心を閉ざしたウィザード (疾風海軍陸戦隊)
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はじまり

оp「英雄」

ED「ブックマーク・ア・ヘッド」


・・・寒い。

それが俺の最初に感じたことだった。

耳元で轟音が鳴っている。トラックの音か?・・・それよりももっとでっかい音だな。

何故か俺は目を閉じている。

開けなくちゃいけないな。このまま通ったら車に轢かれちまうよな。

そう思って俺は目を開けた。

・・・俺の目に入ってきたのは、青い色だった。

少し経って、白い色がちらほらと見えるようになって、強い風を感じて、自分は空にいるのか、と気付いた。

・・・ちょっとまて。空?馬鹿な。俺はさっきまで学校に行こうとしていて・・・・・・別に仲のいい友達がいるわけじゃないし、楽しくないけど行かなくちゃいけないから行こうとしていて、交差点にいたはずだ。それがなんで、急に景色が空になるんだ?ありえないだろ。

一体どうなってるんだ?・・・つーか、俺、理由はわからないけど、落ちてるのか?

・・・ヤバイ。俺、死ぬんじゃないのか?

・・・そう思った。別にこの世に未練なんかない。俺は生まれてすぐに親に捨てられどこを行っても厄介者扱いだった。

立ったら今死んでも誰も困らないな。いやむしろ死んだ方が俺にとっては幸せなのかもしれないな・・・・

だが、いつまでたっても死は訪れない。 ・・・飛び降り自殺をすると落ちる途中で意識を失うって聞いたことがある。

でも不思議とそんなことないな。

落ちるのは思ったより怖くない。・・・どうしてだろう。

そんなことを考えていた俺の目に次に入ったのは、黒い点だった。

この青と白の世界に、初めて他の色が見え始めたことに、俺は何故か安心した。

その黒いのの中に、物凄く薄くだけど赤い光が見えた。

なんだあれ?そう思った瞬間、その黒と赤が白く光り、そして粉々になった。

なんだなんだ?ますますわけがわかんねえぞ?・・・それらを通りすぎたとき、その黒の中の赤が見えた。目みたいだった。

その次に、少し暖かくなり、棒状のものが俺の腹に巻かれているのを感じた。

背中に柔らかい感触もする。 ・・・背中のものはなんだかわからなかったが、腹に巻かれているのは人間の腕だということを、数秒して理解した。

 

「ふぅ・・・・」

 

急に誰かのため息というか安堵する声が聞こえた。俺は声のした方を見ると

 

「大丈夫?」

 

と、赤毛の女性が俺の顔を見てそう言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間前、1944年ガリアにて

 

1939年それはなんも前触れもなく我々人類の前に現れた。人類はそれを『ネウロイ』と名付けた。ネウロイはどこからそして何の目的で現れたのか不明であったが彼らの攻撃で生まれ育った町や国を追われたのは事実であった。それに対抗すべく人類は対ネウロイ用新兵器を開発した。魔法力を持った少女、ウィッチのみが装着でき飛行を可能にするストライカーユニットである。これを操りネウロイと戦うべく、世界各国からウィッチが集結した。そしてそのネウロイと戦うべく集められた精鋭部隊の名は第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』であった。

 

「小型のネウロイばっかりで良かった・・・」

 

「そうだね、芳佳ちゃん」

 

「あなた達、気を抜かないでください!余裕をかましていると、やられますわよ!」

 

セーラ服を着た少女におさげの子がそう言うと眼鏡をかけた子がそう注意する

 

「ペリーヌの言う通りとはいえ、流石に気が抜ける相手だな」

 

「全くだね。数だけ揃えたってどうにもなんないってのに」

 

ツインおさげの少女がそう言うと短い金髪の少女がそう答える

 

「最近こんなんばっかだよねー・・・」

 

「文句言うなよルッキーニ。そんなこと言ってると、次は超大型が来ちまうかもしれないぞ」

 

胸の大きい少女が褐色肌の小さい子にそう言う

 

「・・・残り、20体」

 

「もうちょっとダナ」

 

と、そう銀髪の少女と亜麻色の髪をした少し片言の言葉を言う少女がそう言う。すると・・・・

 

「・・・あら?」

 

「・・・ミーナ、どうした?」

 

眼帯をした女性が赤毛の女性にそう言うと

 

「・・・皆さん、気をつけて。上空から何かが降ってきます」

 

「何?」

 

「急に何言い出すんだ!?」

 

「ネウロイの援軍か!」

 

「いえ・・・人のようです」

 

「ウィッチ?」

 

「・・・いえ・・・!?ストライカーも何もつけていない、ただの人です!」

 

「はぁ!?」

 

「な、何が起こってるんですか!?」

 

「わかりません!・・・私が確認してきます!あなた達は一旦攻撃を中断しなさい!」

 

『了解』

 

そう言い赤毛の女性・・・ミーナはその地点へと向かうと黒い服を着た少年が落ちているのが見えた。彼女は全速力で彼のもとに行き落ちる彼をキャッチした

 

 

 

 

 

 

「大丈夫?」

 

彼女にそう言われ、俺は少し驚いた。 なんだこの女?・・・目の色から判断すると外人か?いや待て、頭に動物みたいな耳が生えてる?

いや、そんなこと考える前に、俺は質問されたみたいだ。答えなくちゃいけないな。

 

「・・・大丈夫、じゃない」

 

そう答えた。本当だ。全然大丈夫じゃない。心臓がバクバクいってる。

 

「・・・命に別状はないみたいね・・・」

 

と、その女は安心した顔をした。すると彼女の耳につけているイヤホンから声が聞こえた

 

「ミーナ!どうだ!?」

 

「落ちてきた人物を確保しました。・・・攻撃を再開しなさい!」

 

『了解!』

 

この女の言葉のすぐ後、上から銃を乱射しているような音が聞こえてきた。銃で攻撃してるのか。

物騒だな、テレビかゲームの中でしか聞いたことないぞ。・・・え?

 

「・・・おい、あんた」

 

質問しなければ。そうでなくちゃ何もわからない

 

「何かしら?」

 

「あんた・・・いや、あんたら何やってんだ?」

 

「ネウロイと戦っているのよ」

 

「・・・ネウ・・・?」

 

「・・・ネウロイを知らないの?」

 

「あんたは知ってんのかよ?」

 

「ええ。・・・我々人類の敵よ」

 

「はぁ?」

 

何言ってんだあんた。俺がそう言おうとしたとき、妙な音が聞こえてきた。今まで生きてきた中で聞いたことがない音だ。

 

キュイィィィィィィィン・・・

 

なんだこの音。車が急ブレーキをかけた音にちょっと似ているけど、それともまた違う異質な音だ。

 

「!?」

 

その音を聞いた途端、この女が顔を強張らせて、俺を抱えたまま動いた。俺らがいた場所に赤い線が通っていった。

見たらさっきの黒と赤がこっちを見ていた。・・・なんだあいつら。

 ・・・あれ。ちょっと待て。俺を抱えたまま動いた?この、女が?俺は、恐る恐る足元を見た。

 

・・・ちょっと下に海が見えた。海は迫ってこない。俺の身体が落ちるのをやめているのは確信できた。

衝撃だったのは、この女が、機械のような筒を履いていたことと、この女が空を飛んでいることと、

・・・この女が、パンツ丸出しだということだ。

それを見た瞬間、俺は目を逸らした。顔が少し熱くなるのを感じた。

だから、俺はこの女に『なんでそんな細い腕で俺を持ったままあちこち動けるんだ?』と聞くのを忘れてしまった。

 

 

 

しばらくして銃の音が途切れた。その代わりに声が聞こえてきた。

 

「ネウロイの反応、消滅しました」

 

「了解しました。みんなお疲れ様」

 

またネウロイって単語が出た。一体それ何なんだよ。

そう思った瞬間、この女と同じような格好をした女が10人上から降りてきた。同じく動物みたいな耳が生えている。

一体何なんだ。こいつら、パンツ丸出しで恥ずかしくないのか(スクール水着っぽいのも居るけど)。

スカートくらい履けよ。・・・邪魔になるのか?

