ありふれた黒幕で世界最凶 (96 reito)
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設定集
人物設定1


これが初投稿になります。今回は設定だけになっています。話は出来上がり次第投稿致します。


 湊莉零斗 (みなとり れいと)18歳 男性 主武器 "刀"

 前世の名前はレイト・アルバート

 

 本作の主人公の1人で南雲ハジメとは幼馴染で親友。いつも巫山戯ているため周りからは良く思はれて居ないと本人は思っているが実際は天之河光輝以上のカリスマがあり、成績も学年トップのためクラス内外ともに人望は厚い。

 

 容姿はアルビノのため髪が白銀色で赤と青のオッドアイそしてかなりのイケメン。身長は188cm体重は64kgで着痩せするタイプでかなり身体を鍛えているが必要な場所しか鍛えていないため究極の細マッチョである。

 

 前世では暗殺組織のトップだったが仲間の1人とその協力者の裏切りにより組織を去ることになった。その数年後にマリスビリー所長にカルデアにスカウトされた。そしてレフによる爆発事故の際はAチームとオルガマリー所長を庇い負傷したが一命を取り留めたその後は人理修復に亜種特異点の修復にも尽力したが人理漂白(クリプターは居ないが代わりの管理者が用意された)が起きた際はダ・ヴィンチちゃんを庇い重症を負ったが仲間のヴォイド、ノクト、レイ、ライ、ノインを最期の力で呼び寄せてその後息を引き取った。

 

 

 南雲ハジメ(なぐも はじめ)17歳 男性 主武器"銃"

 

 本作の主人公の1人で零斗と親友で幼馴染で零斗達の前世を知る数少ない人物の1人。「趣味の合間に人生」というスタンスは変えてはいないが零斗達と過ごすうちに友人との関係を大切にするようになったため交友関係はそこそこ。遠藤と清水とはオタク友達として仲がいい。勉強は零斗達に教えて貰っているためかなりの好成績でスポーツなどもぶっ壊れになりかけている。白崎香織からの好意には気づいているが自分でつり合わないと本人は思っているが自身も知らない内に白崎香織に対して恋心を抱いているため両片思い中。

 

 容姿は原作と違い中の上くらいの顔をしている。零斗の作る料理のお陰で身長は178cmまでに伸びた。そして小さい頃から零斗に鍛えられているため体格もいいが着痩せするタイプなのであまり知られていない。

 

 

 佐野恭弥 (さの きょうや) 17歳 男性 主武器"棍と槍"

 前世の名前はヴォイド・ベルファス

 

 零斗の親友で南雲ハジメとは幼馴染で友人。誰に対しても基本は敬語で冷たい印象を抱く者がいるがそれとは正反対で常に人のことを気にかけている人物。前世ではレイト同様暗殺者組織の一員でレイトの右腕的な立ち位置に居た人物で互いのことを信頼している。今世では零斗が孤独にならないようにしている。

 

 容姿は父親が日本で母親がドイツのハーフでこちらもかなりのイケメンで身長は179cm体重は58kgとかなり細いがこちらも鍛え込まれているため細マッチョ。

 

 

 西園寺刀華 (さいおんじ とうか) 18歳 女性 主武器"刀"

 前世の名前はレイ・ファルファス

 

 今世では零斗の恋人。南雲ハジメ達の幼馴染で南雲ハジメの母親である南雲 菫の熱狂的なファンの1人(恋愛ものに目がないためその事知った時は『なんで今まで隠していたのよ!?』と詰め寄ったほど)で彼のことは気に入っている。前世ではレイトにloveの方で好意を持っていたが最後まで伝えることが出来なかったので転生し再会してすぐに好意を伝え晴れて恋人同士になったのだが天之河光輝からの猛烈なアプローチを掛けられているのでかなりの苦労人体質。

 

 容姿は絶世の美女でプロポーションも出ている所は出ていて締まる所は締まっている。髪は長髪でポニーテールに結んでいる。身長は175cmとやや高めで切れ目。恭弥同様誰に対しても敬語で話しているためかなり大人びた印象を抱く。

 

 西園寺鏡花 (さいおんじ きょうか)17歳 女性 主武器"繰糸"

 前世の名前はライ・ファルファス

 

 南雲ハジメ達の幼馴染で、恭弥の恋人。刀華とは前世でも今世でも姉妹で双子の妹ではあるが性格や容姿が違うことから義姉妹と言われることがある。刀華と同じ様に南雲菫のファンの1人だが刀華ほど熱狂的なファンではない。学生生活の合間にモデル業もしているその容姿からかなりの人気があり雑誌などの表紙を飾るほど。

 

 容姿はかなりのハーフ顔。プロポーションも良く出ている所は出ていて締まる所は締まっている。身長は168cmと平均的。

 

 

 鹿乃柊人(かの しゅうと) 男性 17歳 主武器"ナイフ"

 前世の名前はノクト・へルフェス

 

 南雲ハジメ達とは幼馴染で親友。ハジメとはオタク友達でラノベなどを貸し借りする仲で遠藤や清水とも仲がいい、週末はオンラインゲームなどを一緒にやるほどの仲。前世ではレイトの補佐として常に傍にいた人物の1人で6人の中でもかなり頭の切れる人物。

 

 容姿は男性陣の中で最も背が低く174cmほど体重は51kgとかなり軽いが零斗達同様かなり鍛えているため力は強い。顔は中性的。基本的に敬語で話すことが多いが仲間内でいる時は砕けた口調になることがある。

 

 

 藤野悠花(ふじの ゆうか) 17歳 女性 主武器"拳"

 前世の名前はノイン・レアルス

 

 南雲ハジメ達の親友で柊人の恋人。いつも明るくポジティブな元気っ子で六人の中でも一際幼く見えるが1度キレると止めるのに苦労する人物。クラスの中心に常にいるような人物ではあるがドジっ娘である。そして定期的に刀華や鏡花に対してセクハラ紛いの行動をする事がある。

 

 容姿はカワイイ系で身長は159cmほどで女性陣の中で最も背が低い。また谷口鈴と同様に心の中におっさんを飼っているのではという噂がある。

 




御意見等がありましたら感想等でお願いします。


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人物設定2

設定集です。前回紹介出来なかったキャラがメインになっています。


 白崎 香織 (しらさき かおり) 17歳 女性

 

 南雲ハジメのメインヒロイン。原作とほぼ変わらないが天之河の事を嫌っている。理由は南雲ハジメを自分から引き剥がそうとしている事。

 

 強化細胞を移植した事で容姿が変わり髪色が黒から薄い藍色になり瞳の色は深い緑になっている、身体付きはより女性らしくなっている。

 

 

 八重樫 雫 (やえがし しずく) 17歳 女性

 

 零斗のサブヒロインその1。原作とほぼ変わらないが白崎と同じく天之河を嫌っている。零斗に好意を寄せているが刀華が居たため諦めていたが、トータスに召喚されてからは刀華の他に鈴仙、妖夢に背中を押されアプローチを初めた。

 

 強化細胞を移植した事で容姿が変わり髪色が黒から薄い桜色に変化した瞳は深い碧になっている、身体付きはより女性らしくなっている。

 

 

 園部 優花 (そのべ ゆうか) 17歳 女性

 

 零斗のサブヒロインその2。原作と変わらず。八重樫 雫と同じ様に零斗に好意を寄せていたが刀華が居たため諦めていたが、零斗に鈴仙、妖夢がいる事がわかった時からアプローチを始めた。

 

 強化細胞を移植した事で容姿が変わり髪色が黒から鈍い銀色に変化した瞳は澄んだ碧色。身体付きはより女性らしくなった。

 

 

 坂上 龍太郎 (さかがみ りゅうたろう) 17歳 男性

 

 

 原作とは違いハジメの事を嫌ってはいないむしろ常に努力するハジメの姿を見ているため尊敬している。天之河の事は嫌いでは無いがあまり好意的には思ってはいない。

 

 強化細胞を移植した事により容姿が変わった。髪が燃えるような赤色になった。全体的に細くスマートになったが筋肉の密度が上がっただけでそこまで変わっていない。瞳は赤色。

 

 

 鈴仙・優曇華院・イナバ (れいせん うどんけいん いなば) 女性

 

 零斗のメインヒロインその1。前世の嫁の1人で理解者の1人。零斗に好意を伝えた最初の1人。

 

 八重樫 雫や園部 優香が零斗に好意を寄せているのを知っているため後押しした最初の人物。

 

 

 

 

 魂魄 妖夢 (こんぱく ようむ) 女性

 

 零斗のメインヒロインその2。前世の嫁の1人で良き鍛錬相手。告白は鈴仙より遅いが逆プロポーズをした。

 

 八重樫 雫たちの恋愛相談役になっている。

 

 

 

 遠藤 浩介 (えんどう こうすけ) 17歳 男性

 

 原作とほぼ同じの深淵卿。ハジメとは悪友でありオタク友達である。零斗とは高校で会い意気投合、前世の事を知っていた人物の1人。

 

 強化細胞を移植した事により容姿が変わった。髪に白のメッシュがあるだけでほとんど変わらないが背丈は176cmと10cm近く伸びた。

 

 

 清水 幸利 (しみず ゆきとし) 17歳 男性

 

 原作とは違い闇堕ちの原因であるクラスの雰囲気はあまり無いし、ハジメや遠藤、零斗、柊人の理解もあるため原作より生き生きしている。ハジメとは親友でラノベなんかを貸しあっている。実は中村恵理に好意を寄せているがヘタレのため告白はしていない。

 

 

 強化細胞を移植した事により容姿が変わった。髪は白銀色に青みがかった黒のメッシュがあり背丈も181cmとかなりの高身長イケメンになった。

 

 

 中村 恵理 (なかむら えり) 17歳 女性

 

 

 原作とは違いヤンデレではない。父親も生きており母親も狂っていない、ちなみに助けたのは清水。天之河のことは大の苦手で幸利に好意を寄せているがなかなか告白が出来ずにいる。

 

 

 強化細胞を移植した事により容姿が変わり髪色は透き通った蒼である。瞳は黄と緑のオッドアイ。身体付きは女性らしくなっている。

 

 

 谷口 鈴 (たにぐち すず) 17歳 女性

 

 原作と一緒。以上! 

 

 

 強化細胞を移植した事により容姿が変わった。髪色は深い緑、瞳は変わらず黒。身体付きは変わらずロリっ子。

 

 

 畑山 愛子 (はたけやま あいこ) 25歳 女性

 

 原作と一緒だが零斗に好意を寄せている。そのうちデレデレになる。

 

 

 天之河 光輝 (あまのがわ こうき) 17歳 男性

 

 原作以上にクソ野郎、刀華を零斗から奪おうとしている。白崎や八重樫のことも手篭めにしたいと思っている。一応殺す予定。

 

 

 




とりあえずこんな感じ。

鈴仙さんと妖夢さんの分が抜けていたので追加。


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サブキャラ紹介

サブキャラの設定です。


 ベル・アルバート 性別はベル 17歳

 

 某ラノベからの輸入. . . でもロリショタ。かなりの女顔でよく間違えられる。戦闘時はかなりハードな戦い方をする。(武器は原作と同じダブルナイフ)

 

 何故か零斗がダンまち世界に転移した際にボロボロのベルを拾い育てた。一応アイズ達もいるが本編に出すかは考え中。

 

 

 

 カイン・フェルエス 男性 29歳

 

 恭弥の前世の部下で最初の弟子。才色兼備で実力は折り紙付き。前世では恭弥のサポート役で零斗達に振り回されているのでよく胃を痛めている。

 

 主武器は槍だが面倒とか言って撲殺するのがテンプレ。

 

 容姿は知的なイケメンで常にメガネを掛けている。淡い翡翠色の髪で瞳は青く透き通っている。

 

 

 

 檜山大介 (ひやま だいすけ)男性 17歳

 

 原作とは違い零斗により改心。ハジメの努力する姿を見ては居たがどうにも納得がいかなかったようで虐めていた。

 

 強化細胞を移植する予定だけど気分によって変えるかもしれない。

 

 

 サーヴァントの皆様

 

 零斗達の事が大好きな人達。零斗のステータスに"英霊の寵愛を受けし者"がある事を知って御満悦のよう。

 

 零斗と本契約しているのはセイバー"斎藤一"、アーチャー"エミヤ"、ランサー"エレシュキガル"、ライダー"マンドリカルド"、キャスター"ロクデ. . .ゲフン マーリン"、アサシン"山の翁"と"カーマ"、アルターエゴ"メルトリリス"、アヴェンジャー"ジャンヌ・オルタ"、シールダー"マシュ(ギャラハッド)"の10騎。

 

 恭弥と本契約しているのはセイバー"ベティヴィエール"、アーチャー"妖精騎士トリスタン"、ランサー"カイニス"、キャスター"紫式部"、アサシン"クレオパトラ"、バーサーカー"ヘラクレス"、ルーラー"アストライア"の7騎。

 

 柊人と本契約しているのはアーチャー"超人オリオン"、ランサー"ワルキューレ"、ライダー"エドワード・ティーチ"、キャスター"メディアリリィ"、アサシン"酒呑童子"、アルターエゴ"蘆屋道満"の6騎。

 

 刀華と本契約しているのはセイバー"沖田総司"、アーチャー"巴御前"、ランサー"ヴリトラ"、ライダー"女王メイヴ"、ムーンキャンサー"水着キアラ"の5騎

 

 なお鏡花と悠花は本契約のサーヴァントはいるが長くなるので省略。

 

 

 幻影想鎧(ファントムメイル)のメンバー

 

 零斗達が前世で仕切っていた暗殺者組織. . . と言っても殺していたのは世界を支配しようとする者や戦争を引き起こそうとする国の首脳などが主なターゲットだった。メンバー全員が強化細胞を移植しており化け物じみた力を持っている。(並のサーヴァントなら同時に相手してもいい所までは戦える)

 

 初期メンバーは零斗、恭弥、柊人、刀華、鏡花、悠花の6人でそこにカインとエヒトの協力者の??? 、零斗を裏切った者が加わり組織が誕生。

 

 

 ??? 

 

 エヒトの協力者?で零斗とは仲間であり、ライバルであり、義兄弟だった。

 

 自らを残留意思と名乗るがその実態はいかに. . .

 

 

 

 

 




零斗達が複数のサーヴァントと契約出来ているのは尋常では無いくらいの魔力があるので出来ています。


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サブキャラ紹介その二

登場キャラが増えてきたので、改めて紹介です。


 

 ユエ 女性

 

 南雲 ハジメのメインヒロインその2。原作と性格にそこまで変化は無い。零斗の協力により、伯父であるディンリードが自身にした仕打ちの真意を知り、割と前向きになった。その為か原作以上にハジメにグイグイと迫っている。

 

 零斗の血を飲んだ影響で身体に変化があり、大人モードと通常の子供モードの切り替えがオルクス大迷宮の時点で可能になった(ユエ自身がハジメに好きになって貰いたいと思った為起こった事象)。零斗のスパルタ特訓により近接戦闘が多少出来る様になった。

 

 シア・ハウリア 女性

 

 南雲 ハジメのサブヒロインその1。こちらも性格面は原作とそこまで変化は無い。ハジメのラブ度が原作より高く、ヤンデレ気質(白崎ほどでは無い)。ハジメに貰ったチョーカーがお気に入りで時々眺めてはニマニマしている。

 

 零斗の地獄の訓練により、原作以上のバグウサギ化している。強化細胞の適正もあるのでハジメ以上の化け物になるかも?

 

 

 アルテナ・ハイピスト 女性

 

 南雲 ハジメのサブヒロインその2。原作と性格の変わりはほぼほぼ無い。ハジメに一目惚れをし、旅に同行することを決意。家事スキルがシア以上に高く、零斗のアシストを任せられている。

 

 戦闘行為は一切経験がなかったが、零斗の地獄の訓練によって魔改造され、化け物レベルの戦闘能力になった。基本は隠密と陽動をして、零斗達のサポートに徹している。シアとのコンビネーションは零斗でも割と苦戦するレベル。

 

 エト・フレイズ 女性

 

 湊莉 零斗のサブヒロイン。零斗の強化細胞から分裂した人物の一人で、零斗の技能である『擬態』の制御を担当していた。強化細胞の分裂体達のまとめ役で、割と苦労人。オスカー・オルクスや他の解放者達とは信頼し合っている仕事仲間の様な関係に近い。

 

 恋愛脳で割と乙女チックでちょっことポンコツでツンな女の子。異性よりも同性にモテやすいが、エト自身は両性共に塩対応である。年齢は1000越えのおばさゲッフン……お姉さん。

 

 ロウ・バロウズ 男性

 

 獣っ子でアホの子で純粋な男。末っ子気質で甘え上手だが、アホなので大体大ポカをやらかしてボコられる。無駄に頑丈な為余計にボコられる。とんでもないくらいの凶運持ちで歩くだけで何かしらの事件に巻き込まれる。

 

 獣っ子であるためか鼻がよく、気配に敏感。人間態、獣態、人獣態の三つの形態がある。右手で触れた対象の記憶を読み取り、左手で触れた場合は自身の記憶を共有する能力『鏡心』の制御を担当していた。

 

 フェル・バロウズ 女性

 

 獣っ子で姉御肌でイケメンな女子。ロウの姉の様な存在であり、ロウのやらかしの後始末をやっている。面倒見が良く、聞き上手だが酒癖が悪い上に下戸なので、残念なイケメン女子になってしまっている。

 

 獣っ子ではあるがロウの様に感覚が鋭い訳では無い。ロウと同じで人間態、獣態、人獣態の三つの形態がある。体内にある強化細胞の一部を体外に放出し、凝固させ金属の様に硬化させる能力『凝血』の制御を担当していた。

 

 ラピス・ラーゼス 女性

 

 柊人改めノクトの狂信者でヤンデレでメンヘラでサイコパスなイカレポンチな女の子。柊人が関わっていないと割と常識人で優しいが何者かによって歪ませられて、柊人達に襲いかかった。

 

 前世では悠花の事はそこまで恨んでいないに仲は険悪では無いが、嫉妬はするし、喧嘩をふっかけ、あわよくば寝取ろうとしている。その度に刀華や零斗に〆られていた。

 

 

 オスカー・オルクス 男性

 

『解放者』の一人で鬼畜メガネ。ハジメと零斗と協力して、日夜とんでも兵器を開発している。主武器である黒傘も零斗のアイデアで魔改造され、これ一つで国崩しが簡単に行える。

 

 零斗の策略により、ハジメのサーヴァントになりハジメに錬成の訓練を行っている。エトや零斗の影響で原作以上の鬼畜メガネになってしまっている。

 

 ミレディ・ライセン 女性

 

『解放者』のリーダーで、みんなのウザイン。零斗達の中だとかなりの常識人で自他共に認める美少女だが、持ち前のウザさのせいで台無しになってしまっている。

 

 フェルやロウのお陰で孤独な数千年を割と楽しく過ごしていた。獣態の二人モフるのが好きでほぼ毎日モフっている。

 

 




何か不備があれば教えてください。


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オリ技能&武器集

技能や武器についての設定でーす。


 

 血刀"血狂い"

 

 某フロムゲーから。零斗のメイン武器の刀の一振。前世の物と劣化版の物があるがどちらとも斬れ味は異常。(劣化版は八重樫 雫に渡してある)零斗が血統武器作成で最初に作成した物。

 

 太刀と大太刀の中間位の長さで刀身は赤くなっている。

 

 斬ることで血を吸い斬れ味が増す. . . が斬った相手より自分の血の方が効力は高い。

 

 

 

 "エルガー"&ツォルン"

 

 百万発入りのコスモガン。(派生技能のオートリロードの恩恵で)こちらも血統武器作成で作成した物。エルガーが白、ツォルンが黒を基調としていてそれぞれに蝶の模様が刻まれている。

 

 対化物戦闘用13mm拳銃"エルガー"&"ツォルン"専用弾使用銃。全長39cm・重量20kg・装弾数12発、もはや人類では扱えない代物。専用弾は13mm裂徹鋼弾。

 

 スペックはハジメの"ドンナー"よりは低いが汎用性はこちらの方がかなり高い。

 

 

 太刀"鬼灯"

 

 刃渡り1m90cmの大型の太刀。こちらは血統武器作成ではなく実際に零斗が打ったもので本人曰く『打った刀の中では最高傑作』らしい。

 

 刀身は黄色。

 

 "リベリオン"

 

 ウィンチェスター"M1889"をモデルにしたショットガン。零斗が前世の時に見た"ターミネーター2"で使用したシーンを見た際に一目惚れして自力で作成した。

 

 漢のロマンを詰め込んだもの、実用性はほぼ無いがそれがいいのさ! 

 

 

 大鎌"ファイス"

 

 執筆中に作者がDeltaruneをしていたためその場の気分で登場させた。

 

 装飾等はDeltaruneのジェビルの物と同じ。

 

 

 "レヴァナント・ヴァニティ"

 

 零斗の着ているローブ。零斗の死後はギルガメッシュが宝物庫で保管しいつか帰ってきた時に渡すようだった。

 

 外見は黒1色で並大抵の攻撃はほぼ効かない。(対城宝具くらいならギリ耐えられる)利便性も高く自動補償・自動洗浄など色々とある。

 

 

 棍"ニエンテ"

 

 恭弥の主武器で前世からの愛用品。零斗と天之河の決闘終了後にギルガメッシュから『これも返しておこう』と渡された物。

 

 全体は赤く両端は金属製。全長2mほど。

 

 双槍"ヴェスティージ"&"イスキミア"

 

 略奪者の烙印(プランダラ・エスティグマ)発動時しか使用出来ない双槍。

 

 拳闘"レヴァリー"

 

 龍太郎用に作っていたが渡せず結局自分で使用した。

 

 見た目はDMCの"バルログ"

 

 

 ────────ここから技能編────────

 

 

 〇-〇型強化細胞

 

零斗達が前世から受け継いだ物。前世では人体実験の末に完成したが零斗達が制御したことで施していた組織は壊滅。

 

血統武器作成

 

自身の血もしくは他者の血で武器を作成する。武器自体はかなりの高性能だが扱いが難しいのと作成にはかなりの量の血が必要になる。(零斗は血を武器作成時に混ぜるという手法を取っている事が多い。)

 

 

召喚魔法

 

魔力を使うことで悪魔やアンデッドと言ったモンスターを召喚する事が出来る。使用魔力が多いほどモンスターの格が上がる。

 

 

リミットブレイク

 

"枷"を外す。肉体の成長限界を無くす。

 

 

リミットオーバー

 

リミットブレイクとほぼ同じ効果。

 

 

 

 

 

 




思ったより量あった。


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特別編 質問コーナー

はい、お気に入り300件突破記念です。(激遅)


 はいはい、作者のクロでーす。

 

 零 ハ 恭 柊 「「「「…………」」」」

 

 ほれ、自己紹介しなさいな。

 

 零 「その前にだ……なんでこんなにも遅れたんだ?」

 

 ハ 「理由を答えなさい」

 

 ……忘れてた☆

 

 恭 柊 「「よし、死ね」」

 

 すんません、ホントにすんません……だから殴らんで……

 

 零 「はぁ……まぁいい。どうも皆さん、湊莉 零斗だ、特技は料理だ。好きな物は……まぁ、友人かな」

 

 ハ 「南雲 ハジメです。特技はプログラミングかな?好きな物は創作物全般です」

 

 柊 「鹿乃 柊人だよ。特技は陸上競技全般とバスケだよ。好きな物はゲームとアニメだよ」

 

 恭 「佐野 恭弥だ、よろしく頼む。特技はバイオリンとかの弦楽器の演奏だ。好きな物はホラー映画だ」

 

 今回は特別編ということで……君らには閲覧者様からの質問に答えてもらうよん!

 

 零 「めんど……つーか、お前が選んだやつとか絶対ヤベェやつしかねぇだろ」

 

 失礼だね、君。まぁ、その通りなんだけどさ!

 

 零 柊 「「うっぜぇ……」」

 

 んじゃま、早速一問目の質問行ってみようか!

 

 Q.1 零斗達が召喚したい悪魔(メガテンシリーズ)は?

 

 零 「メガテンシリーズか……なら、俺はビャッコだな。ひたすらにモフりたい……まぁ、デザインが好きってのもあるけどな」

 

 ハ 「僕は……メフィストかな。サブクエストで一番好きだったし、何よりもカッコイイ……」

 

 柊 「僕はアリスだね。あの無邪気だけど、ちょっと狂気を感じる性格が良いね」

 

 恭 「私は……ジャックフロストだな。ペルソナシリーズでもメガテンシリーズでも序盤から終盤まで愛用していてね……中々可愛いデザインだから愛用しているよ」

 

 Q.2 メガテンシリーズの覚えてみたい魔法は?

 

 零 ハ 柊 恭「「「「メギドラオン」」」」

 

 え?即答?

 

 零 「そりゃそうだろうよ」

 

 ハ 「とりあえず、撃っとけば大抵の敵は吹き飛ばせるし、何よりもモーションが派手で好き」

 

 柊 「高火力の割には燃費もそこそこだしね」

 

 恭 「まぁ、ペルソナ3でのトラウマは払拭出来ないけれどね……」

 

 ???「どちら様にもメギドラオンでごさいまーす」

 

 零 ハ 柊 恭 「「「「史上最凶のエレベーターガール!?」」」」

 

 はいはい、そんな人ここには居ませんよ〜……ほれ、正気に戻りなさいな。

 

 Q.3 彼女の良いポイントと直して欲しいポイントは?

 

 零 「そうだな……」

 

 お前は複数居るだろ?全員分答えてな

 

 零 「マジかよ……鈴仙は、常に俺の事を見てくれていて丁度良いタイミングでお茶やら軽食なんかを出してくれる優しさとか気配り上手なとこが良いな……直して欲しい所は、ちょこちょこ俺の私物をちょうだいしてはそれをオカズに○○○ーする事はやめて欲しいな。妖夢の良い所は俺と訓練相手になってくれる事かな、嫌な顔せずに付き合ってくれるし、訓練が終われば進んで片付けもしてくれんだよな……直して欲しい所は事ある事に刻んで来ようとしてくるのは出来ればやめてほしいな……」

 

 ハ 「それは零斗が悪いでしょ……」

 

 零 「事故で胸触っちまっても刀で斬りかかってくるんだぞ?」

 

 柊 「鬼嫁……」

 

 零 「最後は刀華だな、良い所は……サポートに徹してくれる所だな、俺が何かしらのミスをした時にすぐに修正&補修をして、作業中は使う道具のメンテとかを変わってくれるから助かってる。直して欲しい所は……嫉妬しやすい事かな。園部や雫、女性系のサーヴァント達としゃべってると抱きついてきたり、その夜の行為の時に誰からでも見える位置にマーキングされるんだよな……見られるの恥ずいから勘弁してくれ……」

 

 ハ 柊 恭「「「作者、ブラックコーヒー」」」

 

 あいよー……ほれ、ブラックコーヒー。んじゃ次ハジメな

 

 ハ 「香織さんの良い所は……全部かな」

 

 零 「出た〜、褒める所がわかんないから全部て答える奴〜」

 

 ハ 「そんな事ないよ!ほんとに香織さんのする行動全部が好きなんだよ!僕の為に綺麗に見える様にメイクの練習する所とか、零斗に料理教えて貰ったけど思うようにいかなくてちょっと涙目になっちゃう所とか……(一時間は続く)」

 

 柊 「お熱いですねぇ……」

 

 ハ 「ハァ……ハァ……えっと、直して欲しい所だっけ?直して欲しい所は……人前で平然と僕に対するラブコールをしちゃう所……あぅ」

 

 恭 「思い出して赤くなってますね……ほんとに初々しいですねぇ」

 

 次ー柊人さんー

 

 柊 「ん、そうだね……良い所は純粋無垢で無邪気な所かな、見ていて飽きないし、何より可愛い。直して欲しい所は……後先考えずに行動する事だね。尻拭いをいつもしてる身にもなって欲しいものだよ……」

 

 零 「と言いつつも満更でも無い様子で引き受けるんだよね」

 

 恭 「彼女にはとことん甘いですよね……まぁ、独占欲や嫉妬深いのは少しあれですがね」

 

 んじゃ、最後恭弥さーんおねしゃす。

 

 恭 「そうですね……良い所は、所作の綺麗さでしょうか。行動の全てが洗練されていて無駄が一切無い。悪い所は……その……えっと……」

 

 零 「……あぁ、()()か……」

 

 柊 「…………そういえば言ってたね」

 

 ハ 「???」

 

 恭 零 柊 「「「行為中の責めがエグいくらいマニアック……」」」

 

 零 「言葉責めにキス責め……ここじゃ言えない様なマニアックなプレイを嬉々としてやるんだよ」

 

 柊 「僕もかなり責め方だけど、鏡花程では無いし……あくまでも痛いことはしないし、あっても快楽で脳が焼き切れる位の責めに留めてるし……」

 

 それも結構だけどね。そんじゃ、次。 

 

 Q.4 もしも彼女が浮気をしたら?

 

 零 ハ 柊 恭 「「「「ないね」」」」

 

 もしも言うてるでしょう……ほれ、答えんさい。

 

 零 「つってもねぇ……他の男に目移りしなくなるまで調教するぐらいしか思い浮かばんけど?」

 

 柊 「監禁して独占する」

 

 ハ 恭 「「理由を尋ねて、自分の行動が悪かったら改善する」」

 

 やべぇやつ二人と真面目な二人……投げやりだしよ!次で最後だ……

 

 Q.5 彼女には普段言えない様な一言を……

 

 零 「こんな俺でも愛してくれありがとう」

 

 ハ 「不甲斐ない僕だけど……絶対に幸せにしてみせるから」

 

 柊 「いつも僕に付き合ってくれて感謝してる。……それと愛してる」

 

 恭 「私を選んでくれてありがとう、世界の誰よりも愛しているよ」

 

 だ、そうですよ?皆さん?

 

 零 ハ 柊 恭 「「「「え?」」」」

 

 ヒロインズ 「「「「「「…………」」」」」」

 

 零 「謀ったな、作者ァ!」

 

 さぁて、なんの事やら?んじゃま、ごゆっくり〜

 

 白 「ハジメ君」

 

 ハ 「はい!」

 

 白 「絶対に幸せにしてね!」

 

 ハ 「ひゃい……頑張ります……」

 

 柊 「……………………」

 

 悠 「ねぇ、柊人。普段からそんな事思っててくれたんだ……へぇ?」

 

 柊 「…………………………………………」

 

 鏡 「恭弥……ちょっとこっちに来て?」

 

 恭 「……嫌です。断固拒否します」

 

 鏡 「あら、つれないわねぇ……せっかくイイコトしてあげようと思ったのだけど……」

 

 恭 「(トコトコ)何か御用ですか?」

 

 鏡 「チュ……愛してわ恭弥」

 

 恭 「それは……どうも……」

 

 鈴 妖 刀 「「「…………」」」

 

 零 「あのー……ハイライトの消えた目でにじり寄って来ないでお願い、怖いから……」

 

 仲睦まじいこって……それでは皆様〜(天下無双)またお会い致しましょう……ではでは……さようなら〜




読みずらくなってしまってもう訳無い……


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序章
ありふれた日常は崩壊する


話がある程度出来たので投稿します。不定期な更新になりますが、号了承のほどお願いします。


 暗闇の中、急速に小さくなっていく光。

 

 無意識に手を伸ばすも掴めるはずもなく、途轍もない落下感に絶望しながら、少年──南雲ハジメは恐怖に歪んだ表情で消えゆく光を凝視した。

 

 ハジメは現在、奈落という表現がぴったりな大溝を絶賛落下中なのである。目に見える光は、地上の明かりだ。

 

 ダンジョンの探索中、巨大な大地の裂け目に落ちたハジメは、遂に光が届かない深部まで落下する中で走馬灯を見た。

 

ハジメェェエェェエッ!!! 

 

 不意に上から声が聞こえる。それにはっと我を取り戻して、ハジメは自分に近づいてくるそれを見た。

 

 黒色のローブに身を包み、その背には蝙蝠のような翼が生えたその姿はまるでアニメの黒幕を思わせる。

 

 黒幕を思わせる姿をした自らの親友は手を伸ばす。

 

「零斗!!」

 

 親友の名前を呼びながら、必死に手を伸ばし、そしてついには手を掴んだ。

 

 それに安心したのか、零斗と呼ばれた青年はほっと表情を緩める。

 

 そうして、二人仲良くゴゥゴゥと風を切りながら落ちる中、零斗とハジメは頭の中で共通のことを思い浮かべていた。

 

 

 

 日本人である自分が、ファンタジーという言葉で表すにはあまりにも残酷な世界に来るまでの、経緯を。

 

 ●◯●

 

Side 零斗

 

 

 月曜日。それは一週間の内で最も憂鬱な始まりの日。きっと多くの人が、これからの一週間に溜息を吐き、前日までの天国を想ってしまう。

 

 とまぁ真面目な脳内語りはいいとして。やぁ諸君初めましてかな?私の名前は湊莉零斗という以後お見知り置きを。さて今私の置かれている状況を説明しようか、今は全力で学校に向かっている途中だ。ん?なんでそんな状況か?ただ寝坊しただけだよ。そんなことやっている間に教室に着いた。時間もあまりないので中に入る、すると見覚えのある人物達が見える。

 

「だから──」

 

 あーもう最悪だよ。俺の嫌いな男がいるよ。

 

「そこを退いてくれ、天之河」

「あぁ、すまない…って零斗か。いきなりなんだその態度は?」

「君がそこに居るのが悪いのだろう、そこは私の席だ早く退いてくれ」

 

俺が溜息混じりに話すと天之河は血相を変え、何かを言おうとしたが背後からの声で止まる。

 

「光輝!先生が呼んでるぜ!」

「ッ!あぁ、龍太郎分かった今行く。後で覚えておけよ!」

 

 そんな小物臭いセリフを吐き捨て去っていった。あーもう朝から最悪の気分だよ……まったく。

 

「おはよう、零斗今日は珍しく遅かったね」

「よっす! 零斗今日は何かあったのか?」

「あぁ。おはようハジメに龍太郎。いえ、少し寝坊してしまいましてね」

「零斗が寝坊なんて本当に珍しいね」

 

 挨拶をして来たのが私の親友の南雲ハジメと最近仲良くなった坂上龍太郎だ。

 

「っと、ハジメこれ返しておきますね、今回も面白かったですね」

「それならオススメして良かったよ!」

「ハジメくんその本何?」

 

 俺がハジメにラノベを渡していると、それを横からひょいと覗く少女が。見慣れた少女である。その少女は名を白崎香織という学校で四大女神と言われ、男女問わず絶大な人気を誇るとてつもない美少女だ。腰まで届く長く艶やかな黒髪、少し垂れ気味の大きな瞳はひどく優しげであり、スっと通った鼻梁に小ぶりの鼻、そして薄い桜色の唇が完璧な配置で並んでいる。まるで黄金比を体現したような美貌だが、〝刀華〟の方が絶対可愛い。異論は認める! 

 

「おはようございます、白崎さん」

「あ、おはよう零斗君!今日珍しく遅く来たね」

「えぇまあ。どうします?何時もののハジメと同じように注意しますか?」

「ふふっ、そんなことしないよ?」

 

 え?話し方がこちらと会話の時で違う?今更だね、まぁただ猫を被っているだけだよ。いつもは巫山戯ているからねこの口調で。

 

「ねぇねぇ、ハジメ君。こんど」

 

少しの間雑談をしていると、白崎達の後ろから数人の男女がこちらに歩み寄ってくる。

 

「あ、おはよう恭弥さん、柊人さん、刀華さん、鏡花さん、悠花さん、八重樫さん、幸利くん」

「おはようございます皆さん。ハジメ、遠藤くんのことを忘れていますよ」

「え?あ!ごめん!遠藤くん!」

「いいんだよハジメいつもの事だから(泣)……でも零斗よく気づいたな」

「そんな凄いことはしていませんよ? 挨拶を返しただけですし」

 

 挨拶をして来たのが俺とハジメの親友で幼馴染である、恭弥、柊人、刀華、鏡花、悠花の六人と高校に入ってから仲良くなった雫と幸利、浩介の3人だ。

 

 それまで向けられなかった嫉妬や怒りの視線がハジメに集中するが俺がお返しに殺気混じりの威圧をするとあれよあれよと視線が消える。この程度の殺気で怖気付くとか平和ボケし過ぎだろ。

 

 そもそもただの一介のオタクであるハジメがなぜクラスメイトたちから敵意を向けられ、その原因たる存在である白崎に話しかけられているか。

 

 まず、俺の幼馴染かつ親友であるハジメはオタクだ。創作物、漫画や小説、ゲームや映画と、そういうものが好きである。また、両親もそちら関連の仕事をしているのでなるべくしてなったとも言える。まさにスーパーオタクなのである。ちなみに俺も前世からそういうジャンルのものは大好物だ。別にオタクだからといって、ハジメは本来ならここまで敵愾心を持たれるいわれはない。

 

容姿にしたってイケメンでは無いものの美形の部類に入るだろう、髪は短く切りそろえているし、寝癖もない。体型だって太ってる訳でもないしかといって痩せすぎている訳でもない。だが小学校(強制的に)から俺が鍛えているから細マッチョだ。脱いだらすげぇぞこいつ。コミュニケーション能力もしっかりしている。

 

成績も俺達六人に教え込まれているから学年のトップ層を常にキープしている、運動能力も普通の人が見ればぶっ壊れ性能になっているが基本的に〝趣味の合間に人生〟のスタンスで生きているため趣味を優先しがちだが、学校での生活がだらしないわけじゃない。そして見知らぬ人でも助けられる優しさが秘められていることを。それが、俺の知る南雲ハジメという人間だ。

 

 人間っつーのは面倒なもので、そんなハジメと同じ平凡(一部の人間はそう思っては居ないが)である男子生徒たちは、クラスのマドンナ的存在である白崎や憧れの存在の刀華、モデルで男女問わず人気のある鏡花に話しかけられていることに「なんであいつだけ!」と嫉妬を向けてるわけだ。そう思うなら自分達を磨けばいいものを……

 

 逆に女子生徒たちは白崎のことを応援してる。何故かって? それはハジメの性格だ、何かあれば手伝うしフォローも忘れないため女子は好意的な印象を抱く者が多い。

 

 それに俺は知っている。白崎が〝あの時〟以来ハジメのこと好きなの。ましてやハジメ自身も白崎からの好意に気づいてるけど自分ではつり合わないと心のどこかで思っているらしい。まぁこれからのこの2人の関係の進展に期待しておこう。恋する少年少女の邪魔をするなんてとんでもない!君達もそう思うだろう? 

 

「それではそろそろ……」

 

 今日もいつも通り、ハジメが白崎に会話を切り上げる挨拶をして終わりかと、そう思った時。

 

「おい!零斗!」

 

 面倒なのが帰って来ちまったよ。俺は仏頂面でそいつに振り返る。すると立ち上がったそいつは俺を睨んでいた。天之河光輝。いかにも勇者っぽいキラキラネームのクソ野郎は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。加えて、おそらく俺が世界で一番嫌いな男だ。何故かって?こいつの甘ったるい思想だよ。

 

「おいおい光輝、また喧嘩はやめてくれよ」

「龍太郎の言う通りね」

 

 天之河を宥める様に言ったのは龍太郎と雫だ。彼らは天之河のストッパー役のような立ち位置にいるがその苦労は計り知れない。

 

「ねぇ、無視しないでくれる?零斗」

「あぁすまないね刀華 「だめよ、許さないわ」んむっ!?」

 

 突然、俺の彼女である刀華が唇を奪ってきた。女子どもはきゃーっ!と黄色い声をあげ、男子どもはよくも俺らの女神の刀華さんとぉ……ゆ゛る゛さ゛ん゛!的な感じの目線をよこしてくる。 それから数秒して、ようやく離れる。恥ずかしさで文句を言いたい気分になったが、しかし「ん?」と可愛らしい仕草で見上げてきて、結局何も言えなかった。

 

 ……ごほん。もう一度紹介した方が良いだろう。

 

 彼女の名前は西園寺刀華。白崎や雫の親友であり、 ハジメ達の親友で幼馴染。俺の最愛にして最強、最高の彼女だ。ポニーテールにした長い黒髪と、それを纏めている桔梗の花の形をしたレリーフがついているヘアゴムがトレードマークである。ちなみに俺の手作り。

 

 切れ長の瞳は鋭く、しかしその奥には柔らかさも感じられるため、冷たいというよりカッコイイという印象を与える。175cmという女子にしては高い身長と引き締まった身体、凛とした雰囲気は侍を彷彿とさせる。実際雫の実家である八重樫道場に通っているため剣道等もやっている。

 

 刀華自身、雫と同じ様に小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である。現代に現れた2人の美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンが多数いる。まぁ俺もその内の1人ではあるのだか。それは秘密だ。ちなみに、八重樫道場には俺も通っており、その腕は雫以上といったところだ。天之河も通っていたが俺に決闘を申し込んで見事に惨敗してその結果に納得出来なかったのか後ろから斬りかかってきたが師範の虎一さんに止められていた。その結果現在は破門となっている。

 

「あぁ。すまない刀華。おはよう」

「えぇ、おはよう♪ んっ♪」

「むぐっ」

「「「2回目、だとっ!?」」」

 

 こいつらどんだけイチャイチャすりゃ気がすむんだよ。クラスメイトと隣のハジメのジト目がそう言ってる気がした。白崎や雫と同等レベルに人気の高い刀華の彼氏であることに対してまたしても男子生徒の嫉妬の感情が湧くのではないかと言う心配はない。なんでかって? 俺たちの仲は高校入学当時から知れ渡っている。後は俺の容姿もあるのだろう。

 

俺はアルビノで髪が白銀色で瞳は赤と青のオッドアイでかなりのイケメンであまりにも現実離れしているからだろうね。成績も余裕で校内一位を維持しており、十分周りから見ても釣り合っているわけだ。

 

「ご、ごほんっ。そろそろいいか?」

 

 そんなやり取りに水を差すようにゴミの声がする。不機嫌になった俺を刀華がまあまあとなだめ、なんとか会話のできる雰囲気にする。ケッ、腹立たしい。

 

「と、とにかく南雲、さっきも言った通り、いつまでも香織の優しさに甘えないことだ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」

「だから光輝くん、私は南雲くんと話したいから話してるんだってば」

「…………ハァ」

 

 そのゴミの発言聞いてか面倒くさそうに溜息をつくハジメ。それを聞いた、俺の中で小さくプチッと何かが切れる音がした

 

 同時に白崎の発言にクラスがざわめき、普段俺がいない時に悪い意味でハジメに絡んでいる檜山とその仲間の四人組は恨めしげな顔をする。が、ちょっくら本気の殺気を多分に含んだ目を向けられるとすぐに目をそらした。弱い。いっそのことそのまま消えてしまえ。

 

 俺は天之河の肩に手を置くと、骨が砕けないギリギリの力で掴みながら無表情で告げる。

 

「天之河、ハジメは1度も白崎に甘えたことはないし、そもそも白崎自身が違うと言っているだろう。いい加減にその自分至上主義のご都合解釈も程々にしておきなさい」

「君には関係の無いことだろう! 俺はただ、やる気のない南雲に注意をしていただけであって──」

 

 プチッ、と何かが切れた。

 

「それが妄想だと言っているんだ。なぜハジメの生き方を君に強制させられなければいけないんだ?彼には彼の好きなことがあって、それに熱意を向けてるだけだ。君とハジメは違う人間だって、一体何百回何千回言えば分かるんだ君は?」

「零斗」

 

 刀華に名前を呼ばれハッとする。自分の左手を見ると爪が食い込む程に強く握ていたようで皮膚が裂け血が出ていた。直ぐに力を抜き、軽く深呼吸してから天之河の肩に手を置く。

 

「とにかく、気を付けてください。ですが……次はありませんからね

 

 と脅しを掛けながらそう言ったのと同時に、タイミング良いのか悪いのか始業のチャイムが鳴り響いた。それと同時に教師が教室に入って来て、俺はハジメを促して自分の席に向かう。また歯止めが効かなくなったらたまったもんじゃない。担任の方は見飽きたのか、何事もないように朝の連絡事項を伝える。

 

 ふとハジメの方に目線を向けると、雫がこっそりとハジメに向かって謝罪している。あいつも苦労しているな、今度飯でも奢ってやるか。そんなことを考えながら授業を受ける(ハジメも一応成績を維持するために真面目に授業を受けている)

 

 

 ●◯●

 

Side ハジメ

 

 授業のチャイムがなり昼休憩に入った。零斗が鞄から弁当箱を取り出して、僕に手渡してくれる。

 

「ハジメ、これ今日の弁当です」

「いつもありがとう、零斗」

「気にしなくて結構ですよ。私が好きでやっているだけですから」

 

男の僕でもドキッとするくらい綺麗な笑みを浮かべて、さらりとイケメン発言をする零斗。クラス内の女子生徒達からの刺さる視線に気がつかないふりをしながら弁当の蓋を開ける。何となしに教室を見渡すと、購買組は既に飛び出していったのか人数が減っている。それでも僕たちの所属するクラスは弁当組が多いので、三分の二くらいの生徒が残ってた。それに加えて、四時間目の社会科教師である畑山愛子先生が教壇で数人の生徒と談笑していた。

 

 ふと後ろを見ると、八重樫さんが残念そうな顔をしている。なんで零斗は白崎さん達と食べないんだろ。天之河くんが寄ってくるのが嫌とかかな?

 

「君の考えている通りだ、ハジメ。彼女達と一緒にいるも余分な彼も付いて来てしまうからね」

「恭弥さん、ナチュラルに考えていること読まないでくれませんか!?」

 

 いつの間にか近くに来ていた恭弥さんが僕の考えに答える。と言うか、相変わらず零斗は天之河君に対して辛辣だなぁ……僕としても積極的に関わりたくはない人だとは思うけど……

 

「私達、全員同じ意見だよハジメ」

「なんで二人とも僕の考えてる事が分かるの!?心でも読んでるの?!」

「「君が分かりやすすぎるだけだよ」」

 

二人してクスクスと笑いながら言う。零斗はそんな僕らを他所にもくもくと箸を進めている。ここにいる全員マイペースが過ぎるんだよォ……前世でハジケられなかった反動でこうなってるの?あ、ちなみに僕は零斗達の前世のことは知ってるよ……って、誰に話してんだろ。

 

そんなこんなで各自弁当を食べ始めると……

 

「南雲くん珍しいね。教室にいるの。よかったらお弁当、一緒にどうかな?あ、できれば零斗君も一緒に……」

 

 そしてそれは、天使のような笑みとともに現れた。白崎香織と言う名の、劇薬が……

 

「ええ、いいですよ白崎さん」

 

 って!?ちょっと零斗さん!?何言ってるんです!? 

 

「本当に!ありがとう!」

 

 白崎さんは答えを聞くや否や、物凄いスピードで僕の隣に席を付けた。視線が!周りからの視線が痛い!零斗なんてことをしてくれたんだ!と視線を向けると。

 

「……」ニコッ

 

 いや『ニコッ』じゃないよ!助けてよ!?無駄にいい顔しやがって! 

 

「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

 爽やかに笑いながら気障なセリフを吐く天之河君にキョトンとしている白崎さん。少々鈍感というか天然が入っている彼女には、光輝のイケメンスマイルやセリフも効果がないようだ。と言うか、僕、授業中に寝てないんだけど……

 

「え? なんで光輝くんの許しがいるの?」

「「「ブフッ…」」」

 

 素で聞き返す香織に思わず零斗達が「ブフッ」と吹き出した。後ろの方で八重樫さんが必死に笑うのを堪えていた。光輝は困ったように笑いながらあれこれ話している。肩身がせまいどころか、息苦しくて死にそうである。

 

「………………はぁ」

 

 深くため息を吐く。目の前の人たち……零斗たちを除いた全員を見て、僕はふとありえないことを考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もういっそ、こいつら全員異世界召喚とかされないかな? と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どう見ても天之河くんたち、そういう何かに巻き込まれそうな雰囲気ありありだろうに。どこかの世界の神か姫か、あるいは巫女か。誰でもいいので召喚してくれませんかー……

 

 

 

 現実逃避のために、内心電波を飛ばす。さて、そろそろ零斗が何か、天之河君に対して爆発するかな。

 

「あのーみんな、そろそろ……」

 

 それを止めるために、いつも通り苦笑いでお茶を濁して退散するかと腰を上げかけたところで……凍りついた。

 

 突如、天之河君たちの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れたからだ。その異常事態に、直ぐに周りの生徒達も気がついた。僕を含めた全員が金縛りにでもあったかのように輝く紋様、俗に言う魔法陣らしきものを注視する。

 

 その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。そんな中、六人だけ、非常に冷静な人物がいた。零斗達だ。

 

「み、皆?どうしてそんな……」

 

僕が問い掛けると、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「まぁ、この程度の事なら驚きませんよね」

「ホラー映画の方がまだ驚くポイントがありますよ?」

「……ホラー映画と比べるのはちょっと違う様な気がするだけど?」

 

何時もと変わらない態度で会話を続けている零斗達。あまりにも現実離れした光景以上に零斗達の落ち着きように驚くよりも若干引いてしまう。多分、零斗達の前世の話を初めて聞いた時よりも、引いている。

 

「……とりあえず。この平穏な日々を脅かした奴はーー」

「どんな手段を取ってでも……」

「残酷に…冷酷に……」

 

 

 その瞬間──スッと、零斗達から表情が抜け落ちた。冷たく、機械的な眼をして殺意を滾らせている。

 

 

「「「「「「殺す」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それを聞いたのを最後に、視界が白く染まった。その中で、僕は必死に白崎さんを抱きしめるのだった。

 

 

 

 

 ……そして数秒か、数分か。

 

 

 

 光によって真っ白に塗りつぶされた教室が再び色を取り戻す頃、そこには既に誰もいなかった。

 

 

 

 蹴倒された椅子に、食べかけのまま開かれた弁当、散乱する箸やペットボトル、教室の備品はそのままにそこにいた人間だけが姿を消していた。

 

 

 

 この事件は、白昼の高校で起きた集団神隠しとして大いに世間を騒がせるのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 

 

 




御要望、御意見等がありましたら感想等でお願いします。

風音鈴鹿さん誤字の報告ありがとうございます。


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召喚そうそう一悶着

やぁ、初めましてそして久しぶりだねマスター。


 Side ??? 

 

ギルガメッシュ王、神の使徒の召喚が始まりました」

 

「そうかでは予定通りに事を進めよ」

 

「は!」

 

「やっとだね、ギル

 

「あぁ、そうだなようやく会えるな. . . マスターよ」

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

 ようやく光が収まったので目を開けるそうすると自分達が広間にいることがわかる。とりあえずは現状確認をしなくてはだな。今の自分がどういう立ち位置なのかを把握しとかなきゃいけないからな。

 

 まず最初に目に飛び込んできたのは、巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなでかいやつ。その中で、後光を背負った中性的な顔立ちの人物が草原や湖、山々を両手を広げ包み込む絵が描かれていた。胡散くせぇなこの癖に描かれてるやつ如何にも悪の親玉って感じがすんな。

 

 周囲を見渡すとハジメと白崎がいた。あいつナチュラルに白崎のこと抱き締めてるな。いいゾ!もっとやれ!そして押し倒しちまえ!と、今は安否の確認だな。

 

「怪我はありませんか?ハジメ、白崎さん」

「大丈夫だよ、零斗」

「私もだよ。零斗くん」

 

 座り込んで居た、二人の手を引いて立ち上がらせる。そして、もう一度周囲を見渡す。美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようだ。素材は大理石か?これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。そんで今俺らは台座かこれ?の上に立っているその周りには少なくとも三十人近いその集団は、おそらく同じ組織に与するものだろう。

 

 台座の前でまるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好をしている。全員白地に金の刺繍入りの法衣を纏い、傍らに先端が扇状に広がっていて、円環の代わりに円盤が数枚吊り下げられた錫杖を置いていた。

 

 中でも特に豪奢で煌びやかな衣装を纏い、高さ三十センチ位ありそうな、これまた細かい意匠の凝らされた烏帽子モドキを被っている爺さんが歩み出してきた。眼光が普通の老人のそれじゃねえな。あの爺さん只者じゃねえな。そんな老人は手に持った錫杖をシャラシャラと鳴らしながら、外見によく合う深みのある落ち着いた声音で話しかけてきた。

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

「幾つか質問しても?」

「それは後ほどで宜しいでしょうか? 今現状を説明しましょう。混乱していらっしゃるいる方もいるようなので」

「ええ、分かりました」

 

 そうしてイシュタルと名乗った爺さんに十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。多分、晩餐なんかをする場所か。ちなみに、ここに案内されるまでに俺が天之河に変わり生徒達を落ち着かせてたりする。あいつに任せると色々やばい事になりかねんからね。教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛ちゃんが涙目だった。頭撫でてたら怒られた上に刀華にビンタされた。痛てぇしめっちゃ腫れた。

 

 全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。秋葉原とか、外国のデブBBAメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである。男どもの欲望がこんな状況でも健在で、大半がメイドさん達を凝視している。女子達の視線が氷河期もかくやという冷たさを宿していた。全員に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。ちなみにハジメや俺達は飲み物に毒が盛られてないか警戒して手を付けていない。

 

「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」

 

 そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。

 

 要約するとこうだ。

 

 

 まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。

 

 それが、魔人族による魔物の使役だ。魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが消え去った、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。

 

「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」

 

 イシュタルはどこか恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべている。普通にキモイ。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。

 

 俺達が、〝神の意思〟を疑いなく、それどころか嬉々として従うのであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。

 

 愛ちゃん先生だ。

 

「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

 ぷりぷりと怒る愛ちゃん先生。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにとあくせく走り回る姿は何とも微笑ましい。が、そのいつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに、とても庇護欲を掻き立てられる。可愛い……そんな畑ちゃんは何でも、威厳ある教師を目指しているのだとか。

 

「零斗、また変な事考えていないでしょうね?」

「メッソウモゴザイマセン」

「へぇ? 今日の夜覚悟して置いてね?」

「……ハイ」

 

 オイオイオイ。死んだわ俺。と、そんな事を考えていると愛ちゃんの顔に怒気が現れる。どうやら愛ちゃん、今回も理不尽な召喚理由に怒り心頭なようだ。クラスメイトどもがほんわかしてる。オイオイ今どんな状況か分かってんのかよコイツらは……

 

 だが、この場の全員が次のイシュタルの言葉に凍りついた。

 

「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

「は?」

「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」

「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな。あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第、ということになりますな」

「そ、そんな……」

 

 畑ちゃんが脱力したように、ストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

「ウソダドンドコドーン!」

「こんなところにいられねえ!俺は自分の部屋に帰らせてもらう!」

「ナニイッテルダフザケルナ!」

 

 何人か余裕そうだなオイ。まぁ、奴隷扱いじゃないだけまだマシか……さて、どうしたものか普通の転送魔法は本来一方通行じゃないはずだったはずなんだか、どうなってるんだ?こっちの世界の物はそういう物なのか?皆狼狽える中、ちらっとイシュタルの見ると特に口を挟むでもなく、静かにその様子を眺めていた。大方『なんでエヒトに選ばれたのに喜べないのか』って所だろな。これだから一神教は面倒なんだよな〜

 

 未だパニックが収まらない中、突然天之河が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッと肩を震わせ、そちらを見るクラスメイトども。天之河は全員の注目が集まったのを確認すると、おもむろに話し始めた。

 

「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

 ……あぁ、クソ……想定以上に最悪な展開になりそうだ。

 

「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」

「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」

 

 ギュッと握り拳を作りそう宣言する天之河。無駄に歯がキラリと光る。同時に、天之河のカリスマ(笑)は遺憾なく効果を発揮した。絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。奴を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。

 

「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

「龍太郎……」

 

 いつもの四人のうち、龍太郎だけが天之河に賛同する。後は当然の流れというように、クラスメイト達が賛同していった。畑ちゃんはオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが、あいつの作った流れの前では無力だった。

 

「君はバカなのかい? あぁそうだよね、そうじゃなければこんな行動はしないはずだ」

「は? 何を言ってるんだ零斗! お前は──」

「……お前がたった今、この場にいる全てのクラスメイトを死地に向かわせると言ったのだぞ?お前は理解していないようだから言ってやる……そこに居る奴は私達に『戦争の為の道具になれ』と言ったのだぞ?更には戦争が終わっても帰れる保証など何処にも無い」

「な、何を言って?」

 

 天之河は俺の発言が理解出来ないのか、困惑した様子で俺の事を見つめてくる。俺は更に言葉を続け、天之河に現実を突き付ける。

 

「あぁ、本当に分かっていないのか?そこに居る老人は『戦争が終われば帰れるか?』という質問に、『エヒト様は戦争が終われば帰してくれるかもしれない』と曖昧な答えをした。つまり帰れる保証は何処にもない。それに戦争の意味を分かっていないようだな。いいか?戦争とはどちらかの種族が滅ぶまで続く物だそれがいつ終わるかも分からない、そして途中でクラスの誰かが死ぬかもしれない……それを理解しているのか?」

「俺はそんなことはしない!あまりクラスのみんなを怖がらせる様な事は言うな!!」

 

 ホントに理解し難い考えだ……戦争で味方側から死者が出ない訳が無い。それに力があるとは言え、技量も知識も無い人間が戦場で生き残れるはずが無い……コイツに何を言っても無駄みたいだな。

 

「……イシュタルさん、少し良いですか?」

「はい、なんでしょうか?」

 

 俺と天之河がまた討論をし始めようとした時にハジメが黙りしていたイシュタルに話掛けた。

 

「戦争に参加するに当たって幾つか条件を提示させて貰っても大丈夫でしょうか?」

「……はい分かりました、してどんな条件でありましょう」

「1、僕たちの身分の保証 。 2、衣食住の安定。 3、戦争は志願制 。 4、この世界に付いての情報をすべて教えること以上の4つです」

「ふむ、それくらいでしたらよろしいでしょう」

 

 イシュタルは少し不満気にしながらもハジメの提示した条件を全て飲んだ。恐らくは三つの条件である志願制が気に食わないのだろつ。

 

「ありがとうございます、何か紙はありませんか?」

「紙ですか? ありますがどんな用途でご使用に?」

「契約書です」

「……そうですか、解りました」

 

 そしてハジメが戦争に付いての条件を取り付けた。というよりやりすぎたな、途中から熱くなり過ぎたし感情制御が不完全だな。次は上手くやならきゃな。

 

「南雲! 一体どういうつもりだ!」

 

 イシュタル達が移動の準備をする為に部屋を出て行った瞬間、天之河がハジメに掴みかかった。俺は言葉を荒らげながら天之河に詰め寄ろうとするが龍太郎に止められてしまう。

 

「天之河!何をしている!今すぐハジメを離せ!」

「うるさい!お前には関係ない!南雲お前自分のした事がわかっているのか!?何故あんなことをした!」

「ゲホッ!僕らはこの世界ことに付いて何も知らない!この世界について情報を得るために交渉しただけだよ!それと全員が戦争に参加したい訳じゃない!それなのに最前線に出されるかもしれないからそれを防ぐためだ!」

 

 ハジメは締め上げられながらも冷静に天之河に自分がした事を簡潔に伝える。天之河の耳にはそれが届いていないのか、ハジメを締め上げる腕の力を強めている。

 

「光輝!落ち着きなさい!」

 

 八重樫の一言でようやくハジメを解放する天之河。俺はすぐさまハジメに駆け寄り、背中をさする。

 

「ゲホッゲホッ!」

「ハジメ!大丈夫か!?」

「うん、大丈夫だよ零斗。安心して」

 

 ハジメは顔を青くしながら答える。その後はイシュタルが戻ってくるまで誰も言葉を発する事無く待機していた。天之河、貴様は絶対に許さんからな。このツケは何時か返して殺るからな。覚えておけ。

 

 

 




御意見、御要望等がありましたら感想等でお願いします。m(*_ _)m
今回殆ど恭弥達の出番がありませんかでしたが白崎や八重樫、龍太郎、遠藤、清水、中村達を裏で止めていました。そういうことにしておいてください。


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思わぬ再会?

「よッと、やあ( *・ω・)ノ零斗だよ〜あ、ちなみにこっちでは素の話し方するからね〜」

「初めまして、西園寺刀華だよろしく頼む」

「初めまして、恭弥だよろしく頼むよ」

「今回から俺とゲスト数名であらすじなんかを話すことになりました〜(*゚▽゚ノノ゙☆パチパチ」

「「イェイー!」」

「前回は確かトータスに召喚され、その理由を説明されたのだったか?」

「そうそう、今回は移動するところからだな」

「んじゃ、そろそろ行ってみる?」

「「あぁ、じゃあせのー」」

「「「トータスにて思わぬ再会?行ってみよか!」」」


 Side 零斗

 

 

 この建物がある山を下山して麓の王国に向かうことになった。今から向かうのは【ハイリヒ王国】ってとこだな。で、この聖教教会本山があるのは【神山】。王国は聖教教会と密接な関係があり、創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンという人物が建国した最も伝統ある国ということだ。柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。ていうか、俺たちがいた建物って雲海の上にあったんだ。興味が湧いた奴らはキョロキョロと周りを見渡している。ん? 爺さんが何やら唱えだしたな。

 

 

 

「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん──〝天道〟」

 

 

 すると乗っていた台座が動き出した。ほぅ、なかなか悪くない景色だな。つーか、無駄に凝った演出やな。雲海を抜け天より降りたる〝神の使徒〟ってか。これなら聖教信者が教会関係者を神聖視するのも無理ねぇか。んー? さっきから懐かしい気配を感じるなしかも複数だな。(;-ω-)ウーン嫌な予感しかしねぇな。まぁそれは後でもいいか。

 

「では、王宮へと向かいます。ここからの移動は馬車になります」

 

 何人かのグループに別れて馬車に乗り込む、ハジメとは別のグループになってしまった、大丈夫か? あいつ。

 

「なぁ零斗、君もこの気配に違和感を覚えないか?」

「恭弥、貴方もですか?」

「「「「私(僕)も感じるわ」」」」

「ここに居る全員が感じているようですね」

「というか零斗この場には私達しかいないから素の話し方でいいのでは?」

「それもそうか、んじゃ王宮に着くまでは素でいいか」

「やはりそのしゃべり方の方が安心しますね」

「そうか、そりゃよかったよ」

 

 そんな他愛のない話をしているとどうやら宮殿に着いたらしい。他の馬車からクラスメイトたちが降りてくるのが見える。とりあえず降りるか. . . は!? 

 

 そこに広がっていた景色はピラミッドの如く、上に向かうに連れて細く伸びる建物。堀の様に建物の周辺には溝が有り、水で満たされている。これ完全にギルガメッシュの王宮じゃねぇかよ!いやきっと似ているだけだ、うん……そうに違いない……よな?

 

「良いですかな?皆様、行かれますぞ」

 

 イシュタルがそう声を掛けた。宮殿の中は開放的で、入り口は扉では無く、常に開いている物だった。その中央へとイシュタルが足を踏み入れようとした。だが……

 

「な、何をしている!」

「イシュタル殿……貴方には謁見の許可は出ておりません。お引き取りを」

「ッ!!私は教皇だぞ!?そんなものは必要無い筈だ!」

「……お引き取りを」

 

 イシュタルと門番はそう問答をする。そしてイシュタルは苦虫を噛み潰した様な表情をしたまま、神山へと戻って行った。

 

「これより先は、私がご案内致します」

 

 そう言って、門番がそのまま俺達の案内へと変わる。暫く宮殿内を歩いていると様々な物を見る。金箔が貼り付けられた息を呑む様な像に、何処か可憐さを思わせる一輪の花。それらを横目に進んでいると、唐突に門番が一つの部屋で止まる。

 

「……使徒様を連れて参りました」

 

 

 

「許す。通せ」

 

 

 

 

 重厚な純金の扉が音も立てずに開く。

 

 

そしてその先に居たのが──

 

 

 

 

 

「良く来たな、雑種共」

 

まじのギルガメッシュ王じゃねぇかよ。しかもメッチャ俺のこと見てますやん、絶対俺のことわかってますやん。もうやだ!!おうちかえる!!! 

 

「初めまして、王様。俺はこのクラス代表の……」

 

 いいぞ!偽善者!そのままギルの気を. . .

 

「誰が話す事を赦した?」

 

うん、知ってた……まぁ、期待はしてなかったよ……

 

「謁見の儀も弁えておらんのか……雑種は雑種でも、誰の手にも渡らなかった真の雑種共。此処まで無知であれば逆に愛嬌が湧くぞ」

 

 そりゃそうだよな、日頃から生きている中で、王様と謁見する機会なんて普通は無いもんな、全員どうしたらいいのか分からんよなぁ……しゃーないやるしかないか。俺は少し前に出てその場で片膝を突いて地面に伏す。

 

「ほぅ、少しは素養の有る雑種が居たか。其奴の僅かな智慧に感謝するが良い」

 

 その声を同時に、王は立つ。まばゆい光に包まれ、影でしか見る事の無かった王の姿……

 

太陽の光によってキラキラと輝く黄金の髪、血を思われるかの様な深紅の瞳、男でも見惚れてしまうほどに整った顔立ち、自らを飾り立てる装飾品ーーーーそれら全ての物が眼前の者を『王の中の王』だと認識させられる。

 

「面を上げよ、我が赦す」

 

 俺の真正面にそう声が響いた。力の一片も籠もらない声、にも関わらず張り上げた様な心に響く声。その声従い顔を上げる、あぁ本当に懐かしいな。相変わらずいい顔やな〜

 

「お初にお目にかかります、ギルガメッシュ王」

「ほぅ、我の名前を知っているようだな、まぁそれはどうでもよいか」

((((((((いや! いいのかい!!)))))))

 

 その場にいる全員がそう思っただろうな、今。

 

「まずは謝罪をギルガメッシュ王、私の同胞が失礼を」

 

 俺と王の視線が合ったその直後、俺達の教師である愛ちゃん先生は俺より後ろに出て深く頭を下げて、最敬礼をした。日本の謝罪において使われる最上級のスタンスだったか? 圧倒的な威圧感と存在感で充満した謁見室の中、心を奮い立たせて行った生徒を庇う行為は称賛されるべきだろう。それに応じるように、王の視線はそちらへと向けられる。

 

「貴様が代表者か? 妙だな、奴では無いのか?」

 

 そう言って、ギルガメッシュ王は天之河を顎でしゃくる。先程、代表者と先に名乗ったのは天之河だった。

 

「彼は代表者ではありません。本来の代表者は私の後ろにいる畑山 愛子です。私は責任者になります。ですが勝手な行動を許してしまったのは私です、罰を与えるならどうぞ私に……」

「良い、貴様のその太い肝に免じて赦そう」

 

 そう言って王は踵を返して玉座に深く腰掛けた。 

 

「ハイリヒ国王、ギルガメッシュである。尤も、あの爺に聞いたかもしれんがな」

 

 天井にも届きそうな巨大な玉座に深く座り込み、頬杖を突きながらそう言い放った。ほっっんと何をしても絵になるのやべぇな……

 

「貴様共の事は既に聞いた。精々、我の為に励み、我の為に捧げるが良い」

 

 『傲慢』その言葉がこの上なく似合う様な主張。それでも『そうしたい』と思わせてしまうのはこの人の魅力なのだろう。

 

「では、下るが良い。 晩餐の席もう一度見まみえるとしよう」

 

 そう一方的に言うと、ギルガメッシュは玉座を立った

 

「と普段なら言うはずだが久しぶりよなぁ? マスターよ」

「やはり覚えていましたか、えぇお久しぶりですねギルガメッシュ王。そしてエルキドゥいるのでしょう?」

「え?」

「フフ、さすがマスターだ! よくわかったね!」

「それほどではありませんよ、少しだけ花の香りが残っていましたからね、それで判断しただけですよ」

「ちょ、ちょっと待て!零斗、お前この人達のことを知っているのか!?」

 

天之河が掴みかかる勢いで迫ってきた。はぁ、さっさと話済ませて休みたんだけど……

 

「五月蝿いぞ、雑種あまり騒ぎ立てるな」

「ッツ!!す、すいません……」

「ふん……つまらんな」

 

 いやギルさんあんた威圧感が凄いのよちょっとは抑えてやれよ、さすがに可哀想.ではないか? まぁいいか。

 

「ね、ねぇ、零斗?どうゆう事か説明してくれないかな?」

「えぇ、勿論ですよ」

 

 ん?んー?あ、やべぇこっちにすげぇ勢いで向かってくる奴らがいるなー.……って溶岩水泳部だ!これぇ!とりあえず逃げないと! 

 

「ギルガメッシュ王!もしかして全サーヴァントがここにいるのですか!?」

「あぁ、もちろん全員サーヴァントに貴様の組織の全員がこの宮殿内にいるぞ」

「ハジメ! 説明についてはまたの機会に! 私は今から逃げます!」

「ちょ! 零斗!?」

 

 やべぇよマジやべぇとりあえずこっから出ないと、あぁでも何処に行こう。医務室辺りにでも行くか。

 

「それではギルガメッシュ王、皆さん! また晩餐の時に会いましょう!」

「あぁ、逃げられると良いな、雑種よ」

「頑張ってね! マスター!」

 

 急がねぇとやべぇわこれ。すぐそこまで来てるわ。

 

 

 ●○●

 

 

 Side ハジメ

 

 零斗がその場から逃げようとした時、僕の横を白い塊がとんでもない速度で零斗に向かって行った。一体何なんだ!あれ!? 

 

 

レイトさ──ん!!!! 

「ひでぶっ!!」

 

 通り過ぎて行った白い塊は一人の女性?らしき人だった。白い髪に血の様に赤い瞳……何処か兎を連想される人だった。

 

「えへへっ……お久しぶりです!レイトさん!」

「え、えぇ……久しぶりですね、ベル」

 

 急展開について行けなんだけど!? あ、恭弥さん達も呆然としてる。誰なんだろうあの人、後サーヴァントと組織の人て何?また零斗達の前世の知り合いかな? 

 

「「「「マスター!!!!」」」」

「マッズッ!」

「え!?ちょ!」

 

 零斗はベルさん?を引っぺがして窓から飛び降りて逃げてしまった。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

あっぶねぇ……流石に死ぬかと思ったぜ。とりあえず隠れながら移動するからね〜。いやまぁ後で会うことにはなるんだろうけどね!うん、死ぬ気しかしない!まぁ一時的な処置にはなるか。さて医務室何処かな、てサーヴァント全員いるだったアスクレピオスとかナイチンゲール当たりが居そうだな……ま、そんときはそんときに考えるか。

 

(何処行った!)

(向こうの方には居なかったわ!)

 

 げ!結構近くまで来てんじゃん!医務室は……あった!とりあえず逃げ込めー! 

 

「ふぅ……」

「あれ? 君は?」

 

 やべぇ!先客が────え?

 

「ド…ク……ター?」

「え?レイトくん!?どうしてここに!?」

「ドクター!」

「久しぶりだね……レイトくん」

 

 ドクターロマンは優しい笑顔でそう言った。あぁ本当にドクターだ. . . でもなんで? 

 

「君はどうしてここに?」

「え?あーえっと……」

 

 そこからはなんでこちらの世界に来た経緯を説明した。すると苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「そうかそんなことがあったんだ」

「ドクターは聴いていなかったんですか?」

「と言うよりも君の喋り方てそんなんだったけ?」

「あぁ、これは演技ですよ。地球では優等生キャラで通っていましたからね」

「今は僕達2人しか居ないから、前の喋り方でも良いよ?」

 

ニコニコと人が良さそうな笑みを浮かべながら話してくれるロマン。あぁ、懐かしい感覚だ……

 

「え? あぁわかった、これでいいか?」

「うんうん! そっちの方が安心するね!」

「そうかい」

「えー? なになに、照れてるのー?」

「そんなんじゃねぇよ!」

「ホントかなー?」

 

 変わらないなこの人は、やべぇちょっと泣きそうなんだけど。

 

「「あ、零斗くん(さん)ここに居たんだ」」

「え?」

 

 後ろから声がすると同時に頭に衝撃が走った。痛てぇ。そんで意識が途切れた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「んー? ここは?」

「あ、目が覚めたの?」

「もう少し寝てても良かったんですよ?」

 

目を開けると目の前には足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪に、紅い瞳を持ち、頭にはヨレヨレのうさみみがある美少女と銀色の髪をボブカットにし、周りには白い塊がふよ黒いリボンがあるカチューシャを付けた可憐な少女がいた。

 

「「おはよう、零斗くん(さん)」」

「え?うんおはよう……てなんで鈴仙さんと妖夢さんがここに!?」

「「そんなことはどうでもいい」」

「いや!良くないよ!?」

 

アイエエエニンジャナンデ!?ニンジャナンデ!?待って本当になんで!?とゆうかここ何処!?

 

「あ、零斗起きたのね」

「刀華?」

「ええ、貴方の愛しの彼女の刀華ちゃんよ?」

「「今世でのでしょう?」」

「グッ!それは言わない約束でしょう?正妻殿」

「「調子に乗る貴方が悪いんですー」」

 

ちょっと待って!?展開に付いて行けないんだけど!?

 

「あ、今混乱してるよね」

「状況を説明するので聞いていてください」

「ア、ハイ」

 

刀華達の話を纏めるとこうだ。1、俺が逃走してからすぐに捜索が始まり中々見つからないし、また逃げられるがもしれないから気絶さてでもいいから捕まえることに 。 2、俺とドクターが話している内にドクターが医務室にいることを知らせた。3、気絶させたのはいいがちょっと強めにやりすぎたせいで俺が半日も起きてこなかった。そんで今に至るこんな感じらしい……うーむ色々ありすぎじゃね?

 

「そうそう、今はハジメくん?達は晩餐会してるよ」

「あ、そうなの」

「どうする?参加する?」

「あー、そうだね参加するよ」

「うん!わかったじゃ行こうか!」

「ちなみに料理とかはエミヤさん達が作ってくれてるよ」

 

オカンの料理か……久しぶりに食べるし、ワクワクするな……と言うか、ハジメ達にどう説明しよかな?これ。まぁなる様になるだろう。

 

 

 




どうしてこうなった?

あ、ちなみに零斗は2部直後に死亡していますがその後幻想郷に行き着いています。そして途中で一度カルデアに協力するために戻っています。急な設定追加することになりました、なんかねやりたくなったのごめんm(_ _)m後サーヴァント達は現地人に転生?してます。出番はありませんでしたがAチームやオルガマリー所長、ゴルドルフ所長もいますが本編に出すかは未定です。


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ステータスと決意

「よっと、はーい (・ω・)ノ*。.・°*零斗でーす」
「南雲ハジメでーす」
「遠藤造介でーす」
「えー4話です」
「前回は零斗が捕まったんだったよね?」
「そうそう、ていうかよく逃げられたな」
「まぁ、伊達に暗殺者してないからね」
「さて今回はステータス回だよ」

「それじゃ、行ってみる?」
「「OK!」」

「「「ステータスと決意!」」」


 Side 零斗

 

「ん? んー? ここは?」

「「「んきゅ」」」

「!?」

 

 ん!?なんで鈴仙さんに妖夢さんに刀華が……って、てそうだわ昨日王様に酒大量に飲まされて潰れたから介抱して貰ったんだった。あークソ頭痛てぇ……と言うよりなんで一緒に寝てんの? しかもすげぇ薄着やし、健全な青少年にはちょいと刺激が強いんだが。

 

「零斗ー?入るよー?」

「!?ハジメ!? ちょっと待ってください!」

 

俺の返事を聞かなずにドアを開け、部屋に入ってくるハジメ。そして、未だに眠り続けている三人の事を見るやいなやニヤニヤとしたり顔になる

 

「ほぉーん?昨晩はお楽しみでしたねぇ?零斗くぅん?」

「……辞めてください」

 

 クソ、此処ぞって時にイジりやがって。後で覚えてやがれ……

 

「まぁいいや、今日から訓練が始まるらしいよー。朝食食べたら中庭に集合だって」

「えぇ解りました、今支度するので先に行ってください」

「うん、解ったよ」

 

 はぁ……こんなとこ見れたの一生の恥だわ。とりあえず三人とも起こすか。

 

「三人とも起きてください……もう朝食の時間ですよ……」

「ふみゅぅ……」

「……んぅ」

「スゥ…スゥ……」

 

ダメだこれ……こりゃ、暫くは動けそうに無いな。

 

●○●

 

 Side ハジメ

 

 

 

 朝食を取った後クラスメイト全員が中庭に集合した。

 

 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思った僕達だったが、対外的にも対内的にも〝勇者様一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

 

メルドさん本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろう。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないが……

 

「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

 非常に気楽な喋り方をするメルドさん。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのにいつまでも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告するくらいだった。

 

「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」

「アーティファクト?」

 

 アーティファクトという聞き慣れない単語に天之河君が質問をする。

 

「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

「あー、言わばオーパーツみたいなものですか」

 

 なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰ながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた。僕も同じように血を擦りつけ表を見る。

 

 

 すると……

 

 

 

 =============================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

 

 天職:錬成師 適正率 86%

 

 

 筋力:120

 

 体力:200

 

 耐性:60

 

 敏捷:150

 

 魔力:300

 

 魔耐:300

 

 技能:錬成・言語理解・剣術・棍術

 

 =============================

 

 

 と表示された。まるでゲームのキャラにでもなったようだと感じながら、ハジメは自分のステータスを眺める。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。メルド団長からステータスの説明がなされた。

 

「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」

 

 どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」

 

 メルド団長の言葉から推測すると、魔物を倒しただけでステータスが一気に上昇するということはないらしい。地道に腕を磨かなければならないみたいだ。

 

「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」

 

僕は自分のステータスを見る。確かに天職欄に〝錬成師〟とある。どうやら〝錬成〟というものに才能があるようだ。剣術や棍術は零斗が護身術として教えてくれたけど。適正率?なんだろうこれ? 

 

「ねぇ零斗、ステータスどのくらいだった?」

「ん?あぁ、こんな感じです」

 

 ============================

 

 湊莉 零斗(レイト・アルバート) 18歳 男 レベル:ERROR

 

 天職:黒幕(フィクサー)・人類最後のマスター・暗殺者・料理人

 適正率 100%

 

 

 筋力:ERROR

 

 体力:ERROR

 

 耐性:ERROR

 

 敏捷:ERROR

 

 魔力:ERROR

 

 魔耐:ERROR

 

 技能:天体観測・全事象耐性・英霊憑依・衝撃波・魔具精製・血統武器作成・威圧・瞬間移動・影移動・異空間収納・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・剣術・銃術・闘術・棍術・繰糸術・槍術・抜刀術・暗殺術・交渉術・自己再生・昇華魔法・変成魔法・魂魄魔法・召喚魔法(悪魔・天使・アンデッド)・全魔法適正・喰種化・R-Ⅰ型強化細胞・複合魔法・剛力・縮地・天眼・千里眼・超速魔力回復・リミットブレイク・魔力操作・言語理解

 

 =============================

 

 まさにチートの権化だった。てかERRORて何!? 測定不能てこと? どんだけ強いの? 

 

「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あはは……」

 

 そんな声が聞こえた。声のする方を見ると天之河くんがステータスプレートをメルド団長に見せていた。そのステータスは……

 

 ============================

 

 天之河光輝 17歳 男 レベル:1

 

 天職:勇者

 

 適正率:46%

 

 筋力:100

 

 体力:100

 

 耐性:100

 

 敏捷:100

 

 魔力:100

 

 魔耐:100

 

 技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

 =============================

 

 団長の称賛に照れたように頭を掻く光輝。ちなみに団長のレベルは62。ステータス平均は300前後、この世界でもトップレベルの強さだ。しかし、光輝はレベル1で既に三分の一に迫っている。成長率次第では、あっさり追い抜きそうだ。ん? 僕の方がステータス高いじゃないか!?どうしよう!?あたふたしている間に僕の番がやって来た。ええいままよ!もうどうにでもなれ! 

 

「何なんだ! このステータスは!? 生産職なのにそこらの戦闘職より強いぞ!?」

「えぇっと……多分零斗のお陰です」

「零斗殿の?どうゆう事だ?」

「小さい頃から一緒に鍛えていたので多分その影響で」

「あ、あぁそうか、まぁ期待しているぞ!坊主!!」

「は、はい」

 

 よかったぁ……異端視扱いされるかと思ったよ。次は零斗達の番だった。絶対にヤバイ。

 

「は!? ステータスオールERROR!?どうゆう事だ?! しかも未確認の技能まで!?ハハハ、ギルガメッシュ王から話は聞いていたがまさかここまでとは思ってもいなかったよ」

「そうゆう反応になりますよね、後メルドさん敬語は使わなくてもいいですよ」

「え? あぁわかったそうさせて貰おう」

「あ、後何人かのステータスに適正率と書いてありませんでしたか?」

「ん? あったが? それがどうした?」

「その人達の訓練、私達が見てもいいですか?」

「まぁ、構わんが……どうするつもりなんだ?」

 

 どうゆう事だろう?また前世の能力関連かな? 

 

「今ここにいる全員の中で自分のステータスに適正率と出た者はいるか?」

「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」

「ハジメ、遠藤、清水、中村さん、園部さん、龍太郎、香織、谷口さん、八重樫さんの九人だけですか」

「ねぇこれて何なの?」

「それは僕達の技能に関連しています」

「俺にもあるんだが?」

「……君にもあるんだな、全員適正率の%はどのくらいだ」

 

僕を含めた九人は80~90%程だったが、天之河君だけが46%だった。零斗はそれを聞くと少しだけ安堵した様な顔をした。

 

「わかったわありがとう……とりあえず天之河以外は私達と別の所で訓練するわよ」

「おい! なんで俺だけ除け者なんだ!」

「それは貴方の適正率の問題よ、それじゃね」

 

刀華さんはそれだけ言うと踵を返す様に天之河くんから視線を外した。

 

「メルド団長、この辺りに人が居らず高度の高い山はありますか?」

「あぁ、あるがここからはかなり遠いぞ」

「どのくらいですか?」

「あー大体北に98kmくらいだな」

 

零斗はメルドさんから地図を貰い、場所の確認をする。確認が終わり今度は訓練内容について話し始めた。

 

「私達はここに残って訓練して意味が無いでしょう……ですので素養のある彼らを連れて三ヶ月ほど山に篭もります」

 

零斗は具体的な訓練案を説明しながら話を進めて行く。メルドさんはそれを聴きながら、他の団員にメモを取らせて他のクラスメイトたちの訓練メニューを組み直していた。

 

メルドさんは零斗の提案を受け入れ、僕達の山篭りの許可を出してくれた。

 

「それでは皆さん移動しますよ」

「おい!待て話はまだ終わってないぞ!香織と雫を置いていけ!お前達には相応しくない!」

「君は一体何の話をしているんだ?白崎さん、八重樫さん行きましょう」

「香織!雫!行っては駄目だ!」

 

 天之河君なんであんなに叫んでいるんだろう?しかも置いて行けって、彼女達は物じゃないし相応しくないてどうゆう事? 

 

「ハジメ、置いて行きますよ」

「あ、今行く!」

 

 移動手段てどうするのかな?また馬車かな? 

 

「やぁ!待っていたよ!マスターくん!」

「ダ・ヴィンチ女史、お待たせしました」

「うんうん!待ちくたびれたよ!」

 

小学生程の子が零斗に抱き着いてグリグリと頭を擦り付けて始めた。零斗は困ったような笑みをしながら対応をする。

 

「すみませんね、面倒な奴に絡まれたので思ったより時間が掛かりまして」

「いいよいいよ! さぁ行こうか!」

 

グイグイと手を引きながら進んでいく二人の後を追っていく。

「零斗、移動手段てどうするの?」

「……あれです」

 

零斗が指を指した方をみると、大型の車?の様な物が猛スピードで此方に向かって来ていた。

 

「え!?何あれ?!」

「虚数潜航艇シャドウ・ボーダーと言う物です説明は後でします。さ、皆さん乗って下さい置いて行きますよ」

「さぁみんな乗った乗った! 席は早い者勝ちだよ〜!」

 

 本当にどうなるんだろう? 

 

 




どうしてこうなった(2回目)色々書きたい事書いたけどもうわかんねぇなこれ。えー適正率については次回触れます。最後に恭弥達のステータスを乗せて置きます。読まなくても大丈夫です。

============================

 佐野 恭弥(ヴォイド・ベルファス) 17歳 男 レベル:ERROR

 天職:略奪者・暗殺者・狙撃手・先導者
 適正率 100%


 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 技能:全事象耐性・衝撃波・魔具精製・威圧・瞬間移動・異空間収納・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・銃術・闘術・棍術・繰糸術・槍術・暗殺術・交渉術・自己再生・昇華魔法・召喚魔法(アンデッド)・全魔法適正・喰種化・V-Ⅳ型強化細胞・複合魔法・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・リミットオーバー・魔力操作・言語理解

 =============================

============================

 西園寺家 刀華(レイ・ファルファス) 18歳 女 レベル:ERROR

 天職:裁縫師・暗殺者・指導者
 適正率 100%


 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 技能:全事象耐性・衝撃波・威圧・瞬間移動・異空間収納・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・銃術・闘術・繰糸術・槍術・暗殺術・交渉術・自己再生・昇華魔法・召喚魔法(ビーストマン)・全魔法適正・喰種化・R-II型強化細胞・複合魔法・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・限界突破・魔力操作・言語理解

 =============================

============================

 西園寺 鏡花(ライ・ファルファス) 17歳 女 レベル:ERROR

天職:奏楽者・幻術師・暗殺者
 適正率 100%


 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 技能:全事象耐性・衝撃波・威圧・異空間収納・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・短剣術・銃術・闘術・繰糸術・演奏術・暗殺術・交渉術・自己再生・変成魔法・召喚魔法(ゴースト)・幻覚魔法(範囲拡大・質量調節)・全魔法適正・喰種化・L-Ⅱ型強化細胞・複合魔法・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・魔力操作・言語理解

 =============================

============================

 鹿乃 柊人(ノクト・ヘルフェス) 17歳 男 レベル:ERROR

 天職:怪盗・暗殺者
 適正率 100%


 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 技能:全事象耐性・衝撃波・威圧・瞬間移動・異空間収納・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・剣術・銃術・闘術・暗殺術・造影術・交渉術・自己再生・変成魔法・召喚魔法(ビースト)・全魔法適正・喰種化・N-Ⅰ型強化細胞・複合魔法・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・限界突破・魔力操作・言語理解

 =============================

============================

 藤野 悠花(ノイン・レアノス) 17歳 女 レベル:ERROR

 天職:闘士・暗殺者・精霊使い
 適正率 100%


 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 技能:全事象耐性・衝撃波・魔具精製・威圧・瞬間移動・異空間収納・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・盾術・銃術・闘術・槍術・暗殺術・交渉術・自己再生・昇華魔法・召喚魔法(精霊)・全魔法適正・喰種化・N-Ⅳ型強化細胞・複合魔法・剛力・金剛・縮地・先読・高速魔力回復・限界突破・魔力操作・言語理解

 =============================

こんな感じです


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訓練開始. . .ジャナイ!

評価が黄色になった自分
 _,,_
( ゜Д゜) ・・・

 _,,_
( ´ Д ⊂ ゴシゴシ

  _,,_
( ゜Д゜) ・・・マ?

評価してくれた方ありがとうございます!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よっと、ハァーイ零斗でございます」
「鏡花よ」
「柊人です、よろしくお願いします」
「前回はステータスと移動だったな」
「そうね」
「天之河の適正率低くないですか?」
I˙꒳˙)ヒョコ それは作者自身が天之河のことが嫌いだからよ。
「「「急に出てきたな」」」
理由はあの偽善者ぶりと自己中なとこだね、幼馴染のだから自分の傍にいて当たり前て理論は何処から出てくるだか。それに無責任すぎる。
「お、おう」
「まぁ、あいつの事は置いてといて今回は適正率に触れていくよ」

「それじゃ、行ってみる?」
「「ええ」」
「それじゃせーの!」
「「「「訓練開始と新たな力!行ってみよか!」」」」


 Side 零斗

 

 シャドウボーダーで移動を開始してからかなりの時間が経った、そろそろ目的地に着く時間だろう……

 

「マスターくん♪ 着いたよ!」

「ええ解りました、ほら皆さん早くしてください」

 

 と、噂をすれば何とやらだな……さて、訓練メニュー考えなさないとな三ヶ月以内に鍛え上げないといけないから相当ハードになりそうだな。

 

「ほぅ、なかなかいい環境ですね」

「マスターくん!」

「なんですか? ダ・ヴィンチ女史?」

「ここには私達しか居ないのだからいつも通りにしてもいいんじゃない?」

「それもそうだな、よしここに居る間は素でいいか」

 

 後ろの方でハジメ達が目をパチクリしていた。まぁ、そりゃ驚くよなー。学校では猫被ってたしな。

 

「ほら、置いて行くぞ」

 

 さて、まずは拠点造りからだな。とりあえずカルデアに似せて造るか. . . あーサーヴァント達とアイツらもこっちに呼ばなきゃな

 

「ダ・ヴィンチちゃん、こっちにサーヴァント達と幻影想鎧(ファントムメイル)達呼べないか?」

 

 あ、ちなみにファントムメイルは俺が前世でトップだった組織の名前ね。我ながら厨二チックな名前にしちまったな。おい、ハジメ笑い堪えてんの分かっるからな。おめぇ飯抜きな。

 

「うーん、呼べるけど今すぐには無理かな?」

「どのくらい掛かる?」

「ざっと、1週間かな」

「思ったより早いな、よしそれでいい伝えておいてくれ。あ、後これお土産」

「うん! わかったよ!」

 

 そう言ってダ・ヴィンチちゃんはハイリヒ王国に戻って行った。さて、やるとしますか。

 

「術式再構築、理論再構築開始. . .完了」

 

「零斗? 何やってるの?」

「ハジメくん、離れていた方がいいですよ」

「最悪巻き込まれるぞ」

「何に!?」

「いいから、早く離れな〜」

「わ、わかった」

 

「理論構築、再現開始」

 

 ●○●

 

 Side 恭弥

 

 始まったな、相変わらず凄まじいことをしているな。ハジメ達は. . .大丈夫そうだな、ん? なんだこの視線は? 

 

「ヴォイド、視線の主の対処を頼む」

「あぁ、わかった」

「くれぐれも()()()()()。ノクト、ライ、万が一に備えて警戒していてくれ」

「あぁ、了解した」

 

 レイトがそう矢継ぎ早に指示を飛ばした。(前世)の名前で呼ぶということは()()()()()()()()()()()。さて、頼まれたからには期待以上のことをしなければね。

 

 

 ●○●

 

 Side??? 

 

 上下左右の境界が分からなくなる程に広く続いている真っ白な空間にモニターらしき物を見ながら憤慨している。

 

「何なんだ!アイツらは!イレギュラーにも程があるぞ!」

 

 そう憤慨するのは中性的な顔立ちをした者だった。モニターらしき物には白銀の髪に左右非対称の色の瞳をした青年だった。

 

「ノイント!」

「は、ここに……エヒト様何かご命令でしょうか」

 

 ノイントと呼ばれた少女は修道女の様な格好をしていた。銀髪碧眼の神秘的な雰囲気の美女だが、無感情で機械的な瞳をしている。

 

「今すぐ奴らを始末してこい!」

「了解しました」

 

 ノイントは命令を聞き、青年の元に向かっていった。残ったエヒトと呼ばれた者は口に手を当てるようにして思案する。

 

「どうする?このままだと私の計画が潰えてしまう. . .だがどうする?どうこの事態に対処する?」

 

 んー……そろそろ動いた方がいいかな?

 

『協力してやろうか?』

「ッ!?誰だ!」

 

 エヒトは俺の声を聞いてか、即座に魔法陣を展開して攻撃してくる。まぁ、今の俺には実体が無いし攻撃はすり抜けるだけなんだけどね。

 

『俺か? 俺はただの残留意思さ』

 

 俺は無い腕をヒラヒラと振り、エヒトに喋りかける。

 

「ふん、実体を持たぬ貴様に何が出来るというのだ?」

『……そいつの情報を提供出来る……そう言ったらどうだ?』

「……さっさと協力しろ」

『へいへい』

 

 さて、これで計画が1歩進んだな。ここからが正念場だ。()()()早くしろよ。コイツを協力して殺るぞ。

 

 

 ●○●

 

 Side ハジメ

 

 目の前で零斗が詠唱? を始めたかと思うと目の前に白磁をした建造物が姿を表す。すごいなぁ、ってドウユウコト!? どうなってるんの!? 

 

「ふぅ、流石にこの規模の再現はキツいな」

 

 建造物が出来上がると零斗が疲れ切った顔で戻ってきた。

 

「おっと、すまんな八重樫」

「大丈夫よ、それより何あれ?」

「あぁ、あれかそれはまた後…………で……な……」

 

 そう言い切ると零斗が気を失った。その場で倒れる零斗を何とか受け止める。

 

「ちょっと! 零斗!?」

 

 声を掛けて起こそうとするが起きる気配は無く、穏やかに呼吸をする零斗だった。

 

 ●○●

 

 Side 恭弥

 

 さて、この辺りでいいかな? 

 

「そこにいるのでしょう? 出て来なさい」

「バレていましたか、まぁなんの問題もありませんが」

「女性ですか. . 」

 

 この女性只者じゃありませんね、あのイシュタル以上のオーラを感じますね。ん? この感じは? あぁ、()が帰ってきたのですか。今回も暗躍とは大変ですね。

 

「さて、ここで引き返すのなら見逃しますがどうしますか?」

「必要の無い事です」

「そうですか、ではおやすみなさいお嬢さん」

「!?」

 

 ふむ、もう少し骨があると思ったのですが期待ハズレでしたね。さて、後は警告をして終わりですね。

 

「この声が聴こえているのだったら1つ忠告です、これ以上何か私達に干渉する事があるのなら貴様を必ず殺す。肝に銘じておけ」

 

 これでいいでしょう。この子はどうしましょう? とりあえず運んで情報を吐かせるなりしましょうか。そろそろ零斗方も終わっている頃でしょう。ん? 何か零斗の方で何かが起こったようですね。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

「んー? あれいつの間に寝てたんだ? あーそうだわカルデア再現して気絶したんだったわ、とりあえず起きるか」

 

 ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。どのくらい寝てたんだ?時計がねぇから確認が出来ないな……後で作らねぇとな。とりあえずは部屋から出るか。

 

「あ、零斗起きたんだ」

「おう、ハジメか……と、恭弥か」

「零斗、丁度いい所に」

 

 部屋から出ると、バッタリとハジメに会った。そして、その後ろから恭弥が見知らぬ少女を引きずっていた。

 

「……どうしたんだ?その子は?」

「君がカルデアを再現している間にこの子を捕まえたんだがどうする?」

 

 そう言って恭弥が鎖で縛った天使?を見せた。何処か機械的でまるで生きている様には感じられない。じっくりと観察していると、瞼がぴくりと動いた……どうやら目が覚めた様だった。

 

「ん?ここは?」

「お!目が覚めたかいお嬢ちゃん」

「!?イレギュラー!!」

「おっと、こらこら暴れないの」

 

 目覚めた少女は起きるやいないや、俺に向かって拳を振り上げてきた。それを背後からやって来た柊人に止められ、更には殺気までぶつけられ縮こまっている。

 

「ヒッ」

「あまり調子に乗るなよ天使モドキが」

「抑えろ柊人」

「すまない……取り乱した」

 

 柊人は掴んでいた腕を離す。少女はその場にへたりこんでしまった。とりあえずはしゃがみこんで目線を合わせる。

 

「いや大丈夫だ、さて嬢ちゃん君が知っている情報と誰が君の創造主なのか教えて貰おうか」

「あなた達に話すことなどありません」

「そうかい、んじゃ拷問やな」

「ちょ!?零斗!?何言って!」

 

 隣に居たハジメが俺の肩を掴んで前後に揺らし始めた。嗚呼^~脳がシェイクされるんじゃぁ^~……とりあえずはハジメの拘束を解いて少女を担ぐ。

 

「さて、じゃ拷問部屋まで行こうか」

「離しなさい!イレギュラー!」

「嫌ですー……あ、柊人みんなに『夕食はもうちょい待ってくれ』って伝えといてー」

「了解」

 

 さて、天使モドキをドナドナしまして、現在カルデア内にある尋問室にいる。そして、天使モドキを拘束椅子に座らせて、手足を縛る。

 

「始めるとしよう、まず1つ目、君の名前は?」

「……」

「だんまりか、んじゃ1本目行ってみよか!」

「!? 何をして!」

「こらこら、暴れないの」

 

 ガタガタと動き、抵抗する少女を押さえ付けて腕に注射を打つ。すると、直ぐさま効果が現れ始める。

 

「!? これにゃに?」

「これかい? これは感度が倍増する薬と惚れ薬と媚薬の混合物みたいなもの」

「にゃんてものをちゅうしゃしゅて」

「ほらほらー早く吐いた方が楽になるよ?あ、ちなみに君が私の質問に答えないと1本づつ薬注射していくからね!」

「あにゃたにこたえることなさにゃど!」

 

 涙目になりながらも、こちらをキッと睨んでくる少女。うーん、一本じゃ足りないか……じゃあ、もう少し濃度の濃いヤツ打っても大丈夫か。

 

「あらあらもう呂律が回ってないねー、んじゃ2つ目、君を差し向けて来た人物の名前は?」

「フゥー!フゥー!」

「おぉ怖い怖い(笑)そんなに睨まなくてもいいじゃんか、まぁいいや2本目ね」プスッ

「ふきゅ!しゃきよりかんどが!」

「あ、ちなみに感度は倍増していくらねー。今は6倍くらいかな?さっどんどん行ってみよー」

「にゃんどでもいいますあにゃたにこたえることなどにゃい!」

「フーン、その余裕が何時まで持つかな?見ものだね」

 

 ────────────1時間後────────────

 

「フゥー! フゥー!」

「顔真っ赤にしちゃて、誘ってんの?」

「さしょてにゃどいましぇん!」

「あらあらそんな顔しちゃてもっとイジメたくなちゃうじゃないか」

「フゥー! フゥー!」

 

 周りには多量の空の注射器が散乱している、感度も3000倍くらいになっている、この子を縛り付けてある椅子の周りもビシャビシャになってるし、顔だって涙なんかでグチャグチャになってる。

 

「ねぇそろそろ吐いたら? 君は情報を言うだけでいいんだよ? それでこの地獄からは解放、ね?簡単でしょほら何か言ったら?」

「わたしはにゃにもはかにゃじょ!」

「あっそ、じゃいいやまた明日ねー」

「え?」

 

 俺は散乱した注射器を回収して、部屋の扉に手を掛ける。背後からは絶望に染まった声がする。

 

「ん? どうしたの? あ! もしかして『このまま放置して行くのか』て思ってる? そりゃそうでしょ何も情報吐かないんじゃ拷問しても意味ないじゃん、何? それとももっとして欲しかったの? 君ってドMなんだね!」

「ち、ちがう!」

「そ、じゃまた明日ねー」

「まっれ!」

 

 その声を無視して俺は部屋を出た。さーてこりゃあ明日どうなってるかな?ちょっと楽しみだな。今の時間は……8時くらいかこの時間ならまだハイリヒ王国に戻っても大丈夫だな。走って行けば間に合うね。

 

「お!ハジメいい所に!」

「ん?零斗?拷問終わったの?」

「んや、まだ初期段階」

「え!?あれだけ時間掛けて?」

「なかなか手強いからね時間掛けてやらないと」

 

 部屋から出たタイミングでハジメと会う。大きなダンボールを抱えながら、移動していた。

 

「ちなみにどんなことやったの?」

「え、気になるの?」

「うん」

「まぁいいけど、質問して行って答えなかったら感度上昇薬と惚れ薬、媚薬の混合物を注射するこれの繰り返し」

「そんなことしてたの!?」

「え?そうだけど?」

 

 ハジメは若干顔を赤くしながら、詰め寄ってくる。これだからチェリーボーイは……

 

「これが1番効率的なんだもん。人間の欲求の内でもかなり強力なものを刺激しただけなんだけど?」

「それはそうだけど! やり方がやばいよ!」

「まぁ明日には堕ちてるだろうねー、とりあえず俺は夕食の材料調達してくるから」

 

 その場を離れてカルデアの外に出る。

 

「おぉ……星めっちゃ綺麗やな」

 

 夜空には大きな月とたくさんの星があった。めっさ綺麗よ、地球とは比べ物にならないくらい。

 

「こりゃ外で食べるのもいいな」

 

 今夜の夕食のメニューを考えながらハイリヒ王国に向かい走ていく。20分程でハイリヒ王国に着いた、まあまあ時間掛かったなやっぱ鈍ってんなぁー鍛え直さないとなぁ〜。とりあえずさっさと材料買って戻っか。

 

 ────────────────────────────

 

 うっし、買い終わったな。だいぶ買い込んだなー. . . そういや技能に異空間収納てあったな使ってみるか。えーと? どうすんだ?技能をタップしてみると『オープンと言えば開く、特定の物を取り出し時はその物の名前を言うと取り出せる。中の物は入れた瞬間から時が止まる』と表示された

 

「あーえっと、オープン? 『ドッウン』うぉ!」

 

 目の前に黒いモヤが出現した。これでいいのか? とりあえず入れてみるか。んで取り出したい時は物の名前を言えばいいのか。

 

「オープン『小麦粉』トッス、本当に出てきたな便利やなこれ」

 

 うーんかなり便利やなこれ。デート中の荷物とか買ったものとか全部これに入れればほぼ手ぶらで行けるわけか。最高やな!

 

 ─────────────────────

 

 カルデアに戻ると、何やら騒がしくなっていた。声がする方に向かうとレクリエーションルームでスマ〇ラ大会が行われていた。なんでぇ?

 

「……ゲームは一日二時間までだからな、キリがいいところまでやったら打ち切れよ」

「えぇー?もうちょっとだk「デザートは一人分だけ無くてもいいな」ごめんなさい!」

 

 谷口が何か文句を言い掛けていたが、笑いかけながらそう言うと土下座をしながら謝ってきた。

 

「あと30分くらいで飯作るから、それまでに終わらせろよ」

 

 それだけ言い、レクリエーションルームを出て食堂の厨房に向かう。買ってきた食材を取り出して、メニューを考える。

 

「……何か手伝える事はある?」

「言ってくれれば出来る限り力になるよ!」

「園部に白崎か……じゃあ、白崎は野菜の下処理を頼む。園部は俺と一緒にメインの仕込みをやる」

 

 白崎と園部はパタパタと忙しなく動き始める。見た感じは地球の物とそこまで違いは無いな……これなら問題なく料理出来そうだな。

 

 ────────────────────

 

 二人の協力もあり、予想以上に早く夕食が完成した。それぞれ完成した物を盛り付けて、テーブルに並べて全員揃っての夕食をする。

 

「ん、この玉子焼き凄く美味しいね」

「ホントに!?上手く出来て良かったよ……」

 

 ハジメは綺麗に巻かれた玉子焼きに舌つずみを打つ。その様子に白崎がホッとした様だった。何せ自分が悪戦苦闘しながら作った物を美味しいと言って貰えたのだから、そりゃ嬉しいに決まっている。

 

「そうそう、こっちの吹き寄せご飯も美味しいよ!」

「う、うん……ありがとう……」

 

 白崎は箸をずいっとハジメの口元まで寄せる。ハジメは少し照れながらもパクリと一思いに行った。うーむ、初々しいね!

 

「零斗、はい……あーん」

「あむ……上手に焼けているな、白崎。火入れも丁度良いし、形も綺麗に出来るな」

 

 刀華が何気なく箸を差し出しきたが躊躇すること無く受け入れる。教えながらやったとは言え、初めてにしてはかなり上手だな。

 

 そんなこんなで食事も終わり、全員がゆっくりとしていた時だった。

 

「そういえばれいれい、結局適正率って結局なんなの?」

 

 谷口が悠花の頬をむにむにしながら聞いてきた。何してん?というか、出来立ての餅に柔らかさしてんな……

 

「あーまぁ今でいいか」

「そうよ隠しておいても意味ないし明日からの訓練にも関係あるし」

「そうだな説明しておいた方が良さそうだな」

 

 自由にしていたメンバーを集めて、説明を始める。まぁ、夜も遅いし、簡単な説明だけにしておく。

 

「俺らの技能に○- ○型強化細胞ってあるだろ?これが関係してる、んで適正率はこの強化細胞に関係してる物だ」

「強化細胞にも種類があるんだけど……それについての詳しい説明はまた明日ね」

「適正率が高ければ高いほど能力強化が大きくなりますがその分制御するのが難しくなります」

 

 時計を見るともう11時前だった。明日は朝早くから動かなきゃならいのでさっさと寝たい。

 

「適正率に種類に関しての詳しい説明は明日する……今日はもう寝るぞ」

 

 

 

 

 




今回はこんな感じです。ノイントの拷問後のR18版とか入ります?アンケート貼っておきます。


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今度こそ訓練開始!

「よっと、はーい (・ω・)ノ*。.・°*零斗だよー」
「鈴仙・優曇華院・イナバですよろしくお願いします!」
「魂魄妖夢と申します以後お見知り置きを」

「前回は確か適正率についてとノイントちゃんの拷問だったな」
「「ええ、そうね(ですね)」」
「え?もしかして怒ってる?」
「「そんなことないよ(ありませんよ)?」」
「そ、そっか」
「今回は南雲くん達の訓練開始です」

「それじゃ、行ってみる?」
「ええ!」
「それじゃ、せーの!」


「「「訓練開始と適性!」」」


 Side 零斗

 

「ふゎーよく寝たな、いまは何時だ?」

 

 時計を見ると6時を指していた。うんいい時間に起きたな。

 

「この時間だとアイツらまだ寝てるな……朝食の作っておくか、今日の午後からは訓練開始だな」

 

 さて、朝食のメニューは……昨日の余り物再利用すればいいか、そうと決まれば準備するか。さっさと着替えて行かねぇと全員起きちまうな。あ、ハジメの分は普通のパンでいいか、甘味抜きにしたしな。

 

 ─────────────────────────────

 

 さて、食堂に着いた訳だが……ん?誰か居るな、盗み食いか? そりゃ大変だな、やったやつは今夜の夕食のメニュー1品減らさなきゃだなー。

 

「そこに居るのはダレェ?」

「ひぅ!?れ、零斗……もう、驚かさないでよ」

 

キッチンには園部が居た。手元を見ると、作りかけの朝食があった。どうやら先を越された様だった。

 

「何か手伝う事は?」

「んー……あ、これの味見してくれる?」

「おう…ん、いい塩味だな」

 

 そんな他愛のない話をしながら全員分の朝食を作っていると続々とメンバーが集まって来た。

 

「おはよう、そら朝食は出来てるからゆっくり食べな」

「はーい!」

 

そんなこんなで騒がしい食事が始まった。

 

 ●○●

 

 Side ハジメ

 

「んー?もう朝か……」

 

 今何時だろう?6時30分か……早く起きすぎちゃったなぁ。とりあえず食堂に行ってみよう。

 

 

「──────」

「──────────────」

 

 ん?誰かいる、あれは? 

 

「ん、いい塩味ですね」

「そっか……なら、これはそのまま出しても大丈夫ね」

 

 園部さんに零斗だ……何かいい雰囲気だな熟年夫婦みたいな安心感があるね。

 

「おはよう、ハジメくん」

「あ、おはよう白崎さん」

「?なんで食堂覗いてるの?」

 

白崎さんは扉の影からこっそりと顔を出して、食堂を覗いた。零斗達の姿を見て、納得したような表情になった。

 

「これはちょっと……入りずらいね。それに折角の二人っきりの時間だし邪魔しちゃったら駄目だよね」

「うん、そうだね」

「園部さん、ずっと零斗くんの事好きみたいだったし……こっちに来てからアプローチする決心をしたみたいなんだよね」

 

 そうだったんだ……でも零斗自身はどうなんだろう?僕は零斗の浮ついた話は刀華さん関連でしか聞いた事なかったからなぁ……

 

「零斗くんも園部さんの好意には気づていてるけどどう対処すればいいのか悩んでたみたい」

「零斗ってそうゆうとこあるよね」

「フフ♪そうだね」

 

 白崎さんと話していると遠藤くん達が集まって来た。

 

「おはよ〜……」

「どうして食堂覗いて……ふーんそう言うことか」

 

 清水くんがそう言いながら食堂をチラッと見た。それに続いて刀華さんや鈴仙さん達も食堂の中を覗き始めた。

 

「ねぇ、刀華さん。あの子が言っていた子なの?」

「えぇ、あの子も私達の様に零斗に惚れた人間よ」

「……可愛い子ですね」

 

鈴仙さんが園部さんの事を指差しながら刀華さんに話しかける。それに混じる様に魂魄さんが軽く微笑む。

 

「あの子も同盟入りさせちゃいます?」

「それも良いかもしれないですね……暇な時に誘ってみましょうか」

 

同盟ってなに?そんなものがあるの?地球じゃ、密かにファンクラブが設立されてたけどこっちに来ても零斗の知らない所で良く分からない物が設立されてるの?ワケガワカラナイヨ……

 

「……っと、そろそろ入りましょうか」

「ええ、そうね」

 

 鈴仙さんがそう言ったのでその場に居た皆が揃って食堂に入った。零斗はこちらに気が付くと笑いかけながら朝食の準備をしてくれた。

 

「おはよう、そら朝食は出来てるからゆっくり食べな」

「はーい!」

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

 ふぅ、朝食も食べ終わったし全員この場に居るし話しておくか. . .

 

「全員居るな、3つ連絡事項がある。1つ目は今日の午後から訓練を始めるからなその準備をしておくように、2つ目1週間後にサーヴァント達と組織のメンバーがこっちに来ることになっている彼らには訓練の協力して貰う、3つ目は君たちには俺達と同じように強化細胞を移植する予定だ」

 

強化細胞の移植と言った瞬間に、柊人と恭弥から鋭い視線が向けられた。コーヒーを飲んでいた恭弥はコーヒーの入ったカップを置くと、険しい顔をしながら喋り掛けてきた。

 

「零斗、それは本気で言っているのか?」

「……あぁ、本気だ」

「成功する保証は?」

「五分五分だ」

「そうか……かなり厳しい事になりそうだな」

 

恭弥は眉間に皺を寄せ、柊人は此方をジッと見続けている。

 

「ちょっと待て、れいれい!その強化細胞?を移植するてどうゆう事!?」

 

谷口が囃し立てる様に話し掛けてくる。それをなだめてから話を続ける。

 

「昨日適正率については説明しただろう?その続きを今から話す、まず適正率と言っても細胞自体の相性もある。相性が良ければ能力の上がり幅は大きくなる、だけど逆に相性が低いと最悪死ぬかもしれない更に相性が良くても使い方を間違えれば重症になる可能性がある」

「待って! それを俺達に移植するのか!?」

「あぁ、その予定だ。だが心配するな少なくとも適正率が70%以上あれば死ぬことは無いし相性も事前に確認する事もできる」

 

 適正率が低いと体が弾け飛ぶし、相性が悪ければ軽くて四肢が欠損だからな……流石に事前に確認するわ。

 

「五分五分て言うのはどうゆう事だ?」

「身体に馴染むかだな。馴染まなかったら、能力の上がり幅が普通より下がるくらいだ、大体4割程になる。余程の事がない限りそうはならんけどな……強化細胞を移植するかの最終決定はお前達に任せる。お前達は……どうする?」

 

席から立ち上がり、ハジメ達を見る。全員急な選択の提示に困惑していた。だが、ハジメだけは直ぐさま立ち上がり俺の方を見た。

 

「僕は……移植するよ」

「……ほんとに良いんだな?後戻りは出来ないぞ?もう、二度と普通の生活は送れないし、最悪の場合化け物に成り下がる事になるぞ?」

 

 そう言って俺達は技能の喰種化とそれぞれの強化細胞を使用して姿を変える。俺は背中に蝙蝠のような翼が生え、身体は2回り程大きくなり全身は黒く鎧のような外骨格に覆われた姿になる。(イメージはwarframeのNIDUSの全身を黒くして翼を付けた感じ)恭弥は俺と同じような外骨格で覆われていが色は暗い赤で身体は俺よりかは小さい、俺と違いシュとした姿だ。(イメージはwarframeのFROSTを赤くした感じ)柊人は俺と恭弥とは違い全身は青白く発光し、軽装で腰の辺りには4対の触手のようなものが生えている。(イメージは首から下はDESTINYのケイド6で顔はハンター、触手は東京喰種の覚醒した金木くんの赫者を生やした感じ)刀華は全身白く細いが周囲には冷気が発生している、外装は薄くローブのような物だ。(イメージはwarframeのWISP)鏡花はかなりの軽装でのっぺりとしている色は薄い紫だ。(イメージはwarframeのEMBERの紫版)悠花は俺達の中で1番デカいかなりの重装で全身は淡い黄色だ。(イメージは転○ラでレイヒムが召喚した上位精霊)

 

『こんな姿にはなりたくはないだろう?』

 

 そう全員に問い掛ける……誰も何も言えずにいた。そりゃそうだよなこんな醜い姿にはなりたくないよな……

 

 

ーーーーかっこいい……

 

『え?』

 

 え?かっこいい?この姿が? 

 

「ねぇ零斗なんで早く見せてくれなかったの!?これならゲームのビジュアルとかの参考になったのに!」

『え?あぁ、ごめん?』

「「むしろかっこいいぞ!ロマンがあって!」」

『そ、そうか』

 

 ちょっと反応に困るな……こんな姿がかっこいいとか初めて言われたな……ちょっと泣きそうだな。

 

「零斗」

「ハジメ?」

「僕達は君達の姿を見ても拒絶しないし、怖がりもしない。それに君達が大切な親友だから尚更だよ!」

 

 そんなハジメの言葉に俺達は救われた気持ちがした。あぁよかったこんな姿を見ても俺達を親友と思ってくれるのか. . .

 

「え、ちょ!泣いてるの?!」

 

 自分の頬に温かい物が伝うのが解る、泣いたのなんて随分と久しぶりだな。

 

「ごめんなさいねこの姿を認めてくれたのが嬉しくて」

「前世では救った筈の人達にこの姿を見たら『アイツらと同じ化け物だ!』と言って迫害されることもあったからね」

「そっか…そんな事が……」

「ハジメ、改めて聞くぞこんな姿になるかもしれないそれでもいいんだな?」

「うん、大丈夫!」

「そう…か……他の皆さんはどうする?無理強いはしないが……」

 

頬を伝ったいた物を手で拭い、白崎達の方を見る。その場にいた全員、確りとした目で俺達を見ている。迷いは無く、実直で真っ直ぐな目だった。

 

「……全員、移植するのね……分かったわ」

「移植は訓練を開始してからしばらくしてからにしようか」

「そうねまずは体をしっかりと造るとこからね」

 

柊人達と目を合わせながら、軽く意見を話し合い当面の目標を決める。

 

「移植は大体1ヶ月後と想定して訓練をするか」

「かなりハードな訓練になりそうだな」

「そうだな、急ピッチで仕上げなきゃだしな能力の制御と練度も上げないとだし」

「訓練は何時位からやるの?」

「午後二時くらいだな、それまでに準備しておいてくれ……それじゃ解散!」

 

 さて、拷問の続きしないとな……今日で堕ちるかな? それとも明日かな?まだ時間はあるじっくりと進めるとしよう……

 

 

 ────────────────────────────

 

拷問室の扉を開けて、中へ入る。椅子に縛られた少女の周りには大きな水溜まりが出来ていた。

 

「やぁ、嬢ちゃん調子は如何かな?」

「……最悪です」

 

 そう言って彼女は俺を睨めつける。顔にはかなりの疲労が見える。さぁて、今日も張り切ってやって行くか!

 

「ほーん、そりゃよかったよ呂律も大分マシになったなんじゃん、さて今日もやって行こうか! あ、後昨日上がった感度はそのままだからねー」

「!?そ、そんな!」

「ンー? 何? 効果は昨日だけだと思ったの? 残念でした(笑)んじゃ始めようか、まずは君の名前は?」

「……」

 

相も変わらず、黙りこくる天使モドキ。うーむ、時間があるとは言ったものの……コイツに割ける時間は出来るだけ減らしておきたいんだよなぁ……まぁ、とりあえずは

「今日最初の1本行ってみよか!」

「ヒッ!や、やめ!(プスッ)ふぎゅ!」

「さあ、どんどん行ってみよう!2問目君の依頼主は?」

「フゥー!フゥー!」

 

息を荒らげ、殺意の籠った目をする天使モドキ。質問に答える気配は無く、敵意を剥き出しにし威嚇してきている。

 

「そ、じゃ2本目」

「んぎぃ!」

「ありゃ? もうイッちゃたか?」

も…う……やめ…て

「ん? なんて?」

「やめて…ください……お願いします………」

 

あらら、思ったよりも速かったな……ほぼ即落ち二コマみたいな展開じゃん。まぁ、こっちとしてはありがたいんだけど……

 

「なんで?」

「え?」

 

手を掛けさせられた上に、ちょいと加虐心がくすぐられる顔をし始めたし、もうちょっとだけ虐めても良いよな?

 

「なんで辞めなきゃいけないの?やめて欲しいならそれ相応の対価を払わなきゃいけないだろ?」

「ぜ…ぶ……な…し………す……」

「ん? もっと大きな声で言いなよ」

「ッ! 全部話します! だからもう許してください! 」

「だ・め❤」

「なんで!」

 

 おっと、ここから先はR指定だぞ❤見たきゃR18版あるからそっち読んできな。

 

 ノイントを堕とした後に最初の目標であるノイントの創造主の情報とこの世界の情報を手に入れた。思ったよりクソみてぇな現状だな……こりゃ早めに解決しねぇととんでもない事になるな。

 

「ノイント、こちら側に来るか?」

「はい❤ご主人様❤❤」

「可愛いなお前」

「か!可愛いなんて!」

 

顔を赤くして、腰をくねらせるノイント。堕ちた影響なのか、感情の起伏がかなり激しくなっている。並の人間くらいの感情はあるみたいだった。

 

「フフ、どうしたのですか?」

「…イエナ……ンデモナイデス」

「??……そうですか」

 

小首をかしげながら、椅子に座り直すノイント。所作の一つ一つは無駄が無く洗練されている……というか、洗練され過ぎていてかなり機械的な動きに感じられる。

 

「あとそのご主人様って何?」

「貴方のことですよ?」

「あーそうかでもご主人様はやめてくれ」

「ではマスターとお呼びみます」

「あぁ、そうしてくれると有難い」

「わかりました!」

 

向日葵の様な明るい笑みをしながら、返答をしてくる。いきなり変わりすぎじゃない?感情の抑圧でもされてたの?変わりようが凄すぎて若干怖いんだけど?

 

「ノイント1つ頼んでもいいか?」

「? なんでしょう」

「君の創造主の所で2重スパイをしてくれ」

「はい!それくらいの事でしたら!」

「そうか、じゃあ頼むよノイント」

「お任せ下さい!」

 

 とりあえずは情報を共有してねぇとな。今何時くらいだ? 1時半か丁度いいな昼食と訓練の用意するか. . . そういやノイントて飯食うのか?聞いてみるか。

 

「ノイント」

「はい、なんでしょうか?」

「君は食事とか取れる?」

「?食事とは?」

「え?」

「え?」

 

 ……まじか、食事すら知らんとはこれは相当ブラックな環境だったな。私はこの子にいっぱい食べさせて幸せにする事を強いられているんだ! 

 

「あーわかった、これからは俺達と一緒に食事しよう」

「はい!」

 

 本当に可愛いなこの子!無邪気でなんと言うか子供っぽいな、母性とか庇護欲を掻き立てられる。

 

「そうだ、俺の親友のハジメ達に訓練してくれないか?」

「わかりました! このノイント必ずや成功させて見せます!」

「お、おう頑張ってな」

「はい!」

 

 ●○●

 

 Side ハジメ

 

「よし、準備終わった」

 

 零斗と解散してから少しして自分の部屋に戻って訓練用の服装に着替えて、支給された武器も身に付けてこれで準備完了! 

 

「今の時間は? 1時40分かそろそろ集合時間だし移動しなきゃ」

 

 集合場所は確かシュミレーター室? てとこだったね。急がなきゃ! 

 

「あ! ハジメくん!」

「あ、白崎さん!」

「ハジメくんもシュミレーター室に向かうとこ?」

「うんそうだよ」

「よかった〜雫ちゃん先に行ってるみたいで迷いそうだったんだ」

「そっか!じゃあ2人で一緒に行かない?」

「!!いいの!?」

「う、うん勿論だよ」

「やった!」

 

 白崎さんと軽い雑談をしながら、シュミレーター室に向かう。

 

「ここみたいだね」

「お! 来た来た遅いぞハジメ、白崎」

「皆もう来てたんだ!」

 

 シュミレーター室内には僕と白崎さん以外の全員が居た、皆早くない?

 

「よし、全員集まったな、んじゃ紹介しよう! こちらノイントちゃんです、エヒト神の使徒で敵だった人です」

「え?敵?」

「あ、勿論もうこっち側の一員だけどネ!」

 

零斗の隣でニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべて居るノイントさん。刀華さんはノイントさんの頭を撫でながら話し始めた。

 

「しばらくの間はノイントちゃんと一緒に訓練する事になるわ。先ずは基本的な身体作りを中心にしていくわ」

「それが終われば、本格的な戦闘訓練を始める。形体としてはそれぞれの得意分野を伸ばす形で行う。俺が剣術と銃術、恭弥が槍術、刀華が暗器術、鏡華が操糸術、柊人が短剣術、悠花が闘術を教える」

 

零斗の言葉で全員の雰囲気が堅いものに変わった。実戦形式で教えてくれるみたいだけど……ちょっと不安だな……

 

「あと、この世界に常識や歴史に座学もあるから……覚悟しておけよ?」

「えぇ?こっちに来ても勉強するのぉ?」

「当たり前だ、地球の常識はこっちの非常識って事も有り得るからな……そこの辺りを頭に入れなきゃ、面倒事が増えるだけだ」

 

座学か……地球に居た頃は零斗達のお陰であんまり苦労した憶えはあんまり無いけど、一から勉強するとなると大変そうだなぁ……

 

「とりあえずは今日は全員の体力チェックをする……最初は持久力のテストだ」

 

零斗はそう言って全員をカルデアの外に出した。そして、山の方を指差しながら言った。

 

「山頂まで全力疾走してくれ」

「えぇ!?かなり高いよ!?」

「傾斜はそこまで無いから問題ない」

「それはそうだけど……どのくらい走ればいいの?」

 

軽くストレッチをしながら話を聞く。そこで零斗はにっこりと寒気のする笑顔を浮かべた。

 

「倒れるまでだ」

『へ?』

 

全員の間の抜けた声がした。零斗は爽やかな笑顔のまま、山の方をずっと指差ししている。

 

「倒れるまで走って来い……それが出来なきゃ一生次のステップに進めないぞ?」

 

それを聞いた瞬間に全員が一斉に走り出した。あの笑顔はマジだ……絶対に逃がさないという意思が感じられた。

 

 




構成考えるのムズスギィ!ノイントの拷問のR18版が出来たのでリンク貼って起きます。https://syosetu.org/?mode=write_novel_submit_view&nid=262121


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移植と変化

「よっと、はーい( ・ω・)ノお馴染みの零斗でーす」
「初めまして!藤野悠花って言います!よろしくお願いします!!」
「やぁやぁ!私はレオナルド・ダ・ヴィンチだ!よろく頼むよ!」
「前回は南雲君達の訓練開始だったね!」
「流石にスパルタ過ぎないかい?」
「スパルタにしなきゃ期間内に能力を身に付けて制御までが出来ないんでね」
「今回はサーヴァント達と組織の人達と合流と強化細胞の移植だよ!」

「それじゃ、行ってみる?」
「「うん!」」


「「「移植と変化!!」」」


I˙꒳˙)ヒョコ どうも作者です、ここから先の話ですがかなりの進みが早いです。ご了承くださいm(*_ _)m早めに原作に移らないとなのでね。それでは改めてどうぞお楽しみ下さい。


 Side 三人称

 

 トータスに零斗達が召喚されてから一週間が経った。ハジメ達の訓練も順調に進み、本格的な戦闘訓練が始まっていた。そして、ハイリヒ王国に残っていたサーヴァントや組織のメンバー達は全員、零斗の元に向かっていた。

 

本当なら直ぐさま零斗について行きたかったのだが、賢王の方のギルガメッシュから『やるべき事をやってから行動しろ』と注意されてしまった為、少々行動が遅れてしまったのである。だが、それも今日までの話……やるべき事も終わり、重要な執務の引き継ぎも完了したため自由の身となったサーヴァント一行は矢継ぎ早に零斗の元に向かった。

 

 ─────────────────────────────

 

サーヴァント一行が目的地に着いた際に全員が驚いた。何故なら眼前にある白磁の巨大な建造物……フィニス・カルデアがあった。たった一週間で再現出来る物ではない……ただ一人を覗いてはーーー

 

「お、来た来た……皆、おひさ〜」

 

カルデアの入口付近に立っていた零斗はサーヴァント達の存在に気が付くと、手を振りながら駆け寄って来た。集団の後ろの方で溶岩水泳部を筆頭としたマスターLOVE勢が騒ぎ始めた。

 

「ようやく来たな……改めて、久しぶりだな皆」

「お久しぶりです!先輩!」

 

零斗は朗らかに笑いながら、私達の事を見渡してきた。全員の代表としてマシュが零斗の手を取りながら話し始めた。

 

「先輩…後ろのカルデアは先輩が……?」

「あぁ、かなり苦労したけど何とかな……まぁ、その辺はおいおい話すさ、とりあえず今は中に入ろう」

 

零斗はマシュの手を引きながら、カルデアの中に入って行く。その後ろにサーヴァント一行がぞろぞろとついていく。

 

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

サーヴァント達を一先ずは食堂まで案内し、自主訓練をしていたハジメ達も呼んで顔合わせをする。顔合わせも済んだ所でノイントから聞いた情報伝えておくか。

 

「全員、今から話す事を良く覚えておいてくれ……今から話すのはこの世界のことに関してだ」

 

俺が話し始めると、全員の表情が強ばる。俺は脳内でノイントから聞いた話を整理しながら話す。

 

「まず俺達をこの世界に召喚したエヒト神だが此奴ははっきり言って屑だ。神を自称しているが所詮は神代の生き残りで死に損ないだ。こいつはこのトータスをボードゲームの盤上に見立てゲームをしている。だがそれに飽きてきたらしく新たな刺激を求めて俺達を召喚、そして新たなステージに地球を選んだらしく世界間の移動には肉体が必要だが肉体どころか実体すらない精神体だから依代の捜索も兼ねていたらしい。ここまでがノイントから聞いた情報だ」

「うーん、思ったよりも最悪な状況だね。ちなみにその依代は見つかったのかい?」

「依代の候補があるらしくそれには俺と天之河、刀華、あとアレーティア?って子だ……今の所確認出来ているのは以上の四名だ」

「私も入っているのね…… 」

「まぁ、俺と刀華の方は対策できる」

 

 精神体でただの神代の生き残り風情が俺達の身体を奪えるわけがないんだよなぁ……天之河辺りが問題だが最悪アイツは殺せばいいしな。

 

「この世界の事に関してはこんな感じだ、あとハジメ達に連絡だそろそろ強化細胞の移植をする……その前に相性の確認をするから着いて来てくれ」

 

─────────────────────────────

 

カルデア内の大部屋にハジメ達を呼び、軽い雑談をしてから本題に入る。

 

「よっしと、じゃあ相性の確認するか」

「僕らはどうすればいい?」

 

ハジメが不思議そうに聞いてくる。俺の周りには空の注射器に綺麗に洗浄されたフラスコ、そして容器に入った赤黒い液体が六つだけだった。

 

「お前から取った血液と俺達の血液を混ぜて、その反応から判断するんだ」

「最初は採血からよ……さ、こっちに順番に並んで」

 

 全員分の採血が終わり相性の確認作業に移行する。フラスコの中に容器内に入っていた俺ら六人の血を入れる。

 

「んじゃまずはR-Ⅰ型からだな」

 

 一つ目のフラスコに全員の血液を一滴ずつ入れていく……入れた瞬間にフラスコ内の血液の一部が黒い結晶に変わった。より多くの血液が結晶化したのは……ハジメ、幸利、浩介の三人だった。

 

「……次はR-Ⅱ型だな」

 

 二つ目のフラスコにまた全員の血液を入れていく。フラスコ内の血液がゆっくりと凍りつき始めたかと思えば、バチバチとスパークし始めたり、発火し始めたりする。変化が長く、激しくなっていたのは恵理だった。

 

「次はV-Ⅳ型だな」

 

 三つ目のフラスコに全員の血液を入れる。フラスコ内の血液が急激に振動し始め、フラスコにヒビが入った。振動が激しく、フラスコが割れてしまった……入れた血液は龍太郎の物だった。

 

「次はN-Ⅰ型」

 

 四つ目のフラスコに全員の血液を入れる。フラスコ内の血液は赤黒いものだったが白く変色した。かと思えば変色した一部の血液が透明になってしまった。完全に透明になった物は雫の物だった。

 

「お次はN-Ⅳ型」

 

 五つ目のフラスコに全員の血液を入れる。フラスコ内の血液が一瞬凝固し、膨張を始めた。二つのフラスコの血液だけ膨張を続き、遂にはフラスコを内側から粉砕してしまった。粉砕してしまった物は谷口と園部の物だった。

 

「最後、L-Ⅱ型」

 

六つ目のフラスコに全員の血液を入れる。フラスコ内の血液の水面がゆっくりとを揺らめき始めた。それは次第に大きくなり、あり一つのフラスコは血液が零れてしまう程に揺れ動いていた。それは白崎の物だった。

 

「よし終わったな、じゃ明日からの訓練はハジメ、清水、遠藤が俺と一緒に、中村が刀華と、龍太郎は恭弥と、八重樫と谷口、園部は柊人と悠花の合同で、白崎は鏡花とマンツーマン形式で行う。後移植の準備も進めていくからな移植の予定はもう少し先だがなそんじゃ今日の訓練は休みだ!ゆっくり休めよー」

 

 

 ──────────約1ヶ月後─────────────

 

 

 今日はハジメ達に強化細胞を移植する日だ。と言っても相性のよかった者の血を呑むだけで終わりだけどネ! 

 

「全員揃ってるな、それじゃ今から強化細胞を移植するからな心の準備はOK?」

 

全員が無言で頷く。それを確認し、俺を含めた強化細胞持ちの六人全員の血を抜きコップに注ぐ。それをハジメ達に手渡して最後の確認をする。

 

「……これが辞める最後のチャンスだ……本当に覚悟出来ているんだな?」

「くどいよ、零斗……ここに居る皆、最初から覚悟は出来てるよ」

 

ハジメはコップに向けていた視線を俺の方に向け直して、目をみてしっかりと応えた。他のメンバーも頷き、肯定していた。

 

「そうか……なら、これ以上は何も言わないでおく。さぁ、その血を飲み干せ……そうすれば、移植が始まる」

 

ハジメ達は飲むことに一瞬だけ躊躇ったが、ハジメが最初に口を付け、注がれた血を飲み干した。それに続いて他の者も続いて飲み干した。

 

「……あれ?なに──ッ!?ッあ"……ガッ!!!」

 

 額に皺を寄せて、何かを言おうとしたハジメ達が急に膝をつく様に倒れ込んだ。その後直ぐにハジメ達の身体に変化が起こり始めた。

 

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

血を飲んだハジメ達の身体は急速に変化し始めた。骨はより頑丈に堅牢に、筋肉はより柔軟で高密度に……身体がまったく別の物へと置き換わる。それに伴い全身を激しい痛みが襲った。

 

 耐え難い痛み。ハジメ達は地面をのたうち回る。そんなハジメ達を他所に身体の変化は加速する。髪から色が抜け落ちてゆく。許容量を超えた痛みのせいか、それとも別の原因か、日本人特有の黒髪がどんどん白くなってゆく。次いで、体の内側に薄らと赤黒い線が幾本か浮き出始め、身体の中心……心臓からは黒い血が全身へと送られる。壊れた端からすぐに修復してされ置き換わる。その結果、肉体が凄まじい速度で強靭になっていく。

 

 

 

 壊し、治し、造り直す、また壊し、治し、造り直す。

 

 

 

 全身がどくりどくりと脈打ち続ける。それを見ている零斗達は倒れているハジメ達をただ、ただ見ている。彼らには出来ることは無い……痛みを無くす事も、変わってやる事も出来ない。ただ見守る事しか出来ない。

 

「ッア゙ア゙!!グゥ!ハァ……ハァ………」

 

急に全員を支配していた痛みが消える。ハジメ達は息も絶え絶えの中、何とか身体を起こす。意識は痛みのせいかボンヤリとし、視界もぼやけている。

 

「……よく耐えたな。常人じゃ、とっくに狂っても可笑しく無いレベルの苦痛だったろ?まぁ、こっからが本番だ……頑張れよ?」

 

零斗はハジメ達の前に座り、目線を合わせながら言う。ハジメ達は何を言っているのかが理解出来ないのか、ジッと零斗の事を見ていた。

 

「ッ!!??!?」

 

またしても、ハジメ達の身体に異変が起こる。視界が黒く染まり、身体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚が走る。それは、時間が経てば経つほど苛烈になる。そして、遂には意識が途絶えた。

 

 

 

●○●

 

Side ハジメ

 

「ぅッ…ここは……」

 

急に意識が浮上し、視界が開ける。キョロキョロと周りを見渡すが、何処を見ても白いだけの空間が続いているだけだった。

 

『……君は』

「!?」

 

混乱していると、後ろから知らない声がした。振り返ってみると、人の形を真っ黒なモヤが浮いていた。

 

『……君はどんな力を求める?敵を嬲って痛め付けて蹂躙する力?それとも目の前にある物全てを破壊する力?』

 

 意味がわからなかった。どうしてこんな所に居るのか、目の前の人物はなんなのか……でも、質問に応えなきゃいけない気がしてならなかった。

 

「僕の…僕が求める力は……」

 

敵を殺す為の力?……違う

 

邪魔な物を退ける力?……それも違う

 

誰かを傷つける為の力?……全部違う

 

 

僕が……僕が求める力はーーーー

 

「ーーーー誰かを護る為の力」

『……どうして?』

「誰かを傷付ける力では大切な物も護れない……だから僕が求めるのは誰かを護る為の力、誰かを優しく包み込む力……それが僕が求める力」

 

僕の応えを聞いた黒い人型はゆっくりと僕の方に近ずいて来て、僕の手を握ってきた。そして、少し悲しそうな声色になりながら質問を投げかけてきた。

 

『……それが君の答え?』

「うん……そうだよ」

『そっか……でも、一つだけ覚えていて……ただ守るだけじゃそのうちーーーー

 

 

 

 

 

全部失っちゃうよ?

 

 

 

 

 

 目の前の人物がそう言うと、僕の意識が急激に遠のき始めた。全部失う……僕がホントに欲しいのは……

 

 ─────────────────────────────

 

「……ぃ……き………め…」

 

近くで誰かの声が聞こえる……誰の声だろう?意識がボンヤリする……

 

「い…げ……起きろ!」

「げふっ!」

 

鳩尾に鋭い痛みが走る。その痛みで意識が強制的に浮上する。痛む身体を起こし、隣を見る。そこで声の主が零斗な事に気が付く。

 

「零…斗……?」

「はい、おはようさん……とりあえずはこれ飲んどけ」

 

零斗はコップを差し出してきた、それを口を付け中の液体をを飲み込む。液体は少しだけドロッとして、甘い様な苦い様な……変わった味をしていた。

 

「身体の調子はどうだ?何か違和感は無いか?」

「違和感とかは特に無いよ……」

「そうか……とりあえずはステータスプレート見せてみろ」

 

 そう零斗に急かされてステータスを確認する……いったい何があるんだろう? 

 

 =============================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:6

 

 天職:錬成師 ・ 黒幕(フィクサー)の弟子

 適正率 95%

 

 筋力:1680

 

 体力:1366

 

 耐性:1164

 

 敏捷:1093

 

 魔力:2000

 

 魔耐:2000

 

 

 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・言語理解・剣術・棍術・闘術・銃術・抜刀術・念話(零斗、浩介、幸利)・R-Ⅰ型強化細胞・◼◼◼・魔力操作・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破

 

 

 =============================

 

「え?」

「……よし、一先ずは定着したみたいだな」

 

え?え!?何コレ!?ステータスが以上なまでに伸びてるし、天職に黒幕(フィクサー)の弟子てあるし、技能も増えてるし文字化けしてるし。ツッコミたい場所しかないんだけど!?

 

「れ、零斗?これは……」

「今から説明してやる」

 

零斗は空になったコップに水を注ぎ、僕に渡してくれた。それをちびちびと飲みながら零斗の説明に耳を傾ける。

 

「まず、おめでとう。お前は無事に強化細胞に適合し、強化細胞からも認められた……身体能力が上がったのはそれが影響している」

 

そこで零斗は一度話すのを止める。そして、複雑そうな顔をして再度話を再開した。

 

「文字化けしている技能は恐らくは俺らと同じ『喰種化』だ……文字化けしている理由はお前が中途半端だったからだ」

「中途…半端……?」

 

零斗は僕の頭に手を置いて、優しく撫でる。

 

「……ハジメ、お前の優しさは十分に理解している……だがな、その優しさは時に邪魔になる。これから先、その優しさを捨てなきゃいけない時が必ず来る……それだけは覚悟しておけ」

 

僕の頭から手を退けた零斗は部屋の出口に向かった。

 

「ハジメ。その力をどう使うか、誰に向けて使うか……良く考えておけ」




構成考えるのムズスギィ!!


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使徒と怪物(英雄)

「よっと、( ´ ꒳ ` )ノハーイお馴染みの零斗でーす」
「初めまして!ベルて言います!」
「初めましてだねエルキドゥだよ」
「マスター!!」
「ベル抱きつくのは辞めてくれ」
「えー?いいじゃーん!」
「また後でならいいぞ、今は離れろいいな?」
「( ○'н' )ムゥーわかった」
「いい子だ」
「( ˶ˆ꒳ˆ˵ )エヘヘ」

「前回は南雲くん達に強化細胞を移植したところだね」
「僕も移植した時は死ぬかと思ったよ〜」
「身体その物を作り替えているからなそりゃ痛いだろうネ」


「それじゃ、行ってみる?」

「「うん!」」

「それじゃ、せーの!」

「「「使徒と怪物」」」


 Side 零斗

 

全身に強化細胞の移植が完了し、定着も確認出来た。訓練もより一層厳しい物に組み直して、教えられるだけの技術と知識を叩き込む。

 

「全員が強化細胞に適合して物にしたのは良かったが……未だに『喰種化』出来ていないのは少しマズイな……」

 

マイルームにてハジメ達の戦闘訓練を録画した映像を見ながら、レポートを書き上げる。動きのクセを纏め、改善点を探し、長所を見つけ、訓練内容の精査を行う。そんな忙しい一日が終わろうとしていた頃の事……

 

「……場所がバレたか……認識阻害系の魔術掛けてなかったから仕方ないな……」

 

カルデア外に大量の生命反応が出現する。こりゃあエヒト(クソ野郎)が差し向けてきた刺客だろくうな……数はざっと1万前後かこれならすぐに終わるな。

 

ラフな服装から戦闘用の服装に着替え、獲物である血狂いを腰に差し、戦闘準備を整えてマイルームを出る。

 

「……あれ?レイトさん?」

「ん?ベルか……こんな時間に出歩いてどうした?もう消灯時間だろ?」

 

マイルームを出て直ぐにベルと会ってしまう。ベルは眠たげな目をしながら、こちらを見てくる。

 

「ちょっと喉が渇いちゃって……食堂で水を貰ってきたんだ。レイトさんはどうしたの?」

「俺はちょいと小腹が空いたもんだから、夜食でも作ろうと思ってな」

 

腹を摩りながら、ベルに話す。ベルは一瞬だけ訝しむ様な表情をするが、直ぐに何時もの様な明るい表情になり自室に戻っていた。その背中を見送り、再度外を目指そうと歩き出そうとするが、二人のサーヴァントに止められた。

 

「……こんな夜遅くに何処に行くつもり?マスターちゃん?」

「もう消灯時間はとっくに過ぎているぞ、マスター」

「一ちゃん、エミヤ……ちょっと食堂にーー」

「嘘は良くないな、レイト」

 

背後から肩に手を掛けられて、身動きを封じられる。振り向くと、淡い翡翠色の髪を後ろで纏め、メガネの似合う知的なイケメンが居た。

 

「……カイン」

「食堂に行くのなら、そんな格好である必要は無いだろう?」

「まぁ、そうだな」

 

俺は逃げられないと感じ、素直に事情を説明する。三人は揃って呆れ顔になり、溜め息を吐いた。

 

「じゃあ、行ってくるから。後始末は頼んだ」

 

 三人と別れてカルデアの外に出る。そこには一面銀色の景色が広がっていた、これ全部エヒトの眷属か……なかなか壮観な景色だな。白を基調としたドレス甲冑の様なものを纏った銀髪碧眼の女がいた。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている、どう見ても戦闘服だ。ワルキューレみたいだなぁ……ま、所詮はエセ神が作った紛い物だけどな。それが10000体……

 

 

「私は神の使徒の『レリア』と申します。短い間ですがお見知り置きを」

「こいつはご丁寧にどうも。嬢ちゃん達に1つ警告だ、これ以上俺の友人に仇を成すのなら……今ここで殺す。そのまま引くのなら見逃そう」

「戯言を……"神の使徒"として、主の盤上より不要な駒を排除します」

 

 レリアと名乗った女と他の使徒は、そう言うと、背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げ、ガントレットが一瞬輝き、次の瞬間には、その両手に白い鍔なしの大剣が握られていた。 銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を装備していた。

 

「警告はしたからなそんじゃ死ね」

 

 俺はそう言うと自分のメインである刀の血刀"血狂い"を取り出した。

 

我流剣術 居合い"凩"

 

 姿勢を低くして我流の剣術の中でも最速の居合いである"凩"を放つ。

 

「「「「「!?」」」」」

 

 認識出来ない速度の抜刀術、視認した時には既に9人の首を刎ねている。首の断面からは血が噴き出し、辺りを真っ赤に染め上げる

 

「造られた存在なのに、血は赤いんだな……」

「「「消えなさい!イレギュラー!!」」」

「……遅せぇよ」

 

 夫婦銃の"エルガー"と"ツォルン"で寄って来た使徒の頭を撃ち抜く。頭に銃弾を受けた使徒は力無く、地面に落下して崩れ落ちる。

 

「さぁどうした?俺を排除するんだろ?来いよ」

「言われなくとも!」

「威勢だけいいな」

「な!?」

「終いだ」

 

急接近してきた使徒は大剣を振るい、俺を両断しようとしてくるが血狂いでそれを弾き、脳天に銃弾を撃ち込む。

 

「次はどいつだ?死にたい奴から来い」

「死になさい!」

「遅い」

 

背後から襲い掛かって来た使徒の攻撃を躱し、血狂いで首を跳ねる。既に辺りは鮮血で赤く染まり、周りの木にすら付着しまさに『地獄絵図』だった。

 

「これだけの血がありゃいけそうだな……"血統武器作成"」

 

 使徒から出た血で武器を精製する。精製した武器はあまりにも歪で呪詛の塊の様な物だった。武器の形状はレイピアに近いが、刀身には腐った様な肉塊がこびり付いていて、常に正体不明な液体がぽたりぽたりと滴っている。

 

「さぁ、第2ラウンドだ来い!」

『ッ!?』

 

 そこからは蹂躙劇だった、使徒は手も足も出ずに死んでいくばかりで抵抗虚しく命を刈り取られる。あぁ!なんと哀れな事だ! 

 

 ─────────────────────────────

 

 使徒が半数程に減って来た頃。

 

「ふむ少し飽きてきたな. . . 残りの君達には少々実験に付き合って貰うとしよう」

『っ……』

"英霊憑依"バーサーカー"クー・フーリン・オルタ"

 

 技能:英霊憑依 縁を紡いだ英霊の力を自らの身に投影する。魔力は常に消費していき憑依させた英霊のランクが高いほど魔力の消費量は増えていく。

 

「終わらせよう、迅速にな」

『死ねェ!イレギュラーァ!』

 

 使徒が全方位から一斉に攻撃を仕掛けてくる……が

 

「" 戦闘続行 A "」

『なっ!?』

 

 クー・フーリン・オルタのスキルであるガッツスキルで攻撃を受ける。常人じゃ、即死レベルのダメージだか、スキルの影響で耐える。使徒達は目の前で起こった事が理解出来ないのか、何もせず俺のことをただ呆然と見ていた。

 

「殺戮だ。残らずな……」

 

全身に魔力を流し、宝具を解放する。

 

全呪開放。加減は無しだ、絶望に挑むがいい……噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)』!

 

魔槍ゲイ・ボルクの元となった紅海の魔獣『クリード』の外骨格を一時的に具象化させ、鎧のように身に纏う。ゲイ・ボルグは使用出来なくなったが、備え付けられた爪で使徒たちを切り裂いて行く。

 

「解除、ふむこんな感じなのか」

「一体何が?」

 

 英霊憑依を解除しながらそう呟く。かなり使い勝手がいいな……魔力消費が結構エグいが、この程度の消費なら許容範囲内だな。

 

「ッ! こちらも手段を選んでいられませんね。イレギュラー! これを見なさい!」

「は? 何を……ッ!?」

「フッ…ェゥ……ッァ……」

 

 使徒が見せてきたのはボロボロになった畑山先生だった……体には打撲痕や裂傷、よく見るとレイプ痕もあった。それを見た俺は全身の血が沸騰するように感じた。

 

「ハッハハハハハ!」

 

 此奴らには慈悲も加減も容赦すら要らなかったな……もう面倒だ全員殺す。ただ、残酷に冷酷に……化け物の様に……

 

貴様らに慈悲は要らん

 

 全身から殺気が溢れ出す……

 

尊厳は要らん

 

 空間が歪む……

 

価値は要らん

 

 姿が変わっていく……

 

意味も要らん

 

 技能の喰種化により全身が外骨格に覆われる。前変わった時と違いを挙げるとしたら全身から黒いオーラが常にゆらゆらと漂っている。

 

故に鏖殺だ

 

 

 ●○●

 

 Side レリア

 

故に鏖殺だ

 

 イレギュラーがそう告げると畑山を抱えていた仲間が粉微塵になった。何が起きたと言うの? 

 

「ごめんな愛ちゃん辛かったよな、怖かったよなもう少しだけ耐えてくれ……すぐに終わらせて治してやるからな」

 

 声のする方を見る……そこには全身黒1色で外骨格に覆われた怪物(イレギュラー)だった。い、一体私達は何を相手にして? 

 

「貴様ら楽に死ねると思うなよ?苦痛に悶えながら死ね」

 

 次の瞬間、私は私自身の体を見上げていた。エヒ…ト……様……こ…のイ…………レ…ギュ………ラー…はーーーーーーーー

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

 畑山先生を抱えていた使徒を殺し、奪還する……よしまだ息はあるな、早く決着をつけなきゃな。少しだけ我慢してくれ. . .

 

「ごめんな愛ちゃん辛かったよな、怖かったよなもう少しだけ耐えてくれすぐに終われせて治してやるからな」

 

 そう告げて木に寄りかけて着ていた上着をそっと体に掛ける。

 

「貴様ら楽に死ねると思うなよ? 苦痛に悶えながら死ね」

 

 そう言い放ち近場にいた使徒、確かレリアとか言ったな…… 首を刎ね、頭を踏み砕く。脳髄が飛び散り、頬に付着する。それを舌で舐め取り使徒たちの方に見る。

 

「どうした?来ないのか?」

 

 威圧しながら言う、使徒全員の顔が恐怖で歪む何人かは失禁しまた他の使徒はもはや戦意を喪失していた. . . だが関係ない全イン殺スダケダ。

 

「"これこそは我が宿業なり。我は全てを断ち、全てを喰らう者なり。その身を持って悔いるがいい"!『全てを喰らえ我が憎悪(ベルセルク・トリガー)』!」

 

 ─────────────────────────────

 

 理性を消す代わりに戦闘能力を上昇させる技を使う。使った後のことはあまり覚えていない、ただ殺して殺して殺し続けた. . . 記憶があるのは殲滅し終えて生き残りを見つけた時だった。

 

「……お前で最後か」

「助けてください!お願いです!!」

 

 こいつらは何を言っている?散々好き勝手やって置いて助けを求めるのか?彼女を……畑山愛子をあれだけ傷付けて置いて? 

 

「今更そんな命乞いを聞くと思ったか?哀れな事だ……」

「お願いします!お願いします!」

「もう…いい……黙っていろ」

「ッ!?生かしてくれるんですか!?」

「魔力が枯渇している……お前で補給するとしよう」

「な、何をして!」

 

 使徒の生き残りを抑えつけて首に噛み付く……ゆっくりと吸い付けば、口に鉄臭さが広がりドロリとした血が流れ込む。

 

「イッ!!」

「暴れるな」

「!?」

 

 暴れようとする使徒を押さえつけ、抵抗出来ぬようにする。

 

「ちゅ……ちゅううぅ……ちろ……ちゅぷ……くちゅ……」

「!?!?!?!!!」

 

 彼女には相当の痛みがあるのだろう体を跳ねさせて暴れるている……が意味はない俺も相当の力で抑えつけ動きを封じる。

 

「プハァ……酷い味だ、反吐が出る」

「. . . . . . . . 」

 

 吸血が終わった頃には使徒は干からびていた。

 

「そうだ畑山先生!」

 

 補給に夢中で畑山先生の事を思い出し急いで駆け寄る。首に手を当て、脈を測る。脈はある……だが、かなり弱々しく今にも途切れてしまいそうだった。

 

「よし!まだ息はあるな!」

 

 クソ!やっぱりあれは使うべきじゃなかった!速くメディカルルームに運ばないとやばい! 

 

「ドクター!」

「え!? レイトくん!? どうしてこんな夜遅くに……ッ!!その子を速くこっちに!」

「わかった!ある程度の処置をしたけど……それでも裂傷の具合がかなり酷い!」

 

診察台に優しく畑山先生を寝かせ、令呪で医療系サーヴァントと呼ぶ。

 

「ナイチンゲール! アスクレピオス!」

「何だ?」

「何でしょう?」

「今からこの子の治療を始めるから手伝いを頼む!」

 

 そこから一時間程の治療を施した。何とか一命を取り留めたが、外傷が酷く傷跡が残ってしまった。更にはレイプや暴力によるトラウマがあり、PTSDを発症してしまう可能性が高い。

 

「ごめんな畑山先生こんなことに巻き込んじまって」

「…………」

 

 未だ目を覚まさない畑山先生に向かって懺悔する。ごめんな畑山先生俺が不甲斐ないばかりに辛い目に合わせちまって……

 

「ウゥ…… 」

「ッ!!畑山先生!?」

「あれ?零斗くん? ここは?」

「無理して起き上がれなくてもいいです!寝ていてください!」

「は、はい…」

 

起き上がろうとする、畑山先生をゆっくりとベッドに寝かせて、手を握る。よかった……

 

「私は確か… 寝ていて……ッ!!」

「畑山先生!?大丈夫ですか!」

「だ、大丈夫です!」

 

 嘘だ、顔色が明らかに悪い。何をされたか思い出してしまったんだな…どうすれば……俺は心の病に関しては詳しくは無い。何が正しい対応かが分からない……

 

「ひゅ、は……っ、ぃや、っ……っ……」

 

 焦点の定まらない目に、どうやら前にいるのが己だと認識できていないらしいと気づく。過呼吸を起こしパニックになっている畑山先生は、弱々しく身をよじって助けを求め、視線を彷徨わせる。

 

「やだ、いや……だ、はっ、はぁ……っ、ひゅう……ひゅっ……」

 

 いやだいやだと幼子のように拙い言葉で繰り返し泣きじゃくるその様に、目を見張った。いつも笑顔を浮かべ、楽しそうに生徒たちと会話を交わす普段の姿からは想像がつかない。そもそも彼女は平等精神を地でいくような性格で、皆に優しく接する代わりに特定の人物に弱みを見せ、涙を流すこともなかった。

 

 畑山先生は不規則な呼吸音を立てて拒絶の言葉を繰り返す。とりあえず彼女を落ち着かせてやらねばならない。

 

「ぉい……て、っ、はぁっ、はぁ、……おいて、いかない、で……」

「置いて行きませんよ、私はここにいるでしょう?」

 

 もがく体を優しく抱きとめ、一定のリズムで背中を叩いてやる。畑山先生の涙で胸元がじんわりと濡れていく。

 

「……ひゅーっ、っ……はあ……いやだ、……ぃや」

「大丈夫、大丈夫だ。何も心配はない……すぐ楽になる。ほら、俺の呼吸に合わせて……吸ってー、吐いてー」

 

 背中を叩き、時にはさすりながら、気持ちが落ち着くよう声をかけ続ける。

 

「はぁ、っ、はぁ……っ」

「そうそうゆっくりと呼吸してください」

 

 何度かそれを繰り返していると、畑山先生の乱れた呼吸が段々と整ってきた。

 

「ふーっ、ふーっ……」

「そう、上手だ」

 

 顔を覗き込んで未だ止まらない涙をぬぐい頭を撫でると、褒められていることが分かったのか愛子の表情がふわりと柔らかくなる。

 

「あったかい」

 

 頬に手を添えれば気持ちよさそうに目を細め、すり、と猫のように顔を寄せてくる。座っている椅子から身を乗り出し愛子を抱きかかえる様にして体を密着させてやる。しばらくそうしていると、呼吸がようやく正常に戻った。

 

「よく頑張ったな、いい子だ」

 

 自分でも驚くほどどろどろに溶けた甘い声が出たが、愛子はそれにも嬉しそうにうっすらと笑みを浮かべてみせる。

 

「喉が乾いたろ?何か飲み物を持ってk「──いで」どうした?」

「行かないで、私を置いて行かないで。お願いですから1人にしないで」

 

 弱々しく声で喋りながら、胸元に顔を寄せて服を強く掴んでくる。こんなに弱るという事は相当酷いことをされたんだな……

 

「愛子先生、横失礼するぞ」

「え?」

 

 愛子を抱きかかえながらベットで横になる。

 

「大丈夫だ、貴女を1人にはしない……俺だけじゃない、ハジメや恭弥、刀華、皆いる。何かあれば支えるし、頼まれたとしても貴女一人置いて行くなんてマネはしない」

「ぐすっ. . . 」

「貴女が不安な時はずっと傍にいる……だから安心してくれ」

「本当に?」

「俺が嘘を言うような人間に見えるか?」

「フフ、そうですね。零斗君は嘘なんてつきませんよね……」

 

 ふぅ……よかったー落ち着いたみたいで……ゆっくりと頭を撫で、背中をさする。次第に呼吸が穏やかになり、遂には小さく寝息を経て始めた。

 

「スゥ…スゥ……」

「泣き疲れて寝てしまいましたか……お休みなさい。どうか良い夢を……」

 

 そう言い愛子の額にキスを落とす。どうか彼女の夢が良いものでありますように。

 

 

 

 




畑山先生と零斗のフラグが建ちましたね。感想お待ちしております。


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一章
訓練終了と告白


「よっと、(。・ω・)ノハーイお馴染みの零斗でーす」
「初めまして畑山愛子と言います」
「初めましてね園部優花よ」

「前回は使徒との戦闘だったわね、その後は. . . 」
「あぅ、恥ずかしです」
「園部弄るのは辞めてくれ頼むから」
「2人とも顔真っ赤だよ?」
「「辞めてくれ(ください)」」
「ハイハイ」

「それじゃ、行ってみる?」

「「ええ!」」

「それじゃせーの!」

「「「訓練終了と告白!」」」


 Side 零斗

 

 沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。それに伴い身体の感覚が鮮明になっていく。そして、腕の中に柔らかく暖かい物があるのに気が付くり

 

「くぅー……くぅー……」

「あーマジか」

 

 昨日、愛ちゃんの事を抱きしめていたら気が付かないうちに寝てしまった様だった……と言うかこれ(添い寝)が刀華達にバレたらヤバくね?

