、桜子さん以外の御学友……あぁ、明日菜さんですか」
「何なんですかそのニヤニヤ笑いは! その通りですけど!」
全く、何でこの変態師匠は明日菜さん絡みの話になった途端、嬉しそうになるですか!
原作通りにしたいのなら、私が明日菜さんに近付きすぎるのは避けるべきという考えになるはずですが、師匠の反応を見る限り、むしろ私と明日菜さんが仲良くなるのを喜ばしく思っているとしか思えないです! ……もしかして、原作通りに進まない方が、師匠にとって都合が良いのでしょうか? いえ、原作以上のハッピーエンド案があるのなら、原作でも何かしらの形でもっと動いている筈……せめて高畑先生に自分の存在を明かすくらいはしている筈です。
となると……うむむ、もう数か月の付き合いになりますが、未だに師匠の方針がさっぱり分かりません。原作通りに進めるでもなく、かと言って原作乖離させようという訳でもなく、なるようになれという感じで……あれ、これもしかして正解ですか? いえ、だとしても、何故そのような方針にしたのか。ただの快楽主義というわけでも無いでしょうし……多分。いえ、ですが“他者の人生の収集”なんて、変態じみた趣味が生きがいの師匠の事です。私が慌てふためいている姿を面白がっているだけの可能性もあるです!? だとすれば、私の人生は師匠に全てバラした時点で詰みという事に……!
「面白い顔で考え込んでいるところ申し訳ありませんが、明日菜さんと何があったのかお聞きしても?」
「あ……。え、ええ師匠。お話するです」
……またやってしまったです。この長考癖はなんとかしたいと思っているのですが、一向に改善する気配が無いです……思考速度が速くなっているのは、改善と言えるかもですが。やはりこれも肉体の性質に引っ張られているのでしょうか。集中力が高いと言えば聞こえは良いですし、実際修行の時には有難い性質なのですが、こと日常生活においてはデメリットが多いです。上手くオン・オフが切り替える事が出来れば良いのですが。その辺りは年月で何とかなる事を祈るしかないんでしょうか。
「明日菜さんとまた喧嘩なさったのですか?」
「いえ、今回は喧嘩ではないのですが、その……一方的に怒られているというか」
「一方的にですか。夕映さん、もしくは他者が何かをしたわけではなく?」
「その筈……です。月曜に私が桜子と話していたら、突然明日菜さんが立ち上がり、私を信じられない物を見るような目で見てきまして。それからは一方的に避けられてしまい、水曜日の今日になっても避けられっぱなしです。明日菜さんの気に障るような会話の内容ではなかったと思うのですが」
ええ。桜子とは挨拶をしていただけですし……後は軽くプールの話をしたくらいでしょうか? やはり、何度思い直しても明日菜さんを怒らせる理由が分かりません。私を避けるのですから、原因が私にあるという事は明白なのですが……先週の時点で原因があった? いえ、金曜日は普通に挨拶をしましたし、そもそもその時点で機嫌が悪くなっていたのなら、プールに明日菜さんを誘おうとは思いませんし。
原因となったであろう出来事を思い返していると、師匠が何やら生暖かい目で私を見ていました。何ですかその微笑ましいものを見る目は。
「やれやれ。夕映さんは、明日菜さんが小学生という事を忘れていませんか?」
「!? し、師匠は明日菜さんが不機嫌になった理由が分かったのですか!?」
「ええ、勿論。というか、大抵の方が分かると思いますよ?」
「な……っ」
そんな……私がこの数日間悩んでいた事が、誰にでも分かるような簡単な問題だったなんて……く、屈辱です! 人間関係に疎い師匠でさえすぐに分かってしまうような事に悩んでいたとは! い、いえ。まだ師匠の出した結論が出したとは限らないです……ですが、取り敢えずは師匠の意見を聞いてみるです。
「私は確かに親密な関係を築いている相手は少ないですが、人間関係や感情の機微には聡いですよ? なんせ趣味が趣味ですから」
「またナチュラルに人の心を読んで……。それで、師匠は何故明日菜さんが怒ったと思うのですか?」
「そうですねぇ……これがキティ相手なら、何かしらの対価を頂くところなのですが。愛弟子に対価を頂くのもあれですし、何よりこのような簡単な事で対価云々を持ちだすのも大人気ないですし」
「……遠まわしに私をバカにしてませんか?」
「いえいえまさか♪」
ほ、本当にこの鬼畜師匠は……! い、今は我慢です。怒るのは答えを聞いてからでも遅くないです! ……怒っても喜ばせるだけなのは分かってますが。
「そ、それで師匠。答えは何なのですか?」
「嫉妬ですよ」
「……はい?」
「ですから。夕映さんに自分より親しい友人が出来た事への嫉妬です。実に子供らしく、微笑ましい理由だと思いますよ♪」
「…………本当に、そう思うのですか?」
「はい。確信が欲しいのでしたら、夕映さんの御祖父様にも聞いてみては?」
「……いえ、師匠がそこまで断言するのであれば、信じるです」
嫉妬、ですか……。まさかそのような、予想の斜め上の理由だったとは……確かにそう考えると、色々と辻褄は合うのですが。
しかし、この仮説が正しいとなると、明日菜さんは私を友人と思っているという事になるのですが……いえ、私は明日菜さんの事は嫌いではないですし、むしろ好感を抱いてるですが。明日菜さんが私に好意を抱いてるようには……いえ、好敵手と書いて“とも”と呼ぶ世界もありますし、明日菜さんが私に少し複雑な友情を抱いていても不思議ではないのでしょう。子供というものは、得てして独占欲が強いものですから、私が明日菜さんから離れて行くような気がして不安になったというのが妥当な線……なのでしょうか? 桜子が初めての友人である、小学生レベル1の私には、少し難しすぎる問題です。一体、どうやってこの問題を解決すれば良いのか。
「師匠。どうすれば明日菜さんは機嫌を直してくれるでしょうか?」
「そうですねぇ……ところで先程から気になっていたのですが、何故桜子さんは呼び捨てなのに対して、明日菜さんは敬称で呼んでいるのですか?」
「何でと言われても。桜子にはそう呼んで欲しいと言われたからで、明日菜さんには言われていまいからですが」
「成程……なら話は簡単です。明日菜さんも呼び捨てで呼んで差し上げれば良いんですよ♪」
「それだけ……ですか?」
「はい、それだけです。そうすれば明日菜さんも夕映さんに友達と思われていると実感し、仲直りどころか今までより一層仲よくなれると思いますよ」
「仲よく、ですか……」
個人的感情で言うなら、明日菜さんと仲よく……友達になるのは吝かではないです。むしろ、こちらからお願いしたいのですが、やはり原作の事を考えると、原作開始前に明日菜さんと仲よくなりすぎるべきではないと思うのですが。むしろこのまま嫌われたままの方が……いえ、険悪になりすぎるのも問題ですね。やはり、最初の出会いからして失敗です。
しかし、さっきも少し考えた事ですが、師匠は原作知識を活用する気があるのでしょうか? あと1年もしないうちに、ネギ先生の村への襲撃もあるはずなのに、対策を練るどころか悩む気配も無いですし。いえ、原作通りに進めようと思っているのなら、それが正しい対応ではあるのですが。それにしては私と明日菜さんを友人関係にしようとしてますし、原作通りにしようとしているなら、行動が矛盾しているです。私と明日菜さんが仲良くなっても、原作への影響は少ないと思っているという線もありますが……そろそろ一度、師匠とこれからの行動方針について詳しく話す必要がありますね。
「あの、師匠?」
「どうかしましたか? 夕映さん。まだ何か悩みがありそうですが」
「……師匠は、原作知識についてどう考えているですか?」
「どう、とは?」
「師匠の行動は矛盾してるです。ネギ先生の村への襲撃に対して私に何も言わないので原作通りにしようとしているのかと思いましたが、最近の私と明日菜さんが友人関係になる事を推奨する発言を考えると、そうとは思えないのです……。一体、師匠はどういう方針で動くつもりですか?」
「ふむ……私の方針ですか。そうですねぇ」
私が確信を付いても、師匠はいつも通りの素知らぬ顔で悩んでるのかどうか分からない顔です。もしかして、考えていなかったと言う事は……いえ、流石の師匠でもそれは無い筈です。
「なるようになれば良いと思っていますよ」
「……は?」
「より正確に言えば、夕映さんのなさりたいようにすれば良いと思っていますね」
「ちょ、ちょっと待つです!!」
「ええ、いくらでもお待ちしますよ」
ニコニコと笑みを浮かべる師匠をよそに、私の頭は崩壊寸前です! どういう思考回路でそういう結論になったのですか!?
「……師匠は
「まさか。それなら
「いえ、紅き翼の目的は“戦争を止める”だった筈です。対して、今の完全なる世界の目的は“魔法世界人の精神の救済”です。人外である師匠なら、その目的に賛同してもおかしくないです」
「有り得ませんね。自分の妄想で一生過ごすなど、想像だけでも遠慮したいですから」
「だったら何故、私のしたいようにすればいいなどというふざけた結論になるのです!! 師匠は原作通りの結末にする気があるのですか!?」
師匠の発言に対し思わず叫んでしまった私を見て、流石に師匠も少し驚いたようですが、今はどうでも良いです。もうこれ以上、師匠に振り回されるのは御免です!
