イナズマイレブン〜中途半端な逆行〜 (トライデント)
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無印編
逆行する半田


イナイレ小説あるけど、半田が活躍してるのあんま見当たらんな
→書くか

で生まれたお話です。


「今日からオレも中学生かぁ」

 

 

オレの前にそびえ立つのは、この町でも有名なマンモス校。

 

 

「私立雷門中学校…か」

 

 

これから3年間の中学校生活を送るところに、胸を躍らせながら校門をくぐる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「2度目……なんだよなぁ」

 

 

彼の名前は半田真一。"2度目"の雷門中生活を送る少年である

 

 

 

 

 

 

いつも通り、稲妻KFCの練習を見て、帰宅してそのまま就寝…したと思ったら、何故か小学生の頃に戻っていた。

夢かと思ったら、夢でもない。

しかも、その1週間後には雷門中の入学式が控えていたんだ。

 

 

「これって、目金が言ってた…たしか逆行ってやつだよな…?」

 

 

現在の記憶を保ちながら、過去へ時間と肉体が巻き戻る…だっけ。そんなことを前に飲んだ時言ってた気がする。

 

 

「空想のものじゃなくて、実際に起こるって…しかもなんでオレが…?」

 

 

目金から聞いた話から、そういうのって円堂や豪炎寺たちがなると思ってたんだけど、どうしてオレがなったんだ…?いや、理由なんてないのかもしれないけど…

 

 

「……でも、2度目…か」

 

 

正直、一度も思ったことはないと言ったらウソになる。

過去に戻って、やりたいことがない、ということは。

 

 

(………やっぱり、いるよな)

 

 

少し雷門の敷地内を歩いていると、オンボロの建物がひとつ。

そこの前には、オレンジ色のバンダナを巻いた男の子…円堂がいる。その隣には女の子…木野も。

そしてその近くを、強面の男…染岡が通り掛かる。

 

 

「サッカー部…?」

 

 

この時期の雷門中に、元々サッカー部はなかった。

円堂が当時顧問だった…えーと、なんだっけ。ふゆ…ふゆ……ふゆかき?に入部届を出したところ、部員が1人もいなければ、部室も放置されるという、ひどい有様だった。

それを円堂と木野が部室を掃除して、サッカー部の看板を見つけて、部室の前に掛けた時に、オレと染岡が通り掛かったんだ。

 

 

「お前たちもサッカーに興味あるのか!?オレは円堂守!一緒にサッカーやろうぜ!」

 

 

サッカー部に反応してるオレと染岡に、円堂が飛びかかる。

そう、雷門中サッカー部はここから始まった…いや、再始動したんだ。

前回のオレは、この2人と、後から入る壁山や宍戸に少林寺や栗松、それに影野にマックスと風丸、豪炎寺。それに目金もか。後から鬼道やシャドウ、虎丸も入るんだが。この雷門のみんなと、サッカーをしているだけで満足だった。

……というのも、ウソになる。たしかにみんなとサッカーをしていて満足だった。

でも、目の前にいる円堂と隣にいる染岡の2人と、オレには決定的な違いがある。

フットボールフロンティアインターナショナル。通称FFI。

少年サッカーの世界一を決める大会に、2人は日本代表として出場し、優勝をもぎ取った。

その時オレは、代表候補にすら選ばれなかった。

その時は仕方ないと諦めていた。他は豪炎寺に鬼道、風丸や、全国の強豪選手が選ばれていて、そこに食い込めるとは、オレ自身も思っていなかった。

だが再び、この瞬間に戻って来ると、やっぱり…と思う。

 

 

(オレもこの2人と一緒に、世界でサッカーをしたい)

 

 

なぜオレが逆行したかは、今はどうでもいい。

改めて原点に戻ってしまったら、この想いは止められない。

 

 

「改めて!オレは円堂守!よろしくな!」

 

「……ああ!オレは半田真一。小学校の頃もサッカーやってたんだぜ」

 

「オレもだ。染岡竜吾、フォワードやってたぜ」

 

「わたしは木野秋。マネージャー、させてもらいたいな」

 

「よーし!半田と染岡!それに木野!オレたちでフットボールフロンティアに出て、優勝だ!!」

 

「ああ!日本一の次は、世界一だ!」

 

「ンだよそれ、気が早すぎるだろ!」

 

「ふふっ、わたしも見てみたいなぁ。世界でサッカーをするところ」

 

 

こうして、雷門中サッカー部は再始動した。

オレにとっても、二度目の雷門中サッカー部。

中途半端と呼ばれてもいい。最後まで、食いついてやるんだ…!