 

「おはよう、零斗」

「あぁ、おはよう刀k……ヴェ!?」

「相変わらず可愛い寝顔だったわよ」

 

 俺の顔を覗き込むようにして、ベッドの傍に置いてあった椅子に腰掛けている刀華。その手にはスマホが握られていて、俺と愛ちゃんの寝顔が激写されている。

 

「まぁ、事情は知っているからお咎めは無しよ」

「そ、そうか」

「でも今夜こそ覚悟しておいてね?」

「……ハイ」

 

 こりゃ、朝までじっくり絞られるな……夜までにどうにか機嫌を良くしてもらわないと明日の訓練に支障が出る……

 

「もう皆起きているわ、さっさと着替えて朝食取っちゃいなさい」

 

 刀華はそれだけ言うと部屋から出て行ってしまった。ありゃ、拗ねてるな……機嫌直してもらうのは難しそうだな。とりあえずはベッドから起き上がり、椅子に掛けられた上着を着る。

 

「すぅ……」

 

 未だに眠りこけている愛ちゃんの頭を撫でながら、起きるのを待つ。

 

「ぅ……んン……ここは……」

「おはよ、愛ちゃん」

「……おわよう……ございます……湊莉君」

 

 まだ眠いのかぽわぽわしたまま、挨拶を返す愛ちゃん。薄っすらと目を開けて辺りを見渡す。そして今度は俺を見るとそのまま視線を固定する。

 

「私……昨日……何を────ッ!?!?!」

「……あれしか思い付かなかったんだ……許してくれ」

「うぅ……生徒に情けない姿を……」

 

 昨日の夜起きた事と俺がやった事を思い出したようであぅあぅと悶えている……うーん、可愛い。

 

「食事は取れそう?」

「は、はい!大丈夫です!」

「そっか、それなら良かった」

 

 病み上がりだから胃に負担が掛からないお粥とかにしておくか……と、その前に

 

「これ替えの服」

「え?」

「着替え終わったら言ってください外で待機していますから」

「?…………に、にゃにゃぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜!?!」

 

 すまんな愛ちゃん、治療が病衣を着させたんだけど、それ自体ちょっと脱げやすいんだ。たぶん寝て間にはだけちゃたんだな……かなりの露出度だった。しばらくして愛子が部屋から出てきた。

 

「う〜……」

「なんか……ごめん……」

「生徒にはしたない姿を……」

「とりあえず食堂行こっか……」

 

 顔を真っ赤にしながら頷く愛ちゃん。道中で男性サーヴァントに会う度、少し怯えている。トラウマはかなり根深いものらしい、この様子だと間違いなく男性恐怖症になってしまったんだろうな……

 

「とりあえず、ここで待っててくれ……直ぐに戻るから」

「は、はい……」

 

 愛ちゃんを席に案内してから、俺はキッチンに入る。キッチン内ではエミヤやブーティカさん達カルデアキッチン組が忙しなく動いていて。

 

 挨拶をして、軽い雑談をしてから愛ちゃん様の朝食を作る。昨日の余り物のうどんを茹で、エミヤ達が取ってくれていた合わせ出汁を少し貰い、それに水溶き片栗粉でとろみを付け溶き卵を入れる。それを器に盛り、愛ちゃんの所に持っていく。

 

「熱いから気を付けてな」

「ありがとうございます」

 

 ゆっくりと食べ始める愛子。天職の料理人の効果で作った料理には回復効果がある。更には技量も上がるのか、麺の硬さは程よく、たまごも外はふわふわで中は半熟の丁度いい火入れ具合になっている。普通に作ったたまごうどんでもかなりの絶品になっている。

 

「すごく美味しいです!」

「そりゃよかった」

 

 するすると食べ進めていく愛ちゃん。作った側の人間としても美味しいと言って食べてくれるのは大変嬉しい物だ。そんな事を思っているといつの間にか、愛ちゃんはたまごうどんを完食していた。 

 

「ご馳走様でした!」

「はいお粗末様でした。どう?体に違和感はない?」

「大丈夫です!」

「良かったちゃんと効いたみたいだな」

「どうゆう事ですか?」

「あぁ、気にしないでくれ」

 

 作ったたまごうどんには精製した俺の血をちょっとだけ入っていたのだ。あ、精製すると回復効果と滋養強壮の効果しかないから安全だからな安心してな。

 

「それじゃ俺はハジメ達の訓練があるから、ここらで失礼するよ」

「訓練?何をするんですか?」

「戦闘訓練だ。俺の技能にある召喚魔法で実戦形式でな」

「見学してもいいですか?」

「別にいいけど」

「ありがとうございます」

 

 2人でシュミレーション室に向かう。シュミレーション室に入ると、既にハジメ達が待機していた。

 

「おはようさんハジメ、幸利、浩介」

「「「おはよう零斗」」」

「今日からは能力の制御と完全な喰種化の訓練だ基本は戦闘ばかりになるからなちゃんと付いてこいよ」

「「「わかった」」」

 

 シミュレーターを起動しようと操作端末に手を置いたタイミングで愛ちゃんが声を上げだ。

 

「ちょ、ちょっと待てください! 南雲くんに遠藤くん、清水くんなんですか!? 身長も顔付きも変わっていませんか!?」

「もちつけ、俺の強化細胞を移植した影響だから」

「強化細胞?移植?な、何を言って?」

「俺の技能のR-Ⅰ型強化細胞だよ俺の容姿もこれが原因でこうなってるけど普通に黒髪黒目になれるから大丈夫だ」

「……プシュー」

「情報量が多かったみたいだなショートしてら」

 

 あ、ハジメ達の容姿を軽く纏めるとハジメは俺と同じように白銀色の髪で目は赤くなっている。浩介は髪が白のメッシュがあるだけでほとんど変わらないが背丈は176cmと10cm近く伸びた。1番変わったのは清水だな適正率が高かったことも相まって俺に近い容姿になっている髪は白銀色に青みがかった黒のメッシュがある背丈も181cmとかなりの高身長イケメンになっている。うーむ……変わり過ぎでは?ま、これで要らんやっかみはない……かな? 

 

「そんじゃ始めるか」

 

 改めてシュミレーターを起動しながらそう言う。場所は見通しのいい荒野に設定する。すると、辺りの景色が一変し、設定した通りの荒野へと変わった。

 

「よし、ここでいいか」

 

 軽くストレッチをして、戦闘準備をする。

 

「そんじゃ、やるとしますか。『召喚魔法』『上級、中級、下級』『天使、悪魔、アンデッド』」

 

 そう言うと半径1kmに大量のモンスターが出現する。やっべ魔力込め過ぎたわ。うーむ、まだ使用してなかったから勝手がわからんな……ま、余裕だけどな

 

「『命令・全力で殺しに来い』」

「「「グオオオオオオオー!!」」」

 

 召喚したモンスターが殺意の篭った咆哮が上がる……俺は異空間収納から太刀"鬼灯"を取り出す。そして……

 

我流剣術 "八咫烏"

 

 挨拶とばかりに我流剣術の"八咫烏"を放つ。八つの斬撃が先陣を切って来たやつをバラバラに斬り飛ばす。

 

「動きが速いやつにゃ、これだ」ドパン!

「キャウン!!」

 

 ウィンチェスター式のショットガン"リベリオン" で寄ってきたやつを撃つ。撃たれた魔物の身体は穴だらけになり、地面に転がった。

 

「──────────!」

 

 物言わぬ天使に向かいナイフを投擲する。ナイフは吸い込まれるように天使の額に突き刺さった。投げたナイフは俺自身の血を混ぜ血統武器作成で作成した物なのですぐに手元に戻ってくる。

 

「グガァァァァ!!」

 

 一心不乱に向かてくるアンデッドを繰糸"マリオネッタ"で拘束し、即座に切り刻む。

 

 わずか数秒で100匹程の敵を屠る。この調子なら4〜8分位で終わるな。適当に音楽でも聴きながら殺るか……ヘッドホンを付け、スマホで音楽をかける。そして、異空間収納から大鎌の『ファイス』を取り出し、肩に掛ける。

 

I can do ANYTHING(なぁんでもできる)!!」

 

 

 ─────────────────────────────

 

 

「ふぅ……終わったな」

 

 思ったより時間掛かったな……訓練したとは言え全盛期には遠く及ばんな。こりゃ早めに鍛え直して、カンを取り戻さないとなぁ……

 

「……ホントに参考にならない事ってあるんだね」

「そうか?これぐらいは余裕なんだかねぇ」

 

 出した武器を全て異空間収納に入れて、ハジメ達の目の前に立つ。軽くスパーリングをして、いよいよ本格的に始めようとした時に……

 

「うぅ……あれ?ここは?」

「起きたみたいだな」

 

 ショートしていた愛ちゃんが目を覚ました。

 

「おはようさん愛ちゃん先生」

「え?おはようございます?」

「よし、ハジメ達は俺より数減らしてやってみるか途中でアドバイスするかもだからな。それ以外は基本自由だ……それが終わったら俺と模擬戦な」

「「「了解!」」」

「ほい『召喚』」

 

 先程込めた魔力よりも大分減らして魔法を行使する。ざっと200体くらいか……まぁ、行けるだろ。

 

「……なぁ、零斗。少し敵の数が多過ぎやしませんかね?」

「大丈夫だ、そこまで強くねぇし」

「そういう問題じゃないよ!!」

 

 3人は悪態を付きながら戦闘を始めた……このペースなら10分くらいで終わるな。俺は即席で高台を作って、愛ちゃんを抱えてそこに移動する。高台からはハジメ達が悪戦苦闘している様子が良く見える、俺はそれを肴にスポドリを飲む。

 

「私が意識がない間何があったんですか?」

「んー、俺があれの100倍近い敵と戦闘してた」

「え!?」

 

 隣でハジメ達を見ていた愛ちゃんの質問になんとなしに答えたら、かなり驚いた様子だった。

 

「そんな驚くことか?」

「怪我は無いんですか!?何か体に以上は!?」

「落ち着け、なんともないから大丈夫だ」

 

 俺の身体をぺたぺたと触って傷が無いかのチェックをしてくる愛ちゃんの頭を撫でて宥める。

 

「そ、そうですか……南雲くん達は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だろ危なくなったら止めに入るし」

「それなら安心ですが……」

「ちょっと話をしようか」

「え?」

「この世界について……ね」

 

 そこからはノイントから得た情報と吸血した使徒(零斗は吸血した時に相手の記憶を知ることが可能となってます)から奪った情報を愛子に伝える、話終わった頃には愛子の顔色が真っ青になっていた。

 

「大丈夫か?」

「この世界はそんな惨状に?」

「あぁ……」

「……全員生きて帰れるのでしょうか」

 

 愛ちゃんは不安な面持ちで下を向いてしまった。だが、ここで何か優しい言葉を掛けるのはあまり宜しくない。下手に希望を与えてしまえば、それが覆った時の絶望は酷いものになる。

 

「まぁ、無理だな」

「!? 何故!?」

「確実に天之河が無理な行動をするからだな。それに振り回されるのが確定しているし……」

 

 実際、アイツのせいで危うくクラス全員が戦場の最前線に立たされかけたんだしな……あれがこのまま、勇者として祭り上げられれば歯止めが効かずに暴走してしまうだろう。

 

「そ、そんな……」

「安心しろそうならない様に対策を練る事はできるし、エヒト程度のエセ神だったら速攻で潰せるが……クラスの連中がどうなるかは分からんな。もしかしたら、魔人族に寝返る奴も出るかもな」

「もしもクラスの中から裏切り者が出たら?」

 

 愛ちゃんが心配そうにこちらを見上げてくる。俺は愛ちゃんから視線を逸らして、なるべく平坦な抑揚の無い声色で告げる。

 

殺すだけだ

「な、何故ですか!?」

 

 愛ちゃんの表情が絶望に染まり、カタカタと震えている。目には涙を浮かべ、今にも泣き出してしまいそうだった。

 

「……裏切った奴を許した所で改心するかと言われたら必ずしもそうとは限らない、ましてや裏切った奴を許せるほど、俺は甘くは無い」

「で……でも!」

 

 悲痛な叫びと共に、涙を流し始めてしまった愛ちゃん。小さく嗚咽し、『何故、生徒たちがこんな目に』とこぼして、ぺたりとその場に座り込んでしまった。

 

「……だけどそうならない様に努力はするけどな」

「私……私は……どうすれば?」

「貴方はそのままでいいんだ」

 

 俺は愛ちゃんの頭に手を置いて、どうにか落ち着いてもらおうと、なるべく優しく頭を撫でる。

 

「……でも」

「これに限っては適所適材だからね……」

 

 苦笑いをしながら、愛ちゃんの手を引いて立ち上がらせる。愛ちゃんの泣き腫らしてしまった目に温かくしたタオルを当ててやる。

 

「零斗ー!終わったよー!」

 

 高台の下の方からハジメの声がした。下を見ると、生傷だらけのハジメ達がいた。とりあえずは高台から降りてハジメ達の傷を治す。

 

「お疲れさん、どうだ能力使った感覚は?」

「うーんやっぱり難しいね」

「これに限っては慣れて行くしかない」

 

 能力の制御さえ覚えれば後は完全な喰種化と能力を最大限に引き出せるかだな……喰種化は一度出来れば案外楽に出来るようになるが能力を最大限引き出せるかは本人の実力と経験が重要になってくるんだよなぁ。

 

「よし、じゃ連戦で悪いが俺と模擬戦だな」

「組み分けはどうするの?」

「3対1でいいぞ」

 

 俺の発言にハジメ達が困惑していた。高台にいた愛ちゃんも上から声を張り上げて、心配していた。

 

「そんな!無茶ですよ!」

「大丈夫、俺最凶だから」

「「「「文字違くね(ませんか)!?」」」」

「そうか?」

 

 色んな意味で合ってるよね?だってあの人27歳児じゃん公式も言ってるかんね。

 

「さあ、かかって来い」

「「「本当に大丈夫なの(か)?」」」

「もちろん!んじゃ愛ちゃん先生合図頼む」

「愛ちゃんじゃありません!畑山先生です!」

「すまんすまん(笑)」

「むぅー!!はぁ……行きますよ?」

 

 それぞれが得意とする武器を構える。俺は武器も持たず、構えもせずにただ腕組みをしながら待機する。

 

「始め!!」

「「「ッ!!!」」」

 

 三方向から同時に攻撃を仕掛けてくる……が──ー

 

「遅いな」ギィン

「「「は!?」」」

 

 三人の得物を素手で受けて止める。三人とも目の前で起こった事が理解出来ないようで唖然としていた。

 

「ほれ惚けている場合じゃないだろ」ブン

「「「ウワァ!」」」

「ほれほれどうした?」

 

 掴んだ得物を軽く振るとハジメ達は吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がり砂だらけになりながらも何とか体制を立て直し、得物を構え直した。

 

「さ、時間は無制限だ幾らでも来ていいぞ」

「ちょっと舐めすぎたな」

「「そうだね(な)」」

「あ、ちなみに最初の10分間は何もしないからねー10分過ぎたらカウンター入れていくから」

「「「マジかよ……」」」

 

 そこからは酷い物だった。攻撃するが当たらずカウンター喰らって吹き飛ぶすぐに起き上がって再度攻撃するがカウンターて吹き飛ぶの繰り返しだった。そして1時間がたった頃にはハジメ達はボロボロだった。

 

「ハァ. . ハァ. . 」

「ゼェ. . ハァ. . 」

「ヒュー. . ヒュー. . 」

 

 三人とも肩で息をして、地面に横たわっているハジメ達。何度も吹き飛ばれ、地面を転がったせいでさっき以上に傷だらけになっている。

 

「おいおい大丈夫か?」

「カヒュ……これ……が……大丈夫……ゲホそうに……見える?」

「こりゃ失敬、で……まだやるかい?」

 

 俺が挑発する様に言うと、三人とも起き上がり再度構えを取る。目にはギラギラとした闘志を滾らせ、全身に活を入れて、再び俺に向かってくる。

 

「「「当然!」」」

「意気やヨシ!どんどん来い!アドバイス位はしてやる!」

 

 三人とも、磨けば光る原石だ。今からどんな風に成長するかが非常に楽しみだ。ハジメ達の将来に胸を躍らせながら、ハジメ達の攻撃を防いで、カウンターで地面に叩きつける。

 

 ──────────────────────────

 

「「「……」」」チーン

「……ちょっと、やり過ぎたな」

 

 ボロ雑巾の様になったハジメ達が地面に転がっている。三人ともピクリとも動かず、屍の様だった。まぁ、死なない程度にボコボコにしてるから大丈夫か。

 

「三人とも戻って来てください!」

 

 愛ちゃんは三人の身体を必死に揺さぶり、偶に頬をペシペシと叩いて起こそうと躍起になっている。それでもハジメ達は動かずにぐったりとしている。

 

「……とりあえずは各自のマイルームに運んでやるか」

 

 愛ちゃんを落ち着かせてから三人を肩に担いで、シュミレーターの電源を落として、部屋を出る。

 

 ─────────────────────────────

 

 

 それから約1ヶ月後ハジメ達はかなりの成長を遂げていた。手加減しているとはいえ俺に攻撃が当たるようになってきた。喰種化も習得し能力もかなり使えるようになってきた。明日で3ヶ月が過ぎる……そう3()()()だ、俺たちの単独訓練が終了すると言うことだ。

 

 明後日は『オルクス大迷宮』で実施訓練と言う予定らしい。今日の夜にはハイリヒ王国で他のクラスメイト達と合流する手筈になっている。明日の昼頃には宿町『ホルアド』に移動らしい。今日の訓練は無しで確実に自由行動を言い渡してある、何故かって? 天之河(厄災)だよ……絶対文句言ってくるぜ? アイツ。なので英気を養う為に休日にした。

 

「ハジメくん!」

「はい!?なんでしょうか!白崎さん!?」

 

 食堂でゆっくりと夕食を食べていたハジメの背後から、ぬるりと白崎が姿を現してハジメの肩に手を置いた。訓練の影響で白崎は気配と足音を完全に消せる様になっているせいか、浩介並の認識のしずらさを物にしていた。

 

「今日、この後さ……予定ある?」

「別にないけど?」

「じゃあさ私とデートしてくれない?」

「え!?」

 

 白崎が顔を赤くしながらデートのお誘いをした。ハジメの方も顔を赤くして口をパクパクさせている。うーむ、健全な男女の関係ですねぇ……

 

「ダメ……かな?」

「そ、そんな事ないよ!」

「本当に!!やったー!」

 

 白崎は心底嬉しそうに笑ってハジメの手を握った。手を握られたハジメは首まで真っ赤になり、キャパオーバー寸前だった。

 

「……二人とも、良さげな雰囲気な所申し訳ないんだかな……ここ食堂なんだわ」

 

 俺の言葉で自分達のした事の重大さに気が付いたのか恥ずかしくなったのか二人して顔を赤くして俯いてしまった。食堂内には未だに職員やサーヴァント達が居る……つまりはこの場に居た者全員がハジメ達の青春劇を目撃したのだ。

 

「デートなら、ハイリヒ王国で花火大会やるから行ってこい……こいつも持っていけ……天之河にバレると面倒だろ?」

 

 ハジメ達に小さいな御守りを渡す。渡した御守りには認識阻害の魔術が付与されている。これを身に付けていれば周りの人間からの認識を少しだけずらしてハジメ達をハジメ達と認識できなくなる。二人は小さく頷いて、食堂を後にした。

 

 ちなみに花火大会は日本系のサーヴァントが『夏の風物詩は花火だ!無いなら作る!』って感じで作ったらしいが……飛んでもねぇ文化侵略だよな。

 

 ●○●

 

 Side ハジメ

 

 零斗の地獄の訓練が終わって、食堂でご飯を食べようとした時に白崎さんにデートに誘われた……そして今現在は二人で一緒にハイリヒ王国のお祭りに参加して食べ歩きをしながら、花火の開始時間まで時間を潰していた。

 

 

(認識阻害のアクセサリーは……うん、ちゃんと動いてるみたいだね)

 

 腰に付けた御守りに手を当てると、ほんのりと温かくなっていた。そんなことを考えていると、白崎さんに手を引かれる。

 

「ハジメくん!あそこの屋台の料理美味しそうだよ!」

「……うん、そうだね!」

 

 白崎さんはホントに楽しそうに歩いている。何時もは下ろしている髪を後ろでお団子にして、服装も紫陽花の描かれた浴衣姿だった。

 

(……楽しいなぁ)

 

 こんな時間が続けばいい、僕はふと思った。

 

 ────────────────────────────

 

 やがて空は赤から紫へと霞がかっていく。アナウンスが流れ、大通りは人だかりでいっぱいだった。花火の見やすいエリアまで移動した。このエリアは花火を見やすいのだがその反面登る必要があり非常に辛いという難点がある。そのためわざわざ来る人はいない。しかしハジメと香織は違う。強化細胞の移植により獲た身体能力で楽々と登ることができた。

 

「零斗が言ってたのはここだよね?」

「そうみたいだね」

 

 しばらくの間沈黙が流れた。花火が打ち上がる時間になるまではまだ少しだけ空きがある。

 

(気、気まずい!何か喋った方がいいのかな!?どうすればいいの!?)

 

 僕かまそんな事を考えていると. . . 白崎さんが沈黙を破ってゆっくりと話し始めた。

 

「南雲くん。どうか明後日の迷宮の探索に参加しないでくれないかな?」

「……それは僕が足手まといになるかもしれないから?」

「そうじゃ、ないんだよ! 南雲くんがこれまで頑張ってきたのは誰よりも私が知ってる! けど……ただ怖いの」

「怖い? 何が?」

 

 白崎さんの顔は真剣なものだった。真剣に僕を思って、震えている。今にも泣きそうなほど白崎さんは迷宮を恐れている。

 

「……毎日夢を見るの。南雲くんが暗闇の奥に消えていく夢を。ただ一人、奥に消えていく夢を」

「……僕が、消える?」

 

 思わず呆気に取られてしまう。そんな僕を他所に白崎さんは懇願するみたいに話を続けた。

 

「うん……夢だって分かってる! それでも……ハジメくんが心配で心配で仕方がないんだよ。だから……どうか……」

 

 一時の静寂がその場を満たした。その合間に白崎さんが何を思ったのか、今の僕には推し量ることができない。それでも白崎さんの心配は痛いほどに分かった。

 

「ごめん……それは無理だよ」

 

 それでも僕は白崎さんの願いを聞くことは出来ないり

 

「……理由を聞いてもいいかな?」

「理由……えぇっと、君と対等な立場になりたいからかな?」

「?どうゆう事?」

「えーと……」

 

 白崎さんは僕の言葉の意味が分からないみたいでキョトンとしていた。

 

「逃げたくないんだよ。僕ってさ……何をやるにも零斗達に劣ってて、それでいつも『なんでお前があの人達と一緒にいるのか』みたいな事を言われ続けて来たからそれを見返してやりたいて気持ちもあるんだよね」

「そっか…… 変わらないねハジメくんは」

「僕が……変わらない?」

 

 白崎さんの言葉の意味がよく分からなくて、白崎さんを見つめることしか出来なかった。

 

「知らなくても当然だよ。でも私の中では南雲くんは……誰よりも強い人だよ」

「強い……そうかなぁ?僕、勝負事とか相当弱い自信があるんだけど」

「そんな強さじゃないんだよ。南雲くんは誰よりも心が強いんだ」

「心……が?」

「うん! 心が!」

 

 すると白崎ざはどこか懐かしそうに空を見上げた。既に空は紫一色。いくつもの星が瞬いている。

 

「あれは、私が中学生の頃だったの。あるおばあさんと男の子が悪い人達に絡まれてたの。その悪い人達、男の子にタコ焼きでズボン汚されたからってクリーニング代をおばあさんに要求してたんだよ。だけどその人達はクリーニング代どころかおばあさんの財布ごと取ってたの」

「あ」

 

 それは僕の記憶にもあるハプニングの一つだ。

 

 男の子が不良連中にぶつかった際、持っていたタコ焼きをべっとりと付けてしまったのだ。男の子はワンワン泣くし、それにキレた不良がおばあさんにイチャもんつけるし、おばあさんは怯えて縮こまるし、中々大変な状況だった。偶然通りかかったハジメもスルーするつもりだったのだが、おばあさんが、おそらくクリーニング代だろう──お札を数枚取り出すも、それを受け取った後、不良達が、更に恫喝しながら最終的には財布まで取り上げた時点でつい体が動いてしまった。

 

 といっても喧嘩など無縁の生活だ。厨二的な必殺技など家の中でしか出せない。その時ハジメが仕方なく行ったのは……相手が引くくらいの土下座だ。公衆の面前での土下座はする方は当然だが、される方も意外に恥ずかしい。というか居た堪れない。目論見通り不良は帰っていった。その一部始終を思い返していると白崎さんは僕の顔を覗き込んで「思い出してくれた?」と嬉しそうに笑った。僕は「……見てたの?」と思わず聞いてしまった。勿論、白崎さんは頷いた。

 

「私ね、あの時動けなかったんだ。警察に電話することも思いつかなかった。ただ誰かの助けを待って、ずっと見てただけ」

「白崎さん……」

「だから私の中では自分よりも強い人を相手に誰かを守ろうとした南雲くんは……誰よりも強いんだよ」

 

 僕はあんな所を見られていたのか、と恥ずかしく思うと同時に白崎さんの過大評価ともいえる僕への思いに照れくさく思えた。そして今まで白崎さんが僕に話しかけてきた理由がその一件にあったのかと理解した。

 

 

 すると白崎さんは何かを決意したように頷く。そしておもむろに僕に近づいてくる。

 

 

 

 ヒュルルルーと花火が上がるその時、白崎さんは言った。

 

 

「ハジメくん私は貴方のことが「ごめん白崎さん」. . .ごめんやっぱり迷惑だったよね 」

「そうじゃなくてねそこから先は僕に言わせて欲しくて」

「え?」

「白崎香織さん僕は貴方のことが好きです……僕と付き合ってください」

 

 僕は自分の心の内を白崎さんに伝えた。そして白崎さんの答えは……

 

「はい!喜んで!」

「やっっったァ!!」

 

 YESだった。それがとても嬉しくて思わず白崎さんに抱き着いてしまった。

 

 その瞬間花火が夜空を彩った。花火は何度も上がり、夜空を瞬く。白崎さんの瞳の色と花火の色はよく似ていた。

 

「あ!あとその呼び方、やめようよ!」

「じゃ、じゃあ。何て呼べば……」

「香織」

「……え゛?」

「香織って呼んでくれないかな? 私はハジメくんって呼んでるから。……うん、それでいこう!」

「ま、待って白崎さ……」

「香織」

「えっ、でも……」

「香織」

「……香織さん」

「香織」

「今はこれで勘弁してください! 香織さん!」

 

 さすがに名前呼びはハードルが高いよ!僕らさっき恋仲になったばっかりだよね!?

 

「……うーん、まあいいか! あ、花火上がってるね! 見ようよ!」

「うん!」

「後、ハジメくん!」チュ

「な……!?」

「エヘヘ、キスしちゃたね」

「……」プシュー

「あれ?」

 

 初めてのキスの味はよく分からなかったけどとっても幸せな気分でした……悔いは無い……

 

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

 

「お、お帰りハジメ、白崎」

「「ただいま、零斗(くん)」」

「その様子だと晴れて恋人同士て訳か. . . おめでとさん」

「「!?ど、どうしてわかったの!?」」

「え?だって白崎のリップバームがハジメの唇に付いてるし」

「え?う、嘘っ? は、ハジメ君、く、唇ふくからちょっとじっとしてて……」

「か、香織さん?」

 

 香織がハジメの唇を優しくハンカチで拭いていると赤面し初めた。ハジメの唇を見ていた香織はさっきのキスの感触が蘇ってきてしまったようだ。

 

「ハイハイごちそうさん」

「「うー恥ずかしい……」」

「ほれもうすぐ夕食できるから手洗ってきな」

「「はい……」」

 

 ハジメ、白崎おめでとう。さて後は天之河、檜山をどう始末するかだな……檜山辺りは不祥事を起こすだろうからそれの余罪を引き出して殺るか。天之河はかなり難易度高いな……

 

 そんな物騒な事を考えながら夕食の仕上げをする。明後日の迷宮での訓練が心配だな……白崎も予知夢らしき物を見たらしいからなぁ、どうすっかねぇ?

 

 

 

 

 




かなり長くなってしもうた. . . 感想お待ちしております。
あ、後零斗の技能のR-Ⅰ型強化細胞はかなりの高性能なので容姿の変更や性別の変化なんかもできます。


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お粗末な悪意と断罪

「よっと、はーい( ・ω・)ノお馴染みの零斗でーす」
「初めまして前にちょろと出たカインだよろしく頼む」
「アーチャーのエミヤだよろしく頼む」

「前回はハジメ達の訓練が終わったのとハジメの告白だったな」
「とても初々しかったですね」
「今の高校生というのはあの様な者なのか?」
「さぁ?」
「「さぁ、て」」
「知らんもんは知らん」

「今回はちょっとした事件だ」


「そろそろ行ってみる?」

「「了解した」」

「それじゃ、せーの!」


「「「お粗末な悪意と断罪!」」」


 Side 零斗

 

 ハジメの告白が成功し、白崎との交際がスタートしてから丸一日……今までの反動なのか脇目も振らずにイチャイチャしている。 

 

「ハジメくん!」

「何?香織さん」

「呼んでみただけ!」

「そ、そっか……」

 

 はい、朝っぱらからこんな感じに存分にイチャイチャしてくれやがっています。ブラックなハズのコーヒーが甘ったるく感じる程に甘い雰囲気が二人の間に漂っている。ま、これはコレで弄るのが楽しいけどネ! 

 

「ハジメ、白崎そろそろ行くぞー準備しとけー」

「「はーい」」

 

 明日は王国にいるクラスメイト達と合同で行う『オルクス大迷宮』での対魔物の戦闘訓練だ。今日の所は『宿場町 ホルアド』で前日泊する事となっている。

 

「カルデアの外にシャドウボーダーが待機してあります。他の方達はもう外で待っているので早く行きますよ」

「……そっちの口調に戻すんだ」

「えぇ、こちらの方が色々と楽ですからね」

 

 何時もの砕けた口調から地球に居た頃の優等生キャラの口調に切り替える。外聞的には優等生キャラを演じていた方が良い事が多いのでなるべくこっちの口調にしている。

 

「ほら、早く行きますよ……これ以上他の方を待たせるのは流石に気が引けますからね」

 

 ハジメと白崎を急かしながら、カルデアの外に向かう。外に出ればシャドウボーダーの搭乗口の前で他のメンバーが雑談していた。

 

「お待たせしましたね……さ、行きましょうか」

 

 全員に声を掛け、シャドウボーダーに乗り込んでハイリヒ王国に向かって発進する。

 

 ──────────────────────ー

 

 シャドウボーダーを走らせること数時間、やっとハイリヒ王国に到着した。早速、ギルガメッシュ王のいる執務室に向かう。執務室の前にはシドゥリさんが立っていた。

 

「お久しぶりです、シドゥリさん」

「えぇ、お久しぶりです。レイト様」

 

 シャドウさんは軽く微笑むと執務室の扉を開けて中に案内してくれた。中ではギルガメッシュ王が職務に追われていた。

 

「ギルガメッシュ王、ただいま帰還しました」

「……よくぞ戻ったなマスターよ。して結果は?」

「上々です」

 

 酷く疲れた様相でこちらを見るギルガメッシュ王は今にも過労で死んでしまいだった。その姿を見るだけで心が痛む。

 

「そうか……ではこれからも励むと良い……」

「了解しました」

「ではな……」

 

 そう言ってギルガメッシュ王は職務に戻った。頭を抱えて、コーヒーをがぶ飲みして限界社畜の様な顔をしながら書類と睨み始めた。とりあえずの報告は終わったので、退出しようとした時……

 

「そうだマスターよ……これを受け取れ」

 

 呼び止められて、宝物庫から大きめの風呂敷を取り出すと、俺に投げ渡してきた。それを開けると……

 

「ッ!?これは!」

「そう貴様が前世で使用していた装備一式と貴様が大切にしていたイヤリングとマフラーだ」

 

 風呂敷の中には俺が前世で使っていた装備一式だった。"血狂い"も"エルガー&ツォルン"も似せて作成しただけで性能は格段に落ちている。

 

「何故これを?」

「なに貴様が死んだ後我が宝物庫に入れただけよ、光栄に思うがよい。元より貴様に返す予定だったが時間が無かったのでな」

「感謝します。ギルガメッシュ王!」

「フハハハハハハ!気にするな!マスターよ!」

 

 高笑いをしながらまたも職務に戻るギルガメッシュ王。たまには休んでほしいが……俺にはどうする事も出来ないので直ぐにその場を立ち去る。

 

「零斗、そのイヤリングとマフラーは?」

「これは前世の私の弟と妹の遺品だよ……あぁ、何も変わっていない」

 

 前世で着ていたフード付きの外装型の黒いボディスーツ、翡翠が嵌め込まれたイヤリング、血の様に紅いマフラー、何も変わっていないな……

 

「先に中庭に行っていてください。私はこれに着替えてから向かいます」

 

 そう言いハジメ達と別れ着替えるために空き部屋を探す。今来ている服を脱ぎ、ボディスーツを着込む。ボディスーツには必要最低限の装甲が付けられている。フードを巻き込まない様にマフラーを巻き、イヤリングを左耳にだけ付ける。

 

「……あの頃に戻ったみたいだな」

 

 近くにあった姿見の前でくるりと回って全身を確認する。マフラーが風でふわりと舞って、イヤリングがカチャリと音を立てる。そんなくだらない事がどうにも可笑しくて少しだけ笑ってしまう。

 

「っと、ハジメ達を待たせてるだった……はやく行かなきゃだな」

 

 左腰に血狂いを納めて、太腿と腰の後ろに備え付けてあるホルスターにエルガーとツォルンを仕舞い、急ぎ足で部屋を出る。

 

 ●○●

 

 Side ハジメ

 

 零斗と別れて集合場所の中庭に向かう。途中でトイレに行った僕は香織さん達を先に行かせた。少し急ぎ足で中庭に向かっている最中……

 

「ふぅ、そろそろ行かないとな……ッ!?」

「な!?どうして今のが避けれんだよ!」

 

 突然後ろから攻撃をされた。避けられたけど当たってたら確実に怪我をする威力だった。

 

「何か用?」

「あ?調子乗ってる奴を殴ろうとして何が悪いんだよ?」

「そうだ!」

「なんでお前が!」

「俺らより劣ってる癖によ!」

 

 そこに居たのは檜山くんを初めとした小悪党4人組だった(零斗命名)。やっぱり絡んで来たね、零斗達の予想通りだったね。

 

「で?何の用があるの?何も無いならもう行くけど」

「あん、てめぇは何を言ってるのかわかっているのか?雑魚錬成師風情がよぉ!」

「生意気だぞ?ろくに戦闘もできない生産職の癖に!」

 

 ニタニタと気持ち悪い笑う檜山達。僕に戦闘能力がないと思い込んでいる様でゆっくりと近寄ってくる。手には鞘から抜かれた剣に槍が握れていた。本人達はそこまで気にしてないみたいだけど、下手をすれば人を殺しかねない危険な状態だ。

 

「なぁ、檜山。こいつボコした後に白崎の事呼んでよ、こいつの目の前で犯してやろうぜ」

 

 斎藤がゲラゲラと下品な笑い声を上げながら檜山に話し掛ける。檜山はいい考えだとでも思ったのか、斎藤に同調するようにゲラゲラと笑い始めた。

 

「……救いようがないクズ共が」

 

 僕はそう言って近くに居た近藤を殴り飛ばす。すると近藤は訓練場の壁に激突する。檜山達は呆然としていた、だが俺には関係ないその勢いのまま斎藤に回し蹴りを叩き込む。斎藤の顎から鈍い音が聞こえた。檜山と中野は数秒かけ正気に戻り僕に向かい攻撃を仕掛けてくる。

 

「「死ねぇ!」」

「……」

 

 それを躱す。メルド団長達の訓練のおかげである程度戦えるようにはなっているが、元が学生なので技術もセンスもイマイチだし、連携が取れてないから避けるのは簡単だ。

 

「何で避けれんだよ!」

「……」

「ガァ!」

 

 中野は避けられた事に腹を立てたのか抜き身の剣を振りかざしてくる。剣を持つ腕を蹴り上げて武器を手放せて、続け様にアッパーを食らわせて意識を刈り取る。残っているのは檜山だけだ。

 

「……〜〜〜」

 

 檜山は完全にびびってしまっていた。何せ一人で喧嘩した事がないのだ。いつも気弱な奴を選んで脅してるだけの惨めな男だった。抵抗されたら四人がかりでフクロにして言う事を聞かせていたのだったのだろう……

 

「……もう終わり?」

「テメェェェェ!」

「うるさいなぁ……」

「グッア!」

 

 檜山の鳩尾に拳もめり込ませる。鳩尾に重い一撃を食らった檜山は胃液と血の混じった物を吐き出した。

 

「南雲!お前何て事を!」

「あ?」

 

 倒れた檜山を見下ろしていると、背後から天之河が近寄って来て、胸ぐらを掴んできた。

 

「南雲!お前はやっぱりそういう奴だったんだな!」

「……離せよ」

「は? お前は自分のした事を理解していないのか!?」

離せって言ってんだろ! 

「ッ!!」

 

 天之河は僕の怒号に怯み手を離した。乱れた服装を軽く整えて、その場を離れようとした時だった……

 

「……これはどうゆう状況ですか?」

 

 王宮の方から険しい表情をした零斗が歩いて来た。零斗は倒れている檜山達を見て、深いため息をついてから僕に話し掛けてきた。

 

「……ハジメ、これは君が?」

「うん、檜山達から襲われたから軽くあしらっただけだよ」

「嘘を言うんじゃない!」

「貴様は黙っていろ」

 

 零斗が天之河くんを威圧して黙らせる。零斗の目が僕を真っ直ぐに射抜く。

 

「怪我は?」

「一つも無いよ」

「それなら安心です。さ、皆さん待っていますよ行きましょう」

「待て!南雲がやった事を見逃すのか!?」

「これは明らかな正当防衛でしょう、檜山達の手には抜き身の剣に槍……明らかに殺意を持っての行動と見て取れるでしょう。ならハジメが行ったのはただの正当防衛でしょう?」

 

 零斗はそれだけ言うと、僕の背中を押して中庭の方へ移動しようとしたが、天之河が行く手を阻んでくる。

 

「そんな言い訳は通らない! 南雲は自分自身の罪を償うべきだ!」

「罪?ハジメが一体何をどうして?」

「檜山達に暴行を振るった事だ!」

 

 天之河と零斗の議論は平行線のままだった、どちらのボルテージが上がって行き、今にも殴り合いの暴力沙汰になりかねなくなってきた。

 

「だいたい何なんだ!その薄汚れたイヤリングにマフラーは!1度洗った方がいいじゃないか?」

あぁ?

 

 天之河の一言で零斗の堪忍袋の緒が切れた。身体中を刺す様な殺気が零斗から漏れ出した。天之河は零斗の殺気に耐えきれなくなり、その場で尻もちをついてしまった。

 

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 中庭で待機している、零斗達を除いたメンバーは久しぶりに会ったクラスメイト達と互いに訓練の事を話しながら、全員が集合するのを待っていた。

 

『ッ!!?』

 

 楽しそうだった空気は一変し、その場に居た者の大半が今までに感じたことの無い程の恐怖を感じてガタガタと震え出した。

 

「刀華!」

「えぇ、分かってる!」

 

 恭弥の声に刀華が呼応し、事態の収集に向かう。向かった先は異常な気配を放つ存在の元……零斗の元である。

 

「零斗!!」

 

 刀華が零斗達の元に到着する。その目に写ったのは天之河の首を掴み今にも天之河を殺してしまいそうな零斗とそんな零斗を必死に止めようと声を掛けているハジメだった。

 

「零斗!一度落ち着きなさい!」

「…………」 

「ゲホッ……ゴホッ……零……斗……お前っ!」

 

 刀華の静止の声で漸く零斗は天之河を離した。天之河は力無く項垂れ、しばらく咳き込んだ後零斗を睨みつける。そんな天之河を零斗は感情の篭っていない冷たい視線を向けている

 

「……ハジメ、ここで何があったの?詳しく説明してちょうだい」

「うん……」

 

 ハジメは刀華に事の経緯を話し始めた。刀華の表情はハジメの話を聞いていくうちにどんどんと険しい物になっていった。話を聞き終わった刀華は深くため息をついた。

 

「ハジメ、メルド団長を呼んできて頂戴……零斗の事は私に任せて」

 

 刀華の言葉を聞いたハジメは急いでメルド団長の元へ向かった。それを確認した刀華は零斗の顔を引き寄せて唇を重ねた。

 

「……ん……少しは落ち着いたかしら?」

「…………えぇ、お陰様で」

 

 若干顔を赤くした零斗は頬を掻きながら、檜山達の方を見た。零斗ほ異空間収納から縄と取り出して、檜山達を縛り上げて地面に転がした。

 

「零斗……お前だけは……絶対に!」

 

 項垂れていた天之河がやっとの思いで立ち上がり、零斗を指差しながら怨嗟の声を上げた。そこでやっとメルド団長がやって来た。

 

「零斗!光輝!お前たちは何をしているんだ!」

 

 開口一番に零斗と天之河に怒号を飛ばす。零斗は少し気まずいなったのか視線を逸らしてしまう。一方で天之河は何故自分が怒られたのかが理解出来ていない様だった。

 

「……そこで縛り上げられている檜山達はどうしたんだ?」

「ハジメに対して集団で喧嘩を売った様ですが、返り討ちにあったそうです」

「ハァ……また、問題事を引き起こしたのか……」

 

 どうやら檜山達は前々から王国の貴族に対して神の使徒と言う立場を利用し金品を奪っていたらしい。

 

「……私と天之河はどちらが責任を負うべきかの言い合いになり、ヒートアップしていき天之河が私のマフラーとイヤリングを貶す様な発言をした為、彼に少しだけお灸を据えてやろうと思いまして……」

「そのマフラーとイヤリングはお前にとってどういった物なのだ?」

「……私の家族の遺品です」

 

 零斗の言葉でメルド団長は眉間に皺を寄せて、ため息をついた。そして、零斗の肩に手を置いて話し始めた。

 

「それがお前にとって大切なものだというのは理解した……だが、貶されたとはいえ暴力で解決しようとするのはダメだ……いいな?」

「……善処します」

 

 メルド団長に諭されて、バツが悪そう頭を搔く。その後ろで天之河が何か騒いでいるが刀華達によって押さえつけられている。

 

「天之河、そこまで納得がいかないのなら……私と1対1の勝負をして白黒ハッキリ付けよう」

 

 零斗が冷めた声で天之河に提案をする。それに天之河は嬉々として頷いた。そして、自分が正義の味方かの様な発言をし始めた。

 

「良いだろう……だが、俺が勝ったら南雲が檜山達に暴力を振るった事を認め謝罪する事、そして香織に雫、刀華は置いていって貰う!お前たちのような野蛮な奴らには相応しくない!」

 

 その場に居た全員が固まる。天之河の発言を聞いた零斗は収まりかけていた怒りが再び湧き上がってくる。それを抑えようともせずに天之河に向ける。

 

「随分と強気な発言だな、だがな……何故お前が主導権を握った気でいるんだ?

「ッ!?」

 

 零斗の威圧で僅かに後退る天之河。だが直ぐ様何時もの調子を取り戻し、零斗に噛み付き始める。

 

「やはりお前の様な野蛮な奴には彼女達には相応しくない!」

「……好きな様に言えばいいさ」

 

 零斗はそれだけ言うとメルド団長の方に視線を向ける。視線を向けられたメルド団長は額に手を当てて、また深いため息を付いた。

 

「この先の訓練所にアリーナがある……そこでお前達の決闘を行うとしよう」

 

 この数分だけで少しだけ老けた様に見えるメルド団長。零斗達は既に胃痛案件になってしまった様だ。

 

 

 ────────────────────────

 

 

 訓練所の一角にあるアリーナ……その観客席にはハジメや白崎達の他にも王国に残ったいたクラスメイト達や貴族達……多くの人が今か今かと、二人の登場を待っていた。

 

「……事の経緯を知らない人からすれば良い見世物よね」

 

 八重樫が苦々しい顔で呟く。それもそうだ、恐らくはこの世界唯一の勇者である天之河と実力不明の零斗の決闘だ、事情を知らぬ人からしたら一時の娯楽に過ぎないのだろう。

 

「……では、これより湊莉 零斗 対 天之河 光輝の決闘を始める!双方舞台に上がれ!」

 

 メルド団長の号令に伴い、観客席からは歓声が上がる。その大半が天之河に向けられた物であり、零斗には冷ややかな声が投げつけられていた。

 

「……呑気な物ですね」

「零斗!お前だけは必ず倒す!」

「……『弱い犬ほどよく吠える』とはよく言ったものですね」

 

 天之河を煽る様に話す零斗。天之河は顔を真っ赤にさせて今にも襲い掛かりそうになっている。

 

「双方準備は?」

「問題ありません」

「大丈夫です!」

「そうか……ではルールを確認するぞ。1、魔法の使用制限は無し。2、相手が気絶した場合は10秒カウントで勝利とする。3、相手を殺す事は禁止。以上だ!何か不明な点は?」

 

 両者とも首を横に振る。それを確認したメルド団長は片手を挙げて、開始の準備を進める。

 

「よし……双方構え!」

「……」

 

 天之河は刃引きされた剣を上段に構えている。訓練のお陰で隙が少なく、実用的な構えになっている。天之河がしっかりと構えている一方で零斗は……

 

「…………」

 

 腕を組み、ただその場に立っていた。

 

「お前は巫山戯ているのか!?さっさと武器を構えろ!」

「……貴様程度の相手なら素手で十分だ」

 

 零斗の見下した発言が気に触った天之河は開始の合図を待たずに突撃しようとするが、メルド団長に止められる。

 

「……零斗、ホントに良いんだな?」

「えぇ、このままで構いません」

「そうか……では…………始め!

 

 天之河はメルド団長の合図をしたのと同時に零斗に向かって突貫する。構えられた剣を振り上げて……

 

「オオオォォォォ!」

 

 その勢いのまま袈裟斬りをする。強化させれた身体能力により、常人では反応が出来ない程の速度の袈裟斬りだった。幾ら刃引きされた剣であっても当たり所が悪ければ死んでしまうだろう……だが、それはあくまでも()()の話だ。

 

「……先ずは一回」

 

 零斗は振り下ろされた剣をいなして、天之河の胸に手を当てる。天之河は自分の攻撃がいなされた事に驚愕して目を見開いている。だが、直ぐに気を持ち直していなされた剣を振り上げ逆袈裟を行う。

 

「……これで二回」

 

 零斗は逆袈裟を軽々と躱し、今度は天之河の背後に周り、首に手を賭ける。

 

「どうした?もう終わりか?」

「ッ!!まだまだ!」

「……」

 

 その後も天之河の攻撃を意図も容易く躱し、いなす零斗。段々とイラつき始めた天之河は戦闘中にも関わらず動きを止めて怒声を発する。

 

「さっきから何をしているんだ!」

「……無駄口を叩く暇があるのか?」

「ッ!!ふざけた真似を!」

 

 観客席からも零斗に向けて、貴族連中から罵声が飛ばされる。ハジメや白崎達はそれを冷ややかな目で見ていた。

 

 ────────────────────────

 

「ハァ……ハァ……」

「……これで百回」

 

 天之河は持っていた剣を落とし、肩で息をし呼吸を整えている。それを零斗は呆れた様子で観察している。そんな零斗は息一つ乱していない。

 

「このカウントの意味を教えてあげよう、天之河」

 

 零斗は天之河の目の前まで歩み寄る。そして、首を掴んで無理矢理視線を合わせる。

 

「……貴様が()()()()()数だ」

「な……に……?」

「さらに言うなら軽傷が863回、重傷が601回、戦闘続行不可の怪我が396回、四肢の欠損が298回だ……貴様と私には越えられない壁がある」

 

 そう言って零斗は天之河の首を掴んでいた手を離し、投げ飛ばす。天之河は数度地面を転がる。天之河はどうにか立ち上がると、零斗を睨み付けた。

 

「デタラメだ……!」

「デタラメも何も……貴様の攻撃は一撃も私に掠っていないでは無いか」

 

 零斗の言葉で天之河は押し黙る。それを見た零斗はつまらなそうな目をして、天之河を見つめる。

 

「もうこれ以上、貴様の愚行を許す訳にはいかない。一撃で終わらせる」

 

 殺意の籠った声で告げる零斗。それを聞いた天之河は恐怖に染まった顔を零斗に向ける。零斗は再度天之河に近ずいて、胸に拳を当てる。

 

「……フッ!」

 

 零斗は発勁で天之河を場外まで吹き飛ばす。吹き飛ばされた天之河はアリーナの壁に叩き付けられ、気絶した。

 

「勝者……湊莉 零斗!」

 

 服に付いた砂を払いながら舞台を降りる。零斗からすれば当然の結果だろう。幾ら天之河がチートスペックでも前世と今世での血の滲む様な訓練と強化細胞の恩恵もある零斗に勝利するのは不可能だ。

 

「お疲れ様。零斗」

「少し強めにやり過ぎじゃないか?」

「あれくらいしないと怒りが収まらなかったので」

 

 アリーナの出口で待っていたハジメと刀華が零斗に労いの言葉を掛ける。ちなみに現在の天之河のステータスはこうなっている。

 

 ========================

 

 天之河光輝 17歳 男 レベル:16

 

 天職:勇者

 

 筋力:800

 

 体力:900

 

 耐性:700

 

 敏捷:500

 

 魔力:600

 

 魔耐:600

 

 技能:全属性適正[+光属性効果上昇][+発動速度上昇]・全属性耐性[+光属性効果上昇]・物理耐性[+治癒力上昇][+衝撃緩和]・複合魔法・剣術[+無念無想]・剛力・縮地[+爆縮地]・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破[+覇潰]・言語理解

 

 =======================

 

 この世界の基準で測るなら、天之河は人類最強クラスの実力だろう。少なくとも並大抵の相手には負ける事は無いだろうが、零斗からすれば赤子同然だ。

 

「……零斗」

「メルド団長……どうかしましたか?」

「イヤな……お前達はオルクス大迷宮での訓練に本当に参加するのか?」

「そのつもりですが……」

 

 メルド団長は困った様な顔をしながら零斗を見る。零斗の実力を目の当たりにしたメルド団長は彼らに鍛えられたハジメ達の実力も相当の物だと思った様で訓練に参加しなくても大丈夫だろうと判断したのだろう。メルド団長の予想通り、ハジメは天之河以上のチートスペックになっている。

 

 ========================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:67

 

 天職:黒幕(フィクサー)の弟子・錬成師

 

 適正率:100%

 

 筋力:17150

 

 体力:18250

 

 耐性:16870

 

 敏捷:18550

 

 魔力:20980

 

 魔耐:21980

 

 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・剣術・棍術・闘術・銃術・抜刀術・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・威圧・念話(零斗、造介、幸利、香織)・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・言語理解・R-Ⅰ型強化細胞・喰種化

 

 ========================

 

 既にハジメを含んだ、強化細胞を移植したメンバー全員が人外の領域に至っている。だが、あくまでもステータスだけであり、戦闘技術も知識もまだまだ荒い部分がある。

 

「私の方では、対人訓練ばかりしていましたから……対魔物の訓練はあまり出来ていないんです」

「そうか……そういう事なら……」

 

 メルド団長は何処か納得していないながらも零斗達がオルクス大迷宮での訓練の参加を許してくれた。

 

「……メルド団長、檜山達の処遇はどうするつもりで?」

「ここは被害者のハジメが決めたらどうかしら?」

「へ?」

 

 急に話を振られたハジメは一瞬だけキョトンとするが、軽く考えてから喋り始める。

 

「……正直、どうでもいいかな」

「そういう事なら、こちらで罰を与えておこう」

 

 メルド団長はそう言うとその場を離れ、縛られたまま放置された檜山の元に向かった。残った零斗達も白崎達の元に向かいながらハジメが言った言葉に疑問を呈した。

 

「本当に良かったんですか?」

「うん、事ある毎に突っかかって来るのはめんどくさかったけど……これで清々したよ」

 

 満面の笑みで語るハジメに零斗と刀華は背筋に冷たいものを感じた。




長くなった. . . ハジメがちょっと魔王化してましたね。感想お待ちしております。


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月下の語らい


「よっと、( ´ ꒳ ` )ノハーイお馴染みの零斗でーす」
「白崎香織です」
「八重樫雫よ」

「前回は俺と天之河の戦闘だったな」
「何と言うか……本当に規格外ね貴方は」
「そんなに褒めるなよ、照れるだろ?」
「褒めてるわけじゃないと思うけど……」

「今回は私とハジメくん、零斗くんと雫ちゃんの話だよ!」

「それじゃ、そろそろ行ってみる?」

「「いいよ(わよ)!」」
「それじゃ、せーの!」

「「「月下の語らい!」」」


 Side 零斗

 

 天之河との決闘が終わってから直ぐに宿場町『ホルアド』まで移動をした。七大迷宮の一つ、『オルクス大迷宮』がある町の宿屋に泊まっている。そんでもって、そこの二人部屋をハジメと一緒に入った俺は、図書館から借りてきた、これからいく迷宮についての本を読んでいる。

 

『オルクス大迷宮』は全百階層からなると言われている大迷宮で、階層が深くなるにつれ強力な魔物が出現する性質を持つ。そのため、階層ごとで魔物の強さを測りやすい利点があるため、冒険者や傭兵、新兵の訓練に非常に人気だった。その他にもう一つ、出現する魔物が地上の魔物に比べ、遥かに良質の魔石を体内に持つという理由がある。

 

 魔石とは、魔物を魔物足らしめる力の核をいう。強力な魔物ほど良質で大きな核を備えており、魔法陣の効率の良い原料として知られている。

 

 

「零斗、寝ないの?」

「もう少ししたら寝ます、先に寝ていて構いません」

「そっか……」

「? どうしました?」

「いや……ちょっと不安で……」

「不安……ですか」

 

 うーむ、大分弱ってるなこりゃ。元々自己肯定感は低い方ではあったが、最近は改善してきたと思ったんだけどな。

 

「ハジメ、何が不安なんですか?」

「明日の戦闘で足引っ張らないかな……って」

「え?」

「え?」

「「え?」」

 

 この子は一体何を言ってるんだ?足を引っ張る?そんな事は有り得ないのに……

 

「ハジメ、ステータス見ましたか?」

「うん……」

「……君はもっと自信を持ちなさい。それに足を引っ張る事は絶対に有り得ませんよ」

「でも……」

「それでも不安なら私達がいます、何かあれば必ずサポートします……だから無理をしない範囲で行動してください。それでももし危なくなったら、すぐ逃げてください。それができないのなら。私達を呼んでください。必ず助けますから」

「……わかったよ」

 

 よし、不安は取り除けたみたいだな……ん?こっちに誰か向かって来るな。ハジメがウトウトとまどろみ始めたその時、ハジメの睡眠を邪魔するように扉をノックする音が響いた。

 

 少し早いと言っても、それは日本で徹夜が日常のハジメにしてはということで、トータスにおいては十分深夜にあたる時間。怪しげな深夜の訪問者に、すわっ、檜山達かっ!と、ハジメは、緊張を表情に浮かべる。

 

 しかし、その心配は続く声で杞憂に終わった。

 

「ハジメくん、起きてる? 白崎です。ちょっと、いいかな?」

 

 なんですと?と、一瞬硬直するも、零斗が落ち着いて、でも警戒して扉に向かう。そして、鍵を外して扉を開けると、そこには純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「……なんでやねん」

「また、貴方は……」

「えっ?」

 

 何でこんな薄着で来るかなこの子は……とりあえず俺は部屋出て、二人っきりにさせてやるか。

 

「ハジメ、私は少し外の空気を吸って来ます」

「え!?ちょ!」

 

 逃げるんだよォ!スモーキー! 

 

 ──────────────────────────

 

 ハジメと白崎を部屋に残し、外に出る。宿屋のキッチンから酒とツマミ、それと何故かあった煙管をちょろまかし、煉瓦造の宿の屋根の上に座っていた。(お酒とタバコは20からDAZN♡)

 

 そこで、月をぼーっと眺めながら、グラスの中でワインを揺らし、煙管をふかしながら先程自分がハジメに言ったことを思い返している。

 

「……明日、何も起きなければいいのだが……そうは行かないですよね…… ハァ、どうしたものか」

 

 不安を吐き出す様に煙管をふかす。

 

(……フ!……フ!)

 

 ん?誰かいるな……あれは……雫か。ちょいと声でも掛けようかね。というかこんな夜遅くに訓練するとかストックだが、不用心だよなぁ……

 

「お嬢さん、こんな夜更けに何を?」

「キャァ!れ、零斗!?…… 驚かせないでよ」

「これは失礼をしましたね」 

 

(可愛い悲鳴だな……)

 

「か、可愛いなんて!」

「え?あ、声に出ていましたか」

「そ、それより何でここに?」

「白崎さんがハジメを訪ねてきたので邪魔をしないようにと……」

「……それは災難ね」

「貴方は?」

「見て分からないかしら? 素振りよ」

 

 素振りって……こんな夜更けにやる事じゃないだろ。というか表情が若干固い様な気もするし、僅かに手も震えてるな……

 

「……不安ですか?」

「!?」

「……やはりそうですか」

「ええ、明日の訓練が……生き物の命を奪うのが、もしも香織達が傷付いたらて思うと怖くて……」

 

 ハジメ以上に重傷だな……これやって刀華達にバレたら困るけど、しょうがないか。

 

「……えい」トスッ

「え!?ちょ!?」

「はいはい、暴れないの」ナデナデ

「ふみゅ!?」

 

 その場に座り雫の腕を引っ張る。そのまま膝枕し、頭を撫でる。最初は戸惑っていたが、直ぐに猫の様にスリスリと甘えてくる。可"愛"い" 。いつもクールな女性の甘えた表情て唆るヨネ! 

 

「最近はあまり寝れていないのでしょう?」

「ッ……何で分かったの?」

「食事の量が減った事、何を話しても上の空、そして隠せているつもりでしょうけど目の下のクマが酷いですよ」

「よく見ているのね……」

「貴方が分かり易すぎるだけです」

 

 目に見えて弱ってるいるのが分かった。はぁ〜どうしてこうなるまで我慢しちまうのかねぇ……

 

「なぁ、偶には甘えてもいいんじゃないか?」

「いいの?」

「勿論!」

「ならもう少しだけこのままで居させて」

「おうせのままに、お嬢様。どうぞお気に召すまで」

「ムフー」

「フフ、よしよし」

 

 雫の頭を撫で続ける。よく手入れのされた髪はスルスルと指の間を通っていくので撫でている俺としても気持ちが良い。

 

「さて、夜も遅いからなそろそろ寝るか……」

「ええ、そうね……もう少しだけして欲しかったなぁー

「んー?どうしたぁ?熱でもあるのか?」ピトッ

「にゃ!」

 

 雫の額に自分の額を当てる。んー熱はないな(棒)、雫は顔を真っ赤にして呻いている。

 

「悪戯が過ぎるわよ!」

「おっとこりゃ失敬……緊張は解けたか?」

「お陰様でね!」

「そりゃよかった」

 

 雫は照れ隠しに木刀で殴りかかってきた、危ねぇなー。

 

「んじゃ俺は部屋に戻るから……夜更かしも程々にしておけよ?」

「分かったわ」

「おやすみー」

「おやすみなさい」

 

 雫と別れハジメと白崎のいる部屋に戻る。んー? 部屋から何か聞こえんな。

 

 

「──────」

「────────────」

 

 まだ話してんのかよ……またまたどっかで時間潰さなきゃだな……

 

 

 

クソ!何であんな奴と白崎が! 

 

 

 

 はぁーアイツ(檜山)まだそんな事言ってんかよ……しゃーねぇちょくらO☆HA☆NA☆SIしようかね。

 

「やぁ檜山くんこんな夜更けに何をしているのかな?」

「うぉ!?零斗!?」

「何をしているのかな?」

「な、何て……トイレから帰ってきた所だけど……」

「君の部屋はこちらの方向じゃないだろう?」

「 そ、そうだけど」

「とりあえず場所を移しましょう」

 

 檜山を連れて空き部屋に入る。檜山は何をされるのかが分からないのかビクビクとして怯えている。

 

「さて、君は彼処で何をしていたのかな?」

「だからトイレの帰りで……」

「その途中で白崎さんが見えたから着いて行った……と」

 

 檜山は目を見開いてこちらを見る。軽くカマをかけただけなのに、この反応とは……

 

「図星ですか…… 前々から思っていたのですが貴方達は何故ハジメの事を毛嫌いするのですか?」

「それは……」

「それは?」

「アイツはオタクのクセに白崎と話しているからだ!それなら俺でもいいだろう!?」

 

 は?それだけの理由で虐めてたのか?しかもその理論にどうやったら行き着くんだよ、やっぱこいつの思考回路はよく分かんねぇな。

 

「檜山くん、ハジメは確かにオタクですが成績も運動能力も天之河以上です。それに白崎さんがハジメに好意を寄せているのは彼の優しさを知ったからです」

「な!そんなの嘘だ!」

「これを見ても言えますか?」

 

 俺は異空間収納からハジメ達が座学で行なった小テストを見せる。

 

「こ、こんなもん、高校生がやる様な問題じゃ……」

 

 小テストには大学でやる様な問題に加えて、かなりマニアックな知識を求められる問題がびっしり載っている。

 

「ハジメはこの小テストで満点を取っています、それでもつり合っていないと?」

「……最初から解ってたんだ、白崎が南雲の事が好きなのは……でも認められなくて……認めたくなくて……」

 

 酷く沈んだ声と顔で呟く檜山。あまりにも悲痛でこちらが居た堪れなくなってくる。

 

「でもさ、少しくらいはさ夢見てもいいだろう?」

「ええ.……」

「ハハ、優しいな……」

 

 コイツもコイツなりに思う事があったんだな……ま、それでも許す気はないけどな。だが多少は認めてやるか! 

 

「檜山くん」

「何だ?」

「ハジメに謝罪する気はありませんか?」

「……え?」

 

 俺の提案の意図が分からない様で呆然とする檜山。まぁ、仕方ないか……

 

「もう取り返しが付かない事にはなっていますがそれなりの誠意を示せばある程度の救済措置があるかもですよ?」

「何で……何で……そこまで優しくするんだ?」

「君はまだ若い……だからこそ間違えを犯す。それを乗り越えて成長する、君にはそのチャンスがある」

「……変わってるよお前……あぁ、分かった南雲に謝ってくる」

 

 これで少しは変わってくれるといいんだけね……まぁ、変われるかどうかはこれからの檜山次第だがな。

 

 ──────────────────────────

 

 檜山と共にハジメのいる部屋に戻る。白崎は既に自室に戻っている様で部屋にはハジメだけが居た。

 

「あ、おかえり零──ッ!?檜山くん」

「南雲……」

「……零斗、何がしたいの?」

「私の口から何も……檜山くん、ハジメに言いたい事があるのでしょう?」

「南雲……今まですまなかった」

 

 そう言って檜山は土下座をした。なかなか肝が据わってるな……ハジメは今の状況が理解出来ていない様子でキョトンして、俺と檜山を交互に見ている。

 

「ずっとお前に嫉妬してたんだ……何でオタクが白崎と話しているのかって」

「……」

「今更許してくれてのは虫がいい話なのは解ってる……でもよ、せめて謝罪くらいはしておきたいんだ……」

「……いいよ」

「え?」

 

 檜山は何が起きたのか理解出来ていない様でキョトンとしていた。そんな檜山を他所にハジメは言葉を続ける。

 

「だから()()()

「えっと……許してくれるのか?」

「うん……暴力も振られたけどそれは僕の態度や行動が原因だったろうし。それに檜山くんはちゃんと謝って来てくれた、なら僕も誠意を示せなきゃだしね!」

「南雲……ありがとうっ!ありがとうっ!!」

 

 今にも泣き出しそうな顔になりながら、ハジメの手を握って頭を下げる檜

 

()()くん!これから宜しくね!」

「!あぁ宜しくな()()()!」

コレで1部の問題は解決ですね……私はメルド団長に檜山くんの罪をどうにか軽く出来ないか交渉してみます」

「いいのか?零斗?」

「気にする必要は無いですよ」

 

 まだ見込みがある奴でよかった。これで改心の余地が無いようなクズだったら殺している所だったわ。

 




檜山が改心しましたね。R18版はもう少々お待ちください、現在執筆中です。


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伝説(笑)の獣

「よっと、はーい( ・ω・)ノお馴染みの零斗ですよー」
「えっと、檜山大介です?」
「2度目の登場!南雲ハジメでーす」

「前回はハジメと白崎、俺と雫、そして檜山の謝罪だったな」
「改めてすまなかったハジメ」
「もう気にしてないからいいよ」
「そうか. . . 何だか照れ臭いな」
「仲がよろしいことで. . . 」


「さて、今回はトラップの話だよー」


「それじゃ、そろそろ行ってみる?」
「「OK」」

「それじゃ、せーの!」


「「「伝説(笑)の獣!」」」


 Side 零斗

 

 はいはい、零斗でーす。今私の置かれている状況を説明すると……

 

「あんのクソ野郎がぁー!!」

 

『オルクス大迷宮』の中を走っています。どうしてこうなったか? それはね……あのクソ野郎(天之河)がトラップに引っ掛かったからだよ!ナンテヒダ!!しかもトラップが転送式だったけど俺だけ残された……ので今はハジメ達のいる65階層に向かっています。

 

 と言う感じ。ちょっと分かりずらいからね回想行ってみーよ! 

 

 

 

 ────────────────────────

 

 俺達は今朝『オルクス大迷宮』の正面入口がある広場に集まっていた。メルド団長が野太い声で大迷宮に挑む際の注意点を話していた。

 

「今日の訓練の目的は地下20階に行き地下21階への階段を見つけたところで終了、地上へと帰還する。お前達の実力なら魔物に関しては大丈夫だろう。一番気をつけなければならないのはトラップだ。トラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがある。これは魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだ」

 

 さすが騎士団長抜かりないね! 

 

「────」

「「「──────!」」」

 

 ん?ハジメ達が何かやってるな……四人とも横一列に並んで……?

 

「出発じゃ!往くぞ!」バァーン! 

 

ハジメが出来るだけ低い声で号令を掛ける。あぁ……あれか、三部の序盤でのワンシーンか。混ざりたかったな……

 

「バカやってないで早く行きますよ……まったく…… 」

「「「「はぁーい」」」」

 

 ツッコミを入れつつ迷宮内に入る。ほぉー案外明るいんだな。緑光石だったかな?天之河を先頭に隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

 

 と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

 

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

 

 その言葉通り、ラットマンと呼ばれた魔物が結構な速度で飛びかかってきた。灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

 

 うん、キモイわ何か生理的に受け付けないデザインしてるよg……隣にいる刀華や雫、白崎達も頬を引き攣らせている。

 

 あ、ちなみにクソ野郎(天之河)のパーティーは天之河、龍太郎の2人で迎撃する。その間に、恵里と谷口が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。堅実なフォーメーションだねぇ。面白くねぇな……ん?俺のパーティー?俺1人だけど?おいボッチてわけじゃないからな!?基本はメルド団長と同じ様に護衛みたいな役割に回ってるだけやし? 

 

 クソ野郎は純白に輝くバスタードソードを視認も難しい程の速度(笑)で振るって数体をまとめて葬っている。その剣お約束に洩れず"聖剣"の名を持つ。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というには実に嫌らしい性能を誇っている。実際に"聖剣"に"神剣"の類いを見た俺達からしたらただのおもちゃにしか見えないけどネ! 

 

 龍太郎は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

 

「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ──〝螺炎〟」」

 

 二人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、光輝達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

 

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

 

 生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド団長。しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルド団長は肩を竦めた。

 

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

 

 メルド団長の言葉に鈴と恵里の魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

 

 そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのだが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

 

「次は南雲パーティーの番だ!」

「ハジメ出番ですよ」

「うん」

 

 ハジメのパーティーはハジメ、浩介、幸利、白崎の4人だった。前衛が1人だけなのは心もとないが……問題はない。何故かって? 

 

「……」ドパァン! 

「ギャウン!」

 

重々しい破裂音と共に一筋の閃光が魔物の身体を貫き、そのまま背後の魔物にも着弾する。その光景を見たメルド団長は俺の肩を掴み、ガクガクと揺さぶりハジメの方を指差しながら説明を求めてくる。

 

「あ、あれは……なんだ!?」

「あれは銃と言う武器です。私達の居た世界の武器です、かなり小型ですが弓やクロスボウ以上の連射性能に中級魔法程度の威力があります」

「な!?そんな物が!?」

「ですが、余り量産は出来ません」

 

 ハジメが自作のリボルバー型の拳銃"ドンナー"を使い浩介が捌ききれなかった奴を対処するからだ。幸利は闇魔法で魔物の意識を奪ったり、一時的に魔物を操っている。白崎は完全にヒーラーなので戦闘には参加していないが近づいた奴は持っている杖で殴り殺すので問題はない。

 

 ものの数分で魔物が全滅する。

 

「なかなかいい連携でしたよ」

「あれだけ零斗に扱かれればね……」

 

 まぁ、そりゃひたすらトライ&エラー繰り返せばアイコンタクトぜすに連携ぐらい出来るようなるよな! 

 

「南雲ォ!」

「……ハァ」

「何をするんだ零斗!」

「どうせハジメに掴みかかるつもりだったのでしょ? それを止めただけです」

「南雲!卑怯だぞ!」

「は?」

 

 卑怯?何を言ってるんだ?ハジメは自分の武器を使用して戦っただけなのに……本当に理解出来ない。

 

「銃なんて使ってんじゃない!正々堂々戦え!」

「君は何をバカな事を言っているんだ?大体戦闘に卑怯もあるものか……」

「そんなものは関係ない!」

「では魔法や弓も卑怯と言う事になりますが?」

「そんな事は言っていない!」

「遠距離から攻撃するのが卑怯なのでしょう?君が言っているのはそう言うことです」

「ッ!」

 

 これだから嫌なんだよコイツ……何かあればイチャモン付けて来るからよ。

 

「ほらさっさと自分のパーティーに戻ったらどうですか?」

「ッ!!」

 

 ほらほら、さっさと尻尾巻いて逃げな負け犬風情がよ!というか文句言う為だけにこっちに来たのかよ……

 

「零斗、お前は参加しないのか?」

「ええ、あメルド団長後ろ危ないですよ」パァン!

「うぉ!?」グギャ! 

「ふむ、カメレオンタイプの魔物ですか……ムグッ」

「な、何をしている!?」

 

 メルド団長を背後から襲おうとした魔物を撃ち殺す。そして、殺した魔物を喰う。うーん不味い、肉自体が固いしめっちゃ獣臭いなこれ。

 

「……不味いですね」

「おい今すぐ吐き出せ!魔物の肉は人間の体には毒だ!」

「問題ありませんよメルド団長」

 

 鈍い痛いはあるが前世での改造手術よりかはマシだ。一応ステータス何かも確認しておくか……

 

 ============================

 

 

 湊莉 零斗(レイト・アルバート) 18歳 男 レベル:ERROR

 

 天職:黒幕(フィクサー)・人類最後のマスター・暗殺者・料理人

 

 称号:英霊の寵愛を受けし者

 

 適正率 100%

 

 筋力:ERROR

 

 体力:ERROR

 

 耐性:ERROR

 

 敏捷:ERROR

 

 魔力:ERROR

 

 魔耐:ERROR

 

 技能:天体観測・全事象耐性・英霊憑依[+詠唱破棄][+使用魔力減少]・衝撃波・魔具精製・血統武器作成[+複数作成][+必要血液減少]・威圧・瞬間移動・影移動・異空間収納[+付与][+有機物][+無機物]・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・剣術[+明鏡止水][+極一意思]・銃術[+弾道操作][+オートリロード]・闘術[+獣術][+鬼術]・棍術・繰糸術[+変幻自在]・槍術・抜刀術[+抜刀速度上昇][+因果両断]・暗殺術・交渉術・念話[ 刀華、恭弥、柊人、鏡花、悠花、ハジメ、造介、幸利]・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・自己再生・昇華魔法・変成魔法・魂魄魔法・召喚魔法[悪魔・天使・アンデッド]・全魔法適正・喰種化[+部分変化][+部位強化]・R-Ⅰ型強化細胞・吸血[+生命力][+魔力][+記憶]・複合魔法・剛力・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・天眼・千里眼・超速魔力回復・リミットブレイク・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・言語理解

 

 

 =============================

 

 色々増えてんな……ってか称号ェ……寵愛て……いや、まぁ嬉しいけどね?なんか小っ恥ずかしいわ……

 

「体に異常は無いのか?」

「ええ、大丈夫です」

「ならいいが……あまり心配させないでくれよ?」

「はい」

 

 うーんやっぱりいい人やなぁ。

 

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ! 今日はこの二十階層で訓練して終了だ! 気合入れろ!」

 

 メルド団長のかけ声がよく響く。

 

「香織、なに南雲君と見つめ合っているのよ?迷宮の中でラブコメなんて随分と余裕じゃない?」

 

 雫のからかうような口調に思わず顔を赤らめる白崎。白崎は雫の事をポカポカと叩きながら雫の言葉に反応をする。

 

「もう、雫ちゃん!私はただ、ハジメ君の側にいたいだけだよ!」

「それがラブコメしてるって事でしょ?」

 

 と、雫は追撃した。

 

「雫ちゃんだて零斗くんの事見てたじゃん!」

「ソ、ソソ、ソンナコトナイワヨ?」

 

 雫は見るからにキョドりながら否定する。説得力皆無やな. . . あ?何だ?この視線は?ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った不快な視線だな……誰が見てきてんだ? 

 

「……チッ」

 

 視線を向けてきた主に悟られぬ様に探る……てめぇ(天之河)かよめんどくせぇな。

 

「よし、休憩は終わりだ! 移動するぞ!」

 

 メルド団長の声に合わせ移動を開始する。ハァ……この先思いやられるわ……

 

 迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通だ。現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはずだった。

 

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。神代の転移魔法の様な便利なものは現代にはないので、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

 

 すると、先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のようだ。

 

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

 

 メルド団長の忠告が飛ぶ。その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

 

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

 

 メルド団長の声が響く。光輝達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、鍾乳洞的な地形のせいで足場が悪く思うように囲むことができない。龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、ロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。そこ直後……

 

「グゥガガガァァァァアアアア────!!」

 

 部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

 

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

 

 体をビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。まんまと食らってしまった前衛組が一瞬硬直してしまった。

 

ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ白崎達に向かって投げつけた。見事な砲丸投げのフォームで!咄嗟に動けない前衛組の頭上を越えて、岩が白崎達へと迫る。白崎達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。しかし、発動しようとした瞬間、白崎達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

 

 なんと、投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて白崎達へと迫る。その姿は、さながらル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。しかも、妙に目が血走り鼻息が荒い。魔物でも性欲てあるんだな。白崎も中村も谷口も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

 

「危ないですよお嬢さん方」ドパァン! 

「グゴォオ!?」

 

 投げつけられたロックマウントの頭を撃ち抜く。白崎達は、「ありがとう!」とお礼も言うものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感と思い込みの塊、我らが勇者(笑)天之河 光輝である。

 

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

 

 どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。彼女達を怯えさせるなんて! と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応してか彼の聖剣が輝き出す。

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ──〝天翔せぇ「!? 何をしている!」げふぅ!」

 

 咄嗟に天之河を殴り飛ばす。そんな威力の大技でこの空間が崩落したらどうするつもりだ!?アホなんじゃねか!?

 

「君はこの階層を吹き飛ばす気か!?下手をしたら全員生き埋めだったんだぞ!」

「ッ!すまない……」

「ハァ、次はありませんよ」

 

 あっぶねぇなホント……心臓に悪いったらありゃしねぇ……

 

「あれ、何かな?キラキラしてる……」

 

 白崎の指差す方に全員が目を向けた。俺ももう一度そちらをみる。するとそこには、青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。 白崎を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

 

「グランツ鉱石だね。言わば宝石の原石みたいなもので特に何か効能があるわけではないけど、その輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気で、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入る代物だね」

「ほぉ、坊主よく知っているな」

「えへへ」

 

 ハジメはメルド団長に褒められながらワシャワシャと頭を撫でられ気持ち良さそうにしている。傍から見ると何か親と子供みたいだな……

 

「素敵……」

 

 白崎がうっとりとした声色でそう言う。

 

「白崎さんあれを誰かに送って欲しそうですねぇ?」

「ふえっ、れれれれ零斗くん!? べ、別にそんなことは……」

「香織あれが欲しいのかい? なら俺が取って来るよ!」

 

 俺が白崎をからかってると、唐突にそう言って動き出したやつがいた。天之河だ。あのカス野郎は、グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。途端に慌て始めるメルドさんと騎士の方々。

 

「こら!勝手なことをするな!安全確認もまだなんだぞ!」

「撃ち落としますか?」

「いや、それは流石に……」

 

 俺の提案にメルド団長が悩んでる間に、聞こえていないのかカスはとうとう、鉱石の場所に辿り着いてしまった。

 

 メルド団長は、止めようと天之河を追いかける。同時に騎士団員の一人がフェアスコープで鉱石の辺りを確認する。そして、一気に青褪めた。

 

「団長!トラップです!」

「ッ!?」

 

 しかし、メルド団長も、騎士団員の警告も一歩遅かった。カスがグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。あの宝石輝きに魅せられて不用意に触れたやつへのトラップってとこか! "美しい薔薇に棘がある"てか!? 魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。調べてみりゃあ、術式は転移用のものだ。

 

「くっ、撤退だ!早くこの部屋から出ろ!」

 

 メルド団長の言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

 

「クソ!"英霊憑依"キャスター"メディア"!」

 

 間に合うか!?ギリギリか?考えてる時間は無いな、さっさと宝具で転送陣を破壊しねぇと!

 

術理、摂理、世の理、その万象……一切を原始に還さん『破戒すべき全ての(ルールブレイカァ)!」

 

 メディアの宝具を発動するが間に合わず転送されーーー

 

「!?何故俺だけ?」

 

 俺以外のクラスメイトと騎士達が転送された。恐らくは転送陣に変に干渉したせいだろう。

 

「クソ!念話で行けるか?『恭弥!今何処に居る!』」

『零斗!恐らくだかかなり下の階層、そして橋の上だ! だが確実に不味い状況だ……ッ!』

「『どうした!?』」

『ベヒモス? とか言う魔物と骸骨の魔物に挟まれた……今すぐ撤退する!』

「『分かった!俺もそっちに行く!しばらく耐えてくれ!』」

 

 念話を切り、恭弥達のいる位置の特定を始める。

 

「『反響調査(エコーロケーション)』!」

 

 音の反響を利用して探る。65階層か! 

 

「よし!」

 

 その場を離れ恭弥達のいる65階層まで急ぐ。そして回想前に戻る。

 

 

 ────────────────────────

 

 はい!回想終了!現在は58階層まで降りてきた。

 

「『恭弥!今の状況は?』」

『天之河が邪魔をするせいでベヒモスの足止めが出来ない!』

「『クソ野郎がァ!こんな時まで足引っ張りやがって!』」

 

 あぁ!クソ!時間がねぇ……しゃねぇ、階層ごとぶち抜く! 

 

"これは外法の技なり。これは全てを破壊する一撃なり。砕けろ! 『母なる大地の憤怒(カタストロフ)』"!!ドゴォォォォォン!  

 

 ●○●

 

 Side 恭弥

 

 零斗と2度目の念話を切り『トラウムソルジャー』の掃討に意識を向ける。クソ! かなり数が多い! (原作の倍以上の量が沸いています)

 

ドゴォォォォォン!)

 

「来た!」

「全員撤退準備!」

 

 私達の背後に出現した十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が威容を放っていた。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……メルド団長が言うにはあれは"ベヒモス"らしい。まさか旧約聖書に出てくる獣の同名とはな……もっともあれよりもチープだな。

 

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!? 光輝、お前達も早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん!俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう!俺達も……」

「馬鹿野郎!あれはベヒモスだ。今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる光輝。どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

 

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず──〝聖絶〟!!」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ! 衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

 

「クソ! 捌ききれん!」

「キャ!」

「!? 園部さん!」

「あ……」

 

 倒したと思ったトラウムソルジャーの一体が突然起き上がり近くにいた優花に剣を振りかぶり斬り下ろそうとしていた。

 

「……?」

「大丈夫ですか? お嬢さん?」

「「「「零斗!!」」」」

 

 やっと来たか!よしこれなら行ける! 

 

「零斗!ベヒモスの方を頼む!トラウムソルジャーは私達で対応する!」

「了解した!」

 

 零斗はそう言いメルド団長のいる方向へ駆けていく。頼んだぞ……

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

 園部に剣を振り下ろしたトラウムソルジャーを吹き飛ばす。

 

「零斗!ベヒモスの方を頼む!トラウムソルジャーは私達で対応する!」

「了解した!」

 

 恭弥達がトラウムソルジャーに対して奮戦している中、ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

 

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

 

 メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の天之河には難しい注文だ。

 

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の天之河達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

 

「光輝、メルドさんの言う用に撤退しよう!」

 

 龍太郎は状況がわかっているようで天之河を諌めようとしたが……聞いてはいない。

 

「メルド団長!階段までの通路が後少しで開けます!」

「零斗!?いや……よくやった!よしお前たち、撤退戦に移るぞ!光輝!わがまま言わずに撤退しろ!お前たちが居ては逃げきれない」

「っ〜メルド団長!俺はまだ……」

「下がれぇ──!」

 

 戦える!そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。

 

「クソ!龍太郎、谷口、恵理!直ぐにここから離れろ!」

「「「了解!」」」

「ハジメ!『錬成』でベヒモスの足を止めろ!」

「もうやってる!」

 

 矢継ぎ早に指示を飛ばす。ハジメが『錬成』で橋の一部を操作してベヒモスの片足を絡め取り、一時的に動きを封じた。

 

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ!全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!「ッ!!おい、光輝!それはーーー!」──〝神威〟!」

 

 詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

「貴様!何をしでかしてくれた!」

「俺は勇者としての責務を果たしただけだ!」

 

 その行動はベヒモスを更に刺激するだけだと理解出来ていない様だった。そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 

「グルルルルゥ……」

 

 その先には……無傷のベヒモスがいた。低い唸り声を上げ、俺達を射殺さんばかりに睨んでいる。足を固定していた床は天之河の一撃により砕けてしまっていた。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィ──という甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

 

「ボケッとするな!逃げろ!」

 

 メルド団長の叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った全員が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、俺達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。天之河達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。俺は血狂いを床に突き刺し、吹き飛ばされないように身体を固定する。

 

天之河達はゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。どうにか動けるようになったメルド団長が駆け寄ってくる。他の騎士団員は治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

 

「お前等、動けるか!」

「ハジメ!そこのバカを抱えて下がりなさい!」

「了!」

 

 メルド団長が叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。

 

「メルド団長!私が足止めをします!」

「クソ……あぁ、頼んだぞ零斗!」

ああ。時間を稼ぐのはいいが. . . 別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう? 

「ああ!手加減は要らん!」

「了解した、"英霊憑依"アーチャー"エミヤ"投影開始(トレースオン)

 

 メルド団長達を引かせベヒモスの足止めに入ろうとする……が、光輝が呻き声を上げた瞬間「俺はまだ戦える!」そう叫んでハジメを振り解いた……加減をせずに振り解いたせいで……

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「!?ハジメェェエエ工!」

 

体制を崩したハジメは橋から転げ落ちてしまった。その様子が見えていないのか天之河は聖剣を握り直して、再びベヒモスに向かって行った。

 

「──〝天翔閃〟!」

 

 天之河が叫び再びベヒモスに天翔閃放つがやはりダメージを与えた様子はない。それどころかベヒモスの頭がめり込んでいた場所を粉砕する。

 

「クソっ!全員今すぐここから離れろ!」

 

 悪態を付きながら指示を飛ばす……

 

I am the bone of my sword.(──体は剣で出来ている)

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)

 

I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)

 

Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)

 

Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)

 

Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 

Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)

 

So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.(その体は、きっと剣で出来ていた)

 

 ベヒモスを宝具で串刺しにハジメが落ちた方向を覗く……よし!まだ姿は見える!まだギリギリ戻れる! 

 

ハジメェェエェェエッ!!! 

 

 ハジメの名前を叫びながら落ちていく。

 

「零斗!!」

 

 ハジメに向かい手を伸ばす……よし!掴んだな! 

 

 ローブに付けていたワイヤーフックを橋に向かい投げる……ガチン届いた!…… ッ天之河!? 

 

「……」

 

 ワイヤーで支えられた俺とハジメを見た天之河は暗い笑みを浮かべた。そして、ワイヤーフックの鉤爪を蹴って俺達を奈落の底に落とした。

 

「……いい度胸してんな」

 

俺はやっと見えた天之河の本性に呆れながら、落下していく。身体を打ち付ける風を感じながら、ただただ落ちて行く。

 

「借りは必ず返す……だが、先ずはハジメの分だ」

 

ホルスターからエルガーを抜き、天之河の顔面に向けて撃つ。着弾したかは確認出来ないが恐らくは掠ってはいるだろう。地上に戻ったら覚えてやがれ……




零斗とハジメが天之河の裏切りで奈落に落ちましたね。感想お待ちしております。


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果たされなかった約束

「よっと、( *・ω・)ノやぁ恭弥だ」
「刀華だ」
「( ゚∀゜)フハハ八八ノヽノヽノヽノ \!我こそ王の中の王!ギルガメッシュである!」
((相変わらず騒がしいなぁ. . . ))


「前回は零斗とハジメが奈落に落ちてしまったな. . . 」
「こんな事で死ぬ訳は無いと分かってはいるけどやはり心配だな. . . 」
「そうさな. . . 」

「さて、今回は私達サイドの話だ」


「では行ってみよう」


「「「果たされなかった約束!」」」


I˙꒳˙)ヒョコ どうも作者のreitoです、今回はかなり短めです。それだけです。


 Side 恭弥

 

「よし! 退路の確保はもう少しで出来る!」

 

 あとはベヒモスだけ. . .

 

ハジメェェエェェエッ!!! 

 

 この声は零斗? . . . まさか! 

 

 次の瞬間、零斗が橋の下へと飛び降りた. . . なんて無茶を! 

 

「キャア!」

「!? 八重樫さん!」

 

 クソ! 気を取られすぎたか! 今は退路の確保が優先か. . .

 

「フッ!」

 

 主武器の"ニエンテ"でトラウムソルジャーを薙ぎ払う。やはり数が多い! 

 

「怪我は無いか?」

「え、ええ無いわ」

「なら良かったよ. . . 零斗の"特別"に傷を付ける訳には行かないのでね」

「にゃ! 特別にゃんて!」

 

 満更でもない様だな. . . と巫山戯ている場合じゃ無いか。

 

「八重樫さん全員に下がる様に伝えてください」

「何をする気?」

「全て仕留めます」

「!? 分かったわ」

「頼みました」

 

()()はかなり疲れるのですがね. . . やるしかないですよね。

 

「恭弥さん、退避完了しました!」

「あぁ、ありがとう. . . では始めるとしよう」

 

奪え全てを。穿て万物を。渇きを癒せ(欲望を満たせ). . . 『略奪者の烙印(プランダラ・エスティグマ)

 

 次の瞬間、(恭弥)いや(ヴォイド)の姿が変貌する。全身を黒い霧が包み込む。バキバキと音を立て身体が変化する。

 

 霧が晴れると、全身は赤黒く鎧の様だ。その手には二振りの槍. . . 一振の銘は"ヴェスティージ"全体は白く吸い込まれてしまいそうな程に綺麗な物だ. . . だがもう一振の"イスキミア"ただ黒く呪詛そのものの様だ。

 

さぁ食事(蹂躙)を始めよう

 

略奪者の烙印(プランダラ・エスティグマ)』:自身のうちに眠る狂気を、渇望に駆られた本能を呼び起こす。力の大元は決して癒えぬ渇き(欲望). . . 何を奪えば満たされる?何を奪えば癒される?どうすればこの渇き(欲望)を消せる? その欲望は. . . 当人にしか知り得ること。

 

 (ヴォイド)はひたすら槍を振るった。ただ殺して殺して. . . 殺し続けた。

 

クッハハ! さぁ! 次の食物(獲物)はダレダァ?

 

 あぁ. . . 心地良い. . . なんとも心地良い. . .

 

「恭弥. . . もういいわ」

何故だ? まだ余は満足しておらぬ! 

「本当にそうかしら? ほら手が震えているわよ?」

 

 自分の手が僅かに震えていた。

 

あぁ、余は. . .私. . は. .何を?

「よく頑張ったわね、少し休んでいて」

あぁ、そうさせて貰う. と. .しよ. う. . .

 

 私の意識はそこで途絶えた。

 

 ────────────────────────

 

「────♪────────♪♪」

 

 懐かしい歌が聴こえる。一体誰が? 

 

「ッ!!」

 

 確認しようと体を起こすが全身に痛みが奔る。やはり体への負担が大きいですね. . .

 

「恭弥、起きたのね」

「ええ」

「体はどう?」

「かなり痛みますね」

 

実際体を起こしているのも辛い程だ。

 

「零斗達は?」

「ここには居ないは. . . 生存しているかもどうか分からないわ」

「そう. . . ですか. . . 」

 

あの時私が動いていれば. . . また彼を失ってしまったのか. . .

 

『おいおいしみったら顔すんなよ恭弥』

「!?」

『お前らしくねぇな?』

「零斗. . . 生きて?」

『ま、これは録音による音声だけどネ!』

 

やはりそうか. . .

 

『さて本題に入るか. . . まずは俺かハジメ、もしくはその両者に何かが起きた場合だが決してお前のせいではないからな?お前がそんなに気負う必要はねぇよ。』

「相変わらずだな彼は. . . 」

『んで2つ目は俺達のどちらかが離脱した場合誰かが、裏切った可能性がある。容疑者は天之河だ』

「やはりあいつか. . . 」

『それと恭弥、鏡見てみ?』

「?鏡?. . . な!?」

 

鏡に映る自分の姿は前世と瓜二つだった。髪も瞳も紅くなり顔付きも大人びている. . . だが何故?

 

略奪者の烙印(プランダラ・エスティグマ)の影響だろうな予想としては前世で使っていた自身の本能や狂気を呼び起こす魔法や技能なんかは前世の魂に引っ張られて容姿が変化するぽい?この辺りは予想でしかねぇから確証は無い』

「これと言ったメリットもデメリットも無いか. . . 」

『あ、伝達事項だが迷宮から出た時に別の場所に飛ばされる可能性がある。んで合流場所は"フューレン"か"ウル"のどちらかにする。最後になったがちょいとメッセージだ"Attendre et espérer(待てしかして希望せよ)". . . てな!』

 

そう言って零斗の録音音声は消えた. . . 何処まで予想をしているのかまったく. . .

 

「彼らしいわね」

「フフフ、そうですね」

 

さて、これからどうしましょか?

 

 

 

 

 




誰か零斗達のイラスト描いて. . . 感想お待ちしております。


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帰還と報告. . . そして離脱

「よいしょと、どうも刀華よ」
「最近出番のない柊人です」
「2度目の登場で嬉しい雫です」

「前回は恭弥の話だったわね」
「毎度思うんだが零斗は何処まで見透とうしているのか. . . 」
「それは私も気になるわね. . . 」
『数年先までくらいなら出来てるぞー』
「「「え!?. . . て気の所為?」」」


「ま、まぁいいわ、今回はハイリヒ王国への帰還とギルガメッシュ王に報告、そして離脱よ」


「それでは行ってみましょうか」


「「「『帰還と報告. . . そして離脱!』」」」

『次回は俺達の目線だぜー』


 Side 柊人

 

 迷宮内でのトラブルによって零斗とハジメの二人が行方不明になってから一日が経ち、僕らはホルアドからハイリヒ王国に帰還した。とりあえず今はギルガメッシュ王に迷宮での訓練の結果を報告する為にメルド団長と共に執務室に向かっている。

 

「……どう報告します?」

「それは……どうしましょか?」

 

 僕と一緒にメルド団長に付いてきていた恭弥とどうやったらギルガメッシュ王の機嫌を損なわずに報告出来るかを相談し合う。

 

「ギルガメッシュ王、ただいま帰還致しました」

 

 そうしているうちにギルガメッシュ王の居る執務室に到着した様だった。とりあえずは身なりを整えて、執務室に入る。

 

「……メルドか。早急に結果の報告をせよ」

「はい……」

 

 メルド団長は意気消沈した様子で迷宮での訓練とそこで起きた事を事細かに報告した。

 

「そして……っ、湊莉 零斗と南雲 ハジメの二名が迷宮内のトラップにより生死不明となりました……恐らくはもう……」

「もうよい……」

 

 ギルガメッシュ王は一瞬だけ表情を曇らせたが、直ぐに無表情に戻った。メルド団長からすれば零斗とハジメは死んだも同然何だろうけど……ゴキブリ以上の生命力をした零斗がこの程度で死ぬ訳がないし……

 

「……もうよい、下がれ……だが、そこの使徒二人は残れ」

 

 メルド団長は心配そうに僕らを見た後、直ぐに立ち上がり執務室を出て行った。

 

「さて、ヴォイドそしてノクトよ迷宮内で何があったのか説明して貰おうか」

「了解です」

 

 

 ──────青年説明中───────

 

「──────これで以上です」

「そうか……彼奴らしい判断だな」

「全くですよ」

 

 前世から無謀に突っ込んで行くタイプだったからね彼は……(貴─はふざ──い──か!)ん?この声は…… 

 

「……ギルガメッシュ王、私達はこれで失礼します」

「あぁ」

 

 執務室を出て声のした中庭に向かう。中庭では刀華が天之河に罵声を浴びせながら掴みかかろうとしている、そんな刀華を羽交い締めにしてどうにか止めている八重樫さんや浩介が呼び掛けている。

 

「……何をしているのですか?」

「恭弥、柊人!」

 

とりあえずは近くにいた幸利に声を掛けて事情を聞こうとするが、刀華が怒声を上げた。

 

「此奴が零斗を裏切り者だと!私達を洗脳していたのだと!」

「「はぁ?」」

 

 恭弥と声が重なる。零斗が?裏切り?刀華達を洗脳?どうしてそんな考えに行き着いたんだ? 

 

「刀華、事情は分かりましたとりあえずそこの天之河(バカ)を捨ててください」

 

 平然と天之河を罵倒する恭弥。正直言えば、今すぐにそこの馬鹿を張り倒してやりたい所だったけど、恭弥のお陰で少し冷静になれた。

 

「確かに零斗や南雲はあの日前に出て戦ったが、結局は統率性の無い奴だ! 彼らが居たからクラスの皆が死ぬ思いをしたんだ! 恭弥、柊人、刀華、悠花、鏡花悪いことは言わない。俺たちと一緒に世界を救おう。そうしたらきっとエヒト神が俺たちを救ってくれるよ。あんな奴らなんて置いて俺たちと一緒に──」

 

 

 

「「貴様今なんと言った?」」

 

 

 

 収まりかけていた怒りが一気に膨れ上がり、爆発する。こいつは何を言っているのだ?零斗が……ハジメが居たから皆が死ぬ思いをした? 

 

 

 

「彼が居たからクラスの皆が死ぬ思いをした?それは違う、そもそもお前がトラップに引っかかったせいで転移したのだろう?」

 

恭弥が天之河の首を締め上げながら、淡々と言葉を紡ぐ。ギリギリと万力の様な力を込められているせいか天之河の顔はどんどんと青ざめていく。

 

「そしてお前が撤退をしないからメルド団長はベヒモスの足止めを出来ずにいた……それだけに留まらずお前の身勝手な行動のせいでハジメの『錬成』のお陰で動きが封じられていたベヒモスが解き放たれたんだぞ?」

 

僕は首を絞められていた天之河の眼球スレスレにナイフを近ずけながら話す。

 

「「これはお前が起こした事だ。戦場であれば貴様は戦犯として処罰されてもおかしくはないのだぞ?神の使徒そして勇者と言う立場にあるから見逃されている事を理解しておけ」」

 

 そう言われたバカ(天之河)は返す言葉がないのか俯いている。

 

「刀華、鏡花、悠花行きましょう。もうここにいる必要はありません」

「「「そうね行きましょう」」」

「「「「「「私(((俺)))もついて行く」」」」」」

「いいでしょう」

 

 八重樫さんを筆頭に訓練を付けた人達がが付いてくる。

 

「待ってくれ!」

 

 天之河の声を無視してその場を立ち去る。

 

「俺は. . . 俺は勇者なんだ!」

 

 バカ(天之河)が背後から襲いかかってきた. . . が

 

「. . . 」スッ

 

 当たるはずも無いが。

 

「俺はいつも正しいんだ!」

「. . . 」スッ

「俺は────!」

 

 

 

 ────────────────────────

 

 約10分間天之河の攻撃は続いた. . . まぁ

 

「ハァーハァー」

「もう終わりですか?」

 

 一撃も当たることは無かった。

 

「では僕達はこれで失礼します」

「待て! まだ俺は!」

「すまない天之河. . . 」ググッ

「檜山. . 何を. . . 」バタ

 

 へぇ. . . 改心したとは聞いたけど本当にしてたんだ。

 

「ありがとうございます、檜山くん」

「いいさ礼なんて. . . さ、行ってくれ」

 

 変わり過ぎでは? 

 

 ●○●

 

 Side 恭弥

 

 ハイリヒ王国からカルデアに転移し、食堂へと向かう途中。

 

「サーヴァント達にはどう説明しましょう?」

「「「「あ. . . 」」」」

 

 かなり重要な問題があった。どうしたものでしょう? 素直に伝えたらハイリヒ王国の6割ほどが破壊されるのは確実でしょうし. . . かと言って伝えずにいたら. . . ハァー問題は山積みですね。

 

「もう覚悟を決めるしかありませんね」

「「「「そうするしかないね(((ですね)))」」」」

「「「「「「「サーヴァントの人達てそんなに怖いの?」」」」」」」

「下手をすれば世界丸ごと滅びますよ」

「「「「「「「へァ!?」」」」」」」

 

 なぜブロリー? 

 

「とりあえず中に入りますよ. . . へ?」

「ん? おー昨日ぶりやねー」

 

 食堂内には居るはずの無い零斗の姿があった。

 

「「「「「「「「「「「「ダニィ?!」」」」」」」」」」」」

 

 だから何故ドラゴン○ールになるんだよ. . . っと口調が. . .

 

「何で貴方がここに!?」

「ハジメは!?」

「そもそもどうやってここに!?」

「落ち着け」

 

 落ち着けと言われても無理でしょう. . . でも本当にどうやって? 

 

「あーサーヴァントとして一時的な現界だ. . . 後5分位で消えるかな?」

「へ? サーヴァントとして一時的な現界?」

 

 色々と起きすぎて頭がパンクしそうなのだが. . .

 

「と、時間がねぇから手短に言伝を. . . 1つ目は生存報告だ. . . 生きてはいるし、ハジメも無事だ」

「良かったー」

「んで2つ目、お前らハイリヒ王国から離脱してきただろ? とりあえず迷宮の攻略だけはしておけ. . . いいな?」

「ああ、了解したよ」

「んじゃ3つ目、各メンバーに指示を出しておく幸利、園部、白崎、恭弥、鏡花の5人には愛ちゃんの護衛、遠藤、中村、龍太郎、雫の4人は迷宮攻略、柊人と悠花はその4人の護衛をして貰う何か疑問な点は?」

「特には無い」

「それから白崎に伝言. . . て、ありゃ? あの子気絶中?」

「そうだ、どうやらハジメが落ちた事が大分堪えているようだ. . . 」

「零斗、天之河の顔に弾痕があったんだけどあれは零斗がやったの?」

「ん? そうだが?」

 

 やはり彼奴が零斗達を. . . どうやって断罪してやろうか? 

 

「恭弥. . . 天之河は俺の獲物だあまり手を出すなよ?」

「!? あ、ああ分かった」

 

 零斗からとてつもない殺気が溢れ出った。怖い(/;ω;\)

 

「と、そろそろ時間みたいだな. . . 」サラサラ

「零斗. . . 」

「ん? どうした雫?」

「いえ. . . なんでもないわ. . . 」

「ハァー前も言ったがたまには甘えろ」

「. . . でも」

「しゃーねぇ刀華許してくれよ」

「え?」

 

 零斗がおもむろに八重樫さんに近ずき. . . 唇を奪った. . . 熱烈だねぇ? 

 

「え!? はぇ!?」カオマッカ

「れいれい!? なにして!!?!」

「いいなー」

「園部っちまで!?」

「プシュー」

 

 あ、ショートした. . .

 

「あ、後白崎に伝言頼む. . . 『合流する頃には多分嫁を自称するヤツがいるかもしれない』て. . . んじゃ最後にAttendre et espérer(待てしかして希望せよ)!」

 

 それを最後に言い残して完全に消えた零斗. . . ヒェ

 

「フフフ、零斗今度会ったらピーーーー(キカセラレナチヨ!)してあげるわ. . . フフフフフフ」(暗黒微笑)

 

 零斗. . . 南無三. . .




今回もちょっと短め。感想お待ちしております。


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奈落の底

「よっと、はいよちょっと久しぶりの零斗さんでーす」
「ハジメでーす」
ふぁい、さくふぁです(はい、作者です)マエガミエネェ
「何でそんなボコボコになってんだ?」
ゆふぅかふぁんのふぉんふぁいわふぅれてら(悠花さんの存在忘れてた)
「「あー納得」」

「前回は俺がサーヴァント化したな」
「で最後はー?」
「はいはい、俺が八重樫にキスしたな」
ヒューヒュー!
「お前ら覚えておけよ?」


「さ、さて今回は零斗達のの目線での話ダヨ!」
「露骨に話しそらしやがって. . . んまいいや」


「んじゃそろそろ行ってみようか. . . せーの!」


「「奈落の底!」」


 

 Side 零斗

 

「あーくそ. . . 全身ずぶ濡れだよ. . . 」

「ウーンウーン」

「ハァーくそが」

 

 えーはい零斗です、天之河に落とされてご機嫌斜めです. . . はい。とまぁアイツは後で殺すからいいとして. . .

 

「ここ何処だ?」

 

 かなり下の階層まで来たのは確かだが明らかに雰囲気が違うな。

 

「んー、零斗?」

「起きたか. . . は?」

「どうしたの? . . . え?」

 

 ハジメが目を覚ましたがちょっとした問題が. . .

 

「何で女になってんだ俺???」

「こっちが聞きたいよ!?」

 

 うーむ. . . よりによって強化細胞の暴走が起こるとはなぁ. . . 前世でも何度か起きてるけど突拍子ねぇんだよなこれ (零斗の強化細胞は強力な分大分可笑しな事が起こります)

 

「とりあえず服乾かすか. . . "火種"」

「うん. . . ヘクチッ」

 

 随分可愛いくしゃみだな. . . 二十分ほど暖をとると服もあらかた乾いたので、出発することにした。いつ魔物が出てもおかしくないので、とても慎重に奥へと続く巨大な通路に歩みを進めた。

 

「うーむ、いかにも迷宮って感じだな」

「そうだね. . . 」

 

 周囲を警戒しながら通路を進む。形状は洞窟そのもので、一本道では無くうねうねしてる。あの罠のあった最後の部屋への道みたいだ。ただし、大きさは比較にならない。通路の直径は優に二十メートルはある。狭い所でも十メートルはあるのだから、相当な大きさだ。

 

「ま、隠れられる場所も多いのは利点だな」

「そうだね. . . 」

「なぁ、何でさっきから返事が上の空なんだ?」

「へ!? ソ、ソソ、ソンナコトナイヨ!?」

 

 いや明らかに挙動不審なんだが? 信憑性0なんだが. . . あーもしかして

 

「俺が綺麗だから見惚れてたか?」

「ソ、ソンナコトアルワケナイジャナイカ」

「図星かい!」

 

 と巫山戯ながら奥へと進んで行く。

 

 ────────────────────────

 

 しばらく進んでいると分かれ道にたどり着いた、巨大な四辻である。どの道に進むべきか逡巡した。

 

「ハジメそのまま動くなよ?」

「? わかった」

 

 暫く考え込んでいると視界の端で何かが動いたので、岩陰に身を潜めて顔を少しだけ出して様子を伺った。 すると、通路と真正面の道で、白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。

 

((デカくね?))

 

 ハジメと同タイミングで呟く. . . 見た目はウサギなんだが大きさが中型犬くらいある。後ろ足がやけに大きく発達していて、赤黒い線が血管のように脈打っていた. . . そうだ! 

 

(ハジメここでちょっとした問題です)

(え!? ここで!?)

(今の状況で取るべき行動は?)

(. . . 相手の観察と退路の確認?)

Excellent(素晴らしい)! 正解だ!)

 

 その通り、まずは相手の力量と不測の事態に備えての退路の確保が重要と言う訳だ。1つ問題があるがあの兎. . . ベヒモス以上の気配なんだが? どうなってんだ? 

 

(ハジメこれからアイツを殺りますよ)

(分かった)

(3. . . 2. . . 1 . . . GO!)

 

 ウサギが後ろを向き地面に鼻を付けてフンフンと嗅ぎ出したところで、今だ! と飛び出そうとした瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスッと背筋を伸ばし立ち上がった。警戒するように耳が忙しなくあちこちに向いている. . . どうやらウサギが警戒したのは別の理由だったようだ。

 

「グルゥア!!」

 

 獣の唸り声と共に、これまた白い毛並みの狼のような魔物がウサギ目掛けて岩陰から飛び出したのだ。その白い狼は大型犬くらいの大きさで尻尾が二本あり、ウサギと同じように赤黒い線が体に走って脈打っている。どこから現れたのか一体目が飛びかかった瞬間、別の岩陰から更に二体の二尾狼が飛び出す。再び岩陰から顔を覗かせその様子を観察するどう見ても、狼がウサギを捕食する瞬間だ。だがしかし. . .

 

「キュウ!」

 

 可愛らしい鳴き声を洩らしたかと思った直後、ウサギがその場で飛び上がり、空中でくるりと一回転して、その太く長いウサギ足で一体目の二尾狼に回し蹴りを炸裂させた。

 

 ドパンッ! 

 

 およそ蹴りが出せるとは思えない音を発生させてウサギの足が二尾狼の頭部にクリーンヒットする。ゴギャ! という鳴ってはいけない音を響かせながら狼の首があらぬ方向に捻じ曲がってしまった。そうこうしている間にも、ウサギは回し蹴りの遠心力を利用して更にくるりと空中で回転すると、逆さまの状態で空中を踏みしめて着地寸前で縦に回転。強烈なかかと落としを着地点にいた二尾狼に炸裂させた。ベギャ! 断末魔すら上げられずに頭部を粉砕される狼二匹目。その頃には更に二体の二尾狼が現れて、着地した瞬間のウサギに飛びかかった。今度こそウサギの負けかと思われた瞬間、なんとウサギはウサミミで逆立ちしブレイクダンスのように足を広げたまま高速で回転をした。飛びかかっていた二尾狼二匹が竜巻のような回転蹴りに弾き飛ばされ壁に叩きつけられる。グシャという音と共に血が壁に飛び散り、ズルズルと滑り落ち動かなくなった。

 

 

 最後の一匹が、グルルと唸りながらその尻尾を逆立てる。すると、その尻尾がバチバチと放電を始めた。どうやら二尾狼の固有魔法のようだ。

 

「グルゥア!!」

 

 咆哮と共に電撃がウサギ目掛けて乱れ飛ぶ。しかし、高速で迫る雷撃をウサギは華麗なステップで右に左にとかわしていく。そして電撃が途切れた瞬間、一気に踏み込み二尾狼の顎にサマーソルトキックを叩き込んだ。二尾狼は、仰け反りながら吹き飛び、グシャと音を立てて地面に叩きつけられた。二尾狼の首は、やはり折れてしまっているようだ。蹴りウサギは、「キュ!」と、勝利の雄叫び? を上げ、耳をファサと前足で払った。可愛いな. . . ペットとして飼えないかな? . . . 無理か

 

(ハジメ撤退しますよ)

(う、うん)

 

 動き出そうとした瞬間. . .

 

 

 カラン. . .

 

 

 

 その音は洞窟内にやたらと大きく響いた。下がった拍子に足元の小石を蹴ってしまったのだ。やべぇやらかしたわ笑

 

 蹴りウサギは、ばっちりこっちを見ていた。そうしているうちに、首だけで振り返っていた蹴りウサギは体ごとこちらを向き、足をたわめ、グッと力を溜めた。

 

(来る)

 

 と本能で感じ取った瞬間、蹴りウサギの足元が爆発した。後ろに残像を引き連れながら、途轍もない速度で突撃してくる. . . だが

 

「ほい」パシ!! 

「は!?」

 

 ウサギの突進を片手で受け止める。そしてそのまま. . .

 

「フン!」ゴシャ! 

 

 ウサギの頭を握る潰す。貧弱! 貧弱ゥ. . .ちょいとでもおれにかなうとでも思ったか! マヌケがァ〜〜! 

 

「むぅ、返り血が凄いな. . . 」

「僕の親友が可笑しいよ神様. . . 」

 ハジメの呟きが聞こえたが無視する。実際そうだから反論はしない! 

 

「グルルルル」

 

 やけに低い唸り声が聞こえたぞー? 

 

「ハジメ今すぐここを離れますよ」

「分かった」

 

 全力でその場を立ち去り近場の岩場に身を隠す。

 

「グルルル?」ヌゥ

 

 通路から魔物が姿を現した。その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。

 

(流石にあれを殺すとは言わないよね?)

(殺りますよ?)

(デスヨネ)

(あれは俺がやるからここで待機ね)

(ア、ハイ)

 

 ハジメを置いて岩場から出て仮称名称"爪熊"の目の前に出る。武器は. . . 拳闘辺りでいいか。

 

「グルルルル」

「俺を食う気か?」

「グルゥアアアアア!!!」

「威勢がいい事で. . . んじゃ死ね」

 

 "レヴァリー"を装着し応戦する。

 

ヒュオオオオオオ

 

「ん? 風?」

「ルグゥオオオ!」ブン

「!? (ガキィン!)なるほど不可視の風の刃か. . . いい技だなだが無意味だ( ^ U ^ )」

 

 1度見れば簡単に対処は出来るしな. . . あれ刀とかに纏えないかね? 

 

「フゥーフゥー!」

「おうおう息が上がってるぜ?」

「グゥルルル!」

 

 挑発しているのが分かるのか怒り始める爪熊. . . 短気な事で。

 

「もういいや安心して死ね. . . "虚血の乱撃(イスキミア・ランペイジ)"フゥー. . . 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!」

 

 爪熊の上半身と下半身を泣き別れさせ後方の壁まで吹き飛ばす. . . やり過ぎちった♡

 

「どうすっかなこれ? . . . とりあえず喰うか」バク

「え!? ちょ零斗!?」

 

 うーむ. . . カメレオン型の魔物よりも不味いな。

 

「!? ────グッ!」

 

 カメレオン型の魔物を喰った時よりも激しい痛みが身体中に走る。

 

「零斗!? 大丈夫なの!?」

「問題ない」

「そ、それならいいけど. . . 無理はしないでね?」

「ああ、分かってるよ. . . とりあえず移動するぞ血の匂いで魔物達が寄ってきてる」

「分かった」

 

 ハジメが錬成で壁に穴を作りそこへ入る。さて、しばらくはここで生活だな. . . 食糧どうしよ? 

 

「ハジメ. . . 1つ問題がある」

「何?」

「食糧が無い」

「え?」

「現状食えるのが魔物の肉くらいしか無い」

「マジか. . . 」

 

 あるにはあるけど1週間位で無くなる。

 

「と言う訳でだ喰え」

「せめて調理してからにして?」

「贅沢な奴だな. . . 」

 

 蹴りウサギの方から調理するか. . .と言っても捌いて軽く塩振って焼くだけやけどな。

 

 ストン「ん?」

「どうしたの?」

「いや明らかに肉質が変わってな. . . 」

 

 かなり噛み切るのに力がいるのにだ包丁を当てて切った瞬間に肉質が変化したのだ. . . あれか天職の料理人のエンチャント効果か? まぁ有難いことこの上ないけどね。

 

「ほい一丁上がり」

「これ本当に魔物の肉?」

「見てだろ. . . 」

 

 出来た上がった料理は普通の物と遜色ない程に出来栄えが良かった. . . 効力強すぎじゃね? 

 

「さぁ食え」

「ちょっと心の準備を. . . 」

「食うんだ!」

「ムグゥ!?」

 

 無理やりハジメの口に調理した肉を捩じ込む。

 

「あれ? 美味しい. . . 」

「え?」

「普通に美味しいよ? これ」モヒ( ´ω`c)モヒ

 

 そこまで変わるもんか? 

 

「ふぅ〜お腹いっぱい!」

「はいお粗末さま. . . さて、しばらくはここが拠点になるな」

「うん. . . 救援隊が来るまでは. . . 「残念だがハジメ救援隊が来ることは無いぞ」どうして!?」

「さっきから念話で恭弥達に呼びかけるてけど反応が無いとりあえずスマホ(魔改造)で連絡が取れないかは試してみる. . . それまでお前は休んでろ」

「で、でも」

「休んでおけ. . . いいな?」

「う、うん」

 

 ハジメをおどぉ. . . ゲフンゲフン。説得して寝かせる。

 

「さて、と. . . フン!」ザシュ! 

 

 "血狂い"を自分の腹に突き立てる。よしこれで擬似的な英霊化ができるな. . . 時間は15分くらいか。

 

 

 ────────────────────────

 

 

「ふぅー終わったか. . . 流石に止血くらいはしておくか」

 

 傷口に熱したナイフを押し当てる。現状だとこれが1番手っ取り早いからね! 

 

「ッグ. . . アッ . . . フッ」

 

 やっぱ慣れてても痛てぇな. . . 後は包帯巻いて. . . と応急処置は出来たな。

 

「ハジメそろそろ移動するぞー起きろー」

「んむぅ. . . 後5分だけー」

「ハァー」ドパァン! 

「ひぁい!」

「起きたなそら移動するぞ」

「起こし方. . . 」

 

 起きないおめぇが悪い。




零斗くんが零斗ちゃんになりましたね。まぁそのうち戻しますけどね。感想お待ちしております。


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吸血鬼の姫

「よっと、( ´ ꒳ ` )ノハーイお馴染みの零斗でーす」
「ハジメでーす」
はーい作者でーす
「「何でお前が居るんだよ!」」
別にええやん
「と言うか何で俺の事女体化させた?」
なんとなくだ!
「よし殺す」チャキ
残念!作者権限で武器の使用はさせないぜ?
「ならぶん殴るだけだ!」ドゴォ!
あべし!!
「アリアリアリアリアリアリアリアリ!アリ!」ズドドドドドド
たわばぁ!!
Ali Vederchi!(さよならだ)

「はーいバカはほっといてやるよー. . . 前回は奈落での初戦闘だったね」
「今回は迷宮の探索だ」


「それじゃ、そろそろ行ってみようか!」
「OK!」


「せーの!」



「「吸血鬼の姫!」」


 Side 零斗

 

 奈落に落ちてから1週間がたった. . . が未だに脱出は出来てない。上に上がる階段がねぇのよ。

 

「下へ行くしかないか. . . 」

「そうみたいだね」

 

 食事をしながらハジメと話す。ちなみにメニューは蹴りウサギのステーキと二尾狼のスープの2つだ. . . 少ねぇな。あ、ちなみに現在のハジメのステータスはこちら⤵︎ ︎

 

 ========================

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:67

 

 

 

 天職:黒幕(フィクサー)の弟子・錬成師

 

 適正率:100%

 

 

 筋力:22871

 

 

 体力:21193

 

 

 耐性:20139

 

 

 敏捷:23961

 

 

 魔力:25698

 

 

 魔耐:25698

 

 

 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地]・風爪・剣術・棍術・闘術・銃術・抜刀術・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛[+部分強化][+集中強化][+付与強化]・豪腕・威圧・念話(零斗、造介、幸利、香織)・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・言語理解・R-Ⅰ型強化細胞・喰種化

 

 

 

 ========================

 

(´-ω-)ウムつよい(小並感)後魔物は調理方法によって上がるステータスが変わる。焼けば筋力、煮れば体力、蒸せば耐性、炒めれば敏捷、茹でれば魔力、和えれば魔耐が上がる。

 

「ふぅ〜食い終わったな. . . んじゃ行くか」

「あ、ちょっと待って零斗」

「どした?」

「恭弥さん達に連絡忘れてるよ」

「あ、そうだわ」

 

 そうそうスマホ(魔改造)の一方的だが連絡が可能になった。向こうの情報を得る事は出来ないがこちらからのメールや音声ログなんかは送れている。

 

「そうだな. . . 『今日も一応生きてますー』と、これでええやろ」

「雑!」

「これ以外送ることあるか?」

「ない. . . けど」

「んじゃいいだろ? . . . ほれ移動するぞ」

 

 あ、ちなみに今も女のままだぜ。

 

「ん? 何だこの異常な魔力反応は?」

「どうしたの?」

「ハジメ、ここの壁を錬成で8mくらい削ってくれ」

「ん? 分かった. . . "錬成"」

 

 しばらく削っているとバスケットボールサイズの青白く発光する鉱石があった。周りの壁に同化するように埋まって、下方へ水滴を滴らせている。神秘的で美しい石だ。アクアマリンの青を濃くして発光させた感じが一番しっくりくる表現だろう。

 

「これは?」

「"鉱物系鑑定". . . !? これ"神結晶"だよ!」

「"神結晶"てあれか飲めば不老不死になれるて伝説の. . . 」

「持っていこうよ!」

「そうだな. . . ん? これは. . . 鉱石か」

 

 =======================

 

 燃焼石

 

 可燃性の鉱石。点火すると構成成分を燃料に燃焼する。燃焼を続けると次第に小さくなり、やがて燃え尽きる。密閉した場所で大量の燃焼石を一度に燃やすと爆発する可能性があり、その威力は量と圧縮率次第で上位の火属性魔法に匹敵する。

 

 =======================

 

 

 =======================

 

 タウル鉱石

 

 黒色で硬い鉱石。硬度8(10段階評価で10が一番硬い)。衝撃や熱に強いが、冷気には弱い。冷やすことで脆くなる。熱を加えると再び結合する。

 

 =======================

 

「へぇ? ハジメこれでお前のドンナー強化できるぜ」

「本当! じゃあ早速. . . 」

「先ずは安全な場所に移動してからな?」

「はい」

 

 ────────3日後──────────

 

「よし完成!」

 

 何千回という失敗の果てに、ハジメは遂にドンナーの改良に成功した。音速を超える速度で最短距離を突き進み、絶大な威力で目標を撃破する現代兵器。全長は約三十五センチ、この辺りでは最高の硬度を持つタウル鉱石を使った六連の回転式弾倉。長方形型のバレル。弾丸もタウル鉱石製で、中には粉末状の燃焼石を圧縮して入れてある。しかも、弾丸は燃焼石の爆発力だけでなく、ハジメの固有魔法〝纏雷〟により電磁加速されるという小型のレールガン化している。その威力は最大で対物ライフルの十倍である。 . . 俺が言うのもなんだがチート過ぎじゃね? 下手したら俺の"エルガー"と"ツォルン"と同等かそれ以上の威力なんだが? 

 

「出来たらさっさと階層移動するぞ」

「うん!」

 

 完成したのが嬉しい様にハキハキとした返信をするハジメ。

 

真・オルクス大迷宮 2階層

 

「 無駄に暗いだけで変わり映えしねぇな. . . 」

「そうだね. . . 」

 

 しばらく進んだ先、通路の奥で何かが光った。その瞬間、近くの壁が石化し崩れていた。

 

「おっと危ねぇ. . . て技能のお陰で効かねぇや」

「僕にも効かないね」カチャ

「お、閃光手榴弾か?」

「ちょっと実験がてら使ってみようよ」

「よし、いいぞ!」

 

 腰のポーチから〝閃光手榴弾〟を取り出すと、金眼トカゲのいた辺りに投げ込む。同時に、暗闇の向こうで再び金眼が輝いた。俺達は見えないことも構わず〝縮地〟を使い、一瞬でその場を離脱する。次の瞬間、カッ! と強烈な閃光が周囲を満たし、視界を光で塗りつぶす。

 

「クゥア!?」

 

 おそらく今まで感じたことがないだろう光量に混乱するバジリスクの姿が闇の中に浮かび上がる。ハジメはすかさず発砲した。絶大な威力を秘めた弾丸が、狙い違わずバジリスクの頭部に吸い込まれ頭蓋骨を粉砕し中身を蹂躙する。弾丸は、そのまま貫通し奥の壁に深々と穴を空け、シューと岩肌を焼く音を立てた。電磁加速させているため、当たった場所が高温を発しているのだ。熱に強く、硬いタウル鉱石だからこその威力だろう。俺は周囲を警戒しつつ、バジリスクに近づくと、素早くその肉を切り取りその場を離脱した。ほとんど何も見えない状況では流石にのんびり食事するわけにもいかない。先ず探索を進めることにした。

 

 

 ────────────────────────

 

 

「ふぅ. . . ここらで休憩するか」

「そうだね大分持ち物も増えて来たし」

 

 体感では何十時間と探索を続けていたが、階下への階段は未だ見つかっていない。道中、倒した魔物や採取した鉱石も多く、そろそろ持ち運びに不便なので、俺達は拠点を作ることにした。適当な場所で壁に手を当て錬成を開始する。特に問題なく壁に穴が空き、奥へと通路ができた。ハジメの連続で錬成で六畳程の空間を作った。

 

「手際良くなったな」

「慣れてきたからね!」

「そうかいそうかい!」ヾ(・ω・^ヾ)ワシャワシャ♡

「( ˶ˆ꒳ˆ˵ )エヘヘ」

 

 ハジメの頭を撫で回す。子供てこんな感じなんかな. . . いつかは刀華達と一緒に子育てでもしたいねぇ. . .

 

「さて、飯作るか」

 

 メニューは. . . バジリスクの姿焼きとスープ、羽を散弾銃のように飛ばしてくるフクロウの蒸し焼きと、六本足の猫の足と野菜の炒め物。こんな感じでええか。

 

「ほれ出来たぞ」

「わーい!」

「んじゃ、せーの」

「「いただけます」」

 

 むぐむぐと喰っていると次第に体に痛みが走り始めた。つまり、体が強化されているということだ。だとすると、ここの魔物は爪熊と同等以上の強さを持っているのだろう。確かに、暗闇という環境と固有魔法のコンビネーションは厄介ではあった. . . が如何せん爪熊より美味い。ゲテモノ感が強いんだが. . .

 

「ふぅ〜食った食った!」

「よし、じゃ30分休憩したらまた探索始めるぞ」

「分かったー」

 

 え? ちょっと休憩が短いって? こんぐらいがちょうどいいのさ。

 

 

 ─────────30分後───────────

 

「よっし、ハジメー探索再開するぞー」

「うーん、あと5分だけー」

「だめです」スパァン! 

「痛っっっっったァ! なんでハリセン!?」

「魔物の皮なんかで作った」

「すごい再現度だねぇ!?」

 

 よし、これから起きないヤツはこれで引っぱたくか. . .

 

「ほれ探索再開すっぞ、準備しな」

「うー、分かったよ. . . 」

 

 

 2人の迷宮攻略は進んでいく。既に時間の感覚がない2人だが驚異的なスピードでここまで来たのは間違いない。それでも幾多の困難は. . . 特になかった。だってよ2人とも人外レベルのステータスとオーバーテクノロジーの武器があるんだぜ? 苦戦のく文字もねぇよ。

 

 

 

 あ、ちなみに第三階層ではフラム鉱石が溶けて天然のタールプールと化していた。

 

 =======================

 

 フラム鉱石

 

 艶のある黒い鉱石。加熱により融解しタール状になる。融解温度は約摂氏50度、タール状のときに約摂氏100度で発火する。その熱は摂氏3000度を超える。燃焼時間はタール量に比例する。

 

 =======================

 

 なので銃火器の使用は封印された。だが、俺には刀があるため大した問題にはならなかった。そこに住む魔物はタールの中を泳ぐサメだった。気配感知を無効化して来たが、敵意感知にヒットし即"血狂い"で三枚おろしにした。

 

 

 次に第二十六階層では毒で形成された痰を吐き、それを霧状に散布して階層全体を毒エリアにしていた虹色ガエル、そして麻痺成分を含む鱗粉をばら撒く1メーターサイズのモ○ラに接敵した。ハジメは状態異常無効で両方とも無効化した。この二体だが、なぜかモ○ラの方がカエルより美味かった。

 

 

 次の第四十二階層は密林のラビリンスだった。そこでは巨大ムカデと樹が相手だった。ムカデだが木の上を移動しており、降ってくるのである。しかも見た目がグロ過ぎる。ハジメはそれを見た瞬間ドンナーを神速連射した。それでムカデを最速で仕留め惨殺した。このムカデは本来は三十体に分裂するのだが、面倒だからそれを発動させる前に全ての甲殻部分に銃弾を当て正確に分裂する三十体を全て始末した。次に樹だが、これはトレントモドキと言った方がしっくりくる。しかもこの魔物、蜥蜴の尻尾切りの様に自分の頭に実ってる果実を投げてくるのである。その果実だが、見た目はリンゴだが味はスイカと不思議な物だった。これを喰った俺たち2人はトレントモドキを見つめて追いかけ始めるということが起きた。それもそのはず、この迷宮を攻略し始めて初めて肉以外のモノを喰ったので無理はない。結果、この階層のトレントモドキは完全に絶滅した。その一部始終がこちら。

 

『オラァ! 出でこい!』

『てめぇらの(果実)寄越せぇ!』

 

 えーはい、現場からは以上です。絶滅させた俺達は抱え切れないほどの果実を手に入れてホクホク顔だった。持てないのは袋に入れてバッグに括り付けた。

 

 

 

真・オルクス大迷宮 50階層

 

 

 この五十層には明らかに異質な場所があったのだ。それは、なんとも不気味な空間だった。脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。

 

「こんな様式王国の図書館にあった本には載ってなかったな. . . 」

「少なくとも200~300年前の物だろうな」

 

 さーて、どうしたものか. . . 強硬手段でやるか。

 

「ハジメちょっと下がってくれ」

「? 何する気?」

「ん? この扉をぶち壊す」

「大丈夫なの?」

「大丈夫じゃね?」

 

 ハジメは心配そうにしながら少し後ろに下がる。

 

「フゥー. . . せい!」ドゴォン! 

 

 その際、その石像が魔物化しサイクロプスになって登場してたが登場から5秒程で消えるという残念賞モノになる。

 

 哀れ! サイクロプスは爆発四散! 

 

 そうして扉が(強引に)開いた。そこでハジメがあるモノを見つけそれに手を伸ばす。それはサイクロプスの肉から出てきた魔石だった。

 

「. . . 零斗。これ使うんじゃない?」

「え? . . . ま、まあ、開いたしいいだろ」

 

 ハジメは零斗をもの凄いジト目で見つめている。零斗が目を瞑って顔に滝の様な汗を流しているが気のせいだろう。それはさておき、そんなこんなで2人は部屋に入っていった。

 

 

 中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。その立方体を注視していた俺はは、何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。近くで確認しようと扉を大きく開け固定しようとする。いざと言う時、ホラー映画のように、入った途端バタンと閉められたら困るからだ。しかし、ハジメが扉を開けっ放しで固定する前に、それは動いた。

 

「……だれ?」

 

 かすれた、弱々しい女の子の声だ。ビクリッとしてハジメは慌てて部屋の中央を凝視する。すると、先程の〝生えている何か〟がユラユラと動き出した。差し込んだ光がその正体を暴く。

 

「人. . . なのか?」

 

 "生えていた何か"は人だった。

 

 上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。

 

 流石に予想外だった俺達は硬直し、紅の瞳の女の子も俺達2人を見つめていた。俺はゆっくり深呼吸し決然とした表情で告げた。

 

 

 

「すみません。間違えました」

「ちょ!? 零斗!?」

 

 

 だってよこんなの完全に罠やん。

 

 




はい、ユエさんとの対面です。さて、ユエさんはどうしましょうか?大人にしますか?それともロリで?アンケート貼っておきます。感想お待ちしております。


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救出と罠

「よっと、(˙꒳˙ก)ハーイお馴染みの零斗です」
「ハジメでーす」
と、作者です。

「「3話連続なのなお前」」
まぁね〜さて、アンケートの結果ユエさんの容姿が大人になりましたー。
「差が凄かったね. . . 」
自分でやっといてあれだけどちょっとびっくりしたわ。


「さて、今回は彼女の救出とちょっとした戦闘だ. . . んじゃ行ってみようか」
「OK」


「「救出と罠」」


Side 零斗

 

「ごめんね!ちょっとだけ待ってて!」

「えー?」

「いいから!」

 

ハジメに背中を押されながら少女から離れる。

 

「で?俺の行動に何か問題あったか?」

「大アリだよ!なんであの子を助けようとしないわけ!?」

「そりゃ. . . 明らか罠ぽいじゃん?」

「そ、それはそうだけど. . . 」

「お前はあの子を助けたいん?」

「うん」

「ならいいよ好きにしな」

 

ハジメはそれを聞くと少しだけ顔を綻ばせた。

 

「ごめんね君. . . 今助けるからね」

「. . . うん」

「"錬成"」

 

ハジメの魔物を喰ってから変質した赤黒い、いや濃い紅色の魔力が放電するように迸る。しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、まるでハジメの魔力に抵抗するように錬成を弾いた。迷宮の上下の岩盤のようだ。だが、全く通じないわけではないらしい。少しずつ少しずつ侵食するようにハジメの魔力が立方体に迫っていく。

 

「ぐっ、抵抗が強い!. . . だけど、今の僕なら!」

 

 ハジメは更に魔力をつぎ込む。詠唱していたのなら六節は唱える必要がある魔力量だ。そこまでやってようやく魔力が立方体に浸透し始める。既に、周りはハジメの魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。ハジメは更に魔力を上乗せする。七節分. . . 八節分. . . 女の子を封じる周りの石が徐々に震え出す。

 

「まだまだぁ!」

 

 ハジメは気合を入れながら魔力を九節分つぎ込む。属性魔法なら既に上位呪文級、いや、それではお釣りが来るかもしれない魔力量だ。どんどん輝きを増す紅い光に、女の子は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。ハジメは初めて使う大規模な魔力に脂汗を流し始めた。少しでも制御を誤れば暴走してしまいそうだ。だが、これだけやっても未だ立方体は変形しない。ハジメはもうヤケクソ気味に魔力を全放出してやった。

 

「ほら俺の魔力も貸してやる」

 

さすがにこれ以上無茶されたら困るしな. . . それにハジメがここまでするなら協力しねぇとな。直後、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

 

 

 ハジメも座り込んだ。肩でゼハーゼハーと息をし、すっからかんになった魔力のせいで激しい倦怠感に襲われる。荒い息を吐き震える手で神水を出そうとして、その手を女の子がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。ハジメが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「. . . ありがとう」

 

 その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。ただ、全て切り捨てたはずの心の裡に微かな、しかし、きっと消えることのない光が宿った気がした。

 

「. . . 名前、なに?」

 

 女の子が囁くような声でハジメに尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったと苦笑いを深めながらハジメは答え、女の子にも聞き返した。

 

 

「俺は湊莉 零斗」

「ハジメ。南雲ハジメだよ。君は?」

 

 女の子は「ハジメ、零斗」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように俺達にお願いをした。

 

「. . . 名前、付けて」

「ん?まさか名前忘れたか?」

 

 長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるだが女の子はふるふると首を振る。

 

 

「もう、前の名前はいらない。ハジメ達が付けた名前がいい」

「うーん、そう言われてなぁ. . . 」

 

 前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる。この子は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前なのだろう。女の子は期待するような目でハジメを見ている。ハジメはカリカリと頬を掻くと、少し考える素振りを見せて、仕方ないというように彼女の新しい名前を告げた。

 

 

「〝ユエ〟なんてどうかな?」

「ユエ? . . . ユエ. . . ユエ. . . 」

「確か中国語で月だったか?君の金髪と赤い瞳から連想したんだろうな」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「. . . んっ。今日からユエ。ありがとう」

「さて、その前に. . . 」

「?」

 

 礼を言う女の子改めユエは握っていた手を解き、着ていたローブを脱ぎ出す俺に不思議そうな顔をする。

 

「今はこれしかない羽織っておけ」

 

そう言われて差し出されたローブを反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。確かに、すっぽんぽんだった。大事な所とか丸見えである。

 

「零斗とハジメのエッチ」

「「. . . 」」

 

何を言っても墓穴を掘りそうなのでノーコメントで通す。ユエはいそいそと外套を羽織る。ユエの身長は百四十センチ位しかないのでぶかぶかだ。一生懸命裾を折っている姿が微笑ましい。

 

「さて、話を聞く前にお客さんだな」

「「え?」」

 

ハジメとユエを抱えその場を飛び退く。直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

 

 その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。

 

「やっと骨のありそうなヤツが来たな」ニチャァ

「. . . 怖い」

「僕も. . . 」

 

失礼だな君たちは!

 

「とりあえずこれ飲んどけ」ズドム

「ムグ!」

 

ユエの口に神水の入ったボトルを押し当てる。

 

「ハジメ、ユエの事背負って退避しておけ」

「え!?なんで僕が!?」

「お前. . . 病み上がりのこの子が戦闘できるか?」

「. . . 無理だね、分かったよ」

「任せたぞー」

 

 

サソリモドキの初手は尻尾の針から噴射された紫色の液体だった。かなりの速度で飛来したそれを、ハジメはすかさず飛び退いてかわす。着弾した紫の液体はジュワーという音を立てて瞬く間に床を溶かしていった。溶解液のようだ。俺はそれを横目に確認しつつ、"リベリオン"を取り出し発砲する。

 

「話の途中に攻撃とは空気が読めないのかねぇ?」ドパァン!

「キシャァ!?」

「!?」

 

 

ハジメの背中越しからユエが驚愕しているのがわかる。そりゃそうだわな見慣れない武器を何もない空間から取り出して更にはいとも容易く頑強そうな装甲を砕いたんだ. . . そりゃ驚くわな。

 

「うーむ、硬いな. . . ハジメー焼夷手榴弾ちょーだいー」

「. . . なんなのそのテンション. . . 」(*ノ・ω・)ノ⌒。ぽーい

「サンキュ〜. . . ほらやるよサソリモドキ」

 

 

ピンを抜きサソリモドキの頭上に向かい投げる。そしてそれを撃ち抜く。タールの階層で手に入れたフラム鉱石を利用したもので、摂氏三千度の付着する炎を撒き散らす。流石に、これは効いているようでサソリモドキが攻撃を中断して、付着した炎を引き剥がそうと大暴れした。その隙に、"リベリオン"のリロードをする。やっぱりこの銃だけは自分でしたのよねー。

 

 

 それが終わる頃には、 〝焼夷手榴弾〟はタールが燃え尽きたのかほとんど鎮火してしまっていた。しかし、あちこちから煙を吹き上げているサソリモドキにもダメージはあったようで強烈な怒りが伝わってくる。

 

「キシャァァァァア!!!」

 

 絶叫を上げながらサソリモドキはその八本の足を猛然と動かし、ハジメ達に向かって突進した。四本の大バサミがいきなり伸長し大砲のように風を唸らせながら迫ってくる。

 

「おいおい. . . お前の相手は俺だろ?」スパァン!

「キシャァァァ!?」

 

伸ばしていたハサミを斬り飛ばす。やっぱり関節部は弱いのな。

 

「更にはもういっちょ」ズガァン!

 

"縮地"を使用し、サソリモドキの背に乗り"リベリオン"をゼロ距離で発砲する。うーむやっぱり装甲を破れても肝心の中まではダメージが行かないか. . .

 

「おっと、危ねぇ」

 

サソリモドキが「いい加減にしろ!」とでも言うように散弾針を自分の背中目掛けて放った。

 

「キィィィィィイイ!!」

 

 その叫びを聞いて咄嗟に"縮地"で距離を取る。絶叫が空間に響き渡ると同時に、突如、周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながら円錐状の刺が無数に突き出してきたのだ。

 

「ほう、そんな攻撃方法もあるのか中々多彩だな. . . 」

 

中々決め手に掛けるな. . . 関節部をひたすら攻めにも時間が掛かりそうだな. . . 。

 

「零斗!避けて!」

「は?. . . Wow. . . 」

 

サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。ハジメは腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて悶え苦しむサソリモドキの姿があった。

 

 

あの摂氏三千度の〝焼夷手榴弾〟でも溶けず、ゼロ距離からショットガンを撃ち込まれてもビクともしなかった化け物の防御を僅かにでも破ったユエの魔法を称賛すべきか、それだけの高温の直撃を受けて表面が溶けただけで済んでいるサソリモドキの耐久力を褒めるべきかねぇ?

 

「ナイスアシストだ、ユエ」

 

これなら行けるな。"縮地"を使用して、サソリモドキの背に移動する。

 

「キシュア!?」

 

 

 

 声を上げて驚愕するサソリモドキ。それはそうだろう、探していた気配が己の感知の網をすり抜け、突如背中に現れたのだからな。赤熱化したサソリモドキの外殻が肌を焼く。しかし、そんなことは気にもせず、表面が溶けて薄くなった外殻に銃口を押し当て連続して引き金を引いた。本来の耐久力を失ったサソリモドキの外殻は炸裂弾のゼロ距離射撃の連撃を受けて、遂にその絶対的な盾の突破を許した。サソリモドキは自分が傷つく可能性も無視して二本の尻尾で俺を叩き落とそうとするが、それより早く動く。

 

「デザートだッ!」ドパァン!ドパァン!ドパァン!

 

"リベリオン"をスピンコックで高速連射する。そして、サソリモドキに攻撃される前に〝縮地〟で退避した。サソリモドキが、背後に離れたハジメに再度攻撃しようと向き直る。だが. . .

 

 

「お前はもう死んでいる」

 

ゴバァ!

 

そんなくぐもった爆発音が辺りに響くと同時にサソリモドキがビクンと震える。動きの止まったサソリモドキと向き合い、辺りを静寂が包む。やがて、サソリモドキがゆっくりと傾き、そのままズズンッと地響きを立てながら倒れ込んだ。

 

ピクリとも動かないサソリモドキに近づき、その口内に"リベリオン"を突き入れると念のため二、三発撃ち込んでからようやく納得したように「よし」と頷いた。止めは確実に!というポリシーだ。

 

 振り返ると、呆れた表情の親友と何故か成長しているユエが俺の事を見ていた. . . ん?ユエさん?

 

「なぁ. . . ユエさんや君そんな大人びた人だったの?そっちが本来の姿なの?」

「零斗、落ち着いて」

「. . . ん、ハジメの血を吸ったらこうなった」

 

んな馬鹿な. . . いや強化細胞の影響でそうなる傾向があったわ. . .

 

 

 

 

 




ユエさんの容姿ですが身長172cmで体重は54kgほどで体型はボンキュッボンです。顔は変わらずです。感想お待ちしております。


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ゆっくり語らい

「よっと、はーい (・ω・)ノ毎度お馴染み、零斗でーす」
「ハジメでーす」
「. . . ん、ユエ」

「前回はユエの救出とサソリモドキとの戦闘だったな」
「零斗、気になったんだけどサソリモドキが破裂したのてどうやったの?」
「あれか、"リベリオン"専用弾の1つの炸裂徹甲弾を撃ち込んだだけだ」
「専用弾なんてあったんだ. . . 」
「. . . 何?. . それ?」
「説明はまた今度な長くなるから」


「さて、今回は会話パートだ. . . んじゃ行っていようか」
「OK!」
「. . . ん!」



「「「封印部屋での語らい!」」」




 Side 零斗

 

 サソリモドキを倒した後、サソリモドキとサイクロプスの素材やら肉やらを拠点に持ち帰った。その巨体と相まって物凄く苦労し. . . なかったわ。技能の"異空間収納"に全部放り込んで移動したからな。

 

 ちなみに、そのまま封印の部屋を使うという手もあったのだが、ユエが断固拒否したためその案は没となった。無理もない。何年も閉じ込められていた場所など見たくもないのが普通だ。消耗品の補充のためしばらく身動きが取れないことを考えても、精神衛生上、封印の部屋はさっさと出た方がいいだろう。

 

 そんな訳で、現在俺達は、消耗品を補充しながらお互いのことを話し合っていた。

 

「そうなると、ユエさんって少なくとも三百歳以じょ. . . 」

「おっと? 女性に年齢の話はタブーだぞ?」

「. . . ごめんなさい」

「. . . ん、許す」

 

 ハジメが世界のタブー(女性の年齢)について言及しそうになったため強引に話を遮る。君たちも女性の前で年齢と生理なんか話題についてはあまり触れないようにな? 

 

「と、言うか吸血鬼族は戦争で滅んだじゃなかったけ? 本来の吸血鬼達って君みたいに長生きなのか?」

 

 俺の記憶では、三百年前の大規模な戦争のおり吸血鬼族は滅んだとされていたはずだ。実際、ユエも長年、物音一つしない暗闇に居たため時間の感覚はほとんどないそうだが、それくらい経っていてもおかしくないと思える程には長い間封印されていたという。二十歳の時、封印されたというから三百歳ちょいということだ。

 

「. . . 私が特別。〝再生〟で歳もとらない. . . 」

「ほぉー」

 

 聞けば十二歳の時、魔力の直接操作や〝自動再生〟の固有魔法に目覚めてから歳をとっていないらしい。普通の吸血鬼族も血を吸うことで他の種族より長く生きるらしいが、それでも二百年くらいが限度なのだそうだ。ちなみに、人間族の平均寿命は七十歳、魔人族は百二十歳、亜人族は種族によるらしい。エルフの中には何百年も生きている者がいるとか。ユエは先祖返りで力に目覚めてから僅か数年で当時最強の一角に数えられていたそうで、十七歳の時に吸血鬼族の王位に就いたという。

 

 

 なるほど、あのサソリモドキの外殻を融解させた魔法を、ほぼノータイムで撃てるのだ。しかも、ほぼ不死身の肉体。行き着く先は"神"か"化け物"か、ということだろう。ユエは後者だったということだ。欲に目が眩んだ叔父が、ユエを化け物として周囲に浸透させ、大義名分のもと殺そうとしたが"自動再生"により殺しきれず、やむを得ずあの地下に封印したのだという。 . . 何か裏がありそうだな。

 

「なぁ、ユエその"再生"なんだが魔力の使用はあるか?」

「. . . ある」

 

 

 やっぱか. . . 何故魔力が尽きるまで処刑をしなかったかは何となく分かったな。

 

「ユエ、多分だが君の叔父は君を守るために封印したんじゃないか?」

「!?」

「魔力の消費があると分かっていれば魔力が尽きるまで続ければそのうち殺せる. . . だろ?」

「. . . うん、でもどうして?」

「と、その前に君の前の名前は教えて貰えるかい?」

「. . . "アレーティア"」

「ありがとう. . . 」

 

 この子がエヒトの依代になる可能性がある子なら叔父はエヒトの正体、もしくは真意を理解してしまった. . . そして自分の姪が狙われている事が分かったから封印して存在を悟られないようにした. . . て、所だろうな。

 

「やはり君の叔父は守ろうとしてくれたんだろう」

「零斗、どうゆうこと?」

「ユエの叔父はエヒトの正体、もしくは真意を理解した. . . そしてユエが依代になり得ることを知ったんじゃないか?」

「だから封印した. . . 」

「そ. . . だがあくまでも仮説だ」

「叔. . . 父様. . . 」

 

 ユエの発した声は震えていた. . . 仮説とはいえ少しは救われたか. . . エヒトには必ずこのツケを払わせてやる。

 

「. . . ユエ、俺が言ったのはあくまでも憶測に過ぎない」

「. . . ん」

「だから. . . ()()()()()()()()()()()

「. . . ん?」

「零斗? 何を言ってるの?」

 

 さて、そうと決まれば魔法陣の準備だな。

 

 カッカッカッ「よしっと、ユエさーんちょっとこちらに. . . 」

「. . . ?」

「この前に立って。これを詠唱してくれ」

「. . . 分かった」

 

 ユエに英霊召喚用の詠唱式が書かれた紙を渡す。

 

「零斗. . . 一体何をするつもりなの? 仮にユエの叔父さんを召喚出来たとしても敵だったらどうするの? まず本人が来るかどうかも分からないんでしょ?」

「ま、そうだな. . . 仮に敵だったら殺すだけだし、俺としては行動の真意を知りたいだけだ」

「. . . 優しいね」

「. . . そんなじゃねぇよ」

()に銀と鉄。 ()に石と契約の大公。

 

 降り立つ風には壁を。

 四方(しほう)の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路(さんさろ)は循環せよ。

 

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 繰り返すつどに五度。

 ただ、満たされる刻ときを破却する。

 

 ────告げる。

 (なんじ)の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 聖杯の寄るべに従い、この意、この(ことわり)に従うならば応えよ。

 

 誓いを此処ここに。

 我は常世総(とこよすべ)ての善と成る者、

 我は常世総ての悪を敷しく者。

 

 汝 三大(なんじ さんだい)言霊(ことだま)(まと)七天(しちてん)

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 

 

 瞬間辺り一体が光に包まれる。 . . そして光が収まる頃には魔法陣の中央には金髪紅眼の初老の男が立っていた。

 

「サーヴァント、キャスター。召喚に応じ参上した。真名はディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタール。──かつて、吸血鬼の国 アヴァタール王国で宰相を務めていた者だ」

「. . . 叔父. . . 様. . . 」

 

 どうやら成功の様だな. . .

 

「アレーティア. . . 久しいな. . . と言うのは少し違うな。君は、きっと私を恨んでいるだろうから。いや、恨むなんて言葉では足りないだろう。私のしたことは. . . 」

「私をアレーティアと呼ぶな!」

 

 ディンリードはそう言われた瞬間、悲しげに微笑む。その様子が気に触れたのかユエは殺意を滾られて、手を前に突き出した。

 

「"蒼天"!」

 

 サソリモドキの殻を融解させた魔法を放つ。

 

「. . . はぁー. . . やっぱりこうなるか. . . "デスぺル"」パキン! 

「. . . !? 零斗! 何を!」

「ユエ、少し落ち着け」

「うるさい! "緋槍"!」

 

 ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線に俺に向かってくる。 . . 殺す気ですか? 

 

「. . . フゥー. . . ここ!」ヒュパン! 

「!? 何で!」

 

 居合いで"緋槍"を両断する。

 

「話を聞いてやれ. . . いいな?」

「. . . 」

「無言は肯定と取るぞ. . . ディンリードさん、まずは初めまして。そして貴方が彼女を封印した理由を聞いても?」

「あぁ、勿論だ」

 

 一息置いてディンリードはユエを封印した理由を話始めた。

 

 

「アレーティア. . . いやユエ。私が何故、あの日、君を傷つけ、暗闇の底へ沈めたのか。君がどういう存在で、真の敵が何者なのか」

「. . . 真の、敵?」

「そうだ。私は真の敵から君を守るために、この奈落の底へと君を封印したんだ」

 

 その言葉にユエは動揺を隠せぬ様だった。

 

「ユエ、彼が召喚に応じてくれたのなら、少なくとも協力する意思があると言うことだ」

 

 ディンリードも召喚に応じた以上は自分達に協力する意志があるはずだ。彼のことを信用しろとまでは言わないが、話くらいは聞いてもいいはずだ。

 

「君達は. . . そうか。君が私の用意したガーディアンから姪を救い出してくれたのか」

「あまり気にしないでくれ、と言うか俺は1度見なかった事にしたしな」

「. . . 後で1発殴らせてくれ」

「. . . ウィス」

 

 やっべぇ、墓穴掘ったわ. . . ま、いいや。

 

「. . . んん! 先ずは感謝をこの子を救ってくれて、寄り添ってくれて。そして何よりも、またアレーティアと話す機会を与えてくれてありがとう」

 

 そう告げて、ディンリードは頭を下げると、改めてユエの方へ向き直る。

 

「君にあの日の真実を伝えよう。何故私が君を封印する事になったのか」

 

 

 そうして始まったディンリードの話は、裏切りにより奈落の底へと封印されたのだと思っていたユエにとって、驚愕せずにはいられない真実の歴史だった。

 

「2つの大迷宮を踏破した時に私は神の真意を知った」

「. . . 神の真意?」

「神代よりこの世界の人々は幾度となく戦争を繰り返してきたことは君も知っているはずだ。戦争の理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々とあるが、その一番は”神敵”だからというもの。神からの神託で私達は争い続けてきた」

「やっぱり宗教絡みか. . . 」

 

 大凡の予測通りだな. . .

 

「大迷宮は何者が作り出したものか? ユエは覚えているかい」

「反逆者. . . 世界を滅ぼそうとして、神代に神に挑んだ神の眷属」

「大迷宮の最深部には”反逆者”──いや、”解放者”の住処が遺されていた。そこで、彼らが何のために神々へと反逆したのかを私は知ったのだ」

「なにを. . . 」

「神々は、人々を駒にして遊戯のつもりで戦争を促している」

 

 神々. . . ねぇ? たった1人の神モドキが複数の名称を持つなんて随分と生意気だねぇ? どこぞのブリカスじゃないんだから無理にやろうとしない方がいいのに。

 

「そして、個人的に神々の動向を調べていた私は、ユエ、君の天職である"神子"が、エヒト神に地上で活動するための器として見初められた証左と知ったのだ」

「……私が、神の器?」

「アレーティア。君は天才だった。魔法の分野において、他の追随を許さないほどに。だが、その強さは目立ちすぎたんだ。だから目をつけられてしまった。そして私は、信用できる部下たちと相談した上で、君を守るために手を打つことにしたのだ。尤も、打てる手は限られていたけどね」

「. . . それで、私を封印したの?」

「そういうことだ。欲に目が眩んだ私のクーデターによって殺されたことにして、この真のオルクスへと君を封印した。いつか、この封印を解く者が現れるのを信じて」

 

 そう言って、ディンリードは俺達に視線を向ける。

 

「. . . 改めて礼を言わせてほしい。ありがとう。ユエを救ってくれて」

 

 それから、再びユエに視線を戻した彼は沈痛な表情を浮かべていた。

 

「君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた。だが、奴等を欺くためにも話すべきではないと判断した。封印の部屋に長く滞在すれば、それだけ気取られる可能性も高くなる。それに. . . 」

「. . . それに?」

「. . . それに、私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではと思ったのだ」

 

 その選択がどれほど苦渋に満ちたものであったのか、握り締められるいる拳の強さがそれを示している。

 

「それでも、君を傷つけたことに変わりはない。今更、許してくれなどとは言わない。ただ、どうかこれだけは信じてほしい。知っておいてほしい」

 

 ディンリードの表情が苦しげなものから、泣き笑いのような表情になった。それはひどく優しげなものであり、慈愛に満ち溢れた表情だった。

 

 

「愛している、アレーティア。君を心の底から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。──娘のように思っていたんだ」

「. . . おじ、さま。ディン叔父様っ。私はっ、私も. . . ! あなたのことを本当のお父様のようにっ!!」

 

 そんな彼女の頭を撫でながら、彼女の父は謝罪の言葉を口にする。

 

「すまない. . . こんな情けない親で. . . 」

「そんな. . . そんなことありませんっ! 貴方は最高の父親ですっ!」

 

 父娘は静かに抱き合った。まるで300年分の寂しさを埋めるように. . . 強く強く抱き合っている。

 

「. . . ハジメ、しばらく2人っきりにしてやろう」

「うん」

 

 ハジメを連れ拠点の外へ出る。魔法の余波で魔物も集まって来ているからそれの始末もしねぇとな。

 

 

 ──────────数分後──────────

 

「ふぅ、こんなもんかねぇ?」

「やっっっと、終わったー」

 

 魔物の殲滅を終えて、拠点内に戻る。

 

「. . . ん、戻ってきた」

「話はもういいのか?」

「あぁ、勿論だ」

「そりゃ、よかったよ. . . んじゃ飯作るからちょっと待っててくれ」

「. . . ん!」

「私は. . . いや私も頂くとしよう」

 

 さすが魔物の肉を食べさせる訳にはいかんので普通の肉を出す。この際奮発してやるか。

 

「よしっと、はい出来たぞー」

「. . . (*‘ω‘)ゴクリ」

「これは. . . 凄いな」

 

 メニューは時短ローストビーフ、ポトフ、米粉パン、シーザーサラダ、俺とユエ、ディンリードはワイン付き。

 

「冷めない内に頂くとしよう」

「「いただきます」」

「. . . ? それ何?」

「これか? 俺らの故郷での習慣だ」

「. . . いただきます」

「いただきます」

 

 こっちの世界では無いのか. . . んま、そうだろうな。

 

「. . . 零斗、気になってた」

「ん? どした?」

「. . . 女の子なのになんでそんな喋り方なの?」

「私も思っていたが. . . やはり淑女たる者言葉遣いには. . . 」

「俺、男だが?」

「「. . . え?」」

「ま、そんな反応やろな」

「. . . 嘘良くない」

「嘘じゃねぇよ」

「嘘だな」

「:( ꐦ´꒳`;):ほーん? ならこれでもか?」

 

 "R-Ⅰ型強化細胞"を使用して一時的に男の姿に戻る。

 

「「!?」」

「こっちが本来の姿だ!」

「「嘘だっ!」」

「嘘じゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 




ユエさんの容姿に付いては次話で触れます。感想お待ちしております。


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語らいその2


「よっと、(*・∀・*)ノ ハーィお馴染みの零斗でーす」
「. . . ん、ユエ」
「初めまして、ディンリードだ」

「前回はディンリードの召喚と和解だったな」
「改めて、零斗殿感謝する」
「. . . 私からもありがとう」
「あー、なんだ. . . そんなに気にしてなくてもいいぞ?」
「「そう言う訳にはいかない!」」
「お、おう」


「ゴホン. . . さて、今回はユエの容姿と俺の能力についてだ」
「ん、私がメインの話」
「私は. . . あまり出番はないな」
次話辺りには出番増やしますから、許してください。
「また急に出てきたな」
すまない、唐突ですまない. . .


「んじゃ、気を改めて行ってみようか!」


「「「語らいその2!」」」


 Side 零斗

 

 ユエとディンリードに俺が男である事を説明するのに30分程掛かった。

 

「ハァーーーーー(クソデカため息). . . これでもう納得だろう!?」

「. . . まだ信じられない」

「私もだ」

「(^ω^#)どうしてだよー!?」

 

 こんだけ説明しても納得出来ねぇのかよ! もうやだ! 

