誰かの物語の、主人公 (ひら_)
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プロローグ

「…勝つよ!!」

「――アンタに勝って、アタシだってキラキラしてやる!!!!」


――シニア級になっての有馬記念。出走前。

このレースにはトウカイテイオーを筆頭に、強く、そしてキラキラしているウマ娘ばかりが集まる。

 

そんな中。少し、昔のことを思い出していた。

 

 

……アタシは今まで、自分が一位でありたいという目標から逃げ続けていた。

 

アタシは強くないから。主人公じゃないから。

素晴らしい素質なんてない。光がアタシに当たることはないんだ、と。

 

だって、頑張っても、頑張っても。アタシの目標とするウマ娘には届かないから。

キラキラしたいと思っても、キラキラする才能なんかないから。

 

全てに言い訳を重ねてきた。自分を守る為に。

勝ちたいとは思う。素質自体は全く無いわけではないと思う。でも、一位になれると強くは言えない。いや、言いたくない。

 

一位を目指すと宣言して。努力して。それでもし勝てなかったら?

 

調子に乗った後、上手くいかずにツラくて後悔するのはアタシなんだ。

それならば、最初から期待しすぎない方がちょうど良い。

 

アタシは、一着を目指すことの重みから逃げていたんだ。いつでも。どこでも。

三着はアタシらしい。だから一着なんてアタシらしくない。だからこれでもいいんだ。頑張ってはみるけど一位からは程遠いのだから、それならば逃げた方が気が楽だ。

 

キラキラしているあのステージに上がるのは、アタシにはできない。

 

挑戦し、手を伸ばすことすらせず。

身の程知らずで。欲しがりで。甘ったれで。

自分を守れる安全なところからキラキラしているウマ娘を眺めるだけ。

自分はモブだから。できないから。いいよね、主人公さんたちは。キラキラしたレールを走るだけだから。

主人公は、生まれた時からキラキラしているんだ。キラキラし続けることが最初から決められているんだ。

 

アタシは、そう思い込もうとしていた。

 

 

だけど、トウカイテイオーは違った。

レースに勝つことができなかったとき。けがをしたとき。

それがツライのは、アタシと同じだった。

アタシと同じように、負けたら悔しいし、レースに出ることができずに泣くこともある。

 

でも、それでもなお、自分で立ち直れる強さをテイオーは持っていた。

 

 

――正直、怖い。

「勝つ」と宣言することが。そのプレッシャーと戦うことが。

 

でも。

 

弱音なんか言っていられない。

卑屈になんてなっていられない。

逃げている場合なんかじゃない。

 

 

――勝つ。

アタシは、そう宣言した。

 

トウカイテイオーに勝つ。キラキラウマ娘に勝つ。

 

自分を守るための言い訳を捨てた。

自分を逃すための道は無くした。

 

もし負けてしまったら?

…どうなるかはわからない。

 

でも。アタシは、前を向いて。前だけを向いていくんだ。






(初投稿なんですけど…設定は…これでいいのか…???)


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天皇賞(秋)の後、宣言。

――時間は少しさかのぼり、有馬記念の少し前。

時刻は夕方となり、周りがオレンジに染まってくる頃。天皇賞(秋)直後の商店街。いつものおばちゃんとの雑談。

 

 

「あらあら〜ネイチャちゃんトレーナーさんと二人でデート?熱いわね〜」

「いやいやいやいや、違いますから。レース後に商店街回ってるだけですから!」

「仕方なく…?それにしても仲が良さそうに見えたけどねー?本当にレース後なの?」

「いやだから違うって!普通だから!ふつう!!!っていうかおばちゃんも見たんでしょ!?【天皇賞(秋)】!!アタシも出てたの知ってるでしょうに……」

「冗談だって!ネイチャちゃんお疲れ様!かっこよかったよ!」

「はいはい…ありがとうございます…毎回この下りやるのやめてもらえませんかね…」

「トレーナーさんとそういう風に見られるのは満更でもない、みたいな顔してるのに?」

「ちーーーがーーーいーーーまーーーすーーー!!!!」

 

いつもそう見えてしまうのかアタシは。

少し、感情を顔に出さないようにする練習が必要かもしれない。…ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。

口角が上がらないように指で下す動作をする。実際、少しだけ口角が上がっていた気がした。

 

……いや、別にご機嫌なわけではないですけど。変な誤解されても困るしね?うん。

 

――商店街の人と戯れていると、アタシのもとにあるウマ娘がやってきた。…トウカイテイオーだ。

 

「あれー、ネイチャじゃんっ!担当トレーナーとおでかけ?なっかよしー♪」

「テイオー…!いやいや、全然今レース終わりなんですケド。だからこれは普通、普通だから。」

「そうなの?お疲れ~!ボクはカラオケでライブの練習してきたよー!ネイチャも、今度の有馬記念のライブの練習、ちゃんとやっておかないとだぞー!」

「え……知ってたの?」

「ワガハイは情報収集にも手抜かりナシなのだ!最近のネイチャの調子見るとありそうだな、って思ったんだ!」

 

あのトウカイテイオーが、アタシのことを意識している。

今まで、アタシのはるか先を行っていて相手にもされないと思っていたテイオーが。

 

テイオーはアタシを見て、挑発するような表情でこう続けた。

 

「……あのさネイチャ。教えてよ。

キミは……全部を賭けて、ボクに勝つ気はあるの?」

「――――っ!!」

 

「ボクが自分を超え続けるために。最高の相手がそろう舞台で圧倒的に勝つために。

 ――生半可な覚悟で挑まれちゃ、勝負にならない。」

 