「私の今までやらかしてしまった事を覚えてないのですか!? 初対面の師匠に対して、勢いとうっかりで隠すべき原作知識を全て暴露した馬鹿なのですよ! 普通ならいずれ全てを話すにしても、初対面なら信用の為にも渡す情報を厳選すべき場面でです! あまつさえ、最重要人物の1人である明日菜さんにもうっかり接してしまう愚か者です! 私が師匠の立場なら、弟子になどせずに即行で原作知識ごと記憶を封印しています! こんな原作を全て台無しにしかねない愚者にすべて任せるなどと、頭が沸いているとしか思えない発言ですッッ!!」
「おやおや。まさかここまで自分を卑下なさっていたとは……流石に予想外ですね」
「茶化すのは止めて下さい! いったい師匠は原作を……いえ、この世界にどうなって欲しいのですか!?」
肩で息をしながら問う私に対し、ようやく師匠は微笑みを消しました。
「それは勿論、完全無欠で文句なしのハッピーエンドになって欲しいと思っていますよ」
「その師匠の言うハッピーエンドが分からないから聞いているのです! 原作の結末は師匠にはハッピーエンドでは無いのですか!? ナギさんが助かり、魔法世界も助かり、完全なる世界は壊滅し、ネギ先生は
「それこそまさかですね。欲を言えばガトウやゼクトにも助かって欲しかったですが、そればかりは不可能ですし。文句のつけようがないハッピーエンドでしょう」
「なら、原作とのズレを減らすために私と明日菜さんは引き離すべきです! ちょっとした事でどんな影響があるか……未来がどれほど不安定か、分からない師匠ではないでしょう!?」
「ええ。ですから、もう原作知識はあまり当てにならないのですよ」
「な……何故ですか! 今ならまだ私が明日菜さんから離れれば、原作とそこまで変わらない筈です!」
「何故と言われても……」
必死に師匠を説得しようとしましたが、既に原作通りにはならないと言われてしまいました。それでは私がこうして幼少から修行している意味が無くなってしまうです! 魔法世界編で原作知識を活用する為に、こうして力をつけようとしているというのに!
そう思い師匠に今からならまだ間に合うと言いましたが、続く師匠の言葉に対して、私は何も言う事が出来ませんでした。
「主要人物の一人が別人なのですから、既に原作からは乖離しているも同然でしょう」
「……え?」
「ですから。私と夕映さんが出会ってしまった時点で……いえ、夕映さんが別人としてこの世界に産まれた時点で、この世界は夕映さんの言う“魔法先生ネギま!”の歴史では無くなっているのですよ」
「た、確かにそうですが……で、でも! 私が極力“夕映”として行動すれば、本来の歴史と大きく離れはしない筈です!」
「どうやってですか? 原作の主人公はネギ君です。原作の“夕映”が物語の外でどのように行動していたか、全て知っているわけでは無いでしょう?」
「そ、それは……そのような些事は、物語に大きく影響しないから問題無いです!」
「そうですか? 些細な事で友人が仲違いするなど、よくある話です。本来の“夕映”でない貴女が、宮崎さんや早乙女さんと原作開始まで友人で居続けれるという確信があると?」
「…………ッ!」
「貴女の半生の書で原作を拝見したところ、貴女と宮崎さんとの友人関係は物語にそれなりの影響があるようです。となれば、既に原作通りにいく保証は全くないでしょう。
……私の意見を言えば、貴女と宮崎さんが親友になれる可能性はかなり低いと思っています。友人にはなれるでしょうが。宮崎さんが“夕映”と友人になった切欠は、“夕映”が本好である事と、“夕映”の祖父が亡くなった事です。前者はともかく、後者はもう無理でしょう。何せ、生活環境からして原作と違うのですから」
「あ……あ…………」
「麻帆良で過ごす以上、むしろ原作が始まる次期になっても貴女の御爺様は御存命の可能性が高いです。ここは医療設備も充実していますし、何より魔力に満ちて空気が澄んでいますから。一般人でも、麻帆良に長い期間住めば身体は多少なりとも丈夫になると思いますよ。私が麻帆良で療養しているのも、それが理由の一つですから。
……断言しましょう。たとえ貴女の原作知識を封印したとしても、既に原作通りに進むことは有り得ません」
「……そう、ですか……」
断言までしますか……師匠は本当に容赦がないです。
……いえ、本当のところは、きっと自分でもうすうす気づいていたです。私が原作通りにしようとすればするほど、原作からは遠くなっていくと。私という存在は、物語にとっては害悪にしかならないと。それを認めたくないが故に、必死に力をつけて、少しでも自分が物語に参加する理由を作ろうと……我ながら滑稽です。
所詮、私は“夕映”という配役を横から掻っ攫った異端者。下手な役者がどれだけ頑張ろうが、劇が滅茶苦茶になるのは当たり前です。かと言って、本来の役者に交代する事も出来ず……私はどうすれば良いのでしょうか。記憶を封印して貰っても原作には戻れないとまで言われては、私は……。
「ですから、原作など気にせずに夕映さんの好きにすれば良いのですよ。この世界は“綾瀬夕映”としての物語ではなく、“貴女”としての物語でもあるのですから♪」
「……は?」
……今、また何か変な事を言いませんでしたか?
「すいません師匠。今、なんと?」
「ですから、最初に言った通りですよ。原作など気にせず、貴女の思うままに過ごせば良いのです。明日菜さんと仲よくするのも、桜子さんと仲よくするのも、御爺様に孝行して長生きして頂くのも、全て貴女の自由なのですから」
「で、ですが! それで原作からもっと離れては……!」
「ですから、貴女が産まれた時から原作など参考書程度の価値しかないのですよ。貴女は参考書を読んだだけで、テストで必ず満点が取れると? ありきたりの言葉ですが、思い通りに行かないのが人生というものです」
「そ、それはそうですが……!」
ここにきて正論で返されるとは……! 確かにその通りです。いくら原作知識があろうが、全てをその通りにしようなんていうのは傲慢以外の何物でもないでしょう。
ですが! それでも私のせいで上手くいくはずの物語が台無しになる可能性がある以上、出来るだけ原作通りを目指すのが当然というものです……!
そう考え込んでいると、師匠が不意に頭を撫でてきました。……何のつもりでしょうか。
「……何ですかこの手は」
「いえ、夕映さんがまた難しく考え込んでいるようなので。落ち着かせて差し上げようと」
「…………一応、お礼は言っておくです」
「落ち込む弟子を元気づけるのも、師匠の役目ですからね。
……夕映さん。すぐには難しいでしょうが、貴女は物語の“夕映”ではなく、ここに生きる“夕映”なのです。自分の未来を1から10まで全て計画書の通りに生きている人間……いえ、人間に限らず、全ての意思ある存在はいません。自分の未来を決めるのは、いつだって自分なのですよ。
原作がハッピーエンドである以上、その通りにしたいというのは当然です。ですが、そればかりに縛られては、間違いなくその未来は訪れないでしょう」
「……何度も言わなくても分かってるです」
「ええ。貴女は単純ですが聡いですからね。私が言わなくても、自分のすべき事は分かっているでしょう。
ですが、最後にもう1度だけ。……夕映さん。貴女は貴女のまま、好きに生きるべきです。未だ見ぬ友人達の為に必死になれる貴女なら、原作知識ばかりに頼らずとも、必ずネギ君達の力になれますから」
「……ぅ…………ッ!」
そこまで聞いた瞬間、思わず師匠に抱き着いてしまいました。
……ズルいです。唯一自分の状況を知ってる師匠にそんな優しい事を言われたら、縋り付くなという方が無理な話です……っ!
「やれやれ。夕映さんは前世の知識がある割には甘えん坊ですねぇ」
「煩いです。前も言いましたが、私には前世の知識はあっても記憶は無いんですから、精神年齢はそんなに高くないのです……!」
だから、こうやって大人に甘えるのも当然です。私はまだ6歳児なんですから。
「ふふ……こうやって普通に可愛がるのも良いですね。なんならお父さんと呼んで下さっても構いませんよ?」
「…………お父さん」
「…………ただのフリのつもりだったのですが。いえ、ですが……はぁ。まぁ、偶には柄ではない事をするのも良いでしょう。好きな呼び方で良いですよ」
「……変態行為さえ無ければ、また呼ばせてもらうです」
「それは無理です♪」
「……この変態師匠!」
師匠の大きな手で頭を撫でて貰いながら、これからの事に思いを馳せました。
原作知識は参考書程度に思え、ですか。すぐには難しいですが、それが一番という事は分かっています。
……取り敢えず、明日菜さんを呼び捨てにするところから始める事にするです。
中々の難産でしたが、何とか書けました。
これからどんどん原作との人間関係からは離れて行く予定です。はたして、図書館組との関係はどうなることやら。
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第6話 修行と新たな出会い
色々と気力が萎えていたのですが、そろそろ復活しないと創作活動からエタると思ったので、気合入れて執筆。活動報告でアンケートを取った時は、11月中には投稿する気だったんだけどなぁ。何故こうなったし。アンケートの締切は本編突入までとか書いてたのにね。笑うしかない。
アンケートについての詳細は後書きにて。前回は何の告知も無しにいきなりアンケート始めたからなぁ……それでも数名の方が気付いて下さり、感謝の極みです。
「遠野に行ってきてください」
「……はい?」
師匠の進言通り、あれから明日菜さん……いえ、明日菜を呼び捨てにしてみたところ、数秒間固まったと思ったら無言で背中を何度も平手で叩かれたです。何事かと思いましたが、耳まで真っ赤にしていたので、多分照れ隠しだったのでしょう。
それからは桜子と合わせて3人で過ごす事が増えたです。明らかに原作では縁のなかった組み合わせなので最初は戸惑いましたが、半年もする頃には普通の友人……いえ、親友付き合いが出来るようになったです。所詮私のネジが数本抜けている頭で深く考えてもどうにもならないという事にようやく納得……というか、痛感したので。
いえ、最初の頃は極力距離を開けようと思ったのです。師匠にはああ言われましたが、やはり原作を変えるのは何というか……罪悪感? のようなものがあったので。ですが、桜子には持前の幸運でどこに逃げても発見されてしまい。明日菜に至っては避け始めて1週間も経った頃でしょうか。登校と同時に涙目で問い詰められまして……周囲の視線の痛いのなんの。もう諦める以外の選択肢は残されて無かったのです。
まぁ幸いというか、この数年では明日菜と桜子以外の3-Aクラスメートとは親しくなってないです。いいんちょさんは親しい知人レベルですかね。明日菜ともあまり深くは関わってないようです。弟さんがどうなったのかが気になるのですが……私が見る限りでは、特に落ち込んでいた時期もありませんでしたし、まだなのでしょうか? 原作での明日菜がいいんちょさんを励ますシーンでは、初等部1~2年くらいの頃と予想していたのですが。まぁ、深く考えても仕方ないです。私が“夕映”になった事によるバタフライ効果かもしれないですし、平行世界故の誤差なのかもしれないです。弟さんがまだ産まれてないのか、そもそもいいんちょさんのお母様が妊娠さえしなかったのか……どちらにせよ、いいんちょさんのショタコン属性が無くなってしまうかもしれないのが不安要素ですが、どうしようもないです。
次に二次創作でよく救済されている千雨さんなのですが、遭遇すらしてないです。麻帆良にはいると思うのですが、麻帆良は初等部だけで5つはありますからね。よその初等部の生徒名簿なんて確認出来る訳もないですし、この広い麻帆良でたった一人と偶然出会う確率なんて、それこそ小数点以下の確立でしょう……その確率で明日菜なんていう核爆弾を引き当てた私は何なんでしょうと思わなくもないですが。まぁ中等部で出会う事は確定してますし、出会ったら出会った時と気楽に考えとくです。下手の考え休むに似たり。まさに私の為にあるような言葉です! ……自分で言って悲しくなってきました。
さて、肝心の原作への対処なのですが。何か原作で変えた方が良い事は無いかを考えていたのですが、1つだけ現時点で私……正確には師匠が出来そうな事を思いついたのです。
それはズバリ、【ネギ先生に常識を教える事】です!