とくに逆行特典とかもなければ、GO時代の円堂たちと違い、プロサッカー選手としての経験もないので、ほぼ丸腰のままで放り込まれてます。


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最初の1年

とくに逆行特典はないけど、完全に何もないってことはなく。


今回も最初の1年間は、円堂と染岡、そしてオレの3人しか部員はいなかった。

帝国の試合の時に入ってくれた風丸たちが入ってくれれば、とも思ったけど、そうはならなかった。

というのも、風丸は元々陸上部だし、マックスは今は野球部にいるし、目金は目金だし、影野は見当たらないし。いや、確かに在校してるし、何度か見かけてるんだよ。でも放課後になってからは一度も見かけたことすらなかったんだよ。そんなことあるか?

あと今思うと、マックスって色んな部を渡って、サッカーは今までやったことなかったからってことで入ってくれたけど、これもそんなことあるか?今までサッカーをやってないって、雷門は勿論小学校の体育ですらやらなかったてことか?そんなことあるか?

…いや、マックスのことを気にしてたらキリがないから置いとこう。

ということで、3人しかいないサッカー部だと、リフティング練習や簡単なパス練習やミニゲームしか出来なかった……とはならなかった。

 

 

「すいせいシュート!」

 

「うおおおおおっ!!」

 

 

河川敷グラウンド。そこにオレたちはいる。

サッカー部の人数が少なくても、大人数で練習する方法はある。

 

 

「すみません、会田さん。KFCの練習にお邪魔して」

 

「いいんだよ、木野くん。歳上との練習は、彼らにとってもいい刺激になるからね」

 

「いいぞまこ!この前より威力も上がってるぞ!」

 

「ほんと!?わたしもお母さんみたいに凄いすいせいシュートうてるかな!?」

 

「ああ!まこなら出来る!」

 

「オレたち、まこの母さんと会ったことないよな?」

 

 

たしか、まこの母さんもサッカーやってたはずだったな。一番街サリーズ、だっけ。

10年後もやってて、オレが監督してた稲妻KFCとたまに試合したんだったな。

 

 

「まあ、そこはどうでもいい。おい坊主共!オレたちも負けてられねぇぞ!」

 

『おー!!』

 

 

まこがすいせいシュートの練習をしてる間、染岡や他のKFCメンバーも負けじと必殺技の練習をしている。オレも負けてられないな。

 

 

「円堂!オレも頼む!」

 

「ああ!来い半田!!」

 

「いくぞ!」

 

 

ボールを空に打ち上げ、それを追うように、身体を捻りながらジャンプする。

 

 

「ローリングキック!」

 

 

回転の勢いをそのままにボールを蹴る。

 

 

「ずあああああ!!」

 

 

円堂がボールを抑え、少しの間拮抗していたが、ボールの回転は止まった。

 

 

「半田もいいシュートだ!」

 

「ああ!なにかもう少し加えることができれば、威力も上がりそうなんだけどな…」

 

「でも半田くん、必殺技のイメージが掴めてるだけでもすごいと思う。小さい頃アメリカにいたけど、この時期の中学生サッカー選手全員が必殺技を使えるってことはなかったもん」

 

「あー…よくビデオとかで試合観てたからさ。イメージだけならな」

 

 

まさか既にローリングキックを使えてたとは言えるわけがなく、誤魔化すしかなかった。

ただ、オレのローリングキックは、染岡のドラゴンクラッシュや、豪炎寺のファイアトルネード程の威力はない。

これは前回の時も思ってたことなんだけど、何か加えることができれば威力も上がると思うんだけどな…

 

 

「よし、今日はここまでだ!まこたちもお疲れ様!」

 

「はーい!またね!円堂お兄ちゃんたち!」

 

「明日はどうするんだ?学校のグラウンドは使えないし、ここも使えないだろ?」

 

 