テイオーは本気だ。

アタシとは全く違う。勝ちに貪欲な態度。

 

トウカイテイオーはキリっと眉の頭を下げ、真剣な表情でこちらを見る。

冗談とか悪ふざけとか、そういう話ではなさそうだ。

 

「……それ、は――――」

 

言葉に詰まる。

アタシは、【天皇賞(秋)】で自信が付き始めていたし、それに実際、テイオーに勝ちたいと強く思っている。

 

だけど、ここでテイオーに勝つと宣言すること。

アタシは本気なんだと宣言すること。。

 

それはつまり、

【まだ本気じゃないから】【伸びしろはある】【これがアタシの全部じゃない】

こんな風に言い訳をできなくするということ。

 

そんなもの、宣言できるわけがない。

…今のアタシでは言うことができない。

 

けど、アタシは、昔のままなんかじゃない。弱いままなんかじゃない。

キラキラしたい。そう強く思い始めてる。

 

だから、【アタシは本気じゃない】なんて、

――【テイオーに勝つ気がない】なんて、言いたくない……!!

 

 

ナイスネイチャが言い淀んでいると、見知ったおっちゃんが割り込んできた。

 

「――ネイちゃんが、負けるわけないだろうっ!!」

「…え、は?おっちゃん……ってか、みんな!?」

 

周りに、商店街の人たちがたくさん集まっていた。

テイオーの話を聞きつけ、駆け付けたのだろう。

 

「なに黙ってんだよ、ネイちゃん!この嬢ちゃんはアンタを挑発してるんだぞ!」

「うちらを遣り込める勝気さはどうした!負けないっていってやりなって!」

 

商店街の人たちの言葉が、強く、熱くなる。

 

「ネイちゃん、アンタは強くなった!」

「オレたちが付いてるんだ!何も怖がることなんかねぇ!」

 

――「今のアンタは、誰にも負けやしない!!」

 

それを見たテイオーは、――にやり、と笑っていた。まるで、これを見越していたかのように。

アタシにだけじゃない。テイオーは、商店街の人たち全員に挑発したんだ。

商店街の人たちをそそのかし、アタシを応援させるために。

アタシのホントの気持ちを、引き出すために。

 

 

「周りは関係ないよ、ネイチャ。

 

 ――――キミはどう思ってるの?」

 

 

 

もうすでに逃げ道はなかった。

昔みたいに、ゆるくかわしてあいまいにすることなんてできやしない。

 

「う、うう……うう~~!!」

 

キラキラしたいという思いに、手が届きそうな夢に…嘘をつくことなんてできない。

…それなら。それならば。

 

「ぶちかましてやれ、ネイちゃん!!」

 

 

「――あー……!!もうっ!!!」

 

…わかったよ!!言うしかないのであれば!!

言ってやる!!言ってやるとも!!

 

 

「――勝つよ!!

 アンタに勝って、アタシだってキラキラしてやるーー!!!!」

 

 

…そう。アタシは宣言してしまったんだ。

トウカイテイオーに、あのキラキラウマ娘に勝つって。

 






ネイチャ育成シナリオとの整合性を持たせるために、一部セリフを意図的に合わせてます。
…問題あれば教えてください…。


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有馬記念、発走前。

『……チャ。』

 

『……ネイチャ!!』

 

「――…うわぁ!!びっくりしたぁ。どうしたのさトレーナーさん」

『聞きたいのはこっちの方だよ。大丈夫か?そろそろパドックに行かなきゃだろ?』

「……あぁ、そうだったね。ごめんごめん、――精神統一…?してました。」

『ホントか…?』

 

パドックに向かう直前。控室でナイスネイチャがぼーっとしていた。何か、考え事でもしていたのだろうか。

それとも、この大舞台を前にして頭が働いてないのだろうか…?

 

「大丈夫だって!ほら、アタシは強いから!大丈夫大丈夫。

 

 そう、勝つから。アタシは、勝つ。

 

 …テイオーに…勝つ。」

 

ネイチャは、"勝つ"と繰り返していた。

――まるで、自分に言い聞かせるように。

 

『ならいいんだけど…。』

 

 

「……弱音なんて吐いてられない…。」

ナイスネイチャは、とても小さな声で呟いた。

 

『…ん?なんか言ったか?』

 

 

「だから大丈夫だって!…ほーら、そろそろ時間でしょ?行ってきますよーっと。

 アタシ、勝つから、アタシが強くなったのは知ってるでしょ?

 

 だからさ、トレーナーさん。

 ――いつも通り、そこで見ててね。」

 

 

 

――――――――――

 

【有馬記念の発走が近づいてまいりました。各ウマ娘、ゲート前で最後の準備をしています。】

 

「調子よさそうだね。ネイチャ」

テイオーがネイチャに話しかける。

 

「そりゃまぁ、アンタに勝つつもりで準備してきたしね。」

「今になっても、このボクに勝つつもりなんだ。…今なら撤回してもいいよ?前の言葉。」

学園内でのとっつきやすい印象とはまた違う、レースの時にだけ見せるトウカイテイオーの威圧。

いつもはこの圧に気押されていた。でも、今は違う。

 

「なら、遠慮なく……なんて言うと思ってる?今のアタシは前とは違うんだ。なめられたもんだね、アタシも。」

「……強気じゃん。後で負けて泣いても知らないよ?」

テイオーの圧が強くなる。いつものアタシなら、ここで逃げていたと思う。

…でも、今のアタシなら、はっきりといえる。

 

 

「そっちこそ、泣いても知らないよ。……何回だって言ってやる。

 

 ――――アンタに勝つってね!!」

 

 

「……あはははっ!いいよネイチャ、勝負しよう!!ボクはそんなキミと勝負がしたかったんだ!!商店街でキミに挑発したかいがあったよ!!