思えば原作のネギ先生は最初は酷いものです。修学旅行から少しずつ成長していき、魔法世界編でフェイトと会合する頃には立派な主人公になっていましたが、それを抜いても……いえ、そう言えば魔法世界から麻帆良に帰ってからも武装解除が暴走してましたね。日常生活では最初から最後まで何一つ成長していないです。
ネギ先生がそんな頭の良い馬鹿になってしまった原因は、間違いなく幼少時の育て方が悪かったせいです。何せ魔法学校に入学してからのネギ先生は禁書庫には平気で入るわ、恐らく授業は真面目に受けてないだろうわの問題児だったでしょうから。そんな問題行動を黙認されていたのは、ひとえにその血筋と才能のせいでしょう。未来の英雄なんだから仕方がない、と。ようするに周りの大人がこぞって甘やかしていたわけですね。アーニャさんもなんやかんやでネギ先生のする事を黙認してたようですし……まともな大人って、スタンさんくらいしかいなかったのでしょうかね。
で、そのネギ先生をダメにした筆頭が明日菜の保護者でもある【高畑・T・タカミチ】ですよ。考えれば考えるほど、彼の行動は問題だらけです。ちょっと箇条書きにして、分かりやすくしてみましょうか。
・5歳くらいのネギ先生に、ドヤ顔で実力を見せつける(子供相手に何をやってるんですか)
・ナギさんの良い所ばかりを教え込む(そんな事をするから、ネギ先生が過剰に父親に憧れて間違った英雄像を持つんです)
・ガトウさんに託されたにも関わらず、ある程度育てば明日菜を全力で放置(悠久の風の活動は、高畑先生がいないと出来ない事ばかりではないはずです。師匠の遺言なんかどうでもいいってことでしょうか)
・ネギ先生のフォローが皆無(あの人、最終決戦まで何一つ役に立ってませんよね。ヘルマンが侵入してきたのなんか、明らかに高畑先生の責任でしょう。修学旅行でアーウェルンクスに明日菜の存在がバレたのは明白だったのに)
…………どうしようもなくないですか、あの人。結局は自分のしたい事しかやってないですねあのマダオ!
……ごほん。というわけで、私は師匠に学園長に伝言を頼んだのです。【ネギ・スプリングフィールドに常識を叩き込め】と。快楽主義の師匠も流石にネギ先生の行動には思うところがあったのか、苦笑いで学園長への伝言を約束してくれました。これで師匠から学園長。学園長から高畑先生へと伝わったはずです。後は高畑先生がどれだけネギ先生の危うさを理解してくれるかですが……無理でしょうかね。まぁ、もしネギ先生が原作通り常識に欠けるようでしたら、私が全力で常識を教え込むだけです。公衆の面前で脱がされるのは御免ですから。高畑先生本人についてはもう放置です。師匠が直接会いでもしなければ、どうしようもないでしょうから。
さて。長々とこれまでの事を語ってしまったですが、最後は私の修行についてです。
ある程度吹っ切れたのが良かったのか、火、水、氷共に下の上くらいの魔法は使えるようになったです。具体的に言えば『紅き焔』や『氷爆』程度の呪文ですね。威力の方も、原作のメイさんが使ったものと同程度はあると思うです。ようやく魔法使いと名乗っても良くなったといったところでしょうか。まぁ、一番相性が良い属性は“水”なのですが。サポートには適した属性なのですが、いかんせん攻撃手段に乏しいのが難点です。色々と漫画とかを参考にネタは考えているのですが、今の私の実力では再現するのは難しく……まぁ、今後の課題です。
で、ようやく基礎が出来た私を見て師匠が提案したのが、冒頭の発言というわけなのです。長くなって申し訳ないです。
「遠野?」
「はい」
「私一人でですか?」
「ええ。私はここから離れられませんから」
「……理由は?」
「修行です」
「……何のですか?」
「体術……ですかね?」
「何で疑問形ですか」
「
「…………誰が教えてくれるのですか?」
「私の古い知人です」
「…………
「ええ」
「「………………」」
成程成程。師匠の古い知人。エヴァさんよりも長生きであろう魔導書の
「どう考えても人外じゃないですか!!?」
「ええ。烏天狗です」
「まさかの妖怪ですか!?」
「昔、遮那王……いえ、牛若丸でしたか。まぁ、人間の子供を超一流の武芸者に育て上げた事もあると言ってましたし、指導には問題ない筈ですよ」
「うしわかっ!?」
それってかの有名な鞍馬天狗じゃないですか!?
最低でも齢千年を超える大妖怪相手に愛弟子を一人送り出すなんて、何を考えてるですかこの鬼畜!!
「ふふふ。心配なさらずとも、彼は意外と面倒見の良い方ですよ。風の噂では数十年前に半妖の弟子をとったとの事なので、恐らくはその彼が夕映さんの修行相手になるかと」
「どっちにしろ人外です!」
人外の方に偏見や奇異感があるわけではないですが、私の何倍も身体が丈夫な方用の体術を習ってこいとか、私を殺す気ですか!?
「心配なさらずとも明日から夏休みですし、御爺様の方には連絡しておきました。長距離転移魔法の使用許可も近右衛門から取りましたし、明日菜さんや桜子さんには御爺様から説明して下さるそうですよ」
「用意周到すぎるです!? いえ、私が心配しているのはそこではなく、貧弱な人間の身体で習得出来る体術なのかと――――」
「よい旅を♪」
「話を聞くです――――!!」
私の必死の抗議も虚しく、師匠の展開した長距離転移の魔法陣によって、憐れ私は人外蔓延る遠野へと飛ばされてしまいました……帰ってきたら覚えてるがいいです!
