天に還った『英雄』は色に溺れる (ベルベット・モルモット)
しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「始」

 (はる)か高みに存在するとされる天界。

 そこは神々の棲家(すみか)であり、絶命した子供達の魂が還る場所でもある。

 そこは悠久の楽園。

 生前に悪に染まっていようが徳を重ねようが、魂が辿る道筋は基本的には同じ。

 真っ白に染まり来世へと。

 これは()()()()()絶対である。が、法則(ルール)というのは神々の前では無いに等しい無駄なもの。

 例外ばかりを好む神々だからこそ、哀れな『英雄』の処遇については()()()()()

 ベル・クラネル。

 神々が涎を垂らし涙を垂れ流しながら歓喜した、見たことも()い偉業を達成し続けた『最後の英雄』。

 ある神は言った。

 あの子は哀れだと。

 

『なぜなら、童貞だったからな。あんまりじゃろう』

 

 ある神は答えた。

 確かに哀れだと。

 

『大神の孫が『英雄』が女も知らずに果てるとは、嘆かわしいことだ』

 

 ある神は提案した。

 哀れすぎるから救いでもと。

 

『それならハーレムでも与えてやれば良いだろう――ゼウス』

 

 老神(ゼウス)は目をかっ開いて叫んだ。

 そういうことなら、他ならぬ孫にご褒美(ほうび)をくれてやろうと。

 

『というわけじゃ、ベル! 好きな女を選べい!! 転生前の一時を有意義に過ごすのだ!』

「……ん?」

 

 覚醒したベルは夢現(ゆめうつつ)で目を擦った。

 死んだ筈の祖父が何か魅力的なことを言っている。

 というか自分も『壁』となって死んだ筈なのだが、意識も何やらはっきりしている。

 これはどういうことなのか。

 もしかしたらここが天界というやつなのか。

 よくよく見なくても周囲は霧に包まれているし、傷もすっかり治っている。というか『死んだ』という自覚が痛いほどに感じられて、ベルは妙に落ち着き払いながら尋ねた。

 

「……アイズさんの膝枕」

『ならーん!! あの娘はまだ生きておる!』

 

 が、却下されてしまった。

 なんてことだろうか、ベルは絶望した。

 折角の『ご褒美』なのだから欲しいものを言ってみたのだが、どうやら憧憬はまだ生きているため天界(ここ)で相見えるのは不可能ということらしい。

 要するに死者限定。

 これでは知り合いを呼び寄せることすら――そう考えて崩れ落ちそうになったところで、祖父はにんまりとほくそ笑んだ。

 

『『黒竜』との大戦で命を落とした者は多い。そうじゃな、名簿(リスト)から辿(たど)るに……』

 

 名簿(リスト)ってなんだよ。

 再会の喜びも忘れて、ベルは心の中で突っ込んだ。

 けれど()ぐに目を見開くことになる。その名簿(リスト)とやらの中に、知己の少女達の名前を発見したからである。

 祖父はにやりと笑みを深くして、言った。

 

『お前は死んでしまった。じゃがお前達のお陰で下界は救われるだろう。多分じゃが――救済(メシア)祝いにくれてやる。誰でも良いから選んで平和な日々を過ごすが良い。もう戦わくても良いのじゃ。――多分じゃが』

 

 本来なら魂は()(しろ)に漂白されるのだが、死人が多過ぎて死神の男神が過労死寸前で倒れてしまったとのこと。そのため、全くと言って良いほど魂の洗礼が進んでおらず、そういうことなら――英雄に選ばれた者達だけでも――最後の時間を天界で過ごさせてやるのも悪くない――そういう結論に至ったらしい。

 

『宮殿でも建ててのんびりするがいい。だが無理矢理(むりやり)連れ込むことは宜しくないゆえ、合意の上でな……ほれ、言ってみろ。本人達が嫌ならば拒否されるだけじゃ』

 

 不本意に繋ぎ止める心配はないから怖がることはないし、上手く行けば百年ほど美少女達とグーダラできるぞ――その誘惑は疲れ切ったベルの心に強く響いた。

 

「……ごくっ」

 

 死んだという虚無感もあって、状況に早くも流され始める少年。

 憧憬を望めないという現状も手伝って、ベルは祖父の言葉を信じてみることにした。

 助けてくれた人達へのお礼も言いたいし、労いの言葉もかけるべきだろう。

 共に戦った中で命を落としているのだから、尚更(なおさら)に。

 何より。

 

(嫌なら拒否されるんだったら安全だし、どうせなら好きなように選んでみよう)

 

 そういうわけで、死にたてホヤホヤの頭でベルはそんなことを思った。

 死んでしまったことで色々と吹っ切れていたと言い換えても良い。

 そんな孫の様子を見ながら、ニヤニヤと微笑(ほほえ)み続けるエロ爺。

 

『お前の仲間達は存命じゃから無理として……こうなったら顔と体で選ぶのだ!』

「ええっ!?」

『このエルフちゃんなんぞ顔も胸も絶品じゃろう! 聖女ちゃんはおっぱいじゃし、極東っ子ちゃんは色々(たま)らん! ほれ、誰が良いのか言ってみろ!! 儂が話をつけてやる!』

 

 具体的には一緒に暮らしたい美少女を二十人ほど。同時には無理かもしれないが、順を追って仲良くなっていけばよいのだ、とエロ爺は不敵に微笑(ほほえ)んだ。

 

「ぼ、僕はどうすれば……」

 

 死んだ後の絶望など彼方へと放り投げ、ベルは悶々と悩み始めた。

 美少女達の名前を呟きながら葛藤しては項垂(うなだ)れ、戦々恐々とした顔で『お願い』を開始する。

 祖父は笑い、少年は煩悩を(さら)け出した。

 これが、数日前の出来事だった。

 

 

 ♥

 

 

 そして後日。

 あてがわれた神殿の中。

 漂っているのは不穏な空気で、向けられているのは軽蔑の眼差(まなざ)しだった。

 紺碧色の瞳がゴミを見るような視線を向けてくる中、ベルは()()させられていた。

 

「変な神様から聞きましたよ。顔と体で私を選んだとか」

「……」 

 

 ベルは逃げるように体を反転させて――その先で薄紫色の瞳と目が合った。

 

(わたくし)の胸枕をご所望と耳にしたのですが……どういうおつもりですか、()()()?」

「……」

 

 ベルは逃げるように体を反転させようとして――べしっっ!! と後頭部を叩かれた。

 

「っ!?」

「この変態! スケコマシ!! 少しはマシになってきたかと思っていたのに、死んでまで不埒(ふらち)な真似をしようとは何事ですか!!」

「ごめんなさいっ!?」

 

 キレ散らかしているエルフの少女。

 山吹色の髪を振り乱し、胸を盛大に前後させながら顔を近づけ激怒を叩き付けてきた。

 レフィーヤ・ウィリディス。

 ()()()()()()()()()()

 言われるがままに思い当たり名前を口にし、呼び寄せてしまった美少女である。

 しかし怒っているのは彼女だけではない。

 

「そういう目で見られていたとは、知りませんでした」

「見てません! ごめんなさいアミッドさんっ」

「言い訳は結構です。()()()()お招きを受け入れたのは私達というのも事実ですので、お気になさらず」

「……ひっ」

 

 聖女微笑(スマイル)は極寒すぎて、ベルは早速(さっそく)逃げ出してしまいたくなった。が、この期に及んで逃亡するなど許されるわけもない。

 

「ベル・クラネル!! そ、そんなに私の体が好きだったんですか!? はっ! ま、まさかアイズさんは隠れ蓑で……本当は私の体を目当てに!?」

「言い方ァ!? それに飛躍しすぎですよ!?」

「ベル・クラネル……貴方はもう腹を(くく)った方が宜しいかと。どうせ我々は死んだ身です。幸運にも延長戦(ボーナスタイム)と洒落込むことができたことですし、この(さい)隠し事は無しといきましょう」

 

 正面からレフィーヤに凄まれ、背後からアミッドに両肩を掴まれて拘束される。

 英雄の逃げ場、()し!!

 ご褒美については理解したが、その上で。

 どうして天界(ここ)に還ってまで自分達を呼びつけたのか、そこのところを全て吐け、と。

 凄まじい勢いで追求してくるレフィーヤが怖すぎて、遂にベルは吐き始めた。

 

「レフィーヤさんは体というかっ、全体的に好みなんですっ」

「なあっ!?」

 

 驚愕するエルフの少女を他所に、やけっぱちになったベルは加速する。

 頑張って頑張って世界の礎となった結果、死んでまで詰問されるという悲劇。

 やってられるか!! ――いかに温厚な少年と言えども自暴自棄に陥ってしまうのも致し方ないことで、しかも時間が経てば自分達は真っ白になって転生するのだ。ならば恥も外見も投げ捨てて素直になろうと少年は開き直った。

 

「青い瞳とか綺麗な顔とかっ、体のラインも凄く美しいですしっ、上品な感じなのに元気なのが可愛らしいっていうかっ!! ――それに芯もちゃんとしててっ、素敵な先輩だったというかっ」

「な、な……なぁっ!?」

 

 顔を真っ赤にして捲し立てるベル。

 ぼんっっ、とレフィーヤの顔が爆発した。

 さらに。

 

「アミッドさんは優しいのでっ、これまでに色々してもらったことに対する感謝の言葉を伝えたかったのと……僕、ちょっと疲れちゃったから甘えさせてくれそうだと思ってっ!!」

「……なるほど」

「そ、それと! アミッドさんってたまに笑う顔がとっても可愛くてっ、一緒に暮らせたら普段から丁寧に癒してくれそうだなって思ったのでっ」

「丁寧に……?」

 

 頭が馬鹿になりながら捲し立てるベル。

 やや卑猥に聞こえる言い回しに、アミッドは訝しみながらも赤面した。

 さらに。

 

「すっごく好みのレフィーヤさんとすっごく天使なアミッドさんに挟まれて()()()()()()()()()()……あとウンヌンカンヌンできたりしたら、最高のご褒美だなって思ったから……その、ダメ元で……!」

 

 ベルは駄目(だめ)押しとばかりに自爆した。

 これはいけない。

 余りに恥ずかしい独白に、少女達は困ったように頬を掻くばかり。

 思えば彼も散々な人生を送った後、伴侶を得ることも()く死んでしまったので、女性に癒されたいと思うのも仕方の()いことなのかもしれない――二人の少女は同時にそんなことを思った。が、困ったことに少女達は愛やら何やらの駆け引きなど得意ではなく、こうとド直球に求められると反応に困ってしまうのである。

 

「え、えっと……どうせもう転生を待つだけですし、添い寝くらいなら」

「えっ」

 

 そして困り果てた果てに、レフィーヤはもごもごと()()()()

 アミッドが「えぇ……?」と凄い顔をして振り返ったがもう遅い。

 レフィーヤ・ウィリディスは真正面から衝突されると、意外なほどに()()()()。死んでまで恋愛経験ゼロのエルフは、もじもじ――とらしくない反応を見せながら弱々しく目線を逸らしながら尋ねる。

 

「……というか、あ、貴方ってこんなに積極的でしたっけ!?」

「違いますけど……このまま転生なんて嫌ですよっ、僕なりに凄く頑張ったのにぃ!? ――ご褒美くらいあっても良いじゃないですか!!」

 

 そのご褒美が『女』=レフィーヤなのが不味いのだが、しかし初心な少女は憎からず思っている少年からの要望を『求愛』と勘違いした。

 

「な、なるほど……私達が……私がご褒美。なるほど……そこまで懇願するのなら、少しは考えて上げても良いかもしれません」

「!」

 

 そしてやけっぱちな上に恥を投げ捨てた少年は、今や嗜好を全面に押し出すだけの獣だった。

 無論。憧憬のことは忘れてはいないが、彼女と再会できるという保証もない。

 しかも体を丸焼きにされたトラウマも癒えておらず、とにかくベルは癒しが欲しくて堪らなかったのである。涙目になって「最後に死ぬなんてあんまりだ……!」とぷるぷるしているベルを見かねた様子で、今度はアミッドが口を開く。

 

「わかりました……それでは取り急ぎ」

 

 普段着に身を包んだ聖女は表情を変えることなく、普段通りの口調で言葉を続けた。

 

「食事に致しましょう」

 

 お腹が空きました、と。

 豪奢な神殿の一室で、聖女はくぅと腹を鳴らした。

 現在の状態においても、どうやら空腹感は感じるらしかった。

 即興で建造された『神殿』。

 そこで始まるのは『晩餐』。

 この日、死した英雄は猶予を与えられ、そして――美少女達との(ただ)れた日々が始まった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「1」

「死にたい」

 

 指で床に円を描きながら、ベルはそんなことを言った。

 鍛冶神達が建ててくれた神殿の最奥。

 神殿の主となった『元英雄』は死神のような様相で女々しい姿を晒し続ける。

 何故(なぜ)か戦闘用の白装束を(まと)ったベルは、死にそうな顔をしながらいじけていた。

 

「アイズさんに会えないなんて……もう生きている意味なんてないっ!! 僕はアイズさんのために頑張ってきたのに、ミノタウロスにも勝ったのにぃ!?」

 

 また随分と昔の話を持ち出してきたなあ――と見守るレフィーヤは遠い目をして彼を見た。

 が、美少女エルフへの反応はまるでない。

 見られていることなどお(かま)()しに、少年の泣き言は続く。

 

「もう生きている意味なんか……っ」

 

 苦渋に満ちた顔で繰り返す馬鹿(ベル)。いや、お前もう死んでるだろうよ、とは言わないレフィーヤだったが、流石に苛立(いらだ)ってきた。

 いい加減に喝を入れてやろうかと思い、そっと近付くレフィーヤ、しかし。

 

「皆から認められてきて……『英雄』になれそうで……チヤホヤされてっ、それなのにっ、これからって時に死んじゃったなんて!? こんなの……こんなの……っ、あんまりだぁっっ!?」

 

 加速するベル・クラネルの陰鬱(ネガティヴ)具合。

 眺めながら、ひくひくと頬を引き攣らせる美少女エルフ。

 レフィーヤ・ウィリディスの鬱憤(フラストレーション)が100上がった!

 鬼を背後に召喚しつつ、レフィーヤは思った。

 衝撃を受けたのが自分だけだと思っているのだろうか、この兎は。

 志半(こころざしなか)ばで昇天したのは自分とて同じ。

 好きな人に会えなくなったのも同じだというのに!

 

(し か も !! ここに私達を叩き起して呼び寄せた挙げ句、相手をするわけでもなく、毎日毎日っ、いじけているとは何事ですか! 腹立たしいっ!!)

 

 気分が乗らないとしても、暇潰(ひまつぶ)しに話くらいはするべきだろうに。

 それにこれは、生前でしがらみ云々によってすれ違いが多かった自分達が、何くれとなく仲良くする良い機会でもある。

 それなのに、彼は――いや()()()は呼び寄せるだけ呼び寄せておいて、延々と憧憬の名を呼び続け涙するばかり。

 ショックだったのはわかる。わかるのだが流石にこれは女々しすぎる。

 

『にゃあ』

「あっ、アイズちゃん……今日も可愛いねえ」

 

 そこら辺を歩いていた猫に、あろうことか想い人の名をつけるという馬鹿な真似まで始めた()()()は救いようがない。

 猫に好きな人の名前をつけるな!

 

(気持ち悪い!! というか何なんですかその猫はっ。天界に猫なんかいるんですかっ…………いるのかな?)

 

 まあいいや、とレフィーヤは思考停止した。

 とにもかくにも。

 これは、そう。

 生前の彼からすれば考えられない駄目っぷり。

 

(……何だか私の方が泣きたい)

 

 レフィーヤは嘆いた。

 知らない! こんな駄目な奴はレフィーヤは知らない!!

 互いに――実際にはほぼ一方的に――凌ぎを削っていた頃の彼は、何処(どこ)に行ってしまったというのか。

 

(というか、再会初日の熱い告白は何だったんですか! 私達は鑑賞用の女か何かですか!? えぇ!?)

 

 レフィーヤは憤った。

 ベル・クラネルは自分達を美しい銅像か何かと勘違いしているのかもしれない。

 叩き起された挙げ句の放置プレー、許すまじ!!

 レフィーヤの鬱憤(フラストレーション)が1000上がった!

 

「もう、僕に希望なんてないんだ……僕はアイズさんとお付き合いはできない――うぎゃあっ!?」

「このっ、このっ!! かかってきなさいこの弱虫(ヘタレ)! えいっ! えいっ!」

 

 (ゆえ)に撲殺することにした。

 響き渡ったのはべきょっっ、べきょんっっ――という鈍い音。

 目を背けたくなるような鮮血が、迸った。

 振り上げた杖を後頭部に叩き込んでやったところ、彼は潰れた蛙のような悲鳴を上げて卒倒した。

   

 

 ⚫

 

 

「反省して下さい」

 

 鮮血色に染まった床の上。物静かに怒るアミッドはそう言った。

 二人の愚か者を見下しながら。

 神殿の最奥に造られた一室にて、愚かな少年と馬鹿な妖精が涙目で座り込んで――いや()()()()()()()()()()

 小動物のようにぷるぷると震えるベルとレフィーヤ。

 

「返事がないようですが」

「さー! イエッサー!!」

「はい承知(いた)しましたァ!!」

 

 即答する愚鈍兎(ベル)馬鹿妖精(レフィーヤ)

 謎の受け答えに聖女はあからさまに嫌な顔をした――()ぐに真顔に戻った。

 

「良いですか。この場所に招かれてから、既に三週が過ぎました。ですので…………いい加減になさい」

「「はひっ」」

 

 そう。今更ながら、再会の日からもうじき()()()()()()()()

 それなのに未だメソメソしていたり、夜な夜な奇声を上げて睡眠を阻害してくる――前者は少年で後者は少女(レフィーヤ)――要するに馬鹿共に、寛大な心を持って接していた聖女も我慢の限界であった。

 きっ、と『元英雄』を睨みつけると、厳しい言葉を叩きつける。

 

「ベルさん……ベル・クラネル」

「は、はひっ」

「いい加減に切り替えて下さい。貴方がそれでは、こちらまで陰鬱な気分になってしまいます」

「すいませぇん……」

 

 さらに。

 

「レフィーヤさん」

「は、はひぃっ」

「切り替えられていないのは貴方も同じです。八つ当たりもほどほどに……それと、毎晩のように妙な声を出して騒ぐのは止めて下さい」

「すいませぇん……」

 

 似たような反応に、似たような謝り方。

 基本的に勇敢な二人で似た部分も多々あるものの、悪い部分まで共通していることに、アミッドは死んでから気付いた。

 

(ヘタレ気質……)

 

 根本的な部分で心優しいと言えば聞こえはよいが、こと日常生活においては優柔不断な節が(うかが)える。

 レフィーヤに関してはベルよりもマシだが、その分、悪い意味で感情的になりがちだった。

 死後においても聖女の悩みは増えるばかり。

 死んでしまったことで弱気になっているのもあるだろうが、こと目の前の馬鹿二名については悪癖を悪化させているというか――駄目な男女に成り下がりつつあった。

 

(まだひと月ほどだと言うのに……先が思いやられます)

 

 聞くところによると、この状況は少なくとも()()()()は続いてしまうらしい。

 そう、天界における魂の浄化作用の機能不全――ひいては魂が溢れたことによる主要機能の停止(パンク)によって、転生はおろか漂白すらもして貰えない状況になってしまったのである。

 それは、某死神が過労死寸前で泡を吹いて倒れたのが切っ掛けだった。

 かつては仕事熱心だった彼は目覚めた後、余りの激務を前にして涙を流しながら逃亡――隠居してしまったのだ。

 

 (いわ)く――『俺には無理(ムリ)。もう、さ。漂白とかしないで全員下界に送り返しちゃおうよどうなっても構わないから――それか『ノアの方舟』でも発動させて、下界を洗い流しちゃってくれない? ねえ、ねえ、そうしてよお願い本当(ホント)無理なのこのままだと俺()んじゃう死神だけど』――とのことで、散々な捨て台詞まで(まく)()てた後、死神タナトスは山奥に身を潜めてしまったのである。

 

『なんということだ。よし。儂に任せてくれれば良いゾイ』

 

 大神(ゼウス)は絶望しつつも代役として努力しようとしたが、三日三晩の激務をやり遂げた後、やはり泡を吹いて倒れてしまった。

 彼と同格の女帝(ヘラ)はそもそもやる気がない。

 魂の管理を出来る者が相次(あいつ)いで倒れるか死ぬかの大惨事が発生し、しかし代役が務まりそうなフレイヤやロキといった神格の高い神々は未だ帰還せず。前者においては少年を追ってくるかと思われたが、昨年末に起こった大騒動の果てに彼女なりに()()()()ようで、今は眷族達を優先しているらしかった。

 まあフレイヤのみが戻ってきたところで、機能停止(パンク)した天界を治められるかというと答えは『否』とのことだから、もう時間が経つのを待つしかないのだろう。

 それほどまでに人が死に過ぎたし、それを裁き切れるだけの力も現在の天界からは失われていた。

 要するに神々は楽をし過ぎていたのである。

 降臨した神々によって人類が力を得て、死者が見違えるように減っていたから。

 

「そ、そういえば。タナトス様が捕らえられたって聞いたんですけど……レフィーヤさん知ってます?」

「……え、そうなんですか?」

 

 遠い目をするアミッドの前で、正座しながら言葉を交わす二人。

 

「はい。おじいちゃんからの手紙に書いてありました。なんでも捜索隊が結成されたらしくて、そこに参加したディオニュソス様がタナトス様を見つけて縛り上げたらしいです」

「……えっ」

「ディオニュソス様はみんなから感謝されて、天神峰(オリンポス)の十二神に加える話まで出てるとかで……もしかしたら天神峰(オリンポス)十三神になるかもしれないって書いてました」

「…………えー」

 

 思わぬところで名前の出てきた因縁の男神に、レフィーヤは酷い顔をした。

 アミッドも口をへの字に曲げた。

 迷宮都市を滅ぼそうとした黒幕が英雄さながら、かつての邪神を縛り上げて連行――天界とはこういうことが普通に起こるから、かなり反応に困ってしまう。

 

(十二神と言えば名高き天神峰(オリンポス)の代表者……簡単に増やして良いものなのでしょうか)

 

 それも、領地を束ねる代表者にあんな邪神を加えるなど、彼等の正気を疑ってしまう。

 アミッドは神々の適当さが心底(いや)になった。

 まあ現在も天界に残っている十二神はごく僅かであり、人手不足ではあるのだが、それにしたってどうかと思う。

 ディオニュソスと聞いて思い出されるのは、未だ記憶の中で存在感を放っている凄絶な日々。

 呪われしバルカの怪物との激闘。そして精霊の奇跡を利用した緑肉による、【ディオニュソス・ファミリア】の大量虐殺。

 ()まわしき邪神、許すまじ。

 アミッドの不快度が10上がった!