 

 ――――忘れたなら、何度でも教えてやるさ!無敵のテイオー様の強さをね!」

 

 

 

――――――――――

 

緑の芝の上。

ファンファーレとともに、観客の声が響く。熱く、大きく。唸るように。

対照的に、ゲート内の空気は静かで。だけど、とてもピリピリとしていて。

 

ゲート内。アタシは、勝ちを宣言した重みをずっしりと背負う。

 

こんなに重かったんだ。テイオーは、こんなに重いものをずっと背負ってたんだ。

そして、トレーナーさんもその重みを代わりに背負っていてくれてたんだね。アタシが背負えるようになるまで。

これからは、全部アタシが背負う。アタシが背負って、力にする。

 

 

風が髪を撫でる。

自分の心臓の音が聞こえる。

それに息遣い。風の音も。

 

これは多分、アタシは落ち着いているということなのだろう。

 

 

有馬記念。芝2500m。

アタシが見るべきは、トウカイテイオーでも、他のウマ娘でもない。

 

前を見る。ただ、前だけを。

目をそらしている余裕なんかない。後ろを見ている余裕なんかない。

 

出し切るんだ。アタシの全力を。

 

 

【全ウマ娘、ゲート入り完了しました。】

 

【――…スタートです!!】

ガシャン!とゲートが開き、全ウマ娘が一斉に駆け出す。

 

 

調子は上々。良いスタートもできた。

アタシが目指すべきは、二着でも、三着でもない。

 

アタシは勝つ。一着をとってくる。

…宣言したんだ。

 

――「……あのさネイチャ。教えてよ。

  キミは……全部を賭けて、ボクに勝つ気はあるの?」

 

今のアタシは負けない。逃げたりなんかしない。勝つ。勝ちに行く。

アタシの全部を賭けて。

 

 

――アタシは、誰もいない先頭を走り切る!!!

 

 



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レースの始まり、夢への距離

【各ウマ娘、そろってきれいなスタートを切りました】

 

【期待どおりの結果をだせるか?一番人気、トウカイテイオー!

 先頭は1頭、単身で飛ばしていきます。トウカイテイオーは先頭から4番手の位置です。

 

 ――先頭から団子状態となり、1週目の直線に入っていきます。

 スタンドの大歓声に迎えられながらウマ娘たちが走り抜ける!】

 

 

「ネイちゃーん!!」

「ネイちゃん、行けー!!」

 

ウマ娘が会場の前を走り、会場の歓声が大きくなる。

 

ナイスネイチャは中盤よりやや後方。トレーナーがネイチャを見守る横で、商店街の人たちの熱のこもった歓声が響いていた。

とはいえ、この会場の声がウマ娘に届くことはめったにない。

一人の歓声だけでなく、様々な人の思いと声が会場中で混ざり合っているからだ。

 

 

当のナイスネイチャ本人はというと、とても真剣な表情で走っているように見えた。

第三者から見れば、とても集中している状態と言えるだろう。

 

 

『――――…。』

 

――それは、ナイスネイチャのトレーナーから見ても同じなのだろうか。

 

 

――――――――――――――――

 

【残り1000mを通過。2コーナーまわって向こう正面。

 集団が一つにまとまって、混戦状態です!】

 

アタシの位置は大体中盤あたり。先頭で逃げるウマ娘の脚が遅くなり、先頭を別のウマ娘が奪っていく。

集団が一つにまとまった状態。誰が抜け出してもおかしくないし、後ろで抜け出すことのできないウマ娘もいるだろう。

 

トウカイテイオーとアタシは、仕掛けるタイミングを虎視眈々と狙っていた。

 

レース終盤、4コーナーに差し掛かった時。

そろそろ、ラストスパートをかけるウマ娘が出てくる頃合いだ。

 

【外をついてスーッとトウカイテイオーが上がっていく!】

 

トウカイテイオーが上がっていくのを見ながら、アタシはあわててすぐ後ろに追いつこうとする気持ちをぐっとこらえる

ここで上がっていくのは想定済み。テイオーのいつもの勝ちパターンだ。

この前まではテイオーにつられてスパートをかけてしまって、うまく脚を生かすことができなかったんだ。

 

…つられるな。

…あわてるな。

 

まだ。まだだ。スパートをかけるのは今じゃない。

 

アタシの脚を最大限生かせるのはまだ。

あと少し……

 

前のウマ娘が内にずれ、外に出るルートが見えた。

 

――「今だっ!!!」

 

ラストスパートのためにためていた脚を爆発させる。

今までのアタシとは違う。いつも以上に力が脚にかかる。

 

 

【ナイスネイチャ!!外を回していい脚で上がっていった!!】

 

トウカイテイオーは少し先を行く。

近いようでとても遠い。

でも、アタシには勝てるだけの素質があるんだ。

 

近づくんだ。

追いつくんだ。

 

3着でもアタシらしい。じゃない。

負けてもいい。じゃない

負けないようにする、じゃない。

 

 

3着じゃダメだ。2着でもダメだ。

 

 

勝つんだ。

 

…そう、勝つ。

何回でも繰り返す。

 

全部を賭けたんだ。

宣言したんだ。

 

 

勝つ!!!アタシは、勝つ!!!!

 

 

――アタシは!!テイオーの先に行く!!!