――――――――――――――
師匠に人外魔境へ送り出されて早1ヶ月。
転送された先は、いかにも高位の妖怪が住んでますと言わんばかりの立派な日本家屋の前でした。
一目見てマズイと感じ、早急に離脱しようとしたのですが……振り向いたら目の前に立派なスーツを着た老紳士と、くたびれたスーツを着て煙草を咥えた胡散臭い男性が立っていました。見た目は2人とも人間にしか見えませんでしたが、何と言うか……威圧感? のようなものが半端ではなく、危うく気絶するところでした。
ですが、いざ話してみると2人ともとても親切な方でして。老紳士の方は人間に名を教えてはいけない掟だということで【鴉天狗】としか名乗ってくれず――――仕方ないので鴉さんと呼んでます――――男性の方は弟子の【加藤虎太郎】さんだそうです。
どうも師匠が予め手紙を送ってくれていたそうで、ちゃんと人間用の訓練を考えていてくれました。鴉さんは監督役で、虎太郎さんは組手役――――勿論、全力で手加減してもらってるです。虎太郎さんは人間と【石妖】という妖怪とのハーフだそうで、何でも全身の好きな箇所を石のように硬く出来るんだとか。込める魔力――――妖力? 次第では、金剛石より硬く出来るとか。まぁ、ダイヤモンドも石と言えば石ですが……恐ろしいの一言です。
御二人が習得している体術は【八咫雷天流】という妖怪が創った体術で、兎にも角にも【はやさ】を極めた武術だそうです。思考の早さ、移動の速さ、攻撃の疾さ――――とにかく【はやさ】が基本にして奥義だと。もう、聞いただけで人間が使える技じゃないと思いました。雷天モードのネギ先生なら使えるかもしれませんが、あれはもう人外の域ですから。
まぁ、人間用の修行構成とは言え、そんなお二人の指導なので。とにかく
というわけで、明朝には帰るので、実質最終日の今日は山を探索する事にしたです。あ、伝え忘れてましたが、ここは山奥も山奥。山頂から周囲を見渡しても、人里どころか家の一件も見当たらないくらいの山奥です。
まぁそんな自然に満ちたというか、自然しか無いような場所に折角来たので、何か面白いものでも無いかと探索する事にしたのです。見つかるのは山の幸ばかりで、特に面白いものは見つかりそうにないですが。何かいかにも何かが封じられてますみたいな祠とかを期待したのですが……まぁ普通に考えれば、そんな危険なものがあったら鴉さんが行かせてくれてないですね。残念です。
「ううぅぅぅ…………」
「ん?」
山の幸の取りすぎで籠も一杯になった事だし、そろそろ屋敷へ帰ろうかと踵を返そうとしたところで、何やら茂みの方から苦しそうな唸り声が聞こえてきました。この声は犬か何かでしょうか? 随分弱ってるような声ですが……気になりますし、行ってみるです。
「うぅぅ……もうアカン……」
「……うわぁ」
茂みを抜けた先にいたのは、確かに犬でした。いえ、一部犬というか……。
「……人狼ですか?」
犬の耳と尻尾を生やした、5歳くらいの少年でした。
「ん? なんや姉ちゃん……こっちは腹減って、姉ちゃんに構っとう暇は……ん!?」
胡乱気な瞳で私を見ていた少年ですが、私の背負っている籠を見た途端、勢いよく起き上がり、キラキラとした目で見つめてきました。いえ、見つめてるのは私ではなく籠の方ですが。
「な、なあなあ姉ちゃん! その籠に入っとるのって食いモンか!?」
「え、ええ。まぁ……生では食べれませんが」
「ほな、どないしたら食えるんや!?」
「火を通せばすぐにでも「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁーーーーーっ!!」って、はやっ!?」
火が必要だと言った瞬間、少年は驚くべき速さで落ち葉を集め、木の棒をこれまた恐ろしい程の早さで擦り合せ、あっという間にたき火を起こしたです。どれだけ空腹なのですか……。
「ほれ姉ちゃん! 火ぃ起こしたで! 早う食いモン――――!!」
「分かったです! 分かったですから、少し落ち着くです!」
籠に顔を突っ込まんばかりの勢いで迫ってきた少年を落ち着かせ、私は取ってきた薩摩芋をアルミホイルに包み、火の中に放り投げました。え、何故アルミホイルなんか持っているのかですか? 鴉さんが持たせてくれたんです。この山の薩摩芋は、少し力を入れただけで収穫出来るから、取れたてを食べなさいと。鴉さんは御爺様に負けず劣らずのナイスミドルです。
「なあなあなあ! まだか!? まだなんか姉ちゃん!」
「ああもう、落ち着くです! まだ10分はかかりますから、これでも食べてるです!」
「おー! 姉ちゃんええヤツやなあ!」
なけなしのお菓子を渡すと、物凄い勢いで食べ始めました。
……しかし、この少年。この関西弁と言い、この黒い耳と尻尾と言い……いえ、まさかですね。
と、そうこうしてる内に焼けたみたいです。火を消して芋を取り出し、少年に渡すと、熱い熱いと言いながらも嬉しそうに芋を頬張り始めました。
「あふっ! あふいわっ! いやーこんな旨いもん、久々に食べたで! ありがとうな姉ちゃん!」
「喜んでもらえたのは良いですが、私には【綾瀬 夕映】という名前があるです」
「ん? おう! なら夕映姉ちゃんやな!」
「……まあ良いです。それで、貴方はなんというのですか?」
「俺か? 俺の名前は――――」
なんというか、あれですね。フラグっていうのは――――――。
「――――【犬上 小太郎】や!」
――――避けれないからフラグっていうのですね。
麻帆良の初等部が5つというのは適当です。あれだけ広いのだから、少なくても5つはあるだろうと思ったんで。下手すれば10はあるかもですが、当作品は5つで。
夕映に修行をつけた2人は【あやかしびと】というPSPゲームの登場人物です。作者が大好きな作品なので、ゲスト出演してもらいました。これからもモブとしては出番がありますが、本編に関わる事は無いのでご安心を。
そして出てきた新たな原作キャラ。ぶっちゃけ、彼を出したいがために一気に時間が飛びました。
アンケートの方ですが、締切を次話投稿までにしときます。アンケートを始めたのが10月半ばなので、日付に違和感があるかもですが、宜しくお願いします。
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第7話 あやかしの里
というわけで、あまりの喜びに勢いで7話を執筆執筆。夜勤前だけど気にしない。この数日であやかしびとのトーニャルートをやり直してキャラを把握し直したし、全く問題無い。つか何回もやってるのに、また泣いてしまった。昔から感動屋な作者なのであります。
「なぁ夕映姉ちゃん。その鴉のおっちゃんの屋敷って、まだかかるんかー?」
「はぁ……」
遠野でまさかの原作キャラと遭遇してから数時間。まだ8月末だと言うのに秋の味覚を満喫しつくした私は、鴉さんの屋敷に戻っています……何故か小太郎さんを連れて。
「なぁって! もう随分歩いとるのに、全然屋敷なんか見えへんでー?」
「はぁぁ……」
原作では京都で初遭遇した小太郎さんですが、何故小太郎さんのような子供が関西から遠野……岩手くんだりまでやってきたのかを――――あ、何故小太郎さんが関西出身と知っているのかは関西弁を使っているところから推測したと言っておいたです。何故このような山奥に居るのかを訊いたところ、半妖と言う事で狗族の里から追い出されてしまったそうで。食い扶持を稼ぐ為に裏の仕事に手をつけようとしたところ、忌み子だからと地元の裏世界からも突っぱねられたそうで。
が、ここで泣き寝入りしないのが小太郎さんらしいと言うか。何でも物心ついた頃に一族の方々が噂していた、遠野にとんでもなく強い烏天狗がいるという話を思い出し。人伝に噂について尋ねたところ、その烏天狗がかの有名な牛若丸を育て上げた妖怪だというところまで突き止めたらしいのです。6歳児のくせして、どこからそんな情報網を得たのかは謎ですが……まぁ小太郎さんは意外と仕事関係の人付き合いが巧そうですし、この頃からその手の事には慣れていたのだと思っておくです。……いくら半妖で濃い人生を送ってきているとはいえ、そんな6歳児は嫌ですが。
あ、小太郎さんは先月6歳になったそうです。今は98年の8月。原作開始まで後4年半なので、ネギ先生より1つ年上だったようです。私がこの11月で10歳になりますから、だいたい4歳差ですね。……身長がほぼ同程度なのが泣けてくるです。そりゃ原作の夕映の身長も高くはないですが、さすがに小学4年生で120cm程度しか無いのはどうかと思うのです! ……ここで言ってもどうしようも無い事だというのは分かってるですが、改めてこう自分のミニマムっぷりを露呈させられるとこう、遺憾ともし難い感情が……!
「なあ!」
「ぇひゃいっ!?」
こ、小太郎さん!? ななななんですか突然大声を出して!
「さっきから声掛けとるのに、返事せえへん夕映姉ちゃんが悪いんやろ? 鴉のおっちゃん屋敷はまだかいなって聞いとんのにー」
「う……すいません。少し思考に埋没してたです」
そうでした。小太郎さんは鴉さんに鍛えてもらうために、この遠野の山を捜しまわっていたそうなのです。何でも自分が仕事を貰えないのはまだ弱いせいだと思い、それなら強くなって見返してやると思い立ってここまで来たそうです。人間の子供を育てるような変わり者なら、自分の修行も見てくれるだろうと安易に考えたようで……まぁ、鴉さんの人格を考えると間違ってはいないのですが。しかしこのただっ広い遠野の山々から、勘だけでこんなに近くまでやってくるとは。呆れるべきか感心すべきか。
流石に半妖とは言え子供の体力で山奥を何日も捜しまわるのは限界があり、そこらへんに生えている野草や茸に手を出しては腹を下し。もう動けなくなる寸前だったところを、私が発見したというわけです。何というか、狙ったかのようなタイミングですが……何か強制力のようなものが動いてないか、不安になるレベルです。原作でも小太郎さんは、鴉さんに教えを受けたのでしょうかね? 影分身なんかは、いくら才能があっても独学じゃあなんともならないと思うのですが。まぁどこぞの野良忍者に習ったりしたのかもしれないですし、真相は分かりませんが。
で、先程食事の最中に小太郎さんから身の上話を聞いている中で私がうっかり、鴉さんとその弟子を知っていると溢してしまいまして。それを聞いた小太郎さんは私に飛びついて目を輝かせながら案内してくれとせがんできまして……またもや私には断る事が出来ず、こうして道案内をする羽目になったのです。桜子と言い小太郎さんと言い、私って押しに弱いのでしょうか……?