 

「もういいや. . . 料理冷めちゃたなー」

「そ、そうだね」

 

 その内戻るだろうし. . . 戻らなくても能力で変えられるし問題ないしね、力み続けなきゃだけど。

 

 ŧ‹"((。´ω`。))ŧ‹”「. . . ! 美味しい!」

「確かに美味い. . . 」

「そりゃどうも」

 

 ユエもディンリードも一心不乱に食べ進めている。ま、仕方ねぇよな。ユエは300年ぶりの食事やし、ディンリードは姪との食事は久しぶりだからな。

 

「. . . おなかいっぱい」

「デザートいるか?」

「ん!」

「頂こう」

 

 異空間収納からザッハトルテを取り出す。

 

「? それなに?」

「ん? これか? これはザッハトルテて言うんだ。俺らの故郷にはオーストリアて国があるんだがそこのホテルで生まれた物だ。古典的なチョコレートケーキの1種でザッハートルテとも呼ばれる。小麦粉、バター、砂糖、卵、チョコレートなどで作った生地を焼いてチョコレート味のバターケーキを作って、アンズのジャムを塗った後に、表面全体を溶かしチョコレート入りのフォンダン(糖衣)でコーティングする。スポンジを上下に切り分けて、間にジャムを塗る場合なんかもある。口直しとして砂糖を入れずに泡立てた生クリームを添えて食べる。

 

 こってりとした濃厚な味わいを特徴とする、ウィーンのホテル・ザッハーの名物菓子であり、チョコレートケーキの王様と称されるんだ。

 

 近年は多数のカフェや洋菓子店により、ザッハートルテと称したチョコレートケーキが提供されているが、それらは単にチョコレートのトルテの一種とするのが正しい」(クッソ早口)

「零斗、落ち着いて」

「あ、すまんちょっと熱くなりすぎたわ」

 

 料理の事になるとねぇ. . . ついつい熱くなっちゃうんだよね〜。

 

「私たち帰る場所. . . ない」

「. . . 」

「ん? 俺らの所来ればいいじゃん」

「「「. . . え?」」」

「え、だから地球に. . . てか日本に来りゃいいじゃん」

 

 復興しようにも2人でやるには不可能やし。

 

「. . . いいの?」

「んー? 別にいいんじゃね? 戸籍なんかは俺が何とかできるし」

「こせき?」

「あー、こっちで言うステータスプレートみたいなもんだよ」

「零斗、そんな事まで出来るの?」

「おう. . . 非合法的ではあるけど

 

 モリアーティ教授とかレミリアさん、パチュリーさん何かに協力して貰えば行けるだろうし。

 

「さて、食事も終わった事だし. . . ハジメ、新兵器の開発進めるぞー」

「分かったよ」

 

 ハジメの武器が心許無いからね、一応近接武器は渡してあるけどそこまで性能は高くないし。

 

「サソリモドキの外骨格が鉱石だったからそれを利用してみるか」

「うん」

 

 ===================================

 

 シュタル鉱石

 

 魔力との親和性が高く、魔力を込めた分だけ硬度を増す特殊な鉱石

 

 ===================================

 

「. . . これは?」

「これか? "銃"て武器だ、弓やクロスボウ以上の連射性と中級魔法クラスの威力がある. . . が今作ってるのは対物ライフルて物で連射性は落ちるがその分威力がある」

「それはまた. . . 凄いな」

「ま、その分反動なんかが半端ないから俺かハジメ位しか使えないだろうけどな」

 

 多分普通の人がつかったら両腕がもげる。俺の"エルガー"と"ツォルン"も俺専用にカスタムしてあるから扱えるのは居ないけど。(血統武器作成は使った血の人物しか使用出来ない仕様です)

 

「零斗、こんな感じでどう?」

「んー、どれどれ. . . ここの部分もう少し削れるか?」

「出来るけど. . . 耐久性ちょっと落ちるよ?」

「むぅ. . . 仕方ないか」

 

 ハジメとのやり取りを()()()()()()()()が目を輝かせながら見てきている。

 

「ねぇ、ユエそんなに面白い?」

「うん」

「そっか. . . ん?」

「. . . 驚いてる」

「そりゃ、そうだろ」

 

 いきなり元に戻ればねぇ。

 

「ユ. . エ. . . ?」

「ディンリードさん落ち着いてくれ」

「あれかハジメの血吸ったからか」

「多分. . . ?」

「君の血を?」

「恐らくだが、俺の強化細胞を間接的に摂取したからだろうな」

「強化細胞?」

「あー. . . 説明して無かったな」

 

 ディンリードに強化細胞やその能力についての説明をする。

 

 ────────黒幕説明中─────────

 

「こんな感じだ」

「そんな事が. . . 」

「ま、適正が無くとも間接的であればある程度のメリットはあるけどね」

 

 ユエの場合は身体の成長を変更するだけみたいだけど。

 

「あと、ハジメは分かると思うが細胞自体が自我を持っている. . . そして鍛えればこうゆう事もできる」

「え?」

「ヴェノム、出てきていいぞ」

Привет ребята(やぁ 諸君)

「「「!?」」」

 

 俺と瓜二つの人物が影から這い出てくる. . . つーか

 

「なんでロシア語?」

『こっちの方がかっこいいだろ?』

「そうか?」

「. . . 誰?」

「ん?俺の強化細胞」

「彼が?」

「そ、俺の能力の1つ。主な強化は身体能力、五感の活性化、痛みの軽減、思考力の上昇etc、etc」

「その強化細胞と彼との関係は?」

「本来なら強化細胞自体には自我があるにはあるがかなり弱くてな会話なんかは出来ない. . . が、俺の場合は特殊でな、能力を突き詰めて鍛えたら能力自体に自我が強くなってなヴェノムが最初の1人だ」

「最初の1人ってことは. . . 」

「そ、まだ居るが今は分離してる」

「君には常識は通用しないようだな. . . 」

「ん」

 

 俺からしたらあんた達もなんだかぁ. . . 」

 

『零斗、心の声漏れてるぞ』

「おっと、こりゃ失礼」

「. . . 吸血させてくれれば許す」

「. . . 分かった」スッ.

 

 ユエの前に腕を出す。

 

「. . . いただきます」カプッ

「. . . 」

「絵面ァ. . . 」

「なんも言うんじねぇ」

 

 全身黒一色の男が幼女(約300歳)に噛まれてるからね、そりゃカオスな絵面だろうね。

 

「プハ. . . 美味しかった」

「そりゃどうも」

『零斗、適正とかはどうしたんだ?』

「ハジメの血吸って問題ないなら大丈夫だろ」

『それもそうか』

「さて、ユエさんこちらに」

「. . . 何するの?」

「君の服作るから、その為の採寸. . . あ、両方の状態測るからね」

「分かった」

 

 さすがにローブだけは寒いだろうからね。

 

 

 ──────────────────────────

 

 

「よし、もういいぞ」

「. . . ん」

 

幼女状態と大人状態の採寸を終えて、服の製作に入る。

 

「なぁ、ユエ服のリクエストとかあるか?」

「リクエスト. . . 」

「スカートがいいとか、フリル付きの服がいいとか。無かったら俺のフィーリングで適当に作るけど. . . 」

「. . . 可愛いやつ」

「お任せあれ」

 

大人状態でら群生色のコートに黒のワイシャツ、その上に白のベストを着て下はロングスカートとなり、幼女状態では白コートにブラウス、フリルのついた黒いドレススカートといった服装になった。(( ˘ω ˘ *))フム中々いい出来に仕上がったな。

 

「ほれ、出来たぞ」

「. . . ありがとう」

「よしよし」( ๑ •ω•)੭"ナデナデ

「 . . . 」

「. . . すまん、素でやっちまった」

 

なんか. . . こう. . . 庇護欲といか父性というか. . . そんな感じの物が刺激されて、つい. . . ね。

 

「ん、気持ちよかった」

「そ、そうか」

 

よかったわ、気持ち悪がられるかと思ったわ。

 

「着替えていい?」

「おう」

「. . . 」シュル

「「!?」」

「ここで着替えるのかよ!?せめて別の部屋に移動してから着替えろ!」

 

ユエがその場でローブを脱ごうとするのを止めて、ハジメに個室を"錬成"で作ってもらい、そこにユエを放り込む。

 

「. . . 見られても大丈夫なのに」

 

この子には羞恥心とか無いのかよ. . .




更新が遅れて申し訳ない。理由は活動報告の方に書いております。本当に申し訳ない。


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決意と覚悟

「よいしょと、どうも刀華よ」
「やぁ、恭弥だ」
「鏡華よ」

「前回は零斗の能力とヴェノムの登場、ユエちゃんの容姿についてね」
「ヴェノムの事を久しぶりに見た気がするな. . . 」
「基本は零斗の影の中に居るからね」
「前世では悠花がヴェノムを引っ張り出して遊んでいたのよね. . . 」
「「「懐かしいなぁ」」」

「しんみりした空気はここまでにして. . . 今回と次回は私達サイドの話よ」
「楽しんで行ってくれ」


「「「決意と覚悟!」」」


I˙꒳˙)ヒョコ どうも作者の零斗です。ヴェノムについての補足を少しだけしておきます。私の所の『ヴェノム』は『MARVEL』の『ヴェノム』では無いです。あくまでも零斗の能力から生まれた『ヴェノム』という人物です。メールにて『別作品のパクリでは?』と言われたのでこの場で説明させて頂きました。では改めて. . . お楽しみください。


 Side 三人称

 

 少し時間は遡る。

 

 カルデア内のそれぞれに与えられた部屋の一室で、八重樫 雫は、暗く沈んだ表情で未だに眠る親友を見つめていた。

 

「雫. . .そろそろ休みなさい」

「. . . 」

「貴方、ここ数日間まともに寝ていないでしょう?」

「. . . 」

 

 呼び掛けても反応が帰ってくる事は無い。零斗とハジメが奈落へ落ちてからもう、三日は経過している。

 

「ハァ. . . 」

 プシュー「刀華、八重樫さん、食事持ってきたよ」

「ありがとう、柊人」

 

 柊人が部屋へも入って来た。手にらトレーを持ちその上には湯気の立つ食事が乗せられている。

 

「八重樫さん、看病もいいですが貴方自身が倒れては元も子も無いでしょう」

「分かっているわ. . . でも. . . 」

「零斗も言っていたでしょう? 『問題ない』と」

 

 刀華がそう言うと八重樫は少し顔を赤くした。大方、零斗にキスされたことを思い出したのだろう。

 

「刀華、白崎さんの容態は?」

「時折、ハジメと零斗の名前を呼んでいるわ. . . 悪夢で魘されている事もね」

「あまりいい傾向では無いですね. . . 」

 

 柊人は苦虫を噛み潰したような表情をする。刀華や柊人、恭弥は夢や精神に関しては何一つ出来る事がない。鏡華は幻術等で誤魔化せばするがあまり効果は無い。悠花は精霊の力を借りれば精神を弄る事は出来るが扱いが難しく、成功する確率も低い。

 

「柊人、王都の貴族達はどうだったの?」

「零斗とハジメの死を哀しむ者が大半だった. . . けど、エヒト教を狂信してる奴らは『神の使徒の癖に死ぬとは情けない』とか『死んだのが勇者ではなく無能と怪物でよかった』とか. . . ね」

「へぇ? . . . 随分と好き勝手言ってくれるじゃないの」

 

 零斗は身を呈してクラス全員の命を救った。ハジメはこの世界には無かったシャンプーやトリートメント、活版印刷技術などを伝えた。これほどの事をしても尚、貴族達はハジメを『無能』と零斗を『怪物』と呼び罵った。

 

「そもそも、彼らの都合で私達を呼び出したのにも関わらずこの扱いか? 反吐が出る!」

「刀華、落ち着いて」

「. . . フゥ、少し取り乱してしまったな」

 

 そりゃそうだろ、最愛の人を化け物呼ばわりされた挙句、親友を無能と罵られたのだから。

 

 ピコン「ん?」

「スマホの着信音?」

 

 柊人のスマホから着信音がした。送り主は. . .

 

「零. . 斗. . . 」

「!?」

「内容は!?」

「確認する!」

 

『( ・∇・)やぁ、零斗ダヨ』

 

「「「. . . それだけ!?」」」

 

 なんとも頭の可笑しぃ. . . ゲフン頭のとち狂った内容だった。

 

「ま、まぁ生きては居るようだね」

「そうね. . . 」アタマオサエ

「あの人らしいわね. . . 」

 

 そりゃそんな反応になるわな。3日間連絡は無いし、生きてるかどうかも分からない状況でこんな巫山戯た内容のメールが送られて来たんだぜ? 

 

 ピコン「あ、もう1件きた」

『すまん、巫山戯すぎた. . . とりあえず生存報告を、俺もハジメも生きてるし、至って健康だ。今は迷宮? を探索してる』

「簡潔に纏めたわね. . . 」

 

 適当さが伝わってくるな。

 

 バァン「刀華! 柊人!」

「「恭弥?」」

「あ、扉. . . 」

 

 恭弥が扉を破壊して部屋に入ってきた。

 

「零斗が教会に異端者認定された!」

「「は?」」

「イシュタルが零斗を『エヒト様に仇を成す存在だ! 彼は死んで当然だった!』と言って異端者の烙印を押した!」

「. . . 殺す」

「柊人、落ち着きなさい」

「これが落ち着いていれるのか!?」

「分かっているわ. . . でも今私達が下手を打てば被害が出るわ」

「ッツ!! . . . 分かったよ」

 

 イシュタルはエヒトから神託として『零斗は人類に災厄をもたらす怪物』や『魔人族の眷属』などとありもしない事を民衆に吹き込んだ. . . が、大半はあまり信じてはいない。

 

「だが、王都の人達は余りイシュタルの事を信用していない. . . エヒト教を信仰しているが狂信してはいない事が要因だろう」

「. . . サーヴァント達には伝えていませんね?」

「あぁ、流石に伝えててしまったら王都自体が滅んでしまうかもしれないからな」

 

 零斗が奈落へ落とされた時も天之河を殺そうとしたぐらいだしな、今度は『異端者』のレッテルを貼られたんだ、キレる以前に言った奴から肉塊になるぞ。

 

「. . . あいつはどんな反応を?」

ゴミカス(天之河)か. . . 『やっぱり死んで当然だった、これからは俺が皆を守る!』と. . . 」

「ここまでやられると逆に清々しいな. . . 」

「出来ればこの手で殺してやりたいが. . . アイツは零斗の獲物だからな、我慢するとしよう」

「光輝. . . 」

 

 八重樫は思うとこがある様で俯いたまま黙り込んでしまった。

 

(刀華、ここは任せます)

(分かったわ)

 

 恭弥と刀華がアイコンタクトでやり取りをし、恭弥と柊人は部屋を出る。(扉は修理してから)

 

「私. . . 光輝を止められなかった. . . 零斗と南雲くんは私のせいで. . . 」バチン! 

「何を言っているの?」

「え?」

「"私のせいで零斗も南雲くんが落ちた"? 何を巫山戯た事を言っているのかしら?」

「でも. . . 」

「それに、今さら後悔しても結果は変わらないわ」

「. . . 」

「自分のせいで落ちたと思うのならそれでいいわ. . . でも、それを理由に逃げることは許さないわよ」

「. . . 」

「今、私達に出来るのは零斗達の無事を祈ることと、彼の指示に従うことよ」

「. . . そうね、私は何バカな事を言っていたのかしらね」

「フフ、やっと調子が戻ったみたいね♪」

「ええ、ありがとう刀華さん」

「. . . ねぇ」

「?」

「何時まで敬語なの?」

「え?」

「私達は友達でしょう? なら敬語はいらないわよ」

「. . . それもそうね」

「じゃあ、改めて、よろしくね雫」

「ええ、よろしく刀華」

 

 にこやかな顔をして握手を交わす。うんうん! いい友情だねぇ。(おい、マーリン勝手に入って来てんじゃねぇよ。虚数空間に転送するぞ)おーと、それは洒落にならないから退散するとしよう。

 

 クソ、逃げられた. . . ゴホンすまないね。

 

「. . . ゥン. . . あれ? ここは?」

「「香織!」」

「雫ちゃん? 刀華さん?」

「私は医療スタッフを呼んでくるわ」

「分かったわ. . . 香織、今の状況は分かるかしら」

 

 白崎は顔を横に振る。

 

「ハジメくんは? 零斗くんは?」

「今からその事について説明するわ」

 

 

 ────────少女説明中─────────

 

 

「そっか. . . 零斗くんらしいね」

「ええ、そうね」

 プシュー「あら? お邪魔だったかしら?」

「大丈夫」

「白崎 香織さんですね。メディカルチェックをするので体に触れます」

「はい」

 

 少しだけ服を捲り触診を行う。刀華はナイチンゲールが行なう事に少しだけ不安を抱いていたが杞憂に終わった。

 

「. . . これでメディカルチェックは終了です。しばらくは激しい運動は控えてください」

「はい、分かりました. . . ありがとうございました」

「お礼は結構です。では、お大事に」

 

 そう言い残して部屋を出る。

 

「香織、雫から状況の説明を受けたかしら」

「うん. . . でもやっぱり辛いや」

「今私達に出来るのは零斗が残した指示に従って行動することよ」

「うん」

「貴方と清水くん、優香、恭弥、鏡花は愛子先生の護衛を任せられているわ。護衛中は恭弥の指示に従って行動しなさい」

「うん、分かった」

「それと、零斗からの伝言よ」

「?」

「『合流する頃には多分嫁を自称するヤツがいるかもしれない』. . . 以上よ」

「. . . ハジメくん、浮気するかもしれないの?」

「. . . ハジメは認めてはないけど合流する頃には3人くらいは嫁を名乗る子が居そうね」

「. . . 」

「か、香織?」

「何かな? 雫ちゃん?」

「は、背後にスタ〇ドが見えるんだけど?」

「フフ、何を言ってるの?」

 

 白崎の背後に般若のス〇ンドが現れ、カルデア中に殺気が撒かれたのでした。

 

 

 

 




はい、イシュタルに死亡フラグが経ちましたね。感想お待ちしております。


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悪夢の再来

「よっと、( *・ω・)ノどーも柊人です」
「悠花でーす!」
「白崎です」

「前回は白崎さんが目覚めたね」
「ホントに心配かけてごめん!」
「気にしなくていいよ?実際、僕は何もしてないし」
「そうよ香織」
「う、うん」

「さて、今回は迷宮の探索だよ!楽しんで行ってねー」

「「「悪夢の再来!」」」


 Side 柊人

 

 零斗からの連絡から数日が経った、今僕達は迷宮の攻略を開始した。但し、訪れているのは勇者(偽)パーティーと、元小悪党組、それに永山重吾という大柄な柔道部の男子生徒が率いる男女五人のパーティーだけだった。

 

 理由は簡単だ。話題には出さなくとも、ハジメと零斗の死が、多くの生徒達の心に深く重い影を落としてしまったのである。"戦いの果ての死"というものを強く実感させられてしまい、まともに戦闘などできなくなったのだ。一種のトラウマというやつである。

 

 と言うか、この程度で戦えなくなるなんて軟弱だね. . . 戦場で人が死ぬなんて日常茶飯事だろう? それに自分から進んで戦争に参加したのにも関わらずこの体たらくとは. . . 呆れるね。当然、聖教教会関係者はいい顔をしなかった。実戦を繰り返し、時が経てばまた戦えるだろうと、毎日のようにやんわり復帰を促してくる。

 

 

 しかし、それに猛然と抗議した者がいた。愛子先生だ。

 

 愛ちゃんは、当時、遠征には参加していなかった。作農師という特殊かつ激レアな天職のため、実戦訓練するよりも、教会側としては農地開拓の方に力を入れて欲しかったのである。愛ちゃんがいれば、糧食問題は解決してしまう可能性が限りなく高いからだ。そんな愛ちゃんは零斗とハジメの死を知るとショックで寝込んでしまった。自分が安全圏でのんびりしている間に、生徒が死んでしまったという事実に、そして何よりも心の拠り所の零斗を失ったことに、責任感の強い愛子は強いショックを受けたのだ。(零斗とハジメが生きていると分かった時は歓喜した)

 

 

 だからこそ、戦えないという生徒をこれ以上戦場に送り出すことなど断じて許せなかった。愛ちゃんの天職は、この世界の食料関係を一変させる可能性がある激レアである。その愛子先生が、不退転の意志で生徒達への戦闘訓練の強制に抗議しているのだ。関係の悪化を避けたい教会側は、愛ちゃんの抗議を受け入れた。

 

 

 結果、自ら戦闘訓練を望んだ勇者パーティーと元小悪党組、永山重吾のパーティーのみが訓練を継続することになった。そんな彼等は、再び訓練を兼ねて【オルクス大迷宮】に挑むことになったのだ。今回もメルド団長と数人の騎士団員が付き添っている。

 

「よし、全員武器の点検はいいですか?」

「「「「「「「大丈夫」」」」」」」

「なら行きましょうか」

 

 ちなみに今日で攻略6日目だ。あ、後白崎さんも迷宮攻略に参加してるよ、彼女自身が志願して迷宮攻略に参加した。なんでもハジメを探すとか言って強引に参加してきた. . . 零斗が命令違反を知ったら怒るだろうなー。現在の階層は六十四層だ。確認されている最高到達階数まで後一層である。え? ペースが早いって? この程度の難易度で苦戦するはず無いじゃないか。

 

「白ちゃん、移動するよー!」

「うん、今行くよ」

「檜山くん、少し肩の力抜いていいじゃない?」

「あ、ああ」

 

 . . . 相変わらずですね、彼女は、まぁそんな所が好きなんですがね。

 

「悠花、少しは緊張感を持ってください. . . 」

「えー?」

「『えー?』じゃありません! 貴方は毎度毎度そうやってミスをしてきたでしょう!」

「う、うー. . . えーん白ちゃんー! 柊人が虐めるー」ダキツキ

「え? ええ!?」

「あ、こら! またそうやって逃げて! いい加減にその短所を直してください!」

 

 まったく. . . 注意する側の身にもなってくださいよ. . .

 

「え、えーと. . . よしよし」ナデリ

「えへへー」(*´ω`*)

「(可愛い. . . じゃなくて)ほら警戒してください。ここのマップは不完全ですからね。何が起こるかわからないんですから」

「( ˘•ω•˘ )むぅ. . . わかった」

 

 ──────────────────────

 

 しばらく進んでいると、大きな広間に出た。何となく嫌な予感がする。その予感は的中した。広間に侵入すると同時に、部屋の中央に魔法陣が浮かび上がったのだ。赤黒い脈動する直径十メートル程の魔法陣。

 

「. . . やっぱりですか」

「うん、そんな気はしてた」

 

 ラノベ系の本だとテンプレだからね。

 

「ま、まさか……アイツなのか!?」

 

 カスが額に冷や汗を浮かべながら叫ぶ。他のメンバーの表情にも緊張の色がはっきりと浮かんでいた。

 

「マジかよ、アイツは死んだんじゃなかったのかよ!」

 

 龍太郎も驚愕をあらわにして叫ぶ。それに応えたのは、険しい表情をしながらも冷静な声音のメルド団長だ。

 

「迷宮の魔物の発生原因は解明されていない。一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある。気を引き締めろ! 退路の確保を忘れるな!」

「了解しました. . . 悠花、私達は退路の確保をしておきましょう(正直言って面倒い)」

「分かったー」

 

 いざと言う時、確実に逃げられるように、まず退路の確保を優先する指示を出すメルド団長。それに僕達が即座に従う。だが、ゴミカスがそれに不満そうに言葉を返した。

 

「メルドさん。俺達はもうあの時の俺達じゃありません。何倍も強くなったんだ! もう負けはしない! 必ず勝ってみせます!」

「へっ、その通りだぜ。何時までも負けっぱなしは性に合わねぇ。ここらでリベンジマッチだ!」

 

 龍太郎は兎も角、君は鍛錬を怠っていたのに強くなったとか笑わせてくれるじゃないか。と、そろそろかな? 

 

 遂に魔法陣が爆発したように輝き、かつての悪夢が再び光輝達の前に現れた。

 

「グゥガァアアア!!!」

 

 咆哮を上げ、地を踏み鳴らす異形。ベヒモスが光輝達を壮絶な殺意を宿らせた眼光で睨む。全員に緊張が走る中、そんなものとは無縁の決然とした表情で真っ直ぐ睨み返す女の子が一人。

 

 香織である。香織は誰にも聞こえないくらいの、しかし、確かな意志の力を宿らせた声音で宣言した。

 

「もう誰も奪わせない。あなたを踏み越えて、私は彼のもとへ行く」

 

 強くなったね. . . さて、僕達も仕事に戻ろうか。

 

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 先手は、光輝だった。

 

「万翔羽ばたき 天へと至れ 〝天翔閃〟!」

 

 曲線状の光の斬撃がベヒモスに轟音を響かせながら直撃する。以前は、〝天翔閃〟の上位技〝神威〟を以てしてもカスリ傷さえ付けることができなかった。しかし、いつまでもあの頃のままではないという光輝の宣言は、結果を以て証明された。

 

「グゥルガァアア!?」

 

 悲鳴を上げ地面を削りながら後退するベヒモスの胸にはくっきりと斜めの剣線が走り、赤黒い血を滴らせていたのだ。

 

「いける! 俺達は確実に強くなってる! 永山達は左側から、檜山達は背後を、メルド団長達は右側から! 後衛は魔法準備! 上級を頼む!」

 

 光輝が矢継ぎ早に指示を出す。メルド団長直々の指揮官訓練の賜物だ。

 

 

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな? 総員、光輝の指揮で行くぞ!」

 

 メルド団長が叫び騎士団員を引き連れベヒモスの右サイドに回り込むべく走り出した。それを機に一斉に動き出し、ベヒモスを包囲する。前衛組が暴れるベヒモスを後衛には行かすまいと必死の防衛線を張る。

 

「グルゥアアア!!」

 

 ベヒモスが踏み込みで地面を粉砕しながら突進を始める。

 

「行かせるかァ!」

「行かせん!」

 

 クラスの二大巨漢、坂上龍太郎と永山重吾がスクラムを組むようにベヒモスに組み付いた。

 

「猛り地を割る力をここに! 〝剛力〟!」

 

 永山重吾は身体能力、特に膂力を強化する魔法を使い、坂上龍太郎は魔法を使わず素の能力だけで対峙する。地を滑りながらベヒモスの突進を受け止める。

 

「ガァアア!!」

「重吾! もっと踏ん張れぇ!」

「てめぇこそ! 力込めろ!」

 

 坂上龍太郎と永山重吾は互いに叫び力を振り絞る。ベヒモスは矮小な人間ごときに完全には止められないまでも勢いを殺され苛立つように地を踏み鳴らした。その隙を他のメンバーが逃さない。

 

「全てを切り裂く至上の一閃 〝絶断〟!」

 

 雫の抜刀術がベヒモスの角に直撃する。強化された身体能力と"血狂い"の斬れ味により、ベヒモスの角を切断する。

 

「ガァァァ!?」

「よし!」

「よしやったぞ、雫!」

 

 角を切り落とされた衝撃にベヒモスが渾身の力で大暴れし、永山、龍太郎、雫、メルド団長の四人を吹き飛ばす。

 

「優しき光は全てを抱く 〝光輪〟!」

 

 衝撃に息を詰まらせ地面に叩きつけられそうになった四人を光の輪が無数に合わさって出来た網が優しく包み込んだ。香織が行使した、形を変化させることで衝撃を殺す光の防御魔法だ。香織は間髪入れず、回復系呪文を唱える。

 

「天恵よ 遍く子らに癒しを 〝回天〟」

 

 香織の詠唱完了と同時に触れてもいないのに四人が同時に癒されていく。遠隔の、それも複数人を同時に癒せる中級光系回復魔法だ。以前使った〝天恵〟の上位版である。光輝が突きの構えを取り、未だ暴れるベヒモスに真っ直ぐ突進した。そして、先ほどの傷口に切っ先を差し込み、突進中に詠唱を終わらせて魔法発動の最後のトリガーを引く。

 

「〝光爆〟!」

 

 聖剣に蓄えられた膨大な魔力が、差し込まれた傷口からベヒモスへと流れ込み大爆発を起こした。

 

「ガァアアア!!」

 

 傷口を抉られ大量の出血をしながら、技後硬直中の僅かな隙を逃さずベヒモスが鋭い爪を光輝に振るった。

 

「ぐぅうう!!」

 

 呻き声を上げ吹き飛ばされる光輝。爪自体はアーティファクトの聖鎧が弾いてくれたが、衝撃が内部に通り激しく咳き込む。しかし、その苦しみも一瞬だ。すかさず、香織の回復魔法がかけられる。

 

 

 

「天恵よ 彼の者に今一度力を 〝焦天〟」

 

 先ほどの回復魔法が複数人を対象に同時回復できる代わりに効果が下がるものとすれば、これは個人を対象に回復効果を高めた魔法だ。光輝は光に包まれ一瞬で全快する。ベヒモスが、光輝が飛ばされた間奮闘していた他のメンバーを咆哮と跳躍による衝撃波で吹き飛ばし、折れた角にもお構いなく赤熱化させていく。

 

「ふわぁ〜. . . あれ? まだ終わって無かったの? . . . えい!」ドゴン! 

「グガァァ!?」ベッシャ!! 

「「「「「「「「「. . . え?」」」」」」」」」

 

 悠花がベヒモスを殴り肉塊に変換する。

 

「悠花. . . やりすぎです。魔石ごと砕いてどうするのですか. . . 」

「あ! ごめん!」

 

 あまりの展開に呆然とする香織達。

 

「か、勝った. . . んだよな?」

「え、ええ、一応」

「や、やったー?」

 

 皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。同じく、呆然としていた光輝が、我を取り戻したのかスっと背筋を伸ばし聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

 

「そ、そうだ! 俺達の勝ちだ!」

 

 キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる光輝。その声にようやく勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている. . . 訳も無く、なんとも微妙な表情だ。

 

 

「. . . 何か来ますね」

「え?」

 

 柊人が意味深にそう告げる. . . その瞬間。

 

 フォオン! 

 

 ちょうどベヒモスの倒れた辺りに魔法陣が現れる. . . だが規模がベヒモス以上の物だ。直径は20mほどで色は紅い。

 

「そ、総員! 警戒を怠るな!」

「「「「「「「は、はい!」」」」」」」

 

 直後、魔法陣が爆ぜ、辺り一帯が光に包まれる. . . そして、そこに姿を現したのは. . .

 

「グオォア──!」

 

 マハナーガだった。

 

「な、なに. . . あれ」

「クソ、体が動かねぇ!」

 

 あまりの気迫に気圧されるメンバー達. . . だが柊人と悠花と言うと

 

「ねぇ、柊人」

「なんだい?」

「真理の卵の在庫てあったけ?」

「. . . ありませんね」

「アイツ、落としたよね?」

「ええ」

「なら」

「「狩り尽くす!」」

 

 やっぱコイツらイカれてやがる! 

 

 ─────────少年少女ハント中─────────

 

「落としませんか. . . 」

「ちぇー」

 

 1分程でマハナーガを殺した、柊人と悠花. . . それを呆然と眺めるメルド達。

 

「しゅ、柊人さん?」

「ん? 何かな? 八重樫さん」

「その. . . 中々のお手間で」

「雫ちゃん!?」

 

 

 

 

 




柊人と悠花はケンカップルなのです。後、エネミーの強さとしては トータスの魔物<<FGOのエネミー になります。感想お待ちしております。


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姫の実力

「よっと、はーい (・ω・)ノ毎度お馴染み、零斗でーす」
「ハジメでーす」
「. . . ん、ユエ」

「前回は柊人達がベヒモスとマハナーガを倒してたな」
「悠花さん、強すぎじゃない?」
「ん、確かに」
「まぁ、筋力だけだと俺より強かったな」
「「. . . ゴリラじゃん」」
「せやなぁ…」

「さて、今回はユエがメインの話だな」
「私の活躍を楽しんでいって」

「「「姫の実力!」」」


 Side 零斗

 

「だァァァ! クソ!」

「数多すぎじゃない!?」

「頑張って」

「君は気楽でいいな!」

「ハハハ. . . 」ニガワライ

 

 現在、俺たちは猛然と草むらの中を逃走していた。周りは百六十センチメートル以上ある雑草が生い茂りハジメの肩付近まで隠してしまっている。幼女状態のユエなら完全に姿が見えなくなっているだろう。

 

 そんな生い茂る雑草を鬱陶しそうに払い除けながら、逃走している理由は. . .

 

「「「「「「「「「「「「シャァアア!!」」」」」」」」」」」」

 

 二百体近い魔物に追われているからである。

 

 

 俺達は準備を終えて迷宮攻略に動き出したあと、十階層ほどは順調に降りることが出来た。ハジメの装備や技量が充実し、かつ熟練してきたからというのもあるが、ユエの魔法とディンリードの使役する魔物が凄まじい活躍を見せたというのも大きな要因だ。全属性の魔法をなんでもござれとノータイムで使用し的確に援護し、ディンリードの魔物が広範囲を纏めて片付けている。

 

 ただ、ユエは回復系や結界系の魔法はあまり得意ではないらしい。〝自動再生〟があるからか無意識に不要と判断していったのだろう。ま、ハジメには神水が、俺は自前の再生能力があるからなんの問題もなかったが。

 

 そんな俺達が降り立ったのが現在の階層だ。まず見えたのは樹海だった。十メートルを超える木々が鬱蒼うっそうと茂っており、空気はどこか湿っぽい。しかし、以前通った熱帯林の階層と違ってそれほど暑くはないのが救いだろう。

 

 ハジメと俺とで階下への階段を探して探索していると、突然、ズズンッという地響きが響き渡った。何事かと身構える二人の前に現れたのは、巨大な爬虫類を思わせる魔物だ。見た目は完全にティラノサウルスである。

 

 但し、なぜか頭に一輪の可憐な花を生やしていたが……。

 

 鋭い牙と滾る殺気が議論の余地なくこの魔物の強力さを示していたが、視線を上に向けると向日葵に似た花がふりふりと動く。かつてないシュールさだった。

 

「なんなんだよ. . . あれ」

「さ、さぁ?」

「ん、可愛い」

「そ、そうか?」

 

 やっぱりウチのユエちゃんちょっとズレてるよ。雑談混じりで観察していた所、此方にティラノサウルスもどきが咆哮を上げ突進してくる。

 

 ハジメは慌てずドンナーを抜こうとして……それを制するように前に出たユエがスッと手を掲げた。

 

「〝緋槍〟」

 

 ユエの手元に現れた炎は渦を巻いて円錐状の槍の形をとり、一直線にティラノの口内目掛けて飛翔し、あっさり突き刺さって、そのまま貫通。周囲の肉を容赦なく溶かして一瞬で絶命させた。地響きを立てながら横倒しになるティラノ。

 

 そして、頭の花がポトリと地面に落ちた。

 

「. . . なんと言うか、哀れだな」

「. . . うん」

「そうだな」

 

 最近、ユエ無双が激しい。最初は援護に徹していたはずなんだが、何故か途中から前衛の俺に対抗するように先制攻撃を仕掛け魔物を瞬殺するのだ。

 

「なぁ、ユエ。張り切るのはいいが、途中で魔力切れ起こして倒れないでくれよ?」

「. . . ん、私役に立つ」

「もう十分に役立ってるよ。ユエの魔法が強力な分、魔力の消費を激しいし、接近戦は苦手なんだから後衛を頼むよ。前衛は僕達の役目だからさ」

「. . . ハジメ. . . ん」

 

 ハジメに注意されちょっとだけ落ち込むユエ。ハジメはそんな彼女を見て居た堪れなくなったのか、彼女の柔らかな髪を撫でる。それだけで、ユエはほっこりした表情になって機嫌が戻ってしまうのだから、ハジメとしてはもう何とも言えない。

 

「あー、雰囲気ぶち壊す様で済まないが団体様が此方に来てるからその殲滅するぞ」

「「ハ、ハイ」」

 

 十体ほどの魔物が取り囲むように此方の方へ向かってくる。統率の取れた動きに、二尾狼のような群れの魔物か? と訝しみながらハジメ達を促して現場を離脱する。数が多いので少しでも有利な場所に移動するためだ。

 

 円状に包囲しようとする魔物に対し、ハジメは、その内の一体目掛けて自ら突進していった。そうして、生い茂った木の枝を払い除け飛び出した先には、体長二メートル強の爬虫類、例えるならラプトル系の恐竜のような魔物がいた。

 

 頭からチューリップのような花をひらひらと咲かせて。

 

「. . . かわいい」

「. . . 流行りなのか?」

「ワケガワカラナイヨ」

「私が攻略した時はあんな魔物は居なかったはず. . . 」

 

 ユエが思わずほっこりしながら呟けば、俺はシリアスブレイカーな魔物にジト目を向け、有り得ない推測を呟く、ハジメはキュゥべえ化し、ディンリードは困惑して様子で呟く。

 

「シャァァアア!!」

 

 ラプトルが、花に注目して立ち尽くす俺達に飛びかかる。その強靭な脚には二十センチメートルはありそうなカギ爪が付いており、ギラリと凶悪な光を放っていた。

 

「. . . 遅いな」ヒュパン

「クルルルゥア!?」

 

 ちょっととした好奇心から頭の花を切り落とす。するとラプトルは一瞬だけ痙攣して倒れ込み、サッと立ち上がる。そして足元に落ちた自分に付いていた花を、それはもうめちゃくちゃ踏みつけていた。

 

「. . . イタズラされた?」

「んな、小学生じゃねぇんだから」

 

 一方で、ラプトルは花を踏みつけ終えて、仕事終わりに居酒屋に行くオッさんの様な清々しい顔をしている。「いい仕事をしましたなあ〜」と顔が語っている。そして、ふと気付いてこちらへ顔を向けると、ビビった様に一歩下がった。

 

「え? 気が付いてなかったのかよ」

 

 ラプトルは暫く硬直したものの、直ぐに姿勢を低くし牙をむき出しにして唸り一気に飛びかかってきた。

 

「. . . やっぱり遅ぇな」

 

 "血狂い"でラプトルを輪切りにする。

 

「. . . 虐められて、斬られて、可哀想」

「イジメから一旦離れようか、ユエ」

 

 魔物てこんなに統率がとれたものなのか? そう思案しているとハジメが肩を叩いて北を。

 

「どした?」

「魔物、大量に来てる」

「数は?」

「50~60体くらい」

 

 気配感知を使用すると、50体以上の魔物が接近してきていた。しかも、ハジメ達を囲む様にだ。そして、飛び出してきたラプトル達を射殺する為に俺もハジメは銃の引き金に指を掛け構えるが硬直する。魔法の発射準備に入っていたユエも硬直した。

 

 なぜなら. . .

 

「なんでどいつもこいつも頭に花咲かせんだよ!」

「そう言う、ファションなんじゃないかな?」

 

 全ての魔物が頭に花が生えているのだ。

 

「ユエ、殺れ」

「ん、〝凍獄(とうごく)〟!」

 

 ビキビキッと音を立てながら瞬く間に蒼氷に覆われていき、魔物に到達すると花が咲いたかのように氷がそそり立って氷華を作り出していく。

 

「. . . やっぱり可笑しいな」

「? どうゆう事?」

「弱すぎる」

 

 俺の言葉にハッとする3人。確かに、ラプトルも先のティラノも、動きは単純そのもので特殊な攻撃もなく簡単に殲滅できてしまった。それどころか殺気はあれどもどこか機械的で不自然な動きだった。花が取れたラプトルが怒りをあらわにして花を踏みつけていた光景を見た後なので尚更、花をつけたラプトル達に違和感を覚えてしまう。

 

「考えられるとしたら. . . 」

「. . . 寄生だね」

「恐らくだがな」

 

 気配察知が反応する。数は. . . ざっと200と少々だ。

 

「とんでもねぇ数の魔物がこっち来てんな」

「. . . 逃げる?」

「いや、本体をぶっ殺す」

 

 

 そして冒頭。

 

 ハジメ達は現在、200近い魔物に追われていた。草むらが鬱陶しいと、ユエは魔力補給の為にハジメの血を吸ったのにも関わらず背中から降りようとしない。

 

 後ろからは魔物が、

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドッ!! 

 

 と、地響きを立てながら迫っている。背の高い草むらに隠れながらラプトルが併走し四方八方から飛びかかってくる。それを迎撃しつつ、探索の結果一番怪しいと考えられた場所に向かいひたすら駆ける。ハジメが射撃でユエは魔法を撃ち込み致命的な包囲をさせまいとする。

 

 カプっ、チュー

 

「ユエさん!? さっきからちょくちょく吸うの止めてくれませんかね!?」

「. . . 不可抗力」

「嘘だ! ほとんど消耗してないでしょ!?」

「. . . ヤツの花が. . . 私にも. . . くっ」

「何わざとらしく呻いてるんですかねぇ。ヤツのせいにしない。ていうか余裕だね、まったく」

 

 ちょっとキレ気味にハジメがユエを注意する。ハジメて割かし腹黒なんかな? そんな風に戯れながらもきっちり迎撃し、俺達は二百体以上の魔物を引き連れたまま縦割れに飛び込んだ。

 

「シャアアァァアア!!」

「てめぇはシャイニングのジャックかよ!」

 

 割れ目に顔を突っ込んできたラプトルの頭を粉砕し、ハジメの錬成で閉じる。その後、道なりにしばらく進むと、大きな広場の様な場所に出た。その奥には下に続く階段があった。気配感知を使用して周囲に魔物がいないか確認をしながら、三人は階段の方へ進んでいく。

 

 中央付近までやってくると、全方位から緑色の球体が飛んできたが、魔法で焼き払った。

 

「奴さんがおいでなすったな。周りに何か見えるか?」

「こっちには何もいないよ」

「こちらもだ」

「. . . 」

「ユエ?」

 

 返答の無いユエに呼び掛けるが反応が無い。俺はユエの方へ振り向くとユエは、ピシッ! となりながら、猫が驚いている表情の顔を貼っつけた様な顔をしている。

 

 すると、突然、ユエの頭に先程のラプトルやティラノの頭に生えていた花が生えてくる。そして、ユエは此方に向けてに魔法を発動させる。

 

「. . . 逃げて!」

「おいおい、マジか」

 

 ユエの放った魔法を横っ飛びで回避する。

 

「ディンリード、お前は大丈夫なのか?」

「問題ない」

 

 俺とハジメには耐性があったがユエには無いようだった。ディンリードが何故無事なのかは知らん。

 

 ハジメはユエの隙を見てドンナーを撃とうとするも、銃口を向ければ、ユエを操り花への射線上にユエが当たる様にしてきたり、ユエの手をユエの顔に向けるといった行動を取るのでなかなか厄介だ。

 

 それを繰り返してると、奥の縦割れの暗がりから何かが現れた。それはアルラウネやドライアドの様な人間の女性と植物が合成された様な魔物だ。この手の魔物はRPGなどによくいる。もっとも、神話では美女の姿で敵対しないや大切にすると、幸運をもたらすなどの伝承がある、しかし、目の前のエセアルラウネにはそんな印象はまるでない! 

 

 確かに女性の姿をしているのだが、問題は顔だ。まるで、心の醜さを表現したかの様な魔女の様な顔である。素直にキモイ。

 

「零斗、ハジメ! . . . 私はいいから. . . 撃って!」

 

 何やら覚悟を決めた様子でハジメと俺に撃てと叫ぶユエ。俺達の足手まといになるどころか、攻撃してしまうぐらいなら自分ごと撃って欲しい、そんな意志を込めた紅い瞳が真っ直ぐこちらを見つめる。

 

 そんなこと出来るはずないだろう! 必ず助けてみせる! 普通はこんな熱いセリフが飛び出て、ヒロインと絆を確かめ合うシーンだ。一般ピープルならそうしただろう。だがしかし、そんな期待を裏切るのが黒幕(フィクサー)クオリティー。

 

「え? いいのか、助かるわ〜」

 

 ドパンッ!! 

 

 広間に銃声が響き渡る。

 

 ユエの言葉を聞いた瞬間、何の躊躇ためらいもなく引き金を引いた。エセアラウネはユエを盾にしようとしたが"弾道操作"でエセアラウネの腕を吹き飛ばす。広間を冷たい空気が満たし静寂が支配する。そんな中、くるくると宙を舞っていたバラの花がパサリと地面に落ちた

 

「惚けている場合じゃないだろ?」

 

 そう言ってエセアルラウネの目の前に瞬間移動する。エセアルラウネが顔を上げるが、俺が"エルガー"に手をかける方が早かった。

 

Jack Pot!(大当たり!)

 

 そう言ってトリガーを引いた。エセアルラウネの頭部が緑色の液体を撒き散らしながら爆砕した。そのまま、グラリと傾くと手足をビクンビクンと痙攣させながら地面に倒れ伏した。やっぱ、銃での決めゼリフはこれに限るな! 

 

「大丈夫か? ユエ」

「. . . 撃った、迷いなく撃った!」

「え? 撃っていい言ったじゃん」

「. . . 頭皮、ちょっと削れたかも」

「弾道操作してるから心配するだけ無駄だぞ」

 

 ユエは「確かにその通りなんだけど!」と言いたげな顔で腹をポカポカと殴る。丁度傷口のある場所をピンポイントで殴ってくる。

 

 

 

 

 




零斗くんの弾道操作は『ウォンテッド』をイメージしてくれると分かりやすいと思います。感想お待ちしております。


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最奥のガーディアン

「よっと、ヾ(ω` )/ハイヨォお馴染みの零斗でーす」
「ハジメでーす」
「ユエ」

「さて、今回は迷宮のボスだな」
「それじゃあ、楽しんで行ってね!」

「「「最奥のガーディアン!」」」


 Side ハジメ

 

 アルラウネを倒してから数日経った。僕達はいよいよ奈落の最初から数えて百階層目にたどり着いた。

 

「さて、普通ならこれでラストなんだが」

「ああ、次の階層で最後だ. . . だがガーディアンが残っている」

「へぇ. . . ま、何とかなるやろ」

 

 偉く楽観的な零斗。大丈夫かな? 

 

「とりあえずは武器の点検でもしとくか」

「分かった」

「ユエとディンリードは待機で」

「「了解」」

 

 零斗は刀の刃こぼれと銃の点検を始める。僕は"ドンナー"と前に開発した対物ライフル"シュラーゲン"のチューニングをする。うん、問題無いみたいだね。後はステータスの確認. . . と。

 

 =======================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:??? 

 

 天職: 黒幕(フィクサー)の弟子・錬成師

 

 称号:女たらし

 

 筋力:31657

 

 体力:28439

 

 耐性:25893

 

 敏捷:28351

 

 魔力:32193

 

 魔耐:29680

 

 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・剣術・棍術・闘術・銃術[+オートリロード]・抜刀術風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話(零斗、造介、幸利、香織)・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・言語理解・R-Ⅰ型強化細胞・喰種化

 

 =======================

 

 . . . 何か不名誉な称号があるのだけど、レベルは??? になってるし、ステータスはもう化け物レベルだし. . . どうしよ(´・ω・`)

 

「よし、各自準備はいいな?」

「. . . 僕は大丈夫」

「「私も問題無い」」

「なら行くぞ」

 

 足を踏み入れた百階層は、それまでの無骨な迷宮と違って非常に綺麗な作りとなっていた。見た目とかはギリシャにある神殿に近い。柱の一本一本が直径五メートルはあり、一つ一つに螺旋模様と木の蔓が巻きついたような彫刻が彫られている。柱の並びは規則正しく一定間隔で並んでいる。天井までは三十メートルはありそうだ。

 

「如何にもって感じの作り込み具合だな」

 

 零斗がそう言って階層内に足を踏み入れる。その瞬間、全ての柱が淡く輝き始めた。警戒する零斗を除いた僕達3人。

 

「少し警戒しながら行くか」

「うん」

 

 感知系の技能をフル活用しながら歩みを進める。二百メートルも進んだ頃、前方に行き止まりを見つけた。いや、行き止まりではなく、それは巨大な扉だ。全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だった。

 

「こりゃ、また凄いな」

「ここが解放者の住処なのかな?」

「いや、この部屋を抜けると住処だ. . . その前に最後のガーディアンがいる」

 

 ディンリードさんが頷いて、ガーディアンの説明をしてくれた。

 

「先ず魔物としては6首の蛇だ、そしてそれぞれの首によって攻撃方法が変わってくる。赤が炎、青が氷、緑が風、黄が盾役、白が回復、そして黒が精神攻撃だ」

「そりゃ、また多彩な事で」

「間違いなくこの迷宮では最強クラスの魔物だ、用心してくれ」

「. . . アンタは戦闘に参加しないんだな」

「ああ、あくまでもこれは君たちの試練だ」

「まぁ、危なくなったら援護くらいは頼むぜ?」

「勿論だとも」

 

 ディンリードさんがにこやかに告げる。流石に迷宮攻略者が試練に参加しちゃたら狡いよね。

 

「んじゃ行ってみるか」

 

 零斗が最後の柱の向こうへ足を踏み出した。

 

「またかよ」

 

 その瞬間、扉と僕達の間三十メートル程の空間に巨大な魔法陣が現れた。赤黒い光を放ち、脈打つようにドクンドクンと音を響かせる。そして、()()()()()に血のような赤い輝きを放つ魔法陣が現れた。

 

「零斗!」

「ハジメ、お前は自分自身の心配をしろ」

「でも!」

「それに────」

 

 零斗が何か言い終わる前に、魔法陣はより一層輝くと遂に弾けるように光を放った。咄嗟に腕をかざし目を潰されないようにする。光が収まった時、そこに零斗の姿は無く、代わりに現れたのは……

 

 体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった。

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

 不思議な音色の絶叫をあげながら六対の眼光が僕達を射貫く。身の程知らずな侵入者に裁きを与えようというのか、常人ならそれだけで心臓を止めてしまうかもしれない壮絶な殺気が叩きつけられる。

 

 同時に赤い紋様が刻まれた頭がガパッと口を開き火炎放射を放った。それはもう炎の壁というに相応しい規模である。

 

「それは、予測済み!」ドパァン! 

 

 迫り来る炎を横っ飛びで回避し、ドンナーの電磁加速された弾丸が超速で赤頭を狙い撃つ。弾丸は狙い違わず赤頭を吹き飛ばした。

 

「よし、効きはするみたいだね」

「ん、でも回復が厄介」

「先ずは白頭からだね」

「任せて」

 

 内心ガッツポーズを決めた時、白い文様の入った頭が「クルゥアン!」と叫び、吹き飛んだ赤頭を白い光が包み込んだ。すると、まるで逆再生でもしているかのように赤頭が元に戻った。

 

「〝緋槍〟!」

 

 燃え盛る槍が白頭に迫る。しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の文様の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きユエの〝緋槍〟も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいて僕を睥睨している。

 

「これなら、どうだ!」

 

 ドンナーを速射して全弾を白頭に弾丸の雨を浴びせようとするが、またしても黄色頭に邪魔をされる。

 

 一か八かだ!ドンナーをゼロ距離から連射するために突撃しようとする。そこに. . .

 

「イヤアアアアアアア!!」

 

 ユエの悲鳴が轟いた。ユエの方を見ると、頭を抱えて蹲っていた。そこに青頭が大口を開いてユエを喰おうとしている。

 

「ディンリードさん!」

「分かっている!」

 

 ディンリードさんの使役している魔物がユエを抱えて退避する。それをヒュドラは追うように移動する。

 

「行かせないよ!」

 

 閃光手榴弾とドンナーでヒュドラの目を潰してユエのいる柱へ滑り込む。

 

「ユエ! 目を覚まして!」

「いや、いや……ひとりにしないで……」

「ハジメくん、ユエの事は任せた」

「何をする気ですか?」

「時間稼ぎだ」

 

 ディンリードさんはそれだけ言うと亜空間から使役している魔物を大量に出してヒュドラの方へと向かった。ユエは呼びかけにも反応せず、青ざめた表情でガタガタと震える。ペシペシとユエの頬を叩く。

 

「ああ、もう! こうなったら!」

 

 袋から試験管を取り出し神水を口に含む。 そして、ユエに口づけした。ピクッと震える唇を無理やりこじ開け、ポーションを口移しで流し込んだ。ごめんなさい、香織さん。

 

 全て移し終えると、唇を離す。ユエの顔はまるでタコのように真っ赤になっており、虚ろだった目はうるうると潤んでいた。

 

「ユエ!」

「……ハジメ?」

「はい、ハジメさんだよ。大丈夫?」

「よかった……ちゃんといる……」

 

 弱々しい声で呟いたユエは、服の裾を掴む。身体が小刻みに震え、何かに怯えているのがわかった。

 

「……よかった……見捨てられたと……また暗闇に一人で……」

「そう言う精神攻撃か. . . 」

 

 トラウマを突くようなビジョンを見せられたらしい。まだフラッシュバックしているのか、キュッと服の裾を掴まれる。

 

「大丈夫だよ。僕達はそんなことはしないから」

「ハジメ⋯⋯」

 

 不安そうな面持ちのユエに、僕ははっきりと断言する。この気持ちがただの同情なのか、はたまた. . . 恋心なのか。それはわからない、と言うか香織さんに何言われるか分からないから現実逃避したいだけかもしれない。

 

 でも、ユエが大切な存在なことだけはわかる。だから、ユエを見捨てる可能性などゼロだ。

 

「⋯⋯私⋯⋯わたし」

 

 でも、この状態のこいつにどう伝えるよ? いや、わかってるんだけど流石に二回は香織さんに嫌われるんじゃないだろうか。でも今はこれ以外方法が無い。

 

「ユエ」

「なに……んっ!?」

 

 もう一度唇を重ねる。先ほどよりも長く、少しだけ深く。ユエは体を強張らせていたものの、すぐに脱力した。

 

「⋯⋯ぷはっ。これで安心した?」

「んはっ⋯⋯」

 

 とろんとした顔のユエに一瞬どきりとしながらも、まっすぐその目を見て言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫だよ、僕も零斗もディンリードさんも君を見捨てる事なんてしないから」

「⋯⋯んっ!」

 

 僕の言葉に、今度こそユエはしっかりと答えた。いつもの無表情は、いつしかあの暗闇から解放した時と同じ微笑みに変わっている。

 

「ハジメ! これ以上は無理だ!」

「ありがとうございます、ディンリードさん」

「ああ、私も消耗が激しい、魔物の数も大分減ってしまった」

 

 ボロボロになってしまったディンリードさんに神水を渡す。

 

「ユエ、シュラーゲンを使うから時間稼ぎをお願い」

「⋯⋯任せて!」

 

 頷いたユエが前に立ち、魔法を連発してヒュドラの注意を弾き始める。その間に背負っていたシュラーゲンを撃つ準備を始めた。

 

 元はドンナーの威力不足を補う為に作ったけど撃つためには少し時間が必要で最大出力で撃つには1分弱掛かってしまう。ヒュドラはそれを見逃すはずも無く、僕に一直線で向かってくる。

 

「〝緋槍〟! 〝砲皇〟! 〝凍雨〟!」

 

 クルァアアン! 

 

 シュラーゲンに魔力を充填している間にも、ユエは魔法を放っている。最上級は一発撃つと魔力が枯渇するので、連射性の効く魔法にしているようだ。

 

 グルァ! 

 

 それに見かねたのか、またしても黒い頭がユエの方を向いてジッと見つめる。しかしユエは止まらなかった。

 

「もう効かない!」

 

 強い語気で静かに言ったユエは、黒い頭に炎槍を放ってさらに黒焦げにした。そろそろチャージが終わる。

 

「ユエ!」

「ん!」

 

 ユエが離れたのを確認して、シュラーゲンの引き金を引く。シュラーゲンが紅いスパークを起こす。弾丸はタウル鉱石をサソリモドキの外殻であるシュタル鉱石でコーティングした地球で言うところのフルメタルジャケットだ。シュタル鉱石は魔力との親和性が高く〝纏雷〟にもよく馴染む。通常弾の数倍の量を圧縮して詰められた燃焼粉が撃鉄の起こす火花に引火して大爆発を起こした。

 

 ドガンッ!!! 

 

 凄まじい轟音と共にフルメタルジャケットの赤い弾丸が、更に約一・五メートルのバレルにより電磁加速を加えられる。その威力はドンナーの最大威力の更に十倍。単純計算で通常の対物ライフルの百倍の破壊力である。

 

 黄頭も"金剛"らしき技能で防御したがまるで何もなかったように弾丸は背後の白頭に到達し、そのままやはり何もなかったように貫通して背後の壁を爆砕した。残ったのは、断面のからブスブスと音を上げて焼け焦げた首のないヒュドラだけ。一拍遅れて体が死を自覚したのか、倒れ伏す。

 

「思ったより反動でかいね……」

「ハジメ!」

「流石の威力だな」

 

 スリスリと甘えてくるユエの頭を撫でながら、ヒュドラの死体に注意を向ける。すると. . .

 

 ズル…………

 

 突如焼けた胴体の中から人型の物体が出てきた。

 

「「「ッ!?」」」

 

 異様なまでの悪寒が走る。バキバキと音を立ててヒュドラが人型の物体に吸収されていく。

 

 グルァアアアァアアッッッ!!!!! 

 

 凄まじい雄叫びをあげる、銀の人型。空間がビリビリと震え、肌に風圧が叩きつけられる。

 

「何だ、あれは?」

「テンプレ感が否め無いけど. . . ()()()間違いなくやばい」

 

 ゆっくりとこちらに目線を向ける銀の人型。そして手をかざす

 その瞬間、これまでで最大の悪寒を覚えて、ディンリードとユエをその場から突き飛ばして離れされる。錬成で壁を創る. . . が

 

 バキンッ!! 

 

 抵抗虚しく、即席の壁は砕け散る。即座に回避は不可能と判断し、防御系の技能を発動して身構える。

 

 

「「ッ! ハジ──!」」

「ごめん、香織」

 

 ゴウッ!!!!! 

 

 僕は最愛の人の名前を呼び謝罪をした。

 

 ごめんね、香織. . . 約束守れなかった。

 

 

 そして瞠目するユエとディンリードさんの顔を最後に、白い光に飲み込まれた。

 

 

 

 




アンケート結果ですが、『いる』が37票、『いらん!』が19票、『そんなことよりおうどん食べたい』が62票となりましたー. . . どうしてこうなった(自業自得)

まぁ、日常編みたいなのを書いて行きたいと思いますー。

長くなったので今回はここまで。感想お待ちしております。


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喰種としての覚醒

はーい、作者でーす。今回は私1人になります。

さてさて、前回はヒュドラの討伐と変化でしたね。今回はハジメの覚醒ですよー。


では『喰種としての覚醒』お楽しみください。

次回は零斗くんの目線でーす。


 Side ユエ

 

 私はその光景を呆然と眺めていた。ハジメが. . . 私の大切(好き)な人が極光に飲み込まれる様を。

 

 ハジメと零斗はあの暗闇から救い出して、こんな私を受け入れてくれた。

 

 零斗はディン叔父様と再会させてくれた、それに私達に居場所をくれた。故郷へと連れて行ってくれると言ってくれた。すごく嬉しかった。

 

 皆で一緒にいるととても楽しくて、とっくの昔に固まったはずの顔が笑顔になった。皆でなら、ハジメたちの故郷でもうまくやっていけると思った。

 

「ユエ! 今すぐ逃げなさい!」

「いやだ! ハジメが. . . ハジメが!」

 

 それなのに。私を救ってくれた英雄(ヒーロー)は今、光の中に飲み込まれていた。それがまるでスローモーションのように見える。

 

 極光が消えていくところだった。そして完全に消えたとき……そこには全身から煙を吹き上げている、ハジメがいた。それを見た瞬間、頭の中が真っ白になる。

 

 ハジメの足元には溶解したシュラーゲンが転がっており、あの銀の人型の極光の威力を示していた。どうやら咄嗟にあれをかざしたみたいだった。

 

「ハ、ハジメ?」

「……」

 

 ハジメは答えない。そして、そのままグラリと揺れると前のめりに倒れこんだ。

 

「ハジメ!」

「ユエ!」

 

 焦燥に駆られるまま痛む体を無視して駆け寄ろうとする。しかし、魔力枯渇で力が入らず転倒してしまった。もどかしい気持ちを押し殺して神水を取り出すと一気に飲み干す。少し活力が戻り、立ち上がってハジメの下へ今度こそ駆け寄った。

 

 仰向けにしたハジメの容態は酷いものだった。指、肩、脇腹が焼け(ただ)れ一部骨が露出している。顔も右半分が焼けており右目から血を流していた。角度的に足への影響が少なかったのは不幸中の幸いだった。

 

「ユエ! ハジメを連れ離れなさい!」

「でも、ディン叔父様!」

「いいから早く!」

 

 ディン叔父様の気迫に気圧されながらハジメを抱えて人型から死角になる柱へと運び込む。それを人型は待ってくれる筈も無く。

 

 グルァアアアアッ! 

 

 雄叫びをあげながら、またしても極光を吐き出す。今度は単体じゃなくて、大量に吐いてきた。

 

「させん!」

 

 ディン叔父様は人型を殴りつけ無理矢理射線を変える。

 

 ハジメに神水を傷口にかけて、もう一本神水を飲ませようする。だが、飲み込む力も無くむせてしまう。ユエは自分の口に神水を含むと、ハジメに口付けをして、むせるハジメを押さえつけ無理やり飲ませた。しかし、神水は止血の効果はあったが、中々傷を修復しない。いつもなら直ぐに修復が始まるのに、何かに阻害されているかの様に遅々としている。

 

 技能の魔力変換で少しずつではあるが傷が塞がっていく。

 

「ゴハァ!」

「!? ディン叔父様!!」

 

 グルゥルルルッ

 

 ディン叔父様を柱に叩き付けるようにして抑え込む。その表情は嘲笑うようなものだった。 . . あの野郎許さない。

 

 ハジメの左頬にそっと口付けをして、ドンナーを手に取った。

 

「……私が二人を助ける……」

 

 魔力はゼロに近く、神水はもう無い。それでもドンナーを握り締めて人型へ駆ける。ディン叔父様はこちらを見ると驚いた表情をするが人型を挑発する様に笑う。人型はディン叔父様を柱に叩き付ける。

 

 ユエはそれを見てチャンスとばかりに走るスピードを上げて空中に飛ぶ。

 

「ユエ! 撃って!」

 

 ハジメと零斗の様に纏雷を持ってはいないが、雷系の魔法で電磁加速を行い人型の眉間に銃弾を撃ち込む。

 

 グルゥアアァ! 

 

「な!?」

「うそ⋯⋯でしょ⋯⋯」

 

 人型はドンナーから放たれた弾丸を易々と受け止めた。

 

「あがっ!」

「ユエ!!」

 

 人型の放った光弾を腹に喰らってしまう。腹は光弾に撃たれて穴が開き血が流れている。それでも起き上がろうともがくが、体が言う事を聞かず、手を着いてもすぐに肘が折れて倒れてしまう。

 

「くそ! 離せッ!」

 

 グルウゥ! 

 

「ガッ!」

 

 ディン叔父様を壁へと投げ飛ばす、そして此方へとゆっくりと歩み寄ってくる。それはまるで処刑人の様だった。

 

「ごめんなさい」

 

 人型が腕を振り上げる。

 

「ハジメ守れなかった. . . 」

 

 人型が腕を振り下ろす。

 

「大好きだったよ. . . 」

 

 

 

 

『そう言う事は面と向かって言って欲しいかな』

 

 

 

 グガァア!? 

 

 

 

「え?」

 

 

 いつまでも衝撃がやって来ないため、恐る恐る目を開くと、人型は後ろの壁へめり込んでいた。

 

 空中で抱き抱えられていた。どうなっているのか、混乱しているその時に、

 

『ユエ、怪我は大丈夫?』

 

 声が聞こえて自分が向いている方向の後ろをみる。そこには額に短い角の様な物があら、全身を灰色で鎧のような外骨格を纏った人型に抱き抱えられていた。(イメージはwarframeのEXCALIBUR)

 

「ハジメ. . . なの?」

『そうだよ. . . ごめんね、守れなくて』

 

 表情は分からないが申し訳なさそうに告げるハジメ。

 

『ここからは俺が相手だ. . . 俺の大切な人に手を出したんだ、楽に死ねると思うな』

 

 . . . かっこいい。

 

 

 

 Side ハジメ

 

 時間は少し巻き戻り. . . ドンナーの銃弾が人型に弾かれて二人が叩きつけられていた頃、僕は真っ白な空間に独りで立っていた。

 

「ここは. . . あの時の?」

『やぁ、マスター』

「君はあの時の. . . そういえば名前聞いて無かった」

『名前は無いよ?』

「え?」

『僕はあくまでも君の中の強化細胞の源みたいな物だからね. . . ま、好きに呼んでもらっていいよ』

「. . . なら、『ハク』でどうかな?」

『ハク. . . かいい名前だね、気に入ったよ』

 

 ハクの容姿は僕そっくりで違うのは髪が白い事と、瞳が青い事だろう。

 

『さて、本題に入ろうか』

「本題?」

『今マスターは死にかけている』

「. . . そっか僕はユエとディンリードさんを庇って」

『でも、まだ死んでは無いよ。瀕死ではあるけどね』

「でも、アイツには勝てない. . . 」

『今の状態ではね. . . 君が喰種として覚醒すれば勝てる』

「喰種として覚醒?」

 

 喰種化はできるけど変化できる時間は少ししかない最長でも30秒ぐらいだった。

 

『それは、マスターの『意思』が弱いからだよ』

「『意思』?」

『そう、マスターは最初に言ったよね『誰かを護れる力、誰かを優しく包み込む力が欲しい』って』

「う、うん」

『でも、その『意思』は余りにも弱い. . . それに、君はもっと貪欲になった方がいい』

「貪欲?」

 

 誰かを護れる力、誰かを優しく包み込む力. . . でも一体()()護れればいいのか分からない. . . 零斗(親友)か、香織(恋人)か、柊人(友人)さん達か. . .

 

『マスターは. . . いや、君は誰を護りたいんだい?』

「僕の護りたい人は⋯⋯」

 

 そんなの最初から分かっていたじゃないか。

 

「全員だよ」

『へぇ. . . 実に貪欲で傲慢で偽善に満ちた答えだね』

「ウグ. . . でもこれは嘘偽りのない僕の本心だ」

『フフ、いい『覚悟』だ. . .っと、どうやら時間みたいだね』

「色々とありがとうね、ハク」

『僕は別段何もしてないけどね. . . さぁ、目覚めの時だよ。存分に殺って来な!』

 

 ハクが言い終わると同時に僕の身体に零斗が喰種化した時と同じような外骨格が現れる。

 

『さぁ、逆転の時間だ』

 

 

 ●○●

 

 

 Side 三人称

 

「ハジメ……良かった……! 死んだかと思った……!」

 

 ユエは涙を流してハジメに抱きついている。ハジメはそれを何をするわけでもなく、ユエをディンリードの近くにおろす。ディンリードは既に意識をなくしていた。

 

「ハジメ⋯」

『大丈夫だよ、ユエ。今度は負けないから』

 

 ユエが心配そうにハジメに呼び掛ける、ハジメはユエの頭を撫でて、人型の方へ向き直る。

 

『来いッ!!』

 

 グルァアアアアッ! 

 

 言われなくともとでも言うかのように咆哮を上げて人型はハジメへと光弾を放つ。

 

『. . . フッ!』

 

 グルゥアアァ!? 

 

 次の瞬間ハジメの姿が掻き消え、人型の両腕が斬り飛ばされる。ハジメの手には零斗の持っていた"()()()"が握られていた。

 

「あれは. . . 」

『どうした? それだけか?』

 

 ルグゥアアァアア!! 

 

 人型は腕を再生させ、ハジメに殴り掛かる。

 

 ドゴォ! 『この程度か?』

 

 グルァアァ!? 

 

『"錬創(れんそう)"』

 

 ハジメが短文詠唱で唱えたのは完全な喰種化によって強化された"錬創"だった。本来錬成は物体を変形、加工するだけだが、錬創は対象が再現可能であれば必要な物体は無いというチートな能力へと変化した。

 

 そしてハジメの手に現れたのは. . .

 

 ドパァン! 

 

 "リベリオン"だった。リベリオンから放たれた弾丸は人型の身体を易々と貫く。

 

 ルグゥゥウ⋯⋯グルゥルルル

 

 人型は既に満身創痍といった唸り声を上げて膝をつく。だがその目には未だにハジメ達を見据えている。

 

『次で終わりだ』チャキ

 

 ルグゥゥウウゥ⋯⋯

 

 

 階層中に緊張感が走る。

 

 ガルゥゥア! 

 

 先に動いたのは人型だった。ハジメへと一直線に飛び付く。

 

 

『. . . "不知火"』

 

 ハジメは1歩踏み込み、姿勢を低く構え、人型の横を抜ける。

 

 

 ルグゥアァ. . .

 

 人型の首がゴトリと音を立てて床へと落ちる。

 

 

『流石に⋯疲れたな⋯⋯」

「ハジメ!」

 

 

 ハジメはそのまま、前のめりの倒れ意識を失った。

 

 

 

 

 

 




はい、こんな感じです。イメージがwarframeなのは私の趣味と私の思い描いた通りの姿だからです。感想お待ちしております。


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転移先は⋯⋯

「よいしょと、ヾ(ω` )/ハイヨー2話ぶりの登場の零斗でーす」
『ヴェノムさんでーす』
作者のクロです。

「さて、前回はハジメがやっとこさ喰種として覚醒したな」
『ま、鍛えたメンバーの中では最速だけどな』
「まさか俺の"血狂い"と"リベリオン"再現するのは凄いな、性能もほぼ一緒だろ?」
『俺達が言え無いがかなりのチートだな』
まぁ、そんぐらいしないと面白くないだろ?
「いや、まぁそうだけど. . . 」

さて、と今回は零斗くんの視点でーす。
「久々の出番だな」
『俺もなー』

んじゃ、行ってみようか


「『転移先は⋯⋯』」




 Side 零斗

 

「よいしょと. . . さて、ここは何処だ?」

『見た感じ現代の日本ぽいけど⋯⋯て、ここ新宿じゃね?』

「. . . ホントや」

 

 しかも、亜種特異点の方の新宿だわ。

 

「とりあえずは散策するか」

『一応、座標の特定進めとくわ』

「頼んだ」

 

 ヴェノムに転移先の座標とハジメ達の居る場所の特定を進めてもらいながら、俺は辺りを見て回る。

 

「どうしたもんかね」

 

 ここが新宿なら、エネミーなんかもいるのか? 一応武器の確認を⋯⋯

 

「? 何だこの違和感は⋯⋯」

 

 身体に異常は無いが、謎の違和感が走る。まるでサーヴァントとのパスを繋いだような感覚がある。

 

「嫌な予感がするな」

 

 何が起こっても言いように警戒だけは怠らずにして置くか⋯⋯

 

 

 ────────────────────────

 

 

「何も無いな. . . 」

 

 探索を続けて約一時間がたったがこれと言った成果は無かった。エネミーは居るが威圧で追い返せるので問題はないが、身体の違和感だけはずっと続いている。

 

『零斗』

「どうした?」

『悪い報告がある』

「. . . 聞かせてくれ」

『ハジメの居る位置の特定とこの場所の座標の特定が出来ない』

「やっぱりか」

『外との隔絶が完璧でな、俺だけの力じゃ特定が出来ない』

「そうか、悪いなこんな無茶の事させちまって」

『気にせんでいい』

 

 これで打つ手が無くなった訳だが. . . どうしたもんかねぇ。

 

『なぁ、零斗』

「あぁ、分かってる」

 

()()()()見られてるな。しかもかなり遠目で。

 

『零斗、団体様だぜ?』

「数は?」

『んー、4000くらい』

「方位は?」

『周りを囲う様に接近中』

「物量で殺るつもりか⋯⋯にして、数が少ない気がするがな」

 

 移動が速い奴が何匹かいるな、これなら接敵まで30秒ぐらいだっな。地雷でも設置するか。

 

「よいしょ(ガコン)⋯⋯と」

 

 よし、設置完了と。

 

 ガルゥゥア!! 

 

「いらしゃいませー!」ポチッ

 

 

 ────────黒幕殺戮中──────────

 

「ふぅ、終わった」

 

 思いのほか時間掛かったな。うーむ、迷宮の魔物よりも強いな、しかもかなりの飢餓状態だったな. . . 圧倒的な実力者がいるみたいだな。

 

「さて、奴さんの顔でも拝みに行くかね」

 

 戦闘風景をじっと、伺うかのように高層ビルの上から見下ろす影に向かう。

 

 トスン「. . . 」

「ほぅ、そっちから来てくれたのか」

「. . . 」

「だんまり⋯⋯か」

 

 黒いローブで全身を包み、顔も仮面で見えなくなっているが身体付きからしてして、女性と見ていいだろう。

 

「お嬢ちゃんに質問があるんだがいいか?」

「. . . どうぞ」

(. . . 話すんか)

「君は一体何者だ?」

「. . . 私はこの空間のガーディアンです」

「空間⋯⋯ねぇ」

 

 空間て事はハジメ達の居る場所とはまた別って事か. . . そりゃ、特定出来ない筈だわな。

 

「もう1つ、君の役目は?」

「. . . ここに来た者の排除です」ヒュン

「おっと⋯⋯話の途中だつーのにいきなり攻撃とは無粋だねぇ」

「関係ありません」

「冷たいねぇ」

 

 少女の得物は大型の刺剣だ。長さはだいたい1m20cmほどだ、少女の体格に似合わない得物だった。

 

(一撃の速さこそ驚異だが、重さはそこまででは無い. . . 刺剣自体に何か仕込んでいるな⋯⋯毒か呪いかだな)

 

 冷静に相手の動きを見つつ、回避する。狙う場所が何処も急所なのが怖い。

 

「舐めているのですか?」

「ん?」

「さっきから反撃の1つもしないで躱すだけ⋯⋯何故です?」

「んー、君の動きのクセを見てる」

「答える気は無い様ですね⋯⋯ならこれならどうでしょう」ボフン! 

「そう来たか」

 

 煙幕か. . . 視覚による観察が出来なくなったな. . . ま、ある程度読めたしいいか。

 

『どうです? 私が何処にいるか分からないでしょう?』

「イヤ? 足音と鼓動音である程度の把握は出来てるぞ?」

『. . . 貴方変態ですね』

「失礼な奴だな、おい」:( ꐦ´꒳`;):

『イヤ、実際そうでしょう、相手の鼓動音を聞き分けるとか』

「単純に耳が良いだけだ」

『そう言う領域の話では無いでしょう. . . 』

 

 気配の消し方は見事なモノだが、足音や心臓の鼓動音までは完璧に抑えられていない。

 

「建前はもう十分だろ? 来いよ」

『言われなくとも』

 

 先程よりも速く、鋭く攻撃を打ち込んでくる。だが⋯⋯

 

「軽い」シュル⋯パン! 

『グッ!』

「フェイントもクソもねぇ攻撃で獲れると思うなよ?」

(ひゅーカッコイイ)

(うるせぇぞ、ヴェノム)

 

 んじゃ、ご尊顔でも拝見しますか。

 

「あんま、ジタバタすんなよー? 女性を痛め付ける趣味は無いんでね」

「HA☆NA☆SE!」

「⋯⋯お前、何でそんなネタ知ってんだ?」

「. . . 」アセダラダラ

「ま、いい. . . とりあえずは顔見せて貰うぞ〜」

 

 仮面に手を掛けて、引き剥がす. . . が

 

「フン!」ゴキィ! 

「チッ! 無理やり関節外して抜けやがった」

「ふぅ、やはり慣れていても痛いですね. . . 」

 

 あのやり方、組織の奴らにしか教えてない筈なんだがな. . . 最後に確認した時はメンバー全員居たよな? このタイミングで離脱者が出る訳が無いしなぁ⋯⋯なら、考えられる可能性は1つだな。

 

「エト、お前なんだろ?」

「. . . 誰ですか? その子?」シセンソラシ

「よし、確定だな」

『あ、やっぱか』

 

 久しぶりに話したなお前。『うるせぇやい』おい、内側からナイフを刺すんじゃねぇよ。痛てぇんだよ! 

 

「どうした? 俺を排除するんだろ、突っ立てたら終わらねぇぞ?」

「随分と余裕がお在りの様ですね」

「当たり前だろ? 君程度の実力では俺には勝てないからな」

「いい度胸ですね」ピキピキ

「御託は十分だ。とっと来い」クイクイ

「. . . その余裕顔を歪ませてやりますよ!」

「やれるもんならな!」

 

 ちょいと本気でやるとしますか! 

 

「"眷属召喚"!」

「チッ! 面倒な事しやがる!」

「ええ! 貴方を懐には入らせたくないので!」

「なら、"血狂い"⋯⋯"開元"!」

 

 血狂いは吸った血を使うことで刀身の増殖ができる。今回は吸った血の3割ほどを解放した。増殖した刀身は万を超えた。

 

「ヴェノム! 敵の数はどんぐらいだ!」

『ざっと、40000だ』

「サンキュー!」

「行け! 我が眷属よ!」

All right! IT'S SHOW TIME! 

 

 開元した血狂いで召喚された眷属を一掃する。

 

「クソ! 硬い上に数が多い!」

『なんなら、増えてきてるぞ!』

「埒が明かん! 纏めて殺る!」

 

 血狂いでエトの召喚した眷属を排除しながら、並列詠唱を開始する。

 

「"天光満つる所に我はあり。冥府の門開く所に汝あり。万物に裁きを。(罪徒)絶望(救済)を! その身をもって悔いるがいい! "『神ノ審判(インディグネイション)』!」

 

 コフッ⋯⋯流石に魔力込めすぎたな。

 

「フゥ. . . さぁ、これで1v1だ⋯⋯覚悟はいいか?」

「まだ. . . まだ! まだ!」

「来い!」

 

 再びエトとの一騎打ちが始まった。

 

「ハッ! 随分と腕を上げたなぁ! エト!」ヒュ! 

 ガキィ⋯「だから、私はエトではありません!」バァン! 

 キィン! 「おっと! そりゃ失礼したね!」

 

 エト. . . 少女は大型の刺剣から直剣に持ち替え、ホルスターにしまってあった、ハンドガンを放ってくる。

 

「なかなかいい動きだ! 身体の使い方も、俺の動きのクセまでしっかりみてるな!」

「貴方だって! 私の隙を見極めて、当たれば即死の攻撃を放ちながらも、次の攻撃に備えるなんて、人間離れした動きをしているじゃありませんか!」

「お褒めに預かり光栄だね! そら、左のカードが甘いぞ!」ドクゥ! 

「グッ! 離れなさい!」

「ゴブッ! 痛てぇ!」

 

 脇腹に蹴りを入れたら、その反動でサマーソルトしてきやがった! もろ顎に入ってしまって、脳が揺れる。

 

 フラ⋯「!? マズッ!」

「取ったァ!」

『取ったんじゃない。()()()()()()

 シュル「な! ⋯⋯(ギチッ)クッ! 小癪な!」

「おっと、あんま動かない方が身の為だぜ? 暴れるとバラバラになっちまうぞ」

「クッ! コロセ!」

「はいはい。『くっ殺』展開はいいから」

 

 張り巡らせた繰糸で拘束し、抵抗出来ない様に武器を奪い取る。

 

「よし、後は仕上げっと」

「何をするつもりですか」

「ん? こうするのさ⋯⋯んっ」

「!?!!??」

 

 少女の仮面をズラして、唇を奪う。

 

「ちゅぷ. . . んふぅ. . . ちゅぷ. . . 」

「んん! . . . んんん!」

「ふぉら、あわれるふぁ」

「んっ. . . ちゅっ. . . んん♥」トローン

「ん. . . プハァ」

「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯なんれ、いきなりキ、キスなんて!」

「んー、何となく」

「なんとなくって. . . あれ? なんらかねむ⋯く⋯⋯なっれ」フラッ

 ダキトメ「はい、おやすみ」

 

 よし、睡眠薬効いたな。やー、面倒だから口移しになっちまったけどいいか。

 

「だー! 疲れたー!」

『お疲れさんー』

「どうだ? 空間の把握は出来たか?」

『おうよ! 完璧に出来てるぜー』

「んで? 出口はどっちだ?」

『こっから、南に2kmの場所にBARがあって、そこが出口になってるぽい』

「なら、出て来てエトを担いでくれ」

『リョーかいっ」ニュルン

「流石に疲れたわ、ちょいと休んでから移動するか」

「そうした方が良さそうだな」

 

 ハジメ達は大丈夫かな? ま、余程の事がない限り死ぬ事は無いだろうし、ハジメが完全な喰種化の切っ掛けになりそうだったし、大丈夫か。




更新が遅れて申し訳ない。感想お待ちしております。


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隠れ家にて

「よいしょと、( ¯꒳¯ )ドモドモお馴染みの零斗さんでっせ」
『ヴェノムでーす』
「⋯⋯謎のヒロインEです」

「前回は俺とEの戦闘だったな」
「後1歩でしたのに」
『あー、多分無理だぜ?』
「⋯⋯なぜです?」
『コイツ、並列思考でお前の行動パターン分析して、対策してたし。実際その通りに動いてたし』
「私もまだまだですね. . . 」
「何度か危ない場面はあったがな。それと黒幕ぽく言うなら『戦闘が始まった時点で君は私の手のひらの上で踊っていたに過ぎない』ってな」
「⋯⋯潰しますよ?」
「すまんすまん(笑)」
「舐めていますね?」


「おー怖い怖い⋯⋯さて、今回はハジメ達との合流だ」
「ハァ⋯⋯楽しんでいってください」

「「『隠れ家にて!』」」


 Side 三人称

 

 心地の良いそよ風が吹き、薄いカーテンの布がその風に合わせて動く。体全体が何か温かで柔らかな物に包まれているのを感じた。随分と懐かしい感触だ。

 

「んぅ⋯⋯あれ? ここは?」

 

 まだ覚醒しきらない意識のまま手探りをしようとする。しかし、右手はその意思に反して動かない。というか、ベッドとは違う柔らかな感触に包まれて動かせないのだ。手の平も温かで柔らかな何かに挟まれているようだ。

 

「……ぁん……」

(!?)

 

 何やら艶かしい喘ぎ声が聞こえた。その瞬間、まどろんでいたハジメの意識は一気に覚醒する。

 

 

 慌てて体を起こすと、ハジメは自分が本当にベッドで寝ていることに気がついた。純白のシーツに豪奢(ごうしゃ)な天蓋付きの高級感溢れるベッドである。場所は、吹き抜けのテラスのような場所で一段高い石畳の上にいるようだ。爽やかな風が天蓋とハジメの頬を撫でる。周りは太い柱と薄いカーテンに囲まれている。建物が併設されたパルテノン神殿の中央にベッドがあるといえばイメージできるだろうか? 空間全体が久しく見なかった暖かな光で満たされている。

 

(ここは? ⋯⋯僕は確かあの人型を倒して⋯⋯そうだあの後倒れちゃったんだ)

 

 どこか荘厳さすら感じさせる場所に、ハジメの記憶を繋ぎ合わせるが、それは隣から聞こえた艶かしい声に中断された。

 

「……んぁ……ハジメ……ぁう……」

「!?」

 

 ハジメは慌ててシーツを捲ると隣には一糸纏わないユエがハジメの右手に抱きつきながら眠っていた。そして、今更ながらに気がつくがハジメ自身も素っ裸だった。

 

「なるほど……これが朝チュンってやつか……ってそうじゃない!」

 

 混乱して、思わず阿呆な事をいい自分でツッコミを入れるハジメ。

 

 ガチャ「起きた様ですね⋯⋯これは失礼をしましたね、ごゆっくり」

「ちょ! ちょっと待ってください!」

 

 見知らぬ銀髪の少女がトレーにハジメ用の昼飯と予想できるお粥と水に浸されたタオルが乗っている。

 

「誤解です! 誤解ですから!」

「恥ずかしがる必要はありません。ですが二股はあまり感心しませんね」

「だから! 誤解です! と言うか貴方誰ですか!?」

「それは貴方達が行為を終えたらお教えします⋯⋯それでは失礼しました」

 

 身を翻し、凄まじい勢いで出て行く。なお誤解があるようで「白崎さんが不憫ですね⋯」と言い残して出て行った。

 

(どうしよう!? このままだと最悪⋯⋯何とか誤解を解かないと!)

「⋯⋯ぅん⋯」

「ユエ〜」

「……ハジメ?」

「うん、ハジメさんだよ。おはよ」

「ハジメ!」

「!?」

 

 目を覚ましたユエは茫洋とした目でハジメを見ると、次の瞬間にはカッと目を見開きハジメに飛びついた。もちろん素っ裸で。動揺するハジメ。

 

 しかし、ユエがハジメの首筋に顔を埋めながら、ぐすっと鼻を鳴らしていることに気が付くと、仕方ないなと苦笑いして頭を撫でた。

 

「ごめん。心配かけたみたいで⋯⋯」

「んっ……心配した……」

 

 暫くしがみついたまま離れそうになかったし、倒れた後面倒を見てくれたのはユエなので気が済むまでこうしていようと、ハジメは優しくユエの頭を撫で続けた。それから暫くして漸くユエが落ち着いたので、ハジメは事情を尋ねようとした時⋯⋯

 

 コンコン「入っていいかー?」

「「!? ちょっと待って!」」

「りょー」

 

 ユエにしっかりシーツを纏わせ、ハジメ自身は近くにあったタンスのような物からズボンを取り出して履く。

 

「入っていいよ」

「んじゃ入るぞー」ガチャ

 

 扉を開けて、部屋に入ってくる男に戻った零斗。傍には先程の少女の姿がある。

 

「先ずはおはよう、身体の調子はどうだ?」

「僕は問題無い⋯⋯かな?」

「ん、私も大丈夫」

「後、零斗性別戻ったんだね」

「やっとな⋯⋯とりあえずはメディカルチェックするからじっとしててくれよ」

 

 零斗はある程度の医療知識があるようで、素早くそして的確に触診をする。ものの数分で終了した。

 

「ユエの方は問題無いが、ハジメ」

「何か異常あったの?」

「⋯⋯お前、右目見えてないだろ。それに左腕まともに動かせねぇんだろ?」

「え?」

「⋯⋯バレちゃったか」

「ハァ⋯⋯お前は自分1人で解決しようとする悪いクセがあるぞ。いい加減にそれを直せ」

 

 ハジメの右目は完全に失明してしまっている。見かけだけは治っているがあくまでも目としての機能は回復していない。左腕も同様で見かけしか治っていない。

 

「しばらくは傷の治療だ。いいな?」

「分かったよ」

「守るって……言ったのに。……ごめんなさい、ごめんなさい」

「ユエ、これはお前の責任ではない」

「でも⋯⋯」

「ハジメはお前とディンリードを守る為に自分から盾になったんだ。これはハジメの自己責任だ⋯⋯それに、ハジメはそこまで気にしてないんだろ? なら問題はないハズだ」

「ユエ、僕は大丈夫だよ、だからそんなに気にしないで」

「でも⋯⋯でも⋯⋯」

「⋯⋯お話の途中すみませんね」

 

 少女がユエの目の前に移動し、ゆっくりと話しだす。

 

「いいですか、ユエ。彼は自分の意思で貴方を庇い傷を負いました。それは貴方が大切だからこそです。それに零斗」

「なんだ?」

()()()()の傷でしたら問題ないですよね?」

「あぁ、1週間ぐらいで治せるぞ」

 

 . . . 医療技術の進歩がエグいなぁ(トオイメ)

 

「はい、零斗ここで一言」

我が幻影想鎧(ファントムメイル)の技術は世界一ィィィィ────ッ! できんことはないイイィ──────ッ!! 」ビシッッ

 

 読者の皆様には伝わらんけど音割れが凄いんじゃあ⋯⋯鼓膜ブチブチになるで、ほんま。

 

「ゲホゴホ⋯⋯こんな全力で叫んだの久々だわ、喉いてぇよ」

「まさか、全力でやるとは⋯⋯貴方ホントにバカですね」

「お前さんがやらせたんだろうが」ポコン

「⋯⋯女性を叩くとはいい度胸ですね」ニッゴリ

「え? お前女だったのか?」

「殺す!」チャキ! 

「やれるもんならやってみな⋯www」

「お前! オマエェ!」

 

 目の前で険悪な雰囲気になる零斗と少女。

 

「れ、零斗」

「なんだ? ハジメ」

「その人は?」

「そういや紹介してなかったな⋯⋯こちらのちみっ子の名前はエト・フレイズ。俺の能力から分裂した人物の1人だ」

「この人が?」

「ちみっ子て言うな!」

 

 ちょっとだけキャラ崩壊を起こすエトであった。

 

 

 ────────────────────────

 

「フゥ⋯⋯喧嘩もここら辺にしてっと、ハジメ一応この屋敷の案内するから着いてきてくれ」

「分かったよ」

 

 屋敷は、相当見事な作りだった。全体的に石造りで、清涼感がある。エントランスには、温かみのある光球が天井から突き出す台座の先端に灯っていた。

 

「随分綺麗だけど、零斗達が掃除してるの?」

「いや、俺じゃ無いぞ⋯⋯おーい、出て来てくれ」

 

 呼びかけると、トテトテといくつもの小さな影が姿を現わす。ハジメの膝下くらいの、小さなゴーレムだ。

 

「この子達が定期的に管理していたらしい。数回出入りするうちに仲良くなってな」

 

 頭を撫でると、くるくると嬉しそうに回転するゴーレム。

 

「んじゃ、先ずは1階からだな」

 

 1階はリビング、台所、トイレなど、普通の家と変わらないものが一通り揃っていた。どれも清潔感が保たれており、ゴーレムは優秀らしかった。

 

「調理器具なんかはちょっと古いが使えないことは無い⋯⋯オーブンが無いのはちょっと残念だがな」

 

 零斗は不満を漏らしながら案内を続ける。妙に説明が上手いのが気に触るが⋯⋯この際どうでもいいだろう。

 

「そんで、ここがメインだ」

 

 そこは⋯⋯

 

 

 

「「お風呂!」」

 

 同時に叫ぶハジメとユエ。目の前には大きな円柱状のくぼみが存在しており、縁にはライオンみたいな彫刻が口を開けて座っている。

 

「零斗の魔法なんかで汚れとか病気は気にしなくても大丈夫だったけど、入れるなら入りたかった!」

(言えねぇ⋯⋯俺だけちょこちょこ風呂入ってたの⋯⋯)

「ハジメ」

「なに? ユエ」

「……入る? 一緒に……」

「……一人でのんびりさせて?」

「むぅ……」

 

 

 素足でパシャパシャと温水を蹴るユエの姿に、一緒に入ったらくつろぎとは無縁になるだろうと断るハジメ。ユエは唇が尖らせて不満顔だ。

 

「さて、次は2階なんだが」

 

 二階に向かう。こちらには書斎や工房らしきものがあったが、封印されていたので入れなかった。

 

「2階は後々開けれるだろ⋯⋯て、事で3階にGO!」

「テンション高いなぁー」

 

 3階は一部屋しか無く、厳かな雰囲気が漂っていた。扉を開ける。すると部屋の中には、これまでで一番複雑かつ精緻な術式の施された巨大な魔方陣が存在していた。

 

 零斗が探知魔法を使い、危険なものでないか確認を取る。無事だとわかったら、その奥にある豪奢な椅子に目を向けた。

 

 そこには、一体の骸骨が鎮座していた。すでに全身が白骨化しており、その上から見事な金色の刺繍の入った黒いローブを纏っている。

 

「とりあえず、魔方陣調べてみるか。危険なものじゃないのは確かだし」

「貴方が言うなら心配は⋯⋯多少ありますが、まぁ大きな問題にはならないでしょう」

「……ァハハハ……ハハ……ハ……」

 

 少々険悪な雰囲気になりつつも全員で魔方陣の中に入る。そして中央に立った瞬間──カッと純白の光が魔方陣から爆ぜた。

 

 その直後、〝真のオルクス大迷宮〟に落ちてからのことが走馬灯のようによぎる。なかなかいい演出するじゃないか! しばらく待っていると、やがて光は収まり……代わりに、目の前に黒衣の青年が一人、佇んでいた。

 

「試練を乗り越えよくたどり着いた。私の名はオスカー・オルクス。この迷宮を創った者だ。反逆者と言えばわかるかな? ⋯⋯ああ、質問は許して欲しい。これはただの記録映像のようなものでね、生憎君の質問には答えられない。だが、この場所にたどり着いた者に世界の真実を知る者として、我々が何のために戦ったのか……メッセージを残したくてね。このような形を取らせてもらった。どうか聞いて欲しい。……我々は反逆者であって反逆者ではないということを」

 

 そうして始まったオスカーの話は、聖教教会で教わった歴史とはまったく異なる内容だった⋯⋯が長いのでざっくりと説明する。まぁ、ノイントと吸血した使徒の記憶があるからな説明せんでもいい気がするが一応な? 

 

 

 1.神代の少し後の時代、世界は争いで混乱を極めていた。

 2. 神々は今のトータスより多くの種族、国にそれぞれ信託を授けて言葉巧みに操り駒にすることでゲーム感覚で戦争をさせて楽しんでいた。

 3.そこでオスカー・オルクス含める〝解放者〟と呼ばれた集団が戦争を終結させる為に行動を始めた。

 4.神代から続く神々の直系の子孫という共通点を持って集まった彼らは、神の真意を知り世界を救おうとした。

 5.神々のいる〝神域〟を突き止めたはいいもののバレて結局神々は人々に彼らを神に仇なし世界を滅ぼす〝反逆者〟であるとし、守るべき人間と敵対するわけにもいかずあえなく一人、一人と討たれた。

 6.最後まで残ったのは先祖返りの七人だけだった。世界の敵である彼らは、自分たちでは神殺しは不可能と判断し、世界各地に迷宮を創り潜伏することにしたのだ。試練を用意し、それを突破した強者に自分達の力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを祈って。

 

 

 と、まぁこんな感じだ。ある程度噛み砕いたがこれでも長くなったな⋯⋯ま、仕方ないよネ! 

 

「とりあえず、エセ神はぶち殺すとして⋯⋯帰還方法はどうすっかな」

「迷宮の攻略を進めれば何かヒントがあるんじゃないかな?」

「それもそうか⋯⋯なら、これからの目標は世界各地の迷宮の攻略だな」

 

 しばらくの目標は決まったし、しばらくはハジメの治療でここを動けなさそうだし、ここで旅の準備をしておくか。

 

「⋯⋯()()()()

 

 エトがそう唱えると突如として再び魔法陣が輝いた。流石に想定外の事態に、驚愕して身構える。そんな俺たちの前に、もう一度オスカーの映像が浮かび上がった。しかし先ほどとは違い真剣な顔をしている。

 

 

「ようこそお越しくださいました、黒幕(フィクサー)

「は?」

「これは特定の言葉で再生される記録だ、心して聞いてくれ。僕たちは迷宮を作る時に貴方の仲間に協力を得て完成させた。そして、彼女達は各迷宮に残って貴方だけの試練を用意している。この迷宮ではエトくんがやってくれるそうだ⋯⋯その試練を突破すれば貴方が失った力の一部を取り戻せるだろう」

 

 ナンテコッタイ⋯⋯面倒事が増えたちまったな。この世界に来てから能力の一部が使えないと思っていたがパスが切れてたらそら、使えないわな。

 

「エト、お前何時からこの世界にいた?」

「⋯⋯迷宮が完成してからはずっとあの空間にいたから分からない」

「そうか. . . なら本人に聞いてみるか」

「まさか、ディンリードさんみたいに喚ぶの?」

「そのトーリ!」

 

 って事で一度リビングまで戻り、召喚用の魔術式を描く。

 

「よし、これでいいな⋯⋯ハジメ」

「なに?」

「今回はお前が喚べ」

「え!?」

「俺はもう魔力の余裕は無いし、ユエもディンリード1人で精一杯だしな、今回はお前だ」

「⋯⋯分かったよ、喚ぶためのヤツは?」

「ほい、これ」

「ありがとう」

 

 ハジメは英霊召喚用の詠唱文の書かれた紙を受け取ると、魔術式の中に入り、詠唱を始める。

 

()に銀と鉄。 ()に石と契約の大公。

 

 降り立つ風には壁を。

 

 四方(しほう)の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路(さんさろ)は循環せよ。

 

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

 繰り返すつどに五度。

 

 ただ、満たされる刻ときを破却する。

 

 ────告げる。

 

 (なんじ)の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

 聖杯の寄るべに従い、この意、この理ことわりに従うならば応えよ。

 

 誓いを此処ここに。

 

 我は常世総(とこよ)すべての善と成る者、

 

 我は常世総ての悪を敷しく者。

 

 汝 三大(なんじ さんだい)言霊(ことだま)()とう七天(しちてん)

 

 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」

 

 

 屋敷一体が光に包まれる⋯⋯そして光が収まる頃には魔法陣の中央には⋯⋯

 

「聞こう、君が僕のマスターかい? 南雲ハジメ」

 

 金色の刺繍の入った黒いローブを纏った青年が立っていた。

 

「えっと⋯⋯多分そうです?」

「なんで疑問形なんだよ」

「⋯⋯実感がないからかな?」

「フフッ⋯一応自己紹介をしておこうか。オスカー・オルクスだ。クラスはキャスターだが主に肉弾戦をする。よろしく頼む」スッ

「よろしくお願いします。オスカーさん」ギュ

 

 ハジメとオスカーは固く握手をする。ハジメの右手に花のような模様が浮かび上がる。『令呪』と呼ばれるそれは、間違いなくマスターと選ばれた示唆に他ならない。

 

「これは?」

「そいつは『令呪』て物だ。サーヴァントに対しての絶対命令権だ⋯⋯だが三度きりのモンだからな? 使う場面を間違えるなよ?」

「零斗みたいに回復はしないの?」

「俺の令呪とお前の令呪は違うんだよ。俺のは絶対命令権は無いし、命令したとしても対魔力が高いと効かないし、回復ぐらいしか出来ない」

「デメリットしか無いじゃないか⋯⋯」

「利点は1日経てば回復する⋯⋯ぐらいか」

 

 なかなか不便だね(笑)。まぁ、こっちの令呪はそうだけどネ! 一応本契約してサーヴァントもいるから両方使えるし。

 

「⋯⋯零斗」

「ん? なんだユエ」

「ディン叔父様がいない⋯⋯どうして?」

「あー⋯⋯カルデアに再召喚してる」

「?」

「こっちじゃ、霊核の修復は出来ないからな、カルデアに行ってもらってる。まぁ、しばらくしたら帰ってくるさ」

「私も行った方がいいか?」

「そうだな⋯⋯強化の為に行ってもらえるか?」

「あぁ、了解した」

 

 一応はサーヴァントだけならカルデアに行けるからな。

 

「あ、そうだ、ハジメ」

「何?」

「白崎と連絡が取れるんだが⋯⋯どうする?」

「⋯⋯え?」

 

 ─────────数日後────────────

 

『了解した、今後はその様に行動していく』

「おう、頼んだわ」

『あぁ、そちらも頑張ってくれ』

「おうよ! んじゃこれからは定期的に会議すっからな」

『了解した』

「そんじゃ、また近いうちにな」

 

 通信での会議を終え、各メンバーにメールで今後の指示をする。

 

「ふぅ、こんなもんか」

『ハジメくん?』

「ハイ」

『私は怒ってないよ? 離れている間に恋人候補がいることも、怪我で片腕と片目が使えなくなってることも⋯⋯怒ってないから』

(ぜってぇ嘘だな)

 

 青筋を立てて、背後に般若のスタンドを現界させてんのに怒ってない訳が無いんだよなぁ⋯⋯ま、ハジメの自業自得だし多少はな? 

 

『⋯⋯ハジメくん、何か言うことは?』

「誠に申し訳ございませんでした!」

 

 見事な土下座を披露するハジメ、これが白崎が惚れた土下座かぁ⋯⋯確かに綺麗な土下座だな。

 

「あー⋯⋯白崎?」

『なぁーに?』

「そろそろ、許してやってくれないか? ハジメだって悪気は無い⋯⋯はずだ」

『ふぅーん⋯⋯ハジメくん?』

「ハ、ハイ!」

『⋯⋯会った時は覚悟しておいてね、それとユエちゃんによろしく伝えてね』

「はい」

 

 白崎はそう言い通信を切る。ハジメはやっと解放された事が嬉しいのかそれとも後々白崎に会うのが怖いのかなんとも微妙な表情をしている。

 

「ハジメ、なんか夕食のリクエストあるか?」

「⋯⋯おにく」

「分かった、とびっきりのやつ作ってやるから元気だせ」

「⋯⋯うん」

「気分転換に風呂でも入ってきな」

「⋯⋯うん」

 

 ダメだこりゃ⋯⋯暫くはそっとしといてやるか。

 

「零斗⋯⋯手伝うことある?」

「ユエ⋯⋯なら、これを切ってくれ」

「分かった」

 

 最近ユエは料理を手伝う様になった、たまにアレンジと称して料理を炭に変えることを除けば、料理は出来ている。

 

 ゴォォォ! 「あ⋯⋯」

「ユエ? 何してんだ?」

「⋯⋯私、ハジメの所行ってくる」

「なんだ? いきなり⋯⋯(炭になった肉の塊)よし、説教コースだな」

 

 ユルザン! 

 

 ●○●

 

 Side ハジメ

 

「ふぅ、気持ちいいなぁ~」

 

 隠れ家内のお風呂に浸かっている、湯の温度も丁度よく熱過ぎずぬる過ぎずの温度だ。

 

「香織さんには申し訳ない事しちゃたな⋯⋯会った時は全力で謝らないと⋯⋯それから⋯⋯」

 

 呟きが風呂場に響く。全身をだらんとさせ思考していると、突如、ヒタヒタと足音が聞こえ始めた。ハジメは戦慄する。一人で入るって言ったのに! 

 

 タプンと音を立てて湯船に入ってきたのはもちろん、

 

「んっ……気持ちいい……」

 

 一糸まとわぬ姿でハジメのすぐ隣に腰を下ろす大人モードのユエである。

 

「……ユエさん、僕はもう出るから離れてくれないかな?」

「……だが断る」

「ちょっと待て! 何でそのネタ知ってるの!?」

「……」

「……せめて前を隠して。タオル沢山あったでしょ」

「むしろ見て」

「……」

「……えい」

「……あ、当たってるんですが?」

「当ててんのよ」

「だから何でそのネタを知ってんだ! ええい、俺は上がるからな!」

「逃がさない!」

 

 あ、喰われる⋯⋯ヒッ! 

 

「ユ、ユエサン⋯⋯」

「大丈夫、天井のシミを数えてればすぐに終わる」

「ユエー! ウシロ! ウシロー!」

「?」

「よぅ、随分と楽しんでるみたいだな?」

 

 殺意の波動に目覚めた零斗が仁王立ちでユエの背後に現れた。

 

「⋯⋯テヘ♡」

「説教3時間な」

「シニタクナイー! シニタクナイー!」

「本来なら料理を炭にした分の説教だけなんだが⋯⋯ハジメを逆レ〇プしようとしたからなその分の説教もプラスな」

「助けて! ハジメ!」

「ごめんユエ⋯⋯後でケアはするから」

「イヤ──!」

 

 ──────────黒幕説教中────────

 

「⋯⋯」

「ユエ⋯⋯」

「ほら、夕食さっさと食べるぞ」

「う、うん」

「まったく⋯⋯私は止めたのに」

 

 真っ白に燃え尽きていたユエを横目に零斗とエトさんの作ってくれた料理を食べる。うん、美味しい。

 

 




エトちゃんの設定⤵︎ ︎

エト・フレイズ 女性 23歳 主武器 大型の刺剣と直剣、ハンドガン

零斗の能力から分裂した存在の中の1人で纏め役。常に冷静沈着で冷酷. . . の様に見えるがかなりの恋愛脳でちょっとポンでツンデレをこじられたような少女。

容姿はクール系で前世では周りから『王子様』と呼ばれる事も多々あった。銀髪を赤いキクを模したのレリーフのあしらわれた簪で纏めている。身体付きはスレンダータイプ。

赤いキクの花言葉は『貴方を愛している』

こんな感じでーす。感想お待ちしております。


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幕間の物語:帝国と勇者 前半

「よっと、ドモー(。・ω・)ノ柊人です」
「八重樫です」
「おっす!坂上龍太郎だ!よろしくな!」

「さて、前回はハジメの目覚めとオスカーさんの召喚だったね」
「毎度思うんだけどよ、零斗てマジで多才だよな」
「龍太郎⋯⋯あんなのは零斗の能力のたった一部だよ⋯⋯」
「え?」

「さて、今回はヘルシャー帝国の話だよー」
「ちょっと待ってくれ!柊人、あれが一部ってどういう事だよ!?」
「それはこれが終わってから話すよ」
「き、気を取り直して⋯⋯楽しんでいってください」

「「「帝国と勇者!」」」


 Side 柊人

 

 時間は少し遡る。ハジメが人型と零斗がエトと死闘を繰り広げている頃、勇者一行は、迷宮攻略を一時中断しハイリヒ王国に帰還していた。

 

 道順のわかっている今までの階層と異なり、完全な探索攻略であることから、その攻略速度は一気に落ちたこと、また、魔物の強さも一筋縄では行かなくなって来た為、メンバーの疲労が激しいことから一度中断して休養を取るべきという結論に至った。

 

 もっとも、休養だけなら宿場町ホルアドでもよかった。王宮まで戻る必要があったのは、迎えが来たからである。何でも、ヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るのだという。

 

「まったく⋯⋯また、面倒事は御免ですよ」

「しょうがないでしょ? 顔すら見たことない人達がいきなり"勇者"とか"神の使徒"なんてもてはやさてれたら⋯⋯それにヘルシャー帝国は実力主義なんでしょ?」

 

 ⋯⋯解説の必要が無くなったね。

 

 馬車が王宮に入り、全員が降車すると王宮の方から一人の少年が駆けて来るのが見えた。十歳位の金髪碧眼の美少年である。カス(天之河)と似た雰囲気を持つが、ずっと理性的で利他的である。その正体はハイリヒ王国王子ランデルくんである。一応はギルガメッシュ王の養子である。

 

「皆さん、よく無事で⋯⋯香織さんもお怪我が無くて良かったです」

 

 この場には、白崎さんだけでなく他にも帰還を果たした生徒達が勢ぞろいしている。その中で、白崎さんを特に気にかける様子のランデル殿下の態度を見ればどういう感情を持っているかは容易に想像つくだろう。

 

 ランデル殿下は僕達が召喚された翌日から、白崎さんにやんわりとアプローチを掛けている。と言っても、彼は十歳。白崎さんから見れば『小さい子に懐かれている』程度にしか思っていないだろうし、なんならハジメという恋人もいるからね、彼の思いが実る事はない。面倒見の良さから、弟のようには可愛く思ってはいるようだが。

 

「ランデル殿下。お久しぶりです」

 

 パタパタ振られる尻尾を幻視しながら微笑む。そんな白崎さんの笑みに頬を赤く染めるが王族としての威厳か何かで精一杯男らしい表情を作ってアプローチをかける。

 

「ええ、本当に久しぶりですね。貴方が迷宮に行ってる間は生きた心地がしませんでした。怪我はしていませんか? 私がもっと強ければ貴方にこんなことさせないのに……」

 

 ランデル殿下は悔しそうに唇を噛む。彼女としては守られるだけなどお断りなのだが、なんなら守られるのが目に見えているが少年の微笑ましい心意気に思わず頬が緩む⋯⋯わけもない。

 

「ランデル殿下お気づかい下さりありがとうございます。ですが私なら大丈夫です。自分で望んでやっていることですから」

「いや、貴方には⋯⋯いえ、貴方達女性には戦場は似合いません。それにもっと安全な仕事がある筈です」

「安全な仕事ですか?」

 

 ランデル殿下の言葉に首を傾げる香織。ランデル殿下の顔は赤みを増す⋯⋯これは面白そうな展開になって来たね少しの間は何も言わずに見守って見ようかな、その様子を見て苦笑いする八重樫さんは察しがついたのか、少年の健気なアプローチに思わず苦笑いしている。

 

「そうだな⋯⋯侍女なんてどうだろうか? 今なら私の専属に推薦出来るのだが⋯⋯どうだろう」

「侍女ですか? いえ、すみません。私は治癒師ですから……」

「では、治療院はどうだろう。危険な場所や前線に出ずに治癒師としての仕事はできるだろう?」

 

 ここでの医療院は、国営の病院のことである。そして王宮の直ぐ傍にある。要するに、ランデル殿下は離れるのが嫌なのだ。しかし、そんな少年の少々鈍感な白崎さんには届かない。

 

「いえ、前線でなければ直ぐに癒せませんから。心配して下さりありがとうございます」

「そうですか⋯⋯」

 

 ランデル殿下は、どうあっても白崎さんの気持ちを動かすことができないと悟り小さく唸る。そこに勇者(偽)こと空気を読まない天之河(勘違いクソ野郎)が爽やかな笑顔を振りまきながら参戦する。

 

「ランデル殿下、香織は俺の大切な幼馴染です。俺がいる限り、絶対に守り抜きますよ」

 

 うわぁー⋯⋯イテェこと言ってんな⋯⋯コホン少し口調が乱れてしまったね。コイツとしては、年下の少年を安心させるつもりで善意全開に言ったのだが、この場においては不適切な発言だった。恋するランデル殿下には⋯⋯

 

 〝俺の女に手ぇ出してんじゃねぇよ。俺がいる限り香織は誰にも渡さねぇ! 絶対にな! 〟

 

 こんな感じに伝わっているだろうね。傍から見れば親しげに寄り添う勇者と治癒師。実に様になる絵である。ランデル殿下は悔しげに表情を歪める。ランデル殿下の中では二人は恋人のように見えているのである。

 

「香織さんを危険な場所に行かせることに何とも思っていない貴様が何を言う。彼女は私といる方がいいに決まっています」

「え~と……」

 

 ランデル殿下の敵意むき出しの言葉に、白崎さんはどうしたものかと苦笑いし、カスはキョトンとしている。八重樫さんはそんなカスを見て溜息だ。

 

「ランデル。いい加減にしなさい。香織が困っているでしょう? 光輝さんにもご迷惑ですよ」

 

 ガルルと吠えるランデル殿下に何か機嫌を損ねることをしてしまったのかと、カスが更に煽りそうなセリフを吐く前に、涼やかだが、少し厳しさを含んだ声が響いた。これからもっと面白くなりそうだったのになぁ⋯⋯

 

「⋯⋯姉上」

「皆さんお疲れなのに、こんな場所に引き止めて……相手のことを考えていないのは誰ですか?」

「⋯⋯ですが!」

「ランデル?」

「⋯⋯皆さん、引き留めてしまってすみませんでした。私はこれで失礼します」

 

 ランデル殿下は軽く謝罪をしてから、その場を去った。

 

「香織、光輝さん、弟が失礼しました。代わってお詫び致しますわ」

 

 リリアーナさんはそう言って頭を下げた。美しいストレートの金髪がさらりと流れる。

 

「ううん、気にしてないよ、リリィ。ランデル殿下は気を使ってくれただけだよ」

「そうだな。なぜ、怒っていたのかわからないけど……何か失礼なことをしたんなら俺の方こそ謝らないと」

 

 1人と1匹の言葉に苦笑いするリリアーナ。姉として弟の恋心を察しているため、意中の香織に全く意識されていないランデル殿下に多少同情してしまう。

 

 リリアーナ姫は、現在十四歳の才媛だ。その容姿も非常に優れていて、国民にも大変人気のある金髪碧眼の美少女である。性格は真面目で温和、しかし、硬すぎるということもない。TPOをわきまえつつも使用人達とも気さくに接する人当たりの良さを持っている。

 

 僕達召喚された者にも、王女としての立場だけでなく一個人としても心を砕いてくれている。彼等を関係ない自分達の世界の問題に巻き込んでしまったと罪悪感もあるようだ。 

 

 そんな訳で、率先して生徒達と関わるリリアーナと彼等が親しくなるのに時間はかからなかった。特に同年代の白崎さんや八重樫さん達との関係は非常に良好で、今では愛称と呼び捨て、タメ口で言葉を交わす仲である。

 

「いえ、天之河さん。ランデルのことは気にする必要ありませんわ。あの子が少々暴走気味なだけですから。それよりも……改めて、お帰りなさいませ、皆様。無事のご帰還、心から嬉しく思いますわ」

 

 ふわりと微笑むリリアーナ姫。美少女が身近にいるクラスメイト達だが、その笑顔を見てこぞって頬を染めた。リリアーナ姫の美しさには洗練された王族としての気品や優雅さというものがあり、多少の美少女耐性で太刀打ちできるものではなかった。まぁ、僕には悠花がいるからあまり魅力的には見えないけど。(辛辣やなぁ⋯⋯この子)

 

「ありがとう、リリィ。君の笑顔で疲れも吹っ飛んだよ。俺も、また君に会えて嬉しいよ」

 

 さらりとキザなセリフを爽やかな笑顔で言うカス。お前が言った所でキモイだけなんだよなぁ⋯⋯よく『イケメンに限る』とか言うけどコイツには通じない気がするんだよね。

 

「⋯⋯そうですか」

 

 ちなみにリリアーナ姫はカスを嫌っている。え? なんでかって? どうやらリリアーナ姫はハジメに好意を寄せているらしく、カスが『彼らが居たからクラスの皆が死ぬ思いをしたんだ!』とか言っていた事が有るだろう? その発言をリリアーナ姫は聞いてひどく憤慨した⋯⋯まぁ、簡単に言えば『好きな人の悪口を言うし、ロクな事をしない厄介者』だから嫌っている⋯⋯ってとこだろうね。

 

「⋯⋯とにかくお疲れ様でした。お食事の準備も、清めの準備もできておりますから、ゆっくりお寛ぎくださいませ。帝国からの使者様が来られるには未だ数日は掛かりますから、お気になさらず」

 

 ────────────────────────

 

 

 迷宮での疲れを癒し、居残り組にベヒモスの討伐とマハ・ナーガの討伐を伝え歓声が上がったり、これにより戦線復帰するメンバーが増えたり、愛ちゃんが一部で〝豊穣の女神〟と呼ばれ始めていることが話題になり彼女を身悶えさせたりと色々あったが白崎さん達はゆっくり迷宮攻略で疲弊した体を癒した。

 

「ふぅ⋯⋯四日ぶりのベットですね」

「そうだね!」

「⋯⋯何故、此処に?」

「えっと⋯⋯その⋯⋯」

 

 何故かベットに潜り込んでくる悠花に少し困惑しながら、尋ねる。

 

「今日は⋯⋯その⋯⋯一緒に寝たいなって⋯⋯ダメ⋯かな?」

 ギュン! 「⋯⋯いいですよ」

「やった!」

「着替えるので少し待ってくださいね」

「うん!」

 

 何時もの戦闘用の服から寝巻きに着替える。

 

「⋯⋯で? 悠花今日はどうしたんですか?」

 

 多方わかっているがちょっと意地悪したい気分なので少しだけ焦らす。

 

「ふえ?」

「"一緒に寝たい"だけでは無いのでしょう?」

「ちっちちっ違う! 別に期待なんかしてないしぃ?!」

「へぇ? じゃ、おやすみ」

「うぅぅぅぅ⋯⋯」

 

 悶える悠花を横目にベットに潜り込む。ふかふかだぁ⋯⋯少しづつ意識が微睡み始める。

 

 ユサユサ「⋯柊人」

「なに?」

 モジモシ「その⋯⋯シタイです」

「なにを?」

「エッチしたいです⋯あぅ⋯⋯恥ずかしい⋯」

 

 ⋯⋯僕の彼女可愛すぎ。

 

「よく言えました」

「むぅ、意地悪⋯⋯でも好き」

「⋯⋯今日はどっちがいい? 僕じゃなく、()が好み?」

 

 耳元で誘う様に囁くと、顔を真っ赤にして俯く。フフッホントに可愛い彼女ですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おっと、ここからは未成年には見せられないよ。

 

 




え?ランデルくんとリリィの設定が無理矢理だって?何の違和感も無いよなぁ?(威圧)

それと光輝くんの味方は誰一人としていません。感想お待ちしております。













窯出しとろけるプリンが食べたい。


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幕間の物語:帝国と勇者 後半

お気に入り300件突破ァ!誠にありがとうございます!

────────────────────────

「よっと、ドーモ(。・ω・)ノ柊人です」
「悠花です!」
「皆様はじめまして。リリアーナと申します」

「さて、前回は僕達がハイリヒ王国に戻ったところだったね」
「そ、そうだね」
「?悠花さん顔が少々赤いですが⋯⋯熱でしょうか?」
「だ、大丈夫だよ!?」
「ええ、そうですよリリアーナさん。ちょっと昨晩の事を思い出していただけですから」
「あぅ⋯⋯」
「?」

「さて、今回はいよいよヘルシャー帝国の使徒との接触だよ」
「楽しんでいってくださいね」

「「「帝国と勇者!」」」


 Side 三人称

 

 柊人達が帰還してから、三日、遂に帝国の使者が訪れた。

 

 現在、柊人達、迷宮攻略に赴いたメンバーと王国の重鎮達、そしてイシュタル率いる司祭数人が謁見の間に勢ぞろいし、レッドカーペットの中央に帝国の使者が五人ほど立ったままギルガメッシュ王⋯⋯の代わりのシドゥリさんと向かい合っていた。

 

「使者様、よく参られました。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられる筈です」

「この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」

「では紹介させて頂きましょう。光輝さん、前へ出てくれますか?」

「はい」

 

 シドゥリさんと使者の定型的な挨拶のあと、早速、天之河達のお披露目となった。陛下に促され前にでる天之河。召喚された時から時間が大分経っているため皆、顔つきが大人びている。

 

 そして、天之河を筆頭に、次々と迷宮攻略のメンバーが紹介された。

 

「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが……」

 

 使者は、天之河を観察するように見やると、イシュタルの手前露骨な態度は取らないものの、若干、疑わしそうな眼差しを向けた。使者の護衛の一人は、値踏みするように上から下までジロジロと眺めている。

 

「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」

 

 天之河は信じてもらおうと色々提案するが使者はあっさり首を振りニヤッと不敵な笑みを浮かべた。

 

「いえ、お話は結構。それよりも手っ取り早い方法があります。私の護衛一人と模擬戦でもしてもらえませんか? それで、勇者殿の実力も一目瞭然でしょう」

「えっと、俺は構いませんが……」

 

 天之河は若干戸惑ったようにシドゥリさんの方へ振り返る。シドゥリさんは天之河の視線を受け、少し思案する。

 

「光輝さん受けなくても「構いませんとも」は?」

「何か問題でも?」

「あまり勝手な行動はしないで貰えますか?」

「帝国の方々に光輝殿を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単ですが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断しただけです」

「⋯⋯いいでしょう、光輝さんお願いします」

「決まりですな、では場所の用意をお願いします」

 

 こうして急遽、勇者対帝国使者の護衛という模擬戦の開催が決定したのだった。

 

 

 

 ────────────────────────

 

 天之河の対戦相手は、普通の平凡そうな男だった。高くもなく低くもない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失いそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。

 

 持っている刃引きした剣もだらんと無造作にぶら下げており、構えらしい構えもとっていなかった。 

 

 その行動に、天之河は舐められていると些か怒りを抱き、初撃で度肝を抜けば真面目にやるだろうと考え、最初の一撃は半分本気で打ち込むことにした。 

 

「いきます!」

 

 天之河が風となる。〝縮地〟により高速で踏み込み豪風を伴って唐竹に剣を振り下ろした。並みの戦士なら視認も難しいかもしれない。もちろん、天之河は寸止めするつもりだった。だが、その心配は無用。その代わり、舐めていたのは天之河の方だと証明されてしまう結果となった。

 

 バキィ! 「ガフッ!?」

 

 飛んだのは天之河の方だった。男は剣を掲げるように振り抜いたまま天之河を睥睨している。寸止めのため一瞬、力を抜いた刹那にだらんと無造作に下げられていた剣が跳ね上がり天之河を吹っ飛ばしたのだ。俗に言うカウンターである。

 

 まさに一撃必殺。これが戦場ならば既に天之河の命はないだろう。天之河は地滑りしながら体勢を整え、驚愕の面持ちで護衛を見つめる。寸止めに集中してたのもあるが、男の攻撃がほぼ認識できなかったのだ。

 

「はぁ~、おいおい、勇者ってのはこんなもんか? まるでなっちゃいねぇ。やる気あんのか?」

 

 平凡な顔に似合わない乱暴な口調で呆れた視線を送る護衛。その表情には失望が浮かんでいた。

 

 確かに、天之河は護衛を見た目で判断して無造作に正面から突っ込んでいき、あっさり返り討ちにあったというのが現在の構図だ。天之河は相手を舐めていたのは自分の方であったと自覚し、怒りを抱いた。今度は自分に向けて。

 

「すみませんでした。もう一度、お願いします」

「戦場じゃ"次"なんてないんだがな」

 

 天之河は気合を入れ直すと再び踏み込んだ。

 

 唐竹、袈裟斬り、切り上げ、突き、と〝縮地〟を使いこなしながら超高速の剣撃を振るう。その速度は既に、並の人間には認識困難なほどの物だった。天之河の体をブレさせて残像を生み出しているほどだ。

 

 しかし、そんな嵐のような剣撃を護衛は最小限の動きでかわし捌き、隙あらば反撃に転じている。時々、天之河の動きを見失っているにもかかわらず、死角からの攻撃にしっかり反応している。

 

「ふん、確かに並の人間じゃ相手にならん程の身体能力だ。しかし、少々素直すぎる。元々、戦いとは無縁か?」

「えっ? えっと、はい、そうです。俺は元々ただの学生ですから」

「……それが今や〝神の使徒〟か」

 

 チラッとイシュタル達聖教教会関係者を見ると護衛は不機嫌そうに鼻を鳴らした。

 

「おい、勇者。構えろ。今度はこちらから行くぞ。気を抜くなよ? うっかり殺してしまうかもしれんからな」

 

 護衛はそう宣言するやいなや一気に踏み込んだ。光輝程の高速移動ではない。むしろ遅く感じるほどだ。

 

「ッ!?」

 

 気がつけば目の前に護衛が迫っており剣が下方より跳ね上がってきていた。天之河は慌てて飛び退る。しかし、まるで磁石が引き合うかのようにピッタリと間合いを一定に保ちながら鞭のような剣撃が天之河を襲った。

 

 不規則で軌道を読みづらい剣の動きに、〝先読〟で辛うじて対応しながら一度距離を取ろうとするが、まるで引き離せない。〝縮地〟で一気に距離を取ろうとしても、それを見越したように先手を打たれて発動に至らない。次第に天之河の顔に焦りが生まれてくる。

 

 そして遂に、天之河がダメージ覚悟で剣を振ろうとした瞬間、その隙を逃さず護衛が魔法のトリガーを引く。

 

「穿て──〝風撃〟」

 

 呟くような声で唱えられた詠唱は小さな風の礫を発生させ、光輝の片足を打ち据えた。

 

「うわっ!?」

 

 踏み込もうとした足を払われてバランスを崩す光輝。その瞬間、壮絶な殺気が天之河を射貫く。冷徹な眼光で天之河を睨む護衛の剣が途轍もない圧力を持って振り下ろされた。

 

 ──────────────────────

 

「アイツの負けだね」

「うん、そうみたいだね」

「さて、龍太郎ここで1つ問題」

「え!?」

「アイツに無くて、あの護衛にあるものは?」

 

 突然の質問に困惑する龍太郎。しばらく頭を捻るがまったく回答が出てこないようだ。

 

「正解は⋯⋯"経験"だよ」

「"経験"?」

「うん、あの人はステータスだけだと天之河以下だけど戦場で戦った"経験"が山ほどある。それが天之河と護衛の人の差だよ」

 

 ズドンッ! 「ガァ!?」

 

 先ほどの再現か。今度は護衛が吹き飛んだからだ。護衛が、地面を数度バウンドし両手も使いながら勢いを殺して天之河を見る。天之河は全身から純白のオーラを吹き出しながら、護衛に向かって剣を振り抜いた姿で立っていた。

 

 護衛の剣が振り下ろされる瞬間、天之河は生存本能に突き動かされるように"限界突破"を使ったのだ。これは、一時的に全ステータスを三倍に引き上げてくれるという、ピンチの時に覚醒する主人公らしい技能である。

 

「莫迦が⋯⋯それは悪手だ」

「どういう事だ?」

「アイツは"限界突破"を勘違いしているんですよ。あれは決して無敵になれる訳じゃない、一時的な強化でしかない。魔力が尽きれば使用出来ないし、使用したあとは必ずツケがまわってくる」

 

 天之河の顔には一切余裕はなかった。恐怖を必死で押し殺すように険しい表情で剣を構えている。

 

 そんな天之河の様子を見て、護衛はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

「ハッ、少しはマシな顔になったじゃねぇか。さっきまでのビビリ顔より、よほどいいぞ!」

「ビビリ顔? 今の方が恐怖を感じます。……さっき俺を殺す気じゃありませんでした? これは模擬戦ですよ?」

「だからなんだ? まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ってたのか? この程度で死ぬならそれまでだったってだけだ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ? その自覚があるのか?」

「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」

「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができんだ? 剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな? 最初に言ったろ? 気抜いてっと……死ぬってな!」

 

 護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら天之河に迫ろう脚に力を溜める。天之河は苦しそうに表情を歪めた。

 

 しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。なぜなら、護衛と天之河の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

 イシュタルが発動した光り輝く障壁で水を差された〝ガハルド殿〟と呼ばれた護衛が、周囲に聞こえないくらいの声量で悪態をつく。そして、興が削がれたように肩を竦め剣を納めると、右の耳にしていたイヤリングを取った。

 

 すると、まるで霧がかかったように護衛の周囲の空気が白くボヤけ始め、それが晴れる頃には、全くの別人が現れた。

 

 四十代位の野性味溢れる男だ。短く切り上げた銀髪に狼を連想させる鋭い碧眼、スマートでありながらその体は極限まで引き絞られたかのように筋肉がミッシリと詰まっているのが服越しでもわかる。

 

 その姿を見た瞬間、周囲が一斉に喧騒に包まれた。

 

「ガ、ガハルド殿!?」

「皇帝陛下!?」

 

 そう、この男、何を隠そうヘルシャー帝国現皇帝ガハルド・D・ヘルシャーその人である。まさかの事態にシドゥリさんは眉間を揉みほぐしながら尋ねた。

 

「どういうおつもりですか? ガハルド殿」

「これは、これはシドゥリ殿。ろくな挨拶もせず済まなかった。ただな、どうせなら自分で確認した方が早いだろうと一芝居打たせてもらったのよ。今後の戦争に関わる重要なことだ。無礼は許して頂きたい」

 

 謝罪すると言いながら、全く反省の色がないガハルド皇帝。

 

「戦いたかっただけでしょうあの人」

「そうみたいだね⋯⋯」

 

 うんざりと言った表情で呟く柊人と苦笑い気味に反応を返す悠花。

 

 

「では、これで模擬戦を終わり……」

「いや、待ってくれ。一つ頼みがある」

 

 終わりを告げようとしたイシュタルに、護衛の人が制止の声をあげた。一体何かとガハルド皇帝の人を見るイシュタル。

 

「頼みたいこととは?」

「ああ……おい、そこのお前。俺と戦え」

 

 そう言って、ガハルド皇帝は観戦していた一人を指差した。自然と全員がそちらの方を見る。そう⋯⋯我らが柊人さんである。

 

「あ、面倒なので嫌です」キッパリ

「ククク⋯⋯肝が据わってんなお前」

「僕は『NO』と言える日本人なので」

 

 心底面倒と言う表情をする柊人にくつくつと笑うガハルド皇帝。周りの人間はザワザワとしている。

 

「それに貴方程度では僕には勝てませんよ⋯⋯僕はそこに転がっている勇者(笑)よりも強いですよ」

「こりゃ随分とプライドの高い坊主だな」

 

 天之河を罵倒する事を忘れない柊人と罵倒された天之河は睨みつけるが柊人の隣にいる悠花の威圧で直ぐに引っ込む天之河。うーん小物。

 

「ハハハハハッ! そうもあっさりと勇者を弱いと言うとはな! 俄然やる気が出た……俺と戦ってくれるかい?」

「まぁ……退屈していた所ですし、いいでしょう」

 

 椅子から立ち上がった柊人は、訓練場のステージに上がると上着を脱ぎ、黒地のインナー姿になる。そして、太腿に付けるているホルスターから主武器の"デスペラード"と"レゾナンス"を取り出す。

 

「ほぉ……いい武器だな」

「えぇ、愛用の武器です」

 

 "デスペラード"を逆手に持ち、"レゾナンス"を順手に持つと言った持ち方をする。

 

「では……始めましょうか」

「あぁ……行くぞ!」

Comn on! I'M YOUR NIGHTMARE! 

 

 それだけ言うと柊人は耳にイヤホンを嵌めて、魔改造スマホで音楽を流す。傍から見れば舐めてかかっているがこれが柊人本来の戦い方で音楽に合わせて攻撃と回避をし、相手を翻弄する。まぁ、本人はそっちの方が楽しいからとか言っているんですけどね。

 

「ハッ! 確かにあの勇者よりかは強いな!」

「──♪ ───♪♪」

 

 鼻歌交じりでガハルド皇帝の猛攻を易々と躱す。今のところ反撃する様子は無く、攻撃する様子は見られない。

 

「おいおい! 躱すのが精一杯てっか?」

「────♪」

 

 少しずつ反応速度が上がり躱すのではなく弾くようになる柊人。そろそろサビに入る頃だろう。

 

「──────♪」ガキィン! 

「な!?」

 

 ガハルド皇帝の大振りな一撃を弾くと持っていた大剣を蹴り飛ばし、ガハルド皇帝の首筋にナイフを当てる。

 

「……降参だ」

「────……まだ1番サビの途中ですね。まぁ、中々いい運動になりましたよ」

 

 それだけ言うとステージから降り、脱いだ服の埃を払い着直す。流石に洗った方がいいじゃないかな? 

 

 ────────────────────────

 

 

 その晩、柊人達と食事を共に、悠花に本音を聞かれた皇帝陛下は面倒くさそうに答えた。

 

「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。〝神の使徒〟である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

「それで、あわよくば試合で始末つもりだったの……と?」

「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 

 どうやら、皇帝陛下の中で天之河達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。無理もないことだろう。彼等は数ヶ月前までただの学生(1部の人間は違うが)。それも平和な日本の。歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがないのである。

 

「まぁ、魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。見るとしてもそれからだろうよ。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ。教皇には気をつけろ」

「ええ、分かっています」

 

 そんな評価を下されているとは露にも思わず、天之河は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送ることになった。用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。随分とフットワークの軽い皇帝である。

 

 ちなみに、早朝訓練をしている八重樫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった……が謎の殺意が周囲一帯を包み込んだ。その後、八重樫も『私には心に決めた人が居るので』と丁重に断ったら割りとすぐに皇帝様は引っ込んだ。

 

 なんでもありとあらゆる手段で殺され続ける幻覚を見たらしい。怖い事もあるなぁ。




改めてお気に入り登録300件突破&UA50000突破、誠にありがとうございます。お気に入り300件突破の記念に企画が2つあり、その詳細は活動報告の方に書いてあります。https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=271631&uid=353160
柊人くんのセリフの元ネタ分かる人いるんかな?


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旅立ち

「よいしょと、( ´ ꒳ ` )ノハーイお馴染みの零斗でーす」
「エトです」
「初めましてオスカー・オルクスと申します」

「さて、前回は柊人とガハルド皇帝の戦闘だったな」
「男性陣の中じゃ中々奇抜な戦闘方でしたね」
「そうだな、俺らの中じゃ一番やべぇかもな」
「そんなに変わった人なのか?まともそうな人だと思ったのだが……」
「あー戦闘面じゃイカレポンチなだけだ、常識とかはしっかりしてる」

「さて、今回はオルクス迷宮からの旅立ちだ……楽しんでいってくれ」

「「「旅立ち!」」」


 Side 零斗

 

 オルクス邸での生活が始まってから早1ヶ月、現在俺達は……

 

「ほれ、纏めて来い」

「「「「覚悟ォ!」」」」

「さぁ、俺から一本取ってみろ!」

 

 戦闘訓練をしています。俺 VS ハジメ&ユエ&オスカー&エト で模擬戦もといハジメのリハビリをしている。ハジメの右目と左腕の治療も完了して、やっと動かせる状態になったからな、訛った身体を鍛え直している。エトとユエは後衛としての援護の訓練、オスカーはおまけだ。

 

 ギィン! 「チッ……やるな」

「これで武器は使えませんね」

「あとは……」

 

 ハジメの銃撃でヒュドラの骨で作った模擬刀が5mほど離れた地面に飛ばされる。射撃の腕上げたな。

 

「ほら、絶好のチャンスだぞ」チョイチョイ

「舐めてますね」

「そりゃ……」フォン

「……消えた!」

「素手の方が楽だからな」

 

 ユエの背後まで移動し、仕留めにかかる。先ずは1人っと

 

 ツツー「ほれ、背中がお留守ダゾ♡」

 ゾワッ! 「ヒッ!」

 

 殺気交じりでユエの背中をなぞる。次は……エトだな。

 

「……フッ!」

 パシッ「お! 中々腰の入った一撃だな」

「な!?」

「惚けてる場合じゃないだろ?」ビスッ

「ウグッ!」

 

 恐く渾身の一撃であったであろうハジメのボディブローを受け止めて、デコピンで気絶させる。

 

「……」チーン

「ありゃ……強くやり過ぎたか?」

「そこ!」

「おっと」

 

 さて、あと2人。どう料理するかな……

 

 スッ 「降参です」

「潔いいな」

「これ以上やっても貴方には勝てそうにありませんからね」

「解放者さんにそう言って貰えるとは光栄だな」

 

 気絶さてたハジメを担ぎ、屋敷まで帰る。そろそろ此処を出るか……

 

 ────────────────────────

 

 この1 ヶ月間はハジメのリハビリを主に行い、武器の作成や移動手段の確保etc.色々とやった。そして、現在のハジメのステータスは……

 

 =======================

 

 南雲ハジメ 17歳 男 レベル:??? 

 

 天職: 黒幕(フィクサー)の弟子・錬成師

 

 称号:女たらし・伝説の錬成師の教え子

 

 筋力:57536

 

 体力:53681

 

 耐性:46859

 

 敏捷:36512

 

 魔力:42867

 

 魔耐:40629

 

 技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成][+高速錬成][+自動錬成][+イメージ補強力上昇][+消費魔力減少][+鉱物分解]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・剣術・棍術・闘術・銃術[+オートリロード]・抜刀術・風爪・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話(零斗、浩介、幸利、香織、ユエ)・追跡・高速魔力回復[+魔素集束]・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・言語理解・R-Ⅰ型強化細胞・喰種化・令呪・サーヴァント[キャスター『オスカー・オルクス』]

 

 =======================

 

 うむ、いい仕上がりだ。それなら並大抵の敵なら即ぶち殺せるな! 

 

 ちなみに魔物を食ってもステータスの上昇は無くなっていた。どうやらハジメはもう人では無いナニカになってしまった様だ……ま、生き残るためだからね仕方ないネ! まぁ、強化細胞ぶち込んだ時点で化け物に片足突っ込んでるみたいなもんだし是非も無いよネ! 

 

 え? 俺のステータスかい? そんなに変わっちゃいないよ? ほら……

 

 ======================

 

 湊莉 零斗(レイト・アルバート) 19歳 男 レベル:ERROR

 

 天職:黒幕フィクサー・人類最後のマスター・暗殺者・料理人

 

 称号:英霊の寵愛を受けし者

 

 適正率 100%

 

 筋力:ERROR 

 

 体力:ERROR

 

 耐性:ERROR

 

 敏捷:ERROR

 

 魔力:ERROR

 

 魔耐:ERROR

 

 技能:天体観測・全事象耐性・英霊憑依[+詠唱破棄][+使用魔力減少]・衝撃波・魔具精製・血統武器作成[+複数作成][+必要血液減少] ・威圧・瞬間移動・影移動・異空間収納[+付与][+有機物][+無機物]・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・剣術[+明鏡止水][+極一意思]・銃術[+弾道操作][+オートリロード]・闘術[+獣術][+鬼術]・棍術・繰糸術[+変幻自在]・槍術・抜刀術[+抜刀速度上昇][+因果両断]・暗殺術・交渉術・念話[ 刀華、恭弥、柊人、鏡花、悠花、ハジメ、浩介、幸利、エト]・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・自己再生・昇華魔法・変成魔法・魂魄魔法・生成魔法・召喚魔法[悪魔・天使・アンデッド]・喰種化[+部分変化][+部位強化]・R-Ⅰ型強化細胞・吸血[+生命力][+魔力][+記憶]・擬態[+複数部位] [+持続時間増加]・複合魔法・剛力・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・天眼・千里眼・超速魔力回復・リミットブレイク・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・言語理解・◼◼◼◼◼◼

 

 

 =======================

 

 文字化けした技能が1つ増えたがそれ以外は……エトとパスを繋ぎ直したから『擬態』が戻ってきたぐらいか。簡単に言えば『遺伝子自体を組み替えて別の生物に変化する』って感じだ。まぁイメージ的には『Prototype』かな? 

 

「ふぅ……こんなものか」

 

 現在俺はオスカーの書斎で"解放者"に関する本を読んでいたところだ。なかなかのボリュームだったよ……丸一日掛かるくらいな。他の迷宮の場所の乗った本の一札や二冊あると思ったがまさか無いとは……あるとすれば【グリューエン大砂漠の大火山】【ハルツィナ樹海】を筆頭に【ライセン大峡谷】【シュネー雪原の氷雪洞窟】辺りかな? 

 

「後、行ってないのは……工房くらいか」

 

 本を元あった場所に戻し、書斎を出る。その足で工房まで歩く……ハジメ用の武器とかも造らないとなぁー、やる事はまだまだありそうだな。

 

 工房には作業をする大部屋が一つ、素材の保管庫やアーティファクトの収納部屋などの小部屋が幾つもある。その中には錬成の理論書などが大量にある。錬成師からすれば、ここは天国に等しいだろう。

 

「あ、零斗此処に居たんだ」

「ハジメか……どした?」

「そろそろ夕食だってエトさんが」

「おう、今行く」

 

 探索は一旦中止だな。

 

 

 ───────黒幕一行食事中────────

 

 夕食も終わり、全員を集めて相談をする。

 

「なぁ、しばらく此処に留まろうと思うんだが……」

「どうして?」

「いやな……殺る相手は神代を生き残ったゴキブリ以上の生命力を持つクソ神だ。今の内に出来るだけ準備をしておきたいと思ってな」

「確かに今は出来るだけの事をして起きたいですね」

「僕も賛成だよ」

「……私はハジメと一緒ならどこでもいい」

 

 満場一致で留まる事になった。

 

 

 ──────────1ヶ月後──────────

 

「ホントに良いのか?」

「あぁ、これは君達への報酬だ……好きなだけ持って行くといい」

 

 オスカーの工房に案内され、出発前に何か残っていないか確認していた。ハジメ達はこの隠れ家から転移する魔法陣のある部屋にいる。

 

「これだけの量のアーティファクト作ったのかよ……流石は伝説の錬成師だな」

「それ程でもないさ……暇潰し程度にやっていただけさ」

「これが暇潰しかよ……」

 

 ざっと見ても200以上はあるアーティファクト。これが暇潰しとほ……たまげたなぁ。

 

「ん? これは?」

 

 ──ー

 

 試作品

 

 命名 ドラゴン殺せる剣

 

 オスカー

 

 ──ー

 

 それは剣と言うにはあまりにも大きすぎた

 大きく、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた

 それは正に鉄塊だった。

 

「……」

「あぁ、それかい?」

「ネタの提供者は?」

「────だ」

 

 よりにもよってアイツかよ……どっかの迷宮がエグいほどネタ塗れになってそうだなぁ……

 

「とりあえず持っていくか」

 

 "異空間収納"にドラゴン殺しモドキを放り込む。

 

「こんなもんか……よし、そろそろ行くか」

 

 工房を出て、書斎へと向かう。書斎へ入るとハジメがユエに神結晶で作った指輪を渡していた。

 

「お、プロポーズか?」

「そんなんじゃないよ!」

「……期待してる」

「何を!?」

 

 ユエはちゃっかりと貰った指輪を左手の薬指に嵌めている。めざといなぁ。

 

「と、ハジメこれお前用の武器な」ゴドドドッ! 

「エグッ!」

 

 新兵器についての説明を少々……ヒュドラの極光で破壊されたと言う対物ライフル:シュラーゲンを元に改造し、アザンチム鉱石を使い強度を増し、バレルの長さも持ち運び"宝物庫"のお陰で心配がなくなったので三メートルに改良した。〝遠見〟の固有魔法を付加させた鉱石を生成し創作したスコープも取り付けられ、最大射程は十キロメートルとなっている。

 

 また、ラプトルの大群に追われた際、手数の足りなさに苦戦したことを思い出し、電磁加速式機関砲:メツェライを作製した。口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発というトリガーハッピーの皆さんもニッコリの代物だ。銃身の素材には生成魔法で創作した冷却効果のある鉱石を使っているが、それでも連続で五分しか使用できない。再度使うには十分の冷却期間が必要になる。

 

 さらに、面制圧と俺とオスカーの純粋な趣味からロケット&ミサイルランチャー:オルカンも開発した。長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いており連射可能。ロケット弾にも様々な種類がある。

 

 あと、ドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃:シュラークも作製した。ハジメの基本戦術はドンナー・シュラークの二丁の電磁加速銃によるガン=カタ(銃による近接格闘術のようなもの)に落ち着いた。

 

 他にも毎分四千発の弾丸をぶちまけるサブマシンガン:ヴェスパーや取り回し重視に改造したアサルトライフル:クリーグなど他にも様々な装備・道具を開発した。

 

「ま、こんだけありゃ十分だろ」

「十分というか……オーバーキルというか……」

 

 えー? これでも大分抑えたんだが……性能ももうちょい上げられるし。

 

「んじゃ……そろそろ行くか!」

「久しぶりの地上だね」

「と、その前に……最終確認しとくぞ?」

「うん」

 

 ハジメ達の前に立ち、少しばかり真面目に話す。

 

「いいか。俺たちの武器や力は、外の世界では異端だ。聖教教会の連中や各国が黙っていないだろう……というより俺はもう『異端者』だしな」

「そうだね……今にでもイシュタルをぶち殺したいくらいだよ」

 

 わぁーハジメから純粋な殺意が溢れてる〜……成長したなぁ〜この子も(トオイメ)

 

「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

「渡す気はありませんけどね」

 

 エトが呟く用にされど、強く、ハッキリとした声で告げる。

 

「世界を敵にまわすくらいヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

「そんなこと……とうの昔に経験している」

 

 オスカーが呆れ気味に言う。

 

「互いが互いを守り戦う。俺たちは家族だ。神殺しでもなんでもやり遂げて……地球に帰ろう」

「「「「応!」」」」

 

 そう言うと同時に魔法陣へ魔力を流し込む。すると魔法陣は、光を放ち──

 

「旅の始まりだ」

 

 

 

 

 




(●'∇')♪ドモドモ〜クロでーす。今回で一応第一章ラストになります。次話から第二章になります。


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二章
渓谷の残念ウサギ


「よいしょと、(˙꒳˙ก)ハーイお馴染みの零斗ですよ」
「ハジメでーす」
「ん、久しぶりのユエ」

「さて、前回はオルクス迷宮からの旅立ちだったな」
「零斗、擬態て使ったらどうなるの?」
「んー、そうだな……ウッドワスみたいになる」
「……カルデアにいる?」
「全身で展開して、さらに狼をモデルにしたらな」

「気を取り直して……今回から新章だ」
「ん、楽しんで」

「「「渓谷の残念ウサギ!」」」


 Side 零斗

 

 魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱よどんだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に頬が緩む。

 

 やがて光が収まり目を開け、視界に写ったものは……

 

 洞窟だった。

 

「なんでやねん」

 

 思わずハジメが関西弁でツッコミをする。

 

「秘密の通路なら隠すのは当たり前だろ」

「……隠すのが普通」

 

 緑光石の輝きもなく、真っ暗な洞窟ではあるが、ただ暗いだけなら問題としないので道なりに進むことにした。

 

 途中、幾つか封印が施された扉やトラップがあったが、オルクスの指輪が反応して尽く勝手に解除されていった。

 

「お、出口みたいだな」

「やっとですか……」

 

 光の中へ飛び込んで──ついに、地上へと到達した。視界が開け、殺風景な峡谷が映り込む。地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場だ。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の【グリューエン大砂漠】から東の【ハルツィナ樹海】まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。

 

 

【ライセン大峡谷】……と。

 

 俺達はライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々(さんさん)と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。

 

 たとえどんな場所だろうと、確かにそこは地上だった。呆然と頭上の太陽を仰ぎ見ていた。段々と顔がニヤけてるくる。無表情がデフォルトのユエでさえ誰が見てもわかるほど頬がほころんでいる。

 

「WRYYYYYYYY! 念願の外ダァァァ!」

「よっしゃぁああ──!! 戻ってきたぞ────!」

「んっ──!!」

「やっと陽の目を見れましたね……この太陽の暑ささえ懐かしいですね」

「そうですね……やはり日の元はいいですね」

 

 小柄なユエを抱きしめたまま、ハジメはくるくると廻る。俺もエトを抱えて廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに(つまず)き転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、ケラケラ、クスクスと笑い合う。

 

 ようやく笑いが遅まる頃には、見渡す限り────魔物がいた。

 

「ハァ──ーもうちょい感動に浸られてくれよ……KYかよお前ら」

「ん、無粋なヤツら」

「そういや此処魔法使えない筈だよな?」

 

 血狂いで寄ってきた魔物を細切れにし、試しにガンドを放つ。

 

「ほぉ……通常の10倍くらいか」

 

 どうやら、初級魔法を放つのに上級レベルの魔力が必要らしい。射程も相当短くなるようだ。

 

「じゃあ僕達がやるからユエは身を守る程度にしてね」

「うっ……でも」

「適材適所だよ。ここは魔法使いにとったら鬼門でしょ? 任せて」

「ん……わかった」

 

 ユエが渋々といった感じで引き下がる。せっかく地上に出たのに、最初の戦いで戦力外とは納得し難いのだろう。少し矜持が傷ついたようだ。唇を尖らせて拗ねている。

 

 そんなユエの様子に苦笑いしながらハジメはおもむろにドンナーを発砲した。相手の方を見もせずに、ごくごく自然な動作でスっと銃口を魔物の一体に向けると、これまた自然に引き金を引いたのだ。

 

「これならハジメ1人で大丈夫そうだな」

「そうみたいですね……ユエさん、此方へ服が少々着崩れていますよ」

「……どこ?」

「動かないでください」

 

 魔物の殲滅をハジメに任せて、エトはユエの服を直す。オスカーはハジメの戦闘をじっと見ている。

 

「……」

「どうした?」

「いえ、あの動きとても人間業では無いなと思いまして」

「まぁ、2ヶ月間みっっっっちり鍛えたからな」

 

 ハジメの蹂躙が始まった。頭や心臓部を吹き飛ばされて絶命した魔物、首を跳ね飛ばされて絶命した魔物などが辺り一面に転がりあらゆる場所に血が付着している。恐怖でそこから動けるものはおらず、一匹残らず殲滅された。

 

「……やっぱ迷宮の魔物と比べると弱いみたいだな」

「うん、大分ね」

 

 奈落の魔物が強すぎたのだろう。今のハジメ多分軽く叩くだけで殺れそう。

 

「この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると場所だし。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか」

「……どうして、樹海側?」

「え? いきなり砂漠横断したいか?」

「「よし! 樹海側に行こう!」」

 

 ハジメは、右手の中指にはまっている〝宝物庫〟に魔力を注ぎ、魔力駆動二輪:シュタイフを取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。

 

 え? 俺のは無いのかって? あるに決まってるじゃないか。着ているローブの内ポケットからライターの様な物を取り出す。

 

「一服するつもりですか?」

「違ぇよ」

 

 蓋を開き、ライターでいうヤスリ部分を回す。すると凄まじい機械音と共にバイクへと変化する。モデルはYAMAHA V-MAXだ。ゴーストライダーいいよな、かっこよくて。

 

「サイドカー付けるか」

「相変わらずのオーバーテクノロジーですね……」

 

 ハジメとともに樹海の方向へ向けて発進する。絶壁に駆動音が反響した。やはりこう言うのはいいものだ。

 

 ライセン大峡谷はシンプルな作りをしていて、東西に向かってまっすぐ道が伸びている。そのため特に脇道などもなく、ひたすら直進する。

 

「ん? 前の方何か居ないか?」

 

 しばらく走っていると向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。

 

 だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。

 

「……何だあれ?」

「……兎人族?」

「なんでこんなとこに? 兎人族って樹海が住処だったよな?」

「処刑?」

「あんなに弱そうなのに?」

「……やっぱり無しで」

 

 首を傾げ、逃げ惑うウサミミ少女を見ながら少しお喋りを興じた。あのウサミミ少女が何をやっているのか考察していたが、よくわからなかった。

 

「どうする?」

「……助けよう」

「りょー」

 

 そんな呑気な俺達をウサミミ少女の方が発見したらしい。双頭ティラノに吹き飛ばされ岩陰に落ちたあと、四つん這いになりながらほうほうのていで逃げ出し、その格好のままハジメ達を凝視している。

 

 そして、再び双頭ティラノが爪を振い隠れた岩ごと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がると、その勢いを殺さず猛然と逃げ出した。……俺達の方へ。

 

 それなりの距離があるのだが、ウサミミ少女の必死の叫びが峡谷に木霊し此方に届く。

 

「やっどみずげまじだー! だずげでぐだざ~い! ひっ──、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」

 

()()()()()()()()なんか面倒な事になりそうだからすんげぇ無視したい。

 

 双頭ティラノが、ウサミミ少女に追いつき、片方の頭がガパッと顎門を開く。ウサミミ少女はその気配にチラリと後ろを見て目前に鋭い無数の牙が迫っているのを認識し、「ああ、ここで終わりなのかな……」とその瞳に絶望を写した。

 

「ハァ──めんど」ドパァン! 

 

 エルガーで双頭ティラノの頭を吹き飛ばす。運良く跳弾で両方の頭を潰せた。

 

「う、嘘! "ダイヘドア"が一撃で!?」

 

 へぇ……そんな名前だったのかコイツ。驚いた様子のウサミミ少女。すぐさま此方へ振り向く。

 

「ありがとうございます!」

「気にしなくていいぞ……んじゃそう言う事で」

「ええ!? ちょっと待ってください!」

「あ、急いでるんで」

 

 これ以上関わったらもっと面倒事になりそうだから、さっさと別れたい。

 

「いいんですか!? あなたにも善意の心はありますでしょう! いたいけな美少女を見捨てて良心は痛まないんですか!」

「え? 善意の心なんて無いよ?」

「え?」

 

 進行の邪魔だったから殺っただけで俺は別に助けようとは思ってないんだけど? 

 

「と、とりあえず! 話だけでも!」

「ハジメー行こうぜー」

 

 バイクのエンジンを掛け直して、その場を去ろうとする。

 

「逃がすかァ!」

「HA☆NA☆SE! この駄ウサギ! 服が汚れる!」

「そんなに汚くないですー!」

「涙と鼻水でグシャグシャの顔で言われても説得力ゼロだ! つーか……いい加減離れろ!」

「ッイダダダダダダ!」

 

 ウサミミ少女をアイアンクローで引き剥がす。再度バイクのエンジンを掛けてその場から逃げ出そうとする。

 

「に、逃すかぁ!」

「オイ、テメェ! 離しやがれ! 服が汚れるだろうが!」

 

 再び腰にしがみつくウサミミ少女。やはり、なかなかの打たれ強さだ。

 

「先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」

 

 そして、なかなかに図太かった。

 

 一難去ってまた一難……てか? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうやだ!!! おうちかえる!!!!!

 

 

 




零斗くんのカルデアにはウッドワスさんがいます。なんならケルヌンノスとかアグラヴェインさんとか……色々います。本編に出す予定は無いです(無常)

感想お待ちしております。


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シア・ハウリアの事情

「よいしょと、(´∀`)つハイヨお馴染みの零斗さんでーす」
「ハジメです」
「初めまして!シア・ハウリアと言います!よろしくお願いします!」

「前回はそこの駄ウサギが俺の服を汚したな」
「めっちゃ汚い」
「ぅぅぅぅ……酷いです!こんな幼気な少女を虐めるなんて!」
「お前が悪い」
「……君が悪い」
「酷いですぅ……」

「さて、駄ウサギはほっといて……今回はこいつの事情だ」

「「「シア・ハウリアの事情!」」」


 Side 零斗

 

「私の家族も助けて下さい!」

 

 峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ……だが

 

「断る!」

「どうしてですか!」

「面倒だからだ!」

「とりあえず話だけでも!」

 

 あまりに必死に懇願するので、仕方なく……"纏雷"をしてやった。

 

「アババババババババババアバババ!?」

 

 電圧と電流は調整してあるので死にはしないが、しばらく動けなくなるくらいの威力はある。シアのウサミミがピンッと立ちウサ毛がゾワッと逆だっている。"纏雷"を解除してやると、ビクンッビクンッと痙攣しながらズルズルと崩れ落ちた。

 

「よし行くぞ」

「……いいの?」

「これ以上の面倒事はゴメンなんでな」

 

 バイクに跨りエンジン入れ直す。これ以上の面倒事は嫌なんでさっさとこの場を離れたい。

 

「に、にがじませんよ~」

 

 ゾンビの如く起き上がり脚にしがみつく駄ウサギ。こいつ頑丈過ぎるだろ……

 

「お前、ゾンビみたいな奴だな。加減しているとはいえ、それなりに威力出したんだが……何で動けるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇよ」

「ちょっと気味が悪いよ……」

「……不気味」

「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、ゲンコツとか電撃とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! お詫びに家族を助けて下さい!」

 

 ぷんすかと怒りながら、さらりと要求を突きつける。案外余裕そうである。このまま引き摺っていこうかとも考えたのだが、何か執念で何処までもしがみついてきそうだと思い直す。血まみれで引きずられたまま決して離さないウサミミ少女……完全にホラーである。

 

「ったく……わーたよ、話ぐらいなら聞いてやる。ってさり気なく俺のローブで顔を拭くな!」

 

 話を聞いてやると言われパアァと笑顔になったシアは、これまたさり気なく俺のローブで汚れた顔を綺麗に拭った。本当にいい性格をしている。イラッと来たので力を軽く込めたデコピンを食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。

 

「ま、また殴りましたね! 父様にも殴られたことないのに! よく私のような美少女を、そうポンポンと……もしや殿方同士の恋愛にご興味が……だから先も私の誘惑をあっさりと拒否したんですね! そうでッあふんッ!?」

 

 

 なにやら不穏当な発言が聞こえたので(うずくま)るシアの額にゴム弾を撃ち込む。あーキレソ。

 

「誰がホモだ、テメェふざけてんのか? っていうか何でそのネタ知ってんだよ。どっから仕入れてくるんだ? まぁ、それは取り敢えず置いておくとして、テメェの誘惑だがギャグだが知らんが、誘いに乗らないのは、テメェより遥かにレベルの高い美少女がすぐ隣にいるからだ」

「んな?!」

 

 不意に美少女と言われ顔を真っ赤にするエト。そんな驚く事か? 髪質はやや硬質だがハリやツヤはしっかりとしていて、太陽の光に反射してキラキラと輝き、人形の様に整った容姿が今は照れ赤く染まっていて、見た者を例外なく虜にする魅力を放っている。

 

 格好も、戦闘した時のローブとは違い。黒のロングコートにブラウス、紺のデニムパンツといった、装いになっている。

 

 ちなみに俺とユエを除く全員の服装が変わっている。ハジメは黒に赤のラインが入ったコートと下に同じように黒と赤で構成された衣服を纏っている。オスカーはローブから黒スーツに変わっている。

 

 そんな可憐なエトを見て、「うっ」と僅かに怯むシア。しかし、多少の身内補正が掛かっていることもあり、二人の容姿に関しては主観的要素が入り込んでいる。つまり、客観的に見ればシアも負けず劣らずの美少女ということだ。

 

 少し青みがかったロングストレートの白髪に、蒼穹の瞳。眉やまつ毛まで白く、肌の白さとも相まって黙っていれば神秘的な容姿とも言えるだろう。手足もスラリと長く、ウサミミやウサ尻尾がふりふりと揺れる様は何とも愛らしい。ケモナー達が見れば感動して思わず滂沱の涙を流すに違いない。

 

 何より……エトにはないものがある。そう、シアは大変なブツの持ち主だった。ボロボロの布切れのような物を纏っているだけなので殊更強調されてしまっているそれ(凶器)は、固定もされていないのだろう。彼女が動くたびにぶるんぶるんと揺れ、激しく自己を主張している。

 

 要するに、コイツが自分の容姿やスタイルに自信を持っていても何らおかしくはない。

 

「で、でも! 胸なら私が勝ってます! そっちの女の子はペッタンコじゃないですか!」

「……コイツ見事に地雷踏み抜きやがった」

 

 そう、エトはひんぬーの事を気にしているのだ。峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊する。恥ずかしげに顔を真っ赤にして硬直していたエトが前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。

 

「俺しーらね」

「え?」

「シアさん……この世にはね言ってはいけない事が有るんです」

「え? え?」

「……ご愁傷様」

 

 ちなみにエトは着痩せするのでそれなりにある。断じてライセン大峡谷の様な絶壁ではない。決して絶壁では無い。

 

 ──小便はすませたか? 

 

 ──ふぇ? 

 

 ──神様にお祈りは? 

 

 ──あの……えっと……

 

 ──渓谷の隅でガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK? 

 

 ──謝ったら許してくれたり? 

 

 ──さあ行くぞ歌い踊れ駄ウサギ! 豚のような悲鳴を上げろ! 

 

 ──死にたくなぁい! 死にたくなぁい! 

