とある魔術の時空裂断 (G.)
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OVERTURE
BREAK OF DAWN


はじめましてG.と申します。

初執筆もあり温かい目で見て頂けると幸いです。

お気軽に感想、評価、質問等お書き下さい。

お気に入りに登録して頂けますと小躍りして喜びます。

では、スタート。。


10 years ago……

 

───イギリス郊外のとある村

 

 

この日、名も無き小さな村が一つ、人知れず消えた。

 

ついさっきまで猛っていたであろう炎も全てを飲み込み、もう燃やすものがなくなると知ってか、今は黒煙を僅かに上げているばかりである。

周囲に漂う煤の臭いの中、かすかに血と肉が焦げる様な臭いが鼻腔を刺激する。

どうやら50人にも満たないであろうの村人は皆全て殺されたようだ。

大人も、、子供も、、老人も、、

皆等しく不出来な解答用紙宜しく人目から隠されるよう火の中に放り込まれたのだろう。

数時間前迄あったであろう人の生活を象徴するものは須く焰に消えていき、

今はただ、羽を失いその身を黒く染めた風車だけが村があった事を教えてくれている。

 

 

「これはまた、悉くやってくれたものだな」

 

 

淡々と辺りの惨状を眺めながらそう呟くと、『人間』はおもむろに歩き出した。

 

 

「彼らはまた魔女狩りでも始めるつもりかな?だが───」

 

 

この『人間』にとっては人の生き死にも、悪夢のような光景もどうでもいい事なのだろう

宛ら拙い愛憎劇を眺める観客のように悪戯な笑みを浮かべながら歩いて行く。『何か』に導かれているかのように。

惨劇は村人が寝静まったのを確認してから起こったのだろう。

辺りはまだ薄暗く、数少ない街灯も今は使い終えたマッチ棒のようにしか見えない。

焼け倒れた建物は道路を隠し、この村を知っている者でさえ詳細を思い出すのは困難であるはず。

なのにも拘らず『人間』は一切を気に掛けず、只々瓦礫の中を進んでいく。

 

そう、『何か』に導かれているかのように。

 

 

「───少々詰めが甘かったようだな」

 

 

そして、その『何か』を見つけた。

 

『人間』は家があったであろう瓦礫の山に立ち止まる。

その中の一区画を雑作もなくを一掃し床が見えるまでに片付けると、そこにあった小さな床下収納を手を伸ばす。

 

 

「やはり無事だったか」

「……」

 

 

そこにあったのは、少し、ほんの少しだけ異質な『人間』と呼べる小さな生命が一つ。

身体を丸め、意識を深い眠りの中に落としている様は、まるで、大空羽ばたく夢を見ながら羽化を待つ蛹の様だ。

 

 

「ふふふ、この惨状の中でこうも安らかに眠れるとは、大器を感じさせられるな」

 

 

『人間』はそう愉しそうに目を細めながら小さな生命を抱き上げる。

肩口まであるシルバーブロンドの髪を掬い上げれば、微かに鼻腔を擽る幼児独特の甘い匂いと穏やかな寝顔に思わず頬を弛ませることを止められない。

こんな風に子供を抱いたのはいつ以来だろう。自分の子供でさえ最後に抱いた記憶が思い出せないでいる。

そんな自分が再び幼子を腕に抱ける日が来ようとは夢にも思っていなかっただろう。

少し感慨深く思いながら、こんなにも心穏やかになれる両腕の感触を愉しむ。

そんなことを考えながら二度目に髪を撫でた際、その小さな生命は『人間』の腕の中で静かに目を醒ました。

 

 

「おや、目覚めたかな?」

「……」

 

 

まだ完全には目覚めていないのだろう。

ぼんやりとした目をしながら『人間』を、そして辺りをとゆっくりと視線を移していく。そして再度『人間』を見つめ

 

 

「……おじさんだぁれ?」

「私はアレイスターという者だよ。君の名前を教えてくれるかな?」

「……けい……ぱぱとままは?」

「ケイか、良い名だ。残念だが君のパパとママは死んでしまったようだ」

 

 

ケイと名乗った小さな生命は死という概念がわからないわけではないらしい。少しだけ目を開き「そっか……」と呟くと、何かを祈るように天を見つめた。

感情が乏しいのか、それとも興味がないのか。いや、どちらでもないようだ。

アレイスターと名乗った『人間』の存在も、自分の住んでいた村の惨状も、そして両親の死すらも、この幼い少年は淡々と受け止めたのだろう。

なんにせよこの『人間』、世紀の大魔術師にして、科学の街学園都市の統括理事長、アレイスター=クロウリーの興味を惹いたことは間違いない。

元よりこの少年が目的でこの場所にいるのだが、正直こうやって会話をするまで若干億劫であったのだ。

幼い子供に泣かれたり、怯えられたりされ話が進まないのはどうも面倒に感じてしまう。

それが自身のプランの切り札(ジョーカー)と成りうるであろう者であってもだ。

そんな事を考えながら重い腰を上げて来たのに、着いて早々村がこんな有様だ。既にアレイスターのやる気はマイナス方向へ絶賛急降下中だったであろう。

だがそんな中、このケイを見つける。

大器を感じさせる物腰に既に達観したような思考を持ち合わせ、自身との会話をスムーズにこなしている様はアレイスターにとって非常に好感を持てるものだった。

そして、肌越しからでも伝わるケイの持つ素質にいよいよ顔の綻びが止められなくなる。仕舞いには、「ふふふ、私の目に狂いはなかったようだ」などと呟いている。

落ち込んでいる時程口説きやすいものはないというが、この『人間』意外と単純なのかもしれない。

 

 

「私と一緒に来るかね?」

「おじさんと?」

「……うん、いく!」

 

 

夜が明けと共に交わされた言葉。

アレイスター=クロウリーの提案に少しだけ考え、少年は笑顔で答えた。

 

 

「では今日から宜しく、ケイ」

「うん!」

 

 

朝日に照らされ、シルバーブロンドの髪は一層輝いて見える。もはや神々しいまでに。

そうこの日、少年の、ケイの物語は始る。

この出会いが彼の壮絶な物語の序章になるとも知らずに……



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Nobody Weird Like Me

10 years later……

 

―――日本、学園都市、窓のないビル

 

 

「親父~、コーヒーいる~?」

「ふむ、頂くとしようか」

 

 

食事の支度をしながら息子は父に尋ねる。

現在時刻は朝の9時。朝食としては少し遅いかもしれないが休日ならばこんなものだろう。

今日の朝食は洋食。手際良くスクランブルエッグとウィンナー、少量のサラダを一つのプレートにまとめると、今しがた焼き上がったトーストを食卓に並べる。あとはコーヒーを淹れて完成だ。

簡素かもしれないが男二人の朝食などこんなものだろう。まだカップ麺の類が出ないだけマシである。

普通の会話に普通の食事。どこにでもありふれた日常の一コマ。なのだが───

 

 

 

トポトポトポ……

 

 

 

───摂取方法が普通じゃない。

息子は「あいよ」と頷くとポットから巨大な水槽に淹れたばかりのコーヒーを直接注ぎこむ。

ツッコミ所は色々あるのだがこれが彼ら親子の、いや、父親のコーヒーの飲み方なのだから仕方がない。

それもそのはず。世紀の大魔術師にして科学の街学園都市の統括理事長である父親、アレイスター=クロウリーは、普段はその身を逆さまになりながら水槽の中の赤い弱アルカリ性水溶液に浸している。

コーヒーが注がれた水槽は赤と黒が混じり絶妙なコントラストを描き不気味な雰囲気を醸し出し、傍から見れば清々しい朝の光景にそぐわぬのだが───

 

 

「やはりケイの入れたコーヒーは美味いな」

「だろ?」

 

 

───注がれる方も満足気なら、注ぐ方もどや顔だ。なんだこの親子。

10年前、アレイスターはケイを保護し養子にしてから、当初の目的などとっくの昔に忘れ(?)親バカ街道まっしぐらで現在に到るのだ。

 片や息子のケイ=クロウリーはあれからすくすくと育ち、炊事、洗濯、掃除などの身の回りのことは全て出来、最近ではアレイスターの手伝いをするまでに成長していた。

綺麗なシルバーブロンドの髪は、今は耳にかかるくらいの長さをワックスで立たせ纏めている。

性別の判断が難し程に整った顔立ちと切れ長の二重に碧眼のせいもあり一見冷たい印象を受ける。そしてケイの放つ気だるそうな雰囲気が何ともミステリアスな雰囲気を作りだしている。

だがそれも寡黙な時だけであり、凄惨な過去にも心折れることなく素直に成長していったのはアレイスターの教育の賜物なのかもしれない。

 この10年を、二人はとても穏やかに過ごしてきた。

アレイスターは不器用ながらにケイに愛情を注ぎ、自身の知識と技術を与えた。

ケイはアレイスターに温もりを与え、自身の可能性を見せ続けた。

その光景はとても微笑ましく、この日常が永遠に続けばいいと誰もが思ってしまうほどに。

コーヒーを水槽に注ぎ終わるとケイは軽やかな足取りでテーブルに向かい冷めてしまう前にと朝食を取り始める。

 

 

「で、突然なんだけどさ~」

「ん?」

「俺一人暮らししようと思うんだよね~」

「……は?」

「……ん?」

「……私の聞き間違えだろうか。今ケイが一人暮らしするとk「そうだよ?」」

「「……」」

 

 

アレイスターの思考は今彼にとってミレニアム懸賞問題よりも遥かに難解な問題に差し迫っていた。

爽やかな朝、最愛の息子の淹れてくれたコーヒーに舌鼓を打ちながら今日も変わらぬ一日が始まると思っていた矢先、まさかの息子からの爆弾発言である。

その類稀なる頭脳を如何にフル稼働させようと答えが見つからないのだ。聞き間違いかと思ったがそうではないらしい。

とりあえずオーバーヒートしそうな頭を冷やす為、目の前で食事を終えにこやかにコーヒーを飲んでいる息子に聞いてみることにする。

 

 

「ふぅ、また急だな。理由を聞いてもいいかい?」

「ん~……色々あるけど出会いが欲しいからかな~」

「えー……」

「親父に拾ってもらって、何不自由なく育ててもらえてホント感謝してるよ?でも俺も15になるワケですよ! 思春期なワケですよ! ちょっとは青春を謳歌したいよね~」

 

 

軽いノリで笑うケイと対照的に真剣な表情で考え込むアレイスター。

出会いか・・・確かにケイはここに来てから一回も外に出たこともなく過ごしてきた。この窓のないビルと呼ばれる建物が彼の世界であり、ここに来る統括理事の中の数人が世界に彩りを添える者でしかなかったのだ。

そろそろ外に出て世界を広げるのもケイを思えばいいのかもしれない。

 しかしこの男、親バカである。

この10年最低限のプランの進行以外の殆どをケイに費やし、己の持つ全てを以て手塩にかけて愛でて、愛でて、愛でまくりながら育てた息子が自分と離れて暮らすなど、地獄の業火に焼かれながら尚も身を焦がさんとするほどに苦行でしかないのだ。

今アレイスターの頭の中はどこぞの天使と悪魔大戦争が起こっていた。

しかし、そんな想いなど露知らずにケイは───

 

 

「あ、心配しなくても学校には行かないからさ!能力開発なんか受けたらたらマズイしね。後は色々考えてるけど……今は内緒で♪」

 

 

などと食器を片付けながら表情をコロコロ変え、新生活に期待を脹らませていた。

 

 

「ちょt「よし、仕度は済んだな」いや、まっt「親父!お世話になりました。ちょくちょく顔出すから、ちゃんと仕事するんだぞ?じゃあね~」……oh……」

 

 

アレイスターの言葉を悉く遮り、ケイはあれよあれよと仕度を終わらせ消えてしまった。そう、消えてしまった。

 

 

「ふぅ……少し自由に育て過ぎただろうか。しかし、いつ見てもあれは見事なものだな。ケイ……やはり、君は私の切り札(ジョーカー)のようだ」

 

 

息子に最大の賞賛を贈りつつ、今日のコーヒーはしょっぱいな、と漏らす哀れな『人間』が一人取り残されていた。

 



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Everybody Ready?!

初めての感想頂き有難う御座います!
嬉し過ぎる!!(笑)
これからも宜しくお願い致します。
では3話目、どうぞ


───第七学区、とあるビル

 

 

「ファーストミッション完了! ん~、シャバの空気は美味いぜ!!」

 

 

今ケイは学園都市第七学区にある、とあるビルの屋上にいる。

アレイスターの制止を聞かず……いやその言葉すら言わせもせず彼は窓のないビルから出発、初めて学園都市の土を踏む。

アレイスターに連れられて来たときは幼く、長旅の疲れもあって気付いたらビルの中にいたので碌に景色を楽しむ事ができなかった。

今思えば、逆にそれが今まで外に出たがらなかった理由に繋がるのかもしれないが。

外の誘惑を知らなかったからこそ、純粋にあの生活を楽しめたのだろう。

そんな感慨に更けていると後ろから声をかけられる。

 

 

「何アホなこと言ってるんだにゃー。」

「つっちー、お待たせ~!」

「お待たせじゃないんだにゃー! こんな危ない橋渡らせやがって、何かあったら末代まで祟ってやるぜよ!!」

「あはは、すまんすまん! まあ、つっちー的にも美味しい話なんだからいいじゃないか」

 

 

彼は土御門元春。今回の共犯者、にさせられた可哀想な男である。

金髪にサングラスにアロハシャツという怪しさ全開のこの男、実は科学の街学園都市とイギリス内部にある某魔術師組織の二重スパイ……らしい。

ケイとは窓のないビルに土御門がアレイスターに会いに来たとき偶然出会い、交流が始まった。

ケイとしてはスパイなぞどうでもよく、唯一の同年代で同性の友人であり、良き相談者である。

土御門としても最初こそアレイスターの秘蔵の息子として興味を持ち接近したが、今となっては自分を振り回す悪友であり、世間を知らないケイを弟の様に思い世話を焼いている。

そんなケイが内密に連絡をとってきたのだ。何が起こるにせよ、情報収集とブレーキ役という建前の基、悪友の力になりたいと思ったのは自然な流れであり、ケイも土御門であればこその判断である。

 

 

「全く、いきなり矢文が飛んで来たときは何事かと思ったぜい。内容も座標と時間しか書いてないし、一体何のようなんだにゃー?」

「家出てきた」

「……はぁ!? いやいやいや……はぁ!?」

「ははは、いいリアクションだね~。今朝親父に一人暮らしするって言って家出てきた! だから家探し手伝って~」

「」

 

 

余りにも予想外なケイの発言に土御門は膝から崩れ落ち、両手をついて地面に何やら呟いてる。

 

 

「お~、リアルにorzの格好になってる人初めてみたわ~」

「誰のせいだと思ってるんだ!! アホかお前は!? アレイスターの息子がホイホイ外出歩いてたらどんなことが起こるか位容易に想像できるだろうが!!! 良く奴も許したな!?」

「つっちー口調壊れてるよ~?親父には言うだけ言ってトンズラしてきちゃった☆」

「何可愛い子ぶってやがる! キモいんだよバーカバーカ!!」

 

 

頭が痛いと額に手をやる土御門に終始マイペースなケイ。

これまで何度かケイの暴走は見てきたがこれは過去最悪だ。しかもこれが悪ふざけでやっている訳ではないのだから本当に質が悪い。

───アレイスターの秘蔵の息子がいる。

その情報は科学サイド・魔術サイド共に極僅かな上層部しか知らない情報だ。

そんなトップシークレットの人間がホイホイ表を出歩いていてはアレイスターを良く思っていない人間にとって鴨が葱を背負ってるようなものだ。

最悪、薄氷の上で均衡を保っている両サイドの全面戦争になりかねない。

両サイドのスパイとして活動している土御門にとってこれ以上の面倒はないのだ。

だが───

 