 

「ミーナ、そいつは何だ?」

 

「人に決まってんだろ」

 

ツインおさげをする女が怪しむような目で俺に言う。俺は混乱している頭で、咄嗟に俺はそう言った。

 

「ま、ネウロイには見えないね」

 

と、隣にいる短い金髪の女がそう言う。だからネウロイって何なんだよ。そう言おうとした瞬間、他の女が口を開いたので、俺は声を飲み込んだ。

 

「ほー・・・なかなかいい男じゃん」

 

「うんうん」

 

・・・そりゃどうも。いや待て、そんなこと言ってる場合じゃないんだ。

 

「えーっと・・・あ、私は、宮藤芳佳っていいます。あなたのお名前は?」

 

・・・自己紹介かよ、面倒臭いな。これに関してはいい思い出がない。なので簡単に返す。

 

「溝呂木・・・・・溝呂木眞也だ」

 

「・・・溝呂木さん、ですか。あ、私はリネットって言います」

 

「私は、ペリーヌ・クロステルマンと申します」

 

あ、そう・・・別にどうでもいいけどな

 

「何故、君は空から落ちてきたんだ?」

 

「知るかよ」

 

眼帯をした女に俺は正直に言う。本当に知ったことではないのだ。

 

「なっ・・・少佐に向かってなんて口の利き方を」

 

「まあ、待てペリーヌ。そういえば自己紹介がまだだったな・・・溝呂木よ、私は坂本美緒という。質問したいことがあるんだが・・・」

 

・・・いや待て。このままではまずい。奴らの質問に答えっぱなしじゃ、俺の疑問にいつまでたっても答えてもらえないじゃないか。

だから、俺は叫ぶように声をあげた。

 

「ちょっと待て!」

 

「!?」ビクッ

 

「お、おいお前!サーニャを怖がらせるんじゃネーヨ!」

 

「知ったことじゃねえよそんなこと!あんたらの疑問になら後でいくらでも答えてやる!でもその前に誰か俺の質問に答えてくれ!」

 

教えてもらいたいことが山ほどある。それに答えてもらわないと、おかしくなりそうだ。

 

「ここは何処だ!?あんたらは誰だ!?なんであんたらは飛んでるんだ!?ネウロイって何だ!?なんで、俺はここにいるんだよぉ!!??」

 

俺はがらにでもないほどの大声でそう言うのであった。だがその答えは当時の俺にとって最悪であったことはまだ知らなかった

 



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ここは?

この作品では一期の4話と5話の間あたりになります


・・・俺は、ミーナとか言う女に抱えられたまま空飛ぶ10人に自己紹介され、

こいつらの基地だというところに連れてこられた。

俺を支えてくれたミーナに感謝しつつ、俺は信じられないことを耳にした。

 

 ・・・ここはブリタニアという国にある自分たちの基地で、

自分達は『ウィッチ』として空を飛び、人類に牙をむくネウロイという不思議な生命体と戦っている、というのだ。

(・・・なんで俺はここにいるんだ、という質問には答えてもらえなかった。当たり前か。答えようがないしな)

 

「・・・・・・」

 

俺は今の状況を呆然と見ていると

 

「どうした?」

 

「それほど驚くことでもないだろう」

 

「驚くに決まってんだろ!」

 

坂本とバルクホルンの言葉に俺は大声を出した

 

「信じられるわけないだろ!ウィッチって、ようするに魔女だろ!?魔法使ったりするあれだろ!?そんなもの今も昔もいるわけない!ネウロイなんて、そんな生き物聞いたこともない!ブリタニアって国も聞いた事ないぞ!」

 

「・・・」

 

「んなこと言われてもなぁ・・・」

 

俺の言葉に皆困惑した顔をしているが、本当に困惑しているのは俺の方だぞ?

 

「・・・溝呂木さん」

 

「なんだよ・・・」

 

「あなたは、この世界のことについての基本的なことすら知らないということになります。・・・妙です」

 

「あんたらみたいな魔女ってもののほうが妙だろ」

 

「貴様!口の利き方には気をつけろ!」

 

「・・・」

 

ミーナの問いに俺がそっけなく答えるとバルクホルンが食って掛かる。だが、ミーナは落ち着いた様子で俺に質問をした。まるで警察による事情聴取みたいだな

 

「それで溝呂木さん・・・あなたの生まれた国と、生年月日と年齢を教えていただけますか?」

 

「・・・生まれは日本、生年月日は2006年6月19日。歳は16だ」

 

「え?」

 

「・・・何年って、言いましたか?」

 

「2006年だ」

 

「・・・えーっと・・・なんと言えばよろしいのやら」

 

皆がさらに困惑した表情になる言葉に困るほど妙なことか?

 

「・・・おい、溝呂木。・・・ニホンだな?・・・本当にそんな名前か?」

 

「ああ。そうだよ」

 

「・・・どこだ?」

 

この胸の大きいシャーロットという女は世界地図を広げているようだが・・・日本を知らないのか?

俺は、地図の日本列島のところに指をさした。

 

「ここだ」

 

「え?そこ扶桑だよ?」

 

「は?」

 

俺はルッキーニとかいうちびっ子の言葉に耳を疑った。シャーロットから地図を引ったくり、そこを見た。

そして俺は、次は目を疑った。 ・・・フソウ?日本じゃなく、扶桑?

 

「あのね溝呂木さん、非常に言いにくいことなんだけれど・・・」

 

そして、俺は、またもや耳を疑うことになった。

 

「今は、1945年なの」

 

「・・・・・・・・は?」

 

理解が追いつかない。1945年?2021年じゃなくて1945年?

 

「・・・なんだよそれ」

 

今は2021年のはずだ。

 

「なんだよ、とは言われても、これは本当のことだ」

 

バルクホルンって言ったか。・・・ズバッと言ってくれるのはありがたいけど、

この状況じゃ更に絶望するしかなくなっちまうよ。

 

「・・・おかしいだろ、こんなの」

 

「・・・そんなこと言われても」

 

「困るよナァ」

 

サーニャとエイラだったか?何言ってんだ。困ってるのはこっちだよ。お前らより、ずっとな。

 

「ねえ。君の言ってたことは、本当?」

 

「・・・お前らの言ってることのほうが本当かどうか疑わしいぞ」

 

「ふーむ・・・」

 

確かこいつはハルトマンとかいったか。何だよ。ジーと見て

 

「嘘ついてるようにはみえないよ、ミーナ」

 

嘘をつくも何も、嘘つく必要なんかないからな。正直に言って

 

「つまり、何か・・・君は・・・」

 

「・・・本当に、未来の世界から来たの?」

 

「・・・俺がいた所は魔法なんてなかったけどな」

 

「へ・・・へー・・・」

 

「信じられません・・・」

 

「全くですわ・・・」

 

この三人は、宮藤とリネットとペリーヌだったっけ。

 

「俺だって信じられない。俺は学校に行こうとしてただけなんだ。

 ・・・それが、なんでこんなことになってんだよ」

 

「・・・君のいたところでは、扶桑のことを日本と言うのか」

 

「・・・ここでは日本のことを扶桑っていうんだな・・・そこだけは理解したよ・・・はぁ」

 

それ以外のことは理解できない。

魔法使いが人間以外の奇妙な生命体と戦っている過去の世界にいきなり飛ばされて・・・・・・クソッ、誰がこんなこと頼んだんだよ。俺は頼んだ覚えはないぞ。ああ・・・いや、頼んだかもしれない。中学生くらいの頃、何もかもつまらなくなって、どこぞのラノベみたいな『剣と魔法の世界に行きたいなぁ』なんて思ったことがちょっとだけある。・・・かも。だからって本当にこんなことになるとは・・・

俺は頭を抱えた。・・・これからどうすればいいんだよ?