 

「ふん!」

「アッ──────!」

 

 見事なハンター投げフォームでシアを投げ飛ばすエト。相当ショックだったのだろう。

 

「おお〜よく飛ぶな」

「凄い綺麗なフォームだったね」

 

 シアの悲鳴が峡谷に木霊し、きっかり十秒後、グシャ! という音と共に眼前に墜落した。

 

 まるで犬神家のあの人のように頭部を地面に埋もれさせビクンッビクンッと痙攣している。完全にギャグだった。その神秘的な容姿とは相反する途轍もなく残念な少女である。ただでさえボロボロの衣服? が更にダメージを受けて、もはやただのゴミのようだ。

 

「……」ソッ

 

 色々と見えてはいけない物が顕になってしまっていたので布を掛けて放置する。

 

 エトはため息をつきながら頭を押さえる。トコトコと二輪に腰掛けるこちらをジッと見つめる。

 

「零斗……おっきい方が好きですか?」

 

 ……返答に困る質問だな、おい。「YES!」と答えれば恐らくそこの駄ウサギとお馴染み様に犬神家と化すだろうし、「NO!」と答えれば嘘に聞こえるだろうし……勘弁してくれよ。

 

「……大きさよりも相手が誰か、それが一番重要だな」

 

 取り敢えずYESともNOとも答えず、ふわっとした回答を選択する。これなら傷つけずに済む……よな? 

 

「そうですか……よかったです

 

 満足気に後席に腰掛けた。よかったー、最後に何か気になる事が聞こえたがきっと空耳だろう……そうであってくれ。

 

「フヌゥゥゥ!」

 

 痙攣していたシアの両手がガッと地面を掴み、ぷるぷると震えながら懸命に頭を引き抜こうとしている姿を捉え、これ幸いにとシアに注意を向け話のタネにする。

 

「おいおい……まだ動けるのかよ」

「まるでゾンビみたいですね……頑丈とかそう言うレベルを超えている気がします……」

 

 ズボッという音と共にシアが泥だらけの顔を抜き出した。

 

「うぅ~ひどい目に遭いました。こんな場面見えてなかったのに……」

 

 涙目で、しょぼしょぼとボロ布を直すシアは、意味不明なことを言いながらハジメの下へ這い寄って来た。既にホラーだった。

 

「はぁ~、お前の耐久力は一体どうなってんだ? 尋常じゃねぇぞ……何者だ? お前」

 

 ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛ける俺達の前で座り込み真面目な表情を作った。もう既に色々遅いが……

 

「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」

 

 語り始めたシアの話を要約するとこうだ。

 

 シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は【ハルツィナ樹海】にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。

 

 そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。

 

 当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。

 

 しかし、樹海深部に存在する亜人族の国【フェアベルゲン】に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。

 

 故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。

 

 行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。

 

 しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。

 

 女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々平和な兎人族と訓練された帝国兵では比較もできない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕まっていた。

 

 全滅を回避するため必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。どうしようか悩んでいた時、シアが逃げ道を一人で探し始めた。

 

「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」

 

 最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。どうやら、シアは、俺達と同じ、この世界の例外というヤツらしい。ユエと同じ、先祖返りだろうな。

 

「……報酬は?」

「え?」

「だから、報酬は? 君は一体何を対価として出せる?」

「ちょ! 零斗!?」

「……全て」

「シア……さん?」

「ほぅ?」

「私の渡せる全てです……体も心」

「ククク……アッハッハッハッハッ!」

「ちょっ……私これでも真面目に言いましたよ!?」

「気にしなくて結構ですよシアさん……この人試しただけですから」

 

 そう、単に試したかっただけだ……家族、友人を本心から助けたいのかどうかを知りたかっただけだ。

 

「中々いい覚悟だった……そうだな、報酬は樹海の案内で頼む」

「えっと……分かりました」

「んじゃ、お前の言う家族の場所までの道案内頼むわ……ハジメ、お前の後ろに乗せてやれ」

「分かった……シアさん掴まっててね」

「は、はい」ギュ

 

 




零斗くんは基本は女性には優しいです。(身内と仲間に限る)それ以外で面倒事を運んでくる女性には基本雑です。

感想お待ちしております。


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ハウリア族との合流

「よいしょと、(=゚ω゚)ノ ハーィお馴染みの零斗くんでーす」
「エトです」
「オスカー・オルクスだ」

「さて、前回はシアの事情を聞いたな……色々と残念な奴だったな」
「ええ、ホントに」
「……そうですね」

「今回はシアの家族達との合流だ」
「楽しんでいってくれ」

「「「ハウリア族との合流」」」


 Side 零斗

 

 ライセン大峡谷に悲鳴と怒号が木霊する。

 

 ウサミミを生やした人影が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰からウサミミだけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。

 

 そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、奈落の底でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言うワイバーンというやつが一番近いだろう。体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、モーニングスターのように先端が膨らみ刺がついている長い尻尾を持っている。

 

「ハ、ハイベリア……」

 

 ハジメの肩越しにシアの震える声が聞こえた。あのワイバーンモドキは〝ハイベリア〟というらしい。ハイベリアは全部で六匹はいる。兎人族の上空を旋回しながら獲物の品定めでもしているようだ。

 

 そのハイベリアの一匹が遂に行動を起こした。大きな岩と岩の間に隠れていた兎人族の下へ急降下すると空中で一回転し遠心力のたっぷり乗った尻尾で岩を殴りつけた。轟音と共に岩が粉砕され、兎人族が悲鳴と共に這い出してくる。

 

 ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き無力な獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。

 

「エト、ハンドル頼むわ」ガチャン

「分かりました」

 

 エトにバイクの操縦を頼み、そのまま立ち上がる。異空間収納から"テルベン"を取り出す。

 

「ちょ!? 貴方何てものを撃つ気ですか!?」

「え? 対戦車ライフルだけど?」

「このバイクが横転しますよ!?」

「えー? だってよこれが1番弾速速いから……てか話してる場合じゃねぇ! (バゴォン!)グッお!」

 

 支え無しで撃つとこんだけ反動でかいのかよ!? 肩外れたんだが!? 

 

「いっっってぇ……」

「貴方……ホントのアホですね」

「凄い轟音ですね……後で構造を教えて貰っても?」

「いいけど、結構古いヤツがモデルだぞ?」

「その方がロマンがあっていいじゃないか」

 

 いや、まぁ……そうだけどよ。使いずらいし、一発一発リロード必要だし、反動くそデカいし……なんでこんなもの創ったんだ? 

 

 放たれた弾丸はハイベリアを粉微塵に吹き飛ばした。

 

「いっ、一体……何が?」

 

 先程、子供を庇っていた男の兎人族が呆然としながら、目の前の絶命したハイベリアと、後方で困惑しているハイベリアを交互に見ながら呟いた。

 

「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」

 

 その聞きなれた声音に、これは現実だと理解したのか兎人族が一斉に彼女の名を呼んだ。

 

「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」

 

 仲間の無事を確認した直後、シアは喜びのあまり後部座席に立ち上がりブンブンと手を振りだした。

 

「シアさん、暴れると振り落とされちゃいますよ?」

「あ、ごめんなさい……」

 

 シアは全体重をハジメに預けて体を固定しており、小刻みに飛び跳ねる度に頭上から重量級の凶器がのっしのっしとハジメの頭部に衝撃を与えていた……なんだろう、ハイリヒ王国の方から殺気のような物が飛んで来てるんだが。

 

「フッ!(ゴギィ!)……ってぇ」

 

 かなり無理やりだが外れた肩を嵌め直し、残ったハイベイアを撃ち落としていく。

 

「あの〜」

「? なんですか?」

「零斗さんの戦闘能力、化け物過ぎません?」

「……そうだね」

「ほら、ハイベイアの頭なんか簡単に握りつぶしてますし……あんなのもう脳筋じゃないですか」

 

 んー? 聞き捨てならない事が聞こえたぞー? 

 

「誰が脳筋じゃ、駄ウサギ」

「げっ!」

「てめぇもちったァ役に立て! ……オラァ!」

「いやぁあああ──!!」

 

 シアの服を鷲掴みにし、そのまま残りのハイベイアへ投げつける。物凄い勢いで空を飛ぶウサミミ少女。シアの悲鳴が峡谷に木霊する。有り得ない光景に兎人族達が「シア~!」と叫び声を上げながら目を剥き、ハイベリアも自分達に向かって泣きながらぶっ飛んでくる獲物に度肝を抜かれているのか、シアが眼前を通り過ぎても硬直したまま上空を見上げているだけだった。

 

 その隙を逃さない。滞空するハイベリア等いい的である。銃声が四発鳴り響き、放たれた弾丸が寸分のズレもなくハイベリア達の顎を砕き貫通して、そのまま頭部を粉砕した。

 

 最後の一体を倒し終えると……上空から聞きなれた少女の悲鳴が降ってくる。

 

「あぁあああ~、たずけでぇ~、ハジメさぁ~ん!」

 

 慌ててシアの落下地点に駆けつけようとする兎人族達を追い抜いたハジメが、ちょうど落下してきたシアを見事にキャッチして、二輪をドリフトさせながら停止した。

 

「大丈夫?」

「あ……え……な、ないでしゅ」

「そっか、ならよかった」

 

 ……堕ちたな(確信)

 

「うぅ~、私の扱いがあんまりですぅ。待遇の改善を要求しますぅ~。私もエトさんみたいに大事にされたいですよぉ~」

「考えとくわ……実行するはしないけど」

 

 しくしくと泣きながら抗議の声を上げるシア。投擲とキャッチの衝撃で更にボロボロになった衣服を申し訳程度に纏い、足を崩してシクシク泣くシアの姿は実に哀れを誘った。流石に、やり過ぎたか……

 

「……新しい服はそのうち作ってやるから、今はこれ着とけ」

 

 予備の服をシアに投げ渡す。サイズは少々大きいが仕方ないよね。

 

「え、えっと……ありがとうございます?」

「なんで疑問形なんだよ……」

「だっていきなりの事で……」

「流石にやり過ぎたかと思ってな」

 

 キョットンとした表情のまま服を着るシア。

 

「シア! 無事だったのか!」

「父様!」

 

 真っ先に声をかけてきたのは、濃紺の短髪にウサミミを生やした初老の男性だった。はっきりいってウサミミのおっさんとか誰得である。シュールな光景に微妙な気分になっていると、その間に、シアと父様と呼ばれた兎人族は話が終わったようで、互いの無事を喜んだ後、コチラへ向き直った。

 

「零斗殿とハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」

 

 そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。

 

「気にしなくて結構だ……だが樹海の案内が条件だ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていない筈だろ?」

 

 シアの存在で忘れそうになるが、亜人族は被差別種族である。実際、峡谷に追い詰められたのも人間族のせいだ。にもかかわらず、同じ人間族である俺たちに頭を下げ、しかも俺らの助力を受け入れるとかそれしか方法がないとは言え、あまりにあっさりしているというか、嫌悪感のようなものが全く見えないことに疑問しか無いんだが? 

 

「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから」

「……そうかい。シア、お前良い家族を持ったな」

「そうでしょう! 自慢の家族達です!」

 

 ……やはり、どの時代の子供はいいものだな。

 

「えへへ、大丈夫ですよ、父様。零斗さんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」

「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」

 

 シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しで俺を見ながら、うんうんと頷いている。

 

「……確かに照れ屋ですよね」

「うっせ」

 

 悪戯っぽい笑顔を浮かべてからかってくるエト。照れ屋……か、あんまり言われたことなかったな。

 

 ──────────────────────────

 

 渓谷の出口付近の階段を上りきった先には、大型の馬車が数台に野営の跡、そして30人ほどの軍服で統一されていた屈強な男達……帝国兵の姿があった。

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 三十人の帝国兵がたむろしていた。周りには大型の馬車数台と、野営跡が残っている。全員がカーキ色の軍服らしき衣服を纏っており、剣や槍、盾を携えており、俺達を見るなり驚いた表情を見せた。

 

 だが、それも一瞬のこと。直ぐに喜色を浮かべ、品定めでもするように兎人族を見渡した。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますますツイテルな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

 帝国兵は、兎人族達を完全に獲物としてしか見ていないのか戦闘態勢をとる事もなく、下卑た笑みを浮かべ舐めるような視線を兎人族の女性達に向けている。兎人族は、その視線にただ怯えて震えるばかりだ。

 

 帝国兵達が好き勝手に騒いでいると、兎人族にニヤついた笑みを浮かべていた小隊長と呼ばれた男が、ようやくコチラの存在に気がついた。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

 

 こりゃ、素通りは無理だな。一応話だけでもしておくか。

 

「一応、人間だ」

「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 勝手に推測し、勝手に結論づけた小隊長は、さも自分の言う事を聞いて当たり前、断られることなど有り得ないと信じきった様子で、そうコチラに命令した。まぁ、従う気は微塵も無いが。

 

「断る」

「……今、何て言った?」

「『断る』と言ったんだ。この兎人族達は俺の物ですので、あんたらに渡す気はありません。早急に帝国へ帰還することをおすすめするぜ?」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額に青筋が浮かぶ。おー怖い怖い。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十分に理解しているさ。その上での発言だよ」

 

 コチラの言葉にスっと表情を消す小隊長。周囲の兵士達も剣呑な雰囲気で睨んできている。その時、小隊長が、剣呑な雰囲気に背中を押されたのか、後ろから出てきたエトやハジメの隣にいるユエに気がついた。少々幼い容姿でありながら纏う雰囲気に艶があり、そのギャップからか、えもいわれぬ魅力を放っている美貌の少女に一瞬呆けるものの、俺のローブの裾をギュッと握っていることからよほど近しい存在なのだろうと当たりをつけ、再び下碑た笑みを浮かべた。

 

「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃん達はえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

 その言葉にエトは眉をピクリと動かし、ユエは無表情でありながら誰でも分かるほど嫌悪感を丸出しにしている。目の前の男が存在すること自体が許せないと言わんばかり、ユエが右手を掲げようとした。

 

 だが、それを制止するハジメ。訝しそうなユエを尻目に最後の言葉をかける。

 

「つまり敵ってことでいいよな?」

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」パァン! 

 ビチャ「汚ぇな」

 

 想像した通りに俺が怯えないことに苛立ちを表にして怒鳴る小隊長だったが、その言葉が最後まで言い切られることはなかった。何故なら破裂音と共に小隊長の体が弾け飛んだからである。

 

「この程度の強度か……脆いな」

 

 突然、小隊長が弾け飛ぶという異常事態に兵士達が半ばパニックになりながらも、武器を俺に向ける。過程はわからなくても原因はわかっているが故の、中々に迅速な行動だ。人格面は褒められたものではないが、流石は帝国兵。実力は本物らしい。

 

「来たまえ……勝負(コール)だ」ドパァァン! 

 

 前衛の帝国兵の頭を吹き飛ばし、残りのヤツらは血狂いでサイコロステーキ先輩化させる。

 

「……やはり脆いな、これなら通常弾でいいか。刀も試作品の方でいいかもな」

 

 兵士がビクッと体を震わせて怯えをたっぷり含んだ瞳を向けてきた。ゆっくりと兵士に歩み寄る。黒いコートを靡かせて死を振り撒き歩み寄るその姿は、さながら死神の様に写っていることだろうな。少なくとも生き残りの兵士には、そうとしか見えなかった。

 

「く、来るな! この化け物が!」

「よく言われる。それと対峙しているお前は何だ。人か?狗か?化物か?」

 

 這いずるように後退る兵士。その顔は恐怖に歪み、股間からは液体が漏れてしまっている。硬直している兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てる。再び、ビクッと体を震わせる兵士は、醜く歪んだ顔で命乞いを始めた。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

「いい事を教えてやるよ……命を乞うときのコツは二つ……一つは命を握る者を楽しませる事。もう一つはその人間を納得させる理由を述べる事だ……お前はまだ、どちらも満たしていない。さあ、踊れ!……そうまでして助ける義理がどこにある?」

 

 これほどこの場にピッタリな言葉は無いな。BLACK LAGOONのバラライカさん良いよなカッコよくて。結構好きだぜ、俺。

 

「待て! 待ってくれ! 何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」

 

 俺からの返答は一発の乾いた破裂音だ。別段コイツから得られる情報は小隊長を殺した時に出た血で大方把握出来るし、生かす理由も特にないからな。

 

「……クソが」

「どうしたの?」

「捕まった兎人族は帝国に移送済みだ。そんで"人数を絞った"……らしい」

「それって!」

「あぁ、恐らくだが……殺されたな」

 

 〝人数を絞った〟それは、つまり老人など売れそうにない兎人族は殺したということだろう。悲痛な表情を浮かべる兎人族達。

 

だがそれは直ぐに消え、俺に対する恐怖に近い感情が向けられる。すると、シアがおずおずと尋ねてきた。

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 

 自分達の同胞を殺し、奴隷にしようとした相手にも慈悲を持つようで、兎人族とはとことん温厚というか平和主義らしい。俺が言葉を発しようとしたが、その機先を制するようにエトが反論した。

 

「一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎです」

「そ、それは……」

「そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目を零斗に向けるのはお門違いと言うものです」

「……」

 

 エトは静かに怒っているようだ。守られておきながら、俺に向ける視線に負の感情を宿すなど許さないと言わんばかりである。当然といえば当然なので、兎人族達もバツが悪そうな表情をしている。

 

「ふむ、零斗殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「零斗さん、すみません」

「……いや、大丈夫。それが正常な思考だからな」

 

 シアとカムが代表して謝罪するが、特に気にしてないので手をヒラヒラと振る。

 

 オスカーは、無傷の馬車や馬のところへ行き、兎人族達を手招きする。樹海まで徒歩で半日くらいかかりそうなので、せっかくの馬と馬車を有効活用しようというわけだ。ハジメは魔力駆動二輪を〝宝物庫〟から取り出し馬車に連結させる。馬に乗る者と分けて一行は樹海へと進路をとった。

 

 帝国兵の返り血で服が凄いことになっちまったのでローブを脱ぎ変えの服に着替える。

 

 無残な帝国兵の死体は燃やし、遺灰は渓谷に捨てた。後にはただ、彼等が零した血だまりだけが残された。




"テルベン"のモデルはシモノフPTRS1941です。ソビエト連邦が採用していたセミオートマチック式対戦車ライフルでふ。

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シアの心情とハルツィナ樹海

「よいしょと、ヾ(ω` )/ハイヨお馴染みの零斗でーす」
「ハジメです」
「カム・ハウリアです。以後お見知りおきを」

「さて、前回はカム達と合流したな」
「……そうだね」
「ハジメ殿、死んでしまった者達の事はもう……大丈夫です、だからそう気を負わないでください」
「はい……分かっています……」


「……今回はシアの心情とハルツィナ樹海の話だ」
「楽しんでいってください」

「「「シアの心情とハルツィナ樹海!」」」


 Side 零斗

 

 七大迷宮の一つにして、深部に亜人族の国フェアベルゲンを抱える【ハルツィナ樹海】を前方に見据えて、ハジメが魔力駆動二輪で牽引する大型馬車二台と数十頭の馬が、それなりに早いペースで平原を進んでいた。

 

 ハジメの方の二輪には、ハジメ以外にも前にユエが、後ろにシアが乗っている。当初、シアには馬車に乗るように言ったのだが、断固として二輪に乗る旨を主張し言う事を聞かなかった。ユエが何度叩き落としても、ゾンビのように起き上がりヒシッとしがみつくので、遂にユエの方が根負けしたという事情があったりする。

 

「……零斗さんはなんであんなに躊躇いなく人を殺せるんですか?」

「どうした? 藪からスティックに?」

「いえ……その……なんというか」

 

 モゴモゴと言い籠もるシア。まぁ、そりゃそうだよな。見た目は同い年か少し歳上くらいだろうし……実際はユエとほぼ同じ年齢なのは言わないでおこう。

 

「……そうだな、じゃあ先ずは俺たちがこうなった理由から話そうか」

 

 特段隠すことでもねぇし、暇つぶしにいいだろうと、これまでの経緯を語り始めた。結果……

 

「うぇ、ぐすっ……ひどい、ひどすぎまずぅ~、ハジメさんもユエさんもがわいぞうですぅ~。そ、それ比べたら、私はなんでめぐまれて……うぅ~、自分がなざけないですぅ~」

 

 号泣した。滂沱の涙を流しながら「私は、甘ちゃんですぅ」とか「もう、弱音は吐かないですぅ」と呟いている。そして、さり気なく、俺の服で顔を拭いてくる。どうやら、自分は大変な境遇だと思っていたら、俺達が自分以上に大変な思いをしていたことを知り、不幸顔していた自分が情けなくなったらしい。

 

「シアさん……ホントに地獄みたいな体験をしたのは零斗なんだよ」

「え? どういう事ですか?」

「……零斗、話してもいい?」

「別に良いが……聴いていて気持ちのいい話じゃないぜ?」

「大丈夫です……貴方達の事をもっと知りたいですから!」

 

 俺の前世での話をした。研究施設で実験台として扱われた事、組織での活動、人理修復に空想樹の伐採……体験した事を話した。その結果……

 

「「「「……」」」」

「こんな感じの人生だったな……組織にいた頃にはもう人を殺す事には躊躇は無かったな」

 

 前世の事を教えたハジメでさえ口を閉じ、少し俯いている。

 

「だがな……あれでよかったのさ」

「え?」

「後悔はあるさ……『やり直し』だって何度も望んだ……でもな、あの選択でよかったんだよ。こうしてハジメ達に出逢えたからな……ってどうした?」

 

 自分の過去を語っていると、エトは俺の頭を無言で撫で、オスカーは肩を叩いてくるし。周りを見てみると数十人の兎人族が目に涙を浮かべている。

 

「おいおい……ほんとにどうしたんだよ?」

「零斗の過去……思ったよりも辛かった」

 

 ユエの言葉に兎人族全員がうんうんと頷いていていた。

 

 しばらくメソメソしていたシアだが、突如、決然とした表情でガバッと顔を上げると拳を握り元気よく宣言した。

 

 

「ハジメさん! 零斗さん! 私、決めました! 皆さんの旅に着いていきます! これからは、このシア・ハウリアが陰に日向にお二人を助けて差し上げます! 遠慮なんて必要ありませんよ。私達は仲間。共に苦難を乗り越え、望みを果たしましょう!」

 

 勝手に盛り上がっているシアに、エトとユエが実に冷めた視線を送っている。

 

「シアさん、気持ちは嬉しいけどね。今の君じゃ僕や零斗……全員の足手まといになっちゃうからその提案は断らせてもらうよ」

「お前は旅の仲間が欲しいだけだろ?」

「ウッグ!」

 

 俺の言葉に、シアの体がビクッと跳ねる。

 

「一族の安全が一先ず確保できたら、お前、アイツ等から離れる気なんだろ? そこにうまい具合に"同類"の俺らが現れたから、これ幸いに一緒に行くってか? そんな珍しい髪色の兎人族なんて、一人旅出来るとは思えないしな」

「……あの、それは、それだけでは……私は本当に……」

 

 図星だったのか、しどろもどろになるシア。連れて行くのは別に良いが……せめてある程度の戦闘能力は欲しいよなぁ。

 

「……今の()()お前を連れては行かないが()()お前を連れて行かないとは行ってないぞ?」

「え? そ、それは……」

「零斗殿……そろそろ着く頃です」

「お、いよいよか!」

 

 ────────────────────────

 

 遂に【ハルツィナ樹海】と平原の境界に到着した。樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい。

 

「それでは、皆様。中に入ったら決して我らから離れないで下さい。お二人を中心にして進みますが、万一はぐれると厄介ですからな。それと、行き先は森の深部、大樹の下で宜しいのですな?」

「ああ、聞いた限りじゃ、そこが本当の迷宮と関係してそうだからな」

 

 カムが、俺達に対して樹海での注意と行き先の確認をする。カムが言った"大樹"とは、【ハルツィナ樹海】の最深部にある巨大な一本樹木で、亜人達には"大樹ウーア・アルト"と呼ばれており、神聖な場所として滅多に近づくものはいないらしい。峡谷脱出時にカムから聞いた話だ。

 

 カムは、俺の言葉に頷くと、周囲の兎人族に合図をして周りを固めた。

 

「皆様、できる限り気配は消してもらえますかな。大樹は、神聖な場所とされておりますから、あまり近づくものはおりませんが、特別禁止されているわけでもないので、フェアベルゲンや、他の集落の者達と遭遇してしまうかもしれません。我々は、お尋ね者なので見つかると厄介です」

「了解した。オスカーは霊体化で大丈夫だが……ユエは大丈夫か?」

「ん、問題無い」

 

 ハジメは技能の"気配遮断"で、エトと俺は持ち前の技術で、ユエは奈落で培った方法で気配を薄くし、オスカーは霊体化で気配を断つ。

 

「ッ!? これは、また……ハジメ殿。できればユエ殿くらいにしてもらえますかな?」

「このぐらいですか?」

「はい、結構です。さっきのレベルで気配を殺されては、我々でも見失いかねませんからな。いや、全く、流石ですな!」

「……零斗とエトさんは?」

 

 うわっ……俺達の気配、薄すぎ? 

 

「ここに居るぞ〜」

「……少しやり過ぎでしたか」

 

 流石にこのレベルの気配遮断を見抜くのはハジメやユエでも無理か……もっかい気配の掴み方の訓練でもするか。(訓練内容→零斗が気配を消す→それを目隠しした状態で探す。→時間に探し出せなければ零斗がケツを竹刀でフルスイングする)

 

「まぁ、問題無いだろ。警戒とかは俺らがすっから気にしなくていいぞ」

「は、はぁ……分かりました。では改めて、出発しましょう」

 

 カムの号令と共に準備を整えた一行は、カムとシアを先頭に樹海へと踏み込んだ。

 

 しばらく、道ならぬ道を突き進む。直ぐに濃い霧が発生し視界を塞いでくる。しかし、カムの足取りに迷いは全くなかった。現在位置も方角も完全に把握しているようだ。理由は分かっていないが、亜人族は、亜人族であるというだけで、樹海の中でも正確に現在地も方角も把握できるらしい。

 

 順調に進んでいると、突然カム達が立ち止まり、周囲を警戒し始めた。魔物の気配だ。当然、感知している。どうやら複数匹の魔物に囲まれているようだ。樹海に入るに当たって、ハジメが貸し与えたナイフ類を構える兎人族達。彼等は本来なら、その優秀な隠密能力で逃走を図るのだそうだが、今回はそういうわけには行かない。皆、一様に緊張の表情を浮かべている。

 

「さて、ここの魔物はどんなもんかな?」

 

 懐に仕込んでいた投げナイフを3つほど投げ、様子を見る。

 

 ドサッ、ドサッ、ドサッ

「「「キィイイイ!?」」」

 

 三つの何かが倒れる音と、悲鳴が聞こえた。そして、慌てたように霧をかき分けて、腕を四本生やした体長六十センチ程の猿が三匹踊りかかってきた。

 

「弱いな……発砲音でバレたくねぇしナイフだけで殺るか」

 

 投げたナイフを回収しもう一度投げる。やべ1本折れてら……

 

 一匹は近くの子供に向かって、鋭い爪の生えた四本の腕を振るおうとする。子供は、突然のことに思わず硬直し身動きが取れない。咄嗟に、近くの大人が庇おうとする。

 

「ハジメ〜残り一体任せた」

「分かった」

 

 ハジメが残った一体を素手で掴み、そのまま地面に叩き付ける。叩き付けられた魔物は頭部を失っていた。

 

「お兄ちゃん、ありがと!」

 

 子供(男の子)が窮地を救われ礼を言う。男の子のハジメを見る目はキラキラだ。

 

 

 ──────────────────────────

 

 ちょくちょく魔物に襲われたが、俺とエトが静かに片付けていく。樹海の魔物は、一般的には相当厄介なものとして認識されているのだが、何の問題もなかった。

 

「全員、止まれ」

「……何か来てるね」

 

 今までにない無数の気配に囲まれ、歩みを止める。数も殺気も、連携の練度も、今までの魔物とは比べ物にならない。カム達は忙しなくウサミミを動かし索敵をしている。

 

 そして、何かを掴んだのか苦虫を噛み潰したような表情を見せた。シアに至っては、その顔を青ざめさせている。

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

 虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった。

 

 樹海の中で人間族と亜人族が共に歩いている。

 

 その有り得ない光景に、目の前の虎の亜人と思しき人物はカム達に裏切り者を見るような眼差しを向けた。その手には両刃の剣が抜身の状態で握られている。周囲にも数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いているようだ。

 

「あ、あの私達は……」

 

 カムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え、その眼が大きく見開かれる。

 

「白い髪の兎人族……だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

 威圧で虎の亜人を黙らせる。

 

「お前らにゃ要は無い……この場を引くというのなら追いもしない。敵でないなら殺す理由もないからな。さぁ、選べ。敵対して無意味に全滅するか、大人しく家に帰るか……だ」

「……その前に、一つ聞きたい」

 

 虎の亜人は掠れそうになる声に必死で力を込めて尋ねてきた。視線で話を促す。

 

「……何が目的だ?」

 

 端的な質問。しかし、返答次第では、ここを死地と定めて身命を賭す覚悟があると言外に込めた覚悟の質問だ。虎の亜人は、フェアベルゲンや集落の亜人達を傷つけるつもりなら、自分達が引くことは有り得ないと不退転の意志を眼に込めて気丈に睨みつけてきた。

 

「樹海の深部、大樹の下へ行きたい」

「大樹の下へ……だと? 何のために?」

 

 てっきり亜人を奴隷にするため等という自分達を害する目的なのかと思っていたら、神聖視はされているものの大して重要視はされていない"大樹"が目的と言われ若干困惑する虎の亜人。"大樹"は、亜人達にしてみれば、言わば樹海の名所のような場所に過ぎない。

 

「そこに、本当の大迷宮への入口があるかもしれないからだ。俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリア族はその為に雇っている」

「本当の迷宮? 何を言っている? 七大迷宮とは、この樹海そのものだ。一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進むことも帰る事も叶わない天然の迷宮だ」

「いや、それはおかしい」

「なんだと?」

 

 妙に自信のある俺の断言に虎の亜人は訝しそうに問い返した。

 

「大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる」

「弱い?」

「そうだ。大迷宮の魔物ってのは、どいつもこいつも化物揃いだ。少なくとも【オルクス大迷宮】の奈落はそうだった。それに……」

「なんだ?」

「大迷宮というのは、〝解放者〟達が残した試練なんだ。亜人族は簡単に深部へ行けるんだろ? それじゃあ、試練になってない。だから、樹海自体が大迷宮ってのはおかしいんだよ」

「……」

 

 話を聞き終わり、虎の亜人は困惑を隠せなかった。俺達の言っていることが分からないからだ。樹海の魔物を弱いと断じることも、【オルクス大迷宮】の奈落というのも、解放者とやらも、迷宮の試練とやらも……聞き覚えのないことばかり……普段なら、〝戯言〟と切って捨てていた筈だろう。

 

 だがしかし、今、この場において、適当なことを言う意味はないのだ。圧倒的に優位に立っているのは俺達の方であり、言い訳など必要ないのだから。しかも、妙に確信に満ちていて言葉に力がある。本当に亜人やフェアベルゲンには興味がなく大樹自体が目的なら、部下の命を無意味に散らすより、さっさと目的を果たさせて立ち去ってもらうほうがいい。

 

 虎の亜人は、そこまで瞬時に判断した。しかし、俺達程の驚異を自分の一存で野放しにするわけには行かない。この件は、完全に自分の手に余るということも理解している。その為、虎の亜人は提案してきた。

 

「……お前が、国や同胞に危害を加えないというなら、大樹の下へ行くくらいは構わないと、俺は判断する。部下の命を無意味に散らすわけには行かないからな」

 

 その言葉に、周囲の亜人達が動揺する気配が広がった。樹海の中で、侵入して来た人間族を見逃すということが異例だからだろう。

 

「だが、一警備隊長の私ごときが独断で下していい判断ではない。本国に指示を仰ぐ。お前の話も、長老方なら知っている方もおられるかもしれない。お前に、本当に含むところがないというのなら、伝令を見逃し、私達とこの場で待機しろ」

「……いいだろう。さっきの言葉、曲解せずにちゃんと伝えてくれよ?」

「無論だ。ザム! 聞こえていたな! 長老方に余さず伝えろ!」

「了解!」

 

 虎の亜人の言葉と共に、気配が一つ遠ざかっていった。何時でも抜刀出来るようにしていた血狂いから手を離し、威圧も解いた。訝しそうな眼差しを向ける虎の亜人。中には、"今なら! "と臨戦態勢に入っている亜人もいるようだ。その視線には気ずいているので警告をしておく。

 

「お前等が攻撃するより、俺の抜刀の方が早い……試してみるか?」

「……いや。だが、下手な動きはするなよ。我らも動かざるを得ない」

「わかってるさ」

 

 包囲はそのままだが、ようやく一段落着いたと分かり、カム達にもホッと安堵の吐息が漏れた。だが、彼等に向けられる視線は、俺達に向けられるものより厳しいものがあり居心地は相当悪そうである。

 

「……つーかそろそろ飯時だな」

「そう言えばそうだね」

「ここにいるのは……ざっと80人くらいか」

 

 樹海へ入ったのが昼前ぐらいだった筈だから……ちょっと遅めの昼食とするかねぇ……

 

「一応お前達の分を作るが……食うか?」

「……頂こう」

「よし、ちょっと待ってろ」

 

 異空間収納から大鍋を取り出し、調理を始める。メニューはシチューとトマトのファルシーだ。(トマトの中にサラダを詰めたもの)

 

「うっし……出来たぞー」

「おかわりも有りますからね」

 

 重苦しい雰囲気が周囲を満たしていたが、上手い飯のお陰で少しずつ空気が弛緩していく。隣でシアが「負けた……」と落ち込んでいるがキニシナイー。

 




大将首だ!!
大将首だろう!?
なあ 大将首だろうおまえ
首置いてけ!! なあ!!!(訳:こんばんは いい夜ですね)


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やっぱり残念なハウリア

「よいしょと、ヾ(ω` )/ハイヨお馴染みの零斗でーす」
「ハジメです」
「ん、ユエ」

「さて、前回はハルツィナ樹海に入ったな」
「気配消すだけで認識すら出来なくなるのはちょっと可笑しくない?」
「ターゲットを殺る時に必要だったんだよ、仕方ないだろ」
「……それでも可笑しい」

「今回も残念なハウリア族の話だ」
「楽しんでいってください」

「「「やっぱり残念なハウリア族!」」」


 Side 零斗

 

 食事も済んだ所で霧の奥からは、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。同じく隣に立つのは、足元まである長く美しい金髪を波打たせたスレンダーな碧眼の美少女だった。彼らは、森人族(エルフ)なのだろう。

 

「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」

「零斗だ。湊莉 零斗。あんたは?」

 

 言葉遣いに、周囲の亜人が長老に何て態度を! と憤りを見せる。それを、片手で制すると、森人族の男性も名乗り返した。

 

「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。そしてこちらが……」

「アルテナ・ハイピストと申します」

「さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。"解放者"とは何処で知った?」

「本人から直接聞いた」

「……今なんと?」

 

 俺の発言に引っ掛かりがあったのか疑問符を浮かべるアルフレリックとアルテナ。

 

「オスカー、霊体化解いていいぞ」

「いいのかい?」

「この際、お前から説明した方が早いだろ」

「投げやりだね……証拠としては私の指輪や奈落の魔物の魔石等がいいだろう」

 

 "宝物庫"から地上の魔物では有り得ないほどの質を誇る魔石をいくつか取り出し、アルフレリックに渡す。

 

「こ、これは……こんな純度の魔石、見たことがないぞ……」

 

 アルフレリックも内心驚いていてたが、隣の虎の亜人が驚愕の面持ちで思わず声を上げた。

 

「そして、これが指輪だ」

 

 アルフレリックは、その指輪に刻まれた紋章を見て目を見開いた。そして、気持ちを落ち付かせるようにゆっくり息を吐く。

 

「なるほど……確かに、お前さんはオスカー・オルクスの隠れ家にたどり着き、そして彼が本物のオスカー・オルクスであるのだな。他にも色々気になるところはあるが……よかろう。取り敢えずフェアベルゲンに来るがいい。私の名で滞在を許そう。ああ、もちろんハウリアも一緒にな」

 

 アルフレリックの言葉に、周囲の亜人族達だけでなく、カム達ハウリアも驚愕の表情を浮かべた。虎の亜人を筆頭に、猛烈に抗議の声があがる。それも当然だろう。かつて、フェアベルゲンに人間族が招かれたことなど無かったのだから。

 

「彼等は、客人として扱わねばならん。その資格を持っているのでな。それが、長老の座に就いた者にのみ伝えられる掟の一つなのだ」

 

 アルフレリックが厳しい表情で周囲の亜人達を宥める。

 

「いや、勝手に決めないでくれないか? 俺らは大樹に用があるのであって、フェアベルゲンに興味はない。問題ないなら、このまま大樹に向かわせてもらう」

「いや、お前さん。それは無理だ」

「なんだと?」

 

 あくまで邪魔する気か? と身構える……が、むしろアルフレリックの方が困惑したように返した。

 

「大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ。……亜人族なら誰でも知っているはずだが……」

 

 アルフレリックは、「今すぐ行ってどうする気だ?」と俺を見たあと、案内役のカムを見た。聞かされた事実にポカンとした後、アルフレリックと同じようにカムを見た。そのカムはと言えば……

 

「あっ」

 

 まさに、今思い出したという表情をしていた。

 

「カム?」

「あっ、いや、その何といいますか……ほら、色々ありましたから、つい忘れていたといいますか……私も小さい時に行ったことがあるだけで、周期のことは意識してなかったといいますか……」

 

 しどろもどろになって必死に言い訳するカムだったが、ハジメのジト目に耐えられなくなったのか逆ギレしだした。

 

「ええい、シア、それにお前達も! なぜ、途中で教えてくれなかったのだ! お前達も周期のことは知っているだろ!」

「なっ、父様、逆ギレですかっ! 私は、父様が自信たっぷりに請け負うから、てっきりちょうど周期だったのかと思って……つまり、父様が悪いですぅ!」

「そうですよ、僕たちも、あれ? おかしいな? とは思ったけど、族長があまりに自信たっぷりだったから、僕たちの勘違いかなって……」

「族長、何かやたら張り切ってたから……」

 

 逆ギレするカムに、シアが更に逆ギレし、他の兎人族達も目を逸らしながら、さり気なく責任を擦り付ける。

 

「お、お前達! それでも家族か! これは、あれだ、そう! 連帯責任だ! 連帯責任! 零斗殿、罰するなら私だけでなく一族皆にお願いします!」

「あっ、汚い! お父様汚いですよぉ! 一人でお仕置きされるのが怖いからって、道連れなんてぇ!」

「族長! 私達まで巻き込まないで下さい!」

「バカモン! 道中の、零斗殿の容赦のなさを見ていただろう! 一人でバツを受けるなんて絶対に嫌だ!」

「あんた、それでも族長ですか!」

 

 亜人族の中でも情の深さは随一の種族といわれる兎人族。彼等は、ぎゃあぎゃあと騒ぎながら互いに責任を擦り付け合っていた。情の深さは何処に行ったのか……流石、シアの家族である。総じて、残念なウサギばかりだった。

 

「ハァ……まぁ、一度目は許そう」

「ほ、ホントですか!?」

「でも……私は許さない! 絶対に!」

 

 一歩前に出たユエがスっと右手を掲げた。それに気がついたハウリア達の表情が引き攣る。

 

「まっ、待ってください、ユエさん! やるなら父様だけを!」

「はっはっは、何時までも皆一緒だ!」

「何が一緒だぁ!」

「ユエ殿、族長だけにして下さい!」

「僕は悪くない、僕は悪くない、悪いのは族長なんだ!」

 

 喧々囂々と騒ぐハウリア達に薄く笑い、ユエは静かに呟いた。

 

「〝嵐帝〟」

 

 天高く舞い上がるウサミミ達。樹海に彼等の悲鳴が木霊する。同胞が攻撃を受けたはずなのに、アルフレリックを含む周囲の亜人達の表情に敵意はなかった。むしろ、呆れた表情で天を仰いでいる。彼等の表情が、何より雄弁にハウリア族の残念さを示していた。

 

「おお〜飛んだなぁ」

「……汚ぇ花火だ」

 

 ──────────────────────────

 

 濃霧の中を虎の亜人ギルの先導で進む。

 

 行き先はフェアベルゲンだ。俺達を囲うようにハウリア族、そしてアルフレリックを中心に周囲を亜人達で固めて既に一時間ほど歩いている。どうやら、先のザムと呼ばれていた伝令は相当な駿足だったようだ。

 

 しばらく歩いていると、突如、霧が晴れた場所に出た。晴れたといっても全ての霧が無くなったのではなく、一本真っ直ぐな道が出来ているだけで、まるで霧のトンネルのような場所だ。よく見れば、道の端に誘導灯のように青い光を放つ拳大の結晶が地面に半分埋められている。そこを境界線に霧の侵入を防いでいるようだ。結晶に注目していることに気が付いたのかアルテナが解説を買って出てくれた。

 

「あれは、フェアドレン水晶というものです。あれの周囲には、何故か霧や魔物が寄り付きません。フェアベルゲンも近辺の集落も、この水晶で囲んでいます。でも、魔物の方は"比較的"という程度ですけどね」

「なるほど。そりゃあ、四六時中霧の中じゃあ気も滅入るだろうしな。住んでる場所くらい霧は晴らしたいよな」

 

 どうやら樹海の中であっても街の中は霧がないようだ。十日は樹海の中にいなければならなかったので朗報である。皆、霧が鬱陶しそうだったので、俺とアルテナの会話を聞いてどことなく嬉しそうだ。

 

 眼前に巨大な門が見えてきた。太い樹と樹が絡み合ってアーチを作っており、其処に木製の十メートルはある両開きの扉が鎮座していた。天然の樹で作られた防壁は高さが最低でも三十メートルはありそうだ。亜人の"国"というに相応しい威容を感じる。

 

 ギルが門番と思しき亜人に合図を送ると、ゴゴゴと重そうな音を立てて門が僅かに開いた。周囲の樹から視線が突き刺さる。

 

「警戒されてんなぁ……」

「仕方ないでしょ、一悶着あったんだし。それに僕達みたいな人間が招かれている事に動揺してるみたいだし」

 

 門をくぐると、そこは別世界だった。直径数十メートル級の巨大な樹が乱立しており、その樹の中に住居があるようで、ランプの明かりが樹の幹に空いた窓と思しき場所から溢れている。人が優に数十人規模で渡れるであろう極太の樹の枝が絡み合い空中回廊を形成している。樹の蔓と重なり、滑車を利用したエレベーターのような物や樹と樹の間を縫う様に設置された木製の巨大な空中水路まであるようだ。樹の高さはどれも二十階くらいありそうである。

 

 ハジメとユエがポカンと口を開け、オスカーは目を見開き、エトは頬を紅潮させ目が輝いていた。俺も思わず感嘆の声を漏らしていた。その美しい街並みに見蕩れていると、ゴホンッと咳払いが聞こえた。どうやら、気がつかない内に立ち止まっていたらしくアルフレリックが正気に戻してくれたようだ。

 

「ふふ、どうやら我らの故郷、フェアベルゲンを気に入ってくれたようだな」

 

 アルフレリックの表情が嬉しげに緩んでいる。周囲の亜人達やハウリア族の者達も、どこか得意げな表情だ。

 

「ええ、自然と調和した見事な街ですね」

「ん……綺麗」

「ゲームの参考資料に何枚か写真撮って行こう」

 

 掛け値なしのストレートな称賛に、流石に、そこまで褒められるとは思っていなかったのか少し驚いた様子の亜人達。だが、やはり故郷を褒められたのが嬉しいのか、皆、ふんっとそっぽを向きながらもケモミミや尻尾を勢いよくふりふりしている。

 

「貴方はどう思います?」

 

 街の景観に見惚れていた俺にアルテナが話を振って来た。

 

「ん? あぁ、こんな綺麗な街を見たのは始めてだ。空気も美味い。自然と調和した見事な街だな。それに住人の皆が笑顔で幸せいっぱいって顔だ……本当にいい街だよ、ここは」

 

 率直に感想を伝える。アルテナもここまで惚れ込んでくれるとは思っておらず、少し驚いている。周りの亜人族は隠すのをやめて、俺に向けて「そうだろうそうだろう」と頷いてケモミミや尻尾をフリフリしている。

 

 俺達は、フェアベルゲンの住人に好奇と忌避、困惑と憎悪といった様々な視線を向けられながら、アルフレリックが用意した場所に向かった。

 

 ────────────────────────

 

「……なるほど。試練に神代魔法、それに神の盤上か……」

 

 現在、俺とアルフレリックと向かい合って話をしていた。ハジメ達はアルテナと別の机で談話していた。俺とアルフレリックが話していた内容は、ノイントやオスカー、レリア……だったかな? から得た情報だ。そして、自分が異世界の人間であり七大迷宮を攻略すれば故郷へ帰るための神代魔法が手に入るかもしれないこと等だ。

 

 アルフレリックは、この世界の神の話を聞いても顔色を変えたりはしなかった。

 

「……顔色1つ変えないんだな、てっきり絶望するかと思っていたが」

「この世界は亜人族に優しくはない、今更だ」

「ククク……そうかい」

 

 神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい。聖教教会の権威もないこの場所では信仰心もないようだ。あるとすれば自然への感謝の念だそうだ。

 

 話を聞いたアルフレリックは、フェアベルゲンの長老の座に就いた者に伝えられる掟を話した。それは、この樹海の地に七大迷宮を示す紋章を持つ者が現れたらそれがどのような者であれ敵対しないこと、そして、その者を気に入ったのなら望む場所に連れて行くことという何とも抽象的な口伝だった。

 

【ハルツィナ樹海】の大迷宮の創始者リューティリス・ハルツィナが、自分が〝解放者〟という存在である事(解放者が何者かは伝えなかった)と、仲間の名前と共に伝えたものなのだという。フェアベルゲンという国ができる前からこの地に住んでいた一族が延々と伝えてきたのだとか。最初の敵対せずというのは、大迷宮の試練を越えた者の実力が途轍もないことを知っているからこその忠告だ。

 

 そして、オルクスの指輪の紋章にアルフレリックが反応したのは、大樹の根元に七つの紋章が刻まれた石碑があり、その内の一つと同じだったからだそうだ。

 

「なら、俺達は資格がある……てだけか」

 

 話を詰めようとしたその時、何やら階下が騒がしくなった。ハジメ達のいる場所は、最上階にあたり、階下にはシア達ハウリア族が待機している。どうやら、彼女達が誰かと争っているようだ。

 

「……一度休憩を挟まないか?」

「そうするとしよう」

 

 階下では、大柄な熊の亜人族や虎の亜人族、狐の亜人族、背中から羽を生やした亜人族、小さく毛むくじゃらのドワーフらしき亜人族が剣呑な眼差しで、ハウリア族を睨みつけていた。部屋の隅で縮こまり、カムが必死にシアを庇っている。シアもカムも頬が腫れている事から既に殴られた後のようだ。

 

 階段から降りてくると、彼等は一斉に鋭い視線を送った。熊の亜人が剣呑さを声に乗せて発言する。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

 必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の亜人だけでなく他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。

 

 しかし、アルフレリックはどこ吹く風といった様子だ。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

 中々、肝座ってんなこのおっちゃん。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

 いきり立った熊の亜人が突如、此方へ向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

「温い……殺意も持って攻撃したんだ……覚悟は出来てるだろうな?」

 

 指1本で止められたことに驚愕する熊の亜人。驚愕の表情を浮かべながらも危機感を覚え、必死に距離を取ろうとする熊の亜人。

 

「ぐっう! 何故動けん!」

「そりゃ……縛ってるからな」

 

 繰糸で亜人を縛り上げ、拘束した状態にする。

 

「とりあえずは話でもしようや」

「ふざけているのか?」

「いいや? 至って真面目だ……ただお前達亜人族に忌み子についての話に興味があるだけだ」

「ふん! そんな事を話してなんに(バギィ)!?」

「うるせぇよ、黙って聞いてろ」

 

 熊の亜人の指の骨を1本折り無理やり黙らせる。

 

「なぁ、お前ら亜人族は同胞……なんだろ? それを「忌み子」「悪魔の子」などと言って貶めて、未来ある若者を殺して。お前は子どもに何かあれば簡単に手をかけるのか? その子を愛しく育てた者も、その子を好きになった恋人も、その子の兄、姉、妹、弟も殺すのか?」

「そんな事はするものか!」

「しないって? なら何故ハウリア族を殺そうとした? 結局の所お前は気に入らなければ殺すだけの醜い獣だろう?」

「グッ……」

「所詮は獣は獣だな……くだらん」

 

 熊の亜人の拘束を解く。そしてソイツの頭を掴み魔術を掛ける。

 

「自分がどれだけ愚かだったか思い知るといい」

 バタン! 「……」

「ジン!」

「殺しはしてないぞ、悪夢を見せているだけだ」

 

 悪夢の内容は、自分の最も大切な者が忌み子であり、その子が目の前で殺される……という内容だ。

 

「アルフレリック、彼奴が目覚めるまで時間がある。少し話さないか?」

「あぁ、いいだろう」

「ハジメ達はここに残っててくれ」

 

 アルフレリックと上の階まで戻り、情報交換を行う。

 

 




牛タン食べたい。


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とある少女達の決意

「よいしょと、(-ω-ゞアイお馴染みの零斗でーす」
「アルフレリックだ」
「アルテナです」

「さて、前回はフェアベルゲンに着いたな、そんでアルフレリックとの話し合いだったな」
「……その後の事は申し訳無い」
「私からも、すみませんでした」
「別にいいさ、だから頭を上げてくれ」

「と、気を取り直し……今回はハウリア族の話がメインだ」
「楽しんでいってください」

「「「とある少女達の決意!」」」


 Side 零斗

 

 アルフレリックと共に階上まで戻り、中断していた話し合いを再開した……が中断する前にほぼほぼ終わっていたので特に重要な事は無いので、適当な雑談をしていた。

 

「ハッハッハッ!! 久しぶりだな、こんなに気分がいいのは!」

「おいおい……その酒そんなガバガバ呑むもんじゃねぇぞ」

 

 途中で酒を交えながら話していたのだが、大分強めの酒を呑んでいたのでアルフレリックが完全に出来上がってしまっている。こりゃ面倒事が起きそうだなぁ……

 

 ガチャ「少し良いか?」

「おお! ジンか! お前も飲まんか?」

 

 扉が開き、先程悪夢を見せていたジンが入ってきた。その顔に覇気は無く、後悔と自責の念が感じ取れる。

 

「い、いや。今はいい」

「……自分達がどれだけ愚かだったか分かったか?」

「あぁ……嫌という程思い知ったさ」

 

 俯き呟くように話すジン。

 

「カム達には謝ったのか?」

「あぁ」

「なら、俺から言うことは何も無い……下の長老達も呼んできて酒でも呑もうぜ」

「……そうさせて貰おう」

 

 下の階から他の長老を呼び、晩酌を開始した。

 

 

 ────────────────────────

 

「「「ワッハッハッハ!」」」

「グゴォォォ……」

「ヒック……」ポロポロ

 

 開始10分程で長老全員が完全に出来上がってしまっている。ジンは早々に寝ちまうし、狐人族のルア、土人族(俗に言うドワーフ)のグゼは絡み酒だし、翼人族のマオは泣き上戸だし、虎人族のゼルはうるさいし……もうヤダこの酔っ払い共。

 

「……全員酒弱いのな」

「そら、零斗! お前さん呑め!」

 

 アルフレリックがウォッカに似た酒を渡してくる。ハァ……こういうのは慣れないな。

 

「アルフレリック」

「どうした? ツマミでも無くなったか?」

「あぁ、そろそろ無くな……違くて」

「?」

 

 ずっと気になっていた事をアルフレリックに聞く。

 

「この国ではいつから魔力持ちを殺す様になったんだ?」

「「「「……」」」」

「答えずらいならいいが……」

「いや、大丈夫だ。そうだな……何時からは正確に憶えていないが……魔力持ちの亜人が暴走してな、国が滅びかけた時……だろうか?」

「その時はどうやって止めたんだ?」

「外のから来た何者かが暴走した魔力持ちを殺したのだ」

 

 国が滅びかけるほどの強化な力を持った奴を殺した? 何者だよ……

 

「見た目とか憶えてるか?」

「……両者とも仮面とローブを付けたいたからな、よく分からなかったよ」

 

 うーん? すっごい嫌な予感がするぞぉ。

 

「……その子たち互いを『姉さん』『兄さん』て呼んでなかったか?」

「あぁ、その様に呼び合っていたな……だが何故(ゴンッ!)ど、どうした!?」

 

 思い切り机に頭を叩き付けてしまった。なんで彼奴らがここに……嫌そうだわ、全員居るんだったな。

 

「……ナンデモナイデス」

「そ、そうか」

(───! ────!)ギャーキャー! 

「ん? 下の方が騒がしいな……またトラブルか?」

「その様だな」

 

 ジン達をその場に残し、下の階へ行く。

 

「私もハジメ様の旅へついて行きます!」

 

 ん? アルテナちゃん? 

 

「……いい度胸」

「誰か助けて……」

 

 縛り上げ上げられているハジメに、背後にスタ〇ドを召喚しているユエに、それを面白そうに見ているオスカーに、怯えるだけのハウリア族……なんだこのカオスな現状。

 

「あーとりあえず全員落ち着け……と言うかどうしてこんな事になったのか説明をしろ」

「えぇっと……」

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 零斗達が上の階に戻ってから5分近く経った。

 

「ッ!? ……ハァ、ハァ」

「ジン! 大丈夫か!?」

「あぁ……大丈夫だ。それよりあの者は何処へ?」

「アルフレリックと共に上の階に戻って行った」

「そうか……」

 

 ジンの顔色は蒼白で、零斗に殴り掛かった時とは違い覇気が無い。

 

「カム、シア。先程は済まなかった!」

「え?」

「……あの者に見せられた物で俺は自分がどれだけ愚かだったか理解した。本当に済まなかった……」

 

 他の亜人達は「正気か! ジン!」とか「お前も裏切るのか!?」等と罵詈雑言を浴びせられている。

 

「……貴様らは自分の子が他の者から忌み子と呼ばれ処刑されてもいいと言うのだな? 俺はそんな事はゴメンだ……あんな地獄、いや、そんな言葉では生温いほどの悪夢を俺はもう見たくない!」

「「「「ッ!!」」」」

 

 ジンの言葉によって押し黙ってしまう長老達。自分達のやってきた事がどれだけ残酷だったかを理解している様だ。

 

「俺はあの者に……零斗に謝罪をして来る」

 

 そう言って階段を上がっていく。

 

「……だがハウリア族の処刑は覆す事は出来ない、長老会議で下された事は覆せないのだ……すまない」

「どういう……事ですか?」

「長老様方! どうか、どうか一族だけはご寛恕を! どうか!」

「シア! 止めなさい! 皆覚悟は出来ている。お前には何の落ち度もないのだ。そんな家族を見捨ててまで生きたいとは思わない。ハウリア族の皆で何度も何度も話し合って決めたことなのだ。お前が気に病む必要はない」

「でも、父様!」

 

 土下座しながら必死に寛恕を請うシアだったが、ゼルの言葉に容赦はなかった。……アルテナさんは泣きそうな顔でシアを見ている。

 

「既に決定したことだ。ハウリア族は全員処刑する。フェアベルゲンを謀らなければ忌み子の追放だけで済んだかもしれんのにな……」

 

 ワッと泣き出すさん。それをカム達は優しく慰めた。長老会議で決定したというのは本当なのだろう。他の長老達も何も言わなかった。

 

「ハジメ殿、今なら他の種族達が案内をするが……」

 

 申し訳無さそうに提案をするゼル。他の長老衆も異論はないようだ。

 

「俺達の案内役はハウリア族です。そういう契約ですから」

「な!?」

 

 シア達を助ける代わりに樹海の案内役を頼んだのは変わらない。スっと伸ばした手を泣き崩れているシアの頭に乗せた。ピクッと体を震わせ、ハジメを見上げるシア。

 

「俺から、こいつらを奪うのなら……覚悟を決めろ」

「ハジメさん……」

 

 慣れない口調のせいか少々顔の赤いハジメ。威圧目的でやっている様だが……威圧感がまるで無い。それでも、ハウリア族を死なせないために亜人族の本拠地フェアベルゲンとの戦争も辞さないという言葉は、その意志は、絶望に沈むシアの心を真っ直ぐに貫いた…………それを物凄く羨ましそうな顔で、アルテナが見ている! 

 

「本気かね?」

 

 長老達が誤魔化しは許さないとばかりに鋭い眼光でハジメを射貫く。

 

「当然だ」

 

 しかし、全く揺るがないハジメ。そこに不退転の決意が見て取れる。世界に対して自重しない、邪魔するものには妥協も容赦もしない。それが零斗から教わった教訓だ。

 

「フェアベルゲンから案内を出すと言ってもか?」

 

 ハウリア族の処刑は、長老会議で決定したことだ。それを、言ってみれば脅しに屈して覆すことは国の威信に関わる。今後、ハジメ達を襲うかもしれない者達の助命を引き出すための交渉材料である案内人というカードを切ってでも、長老会議の決定を覆すわけにはいかない。故に、クゼは提案した。しかし、ハジメは交渉の余地などないと言わんばかりにはっきりと告げる。

 

「何度言わせる気だ? 俺達の案内人はハウリアだ」

「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

「約束したからな。案内と引き換えに助ける……と」

「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」

「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束だ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんて……」

 

 一度言葉を切り、獰猛なな笑みを浮かべるハジメ。

 

「格好悪いだろ?」

 

 闇討ち、不意打ち、騙し討ち、卑怯、卑劣に嘘、ハッタリ。殺し合いにおいて、これらを悪い事では無い。ハジメは生き残るために必要なら何の躊躇いもなく実行して見せるだろう。

 

「あぁ〜かっこよく決めてるとこ悪いんだが……長老達に用があるんだがいいか?」

 

 ロボットの様な動いで振り向くハジメ。

 

「……聴いてた?」

「バッチリとな」

「……どの辺から?」

「『俺から、コイツらを』って所から」

「最初からじゃん……記憶て殴れば消えるよね?」

 

 拳を握り、構えを取るハジメ。

 

「大丈夫、痛いのは一瞬だから……とりあえずオレハキサマヲムッコロス!」

「ところがぎっちょん!」

 

 ハジメの鉄拳を躱し、長老達を掻っ攫う零斗。

 

「クソ!」

「あ、あの、私達……死ななくていいんですか?」

「? さっきの話聞いてなかったの?」

「い、いえ、聞いてはいましたが……その、何だかトントン拍子で窮地を脱してしまったので実感が湧かないといいますか……信じられない状況といいますか……」

 

 周りのハウリア族も同様なのか困惑したような表情だ。それだけ、長老会議の決定というのは亜人にとって絶対的なものなのだろう。どう処理していいのか分からず困惑するシアにユエが呟くように話しかけた。

 

「……素直に喜べばいい」

「ユエさん?」

「……ハジメに救われた。それが事実。受け入れて喜べばいい」

「……」

 

 ユエの言葉に、シアはそっと隣を歩くハジメに視線をやった。ハジメは前を向いたまま肩を竦める。

 

「えっと……その……約束だから」

「ッ……」

 

 シアは、肩を震わせる。樹海の案内と引き換えにシアと彼女の家族の命を守る。シアが必死に取り付けた零斗達との約束だ。

 

 

 

 先程、一度高鳴った心臓が再び跳ねた気がした。顔が熱を持ち、居ても立ってもいられない正体不明の衝動が込み上げてくる。それは家族が生き残った事への喜びか、それとも……

 

 シアは、ユエの言う通り素直に喜び、今の気持ちを衝動に任せて全力で表してみることにした。すなわち、ハジメに全力で抱きつく! 

 

「ハジメさ~ん! ありがどうございまずぅ~!」

「どわっ!? いきなり何!?」

「むっ……」

 

 泣きべそを掻きながら絶対に離しません! とでも言う様にヒシッとしがみつき顔をグリグリとハジメの肩に押し付けるシア。その表情は緩みに緩んでいて、頬はバラ色に染め上げられている。それを見たユエが不機嫌そうに唸るものの、何か思うところがあるのか特に何もしなかった。喜びを爆発させハジメにじゃれつくシアの姿に、ハウリア族の皆もようやく命拾いしたことを実感したのか隣同士で喜びを分かち合っている。

 

 とそんな中、

 

「私もハジメ様達に付いていきます!!!」

 

 そんな声が辺りに響いた。発信元は、アルテナである。上の階から零斗が降りてきて頭を抱えながら状況の説明を求めた。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

「これが事の顛末です…… 」

「…………」

 

 頭痛くなってきたわ……やっぱりハジメって女たらしだよなぁ。

 

「ア、アルテナ? 何を言っているんだ?」

「「「アルテナ様!?」」」

 

 アルフレリックも他の長老達も動揺している。

 

「私は、今回の長老会議の場の話合いを見てフェアベルゲンや長老衆やお祖父様、貴方達に愛想が尽きましたわ。だってそうでしょう? このハルツィナ樹海を作ったとされる解放者リューティリス・ハルツィナ様の口伝を無視して、長老自らハジメ様達に敵対する意思を示す始末。更には、同じ亜人族であり同胞であるはずのシアさん達ハウリア族を処刑するだなんて言って……更にハジメ様達の怒りを買おうとする。今まで皆様にも伝えてませんでしたが、私も魔力を持っていますわ? 固有魔法は持っておりませんけど……だからハジメ様達に付いていきますわ。それとも私もシアさん達のように長老会議にかけて処刑します?」

 

 ……この嬢ちゃん、見所があるな。

 

「「「「「……」」」」」

 

 何か言えよ……反論の余地も無いか。

 

「嬢ちゃん……啖呵切るのはいいが、俺らが拒否したらどうする気だ?」

「無理やりにでも付いて行きます!」

「……お前を奴隷商に売り飛ばす可能性だってあるんだぞ?」

「それでも構いません」

 

 頑固と言うか……意地っ張りと言うか……こりゃどんな手を使っても動く気がねぇな。

 

「旅に同行するのは良いが、それなりの実力は付けて貰うぞ?」

「ハイ!」

「シア、お前だ。付いて来たいのなら、先ずは実力を付けろ。話はそれからだ」

「は、ハイ!」

 

 




アルテナちゃんはハジメのヒロインになります。これが年内最後の投稿です。それでは良いお年を……


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2人の訓練

「よいしょと、ハイ_( ┐ノε:)ノお馴染みの零斗さんでーす」
「シアです!」
「アルテナです」

「さて、前回は長老達との飲みニケーションと2人の決意表明だったな」
「内心ドキドキでしたよぉ……断られたとしても無理やりにでも付いて行きますけどね」
「私も同じ心構えです」
「へぇへぇ、そうですか」

「今回は2人の訓練だ」
「「楽しんでいってください!」」

「「「2人の訓練!」」」


 Side 零斗

 

「零斗殿! 私達を強くしてください!」

「は?」

 

 ハウリア族の処刑に関してだが俺の奴隷として扱う事になったので解決して、これからどうしようかと思案していた時にカムがそんな事を言い出した。

 

「いや、何故?」

「私達は弱くそれを理由に逃げていました。あと少しで大事な娘がいなくなるところでした。そんな思いはもうしたくないのです! お願いします! どうか私達を強くしていただけませんか!!」

 

 カムが地面に頭を擦り付けて懇願してくる。鍛えるのは別にいいんだが……アルテナとシアの方も見なきゃだからなぁ……ハジメとエトに任せるか。

 

「ハジメ、エト。カム達の訓練任せていいか?」

「私は構いませんが……ハジメ君、貴方は?」

「自信はないけどやってみるよ」

「ありがとうございます!」

 

 よし、話は纏まったな……シアとアルテナ用の訓練のメニュー考えないとな。

 

「本格的な訓練は明日「少し待ってくれ!」ん?」

「私達もその訓練に参加させてくれないか?」

「ジンか……大丈夫か?」

「大丈夫です」

 

 エトの了承も取り、熊の亜人達も訓練に参加する事になった。

 

 ─────────10日後──────────

 

 ハジメとエトにカム達の訓練を任せて、俺はアルテナとシアの訓練に取り掛かっている。一応ハジメ達とは離れた所で訓練をしている。今日で10日が経ったがいい仕上がりになってきた。今は2on1で訓練している。俺はハンデとして視界と聴覚を塞いでいる。

 

 ズガンッ! バキッバキッバキッ! ドッシャ! ヒュン! 

 

 樹海の中、凄まじい破壊音と風を切るような音が響く。野太い樹が幾本も半ばから折られ、地面には隕石でも落下したかのようなクレーターがあちこちに出来上がっており、矢もあちらこちらに刺さっている。更には炭化した丸太やズタズタになっている丸太が点在している。

 

 この多大な自然破壊はたった二人の女の子によってもたらされた。そして、その破壊活動は現在進行形で続いている。

 

「でぇやぁああ!!」

 

 裂帛の気合とともに撃ち出されたのは直径一メートル程の樹だ。半ばから折られたそれは豪速を以て目標へと飛翔する。確かな質量と速度が、唯の樹に凶悪な破壊力を与え、道中の障害を尽く破壊しながら目標を撃破せんと突き進む。

 

「温い!」バキィ! 

 

 真正面から投擲された丸太を両断し、シアを仕留める為に踏み込む。

 

「そこです!」ヒュパン! 

「!?」

 

 踏み込もうとした時にアルテナによる援護が入り、足を止めるハメになった。

 

「そこですぅ!」ドパァン! 

「チッ!」ガキィン! 

 

 シアに貸し出したショットガンによる追撃と霧を利用した撹乱でシアとアルテナを見失った。

 

「……先ずは1人!」バシッ! 

 ドサ……「な!?」

 

 アルテナは直ぐに見つける事が出来たので縛り上げたがシアの気配だけが掴めずにいた。

 

「もらいましたぁ!」

「ッ!」

 

 その時には既に影が背後に回り込んでいた。即席の散弾を放った後、見事な気配断ちにより再び霧に紛れ奇襲を仕掛けたのだ。大きく振りかぶられたその手には超重量級の大槌が握られており、刹那、豪風を伴って振り下ろされた。

 

「ま、読めてるけどな」ゴキン! 

「ぶっつぶれよ!」ギギギギ……

「グッ……ラァ!」

 

 大槌の一撃により激烈な衝撃が大地を襲い爆ぜさせる。砕かれた石が衝撃で散弾となり四方八方に飛び散った。

 

「とったァ!」

「ふぎぅ!?」

 

 シアを捕え、ジャーマンスープレックスを喰らわせる。ふぅースッとしたぜぇ。

 

 ズボッ「うぅ~、そんな~、って、それ! 零斗さんの服! 破れてます! 私の攻撃当たってますよ! あはは~、やりましたぁ! 私達の勝ちですぅ!」

「マジ? 当たってたか……て事は合格だな」

「「やったぁ──!」」

 

 運動用の服の一部が破けていた。おそらく最後の石の礫が一つが掠ったんだろうな。本当に僅かな傷ではあるが、一本は一本だ。シア達の勝利である。シアは俺が埋めたせいで泥だらけだが満面の笑みである。アルテナも大喜びし、シアに抱き着いている。

 

「んじゃ、ハジメ達の方に行くか」

「そういえば今日が期日でしたね」

 

 そろそろ、ハジメのハウリア族への訓練も終わる頃だろう。ハジメ達がいるであろう場所へ向かう。

 

 

 ────────────────────────

 

「確かこの辺りに……お、いたいた。おーい、ハジメー」

「あ、零斗! 訓練はどうだった?」

「ハジメさん! ハジメさん! 聞いて下さい! 私、遂に零斗さんに勝ちましたよ! 大勝利ですよ! いや~、ハジメさんにもお見せしたかったですよぉ~、私の華麗な戦いぶりを! 負けたと知った時の零斗さんたらも(ゴチン!)へぶっ!?」

「調子に乗るなよ? 駄ウサギ……上々だ。視界と聴覚を塞いだ状態の俺の服の一部を裂いた」

「……え?」

 

 驚愕した様子でシアとアルテナを見る。

 

「そんなに驚く事ですか?」

「アルテナさん、僕でも一撃与えるのに2週間は掛かったんだよ? それを10日で……もう、バケモノの域だよ」

 

 ハイライトの消えた目で語るハジメ。しゃーないじゃん、強化細胞を慣らすのと能力制御を短期間で会得するにはハードトレーニングにしないと間に合わないんだもん。

 

「正直な所、シアの身体能力強化の度合いがヤバい」

「どのくらい?」

「素の状態のエトの1割で、強化なしのお前の3割くらい」

「……エッグ」

 

 強化細胞の適正も一応はあり、鏡花のL-Ⅱ型と相性が良いみたいだ。移植は本人の意思でやるつもりだ。

 

「アルテナは……強いて言うなら目が良いな。霧の中からでも確実に俺を認識して、矢を放ってくるし、気配の消し方もずば抜けてる。魔法は支援特化ではあるが上級魔法も使えるからそこそこの戦力になるだろうな」

 

 アルテナは魔法による支援とスナイパーライフルでの援護射撃がメインになるだろうが後衛が増えるのは大分嬉しいな。

 

「ハジメ、シアとアルテナが旅に同行する事に異議は無いか?」

「……無いけど、そこまでして付いて来たい理由が分からないだけど?」

 

 チラッとシア達の方に視線を向けるハジメ。シアとアルテナはもじもじとして、理由を言い淀んでいる。

 

「で、ですからぁ、それは、そのぉ……」

「な、なんと言いますか……」

「はよ、言えお転婆共」ドンッ

「「キャ!」」

 

 軽く背を押し、2人を前に立たせる。それでもまだ、モジモジしたまま中々答えないシア達にいい加減我慢の限界なので、ホルスターに手を掛ける。それを察したのかどうかは分からないが、シアが女は度胸! と言わんばかりに声を張り上げた。思いの丈を乗せて。

 

「ハジメさんの傍に居たいからですぅ! しゅきなのでぇ!」

「貴方を心の底から慕っているからです!」

「……え?」

 

 噛んじゃった! と、あわあわしているシアと顔を真っ赤にして声にならない悲鳴を上げるアルテナ。うーん初々しいねぇ。ハジメは豆鉄砲を喰らったようなポカンとしている。

 

「えっと……どうして?」

「……私は正直、一目惚れでした。凛々しいお姿に、細やかな気遣いに、シアさん達を庇った時の行動力……挙げればキリがない程です。私は全てを捧げて貴方に尽くしたいと思ったのです!」

 

 アルテナは自分の心の内をされけ出して一世一代の告白をした。甘いねぇ、ブラックコーヒーが欲しい。

 

「状況が全く関係ないとは言いません。窮地を何度も救われて、同じ体質で……長老方に啖呵切って私との約束を守ってくれたときは本当に嬉しかったですし……ただ、状況が関係あろうとなかろうと、もうそういう気持ちを持ってしまったんだから仕方ないじゃないですか。ハジメさんの真っ直ぐな姿勢、ハッキリとした言動、私達一族を救ってくれた時の威勢……貴方の行動全てに恋をしました」

 

 ……ねぇ、俺此処に居ていいのかな? 一応は樹の陰に退避したけどさ? さっきから砂糖吐きそうなんだけど。

 

「……付いて来たとしても応えてあげられませんよ?」

「知らないんですか? 未来は絶対じゃあないんですよ?」

 

 それは、未来を垣間見れるシアだからこその言葉。未来は覚悟と行動で変えられると信じている。

 

 

「危険だらけの旅だ」

「それでも問題ありません。化け物と呼ばれて事があって良かったです。御蔭で貴方について行けます」

 

 影で言われた蔑称。しかし、今はむしろ誇りだ。化物でなければ為すことのできない事があると知ったから。

 

「僕達の望みは故郷に帰ることです。もう家族とは会えないかもしれないですよ?」

「話し合いました。〝それでも〟です。父様達もわかってくれました」

「私もフェアベルゲンに未練はありません。貴方のいる場所が私の居場所ですから」

 

 今まで、ずっと守ってくれた家族。感謝の念しかない。何処までも一緒に生きてくれた家族に、気持ちを打ち明けて微笑まれたときの感情はきっと一生言葉にできないだろう。

 

「僕の故郷は、君達には住み難いところです」

「「何度でも言います。"それでも"です。父様達もわかってくれました」」

 

 シアとアルテナの想いは既に示した。そんな〝言葉〟では止まらない。止められない。これはそういう類の気持ちなのだ。

 

「……」

「ふふ、終わりですか? なら、私の勝ちですね?」

「勝ちってなんだよ……」

「私達の気持ちが勝ったという事ですよ。……ハジメさん」

「……何だ」

 

 もう一度、はっきりと。シア・ハウリアの……アルテナ・ハイピストの望みを。

 

「「……私も連れて行って下さい」」

 

 見つめ合うハジメとシア。ハジメは真意を確認するように蒼穹の瞳を覗き込む。

 

 そして……

 

「………………お好きどうぞ。歓迎しますよLady(お嬢さん)?」

 

 




あけましておめでとうございます。本年度もよろしくお願い致します。


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訓練の結果

「よいしょと、ハイヨォヾ(ω` )/お馴染みの零斗さんですよ」
「……ハジメです」
「シアです!」

「さて、前回はシアとアルテナの告白だったな」
「………………」
「えへへ…嬉しかったですよ!ハジメさん!」
「………うん」
「シア…それ以上言ってやるな」

「今回はカム達の訓練結果だ、楽しんで行ってくれ」

「「「訓練の結果!」」」


 Side 零斗

 

「えへへ、うへへへ、くふふふ~」

「うぅ……私はなんて事を言って……ふきゅう」プシュー

 

 同行を許されて上機嫌のシアはに雰囲気に呑まれて真正面から告白きたアルテナ。シアは奇怪な笑い声を発しながら緩みっぱなしの頬に両手を当ててクネクネと身を捩らせてた。一方で告白された本人は……

 

「あぅ……柄にもない事しちゃた……」

 

 顔を真っ赤にして、俯いている。最後の言葉がどうにもキザぽっいのが原因の様だ……俺としては面白かったから気にする必要は無いと思うんだが。

 

「ハジメさん、気にする必要はありませよ! かっこよかったですよ!」

「そうですよ、ハジメさん。とても勇ましいお姿でしたよ!」

「ククク……そうだぞ、ハジメ……クフ……面白じゃなくて……かっこよかったぞ……プクク」

「笑いが堪えられて無いぞぉ!零斗ォ!」ドパァン! 

「ちょ!?」

 

 怒り心頭と言った様子でドンナーを此方に発砲するハジメ。実弾だしよ、殺す気で? 

 

「ちょ、落ち着けって!」

「ウルセェ!シネェ!」ドルルルル

「ダァー!ヤメロー!」

 

 メツェライを撃とうするハジメを何とか宥めて、エト達が戻って来るまで待つことにした。

 

「そういや、ハウリア族の訓練の方はどうだ?」

「…………」

「どうした?」

 

 冷や汗を垂らしながら黙るハジメ。嫌な予感がするぞぉ! 

 

 

 

 

 

「ボス。お題の魔物、きっちり狩って来やしたぜ?」

「……は?」

 

 霧の向こうから筋骨隆々のウサミミを生やしたおっさんが現れた。2mはあるであろう体躯にミッチリと詰め込められた筋肉……すごく……大きいです。

 

「ボ、ボス? と、父様? 何だか口調が……というか雰囲気が……」

 

 父親の言動に戸惑いの声を発するシアをさらりと無視して、カム達は、この樹海に生息する魔物の中でも上位に位置する魔物の牙やら爪やらをバラバラと取り出した。

 

「僕達は一体で良いて言った筈なんだけど……」

 

 ハジメとエトの課した訓練卒業の課題は上位の魔物を一チーム一体狩ってくることだ。しかし、眼前の剥ぎ取られた魔物の部位を見る限り、優に十体分はある。ハジメの疑問に対し、カム達は不敵な笑みを持って答えた。

 

「ええ、そうなんですがね? 殺っている途中でお仲間がわらわら出てきやして……生意気にも殺意を向けてきやがったので丁重にお出迎えしてやったんですよ。なぁ? みんな?」

「そうなんですよ、ボス。こいつら魔物の分際で生意気な奴らでした」

「きっちり落とし前はつけましたよ。一体たりとも逃してませんぜ?」

「ウザイ奴らだったけど……いい声で鳴いたわね、ふふ」

「見せしめに晒しとけばよかったか……」

「まぁ、バラバラに刻んでやったんだ、それで良しとしとこうぜ?」

 

 不穏な発言のオンパレードだった。全員、元の温和で平和的な兎人族の面影が微塵もない。ギラついた目と不敵な笑みを浮かべたままハジメに物騒な戦闘報告をする。

 

 それを呆然と見ていたシアは一言……

 

「……誰?」

 

 

 ────────────────────────

 

「ど、どういうことですか!? ハジメさん! 父様達に一体何がっ!?」

「ごめんなさい、ごめんなさい……オスカーさんとエトさんの訓練でこうなりました。ごめんなさい」

「いやいや、何をどうすればこんな有様になるんですかっ!?完全に別人じゃないですかっ! ちょっと、目を逸らさないで下さい!こっち見てください!」

 

 顔を真っ青にして謝るハジメに、そんなハジメの胸ぐらを掴み揺さぶるシアに、変異してしまったハウリア族を見て白目を向いて倒れているアルテナ……カオス過ぎねぇか? 

 

 ハウリア族の後ろには訓練に参加していたのであろう他の亜人達がいる。皆、「メンタルケアしておけば良かった……」と頭を抱えている。

 

「目を逸らさないでください! 見て下さい。彼なんて、さっきからナイフを見つめたままウットリしているじゃないですか! あっ、今、ナイフに〝ジュリア〟って呼びかけた! ナイフに名前つけて愛でてますよっ! 普通に怖いですぅ~」

 

 樹海にシアの焦燥に満ちた怒声が響く。一体どうしたんだ? と分かってなさそうな表情でシアとハジメのやり取りを見ているカム達。先ほどのやり取りから更に他のハウリア族も戻って来たのだが、その全員が……何というか……ワイルドになっている。男衆だけでなく女子供、果ては老人まで。

 

 シアは、そんな変わり果てた家族を指差しながらハジメに凄まじい勢いで事情説明を迫っていた。ハジメはというと、どことなく気まずそうに視線を逸らしながらも、のらりくらりとシアの尋問を躱わしている。

 

 埒があかないと判断したのか、シアの矛先がカム達に向かった。

 

「父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしいことばかり……正気に戻って下さい!」

 

 縋り付かんばかりのシアにカムは、ギラついた表情を緩め前の温厚そうな表情に戻った。それに少し安心するシア──だが……

 

「何を言っているんだ、シア? 私達は正気だ。ただ、この世の真理に目覚めただけさ。ボスのおかげでな」

「し、真理? 何ですか、それは?」

 

 嫌な予感に頬を引き攣らせながら尋ねるシアに、カムはにっこりと微笑むと胸を張って自信に満ちた様子で宣言した。

 

「この世の問題の九割は暴力で解決できる」

 

 やはりBuster(暴力)……!!Buster(暴力)は全てを解決する……!(思考放棄) 

 

「やっぱり別人ですぅ~! 優しかった父様は、もう死んでしまったんですぅ~、うわぁ~ん」

「とりあえず、ハジメ……どんな風に鍛えたんだ?」

「えっと……」

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 零斗がシアとアルテナと共にハジメ達と別れた後、ハウリア族+αの訓練が始まった。が1つ問題が起きた、ハウリア族以外の者達はハジメ達の課した課題をキッチリとこなしているのだが……

 

 魔物の一体に、ハジメ特製の小太刀が突き刺さり絶命させる。

 

「ああ、どうか罪深い私を許しくれぇ~」

 

 それをなしたハウリア族の男が魔物に縋り付く。まるで互いに譲れぬ信念の果て親友を殺した男のようだ。

 

 そして、また一体魔物が切り裂かれて倒れ伏す。

 

「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ! それでも私はやるしかないのぉ!」

 

 首を裂いた小太刀を両手で握り、わなわな震えるハウリア族の女。まるで狂愛の果て、愛した人をその手で殺めた女のようだ。

 

 瀕死の魔物が、最後の力で己を殺した相手に一矢報いる。体当たりによって吹き飛ばされたカムが、倒れながら自嘲気味に呟く。

 

「ふっ、これが刃を向けた私への罰というわけか……当然の結果だな……」

 

 ずっと、この調子なのである。ハウリア族の性質を考えると仕方のない事なのだろうがこれは『仕方ない』の一言で片付けられる様な事では無い。

 

 エトは我慢の限界に達してきており、殺気が少し漏れている。それにより他の亜人達は少し震えながら訓練しているのである。

 

「あぅ! いててて……」

「君、大丈夫?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、うん。このお花さんを踏みそうになって……よかった。気がつかなかったら、潰しちゃうところだったよ。こんなに綺麗なのに、踏んじゃったら可愛そうだもんね」

「はい?」

 

 ハジメの頬が引き攣る。

 

「お、お花さん?」

「うん! ハジメ兄ちゃん! 僕、お花さんが大好きなんだ! この辺は、綺麗なお花さんが多いから訓練中も潰さないようにするのが大変なんだ~」

 

 ニコニコと微笑むウサミミ少年。周囲のハウリア族達も微笑ましそうに少年を見つめている。

 

 後ろでエトとオスカーの表情が消え、ゆらりと立ち上がる。

 

「……時々、貴方達が妙なタイミングで跳ねたり移動したりするのは……その『お花さん』とやらが原因ですか?」

 

 エトの言う通り、訓練中、ハウリア族は妙なタイミングで歩幅を変えたり、移動したりするのだ。気にはなっていたのだが、次の動作に繋がっていたので、それが殺りやすい位置取りなのかと様子を見ていたのだが。

 

「いえいえ、まさか。そんな事ありませんよ」

「「はは、そうですよね」」

 

 苦笑いしながらそう言うカムに少し頬が緩むオスカーとエト。しかし……

 

「ええ、花だけでなく、虫達にも気を遣いますな。突然出てきたときは焦りますよ。何とか踏まないように避けますがね」

 

 カムの言葉に再度エト達の表情が抜け落ちる。幽鬼のようにゆら~りゆら~りと揺れ始めるエトに、何か悪いことを言ったかとハウリア族達がオロオロと顔を見合わせた。エトは、そのままゆっくり少年のもとに歩み寄ると、一転して慈愛に満ちた笑顔を見せる。少年もにっこりと微笑む。

 

 そして……

 

 スパァン! 「…………(ゴォオオォ!)」

「お、お花さぁーん!」

 

 無言で花を斬り飛ばして、オスカーが舞った花を焼き尽くす。

 

「え、エト殿!? 一体何を──」

「口を閉じなさい。この家畜以下の"ピ────"共」

「「「っ!?」」」

 

 エトの地を這う様な声にビビり散らかすハウリア族。エト様……ご乱心になります。

 

「……私が間違っていました。貴方達という種族を見誤った私の落ち度です。ハハ、まさか生死がかかった瀬戸際で〝お花さん〟だの〝虫達〟だのに気を遣うとは……貴様らは戦闘技術とか実戦経験とかそれ以前の問題です。もっと早くに気がつくべきでした。自分の未熟に腹が立ちます……フフフ」

 

 エトがスゥーと1呼吸置いて言う。

 

「貴様らは薄汚い"ピ──"共だ! この先、されたくなかったら死に物狂いで魔物を殺せ! 今後、花だの虫だのに僅かでも気を逸らしてみなさい! 貴様ら"ピ────"全員してやる! わかったら、さっさと魔物を狩りに行って来なさい! この"ピ────────"共が!」

「「「「は、はいィ!」」」」

 

 エトは放送禁止用語を言いまくり、その手には愛銃の"ペネトレーション"が握られている。それをハウリア族目掛けて乱れ打ちしていた。(実弾で)

 

 オスカーがそれから他の亜人族の方に向いて叫んだ。

 

「貴様らも行ってこい! "ピ────"共!」

「「「は、ハイィ!」」」

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

「…………………………」

 

 ……やっば。

 

「エト、オスカー。そろそろ出てこい」

「「はい」」

「キレるのは分かるがよ……流石にやり過ぎだ。よりにもりよってハー○マン式で鍛えやがってよ……」

「「反省しています」」

 

 物陰からエトとオスカーを呼び軽く説教をする。うん、俺でもあぁなりそうだし、お咎めは無しでいいか。

 

「クイーン! 手ぶらで失礼します! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」

「……は、はい。なんでしょう」

 

 霧の奥から現れたのは未だ子供と言っていいハウリア族の少年だった。その肩には大型のマークスマンライフルが担がれており、腰には二本のナイフとハンドガンが装着されている。随分ニヒルな笑みを見せる少年だった。

 

 少年の歴戦の軍人もかくやという雰囲気に驚くシア。少年はお構いなしに報告を続ける。

 

「はっ! 課題の魔物を追跡中、完全武装した熊人族の集団を発見しました。場所は、大樹へのルート。おそらく我々に対する待ち伏せかと愚考します!」

「一応、想定はしてはいたが……バカだな」

 

 納得していない連中が勝手に行動してるんだろうな。

 

「宜しければ、奴らの相手は我らハウリアにお任せ願えませんでしょうか!」

「カム、お前はどうしたい?」

 

 話を振られたカムは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると願ってもないと言わんばかりに頷いた。

 

「お任せ頂けるのなら是非。我らの力、奴らに何処まで通じるか……試してみたく思います。な~に、そうそう無様は見せやしませんよ」

 

 族長の言葉に周囲のハウリア族が、全員同じように好戦的な表情を浮かべる。自分の武器の名前を呼んで愛でる奴が心なし増えたような気もする。シアの表情は絶望に染まっていく。

 

「……出来ますね?」

「肯定であります!」

 

 最後の確認をするエトに元気よく返事をしたのは少年だ。エトは、一度、瞑目し深呼吸すると、カッと目を見開いた。

 

「聞け! ハウリア族諸君! 勇猛果敢な戦士諸君! 今日を以て、貴様らは糞蛆虫を卒業する! 貴様らはもう淘汰されるだけの無価値な存在ではない! 力を以て理不尽を粉砕し、知恵を以て敵意を捩じ伏せる! 最高の戦士だ! 私怨に駆られ状況判断も出来ない"ピ────ー"な熊共にそれを教えてやれ! 奴らはもはや唯の踏み台に過ぎん! 唯の"ピ────"野郎どもだ! 奴らの屍山血河を築き、その上に証を立ててやりなさい! 生誕の証です! ハウリア族が生まれ変わった事をこの樹海の全てに証明しなさい!」

「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」

「答えろ! 諸君! 最強最高の戦士諸君! 貴様達の望みはなんだ!」

「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」

「貴様達の特技は何だ!」

「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」

「敵はどうする!」

「「「「「「殺せ!! 殺せ!! 殺せ!!」」」」」」

「そうだ! 殺せ! 貴様達にはそれが出来る! 自らの手で生存の権利を獲得してみせなさい!」

「「「「「「Aye、aye、Sir!!」」」」」

「『見敵必殺(サーチアンドデストロイ)』……『見敵必殺(サーチアンドデストロイ)』だ! 我々に敵対するあらゆる勢力は叩いて潰せ!! 逃げも隠れもせず真正面から打って出なさい!! あらゆる障害はただ進み押し潰し粉砕しろ!!」

「「「「「Урааaaa !」」」」」

「うわぁ~ん、やっぱり私の家族はみんな死んでしまったですぅ~」

 

 エトの号令に凄まじい気迫を以て返し、霧の中へ消えていくハウリア族達。温厚で平和的、争いが何より苦手……そんな種族いたっけ? と言わんばかりだ。変わり果てた家族を再度目の当たりにし、崩れ落ちるシアの泣き声が虚しく樹海に木霊する。流石に見かねたのかユエがポンポンとシアの頭を慰めるように撫でている。

 

 しくしく、めそめそと泣くシアの隣を少年が駆け抜けようとして、シアは咄嗟に呼び止めた。

 

「パルくん! 待って下さい! ほ、ほら、ここに綺麗なお花さんがありますよ? 君まで行かなくても……お姉ちゃんとここで待っていませんか? ね? そうしましょ?」

 

 どうやら、まだ幼い少年だけでも元の道に連れ戻そうとしているらしい。傍に咲いている綺麗な花を指差して必死に説得している。何故、花で釣っているのか。それは、この少年が、かつてのお花が大好きな「お花さ~ん!」の少年だからである。

 

 シアの呼び掛けに律儀に立ち止まったお花の少年もといパル少年は、「ふぅ~」と息を吐くとやれやれだぜと言わんばかりに肩を竦めた。欧米か……サム。

 

「姐御、あんまり古傷を抉らねぇでくだせぇ。俺は既に過去を捨てた身。花を愛でるような軟弱な心は、もう持ち合わせちゃいません」

 

 ちなみに、パルくんは今年十一歳だ。

 

「ふ、古傷? 過去を捨てた? えっと、よくわかりませんが、もうお花は好きじゃなくなったんですか?」

「ええ、過去と一緒に捨てちまいましたよ、そんな気持ちは」

「そんな、あんなに大好きだったのに……」

「ふっ、若さゆえの過ちってやつでさぁ」

 

 何度でも繰り返すが、パルくんは()()で十一歳だ。

 

「それより姐御」

「な、何ですか?」

 

 〝シアお姉ちゃん! シアお姉ちゃん〟と慕ってくれて、時々お花を摘んで来たりもしてくれた少年の変わりように、意識が自然と現実逃避を始めそうになるシア。パル少年の呼び掛けに辛うじて返答する。しかし、それは更なる追撃の合図でしかなかった。

 

「俺は過去と一緒に前の軟弱な名前も捨てました。今はバルトフェルドです。"必滅のバルトフェルド"これからはそう呼んでくだせぇ」

「誰!? バルトフェルドってどっから出てきたのです!? ていうか必滅ってなに!?」

「おっと、すいやせん。仲間が待ってるのでもう行きます。では!」

「あ、こらっ! 何が『ではっ!』ですか! まだ、話は終わって、って早っ! 待って! 待ってくださいぃ~」

 

 恋人に捨てられた女の如く、崩れ落ちたまま霧の向こう側に向かって手を伸ばすシア。答えるものは誰もおらず、彼女の家族は皆、猛々しく戦場に向かってしまった。ガックリと項垂れ、再びシクシクと泣き始めたシア。既に彼女の知る家族はいない。実に哀れを誘う姿だった。

 

「なんでさ……」

 

 某正義の味方志望の青年の言葉が虚しく樹海に響く。




書くことがねぇや。感想お待ちしております。


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魔改造ハウリアの失敗

「よいしょと、ハイヨ( ◜௰◝ )お馴染みの零斗さんでーす」
「ハジメです」
「エトです」

「さて、前回はハウリア族の訓練の結果だったな……上々ではあったな」
「……そうだね」
「…………えぇ、何も問題はありませんね」


「今回もハウリア族が中心の話だ」
「楽しんで行ってください」

「「「魔改造ハウリアの失敗!」」」


 Side 三人称

 

 レギン・バンドンは熊人族最大の一族であるバントン族の次期族長との噂も高い実力者だ。現長老の一人であるジン・バントンの右腕的な存在でもあり、ジンに心酔にも近い感情を抱いていた。

 

 もっとも、それは、レギンに限ったことではなくバントン族全体に言えることで、特に若者衆の間でジンは絶大な人気を誇っていた。その理由としては、ジンの豪放磊落な性格と深い愛国心、そして亜人族の中でも最高クラスの実力を持っていることが大きいだろう。

 

 だからこそ、その知らせを聞いたとき熊人族はタチの悪い冗談だと思った。あのジンがたかが人間如きに屈し、処刑するはずであるハウリア族を無罪放免とした事を……レギンは、変わり果てたジンの姿に呆然とし、次いで煮えたぎるような怒りと憎しみを覚えた。腹の底から湧き上がるそれを堪える事もなく、現場にいた長老達に詰め寄り一切の事情を聞く。そして、全てを知ったレギンは、長老衆の忠告を無視して熊人族の全てに事実を伝え、報復へと乗り出した。

 

 長老衆や他の一族の説得もあり、全ての熊人族を駆り立てることはできなかったが、バントン族の若者を中心にジンを特に慕っていた者達が集まり、憎き人間を討とうと息巻いた。その数は五十人以上。仇の人間の目的が大樹であることを知ったレギン達は、もっとも効果的な報復として大樹へと至る寸前で襲撃する事にした。目的を眼前に果てるがいい! と。

 

 相手は所詮、人間と兎人族のみ。例えジンを倒したのだとしても、どうせ不意を打つなど卑怯な手段を使ったに違いないと勝手に解釈した。樹海の深い霧の中なら感覚の狂う人間や、まして脆弱な兎人族など恐るるに足らずと。レギンは優秀な男だ。普段であるならば、そのようなご都合解釈はしなかっただろう。深い怒りが目を曇らせていたとしか言い様がない。

 

 だが、だとしても、己の目が曇っていたのだとしても……

 

「これはないだろう!?」

 

 レギンは堪らず絶叫を上げた。なぜなら、彼の目には亜人族の中でも底辺という評価を受けている兎人族が、最強種の一角に数えられる程戦闘に長けた自分達熊人族を蹂躙しているという有り得ない光景が広がっていたからだ。

 

「ほらほらほら! 気合入れろや! 刻んじまうぞぉ!」

「アハハハハハ、豚のように悲鳴を上げなさい!」

「汚物は消毒だぁ! ヒャハハハハッハ!」

 

 ハウリア族の哄笑が響き渡り、致命の斬撃が無数に振るわれる。そこには温和で平和的、争いが何より苦手な兎人族の面影は皆無だった。必死に応戦する熊人族達は動揺もあらわに叫び返した。

 

「ちくしょう! 何なんだよ! 誰だよ、お前等!!」

「こんなの兎人族じゃないだろっ!」

「うわぁああ! 来るなっ! 来るなぁあ!」

 

 奇襲しようとしていた相手に逆に奇襲されたこと、亜人族の中でも格下のはずの兎人族の有り得ない強さ、どこからともなく飛来する正確無比な射撃、認識を狂わせる巧みな気配の断ち方、高度な連携、そして何より嬉々として刃を振るう狂的な表情と哄笑! その全てが激しい動揺を生み、スペックで上回っているはずの熊人族に窮地を与えていた。

 

 パニック状態に陥っている熊人族では今のハウリア族に抗することなど出来る訳もなく、瞬く間にその数を減らし、既に当初の半分近くまで討ち取られていた。

 

「レギン殿! このままではっ!」

「一度撤退を!」

殿(しんがり)は私が務めっクペッ!?」

「トントォ!?」

 

 一時撤退を進言してくる部下に、ジンを再起不能にされたばかりか部下まで殺られて腸が煮えくり返っていることから逡巡するレギン。その判断の遅さをハウリアのスナイパーは逃さない。殿を申し出て再度撤退を進言しようとしたトントと呼ばれた部下のこめかみを弾丸が貫いた。

 

 それに動揺して陣形が乱れるレギン達。それを好機と見てカム達が一斉に襲いかかった。

 

 霧の中から弾丸が飛来し、足首という実にいやらしい場所を驚くほど正確に狙い撃ってくる。それに気を取られると、首を刈り取る鋭い斬撃が振るわれ、その斬撃を放った者の後ろから絶妙なタイミングで刺突が走る。

 

 だが、それも本命ではなかったのか、突然、背後から気配が現れ致命の一撃を放たれる。ハウリア達は、そのように連携と気配の強弱を利用してレギン達を翻弄した。レギン達は戦慄する。これが本当に、あのヘタレで惰弱な兎人族なのか!? と。

 

 しばらく抗戦は続けたものの、混乱から立ち直る前にレギン達は満身創痍となり武器を支えに何とか立っている状態だ。連携と絶妙な援護射撃を利用した波状攻撃に休む間もなく、全員が肩で息をしている。一箇所に固まり大木を背後にして追い込まれたレギン達をカム達が取り囲む。

 

 しばらく抗戦は続けたものの、混乱から立ち直る前にレギン達は満身創痍となり武器を支えに何とか立っている状態だ。連携と絶妙な援護射撃を利用した波状攻撃に休む間もなく、全員が肩で息をしている。一箇所に固まり大木を背後にして追い込まれたレギン達をカム達が取り囲む。

 

「どうした〝ピッー〟野郎共! この程度か! この根性なしが!」

「最強種が聞いて呆れるぞ! この〝ピッー〟共が! それでも〝ピッー〟付いてるのか!」

「さっさと武器を構えろ! 貴様ら足腰の弱った〝ピッー〟か!」

 

 兎人族と思えない、というか他の種族でも言わないような罵声が浴びせられる。ホントにこいつらに何があったんだ!? と戦慄の表情を浮かべる熊人族達。中には既に心が折られたのか頭を抱えてプルプルと震えている者もいる。大柄で毛むくじゃらの男が「もうイジメないで?」と涙目で訴える姿は……物凄くシュールだ。

 

「何か言い残すことはあるかね? 最強種殿?」

 

 カムが実にあくどい表情で皮肉げな言葉を投げかける。闘争本能に目覚めた今、見下されがちな境遇に思うところが出てきたらしい。前のカムからは考えられないセリフだ。

 

「………………」

 

 レギンは、カムの物言いに悔しげに表情を歪める。何とか混乱から立ち直ったようでその瞳には本来の理性が戻ってきていた。今は少しでも生き残った部下を存命させる事に集中しなければならないという責任感から正気に戻ったようだ。同族達を駆り立て、この窮地に陥らせたのは自分であるという自覚があるのだろう。

 

「私はどうなっても構わん……だが部下だけはどうか見逃してほしい」

 

 武器を手放し跪いて頭を下げるレギン。彼の部下達は、レギンの武に対する誇り高さを知っているため敵に頭を下げることがどれだけ覚悟のいることか嫌でもわかってしまう。それに対するカムの返答は……

 

「断る」ヒュン! 

 

 その言葉と同時にナイフを投擲するカム。レギンは反応が遅れてしまったがすんでのところで避けた。

 

「なぜだ!?」

 

 呻くように声を搾り出し、問答無用の攻撃の理由を問うレギン。

 

「なぜ? 貴様らは敵であろう? 殺すことにそれ以上の理由が必要か?」

 

 カムの答えは実にシンプルだった。

 

「ぐっ、だが!」

「それに何より……貴様らの傲慢を打ち砕き、嬲るのは楽しいのでなぁ! ハッハッハッ!」

「貴様らは本当にハウリア族なのか!?」

 

 困惑するレギン達を横目にハウリア族が一斉にハンドガンやスリングショットといった武器で攻撃をする。

 

(くそ! このままでは皆……いや、もう手遅れだったのか……)

 

 攻撃は苛烈さを増し、レギン達は身を寄せ合い陣を組んで必死に耐えるが……既に限界。致命傷こそ避けているものの、みな満身創痍。

 

「さぁ……これでトドメだ!」

 

 カムの腕が、レギン達の命を狩り取る死神の鎌の如く振り下ろされた。一斉に放たれる弾丸と石。スローモーションで迫ってくるそれらを、レギンは、せめて目を逸らしてなるものかと見つめ続ける……

 

「少々目に余るぞ……貴様ら」

 

 掃射された全ての物が弾き返される。たった1人の人間によって……

 

「……どういうつもりですかな、零斗殿」

「どうも何も……貴様らが敵に見えたもんでな」

「敵?」

 

 カムの声に応えるかの様にレギン達の背後から姿を現す零斗……その目は明確な敵意と殺意を宿している。血狂いを抜いたままカム達に語りかける零斗。

 

「それはそうだろ……まぁ、今の貴様らに言っても無駄か」

 

 呆れ半分、嘲笑半分といった声色で煽る零斗に、その発言を聞いて零斗に向けて殺意をぶつけるハウリア族。

 

「あ? なんだテメェらは? その程度の力で調子に乗りやがってよ……いっぺん死ぬか?」

「舐めた口を……総員掛かれ!」

 

 我慢の限界だったのかカムの号令と共にハウリア族が零斗に向かい一斉に飛び掛る……が

 

「……遅い」

 

襲いかかったハウリア族の額に寸分の狂いも無く的確にゴム弾を撃ち込み戦闘不能にする零斗……結局一撃も当たることなくカムを除いた全てのハウリア族を沈めた零斗。

 

「ど、どうしたと言うのだ! ええい! 使えん奴らだ!」

 

 カムはその様子を見て酷く憤慨して零斗に切り掛る。

 

 ボゴォ「ゴハァ!」

「どうした? この程度か?」

 

 ボディブローだけで沈むカム。と言っても並の人間なら食らっただけで即死する程の威力はある。

 

「何故……私は強くなった筈…………ゴフ」

 

 口から血を吐き悶絶するカム。

 

「理由を教えてやろう……力を使う目的だ」

「目……的?」

「あぁ、最初にお前が言っていただろ? 『家族を守りたい』って……今のお前らは眼前の敵を殺す事が目的となっている。それじゃ、守りたい物まで傷つける……それを喜々としてやるお前らは帝国兵と同じだ」

「!? 私は……なんて事を……」

 

 零斗の言葉を聞いたハウリア族は青ざめて、自分の口元に手を触る。そこには帝国兵と同じような笑みを浮かべていることを知った。

 

「ま、初めての対人戦だしな。今、気がつけたのなら、もう大丈夫だ。つーかエト達が悪いんだよな……戦える精神にするというのはわかるがやり過ぎだろこれは。戦士どころかバーサーカーの育成だろ」

 

 ため息を零しながらエト達への不満を垂れる零斗……と、その時。

 

「ぐぉ!?」

「逃がしませんよ」

 

 霧の奥からハジメがユエ達を伴って現れる。どうやら、シア達が話し合っているうちに、こっそり逃げ出そうとしたレギン達に銃撃したようである。

 

 エトとオスカーはカム達を見ると、若干、気まずそうに視線を彷徨わせ、しかし直ぐに観念したようにカム達に向き合うと謝罪の言葉を口にした。

 

「すみませんでした。私が平気だったもので、すっかり殺人の衝撃ってのを失念していました……それに()()した物の性質も緩和する手段も取っていませんでしたから。私のミスです。申し訳ありません」

「ん?」

「私からも済まなかった……」

 

 エトとオスカーが頭を下げて謝罪する姿を見てポカンと口を開けて目を点にするカム達。

 

「ちょっと、待て……エト、今『移植』って言ったか?」

「あ」

 

 思い出したかのように声を出すエト、みるみると顔は顰められていく。

 

「変異細胞を移植しました……」

「はぁ!? お前、なんて物をカム達に移植してんてんだよ! マジモンのバーサーカーになっちまうぞ!?」

「た、短期間で強くするにはこうする方が効率的で……本人達も了承していましたし……」

「と言うか……なんで持ってるんだよ!」

 

 零斗が珍しく困惑した様子でエトに詰め寄り、問答する……しばらくし、落ち着いた頃にハジメが問いかける。

 

「零斗、その変異細胞て何?」

「……強化細胞の劣化版みたいなもんだ。強化細胞ほどの効力は無いが、適正も相性も無いから誰にでも使える」

「へ?」

「しかも、身体への負担もかなり少ない。強化細胞は身体自体を創り変えるが、変異細胞は身体のリミッターを外し、肉体の強度を上げるくらいだ……デメリットしては理性が低下して生粋の戦闘狂になる……あれは影響がかなり強く出ているな」

 

 零斗は頭を抱えてハジメの質問に答えている。カム達は未だに謝罪の言葉を口にしたエト達に困惑している様だった。仕舞いには────

 

「ク、クイーン!? 正気ですか!? 頭打ったんじゃ!?」

「メディーック! メディ──ク! 重傷者二名!」

「クイーン! ボス! しっかりして下さい!」

 

 このような反応をしている。エトとオスカーは満面の笑みだが、細められた眼の奥は全く笑っていない表情でカム達を見る。

 

「私だって謝罪くらいはしますよ?」

「それでこの反応とは……まぁ、この際募り積もった鬱憤を晴らさないと気が済みません────わかるでしょう?」

「い、いえ。我らにはちょっと……」

 

 カムも「あっ、これヤバイ。キレていらっしゃる」と冷や汗を滝のように流しながら、ジリジリと後退る。ハウリアの何人かが訓練を思い出したのか、既にガクブルしながら泣きべそを掻いていた。

 

「「取り敢えず……1発殴らせろ!」」

 

 わぁああああ──!! 

 

 ハウリア達が蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出す。一人も逃がさんと後を追うエトとオスカー。

 

「さて、あとはお前らの処分だな……潔く死ぬのと、生き恥晒しても生き残る……どちらか好きな方を選べ」

「……どういう意味だ。我らを生かして帰すというのか?」

「ああ、望むなら帰っていいぞ? 但し、条件があるがな」

「条件?」

 

 あっさり帰っていいと言われ、レギンのみならず周囲の者達が一斉にざわめく。

 

「ああ、条件だ。フェアベルゲンに帰ったら長老衆にこう言え」

「……伝言か?」

 

 条件と言われて何を言われるのかと戦々恐々としていたのに、ただのメッセンジャーだったことに拍子抜けするレギン。しかし、言伝の内容に凍りついた。

 

「"貸一つ"てな」

「ッ!? それはっ!」

「5秒以内に決めろ……1秒過ぎる事にお前の部下を一人ずつ殺していくからな」

 

 零斗が「1……2……」と数えだす。するとレギンは慌てて、しかし意を決して返答する。

 

「わ、わかった。我らは帰還を望む!」

「そうかい。じゃあ、さっさと帰れ。伝言はしっかりな。もし、取立てに行ったとき惚けでもしたら……」

 

 零斗から、強烈な殺意が溢れ出す。もはや物理的な圧力すら伴っていそうだ。ゴクッと生唾を飲む音がやけに鮮明に響く。

 

「その日がフェアベルゲンの最後だと思え」

 

 まるでタチの悪い借金取り、いやテロリストの類にしか見えなかった。後ろの方でシアが「零斗さんも大概ヤベぇ奴ですぅ」と零してる。

 

「さて、エト達が帰ってくるまでは暇だな……ハジメー、ポーカーしようぜぇ〜」ゴスッ!

「ハギュン!」プシュー

 

 先程の威圧は何処へ行ったのか、異空間収納からトランプを取り出して、ハジメの元へと向かっていく。去り際にシアにゲンコツをする零斗。

 

「一体なんなのだ……あいつは……」

(ぎゃああああああ!)

 

 どうやら1人目の犠牲者が出たようだ……しばらくの間、樹海の中に悲鳴と怒号が響き渡った。

 

 後に残ったのは、零斗のゲンコツを喰らい、頭から煙を出し特大のタンコブが出来ていると………

 

「……何時になったら大樹に行くの?」

「……何時になったら大樹の元へ行くのでしょう?」

 

 すっかり蚊帳の外だったユエとアルテナの呟きだけだった。

 

 




最近和菓子作りにハマりました。


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大樹の元へ

「よいしょと、(`・ω・´)ゞハイお馴染みの零斗さんですよ」
「カムです」
「…………エトです」

「前回はカム達の訓練結果だったな」
「その節は本当に申し訳ない事をしました……」
「気にしなくて大丈夫だ、俺らも最初はあんな感じになってたしな」
「……………………罪悪感が凄い」
「移植すんだったら相談ぐらいしろ」
「以後気をつけます」

「さて、今回は大樹の元まで行くぞ」
「楽しんでいってください」

「「「大樹の元へ!」」」


 Side 零斗

 

 深い霧の中、大樹に向かって歩みを進めていた。先頭をカムに任せ、これも訓練とハウリア達は周囲に散開して全員、その表情は真剣そのものである。もっとも、全員がコブか青あざを作っているので何とも締りがないがな……

 

「うぅ〜まだヒリヒリしますぅ……」

 

 泣き言を言いながらタンコブに触れているシア。先程から恨みがましい視線を向けて来ている。

 

「そんな目で見るんじゃねえよ、鬱陶しい」

「鬱陶しいって、あんまりですよぉ。女の子の頭を殴るなんて非常識にも程がありますよ!」

「へいへい、すみませんでしたね」

 

 和気あいあいと? 雑談しながら進むこと十五分。一行は遂に大樹の下へたどり着いた。

 

 大樹を見たハジメと俺の第一声は……

 

「「……なぁにこれぇ」」

 

 驚き半分、疑問半分といった感じのものだった。ユエやエト、も、予想が外れたのか微妙な表情だ。二人は、大樹についてフェアベルゲンで見た木々のスケールが大きいバージョンを想像していた。

 

 直径は目算で直径約五十メートル程だろう。明らかに周囲の木々とは異なる異様だ。周りの木々が青々とした葉を盛大に広げているのにもかかわらず、大樹だけが枯れ木となっているのである。

 

「大樹は、フェアベルゲン建国前から枯れているそうです。しかし、朽ちることはない。枯れたまま変化なく、ずっとあるそうです。周囲の霧の性質と大樹の枯れながらも朽ちないという点からいつしか神聖視されるようになりました。まぁ、それだけなので、言ってみれば観光名所みたいなものですが……」

 

 ハジメ達の疑問にカムが解説を入れる。すると、オスカーが大樹の根元まで歩み寄った。そこには、アルフレリックが言っていた石板が建てられていた。

 

「……オスカー、その迷宮今攻略できるか?」

「現段階では無理だ」

 

 俺の質問に答えながらオスカーは石版まで歩き、指輪を石版の裏にあった窪みに入れると、石版が淡く輝きだした。

 

 何事かと、周囲を見張っていたハウリア族も集まってきた。しばらく、輝く石板を見ていると、次第に光が収まり、代わりに何やら文字が浮き出始める。そこにはこう書かれていた。

 

 〝四つの証〟

 〝再生の力〟

 〝紡がれた絆の道標〟

 〝全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう〟

 

「……なるほどねぇ」

 

『四つの証』は少なくとも半分の迷宮を攻略する事だろうな。『再生の力』は攻略した迷宮で再生に関する神代魔法を入手で、『紡がれた絆の道標』は亜人族の案内人を得られるか……こんな感じで大方あっているだろう。

 

「確かこの近辺にある迷宮は……ライセン大渓谷の辺りか。先ずはそこだな」

「…………」

 

 オスカーが『ライセン大渓谷』の単語を聞いた瞬間、身体がビクッと反応する。

 

「え? なんかやべぇの?」

「………………まぁ、そうだな」

 

 死んだ目で応えるくるオスカー、なーんか気になるな。

 

 ここまで来て後回しにしなければならないことに歯噛みするハジメ。ユエも残念そうだ。しかし、大迷宮への入り方が見当もつかない以上、ぐだぐだと悩んでいても仕方ない。気持ちを切り替えて先に三つの証を手に入れることにする。

 

「いま聞いた通り、俺達は、先に他の大迷宮の攻略を目指すことにする。大樹の下へ案内するまで守るという約束もこれで完了した。お前達なら、この樹海で十分に生きていけるだろう。そういうわけで、ここでお別れだ」

 

 シアとアルテナに目伏せをして、別れの言葉を残すなら、今しておけと伝える。シアもアルテナも目伏せの意味を読み取った。いずれ戻ってくるとしても、三つもの大迷宮の攻略となれば、それなりに時間がかかるだろう。当分は家族とも会えなくなる。

 

「私は1度フェアベルゲンに戻りますね」

「とうさ「フィクサー! お話があります!」……あれぇ、父様? 今は私のターンでは……」

 

 アルテナが樹海の中へ消えて行くと同時にシアが口火を切ろうとした瞬間、カムが言葉を遮る。

 

「旅に連れ行ってくれ……だろ?」

「我々はもはやハウリアであってハウリアでなし! 貴方様の部下であります! 是非、お供に! これは一族の総意であります!」

「あ、却下で」

 

 あっさりした返答に身を乗り出して理由を問い詰めるカム。他のハウリア族もジリジリと迫ってくる。圧が……圧が凄い…………。

 

「足手まといなんでね、君ら」

「しかしっ!」

 

 抗議しようとしたカム達を殺気で黙らせる。

 

「この程度の殺気で怖気付くような奴らは要らん、シアもアルテナもこれに対応している。今の貴様らでは足手まといでしかない」

 

 それでも、食い下がろうとするカム達。しまいには、許可を得られなくても勝手に付いて行きます! とまで言い始めた。妙な信頼とか畏敬とかそんな感じのものが寄せられているようである。このまま、本当に町とかにまで付いてこられたら、それだけで騒動になりそうなので仕方なく条件を出す。

 

「じゃあ、お前等はここで鍛錬してろ。次に樹海に来た時に、使えるようだったら部下として考えておく」

「……そのお言葉に偽りはありませんか?」

「…………ないな」

「嘘だったら、人間族の町の中心でボスの名前を連呼しつつ、新興宗教の教祖のごとく祭り上げますからな?」

「お前等、相当タチ悪いな……」

「そりゃ、フィクサーの部下を自負してますから」

 

 自分の頬が引き攣るのがわかる。もういっその事レオニダスとか呼んで、ブートキャンプでも開いてもらおうかな……そうしよ。

 

「ハジメ、ちょっと任せるわ」

「え?」

 

 ハジメにその場を押し付けて、カルデアと通信をする。

 

「ぐすっ、誰も見向きもしてくれない……旅立ちの日なのに……」

 

 傍でシアが地面にのの字を書いていじけているが、やはり誰も気にしなかった。

 

 

 ──────────────────────────

 

 樹海の境界でカム達の見送りを受け、再び魔力駆動二輪に乗り込んで平原を疾走していた。ハジメの方の位置取りは、ユエ、ハジメ、シアの順番でサイドカーにアルテナが乗っている。ライセン大峡谷の谷底で乗せた時よりシアの密着度が増している気がするが、なるべく平常心を保っているハジメ。

 

「ハジメさん。そう言えば聞いていませんでしたが目的地は何処ですか?」

「一応、ライセン大渓谷」

 

 アルテナはアルフレリックの元へ行っていたため今後の方針を知る由がなかった。

 

 ハジメの告げた目的地に疑問の表情を浮かべるアルテナ。現在、確認されている七大迷宮は、【ハルツィナ樹海】を除けば、【グリューエン大砂漠の大火山】と【シュネー雪原の氷雪洞窟】である。確実を期すなら、次の目的地はそのどちらかにするべきでは? と思ったのであろう。

 

「ライセンも七大迷宮があるからな。シュネー雪原は魔人国の領土だから面倒な事になりそうだし、取り敢えず大火山を目指すのがベターなんだが、どうせ西大陸に行くなら東西に伸びるライセンを通りながら行けば、途中で迷宮が見つかるかもしれないだろ?」

 

 オスカー曰く、迷宮の詳しい位置は覚えていないそうで、地道に探して行くしかない。

 

「つ、ついででライセン大峡谷を渡るのですか!?」

 

 思わず、頬が引き攣せ声を上ずらせるアルテナ。ライセン大峡谷は地獄にして処刑場というのが一般的な認識であり、そんな場所を唯の街道と一緒くたに考えている事に内心動揺しているんだろうな。

 

「今の実力なら苦戦はしねぇよ、君達は確実に強くなった。そこら辺はちったぁ自覚しておけ」

 

 アルテナはその言葉を聞いてか、少しだけ安心した表情を浮かべる。

 

「で、では、ライセン大峡谷に行くとして、今日は野営ですか? それともこのまま、近場の村か町に行きますか?」

「出来れば、食料とか調味料関係を補充しておきたいな……今後のためにも素材を換金しておきたいから町がいいな。前に見た地図通りなら、この方角に町があった筈なんだが……」

 

 今後、町で買い物なり宿泊なりするなら金銭が必要になる。素材だけなら腐る程持っているので換金してお金に替えておきたい。それにもう一つ、ライセン大峡谷に入る前に落ち着いた場所で、やっておきたいこともあったのだ。

 

「はぁ~そうですか……よかったです」

 

 俺の言葉に、何故か安堵の表情を見せるシア。ハジメが不思議そうに「どうして?」と聞く。

 

「零斗さんの事ですから、ライセン大渓谷の魔物のお肉で満足して仕舞うんじゃないかと思いまして。どうやって私用の食料を調達してもらえるように説得するか考えていたんですよぉ~、杞憂でよかったです!」

「アホか、俺だって好きこのんで魔物なんざ喰わねぇよ。つーか、お前は俺を何だと思ってんだよ?」

「……プレデターという名の新種の魔物でしょか?」

「よーし、いい度胸してんな。町に着くまで車体に括りつけて引きずってやる」

 

 サイドカーにいるアルテナからも「え? 違うのですか?」という声が上がる。俺の扱い雑じゃない? 一応、君達の師匠だよ? 

 

「零斗、町が見えてきましたよ」

「ほぉー、中々大きいな」

 

 そろそろ日が暮れるという頃、前方に町が見えてきた。

 

「と、そうだ。シア、アルテナ、こいつ付けてくれ」

「ふぇ?」

「首輪……ですか?」

「すまねぇな。基本、亜人族は奴隷扱いを受けて居るからな。少しでも怪しまれないために付けてくれないか?」

 

 首輪を投げ渡された2人は顔を顰めたが説明を聞くと納得した様子で付けてくれた。シアはブツクサと文句を垂れながらだったが……

 

「そういや、俺異端者認定されてたな……仮面でも付けるかねぇ」

「…………何をやらかしたんですか?」

「しらね」

 

 そろそろ、町の方からも俺達を視認できそうなので、魔力駆動二輪をしまい、徒歩に切り替える。流石にバイクで乗り付けては大騒ぎになるだろう。

 

 町の門までたどり着いた。案の定、門の脇の小屋は門番の詰所だったらしく、武装した男が出てきた。格好は、革鎧に長剣を腰に身につけているだけで、兵士というより冒険者に見える。その冒険者風の男に呼び止められた。

 

「止まってくれ。ステータスプレートを。あと、町に来た目的は?」

 

 規定通りの質問なのだろう。どことなくやる気なさげである。

 

「食料の補給がメインです。旅の途中なので」

 

 ふ~んと気のない声で相槌を打ちながら門番の男がハジメのステータスプレートをチェックする。

 

「そっちの4人は……」

 

 門番がエト達にもステータスプレートの提出を求めようとして、二人に視線を向ける。そして硬直した。みるみると顔を真っ赤に染め上げると、ボーと焦点の合わない目でエト達を交互に見ている。門番の男は4人に見惚れて正気を失っているのだ。

 

「こちらの2人は魔物の襲撃を受けた際に紛失してしまいましてね……他の2人はわかるでしょう?」

 

 その言葉だけで門番は納得したのか、なるほどと頷いてステータスプレートを返却する。

 

「それにしても随分な綺麗どころを手に入れたな。白髪の兎人族に森人族なんて相当レアなんじゃないか?」

 

 未だチラチラと二人を見ながら、羨望と嫉妬の入り交じった表情で門番がハジメに尋ねる。ハジメは肩をすくめるだけで何も答えなかった。

 

「それよりあんた、妙な仮面つけてるな……どうしてだ?」

「昔、魔物にやられてましてね……かなり大きな傷跡があるのでそれを隠すためですよ」

「へぇー……まぁいい。通っていいぞ」

「ありがとうございます」

 

 門をくぐり町へと入っていく。




めっちゃ中途半端な所で終わらせてしまった……


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ブルックの町にて

「よいしょと、(。・ω・)ノ゙ハイサイお馴染みの零斗さんでーす」
「ハジメです」
「エトです」

「さて、前回は大樹の秘密だったな」
「攻略は当分先ですね……」
「地道にやるしか無いよねぇ……大変だなぁ」

「今回は町の探索だ……楽しんでくれ」

「「「ブルックの町にて!」」」


 Side 零斗

 

 この町の名前はブルックというらしい。町中は、それなりに活気があった。かつて見たオルクス近郊の町ホルアドほどではないが露店も結構出ており、呼び込みの声や、白熱した値切り交渉の喧騒が聞こえてくる。俺らが先ずやる事は……素材の売却からだな。

 

「ギルドは……こちらですね」

「あ、あの零斗さん」

「どうしましたか?」

「その……口調がいつもと違う様ですが?」

 

 そういや、こっちの状態は初めてか。

 

「まぁ、演技みたいなものですよ」

「そ、そうですか。違和感が凄いですぅ」

「それともう1つ……その首輪ですが、念話石と特定石が組み込んであるので、必要なら使ってください。直接魔力を注いでやれば使えますから」

「念話石と特定石ですか?」

 

 念話石とは、文字通り念話ができる鉱物のことだ。ハジメの生成魔法により"念話"を鉱石に付与しており、込めた魔力量に比例して遠方と念話が可能になる。もっとも、現段階では特定の念話石のみと通話ということはできないので、範囲内にいる所持者全員が受信してしまい内緒話には向かない。

 

 特定石は、生成魔法により"気配感知[+特定感知]"を付与したものだ。特定感知を使うと、多くの気配の中から特定の気配だけ色濃く捉えて他の気配と識別しやすくなる。それを利用して、魔力を流し込むことでビーコンのような役割を果たすことが出来るようにしたのだ。ビーコンの強さは注ぎ込まれた魔力量に比例する。

 

「ちなみに、その首輪なんだけど、一定量の魔力を注ぐ事で外す事は出来るからね」

「なるほどぉ~、つまりこれは……いつでも私の声が聞きたい、居場所が知りたいというハジメさんの気持ちというわけですね? もうっ、そんなに私の事が好きなんですかぁ? 流石にぃ、ちょっと気持ちが重いっていうかぁ、あっ、でも別に嫌ってわけじゃなくッバベルンッ!?」

「……調子にのるな」

「ぐすっ、ずみまぜん」

 

 調子に乗って話をするシアの頬に、ユエの右ストレートが突き刺さる。可愛げの欠片もない悲鳴を上げて倒れるシア。

 

「バカやってないで、ギルドに行きますよ」

「うぅ〜扱いが酷いですぅ……」

 

 メインストリートを歩いていき、一本の大剣が描かれた看板を発見する。ホルアドの町でも見た冒険者ギルドの看板だ。規模は、ホルアドに比べて二回りほど小さい。

 

「ここみたいだね……」

「ハジメ、緊張しているんですか?」

「べ、別にぃ?」

 

 声を上ずらせながら話すハジメ……説得力皆無なんだよなぁ。

 

 ギルドに入ると、冒険者達が当然のように注目してくる。最初こそ、見慣れない6人組(オスカーは霊体化中)ということでささやかな注意を引いたに過ぎなかったが、彼等の視線が此方に向くと、途端に瞳の奥の好奇心が増した。中には「ほぅ」と感心の声を上げる者や、門番同様、ボーと見惚れている者、恋人なのか女冒険者に殴られて吹き飛ぶ者もいる。平手打ちでないところが冒険者らしい。

 

 テンプレ宜しく、ちょっかいを掛けてくる者がいるかとも思ったが、意外に理性的で観察するに留めているようだ。

 

 カウンターには大変魅力的な……笑顔を浮かべたオバチャンがいた。横幅がユエ二人分くらいはある。どうやら美人の受付というのは幻想のようだ。期待はしていなかったが……少々残念ではある。

 

「そっちの坊やは、両手に花を持っているのに、まだ足りなかったのかい? 残念だったね、美人の受付じゃなくて」

「そんなこと思ってないですよ?」

 

 平然を装って返答するハジメ……額には汗がうっすらと滲んでいる。このオバチャンは読心術の固有魔法を!? ……ハジメがわかり易すぎるだけだな。

 

「そっちの坊やは……妙な格好だね。大方顔には古傷でもあるんじゃないかい?」

「ええ……その通りです」

 

 随分と観察力のあるオバチャンだな。周りの連中は「アイツら怒られてねぇ、珍し」と零している。俺らが珍しいんじゃないの……君らが馬鹿なだけさ。

 

「さて、じゃあ改めて、冒険者ギルド、ブルック支部にようこそ。ご用件は何かしら?」

「ああ、素材の買取をお願いします」

「素材の買取だね。じゃあ、まずステータスプレートを出してくれるかい?」

「どうぞ」

 

 ステータスプレートを受け取ったオバチャンは少し驚いた様な表情をする。

 

「あんたら冒険者じゃなかったのかい?」

「えぇ、ただの旅人でしたからね」

「そうかい、そうかい……登録しとくかい? 登録には千ルタ必要だよ」

 

 ルタとは、トータスの北大陸共通の通貨で、"ザガルタ鉱石"という特殊な鉱石に他の鉱物を混ぜる事で異なった色の鉱石ができ、それに特殊な方法で刻印したものが使われる。貨幣価値は日本と同じなため、青が一円、赤が五円、黄が十円、紫が五十円、緑が百円、白が五百円、黒が千円、銀が五千円、金が一万円となっている。

 

「生憎、今は持ち合わせがないものでして……買い取った分から差し引いてください」

「アンタらねぇ……可愛い子4人もいるのに文無しなんて何やってんだい。ちゃんと上乗せしといてあげるから、不自由させんじゃないよ?」

 

 オバチャンがイケメンすぎる……有り難く厚意を受け取っておくことにした。

 

 戻ってきたステータスプレートには、新たな情報が表記されていた。天職欄の横に職業欄が出来ており、そこに〝冒険者〟と表記され、更にその横に青色の点が付いている。

 

 青色の点は、冒険者ランクだ。上昇するにつれ赤、黄、紫、緑、白、黒、銀、金と変化する。冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じである。冒険者ランクは通貨の価値を示す色と同じなのである。つまり、青色の冒険者とは『テメェにゃ1ルタの価値もねぇんだよ、ゴミ』て事らしい……この制度を作った初代ギルドマスターの性格は性格がひん曲がってる野郎に違ぇねぇ。

 

「男なら頑張って黒を目指しなよ? お嬢さん達にカッコ悪いところ見せないようにね」

「ええ、そう成れるように善処しますよ。それと、買い取りはここでいいのですか?」

「構わないよ。あたしは査定資格も持ってるから見せてちょうだい」

 

 オバチャンは受付だけでなく買取品の査定もできるらしい。予め亜空間収納から出してバックに入れ替えておいた素材を取り出す。品目は、魔物の毛皮や爪、牙、そして魔石だ。カウンターの受け取り用の入れ物に入れられていく素材を見て、再びオバチャンが驚愕の表情をする。

 

「こ、これは!」

 

 恐る恐る手に取り、隅から隅まで丹念に確かめる。息を詰めるような緊張感の中、ようやく顔を上げたオバチャンは、溜息を吐きおに視線を転じた。

 

「とんでもないものを持ってきたね。これは…………樹海の魔物だね?」

「ええ、そうです……やはり珍しいですか?」

 

「そりゃあねぇ。樹海の中じゃあ、人間族は感覚を狂わされるし、一度迷えば二度と出てこれないからハイリスク。好き好んで入る人はいないねぇ。亜人の奴隷持ちが金稼ぎに入るけど、売るならもっと中央で売るさ。幾分か高く売れるし、名も上がりやすいからね」

 

 オバチャンはチラリとシアとアルテナを見る。おそらく、シア達の協力を得て樹海を探索したのだと推測したのだろう。樹海の素材を出しても、シア達のおかげで不審にまでは思われなかったようだ。

 

 それからオバチャンは、全ての素材を査定し金額を提示した。買取額は九十六万八千ルタ。

 

「これでいいかい? 中央ならもう少し高くなるだろうけどね」

「いえ、この額で構いません」

 

 これで暫くはお金で困る事は無いだろう……どっかの誰かさんが食材を無駄遣いしなければの話だがな! (シアとアルテナの訓練期間中に料理を任せたら、亜空間収納内の食材の3割が消えた)あの2人に食材の管理を任せてはいけない(使命感)

 

「っと、そうだ。門番から、ここなら町の簡易な地図を貰えると聞いたのですが……」

「ああ、ちょっと待っといで……ほら、これだよ。おすすめの宿や店も書いてあるから参考にしなさいな」

 

 手渡された地図は、中々に精巧で有用な情報が簡潔に記載された素晴らしい出来だった。これが無料とは、ちょっと信じられないくらいの出来である。

 

「こんなに立派な地図が無料なんて……この仕上がりなら普通に販売してもいいのでは?」

「構わないよ、あたしが趣味で書いてるだけだからね。書士の天職を持ってるから、それくらい落書きみたいなもんだよ」

 

 オバチャンの優秀さがやばかった。この人何でこんな辺境のギルドで受付とかやってんの? とツッコミを入れたくなるレベルだ。きっと壮絶なドラマがあるに違いない。

 

「ありがとうございます」

「いいってことさ。それより、金はあるんだから、少しはいいところに泊りなよ。治安が悪いわけじゃあないけど、その二人ならそんなの関係なく暴走する男連中が出そうだからね」

「そうなったら……ね?」

 

 オバチャンは最後までいい人で気配り上手だった。先程からエト達に無遠慮な視線を向けてくるバカ共を威圧で牽制する。視線を向けていた連中は顔を青くしながらそっぽを向く。それこら入口に向かって踵を返す。エト達も頭を下げて追従する。学びもしない冒険者の何人かがコソコソと話し合いながら、最後までエト達を目で追っていた。

 

 

 ──────────────────────────

 

 俺達は……もうガイドブックでいいか。ガイドブックで〝マサカの宿〟という宿屋に向かっている。紹介文によれば、料理が美味く防犯もしっかりしており、何より風呂に入れるという。最後が決め手だ。その分少し割高だが、金はあるので問題ない。

 

 どうやら宿の中は一階が食堂になっているようで複数の人間が食事をしていた。俺達が入ると、もはや約束のように視線が集まる。それらを無視して、カウンターに行くと、十五歳くらい女の子が元気よく挨拶しながら現れた。

 

「いらっしゃいませー、ようこそ〝マサカの宿〟へ! 本日はお泊りですか? それともお食事だけですか?」

「宿泊です。こちらの地図を見て来たのですが、記載されている通りですね?」

 

 オバチャン特製地図を見て合点がいったように頷く女の子。

 

「ああ、キャサリンさんの紹介ですね。はい、書いてある通りですよ。何泊のご予定ですか?」

 

 ……あのオバチャン、キャサリンて名前だったんや。

 

「1泊でお願いします。食事付きで、お風呂もお願いします」

「はい。お風呂は十五分百ルタです。今のところ、この時間帯が空いてますが」

 

 女の子が時間帯表を見せる。なるべくゆっくり入りたいので、男女で分けるとして……

 

「二時間でお願いします」

「えっ、二時間も!?」

 

 日本人たる俺としては譲れません! 

 

「もしダメでしたら、大丈夫です」

 

 流石に無理にとは言わないが、出来ればその位は欲しい……

 

「は、はい、問題ないです……そ、そのオプションもありますけどどうしますか? マットとかちょっと変わった形の椅子とか!」

「あ、結構です」

 

 つーかなんであんの!? 普通に怖ぇよ! しかも隣にいるエトはちょっと残念そうにしてるしよ……使いたいたかったの? 

 

「え、え~と、それでお部屋はどうされますか? 三人部屋と四人部屋が空いてますが……」

 

 好奇心が含まれた目で見てくる女の子。そういうのが気になるお年頃なのだろう。だが、周囲の食堂にいる客達まで聞き耳を立てるのは勘弁してもらいたいね。

 

「三人部屋二つでお願いします」

 

 ハジメの貞操を守るために主にユエから離さないといけない……まぁ、ハジメがいいのなら別に構わんがな。

 

 部屋割り的には俺、ハジメ、エトで一部屋、ユエ、シア、アルテナで一部屋だ。

 

「……ダメ。二人部屋と四人部屋で」

 

 コイツ!? やりやがった! しかももう部屋の料金払いやがった! 

 

「私とハジメで一部屋、零斗とエト、シア、アルテナで一部屋」

「ちょっ、何でですか!」

「私達だけ仲間はずれとか嫌です! 四人部屋でいいじゃないですか!」

 

 猛然と抗議するシアとアルテナに、ユエはさらりと言ってのけた。

 

「……シア達がいると気が散る」

「気が散るって……何かするつもりなんですか?」

「……何って……ナニ?」

「ぶっ!? 公衆の面前で何言ってるんですか?! お下品ですよ!」

 

 ユエの言葉に、絶望の表情を浮かべた男連中が、次第にハジメに対して嫉妬の炎が宿った眼を向け始める。宿の女の子は既に顔を赤くしてチラチラとハジメとユエを交互に見ていた。ハジメが、これ以上羞恥心を刺激され顔を真っ赤にしている……初心だねぇ。そろそろ収拾がつかなくなって来そうなので止めようと前にでる。

 

「だ、だったら、ユエさんこそ別室に行って下さい! ハジメさんと私で一部屋です!」

「……ほぅ、それで?」

「ず、狡いですよ、シアさん!」

 

 指先を突きつけてくるシアに、冷気を漂わせた眼光で睨みつけるユエ。あまりの迫力に、シアはプルプルと震えだすが、「ええい、女は度胸!」と言わんばかりにキッと睨み返すと大声で宣言した。

 

「そ、それで、ハジメさんに私の処女を貰ってもらいますぅ!」

「ブッ!? し、シアさん!?」

 

 顔をりんごやさくらんぼもびっくりなくらい真っ赤させるハジメ……面白くなりそうだな。

 

「……今日がお前の命日」

「うっ、ま、負けません! 今日こそユエさんを倒して準ヒロインの座を奪ってみせますぅ!」

 

 ユエから尋常でないプレッシャーが迸り、震えながらもシアが背中に背負った大槌に手をかける。

 

「いい加減にしなさい……これ以上騒ぐ様でしたら、貴方達だけ野宿させますからね?」

「「ハ、ハイ!」」

 

 面白くなりそうとは思ったが、宿を破壊しそうな雰囲気になって来たので黙らせる。

 

「とりあえず私とハジメで一部屋、エト達が四人部屋と言うことにしましょうか」

「「「え?」」」

「何か文句でも?」

「「「あ、ありません!」」」

 

 もう面倒なので俺とハジメで二人部屋を使う事にした。

 

「すみませんね、騒がせてしまって」

「……お風呂を二時間も使うのはそういうこと!? お互いの体で洗い合ったりするんだわ! それから……あ、あんなことやこんなことを……なんてアブノーマルなっ!」ブツブツ

 

 ……女の子はトリップしていた。見かねた女将さんらしき人がズルズルと女の子を奥に引きずっていく。代わりに父親らしき男性が手早く宿泊手続きを行った。

 

 急な展開に呆然としている客達を尻目に、三階の部屋に逃げるように向かった。部屋に入り、武器のメンテを始める。

 

 

 

 




男2人……密室……何も起こらない筈も無く……(この後、めちゃくちゃゲームした)


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色々とやべぇ

「よいしょと、ァィョ!!(*゚ω゚*)ノお馴染みの零斗さんでーす」
「ユエ」
「シアです!」

「さて、前回は冒険者登録と宿だったな」
「……零斗さんのキッチリとした口調とか違和感がすごいですぅ」
「ん、確かに」
「そのうち慣れるさ……宿の部屋割に関しては後で説教な?」
「「……はい」」

「今回はちょっとした箸休め回だ……楽しんでくれ」

「「「色々とやべぇ」」」


 Side エト

 

 現在、私達は町に出ていた。昼ごろまで数時間といったところなので計画的に動かなければならない。目標は、食料品関係とシアとアルテナの衣服、それと薬関係……武器・防具類はハジメ君や零斗、オスカーさんがいるので不要でしょう。

 

 町は喧騒に包まれ、露店の店主が呼び込みをし、主婦や冒険者の人々と激しく交渉をしている。飲食関係の露店も始まっており、朝から濃すぎな肉の焼ける香ばしい匂いや、タレの焦げる濃厚な香りが漂っている。

 

「道具の方は後回しにしたほうが良さそうですね……先ずはシアさんとアルテナさんの衣服から揃えましょうか」

 

 時間帯のせいか道具屋はかなり混んでいる。今から並んでは時間が足りなくなってしまうだろう。

 

 キャサリンさんの地図には、きちんと普段着用の店、高級な礼服等の専門店、冒険者や旅人用の店と分けてオススメの店が記載されている。やはりキャサリンさんは出来る人だ。痒いところに手が届いている。

 

 早速、とある冒険者向きの店に足を運んだ。ある程度の普段着もまとめて買えるという点が決め手だ。

 

 その店は、流石はキャサリンさんがオススメするだけあって、品揃え豊富、品質良質、機能的で実用的、されど見た目も忘れずという期待を裏切らない良店だった。

 

 ただ、そこには……

 

「あら~ん、いらっしゃい♥可愛い子達ねぇん。来てくれて、おねぇさん嬉しいぃわぁ~、た~ぷりサービスしちゃうわよぉ~ん♥」

 

 化け……奇妙な人がいた。身長二メートル強、全身に筋肉という天然の鎧を纏い、劇画かと思うほど濃ゆい顔、禿頭の天辺にはチョコンと一房の長い髪が生えており三つ編みに結われて先端をピンクのリボンで纏めている。動く度に全身の筋肉がピクピクと動きギシミシと音を立て、両手を頬の隣で組み、くねくねと動いている。服装は……いや、言うべきではないだろう。少なくとも、ゴン太の腕と足、そして腹筋が丸見えの服装とだけ言っておこう。

 

 シアさんとアルテナさんは既に意識が飛びかけていて、ユエさんはに覚悟を決めた目をしている。

 

「あらあらぁ~ん? どうしちゃったの三人共? 可愛い子がそんな顔してちゃだめよぉ~ん。ほら、笑って笑って?」

 

 笑えないのは貴方の性です……とは言えないが何とか堪える。人外レベルのポテンシャルを持ってはいるが、この化物には勝てる気がしなかった。

 

 しかし、何というか物凄い笑顔で体をくねらせながら接近してくる化物に、つい堪えきれずユエは呟いてしまった。

 

「……人間?」

 

 その瞬間、化物が怒りの咆哮を上げた。

 

「だぁ~れが、伝説級の魔物すら裸足で逃げ出す、見ただけで正気度がゼロを通り越してマイナスに突入するような化物だゴラァァアア!!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 ユエさんがふるふると震え涙目になりながら後退る。シアさんは、へたり込み……少し下半身が冷たくなってしまった。ユエさんが、咄嗟に謝罪すると化物は再び笑顔を取り戻し接客に勤しむ。

 

「いいのよ~ん。それでぇ? 今日は、どんな商品をお求めかしらぁ~ん?」

 

 シアは未だへたり込んだままなので、代わりにシアの衣服を探しに来た旨を伝える。シアは、もう帰りたいのか、ユエの服の裾を掴みふるふると首を振っているが、化物は「任せてぇ~ん」と言うやいなやシアを担いで店の奥へと入っていってしまった。その時の姿は、まるで食肉用に売られていく家畜のようだった。

 

 数分後、店の奥から姿を表したシアさんはとても綺麗な洋服に身を包んでいた。青を基調とした服で動きやすさを重視した軽装だった。外見は兎も角、腕は一級の様だった。

 

 その後はアルテナさんの分の服も買い。クリスタベルさんにお礼を告げて店を後にした。

 

「最初はどうなることかと思いましたが、いい人でしたね。店長さん」

「ん……人は見た目によらない」

「ですね~」

 

 そんな風に雑談しながら、次は道具屋に回ることにした。しかし、唯でさえ目立つ集団だ。すんなりとは行かず、気がつけば数十人の男達に囲まれていた。冒険者風の男が大半だが、中にはどこかの店のエプロンをしている男もいる。

 

「エトちゃんとユエちゃんとシアちゃん、アルテナちゃんで名前あってるよな?」

「……合っていますが。何か?」

 

 返答を聞くとその男は、後ろを振り返り他の男連中に頷くと覚悟を決めた目で私達を見つめた。他の男連中も前に進み出て、それぞれの前に出る。

 

「「「「「「エトちゃん、俺と付き合ってください!!」」」」」」

「「「「「「ユエちゃん、俺と付き合ってくれ!!」」」」」」

「「「「「「アルテナちゃん! 俺の奴隷になってくれ!!」」」」」」

「「「「「「シアちゃん! 俺の奴隷になれ!!」」」」」」

 

 どいつもこいつもアホですね。シアさん達とで口説き文句が異なるのはシアさん達が亜人だからだろう。奴隷の譲渡は主人の許可が必要で、昨日の宿での出来事でシアとハジメ君達の仲が非常に近しい事が周知されており、まず、シアさんから落とせばハジメ君も説得しやすいだろう……とでも思ったのかもしれない。

 

「……皆さん、お昼は此処とかいいかでしょうか?」

「いいですね!」

「ん、オシャレで可愛い」

「私もそこで大丈夫です」

 

 もう面倒なので無視して歩き始める。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 返事は!? 返事を聞かせてく「「「「断る(ります)」」」」……ぐぅ……」

 

 眼中にないという態度に、男は呻き、何人かは膝を折って四つん這い状態に崩れ落ちた。しかし、諦めが悪い奴はどこにでもいる。

 

「なら、なら力づくでも俺のものにしてやるぅ!」

 

 暴走男の雄叫びに、他の連中の目もギンッと光を宿す。私達を逃さないように取り囲み、ジリジリと迫っていく。

 

「おお恐ろしい恐ろしい、そんなに目を血走らせて……おちおち話する事も出来ない」

「え、エトさん?」

「しかし、そちらがそうするなら……こちらも、こうしよう、拮抗状態を作るとしよう…………レイトォォォォォ!」

 

 コツコツと足音を響かせて1人の男が歩み寄ってくる。

 

「我に求めよ、されば汝に諸々の国を嗣行(しぎょう)として与え、地の全てを汝の物として与えん。汝、黒鉄の杖をもて、彼等を打ち破り陶工の器物の如くに打ち砕かん、されば汝ら諸々の王よさとかれ、地の審判人よ教えを受けよ。恐れをもて主につかえ、おののきをもて喜べ。子に接吻せよ。恐らくは彼は怒りを放ち、汝ら途に滅びん。その怒りは速やかに燃ゆベければ。全て彼により頼む者は幸いなり」

 

 どこからな取り出した聖職儀礼済みの銃剣(バヨネッタ)を男達に向ける。

 

「一撃で何もかも一切合切決着する、眼前に敵を放置して何がフィクサーかァ!? 何が人理の守護者かァ!?」

 

 人理の守護者は関係ないと思いますが……持っているバヨネッタを十字架の様に構える。

 

Amen(エイメン)!」

 

 祈りの言葉と同時に周りを取り囲んでいた男達を1人ずつ犬神家化させていく……バヨネッタは使わないのですね。

 

 犬神家化させた男たちの股間にゴム弾を撃ち込んでいく零斗。男の悲鳴が昼前の街路に響き渡る。マ○オがコインを取得した時のような効果音を響かせながら、執拗に狙い撃ちされる男の股間。

 

「……漢女(おとめ)になるがいい」

 

 この日、一人の男が死に、第二のクリスタベル、後のマリアベルちゃんが生まれた。彼は、クリスタベル店長の下で修行を積み、二号店の店長を任され、その確かな見立てで名を上げるのだが……それはまた別のお話。

 

 ────────────────────────

 

 宿に戻るとハジメ君が待っていた。

 

「あ、おかえり。町中が騒がしかったけど、何かあったの?」

「……何もありませんよ」

「……問題ない」

「あ~、うん、そうですね。問題ないですよ」

「ええ、問題ありません」

 

 服飾店の店長が化け物じみていたり、一人の男が天に召されたりしたが、概ね何もなかったと流す。ハジメ君は首を傾げるが不思議そうな顔をするだけで何も聞いては来なかった。

 

「必要な物は揃った?」

「……ん、大丈夫」

「ですね。食料も沢山揃えましたから大丈夫です!」

「そっか、それなら良かったよ」

 

 ハジメ君は安心したかの様な表情をする。こんな弟がいれば良かったのになぁ……

 

「あ、シアさん。これ」

 

 そう言ってハジメ君はシアさんに直径四十センチ長さ五十センチ程の円柱状の物体を渡した。銀色をした円柱には側面に取っ手のようなものが取り付けられている。

 

「な、なんですか、これ? 物凄く重いんですけど……」

「シアさん用の新しい大槌ですよ。重いほうがいいでしょう?」

「へっ、これが……ですか?」

 

 シアさんの疑問はもっともだ。円柱部分は、槌に見えなくもないが、それにしては取っ手が短すぎる。何ともアンバランスだ。

 

「その状態は待機状態なんです。取り敢えず魔力流して見てください」

「えっと、こうですか? ッ!?」

 

 言われた通り、魔力を流すと、カシュン! という機械音を響かせながら取っ手が伸長し、槌として振るうのに丁度いい長さになった。

 

「今の僕にはこれくらいが限界です、腕が上がれば随時改良していくつもりにで。これから何があるか分からないので。零斗の訓練を受けたとは言え、たったの十日ですか。その武器はシアさんの力を最大限生かせるように考えて作ったんです」

「ハジメさん……ありがとうございます!」

 

 シアは嬉しそうにドリュッケン(ハジメ命名)を胸に抱く。

 

「皆さん、そろそろ出発しますよ」

 

 零斗の呼ぶ声で皆部屋を出て下の階へと降りる。はしゃぐシ? を連れながら、宿のチェックアウトを済ませる。未だ、宿の女の子がハジメ達を見ると頬を染める。

 

 その後は門から町の外へ出て、門番が見えなくなった辺りで魔力駆動二輪を取り出して、ライセン大渓谷へと走り出した。




HELLSINGネタは使いたかっただけです。感想お待ちしております。


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このクソッタレな迷宮に終焉を!

「よいしょと、‪( ˙꒳˙ᐢ )ヨッスお馴染みの零斗さんでーす」
「ん、ユエ」
「エトです」

「さて、前回はエト達の買い物だったな……にしても色々あったな」
「零斗が駆けつけてくれたお陰で楽が出来ましたね」
「大儀であった」
「そりゃよかったよ」

「今回はライセン大渓谷にある迷宮の攻略だ……楽しんでくれ」

「「「このクソッタレな迷宮に終焉を!」」」


 Side 零斗

 

 現在、ライセン大渓谷には『死屍累々』と言う言葉がぴったりな程の地獄絵図が広がっていた。ある魔物はひしゃげた頭部を地面にめり込ませ、またある魔物は頭部を粉砕されて横たわり、更には全身を炭化させた魔物……自分で言うもんじゃねぇけどエグい事してんな。

 

「一撃必殺ですぅ!」ズガンッ! 

「……邪魔」ゴバッ! 

「道を開けろ、ゴミ共」ドパァン! 

 

 一体一体は弱いがかなりの数で襲ってくるため面倒な事この上ない。

 

「ふぅ……今日はこの辺りで休むか」

「日も大分落ちてきたね」

 

 ブルックの町から出発して3日程が経っていた。未だに迷宮の入口らしきものは見つからず、立ち往生している。

 

「ライセンの何処かにあるってだけじゃあ、大雑把過ぎね? オスカーも詳しい場所は知らないんだろ?」

「あぁ、ミレディが此処に迷宮を創ったのは覚えているのだが……正確な場所までは知らない」

「まぁ、大火山に行くついでなんですし、見つかれば儲けものくらいでいいじゃないですか。大火山の迷宮を攻略すれば手がかりも見つかるかもしれませんし」

「まぁ、そうなんだけどな……」

「ん……でも魔物が鬱陶しい」

「ユエさんには好ましくない場所ですものね」

 

 

 愚痴を言いながら、その日の野営の準備を始める。野営テントを取り出し、夕食の準備をする。町で揃えた食材と調味料と共に、調理器具も取り出す。この野営テントと調理器具、実は全てハジメ謹製のアーティファクトだったりする。

 

 野営テントは、生成魔法により創り出した〝暖房石〟と〝冷房石〟が取り付けられており、常に快適な温度を保ってくれる。そんで、冷房石を利用して〝冷蔵庫〟や〝冷凍庫〟も完備されている。さらに、金属製の骨組みには〝気配遮断〟が付加された〝気断石〟を組み込んであるので敵に見つかりにくい。

 

 調理器具には、流し込む魔力量に比例して熱量を調整できる火要らずのフライパンや鍋、魔力を流し込むことで〝風爪〟が付与された切れ味鋭い包丁などがある。スチームクリーナーモドキなんかもある。どれも旅の食事を豊かにしてくれるハジメの愛し子達だ。しかも、魔力の直接操作が出来ないと扱えないという、ある意味防犯性もある。

 

 〝神代魔法超便利〟

 

 調理器具型アーティファクトや冷暖房完備式野営テントを作った時の言葉だ。まさに無駄に洗練された無駄のない無駄な技術力である。

 

「出来たぞ〜」

「今日は私が作りました!」

「え? 大丈夫なの?」

「補佐で俺が付いたからモーマンタイ」

 

 ちなみに、その日の夕食はクルルー鳥のトマト煮である。クルルー鳥とは、空飛ぶ鶏のことだ。肉の質や味はまんま鶏である。この世界でもポピュラーな鳥肉だ。一口サイズに切られ、先に小麦粉をまぶしてソテーしたものを各種野菜と一緒にトマトスープで煮込んだ料理だ。

 

 シンプルだが、純粋に料理の腕がでる一品だ。シアは家事全般は出来るが無駄遣いが多い……アルテナはシア程ではないが料理は出来るがこちらも無駄遣いが多い、だがシアと違い裁縫ができるのでまだ許容範囲だ。

 

 そろそろ就寝時間なので寝る準備に入る。最初の見張りは俺だ。テントの中にはふかふかの布団があるので、野営にもかかわらず快適な睡眠が取れる。と、布団に入る前にシアがテントの外へと出ていこうとした。

 

「どこ行くんだ?」

「ちょっと、お花摘みに」

「……ごゆっくり〜」

 

 トイレの暗喩だとわかってるので適当に手を振る。

 

「み、皆さん〜! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」

 

 と、シアが、魔物を呼び寄せる可能性も忘れたかのように大声を上げた。シアの声がした方へ行くと、そこには、巨大な一枚岩が谷の壁面にもたれ掛かるように倒れおり、壁面と一枚岩との間に隙間が空いている場所があった。シアは、その隙間の前で、ブンブンと腕を振っている。その表情は、信じられないものを見た! というように興奮に彩られていた。

 

「こっち、こっちですぅ! 見つけたんですよぉ!」

「わかったから、取り敢えず引っ張るな。身体強化全開じゃねぇか。興奮しすぎだろ」

「……うるさい」

「シアさん、魔物が寄ってきちゃうからちょっと落ち着いて? ね?」

 

 シアに導かれて岩の隙間に入ると、壁面側が奥へと窪んでおり、意外なほど広い空間が存在した。そして、その空間の中程まで来ると、シアが無言で、しかし得意気な表情でビシッと壁の一部に向けて指をさした。

 

「「「は?」」」

 

 〝おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ 

 

 壁を直接削って作ったのであろう見事な装飾の長方形型の看板があり、それに反して妙に女の子らしい丸っこい字でこう掘られていた。〝! 〟や〝♪ 〟のマークが妙に凝っている所が何とも腹立たしい。

 

「……オスカー、ミレディてのは昔からこうゆう事やりそうな人物か?」

「……やる」

 

 はい、決定! こいつはぜっっっってぇ面倒くさい事になる。迷宮内とかで絶対煽ってくるじゃん。

 

「いやぁ、それにしても本当にあったんですねぇ。おトイ……お花を摘みにきたかいがありました」

 

 能天気なシアの声が響く。元気なのはいい事だが、この状況では命取りになる。

 

「でも、入口らしい場所は見当たりませんね? 奥も行き止まりですし……」

 

 シアは、入口はどこでしょう? と辺りをキョロキョロ見渡したり、壁の窪みの奥の壁をペシペシと叩いたりしている。

 

「おい、シア。あんまり……」

 ガコンッ! 「ふきゃ!?」

 

 壁の一部が忍者屋敷の如く回転し、巻き込まれたシアはそのまま壁の向こう側へ姿を消した。

 

「……嘘でしょ?」

 

 虚しい呟きがやけに響く。とりあえずはシアの消えた辺りの壁を触る。扉の仕掛けが作用して、扉の向こう側へと通される。中は真っ暗で辺り一体が見えない……

 

 ヒュヒュヒュ! 

 

 無数の風切り音が響いたかと思うと暗闇の中をこちら目掛けて何かが飛来した。飛来した物を血狂いで弾く。

 

「なるほど、入ったら飛んでくる仕組みか」

「かなりの速度だね、並の人間なら今ので蜂の巣だろうね」

 

 周囲の壁がぼんやりと光りだし辺りを照らし出す。奥には真っ直ぐに整備された通路が伸びていた。そして部屋の中央には石版があり、看板と同じ丸っこい女の子文字でとある言葉が掘られていた。

 

 〝ビビった? ねぇ、ビビっちゃった? チビってたりして、ニヤニヤ〟

 〝それとも怪我した? もしかして誰か死んじゃった? ……ぶふっ〟

 

「うぜぇ……今すぐにでもぶん殴りたい」

 

 わざわざ、〝ニヤニヤ〟と〝ぶふっ〟の部分だけ彫りが深く強調されているのが余計腹立たしい。

 

「あ、シアの回収忘れてたわ」

 

 とりあえず回転扉を半分ほどに留めてシアを回収する。

 

「うぅ、ぐすっ、ハジメざん……見ないで下さいぃ~、でも、これは取って欲しいでずぅ。ひっく、見ないで降ろじて下さいぃ~」

 

 何というか実に哀れを誘う姿だった。シアは、おそらく矢が飛来する風切り音に気がつき見えないながらも天性の索敵能力で何とか躱したのだろう。だが、本当にギリギリだったらしく、衣服のあちこちを射抜かれて非常口のピクトグラムに描かれている人型の様な格好で固定されていた。ウサミミが稲妻形に折れ曲がって矢を避けており、明らかに無理をしているようでビクビクと痙攣している。もっとも、シアが泣いているのは死にかけた恐怖などではないようだ。なぜなら……足元が盛大に濡れていたからである。

 

「着替え置いて置くからね……早めにね」

「うぅ……優しいがしみますぅ……」

 

 そして、シアの準備も整い、いざ迷宮攻略へ! と意気込み奥へ進もうとして、シアが石版に気がついた。顔を俯かせ垂れ下がった髪が表情を隠す。しばらく無言だったシアは、おもむろにドリュッケンを取り出すと一瞬で展開し、渾身の一撃を石板に叩き込んだ。ゴギャ! という破壊音を響かせて粉砕される石板。

 

 よほど腹に据えかねたのか、親の仇と言わんばかりの勢いでドリュッケンを何度も何度も振り下ろした。 砕けた石板の跡、地面の部分に何やら文字が彫ってあり、そこには……

 

 〝ざんね~ん♪ この石板は一定時間経つと自動修復するよぉ~プークスクス!! 〟

 

「ムキィ──!! 