 

 

 

――――――――――――――――

 

ドクン、ドクンと、アタシ自身の心音が響く。

はぁ、はぁ、と、自分の息遣いが聞こえる。

 

脚に力はかかっている。

全力を出している。

 

 

…だけど。

 

 

【ナイスネイチャ。スパートをかけたようですが伸びが足りない!トウカイテイオーとの距離は2・3バ身!!】

 

 

 

――――届かない。

 

――――距離の差は、縮まらない。

 

 

…なんで?

 

アタシは最高の状態なのに。全力を出しているつもりなのに。勝つつもりなのに。全部賭けているのに。

テイオーの先には行けないし、追いつくことすらできない。

 

これは努力の差?

いや、違う。アタシは努力してきた。テイオーに勝つつもりで。先を行くつもりで。

 

これが努力の差でないのなら。

…アタシに、残酷なまでの現実が突きつけられる。

 

 

――――これが、才能の差なのかな。

 

 

 



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後悔と、気付き。

 

――正直、嫌な予感はしていた。

 

 

彼女は、ナイスネイチャは。

……いつも以上に、気負いすぎていた。

 

一着をとると決めて勝ってきた【中日新聞杯】。その時は多少のプレッシャーでもそれを自身の力に変えることができていた。

だが、この大舞台。キラキラしたいと覚悟を決めて挑む【有馬記念】では、彼女は今までにないくらいのプレッシャーがかかっていた。

今までのレースで階段を一つ一つ確実に上がることで自信をつけた彼女だったが、最後の大一番でかかる重圧に耐えることで精一杯だったのだろう。

 

ナイスネイチャはそのプレッシャーに耐えることでいっぱいいっぱいで、勝つという意識に気を取られて。

 

自分を信じている人たちのことを、忘れてしまっていた様だった。

自分の実力すら、把握できなくなってしまっていた。

 

 

力みすぎている。

気負いすぎている。

焦りすぎている。

 

――…本人はそのことに気が付いていない。

 

彼女は冷静なつもりなのだろう。勝つつもりなのだろう。

だけど、トレーナーの自分から見て、それは万全とは程遠かった。

 

このままだと。

 

 

――…ネイチャは、負ける。

 

 

――何が駄目だった?

レースの前にもっと、ちゃんと話をしていればよかったか?

レースの前に俺が緊張していたからか?気が付いてもフォローができてなかったからか?

もっと話を聞いていればよかったか?

 

――――何をしていたらよかった?

 

――――俺は、ナイスネイチャに何ができた???

負けてしまったら、ネイチャはどうなる???

 

頭に考えが巡りまわる。

 

 

後悔、後悔。

 

…後悔ばかりが。

 

 

でも。もう。

 

 

 

――――――――…もう遅い。

 

 

 

――「そこで見ててね。」

 

 

そう、もうすでに。レースが始まってしまった時点ですでに。

 

――トレーナーである自分にできることは、見ることだけなのだから。

 

 

 

 

「――――――なにやってんだよ!!!トレーナーさんよぉ!!!」

 

商店街の、ナイスネイチャの地元にいた人が怒鳴り散らしながらトレーナーに詰め寄った。

はたから見ても、トレーナーはとても精神が不安定な状態だった。

 

 

「ネイちゃんが頑張ってるのにアンタがそんな状態でどうするんだよ!!

 俺たちはな!!昔っからネイちゃんを見てきてるんだよ!!!応援してきてるんだよ!!!

 

 ネイちゃんがどんな状態であっても、だ!!!

 アンタもそうだろ!?応援してきてたんだろ???

 

 ネイちゃん言ってたぞ!!アンタが応援してくれるから、どんな時でも支えてれるから、ネイちゃんも負けずに頑張っていられたんだ、って!!!

 

 お前が、ネイちゃんの走る姿を一番近くで見てきたお前がそんなんでどうすんだ!!

 

 俺はなぁ、昔っからずっと、どんな時だって応援してきてるんだよ!!

 それが、力足らずで終わった去年の【有馬記念】だったとしてもだ!!!」

 

 

…去年。

 

……有馬記念。

 

 

――――――去年の有馬記念……??

 

 

――そうだ。

 

去年のネイチャは、レース後になんて言っていた?

…どうしたいと言っていた?

 

去年のネイチャが言っていたことが本当だとしたら。

去年のネイチャが体験したことが今回も同様に起こるのだとしたら――――??

 

…これに賭けるしかない。

これで、ネイチャを助けるしかない……!!

 

 

――『不甲斐ないところを見せてしまってすみません。

 あと、――――ありがとうございます。』

 

 

 

『協力してくれませんか?

 

 ――これに、俺の全部を賭けます。』

 

 

――――――――――――――――――――

 

レース終盤。

ナイスネイチャ、スパートをかけるもトウカイテイオーとの距離は縮まらず。

 

――「いやー。アタシはキラキラできないからさ。主人公にはなれない。素晴らしい素質なんてないから。」

 

昔、アタシがよく言った言葉だ。

才能の差を見せつけられるのが怖くて。負けた時の言い訳が欲しくて。

 

アタシは弱い。

勝てないから。

 

 

本気を出しても。

頑張っても。

 

あのトウカイテイオーには届かない。追いつけもしない。

キラキラウマ娘には、なれない。

 

 

――結局、アタシはここまでのウマ娘だったのかな

そうだ。【素晴らしい素質】なんて名前が仰々しすぎるんだ。

アタシは、モブ。

 

結局は、【いいとこ止まり】。頑張っても負けてしまうだけのただの――――

 

 

 

――――その刹那。

 

 

ナイスネイチャの名前を呼ぶ声が、彼女の耳に届いた。

 

 

叫ぶような。つらいような。悲しいような。だけど、必死に届けるような。

…そんな声で。

 

 

「――――…っ!!!」

 

 

この騒がしい会場で。

周りの足音が響き渡るレース中にはっきりと。

とても聞き覚えのある声がアタシの耳に突き刺さった。

 

 

『――あきらめんな!!ネイチャの走りは、まだそんなものじゃない!!大丈夫だ!!