「ふーん? よーわからんけど。鴉のおっちゃんの屋敷はまだなんか?」
「もう目と鼻の先です」
「はぁ? 何言うとんや夕映姉ちゃん。屋敷なんか、どこにも見えへんやないか」
「いえ。ちゃんとここにあるです」
小太郎さんにそう言いながら、私は右の手首に巻いていた鈴を頭上に掲げ――――。
りぃん――――
りぃん――――――
りぃぃん――――――――
3度。
周囲に鈴の音が染み渡るように、ゆっくりと鈴を鳴らすと――――。
「おわぁっ!?」
突然目の前に現れた屋敷に、小太郎さんは思わす飛びのいてしまうくらいに驚いたようです。
まぁ、無理もないです。先程まで何も無かった空間に、いきなり屋敷が出来れば誰だってそうなるです。
「なっ、なななな……なんやこれっ!?」
「不可視と人払いの結界を一時的に解除したです。小太郎さんがいくら鴉さんを捜しても見つからなかったのは、これが原因というわけです」
「はぇー……こないな結界を張れるとか、ごっついんやなぁ鴉のおっちゃん」
「これを張ったのは、鴉さんの上役らしいですよ」
「そうなんか? ここはごっつい奴がようさん居るんやなぁ……」
この鈴は結界の通行証のようなもので、私だけならわざわざ結界を解除する必要は無かったのですが。小太郎さんを連れて行くとなると、結界を一旦解除しないと小太郎さんだけ結界に弾かれてしまい、屋敷内に連れて入る事すらままならなかったので。
外出前に念のためということで結界解除の方法を教えてもらいましたが、まさかその日のうちに使う事になるとは思わなかったです。鴉さんに迷惑をかけてなければ良いのですが――――。
「夕映さん」
「はひっ!?」
「んなっ!?」
突然目の前に現れた鴉さんに、思考に埋もれていた私も、屋敷を見て呆けていた小太郎さんも同時に飛び上がりました。し、心臓に悪い登場の仕方は止めて欲しいです!
「失礼しました。ですが、悟られずに近づくというのは妖怪の習性のようなものですので……中には敢えて悟らせる妖怪もいますが。」
「……そうですか」
習性と言われてしまうと、ぐうの音も出ないです。至極尤もな言葉ですし。普通の人間の姿をした妖怪が堂々と手を振りながら歩いてきたら、誰も恐れないです。
「それで夕映さん。結界を解除されたのは、そちらの少年を招き入れる為という事で宜しいですか?」
「あ、はい。そうです。何でも鴉さんに頼みがあるという事で――――あれ?」
鴉さんに紹介しようと小太郎さんの方を振り向くと、彼は額……いえ、身体中から汗を噴きだしながらも、いつでも跳びかかれるような姿勢で鴉さんを睨んでいました。
「こ、小太郎さん!? 何をやってるですか!」
「……………………ぐっ……」
「ふむ……」
睨んでいる筈の小太郎さんが見るからに消耗しているのを余所に、当の鴉さんは微塵も動じていない様子で、真っ直ぐに小太郎さんを見つめ返していました。もしかして、鴉さんが何かやってるですか……?
そう思っていると鴉さんの視線に耐え切れなくなったのか、小太郎さんが後ろに倒れこんでしまったので、慌てて支えに走りました。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「だ、大丈夫ですか? 小太郎さん」
「あー……大丈夫やで夕映姉ちゃん。ちょっと気当たりしただけや」
「はい?」
気当たりですか?
「その鴉のおっちゃん、とんでもないわ。夕映姉ちゃんに全く感じさせんと、俺だけにあれだけの殺気を飛ばすとか……俺やったらそないな器用な事、何年修行しても出来んわ」
「殺気!?」
何で会った瞬間からそんな殺伐とした関係になってるのですか!?
「そんな事はありませんよ。貴方はまだ若い。数十年もすれば、私のような老いぼれなど軽々と踏み越えていくでしょう」
「そうかー?」
「ええ。私が保障します」
……あれ? 殺気を飛ばしあう殺伐とした関係では無かったのでしょうか。何やら凄く親しげになっているのですが?
「ん? ああ、夕映姉ちゃん。さっきのは試しというか、挨拶みたいなもんやで」
「ええ。夕映さんが連れてこられた以上は悪人ではないのでしょうが、御館様からこの屋敷を預けられている身ですので。無条件で招き入れる訳にはいかなかったのです。夕映さんの客人に対する不作法、申し訳ありません」
「はぁ……」
納得出来たような、そうでもないような。とにかく小太郎さんは客人として認められた、という事で良いのでしょうか。
首を傾げていると、ある程度回復した小太郎さんが鴉さんに案内されて、さっさと屋敷に入ってしまったです。ちょ、ちょっと! 私を置いて行かないで下さいー!
――――――――
「成程。私に教えを乞いにきた、と」
「そや。なぁ、頼むわ鴉のおっちゃん。俺はもっと強くなりたいんや!」
「ふむ……しかし、私には虎太郎という弟子がいますし。何より――――」
チラ、と一瞬私の方へ目線を剥ける鴉さん。
「古い友人の大切な弟子を預かっている身ですから。私一人の独断で新たな弟子を招き入れるわけにも……」
わ、私のせいですか!?
これはマズイです。もしここで小太郎さんが鴉さんに師事出来なければ、最悪の場合は小太郎さんが原作より弱体化してしまう可能性が!
「あの! 鴉さん!」
「はい?」
そう思うといてもたってもいられず、思わず声を荒げてしまう。
「あ、あのですね。私の事は気にしないで……いえ、私のためにも、小太郎さんを弟子にしてあげて欲しいのです。その、私も歳が近い方が一緒にいた方が、組手の相手とかにも困らないですし、その、対抗意識が芽生えて互いに切磋琢磨し、修行に身が入るというかですね……」
「ふむ……」
私の言葉に一理あると感じたのか、顎に手を当てて思案する鴉さん。小太郎さんはそんな鴉さんの返答を、真剣な表情で見守ってます。なんとか納得してくれると良いのですが。
「何を難しく考えてるんだ? 師匠」
少し張りつめた空気の中、襖を開けて入って来たのは私のもう一人の師匠である虎太郎さんでした。って、小太郎さんと同じ読みで紛らわしいですね。小太郎さんの方には、通称でも考えておいた方が良いですね」
「虎太郎?」
「俺達が忙しいって言っても、夕映がここにいる間だけだろ? だったらその犬っころをここに住ませて、夕映が居ない時に鍛えればいいだけだろうに。夕映がいる時は本人がさっき言った通りに夕映の組手相手でもさせてりゃ良いし、何なら
「あいつ?」
その親しげな言葉に、思わず首を傾げてしまう。
あいつって、鴉さんと虎太郎さん以外にも誰かいるのでしょうか?
「ん? ああ、夕映にはまだ言ってなかったな。ここ遠野は色々な半妖が集まる場所でな。気付けば【半妖の里】なんて呼ばれる始末だ。師匠みたいな純粋な妖怪も、数える程だがいるけどな」
「はぁ……」
「へぇー!」
半妖の里、ですか。いまいちイメージが浮かばない私に対し、嬉しそうな声を上げる小太郎さん。自分と同じ半妖が集まっている事が嬉しいのでしょうか?
「反応がいまいちだな夕映。想像がつかんか? 半妖の集まりとは言っても、連中は能力と寿命以外は普通の人間と変わらんよ。生徒会の連中なんぞは、揃って騒がしい阿呆共の集まりだしな……なんなら会わせてやろう。今すぐにな」
「はい?」
今すぐとはどういう意味か。
そう問いかけようと声をあげる間もなく、スタスタと襖の方へと向かう虎太郎さん。
そしておもむろに襖を開けると――――。
「むぎゅっ!?」
「おっと」
襖に耳を押し当てていたのか。茶色かかった長い金髪を一房に纏めた女の子と、綺麗な銀髪をポニーテールにした白い肌の女の子が転がり込んできた――――銀髪の子が、金髪の子を踏み台にした形で。
「痛い痛い痛い! さっさとどきなさいよこの
「あ、ごめんなさい。丁度目の前に踏み易そうな狐の毛皮があったので思わず」
「誰が毛皮かぁー!」
唖然とする私と小太郎さんをよそに、キャットファイトを始める二人。
で、結局このお二人は何処のどちら様ですか?
説明せよという意思を込めて虎太郎さんを見ると、気持ちが伝わったようで。むんずと銀髪の方の首根っこを掴んで持ち上げると、UFOキャッチャーのように空いていた座布団まで移動させました。
「こいつらが今話した生徒会の面子の一部だ。ちなみに顧問は俺。というか、何でここに来てたんだお前ら?」
「夏休みに入ってから鴉天狗さんと虎太郎先生が人間の女の子を鍛えてるという話を、一ノ谷先輩から聞きまして。それを聞いたこの耳ざとい狐娘が面白そうだと興味を持ってしまいまして。私は頑張って止めようとしたんですが、純粋な妖怪相手では私の力など役にも立たず。憐れ私はこの狐娘の道楽に無理やりつき合わされ」
「何流れるように嘘八百言ってんのよ! アンタが暇だから見に行こうって、私を言葉巧みに引きずり出したんじゃないの! 狐を化かすとか、何様のつもりよこの狸娘!!」
「知ーりーまーせーんー。すずさんが何を言ってるのか私にはさっぱりです。やはり100年も生きていると記憶力にも問題が発生するんですね。可哀想にすずさん。でも、心配しないで下さい。貴女の為に最高の老人ホームを見つけてあげますから。主に伊緒が」
「こっ、この豆狸ぃ~~~!」
キャットファイト、ラウンド2開始。
いや、本当なんなんですかこの二人。というか100年?
色々と疑問を込めて虎太郎さんを見つめると、面倒そうにしながらも応じてくれました。面倒だなんだと言っても教職者ですね。どこぞのマダオとは違って頼りになるです。
「あー……面倒だが仕方ないか。俺から簡単に紹介してやろう。金髪の方が如月すず。今の話で気付いたかもしれんが、さっき俺が言ってた数少ない純粋な妖怪の一人だ。種族は……まぁ、本人から後で聞いてくれ。昔は人間嫌いだったが、今は問答無用で嫌うような事は無いし、お前らみたいな子供に対しては意外と面倒見が良いから大丈夫だろうさ」
さっき狐娘とか言われていたから、きっと狐に関する妖怪なのでしょう。さほど妖怪に詳しいわけではないので、狐の妖怪と聞くとかの有名な金毛白面九尾の狐くらいしか思いつかないのですが。後はお稲荷様くらいでしょうか? 単なる化け狐という可能性もありますが……また機会があれば本人に訊いてみるです。
「で、もう一人の銀髪の方がトーニャだ。ちなみにロシア人な。本名はえらく長ったらしいんだが、俺はあんな舌を噛みそうな名前なぞいちいち覚えてない。毒舌で軽くSが入っているが、中身は割とへっぽこだ。からかうのは大好きだが、からかわれるのには滅法弱い。半妖としては少し珍しい種族でな……まぁこっちも詳しくは本人に訊け。
後、少し歳の離れた義兄がいるが、ヤツは歩く公害だから極力近づかないように。青少年の教育に悪い。それと、兄妹揃ってウォッカを愛している。以前水筒にウォッカを入れて来た時は流石に驚いたぞ……あれを水のようなものだと言い張る味覚は未だに分からん」
なんですかその説明は!?