 

「ミーナ、彼をどうするつもりだ?」

 

「そうね・・・溝呂木さん、ちょっと話をしてもいいかしら?」

 

「なんだよ・・・?俺を元居た世界に戻してくれるってのか?」

 

「いいえ、そうではないのだけれど・・・」

 

「だったら断る」

 

「なっ!?」

 

「即答だな・・・」

 

「・・・」

 

俺が断るとバルクホルンが驚き、坂本は若干呆れている。ハルトマンはじっと見て何も言わない

 

「・・・どうしてかしら?」

 

「俺は元居た世界に戻りたいんだ。こんな妙ちきりんな世界になんて居たくない。だからそれ以外のことなんて聞きたくもないし、あんたらとも一切関わりたくない」

 

「・・・貴様は、これからどうするつもりなんだ」

 

「あんたらが俺を戻すことができないなら、あんたらとはオサラバして俺は一人で戻る方法を見つける」

 

「当てはあるんですの?」

 

「家族も友達も、一緒にこの世界に飛ばされてきた奴もいないんだ。あるわけねえだろ」

 

「・・・あー、この世界に連れてこられたきっかけとかは?」

 

「交差点で信号が青になるのを待ってたら異世界に飛ばされるなんて納得いかねえよ」

 

「・・・そりゃ、なんつーか、理不尽だな」

 

「つまり手がかりゼロでしょ?・・・詰んでるようなもんじゃん」

 

「・・・でも、探すしかないんだよ。俺一人でさ。あんたらの世話になるつもりはない」

 

そう、俺はいつも一人で生きてきた。ガキの頃から誰にも助けを借りずにやってきた。親に捨てられても養護施設にいた時も俺はいつも自分で何とかしてきた。他人の力を頼りにするつもりもないししたくもない。

一人でやればだれにも迷惑をかけることなんてないからな。それに聞けばここは軍の施設で彼女たちも軍人だと聞いた。非戦闘員でありただの学生の俺じゃ足手まといもいいところだ。

だから俺はさっさとここからオサラバしたかった。

 

「・・・一人で・・・ねぇ。そんなことはないかもしれないわよ」

 

え?どういうことだ?

 

「・・・あなたを抱えたとき、あなたのなかに魔法力を感じました。どういうことかわかりますか?」

 

「わかるわけないだろ?一体何なんだよ」

 

「あなたも、ウィッチになれるかもしれないってことよ」

 

は? どういうことだ?俺はミーナという女の言葉が理解できなかった・・・・



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魔法と少年

「あなたも、ウィッチになれるかもしれないってことよ」

 

ミーナとかいう女に俺は少し唖然とした。

 

「え!?」

 

「・・・溝呂木さんがですか?」

 

「男性なのに?」

 

そのことに宮藤、リーネ、ペリーヌだったか?三人がそう言うとミーナは頷き

 

「ありえない話ではないはずよ。女性しか魔法力を持っていないなんてことはないわ」

 

「中佐・・・ストライカーを履かせてみるのか?」

 

「ええ」

 

シャーリーの言葉にミーナは頷く。なんだよストライカーユニットって?

 

「なんだそりゃ」

 

「あたし達がさっき履いてたやつだよー!」

 

ルッキーニの言葉に俺はさっきのことを思い出す。ああ、あれか。すとらいかーっていうのか。

 

「・・・」

 

「あなただけで元の世界へ戻る方法を探すとは言うけれど・・・

行く当ても帰る場所もないなら、私達と一緒に戦いながら探すほうが、良いと思わない?全力でやるほどの余裕はないけど、できる限りは協力するわよ」

 

「・・・遠慮する」

 

「え!?」

 

「ん?・・・何故だ」

 

俺が断るとミーナは驚き、坂本といったか?そいつが不思議そうに首をかしげる

 

「・・・あんたらと一緒なら、確かに見つかる可能性は少しは高くなるだろうな。でも、俺なんかのためにあんたらに迷惑はかけられない。それに、あんたらと一緒に『探す』ってだけでも迷惑をかけるみたいで嫌なのに、まして『戦う』なんて無理だ。俺は銃なんて持ったこともないし、ましてや生き物に向けるなんてできない。ただの学生なんだ。俺に出来ることなんて、あんたらに比べたら無に等しい。戦うことなんてできない。あんたらの足手まといになるだけだろ」

 

「確かにな」

 

「トゥルーデ!」

 

俺の言葉にバルクホルンが即答する。本当に率直というかはっきり言われるのは正直言って助かる。これでさっさと立ち去れるのだから

 

「・・・あの」

 

「お、おいサーニャ?」

 

「ん?」

 

と、先ほどの銀髪の子・・・サーニャだったか?俺に話しかけた

 

「なんだよ」

 

「・・・使うのは、銃だけじゃなくて、剣でもいいんですよ?」

 

・・・剣?そういえば。

 

「・・・昔、剣道をやっていたけど」

 

「おお!」

 

俺がそう言うと坂本がなぜか嬉しそうな顔していた。。

剣を使うって言っても、竹刀じゃ無理だろ?それに本物の刀って重いんだろ?てか真剣であんなバケモンとか戦うなんて無理だ。どこぞの黒の剣士や伝説の人斬りみたいに強いわけじゃない。何より

 

「途中でやめたんだ」

 

「ん?何故だ?」

 

「・・・挫折した。どうしても、壁を乗り越えられなかった」

 

・・・部の中では上手いほうだ、と顧問は言われ、中学では全国大会優勝もした。だが俺は剣道における何かをどうしても掴むことができず、やめたんだ。

 

「・・・ならば、今からもう一度やって、壁を越えればいい」

 

「・・・そういうもんか?」

 

「そういうものだ。それに、訓練さえすれば、お前も戦える」

 

「そんな簡単に言い切れるのかよ?」

 

「ああ。言い切れる」

 

なんでだよ。と俺が思っていると、坂本はふっと笑い

 

「何故かって思っていたな?」

 

「人の心を読まないでくれないか」

 

「・・・ごほん。お前は、そもそも何か勘違いしているようだな。

今ここでネウロイと戦っている私達も、初めから今のように戦えていたわけではない。訓練と実践を重ねてここまでやってきたのだ。・・・何も今すぐ飛んでネウロイと戦えと言うのではない。そこは安心しろ。訓練せねば、どんなに素質があっても結局のところどうにもならんからな。

それにお前一人で帰る方法を探すといっても、正直言って見つかるとは思えない。おまえ自身もそう思っているだろう?」

 

・・・だから心を読まないでくれるか。エスパーかこの人

 

「だったら、・・・飛ぶことを試してみる価値はあると思わないか?」

 

「・・・あのさ、俺が飛べるって前提で長々と話してんじゃねえよ。失望したって知らないぞ」

 

「では溝呂木さん。来ていただけますね?」

 

「ああ。やってみるよ。試してみなきゃ始まらないしな」

 

出来もしないで辞めるのは流石に逃げるようで俺はいやだった。

 

 

 

 

格納庫みたいなところに一台の殺気ミーナたちの履いていたものが俺の前に置かれていた

 

「・・・これを、履くのか」

 

「ええ」

 

「・・・」

 

言われるままに、俺は目の前の機械を脚に装着した。

 

「(・・・これで、飛ぶ、のか)」

 

そう思った瞬間、足元に光が現れ、プロペラのようなものが回り出した。それと同時に俺の頭から何か飛び出てきた。近くにあった鏡みたいなのを除くとそれは犬耳だった

女性が犬耳着けているのは良しとして男の俺が犬耳って…誰得なんだよ 俺の複雑な心情なんてお構い無しに、周りの女共は騒いでいる。

 

「おお!凄い!」

 

「おっきい魔法陣・・・」

 

「まさか・・・」

 

「凄いぞ俺!史上初、男性ウィッチ誕生の瞬間だ!」

 

「おお~!!」

 

「魔法力は問題ないのか・・・」

 

「結構強力みたいだよトゥルーデ」

 

「・・・凄い」

 

「ま、マア最低限の条件はクリアしたみたいダナ」

 

「うむ」

 

「溝呂木さん、ありがとうございました。・・・飛行状態を解除してください」

 

「え?」

 

いきなりそんなこと言われても。どうやって止めればいいんだよ。

 

「どうやったら止まるんだよ。これ?」

 

「飛ぶのを止めるって思えば止まるわ」

 

ざっくりで適当だな、おい。まあいいや。俺はミーナに言われたお降りにすると止まった

 

「・・・こんなんでいいのか?」

 

「『こんなん』?なに言ってんの、上出来じゃん!」

 

マジか。これだけでそんなに褒められることなのかよ。オーバーだな・・・

 

「・・・さて溝呂木さん。あなた、どうするの?」

 

「・・・」

 

「たった一人きりで寝食をし何時来るかもわからないネウロイの脅威から逃げながら、当てもなく元の世界へ戻る方法を見つけるのか、それとも私達と一緒に生活しネウロイの脅威に立ち向かいながら、私達と一緒に元の世界へ戻る方法を見つけるのか」