 

 ネイチャは、……君は!!負けない!!!』

 

 

「――…トレーナーさん…?」

 

…それは、間違いなくトレーナーさんの声だった。

その声は、こう続いた。

 

『ネイチャには信じてくれる人が大勢いることを思い出せ!!忘れているのなら――

 

 ――――…この声援を聴け!!!!』

 

 

その時。

アタシの耳に聞き覚えのあるいろんな人の声が届いた。

ありえない、ってみんなは言うかもしれない。だけど。

 

商店街の人たちの声が。

アタシを応援してくれる人たちの声が。

 

……アタシの耳に届いたんだ。

 

 

「負けないで」って。

「この大舞台で勝つのを見たいんだ」って。

 

 

――――「ネイちゃん、頑張れ」って……!!

 

 

 

…そうだ、アタシには――――!!!

 

 

 



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忘れ物

 

――アタシがトウカイテイオーに【勝つ】と宣言した時。

アタシは不安で不安でしょうがなかった、

 

アタシは、まだキラキラしていないから。

 

【なんであんなこと言ったんだ】と。

【モブが調子に乗りすぎだ】と。

 

走りたくなかった。

――怖かった。

 

もし負けたら。

今までのアタシが、全部否定されると思った。

 

 

――でも。

トレーナーさんは、逃げたがりのアタシをずっと信じてくれた。

レースに負けたとき、アタシがレースに勝っても卑屈になっていたときでも。

「ネイチャは負けない。」「ネイチャを応援してる。」

逃げるあたしを引きとどめるかのように、卑屈になるあたしを引っ張り上げるかのように。

どんな時も「ネイチャは勝てる」とアタシに言うこと。トレーナーとして、その発言に対する責任の重みは知っていたはずなのに。

 

どんな時も、常にアタシを好きでいてくれた。

…これはその、そういう意味ではないと思うけど。

 

トレーナーさんには、アタシを好きでいてくれる、信じていてくれる根拠がたくさんあった。

――ヘロヘロのトロフィー。紙でできた手作りのトロフィー。

 

途中でアタシを見限ることなく、トレーナーさんが作り続けたその試作品たち。

【小倉記念】【菊花賞】【有馬記念】【天皇賞(秋)】。他にもたくさん。

 

 

アタシが頑張った証拠に。

アタシが負けなかった証拠に。

アタシは強いという証拠に。

 

それは、いくつのもの失敗で積み上げられたものだった。

 

ヘロヘロで、見た目も良くなくて。

上手くいかなくて。

それでも、作り続けた。

それでも、戦い続けた。

 

信じていたから。

アタシを、信じ続けてくれたから。

 

成功も失敗も、全部ここに積み上げられていた。

 

トレーナーさんは信じてくれている。

商店街の人たちは応援してくれている。

ほかにも、いろんな人が応援してくれている。

 

……アタシなんかのために。

 

ここに私が頑張る理由がある。負けたくないと思える理由がある。

信じてくれる人があたしにはいるから。信じてくれる人たちが大勢あたしにはいるから。

 

マックイーンだって、ライアン先輩だって、常に前を向き続けていた。

 

アタシもちゃんと、前を向くんだ。

でも、アタシ一人だけで前を向くんじゃない。

一人だけで戦うわけじゃない。

 

――トレーナーさんと一緒に。応援してくれる大勢のみんなと一緒に。

 

どんな時でも。どんな結果になっても、みんながアタシを支えてくれる。

みんなが、アタシの力になる。アタシが、みんなの力になる。

…アタシは、キラキラしていいんだ。

 

弱音は吐いてもいい。

トレーナーさんになら、情けないところを見せてもいい。

 

――でも、弱音ばかりじゃだめだ。

 

 

…去年。アタシがクラシック級だった時の【有馬記念】。

惜しいところまで行ったけど、負けてしまったあのレース。

 

あのレースで、気が付いたんだ。

 

……聞こえたんだ。

アタシを応援してくれる、みんなの声が。

 

もしアタシが体験談として聞いたら、ウソみたいって思う。

でも、本当だったんだ。

いつもは自分の心臓の音とか、息遣い、それに風の音しか聞こえないのに。

その時は、……はっきりと声がしたんだ。

 

「ネイちゃん、頑張れ」って。

 

背中を押されているみたいで、すっごく楽しく走れた。

でも、その声援に応えることはできなかったんだ。

 

――だから、声が届くこのレースで、ちゃんと勝ちたいと思ったんだ。

 

次は応援に応えたいと思った。

……リベンジしたいと思った。

 

 

――アタシは、忘れていたんだ。

みんなの声援を。

去年の後悔を。

そして、楽しさを。

 

――だから勝ちたい。

自分のためだけじゃない。

応援してくれるみんなのために。

 

アタシは、去年の時とは違う。

力と、そして自信をつけてきたんだ。

 

 

今、アタシがいるのは3番手。ここはアタシの定位置だ。

でも、アタシだってキラキラしたい。声援に応えたい。

 

それなら、この場所にいてはだめだ。

アタシだって。

 

――きっと…その先へ行ける。

 

アタシは、キラキラするんだ。

主人公になるんだ。

 

眺めているだけじゃ。覗いているだけじゃ。

見ているだけじゃ、ダメなんだ。

 

テイオーは言っていた。

――「忘れたなら、何度でも教えてやるさ!無敵のテイオー様の強さをね!」と。

 

……そんなの。もう十分、嫌ってほど知ってますわ。

 

けど。

アタシだって……【素晴らしい素質】、持ってるんだ。

 

 

みんなが、トレーナーさんが……

 

アタシが!!それを知ってる!!