 

 シアが遂にマジギレして更に激しくドリュッケンを振い始めた。部屋全体が小規模な地震が発生したかのように揺れ、途轍もない衝撃音が何度も響き渡る。

 

「オスカー、何か一言どうぞ」

「……うちの者が済まない」

 

 どうやらライセン大迷宮は、オルクス大迷宮とは別の意味で一筋縄ではいかない場所のようだった。

 

 フォン「まーたこれかよ」

「零斗!?」

 

 足元を見ると案の定転移の魔法陣が浮かんでいた。転移はもうオスカーの迷宮でやったのよ……ハジメが手を伸ばして掴もうとするが、その前に、俺はどこかへと転移されせられたのだった。

 




腰が痛い。


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攻略開始

「よっと、( 'ω')ドウモハジメです」
「オスカー・オルクスだ」
「アルテナです」

「前回はライセン大迷宮を発見したのよ零斗とはぐれたね」
「これで2度目の転移ですね」

「今回は迷宮の攻略に入っていくよ……楽しんでね!」

「「「攻略開始!」」」


 Side ハジメ

 

 目の前で零斗が転移される。手を伸ばしたが届かず空を切る。

 

「また、はぐれちゃった……どうしよ」

「攻略しか無いじゃないですか? 迷宮の何処かで会えるかもしれませんし!」

「そ、そうだね(押しが強いなぁ……)」

 

 ────────────────────────

 

 ライセン大迷宮は想像以上になかなか厄介な場所だった。まず、魔法がまともに使えない。谷底より遥かに強力な分解作用が働いているため、魔法特化のユエにとっては相当負担のかかる場所で、上級以上の魔法は使用できず、中級以下でも射程が極端に短い。五メートルも効果を出せれば御の字という状況だ。何とか、瞬間的に魔力を高めれば実戦でも使えるレベルではあるが、今までのように強力な魔法で一撃とは行かなくなった。

 

 魔晶石シリーズに蓄えた魔力の減りも馬鹿にできないので、考えて使わなければならない。それだけ消費が激しいのだ。魔法に関しては天才的なユエだからこそ中級魔法が放てるのであって、大抵の者は役立たずになってしまうだろう。

 

 僕にとっても多大な影響が出ている。〝空力〟や〝風爪〟といった体の外部に魔力を形成・放出するタイプの固有魔法は全て使用不可となっており、頼みの〝纏雷〟もその出力が大幅に下がってしまっていて、ドンナー・シュラークは、その威力が半分以下に落ちているし、シュラーゲンも通常のドンナー・シュラークの最大威力レベルしかない。

 

 よって、この大迷宮では身体強化が何より重要になってくる。僕達の中では、まさにシアさんやエトさんの独壇場となる領域なのだ。

 

 頼みの綱のシアさんは……

 

「殺ルですよぉ……絶対、住処を見つけてめちゃくちゃに荒らして殺ルですよぉ」

 

 

 

 大槌ドリュッケンを担ぎ、据わった目で獲物を探すように周囲を見渡していた。明らかにキレている。それはもう深く深~くキレている。言葉のイントネーションも所々おかしいことになっている。その理由は、ミレディ・ライセンの意地の悪さを考えれば容易に想像がつく……僕もちょっとだけイラついてる。

 

 ────────────────────────

 

 シアが最初のウザイ石板を破壊し尽くしたあと、僕達は道なりに通路を進み、とある広大な空間に出た。

 

 そこは、階段や通路、奥へと続く入口が何の規則性もなくごちゃごちゃにつながり合っており、まるでレゴブロックを無造作に組み合わせてできたような場所だった。一階から伸びる階段が三階の通路に繋がっているかと思えば、その三階の通路は緩やかなスロープとなって一階の通路に繋がっていたり、二階から伸びる階段の先が、何もない唯の壁だったり、本当にめちゃくちゃだった。

 

「ある意味迷宮らしいと言えばらしい場所だね」

「……ん、迷いそう」

「ふん、流石は腹の奥底まで腐ったヤツの迷宮ですぅ。このめちゃくちゃ具合がヤツの心を表しているんですよぉ!」

「……気持ちは分かるから、そろそろ落ち着いてね?」

 

 未だ怒り心頭のシア。宥めようと努力はしてるけどあまり効果が無い……どうやって進もうかな? 

 

「……ハジメ。考えても仕方ない」

「そうだね、とりあえずはマッピングとマーキングしながら進んでみようか」

「……ん」

 

 迷宮探索でのマッピングは基本だ。でもこんな複雑な迷宮をどれだけ正確にマッピング出来るが鬼門になるね……ん? 

 

「……マーキングもマーキングも意味無さそうだね」

「え? どういう事ですか?」

「最初の部屋の位置がちょっとだけ変わったんだ……もしかしたら迷宮自体がランダムで動いてるかもしれない」

 

 最初の部屋にアンカーを設置していたが、その場所がズレているから部屋自体が移動したのだろう……大変そうだなぁ。

 

「とりあえずは進もうか……何か攻略のヒントがあるかもだしね」

 

 早速、一番近い場所にある右脇の通路に進んでみることにした。

 

 通路は幅二メートル程で、レンガ造りの建築物のように無数のブロックが組み合わさって出来ていた。やはり壁そのものが薄ら発光しているので視界には困らない。緑光石とは異なる鉱物のようで薄青い光を放っている。

 

 

 試しに〝鉱物系鑑定〟を使ってみると、〝リン鉱石〟と出た。どうやら空気と触れることで発光する性質をもっているようだ。最初の部屋は、おそらく何かの処置をすることで最初は発光しないようにしてあったのだろう。なんだろう……ラピュ〇感満載なんだけど……飛行〇の洞窟てこんな感じだったなぁ。

 

 ガコンッ「え?」

 

 音を響かせて僕の足が床のブロックの一つを踏み抜いた。そのブロックだけ僕の体重により沈んでいる。

 

 次の瞬間、シャァアアア、と刃が滑るような音を響かせて、左右の壁のブロックとブロックの隙間から高速回転・振動する巨大な丸ノコみたいな刃が飛び出してきた。右の壁は首の高さ、左の壁は腰の高さで前方から薙ぐように迫ってくる。

 

「回避してっ!」

 

 エトさんの叫びに反応して、マトリッ○スの某主人公のように後ろに倒れ込みながら二本の凶悪な刃を回避する。ユエは元々背が小さいのでしゃがむだけで回避した。シアさんとアルテナさんも何とか回避したようだ。後ろから「はわわ、はわわわわ」と動揺に揺れる声が聞こえてくる。

 

 二枚の殺意と悪意がたっぷりと乗った刃は通り過ぎると何事もなかったように再び壁の中に消えていった。しばらく警戒してみたけど何事も無くて、ホッと息を吐き後ろを振り返ろうと思ったら、猛烈な悪寒を感じた。

 

 その場からユエとシアさんを抱えて飛び退く、すると頭上からギロチンの如く無数の刃が射出され、まるでバターの如く床にスっと食い込んだ。やはり、先程の刃と同じく高速振動している。

 

「……完全な物理トラップですね。探知にも掛からない訳です……厄介ですねぇ」

 

 今まで魔力探知にかまけていたのが仇になっちゃったなぁ……これからは気配の探知とかも自力で出来る様にならないとなぁ……

 

「はぅ~、し、死ぬかと思いましたぁ~。ていうか、ハジメさん! あれくらい受け止めて下さいよぉ!」

「いや、無理だよ!? あれ相当な切れ味だよ!? ドンナーで防いだら切断まではされないだろうけど……破損はするよ?」

「き、傷って……武器と私、どっちが大事なんですかっ!」

「……武器かな?」

「ええぇ!?」

「だって……武器が無かったら守れないし…………」

 

 僕の言葉に掴みかからんばかりの勢いで問い詰めようとするシアさんにアルテナさん。

 

「……お漏らしウサギ。死にかけたのは未熟なだけ」

「おもっ、おもらっ、撤回して下さい、ユエさん! いくらなんでも不名誉すぎますぅ!」

 

 シアさんの「○○ウサギ」シリーズに新たに加わった称号の不名誉さに、シアさんが我慢できず猛抗議する。

 

「くだらない事で喧嘩しなでください……何時何が起こるか分からないんですから」

「く、くだらない事で……」

 

 最近エトさんのシアさんに対する扱いが雑になって来ている。

 

 ────────────────────────

 

 トラップに注意しながら更に奥へと進む。今のところ魔物は一切出てきていない。魔物のいない迷宮とも考えられるが、それは楽観が過ぎるというものだろう。それこそトラップという形で、いきなり現れてもおかしくない。

 

「うぅ~、何だか嫌な予感がしますぅ。こう、私のウサミミにビンビンと来るんですよぉ」

 

 階段の中程まで進んだ頃、突然、シアさんがそんなことを言い出した。言葉通り、ウサミミがピンッと立ち、忙しなく右に左にと動いている。

 

「シアさん、それフラグなんだよ。そういうこと言うと、大抵、直後に何か『ガコン』……ほらやっぱり!」

「わ、私のせいじゃないすぅッ!?」

「!? ……フラグウサギッ!」

「貴方て何時そうですよね!」

「少しは言動に気をつけてください! 貴方自身の為にも!」

「うわ〜ん! みんなひどいですぅ!」

 

 話している最中に、嫌な音が響いたかと思うと、いきなり階段から段差が消えた。かなり傾斜のキツイ下り階段だったのだが、その階段の段差が引っ込みスロープになったのだ。しかもご丁寧に地面に空いた小さな無数の穴からタールのようなよく滑る液体が一気に溢れ出してきた。

 

「うわっ!」

 

 段差が引っ込んで転倒しかけたが咄嗟に、靴の底に仕込んだ鉱石を錬成してスパイクにして何とか耐えるエトさんは刺剣を床に突き刺して耐えている。ユエとアルテナさんは、咄嗟に僕に飛びついたので滑り落ちることはなかった。

 

「うきゃぁあ!?」

 

 段差が消えた段階で悲鳴を上げながら転倒し後頭部を地面に強打。「ぬぅああ!」と身悶えている間に、液体まみれになり滑落。そのまま、M字開脚の状態で僕に衝突した。

 

「ちょうわ!」

 

 シアさんが激突してきた衝撃でスパイクが外れてスロープを滑り落ちていく。

 

「し、シアさん!? 今すぐ退いて!」

「しゅみません~、でも身動きがぁ~」

 

 滑り落ちる速度はドンドン増していく。足のスパイクやグローブのグリップで止まれないか試すが、既に速度が出過ぎているみたいで意味が無い。直接階段の錬成を試みるが、迷宮の強力な分解作用により上手く行かない。

 

 シアさんが、もがきつつも何とか起き上がる……僕の上に馬乗りになっている状態だけど。

 

「ドリュッケンの杭を打ち付けて!」

 

 シアさんに指示を出す。シアさんの持つドリュッケンには、幾つかのギミックが仕込まれており、その内の一つが槌の頭部分の平面から飛び出る杭である。一点突破の貫通力を上げる為の仕掛けだ。それを地面に突き立て滑落を止めようというわけだ。

 

「は、はい、任せッ!? ハジメさん! 道がっ!」

 

 シアさんが背中の固定具からドリュッケンを外そうと手を回した。と、直後、前方を見たシアが焦燥に駆られた声をあげる。

 

「っ! みんなしっかり掴まって!」

 

 スロープが終わりを迎え、僕達は空中へと投げ出された。一瞬の無重力。

 

 パシュ! ……ガキン! 「よし!」

 

 宝物庫からワイヤーを取り出して、射出する。ワイヤーは天井に刺さり、四人分の体重で僅かにワイヤーが軋んでいる。

 

 カサカサカサ、ワシャワシャワシャ、キィキィ、カサカサカサ

 

「ヒェ……」

 

 そんな音を立てながらおびただしい数のサソリが蠢いていたのだ。体長はどれも十センチくらいだろう。かつてのサソリモドキのような脅威は感じないのだが、生理的嫌悪感はこちらの方が圧倒的に上だ。抱きついていたアルテナさんが小さい悲鳴を上げて気を失ってしまった。

 

 下を見たくなくて、天井に視線を転じる。すると、何やら発光する文字があることに気がついた。既に察しはついているけど、つい読んでしまう。

 

 〝彼等に致死性の毒はありません〟

 〝でも麻痺はします〟

 〝存分に可愛いこの子達との添い寝を堪能して下さい、プギャー!! 〟

 

 わざわざリン鉱石の比重を高くしてあるのか、薄暗い空間でやたらと目立つその文字。ここに落ちた者はきっと、サソリに全身を這い回られながら、麻痺する体を必死に動かして、藁にもすがる思いで天に手を伸ばすだろう。

 

「……ハジメ、あそこ」

「あ、横穴みたいだね。どうしようか?」

「わ、私は、ハジメさんの決定に従います。ご迷惑をお掛けしたばかりですし……」

「……気にしなくてもいいよ? 迷宮を出た後に零斗にたっぷりと怒ってもらうから」

 

 零斗に丸投げていいや……僕じゃ怒っても怖くないだろうし。

 

「シアさんの〝選択未来〟が何度も使えればいいんだけどなぁ」

「うっ、それはまだちょっと。練習してはいるのですが……」

 

 〝選択未来〟はシアさんの固有魔法だ。仮定の先の未来を垣間見れる。但し、一日一回しか使用できない上、魔力も多大に消費するのであまり使えない固有魔法だ。

 

「ないものねだりしても仕方ないね……とりあえずは横穴に入ろうか」

『ハジメ君! 大丈夫ですか!?』

「エトさん……こっちは大丈夫だよ」

 

 エトさんに状況を伝えて、横穴に入る為にもう一本アンカーを射出し、位置を調整しながらターザンの要領で移動して横穴へと無事にたどり着いた。

 

 この先も嫌らしいトラップがあるんだろうなぁ……はぁ、とんでもないとこに来ちゃったなぁ。




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ミレディ?コイツが?

「よっと、(´-ω-`)ドウモハジメです」
「エトです」
「ん、ユエ」

「前回は迷宮の攻略を始めたね」
「トラップだらけですし、その度に煽ってくるのは流石に陰湿ですね」
「……この迷宮創ったやつは1発ぶん殴る」

「アハハ……えっと、今回はボス戦だよ」
「楽しんでください」

「「「ミレディ?コイツが?」」」


 Side ハジメ

 

「ハァ……ハァ……流石に危なかった」

 

 イ〇ディ・ジョーンズみたいに転がる大岩が迫ってきたり、溶解液のプールに落下しかけたり、最初の部屋まで戻されたり……ミレディはぜってぇぶっ殺す。

 

「ここはこの前の……また包囲されても面倒だね。扉は開いてるんだし一気に行くよ!」

「んっ!」

「はいです!」

 

 ゴーレム騎士の部屋に一気に踏み込んだ。部屋の中央に差し掛かると、案の定、ガシャンガシャンと音を立ててゴーレム騎士達が両サイドの窪みから飛び出してくる。出鼻を抉いて前方のゴーレム騎士達を銃撃し蹴散らしておく。包囲される前に祭壇の傍まで到達した。ゴーレム騎士達が猛然と追いかけてくる……でも僕達が扉をくぐるまでには追いつけそうにない。逃げ切り勝ちだ。

 

 だが、ゴーレム騎士達も扉をくぐって追いかけてきたからだ。しかも……

 

「ウソォ!?」

「天井を走って来ている!?」

「……びっくり」

「重力さん仕事してくださぁ~い!」

 

 そう、追いかけてきたゴーレム騎士達は、まるで重力など知らんとばかり壁やら天井やらをガシャンガシャンと重そうな全身甲冑の音を響かせながら走っている。

 

「……ここの神代魔法てもしかして」

「重力ですね」

「避けてください!」

 

 天井を走っていたゴーレム騎士の一体が、走りながらピョンとジャンプすると、まるで砲弾のように凄まじい勢いで頭を進行方向に向けたまま宙を飛んできた。

 

「うわぁ!」バゴォン! 

 

 何とか回避してドンナーで飛んできたゴーレム騎士の兜と肩を破壊した。ゴーレム騎士は頭部と胴体が別れ、更に大剣と盾を手放す。しかし、それらは地面に落ちることなく、そのまま僕達に向かって突っ込んできた。

 

「回避!」

「んっ」

「わきゃ!」

「くっ!」

 

 猛烈な勢いで迫ってきたゴーレム騎士の頭部、胴体、大剣、盾を屈んだり跳躍したりして躱していく。通り過ぎたゴーレム騎士の残骸は、そのまま勢いを減じることなく壁や天井、床に激突しながら前方へと転がっていった。

 

「皆! 耳塞いで!」

 

 ドンナー・シュラークを太もものホルスターにしまう。そして〝宝物庫〟からオルカンを取り出す。

 

 初めて見るオルカンの異様にシアさんとアルテナさんが目を見張る。ユエとエトさんは、走りながら耳を塞いだ。シアさんのウサミミはピンッと立ったままだが、この状況下では気にしていられないからオルカンの引き金を引いた。

 

 バシュウウウ! 

 

 そんな音と共に、後方に火花の尾を引きながらロケット弾が発射され、狙い違わず隊列を組んで待ち構えるゴーレム騎士に直撃した。

 

 次の瞬間、轟音、そして大爆発が発生する。通路全体を激震させながら大量に圧縮された燃焼粉が凄絶な衝撃を撒き散らした。ゴーレム騎士達は、直撃を受けた場所を中心に両サイドの壁や天井に激しく叩きつけられ、原型をとどめないほどに破壊されている。再構築にもしばらく時間がかかるだろう。

 

「ウサミミがぁ~、私のウサミミがぁ~!!」

「耳が……耳がァ……」

 

 ウサミミをペタンと折りたたみ両手で押さえながら涙目になって悶えているシアさんとプルプルと耳を抑えながら震えるアルテナさん。兎人族と森人族……それは亜人族の中でも聴覚に優れた種族だ。

 

「だから耳塞いでて言ったのに……大丈夫?」

「ええ? 何ですか? 聞こえないですよぉ」

「……ホント、残念ウサギ……」

「面目ありません……」

 

 再び落ちて来たゴーレム騎士達に対処しながら、駆け抜けること五分。遂に、通路の終わりが見えた。通路の先は巨大な空間が広がっているようだ。道自体は途切れており、十メートルほど先に正方形の足場が見える。

 

「皆! 掴まって!」

 

 背後からは依然、ゴーレム騎士達が落下してくる。それらを迎撃し、躱しながら通路端から勢いよく飛び出した。身体強化された跳躍力はオリンピック選手のそれを遥かに凌ぐ。世界記録を軽々と超えて目の前の正方形に飛び移ろうとした。

 

 が、思った通りにいかないのがこの大迷宮の特徴。何と、放物線を描いて跳んだ僕達の目の前で正方形のブロックがスィーと移動し始めたのだ。

 

「ダニィ!?」

 

 目測が狂いこのままでは落下する。チラリと見た下は相当深い。咄嗟にアンカーを撃ち込もうと左手を掲げた直後、ユエの声が響いた。

 

「〝来翔〟!」

 

 発動した風系統の魔法により上昇気流が発生し僕達の跳躍距離を延ばす。一瞬の効果しかなかったが十分だった。未だに離れていこうとするブロックに追いつき何とか端に手を掛けてしがみつくことに成功する。

 

「な、ナイスだよ。ユエ」

「ユエさん、流石ですぅ!」

「……もっと褒めて」

 

 墜落せずに済んだことに思わず笑みを浮かべて、ユエに賞賛する。ユエも魔力の消費が激しく少々疲れ気味だが得意げな雰囲気だ。

 

 だが、そんな和やかな雰囲気は空飛ぶゴーレム騎士達によって遮られた。そう、ゴーレム騎士達は宙を飛んでいるのである。おそらく重力を制御して落下方向を決めているのだろう。凄まじい勢いで未だぶら下がったままの急速接近してくる。

 

「全員、登れ!」

 

 乱雑な口調になりながらも指示を出すと同時にドンナーを抜くと迫り来るゴーレム騎士達に連続して発砲する。ユエ達が、ハジメの体を伝ってブロックの上に登りきり、倒立する勢いで体をはね上げてブロックの上に移動した。直後、ぶら下がっていた場所にゴーレム騎士が凄まじい勢いで大剣を突き刺す。一瞬、技後の影響で硬直するゴーレム騎士にハジメは頭上から銃撃し撃ち落とした。

 

「死ぬかと思ったよ……にしても完全に重力を無視した動きだよね。ここの神代魔法が重力魔法なのはほぼ確定だね」

「あはは、常識って何でしょうね。全部()()()ますよ?」

 

 シアさんの言う通り、周囲の全ては浮遊していた。

 

 僕達が入ったこの場所は直径二キロメートル以上ありそうな超巨大な球状の空間だった。そんな空間には、様々な形、大きさの鉱石で出来たブロックが浮遊してスィーと不規則に移動をしているのだ。完全に重力を無視した空間である。完全に重力を無視した空間である。だが、不思議なことにしっかりと重力を感じる。おそらく、この部屋の特定の物質だけが重力の制限を受けないのだろう。

 

 そんな空間をゴーレム騎士達が縦横無尽に飛び回っていた。やはり、落下方向を調節しているのか、方向転換が急激である。生物なら凄まじいGで死んでいてもおかしくないだろう。この空間に近づくにつれて細やかな動きが可能になっていった事を考えると、おそらく……

 

「ここに、ゴーレムを操っているヤツがいるってことかな?」

 

 ゴーレム騎士達は何故か僕達の周囲を旋回するだけで襲っては来ない。ここが終着点なのか、まだ続きがあるのか分からない。だが、間違いなく深奥に近い場所ではあるはずだ。

 

 〝遠見〟で、この巨大な球状空間を調べようと目を凝らした。と、次の瞬間、シアの焦燥に満ちた声が響く。

 

「逃げてぇ!」

「「「「!?」」」」

 

 シアさんの警告に瞬時に反応し弾かれた様に飛び退いた。運良く、ちょうど数メートル先に他のブロックが通りかかったので、それを目指して現在立っているブロックを離脱する。

 

 直後、

 

 ズゥガガガン!! 

 

 隕石が落下してきたのかと錯覚するような衝撃が今の今まで僕達がいたブロックを直撃し木っ端微塵に爆砕した。隕石というのはあながち間違った表現ではないだろう。赤熱化する巨大な何かが落下してきて、ブロックを破壊すると勢いそのままに通り過ぎていったのだ。

 

「ハ、ハハハ……冗談キツいよ……」

「シアさん、助かりました。ありがとうございます」

「……ん、お手柄」

「えへへ、〝未来視〟が発動して良かったです。代わりに魔力をごっそり持って行かれましたけど……」

 

 僕の感知より早く気がついたのはシアさんの固有魔法〝未来視〟が発したからのようだ。〝未来視〟は、シアさん自身が任意に発動する場合、シアが仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだが、もう一つ、自動発動する場合がある。今回のように死を伴うような大きな危険に対しては直接・間接を問わず見えるのだ。

 

 つまり、直撃を受けていれば少なくともシアさんは死んでいた可能性があるということだ。

 

 そうしてる間に、下の方で何かが動いたかと思うと猛烈な勢いで上昇してきた。一瞬の間にハジメ達の頭上に出ると、その場に留まりギンッと光る眼光で僕達を睥睨した。

 

「嘘でしょ……?」

「……すごく……大きい」

「お、親玉って感じですね」

「あんな大きな物体がどうやって浮いているんでしょう?」

 

 目の前に現れたのは、宙に浮く超巨大なゴーレム騎士だった。全身甲冑はそのままだが、全長が二十メートル弱はある。右手はヒートナックルとでも言うのか赤熱化しており、先ほどブロックを爆砕したのはこれが原因かもしれない。左手には鎖がジャラジャラと巻きついていて、フレイル型のモーニングスターを装備している。

 

 巨体ゴーレムに身構えていると、周囲のゴーレム騎士達がヒュンヒュンと音を立てながら飛来し、周囲を囲むように並びだした。

 

「……戦闘態勢を整えなさい」

「了解……」

 

 それぞれが武器を構えて臨戦態勢を敷く。動いた瞬間、殺し合いが始まる。そんな予感をさせるほど張り詰めた空気を破ったのは……

 

 ……巨体ゴーレムのふざけた挨拶だった。

 

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~♪」

「「「「「は?」」」」」

 

 凶悪な装備と全身甲冑に身を固めた眼光鋭い巨体ゴーレムから、やたらと軽い挨拶をされた。頭がどうにかなる前に現実逃避しそうだった。全員が、包囲されているということも忘れてポカンと口を開けている。

 

 硬直する僕達に、巨体ゴーレムは不機嫌そうな声を出した。声質は女性のものだ。

 

「あのねぇ~、挨拶したんだから何か返そうよ。最低限の礼儀だよ? 全く、これだから最近の若者は……もっと常識的になりたまえよ」

「あ、ごめんなさい……僕は南雲 ハジメと言います。初めまして、ミレディさん」

「うんうん! 君はいい子だねぇ!」

 

 キャピ! と言う効果音が聞こえそうなポーズを取るミレディ? さん。

 

(オスカーさん、この人? がミレディで合ってる?)

(……間違い……ない)

(ありがとうございます……もしかしてだけど感動してる?)

(……ちょっとだけ)

 

 涙声になっているオスカーさんでした。

 

「あの〜オスカーさんの手記にミレディさんは人間の女性て書いてあったですけど……」

「オスカーって言った? もしかして、オーちゃんの迷宮の攻略者?」

「あ、はい一応……」

 

 巨体ゴーレムは懐かしんでいるのか遠い目をするかのように天を仰いだ。本当に人間臭い動きをするゴーレムである。ユエは相変わらず無表情で巨体ゴーレムを眺め、シアは周囲のゴーレム騎士達に気が気でないのかそわそわしている。

 

「私は、確かにミレディ・ライセンだよ! ゴーレムの不思議は全て神代魔法で解決! もっと詳しく知りたければ見事、私を倒してみよ! って感じかな」

「ですよねぇ……」

「ははは、そりゃ、攻略する前に情報なんて貰えるわけないじゃん? 迷宮の意味ないでしょ?」

 

 今度は巨大なゴーレムの指でメッ! をするミレディ・ゴーレム。中身がミレディ・ライセンというのは頂けないが、それを除けば愛嬌があるように思えてきた。ユエが隣で「……中身だけが問題」とボソリと呟いている。

 

「よぉ~し! 今度はこっちの質問に答えてもらうよ」

 

 最後の言葉だけ、いきなり声音が変わった。今までの軽薄な雰囲気がなりを潜め真剣さを帯びる。

 

「目的は何? 何のために神代魔法を求める?」

 

 嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディさん。もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう。オスカーさんが記録映像を遺言として残したのと違い、何百年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問ではないだろうか。軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじい程の忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのかもしれない。

 

「……故郷に帰る為。それと僕達をここに呼んだあのクソゴミをぶっ殺す為でもある」

「うわぁー☆この子澄ました顔でとんでもない事言ってるぅ☆よし、ならば戦争(クリーク)だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

「脈絡が無さすぎる……あ、そうだ。貴方の神代魔法て重力魔法であってます?」

 

 ミレディは、「んふふ~」と嫌らしい笑い声を上げると、「それはね……」と物凄く勿体付けた雰囲気で返答を先延ばす。その姿は、ファイナルアンサーした相手に答えを告げるみの○んたを彷彿とさせた。

 

「教えてあ~げない!」「……ぶっ殺す」




そろそろ零斗の話に移らないと余計にグダグダになるので色々と省きました。


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VS ミレディ・ライセン

「よっと、(。・ω・)ノドモハジメです」
「シアです!」
「エトです」

「前回はミレディさんとの初対面だったね」
「ハジメさんて結構口が悪かったんですね……」
「零斗程じゃ無いけどね…僕だって怒ることはあるよ?」
「あの人と比べたらダメですよ、常識人的に振舞っていますが内面はただの戦闘狂ですよ」

「ア、アハハ……こ、今回はミレディ・ゴーレム戦です」
「楽しんでください!」

「「「VS ミレディ・ライセン!」」」


 Side 三人称

 

 ハジメが問答無用にオルカンからロケット弾をぶっぱなした。火花の尾を引く破壊の嵐が真っ直ぐにミレディ・ゴーレムへと突き進み直撃する。

 

 凄絶な爆音が空間全体を振動させながら響き渡る。もうもうとたつ爆煙。

 

「やりましたか!?」

「……シアさん、それはフラグ」

 

 シアが先手必勝ですぅ! と喜色を浮かべ、ユエがツッコミを入れる。結果、正しいのはユエだった。煙の中から赤熱化した右手がボバッと音を立てながら現れると横薙ぎに振るわれ煙が吹き散らされる。

 

 煙の晴れた奥からは、両腕の前腕部の一部を砕かれながらも大して堪えた様子のないミレディ・ゴーレムが現れた。ミレディ・ゴーレムは、近くを通ったブロックを引き寄せると、それを砕きそのまま欠けた両腕の材料にして再構成する。

 

「ふふ、先制攻撃とはやってくれるねぇ~、さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」

 

 嫌味ったらしい口調で、ミレディ・ゴーレムが再度、モーニングスターを射出した。シアが大きく跳躍し、上方を移動していた三角錐のブロックに飛び乗る。ハジメは、その場を動かずにドンナーをモーニングスターに向けて連射した。

 

 ドパァァァン! 

 

 銃声は一発。されど放たれた弾丸は六発。早打ちにより解き放たれた閃光は狙い違わず豪速で迫るモーニングスターに直撃する。流石に大質量の金属球とは言え、レールガンの衝撃を同時に六回も受けて無影響とはいかなかった。その軌道がハジメから大きく逸れる。

 

 同時に、上方のブロックに跳躍していたシアがミレディの頭上を取り、飛び降りながらドリュッケンを打ち下ろした。

 

「見え透いてるよぉ~」

「くぅ、このっ!」

 

 目測を狂わされたシアは、歯噛みしながら手元の引き金を引きドリュッケンの打撃面を爆発させる。薬莢が排出されるのを横目に、その反動で軌道を修正。三回転しながら、遠心力もたっぷり乗せた一撃をミレディ・ゴーレムに叩き込んだ。

 

 咄嗟に左腕でガードするミレディ・ゴーレム。凄まじい衝突音と共に左腕が大きくひしゃげる。しかし、ミレディ・ゴーレムはそれがどうしたと言わんばかりに、そのまま左腕を横薙ぎにした。

 

「きゃぁああ!!」

「シアさん!」

 

 悲鳴を上げながらぶっ飛ぶシア。アルテナがシアを抱えて近くに浮いていたブロックに着地する。

 

「厄介ですね……」

「パワーは想像通りだったけど……流石にあの硬度はびっくりですね」

 

 会話しながらもミレディ・ゴーレムに攻撃をするエトとハジメ。

 そんな、ハジメとエトのブロックに、遂にハジメでは捌ききれない程のゴーレム騎士達が殺到する。

 

 ハジメは、〝宝物庫〟からガトリング砲メツェライを取り出す。そして、ユエと背中合わせになり、毎分一万二千発の死を撒き散らす化物を解き放った。

 

 ドゥルルルル!! 

 

 六砲身のバレルが回転しながら掃射を開始する。独特な射撃音を響かせながら、真っ直ぐに伸びる数多の閃光は、縦横無尽に空間を舐め尽くし、宙にある敵の尽くをスクラップに変えて底面へと叩き落としていった。回避または死角からの攻撃のため反対側に回り込んだものは、エトが撃ち落としていく。

 

 瞬く間に四十体以上のゴーレム騎士達が無残な姿を晒しながら空間の底面へと墜落した。時間が経てば、また再構築を終えて戦線に復帰するだろうが、しばらく邪魔が入らなければそれでいい。そう、親玉であるミレディ・ゴーレムを破壊するまで。

 

「ちょっ、なにそれぇ!? そんなの見たことも聞いたこともないんですけどぉ!?」

 

 ミレディ・ゴーレムの驚愕の叫びを聞き流し、ハジメは、メツェライを〝宝物庫〟にしまうと、再びドンナーを抜きながら、少し離れたところにいるシア達にも聞こえるように声を張り上げた。

 

「ミレディの核の位置は心臓と同じ! そこを集中的に攻める!」

「んなっ! 何で、わかったのぉ!」

 

 再度、驚愕の声をあげるミレディ。

 

初歩的な事だよ、友よ(Elementary, my dear milady )。それだけの巨体なら動かすための魔力は膨大になる。それに伴って核となる魔石もかなりの大きさになる……隠しきれてると思ってたんだろうけど僅かにもれ出ていただけだよ!」

 

 ゴーレムを倒すセオリーである核の位置が判明し、ユエ達の眼光も鋭くなる。

 

 周囲を飛び交うゴーレム騎士も今は十体程度。皆で波状攻撃をかけて、ミレディの心臓に一撃を入れるのだ。

 

 ハジメが、一気に跳躍し周囲の浮遊ブロックを足場にしながらミレディ・ゴーレムに接近を試みる。今のレールガンの出力では、ミレディ・ゴーレムの巨体を粉砕して核に攻撃を届かせるのは難しい。なので、ゼロ距離射撃で装甲を破壊し、手榴弾でも突っ込んでやろうと考えたのだ。

 

 だが、そう甘くはない。

 

 ミレディ・ゴーレムの目が一瞬光ったかと思うと、彼女の頭上の浮遊ブロックが猛烈な勢いで宙を移動するハジメへと迫った。

 

「!?」

「操れるのが騎士だけとは一言も言ってないよぉ~」

 

 ミレディのニヤつく声音を無視して、ハジメは、宝物庫からとある物を取り出す。

 

「なぁ!? 何そのバカでかいのはぁ!?」

8.8cm Flak(アハト・アハト)! …………そいつは素敵だ! 大好きだ!」

 

 ドガァゴ!!! 

 

 ミレディの驚愕の言葉は8.8cm Flakの発する轟音に遮られた。放たれた殺意の塊は、ミレディ・ゴーレムを吹き飛ばすと共に胸部の装甲を木っ端微塵に破壊した。

 

 胸部から煙を吹き上げながら弾き飛ばされるミレディ・ゴーレム。ハジメも反動で後方に飛ばされた。アンカーを飛ばし、近くの浮遊ブロックに取り付けると巻き上げる勢いそのままに空中で反転して飛び乗る。そして、ミレディ・ゴーレムの様子を観察した。

 

 胸部の装甲を破壊されたままのミレディ・ゴーレムが、何事もなかったように近くの浮遊ブロックを手元に移動させながら、感心したような声音でハジメに話しかけてきた。

 

「いやぁ~大したもんだねぇ、ちょっとヒヤっとしたよぉ。分解作用がなくて、そのアーティファクトが本来の力を発揮していたら危なかったかもねぇ~、うん、この場所に苦労して迷宮作ったミレディちゃん天才!!」

「……残念だけどミレディ、このアーティファクトには魔力を使ってないよ」

「…………マジ? 純粋な威力でこれ?」

「地球の兵器を舐めるな……シア! 今だ!」

 

 ハジメとミレディが話混んでいる間にドリュッケンを振りかぶったシアが飛来する。

 

「りゃぁあああ!!」

 

 気合のこもった雄叫びと共に、手元の引き金が引かれ内蔵されたショットシェルが激発する。衝撃により一気に加速したドリュッケンが空気すら叩き潰す勢いでミレディ・ゴーレムに迫った。

 

 そのままの勢いで胸部に残っている8.8cm弾を殴り付ける。

 

「ハ、ハハ。どうやら未だ威力が足りなかったようだねぇ。だけど、まぁ大したものだよぉ? 四分の三くらいは貫けたんじゃないかなぁ?」

 

 若干、かたい声で、それでも余裕を装うミレディ。内心は冷や汗を掻いている。

 

「それは予想済み! 錬成!」

 

 ミレディの背に手を付いたハジメが錬成で貫かれた装甲部を無理やりこじ開け、散った装甲を8.8cm弾に纏わせ1本の杭に変化させる。

 

 シアは、そのままショットシェルを激発させ、その衝撃も利用して渾身の一撃を杭に打ち下ろした。

 

 ドゴォオオ!!! 

 

 轟音と共に杭が更に沈み込む。だが、まだ貫通には至らない。シアは、内蔵されたショットシェルの残弾全てを撃ち尽くすつもりで、引き金を引き続ける。

 

 ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ! 

 

「あぁあああああ!!」

 

 シアの絶叫が響き渡る。これで決めて見せると強烈な意志を全て相棒たる大槌に注ぎ込む。全身全霊、全力全開。衝撃と共に浮遊ブロックが凄まじい勢いで高度を下げていく。

 

 そして、轟音と共に浮遊ブロックが地面に激突した。その衝撃で遂に杭が絶対防御を貫き、ミレディ・ゴーレムの核に到達する。先端が僅かにめり込み、ビシッという音を響かせながら核に亀裂が入った。

 

 地面への激突の瞬間、シアはドリュッケンを起点に倒立すると、くるりと宙返りをする。そして、身体強化の全てを脚力に注ぎ込み、遠心力をたっぷりと乗せた蹴りをダメ押しとばかりに杭に叩き込んだ。

 

 シアの蹴りを受けて更にめり込んだ杭は、核の亀裂を押し広げ……遂に完全に粉砕した。

 

 ミレディ・ゴーレムの目から光が消える。シアはそれを確認するとようやく全身から力を抜き安堵の溜息を吐いた。直後、背後から着地音が聞こえ振り向くシア。そこには予想通りハジメ達がいた。シアは、皆に向けて満面の笑みでサムズアップする。ハジメ達は、それに応えるように笑みを浮かべながらサムズアップを返した。

 

 

「頑張りましたね、シアさん、アルテナさん。特訓の成果はあった見たいですね」

「シアさん、アルテナさん。二人共初めての大迷宮攻略なのに凄かったよ!」

「私、お役に立てたのでしょうか? シアさんのようにトドメをさせた訳では無いですし……」

「……ん、頑張った」

「えへへ、有難うございます。でもハジメさん、そこは〝惚れ直した〟でもいいんですよ?」

「……それとこれとはまた別の話かなぁ……アルテナさんは十分役に立ってるよ」

 

 疲れた表情をしながらも、称賛にはにかむシア。実際、つい最近まで、争いとは無縁だったとは思えない活躍だった。

 

「お疲れ様、シアさん」ナデナデ

「ハジメさぁ~ん……うぅ、あれ、何だろ? 何だか泣けてぎまじだぁ、ふぇええ~」

 

 シアは最初のうちハジメの突然の行動に戸惑っていたが。褒められていると理解すると緊張の糸が切れたのか、ポロポロと涙を流しながら彼に抱きつき泣き出してしまった。やはり、初めての旅でいきなり七大迷宮というのは相当堪えていたようだ。それを、ハジメ達に着いて行くという決意のみで踏ん張ってきたのだ。褒められて、認められて、安堵のあまり涙腺が崩壊してしまったようだ。

 

 ハジメに抱きつくシアに満更でも無さそうにするハジメ、それを見て何とも言えない表情をするアルテナとユエ、そんな四人の様子を見て微笑むエト。そんな五人に、突如、声が掛けられた。

 

「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?」

 

 ハジメ達がハッとしてミレディ・ゴーレムを見ると、消えたはずの眼の光がいつの間にか戻っていることに気がついた。咄嗟に、飛び退り距離を置くハジメ達。確かに核は砕いたはずなのにと警戒心もあらわに身構える。

 

「ちょっと、ちょっと、大丈夫だってぇ~。試練はクリア! あんたたちの勝ち! 核の欠片に残った力で少しだけ話す時間をとっただけだよぉ~、もう数分も持たないから」

 

 その言葉を証明するように、ミレディ・ゴーレムはピクリとも動かず、眼に宿った光は儚げに明滅を繰り返している。今にも消えてしまいそうだ。どうやら、数分しかもたないというのは本当らしい。

 

「嘘だね、絶対それが本体な訳ないじゃん……どうせ代わりのゴーレムが居るんでしょ?」

「アハハ……バレてら……その通りだよ。私は戦闘用のゴーレムでこの先の部屋に本体の私が居るよ」

 

 ミレディはそこまで言うと、ミレディ・ゴーレムは淡い光となって消えた。すると、壁の一角が光を放ち始めた。ハジメ達は自動で動く浮遊ブロックを使い光の奥へと進んでいった。

 

 

 ────────────────────────

 

「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

 それから自動で動く床に乗って神代魔法を得られる空間に訪れたハジメ達を乳白色の長いローブを身に纏い、ニコちゃんマークが書かれた白い仮面を付けているちっこいミレディが居た。

 

「それじゃあ、私の神代魔法……〝重力魔法〟を授けていっくよぉー!」

 

 ミレディはそう言って、ハジメ達を魔法陣の中に入れて、脳内に直接神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。今回は、試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく。

 

 ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりとハジメ達はミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れる。

 

「これは……やっぱり重力操作の魔法だね」

「そうだよ~ん。ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね……って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

「……知ってるよ、でもちょっと残念だね」

 

 チビミレディの言う通り、ハジメとシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった。ユエが、生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性がないのだろう。

 

「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんは適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ……というかリューちゃんにそっくりな子に至っては私以上に適正あるんだけど、どゆこと?」

「さ、さぁ?」

 

 チビミレディの幾分真面目な解説にハジメは肩を竦め、ユエは頷き、シアは打ちひしがれた。アルテナはミレディ以上の適正があると言われ、一番驚いているようだ。

 

 ドゴォン! 「ゴハァ!」

「何事!?」

 

 突如として天井が崩れて灰褐色の髪をした青年が床に叩きつけられた。

 

「やっべ、力込め過ぎたか……あ、ハジメじゃん」

「零斗!?」

 

 天井を突き破って来たの床でグロッキー状態になっている青年と同じ髪色の少女の首み根っこを掴んでいる零斗だった。

 

「……先越されたのか。割かしショックだな」

「ロっちゃん!? フェちゃん!?」

「「み、ミレディ……たすけ……て……」」バタリ

「なんでさ……」

 

 カオスな絵面に耐えきれなくなったハジメは自ら、意識を消失させる。




8.8cm Flakはいいゾ。

零斗君達のイメージ絵です。


【挿絵表示】
零斗


【挿絵表示】
恭弥


【挿絵表示】
柊人


【挿絵表示】
刀華


【挿絵表示】
鏡花


【挿絵表示】
悠花


使用させていただいたのは『はりねず系男子メーカー』『おにいさんメーカー』『はりねず系男子メーカー2』『妙子式2』になります。


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双子の獣

「よいしょと、ヾ(・ω・`)ノハロちょいと久しぶりの零斗さんだ」
「やっほー!ミレディちゃんだよー!」
「エトです」

「前回はハジメ達の迷宮攻略が完了したな」
「まさか君が天井を突き破ってくるとは思わなかったよね……何してくれてんの?」
「ついつい熱くなってね……すまんて」
「ハジメ君大丈夫でしょうか?」

「さ、さて、今回は俺視点の話だ」
「楽しんでね!」

「「「双子の獣!」」」


 Side 零斗

 

 目の前で気を失い倒れるハジメ。キャパオーバーしてんな。

 

「ミレディてのはどいつだ?」

「は、はい! 私ですっ!」

「お、あんたがミレディ・ライセンなんだな……とりあえずは神代魔法をくれ」

「了解であります!」

 

 生成魔法の時の様に脳に直接重力魔法の情報を刻み込まれる。30秒程で痛みは収まった。

 

「ほぉ……なかなか使い勝手の良さそうだな」

「光栄であります!」

 

 こんなキャラじゃなかったでしょ君……

 

「あのー……誰なんですか? その人達?」

 

 シアが気を失っているハジメを膝枕しながら聞いてくる。随分と絆された様で……

 

「まぁ、そうだな……前世の仲間かな?」

「ではハジメ君が起きるまでの間に何があったか教えてください」

「了解」

 

 ────────数日前────────

 

 転送されハジメ達と別れてしまった。

 

「……今度はロンドンですか」

 

 オスカーの迷宮では新宿が再現されていたが今回は第四特異点のロンドンが再現されていた。

 

「ヴェノム、位置の特定とハジメ達との連絡ができるか調査頼む」

『りょーかい』

 

 例の如くヴェノムに情報収集を頼み街中を歩き回ろうと思った時。いきなり銃声と共に衝撃を受ける。

 

「チッ……狙撃か……ヴェノム、腕の再生にはどのくらい時間が掛かる」

 

 狙撃により左腕が弾き飛ばれた。威力もそうだが弾道が明らかにおかしかった。まるで弾丸自体が屈折し追尾した……そんな感覚だった。

 

『完全に治すには2日くらいは掛かる』

 

 どうやらかなり面倒なことに巻き込まれたらしい。俺は狙撃手がいるであろう場所に向けて走り出す。するとまた銃弾が飛んできた。しかもさっきより速い、だが俺の身体能力なら避けれないことはない。飛んでくる弾丸を避けながら確実に距離を詰めていく。そして建物の屋根の上に登った瞬間、ようやく相手の姿を確認することができた。見た目はフード付きのコートを着た男。

 

「死ね」

 

 男がライフルのトリガーを引く前に詰め寄り首を刎ねる様に血狂いを横一文字に振る。

 

 キィン! 「チッ! 新手か……厄介な」

 

 背後から銃撃を受けて男の首のスレスレで血狂いが弾かれる。

 

「ここは一度体制を建て直さて貰う……じゃあな」ボフン

「……逃がさない」ヒュン

 

 女がナイフを投擲してくるがそれを弾いてその場から逃げる。

 

「しばらくは潜伏しつつ様子見だな……速めに仕留めねぇとジリ貧だな」

 

 こっちは左腕が使えないし、数的不利で……今無理に戦った所で勝てる筈も無い、のでせめて腕が治るまでは潜伏する事にした。

 

 

 ──────────2日後──────────

 

 

「うし、腕は治ったな」

『ハジメ達とは連絡取れねぇから……短期決戦じゃねぇとな』

「とりあえずは……男の方から仕留めるか」

 

 潜伏場所にしていた、廃墟を出る。しばらく歩き大通りに辿り着いた。

 

「ここなら見やすいな……(ヒュン)両方からな」

 

 早速、狙撃される。弾速は速いが避けられない程では……!? 

 

 ギィン! 「ハハ……さながらHELLSINGのリップバーンだな……弾道がねじ曲がりやがったよ」

『方向的には6時の方だぞ……参考にはならんだろうが』

「1発ずつしか撃てないだろうからリロード中に見つけるしかねぇか……めんど」

 

 

 再び移動すること数分、また別の建物に移動した時、違和感を感じた。音を聞いた瞬間、即座に伏せた。その瞬間、強い光と爆音に晒される。鼓膜が破れそうになる程の轟音が響き渡る。どうやら先ほどの閃光手榴弾のようなものを使ったようだ。しかし、おかしい。いくらなんでも威力がありすぎる。下手したら自分にも被害が出るというのに……

 

「ハハッ、面白れぇ奴もいるもんだな……」

『あれだけの攻撃できるってことは相当ヤバそうだな』

「まぁ、なんとかなるでしょ」

 

 建物の影に隠れつつ移動する。数日掛けようやく相手の姿が確認できた。黒いコートに身を包み、顔の上半分を隠すようなバイザーを着けている。さらに背中からは大型のライフルを背負っていた。

 

「今度は俺の番だな」

 

 ホルスターからエルガーを抜き男に標準を合わせ撃つ。弾丸は真っ直ぐ男に向かっていく。

 

「無駄だよ」

 

 男はライフルを構え、引き金を引いた。煙が上がる。着弾すると同時に銃口が吹き飛ぶ。その隙を狙って一気に肉薄しようと試みるが、次の瞬間強烈な痛みが全身を襲う。

 

「……ぐっ!」ガクッ

『おい! 大丈夫か!』

「……問題ない」

 

 

 だがこれはマズイ。おそらくあの男の仕業だ。恐らく重力操作系の魔法の一種だとは思うが、ここまで強力なものとなると神代魔法の類かもしれない。どちらにせよ厄介な能力であることに変わりはない。

 

 

「抵抗しなければ、苦しまずに死なせてあげるよ」

 

 男の指が再びトリガーに掛かる。俺は咄嵯にヴェノムに指示を出す。

 

(ヴェノム……頼んだぞ)

『おう、任せな!』

 

 俺は血狂いを地面に突き刺し、地面を伝わらせヴェノムを男の背後に転移させる。だが、それよりも早く男がヴェノムに向けて発砲した。弾丸が当たる直前、俺の血狂いで軌道を変え逸らすことに成功した。その間に俺は男の後ろに回り込み、心臓目掛けて貫手を繰り出す。だが、俺の攻撃を察知したのか、バックステップして避けられてしまう。俺はすかさず血狂いを男に向けて投げつける。狙い通り、男の肩に刺さりそのまま壁に縫い付けるように拘束することに成功した。

 

「ヴェノム、大丈夫か?」

「大丈夫だ、問題無い……けどちょっと休ませて」

 

 かなり消耗しているらしい。俺は急いで回復薬を取り出し飲ませる。

 少し落ち着いたところで状況を確認する。

 

 さっきの銃撃で左肩を貫通されているようだった。幸い急所は外れていたようで一命を取り留めたが、しばらくはまともに動けそうに無かった。

 

「さてと……大人しく捕まってくれるとありがたいんだが……」

「それは無理な相談ね」

「ですよねぇ」

 

 すると突然、後ろから声が聞こえてきた。振り向くとそこには白い軍服の様な格好をした女がいた。腰には二丁のハンドガンを差している。何者なのかは分からないが少なくとも味方ではない事だけは分かった。

 

「ナイフの嬢ちゃんか……と言うかフェルとロウだろ?」

「バレてら」

「お久〜レイト」

 

 やはり、この二人だった。何故こうなっているかというと、理由は簡単である。この迷宮の守護者らしく俺専用の試練らしい……正直勘弁して欲しい。

 

 そんなことを考えているうちに二人が構えを取る。どうやら戦闘は免れないようなのでこちらも臨戦態勢に入ることにした。

 

 先に動いたのは白服の女……もといフェルだった。こちらに突っ込んでくるのに合わせてカウンター気味に回し蹴りを放つ。しかし、それを見越していたかのように紙一重でかわされる。が、そんな事は予測済みなので痛手を負ったヴェノムを影の中に引かせる。一旦距離を置こうと下がるがフェルは手に持っていた二本のダガーを投げてくる始末だ。

 

「ちっ」

 

 舌打ちしつつ一本目を弾き飛ばし、二本目を避けようと身を引くがその瞬間、目の前に銃弾が迫ってきていたので慌てて飛び退く。

 

「ハハッ! やるじゃねえか」

「うーん、惜しいな……もうちょい速ければ眼球にクリーンヒットだったぜ」

「あんた、余裕すぎない!?」

 

 フェルの方を見ると右手を前に突き出し何かしらの詠唱をしていた。その直後、周囲に氷柱が出現しそれが一斉に襲いかかってくる。俺も対抗するように血狂いで全て撃ち落としていく。しかし、数が多すぎて捌ききれないと判断し、一旦その場を離脱する。すぐに追撃が来ると思ったのだが、意外にも来なかった。

 

「へぇ、やっぱり強いじゃん」

「当たり前だ」

「んじゃあ、本気出そっかな」

 

 その瞬間、空気が変わった。明らかに今までとは比べ物にならない程の殺気が放たれている。思わず鳥肌が立ったくらいだ。2人して体毛の黒い大狼に変化した。

 

「「グルゥゥゥウ……」」

「さながらダクソ2の王の仔ラド・王の仔ザレンだな……」

「「ガァア!!」」

 

 雄叫びを上げつつ、同時に突っ込んできた。俺は迎え撃つために血狂いを構える。まずは右の拳で殴りかかってきたのをギリギリまで引きつけて避け、ガラ空きになった脇腹に貫手を突き入れる。

 

「「ガ……ッ!」」

「……ッ!」

 

 だが、流石に硬かったようだ。皮膚を貫くことはできなかったが、その分ダメージはかなり与えた筈だ。そこに左から横薙ぎに爪が飛んで来る。これはしゃがみこんで回避する。頭上を風切り音が通り過ぎていった。すぐさま立ち上がり、今度はこちらから仕掛ける。まずは小細工無しに正々堂々と正面突破を試みた。それに対して二人は左右に分かれ挟み込むような攻撃に出る。

 

「脆いっ!」

 

 俺はあえて真正面から行くのではなく、敢えて右側に向かって跳ぶことで攻撃を空振りさせた。そしてそのまま空中を蹴って方向転換を行い、左側へと回り込んだ。だが、そこで違和感を感じた。先程までは確かにいたはずの二人の姿が見当たらないのだ。嫌な予感を感じつつも着地と同時に振り返るとそこには誰もいなかった。

 

 直後、背後からの気配を察知し咄嵯に飛び退いた。

 

「今のを避けるんだ」

「まぁ、これでも修羅場はくぐってきているんでね」

「なら……もっと本気でいくよ?」

 

 何時の間にか人型に戻っていた2人はそう言うと、また雰囲気が変わる。さっきよりもさらに濃密かつ鋭い殺意を感じる。俺は警戒心を強めて、いつでも動けるように構えを取った。

 

「「さて、第二ラウンド開始といこうか(ね)? レイト」」

 

 そう言って再び攻撃を仕掛けてきた。

 

 俺は即座に反応して迎撃を開始する。最初に動いたのはロウだった。両手にそれぞれ持ったハンドガンを構えて連射してくる。一発目をかわし、二発目は弾いて三発目を血狂いではじき返す。その間にフェルが懐に入り込みダガーを振るってきた。

「くっ!?」

 何とか体を捻り直撃は免れたが、左腕に浅く傷がつく。

「まだまだっ」

「こっちも忘れて貰っちゃ困るぜっ」

「ちっ! 鬱陶しい」

 

 フェルは攻撃の手を止めずに次々と斬りつけてくる。ロウも負けじとハンドガンを撃ちまくってくる。俺も反撃を試みるがフェルの攻撃が激しく中々チャンスが無い。

 

 そんな攻防が続くこと数分、ついにその時は訪れた。一瞬だけ隙ができたため、そこを狙って一気に距離を詰める。そのままロウの頭を掴み壁に叩きつける。

 

「ガッ!?」

「ロウ!」

「余所見すんなっ」

 

 影からヴェノムが現れ、フェルに回し蹴りを放ち吹っ飛ばす。

 

「ナイスだヴェノム……オラッ!」

 

 ロウの頭を掴み再度、床に叩きつける。床はメキメキと音を立て、崩壊を始めた。そんなことはお構いなしといった様子で、俺の腕を掴む。

 

 その勢いのまま建物を貫いて行く。途中にあった部屋やらを破壊しながら進み、やがてちょっと広めの空間に出た。

 

 ──────────────────────

 

 

「と、まぁこんな感じだ」

 

 俺の話が終わると皆唖然として様子でこちらを見ている。そりゃそうだろな。

 

「う、うーん……ここは?」

「お、起きたみたいだな」

 

 意識が戻ってきたハジメに何があったかを簡単に説明する。

 

「じゃ、じゃあ……そこで寝込んでいるのがフェルさんとロウさん?」

「ああ、そういうことだ。こいつらもエトやヴェノムと同じように俺の能力から生まれた」

 

 そう言いながら二人を指差した。ちなみにこの二人は既に元の姿に戻っている。

 

「戦わなくて良かった……絶対死んでたよ、私……」

 

 ミレディが若干涙声で呟いている。俺としてはちょっと戦いたかったなぁ……巨体ゴーレムか、ロマンだな! 

 

「あ、そうだ。ミレディ、お前に会わせたい奴が居るんだ……とその前に元の身体てあるか?」

「え? あるにはあるけど……魂魄をこっちに移しちゃたし」

「問題無い。一応は魂魄魔法が使える」

「えぇ……」

 

 俺は思い出したことを伝えるべく、ミレディに声をかける。すると彼女はビクッとした後、恐る恐る聞いてきた。何故、そこまで怯えるのかはわからないが……ミレディの魂をゴーレムから人間の方に戻した。自称美少女だと思っていたがどうやら本当の様だった。

 

 ユエのような金髪。シアの髪の色の様な蒼穹の目。顔つきも美少女と自分で言うのも否定できないレベル。体つきもスラッとしていて……一部のボリュームは無いようだが。

 

「あ、ミレディ目瞑っててくれ」

「わ、分かった……これでいいの?」

(オスカーさん、ちょっとこちらに)

(あ、あぁ……)

 

 とりあえずミレディには目を瞑って貰い、念話でオスカーを呼び、ミレディの前に立たせる。

 

「ミレディ、もういいぞ」

「う、うん…………え?」

 

 目を開けると目の前にはオスカーがいることに驚いたようだ。

 

「えっと……久しぶりだな、ミレディ」

「オーちゃん……本物なの?」

「ああ、正真正銘本物のオスカー・オルクスだよ」

「本当に、ほんとうに生きてるんだよね? 幽霊とかじゃないんだよね?」

「ははっ、おかしなことを言うな君は。私はこうして生きているさ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ミレディの目から大粒の涙が流れ出した。そして、そのままオスカーに抱きついた。オスカーは抱きつかれた事に動揺した様だったが直ぐに優しく頭を撫でていた。その様子を見た俺らは、退散することにする。

 

 

 ────────────────────

 

 しばらくして、落ち着いた様子のミレディが話出した。

 

「私も……君達の旅に同行させて貰えないかな?」

「別に構わないが……大丈夫なのか? その……色々と」

「もちろん、わかっているつもり。だけどね、それでも君達について行きたいと思ったの。だからお願いします」

 

 そう言って深々と頭を下げてきた。俺は後ろにいるハジメ達に視線を向けると、小さくコクリと首を縦に振った。

 

「わかった。歓迎しよう」

 

 俺はそう言うと手を差し出す。それを見たミレディは嬉しそうな表情を浮かべて、俺の手を握った。

 




戦闘描写ムズすぎるんじゃ〜


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幕間の物語:愛ちゃん親衛隊

「よっと、(´-ω-`)ドウモ清水 幸利です」
「久しぶりね、園部 優香よ」
「畑山 愛子です!」

「前回は零斗の戦闘だったな……やっぱりあの人やべぇよ」
「人間じゃ到底出来ないような事を平然とやってるだもん……」
「ま、まぁ、迷宮を攻略出来たんですから万事解決!……じゃ、ありませんね」

「コホン……今回は俺たちがメインの話だ」
「楽しんでね」

「「「愛ちゃん親衛隊!」」」


 Side 三人称

 

 畑山愛子、二十五歳。社会科教師。

 

 彼女にとって教師とは、専門的な知識を生徒達に教え、学業成績の向上に努め、生活が模範的になるよう指導するだけの存在ではない。もちろん、それらは大事なことではあるのだが、それよりも〝味方である〟こと、それが一番重要だと考えていた。具体的に言えば、家族以外で子供達が頼ることの出来る大人で在りたかったのだ。

 

 それは、彼女の学生時代の出来事が多大な影響を及ぼしているのだが、ここでは割愛する。とにかく、家の外に出た子供達の味方であることが、愛子の教師としての信条であり矜持であり、自ら教師を名乗れる柱だった。

 

 それ故に、愛子にとって現状は不満の極みだった。いきなり、異世界召喚などというファンタスティックで非常識な事態に巻き込まれ呆然としている間に、クラスの良心の様な生徒に話を代わりにまとめられてしまい、気がつけば大切な生徒達が戦争の準備なんてものを始めている。

 

 何度説得しても、既に決まってしまった〝流れ〟は容易く愛子の意見を押し流し、生徒達の歩を止めることは叶わなかった。

 

 〝ならば、せめて傍で生徒たちを守る〟と決意するも、彼女の天職は〝作農師〟。戦いとは無縁の能力だった。おまけに、その有用さから農地改善及び開拓の任務を言い渡される始末。

 

 必死に抵抗するも、生徒達(1部を除く)自身にまで説得され、愛子自身、適材適所という観点からは反論のしようがなく引き受けることになってしまった。

 

 毎日、遠くで戦っているであろう生徒達を思い、気が気でない日々を過ごす。聖教教会の神殿騎士やハイリヒ王国の近衛騎士達に護衛されながら、各地の農村や未開拓地を回り、ようやく一段落済んで王宮に戻れば、待っていたのはとある生徒の訃報だった。

 

 この時は、愛子は、どうして強引にでもついて行かなかったのかと自分を責めに責めた。結局、自身の思う理想の教師たらんと口では言っておきながら自分は流されただけではないか! と。もちろん、愛子が居たからといって何か変わったかと言われれば答えに窮するだろう。だが、この出来事が教師たる畑山愛子の頭をガツンと殴りつけ、ある意味目を覚ますきっかけとなった。

 

 〝死〟という圧倒的な恐怖を身近に感じ立ち上がれなくなった生徒達と、そんな彼等に戦闘の続行を望む教会・王国関係者。愛子は、もう二度と流されるもんか!と教会幹部、王国貴族達に真正面から立ち向かった。自分の立場や能力を盾に、私の生徒に近寄るなと、これ以上追い詰めるなと声高に叫んだ。

 

 そうして、愛子は勝利をもぎ取ったのだ。戦闘行為を拒否する生徒への働きかけは無くなった。だが、そんな愛子の頑張りに心震わせ、唯でさえ高かい人気が更に高まり、戦争は出来そうにないが、せめて任務であちこち走り回る愛子の護衛をしたいと立ち上がる生徒達が現れた事は皮肉な結果だ。

 

「戦う必要はない」「派遣された騎士達が護衛をしてくれているから大丈夫」そんな風に説得し思い止まらせようとするも、そうすればそうするほど一部の生徒達はいきり立ち「愛ちゃんは私達(俺達)が守る!」と、どんどんやる気を漲らせていく。そして、結局押し切られ、その後の農地巡りに同行させることになり、「また流されました。私はダメな教師です……」と四つん這い状態になってしまったことは記憶に新しい。

 

 生徒達の危機意識は、道中の賊や魔物よりも、むしろ愛子の専属騎士達に向いていた。その理由は、全員が全員、凄まじいイケメンだったからだ。これは、愛子という人材を王国や教会につなぎ止めるための上層部の作戦である。要はハニートラップみたいなものだ。それに気がついた生徒の一人が生徒同士で情報を共有し「愛ちゃんをイケメン軍団から守る会」を結成した。

 

 だが、ここで生徒側に一つ誤算が生じていた。それは、ミイラ取りがミイラになっていたということを知らなかったことだ。イカれちまったメンバーを紹介するぜ!左から

 

 神殿騎士専属護衛隊隊長デビッド

「心配するな。愛子は俺が守る。傷一つ付けさせはしない。愛子は……俺の全てだ」

 

 神殿騎士同副隊長チェイス

「彼女のためなら、信仰すら捨てる所存です。愛子さんに全てを捧げる覚悟がある。これでも安心できませんか?」

 

 近衛騎士クリス

「愛子ちゃんと出会えたのは運命だよ。運命の相手を死なせると思うかい?」

 

 近衛騎士ジェイド

「……身命を賭すと誓う。近衛騎士としてではない。一人の男として」

 

 だ!さぁ、存分に罵詈雑言を浴びせてやれ!

 

 この時、生徒達は思った。「一体何があった!? こいつら全員逆に堕とされてやがる!」と。つまり、最初こそ危機意識の内容は愛子がハニートラップに引っかかるのでは? だったのだが、このセリフを聞いた後では「馬の骨に愛ちゃんは渡さん!」という親的精神で、生徒達は愛子の傍を離れようとしなかったのである。

 

 なお、彼等と愛子の間に何があったのかというと……話が長くなるので割愛するが、持ち前の一生懸命さと空回りぶりが、愛子の誠実さとギャップ的な可愛らしさを周囲に浸透させ、〝気がつけば〟愛子の信者になっていたという、まぁそんな感じの話だ。語り出せば、短編小説が書けるが……皆興味無いだろ?

 

 そんなこんなで現在では、【オルクス大迷宮】で実戦訓練をつむ光輝達勇者組、居残り組、愛子の護衛組に生徒達は分かれていた。

 

 そしてちょうど、ハイリヒ王国に帝国の使者が来訪して二ヶ月と少し、愛子達農地改善・開拓組一行は、馬車に揺られながら新たな農地の改善に向かっていた。目的地は湖畔の町ウルである。

 

「愛子、疲れてないか? 辛くなったら遠慮せずに言うんだぞ? 直ぐに休憩にするからな?」

「……それ以上彼女に近づかないで貰いましょうか。先程も注意しましたが畑山先生は軽度の男性恐怖症を患っています、男の貴方が軽々しく近寄ろうとしないでください」

「恭弥くん大丈夫ですよ。平気です、デビッドさん。というかついさっき休憩したばかりじゃないですか。流石にそこまで貧弱じゃありません」

 

 広々とした大型馬車の中、愛子専属護衛隊隊長のデビッドが心配そうに愛子に近寄ろうと歩み寄るがそれを威圧で止める恭弥……それに対する愛子の返答は苦笑いが混じっていた。

 

 愛子の男性恐怖症はレイプが原因により発症してしまったものだ零斗を初めとした数人は大丈夫な様だがデビットや他の護衛騎士達には拒否反応が出てしまう様だった。

 

「そのダンセイキョウショウ?と言うのは知らんが私はただ愛子が心配で……」

「ケアは私達の方でも出来ますから……と言うか隊長である貴方と副隊長のチェイスさんが此処に居る必要は無いと思いますが?」

「それは愛子の身に何かあるk「私達が居るので問題ありません」……貴様!」

 

 デビットに食って掛かる恭弥、その態度が気に食わないのか今にも斬りかかりそうなデビットである。まさに一触即発と言った雰囲気の中「ゴホンッ!」という咳払いと鋭い眼光に止められる。止めたのは愛子の斜め前に座っている女子生徒の一人園部優花である。〝愛ちゃんをイケメン軍団から守る会〟のメンバーだ。馬車の中という密室にイケメン軍団と愛子だけにしていては何があるかわからないと他にも数名のメンバーが乗り込んでいる。

 

「おやおや、睨まれてしまいましたね。そんなに眉間に皺を寄せていては、せっかくの可愛い顔が台無しですよ?」

 

 そう言ってイケメンスマイルで微笑むチェイス。普通の女性なら思わず頬を染めるだろう魅力的な笑みだ。だが、それに対する優花の反応は、今にも「ペッ!」とツバ吐きそうな表情である。

 

「愛ちゃん先生の傍で、他の女に〝可愛い〟ですか? 愛ちゃん先生、この人、きっと女癖悪いですよ。気を付けて下さいね?」

 

 優花は、惚れた女の前で他の女に〝可愛い〟なんて言葉を使うヤツはろくでもないと考えている。彼等も自分達が愛子に対するハニートラップ的な意味で上から付けられたということを理解しており、それは即ち自分達の容姿が女性をときめかせるものだと重々承知しているということだ。それをわかっていながら、敢えて微笑むチェイスに優花はイラっとした表情を向け、ささやかな反撃をする。

 

「そ、園部さん。そんなに喧嘩腰にならないで。それと、せっかく〝先生〟と呼んでくれるようになったのに〝愛ちゃん〟は止めないんですね……普通に愛子先生で良くないですか?」

「ダメです。愛ちゃん先生は〝愛ちゃん〟なので、愛ちゃん先生でなければダメです。生徒の総意です」

「ど、どうしよう、意味がわからない。しかも生徒達の共通認識? これが、ゆとり世代の思考なの? 頑張れ私ぃ、威厳と頼りがいのある教師になるための試練よ! 何としても生徒達の考えを理解するのよ!」

 

 一人で「ふぁいとー!」する愛ちゃん先生に、恭弥の優花 VS チェイスのやり取りでギスギスしていた空気がほんわかする。それこそ愛子が〝愛ちゃん〟たる所以なのだが、愛子は気がつかない。威厳のある教師の道は遠そうである。

 

「「「「グォォオァォ!」」」」

「……仕事ですか」

「ふ、どうやら私達護衛騎士の出番の様だな……まぁ任せておけ。愛子心配せずとも私達……いや!私が!」

「恭弥、片付けて来なさい」

「了解……邪魔なので寝ててくださいね」

「「グオ!」」

 

 恭弥がデビット達を気絶させて、馬車を降りる。そして、馬車の周りでは魔物の群れが寄ってくるのが見える。

 

「さっさと終わらせますか……」

 

 恭弥はニエンテを取り出し構えると、一瞬にして姿を消した。

 

 それから数分後……気絶から覚めたデビット達は血溜まりの中に立つ一人の青年の姿がを見た。

 

「だから言ったでしょう?必要無いと……」

「グッ……」

「鏡花、タオルと替えの服ください」

 

 血まみれの恭弥が馬車内に戻ってくる、それを見た愛子が卒倒し、鏡花からお叱りを受ける恭弥だった。

 

「最早、日常光景と化して来たな……」

「慣れちゃいけないんだろうけど、慣れちゃたよね……」

 

 そう呟くのは護衛隊メンバーの宮崎奈々、相川昇である。ちなみに今回同行した愛ちゃん護衛隊の生徒は園部優花の他、菅原妙子、宮崎奈々、相川昇、仁村明人、玉井淳史、清水幸利、西園寺 鏡花、佐野 恭弥の九人である。

 

 大半は者は愛子の傍にいたかったという単純な理由から同伴しているようだが恭弥達は零斗からの指示と情報収集を目的として同行している。

 

 ────────────────────

 

 更に馬車に揺られること四日。

 

 イケメン軍団が愛子にアプローチをかけ、愛子自身、やけに彼等が積極的なのは上層部から何か言われているのだろうなぁと考えていたので普通にスルーし、実は本気で惚れられているということに気がついていない愛子に、これ以上口説かせるかと生徒達が睨みを効かせ、度々重い空気が降りるなか、やはり愛子の言動にほんわかさせられ……ということを繰り返して、遂に一行は湖畔の町ウルに到着した。

 

 旅の疲れを癒しつつ、ウル近郊の農地の調査と改善案を練る作業に取り掛かる。その間も愛子を中心としたラブコメ的騒動が多々あるのだが……それはまた別の機会に。

 

 そうして、いざ農地改革に取り掛かり始め、最近巷で囁かれている〝豊穣の女神〟という二つ名がウルの町にも広がり始めた頃、再び、愛子の精神を圧迫する事件が起きた。

 

 生徒の二人が失踪したのである。

 




一体誰が失踪したんだろうなぁ(棒読み)


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三章
再び、ブルックの町より


「よいしょと、ヾ(ω` )/ハイヨお馴染みの零斗さんでっせ」
「ハジメです」
「エトです」

「さて、前回は愛ちゃん達がメインだったな……あの神殿騎士達はぶっ飛ばす」
「……止めた方がいいのかな?」
「いいんじゃないですか?」

「今回は……まぁ日常パートかな?」
「なんで疑問形なんですか……楽しんでください」

「「「再び、ブルックの町より!」」」


 Side 三人称

 

「ふふっ、あなた達の痴態、今日こそじっくりねっとり見せてもらうわ!」

 

 上弦の月が時折雲に隠れながらも健気に夜の闇を照らす。今もまた、風にさらわれた雲の上から顔を覗かせその輝きを魅せていた。その光は、地上のとある建物を照らし出す。もっと具体的に言えば、その建物の屋根からロープを垂らし、それにしがみつきながら何処かの特殊部隊員のように華麗な下降を見せる一人の少女を照らし出していた。

 

 スルスルと三階にある角部屋の窓まで降りると、そこで反転し、逆さまになりながら窓の上部よりそっと顔を覗かせる。

 

「この日のためにクリスタベルさんに教わったクライミング技術その他! まさかこんな場所にいるとは思うまい、ククク。さぁ、どんなアブノーマルなプレイをしているのか、ばっちり確認してあげる!」

 

 ハァハァと興奮したような気持ちの悪い荒い呼吸をしながら室内に目を凝らすこの少女、何を隠そう、ブルックの町〝マサカの宿〟の看板娘ソーナちゃんである。明るく元気で、ハキハキしたしゃべりに、くるくると動き回る働き者、美人というわけではないが野に咲く一輪の花のように素朴な可愛さがある看板娘だ。町の中にも彼女を狙っている独身男は結構いる。

 

 そんな彼女は、現在、持てる技術の全てを駆使して、とある客室の〝覗き〟に全力を費やしていた。その表情は、彼女に惚れている男連中が見れば一瞬で幻滅するであろう……エロオヤジのそれだった。

 

「くっ、やはり暗い。よく見えないわ。もう少し角度をずらして……」

「それよりこちらの角度の方が良く見えますよ」

「え? あ、ホントだよく見える! ……それにしても静かね? もう少し嬌声が聞こえるかと思ったのに……」

「魔法使えば遮音くらいは出来ます」

「はっ!? その手があったか! くぅう、小賢しい! でも私は諦めない! その痴態だけでもこの眼に焼き付け………………」

「こんばんわ、お嬢さん」

 

 ソーナは一瞬で滝のような汗を流すと、ギギギという油を差し忘れた機械の様にぎこちない動きで振り返った。そこには……某蜘蛛男の様に逆さまにぶら下がる零斗がいた。

 

「ち、ちなうんですよ? お客様。これは、その、あの、そう! 宿の定期点検です!」

「それはそれは……ですがこんな夜遅くにですか?」

「そ、そうなんですよ~。ほら、夜中にちゃちゃっとやってしまえば、昼に補修しているところ見られずに済むじゃないですか。宿屋だからガタが来てると思われるのは、ね?」

「なるほど、評判は大事ですよね」

「そ、そうそう! 評判は大事です!」

「ところで、この宿ですが、どうやら覗き魔が出るみたいなんですよ。そこんとこどう思います?」

「そ、それは由々しき事態ですね! の、覗きだなんて、ゆ、許せません、よ?」

「ええ、その通りです。覗きは許せないですよね?」

「え、ええ、許せませんとも……」

 

 

 零斗とソーナは顔を見合わせると「ははは」「ふふふ」とお互いに笑い始めた。ソーナは小刻みに震えながら汗をポタポタ垂らしている、これから何が起こるかが分かっている様だ。

 

「お話死しましょか」

「ひぃ──、ごめんなざぁ~い」

 

 零斗はそのままの体制で、ソーナの顔面をアイアンクローする。メリメリという音を立ててめり込む零斗の指。空中でジタバタともがきながらソーナは悲鳴を上げ、必死に許しを請う。

 

 これが初犯なら、まだもう少し手加減くらいしただろう。しかし、ライセン大迷宮から帰還した次の日に、再び宿に泊まった夜から毎晩、あの手この手で覗きをされればいい加減、手加減の配慮も薄くなるというものだ。ちなみに、それでもこの宿を利用しているのは、飯が美味いからである。

 

 既にビクンビクンしているソーナに溜息を吐きながら脇に抱え直す零斗。ソーナは、ようやく解放されたとホッと安堵の息を吐く。しかし、ふと見た下には……鬼がいた。満面の笑みだが、眼が笑っていない母親という鬼が。

 

「ひぃ!!」

 

 ソーナが気がついたことに気がついたのだろう。ゆっくり手を掲げると、おいでおいでをする母親。まるで地獄への誘いだった。

 

「今回は、尻叩き百発じゃあきかないかもですね」

「いやぁああ──ー!」

 

 零斗がポツリとこぼした言葉に、今までのお仕置きを思い出して悲鳴を上げるソーナ。きっと、翌の朝食時には、お尻をパンパンに腫らした涙目のソーナを見ることができるだろう。毎晩毎朝の出来事に溜息を吐く零斗であった。

 

 ──────────────────────

 

 音を立てて冒険者ギルド:ブルック支部の扉は開いた。入ってきたのは複数の人影、ここ数日ですっかり有名人となった零斗達である。ギルド内のカフェには、何時もの如く何組かの冒険者達が思い思いの時を過ごしており、零斗達の姿に気がつくと片手を上げて挨拶してくる者もいる。男は相変わらずエト達に見蕩れ、ついでハジメと零斗に羨望と嫉妬の視線を向けるが、そこに陰湿なものはない。

 

 ブルックに滞在して一週間、その間にユエ達を手に入れようと決闘騒ぎを起こした者は数知れず。ユエ達を直接口説け無いと分かったのか、外堀を埋めるようにハジメ達から攻略してやろうという輩がそれなりにいたのである。

 

 零斗は面倒と言いながら向かってくる相手を犬神家化させ、ハジメは目の笑っていない笑顔で『僕の大切な人に手を出したら……分かりますよね?』言っているので大体の奴は玉砕している。

 

「おや、今日は全員一緒かい?」

 

 零斗達がカウンターに近づくと、いつも通り、おばちゃ……キャサリンがおり、先に声をかけた。キャサリンの声音に意外さが含まれているのは、この一週間でギルドにやって来たのは大抵、一人か二人組だからだ。

 

「ええ、明日にでも町を出るつもりなので、貴方には色々のお世話になりましたから、挨拶をしておこう思いまして。それと、目的地関連で依頼があれば受けようと思いましてね」

 

 世話というのは依頼を斡旋して貰ったり、ギルドの一室を無償で借りていたことだ。重力魔法なので生成魔法と組み合わせを試行錯誤するのに、それなりに広い部屋が欲しかったのである。キャサリンに心当たりを聞いたところ、それならギルドの部屋を使っていいと無償で提供してくれたのだ。

 

「そうかい。行っちまうのかい。そりゃあ、寂しくなるねぇ。あんた達が戻ってから賑やかで良かったんだけどねぇ~」

「勘弁してください。この町には変態しか居ないんですから……ユエさんやエトに踏まれたいとか言って町中で突然土下座してくる変態、〝お姉さま〟とか連呼しながら五人をストーキングする変態、決闘を申し込んでくる阿呆共……碌な方が居ないじゃないですか。出会った人の七割が変態で他二割が阿呆……どうなってるんです? この町」

 

 苦々しい表情の零斗が愚痴をこぼすように語った内容は全て事実だ。ソーナは言わずもがな、クリスタベルは会う度に零斗やハジメに肉食獣の如き視線を向け舌なめずりをしてくるので、何度寒気を感じたかわからない。

 

 また、ブルックの町には派閥が出来ており、日々しのぎを削っている。一つは「ユエちゃんに踏まれ隊」、もう一つは「シアちゃん、アルテナちゃんの奴隷になり隊」、「エト様に罵られ隊」とか、「ミレディちゃんにからかわれ隊」、最後が「お姉さまと姉妹になり隊」である。それぞれ、文字通りの願望を抱え、実現を果たした隊員数で優劣を競っているらしい。

 

 あまりにぶっ飛んだネーミングと思考の集団にドン引きのハジメ達。町中でいきなり土下座するとユエやエトに向かって「踏んで下さい!」とか絶叫するのだ。もはや恐怖である。シア達に至ってはどういう思考過程を経てそんな結論に至ったのか理解不能だ。亜人族は被差別種族じゃなかったのかとか、お前らが奴隷になってどうするとかツッコミどころは満載だが、深く考えるのが嫌だったので出会えば即刻排除している。

 

 最後は女性のみで結成された集団で、エト達に付き纏うか、ハジメや零斗の排除行動が主だ。一度は、「お姉さまに寄生する害虫が! 玉取ったらぁああ──!!」とか叫びながらナイフを片手に突っ込んで来た少女もいる。

 

 流石に町中で少女を殺害したとなると色々面倒そうなので、零斗が、その少女を裸にひん剥いた後、亀甲縛りと猿轡をして一番高い建物に吊るし上げた挙句、〝次は殺します〟と書かれた張り紙を貼って放置した。あまりの所業と淡々と書かれた張り紙の内容に、少女達の過激な行動がなりを潜めたのはいい事である。

 

「まぁまぁ、何だかんで活気があったのは事実さね」

「嫌な、活気ですね……」

「で、何処に行くんだい?」

「フューレンです……依頼はありますか?」

「ちょっと待ってな」

 

 そんな風に雑談しながらも、仕事はきっちりこなすキャサリン。早速、フューレン関連の依頼がないかを探し始める。

 

 フューレンとは、中立商業都市のことだ。ハジメ達の次の目的地は【グリューエン大砂漠】にある七大迷宮の一つ【グリューエン大火山】である。その為、大陸の西に向かわなければならないのだが、その途中に【中立商業都市フューレン】があるので、大陸一の商業都市に一度は寄ってみようという話になったのである。なお、【グリューエン大火山】の次は、大砂漠を超えた更に西にある海底に沈む大迷宮【メルジーネ海底遺跡】が目的地だ。

 

「う~ん、おや。ちょうどいいのがあるよ。商隊の護衛依頼だね。ちょうど空きが後二人分あるよ……どうだい? 受けるかい?」

 

 キャサリンにより差し出された依頼書を受け取り内容を確認するハジメ。確かに、依頼内容は、商隊の護衛依頼のようだ。中規模な商隊のようで、十五人程の護衛を求めているらしい。

 

「同伴は大丈夫なんですか?」

「ああ、問題ないよ。あんまり大人数だと苦情も出るだろうけど、荷物持ちを個人で雇ったり、奴隷を連れている冒険者もいるからね。まして、ユエちゃんもエトちゃん達も結構な実力者だ。二人分の料金で複数の優秀な冒険者を雇えるようなもんだ。断る理由もないさね」

「……どうしましょうか」

 

 零斗は少し逡巡し、意見を求めるようにハジメ達の方を振り返った。正直な話、配達系の任務でもあればと思っていたのだ。というのも、ハジメ達だけなら魔力駆動車があるので、馬車の何倍も早くフューレンに着くことができる。わざわざ、護衛任務で他の者と足並みを揃えるのは手間と言えた。

 

「急ぐ旅じゃないし、大丈夫じゃない?」

「そうですねぇ~、たまには他の冒険者方と一緒というのもいいかもしれません。ベテラン冒険者のノウハウというのもあるかもしれませんよ?」

「情報交換もしたいですね」

「……そうだな、急いても仕方ないしたまにはいいか」

 

 零斗は二人の意見に「ふむ」と頷くとキャサリンに依頼を受けることを伝える。ユエの言う通り、七大迷宮の攻略にはまだまだ時間がかかるだろう。急いて事を仕損じては元も子もないというし、シアとアルテナの言うように冒険者独自のノウハウや貴重か情報があれば今後の旅でも何か役に立つことがあるかもしれない。

 

「あいよ。先方には伝えとくから、明日の朝一で正面門に行っとくれ」

「了解した」

 

 零斗が依頼書を受け取るのを確認すると、キャサリンが零斗達のの後ろのユエ達に目を向けた。

 

「あんた達も体に気をつけて元気でおやりよ? この子に泣かされたら何時でも家においで。あたしがぶん殴ってやるからね」

「……ん、お世話になった。ありがとう」

「はい、キャサリンさん。良くしてくれて有難うございました!」

 

 キャサリンの人情味あふれる言葉にユエ達の頬も緩む。特にシアとアルテナは嬉しそうだ。この町に来てからというもの自分が亜人族であるということを忘れそうになる。もちろん全員が全員、シアやアルテナに対して友好的というわけではないが、それでもキャサリンを筆頭にソーナやクリスタベル、ちょっと引いてしまうがファンだという人達はシアを亜人族という点で差別的扱いをしない。

 

 土地柄かそれともそう言う人達が自然と流れ着く町なのか、それはわからないが、いずれにしろシアにとっては故郷の樹海に近いくらい温かい場所であった。

 

「あんたも、こんないい子達泣かせんじゃないよ? 精一杯大事にしないと罰が当たるからね?」

「……フフフ、世話焼きな人ですね。言われなくとも承知していますよ」

 

 キャサリンの言葉に微笑みで返す零斗。そんな零斗に、キャサリンが一通の手紙を差し出す。疑問顔で、それを受け取る。

 

「これは?」

「あんた達、色々厄介なもの抱えてそうだからね。町の連中が迷惑かけた詫びのようなものだよ。他の町でギルドと揉めた時は、その手紙をお偉いさんに見せな。少しは役に立つかもしれないからね」

 

 バッチリとウインクするキャサリン。手紙一つでお偉いさんに影響を及ぼせるアンタは一体何者だ?という疑問がありありと表情に浮かんでいる。

 

「おや、詮索はなしだよ? いい女に秘密はつきものさね」

A secret makes a woman woman(女は秘密を着飾って美しくなる)ですか……分かりました、これ以上の詮索はしません。これは有難く貰い受けます」

「素直でよろしい!色々あるだろうけど、死なないようにね」

 

 謎多き、片田舎の町のギルド職員キャサリン。ハジメ達は、そんな彼女の愛嬌のある魅力的な笑みと共に送り出された。

 

 その後、零斗達は、クリスタベルの場所にも寄った。ハジメは断固拒否したが、エト達がどうしてもというので仕方なく付き添った……だが、町を出ると聞いた瞬間、クリスタベルは最後のチャンスとばかりにハジメに襲いかかる巨漢の化物と化し、恐怖のあまりシュラーゲンを使って葬ろうとするハジメを、ユエと零斗が必死に止めるという衝撃的な出来事があったが……詳しい話は割愛だ。

 

 最後の晩と聞き、遂には堂々と風呂場に乱入、そして部屋に突撃を敢行したソーナちゃんが、ブチギレた母親に本物の亀甲縛りをされて一晩中、宿の正面に吊るされるという事件の話も割愛だ。なぜ、母親が亀甲縛りを知っていたのかという話も割愛である。

 

 ────────翌日早朝──────────

 

 そんな愉快なブルックの町民達を思い出にしながら、正面門にやって来たハジメ達を迎えたのは商隊のまとめ役と他の護衛依頼を受けた冒険者達だった。どうやら零斗達が最後のようで、まとめ役らしき人物と十四人の冒険者が、やって来た零斗達を見て一斉にざわついた。

 

「お、おい、まさか残りの奴らって〝ノーフェイス〟と〝スマッシュ・ラバァーズ〟なのか!?」

「マジかよ! 嬉しさと恐怖が一緒くたに襲ってくるんですけど!」

「見ろよ、俺の手。さっきから震えが止まらないんだぜ?」

「いや、それはお前がアル中だからだろ?」

 

 ユエやエトの登場に喜びを顕にする者、股間を両手で隠し涙目になる者、手の震えを零斗達のせいにして仲間にツッコミを入れられる者など様々な反応だ。ちなみにノーフェイスと言うのは零斗とエトの2つ名の様な物で零斗は仮面の為顔は分からず、エトは表情がほぼ変わら無いためそう呼ばれている。スマッシュ・ラバァーズはハジメ達の2つ名で相手のメンタルと肉体を完膚なきまでに叩き潰しているために呼ばれている。零斗達が、嫌そうな表情をしながら近寄ると、商隊のまとめ役らしき人物が声をかけた。

 

「君達が最後の護衛かね?」

「はい、これが依頼書です」

 

 零斗は、懐から取り出した依頼書を見せる。それを確認して、まとめ役の男は納得したように頷き、自己紹介を始めた。

 

「私の名はモットー・ユンケル。この商隊のリーダーをしている。君達のランクは未だ青だそうだが、キャサリンさんからは大変優秀な冒険者と聞いている。道中の護衛は期待させてもらうよ」

「……もっとユンケル?……商隊のリーダーって大変なんですね」

 

 日本のとある栄養ドリンクを思い出させる名前に、零斗とハジメの眼が同情を帯びる。なぜ、そんな眼を向けられるのか分からないモットーは首を傾げながら、「まぁ、大変だが慣れたものだよ」と苦笑い気味に返した。

 

「期待は裏切らないと思います。私は零斗だ。こちらはハジメ、エト、ユエ、シア、アルテナ、ミレディです」

「それは頼もしいな……ところで、この兎人族の森人族……売るつもりはないかね? それなりの値段を付けさせてもらうが」

 

 モットーの視線が値踏みするようにシアを見た。兎人族で青みがかった白髪の超がつく美少女と流れるような金髪に万人を魅了する美貌を持つ少女だ。商人の性として、珍しい商品に口を出さずにはいられないということか。首輪から奴隷と判断し、即行で所有者たる零斗に売買交渉を持ちかけるあたり、きっと優秀な商人なのだろう。

 

 その視線を受けて、シアとアルテナが「うっ」と嫌そうに唸りハジメの背後にそそっと隠れる。ユエとエトのモットーを見る視線が厳しい。だが、一般的な認識として樹海の外にいる亜人族とは、すなわち奴隷であり、珍しい奴隷の売買交渉を申し出るのは商人として当たり前のことだ。モットーが責められるいわれはない。

 

「ほぉ、随分と懐かれていますな……中々、大事にされているようだ。ならば、私の方もそれなりに勉強させてもらいますが、いかがです?」

「貴方は相当の商人の様ですね……ですが彼女達を渡す気はありません」

 

 シアとアルテナの様子を興味深そうに見ていたモットーが更に零斗に交渉を持ちかけるが、零斗の対応はあっさりしたものである。モットーも、実は零斗が手放さないだろうとは感じていたが、それでもシアが生み出すであろう利益は魅力的だったので、何か交渉材料はないかと会話を引き伸ばそうとする。

 

 だが、そんな意図も零斗もハジメは読んでいたのだろう。ハジメがモットーの前に出て、揺るぎない意志を込めた言葉をモットーに告げる。

 

 

「例え、神が欲しても手放す気はありません……理解してもらえましたか?」

「…………えぇ、それはもう。仕方ありませんな。ここは引き下がりましょう。ですが、その気になったときは是非、我がユンケル商会をご贔屓に願いますよ。それと、もう間も無く出発です。護衛の詳細は、そちらのリーダーとお願いします」

 

 ハジメの発言は相当危険なものだった。下手をすれば聖教教会から異端の烙印を押されかねない発言だ。一応、魔人族は違う神を信仰しているし、歴史的に最高神たる〝エヒト〟以外にも崇められた神は存在するので、直接、聖教教会にケンカを売る言葉ではない。だが、それでもギリギリの発言であることに変わりはなく、それ故に、モットーはハジメがシア達を手放すことはないと心底理解させられた。

 

 ハジメが、すごすごと商隊の方へ戻るモットーを見ていると、周囲が再びざわついている事に気がついた。

 

「すげぇ……女一人のために、あそこまで言うか……痺れるぜ!」

「流石、スマッシャーと言ったところか。自分の女に手を出すやつには容赦しない……ふっ、漢だぜ」

「いいわねぇ~、私も一度くらい言われてみたいわ」

「いや、お前、男だろ? 誰が、そんなことッあ、すまん、謝るからっやめっアッ──!!」

 

 ハジメ達は、愉快?な護衛仲間の愉快な発言に頭痛を感じたように手で頭を抑えた。やっぱりブルックの町の奴らは阿呆ばっかりだと。そんな事を思っていると、背中に何やら〝むにゅう〟二つの柔らかい感触を感じ、更に腕が背後から回されハジメを抱きしめてくる。

 

 ハジメが肩越しに振り返ると、肩に顎を乗せたシアの顔と耳の先まで真っ赤にしたアルテナの顔が至近距離に見えた。その顔は真っ赤に染まっており、実に嬉しそうに緩んでいる。

 

「……いいか?特別な意味はないからね?ね??」

「うふふふ、わかってますよぉ~、うふふふ~」

「……ありがとうございまひゅ」

 

 あくまで身内を捨てるような真似はしないという意味であって、周りで騒いでいるヤツ等のように〝自分の女〟だからという意味ではないとはっきり告げるハジメだったが、シア達には、まるで伝わっていなかった。惚れた男から〝神にだって渡さない〟と宣言されたのだ。どのような意図で為された発言であれ、嬉しいものは嬉しいのだろう。

 

 手っ取り早く交渉を打ち切るための発言が、いろんな意味で〝やりすぎ〟だった事に、やっちまった感を出すハジメ。

 

「ククク……やっぱり女たらしですねぇ、ハジメは」

「うるさいぞ!零斗ォ!」

 

 からかわれたハジメは零斗を殴ろうとするがシアとアルテナがくっ付いているため動くにも動けない。

 

 そんなハジメ達を見て、商隊の女性陣は生暖かい眼差しで、男性陣は死んだ魚のような眼差しでその光景を見つめる。ハジメに突き刺さる煩わしい視線や言葉は、きっと自業自得である。

 

 




長くなってしもうた………

感想お待ちしております。


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冒険者らしい仕事

「よいしょと、( 'ω')ハイお馴染みの零斗さんです」
「ハジメでーす」
「ん、ユエ」

「前回はフューレンに向けて出発したな」
「……僕達の呼び名酷すぎない?」
「でも、間違ってない」
「間違ってるよ!」
「挑んできた連中のメンタルブレイクをしてる奴が何言ってんだか……」


「今回はフューレンへ向かう道中の話が中心だ」
「楽しんで」

「「「冒険者らしい仕事!」」」


 Side 零斗

 

 ブルックの街を後にしてから三日、俺たちは約六日であるフューレンへの道の半分ほどを踏破していた。

 

 日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返すこと三回。

 

 今日も、特に何もないまま野営の準備となった。冒険者達の食事関係は自腹である。周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 

 そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。俺達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

 

「カッ──、うめぇ! ホント、美味いわぁ~、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」

「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」

「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでエトちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」

「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」

「ミレディちゃんのスプーン……ハァハァ」

(ダメだこの変態ども……早くなんとかしないと…………無理か)

 

 うまうまと俺とシアが調理したシチューをを次々と胃に収めていく冒険者達。

 

 初日に、彼等が干し肉やカンパンのような携帯食料をもそもそ食べている横で、普通に〝宝物庫〟から取り出した食器と材料を使い料理を始めた俺達。いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられて、ハジメ達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアが、お裾分けを提案した結果、今の状態になった。

 

 ハイエナの如き彼等を前に、俺とハジメは平然と飯を食っていた。当然の如くお裾分けするつもりはない。しかし、料理担当の半分を担っているシアにお裾分けを提案されて断れるはずもなかった。

 

 それからというもの、冒険者達が食事の時間には池の鯉の群れのように群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、ことある事にエトやユエ達を軽く口説くようになったのである。

 

 もう色々と面倒だし、気に入らないので威圧して黙らせる。

 

「……いい加減にして貰えますか?次彼女達を口説く事があれば犬の餌になってもらいますからね?」

「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー!」」」」」

 

 見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。彼等のほとんどは、俺よりも年上でベテランの冒険者なのだが、そのような威厳は皆無だった。

 

「まったく……」

「零斗、口を開けてください」

「?はい……ムグッ」

 

 エトに言われたように口を開くと、串焼き肉を突っ込まれた。美味いね、焼き加減も丁度いいし……………………これは『あーん』てやつで?

 

「……美味しいですか?」

「えぇ、とても美味しいですよ」

 

 この様子を見せつけられている男達の心の声は見事に一致しているだろう。すなわち「頼むから爆発しろ!!」であろう。

 

 ──────────────────────

 

 それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

 

 最初にそれに気がついたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

 

「敵襲です! 数は三百以上! 森の中から来ます!」

 

 シアの叫びに、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、普通は二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。

 

「くそっ、三百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 

 護衛隊のリーダーであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。

 

「ハジメ、1つ勝負といきませんか?」

「え?どんな?」

「あの魔物をどちらが多く倒せるか……負けた方は罰ゲームありで。どうです?」

「乗った!」

 

 ハジメと共に馬車を降りて、魔物が向かってきている方に歩いていく。

 

「お、おい!2人だけじゃ無理だ!」

「問題ありませんよ?」

「え?」

「……心配するだけ無駄ですよ」

 

 この程度の量なら特に問題は無いし、そろそろ身体も訛りそうだしね。

 

「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、〝雷龍〟」

 

 凛とした声が背後から聴こえ、目の前を雷で出来た龍が通り過ぎた。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。

 

「……退避!」

「ほァァァァァ!?」

 

 急いでその場から飛び退き、馬車まで走る。そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な(タクト)に合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。

 

 

 ゴォガァァァァ!!!

 

「うわっ!?」

「どわぁあ!?」

「きゃぁあああ!!」

 

 雷龍が、凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

 

 更には、ユエの指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲をとぐろを巻いて包囲する。逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達は、やはり自ら死を選ぶように飛び込んでいき、苦痛を感じる暇もなく、荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。雷龍は、全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 

 隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が、轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。

 

 ようやく、その身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……そこにはもう何もなかった。あえて言うならとぐろ状に焼け爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

 

「……ん、やりすぎた」

「ユエさん!何してくれやがってんです!?」

「危うく巻き込まれる所だったよ!?」

 

 下手したら俺とハジメも巻き込まれていたかもしれない……詠唱が無ければ間違いなく直撃していたであろう。

 

「おいおいおいおいおい、何なのあれ? 何なんですか、あれっ!」

「へ、変な生き物が……空に、空に……あっ、夢か」

「へへ、俺、町についたら結婚するんだ」

「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが」

「魔法だって生きてるんだ! 変な生き物になってもおかしくない! だから俺もおかしくない!」

「いや、魔法に生死は関係ないからな? 明らかに異常事態だからな?」

「なにぃ!? てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか!? アァン!?」

「落ち着けお前等! いいか、ユエちゃんは女神、これで全ての説明がつく!」

「「「「なるほど!」」」」

 

 ユエの魔法が衝撃的過ぎて、冒険者達は少し壊れ気味のようだった。それも仕方がないだろう。何せ、既存の魔法に何らかの生き物を形取ったものなど存在しないのだ。まして、それを自在に操るなど国お抱えの魔法使いでも不可能だろう。雷を落とす〝雷槌〟を行使出来るだけでも超一流と言われるのだから。

 

「もう、どうにでもなれ……」バタン

「もう疲れたよ、レトラッシュ」キュー

 

 ハジメと同時に前のめりで倒れ込む……あぁ、癒しが欲しいよ………………

 

 

 ──────────────────────

 

「……んっ、ここは?」

 

 気絶から目を覚ますと、野営の準備がされていた。

 

「あ、起きた」

「ミレディ?」

「君、2日も寝込んでたよ?」

「……え?」

 

 スマホを確認すると、本当に2日経っていた。ユエが、全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

 

「迷惑をおかけして様で……すみません」

「いいのいいの!あれは、まぁ……仕方ないかな?」

 

 ミレディに寝ている間に起きた事を確認していると、モットーがやって来た。何やら話があるようだ。

 

「体調はどうです?」

「問題ありません、心配を掛けてしまったようで……申し訳ない」

「大事が無くて良かったですよ……フューレンに入れば更に問題が増えそうですね。やはり、彼女を売る気は……」

 

 さりげなくシアもアルテナの売買交渉を申し出るモットーだった。どんだけ粘着質なんだよ……

 

「言った筈です、彼女達を売る気は無いと……それにその話が本題では無いでしょう?」

「いえ、似たようなものですよ。売買交渉です。貴方のもつアーティファクト。やはり譲ってはもらえませんか? 商会に来ていただければ、公証人立会の下、一生遊んで暮らせるだけの金額をお支払いしますよ。貴方のアーティファクト、特に〝宝物庫〟は、商人にとっては喉から手が出るほど手に入れたいものですからな」

 

 〝喉から手が出るほど〟そう言いながらもモットーの笑っていない眼をみれば〝殺してでも〟という表現の方がぴったりと当てはまりそうである。商人にとって常に頭の痛い懸案事項である商品の安全確実で低コストの大量輸送という問題が一気に解決するのだ。無理もないだろう。

 

 野営中に〝宝物庫〟から色々取り出している光景を見たときのモットーの表情と言ったら、砂漠を何十日も彷徨い続け死ぬ寸前でオアシスを見つけた遭難者のような表情だった。

 

「何度言われようと、何一つ譲る気はありません。執拗い男性は嫌われますよ?」

「しかし、そのアーティファクトは一個人が持つにはあまりに有用過ぎる。その価値を知った者は理性を効かせられないかもしれませんぞ? そうなれば、かなり面倒なことになるでしょなぁ……例えば、彼女達の身にッ!?」

 

 モットーが、少々、狂的な眼差しでチラリと脅すように屋根の上にいるシア達に視線を向ける。そんなモットーの額にツォルンを突き付ける。これ以上は流石に容認出来んな。

 

「……その発言は宣戦布告と捉えますが、問題ありませんか?」

 

 酷く冷たい声色で告げる。モットーは全身から冷や汗を流し必死に声を捻り出す。

 

「ち、違います。どうか……私は、ぐっ……あなたが……あまり隠そうとしておられない……ので、そういうこともある……と。ただ、それだけで……うっ」

 

 モットーの言う通り、俺達はアーティファクトや実力をそこまで真剣に隠すつもりはなかった。別段問題無いし、奪い取ろうとする連中はねじ伏せるだけだしね。

 

「そうですか、ではそういう事にしておきます」

 

 ツォルンをホルダーに仕舞う。モットーはその場に崩れ落ちた。大量の汗を流し、肩で息をしている。

 

「貴方が何をしようが私達には関係はありません。誰かに言いふらして、その方たちがどんな行動を取っても構わない。ただ、敵意をもって私の前に立ちはだかったなら……生き残れると思うな。国だろうが世界だろうが関係ない。全て血の海に沈めてやる」

「……はぁはぁ、なるほど。割に合わない取引でしたな……」

 

 未だ青ざめた表情ではあるが、気丈に返すモットーは優秀な商人だろう。それに道中の商隊員とのやりとりから見ても、かなり慕われているようであった。本来は、ここまで強硬な姿勢を取ることはないのかもしれない。彼を狂わせるほどの魅力が、俺やハジメの持つアーティファクトにあったということだろう。

 

「私も耄碌したものだ。欲に目がくらんで竜の尻を蹴り飛ばすとは……」

 

 "竜の尻を蹴り飛ばす"とは、この世界の諺で〝手を出さなければ無害な相手にちょっかい掛けて返り討ちに遭う愚か者〟という意味である。

 

 竜とは竜人族を指していて、全身を強固な鱗で覆っているが、尻穴の付近に鱗がなく弱点となっている。防御力の高さ故に眠りが深く、一度眠ると余程のことがなければ起きないのだが、弱点の尻を刺激されると一発で目を覚まし烈火の如く怒り狂うという。昔、何を思ったのか、それを実行して叩き潰された阿呆がいたとか。そこからちなんで、手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ちに遭う愚か者という意味で伝わるようになったという。

 

 ちなみに、竜人族は、五百年以上前に滅びたとされている。理由は定かではないが、彼等が〝竜化〟という固有魔法を使えたことが魔物と人の境界線を曖昧にし、差別的排除を受けたとか、半端者として神により淘汰されたとか、色々な説がある。

 

「とんだ失態を晒しましたが、ご入り用の際は、我が商会を是非ご贔屓に。あなたは普通の冒険者とは違う。特異な人間とは繋がりを持っておきたいので、それなりに勉強させてもらいますよ」

「……本当に商魂が逞しいですね」

 

 呆れた視線を向けられながら、「では、失礼しました」と踵を返し前列へ戻っていくモットー。




なんかハジメ君を気絶させるのが伝統芸みたいになってきてるね。


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到着早々トラブル発生

ATTENTION!

この話には過激な言動に加え、性的暴行の表現があります。苦手な方は飛ばしたり、別の作品を読むことをオススメします。

「よいしょと、ヾ(・ω・`)ノハローお馴染みの零斗さんでっせ」
「エトです」
「作者に存在を忘れかけてたロウだ」
すまんて……と、ここで補足を現在のフェルさんとロウくんはエトさんの影に入っています。

「計画製皆無な作者はしまっちゃおうねぇ……」(´・ω・`)ソンナァ
「今回は、フューレンでのトラブルがメインになります」
「楽しんで行ってくれ」

「「「到着早々トラブル発生!」」」


 Side 零斗

 

 中立商業都市フューレンとは、高さ二十メートル、長さ二百キロメートルの外壁で囲まれた大陸一の商業都市だ。あらゆる業種が、この都市で日々しのぎを削り合っており、夢を叶え成功を収める者もいれば、あっさり無一文となって悄然と出て行く者も多くいる。観光で訪れる者や取引に訪れる者など出入りの激しさでも大陸一と言えるだろう。

 

 その巨大さからフューレンは四つのエリアに分かれている。この都市における様々な手続関係の施設が集まっている中央区、娯楽施設が集まった観光区、武器防具はもちろん家具類などを生産、直販している職人区、あらゆる業種の店が並ぶ商業区がそれだ。東西南北にそれぞれ中央区に続くメインストリートがあり、中心部に近いほど信用のある店が多いというのが常識らしい。

 

 メインストリートからも中央区からも遠い場所は、かなりアコギでブラックな商売、言い換えれば闇市的な店が多い。その分、時々とんでもない掘り出し物が出たりするので、冒険者や傭兵のような荒事に慣れている者達が、よく出入りしているようだ。

 

「そういうわけなので、一先ず宿をお取りになりたいのでしたら観光区へ行くことをオススメしますわ。中央区にも宿はありますが、やはり中央区で働く方々の仮眠場所という傾向が強いので、サービスは観光区のそれとは比べ物になりませんから」

「ほぅ……有益な情報ありがとうございます」

 

 現在は案内人の女性、リシーと名乗った女性に料金を支払い、軽食を共にしながら都市の基本事項を聞いていた。

 

 俺達はモットー率いる商隊と別れると証印を受けた依頼書を持って冒険者ギルドにやって来た。そして、宿を取ろうにも何処にどんな店があるのかさっぱりなので、冒険者ギルドでガイドブックを貰おうとしたところ、案内人の存在を教えられた。

 

「では、観光区の宿にしておきましょうか……オススメの宿ってありますか?」

「お客様のご要望次第ですわ。様々な種類の宿が数多くございますから」

「そうですね……食事が美味くて、あと風呂があれば文句ありません。立地とかは考慮しなくても大丈夫。あと責任の所在が明確な場所がいいですね」

 

 リシーに要望を伝えていく。最初の二つはよく出される要望なのだろう「うんうん」と頷き、早速、脳内でオススメの宿をリストアップしたようだ。だが、最後の言葉で「ん?」と首を傾げた。

 

「あの~、責任の所在ですか?」

「えぇ、例えば、何らかの争いごとに巻き込まれたとして、こちらが完全に被害者だった時に、宿内での損害について誰が責任を持つのかということです。どうせならいい宿に泊りたいですが、そうすると備品等も高そうですし、あとで賠償額を請求されても面倒でしょう?」

「え~と、そうそう巻き込まれることはないと思いますが……」

「普通の人達はそうでしょうね……よく居るんですよね、身の程知らずの連中がね。それに隣でひたすら食事に没頭している人達がかなり目立つでしょう?」

「あぁ~」

 

 リシーは、両脇に座りうまうまと軽食を食べるハジメやユエ達に視線をやる。そして、納得したように頷いた。現に今も、周囲の視線をかなり集めている。特に、シアは兎人族でアルテナは森人族だ。他人の奴隷に手を出すのは犯罪だが、しつこい交渉を持ちかける商人やハメを外して暴走する輩がいないとは言えない。

 

「しかし、それなら警備が厳重な宿でいいのでは? そういうことに気を使う方も多いですし、いい宿をご紹介できますが……」

「それもいいですが……欲望に目が眩んだ者は、時々とんでもない行動をするものです。警備も絶対でない以上は最初から物理的説得を考慮した方が早いですから」

「そ、そうですか」

 

 こちらの意図を理解したリシーは、あくまで〝出来れば〟でいいと言う俺に、案内人根性が疼いたようだ、やる気に満ちた表情で「お任せ下さい」と了承する。そして、ハジメ達の方に視線を転じ、他の奴らにも要望がないかを聞いた。出来るだけ客のニーズに応えようとする点、リシーも彼女の所属する案内屋も、きっと当たりなのだろう。

 

「お風呂は大きい方が良いかな」

「……できれば混浴」

「えっと、ベッドが大きいのがいいです」

「清潔感のある部屋をお願いします」

「広い部屋が良いかなぁ」

「……その、防音対策がされている場所がいいです…………」

 

 それぞれの要望を伝えるハジメ達。なんてことない要望だが、ハジメの要望に、ユエが付け足した条件と、シアの要望を組み合わせると、自然ととある意図が透けて見える。リシーも察したようで、「承知しましたわ、お任せ下さい」とすまし顔で了承するが、頬が僅かに赤くなっている。そして、チラッチラッとハジメとユエ達を交互に見ると更に頬を染めた。

 

 ちなみに、すぐ近くのテーブルでたむろしていた男連中が「視線で人が殺せたら!」と云わんばかりにハジメを睨んでいたが、すっかり慣れた視線なので、ハジメは威圧で圧殺した。

 

 それから、他の区について話を聞いていると、不意に強い視線を感じた。特に、エト達女性陣に対しては、今までで一番不躾で、ねっとりとした粘着質な視線が向けられている。視線など既に気にしないエト達だが、あまりに気持ち悪い視線に僅かに眉を顰める。

 

 チラリとその視線の先を辿ると……ブタがいた。体重が軽く百キロは超えていそうな肥えた体に、脂ぎった顔、豚鼻と頭部にちょこんと乗っているベットリした金髪。身なりだけは良いようで、遠目にもわかるいい服を着ている。そのブタ男がユエ達を欲望に濁った瞳で凝視していた。

 

 面倒だと思うと同時に、そのブ男は重そうな体をゆっさゆっさと揺すりながら真っ直ぐこっちへ近寄ってくる。

 

 ブ男は、俺達のテーブルのすぐ傍までやって来ると、ニヤついた目でエト達をジロジロと見やり、シアとアルテナの首輪を見て不快そうに目を細めた。そして、今まで一度も目を向けなかった俺とハジメに、さも今気がついたような素振りを見せると、これまた随分と傲慢な態度で一方的な要求をした。

 

「お、おい、ガキ共。ひゃ、百万ルタやる。この兎と耳長を、わ、渡せ。それとそっちの女達はわ、私の妾にしてやる。い、一緒に来い」

 

 耳が腐れるような耳障りな声で言ったブ男が、ユエに手を伸ばす。きっとこいつの中ではもう、ユエたちは自分のものなんだろう。

 

「口を閉じ、この場から早急に立ち退きなさい。これは最初で最後の警告です」

 

 一応警告だけはしておく。もちろん軽く威圧しながらだけどネ!軽くとは言っても人1人なら殺せるレベルの威圧だ。それをを受けた冒険者は半数以上がひっくり返り、もう半数は卒倒している。ブ男も「ひ、ひぃっ!?」とか情けない声を出して尻餅をつく。股間から液体が漏れ出した。

 

「皆さん、場所を移しましょうか……リシーさんも食事でもどうです?迷惑をかけたしまった様ですのでお詫びの意味も込めてご馳走しますが……」

「えっと、お願いします……?」

 

 ハジメ達に声を掛けて席を離れる。面倒事に巻き込んでしまったリシーさんにはお詫びと感謝の印に昼食でも奢ろうと思っていた時、大男が進路を塞ぐような位置取りに移動し仁王立ちした。ブ男とは違う意味で百キロはありそうな巨体である。全身筋肉の塊で腰に長剣を差しており、歴戦の戦士といった風貌だ。

 

 その巨体が目に入ったのか、ブ男が再びキィキィ声で喚きだした。

 

「そ、そうだ、レガニド! そのクソガキを殺せ! わ、私を殺そうとしたのだ! 嬲り殺せぇ!」

「坊ちゃん、流石に殺すのはヤバイですぜ。半殺し位にしときましょうや」

「やれぇ! い、いいからやれぇ! お、女は、傷つけるな! 私のだぁ!」

「了解ですぜ。報酬は弾んで下さいよ」

「い、いくらでもやる! さっさとやれぇ!」

 

 こいつが、レガニドか……ようやく会えたなクソ野郎が……

 

「1つ、質問しましょう」

「あ?いきなりなんだ?」

「……半年程前に、小さい女性をレイプしましたね?」

「あぁ、したな。いい締りだったぜ?『やめて!』とか『ごめんなさい!』とかキィキィ叫ぶもんだから、何発か殴って黙らせたけな?それに『黙れ、ゴミクズが……』あ?」

 

 間違いない……コイツが愛子を……殺す。

 

「なんだてめぇ?」

「……死ね」バギィ!

「グペ!?」

 

 野郎の腹に拳を叩き込み、身をかがめた所で顔が丁度いい位置に下がってくる、そのまま顎にアッパーを打ち込み、打ち上げる。

 

「フゥ……チェリオォォォ!」

 

 数メートル上に飛んでいたレガニドが落下してくると同時に顔面に右ストレートを叩き込む。恐らくは顔の原型が残っていないだろう……下手をすれば死んでいるだろうな。

 

「次は……貴様だ」

 

 ギルド内に居る誰もが硬直している。ツカツカとブ男の元に歩き出す。ギルド内にいる全員の視線が集まる。

 

「ひぃ!く、来るなぁ!わ、私を誰だと思っている! プーム・ミンだぞ!ミン男爵家に逆らう気かぁ!」

「貴方もレイプ犯の1人ですね……では、さようなら」

 

 ガタガタと震え、声にならない悲鳴を上げるブ男の顔面を蹴り抜く。靴にブ男の血がべっとりと付着する。

 

「プギャ!?」

 

 文字通り豚のような悲鳴を上げて吹き飛ぶ。蹴りが入った瞬間ミシと言う音が鳴る。

 

「何か申し開きがあるのなら聞きましょう」

「ぜっ、絶対に許さぬぞ!この低級民が!」

「……言い残す事はそれだけか?」

 

 近くにあった机からナイフを取り、ブ男の心臓目掛けて振り下ろす。

 

「ぎゃぁああああああ!!」

「………………」グリュ

 

 周りの脂肪のせいで心臓まで達していない、ナイフを周りの肉抉るように回しながら引き抜き、もう一度突き刺す。

 

 何度も何度も突き刺し、床に血溜まりが出来ても尚突き刺しては抜くを繰り返した。10分ほど繰り返し、ブ男が完全に絶命したのを確認し、返り血を拭き取りハジメのいる所まで歩く。

 

「お見苦しい物を見せてしまいましたね……すみませんね」

「ヒッ……」

 

 小さく悲鳴を上げて、後ずさるリシーさん。やり過ぎちった♡

 そこへギルド職員が今更ながらにやって来た。

 

「あの、申し訳ありませんが、あちらで事情聴取にご協力願います」

「……そこで転がっている肉塊どもが絡んで来た上に私の仲間に手を出そうとしたので反撃しただけです……そうですよね?」

 

 そう言って、周囲の男連中を睥睨すると、目があった彼等はこぞって首がもげるのでは? と言いたくなるほど激しく何度も頷いた。

 

「それは分かっていますが、ギルド内で起こされた問題は、当事者双方の言い分を聞いて公正に判断することになっていますので……規則ですから冒険者なら従って頂かないと……」

「当事者双方……ね」

 

 いや、無理でしょ。オッサンの方は希望はあるけど、ブタの方は完全に死亡している。オッサンも目覚めるまでには数週間は必要だろうな……ま、それまでに殺ればいい話だけどね。

 

 非難がましい視線をギルド職員に向ける。典型的なクレーマーのような態度と言動にギルド職員の男性が、「そんな目で睨むなよぉ、仕事なんだから仕方ないだろぉ」という自棄糞気味な表情になった。

 

 押し問答していると、突如、凛とした声が掛けられた。

 

「何をしているのです? これは一体、何事ですか?」

 

 そちらを見てみれば、メガネを掛けた理知的な雰囲気を漂わせる細身の男性が厳しい目で俺を見ていた。

 

「ドット秘書長! いいところに! これはですね……」

 

 職員達がこれ幸いとドット秘書長と呼ばれた男のもとへ群がる。ドットは、職員達から話を聞き終わると、鋭い視線を向けてくる。

 

 どうやら、まだまだ解放はされないようだ……当たり前か、人一人殺ってるから。

 

 




プーム・ミン死す!原作を読んでて何となくでプームはぺドフィリア(俗に言うロリコン)では無いかなと思って、愛ちゃんを強姦した犯人に仕立てあげました。レガニドはおまけです。


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面倒な依頼

「よいしょと、( 'ω')/ ハイお馴染みの零斗さんでーす」
「フェルよ」
「ミレディちゃんです!」

「前回はあのブ男を殺ったな」
「流石に殺すのは不味かったんじゃない?」
「殺し方も大分優しい物でしたしね」
「え?あれで優しいの??」
「そうですよ?前世なんて相手のピッーーーをピッーーーーして、ピッーーーーーーして殺したなんて事もあったよ?」
「フェルさん、フェルさん表現が生々し過ぎて規制音が入ってます」

「今回はギルドでの事情聴取だ……面倒なことこの上ないな」
「まぁまぁ……それじゃ、楽しんでね」

「「「面倒な依頼!」」」


 Side 零斗

 

 ハジメ達と一旦別れてギルド内の個室に通される。事情聴取でもされんのかねぇ……メンド。

 

 個室に通されて、きっかり十分後、遂に、扉がノックされた。返事から一拍置いて扉が開かれる。そこから現れたのは、金髪をオールバックにした鋭い目付きの三十代後半くらいの男性と先ほどのドットだった。

 

「初めまして、冒険者ギルド、フューレン支部支部長イルワ・チャングだ。レイト君……でいいかな?」

 

 簡潔な自己紹介の後、名前を確認がてらに呼び握手を求める支部長イルワ。握手を返しながら返事をする。

 

「えぇ、そうです。名前は渡した手紙に?」

「その通りだ。先生からの手紙に書いてあったよ。随分と目をかけられている……というより注目されているようだね。将来有望、ただしトラブル体質なので、出来れば目をかけてやって欲しいという旨の内容だったよ」

 

 ちなみに手紙は此処へ案内される前にドットさんに渡していた。

 

「トラブル体質……ね。確かにブルックではトラブル続きでしたね。それで、身分証明等は手紙だけで大丈夫なんですか?」

「ああ、先生が問題のある人物ではないと書いているからね。あの人の人を見る目は確かだ。わざわざ手紙を持たせるほどだし、この手紙を以て君達の身分証明とさせてもらうよ」

 

 どうやらキャサリンさんの手紙は本当にギルドのお偉いさん相手に役立に立ったようだ。随分と信用がある。キャサリンさんを〝先生〟と呼んでいることからかなり濃い付き合いがあるように思える。

 

「キャサリンさんは一体何をしていたんですか?」

「ん?本人から聞いてないのかい? 彼女は、王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしていたんだよ。その後、ギルド運営に関する教育係になってね。今、各町に派遣されている支部長の五、六割は先生の教え子なんだ。私もその一人で、彼女には頭が上がらなくてね。その美しさと人柄の良さから、当時は、僕らのマドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった。その後、結婚してブルックの町のギルド支部に転勤したんだよ。子供を育てるにも田舎の方がいいって言ってね。彼女の結婚発表は青天の霹靂でね。荒れたよ。ギルドどころか、王都が……」

「……あの人只者では無いとは思っていましたが、かなりの重役じゃ無いですか」

 

 想像していたよりずっと大物だったらしい。

 

「……それで私の処分は?」

 

 貴族の一人を殺ったんだ、それ相応の罰はある筈だよな。しかし、イルワは、瞳の奥を光らせると「少し待ってくれるかい?」とお茶を濁された。何となく嫌な予感がする。

 

 イルワは、隣に立っていたドットを促して一枚の依頼書を目の前に差し出した。

 

「実は、君達の腕を見込んで、一つ依頼を受けて欲しいと思っている」

「……私は刑罰を聞いているのですが?バカにしているんでしょうかねぇ?」

 

 軽く威圧しながらイルワを睨む。隣のドットは汗を大量に掻いている。

 

「ふむ、取り敢えず話を聞いて貰えないかな? 聞いてくれるなら、今回の件は不問とするのだが……」

「は?不問?」

 

 え?お咎めなしになる可能性あんの?アイツてこの街有数の貴族の息子だよね?それを殺っといて無罪放免になんの?ワケガワカラナイヨ……

 

「一体どうゆう事ですか?あのブタは貴族の一人なんですよね?それを殺害したのに無罪放免?」

「まぁ、殺害した事に関しての刑罰がこの依頼とでも思ってくれ……それに、ハジメ君?だったかな、彼の話によれば神の使徒の畑山 愛子様を強姦した様だからな。彼はどの道処刑される筈だったのだよ」

 

 イルワさんの話を聞いて、ホッと胸を撫で下ろす。無罪放免とは行かないが依頼をこなすだけで刑罰を無くすって高待遇過ぎん?

 

「はぁ……それで依頼とはなんですか?」

「聞いてくれるようだね。ありがとう」

「……いい性格してますね、貴方」

「君も大概だと思うけどね。さて、今回の依頼内容だが、そこに書いてある通り、行方不明者の捜索だ。北の山脈地帯の調査依頼を受けた冒険者一行が予定を過ぎても戻ってこなかったため、冒険者の一人の実家が捜索願を出した、というものだ」

 

 イルワの話を要約すると、つまりこういうことだ。

 

 最近、北の山脈地帯で魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、ギルドに調査依頼がなされた。北の山脈地帯は、一つ山を超えるとほとんど未開の地域となっており、大迷宮の魔物程ではないがそれなりに強力な魔物が出没するので高ランクの冒険者がこれを引き受けた。ただ、この冒険者パーティーに本来のメンバー以外の人物がいささか強引に同行を申し込み、紆余曲折あって最終的に臨時パーティーを組むことになった。

 

 この飛び入りが、クデタ伯爵家の三男ウィル・クデタという人物らしい。クデタ伯爵は、家出同然に冒険者になると飛び出していった息子の動向を密かに追っていたそうなのだが、今回の調査依頼に出た後、息子に付けていた連絡員も消息が不明となり、これはただ事ではないと慌てて捜索願を出したそうだ。

 

「伯爵は、家の力で独自の捜索隊も出しているようだけど手数は多い方がいいと、ギルドにも捜索願を出した。つい、昨日のことだ。最初に調査依頼を引き受けたパーティーはかなりの手練でね、彼等に対処できない何かがあったとすれば、並みの冒険者じゃあ二次災害だ。相応以上の実力者に引き受けてもらわないといけない。だが、生憎とこの依頼を任せられる冒険者は出払っていてね。そこへ、君達がタイミングよく来たものだから、こうして依頼しているというわけだ」

「それを何故ランク〝青〟の私に?私以上の適任はいる筈でしょう」

 

 そこまでの実力はないと伝えるもイルワはまるで取り合わない。

 

「さっき〝黒〟のレガニドを瞬殺したばかりだろう? それに……ライセン大峡谷を余裕で探索出来る者を相応以上と言わずして何と言うのかな?」

「! 何故知って……手紙?でも、彼女にそんな話は……」

 

 ライセン大峡谷を探索していた話は誰にもしていない。イルワがそれを知っているのは手紙に書かれていたという事以外には有り得ない。しかし、ならば何故キャサリンさんが、それを知っていたのかという疑問が出る。

 

「……シアさん達ですか。全く毎度トラブルを起こしてくれますね」

 

 頭が痛いよ、もう……そんな俺の様子を見て苦笑いしながら、イルワは話を続けた。

 

「生存は絶望的だが、可能性はゼロではない。伯爵は個人的にも友人でね、できる限り早く捜索したいと考えている。どうかな。今は君達しかいないんだ。引き受けてはもらえないだろうか?」

 

 懇願するようなイルワの態度には、単にギルドが引き受けた依頼という以上の感情が込められているようだ。伯爵と友人ということは、もしかするとその行方不明となったウィルとやらについても面識があるのかもしれない。個人的にも、安否を憂いているのだろう。

 

「……報酬の内容によりますが、お受けしましょう」

「報酬は弾ませてもらう。依頼書の金額はもちろんだが、私からも色をつけよう。ギルドランクの昇格もする。君達の実力なら一気に〝黒〟にしてもいい」

「金は最低額で構いません。ランクは現在の青で問題ありません」

「なら、今後、ギルド関連で揉め事が起きたときは私が直接、君達の後ろ盾になるというのはどうかな? フューレンのギルド支部長の後ろ盾だ、ギルド内でも相当の影響力はあると自負しているよ? 君達は揉め事とは仲が良さそうだからね。悪くない報酬ではないかな?」

「大盤振る舞いですね……友人の息子相手にしては入れ込み過ぎでは?」

 

 イルワが初めて表情を崩した。後悔を多分に含んだ表情だ。

 

「彼に……ウィルにあの依頼を薦めたのは私なんだ。調査依頼を引き受けたパーティーにも私が話を通した。異変の調査といっても、確かな実力のあるパーティーが一緒なら問題ないと思った。実害もまだ出ていなかったしね。ウィルは、貴族は肌に合わないと、昔から冒険者に憧れていてね……だが、その資質はなかった。だから、強力な冒険者の傍で、そこそこ危険な場所へ行って、悟って欲しかった。冒険者は無理だと。昔から私には懐いてくれていて……だからこそ、今回の依頼で諦めさせたかったのに……」

 

 イルワの独白を聞きながら、少し思案する。思っていた以上に、イルワとウィルの繋がりは濃いらしい。すまし顔で話していたが、イルワの内心はまさに藁にもすがる思いなのだろう。生存の可能性は、時間が経てば経つほどゼロに近づいていく。無茶な報酬を提案したのも、イルワが相当焦っている証拠なのだろう。

 

「はぁ……メンドくせぇなほんとに」

「……それが君の本来の性格かい?」

「そっちが腹の中を露呈してくれたんだ、ならこっちも本性を見せてやろうと思ってな……つーか、そんな事はどうでも良い」

 

 俺としては町に寄り付く度に、エト達の身分証明について言い訳するのは、いい加減うんざりしてきたところであるし、この先、お偉いさんに対する伝手があるのは、町の施設利用という点で便利だ。なにせ、聖教教会や王国に迎合する気がゼロである以上、いつ、俺以外の仲間が異端者の烙印を押されるかわからない。

 

「報酬を二つ追加して貰っていいか?」

「無理のない程度の物なら構わないが……」

「ああ、そんなに難しいことじゃない。四人分のステータスプレートを作って欲しい。そして、そこに表記された内容について他言無用を確約すること、更に、ギルド関連に関わらず、アンタの持つコネクションの全てを使って、出来る範囲で構わない、俺達の要望に応え便宜を図ること。この二つだな」

「……あぁ、分かったよ」

 

 一つ目の要求は恐らくは問題無いだろうが、二つ目の要求はかなり厳しい物だろうな。何せ犯罪者を庇護する様なもんだからな、教会の連中からの厄介事も増えるだろうが、あくまでも無理のない範囲での助力を求めた。

 

「犯罪に加担するような倫理にもとる行為・要望には絶対に応えられない。君達が要望を伝える度に詳細を聞かせてもらい、私自身が判断する。だが、できる限り君達の味方になることは約束しよう……これ以上の譲歩は無理だ。どうだろうか?」

「あぁ、それでいい。あと報酬は依頼が達成されてからでいい。お坊ちゃん自身か遺品あたりでも持って帰ればいいだろう?」

 

 エト達用のステータスプレートを手に入れるのが一番の目的だ。この世界では何かと提示を求められるステータスプレートは持っていない方が不自然であり、この先、町による度に言い訳するのは面倒なことこの上ない。

 

 問題は、最初にステータスプレートを作成した者に騒がれないようにするにはどうすればいいかという事だったのだが、イルワの存在がその問題を解決した。ただ、条件として口約束をしても、やはり密告の疑いはある。まぁ、そん時は密告した奴ごとギルドを潰せばいいか。

 

「っと、そうだ。そのお坊ちゃんの似顔絵とかあるか?」

「これです」

 

 ドットさんから幼稚園生の似顔絵以下のウィル・クデタの絵を渡させる。かろうじて金髪の男だとわかる程度で、俺から見てもふざけて描いたとしか思えないクオリティだ。しかも日本語だとひらがなに該当する文字で、「たずねびと うぃるくん」って書いてある。

 

「え?巫山戯てるの?」

「至って真面目ですよ!」

「はぁ……紙とペン持ってこい。描き直すから」

 

 程なくして持ってこられた紙とペンを受け取り、イルワさんにウィル・クデタの特徴を聴きながら絵を描いていく。

 

「んで、次は?」

「えっと、綺麗に切りそろえられた金髪で……っていうかめっちゃ絵上手くないか君!?」

「我、黒幕(フィクサー)ぞ?」

 

 ほんの五分程度で、さっきの落書きみたいな似顔絵とは雲泥の差の絵が出来上がった。イルワさんが「本物と変わりないぞ……」と驚いている。

 

「君の秘密が気になってきたが……それは、依頼達成後の楽しみにしておこう。君の言う通り、どんな形であれ、ウィル達の痕跡を見つけてもらいたい………………宜しく頼む」

 

 イルワは最後に真剣な眼差しで俺を見つめた後、ゆっくり頭を下げた。大都市のギルド支部長が一冒険者に頭を下げる。そうそう出来ることではない。キャサリンの教え子というだけあって、人の良さがにじみ出ている。

 

「任せておけ」

 

 その後、支度金や北の山脈地帯の麓にある湖畔の町への紹介状、件の冒険者達が引き受けた調査依頼の資料を貰い、部屋を出た。

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 バタンと扉が締まる。その扉をしばらく見つめていたイルワは、「ふぅ~」と大きく息を吐いた。部屋にいる間、一言も話さなかったドットが気づかわしげにイルワに声をかける。

 

「支部長……よかったのですか? あのような報酬を……」

「……ウィルの命がかかっている。彼ら以外に頼めるものはいなかった。仕方ないよ。それに、彼等に力を貸すか否かは私の判断でいいと彼等も承諾しただろう。問題ないさ。それより、彼らの秘密……」

「ステータスプレートに表示される〝不都合〟ですか……」

「ふむ、ドット君。知っているかい? ハイリヒ王国の勇者一行は皆、とんでもないステータスらしいよ?」

 

 ドットは、イルワの突然の話に細めの目を見開いた。

 

「! 支部長は、彼が召喚された者……〝神の使徒〟の一人であると? しかし、彼はまるで教会と敵対するような口ぶりでしたし、勇者一行は聖教教会が管理しているでしょう?」

「ああ、その通りだよ。でもね……およそ四ヶ月前、その内の二人がオルクスで亡くなったらしいんだよ。奈落の底に魔物と一緒に落ちたってね」

「……まさか、その者が生きていたと? 四ヶ月前と言えば、勇者一行もまだまだ未熟だったはずでしょう? オルクスの底がどうなっているのかは知りませんが、とても生き残るなんて……」

「だが、召喚された者の中に逸脱した少年少女がいたらしいんだ。その中の一人が未知の技術を使い、ベヒモスを単独で倒したらしいよ」

「ベヒモスを一人で…………ですか。信じられませんね」

 

 ドットは信じられないと首を振りながら、イルワの推測を否定する。しかし、イルワはどこか面白そうな表情で再び零斗達が出て行った扉を見つめた。

 

「でももし、彼らが本当に元『神の使徒』なら、なぜ勇者達と合流しないのか……彼らは奈落の底で『何』を見たのか……それは、教会と敵対することも辞さないという決意をさせるに足るものだ。それは取りも直さず、世界と敵対する覚悟があるということだよ」

「世界と……」

「私としては、そんな特異な人間とは是非とも繋がりを持っておきたいね。例え、彼が教会や王国から追われる身となっても、ね。もしかすると、先生もその辺りを察して、わざわざ手紙なんて持たせたのかもしれないよ」

「支部長……どうか引き際を見誤るようなことだけは」

「ああ……わかっているさ」

 

 スケールの大きな話に、目眩を起こしそうになりながら、それでもイルワの秘書長として忠告は忘れないドット。しかし、イルワは、何かを深く考え込みドットの忠告にも、半ば上の空で返すのだった。




FGOで140連してジュナオが一体も来ないてどうゆう事なの?(困惑)すり抜けで玉藻の前と良い文明さんは来たけどさ……嬉しくねぇのよ……


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湖畔の町での再会

「よいしょと、ヾ(・ω・`)ノハローお馴染みの零斗さんですよ」
「エトです」
「ユエ」

「さて、前回はウィルくん?って子の捜索依頼を受けたな」
「……貴方も大概面倒事を起こしてくれますね」
「ん、一番の戦犯」
「お前らがキャサリンに大渓谷を踏破した事に関して話したの知ってるかな……とりあえずそこで正座してろ説教はこれが終わったらする」
「「……はい」」

「今回は湖畔の町での再会とちょっとした会話だ、楽しんでくれ」

「「「湖畔の町での再会!」」」


 Side 零斗

 

 広大な平原に、北へ向けて真っ直ぐに伸びる街道がある。街道と言っても、何度も踏みしめられることで自然と雑草が禿げて道となっただけのものだ。この世界の馬車にはサスペンションなどという文明の利器は無い、きっとこの道を通る馬車の乗員は、目的地に着いた途端、自らの尻を慰めることになるのだろう。

 

 そんな、整備されていない道を有り得ない速度で爆走する。シアとミレディが乗るシュタイフと魔力駆動四輪"ブリーゼ"で凸凹の道を苦もせず突き進む。

 

 ブリーゼの車内は、運転席と助手席だけ分かれており、残りはベンチシートだ。運転手は俺で、助手席にはエトが座って寝ており、残りの奴らは後ろの席だ。

 

 シアとミレディはというと…………

 

「ヒャッハー! ですぅ!」

「シアちゃん! もっと飛ばせ―!」

 

 速度は優に100km/hを切っており、街道を猛スピードで突っ走っていく。まるで映画のワンシーンの様だ。

 

「おーい、飛ばすのはいいが事故るなよ〜」

「そこは未来視でどうにかしますぅ!」

「アホか!そいつは魔力使ってうごいてんだぞ!?魔力切れ起こして止まったらお前らシュタイフから射出されんぞ!」

 

 アイツら命知らず過ぎんだろ……君らはバイクとかに乗る時は法定速度を守って、ヘルメットもしっかりと被るようにな事故って死んじまうからな。

 

「まぁ、このペースなら後一日ってところだ。ノンストップで行くし、休める内に休ませておこう」

 

 俺達は、ウィル一行が引き受けた調査依頼の範囲である北の山脈地帯に一番近い町まで後一日ほどの場所まで来ていた。このまま休憩を挟まず一気に進み、おそらく日が沈む頃に到着するだろうから、町で一泊して明朝から捜索を始めるつもりだ。急ぐ理由はもちろん、時間が経てば経つほど、ウィル一行の生存率が下がっていくからだ。

 

「随分と積極的ですね……何か理由が?」

「ああ、生きているに越したことはないからな。その方が、感じる恩はでかい。これから先、国やら教会やらとの面倒事は嫌ってくらい待ってそうだからな。盾は多いほうがいいだろう?後々の事にも影響しそうだしな」

「……なるほど」

 

 実際、イルワという盾が、どの程度機能するかはわからないし、どちらかといえば役に立たない可能性の方が大きいが保険は多いほうがいい。まして、ほんの少しの労力で獲得できるなら、その労力は惜しむべきではない。

 

「それに、大切な人間が消えちまう痛みはあまり良いもんじゃないしな……見ず知らずの人間でも見て見ぬふりは流石に出来んからな」

「れいちゃん……」

「クックッ……柄でもねぇ事言っちまったな」

 

 世間様からみたらこんなものは偽善だと指さされて笑われるだろうな……ま、『やらぬ善よりやる偽善』だしな。

 

「それに聞いたんだがな、これから行く町は湖畔の町で水源が豊かなんだと。そのせいか町の近郊は大陸一の稲作地帯なんだとさ」

「……まさか!」

「そう、米だ米。俺らの故郷、日本の主食だ。オルクス大迷宮を出てから一度も口にしてないからな、早く行って食いてぇな」

「私も食べたいです……その町の名前は?」

 

 遠い目をして米料理に思いを馳せるハジメに、微笑ましそうな眼差しを向けていたユエ。そんな二人の様子に苦笑いしながら町の名前を尋ねてくるアルテナ。

 

「湖畔の町ウルだ」

 

 ●○●

 

 Side 愛ちゃん

 

「はぁ、今日も手掛かりはなしですか……清水君と恭弥君は一体どこに行ってしまったんですか……」

 

 肩を落とし、ウルの町の表通りをトボトボと歩く。普段は快活な姿を見せなければいけないのだろうけどが、今は、不安と心配に苛まれている。心なしか、表通りを彩る街灯の灯りすら、いつもより薄暗い気がする。

 

「愛子、あまり気を落とすな。まだ、何も分かっていないんだ。無事という可能性は十分にある。お前が信じなくてどうするんだ」

「そうですよ、愛ちゃん先生。清水君と恭弥さんの部屋だって荒らされた様子はなかったんです。自分で何処かに行った可能性だって高いんですよ? 悪い方にばかり考えないでください」

 

 元気のない私に、そう声をかけたのは専属護衛隊隊長のデビッドさんと生徒の園部優花さんだ。周りには他にも、毎度お馴染みに騎士達と生徒達がいる。彼等も口々に私を気遣うような言葉をかけた。

 

 クラスメイトの一人、清水 幸利君と佐野 恭弥君が失踪してから既に二週間と少し。八方手を尽くして二人を探したが、その行方はようとして知れなかった。町中に目撃情報はなく、近隣の町や村にも使いを出して目撃情報を求めたが、全て空振りだった。

 

 最初は何か事件にでも巻き込まれたのではと思っていたのですが彼らは生徒の中でもトップクラスの戦闘力を持つ人達ですから、そうそうやられるとは思えず、今では自発的な失踪と考える者が多かった。

 

 ちなみに、王国と教会には報告済みであり、捜索隊を編成して応援に来るようだ。清水君は魔法の才能に関しては召喚された生徒達の中でも極めて優秀で、零斗君と南雲君の時のように、上層部は楽観視していない。捜索隊が到着するまで、あと二、三日だ。

 

 次々とかけられる気遣いの言葉に、私は自分を叱咤した。事件に巻き込まれようが、自発的な失踪であろうが心配であることに変わりはない。しかし、それを表に出して、今、傍にいる生徒達を不安にさせるどころか、気遣わせてどうするのだと。それでも、自分はこの子達の教師なのか!

 

 一度深呼吸するとペシッと両手で頬を叩き気持ちを立て直した。

 

「皆さん、心配かけてごめんなさい。そうですよね。悩んでばかりいても解決しません。清水君は優秀な魔法使いです。きっと大丈夫。今は、無事を信じて出来ることをしましょう。取り敢えずは、本日の晩御飯です! お腹いっぱい食べて、明日に備えましょう!」

 

 無理しているのが丸分かりだ。しかし、気合の入った掛け声に生徒達も「は~い」と素直に返事をする。騎士達は、その様子を微笑ましげに眺めた

 

 カランッカランッ、と音を立てながら、宿泊している宿の扉を開いた。ウルの町で一番の高級宿だ。名を〝水妖精の宿〟という。昔、ウルディア湖から現れた妖精を一組の夫婦が泊めたことが由来だそうだ。ウルディア湖は、ウルの町の近郊にある大陸一の大きさを誇る湖だ。大きさは日本の琵琶湖の四倍程である。

 

 〝水妖精の宿〟は、一階部分がレストランになっており、ウルの町の名物である米料理が数多く揃えられている。内装は、落ち着きがあって、目立ちはしないが細部までこだわりが見て取れる装飾の施された重厚なテーブルやバーカウンターがある。また、天井には派手すぎないシャンデリアがあり、落ち着いた空気に花を添えていた。〝老舗〟そんな言葉が自然と湧き上がる、歴史を感じさせる宿だった。

 

 当初は、高級すぎては落ち着かないと他の宿を希望したのだが、〝神の使徒〟あるいは〝豊穣の女神〟とまで呼ばれ始めている私や生徒達を普通の宿に止めるのはイメージ的に有り得ないので、デビットさん達の説得に折れて、ウルの町における滞在場所として目出度く確定した。

 

 元々、王宮の一室でで生活していたのもあり、私も生徒達も次第に慣れ、今では、すっかりリラックスできる場所になっていた。農地改善や生徒達の捜索に粉骨砕身して疲労した体で帰って来る愛子達にとって、この宿で摂る米料理は毎日の楽しみになっていた。

 

 全員が一番奥の専用となりつつあるVIP席に座り、その日の夕食に舌鼓を打つ。

 

「ああ、相変わらず美味しいぃ~異世界に来てカレーが食べれるとは思わなかったよ」

「まぁ、見た目はシチューなんだけどな……いや、ホワイトカレーってあったけ?」

「いや、それよりも天丼だろ? このタレとか絶品だぞ? 日本負けてんじゃない?」

「それは、玉井君がちゃんとした天丼食べたことないからでしょ? ホカ弁の天丼と比べちゃだめだよ」

「いや、チャーハンモドキ一択で。これやめられないよ」

 

 極めて地球の料理に近い米料理に毎晩生徒達のテンションは上がりっぱなしだ。見た目や微妙な味の違いはあるのだが、料理の発想自体はとても似通っている。素材が豊富というのも、ウルの町の料理の質を押し上げている理由の一つだろう。米は言うに及ばず、ウルディア湖で取れる魚、山脈地帯の山菜や香辛料などもある。

 

 美味しい料理で一時の幸せを噛み締めている愛子達のもとへ、六十代くらいの口ひげが見事な男性がにこやかに近寄ってきた。

 

「皆様、本日のお食事はいかがですか? 何かございましたら、どうぞ、遠慮なくお申し付けください」

「あ、オーナーさん」

 

 話しかけたのは、この〝水妖精の宿〟のオーナーであるフォス・セルオである。スっと伸びた背筋に、穏やかに細められた瞳、白髪交じりの髪をオールバックにしている。宿の落ち着いた雰囲気がよく似合う人だ。

 

「いえ、今日もとてもおいしいですよ。毎日、癒されてます」

 

 なるべく綺麗な笑顔で笑いながら答えると、フォスも嬉しそうに「それはようございました」と微笑んだ。しかし、次の瞬間には、その表情を申し訳なさそうに曇らせた。何時も穏やかに微笑んでいるフォスには似つかわしくない表情だ。何事かと、食事の手を止めて皆がフォスに注目した。

 

「実は、大変申し訳ないのですが……香辛料を使った料理は今日限りとなります」

「えっ!? それって、もうこのニルシッシル(異世界版カレー)食べれないってことですか?」

 

 カレーが大好物の園部さんがショックを受けたように問い返した。

 

「はい、申し訳ございません。何分、材料が切れまして……いつもならこのような事がないように在庫を確保しているのですが……ここ一ヶ月ほど北山脈が不穏ということで採取に行くものが激減しております。つい先日も、調査に来た高ランク冒険者の一行が行方不明となりまして、ますます採取に行く者がいなくなりました。当店にも次にいつ入荷するかわかりかねる状況なのです」

「あの……不穏っていうのは具体的には?」

「何でも魔物の群れを見たとか……北山脈は山を越えなければ比較的安全な場所です。山を一つ越えるごとに強力な魔物がいるようですが、わざわざ山を越えてまでこちらには来ません。ですが、何人かの者がいるはずのない山向こうの魔物の群れを見たのだとか」

「それは、心配ですね……」

 

 思わず顔をしかめる。他の皆も若干沈んだ様子で互いに顔を見合わせた。フォスさんは、「食事中にする話ではありませんでしたね」と申し訳なさそうな表情をすると、場の雰囲気を盛り返すように明るい口調で話を続けた。

 

「しかし、その異変ももしかするともう直ぐ収まるかもしれませんよ」

「どういうことですか?」

「実は、今日のちょうど日の入り位に新規のお客様が宿泊にいらしたのですが、何でも先の冒険者方の捜索のため北山脈へ行かれるらしいのです。フューレンのギルド支部長様の指名依頼らしく、相当な実力者のようですね。もしかしたら、異変の原因も突き止めてくれるやもしれません」

 

 私にはピンと来ないようだが、食事を共にしていたデビッドさん達護衛の騎士は一様に「ほぅ」と感心半分興味半分といった声を上げた。フューレンの支部長と言えばギルド全体でも最上級クラスの幹部職員である。その支部長に指名依頼されるというのは、相当どころではない実力者のはずだ、それこそ零斗君達のような……

 

 二階へ通じる階段の方から声が聞こえ始めた。男性二人の声と少女五人の声だ。何やら少女の一人が男性に文句を言っているらしい。それに反応したのはフォスさんだった。

 

「おや、噂をすれば。彼等ですよ。騎士様、彼等は明朝にはここを出るそうなので、もしお話になるのでしたら、今のうちがよろしいかと」

「そうか、わかった。しかし、随分と若い声だ。〝金〟に、こんな若い者がいたか?」

 

 デビッド達騎士は、脳内でリストアップした有名な〝金〟クラスに、今聞こえているような若い声の持ち主がいないので、若干、困惑したように顔を見合わせた。そうこうしている内に、七人の男女は話ながら近づいてくる。

 

 私達のいる席は、三方を壁に囲まれた一番奥の席で、店全体を見渡せる場所でもある。一応、カーテンを引くことで個室にすることもできる席だ。唯でさえ目立つ私達は、私が〝豊穣の女神〟と呼ばれるようになって更に目立つようになったため、食事の時はカーテンを閉めることが多い。今日も、例に漏れずカーテンは閉めてある。

 

 そのカーテン越しに若い男女の騒がしめの会話の内容が聞こえてきた。

 

「久しぶりの米料理だな、〝ハジメ〟」

「そうだね〝レイト〟。ちょっとワクワクしてる」

「〝ハジメ〟さんと〝レイト〟さんの故郷の料理、楽しみです!」

「ま、完全に向こうと一緒て訳じゃ無いだろうけどな」

 

 その会話の内容に、そして少女の声が呼ぶ名前に、私の心臓が一瞬にして飛び跳ねる。彼女達は今何といった?少年を何と呼んだ?少年の声は、〝あの少年達〟の声に似てはいないか?私の脳内を一瞬で疑問が埋め尽くし、金縛りにあったように硬直しながら、カーテンを凝視する。

 

 それは、傍らの園部さんや他の生徒達も同じだった。彼らの脳裏に、およそ四ヶ月前に奈落の底へと消えていった、とある少年達が浮かび上がる。一部のクラスメイト達に〝異世界での死〟というものを強く認識させた少年、私を救ってくれた少年、身を呈して生徒を守ってくれた少年。

 

 尋常でない様子の愛子と生徒達に、フォスさんや騎士達が訝しげな視線と共に声をかけるが、誰一人として反応しない。騎士達が、一体何事だと顔を見合わせていると、私と園部さん同時にポツリとその名を零した。

 

「……南雲君に零斗君?」

「……零斗にハジメ?」

 

 無意識に出した自分の声で、有り得ない事態に硬直していた体が自由を取り戻す。私は、椅子を蹴倒しながら立ち上がり、転びそうになりながらカーテンを引きちぎる勢いで開け放った。

 

 シャァァァ!!

 

 存外に大きく響いたカーテンの引かれる音に、ギョッとして思わず立ち止まる女性陣。気にする事なく振り向く少年。

 

 私は、相手を確認する余裕もなく叫んだ。大切な教え子の名前を……

 

「南雲君!零斗君!」

「……………………先生?」

 

 目の前にいたのは、顔全体を覆う仮面をした黒ローブを着た零斗君と変わらずに白髪の南雲君、ビスクドールのような金髪の美少女に青みがかった銀髪のウサミミをした少女、まさにエルフといった姿の美少女、灰色の髪をした落ち着いた雰囲気の少女、絵に書いたかのような美少女がいた。

 

「元気そうで良かったです……他の方もいる様ですね、お久しぶりです」

「ええっと……一応?」

「おや?玉井くんも居るんですね、どうです?彼女には告白できましたか?」

「ままままま、まだに決まってんだろーが!」

「早くしないと取られてしまいますよ?」

 

 クツクツと笑いながら生徒の一人を揶揄う零斗君。口調は優等生モードではあるものの雰囲気は変わらず、とても優しく暖かい物だ。

 

 コツコツ「………………」

「?どうしたしか、園部さん」

 ダキッ!「………………………………」

「ットト……いきなりどうしたんですか!?」

「グス……よかった……」

 

 涙声になりながら零斗君に抱き着く園部さん。最近の高校生は大胆なんですね……てそうじゃない!

 

「こ、こうなったら私も!」バッ!

「ちょ!?」

「問答無用です!」

 

 若い子達には負けられません!私だって……私だって!

 

 




責められると弱い男の子……いいよな。


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☆O☆HA☆NA☆SI☆

「よいしょと、⸜(* ꒳ *  )⸝ハロお馴染みの零斗さんですよ」
「畑山 愛子です」
「園部 優花よ」

「前回は、愛ちゃん達と再会したな……つーかそろそろ離してくれない?」
「「……もう少しだけ」」
「へいへい」

「今回は愛ちゃん達との話し合いだ、楽しんでくれ」

「「「☆O☆HA☆NA☆SI☆!」」」


 Side 零斗

 

「落ち着きましたか?」

 

 抱きついきた愛ちゃんと園部の頭を撫でながら話しかける。未だに反応が無い……後ろにいる、エトからの視線と玉井達の近くにいる騎士から視線がすんごい痛い。

 

「……すいません、取り乱しました……」

「……ごめん」

「大丈夫です。流石にビックリしましたけどね」

 

 暴走気味だった事を自覚し頬を赤らめる愛ちゃんと園部、俺からそっと距離をとり、遅まきながら大人の威厳を見せようと背筋を正す愛ちゃんは……背伸びした子供のようだった。

 

「良かったです、元気な姿を見れて……所で後ろにいる女性達は一体誰です?」

「食事をしながらでも、大丈夫ですか?依頼のせいで一日以上ノンストップでここまで来たんです。久しぶりの米料理なのでじっくり味あわせてください。それと、この方達は……」

 

 視線でエト達に自己紹介を促す。

 

「……ユエ」

「シアです」

「アルテナ・ハイピストと申します」

「エト・フレイズです」

「「ハジメ(さん)の女(ですぅ)!」」

「ハジメさんの……こ、恋人で……す……あぅ」

「……レイトの女です」

「そして私が! 超絶美少女魔法使いのミレディで~す☆」

 

 色々とツッこませろ……特にエト、何時から俺はお前と恋仲になった!?

 

 愛ちゃんが若干どもりながら「えっ? えっ?」とハジメと『ハジメの女』発言をしたユエ達を交互に見る。上手く情報を処理出来ていないらしい。後ろの生徒達も困惑したように顔を見合わせている。いや、男子生徒は「まさか!」と言った表情でユエ達を忙しなく見ている。徐々に、その美貌に見蕩れ顔を赤く染めながら。

 

「みんな何を言って!?」

「そんなっ! 酷いですよハジメさん。私のファーストキスを奪っておいて!」

「そ、そうです!私達の告白を受けて取ってくれましたよね!?」「受けたけども!僕には香織さんがいるから気持ちには答えられないかもしれないて言ったよね!?」

「エトさん、何時から私の女になったんですか?」

「……こうした方が色々と面倒事を避けられると思っただけです」

「南雲君、零斗君」

 

 シアの〝ファーストキスを奪った〟という発言に、遂に情報処理が追いついたらしく、愛子の声が一段低くなる。やべぇ……完璧キレてら。

 

「説明させてk『そこに直りなさい!』……はい」

 

 顔を真っ赤にして、ハジメの言葉を遮る愛子。その顔は、非行に走る生徒を何としても正道に戻してみせるという決意に満ちていた。

 

「女の子のファーストキスを奪った挙句、三股なんて! 直ぐに帰ってこなかったのは、遊び歩いていたからなんですか! もしそうなら……許しません! ええ、先生は絶対許しませんよ! お説教です!零斗君もです!刀華さんや鈴仙さん、それに、わ、私という人がありながら……貴方もお説教です!」

「はい」

 

 きゃんきゃんと吠える愛子を尻目に、床に正座する。はぁ……やっちまったなぁ……

 

 ──────────────────────

 

 愛ちゃんのありがたい説教を受け終わり、他の客の目もあるからとVIP席の方へ案内される。そこで、愛ちゃんや優花達生徒から怒涛の質問を投げかけられつつも、ハジメ達は目の前の今日限りというニルシッシルに夢中で聞いていない。

 

 Q、橋から落ちた後、どうしたのか?

 A、色々と頑張った

 Q、なぜ仮面をしているのか

 A、面倒事を避けるため

 Q、なぜ、直ぐに戻らなかったのか

 A、特に戻る理由がない

 

 そこまで聞いて愛子が、「真面目に答えなさい!」と頬を膨らませて怒る。全く、迫力がないのが物悲しい。が、これはあくまでも演技だろう……というかそうであってくれ、教会の人間がいるからこうやって聞いてきていると思いたい。何回かは連絡してるし大丈夫だよね?ね?

 

 その様子にキレたのか、金髪の顎のデカいオッサンが拳をテーブルに叩きつけ、怒鳴り散らかし始めた。皿がひっくり返たらどうしてくれるんですかねぇ(憤怒)。

 

「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 

 ハジメは、チラリとパツキンのオッサンを見ると、はぁと溜息を吐いた。

 

「今は食事中ですよ?騎士ともあろう方がテーブルマナーすらまともに覚えていないんですか?」

 

 青筋を額に浮かべながら、淡々とオッサンを煽るハジメ。やるじゃない。

 

 オッサンは我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメと俺から矛先を変え、その視線がシアとアルテナに向く。

 

「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

 

 侮蔑をたっぷりと含んだ眼で睨まれたシアとアルテナはビクッと体を震わせた。

 

「……貴方バカですね」

「き、貴様!今私をバカと言ったな!」

「えぇ、言いましたね。教会の騎士ともあろう者が食事の場でその様なくだらない話題を出して他者を貶す行為を平然とするなど……教会の正当性など笑い話にもなりませんね」

 

 教会を引き合いに出され、しかも愚弄されたオッサン達は一斉に立ち上がり、こちらを睨んでくる。おー怖い怖い。

 

「だいたい、貴様もバカだろう!貧相な首巻きと耳飾り等身に付け、それで着飾っているつもりか?そんな薄汚い物など燃やしてくれるわ!」

てめぇ、今なんつった?

 

 貧相な首巻きに耳飾り?薄汚い物?

 

「ハッ!図星か?この程度の事実で逆上するなど……たかがしている!異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる!」

死ぬのは……てめぇだよ

 

 殺害対象(オッサン)が自らの剣に手をかけた瞬間にその腕を両断する。

 

「へ?」

どうした?俺を殺すんだろ?

「あ……あぁぁぁ!わ、私の腕がァ!」

腕の1本がどうした?それでも教会直属の騎士か?