たしかに今のサッカー部はグラウンドを使えないし、明日はゴールネットの交換があるらしくて、ここも使えない。

 

 

「なら、また部室前でリフティングとかしてようぜ。オレ、あの時間も好きなんだよ」

 

「もちろんだ!グラウンドが使えなくても、練習は出来る!」

 

「おぅ、分かったぜ。また家にあるビデオ持ってくるか」

 

「わたしもおにぎりの用意しとくね」

 

 

たしかにこういう実践的な練習も大事だけど、前回みたいに3人だけで部室前でリフティングしてたり、テニスコートの近くでのパス練とかも、あれはあれですごく楽しかったんだ。

 

 

こうして1年が過ぎ、オレたちは2年生になった。




威力が下がってるとはいえ、ローリングキックは使えます。

ただこのお話の場合、このローリングキックは未完成です。


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後輩が来た!

ここからようやく2年生のお話です。
そういえば1,2,3のお話って、全部1年間の出来事なんですよね。濃密すぎません?


オレたちが2年生になり、新入生も入学して来た。そうなると…

 

 

「し、宍戸佐吉です!」

 

「しょ、少林寺歩!」

 

「く、栗松鉄平でやんす!」

 

「か、壁山塀吾郎っす!」

 

『サッカー部入部希望です!(でやんす!)(っす!)』

 

 

部室で木野を含めたいつもの4人でサッカー雑誌を読んでいると、ガッチガチに緊張した4人の新入生、宍戸と少林と栗松に壁山が部室に入ってきた。

 

 

『よっしゃあああああ!!!!』

 

 

そりゃもう、揉みくちゃにしてやった。

染岡なんか宍戸のアフロもげるんじゃないかってレベルで揉みくちゃにしてるぞ。そういうオレも少林のこと揉みくちゃにしてやってるんだが

前も言ったけど、3人でやって1年間も楽しかった。

でも、それとこれは別と言うか。やっぱり仲間が増えるっていうのは嬉しいことだ。

 

 

「じゃあ、さっそく練習だ!河川敷まで行くぞ!」

 

「おいおい待て待て!服はジャージでいいとしても、スパイクが無いだろ!本格的な練習は出来ないんだから、河川敷行ってもKFCの邪魔になるぞ?」

 

「あっ、ああ…そうか…。じゃあ今日は、軽い練習だな」

 

「宍戸くんたちって、希望ポジションは?」

 

「ミッドフィルダーです!」

 

「オレも!」

 

「オレはディフェンス希望でやんす!」

 

「オレもっす!」

 

「ミッドフィルダーとディフェンダーが2人ずつ増えたな」

 

「フォワードはいねぇのかよ。まぁ、雷門の点取り屋はオレだけどよ」

 

「ワントップはあんまオススメしないぞ?」

 

 

そこから円堂を筆頭に、7人なのに何故かフォーメーション談義になった。

気持ちは分かる。すごく分かる。3人から一気に7人になったんだ。早る気持ちはめちゃくちゃ分かるぞ。オレも乗り気だったし。

でも7人じゃ試合は出来ないと気付いたのは完全下校時間になってからだった。なんだったんだこの時間。無駄ではないけど。

 

 

「3人から一気に7人ですか…試合はまだ出来そうにないですが、この調子で増えれば、少なくとも部としては機能します。部員が増えるといいですね」

 

 

なぁ、これ誰だと思うよ?

雷門?ちげーよ、この時期まだマネージャーじゃないし。

音無?もっとちげーよ。音無がこんな大人しいワケないだろ。

じゃあ誰だよ?って、そりゃあ…

 

 

「あっ、冬海先生!」

 

「外まで声が聞こえて来ましたよ。歓迎するのはいいですが、あんま揉みくちゃにしないようにしてください」

 

 

誰だよってなったわ。冬海だぜ?これ。

入学当初は名前忘れてた気がする。流石に対面すれば思い出したけど、これ本当に冬海か?たしかに前回も最初の頃はちょくちょく顔出してたけど、この頃になると全然顔出さなかったはずだぜ。今思うと、その頃から影山と繋がってたんだろうけど