だから負けない!!!!

 

あたしだって、キラキラするんだ!!!

応援してくれるみんなを、嘘つきになんかしないっ!!!!

 

 

「―――――――――【有馬記念】の主人公は!!アタシだっ!!!!!」

 

 

【ナイスネイチャ!!直線に差し掛かって追い上げてきた!!ゴールまでに先頭に追い付くことができるか!?】

 

 

 

…先頭ははるか遠く。

 

だけど。それでも。

 

 

届く。

届かせる。

 

追いついて見せる。

 

 

――みんなが、

 

トレーナーさんが、アタシを後押ししてくれるから!!!!

 

 

 

――――――――――――――――

 

――ボクが目標とするのは、圧倒的な勝利。

…それは、強いウマ娘と戦ってこそ意味がある。

 

強いウマ娘と戦って。強いウマ娘に勝つ。

そして、ボクは今よりもっと強くなる。

 

この有馬記念、簡単に勝てるとは思っていない。

だけど、最後の直線に差し掛かるところで先頭で走り抜けている段階では、もう勝利をほぼ確信していた。

 

でも、手を抜くつもりはない。

なぜなら昔、こう言われたことがあるからだ。

「自分が優勢と見るや慢心し、注意力が散漫になるのは悪癖だな」――と。

 

だから手は抜かない。

圧倒的に勝つ。

 

これまでのレースで、あるウマ娘が急速に力をつけているのは知っていた。

今までは勝ちきれなかったウマ娘が、自信をつけてきているのを知っていた。

 

そんなウマ娘を意識しないなんてことは無い。

 

ボクはレースで負けるつもりなんかない。勝つのは常にボクだ。

だけど、それはただの自惚れなんかじゃない。

誰よりも勝ちたいと思い、努力し、調べ尽くした。だから勝てるんだ。

 

 

 

強いウマ娘に、勝つんだ。

強くなったウマ娘に、勝つんだ。

 

 

ボクがもっと強くなるために。

 

 

 

……だから。

 

 

 

 

――――ボクの期待に、応えて見せてよ。

 

 

 

―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――「追いついたよ。テイオー…!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――「そう、こなくっちゃ!!!!」

 

 

【ナイスネイチャ!!トウカイテイオーに並びかける!!!残り200!!!】

 

年末最後の大一番。

レース最後の大接戦。

 

会場全体が熱を帯び、応援に力が入る。

 

 

「ネイちゃん!!ネイちゃん!!!!頑張れ!!勝て!!!」

「ここで勝つのを見せてくれ!!!」

 

「テイオー!!逃げ切れ!!!こらえろ!!」

「負けるな!!」

 

【両者、まったく横並びの状態!!!

 トウカイテイオーか!!ナイスネイチャか!!テイオーか!!!ネイチャか!!帝王の矜持か!!!素質の意地か!!!】

 

勝つのは、誰か。

負けるのは、どちらか。

 

脚に力を込めろ。

最後の力を振り絞れ。

 

 

『ネイチャ!!!

 

 ――――――――――差し切れ!!!!』

 

 

 

――勝つのは。

 

 

「勝つのは!! ボクだ!!!」

「勝つのは!!アタシだ!!!」

 

 

【両者、なだれ込むようにゴールイン!!!!】

 

 

ゴールした瞬間、会場の熱が最高潮になる。

 

ただ、それは直後に、別の意味でのざわめきに変わった。

 

「…どっちだ?これ??」

「…まったくわからん」

「いや、テイオーでしょ」

「いやいや、ネイチャだろ、あれは。」

 

「ネイちゃん…よく頑張った…感動した…」

「アンタ、泣くのは早いよ!もう…。まだ結果がわからないじゃないか」

 

本当の結果は観客席の誰にもわからない。見る位置によって結果が変わる。

それは、ゴールが見えやすいはずの実況席でも同じだった。

 

【一着ですが、まったくわかりません!!肉眼ではとらえきれませんでした!どちらが優勢かどうかも…さっぱりです!!

 

 どうやら、結果については審議のようです…――】

 

…掲示板には、審議のランプがともっていた。

 

 



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その主人公は

ナイスネイチャはゴール後、芝に倒れこんで体を休めていた。

…もう、すぐには体が動かない。

 

「はぁ…はぁ…アタシは…――負けたの??」

「…どうだろうね。まだ結果は出てないみたいだ。でも、ボクが勝ったと思うよ」

「…結構な自信ですね…。さすが、トウカイテイオーだ…。」

「あったりまえじゃん!無敵のテイオー様が負けるわけないからね!!」

 

芝に倒れこんだ状態のまま、テイオーの方に顔を向ける。彼女は、柵にもたれかかっていた。

 

「さっすがテイオー。まだ立つ余裕なんて…――っ!!」

 

トウカイテイオーは立った状態ではあるが、…脚が震えていた。

――もう、彼女も限界だったのだ。

 

「このボクが倒れこむなんてありえないじゃん!このくらい、なんともないよ!!」

「ふふっ…そっか…。そう、だよね…!!」

 

キラキラに並んだ。

キラキラに追いついた。

それは、相手が手を抜いていたわけじゃない。トウカイテイオーは力を限界まで使ってアタシと戦ったんだ…!!