「き!ぎざまぁ!殺してやる!」

 

 あぁ、面倒だ……ほんとに面倒だ…………いっそ教会ごと消し去ってしまおうか……

 

「零斗、そこまでです」

何故、止める

「その一線は超えてはいけない……これ以上相手にする必要はありません」

ダメだ、その男を殺さなくてはならない。俺の家族を貶した事への報復しなければならない。だから邪魔をしないでくれ

 

 報いを……裁きを……()がやらなければ……家族を貶したのだから、殺さなくて……守らなければ…………

 

「零斗、ゆっくりと呼吸して……ね」

フゥー……フゥー……」

「そうそう……ゆっくり、ゆっくり」

「すみません……取り乱したみたいで…………」

「いいわ、でも少し疲れたでしょ?今は休んでいて大丈夫よ」

「えぇ、そう……さて……いただ……きます…………」

 

 疲れた……

 

 ●○●

 

 Side エト

 

 零斗を落ち着かせて眠らせる。全く手の掛かる人ですね……

 

「シアさん、アルテナさん、零斗の事を宿まで連れて言って貰えませんか?」

「わ、分かりました……」

 

 シアさん達に零斗を任せて、片腕を失った騎士まで歩み寄る。この者だけは許してなるものか。

 

「私は貴方達がどうしようとどうでも良いです。ですが彼を……仲間を愚弄する事だけは許しません。それに私達は依頼が目的でここに来ているんです、それが終わればお別れです。別れた後に貴方達がどこで何をしようが、勝手です。でも、私達の邪魔をする様でしたら……次はありません

 

 その場にいる全ての人間が凍りつき、青ざめていた。威圧を近距離で受けていた騎士達はガタガタと震え、失禁している。

 

「行きましょう、皆さん」

「少し待ってはくれませんか……」

 

 その場を去ろうとした時、一人の騎士が話しかけて来た。

 

「なんでしょうか?」

「エト君でいいでしょうか?先程は、隊長が失礼しました。何分、我々は愛子さんの護衛を務めておりますから、愛子さんに関することになると少々神経が過敏になってしまうのです。どうか、お許し願いたい」

 

 何を今更……

 

「……話はそれだけですか?無いのなら失礼します」

 

 それだけ告げて宿を後にする。

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 夜中。深夜を周り、一日の活動とその後の予想外の展開に精神的にも肉体的にも疲れ果て、誰もが眠りついた頃、しかし、愛子は未だ寝付けずにいた。

 

「少しだけ夜風にあたりにいきましょう」

 

 愛子は、宿を出て少し歩いた先の湖の畔にやってきた。湖の水面は月明かりに照らされキラキラと輝いていた。

 

「こんな夜更けに女性一人とは……危ないですよ?」

「零斗君!?」

 

 ギョッとして声がした方へ振り向く愛子。そこには、仮面をとり素顔を晒した零斗がいた。驚愕のあまり舌がもつれながらも何とか言葉を発する愛子。

 

「ど、どうしてここに?」

「少し夜風にあたりたくてね……そっちは?」

「私も……です」

 

 零斗は湖の近くまで歩き、その場に座り込む。そして、自分の横をポンポンと叩いて座るように促す。

 

「体の調子は……」

「問題無い」

「そ、そうですか。良かったです」

「「……」」

 

 二人の間に気まずい空気が流れる。ふと、零斗が亜空間収納からワインボトルと二つのグラス、そして小さな包みを取り出した。

 

「軽く飲まない?ちょっとは話しやすくなるだろ?」

「零斗君は未成年でしょう!絶対、ダメです!」

「今更じゃない?」

「……それでもです!」

 

 プリプリと怒る愛子。それを見て頬を緩める零斗。

 

「……他の生徒達は怖がっていたか?」

「え?」

「いや……あんな所見せちまったからさ、怖がってるんじゃないかと思ってさ。俺もかなりの短気だよな、マフラーとイヤリングを貶されただけであそこまでするなんてさ……」ギリ

 

 言葉を紡いでいく事に拳に力を込める零斗、手からは血が滴り、顔は酷く歪んでいる。そんな姿を見た愛子は零斗の頭を抱き寄せて、ゆっくりと撫でる。

 

「そんなに無理しなくても大丈夫。ここには私しかいないから……『つらい』ってこぼしていいの、『くるしい』って言っていいです……大丈夫ですから」

「……もう少しだけこのままで居させてくれ」

「えぇ、いいですよ」

 

 時間にして一分ほどで零斗が愛子の腕を軽く叩く。もう大丈夫だと言うことだろう。

 

「ありがとうな、愛ちゃん」

「だから愛ちゃんでは無く……んむぅ!」

「ちゅ……ちょっとしたリップサービス。宿まで送るよ」

「は、はひ…………」

 

 




ブチ切れ零斗君でした。感想お待ちしております。


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捜索開始

「よいしょと、( *・ω・)ノハロお馴染みの零斗さんです」
「エトです」
「畑山 愛子です」

「前回は……俺がキレてたな、やっちまったなぁ……」
「あれはあの騎士が起こした事ですから貴方がそこまで気を負う必要は無いと思いますよ」
「そうですよ、零斗君!」
「……そうかい」

「今回はウィル坊の捜索だ。楽しんでくれ」

「「「捜索開始!」」」



 Side 零斗

 

 翌日の早朝。俺たちは北の山脈地帯へと向かうため、宿を出た。まだあたりにはうっすらと霧が立ち込め、朝焼けが顔を出したばかりだ。手には、移動しながら食べられるようにと握り飯が入った包みを持っている。極めて早い時間でありながら、嫌な顔一つせず、朝食にとフォスさんが用意してくれたものだ。

 

「さて、そろそろ行きますか……」

 

 ここから北の山脈地帯までは馬で丸一日くらいだというから、魔力駆動二輪で飛ばせば三、四時間くらいで着くだろう。

 

 ウィル・クデタ達が、北の山脈地帯に調査に入り消息を絶ってから既に五日。生存は絶望的だ。ま、万一ということもあるしな。生きて帰せば、イルワの俺たちに対する心象は限りなく良くなるだろうし、出来れば生きて帰したい所ではある。幸いな事に今日は快晴で、捜索するにはもってこいの気候だ。

 

「……見送りですか?」

 

 待ち伏せしていた、愛ちゃんが正面から向き合い、ばらけて駄弁っていた生徒たちも近寄ってくるのだ。おまけに、愛ちゃんたちの後ろに馬が人数分用意されている。

 

「私達も行きます。行方不明者の捜索ですよね? 人数は多いほうがいいです」

「駄目です、貴方達と足並みを揃えていたら時間が無駄になります……それに、貴方達では足手まといにしかなりませんので」

 

 俺の物言いにカチンと来たのか愛ちゃん大好き娘、親衛隊の実質的リーダー宮崎奈々が食ってかかる。どうやら、昨日の威圧感や負い目を一時的に忘れるくらい愛ちゃん愛が強いらしい。

 

「ちょっと、幾ら何でも言い方ないでしょ?湊莉が私達のことよく思ってないからって、愛ちゃん先生にまで当たらないでよ」

「……馬でどうやってバイクに追いつくんです?」

「へ?」

 

 ハジメが宝物庫からシュタイフを出す。あまりにも異世界には似つかわしくないバイクを見て、度肝を抜かれているのか、マジマジと見つめたまま答えない愛ちゃん達。そこへ、クラスの中でもバイク好きの相川が若干興奮したように尋ねてきた。

 

「こ、これ作ったのか?」

「えぇ、そうですが……では、私達は出発するので」

 

 これ以上は時間の無駄だし、そろそろ出発しないとマズイ。バイクに跨りエンジンを入れる。

 

「零斗君、先生は先生として、そして貴方のその……こ、恋人としてどうしても話を聞かなければなりません……聞かせてくれないのなら『私とは遊びだったのね!』と言いつつ追っかけ回s「よーし、分かったからそれ以上は面倒事になりそうだからやめて欲しいかな!?」……なら連れて行ってください」

 

 ……誰だよこんな事教えた奴。後ろにいる、駄ウサギと同じ様な事言ってるし。選択肢1つしか無いじゃん……

 

「……はぁ、わーたよ。ハジメ、ブリーゼ出してくれ」

「口調そっちでいいの?」

「もうどうにでもなれてんだ」

 

 素の口調に驚いている奴らを車内に放り込む。乗らなかった残りの奴らは荷台に押し込む。

 

「全員シートベルトしたな……んじゃ出発ー」

 

 アクセルを思い切り踏み、ブリーゼを走らせる。

 

 ────────────────────────

 

 山脈地帯を見据えて真っ直ぐに伸びた道を、ブリーゼで走ること数時間。

 

「……ストレート」

「フルハウス!」

「フラッシュですぅ!」

「ロイヤルストレートフラッシュ」

「「「エトさん強すぎ!」」」

 

 後ろの座席では、ポーカー大会が開かれていた……エトが現在5連勝中だ。

 

「それでぇ?南雲君とはどうなのさ!」

「えぇと……その……なんと言いますか……」

 

 シアとアルテナが菅原と宮崎からハジメとの関係を根掘り葉掘り聞かれている。異世界での異種族間恋愛など花の女子高生としては聞き逃せない出来事なのだろうな。興味津々といった感じでシアとアルテナに質問を繰り返しており、二人はオロオロしながら頑張って質問に答えている。

 

「打ち解けた様でよかったよ……」

「そう……ですね」

「ん?眠いのか?」

「はい……ちょっとだけ……」

 

 眠気が限界まで来ているのか返答がふわふわとしている。そんな中で、走行による揺れと柔らかいシートが眠りを誘い、愛ちゃんはいつの間にか夢の世界に旅立った。ズルズルと背もたれを滑りコテンと倒れ込んだ先は俺の膝の上である。

 

「フフ、こう見ると本当に子供みたいだな」

「へぇ、湊莉君てそんな風に笑うんだね」

「湊莉君と愛ちゃんてお似合いだよねぇ……刀華さんとはまた違った意味でね」

「あら、確かに珍しい顔ね、零斗」

「へいへい、そりゃどうも」

「うらやまけしからん……でも絵になるな」

「「それな」」

 

 キャッキャと見つめる女性陣と、クスクスと面白そうに笑う鏡花に、嫉妬交じりではあるが害意の無い視線を向けて来る男性陣。

 

 ────────────────────────

 

 ウルの街を出発してから約五時間。俺たちはついに北の山脈地帯へと到着した。 山の麓でブリーゼとバイクを停車する。そして、しばらく見事な色彩を見せる自然の芸術に見蕩れた。女性陣の誰かが「ほぅ」と溜息を吐く。

 

「んー……気持ちいいな」

「マイナスイオンを感じる……」

 

 こんな事でピクニックでもしたいねぇ……と、今はウィル坊の捜索に集中と……

 

「ハジメ、オルニスで上空からの偵察頼む」

「分かったよ」

 

 宝物庫から全長三十センチ程の鳥型の模型と小さな石が嵌め込まれた指輪を取り出して、指輪を自らの指に嵌めると、同型の模型を四機取り出し、空中へ放り投げた。そのまま、重力に引かれ地に落ちるかと思われた偽物の鳥達は、しかし、その場でふわりと浮く。

 

 四機の鳥は、その場で少し旋回すると山の方へ滑るように飛んでいった。

 

「あの、あれは?」

「無人偵察機だ」

 

 ミレディが使用していたゴーレム達の技術と感応石と重力魔法を鉱物に付与して生成した重力石を併用して、作成した新兵器だ。更に、遠透石を頭部に組み込んだのだ。遠透石とは、ゴーレム騎士達の目の部分に使われていた鉱物で、感応石と同じように、同質の魔力を注ぐと遠隔にあっても片割れの鉱物に映る景色をもう片方の鉱物に映すことができるというものだ。

 

 これを魔改造スマホと連動させて、リアルタイムで上空からの情報を得る事が出来る。

 

 確か魔物の目撃情報があったのは、山道の中腹より少し上、六合目から七号目の辺りだ。なら、ウィル坊達の冒険者パーティーも、その辺りを調査したはず。

 

 おおよそ一時間と少しくらいで六合目に到着した、一度そこで立ち止まった。理由は、そろそろ辺りに痕跡がないか調べる必要があったのと……

 

「はぁはぁ、きゅ、休憩ですか……けほっ、はぁはぁ」

「ぜぇー、ぜぇー、大丈夫ですか……愛ちゃん先生、ぜぇーぜぇー」

「うぇっぷ、もう休んでいいのか? はぁはぁ、いいよな? 休むぞ?」

「……ひゅぅーひゅぅー」

「ゲホゲホ、湊莉達は化け物か……」

 

 予想以上に愛ちゃんと園部以外の愛ちゃん護衛隊の体力がなく、休む必要があったからである。もちろん、本来、愛ちゃん達のステータスは、この世界の一般人の数倍を誇るので、六合目までの登山ごときでここまで疲弊することはない……筈だ。多分、俺らのペースが速すぎたのか、殆ど全力疾走しながらの登山となり、気がつけば体力を消耗しきってしまったのだろう……情けない事だ。

 

 山道から逸れて山の中を進む。シャクシャクと落ち葉が立てる音を何げに楽しみつつ木々の間を歩いていると、やがて川のせせらぎが聞こえてきた。耳に心地良い音だ。シアの耳が嬉しそうにピッコピッコと跳ねている。

 

 たどり着いた川は、小川と呼ぶには少し大きい規模のものだった。索敵能力が一番高いシアが周囲を探り、ハジメもオルニスで周囲を探るが魔物の気配はしない。取り敢えず休憩がてら、川岸の岩に腰掛けつつ、今後の捜索方針を話し合っていた時……

 

「そぉれ!」

「ぶぇ」

「あ、ごめーん☆手が滑っちゃた♡」

 

 ミレディが水を頭上から降らせてきた、重力魔法てこんか使い方も出来るんやな。

 

「えい」

「冷たっ!」

 

 今度はハジメが水をかけてきた……よろしい、ならば戦争(クリーク)だ。

 

「そぉい!」

「「うわぁぁぁ!」」

 

 ハジメとミレディの首根っこを掴み川に投げ飛ばす。ミレディは重力魔法を使って逃げようとしたから、頭上から同じ様に大量の水を降らせる。

 

「わぷッ……零斗さん?」

「おっと、こりゃ失敬 」

 

 ハジメが落ち拍子に水が跳ねて、シア達に掛かったらしい。シア達は不敵な笑みを浮かべた。

 

「「「覚悟ォ!」」」

「ちょ、偵察しなきゃだろ!?」

「あらあら、楽しいそうね」

 

 問答無用と言った様子でそれぞれの手段で水を掛けてくるシア達。シアはドリュッケンで水を打ち上げ、ユエとアルテナはミレディの様に重力魔法で巨大な水弾を作り、ぶつけて来る。

 

 と、そこへようやく息を整えた愛ちゃん達がやって来た。置いていったことに思うところがあるのかジト目をしている。が、男子三人が、水に濡れた事で透けた服のシア達を見て歓声を上げると「ここは天国か」と目を輝かせ、女性陣の冷たい眼差しは矛先を彼等に変えた。身震いする男衆。玉井達の視線に気がつき、ユエ達も川から上がった。

 

 愛子達が川岸で腰を下ろし水分補給に勤しむのを横目に、体と服を乾かしながら、魔改造スマホでオルニスから送られてくる映像を眺める。

 

「……川の上流に何かあるな。小盾に鞄……まだ新しいな……どうやら痕跡発見みたいだな」

「では、移動しましょうか」

「ん……」

「はいです!」

 

 数十分ほど掛けて川の上流まで登ってきた。愛ちゃん達はまだ疲労が抜けきってない状態で何とか付いてきていた。

 

 到着した場所には、ラウンドシールドや鞄などが散乱していた。ただし、ラウンドシールドは、なにかがぶつかったようにひしゃげて曲がっており、鞄の紐は牙か何かで半ばで引きちぎられた状態だ。

 

「……こっちに続いてるな」

 

 警戒しながら奥へと進む、次々と争いの形跡が発見できた。半ばで立ち折れた木や枝。踏みしめられた草木、更には、折れた剣や血が飛び散った痕もあった。

 

「ペンダント……いや、ロケットか」

 

 汚れを落とし、留め具をして中を見ると、女性の写真が入っていた。大方、誰かの妻か恋人だろう。

 

「大分、日も落ちて来たな……今日はここで野営だな」

「……一度も動物以外の生物に遭遇しませんでたね」

 

 位置的には八合目と九合目の間と言ったところ。山は越えていないとは言え、普通なら、弱い魔物の一匹や二匹出てもおかしくないはずで、逆に不気味さを感じる。

 




感想お待ちしております。


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みんな大剣は持ったな!

「よいしょと、ヾ(ω` )/ハイヨォお馴染みの零斗さんだ」
「ハジメです」
「鏡花よ」

「前回は山脈地帯でウィル坊の捜索を開始したな」
「道中でポーカーやったけど、一勝もできなかった……」
「フフ……エトちゃんはイカサマしてたわよ?」
「え?」
「シャッフルの時に自分の手持ちに良い配役が回ってくるようにして混ぜてんだよ……ハジメ達相手だとイカサマし放題だしな」

「今回はウィル坊の捜索の続きだ」
「楽しんでいってね」

「「「みんな大剣は持ったな!」」」


 Side 零斗

 

 あれからしばらくして、再び、オルニスが異常のあった場所を発見した。東に約三百メートルいったところに大規模破壊の後があったのだ。全員を促してその場所に急行した。

 

 着いた場所は大きな川だった。上流に小さい滝が見え、水量が多く、流れもそれなりに激しい。本来なら真っ直ぐ麓に向かって流れているのだろうが、現在、その川は途中で大きく削られており、小さな支流が出来ていた。まるで、横合いから二本のレーザーか何かに抉り飛ばされたようだ。

 

「……ここら一帯で強めの魔物つったらブルータルぐらいだが……こんな風に地面が抉れる程の力は無い筈なんだが」

 

 ブルタールとは、RPGで言うところのオークやオーガの事だ。大した知能は持っていないが、群れで行動することと、〝金剛〟の劣化版〝剛壁〟の固有魔法を持っているため、中々の強敵と認識されている。普段は二つ目の山脈の向こう側におり、それより町側には来ないはずの魔物だ。それに、川に支流を作るような攻撃手段は持っていないはずである。

 

「……下流に行ってみるか」

 

 オルニスを上流の方へ飛ばす。ブルタールの足跡が川縁にあるということは、川の中にウィル達が逃げ込んだ可能性が高いということだ。ならば、きっと体力的に厳しい状況にあったであろう彼等は流された可能性が高い。

 

 しばらく歩いていると、先ほどのものとは比べ物にならないくらい立派な滝に出くわした。滝横の崖を降りていき滝壺付近に着地する。滝の傍特有の清涼な風が気持ちいい。

 

「……!零斗、滝壺の中に人の気配がある!」

「お!良くやった!」

 

 愛ちゃん達も驚いている。ま、当然か。生存の可能性はゼロではないとは言え、実際には期待などしていなかったしな。ウィル達が消息を絶ってから五日は経っているのである。もし生きているのが彼等のうちの一人なら奇跡だ。

 

「ユエ、頼んだ」

「……ん。〝波城〟 〝風壁〟」

 

 滝と滝壺の水が、紅海におけるモーセの伝説のように真っ二つに割れ始め、更に、飛び散る水滴は風の壁によって完璧に払われた。

 

 薄暗い空洞を見渡すと、奥の方に人が横倒れになっているのが見えた。傍に寄って確認すると、二十歳くらいの青年だった。端正で育ちが良さそうな顔立ちだが、今は青ざめて死人のような顔色をしている。だが、それほど怪我もなく、鞄の中には未だ少量の食料も残っているので、単純に眠っているだけのようだ。

 

 何度か揺すったり、ペチペチと頬を叩いてみるが起きる気配は無い。しゃーないか……

 

 ドパァン!「うわぁぁぁぁ!」

「起きましたね」

 

 悲鳴を上げて目を覚まし、耳を抑える青年。何をしたかって?耳元でエルガーをぶっぱなしただけさ、もちろん弾は抜いてあるので空砲だ。

 

「君がウィル・クデタ君かな?」

「えっと、はい。私がウィル・クデタですが……?」

「よかった。私は湊莉 零斗と申します、フューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来ました。生きていて良かったです」

「イルワさんが!? そうですか。あの人が……また借りができてしまったようだ……あの、あなたも有難うございます。イルワさんから依頼を受けるなんてよほどの凄腕なのですね」

 

 尊敬を含んだ眼差しと共に礼を言うウィル。どこぞのブ男と違って中々見所のあるやつらしい。

 

「何があったか話して貰えますか?」

 

 ウィルの話を要約するとこうだ。

 

 ウィル達は五日前、俺達と同じ山道に入り五合目の少し上辺りで、突然、十体のブルタールと遭遇したらしい。流石に、その数のブルタールと遭遇戦は勘弁だと、ウィル達は撤退に移ったらしいのだが、襲い来るブルタールを捌いているうちに数がどんどん増えていき、気がつけば六合目の例の川にいた。そこで、ブルタールの群れに囲まれ、包囲網を脱出するために、盾役と軽戦士の二人が犠牲になったのだという。それから、追い立てられながら大きな川に出たところで、前方に絶望が現れた。

 

 漆黒の竜と紅黒の鎧を纏った大柄の男だったらしい。その黒竜は、ウィル達が川沿いに出てくるや否や、特大のブレスを吐き、その攻撃でウィルは吹き飛ばされ川に転落。流されながら見た限りでは、そのブレスで一人が跡形もなく消え去り、残り二人も後門のブルタール、前門の鎧の男に挟撃されていたという。

 

 ウィルは、流されるまま滝壺に落ち、偶然見つけた洞窟に進み空洞に身を隠していたらしい。

 

 ウィルは、話している内に、感情が高ぶったようですすり泣きを始めた。

 

「わ、わだじはさいでいだ。うぅ、みんなじんでしまったのに、何のやぐにもただない、ひっく、わたじだけ生き残っで……それを、ぐす……よろごんでる……わたじはっ!」

 

 洞窟の中にウィルの慟哭が木霊する。園部達は悲痛そうな表情でウィルを見つめ、愛ちゃんはウィルの背中を優しくさする。ウィルの目の前まで歩み寄り、目線を合わせる。

 

「……生きたいと願う事は悪い事ではありません、それが人間の本能ですからね。ですが、貴方が貴方自身の生を否定してはいけません……それでも死んでしまった人が気になるのなら生き続けなさい。これから先も足掻いて足掻いて死ぬ気で生き続けなさい。そうすれば、いつかは……今日、『生き残った意味があったって』そう思える日が来るでしょうから」

「……生き続ける」

 

 過去は戻らない、死んでしまった人は蘇らない。どんなに望んでも、願ってもその現実は変わらない。だからその現実を背負って生きていくしかない、それが残された者の責務だ。

 

 前世で学んだ事がある。……大事な物は失って初めて気づく、そして……その大事な物は簡単に壊れてしまう。そして、怖くなる、大事な物と絆を深めてめもまた失ってしまうんじゃないかと……今もその恐怖は背を這っている。

 

「……零斗、私の目を見てください」

「え?」

「私達は……いえ、私は貴方の前からいなくなったりしません」

 

 エトの目は吸い込まれそうなほど綺麗だった、曇りなく、澱みなく……真っ直ぐな瞳だった。

 

「……フフ、ありがとうございます」

「ん、レイトはもう家族」

「そうです!レイトさんはもう私達の家族なのです!貴方が嫌と言っても離れてあげません!」

「それは遠慮しておこう」

「なんでですか!?私今、結構いい事言いましたよね!?」

 

 皆の暖かい言葉がなんだかこそばゆくて、頬をかきながら視線を外す……が直ぐに戻されてからかわれる。

 

 

 ────────────────────────

 

 ブルタールの群れや漆黒の竜の存在、鎧の男の存在は気になるがウィルや他のクラスメイト達が足でまといになるのが目に見えているので下山する事にした。

 

 だが、事はそう簡単には進まない。再度、ユエの魔法で滝壺から出てきた一行を熱烈に歓迎するものがいたからだ。

 

「グゥルルルル」

 

 低い唸り声を上げ、漆黒の鱗で全身を覆い、翼をはためかせながら空中より金の眼で睥睨する……それはまさしく〝竜〟だった。

 

「……剥ぎ取り出来ますか?出来ないのであれば牙を数本折って素材にしましょうかね」

「やたらと物騒だね!?」

 

 竜の牙が枯渇してるんだ……狩らなきゃ(使命感)。

 

 竜の体長は七メートル程。漆黒の鱗に全身を覆われ、長い前足には五本の鋭い爪がある。背中からは大きな翼が生えており、薄らと輝いて見えることから魔力で纏われているようだ。

 

「……洗脳されている?しかも幸利の魔力反応?」

 

 竜の魔力から僅かに幸利の魔力と闇魔法が使用された痕跡が読み取れた。

 

「あ……あぁぁ……あぁぁああ……」

「こんなのがなんで居るんだよ……」

「カテルワケガナイヨ……」

 

 後ろにいる愛ちゃん達は蛇に睨まれた蛙のごとく硬直してしまっている。特に、ウィルは真っ青な顔でガタガタと震えて今にも崩れ落ちそうだ。

 

「ミレディ、落とせ」

「りょーかい!」

 

 何処ぞの空の王者()の様に我が物顔で飛んでいる羽付きトカゲをミレディの重力魔法で地面に叩き落とす。

 

「ハジメ、大剣は持ちましたね?」

「……うん」

「では……イクゾー!」

 

 デッデッデデデ!(カーン!)デデデ!(迫真)

 

 キュゥワァアアア!!

 

 不思議な音色が夕焼けに染まり始めた山間に響き渡る。

 

「全員、私の後ろに下がりなさい!"英霊憑依"ルーラー"ジャンヌ・ダルク」

 

 さぁて、根比べと行こうか!

 

ここに祈りを捧げましょう……。我が友、我が仲間を守らせ給え──『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!

 

 直後、竜からレーザーの如き黒色のブレスが一直線に放たれた。音すら置き去りにして一瞬で俺に到達したブレスは、轟音と共に衝撃と熱波を撒き散らす。

 

「流石に重いな……だが、耐えられないほどでは無い!」

「〝禍天〟」

 

 黒竜の頭上に直径四メートル程の黒く渦巻く球体が現れる。見ているだけで吸い込まれそうな深い闇色のそれは、直後、黒竜を地面に叩きつけた。

 

「グゥルァアアア!?」

 

 豪音と共に地べたに這い蹲らされた黒竜は、衝撃に悲鳴を上げながらブレスを中断する。しかし、渦巻く球体は、それだけでは足りないとでも言うように、なお消えることなく、黒竜に凄絶な圧力をかけ地面に陥没させていく。

 

「ナイスだ、ユエ」

 

 地面に磔にされた空の王者は、苦しげに四肢を踏ん張り何とか襲いかかる圧力から逃れようとしている。が、直後、天からウサミミなびかせて「止めですぅ~!」と雄叫び上げるシアがドリュッケンと共に降ってきた。激発を利用し更に加速しながら大槌を振りかぶり、黒竜の頭部を狙って大上段に振り下ろす。

 

 ドォガァアアア!!!

 

 その衝撃は、今までの比ではない。インパクトの瞬間、轟音と共に地面が放射状に弾け飛び、爆撃でも受けたようにクレーターが出来上がる。

 

「……硬いな」

 

 超重量の一撃をまともに受けた者は深刻なダメージは免れないはずだ。そう、まともに受けていれば……

 

「グルァアア!!」

 

 黒竜の咆哮と共に、ドリュッケンにより舞い上げられた粉塵の中から火炎弾が豪速でユエとミレディに迫った。ユエは、咄嗟に右に〝落ちる〟事で緊急回避する。だが、代わりに重力球の魔法が解けてしまった。ミレディは火炎弾を左に〝落とす〟事で難なく防いだ。

 

「さぁて、どう攻めましょう──ハジメ!しゃがめ!」

「え?」

『…………』

 

 音も無く、気配すら感じなかった……紅黒い鎧を身に纏った大柄の男が槍を構えてハジメを刺殺さんとしていた。

 

「チィイ!」

 

 辛うじて首筋を狙った刺突を避けたが、頬から血が滴り落ちた。

 男は、そのままの勢いで体を回転させ、遠心力の加わった強烈な横薙ぎを放つ。

 

 それを後ろに飛び退きつつ、血狂いで受け止めた。金属同士がぶつかったとは思えない轟音が響き渡る。そして、男はそのまま手に持つ槍ごと蹴り飛ばしてきた。

 

「ぐっ!?」

 

 ガードしたにもかかわらず、吹き飛ばされる。なんとか空中で一回転して着地するが、腕が痺れている。

 

(なんて馬鹿げた威力だよ)

 

 内心毒づきながらも油断無く構えを取る。

 

「エト、鏡花!俺達で鎧の方をやるぞ!ハジメ達はその竜に集中しろ!ヴェノム、オスカー!ウィル達の保護を頼む!」

 

 俺は、後ろにいるハジメ達に指示を出す。この場にいる全員があの男の実力を感じ取っているようだ。俺の言葉を聞いた面々はそれぞれ動き出した。

 

 鎧の男の腹に渾身の蹴りを入れ、数キロ程飛ばす。それを追って俺、エト、鏡花の三人で追撃する。奴もただやられるつもりはないようで、手に持った槍を振るい牽制してくる。しかし、そんなものは無視し、一気に距離を詰める。

 

 まずは、エトが拳を繰り出す。が、それはあっさりと受け止められてしまう。続けて繰り出された回し蹴るも同じように止められる。そこで俺と鏡花が同時に攻撃を行う。俺の刀による斬撃と、鏡花の短剣による攻撃を同時に行う。だが、それも簡単に避けられてしまい、逆にカウンターを食らってしまう。俺と鏡花は、即座に距離を取り、体勢を立て直す。

 

「……やっぱり恭弥と同じ戦闘スタイル」

「あぁ、そうだな」

 

 カウンターに重きを置いた戦闘スタイルに槍の欠点さえも生かす技量……そして何よりも鏡花にだけは反撃していない。

 

「……私には興味が無いってことかしら」

「いや、違うな……今の恭弥は狂化状態だ、本能で動いているに近い……だからこそお前を攻撃しないんだろうさ」

 

 そう言って今度はこちらから仕掛ける。再び接近戦に持ち込むと、先ほどと同じように攻撃を捌かれ、隙を見て攻撃を仕掛けてくる。だが、それは全て見切っている。

 

 しばらく攻防を続けていると、突然恭弥が頭を抑えて呻き声を上げた。それに気を取られていたせいか、一瞬反応が遅れる。先程よりも獣の様に鋭い動きになった恭弥が突っ込んで来る。しまったと思った時には既に遅く、槍の先端が眼前に迫ってきていた。

 

「っと……カッハハハ!いいねぇ!面白くなって来たぜぇ!」

「まったく……相変わらずの戦闘狂なんですから」

 

 ここまでの強敵を相手するのはかなり久しぶりだ。自然と口角が上がる。

 

「私では貴方達の戦闘にはついていけそうにありませんね……私はハジメ達の援護に行きます」

 

 そう言うと、エトはハジメの方へ駆けていった。これで邪魔は入らないだろう。

 

「こうしてツーマンセルで戦うのは随分と久しぶりだよな、鏡花」

「えぇ、そうね……足引っ張らないでね、坊や?」

「ハッ!ほざけ、小娘が……お前こそ足引っ張んなよ!」

 

 血狂いを納刀して居合の構えをとる。鏡花は左手に短剣、右手に金属糸の付いた手袋を装着した。

 

All right! IT'S SHOW TIME!(さぁ!思う存分楽しもうか!)

SHALL WE DANCE?(踊り明かしましょう?)

 

 お互い不敵な笑みを浮かべながら挑発すると、恭弥は再び襲いかかってきた。恭弥は、今までとは比べ物にならない程の速さで突きを放ってくる。それを紙一重で避け、すれ違いざまに斬りつけるが、ガキンッという音と共に弾かれる。

 

「硬ぇな」

「そうね……でもこれならどうかしら?」

 

 鏡花が指を動かすと、金属糸が蛇のようにうねる。そしてそのまま恭弥の腕に絡みついた。恭弥は、それを強引に引き千切る。その瞬間、俺は恭弥の懐に入り込み、抜刀術を放つ。紅い刃が恭弥の首元に迫る。それを恭弥は槍の石突部分で受け止めた。そのまま槍を振り上げ、俺の身体を吹き飛ばした。

 

「いいねぇ!そう来なくちゃな!」

「えぇ、そうね……It is the beginning of a wonderful time!(楽しい時間はこれからよ!)

 

 そこから先は戦いというよりも、演武のようなものだった。お互いに相手の攻撃を受け流し、時に弾き、時に避ける。そして時折放たれる一撃必殺の攻撃をギリギリのところで回避する。

 

「フッ!」

「シッ!」

 

 俺の斬撃に合わせて鏡花の蹴り技が決まる。その衝撃で恭弥の槍が大きく逸れた。俺はそのまま恭弥の心臓目掛けて刺突を放つ。しかし、それは男の槍によって防がれてしまった。

 

「カハッ!?」

「零斗!」

 

 俺の腹部に強い痛みを感じる。恭弥の槍が俺の腹を貫通していた。恭弥はそのまま槍を引き抜こうとする……が、そんな事はさせない、千載一遇のチャンスだ。槍を掴み、思い切り握る。

 

 俺の腹からは大量の血液が流れ出ている。だが、それでも構わない。このまま力任せに引き抜くつもりらしいが、そんな事をさせるわけがない。

 

「つーか……いい加減に目ェ覚ませ、こんのインテリヤクザ!」

 

 恭弥の頭を引き寄せ、頭突きを入れる。ビシッと音を立てて鎧に罅が入る。恭弥が怯んだ隙に、槍を手離す。

 

「目ェ覚めたか?」

 

 恭弥は膝を着き、槍は地面に転がった。恭弥はよろめきながらも立ち上がる。だが、どうやら限界が来たようだ。血を流し過ぎたのか?それとも狂化の影響なのかは分からないけど、もうフラフラだ。俺は鏡花に支えられながら立ち、恭弥に向き合う。

 

「……恭弥、目ェ覚めたか?」

 

 もう一度聞くと、恭弥は無言で貫手を放ってきた。それを受け流すと、次は回し蹴りを放ってきた。俺は、それを屈んで避け、足払いをかける。バランスを崩した恭弥はその場に倒れ込んだ。

 

「てめぇこの野郎!あぶねぇだろ!?」

「……のだ……」

「あぁ?」

「ボクのだぞ!」

 

 恭弥はそう叫びながら起き上がる。そして、再び襲ってきた……バリバッリに狂化状態じゃねぇか!

 

「いい度胸だな、てめぇ!その余裕ぶっこいたツラ粉砕してやるよ!」

 

 恭弥の攻撃を避けつつ、カウンターで攻撃を入れていく。俺と恭弥の様子を見て鏡花は呆れた様な表情をして眺めてくる。

 

「まったく……まるで子供の喧嘩じゃない」

 

 そう言いつつも鏡花も楽しそうだ。それからしばらく攻防を続けていると、突然恭弥の動きが変わった。先ほどまでの不規則な動きではなく、しっかりと俺の攻撃を捌いているのだ。

 

「とっと……正気に戻らんかい!こんのど阿呆!」

 

 恭弥の拳を避けて、顎に掌底を叩き込む。すると、ガクンと崩れ落ちた。

 

「今度こそ目ェ覚めたか?」

「……あぁ、すまない事をした」

 

 そう言って恭弥は大の字のまま答える。鎧が粒子となって消えていく。どうやら正気に戻ったようだ。

 

「大丈夫なのか?」

「あぁ、問題ないさ。それより君の方が重傷だろ?」

 

 恭弥はそう言いながら立ち上がり、手を貸そうとしてくる。だが……

 

 バチン!「…………」

「……」

 

 乾いた音が鳴り響く。恭弥は驚いた表情をしている。それもそうだ、いきなり頬を叩かれたんだから。

 

 そして、目の前には涙を流す鏡花の姿があった。

 

「……本当に……心配してたのよ……バカ」

「すみません……でももう大丈夫です、ありがとう、鏡花」

 

 そう言って恭弥は優しく抱きしめる。なんだか見てるこっちまで恥ずかしくなってきたな。まぁ、とりあえず一件落着ってところか? 鏡花はしばらく泣いていたが、落ち着いたのか、ゆっくりと離れる。

 

「……ごめんなさい」

「いえ、私も少しやり過ぎました」

 

 恭弥はこちらを向いて深々とお辞儀をする。

 

「迷惑をかけてすまなかった」

「気にしなくていいさ、お前さんにも色々事情があるみたいだし、それに……」

「それに?」

「なんでもねぇよ、ハジメ達と合流するぞ」

 

 俺はそう言うと、立ち上がり、ハジメ達の居る方へ歩き出す……と思ったのだが、身体に力が入らない。そのまま、地面へと倒れ込んでしまった。

 

「……悪い、運んでくれ」

「フフフ……はいはい、よっいしょと」

 

 恭弥に担ぎあげられてハジメ達の居る方に向かう。




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黒竜討伐

「よっと、ハイドウモ( 'ω')南雲 ハジメです」
「シアです!」
「アルテナです」

「前回は零斗と鏡花さんが恭弥さんと戦闘してたね」
「やっぱり零斗さん化け物ですぅ……」
「……鏡花さんも結構人間離れした動きをしていましたね」
「零斗達が本気で喧嘩したら世界の一つでも滅びそうだね……」

「今回は黒竜との戦闘です」
「楽しんでいってねください!」

「「「黒竜討伐!」」」


 Side 三人称

 

 零斗と鏡花、エトが鎧の男を追ったと同時に黒竜は火炎弾を放って、ウィルを狙い撃ちにする。

 

「……中々の威力だね」

 

 オスカーが"黒傘"で火炎弾を防ぎ、お返しとばかりに黒傘に仕込まれた魔法陣を作動させる。黒傘から放たれた、炎弾や風刃は弧を描いて黒竜に殺到する。

 

「ゴォアアア!!」

 

 竜の咆哮による衝撃だけであっさり吹き散らされてしまった。しかも、その咆哮の凄まじさと黄金の瞳に睨まれて、ウィル同様に「ひっ」と悲鳴を漏らして後退りし、女子生徒達に至っては尻餅までついている。

 

 ハジメは、愛子にこの場所から離れるよう声を張り上げた。逡巡する愛子。ハジメとて愛子の教え子である以上、強力な魔物を前に置いていっていいものかと、教師であろうとするが故の迷いを生じさせる。

 

 その間に、周囲の川の水を吹き飛ばしながら黒竜は翼をはためかせて上空に上がろうとした。しかも、ご丁寧にウィルに向けて火炎弾を連射しながら。

 

 ハジメも先程からレールガンを連射しているのだが、一向に注意を引けない。黒竜の竜鱗は、かつてのサソリモドキを彷彿とさせる硬度を誇っており、レールガンの直撃を受けても表面を薄く砕く程度の効果しかないようだ。

 

「ユエ!ウィル君の守りに専念して!シアさん達はユエの援護を!」

「んっ、任せて!」

「了解ですぅ!」

 

 ユエは、ハジメの指示を聞くとウィルの方へ〝落ちる〟ことで急速に移動し、その前に立ちはだかった。チラリと後ろを振り返り、愛子と生徒達を見ると、こういう状況で碌に動けていない事に苛立ちをあらわにしつつ不機嫌そうな声で呟いた。

 

「……死にたくないなら、私の後ろに」

「危ないのでじっとしといてくださいね」

 

 本来なら、生徒達もそれなりに戦えるだけの実力は持っている。しかし、あの日のハジメと零斗の奈落落ちによる〝死〟というものを実感した彼等の心にはトラウマが植え付けられていた。愛子について来たのも、勇者組のように迷宮最前線での戦闘は出来ないが、じっともしていられないという中途半端さの現れでもあったのである。

 

 そのため、黒竜に自分達の魔法が効かず、殺意たっぷりの咆哮を浴びせられ、すっかり心が折れており、とても、戦える精神状態ではなかった。

 

 ハジメは、ユエ達がいる以上、ウィルの安全は確保されたと信じて攻撃に集中する。黒竜は、空中に上がり、未だ、ユエが構築した防御壁の向こうにいるウィルを狙って防壁の破壊に集中している。しかし、火炎弾では、防壁を突破できないと悟ったのか再び仰け反り、口元に魔力を集束し始めた。

 

「ここまで無視されるとちょっとイラつくね……無理やりこっちに意識向けさせてやるよ、羽付きトカゲ」

 

 ……うーむ、口が悪いね。しかも羽付きトカゲとか最大限の罵倒じゃん。

 

 ハジメはドンナーをホルスターにしまうと、〝宝物庫〟からシュラーゲンを虚空に取り出した。即座に〝纏雷〟を発動し、三メートル近い凶悪なフォルムの兵器が紅いスパークを迸らせる。黒竜は、流石に、ハジメの次手がマズイものだと悟ったのか、その顎門の矛先をハジメに向けた。ハジメの思惑通り、無視出来なかったようだ。

 

 死を撒き散らす黒竜のブレスが放たれたのと、ハジメのシュラーゲンが充填を終え撃ち放たれたのは同時だった。

 

 共に極大の閃光。必滅の嵐。黒と紅の極光が両者の中間地点で激突する。衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、周囲の木々を根元から薙ぎ倒した。威力だけなら、おそらく互角。

 

「せぇら!」

「グルァアアア?!」

 

 いつの間にか竜の懐に潜り込んでいたエトが竜の腹を蹴りあげて、ブレスを中断させる。竜が痛みに耐えている間に、今度はシュタル鉱石製フルメタルジャケットの弾丸が黒竜の顎門を襲った。しかし、致命傷には程遠かった。ブレスの威力に軌道が捻じ曲げられたようで、鋭い牙を数本蒸発させながら、頭部の側面ギリギリを通過し、背後ではためく片翼を吹き飛ばすに止まった。

 

「グルァアアア!!」

 

 痛みを感じているのか悲鳴を上げながら錐揉みして地に落ちる黒竜。ハジメは落下地点を予測して、駆け出す。黒竜をそれを予期してか火炎弾を放ってくるが、ハジメはそれら全てをドンナーで撃ち落とす。

 

 ハジメは〝空力〟と〝縮地〟を併用し、縦横無尽に空を駆ける、いつしか残像すら背後に引き連れながら、ヒット&アウェイの要領で黒竜をフルボッコにしていく。ドンナー・シュラークで爪、歯茎、眼、尻尾の付け根、尻という実に嫌らしい場所を中距離から銃撃したかと思えば、今度は接近し〝振動粉砕〟+〝豪腕〟のコンボで頭部や脇腹をメッタ打ちにした。

 

「クルゥ、グワッン!」

 

 若干、いや、確実に黒竜の声に泣きが入り始めている。鱗のあちこちがひび割れ、口元からは大量の血が滴り落ちている。

 

「すげぇ……」

 

 ハジメの戦闘をユエの後ろという安全圏から眺めていた玉井淳史が思わずと言った感じで呟く。言葉はなくても、他の生徒達や愛子も同意見のようで無言でコクコクと頷き、その圧倒的な戦闘から目を逸らせずにいた。ウィルに至っては、先程まで黒竜の偉容にガクブルしていたとは思えないほど目を輝かせて食い入るようにハジメを見つめている。

 

「これで……トドメ!」

 

 一瞬で黒竜の懐に潜り込むと、〝豪脚〟を以て蹴り上げ、再び仰向けに転がした。

 

「……目標沈黙。どうやら気絶した様ですね……お疲れ様です、ハジメ君」

「あ、ありがとうございます」

 

 その場に座り込んでいたハジメは、エトに手を引かれる形で立ち上がり、竜の元まで歩く。

 

「この竜、どうしますか?」

「話だけでも聞いておきましょうか」

 

 ハジメは黒竜の背後に回ると、〝宝物庫〟からパイルバンカー用の大杭を取り出す。大杭を肩に担いで黒竜の尻尾の付け根の前に陣取った。そして、まるでやり投げの選手のような構えを取る。手には当然、パイルバンカーの杭だ。

 

 全員が、ハジメのしようとしていることを察し、頬を引き攣らせた。起こすといって、()()を突き刺すのはダメだろうと。ハジメの容赦のなさにユエやシア達以外の者達が戦慄の表情を浮かべているが、ハジメはどこ吹く風だ。

 

 そして遂に、ハジメのパイルバンカーが黒竜の〝ピッー〟にズブリと音を立てて勢いよく突き刺さった。と、その瞬間、

 

 〝アッ────!!なのじゃああああ────!!!〟

 

 くわっと目を見開いた黒竜が悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。本当なら、半分ほどめり込んだ杭に、更に鉄拳をかましてぶち抜いてやろうと考えていたハジメだが、明らかに黒竜が発したと思われる悲鳴に、流石に驚愕し、思わず握った拳を解いてしまった。

 

 〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟

 

 黒竜の悲しげで、切なげで、それでいて何処か興奮したような声音に全員が「一体何事!?」と度肝を抜かれ、黒竜を凝視したまま硬直する。

 

「……どういう状況?」

「あ、零斗……そっちこそどういう状況なの?」

 

 森の奥から恭弥に担がれた状態の零斗と少しだけ目を腫らした鏡花が現れる。

 

 〝ぬ、抜いてたもぉ~、お尻のそれ抜いてたもぉ~〟

 

 何とも情けない声が響いていた。声質は女だ。直接声を出しているわけではなく、広域版の念話の様に響いている。竜の声帯と口内では人間の言葉など話せないから、空気の振動以外の方法で伝達しているのは間違いない。

 

「えっと……竜人族で間違いありませんか?」

 

 〝む? いかにも。妾は誇り高き竜人族の一人じゃ。偉いんじゃぞ? 凄いんじゃぞ? だからの、いい加減お尻のそれ抜いて欲しいんじゃが……そろそろ魔力が切れそうなのじゃ。この状態で元に戻ったら……大変なことになるのじゃ……妾のお尻が〟

 

 ハジメがまさかと思いつつ黒竜にした質問の答えは予想通りの大正解だった。

 

「何故こんな所に?五秒以内に答えてください」

 

 〝いや、そんなことよりお尻のそれを……魔力残量がもうほとんど……ってアッ、止めるのじゃ! ツンツンはダメじゃ! 刺激がっ! 刺激がっ~!〟

 

 零斗の質問を無視して自分の要望を伝える黒竜に、零斗は「こちらが質問している時に要求とは……さっさと答えなさい」とヤクザのような態度で黒竜のお尻から生えている杭を拳でガンガンと叩く。直接体の内側に衝撃が伝わり、悲鳴を上げて身悶える黒竜。

 

「滅んだ筈の竜人族が何故こんな辺境で冒険者を襲っていたんですか?早く話さないと、もう一本追加でぶち込みますよ?」

 

 伝説の竜人族の行動にしては余りに不自然なので、本来敵であるなら容赦はしないのだが、少し猶予して話を促す。ハジメは片手で杭をぐりぐりしながら。

 

 〝あっ、くっ、ぐりぐりはらめぇ~なのじゃ~。は、話すから!〟

 

 ハジメの所業に、周囲の者達が完全にドン引きしていたがハジメは気にしない。このままでは話が出来なさそうなので、ぐりぐりは止めてやるハジメ。しかし、片手は杭に添えられたままだ。黒竜は、ぐりぐりが止まりホッとしたように息を吐く。そして、若干急ぎ気味に事情を話し始めた。その声音に艶があるような気がするのは気のせいだろうか。

 

 〝妾は、操られておったのじゃ。お主等を襲ったのも本意ではない。仮初の主、あの男にそこの青年と仲間達を見つけて殺せと命じられたのじゃ〟

 

 黒竜の視線がウィルに向けられる。ウィルは、一瞬ビクッと体を震わせるが気丈に黒竜を睨み返した。ハジメの戦いを見て、何か吹っ切れたのかもしれない。

 

「どういう事か話してください」

 

 黒竜の話では、ある目的のために竜人族の隠れ里を飛び出して来たらしい。その目的が、異世界からの来訪者の調査である。詳細は省かれたが、竜人族の中には魔力感知に優れた者がおり、数ヶ月前に大魔力の放出と何かがこの世界にやって来たことを感知したらしい。

 

 竜人族は表立った行動はしない、関わらないという種族の掟があるのだが、流石に、未知の来訪者の情報が何もないまま放置するのは、自分達にとっても不味いのではないか? という議論の末、調査が決定されたそうだ。

 

 その調査の目的で、彼女は集落から出てきたらしい。本来は、山脈を越えた後、人型で市井に紛れ込み、竜人族であることを秘匿して情報収集を行う予定だったが、その前に一度しっかり休息をと思い、この一つ目の山脈と二つ目の山脈の中間辺りで休憩したようだ。当然、周囲には魔物もいるので竜人族の代名詞たる固有魔法〝竜化〟により黒竜状態で。

 

 と、睡眠状態に入った黒竜の前に一人の男が現れた。その男は、眠っているティオに洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった。

 

 当然、そんな事をされれば起きて反撃するのが普通だ。だが、竜人族は竜化して眠ると満足しない限り起きないという悪癖があるのだ。それこそよほどの衝撃が無い限り。だが、竜人族は精神力も強靭なタフネスを誇る故、そう簡単に操られたりはしない。

 

 では、なぜ、ああも完璧に操られたのか。それは……

 

 〝恐ろしい男じゃった。闇系統の魔法に関しては天才と言っていいレベルじゃろうな。そんな男に丸一日かけて間断なく魔法を行使されたのじゃ。いくら妾と言えど、流石に耐えられんかった……〟

 

 一生の不覚! と言った感じで悲痛そうな声を上げる黒竜。しかし、零斗は冷めた目でツッコミを入れる。

 

「つまり、調査で来ておいてその職務を放棄して、しかも魔法を掛けられても気づく事もなく熟睡していた……と?」

 

 全員の目が、何となくバカを見る目になる。黒竜は視線を明後日の方向に向け、何事もなかったように話を続けた。ちなみに、なぜ丸一日かけたと知っているのかというと、洗脳が完了した後も意識自体はあるし記憶も残るところ、本人が「丸一日もかかるなんて……」と愚痴を零していたのを聞いていたからだ。

 

 その後、ローブの男に従い、二つ目の山脈以降で魔物の洗脳を手伝わされていたのだという。そして、ある日、一つ目の山脈に移動させていたブルタールの群れが、山に調査依頼で訪れていたウィル達と遭遇し、目撃者は消せという命令を受けていたため、これを追いかけた。うち一匹がローブの男に報告に向かい、万一、自分が魔物を洗脳して数を集めていると知られるのは不味いと万全を期して黒竜を差し向けたらしい。

 

 が、気がつけばハジメにフルボッコにされて、ケツに杭ぶち込まれた事で完全に洗脳が吹っ飛んで覚醒したらしい。

 

「……ふざけるな」

 

 事情説明を終えた黒竜に、そんな激情を必死に押し殺したような震える声が発せられた。皆が、その人物に目を向ける。拳を握り締め、怒りを宿した瞳で黒竜を睨んでいるのはウィルだった。

 

「……操られていたから……ゲイルさんを、ナバルさんを、レントさんを、ワスリーさんをクルトさんを! 殺したのは仕方ないとでも言うつもりかっ!」

 

 どうやら、状況的に余裕が出来たせいか冒険者達を殺されたことへの怒りが湧き上がったらしい。激昂して黒竜へ怒声を上げる。

 

 〝……〟

 

 対する黒竜は、反論の一切をしなかった。ただ、静かな瞳でウィルの言葉の全てを受け止めるよう真っ直ぐ見つめている。その態度がまた気に食わないのか

 

「大体、今の話だって、本当かどうかなんてわからないだろう! 大方、死にたくなくて適当にでっち上げたに決まってる!」

 

 〝……今話したのは真実じゃ。竜人族の誇りにかけて嘘偽りではない〟

 

 なお、言い募ろうとするウィル。それに口を挟んだのは零斗だ。

 

「彼女の言っている事は嘘ではありませんよ」

「っ、一体何の根拠があってそんな事を……」

 

 食ってかかるウィルを一瞥すると、零斗は懐から紅い宝石の嵌め込まれたブローチを取り出す。

 

「これは他者の嘘に反応して、光る代物です。それに竜人族は高潔で清廉なんです、その彼女が『竜人族の誇りにかけて』と言うことは嘘では無い事の証明です」

 

 零斗の言葉に押し黙るウィル。ウィルは悔しげに歯噛みし、強く拳を握る。

 

「……それに嘘を付く者がここまで綺麗な目はしませんからね」

 

 人を殺し続ける内に、相手がどんなに外面を取り繕ったって、その裏にある悪辣な感情が読み取れる様になった零斗。その言葉はその場にいた皆を納得させるだけと威力があった。

 

「……それでも、殺した事に変わりないじゃないですか……どうしようもなかったってわかってはいますけど……それでもっ! ゲイルさんは、この仕事が終わったらプロポーズするんだって……彼らの無念はどうすれば……」

 

 頭では黒竜の言葉が嘘でないと分かっている。しかし、だからと言って責めずにはいられない。心が納得しない。ハジメ達は内心、「また、見事なフラグを立てたもんだな」と変に感心しながら、ふとここに来るまでに拾ったロケットペンダントを思い出す。

 

「ウィル君、これゲイルさんの持ち物ですか?」

 

 零斗はそう言って、取り出したロケットペンダントをウィルに放り投げた。ウィルはそれを受け取ると、マジマジと見つめ嬉しそうに相好を崩す。

 

「これ、僕のロケットじゃないですか! 失くしたと思ってたのに、拾ってくれてたんですね。ありがとうございます!」

「君のでしたか……」

「はい、ママの写真が入っているので間違いありません!」

「……あ、そういう子でしたか」

 

 写真の女性は二十代前半と言ったところなので、それはなぜか聞くと、「せっかくのママの写真なのですから若い頃の一番写りのいいものがいいじゃないですか」と、まるで自然の摂理を説くが如く素で答えられた。その場の全員が「ああ、マザコンか」と物凄く微妙な表情をした。女性陣はドン引きしていたが……

 

「あ、そういうば……貴方、名前は?」

 

 〝その前に、取り敢えずお尻の杭だけでも抜いてくれんかの? このままでは妾、どっちにしろ死んでしまうのじゃ〟

 

「要望の多い竜ですね……ほら、ハジメ抜いてあげなさい」

 

 ハジメは若干嫌そうな顔をしながらも、黒竜の尻に刺さっている杭に手をかけた。そして、力を込めて引き抜いていく。

 

 〝はぁあん! ゆ、ゆっくり頼むのじゃ。まだ慣れておらっあふぅうん。やっ、激しいのじゃ! こんな、ああんっ! きちゃうう、何かきちゃうのじゃ~〟

 

 みっちり刺さっているので、何度か捻りを加えたり、上下左右にぐりぐりしながら力を相当込めて引き抜いていくと、何故か黒竜が物凄く艶のある声音で喘ぎ始めた。ハジメは、その声の一切を無視して容赦なく抉るように引き抜く。

 

 ズボッ!!

 

 〝あひぃい──ー!! す、すごいのじゃ……優しくってお願いしたのに、容赦のかけらもなかったのじゃ……こんなの初めて……〟

 

 そんな訳のわからないことを呟く黒竜は、直後、その体を黒色の魔力で繭のように包み完全に体を覆うと、その大きさをスルスルと小さくしていく。そして、ちょうど人が一人入るくらいの大きさになると、一気に魔力が霧散した。

 

 黒き魔力が晴れたその場には、両足を揃えて崩れ落ち、片手で体を支えながら、もう片手でお尻を押さえて、うっとりと頬を染める黒髪金眼の美女がいた。腰まである長く艶やかなストレートの黒髪が薄らと紅く染まった頬に張り付き、ハァハァと荒い息を吐いて恍惚の表情を浮かべている。

 

 見た目は二十代前半くらいで、身長は百七十センチ近くあるだろう。見事なプロポーションを誇っており、息をする度に、乱れて肩口まで垂れ下がった衣服から覗く二つの双丘が激しく自己主張している。

 

 黒竜の正体が、やたらと艶かしい美女だったことに特に男子が盛大に反応している。思春期真っ只中の男子生徒三人は、若干前屈みになってしまった。このまま行けば四つん這い状態になるかもしれない。女子生徒の彼等を見る目は既にゴキブリを見る目と大差がない。

 

「ハァハァ、うむぅ、助かったのじゃ……まだお尻に違和感があるが……それより全身あちこち痛いのじゃ……ハァハァ……痛みというものがここまで甘美なものとは……」

 

 何やら危ない表情で危ない発言をしている黒竜は、気を取り直して座り直し背筋をまっすぐに伸ばすと凛とした雰囲気で自己紹介を始めた。まだ、若干、ハァハァしているので色々台無しだったが……

 

「面倒をかけた。本当に、申し訳ない。妾の名はティオ・クラルス。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

「……ティオさんですね。よろしくお願いします」

 

 零斗は眉間に皺を寄せながらもティオと握手を交わす。

 

「……ほぅ、そういう事ですか……中々に面倒な事をしてくれましたね」

「?どうしたのじゃ?」

「気にしなくて結構です」

 

 ティオは次いで、黒ローブの男が、魔物を洗脳して大群を作り出し町を襲う気であると語った。その数は、既に三千から四千に届く程の数だという。

 

 ティオが言うには黒ローブの男は、黒髪黒目の人間族で、まだ少年くらいの年齢だったというのだ。それに、黒竜たるティオを配下にして浮かれていたのか、仕切りに「これで自分は勇者より上だ」等と口にし、随分と勇者に対して妬みがあるようだったという。

 

 黒髪黒目の人間族の少年で、闇系統魔法に天賦の才がある者。ここまでヒントが出れば、流石に脳裏にとある人物が浮かび上がる。愛子達は一様に「そんな、まさか……」と呟きながら困惑と疑惑が混ざった複雑な表情をした。限りなく黒に近いが、信じたくないと言ったところだろう。

 

「……ティオさん、数え間違えてません?桁が二つほど足りない様ですよ?」

 

 零斗がスマホでオルニスから送らてくる映像を確認し、全員に伝える。既に進軍を開始している。方角は間違いなくウルの町がある方向。このまま行けば、半日もしない内に山を下り、一日あれば町に到達するだろう。

 

「は、早く町に知らせないと! 避難させて、王都から救援を呼んで……それから、それから……」

 

 事態の深刻さに、愛子が混乱しながらも必死にすべきことを言葉に出して整理しようとする。チートスペックとは言えトラウマ抱えた生徒達と戦闘経験がほとんどない愛子、駆け出し冒険者のウィルに、魔力が枯渇したティオでは相手どころか障害物にもならない。なので、愛子の言う通り、一刻も早く町に危急を知らせて、王都から救援が来るまで逃げ延びるのが最善だ。

 

 と、皆が動揺している中、ふとウィルが呟くように尋ねた。

 

「あの、レイト殿なら何とか出来るのでは……」

「まぁ、出来ますね……ですが今ここで戦闘となると厳しいですね。保護対象の貴方を守りながらやらなくてはなりませんし、立地もかなり悪いですね」

 

 零斗の言葉に押し黙る一同。後押しするようにティオが言葉を投げかけた。

 

「まぁ、彼の言う通りじゃな。妾も魔力が枯渇している以上、何とかしたくても何もできん。まずは町に危急を知らせるのが最優先じゃろ。妾も一日あれば、だいぶ回復するはずじゃしの」

 

 愛子も、確かに、それが最善だと清水への心配は一時的に押さえ込んで、まずは町への知らせと、今、傍にいる生徒達の安全の確保を優先することにした。

 

 ティオが、魔力枯渇で動けないのでハジメが抱えて歩いて行く。実は、誰がティオを背負っていくかと言うことで男子達が壮絶な火花を散らしたのだが、それは女子達によって却下され、ティオ本人の希望もあり、ハジメが運ぶ事になった。

 

 そこで、おんぶや引き摺りもせずに易々とお姫様抱っこをするが天然タラシのハジメクオリティーである。ティオは予想外だったのか顔を真っ赤にしていた。

 

 一行は、背後に大群という暗雲を背負い、急ぎウルの町に戻る。




魔王化してないハジメ君て天然タラシに見えません?少なくとも私はそう見えます。


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諸君……戦争は好きか?

「よいしょと、│ᐛ )۶ハロお馴染みの零斗さんです」
「ティオ・クラルスじゃ!よろしくの」
「エトです」

「前回はティオがハジメにフルボッコにされてたな……ケツパイルはちょっと引いたけどな」
「あれは新感覚じゃた……」
「………………」

「今回は戦闘準備回だ……楽しんでくれ」

「「「諸君……戦争は好きか?」」」



 Side 零斗

 

「おい、バカ!恭弥に運転任せたの誰だよ!?」

「知らないわよ!恭弥が勝手に運転席に座って……きゃァァ!」

 

 道無き道を猛スピードで下る魔道四輪。整地機能が追いつかないために、天井に磔にしたティオにはひっきり無い衝撃を、荷台の男子生徒にはミキサーの如きシェイクを与えていた。

 

「お前、本当に運転免許持ってんだよな!?」

「問題ない!私は騎乗スキル持ちだ、この世界に乗りこなせない物は無い!」

「バッカ!そっちがke……言ったそばから突っ込んでんじゃねぇー!」

 

 物理法則に叛逆してんじゃねぇよ!

 

「む、そういえば音楽掛けていないじゃないか……」ポチ

『う────(うまだっち)

 う──(うまぴょい うまぴょい)

 う──(すきだっち) う──(うまぽい)

 うまうまうみゃうにゃ 3 2 1 Fight!!』

「状況を更にカオスにすんじゃねぇよ?!」

 

 ────────────────────────

 

「……二度と君には運転させない……絶対に」

「すまない……久しぶりなもので少々興奮していた」

 

 あの後も、恭弥が猛スピードで帰り道を爆走し、山脈の麓からウルの町まで戻ってきた。戻ってくる際、デビッドたち騎士連中に遭遇したが、無視して町まで走ってきたのだ。愛ちゃんが怒ったのは言うまでもない。

 

 言うまでもなく全員がグロッキー状態でとんでもねぇ地獄絵図になっている。何名かは気絶してしまった……絶対に運転させない。

 

 ちなみに、車体に括りつけられたティオが、ダメージの深い体を更に車体の振動で刺激され続け恍惚の表情を浮かべていたのだが、愛ちゃんも騎士達も見なかったことにしたらしい。

 

 更に言えば、この後町に着いた際、ティオの醜態を知ったユエは、「……これ、竜人族?」と僅かにショックを受けたような表情になった。北の山脈地帯で初めて竜化を解いたティオを見たときから微妙な心境だったのだが、どうやら痛みで〝感じている〟らしいティオの姿に、竜人族に抱いていた憧れと尊敬の気持ちが幻想の如くサラサラと砕けて消えてしまったようである。

 

「とりあえずは町長に報告とギルド支部長に協力を要請……いや、ギルドの方は必要無いですね」

「信じて貰えるかな……」

「大丈夫だろ、なんたって『豊穣の女神』様が報告するんですから」

「な、なな、なんでそれを知ってるんですか!?」

 

 愛ちゃんをからかいながら、町長のいる場所へ歩いていく。役所に到着して、現状を簡潔に説明すると騒然とし始めた。ウルの町のギルド支部長や町の幹部、教会の司祭達が集まっており、喧々囂々たる有様である。皆一様に、信じられない、信じたくないといった様相で、その原因たる情報をもたらした愛子達やウィルに掴みかからんばかりの勢いで問い詰めている。

 

「ハジメ、ウルを取り囲む様に外壁を錬成で作成してください……恭弥は現在の魔物の場所と進行速度を逐一報告してください、それ以外の方達は住民の避難をお願いします」

「貴様!勝手にしき……」

「こんな状況で貴方達が冷静な判断と提案が出来ますか?そもそも何名かは逃げる算段をしていますよね?」

「!?」

 

 あら、カマ掛けただけなのに当たっちた……まぁ、こんな絶望的な状況だもんな。

 

「……総員行動開始……迅速に、そして的確に行いなさい」

「「「「了解!」」」」

 

 ──────────────────────

 

 翌日の早朝、ウルの町には昨夜までは存在しなかった〝外壁〟に囲まれて、異様な雰囲気に包まれていた。

 

「中々いい仕事じゃないか、ハジメ……これなら完全な要塞都市でも作れんじゃね?」

「僕の錬成範囲が半径六メートル位で限界だから、これ以上は無理だよ……」

「ま、鍛えればもうちょい拡がるかもな……恭弥、現状はどんなもんだ?」

『……後四十分くらいで姿が見える様になる筈だ……距離は約五kmだ』

 

 現状、俺らはハジメの作った外壁の上に居る。町の住人達には、既に数万単位の魔物の大群が迫っている事が伝えられている。

 

 当然、住人はパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。

 

「零斗君、準備はどうですか?何か、必要なものはありますか?」

「問題ありませんよ、愛ちゃん」

 

 愛ちゃんの頭を撫でながら答える、愛ちゃんは撫でられて気持ちいいのか目を細めている。俺の様子が気に食わないのか……あ、誰だけか?オッサンが食ってかかってくる。

 

「レイト君、君は愛子が……君自身の恩師が話しかけているのになんです?その態度は……本来ならば、貴方の持つアーティファクト類の事や、大群を撃退する方法についても詳細を聞かねばいけないところを見逃してやっているのは、愛子が頼み込んできたからですよ?少しは……」

「チェイスさん。少し静かにしていてもらえますか?」

「……承知したしました……」

 

 しかし、愛ちゃんに〝黙れ〟と言われるとシュンとした様子で口を閉じる。その姿は、まるで忠犬だ。亜人族でもないのに、犬耳と犬尻尾が幻視できる。つーか何下の名前で呼んでるわけ?本当に殺っちゃうよ?

 

「さて、黒ローブの少年ですが……恐らくは清水君でしょうね」

「……彼はどうするつもりなんですか?」

「そうですね……理由を聞いてから判断すると思いますよ」

 

 なんでこんな面倒な事をしてんのか小一時間問い詰めたい……こっちの負担を考えて欲しいもんだよ、全く……つーかパツキンのオッサンが見当たらないだよなぁ……ま、いっか。

 

「ふむ、レイト殿。主に話が……というより頼みがあるのじゃが、聞いてもらえるかの?」

「ティオさんですか……大体は予想付きますが、どうぞ」

「えっとじゃな、お主は、この戦いが終わったらウィル坊を送り届けて、また旅に出るのじゃろ?」

「えぇ、そうですが……」

「うむ、頼みというのはそれでな……妾も同行させてほし……」

「ハジメに聞いてください、私には決めかねますから」

 

 ……この変態だけは相手にしたくない、絶対にしたくない……のでハジメに押し付ける。

 

「……えっと、ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど遠慮して欲しいかなぁ……なんて」

「よ、予想通りの即答。流石、ご主……コホンッ! もちろん、タダでとは言わん! これよりお主を〝ご主人様〟と呼び、妾の全てを捧げよう! 身も心も全てじゃ! どうzy」

「結構です!」

 

 両手を広げ、恍惚の表情でハジメの奴隷宣言をするティオに、土下座でもしそうな勢いで断るハジメ。それにまたゾクゾクしたように体を震わせるティオ。頬が薔薇色に染まっている。どこからどう見ても変態だった。周囲の者達も、ドン引きしている。特に、竜人族に強い憧れと敬意を持っていたユエの表情は、全ての感情が抜け落ちたような能面顔になっている。

 

「そんな……酷いのじゃ……妾をこんな体にしたのはご主人様じゃろうに……責任とって欲しいのじゃ!」

 

 ……え?ハジメそんな事してたの?まさかそういう趣味が……これは白崎に伝えて置かないとな。

 

「ハァハァ……ごくりっ……その、ほら、妾強いじゃろ?里でも、妾は一、二を争うくらいでな、特に耐久力は群を抜いておった。じゃから、他者に組み伏せられることも、痛みらしい痛みを感じることも、今の今までなかったのじゃ」

 

 ポツポツと語り出すティオ……もう嫌な予感しかしない……

 

「それがじゃ、ご主人様と戦って、初めてボッコボッコにされた挙句、組み伏せられ、痛みと敗北を一度に味わったのじゃ。そう、あの体の芯まで響く拳! 嫌らしいところばかり責める衝撃! 体中が痛みで満たされて……ハァハァ」

 

 一人盛り上がるティオだったが、彼女を竜人族と知らない騎士達は、一様に犯罪者でも見るかのような視線をハジメに向けている。客観的に聞けば、完全に婦女暴行である。「こんな可憐なご婦人に暴行を働いたのか!」とざわつく騎士達。

 

「つまりはハジメが新しい扉を開いてしまった……っと」

「その通りじゃ! 妾の体はもう、ご主人様なしではダメなのじゃ!」

「もうやだぁ……」

 

 若干涙目になっているハジメ……うーん、どっかの水晶鈴がいたら襲い掛かりそうだな。

 

「それにのう……」

 

 ティオが、突然、今までの変態じみた様子とは異なり、両手を自分のお尻に当てて恥じらうようにモジモジし始める。

 

「……妾の初めても奪われてしもうたし」

 

 おっと?空気が変わったぞぉ!これはこれは……修羅場になりそうだねぇ。ハジメは頬を引き攣らせながら「そんな事していない」と首を振る。

 

「妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの……敗北して、組み伏せられて……初めてじゃったのに……いきなりお尻でなんて……しかもあんなに激しく……もうお嫁に行けないのじゃ……じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ」

 

 お尻を抑えながら潤んだ瞳をハジメに向けるティオ。

 

「……ハジメ、諦めなさい」

「イヤだ……イヤだ……」

「ハジメ、この手の変態は泥水を啜ってでも付いて来ます……ささっと諦めなさい」

 

 おれ、しってる、このじんしゅ、めんどくさい……前世でも今世でもこの手の連中はかなり相手してるから、もう対処法が分かるだよ……諦めればいいのさ()

 

「……もう好きにして」

「お? おぉ~、そうかそうか! うむ、では、これから宜しく頼むぞ、妾のことはティオで良いからの! ふふふ、楽しい旅になりそうじゃ……」

 

 死んだ魚の目になったハジメに、嬉しそうに笑うティオ。それに護衛隊の騎士達が憤り、女子生徒達が蛆虫を見る目をハジメに向け、男子生徒は複雑ながら異世界の女性と縁のあるハジメに嫉妬し、愛子が不純異性交遊について滔滔と説教を始め、何故かウィルが尊敬の眼差しをハジメに向ける。

 

『零斗、来たぞ。魔物の総数は約11万、接敵まで後三十分だ』

「了解……総員、準備を怠らない様に」

 

 不安そうな表情をして、ローブの端を掴んでくる愛ちゃん。

 

「大丈夫ですよ、幾ら数が増えても問題ありませんから。予定通り、万一に備えて戦える者は〝壁際〟で待機させてください。まぁ、出番はないと思いますけどね」

「わかりました……君をここに立たせた先生が言う事ではないかもしれませんが……どうか無事で……」

 

 愛子はそう言うと、護衛騎士達が「ハジメに任せていいのか」「今からでもやはり避難すべきだ」という言葉に応対しながら、町中に知らせを運ぶべく駆け戻っていった。残ったのは、俺達以外には、ウィルとティオだけだ。

 

 ウィルは、ティオに何かを語りかけると、ハジメに頭を下げて愛子達を追いかけていった。疑問顔を向けるハジメにティオが苦笑いしながら答える。

 

「今回の出来事を妾が力を尽くして見事乗り切ったのなら、冒険者達の事、少なくともウィル坊は許すという話じゃ……そういうわけで助太刀させてもらうからの。何、魔力なら大分回復しておるし竜化せんでも妾の炎と風は中々のものじゃぞ?」

「そうかい、んじゃ期待はしないでおくわ」

 

 自己主張の激しい胸を殊更強調しながら胸を張るティオに、ハジメは無言で魔晶石の指輪を渡した。疑問顔のティオだったが、それが神結晶を加工した魔力タンクと理解すると大きく目を見開き、ハジメに震える声と潤む瞳を向けた。

 

「ご主人様……戦いの前にプロポーズとは……妾、もちろん、返事は……」

「そういうのじゃありません!魔力の補給様に使ってください!」

「ツンデレだねぇ、ハジメは……」

「……なるほどこれが黒歴史」

 

 ユエがぽつりと呟く、思考パターンが変態と同じであることに嫌そうな顔で肩を落としている。

 

「ハジメ、予定通りにお願いします」

「……本当にやるの?」

 

 こっちの方が後々楽になるし、面白いからね、やるに決まってんじゃん!

 

 ハジメが錬成で、地面を盛り上げながら即席の演説台を作成する。全員の視線が自分に集まったことを確認し、声を張り上げる。

 

「聞け! ウルの町の勇敢なる者達よ! 私達の勝利は既に確定している!」

 

 いきなり何を言い出すのだと、隣り合う者同士で顔を見合わせる住人達。そんな彼等を尻目に演説を続ける。

 

「なぜなら、私達には女神が付いているからだ! そう、皆も知っている〝豊穣の女神〟愛子様だ!」

 

 その言葉に、皆が口々に愛子様? 豊穣の女神様? とざわつき始めた。護衛騎士達を従えて後方で人々の誘導を手伝っていた愛ちゃんがギョッとしたようにこちらを見る。すまんな愛ちゃん、利用させて貰うぜ……

 

「我らの傍に愛子様がいる限り、敗北はありえない! 愛子様こそ! 我ら人類の味方にして〝豊穣〟と〝勝利〟をもたらす、天が遣わした現人神である! 私は、愛子様の剣にして盾、彼女の皆を守りたいという思いに応えやって来た! 見よ! これが、愛子様により教え導かれた私の力である!」

 

 普通に殺ってもいいんだが……もうちょいインパクトがある方が良いよな。

 

「"冥府の扉は開かれ 供物を捧げん 輪廻の扉は閉じられ 罪人は赦されず 己が死をもって贖罪とせん 死を忘れること無かれ(メメント・モリ)"」

 

 極光が先陣の魔物達を包み込む……光が収まり、視界がハッキリとした時……魔物は塵一つ残す事無く消滅していた。

 

 魔物を駆逐し終わり、悠然と振り返る。そこには、唖然として口を開きっぱなしにしている人々の姿があった。

 

「愛子様、万歳!」

 

 最後の締めに愛ちゃんを讃える言葉を張り上げた。すると、次の瞬間……

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

「「「「「「女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳! 女神様、万歳!」」」」」」

 

 ウルの町に、今までの様な二つ名としてではない、本当の女神が誕生した。どうやら、不安や恐怖も吹き飛んだようで、町の人々は皆一様に、希望に目を輝かせ愛子を女神として讃える雄叫びを上げた。

 

「……零斗、さすがにやり過ぎじゃない?」

「三分の一くらい消えましたよ?どうなってんです?」

 

 口々に俺に『やり過ぎだ』と言ってくるハジメ達。それを横目に町の方に視線を向けると、遠くで、愛ちゃんが顔を真っ赤にしてぷるぷると震えている。その瞳は真っ直ぐに俺に向けられており、小さな口が「ど・う・い・う・こ・と・で・す・か!」と動いている。

 

 まぁ、色々と理由はあるが、面倒事を圧殺する位の発言権を持つ人物が欲しかった所だったし、俺ら個人の実力に恐怖や敵意を持たれにくくするためってのが理由になるかな。

 

「恭弥、スナイパーで援護をお願いします。ハジメ達は散らばって魔物達の掃討を……では、各員、戦闘開始!」

「「「「了解!」」」」

 

 さぁ、諸君戦争をしよう!大戦争を!!一心不乱の大戦争を!!

 




FGO……スカディに1万突っ込んだけど……ワルキューレが一体だけって……(´;ω;`)


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蹂躙?鏖殺?そんな生易しいもんじゃないさ

「よいしょと、‎( ˙꒳˙ᐢ )ハイッお馴染みの零斗さんですよ」
「ハジメでーす」
「恭弥だ」

「前回は、魔物の大軍との戦争を始めたな……」
「なんかとんでもない威力の魔法撃ってたね」
「あれ全力じゃないだろう?どのくらい出力で撃ったんだ?」
「あー……六割くらいかな?威力度外視の範囲拡大してたから多分もうちょい下がるかもだけど」
「あれで六割?」

「今回は魔物達を挽き肉に変える簡単な作業回だ、楽しんでくれ」

「「「蹂躙?鏖殺?そんな生易しいもんじゃないさ……」」」


 Side 三人称

 

 魔物達は洗脳されているのにも関わらず、その場から逃走を謀る物が多かった……それもそうだろう、眼前で広がる絶望を目の当たりにすれば無理もない。

 

「どけどけ〜!」

「出てこいクソッタレエエエエェエエ!!」ドゥルルルルルル!

 

 正に地獄絵図だった。ウサミミ少女のオルカンはパシューという気の抜ける音を発しながら魔物な大群のど真ん中に突き刺さった。その弾頭は、大爆発を引き起こし周囲の魔物達をまとめて吹き飛ばした。爆心地に近い場所にいた魔物達は、その肉体を粉微塵にされ、離れていた魔物も衝撃波で骨や内臓を激しく損傷しのたうち回る。

 

 白髪の少年が独特の音を戦場に響かせながら、無数の閃光が殺意をたっぷりと乗せて空を疾駆する。瞬く暇もなく目標へと到達した閃光は、大地を鳴動させ雄叫びを上げながら突進する魔物達の種族、強さに関係なく、僅かな抵抗も許さずに一瞬で唯の肉塊に変えた。毎分一万二千発の死が無慈悲な〝壁〟となって迫り、一発で一体など生温いと云わんばかりに目標を貫通し、背後の数十匹をまとめて貫いていく。

 

 とその隣では……

 

「距離約400フィート……風速五ノット……」

「了解……」パァン!

「ヒット、ヘッドショット……」

 

 零斗が観測者として、恭弥のサポートをしていた。ハジメやシアと違って、一体一体を的確に、そして迅速に処理していく。恭弥の使用してスナイパーは『ルトゥーナ』だ、恭弥専用のスナイパーで威力はハジメのシュラーゲンよりかは低いが専用弾により、破壊工作や監視、陽動……様々な事が可能だ。

 

 その零斗達の横に陣取っるティオは……

 

「むふふ……活躍してご主人様に褒めて貰うとするかの!」

 

 そう呟くと同時に、その突き出された両手の先からは周囲の空気すら焦がしながら黒い極光が放たれる。あの竜化状態で放たれたブレスだ。どうやら人間形態でも放てるらしい。零斗でさえも全力で防御を強いた殲滅の黒き炎は射線上の一切を刹那の間に消滅させ大群の後方にまで貫通した。ティオは、そのまま腕を水平に薙ぎ払っていき、それに合わせて真横へ移動する黒い砲撃は触れるものの一切を消滅させていく。

 

 砲撃が止んだ後には、抉れた大地以外何も残ってはいない。代わりに、その一撃で相当消耗したのだろう。ティオは肩で息をし体をフラつかせた。しかし、すぐさま指にはまった指輪に一つキスを落とすと再びスっと背筋を伸ばす。

 

 ハジメから受け取った魔晶石の指輪にストックされた魔力を取り出したのだ。ブレスの一撃によりティオが担当する範囲の魔物の先陣はあらかた消滅し、多少の余裕が出来たティオは、魔力消費の比較的少ない魔法を行使する。

 

「吹き荒べ頂きの風 燃え盛れ紅蓮の奔流 〝嵐焔風塵〟」

 

 少しでも魔力消費を抑えるため、敢えて詠唱し集中力を高める。そうして解き放たれた魔法は火炎の竜巻だ。その規模は地球における竜巻の等級で表すならF4クラス。直径数十メートルの渦巻く炎が魔物の群へと爆進し、周囲の魔物達をまとめて巻き上げた。宙へと放り出され足掻くすべを持たない魔物達は、そのまま火炎に自ら飛び込むように巻き込まれていく。そして、紅蓮の竜巻から放り出された時にはただの灰燼に変わり果て灰色の雪のように舞い散るのだった。

 

「…………」

 

 ハジメ達が攻撃を開始しても、瞑目したまま静かに佇むユエ。それを感じてか魔物達は右側の攻撃が薄いと悟った魔物達が、破壊の嵐から逃れるように集まり、右翼から攻め込もうと流れ出す。

 

 ユエは、スっと目を開きおもむろに右手を掲げた。そして、一言、囁くように、されど世界へ宣言するように力強く魔法名を唱えた。

 

「〝壊劫(えこう)〟」

 

 それは神代魔法を発動させるトリガーだ。ミレディ・ライセンにより授けられた世界の法則の一つに干渉する魔法〝重力操作〟。魔法に関しては天性の才能を持つ吸血姫を以てして、魔力の練り上げとイメージの固定に長い〝タメ〟を必要とし即時発動は未だ困難な魔法。

 

 ユエの詠唱と同時に迫る魔物の頭上に、対黒竜戦で見たのと同じ渦巻く闇色の球体が出現する。しかし、以前と違うのは、その球体が形を変化させたことだ。薄く薄く引き伸ばされていく球体は魔物達の頭上で四方五百メートルの正四角形を形作る。そして、太陽の光を遮る闇色の天井は、一瞬の間のあと眼下の魔物達目掛けて一気に落下した。

 

 次の瞬間、起こったことを端的に説明するなら、〝大地ごと魔物が消滅した〟というものになるだろう。闇色の天井が魔物の群れに落下し、そのまま魔物ごと大地を陥没させて、四方五百メートル深さ十メートルのクレーターを作り上げたのだ。

 

 密集して突進していた魔物達は、何が起きたのか理解する暇もなく体の全てを均等に押し潰され、地の底で大地のシミとなった。

 

「おぉ!やるねぇユエちゃん!……でも私にはちょっと劣るかな?」

 

 ユエの隣でウザさMAXで喋っているミレディ……次の瞬間、ユエの放った壊劫の倍近い範囲に同じようなクレーターが出現する。規模も威力も桁違いだった。

 

「ふっふふーん!どんなもんだい!」

「……凄い」

「流石は超絶美少女魔法使いミレディちゃんだね!」

 

 無い胸を突き出してドヤ顔を取るミレディ。ユエはウザそうに見ているがミレディの放った魔法には関心と畏怖していた。

 

「ハッハハ!やるじゃないかミレディ!俺も負けてられねぇな……んじゃ、俺もやるか」

 

 ミレディ達から少し離れた位置の零斗が懐から一枚のカードを取り出す。

 

「スペルカード!『贋作者の鬼謀』……『偽「真実の月(インビジブルフルムーン)」』」

 

 零斗の手にあるスペルカードが黒く変色していき形を変えていく。

 

『贋作者の鬼謀』零斗のスペルカードの一つ。他者のスペルカードを模倣(トレース)し、再現する……と言っても模倣するスペルを実際に受ける事が条件の一つとなり、再現出来たとしても本家よりも性能は劣る。

 

 弾丸型の弾幕が魔物達を貫く……圧倒的な物量に物を言わせ殲滅していく。

 

 やがて、魔物の数が目に見えて減り、密集した大群のせいで隠れていた平原が見え始めた頃、遂にティオが倒れた。渡された魔晶石の魔力も使い切り、魔力枯渇で動けなくなったのだ。

 

「むぅ、妾はここまでのようじゃ……もう、火球一つ出せん……すまぬ」

 

 うつ伏せに倒れながら、顔だけをハジメの方に向けて申し訳なさそうに謝罪するティオの顔色は、青を通り越して白くなっていた。文字通り、死力を尽くす意気込みで魔力を消費したのだろう。

 

「……十分活躍してたよありがとう。後は任せてゆっくり休んでで大丈夫だよ」

「……ご主人様が優しい……罵ってくれるかと思ったのじゃが……いや、でもアメの後にはムチが……期待しても?」

「それは期待しないで欲しいかな……」

 

 ハジメは、手元の殲滅兵器メツェライを見やる。二つとも白煙を上げており、冷却が間に合っていないようだ。耐久限界である。これ以上撃ち続ければ、何処かにガタがくるだろう。もちろん、そうなっても修復は可能だが、モノが繊細なだけに瞬時にその場でというわけには行かない。時間をかけて精密作業を行う必要がある。

 

「ユエ、ミレディ、魔力の残量は?」

「……魔晶石二個分くらい……重力魔法の消費が予想以上。要練習」

「私はまだまだ行けるよー!」

「……いや、残りは俺達近接戦が出来るやつらでやる。お前らだけでも四〜五万くらい殺っただろ?もう十分だ」

 

 零斗の言葉で委細承知と即行で頷くユエ。零斗はそのまま、シアに話し掛ける。

 

「シア、魔物の違いは分かるな?」

「はい。操られていた時のティオさんみたいな魔物とへっぴり腰の魔物ですよね?」

「あぁ、そうだ。ティオモドキの魔物が洗脳されている群れのリーダーだ。それだけ殺れば他は逃げるだろう」

「了解しました!」

「鏡花、観測者変わってくれ……恭弥はそのまま狙撃を」

「「了解」」

「シアさん……本当に逞しくなったね……」

「当然です。ハジメさん達の傍にいるためですから」

 

 にぱっと笑みを見せるシアに、苦笑いしつつもどこか優しげな笑みを返すハジメ。だが、次の瞬間にはグッと表情を引き締めてメツェライを〝宝物庫〟にしまうと、ドンナー・シュラークを抜いた。同時に、シアもオルカンを置き、背中のドリュッケンに手をかける。零斗は鏡花と位置を変わり血狂いを抜き、左手にリベリオンを持つ。

 

 リーダー格と思われる魔物はおよそ百五十体おそらく、突撃させて即行で殺されては、配下の魔物の統率を失うと思い、大半を後方に下げておいたのだろう。

 

 メツェライとオルカン、そしてティオの魔法による攻撃が無くなってチャンスと思ったのか、魔物達が息を吹き返すように突進を始める。

 

 零斗達の突撃を援護するため、ユエが魔法を発動した。

 

「〝雷龍〟」

 

 即座に立ち込めた天の暗雲から激しくスパークする雷の龍が落雷の咆哮を上げながら出現し、前線を右から左へと蹂躙する。大口を開けた黄金色の龍に、自ら飛び込むように滅却されていく魔物の群れを見て、後続の魔物が再び二の足を踏んだ。その隙に、零斗が一気に群れへと突撃する。

 

 ハジメは、〝縮地〟で大地を疾走しながらドンナー・シュラークを連射した。その眼には、群れの隙間から僅かに見えるリーダー格の魔物の姿が捉えられており、撃ち放たれた死の閃光は、その僅かな隙間を縫うようにして目標に到達、急所を容赦なく爆散させる。

 

 ウサミミをなびかせ巨大な戦鎚を肩に担いだ少女が文字通り空から降ってくる光景が飛び込んできた。シアは、魔物の頭を踏み台に、ウサギらしくぴょんぴょんと群れの頭上を飛び越えていき、最後に踏み台にした魔物の頭を圧殺させる勢いで踏み込むと、自身の体重を重力魔法により軽くして一気に天高く舞い上がった。

 

 そして、天頂まで上がると空中でくるりと反転し、今度は体重を一気に数倍まで引き上げ猛烈な勢いで落下する。目標地点は、もちろんリーダー格が数体で固まっている場所だ。自由落下の速度をドリュッケンの引き金を引き激発の反動を利用して更に加速させ、最大限の身体強化をも加えて一撃の威力を最高にまで引き上げる。そして、全く勢いを減じることなく破壊の権化ともいうべき鉄槌を振り下ろした。

 

「りゃぁああああ!!!」ドォガァァァァ!!!

 

 可愛らしい雄叫びと共に繰り出されたその一撃は、さながら隕石の如く。直撃を受けたブルタール型の魔物のリーダー格は、頭から真っ直ぐ地面へと圧殺され、凄絶な衝撃に肉と血を爆ぜさせた。

 

「……」

 

 仮面の青年は血狂いで魔物を両断しながらリーダー格へと接近していく。一振りするだけで何十もの魔物が両断され臓物を撒き散らしている。その余波でさえも凄まじい威力で魔物達を圧殺していく。

 

 リーダー格はその異様な光景に恐怖を覚え、その場から逃亡を測った……がそれを恭弥が許さない、逃亡する魔物の足を吹き飛ばし転倒させる。

 

「ナイスショット……そら王手だ」

 

 その言葉と同時にリーダー格の首を両断する零斗。その後も淡々とリーダー格を処理していく零斗達……というか零斗君だけ愉悦に浸ってるのよね……

 

「さあどうした?まだ手足がちぎれただけだぞ!かかってこい!同胞を呼べ!!体を変化させろ!!四肢を再生して立ち上がれ!!その爪や剛腕で反撃しろ!!さぁ殺戮はこれからだ!!お楽しみはこれからだ!!Harry!HarryHarry!HarryHarryHarry!!」

 

 旦那が憑依してのよ零斗君……もう半分は蹴散らしてるよ?どっかの誰かさんが苦労したであろう魔物達がもうミンチになってるのよ……

 

「……もうやだぁ」

 

 ほら、もう黒ローブ君心折れちゃてるよ!?どうしてくれるの?

 

「……!(ギィン!)あぶな」

「グゥルァアア!!!」

 

 黒い四つ目の狼が零斗に飛び掛る、それを難なく血狂いで止めて観察する零斗。

 

「ほぅ……ポテンシャルなら奈落の二尾狼と同等か、どこから仕入れたんだ?」

 

 四つ目の狼は血狂いを噛み砕こうとするが、リベリオンで頭を撃ち抜かれ、頭部を粉砕される。

 

『シア、ハジメ、警戒しとけ。魔物の中に、明らかに動きの違うやつがいる。洗脳支配されているわけでも、どこかの魔物の配下というわけでもなさそうだ。正面の奴らは任せろ、左右の奴らは任せたぞ』

『了解ですぅ!』

 

 シアとハジメに念話で注意と指示をして狼型魔物の殲滅をする零斗。

 

「…………これで最後か」

 

 約五十体程のリーダー格と眼前の狼型魔物を仕留めた零斗、全開の〝威圧〟により逃亡する魔物も出始めている。と、零斗の視界の端に遠くの方で逃げ出す魔物に向かって何やら喚いている人影が見えた。

 

「……」

 

 零斗は気配を殺しゆっくりと回り込む。そこには黒いローブを纏った清水が居た。

 

「なんなんだよ!俺が必死こいて集めた魔物を紙クズみたいに吹き飛ばしやがってよ!俺の苦労を返してくれよ!!」

 

 ……なんとも悲痛な叫びだった。零斗は若干申し訳なさそうな表情して、清水の首に手刀を当てて気絶させる。

 

「なんかすまんな幸利……まぁ、自業自得って事で許してくれよな」

 

 零斗は気絶させた清水を金属糸で縛り上げて肩に担ぐ。そして、そのまま町へと踵を返した。荒れ果てた大地の砂埃と魔物が撒き散らした血肉に塗れながら二輪に引きずられる清水の姿は……正しく敗残兵と言った有様だった。

 




やっと東方要素出せた……スペルカードだけだけど。


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裏切りの理由

「よいしょと、ハイヨ(๑・ω-)ノお馴染みの零斗さんでーす」
「ティオじゃ!」
「恭弥だ」

「前回は幸利の操ってた魔物達を肉塊にしていったな」
「お主らが大半を片付けておったのぅ……どうなっとるじゃ?」
「気にしない方が楽ですよ……色々とね」
「そ、そうか」

「今回は幸利の話だ……楽しんでくれ」

「「「裏切りの理由!」」」


 Side 零斗

 

 拘束した幸利を担いでハジメ達のいる場所まで歩く。さぁて、なんでこんなめんどくさい手法を取ったのか聞かないとな。

 

「あ!レイトさん!」

「お、シアか……怪我は無いか?」

「ハジメさんがクロスビットで援護してくれたので無傷です!」

「そうかいそうかい……」

 

 途中でシアと合流して、ハジメとも合流した。愛ちゃん達も戦闘が終わった事を確認してこちらへ走ってきている。

 

「……レイト君、彼をどうするつもりですか?」

「話を聞いてから判断します」

 

 チェイスが気絶している幸利を見ながら質問を投げかけてくる。

 

 愛ちゃんが幸利を揺すり起こそうとしている。やがて、愛ちゃんの呼びかけに幸利が意識を取り戻した。ボーっとした目で周囲を見渡し、自分の置かれている状況を理解したのか、ハッとなって上体を起こす。

 

「さて、幸利君……全て話して貰いますからね」

「あぁ、分かったよ」

 

 幸利がゆっくりと話始めた。

 

「……どいつもこいつも俺を『無能』だとか言って来るから見返してやろうと思って闇魔法を必死で鍛えてた……でも見返せなくて、王都の貴族共は勇者ばかり持て囃しやがってよ……俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」

「てめぇ……自分の立場わかってんのかよ! 危うく、町がめちゃくちゃになるところだったんだぞ!」

「そうよ! 馬鹿なのはアンタの方でしょ!」

「愛ちゃん先生がどんだけ心配してたと思ってるのよ!」

 

 反省どころか、周囲への罵倒と不満を口にする清水に、玉井や園部など生徒達が憤りをあらわにして次々と反論する。

 

「……そこで魔人族に存在価値を示そうとした……っと?」

「……そうだ」

 

 俺の言葉に仄暗い笑みを浮かべる幸利と驚愕する面々。

 

「畑山先生……あんたを殺す事でな」

「……え?」

 

 愛ちゃんは、一瞬何を言われたのかわからなかったようで思わず間抜けな声を漏らした。周囲の者達も同様で、一瞬ポカンとするものの、愛ちゃんよりは早く意味を理解し、激しい怒りを瞳に宿して幸利を睨みつけた。

 

「なるほど、兵量攻めと希望の対象となる愛ちゃんを殺せば人間側の戦闘意欲を削ぐ作戦ですか……随分と雑な攻め方ですね」

 

 なんとも王道みたいな攻め方をするんだな。余り関心は出来ないがな……

 

「あぁ、そうだ……〝豊穣の女神〟……あんたを町の住人ごと殺せば、俺は、魔人族側の〝勇者〟として招かれる。そういう契約だった。俺の能力は素晴らしいってさ。勇者の下で燻っているのは勿体無いってさ。やっぱり、分かるやつには分かるんだよ。実際、超強い魔物も貸してくれたし、それで、想像以上の軍勢も作れたし……だから、だから絶対、あんたを殺せると思ったのに! 何だよ!何なんだよっ!何で、十万の軍勢が負けるんだよ!俺が必死こいて集めた魔物簡単に吹き飛ばしやがってよ!!見てるこっちとしても気持ちいいぐらいに!」

 

 ……正直、あの無双感はすげぇ楽しかった。

 

「ふざけるな!ふざけるな!バカヤロォォオォオ!!」

 

 幸利の慟哭に似た叫びが木霊する。

 

「……幸利君、君の『特別』になりたいと言う気持ちは間違いではありません。人間として自然な思考です……ですが君は既に『特別』だ」

「え?」

「だって、そうでしょう?十万もの魔物を闇魔法で洗脳し従えた……それは勇者ですら成しえない偉業でしょう……でも、君は方法を間違えた」

 

 実際、あの勇者(偽)でも精々二千が限界だろう。それを数日でこなすのは彼にしか出来ない事であろう。

 

「君は君自身が思うより『特別』です……それを認知できな──ーコフッ!」

 

 背中に灼ける様な痛みが走る……ゆっくりと身体を見ると、胸を貫通する剣と脇腹に刺さっている毒針があった。

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

「私は──私はやったんだああああああああ!!!ヒャハハハハハハァーッ!!!」

 

 狂気を孕んだ声色の叫びが響き、ゆっくりと姿を現していく……そこには異形の腕を持ったデビッドだった。

 

「どうだ!その剣に塗られた毒は回復を阻害し、腹部に刺さっているものは数分も持たずに苦しんで死ぬ程の猛毒を持った物だ!」

 

 零斗に向かい吐き捨てるように叫ぶデビット、ハジメ達は急展開に置いてけぼりにされ、呆然と零斗を見ていた。

 

「あぁ、これで愛子は私のモノだ!」

 

 うっとりとした声で歓喜するデビットに状況をいち早く理解したエトが武器を構える。

 

「さぁ、愛子!私ともに往こう!」

「れ、零斗君?う、うそですよね?」

 

 膝から崩れ落ちる愛子、それを見て恍惚とした表情をするデビット。

 

「絶望した顔すら愛おしい……ですが大丈夫ですよ愛子、これからは私が付いて居ますから……」

 

 ハジメ達も遅れて殺意を込めデビットに各々の武器を向ける。それでもなおデビットは愛子にしか意識を向けていない。

 

「貴方だけは……お前だけは!」

「愛ちゃん……?」

「お前だけは!絶対に許さない!!」

 

 震える声で叫びを上げる愛子、その目には確かな怒りと殺意が宿っていた。

 

「私の!私の大切な人を傷付けて!それに『私が付いている』?巫山戯ないで!お前の様な低俗な男では、代わりにならいほど特別で優しくて……愛おしい人なんです!」

 

 愛子はそう言うと、突然立ち上がると、今までの様子とは一変し、力強く大地を踏みしめ、デビットを睨みつける。

 

「ふざけるなァァアァァアア!」

 

 突如としてデビットが絶叫する。そして、そのまま腕を振り上げながら突進してきた。しかし、次の瞬間には、いつの間にか現れた黒い影によって、吹き飛ばされていた。地面に叩きつけられたデビットは起き上がると、自分の身に何が起きたのか分からないという様にキョトンとしている。そんな様子のデビットを尻目に再び愛子の前に立つ人影が現れる。

 

 それは、先程まで倒れ伏していたはずの零斗だった。その姿を見た途端、愛子の目からは涙が流れ出す。零斗は、いつもの様に優しい笑みを浮かべると、 まるで壊れやすい宝物を扱うように、慈しみを持って、愛子の頭を撫でた。すると愛子の顔には安堵の色が浮かぶ。

 

「ありがとうございます、零斗君……もう、怖くありません」

「怖い思いをさせてしまってすみません」

 

 零斗の言葉を聞いた愛子は首を振ると、少し頬を染めながら微笑む。二人は見つめ合う……そこに流れる空気はとても甘く、見ている者達の心を暖かく包み込むような雰囲気であった。

 

「貴様……一体何をした?」

 

 デビットは信じられないという目をしながら、掠れた声を出す。一方、ハジメ達は驚愕のあまり言葉を失っていた。それはそうだ、つい数十秒前まで瀕死の状態で血塗れで倒れていたというのに、今はピンピンしているのだ。

 

「あの程度の毒では私は殺せませんよ……それこそ神すら殺せる毒でないと……ね」

 

 そう言ってクスリと笑う零斗。その目は、デビットを見据えながらも、どこか遠くを見るようで……それでいて、目の前にいるデビットなど全く眼中に無いようだった。

 

「きっさまああああああああああああ!!!」

 

 激昂して叫ぶデビットに対し、零斗は淡々と言葉を紡ぐ。

 

「私は貴方に用はありません……大人しく消えなさい」

「黙れぇえ!この化け物がぁああ!」

 

 デビットは再び突撃してくる。今度はその手に剣を携えてだ。だが、その攻撃が届く前に、デビットの動きが止まる。

 

「ゴブッ……」

「脆い」

 

 零斗がただ一言そう呟いただけで、デビットは口から大量の血液を吐き出す。それは一瞬の出来事だった。ハジメ達が反応する間もなく、気が付いた時には既に終わっており、気が付けば、デビットの胸部には拳ほどの穴が空いていた。

 

「ごふぅ……なぜだぁあ!?何故、私がこんな奴にぃいい!!」

「……地獄でやってろ」

 

 零斗の手には心臓が握られていた。それを握り潰すと、デビットは力無く倒れる。

 

「ラネア」

『……何かしら?』

 

 零斗の影から下半身が蜘蛛、上半身は人間の女性が這い出てくる。俗に言うアラクネというやつだ。

 

「この人間、貴方の子供達の食料です」

『あら、ありがとう。子供(眷属)達も共食いには飽きてきた頃なのよね……有難く頂戴するわ』

 

 そう言うと女性は倒れたまま動かないデビットに近づくと、その身体から、ずるりと糸を引きながら出てきた。

 

「あ、あの零斗君……彼女は一体誰なんですか?」

「彼女は私の仲間ですよ、主に情報収集をして貰っているんですよ」

『私の子供達を使って……ね』

 

 ラネアはパチリとウインクをして補足を行う。

 

『あ、玉井君だったかしら……ベットの下はもう少しだけ綺麗にした方がいいわよ?』

「ブッ!」

『それと、園部さん?レイトに夜這いするなら覚悟した方がいいわよ……彼かなりのSだから』

「ふぇ!?」

 

 クラスメイト達をからかいながら死体を糸でぐるぐる巻きにする。そして、死体を掴むと、そのまま零斗の影の中へと沈んでいった。

 

「さて、幸利君……覚悟は出来てるんでしょうね?」

「ひっ……」

 

 恐怖からか後ずさる幸利だったが、直ぐに壁にぶつかると逃げ場を失う。そんな様子を冷めた瞳で見ながら、ゆっくりと近づいていく。

 

「残念ですが……私は裏切り者を生かしておける程優しくは無いのですよ……では、さようなら」ドパァン!

 

 そう言うと、零斗は躊躇なく引き金を引いた。放たれた弾丸はそのまま幸利の額へと吸い込まれて赤い飛沫を上げる。その光景を見てもなお、愛子達は何も出来なかった。いや、正確には動けなかった。それほどまでに今の一撃は非現実的なもので、常人には理解出来ないものだったからだ。そして、その場にいる誰もが、今起きた出来事を現実として認識出来ずにいた。

 

「……!避けてぇ!」

 

 そう叫びながら、シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった。シアの叫びに反応出来なかった園部の胸を蒼色の水流が貫通したのは、ついさっきまで愛子の頭があった場所をレーザーの如く通過したのはほぼ同時だった。

 

「クソ!」

 

 零斗が水のレーザー、おそらく水系攻撃魔法〝破断〟を打ち払う。そして、シアの方は、愛子を抱きしめ突進の勢いそのままに肩から地面にダイブし地を滑った。もうもうと砂埃を上げながら、ようやく停止したシアは、「うぐっ」と苦しそうな呻き声を上げて横たわったままだ。

 

「シア!」

 

 突然の事態に誰もが硬直する中、ハジメがシアの名を呼びながら全力で駆け寄る。そして、追撃に備えてシアと彼女が抱きしめる愛子を守るように陣取った。

 

 恭弥はルトゥーナのスコープで〝破断〟の射線を辿る。すると、遠くで黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた。

 

「恭弥!撃ち落とせ!」

「了!」

 

 恭弥は飛び立った魔物と人影にルトゥーナを連射する。オールバックの男は、攻撃されることを予期していたように、ハジメの方を確認しつつ鳥型の魔物をバレルロールさせながら必死に回避行動を行った。中々の機動力をもってかわしていた魔物だが、全ては回避しきれなかったようで、鳥型の魔物の片足が吹き飛び、オールバックの男の片腕も吹き飛んだようだ。それでも、落ちるどころか速度すら緩めず一目散に遁走を図る。攻撃してからの一連の引き際はいっそ見事という他ない。

 

 おそらく、あれが清水の言っていた魔人族なのだろうと零斗は推測した。既に低空で町を迂回し、町そのものを盾にするようにして視界から消えている。ハジメ達の攻撃手段を知っていたような逃走方法だったことから、魔人族側に自分達の情報が渡るだろうと苦い表情をする零斗。

 

「シア、大丈夫か?」

「私は大丈夫です……それよりそっちの女の子の方を……」

 

 幸いシアの反応が早かったため二人は無傷だった。もっともいきなり飛びついたためシアは顔面からタイブした為か泥まみれになっている。

 

「……っつあ…………うぅ……」

「園部さん、飲んでください」

「……コプ……」

 

 傷が深いためか自分では上手く飲み込めないようだ。しまいには、気管に入ったようで激しくむせて吐き出してしまう。零斗は、愛子が自力で神水を飲み込むことは無理だと判断し、残りの神水を自分の口に含むと、何の躊躇いもなく園部に口付けして直接流し込んだ。

 

「ッ!???!」

 

 園部が大きく目を見開く。次いでに、零斗の周囲で男女の悲鳴と怒声が上がった。しかし、零斗は、その一切を無視して、園部の口内に舌を侵入させるとその舌を絡めとり、無理やり神水を流し込んでいく。

 

「ぷッはぁ……大丈夫ですか?」

「……」

「園部さん?」

「……」

「園部さん!」

「ひゃい!?」

 

 零斗が園部に容態を聞くために呼びかけるが、零斗を見ながらボーとして動かない園部。それに業を煮やした零斗が少し強めに呼び掛ける。

 

「身体に異常は?」

「な、ないでしゅ……違和感はないよ、むしろ気持ちいいくらいで……って、い、今のは違うから!決して、その、あ、ああれが気持ち良かったということではなく、薬の効果がry」

「……分かりましたから落ち着いてください」

 

 ホッとしたのか僅かに微笑む零斗、その顔を見て更に顔を赤くする園部。零斗は園部をハジメ達に任せて、幸利の方へ歩いていく。

 

「……もう起きていいですよ」

「れ、零斗君……清水君はもう……「ん?もういいのか?」えぇ!?」

「流石に疲れた……んん!」

 

 ムクリと起き上がり身体を伸ばす幸利に驚愕する愛子達。

 

「貴方はもう少し……作戦を練りなさい!」

「ブベラ!……痛ってぇぇ」

「私がティオさんの記憶を探らなければ貴方ホントに死んでいたんですよ!?」

「時間がなかったんだからしょうがないだろ!?」

 

 零斗が幸利にゲンコツをいれて説教を始める。愛子達は当然置いてけぼりだ……

 

「あ、あの一体どういう事なんですか?」

「……闇魔法でティオさんの記憶を一部改竄したんですよ」

「記憶を改竄?」

 

 愛子達が首を傾げると、零斗が説明を始めた。

 

「闇魔法は……まぁ、主に洗脳系の物は対象の脳に干渉して術者を保護対象として認識させる仕組みになっているんです」

「それと何が関係しているんですか?」

「脳に影響を与えられるなら、記憶を操作する事さえ可能になるんですよ……そこでティオさんの洗脳中に作戦の概要を話し、その記憶を書き換えた……こんな感じです」

「そんな事が……」

 

 愛子が感心したように呟く。実際、清水の行った事は高度な技術と医療知識が必要なのだが、それをまるで当たり前のように説明する零斗に、全員が畏怖の念を抱く。

 

「……ふぅ、流石に疲れましたね」

 

 そう言ってその場に座り込む零斗。

 

「ウィル君を帰すのは明日にしましょうか……」

 

 その後、町では盛大な宴会が行われた。町の人達が総出で準備したのだ。そして夜通し騒ぎ続けた。誰もが笑顔で酒を酌み交わし、美味しい料理を食べ、歌い、踊り、語り合った。それは今まで経験したことのないほど楽しく幸せなひと時だった。

 

 

 



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再びフューレンへ

「よいしょと、ハロ│ᐛ )۶お馴染みの零斗さんだ」
「ハジメでーす」
「久しぶりの登場!幸利だ」

「前回は幸利のスパイ工作とデビットの抹殺だったな……つーか、俺がティオの記憶読んでなかったらどうするつもりだったんだ?」
「それは……決めてなかったな」
「え?アホなん?」
「……返す言葉もございません」

「ハァ……今回はウィル坊を連れてフューレンまで戻る話だ……楽しんでくれ」

「「「再びフューレンへ!」」」


 Side 零斗

 

 ウルの町での一件から、一日が経過した。今はウィル坊を連れてフューレンまで移動する所……なんだが……

 

「グッ……うぅぅ……」

「どうしました?さっさと来なさい」

 

 本来ならもう出発してる時刻なんだが……ブリーゼのエンジンに異常があったみたいで修理が必要らしく、待っている間は暇だからウィル坊に訓練を付けることにした。

 

「まだやれますね?」

「はい!」

 

 うむ、気合い十分だな。才能も技量も十分ある……この子も磨けば光る原石みたいだな。

 

 そんな事を考えながら俺はウィル坊との訓練を再開する。ちなみに俺とウィル坊以外のメンバーは全員町の観光に出掛けている。なんでもこの町には有名な観光地があるらしい。

 

「そこ!足下がお留守になっていますよ!」

「はいッ!!」

 

 ────────────────────

 

 しばらくすると、ようやくエンジンの修復が終わったのか、ハジメが疲れきった顔をして来た。

 

「やっと終わった……」

「お疲れ様です、ハジメ。ところでどこの辺りに異変が?」

「エンジンの一部がちょっと砕けてたからそこの修理だけだったよ」

 

 そう言うとハジメは運転席に乗り込む。観光を終えたユエ達も戻ってきたし、そろそろ出発するか……

 

「ちょっと待ってくださいー!」

 

 声の方を見ると、町の入り口に愛ちゃん達がいた。その後ろにはチェイス達……護衛騎士の姿もある。

 

「ハジメ、町の外で待っていてください」

「……わかった。じゃあ後で」

 

 そう言ってブリーゼから降り愛ちゃん達の元へ歩み寄る。ハジメは指示通り町の外に出て行った。

 

「どうかしたんですか?愛ちゃん」

「いえ、昨日助けてもらったお礼を言おうと思いまして……本当にありがとうございました」

「別にいいですよ。あれくらい大したことないですし」

「それでも、私達は嬉しかったのです。あの時あなたがいなければきっとこの町は滅んでいたでしょう」

 

 まぁ、作戦とはいえ、あんな魔物の大群に襲われたらひとたまりもなかっただろうな。そして愛ちゃんの後ろに控えていたチェイスと目が合う。チェイスは軽く会釈をして来たのでこちらも返す。

 

「零斗君、一つだけ聞かせてください」

「何ですか?」

「貴方はクラスメイトであろうとも……友人であろうとも裏切り者なら必ず殺すと言いましたよね?」

「はい」

「それはつまり、敵対する者には容赦しないということでしょうか?」

 

 ……随分と鋭い質問をするんだな。でも答えなんて決まってる。

 

「もちろんです。たとえ誰であっても裏切るような人間なら私は容赦なく殺します」

 

 そう答えると、クラスメイト達が目を見開き、そして愛ちゃんは悲しげに目を伏せた。

 

「私には……いえ、私達には何故貴方がそんなにも『寂しい生き方』を強いられているかは分かりません」

「…………」

「でもこれだけは言わせてください。もし何か困ったことがあったら遠慮なく私達を頼って下さい。私達はクラスメイトです。仲間です。友達です。それが例えどんなことがあっても変わることはありません」

 

 真っ直ぐな瞳だった。俺の目を見て、はっきりと自分の意思を伝えるようにそう言った。俺より年下の女の子なのに、凄く強い意志を感じる。ふっと頬が緩む。今までこういう経験は無かったけど、悪くないかもな。

 

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いしますね」

「えぇ!任せてください!」

 

 そう言って、愛ちゃんが微笑みかけると他の皆も笑顔になる。その様子を見ていたチェイスが口を開いた。

 

「先程から気になっていたのだが、愛子と随分と距離が近い様だが?一体どういう関係なのだ?」

「え!?わ、私達の関係ってそんなに深いものじゃないですよ!!ただの教師と教え子です!!」

 

 慌てて否定する愛ちゃんだったが、逆に怪しい反応に見えるぞ……今、ちょっと悪い事思い付いちった……早速実行としますかね!

 

「愛ちゃん、嘘はいけませんよ?」

「へっ!?う、嘘なんかついてないですよ!!」

 

 真っ赤になりながら反論するが説得力がないな。さてどうなるかな? 俺がニヤリと笑うと、愛ちゃんの顔がどんどん赤くなっていく。

 

「うぅ~!!」

「あはは、冗談ですよ。そんなに怒らないでください」

「もう!零斗君のバカ!!」

 

 ポカポカと横腹の辺りを殴ってくる愛ちゃん。

 

「それで……結局お前と愛子の関係はなんなんだ?」

「……こういう関係ですよ」

 

 俺は腕を伸ばして愛ちゃんを抱き寄せる。突然の事に驚く愛ちゃんを無視してそのままキスをした。

 

「んっ!?」

 

 一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに受け入れてくれる。唇から伝わる感触は柔らかく、甘い匂いが鼻腔を満たす。しばらくしてからゆっくりと離れると、顔をトマトの様にした愛ちゃんがいた。

 

「彼女は私の物ですから……渡しませんよ?」

「き、きき、貴様ァ!」

 

 激昂して剣を抜き放つチェイスとそれを必死に止める騎士達。それを横目に愛ちゃんの頭を撫でてやる。

 

「あっ……」

「可愛いですね。ではそろそろ行きますのでこれで失礼します」

 

 そう言ってその場を後にしようとすると、後ろから服を引っ張られた。

 

「あ、あの……また会えますか?」

「ええ、勿論ですよ……再会した時はゆっくりとお茶でもしましょう」

「そう……ですか」

 

 嬉しそうに呟く愛ちゃん。さっきまでの強気な態度はどこに行ったのか、今は恋する乙女の様な雰囲気だ。

 

「あぁ、それと……胸の所よく見て見てくださいね」

「?胸ですか……ふぇ!?」

 

 愛ちゃんがちらりと胸元を除くと、昨日付けたキスマークがくっきりと残っていた。まぁ、他の所にも付けてるんだけね。

 

「フフフ……では、私はこの辺りで失礼しますね。次は途中でトバないで下さいね?」

「ひゃ、ひゃい……♡」

 

 ─────────────────────────

 

 北の山脈地帯を背に魔力駆動四輪が砂埃を上げながら南へと街道を疾走する。何年もの間、何千何万という人々が踏み固めただけの道であるが、ウルの町から北の山脈地帯へと続く道に比べれば遥かにマシだ。サスペンション付きの四輪は、振動を最小限に抑えながら快調にフューレンへと向かって進んでいく。

 

 もっとも、前の座席で窓を全開にしてウサミミを風に遊ばせてパタパタさせているシアは、四輪より二輪の方が好きらしく若干不満そうだ。何でも、ウサミミが風を切る感触やハジメにギュッと抱きつきながら肩に顔を乗せる体勢が好きらしい。

 

 運転はハジメに代わっている。助手席はユエだ。後部座席に、他のメンバーと俺が乗っている。

 

(寂しい生き方……ねぇ)

「……どうかしましたか、零斗。先程から何か考え込んでいるようですが……」

「昨日の疲れが少し残っているだけですよ……気にしないで下さい」

 

 適当にはぐらかしてからエトの頭を撫でる。にしても『寂しい生き方』と言われとはねぇ……まぁ、傍から見ればそう感じるかもだよなぁ。人を殺すことに躊躇いは無いし、友人であったしても敵となれば殺す事も辞さないしな。

 

「……そうですか。なら、私の膝を貸すので少しの間寝ていてください」

「遠慮しておきます」

「休んでください」

「ですから遠ry「休・ん・で」……はい」

 

 エトの膝に頭を乗せて瞼を閉じる。眠気が一気に押し寄せてくる、何とか堪えようとするが抵抗虚しく、意識が解けて行く。

 

 

 ●○●

 

 Side エト

 

「…………」パタリ

「案外早く寝てしまいましたね」

「よっぽど疲れてたみたいですね」

 

 零斗の頭を軽く撫でながらブランケットを取り出して、零斗の身体に掛ける。

 

「にしても、零斗さんって何でも出来ますよねぇ……」

「ん、確かに」

 

 シアさんの呟きにユエさんが同調する。確かに零斗は何事もそつなくこなして、完璧にやってのける。

 

「……あまり無理はしていけませんよ」

 

 零斗に言い聞かせる様に語りかけて、手を握る。

 

「はぁ~、また二人の世界作ってます……何時になったら私もあんな雰囲気を作れるようになるのでしょう……」

「エトさん、いい雰囲気にするコツ等をご教授してください」

 

 シアさんとアルテナさんが、何故かキラキラした目でこちらを見つめている。何故そんな目を向けられるのか分からないけど……取敢えずアドバイスをしてみる事にしようかな。

 

「ゥン……スゥ……」

 

 穏やかな表情を浮かべながら眠る零斗を見て、自然と笑みをこぼしてしまう。こんな時間がずっと続けば良いのに……

 

「……そういえば、ハジメ君。シアさんとアルテナさんにご褒美をあげる件はどうなったんですか?」

 

 ふと思い出した事を口にすると、ハジメ君は気まずそうな顔をして視線を逸らす。

 

「その様子だと、思い付かなった様ですね」

 

 呆れた様な口調で言うと、ハジメ君は苦笑いしながら頬を掻いた。

 

「……この際、デートで良いのではないですか?」

 

 そう言うと、シアさんが飛びつくように食いついてきた。

 

「デ、デー卜!それが良いですぅ!」

「わ、私もですか!?今回何もお力添え出来てませんよ?!」

「……では、ライセン大迷宮を攻略した時のご褒美と言う事で良いのでは無いですか?」

「で、でも……」

「アルテナちゃん!ここでいい雰囲気になれば(ゴニョゴニョ)」

「そ、そんなハレンチな!」

 

 耳まで赤くして俯いてしまうアルテナさん。ハジメ君は片手でアルテナさんの頭を撫でながら言う。

 

「そんなに遠慮する事ないよ?僕からのお礼だと思って一緒に行こ?」

「ひゃい……」

「絶対ですよぉ〜!」

 

 シアさんは満面の笑顔でハジメ君の腕にしがみついている。それに嫉妬しているのか、ユエさんがムッとした顔で二人の間に割って入った。

 

 そんな微笑ましい光景を眺めながら、零斗の頭を撫で続ける。あぁ……ホントに幸せだなぁ……




ちょっと私生活がドタバタしてたので遅れてしまいました。感想お待ちしております。

5月8日 ちょっこと修正&改変


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四章
結果報告ううう!


「よいしょと、ホイヨ((( ノ*OωO)ノお馴染みの零斗さんですよ〜」
「エトです」
「シアです!」

「前回はウィル坊連れてフューレンに戻る所だったな」
「……貴方、畑山さんになんてことしてるんです?」
「独占欲丸出しですぅ……」
「途中で気絶して、一人で満足してる方が悪いんですぅ〜!俺ちゃんは悪くないですぅ〜!」
「子供じゃ無いんですから……全く……」

「……今回はイルワに結果報告だ、楽しんでくれ」

「「「結果報告ううう!」」」



 Side 零斗

 

 夢を見た……友を殺す夢を……

 

 夢を見た……友に殺される夢を……

 

 夢を見た……◼◼◼に殺される夢を……

 

 夢を見た……見知らぬ人間に殺される夢を……

 

 ………………声がする……喧しい…………煩い……

 

お前は

谿コ縺輔l繧九∋縺阪□

豁サ縺ャ縺ケ縺阪□

豸医∴繧九∋縺阪□

 

 俺が一体何をしたんだ……俺はただ────になりたかっただけ……

 

●○●

 

「…………」

 

 クソが……俺はあんたらに望まれてやっただけだっての……

 

「顔色が悪い様ですが大丈夫ですか?」

 

 エトが心配そうにこちらを見つめている。

 

「少し夢見が悪かっただけです、体調面は良好です」

 

 気分は最悪だったけどな。内容が内容だ……思い出すと吐き気がしてくる。

 

「……その様子だとあまり良い夢ではなかったようですね……」

「えぇまぁ……夢なんて起きたら忘れてるものですが」

 

 だが内容はしっかりと覚えていた。それどころか嫌でも頭に浮かんでくる。

 

「ハジメ、後どのくらいでフューレンですか?」

「後三時間くらいかな……それまでは休んでて大丈夫だよ」

 

 5時間くらい寝てたのか……ならもう少し寝ればよかったか?……いや、無理だろうな。またあの悪夢を見ると思うと眠れる気もしない。

 

「お、起きたようじゃなレイト殿、一つ聞きたいことがあるのじゃが……」

「答える範囲のものでして構いませんが……」

 

 荷台に乗っていたティオが身を乗り出しながら話し掛けてきた。

 

「妾の記憶を魔法で読んだと言っておったが……どう言った魔法なのじゃ?妾が知っている限りそのような物はなかった筈じゃが……」

「私のオリジナルになります。記憶を読む以外にも自分の記憶を他者に共有する事ができるんですよ」

 

 まぁ、半分嘘だがな。魔法じゃなくてロウとパスを繋ぎ直した事で戻った能力の一つだ。右手で対象の記憶を最長で三日分読み取る、左手で自分の記憶を共有……相手の血から読み取れるけど解析する時間が必要だし、色々と面倒な条件があるんよなぁ……

 

「もう一つ聞いてもよいか?」

「構いません」

「デビット……じゃったか?その者の心臓を抜き取った時、お主の腕が黒く変化しておったが……あれはなんじゃ?」

 

 あら、バレてるやんけ。別に隠すことでもないんだけどさ。

 

「私はちょっとした特異体質でしてね……身体の中に特殊な物質が生成されるんですよ……それを体外に放出して凝固させる事であの様になるんです」

 

 こっちはフェルとパスを繋ぎ直した事で戻った能力だ。原理は強化細胞を身体の一点に集めて体外に放出して凝固させる。なんなら腕全体に纏わせてブレードみたいに出来るし、指を鉤爪みたいに出来る。まぁイメージ的にはヴェノムのライオットみたいな感じかな?

 

「まぁ、これを維持し過ぎると……コフッ……こうなります」

 

 軽く咳き込むと同時に口から黒く変色した血液が吐き出される。

 

「っ!?大丈夫なのかそれは!」

「長時間の維持が難しいだけなので問題ありません。それにこれはあくまでも毒素の様な物なので……触れない方が身のためですよ」

 

 こっちもちょいと嘘を吐く。まぁ、長時間の維持が難しいのはホントだが、毒素の除去くらいは対策済みだし、なんなら長時間維持できる目処もある程度は経っている。

 

 え?なんで嘘をつくのかって?そりゃ、ティオの事はまだ信用してないし、詳しく説明するとエグいからウィル坊の教育衛生上に問題が生じるからさ!

 

「そ、そうか……しかし何とも不思議な体質をしておるのぅ……」

 

 俺の吐いた黒い液体を見てティオが引き攣り気味の顔をしている。

 

 ────────────────────ー

 

 あれから暫く雑談を交わしていると目的地であるフューレンに到着したのであった。

 

「……これはしばらく掛かりそうですね」

 

 ブリーゼを列の最後に停めて、門までの距離を見ると一時間くらいは掛かりそうな距離だった。

 

「あの……零斗さん、四輪で乗り付けて良かったんですか?できる限り隠すつもりだったのでは……」

「問題ありません……それにあれだけ派手に暴れたのですから後数日もすれば余程の辺境でない限り、伝播されているはずですから」

「いつかはこうなるだろうなとは思ってたけど……早過ぎない?」

 

 ブリーゼのボンネットに腰掛けながら、武器の点検を行う。刃こぼれなし……っと。

 

「シアさん、アルテナさん、この件で私達はいい意味でも悪い意味でもかなり目立つ様になりますから、奴隷のフリはもう大丈夫ですよ?首輪も外しても構いませんが……」

 

 シアとアルテナは、そっと自分の首輪に手を触れて撫でると、若干頬を染めてイヤイヤと首を振った。

 

「いえ、これはこのままで。一応、ハジメさんから初めて頂いたものですし……それにハジメさんのものという証でもありますし……最近は結構気に入っていて……だから、このままで」

「想い人からの初めてのプレゼントですから……どんな形であれ嬉し物なんです!」

 

 そんな事を言うシアとアルテナ。シアのウサミミが恥ずかしげにそっぽを向きながらピコピコと動いている。目を伏せて、俯き加減に恥じらうシアの姿はとても可憐だ。視界の端で男の何人かが鼻を抑えた手の隙間からダクダクと血を滴らせている。

 

「……ちょっとだけ、じっとしててね」

 

 ハジメが宝物庫から幾つか魔石を取り出すと、シアとアルテナの首輪の手を触れる。すると二人にはめられた首輪が淡く光る。どうやら錬成で首輪からアクセサリーに加工している様だ。デザインは……シアがファッション的なチョーカーに、アルテナはペンダント型のチョーカーに。

 

「……これでよし」

「わぁ……綺麗……ありがとうございます、ハジメさん!」

「……嬉しいです!一生大切にしますね!」

 

 二人の声音は心底嬉しそうだ。それを見た周りの男達から歯軋りする音が聞こえてくる。そして、ハジメの腕に抱きつくと、にへら~と実に幸せそうな笑みを浮かべながら額をぐりぐりと擦りつけつつ礼を言った。

 

「よぉ、レディ達。そんな冴えない奴よりも俺とイイコトしないか?」

 

 下卑た笑みを浮かべたチャラ男が随分と失礼な事を抜かしながらシア達に声を掛けて、チャラ男はシアの頬に手を触れようとした。

 

「女性に気安く触れようとするとは……少々、失礼では無いですか?」

 

 俺は刀の切っ先をチャラ男の喉元に突きつけた。突然の行動に驚いたのか、チャラ男はビクッと身体を震わせると顔を青ざめさせて固まってしまった。

 

「お、おい!いきなり何をするんだ!」

「それはこちらのセリフですよ。彼女達は私の友人の大切な人です。その様な無粋な真似をされては困ります。それと、貴方の言動は不快なので、これ以上彼女に近づかないでください。私に斬られる前に退散する事をお勧めしますよ?」

 

 殺気を放ちながら警告するが、チャラ男は顔色を真っ赤にして怒髪天を衝くといった様相で怒りをあらわにした。

 

「あぁ、それと……喧嘩を売る相手はしっかりと見極めた方が良いですよ?でないと……喰わレちまウゼ?」

 

 チャラ男達だけに見える位置でしゃがみこみ、仮面を少しだけズラして下顎を露出させる。そして、異形化に変化させた顎を見せつける。同時に口角を上げてニタリと笑う。すると、まるで蛇に睨まれたカエルの如く、顔面蒼白になってガタガタ震え出した。

 

「ひ、ひぃぃぃ!」

「人の顔を見て逃げ出すとは……やはり失礼な人間ですねぇ」

 

 情けない悲鳴を上げ、脱兎の如くその場から走り去って行った。それを見ていた周囲の人達は呆気に取られた様にポカンとしている。

 

「……やり過ぎですよ」

「おや、手厳しい」

「中々エッグい事するね〜レイちゃん」

 

 エトが溜め息交じりに注意してきた。その隣で若干引き気味のミレディが笑っている。

 

「仕方ないじゃないですか……ああいう輩は何処にでも湧くのですから」

 

 そう言いながら、列の前方に視線を向ける。簡易の鎧を着て馬に乗った男が三人、近くの商人達に事情聴取しながら此方へやって来た。

 

「おい、お前! この騒ぎは何だ! それにその黒い箱? も何なのか説明しろ!」

 

 随分と高圧的に話し掛けて来る……が視線はユエ達に釘付けになっている。

 

「黒い箱は私達の所有するアーティファクトです。騒ぎはあの辺で怯えている者達が、私の連れに抱きつこうと来たので少しだけ脅しただけです」

 

 嘘は言ってない。嘘を言う時は真実を混ぜるのが有効。真実の方を多めにすれば尚良し。それに加えて違和感の無い、本当にそうであったかのように振る舞う演技力を加えれば騙せない者などいない。

 

「そうか、それは災難だったな」

 

 俺の言葉を鵜呑みにし、碌に調べることなくあっさり信じたようだ。

 

 と、その時、門番の一人がハジメ達を見て首をかしげると、「あっ」と思い出したように隣の門番に小声で確認する。何かを言われた門番が同じように「そう言えば」と言いながらハジメ達をマジマジと見つめた。

 

「……君達、君はもしかしてレイトという名前だったりするか?」

「えぇ、そうですが……」

「そうか。それじゃあ、ギルド支部長殿の依頼からの帰りということか?」

「……なるほど、通達があったようですね」

 

 予想通りだったようで門番の男が頷く。門番は、直ぐに通せと言われているようで順番待ちを飛ばして入場させてくれるようだ。

 

 ──────────────────────

 

 現在、俺達は冒険者ギルドにある応接室に通されていた。

 

「チェック」

「……詰みですね」

 

 出された如何にも高級そうなお茶と茶菓子を楽しみつつ、暇だったからエトとチェスをしていた、戦績は一勝一敗二分けだ。

 

「ウィル! 無事かい!? 怪我はないかい!?」

 

 部屋の扉を蹴破らん勢いで開け放ち飛び込んできたのは、ウィル救出の依頼をしたイルワ・チャングだった。

 

 以前の落ち着いた雰囲気などかなぐり捨てて、視界にウィル坊を収めると挨拶もなく安否を確認するイルワ。それだけ心配だったのだろう。

 

「イルワさん……すみません。私が無理を言ったせいで、色々迷惑を……」

「……何を言うんだ……私の方こそ、危険な依頼を紹介してしまった……本当によく無事で……ウィルに何かあったらグレイルやサリアに合わせる顔がなくなるところだよ……二人も随分心配していた。早く顔を見せて安心させてあげるといい。君の無事は既に連絡してある。数日前からフューレンに来ているんだ」

「父上とママが……わかりました。直ぐに会いに行きます」

 

 イルワは、ウィルに両親が滞在している場所を伝えると会いに行くよう促す。ウィルは、イルワに改めて捜索に骨を折ってもらったことを感謝し、改めて挨拶に行くと約束して部屋を出て行った。

 

「レイト君、今回は本当にありがとう。まさか、本当にウィルを生きて連れ戻してくれるとは思わなかった。感謝してもしきれないよ」

「生き残ったのはウィル坊の運がよかっただけだ、俺らは発見したに過ぎん」

「ふふ、そうかな?確かに、それもあるだろうが……何十万もの魔物の群れから守りきってくれたのは事実だろう?女神の剣様?」

 

 にこやかに笑いながら、俺が大群との戦闘前にした演説の内容から文字った二つ名を呼ぶイルワ。

 

「やっぱ、監視役の人間が居たのか……腕は確かみたいだな」

「その通りだ、私の部下が君達に付いていたんだよ。といっても、あのとんでもない移動型アーティファクトのせいで常に後手に回っていたようだけど……彼の泣き言なんて初めて聞いたよ。諜報では随一の腕を持っているのだけどね」

 

 そう言って苦笑いするイルワ。最初から監視員がついていたらしい。ギルド支部長としては当然の措置なので、特に怒りを抱くことはない。

 

「それにしても、大変だったね。まさか、北の山脈地帯の異変が大惨事の予兆だったとは……二重の意味で君に依頼して本当によかった。数万の大群を殲滅した力にも興味はあるのだけど……聞かせてくれるかい?一体、何があったのか」

「その前にエト達のステータスプレートを頼むよ……ティオは『うむ、皆が貰うなら妾の分も頼めるかの』……ということだ」

「ふむ、確かに、プレートを見たほうが信憑性も高まるか……わかったよ」

 

 そう言って、イルワは、職員を呼んで真新しいステータスプレートを人数分持ってこさせる。

 

 ===================

 

 ユエ 323歳 女 レベル:75

 

 天職:神子

 

 筋力:120

 体力:300

 耐性:60

 敏捷:120

 魔力:6980

 魔耐:7120

 

 技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

 ==================

 

 ==================

 

 シア・ハウリア 16歳 女 レベル:49

 

 天職:占術師

 称号: 残念ウサギ

 適性率 62%

 

 筋力:60 [+最大15700]

 体力:80 [+最大11320]

 耐性:60 [+最大10700]

 敏捷:85 [+最大13695]

 魔力:3020

 魔耐:3180

 

 技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・闘術・重力魔法

 

 ==================

 

 ==================

 

 アルテナ・ハイピスト 17歳 女 レベル:38

 

 天職:射手

 適性率 59%

 筋力:230

 体力:240

 耐性:120

 敏捷:180

 魔力:5280

 魔耐:4320

 

 技能:風魔法適性・自然操作[+範囲拡大]・結界術適性・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・弓術[+連射][+軌道修正][+魔力矢]・重力魔法

 

 ==================

 

 ==================

 

 ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

 

 天職:守護者

 

 筋力:770  [+竜化状態4620]

 体力:1100  [+竜化状態6600]

 耐性:1100  [+竜化状態6600]

 敏捷:580  [+竜化状態3480]

 魔力:4590

 魔耐:4220

 

 技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

 ==================

 

 ==================

 エト・フレイズ 23歳 女 レベル:ERROR

 

 天職:秘書 諜報員

 称号:鬼女

 

 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 

 技能:威圧・瞬間移動・敵意感知・悪意感知・気配察知・全魔法適正・全武器適正・剣術・刺剣術[+双刺剣]・銃術・風魔法適性・闇魔法適性・念話[+零斗、ハジメ、ユエ、シア、アルテナ]・思考予測・縮地[+震脚][+無拍子]・金剛・天眼・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

 ===============

 

 ===============

 

 ミレディ・ライセン ???歳 女 レベル???

 

 天職: 魔導士

 称号:世界基準を軽く超える超絶天才美少女魔法使い ウザイン

 

 筋力:ERROR

 体力:ERROR

 耐性:ERROR

 敏捷:ERROR

 魔力:ERROR

 魔耐:ERROR

 

 技能: 重力魔法[+範囲拡大][+魔力消費減少Ⅲ]

 

 ===============

 

 揃いも揃ってチートだった。流石に、イルワも口をあんぐりと開けて言葉も出ない様子だ。無理もない。ユエとティオは既に滅んだとされる種族固有のスキルである〝血力変換〟と〝竜化〟を持っている上に、ステータスが特異に過ぎる。シアとアルテナは種族の常識を完全に無視している。驚くなという方がどうかしている。エトとミレディは……うん、もう何も言うまい。

 

「いやはや……なにかあるとは思っていましたが、これほどとは……」

 

 冷や汗を流しながら、何時もの微笑みが引き攣っているイルワ。だが、そんな事はどうでもいいので事の顛末を語って聞かせた。普通に聞いただけなら、そんな馬鹿なと一笑に付しそうな内容でも、先にステータスプレートで裏付けるような数値や技能を見てしまっているので信じざるを得ない。イルワは、すべての話を聞き終えると、一気に十歳くらい年をとったような疲れた表情でソファーに深く座り直した。

 

「……道理でキャサリン先生の目に留まるわけだ。レイト君とハジメ君が異世界人だということは予想していたが……実際は、遥か斜め上をいったね……」

「どうする?危険分子として教会にでも報告するか?判断は自由だぜ?」

 

 俺の言葉にイルワは苦虫を噛み潰したような表情になる。

 

「冗談がキツいよ。出来るわけないだろう? 君達を敵に回すようなこと、個人的にもギルド幹部としても有り得ない選択肢だよ……大体、見くびらないで欲しい。君達は私の恩人なんだ。そのことを私が忘れることは生涯ないよ」

「懸命な判断だな」

 

 後ろに居る、エトからの視線が痛い……ここは素直に謝った方がいいかな?

 

「私としては、約束通り可能な限り君達の後ろ盾になろうと思う。ギルド幹部としても、個人としてもね。まぁ、あれだけの力を見せたんだ。当分は、上の方も議論が紛糾して君達に下手なことはしないと思うよ。一応、後ろ盾になりやすいように、君達の冒険者ランクを全員〝金〟にしておく。普通は、〝金〟を付けるには色々面倒な手続きがいるのだけど……事後承諾でも何とかなるよ。キャサリン先生と僕の推薦、それに〝女神の剣〟という名声があるからね」

 

 イルワの大盤振る舞いにより、他にもフューレンにいる間はギルド直営の宿のVIPルームを使わせてくれたり、イルワの家紋入り手紙を用意してくれたりした。

 

 ────────────────────

 

 あの後、イルワと別れ、ハジメ達はフューレンの中央区にあるギルド直営の宿のVIPルームでくつろいだ。途中、ウィルの両親であるグレイル・グレタ伯爵とサリア・グレタ夫人がウィルを伴って挨拶に来た。かつて、王宮で見た貴族とは異なり随分と筋の通った人のようだ。ウィルの人の良さというものが納得できる両親だった。

 

 グレイル伯爵は、しきりに礼をしたいと家への招待や金品の支払いを提案したが、丁重にお断りしておいた。代わりに、困ったことがあればどんなことでも力になると言い残し去っていった。

 

「ふぅ……流石に疲れたなぁ……」

 

 ハジメが超大型ソファーにゴロンと寝転びながら、リラックスした様子で深く息を吐いた。

 

「今日はもう休むか……明日は消費した食料の買い出しだな」

 

 ハジメとは反対側のソファーに腰掛けて、明日の予定を立て始める。

 

「あ、あの〜レイトさん。その、明日なんですが……」

「ん?あぁ、ハジメとデートだったな、なら俺とエト達で買い物は済ませておくから楽しんでこい」

 

 そう言うと、シアとアルテナの顔がパァッ!っと明るくなった。

 

「ハジメ、しっかりエスコートしてやれよ?」

「……頑張ります」




アルテナさんとミレディのステータスに誤りがあったら教えてください。感想お待ちしております。


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デートの時間

「よっと、ヽ(。・ω・。)ドウモハジメです」
「シアです!」
「アルテナ・ハイピストです」

「前回はイルワさんに頼まれた依頼の結果報告とシアさん達のステータスだったね」
「ウィル君のお母さん達、喜んでいましたね」
「ステータスについては、思ったよりも伸びていませんでしたね……」
「……強化細胞移植したての僕よりも強いのに?」
「まだ、ハジメさんのとなり立って戦えませんからね!」

「アハハ……頼もしい限りだよ。今回は僕とシアさん達とので、デートだよ……」
「「楽しんでください!」」

「「「デートの時間!」」」



 Side ハジメ

 

「ふんふんふふ~ん、ふんふふ~ん! いい天気ですねぇ~、絶好のデート日和ですよぉ~」

 

 フューレンの街の表通りを、上機嫌のシアさんがスキップしそうな勢いで歩いている。服装は何時も着ている丈夫な冒険者風の服と異なり、可愛らしい乳白色のワンピースだ。肩紐は細めで胸元が大きく開いて、目のやり場に困る。

 

「フフフ……シアさん、そんなにはしゃいでると転んでしまいますよ?」

 

 僕と同じ歩幅でゆったりと歩いてくれるのはアルテナさんだ。アルテナさんの服装も普段と違って、薄手のブラウスにロングスカートと、清楚な感じで纏められている。

 

「大丈夫です!そんなヘマしませんよぉ~、レイトさんに鍛えられているんですからッ!?」

 

 シアさんがそう言って、前方の段差に気づかず、足を取られてバランスを崩した。僕はシアさんが倒れる前に、素早くシアさんを抱きとめる。

 

「シアさん、怪我とか無い?」

「あ、ありがとうございます。助かりました……」

 

 シアさんが顔を真っ赤にして、僕から離れてお礼を言った。

 

「シアったら、相変わらずですね?でも、本当に気を付けてくださいね?」

 

 アルテナさんの言葉を聞いて、シアさんが少しだけ拗ねる様な表情をする。その姿に、周囲の男達はほぼ全員ノックアウトされたようだ。若干名、隣を歩く恋人の拳が原因みたいだけど……

 

 そんな僕達は周囲の視線を集めつつ、遂に観光区に入った。観光区には、様々な娯楽施設が存在する。劇場や大道芸通り、サーカス、音楽ホール、水族館、闘技場、ゲームスタジオ、展望台、色とりどりの花畑や巨大な花壇迷路、美しい建築物や広場なんかある。

 

「ハジメさん、ハジメさん! まずはメアシュタットに行きましょう! 私、一度も生きている海の生き物って見たことないんです!」

 

 ガイドブックを片手に、ウサミミを「早く!早く!」と言う様にぴょこぴょこ動かすシアさん。

 

「へぇ~、内陸なのに海の生き物とか……気合入ってるね。管理、維持、輸送と大変だろうに……」

「興味持つ所そこなんですね……」

 

 僕の呟きを聞いたアルテナさんが苦笑いするけど、実際問題、海水なんてどうやって運ぶんだろう?

 

 ────────────────────────

 

 途中の大道芸通りで、人間の限界に挑戦するようなアクロバティックな妙技に目を奪われつつ、たどり着いたメアシュタットは相当大きな施設だった。海をイメージしているのか全体的に青みがかった建物となっており多くの人で賑わっている。

 

「この辺は地球とそんなに変わらないね……」

 

 中の様子はかなり地球の水族館に似ていた。ただ、地球ほど、大質量の水の圧力に耐える透明の水槽を作る技術がないのか、格子状の金属製の柵に分厚いガラスがタイルの様に埋め込まれており、若干の見にくさはあった。

 

「すごいですぅ……」

「綺麗……」

 

 シアさんとアルテナさんが感嘆の声を上げ、初めて見る海の生き物の泳いでいる姿に瞳をキラキラさせて頻りに指を差しながら僕に楽しそうに話し掛けてくれた。

 

 すぐ隣で同じく瞳をキラキラさせている家族連れの女の子と仕草が同じだ。不意に、女の子のお父さんと思しき人と視線が合い、その目に生暖かさが含まれている気がして、何となく気まずくなり二人の手を取ってその場を離れた。

 

 一時間ほど水族館を楽しんでいると、突然、シアさんがギョッとしたようにとある水槽を二度見し、更に凝視し始めた。

 

 そこにいたのは……シーマ○だった。僕も、知っている某ゲームの人面魚そっくりだった。

 

「……な、なぜ彼がここに……」

 

 戦慄の表情でシアが一歩後退りする。○ーマンは、シアさんに気がついたのか水槽の中から同じように、彼女を気だるそうな表情で見つめ返した。訳のわからない緊迫感が生まれる。

 

 ふと、水槽の傍に貼り付けられていた解説が目に入る。ええっと……固有魔法の"念話"で会話が可能だけど滅多に話す事は無い……ちなみに、名称はリーマンだった。

 

『ええっと、こんにちはリーマンさん?』

 

 興味本位でリーマンに念話で話し掛けてみた。

 

 の目元が一瞬ピクリと反応する。そして、シアさんから視線を外すと、ゆっくりこちらを見返した。シアさんが、何故か勝った!みたいな表情をしてるけど……なんでだろ?

 

『……チッ、初対面だろ。まず名乗れよ。それが礼儀ってもんだろうが。全く、これだから最近の若者は……』

 

 ……それもそうだね。ミレディにも言われたし。

 

『……すみません。僕はハジメ。本当に会話出来るんだね。リーマンって言うは一体何なの?』

『……お前さん。人間ってのは何なんだ?と聞かれてどう答える気だ?そんなもんわかるわけないだろうが。まぁ、敢えて言うなら俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。あと名はねぇから好きに呼んでくれ』

 

 無駄にカッコイイなこの人?魚?わかんないや……ちょっと現実逃避気味に遠くを見る目をしていると、今度はリーマンの方から質問が来た。

 

『こっちも一つ聞きてぇ。お前さん、なぜ念話が出来る?人間の魔法を使っている気配もねぇのに……まるで俺と同じみてぇだ』

 

 やっぱり不思議に思われるよね……まぁ、念話の使える人なんてほぼほぼしないし、話しても大丈夫かな。

 

『食べる物が魔物しか無い時があってね、その時から使えるようになったんだよ』

『……若ぇのに苦労してんだな。よし、聞きてぇことがあるなら言ってみな。おっちゃんが分かることなら教えてやるよ』

 

 実際苦労はしたから、嘘では無い。ただ、人面魚に同情される人生って……と若干ヘコんだ。何とか気を取り直しつつ、リーマンに色々聞いてみる。例えば、魔物には明確な意思があるのか、魔物はどうやって生まれるのか、他にも意思疎通できる魔物はいるのか……リーマン曰く、ほとんどの魔物は本能的で明確な意思はないらしい。言語を理解して意思疎通できる魔物など自分の種族しか知らないようだ。また、魔物が生まれる方法も知らないらしい。

 

「ハジメさん、そろそろ行きませんか?人目が……」

 

 アルテナさんの声で我に帰ると、周囲の人が怪しげな目で僕達を見ていた。

 

 最後にリーマンが何故こんなところにいるのか聞いてみた。そして、返ってきた答えは……

 

『ん?いやな、さっきも話した通り、自由気ままな旅をしていたんだが……少し前に地下水脈を泳いでいたらいきなり地上に噴き飛ばされてな……気がついたら地上の泉の傍の草むらにいたんだよ。別に、水中じゃなくても死にはしないが、流石に身動きは取れなくてな。念話で助けを求めたら……まぁ、ここに連れてこられたってわけだ』

 

 ……完全に僕らのせいじゃん。い、いや、あれはミレディが僕らを流したから実質ミレディのせいだよね!

 

『……リーさん、えっと、その、ここから出たい?』

『?そりゃあ、出てぇよ。俺にゃあ、宛もない気ままな旅が性に合ってる。生き物ってのは自然に生まれて自然に還るのが一番なんだ。こんな檻の中じゃなく、大海の中で死にてぇてもんだよ』

 

 言葉に含蓄のあるリーマン。巻き込んだこんじゃったし……助けた方がいいよね。

 

『……リーさん。僕が近場の川に送り届けるよ。リーさんがこんな状況になったのは僕達の事情が関係してるんだ。数分後に迎えを寄越すから、信じて大人しく運ばれて』

『ハー坊……へっ、若造が、気ぃ遣いやがって……何をする気かは知らねぇが、てめぇの力になろうって奴を信用できないほど落ちぶれちゃいねぇよ。ハー坊を信じて待ってるぜ』

 

 リーさんと男臭い笑みを交わしあった後、シアさんとアルテナさんの手を引いてその場を離れる。

 

 その後、リーさんとシアさんとアルテナさんに念話で何か話してたけど何かは分からなかった。それからまたしばらくメアシュタットの中を観光して、ちょうど昼飯時になるところで一周して退場したのだった。 

 

 ちなみにリーさんはクロスビットを使って救出、近くの川に放流しておいた。

 

 




リーさんの事、好きな人おるんかな?感想お待ちしております。


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ハジメ、パパになるってよ

「よっと、v(。・ω・。)ドモハジメです」
「シアです!」
「アルテナ・ハイピストです」

「前回は僕とシアさん、アルテナさんとのデートだったね」
「まさか、あの人?とまた会うことになるとは思いませんでした……」
「私たちの所為であんな事になってしまったのはホントに申し訳ないですぅ……」
「アハハ……本人はあんまり気にしてないみたいだし大丈夫じゃない?」

「今回は……僕が父親に?どういう事?」
「「さ、さぁ?」」

「「「ハジメ、パパになるってよ!」」」


 Side ハジメ

 

 メアシュタット水族館を出て昼食も食べた後、僕達三人は、迷路花壇や大道芸通りを散策している。

 

「んぅ〜!美味しいですぅ!」

 モキュモキュ「〜〜♪」

 

 シアさんの腕には、露店で買った食べ物が入った包みが幾つも抱えられている。今は、バニラっぽいアイスクリームを美味しいに食べている。その隣でアルテナさんは焼き串を幸せそうな顔をしながら頬張っている。

 

「よく食べるね……そんなに美味しいの?」

「あむっ……はい!とっても美味しいですよ!」

「そんなに食べて大丈夫?太……ふくよかになっちゃうよ?」

「ハジメさん、オブラートに包みきれてないです……」

 

 隣でシアさんが『後で運動しますし……』とか『明日からは制限しなければ……』とか色々と聞こえてくる。

 

「ん?」

「どうかしましたか?ハジメさん」

「気配感知に反応があったんだけど……」

「気配感知なんて使ってたんですか?」

「何時も発動はしてるんだけど」

「う~ん?でも、何が気になるんです?人の気配って言っても……」

 

 シアさんは周囲を見渡して「人だらけですよ?」と首を傾げた。

 

「下水道に人の気配?しかも大きさからしたら子供、しかもかなり弱ってるみたいだけど……」

「ッ!?た、大変じゃないですか!もしかしたら、何処かの穴にでも落ちて流されているのかもしれませんよ!」

「あ!シアさん!ん、もぅ!ハジメさん!追いかけましょう、どっちですか!」

 

 シアさんが慌てて走り出し、アルテナさんと一緒にその後を追っていく。気配感知の反応は下から、しかもかなり弱っている。僕は二人を追い抜いて、路地裏に入って行く。

 

「二人とも!こっち!」

 

 僕の声を聞いて二人は急いで駆け寄ってくる。反応を追いながら街中を走る。

 

「……反応がちょっとだけ強くなってる?しかも下じゃなくて僕達と同じ位置に?」

 

 少し違和感を感じながらも、それを無視して走る速度を上げる。反応のある建物まで付いた頃には、シアさんとアルテナさんの息が上がりかけていた。

 

 二人の息が整うまで待ってから錬成で壁に穴を開ける。足を踏み入れようとした瞬間……

 

 ドパァン!「!?」

 

 乾いた破裂音が響いた。それが銃の発砲音と気づいたシアさんがドリュッケンで防いでくれた。そして、白いナニカが僕らの間を高速で抜けていった。

 

「クソ!逃げられ……ハジメ?」

「え?零斗?」

 

 悪態を付きながら建物から出てきた零斗、それに呆然とする僕。でも、どうしてここに……

 

「あー……お前達も下水道にあった反応を追ってたのか?」

 

 そう言いながら視線を泳がす零斗の後ろを見る。そこには気絶した女の子がいた。

 

「この子は……」

「海人族だ、恐らくだが奴隷として売られそうになっていたんだろうな……」

 

 女の子は見た目三、四歳くらいだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。

 

「ハジメ、この子の事しばらく頼んだ……俺は逃げたクソシラミ野郎をぶち殺してくる」

「え!?ちょ……行っちゃった……」

 

 それだけ言うと、物凄い速さで飛び出してしまった。唖然とする僕達を置いて行ってしまった。

 

「えっと……先ずは身体を身体をキレイにしなきゃだよね、怪我もしてるみたいだしそれも治して上げないとだね」

「では、私はこの子の替えの服を買ってきますね」

 

 アルテナさんが着替えを買いに行ってくれてる間に僕は錬成で簡易的な浴槽と桶を作る。宝物庫から綺麗な水を取り出してフラム鉱石を利用した温石を入れる。

 

 ある程度温まったらタオルをお湯に浸して絞る。それを少女の頭に被せるようにして拭いてあげる。すると、意識を取り戻したようで目をパチクリとさせた。

 

「あ、起きた?大丈夫だよ、怖くないよ」

 

 優しく話しかけると怯えていた表情が和らいでいった。

 

「あぁ、そうだお腹空いているだろうけど先にこのお薬と身体をキレイにしてから……ね?」

 

 コクンと小さく首を動かしてくれたのを確認して、ゆっくりと薬を飲ませる。飲み終わったところで、アルテナさんが戻って来たので一緒に服を着せてあげて、シアさんが買ってきていた串焼きを食べさせてあげた。その間もずっと僕の手を握って離さなかった。

 

「君、名前は?言える?」

「……ミュウ」

「そっか、良い名前だね……じゃあ、ミュウちゃん、何があったか教えてくれる?」

 

 優しく頭を撫でながら問いかける。震えながらもポツリポツリと話してくれた。

 

 要約すると、ある日、海岸線の近くを母親と泳いでいたらはぐれてしまい、彷徨っているところを人間の男に捕まったらしい。そして何日かしてフューレンまで連れてこられて、薄暗い牢獄の様な場所に入れたのだと言う。

 

 そこには、他にも人間族の幼子たちが多くいたのだとか。そこで何日か過ごす内、一緒にいた子供達は、毎日数人ずつ連れ出され、戻ってくることはなかったという。少し年齢が上の少年が見世物になって客に値段をつけられて売られるのだと言っていたらしい。

 

 いよいよ、自分の番になったところで、その日たまたま下水施設の整備でもしていたのか、地下水路へと続く穴が開いており、懐かしき水音を聞いたミュウは咄嗟にそこへ飛び込んだ。三、四歳の幼女に何か出来るはずがないとタカをくくっていたのか、枷を付けられていなかったのは幸いだった。汚水への不快感を我慢して懸命に泳いだミュウ。幼いとは言え、海人族の子だ。通路をドタドタと走るしかない人間では流れに乗って逃げたミュウに追いつくことは出来なかった。

 

 だが、慣れない長旅に、誘拐されるという過度のストレス、慣れていない不味い食料しか与えられず、下水に長く浸かるという悪環境に、遂にミュウは肉体的にも精神的にも限界を迎え意識を喪失した。そして、身体を包む暖かさに意識を薄ら取り戻し、気がつけば僕に身体を洗われていたらしい。

 

(零斗の言ってた通り、奴隷にされそうだったんだ……)

 

 その話を聞いたシアさんは怒りに肩や拳を震わせ、アルテナさんも心底嫌悪しているようだ。

 

「……ハジメさん、どうしますか?」

 

 アルテナさんがミュウを抱きしながら聞いてきた。亜人族は、捕らえて奴隷に落とされるのがこの世界の常識だ、その恐怖や辛さは、シアさんもアルテナさんも家族を奪われていることからも分かるのだろう。

 

「……保安署に預けよう」

「そんなっ……この子や他の子達を見捨てるんですか……」

 

 シアさんの言葉には悔しさが滲み出ていた。確かに、このまま放っておくことは出来ない。でも、だからと言って、僕達がこの子を連れて行くことも出来ない。

 

 ここで感情的になって行動すれば、この子を傷付けてひまう。それは絶対にダメだ。僕達は、正義の味方じゃないんだから。

 

「……今の僕達が出来ることは、保安所に任せることだけだよ」

「……わかりました」

「ミュウちゃん、これから君を守ってくれる人達の所へ連れて行く。時間は掛かるだろうけど、いつか西の海にも帰れる筈だよ」

「……お兄ちゃんとお姉ちゃん達は?」

 

 僕の服の袖を掴みながら上目遣いでそう尋ねてくる。

 

「……ごめんね、そこでお別れだよ」

「やっ!」

「えっとね、僕達に付いてくると危ないんだよ?怖い人もいっぱいいるから、君のお母さんを探すどころじゃ無くなっちゃうかもだしさ」

「それでもいい!お兄ちゃん達と行く!」

 

 思いのほか強い拒絶が返ってきてちょっとびっくりした。ミュウは、駄々っ子のようにシアの膝の上でジタバタと暴れ始めた。可笑しいな……さっきまでは警戒してた筈なんだけど、急に懐かれちゃった……

 

 どっちにしろ公共機関への通報は必要だし、大迷宮の『大火山』の攻略もしないとだけど、ミュウを連れては無理だろうし……説得は無理だろうし、強引にでも保安署に預けよう。

 

 ──────────────────

 

「す、すみません……」

「はい、なんで……は?」

 

 僕の姿を見ると受付のお姉さんが固まってしまった。ミュウを預けに来ただけなのに…… シアさんとアルテナさんの二人も、苦笑いを浮かべている。

 

 髪はボサボサだし、頬に引っかき傷が出来てるし、そんな姿で保安署に到着して、いきなりの応対がこれだもん仕方ないか……。

 

 事情を聞いた保安員は、表情を険しくすると、今後の捜査やミュウの送還手続きに本人が必要との事で、ミュウを手厚く保護する事を約束しつつ署で預かる旨を申し出てくれた。

 

「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」

 

「うぐっ……」

 

 

 涙を溜めながら訴えかけて来る瞳を見てしまえ平常心を保てる人はそうはいない、ましてや、それが幼女なら尚更だ。

 

 僕は、ミュウに対してとても酷いことを言ってしまった自分を情けなく思った。それから、旅には連れて行けないこと、眼前の保安員の人に任せておけば家に帰れる事を根気よく説明するが、ミュウの悲しそうな表情は一向に晴れなかった。

 

 見かねた保安員達が、ミュウを宥めつつ少し強引に僕達と引き離し、ミュウの悲しげな声に後ろ髪を引かれつつも、ようやく保安署を出た。当然、そのままデートという気分ではなくなり、シアさんは心配そうに眉を八の字にして、何度も保安署を振り返っていた。

 

「……お母さんにお会い出来るといいですね」

「……うん」

 

 アルテナさんの言葉に短く返す。アルテナさんも思うところがあるのか、それ以上言葉を続ける事はしなかった。しばらく歩いて保安署からかなり離れた場所に来たころ、未だに沈んだ表情のシアさんに何か声をかけようとした。と、その瞬間……

 

 ドォガァアアアン!!!!

 

 背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は……

 

「ハ、ハジメさん。あそこって……」

「保安署!」

 

 黒煙の上がっている場所は、間違いなく先程までいた保安署のあった場所だった。二人を置いて保安署に駆け戻る。

 

 焦る気持ちを抑えつけて保安署にたどり着くと、表通りに署の窓ガラスや扉が吹き飛んで散らばっている光景が目に入った。建物自体はさほどダメージを受けていないようで、倒壊の心配はなさそうだった。中に踏み込むと、対応してくれた男の保安員がうつ伏せに倒れているのを発見する。

 

 両腕が折れて、気を失っているようだ。他の職員も同じような感じだ。幸い、命に関わる怪我をしている者は見た感じではいなさそうである。

 

「ミュウ!!」

 

 思わず叫んでしまったが、返事はない。

 

「ハジメさん! ミュウちゃんがいません! それにこんなものが!」

 

 シアさんが手渡してきたのは、一枚の紙。そこにはこう書かれていた。

 

 

 〝海人族の子を死なせたくなければ、白髪の兎人族と森人族を連れて○○に来い〟

 

「ハジメさん、これって……」

 

 シアさんの不安げな視線に、僕も首を縦に振る事しかできなかった。

 

「ハジメさん!私!」

「うん、分かってるよ……ミュウを誘拐した連中は僕らの敵だ、容赦は必要無い。全員殺してでもミュウを取り返そう」

 

 シアさんは僕が言うまでもないだろう。もう既に目つきが変わっていて、殺意に満ちている。アルテナさんも無言でコクリと首肯する。

 

 ミュウを誘拐した奴らへの怒りもあるが、そもそもの発端は、僕の慢心が原因だ。ミュウを攫われる事も予想出来たはずだ。自分の迂闊さが許せない。どんな手を使ってでも必ず助け出す。

 

(……ォ…………ォ…………)

 

 今、誰かの声のような物が聞こえた気がした。周りを見渡しても誰も居ない。

 

「ん?人の声?」

 

 アルテナさんも不思議そうにしている事から、僕だけでなくシアさんとアルテナさんにも聞こえていたみたいだ。

 

「気のせいかな?」

「いえ、確かに聞こえましたけど……」

 

 シアさんは耳が良いから僕よりはっきりと分かったのかもしれない。

 

「……ォ…………ァ…………ゅ……」

 

 また、微かにだけど聞こえた。今度は聞き間違いじゃないと思う。アルテナさんも同じように認識しているのか、周囲を警戒するようにキョロキョロと見回していた。

 

 ドゴォォォォォン!!