 

こういうのをなんというのだろうか。『八方ふさがり』?違うな。この場合一方だけ開いてるからな。

 

「・・・俺がいちゃ迷惑だろ?飛び方も戦い方も知らねえ学生相手に」

 

「心配するな。お前が来る前からここは騒動が多いからな」

 

「一人くらい増えたからってそんなに変わんないんだ」

 

「むしろ、話した感じだと口は悪いけどしっかりしてるみたいだし、迷惑だなんて思わないよ」

 

「・・・そうか」

 

人生今までかけられたこともない優しい言葉に俺は思わず口元が緩んだ

 

「おお!笑った!」

 

「君はそうして笑ってるほうがいいよ。せっかくのいい男なんだからさ」

 

「余計なお世話だ」

 

ハルトマンの言葉に俺はジト目でそう言う。俺は笑うのはどちらかというと嫌いな方だからだ

 

「中佐、ホントにこんな奴を501に入れるのか?」

 

「エイラ・・・失礼よ」

 

「大丈夫・・・だと思うわ。登場の仕方こそ変だったけど、内面自体は問題あるようではないみたいだし。(口は悪いけど)上層部に言っても追い出したりはしないでしょう。史上初の男性ウィッチなんだもの、データを採りたいっていうに決まってるわ。私たちにとっては・・・後々の戦力の増強になると思うし、上層部は得するし、溝呂木さんも損をしない。誰も損をしないのよ」

 

・・・ま、一人で野垂れ死ぬよりはマシか。サバイバルの方法なんて知らないし、

 

「溝呂木さん。・・・良いわね?」

 

「・・・仕方なくだけど、世話になることにするさ。元の世界に帰るまではな」

 

あ、思い出した。こういうのって、『選択の余地がない』って言うんだったな。

 

「じゃあ・・・待っててね。正式にあなたが連合軍第501統合戦闘航空団『ストライクウィッチーズ』に入隊できるよう働きかけるわ」

 

 

 

 

 

・・・次の日。上層部にはミーナから言ってくれたらしい。ありがたいことだ。

これで正式に俺は『ウィッチーズ』の一員ということになった。

あの人には世話になりっぱなしだ。当然礼を言いに行った。上手くいえなかったから『ありがとう』ってだけだけど。

その後は坂本って女にも、それはもうってほど世話になった。体力づくりや射撃や飛行の訓練の他に剣道の稽古でたくさんしごかれたり、

わざわざ扶桑から戦闘用の刀を届けてもらったり・・・これってやっぱり『日本刀』じゃなくて『扶桑刀』って呼ばなくちゃいけないのか?

まあどうでもいい話だな。それで俺は実戦では刀と銃を持ち、後衛として援護をしつつ前衛の奴らから戦い方を学んだりして・・・戦うための力を付けていった。

ただ俺にはどうでもいいのだが、彼女らにとって小さな問題があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼の固有魔法がはっきりしない?本当なの美緒?」

 

「ああ。刀を振っても、銃を撃っても、飛んでいても、全くわからないんだ。本人も、特に感じないらしい・・・・・・ただ」

 

「ただ?」

 

ミーナがそう言うと坂本は意味深げに考え込んだ表情をし

 

「はっきりとは言えないが、彼の体から黒いオーラというかなんだか闇を纏ったように私は見えた。底知れない深い闇みたいなのがな・・・・」

 

「闇・・・・ね」

 

坂本の言葉にミーナは彼のことを深く考えるのであった。

 



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魔女と少年の朝

「ここは・・・・どこだよ」

 

あれから数日。俺はいつも変な夢を見る。

暗い空間の中、俺はただ立っていた。周りを見ていても真っ暗なまま何も見えない。ただ感じるのは肌寒い感覚だけだ。

いつも見る夢はそれだけだったが今回は違う。

今度は背後から足音が聞こえた。

だれかいるのか?そう思い俺は振り返ると、そこには見たこともないような大きな人の形をした何かがいた。赤と黒の色が交互にありそれはあいつらがネウロイと言っていた奴に似ていたが悪魔にも見えた

そいつが俺をじっと見ている

 

「・・・・・お前は・・・・誰だ?」

 

俺がそう訊くと。そいつは答えた

 

『・・・・・ダーク・・・・・メフィスト』

 

そいつがそう名乗った

 

「お前が俺をこの世界に呼んだのかよ?」

 

俺がそう訊くがあいつは何も答えない。だが奴は俺に近づき

 

『・・・・お前はこの世界で異形の物を倒すこと楽しんでいる』

 

「・・・なに?」

 

「奴らもそうだ・・・・・奴らが文明を破壊し人を襲うのも人が奴らを殺すことも・・・・全く同じだ。弱肉強食の世界で正義も善悪もない・・・あるのは強いやつらが生き残るという結果だけだ。つまり・・・・・』

 

そういいやつは俺に顔を近づけ

 

『力こそすべて優先されるという真実だ・・・・・』

 

「・・・・・」

 

『戸惑うことはない・・・・・素直に自分の心を開放しろ・・・・そしてもっと強くなるがいい・・・・』

 

まるで悪魔のささやきのように奴は俺に言う。

 

「・・・・・お前は何なんだ?」

 

俺は警戒した目で奴に言うと奴は

 

『俺はお前の心の闇であり影だ・・・・・溝呂木眞也・・・お前の望むお前自身の影だ・・・・・・また会おう』

 

そう言うと奴は黒い闇と一体化するように消えていった

 

「……力こそすべて・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、宮藤は厨房で朝ご飯を作っていた。その表情はなぜか楽しそうだった

 

「私の料理。溝呂木さん気に入ってくれるといいけど」

 

今日は溝呂木が基地にやってきて数日。そして今日はが溝呂木やってきてから初めての私の食事当番の日だった

 

「(溝呂木さんの故郷の・・・日本、だっけ?、私と坂本さんの故郷の扶桑は世界は違っても同じような国かもしれない、って坂本さんが言っていたけど、料理も似ているのかな?私の料理が俺さんのお口に合うかどうか、ちょっとドキドキでするな)」

 

そう思いながらも彼女は張り切って料理を作っていた。

そしてしばらくして食事の用意ができると 食堂のドアが開いて、

 

「おっ」

 

シャーリーとルッキーニが勢いよく入っていきそれに続いて溝呂木達がやってきました。

 

「おはようございます、溝呂木さん!」

 

「・・・ああ」

 

気だるそうに彼はそう答えた。それを見た宮藤は

 

「どうかなさったんですか?」

 

宮藤は質問してみましたが、

 

「・・・」

 

溝呂木はそのまま席に座って、答えてはしなかった。言葉に出はしませんでしたが、宮藤にはその溝呂木の沈黙が

「わかりきったこと聞くな」って言っているように感じた。

・・・確かに、よく考えれば彼の気が晴れない理由は明白だった。

もう少し言葉を選べばよかったな・・・と、宮藤はちょっと悲くなったが、気を取り直して。彼女はお茶碗にご飯をよそって、溝呂木に差し出します。

 

「溝呂木さん、どうぞ」

 

「・・・」

 

溝呂木は黙ってそれを受け取りました。そしてお盆に置いて、手を合わせて、

 

「・・・いただきます」

 

小声でそう言って、軽くお辞儀をしました。

 

「!」

 

宮藤は、溝呂木のその仕草と言葉に覚えがあった。彼女の上司の坂本も・・・いえ、扶桑の人ならみんな知っている。

 

「宮藤、どうした?」

 

「芳佳ちゃん?」

 

リーネとバルクホルンがそう尋ねてきますが、彼女はそれどころではなかった。

 

「溝呂木さん!」

 

「・・・ん」

 

「溝呂木さんがいた・・・えっと、日本でも、それやるんですか!?」

 

「何がだ」

 

「その、食前と食後のあいさつですよ!」

 

「・・・」

 

溝呂木は不思議そうに宮藤の顔を見ていた。まるで「何当たり前なこと言っているんだ」というような顔だった

 

「・・・ああ」

 

少し、ぶっきらぼうだったが彼はそう答えた。すると宮藤の顔が嬉しそうな顔になった

 

