戦場のヴァルキュリアのSS (鈴木颯手)
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帝国の悪魔とヴァルキュリア
帝国の悪魔とヴァルキュリア


~あらすじ~
帝国の皇子ルートヴィヒは第二次ヨーロッパ大戦に活躍し後に「帝国の悪魔」と呼ばれるようになる。これはそんな彼が行った記録の数々である。


 征暦1935年、ヨーロッパ大陸。

 鉱物資源ラグナイトを巡り東部の専制主義国家・東ヨーロッパ帝国連合、通称「帝国」と西部の共和制国家による連合体大西洋連邦機構、通称「連邦」の間で第二次ヨーロッパ戦争が勃発する。

 国力で勝る筈の連邦は加盟国間の足並みがそろわずに国境部を徐々に侵攻されていた。これに対し、連邦は兵力を集中運用し帝国の中枢を一気に脅かす「ノーザンクロス作戦」を発動。帝国首都シュヴァルツグラードに向けて大攻勢を開始した。

 思わぬ反撃に帝国軍は敗走を続けたが開戦の2年前より着工していた旧国境部の断崖に沿った要塞線「勝利の壁(ジークヴァル・ライン)」にて連邦軍の進軍を止めようと戦力を集中させた。

 連邦軍主力部隊と帝国軍の総力がぶつかり合う一大合戦、後に「ジークヴァル会戦」と呼ばれるようになる戦闘が行われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなジークヴァル・ラインより戦場を眺める一人の男がいた。帝国軍の将校である彼は双眼鏡を用いる事で相対する連邦軍を詳しく眺めていた。

 やがて、双眼鏡を目から離した男は口角を上げた。

 

「いいねぇ。まさに決戦と呼ぶにふさわしい戦力だ」

 

 男は自身が乗る戦車の上に立つと双眼鏡を用いずに再び連邦軍を見る。この地に布陣したばかりの連邦軍は未だ進軍する様子は見られないが近いうちに攻めてくることは予想が出来た。そのうえで、男は遊撃部隊(・・・・)としてどう動くかを考える。

 

「……殿下、危険です」

「……堕ちたら、怪我する」

 

 そんな男に下から声をかける二人組がいた。薄い青色の髪を無造作に伸ばし真っ赤な瞳を男に向ける二人の少女は鏡のように瓜二つの容姿をしていた。銃や野砲が歩兵の主武装となっているこの20世紀において旧時代的な槍と盾を持つ二人は、どこか浮いていた。

 

「二人も見てみろ。もうすぐこの戦力がぶつかり合うんだぞ。ワクワクしないか?」

「敵なら倒します」

「別にワクワクなんてしないよ?」

 

 容姿は瓜二つだが言葉遣いは全く違う少女たちはジッと、男を見ている。彼女達の飼い主(・・・)である男は苦笑気味に戦車から飛び降りると二人を自身の元に抱き寄せる。

 

「まったく、キアラと二コラといいお前たちは魅力的だな」

「で、殿下……」

「……ポッ」

 

 顔を赤らめつつ潤んだ瞳で男を見上げる二人の少女。まるでご褒美をねだる犬のようなしぐさを見せる少女たちに男の笑みは深まっていく。この様に調教(・・)したとは言えそれで嫌になるわけではなく男は会戦までの短い時間の間に一回は出来るな、と考えながら二人を押し倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルートヴィヒは帝国の皇族である。皇帝の実子であるが本人が23と若い事に加えて皇太子と良好な関係を築いている事から当初から後継者としては見られていなかった。

 そんな彼は疎まれている兄であり準皇太子であるマクシミリアンとは違い様々な権力を行使する事が出来た。彼が常に傍に置いている四人の少女(女性)も彼が我儘を通した結果である。

 二コラとキアラと呼ばれる女性二人は協力関係にあるハインリヒ・ベルガー率いるゼクス・オウルの支援を行っている為近くにはいないがそれを除いても残りの少女、ヴァルキュリアの末裔である二人の少女はルートヴィヒの傍を絶対に離れなかった。

 

 後に「帝国の悪魔」と呼ばれるようになるルートヴィヒは第二次ヨーロッパ大戦において大活躍しその名を一気に知らしめることになる。

 