 

 突然、建物が揺れるような大音響が鳴り響き、黒い物体が天井を破壊して落下してきた。落下地点を見ると……世界一有名な噛ませ犬キャラのやれ方と同じ体勢で地面に埋まっている何者かがいた。咄嵯に臨戦態勢を取る、けどすぐに緊張を解く事となった。

 

「あの野郎……痛てぇ……」

「れ、零斗?」

 

 見慣れた顔の男が瓦礫を押し退けながら起き上がってきたのだ。

 

「な、なんで空から……」

「あのシラミ野郎を追ってたらいきなり二万フィートくらい上空に転送されてな……」

 

 服に付いた汚れをはたきながら説明する零斗。というかよく、二万フィート(六〇〇〇メートル強)まで飛ばされたのに生き残ってるよね。その後は、そのまま地上へ自由落下し、現在に到るという訳らしい。

 

「擬態とか使って浮遊とかしなかったの?」

「転送と同時に毒か何かを打ち込まれたらしくてな……ちょいと能力の一部が使えなくてな」

 

 零斗はそう言うと変化の時と同じように黒い霧が立ち上るがすぐ様霧散して消えてしまった。どうやら、本当に能力は使えない状態のようだ。

 

「それ大丈夫なの?」

「あぁ、問題ない。あと数分もすれば解毒できる……さて、次はそっちの番だ。一体、何があった」

 

 おちゃらけた口調から一転して真剣な声色に変わった零斗。僕は、とりあえず事情を説明する事にした。僕達の話を黙って聞いていた零斗は、状況を理解してくれたようだ。

 

「……なるほど、確かここら辺で巨大な組織かつ、人身売買が主体だとすると……〝フリートホーフ〟だな」

「あ、知ってるんだ」

「まぁな、教授がこの世界の裏組織全般を把握してるし、八割がた支配してみたいだしな」

 

 流石は犯罪界のナポレオンだね……というか、その言い方だと残りの二割の組織は壊滅状態に追い込まれているような……。

 

「とりあえずは指示された場所に行ってそこにいるであろう奴らを拷問してアジトの場所でも聞き出すか」

 

 淡々と凄い事を言うなぁ……とにかく今はミュウを救出する事が最優先事項だ。

 

 

 




ダディなら裏組織を八割がた支配出来そう……なんなら全部してても違和感ないよ()


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ハジメ、パパになるってよ2

「よいしょと、│ᐛ )۶ハロお馴染みの零斗さんだ」
「ハジメです」
「アルテナ・ハイピストです」

「さて、前回はミュウちゃんが誘拐されたな……さぁて、犯人共は血祭りにしなきゃな」
「お、落ち着いてください、レイトさん……あぅ、殺気が凄い……」
「ここまでキレてる零斗は初めて見るかもしれない……」

「今回はミュウちゃんの奪還だ、楽しんでくれ」

「「「ハジメ、パパになるってよ2!」」」


 Side 三人称

 

 フューレンの何処かにある、裏オークション会場。

 

 会場の客はおよそ百人ほど。その誰もが奇妙な仮面をつけており、物音一つ立てずに、ただ目当ての商品が出てくるたびに番号札を静かに上げるのだ。素性をバラしたくないがために、声を出すことも躊躇われるのだろう。

 

「五十二番の方、お買い上げありがとうございます。それでは皆さん、本日のメイン商品をご紹介しましょう!」

 

 出てきたのは二メートル四方の水槽に入れられた海人族の幼女……ミュウだ。衣服は剥ぎ取られ裸で入れられており、水槽の隅で膝を抱えて縮こまっている。

 

「…………」ギュ

 

 多くの視線に晒され怯えるミュウを尻目に競りは進んでいく。ものすごい勢いで値段が上がっていく。ざわつく会場に、ますます縮こまるミュウ。

 

「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」

 

 ミュウがそう呟いたとき、不意に大きな音と共に水槽に衝撃が走った。

 

「ひぅ!」

 

 怯えたように眉を八の字にして周囲を見渡すミュウ。すると、すぐ近くにタキシードを着て仮面をつけた男が、しきりに何か怒鳴りつけながら水槽を蹴っているようだと気が付く。

 

 どうやら更に値段を釣り上げるために泳ぐ姿でも客に見せたかったらしく、一向に動かないミュウに痺れを切らして水槽を蹴り飛ばしているらしい。

 

『もうしばらくの辛抱だ、お嬢ちゃん……すぐに助けが来るから』

「え?」

 

 突然、脳内に男の声が響く。未体験の現象に恐怖の涙を浮かべながら、ミュウはキョロキョロと水槽の中を見回す。

 

『上だよ、お嬢ちゃん』

「上?」

 

 声の言った方向を見ると、真っ黒な格好をした人間が逆さまの状態で天井にぶら下がっているのが見えた。その人物はヒラヒラと手を振っていた……あまりにも緊張感がない男だ。何かを言おうとするミュウに男は人差し指を唇に当てる。ミュウはパッと片手で自分の口を押さえた。

 

「全く、辛気臭いガキですね。人間様の手を煩わせているんじゃありませんよ。半端者の能無しのごときが!」

 

 司会の男の言葉で意識を無理やり引き起こされる。司会の男が脚立に登り上から棒をミュウ目掛けて突き降ろそうとした。その光景にミュウはギュウと目を瞑り、衝撃に備える。

 

「ドンタッチチャイルド!!!!」

 

 怒声と衝撃音が会場に響き渡る。司会の男が脚立ごとミンチよりひでぇや状態になる。突然司会が死んだことに、客席からちらほらと悲鳴が上がった。

 

「……流石にやり過ぎたな」

 

 服に付いた返り血を拭きながら、ミュウの入っている水槽に近ずいて行く黒ずくめの男。そのまま、水槽を殴る。破砕音と共に水槽が壊され中の水が流れ出す。

 

「ひゃう!」

 

 流れの勢いで、ミュウも外へと放り出された。直後ふわりと温かいものに受け止められて、瞑っていた目を恐る恐る開ける。

 

「初めまして、可愛らしいお嬢さん」

「……誰?」

「俺はハジメ達の仲間だ。助けに来たんだ」

 

 ハジメ達の名前を聞いて、顔を輝かせるミュウ。それを見た零斗はミュウの頭を優しく撫でる。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

 ミュウの保護を完了し、後はこの場にいる全員の始末だけだな……

 

「ミュウ、これを耳に付けて。それと俺が大丈夫って言うまで目つぶっててくれるかい?」

「みゅ?」

 

 ミュウの様なヒレ耳の人物でも付けれるヘッドホンを手渡して、装着したのを確認して、魔改造スマホで音楽をかける。

 

「!!──♪」

 

 流した曲が気に入ったのか鼻歌交じりで目を閉じてくれた。うん、可愛い。

 

「さて……初めまして、他者を踏み躙ることでしか生を謳歌できぬ獣の諸君。今宵、披露いたしますは世にも珍しい、人間解体ショーになります、お代は演目に参加頂く、貴様らの薄汚れたゴミのような命と身体になります……では、心ゆくまでご堪能ください」

 

 俺の異様な雰囲気に怯えたのか、悲鳴を上げ我先にと外に出ようとした。

 

「おやおや、主役が逃げてはつまらないでしょう?」

 

 繰糸で足を縛り、その場から動けないようにする。先ほど以上の怒号が飛び交い、情けない悲鳴がそれを彩る。

 

「『召喚』……『上位アンデッド 腐食喰らい(コラプトイーター)』。好きなだけ喰え、亡者達」

『ヴァァァァァァ!!!』

 

 召喚したアンデッド達は継ぎ接ぎだらけで、腕や足はもはや原型を留めているのがやっとの程に腐敗している。

 

「イ、イヤァァァ!!」

「か、金なら腐るほどある、好きなだけやる!だから助けてくれ!!」

「ふざけるな!何故、私の様な素晴らしい者をこの世から消す事など……許される筈がない!!」

 

 口々に情けない悲鳴やら、命乞いの言葉を発するが聞き入れる必要も気も無いのでガン無視を決め込み、喰われていく様を眺める。

 

「さて、ゴミ掃除も終わった事だし、そろそろ行くか。ミュウ、もう良いよ」

「んみゅ、もういいの?」

「うん、いいよ」

 

 ミュウの頭を撫でながら、オークション会場を出る。入口付近にはハジメが待機していた。ミュウの顔を見るとホッとした表情になり、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「ミュウ……よかった、無事でよかった……」

「お兄ちゃん!!」

 

 ハジメの首元にギュッウ~と抱きついてひっぐひっぐと嗚咽を漏らし始めた。ハジメはミュウの背中をポンポンと叩く。

 

「……ごめんね、怖い思いさせちゃって」

「ううん……ミュウ、へいきだったよ」

 

 涙声で答えるミュウに微笑むハジメ。

 

「ハジメ、首尾は?」

「問題ないよ」

「なら、ここから離脱だな」

 

 ミュウはハジメに任せて、ポケットからリモコンを取り出し、スイッチを押す。背後で爆発音と建物が倒壊する音が聞こえてくるが……キニシナイーキニシナイー

 

 ──────────────────────────

 

「倒壊した建物二十二棟、半壊した建物四十四棟、消滅した建物五棟、死亡が確認されたフリートホーフの構成員九十八名、再起不能四十四名、重傷二十八名、行方不明者百十九名……で? 何か言い訳はあるかい?」

「……特にないな」

 

 報告書片手にジト目で睨んでくるイルワさん。俺の回答を聞いた瞬間、ちょっとだけ老けた様に見える。

 

「ん〜♪」

「ンッ!!」(尊死)

「……可愛すぐる」

 

 後ろの方でエト達ミュウの可愛いさにやられている。エトが胸を抑えながら尊死し、ユエがむぎゅ~と音がしそうなほどキツく抱きしめ、ミレディとティオが微笑ましいそうにしている。

 

「自由だねぇ……羨ましいよ」

「苦労してんねぇ」

「君達のおかげでね……」

 

 イルワさんの片手が自然と胃の辺りを撫でさすり、傍らの秘書長ドットが、さり気なく胃薬を渡した。

 

「……まぁ、やり過ぎたとは思ってるよ」

「全くだよ……だが、私達も裏組織に関しては手を焼いていたからね……今回の件は正直助かったといえば助かったとも言える。彼等は明確な証拠を残さず、表向きはまっとうな商売をしている」

「それに、違法な現場を抑えても、トカゲの尻尾切りだったんだろ?アンタ達のやり方じゃ、あんな連中の根絶なんざ無理だ」

「……随分とバッサリ言ってくれるね」

「ま、安全かつ確実にやる分にゃ、問題は無いが……救えない命が増えるだけだ」

 

 俺の言葉にイルワさんもドット秘書長も苦虫を噛み潰したよう表情になる。

 

「……別にアンタらが悪いどうこうの話じゃないさ、向こうが上手だったてだけだ」

「そう言ってくれると、ありがたいよ」

 

 苦笑いを零しながら話すイルワさん。ま、俺のやり方じゃ、必要の無い犠牲まで出かねんからなぁ……一概にこれがいいとは言えないんだよな。

 

「それで、そのミュウ君についてだけど……」

「それについてはもう決まっています」

「みゅ?」

 

 エトに髪をいじられてたミュウは、自分のことだと察したのかハジメの方を見る。ちょっぴり不安そうな顔だ。

 

「僕達が責任持って、この子を親元まで届けます」

「お兄ちゃん!」

 

 満面の笑みで喜びを表にするミュウ。【海上の都市エリセン】に行く前に【大火山】の大迷宮を攻略しないいけないが……まぁ、何とかするか。

 

「後、ミュウちゃん、その呼び方なんだけど……お兄ちゃんじゃなくて別のにしない?」

「……? なんで?」

「気恥ずかしいというかなんというか。できれば変えて欲しいんだけど……」

 

 ハジメの要求に、ミュウはしばらく首をかしげると、やがて何かに納得したように頷き……ハジメどころかその場の全員の予想を斜め上に行く答えを出した。

 

「……パパ」

「………………え?」

「ブフッ!」

「ごめん、ミュウ。よく聞こえなかったから、もう一回お願い」

「パパ」

 

 アハー↑まさかパパ呼びなのかよ。ハジメがものすごい剣幕で睨んでくるが、この状況を笑わないのは無理だろ。

 

「クフ……良かったな、ハジメ。フフ……それだけ慕われてるって事だろ?」

「相変わらず堪えきれて無いぞ!零斗ォ!」

 

 殴り掛かってくるハジメと取っ組み合いをしていると、シアがミュウに何故『パパ』なのか聞いていた。

 

「ミュウね、パパいないの……ミュウが生まれる前に神様のところにいっちゃったの……キーちゃんにもルーちゃんにもミーちゃんにもいるのにミュウにはいないの……だからお兄ちゃんがパパなの」

「何となくわかったけど、色々とツッコミたい。ミュウ。お願いだからパパは勘弁して。僕は、まだ十七なんだよ?」

「やっ、パパなの!」

「わかった。もうお兄ちゃんでいい! 贅沢はいわないからパパは止めて!」

「やっ──!! パパはミュウのパパなのー!」

 

 その後、あの手この手でミュウの〝パパ〟を撤回させようと試みるが、ミュウ的にお兄ちゃんよりしっくり来たようで意外なほどの強情さを見せて、結局、撤回には至らなかった。

 

 ちなみにこの後は、誰がミュウに『ママ』と呼ばせるか争っていた(エト以外)が取り敢えず、ミュウに悪影響が出そうなティオだけは縛り付けて床に転がしておいた。当然、興奮していたが……

 

 結局、『ママ』は本物のママしかダメらしく、ユエもシアもアルテナも一応ティオも『お姉ちゃん』で落ち着いた。

 

 ────────おまけ────────

 

「ミュウ、俺は?」

「ん〜……レイおじちゃん!」

「コフッ……」

 

 まさかのおじちゃん……いや、まぁ、実年齢だとオッサンだけど……予想以上にダメージが大きい。

 

「せめて、兄さん……」

「おじちゃん!」ニコー

「……もう、おじちゃんでいいや」

 

 この子、自分の可愛いさ、理解して行動してるよ……末恐ろしいよ、ホントに……

 

「よろしくお願いしますね?お義父さん?」

「おう、世話になるぞ……息子くん?」

「「……違和感しか無いな(ね)この呼び方」」

「何をしてるんですか、貴方達は……」

 

 

 

 

 




零斗君は子供好き……というか、子供の成長過程と笑顔がすき。決してロリコンでは無い。


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異常事態

「よっと、ドモー(。・ω・)ノ柊人です」
「悠花です!」
「八重樫です」

「前回はミュウちゃんの救出と畜生共の処理だったね」
「ここの歴史が地球の中世ヨーロッパ辺りで止まってるから、ある程度の予想はしてたけど……」
「えぇ、実際に目の当たりにするとなると、あれが人間の所業とは思えない程の事よね……」

「……今回はオルクス大迷宮の探索の続きだよ、楽しんでね」

「「「異常事態!」」」


 Side 三人称

 

 淡い緑色の光だけが頼りの薄暗い地下迷宮に、激しい剣戟と爆音が響く。

 

 その激しさは、苛烈と表現すべき程のもので、時折、姿が見えない遠方においても迷宮の壁が振動する程だ。

 

「シッ!」

 

 鋭い呼吸と共に、空を飛び交う十匹以上のコウモリ型の魔物を一瞬で細切れとなり、碌な攻撃も出来ずに血肉を撒き散らしながら地に落ちた。

 

「後衛組、十秒後に中級魔法を敵陣中央に放ちなさい」

「「「「「「了!」」」」」」

 

 ギチギチと硬質な顎を動かす蟻型の魔物、空を飛び交うコウモリ型の魔物、そして無数の触手をうねらせるイソギンチャク型の魔物。それらが、直径三十メートル程の円形の部屋で無数に蠢いていた。

 

 厄介な飛行型の魔物であるコウモリ型の魔物が、前衛組の隙を突いて後衛に突進するが、頼りになる『結界師』が城壁となってそれを阻む。

 

「刹那の嵐よ 見えざる盾よ──『爆嵐壁』!」

「ギィィィィ!」

 

 結界師……谷口鈴の放った攻勢防御魔法より、目に見えぬ壁が展開されて突撃してきたコウモリ型を吹き飛ばした。だが、その一撃では倒しきれずに、後方にいたイソギンチャク型の魔物達が触手を伸ばしてくる。

 

「せらァ!」

 

 そこに飛び込んで来たのは、脳筋熱血ゴリラこと坂口龍太郎だ。迫っていた数本の触手を二本の腕力のみで薙ぎ払い、魔物を殴り飛ばす。それだけで肉体を粉砕されたものもいれば、一気に迷宮の壁まで吹き飛ばされてグシャ!という生々しい音と共に迷宮壁のシミとなった。

 

「後退!」

 

 柊人の号令と共に、前衛組が一気に魔物達から距離を取る。次の瞬間、完璧なタイミングで後衛六人の攻撃魔法が発動した。

 

 巨大な火球が、風の刃の嵐が、石の棘が、水柱が魔物の命を奪っていく。

 

「デカいの一発行っくよー!」

「ちょ!?悠花!」

 

 一際大きな轟炎が巻き上がり、地上にいた魔物が全て消し炭となる。その余波で迷宮が大きく揺れた。うん、トンデモねぇ威力してんね。

 

「あちゃ〜やっちゃった……」

「また貴方は!私達の魔力では、初級魔法だとしても下手をすれば最上級魔法クラスの威力になりかね無いです!!」

「ひぃ〜!ごめんなさーい!」

 

 額に手を当てて溜め息をつく柊人に対し、正座になって謝る悠花。

 

「ハァ……兎も角、次の階層で九十層となります。この階層の魔物も難なく撃破出来ましたが、気を抜かずに参りましょう」

 

 その言葉に全員が力強く首肯して応えた。

 

「カッオリ~ン!鈴の事、癒して~! ぬっとりねっとりと癒して~」

「ひゃわ! 鈴ちゃん! どこ触ってるの! っていうか、鈴ちゃんは怪我してないでしょ!」

「してるよぉ! 鈴のガラスのハートが傷ついてるよぉ! だから甘やかして! 具体的には、そのカオリンのおっぱおで!」

「お、おっぱ……ダメだってば!あっ、こら!やんっ!雫ちゃん、助けてぇ!」

「なぁに、楽しそうな事してるんだー!私も混ぜろ〜!」

「ちょ、悠花ちゃん!?」

 

 ただのおっさんと化した鈴が、人様にはお見せできない表情でデヘデヘしながら香織の胸をまさぐり、何を思ったか悠花も混ざり、香織の胸を揉みしだく。

 

「ハァハァ、ええのんか?ここがええのんか?お嬢ちゃん、中々にびんかッへぶ!?」

「へぇ、ここga……うわばっ!」

「……はぁ、いい加減にしなさい、鈴」

「貴方もですよ、悠花。男性陣が軒並み、立てなくなってしまったじゃありませんか……」

 

 セクハラ親父と化した2人が柊人と雫の脳天チョップを食らって撃沈した。ついでに、鈴と悠花、香織の百合百合しい光景を見て一部男子達も撃チンした。頭にタンコブを作ってピクピクと痙攣している鈴と悠花を、何時ものように中村恵里が苦笑いしながら介抱する。

 

「うぅ~、ありがとう、雫ちゃん。恥ずかしかったよぉ……」

「よしよし、もう大丈夫。変態共は私達が退治したからね?」

 

 涙目で自分に縋り付く香織を、雫は優しくナデナデした。最近よく見る光景だったりする。

 

「……後、十層で一旦の目標である、百階層ですね」

「……今なら、守れるよね」

 

 そう呟いた香織の声には、強い意志が込められているように聞こえた。

 

「うん、香織ちゃんなら、きっと守れるよ」

 

 そんな香織の手を握りながら、悠花が力強く断言した。それは根拠のない発言ではなく、ただ真っ直ぐに向けられた信頼の言葉であり、だからこそ、どんな言葉よりも強く、深く、心に響いた。

 

「……うん!」

 

 その手に込められた確かな温もりを感じつつ、しっかりと前を見据え、笑みを浮かべて応える。

 

「それでは、行きましょうか」

 

 柊人の掛け声に合わせて、一同は再び歩き出す。

 

 ちなみに、この場にいるのは柊人、悠花、天之河、龍太郎、雫、香織、鈴、恵里の他、永山重吾を含める五人及び檜山達四人の十七人であり、メルド団長達は七十層で待機している。七十層を越えた辺りから能力的に柊人達に追随することができなくなってしまった。

 

 ちなみに雫達のステータスはこうなっている。

 

 ==================

 

 八重樫雫 17歳 女 レベル:61

 

 

 天職:剣豪

 

 称号:恋する乙女

 

 筋力:20651

 

 体力:26826

 

 耐性:14507

 

 敏捷:41896

 

 魔力:15674

 

 魔耐:15674

 

 技能:剣術[+斬撃速度上昇][+抜刀速度上昇]・抜刀術[+抜刀速度上昇]・縮地[+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読・気配感知・隠業[+幻撃]・言語理解・N-Ⅰ型強化細胞

 

 ==================

 

 

 ==================

 

 

 白崎香織 17歳 女 レベル:53

 

 天職:治癒師

 

 称号:ヤンデレ スタンド使い?

 

 筋力:26760

 

 体力:24188

 

 耐性:29676

 

 敏捷:18675

 

 魔力:45670

 

 魔耐:45670

 

 技能:回復魔法[+効果上昇][+回復速度上昇][+イメージ補強力上昇][+浸透看破][+範囲効果上昇][+遠隔回復効果上昇][+状態異常回復効果上昇][+消費魔力減少][+魔力効率上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動][+付加発動]・光属性適性[+発動速度上昇][+効果上昇][+持続時間上昇][+連続発動][+複数同時発動][+遅延発動]・棒術・高速魔力回復[+瞑想]・言語理解・L-Ⅱ型強化細胞・スタンド?[+般若][+威圧]

 

 ==================

 

 両者ともステータスの伸びが凄まじい。特に、香織の回復魔法と光属性魔法が極まっていた。特に回復魔法の方が、それはもう、物凄い感じで極まっていた。

 

「……次で九十層……だね」

「油断せずに行きましょう……何が起きるか分かりませんから」

 

 全員が同意を示し、気を引き締めて歩を進める。出発してから十分程で一行は階段を発見した。トラップの有無を確かめながら慎重に薄暗い螺旋階段を降りていく。体感で十メートルほど降りた頃、遂に柊人達は九十層に到着した。

 

 見た目、今まで探索してきた八十層台と何ら変わらない作りのようだった。さっそく、マッピングしながら探索を開始する。

 

「…………」

「どうしたんですか、八重樫さん?」

「いえ、何やら嫌な予感がして……」

 

 ふと雫が立ち止まったので、心配になった柊人が声をかけた。しかし、返ってきた答えは要領を得ないものだった。

 

 探索を開始して二時間近く経過した頃……

 

「なんで、ここまでの道で魔物と遭遇しなかったの……?」

 

 雫が、ふと思った疑問を口にした。そして、それには全員に思い当たる節があった。そうなのだ。これまでの階層では必ず何処かに魔物がいた。それなのに、この九十層に入ってから、ただの一回も魔物と遭遇していな。

 

「魔物が一匹もいないなんて、あり得んのか……?」

 

 龍太郎の呟きが、静寂に包まれた空間に木霊する。

 

「……ここは一度引きましょう。メルド団長ならこういう事態を知っているかもしれません」

 

 柊人はそう言って、踵を返した。不意に、辺りを観察していたメンバーの何人かが何かを見つけたようで声を上げた。

 

「これ……血……だよな?」

「薄暗いし壁の色と同化してるから分かりづらいけど……あちこち付いているよ」

「おいおい……これ……結構な量なんじゃ……」

 

 そのメンバー達が指差す方には赤黒い染みのようなものが多数付いていた。悠花が壁の前に移動し、壁についた血に触れた。

 

「まだ、真新しいね……固形化具合からして、それほど時間は経って無いみたいだね」

 

 悠花の言葉で更に不穏な空気が流れた。

 

「些か不自然ですね」

「どういう事?」

 

 柊人の言葉を聞いた香織が尋ねた。

 

「ここに来る時に魔物とは一度も接敵していません、戦闘形跡さえもありませんでした。それなのに、この場には魔物の物と思われる血痕に爪痕……」

「この空間にしか痕跡が無かったのは……隠蔽が間に合わなかったか、もしくは……」

「そう、ここが終着点という事さ」

 

 悠花の言葉引き継ぎ、突如、聞いたことのない女の声が響き渡った。男口調のハスキーな声音だ。

 

「柊人、気配は?」

「ありませんでした……完全に消されているようです」

 

 悠花の質問に対して、警戒しながら周囲を見渡すも、そこには誰もいなかった。

 

「そろそろ姿を見せてはどうです?」

 

 コツコツと靴を鳴らし、燃えるような赤い髪を揺らして現れた。一見して人間の女のようであった。だが浅黒い肌はまだしも、通常の人間ならばありえない尖った耳をしている。

 

「何時かは対峙するとは思っていましたが……少しばかり御早い登場ですね」

「……魔人族」

 

 誰かの発した呟きに、魔人族の女は薄らと冷たい笑みを浮かべた。

 

 

 




今回はちょっこと短めでした。感想お待ちしております。


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VS 魔人族

「よっと、ドーモ(。・ω・)ノ柊人です」
「悠花です!」
「八重樫雫です」

「前回は迷宮攻略と初の魔人族との接触でしたね」
「……魔人族」
「ほとんど私達、人間と変わらない見た目だったね」
「……うん」
「魔人族との全面戦争となれば、あれらを殺す事になるんですね……まぁ、僕にとっては関係の無い事ですけどね」

「今回は魔人族との戦闘だよ……楽しんでいってください」

「「「VS 魔人族!」」」


 Side 柊人

 

 現れた魔人族の女は冷ややかな笑みを口元に浮かべながら、僕達を観察するよう様な視線を向けてくる。

 

 外見は瞳の色は髪と同じ燃えるような赤色で、服装は艶のない黒一色のライダースーツのようなものを纏っている。

 

「勇者はあんたでいいんだよね? そこのアホみたいにキラキラした鎧着ているあんたで」

「あ、アホ……う、煩い! 魔人族なんかにアホ呼ばわりされるいわれはないぞ! それより、なぜ魔人族がこんな所にいる!」

 

 ……なんだろう、敵じゃなければ普通に仲良く出来そうなタイプの人かもしれない。

 

 魔人族の女は、煩そうにし質問を無視すると心底面倒そうに言葉を続ける。

 

「はぁ~、こんなの絶対いらないだろうに……まぁ、命令だし仕方ないか……あんた、そう無闇にキラキラしたあんた。一応聞いておく。あたしらの側に来ないかい?」

「な、なに? 来ないかって……どう言う意味だ!」

「呑み込みが悪いね。そのまんまの意味だよ。勇者君を勧誘してんの。あたしら魔人族側に来ないかって。色々、優遇するよ?」

 

 魔人族はこちらに向けて妖艶な笑みを浮かべる。

 

「断る! 人間族を……仲間達を……王国の人達を……裏切れなんて、よくもそんなことが言えたな! やはり、お前達魔人族は聞いていた通り邪悪な存在だ! わざわざ俺を勧誘しに来たようだが、一人でやって来るなんて愚かだったな! 多勢に無勢だ。投降しろ!」

 

 

 無駄な正義感丸出しで叫ぶ。それを聞いた瞬間、僕は頭を抱えて盛大にため息をつく。すると、近くにいた悠花や浩介も似たような表情をしていることに気づく。

 

 天之河的には正義の味方っぽい感じでカッコイイと思っているんだろうけど……やっぱり残念すぎる……しかし、当の本人は正義のヒーロー気分の様で大変気持ち悪い……

 

「一応、お仲間も一緒でいいって上からは言われてるけど? それでも?」

 

「答えは同じだ! 何度言われても、裏切るつもりなんて一切ない!」

 

 天之河は剣を構えながらキッパリと言い切った。

 

「はぁ……せっかく魔人族側の情報を得るチャンスだったのになぁ……」

 

 悠花は小さく呟く。まぁ、確かにそれは惜しかったとは思う。

 

「そう。なら、もう用はないよ。あと、一応、言っておくけど……あんたの勧誘は最優先事項ってわけじゃないから、殺されないなんて甘いことは考えないことだね。ルトス、ハベル、エンキ。餌の時間だよ!」

 

 魔人族の女が三つの名を呼ぶのと、破砕音と共に、八重樫さんと永山重吾が苦悶の声を上げながら吹き飛んだ。

 

 二人を吹き飛ばしたものの正体はライオンの頭部に竜のような手足と鋭い爪、蛇の尻尾と、鷲の翼を背中から生やす奇怪な魔物だった。言うなればキメラと言った所だろうね。

 

「……遅い」

 

 倒れていた八重樫さんに追撃を掛けようとしていたキメラをバラバラに切り裂く。万が一再生しても困るので、再生出来ぬ様に切り裂いた肉片を炭化するまで燃やす。永山重吾の方を見ると、悠花が対応していた。

 

「大丈夫ですか?」

「えぇ……ありがとう。助かったわ」

 

 八重樫さんの無事を確認してから、魔人族の方に向き直ると、魔人族の女は不機嫌そうに顔を歪めていた。

 

「おやおや、綺麗な顔が酷く歪んでいますね?」

 

 僕の言葉に魔人族の女の眉間にシワが深く刻まれる。さっきまでの余裕のある態度ではなく、明らかに苛立っている様子だ。

 

「まぁ、僕が干渉するのはここまでなので……好きにして構いません」

「どういう事だ?!柊人!!」

 

 僕の言葉を聞いて、声を上げたのは天ノ河だった。

 

「……そのままの意味ですが?僕からすれば、君が死のうが正直どうでもいいですし。そもそもこの程度の敵で苦戦する様なら戦争で生き残る事など無理でしょう……だから、貴方達の力だけで突破してみなさい」

 

 僕の言葉に天之河は怒りと屈辱が入り混じった様な表情になる。

 

「君は仲間を見捨てる気か!?」

「……見捨てるも何も最初から仲間ではありませんよ。それに……仮にここで死ぬようならそれまでの存在だったというだけですよ」

 

 僕の言葉をどう受け取ったのか知らないけれど、天之河達は不満げながらも武器を構える。そして、戦闘が始まったのだけれども……はっきり言えば呆れる程に弱い。動きは雑だし、連携もなっていない。しかも、一人が勝手に戦っている始末だ。

 

「……これでよく今まで生き残れたものですね……」

 

 思わずボソッと本音が漏れてしまうほどに酷い有様である。隣では八重樫さん達の様子を見てワタワタとしている悠花がいる。

 

「ねぇ……本当にあの子達に任せて良かったの?」

 

 心配そうな表情をしながら悠花が尋ねてくる。彼女としては友人として助けに行きたいのだろう。

 

「……少なくとも、八重樫さんや白崎さん達がいるんですから心配いりませんよ」

 

 僕はそれだけ言うと、悠花の頭をポンと軽く叩いて魔人族に視線を向ける。魔人族の女はというと、少し不愉快そうな表情をして、ゆっくりとこちらへ近ずいて来る

 

「……あんた、随分と冷たいんだね。仲間なんだろう?」

「……別に、他人を助ける義理はありませんし。ただ、仲間だからこそ厳しく接するべきなんですよ。甘やかすだけでは成長しませんから」

 

 僕は淡々と答える。これはあくまで僕の持論だが、人は誰かの為に強くなれるものだと思う。だからこそ、自分が強くなる為には自分以外の人間を利用していく必要があると考えている。もちろん、身内だけは例外だけどね。

 

「ふぅん……まぁ、あたしには関係ないけどね。でも、強いあんたがこっちに来てくれれば色々楽が出来そうだと思ったんだけどねぇ」

 

 魔人族は少し悲しそうな表情を浮かべ俯く。その姿を見て、一瞬だけ同情してしまった。

 

「……何故、このようなことを?」

「私らの故郷は不毛の大地でね……作物が育たず、その日食べる物にも困るくらいに飢えが深刻なのさ」

「そこで我々、人間達の土地を奪うために侵略を?」

 

 僕の言葉に魔人族の女は小さく首を縦に振る。なるほど……確かにそんな状況であれば魔人族の行動も理解できる。土地を奪ってしまえば食料不足に陥る可能性は極めて低いのだから。

 

「……ッ!?」

 

 突然、背後から殺気が放たれた。すぐ様悠花と魔人族の首根っこを掴んで投げ飛ばす。

 

「きゃっ!!ちょっと何すんのさ!?」

 

 魔人族の女は何とも言えない声を上げる。すると、先程まで僕らがいた場所に巨大な黒いナニカが通り過ぎる。直後、背後の石壁が轟音と共に崩れる。

 

「やぁぁぁっと、見つけましたよ……ノクト様ァ!!!」

 

 狂喜に満ちた笑い声が響き渡る。そこには深紅の瞳をした黒髪の女がいた。その女からは、濃厚な死臭と狂気を感じる。

 

「アンタねぇ!私が居るのに攻撃してんじゃないよ!」

「あー?なんだテメェ?私はノクト様に用があるんだよぉ!」

 

 女はそう言いながら手に持っていた鞭を振りかざす。

 

 しかし、突如現れたこの女……どこかで見たことがあるような……必死に記憶を探る。すると、不意にある人物の顔が思い浮かぶ。背中にドッと嫌な汗が流れる。

 

「全員!今すぐ撤退しなさい!」

「えっ?どうして……」

 

 僕の言葉に八重樫さんは困惑した表情を浮かべるが、今は説明している暇はない。

 

「いいから早く!!」

 

 僕が強く叫ぶと、八重樫さんは戸惑いながらも皆に声をかけて撤退していく。

 

「柊人!」

「ここは僕が食い止めます!あなたも早く行ってください!」

 

 悠花の声に答えつつ、目配せをする。彼女は僕の意を理解してくれたようで、すぐに走り出す。魔法で地形を操作して、道を塞ぐ。これでしばらくは時間稼ぎが出来るはずだ。

 

「チッ!逃しましたか……まぁ良いでしょう……目的は達成していますし」

 

 女は残念そうに呟きつつも、ニヤリと笑みを浮かべる。そして、鞭を大きく振り上げると、地面へと叩きつける。瞬間、凄まじい衝撃が走る。

 

「さぁ!存分に()し合いましょう!」

「ハァ……面倒臭いですね……本当に……」

 

 心の底から溜息をつくと同時に、目の前にいる女に対して最大限の警戒を行うのだった。

 

「あぁ!その警戒するよな、軽蔑するような目!堪らないわ!」

 

 変態的な発言を繰り返す女を睨む。全くもって気持ち悪い……と言うよりも、何故この女がここに居るんだ?

 

「……何故貴女がこんな所に?」

「あはは!そんなの決まってるじゃないですかぁ!」

 

 女は再び嬉しそうな顔になると、再び鞭を振るう。今度は地面ではなく、僕の方に向けて。咄嵯の判断で避けると、僕の後ろにあった石壁に亀裂が入る。

 

「貴方に会う為ですよぉ……ノクト様ァ!!」

「……」

 

 ……やっぱりだ。間違い無い。前世で僕のストーカーだった、厄介な女……

 

「……ラピス」

 

 僕の言葉を聞いて、女は歓喜に打ち震えていた。

 

「覚えていてくださったんですねぇぇ!!!嬉しいですぅ!」

「忘れたくても忘れられませんよ……まさか、また会うことになるとは思ってませんでしたけどね……」

 

 僕は呆れ果てた表情で言う。正直言って二度と会いたくない相手なのだけれど……運命というのは実に皮肉なものだと思う。

 

「それで……どうします?殺し合いでも始めます?」

「……断っても、やる気でしょう?」

「当然ですよぉ!だって私はノクト様を愛するためだけに生きてきたのですからねぇ!」

 

 ラピスは興奮気味に言う。もう既に戦闘態勢に入っているのか、身体の周りに瘴気が漂っている。

 

「さぁ!思う存分愛し合いましょ?」

「お断りするよ」

 

 

 

 




おうどん食べたい。


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抱えきれない絶望を……

「よっと、ドーモ(。・ω・)ノ柊人です」

「今回は僕一人だよ……なんというか寂しいね」

「さて、気を取り直して……前回は魔人族の女性との会話と戦闘、そしてあのとち狂った女との接触だったね……あの人、僕さえ関わってなかったら割とマトモな感性だったんだけどな……」

「今回はラピスとの戦闘だよ、楽しんでね」

「抱えきれない絶望を……」


 Side 柊人

 

 斬撃と重々しい打撃音が響き渡る。ナイフが振るわれれば石壁がバラバラに崩れ、鞭が振るわれれば衝突した場所が砕け散る。

 

(……一撃一撃が重すぎる!たった一撃食らっただけで気力も体力も根こそぎ削ぎ落とされるみたいだ!)

 

 内心で悪態をつく。次第に自身の身体に傷が増えていく。既に全身血塗れになっており、出血量も多い。しかし、それでも倒れるわけにはいかない。自分が倒れれば、逃がした悠花達に必ず被害が出てしまう。

 

「ほらほらぁ!!もっと頑張らないと死んじゃいますよぉ!?」

 

 狂気じみた笑みを浮かべるラピスに対し、柊人の脳内では警鐘が鳴り響いていた。このままじゃ確実に殺される。それは確信に近いものだった。

 

 どうすればこの状況を切り抜けられるのか、必死になって思考を巡らせる。しかし、その答えが出る前にまたもや重い衝撃に襲われる。今度は腹を殴られ、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

「かはっ……」

「あら?これで終わりですか?」

 

 口の中に鉄の味が広がる。何とか立ち上がろうとするものの、力が入らない。視界も霞んできている。そんな状態にも関わらず、頭だけは妙に冴えていた。

 

「……僕が諦めが悪い事は知っているでしょう?」

 

 そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。それを見たラピスは満足そうな表情を見せた。

 

「ふふっ、良いですよ。貴方のそういう所、私大好きです♪」

「それは光栄ですね。だけど、僕はあなたの事なんて大嫌いですよ」

 

 言い放つと同時にラピスの背後に回り込む。だが、それに反応して振り返りざまに鞭を振るう。

 

「グッ!!」

 

 辛うじて回避したものの、左肩を掠めてしまい鮮血が舞う。痛みはあるが、まだ戦えるレベルだ。

 

「へぇ……今のを避けるんですね。流石です」

「これくらい余裕ですよ」

 

 強がってみせるが、実際はギリギリだった。もし、少しでも反応が遅れていれば間違いなく致命傷を負っていただろう。

 

「いい加減……終わらせましょうか!」

 

 言うなり、先程よりも速い速度で襲いかかってくる。それを間一髪で避けるが、体勢が崩れて膝を突いてしまう。

 

「もうお終いですか?ならさようなら!」

 

 勝ち誇った笑みを浮かべながら、止めを刺すべく、鞭を振り下ろす。

 

「まだまだァ!!」

 

 地面を思い切り蹴る。それと同時に身体強化を発動させ、思いっきり横へと飛ぶ。その結果、直撃は免れたものの、完全に避けきる事は出来ずに左頬を掠める。一旦距離を取り、再び構えを取る。

 

「あれ?まだ動けたんですかぁ?」

「当たり前じゃないですか。こんな所で死ぬ訳にはいきませんよ」

「でも、その状態で何が出来るんですぅ?」

 

 ラピスの言葉通り、かなり追い詰められている。既に立っているのがやっとの状態で、まともに動く事も出来ない。それでも……

 

「必ず貴様を殺す」

「あぁ~!素敵ぃ!!やっぱり私は貴方の事が好きです!!」

 

 興奮した様子を見せると、今まで以上の速さで襲いかかってきた。

 

(右……死角からの横薙ぎ……打ち上げ……)

 

 極限まで研ぎ澄まされた感覚により、攻撃の軌道を読み取る。そして、ラピスの攻撃に合わせるようにナイフを突き出す。甲高い金属音と共に互いの得物がぶつかり合う。

 

「……そろそろ、頃合ですね」

「何がですか?あ!もしかして私に殺されてくれるんですか!?」

「いいえ?そろそろ悠花達が僕が本気で暴れても被害が出ない位置まで撤退出来た様なので……」

 

 言い終わると同時にラピスの腹部に蹴りを入れる。突然の事に反応出来なかったのか、モロに喰らい後方へと吹き飛ばされた。

 

「殺す気でお相手しましょう」

「あぁ……ようやく本気を出してくれますかぁ……♡」

 

 先程のダメージなどまるで無かったかのように嬉々として起き上がると、すぐに襲い掛かってくる。

 

「『バケモノダンスフロア』」

 

 イヤホンをつけ直し、スマホで音楽を掛ける。脳内でスイッチを切り替える。

 

「我は求めん、狂乱の証を……我は望まん、血の宴を──この身は狂気へ捧げん──『狂乱ノ宴』」

 

 詠唱を終えると同時に、喰種化と身体能力強化のギアを上げる。すると、全身の血が沸騰するかのような錯覚に陥る。視界は赤一色に染まり、聴覚は鋭敏になり、嗅覚は更に鋭くなる。

 

Rebellion is the only thing that keeps you alive((反抗だけが生命を与えてくれる)

「あぁ……凄く良いです!!その顔も声も仕草も全て愛しい!!もっと見せてください!!」

 

 

 

()の豹変ぶりを見てもなお、歓喜の声を上げ続ける。既に正気を失っているのかもしれないが、それでも構わない。必ず殺してやる。

 

 まずは距離を詰める為、一気に加速する。ラピスまでの距離はおよそ10メートル。一瞬にしてその間合いを潰す。

 

「なっ……!?」

「……遅い」

 

 驚愕の表情を浮かべるラピスの首元にナイフを突き立てる。しかし、その一撃は空を切る。

 

「危ない危ない……今のは本当に驚きましたよ」

 

 言葉とは裏腹に、全く焦った様子が見られない。余裕の表れなのか、それとも何か狙いがあるのか……どちらにせよ油断は禁物だ。

 

「次はこちらの番です」

 

 そう言って鞭を振るう。その速度は今までとは比べものにならないほど速い。だが、今の俺にはスローモーションのように見えていた。迫り来る鞭に対し、最小限の動きで回避しつつ懐に入り込む。そのまま鳩尾に拳を叩き込み、吹き飛ばす。

 

「ガハッ!!」

 

 苦痛に顔を歪めながら数メートルほど転がった後、立ち上がってくる。

 

「まだまだこれからですよぉ!」

「……黙れ」

「ッ!?」

 

 ラピスの顔スレスレを掠めるようにナイフを投げ付ける。それと同時に走り出し、追撃を仕掛ける。

 

「ふっ!」

「うぐぅ!!」

 

 手にしたナイフを投擲し、間髪入れずに鳩尾に拳を叩き込む。ラピスは直前で後ろへ飛ぶことで直撃は避けたが、殴りによって生み出された衝撃までは防げずに吹き飛ぶ。空中で体勢を立て直すと、鞭をしならせながら振り下ろしてくる。

 

「無駄だ」

 

 その攻撃を難なくかわすと、今度は逆にラピスに向かって駆け出す。

 

「何をしようと私の優位には変わりませんよ!」

 

 ラピスの周囲に複数の魔法陣が展開され、そこから炎や氷、雷といった様々な属性の魔力弾が放たれる。

 

「シッ!」

 

 ナイフを振るい、全ての攻撃を打ち落とす。そして、目の前まで接近し、思い切り腹を殴りつける。

 

「ゴホッ!……流石に効きますね……」

「まだ喋る元気があったか」

 

 口の端から血を流しながらも不敵に笑みを浮かべている。その様子からは未だに諦めるという選択肢は無いようだ。俺はナイフを握り直し、切っ先をラピスに向け、構えを取る。殺意を込めて睨むと、ラピスは興奮した面持ちになる。

 

「あぁ……ゾクゾクしますねぇ……その視線だけでイッてしまいそうですぅ♡」

 

 腰をくねらせるその姿はとても気持ち悪かった。生理的な嫌悪感を覚え、思わず眉間にシワを寄せてしまう。次の瞬間、地面が砕ける程の勢いで飛び出してきた。そして、俺に肉薄してくる。今まで以上の速さと力強さで振るわれた鞭を紙一重で避けると、カウンター気味に蹴りを放つ。

 

「ガッ……ハァ……」

 

 ラピスはそのまま後方へと吹き飛ばされ、ゴロゴロと転がり壁に激突する。

 

「これで終わりか?」

「いいえぇ……ここからが本番ですよぉ!!」

 

 フラつきながら立ち上がると、再び鞭を構える。ラピスの攻撃は確かに速く、強く、鋭い。しかし、その攻撃は単調で、読みやすい。だから、対処するのは簡単だった。そして、ラピスは体力的にも精神的にもかなり消耗している。

 

「そろそろ終わらせよう」

「あぁ……もっと!もっと私を愛して下さい!!」

「お前を愛することは一生無い。俺が愛するのはただ一人だけだ」

「そんなこと言わないでくださいよぉ!だって私はこんなにも貴方のことを愛して──」

「黙れ」

 

 ラピスの言葉を遮り、一気に間合いを詰める。

 

「なっ!?」

「終わりだ」

 

 俺のナイフがラピスの首を捉える。そして、そのまま振り抜く。鮮血が飛び散る。ラピスはゆっくりと倒れる。ピクリとも動かない。完全に死んだようだ。

 

 喰種化と『狂乱ノ宴』を解除し、いつもの自分に戻る。戦いが終わったことで、全身から力が抜けていくのを感じる。その場に座り込みそうになるのを堪え、フラつく足取りで歩き出す。ふと手に持っていたナイフを見る。そこには血濡れで、全身傷だらけの無様な姿が写っていた。

 

「……酷い顔だ」

 

 鏡を見なくても分かる。今の俺は人に見せられないような顔をしていることだろう。

 

「……こんな顔、彼女には見せられませんね……」

 

 苦笑いを浮かべながらそう呟く。その時、背後から何が高速で接近してくるのが分かり、咄嗟に喰種化をして、腰にある赫子で弾く。

 

「……ッ!?」

 

 振り返ると、そこには傷一つ無いラピスがいた。

 

「しぶといですね……」

「……なんで」

 

 先程までとは雰囲気がまるで違う。さっきまでのどこかふざけた感じは一切無く、代わりに威圧感を放っている。

 

「……なんで……なんで!私の愛を受け取ってくれないんですか!!」

 

 ラピスはそう叫ぶと、再び鞭を振るってくる。俺はそれを弾きながら考える。

 

(……どういうことだ?さっきの一撃で確実に仕留めたはずだ。なのに、どうして生きてる?)

 

 ラピスは何度も攻撃を繰り返してくるが、俺には掠りもしない。ラピスの攻撃を避けながら、思考を続ける。

 

(……あの時、確かに手応えはあった。それなのに死んでいないということは、恐らく何らかの方法で死を回避した。もしくは……)

 

 ある一つの可能性を思い浮かべる。そして、それが正解だとしたら、ラピスを倒すのは容易ではなくなる。一旦距離を取り、ラピスを観察する。ラピスの身体には先程、付けたはずの傷が綺麗に消えていた。それだけではない。服装や髪型まで変わっていた。

 

 髪の色は黒から濁ったような赤に変わり、目付きは鋭くなっている。そして、その瞳は青く染まっていた。ラピスはこちらを睨み付けながら、口を開く。

 

「なんで!あんな薄汚い小娘を愛して、美麗な私を愛してくれないの!?」

「……やはり、そういうことか」

「えぇ!そうよ!!貴方が愛してるのは、私が貴方を想う気持ちよりも、あの女が貴方に向ける愛の方が上なのよ!」

「……そんなわけ無いだろう」

 

 ラピスが僕に向けてくれている気持ちは本物だ。それは間違いない。しかし、ラピスが向けているのは、僕では無く、僕の力の方だ。

 

「……ラピス、君が僕に向ける愛は、本当の意味で愛じゃない」

「うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!うるさい!」

 

 ラピスは頭を抱えながら叫び続ける。僕はラピスの気持ちが分からないわけではない。でも、それでも、彼女が求めているものはあげられない。だから、彼女の想いに応えることは出来ない。

 

 ラピスが叫びを止め、顔を上げる。その表情は今まで見たことがないほど冷たいものだった。

 

「……もういいわ。お前のその面を見ていると虫酸が走る。ここで殺す」

「やってみろ」

 

 お互いの視線が交差する。そして、同時に動き出す。ラピスの振るう鞭を弾き、懐に入り込む。そして、そのままナイフを振るう。

 

「『Deal with the devil』!!」

 

 ラピスが叫ぶと空間に亀裂が入り、亀裂からスピーカーが射出された。スピーカーからは大音量で音楽が流れ始める。

 

「……ッ!?」

 

 音楽に気を取られたせいか、ナイフはラピスに届くことは無かった。ラピスの姿が視界から消える。次の瞬間、背中に強い衝撃を受ける。

 

「ガハッ!?」

 

 そのまま壁まで吹き飛ばされ、激突する。肺の中の空気が一気に吐き出される。

 

「……クソッ」

 

 今の一撃で肋骨が何本か折れたようだ。痛みでまともに動けない。

 

「あら?どうしたの?さっきまでの勢いは?」

 

 ラピスがこちらに向かって歩いてくる。なんとか立ち上がり、ラピスを迎え撃つ。ナイフで鞭を弾き、そのまま突貫し、ラピスの首を斬ろうとする。だが、ラピスは後ろに下がり、それを避ける。すかさず追撃を仕掛けるが、避けられる。

 

「……チッ」

「残念ね。今の私はもっと強いわよ」

 

 ラピスがそう言うと、またもや姿が消える。そして、腹部に強烈な蹴りが入る。胃液が逆流し、吐きそうになる。

 

「……グゥッ」

「ほらほら、まだまだ行くわよ」

 

 ラピスは次々と攻撃を繰り出してくる。俺はそれを必死になって捌く。

 

「……クッ」

「あぁ、良い顔ね。最高だわ。貴方のその苦しそうな顔、堪らないわ」

 

 ラピスはそう言いながら、攻撃の手を一切緩めない。このままではジリ貧だ……一か八かで賭けに出るしかない。腰にある赫子をラピスの脇腹に突き刺し、投げ飛ばす。手応え、いや赫子応えはあったが……

 

「……なっ!?」

 

 ラピスの身体には傷一つ付いていない。そして、ラピスは俺の方を向き、ニヤリと笑う。

 

 そして、ラピスが腕を振るう。すると、空間が裂け、そこから大量の触手が飛び出してくる。それを必死に避ける。しかし、避けきれず、身体に触手が絡み付く。触手はそのまま俺を持ち上げ、壁に叩き付ける。

 

 そして、触手が身体に巻き付き、拘束してくる。身体を動かそうとするが、全く動かない。ラピスはこちらに近づいてきて、顔を覗き込んでくる。そして、ラピスは僕の頬を撫でる。

 

「ふふふ、捕まえたわよ。ねぇ、今どんな気持ち?悔しい?苦しい?それとも……」グリュ……

「ガアァァ!」

 

 ラピスは僕の右目を抉った。あまりの激痛に叫び声を上げてしまう。ラピスは抉り取った眼球を投げ捨てると、今度は左腕を掴む。そして、力を込めて握ってくる。

 

 ミシミシと骨が軋む音が聞こえてくる。

 

「……グッ」

「ふふ、いいわよ。その表情。ゾクゾクするわ」

 

 ラピスは俺の左手を離すと、今度は右手を握る。そして、再び力を込めてくる。バキッと音を立て、右手の骨が砕ける。

 

「……ガッ」

「ふふ、これで両手は使えないわね」

 

 ラピスはそう言うと、僕の首を掴み、持ち上げる。

 

「グッ、ガハッ!?」

「貴方のその苦痛に満ちた顔、とても素敵だわ。さて、次はどこを潰してあげようかしら?」

 

 首の拘束が緩んだ瞬間、すかさずラピスの顔に頭突きを喰らわせる。ラピスは後ろによろめき、俺を放す。その隙に、床に落ちているナイフを蹴りあげ、口でキャッチする。

 

「あら?まだそんな力が残っていたのね。でも、もうおしまいよ……その満身創痍の状態で私に勝てるとでも?確率はどの程度あるのかしら?千に一つ?万に一つ?それとも億?兆?それても……京かしら?」

 

 ケラケラと下卑た笑い声をあげるラピス。正直言ってかなりムカつく。

 

「おしまい?満身創痍?何を巫山戯た事を……まだ両腕が折れただけでしょう。能書き垂れてないでさっさと掛かって来い!Harry!Harry Harry!」

 

 挑発すると、ラピスはピクリと眉を動かす。そして、ラピスは鞭を振りかざし、こちらに向かってくる。

 

「……ッ!!」

 

 鞭を避け、ナイフでラピスを斬りつける。だが、ラピスはギリギリのところで後ろに下がり、回避する。そのまま、鞭を振るってくる。

 

「……ッ」

 

 鞭を弾き、懐に入り込む。そして、ナイフでラピスの首を狙う。だが、ラピスは鞭を引き戻し、ナイフを弾く。

 

 一旦距離を取り、呼吸を整える。そろそろ限界が近い。それに、出血も酷い。ラピスの方を見ると、彼女は笑みを浮かべていた。

 

「貴方のその必死な顔、最高よ。もっと見せなさい。貴方のその顔、私が壊してあげるわ」

 

 ラピスはそう言うと、またもや姿を消す。そして、背後から気配を感じる。咄嵯に体を捻り回避しようとするが、脇腹に蹴りが入り、吹き飛ばされる。壁に打ち付けられ、肺の中の空気が全て吐き出される。

 

 そしてすぐ様追撃を喰らう。そのまま頭を踏みつけられる。何とか逃れようとするが、抜け出せない。そして、ラピスは俺の頭に足を乗せ、体重を掛けてくる。ミシミシと頭蓋骨が軋む音が聞こえてくる。

 

「さぁ、トドメよ」

 

 ラピスはそう言うと、僕の使用していたナイフを手に取る。

 

「そういえば、このナイフ……貴方の血とあの卑しい小娘の血を合わせて創られた物らしいわね?」

 

 ラピスはそう言うと、俺の腹部にナイフを突き刺した。そして、傷口をえぐる。激痛に悶える。ラピスは僕の身体を蹴飛ばし、ナイフを抜き取る。

 

「さて、これで終わりよ」

 

 ラピスはそう言うと、僕に近づき、首を掴んで持ち上げる。そして、首にナイフを当ててくる。

 

「じゃあね、楽しかったわよ。今までありがとう。私の玩具さん」

 

 ラピスはそう言いながら、ナイフを横に引く。その瞬間がやけにスローに感じる。僕は目を瞑り、死を受け入れる。

 

(悠花……約束守れそうにないみたいです……ごめん……そして──────愛してる)

 

 

 僕は心の中で呟く。意識が途絶える瞬間に思い浮かんだのは……向日葵の様な明るい笑顔の似合う少女の姿だった。

 

 




ラピスさんはガチキチサイコヤンデレメンヘラなのです。自分で作ってといてとんでもねぇキャラにしちまったなと反省してます()


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一握りの希望を……

「よっこいしょ、こんにちわ(꒪˙꒳˙꒪ )ノ゙!悠花だよ!」
「初めまして。遠藤浩介だ」

「前回は……うん、柊人がやれちゃったね……」
「まだ、死んだどうかは分からないからさ、希望はある筈だ……」
「うん、そう…だよね……」

「……今回は私と遠藤君の話だよ」
「楽しんでくれ」

「「一握りの希望を……」」


 Side 悠花

 

「まだ追手は……来てないね」

 

 壁から耳を離して、呟く。今のところ、それらしい気配や足音はしない。

 

(ラピスは柊人がどうにかしてくるとして……今、私が出来るのはここにいる全員を生還させる事……癪だけど天之河君だけはなんとしてでも生かさなきゃいけない……)

 

 内心でため息を付きつつ、周囲を見渡す。魔人族の使役してた魔物との戦闘で傷を負った子達を懸命に治療している香織ちゃんが目に入る。

 

(……ここには零斗も柊人も恭弥も居ない……私がしっかりしなきゃだよね)

 

 思考を切り替えて、逃走経路を組み立てる。

 

「ふぅ、何とか上手くカモフラージュ出来たと思う。流石に、あんな繊細な魔法行使なんてしたことないから疲れたよ……もう限界」

「壁を違和感なく変形させるなんて領分違いだものね……一から魔法陣を構築してやったんだから無理もないよ。お疲れ様」

 

 通路の奥から野村君と辻ちゃんが歩いてきた。

 

「二人ともおつかれ〜!悠花お姉ちゃんからご褒美の飴を贈呈しよう!」

「ありがとうね、悠花ちゃん」

「ムフフ〜、もっと褒めるが良い!」

 

 得意げに胸を張る私を見て、二人が笑みを浮かべている事に気がつく。ん?何だろうこの感じ……まるで小さい子供を見るような温かい眼差し……あれっ、なんかすっごい恥ずかしいぞ!?︎

 

「そっちもお疲れ様、ここまで来る時にあった魔物達、全部倒してくれて」

 

「まぁ、魔物がミンチより酷い事になってたせいで何人か吐いてたけどな……」

 

 苦笑いしながら野村君はそう言った。私は咄嵯に目を逸らした。

 

「と、兎に角!お疲れ様、野村君。これで少しは時間が稼げそうだね」

「……だといいんだけど。もう、ここまで来たら回復するまで見つからない事を祈るしかないな。浩介の方は……あっちも祈るしかないか」

「きっと、大丈夫だよ。浩介君の影の薄さなら魔物すら、素通りして行きそうだし」

「それはそれでどうなんだ?」

 

 近くにいた永山君が、ぼそりと呟く。ここにはいないクラスメイトの地味なディスりに、私たちは全員苦笑いになってしまった。

 

「私、白崎さんたちの手伝いしてくるね」

「おう」

 

 香織ちゃんたちの助力に向かう辻さんの後ろ姿を、複雑な顔で見る野村君。もしかしてぇ?

 

「おやおやぁ?もしかしなくてもぉ?野村少年は辻ちゃんの事が好きなのかなぁ?」

「……うっさい」

 

 顔を赤くする野村君に思わずニヤケてしまう。青春だねぇ……

 

 

 ●○●

 

 

 Side 浩介

 

 走る……走る……走る……

 

 ひたすらに走り続ける。一分一秒でも早く、メルドさんの元まで行かないと……

 

 肺が焼ける様に痛む。それでも足を止める訳にはいかない。俺のせいで誰かが死んだなんて事になったら…… 脳裏に浮かぶ最悪の想像を振り払いながら、ただ前を向いて走った。

 

(あと……少しで……メルドさんの待機してる……部屋……ッ!?)

 

 突如目の前に現れた巨大な火球。それが着弾する前に横へ飛ぶ。一瞬前まで自分が立っていた場所を通り過ぎた火球はそのまま壁に激突すると轟音を響かせて爆発した。

 

「もう追いついて……クソッ!」

 

 悪態をつきつつ、周囲を見渡す。そして、視界に入ったそれに戦慄する。そこには、数十体に及ぶ魔物の姿があったからだ。息を整える。このままではジリ貧だ……何とかして打開策を考えないと……

 

「チッ、一人だけか……逃げるなら転移陣のある部屋まで来るかと思ったんだけど……様子から見て、どこかに隠れたようだね」

 

 髪を苛立たしげにかきあげながら、四つ目狼の背に乗って現れた魔人族の女。

 

「まぁ、任務もあるし……さっさとあんたら殺して探し出すかね」

 

 直後、一斉に魔物が襲いかかった。キメラが空間を揺らめかせながら突進し、黒猫が疾風となって距離を詰める。ブルタールモドキが、メイスを振りかぶりながら迫り、四つ目狼が後方より隙を覗う。

 

(今は生還するの事が優先……無駄な戦闘は避けて、体力を温存して少しでも早く伝えなきゃならねぇってのに!)

 

 俺は、舌打ちしたい気持ちを抑えつつ、迎撃態勢をとる。

 

「浩介!!!」

「えっ……」

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、こちらに向かって駆けてくるメルドさんやアランさん達の姿が見えた。

 

「メルド団長!なんでここに!?」

 

 驚きのあまり、ついそんな言葉が出てしまった。まさか、助けに来てくれたのか?でも、どうやって…… 思考を巡らせている間に、メルドさん達は魔物の群れを掻い潜り、一気に俺の元へと近づいてきた。

 

「説明は後だ!浩介、お前は今すぐ地上に行け!そして、この現状を上に居る団員達に伝えろ!」

 

 メルドさんの言葉に、一瞬頭が真っ白になる。だが、すぐに正気を取り戻す。ダメだ……この人達を置いて行くなんてできない…… 咄嵯に浮かんだ考え。それを振り払うように首を横に振る。

 

「ボサっとしてないで早く行け!」

 

 そう言いながら背中を押される。その力に押されるようにして、前に数歩進んだ。背後から聞こえる爆音。反射的に振り返る。そこには、無数の魔物に蹂躙されながらも、懸命に立ち向かう騎士達の姿が映る。思わず立ち止まりそうになる足を必死に動かして、走り出した。

 

 背後から響く断末魔の悲鳴を無視して俺はただひたすらに走る。

 

 

 ────────────────────

 

 あれから数十分して、やっと中継地点の五十階層まで辿り着いた。ここまで来る間、魔物達と遭遇したが、全て無視して走って来た。

 

(あと少しだ……そうすれば……)

 

 そんな事を考えて居ると、急に身体が重くなり、その場に座り込む。呼吸を整えようと深呼吸を繰り返すが、心臓の鼓動が早すぎて上手く出来ない。

 

「ハァ……ハァ……もう少しなのに……動けよ、この足!」

 

 自分に喝を入れるが、一向に立ち上がる気配がない。それどころか、どんどん重くなっていくような気がする。

 

「何で……だよ。頼む……動いてくれ……」

 

 自分の情けなさに涙が出てくる。こんな所で止まっている場合じゃないのに……

 

「可哀想だねぇ……もう少しで仲間を助けられるかもしれないのに、君の力不足でみーんな死んじゃうね?」

 

 突如、聞こえてきた嘲笑を含んだ声。視線を上げると柊人が相手をしている筈の女がそこに居た。いつの間に…… 女は、俺を馬鹿にした様な笑みを浮かべたまま、歩み寄ってくる。

 

「くそっ……」

「あ、私ラピスって言うの……まぁ、これから死ぬ人間に教えても意味ないか」

 

 小馬鹿にしたような表情を浮かべ、笑う女。

 

「悔しい?でも、これが現実だよ。いくら努力したところで限界はあるんだよ」

「っるせぇ……」

「威勢だけはいいねみたいね?」

 

 髪を掴まれ、無理矢理起き上がらせられる。抵抗しようにも身体に一切の力が入らない。

 

「あ、抵抗しようとしても無駄だよ?魔法で君の脳に干渉して動けない様にしてあるから」

「クソ野郎が……」

「癪に障るクソガキだね、君は……ま、いいや、それじゃ……蛆虫みたいに惨めに這いつくばって死んでいってね……」

 

 女の手が俺の首元に伸びる。抵抗しようにも、身体が動かない。

 

『もし──ー』

 

 その時、脳裏に浮かぶ声。

 

『もしも、お前達の身に危険が迫ったら……そいつを砕け。そうすりゃ俺に救難信号が送られる……それとちょっとしたサプライズも仕込んである。まぁ、使う機会がなけりゃいいんだけどな』

 

 零斗から渡された、宝石を思い出す。確か左胸の内ポケットに……

 

「ふっざ……けんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 最後の力を振り絞り、叫ぶと同時に右手の拳を握り締めて、宝石を殴りつける。次の瞬間、黒い煙が溢れ出す。それと同時に身体に力が戻る。

 

「えっ……ちょっ!?」

 

 突然の事に女は後退る。その隙を逃さず、俺は全力でその場から離れる。

 

「待て!クソガキが!」

 

 後ろから追いかけてくる女の罵声を聞き流しながら、俺は足に力を込めて走り出す……

 

「逃がすか!」

 

 女が凄まじい勢いで鞭を振るって来た。背後に迫る影。そして、俺の頭上に振り下ろされる鞭。

 

(避けきれない!)

 

 覚悟を決め、歯を食いしばる。しかし、予想していた衝撃は来なかった。さっきまで辺りを漂っていた黒い煙が俺の背後で立ちはだかるように集まり、人型に成る。煙が晴れると、一人の男が立っていた。

 

『穢晶石の破壊に伴い、参上いたしました……私はシャドウ。零斗様の元で創造されたホムンクルスです。なんなりとご命令を……』

 

 女の振るってきた鞭を軽くいなすと、恭しく一礼するシャドウと名乗った男。その姿を見ているだけで何故か安心感を覚えた。顔にあたる場所には目や口は無く、のっぺらぼうの様な風貌だった。

 

「邪魔してんじゃねぇよ!!」

 

 女が叫びながら、何度も鞭を振るう。だが、それらは全てシャドウさんの身体に当たる前に弾かれる。

 

『それはこちらのセリフですよ。さぁ、浩介様御早く任務の方へ』

「あ、ありがとうございます!」

 

 呆気に取られていると、急かすように促される。慌てて返事をして、再び駆け出した。

 

 




今回はちょっと短め。感想お待ちしております。


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久しぶりのホルアド

「よっと、ヾ(ω` )/ハイヨお馴染みの零斗さんだ」
「ハジメでーす」
「ミレディちゃんだよ!」

「さて、前回は浩介がひたすら逃亡してたな……つーかよく生き残れたな」
「めちゃくちゃ運の良い子なんだね」
「多分、それだけじゃ説明付かないと思うよ?」

「今回は俺ら目線での話だ……楽しんでくれ」

「「「久しぶりのホルアド!」」」


 Side 零斗

 

「ヒャッハー!ですぅ!」

「し、シアさん!スピード落として!」

 

 とある街道、太陽を背に右には草原、左にはライセン大峡谷という対局の景色の中、俺の運転するブリーゼは走っていた。そして、前方では某世紀末のモヒカンさながらな奇声を上げて爆走するシアとその背中に抱き着きながら悲鳴を上げるハジメの姿があった。

 

「いやぁ、この解放感……癖になりそうですよぉ」

 

 そんなことを言いながらもスピードを落とす気配はない。

 

「ご機嫌だな……」

「むぅ、私も運転したい」

 

 後部座席にいるミレディが羨ましそうに呟く。まあ、気持ちはわかる。シアとミレディは魔導二輪で風を切って走る感じがとても気に入ったらしく、大所帯になった今では、ブリーゼで移動する事が主になったせいか、少し不満に思っていたらしく、今回こうして乗れて嬉しかったようだ。しかし、それはそれとして……

 

「なんでジョ○ョ立ちしてんだよ……」

「……さぁ?」

「はぁ……これだから、駄ウサギは……」

 

 今更だが、俺達は現在カルデアに向かっている最中である。何やら、ぐだぐだしそうな予感がするそうで、ダ・ヴィンチちゃんに呼ばれたので、消耗品の補給も兼ねて向かうことにしたのだ。

 

『パリンッ!』

「あ?……マジか」

 

 内ポケットに入れていた、穢結晶(あいしょうせき)の一つが砕けた。これと連動しているのは……浩介に渡したやつだな。

 

「シア、一旦止まれ」

「はいぃ~♪」

 

 ブレーキをかけ、停止させるとシアがグロッキー状態のハジメを抱きかかえながらバイクから降りた。

 

「大丈夫ですか?ハジメさん?」

「キュウ……」

「ダメみたいですね……」

 

 ハジメが白目を剥いて倒れているのをアルテナが心配そうに声をかけるが、当人は返事ができない状態らしい。

 

「目的地の変更を伝えて置こうと思ってな」

「え?もう少しでカルデア?に着くんですよね?なんでこのタイミングで?」

 

 シアが首を傾げつつ聞いてくる。確かにこのまま進めば、一時間もしないうちに到着するだろう。俺は、内ポケットに手を入れ、穢結晶を取り出す。

 

「おぉ!綺麗ですね!」

「わぁー!キラキラ光ってるー!」

「……きれい」

 

 皆一様に穢結晶を見て感想を口にする中、エトだけは違った反応を見せる。

 

「もしかしてですが……救難信号を受けとる物ですか?」

「あぁ、そうだ」

 

 

 

 俺は、説明しながら穢結晶を掲げる。すると、その中心部に小さな光の点が現れ、次第に大きくなっていく。そして、結晶の中で矢印のような形に変化する。

 

「これは?」

「位置情報だ」

「なるほど……」

 

 光が指し示す方向は西南西。カルデアとは真反対の場所である。それが指し示す場所は……

 

「『オルクス大迷宮』……」

 

 意識を取り戻したハジメがボソリと呟いた。

 

「一先ずはカルデアに向かうのは後回しだ……今は浩介達を助けに向かうぞ」

 

 俺の言葉に全員が真剣な表情でうなずく。

 

「と、言うことでね……俺は先に行ってるから。ハジメ、ホルアドに着いたらギルドに行って、支部長にこいつを渡せ……いいな?」

「え?」

「エト、()()やるから、射手頼んだ」

()()……ですか……はぁ……わかりましたよ」

「え?え?」

 

 困惑するハジメにイルワさんから渡された手紙を持たせる。そして、エトと十メートルほどの距離を取る。エトが腰を落とし低く構える、そして両手を組み、レシーブの様な構えを取る。

 

「んじゃ、行くぞ」

「いつでもどうぞ……」

 

 エトの声と同時に地面を思いっきり蹴る。助走を付けつつ、重力魔法で身体を軽くする。

 

「頼んだぞ」

「了解──ーですっ!」

 

 エトの手に片足が触れた瞬間に、エトはレシーブの要領で俺を打ち上げ、空中に射出される。

 

「先行ってるから追いついて来いよー」

 

 放心状態のハジメ達に声を掛けると、俺は空へと飛び出し、そのままオルクス大迷宮へと向かった。

 

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

 零斗が飛び去った直後、我に帰った一行は唖然としていた。それは当然である。目の前で人がロケットのように打ち上げられ、そのまま空の彼方へ消えていったのだから。

 

「あの人、本当に人間なんでしょうか……」

「……もう驚かない」

「相変わらず化け物ですぅ……」

 

 それぞれがそれぞれの感想を述べる中、ミレディだけが無言で零斗の飛んで行った方をじっと見つめていた。

 

「ミレディさん?」

 

 アルテナが声をかけると、ハッとした様子で振り向くミレディ。

 

「ん、ごめん……ちょっと考え事してた」

「……何かあったんですか?」

「いや、なんでもないよ。さぁ、早く行こ!」

「……はい」

 

 アルテナはどこか納得していないような顔をしていたが、渋々といった感じで返事をする。それから、ブリーゼに乗り込み、オルクス大迷宮に向かって出発した。

 

(れいちゃん、なんであんなに怒ってたんだろう……)

 

 ────────────────ー

 

「さて、ホルアドには着いたわけだけど……」

 

 ハジメは、懐かしげに目を細めて町のメインストリートをホルアドのギルドを目指して歩いた。ハジメに肩車してもらっているミュウが、そんなハジメの様子に気がついたようで、不思議そうな表情をしながらハジメのおでこを紅葉のような小さな掌でペシペシと叩く。

 

「パパ、どうしたの?」

「え?あぁ……前に来た事があったんだけど……まだ半年くらいしか経ってないんだなって、もう何年も前みたいな気がしただけだよ……」

 

 ハジメが苦笑いを浮かべながら答える。ミュウはよくわからないというように首をコテンッと傾げる。その様子を見て、ユエ達が微笑ましそうに見守る。

 

「……ご主人様はやり直したいとは思わぬのか?」

 

 ティオがふと思いついたことをハジメに尋ねる。ハジメは少し考える素ぶりを見せた後、口を開く。

 

「……うん、考えなかったと言えば嘘になるかな……」

「なら、何故じゃ?」

「うーん……やり直すって事は、今の自分を否定しているって事になると思うんだよね……それだと、今までの選択を否定することになるんじゃないかと思って」

「……なるほどのう、難儀な性格じゃの」

「まぁ、結局は自己満足なんだよ……僕が後悔しない為にやってるだけだし」

 

 ハジメはそう言うと、照れ隠しなのか、ミュウの頭をわしゃわしゃと撫で回す。

 

 しばらく歩いていると、ギルドの看板が見えてきた。ハジメ達は中に入ると、冒険者風の格好をした集団が一斉にこちらを振り向いた。そして、次の瞬間には殺気だった目つきで睨みつけてくる。

 

「ひぅ!」

 

 その視線に驚いたミュウが、慌ててハジメの頭にギュッとしがみつく。ハジメはその様子に苦笑しながら、受付嬢の元へ向かった。ハジメが近づいて来た事に気づいた受付嬢が営業スマイルで出迎える。しかし、その瞳は全く笑ってはいなかった。

 

「ギルド支部長は何処に?フューレンのギルド支部長から手紙を預かっているんですが……本人に直接渡せと言われているんです」

 

 ハジメはステータスプレートを受付嬢に差し出す。受付嬢は、緊張しながらもプロらしく居住まいを正してステータスプレートを受け取った。

 

「は、はい。お預かりします。え、えっと、フューレン支部のギルド支部長様からの依頼……ですか?」

 

 普通、一介の冒険者がギルド支部長から依頼を受けるなどということはありえないので、少し訝しそうな表情になる受付嬢。だが、ハジメのステータスプレートに表示されている情報を見て目を見開いた。

 

「き、『金』ランク!?」

 

 冒険者の中で『金』のランクを持つ者は全体の一割に満たない。そして、『金』のランク認定を受けた者についてはギルド職員に対して伝えられるので、当然、この受付嬢も全ての『金』ランク冒険者を把握しており、ハジメ達のこと等知らなかったので思わず驚愕の声を漏らしてしまった。

 

(あの餓鬼、ほんとに『金』か?)コソコソ

(『金』にしちゃ、随分と女々しい野郎だな……)ヒソヒソ

 

 受付嬢の声に、ギルド内の冒険者も職員も含めた全ての人が、受付嬢と同じように驚愕に目を見開いてハジメを凝視する。建物内が僅かに騒がしくなった。

 

「も、申し訳ありません! 本当に、申し訳ありません!」

 

 受付嬢は、個人情報を大声で晒してしまったことに気がついてサッと表情を青ざめ、ものすごい勢いで頭を下げた。

 

「大丈夫ですよ……それより、支部長に取り次ぎしてくれます?」

「は、はい! 少々お待ちください!」

 

 受付嬢は、大慌てで奥へと引っ込む。それを見ていた周りの者達は小馬鹿にしたような態度で笑い始めた。

 

 

「ぷっ、何が『金』だよ。あんな弱そうな奴初めて見たぜ?」

「どうせ、ギルドの連中に金でも積んで上げたんだろう?」

「あれなら、そこらの子供の方がよっぽど強そうだぞ?」

 

 嘲笑を浮かべて好き勝手言っている冒険者を尻目に、ハジメはミュウとあやとりをして遊んでいた。

 

「ッ!!」

「シアさん、ダメだよ」

 

 飛び出しそうになったシアの腕を掴み、引き止めるハジメ。

 

「離すですぅ~!! ぶっ飛ばしてやるのですぅ~!!」

「だから、ダメだってば……」

 

 今にも暴れ出しそうなシアを必死に宥めるハジメ。

 

「あんな、真っ昼間から安酒呑んで、私達みたいな若造に文句言ってるだけの連中に構う必要無いんじゃない?」

 

 ミレディが冒険者達を横目にしながら、小馬鹿にする様に言った。すると、今までゲラゲラ笑っていた冒険者の一人が立ち上がり近寄ってきた。

 

「はぁ……ミレディ、面倒事起こさないでよ……」

「ごめーん☆私のご尊顔に免じて許してちょーだい♪」

 

 ハジメがため息混じりに注意するも、反省するどころか、ウィンクをしながらふざけたことを言い出す始末。ハジメは頭痛がしてきたのか、右手で額を押さえながら深々と溜息を吐く。

 

「おい、ガキ」

「……何か用ですか?」

 

 ハジメが不機嫌さを隠そうともせず返事をする。その態度が気に入らなかったようで、男は舌打ちをしつつ、更に言葉を重ねる。

 

「お高く留まりやがって……そんなんじゃ、これから先やっていけねぇぞ? 俺らが優しいうちに生き方を変えた方がいいんじゃ──」

「そうですか……話はもう終わりでいいですか?」

 

 男の言葉を遮り、話を切り上げるハジメ。これ以上話すことはないという意思を込めて受付嬢の向かった方に視線を向ける。しかし、その対応が気に入らなかったらしく、冒険者の男が遂にキレた。拳を振り上げ、殴りかかろうとする。

 

 しかし、ハジメは微動だにしない。周りの冒険者達が、『死んだなあいつ』と思いつつ、ハジメの言動から目が離せないでいると……

 

「ハァァァジメェェェェェ!」

 

 ギルドの奥から何者かが猛ダッシュしながらハジメの名前を呼ぶ声が聞こえだした。全員が、聞こえた声に困惑している中、ハジメは聞き覚えのある声に、『やっと来たか……』みないな表情でカウンターの方をじっと見つめていた。

 

「俺の親友に何晒しとんじゃ!ワレェ!」

 

 そんな怒号が響き渡ると同時に、ハジメの頬ギリギリの位置で風切り音が鳴った。そして、そのままハジメの後ろにいた冒険者に直撃。冒険者は吹き飛ばされ、壁に激突した後、床に転げ落ちた。ギルド全体がシーンと静寂に包まれる。

 

「ちょ、ちょっとやりすぎじゃない?」

 

 ハジメが若干引きながら言う。誰もが突然の事態に思考停止し、口をポカーンと開けて倒れた冒険者とハジメの間に現れた男を見やった。

 

「おう、どういうつもりだ?人様の親友に……年下の子供に暴力振るうってのは?てめぇの脳まで筋肉で出来てんのか?それとも糞尿の詰まった肉袋なのか?」

 

 全身黒装束の少年まるで汚物でも見るかのような目で、倒れている冒険者を見下ろし、罵る。そして、腰の短刀を抜くと冒険者に近ずいていく。

 

「もうやめて浩介!とっくに筋肉ダルマのライフはゼロよ!」

 

 ハジメが遠藤を羽交い締めにしながら、止めに入る。

 

「HA☆NA☆SE!」

 

 遠藤はハジメの言葉に耳も貸さず、ハジメを引き摺るようにして歩き出した。

 

「一旦落ち「HA☆NA☆SE!」とりあえず「HA☆NA☆SE!」黙れ小僧!」

 

 ハジメは、何とか説得しようとするが、聞く耳を持たない遠藤は、ハジメを引きずりながら、冒険者達に向かっていく。

 

「職員さん!早くそこの筋肉ダルマ退避させて!」

「退いて、ハジメ!そいつ殺せない!」

 

 ハジメの声でようやく我を取り戻した受付嬢が、慌てて駆け寄り、気絶している冒険者を引きずりながら奥へと消えていった。

 

「フン!」

「ゴガバァ!」

 

 ハジメは見事なジャーマンスープレックスを遠藤に決め、沈黙させる。すると、今まで唖然としていた周囲の冒険者が一斉に騒ぎ始めた。ごもっともな反応だろう。いきなり、子供に襲いかかろうとした冒険者が返り討ちにあい、挙げ句の果てには、蹴り飛ばされたのだ。騒がない方がおかしい。

 

「とりあえずは何があったのか話してくれる?」

 

 床に沈んでいる遠藤は親指を立てて肯定した。

 

 

 

 

 




零斗とエトさんがやったあれは暗殺教室の体育祭の時の棒倒しのあれみたいな感じです。感想お待ちしております。


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不安を胸に

「よっと、(。・ω・)ノドモハジメです」
「ん、ユエ」
「久しぶりの浩介でーす」

「さて、前回はホルアドに着いたのと浩介と再会したね」
「……癖が強い人」
「そうか?」
「そりゃ、ファーストコンタクトが僕達に絡んでた冒険者にドロップキックだからね……」

「今回は浩介からの事情聴取だよ……楽しいでね」

「「「不安を胸に……」」」


 Side ハジメ

 

「それで……何があったの?」

 

 浩介に説明をするように促すと、表情を曇らせながら事の次第を話そうとする。と、そこでしわがれた声による制止がかかった。

 

「話の続きは、奥でしてもらおうか。そっちは、俺の客らしいしな」

 

 声の主は、六十歳過ぎくらいのガタイのいい左目に大きな傷が入った迫力のある男だった。後ろの方でさっきの受付嬢さんが顔を青くしている。どうやら、この人がギルド支部長らしい。

 

「分かりました……浩介、行くよ」

「歩けるから!足引っ張らんでくれ!頭削れる!」

 

 浩介の足首を掴み、引きずりながら支部長について行く。

 

 ────────────────────

 

「……魔人族……ね」

 

 通された部屋で浩介から、迷宮内で起きたことを粗方聞いた。にしても、魔人族がなんでオルクス大迷宮に?

 

 ちなみに対面のソファーにホルアド支部の支部長ロア・バワビスさんと浩介が座っていて、浩介の正面に僕が、その両サイドにユエとシアさんがシアさんの隣にティオが、ユエの隣にはミレディとエトさんが座っている。ミュウは、僕の膝の上だ。

 

「────♪」

 

 ミュウは僕らの話が難しかったのか、出されたお菓子をリスみたいに頬張っていて、イマイチ深刻になりきれない。

 

「なぜ、ラピスが……いや私達が居るのだから自然ではありますが……でも……」

 

 エトさんが手で口を覆いながら、呟く。俯いていて、表情は確認できないけど声色からして怯えと恐怖と困惑が感じ取れる。

 

「なぁ、ハジメ、一つ質問なんだが……」

「ん?どうしたの?」

「その、膝の上の子は?見るからにお前の子にしちゃ大きいし……周りにいる人達とも似てないし……」

「まぁ、色々あっただけだよ、あんまり気にしなくていいよ?」

 

 浩介がミュウを見て疑問を口にするが、適当に流す。お菓子が口にあったのか満面の笑みを浮かべているミュウ。優しく頭を撫でると嬉しそうに目を細めてされるがままになっている。

 

「……もう、すっかりパパ」

「私達には向けられたことないような優しい顔ですぅ……」

「果てさて、ご主人様はエリセンで子離れ出来るのかのぉ~」

 

 両隣から何か聞こえるけど、無視してミュウの頭を撫でる。そうこうしているうちに、支部長も席につき本題に入るようだ。

 

「さて、ハジメ。イルワからの手紙でお前の事は大体分かっている。随分と大暴れしたようだな?」

「全部成り行きですけどね……」

 

 大半は零斗のやった事だし、僕はそれに追従しただけだし……

 

「手紙には、お前の〝金〟ランクへの昇格に対する賛同要請と、できる限り便宜を図ってやって欲しいという内容が書かれていた。一応、事の概要くらいは俺も掴んではいるんだがな……たった数人で六万近い魔物の殲滅、半日でフューレンに巣食う裏組織の壊滅……にわかには信じられんことばかりだが、イルワの奴が適当なことをわざわざ手紙まで寄越して伝えるとは思えん……もう、お前が実は魔王だと言われても俺は不思議に思わんぞ」

 

 ロアさんの隣で浩介が誇らしげな表情を浮かべている。なんで嬉しそうなんだよ……

 

「……一つ質問なんだが、白髪で瞳の色が左右非対称の青年……レイトが纏め役と書いてあるが、そいつはどうした?」

「零斗なら先に迷宮に向かいました」

「そうか……」

 

 浩介がエトさんの様子を見て、不安そうに表情を歪める。

 

「にしても、ハジメが魔王か……言い得て妙だな」

「嫌だなぁ浩介、魔王なんかと一緒にしないでよ」

「ふっ、魔王を雑魚扱いか?随分な大言を吐くやつだ……だが、それが本当なら俺からの、冒険者ギルドホルアド支部長からの指名依頼を受けて欲しい」

「……勇者達の救出ですね?」

 

 僕の言葉を聞いてロアさんの眉毛がピクリと動く。やっぱり当たりだったらしい。

 

「ハジメ、俺からも頼む。今ここで天之河が死んだら、戦況が大きく傾く可能性……いや、必ず傾く……だから……頼む!」

「……」

 

 浩介が頭を下げる。正直あまり気乗りはしないなぁ……確かに天之河は、この世界の人間族にとっては希望の象徴とも言える存在だけど、僕個人としてはそこまで思い入れがあるわけでもない。そもそも、助けたところでメリットがない。

 

「……僕が受ける理由はないよね? 天之河君とは同郷の人間でしかないし、ましてや僕を殺そうとしてきたやつを助けたいとは思わない」

「やっぱり……そうだよな……」

 

 浩介が暗い顔になり、ロアさんは勇者が僕を殺そうとしたと聞いて放心状態になっていた。

 

 浩介は僕が断らないと思っていたのだろう。正直、この依頼を受けるのは得策じゃないと思う。

 

「……まぁ、『勇者達の救出』じゃなくて『浩介の援護』っていう依頼なら受けるよ」

「え?」

 

 浩介がキョトンとした表情をする。僕が断ると思っていたのだろう。

 

「あくまでも『浩介の援護をして勇者パーティーの元に連れて行く』ってことなら良いって言ってるんだけど?」

「それって!」

 

 浩介の顔が明るくなり、席から立ち上がった。

 

「浩介がやるって言うから仕方なく手伝うだけだからね?」

「ハァァジメェェェ!アリガトぉぉぉぉ!」

 

 浩介が涙目になりながら抱きついてくる。

 

「……そういう事だけど、ユエ達は大丈夫?」

「……ハジメのしたいように。私は、どこでも付いて行く」

 

 僕の言葉にユエが慈愛に満ちた眼差しで、そっと僕の手を握り微笑む。

 

「わ、私も!どこまでも付いて行きますよ!ハジメさん!」

「貴方の隣に入れるなら、どんな所でも付いて行きますからね!ハジメさん!」

「ふむ、妾ももちろんついて行くぞ。ご主人様」

「ふぇ、えっと、えっと、ミュウもなの!」

 

 何故か焦った様子で声を上げるシアさんとアルテナさん。それに同調する様にティオさんが頷いている。ミュウは、よくわかっていないみたいで、取り敢えず仲間はずれは嫌なのかギュッと抱きつきながら同じく主張してきている。

 

「……お前、白崎さんに会ったら、速攻で謝った方がいいんじゃないか?」

「……そうだね」

 

 香織さんがシアさん達の事知ったら絶対に怒るよね……うん、直接会ったら土下座しよう。

 

「ロア支部長。一応、対外的には依頼という事にしてください」

「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」

「そう言う事ですそれともう一つ。僕達が帰るまでミュウちゃんのために空き部屋を一つ貸してください」

「ああ、それくらい構わねぇよ」

 

 ロアさんはニヤリと笑うと快く了承してくれた。これで準備は整ったかな?

 

「ティオさん、アルテナさん、僕らが帰ってくるまでの間、ミュウの事任せてもいい?」

「はい、お任せ下さい」

「うむ、承った」

 

 二人の返事に安心すると僕は浩介に声をかけた。

 

「じゃあ、行ってくる……浩介、案内よろしくね?」

「おう、任された」

 

 浩介の案内で救出対象のいる場所へと向かおうとした時……

 

 ドォゴオオオン!!!

 

 轟音が鳴り響き、建物全体が大きく揺れた。

 

「なんだ!?」

「爆発か何かでしょうか……」

「みゅ……怖い……」

 

 全員が慌てふためく中、冷静な声で呟いたのは浩介だった。

 

「……ハジメ、今すぐ天之河達の所に行った方がいい気がするんだ……なんか嫌な予感がする」

「……分かった」

 

 僕は浩介の意見に賛成した。今の音は明らかに自然現象なんかじゃない。

 

 

 

 




今回は短め。感想お待ちしてます。


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絶望の淵へ

「よっこいしょ、ハイハーイ( *ᐢ´꒳`ᐢ* )!悠花だよ!」
「八重樫雫です」
「白崎です」

「前回は……浩介からの事情聴取だったね」
「もう少しでハジメ君に会えるんだね!」
「いや、その前に幾つかツッコミ所があるでしょうが……」

「さて、今回は私達目線での話だよ!楽しんで行ってね!」

「「「絶望の淵へ」」」



 Side 悠花

 

「だから!今動けば間違いなく魔人族に……下手したらラピスに遭遇しちゃうんだよ!?」

「今は多少のリスクを背負ってでも上層に向かうべきだ!」

「次接敵すれば命は無いって何度言えば理解するの?!」

 

 私は声を荒げてそう言い放つ。全く、こんな時なのになんでこうも頑固なのかなぁ……

 

「……俺だって死にたくはないさ。だがここで立ち止まっていては結局死ぬだけだ。なら少しでも可能性がある方にかけるべきだろう?」

「その可能性が低いから言ってるの!!」

 

 私の怒鳴り声が部屋中に響く。もう、これじゃあ話し合いにならないよ……

 

『お前は強い子だ……だから他の皆を守ってやれ』

「っ……」

 

 ……ごめん零斗。私やっぱり弱い子だよ。大切な仲間達を守ることが出来ないなんて…… それに、もしこのまま上に行ってもみんな生き残れる保証もない。それどころか、最悪全滅する可能性すらある。

 

「いい加減にしろよ!俺等死にかけたんだぜ?しかも、状況はなんも変わってない!喧嘩なんてしてる場合じゃないだろ!今はどうしたらいいか考えろよ!」

 

 檜山君の言葉にはっとする。そうだ、確かに彼の言う通りだ。喧嘩している場合ではない。少し熱くなりすぎていた。

 

「……遠藤君のペースだと、もう地上に着いている頃だから、動き始めるのは一時間後……いいね?」

「勝手に決めないでくれ!」

 

 天之河君は納得していないようだ。そりゃそうだよね…… だけど、これ以上議論しても平行線のままだし、この方が効率的だ。それに、これはただの時間稼ぎに過ぎない。本当なら今すぐにでも行きたいけど、それで失敗したら元も子も無いし……

 

「うっせぇよ!お前が、お前が負けるから!俺達は死にかけたんだぞ!クソが!何が勇者だ!」

 

 近藤君が激昂しながら天之河を責め立てる。その言葉に流石の光輝も顔をしかめた。しかし、近藤君の怒りは収まらないようで更に捲し立てていく。

 

「そもそも勝っていれば、逃げる必要もなかっただろうが!大体、明らかにヤバそうだったんだ。魔人族の提案呑むフリして、後で倒せば良かったんだ!勝手に戦い始めやがって!全部、お前のせいだろうが!責任取れよ!」

 

 それは違う!と龍太郎君が反論しようとするが、私が手で制す。

 

「……近藤、責任は取る。今度こそ負けはしない! もう、魔物の特性は把握しているし、不意打ちは通用しない。今度は絶対に勝てる!」

 

 そんな事を言い出した光輝に、私は心の中で溜息をつく。そして、遂に堪忍袋の緒が切れた。パァン!! 思いっきり頬を引っ叩く。私の突然の行動に全員が驚いているようだったが気にせず続ける。

 

「あんたが一人で突っ走ったせいで、どれだけの被害が出たと思ってんの?それに次は絶対勝つ?寝言は寝てから言いなよ」

「なっ!?」

 

 天之河が信じられないという表情を浮かべている。

 

「な、何を言っているんだ!俺は皆のために!」

「はぁ?皆のため?自分の行動に自分で責任持てない奴が何格好つけてるわけ?皆を守る?ならなんで後先考えずに……仲間の事も考えずに行動してんの?なにが勇者よ。笑わせないでくれる?」

「そ、それは……」

 

 痛いところを突かれたのか、黙り込む天之河。本当はこんなこと言わなくていいかもしれない。でも、きっといつか誰かが止めないといけないから。だから、たとえ嫌われても構わない。大切な仲間を守るために、私は悪役になる。

 

「……正直、私からすれば白ちゃんやシズちゃん……他数名を除けばこの場に居る全員が死んでもどうでもいい」

 

 私の言葉に全員の顔色が変わる。まあ当然の反応だよね。だけど、ここで止める訳にはいかない。

 

「むしろ死んだほうがマシかもね。だって、あなた達が頑張っても世界は救えないもの。それどころか、もっと酷いことになる」

「……それは……どういう意味?」

 

 雫が恐る恐るという感じで尋ねてくる。他の皆も同じような顔だ。

 

「そのままの意味だよ。だって、考えてもみて?仮に君達が協力して魔人族を倒したとして、その後どうなると思う?『人類の希望』だの『救世主』だの祭り上げられた挙句、戦争の最前線に立たされるだけだよ」

 

 私の言葉に全員が押し黙ってしまう。

 

「別に私はそれでもいいよ?君達がどうなっても知ったこっちゃないし」

「じゃあなんで止めたんだよ!!」

 

 檜山君が叫ぶ。うん、まあそうだよね。普通はそう思うよ。

 

「……『目の前で死なれると面倒だから』……それだけの理由で止めたの。私にとってはそれくらいどうでもいい存在だったから。ただ、零斗と柊人に頼まれたから助けただけ」

「そんな理由で……」

 

 檜山君が絶句している。他の皆も似たような反応だ。

 

「あらあら、随分と酷い言い方するのね、ノイン」

「「「!?」」」

 

 突如聞こえてきた声に、慌てて振り返る。そこには、なんとも言えない表情をしたラピスがいた。

 

「どうしてここに……」

「あなた達を逃がさないためよ」

「くっ!」

 

 ラピスの言葉に歯噛みする。まさか、ここまで追ってくるとは…… 今ラピス相手に戦うのは無謀だ。どうにかして逃げなければ…… だが、その前にどうしても聞いておきたいことがあった。

 

「柊人は……ノクトはどうした……」

「ああ、あの子なら殺したわよ?」

「っ!?」

 

 あまりにもあっさりと告げられた言葉に頭が真っ白になる。

 

「最後の最後まで必死に……無様に抵抗して、足掻いてくれたわ……あら、『信じられない』って顔ね?」

 

 まるで私の心を読んだかのように、私の疑問に答えるラピス。信じたくない、嘘だと言って欲しい。

 

『フゥゥゥゥゥ』

 

 壁の向こうから深呼吸するような音が聞こえる。次の瞬間、凄まじい衝撃音と共に壁が破壊された。

 

 そこから現れたのは血塗れになりながらも、片腕を失ってはいるがしっかりと二本の足で立っている柊人の姿だった。その姿を見て思わず涙が溢れそうになる。生きていてくれて良かった。本当に良かった。しかし、その気持ちはすぐに吹き飛ぶ。

 

「……コロ……ス……コ……ロ……シテ」

 

 その目は虚ろで、とても正気とは思えない。そして、その瞳からは一筋の血が流れ落ちていた。

 

「ふふっ、まだ自我が残っているなんて大したものね。でももう限界みたい」

 

 ラピスの言葉通り、今にも倒れそうなほどフラついている。

 

「てめぇ、俺のダチに何してんだ!」

「うおぉおおおお!!!」

「待って!二人共!」

 

 激昂しながら突っ込んでいく龍太郎君と天之河。それを雫が引き留めるが、二人は止まらない。二人の攻撃はラピスには届かなかった。柊人が割って入り、攻撃を受け止めたのだ。

 

「……グ……アァァァァ!!」

「なっ!?」

 

 ノクト(柊人)が苦しそうに叫びながら、二人の攻撃を弾き飛ばす。そして、再びラピスを守るように立ち塞がった。

 

「……ハ……ャ……ク…………コ……ロ……シ……テ……」

 

 途切れ途切れで。その光景を見て、私の中で何かがキレた。

 

「ふざけるなぁぁぁぁ!!!!」

 

 私は全力で魔力を練り上げる。そして、練った魔力を込めて魔法を放つ。

 

「『蒼天』!!」

 

 今放てる最大火力の魔法。青白い巨大な火球がラピスを襲う。だが、柊人がラピスを庇うように前に出て、片手で受け止めてみせた。

 

「なっ!?」

「……シネ……!」

「くっ!」

 

 柊人がこちらに向かって駆け出してくる。

 

「させるかぁ!」

 

 そこに割り込んできたのは、龍太郎君だった。

 

「……ジャマ……ヲ……スルナ……」

「ぐあぁあ!」

 

 だが、柊人は龍太郎君を殴り飛ばし、さらに追撃を加えようとする。

 

「────『天絶』!」

 

 鈴ちゃんが咄嵯に結界魔法を発動し、柊人の拳を受け止める。

 

「……ジャ……マ……スルナァ!」

「きゃあ!」

 

 だが、柊人は鈴ちゃんの張った障壁を容易く破壊し、そのまま殴り飛ばした。

 

「『天恵』!大丈夫、鈴ちゃん!?」

「う、うん。なんとか」

 

 白ちゃんが咄嵯に回復魔法を使い、鈴ちゃんの傷を癒す。

 

「……シネ……!……コ……ロス……!!」

 

 柊人はまるで獣のように、暴れまわっている。その姿はとても痛々しく、見ていられない。

 

「やめて、鹿乃君!お願い、目を覚まして!!」

「シズちゃん、危ないから下がってて!」

 

 雫が必死になって呼びかけているが、柊人は聞く耳を持たない。

 

「……ジャ……マ……ダ……オマエ……モ……コ……ロス……」

「っ!?」

 

 柊人が雫ちゃんに向かって飛びかかった。雫ちゃんは咄嵯に回避しようとしたが、動き出す直前で殴り飛ばされてしまった。そして、倒れ込んだ雫に馬乗りになると、拳を振り上げた。

 

(もうこれ以上、仲間を失いたくない!)

 

 私は一瞬で距離を詰めると、柊人を蹴り飛ばした。そして、倒れている雫を抱え起こす。

 

「大丈夫、シズちゃん?」

「え、ええ。ありがとう、藤野さん」

 

 柊人は壁に叩きつけられ、床に転がっていた。だが、すぐに起き上がると、こちらを睨みつけてくる。その目は虚ろなのに、目だけはしっかりと私のことを捉えていた。

 

(まだ自我が残ってる?そうだとしたら、まだ希望がある……下手したら私も死んじゃうかもしれないけど……)

 

 それに、あの状態が長く続けば、柊人も死んでしまう。だから、私は賭けに出ることにした。

 

「……全員、今すぐ逃げて」

「なっ!?お前何言ってんだ!?」

 

 檜山君が驚愕の声を上げる。他の皆も同じだ。当然だろう。いきなり逃げろと言われても戸惑ってしまうのは仕方ない。

 

「いいから早く!私が時間を稼ぐから!」

「で、でも……」

「このままじゃ全滅しちゃうよ?」

 

 そう言うと、全員が押し黙ってしまった。悔しそうに顔を歪めながら、私を見つめてくる。

 

「……わかったわ」

「雫ちゃん?」

「ここは藤野さんの言う通り、逃げた方がいいわ」

「でも、それだと悠花ちゃんが!!」

 

 白ちゃんが悲鳴のような声を上げる。やっぱり優しい子だね、ハジメはこんなにいい子を惚れされたんだからすっごいよねぇ……っと、今はそんなことを言っている場合じゃないや。これからやるのは命懸けの大博打だ。失敗したら多分死ぬ、成功してたとしても五体満足では居られないだろうけど……でも、やるしかない。

 

「ムッフッフ……悠花お姉ちゃんに不可能は無い!心配する必要はないよ!」

 

 不安そうな顔を浮かべる皆に笑いかける。さて、そろそろ始めようかな。

 

「力を貸して……『精霊装術:ウェンディーネ』!」

 

 そう呟いた瞬間、私の身体を水の膜が包み込む。そして、その水が弾けると同時に、私の纏っている服が変化した。

 

 水色を基調としたワンピース型のドレスに変化し、背中には半透明の四枚の羽が生えている。そして、髪の色が水のように透き通った青色に変わっており、ショートボブから腰まであるロングヘアーになっている。そして、頭にティアラのようなものを付けており、胸元には青い宝石のネックレスが輝いている。

 

「私はみんなよりちょこっとだけお姉ちゃんだからね……守ってみせるよ」

 

 これが、今私が使える最強の切り札。これは精霊の力を借りることで一時的に自分の力を底上げするというものだ。ただし、この力は強力すぎるため、長くは保たないし、使った後は反動で動けなくなる諸刃の剣でもある。それでも、これなら柊人を止めることが出来るはずだ。

 

「……ジャマ……ヲ……スルナァ!」

 

 柊人はこちらに向かって駆け出してくる。それと同時に私も駆け出した。

 

「『流麗』!」

 

 私は魔力を込めた脚で床を蹴ると、一気に加速した。そのまま柊人に肉薄し、拳を振るう。だが、柊人はそれを容易く受け止めてみせた。

 

「『澎湃』!」

 

 私は拳を受け止めた柊人の腕を掴み、そのまま背負い投げをするようにして投げる。

 

「……グッ!?」

 

 柊人は咄嵯に受け身を取ったようだが、ダメージはあるようで苦しげな表情をしている。

 

(よし!狙い通り!)

「ウガァァァォァ!」

 

 柊人は立ち上がると、再びこちらに突っ込んできた。私は迎え撃つように構える。

 

「……シネェエ!」

 

 柊人が拳を振り上げる。だが、私はそれを見切り、紙一重で避けてカウンターの一撃を入れる。

 

「……グハッ!」

(行ける!このまま消耗させて────)

「そこまでだよ」

 

 突然、背後から聞こえてきた声に振り返る。

 

「ごめん……悠花ちゃん」

「こいつらの命が惜しいなら……分かってるだろう?」

 

 そこには、白ちゃんの首筋にナイフを突きつけている魔人族の女が立っていた。白ちゃんは、恐怖からか涙を流しながら震えている。

 

「……卑怯者」

「なんとでも言いな。だが、あんたも分かっているんだろう?このまま戦えば、こいつの命はないよ?」

(どうしよう……どうすれば……)

 

 思考を巡らせるが、何も思い浮かばない。

 

「さあ、大人しくするんだ」

「……分かった」

 

 私は拳を下ろすと、柊人がゆっくりと近づいてきた。そして、目の前に立つと拳を振り上げた。

 

「悠花ちゃん!!」

 

 白ちゃんの悲痛な叫び声を聞きながら、私は目を閉じた。

 

「……?」

 

 覚悟していた衝撃が来ないことに疑問を抱き、目を開ける。

 

「ゴフッ……」

 

 私の視界に飛び込んできたのは、口から血を吐いて倒れる柊人だった。柊人の身体は黒い霧のようなものが噴き出している。

 

「あら……時間切れみたいね」

 

 ラピスはそう呟くと、倒れた柊人を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた柊人は、まるで糸の切れた操り人形のように倒れ伏している。

 

「鹿乃君!?」

 

 辻ちゃんが慌てて駆け寄り、回復魔法をかける。しかし、柊人は反応しない。

 

「無駄よ。その男はもう死んでるわ」

「そんな……」

「安心しなさい。あなた達もすぐに同じ場所に送ってあげるから」

 

 ラピスは愉悦を含んだ笑みを浮かべながら、私たちを見つめてくる。私たちは絶望的な状況の中、為す術もなく立ち尽くすことしか出来なかった。

 

「さようなら……惨めに死んでいきなさい」

 

 そして、ラピスは右手を掲げる。すると、巨大な闇の渦が現れた。

 

(せめて……皆だけでも……!)

 

 私は皆を庇うようにして前に出ると、両手を広げて盾になる。そして、最後に皆の顔を見て微笑む。

 

「大丈夫……皆は必ず私が守るよ。だから……生きてね」

 

 そう言うと、私は闇の渦の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます(激遅)。本年度もよろしくお願いいたします。


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黒幕は紅雷と共に

「よいしょっと、ハイ(*´꒳`*)ノ白崎香織です」
「えぇっと……辻綾子…です?」
「鈴ちゃんでーす!ヨロシクゥ!」

「前回は……悠花ちゃんが私達を庇って攻撃を受けた所だったね……」
「そう…だね……」
「ゆうゆうなら大丈夫だよね?」
「…………」

「……今回は私達の話の続きだよ、楽しんでいってね」

「「「黒幕は紅雷と共に……」」」


 Side 悠花

 

「……んぇ?」

 

 あれ?私、ラピスの攻撃食らった筈じゃ……

 

「……よぉ、お嬢ちゃん。そんな顔してると、悪〜いお兄さんにからかわれちゃうぞ?」

 

 声がした。おちょくる様な、小馬鹿にする様な……でも、何処か安心する声が聞こえた。

 

「……遅いよ」

 

 そこにいたのは見知った人物だった。いつもヘラヘラしていて、掴み所が無くて、でもいざという時は助けてくれる……

 

「なぁに言ってんだ、完璧なタイミングだろ?黒幕(フィクサー)は一番盛り上がる時に現れるもんだろ?」

「そこは……ヒーロー……じゃないの……?」

「そうとも言うな」

 

 そう言って彼は……零斗は笑った。

 

「零斗君?……ホントに零斗君なの?」

「あぁ、巷じゃ、異端者だの怪物だの呼ばれてる零斗君ですよ」

 

 恵理ちゃんが不安げに呟く。それに零斗は軽く笑いながら答えた。その瞬間に絶望の底に沈んでいた子達の目に光が戻り始めた。

 

「アハトド!その男を殺せ!」

 

 魔人族の女は零斗を見るやいなや魔物をけしかけて来た。

 

「ガァアアアア!」

 

 アハトドと呼ばれた魔物は、頭部が牙の生えた馬で、筋骨隆々の上半身からは極太の腕が四本生えており、下半身はゴリラの化物だった。そして、その剛腕を振るい零斗を撲殺しようと接近してきた。

 

「今日の天気は曇りのち雨だ……頭上に注意した方がいいぜ?」

 

 ドォゴオオン!!

 

 轟音と共に頭上にある天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が地面に突き刺さった。そして、その杭がアハトドを貫き、ミンチにしてしまった。

 

「言わんこっちゃない……」

 

 鉄杭が開けたであろう大穴から誰かが飛び降りてくる。

 

「よぉ、遅かったな?」

「……置いてったのにその言い草は無しでしょ」

 

 飛び降りて来たのはハジメだった。

 

「ハジメ君!」

「香織さん……」

 

 白ちゃんがハジメに勢いよく抱きついた。ボロボロと涙を零して、ハジメの存在を確かめるように強く強く抱き締めている……ミシミシと音が鳴るほどに……

 

「ハジメ、頼むから置いていかないでくれよ……しかも、お前の使ったやつの余波でぶっ飛ばされたし……いきなり迷宮の地面ぶち抜くとか……」

「……そう言いながら対応してるのは凄い」

「遠藤さんも大概人外ですぅ……」

「ま、まぁ、ハジメさんと一緒で零斗さんに鍛えられた人ですから……」

「その一言で纏めるのはいいかがなものかと思いますが……まぁ、その通りですけどね」

 

 鉄杭が開けた穴から全身黒装束の少年に金髪の美少女、ウサミミ少女、綺麗な長髪で耳の長い少女、銀髪の大人びた女性が降りてきた。

 

「ハジメ、褐色肌の女を生かして捕縛しろ。エトとアルテナは怪我してる奴らの治療にまわってくれ。シア、ミレディ、オスカーは後ろの連中を守ってやれ」

「……『生きて』いればいいんだよね?」

「あぁ、四肢の有無はどうでもいい」

「了解……!」

 

 ハジメは腰のホルスターから銃を抜き、魔人族の女に接近して行った。

 

「……久しぶりだなラピス」

「えぇ、久しぶりね……何年ぶりかしらね?」

「再会を祝いたいところだが……とりあえずは……」

 

 零斗が手を上にかざすと無数の魔法陣が現れて、そこから大量の武器が現れた。槍、剣、斧、鎌など様々で、中には見たこともないような形状の物もある。

 

「死ね」

 

 零斗の言葉が号令となり、一斉に襲いかかる。ラピスは慌てて迎撃するが、明らかに反応が遅れていた。ラピスの身体中から血飛沫が上がり、至る所から鮮血が流れ出す。

 

「さて、これでしばらくは足止めできるな……辻さん、柊人の傷の容態はどうだ?」

 

 零斗は足速に柊人と辻ちゃんの元へ向かっていった。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

「さっきからずっと回復魔法を掛け続けるけど、まったく傷が塞がらないの!」

 

 辻さんは今にも泣き出してしまいそうな顔をしながら回復魔法を掛けている。

 

「……傷が塞がらないってことは……」

 

 柊人の衣服を破り、傷口を直に視認出来る様にする。

 

「……すげぇ量の呪詛だな。これじゃ傷も塞がらねぇわな」

 

 よく見れば傷の周りの皮膚が変色しており、赤黒くなっていた。かなり根深く固着しており、今の状態で解呪するとなると柊人が死にかねないし……

 

「しかも『赫包』までやられてるな……よく生きてたなこいつ」

 

『赫包』とは柊人だけが持つ器官で、それを起点に強化細胞の制御と再生が行われるらしい。それを壊されると傷が回復せず、最悪死に至ることもある。

 

「……『赫包』近くに呪詛が集まってやがる……仕方ねぇ」

 

 俺は自分の腕を軽く切る。俺の腕から溢れ出した血液がみるみると形を変えて、真っ黒な結晶になった。

 

 柊人の強化細胞を無理やり活性化させ、そのエネルギーを俺の血から作ったこの結晶に流し込む。すると、真っ黒だった結晶が次第に透き通るような赤色に染まっていく。

 

「後はこいつを埋め込めば……」

 

 そして、その結晶を柊人の体内に埋め込んだ直後、柊人を赤い霧が包み込む。

 

「……よし、定着したみたいだな」

 

 赤い霧が繭の様になり、脈動し始めた。

 

「レイトォ!お前だけは絶対に殺すッ!」

 

 そこにラピスがやってきた。だが様子がおかしい。先程までの余裕はなくなっており、その目は憎悪と殺意で満ちており、表情には憤怒の感情が浮かんでいる。

 

「おー怖い……辻さん、とりあえずはお疲れ様。これ飲みな、かなり魔力消費しただろ?」

「……うん、ありがとう」

 

 俺は魔力回復薬を辻さんに渡して、ラピスに向き直った。

 

" 英霊憑依 " " セイバー " アルトリア・ペンドラゴン

「すごい……」

「……綺麗」

 

 背後から感嘆の声が上がる。まぁ、確かに綺麗だよな…… 俺の身体から金色の粒子が放出され、それが鎧となって全身を覆う。手には風を纏った不可視の剣が出現する。

 

「全員、俺から離れておけ……巻き込まれるぞ」

 

 剣を両手に握り、構えを取る。

 

「束ねるは星の息吹────」

 

 剣に纏わっていた風が消え、代わりに眩しい程に輝く黄金の光が刀身から放たれる。

 

「輝ける命の奔流────」

 

 段々と光の光度が増していき、やがて目を開けていられないほどになる。そして、一際強く輝くと光は剣の刀身と同化し始めた。

 

「────受けるが良い!」

 

 剣を振りかぶると刀身に宿る黄金の光が、まるで生きているかのようにうねる。

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!」

 

 真名解放と共に振り下ろす。瞬間、視界全てを黄金に染め上げる程の極太光線が射出される。ラピスは咄嵯に障壁を展開するが、それは簡単に砕けてラピスを飲み込んでいく。

 

「舐めるなぁァァ!」

 

 光の奔流の中でラピスが怒りの形相を浮かべながらゆっくりとこちらに向かってくる。

 

「ば、バケモノ……」

 

 誰かがそう呟いた。確かに、今の一撃を食らってなお動けるなんて、もはや人間じゃないよなぁ……

 

「ヴェノム!開けろ!」

『了解!』

 

 俺の言葉に反応して、ヴェノムがラピスの足元に空間転移ゲートを開く。突然現れたそれにラピスは対応できず、そのまま落下していく。

 

「エト!この場は任せるぞ!」

「え!?ちょっと待ちなさ──」

 

 エト達にその場を任せて、俺はラピスの後を追って、ゲートに飛び込んだ。

 

 ●○●

 

 Side ラピス

 

「ここは……」

 

 気が付くと知らない場所に居た。

 

「……回廊……かしら?」

 

 全体が山吹色をしており窓には緻密な装飾が施されている。窓は光が差し込んで明るく、ギリシャ調の柱が回廊の終わりまで左右それぞれ並んでいる。

 

「とりあえずは進むしかなさそうね……」

 

 しばらく歩いて行くと、前方に人影が見えた。私は警戒しながら近付いて行った。すると、向こうも私に気付いたのか、振り返って声を掛けてきた。

 

「よお。さっきぶりだなラピス」

「……レイト」

 

 そこには先程殺し損ねた男がいた。私はすぐさま臨戦態勢に入る。レイトはそんな私の様子を見て肩をすくめた。

 

「物騒だねぇ……」

「……あなたを殺すためなら何でもするわ」

「なぁ、一つだけ質問させてくれ」

 

 私が答えると、レイトが真剣な眼差しで問いかけてくる。一体何を聞かれるのだろう? どうせ殺す相手なのだから答えても構わないけど……

 

「どうしようもないクズでも変われると思うか?」

 

 その問いの意味がよく分からなかった。なぜ今その様なことを聞くのだろうか?

 

「どんな奴でもその気になれば良い奴になれると思うか?」

 

 続けて聞いてきたその言葉にも、やはり理解が追いつかない。

 

「……少なくとも俺はなれなかった。いや、なろうとすら思わなかったんだろうな……」

 

 レイトは自嘲気味に笑い、窓の外を見た。

 

「……だからあの時、お前に手を差し伸べられなかった」

 

 レイトが見ている方向に視線を移すと、そこでは桜の花びらが舞っていた。

 

「……俺は組織の守護者であり……同時に死神だ。俺の役割はお前達を救い、守護すること……そして、裏切った者の始末だ」

 

 レイトは私の方に向き直り、指差してきた。

 

「……もし、お前に良心が残っているのなら……そこから一歩も動かないでくれ」

「……ふざけないで貰えるかしら?」

 

 彼の言いたいことは何となく分かった。だけど、それを受け入れるつもりは無い。レイトの忠告を無視して、前に出る。彼は少し悲しそうな表情を浮かべた。

 

「……ハァ、これだから嫌なんだよ……この役目……」

 

 そう言うと同時に、彼は目を閉じた。

 

「今日はいい天気だ……鳥は歌い、花は咲きほこる……」

 

 彼は朗々と詩を詠うように言葉を紡いでいく。 私は直感的に危機を感じ取り、鞭を構えた。

 

「こんな最高の日に、お前の様な裏切り者(哀れな狂人)は……」

 

 その言葉を聞いた瞬間、目の前が一瞬だけ暗転した。その時にはもう、彼の姿は無かった。

 

「地獄の業火に焼かれてもらうぜ?」

 

 声が聞こえたと思った直後、足元に骨によく酷似した槍が出現した。

 

「ッ!」

 

 咄嗟に回避したものの、完全に回避することは出来ず掠って傷を負ってしまった。

 

『ギュォォォ……』

「な!?」

 

 レイトの姿を目視しようと振り向くと、そこには異形の怪物がいた。それは一言で表すならば"竜の骸"だった。頭部以外は無く、口部には黒い粒子が集まっている。

 

『ゴォオオォ!』

「きゃっ!?」

 

 口から黒い光線が放たれ、咄嵯に防御魔法を展開して防ぐが、威力が高く耐えきれずに吹き飛ばされてしまう。

 

「……うぅ……痛ったぁ……」

 

 空中に跳んで衝撃を和らげたものの、かなりのダメージを受けてしまい、落下してしまう。地面に叩きつけられる寸前に何とか体勢を立て直すが、既にレイトがこちらに向かってきていた。

 

「やるか」

 

 

 

 




Do you wanna have a bad TOM?!??!??!


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激情に身をまかせて

「よっと、ヽ(。・ω・。)ドウモハジメです」
「白崎です」
「やっほー!悠花ちゃんだよー!」

「前回は香織さん達と再会して、零斗がラピスさん?を某地下の物語の審判の間に引きずり込んで行ったね……」
「フヘへ……久しぶりのハジメ君の匂いらぁ……ウェヘヘヘ……」
「し、しらちゃん、帰ってきて……」

「えぇっと……今回は僕達目線での話だよ。楽しんでね」


「「「激情に身をまかせて!」」」


 Side ハジメ

 

「あぁ、四肢の有無はどうでもいい」

「了解……!」

 

 零斗の指示を聞き、ホルスターからドンナーを抜きつつ、魔人族の女性に接近する。

 

「大人しく投降してくれるのであれば、丁重に扱いますが……どうします?」

「……何だって?」

 

 女性は僕の言葉を聞くと、眉をひそめた。その反応も当然だろう。四方は魔物に囲まれ、退路も絶たれている……この状況で投降を勧めるなど普通ではない。

 

「戦場では迅速かつ的確な判断が求めらるのは知っていますよね?傷付きたくないのであれば、速やかに投降を……」

 

 言い終わる前に、女性がスっと表情を消し、周りにいた魔物に僕を殺せと命令した。

 

「……抵抗するというのなら……容赦はしない」

 

 僕の一言と同時に、四方からの攻撃が始まった。しかし、僕は焦ることなくドンナーを構えて発砲し、迫り来る魔物を撃ち抜いた。

 

「ふぅ……」

 

 ゆっくりと息を吐き、思考を沈めてゆく……

 

『戦場じゃ、焦ったヤツに感情的なヤツ……マトモなヤツから死んでいく』

 

 零斗の言葉が頭の中で反響する。訓練している時に、言われたものだ。

 

『戦場に必要なのは、力でも仲間でも無い……必要なのは、冷酷な思考と冷めきった考えだ』

 

 段々と思考は冴え、眼前の景色の色が抜け落ちていく……代わりに周囲の音、匂い、肌に触れる風……感覚が研ぎ澄まされていく。

 

「さぁ……」

 

 左足にあるホルスターからシュラークを抜き、改めて構えを取る。

 

「ハイライトだ」

 

 その言葉と共に、頭の中で『スイッチ』を切り換える。それと同時に乾いた破裂音が階層の中で響き渡る。

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

「こんな……こんな事……ありえるはずがない……」

 

 魔人族の女は、そう呟きながら後退る。従えていた魔物は大半が物言わぬ肉塊に成り果てた。

 

 ハジメは神楽を舞う様にドンナーとシュラークを撃つ。そして、その度に血肉が花吹雪の様に飛び散り、魔物の頭部や胸部に穴を空けていく。

 

 命を奪う行為でありながらも美を感じさせる動きだ。

 

「すごい……」

「……綺麗」

 

 白崎とユエはその光景に見惚れてしまう。それほどまでに美しい戦い方なのだ。だが、そんな美しさとは裏腹に、築かれてゆく屍の山。

 

「……相変わらず怖ぇな。ホントに機械みたいだな」

 

 遠藤の言う通り、ハジメの目には光が宿っていなかった。それどころか、顔からは生気が感じられない。まるで機械のように淡々と戦い続ける姿は、正気とは思えなかった。

 

「……怖いですぅ……」

 

 シアは震える身体を押さえつけながらも、ハジメを見守る。その場いる全ての者が動けずにいた。ハジメの援護に行ったとしても、足手まといになってしまう事はわかっているのだ。だから、見守る事しか出来ない自分達に歯痒い思いを抱く。

 

「うぉおおお!!」

 

 そんな中で雄叫びを上げながら飛び出したのは天之河だ。聖剣を振りかざしながら、魔人族に向かって行く。

 

「光輝!ダメッ!」

「戻れッ!光輝!」

 

 八重樫と坂上の声を無視して、天之河は上段からの振り下ろしを放つ。

 

「……邪魔だ、退け」

「ガっ!?」

 

 しかし、天之河の聖剣はハジメの持つドンナーによって受け止められてしまった。そのまま側頭部に回し蹴りを食らい、その場に倒れる。

 

「ハッ!こんな時に仲間割れかい!随分と余裕みたいだねぇ!」

「こんなやつ、仲間ではない」

 

 魔人族の女はその隙をついて魔力弾を放ってくる。ハジメは微動だにせず、天之河の首を掴み、魔力弾の肉壁にした。放たれた魔力弾はそのまま天之河に当たるが、天之河は無傷だ。

 

「グッ……ァ……」

「其処に居た、お前が悪い。邪魔立てするのなら……お前を殺す」

 

 冷たい声で言い放つと、天之河を投げ捨てて、魔人族の女に迫る。それを阻止しようと襲ってくる魔物達を容赦なく撃ち抜き、切り刻み、殺し尽くす。

 

「地の底に眠りし金眼の蜥蜴……大地が産みし魔眼の主……宿るは暗闇見通し射抜く呪い──────『落牢』!」

 

 魔人族の女の詠唱が終わると、灰色の煙がハジメの周囲に漂いだす。

 

「(パキリ……)……石化か」

 

 指先が石のようになり、変色していく。その様子を見てニヤリと笑った魔人族の女だった。

 

「……」バゴォ

「なっ!?」

 

 石化した指先をドンナーのストック部で砕き、傷口を塞ぎながら、無表情のままに言い放った。

 

「……中途半端な魔法だな」

 

 その言葉を聞いた瞬間、魔人族の女の顔が引き攣る。

 

「……あんな、ハジメ君……見た事ない……」

 

 白崎は目を見開き、恐怖からか膝をつく。その姿を見た白崎以外の者達も同様に驚きで固まっている。それも当然だろう。普段のハジメを知っている者のなら、今のハジメの異常性に戦慄を覚えて当たり前だ。

 

 魔物を機械的に処理し、一切の容赦も情けもなく、ただ目の前の敵を屠る。そこに感情はない。あるのは、冷酷な思考と煮えたぎる怒りだ。

 

「そりゃ、自分の恋人や友達が傷だらけにされた状態で『スイッチ』切り換えりゃ……あんな風になっちまうよな……」

 

 遠藤の言葉に白崎達は言葉を失う。いつも優しいハジメの姿しか知らない彼女達にしてみれば、今のハジメは別人にしか見えない。しかし、それは紛れもない事実なのだ。

 

「な、なぁ、遠藤」

「ん?なんだ?」

「その『スイッチ』?ってのはなんなんだ?」

 

 檜山は恐る恐ると言った様子で尋ねる。それに対して、遠藤は少し考えてから口を開く。

 

「零斗に教わった技能みたいなもんだ。戦闘時と日常生活の思考回路を切り換える術……まぁ、簡単に言えば二重人格みたいなもんだ」

 

 遠藤はガリガリと頭を掻きながら答える。

 

「一度『スイッチ』を切り換えれば、感情が無く、合理的で冷酷な思考、純粋な殺意が湧き上がる……それこそ殺戮兵器みたいになっちまう」

 

 それを聞いて全員が息を飲む。浩介は淡々と話を続ける。

 

「普段のアイツは馬鹿みたいにお人好しだろ?善人、悪人関係なく手を差しのべる様な……根っからの純粋馬鹿だ」

「……そう……だね」

 

 白崎はその通りだと言わんばかりに小さく首肯する。実際、白崎の知るハジメは、困っている人がいれば必ず助けようとする人間だ。例え、自分がどれだけボロボロになってでも、誰かの為に行動を起こす。それが南雲ハジメという男だ。

 

「そんなヤツが戦場に出れば……利用されて、騙されて、奪われて……殺されるだけだ」

 

 だが、今のハジメは敵に対して一切の慈悲を与えていない。全員が呆然とハジメを見る中で、坂上がポソリと言葉を漏らした。

 

「……まるで……人じゃねぇみてぇだ」

『……ッ!』

 

 坂上の言葉が全員の心に深く突き刺さる。坂上自身、決して悪意があって言ったわけではない。むしろ、心の底から出た感想だ。

 

「勘違いしてそうだから言うが……あの状態でも『南雲ハジメ』は『南雲ハジメ』のままだ」

「えっ?」

 

 坂上は遠藤を見つめて疑問の声を上げる。他の皆も同じ様に困惑の表情を浮かべていた。

 

「あの状態でもハジメの根幹は変わってない、何処までも馬鹿で純粋で……優しい……俺たちの知ってるハジメだ」

 

 険しい表情だった遠藤の顔が、優しい物に変わる。

 

「……そっか……そうなんだ……」

 

 遠藤の言葉に、白崎は微笑み、八重樫と坂上は力強くうなづく。

 

「今、俺達に出来るのは……待つことだけだ」

「……うん……」

「ああ……」

「……わかってる」

 

 皆、今は自分達が出るべきでない事を理解している。そして、願った。どうか、無事に戻ってきてくれと……

 

 その頃、魔人族の女は恐怖していた。目の前にいる少年が、死神か何かに見えたのだ。目の前の少年の瞳には一切の感情が感じられない。ただ、冷酷な光を宿し、自分を睨んでいる。

 

「……どうした?ささっと来い……」

「ひっ!?」

 

 魔人族の女は悲鳴を上げながら魔力弾を乱射する。しかし、その全てがあっさりと撃ち落とされてしまう。

 

「……その程度か?」

「ひぃ!?」

 

 魔人族の女は涙目になりながら魔力弾を放つが、ハジメには掠りもしない。

 

「……弱い」

 

 ハジメは魔人族の女に接近すると、腹に蹴りを入れる。

 

「ぐふぅ!」

 

 そのまま壁に叩きつけられる。魔人族の女は必死に立ち上がろうとするが、恐怖からか足が震えて上手く立てない。

 

 ハジメはゆっくりと歩き出す。殺される。この子供に自分は殺されてしまう。そう確信し、魔人族の女の目に恐怖の色が浮かぶ。

 

「終わりか?」

「……あんたに遭遇した時点で詰みだった……って訳か」

「……」

 

 ハジメは無言のままドンナーのトリガーに指を掛ける。

 

「待て……待つんだ、南雲……彼女はもう戦えない……殺す必要はない……筈だ……」

 

 天之河がボロボロの状態でハジメに語り掛ける。ハジメはそんな天之河を冷めた目で見下ろす。

 

「黙れ、お前の意見など聞いていない」

 

 ハジメはドンナーの銃口を天之河の頭に突き付け、トリガーに指を掛ける。それを見た白崎は青ざめ、檜山達は息を飲む。

 

「ハジメ、一旦落ち着け。もう十分だ」

「……」

 

 遠藤の言葉で、ハジメはドンナーのトリガーから指を離し、ホルスターに仕舞う。

 

「後……捕虜にするんだったら最低でも片足は折っておけ」ヒュン

「ガッ!」

「……すまない」

 

 浩介は逃げようとしていた魔人族の女にナイフを投げて足を貫く。続けて、ハジメが錬成で足の骨を砕いた。

 

「とりあえず、ハジメ。さっさっと切り換えろ」

「……了解だ」

 

 ハジメは意識してスイッチを切り換える。その途端、いつものハジメに戻った。

 

「ふぅ……流石に疲れ……た……(フラ……)」

「おっと、お疲れさん」

 

 ハジメは疲労感に苛まれ、倒れそうになる。遠藤はそれを受け止めると背中をさする。

 

「お前なぁ……自分の恋人が傷つけられて怒るのは分かるが、少しは冷静に考えて行動をしろ」

「……ごめん」

 

 白崎達も駆け寄り、ハジメの身体を支える。

 

「怪我は無い!?気分は悪くない!?何処か違和感ある場所は!?」

「だ、大丈夫だよ。香織さん。心配かけてゴメンね」

 

 ハジメは苦笑いしながら謝る。しかし、それでも不安なのか、白崎はハジメをギュッと抱きしめる。

 

「……本当に……良かった……無事で……」

「……うん……ありがとう」

 

 ハジメは優しく微笑むと、白崎の頭を撫でる。

 

「いい雰囲気のところ悪いんだけどよ……そいつどうす──ーゴッ!?」

 

 空気を読んでいなかったのか、坂上が魔人族の女について尋ねるが、八重樫の拳が腹に突き刺さる。坂上はそのまま崩れ落ちた。

 

(ゴウッ!)

『ッ!?』

 

 その瞬間、全員が身構えた。それは、まるで空間そのものを押し潰すかの様な威圧。そのプレッシャーの発生源は……

 

「黒い……門?」

 

 その通り、漆黒の門が出現しており、そこから途轍もない圧力を感じるのだ。そして、門の隙間からは禍々しいオーラと共に、闇よりも暗い影が見える。

 

「…………来る」

 

 ハジメが呟くと同時に、門の中から一人の青年が現れる。全ての光を吸い込む様な瞳に、灰色の髪。身長は180cm程で、細身の身体。

 

「……あ」

 

 ハジメがホルスターに手を掛けた、次の瞬間には、男は消えていた。そう認識した時には、ハジメの目の前に移動していた。

 

「待たんかい、ワレェ!」

「ブベラ!?」

 

 黒い門からとんでもないスピードですっと飛んで来る零斗。そして、そのまま眼前の男の背中にドロップキックを叩き込む。

 

「いきなり何しやがるです!?」

「テメーこそ何してくれてんねん!?俺がどんだけ苦労したと思ってんのじゃい!」

「知りませんわボケェ!」

「んだとコラァ!」

 

 ギャイギャイと言い合いを始める二人。その様子を見て、唖然とする一同。

 

「柊……人……?」

 

 悠花の問いかけにも答えず、二人は言い争いを続ける。

 

「生ぎででよがっだぁぁぁ!」

「「ガフッ!」」

 

 猛スピードで取っ組み合いをしている二人に突っ込んでいく悠花。そのタックルを受けて、二人とも床に倒れる。

 

「うぅ……ひぐっ……」

「……泣かないでください……」

「……だっで……だってぇ……」

 

 悠花は泣きながら柊人に抱きつく。柊人はその頭をポンポンと軽く叩く。零斗はため息を吐きながら悠花の背中をさする。

 

『???????????????』

 

 そんな三人以外の者は揃って、背後に宇宙を背負っていた。




これ(王蛇専用ガードベンドのパロ)がやりたかった( ^ U ^ )


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(ハ)何があったんです?(零)大惨事大戦DA。

「よっと、ᐕ)ノハーイお馴染みの零斗さんだ」
「ハジメです」
「浩介でーす」

「前回はハジメ VS 魔人族の女と変化しまくった柊人の登場だったな……とりあえずハジメ、そこに正座しろ」
「え?今?」
「あんな無茶な戦闘したらそりゃ怒るに決まってんだろが……なに石化した指を砕いてんだよ、ボコボコにするぞてめぇ」
「……はい、すみません」

「お、落ち着けって零斗……あぁ……今回は鹿乃と零斗達に何があったのかだ」
「楽しんでいってくれ」

ハ「何があったんです?」
零「大惨事大戦DA☆」


 Side 零斗

 

「バカァ!心配したんだからぁ!」

「痛い、痛いですよ、悠花……」

 

 柊人の胸をポカポカと叩く悠花だったが、凄まじいパワーのため胸骨がミシミシと音を立てている……痛そ。

 

「イデデデ……全身バキバキだわ……」

「えぇっと、零斗……何があったの?何で柊人の見た目があんなに変わってるの?それにラピス?って人は……」

「矢継ぎ早に質問をするんじゃないよ……順を追って説明してやっから」

 

 俺は何があったのかの説明を始めた。その間も柊人はずっと悠花の拳を食らっていた。

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

「……ッア……ウ……」

「これで……三十五回目の死亡だな……刺殺でもダメだったか」

 

 全身を貫かれ、血みどろになったラピスを眺めながら煙草をふかす零斗。その目は冷たく光っていた。

 

「焼殺、失血死、圧死、絞死、凍死……色々と試してみたが……一体どうしたら死ぬんだ?お前」

「……ウゥ……グゥ……ッ」

「ほぉ……まだ生きてたか……そのくたばってくれたら楽なんだがな……」

 

 零斗はそう言いながらまた煙草に火をつける。そして今度は煙を吸い込み吐き出すのではなく、吹きかけた。するとラピスは息苦しくなったのか咳き込む。しかし、それでも肺まで煙が入り込んだため呼吸ができない苦しみに襲われる。

 

「お、もう再生……いや蘇生したのか」

「ゲホッ……ゴホォ……ハァ……ハァ……ゼェ……ゼェ」

 

 ラピスの体の傷が徐々に治っていく様子が見て取れた。

 

「さて、次は溺死と感電死……どっちがいい?」

「……コロス……コロス……コロス……コロス……」

「Hehe……こりゃ骨が折れそうだ……」

 

 そう言うと零斗は咥えていた煙草を握りつぶし、再び攻撃を開始した。

 

「『アウターサイエンス』……そら、来い」

 

 零斗が指を鳴らすと、四方八方から無数の骨槍が現れる。そしてそれらは一斉にラピスに向かって飛んでいった。

 

「無駄だァ!シネェ!」

 

 ラピスは飛来する骨を全て回避し、零斗に接近する。

 

「……なっ!?」

『矮小く惨めに生きた生命が 死んではドアを叩くでしょう』

 

 零斗が歌い出すと共に身体全体にグリッチエフェクトが現れ、ラピスの攻撃は当たること無く零斗の身体をすり抜ける

 

『小さな主は見兼ねる 「嫌な話だ」』……おいおい、ボーンとしてるとコイツに当たっちまうぜ?」

「ガッ……」

「クフフ……『大きく拡がる 喉と胴体は死んだ心を 溶かす様にゆっくり命を 飲み込み 目を刳り貫く』

 

 ラピスの背後から現れた骨槍により心臓を貫かれる。零斗の攻撃はまだ終わらなかった。ラピスの周りに無数の龍の頭部を模した骨が現れ、口からレーザーを放つ。

 

「グ……ァ……」

「『ねぇ、君も祈っちゃったんでしょう?僕に睨まれた時にさ……』」

「ッ!?」

 

 地面に転がり、満身創痍のラピスの耳元で零斗が歌う。囁く様に、ねっちこく、いやらしく……それこそ蛇の様な声色で歌う。

 

『そんな悲壮精神が大 好 物 だ !』

「巫山戯るな!」

 

 ラピスは傷の修復が終わった瞬間、零斗の声がする方に攻撃をするが……そこに零斗の姿は無い。

 

 次の瞬間には、ラピスの首筋に手を当てていた。ラピスの動きが完全に止まる。そして数秒後、ゆっくりと動き始めた。ラピスの体が青白く発光している。零斗の手にも青い光が灯った。

 

『ようこそ、我が胎内へ!愛とエゴの終着点』

 

 零斗が手を真横に振り抜くとラピスの身体も連動するかのように弾き飛ばされる。その勢いのまま壁に激突し、大きなヒビが入った。

 

『君もすぐに生まれ変われる 怪物みたいで素敵なことでしょう?』

 

 ラピスの眼前にはニタリと笑う零斗の顔があった。

 

 

『「あぁ、神様、なんで」って「もう嫌だよ」と泣いたって受け入れろよ これが運命だ』

「ふざけ……るな……」

 

 零斗が歌っている最中、ラピスの体は再生を始める。零斗もただ待つ訳もなく、ラピスの背後の壁に骨槍を出現させる。

 

『次の次の次の主に懸命しよう……』────ふぅ、やっぱり一番サビまでしか持たないか……つまらんな」

 

 零斗がそう呟きながら壁を見ると、そこには何も無かった。ラピスの姿も無く、血痕すら残っていない。すると、零斗の背後に影が現れる。その正体はもちろんラピスである。

 

「ほぅ……カフッ……」

 

 いつの間にか零斗の胸にはラピスの腕が貫通しており、血が滴っている。ラピスはその腕を引き抜くと、その手には赤黒い剣が握られていた。その剣を零斗に向かって一閃する。すると、零斗を真っ二つに切り裂いた。

 

「アハ……アハハ……アハハハハハハッ!遂に……遂にやってやったわ!」

 

 ラピスは狂喜乱舞しながら高笑いをあげる。しかし、それも束の間……

 

「ァ……れ……?……い…………しき……が……」

 

 ラピスは糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏した。

 

 ────────────────────

 

「カハッ!?」

「お、起きたか……時間は……三十分くらい」

 

 零斗が煙草を咥える。ラピスは体を起こし、胸を手で押さえながら辺りを見回す。さっきまで居た空間と変わらないが、戦闘の形跡は一つも無かった。

 

「まさか……幻術?」

「いいや?お前が体験したのは紛れもない現実の出来事だ……魂だけだがな」

 

 ケタケタと笑う零斗に、絶望顔のラピス。魔力も体力も全てが底を尽き、動く事もままならない程に消耗している。

 

「どんな気分だ?やっとの思いで殺した奴が無傷の状態で目の前に居る気持ちは?」

「………………」

「カッハハハッ!良い絶望顔だなぁ?」

 

 零斗は大爆笑した後に煙草に火を付けひと吸いし、煙を吐き出す。ラピスは怒りと憎しみ、そして恐怖に満ちた顔を零斗に向けた。その目を見て零斗は愉快そうにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「この空間に引きずり込んだ時点で魂と肉体を分離させて、魂側だけにお前の理想の展開を『体験』して貰ったのさ……」

 

 ニタニタと気味の悪い笑みを浮かべながら語る零斗。

 

「そしてもう一つ……後ろを見てみろ」

 

 言われた通りに後ろを振り向くラピス。そこにあった光景に思わず息を呑む。

 

「あぁ、最っ高に良い顔だ……殺した筈の……お前が愛した男が目の前に居る……最高のエンターテインメントだなァ!」

 

 そう……殺した筈の柊人が殺気を放って立っていた。ラピスは零斗の言う通り、最愛の人の姿をした存在が立っていることに驚き、困惑、恐怖……様々の感情が渦巻いていた。

 

「あ……え……?……なん……で?」

「言っただろ?俺はお前達……組織の守護者であり死神だと、俺の庇護下に居るからには……死なせはしない」

 

 零斗は吸っていた煙草を踏みつけ、ラピスに歩み寄る。ラピスは恐怖に怯え、逃げようと這いずる。

 

「い、イヤ!来ないで!助けて……!死にたくない!」

 

 ラピスが這う速度よりも速く移動し、首を掴んで持ち上げる。ラピスはバタつきながらも必死に離れようとする。零斗は無慈悲にラピスに問いかけた。

 

「何故、お前がそちら側にいる?誰がお前のバックに付いている?お前の持つ情報を全て吐け」

「ぐっ……知らない!私は何も知らされていない!」

「……嘘は良くないなァ?」

 

 零斗は首を掴む力を強める。ラピスは苦しそうにもがき続ける。それまで静観していた柊人がうんざりしたのか、ラピスの左腕を掴み取ると、そのまま肩のあたりから切り落とした。

 

「痛っ!!?」

「次、下手くそな演技したらもう片方も切り落とす」

 

 その言葉を聞き、ラピスの顔は見るからに引き攣る。その様子を確認した零斗は手を離し、再び問う。

 

「次は答えてくれるかな?」

「……教えるかよ、バーカ」

 

 ラピスのその言葉と共にその凄まじいプレッシャーが零斗と柊人を襲う。この瞬間、二人はラピスへの認識を改め、貴重な情報源から抹殺対象に切り替えた。

 

「仕方ないよね……この状況を打破するには……これしか無いものね……」

 

 ラピスの手にはいつの間にか小さなナイフが握られており、それは自らの頸動脈を捉えていた。

 

「死ぬにはいい日ね……」

 

 その言葉を呟くと同時に刃は横に引かれ、鮮血が舞う。ラピスは倒れるようにその場に崩れ落ちる。その刹那、ラピスを中心に半径数メートルが闇に包まれる。

 

「面倒な事になったな……」

「ハァ……往生際が悪いにも程があるでしょう……」

 

 闇が晴れると、そこには傷を完治させた姿のラピスと全くの同じカタチをしている何かが佇んでいた。

 

『縺オ縺溘j縺セ縺ィ繧√※縺カ縺」縺薙m縺呻シ?シ?』

 

 何と言っているか分からない音を発すると、黒いナニカは一瞬で零斗と距離を詰めてその華奢な腕で殴り掛かる。それを零斗は咄嵯に両腕を交差させてガードするが、衝撃は凄まじいもので、後方へと飛ばされる。

 

「パワー馬鹿の悠花以上の威力とはな……両腕が弾き飛ばなかっただけマシか……」

 

 空中で体制を整え、綺麗に着地する。すると零斗に無数の魔法が襲いかかるが、それらは全てが柊人のナイフにより撃ち落とされた。

 

「ナイスサポート、助かる」

「……あれはもう僕達の知っているラピスではない様ですね」

「ハァ……泣けるぜ……」

 

 二人の視線の先にはラピスの姿をしながら漆黒のオーラを放つ異形の存在がそこにはいた。ラピスの口からも、またもや謎の言語が発せられる。

 

『遘√?窶ヲ窶ヲ雋エ譁ケ驕斐′螟ァ雖後>窶ヲ窶ヲ』

 

 ラピスと全くの同一な声が響くと、二人に向かって衝撃波が放たれる。

 

「とりあえずは小手調べ……っと」

 

 零斗がラピスに向けて骨槍を投げるが、黒いナニカは腕を払うだけで消滅させてしまう。

 

「おい、俺より化け物じみてないか?」

「そうみたい……ですねっ!」

 

 黒いナニカの背後に回り込んだ柊人はナイフを突き刺す。しかしその刃が届くことはなかった。黒いナニカの身体が真っ二つに裂かれ、霧散して行く。

 

「……これは本当に厄介だな……」

「えぇ……」

 

 黒いナニカはその体を再構築すると、今度は両手を合わせる。そこから禍々しい魔力が凝縮された光線を発射する。

 

「……なるほどねぇ、アイツに対して悪意を向けるとそれに反応して攻撃してくるみたいだな……」

「じゃあ、敵意を向けずに戦えばいいって事ですか?」

「そういう事になるな」

「無理難題じゃない?」

「だとしてもやるしかない」

 

 そんな会話が繰り広げられる中、黒いナニカは微動だにせずに立っている。

 

「……それにありゃ、一種の洗脳状態みたいでな……前世のラピスの方が理性的でまともだっただろ?」

「確かにそうでしたね……嫉妬でむくれる事はあっても危害を加えてくる事はなかったですね……」

 

 零斗がラピスの魂に理想の展開を体験させている間に、肉体の解析を済ませた結果分かったのは、どうやら精神が不安定になった時点でラピスの意思に反してあの肉体が乗っ取られている事が理解出来た。

 

「まぁ、洗脳とも言えるし、寄生されてるとも言えるがな……」

「……なるほど、ジョジ○三部の肉の芽みたいな物ですか」

「あ〜……まぁ、そんな感じだ」

 

 それまで動かなかった黒いナニカの口からラピスの声が漏れ出す。

 

『た……ケ……に……テ……コ……シ…………テ……』

 

 意味不明な単語だが、何故か零斗と柊人にははっきりと理解できる内容だった。ラピスはただ静かに泣き続けていた。その涙の意味は分からず、その悲しみも理解できないものだった。

 

「しょーがねぇな……柊人、やるぞ」

「はいはい、分かりましたよ……」

 

 二人は同時にそれぞれの得物を黒いナニカに向ける。

 

「さぁ、振り切るぜ……」

「俺の命をかけて……お前を救う」

 

その言葉と同時に黒いナニカに肉薄していく二人。

 

 

 

 




何故特撮ネタが多いのかって? 私 の 趣 味 だ !


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嫉妬に狂った獣は……

「よっと、ハイ( ¯꒳¯ᐢ )お馴染みの零斗さんですよ」
「柊人でーす」

「さて、前回は俺とラピスとの戦闘と柊人との合流だったな」
「相変わらずやる事成す事とんでもないですね……」
「まぁ、そこはご愛嬌って事だ」
「嫌ですよ、そんな愛嬌……」

「今回は俺&柊人 VS 黒い未知の生命体との戦闘だ」
「楽しでいってください」

「「嫉妬に狂った獣は……」」



 Side 三人称

 

 重々しい打撃音と鉄同士がぶつかり合う様な轟音が響く。

 

「ガッ!」

 

 黒いナニカの拳を食らった柊人が宙を舞う。そのまま地面へと叩きつけられるが、すぐに立ち上がる。

 

「うわぁ……痛そ……」

「めっちゃ痛いですよ……というか協力してくれません?!」

 

 生傷だらけの零斗が柊人のカバーに回る。だが、黒いナニカは二人を相手にしても互角以上に戦っている。柊人は先ほどから何度も攻撃を繰り出しているが効いている様子がない。

 

(どうすればいいんだ……)

 

 黒いナニカが腕を振り上げる。まずいと柊人と零斗が身構える……が……

 

『縺倥c縺セ繧偵☆繧九↑ 縺薙?縺吶a?』

 

 黒いナニカが頭を抑え、苦悶の声を上げる。一瞬だけ隙が生まれた。柊人はその瞬間を見逃さず、懐に入り込む。だが、黒いナニカも反応して回し蹴りを放つ。

 

「くっ!!」

 

 ギリギリでガードしたが吹き飛ばされた。何とか受け身を取れたもののダメージは大きい。

 

「大丈夫か?」

「なんとか……でもヤバいですね……」

 

 戦況は絶望的だった。こちらの攻撃は全て効かず、向こうの攻撃はマトモに食らえば致命傷になりかねない。そんな状況だ。

 

「クク……」

「なに笑ってやがるんです?」

「あぁ……なんだか懐かしく感じてな」

 

 零斗は不敵に笑う。それを見た柊人も口角を上げた。二人ともこの状況を楽しんでいた。

 

『縺薙m縺呻シ』

 

 黒いナニカが絶叫しながら襲いかかってくる。しかし二人は余裕を持って回避し、反撃する。一撃目は空振りに終わったものの、再び襲ってきたところを今度は回避せずに受け止める。

 

 零斗はその腕を掴みながら関節技を決める。さらに空いた手で相手の顔面を掴んだまま地面に叩きつける。

 

「おいおい、どうしたァ?さっきより動きが直線的だぜぇ?」

 

 ギリギリと嫌な音をたてながらも相手を抑え込む。そして限界を迎えたのかボキィッ!という鈍い音が響いて腕が折れた。

 

「片腕もらーい……」

「うわ……エグいな……」

「お前には言われたくねぇよ」

 

 軽口を叩ける程度には心に余裕があるようだ。だが次の瞬間、予想外のことが起きた。

 

「ッ!?」

 

 黒いナニカの身体から複数の触手のようなものが伸びてきて零斗の四肢を掴む。突然の出来事に対応できず拘束されてしまった。

 

「へぇ?そんじゃ、我慢比べといこうか……てめぇの手足が砕かれるか俺の手足が千切られるか……」

 

 零斗が不敵な笑みを浮かべると、触手の先端が鋭利な刃物のような形になる。そして躊躇なく零斗の腕に突き刺す。血飛沫が上がり、苦痛に満ちた声が上がる。だが、それでも零斗は笑っていた。

 

「おいおい、こんなもんかぁ!?アハハッ!!こいつは傑作だぜェ!!!」

「何言ってんだバカなの?!」

 

 この期に及んで挑発しているあたり流石と言うべきか。だが、このままでは本当に死んでしまうだろう。すると、黒いナニカが急に苦しみ始めた。まるで何かに抗うかの様に全身が震えている。

 

「零斗!!一旦離れなさい!」

「はいよォ!」

 

 拘束を強引に解き、零斗が距離をとると同時に黒いナニカが爆発を起こした。咄嵯の判断で防御姿勢をとったおかげで軽傷で済んだ。

 

「イデデ……流石に無茶だったか……」

「なんでその傷でピンピンしてんです?さっきの僕よりもボロボロですよ?」

 

 柊人が呆れ顔で言う。零斗は自分の体を見回してからため息をつく。一方、黒いナニカの方にも変化があった。先程までとは違い、おそらく目にあたる部分が爛々と赤く輝いていた。

 

「やっと本気ってわけかい……」

『…………』

 

 黒いナニカは何も言わずに突っ込んでくる。先程のスピードとは段違いであり、一気に距離を詰められる。しかし、零斗の反応速度の方が僅かに上回りカウンターを仕掛ける。

 

「シッ!」

 

 拳を腹に打ち付ける。確かな手応えがあり、黒いナニカの動きが止まる。

 

「せらぁ!」

 

 すかさず柊人が追撃の蹴りを入れる。今度こそクリーンヒットし、黒いナニカが大きく後退する。だが、ダメージは全くと言っていいほど無いようですぐに態勢を立て直す。

 

「今のは多少は効いたと思ったんだがなぁ……」

「打撃はほぼ効果が無いようですね……ダイラタンシー現象に近いのでしょう……」

 

 物理攻撃があまり通用しないということだろうか。だとしたら非常に厄介である。

 

「はぁ……使うしかねぇか……」

 

 零斗が呟くと、小型のナイフを取り出し自分の指先に軽く当てる。するとそこから黒い液体が流れ出す。

 

「ばっ!?それは流石にダメでしょう!?」

「えぇ?もうこれしか無くなぁい?」

 

 零斗が冗談っぽく言う。黒い液体が何かと言うと強化細胞の老廃物の様な物で、耐性の無い者が触れれば全身が壊死するという劇物である。

 

「マジで洒落にならないんで止めてください……」

「しょうがないにゃあ……」

 

 そう言いつつ黒い液体を周囲にばらまく。その量は尋常ではなく、既に周囲の地面を黒く染めていた。

 

 黒いナニカは警戒心を強めたのか様子を見るようにゆっくりと近づいていく。黒く染まった地面に足が付いた瞬間、足元から黒い煙が立ち込める。

 

「フハハハハハハ……」

 

 零斗の高笑いが淡く響く。煙により、零斗と柊人の姿が掻き消える。

 

『縺ゥ縺薙∈縺?▲縺滂シ』

 

 黒いナニカは周囲を見渡すも気配を感じない。だが、少し離れたところで大きな爆音が鳴る。そちらに向かって走り出そうとするが……

 

「後ろですよ?」

 

 いつの間にか黒い影が背後に現れており、蹴り飛ばされた。吹き飛ばされた先で待ち構えていた零斗が追い討ちをかけるように殴りかかる。

 

「Boo……なんてな」

 

 強烈な一撃を腹部に入れる。打ち上げられたところにさらに蹴りを叩き込む。凄まじい勢いで飛んでいくも、途中で体勢を整えて着地した。だがそこにまた別の方向から柊人が現れる。そのまま蹴りを入れようとしたが寸前で察知したのかガードされる。

 

「『ぱっぱらぱーで唱えましょう どんな願いも叶えましょう』」

「『よい子はきっと皆勤賞冤罪人(えんざいにん)の解体ショー』」

『縺薙s縺ゥ縺ッ縺ェ繧薙□??シ』

 

 響く二重唱と共に無数の殴打が入る。黒いナニカは回避に専念するが、二人の連携は完璧だった。黒いナニカの身体に次々と傷が刻まれていく。

 

「『雲外蒼天(うんがいそうてん)ユートピア 指先ひとつのヒステリア』──スイッチ」

 

 歌いながら拳を振るう。黒いナニカも反撃に出るが悉く防がれてしまう。そして再び零斗の攻撃が再開する。

 

『更生 転生 お手の物 140字の吹き溜まり』──スイ『縺薙m縺呻シ』──へぇ?」

 

 パターンを読まれたらしく黒いナニカが歌を妨害する。

 

「──チェンジ」

「『さ ささ さささあさあ ユーモアなんて 必要ないのそうだから あぁ……あぁ……』」

 

 黒いナニカは急な変調に戸惑いつつも何とか対処しようとするが、対応が間に合わず、柊人の連撃をモロに受けてしまった。

 

「チェンジ」

「『八双で飛べ四方へ散れ散れ 未開の新天地、神前降伏党(しんぜんこうふくとう) 』」

 

 変調に次ぐ変調でペースも掴んだ筈のパターンも崩れてしまい、ついに決定的な隙を作ってしまった。そこを逃すことなく二人によるラッシュが始まった。

 

 もはやここまで来れば勝負は決まったようなものだ。黒いナニカは必死に抵抗するものの徐々に劣勢に立たされていった。そして…… 黒いナニカが膝を着く。

 

「柊人!抑えろ!」

「了解!」

 

 柊人が黒いナニカを羽交い締めにして抵抗出来ぬ様にする。

 

『髮「縺幢シ』

 

 黒いナニカは柊人を振り解こうと藻掻くが、柊人も必死で抑え込んでいる。

 

「さぁて、根比べといこうか!」

 

 零斗が黒いナニカの胸に腕を突き刺す。黒いナニカはより一層激しく藻掻くが零斗が空いている腕で金属糸を操り、拘束を強める。

 

「……ッ!みぃつけたぁ!」

 

 何かを掴んだ零斗が腕を引き抜くと黒いナニカは灰化して消え去っていった。

 

『ギュイイイイイィィィィ!!!』

 

 零斗の掴んだ物は体長二センチほどの白いムカデの様な生物だった。

 

「それは?」

「こいつが洗脳の要だ……随分いい趣味してんな、これを製造したやつは……」

 

 零斗は白いムカデを握り潰す。そして、その場に大の字で倒れ込む。

 

「終わった、んですかね……?」

「恐らくは……つーか終わっててくれ……」

 

 黒いナニカは完全に沈黙していた。その姿は最早、異形と呼べるものではなくなっていた。

 

「…………………………フガッ」

 

 濁った赤色の髪に、不気味なまでに白い肌、目付きが少々鋭い……一人の少女が眠りこけている。

 

「あ"ぁ"ぁ"……疲れた……」

「流石に堪えますね……」

「お前はそうだろうな、新しい身体の調子はどうだ?」

 

 零斗がニヤリとした笑みを浮かべる。柊人は軽く手を握って開く動作をしてみる。

 

「良い感じですね、違和感が全くありません」

「そりゃ良かったよ。流石は生存者(サバイバー)だな」

「……お願いですから、その異名で呼ばないでください」

 

 柊人が苦虫を噛み潰した様な表情をする。

 

「なんだっけか……どんな過酷な任務も無事で完了して?常に死と隣り合わせの環境でも生存して?その上、昔の決めゼリフは『俺が死ぬことは無い……死神だろうが返り討ちにしてやる』だったか?」

「ヌゥガァァァァァァァァ!!」

 

 頭を掻きむしって絶叫する。ちなみにこの情報は全て零斗が調べたものである。

 

「なんでこんな恥ずかしい過去を君が知ってるんだよ!?」

「さぁ?何でだろうねぇ?」

「ブッコロシテヤル!!」

 

 激昂した柊人が襲いかかってくる。しかし、零斗は軽やかなステップで全てを回避する。

 

「まぁ落ち着けって、俺はただ褒めてるだけだぜ」

「どこがだよ!?」

 

 その後も柊人の猛攻が続くが、零斗には掠ることさえなかった。

 

「んじゃ、バイタルチェックすっから大人しくしてろよ〜」

「クソッタレが……」

 

 零斗が機材を取り出して検査を始める。

 

「ふぅん、健康状態に異常無しっと。脳波も正常だし、あとは……」

「あの……早くしてくれません?」

「あぁ悪い、もう終わるから……んじゃ、注入するぞ……」

「ドンと来いです」

 

 零斗は最後に自分の血を柊人に投与する。すると数秒後に変化が訪れた。髪色は灰色になり、体躯を少しだけ大きくなり、瞳は黒い真珠のような輝きを放っていた。

 

「よし、無事に定着及び開花したな」

「えぇ、おかげさまで……」

「お前さ、俺以上に特異体質だよな……一人で複数の強化細胞に適用出来るの……」

「貴方以上の化け物ではありませんけどね……」

 

 柊人が大きく伸びをした。その仕草からは解放感のようなものを感じることが出来た。

 

「とりま、そこで眠りこけてるアホンダラは拘束しておくか」

「そうですね……起きないうちにやりましょうか」

 

 零斗がラピスを金属糸で拘束して、肩に担ぐ。

 

「よーし、とりあえずここから出ないといけないんだが……」

「?どうかしました?」

「いや……な……閉じ込める事に重きを置いてたせいで俺でもこの空間から出る事が困難なんだよなぁ……」

 

 零斗が遠い目をする。柊人はそれを聞いて、零斗の頭をぶん殴る。ゴンッ!と鈍い音が鳴り響いた。

 

「てめぇ、何してくれとんじゃボケェ!」

「それはこっちのセリフですよ!!何でもっと早く言わないんですか!?」

「だって言ったら怒られると思ってたからさ……それに、これくらいなら問題無いかなって思ってたし」

「あるわ!!大アリですよ!!!」

 

 再び柊人の鉄拳が零斗の頭に直撃する。

 

「しゃーない、これ使うか」

「何を使うんです?」

「デッデレッデテーテー↑テー↓テー↑……『転送門』〜」

「………………は?」

 

 零斗が懐から取り出したのは古びた両開きの黒い門だった。

 

「この門に魔力を注ぎながら開くと、自分の行きたい場所に一飛びできる物だよ」

「便利ですね」

 

 柊人の素直な感想である。

 

「ただし、一度行ったことのある場所じゃないとダメだけどな」

「へぇ、じゃあこれで……」

「あぁ、脱出出来るぞ」

 

 零斗がドヤ顔をしながら言う。柊人はそんな零斗の態度を見て、苛立ちを覚えたが、今は気にしないことにした。

 

「んじゃ、魔力を込めながら、門を開けまして……重っ!」

 

 この門は行きたい場所への距離が遠ければ遠い程、重く、魔力の消費も激しくなるのだ。

 

「あぁ……重いぃ……」

「頑張ってください」

 

 何とか門の扉を開くことに成功した。

 

「じゃあ、先に行ってるので」

「はぁ!?」

「ほら、急がないと置いていきますよ」

「ふざけんなテメェ……待てコラァ!!」

 

 柊人は振り返らずに、前へと進んだ。そして、その後ろを零斗が追いかけてくる。

 

 ●○●

 

 Side 零斗

 

「────と、まぁ、こんな感じだ」

「いや、何しでかしてんの?」

 

 傷の応急処置をしながら、ハジメ達に事の顛末を語っていた。

 

「と、そろそろだな」

「え?何が?」

 

 俺の呟きに反応したのは、浩介だった。

 

『零斗様、ただいま帰還しました』

「おつかれさん、メルド団長達は?」

『此方に……』

 

 俺の使ったホムンクルスのシャドウ(浩介が穢晶石を砕いた時に出てきたヤツ)が赤色の石を手渡してくれた。そして、それを砕くと赤い霧と共に傷だらけのメルド団長達が現れる。

 

「かなり傷が深いな……仕方ねぇか」

 

 異空間収納から神水を取り出し、傷の具合の酷い者に飲ませる。

 

「これで、大丈夫だな……白崎、辻さん、この人達のケア頼んだ」

「わ、わかったよ……」

「う、うん」

 

 二人の返事を聞き、俺は何時の間にか亀甲縛りにされている魔人族の元に行く。

 

「よぉ、嬢ちゃん。調子は如何かな?」

「最悪だね……それよりもあたしをどうするつもりだい?」

「そうだな……お前は俺達の敵だからな、殺すだけだ」

 

 俺はそう言って、額にエルガーを突き付ける。

 

「まぁ、素直に情報を吐いてくれるんだったら、最低限の人権は保証してやるが……どうする?」

 

 俺の言葉を聞いた魔人族は一瞬だけ、ほんの僅かにだが表情を崩す。だが、直ぐに醜悪な笑みを浮かべながら、吐き捨てるように言葉を発する。

 

「クソ喰らえ」

「そりゃ、残念だ……」

 

 エルガーの引き金を引いた。その弾丸は、彼女の額を貫通した。

 

「…………」

 

 エルガーをリロードしてから、もう一発、銃弾を撃ち込む。

 

「シャドウ」

『はっ、ここに……』

「そこの死体とラピスを持ってカルデアに行ってくれ……頼んだぞ」

『承知いたしました』

 

 シャドウにラピスと死体を渡す。シャドウは空間に溶ける様に消えていった。

 

「…………さ、行動開始だ。ささっと地上に行くぞ」

 

 振り返りながら、号令をかける。大半の奴らからは怯えと恐怖の感情が伺えた。

 

「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」

「………………」

 

 背後の天之河が何か言っているが、俺は無視して歩き出す。俺は別に聖人君子ではない。ただ、自分の為に殺しをするだけだ。そして、俺が殺さないとコイツらが死ぬから……そう自分に言い聞かせて、俺は足を進める。

 

 




後半がかなり駆け足になっちまったぜ……


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余りにも空虚な正義

「よっと、ハイ( * ・ω・)ノ゙お馴染みの零斗さんだ」
「柊人でーす」
「悠花でず……」

「さて、前回は……俺と柊人 VS ラピス の続きと魔人族の女の始末だったな……つーか、悠花は何時まで泣いてんだよ……」
「だっでぇ……」
「まったく…ほら、僕はちゃんと此処に居ますから……ね?」
「柊゙人゙〜!!!」


「たっく……今回はオルクス大迷宮から地上へ戻ってからの話だ。楽しんでくれ」


「「「余りにも空虚な正義……」」」


 Side 零斗

 

「ぐへへへへ……ヘブゥ!?」

「お前、マジでいい加減にしろよ?」

 

 何度目かのおっさん化した鈴を粛清する。地上を目指して進む中、シアやエト、アルテナにセクハラをかましているので、その都度俺が制裁を加えているのだ。

 

「痛い……」

「ゴム弾なだけありがたく思え」

「ゴム弾でも痛いもんは痛いの!」

「お前がセクハラしなけりゃいい話なんだが?」

 

 俺と鈴以外のメンバーは、先頭で魔物をデストロイし続けているハジメに戦慄している。

 

「俺、あんな奴に喧嘩ふっかけてたんだな……」

「俺……二度と南雲には逆らわない事にする……」

 

 などとボソボソ言っている。俺はそれを無視して、前に進むことを促す。

 

「お、やっとか……」

 

 前方にオルクス大迷宮の入場ゲートが見えた。入場ゲートから外に出る。途端に日差しに照らされる。全員がほっと安堵の息を吐いた。

 

「あっ!パパぁ──ー!」

 

 間髪入れずに、声を張り上げながら駆け寄ってくる小さな人影が一つ……

 

「ミュウ!」

 

 ハジメはしゃがみ込んで、勢いよく飛び込んできたミュウを抱きかかえる。ミュウは、ハジメの首筋に顔を埋めてスリスリしながら幸せそうな表情をしている。

 

「おかえりなのー!!」

「うん、ただいま。いい子にしてた?」

「うん!」

 

 傍から見れば微笑ましい場面だ。だが、その後ろに控える鬼の形相をした女がいる事を忘れてはいけない。

 

「ミュウ、お迎えありがとう。ティオさんはどうしたの?」

「ティオお姉ちゃんは……」

「妾は、ここじゃよ」

 

 人混みをかき分けて、ティオが姿を現す。俺や柊人を除いた男連中はティオの豊満すぎるバストに目を奪われていた。

 

「おい、ティオ。こんな場所でミュウから目を離すなよ……」

「目の届く所にはおったよ。ただ、ちょっと不埒な輩がいての。凄惨な光景はミュウには見せられんじゃろ」

「それなら仕方ねぇか……で?ちゃんと抹殺したのか?」

「もちろんじゃよ」

 

 どうやら、ミュウを誘拐でもしようとした阿呆がいたらしい。とんだ命知らずが居たもんだな。目立つ容姿だし、フードを被せていたんだが、裏目に出ちまったか……

 

「ハジメくん!どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!?誰に産ませたの!?ユエさん!?シアさん!?アルテナさん!?それとも、そっちの黒髪の人!?まさか、他にもいるの!?一体、何人孕ませたの!?答えて!ハジメくん!」

 

 白崎がものすごい形相でハジメを捲し立ててくる。そんな白崎の脳天に軽くチョップを落とす。

 

「落ち着け、暴走特急お転婆娘」

「あぅ……」

「ミュウはハジメの子供じゃねぇよ……話すと長くなるから端折るが、エリセンに付くまで保護する事になった子だ……そこで別れる事が出来るかは分からんがな」

 

 ハジメの親バカレベルが上がっている気がするのは気のせいだろうか? まあ、気持ちはわかるけどさ。

 

「して、レイト殿……後ろの者達は?」

「知り合いだ……ここまで連れて来れば御役御免だ。さっさと支部長に報告して、街を出るぞ」

 

 ティオは、俺の言葉に疑問符を浮かべていたが、すぐに納得したようだ。

 

「おい、零斗!俺と話をしろ!」

 

 天之河が突っかかって来る。めんどくさい事この上無い……

 

「話した所で時間の無駄だ……俺はこれで失礼する」

 

 そう言って歩き出す。背後からは未だ喚き散らす声が聞こえてきたが無視をする。

 

「いい加減にしろ!魔人族の彼女を殺した事は決して許されない事だ!お前は理由を付けてその事実を認めようとしない卑怯者だ!」

「…………」

「黙ってないで何とか言ったらどうだ!彼女を殺す必要はなかった筈だ!捕虜にすれば良かった筈だ!何故……何故だ!お前は人の心の無い化け物──ー」

「即刻その口を閉じろ」

「ッ!?」

 

 殺気を込めて睨むと、天之河がビクっと震えた。そして数歩後退りをして、尻もちをつく。他のクラスメイト達も同様に身体を震わせている。

 

「貴様に私の何が分かる……化け物?随分な物言いだな」

「ひっ!」

 

 一歩ずつ近づいていく。それに比例して怯えていく。腰を抜かし、涙を流す奴もいる。

 

「私だって殺したくて殺したわけじゃない。だが、あいつを殺さなければ全員死んでいたかもしれないんだぞ?」

「……な……に…………を…………」

 

 天之河の胸ぐらを掴み、無理やり起き上がらせる。

 

「彼女がもしも自決と同時に辺り一帯を焦土と化せる様な魔法を発動させていたら?捕虜としたとして、護送中に誰かしらを人質にして逃げる可能性もある」

 

 彼女を殺さずいた場合にあったかもしれない可能性を話す。

 

「命は一度失えば二度と戻ることは無い。だから、彼女を殺した。私はハジメやエト、白崎や雫……大切な者達を守るため……自分のエゴを押し通しただけだ。それを責められる謂れはない」

 

 俺はあの場で出来うる限りの最適解を導き出したに過ぎない。それが人殺しだったというだけの話だ。

 

「この世界の原理は基本は等価交換だ。何かを得るには何かを失う……他者を救えば他者が犠牲になる……そう出来ている」

 

 天之河から手を離すと、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

「貴様のそれは貴様の掲げる空虚な正義から来る考えだろうな。所詮、貴様は誰かを救う事で自分を肯定したいだけだ」

「違う!俺は……!」

「なら、なぜ白崎やハジメに執着する?幼馴染だからか?忌み嫌う者だったからか?それとも──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────自分を飾り付ける脇役だからか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の一言で、空気が凍った。誰も何も言わず、ただ立ち尽くしている。

 

「なに……を……言っているんだ……?」

「わからないか?つまりは、都合の良い人形が欲しいだけなんだろう?自分が正しいと……自分が一番だと思い込む為の道具が欲しかっただけだろう?」

「ふざ……けるな!俺の事を侮辱するつもりか!」

 

 ようやく、反論できるくらいの元気は出たみたいだ。だが、その程度で、止まれるほど優しくはない。

 

「侮辱?私はただ事実を述べているだけだ」

「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 激昂した天之河は、聖剣を抜き放ち斬りかかってくるが、俺は特に構えることも無く、自然体のまま佇んでいる。

 

「………………」

「零斗!!!」

 

 聖剣は、俺の胸から腹にかけて袈裟懸けに切り裂いた。鮮血が飛び散る。

 

「……これが貴様の正義か?」

「えっ……」

 

 呆然としたまま、動けずにいる天之河は、俺の問いに答えることが出来ない。白崎達が悲鳴を上げる。

 

「自分の正義に従わない者は貶し、虐げ、傷付ける……俺の正義の方が強いから、間違っているから、気に食わないから、そんな理由で他人を切り捨てる事が、貴様にとっての正義だ」

「あ……あ……」

「貴様は、他人の痛みを知らない。自分の思い通りにいかないと駄々をこねる子供と同じだ。そんな人間が、世界を良くする事など出来るはずがない」

「…………な……は…………え……」

「貴様がやっている事は、ただの八つ当たりだ。自分に出来ないことを棚に上げて、喚いている餓鬼と何ら変わりはしない」

 

 天之河の顔は青白く染まり、目は焦点が合っていない。どうやら、俺の言っていることが理解できていないようだ。

 

「……俺は……俺は……勇者だ……俺は……俺は間違っていない……俺は勇者なんだ……俺が正しい……俺は正しい……俺は────────」

 

 ブツブツと呟く姿は壊れた機械のようにも見える。

 

「……くだらん、そんな無価値な称号に縋るしかないとはな……」

「──ーっ!?」

「結局、貴様は何も見ていない。周りも、自分自身も、その目で見ているようで、実際は見てすらいない。貴様は、目の前の真実を見ようとしていない。貴様が見ているのは、貴様が信じたいものだけだ」

 

 天之河は顔を伏せて肩を振るわせ始めた。

 

「……わかったようなことを言うな!お前に俺の何がわかる!この人殺しめ!」

「……」

「お前なんか……お前なんか……死ねばいいんだ!」

「…………」

「お前は死ぬべき人間だ……お前のような人間は生きているだけで害悪だ!」

 

 顔を上げた天之河は、瞳孔が開ききっていた。そこには、狂気と憎悪が入り交じっており、正気を失っていることは一目瞭然だ。

 

「あぁ、そうだな……私は死ぬべき人間だ……私は絶対悪だ、私は理性の無い獣だ、私は人類悪だ」

「……!?」

「そうさ、私は最低最悪の人殺しだ。生きる資格なんて無い……存在する意味も無い……が生きてるせいで、どれ程の人が不幸になっているのか……考えただけでも反吐が出る」

「……お……まえ……」

 

 俺は自嘲気味に笑う。俺は何故こんなにも喋り続けているのだろうか…… 何故俺は今笑っているのだろうか…… 何故俺は…… 涙を流しているのだろうか……

 

「だから、殺されても文句は言えない。誰かに殺されることで、少しは償えるかもしれないな」

 

「お前は言ったな?私を人殺しだと……ああ、確かにそうだ。数え切れない程の人間を殺してきた……」

 

「だが、殺したかったわけじゃない。守りたかった。救ってやりたかった。でも、出来なかった。私には力が足りなかった」

 

 俺は何を言っているんだろうな…… これじゃまるで、懺悔じゃないか…… 誰かに許して欲しいと思っているみたいじゃないか…… 馬鹿らしい…… 俺は、ただの偽善者に過ぎないというのに…… 俺は、ただの臆病者だというのに…… 俺は、ただの愚かな道化師だというのに……

 

「だから私は絶対悪で在ることを選んだ……人類悪で在ることを望んだ」

「……な……ぜ……?」

「私が殺してきた者達にも家族や友人、恋人、同胞がいた筈だ……そして、その全てを奪ったのは、私の弱さだ。私は自分が憎い。弱い自分が……卑怯な自分が……私は大嫌いだ」

 

 天之河は、信じられないものを見たように目を丸くしている。俺が本音を語っているのが余程意外だったのだろう。

 

 俺だって、不思議だよ。なんせ、俺が本音を語ること自体、初めてに近いんだからな。

 

「私は私自身を嫌悪する……救える筈のない者達を救う術を今でも模索している私が……全ての者を救う……そんな空虚で脆弱な正義が嫌いだ」

 

 俺は、自分の正義が嫌いだ。俺の正義は、多くの犠牲の上に成り立っている。俺は、この手で、何人もの罪なき人々を葬ってきた。俺は、この身が朽ち果てるまで、罪を贖わなければならない。それが、俺に出来る唯一の事だから……

 

「だから、殺すんだ。敵を殺し、己を殺す。それが、私の正義(エゴ)だ」

 

 俺の正義(エゴ)は、ただそれだけだ。それ以外は何もない。ただ、自分が救われたいというだけの自己中心的な考えに過ぎない。

 

「……この世に絶対的な正義など存在しない。あるのはただ一つ、自分の信じる"何か"だけだ」

「貴方は……」

 

 エトが何かを言おうとして口をつぐむ。その先は言ってはならないと察したのだろう。

 

「……私は、貴様とは違う。私は……ただの殺人鬼だ」

 

 天之河は、膝から崩れ落ち力無く項垂れる。俺は踵を返し、ハジメ達の元へと向かう。

 

「……ハジメ、俺一度はカルデアに戻る。お前はこのままグリューエン大火山に向かえ」

「え?」

 

 驚愕するハジメの横を通り過ぎる。背後からハジメ達が俺を呼ぶ声が聞こえてくるが、立ち止まるつもりはない。

 

 

 




ORT総力戦で発狂しそうなんだが……なんであんな仕様にしたんだよ(´・ω・`)


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想いを花に託して

「よっと、ヽ(。・ω・。)ドウモハジメです」
「白崎です」
「……ん、ユエ」

「さて、前回は……零斗が自分自身の話をしたね……」
「あんなに悲しそうな零斗君初めて見たよ……」
「……泣いた顔も初めてだった……」

「……あ、今回は零斗がカルデアに向かった後の僕達目線の話だ」


「「「想いを花に託して」」」


 Side ハジメ

 

 零斗が僕達を置いて行ってから、少し時間が経った。とりあえずはギルドに依頼の報告をして、今後の方針を話し合う為にギルドの一室を借りた。

 

「さてと……これからどうしよう?」

「それは……レイトさんの指示通りに『グリューエン大火山』に行くしか無いんじゃ……」

 

 そうだよね……でもやっぱり不安だなぁ……大丈夫かな?

