ザレゴトダマ リロード。 (群 舞戸)
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アオイロアナグラム

タイトルを考えるのがもう難しい。むりそうだったらこの手法止めるかも。


 玖渚友は退屈していた。

 この世の中にある物事全てに、何かが決定に欠けていると感じていたのだ。当初は己の優秀さ故の退屈だとばかり思っていたが、どうにもそれとは違うらしいと言うことも、同じように、確信めいた強さで感じていた。

 けれどもその確信たる理由だけは不明のままで、それこそ己自身の、世間のあまりなつまらなさに対する防衛機能か何かなのではと疑うことも多々あった。そして不思議なことに、どうやらそれも違うらしい。

 

 玖渚友は困惑していた。

 この確信の、確信たる理由について。そして確信たる何かを探そうとする、自分だとは到底思えないようなその意欲に。

 天才たる己に理解できないのは、何故なのだろうと。

 

 そしてその確信の正体はあまりに唐突にあっさりと判明した。

 その日は少しぼうっとしながらも、死んだ様に働く緩慢とした脳味噌で砂の一粒一粒の動きを計算していた。単なる手遊びの一環である。

 だがそこには、単なる、なんて言葉はまるで似つかわしくないような砂の城が建っていた。それは余りにも頑健で、頑丈で、誰かに崩されでもしない限り壊れることなんてなさそうな、というよりも確実に無いと断言できるような絶対性を持った城となって。そしてそれはとうとう、玖渚友がそこを離れるまで、崩れることも、砂の粒がひとつも落ちることすらなく完成された。完成されてしまった。

 しかし、その絶対的にわかりきっていた結論に対し、玖渚友は疑問を持ったのだ。城が完成するのはオカシイ、と。この城は確実に今ここで崩れるべきだと。

 そしてその疑問は、立ち去ろうとする玖渚に一つの計算外の行動を、たった一回振り返るという効果を与えた。

 玖渚友が振り返った時、その一つの計算外の動作は砂の城へと伝達し、たった一粒、それでも絶対的にあり得なかったはずの、たった一粒の零れを作り出した。

 

 そしてそれは切欠へと転じることとなる。

 

 玖渚友は確信した。

 この城は壊れなくてはいけないのではなく、本来壊れていたはずなのだと。

 つまりそこには、玖渚友にとって、それこそ絶対的な計算外たる誰かがいたのでは無いかと。

 

 玖渚友は確信した。

 そこには確実な故意があったはずだと。この砂の城を崩すことには、なんらかの意味があるのだろうと。そしてそれは、そこには、つまらなそうな表情をした、目の死んだ子供がいたはずだと。

 

「あ。」

 

 玖渚友は、振り返って理解した(思い出した)

 自分は今、誰も殺さずとも人間なのだろうと。

 

 そしてその時。生まれて二度目の、初恋をした(前世で初めての、失恋をした)

 

「うにっ。」

 



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サヴァンストラテジー

短くてごめんね。大体一話二十分程度で書いてるのよ。まとまった時間とかあれば頑張れるかも。


 それからの行動は早かった。この人生が二度目である理由はやはり思い出せそうにないけれど、そんなことよりもいーちゃんのことだとパソコン前に座った。

 しかしどう調べてもいーちゃんのことは出てこない。記憶にあった飛行機事故のことさえも無い。いや、飛行機事故は起こす理由がないのだから、なんら不思議はないのだが、しかしそこにいーちゃんの妹らしき人物が乗っていた痕跡すらない。あの玖渚友が三日三晩調べてもなんの結果も出てこない。これは可笑しなことだ。

 

 それは、この方法ではいーちゃんは見つけられないということを示すことだと言っても、過言ではなかった。

「まぁ、いーちゃんだし。そこまで予想外でも無いかな。」

「……どうしよ。とりあえずサブプランで行こうかな。」

 サブプラン。第二の策は要するに、いーちゃんがいなくとも、物語を滞りなく進めるための行動。あの狐面の男はたしか、バックノズルだったか、ジェイル・オルタナティブとか呼んでいたっけな。いわく其れは、この世のすべての物事は、時間や人物に縛られず、代替可能であるというしょうもない、といより言ったところでどうしようもない論理。たぶんだけれど、この考え方はそれの利用と言って差し支えない。

 

 と、独り言を呟いてみたところ、兄の九渚直が部屋に入ってきた。

「どうした、高貴な私の高貴な妹よ。」

「直くん。」

 