一応説明
ルートヴィヒ
帝国の皇子。皇帝の実子であり皇太子になれるが本人は望んでおらず皇太子に媚びを売り自身の生存を図る。帝国軍に入隊するが皇族と言う事で扱いづらいうえに本人の能力も高く自由気ままに行動しがちであったため異例の速度で出世と部隊を持つ事になった。
敵を殺すことに対して躊躇はないうえに帝国の利益を考えて行動する。


双子の少女(名前未設定)
本作のオリジナルキャラクター。ヴァルキュリアの末裔でありセルベリアやクライマリアと同じ施設出身。二人で力を使う事で初めてヴァルキュリアの力をフルに発揮できる。ヴァルキュリアである事、容姿がルートヴィヒの好みであったことから廃棄されずにルートヴィヒの側近と言う立場になる。ルートヴィヒに調教を受けた事で絶対忠実な人形と化している。

二コラとキアラ
原作ではベルガーに引き取られていたが今作ではルートヴィヒに拾われている。ベルガーとはあまり接点がなかったため原作の調整は大して受けていないが代わりにルートヴィヒによってR方面の調教は受けた。


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帝国の悪魔とヴァルキュリア2・ジークヴァル会戦

"帝国の悪魔とヴァルキュリア"の続きです


 銃声響き渡る戦場にて、ルートヴィヒは愛用する戦車に乗り駆け抜けていた。「勝利の壁(ジークヴァル・ライン)」を突破しようと群がってくる連邦の兵士達を次々と引き殺していくその姿は帝国にとっては心強く、連邦には悪魔の如く写ったであろう。

 

「っ! 右30度、敵戦車!」

「はっ!」

 

 ルートヴィヒは連邦の戦車、通称「ミニット」と呼ばれるそれを見つけると直ぐ様砲主に伝える。ルートヴィヒが計画から建造、試運転に至るまで口を出し、予算を惜しまずに投入して作られたこの戦車「トイフェル」はその(悪魔)に恥じぬ性能を誇っていた。

 軽やかな動きで砲塔が回り、敵戦車に標準がつけられ、放たれた。ルートヴィヒが先に見つけ、戦車の性能などから連邦戦車は逃げる行動すら起こせずに砲弾が直撃し大爆発を起こした。内側から弾けるように爆発した戦車は誰もが乗員は生きてはいないと思わせる様相だった。

 

「なんだ、連邦は弱いな。このままだとこの周囲から連邦はいなくなるぞ」

「殿下、あまり敵を侮らない方がよろしいのではないですか?」

「それもそうだか……、っと」

 

 そんな話をしているとトイフェルの後方に砲弾が直撃した。「勝利の壁(ジークヴァル・ライン)」と平行に走行していた為後方への砲撃が可能だったのだろう。

 ルートヴィヒはすぐに後方を確認する。トイフェルの後を追うように三両の連邦戦車が向かってきていた。それを確認したルートヴィヒは次に戦車の損傷を確認するが小さな凹み以外に損傷は見受けられなかった。ふんだんな予算と帝国中の技術を集約して作られたトイフェルは帝国が新たに開発した主力戦車「ケーファー」の至近距離からの砲撃すら耐え抜く装甲を持っていた。

 たかが三両の連邦戦車に負けるトイフェルではなくルートヴィヒは直ぐに反撃に転じた。

 

「後方三両の連邦戦車を叩く。90度回転!」

「っ! 了解!」

 

 

 ルートヴィヒの指示に従い車体が滑るように回転する。車輪がイカれてしまう様な動きに対してもトイフェルはなんの問題もなく耐えきり正面を向かってくる連邦戦車に向けた。

 

「まずは左の戦車だ! 撃てぇっ!」

 

 トイフェルの砲撃が放たれる。全身を震わせるような重い砲撃は連邦戦車の中央に直撃し、車体を貫通して地面へと落ちる。中の乗員全ての命を砲弾で抉りとった事にルートヴィヒは感じる興奮と高揚感を抑え次の標的を定める。しかし、その前に連邦戦車の砲撃が行われ片方が地面に、片方が正面装甲に当たった。ゴンッ!という鈍い音の後に爆発音が響くがそれでもトイフェルの装甲は健在だった。

 その事にルートヴィヒは笑みを浮かべる。そして、反撃とばかりに砲撃を放ち中央にいた連邦戦車の左のキャタピラーを破壊し尽くして身動きを封じる。「勝利の壁(ジークヴァル・ライン)」近くで動けなくなったその戦車は濃厚な壁からの砲撃で完全に破壊されるだろう。