 

「そんなに怒るなって~。つか俺相手にして勝てる奴何人いるよ?それこそ超能力者(レベル5)全員連れてくる位しなきゃ無理でしょ~。魔術サイドにしても以外同文。それに……恐らくこれも親父のプランの内だ」

 

 

そう、この少年ケイ=クロウリーもまた規格外の力を持っている。

稀代の魔術師アレイスター=クロウリーにその素質を見初められ、そのアレイスターに知識と技術を与えられし者。

その力は父親に及ばないものの、ケイに勝てるものなど片手で数えられる程ではないだろうか。

それに、この一人暮らしも利害一致によるものだ。止めるつもりであればとっくにアレイスターに連れ戻されているだろう。別段問題はない、とさらっと言い放つケイに最早諦めてこの状況を受け入れるしかないと土御門はため息をつく。

 

 

「ぐっ……はぁ。ったく、最後にさらっと爆弾発言しやがって。わかったぜい。で? 俺は何をすればいいんだにゃー?」

「流石つっちー、助かるよ! 先ずは住まいかな!! 出来れば店舗が一階にある場所がいいんだけど」

「店舗?何か店でもやるつもりかにゃー?」

「ああ。学校には行けないし、昼間暇してるのも何だから喫茶店でもやろうかと思ってさ」

 

 

ケイは今回の一人暮らしで完全に自立するつもりでいた。だがどうせ働くならば好きなことをしたいと思い喫茶店を選んだのだ。

土御門としても馴染みの店ができるのは嬉しい話だ。

学校帰りにファミレスでドリンクバー片手に溜まるのもいいが、洒落た店で珈琲を楽しむのもまた一興だ。

 

 

「へぇ~、じゃあオープンしたらご馳走してもらおうかにゃ~。で、予算は?」

「いくらでも。出来れば目立たず立地良いとこで!」

「思いっきり矛盾してるぜい。っか良く金持ってるにゃー」

「ふふふ、これを見よ!!」

「?普通のキャッシュカードだにゃー」

「親父のカードくすねてきちゃった☆」

「ぶっ!! 大丈夫なのか!? 後でトラブルとか勘弁だぜい!?」

「問題ない、借りた金ごと後でちゃんと返すわい」

 

 

これも働く理由の一つ。

あくまでも初期費用の為に借りるだけと勝手に拝借してきたのだ。

アレイスターとしても普段使わない口座なだけに、知らずに減っていても痛くも痒くもないはずだ。

まあ、親バカなアレイスターならば正直に話しても一つ返事で貸してくれそうだが、これ以上恩や借りを作ったら返しきれなくなってしまう。それだけは却下だ。

 

 

「まあ、奴はケイに激甘だからにゃー。じゃあ、先ずは金卸しに行こうぜい」

 

 

土御門が提案するとケイは嬉しそうに頷き、二人は街に繰り出すことにした。



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You can't get away

―――第七学区、ファミレス ジョセフ

 

 

 時刻はお昼を少し過ぎたあたり。

あれから土御門と一緒にファミレスで軽く腹拵えをしつつ、これからの流れを決めていた。

切欠は土御門の一言だ。

 

 

「そういえばケイ、IDは持ってるのかにゃー?」

「……なにそれ」

「やっぱり持ってなかったか。流石にどこの馬の骨ともわからん輩に貸してくれる物件はないぜよ」

「マジッスカ」

 

 

 どうやら身分を証明するものがないと住む所を借りられないことを知らなかったらしい。

この街の最高責任者に連れて来られ、そんなもの必要もなく過ごしてきたのだ、知らなかったのも無理がない。

 

 

「更に未成年だからにゃー。身元保証人も必要だぜい」

「あれ? これ早速詰んでない?」

 

 

 学生であれば学生寮に入ればいいが、学校に行ってない上、IDがないということは学生の街学園都市に住む以上、書庫(バンク)と呼ばれるデータベースへの登録がない。

未成年のケイには不味いことだろう。

思いつきの上、アレイスターに悟られないようにする為とはいえ、全く準備してこなかったのが仇になってしまった。

他にも携帯電話も自分の口座も作らねばならない。ないないずくしだ。

 

 

「本当に考えなしに出てきたんだにゃー」

「俺の一般常識は5歳で止まってるんだ、仕方ないだろ?しかしどうしたものかな~……」

「まあ、面倒事に巻き込まれなけりゃ大丈夫だろ。とりあえず先立つものは金だにゃー。そろそろ行こうぜい」

「そうだな。行きますか」

 

 

ここで悩んでいても仕方がない。そう土御門は切り出し、二人は銀行に向かうことにした。

 

 

 

───第七学区、とある銀行

 

 

「お、あったあった」

「俺はここで待ってるからさっさと卸してくるんだにやー」

 

 

ケイは頷くと一人、銀行に入って行く。

 

(さてと、口座作るのはIDがないと作れないらしいから卸すだけでいいんだよな。何度も卸すの面倒だし、限度額目一杯卸すか)

(多分暗証番号は……やっぱりこれか)

 

 暗証番号が合っていた安堵の気持ちともう一つ別の感情から溜め息をついていた。

ケイが押した番号。それは他ならぬケイの誕生日なのだ。

前に一度アレイスターが浸かっている水槽周辺の機械に触ったときに偶然発見してしまったのだが。試してはいないが、この分だと全部ケイ絡みのパスワードにされていはずだ。

ケイもアレイスターに対し感謝も尊敬も親愛もあるが、ここまでの親バカっぷりには苦笑いしか出てこない。

 

(つか統括理事長の暗証番号全部が息子の誕生日って、セキュリティざる過ぎるだろ。今度悪戯してやr「全員動くんじゃねぇ!!」「……はい?」

 

 

これは今しがた悪戯を計画したが為の、アレイスターのお仕置きなのだろか。

悪い夢であるなら醒めてほしいものだが。

後ろを振り向くと革ジャンにマスクの男が3人、受付のお姉さんや客を脅して金を要求している。

 

 

「うわ~、銀行強盗とかマジでいるんだ……」

 

 

ここは学園都市。科学が進んだ特異な街だ。最先端の技術を実験的に実用化・運用しているため、外よりも数十年分ぐらい文明が進んでるらしい。

そのため警備は非常に厳重で、交通の遮断に加えて周囲が高さ五メートル・厚さ三メートルの壁で囲まれている上に、街全体を三機の監視衛星が常に監視しているというのだ。

大抵の犯罪など簡単に捕まってしまうだろう。

 

 

(まあ、すぐにシャッター閉められて逃げらんなくなっちゃうんだろうな……そうそう、こんな風に…)

「…って、あっ!? 逃げ遅れた!? うわ~、メンドクセェ……話してた傍からこれだよ……あれってフラグだったのかなぁ……」

 

 

暢気に呆けていたせいで完全に逃げ遅れてしまったケイ。

人の間抜けを笑って自分も間抜けを犯す。阿呆の極みである。あとで土御門にキツイお説教食らうのは間違いないだろう。

そしてここにも阿呆の子が3人。これから悲惨な運命が待っていることなど露知らず、一人騒がしいケイに視線を向ける。

 

 

「おいお前! うるせぇぞ!!」

「アニキ、こいつ大金卸してますぜ?」

「ほぉ……兄ちゃん。その金は俺達が有意義に使ってやるからよ、有り難く貰ってくぜ」

「うげぇ、目ぇ付けられちまった……」

 

 

ケイの持つ大金に目をつけてしまった阿呆の子もとい、銀行強盗達。

こんな奴等に関わってる時間は微塵もないし、これ以上面倒な事になると土御門が怖すぎる。

だが目を付けられた上一般人もいる以上、簡単には逃げられないだろう。

なので省エネで片付けてさっさとこの場からオサラバすることにした。

 

 

「お兄さん達これ欲しいの? どうしようかな~」

「グダグダ言ってねぇでさっさとよこしやが…うッ!?」

 

 

掴み掛かってきた男を軽く躱し死角から鳩尾に膝を入れ気絶させる。

これでまずは一人。

 

 

「てめぇ、何しやがった!!」

「勝手に倒れたんだけど? お腹痛かったんじゃない?」

「ふざけてんじゃn!!?」

 

 

適当に茶化した後すぐさま二人目と距離を詰め、顎を蹴り上げる。

 

 

「がはッ!?」

 

 

そして宙に浮いたところを三人目に向かって蹴り飛ばし───

 

 

「いってらっしゃ~い♪」

「ぐはッ!!」「ぐぇ!!?」

 

 

───まとめて撃破。所要時間二七秒。

あっという間の出来事にその場にいた全員が呆然とする。

 

 

「ほら、従業員さん。こいつら縛り上げないとまた暴れるかもよ?」

「はっ! お、おい誰かロープ持ってこい! あと警備員(アンチスキル)に連絡を!!」

 

 

 ケイの一言で皆我に返りる。従業員は急いで指示を飛ばし、その場にいた皆から感謝の言葉と拍手を受けたケイは気恥ずかしそうに頬を掻く。

一応今後の為に皆には外から来た観光客なので自分がやったということは伏せておいてもらうよう頼んだ。

 縛られてゆく銀行強盗達。警備員(アンチスキル)への連絡も済んだようだ。

誰一人怪我もなくお金も盗まれず事態は治まったのだ、あとは警備員(アンチスキル)やが来る前にこの場を離れれば何も問題はないだろう。

万事解決。土御門に怒られる事もなく(多少の小言は仕方ないが)無事に一人暮らしの準備に戻れる。

 

 

「じゃあ、ぼちぼち俺も行きまs「風紀委員(ジャッジメント)ですの!!」だぁぁぁ!! またこれか!!?」「ッ!?」



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You Set Me Free

 これを不幸と言わずして何と言うのだろうか。

銀行からの通報を聞きつけ、たまたま近くにいた風紀委員(ジャッジメント)が、たまたま空間移動能力者(テレポーター)で、

たまたまケイが外に出ようとしたそのときに現れたのだ。

一度在る事は二度在るというが、それにしてもこのタイミングの良さは異常である。

 

 

「うぅぅぅ……俺は平和に平穏に青春を謳歌したいだけなのにぃぃぃぃ……」

「あ、あなた、何を項垂れてますの? それより銀行強盗は!?」

「ソレナラユウカンナカタガタガツカマエテクダサイマシタヨ~。ダカラハヤクソイツラツレテッテネ~」

「そ、そうでしたの。目立った被害もなく済んで良かったですの。では、犯人はまもなく来る警備員(アンチスキル)に任せるとして、事情聴取させていただきますの」

「あはっ、あははっ……お、終わった……」

 

 

 もはやハイライトが消えた目で呟きながら己の不幸さを呪うばかりである。

IDがない今事情聴取などされてしまえばアレイスターが裏で手を引き強制送還されかねない。最悪、身元不明の不審者として捕まってしまうだろう。

2度目などない。このチャンスを逃してしまえば様々な理由で引き止められ、二度と窓のないビルから出られなくなるだろう。そうなればケイは色んな意味で『魔法使い』になってしまう。

計画に計画を重ね、今日という絶好のタイミングでやっと得たこのチャンスが全て水泡に帰してしまうのだ。現実逃避したくなるのも無理がない。

 壊れた玩具の様に何かを呟き続けるケイに、苦笑いしながら風紀委員(ジャッジメント)は聴取を諦め、カウンター付近の一般人から事の顛末を聞く事にしその場を後にした。

 

 

「ははは……さよなら、青い春……さよなら、まだ見ぬ愛しい人よ……俺は立派な魔法使いになって、ゆくゆくは法王……に……!?」

 

 

 そのとき、どこからか金属の擦れる音が聞こえ始める。

音の方に視線を向けると徐々にだがシャッターが開き始めているではないか。

 

 

「なっ!?どうしてシャッターが開き始めましたの!?」

「いや~、犯人も縛られている事ですし、警備員(アンチスキル)が入って来やすいように開けておこうかと思いまして」

「そういうことは一言おっしゃって頂きませんと!」

 

 

 カウンターの方を振り返ると、風紀委員(ジャッジメント)と先程指示を出していた従業員が何か話している。穏やかな内容ではなさそうだが、それよりも異常な光景が視界に飛び込み、釘付けにされてしまった。

風紀委員(ジャッジメント)の死角にいる人々が数人、眩しいばかりの笑顔でこちらに向かってサムズアップをしているのだ。

余りにも異常な光景に混乱していると、さらにその中の数人が開き始めたシャッターを指差し始めた。

 

(こ、これは逃げろということなのか??)

 

皆が銀行強盗を倒した際に事情を聞いていたせいか、先程からのケイの姿を哀れに思ったのかはわからないが、せめてものお礼にと協力してこの場から逃がしてやろうということになったようだ。

 徐々に開かれるシャッター。皆が口裏を合わせたかのように風紀委員(ジャッジメント)の少女は視界から姿を消していく。残りの人々は笑顔で脱出を促している。

……皆の気持ちに応えなければ。ケイは一つ頷き外へと踏み出した。

 

 

(くっ…!皆ありがとう!! この恩は絶対忘れないぜ!!!……親父……親父の街の住人は皆優しい人ばかりだったよ……viva 学園都市!……viva 外の世界!!)

 

 

 既に1/3程開いたシャッターから差し込む光からは懐かしさすら感じる。

だがこんなにも眩しく、希望に満ちあふれた光に触れた事があっただろうか。今ここに誓おう、今日という日を忘れぬよう。

この先どんな困難が待ち受けようとも、どんな壁に立ち止まろうとも、決して心折れたりしないと。皆がくれた明日という名の未来を精一杯生きようではないか。

後ろで風紀委員(ジャッジメント)が何か言ってるが知ったことではない。今、俺は自由なのだと。

出口まで後数歩。小さな子供に手を振られ、おばあちゃんに拝まれながらここまでやって来た。

今ここに、新たなスタートを刻むのだ。

 

 

「俺! 爆t「黒子ー? 終わったー?」aん……おう、姉ちゃん……ちっとこっちこいや……」

「えっ!? な、何!? だ、誰よアn「ごちゃごちゃうるせぇ!! そこに正座!!!」はいッ!!」

「お、おい、ケイ……なにしてるんだにゃー……」

 

 

 ……二度在る事は三度在る。この男本当に呪われているのだろうか?