 そこで玖渚友は前々から考えていた計画のことを話した。

「ねぇ、直くん。僕様ちゃんは今から玖渚機関から絶縁を受けに行くから、できれば直くんはさ、それを邪魔しないでほしいの。」

 

 玖渚直は、そんな妹の突飛な発言に絶句___などしなかった。玖渚直、化け物と呼ばれる程の天才な妹をもつ兄であり、そしてその妹に負けど劣れど天才である玖渚機関直系の子。それが意味することは、玖渚直はその一言だけで妹の言わんとすることを理解し、それに賛同したと言うことに他ならない。天才の思考をトレースできるものもまた、天才足りえる人物であるがゆえに。

 

「そうか、高貴な私の高貴な妹よ。それでは私が玖渚機関を支配するまで、絶縁することにしましょうか。とても、口惜しいですけれど。」

「うん。やっぱり直くんはわかってるね。」

 

 そしてそんな数度言葉を交わしただけで玖渚直は全てにに納得し、家族としての別れを済ませたのだった。しかしそれが家族愛の薄さを表すかと言えばそうではなく、むしろその愛情は深いものだと言うのは、玖渚兄妹にとっては当たり前のことだったのだ。

 

「うん、それじゃあ、ばいばい。」

 そう言って玖渚友は家を離れ、計画通りの人生を進めることにした。手始めにあの時自分を再現する(もう一度自分を壊してみる)ところから。

 

 

 

 



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サカサマクレイブ

クレイブ=crave
別視点です


 私立希望ヶ峰学園高等学校。

 全国世界各地から超高校級と呼ばれる異常なレベルの才能の持ち主をスカウトした、天才の天才による天才のための学校。当然のように入学方法はスカウトが基本であり、例外として幸運枠という全国から毎年一人だけ無作為に選出される生徒が存在する。それ以外にも予備学科という才能がなくても入れてしまう学科もあるが、そんなものはあくまでも予備であったというオチでしかなく、やはり絶対的に周囲から隔絶された狭き門である。

 予備学科も当初は、希望ヶ峰が凡人にも門戸を開いたと言われ、いかに耳障りの良い言葉であったのだが、現実に集まるものは才能という肯定感に飢えたた若者と異様に高い学費だけ。自ら望んで入学した身としてはなんだが、あまりにも愚かしい決断であったと思う。ただ金では才能は買えないという当たり前を、心身に沁みて解らされたからだ。

 そうでなければ俺は今、松葉杖をついて階段を登るなんていう馬鹿な真似をしなくても良かったはずだ。いい加減にエレベーターくらい導入してほしい。エスカレーターでも構わないから。

 

 嫌な春だと、柄にもなく舌打ちをした自分は思った。

 去年、自分がこの予備になった、いや、親の金で金づるに成り下がった、去年のことが、新入生をみてフラッシュバックされたせいだ。なんなのだろうか、あの嫌な目は。諦めきれず、だがまだ腐らず。静かに嫉妬が揺らめいている。最悪の目だ。希望なんて冗談にしかならない、そんな目だ。

 そうして腐った目をした俺が、まだ腐っていないやつらを見て辟易とするのも、少しおかしな話だが。

 

 希望ヶ峰学園という才能に囚われた輩のモットーは、「才能こそ希望」というものだ。誰もが憧れ、焦がれ、焼かれてきた、才能という二文字。それにこの学園は囚われている。ただでさえ学校なんて閉ざされた空間が、また何かに囚われている。それは自分たち予備共が腐るには十分な温床たりえた。

 聞くには、この希望ヶ峰の上層部とやらも脳の溶けた老害共という噂だ。人類が平等に持つ若さという才能。それすら持たない凡俗共が上だというのなら、案外この学園も元より期待できたものではないのかもしれない。もしくは、希望のあるものなんかでは。

 ため息を付いて、僕は眠ったふりを解いて顔を上げた。ため息をついて鞄に教材をしまい、教室から出た。その日の僕はどこに行く気も起きず、けれど学校にいるのも窮屈で、適当にそこらを歩くことにしたのだった。

 

 図書館では隣りに座った図書委員の、リストカットの傷跡が見えてしまって居た堪らず。体育館は部活中でも響く声に覇気がなくて、入学時に全国に行ったと自信満々に言い放ったやつは既に部活を辞めていた。何処にいっても、彼処もなにも、沈殿した諦めの空気感が漂っていて、そうでないものは壊れかかっていて。嫌気のさした自分は走り出す気力もなく、広場のベンチに座り込んで夜になるのを待っていた。