トーニャさんもですが、それ以上にお兄さんの方が気になるのですが……歩く公害って、一体どんな方なのですかー!
本当に今の説明で良いのかと鴉さんの方を見ましたが、いつもの素敵な笑顔で返されたです。つまり、今の説明で間違ってないのですね……こんなのが生徒会役員で、大丈夫なんでしょうか。
色々と疑問に思いながらも、取り敢えずは二人のじゃれ合いが終わるまで待つことになるのでした。え、小太郎さんですか? あの二人が入ってきてから、私の隣で固まってるです。6歳児にこの光景は、色々と衝撃ですよね……早く麻帆良に帰りたいです。割と切実に。
ちなみに原作夕映の身長は138cmです。ネギや小太郎と並んでも頭1つ分の差さえ無かったけど、よもやそこまで低かったとは。
さて、遂に(?)出してしまいましたあやかしびとの面々。文字数が6000字を超えたのでここで切りましたが、どうだったでしょう?
さて、前回の活動報告で書いた通り、アンケートを取ります。内容は【トーニャを中等部から麻帆良に編入させるかどうか】。どうぞよろしくお願いします。
夕映の強さをどうするかアンケートは、この話を投稿した瞬間に締め切ります。沢山の回答、有難うございました! ほぼ3一択でしたが、原作が始まってからチート化するか、原作開始時にはもうチートになってるかで意見が分かれてまして。色々と先を考えた結果、原作開始時は2。始まってから3になるという事にしました。どうやってえ強さ度を3000未満から6000超えにするかは先をお楽しみに。
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第8話 キキーモラ
今回は遂にきてしまった、戦闘回です。戦闘と言っても模擬戦ですが。戦闘描写って、別作品の2話しか書いたた事ないんですよね。投稿話数を別作品も足すと全部で60話にもなろうというのに、未だに。この作品はある程度は戦闘描写が多くなるというのに、困ったものです。
ただっ広い鴉さんの屋敷。その敷地内にある、麻帆良の体育館程の広さはあるでしょう庭園。何故か私は、修行中にしか縁の無いこの場所に立たされています。
「二人とも。準備は良いかー?」
「ええ。私の方はいつでも」
「…………」
前を見ると、既に臨戦態勢に入ったトーニャさんの姿が。な、何故このような事になってしまったのでしょうか……!
「チビ人間ー! トーニャなんかに負けたら、承知しないんだからねーっ!」
「ほっほっほ。すず様、トーニャさんは中々の実力者故に、今の夕映様では勝利するのは些か難しいかと……」
「はっ! 何ゆーとんねん鴉のおっちゃん。あないぎょうさんハンデ貰うとんのに、夕映ねーちゃんが負けるわけないやん!」
……ええ、原因は分かってるです。あそこで人の気も知らずに発破をかけやがっている、狐娘さんと鴉天狗と狼小僧のせいですとも!
トーニャさんとすずさんの喧嘩が一向に収まらず、いよいよ雰囲気が怪しくなるかという絶妙なタイミングで小太郎さんが口出ししてしまいまして。そんなアホみたいに口喧嘩などしないで、模擬戦でもして決着を付ければ良いと。そこからはまぁ、とんとん拍子に話が進んでしまい……簡単に言えば、こういう流れです。
「模擬戦で決めればええやん」
↓
「私は直接戦うタイプじゃないから無理。能力を遣ったら、私の圧勝だし」
↓
「やったら、代役でも立てたらええんちゃうか?」
↓
「そんなのいないじゃない。鴉や虎太郎だと強すぎるし、アンタは狗族みたいだけど、まだガキだし」
↓
「んなっ……! ま、まぁええわ。女と殴り合うのは趣味ちゃうし。せやったら夕映ねーちゃんでええんちゃうか? 鴉のおっちゃん達に鍛えられとんやったら、結構やるんやろ?」
↓
「ふむ。夕映さんにもそろそろ模擬戦くらいは経験して頂きたいと考えていましたので、宜しいかと。ある程度トーニャさんにハンデを付けて貰えれば、良い戦いになるかと思いますが」
↓
「そうなの? じゃあお願いね! ……負けたらちょこ~っと痛い目に遭うかもしれないから、頑張りなさい?」
…………という感じです。当事者の私とトーニャさんを置き去りに、あっという間に決められてしまいました。まぁ、鴉さんにこれも修行だと言われては私に拒否権など有る筈も無いですが……取り敢えず、小太郎さんは後で覚えておくがいいです。
頼みの綱のトーニャさんも、すずさんに煽られてあっさりと承諾してしまいましたし。面倒そうな顔をしていますが、あのタイプはやるからには本気で来るタイプだと思うです……手を抜いたりしたら、鴉さんや虎太郎さんになんと言われるか分かりませんしね。私とトーニャさん共に。はぁ……。
「それじゃ、試合のルールを確認するからなー。まず、範囲はこの庭園だけな。屋敷の中は勿論だが、山の方も立入禁止だ。山だとトーニャに有利すぎるからな。それと、気、魔法に関わらず、
とと。もう始めるのですか。こうなったら、腹を決めるしかないですね……。
大丈夫。私もこの1ヶ月、鴉さんと虎太郎さんからみっちり体術を叩き込まれたのですから、巧くやれば互角以上に戦える……筈です!
「ここからが重要だが、師匠が言った通り、トーニャにはハンデをつけてもらう。今はまだ、夕映との実力差が開きすぎてるからな。
まず一つ。半妖としての能力使用は1度だけ。
二つ。自分から攻撃するな。要するに、受けに回れって事だ。
三つ。気絶させるのはアウトだ。この模擬戦は、夕映の修行も兼ねてるからな。
四つ。これは夕映の勝利条件だが、トーニャに一撃、有効打を入れれば勝ちだ。
で、最後に五つ目。トーニャの勝利条件は“夕映を行動不能にさせる事”だ。お前さんなら、どういう意味か分かるだろ?」
「ええ。大丈夫です」
付けて貰えたハンデ数を考えると、やはりトーニャさんは相当な実力者のようです。しかし、私を行動不能にさせる事が勝利条件というのが気になるです。気絶は不可となると、四肢を折るといった気絶しかねない事はしないでしょうし……合気道や柔術のような技で、組み伏せるとかでしょうか? 虎太郎さんの意味ありげな言葉が気になりますが、今は考えても仕方ないです。
それともう一つ気になるのは、トーニャさんの半妖能力です。態々1度だけ使用可というのが、どうにも気になるです。素直に考えればその1度で戦況を変えれるような、協力な能力なのでしょうが……そもそも、トーニャさんは何の妖怪の半妖なのでしょう? それが分かれば、妖怪によっては能力の予想も出来そうですが。
「夕映からは何か質問は無いか? 質問によっては答えるぞ」
「質問ですか?」
「ああ。時間も無いから、聞くなら1つだけな」
この図ったかのようなタイミングでの質問許可ですか……もしかするとですが、私の状況判断能力も試しているのでしょうか? ……教えてくれるとは思えませんが、聞くだけ聞いてみましょうか。
「トーニャさんの半妖能力の詳細を教えてもらう事は出来ますか? それが無理なら、せめてトーニャさんが何の妖怪の半妖かを教えて頂けると有難いです」
「おー……これはまた、えらく直球で聞いてきたな。まぁ、対戦相手の切り札が気になるのは当たり前か。1回だけ使えるなんて言われたら猶更だな」
「はいです。それで、教えてもらえますか?」
そう聞くと、虎太郎さんはトーニャさんをチラリと横目で見てから、軽く頷きました。
「流石に能力の詳細は駄目だが、種族名くらいは良いだろ。トーニャは人間と【キキーモラ】の半妖だ」
「……キキーモラですか?」
「ああ。と、どんな妖怪かなんて聞くなよ? 質問は1個だけだって言ったからな」
「むぅ」
流石にそこまでは譲歩してくれませんね。それにしても、キキーモラですか……。前世でやったらしいパズルゲームに、同名のキャラがいましたが。あのゲームに出てくる他のキャラはちゃんとそれに因んだ外見や能力でしたし、キキーモラも例外では無いと思うです。
そのゲームではキキーモラは掃除が大好きな妖精……妖精でしたっけ? まぁ、掃除好きというのは変わらないです。恐らく、知らないうちに物の修繕をしてくれるブラウニーという妖精と似たような種族だと思うのですが……掃除に因んだ能力? 愛衣さんのアーティファクトのように、武装解除のような能力でしょうか? うーん、情報が足りませんね。戦闘向きの能力では無いと判断するのは早計だと思うのですが。
「……もう良いですか? さっさと終わらせたいので」
「うっ……」
待ちくたびれたのか、トーニャさんが声を掛けてきました。な、何か凄い冷ややかな視線を感じるのは気のせいでしょうか?