 

「はっはっはっ! その程度の戦車で倒せるわけがないだろうが!」

 

 ルートヴィヒの叫びと共に最後の一両に砲撃が放たれた。砲塔付近に当たった為中の砲弾が誘爆して一番派手な爆発を起こした。連邦戦車を難なく撃破したルートヴィヒは満足げに笑みを浮かべたがそんな彼に通信主からの報告が入った。

 

「殿下! 勝利の壁(ジークヴァル・ライン)の一部を突破されました! 現在は持ちこたえていますがこのままでは挟み撃ちにされる部隊が出てきます!」

「なんだと!? よし、我らも向かうぞ! 俺の部隊を召集しろ!」

「はっ!」

 

 ルートヴィヒの戦果すら霞むように帝国防衛の要、「勝利の壁(ジークヴァル・ライン)」で行われている「ジークヴァル会戦」は連邦の優勢で進み始めているのだった。

 しかし、そんな状況でもルートヴィヒの動きは帝国に勇気と活力を与え、補給線が延びきり物資が心もとない連邦に少しずつ打撃を与えていくことになる。

 

 そして、

 

「やつらか……。あいつらを殺せ!」

「っ! 帝国の新手だ! E小隊、迎撃開始!」

 

 後に「帝国の悪魔」と呼ばれ、国内外から恐れられるようになるルートヴィヒと、シュヴァルツグラードでの一件から「決断出来なかった男」と呼ばれる事になるE小隊隊長クロード・ウォレスはジークヴァル会戦にて最初の邂逅を果たすことになる。

 




トイフェル
全長8.8m 全幅4.2m
全高3.6m 重量58t
速度50km/h 出力1100hp/2400rpm
武装:カイゼル Z-005 78口径91mm砲
   ウラヌス 9mm戦車機銃
帝国の皇子ルートヴィヒ専用の戦車。最大で五人乗り。本編にもある通りルートヴィヒが潤沢な予算と帝国中の技術を集約した上であれこれ口出しして完成した戦車。この後に完済した帝国主力戦車「ケーファー」に性能で圧倒的に勝っている(なんならその後に登場する決戦戦車より強い)。更にルートヴィヒが優秀な戦車乗りを集めた為乗員の技術面も問題なくしている。連邦戦車の砲撃すら効かない装甲を持っているにも関わらず速度や出力は高い。
最大の弱点と言えるラジエーターにも装甲を加えるなどの改良も施している。
簡単に言うと「主力戦車より強くてヴルガン(4に登場した特殊戦車)より弱い戦車」


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帝国の悪魔とヴァルキュリア3・帝国の悪魔、ガリア公国へ

今回はジークヴァル会戦から遡ってガリア公国での話です。1はアニメ版を参考にしてます


「全く……。何故俺がこんなことを……」

 

 帝国の皇子であるルートヴィヒは礼装に身を包みながらそう愚痴る。しかし、周囲を気にしてかその声は低く、近くにいても聞き取れないほどだった。普段なら嫌なことははっきりと言ってしまう彼だが借りてきた猫のように大人しかった。

 彼がここまで大人しい理由は周囲を見れば明らかだった。帝国の皇子が歩く姿を物珍しげに眺める貴族と思わしき人々。彼が入ろうとしている城の頂上にはガリア公国の国旗が掲げられていた。

 彼が現在いるのは帝国でも連邦でもなくガリア公国だ。そこで行われるコーデリア姫主催の晩餐会に招待されたのだ。しかし、帝国はガリア公国と戦争中であり少し前にはバリアス砂漠にて盛大にやりあっていた。

 それにも関わらず、ルートヴィヒが参加しているわけはガリア公国のボルグ宰相のたっての頼みと言う事で渋々参加することになったのだ。ルートヴィヒは宰相の狙いが分かっていたため憂鬱な気持ちになっていたのである。

 

「何故敵国のご機嫌取りの為に参加しなければいけないんだ。……いっそのこと帰るか」

「それを行った場合、殿下は罰せられるかと」

「……帰るの危険」

 

 城に入っただけで帰ろうとするルートヴィヒを付き添いで来た双子が止める。何処か凛々しさを与えていた軍服ではなく可愛らしいドレスを着た二人を見てルートヴィヒが運用するヴァルキュリアの末裔だとは誰も信じないだろう。