皆の希望を(勝手に)一身に受け、新たにスタートを切ろうとした最中、またもや邪魔をされてしまったケイ。しかも今度は決め台詞の最中もあってもはや怒り心頭である。

温厚な人間がキレた時程怖いというが、ケイは感情の表現がオーバーなだけであって決して感情に任せて行動することなどのない。

それに加え、喜怒哀楽の怒のみ欠如したような性格のケイが初めて怒りを露にしているのだ。それは地獄の釜を開けてしまったのも同意義であり、最早誰にも止められる訳がない。

邪魔した本人の女学生を天下の往来のど真ん中に正座させ、土御門の制止も聞かず一方的に説教をする。

女学生もケイの勢いと動物的本能で感じ取った恐怖に、いくら話を聞いても友人の安否を気遣い様子を伺いに来た自分が、何故こんな状況になっているのか皆目見当も付かないまま、とりあえず正座をし受け答えしている。

 

 

「お、お姉様!? これはi「オ マ エ モ ス ワ レ」はいですのッ!!」

「あの~……これは一体……」

「あー……触らぬ神に祟りなしだぜい。二人には悪いが落ち着くまで捌け口になってもらうしかないにゃー」

 

 終いには女学生を助けに来た風紀委員(ジャッジメント)にも飛び火し、途中から二人仲良く並んで正座する羽目に。土御門もお手上げの状態で、頭に花を生やした風紀委員(ジャッジメント)と傍観するしかなかった。

この暴走とも言えるケイの説教は、語尾に「~じゃん」と付く警備員(アンチスキル)が到着し、流石に不味いと感じた土御門に引き摺られながら夕刻の街に消えるまで小一時間程続いた。

余りの激昂ぶりにID確認出来るわけもなく、警備員(アンチスキル)に土御門の知り合いがいたこともあり土御門の友人ならばとなんとか事なきを得たケイであったが、この後その土御門から逆にこっぴどく説教を受けたことは言うまでもない。

 

後日、ケイに正座させられた二人は口を揃えて「うちの寮監と同じオーラを感じた……」と言っていたのは内緒の話。




沢山の方にお気に入り登録頂き本当に感無量です。
50人突破したらお赤飯でも炊きましょうか。

活動報告にも書かせて頂きましたがこの話以降、毎週火曜日の朝6時に更新したいと思います。
今後とも『とある魔術の空間断裂』を私共々宜しくお願い致します。


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Ebony And Ivory

 ───第※学区、とある屋敷

 

 

 翌日、とある学区にある一軒の屋敷。

 一般家庭の住まいにしては大きいが、過度の装飾品などはなく、至ってシンプルな内装にこの屋敷に住む人間性が垣間見られる。

 その中の一室。この部屋では既に朝の支度を終えた一組の男女が書類を片手に今日の仕事のスケジュールの確認をしている。

 

 

「・・・以上になります。」

「問題ないわ。では、宜しくお願いします。」

 

 

 短い会話だがお互いの信頼関係があっての事だろう。

 

 

「畏まりました。では時間になりましたらお声掛けs「よっこいしょ」ッ!?」

 

 

 不意に聞こえてきた声に二人は固まり、すぐさま声の方向へ振り向く。

 するとどういうことだろう。銀髪の若い男が満面の笑みで此方を見ているではないか。

 

 

「誰だ!! きs「あら、ケイ君じゃない」親船さん!?」

「おはよ~、最中おばちゃん!」

「うふふ、おはようございます、ケイ君。急に現れるからビックリしたわ。」

「親船さん!? 彼は知り合いですか!? というか、一体どこから入ってきたんだ君は!?」

 

 

 にこやかに朝の挨拶を交わす親船最中とケイ。

 その二人を交互に見ながら全く状況が把握しきれていない混乱中の男。

 

 

「あはは、驚かせてゴメンね? 面倒だったから直接繋げちゃったんだ~。そちらの方ははじめましてですよね? ケイ=クロウリーと言います。以後お見知り置きを。」

「こ、これは丁寧に。私は親船さんの秘書を・・・ってクロウリー!?」

「そう、彼は理事長の息子ですよ。でもケイ君、出てきたって言ってたけど良く彼が許したわね。」

「あ~、全力で引き留められそうだったから一方的に伝えて逃げるように出てきちゃったんだよね~」

 

 

 苦笑いするケイと、容易に想像できると目を細め微笑む親船最中。

 ケイの名前を聞き慌てた男だったが、仲睦まじく会話する二人を邪魔するわけにもいかず、聞きたいことは山程あるものの今は黙っていることにした。

 

 

「それで、どうして私の所に?」

「いや~、出てきたのはいいんだけど、俺IDがなくてさ~。家も借りられないし、昨日は警備員(アンチスキル)に捕まりそうになるしで参っちゃって。」

「あらまあ。昨日というと第七学区の銀行強盗のことかしら?」

「もう新聞に載ってたんだ? 早いね~。それで……悪いんだけどIDと書庫(バンク)の登録お願い出来ないかな?」

「君!! 急に来て不躾ではないのかね!?」

 

 

 そう、ケイはこの親船最中にIDの発行と書庫(バンク)への登録を頼みに来たのだ。

 昨日の夜の事。ケイと土御門は今後のことを話し合っていた。その中で今ケイがするべきことのなかで最重要なのがこの二つだという結論に至ったのだ。

 前回はケイの暴走と土御門のおかげで何とか無事に済んだが、次は保証できない。家を借りるのに必要な以前にこの学園都市でIDなしで外を出歩くのは気が気でならないという話になったのだ。

 だが、一般の学生ならばともかく、虚偽の内容での発行・登録が出来る者など限られてくる。それこそアレイスターとまでは言わないがそれなりにこの街で力の有する人間でなければならないだろう。

 土御門の伝では難しく、ケイ自身もさんざん悩み統括理事会の一人である親船最中に頼るという考えに至ったのだ。

 

 

「失礼なのは重々承知なのですが頼れる人が他にいないのです。……絶対に迷惑は掛けないから……ダメかな、最中おばちゃん」

 

 

 ケイ自身窓のないビルの外で不用意に関わるのは迷惑を掛けるとわかっている。

 だが自分だけではこればかりはどうしようもなく、こんなことを頼めるのは昔から息子の様に可愛がってくれた親船最中以外いないのだ。

 

 

「……二つ条件があります。まだ住むところは決まっていないはずよね? ケイ君、頼みを聞く代わりに住居は私が決めてもいいかしら?」

「親船さん…」

「最中おばちゃん……それは狡いよ……これ以上迷惑は掛けられない。それに俺テナントも探してるんだ。仕組みはわからないけど、何かあった時最中おばちゃんに辿り着いてしまう」

「あら、何かお店でも開くの? でもそれなら尚更都合がいいわ。大丈夫、それぐらいの手間は問題ないわ。」

 

 

 親船最中の出した条件はケイが喉から手が出るほどの好条件であったが、しかしそれは必要以上にケイとの繋がりを他者に示しかねない内容だった。

 親船最中としては息子の同然のケイの力になりたいのだろう。それをわかってか、秘書の男も諭すような視線を向けるばかりで何も言おうとはしなかった。

 ケイは迷っていた。実の両親を亡くし学園都市に来てから、アレイスターが父親なら親船最中は母親同然に慕ってきたのだ。

 そんな彼女を自分の我儘で危険に晒していいのかと。答えは簡単な筈なのに、何処かで自分のエゴが邪魔をする。

 そんなケイの葛藤を解ってか、親船最中は話を続ける。

 

 

「ケイ君はテナントを借りて何をするつもりなのかしら?」

「え?あぁ…喫茶店でもやろうかと思ってさ~」

「あら、飲食も楽じゃないわよ?」

「だよね~。いや、恥ずかしいから誰にも───特に親父には言わないで欲しいんだけど。ほら、あのビルで炊事は全部俺がやってたじゃん?で、それから珈琲や紅茶に賓って、親父や皆の喜ぶ顔を見てるうちにこれを仕事に出来たらいいな~、って。軽い動機だけど一番長続きしそうだからさ~」

「じゃあ、公演などで外出してる際にデリバリーをお願いしましょう。これが2つ目の条件ではダメかしら?」

「ッ!?……ったく、敵わないな~……わかったよ。いつでも、なにがあっても届けるよ! 俺の力なら電話しながらでも届けられるしね~♪」

「ふふふ、楽しみがだわ。有難う、ケイ君」

 

(この二人を見ていると親子のように、深く信じあっているのだと感じる。何より親船さんのこんな笑顔を見たのはいつ以来だろうか。

 ケイ=クロウリーか……この少年は信用に値する人間なのかもしれないな……)

 

「有難うはこっちのセリフだよ。でも俺からも一つ条件、というかお願いしてもいいかな?」

「あら?何かしら?」

「些細なことでも、何かあったら直ぐに連絡して欲しいんだ。……そちらの方には申し訳ないけど、毎度毎度薄い警備であのビル来るの勘弁してよ~。本当に心臓に悪いんだよね~」

「私も何度も進言しているんだが、中々首を縦に降ってくれなくてね。君からも時々言ってくれないか?」

「あらあら、貴方達いつの間に仲良くなったの? これは不利な状況ね……南の国にでも高飛びしようかしら」

「いいねぇ~♪ セブ何てどう? 今なら交通費とボディーガード代がタダだよ~?」

「そのときは書類持参で同行させて頂きますのでので、悪しからず」

「「え~!?」」

 

 

 風刺的な冗談の応酬はケイと親船のハーモニーで笑いに変わる。

 つい先程出会ったばかりの人間まで談笑に加えてしまえるのも偏にケイの持つ魅力なのだろう。

 親船最中の追加条件は定期的に顔を見せること。

 そして、ケイの条件は親船に降り掛かる危険を自分に排除させること。

 この二つの条件は互いの絆を確固たるものとしてくれた。だが、それ以上に周囲の者達にとっても喜ばしいものとなってしまったはずだ。

 様々な思惑が渦巻くこの街で、この絆は吉となるのか……それとも……



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Ytse Jam

仕事にかまけて暫く放置プレイしてました。すいませんm(_ _)m
毎週更新出来るよう頑張っていますので気長にお付き合い頂けると幸いです。

ではどうぞ。



「それじゃあ、夕方には全部用意出来ると思うからまた来て頂戴」

「了解~。じゃあまた後で!」

 

 

 そう告げるとケイは笑顔でまた虚空へ消えて行った。

 

 

「わかりません……ただ、理事長の話によれば『原石』であると」

「……『原石』、ですか……」

「ええ……。彼の力がどのようなものであり、どれ程の可能性を秘めているかはわかりませんが、理事長が直々に養子に迎えた経緯を考えれば、彼がとても大きな運命を背負っていることは伺えます」

 

 

 この街に来て初めて超能力を目の当たりにしたときもそうだったが、この胆が冷える感覚はどうにも慣れない。

 親船があまり自身の警護の力を入れない方針の為、襲撃などの類は幾度も経験してきた。

 だが、あれは違う……。決して常識などでは考えていけないものなのだ。

 人間、自分のわからない───理解し難いものに対しては酷く閉鎖的傾向になることがある。

 趣味趣向や宗教の相違などがそうだが、要は自身の認識する『世界』を壊されるのが嫌なのだ。その嫌悪感は対象の力の大きさに比例してゆく。

 だが、そう簡単に割り切れないのも人間である。

 例え、どんな未知の力を持っていようとも、先程まで共に談笑していた銀髪の少年を秘書の男は恐れたりはしなかった。

 それどころか彼の環境を考えれば、親船が言う『運命』に立ち向かう力になってくれるだろうと安堵さえした。

 畏怖する力さえも希望に変えてしまう、そんな彼の魅力に男は気持ちが昂るのを感じた。

 

 

「……私は初対面でしたが……それでも、彼ならば乗り越え覆してくれると感じました」

「ふふふ、貴方もあの子に魅了されてしまったみたいですね。無理もありません。あの子は、あの統括理事長でさえ骨抜きにしてしまったのですから」

「しかし、理事長に黙って彼のIDを作っても大丈夫なのでしょうか?」

「そのことなら問題はありません」

 

 

 そう答えながら親船は、机の引き出しの中から1通の口の開いた白い封筒を取り出すと、徐に秘書に手渡した。

 秘書は訝しげに受け取り、親船の許可を得てから中身を確認する。

 

 

「!! これは……一体誰がこれを」

「彼しかいないわ。恐らくあの子が私を頼ってくるのを見越して直ぐに用意し送ってきたのでしょうね。彼もあの子の事ではただの親バカだということでしょう」

 

 

 くつくつと笑いを堪えながら話す親船に、開いた口が塞がらないという言葉を体現している秘書の男。

 封筒の中身はケイのIDと書庫(バンク)に登録されたであろう内容が記された1枚の紙だった。

 どうやらアレイスターはケイが家を出た後、直ぐにこれらを用意し、親船のポストに投げ入れたようだ。

 本来ならばこんなに早く発行出来るものではない。一連のあまりの手際の早さに前々から準備していたのではないかと勘繰ってしまう程だ。

 先程再度会う時間を夕方以降に設定したのは既に手元にあったから。後は約束通り住居を探して話を付けておけば今日からでも住めるだろう。

 

 

「全く、似た者親子ですね。ですが、これで全て合点がいきました」

「彼ばかりあの子の力になるなんて、狡いじゃないですか。でも、あの子の入れた紅茶がいつでも飲める権利を得たのですから私の方が得をしたかもしれませんね」

「ああでも言わなければ彼も納得してくれなかったでしょう。親船さん、貴女もずっと親バカですよ」

「ふふふ、とても嬉しい誉め言葉だわ。次は孫かしら?そう言えば娘も良い歳なのに浮いた話の一つも聞こえなくて……あなた、うちの娘と「お、親船さん!?」あら、ダメかしら?」

「今日のスケジュールは可能な限りずらしておきます!私に出来る事がありましたらいつでもお声掛け下さい、それでは!!」

 

 

 親船は微笑みながら急いで部屋を後にする秘書に礼を言い、そして、窓辺に足を運んだ。窓から見えるその景色の向こうには雲一つない空の元、アレイスターがいるであろう窓のないビルが小さく見える。

 

(……これぐらいはいいわよね? アレイスター……)

 

 実はアレイスターから届いた封筒には別にもう一枚手書きの便箋が封入されていたのだ。内容は簡単に言って3つ。

 一つ───ケイが頼って来たら同封されているIDと書庫(バンク)に登録されたないようが記された紙を渡して欲しい事。

 二つ───このことはケイに教えない事。

 そして三つ───必要以上に手を貸さない事。

 最初の二つはこれから果たされる。だが3つ目はどうだろうか。

 アレイスターの想像の範疇だろうか。それとも約束を反故したことになってしまうのだろうか。

 だが、ここであれこれ考えても始まらない。自分はケイの力になると決めたのだ。

 実の息子の様に可愛がっているケイに頼られたのだ。力にならない訳が無い。寧ろ自主的に動かなかったことを褒めて欲しい程だ。

 そして、それとは別に気にかかっている事が一つ。それは───

 

 

(黒裏 継(くろうら けい)……『クロウリー』を継ぐ者……そう思っていいのかしら、アレイスター……?)

 

 

 ───その日の夕方、ケイは親船の紹介によりテナントが1階にあるマンションに居を構えた。

 奇しくもその場所は、昨日ケイが土御門と待ち合わせるために降り立ったビルであった。

 

 

 

 閑話

 

 夕方、ケイと再会する少し前

 

「ケイ=クロウリー……クロウリー ケイ……くろうり けい……黒裏 継……大分強引な気がするのですが……」

「烈怒乱舞羅亜みたいですよね」

「親船さん!?」




あ、お赤飯炊きましたよ!嬉し過ぎてエビフライも付けました(笑)
皆様のおかげでモチベーションが保ててます!有難う御座います!!