 そこの広場の中央には大きく噴水があって、その周縁にベンチが置かれてある。周りの風景は開けていて、夏場なんかは暑苦しいが、まだ春のうららかな陽気では心地良くらいのもので過ごしやすい。一度だけここの公園で本科の生徒である、超高校級の生徒会長様を見てから、何度も通い詰めるようになった場所だ。

 

 自分がそこで一、二時間程度本を読んだり、眠ろうとしていると、小さく足音が響いてきた。

 その疲れ切った様子と、まだ腐りきれていない目から新入生だろうとあたりをつけた自分は、また読書に戻ろうとした。しかし、ドサリと、何か倒れ込むような音が聞こえてきて、もう一度見てみると、その生徒は花壇に頭をもたげて倒れていたのである。

 

 その生徒は見るからにひ弱そうな雰囲気のする、痩せこけた本科の人間だった。

 どうにも彼を起こしてみると、名前を御手洗クンというらしい。

「そうか、御手洗クン。次からは気をつけろよ。」

「え、あ、ありがとう、ございます。」

「そうか。」

「えっと、あの、名前聞いてもいいですか。」

「あー、逆木深夜だ。今は予備学科でテキトーに過ごしてる。用事があったらお前と同学年のかなみに聞いてくれ。」

「え、あ、はい。ありがとうございます。」

「うん。それじゃあ。」

「はい。それじゃあ。」

 

 そういって、僕らは別れた。

 放っておいたかなみを迎えに行くために、憂鬱な気持ちをぶら下げて。自分の折れた足に無理を聞かせて帰ることにした。

 

 




渇望


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セツボウハイスクール

う~んこの投稿頻度。今のうちに亀投稿タグ増やしておくので許して。



 現在、玖渚友、十五歳。

 高校入学の年。

 

 玖渚友が計画を開始させてから、約二年の歳月が経った。計画といっても別に特別な事ではない。起こるべきだった物事を、順々に起こしていっただけ。二度とミスを起こさないように積み重ねていくだけ。そう言うものだった。

 だからこそ、その起こすべきの中には≪仲間(チーム)≫と呼ばれる超特級のサイバーテロ集団も当然存在する。学生レベルもとっくの昔に越えて、プロの中でも上澄みの純度百パーセントな才能の塊たちの徒党。通称、≪仲間(チーム)≫。当然ほかにも呼び名はある。集団(メイト)一群(クラスタ)同士(パーティ)領域内部(インサイド)軍団(レギオン)矛盾集合(ラッセル)等々と、仲間内から呼ばれる名称だけでもこの数であり、外部から呼ばれることを考えれば、両手も両足も、折っても切っても足りようもない程の数存在し、ぞしてそれほどに、あまりに有名となったということでもある。

 つまるところ。玖渚友は極々自然に、非常に当たり前のことに、希望ヶ峰学園に入学することになったという話だった。

 

「……どうしよっかな」

「どうしたの、くーちゃん」

「あ、ちーたん。いつからいたのさ」

「最初からだけど……」

 

 ちーたん。本名、不二咲千尋。ちーくんこと綾南豹がつれてきた、予定外の天才。私の憶えている世界にはいなかった存在。

 でも別に、この子が特別、記憶にないわけじゃない。世界中で頭角を現しつつある才能の芽、その大半に見覚えがなかった。表にも、財力にも、政治力にも、暴力にも、これらのどんな世界にも、私の知らない圧倒的な天才たちが存在している。私や潤ちゃん程のレベルのはまだ見ないけど、それでも天才と評して問題ない存在だ。

 そのなかでも最も大きな存在しなかったもの。私立希望ヶ峰学園、超特権的な学校で、この世のありとあらゆる才能の研究機関。これに似た存在で言えばいーちゃんがいたER-3プログラムとかが相当するのだろうけれど、それとは比較にならないほどメディア露出が多く、また才能に関する研究ということで、その研究対象は学問的な分野に縛られない。

 今年の新入生だけでも、野球にアイドル、格闘家、スイマー、変わり種では探偵や御曹司なんてものもあるほどだ。というよりも御曹司は才能の一種なのだろうか。いや、直君のこととか赤神イリアさんとかみてると少し納得するかも。高貴であることが、他人を見下すことが当然であるという態度と存在感。これは確かに才能と言えるのかもしれない。

 そういえばそれに関連したことで、結構大きな変更点がもう一つあった。壱外、弐栞、参榊、肆屍、五砦、陸枷、七を飛ばして捌限、玖渚。そしてそれに新興の十神財閥が加わって、九つに勢力が分かれるようになっていたことだ。実質的には玖渚が十神以外を統治している形だから、玖渚機関と十神財閥という形になる。さすがにまだ玖渚機関には及ばないけれど、それでもそれ以外のいくつかの家をすでに超えているし、まだ玖渚に取り込まれないその気位の高さも特筆すべき点だろう。