 

「そんなこんなでタナトス様は捕まったんですけど、今日届いたおじいちゃんからの手紙には別の問題が書いてあって……」

「え、また何かあったんですか?」

 

 聖女の内心を他所に話し続ける二人。

 次の瞬間、ベルは爆弾発言を投下してきた。

 

「タナトス様が発狂して、魂を洗礼するための『神殿』を燃やしちゃったらしいんです……代用できそうな施設も全部放火して壊しちゃったみたいで……」

 

 だから、洗礼はおろか転生すらも不可能になっているそうな。

 死人が多()ぎたせいで魂の容量過多(パンク)を起こしている上、施設は使い物にならず、修復には長い時間が必要になるとのこと。

 三人で顔を見合せながら、何とも言えない顔で黙り込む中、ベルは言葉を続ける。

 

「なんでも『あははははは! 燃えろ燃えろ! せーんぶ燃えちゃえ! 魂なんか漂白しなくたって良いじゃない! 一回くらい穢れたままでも何とかなるって! あはははははは!!』――とか言って、笑い転げてたらしいです……タナトス様」

 

 アミッドは舌打ちを鳴らしそうになって、ぐっと力を込めてどうにか(こら)えた。

 ――邪神というのは、これだから!

 聞いての通り状況は悪化。

 まあ早く転生したいわけでもないため、アミッドは特に気にはしないが、それにしたって傍迷惑(ハタメイワク)な神である。

 下界でも(ロク)でも無いことをしでかし、天界(ここ)でもえらいことをしてくれた。

 アミッドの不快度が10000上がった!!

 

 

「――まあ、それはそうと私語は厳禁です」

「「えっ」」

 

 無性に腹が立ってきたので、新たな罰を追加しておいた。

 神聖なる一室で流血沙汰(ざた)を起こすとは何事か。

 因みに現在地には祭壇が設置されており、罰当たりなのは間違いなかった。

 

「私語厳禁。どうせ時間もあるのですし、本日は夜まで瞑想と洒落(しゃれ)こみましょう」

 

 私もやります、と。

 何故かやる気になっているアミッド。

 直ぐに正座して瞑目(めいもく)した聖女の御姿に、少年と少女は涙目になった。

 

 

 ⚫

 

 

 天界においても時間が経てば暗くなる。

 (フクロウ)の鳴き声が響き、生い茂った木々の間を静寂が支配する。

 少年の住まいとして、新たに神殿が建設された天の山奥もまた宵闇(よいやみ)に包まれていた。

 神々の世界にも夜が訪れた。

 

「……ふぅ」

 

 (ほの)かに顔を火照らせたベルは、タオルを頭に乗せて甘ったるい色の瓶をあおる。

 (イチゴ)牛乳である。

 風呂上がりはこれに尽きる――まあ魅力に取り憑かれたのは天界(こちら)に来てからだが。

 

「あ、ズルい」

 

 窓際で涼みながら、嚥下音を立てて堪能していると暴走妖精が現れた。

 山吹色の髪をタオルでごしごしと擦りながら。

 彼女もまた風呂上がりらしく、全身から湯気を発している。

 とすんと隣に腰を下ろしたレフィーヤは、ややあって、バツの悪そうな表情を浮かべた。

 

「あの……すみませんでした。殴ったりして……その、もう死んでるし良いかなと思ったんですが、しっかり血も出るんですね」

「それはもう大丈夫ですけど……本当に不思議な場所ですよね。血は出ても傷口は()ぐに治っちゃいましたし」

 

 不思議と言えばそれだけではなく、何処(どこ)からか()いてくる謎の温泉。

 とある豊穣の女神様におすそ分けして貰った野菜は腐ることなく、雪山にも関わらず謎の豚や謎の牛が一定数徘徊(はいかい)しており肉に困ることもない。

 着衣はあらゆる種類のものが用意されていて、天使なる人物が始めにまとめて持ち込んでくれた――謎に趣味も良いものだから、何ひとつの不満すら抱くことができない。

 (まさ)に至れり尽くせりで、駄目人間(ニート)製造所と言っても過言ではなかった。

 

 ――どうして神様達がグーダラなのか、何となくわかった気がする。

 

 こんな居心地の良い場所に永住していたら、それは腐りもするだろうと遠い目をした。

 ふと、窓の外を見れば雪が降っている。

 ここは雲の上だと言うのに雪の結晶が見られるなんて――摩訶不思議な現象に思わず目を細めてしまう。

 それはレフィーヤも同じだったようで、身を乗り出して外に視線を走らせると「わあ」と嬉しそうな声を出した。

 

「……」

「凄いですね! って、どうかしましたか?」

「べ、ベツニナニモ……」 

「……?」

 

 普段はツンケンしている彼女が喜んでいるのは結構なことだが、この時の少年はそれを手放しで歓迎することはできなかった。

 今更ながら、家族(ファミリア)でもない美少女達と同棲を始めたベル・クラネル。

 彼女達との間に存在するのは適度な距離感。

 それなりに信頼してはいるものの、しかし知り()ぎてはいない関係性。

 成熟し切っていない間柄だからこそ、異性として意識してしまうのも無理はなかった。

 

(どうせなら好みの女の人が良いと思ったけど、これは失敗したかも……)

 

 (かた)やレフィーヤは少年のことを男として見ていないのか、風呂上がりでもお構い無しに近寄ってくる。

 逃げると無視するなと言われるが、そういうわけではなくて色々と目のやり場に困るのだ。

 桃色のパジャマの膨らみは、想像していたよりも大きかった――妖精とはもう少し控え目なものではないのだろうか――ベルは(いぶか)しんだ。

 

(追い回されてばかりで忘れかけてたけど、レフィーヤさんも女の子なんだよね……)

 

 整った相貌は言うまでもなく、しなやかな四肢の美しさは異性の目を惹き付けるだろうし、種族にしてはよく育った乳房は女性としての魅力を引き立てている。

 細い肢体は(けが)()らずで、女を感じさせる美脚の上では、容易に鷲掴みにできそうな小さな尻が()れていた。

 

(……目に毒だなあ)

 

 目の前のレフィーヤはもとより、現在は温泉に浸かっているであろう聖女様は更に卑猥(えっち)だ。

 アミッド・テアサナーレは聖職者ではないにしろ、それに準ずる存在と言って差し支えない美少女。

 小柄な体に反して、育ち過ぎた胸元。

 あのおっぱいで聖女は無理でしょ――誰かが言って撲殺されかけたと聞くが、ベルはその意味を完全に悟らされてしまった。

 それだけでは飽き足らず、何を着ても似合(にあ)ってしまう相貌と肢体の美しさは、正に神の御業であると戦慄する。

 正統派の可憐な妖精と男受けすること間違い()しの美しい聖女。

 補足しておくと、どちらも風呂上がりの色気は抜群。

 そんな異性達に囲まれて生活していればどうなるか――答えなど決まり切っていた。

 

「す、すいません! 眠くなってきたので、部屋に戻りますねっ」

 

 唐突な前屈(まえかが)み。()()()()()()()()退()()()()()

 異性として意識すればどうなるか。

 それは、現在のベルの姿勢が全てを物語っていた。

 へっぴり腰にも見える情けない姿を前に、まさかお腹でも痛いのかと珍しく心配してくれるエルフの少女。しかし、そんな気遣いも今はお節介なだけである。

 

「大丈夫ですか……何だか顔も赤いような」

「だ、ダイジョウブダイジョウブ」

「どうして片言(カタコト)!?」

 

 頭でもおかしくなったのかと心配を深めるレフィーヤの視線の先、視覚的刺激と嗅覚的刺激を同時に与えられ、股間があらぬことになっているベルがよろよろと部屋を出て行こうとする。

 

「あ、あの! 元気()して下さいね! 貴方がそんなだと、張り合いが無いというか……!」

「ダイジョウブデス……ダイジョブデス……」

 

 が、声をかけられて立ち止まり、背後の少女に向けて律儀に答える少年。

 やはり片言(カタコト)

 少年の背中を見つめるレフィーヤは、更に心配そうな顔になる。

 片や、いけないと思えば思うほどに股間が熱くなる少年は涙目だった。レフィーヤはぎょっとする。振り返ったベルの瞳は見ようによっては悲しそうに潤んでいたからだ。

 

「ちょ……ベル・クラネル! (いく)ら寂しいからって、泣かないで下さいよ……!?」

「コレ、チガウンデス」

「ですから口調! その口調を止めなさい! 何だか怖いです!」

「すいません……でも本当に無理なんです!」

「何が!?」

 

 繰り広げられる漫才(ドタバタ)

 原因を全く理解していないレフィーヤと律儀に付き合おうとするベル。

 相性が良いのか悪いのかわからない少年少女は、こんな場所でも噛み合わなさを全面的に発揮していた。

 というかベルが彼女を無視する――目を合わせないようにして立ち去る――原因は(まさ)にこれだったりするのだが、基本的に彼のことを純粋だと思っているレフィーヤはそれに気付いていなかった。

 

「あ、貴方は頑張ったと思いますよ! 団長達も認めてましたし、アイズさんだって……」

「……」

「こんなことになったのは確かに残念ですけど……頑張ったんだからのんびりすれば良いと思います。だから休みつつも元気を出してください! 先程も言いましたが、貴方がそんなだと張り合いがなくて退屈なんです!」

 

 単純に寂しいか、若しくは死んでしまったことがショック過ぎて、ベルは様子がおかしいのだと思っているらしかった。

 ここに来て慰めの言葉をかけてくる純粋な少女に、ベルは弱々しく微笑(ほほえ)み返した。

 

「アリガト……ゴザイマス」

「だから口調! それっ、止めなさい!!」

 

 また謎に片言(カタコト)になったベルは、少女の珍しい優しさに触れたことで、更に泣きそうになりながら部屋を後にした。

 どうか股間事情がバレませんように――と最低な願いを抱きながら。

 見ている方が悲しくなりそうな、弱々しい雰囲気を霧散させながら。

 

 

 ⚫

 

 

 天界という場所の特性として、感覚が研ぎ澄まされるというのがあるのかもしれない。

 自室の寝台(ベッド)に寝転びながら、ベルはそんなことを思った。

 もっこりと盛り上がった己の分身を悲しい顔で見つめながら「はあ……」と懊悩に満ちた溜息(ためいき)を吐く。

 

「興味が()いわけじゃなかったけど、こんなになることなんて()かったのに……」

 

 それこそアイズに膝枕された時でさえ、所謂(いわゆる)勃起(ぼっき)することなど()かった。

 それが今や、風呂上がりのレフィーヤと話をしただけで色々と持て余してしまう有様(ありさま)

 端的に言って悶々とする。

 発散したい。

 現在の願いはそれに尽きた。

 というか死んでから性欲を覚えるなんて、自分は一体全体どうなっているというのか。

 というかこの体であれこれすることはできるのか――などなど、疑念と疑問は日々()きない。

 自分のモノとは思えないほどにドクンドクンと脈打ち、天井に向かって反り立っている膨らみを一瞥(いちべつ)して、また溜息(ためいき)

 

「これが何年も続くんだよね……生き地獄ってこの事じゃない?」

 

 二人の美少女と共同生活しながら、一人で性欲を持て余して暮らし続ける。

 発散するにも気を遣うし、これはかなり辛い状況であった。

 始めに血迷(ちまよ)って口走った、『添い寝』が実行されていなくて本当に良かった――それを想像して不本意に下半身を硬くしながら、ベルは今宵(こよい)も発散に勤しむ。

 

「レフィーヤさん、たまに優しいんだよなあ……うん。やっぱり出会いが不味(まず)かっただけなのかも」

 

 共闘した事は数える程しか()かったし、腹を割って話した回数も多くない。けれど自分が思っていたよりも、ベルは好敵手(ライバル)として意識されていたようで、謎の信頼感もあった……らしい。

 ベヒーモスの残滓を倒したことから始まり、リヴィラの森では巨大花を撃退し、人造迷宮(クノッソス)では別々の場所で輝いた間柄。

 生きてさえいれば、アイズ達の次世代を担う『英雄』として肩を並べることもあったかもしれない――出会いが違っていれば、もう少し別の関係性も築くことができたかもしれない――朧気ながらそんな風に思うようになった。

 まあ今となっては詮無(せんな)きことだが。

 

「……僕よりもお姉さんだし、やっぱり経験あったりするのかな」

 

 レフィーヤにしろ、アミッドにしろ。

 済ませていたりするのだろうか。

 祖父によれば――多かれ少なかれ、女性とは『夜』は性格が変わるものだという。

 可愛らしく鳴いたり泣いたりする、らしい。

 もし彼女達が初体験を済ませているのだとすれば、やはり、そんなことやあんなこともしたりされたり……妄想しながらベルは更に懊悩に満ちた。

 寝れそうもないし、早急に処理して落ち着こうと下半身に手を伸ばした。その時。

 

「え」

 

 扉を叩く音に耳朶を打たれて、ベルはむくりと起き上がった。

 直ぐに聞こえてきたのは声である。

 

「起きてますか? 入りますよー」

「れ、レフィーヤさん!?」

 

 言いながら開け広げられた扉の先、まさかの妖精再登場。ベルは半狂乱に陥りかけながら、伸ばした手を引っ込めて不自然に寝台(ベッド)に倒れ込んだ。

 前のめり。

 下半身を隠す形で、うつ伏せになって扉の方向に顔を向ける。

 

「な、何してるんですか貴方……」

「は、はは……」

 

 困惑――ではなく先程と同じく心配そうな表情で尋ねてくるレフィーヤに、ベルは空っぽな笑いを返すことしかできない。

 現在進行形で下半身が凄い事になっているのだ。 

 何なら貴方()の『夜伽』を想像して興奮してました――などと言えるわけもない。

 そう、少年にとっては都合が良いのか悪いのか、レフィーヤは一人ではなかった。

 妖精の背後で()れたのは白衣型の寝着(パジャマ)だった。静かに歩み出て来るのは聖女様である。

 

「思い詰めていると聞きましたので、(たま)には語らいながら眠るのも良いのではないでしょうか――というわけで葡萄酒(ワイン)を用意しました」

「え……と」

「そ、添い寝はしませんがっ、昔話でもしながらお酒を飲めば元気が出るんじゃないかって……私……ではなくっ、アミッドさんが言ったので来てあげたんですよっ」

 

 何やら言い訳がましい説明を繰り出すレフィーヤに、ベルは益々(ますます)もって汗を流した。

 

 ――あ、これ完全に誤解されてるやつだ。

 

 様子がおかしかった原因がねじ曲がって解釈されている。

 確かに寂しいは寂しいし、死んだこともショックだが、今のベルの悩みはそのどちらでもないというのに。

 やっべえ、と汗を流す少年を他所(よそ)に二人の美少女はさっさと入室を果たすと酒盛りの準備を始める。

 一ヶ月が経過したことで、良い具合に遠慮が()くなってきた今日この頃。

 衝撃的な展開は唐突に。

 目の前にはお風呂上がりの美少女達。招かれざる客と化した彼女達と酒盛(さかも)りをすることになった――どうしてこうなってしまったのか。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「2」

 意地汚い冒険者――耳を覆いたくなるような罵りの声が聞こえたのを、レフィーヤははっきりと覚えている。

 竜女(ヴィーヴル)を庇った少年を見た時、レフィーヤは凄まじく戸惑ったものだ。

 

「【リトル・ルーキー】、てめえ!?」 

「血迷ったか!」

「そんなに怪物の宝(ドロップアイテム)が欲しいのか、(くそ)野郎!」

「こんな時に!!」

 

 異端児(ゼノス)と人知れず暗躍していた【イケロス・ファミリア】。その闘争の中で竜の少女は街中に姿を現し、少年は彼女を庇うようにして冒険者達を()()したのだ。

『魔法』を撃って同業者もろとも【ロキ・ファミリア】の冒険者までをも吹き飛ばし、凄まじい憎悪と憤怒を買うこととなった。

 住民達は唖然とし、子供達の啼泣(ていきゅう)はとどまるところを知らない。

 だが、それでもベルは『魔法』を撃ち続けた。

 竜の少女を守るために全てを敵に回しながら、暴走させられた彼女の背を追い続けたのだ――。

 

『ベル・クラネル! 答えなさい!! ――何のつもりですか!?』

 

 屋根を伝って最短距離で追跡するレフィーヤは何度も呼びかけたが、彼はそれを全て無視。

 苦しそうな顔をして逃げ続け、訳など話してくれる筈もなかった。

 再三の無視に激高するレフィーヤ。

 その叫びは無情にも、黄昏の彼方に吸い込まれていくだけだった。

 逃げる少年の背中が小さくなり、何も知らぬレフィーヤは呆然と立ち尽くすばかり。

 

「ここでも分かり合えなかったなあ」

 

 しかも『魔法』まで当ててしまった、と。

 ぐらつく景色の中で乾いた声が漏れる。

 途端に真っ暗になる迷宮都市を見て確信する。

 消えていった人の波を追いかけようとしたところで、はたと気付く。

 ――これは夢だ。

 終わってしまった物語の一端。

 今もレフィーヤの中で燦然(さんぜん)と輝く、淡い記憶の切れ端。

 苦い想い出でもあるのだが、困ったことに今となっては全てがこんなに懐かしい。

 

「ウィーネちゃん……大変だったんですね」

 

 ぼんやりと懐かしい場所を歩きながら、竜の少女の名前を口にする。後々になって歌人鳥(セイレーン)のレイ――フィンの危機を救った少女で、レフィーヤも何やかんやあって親交を深めた――から訳を聞いたのだが、この時の少年はウィーネを守ろうとしていたとか。

【イケロス・ファミリア】によって暴走させられた竜の少女を、狩ろうとする冒険者達から守ろうとして――そして人々から軽蔑されながらも成し遂げた。

 同時進行でレフィーヤ達は闇派閥(イヴィルス)の動向を追っていたわけだが、その時まさに、少年は悪質な狩猟者(ハンター)達と人知れず戦い続けていたのである。

 その結果がウィーネの暴走であり、救いであり、少年自身の破滅だった。

 

『ダイダロス攻防戦』。

 

 レフィーヤ達にとってもベル・クラネルにとっても、きっとそれは契機だった。

 あの夜があったからこそ異端児(ゼノス)と共闘することになったし、フィンの画策により人語を話す怪物達を引き入れたからこそ、他ならぬフィン自身が後に命を繋ぐことになった。