「やらない奴はいないんじゃねえかな・・・」

 

扶桑と共通点があることに彼女は嬉しかった。そして彼女はもっと彼に質問した

 

「溝呂木さん」

 

「・・・今度はなんだ?」

 

溝呂木は少し不機嫌そうにこう聞き返してきたが、彼女は気にせずに次の言葉を紡いだ。

 

「扶桑料理を作ったんですけれど・・・これ、どうですか?」

 

「どうって、何がだ?」

 

「日本と、同じですか?」

 

彼は、目の前の私の料理に目を移し、少しの間それを見つめた。今日の料理は焼き鮭とご飯とみそ汁に漬物に納豆だった

数秒した後、彼は再び宮藤に目をやって、

 

「・・・」

 

無表情ながらも彼は小さく頷いた。

 

「じゃあ、やっぱり扶桑と日本は同じような所なんですね!」

 

「・・・俺は扶桑に行ったことはないけど、・・・かもな」

 

そんな溝呂木の言葉に対し、宮藤はますます嬉しくなったが、対して溝呂木は固い表情のままだった

 

「そんなに嬉しいことかよ・・・?」

 

と呟くと

 

「はい!」

 

「・・・」

 

「溝呂木?」

 

溝呂木の表情が若干動きとなりにいたシャーリーが気に掛けるが宮藤はこう続けた

 

「嬉しいに決まってるじゃないですか!」

 

「・・・」

 

宮藤の中で溝呂木の世界の日本に興味が湧いていた。もっと共通点はないのかな?と彼女は再び質問をすることにした

 

「あの、溝呂木さん」

 

「・・・」

 

露骨に機嫌が悪そうな顔で宮藤を見たが、そんなことで宮藤は彼女は動じなかった

 

「もっと日本のことを教えてください!」

 

「・・・はぁ」

 

溝呂木は、「嫌だ」と言わんばかりに溜め息をついた。・・・

 

「今じゃなくてもいいです、後で・・・いえ、いつか、教えてくださいませんか?」

 

「気が向いたらな」

 

にこりともせずに溝呂木は宮藤に言った。

 

「・・・(なんだかそっけないなぁ)」

 

「芳佳ちゃん・・・」

 

ついしょんぼりしてしまった宮藤を見て、親友のリーネも悲しそうな顔をした。それを見た宮藤は

 

「(いけない、私がこんな顔しちゃ・・・)」

 

そう思った直後だった

 

「・・・おい溝呂木・・・」

 

急にバルクホルンが溝呂木を睨み

 

「なんだよ」

 

「貴様ァ!!」

 

急に彼女は怒りだし、皆は驚くと宮藤は

 

「ちょ、ちょっとまってくださいバルクホルンさん!」

 

「なんだ宮藤!」

 

「どうしてバルクホルンさんが怒るんですか・・・?」

 

「え・・・」

 

宮藤の質問に、珍しくバルクホルンが言葉に詰まる。

 

「それは・・・み、宮藤が・・・」

 

「私?」

 

『・・・』

 

そんなバルクホルンさんの態度に、みんな黙ってしまいました。

 

「・・・」

 

「(あ、溝呂木さん。納豆食べられるんだ・・・)」

 

バルクホルンが固まっている中、そんなことをはお構いなしにと溝呂木は納豆をかき混ぜていた。そのまま納豆をご飯にかけた。

それをペリーヌが恐ろしいものでも見るかのような目で彼を見ている

 

その光景をぼんやりと見ながら、宮藤はふと思った

 

「(溝呂木さんはどうしてこの世界に連れてこられたんだろう?神様か誰かのせいかな?だとしたら何のために溝呂木さんを連れてきたんだろう?)」

 

 

・・・宮藤は考えたが結果は出ず、そもそも考えたって仕方ないことかな、と思い、宮藤は考えるのを諦めた。

 

だが一つだけはっきりした事実があるそれはこの世界に溝呂木がいるっていうことだけだ

宮藤にとっては異世界の扶桑のことを知るチャンスであり、この機を逃したら、私は一生知ることは無い。

そのため、宮藤の当面の目的は、「溝呂木さんが気を向けてくれるように頑張る」ということに決まった。

漠然としてはいるが、やることは単純、たった一つです。それは溝呂木と一緒に、ここでの生活を頑張るということ。

そうしていれば、いつか、日本のことをきっと話してくれる。そう信じてた

・・・とりあえず、宮藤は食事をする溝呂木にこう尋ねる

 

「溝呂木さん、美味しいですか?」

 

「・・・」

 

溝呂木は、頷きもせず、首を横に振りもせずに、黙々と宮藤の料理を口に運ぶだけだったが、食事が終わったとき彼の食器はご飯粒一つも残さずに綺麗に完食していたのだった



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少年は拒絶する

俺がここに来て数週間がたった。あの変な奴が出て以来変な夢は見ていないしそいつも現れなかった。

ある日のこと出撃命令が出た時にて、小型ネウロイを全部倒し基地に向かって帰る最中

 

 

 

「また小型ネウロイですの?いい加減飽きてきましたわ」

 

「そうですねー・・・ずっとこんなんですしね。溝呂木さんが来る前からこうなんです」

 

「・・・そうなのか?」

 

「もう、三ヶ月になりますよ。どう思います?」

 

 

「・・・じゃあ、そろそろ無茶苦茶強いのが来るかもな。地震みたいに」

 

「前兆ってことですか・・・嫌な感じですわね」

 

そんな無駄口をたたきながら戦えるくらいには、俺も余裕が出てきた。

 ・・・俺は戦いは好きではない。ゲームの中でやる程度だったらいいのだが、現実に本気で命のやり取りをするなんて御免だ。

こいつらはどうなのだろうか。・・・戦いが好きそうな顔には見えない。

でも、こいつらには目的があるらしい。人々を、世界を守るという目的が。だから戦っている、と言っていた。

 ・・・俺には、そんな目的なんてない。正直言って、俺以外の人やこの妙な世界なんてどうなろうと知ったことじゃない。

なのに、何故俺は戦っているのだろうか。

 

 

『お前は異形の物を倒すことを楽しんでいる・・・』

 

不意に頭の中でダークメフィストと名乗った例のあいつの言葉がよみがえった。俺がネウロイを倒しているのを楽しんでいる?

いいや違う。俺は・・・・俺の戦う理由。・・・それは「仕方ないから」だ。 元の世界に変えるまでのきっかけに過ぎないなんも理由もない行動だ。

 

「溝呂木さん、戦いには慣れましたか?」

 

「・・・慣れたくないものに、慣れちまった」

 

「あはは・・・」

 

「・・・私達も同じですわ。慣れたくないものに慣れてしまいました」

 

リーネの質問に俺がそっけなく答えるとに宮藤が苦笑し、ペリーヌがそう言う

 

「そういうもんか?」

 

「そういうものです」

 

「・・・じゃ、基地に戻りましょう」

 

よく一緒に出撃するこの三人は、今のところ少しは話せる中になっている三人だ。歳が近いせいもあるがよく話しかけてくれる。

まだぎこちない感じだけど。・・・俺なんかに構ってくれなくてもいいのに、なんでわざわざ絡んでくるんだろうかどっかから来た訳の分かんない奴とどうしてこんなに話しかけてくるのか俺は理解できなかった

 

 

 

 

基地の談話室

 

「よくやったな、みんな。特に溝呂木。最近上達してきたみたいじゃないか。良かったな」

 

「・・・そうだな」

 

「・・・おい溝呂木、口の利き方に気をつけろ」

 

「はいはい・・・」

 

坂本の言葉に俺がそう言うとまたもバルクホルンが絡んでくるが俺は適当に返事をする

 

「・・・どうした?あまり嬉しそうじゃないな」

 

「ああ。嬉しくない」

 

「・・・そういえば、お前は仕方なく戦っているだけだったな。そんなものに興味なんてないか」

 

坂本の言葉に俺がそう言うと坂本はやれやれと言ったような呆れた表情をしてそう言う。正直言ってネウロイ倒すだけで元の世界に戻れるわけがない。だから倒してもあまり嬉しくとも何ともない

 

「まあな。元の世界に帰ったら何の意味も無いしな」

 

「み、溝呂木さん・・・」

 

「そう言うなよ。どんなことでも、上達は上達だ。喜べることだぞ?」

 