 双子は踵を返そうとするルートヴィヒに抱きつくことで無理矢理前進させる。はた目には両サイドから麗しい双子の少女に抱きつかれながら歩いているという状態であり老人と呼べる年代の人は微笑ましく、年が近いもの達(特に男)は嫉妬の視線を浴びせていた。

 ルートヴィヒは帰ることを諦めたが無理矢理作った笑顔の裏では憂鬱な気持ちを燻らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇ、ウェルキン。あの人たちって……」

「あれは帝国の人かな?」

「性格には帝国の皇子だな。連邦方面で暴れていると聞いたがまさかここで出会うことになるとはな」

 

 そんな三人を遠くから眺める五人組がいた。今回の晩餐会で表彰される事が決まっているガリア公国義勇軍の第一小隊の隊長ファルディオ・ランツァートと第七小隊のウェルキン・ギュンター。その付き添いのラマール・ヴァルト、アリシア・メルキオット、イサラ・ギュンターである。彼らは礼装のルートヴィヒを見て帝国の人かと予想していた。その答えはファルディオが持っていた。

 

「確か連邦の猛攻の前に敗退する帝国軍の中で唯一と言って良いほど勝ち続けているらしい」

「そんなにすごい人なのか?」

「ウェルキン……」

 

 ウェルキンらしい言葉にアリシアは呆れるがファルディオは真剣な表情で続ける。

 

「この前バリアス遺跡で遭遇したマクシミリアンの兄である皇太子に気に入られている人物だ。普通なら警戒される彼の功績も手放しで称賛される程らしい」

「それが一体何の意味があるんだい?」

「マクシミリアンがここに彼がいるって分かったら全軍を用いてランドグリーズごと殺そうとするくらいには仲が悪いって事さ。何事も起こらないといいが……」

「……そうだね」

 

 ファルディオの言葉にウェルキンは呟いてルートヴィヒの方を見た。連邦の大使の挨拶に顔をひきつらせながら乾杯する彼とワインをちょびちょびと飲む顔の似た二人の少女。帝国との戦いが長引けばいずれ戦場で遭遇する可能性もあるだろう。ウェルキン達はそうならないことを祈りつつ表彰を受けるべくコーデリア姫がいる玉座へと歩いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……。漸く終わった……」

「お疲れ様です。殿下」

「おつかれ」

 

 ルートヴィヒはげんなりしたようすでランドグリーズ城を出る。そんな彼を双子は慰める。晩餐会では寄り添ってくる宰相や嫌みをチクチク飛ばしてくる連邦の大使との会話をそつなくこなしていったルートヴィヒはもう二度と参加したくないという気持ちを心に刻み込んだ。

 

「それにしても、マクシミリアンの玩具もいたとはな」

「確かに、私も驚きました」

「……びっくり」

 

 晩餐会の途中で見つけたセルベリアという女性。彼女は双子と同じヴァルキュリアの末裔であるが最も成功した存在だったが研究所からの逃亡中にマクシミリアンに拾われ彼のもとで軍人をしていた。

 

「全く、あいつの顔を見たか? 俺には射殺さんばかりの視線を向けてきたのにお前らには複雑な視線を向けてたぞ」

「……逃げ出した彼女が今更」

「……あいつ、嫌い」

 

 双子が眉を潜めながらそう言った。セルベリアが脱走し、マクシミリアンの元に向かった影響でその後の研究所ではセルベリア並のヴァルキュリアを産み出そうとより苛烈になった。それを受けていた双子は原因となったセルベリアを恨んでいたのだ。

 それでも今のところは味方のため襲ったりすることはなかったが徹底的に避けたり無視したりしていた。セルベリアも自分が去ったあとの事は聞いていた為双子の気持ちも分からなくはないため声をかける事が出来なかった。

 

「まあ、途中でいなくなったから俺としては良かったがな。それよりも、さっさと帰るぞ。そろそろトイフェルの開発が最終段階に入るからな。俺の戦車だ、開発の様子を見ておきたいからな」

「そのときは私も同行します」

「私も」

「勿論だ。二人は俺の大事な玩具だ。絶対に手放さないし壊れても修復してボロボロになるまで使い倒してやるよ」

「はい。私たちも期待に応えられるように頑張ります」

「私も」

 

 双子の言葉にルートヴィヒは口角を上げて笑みを浮かべるとランドグリーズを離れていくのだった。

 