 この後日。派閥連合として人造迷宮(クノッソス)に全面突入した際、最後に罠にかかって気色の悪い肉壁に呑み込まれそうになった際――最後の最後でフィンを救ったのは皮肉なことに異端の怪物達だった――

 

 ――まあ、戦いの終盤において、(レフィーヤ)は壊れていたけれど。

 

 目の前で親友惨殺という名の()()を見せつけられ、発狂。

 アナキティに無理矢理(むりやり)運ばれながら泣き叫んだ、今となっては無かったことにしてしまいたい無様(ブザマ)であり、目を背けたくなるような記憶。

 その最中で【ディオニュソス・ファミリア】は発生した緑肉に呑み込まれて全滅してしまったし、こればかりは良い思い出とは言えないか。

 それもこれも、全てディオニュソスのせいだ。

 黒幕である彼のせいであり、神様という存在が初めて憎いと思った戦いでもあった。

 

「…………救いが()かったなあ」

 

 不意に見ている場面が変わって、美しい円環の輝きを仰ぎ見た。

 親友が天に還っていく景色。

 この時、約束は果たされたけれど、そんなものはどうでも良いから――どんな形であれ生きていて欲しかった。

 

「また、どこかで……フィルヴィスさん」

 

 知己の少女の顔を思い浮かべながら、レフィーヤは空っぽな声を放った。

 

 

 ⚫

 

 

 夜が更けていく。

 灯りで満たされた部屋の外では、月明かりが雪景色を(あお)く照らしている。白の薄布(カーテン)が僅かに揺れているのは隙間風のせい。

 未だ昔話に興じているベルは、悶々(もんもん)していた。

 

「そういうわけでー、あの時は本当に迷ったんですよおー」

「私には何が起こっているのか皆目(かいもく)見当もつきませんでしたが、そういうことでしたか……」

 

 現在の話題は『ダイダロス攻防戦』。

 先程までうたた寝していたエルフの少女がその時の『夢』を見たそうで、覚醒するなり謎に謝罪された。

 聞いてみればそれは、『魔法』をぶち込んだことに対する罪悪感から来るものだったらしい。

 そういえばそんなこともあったなあ、とベルは哀愁漂う顔でその謝罪を受け入れた――。

 

「ていうか聞いてるんですかベル、ベル・クラネルゥ……!」

「うわ! レフィーヤさん近い! 何ですか、もう!!」

 

 そこまでは良かったのだが、何を思ったのかエルフの少女は葡萄酒(ワイン)を瓶ごと一気飲み。アミッドによればかなり高価な一品らしく、そんなものを直飲みした挙げ句に()()()()()()()()()()()()()

 行き着く先は絡み酒。

 彼女は酒癖が悪かった。いやまあアイズほどではないし、あんな飲み方をすれば誰だって悪酔いしそうなものだが――しかし問題は別のところにあった。 

 

「あれー、顔が赤いようですがー、はっ!! まさかえっちなことを考えて……この破廉恥(ハレンチ)! スケコマシ! 女の敵!!」

「ちょ、まっ、グラスを押し付けないで……むごぉーっ!?」

 

 遠からずな罪状を言い渡され、酒を強要される。これだけでも本当の本当にやめてほしいのだが――しかし問題は別のところにあった。

 

「げほっ、げほげほっ!?」

「レフィーヤさん、酔い過ぎです……ベルさん、零したお酒を拭いて下さい」

「は、はひっ……」

 

 右にエルフ。左に聖女。

 ほんのりと染まった頬は共通しており、部屋の中が暖かいこともあって二人共薄着(うすぎ)だ。

 ほろ酔いレフィーヤは可愛らしい意匠(デザイン)が施された桃色の寝着(パジャマ)――膝上までを丈としたスカート(タイプ)。倉庫で見つけたという白い肩掛け(ストール)を首にかけている。

 

(女の子だ……)

 

 何かと面倒な(ウザい)絡みはともかく、いつにも増して可憐な美少女に違いなかった。

 さらに。

 

「失礼……口にもついています」

「あっ……むぐ」

 

 ふきふきと甲斐甲斐しくお世話をしてくれる聖女様は、ふわりとした純白のローブを羽織っている。ぴっちりした(タイプ)ではないというのに、一箇所だけ不自然に膨らんだ二つの肉塊はどうなっているのだろうか――何やかんやあって水着姿を拝見したことがあるのだが、聖女様は巨乳だということをベルは知っている。

 悪友(モルド)が居れば、きっとこう言ったであろう。

 やたらと下半身に来る(オンナ)共だぜ、と。

 ベルは更に悶々とした。

 

「あっ、何をイチャイチャしてるんですかっ、この変態(ウサギ)ぃ〜!!」

「してませんよっ!?」

「嘘をおっしゃい! 貴方は今ぁ……アミッドさんのおっぱいを見てました!」

「ギクッ」

「ぎく?」

 

 色々と持て余しながら受け答えしていたら、まさかの自爆。

 これでは見ていたと言っているようなものである。

 直後。

 不穏な気配を感じて首を回してみると、そこでは謎の微笑みを(たた)えた聖女の顔が鎮座しており、ベルは何かに目覚めそうになった。

 明らかに凄んでいるので怖いは怖いのだが、それよりも石鹸の良い香りはするわ、微妙に照れているのか頬を染めているのがお美しいわで、恐怖よりも彼女の魅力に惹かれる方が勝ってしまう。

 

「……」

「無言で目を逸らすのはおやめなさい。――全く、貴方であれば女性経験のひとりやふたりはあったでしょうに」

 

 それこそ美少女(ぞろ)いの【ファミリア】に居たのだから、それなりに経験もしてきたのではないか――それなのに初心(ウブ)が過ぎる反応はどうなのか、と。

 可愛らしくジト目で指摘して来た聖女様に、ベルは泣きそうになりながら答える。

 

「いや……ないんです、けど……僕、経験もせずに死んじゃったんです……ははっ」

「は?」

「あ、アミッドさん! この男にそういう話はいけませんっ! 欲情して……お、襲いかかってくるかも!? ――はっ、そう言えば貴方はアミッドさんの胸に顔を埋めたいと寝言で……」

「襲いませんし言ってませんよ!? 何言(なにい)っちゃってるんですか!?」

 

 赤裸々な独白(カミングアウト)に聖女が素っ頓狂な声を上げ、暴走妖精があらぬ疑いをかけてきて少年は「ああもう!?」と絶叫して否定――血迷(ちま)よった顔でベルもまた暴走を始める。

 

「僕、童貞のまま死んじゃったんです……! このままだと魔法使いとか妖精になっちゃうんです!!」

「なるわけないでしょう!? 馬鹿なんですか!?」

「なりますよ! ヒューマンの伝説にあるんです! 三十歳まで未経験なら『魔法使い』になれるって!」

「なんですかその気色の悪い伝説は! やめなさい穢らわしい!!」

「因みに四十歳まで未経験だと『妖精』になれます!」

「なれるかァ!! なってもらって(たま)るもんですか!!」

 

 ギャーギャー、ギャーギャー、ギャーギャーギャーギャー。

 葡萄酒をあおりながら繰り広げられる醜い舌戦。

 どうせこれから先、何年も一緒に暮らすことになるのだ。

 ならば恥など無意味!

 格好付けても無駄なだけ!

 死んでしまったという現実に打ちのめされるベルは、酒の勢いもあって開き直った。

 祖父から聞いた『伝説』を謎にドヤ顔で力説し、いつもいつも絡んでくる妖精に向かって『僕、妖精になります』宣言をする。

 

「僕はもう英雄にはなれない……っ、だったら、妖精になるしかないんです!!」

「気持ち悪い! 今の貴方(あなた)、過去最高に気持ち悪いです!!」

 

 グラスを高々と突き上げ、更に大宣言。

 痛々しい『元英雄』を仰ぎ見ながら、(つい)に戦慄するレフィーヤは肌を粟立たせて絶叫。

 この汚物に負けて堪るかと言わんばかりに立ち上がり、馬鹿丸出(ばかまるだ)しでグラスを天に突き上げた。

 

「――私はアイズさんの裸を何度も目にしています!」

「――ぶふぉっ!?」

 

 ベルが 酒を 吹いた。

 紫色の液体がゆらゆらと飛散し あろうことか 聖女の御顔に直撃!

 びちゃっ! 

 轟く不穏な水音。

 しかし、憧憬の裸を絶賛想像中の少年はその悲劇に気付いていない。

 手にした布で静かに御顔をふきふきする聖女から、ただならぬ雰囲気(オーラ)が発散され始める。

 しかし、憧憬の裸を絶賛妄想中の少年はその危機に気付いていない。

 アミッドの不快度が100上がった!!

 

「――そ、それなら僕は膝枕してもらいました!!」

「――ぐほぉっ!? だ、だったら私は、()()()()()()()()()()()!! どうだっ、参りましたか! あはははは!!」

 

 悪女の如き笑みを(たた)えるレフィーヤは とんでもない嘘をついた。

 醜い高笑いまで響かせて、これではもうお前は誰だ――状態であること間違いなかった。

 

 ――ここから先は静かに怒る聖女の胸中。

 

 可憐かつ心優しい友人(レフィーヤ)は変わってしまった――嗚呼(ああ)嘆かわしい。

 最近になって暴走的になってきたかもしれない……程度の感想は抱いていたが、まさかここまで拗らせてしまっていたとは。

 見え透いた嘘までついて、ちっぽけな自尊心が満たされている様が手に取るようにアミッドはわかった。

 唾液交じりの酒を顔から一滴残らず拭き取りながら、聖女はもやっと顔を曇らせた。

 加速していく少年少女の罵い合い。

 以前なら少年は泣いて逃げ出すだけだった――ように思えたが、少年もまた強くなった――暴君へと変身(ジョブチェンジ)を果たした妖精を前にして、一歩も退かずに戦いを挑む!!

 

「アイズさんは僕の師匠(せんせい)でっ、私服もとっても可愛かったんです!! ――アポロン様のお屋敷ではダンスもしましたっ」

「ぎょええっ!? ――だ、だったら私はっ、アイズさんと熱い抱擁(ハグ)を交わしました! (あと)っ、頭を撫でて貰ったり、『好きだよ、レフィーヤ』……って囁いて貰ったりぃ!!」

 

 ――ゆ、夢の中で。

 気まずそうに顔を背けながら動いた口元は、確かにそのように言っていた。

 レフィーヤは またしても 嘘をついた!

 罪悪感に駆られながらも、しかしちっぽけな自尊心が満たされている様がアミッドには手に取るようにわかった。

 

「ごふっっっ!? ――じゃあ僕は、僕はァ!? ――」

 

 壊れた少年は無駄に素直なので嘘をつくこともできず、遂に持ちネタの全てを出し尽くしてしまった

 

「――そ、そうだ!!」

「ま、まだ何かあるんですか!?」

 

 かと思われたのだが、まだ切り札が残っていたようである。

 他にはどんな交流を果たしてきたのか。

 微妙に気になる聖女様は、そっと耳を傾けることにした。食い入るように少年を凝視している馬鹿妖精に哀れみの目を向けた後、そのまま少年に視線を滑らせて言葉を待った。

 

「僕っ、アイズさんのお尻に顔を突っ込んだことが「死ねェ!!」――ごっっっ、ふぉぉぉぉぉっッッッ!?」

「……………………」

「死ね! 死んでしまいなさい女の敵! (あま)く女性にとっての害悪! ――貴方なんて神様達が悪ふざけて作り出した失敗作に過ぎません!! ――弁えなさいこの汚兎(オブツ)! ――純粋な顔で女性を惑わす、人の皮を被った淫獣(インキュバス)!!」

「痛い痛い痛い!! ――ちょ、まっ、やめ――あっ――ごっふぉっっ!?」

 

 怒れるレフィーヤは れんぞくげりを くりだした。

 つうこんのいちげき!!

 つうこんのいちげき!!

 せいこんへのいちげき!!

 べる・くらねるに 100のだめーじ!

 べる・くらねるに 100のだめーじ!

 べる・くらねるのべる・くらねるに9999のだめーじ!!

 べる・くらねるは ぶざまなひめいをあげて しんでしまった!

 ふきとぶ べる・くらねるの からだ。

 われるぐらす とびちるがらす ぶどうしゅがゆかをみずびたしにした!

 

「…………また、(わたくし)に掃除させるおつもりですか」

 

 アミッドが、キレる。

 腹を抑えて悶絶している兎を一瞥(いちべつ)、高笑いしている妖精を睥睨(へいげい)

 聖女様は(すす)けた顔で立ち上がり、すうっと息を吸い込む。

 妙な沈黙は一瞬だった。

 

「貴方達は、こうして、何かやらかさなければ――気が済まないのですかあああああああああああああああああああああああっッッッ!?」

 

 次の瞬間、ドスの効いた怒声が天界を()るがした。

 

 

 ⚫

 

 

 夜は続く。

 怒れる聖女様の大叱咤を受けたことにより、語らう会(アミッド命名)は混沌の様相を(てい)していた。

 時を同じくして突風が外を吹き荒れ、窓の外では暗い雪景色が舞い始める中。

 

「良いですか。私はもう苦労したくないのです。献身に次ぐ献身。積み重なっていく心労に疲労……私の気持ちなど、貴方達にわかるものですかっ!!」

「ごめんなさい」

「申し訳ございませんでした」

「戦闘でも酷使され、日常生活では入浴後の残り湯を売り捌かれる羞恥……っ!! 色恋に現を抜かしている暇などあるわけもなく、明くる日も明くる日と金儲けの日々!! それが落ち着いたかと思えば都市の危機に駆り出され、醜悪な怪人との一騎打ち!! 呪いを受けたお陰様で腕は老人のように嗄れ、その努力も虚しく待っていたのは大量虐殺!! ――嗚呼(ああ)嘆かわしい嘆かわしい嘆かわしいっ」

「「…………」」

 

 心労を溜め込んでいた聖女様が酔い潰れ、壊れた。

 下界での日々を振り返りながら涙し、怒り、鬱憤をあらんばかりにぶちまける。

 有能かつ聖人()ぎて忘れられがちだが、彼女とて人間なので、()まるものは()まるのである。

 ベルとレフィーヤは今や共通の脅威を目の前にして一致団結、暴走を始めた彼女の目を盗んでは、ひそひそ話に興じている。

 

「あの、残り湯って一体(いったい)……?」

「アミッドさんがお風呂に入った後の残り湯って、癒しの効能があるんです……それをディアンケヒト様が販売してて……」

「……ひ、酷過(ひとす)ぎる!! って、何でそんなこと知ってるんですか、貴方は!」

「…………実は僕、聖女様の残り湯温泉(おんせん)に入ったというか……その、飲んだことが」

「飲んだァ!?」

 

 恥ずかしい話も普通に暴露。

 が、レフィーヤの声が普通に大きく内緒話には鳴り得なかった。

 聞き耳を立てていた聖女様は顔を真っ赤にして爆発!

 

「な、な、な、なっ、何の話をしているのですかああああああああああああああああああああああああああああッッ!?」

「「すいませんっ!?」」

 

 アミッドは泣き叫ぶようにして天に()えた。

 都市のため、下界のために献身を重ねてきた果てがこれとは酷過(ひどす)ぎる。

 酷使に次ぐ酷使。

 自ら行っていた部分は差し引いても、残り湯を売られ、知己の少年に飲まれるなどというお嫁にもいけないような仕打ちを受けた挙げ句、それを暴露されるなどあんまりもあんまりである。

 

「ベルさん! 責任を取りなさい! 私はあれでお嫁に行けなくなったのです!!」

「近い! アミッドさん近い近い近いですって!?」

「ふーっ、ふーっ……!!」

 

 聖女の慟哭が天界を()るがす。

 

「せ、聖水を飲んじゃったのは……アミッドさんの聖水だって知らなくてっ」

「!?」

「ベル・クラネル! それ違うっ!! かなり意味が違います!! 卑猥だからその表現はやめなさい!?」 

「お、美味しかったですよ! だから大丈夫です!!」

「!?」

「この変態!! 何考えてるんですかこの馬鹿っ!!」

「…………う、う、うああああああああああっ!! この恥辱は(まさ)に最大級、私はもう生きてはいけない!!」

 

 少年の天然が哀れな聖女を辱める!

 妖精が怒り襲いかかる前に、顔を真っ赤にした聖女が兎の頭を揉みくちゃにする!

 もふもふ、ぶちぶち、ぐにゃぐにゃぐにゃ!! 

 

「あーーーーーーーーッッ!?」

 

 轟くベルの断末魔。

 再三(さいさん)に渡る慟哭は、アミッド・テアサナーレ史上(しじょう)最上位に分類される発狂状態を物語(ものがた)る。

 そんな彼女に髪を掴まれ密着した体勢のまま、ベルの目の前で質量たっぷりの雪色果実が圧壊!!

 漂う石鹸の香り。

 否、聖女が醸し出す『(オンナ)』の香り。

 むくむくと反応させられる少年の下半身。

 

(あっ、やばい)

 

 ベルがそう思った時には既に遅く、己の分身は臨戦態勢に突入していた。

 白衣の天使に蕩けそうになりながら、少年が鼻血をぐっと堪える中。

 数分間にかけてぎゃーぎゃーと喚き散らしていたアミッドは、ふと時を止めた。

 

「…………?」

 

 ぐにっ。

 兎に馬乗りになった聖女が腰を上下に動かすと、その硬いものがびくんと跳ねて。

 

「ひいあっ!?」

 

 顔を真っ赤にした少年が嬌声を上げた。

 聖女が股の間に感じたのは、禍々しい魔剣のように打ち震える凶器であった。

 何だかんだ真っ当な生娘である聖女は こんらんした。

 

「な、な、な、なぁっ!?」

「――うぎゃあっ!?」

 

 少年を突き飛ばして距離を取り、汚兎(オブツ)を見る視線を向ける。ごろごろと床を転がったベルは壁に激突! ――がっくりと項垂(うなだ)れながら、しかし不自然(ふしぜん)に盛り上がった下半身だけがとても元気!!

 一部始終を見ていたレフィーヤは反応に困ったように目を逸らし、かあっと顔を沸騰させた。

 流れるのは気まずい沈黙である。

 

「「「……」」」

 

 カチカチカチカチ――時計の秒針の音だけが部屋の中を支配する中、ややあって口を開いたのはアミッドだった。

 沈黙を経て少しばかりの平静さを取り戻した聖女は、大きな深呼吸を挟んでから哀れな少年を見やった。

 

「余りにその気がなさそうなので忘れておりましたが。考えてみれば、夜伽を期待されていたのでしたか……」

 

 気まずそうに少年の股間を眺めながら、聖女は羞恥に塗れた顔でそんなことを言った。

 ぼんっ、と。

 謎にレフィーヤが更に赤くなった。

 

「……い、いや、僕はそんな」

 

 動きを止めて下半身を膨らませたまま、しどろもどろになるベル。

 その姿は説得力、皆無(ゼロ)!!