次は100か……10話前に達成したらお寿司でも食べに行きましょうかね。

ではまた来週。さよなら、さよなら、さよなら。


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Mouth For War

 ───第7学区、大通り

 

 

 親船の自宅から去った後、ケイは一人街を散策していた。

 

 

「さて、夕方まで何をして時間を潰そうか……」

 

 

 主立ったものは夕方手に入る。残すものは携帯電話、銀行の口座、後は家具や家電などだろうか……

 本来ならば、ID→携帯や口座→住居→家具家電、だったのだが親船のおかげで一気に最重要物が全て手に入る形となり、今、ケイは時間を持て余していた。

 

 

「つっちーは学校か……二日連続でサボらせても可哀想だよな~……そうだ、あいつにも一人暮らし始めたこと知らせなきゃ!」

 

 

 何か思いついたのだろう。ケイはポン、と一つ手を打ち鼻歌まじりで歩き出す。

 

 

 

 ───第七学区、窓のないビル前

 

 

「今の時間ならここら辺にいるはずなんだけど……」

 

 

 辺りを見渡しても誰もいない。今日は休みなのだろうか。ならば無駄足だったと肩を落としていると、近くの路地から何やら話し声が聞こえてくる。

 ケイは静かに近づき死角になるなるであろう場所に身を隠す。

 

 

「では私はここで失礼します」

「ああ、有難う。また宜しく頼むよ。ところで───」

 

 

 若い男と少女の声。だがここからでは姿が見えない。どうにか確認できないものかと辺りを見渡せば、丁度隣のビルの屋上からよく見えそうではないか。

 ケイはまるで忍者のような動きで瞬く間にビルの七階屋上へ駆け上がり、二人が見える位置まで移動する。

 ターゲット確認。間違いなく今回の目標がそこにいる。よくよく会話を聞いてみれば、どうやら仕事の話ではなくただのナンパのようだ。

 

(まあ、あんな格好してりゃ声の一つや二つ掛けられるわな~)

 

 少女の格好は下は普通の冬服のミニスカートなのだが……上が胸を隠す程度の桃色の布にどこかの学校のブレザーを羽織るのみという良く言えば涼しそうな、悪く言えば痴女のような格好なのだ。

 

(はぁ……つっちーといい、何で俺のダチってまともな格好の奴がいないんだろ……)

 

 いくら幼少期から外に出た事のないケイでも、テレビや雑誌などの情報からあの二人の格好がおかしいのはわかる。

 出会った当初は、これが流行最先端なのか!?と疑ったこともあったが、その考えもアレイスターの迅速な指摘で間違いだったことに気付き事なき事を得るのだが、

 

(数少ない友人が全員変な格好してるんだ、黒歴史の一つや二つあってもおかしくないんだよなぁ、俺。……親父、マジでありがとう……)

 

 自身の境遇に涙し、向かいのビルの中にいるであろう父に手を合わせ拝むケイ。

 そんなことをしているとどうやら二人のやり取りも終わったようだ。ナンパは失敗に終わったのだろう。少女は苦笑いで手を降り、男は残念そうに肩を落とし離れて行く。

 

(ありゃ、失敗ですか、ご愁傷様~。さてと、ボチボチ俺も行きますか)

 

 そう呟き男が見えなくなったのを確認してからケイは柵に手を掛け、そして一気に飛び降りる。

 

 

「ふぅ……あの男しつこかったわね……こっちは自分ごと転移して吐きそうだってのに、そんな気になれるわけないじゃない。……今日はもう誰も来ないみたいだし、一旦帰る前にどこかで休もうかしら……」

「あぁぁぁぁわぁぁぁぁきぃぃぃぃちゃああああああああああああんっ!!!!」

「ひッ!? ……きゃぁぁぁぁぁ!?」

 

 

 突如名前を呼ばれ何事かと思えば、頭上から満面の笑みの男(ケイ)が降ってくるではないか。口から漏れた悲鳴と共に思わず少女は頭上を庇いしゃがみ込む。

 だが、ケイは華麗に空中で一回転し少女の目の前にふわりと着地する。

 

 

「着地成功、っと。酷いな~、俺と淡希ちゃんの仲なんだしそんなに怖がらなくてもいいんでない?」

「ふぇ……ケ…イ?」

「他の誰に見える?」

「ッ!! あ、貴方ねぇ! もうちょっと登場の仕方考えたらどうなの!? いきなり降って来られたら誰だって驚くでしょうが!!」

 

 

 涙目になりながら抗議する淡希と呼ばれた少女。彼女は結標淡希。座標移動(ムーブポイント)と呼ばれる空間移動系の大能力者(LEVEL 4)であり、この窓のないビルにVIPを運ぶ『案内人』である。

 ケイとの出会いも土御門と同じくビルに訪れた際に出会ったのだが───

 

 

「俺としてはいきなに自宅で吐かれた方がビックリするんだけどね~」

「あ、あれは久しぶりに自分ごと転移して仕方なかったのよ! というかさっさと忘れてよ!!」

「いや~、あれは忘れらんないって~。親父に呼ばれて来てみればゲロ塗れで女の子が倒れてるんだもん。最中おばちゃんに言われるまで死んでるのかと思ったわ」

「ッ!! ……いいわ……どうしても忘れられないっていうのなら……私が手伝ってあげる……」

「わー! 待て待て待て!! 頼むからその懐中電灯しまって! わかった! すぐ忘れる、今すぐ忘れる!! だから許して、淡希『お姉ちゃん』!?」

「むぅ……今回は許してあげるわ。でも……次は許さないからね?」

「Yes,Your majesty!!」

 

 

 軍用懐中電灯を向け釘を刺す結標。彼女はこの懐中電灯で能力の基準をつけているようで、過去に一度同じ様にからかったケイが人間ダーツの的(矢はコルク抜き)にされたときは本当に胆を冷やしたものだ。

 今回は忠告だけで済んだが、いつあのときの悪夢が再来するかと思えば暫くからかうのは止した方がいいだろう。

 結標としては過去の恥ずかしい思い出で散々弄られたのだ、温情故だとわかってくれればいいのだが、とため息をつく。

 

(しかし、久しぶりにやった『お姉ちゃん口撃』……まだ通用するとは……恐るべし、『ショタコン』……)

 

 結標の方が若干年上なのもあり、出会った当初結標にお願いされて初めて使った『お姉ちゃん』。

 暫くは『淡希お姉ちゃん』と呼んでいたのだが、土御門と遊んでいるときにふと話に上がり結標のショタコン疑惑が浮上。

 その後、結標に何かお願いするときのみ使う様になり、今では対結標用最終兵器と化してしまったのだ。

 そんな事を思われているとも露知らず、若干ほくほく顔の結標。このまま放っておくと来た意味がなくなってしまいそうだ。

 人目もあるし、とりあえず落ち着ける場所を移そうと提案し二人は窓のないビルを後にした。




やっとヒロイン(?)の登場です。
個人的にはあわきんよりみさきち派です。
え?聞いてない?失礼しました。

ではまた来週


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A Rat Like Me

 ───第七学区、ファミレス ジョセフ

 

 

「それで、一体どうしたの? 貴方が外に出てるなんて」

「そうそう、それを知らせに来たんだよ。俺昨日から一人暮らしする為に家出たんだ~」

「あら、もう住むところは決まったの?」

 

 紅茶のティーパックを浸しながら淡白な反応を見せる結標に、少し詰まらなさそう肩をすくめてみる。

 

「あれ?意外な反応が。驚かないんだ?」

「どうせ貴方が押し切ったんでしょ?それに昨日からアレイスターの様子がおかしいのよ」

「なるほど~、それで何かあったんだと。流石は淡希ちゃん、良くわかってらっしゃる」

「知り合ってどれだけ経つと思ってるの? 貴方達親子のやり取りは目を瞑っててもわかるわよ」

 

 

 そう、頻度から言えば劣るものの結標とは土御門より前から付き合いがあり、思春期には互いに本当に姉弟のように接してきた。

 最近はもっぱら土御門と、今までできなかった同性同士の付き合いというものを楽しんでいる為昔よりは会う回数は少なくなっていたが、それでも自分の良き理解者として結標を頼ることもしばしばだ。

 

 

「で、順調なの?」

「まあね~。今日の夕方にIDと住居を紹介してもらえることになってるよ」

「よかったじゃない。箱入り息子だったんだから少しは世間の荒波に揉まれなさい」

「あはは、荒波とは違うけど、昨日早速厄介ごとに巻き込まれちゃったよ~」

「早くない!? 何があったのよ」

「あ~、それが……」

 

 

 ケイは苦笑いしながら昨日の一連の流れを話始めた。

 

 

「……で最後は小一時間ほど説教しちゃった」

「あ~、その二人に同情するわ……」

 

 

 何かを思い出した様に身震いする結標。実は彼女も過去に一度怒られている。そのときの普段からは想像出来ないケイの放つ何かに彼女は生の終わりを感じたという。

 

(あんな魔王も裸足で逃げ出す殺気、二度と当てられたくないわ……)

 

 そう呟いて、思い出したくないと頭を振り、話題を変える。

 

「そ、それはそうと、荷物はどうしたの?」

「荷物はつっちー……と言ってもわからないか。土御門って金髪アロハいるじゃん?あいつの家に置いてあるよ~」

「あぁ。貴方達そんな仲だったの?」

「マブダチっすよ~。あれ?知らなかった?」

「それ死語よ……自分転移させた後に談笑なんて出来ないわよ。それに極力運ぶ人間とは関わらないようにしてるの」

「それもそうか。だからこそ親父も仕事頼んでるんだと思うしね」

「ギャラがいいのは認めるけど……正直、話が来たときは耳を疑ったわ」

「まあ、いい練習だと思えばいいじゃん。期待されてるんじゃない?未来の超能力者(レベル5)様?」

「やめてよ! ……別に望んで手に入れた力じゃないわ……」

「そうだね……まあ、お互い苦労するね」

 

 

 気まずい空気を変えようと笑うケイに少し救われた気がした。

 ここ学園都市は大勢の学生を集めて授業の一環として記憶術だの暗記術という名目で超能力研究、即ち脳の開発を行っている。つまりは人体実験だ。能力が開花した後もそれは続き、能力が高い者、希有な能力を持つ者は世の為次世代の為などの名目で研究協力という更なる人体実験が待っているのが現状だ。勿論それが全てではないことは確かだが、その一面を知ってしまった者達は自ら望んでこの街に来たものならばまだしも……いや、例えそうであっても己の力を呪う者が現れても可笑しくはないはずだろう。また、その強大過ぎる力に怯える者もいるだろう。常識では考えられない物理現象を捩じ曲げて起こされる能力、望むままに人を傷付けることすらできる能力は自身の在り方を考えさせられるには大きく、心を深い闇に突き落とすことなど雑作もないことなのだろう。

 そしてこの結標淡希もその内の一人なのだ。望まずに得てしまった力に何度怯え、嫌悪を抱いたか……。それも二三◯万分の七しかいない超能力者に近い力を持っているのだ、その恐怖は尚更だろう。

 そして起こってしまった悲劇……。二年前のカリキュラムにおいて転移座標の計算ミスにより片足が壁にめり込み、 それを不用意に引き抜いてしまったことで密着していた足の皮膚が削り取られるという大怪我を負った。 この事故がトラウマとなり、それ以来自分への能力作用には体調を狂わせるほどの激しい精神的消耗が伴っている。 そしてそのことが原因で、強大な能力を持ちながらも超能力者(レベル5)認定はされていない。

 だがそんな彼女も一つの出会いに心の拠り所を得る。それがケイだ。出会って暫くしてからだろうか、経緯は違えど自分も同じ気持ちになることがあると打ち明けてくれたときは涙を流しそうになったことを覚えている。それでも力を受け入れ『ケイ』という生き方を模索する彼に惹かれ、その存在に何度励まされたかわからない。

 

(全く、……これじゃどっちが年上かわからないじゃない)

 

「ところで淡希ちゃんこの後暇?」

「えぇ、今日はもう予定ないけど」

「じゃあ、色々行きたい所あるから案内してくれないかな?まだどこに何があるかわからなくてさ~」

「いいわよ。何処に行きたいの?」

「ありがとう! 服買いたいのと、見るだけなんだけど家電と家具だね!」

「それなら、先に家具とか見に行きましょう。服は荷物になるから後回しのほうがいいでしょ」

「そうだね!じゃあ、ぼちぼち出発しますか!」

 

 

 その日の夕方、第七学区の某ショッピングセンターの売り場には、着せ替え人形になった哀れな男のすすり泣く声が聞こえたとか。聞こえないとか。




さて、次回から新章に移りたいと思います。
やっと本編に?
亀執筆すみません。

ではでは


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About To Crashー虚空爆破事件〜
Eye Of The Storm


 ───その日の夕方

 

 

 

「ふぅ、やっとセカンドミッション完了かな?」

 

 

 結標に玩具(?)にされたあと、親船最中に会い第七学区のマンションを紹介してもらったケイ。希望通り一階にはテナントもあり、ケイ的には大満足だったが、さらに親船の紹介ということやオーナー側の事情から考えていた金額より大分安く借りられたのは嬉しい誤算だった。

 その後一旦土御門の家に荷物を取りに行き、マンションの場所を知らせる為書き置きを残してまた戻り、今は新居の掃除をしているところだ。

 

 

「おいっすー。手伝いにきたぜーい」

「つっちー! 助かるよ~!」

「うわ~、何だこの無駄に広い部屋……色んな意味で心配だが大丈夫なのかにゃー?」

「大丈夫! なんかね~、この部屋だけ借り手が一向に見つからなくて困ってたんだと。それでオーナーさんにテナントも借りたい話したら値引いてくれてさ~。ホント助かったわ~」

「そりゃ、学生主体の第七学区に四LDKは誰も借りんぜよ。テナントは下に二つあったけどどっちなんだにゃー?」

「左側の狭い方だね~。前の借り手が失敗したとかで機材もそのまま貰えることになっちゃった」

 

 

 ケイの借りた部屋はビルの最上階のワンフロアを丸ごと一室にした四LDKの部屋であった。学園都市が出来たばかりの時に完成し、新築当初はテラスハウスの名目で作ったものなのだろうが、建設会社とオーナーの期待を大きく裏切り完成から十年以上誰一人として入居する者は現れなかったらしい。積もる埃と減らぬ借金にオーナーが頭を抱えていたところに親船から連絡があり、今に至る訳だ。秘書の男によると何かあれば親船からもらえばいいぐらいの考えでオーナーは話を受けたらしく、下のテナントも借りたいと聞いたときはそれはもう満面の笑みで電卓を弾いていたらしい。覚悟していたこととはいえ、いよいよ以て店を成功させなくてはならなくなってしまったと覚悟を固めたのであった。

 

 

「は~、蝦で鯛を釣るとはこの事言うんだろうにゃー。まあ、何にせよ見つかって良かったぜい」

「だね~。後は携帯と口座なんだけど……」

「なら今から携帯だけでも作りに行くかにゃー?」

「営業時間大丈夫なら行きたいな~」

「まだ急げば間に合う筈だから行っちまおうぜい。ついでにこの広さはちと大変だから助っ人呼んでもいいかにゃー?」

「構わないけど舞夏は忙しいんじゃないかい?」

「確かに舞夏が居ればだいぶ楽になるだろうが、残念。男なんだにゃー」

「つっちーのダチか。いいよ~、時間的に携帯買うとこで待ち合わせでいいんでない?」

「そうだにゃー。じゃあ、連絡しとくぜい」

 

 

 二人は掃除を一時中断し携帯を買いに行く事になった。

 因に舞夏とは土御門の義妹であり、彼にロリ・義妹・メイドの三種の嗜好を植え付けた人物である。ケイとは土御門の家に遊びに行った際仲良くなっていた。話によればメイド育成学校に通っているらしく、彼女が来てくれれば百人力ではあろうが彼女の通う学校は土日休みも夏休みもなく、『真のメイドさんには休息はいらない』という中々イカれた校則をお持ちの学校らしい。

 そんな多忙な彼女を私用で呼ぶのは烏滸がましすぎて気が引けるので土御門は友人を呼ぶことにしたらしい。ケイも流石に埃だらけのこの広い部屋を二人で掃除するのには気が滅入ってしまったらしく、お礼に飯でも奢ればいいか位に考え快諾した。

 そして二人は地下街に向かうことに。

 

 

 

 

 ───第七学区、地下街

 

 

 

「携帯ゲットだぜー!!」

「にゃー!」

「で、土御門君……ちみの友人とやらは一体どこにいるんだね?」

 

 土御門の友人が来るのも考慮して営業時間ギリギリまで携帯電話を選んでいたケイ達だが一向に姿も形も見せない待ち人に弱冠呆れていた。

 

「とてつもなく不幸な奴だからにゃー。大方、道に迷ったお婆さん道案内してたら犬のしっぽ踏んづけて追いかけられ、さらにスキルアウトにぶつかり第2ラウンド突入後来るはずだからそろそろの筈だぜい」

「どんだけ不幸なんだよ……呪われてるんじゃね?」

「近からず遠からずだにゃー」

 

 

 どうやら土御門曰く不幸に足が生えて歩いているような人間らしい。

 もし自分がそんな境遇の持ち主ならばニートまっしぐらなトップフリーターになれる自信がある。

 そんな事を考えていると黒髪の少年が遠くから手を振りながら走ってやって来るのが見えた。

 