「だからさ、俺は嬉しくないって言ってんだよ・・・はぁ」

 

シャーリーがそう言うが俺はため息をつきそう言う。すると 視界の端に見えていたバルクホルンが、何やら震えている。

 

「どしたのトゥルーデ?」

 

「もう、ダメだ・・・!」

 

何がだよ?そう思うや否や彼女は立ち上がって俺を睨み

 

「溝呂木・・・以前から不満だったが、もう我慢できん!貴様!それが上官に対する口の利き方かぁ!!!」

 

そう怒声を発すると同時に使い魔を発動させ俺に殴りかかろうとする

 

「わわ、落ち着いてトゥルーデ!あんたが殴るとシャレになんないから!」

 

「離せ!ハルトマン!!」

 

ハルトマンが必死にあいつを止め、あたりが慌ただしくなる。それにしても・・・シャレにならない、か。

 

「別に殴っても構わないぞ」

 

「・・・え?溝呂木さん?」

 

「死ねば元の世界に帰れるかもしれないし、未練もないからな。ほら、さっさと殴り殺してみろよ」

 

「っ!?」

 

「み、溝呂木さん!?」

 

「おい、ちょっと冗談だよな?」

 

「冗談じゃねえよ。もともと俺はこの世界にはいないイレギュラーだ。つまりもとより存在しない人間だ。ほら、さっさと殴り殺して俺自身を無かったことにしてみろよ」

 

「なっ!?」

 

俺の言葉に皆が驚き、殴ろうとしたバルクホルンまで目を丸くさせ驚く

 

「み、溝呂木さん!そんなこと言っちゃダメです!」

 

「はいはい、わかったよ」

 

宮藤にそう言われるが俺は聞き流しそう答えるとバルクホルンは魔力発現を解除し、言った

 

「・・・それほどまでに、この世界が嫌いなのか?」

 

悲しそうな顔で俺にそう言う。・・・別に嫌いだとは言っていない。ただ単に『戻りたい』それだけなんだよ

 

「そういうことじゃない。俺は平穏に暮らしたいだけなんだ。でも、ここじゃ平穏がどうのなんて言ってられない。

だから俺はここにいたくない、戻りたいってだけだ」

 

「・・・」

 

「・・・で、俺は部屋に戻ってもいいのか?」

 

坂本に尋ねる。

 

「あ、ああ・・・食事の時間になったら呼びに行くぞ」

 

「わかった」

 

というわけで俺は、入隊したときにあてがわれた部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・ちっ、なんなんだよ」

 

俺だけしかいない部屋の中ベッドに寝転がり俺は舌打ちをし、そう呟く

そして俺は少し考え事をした。

向こうの世界・・・・俺が住んでいた世界は小さな争いがあれど、平和な世の中だと同時に退屈でもあった。それでも安心して、平穏に暮らしていくことができていた。

だから居心地は良かったんだ。まともに過ごしていれば、まともに生きていくことができたんだ。

不満こそあっても、不安なんてなかったんだ。

なのに、この世界は不安だらけだ。まともに過ごしていても、まともに過ごせるかはわからない。訳の分からない変な生物に攻撃され蹂躙される街や人々が常に怯え戦う世界。戦争がある世界いつ、人間側が崩壊するかわからないんだ。冗談じゃない。

なんで俺がこんな世界に呼び出されたんだよ・・・・・

自問自答しながらそう思っているとドアの外からノックの音がした

 

「誰だ?」

 

寝転がったまま俺は言った。 まだ食事の時間には早いはずだ。

 

『・・・サーニャです』

 

・・・あの根暗そうな女か。起きてるなんて珍しい。俺はドアの方に向かっていった。

 

『お、オイサーニャ、ホントにあいつと話すノカ?』

 

『・・・うん』

 

といった会話が耳に届いたが、気にせず俺はドアを開けた。

 

「おわっ」

 

「・・・こんにちは」

 

「・・・何の用だよ?」

 

まさか挨拶するためだけにここに来るわけないよな。

 

「あの・・・」

 

「・・・」

 

「・・・溝呂木さん。元気出してください」

 

「おいサーニャ・・・」

 

「・・・なんだよ、いきなり」

 

「辛い気持ちはわかりますが・・・」

 

・・・何言ってんだ、この女。気持ちはわかるだぁ?

 

「お前にそんなこと、わかるわけないだろ?」

 

「ナッ!」

 

「・・・!」

 

「元気だせだと?出せるような状態だったらとっくに出してるさ。それどころじゃないから今こうやってウジウジしてるんだよ。お前らに異世界にいきなり連れてこられた人間の気持ちなんてわかるわけない・・・・俺のことなんか構うな。俺のことは放っておいて自分やほかの仲間のことだけ考えてろよ」

 

「溝呂木さんも仲間だと思っています」

 

「あいにく俺はそうは思っていない。ただ衣食住を借りてもらっている人と思っている。戦っているのも元の世界に変えるまでの借りを返しているにすぎねえよ」

 

俺はぶっきらぼうにそう言う。だが彼女は引き下がらない

 

「・・・その、」

 

「なんだよ?」

 

「・・・独りで・・・独りで悩まないで、相談してみてください」

 

「・・・」

 

「・・・相談したら、きっと気持ちも晴れます」

 

「・・・・・」

 

俺はドアを閉めた。 そして俺は再びベッドに横になった。

・・・・クソッ、なんなんだよ。異世界に連れてこられたと思ったら選択の余地無しに戦わざるをえないような状況に追い込まれて・・・

野垂れ死にするくらいならって仕方無しに入隊したら、変人ばっかりで、その変人共はわかったような顔して

「元気出してください」とか「相談して」なんてほざきやがるんだ。相談したってお前らにはどうすることもできないだろうに。

気持ちはありがたいが、どうしようもないってこと、考えればすぐわかることなのに。こいつら、一体何考えてるんだ。わけわかんねー。

 

「・・・・・・・」

 

『溝呂木さんも仲間だと思っています』

 

『・・・相談したら、きっと気持ちも晴れます』

 

 

 

「・・・・・・・くだらねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・サーニャ、なんでアイツにそんなこと言おうなんて思ったんダヨ?」

 

「・・・あの人に、笑って欲しいから」

 

「ハ?」

 

「・・・あの人の笑顔が、素敵だったから」

 

「・・・」

 

「なのに、今まで一回しか笑ってくれないから」

 

「・・・」

 

「だから、上手く言えなかったけど、笑ってもらうために、支えになりたくて・・・」

 

そう言いサーニャは歩き出し、残されたエイラは胸ポケットからタロットカードを取り出し、溝呂木のことを占ってみた

 

「う~ん・・・・・今のところ恋愛や恋人カードはナイカ・・・・でもこのカードもあまりいいとも悪いとも言えない微妙なカードダナ・・・・今のアイツみたいに」

 

軽くため息をつきエイラもサーニャを追いかけるのだった

 

 

 

 

 

 

 



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ウィッチたちは彼を誘う

ここに来てからの毎日、俺はずっと絶望しっぱなしだった。元の世界に帰る手がかりが何も掴めないのだ。

文献を探したけれど、当然そんな資料は存在しなかった。・・・あったら逆にびっくりするけどな。

それに、この世界に来てからもあいつらはしつこく俺に話しかける。無論俺はあいさつ程度ぐらいにしか答えない。

なぜならそれ以外は必要ないからだ。元の世界に戻ってもまたあいつらに会えるとも思えない。

だから、なるべく親しくしようとは思わない

距離を置いていた方が俺的にもあいつら敵にもいいかもしれないからな

そんな俺の考えとは裏腹に彼女たちは毎度俺に話しかけた。

ある時のこと

 

「溝呂木~」

 

今朝はルッキーニが無邪気な笑顔で話しかける。

 

「・・・・・・なんだよ?」

 

「かくれんぼしよ!」

 

かくれんぼって・・・・一応ここって軍事基地だよな?いやいやそれ以前に・・・

 

「・・・・やだ」

 

「えー・・・」

 

「なんでですかぁ、溝呂木さん?」

 

「ちょ、ちょっと芳佳ちゃん・・・」

 

そばにいた宮藤がそう言いリーネもそう言うが俺は軽くため息をつき

 

「ここは軍の基地なんだろ?遊んでいる余裕あるのか?俺はないぞ?」

 

「本音は?」

 

「面倒くさい」

 

「まるでハルトマンみたいなことを言うな」

 

「それどういう意味トゥルーデ?」

 

「でも楽しいですよ?溝呂木さんも子供のときやったでしょ?」

 

「あいにく俺はガキの頃は部屋でテレビゲームとか読書しかやってない」

 

「テレビゲーム?なんですかそれ?」

 

※今は1944年です。当然ながらテレビゲームは存在しません

 

「もう、俺には構うな」

 

そう言い俺は自分の部屋に行こうとする訓練の時間や食事、出撃以外はたいてい部屋にいる。というより部屋で一人でいるほうが落ち着く。

部屋へ行こうとする俺に

 

「少し待て溝呂木軍曹!」

 

と、バルクホルンが止める。ちなみにこの基地での俺の階級は軍曹ってことになっているらしい。

てかなんで下士官から?普通なら一等兵とかの兵卒からなんかじゃないの?