書きはじめて知ったけどコーデリア姫の誘拐未遂が7月でジークヴァル会戦が10月だった。危なくジークヴァル会戦後の話として書くところでした。7月って4だとクロードとラズの夜間哨戒前の時期なんですよね。そしてジークヴァル会戦後辺りで帝国のガリア公国からの撤退。こういう時系列をまとめているサイトが欲しい……


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IF~帝国の悪魔、異世界へ~

 ジークヴァル会戦において敗北した帝国軍は連邦軍にじりじりと国内への侵攻をゆるしてしまった。しかし、そんな帝国に好機が訪れた。例年より早い冬季の到来である。雪に不慣れな連邦軍の不意を突き反攻作戦に出た帝国軍に連邦軍は下り坂を転げ落ちるように戦線を後退していった。それこそジークヴァル会戦の勝利をふいにしてしまう程に。

 そんな帝国にとって最良の状態が続く中帝国の皇子であるルートヴィヒは帝都に帰還していた。ガリア公国への侵攻の失敗を受けて和平を結んだ事によって溢れた帝国軍の再編成の為である。

 

「ルートヴィヒ。私はお前を信頼している。マクシミリアンが使っていた兵士たちを上手く編成して連邦軍との戦争に使ってくれ」

「任せてくれ兄上。とは言え今の連邦軍も崩壊は近いんじゃないか?」

 

 ルートヴィヒは長兄である皇太子と会話をしていた。皇太子は同じ母を持つルートヴィヒを弟として可愛がっていた。加えて本人に皇帝位を望む野心がなく好き勝手に動ければそれでいいと考えている事が伝わってきた為妾の母を持ち野心があるマクシミリアンを嫌う事はあれどルートヴィヒを嫌う事は無かった。

 

「そう言えば父上が言っていたが嫁を持つ気はないのか? 別に女に興味がないわけではないのだろう?」

「嫁か……。別にいらないわけではないし貰えるのなら欲しいとは思う。だが、それで俺の行動が制限されるのは嫌だぞ」

「その辺は父上も分かっている。相手はカミラ嬢だ」

「カミラ? ……成程な」

 

 カミラは帝国貴族の中でも絶大な影響力を持っている公爵家の令嬢である。幼少期より親の思惑が含まれていたがルートヴィヒの傍にいる事が多かった。しかし、その結果ルートヴィヒの性格に似てしまいじゃじゃ馬娘となってしまったためそれを直すために両親が領地でみっちりと教育を行いルートヴィヒから距離を取らせていた。

 尤も、手紙のやり取りや写真を送り合う事はしていた為完全に縁が切れた訳ではなかったがカミラを異性として認識するには出会っていた時期が幼く距離が遠すぎた。

 

「公爵家はカミラとお前の婚姻に対しては反対はしていないしこちらとしても彼らを引き込めるのなら万々歳だ。確か久しぶりに帝都を訪れているそうだ。決断は一度会ってからでも遅くはないと思うぞ」

「そうだな。手紙でやり取りをしていたし写真も最近のがある。久しぶりに会ってみるか」

 

 ルートヴィヒは幼い頃に遊んだ令嬢の姿と写真で野性味あふれる笑顔を見せていた姿を思い出してくすりと笑った。そんな穏やかな時が流れていた時だった。

 

「皇太子殿下! 敵襲です!」

「何? この帝都にか!?」

「はい! 帝都の中心外に突如門が出現しそこから騎兵が出てきました。中にはドラゴンと思わしき空を飛ぶ生き物も確認しています!」

「っ! 兄上を警護しろ! 絶対に守り通せ! それと俺の双子は何処か!」

「ここに」

「何時でも一緒」

 

 すぐに状況を把握したルートヴィヒが指示を出しヴァルキュリアである双子の居場所を聞き出そうとした時部屋に双子が入ってきた。既に状況は知っている様で武装である盾と槍を持っていた。

 

「双子は空の敵を排除しろ。絶対に一匹とて逃がすな! それが終わったら地上の敵だ! いいな?」

「必ずや敵を叩き潰して見せます!」

「了解」

 

 双子に指示を出したルートヴィヒは皇太子の方を見た。皇太子は先ほどよりも険しい表情をしていたが落ち着いた状態でルートヴィヒを見ていた。

 