 

「おーい!」

「やっと来たようだぜい」

「やっと着いた……。遅くなって悪い、土御門」

「全くだぜい、今度は何があったんだにゃー?」

「申し訳ない! いやぁ……道に迷ったお婆さん道案内してたら犬のしっぽ踏んづけて追いかけられ、さらにスキルアウトにぶつかり第2ラウンド突入しちまって

 さ、参ったよ」

「な? 言った通りだろ? この上条はこういう人間なんだにゃー」

「oh……」

 

 

 不幸だとは聞いていたが、まさか土御門の予想が一言一句漏れずに的中いたとは……。

 驚愕半分、これが平常運転だと普通に会話をする二人に呆れ半分で呆けていたが、土御門が教えてくれた少年の名前でケイは我に返る。

 

 

「……上条?」

「ああ、紹介するぜい。俺と同じクラスの上条当麻だにゃー。そんでこっちがダチの───」

「黒裏 継だ。宜しく、上条」

「宜しく黒裏。ホント遅れて申し訳ない」

「いや、こっちこそ手伝いに来てくれて有難う。飯ぐらいしか出せないけど宜しく頼むよ。じゃあ、早速だけど時間も時間だから向かおうか」

 

 

 挨拶もそこそこにケイの新居に歩き出す三人。初対面の会話など普通はこんなものなのだろうが、ケイ態度にの異変を感じた土御門は、少し悩んだ後上条を少し待たせ確認することにした。

 

 

「どうしたんだにゃー?人見知りするような玉じゃないだろ?」

「……プラン」

「!?……上条当麻が?」

「ああ、親父が呟いていたのを聞いたことがある。だけど知ってるのはそれだけだよ」

 

 

 プラン・・・それが何を成す為のものなのかはわからないが、あのアレイスターが己の全てを賭して成そうとしていることは確かだ。

 そのプランの重要人物だと思われる二人が出会ったのだ、紹介した土御門からしてみれば最悪だとしか言いようがない。

 

 

「くそ、失敗ったな……。こんなことで消されちゃ堪らんぞ」

「それは大丈夫だろ。寧ろ俺と上条の友好が深まるのは好都合かもしれないしね~」

「俺が二重スパイなのを忘れたか?どっちもどっちだ」

「危ない橋渡っているのは覚悟の上じゃなかったのかい?大丈夫、何かあったら助けてやるよ、……二人でな」

 

 

 そう、二人で。そう言いながらケイは視線を上条に向けていた。漠然とだが上条当麻とはこれから深い付き合いになりそうな予感がしていた。

 その直感のようなものがどこから来るものなのかは全くわからないし、根拠など何もないが今は少しだけ自分のこの気持ちを信じてみよう、そう感じていたのだった。

 

 

「頼むぜ、親友……。死ぬなら舞夏の腹の上って決めてるんだからにゃー」

「わはは、義妹で腹上死って最早病気だな」

「義妹でロリでメイドな舞夏に勝るものはないんだぜーい。」

「俺はもうちょっと大人な女性の方が好みだな~」

「女の好みはかみやんと気が合いそうだにゃー」

「『ふふふ、楽しみだ』」

「うわ、この流れでアレイスターの物真似とかゲスすぎだぜい……。しかも結構似てたし……」

「息子ですからね~♪ とりあえず今は掃除掃除!」

 

 

 土御門を揶揄(からか)いながら上条と合流し、今度こそ一同はケイの新居に歩き始めた。




やっと新章にに突入、そして本編に入りたいと思ってます。
今年中には原作2巻まで行きたいなぁ……

忙しさを理由に更新しか出来ず本当に申し訳ないです。
今日から新しい職場に行ってきます。マジ緊張で吐きそう……

ではでは


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MID-NITE WARRIORS

───第七学区、ケイの自宅

 

 

ケイの新居に着き、早々に掃除を始めた三人。

過去入居者がいなかったこともあり、二時間弱で埃まみれの部屋達は見違える程綺麗になった。

その中でケイと上条は急速に関係を縮め、今やあだ名や下の名で呼ぶようになっていた。

 

 

「カミやんそっちはどう~?」

「こっちは大丈夫だ! 土御門は?」

「こっちも終了だぜい」

「じゃあ、これで完了かな? お疲れ~、助かったよ!」

「流石に三人居れば早かったな。間取り見たときは上条さん、日が変わるのも覚悟しましたけど、まさか2時間弱も残るとは」

「まあ、使ってなかっただけで酷い汚れがなかったのが幸いだったぜよ。あとカミやんが……やめとくにゃー」

 

申し訳ありませぬっ!!と勢い良く土下座をする上条に盛大に笑うケイと土御門

土御門の言う通り酷い汚れがなかったのは嬉しい誤算であったが、そこは歩く貧乏くじの上条当麻がいて普通に終わる訳がない。

バケツに足を引っ掛けるわ、転んで箒を折るわ、集めたゴミ袋をは上条が持った瞬間破けるわ、かかった時間の三分の一は上条の不幸のせいでロスしてしまったのである。

 

 

「って最後の俺のせいなのか!?」

「弁明なら聞くけど、何かあるかにゃー?」

「ぐっ、完全に私は悪くないの悪いのはあの人なのエンドまっしぐらじゃねぇか……」

 

 

分が悪いのを察したのか観念した様に項垂れる上条の姿に一頻り笑った一同は次なる行動に移す。

 

 

「じゃあ、飯食いに行きますか!」

「いや、完全下校時刻過ぎてるから今日はコンビニとかで済まそうぜい」

「そんなのあるのか……カミやん、後日改めて奢るから今日はコンビニでいいかな?」

「俺は構わないぜ。コンビニ行くなら俺も一緒に行くよ」

「飲み物は俺が用意するぜい。ウチに貰い物が沢山余ってて困ってたんだにゃー」

「じゃあ、俺とカミやんで食い物、つっちーが飲み物を調達で! 何かあったら連絡くれ!」

 

 

───同学区、とあるコンビニ

 

 

「さて。カミやん、適当に食いたいもの選んでちょ~」

「おう! だけど本当に奢ってもらっちまっていいのか?」

「いいのいいの、今日は俺らが知り合った祝いってことでパーッとやろうぜ!」

「じゃあ、遠慮なk……?」

 

 

急に背後から肩を叩かれた上条。誰だろう、と思い後ろを振り返るとそこには───

 

 

「はぁ~い……また会ったわね」

「ゲッ……ビリビリ中学生」

「ビリビリじゃなくて御坂美琴! 今日という今日は決着をつけてやるから覚悟しなさい!!」

「何でこんなのに関わっちゃったんだろう……不幸だ……」

「ア ン タ ねぇ……表d「カミや~ん?どうした~?」eろ……っ!?」

「あれ?昨日の女学生ではないかね」

 

 

姿が見えない上条を探しに来たケイ。そしてその姿を見つけた瞬間青ざめる御坂美琴。そう、昨日ケイの脱出を妨害し説教を受けた女学生と、その少女にトラウマを植え付けた張本人の邂逅である。

 

 

「なんだ、継もビリビリと知り合いだったのか?」

「まあ、ちょっとね。で、どうしたの?」

「いや、こいつ会う度毎回勝負しろってうるさくてさ。上条さんも困ってるのでせうよ」

「ほぅ?……オ マ エ、こんなとこでも迷惑かけてんのか?」

「ひっ!?」

 

 

ケイの凄みに怯える御坂。昨日の恐怖はよっぽどものだったのだろう。自分がパス出ししたとは言え、初めて見る御坂の怯える姿に若干哀れみ、二人の間に何があったんだろうと不思議そうな顔をした上条がいた。

 

 

「……な~んてね。カミやんと勝負? 面白そうじゃん、俺が立会人してやるよ♪」

「へ?」

「なっ!? 冗談だろ!? こいつ超能力者(れべる5)なんだぞ!?」

「そのレベル5の攻撃が効かないアンタはなんなのよ!」

 

傍から見るとでっかい犬と猫が戯れてる様にしか見えない二人のやり取りは微笑ましく、ケイは思わず溢れる笑い声を抑える為口に手をやり肩を震わせる。

 

「まあまあ、二人とも。カミやんも女の子相手だからってのらりくらり躱してきたんだろ? だったら第三者立ち会いの元ちゃんと勝負してあげればもう絡まれなくてすむんじゃない?」

「そ、そうよ! だから勝負しなさい!!」

「マジかよ……ああもう! わかりました、わかりましたよ!! じゃあこれっきりだぞ!? あと、危ないのは無しな!?」

「よし、そうと決まればさっさと買い物しちゃおうぜ~♪ そう言えばビリビリちゃん、名前は?」

「アンタまでビリビリ言うなっ! ったく、御坂美琴よ。アンタは?」

「あれま、君が第三位か……俺は黒裏 継だ、ヨロシク~♪」

 

 

───同学区、河川敷

 

 

「で、これはどういうことなんだか説明して欲しいぜよ……」

 

 

コンビニで買い物を済ませた後、三人は存分に暴れても大丈夫なようにと近くの河川敷までやってきた。その道中ケイは土御門に連絡をし合流。今に至る。

上条と御坂は既に河原にスタンバイ済み。ケイと土御門は土手で観戦中だ。

 

 

「いや~、カミやんの力がどんなモンか見ておきたかったし、丁度良い当て馬もいたから立会人になったワケ~」

「はぁ……選りに選って『超電磁砲(レールガン))』とはにゃー……カミやんついてなさすぎだろ」

「超能力者の第三位『超電磁砲(レールガン)』の御坂美琴……対するカミやんの能力は?」

「カミやんの能力の名は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』……まっ、百聞は一見に如かずだぜい。それに、始まったようだしにゃー」

 

 

初手は御坂。まずは挨拶代わりに電撃を放つ。だが上条も、いつものことだと言わんばかりに電撃を右手で打ち消した。

 

 

「へぇ……あれが『幻想殺し(イマジンブレイカー)』……面白いね」

「カミやんの右手は異能の力であれば全て打ち消すことが出来るらしい……それが神の奇跡(システム)であってもな」

「何それ、チートじゃないっすか。流石はプランの重要人物、ってか?」

「アレイスターのさんには言われたくないと思うぜい?」

「わはは、本人に全く自覚ありませんがね~。お、決着が付きそうだぜ?」

 

 

内容は兎も角、観戦組のほのぼのとした会話とは打って変わって、河原ではヒートアップする戦いに決着が付こうとしていた。

砂鉄による攻撃に切り替えた御坂を幻想殺し(イマジンブレイカー)で去なしてゆく上条。

だが、その隙を突いて御坂は懐に飛び込む。遠距離がダメなら直接、この考えは正解だろう。だが───

 

(電流が……流れて行かない!?)

「ねぇ、つっちー……あの子アホの子なの?」

「いや~、俺も初めてみたぜよ……自分から幻想殺し(イマジンブレイカー)触っちゃう奴」

 

 

直接体内に電流を流そうと掴んだものは、異能を打ち消す幻想殺し(イマジンブレイカー)=上条の右手。自分で自分の首を締めてしまっては二人にアホの子扱いされても無理はない。

 

 

「御坂はアホの子、っと。メモっとくわ。さ~て、二人とも混乱してるみたいだから収めに行きますか~」

「だにゃー。早く宴はじめようぜい」

 

 

想定外の決着に呆れながら、ケイ達は二人の元に歩き出す。幻想殺し(イマジンブレイカー)によって能力が出せない御坂と、女の子が殴れない上条ではこれ以上の進展はないだろう。

 

 

「二人ともお疲れ~。この勝負カミやんの勝利でいいよな?」

「なっ! 私はまだ負けてないわよ!!」

「いや、能力封じられた時点で負けだから。普通の女の子がステゴロで男子高校生に勝てると?」

「ッ! でも!!」

 

 

納得いかない様子の御坂。能力を封じられたとは言え一撃も食らってないのだ、無理もない。なのでケイは御坂の性格を逆手に取ってこの場を収める事にした。

 

 

「デモもストもありませーん。そんなに戦いたいんなら後日俺が相手してやるよ。まあ、超能力者(レベル5)ごとき、束になってかかって来ても余裕だけどね~♪」

「!!……言ったわね? 絶対に吠え面かかせてやるんだからっ!」

 

 

熱くなりやすい御坂はまんまとケイの策略に嵌る。これでケイは超能力者との繋がりが出来、上条の面倒もなくなる。まさに一石二鳥だ。

そんなやり取りの後ろでは、今とんでもないことが聞こえた、と耳を疑う上条と呆れ顔の土御門がいた。この学園都市の頂点に位置する超能力者(レベル5)を纏めて相手にするなど一国の軍事力を持ってしても敵うかどうかの話だというのに。今、目の前にいる男は確かに余裕だと言ってのけたのだ。

 

 

「……オイオイ、土御門。継ってそんなに強いのか!?」

「強ち間違いではないんじゃないかにゃー。ただ、全力見たことないからわからんぜい?」

「うげぇ、継とはずっとお友達でいよう、そうしよう……」

 

 

絶対に継は敵に廻さない様にしよう……上条の本日二度目の誓いである。

そんなことを思われているとは露知らず、ケイはご機嫌で土手に歩を進める。

 

 

「そんじゃ、ハラへったし帰りますか! そこのアホの子も行くぞ~?」

「アホの子って誰の事よ!? って何で私も!?」

「まあまあ。どうせ今から帰っても常盤台じゃ門限ヤバいんじゃないのかにゃー? それならケイの家で時間潰せばいいんだぜい」

「そういうこと。早よおいで~」

「ぐっ……お世話になります……」

 

 

強引に御坂を納得させると一同はやっとケイの自宅に戻る。時刻は既に二三時を廻っていた。




社畜とはこういう事なのか……ストックがどんどん削られていくorz
次の休みに頑張って書きます!
そして文字数も増やそう。。

ではまた来週!


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SYMPTON

活動報告にも書きましたがR-18いらなかったですね。
教えて下さったリサラバさん有難う御座います!!そして皆様見辛くして申し訳ありませんでした!!
これからもお付き合い頂けると幸いです!!

ではどうぞ!