 

「今……戻りました……」

「エトさん……その様子じゃ……」

「えぇ、追跡は振り切らてしまいました……ただ一言だけ伝言を頼まれました」

 

 伝言か……一体どんな内容なんだろう?気になるけど……なんだろう、すんごい嫌な予感がする。

 

「伝言は後ほど伝えます……それよりも今は今後の方針を決めましょう」

「……うん、そうしようか」

 

 僕は頭の片隅で感じている何かを無視して話を進めることにした。

 

「と言っても、零斗の指示通りに『グリューエン大火山』に行くしかない気がするんだよね……」

「……とりあえずは次の行先は『グリューエン大火山』のあるアンカジ公国ですね」

 

 僕らの話し合いの結果は結局それだった。というよりそれ以外に選択肢がないというのが現状なのだけれど……

 

「……ねぇ、ハジメ君」

「ん?何?香織さん」

 

 香織さんは何故か僕の方をじっと見つめてくる。

 

「何か言う事があるんじゃないかな?」

「へっ?!な、何かって?」

 

 香織さんの言っている事が分からず、思わず聞き返してしまう。

 

「……ただいま?」

「うん……おかえりなさい……会いたかったよ」

 

 香織さんは涙を浮かべながら微笑んでくれた。そんな香織さんを見て、少しだけ胸が痛む。

 

「むぅ〜!二人ともずるいですぅ!」

 

 シアさんは突然大きな声を上げて僕に飛びついてきた。

 

「わわっ!し、シアさん!?」

「二人きりの甘い空間を作ってイチャイチャしないでください!それを見せられる私達の身になってください!」

「あ、甘い空気なんて作ってないよ!」

「くふふ……確かに、甘々な空気ではありませんでしたね」

「エ、エトさんまで……」

 

 二人の反応に苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「……ところでハジメ君」

「はい!なんでしょうか!?」

「そろそろ『さん』付けはやめてくれないかな?」

 

 突然の事に頭が真っ白になった。そして、頭の中で色々な感情や思考が入り乱れる。

 

「……ダメかな?」

「ダ、ダメじゃないです……」

 

 なんとか絞り出した言葉はそれだけだった。恥ずかしくてまともに顔を見ることが出来ない。

 

「じゃあ、早速呼んでみてくれる?」

「えっと……か、かおり……?」

「……もう一回言ってくれる?」

「うぅ……かお……り……」

「……ふふっ♪」

 

 香織は満足そうな笑みを浮かべていた。きっと今の僕は耳まで真っ赤になっている事だろう。

 

「もう!本当にラブコメしてますね!」

「……ずるい」

「パパと香織お姉ちゃんラブラブ!」

 

 シアさんとユエ、ミュウに茶化されたが、それに言い返す余裕すら無かった。

 

「ハジメ君」

「ひゃい!」

「これからもよろしくね?」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 零斗……僕、香織さんには勝てそうにないよ……

 

「あ、そういえばエトさん。レイトさんからの伝言ってなんだったんですか?」

「あぁ、そうでしたね。忘れていました。では早速お伝えしますね」

 

 エトさんは一息ついてから口を開いた。

 

「『ハジメ、いい加減にユエやシア達の気持ちにもきちんと向き合え』……だそうです」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 沈黙が流れた。しばらくの静寂の後、香織が口を開く。

 

「ねぇ、ハジメ君。私の勘違いかもしれないんだけど……ユエさんやシアさん達の事……好きになったの?」

「……はい」

「……そう」

 

 再び訪れる沈黙。この場にいる全員が僕の答えを聞いて、それぞれの表情をしていた。ユエとシアさんは嬉しそうにニヤニヤしている。アルテナは顔を真っ赤にして俯いている。ハァハァと息を荒げているティオさん。

 

「ねぇ?ハジメ君?」

「はい……」

「みんな大好きなんだよね?もちろん私も好きだよね?」

「はい……」

「じゃあさ……ハーレム作っちゃいなYO!」

「はぃ?」

 

 突然のことに思わず変な声が出てしまった。しかし、香織は全く気にしていないようで話を続ける。

 

「だってさ、私たち全員ハジメ君のことが好きなんだよ?なら、みんなで仲良く幸せになろうよ!一夫多妻制だよ!」

「いや、あの……」

「大丈夫!私は寛容だから!ね?」

 

 僕の言葉を遮るように香織が捲し立てる。どうしよう……なんかとんでもない方向に話が進んでる気がする。というより絶対進んでるよね? 僕は助けを求めて視線を巡らせる。

 

「……ん、賛成」

「私も賛成ですよぉ〜」

「わ、私も異論はありません!」

「ハァハァ……素晴らしい考えじゃ!」

 

 味方がいない……僕は一人孤立無援の状況だった。

 

「ほら、ハジメ君。反対意見は無いみたいだし、決まりだね!」

「ちょっと待って!僕は……」

「……ハジメ君、まさかとは思うけど、女の子にここまで言わせておいて逃げるなんて事はしないよね?」

 

 香織さんは笑顔なのに目が笑ってないし、背後には般若のス〇ンドが出現している。

 

「ハジメ君はハーレムを作る!私達はそれを受け入れる!これで万事解決だね!」

 

 香織さんの勢いに押されて何も言えなかった。というより、何か言ったらもっと酷い状況になるような気がする。

 

「……その場合って正妻は誰になるんでしょう?」

「「それは当然、私に決まって──ーは?」」

 

 アルテナさんの言葉に反応したユエと香織がお互いを睨みつける。そしてバチバチという擬音が聞こえてきそうなほど火花を散らしていた。

 

「……私に決まってる」

「いやいや、私とハジメ君はカレカノなんだよ?ここは譲るべきだと思うんだよね」

「……関係ない」

「関係あると思うけど?」

「無い」

「ありますぅ〜!」

 

 二人はお互いに一歩も引かない様子だ。そして、その中心に居るはずの僕のことを完全に無視している。

 

「あの……そろそろ僕のことを……」

「「黙ってて!!」」

「は、はい……」

 

 二人とも怖い……特に香織さんの豹変ぶりに恐怖を感じずには居られなかった。

 

「……(コンコン)ちょっと良いかしら?」

 

 突然部屋の扉がノックされる。入ってきたのは、八重樫さんだった。僕は助けを求めるべく、必死にアイコンタクトを送る。

 

「……ハジメ君、私でも香織を止めることは無理よ」

「……えっ?」

「だって、香織の目が完全に据わっているもの」

 

 そう言われて香織さんを見ると、完全に瞳孔が開いていた。

 

「……八重樫さん、要件とは?」

 

 エトさんが空気を読んで話を逸らす。助かった…… 心の中で安堵のため息をつく。

 

「……私も貴方達の旅に連れて行って欲しいの」

「……それはどういう理由で?」

 

 エトさんは少し警戒しながら尋ねる。まぁ、いきなりそんな事を言われたら当然の反応だろう。八重樫さんは一瞬躊躇ったように見えたが、すぐに決意のこもった目をした。

 

「零斗を隣で支えられるくらい強くなりたいから」

「……つまり、零斗の傍にいたいと?」

「そうね……」

「なるほど、分かりました。歓迎します」

 

 エトさんは即答した。あまりにもあっさりとした返答だったので、僕も含めて全員が驚いた。しかし、一番驚いているのは当の本人の八重樫さんだった。

 

「えっ?本当にいいの?」

「はい。それに、戦力が増えるのはこちらとしても嬉しいことです」

「なんか、もっと言われると思って覚悟していたんだけど……」

 

 八重樫さんは肩透かしを食らったかのような顔をしている。

 

「零斗が認めた人の内の一人ですからね。それに、他の方達も反対しないでしょう?」

「……ん」

「もちろんですよぉ!」

「問題ありません!」

「異論なしじゃ!」

 

 全員が肯定した。こうして、僕達の旅に新たな仲間が加わった。

 

「では、改めて……次の攻略目標はアンカジ公国に存在する『グリューエン大火山』になります……準備が出来次第出発しましょう」

 

 エトさんが締めくくり、話し合いは終了した。その後、香織が暴走して僕が大変な目にあったり、ユエが香織に宣戦布告したり、ミュウが香織の膝の上で寝たり、アルテナさんが香織の胸を見て落ち込んだりと色々あった……

 

「…………」

「どうかしましたか?ハジメさん」

「うん、ちょっとね……ごめん、少しの間席外すね」

 

 部屋の外から僅かに煙草の匂いが漂ってきた。僕は一言断ってから部屋を出る。そして、煙草の匂いを辿って行く。

 

「……ここは……」

 

 たどり着いた場所は、ギルドの裏手にある廃れた広場だった。静かで、人気もなかった。そして、広場の中心には小さな噴水が鎮座していた。何となく近ずいて見てみる噴水の縁に吸いかけの煙草と青いアネモネが一輪置いてあった。

 

「青いアネモネの花言葉は『固い誓い』……だそうですよ」

 

 いつの間にか僕の後ろに来ていたエトさんが呟いた。

 

「この花を贈るということは、そういうことなんでしょうね……」

 

 エトさんは置かれたアネモネを手に取り、愛おしむように見つめている。

 

「………… 」

 

 エトさんはアネモネに優しく口づけをした。すると、ゆっくりと凍り付いていった。僕はそれを無言のまま見ていた。

 

「零斗も随分と不器用ですね……こんな形でしか、自分の気持ちを素直に伝えられないなんて、まるで子供みたいですね……」

 

 エトさんはそれだけ言うと、氷漬けになったアネモネをポケットに入れてその場を後にした。

 

「……」

 

 僕は無言でその場に立ち尽くしていた。

 

 




青いアネモネってめちゃくちゃ綺麗じゃないですか?


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不穏な影は明確な悪意を孕んで歩み寄る

「よいしょ…と、‪(*´꒳`∩)‬ハイ、八重樫 雫よ」
「浩介でーす」

「えぇっと前回は……南雲君がハーレムを結成したのと私が南雲君達と一緒に行動する事になったわね」
「にしても、零斗も不器用だよなぁ……面と向かって話しろよな……まったく……」
「そうね……次会ったら説教でもしようかしら?」
「……その時は程々にな?」

「今回は私が南雲君達と行動を共にしようとした理由よ……楽しんで行ってちょうだい」

「「不穏な影は明確な悪意を孕んで歩み寄る……」」


 Side 八重樫

 

 

「……俺は……俺は間違っていたのか?いや、俺は…………」

「光輝……」

 

 部屋の隅でぶつぶつと呟きながら、暗い表情をしている光輝。

 

 南雲君達がギルドに依頼の報告へ行っている間に、光輝を連れて宿に戻ってきたが……

 

「この調子じゃ……もう戦うのは無理かもしれないわね……」

 

 私は溜息を吐く事しか出来なかった。

 

「……私はどうすれば良かったんでしょうね」

 

 私は椅子で項垂れながらそう呟く。本当にどうしたらよかったんだろう……光輝を止めるべきだったの?零斗を連れてあの場を離れるべきだったの?それとも何も言わずにただ傍にいるべきだったの?……分からない。何が正しい行動なのか私にはさっぱりわからない。

 

「今考えて無駄ね……」

 

 軽く溜息を吐き、部屋の外へ出る。するとそこには最近になってやっとまともに認識出来る様になってきた遠藤君がいた。

 

「……八重樫さん、天之河の様子はどんな感じ?」

「しきりに自己否定と自己肯定を繰り返してるわ……」

 

 私の言葉を聞き、遠藤君は難しい顔をする。そして少し間を開けてから口を開いた。

 

「……正義ってなんだろうな」

「えっ?」

 

 突然の問い掛けに思わず聞き返してしまう。しかし遠藤君はそんな私の反応を無視して話を続けた。

 

「天之河の言う正義は確かに歪だけど理にはかなってる……零斗の掲げる正義も冷徹な物だけど確かに正義だ……」

「何を言って……」

「俺達は……正しい選択をしたのか?」

「ッ!?」

 

 遠藤君のその言葉を聞いた瞬間、何かが頭の中でカチリとはまった気がした。そうだ、私は何のために戦っているの?魔人族を殺すため?それとも人間という種族を守るため?

 

「……分からないわ」

 

 正直に答える。それが今の自分の気持ちだから。私は自分が思っている以上に迷っていたらしい。自分の信じていた物が分からなくなる程に。遠藤君はまだ難しい顔をしながら考え事をしている。

 

「あれ?遠藤君に八重樫さん?こんな所で立ち尽くしてどうしたんですか?」

「先生?」

「ああ、いや、何でもないんで、気にしないで下さい」

 

 そこに愛子先生が現れた。遠藤君は誤魔化すように笑顔を浮かべている。でも愛子先生はその笑みを見て首を傾げた。

 

「嘘ですね。貴方のその笑い方は何かを隠してますよね?隠し事は無しですよ!」

「あ~、はい、分かりましたよ……でも、せめて部屋に移動してって事で……」

 

 遠藤君は諦めた様子で部屋へ移動する事にした様だ。

 

「それで?一体どうしたんですか?」

「いえ、大したことじゃないんですよ……ちょっと自分達の行動について考えていただけですから」

 

 遠藤君は苦笑いしながら話す。愛子先生はそれを聞いて納得していた。

 

「今までの行動が正しかったのか……ですか……」

「はい……」

「うーん、私にはよくわかりませんけど、少なくとも私達の行動は間違っていないと思いますよ!きっと大丈夫です!!」

「だと良いんですけどね……」

 

 愛子先生は自信満々に答えたが、遠藤君の表情はあまり明るくはならなかった。

 

「……それに今ここで行動の正しさを決めるのは不可能です」

「え?」

「何故ならそれは未来が決める事であって、過去の人間がいくら考えたところで意味は無いのですから」

「…………?」

「私が言いたいのはつまり、今は悩めばいいということですよ!!悩むだけ悩んだら後は前に進むのみ!そういうことです!!」

 

 遠藤君は最初ポカンとした表情をしていたが、やがてクツクツと笑い始めた。遠藤君につられて私も笑う。なんだか久しぶりに心の底から笑えたような気がした。

 

「ありがとうございます。なんかスッキリしました」

「そうですか!それでは頑張ってくださいね!!」

 

 遠藤君が礼を言い、愛子先生は激励を送る。その時の遠藤君の瞳からは迷いの色は消え去っていた。

 

「さて、八重樫さん……貴方は今何がしたいですか?」

「え?」

 

 唐突に質問され戸惑ってしまう。何がしたいと言われても……しばらく考えてみたけれど結局思い浮かぶことは無かった。

 

「……特に無いみたいですね。それじゃあこういう時はシンプルに行きましょうか」

 

 愛子先生は悪戯っぽく微笑むと、ビシッと指をさしてきた。

 

「八重樫さん、零斗君に告白しましょう!」

「……へぇ?」

 

 突然の発言に思考停止してしまう。こ、こくはく?コクハク?KOKUHAKU?えっと……誰に?

 

「ちょ、ちょっと待ってください!どうしてそうなるんですか!?」

「えっ?だって八重樫さん、零斗君の事好きでしょ?」

 

 ……はい、好き……大好き……愛しています……ってそうではなく!!!! 自分で自分にツッコミを入れつつ、慌てて弁明をする。

 

「ち、違いますよ!?私じゃ、彼と──「ふぅ~ん……じゃあいらないのかぁ?」……いる……かも……」

「じゃあ行きなさい!」

「ええっ!?」

 

 いきなりの展開に頭が追いつかない。そんな私に追い打ちをかけるかのように、今度は遠藤君まで参戦してくる。

 

「貴方は他人の事を……それも自分に近いし人の事を優先して、自分の事を蔑ろにしている節があります」

「そ、そんなことは……」

「暴走特急の白崎と自己満正義の天之河に脳筋ゴリラの龍太郎の制御」

「……はい……」

 

 遠藤君にまで言われてしまった。ぐうの音も出ず黙り込む私に愛子先生は更に続ける。

 

「だから少しは我儘になりなさい。そして幸せになりなさい……これは私からのお願いです」

「……はいっ」

 

 愛子先生に真剣な目で見つめられる。私には勿体ないくらいの言葉だ……でも嬉しく思う。だから私は精一杯の笑顔で返事をした。

 

「……まぁ、当の本人は現在進行形で行方不明だけどな」

「え!?そうなんですか!?」

「……ええ、実は……」

 ガチャ「ふぅ……疲れ──ーはえ?」

「あ、ヤッベ」

 

 部屋の扉が開かれたかと思えば、愛子先生がそこに立っていた。そして、私の隣にも愛子先生が居る。

 

「ん?(困惑)……うん(考察)……ん?(疑問)……うん(解決)……レモン一個に含まれるビタミンCはレモン一個分だよな」

「四個分とも言われてるがな」

 

 遠藤君が頓珍漢な事を言うと、愛子先生に化けていた零斗が冷静に解説を加えていた。

 

「まぁ、とりあえずは……サヨナラ!」

「「逃がすかァ!」」

 

 零斗は即断で逃走を選択したようだが、私と遠藤君が捕らえに掛かる。しかし動き出した時には零斗の姿は忽然と消え去っていた。

 

「ハァ……もう、なんか色々と疲れたわ……」

「奇遇だな。俺もだ」

「「……」」

 

 お互いの顔を見合わせ苦笑いを浮かべる。すると遠藤君は私の顔をじっと見てきた。

 

「……八重樫、お前はハジメ達と一緒に行動した方が良いかもしれないぞ」

「それはどういう意味かしら?」

「え?だって、零斗の傍に居たいんだろ?」

「ッ!?」

 

 遠藤君に図星を突かれ顔が熱くなるのを感じる。遠藤君は呆れたように溜息をつくと、私に向かって言い放った。

 

「……零斗に言われたろ、少しは我儘になれって……今更、我儘言っても文句は言われねぇよ」

「……遠藤君はどうするの?」

「俺は……」

 

 遠藤君はそこで言葉を止める。そして考え込んでいるようだった。

 

「……そうだな、俺は俺で好きにやるさ」

 

 遠藤君はニヒルな笑みを溢すと部屋から出て行った。

 

「……もう少し我儘に……」

 

 零斗と遠藤君の言葉を反駁(はんばく)しながら考える。私には何が出来るだろう?どうすれば良いのだろうか? 分からない、でも、今はただひたすら前に進むだけだ。

 

「南雲君達、まだ居るといいのだけれど……」

 

 そう呟きながら、私は足早にギルドへ向かった。

 

 ●○●

 

 Side 愛ちゃん

 

 八重樫さんや遠藤君、私に化けていた零斗君と一悶着あった後、彼等はどこかへ行ってしまった。

 

「すっかり遅くなってしまいましたね……」

 

 廊下に面した窓から差し込む夕日が、反対側の壁と床に見事なコントラストを描いている。今日はこれから、生徒たちと夕食を食べることになっている。

 

「ちょっと、そこ行くお嬢さん」

「……私ですか?」

 

 声をかけられ振り返ると、灰色の長髪を後ろで束ね、顔の上部を黒いハーフマスクで隠した長身の男性がいた。

 

「そうそう、君。教会からの命令で君を迎えに来ました〜」

 

 男性は馴れなれしい態度のまま話しかけてくる。

 

「すみません、この後直ぐに教え子達と食事する予定があるので……」

「いや、問答無用で連れて行く……抵抗はしたければしてくれていいぜ」

 

 男性の瞳が怪しく光る。その瞬間、頭に霞が掛かったような感覚に襲われた。思考が鈍くなり、意識が薄れていく。思わず、魔法を使う時の様に意識を集中させると、思考に掛かっていたモヤが晴れていく。

 

「ありゃ?あの神さんから借りた『魅了』弾かれちまったか……流石は豊穣の女神だな」

 

 頭の中で何かが警鐘を鳴らす。この男は危険だと本能が告げている。しかし、体が動かない。男性が近づいてくる。

 

「『魅了』が効かないなら仕方ない……ちょっと荒っぽくなるけど許してくれよ」

「誰か助け──ー」

 

 助けを求めようと叫んだ直後、首筋に鋭い痛みを感じた。そのまま、私の意識は闇へと落ちていった。

 

 ●○●

 

 Side 三人称

 

「お仕事終了……っと……さっさと逃げますか」

 

 愛子を抱えた男は周りの空気に溶ける様に消えていった。廊下には元の静寂が戻り、いっそ不気味なまでに無音となる。

 

「……誰かに知らせないと!」

 

 廊下の先にあった客室のドアが開いて、一人の青年が飛び出して来た。彼は愛子達が消えた方向とは反対方向へ走っていく。

 

「ッ!?」

「よぉ、少年……そんなに急いでどうしたんだ?」

 

 曲がり角に差し掛かる直前、愛子を抱えて消えた筈の男が立っていた。男はニヤリとした笑みを浮かべて、青年に問いかけた。

 

「え、あ、えっ?」

 

 突然の出来事に頭が追いつかないのか、青年は戸惑いの声を上げていた。

 

「まぁ、良いか……犯行現場を目撃したんだ……お前も連れて行くとしよう」

 

 そう言うと、男は青年の鳩尾に拳をめり込ませ、意識を奪う。そして、青年を背負うと再び姿を消した。その場には誰もいなくなり、まるで最初から何も無かったかのように静まり返った。

 

 




愛ちゃんと一緒に攫われたのは一体誰なんだろうなぁ()
感想お待ちしております。


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番外編
原作世界へGO!


ノリと勢いで書いたのでかなり設定やらなんやらがぐっちゃぐちゃです。






 Side 零斗

 

「ハジメもアンカジ公国に向けて出発したし、メルド団長達の安否確認も出来た……ここでやる事はもう無さそうだな」

 

 ホルアドの一角にある路地にて、現状確認をしながらこれからの事を考える。

 

「カルデアに戻ってやる事は……魔人族の人体構造の把握と仕留めた女の身体検査、ラピスの経過観察……」

 

 今後の予定が書かれた手帳に一通り目を通してから、路地を出る。

 

「それが終わればアンカジ公国に急行しなきゃならない上に迷宮の攻略と俺用の試練の突破……やる事が多いな……」

 

 タバコを取り出して火をつける。紫煙を燻らせながら、カルデアへと向かう。

 

 ────────────────────

 

「ふぅ……やっと着いた……」

 

 カルデアへと到着すると、そこには数人のサーヴァント達が待機していた。その中にはマシュの姿もあり、こちらを見るなり駆け寄ってくる。

 

「先輩!ご無事で何よりです!」

「あぁ、心配かけたな。俺は大丈夫だ」

「そうですか……良かった……」

 

 ホッとした様子を見せる彼女に微笑みかけつつ、辺りを見回す。

 

「……あぁ、マシュ……その……な……」

「はい?」

 

 不思議そうな顔をする彼女に対して申し訳ないと思いつつも、言葉を続ける。

 

「……刀華達って……今何処に?」

「……えっと……ですね……そのぉ……」

 

 彼女は苦笑いしながら頬を掻く。

 

「「「れ〜い〜と〜く〜ん〜あ〜そ〜び〜ま〜しょ〜」」」

「ひぃ!?」

 

 背後からの怒気を含んだ声を聞き、反射的にその場から離れる。恐る恐る振り返ると、そこには満面の笑みの3人の少女がいた。

 

「あれ?なんで逃げるんですか?」

「私達はただ遊びたいだけなんでけど……」

「逃げなくてもいいじゃない?」

 

 3人は笑顔のままゆっくりと近づいてくる。

 

(ヤバイヤバイヤバイ!!)

 

 冷や汗を流しながらも必死に逃げようとするが、後ろからはサーヴァント達に阻まれてしまい退路が無くなる。そして目の前には怒り心頭の刀華、鈴仙、妖夢がいる。

 

「ねぇ零斗君?」

「私達はね?言ったよね?」

「お説教だって♪」

 

 この後めちゃくちゃ叱られた。

 

 ────────────────────

 

「ウゴゴゴゴ……疲れた……」

「ハハハ、相変わらずだな、君は」

 

 自室のベッドにうつ伏せで倒れ込むと、Busterシャツを着たディンリードさんが話しかけてきた。

 

「……あんた、現代に染まり過ぎじゃない?」

「ハッハッハ!良いじゃないか!これでも楽しんでいるんだよ私は!」

「そうかい……そりゃ良かったよ……」

 

 愉快げに笑う彼を見てため息をつく。そんな彼を横目にしつつ、手元の端末に目を移す。

 

(ラピスのバイタルは多少の問題はあれど安定している……未だに意識を取り戻す兆候はなし……)

 

 カルデアに帰還してからというもの、ダ・ヴィンチちゃんの指示により彼女のバイタルチェックを続けているのだが、未だ目を覚ます気配はない。

 

「後は魔人族の方だな……」

「おや、やる事が出来たのかい?」

「あぁ、そんな所だ」

 

 ベッドから起き上がり、施設にある手術室に足を運ぶ。そこには殺した魔人族の女の遺体が乗った台とその近くには医療機器が揃って置いてある。

 

「ハァ……気は進まんがやるしかないか……」

 

 遺体を前にして手を合わせ、早速解剖を始める。メスを入れ、臓器に位置などを確認していく。

 

 ──────────────────

 

 数時間後……全ての作業を終え、遺体の状態を確認する。結果としては、人体構造は人間族とほぼ同じだった。

 

「悪趣味な奴が敵側には居るみたいだな……」

 

 純白の布の上に載せた、約一センチ程の結晶を摘んで見つめる。解析してみた結果、一種の洗脳装置だという事が分かった。この結晶を介して脳への干渉を行い、対象者を操る事が出来る。

 

「……これが自然に身体の中に生成される訳もないし、人為的に埋め込まれたもんだよな……」

 

 となると考えられる可能性は一つ。あの魔人族は誰かによって操られていた可能性が高いという事だ。

 

「いくらエヒトが魔術、魔法に長けているとしてもこれを製造出来るとは思えんな……」

 

 そもそもこんな技術はこの世界に存在しないはずだ。仮に作れたとしてもこれを製造するコストに見合わないだろう。ならば誰が作ったのか……

 

「……今考えて仕方ないな」

 

 考えを振り払い、再び部屋に戻る。先程と同じようにベッドに倒れ込み、天井を見上げる。

 

(とりあえずはやる事の三割は完了したな……後は……)

 

 思考を巡らせていたが、いつの間にか眠ってしまっていた……

 

 ●○●

 

「ん?」

 

 唐突な浮遊感に襲われ、目を開けれる。最早、恒例の光景となっているであろう空中に放り出された。

 

「なんでさ……」

 

 体勢を立て直しつつ落下地点を予測して地面に着地をする。周囲に敵影などが無いことを確認してから改めて周りを見渡す。

 

「さぁて、ここは何処なんだ?」

「フォウ!」

「……なぁんで、また居るんだぁ?フォウ」

 

 いつの間にか俺の肩に乗っている白い毛並みをしたリスモドキ(?)フォウを見ながら大きなため息をつく。軽くフォウを撫でながら、再度辺りを見渡す。

 

「建物の様相からして、場所的には現代日本か……これは帰ってきたことになるのか?」

 

目視で確認出来る情報はそれぐらいしかない。とりあえず今はこの場所の調査を進めることに専念しよう。

 

「今回も、何時ものレムレムか?こんな時期にトンチキイベントはごめんだぞ……」

 

 ────────────────────

 

 それから数時間ほど調査を進めていたが結局分かったことはここがただの街であるということだけだった。

 

「……『高校生集団神隠し事件』に『帰還者』かぁ……怪しいねぇ」

 

 白昼の学校で起きた神隠し事件の被害者達がある日突然、姿を現したらしく、その少年少女達の総称らしいが……

 

「どうにもきな臭い……と言うか、これって俺達の事か?偶然にしちゃ合致する点が多すぎる……」

 

 この神隠しは大体一年前に起きたこと。そして消えた人達が戻ってきたのは最近……まるでタイミングを合わせたかのようにこの事件が起きた。しかもご丁寧に同じ日本という場所だ。これが無関係だと思えない。

 

 ただ、ここで疑問が残る。これだけ大きな事件ならニュースになりそうなものだが全くそんな話を聞かない。それどころかネットでその事件について調べても都市伝説的な扱いを受けていたりする。

 

「……一体全体どういうことだ?」

「フォーウー!」

「あ、こら!いきなり走るんじゃ……」

 

 走り出したフォウを追いかける。やがて無人のビルに入って行ってしまった。

 

「ったく、何処行ったんだ?」

 

 しばらく歩いていると少し開けた場所が見えた。そこには一人の少女の姿があった。染めているであろう栗色の髪まとめいて、不良少女っぽい見た目だ……そして、何故か片手にナイフを持っている。それに、あの子の姿はどう見ても……

 

「園部……だよなぁ……」

 

 俺が知っている姿より少々幼いが間違いなく彼女の顔だった。

 

「また、普通のお客さんとして来店してください」

「ちょ、まっ、アババババババババアバババッバァッ!?」

 

 Oh……園部が倒れているおっさんの手の平にチューイングガムを張り付け、手に持っていたナイフ刺したかと思うと、強烈な電流を流して、気絶させた。

 

(今、接触するのは危険だな。ここは素直に撤退した方が良さそうだな……)

 

 そう思い、その場から立ち去ろうとした瞬間、こちらに気づいたのか、彼女が振り向いてきた。咄嗟に異空間収納から狐の面を取り出して付ける。

 

「……こんにちは、お兄さん……こんな所で何してるんですか?」

「……俺の飼っているペットがこのビル内に入っちまってな……その子を探していた所だ」

 

 嘘は言っていない。実際、フォウを探しに来たわけだし、間違ってはいないだろう。

 

「じゃ、俺はこれで……」

 

 踵を返して、逃げようとしたら、彼女は手に持っていたナイフを投げてきた。突然の行為に驚きつつも、飛んできたナイフをキャッチしていく。

 

「おいおい、嬢ちゃん……俺じゃなきゃ死んでるぜ?」

「……あんた、ホントに人間?」

 

しかし、これは困ったな。まさか、向こうから攻撃してくるとは思ってなかった。それに彼女からは明確な殺意を感じる。正直、かなりやりづらい相手だな。

 

「……とりあえず、今日の所は逃げさせて貰おうかな」

「逃げられるとでも思ってる?」

「あぁ、逃げ足には自信があるからな」

 

 俺の言葉と同時にスモークグレネードのピンを抜き転がす。

 

「っ……煙幕……!!」

「Ciao〜」

 

 周囲に白煙が充満する前に窓から部屋から離脱する。そして、そのまま逃走する。

 

「フォ!」

「うぉっと……こんな所にいたのかよ……よし、とりあえず撒けたみたいだな……」

 

 物陰からフォウがひょっこりと顔を出した。フォウも無事に回収できたようだ。ひとまず、逃げることが出来たが……

 

「……あれは厄介過ぎるな」

 

 もし仮にもう一度遭遇したら今度は確実に殺されるかもしれない。それだけは絶対に避けたい。

 

「仮面を付けていたと言え、声や癖でバレるかもなぁ……街中でいきなりグサッとはやられないとは思うが、容姿とか変えておくか」

 

 これからはもっと慎重に行動しねぇとなぁ……

 

 




番外編として投稿していくので詳しい設定は考えてないです。


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自分の親友が豹変してたらどう思う?

原作ハジメくんの口調が迷子だぜ……


 Side 零斗

 

「帰還者についての情報は一切無しか……」

 

 園部と一悶着あってから一日が経ち、引き続き帰還者や高校生神隠し事件について探ってみたが収穫はゼロだった。

 

「進展があるとすれば……帰還者ってのは間違いなく、俺のクラスメイト達だな」

 

 机の上に雑多に広げた資料の中から一冊の雑誌を取り上げる。

 

「一番新しい記事でも半年前か……」

 

 雑誌には失踪した高校生達の氏名と写真が載っている。

 

「マスゴミがこんな特ダネを逃す筈が無い……こんな事件なんざ前例も無い筈だ。だったら今でも情報が何かしら出る筈なんだが……」

 

 雑誌を捲りながら頭を捻る。だが一向に答えが出る気配は無い。この雑誌以外にもネットや図書館などあらゆる場所から情報を集めたが、結局何一つ得ることは出来なかった。

 

「ハァ……メンドクセェ……」

 

 思わずため息をつく。幾ら探ろうが帰還者達の詳しい情報は一向に手に入らない。

 

「こうなりゃ、当人達から情報を引き出すしたかねぇな」

 

 荷物を纏め、椅子に掛けていた上着を手に取る。

 

「さぁて、鬼が出るか、それとも魔王が出てるか……」

 

 ────────────────────ー

 

「確かこの辺りに……あった」

 

 目的の場所に着き、足を止める。少し寂れた印象を受ける小さな洋食店……店名は『ウィステリア』。

 

 カランカランというドアベルの音と共に店内へと入る。すると店の奥の方から女性の声が聞こえてくる。

 

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

 

 不良少女っぽい見た目をした少女が丁寧に対応してくれる。

 

「そうですね……日替わりランチとジャスミンティーを、それと食後にブレンドをお願いします」

 

 カウンター席へ腰掛けメニューを見ながら店員の女性……園部優香に注文を頼む。

 

「かしこまりました。少々お待ち下さいね」

 

 園部が厨房の方へ向かうと同時に店内を見渡す。客入りは無く、俺を含めても数える程しかいない。

 

(とりあえずはバレてないみたいだな)

 

 昨日接触した時とは違い、今は背丈や声、髪色を変えて変装している。

 

「……よぉ、アンタこの辺じゃ見ない顔だな」

 

 不意に声をかけられ横を見ると、先程まで誰も座っていなかった隣の席に見知った顔があった。

 

「えぇ……この辺りには初めて来ましたから」

 

 少しくせっ毛な黒髪に、日本人特有の焦げ茶色の瞳、僅かに日焼けした肌……だが、そのどれもに違和感がある。

 

(左胸に一丁と右腰に一丁ずつ銃を隠してるな……それ以外にも左足、右足首、右腕……何個か仕込んでるな……にしても)

 

 獰猛な笑みを貼り付けた青年の顔を見て内心で苦笑いする。

 

(コイツ、完全に俺のこと狩りに来てるな……)

 

 敵意剥き出しの視線を感じ取り、表情に出ないように気をつけながら目の前の男を観察する。身長は170cm後半で、細身ではあるが筋肉質であることが分かる。

 

「世界各地を旅しながら、歴史の研究をしていまして」

「ほう?世界の歴史を研究してるってことは学者か?」

「いえいえ、ただの物好きですよ」

 

 男との会話を続けながらも、周囲に意識を向ける。今はまだ大丈夫だが、これ以上長引くようなら不味いな……

 

「そうだ、お名前お聞きしても?」

「あぁ……南雲ハジメだ」

「南雲さんですか……良いお名前ですね」

「そいつはどうも」

 

 適当に話をしつつ頭の中で考えをまとめる。

 

(笑えねぇ冗談だ……目の前の男がハジメ?右目は義眼で、左腕は肩口辺りから義手みたいだしよ……)

 

 隣にいる南雲を観察し続ける。見た限りだと明らかに戦闘慣れしており、何時でも身体に仕込んでいる武器を抜ける状態になっている。

 

(こりゃ魔王の方を引いちまったみてぇだな……泣けるぜ)

 

 そんな事を思いつつも、表情には出さないようにしながら話を続ける。

 

「こちら日替わりランチのハンバーグセットとジャスミンティーになります……ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 料理を受け取り、再び思考を巡らせる。

 

(さて、これからどうするか……まぁ、やるしかないんだが)

 

 手元にあるハンバーグを一切れ口に放り込みながら、隣の南雲に話しかける。

 

「ムグムグ……そういえば、この地域で高校生達が集団神隠しにあった話って本当なんですか?」

 

 ピクリと反応を示す南雲を見ながら話し続ける。

 

「何でも突然消えてしまったとか……」

「…………」

「しかも不思議なことに消えた人達は全員同じ高校に通っていた人達らしいじゃないですか」

 

 全身を突き刺す様な殺気を向けられるが、気にせず話し出す。

 

「……きっと、想像を絶する様な経験をしてしまったのでしょうね……」

 

 そして一呼吸置き、相手の目を見る。瞬間、周囲の時間が止まる感覚に襲われる。

 

「ねぇ、貴方もそう思いませんか?」

 

 南雲の目が鋭さを増し、敵意を剥き出しにし始める

 

「……何者だ、お前」

「おやおや、随分と殺気立っていますね……私はただのしがない旅人ですよ」

 

 微笑を浮かべながら言葉を発する。南雲の眉がピクッと動き、更に威圧感が増す。

 

「……何が目的だ」

「おやおや、酷い言い草ですね……私はただ、貴方達帰還者と話がしたいだけです」

 

 それを聞いた途端、南雲の纏う空気が更に重くなる。先程とは比べ物にならない程の殺気が辺りを包み込む。

 

「……何が目的だ」

 

 底冷えするような声音と共に、シュラークがこちらに向けられる。

 

(マズったな……少し煽り過ぎたか?)

 

 後悔しつつも、動揺した様子を微塵も出さずに答える。

 

「さぁ、なんででしょうかね……後、銃を向けるのは得策ではありませんよ」

「何……っ!?」

 

 一瞬の隙をついて、南雲のシュラークを奪い取る。驚愕に顔を歪める南雲を尻目に、奪い取ったシュラークをじっくりと観察する。

 

「ほぉ……かなり独特な機構をした銃ですね。と、チェンバーとシリンダー部分に煤が溜まっていますよ、こまめに清掃した方がいいですよ」

「テメェ……!」

 

 怒りの形相でドンナーを抜く南雲を片手で制し、奪い取ったシュラークをテーブルに置く。

 

「私はただ、貴方達と話がしたいだけです……危害を加える気も、殺し合いをする気もありません」

「……煽ったあげく、俺の愛銃を奪っておいて何言ってんだ」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てる南雲に、俺は笑顔で答えた。

 

「確かに、それはそうですね」

「……チィ、それで?俺に何をさせる気だ」

 

 苛立たしげな口調の南雲に、俺は質問を投げかける。

 

「いえ、別に何も……強いて言えば、私に協力してください」

「……は?」

 

 予想外の返答だったのか、呆けた顔になる南雲。

 

「私はとある物を探していまして……万能の願望機とも言われる『聖杯』……それの捜索と確保の協力をお願いしたいと思いましてね」

「……」

 

 警戒心を滲ませながら、南雲はこちらをじっと見る。

 

「対価はもちろん御用意します……とりあえずはこれでどうでしょう?」

 

 そう言うと同時に、南雲の目の前に一冊の本を出現させた。

 

「……何だこれ?」

 

 南雲は本を手に取り、パラパラとページを捲る。内容は主に『特異点』、『サーヴァントとの交流』……俺の体験した出来事をなるべくマイルドにして書いてある。

 

「…………ほぉん」

(まぁ、コイツならこうなるわな……)

 

 南雲は俺から渡された本を読み耽っている。時折、ニヤリと笑ったり、目を見開いたりしている。そんな南雲を眺めつつ、冷めてしまった料理を食べ進める。

 

「……ブレンドコーヒーになります」

「ありがとうございます」

 

 不機嫌そうな顔をした園部が持ってきたコーヒーを口に含む。

 

(……やっぱり、ここのコーヒーは美味いな)

 

 一口飲む度に、香りが鼻腔をくすぐり、味は舌の上でまろやかな甘みを残しながらも、スッキリとした後味を残して消える。

 

「……ごゆっくりどうぞ」

 

 相変わらずの不機嫌顔の園部を尻目に、読書中の南雲に話しかける。

 

「……どうですか?」

「あぁ、悪くない」

 

 そう言いながら南雲は本を閉じる。

 

「だが、足りないな」

「……と言うと?」

「俺が協力するのと、お前の書いた本じゃ等価交換ですら無い」

 

 南雲の言葉に、思わず口角が上がる。

 

「そうですか……では、何を差し上げれば?」

「そうだな……お前の持つ情報全てだ」

 

 南雲の目は真っ直ぐとこちらを見ていた。南雲からの要求に、内心ほくそ笑む。

 

(予想通りだ)

 

 南雲が俺に協力するメリットは少ない。寧ろデメリットの方が大きいだろう。

 

「それで?どうすんだ?」

 

 南雲の目が鋭く光る。今にも飛びかかって来そうな雰囲気を醸し出す南雲を手で制す。

 

「おやおや、そう怖い目をしないでください……分かりました、貴方の要望に応えましょう」

 

 南雲の目を見て、はっきりと答える。それを聞いた南雲が怪しく笑う。

 

「交渉成立……ですね?」

「あぁ、よろしく頼むぜ」

 

 差し出された南雲の手を握る。その手には確かな温もりがあった。

 

「しかし、随分と熱心に読んでいたみたいですけど……気に入りました?」

「まぁな、なかなか面白かった……あと質問なんだが『チェイテピラミッド姫路城』っのはなんだ?馬鹿が作ったモノにしか思えないんだが……」

 

 南雲の問いに、俺は遠い目をしながら答える。あれは確か……いや、もう思い出したくもない。

 

「えぇ、全くもって同感ですよ……」

「何かあったのか?」

「……まぁ、色々と」

「そ、そうか……その、なんだ……お疲れさん」

 

 南雲が憐れみの視線を向けてくる。それが妙に心に突き刺さる

 

 

 




最近ホグワークレガシー初めました。

敵には必ず「チェストォォォォ!!」と絶叫しながらトドメを刺すようにしてます。


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三対一のタイマン

俺がタイマンと言えばそれはタイマンになるのだ(強引)


 Side 零斗

 

「帰還者達の情報はあらかた手に入ったが……これと言ってめぼしい物は無かったな」

 

 こっちの世界の南雲から紹介された、帰還者対応課……通称魔王課の服部という人物から渡させた資料に一通り目を通したが、手掛かりになり得る物は無かった。

 

「新聞やテレビでもこれと言っておかしな事件が報道されている訳でも無い……サーヴァントの気配や聖杯独特の魔力反応も無い……どうなっているんだ?」

 

 ……少し考えても仕方が無いか……取り敢えず今は手に入れた情報を元に調査を進めるしかない。

 

「南雲と協力関係を結べたのは良かったが、進展が無さすぎる……」

 

 一人では調べられる範囲には限度がある。それに今回の件に関しては俺一人の力で解決するのは無理だ。現地サーヴァントの協力もなければ、カルデアからのバックアップも現状では受けられず、聖杯やその所持者のしっぽすら掴めていない……

 

「そもそも、ここは特異点なのか?」

 

 今更ながらだが、俺はここについて何も知らない。この世界が元いた場所と同じ並行世界だとしたら、同じ歴史を辿っていることになるのか?それとも全く別の世界で、時間軸すら違うという可能性もある。

 

「どちらにせよ、まずはこの世界の事を知らなければならないか……」

 

 机の上に街の地図を広げ、エルガー用の銃弾を置いていく。

 

「魔力反応が高い地点は約三十箇所……その大半が帰還者達の家……だが、ここの魔力反応は異常だ……」

 

 一つ一つの場所を確認していくと、一つの場所で目が止まる。俺達……まぁ、この世界だと南雲達が通っていた学校である。

 

「……ここに何かある可能性は高いな」

 

 しかし、そうなると問題が出てくる。それは、どうやって潜入するかと言うことだ。

 

「……夜遅くにこっそりとやった方がいいな。そっちの方が邪魔も入らないだろうし」

 

 そうと決まれば早速準備に取り掛からなくては……

 

『──ー♪』

 

 突然携帯が鳴る。相手を確認するとそこには南雲の名前が書いてあった。通話ボタンを押すと同時に耳に当てる。

 

「もしもし?何か御用ですか?」

『……あ〜、すまん。今時間あるか?』

 

 申し訳なさそうに言う南雲の声を聞いて察する。これは面倒事に巻き込まれた時の声色だ。電話越しでもわかる程だから相当厄介なんだろう。

 

「えぇ、大丈夫ですよ。どうかしましたか?」

『実はな──『貴方ですね!私たちのハジメさんに喧嘩を吹っかけたのは!!』おい、シア!』

 

 電話口から聞こえてくる声と共にドタドタとした音が聞こえる。恐らく俺の知っていて、俺の知らない残念うさぎのシアが南雲から電話を奪ったのだろう。

 

「……まぁ、解釈によってはそうなりますね」

『やっぱり!!許せません!!』

 

 電話口で騒ぐ彼女に溜息をつく。俺の知っているシアと変わらず元気いっぱいみたいで何よりだよ。

 

「それで?要件は何でしょうか?」

『……シア含めて何人かと手合わせてして欲しい』

 

 予想通りの答えだった。こちらとしても都合が良い。こっちの世界の南雲達がどれほどの実力かを確かめる事が出来る、もしも彼らが裏切った場合は即座に対処出来るようにしておく必要があるからだ。

 

「わかりました。場所は何処にしましょうか?」

『俺の家に来てくれ。住所はメールで送る』

 

 了承するとすぐに通話を切る。その後直ぐに住所が送られてきた。

 

「さっさと、行くとするか……」

 

 軽く荷物をまとめて部屋を出る。

 

 ────────────────────

 

「着いたは良いが……中からとんでもないくらい殺気が漏れてんだけど……」

 

 インターホンを押してから数分後、扉が開かれた。

 

「ようこそきやがりましたね!」

「ん、歓迎する」

「じゃが、とりあえずは……」

 

 出迎えてくれたのは笑顔を浮かべたウサミミで青髪の少女に金髪の美少女、黒髪で妖艶な雰囲気を纏った大人びた女性だった。俺の姿を見るなり彼女達は笑みを深めながら、こう言った。

 

「死にされせぇ!ですぅ!!」

 

 …………うん、相変わらず殺意高すぎない?いやまぁ、俺が悪いんだろうけどさ。ウサミミ少女渾身の一撃を避けながら思う。

 

「ちょこまかとぉおおお!!!」

「緋槍!」

「螺炎!」

 

 ……これ避けなかったら死んでないか?彼女達の攻撃を避けつつ、南雲家へ足を踏み入れる。

 

「お邪魔します。あとお嬢さん、これお土産です」

「わぁ!ありがとうございますぅ!って騙されませんよ!?そんなもので私達の攻撃をかわした罪が許されると思ってるんですかねぇ!!!」

 

 ダメか……どうしたものかな?取り敢えず猛攻を避け続ける。

 

「後ほど満足するまで相手しますから今は南雲君に会わせて貰ってもよろしいですか?」

「む?本当でしょうね?もし嘘なら承知しませんですよ?」

「はい」

「約束ですよ?破ったらミンチよりひでぇやにしてやりますからね?」

 

 ……物凄く信用されて無いんだが。まぁ、いい。俺は南雲に会いに来たんだし。

 

「昨日ぶりですね、南雲君」

「……なんか、すまんな家のバグウサギが……」

 

 リビングに入るとそこには苦笑いをする南雲がいた。彼の隣ではシア達が不満げな顔をしながらお茶菓子を食べている。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

「そう言ってくれるとありがたい」

「ところで、私と手合わせする方達は?」

「あぁ、今こっちに向かってる途中だ。もう少し待ってくれ」

 

 それを聞くと安心してソファに腰掛ける。少し待つと玄関の方から誰かが来たようだ。

 

「おっす、南雲。こいつがお前に喧嘩売った奴なのか?」

「……悪い事は言わないから、今すぐ謝った方がいいと思うぞ」

 

 入って来たのは、筋骨隆々で熊の体格をした青年……坂上龍太郎と、心配そうな表情でアドバイスしてるく絵に書いたようなイケメン(笑)、天之河 光輝……その後ろには八重樫に白崎、園部、遠藤の姿あった。

 

「……貴方、よく残念なイケメンって言われませんか?」

「初対面でそれは失礼じゃないか!?」

 

 ……こっちの世界の天之河はある程度まともになったんだな……俺の言葉にツッコミを入れる彼を見てしみじみと感じる。

 

「……まぁ、否定はしないな」

「南雲まで!?」

「ま、まあまあ。落ち着けって」

 

 坂上に宥められて落ち着きを取り戻す。この場にいる全員の顔を見回す。俺の記憶にある顔と比べると皆、僅かに大人びている。

 

「……そろそろ始めましょうか、時間は有限ですし」

「あぁ、そうだな。ルールはどちらかが戦闘不能になるか降参したら終わりで良いか?」

 

 南雲の提案に首肯する。南雲の後ろのシア達の目がより一層鋭いものになった。

 

「では、場所を移しましょうか」

「場所を移すって……どうやってだ?」

「まぁ、任せてください」

 

 異空間収納から転送門を取り出して魔力を通しつつ、人気がなく、暴れても問題ない場所をイメージする。

 

「さ、行きましょうか」

 

 門をくぐった先は見渡すかぎりの草原で所々に森がある。

 

「……ここなら問題なさそうですね。さて……」

 

 南雲達から数歩離れた位置まで歩き、南雲達の方へ向き直る。

 

「最初に私と戦闘をするのは何方ですか?私は纏めて掛かってきてもらって大丈夫ですが……どうします?」

 

 挑発的な言葉を投げかけると、シアを筆頭に全員が殺気立つ。

 

「上等ですぅ!!ぶっ殺してやるですぅ!!」

「……後悔させてあげる」

「ご主人様の敵は妾の敵じゃ……覚悟するんじゃな!」

 

 やる気満々といった様子で、それぞれ戦闘態勢に入っている。後ろにいる天之河達が『あ、アイツ死んだな』みたいな顔をしている。

 

「……さぁ、何処からでも掛かって来なさい」

 

 俺が言い終わると同時に、シア達が一斉に襲い掛かる。

 

「先手必勝ですぅ!!」

 

 シアが大槌を振り下ろす。それをバックステップで避けるも、彼女は振り下ろした勢いを利用して飛び上がり、そのまま空中で回転しながら遠心力を加えた一撃を繰り出す。

 

「……そう来ますか……なら」

 

 迫り来る戦鎚を受け流し、そのまま投げ飛ばす。シアの身体が宙を舞う。すかさず追撃を仕掛けようと一歩踏み出すが、横合いからの熱を感じ、咄嵯に身を屈める。

 

 頭上で何かが通り過ぎる音が聞こえる。恐らく、あの金髪美女が放った魔法だろう。

 

「中々エグい連携ですね……」

 

 体勢を立て直したシアとユエの攻撃を捌きながら呟く。すると今度は空気すら焼け付く様な黒いレーザーが迫ってくる。

 

「っ!?」

 

 流石にこれは避けきれないと判断し、後ろへ飛ぶ。直後、先程までいた場所が一瞬で焦土となった。

 

「ほぉ?今のを避けるとはそこそこはやる様じゃな」

 

 妖艶な雰囲気の女性……ティオが感心した様に言う。

 

「……次は外さない」

「私だって負けませんよ!」

 

 再び襲いかかってくる三者の攻撃をいなしていく。

 

「……そろそろ、反撃開始と行こうか」

 

 変化させていた身体を戻し、異空間収納から血狂いを取り出し、居合の構え取る。

 

「ッ!!止まった今がチャンスですぅ!一気に畳み掛けます!」

 

 俺の動きが静止した隙に、3人が同時に仕掛けてきた。俺は彼女達に笑みを浮かべる。

 

「居合……閃狼『不知火』」

 

 肉薄しようとしたシアが突然吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。続いて、シアの背後で魔法の行使しようとしていたユエとティオが見えない斬撃によって切り裂かれ、その場に崩れ落ちる。

 

「……は?」

 

 三人が崩れ落ちた光景を見て、呆然とする南雲。

 

「何が起こったのかわからない、と言った感じですね」

「あ、あぁ……」

「安心してください。峰打ちなので死んではいませんよ」

 

 そう言って、南雲に歩み寄る。懐から煙草を出し、火を付けて一服する。南雲は俺の事を訝しげに見ている。

 

「……この姿が気になるんですか?先に言っておくと今現在の容姿が本来の物ですよ」

 

 南雲は納得していないようだ。まぁ、当然の反応だな。紫煙を吐き出し、天之河達に視線を向ける。

 

「貴方達はどうします?私と一局死合ってみますか?」

「……遠慮しておくよ」

 

 天之河は苦笑いをしながら首を横に振る。他の面子も同じようだ。

 

「そうですか……それは残念です」

 

 吸いかけの煙草の火を消し、倒れ付したシア達の方へ見る。未だに気絶から復帰せずに伸びている。

 

「……少し深めに入り過ぎましたかね?」

 

 加減が難しいな……そんな事を考えつつ、南雲の方を見る。彼は俺の視線に気付いたようで、俺の目を見てくる。

 

「……お前、一体何者なんだ?」

「言った筈でしょう?しがない旅人だと……」

 

 俺の答えに溜息をつく南雲。そして、俺に向かって手を差し出してくる。その行動の意図がわからず、思わず小首を傾げる。

 

「……取り敢えず、謝っておく。アイツらが迷惑かけたな」

 

 南雲の言葉に目を丸くする。まさか謝罪をされるなんて思いもしなかったからだ。

 

「いえ、気にして無いので大丈夫です」

 

 差し出された手を握り返し、握手を交わす。彼の手の感触から、彼が成長している事がわかる。

 

「一度、貴方の家に戻りましょうか……その方が落ち着いて話も出来るでしょうから」

 

 南雲達の方を向き、提案すると全員首肯してくれた。気絶しているシア達を抱えながら、転送門を通る。南雲邸のリビングに戻った俺達はシア達をソファに寝かせ、軽く雑談する事にした。

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね……私は湊莉 零斗 世界を旅しながら歴史の研究をしている旅人です」

「……さっきの姿といい、変わった奴だなお前」

「よく言われます」

 

 南雲の率直な感想に笑顔で返す。すると、今まで黙っていた白崎が口を開く。

 

「あの……一つ聞いてもいいですか?」

「えぇ、構いませんよ」

 

 彼女は俺の返事を聞いて、おずおずと質問を口にする。

 

「……なんで、そんな演技をしているんですか?」

「…………へぇ?よく分かったな」

 

 口調と声色を変えて話す俺。それを見ていた南雲達が目を大きく見開いている。演技力には自信があったんだがなぁ……

 

「……何故、わかったか教えて貰っても良いか?」

「えっと……雰囲気とかかな?言葉では上手く言えないけど……あ、あとはその人の仕草や癖を変に隠している様に見えて……」

 

 意外と観察眼があるみたいだ。感心しながら、彼女の言葉を聞く。言動が胡散臭いだの、笑顔がキザ過ぎるだの、割と散々な事を言われた。

 

 




白崎さんの第六感が発揮され、零斗くんの演技が速攻でバレれました。


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詰問と調査

ああ^~fateシリーズの設定が理解できてないからぐちゃぐちゃになってしまうんじゃ〜


 Side 零斗

 

「じゃあ、キリキリ吐いて貰おうか」

「ん、早く吐けば楽になる」

 

 南雲やユエ……主に南雲ハーレムのメンバーが全力の殺気を放ちながら、俺に持っている情報の全てを吐く様に脅迫してきた。

 

「まさかこんなに早くバレるとはなぁ……演技には自信があったんだがなぁ」

 

 俺はそう言いながら頭を掻いた。さてと……どこから話すべきか……取り敢えず、俺の正体を明かす事から始めるとするかな。

 

「改めて自己紹介しよう。俺は湊莉 零斗……一応は人間で、お前達とは並行世界から来た者だ」

 

 その言葉を聞き、全員が唖然とした表情になった。そりゃそうだろ……いきなり別時間軸とか言われても理解出来るはずがない。そして一番最初に口を開いたのは天之河だった。

 

「……ふざけているのか?」

「いや?本当だが?」

 

 天之河の言葉に対して、俺は真顔で返す。すると今度は八重樫が質問を投げかけてきた。

 

「並行世界って言うけど具体的にどんな場所なのかしら?」

「こっちの世界とそこまで大きな差異は無い」

「……この地球にはどうやって来たんだ?」

「レイシフトだ……一言で言えば特定の場所に、特定の時間に移動できるシステムみたいなもんなんだが……」

 

 そこで一度言葉を区切り、皆の顔を見渡してから再び話し始める。

 

「今回はこっちの世界に引きずり込まれたみたいでな、どうすれば帰るのかは大方検討は着くんだが……如何せん情報が無さすぎて手詰まりだったんだよ」

 

 そこまで説明したところで、白崎が疑問を口にする。因みに先程までお怒りモードだった南雲ハーレム達は、今はもう落ち着いた様で普通にしている。

 

「何が目的なの?」

「『聖杯』……『万能の願望機』とも言われる聖遺物の回収だ」

 

 それを聞いて、またもや全員の顔に疑問符を浮かべる。まぁ、無理もないか……そもそもそんなモノが存在するという事は眉唾物の話だし、実際に存在すると言うなら……

 

「『聖杯』は『制御可能かつ膨大な魔力の塊』で『それを溜め込む器』でな、魔術師ならこれを利用して大概の事は出来る。それこそ世界征服だって容易に出来る……」

 

 俺の説明を聞いた連中は意味不明といった感じで首を傾げていた。まぁ、スケールがデカ過ぎてあんまり理解できないよな……

 

「簡単に言えば、世界を救う為に行動しなきゃ行けない事態だって思ってくれればいい」

 

 その言葉を聞いてもいまいちピンときていない様子だったが、取り敢えず納得はしてくれたらしい。

 

「それで、これからどうするんだ?『聖杯』を探すにしても当てはあるのか?」

「一応はな」

 

 持ってきた地図を広げ目星をつけていた場所……南雲達が通っていた学校に印を付ける。

 

「ここの魔力反応が異常なまでに高い上に、大規模な魔術の術式がゆっくりとだが展開されている」

 

 俺がそう説明すると、全員が食い入る様に地図を覗き込み出した。そして、全員が一通り見たところで南雲が口を開く。

 

「ここに行くとして……その後は?」

「そこを潰して、黒幕を引きずり出してぶち殺す」

 

 俺がそう言うと、全員がドン引きした表情になった。

 

「おいおい……随分過激だな……」

「敵には容赦しない主義なんでね……それはお前もだろう?」

 

 俺がそう南雲に返すと、不敵に笑う。そして、南雲ハーレムのメンバーの方を見ると全員が殺気を込めて睨みつけてきた。

 

「嫉妬か?旦那を取られた様に見えたのか?随分と血気盛んだねぇ?」

 

 煽る様な口調でそう言うと、全員が更に険しい表情になった。しかし、南雲が手で制すると直ぐに落ち着きを取り戻す。

 

「ククク……随分と深く重く……悪寒がする程の愛を受けているな」

 

 俺がからかい気味にそう言うと、南雲はそっぽを向いてしまった。

 

「……放っとけ」

「なんだぁ?照れてんのか?おいおい、そんなに獰猛な顔しといて本当は純情なのかなぁ?」

 

 そっぽを向いた南雲も周りも行き交いながら煽り倒す。すると、とうとう我慢の限界が来たらしく、ノールックでドンナーを撃ってきた。

 

「おー怖い怖い。こっちの世界のお前もユエ嬢達が絡むと著しく理性が蒸発するんだな?」

 

 その弾丸を軽く避けて見せると、南雲は舌打ちをした。

 

「……子供扱いは不服」

「俺からすればお前さんは年下だぞ?これでも三百歳越えの爺だぞ、俺は……」

 

 その発言にまたもや全員の目が点になる。まぁ、当然の反応だよな……

 

「と、そうだ……学校の調査は夜にやる予定だから、そこら辺の手回しは任せたぞ」

 

 南雲は面倒くさそうな顔をしたが、渋々引き受けてくれた。その後直ぐに南雲家を出て、夜まで時間を潰しに街に向かう。

 

 ────────────────────

 

 夜の帳も降りきり、完全に暗くなりきった頃合いを見計らい動き出す。英霊憑依で呪腕のハサンを憑依させ気配遮断のスキルを発動させながら、学校の前までやって来た。

 

「さぁ、調査開始だ」

 

 校門を乗り越えると、そのまま職員室に向かい鍵を失敬する。鍵を使い部屋を一つ一つ調べていく。

 

 一階から順番に上っていくと、一番上の階の教室の前で何かしらの結界の様なモノを感じる。念の為、扉に手をかざすとバチッ!と言う音と共に手が弾かれた。

 

「しゃーねぇか……フッ!」

 

 身体強化の魔術を施し、全力の蹴りを放つ。バキリと言う音が響き渡り、ドアが吹き飛んだ。中に踏み込むと、異常なまでの魔力が渦巻いている事が分かる。そして、部屋の床には大型の魔術式が描かれていた。

 

「Jackpot!さぁて、どんな悪趣味な魔術が仕込まれてるのかなぁ?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら、魔術式に触れる。

 

「なるほど……『魂喰い』を基盤に『死霊魔術』と『干渉魔術』、『支配』、『変換』を無理矢理結合してあるのか……これ創った奴馬鹿すぎない?」

 

 魔術式に触れているだけで様々な情報が頭に流れ込んできた。この魔術式の構成者は相当頭がおかしい様だ。本来ならこんな事をしたら魔力回路が焼き切れるはずなんだが……

 

「下手に細工をするとここら一帯が更地になるな……どうしたもんかな……」

 

 頭を悩ませていると、唐突に背筋に悪寒が走る。咄嵯にその場から離れると、魔術式が起動し膨大な魔力がうねり始めた。

 

「こりゃちょっとヤバいかもな!」

 

 英霊憑依でメディアを憑依させ、宝具を発動させるが、それでも押し切られそうになる。魔力が凝縮されていき、光り輝き始める。そして次の瞬間、閃光が走り、全身に強い衝撃が走った。

 

「ッ!!」

 

 踏ん張ろうと全身に力を込めるが、耐えきれずに吹き飛ばされ、窓に背中から突っ込みガラスを突き破って校庭に転がり出る。

 

「痛ってぇ……」

 

 体を起こし、服についた砂埃を払う。校舎を見ると、校舎全体に魔術式が浮かび上がっており、それが鼓動を打つ様に明滅していた。

 

「あ〜……こりゃ本格的にマズいな……さっさと片付けないととんでもないほどの被害が出るな」

 

 そう言って立ち上がると同時に、先程までとは比べ物にならない量の魔力が溢れ出た。

 

「魔力が膨大になってる……どうやら召喚されるみたいだな」

 

 その言葉同時に、魔術式から黒い泥の様な物が溢れ出した。それはだんだんと形を成していき、やがて人型になる。

 

「おいおい……冗談キツイぜ、まったく……」

 

 最初は一体だった泥の塊は分裂を繰り返し、目測で百体を超え、今も尚増え続けている。そして、その一体一体が並のサーヴァントを凌駕する程の魔力を放っていた。

 

「骨が折れそうだな……」

 

 人型達は一斉に魔術を放ち、俺を殺そうとする。それを血狂いで弾きながら、反撃のタイミングを伺うが……

 

 ドパンッ!

 

 俺が動き出す前に俺の横を黒い閃光が横切った。

 

「……よぉ、随分と遅い到着だな?」

 

 その声の主の方へ目を向けると、そこには南雲達が立っていた。俺が皮肉混じりに言うと、南雲は不敵に笑いながら口を開く。

 

「これで貸し一つだな?」

 

 その発言に、俺はため息をつく。借りを作ったのは間違いないが、まさかこの状況でそれを言われると思っていなかった。南雲達に文句の一つでも言おうと思ったが、そんな暇もなく人型共は襲い掛かってくる。

 

「貸しを作るのは嫌いなんでね……こいつでチャラって事にしてくれよ?」

 

 迫り来る影の軍団を前に、俺は南雲達に不敵な笑みを向けながら言う。

 

「英霊憑依……アヴェンジャー『魔王信長』」

 

 体が黒と赤の混じったオーラに包まれる。オーラの合間から炎がチリチリと燻り始める。

 

「天魔来たりて六天滅す。我行くは神仏逝きし無人の焦土」

 

 言葉を紡ぐ度に、体内の魔力が荒れ狂い溢れ出す……それは次第に赤黒く染まっていく。

 

「是非に及ばず。尽滅あるのみ!」

 

 その言葉と共に、辺り一帯が炎に飲み込まれた。人型達は怯みはしたがすぐさま立ち直り、再度攻撃を開始する。

 

「滅せい!」

 

 地面を踏み締め、跳躍する。人型達の頭上に到達したと同時に、右腕に魔力を集中させ、思い切り地面に叩きつける。

 

 地面が割れ、爆風が巻き起こる。そして、その衝撃波によって数十体の人型は跡形も無く消し飛んだ。

 

「ふははははは、死ねい!」

 

 僅かに後ずさった一体の人型に急接近し、拳によるラッシュを喰らわせ、トドメに赤黒いオーラを纏わせた脚で踵落としを繰り出した。

 

「打ち払え、魔王剣!」

 

 落下と同時に、腰に差している刀を引き抜き、魔力を流し込む。すると、刀身から膨大な魔力が吹き出し、漆黒の炎が燃え上がる。そして、そのまま横一文字に振り抜く。

 

「ッッ!!」

 

 刀の軌道に沿って、漆黒の斬撃が放たれ、周囲の人型達を飲み込み、斬り裂いた。

 

「ふむ……これで片がつくと思ったのだが……まぁよかろう」

 

 まだ残っている人型に向き直り、ニヤリと笑う。

 

「いささか気が乗らぬが……是非もなしか」

 

 そう呟くと、全身から更に魔力が吹き上がり、髪が逆立ち始める。

 

「我が往くは神仏衆生が無尽の屍。何人たりとてこの信長を阻む事は能わず」

 

 魔力が徐々に高まっていき、臨界点を突破する。すると、俺の背後から腕が六本あり、全身が真っ黒の巨大骸骨が現れる。

 

「『波旬変生(はじゅんへんじょう)三千大千天魔王(さんぜんだいせんてんまおう)!!』」

 

 そう叫ぶと同時に、その巨大な骸骨の口から凄まじい量の熱線が吐き出され、残っていた人型達は一瞬にして消滅した。

 

「ふん、その方程度が我が歩みを止めるなど、叶わぬことと知れ」

 

 魔王信長の姿のまま、南雲達に視線を向けると、南雲は驚いた様に目を見開く。その表情を見て、してやったりと思いながら南雲の肩に手を置く。

 

「これで貸しはチャラだ」

「……あぁ、そうだな」

 

 南雲は少し悔しそうな顔をした後、苦笑いを浮かべながら言った。




Fateの聖杯の設定に間違いがあったら教えてくださいm(_ _)m


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影を操る者は……

 Side 零斗

 

 大量の人型の影を倒し、英霊憑依を解除する。その時、突然視界が歪み始め、体に強い倦怠感が襲いかかってきた。

 

「っと……流石に連続使用には無理があったか……魔力がすっからかんだわ」

「大丈夫なのか?」

「なんとかな……」

 

 そう言って校舎を見ると、既に魔術式は消えており、先程まで溢れ出ていた魔力も魔術式からは感じ取れなくなっていた。

 

「……間に合わなったみたいだな。全員戦闘態勢を整えろ、常に思考を回転させ続けろじゃないと……死ぬぞ」

 

 そう警告しながら、血狂いを構える。それと同時に、足元から巨大な影が這い出てくる。その影は徐々に形を成していき、やがて巨大な触手の様な何かへと変わった。

 

「……おいおい、マジかよ」

「こいつ……校舎ごと俺たちを潰す気みたいだな……」

 

 そう言いながら、南雲はドンナー&シュラークを構え、他の皆も各々の武器を手に取る。

 

「来るぞ……!死にたくなきゃ、全力で抗え!」

 

 俺がそう叫んだ直後、影が動き始めた。迫りくる触手を紙一重で避け、すれ違いざまに血狂いでバラバラに切り刻む。

 

「チィッ!」

 

 だが、血狂いで切った部分はすぐに再生を始め、元の形に戻ろうとする。

 

「これじゃ……キリがないな!」

 

 舌打ちをしながら、再生を繰り返す触手を蹴り飛ばす。蹴られた部分が爆発を起こし、肉片が飛び散るが、すぐに新しいものが生えてくる。

 

『ォォォオオオ……』

 

 声にならない叫びを上げながら、グラグラと揺らめく巨大触手……というか、ほぼ魔神柱だよな、あいつ。

 

「うーむ……どうしたものか」

 

 正直なところ、あの巨体に物理攻撃は効きにくい。いや、全くと言っていいほど意味が無い。そもそも質量差がありすぎる。

 

『ァアアア!』

 

 耳元に響く不快な音に眉をひそめつつ、魔神柱擬きを観察する。

 

(……南雲を集中的に狙っている節があるな……それに白崎に対する動きも拘束して、捕らえる事に重きを置いている……)

 

 つまり、この化け物の目的は白崎の捕獲と南雲の排除ということだろう。そこまで考えて、ある疑問が浮かぶ。

 

 何故、白崎の殺害ではなく捕縛に拘るのか?何故、 奴が南雲に対して執着している?考えれば考える程、謎が増えていく。答えが出ないまま、ただ時間だけが過ぎて行く。

 

「……今はそんな事を考えていても仕方ないか」

 

 頭を切り替え、魔神柱擬いの観察を続ける。触手を振り回し、薙ぎ払い、叩きつけようとしてくるが、その全てを最小限の動きで避ける。

 

「さて、弱点とか無いかなっと!」

 

 伸びてきた触手を切り刻み、それを足場に跳躍する。そして、空中で体を捻り、回転を加えながら血狂いを振るい、その勢いのまま本体に斬りかかる。

 

 血狂いから伝わる感触に、手応えを感じられない。やはり、ダメージは無いようだ。着地と同時にバックステップし、距離を取る。

 

「まぁ、流石に一筋縄じゃ……行かないよな」

 

 血狂いを一振し、刀身に纏わりついた粘液を払う。

 

「……って、何だあれ」

 

 よく見ると、触手の先端が赤黒く染まっていた。そしてそれは次第に大きくなり、まるで口のような形に変わっていく。

 

「全員回避しろ!」

 

 咄嵯の判断で、南雲達に向かって叫ぶ。そして、次の瞬間、凄まじい轟音を響かせて、赤黒いレーザーが発射された。

 

「ゲホッ……全員無事か?」

 

 地面を強く踏みしめ、なんとか直撃は免れたが、完全には避けきれず、少し掠ってしまった。

 

「あぁ、大丈夫だ」

 

 南雲の声を聞き、ほっとする。だが、安心したのも束の間だった。突如として目の前に現れた触手によって、俺は強く地面に打ち付けられてしまった。

 

「がっ!?」

 

 一瞬息が出来なくなり、視界がチカつく。何とか起き上がろうとするが、触手がそれを許さない。

 

「ぐっ……」

 

 何度も触手に打ち付けられる。その度に骨が軋み、激痛に襲われる。

 

「いい加減に……しやがれ!」

 

 凝血で身体全体を覆う盾を創り出し、それを蹴り飛ばして触手を無理やり引き剥がす。

 

「使うしかねぇか……」

 

 異空間収納から活性アンプルを取り出し、手の中で転がす。

 

「マシュ達に怒られるだろうな……」

 

 心做しか、背中が寒い気がするが……気の所為だと思いたい。小さく息を吐き出してから覚悟を決める。

 

「ッ……あぁ、相変わらず嫌な感覚だな、やっぱ活性アンプルはバカ打ちするもんじゃねぇな……」

 

 取り出したアンプルを首の静脈に打ち込む。全身の細胞が激しく活性化し、視界が大きく広がる様な錯覚に陥る。

 

「フゥー……」

『ォォォオ……』

 

 魔神柱擬きが、触手をまとめてこちらに向け、一斉に刺突攻撃をしてきた。

 

「……『オリオン』」

 

 魔神柱擬きの頭上に巨大な魔力で出来た矢が落ちてくる。触手はそれによって串刺しになり、俺まで届くことは無かった。

 

 飛来してきた矢はアルテナ専用に創った魔弓『フラグメント』による物だ。英霊憑依の技能を武器に組み込めないかと思い作成した試験段階の武器だが、それでもかなりの高性能な代物になっている。

 

「ふむ……並行世界に居ても能力はしっかりと発動するみたいだが……魔力の消費は馬鹿にならないな」

 

 フラグメントの機能として『オリオン』『アルテミス』『ロビンフット』『ケイローン』の能力が付与してある。

 

『アルテミス』では月の魔力を含んだ超高威力の矢を放つものであり、『オリオン』は『アルテミス』で放った矢を眼前の相手に再度放つものである。

 

『ロビンフット』は毒による相手の暗殺と妨害工作をメインとし、『ケイローン』は精密な射撃を複数同時に可能となる。

 

 先程の一撃によって触手は全て破壊されてしまい、再生には時間がかかる筈だ。

 

『ぜ──に──────こ────』

 

 脳内にノイズだらけの声が響く。それと同時に、体の中を虫が這いずるような不快感に襲われる。

 

「……なるほどねェ……南雲も随分と面倒な奴らの恨みを買ったみたいだな」

 

 思わず苦笑する。白崎が狙われていた理由、白崎に固執している訳、白崎を狙う必要が有る理由は……これだったのか……

 

(南雲を殺そうとしたのも……全部白崎を手に入れるためか……)

 

 ……全く本当に愚かだよ……お前は……思考が怒りに染まっていくのを感じる。冷静さを欠いていると理解しているが、それを止めることが出来ない。

 

「こっちの世界のお前は改心する事も学ぶ事も……ましてや反省する事すら無いとはな」

 

 白崎の為にここまで出来るのはある意味尊敬するが、同時にその醜さに反吐が出る。

 

「だから、南雲達に代わって地獄に送ってやるよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────檜山 大介

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう呟いた直後、魔神柱擬きの動きが僅かに鈍くなる。

 

「全員手を出すな……あれの相手は俺一人でやる」

 

 南雲達の周囲に結界を貼り、魔神柱擬きに視線を戻す。触手を全て失った魔神柱擬きは、俺に対して威嚇するような声を上げながら、攻撃してくる。だが、その動きは明らかに遅くなっている。

 

ジョーカー(南雲 ハジメ)さえどうにか出来れば後は楽勝だと思っていたんだろうが……」

 

 魔神柱擬き……檜山に向けて、二対の銃が描かれ、ジョーカーと印字されたトランプを見せつけるようにして言う。

 

ジョーカー(切り札)ってのは必ずしも一枚だけとは限らないもんだろ?」

 

 見せていたトランプをくるくると回す。すると、絵柄が変わり刀身が真っ赤な刀が描かれていた。

 

『お──もーな──ろーてーる!』

 

 ノイズ混じりの叫びと共に、急速に再生した触手達が迫ってきた。その数、実に三十本以上。それを全て血狂いで斬り刻む。切断面から噴き出る血を浴びながら、刀身の血を払い、構え直す。

 

「さて、ここからが本番だ」

 

 触手の先端に付いた口が大きく開き、レーザーを発射しようとしてくる。すぐさまその場から離れる。放たれたレーザーは俺が立っていた場所を正確に焼き焦がしていた。

 

 間合いを詰めて触手を切り刻み続ける。切り落とした触手が新たな触手を生み出し、次々と襲い掛かってくる。

 

「流石に鬱陶しいな……」

 

 背後から迫ってきた触覚を斬り裂いて、そのまま本体の目玉目掛けて血狂いを振り下ろす。

 

「内側から焼けて死ね」

 

 血濡れた刀身を体内に押し込み、発火させる。耳をつんざくような絶叫が上がるが、構わず燃焼させていく。

 

「あぁ、やっぱり外殻より中身の方が脆いよなァ!」

『ぎゃあああぁぁぁあ!!!』

 

 魔神柱擬きの悲鳴が響き渡る。それと同時に、脳裏にまたあの不快な音が聞こえてくる。

 

『殺すゥ!てめぇも南雲も全員殺してやる!!』

 

 憎悪に満ちた声で叫ぶ檜山に嘲笑を向ける。

 

「あぁ、やってみせてくれよ?まぁ、出来るもんならだけど……な?」

『シネエえェエ!!!』

 

 魔神柱擬きの体表から無数の触手が伸びてくる。それを避けることは容易かったが、あえてそれを避けずに掴み取る。

 

「さぁ、楽しませてくれよ?」

 

 血塗れの手で触手を掴み、力任せに引き千切る。

 

「ほら、早く再生しろよ……じゃねぇと殺しちまうぞ……?」

 

 触手を次々に引きちぎり、切り裂き、燃やし尽くす。再生速度よりも速く攻撃し続け、破壊し続ける。

 

「なんだよ……もう終わりか?」

 

 再生が追いつかなくなったのか、次第に触手の数が減っていき、遂には最後の一本になってしまった。

 

「結局お前は最後まで与えられた力に頼っているだけの雑魚でしかなかったな……本当に憐れだよ」

 

 呆気なく最後となった触手を切り捨て、魔神柱擬きの眼前に立つ。俺はこいつに同情はしない。自分がしてきた事を棚に上げて、悲劇の主人公ぶっているコイツを許すことは出来ない。

 

「あばよ、檜山……精々苦しみながら死んでいけ」

 

 懐からカードを取り出し、握り潰す。カードは粉々に砕け散り、そこから一振りの剣と大量の光弾が現れる。

 

「スペルカード……呪焰『愚者の迦具土』」

 

 目の前で燃える炎の剣を手に取る。剣を頭上に掲げると光弾が魔神柱擬きに向かって行き、その身体を削り取ってゆく。

全ての光弾が着弾したのを確認し、頭上に構えた剣を大きく縦に振るう。その瞬間、周囲の空間に縦一線に歪みが広がる。

「爆ぜろッ……!」

 

 そう呟いた直後、空間の歪みが左右にズレ始める。そして、その裂け目は瞬く間に広がるが、一瞬にして逆再生するかのように閉じる。それと同時に、凄まじい爆発が起きる。

 

「……ふぅー……」

 

 完全に消し飛んだことを確認し、その場に座り込む。魔力が完全に底を尽き、活性化の効果も無くなっている。

 

「あー、マジできっついなこれ……」

 

 活性アンプルを使った時の副作用である、全身を襲う倦怠感と痛みに耐えつつ、何とか立ち上がる。

 

「大丈夫ですか!?」

「おう、なんとか生きてるよ」

 

 八重樫が駆け寄ってきてくれたので、軽く手を上げて無事を伝える。他の連中も、特に目立った怪我をしている様子は無いようだ。

 

「ったく……こんな面倒なことになるとは思ってなかったな……」

 

 軋む身体に鞭を打ち立ち上がり、八重樫に支えられながら南雲達の所まで歩いていく。

 

(これでこの微小特異点も切除できたな……直ぐにカルデアに戻ってハジメ達と合流し────)

 

 歩きながら今後の事を考えていた時だった。

 

「(ドズッ!)──コフッ」

 

 脇腹、胸、左足、右肩に激痛が走る。反射的に自分の身体を見ると、黒く焦げた触手が突き刺さっていた。

 

「仕留め損ねたか……」

 

 背後を見ると魔神柱擬きの焼け焦げた肉塊からモヤの様な物が溢れ出し、ゆっくりと人型になっていく。

 

『殺してやる……全員殺してやる!!』

 

 怨念を煮詰めたような声が響く。その声色からは、狂気と殺意が感じ取れる。

 

「まだ、生きてんのかよ……」

 

 思わず苦笑してしまう。ここまでしぶとい相手は久しぶりだ。

 

「だがまぁ……ゲームオーバーだ。残念だったな」

 

 そう呟いた直後、俺の背後から大量の斬撃が飛んできて、モヤを切り刻む。

 

「あら、斬新なイメチェンをしたみたいね?零斗?」

「……前よりもイケメン度増したろ?」

 

 軽口を叩きながら、振り返る。そこには、白銀の刀身をした刀を構え、優しげな表情をし……

 

「さて、説教をされる覚悟は出来てるわよね?」

「……お手柔らかに頼むよ」

 

 額に青筋を立てた、俺の最愛の人の内の一人……刀華が立っていた。

 

 




番外編も終盤に差し掛かって来ました、もう少しだけお付き合いください。


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決着

次話で番外編はラスト(予定)です。


 Side 零斗

 

 ニコニコと綺麗な笑顔をしているが、額にはビキビキと青筋を浮かべて仁王立ちをしている刀華。

 

「……何か弁明はあるかしら?」

「特にはないな」

「そう……なら、歯を食いしばりなさい!」

 

 ドゴンッ!という音と共に、刀華の踵が俺の腹に抉り込む。肺の中の空気が強制的に押し出される。

 

「ッゲホ!?」

 

 痛みに咳き込みながら腹を抑える。そんな俺の顔をを刀華は引っ掴み、強制的に顔を上げさせられる。

 

「なんで、貴方はカルデアに通信を送らなかったのかしら?なんで、活性アンプルをバカ打ちしたのかしら?」

 

 笑顔の刀華が怖い。笑顔なのに、目が欠片も笑ってなくて超怖い。刀華の蹴りで痛む腹を抑えながら言葉を発する。

 

「こ、コラテラル・ダメージってやつだ……」

「は?」

「……何でもないです」

 

 俺の返事を聞いて、刀華は掴んでいた顔を話す。俺は崩れ落ちるようにその場に倒れる。それから少しして、刀華が溜息まじりに言う。

 

「あの!そろそろ!こっちを手伝って貰えません!?抑えるので精一杯なんですけど!?」

 

 シアが必死に檜山による触手攻撃を防ぎながら、こちらに叫ぶ。シアの近くでは南雲やユエ、ティオ達が全力を尽くして檜山の相手をしている。

 

「……刀華、援護してやれ」

「言われなくても分かってるわ」

 

 刀華がシア達の方へと駆け出す。それを見送った後、俺はゆっくりと身体を起こす。手をプラプラと振り、身体の動きを確認する。

 

(……受けた傷は大方治ったが……右腕が動かないな、神経が焼き切れたか……)

 

 チラリと檜山へ目を向ける。檜山は南雲達を嘲るように笑い、その触手を蠢かせている。

 

「あの……大丈夫ですか?」

「白崎か……まぁ、問題はない」

 

 身体を起こした俺に白崎が心配そうに声をかけてくる。俺の右腕がダラりと力無く下がっているのを見て、少し辛そうな表情をしている。

 

「腕の事ならお前が心配する事は無い」

「で、でも……」

 

 まだ不安そうな白崎に目を向け、小さく笑う。そして、視線を檜山へと戻す。檜山は触手の猛攻で少しづつ傷が増えていく南雲達を愉快そうに眺めている。

 

「白崎、少し手伝ってくれ」

「は、はい!」

 

 俺はベルトを右腕に巻き付けて、固く締め付ける。血の巡りが鈍くなったのを確認して、血狂いで右腕を切り落とす。

 

「な、何をしてるんですか!?」

 

 白崎が驚いたような声を上げる中、俺は落ちた右腕を拾い上げる。そして、拾い上げた右腕に魔力を流し込む。

 

「血統武器……作成……モデル『刀』」

 

 魔力を流し込んだ右腕が歪に形を変え、やがて一振りの日本刀へと変わる。俺はその出来上がった刀を軽く振るい、具合を確かめる。

 

「……よし、珍しく成功だな」

 

 刀の刀身は黒く、刃文は赤い。鍔や柄は無く、刀身の刃は剥き出しだ。呆然とこちらを眺めていた白崎は慌てた様子で問いかける。

 

「な、なんで自分の腕を……」

「ん?あぁ、腕くらいならそのうち生えるから大丈夫だ」

 

 俺の回答に白崎は目を丸くして絶句する。

 

「まぁ、それは良い……傷塞いで貰えるか?」

 

 白崎にそう声をかけると、ハッとしたように白崎が頷く。白崎は傷口に手を向けると、得意の回復魔法を発動する。徐々に傷が塞がれていき、完全に傷が消える。

 

「ありがとさん……戦闘の余波に巻き込まれないようにな」

 

 俺はそう言って立ち上がると、檜山に目を向ける。ニヤニヤと楽しそうに南雲達を見下ろす檜山は、まるで俺達など敵として認識していないようだった。

 

(ん〜……やっぱり、片腕がないとバランスが取りにくいな……)

 

 そんなことを思いながら、檜山に向かって歩き出す。流石に近づいてくる俺に檜山が気づき、ゆっくりと俺に視線を向ける。

 

「あ?まだ生きてたのか?まぁ、その身体じゃ動くのもやっとだろぉ?大人しくしてたら楽に死なせてやるぜぇ?」

 

 そう言ってケタケタと嗤う。その檜山の様子にシア達が不快そうに表情を顰める。

 

「寝言は寝てから言えよ、三下が……俺がこの程度で死ぬと本気で思ってんのか?」

「あぁ?」

 

 俺の言葉に、檜山の表情が変わる。額には青筋が浮き、頬がヒクヒクと痙攣している。

 

「右腕もねぇ!魔力も残ってねぇ!身体は傷だらけのてめぇに何が出来るってンだぁ?!アァ!?」

 

 声を荒げ、叫ぶ。檜山の叫びと同時に、無数の触手が俺に迫る。

 

 俺に向かって伸びる触手、俺はそれを黒刀を軽く振るい斬り伏せる。斬り伏せられた触手が粘液を撒き散らしながら地面に転がる。

 

「……うーむ、片腕だと動きづらいな」

 

 刀を握った感じがしっくり来ない。やはり、片腕で戦うのは難しいらしい。俺は刀を握り直し、軽くその場で振るう。腕を振る感覚の違いに、少し戸惑いを覚える。

 

「……うーむ、しょうがないか」

 

 異空間収納から一本の注射器を取りだし、首筋に突き立てる。注射器の中の液体が体内に入り込むと同時に、全身に魔力が駆け巡る。

 

「さぁ、第二ラウンドだ……」

 

 全身の強化細胞を魔力で強制的に活性化させ、喰種化する。全身は黒い外骨格で覆われ、無くなった筈の右腕もメキメキと音を立てて再生していく。

 

『むぅ……喰種化は久しぶりで些か勝手が分からんな……』

 

 俺は首を左右に振り、身体の感覚を確かめる。腰からは触手のようなしっぽが生え、俺の背後でユラユラと揺れている。

 

「な、なんだよ……お前は!」

『私か?私は……化け物さ』

 

 俺は嗤う。嗤いながら、ゆらりゆらりと歩いていく。迫り来る触手を斬り払いながら、歩みを止めない。

 

『南雲、援護は任せろ……あの下衆野郎に一発くれてやれ』

 

 南雲に向かってそう声をかけると、南雲は一瞬目を見開くが、すぐにニヤリと笑う。刀華が全力で檜山の猛攻を防いでくれていたお陰で、余裕はある。

 

「あぁ……任せたぜ、化け物」

 

 ニヤリと笑う南雲に、俺は頷きで返す。檜山は触手を斬り払われ、怒りで血走った目で俺を睨みつけている。

 

「クソがァ……調子に乗ってんじゃねェぞ……このゴミクズがァ!」

 

 檜山はそう叫ぶと同時に、無数の触手を伸ばし始める。触手の先端は槍の穂先のように尖っている。

 

『遅い』

 

 俺は左手に持った黒刀をクルリと回して逆手に構え、放置していた血狂いを拾い上げ、触手を迎え討つ姿勢を取る。

 

「死ねェ!!」

 

 触手が殺到する。俺は黒刀と血狂いを巧みに使い、押し寄せる触手を斬り伏せていく。斬り伏せては斬り伏せ、また斬り伏せては斬り伏せる。

 

『スロー……スロー……クイック……クイック……スロー……』

 

 血狂いを振り、触手を斬り払い、黒刀で受け流し、血狂いで斬る。血狂いを振り上げ、触手を斬り払い、黒刀で受け流す。

 

 俺は淡々と同じ動作を繰り返す。まるで、機械のように、決められた動作を繰り返す。押し寄せる触手は徐々にその数を減らしていく。

 

『無様なステップだなぁ?』

 

 俺は嘲笑うように檜山を見る。檜山もそれに気づいたのか、歯嚙みする。怒りに染まった表情で、触手の数を更に増やして襲いかかる。

 

「ガァァァァァァァァァァ!!」

『……単調な思考だな……全く、つまらん』

 

 俺は黒刀を左手に持ち直し、触手に突っ込む。触手を潜り抜け、すれ違いざまに斬り伏せる。

 

「死ねぇぇぇぇぇぇ!」

 

 檜山は触手を急速で再生させ、四方八方から触手を放つ。触手が地面を抉り、のたうち回りながら迫ってくる。

 

『……些か短調するぎな』

 

 向かってくる触手を切り落とそうと、血狂いと黒刀を振るおうとするが……

 

『……ほぉ?』

 

 背後の地面から触手が出現し、両腕を締め付ける。腕を締め付けられ、動きが一瞬鈍る。その隙を逃すはずもなく、足元からも触手が飛び出し、俺の身体へと絡みつく。

 

 四方八方から触手が俺に絡みつく。ギチギチと音を立てながら、俺の身体を締め上げる。

 

「どうだァ!抵抗できねぇだろぉ?!」

 

 檜山が勝ちを確信したように叫ぶ。ニヤニヤと笑い、俺へのトドメの一撃のために腕を振り上げる。檜山の腕は血で真っ赤に染まり、筋肉が蠢いている。あの一撃を喰らえば無事では済まないだろう。

 

「『風刃』!」

「『嵐焔風塵』!」

「ぶっつぶれよ!ですぅ!」

 

 ユエの魔法が迫り来る触手をバラバラに切り刻み、ティオの魔法により触手は灰となり、シアの重撃により俺を拘束していた触手はペシャンコになった。

 

『すまん、助かった』

「ん、問題なし」

 

 ユエが無表情で首を横に振る。シアとティオがドヤ顔で胸を張っている。檜山は、自身の最大の一撃が邪魔されたことで更に怒りを込めた形相でこちらを睨み付けている。

 

「邪魔すんじゃねェよ……ゴミクズの分際で、俺を……誰だと思ってやがるゥ?!」

 

 檜山の絶叫に呼応するように、触手達がユラユラと動き出す。檜山は発狂したように顔を歪ませ、叫ぶ。

 

「お前も!南雲の味方をする連中も!!俺の邪魔をする者は皆死ねばいい!!!」

 

 檜山の叫びと同時に、大量の触手が生み出され、俺達に襲いかかる。だが、襲いかかってきた触手の大半が俺らに到達する前に細切れになった。

 

「……『断空』」

 

 刀華が自身の刀を納刀しながら、ポツリと呟く。刀華を中心とし、斬撃が半円状に駆け抜ける。斬り飛ばされた触手の破片は地に落ち、グズグズと形を失っていく。

 

「零斗?わかっているんでしょうね?」

『……なんの事かさっぱりですね』

「カルデアに戻ったら説教半日コースね」

 

 刀華がニッコリとイイ笑顔を浮かべる。その笑顔を見ただけで体が震える。俺がガタガタ震えている間にも、檜山は触手を生み出していく。あっという間に、大量の触手で埋め尽くされる。

 

「まだだ……全部ぶっ壊して壊して……全部、ぶち殺す!!」

 

 檜山の絶叫と共に、触手が雪崩のように押し寄せる。大量の触手が波のようにうねり、迫り来る。ユエとティオが魔法を放ち、シアが戦鎚で応戦しようとするが、それよりも速く触手が押し寄せる。

 

『……ふぅー……そろそろ銘柄でも変えるか』

「あら、その銘柄の煙草飽きたの?」

 

 異空間収納から煙草を取り出し、火をつける。檜山の触手が目前まで迫る中、俺は平然と煙草を蒸かす。突然呑気なことをし始めた俺に、ユエ達は訝しげに視線を向ける。檜山は俺が諦めたとでも思ったのか、狂ったように笑っている。

 

『俺が言った事をもう忘れたのか?』

 

 触手が眼前まで迫る。俺は煙草を咥えたまま、左手で自分の背後を指さす。

 

『切り札ってのは一枚とは限らないってな!』

 

 背後にはシュラーゲンを構え、纏雷による電磁加速を行おうとしているハジメがいた。

 

「ッ!?!?!?」

 

 檜山が目を見開き、慌てて止めようと触手を伸ばす。だが、最早遅い。俺は檜山に向かって煙草を投げる。ゆっくりと放物線を描く煙草。ハジメと刀華以外の全ての人間が落下していく煙草に視線を向ける。

 

『……Jackpot!』

 

 轟音。紅の閃光が檜山に向かっていく。弾丸が俺の真隣を通過する瞬間に、俺は魔術で弾丸を『起源弾』に酷似した物にして飛ばす。

 

 檜山は咄嗟に触手を重ね合わせ、防壁を作る。が、放たれた弾丸は触手を易々と貫き、そのまま檜山の頭に着弾する。

 

「あっ……ぎ、が……」

 

 着弾と同時に檜山は動かなくなる。ドサリと地面に倒れる檜山の身体は、あちこちが黒く炭化している。

 

『いぇーい、零斗さん大勝利〜』

 

 両手でピースしながら、俺はユエ達に向けて言う。刀華とティオは呆れたようにため息を吐き、シアとユエ、白崎、八重樫は信じられないものを見たかのように呆然としていた。

 

「……何してんだよ、お前は……」

 

 南雲が気疲れしたサラリーマンの様な表情でこちらを見ていた。その声色は疲れ切っており、若干の呆れが含まれていた。

 

 




ブルートゥのセリフが頭から離れなくてコーラルキメないと眠れんねぇんだ()




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目標達成

えぇ、はい。お久しぶりです。更新が遅れてしまって本当に申し訳ありません。私生活で色々と荒れていたもので執筆する気力が無くなってしまっていました。本当に申し訳ございません。


 Side 零斗

 

「……何してんだよ、お前は……」

 

 檜山を地獄にクーリングオフする事に成功し、喜んでいた俺に呆れ顔の南雲が話し掛けてきた。

 

『……勝鬨?』

「なんで疑問形なんだよ……」

 

 俺が振り返りながらそう言うと、南雲は溜息を吐いた。そして、檜山の残骸に目を向ける……

 

「今度こそ死んだよな?」

『恐らくな……死亡確認くらいはするか』

 

 俺はそう言って檜山の死体に近ずき、目の前でしゃがみこんで死体の首元に手を当てる。

 

(心臓の鼓動も魔力の循環が行われてる様子は無い……)

 

 それを確認した俺は立ち上がり、檜山の頭部に銃弾を撃ち込む。銃弾を受けた檜山の頭部は原型を留めないほど吹き飛び、首の断面から血を吹き出させた。

 

「零斗、やり過ぎよ」

『ん?そうか?この位やらなきゃ駄目じゃないか?中途半端になって復活されたら面倒だろ?』

 

 刀華が隣にやって来たので、そう返す。魔神柱擬きを殺った時の様に復活されても困るし、頭を潰しておけば復活する事も無いだろう。

 

「まあ、一理あるわね……」

 

 少し考えた刀華は、諦めた様に溜息を吐いた。

 

「と言うか、元の姿に戻らないの?」

『そうだな、戦闘も終わったし……つと、やっぱり久しぶりの喰種化は堪えるねぇ……」

 

 そう言いながら、俺はぐーっと背を伸ばす。そして、人の姿に戻る。戻ると、斬り落とした筈の右腕が生えていた、それと同時に全身に酷い疲労感が一気に押し寄せてくる、やっぱり喰種化の長時間維持は控えた方が良さそうだな……

 

「さて……あとは聖杯の回収だけだな」

 

 俺はそう言って立ち上がり、再び檜山の死体の目の前に移動する。そして、死体の心臓のある辺りに手を当てる。

 

「んー、この辺りか?」

 

 俺はそう言いながら、自身の右手をズブズブと檜山の体内に沈めて行く。右手の指先が心臓に触れた事を確認した俺は、右手に魔力を纏わせながら心臓の周囲を捜索する。

 

(やっぱ、この妙な感触は慣れないな……)

 

 俺はそう思いながらも、檜山の体内に潜らせていた右手に何か硬いものに触れた感じを覚える。俺はそれを掴み取る。

 

「聖杯、発見」

 

 右手を引き抜くと、俺の右手の中には黄金に輝く杯……『聖杯』があった。聖杯を抜き取られた檜山の身体はボロボロと崩れていき、やがて灰になって消滅した。

 

「これで目標は達成出来たわね」

「あぁ……そうだな」

 

 俺はそう刀華とやり取りを交わし、南雲達の方に視線を向ける。

 

「あ、あはは……なんだか凄い光景だね……」

「何と言うか……『地獄絵図』だな」

 

 白崎と南雲が若干引きつった表情で聖杯を回収する俺を見つめている。俺は聖杯を異空間収納にしまいつつ南雲達に近ずいていく。

 

「いや〜、助かったぜ南雲。お前達のお陰でかなり楽に聖杯の回収が出来たぜ」

 

 俺はそう言って南雲の肩をバシバシと叩きながら笑みを浮かべる。南雲は笑みを浮かべているが若干頬が引きつっている。

 

「あの……右腕大丈夫……なんですか?」

 

 白崎が恐る恐る俺の右腕を指差して尋ねてくる。他の皆も気になるのか、俺の方に視線を向けている。

 

「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。それにさっき言ったろ?ほっときゃ生えてくるってよ」

「い、言ってましたけど……」

 

 俺の言葉を聞いても、白崎は納得いかなそうな表情を浮かべている。まあ、普通の人間からすれば、普通じゃ無いからな。

 

「まぁ、そんなに気負い過ぎるなよ……大した事じゃねぇからさ」

 

 俺はそう言って、右腕を軽く振るって正常に動く事を証明してみせる。それを見た白崎は、ホッと胸をなで下ろしていた。

 

「とりあえずはここを離れようぜ……そろそろ騒ぎを聞きつけた連中が来ちまう」

 

 俺がそう言うと、南雲達は周りを見渡して頷く。この惨状の後のに警察や軍隊が来たら面倒だからな、さっさと離れるのが一番だ。

 

 ────────────────────

 

 全員で南雲宅に移動し、やって来た魔王課の服部に現場の対応を丸投げしてから南雲達と向き合う。

 

「さて……何から聞きたい?」

 

 俺は向かい合う南雲達に尋ねる。最初に声を上げたのは白崎だった。

 

「あの……貴方は……人間じゃ無いの?」

 

 白崎は恐る恐るといった様子で俺に尋ねる。それに対して南雲が訝しげな視線を向けている。

 

「人間だ。ある一点を除けば……な」

 

 白崎の言葉に、俺はニヤリと笑みを浮かべながら答える。それに対し、白崎達は戸惑っている。

 

「そ、その『ある一点』ってどういう事なんです?」

 

 白崎の隣から、シアが不思議そうな表情を浮かべてそう尋ねてくる。俺は頰を掻きながら答える。

 

「なんと言うか……身体の外側だけが人間と変わりないだけで、内側は全く別物……って感じだ」

 

 その俺の言葉に、シアだけでなく南雲達……いや、部屋にいる全員が理解できないと言った様子で首を傾げる。

 

「檜山を殺した時に見せた姿あるだろ?あれが関係してるんだよ」

 

 南雲達は俺の言葉に頷く。それを見てから、俺は言葉を続ける。

 

「俺……まぁ、隣にいる刀華もそうなんだが……俺達の身体はかなり特殊でな、身体を構成する細胞が変異し、独自の進化を遂げている」

 

 俺はそう説明しながら、右腕だけを喰種化させる。右腕全体は黒い外骨格に覆われ、指先は鋭く尖っている。

 

「俺のはこんな感じだが……刀華」

「はいはい……」

 

 隣の刀華も同じ様に右腕だけを喰種化させる。刀華の右腕は透き通るような白色の外骨格に覆われ、指先から腕全体に掛けて青いラインの様な模様が出ている。

 

「どうよ、俺達の右腕は?」

「綺麗……ですね……」

 

 俺が尋ねるのに対し、シアが興味深げに呟く。そんなシアの様子を見て、刀華はクスリと笑みをこぼしながら白崎達に視線を戻す。

 

「私達が今見せているのは喰種化……さっき言った変異、進化した細胞を活性化させて、体外に放出、それを全身に纏う……そうすると、今みたいな感じで姿が変わるのよ」

 

 刀華はそう言いつつ、喰種化を解いて右腕を元に戻す。南雲達も納得したように頷いている。それに対して俺は言葉を続ける。

 

「実は他にもまだ特徴があってな……」

「まだ何かあるのか?」

 

 南雲が疑いの視線を向けてくる、それに対し俺は苦笑して答える。

 

「一人一人で強化細胞の性質が全く別物になっててな……刀華が割と分かりやすくてな、自分の周囲5mの原子の操作だ」

 

 俺はそこで言葉を切る、そして刀華に視線を向ける。俺の視線を受けた刀華は右手の掌を南雲の方に向ける。向けられた掌からは何の前触れも無く小さな火が現れる。

 

「こんな感じよ……なかなか面白いでしょ?」

 

 刀華はそう言うと掌から炎を消して俺に視線を向けてくる。そして次にシアの方を向く。刀華と南雲の視線がシアのウサミミに向かう。その視線を受けたシアが困惑した表情を浮かべている。

 

「……えいっ」

 

 南雲達が困惑する中、刀華がそう言いながら指パッチンをする。すると、シアのウサミミが爆発するみたいに毛が逆立った。

 

「きゅ、急になんですか!?」

 

 シアは涙目になりながら、自分のウサミミを押さえる。指の隙間から覗いているが、確かに毛が逆立っているのが見える。

 

「……悪戯が過ぎるぞ、刀華」

「ごめんごめん、反応が可愛くて」

 

 俺がジト目を向けると、刀華は舌を出して軽く謝罪する。まあ、シアの様子からして本気で怒っている様子はなさそうだった。

 

「まぁ、こんな感じだ。他にも自分の意識を電脳空間に移すことが出来る奴とか触れた対象の体組織を腐食させる奴とか……バリエーション豊かだろ?」

 

 俺の言葉を聞いて、南雲を除いたメンバー達は引きつった表情を浮かべていた。

 

「それで?お前の能力は何なんだ?」

 

 南雲が若干呆れた様な表情で俺に尋ねてくる。その問いに対し、俺は笑みを浮かべながら答える。

 

「俺の能力は『自己改造』と『分解と変換』だ」

 

 俺の言葉に、白崎達の頭にはハテナマークが浮かんでいる。南雲は考える様な表情を浮かべている。

 

「……簡単に言えば、自分の身体を好きな様に弄って、より強い身体に出来るって事だ。例えば宇宙空間でも呼吸が出来る様になったりとかな」

 

 それを聞いた白崎達は驚愕の表情を浮かべる。どうやら俺の話は理解出来たみたいだな。

 

「もう一つの能力は……触れたものを『分解』して、別の物質もしくは物体に『変換』する……さっき見たみたいに血肉から抜き身の刃に変えたりできる」

 

 俺の説明を聞き終えた白崎達は微妙な表情を浮かべている。まあ、化け物二人が目の前にいるんだし……仕方ないと言えば仕方ない。

 

「詳しく説明するとクソ長くなるし、理解困難なレベルになるから、『便利な身体になれる』、『めっちゃ便利な錬成』くらいの認識で良い」

 

 俺は苦笑いをしながら、白崎達に言う。南雲は何処か納得していないようだったが、適当に流しておく。

 

「んで?聞きたい事は終わりか?」

 

 俺は少し軽い口調で尋ねる。南雲の背後で天之河が手を挙げて口を開く。

 

「えっと……そっちの……俺ってどんな感じ……ですか?」

「ん?クズ」

 

 俺の即答に、天之河はグサッと効果音が出そうな程ダメージを受けていた。まあ、事実だし……それを見て、南雲や白崎達も苦笑いを浮かべている。

 

「独り善がりな正義を振りかざして、四歳児みたいに癇癪を起こしては周りに迷惑かけて、それを『正しい事』つって正当化しようとする様なカスだ」

 

 俺の説明を聞いて、天之河は更にダメージを受けてグロッキー状態だ。

 

「……私の知ってる天之河とは違って真人間なのね……」

 

 隣で見ていた刀華が口を開く。その様子は、信じられないものを見るような目をしている。まあ、俺らの知ってる天之河とは全くの別人レベルのまともな人間性してるしな……

 

「……一ついいか?」

 

 俺が項垂れている天之河を見ながらケラケラと笑っていると南雲が真剣な面持ちで言葉を投げ掛けてきた。

 

「……なんで、檜山のやつは蘇ったんだ?それになんでお前がこっちの世界に?」

 

 南雲はそう言うと俺を見つめてきた。白崎達も俺に視線を向ける。その視線には敵意と疑念が混ざっている。

 

「そうだな……トータスでお前が殺した連中の恨み、嫉妬、憤怒なんかが溜まりに溜まった結果、死霊になった。その中でも特に恨みの強かった檜山が矢面に立たんだろな」

 

 俺の言葉に白崎達が息を吞んだ。それを横目に見ながら俺は話を続ける。

 

「俺がこっちに来たのは……多分だが、檜山に呼ばれたんだろうな。推測でしか無いが、あいつはお前を殺せるだけの力か存在を欲した……そして、何処からか入手した聖杯の力で俺が呼び出された……こんな感じなんじゃないか?」

 

 俺の推測を、南雲は黙って聞いている。俺の話に周りのメンバーも納得した様な表情を浮かべている。俺は一呼吸置いてから言葉を続ける。

 

「まぁ、全部推測でしかないから正しいのかは分からんがな」

 

 俺はそう言いながら、懐から煙草を取り出し、口に咥える。火をつけようとライターを手に取るが、南雲の背後にいるユエやシア、園部……複数名がすこし嫌そうな顔をしたので煙草をしまう。

 

「……吸わないのか?」

「煙草が嫌いな奴の前では吸わない様にしてるんでね」

 

 南雲が意外そうな表情を浮かべながら尋ねて来たのでそう返す。それを聞いて南雲は呆れたように肩をすくめる。

 

「さてと、随分と長居しちまったな」

 

 ちらりと右腕を見ると、薄っすらと消え始めており、感覚が徐々に無くなっていく。

 

「えぇ!?な?!えぇ??」

 

 白崎達が慌てながら、俺の腕や俺の顔に視線を彷徨わせる。俺はそんな彼女達を見ながら小さく笑いながら口を開く。

 

「そんな驚く事じゃねぇよ、ただ元の世界に帰る時間が来たってだけだ」

 

 俺はそう言って、自分の右腕に視線を向ける。その瞬間、俺の上半身が半透明になり始める。隣にいる刀華の身体も半透明になり始めている。

 

「短い間だったが、楽しかったぜ」

 

 俺はそう言うと、刀華と一緒に南雲達に軽く手を振る。それと同時に、俺と刀華の体は霊子に変換され、意識が遠くなっていく。

 

 

 ────────────────────

 

 

「……ん…………戻ってきたのか」

 

 いつも通りのレムレムトリップが終わり、意識が戻るとマイルームのベッドの上だった。枕元には聖杯と右腕で製作した黒刀が転がっている。

 

「とりあえずはダ・ヴィンチちゃんに報告だな……」

 

 俺はベッドから起き上がり、聖杯を持って工房へと向かう。

 

「ダ・ヴィンチちゃん、いるか?」

 

 俺はノックをしてから工房の扉をゆっくりと開ける。部屋の中に入ると、コーヒーメーカーでコーヒーを淹れているダ・ヴィンチちゃんが目に入る。

 

「やぁ、お帰りマスター君……無事に聖杯を回収したみたいだね」

 

 俺が工房に入って来ると、ダ・ヴィンチちゃんはコーヒーが注がれたカップを手渡してくれた。

 

「あぁ、何とかな……」

 

 コーヒーを一口飲む。甘過ぎず苦過ぎず、程よい味のコーヒーが身体に染み渡る。聖杯をデスクの上に置いていた俺は、ダ・ヴィンチちゃんに今回の出来事を簡単に説明する。

 

「──ーと、まぁこんな感じだ。後でレポートにして纏めておく」

 

 俺はそれだけ言い、カップに残ったコーヒーを一気に飲み干して、ダ・ヴィンチちゃんにコーヒーのお礼を言ってから工房を後にする。

 

「やる事は……ラピスの尋問とレポートの作成、後は……創った刀の精錬もしなかきゃ……」

 

 やる事の多さに苦笑いしながら、俺はマイルームへと歩いて行く。




一応、これで幕間は最後になります。


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五章
砂漠に到着早々トラブル発生


「よっと、ヽ(。・ω・。)ドウモハジメです」
「八重樫 雫です」
「エトです」

「前回は八重樫さんがなんで僕達の僕達の旅に同行しようと決めたのかが分かったね」
「あぅ……」
「えぇっと……どうしたの?八重樫さん?」
「自分が愛している相手に自分の気持ちが知られてしまったらどう思います?」
「……八重樫さん、元気出して」

「今回は砂漠での出来事です……楽しんでください」


「「砂漠に到着早々トラブル発生!」」


 Side ハジメ

 

 眼前に広がる赤銅色の世界。遠くの方には蜃気楼がゆらゆらと揺れ、その先には地平線がある。空を見上げれば太陽が燦々と輝き、肌を焼くような熱気が襲いかかる。

 

 道無き道を魔導四輪で駆けて行く。ちなみに運転しているのは僕では無くエトさんだ。

 

「……外、すごいですね……普通の馬車とかじゃなくて本当に良かったです」

「文明の利器に感謝ですね」

「全くじゃ。この環境でどうこうなるわけではないが……流石に、積極的に進みたい場所ではないのぉ」

 

 窓にビシバシ当たる砂と赤銅色の外世界を眺めながらシアさんとアルテナさん、ティオさんがしみじみした様子でそんなことを呟いた。

 

「甘ーい!冷たーい!」

「あぁ、口元がベタベタにしちゃって……ほら、拭いてあげるからこっち向いて?」

「んむぅ~♪」

 

 シアさん達の横では八重樫さんがミュウちゃんと戯れている。砂漠という過酷な環境下でも何とも楽しそうだ。

 

「……私の方がハジメの事を知ってる」

「私の方が知ってるもん!」

 

 そして僕の両隣ではユエと香織が言い合いをしている。

 

「両手に花ってやつだね?ハーちゃん?」

 

 前の座席に座っているミレディが揶揄う様に言ってくる。

 

「ねぇ、ミレディ……ここに指定した座席を車外に射出できるボタンがあってね?」

「おおう!?ごめんなさい!謝ります!私が悪かったです!!」

 

 ミレディは本気で焦ったのか即座に謝罪の言葉を口にする。

 

「……私とハジメは婚約してる、指輪だって貰った」

「ユエサァン!?」

 

 ユエの突然の暴露に思わず声を上げる。

 

「……将来設計もご両親への紹介も約束されてる」

「ユエサァン!?」

「ど、どうゆう事かな?ハジメ君?」

 

 今度は香織がハイライトの消えた瞳で僕の顔を覗き込んでくる。

 

「……嘘はいけませんよ、ユエさん」

 

 運転席に居るエトさんが静かにそう言った。ハンドルを指でカツカツと叩きながらバックミラー越しにこちらを見ている。

 

「……う~、ユエお姉ちゃんも香織お姉ちゃんもケンカばっかり!なかよしじゃないお姉ちゃん達なんてきらい!」

 

 ミュウちゃんがそう言って頬を膨らませ始めた。途端に、オロオロしだすユエと香織。流石に、四歳の女の子から面と向かって嫌いと言われるのは堪えるみたい……

 

「大丈夫だよ、ミュウちゃん。二人の喧嘩はいつものことだから。本当は仲良しなのよ?」

「そうなの?」

 

 八重樫さんは膝の上で首を傾げるミュウちゃんの頭を撫でながら二人に向かって言う。八重樫さんの背後に腕が六本、顔が三つある鬼神が見える気がするのはきっと疲れているからだ……うん、きっとそうだ。

 

「ねぇ?二人共?」

「……うん」

「そ、そうですよ!私達は仲良しさんです!」

 

 二人が必死になって肯定すると、ミュウちゃんは納得してくれたようでニパッっと笑った。二人はホッとした表情を浮かべて胸を撫で下ろしていた。

 

「……エトさん、三時の方向に魔物集団が……」

「えぇ、見えています」

 

 右手にある大きな砂丘の向こう側に、いわゆるサンドワームと呼ばれるミミズ型の魔物が相当数集まっている。砂丘の頂上から無数の頭が見えている。

 

 サンドワームは平均二十メートル、大きい個体だと百メートルにもなる大型の魔物だ。

 

「なんで、あそこでぐるぐると回っているんでしょう?」

 

 サンドワームたちは一定の範囲を回っては、その中央に三重構造の口を向けている。まるで何かを迷っているように見えた。

 

「獲物を食べるか、食べないのか迷っているようじゃのう?」 

「そんな事ありえるんですか?」

「いや、奴等は悪食じゃからの、獲物を前にして躊躇うということはないはずじゃが……」

 

 ティオさんはへんta……変わり者だけど、ユエ以上の年月を生きて、ユエの様に幽閉されていた訳でもないから、知識は結構深い。なので、魔物に関する情報などでは頼りになる。そんな彼女が覚えが無いというなら、本当にイレギュラーの様だった。

 

「ッ!全員捕まって!」

 

 突如としてエトさんが叫ぶと同時に魔導四輪が急加速する。そして数秒の差で、車体が浮く感覚を覚えた。

 

「エトさん!次のヤツが直ぐに来ます!」

「了解です!」

 

 エトさんは右に左にとハンドルをきり、砂地を高速で駆け抜けていく。そのSの字を描くように走る四輪の真下より、二体目、三体目とサンドワームが飛び出してきた。

 

「どぅわ!?」

「わわわっ!」

「ひぅ!?」

 

 後部座席にいる皆はそれぞれ悲鳴を上げながら、シートベルトをしがみついて耐え忍ぶ。

 

「ちょ!?二人共離れて!お願いだから!」

「危ないから!危険が危ないから! しがみついてるの!」

「……やだ、離れない」

 

 香織と何故か大人化したユエが僕にしがみつき、身体全体でホールドしてくる。香織は僕の腹部に、ユエは首元に顔を埋める格好で抱きついて来ている。

 

「ふ、二人とも!色々と当たってるから!一旦離れて!」

 

 そんな僕達のやり取りなど関係無しに、次々とサンドワームが飛び出てくる。

 

「エトさん!シフトレバーの下にあるボタン押して!」

「これですか?」

 

 エトさんは言われた通りボタンを押す。すると、四輪のボンネットの一部がスライドして開き、中から四発のロケット弾がセットされたアームがせり出してきた。

 

「中々……いい趣味をしてますね!ハジメくん!」

 

 エトさんは四輪をドリフトさせて車体の向きを変え、バック走行する。その間にロケットランチャーから発射された弾頭が、大口を開いたサンドワームの口内に着弾した。

 

 耳を貫くような轟音と共に、盛大に爆発し内部からサンドワームを盛大に破壊した。サンドワームの真っ赤な血肉がシャワーのように降り注ぎ、バックで走る四輪のフロントガラスにもベチャベチャとへばりついた。

 

「……八重樫さん、ミュウが見ないように……」

「もう、してるわ。イッ……ミュウちゃん、苦しかった?ごめんね?」

 

 僕は香織とユエを引き剥がしながら八重樫さんに声をかけると、既にミュウちゃんの目にはハンカチを当てられていて、目を塞がれていた。

 

「……ハジメくん、私は少し外に出ます」

「え?」

「先程、サンドワーム達が右往左往していた地点に人らしき気配があるので、それを回収してきます」

 

 エトさんはそれだけ言うと、運転席から飛び出して行った。

 

「エトさん、大丈夫なのかな?」

 

 香織の質問に答えたのはミレディだった。

 

「まぁ、心配はいらないんじゃない?エトっちの実力はかなりのものだし」

 

 ケラケラと笑いながら、車内に設置したある冷蔵庫からアイスを取り出してペロリと舐めながら答える。

 

「……あの人、レイトと格闘戦でいい勝負してた」

「え?そうなの?」

 

 ユエの言葉に香織が驚く。ユエはコクりと無言でうなずく。

 

「……そう言えば、エトさんって何歳なんでしょう?」

 

 アルテナさんがポツリと呟いた言葉に、車内が静まり返る。確かにエトさんの正確な年齢を知らない……見た目は二十代前半に見えるけど……

 

「……レイトと同い年で……ミレディやオスカーと知り合いなら……」

「えっと……少なくとも千三百二十歳くらいかしら?」

 

 ユエの回答に、八重樫さんが計算して出した数字を言うと、全員が一斉に黙り込む。

 

「……もしかしたらもっと上かも」

「そ、そうですね……あはは……」

 

 ユエが付け足す様に言った一言に、乾いた笑みを浮かべながら同意を示すアルテナさん。

 

「……この話題には触れないでことにしよう」

「……そうね、それが良いと思う」

「賛成……」

「そう……ですね……」

 

 女性陣の同意により、これ以上エトさんについての詮索はしないことに決定した。

 

「ただいま戻りました……っと」

 

 しばらくしてエトさんが戻って来たが、かなり衰弱した様子の青年を背負っていた。白い衣服に身を包んでいて、顔に巻きつけられるくらい大きなフードの付いた外套を羽織っていた。

 

「……お帰りなさい、エトさん。その人は?」

「サンドワーム達が狙っていた獲物だったのでしょうね」

 

 その人が被っているフードを取ると、まだ若い二十歳半ばくらいの男だった。

 

「呼吸が荒い……大量の発汗に浮き出た全身の血管……それに相当な高熱……」

 

 エトさんは、背中に背負ったまま診察しているようだ。

 

「……毒もしくはウイルスによる魔力の暴走が原因の様ですね」

 

 軽い診察を終えたエトさんは自分のステータスプレート持って、彼に診察用の魔法を行使した。

 

 =========================

 

 状態:魔力の過剰活性 体外への排出不可

 

 症状:発熱 意識混濁 全身の疼痛 毛細血管の破裂とそれに伴う出血

 

 原因:体内の水分に異常あり 

 

 =========================

 

「かなり重症ですね……」

 

 エトさんは診断結果を見ながら眉間にシワを寄せている。

 

「今すぐ解毒出来ないんですか?」

「身体が弱り過ぎていて、解毒しようにも彼の身体が耐えられないでしょうね。先ずは過剰に活性化している魔力をどうにかしないといけません」

 

 僕の問いにエトさんは難しい表情で首を横に振る。そして、香織の方に向き直り指示を出す。

 

「香織さん、彼にドレイン系の魔法を使ってください」

「わかりました」

 

 香織はすぐに詠唱を開始する。

 

「光の恩寵を以て宣言する ここは聖域にして我が領域 全ての魔は我が意に降れ 〝廻聖〟」

 

 蛍火の様な淡い光とともに、男の体から魔力が抜けていく。男の顔色はみるみると良くなっていき、苦悶に満ちた表情は安らぎへと変わっていく。

 

「これで一先ずは大丈夫な筈だよ。でも何かの拍子にまた暴走しちゃうかも……」

「その時は私が対処しますよ」

 

 香織の言葉に、エトさんは笑顔で返す。その後、直ぐにエトさんが全員に診察用の魔法を行使したが、皆異常なしという診断が下された。しばらくすると、男は意識を取り戻した。

 

「……こ、ここ……は?」

「大丈夫ですか?」

 

 香織が声をかける。男は虚ろな瞳をゆっくりと動かしながら、僕達を見渡す。そして目の前にいた香織の顔を見て……

 

「女神?そうか、ここはあの世か……」

 

 などと寝ぼけた事を口走り、香織に向けて手を伸ばしていた。何故か無性にイラッときたからデコピンをした。パチンッといい音がなり、同時に男の悲鳴が上がる。

 

「おふっ!?」

「ハジメくん!?」

 

 額を抑えながら身を起こす男を、驚いた表情の香織が見つめる。他の面々も同様に驚いている。

 

「起きたようなら良かったです。じゃあ、速く事情を話して貰えます?」

 

 僕は有無を言わさない雰囲気を出しつつ問いかける。男はビクつきながらも、話し始めた。

 

 それを聞きつつ、僕はまた面倒ごとかと内心ため息をついたのだった。

 

 




『Fate/Grail League』もう一回やりたいなぁ……


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トラブルに次ぐトラブル

「よっと、ヽ(。・ω・。)ドウモハジメです」
「エトです」
「アルテナ・ハイピストです」

「前回はアンカジ公国に向かう途中の砂漠で男の人を拾ったね」
「それとハジメ君が珍しく嫉妬?していましたね」
「あれは嫉妬と言うのでしょうか……」

「こ、今回は男の人からの事情説明だよ。楽しんでいってね」


「「「トラブルに次ぐトラブル!」」」


 Side ハジメ

 

 サンドワームに食べられ掛けていた男の人は意識を取り戻したが、マトモに立てる状態では無かった。砂漠の気温や日照りのせいでかなりの発汗をしていて、脱水症状を引き起こしていた。なので車内で水を飲ませていた。

 

「まず、助けてくれた事に礼を言う。本当にありがとう。あのまま死んでいたらと思うと……アンカジまで終わってしまうところだった。私の名は、ビィズ・フォウワード・ゼンゲン。アンカジ公国の領主ランズィ・フォウワード・ゼンゲン公の息子だ」

 

 そう自己紹介して来た男の人──ビィズさんはどうやら領主の息子らしい。ちなみにアンカジ公国はエリセンから運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶための要所で、その海産物の産出量は北大陸の八割を占めているらしい。

 

「……それで、貴方々は一体?」

「あ、ごめんなさい。僕は南雲ハジメと申します」

「……ユエ」

 

 各々が簡単に自己紹介する。その間もしきりに香織の方をチラチラと見ている。だが、香織が神の使徒であると知った瞬間、表情に驚愕に染まる。そして……

 

「これは神の采配か!我等のために女神を遣わして下さったのか!」

「ひぅ!」

 

 突然大声で叫び出したビィズさんにミュウがビクッとする。香織もいきなりだったので驚いているようだ。

 

「えぇっと……ビィズさん?」

「……すまない。取り乱した」

 

 僕の声に正気を取り戻して謝罪するビィズさんだったが、その後の言葉には興奮の色が滲み出ていた。

 

「とりあえずは事情を話して貰えますか?」

「あぁ、もちろんだ……」

 

 それからビィズさんはゆっくりと話し始めた。

 

 大まかにまとめると、こうだ。四日前、突如原因不明の高熱を出し倒れる者が続出。すぐさま原因究明に動くものの、その間にも感染者は増え続けていく一方……

 

「……何も手を打つことが出来ずに倒れる者だけが増えて行く……症状の進行を遅らせる魔法も使ってはいたが、それも唯の悪足掻きにしかならない。そして遂には死者すらも出始めた……」

 

 悲痛な面持ちで語るビィズさんの瞳からは涙が零れ落ちている。自分の無力さに歯噛みしているのだ。

 

「……原因は判明しているんですか?」

「あぁ、普段から飲み水に活用していたオアシスの水から魔力を暴走させる毒素が発見された……」

 

 オアシスの水が汚染されていたという事なら確かに問題だろう。アンカジ公国は砂漠の真ん中辺りに位置していて、オアシスは重要な生命線と言える。

 

「治す手段はあるんですか?」

「あるにはあるが……グリューエン大火山から採取できる貴重な鉱石である『静因石』が必要なのだ……『静因石』を粉末状にしたもの服用すれば、体内で暴れ狂う魔力を沈めることが出来る……」

「グリューエン大火山からアンカジ公国までは往復で一ヶ月……毒素の進行具合からして死亡までは約二日……」

 

 エトさんが呟くように現状を説明する。それはつまり、もう時間が無いということだ。

 

「ああ……両親も妹も病に倒れ、民たちが苦しんでいる……」

 

 悔しげに顔を歪めながらビィズさんが言う。どうやらこの人は家族想いの良い人のようだ。

 

「君たちに、いや貴殿達にアンカジ公国領主代理として依頼したい……どうか、私に力を貸して欲しい……!」

 

 そう言って深々と頭を下げるビィズさん。しかし、それを断る理由など無い。

 

「分かりました。協力しますよ」

「ほ、本当か!?感謝する!!」

 

 僕達が快く引き受けた事に感動した様子のビィズさんは何度もお礼を繰り返し言った。

 

「依頼内容は貴方をアンカジ公国まで無事に帰還させること、グリューエン大火山で静因石を確保すること、そして使用できる水の確保……この三つで構いませんね?」

 

 エトさんが確認を取ると、ビィズさんは大きく首肯した。

 

「先ずは、大火山から静因石を採取して来て貰いたいのだが、水の確保の為に王都にも向かわなければならない……」

「いえ、王都に向かう必要はありません。水を確保する目処はありますから」

 

 エトさんの言葉に目を丸くするビィズさん。

 

「そ、そうなのか?一体どうやって……」

「まぁ任せて下さい」

 

 自信たっぷりの僕の言葉に、ビィズさんは首を傾げるのだった。

 

「じゃあ、ビィズさん。左肩の付近にある帯の様な物を引っ張って、右腰の辺りの窪みにカチッと音が鳴るまで押し込んでください」

「こ、こうかね?」

 

 言われた通りに作業を行うビィズさん。ワタワタと慣れない手付きだ。

 

「エトさん、運転変わります」

「了解しました」

 

 運転席に移動して、ハンドルを握る。シートベルトを着用し、エンジンをかける。

 

「では、出発します」

 

 ギアを入れて、アクセルを踏むと車体が動き出す。窓の外に見える光景が凄まじい勢いで流れて行くことに、流石のビィズさんも動揺を隠しきれない様だ。

 

 ────────────────────

 

 あれから二時間ほど走っていると前方に町が見えてきた。フューレンを超える外壁に囲まれた乳白色の都……外壁も建築物も軒並みミルク色で、外界の赤銅色とのコントラストが美しい。

 

「綺麗……」

 

 香織が思わずといった感じで感嘆の声を上げる。それに同意するように、助手席のミュウも興奮気味にはしゃいでいる。

 

「綺麗だけど、人気は無いね……」

「……うん。まるでゴーストタウン」

 

 香織とユエの言う通り、アンカジの町には活気が無かった。皆家の中に閉じ籠っているのだろうか、人っ子一人見当たらないのだ。

 

「……すまない、できれば活気溢れる我が国をお見せしたかった。この事態が解決したら、是非案内をさせてくれ」

「えぇ、楽しみにしておきます」

 

 申し訳なさそうなビィズさんに微笑んで返す。

 

「あぁ、期待していてくれ……時間があまりない……早速で申し訳ないが父上の元へ行こう、あの宮殿だ」

 

 ビィズさんが指を指す方角に従って歩いて行く。

 

 ────────────────────

 

「父上!」

「ビィズ! お前、どうしっ……いや、待て、それは何だ!?」

 

 ビィズさんの顔パスで宮殿内を進み、そのまま領主のランズィさんの執務室へと通された。ランズィさんはビィズさんの姿を見ると目を剥いて立ち上がり、駆け寄ろうとしたが、ビィズさんの有り様に気がついて立ち止まった。

 

 無理もない、今現在、ビィズさんは宙に浮いているのだから。正確に言えばクロスビットにうつ伏せの状態で乗っかっていて、その状態で運ばれているのだ。

 

「詳しい事は私が話しておきます。ハジメ君とアルテナさんはオアシスの調査、香織さんとシアさんは医療院と収容されている患者の元へ向かってください。雫さん、ティオさん、ミレディ、オスカーさんは水の確保をお願いします」

 

 エトさんの指示に全員が首肯で答える。そして僕達はそれぞれの任務を遂行する為に別れた。

 

 ────────────────────────

 

「……凄い」

 

 眼前に広がるオアシスはキラキラと輝く水面を湛えており、その美しさに見惚れてしまう。

 

「……ハジメさん?」

「……あぁごめん。ちょっと見惚れてた」

 

 隣にいるアルテナに謝りつつ、視線をオアシスに戻す。

 

「……何か居るね……」

 

 魔力感知に反応がある……それもオアシスの水源の中だ。

 

「取り敢えず、引き摺り出してみようか」

 

 宝物庫から試作段階の魚雷を取り出してオアシスに向かって放る。そして直ぐに耳を塞ぐ。

 

 次の瞬間、破裂音が響き、オアシスからは巨大な水柱が吹き上がった。

 

「意外とすばっしっこいね……」

 

 流石に一個だけじゃ無理だったようだ。仕方ないので次々とオアシスに放っていく。

 

「ハジメさん!これ以上はもう辞めませんか!?」

 

 水面にはオアシスで悠々と泳いでいたであろう淡水魚達の肉片が浮き、近くにあった桟橋も吹き飛んでしまったが気にしてはいけない……

 

「ハジメさん!本当にこれ以上はダメです!あれ程美しかったオアシスの景色が地獄絵図になってしまっていますから!一度止まってください!」

「……アルテナさん、こういうのはね、容赦なく殺らなきゃダメなんだよ」

 

 僕の肩を掴んで揺さぶるアルテナに、僕は笑顔で答えた。結局、十発以上の魚雷を打ち込んだけど、オアシスを汚染している元凶の排除は出来なかった。

 

「……もう五十個くらい放り込んでも「いい加減にしなさい!」……はい、ごめんなさい」

 

 本気で怒るアルテナに素直に謝罪する。そして、そのまま正座をさせられて説教が始まり掛けた瞬間……

 

 風を切り裂く勢いで無数の水が触手となって襲いかかってきた。咄嵯にドンナーとシュラークで水の触手を撃ち抜いていく。

 

「やっと姿を現したね……」

 

 水面が突如盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になった。

 

「大き過ぎない?」

「バチュラム……とは少し違う様には見えますけど……」

 

 バチュラムとはこの世界のスライム型の魔物で、体長が大きても1メートルほどのものだ。だけど目の前にいる魔物は体長は約十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っている。

 

「っと……危ない」

 

 僕らが会話していると怒り心頭といった感じで、触手を鞭の様に打ち付てきた。それを全て撃ち落とす。

 

「弱点は……あの魔石なんだろうけど……」

 

 試しにと発砲した弾丸は、あっさりと命中した……が、魔石はまるで意思を持っているかのように縦横無尽に体内を動き回り、中々狙いをつけさせない。

 

「ハジメさん、私に任せてもらえませんか?」

 

 僕がどうしようかと手をこまねいていると、アルテナからそんな提案があった。僕はそれに首肯すると、僕と入れ替わりに前に出てきた。

 

 アルテナは右手の小指に付けていた指輪を抜き取り、両手でぎゅと握って魔力を込め始めた。

 

「ぅぶっ……」

 

 突然、アルテナの身体から暴風が巻きおこった。思わず顔を腕で庇う。数秒後、ゆっくりと顔を上げると、そこには身の丈以上の大弓と、それに番えられた一本の大矢。

 

「……アルテミス」

 

 アルテナがそう呟いたと同時に、彼女は矢を放った。空気の壁を突き破るような轟音と共に、音速を超えた一撃が、魔石ごと魔物を消し飛ばした。

 

 大弓が消えたのを確認してから、恐る恐る声をかけると、アルテナは拳を強く握るとぷるぷると震え始めた。

 

「あ、アルテナ……さん?」

「こ、こんなに……」

 

 俯いていたアルテナの口からポツリと言葉が漏れ出る。

 

「……こんなに威力があるなんて聞いてないです!」

 

 アルテナの叫びがオアシスに木霊する。

 




アルテナさんはアイリスアウトが似合うと思うんだ()


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いざ!大火山の攻略へ!

「よっと、ヽ(。・ω・。)ドウモハジメです」
「八重樫 雫です」
「ん、ユエ」

「前回は僕とアルテナの二人でオアシスの調査をしたね」
「……アルテナの弓、凄い威力だった」
「私達の居た所まで風圧が届いていたのよね……かなりびっくりしたわ」

「さて、今回はグリューエン大火山の攻略に取り掛かるよ」
「楽しんで……」

「「「いざ!大火山攻略へ!」」」


 Side ハジメ

 

「うぅ……頭がクラクラします……」

「大丈夫?アルテナさん」

 

 頭を抑えてフラフラとし始めたアルテナに声を掛けた。あの大弓を使った影響なのか魔力が枯渇していて、今は意識を保っているのもやっとみたいだ。

 

「もうちょっとで治療院に着くから、もう少しだけ耐えられる?」

「はい……」

 

 アルテナをおんぶしながらゆっくりと歩いて移動をする。

 

「それにしても、凄い威力だねアレ」

「はい……自分でも驚きました……」

 

 バチュラムもどきを消し飛ばした大弓に、俄然興味が湧いた。アルテナ自身も、あそこまでの威力が出るとは思っていなかったみたいだった。

 

「レイトさんが、私専用に開発してくれた武器なんですが……まだ、試験段階らしくて制御がかなり難しくて、その上魔力消費も多くて、使える場面が限られているんです」

 

 アルテナはそこまで話すと僕の背中に顔をうずめて、寝息をたて始めた。本当に消耗が酷かったんだろうな。

 

「お休みアルテナ。そして、ありがとう」

 

 アルテナが起こさないように、揺らさないよう細心の注意を払いつつ、僕は治療院へ向かって歩いて行く。

 

「シアさん!こっちの患者さん達は治療が終わったから、別の病室に移して!」

「了解ですぅ!」

 

 治療院の中に入ると、香織とシアが患者の治療を行なっていた。そして、僕は香織と患者達の治療の邪魔にならないように、奥の病室へアルテナを寝かせる。

 

「ふぅ……とりあえず、エトさんから任せられた仕事は終わったから……」

 

 僕は小さく呟いて、アルテナさんを寝かせたベッドに寄りかかって座り込んだ。アルテナは魔力が枯渇して寝ているだけだから、命に別状はなさそうだけど心配なのは変わりない。

 

「こら、こんな所で休んでいたらダメですよ」

「わっ!?」

 

 僕がボ〜っとしていると、いきなり後ろから声を掛けられた。慌てて振り返ると、そこにはエトさんが腰に手を当てて立っていた。

 

「オアシスの調査は完了したようですね……何があったのかを聞いても?」

 

 ベッドに座って眠り続けるアルテナを見て、エトさんは僕に聞いてきた。僕はオアシスでの出来事を出来るだけ詳細に説明した。

 

「なるほど……だから、彼女はここまで消耗していたのですね」

 

 話を聞き終えたエトさんは、納得したように頷いた。アルテナが魔力の枯渇で倒れた事に対して特に驚いていないような感じがする。

 

「……動けるメンバーだけでグリューエン大火山に向かいましょう。静因石も大量に必要になりますから、少しでも行動は早い方がいいでしょう」

 

 アルテナに優しい視線を向けたエトさんは、すぐに仕事モードに切り替えてそう言った。

 

「わかりました、直ぐに準備します」

 

 僕はアルテナの頭を撫でて病室を出る。病室を出て直ぐに、香織とシアに状況の説明をする。

 

「……大火山には、私達だけで向かいます。香織さんはこのまま治療院に残って、患者の治療を続けてください」

 

 大火山に行くメンバーは、僕、ユエ、シア、ティオ、エトさん、八重樫さんの計六人だ。オスカーさんとミレディはミュウの面倒を見なきゃいけないから、同行できない。

 

「わかった……気をつけてね」

「うん、気をつけて行ってくるよ」

「……ねぇ、ハジメ君」

 

 出発しようとする僕に、香織が声を掛けてくる。振り返ると、そこには不安そうな顔をする香織がいた。

 

「……無事に帰って来てくれるよね?」

 

 消え入りそうな声で聞いてきた香織。それはまるで、迷子の子供のような不安そうな表情だった。

 

「もちろんだよ。絶対に戻ってくるから」

 

 僕は香織を安心させるように笑顔で頷いた。そして、もう一度行ってきますと言って治療院を出て、大火山に向かって出発した。

 

 

 ●○●

 

 

 Side 三人称

 

『グリューエン大火山』

 

 それは、アンカジ公国より北方に進んだ先、約百キロメートルの位置に存在している。そこは並の人間では耐えられない程の高気温と地面や宙を流れるマグマ、そしてその中に潜んだ魔物が襲い来る迷宮。

 

「……暑いですぅ」

「……暑い」

 

 シアとユエが熱気に顔を歪めながら、そう言った。ここは冒険者でさえ滅多に近寄らないと言われている。『オルクス大迷宮』の様に魔石回収によるうまみも少なく、そもそも辿り着けるが少ない。

 

「確かに暑いね……」

 

 ハジメが襟元をパタパタさせながら、同意する。シアがそんなハジメを見て呟いた。

 

「なんで、私より厚着なのに平気でいられるんです?」

 

 ハジメは暑いとは言っているが、服装はいつも通りだ。しかしシア達と違って、ハジメは額に軽く汗を滲ませる程度だ。

 

「まぁ、これは慣れの問題かな?」

「慣れ、ですか……」

 

 シアが納得いったようないってないような微妙な表情を浮かべていると、八重樫が口を開いた。

 

「私と南雲君は……というより、零斗達の訓練を受けたメンバー全員がどんな状況でも耐えられるように改z……鍛えてもらったの」

 

 懐かしむように八重樫が言ってると、ハジメは苦笑した。そして、両者ともどこか遠くを見るような目をしていた。

 

「なんだか、凄く非道な訓練の気配がしますね」

「まぁ、否定はしないわ。でも効果はあったわよ。暑さ対策の訓練の時なんて……あぁ、思い出すだけでも……」

 

 八重樫とハジメの遠い目はより一層遠くへと向かっていく。シアとユエは『もうこの話題には触れないでおこう』と決めた。

 

「……お喋りは済みましたか?そろそろ攻略に掛かりますよ」

 

 エトがそう言って、ハジメ達を見る。先頭をシアと八重樫が歩き、その後ろをハジメとユエ、ティオが続いて歩く。そして最後尾はエトだ。

 

「……マグマが宙に流れてる」

「うわぁ……怖いですぅ」

 

 マグマが宙を流れている。フェアベルゲンのように空中に水路を作って水を流しているのではなく、マグマが宙に浮いて、そのまま川のような流れを作っている。当然、広間や通路の至る所からマグマが流れているため、360度どこを見てもマグマだらけだ。更には……

 

「ヒゥ……」

「おっと、大丈夫?」

「はう、有難うございます、ハジメさん。いきなりマグマが噴き出してくるなんて……察知できませんでした」

 

 シアが言うように、壁のいたるところから唐突にマグマが噴き出してくるのである。突然な上に予兆も無いため察知が難しく、まさに天然のブービートラップとなっている。

 

「これは……確かに厳しそうだね」

 

 ハジメは、噴き出すマグマの熱を感じ取り目を細める。そして、しばらく進んだ所で大きく開けた空間が出現した。

 

「南雲君、あれって……

 

 八重樫が壁の方を指差しながらハジメに声を掛ける。壁には人為的に削られたと思わしき痕跡が残っていた。ツルハシか何かで砕きでもしたのかボロボロと削れているのだが、その壁の一部から薄い桃色の小さな鉱石が覗いている。

 

「静因石……だよね?あれ」

「うむ、間違いないぞ、ご主人様よ

 

 ハジメの確認するよな言葉に、ティオが頷く。ハジメは壁に埋まっている静因石を抜き取り、じっくりと観察する。

 

「……小さい」

 

 ユエがポツリと呟く。静因石は小指の先程度の大きさしかない。やはり表層部では、静因石の回収効率は悪く、一度に大量に確保するには深部まで行く必要がある。

 

「一応、簡単に採取出来そうなのは取って行こうか」

「お、いい判断だな」

 

 ハジメの背後で見知らぬ男の声が響いた。ハジメは直ぐさまその場を飛び退き、ホルスターからドンナーを引き抜いた。シアやユエ達も同じく、ハジメの背後へと移動し戦闘態勢を取る。

 

 後ろを取られた事に、不甲斐なさを感じるがそれ以上に敵への警戒が脳裏を占める。

 

「おいおい、そんなに殺気立つなよ」

 

 ハジメが向けるドンナーの銃口をどこ吹く風と受け流しながら、ハジメ達の方へ近づいてくる男。

 

「あなたっ!何者なの!!」

 

 ハジメの背後にいた八重樫は男に向かって、そう叫ぶ。男は突然八重樫に怒鳴られたことに、一瞬だけ驚いた表情を浮かべた。しかし、直ぐに人の悪そうな笑みを浮かべ口を開く。

 

「俺はレギオン……お前達の敵だ」

 

 男は自分をレギオンと名乗った。ハジメの脳内にアラートが鳴り響く。直感的に分かった、この男は今まで戦ってきたどんな敵よりも強いと。目の前の男は零斗と同等かそれ以上の実力を持つ化け物だ。

 

「ふんっ!」

「痛ェ!」

 

 エトが目にも止まらぬ速さで、レギオンと名乗った男の頭をぶん殴る。レギオンは頭を押さえて、蹲った。

 

「貴方という人は……面倒事を起こさないでください!」

 

 エトは、自分の横で頭を押さえるレギオンに怒鳴りつける。どうやら、二人は知り合いらしい。レギオンは涙目でエトを見る。

 

「良いじゃねぇかよ!久しぶりの来客でテンション爆アゲ⤴︎⤴︎なんだから、この位は良いだろう!?」

「良くありません!」

「良いじゃねぇか、減るもんじゃねぇだろ!」

 

 レギオンとエトがぎゃーぎゃーと言い合いを始める。その光景にハジメ達は呆然と眺めることしか出来なかった。

 

「エトさんの知り合いってことは……」

「レイトさんの強化細胞から分裂した人の内の一人……」

 

 ハジメはシアとそんな話をする。エトはレギオンを説得することを諦めたのか、ハジメに視線を向けた。ハジメは内心で冷や汗を流しながらも、小さく頷く。レギオンはハジメ達の所まで歩いてきて、嬉しそうに話す。

 

「初めましてだな!俺はレギオンだ、よろしくな!」

「は、初めまして?僕は──「南雲 ハジメ……だろ?」え!?な、なんで名前を!?」

 

 ハジメは名乗っていない筈の自分の名前を呼ばれたことに動揺する。レギオンはハジメの反応に気を良くしたのか、腹を抱えて笑い出す。

 

「アッハハ!良い反応だな!俺はお前達がトータスに来てからの事は大方知っているんだよ」

「それは……どういう意味なの?」

 

 八重樫が訝しげに聞く。レギオンは、八重樫の質問に対してニヤリと笑う。その笑い方は零斗の笑い方にどこか似ていて、不気味だった。

 

「俺やエト、ヴェノム達……大迷宮にいる奴らは互いに記憶の共有が出来てな、それのお陰でお前達の事を知っているのさ」

 

 レギオンは愉しげに笑いながら、ハジメの問いに答えた。

 

「と、長話も良いがそろそろ此処の攻略を再開と行こうか。最下層までは俺が案内してやるよ」

「……良いんですか?」

「あぁ、もちのろんだ……それに……」

 

 レギオンはそこで言葉を区切り、もう一度ハジメ達の方を見る。そして、ニヤリと笑う。その笑みを見て、ハジメ達はゾワリと悪寒を感じた。

 

「やって貰いたいこともあるしな」

 

 

 




投稿が遅れて申し訳ない……AC6とストファイをひたすらやり込んでました。ユルシテ……ユルシテ……


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