まあ、後で聞いた話だがウィッチ基女性兵士は上官から理不尽な命令…特にセクハラなんかの防止のため命令権限がある下士官から始まるんだそうだ

 

「・・・・・なんですか?」

 

俺はめんどくさそうに言ううと彼女は

 

「貴様は他人への思いというものが不足している!」

 

「・・・そんなの必要ないだろ」

 

「いーや、必要ある!他の何かを守りたいと思うことで、初めて軍人たりえるのだ!今ここに居る人の思いを放り出すようでは・・・」

 

と、まあ、長い説教まがいなのが始まろうとしていた。ああ・・・これはあれだ。この人。絶対に説教が長いタイプだ。

 

「・・・あんた、俺がここに居る理由を忘れたのか?帰るまでの間、仕方なくいるだけなんだぞ。他人とか国を守るなんて思ったことはないし、そもそも俺は軍人になろうなんて思ってないし、この世界を守るとかそう言う義理もない・・・・・」

 

俺は彼女の言葉を遮りこう言った。正直言って話の長いのは嫌いだ。それ以前に俺は人との付き合いとかも苦手だし、したくもないからな

それ以前に俺にはこの世界を守ろうとかの感情もない。なんたってここは異世界。俺の国はないし、文字通り全くの別世界だ。

小説の主人公みたいに『よし!この世界を守るために戦うぞ!』なんてそんな頭の中がお花畑のような感じがあるわけがない

俺はそう言い、部屋を出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・行っちゃいましたね・・・溝呂木さん」

 

「くっ、あいつは・・・」

 

彼が部屋を出てみんなが残念そうに言う中バルクホルンが苛立った表情をする。

 

「溝呂木のことが気になって仕方ないんだねートゥルーデ」

 

「なっ!ち、違う!何を言ってい折るんだハルトマン!?」

 

「違わないでしょ~トゥルーデにとってあいつは生意気な・・・」

 

「わー!!言うな!?!!!」

 

珍しく慌てた表情のバルクホルンがハルトマンがの言うことを遮ろうとするが・・・・

 

「弟みたいなもんなんだよね~?」

 

「そ、そんなことを言った覚えはない!」

 

「寝言で言ってたよ~、確かトゥルーデが溝呂木を殴ろうとしたときの夜のことだったかな~?」

 

「な、なに・・・?」

 

「トゥルーデ、心配してたみたいだもんね~。『嫌わないでくれ』とか『お前のその性格さえなんとかなれば・・・』とかさぁ~?」

 

「そうなんですか?バルクホルンさん」

 

「へー・・・あのバルクホルンがね~」

 

「や、やめてくれ・・・」

 

シャーリーがにやにやした表情でそう言うとバルクホルンは顔を真っ赤にし恥ずかしそうに小声で言う。するとシャーリーは

 

「そういやあバルクホルン、お前あれからあいつの口の利き方にとやかく言わないよな」

 

「もう慣れたということでしょうか?」

 

「慣れた~」

 

「う、うるさい!」

 

とペリーヌとルッキーニがそう言いバルクホルンは顔を赤くしそっぽを向く

 

「・・・それはともかく、私も心配です」

 

「私もダ。アイツ最近、以前にもまして表情が硬いじゃないカ」

 

エイラーニャが心配そうに言うと坂本もうなずき

 

「確かに訓練では素直だが・・・なかなか、向こうから打ち解けてくれないな」

 

「そうね・・・私達だけが一方的に彼のことを受け入れてもしょうがないのよね・・・いったいどうしたらいいのかしら」

 

と、困った表情でため息をつくミーナであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃溝呂木は夢を見ていた。それはとても不思議で不気味な夢。見たところ場所は日本に似たところだったが、そこには巨大な化け物が暴れていた。ナメクジのような奴。ケロべロスに似たまがまがしい生き物。ネズミみたいな悪魔のような巨大生物。

現れるやつは皆悪魔のような醜い化け物だ

そしてそんな化け物を見た溝呂木は

 

「何なんだよ・・・これはよ」

 

と、つぶやくと・・・・

 

「スペースビースト・・・・宇宙の化け物だ」

 

「っ!?」

 

急に背後がし、振り返ると、そこには俺に少し似ただが少し年上の黒服の男がいた

 

「お前は誰だよ・・・・・」

 

俺がそいつに訊くと男は

 

「お前は俺で・・・・俺はお前だ溝呂木眞也・・・・」

 

「なに?」

 

「いうなれば、別の人生をたどった俺だ・・・・・」

 

「どういうことだよ。別の人生?」

 

「そうだ・・・・元ナイトレーダーAユニット副隊長・・・・溝呂木眞也。それが俺だ」

 

「・・・・・」

 

こいつ・・・・頭がおかしいのか?いやそれ以前に別の人生?どういう意味だよ。だがそいつ・・・俺と同じ名の溝呂木眞也を名乗った男は

 

「お前も・・・かつての俺の同じように異形の物を殺すことを楽しみ、そしてお前はこの世界を受け入れつつある。あいつらを殺すことに喜びを感じてきている」

 

「なに?」

 

俺がこの世界を受け入れている?そんなはずあるもんかよ。・二ヶ月経った今でも、俺はこの世界の何も受け入れてなんていない。

だがあいつは言葉をつづけた

 

「お前がネウロイと呼ぶ異形の奴と戦うのは元の世界に戻りたいのじゃない。「死ぬことが怖い」という恐怖心からだ。その恐怖心をごまかすためお前は元の世界に戻りたいと思い込んでいる。かつて俺がビーストとの戦いに恐怖し、それらを克服するための「力」を渇望するように」

 

「違うな・・・・・俺はそんなんなんかじゃない」

 

「・・・・・まあ、いい。だが忘れるな。人の心は弱く、世界は闇で満ちている。だから人はたやすくそれに呑まれてしまう・・・・俺のようにな」

 

そう言うと奴は黒い黒い棒のような形状のようなものを左右に伸ばすと、そいつの体が黒い闇みたいなものに包まれ巨大化する。

そしてその男は俺が夢で見たあの悪魔のような奴ダークメフィストの姿になった

 

『お前もいずれ・・・・・・俺と同じ、この力を持つ・・・・だが、その力の意味・・・・間違えるなよ。』

 

「お前は・・・・なんなんだよ?」

 

『俺はお前の心の中の影・・・・おまえの望む姿であり、別の可能性だったお前だ』

 

そう言うと奴は消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・はっ!?」

 

俺は寝ていたのだろうか?目が覚めるとそこは基地で俺に与えられた部屋だった

 

「何なんだよ・・・・あれは?」

 

この世界に来てからいつもこんな変な夢ばかり見る。それに夢に出てきたあの男も何なんだよ

 

「あ~ダメだ。全然わからねえ!!」

 

頭をぼりぼり掻いて俺はそう言う

 

「はぁ・・・・それにしても」

 

俺は先ほどの彼女たちの会話を思い出していた。俺は仕方なくここにいるだけなんだ。なのに、ここの連中はこんなに皆を否定している俺がいるということに対して、もう誰も不満そうな顔一つ見せない。

それどころか『相談して』だの『一緒に遊ぼう』なんて言われてしまった。

そんなみんなの態度が、俺には辛かった。なんだか、無理に本音を抑えているような気がして心苦しかった

 