 そもそも童貞のまま死んだことを悔いていたくらいなので、年齢相応の欲求が出てきたことは明白であった。

 

「まあ、これから長いお付き合いになるわけですし……女を知りたいというのも生物的には当然の欲求……ふむ」

「あ、アミッドさぁん?」

「献身という意味では貴方も下界に尽力したわけですが、しかしその上でこの処遇は……何と言いますか、(いささ)か哀れですね」

 

 もじもじと羞恥に堪えながら、未だ勃起しているモノを眺める聖女様。

 レフィーヤは恥ずかし過ぎるのか目を背け、ドギマギしながら聞き耳を立てている。そんな中、ベルは蛇に睨まれた蛙のように動けない。

 何度も唾を飲み込みながら、美しい聖女の御姿を食い入るように見つめている。

 次には何を言われるのか――と不安半分、謎の期待半分でアミッドと視線を絡めていると、彼女は意を決したように口を開く。

 

「偉業には報酬があって然るべき。そして容姿なのか中身なのか、それは判然としませんが……貴方は数居る女性達の中から私達に癒しを求めた。そういうことで宜しかったですね?」

「い、いや、癒しとかそういうのは……あはは」

「――この期に及んで誤魔化すのはおやめなさい」

「はいごめんなさい。可愛い人というか好みの女性を選べって言われたので選ばせていただきました、はい」

 

 後に続いたのは有無(うむ)を言わせぬ問答。

 下心を自分の口から白状させられ、甚だしい羞恥に満ちながら、それでもベルは更なる自白を強要される。

 

治療師(ヒーラー)に夜も癒して貰いたい……夜の男性はそのような願望を秘めていると聞きますが、貴方もそうなのですか?」

「い、いや……「正直に」――はい思ってます男の浪漫(ろまん)っていうかいやアミッドさんならどんな格好でも素敵なんですけど」

「……な、なるほど。容姿は好みというわけですね。ならばレフィーヤさんはどうなのですか? ――初日の独白によれば、顔から何から好みであると話しておられましたが」

 

 そして羞恥は彼女と同じだったようで、あろうことか友人を巻き込みにかかるアミッド。気配を消していたレフィーヤが「ちょっ!?」と悲鳴を上げた――ほとんど振り切れかけている少年が追い打ちをかける。

 

「う、う、う……うぅ、もうどうにでもなれ!!」

「えっ」

 

 アミッドの素っ頓狂な声が響いた直後、追い詰められた(ベル)は振り切れた。

 

「アミッドさんの言う通りです! レフィーヤさんは僕の趣味嗜好(このみ)を詰め込んだような感じでっ、アミッドさんは何だか色々ズルくてっ、大人だけど可愛らしくて――凄く魅力的なんですっ!! ――おっぱいは大きいし体は柔らかいし、良い匂いもするしっ、アミッドさんの残り湯なら喜んで飲みますっ」

「なあっ!? 飲まないで下さいあんなモノっ!!」

美味(おい)しかったから大丈夫です! ――なんだか今思えば興奮するしっ、それにっ、僕はアミッドさんで卒業できるなら、泣いて喜びます!! それくらい魅力的なんで、元気()して下さい!?」

貴方(あなた)何を言っているのですか!? 私は気落ちなどしていませんし……落ち着きなさい!?」

 

 そして引き起こされた大爆発(ビックバン)

 酒の勢いもあったのか、恥ずかしい心の内を暴き立てて来た聖女様は盛大な返り討ちに遭った。

 精神的な限界を迎えた少年は、酒の力を借りて荒ぶる心の内を大暴露(カミングアウト)――しかも新たな性癖まで発現させた上に()()()()()()()()()()

 

「――モルドさん達が『【戦場の聖女(デア・セイント)】にお相手して欲しいぜ!! って言ってたのが、すっごく理解できましたっ」

「理解しないで下さいそのようなモノっ、この辺りにしておきなさいベルさん!! このままでは、そう遠くない未来に自殺願望が芽生(めば)えてしまいます!!」

「アミッドさんが答えろって言ったんじゃないですか!! ――うう……僕だってアミッドさんやレフィーヤさんみたいな美人で卒業したい!!」

「び、びじ――くはぁっ!?」

 

 少女達に向けた煩悩を声高らかに叫んでいく中、動揺する聖女様諸共(もろとも)、レフィーヤも「ぐはっっ」と謎に撃沈した。

 

 ――貴方達に慰められたい!!

 

 こうして折角の時間を貰ったのだから、どうせなら好みの美少女達に癒されたい!

 とち狂った少年は全てを解き放った。

 もうどうにでもなれ! と。

 初恋が終わったからって、女性に対する煩悩がなくなるわけではないのである!! というかこんなのあんまりだ!! 僕は癒されたい!! ――などなど、終点手前で昇天してしまった少年の()()()心の内が、赤裸々に解き放たれた瞬間であった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「3」

 夜伽を求められるのなら、早かろうが遅かろうが同じこと――(むし)ろ早い方が有意義に時間を使えるというもの。

 頭の回転が早い聖女様はそんなことをのたまい、少年にあることを尋ねた。

 

『本気で癒しを欲されるのであれば、手始めに()()でもしてみますか?』

 

 そこからは何がどうなって現在に至っているのか、ベルはよく覚えていない。夢心地でされるがままに従い、戸惑うレフィーヤを巻き込む形で寝台突入(ベッド・イン)

 気がつけば、左右から美少女二人に囲まれながら、癒しという名の責め苦を受けていた。

 右を向けば困惑顔のエルフ。

 左を向けば妖艶に微笑(ほほえ)む聖女。

 自棄(ヤケ)っぱちの末に望んだハーレムがそこにはあった。

 美人に対して積極的なベル・クラネルなどベル・クラネルではない。

 少年は妙に冷静になって己をそのように分析するも、後の祭りも(はなは)だしい。

 何やら振り切れた様子の聖女様は慣れない所作で体を密着させ、しきりに「どうでしょうか」と快感の度合いを確認してきた。

 

「や、柔らかいです……最高です、凄く、はい」

 

 聖女様の柔らかい二の腕に頬を埋めつつ、天国で天国を味わう。

 これぞ腕枕。

 しているのではなくされているのが、いかにもハーレムっぽいとベルは思った。

 場所は神殿に設置された個室の内のひとつ。

 比較的(ひかくてき)大きな部屋に置かれた寝台(ベッド)の上。

 三人分の呼気音だけが響いた後、おもむろに。

 

「それは何よりです。――しかし宜しいのですか? 貴方は色に溺れることに罪悪感を感じそうなものですが」

 

 変わらず同衾(どうきん)に身を投じながら、アミッドは尋ねてきた。

 純情(ピュア)が行き過ぎた少年を知る者からすれば、それは至極当然の疑問であった。が、ベルは一瞬顔を(くも)らせた直後、今度は拗ねたような口振りで「僕が僕じゃない気がするのは間違いないんですけど」、と言葉を続ける。

 

「もう()()()()()()いいかなって。何でかはわからないんですけど、罪悪感よりも欲求の方が勝ってるっていうか……いや、前はそういう欲求もあんまり無かったんですけど」

「絶命したことによる心境の変化……言うならばそういうことなのでしょうか。確かに今の私達は魂が裸で歩いているようなものでしょうし」

 

 ――人の業のひとつとされる『色欲』が色濃く出たとしても、不思議ではない。それも生前に純新無垢だった者なれば反動が起こったとしても、何らおかしなことではないようにも思える――薄紫色の瞳を哀れみの色に染めながら、聖女はそんなことを述べた。

 

「五感は生前のまま。研ぎ澄まされているような感じは受けますが、とても『器』が消失したとは思えない現実味(リアリティ)……本当に不思議なものです。――して、レフィーヤさんは何か仰りたいようですが」

「っ……あ、アミッドさんらしくないです! こんなの! こんな男の下衆で醜い性欲もとい薄汚(うすぎたな)い欲望を受け止めるなんてっ」

「ぐふっ……れ、レフィーヤさん! 言い方ァ!!」

「お黙りなさい!? ――この(クズ)!! ――(ホコリ)程度の『純粋』という長所すらも投げ捨て本能の奴隷へと堕ちた浅ましき性獣(ケダモノ)ォ!!」

「う、うううう……っ、そこまで言うことォ!?」

「ええい静かにしなさい!! ――本当に二人(そろ)うと(やかま)しい方々ですね……レフィーヤさん。貴方から見てもベルさんの精進は認めるべきものであり、それと同時に深い同情を禁じ得ないでしょうに」

 

 今度は一転。面白がるようにエルフに話題を振る小悪魔じみた聖女様。

 彼女も彼女で何か振り切れている感も受けるが、瞳に滲むのはやはり()()()である。ぷるぷると震える可憐な妖精に向けてのものではなく、それは少年への同情だ。

 レフィーヤも知己の口ぶりからそれを察知したのか「うぐ……」、と言葉を詰まらせてそっぽを向いた。

 そう、彼女達は多かれ少なかれ少年のことを哀れんでいる。

 ベル・クラネルという少年は、言ってしまえば英雄に成り切れなかった愚者なのだ。

 礎になったと言えば聞こえは良いが、実際のところは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎない。

 少年自身は生き延びられた筈なのに、あろうことか弱者を守ろうとして果てた。

 言い換えればそれは責任の放棄であり、より多くの者が救済される可能性を(つい)えさせた大罪でもある。

 結果的に下界が救われるかどうかはさておき、期待されていた『英雄』としての働きを彼はフイにしたのだ。

 ベル自身は預かり知らぬことだが、そんな事情もあって神々から受けている評価はピンキリであった――

 

 

「――アイズさんのために命を落としたのであれば、まだ胸を張ることもできたのでしょうが……」

 

 アミッドはあからさまに悲しげな面差しを少年に向ける。他者の評価は知らないが、聖女(かのじょ)から見た場合のベル・クラネルは「本当に哀れです」とのことで、端的に言って涙を禁じ得ない――「心を病んでも仕方が無い」と考えているそうだ。そこまで言われて微妙な気持ちになるベルだったが、しかし聖女様の香りと二の腕の感触が自己嫌悪の念を塗り潰していく。

 見知った美人に優しく包まれる幸せ。

 優しくはないが肩が触れ合う程度の距離、()()()()()()()たる妖精の体温にドギマギする高揚感。

 

「……胸は張れると思ってます。でも、何だか虚しくて」

 

 少女達の体温を独占しながら感じるのは、がらんどうになった胸の中が満たされているような暖かさ。 

 主神との離別。

 仲間との離別。

 憧憬との離別。

 助けた相手は葛藤しているだろうが、しかし時間が解決してくれる筈――いつしか忘れられていくのだろう――立ち直って欲しいが立ち直って欲しくないという、自分(ベル)らしからぬ酷く女々(めめ)しい胸の内。

 自分(ぼく)は全部手放してしまったのに、助けた人達にはこれから先に輝かしい未来が待っている――それは喜ばしい筈のことなのに、何故かこんなにも哀しい。

 

「……ぐすん」

「えっ、ちょ!? 何、どうしたんですか!?」

「虚しいんです! 虚しいんですよぉ……えっぐ」

「あ、あ、あ、アミッドさん! ベル・クラネルが泣いてっ!?」

「……」

 

 死んだという実感が魂を満たしていく程、大きくなっていく哀しい虚無感。

 見事なまでの泣き顔を発現させた少年はレフィーヤを振り返ると、えんえんと情けなく泣き始めた。

 困惑の最中で羞恥も忘れて上体を起こし「落ち着きなさい!?」、と慌てふためくエルフの少女。

 同じく上体を起こした体勢で、背中を(さす)られながら俯く白髪の少年。

 レフィーヤと友に少年の背中を摩りながら、沈痛な面持ちで口を噤む聖女。

 困惑と悲しみが神殿の中を包み込む。

 ベルはわけもわからないまま感情の言いなりになった。

 癒されたいと叫んでみたり赤子のように泣いてみたり、凄まじい情緒不安定っぷりを(さら)()した。

 

 

 

 ○

 

 

 

 銀の輝きが暗闇の中で鈍く(きら)めく。

 轟々と吹き荒ぶ雪の嵐は、少年の心の内を投影しているようだ。

 大きな黒い山。その頂に屹立する巨大な神殿。

 それは幻想的な光景だった。

 そこは不思議な場所だった。

 大きな橋梁(きょうりょう)が都合四箇所、山の麓に()けられてはいるものの、それは通行の手段には成り得ない。

 

「温かいけど、何だか怖い……」

 

 頂とは別に設けられた神殿にて、少女は(ひと)(つぶ)やいた。

 青がかった瞳は今も炎を映し出しており、その業火は侵入者を拒むかの如き勢いで燃え盛っている。

 突っ込めばどうなるのか――実行するつもりは微塵もないものの、しかし彼女は考えてしまって身震(みぶる)いした。

 怖い怖い、と連呼しながら両手を合わせて念を送る。

 アレは聖火であり業火だ。

 少年を守るためのものであり、反して苛むためのものでもある。

 流石は竈火(かまど)の女神に溺愛された眷族と言うべきか、少年がこの山に放り込まれるなり炎はたちまち燃え上がり、今はこうして制御するのが精一杯。

 誰かが祈祷を続けていなければ、あの炎は彼諸共(もろとも)災禍の権化に成り果てるであろう――全くもって難儀なことである。

 

「本来の(ルール)を逸脱して、魂が白に還らない。神様達が何を考えておられるのか、私のような小娘には考えも及ばないけど」

 

 彼の祖父については()()信用できそうだったので、こうして巻き込まれてやっている。

 彼の女神が不在なのであれば、それに準じる者が祈祷に殉じるしかない。

 あの黒と銀の炎。

 黒は穢れの化身であり、銀は輝きの象徴。

 あの炎は彼の心の深奥に共鳴している。

 故に漆黒を浄化することができれば、ベル・クラネルは救われるのだ。

 人知(ひとし)れず、自分がひと肌()いでやっている理由は、正しくそれであった。

 

「………………うん。これで今日も大丈夫……ん、ベルは順調に癒されてる、かな?」

 

 瞑目を続けながら(ひと)(つぶや)く。

 英雄に癒しを。

 あの子を壊してはならん――大神の談であり、彼の話によれば仲間の少女達を護衛につけたのだとか。

 ベルの性格からして癒されることはあっても、()()()ことはないだろうし、そっち方面の卑猥な心配は皆無(ゼロ)

 なんてったって純粋(ピュア)を拗らせ()ぎた兎なのだから。

 普通の男子ならば心配するところだが、そこのところベルは違う。

 彼に性欲などはないのである!

 しかしそれは過信であり、想い出の美化!

 少年に対し謎の信頼を見せる少女は(ひと)(うなず)く。

 間もなくひと仕事()えた巫女は、控え目な胸を主張しながらぐっと背伸び。

 

「先は長いんだし、これが終わったらデートにでも誘ってみよう…………えへへ、実現したら私、昇天しちゃうかもしれない」

 

 多分だけど発情して、と。

 色々あって拗らせた少女は、人に見せられないようなだらしない顔を晒しながら。

 瑞々しい褐色肌を暖炉に近付けながら、本人には絶対に言わない(たぐい)の言葉を吐いた。

 そう、彼女は不本意な形でベル・クラネルと死別した哀れな少女。

 純潔を地で行く神聖な乙女であり、なんやかんやあって少年に救われた後に恋する少女と化した雌。

 元・聖火の巫女はものの見事に拗らせていた。

 

 

 

 ○

 

 

 

「ひぅ……っ」

 

 頭上から聞こえてきた艶かしい声に、ベルは小さく唾を飲み込んだ。

 柔らかい肉に視界を奪われたまま、妄想が掻き立てられて昂りそうになる。

 すんすんと動く鼻の先、熱を帯びるのは満足のいく質量の果実だ。

 甘ったるい香りに鼻をくすぐられながら、少年は赤子の如くエルフに甘えていた。

 慰められているうちに抱き締められたい欲求が芽生えてきて、涙ながらに人肌を求めたところ『う、動かないと約束するならっ……ウンヌンカンヌン』と真っ赤になったレフィーヤがそれを実行してくれたのだ。

 

「レフィーヤさん、何やら可愛らしい声が……」

「気の所為(せい)です! 気の所為(せい)ですアミッドさぁん!?」

 

 というかどうしてそんなに落ち着いてるんですか!? ――と涙を潤ませながらレフィーヤは恨めしげな顔をした。

 その顔はベルからは見えなかったが、盗み見る余裕すら無い――心地良さが彼を溺れさせていく。

 桃色のパジャマ越しに感じられる胸の肉感。

 肢体は折れそうなほど細いのに、こんなにも(やわ)い。

 外見だけなら憧憬を上回る魅力すら感じさせる、お姉さんエルフの破壊力は抜群だった。

 今更ながら、ベルは頭を抱かれている。

 大切な友人であるアミッドさんを汚させるわけにはいきません――と高らかに宣言しつつ、レフィーヤは毛布の下で少年の体を抱え込んでいた。

 

「むごっ……レフィーヤさん、暑くないですか?」

「ひゃんっ!? ――と、突然(とつぜん)声を出さないで下さいっ!! この変態(ヘンタイ)!! ――人の好意につけ込む(クズ)!! ――変なことしたら二度としてあげませんからね!?」

「むぎゅう!?」

「――あひぃ!? こ、呼吸をしないで下さい!!」

「むごごごごっ!?」

 

 ――息が! 息ができない!!

 それは地獄(ヘル)であり天国(ヘヴン)だった。

 黙らせようと力が込められた両腕に白髪頭を拘束されながら、巻き起こるのは不可抗力。顔全体で美味しそうな果実を逆に押し潰す。

 ついでに下半身も苦しい、いや()()()()()()()()()

 押し負けた形で抱擁を恵んだがいいが、今や可愛らしい声を上げて慌てているエルフの少女。レフィーヤ・ウィリディス。彼女からは基本的に強気の対応かつ罵倒された経験しか持ちあせていないベルにとって、レフィーヤの醜態はギャップの塊であった。

 

「貴方達は……存外(ぞんがい)相性が良かったのではないですか?」

 

 更に色々と振り切れた果て。赤子のように甘え始めた少年を白い目で見つめる聖女様は、涼しい声でそんなことを言った。

 出会いさえ間違わなければ恋人にでもなっていたのではないか、と。

 その指摘に「はいっ!?」と更に顔を爆発させるのはレフィーヤである。ぎゅうぎゅうとベルの顔面を胸で圧潰しつつ、裏返(うらがえ)った声で大抗議する。

 

「有り得ません!! こんな男! 余りに哀れなので望みを聞いてあげているに過ぎませ……あぅぅっ!?」

「…………まあ、そういうことにしておきましょうか」

 

 少年の吐息(といき)程度で嬌声を上げる生娘を眺めながら、アミッドはすっと少年の背中に肢体を這わせた。

 何か思うところがあったのか。

 同じ女として夢中度に差が生じたことが心外だったのか、それはわからないが。いずれにしても、レフィーヤを上回る大きな果実は、少年の劣情を更に煽り立てるのに十分であった。

 

「ふぅっ……!? んぐぐ……っ」

「んぁ!? こらっ!? すりすりしないでくださ……ふあっ!?」

 

 可憐な妖精の谷間に挟まれながら、緩慢な動きで顔を左右させるベル。微々たる刺激がレフィーヤの嬌声を呼び起こす中、研ぎ澄まされた聴覚と前後からの刺激がベルの興奮を煽っていく。

 彼女達が自分を愛していたということはなく、この行為は単なる同情心から来る『ご褒美』。

 しかもこれは半強制的な同棲の中による出来事であり、意図せず与えられた立場を利用して美少女達に迫った屑野郎――それが現在の自分(ベル・クラネル)なわけだが、それでも止められなかった。

 一旦(いったん)顔を引き抜き、蕩けた顔でレフィーヤの涙顔を見つめる。

 

「ぷはっ……レフィーヤさぁん、良い匂い……僕、頑張って良かったかも」

「ちょ……ぁうっ!?」

 

 がばっっ!! と。

 今度は自分からエルフの胸に顔から飛び込み、更なる抱擁(ハグ)を懇願する。

 生まれて初めて女の胸を意図的に堪能している現実に、童貞の化身たる少年は昂りを我慢できない。

 

「やめ……落ち着きなさいってばぁ!? ――ふごっ、ひぃ……く、くすぐった……あひっ」

 

 あろうことか友人(アミッド)に見られながら、初心な妖精は早くも骨抜きになりかけている少年に()()()()()()()()()()()

 すりすり、すりすり、ぐりゅぐりゅ。

 意図せず乳房の先端を擦り、押し潰し続けるベルは妖精のいやらしい痙攣を感じた。

 レフィーヤは魅力的な肢体をくねらせながら耐え、しかし声を殺すが難しいのだろう。「ん、ん”……ん”ん”ん”ぅ……っ」、と酷くくぐもった悲鳴が密室の中に溶けていく中。

 口数の少なかったアミッドがここで動く。

 

「ベルさん、私は溺れるのが悪いとは思いません。私もレフィーヤさんも白く染まるのを待つばかりの身……無論、貴方もそれは同じですが」

 

 悲しいことですね、と言いながら少年の腰に両手を回す。

 薄紫色の瞳はやはり悲しそうな輝きを湛えており、ともすれば失意すらも滲んでいる。

 びくっと体を揺らすベルの耳元で「本当に悲しいです」と囁きながら、手を動かしていく。

 

「…………殿方として当然の欲求が満たされないのは、やはり哀れですから」

 

 毛布の中で蠢く少年の下半身。しゅるりと差し込まれる真っ白な右腕。妖艶な空気が寝室の中に充満していく。

 間もなく何かを擦るような音が鳴り始めるや否や、ベルの呼吸が荒くなり始めた。「きゃうっ」と可愛らしい悲鳴を上げたのはレフィーヤである。それもそのはずで、いよいよ理性が弾け飛んだベルは目の前の果実の誘惑に耐えられず、着衣ごとぺろぺろと舐め始めたのである。

 布の味しかしない筈なのに、それは甘美で。

 いつの間にか、逆にレフィーヤの背中に手を回したベルは、逃がさないとばかりに拘束して彼女の乳房に舌を這わせていった。

 

「ら、らめっ……ここまで許しては…………んふうっ!?」

 

 べろっ、べろっ、ずりゅ、べろっ、ずりゅ――桃色の着衣が唾液で僅かに透けていき、水分が白い下着までをも水浸しにしていく。

 ガクガクと痙攣するレフィーヤは虫の息。

 涎まで垂らして「やめてぇ」と懇願してくる妖精の相貌は、誰がどう見ても雌のそれだった。

 その顔をちらりと盗み見たベルは獣になる。

 ぽっかりと空いた胸の穴を埋めようと――あるいは寂しさを紛らわせようと――ともすれば死を経験して()()()()()が覚醒したかのように、ベルは歳上の妖精を夢中になって堪能した。

 汚らしい音を立てて寝着の乳袋を吸引し、乱暴な手つきで肉付きの良い尻を鷲掴みにして、ぐにゃりぐにゃりと変形させる。

 

「ひぎっ、や、やめ……添い寝ならこれからもしてあげましゅから――ひううううぅうぅっっっ!?」

「ぢゅるるるるる……ふぁぁ」

 

 が、獣と化した少年もまた嬌声を上げる。

 背後から肉棒を握られ、上下に(しご)かれているからだ。

 丁寧な動きが逆にじれったく、痛くないようにと優しい力加減はもどかしいばかり。

 それは報われぬ英雄を哀れんだ聖女の(なぐさ)め。

 

「本来であれば『穢らわしい』、と切り捨てるところですが……貴方の偉業と最期に敬意を評して…………癒して差し上げます」

「あああ……アミッドさぁん…………くはっ!? ――ぢゅるっ、じゅるるるるッッ!! ――あむっ」

「やめっ、っっ、ああああぁぁっ!? ――きゃんっっ!? ――んきゃぁっ!?」

 

 数え切れない程の者を癒してきた右腕にイチモツを慰めて貰い、その間、一方的に好敵手(ライバル)認定されていた美少女妖精の肢体を堪能し――ひたすらに美乳をしゃぶり回す。

 

「ふふ。こちらも慰めて差し上げます。――ベルさん、遠慮なさらずに甘えてご覧なさい」

 

 こんな事になった以上、芽生えた欲のままに溺れたとしても軽蔑はしません、と。

 落とされる甘言にベルは従う。

 そうして聖女の指が陰嚢袋に回された途端、本能的に肉棒本体は妖精の腹部へと一直線。臍の辺りにぐりぐりと押し付けて汚し、力の抜けた顔で抵抗するレフィーヤを凝視しながら腰を動かした。

 

「やっ、やけどしちゃ……むにゅぅっ!?」

「あむっ……レフィーヤさんのお腹、やわらかっ……「ベルさん、こちらも失礼致します」……ぁ、ぁ、ああっ!?」

 

 不意に耳を甘噛みされてベルは悶絶。くちゅくちゅといやらしい音を立ててしゃぶられ始める右の耳朶。献身的な聖女の舌使いにゾクゾクさせられながら陰嚢袋を揉みほぐされ、その上ではレフィーヤの腹に爆発寸前の肉棒を打ち付ける。

 ずりずりずりずり、ずりゅりゅっっ!!