「ああ、スマンなトーニャ。悪いが、相手をしてやってくれ」
「いえ。その子もすずさんに巻き込まれただけなので、気にしなくていいです」
「その子って、如月と言いお前等――――ああ、そういや名前を教えてなかったな。こいつは師匠の知り合いの弟子で、長期休みの間だけ修行に来る事になっている綾瀬 夕映だ。時間があれば、面倒をみてやってくれ」
「分かりました。前向きに検討してみます」
「……絶対やる気無いだろうお前」
「失礼な。虎太郎先生と違って、私は約束は破りませんから」
「で、検討したけど止めとくってベタなオチだろ?」
「……まっさかー」
……さっきの視線には驚きましたけど、トーニャさんは中々に愉快な方みたいです。
「分かりやすいなオイ。まぁ良い。戦えば興味が沸くかもしれんし、さっさと始めるか。夕映の方も準備は良いかー?」
「……ええ。いつでも良いです」
「よっし。それじゃあ――――――――始めッ!!」
開始の合図と同時に、一瞬で鴉さん達のところへ移動する虎太郎さん。残像しか見えませんでしたが、今の動きが見えない内はフェイトさんの相手なんかは夢物語なんでしょうか。
――――さて、と。
幸い、トーニャさんからは攻撃してこないというハンデがありますが。下手な攻撃をすれば一発で組み伏せられてしまうでしょう。
となると、選べる手段はかなり限られますが……私が取るべき選択肢は、撹乱しながらの死角からの攻撃!
「……トーニャさん」
「何ですか? 夕映さん」
「――――――行くです!」
「――――――ええ。いつでもどうぞ」
そう言うと、見惚れるような微笑を浮かべるトーニャさん。
相手は遙か格上の相手。易々と負ける気はありませんが、胸を借りるつもりで思いっきりやるです!
フォンッ!
(――――っ! 良し!)
右足に魔力を込めての瞬動で、一気にトーニャさんの背後へと回り込む!
この1ヶ月の修行で、瞬動は完璧とまでは言いませんが、失敗する事は無くなりました。ネギ先生の真似事ですが、相手の不意をつくには最善の一手の筈!
「……年齢の割には良い動きですね」
「……くっ!」
……回り込んだ筈が、回り込んだ時には既に正面に対峙されていました。完全には不意を取れないとは予想してましたが、まさかここまであっさり動きを見切られるなんて!
「すぐに攻撃してこないのは良い判断です」
「まだですっ!」
驚いている場合じゃない!
一度でダメなら、二度でも三度でも――――っ!
「――――失敗した手に固執するのは、悪手ですよ」
ガッ
「ひゃあ!?」
足を払われた!? まだ足に魔力を込めただけなのに、何をするか見切られたのですか!?
「目を見れば、何をするかくらい分かります。特に夕映さんみたいな、単純そうな人は」
「むぐっ……!」
予測された事に驚き、トーニャさんを見ると、ニヤリという擬音が似合いそうな笑みを浮かべて馬鹿にされました……! これは挑発ですか? 挑発ですね?
良いでしょう。見え見えの挑発ですが、相手の予想以上の攻撃をすれば良いだけの話です!
瞬動で今度は後ろに下がる私を、怪訝そうに眺めるトーニャさん。
「フォア・ゾ・クラティカ・ソクラティカ! 水の精霊13柱! 集い来たりて敵を射て! 魔法の射手! 連弾・13矢――――」
「魔法の射手? 範囲魔法は禁止されて――――」
呆れたような声で言われましたが、それくらいは把握しています!
「収束ッ!!」
「な!?」
魔法の射手を収束し、身体全体に纏った事に、驚きの声をあげる。
ネギ先生のように無詠唱での収束はまだ出来ませんが、模擬戦ではこれで充分! 水の属性なら、身体への負担も殆どありません!
この状態なら、迂闊に素手で触れる事も出来ない筈。気を纏われたら話は別ですが、驚きで動きが止まっている今ならっ!
「瞬動ッ!!」
「くっ……」
トーニャさんの一瞬の隙を突いての突撃!
些か恰好は悪いですが、これを受け止める事は出来ません! 左右に逃げるなら、瞬動で後を追うだけ。これで決まり――――。
「――――なんちゃって」
「――――へ?」
焦ったような表情から一転、悪巧みが成功したかのような表情に。
ひょっとして、私は何か見落として……。
ぐんっ!
「ひゃぁぁぁあっ!?」
「――――フィッシュ」
な、なななんですか!? 急に何かに右足を引っ張られて……あぁぁぁぁぁぁ!!
何をされたのかも分からないうちに宙へと逆さに釣り上げられた私の元へ、澄まし顔で近づいてくるトーニャさん。
「敢闘賞、くらいね」
「い、一体何が……」
「私の半妖能力よ。ほら」
そう言って後ろを振り向くと、捲れ上がった制服の隙間から見えるのは、長く伸びる直径1cm程度の丈夫そうな1本の紐――――紐?
「え……その紐がキキーモラの能力……なんですか?」
「ええ。夕映さんが何を想像してたのかは知らないけど、これが私の能力」
「そんなぁ……」
まさか、お掃除妖精の能力が紐だなんて誰が予想できるんですか!
「さて、取り敢えず」
「え、ちょ、ちょっと何を」
私の額に手を当てると、徐に中指を引っ張り……これってまさか。
「ストップ! ストップですー! 私を動けなくしたらトーニャさんの勝ちなんですから、トドメを刺す必要は無い筈です!」
「夕映はすずさんの代理でしょう? だったら、私の怒りもすずさんの代わりに受けないと」
「理不尽ですーっ! というか、さっきから口調が変わってないですか!?」
「私、年下と親友と家族には敬語を使わないの」
「あ、そうなんですか……って、そう! 年下! 子供ですよ私! 子供には優しくすべきだと進言するです!」
「戦いの場に立つ以上、年齢は関係ないわ」
「さっき年下には敬語を使わないって言いいました!」
「それはそれ。これはこれ。日本語って素敵よね?」
「使い時を激しく間違ってます!」
「まぁ、本音を言うとその広い額に心を奪われただけなのだけれど」
「ぶっちゃけられたですっ!?」
ドS! 薄々思っていましたが、この人生粋のドSです!
「し、審判! 審判はどこですか! もう決着は着いた筈です! 早急にトーニャさんを止めて、私を下して下さい!」
「あー……無理だ。諦めろ」
「即行で見捨てられた!?」
「では、審判の許可も得たところでいきますよー。はい、ごーお、よーん、さーん……」
「カウントダウン!? 待って、待ってください! 私達にはまだ歩み寄れる筈で」
「にいいちぜろ。はい、ばーん」
「はや……って、ギャ――――――――ッッ!!」
バッッッチ―――――――ンッッ!!
――――こうして、私の初模擬戦は黒星で終わったです……向こうで笑い転げてる小太郎さんは、絶対に許しません。絶対に!
ちょっとあっさりでしたが、模擬戦な上にトーニャは格上なのでこんな感じに。夕映の始動キーは少し悩みましたが、結局原作通りに。オリジナルにしようかとも思ったけど、厨二チックなのしか思いつかなかったので。
キキーモラの能力説明もしようかと思いましたが、長くなるのでここで切りました。半妖の里編は、次回で終わる予定です。果たして小太郎とトーニャの扱いはどうなるか。
前書きにも書きましたが、活動報告でトーニャの扱いについて再アンケートを取ります。今回は4つ程案を出すので、宜しくお願いします。
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第9話 帰省早々大ピンチ
ちなみにこれの投稿前に電子の妖精の方も投稿してるので、そちらも読んでくれてる方はどうぞ。これからは2週間以内に3作品のどれか1つは更新します。
「はぁ……」
どうも。綾瀬夕映です。いきなり溜息というのはどうかとも思いますが、出てしまうものは仕方ないです。というか、以前も似たような事をした覚えがあるです。
あのトーニャさん監修による地獄の日々が終わり、ようやく麻帆良に帰ってきたのですが、あの日々を思い出すとどうにも溜息が止まらないです。ええ。トーニャさんは期待を裏切らない程にドSでした……!
何なのですかあれは! 森の中でキキーモラにゆっくり襲わせるから察知しろとか、無理ゲーにも程があります! ゆっくりと聞いた時は手加減してくれるのかもと思ったですが、むしろ難易度が跳ね上がっていました。音も立てずに蛇のように滲み寄ってくる紐を、どうやって察知しろと! たまに態とキキーモラの先端で音を立てるのが、猶更タチが悪いです! しかも察知に失敗して捕まる度に、私の額にで、で、デコピンを………ッ! おかげであちらにいる間中、額がずっと赤かったのですよ!? そのせいで虎太郎さんと格闘術の訓練をする度に笑われて、食事の度に小太郎さんに笑われて、時々冷やかしがてら見に来るすずさんに爆笑されて……ッ! 絶ッッッ対にあの狐狸コンビには、いつか目に物を見せてやるです! ……何年先になるか分かりませんが。原作が始まるまでにはトーニャさんに一撃くらいは入れれるでしょうか?