「兄上。私も戦います。兄上は避難をお願いします」

「ルートヴィヒ死ぬなよ? それと捕虜は必ず取れ。敵がどこからやってきたのか、連邦の兵器なのかを確認する必要がある」

「任せてください。カミラと再会する機会を奪った敵ですが私とて軍人です。その辺の事は分かっているつもりですよ」

 

 ルートヴィヒはそう言うと部屋を出た。その直後に帝国軍の兵士が入ってきて皇太子を護衛しながら帝都の外に避難させ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「愚かなる敵よ! 我がルートヴィヒの前にしねぇ!」

 

 後に「帝都襲撃事件」と呼ばれるようになるこの一連の出来事により市民に大量の死傷者を出した。更には一部の貴族や令嬢、令息が死亡、若しくは行方不明となった。その中にはカミラの名もあった。

 帝国は直ぐにこの事件の解明を始めた。その結果、突如出現した門からやってきた事が分かりその先が全く知らない世界だという事も判明した。

 

「我が偉大なる土地に土足で踏み入った野蛮な奴らを駆逐するのだ」

 

 皇帝はそう宣言し軍隊を向かわせる事を決定した。総大将はルートヴィヒが務める事になり彼が編成する予定だったマクシミリアンが率いていた軍勢を中心に十万近い軍勢が門の先、異世界へと雪崩れ込んだ。

 

「この世界は帝国の植民地とし帝国に矛先を向けた事を子孫にまで後悔させてやる」

 

 ルートヴィヒはそう宣言し異世界への徹底攻撃を決めた。

 しかし、そんなルートヴィヒの思いを阻むようにもう一つの門より別の軍勢が現れた。

 日本の自衛隊と名乗る彼らとの出会いはルートヴィヒを、そして異世界をどう導くのか。それはまだ誰にも分からない。

 



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IF~帝国の悪魔、異世界へ~2

 日本国特地方面派遣部隊指揮官狭間浩一郎は頭を抱えていた。彼の傍には同じように頭を抱えている特地方面派遣部隊幕僚である柳田明もいた。

 特別地域、通称”特地”と名付けられた異世界に(ゲート)を通じて繋がった日本はそこからやってきた帝国の襲撃を受けた。しかし、相手の技術力が低かったため日本はこれを難なく撃退すると門の向こうに逆侵攻を開始した。門付近に展開した帝国軍は自衛隊の火力の前に鎧袖一触され生き残りは這う這うの体で逃げ出した。

 異世界側の門周辺の安全を確保した自衛隊だがそんな彼らに接触する国があった。

 

 東ヨーロッパ帝国連合と名乗った彼らは自衛隊とは別の門からやってきていた。彼らがくぐって来た門は日本と通じる門の北東に位置しておりギリギリ目視出来る距離にあった。彼らも日本と同じように帝国軍の襲撃を受けた事は察する事が出来たが問題は彼らだった。

 

「我々とは違った歴史を歩んだヨーロッパの国か……」

「”帝国”を名乗る彼らが取り敢えず話が出来る相手で助かりましたね」

 

 そう、彼らは日本の様に帝国に賠償を求めてやって来たのではない。この異世界を植民地にするためにやってきていた。実際に、門周辺に基地を作りそこから一歩も出ない日本と違い帝国軍は万単位で門から軍勢を集め北上を開始した。南には自衛隊がいる事と帝国軍が北に逃げた事が進路の理由だろう。

 

「帝国……、同じ国名だし彼らは帝国連合と呼ぶがどんな感じだ?」

「理性ある侵略国家、という言葉が今のところは彼らの印象です」

 

 外交官などいない現状で柳田が自衛隊の代表という形で彼らに会っていた。その時に柳田があった帝国の皇子との会話から少なくとも話せない相手ではないが信用するには危険すぎる相手という印象を抱いていた。

 実際、皇子ルートヴィヒは終始温厚な態度で柳田と接したが自衛隊や日本の事をさりげなく聞き出そうとしており一歩間違えれば情報を全て持っていかれていた可能性があるとその時の事を思い出し柳田は青い顔をした。

 

「ですが彼らの軍を少しだけ見ましたが第二次世界大戦前後の技術力と言った所でしょう。それで片付けるにはあり得ない兵器もありましたが」

「そうか。武力衝突が起きない事が望ましいがいずれにせよこのままでいる事は出来ない」

 