 ひゅーひゅーと過呼吸気味になりながら、ベルは放心寸前のレフィーヤをがっしりと抱き締めた。

 ぐにゅっっ!! ずりゅっ!! ずりずりずり!! ずりゅずりゅずりゅりゅ!! ――どくんっ、どくっっっ――ぴゅっ、びゅっ、ぶりゅりゅりゅりゅっ!!

 獣の交尾のような動きで連打(ピストン)をかましたかと思えば、一気にそれを解き放った。

 

「あ、あ、ぁぁぁ……レフィーヤさん、ごめんなさい…………すっごく可愛くて、止まらなくて……うぁっ」

「ひ、やぁぁ……何、コレぇ…………あぢゅい、あぢゅいです……パジャマ、べとべとに……ぁぅ」

 

 ――どびゅるるっ、びゅっ

 

 最後はアミッドに絞り出されて一滴残らず吐き出したベルは、エルフの乳房に顔を埋めて倒れ込んだ。

 後に残るのは荒い呼吸で、聖女は穢れ切った右手で肉棒を扱き切り、片方の手で優しく彼の頭を撫でた。

 

「…………レフィーヤさん、満更ではないようですね?」

「ち、がぁいま……うっ」

「はぁ……私が居る意味はあったのでしょうか。――ベルさんではありませんが虚しくなって来ましたので、少し御手洗に行ってきます」

 

 暖炉を消しているというのに、聖女を除いた二名は汗だくで凄まじい熱を体から放ち続ける。

 それなりに好意的に思っている異性。男性に貪られる快感を知った妖精はともかく。

 他人に精を放つ味を知った少年は、彼女以上に止まらない。

 

「んちゅ…………あの、もっと、したいです」

「ふぇ? ――きゃあっ!?」

 

 思考がトんだ少年はすぐさま吸引音を漏らし始め、無抵抗になった妖精を貪り喰らう。

 手を洗いにベッドを立ったアミッドが、ふと振り返った視線の先。何かが引き裂かれる音がしたかと思えば、(あらわ)になった妖精の白肌に少年が夢中になって吸い付いていた。

 その姿はまさに、性の味を知った歳若き男女である。

 普段の気弱さは何処に行ってしまったのか。

 普段の毛嫌いっぷりは何処に消えてしまったのか。

 アミッドは両者に対して遠い目でそんなことを思ったが、それぞれの意味で夢中になった少年少女は聖女様の視線に気付かない。

 そうしている間にも陵辱まがいの乳繰り合いは加速していく。

 

「あ、ひっ!? あっ、あんっ……ち、ちくびっ……すわないで――らぁっっ!?」

 

 乳袋を破られたレフィーヤが可愛らしい悲鳴を上げながら、今度は生乳を問答無用で吸引されている。

 

 ――好みだと言うのは本当でしたか。

 

 まあ好みの美少女に欲情して対して拒まれなかったとしたら、歯止めが効かなくなるのも無理もない――かもしれない。

 異常()ぎる現実を前にして、遠い目をするアミッドはそんなことを思った。

 いやまあ自分達は死んでいるのだから何が起ころうが驚くつもりはなかったが、少年の変貌具合についてはびっくり仰天――雌と化した友人については何となく予感はしていたが、それでもびっくりであった。

 

「あ、あひっ……りゃめてぇっぅぅ……にゃにこれ、な、に、――ん、っ、んんんんんんんんんんんんっ!?」

 

 びく、びく、びくっっ!! ――びくびくびくっっ!!

 (とろ)けた顔で大絶叫――艶かしい大痙攣が繰り返される。同性から見ても美しい両脚をだらしなく開いて、レフィーヤは下着を水浸しにした。

 悲鳴と痙攣を繰り返すレフィーヤの腹の上、撒き散らされた白濁液が下方下方へと垂れていく。間もなく股ぐらに辿り着き、大洪水を起こしている下着(パンティ)ごと妖精の秘部へと染み込んでいった。

 

「…………はぁ」

 

 別にアミッドは彼のことが好きなわけでは無い。

 異性として愛しているわけでは()いのだが、なんだうこの扱いの差は。

 具体的には一介の女として感じるあれこれ。

 何とも言えない敗北感を味わわされながら、聖女様は穢れを落とすかの(ごと)く、洗面所から浴室へと舵を切り直すのであった。

 なお、喘ぎ声が鳴り止んだ翌朝。

 我に返ったベルが跳躍(ジャンピング)土下座をかまし、怒り狂った妖精に撲殺された後――全裸で雪山に放り出されるのはまた別の話である。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「4」

 子供(ベル)達の時間にして、あれから一週間が経った。

 男女の痴情が発生したものの、彼等は特に変わらなかった。

 グータラした後にご飯を食べて、お風呂に入って添い寝をして微睡(まどろ)み、朝を迎えての繰り返し。

 天界に来てからは変わらぬ日常に少しばかりの()が添えられ、『英雄』を目指していた少年は怠惰な日々を送っている。

 なお。

 生まれて初めて我を失い色に溺れた少年は、翌朝になって目を覚ますなり全裸で吹雪の中に放り出され、生死(?)を彷徨(さまよ)った末に救出されて事なきを得た――これはベルにとってもレフィーヤにとっても黒歴史となった。

 その顛末を耳にした彼の祖父は笑い転げたとか、腹をもたげて爆笑したとかいうのは、また別の話である。

 

 

「んん……」

 

 決してのどかとは言えない昼下がり、レフィーヤは甘痒い刺激を胸に受けて顔を歪めた。

 友人(アミッド)は居らず、個室に篭って本日は勉学に励んでいるのだとか――今更になって何を学んでいるのかは知らないが、幸か不幸か『神殿』には書物が大量に存在した。勤勉な聖女様はそれらを読み漁っているらしかった。

 片やレフィーヤは少年と娯楽(カードゲーム)に興じていたのだが、いつの間にやら甘えられてしまっている。

 寝台(ベッド)に腰を下ろした姿勢で尻の下には少年の膝があり、発情した兎が背後からべったりと抱きついていて離してくれない。

 白と赤の普段着(ローブ)の上から、柔らかい手つきで乳房が弄ばれている。レフィーヤは大袈裟に抵抗することはしない。散々(さんざん)舐められたり吸われたりしたし、こんなことになった以上は彼に報われて欲しいと思うのは嘘ではないから。

 

(意外にねちっこい……ん、異性と触れ合うって、こういう感じなのかな…………ティオネさんに話には聞いてたけど)

 

 女として求められる喜び――強くなることに夢中だったレフィーヤはそんなものを求めてはいなかった――そもそも考えている余裕すら無かったが、こうなってしまっては普通の女の子として過ごすのも悪くないと思う自分が居た。

 まあ昼間から胸を揉まれ匂いを嗅がれることが『普通の女の子』なのかはさておき、今生を終えた後に奇妙な縁とはいえ()()()()を共に過ごしていく知己の望みを叶えるのは吝かではなかった。

 不思議なことに、本気で求められることに対して嫌な気分にはならなかったというのもある。

 

(まあ可哀想なのは間違いないですし……かつての旧敵に夢中になられるというのも案外……うん、悪くないかもしれない)

 

 ただ、なんというかあれである。

 こういう形はかなり意外だったし、自分の容姿を女として意識されるとは夢にも思わなかったが。

 

「あの……これ、取っても良いですか?」

「……!」

 

 などと考えていたら、着衣の上から下着(ブラジャー)が摘まれた。器用にホックをカチカチと鳴らされて「ぅ……」と身震いさせられて、無言のままで放置したところ勝手に剥ぎ取られてしまった。

 かと思えば首から回された右手が胸元に差し込まれ、直に左の乳房を()でられてまた身震いする。

 

「ぅぅ……っ」

「凄く柔らかい……」

 

 着衣の下で嬲られ始める乳房。レフィーヤは体を強ばらせながらぐっと堪える。

 これが体は正直、ということなのか。

 こうして触られると普通に気持ち良いし、変な声が出てしまうのが恥ずかしい。

 

「……コリコリしてますね」

「ひゃあっ」

 

 口を抑えながら恥辱に堪えていると、突起を摘まれてぐりぐりされた。それと同時に股の下で硬いものが脈打って、レフィーヤは嬌声を上げてしまった。

 気持ち良いのは間違いないが、玩具にされるのは嫌だ。

 だから、かっと顔を赤らめながらも、背後に鋭い視線を飛ばしておいた。

 

「あ、貴方……最低ですね。一途が聞いて呆れます」

「…………」

「――きゃうっ!?」

 

 が、今度は両手を服の中に差し込まれて左右の乳房を同時に揉まれた。くんくんと髪の香りを嗅がれながら、襲われるように胸だけを攻撃される。

 早々に蕩けてしまいそうになる中で、思い出されるのはアミッドの言葉だ。

 ――あの子はかなり自棄(ヤケ)気味になっているようですので、本気で拒まなければとことん甘えてくるかと思います。

 ――後はそうですね、少し……いえ()()()本能的になられているようですので、彼らしくない一面が見られるかもしれませんよ。

 結論から言えば、その通りであった。

 

「ん……駄目です、もっとゆっくり……ひぃっ」

「すいません……でも、抑えが効かなくて……」

 

 哀れみの心。そして雪山に放り出したという罪悪感も手伝って、出来ることは可能な限りしてあげようと許容しているレフィーヤ。そこに真実の『愛』などはないわけだが――人としての好意はともかく『男女の愛』となるとまだ早い――彼はそれを悟りながら、彼らしくもなくそれでも手を出そうとする――実際にこうして甘えてくる。

 簡単な触れ合いだけで我慢出来るわけもなく、乳繰り合いに発展すれば益々もって少年は欲情して下半身を硬くするのだ。

 

「レフィーヤさぁん……」

「んく……だ、駄目ですよ! 本番はいけません! ――んうっ」

 

 ぱんぱんに膨れ上がった肉棒で、なぞるように尻を撫でられる。

 本番はナシ。

 その条件で甘えさせてやっているのだが、少年は興奮すると頻りに熱いモノをレフィーヤの尻に、腿に押し当てて来るのである。

 

(そもそも、こんなの、入るわけない)

 

 ごくりと唾を飲み込みつつ、捩じ込まれた瞬間を想像してゾクリとする。

 少年の外見から言って、もっと粗末なモノを想像していたのだがとんでもない。

 赤黒い肉の棒はレフィーヤのどの指よりも長く、そして太い。何度かお腹にぶちまけられた精液は火傷しそうなほどに熱く、汚し尽くそうとするかのように射精も長かった。

 聖女様は奉仕してあげたりもしていたが、レフィーヤにはできそうもない。噎せてしまうしそもそも口に入る自信がないからだ。汚いとかいう以前に凶悪過ぎて、少し怖い。

 

「そ、そもそも……あんなにアイズさん一筋だったのに」

「……ごめんなさい」

 

 何度目かもわからない指摘を受けて、しゅんと下半身ごと項垂れる少年はやはり生真面目だ。溺れるなら溺れるで笑い飛ばせば良いものを、彼は真に受けてしまうものだから気を使う。

 慌てて取り繕いつつ「すみません、詮無きことでした」と煤けた笑みを浮かべて慰める。

 ベル・クラネルは自分のために生きてきたようで、実のところ冒険者人生の大半を他人のために生きてきた――それは女の子であったり同性の友であったり、神様であったり、時には怪物であったりしたわけだが、結局のところ少年の望みは叶わず、最後に助けた女の子がどうなったのかもわからない。

 見届ける前にベルは絶命してしまったし、レフィーヤもまた最前線で共倒れになった。

 それらを踏まえた上で、最期のひと時くらいは欲望に忠実になったとしても、それは悪いことではないと思う。

 

「ま、まあ、アイズさんが毒牙にかからなかったと思えば、私が体を張る意味もあるというものです! なので気落ちする必要は……って、何をしても良いという意味ではありませんからね!?」

「あはは……わかってます。何ていうか、レフィーヤさんって優しかったんですね。いつも僕を撲殺しようとするから、怖い人かと思ってました」

「はぁ? 私はそもそも争い事は嫌いです。性格だって穏やかだと思いますが」

「ええ……?」

 

 直揉(じかも)みなどロキにすらさせたことのなかった乳房を堪能されながら、ベル・クラネルと言葉を交わしつつ互いに失笑する。

 出会いが最悪だったせいで色々と拗れてしまったが、ちゃんと話していれば案外分かり合える日は近かったのかもしれない――などと思えるほどには、何てことのない話をしながらグータラするのは心地よい時間だった。

 

「……って、話しながら……その、大きくしないで下さいよ」

「…………すいません、つい」

 

 さらには。密着するのも不思議と嫌いではなかったが、こうしていると肉棒がぱんぱんに膨れてしまうのが困りもの。

 少しだけ元気をなくしかけた少年の分身は、またしてもレフィーヤの尻を突き始める。

 互いの吐息が荒くなり、受ける視線が雌を見るそれに変わっていくのを否応なしに感じさせられる。

 この瞬間。

 彼はレフィーヤのことを友人ではなく(メス)として凝視しているのだ。

 

「レフィーヤさん、あの……握って欲しいんですけど……」

「……もう」

 

 代わる代わる処理してあげているというのに、彼の性欲はとどまるところを知らない。

 彼としてはレフィーヤにも咥えて欲しいらしいが、それは無理なので手を使っての奉仕に終始する。よいしょ、と細い脚を開いて少年の胸に背中を預けて準備完了。両腿の前で屹立している肉棒をズボンの中から取り出し、両手で包み込むようにして上下する。

 

「ぅぁ……きもちい」

「……」

 

 胸を揉まれる速度が早まっていく中、扱きを施す速度もまた上げていく。

 びくんびくん脈打つペニス。

 切なげに悶絶する少年は、少しばかり可愛らしく見えた。

 蛇のような口先から溢れ出す、べっとべとの我慢汁。頭がぼーっとする濃厚な香りを振りまきながらレフィーヤの両手を汚していく。

 本当に(ただ)れているなと思うけど、知ったことかと開き直る。

 最期の最期まで報われないのは可哀想だから――哀れだから気持ちよくしてやっているだけだ――これは断じて自分(レフィーヤ)が望んでいることではない。

 

「……ん、ぁ…………ふうっ」

 

 突如として、無言で股を撫で回されて変な声が出た。

 桃色のスカートが膝上まで捲られているが、特に抵抗はせずに受け入れる。

 頭がぼーっとして怒る気にもなれなかった。

 無心でグロテスクな肉の棒を握り締め、じゅりじゅりと上下運動させ続ける。

 

「レフィーヤさん、やっぱり優しい……」

「……ふぇ?」

 

 握られた右の乳房が変形させられ、開いた脚の間を少年の五指が撫で回してくる。

 すりすり。

 くちゅっ。

 ずっっ、ぬぷ、ぬぷ、くりっ。

 己の下半身から卑猥な音が鳴る度、握り締めている肉棒が熱を帯び、そしてレフィーヤは快楽の波に襲われた。

 

「ちょっ!? い、入れないで……はひいっ!?」

 

 儚げに瞳を潤ませて抗議するが聞いて貰えず、中指の関節までを中に差し込まれて悶絶――ほじくられながら肉棒を触り続けるうち、気が狂いそうな快楽に頭を振って声を荒らげる。

 

「ふっ……やっ、ぐりぐりしないでくださっ……んぎゅっ!?」

「レフィーヤさん、声、すっごく可愛いです……!」

「んひっ!? ――にゃあっ!?」

 

 そして襲ってきた刺激はあろうことか右耳から。エルフの耳をはむはむと甘噛みされながら、レフィーヤは秘部を中指でほじくられ続ける。ぐちゅぐちゅと音を立てて掻き出される愛液は、直ぐに大洪水となり下着ごと少年のズボンに染みを作っていく。

 

「あっ、あっ、らめっ、みみぃっ、なめちゃ……んんんんんっ、りゃめっ、りゃめへ……っ」

 

 それは羞恥か悦びか。

 いつしか手を止めたレフィーヤは愛撫を完全に受け入れ、されるがままになり、きゅっと少年の指を締め上げた。

 だらしなく両脚を開いて海老反りの姿勢。そのまま少年の胸に背中を預け、彼の雄の本能のままに弄ばれた。

 

「ひっ、う」

「す……すごい、レフィーヤさん。こんなにえっちだったんだ」

 

 長く白い靴下(ニーソ)にまで愛液が垂れていき、濡れて透ける。

 柔い肢体はところどこが剥き出しになっていて、そのどれもが少年の性欲を刺激するばかり。

 唾を飲み込み可憐な妖精を絡め取る少年。

 片や、後ろ向きで抱き抱えられながら放心するレフィーヤは、反り立つ肉棒をぼうっと見つめた。

 

「レフィーヤさん……っ、僕、ちょっと苦しくて……!」

「ふぇ……?」

「少し、動かします……ごめんなさいっ」

「ん……うぅっ!? や、やあっ!? らめらめっ、まってぇ!?」

 

 ずりゅずりゅ――レフィーヤが手での扱きを中断してしまったために、今度は自ら股にソレを押し当てて快楽を得ようとする少年。

 悲鳴を上げるレフィーヤはしかし体に力が入らず、また秘部に与えられる強烈な刺激によって喘ぐことしかできない。

 腰を掴まれたまま体を上下させられた後、先端を下着に擦り付けられ、ぐいっっと。

 

「――んああっ!?」 

「……ふっ!!」

「ひゃうっ!?」

 

 ずりゅずりゅ、ずりっ、ぐちゅっ――禍々(まがまが)しい肉棒が股の間に触れる度、レフィーヤは雌の声で悲鳴を上げた。

 挿入はされない。

 捩じ込まれることはないのだが、下着ごと秘部の入口付近が自慰の道具に成り果てている。

 屈辱、あるいは恥辱。

 しかしこんな時でも同情心やら何やらが手伝って、声を大にして非難することはできず、不本意な快楽まで感じさせられてしまう苦痛。

 ぐりぐりぐりぐりぐり――ぶるんっ!!