───第七学区、ケイの自宅

 

 

「うぅ……頭痛ぇ……気持ち悪い……」

 

 

河川敷の一戦の後、ケイの自宅にやって来た四人は買って来た食べ物と土御門の持って来た飲み物で宴を始めた。

最初は和気あいあいと少年少女らしくジュースとお菓子を摘み、談笑していたのだが。どうやら土御門の持って来た飲み物にアルコールが混ざっていたらしく健全な語らいは徐々にカオスに変わっていった。

 

 

「日本酒体質に合わないのかな……息が日本酒臭ぇ……つっちーとカミやんは……うん、見なかったことにしよう……」

 

 

ケイが見なかった事にしたもの───それは床に転がる死屍累々。この惨状を第三者が見たら殺人現場と間違えられかねない程の有様である。元気な体であれば彼らを介抱するのだが、この死に体では放置するのが関の山だ。正常に働かない頭で目一杯現実逃避することにしたケイ。

だが、彼はここでふと、人数が足りない事に気付く。

 

 

「あれ?御坂がいない……ちゃんと学校行けたのかな……」

 

 

真っ先に暴走し始めた御坂がいない。まあ、酔いも早ければ回復も早かったのだろうと軽く流し、一応念の為とメール一本入れておく事にした。

 

 

「その辺で野垂死なれたら堪ったもんじゃないですからね、っと」

「ゔぅぅ……」

「イテテテ……」

「お、二人とも起きたか。水飲む?」

 

 

辛そうに体を起こす上条と土御門。ケイは近くにあった水を勧める。

 

 

「サンキュー……んっ……っ……ぷはぁ!!生き返った~」

「カミやん……俺にも水くれにゃ~……」

「あいよ。にしても昨日は飲み過ぎたな……こんなに辛いならもう酒飲みたくねぇわ……」

「これもまた青春の一ページなんだぜい。でも……俺も当分は遠慮したいにゃー」

 

 

お前が持って来たんだろ、と土御門に冷たい視線を送るが飲んでしまった以上同罪である上条は何も言えなかった。ケイも誰かさんの暴走がなければこういうのも悪くないが、それでも暫くは御免だと苦笑いで同意する。

 

 

「それよりハラへったな~。飯食いに行かない?」

「俺も何か胃に入れたいな。ここからだと駅前のファミレスか?」

「ん、まだどこに何があるかわからんからカミやんにお任せするわ~」

「俺はパスするにゃー。昼過ぎから野暮用があるから帰らないと間に合わんぜよ」

「そっか、了解。また何かあったら連絡するわ」

「了解だにゃー。んじゃまた」

 

 

 

───第七学区、ファミレス ジョセフ

 

 

「ふぅ、飯食ったらだいぶ楽になったな~」

 

 

土御門と別れ、ファミレスに来たケイと上条は食事を終え、やっと生きた心地を取り戻していた。

 

 

「だな。っーか悪いな、カミやん。学校サボらせちゃって」

「あ~、それは飯奢ってもらったしいいってことさ。それに楽しかったしな。それより継は用事なかったのか?」

「俺はこれから家電とか買いに行くだけだからね~……あれ?」

「? どうした?」

「いや~あの子………さっきから周りキョロキョロしてんだけど」

「あー、ありゃ迷子かもな。行ってみるか」

 

 

ふと外を見ると幼い少女が困り顔で辺りを見渡していた。ケイと上条は表に出て話を聞いてみると、どうやら洋服を買いたいのだが道に迷ってしまったようだ。

 

 

「セブンスミストか……ここから説明するのは骨が折れるな」

「じゃあ、連れてくか。お嬢ちゃん、お兄ちゃん達が連れてってあげよう♪」

「やったー! ありがとう、おにーちゃん!」

「でも継、家電はいいのか?」

「まあ、夕方でも間に合うっしょ。そんじゃサクッと行きますか~」

 

 

 

───第七学区、セブンスミスト

 

 

「さて、目的地に到着したワケだが……上条君」

「なんでせうか……黒裏君」

「何で……御坂嬢がここにいるんでしょうね」

「何でだろ……」

「「……不幸だ……」」

 

 

迷子の少女を案内してみれば、今最も会いたくないランキングぶっちぎり一位の昨夜の厄災『御坂美琴』に出会してしまうとは。誰がどう見ても『不幸だ』としか言い様がない。

 

 

「そ、それはこっちのセリフよ! 何でアンタ達がこんな所にいるのよ!!」

「いや、俺たちは……「おにーちゃーん」……この子の付き添いだよ」

「あ、トキワダイのおねーちゃんだ」

「昨日のカバンの子……お兄ちゃんってどっちかの妹?」

「いや、上条さん達は迷子のこの子をここまで案内しに来ただけですことよ」

「あのね、オシャレなひとはここにくるってテレビでいってたの」

「そうなんだ~。まあ、それはさておきa「お嬢ちゃん、このお姉ちゃんが可愛いお洋服いっぱい買ってくれるってさ~」なっ!?」

「ほんとう!? わーい!」

「なっ、何でそうなるのよ!」

「俺らは昨日の誰かさんのせいで一緒に見て回ってあげる元気まではねぇんだわ」

「そういうこと。じゃあヨロシク、超能力者(レベル5)様♪」

 

 

 

少女を御坂に押し付け早々に退散する二人。遮った言葉の続きは間違いなく勝負の申し込みだろう。全く、どこのデュエリストだと溜め息をつきながら二人は目と鼻の先にある電気屋に向かった。

 

 

───とある電気屋

 

御坂に少女を押し付けた二人は道路を挟んでセブンスミストの向かいにある電気屋に来ていた。

 

 

 

「ビリビリに押し付けて来ちゃったけど大丈夫かな?」

「他にもツレが居たみたいだし大丈夫じゃない? 一応あの子にはここにいるって伝えてあるし、超能力者(レベル5)の財力なら一店舗買えるくらいはあるだろ~」

「くそ、この格差社会はなんなんだ・・・! 誰か無能力者(レベル0)にも救いの手を!!」

「わはは、そんな稀有な能力持ってんだから研究所にでも身売りすればお財布潤うんでない? あ、すみませ~ん、これくださ~い」

(でも……カミやんの能力なら超能力者(レベル5)認定されてもおかしくないんだけどな……親父のせいか?)

 

 

幻想殺しなどというチートな能力を持つ上条の存在が隠されるように無能力者(レベル0)判定されている事にケイは背後にアレイスターの影が見え隠れした。と超能力者(レベル5)の財力は天と地程の差がある。もし父親のせいで貧乏暮らしを送ってるのならと思うと急に上条が哀れに感じ、心の中でひっそり手を合わせずにはいられなかった。

 

 

(時々飯奢るくらいはしてあげますかね)

「ん? 何だか外が騒がしいみたいだけど……継、俺ちょっと様子見てくるわ」

「あいよ~、会計済ましてすぐ行くわ~」

 

 

外に出るとぞろぞろとセブンスミストから人が出てくる。つい先程までいつも通り営業していたのに明らかに変だ。

 

 

「スミマセン、何かあったんですか?」

「ああ、何でも機械のトラブルがあったとかで緊急閉店になったんだよ」

「機械のトラブル……?」

 

 

おかしい……機械のトラブルごときで緊急閉店などするのだろうか。漠然とだが嫌な予感が拭えないでいると会計を済ませた継が店から出てきた。

 

 

「お待たせ~。うわ……何、この人だかり」

「継。何でも機械のトラブルで緊急閉店したらしい」

「じゃあ、御坂嬢と合流しますか。電話してみるわ~……もしも~し」

『何!? 今大変なのよ!』

 

 

電話に出た御坂は何かに焦っている。その様子にケイは機械のトラブルではなく、別の何かが起こっていると直感的に感じ取った。すぐさま上条に目配せをし、二人は周囲に少女がいないか確認する。

 

 

「落ち着け。何が起こってる? それとあの子は?」

『ッ!……実はセブンスミストに爆弾が仕掛けられてるって情報が入ったの。あの子はもう避難したはずよ』

 

 

御坂の言葉に背筋を凍らせるケイ。彼女の言葉通りならば近くにいるはずなのだが、少女の姿は一向に見当たらない。募る不安に声を張り上げ上条を呼ぶ。

 

 

「カミやん! そっちにはいたか!?」

「ダメだ! どこにもいない!!」

『ちょっと、どういうこと!? まさか……まだ中に!?』

「ちッ! カミやん、中探すぞ!!」

「おう!」

 

 

ケイと上条は少女を探す為、爆弾の仕掛けられたセブンスミストへ飛び込んだ。




お酒は20歳になってから。
酒は呑んでも飲まれるなな、ってやつですね。
私も良く飲まれるので気を付けます(苦笑)



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Next Go Round

 ───セブンスミスト店内

 

 静まり返った店内。その静寂が建物の広さを不自然に誇張し、不気味さに拍車をかける。

 時折微かに聞こえる足音。店内に入ったケイ達はその足音を頼りに走り出す。

 

 

 

「ビリビリ!」

「アンタ達!この状況で戻ってくるってどういう神経してるのよ!?」

「そんなことよりあの子は!?」

「それがまだ……「おねーちゃーん」ッ!!」

 

 

 絶望しかけた時、それは聞こえた。声の方へ振り向く三人。そこにはカエルの人形を抱え走る少女がいた。探していた少女は頭に花を生やした風紀委員の少女に人形を渡そうと駆け寄っていく。

 

 

「ふぅ……よかった、無事みたいだな」

(あれは……)

 

 これで万事解決。そう皆が思い安心したその時、突如風紀委員の少女は人形を投げ捨て、自分より幼い少女を守るように抱きしめ踞る。

 

 

「逃げて下さい! あれが爆弾です!!」

 

 

 風紀委員の言葉に驚愕する三人。しかし、人形は刻一刻と爆発へのカウントダウンを数える。最早二人を連れて逃げる猶予などない。

 

(くっ……レールガンd「カミやん!!」「おう!!」!?)

 

 御坂がレールガンで爆弾ごと吹き飛ばそうとしたとき、左右から白い影が駆け抜けた。ケイと上条は僅かな言葉だけで意思を疎通し、当たり前かのように爆弾へ走り出す。

 

 

「昨日は二人に見せてもらったからな……今日は俺の力、お見せてしましょうか、ねッ!!」

 

 

 走りながらそう叫ぶと、ケイの右手に無機質に輝く白い剣が現出する。

 そして、普通の人間では考えられない速度で加速し上条を置き去り───

 

 

「はぁッ!!」

 

 

 ───人形の上下左右、四方の空を囲う様に切り裂いた。

 

 

「カミやん! 中心に右手を!!」

「わかった!」

 

 

 上条が中心に手を添えると同時に反対側を切り裂くケイ。

 次の刹那───上条の右手からけたたましい爆発音がする。

 

 

「一体何が……あの能力は……一体……」

 

 

 一部始終を見ていた御坂は目を疑った。鳴り響いた爆発音。その規模からこのフロア一帯吹き飛んでもおかしくない程のものだった筈だ。なのにも関わらず、被害は───ほぼゼロだった。上条の手の隙間から漏れたであろう熱風の余熱で床が少し焦げた程度だ。未だ花飾りの風紀委員と少女も何が起こったのかわからないと唖然としている。手をかざし爆風を打ち消した上条の右手は知ってるからわかるとして、黒裏の……あの虚空を切り裂いた力は、音も、熱も、光でさえも遮ってしまったあの規格外な力は一体何なのだろう。あんな能力は見たことも聞いたこともない……もしあの能力を人体に向けたら───そう思うと御坂は固唾を呑まずにはいられなかった……

 

 

「継! てめえ、俺を蓋にしやがっただろ!!」

「わはは、もう片方切るの間に合わないかなー、と思ったから手伝ってもらっちった☆」

「いーや嘘だね! 絶っ対嘘だ!! 間に合ったのにワザと俺の右手を蓋代わりにしやがったんだ、この鬼! いや、悪魔! 大魔王!!」

「照れるからそんなに誉めるなって~。 あんまり騒ぐと……三枚に卸すぞ☆」

「横暴すぎる!?不幸ーだーッ!!」

 

 

 さっきまでの騒動が嘘の様にはしゃぐ二人に思わず笑ってしまい、握りしめた掌と共に未知の力に怯えていた自身をゆっくりと解いていった。

 

 

「───それはさておき、御坂~。お前人形見たとき反応してたけど……もしかして犯人に心当たりあるんじゃない?」

「え?……ええ、買いものしてる時にさっきの人形抱えてた奴見たのよ」

「そっか。なら、俺らは帰るから。後ヨロシク~」

「なっ!? 何でそうなるのよ!」

「爆弾魔なんぞ御坂一人いれば十分だろ?大勢で行ったら戦力過多でイジメになっちゃうよ。そ れ に、俺らは目立ちたくないんだよね。称賛も拍手もいりませ~ん」

「まあ、誰が助けたかなんてどうでもいいしな。皆無事ならそれでいいだろ」

「と、いうわけで。花飾りちゃん。この事件は御坂嬢の活躍で解決しました~。以上! アデュ~♪」

 

 

 再び無機質に輝く剣を現出し今度は大きめに虚空を切り裂くと、黒裏は切れ目の中に上条を放り込み自身もふざけた挨拶だけ残して消えてしまった。残された御坂達は二人を飲み込んだ切れ目が空に溶けて行くのを見届けることしか出来ず、途方に暮れていたいた。

 

 

「み、御坂さ~ん。どうしましょう……」

「ったく……アイツ等は放っておきましょう。それよりも……初春さん、後お願い!!」

「えっ!?御坂さんまで!?どうしよう……」

 

 

 御坂はこの場を花飾りの少女・初春に任せ犯人を探す為に走りだす。偶然とは言え唯一犯人の顔を見たのだ。二人に任された以上……いや、例え任されなくても、自分が捕まえなくてはと駆け出した。

 

 

 

 ───第七学区、ケイ自宅

 

 

「痛てッ!!」

「ホ~ム,スウィ~ト ホ~ム♪ ただいま~」

 

 

 御坂達に事件を押しつけ逃げてきた二人は、ケイの家のリビングに出来た空間の切れ目から現れた。

 

 

「さっきといい、扱い雑になってきてねぇか!?」

「やだなぁ上条くん、親愛の証だよ~」

「ホントかよ!? ったく……。それより、一瞬で継の家まで来ちまったけどどういう原理なんだ?」

「ああ、これ?」

 

 

 上条は先程打つけた頭を擦りながらケイの能力について聞いてみた。すると、ケイは何と無しに再び無機質に輝く剣を現出させる。

 

 

「そう、それそれ。爆弾のときのも見た目似てたけど一緒か?」

「モノは一緒だけどちょっと違うんだよね~。さて、何が違ったかわかるかな?ヒントはこの家だね~」

「ん~……爆弾のときはこの家に繋がってなかった……?繋がってたらこの部屋吹き飛んでただろうし」

「正解~!最初の質問の答えだけど、この剣で空間を切り裂いてセブンスミストとこの部屋を繋げたわけだ」

「じゃあ、爆弾のときはどこに繋がってたんだ?」

「ん、あそこ」

 

 

 そういうとケイは上を指差した。セブンスミストの上の階───ではないだろう。確認はしていないが爆発音は上条の手からしか聞こえなかったはずだ。そうなると……

 

 

「空とかか? 高高度の上空とか」

「おしいね~。正解は、宇宙でした~」

「はぁ!? 俺宇宙空間に触ってたのかよ……」

「そういうことになるね。宇宙なら爆発が起こっても迷惑にならないと思いまして」

 

 

 上条の考えよりも遥か上空、宇宙に空間を繋げたとあっさり言ってのけた目の前の少年にもはや溜め息しか出なかった。

 

 

「はぁ……でも、そんな便利な能力なら継は高能力者なのか?いやでも、それだと昨日ビリビリに言ってた言葉と辻褄が合わないような……」

「ああ。俺の力は超能力じゃないんだよね~。能力開発も受けてないし。まあ、名前を付けるとしたら……『時空裂断(ディメンジョンイーター)』、とか?この前見たアニメにそんなのがあったような……」

「アニメからのパクリかよ。でもそうすると、継は『原石』ってやつか。俺のもそうなんかな?」

「ん~、これは憶測なんだけど……原石は原石でも俺とカミやんの力は一般的なそれとは別のものと考えた方がいいんじゃないかな?」

 

 

 他にも、修練を積んだ継は上条とは違い色々と応用が効くらしい。確かに継の実力は空間を切ったり繋げたり出来るだけではないんだろう。実際、自分を置き去りにした、あの異常なまでの加速もそうだ。この街の言葉で言うところの『多重能力者(デュアルスキル)』なのだろうかと上条は漠然とだが考えた。

 

 

「人の事散々チート扱いしたくせにそっちの方がよっぽどチートじゃねぇか」

「はは、だから言ったろ? 『超能力者(レベル5)ごとき束になってかかって来ても余裕だ』ってな」

 

 

 目の前で笑う少年に上条は自身の右手を握り、見つめ、考える。自分も修練などを積めば他にも何か出来る様になるのだろうか。これまで様々な異能の力を『消して』きた自分の右手にこれ以上の可能性が眠っているのだろうか。興味はあるが、あくまでもそれは無能力判定からの脱却により財布の中身が潤えばいい程度の興味だ。ケイやビリビリ少女の様な強大な力はむしろ面倒でしかないなと考えてしまう。平和や平凡が自分には一番。上条はそう思い右手の力を抜いて行く。

 

 