 狭間陸将はそう言い切った。既に帝国連合の話は政府に報告している。今後どういう行動を取るにしても帝国ではなく帝国連合を見て判断する事になるだろう。最悪の場合門を破壊して撤退する道もある。その場合は被害者遺族や各国からのバッシングは避けられないだろうが。

 

「兎に角帝国連合に対しては動向のチェックを怠らないように。彼らがこちらに銃口を向けてきても対応できるようにするんだ」

「了解しました」

「それとこちらも基地の完成次第偵察隊を出して周辺の調査を行おう。北は帝国連合が展開しつつある。南に行くか……」

「帝国連合がいるからと北に派遣しないのも問題でしょう。多少危険ではあると思いますが北にも部隊を派遣するべきです」

「……そうだな。分かった。その編成もすぐに取り掛かろう」

 

 日本国は当初の目的から大きく逸れつつも特地で価値ある物を得て被害を補填しようと動き出すのだった。そんな彼らに連合諸王国軍と呼ばれる国家連合が侵攻してくるのはもう少し後の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「日本……。彼らは脅威と言える」

 

 北上の結果ファルマート大陸と呼ばれる場所に来たと分かった東ヨーロッパ帝国連合は一時軍勢を停止して将校を集めて会議を行っていた。門を中心に大規模な軍事施設と化しつつある前線基地にてルートヴィヒはそう言って同じく異世界から来た日本の事を話し始めた。

 

「彼らも我らと同じようにここの蛮族共に奇襲を受けたらしい。そして反撃をしたが今は門周辺に閉じこもっている」

「殿下、そんな彼らが何故脅威と言えるのでしょうか?」

 

 ルートヴィヒの言葉に一人の将校が疑問を投げかけた。侵攻するわけでもなく門周辺で閉じこもっている奴らのどこが脅威なのか。自衛隊を遠目からしか見たことが無い彼の疑問は至極当然と言えた。そんな彼にルートヴィヒは説明する。

 

「一つ目、軍事力。奴らは我らより洗練された戦車を有している。兵の武装までは分からないが少なくとも我らと同等かそれ以上の可能性が高い」

「それほどですか?」

「ああ、南から攻めて来た蛮族を日本軍が追い払ったのを見て確信した」

 

 数日前に行われた連合諸王国軍と自衛隊の戦い。それを見ていたルートヴィヒは日本国の実力を見せつけられたような気がしていた。

 

「二つ目。距離の近さだ。我らは奴らより北東に位置している。それもギリギリ目視できる距離だ。だが、そんなものは戦争では圧倒的に近い」

 

 両国の主要基地が目視できる距離に位置している。それはその国同士が戦争になった場合あっという間に攻撃を受けるくらいには近かった。加えて日本国は帝国連合より軍事力が高い。攻勢すらまともに出来ずに門を破壊される可能性が高かった。

 

「三つ目、はないがこの二つだけでも我らを脅かす国として見るには充分だろう」

「確かに……。殿下の言葉通りなら我らは目と鼻の先に猛獣が寝ている様な者ですね」

「となるとこちらから仕掛けるか? 幸い奴らに動きはない。こちらから仕掛ければ門を破壊して動きを封じる事が出来るのではないか?」

「いや、それで決着がつけばいいが万が一失敗すれば窮地に陥るのは俺達の方だ。もう少し情報を集めてからでも遅くはないのではないか?」

 

 ルートヴィヒの言葉を受けて将校たちが話し合う。彼らは帝国連合においても精鋭と言える者達であり実戦経験こそ連邦との前線で戦う将校よりは少ないが十分すぎる実力を持っていた。そんな彼らが自らが守る帝都を襲撃されて以降脅威に対して敏感になっていた。それはルートヴィヒも分かっている為少しづつ先制攻撃で固まりつつある彼らを手で制する。瞬間、その部屋は静寂に包まれた。

 

「諸君の懸念は尤もだ。私だって感じていたのだ。帝都を守って来た君たちなら一目瞭然だろう。だが、我らの敵はあくまで帝国を名乗る蛮族共だ。態々敵を増やす必要はない。もし敵となるのなら相手をするがそうでないのならこちらから仕掛ける事はしない」

「ですがもし彼らが我らに攻撃してきた場合は……」

「そうならないように奴らの政府と会談を申し込もうと思っている。奴らとて我らと敵対する気なら今頃門周辺に閉じこもってないでこちらを攻撃しているだろうからな」

 