 まるで意志を持った生き物のように暴れ回る肉の棒は、間もなく大きく跳ね上がり、そして大爆発を起こした。

 

「ぁ、ぁ……いくっ」

「う、ううううう……っ」

 

 痛いほどに腰を抱き締められながら、出来たての白濁液をびゅるびゅると下半身に打ち付けられる。

 漂ってくるのは、頭がおかしくなるほど濃厚な雄の香り。

 乱暴に胸をまさぐられながら精液を脚にぶちまけられ、レフィーヤは恍惚とした表情で絶叫した。

 

「――も、もう出さないでぇっ、あつっ!? んん……あ、あぢゅいっ……火傷しちゃいますっ!?」

 

 どくどくどく。ふーっ、ふぅーっ、どくどくどく――と。

 獣のように鼻息を荒くしながら、レフィーヤ向けて吐き出される汚らしい劣状の欠片。

 赤黒く充血した肉棒が暴れる様から、未経験の妖精は目が離せない――その虚ろなる紺碧色の視線の先。

 濁った白色の液体が粘つき、妖精の下半身をぐちょぐちょに汚した。

 

「はーっ、はーっ、はぁ……っ……れ、レフィーヤさぁんっ」

「ひうっ!? ――こ、こらっ、キスはNGですっ!! ひゃあっ!?」

 

 不意に近付いてきた唇を慌てて回避するレフィーヤは、しかし逸れた唇に肩を吸われて悶絶。気が付けば服が脱がされており、押し倒されて今度は乳房をぢゅるぢゅると吸引される。

 

「あひっ、あへっ……ら、らめへ…………んぎゅうっ!?」

 

 じたばたと暴れさせる脚を天井に突き出す、快楽に負けた無様(ブサマ)かつ淫乱な姿勢。

 これは生前の聖人ぶりの反動なのか。

 行為に没頭する時の少年は、時を追うごとに精力を増しており、そのほとんど全てを好みの妖精(じぶん)に打ち付けてきた。

 

「あんっ、や……やっ、んふっ、うえっ……ま、また大きくっ!?」

 

 どぴゅるるるっ!! ――ごりゅごりゅと擦り付けられていた肉棒が爆発して、今度は「きゃあっ!?」と可愛らしい悲鳴を上書きして、胸の谷間に突き刺された――そのままどくどくと注がれる。

 女性の象徴までもが自慰行為に利用される。

 こうして喘いでいるのも良くないのだろう。不本意ながら気持ちよくなっているのがバレているから、彼は罪悪感が薄れているのかもしれない――レフィーヤは人形のように肢体を使われながら、そんなことを思った。

 

「はっ、はっ、はっ……ご、ごめんなさい…………汚しちゃって」

「…………あ、貴方っ、本当に最低ですね!?」

 

 疲れ果てて肩を並べてベッドに倒れ込んだ後、はっと我に返ったように平謝りを繰り返してくる愚かな兎。

 レフィーヤは子宮をじんじんと疼かせながら、ちっとも憎悪の感じられない罵倒を繰り返した。

 添い寝だけだと思っていたら胸に悪戯を繰り返され、自慰の手伝いをさせられ、今日に関しては秘部を指で掻き回されてしまった。

 拙い指使いに翻弄され、イカされた。

 冷静な頭の中で状況を整理しつつ、レフィーヤは羞恥と怒りに震えた。

 

「――今後っ、指で掻き回すのは禁止です!? この変態っ!!」

「は、はひっ……」

 

 ここまでしておいて何を自分は言っているのだろう――笑いそうになりながら、レフィーヤは高々と宣言した。

 そして思った。

 男性というのは、こんなにも性欲に溢れた生き物だったのか、と。

 他の人がどんな感じなのかわからないから何とも言えないが、彼に関してはこうして吐き出したとしても再勃起(インターバル)が短い……ような気がする。

 つまるところ性欲が凄まじいように思えたのだ。

 これまでレフィーヤは『えっちなんて、一日に一度でも多過ぎるんじゃあ?』なんて考えていたのだが――とんでもなかった。

 少年に自覚はないようだが、この調子で本番に突入したりしたら――

 

(……壊される)

 

 漸く落ち着きを取り戻した凶悪な肉棒。それに串刺しにされ続けて耐えられる自信は、残念ながらなかった。

 そしてそのように考え不安になっていたのは、知己の少女も同じだった。

 

 

「……」

 

 その夜。

 疲れ果てたレフィーヤは『すいません、私は相手をできそうにないので……』と一人用の個室に向かってしまい、本日の添い寝は聖女様が担当することになったのだが、そこで彼女は驚愕させられることになる。

 

「く、ふう……アミッドさん、もう許して……」

「発散しておいて頂けねば、おちおち寝てもいられません。また再勃起しているようですから、早く出して下さい」

 

 言いつつ唾を飲み込むアミッド。その反応も当然で、都合五度の手抜きを繰り返しても尚、少年の性欲はとどまるところを知らなかったのだ。

 恐ろしいほどの性欲。

 兎は繁殖に熱心だと聞くが、まさかここまでだとは思ってもみなかったのである。

 しかも。

 

「ベルさん……日に日に性欲が増してはおられませんか?」

「あぅ……そうかも…………でもっ、無理ですよこんな生活っ!?」

 

 正確には、こんな誘惑だらけの生活が無理らしいが、アミッドはその言葉を以前の彼に聞かせてやりたい心地であった。

 美少女に囲まれての生活など、まんま【ファミリア】での日々だったであろうに。

 それが自分とレフィーヤに変わったところでこうも爛れ、性欲に塗れるとはどういう了見なのか。

 死んだことによる心境の変化。

 憧憬と結ばれることがなくなったことによる自棄(ヤケ)、あるいは諦観から生み出される退廃的な思考――そういう風に考えれば納得はできるが、以前の彼を知る者としては侮蔑などよりも余程(よほど)心配になってしまう。

 

「そうですか…………まあ良いです。あむ……んぐ。ぢゅっ、ぢゅっ」

「あぁっ……アミッドさんのおしゃぶり……っ」

「んんっ! ん〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

 妙なことを口走らないで下さい!! ――その声は言葉にならないが、聖女は肉棒の中頃までを咥えたままで非難の瞳を少年に送った。

 気持ち良いと言ってはばからない裏筋に軽く歯を当て、その後に治療するように優しく舌で包み込む。

 この棒が穢らしいとは思わないが、代わりに自らのことを卑猥だと評してしまうアミッド。

 

「……んごっ、んむう……じゅるる」

 

 ちら、と部屋の姿見を見やったところで更なる羞恥が聖女を襲う。

 好意的に思っていたとは言え、しかし愛していない男の性器を頬張って尻を振る女がそこには居た。

 片やベルはと言えば、ゆさゆさと銀髪を撫で回しながら、気持ちよさそうに仰け反りながら聖女のご奉仕に打ち震えていた。

 

『今の貴方は抑えが効いていない様ですので、襲われる前に発散して頂きます』

『…………』

『ベルさん?』

『そ、それなら……あのっ、アミッドさんにお願いしたいことが……っていうか……その』

 

 そのような流れで吐き出させてあげているわけだが、微妙に触られて感じさせられながらほぼ一方的に満足させるだけの行為。

 献身的と言えば聞こえはよいが、これなら徹夜で怪我を癒す方が何倍も楽だった。

 優しく頭を撫でられながら熱い性器に頬の肉を絡めていると、嫌でも想像させられてしまう。

 

「れろれろれろ……んっ、ぷはっ…………ふう」

「うぁ……休憩…………ですか?」

 

 咥えることをやめた途端に注がれる物欲しそうな視線――繰り出された問いに答えることなく無言で肉棒を握り締め、聖女はしこしこと上下運動させる。

 犬のように這いつくばったまま体は横向き、少年の腰にへばりつくようにして両手で膣の形を真似て、じゅぽじゅぽとご奉仕する。

 

「……あの、お尻……撫でても良いですか? アミッドさんのこと触りたくて」

「…………ご自由に」

 

 無気力に答えつつ、次には「ぐっ……」と羞恥を感じ襲ってくる刺激に鳥肌を立てる。気持ち悪いわけではなく、じれったい撫で方に雌を刺激されているだけだ。そう――愛していなくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ふ……うっ……よく、我慢なさいますね……っ」

「ぅ……な、なにがですか……っ?」

「普通の殿方であれば、犯して手篭めにでもしたくなるものかと……ん」

「……ごくっ」

「…………」

 

 その反面で、猛獣のような眼差しを不意に向けられたりすれば、涼しい顔ばかりしている――などと一部から揶揄されていた銀の聖女とて雌が疼く。

 こちとら理性的に奉仕しているからこそ、こうももどかしいし懊悩とさせられてしまうのだ。

 少年にあるまじき()()()()()視線を向けられながら、聖女はまた肉棒に『ちゅっ』と口付けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「幕間」

今回は短めです。


 外は今日も雪かあ。

 寝室に設置された暖炉の前で眠気を覚えながら、ベルはそんなことを思った。

 ぼんやり眺めた窓の外は今日も雪。

 天界にも四季があると聞いたことはあるけれど、この『冬』が終わる瞬間は訪れるのだろうか。

 

「……くぁ」

 

 だらしのない欠伸(あくび)の音が響く。

 どういうわけかこんなにも眠い。

 睡眠は十分に取っている筈なのだが、眠くて眠くて仕方がなかった。

 ここ数日、いつにも増して締まりがないのは感じてはいたが、だからと言って昼間から老人のように窓際で『くあぁ……』というのはどうなのか。

 ベルは腑抜(ふぬ)けた顔でしかめっ面になるという、微妙に器用な真似をした。

 

「変われば変わるものですね」

 

 隣から声がした。ふと振り返ると、厚い本を開いた聡明そうな少女が読書に(ふけ)っている。

 今日の服装は修道着――とは言ってもやけに露出の多いもので、動く度に見えそうになる下半身など誘惑しているように見えなくもない。

 暇を持て余した少女二名は連日(れんじつ)着せ替えを楽しむようになっていた――。

 

「すいません」

「謝ることではありません。果たすべき義務などもとっくに失っているわけですから、どのように過ごそうが問題ないかと」

「ですよねぇ。因みにその服って……」

「倉庫に放り投げられていたものを拝借しました。説明書きには偉大な聖女が身につけていたもの……と」 

 

 説明書きってナニ?

 そんなベルの疑問を他所に、アミッドは「疑問は持たないようにしました」と脳内を読み取ったように答えを返してきた。

 元来(がんらい)すぐ顔に出る少年の思考は、無防備を晒し続けていることもあり今やほとんど筒抜けである。

 

「ふああ……」

「眠いのであれば、昼寝でもしてみたら如何(いかが)ですか? ……ふう」

 

 触り心地の良い銀髪を耳にかけて、ふうっと吐息を零す聖女様。

 ずっと本を読んでいるが、疲れたりはしないのだろうか。

 

「後読感の良いものであれば、疲れも心地良いものですよ」

「そういうものですか……」

「そういうものですね」

  

 また思考を読まれた。

 別に嫌な訳では()いし、何なら理解し合えているような気がして嬉しかったりするのだが、その反面で怖さもある。

 たとえば。

 知られたくない部分まで見透かされてしまい、居た堪れなくなるという恐怖。まあ恐ろしいなどとは言い過ぎかもしれないが、単純に知って欲しくない内情まで察せられてしまっては、(いささ)か居心地が悪くなるのである。

 

「ところで。ここ数日の夜の()()は私ばかりですね」

「……そ、そうですね」

「レフィーヤさんは()()()鍛錬など始められたせいで、彼女は疲れて寝てしまいますし」

「……」

 

 今となっては何て事の()い雑談の中で、そっと目を背けるベル。

 

「まあそれは良いのです、ただ気になることが」

「……」

「初めの数日は吐き出すばかりだったと記憶しておりますが、昨日もその前日も、(わたくし)延々(えんえん)と触られ続けるばかり。奉仕されるよりもそちらに夢中になっておられるように見えます」

「……ぎく」

「そこで私は感じました。ベルさんが何か良からぬことを企んでいるような雰囲気を……」

 

 いやいやいや! とベルはここで声を上げる。

 汗はダラダラ。呼吸もおかしくしながら、焦りまくった顔で自己保身に走る。

 

「ち、違うんです!」

「何がですか」

「楽しいとかじゃなくて、アミッドさんが気持ちよさそうなのを見ると僕も嬉しくて……それで、つい頑張っちゃったというか」

「…………単なる生理的反応です。反射とも言いますが、いずれにせよ、あれでは逆効果だということはお分かりにならないのですか?」

「……へ?」

 

 企みなんて濡れ衣だ!! ――とは叫ばなかったものの、ベルは言葉を選びつつ弁解していった。

 が、この少年はやはり言葉足らずかつ努力の空回りが凄まじい。

 きちんと『悦んで貰えるのが嬉しい』と言葉に出して伝えてみたのだが、それは逆効果――聖女様はぷいっと顔を背けてしまった。

 そんな彼女が心配になって。

 何か悪いことをしてしまったのだろうか、などとネジの外れた発言をかましたところ、それも逆効果――聖女様は冷たい瞳で睨みつけてきた。

 

「…………とにかく、私の中に延々(えんえん)指を差し込むのはおやめになって下さい。あれは…………良くありません」

「それは……アミッドさんが嫌なことはしませんけど」

「私は拒否した筈ですが」

「二度としませんっ」

 

 そして()()()()真顔で釘を刺されたベルは、何の気なしに了承したのだった。

 彼女の真意を見事に捉え損ね、きっと――秘部を弄られるのが単純に嫌なのだろうと、そう思って。

 

「…………頃合(ころあ)いですかね」

 

 片や、そっぽを向く聖女の声色は冷静沈着。しかし薄紫色の瞳には妖しい光が宿っていて。

 

「……して……この……な…………変態」

 

 ぼそぼそと(つぶや)かれた言葉の意味に、不埒な期待を抱く少年は確かに大人になっていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「5」

 死んでしまえば『英雄』も『凡人』も、『悪』も『正義』も関係ない。

 待っているのは平等に施される洗浄だ。

 魂が天に還る時、自分(ヒト)という存在は漂白の狭間に放り込まれ、そして何もかも忘れていくのだ。

 それは救済である一方で、酷い仕打ちであるとも取る事ができた。

 悪人は救われて満足だろうが、それなら身を削って世界に尽くした者は報われ()さすぎるのではなかろうか――。

 

 ご褒美も何もないままに全てを忘れ、否応なしに次ぎの生を待たされる。

 世界に尽くした英雄も、それに連なる者達も、死ねば最後は例外なく。

 忘却の狭間で白く()まることを強要されるのだ。 

 

 

「…………はぐ……っ」

 

 まあ、現在のアミッドは別の意味で真っ白に染め上げられているわけだが。

 

「……ご……きゅっ」

 

 司教服なる着衣の胸元に、飲み干せなかった白濁液が垂れ流されていく。

 それだけではなく、銀の髪も、万人を救ってきた両手も、癒しの歌を唱えてきた喉も、儚げて美しいと称えられた相貌も、全てが白い性に汚れている。

 今宵の伽を開始してから数時間、アミッドは体の至る所で射精を受け止め、今やどろどろに汚されてしまっていた。

 こきゅっ、と(のど)を鳴らした後に口から肉棒を引き抜き、恨めしげな瞳で少年を見上げる。

 その眼差しは『いい加減にして下さい』――そんな意図が見え隠れする非難の視線である。

 仁王立ちで果てている兎は絶倫だった。

 絶頂せど絶頂せど、彼の性根はむくむくと起き上がり、自分勝手に欲望を吐き出し続けるのだ。

 

「アミッドさん……しゅごい」

 

 ――しゅごいじゃねーよ。

 半ば怒れるアミッドは危うく人格(キャラ)崩壊を起こしそうになった。

 優しくされているうちはまだ許せたのだが、先程は遂に振り切れたのか()()()()()()()()()()()()()()。初体験もまだだというのに、有無を言わさず喉の奥まで突っ込まれたのである。

 

「…………余程(よほど)我を失っていたとお見受けしますが、(わたくし)は知りませんでした」

「な、何をですか……っ」

「性の対象として欲情されていたなど、生前の様子からはとても……」

「いや違うんです!!」

 

 ナデナデ――優しく頭を撫でながら、少年は言い訳を連発して来る。

 やれ、そんな目で見たことなど一度もない。

 やれ、聖女様にそんなこと、おこがましい。

 やれ、アミッドさんは天使なので、やっぱりおこがましい。

 やれ、大切な仲間を性の対象だなんて、などなどなど。

 全てを聞き届けてから、アミッドは肉棒の先端を指で突いた。

 

「ふうっ……!?」

 

 男の嬌声。直ぐにむくむく起き上がろうとする少年の性根。

 膨張の最中で痙攣する肉棒。

 握り締めた後に睥睨(へいげい)しながら、アミッドは言葉を続ける。

 

(わたくし)()()()()()()興奮しているのは、どこの誰ですか」

「それはっ、だって、可愛いんですもん!」

 

 何やら振り切れすぎた少年は誤魔化すように抱き着いて来る。

 彼らしくもない男の動作。背後に回ると両手でがっしりと抱擁してきた。けれど紳士ではない。湧き上がる興奮を自分でも抑えられないのか、小柄なアミッドの肢体に男の体を擦り付け、司教服の乳袋の中を乱暴にまさぐってきた。

 

「く……なんと乱暴……なっ」

「アミッドさんの『御奉仕』がとっても優しくて、僕……僕っ!!」

 

 睾丸袋まで丁寧(ていねい)に啄んで上げたことが、彼の本能に火をつけたらしい。

 それは隠されていた雄の覚醒。

 あるいは生から解き放たれたことによる『変質』なのかもしれなかった。

 以前の少年なら決してしなかったであろう、雌を雌として扱う乱暴かつ愛に溢れた行為。

 

「んちゅ……」

「耳とは、また……っ」

 

 平静を装っていなそうとするアミッドは、しかし背中を汗で濡らした。

 雌を舐める舌遣いが責め立ててきたからだ。

 異性としてではなく、彼は手のかかる弟程度(ていど)。しかし好感は抱いていた少年に、乳房を握り締められているからだ。

 

「く、ふ、……執拗……なっ」

 

 着衣の中で胸を潰され、右の耳をちろちろと舐め上げられる。

 しかしこれだけなら耐えることも――そう思って力んだ聖女は次の瞬間悶絶(もんぜつ)する。身体中を走り抜けたのは閃光だ。雷を落とされたような衝撃が脳髄を破壊し、アミッドは「かはっ」と情けない声を上げて体をくねらせた。

 儚げな睫毛が涙に濡れる中、少年の口は相変わらず右耳をしゃぶり続け、左手は左の乳房を――そして右手は()()()()()()()

 

「……! こ、これはいけませんと……っ、ああっ」

「アミッドさん、小さくて可愛い……!」

「――んぐっ」

 

 高揚を露にする少年によって絡め取られる。今度は胸を握っていた五指が顔の前まで移動してきて、そのまま押し込まれて咥えさせられる。

 口淫を強いられるかの如く指を舐めさせられ、抗議の声を上げることすらできない。

 少年の指を唾液まみれに汚しながら、もう片方の手を愛液まみれに汚すアミッド。そうしている間にも尻の上をこんこん、と復活した肉棒が連打(ノック)してきて、アミッドは犯されているような錯覚を覚えた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

 

 じゅぽじゅぽと指を出し入れされながら、延々と秘部をほじくられる。

 アミッドが痙攣する度に少年は昂り、アミッドが涙を流す度に少年は更に昂った。彼の興奮が肉棒越しに伝わってきて、聖女は己が犯すべき対象として定められたことを悟る。

 拒否はできない。

 なぜなら既に彼は知っている。

 あらんばかりに指を締め付けている肉壁が、どんな欲求を意味しているのか。

 

「アミッドさん、ごめんなさい」

「…………んぶっ!?」  

 

 指が引き抜かれたかと思えば力を込めて振り向かされ、そのまま強引に濃厚接吻(ディープキス)への突入を強いられる。

 秘部を摘まれながら唾液を交換する。

 鼻先に感じるのは荒い呼吸だ。獣のような鼻息をかけられながら、アミッドは凌辱される。

 ぴちゃぴちゃぴちゃ。

 舌をしゃぶられ絡め取られたまま、僅かに浮かされる小さな体。

 

「ん……く」

 

 気がつけば少年の両手は腰に回されており、キスを拒もうとすればできないことはなかった。けれど聖女は舌を止められない。浅ましいと理解していながら、口から、秘部から、溢れ出る液体を止めることは叶わない。

 

「ん……っ……ひゅっ……っ」

 

 べとべとの肉棒に股を連打(ノック)されながら、指で奥をほじくられる。

 数多の男に盗み見されてきた、むっちりとした脚の肉。それは今や、少年の快感を高めるための道具だった。

 ぢゅるるるる。

 はむっ。

 数多の男が舌なめずりした聖女の唇。それは今や、少年に好き勝手吸われるための玩具だった。 

 乱暴かつじれったい愛撫。

 聖女の澄まし顔が赤く染まり、ほじくられている腰がカタカタと震え出す。

 

「むぷ……っ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

「ぷはっ……アミッドさん。こういうの、大洪水って言うんですっけ……?」

「――――――――ッッッ」

 

 唇が開放されるも、それは聖女に更なる責め苦を与えるための前準備だった。

 今度はねっちょりと右の耳を舐め上げられ、かと思えばほじくる指の本数を追加、これみよがしに肉棒を脚にこすりつけながら、彼はアミッドの秘部事情を囁いてきた。

 聖女を襲う凄まじい羞恥。

 理性が振り切れた少年はアミッドを悦ばせようと、()()()()()()()()()

 夜を重ねるうちに聖女の女を知ったのだろう。

 澄まし顔の奥に隠された、憎からず思っている雄にモノにされたいという願望に。極めて好意的な雄の視線を独占し、雌として(しつけ)られることへの羨望に。

 アミッド自身知らなかった、堕ちる愉悦。

 それを彼は本能的に感じ取って、ヨガる聖女を見て興奮しているのだ。

 こういったことではらしくない攻め手に回り、虐めてくるようになってしまったのだ。

 

 ――ずりゅ、ずりゅっ、ぐりぐりぐりっ!!