「因みに世界には超能力とは違った力があるんだけど、どうやらこれとも違うらしい」

「違う力?」

「そ。『魔術』って言うんだけどね」

「……は?」

 

 

 今この少年は何と言ったのだろう。魔術?魔法?上条は己の耳を疑い、唯々呆気に取られていた。

 

 

「まあ、信じられないのは無理もないさ。でもな? この世には自分の知らない事が沢山あるんだ。頭固くしてると損するぜ?」

 

 

 確かに継の言う通りなのかも知れない。だがこの科学の街に住む者にとってほとんどの事が科学的に証明されてしまっている中、オカルトの類いである魔術を信用しろというのも難しい話なのだ。ケイの言葉に不思議な説得力があろうと、幾らこの右手を持つ自分が無能力者の判定をされようと、自分もまたこの街の住人であり、すぐには信用できる内容ではないと上条は頭を悩ませていた。すると、反応に困っていた上条を助けるようにチャイムの鳴る音が聞こえてきた。

 

 

「お、家電が届いたかな~?」

「今日買ったばかりじゃなかったか?」

「すぐ使いたいから無理言って届けてもらったんだよ~」

「なるほどね。じゃあ、運ぶの手伝うぜ」

 

 

 正直、ケイの話には興味があるが難しい話は頭が痛くなる。そして頭の痛い話は補修と財布の中身で充分だと、上条はこの話を頭の隅に追いやり、届いた荷物を運ぶことにした。




さ〜て、ようやくケイさん能力使えました。
次回はやっと本編突入です。亀更新ですがお付き合い願えると嬉しいです。

ではでは。


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Dawn Over A New World

「Oh……what 's happen……」

 

 

 セブンスミストの爆弾事件から二日後の朝。翌日には家具も買い揃え、継は今日から店のあれやこれやを整える準備をする……はずだったのだが。今彼はリビングで呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「なんで……買ったばかりの電化製品がスクラップになってるんでしょ……」

 

 

 それは朝食の準備をしようと思い冷蔵庫を開けた時に気づいた。扉を開いた瞬間に香る酸っぱい臭い。肉は変色し、青物は萎れ、乳製品は更なる進化を遂げている。昨日買った一週間分の食材達は一夜にしてゴミ箱の餌になってしまったのである。そして部屋の八割りの家電がスクラップになっていることに気付き、今ケイは立ち尽くす他出来ずにいた。

 

 

「おいおい。カミやんの不幸が移ったか? 勘弁してくれよ~……仕方ない、ファミレスでも行くか」

 

 

 不幸は上条の専売特許だろと悪態をつきながら出かける準備をしていると、その本人からの電話が鳴る。

 

 

「おはよ~。朝っぱらからどうしたの?」

『おはよう。悪い、ちょっと頼み事あるんだけど大丈夫か?』

「まあ、内容次第かな」

『じゃあ、この前のファミレスに来てくれ!用件はそこで伝えるから』

「了解~。んじゃ」

 

 

 電話の向こうで慌てた様子の上条に、碌な用件はじゃないなと溜め息をつきながらファミレスへ向かうケイであった。

 

 

 

 ───第七学区、ジョセフ

 

 

「……で、そのアイアンメイデンを預かって欲しいと」

「ほうほんひふひはほへふはんへひほひんはひょ!」

「全くわからん。とりあえず食ってていいから」

 

 

 上条と一緒に現れたのは白い修道服を安全ピンで留めた見るからに痛々しい少女であった。上条の話を要約すると、朝、上条宅のベランダに干されており、開口一番に食い物を催促。服は魔術の証明で口論になりノリで上条の右手で破壊。魔術師に追われており、教会に保護を求めに行くらしいが一人では心配な為、先日魔術の話をしたケイに連絡をして付き添って貰おうと思い───

 

 

「───なぅな訳だ。ったく人が良いと言うか何というか」

「スマン! 補習があって俺は付き添えないんだ。代わりに頼む!」

「ここまで来たら断れないでしょ~。けど、貸し一つね~♪」

 

 

 面倒は面倒なのだがここで上条に貸しを作っておくのも悪くわない。打算も計算も露にした黒い笑みで上条に微笑みかける。

 

 

「ぐっ、出来るだけ財布に優しいものでお願いします」

「ハイハ~イ。それよりさ、今朝起きたら家電が全滅してたんだけど何か知らない?」

「あ~……それ、多分なんだが……ビリビリのせいだ。あいつの落雷のせいで昨日の夜停電があったんだよ」

「ほぅ……これは御連絡しないといけませんなぁ」

 

 

 家電の故障が人的被害だとわかるとケイは徐に携帯を取り出し、メールを打ち始める。今度はどす黒いオーラを纏いながら。

 食事に夢中のインデックスさえ箸を止めてしまう雰囲気に上条は冷や汗が止まらず、ここから逃げ出す口実を探し始める。

 

 

「や、やべっ、俺補修行かなきゃ! そ、それじゃ頼むな! 終わったら連絡するから!!」

「はい、いってらっしゃ~い」

 

 

 この裏切り者と睨むインデックスを後目に店内の時計を見て慌てて駆け出していく上条に、ケイはノールックで手を振り見送った。

 

(さてさて、どうしたものかね~)

 

 メールを打ち終え気持ちを切り替えてみるが、一向に気が乗らない。

 目の前に積み重ねられた皿の山……はこの際無視しよう。

 今問題なのはこの針のむしろを纏った少女が『魔術を知っている』ことだ。

 とりあえずケイは冷えたラザニアをつつきながら質問していくことにした。

 

 

「インデックスちゃんだっけ? お腹イッパイになった?」

「久しぶりにお腹イッパイなったかも!ありがとうなんだよ!えっと……」

「継。黒裏 継ね。お腹イッパイになって良かったよ~」

 

 

 何十人前も食ってまだ腹八分目とか言われた日にはこのままどこかに打ち捨ててやろうかと思ってしまう。

 

 

「見たところ十字教のシスターさんのようだけど、どこの宗派なんだい?」

「けいは詳しいんだね? やっと話が通じる人に会えて嬉しいんだよ!」

「まあ、学園都市(この街)で非科学(魔術)の話する方が無理あるからね~。で?どこに連れて行けばいいの?」

「えっと、イギリス清教の教会に連れてってほしいんだけど」

「なんだ、それなら話が早いわ。ちょっと待ってて~」

 

 

 そういうと、継は電話をかけ始めた。そして10分後……

 

 

「こんのバカたれがーー!!!!」

「おはよー、つっちー」

 

 

 現れたのはそう、ケイの親友土御門元春である。

 

 

「おはよー、じゃねぇんだよこの人間災害が! どんだけ面倒事持ち込めば気がするんだ!!」

「はい、落ち着こうね~。まず、これはカミやんの持ってきた面倒事だから」

「くそっ、上条当麻後でシメる……」

「是非共そうしてくれ。で、何が面倒事なのか説明してくれない?」

 

 

 やって来るなり鬼の形相で捲し立てる土御門にインデックスも完全に怯えてしまっている。此方としてもさっさと解決して店の事をしたいのだと先を促した。

 

 

「こいつは禁書目録、脳内に一◯万三◯◯◯◯冊の魔導書を保管した魔術サイドの超重要人物だ。……恐らく追っ手というのも俺の知り合いだろう」

「というと『必要悪の教会(ネセサリウス)』か……。あちゃ~、これは骨が折れそうだわ」

 

 

 まさかこの街で魔術サイドの重要人物と会うとは思わなかったケイは面倒な事に巻き込まれたと頭を描く。本来ならばここで放棄しても良いのだが、インデックスの怯え様と上条に頼まれた手前放棄するのは心が痛む。

 

 

「そんなに怯えないでくれよ、インデックスちゃん。俺が何とかしてやるからさ」

「うん……けいを信じるんだよ」

 

 

 頼れる者もおらず、一人で魔術師の追跡から逃れて来たのだ。ここに辿り着くまでの出来事は想像に絶することだろう。そんな地獄のような日々に終止符を打つために出逢ったばかりのケイを健気にも信じると言ってくれたインデックスの気持ちに応えなければならない。

 

 

「ありがとな。……つっちー、インデックスちゃん追ってる人間に連絡取ってくれ。……一七時にうちの屋上に来いって」

「な!?……いいのか?」

「大丈夫、何とかするさ」

「……わかった。そう伝えておく」

 

 

 土御門の知り合いだろうと、魔術師との接触は魔術サイドに継の存在を知られてしまう事態になりかねないのだが、これまでの話を聞き、どこか違和感を感じていたケイは真相を知るべく賭けに出ることにした。全てが杞憂であってくれればと思うが、今はただ、待つ事しかできない。約束の時間まで。

 

 

 

 閑話

 

「インデックスちゃん、まだ甘いもの入ったりする?」

「甘いものは別腹なんだよ! ケーキ五◯個ぐらいは余裕かも!」

「それじゃあ、時間まで食べ歩きしようか」

「なんだかけいが神様に見えるてきたんだよ!」

「羽振りがいいにゃー。まだ奴の金なんだろ?」

「それはそうなんだけど、元々今日はリサーチついでに食べ歩きするつもりだったんだよ。それに、ここの分と食べ歩きの分、足した金額だけカミやんをコキ使おうかと思ってね~。人件費の先行投資と勉強代と思えば安いもんでしょ~」

「なら、俺も迷惑料ってことで御相伴に預かろうかにゃー」

「任せなさい♪ じゃあ、行きますか~」

 

 この食べ歩きで上条の半年タダ働きが決まったのは言うまでもない。




やっと本編入れたー!!どんだけプロローグ長いんだよ、と。
さて、実は今絶賛沖縄旅行中です、多分(これ金曜に書いてます)
台風がマジで心配ですが、生きて帰って来れたらまたお会いしましょう←

ではでは


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Driftaway

◯ロモンよ、私は帰って来た!
はい、無事に帰って来れました

今回は若干長めにお送り致します。
ではどうぞ


 

 

───第七学区、とあるビル屋上

 

 

流れる雲、そよぐ風。街の喧騒の中、微かに聞こえる蝉の声が本格的な夏を告げる。

数時間前まで眩いばかりに降り注いでいた光りは段々と景色をオレンジに染めつつある今、フェンスに囲まれた屋上から街を見下ろしていたケイ達の背後に背丈の違う二筋の影が伸びる。

 

 

「わざわざこんな所まで来てもらって悪いね~。はじめまして、魔術師さん?」

 

 

振り返ったケイ達の前に一組の男女がいた。

1人は白人の男。顔つきからはまだ少年とも言えなくもないが、二メートルを超す大男に少年は如何なものか悩むところだ。黒い神父服を着ているが赤い髪、無数のピアス、目の下のタトゥー、指には無数のリングをし、強烈に甘い香水を撒き散らすこの男を神父とは誰も呼ばないだろう。

そしてもう一人の男より頭一つ小さい東洋人の女。腰まで届く黒髪をポニーテールにまとめ、首から上だけみれば『日本美人』と言えなくもないが、着ているTシャツを脇腹で縛り、ジーンズは左脚だけ腿の根元からばっさり斬られ、ウエスタンブーツを履いているその姿は異様である。そして何より腰からぶら下げている女の身長以上の長さの日本刀がその異質さを際立たせている

 

 

「保護してくれたのは感謝するよ。だが、馴れ合うつもりはないんだ。簡潔に行こう。彼女は?」

「ステイル……」

 

 

女は赤髪の男を諌める視線を送るがそれ以上は何も言わない。任務の達成を急いている様子でもなさそうだというのにこの緊迫した空気はなんなのだろうか。彼らの間には何か複雑な感情が渦巻いているように見えるが……

 

 

「つっちー、この子絶対友達少ないでしょ」

「正解だぜい。天才魔術師(笑)様だからにゃー」

「土御門!?」

 

 

殺伐とした空気なんてお構い無しなこの二人。格好な鴨が現れたと茶化し始める。

 

 

「大体、人に物を頼む態度じゃないよね~。やり直し」

「風上に立ってて煙草と香水が臭すぎだぜい。やり直し」

「ピアスも、リングもタトゥーも厨二病すぎな。やり直し」

「その見た目で一四歳とか全世界のショタに謝れにゃー。や り 直 し」

「あ、あの、その辺で止めてあげて頂けないでしょうか。ステイルが……」

 

 

ステイルと呼ばれた男を弄るのに夢中になっていた二人は、女の制止により初めて男が膝を抱えてイジけているのに気付く。

初めて会った人間と同じ組織の人間にここまで言われては仕方ないが、二メートルを超す大男が膝を抱えてる姿は何とも滑稽で仕方がない。

 

 

「奴も立ち直り早いから大丈夫だろ。話進めようぜい」

「そうだね。改めて、来てくれて有難う。俺は黒裏 継だよ」

「いえ、彼女を保護して頂いて有難う御座います。私はイギリス清教『必要悪の教会(ネセサリウス)』の神崎火織、と申します。そして彼が……」

「ふん……ステイル=マグヌス。魔 術 師だ」

 

 

拗ねたように自己紹介をするステイルに一同は苦笑いを浮かべるが、最早絡むのも面倒なので放置して話を進める。

 

 

「さて、話を進めると。現状、俺は二人にインデックスちゃんを渡すつもりはないんだわ」

「「な!?」」

 

 

継の発言に話が違うと驚く二人とは対象に、土御門だけが冷静に先を促した。

 

 

「二人を呼んでどうするつもりだったんだにゃー? 場合に由っては……俺も敵に回しかねないぞ?」

「今はまだ、って話ね? 二人を呼んだのは話を聞きたかったからだよ。インデックスちゃんとつっちーの話だけじゃ疑問ばかりなんだよね~。何故、魔術サイドの重要人物がここにいる? 何故、同じ組織の人間に追われている? そして何故……いやこれはいいや。とにかく、大体の疑問が解決されるまでは渡せないね」

 

 

当然の疑問だろう。この科学の街のセキュリティは並大抵のものではないのだ。イギリス清教の後ろ盾がある二人ならばわかるが追われている立場のインデックスまで易々と侵入出来る程ザルではない筈だ。

しかもインデックスは同じ組織の人間に追われているというのに、その理由がわからないと言っている。そして……そして何より現状を黙認している父、自分にインデックスを預けてきた上条。

ここまで来て疑うなと言う方がおかしな話だ。

飄々としたケイの瞳に確固とした意思を見た神崎は諦めた様に話始める。

 

 

「完全記憶能力、という言葉はご存知ですか?」

「ああ、何でもかんでも覚えてしまうやつでしょ?それが一◯万三◯◯◯◯冊の魔導書を脳内に保管しているタネなのかな?」

「ええ、その通りです」

 

 

魔術的な何かで保管しているものだと思っていたのだが、まさか単なる記憶術だったとは。人体の不思議に感心していると沈黙を続けていたステイルが重々しく口を開き始める。

 

 

「彼女の脳はその八五%を禁書目録の一◯万三◯◯◯◯冊によって埋め尽くされている。そのせいで、残りの一五%でわずか一年分の思い出しか溜めておく事しか出来ないのが現状だ。それ以上無理に『記憶』し続ければ彼女の脳は……パンクしてしまう」

「だから私たちは彼女の一年間を……『思い出』を消しに来たんです。彼女を助ける為に」

 

 

二人はまるで自分自身に語りかけるように、自身を納得させるかの様に言葉を紡いでいった。

それは一人の少女が背負うには余にも重過ぎる運命であり、またこの二人もその残酷な運命によって十字架を背負わされてしまった。

 

 

「去年も二人が?」

「はい……今まで何人ものパートナーが彼女との思い出を作り自ら壊してきました。或る者は耐えきれず彼女の元を離れ、或る者は自責の念に苛まれ続け……私たちも努力はしました。しましたとも。……ですが何をしても、何を残そうとも無に帰してしまう。どれだけ語り聞かせても、どれだけ写真を見せようと、彼女はただ謝り続けるんです……私たちには、もう、それが耐えきれないのです」

「だから二人は『親友』を捨て『敵』になった……か」

「そうだ。だから僕たちは何としてでも彼女の記憶を消さなければならないんだ。これ以上彼女の不幸(じごく)を繰り返さないためにも。改めて問おう。彼女はどこだい?」

 

 

これでインデックスが追われている理由はわかった。だが───

 

 

「まあ、待ってよ。少し確認したいことがあるからもうちょっと待ってて」

 

 

片手でステイルを制止しながらケイは電話を掛けはじめた。

受話器の向こうからは少女の声が微かに聞こえる。会話をしている継の表情からかなり親しい仲なのだろうが、今の今でこうも平然と会話をされると心中は穏やかでいられる訳がない。

ステイルは屋上に着いてから三本目の煙草に火を付けて気を紛らわせる事にした。

 

「───サンキュー。このお礼はそのうち」

「随分楽しそうだったね。君は僕をストレスで殺すつもりかい?」

「悪いね~、けど、これで全ての謎は解けたよ。ジッちゃn「ケイ」ハイハイ……辛気臭いのは嫌いなんですけどね~」

 

 

土御門の制止に肩を竦めるケイ。お巫山戯が過ぎたのは重々承知だが、このお通夜の様な空気ではこちらが参ってしまう。

 

 

「それで、何がわかったんですか?」

「ああ、その前に確認したいことがあるんだけど。インデックスちゃんは一◯万三◯◯◯◯冊の魔導書を覚えたが為に一五%しか自身で使えず、その一五%も一年でパンクするから教会は何らかの術式で毎年彼女の思い出を消してる。これでいいのかな?」

「さっきからそうだと言ってるだろう? 君h「ダウト」は?」

「だから『』だって言ってるんだよ」

 

 

この少年は何を言ってるのだ?『間違い(ダウト)』?何が間違っていたというのだ?少女にしてきた行為に?自分達が選んだ選択に?この少年は何が間違っていると言ったのだ?