 それにあともう一つ予想外のことがあったとするなら、斜道卿壱郎博士、堕落三昧(マッドデモン)がこの世の中に存在した痕跡がなかったことだ。あの人が執着していた雑事こと特異性人間構造研究(ウルトラヒューマノイドドグマ)の研究過程は存在しているのに。これが何故なのかは分からないけど、いるはずのものがいて、いないはずのものがいる。それはここに生まれてきた時からわかっていたことだ。

 今思えば圧倒的な違和感が生まれた時からあったのかもしれない。存在していたはずの疑念が、存在しないという違和感が。

 なぜならそれは____。

 

 

「それで、なにをどうするの?また何か別のこと始めるの?」

「うーん、いや、そういうのじゃなくてさ。希望ヶ峰のことだよ。」

「希望ヶ峰って、希望ヶ峰学園?学校いまさらいくの?」

「そうしてみようかなって」

「えっと、それはなんで?」

「ちょっと興味。あと知りたいことがたくさんあるから、かな。」

 

 ちーたんはそれを聞いて、少しふくれっ面になった。

「それなら、ここでもいいじゃん」

「無意味だよ。だってちーくんにとっくの昔に頼んでるもん。それでも出ないなら、わざわざ私がここに残る理由がない」

 

 ちーたんはそれを聞いて驚いて、暗い顔になって黙りこくってしまった。

「あ、ちーたんもいっしょに来てもらうからね。」

「え?」

 

 



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モノクロモブニズム

普段から短編しか書いてないせいで話の膨らませ方がわからん……
一応いっておくと、今回は箸休めです。許して。


 村上麻人は考える。

 才能とは何だろうかという、くだらない質問があったとする。

 普通に考えるのなら、何らかの能力の高さから由来した呼称、なのであろう。ほかにも考え方はいくらでもある。キャラクター?仮面?個性の一つ?どれでも決して間違ってはいないのだろうけれども、だからこそ俺はこう考える。

 

 天才とは、シミなのだ。

 真っ白なキャンバスに落とされた、一つの、大きくて決して消えない染みた絵具。ほかの誰もが、自分の持ったキャンパスには、自分が新しく、そして素晴らしい絵を描けると思い込んでいるし、それも多分間違いではない。大抵の人間は、たとえ拙くとも自分だけで筆を執って、何か一つのものを描き切ることができる。できなくても、その筆は自分だけのもののはずだ。

 

 けれども彼らは違う。

 自分が描くはずのキャンバスには、すでに知らない絵具がが染みついている。

 それはもう何をしても落ちないし、ごまかそうと上塗りしても逆に目立つ。

 

 そしてそんなシミがあるから、そのシミのことを考えながら、そのシミをどうやって疎まれないように、醜くならないように、美しくなるように描くかを考えるのだ。他のみんなはそんなことも考えられずに、その場その場で考えたものを描きつ続ける。どうやってできるのは、整合性の取れてよく考えられた美しい絵と、その場しのぎのとっ散らかった絵とだけだ。

 当然幼いころから自分の道を決めて、できる限り以上の努力をしてもかなわないような天才がいた、なんて場合だってあるだろう。でも、それは当然だと考えるべきなのだ。だって彼らには、彼女らには、生まれたころからそれが始まっているのだから。

 だからあの人間どもには、棲みついているのだ。才能というシミが、染みついているのだ。

 

 閑話休題。

 

 結局何が言いたいんだかって感じになってるけど、これは単純な嫉妬の話だというのが、いちばんそれっぽい収まり方なんだと思う。

 

 

 

 村上麻人は昔そこそこな夢を持っていた。

 頭を丸く刈り上げて、死ぬほどつらい練習に耐えて、才能の有無に苦しめられながらもなんとかプロになろうっていう、そういう夢。実際中学でも俺より上手いやつなんて腐るほどいたけれど、みんな俺に抜かされてやめていった。可哀そうだとは思わなかった。理屈は単純で。結果が出ない努力なんて、なんの役にも立たないってよく見せつけられてきたから。