 

…でも、まだ終わりじゃない。

勝つまでは。

 

キラキラの夢を、掴み取るまでは…!!

 

 

――――――――――――――――

 

会場内のどよめきは続く。

どちらが勝ったのか。

どちらが負けたのか。

 

それは、肉眼のみで判断するのは難しい領域。

 

審議には多少の時間を要していた。

 

…だが、いずれ結果はわかる。

 

勝つのは、トウカイテイオーか。

勝つのは、ナイスネイチャか。

 

 

 

 

審議のランプが、消える。

 

会場内のざわめきがぴたっと止まり、静かになる。

 

1着の番号は。2着の番号は。

 

 

――――――――――掲示板に、結果が映し出される…!!!

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静寂の中。

 

 

誰よりも早く。

誰よりも高く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――…ヘロヘロのトロフィーが、空に掲げられた。

 

 

 

 

【勝ったのはナイスネイチャ!!!勝ったのはナイスネイチャだ!!!!

 この大接戦!!夢のグランプリを制したのは、ナイスネイチャだぁーーー!!!!!!】

 

 

再び、会場内がざわめきだす。

 

「ネイちゃん!!ネイちゃんが勝った!!!!」

「やったよアンタ!!!!ネイちゃんが勝ったんだよ!!!」

 

 

「あ……。

 勝っ……たんだ、よね?

 

 アタシが……アタシが、勝った…?」

 

『ネイチャ、よくやった!!!!』

 

「トレーナーさん……。

 なんか全然、実感がわかないんだけど、ホントに、アタシが?」

 

「「ナイスネイチャーーっ!!!

  おめでとうーーーーっ!!!」」

 

会場内が、ナイスネイチャへの称賛の声で埋め尽くされる。

 

「――――っ!!

 え、すご……。こんなにたくさん……。」

 

「ネイちゃーんっ!おめでとうーーっ!!」

 

「そうだ、コレだ、コレなんだっ!!

 俺たちは、この舞台であんたが勝つのを見たかったんだ!!!」

 

 

「商店街のみんなも……見てくれたんだ。

 待ってて、くれたんだ。

 アタシに聞こえた声は、嘘じゃなかった。

 

 ――アタシはそれに……応えられた。」

 

 

 

――――『全部、君が掴み取ったんだ』

 

 

…アタシが望んでつかんだもの。

アタシが、欲しくて仕方がなかったもの。

 

逃げないで。

宣言して。

戦って。

 

 

――アタシ自身で。掴み取ったんだ。

 

 

「……っ。

 うう~~~~っ!トレーナーさぁん……っ!!」

 

今までの思い、今までの記憶が一気にあふれ出てくる。

 

――アタシは、キラキラしたかったんだ。

 

でもトレセン学園に来て、テイオーに会って、打ちのめされた。

その才能に。

その生きざまに。

 

アタシはなんてちっぽけなウマ娘なんだ、と思い知らされた。

諦めかけていた。

 

アタシはモブだから。

【素晴らしい素質】なんてものは持っていないから。

結果がうまくいかなくても逃げられるようにしていた。

 

だけど本気で諦めたわけじゃなかった。

ずっと掴み取りたかったんだ。

 

キラキラしたい。アタシだってレースで勝ちたい。

言い訳できるようにしてはいたけれど、追い続けていた。

 

でも、それでも。

――アタシだけでは届かなかった。テイオーっていうキラキラした娘と比べると、どう頑張ってもアタシはモブのままだった。

 

くじけそうだった。

負けそうだった。

 

でも、みんなに、トレーナーさんに会って。

支えてもらって。引っ張ってもらって。

【ネイチャは負けない】と強く言ってもらって。

 

 

アタシは強くなった。

強く、なれたんだ。

 

 

――テイオーに、あの、トウカイテイオーに、自信を持って勝ったといえるくらいまで……!!!

 

 

「…諦めないで、よかった……!!!

 追い続けて、よかったよ~……っ!!!」

 

以前、トウカイテイオーに宣言した後の不安で出てきた涙とは違う。

喜びからくる大粒の涙。

 

それは、汗とともに、太陽のもとで。

それは、彼女の夢と同様に。

 

 

――キラキラと、輝いていた。

 

 

――――――――――――――――

 

「――もう、なんで泣くのさ!!」

「……っ!テイオー……!」

 

「このボクを負かしてキミがトップなんだぞ?

 大接戦だったとか、差が数センチだったとかは関係ない!キミは、ボクを負かしたんだ…!

 

 ――この、ボクをだぞ……っ!」

 

そう。ナイスネイチャとトウカイテイオーの差は、わずか数センチ。

もう少しテイオーが速ければ。もう少し、ネイチャのスパートが遅ければ…――――!!!

 

ボクとネイチャの差がどうであったとしても、…結果は結果だ。

ボクは…負けたんだ。

 

テイオーは泣きそうになるのを必死で抑える。

 

「う~~~っ……!