まぁ、あの特訓と言う名の嫌がらせのせいで、気配察知や探知のレベルが格段に上がった事は確かですが。今の私なら、長瀬さんが本気で隠密をしていても察知できる自信があるです! ……理由が理由だけに、あまり嬉しくないですね。
格闘術のレベルも、かなり上がりました。今なら魔力での身体強化無しでも、麻帆良武闘会の豪徳寺さん達レベルなら、普通に勝てるくらいにはなっていると思うです。残念ながら【八咫雷天流】の技は人間には難しいという事で教えて貰えませんでしたが、代わりに【九鬼流】という、虎太郎さんが昔戦った鬼のように強い人間の流派を、少しだけ教えて貰えたです。
何で別流派の技を知ってるのかと疑問に思いましたが、虎太郎さんの弟子の一人に九鬼流の使い手がいるそうで。機会があれば、その方にもあってみたいですね。
あ、そう言えば小太郎さんは少しだけ八咫雷天流を師事出来たらしいです。良いですねー狗族の身体能力。ネギ先生のように人外になりたいとは思わないですが、あの身体能力は純粋に羨ましいです。それにしても……。
「面倒くさい事になってしまったです」
「何が面倒なんや? 夕映ねーちゃん」
「……貴方の事ですよ。小太郎さん」
ええ。溜息の理由はトーニャさんのせいだけでは無かったのです。この何故か私に着いてきた、小太郎さんのせいもあるです。むしろ、こちらの方が比率が多いですね。
「へ? 何で俺が面倒くさいんや」
「私にも色々あるのですよ。小太郎さん」
「あ、また小太郎ゆーとるし。虎太郎のおっちゃんと判りにくいから、適当な呼び方に変えてくれゆーとるやん!」
「適当な略称ですか……」
うーん。普通に考えたら“コタ”なのでしょうが、那波さんや村上さんと同じ呼び方というのも何だか面白くないです。と、なると……後ろ半分を取って“ロウ”? ……無いですね。どこのジャンク屋ですか。似合わないにも程があるです。だったら……。
「“タロ”と“コウ”のどっちが良いですか?」
「……ねーちゃん、名前のセンスあらへんなぁ」
「自覚はあるです」
どうにも私は、周りと比べて随分センスが変わってるようです。味覚に限らず、こういう名前付けや美的センスも。御爺様の影響でしょうか?
「で、どっちにしますか?」
「う~ん……その2つなら、まだ“コウ”の方がええわ」
「はい。それじゃあこれから宜しくお願いするです。コウ」
「おう!」
私に愛称を付けられた小太郎――――コウは、嬉しそうに笑いました。今まで愛称なんて付けられた事が無いからでしょうか。原作でも那波さんに可愛がられている時は、なんやかんや言いながらも嬉しそうでしたし。原作より4年も前だと、大分素直ですね。
「ところでコウ」
「ん? なんや?」
「改めて聞きますが……私に着いてきて良かったのですか? 強くなりたいのなら、虎太郎さんや鴉さんのところに居た方が近道だったと思うのですが」
そう。何故か分かりませんが、私が麻帆良へ帰る時、コウも付いてきたのです。理由を訊いても何でもえーやんとはぐらかされるばかりで。押しに負けてしまいましたし、もう麻帆良に来てしまったので追い返すつもりも無いですが、やはり理由は気になるです。
「あー……んー……あー、俺が夕映ねーちゃんにくっついてきた理由なぁ……言うても怒らへん?」
「……怒られるような理由なのですか?」
私に着いてくる理由に、私を怒らせるようなものがあるとは思えませんが。鴉さん達に後ろめたい事をして逃げてきた、とかでしょうか? 屋敷の壺や掛け軸をダメにしてしまったとか。
「怒らないので、言ってみて下さい」
「ほ、ほんまやな? 絶対に怒らへんな?」
「ええ、本当です」
「…………あんな、夕映ねーちゃんが心配やってん」
「……は?」
私を心配して着いてきた? コウの好感度を上げるような事をした覚えは無いですが。
「やって夕映ねーちゃん。トーニャの姉ちゃんや虎太郎のおっちゃんにいっつもボコボコにされとんやもん。最後の方は大分強うなっとったけど……」
「うっ……痛いところを」
「夕映ねーちゃんが何で強くなろうとしとんか知らんけど、なんやあるんやろ? せやなかったら、ねーちゃんみたいな人間が俺等みたいな妖怪に頼ってまで、あないに頑張る筈あらへんし」
……鋭いです。ハッピーエンドを壊さないという自分本位な理由ですが、私にとっては譲れない理由ですから。そうでなければ、鴉さんの修行なんか初日でボイコットしてるです……出来たかどうかは別として、ですが。
「せやけど、夕映ねーちゃんまだまだ弱いやろ? 魔法使うたらどれくらい強いんか知らんけど、俺よりちょっと強いくらいやと思うし」
「え、私コウより強いですか?」
「俺の見た感じやとな」
おぉ。まさか原作キャラからのお墨付きが貰えるとは……頑張って来たかいがあったです!
しかしコウ。原作と比べて本当に素直ですね。原作なら私が自分より強いだなんて、戦いもせずには認めないでしょうに。
「せやから、俺も一緒に強うなって、俺が夕映ねーちゃんを護ったるんや!」
「ちょっと待つです」
「ん?」
「何でそこで私に着いてくる事になったですか?」
「やって、傍におらな護れへんやん」
「……怒られるかも思ったのは?」
「そら、自分より弱いヤツに弱い言われたら、普通腹立つやん」
「…………」
な、なんですかこの良い子は!!? 可愛すぎです! 健気すぎです!
「ゆ、夕映ねーちゃん? やっぱり怒ったんか?」
「はっ! い、いえ! そんな事は無いです! コウがそこまで私を心配してくれて、嬉しかったです!」
「そか? なら良かったわー」
あ、もう無理です。少し原作の心配とかしてしまいましたが、もう関係ないです。原作何て知った事じゃないです。こんな可愛い子を、あんな面倒くさいツンデレにしてたまるかです! これから4年間、私が責任を持って育て…………あ。
「そう言えばコウ。住むところはどうするつもりだったのですか?」
「ん? 住処くらい、適当に造るで。こんだけ広い街やったら、洞穴くらいどっかにあるやろうし」
「え゛……」
ほ、洞穴に住むつもりだったのですか!? いくら狗族と言っても、野生が過ぎるです! それに麻帆良で狗族が野良生活なんかしてたら、下手をすれば刀子先生とかに退治されて…………え、え、え、えらい事になるですーっ!?
「ダメですコウ。ここで野良生活は危険です。狗族のコウが野良生活なんてしていたら悪い妖怪と間違えられて、ここに住んでいる魔法使い達に襲われてしまうかもしれません」
「そ、そない物騒な街なんか!?」
「ええ。ここは人外に優しくない街です。ですから、コウもここの学園長と話が付くまでは、狗族という事を隠しておいてください」
「わ、分かったわ。せやけど困ったなぁ……どこに住めばええんやろ」
はぁ……ここで何で私に頼るという選択肢が無いのでしょうか。もしかすると、誰かに頼った事が無い……のでしょうか? これは、猶更私が甘やかさなければ!
と、一応私の家以外にも、
「コウ。住むなら私の家か、変態師匠の家がありますけど、どちらが良いですか?」
「はぁっ!? な、なんやその2択! つか、夕映ねーちゃんの師匠って変態なんか!?」
「はい。遺憾ながら変態です。しかも私やコウくらいの幼い少年少女が大好きという、とんでもない変態です。あ、直接的には何もしてこないので実害はありませんから、安心してください」
「安心できるかーっ!! その2つやったら、絶対に夕映ねーちゃんの家がええわ!」
「ですよね。なら、私の家に案内するです」
「へ? あ……もしかして俺、ハメられたんか!?」
「いえいえ、まさか」
ハメただなんて心外な。普通に誘ったら遠慮しそうなので、師匠の変態っぷりをダシにしただけです。嘘は言ってませんし。
というわけで、さっさと私の家に行きましょう。御爺様なら事情をある程度話せば、喜んで住ませてくれるでしょうし。田舎から武者修行の為に麻帆良に来たけど、住む場所を考えてなかったとかで良いでしょう。多分。これも嘘じゃないですし。
「では。コウの言質も取った事ですし、私の家に行くですよ」
「はぁ……言うてもたもんはしゃーないか。せやけど、ホンマにええんか?」
「勿論です。私もコウが一緒に居てくれた方が嬉しいですし」
「そ、そか……! よっしゃ! ほな早う連れてってか!」
そう言うと安心したのか、私の手を引っ張って早く早くと引っ張ってきたです。ふふ、本当に可愛らしいです。これで修行相手にも困らないですし、この調子なら原作まで順調に強く――――。
「――――おい」
「「っ!?」」
な、なんですかこの殺気は!?
コウも感じたみたいですが、とんでもないです!
麻帆良にここまでの殺気を、ましてや私たちのような子供に向けてくる人なんて……!
「聞こえているのだろう? さっさとこちらを向け。餓鬼共」
背後から聞こえてくる、底冷えにのするような声。
本能が逃げろと警鐘を鳴らしていますが、逃げれるわけがありません。
いつの間にか人払いの結界を張られたのか、周囲には誰もいませんし……とにかく、今は言われた通りに振り向くしかありません……!
そして、振り向いた先にいたのは。
「結界が反応したから来てみれば……そこの男の餓鬼は狗族だな。気配からして、半妖か?」
私が原作キャラの中で、最も出会いたくないと思っていた。
「そっちの女の餓鬼が連れ込んだようだが……何者だ貴様? この麻帆良の魔法生徒ではないだろう。貴様の面は見た事がない」
『闇の福音』『真祖の吸血鬼』『人形遣い』
「おい、さっさと吐け。さもなくば――――実力行使だ」
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルその人でした。
……どうしましょう?
ちょっと短めですが、キリが良かったのでここまで。
そりゃカモの侵入にも気付くんだから、小太郎にも気付きます。学園結界の事を完全に忘れていた夕映のミスです。最弱エヴァとは言え、合気鉄扇や操糸術の事を考えると、2人に勝てる相手じゃないです。さて、どうなるやら。
小太郎が妙に夕映に懐いてるのは、初めて優しくしてくれた人だからです。所謂鳥の雛の刷り込みに近いかな。そりゃ辛い目にあってた5歳児が優しさに触れたら、こうもなりますという事で。
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