 小学校の時、下の中くらいの上手さだった俺の下には、下の下のくらいの上手さの奴がいた。当たり前の話だけどな。

 それで、そいつ、まぁ適当に村人Bにしようか。

 その村人Bとリトルリーグで一緒にチームとして戦っていた時に誰よりも練習していたのは、エース背負ってるやつでも、四番張ってる天才様でもなくて、下の下のはずのBだったんだ。正直ふるえたし、尊敬した。だから俺も触発されてそいつと一緒に練習を重ね続けた。結局リトルリーグでスタメンをもらうことは一度もなかったし、シニアからはそいつとは別のチームになることが確定していたんだけれど、最後にそいつと握手して別れたのをよく覚えている。互いに「シニアで活躍して、いつか戦おう」そういわれたのが忘れられなかった。

 そのあと俺は実際いろんな自称天才様をねじ伏せてきた。胡坐をかいたエリート様の寝首は、もう掻くまでもなかった。それでようやくエースにまでなったのは、中学二年のころだった。

 その時の俺はあいつに自慢できるようになっただろうと思っていた。あいつはきっと、もうエースで四番みたいなことだってできるはずなんだから。だって、努力できることも才能だって、俺が証明し続けて来たんだから。いやもしかしたら、もう俺のほうが強くなっていて、Bに尊敬されるようになれるかもしれないと、本気の勘違いをしていたんだ。

 だって。だって。だって。

 努力をできるのも才能なんだとしたら、努力に見合った結果が返ってくるのも才能というんだと、知らなかったから。

 

 あいつはもう、野球をやめていた。

 どうしてと嘆いても、何でと聞いても、あいつは何も言わなかった。

 ただマメだらけの手で俺の胸元をつかんで、ふざけるなと静かににらみつけてくるだけだった。

 どうしてと、聞かれた気がした。

 

 

 その年の夏はもう地獄だった。

 村人B(俺の英雄)はもういないのに、俺はこのリーグを勝ち抜かないといけない。チームのエースとして、引っ張って、どうにか優勝させなければいけない。

 チームメイトの夢を潰されるわけには、いけない。

 

 必死の形相で投げ込みをする俺に、チームメイトは応えてくれた。これまでではありえないような好打と好投の連続で、俺の後を継いでくれるエースをだれにすればいいのか、困ってしまいそうだと笑えるくらいに凄かった。おかげで俺たちは着々と勝ち進んで、県大会の決勝までコマを進めることができた。うちみたいな中堅では、もう十年ぶりぐらいの快進撃だと、コーチにも褒められた。

 

 そして、県大会の決勝。

 十三対一。それが俺たちに与えられてしまった()()だった。

 

 努力が足りないなんて誰にも言わせない、と思っていた。だって事実俺たちは努力してきた。それでも俺たちは負けてしまったのだ。当時中学三年生だった、桑田怜恩のワンマンチームに。他の奴らだってそこまで弱すぎことはなかったのに、そのたった一人の球児の存在が、その他すべてを霞ませたのだ。ただのモブにしか見えないように、天才を凡才に落とすように霞ませてしまうほどの光を放っていたのだ。

 

 そこで俺は証明されてしまったのだ。努力に見合った結果が返ってくるのも才能で、努力以上の結果が返ってくるのも才能なのだと。

 俺は偶然偶々そういう才能を持っていたし、あいつもまた偶然にもその才能をもっていた。

 別に恨むような話じゃない。二分の一で外れただけだ。

 そしてこれからあいつは、その二分の一に外れた奴らも、得ることすらできなかった奴らも、自分と同じ才能を持った奴らも、その全部の死体を挽いたグラウンドの上で生きるのだと確信した。神なんて信じてはいないが、こればっかりは啓示か何かみたいに不思議と断定されたみたいな感じがした。

 

 まるで神がそう与えたみたいだと、身勝手にそう思ってしまうほどだったのだ。俺は神なんていないと思っているし、ましてや神でもないのに。

 だからきっと彼らには、棲みついているのだと思った。

 ____神さまが。

 

 

 

_____________

 

 

 その翌年、俺が中三になった夏。神さま(桑田怜恩)が甲子園で優勝した時。

 俺は野球を辞めた。

 

 退廃的な空気を吸いながら、退屈な無才の日々に体を埋めて、無彩の世界に溺れようとした。

 あきらめずにいた自分を捨てて、俺は予備になった。

 村上麻人は、村人A(モブ)に成り下がったのだ。神様じゃないだけで人生の価値を全部なくしてしまえるような弱い弱いモブに。

 

 これが俺の、江ノ島循子と、あの橙色に出会うまでの話。

 それから先は、もうちょっと後で。

 

 

 




はい、この語り手君はモブです。
コメント感謝。すこし手直ししました。あと多分このモブ君は以降も出てきます。


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