 ルートヴィヒの言葉に将校たちは一応の納得を見せた。

 数日後、帝国連合より日本国に対して正式な会談が申し込まれた。日本国は内外の思惑を抱えつつ承諾しここに異世界国家との初の会談が実現する事となった。

 



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その他短編
調整された少女


徹夜の勢いで書いた。


 キアラ・ロジーノにとってこの日は永遠に忘れられない日になるだろう。

 何故なら彼女は愛する存在を手にかけたのだから。

 

「あ……、あ……」

 

 キアラはか細い声を出しながら目の前の光景を見る。立っている事さえ出来ない彼女はその場にへたり込む。目の前の光景の衝撃が強すぎたのか彼女を囲むように黄色い水たまりが生成される。

 彼女ともう一人、二コラ・グレフを幼少期に拾いここまで育て上げた存在。ハインリヒ・ベルガーは真っ赤な血の海にその体を沈め物言わぬ亡骸となっている。

 それは不幸な事故だった。キアラはとある任務に失敗し調整を受ける事になっていた。自我が崩壊しつつあるとはいえキアラは恐怖のあまり抵抗をした。本来ならそんな行動はとる筈がないがまだ理性が辛うじて残っていた事と調整に対するトラウマから思わず抵抗をしたのである。

 キアラは力を込めてベルガーを突き飛ばした。予想外の抵抗を受けてベルガーは驚きそのまま机にぶつかる。それだけならベルガーは背中を強打しただけでありキアラがよりきつい調整を受けるだけだったが机にはキアラが使っているボウガンDunkelが装填された状態で置いてあった。机にぶつかった衝撃でボウガンは射出、毒の塗られた矢がベルガーの体を貫通した。そのままベルガーは倒れキアラは衝撃でへたり込んだのである。

 

「そ、そんな……。ベルガー様ぁ……」

 

 自身が起こした抵抗で敬愛する存在を殺してしまった事実にキアラは声にならない悲鳴を上げて泣き出した。それに気づいた二コラが扉を開けて部屋に入って来る。

 

「キアラ?どうか、した……」

「に、二コラ……」

 

 二コラは目の前に広がる光景に驚き目を見開く。一方のキアラは二コラに知られた事で絶望とも取れる表情で固まっている。

 

「これは……、どういう事ですの?」

「わ、私が……。てい、こうなんてし、たせいで……」

「……成程」

 

 二コラはキアラの言葉と部屋の様子から状況を把握すると動き出した。先ずは部屋の中の資料を集めるとベルガーの遺体の傍に置いていく。二コラの行動の理由が分からないキアラは涙を流しながら眺めている。

 やがて紙の束を作った二コラは火をつけるとベルガーの遺体ごと燃やし始めた。

 勢いよく燃えていく様子にキアラは声を上げた。

 

「二コラ!?何を!」

「逃げますわよ」

「え……?」

「ベルガー様が死んだ今私達を支えてくれる人はいないですわ。そうなれば私達は帝国の技術者を殺した責任を取らされる可能性が高いですわ」

「そうならないうちに、逃げるという訳か?」

「そうですわ。……本来ならキアラを差し出せば私には関係ないですがベルガー様がいない以上ここにいる理由もありませんので、その、キアラを助けてあげようと思っただけですわ……」

「あ、ありがとう。二コラ」

 

 その後二人は荷物をまとめると建物ごと燃やす勢いの火災に紛れてその場を離れていった。二人は帝国にいるのは危険と判断して連邦へと亡命していった。彼女達の素早い行動とベルガーが焼け消えた事で彼女たちを捜索する者は誰一人として現れなかった。

 二人はヨーロッパ大陸を離れ連邦加盟国であるビンランド合衆国に渡る。自身に依存しつつあるキアラを支えながら二コラは様々な仕事をして生計を立てていくことになる。

 5年後、第二次ヨーロッパ大戦がはじまる頃にはとある小さな町に褐色の肌と純白の肌をした二人の美女が有名になった。その二人はまるで恋人のようにふるまうが時には主人に捨てられたくない飼い犬の如きいびつさを周囲に見せつけているが当の本人たちは全く気にしてはいなかった。

 

 




二コラとキアラは戦場のヴァルキュリア4で一番好きなキャラですね。DLCで手に入れてからはずっと使ってる


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