 

 指の第二関節まで引き抜き、一気に二本まとめて奥へと差し込む。

 そしてまた引き抜き、動きが止まる。

 焦らしプレイ。

 アミッドは追いかけるように腰を振らされる。

 いや自ら肢体を上下させてしまう。

 

「うぁ……う、う……ああっ」

「アミッドさん、綺麗です」

「……ッッ……ああっ!?」

 

 少年の指は完全に動きを止め、人差し指と中指が直立不動で待機しているのみ。

 ちょうど腰の上で突き出している少年の右手へと、アミッドは勢い良く臀を落とし、持ち上げ、またどちゅんと落下させる。

 羞恥と理性は本能には勝てず。

 きっと目尻を吊り上げながらも聖女は淫らにヨガり狂ってしまい、けれど。アミッドはどうにか静かに済ませようと涙を流しながら耐えている

 

「……アミッドさんが気持ちよくなったら、次はこれでしても良いですか?」

「っ!?」

 

 耐えているつもりだったが、不意打ちで『本番』を意識させられ、聖女の理性が蕩ける。

 何時間にも渡る気が狂うような愛撫。

 その果てに彼はしたいと言ってきたのだ。

 

「あ、あ、あ……」

「上から抱きしめて、アミッドさんに突っ込みたいんです……駄目ですか?」

「〜〜〜っっ」

 

 妙なスイッチが入った少年の破壊力は、いっそ恐ろしい程だった。

 しかも意地悪なことに、聖女の様子が明らかに変わったことを察した彼は、止めていた右手を急上昇させた。

 ぬぷっと音を立てて奥までアミッドを串刺しにし、ほじくり回した。

 目をかっ開いて逃れようとする聖女の体を抱き締めて拘束し、そして強引に押し込まれる三本目の指。

 限界。

 

「〜〜っ……っ……っ……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ」

 

 聖女は頭の中が真っ白になった。

 びくんっ、びくんっ、びちゃびちゃびちゃびちゃっっっと。

 美乳を見せつけるように少年の顔の前で肢体を思い切り仰け反らせ、派手に痙攣、待ち受ける肉棒の上に愛液を撒き散らした。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「6」

聖女様を性女様にしてしまおうシリーズ。


 (メス)になったことがない女ほど、振り切れた時ほど豹変度合(ひょうへんどあ)いは凄まじい。

 聖女としての責務、体裁、恥、弾け飛ぶ。 

 行為に没頭するなど浅ましいと考えていたのは、単に知らなかっただけだと体に教えこまれる。

 思い返せば、この少年との上下関係は常に自分が優位に立っていた。別に偉ぶりたかったわけではないが、互いの性格と立ち位置がそうさせていたし、凄いけど手がかかる人、という認識を抱いていたから。

 だから異性としてどうこうは殆ど意識したことはなかった……筈なのだが、そこに『情』が差し込まれるだけでこうも変わるものなのか――――アミッドは苦々しげに顔を歪めながら、走馬灯を見た。

 

「あ、あぁ…………くぅ!?」

「アミッドさん……アミッドさんっ!!」

「きゃひぃ!?」

 

 乗っていた筈の体はいつの間にか逆転し、小柄な聖女を押し潰すようにベルの体が覆い被さる。真っ白な腿に手を添えて指を食い込ませ、充血した肉棒を聖女の股ぐらに押し込んでは引き抜く。

 無遠慮に尻を掴んで引き寄せる。

 着衣を剥ぎ取り乳房を(むさぼ)る。

 口を大きく開きながら両手で顔を隠し「やっ」と拒否の言葉を連呼するアミッドを見て、()()()()()()

 

「アミッドさん、こっち!」

「ふえ……むぎゅうっ!?」

 

 抱き起こし頭を撫でたのも束の間。

 ギリギリと音を立てながら、壊れそうなほどに抱き締め悲鳴を上げさせた。

 次には豊満かつ透明感(あふ)れる乳房に口を押し付け執拗に吸い上げた。

 向かい合ったまま夢中になって聖女の子宮を串刺しにした。

 ばちゅんばちゅん! とんとん、どちゅっっ!!

 拘束され、乳首を舌で転がされながら下腹部を滅茶苦茶(めちゃくちゃ)にされる聖女が狂う。

 

「んああっ!? やめ、やめっ、〜〜〜〜〜んっ、けほっ、ひゃい、いっ、んぎゅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」

 

 小柄な肢体が凶悪な肉棒で何度も何度も(えぐ)られる。

 腰と腰が上手く絡む姿勢が挿入を円滑(スムーズ)にし、容易に最奥を叩き潰されていく。

 そしておもむろに少年が動きを止めた次には、どぴゅるどぴゅると子種を(ナカ)に撒き散らされる。

 堪らず両手両足でベルに抱き着くアミッドは、しかし休憩する暇など与えて貰えない。

 

「――ひぃっ!?」

 

 アミッドの相貌が悦楽と恐怖でごちゃ混ぜになる。

 薄紫色の瞳の中、見えていた景色が高速移動して、直ぐに天井が映し出された――突き飛ばされ、押し倒されたのだと悟るも遅い。

 襲いかかるように体を重ねてきたベルの股間がずりあてられ、また貫かれた。

 

「ぎゃんっ!?」

「っ……」

 

 はしたなく獣のような悲鳴を上げて悶絶する聖女に、もはや聡明さも淑やかさも残っては居なかった。

 潤んだ瞳で逃げるように視線をさ迷わさたアミッドは、見てしまった。

 部屋に置かれた姿見の中。

 獰猛に女を喰らう一人の雄を。その下で股を開き、(しつ)けられている一人の(メス)を。

 ぐっちょん! ぱんっ! ぱんっ!!

 ベルの腰が浮いたかと思えば斜め下へと高速移動。接合部分が桜色に染まるほどに執拗な圧潰(プレス)は、アミッドの小柄な体を文字通り押し潰し続けた。

 専用の形に拡張されていく膣。

 無遠慮な精根と何度もキスを交わす子宮の口。

 ――(うつ)ろになっていく薄紫色の瞳。

 快感が止まらぬ波のように襲って来て、聖女は性女に堕とされる。

 いやらしく両足で少年の腰を抱え込み、首に手を回し、「あふ……ひぃ……ふ……ぅっ、れぇっ」と次第に声にならなくなる喘ぎ声を漏らしながら、頻りに彼の顔を舐め回す。

 

「はあ……はあっ、アミッドさんっ」

「……」

 

 熱い瞳で見つめられる聖女は赤くなり、ぷいっと顔を背ける――直ぐに目を見開いて「ああっ!?」と海老反りになった。

 突如として膨張した肉棒が脈打ち暴れ、彼は抜くどころか奥の奥までほじくり回しながら、どぴゅるるるるるるるるっ、と欲望のままに種付けしたのだ。

 それは海老反りにもなる。

 どくどくと注がれる異物感から逃れようと体をよじらせるも、潰されそうなほど強く抱きしめられていて逃げられない。そもそも乗られて襲われているのでアミッドの腕力では振り払えない。

 

「ひぃ……あ……ぎ……ぃっ……」

「ん、ちゅ……アミッドさん、可愛い……っ!」

「ひぅっ、ぃぁへっ!?」

 

 ずるりっと音を立てて肉棒が引き抜かれたかと思えば、今度は体を反転させられて背後から。

 まるで経験豊富な男性のように。

 貞淑な娘を弄ぶ悪魔のように。

 後ろから乳房を鷲掴みにされ、前後に肢体を移動(ストローク)させられる。

 ぱんっ! ぱんっ! ぱんぱんぱんっ!!

 真っ赤に充血した膣に再勃起した肉棒をねじ込み、胸を弄りながら突いてみたり

 

「ここ、震えてますね……!」

「ば、ばか……ひぃ!?」

 

 密着して背中に舌を這わせながら、小刻みに肉棒を出し入れしてみたり。

 

「じゅる……れろ」

「きゃ!? ――や、やめ……〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜りゃめぇ!?」

 

 突如として背後からアミッドの上半身を抱え込み起き上がらせ、背後騎乗位で犯してみたり。

 耳を、首を夢中になってしゃぶりながら、上へ上へと突き上げてみたり。

 後ろから好き勝手される感覚は、まるで絡め取られているように聖女をゾクゾクさせた。

 気丈に瞳を吊り上げようとして失敗し、突かれて突かれて黙らされる。    

 気が狂うような長時間の責め苦に、アミッドは延々と耐えなければならなかった。

 

「す、少し休ませて下さい……壊れてしりゃうっ!?」

「じゃあ、これなら良いですか……?」

「――ひゃあっ!?」

 

 顔だけ振り返っての懇願。

 それは聞き入れられたかに思えたが、添い寝の体制に突入するなり胸を吸われて悶絶。

 挿入はされないまでも授乳姿勢での休憩を休憩され、息を整えることすら許されない。優しく乳首を転がされ、乳房の肉を食まれながら、アミッドは小刻みに肢体を痙攣させた。

 正に餌食。

 兎に捕食された聖女は銀髪を激しく乱しながら、今度は少年の自慰の手伝いをする。

 

「んぅ……」

「ふぅ……アミッドさん、そこ」

「……」 

 

 遠慮など彼方へ放り投げてしまった少年に望まれるがままに胸を吸わせ、彼の性感帯を細い指で撫で回す。

 尻を触られた。

 脚を撫でられた。

 狂わしそうな様子で頻りにまさぐられる下半身。

 じゅくじゅく、じゅっじゅっ。

 互いの汁まみれになった肉棒を今度は唾液まみれにして、優しく(シゴ)く全裸の聖女。 

 

「アミッドさん……あの、できれば舌で」

「……わかりました」

 

 ふにふにと袋を揉みながら一瞬だけ体を離し、獣のような姿勢で跪く。

 顔を肉棒に擦り付け、端正な鼻先で軽微な刺激を与えた後、アミッドは男の性器を口で咥えた。

 舐め回された肢体をいやらしく光らせながら、尻を上げて、頭を少年の腰に沈ませていく。

 

「うぁ……そんな奥まで……すご、気持ち良い……」

「……んぅ」

 

 銀髪が優しく撫でられて、アミッドは悔しそうな顔で頬を染め、咥えたまま少年を見上げる。

 儚げな睫毛が揺れて、目尻は微かに潤んでいた。

 根本付近までずっぽりと咥え込んで苦しいのだろう。けれど聖女の苦悶は続く。

 

「はっ、はっ……あ、アミッドさん、ごめんなさい……!」

「っ!? がっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!?」

 

 上目遣いに興奮を高めたのか、謝罪しながらもベルは頭を撫でる力を強め、次には後頭部を一気に自分の腰に引き寄せたのだ。

 イラマチオ。

 ずりゅっと卑猥な音を立てて押し込まれた肉棒は、直ぐに聖女の喉を犯し、先走った精液が直接食道へと。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜がっ、や、っ、むぎゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!?」

「っっ」

 

 じたばたと暴れるアミッドは一時的に顔を離すも、直ぐに捕まり乱暴に再挿入される。

 苦痛と興奮が入り乱れる前後運動の最中、潰れた悲鳴を上げる聖女はどんっと押し倒される。

 器用に手を伸ばしたベルの指先に秘部を掻き回されながら、やはり咥えさせられる。今度は顔の上に彼の腰が、自らの下半身の上に彼の上半身が――目の前にぶら下がる睾丸袋に頬を叩かれながら、(ナカ)をほじくり回される性女アミッド。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……っっ、〜〜〜〜〜〜〜ぎゅむぅ!? むぅっっ、んん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!?」

「っっ……アミッドさん、飲んでっ」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!?」

 

 頬を叩く睾丸袋が激しく痙攣したかと思えば、顔の上から突き立てられた肉棒が大爆発を起こした。どびゅるどびゅると口内に流し込まれる粘っこい白濁液。

 アミッドは透明な涙をばら撒きながら、死ぬ思いで嚥下した。

 死にそうな快楽に抗おうとしたが、無駄だった。

 口内射精される途中、同じように秘部に舌をねじ込んできた少年によって聖女はまた堕ちる。

 

「〜〜っっ、〜〜〜〜んぎゅっ!? っ、へうっ……〜〜〜〜〜〜んぎゅうううううううううう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!?」

 

 子種を飲まされながら絶頂させられ、自らも勢い良く愛液を噴射してしまう。

 恥辱と快楽と屈辱で涙に濡れるも、ここまで来ればもうどうしようもない。

 

「はあっ、はあっ……ん、アミッドさん……すごい量……じゅるっ」

「……っ」

 

 射精が終わっても尚、引き抜くことはせずアミッドに覆いかぶさったまま硬直している少年。聖女は白く染まった思考のままに萎んだ肉棒を細い舌で包み込み、ちゃんと綺麗にした。

 残り汁までほじくり出してとくんとくんと嚥下すると、そこでようやく肉棒から逃れるように顔を逸らす――そのまま惚けた顔で、ずりむけた精根に頬ずりした。

 

「……」

「っ……アミッドさん……それ、やばいかも」

「……」

「顔で擦るなんて……ちょっ……あ、あんまりやると、次は顔にかけちゃいますよ?」

「…………」

 

 大量の劣情を吐き出したことで少しだけ冷静になった様子のベルだったが、僅かな理性も直ぐに吹き飛ぶ。

 狂い始めた聖女は『可愛らしい脅し』をかけられても頬擦りを止めることはなく、胡座をかいたベルの股間にペットのように(ひざまず)く。

 あれほどまでに気高く美しかった戦場の聖女が、娼婦も同然に扱われ、あろうことか絶頂までさせられ潮を吹いた。

 思考が回らないアミッドはまるで少年の膝に、腿に、股に、そして肉棒に、子種を作る大切な玉に、まるで調教された性奴隷の様に頬ずりとキスを繰り返していく。

 

「……ん」

「アミッドさん、っ、次は髪で……」

「……わかりました」

「…………ふぁっ」

 

 銀の髪が巻き付けられ、聖女の献身的な奉仕が加速していく。

 当然、イケナイ気持ちになった少年はこの後、彼女の願望を叶える形で精緻な相貌に、美しい銀の髪に、たっぷりと白濁液をぶちまけたのだった。

 この夜。

 アミッド・テアサナーレは彼の性玩具(ペット)になった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

意図せず爛れた天界生活(ライフ)「完」

ハーレム爆誕。


 自室のベッドの上。

 レフィーヤは(ひと)り、懊悩(おうのう)としていた。

 

(また、アミッドさんの声が聞こえる……)

 

 そういうことをするなら、扉くらいちゃんと閉めろベル・クラネル、とレフィーヤは思った。神殿に響き渡る程の絶叫はもはや彼女のものとは思えず、娼婦か何かかと聞き間違えてしまうほどに淫らだ。

 少年はここ一週間、聖女様にのめりこんでいて、毎晩のように彼女に甘えているのだとか。

 

(いえ、好きあっているなら、それは間違ってはいないけど……なんていうか、うん) 

 

 また、懊悩とした吐息が漏れる。

 彼のことを憎からず思い、しかし恋愛感情ではないと自負しているレフィーヤだったが、中途半端に抱き枕にされた余韻はまだ残っている。

 

 無論、本番はナシだったが、だからと言って何もかもを忘れるということはできない。そもそも、成すべきことを全うしたレフィーヤを『容姿』に惹かれて呼び込んだのは彼である。

 つまるところ、全ての責任は軽率な彼にあると言えるのだが、それならそれでもう少し気を使うべきではないだろうか。

 別に聖女様と子作りしようが、彼女に溺れようが好きになろうが、それは本当に、別に構わなしい彼の勝手だが。

 しかし、それでもこれだけは主張したい。

 こんな場所に放り込まれて放置されるのは、全くもって困るし腹が立つ、と。

 

「……せめて、出る方法くらいは探してもらわないと」 

 

 紺碧色の瞳に疲れを滲ませながら、レフィーヤは決意を新たにした。 

 

 

 ♡

 

 

「ですから、どうにか出る方法を探してください。このままでは、私は暇で暇で死んでしまいそうです」

「す、すみません……僕にもそれはわからなくて、というかどうしようもなくて」

 

 翌朝。

 神殿の中央に設置された大食堂にて、レフィーヤは大袈裟に溜め息を吐いた。

 困ったように笑う少年を見てまた「はああ……」と嘆息。

 果実水を啜り、肉を(むさぼ)り、お口直しに苺果実(デザート)をぱーんと口に放り込む。 

 きょろきょろと室内を見渡した。

 

「ところで、アミッドさんはどこに?」

「……立てないみたいで」

「…………貴方と言う人は、みんなの聖女様になんてことを」

 

 どうやら()()()()()()腰が立たなくなったらしい。

 破廉恥(ハレンチ)極まる事実、万事に値する所業。

 しかしレフィーヤは小言を呟きジト目を送るにとどめた。慣れというのは恐ろしい。兎と聖女がまぐわっているのは、既に日常風景と化していた。

 そうなればイチイチ激怒していてはキリがない。

 それに『あの子の人生は他人のことばかりだったのですから、消える間際に良い思いをしたとて罰は当たらないでしょう』、との聖女様直々(じきじき)のお許しもある。

 このように両人が納得している以上、レフィーヤが咎めるのもおかしな話だった。

 

「まあいいです……ああ、扉はちゃんと閉めるようにして下さいね。睡眠妨害です」

「…………すいませんでした」

「……はあ」

 

 反対側に座っているベルが肩を落とす。が、慰めるのもまた変な話なので、レフィーヤはまたしても溜め息を吐くにとどめた。

 

(……女の子を知らないまま死ぬのは、可哀想。確かに気持ちはわかりますが)

 

 もっと言えば、誰かとお付き合いすることもないままに、である。

 レフィーヤ自身もそれはそうで、種族的に容姿が優れていることから、言い寄られることは何度かあった。中には強引に迫ろうとした輩も居たりして、すっかり男……とりわけ他種族かつ他派閥の男には警戒感を持ってしまった晩年だったが、確かに振り返れば虚しいものである。

 

(もう強くなる必要もないし、恋を始めてみても良いんだろうけど……死んでるしなあ、私)

 

 誰かと絆を育むことはできないし、かといって目の前の腐れ縁野郎は聖女様にお熱だ。彼なりにこの時間を楽しもうとして(不埒だが)、レフィーヤに手を伸ばした時もあったが、本当のまぐわいを許可してくれたアミッドにすっかり傾倒してしまった。

 

(男の人というのは、全く……)

 

 今もへらへらしながら食事を続けている少年を睨めつけ、自分も肉を(むさぼ)る。

 もぐもぐしながら考えてみる。

 思い返せば、ベル・クラネルと艶っぽい雰囲気になったことなど皆無だった気がする。 

 

(いいとこ腐れ縁のライバル……今となっては別に嫌悪はしてないけど、かと言って夢中になれるかといえばそうでもない) 

 

 いや、そもそもそんな必要もない。

 レフィーヤは何を考えているのか。

 これまであまり触れ合って来なかったから、きっとまだ緊張しているだけなのだろう。きっとそうだ。そうに違いない。

 

「……」

「えっと、レフィーヤさん?」

「……別に」

 

 ただ、戦闘以外で初めてギャップを感じたのは確かだった。

 女の子を見れば赤くなり、困ったことがあれば悲鳴をあげて逃げ出す。かと思えば、エニュオとの最終決戦で凄まじい活躍を見せたり、群衆を感動の渦に巻き込んだ『黒いミノタウロス』との大激戦を演じて見せたりもした。

 けれどそれらは全て『冒険』の中での出来事であり、純粋な雄としてのギャップを見せつけられたのは初めてであった。

 あの聡明かつ物静かな聖女様を、夜な夜な貪って泣かせている。それだけでも凄まじいギャップだし、仮にレフィーヤが本番拒否しなければ、今頃(しつ)けられていたのはレフィーヤだった筈だ。

 

(いや、しつけって……私は何を)

 

 毎晩のように『声』あるいは『気配』を感じさせられているせいで、レフィーヤは少しだけ頭がおかしくなっているようだった。

 誤魔化すようにクスリと笑みを溜めて、不思議そうな顔で呆けている少年に手を伸ばし、指を屈め――ばちんっっ!!