 

 

「ケイ、どういうことだ?」

「つっちー。数ヶ月だけどこの街にいて、能力開発のカリキュラムまで受けててまだ気がつかない? 彼らは悲劇の道化人形だったんだよ」

「チッ!そういうことか……あの女狐め」

 

 

何かを察した土御門はこれ以上ない程顔を歪ませ、呪詛を呟いた。

状況が理解できない神裂は困惑の困惑の色を隠せず説明を求める。

 

 

「あ、あの、私達にも分かる様に説明して頂けないでしょうか」

「ああ、ゴメンね。話は簡単。インデックスちゃんは記憶を消さなくても死なない(・・・・)、いや死ななかった(・・・・・・)が正しいか」

「なッ!?それは一体どういうことだい!?」

 

 

慌てふためくステイル達に溜め息を一つ付き言葉を紡いでゆく。それはステイル達にとって晴天の霹靂にも似た衝撃だった。

 

 

「簡潔に言うと頭の中に一◯万三◯◯◯冊の魔導書が入ってようが、完全記憶能力を持っていようが脳がパンクして死ぬ事なんてあり得ないんだよ。大体、そんなんで死人出てるならとっくに対処法見付かってるっーの」

「でも! でも、実際彼女は一定の周期で苦しんでいるんですよ!?」

 

 

ケイの言葉を信じたくない。いや、今まで自分達がしてきたことが無駄なことだったとは思いたくないそんな思いから出た言葉なのだろう。

 

 

「そりゃそうだよ。君らの上司がそう仕掛けしたんだから。だからさっき聞いたよね?必要悪の教会が彼女に何かしてないか、って」

「そんな、それでは……」

「そう、インデックスちゃんは脳の容量が足りなくなって苦しんでいるのではなく、魔術的な何かによって苦しんでいる。その犯人は・・・君ら必要悪の教会(ネセサリウス)だよ」

 

 

静まり返る屋上。

真相を知らされて居なかったとはいえ、今まで助けようとしてきた少女を苦しめていたものが自分達の所属する組織だと知り、怒りや哀しみや様々な感情を織り混ぜ絶句するステイル達に、どう声をかけて良いのかわからずケイと土御門は視線を反らした。

フェンスの向こうでは既に夕陽が赤色を濃くしながら沈もうとしている。陽の光がビルの硝子に反射し、まるでミラーボールの様に輝き、この学園都市という大きな舞台に生きる全ての人間を照らしているかのように。

 

 

「なぁ……。二人はインデックスちゃんのこと助けたい?」

「当たり前だ! でなければ……でなければこんな悪夢のようなことを好き好んで繰り返すものか……!!」

 

 

絶望。

今の二人を表現するに相応しい言葉だ。だが───

 

 

「じゃあ、囚われのお姫様を助けに行きますか♪」

 

 

───絶望するにはまだ、早すぎる。

微笑みながら土御門に視線を移すと、全てを理解したのか肩を窄めながら微笑み返す。ステイル達は未だは思考が追いついていないようであり、ケイの言葉を頭で反芻しながら目を白黒させている。

 

「え? な、何か手があるというのですか!?」

「まあね~♪まずは当の彼女に会いに行こうか」

 

 

戸惑う二人を後目に、ケイは両の手を後頭部に廻し、鼻歌交じりに歩き出す。



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You Are The Fire

最近ブレフロにハマってて執筆が……
某漫画家みたいにならないよう頑張ります


 

 

───とあるビル、ケイ自宅

 

 

「ただいま~、っと。さあ遠慮なく入ってよ!」

 

 

ケイに連れられ3人はケイの自宅にやってきた。ケイの意図が分かっている土御門はここまでの道中永延つるぺた幼女の良さを説き、片やケイは豊満グラマラスの覇道を語っていたがステイルと神裂は状況が分からず只只困惑しながら二人の後に続き言われるがままに部屋に入っていった。

 

 

「インデックスちゃんただいま~!……あれ?」

「ケイどうかしたのかにゃー?」

「インデックスちゃんがいない……。ん? なんだこれ?」

 

 

いくら部屋を探しても見つからないインデックス。ふとリビングのテーブルの上を見ると一枚の紙が伏せられていた。

 

 

【忘れ物したから取りに行ってくるんだよ!! すぐ戻る…かも☆】

 

 

肩を震わせ破かんばかりの力で紙を握るケイに土御門は不安げに声を掛ける。

 

 

「お、おいケイ。何て書いt「ぁんのバカタレがぁぁぁぁぁぁ!!!」ッ!?」

「土御門ぉ! 上条の住所教えろ! 今すぐにだ!! おい、そこの似非ショタ魔術師! お前は土御門から聞いた住所に今すぐ行け! 土地勘がないからわからない!? 何の為の携帯だ!? 頭使えやヴォケェェ!! 神裂!!、、さんは冷蔵庫からお茶下さい。お願いします。かも☆、じゃねぇんだよアホたれがぁ! 誰が何の為に骨折ってるか分かってるんですかねぇ、あ の 子 は!!……ふふふ、インデックスちゃんよぉ……お兄ちゃん怒らすとどうなるか身を以て教えてやろうじゃないか……ふふふふふ……」

 

(((魔王だ……ここに魔人以上の魔王がいる……)))

 

 

 

───第七学区、とある高校男子寮

 

 

「……不幸だ……。部屋の電化製品はボロボロだわ、朝は似非(?)魔術師で夕方はビリビリ超能力者……そして何より継の貸しが恐過ぎる……上条さんが一体何をしたっていうんでせうか……」

 

 

補習からの帰路。起きてからの不幸の連続に流石の上条も疲れ果てていた。夕闇は色を濃くし、もうすぐ街を黒に染めようとする中、重たい体を引き摺りながら自宅の前に着くと見知った少女がドアの前に腰を下ろし夕日を見詰めていた。

 

 

「あ、やっと帰ってきた! もう、遅いんだよ! 待ちくたびれちゃったかも!」

「え……?」

 

 

可愛い少女が自分の帰りを待っていてくれる。ここだけ聞けば誰もが羨む最高のシチュエーションなのだが、この少女の状況を考えると手放しでは…いや、両足放しても喜べない自分がいた。

 

 

「いやいやいや、お前何してんだよ? ケイに教会案内してもらったんじゃなかったのか?」

「途中で忘れ物した事に気付いて戻ってきたんだよ。帽子、君の家にあるよね?」

 

 

そういえば、少女がベランダに干されてる時に冠っていた帽子が今はない。何とか疲れた脳みそをフル活動させ記憶を辿れば家を出る際に既に冠っていなかったことを思い出す。

 

 

「ああ……多分、アイアンメイデン作ってる時に脱いでそれっきりなんじゃないか?ったく、そんなんで戻って来たのかよ。」

「そんなのは言い過ぎかも! 君に被害が行かない様に心配して戻ってきたのに!!」

「被害? ああ…魔術師(笑)に追われてるんだっけ? そんなのついでにケイに撃退してもらえば良かったじゃねぇか。アイツああ見えてメチャクチャ強いんだぞ?」

「そ、それでも帽子の魔力を辿って君に被害が行くかも知れないと思って戻って来たのに! その言い方はないかも!!」

 

 

一生懸命弁明する目の前の少女に思わず頬を緩めてしまい、自身の危険を顧みず他者を心配その優しさに今日一日の疲れを忘れいつの間にか笑っている上条がいた。

いつも不幸ばかりの自分にも稀にはこんな日があってもいいだろう。いや、毎日とは言わないが週に一回くらいこんな一日であってもいいのにと。

 

 

「お楽しみの所悪いんだけど、お邪魔するよ?」

 

 

それは突然の出来事であった。

これまでの空気を一切合切喰らい尽くし現れたのは、黒い神父服を着た二メートルを超す大男。その男が纏う空気は上条が知るどんなものより異質であり畏怖の対象でしかなかった。そしてこの男がインデックスの言う『魔術師』なのだと上条は本能で悟る。

 

 

「……てめぇ、何者だ」

「うん? その子から聞いてないのかい?『魔術師』だよ」

 

 

そう言いながら男は煙草を吹かし、指輪だらけの指で器用に玩ぶ。瞳はインデックスを捕えたままに。その視線に耐えきれなくなったのか、少女は視線から逃れる様に上条の影に隠れる。

 

 

「はは、随分と嫌われたものだね。記憶がないのに」

 

 

その言葉に、ビクッと体を震わせたインデックスを隠す様に上条は二人の間に立ち塞がる。

 

 

「なんだってテメェらはインデックスを追っかけ回してんだ!」

「うん? 僕らはその子を保護したいだけなんだけどね?」

「嘘付け! じゃあなんでこいつはこんなに怯えてるんだよ!? それに何度も攻撃してるんだろ!?」

「まあ、否定はしないよ。飽く迄も僕らが保護する対象は『禁書目録』であって、その子の状態は問わないのさ。……尤も法王級の絶対防御をその子が持ってなければ出来ない事だけどね……」

「え?今なんて……」

 

 

男の呟きに耳を疑った上条は再度問いかけたが、それは場違いな着信音によって掻き消される。

 

 

「ああ、すまない。ちょっと待ってもらえるかな? ……はい……分かってる……大丈夫、うまくやるさ……分かってるって言ってるだろう?というか一体どんな耳してるんだ君は……分かった、わかったからそれだけは勘弁してくれ。…いやして下さい。…はい…はい…では……。ふぅ……」

 

 

何故だろう。。電話を切った後先程まで異質なオーラを放ったいた目の前の大男が、今は哀愁を漂わせ小さく見えるのは。

 

 

「だ、大丈夫なのか?」

「うん? ……ああ…まさか齢十四歳でノルマに追われる営業マンの気持ちが解るとは思わなかったよ……」

 

 

敵ながらそのうち法令線や白髪まで出てくるんじゃないかと心配になってくる程の疲労っぷりに上条はどうしたいいものかと戸惑うしかなかった。だがそれも男の一言で無理矢理引き戻される。

 

 

「さて……、僕も自分の身が可愛いんでね。話を進めようか。……その子を渡してもらえないかな?」

「ッ! はいそうですかって誰が渡すかよ!! テメェらの事情なんて知った事か!!」

「仕方ないね。ステイル=マグヌス……いや、Fortis931、と名乗ろうか。覚えて逝くといい……君を殺す名だ。炎よ(Kenaz)───」

 

 

その瞬間、男の手に握られた煙草が赤ともオレンジともとれる光を放ち轟!、と爆発した。

光は瞬く間に収束し男の手に炎の剣が握られていた。これが魔術…それは上条が見たどの能力とも異質であり自然であり、どの能力よりも美しく…また恐ろしかった。

 

 

「───巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)

「ッ!インデックス!!」

 

 

ステイルは言葉を紡ぐと上条に向けその手の炎剣を振るった。それはまるで袈裟に薙ぐ炎に意思が在るかの様に、その軌跡を熱波と閃光で生々しく描き上条とインデックスを飲み込んだ。

まるで爆破テロ宜しく辺りは黒煙と焦げた臭いに包まれる。幸い、奴の情報では今この建物には誰もいないらしい。万が一騒ぎになった時は奴らに押し付けてしまえばいいだけだ。何も問題はない。そう……、ここまでは。

 

「ふん……。まさか本当に防ぐとは思わなかったよ。君は本当に人間かい?えっと……」

「上条…上条当麻だ」

 

 

晴れた煙の中からのは無傷の上条と左腕に抱えられたインデックス。

歯噛みする…というよりも無傷の状態に呆れた様に問うステイルに、上条は睨みを利かせながら答える。

 

 

「全く嫌になってくる街だよこの街は。さっさと本国に帰りたいもんだね」

「だったら早々にご退場願えると嬉しいんだがな、魔術師」

 

 

一か罰かだった。インデックスの服を壊せたのならと右手を突き出さなければ今頃は露天の飴細工宜しくこの世と永遠の別れを告げていただろう。

そして奴はまだ余力を残してる。何故かわからないが上条の五感が喧しく警鐘を鳴らしているのがわかる。次の攻撃で奴は───そのとき再度ステイルの携帯から着信音が鳴り響く。

 

 

「……出ないのか?」

「何、些細な事さ。それよりもいつまでその子を抱きしめているつもりだい?」

 

 

その言葉に顔を赤らめ距離を離す二人にステイルは忌々しげに舌打ちをし、これまでは遊びだったと言わんばかりの怒気を放つ。そして───

 

 

世界を構築する五大元素の一つ、(MTWOTFTO、)偉大なる始まりの炎よ(IIGOIIOF)それは生命を育む恵みの光にして(IIBOL)邪悪を罰する裁きの光なり(AIIAOE)それは穏やかな幸福を満たすと同時(IIMH)冷たき闇を滅する凍える不幸なり(AIIBOD)その名は炎(IINF)その役は剣(IIMS)顕現せよ(ICB)我が身を喰らいて力と為せ(MMBGP)ッ!」

 

 

───ステイルの最後の切り札にして最大の呪文、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』を発動する。その意味は『必ず殺す』。

 

 

「……これでサヨナラだ。精々あの世で自分の運のなさを呪うがいいさ。行け、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』ッ!!」

必殺を冠した焰の魔人が今上条とインデックスに必滅の撃槌を打ち下ろさんと今襲いかかる。

 

 

「終わりだって言ってんだろ、似非ショタ魔術師」

 

 

上条が迎え撃とうと右手を構えたその瞬間、『魔女狩りの王(イノケンティウス)』はまるでビデオのコマ送りの様にゆっくりとその炎を揺らめかせながら消えていった。

そして、その向こうに見えた光景は……マンションの廊下に頭を埋めたステイルと……そのステイルの頭を足蹴にしているケイと、ウエスタン風の見知らぬ女性、そして……満面の笑みで『大 成 功』と書かれたプラカードを持った土御門の姿があった。




決してステイル嫌いじゃないんですよ?
何故かこの立ち位置が一番落ち着きました。アーメン、ステイル君


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