 勝者なら、堂々と笑ってなよ!」

 

「っ……うん、うん、そうだ。

 アンタだって、ずっと笑ってた……。」

 

キラキラしたウマ娘は、トウカイテイオーは。どんな時だって笑っている。

――それは、今でも。

 

「ごめん、大丈夫。もう……泣かないっ。」

 

ナイスネイチャは、涙をぬぐう。

泣いてなんていられない。

 

そう、ネイチャは勝ったのだから。

無敵のテイオーに勝ったのだから。

 

「そうだ、泣いてちゃ聞こえないよ。

 

 この――――

 

 

 ――――この、大歓声をさっ!!!!」

 

 

「ネイチャーー!!!!」

「おめでとうーーー!!!!」

「応援しててよかったーーーー!!!!!」

 

 

大歓声がネイチャの耳に届く。

 

「――これが、全部キミのものなのにっ!!!」

 

「わかってる。ちゃんと……聞こえてるよ。」

 

 

ナイスネイチャは、歓声を聞く。

トウカイテイオーに向けられたものじゃない。他のウマ娘に向けられたものじゃない。

 

…ほかの誰でもない、自分に向けられた歓声を。

 

 

――――――――――――――――

 

「……っ。ふぅぅ~……。

 【素晴らしい素質】かぁ……。チェッ!!」

 

正直、すっごく悔しい。

勝てなかった。

【素晴らしい素質】に勝てなかった。

 

圧倒的に勝ちたいと思っていたのに。

勝つための準備はしてきたのに。

 

「……けど。」

 

けど、いや。だからこそ。

ボクはこう思う。ボクはこう言うんだ。

 

「もう2度とボクの前は走らせない。

 ――――次はぜっったい、負けないからっ!!」

 

 

キラキラウマ娘は、笑いながら去っていく。

――もう、前を向いているんだ。

 

 

「――ありがとう、テイオー。

 アンタがいなかったら、アタシ…ここまで走れなかった。」

 

ぽつり、とアタシはつぶやいた。

 

アタシがキラキラするために頑張れたのは。アタシがキラキラできたのは。

…テイオーのおかげだ。

 

背中を、ずっと追わせてくれてありがとう。

ずっと、キラキラしてくれて、ありがとう。

 

――アンタの後ろは、正直走りにくかったけど。

 

アンタがアタシの目標でなければ。

アンタがあの時、商店街で挑発してくれなければ。

 

アタシはずっと、モブのウマ娘だったかもしれない。

 

けど……アタシはずるいから。

アンタが前にいるのを居心地よくも思ってた。

逃げるための言い訳ができるから。テイオーがいるからしょうがないよね。と言えるから。

 

 

――――でも。

これからは、どんな風も、どんな困難も。

ちゃんと正面で受け止めるよ。

 

アタシは、逃げない。

 

主人公として。

 

今回の【有馬記念】だけじゃない。

 

 

 

――――――――アタシの物語の、主人公として!!!!

 

 



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エピローグ

 

――レース後の勝利者インタビュー。

たくさんのフラッシュが、今まで受けたことのないくらいのフラッシュが今、ナイスネイチャに当たっていた。

 

【――今回の有馬記念、手ごわいライバルばかりでしたね。それでも勝てた要因はなんだと思いますか?】

 

アタシに、質問が来る。

今まで逃げていたアタシとは違うから。

 

はっきりと言うんだ。言ってもいいんだ。

 

「そうですね……。

 みんな本当に、強かったと思います。

 

 けど、アタシもちゃんと【強い】ウマ娘なので。

 ちゃんと実力を出し切った結果かなと。」

 

そう。アタシは強いから。

なぜなら。

 

「うん、頑張ったからだって……ハッキリ言えます!」

 

頑張ったんだ。アタシは。

逃げなかったんだ。アタシは。

 

だから。アタシは強くて、キラキラしているウマ娘なんだ。

 

 

【それではナイスネイチャさん、ファンに向けて最後に一言!!】

 

「えっと…、ずっと応援してくれたみなさん。ありがとうございます。

 期待に応えられない時も全然あったのに、アタシだからって理由で、応援してくれたね。

 

 おかげさまで、みんなの応援があったおかげで、なんとかここまで来たよ。

 ……かなり骨は折れたけどね!」

 

みんなのおかげで。

みんなの応援で。

アタシはあきらめず、なんとか頑張ってこれた。

 

…だから。

 

「……ひとつ、ワガママ言ってもいいでしょーか。

 そのー…これからも、アタシを応援し続けて欲しいなーと。」

 

勝ちたいときは、勝ちたいといった方がいい。

言いたいことは、言った方がいい。

アタシは、そう学んだんだ。

 

「もちろん、調子悪かったりダメになったりすることもあると思う。

 だってアタシは、すごい才能があるわけでも、めちゃくちゃ努力家ってわけでもないから。」

 

――なんか、いろいろ言われそうな気がする。

ネイチャには才能はあるんだって。ネイチャは努力家なんだって。

……でも、これがアタシだから。そう簡単には変えられないから。…許してほしいな。

 

「けど……けどね。これだけは言ってもいいかな、って思うの。」

 

そう。こんなアタシでも。

みんなの応援を受け取って。

みんなの思いを受け取って。

 

これだけははっきりと言えるんだ。

 

 

アタシは、こんなウマ娘だって言えるんだ。

 

 

――――「アタシは一番、【信頼】を裏切らないウマ娘だって!!」

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

アタシは。モブのウマ娘だったアタシは。

ここまで成長できたよ。

ここまで、自信が持てるようになったよ。

 

ありがとう。応援してくれるみんな。

ありがとう。商店街のみんな。

 

ありがとう。テイオー。

 

 

 

――――ありがとねっ!!トレーナーさんっ!!

 

 

 

 







以上で終わりです。
引用部分以外はとてもつたない感じだったんじゃないかな、と思います。

何にせよ、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!


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