「ダメだ・・・部屋にいてもどうしようもならねえ」

 

俺はそう言い、坂本からもらった刀をちらっと見る

 

「素振りでもすれば気分でも晴れるかな・・・」

 

そう思い俺は刀を持ち、気分転換として素振りをするため部屋の外に出るのであった

 

 



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彼は一歩だけ彼女たちと進む

海岸で素振りをする溝呂木。だが気持ちは晴れない。ずっともやもやした気持ちばかりだ。

 

「くそっ・・・ダメこれは」

 

俺はそう言い刀を鞘に納め、少し歩いた時、少し開けたところがあり俺はそこに寝転んだ。何も音がなく静で聞こえるとしたら鳥の音か風で動く草の音だけだ。

この世界に来て数週間。一向に元の世界に戻れる方法は見つからない。

だが、こうして寝そべっているうちにこう思った。

なぜ俺は元の世界に戻りたいのだろう・・・・考えてみたら、帰って、それで俺はどうするんだろう。

離れていた両親になんて言えばいいんだ?また、なにもないつまらない学校生活を送れれば、それで満足なのか?戦争が無く平和で安全でけれどそれ以上に退屈なあの世界に・・・・・・

 

「・・・・・」

 

考えれば考えるうちに俺はわからなくなっていった。そう言えばこうして深く考えたのも初めてだったかもしれない

 

『もっと自分の気持ちになって自分を開放しろ・・・・』

 

「自分の気持ちに素直・・・・か」

 

俺がそう小さくつぶやくと

 

「何してるの?そこで?」

 

と、突然に声が聞こえをレは起き上がり、あたりをきょろきょろ見渡す。空耳か?

 

「こっちだよこっち」

 

「ん?」

 

すると木の上でまた声がし手見上げると、そこにはエーリカがいた。しかもパンツ丸見えの格好で・・・・・このせかいでソレはパンツじゃないらしいが、元の世界にいた俺にしてはいまだに慣れなかった

 

「・・・・なにしてるんだよ」

 

「ルッキーニたちとかくれんぼしていたんだよ」

 

「かくれんぼ・・・?」

 

 あ~そう言えばルッキーニの奴が誘っていたな・・・・・

 

「それで木の上に隠れてたのか?」

 

「うん、かくれんぼのついでに昼寝しようと思ってさ」

 

・・・どんだけ自由人なんだよ。

 

「・・・そこで寝て大丈夫なのか?身体痛くなるだろ」

 

「大丈夫大丈夫。それで溝呂木は何をしてたの?」

 

「ただたんに寝転がってただけだ。それよりいいのかよ。隠れないで?」

 

「大丈夫大丈夫!」

 

とそう言い彼女は気から飛び降り俺のそばに来ると

 

「隣いい?」

 

「好きにしろ」

 

俺がぶっきらぼうにそう言うと彼女はニシっと笑い俺の隣に座る。そしてそれからは話すわけでもなくただ座っていた

 

「・・・はぁ」

 

俺は溜め息をついた。

 

「溜め息は幸せが逃げるよ」

 

その迷信ってこの時代からあったのか?

 

「溜め息程度で逃げる幸せなんかいらねーよ。それに、あんただって溜め息くらいつくだろ?」

 

「まあ、そうだけどね。・・・君の場合、その溜め息程度が積み重なって、こんな異世界に飛んじゃうなんて不幸が起こっちゃったのかもしれないよ?」

 

「・・・」

 

「・・・でも、君みたいな良い人が不幸になるなんて、納得いかないねぇ」

 

はぁ?俺がいいやつ?

 

「・・・お前、俺の何を見てきたんだよ。俺が良い奴になんて見えるか?」

 

「見える見える。・・・この基地の中じゃ、誰も君の事を悪い奴だなんて思ってないよ」

 

「・・・」

 

「悪い奴だとは思ってないけど・・・」

 

「・・・なんだよ」

 

「このままだと、嫌な奴に格下げされちゃうかもしれないよ?」

 

「・・・それでいいのに。そのほうが楽だよ」

 

そう・・・・その方が楽だ。仲良くなれ合いなんてすれば帰りにくくなるし、何より帰る際に涙の別れとかしんみりするよりは今のままでいればなんの後悔も無く帰れる

 

「ダメだよ。君が良くても、私達がよくない」

 

「・・・」

 

「そんな別れ方じゃなくてさ、どうせなら、もっと、惜しむような別れかたをしようよ。私は、そんな、お前が居なくなってせいせいするぜ、みたいな別れ方はしたくないんだ。だからさ、溝呂木。お互い、爽やかな別れかたをするために、君には私たちを受け入れて欲しい」

 

「・・・受け入れてるさ」

 

嘘を付いた。・・・二ヶ月経った今でも、俺はこの世界の何も受け入れてなんていない。

 

「嘘付け」

 

・・・やっぱり・・・魔女って、心読めるんだな。

 

「・・・バレたか。俺って、そんなにわかりやすいか?」

 

「うん。凄く。・・・で、どう?」

 

「・・・考えておく」

 

「うん。それでいいんだよ。・・・まあ、ようするにさ、無理して突き放そうとしないで、今を楽しく、気楽に生きようよってことだよ」

 

「あんたみたいにか?」

 

「あ、それはやめといたほうがいい。口うるさい軍人にしょっちゅう説教を食らうことになるから」

 

「だな・・・俺もそれは御免だよ」

 

「・・・・・あ」

 

「ん?なんなんだよ?」

 

「今笑ったね?」

 

「はぁ?」

 

彼女の言葉に俺は目を細める。笑った?俺が?そんなはずない。俺がそう思っていると・・・・

 

「あっ!中尉ミッケ!!」

 

そこへ、ルッキーニとシャーリーがやってきた。そう言えばこいつら、かくれんぼしてたんだよな?

 

「おっ!溝呂木もいたんだ?」

 

「いちゃ悪いかよ?」

 

俺がため息交じりにそう言うとルッキーニが俺に近づいて

 

「ねえねえ溝呂木~中尉と一緒に何してたの?」

 

「ただ座ってただけだ。こいつとは偶然会ってただけだ」

 

そう言い俺は立ち上がりその場を去ろうとすると

 

「ねえねえ、溝呂木も一緒にかくれんぼやろうよ?」

 

「・・・」

 

『貴様は他人への思いというものが不足している!』

 

不意にバルクホルンの言葉を思い出す・・・他人の思いを放り投げるのは、軍人云々の前に、人としてどうなのかって話だよな。と、言うよりこの先やることもないし

 

「はぁ・・・・ま、いい暇つぶしにはなるかな」

 

「やったーっ!!」

 

俺がそう言うとルッキーニは、満面の笑みを浮かべ声を上げる。そんなに嬉しいことなのか?

まあ、そんなこんなで俺も彼女の遊びに付き合うことにした。

え?やってみてどうだったって?

 

・・・・・楽しかったに決まっているだろ

 

 

 

 

 

そして夕暮れ、かくれんぼが終わり、俺は部屋に戻ろうとすると

 

「溝呂木君」

 

ミーナに声をかけられた。すると彼女は笑顔で

 

「ルッキーニさんと遊んであげたんですって?」

 

「まあな」

 

「・・・ふふっ、良かった」

 

「良かった?」

 

「ええ。少しは打ち解けてくれたみたいで嬉しいわ」

 

・・・本当に、この世界の奴らは、わけがわからない。

 

「なあ、教えてくれないか」

 

「なにかしら?」

 

「なんで、みんな、俺なんかに、こんなに良くしてくれるんだ?」

 

「・・・どうしてかしらね。私にもよくわからないけど、放っておけないっていうか・・・とにかく、みんなあなたのことは単なる戦力とだけ考えてるわけじゃないのは確かよ。私も含めてね」

 

「軍隊なのに変わっているな?もう少し規律がうるさくておっかないと思っていたんだが?」

 

「確かに軍隊のイメージはそうだし基本はそうね・・・・でも私的にはそんなに厳しくしないで家族のような関係でいたいのよ。もちろんあなたともね」

 

と微笑んでそう言う中、俺は返事も返さずに部屋に戻った。それを見たミーナは少し微笑み

 

「まだまだだけど、一歩だけ進んだかしら?」

 



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