 

「いたあっ!?」

「ジロジロ見ないでください。ケダモノ」

 

 意味もわからず、流されて触りっこした時の事を思い出しながら、レフィーヤは彼にデコピンした。 

 

 

 

 Φ

 

 

 

 その夜のことだった。

 

『変わってください、レフィーヤさん』

 

 体がもちません、と。

 すっかり(すす)けてしまったアミッドに頼まれたのは。

 聖女様の頼みは切実だった。

 別に酷いことをされているわけではないが、自分は体力がないようですぐに()()()

 だから毎日()()()するのは無理だし、かと言って『英雄様』に癒しは与えてあげたい。ならば頼れる友人かつ、容姿端麗なレフィーヤにその役を半分譲ろうと。

 

『……仕方ないです、よね』

 

 レフィーヤは拒めなかった。というのも、元々は二人で交代しながら相手をする予定だったし、初めはそうしていたからだ。

 

『怖いのでしたら、私が頑張りますが』

『やります。休んでくださいアミッドさん』

 

 そして『怖い』と言う単語に(あお)られたのもあった。

 大いにあった。

 自分がベル・クラネルを恐れるなどあってはならない。

 なぜならそれは、彼に敗北したと同義なのだから。

 冗談ではない。冗談ではない。そんな事は許されるはずもない――死んだ後に負けるなど本当の本気で冗談ではなかった!!

 

『単なる添い寝、恐るるに足らず!!』

『レフィーヤさん?』

 

 こうして、途中から話がおかしくなっていることにレフィーヤは気付かず、まるで戦場に向かうような殺気を醸し出しながら少年との()()()に臨むのであった。

 

 

 

 Φ

 

 

 

 レフィーヤは敗北しかけていた。 

 添い寝とはなんぞや。同じ布団に入って目を瞑ったところで少女は冷静になった。

 自分は彼にご褒美をあげなければならない――聖女様が繰り返すものだから、そういうものだと思っていたが、根本的に、そもそもが間違っていたことに気付いてしまった。

 

(……ま、まずい)

 

 添い寝なんかすれば、当然だが()()()()

 そもそも少年は言っていたではないか。

 レフィーヤの容姿がピンポイントで()ストライク、だと。

 それに、触りっこしている時にはもっと凄い事も言われた気がするし、以前はさておき現在の彼は、レフィーヤのことを(オンナ)として見ているのだ。

 それで添い寝を再開したい、などと申し出ればどうなるか。

 

「うう……」

「あ、あの、恥ずかしかったら見なくても良いですよ?」

「!! まさか!! あははっ、そんなわけっ」

 

 当然、こうなる。

 気がついた時には、レフィーヤはベッドの上で禍々しいものを握り締めていた。

 手でいいのでして欲しい、という彼の要望を受け入れてしまった……流されてしまったのである。

 さらに、新たに困った点がひとつ。

 

(こ、こんなに太かったですっけ……?)

 

 紺碧色の目を見開き、絶句してしまった。

 ベッドの端で上体を起こしたベルに寄り添い、右手を小刻(こきざ)みに動かしながら、レフィーヤは驚愕した。

 触りっこした時は気にしている余裕もなかったが、彼の性器は禍々しかったのだ。レフィーヤの手首より少し細い程度のそれは十分な迫力で、こんなモノで、夜な夜な聖女様は串刺しにされているかと思うと、背筋に冷たいものが走る。

 

(か、可愛らしい顔をして、こんな、長くて太いとのを隠して……こんなもの、入るわけが)

 

 レフィーヤが固唾(かたず)を飲んでいると、ベルが申し訳なさそうに苦笑した。

 

「嫌ならやっぱり……」

「! い、いえっ、大丈夫です怖くなんてありませんっ!! ただ……お、大きすぎて、つい驚いてしまいまして……って、何を言わせるんですか!?」

「うあっ!? いきなり握り締めないで……っっ」 

 

 もはや彼の肉棒は、我慢汁を垂れ流すほどに高ぶっていた。

 

「す、すみません……ええと……もうっ!! こうなったら仕方ありません! 早く済ませて下さい!」

「が、頑張ります……うっ」

 

 レフィーヤはあれこれと想像しながら宙に視線をやった後、ゆっくりと指を動かし始める。

 バスローブ一枚だけを羽織ったまま、ベルの正面に膝をついて正座。股間を突き出すように、後ろに手をついたベルを見つめながら、ぐちゅりぐちゅりと奉仕した。 

 

(熱いし……やっぱりゴツゴツしてる……)

 

 ずるりと皮を剥いてみたり、上方に力をかけて被せてみたり。そうこうしているうちに裏側の(くぼ)みをほじくり回してやると、少年の体は大きく跳ねて仰け反った。

 男というのは単純かつ簡単で、出せば満足する。

 そのようなことを某アマゾネスから聞いたことがあったが、レフィーヤはその話に関して今現在も半信半疑だ。

 

「レフィーヤさん……っっ」

「……紙に出してくださいよ」

 

 手早く柔紙を用意して少年の股間に巻き付け、しゅっしゅっしゅっしゅっ、と。

 シゴく力を強めてやったところ、彼は鼻息を荒くして絶頂。みるみるうちに紙をぐちゃぐちゃに汚しながら、精液をぶちまけた。

 

「……ふ……うっ」

「……もう」

 

 しきりに微動するペニスは脈打ち脈打ち、やがて萎んでいく。互いの吐息だけが部屋の中に溶ける中、レフィーヤは丁寧に指を動かして白濁液を拭き取った。が、これで終わりではない。

 

(……簡単じゃなかったんですけど、ティオネさん)

 

 すぽんっ、と柔紙(ティッシュ)を剥ぎ取りながら、適当な事を教えてくれたアマゾネスに怨嗟の念を送った。そうしている間にも、むく、むく、むく、と起き上がってくるグロテスクな肉棒。蛇の口のような先っぽを睨み付けながら、心の中で『こんなの聞いてない』と悲鳴を上げる。

 

「絶倫というやつですか……どうすれば満足するんですか、もう」

「すいません……」

 

 ベルはバツの悪そうな顔で、しかし股間はしっかりと不躾(ぶしつけ)に主張していた。

 まだ満足できません、と。 

 こんなものどうすれば良いのか。

 困り果てたレフィーヤは「もうっっ」、と仕方なしに再び右手を彼の股間に。そもそも自分は何故ここまでしているのか、根本的な間違いを間違いとして自覚しないままに、少年への奉仕を続けていった。

 なし崩し以外の何者でもなく、しかし中途半端に触られながらの奉仕は色々と堪える。

 胸を()まれながらの手コキ。

 足を()でられながらの手コキ。

 彼は興奮が抑えられないのか、というか聖女様で女慣れしてしまったが故に()()()()()()()()()()()()()()、延々と山吹色の妖精を触り、舐め回した。対するレフィーヤ本来は押しに弱い気質なのが災いして、いつの間にか、あれやこれやとお願いされたことを実行に移していた。

 

「じゅる……ちゅうう」

「あ、それっ、気持ち良いです……」

 

 少年の乳首に唇を押し当てながら、ちろちろと上目遣いで舐め回し、右手は肉棒を強弱つけて扱いていく。

 潔癖な妖精には考えられない破廉恥な愛撫に、顔を赤らめながらも少年の胸の突起をぺろぺろする。

 この頃には既に頭が朦朧としてきており、ほとんど彼にされるがまま。その証拠に先程から尻を鷲掴みにされているが、もはやレフィーヤは抵抗しない。

 執拗な愛撫に弱り果てた妖精は、じわりじわりと狂わされ始めていた。

 そしてその瞬間は突然に。

 少年に胸を舐められながら喘ぎ、ぼーっとした顔で天を仰いでいたレフィーヤは、不意に我に返る。

 ぽん、と肩に手を置かれ、紺碧色の瞳を見開いた。

 

「すいません……レフィーヤさん、やっぱりこっちで」

「……えっ」

 

 完全に雰囲気に飲まれていたレフィーヤは、少年の思い詰めた瞳に固唾を飲んだ。

 そこで初めて、レフィーヤは舐められてもいないのに膣が蜜を垂らしていることを感じる。

 

「あ、あの、また口でしてあげますから……っ!?」

「ゆっくりしますから、ごめんなさいっ」

 

 言葉では拒むもこの状況である。当たり前だが少年は待ってくれず、荒い鼻息をレフィーヤの顔に吹きかけながら、血管の浮き出た肉棒を股の間ににあてがった。がっしりと掴まれているレフィーヤの両の手首が、彼が理性を飛ばしてかけているのを物語っていた。

 

「まっ」

「もう、行きますよ……っ」

「ちょ、だからまちなさ……ぁ゛い゛っ!?」

 

 何かが裂けるような音が鳴ったかと思えば、レフィーヤの花弁がこじ開けられた。下着ごと膣を貫き、肉棒が突き立てられたのである。逃げるように腰を浮かせるレフィーヤの股に狙いを定め、ぶちゅ、ぶちゅっっ、と腰を突き出す。

 

「い゛い゛っ……んぐぐぅ!?」

「っっ、狭い……レフィーヤさん、頑張って?」

 

 まだ半分ですよ、と無慈悲な言葉が落とされる中、尖った肉棒はレフィーヤの膣をぐちゃぐちゃと押し破り、奥へ奥へと侵入してくる。

 

「ん゛んっ……ひ、はっ……」

 

 レフィーヤは既に呼吸困難に陥っており、目を見開いて口を痙攣させて助けを求める。

 けれど誰も助けになど来ない。

 興奮の絶頂に至ろうとする少年に胸を鷲掴みにされて「いやあっ!?」と泣き叫ぶ。彼はやめてくれない。動きを止めるどころか、ぬぷっ、ずぷぷっ、じゅりゅ、じゅりゅっっ、と徐々に腰の前後運動を開始していき、レフィーヤのことを文字通り貪った。 

 

「ふっ……ふっ……!!」

「ひっ、あっ、あ゛あああああああああっ!!!」

 

 ばちん、ばちんと肉棒(マラ)が叩きつけられるたび、尾骨を蹴りあげられたかと思うほどの衝撃が走る。だが、遅れて襲って来るのは言いようもない高揚感で、痛みを相殺、いや塗り潰すほどの快楽にレフィーヤは耐えねばななかった。

 

「やめっ、やめなさい!? このへんた……うぎゅうっ!?」

 

 レフィーヤは青い瞳を見開き、彼の背中に爪を立てながら体を硬直させる。細い四肢をベルの体に絡ませながら、ばちゅんばちゅんと串刺しにされる。

 

「っ……ふっ!」

「ぎゃんっ!?」

 

 不意に、ギリギリまで肉棒が引き抜かれたかと思えば、次の瞬間には勢い良く叩きつけられて悶絶する。

 

(こんなぁ……獣の交尾みたいなぁ!?)

 

 屈辱と羞恥に焼かれ涙するも、少年はもう止まらない。

 熱々の子種をレフィーヤに注がんとするベルは、凄まじい勢いで、ばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんばちゅんっっ!! と若い妖精の肢体に肉棒を叩き付け続けた。

 溺れるように両手をばたつかせながら、レフィーヤは喘ぎよがった。

 

「っ! あ゛あ゛あ゛っ! こわれっ、こわれますっ、んほおっ!?」

 

 声が全く我慢できず、更に喘ぎを耳にした少年の興奮は高まっていくばかり。

 途中からは無言で腰を振り続けた少年は、やがてレフィーヤの反応を確かめながら、徐々に動きを変えていく。

 そして、こんっ、こんっ、と。ベルが体をよじらせながら(ヴァギナ)の最奥、子宮横をほしぐり叩いた瞬間。

 

「んっぐ!? んああっ!?」

 

 半開きになったレフィーヤの口から、悲鳴ではなく嬌声が打ち上がった。

 ぱんぱんぱんぱん。

 弱点を発見された途端、集中砲火を受ける山吹色の妖精。レフィーヤは奥の奥まで挿入されたまま、今度はぐりぐりと膣を左右に揺さぶられ、電撃に次ぐ電撃に襲われる。

 

「ぁ、あっ、あぁーーーーーっっ!? やめ、やめてっ!? おねがいしましゅ……んぎゅむうっっ!?」

 

 じたばたと手足を暴れさせると押さえ付けられ、股を力づくで開かされ、そのまま乾いた音を鳴らしながら腰を打ち付けられる。

 弱みまで発見され、虐められ、歳下の少年にいいようにされて、レフィーヤの尊厳はズタボロだった。

 

「ひぐっ!? もうりゃだっ、んんんっ、あ゛ーーーーーーーっっ!?」  

「っっ、レフィーヤさんっ」

「んぷっ!? 〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!?」

 

 けれど彼は止まらない。怪物が獲物を捕食するようにレフィーヤにのしかかると、唇を奪い、口の中を舐め回し、ぶるっっ、と。

 体を硬直させた次には、どびゅるるるるっっ!! びゅるっ、びゅるるっ!!

 味わうようにレフィーヤの舌を絡め取りながら、問答無用で子宮に子種をぶちまけた。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!!」

 

 涙を垂れ流しながら、どんどんと少年の胸を叩くもレフィーヤは力が入らない。

 お腹の中が痛いほどに熱くなり、声を出さずにはいられないほどの快楽を同時に刻まれる中。

 根本まで少年の肉棒を咥え込みながら、最後の一滴まで彼の子種を注がれた。

 

 

「はっ……はっ……レフィーヤさん、かわいい」

「ふぁっ……んぅぅぅ」

 

 力を失った妖精の乳房にむしゃぶりついてくる少年。

 執拗にしゃぶられ、甘噛みされ、頬ずりされ、レフィーヤはとことん鳴かされた。

 それが終われば咥えさせられ、握らせられ、一方的に奉仕を強要され。レフィーヤはとはや玩具であり、何時間も何時間も、彼にいいようにされ続けた。

 刻み込まれ続けた。

 

 

「……ん、ぷっ、れろっ」

 

 そして、うっすらと辺りが明るくなってくる頃になっても(なお)、愛の行為が終わることはなかった。

 壊され続けた妖精は次第に狂っていき、献身的な口淫をもって、雄を悦ばせるだけの雌と化した。生まれたままの姿で少年のペニスに舌を巻き付けるレフィーヤ。その頭上からは、いやらしい水音が響いてくる。

 

「じゅるっ……ぺろっ、れろれろ……《 《アミッドさんは》》、触って下さい」

「……ちゅっ、れろれろ……こうですか?」

「っっ……ああ、すごい」

「ふふ……柔らかくて可愛らしい。ん……貴方は果報者ですね。――あっ」

 

 余りの爆音に叩き起された聖女を巻き込んで、いつしか三人になった愛の行為は加速していた。山吹色の妖精に口で奉仕させる傍ら、献身的な聖女様の乳房に手を伸ばし、五指を埋め、それだけではなく小ぶりな唇に舌をねじ込んで堪能する。

 

「んちゅ、んちゅ……」

「……じゅるっ、ベルさん、満足ですか?」

「れろっ……はい。もう、二人が入れば良いです……むちゅっ」

「んんっっ」

 

 アミッドには陰嚢袋を揉解(マッサージ)させ、レフィーヤには延々と口淫(フェラチオ)で奉仕してもらう。

 世の男達が血の涙を流して羨むであろう、迷宮都市内でも上位に位置していた美少女二人。彼女達を手篭(てご)めにした少年がここに居た。

 背徳感と快楽に酔いしれながら、ただそれだけではなく、心優しい少女達のことを心底愛しく感じながら、ベルは二人の頭を優しく撫でた。

 

「レフィーヤさん……離して良いですよ」

「……んぷっ?」

 

 にゅるんっ、と音を立てて引き抜かれた肉棒は、もはや爆発寸前。我慢汁もろとも妖精(レフィーヤ)の唾液を糸引かせながら、ベルは緩慢な動きで腰を上げた。

 立ち上がりながら、アミッドの銀の髪を、レフィーヤの山吹色の髪を、それぞれの手で抱きしめるように優しく優しく()(まわ)す。

 

「御奉仕いたします……ん……ちゅっ」

 

 精緻な相貌が妖艶に微笑み、アミッドは陰嚢袋に向けて舌を伸ばした。れろれろれろ、汚らしい袋を舐め回した。

 

「……れろ、れろっ、ちゅっっ」

 

 聖女とほぼ同時に肉棒に縋るレフィーヤは、震える亀頭に口付けた後、上へ下へと舌を這わせて昂るペニスを刺激した。

 じゅるるるるるるっ、れろれろ、じゅるっ、ぺろぺろぺろ、ちゅっっ!!

 美しい肢体をくねらせる、タイプの異なる美少女二人による同時口淫(フェラ)

 何度目かもわからない我慢も、もう限界だった。

 

「っ、アミッドさん、レフィーヤさん……っ、良いですか……っ?」

「……はい。どうぞお好きなところに」

「んぅ……私も、構いません」

 

 可愛らしく舌を伸ばしながら、上目(づか)いで見つめてくる薄紫色と紺碧色のそれぞれの瞳。  

 もっともっと、この美少女達と愛し合いたい――。

 堪らなく彼女達のことを愛おしく感じながら、ベルは絶頂した。

 

「っ、アミッドさん、口あけてくださいっ……っっ」

「はい……んっ」

 

 びゅるっ、びゅるるるるるっ!!

 叩きつけるような射精を、まずはアミッドの舌に注ぎ落とすと。

 

「っっ、レフィーヤさん……っ」

「んんっ」

 

 びゅっ、びゅっ、っ、びゅるるるるるっっ!!

 脱力しているレフィーヤの乳房に狙いを定め、出し惜しみなく白濁液を叩き付けた。

 誰もが憧れていた心優しき聖女に飲ませ、可憐な妖精の肢体をべとべとに汚した。

 

「はぁ……っ、すごかった……」

「ベルさん……このまま眠りませんか?」

「……起きたら、お風呂に入りましょう、ベル・クラネル。汗が……でも、その前にやはり、眠いですね」

 

 最後の一滴まで絞り出した後に、脱力してベッドに突っ伏したベルに、アミッドが、レフィーヤが体を寄せて倒れ込む。

 始まるのは、二人(ダブル)奉仕後の裸での添い寝であった。

 およそ男として最高の快楽を享受しながら、少年は聖女と妖精に溺れていく。

 

「アミッドさんもレフィーヤさんも……優しくて可愛くて……すごい」

「ベルさん……んぅ」

「そんなことよりも、おやすみなさい……」

 

 間もなく寝息を立て始めた少女達に両手を回しながら、少年もまた微睡みに落ちていった。

 数時間後に目覚めてからのことは、もはや語るまでもない――。

 これ以降、聖女は献身的に豊満な肢体での奉仕を続け、妖精もまた全身を使って『英雄』とまぐわいつづけることになる。

 退廃的な日々の中で、それまで性に関しては純粋だった少女達もまた変貌し、少年の肉棒の虜になっていくのだった。




本編はとりあえずの一区切りとなります。
ここまでお付き合い頂きまして、まずはありがとうございました。
アミッドさん+レフィーヤ完落ちエンドでしたが、この後にダラダラ三人が生活していく話もいずれやりたいなあ、と。
後は祈り続けている巫女様のエピソード(結局放置されてた)もね。まあ彼女に関しては完全なエクストラ枠+作者の気分で出しただけなので、ここではヒロインですらありませんでしたが……)

さて、重ね重ねにはなりますが、ここまでどうもありがとうございました。 
引き続き他作品も更新していきますので、これからもどうかよろしくお願い致します。ベルベット


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。