しかもなんか、ちゃんと顧問してるんだよな。サッカーはあまり詳しくないから監督は出来ないらしいけど、ちゃんと顧問してる。

よく考えると、そこも前回と違うか?一応前回は肩書きだけ監督もやってたはずだし。

 

 

「それよりも、もう下校時間ですから、さっさと帰ってください」

 

「おう、じゃあ先帰るわ。お前らもとっと帰れよ」

 

 

そこから染岡を皮切りに、みんな帰っていった。オレも帰るかぁ。

 

 

「………ああ、半田くん。ちょっといいですか」

 

「ん?なんだよ、冬海」

 

「あの、一応本人が呼んでて、しかも本人が目の前にいるのに、それは流石にどうなんですか」

 

「あー、すみません。冬海センセイ。なんですか?」

 

「…帝国学園との試合は、存分にやりなさい」

 

「………はい?なんで帝国が出てくるんだよ。それに、まだ試合は出来そうにないだろ」

 

「いえ、とくに理由はありませんよ。夏未お嬢様が、そのようなことを言っていたというのを小耳に挟んだだけですから。どちらにせよ、部員は集めておいた方がいいですよ」

 

「そりゃそのつもりだけどよ。ていうか、アンタってそんなやる気あるようなセンセイだったけ?そりゃ協力的なのは嬉しいけど。まあ、とにかく帰りますわ」

 

「ええ。さっさと帰りなさい」

 

 

今のところは大丈夫だろうけど、地区予選が始まったら、要マークかな?明らかに前回と同じ人間と思えないんだけど

 

 

「…………貴方達が優勝するところぐらいは、せめてこの目で見たいですからね」

 

 

部室を出る時、何か聞こえた気がしたけど、扉を閉める音にかき消されてほとんど聞こえなかった。

 

 

 

 

そして色々あって、帝国学園との練習試合が決まった。




いよいよ試合が始まります。


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帝国、ふたたび

試合が始まると言いましたけど、すみません。次になります


「キャプテン…その話、受けたんすか……?」

 

「当たり前だ!廃部になんて、させるか!」

 

 

1年たちが入ってきてから少し経って、なんか怒り気味の円堂が部室に入ってきた。そうだった、これぐらいの時期だったよな。

 

 

「相手って、あの帝国だろ?じゃあ、練習もそうだけど、メンツ揃えないとじゃん」

 

「は、半田先輩、乗り気なんですか…?」

 

「そりゃ、オレも廃部なんて嫌だしさ。お前もだろ?染岡」

 

「………まあな。たしかに、全然試合してなかったが、相手が帝国か。いいじゃねぇか!相手にとって不足ねぇ!」

 

「染岡先輩まで!?相手はあの帝国ですよ!?無理!絶対無理!」

 

「サッカーを愛する気持ちがあれば、不可能だって可能になる!何も始まってないのに、諦めちゃダメだ!」

 

「………そうだぜ、みんな。別に何もしてなかったワケじゃないだろ?絶対いける、とまでは言えないけど、始まる前から負ける気でやるサッカーなんて、つまらないだろ」

 

「…そう、ですけど…」

 

 

円堂が鼓舞して、染岡も乗り気だけど、やっぱり1年たちはビビってる。

オレも気持ちは分かる。前回のオレも、そっちの立場だったからな。

ほとんどなにもしてなかったオレたちが、あの帝国学園を相手に戦えるのかって不安は、オレにも分かる。

だけど、オレは…

 

 

「……さっきも言ったけど、サッカー部が廃部なんて、オレも嫌だからさ。最初で最後の試合なんて、させたくないだろ」

 

「…………オレも、イヤです…。わ、分かりました!一蓮托生ってやつですもんね!やりますよ!」

 

 

一番ビビってた宍戸が奮起したことによって、他の1年もやる気を出した。オレも、必殺技を磨かないとだな。

 

 

「染岡、練習に付き合ってくれよ。ローリングキック磨きたいからさ」

 

「いいぜ。オレも必殺技身に付けたいからよ」

 

「円堂くん。私たちは新しくサッカー部に入ってくれる人探そうよ」

 

「ああ!風丸にも声をかけてみるかな…」

 

「宍戸たちはこっち来るか?また河川敷行こうと思ってるんだけど」

 

「はい!オレ達も負けてられません!」

 

「帝国が相手でも、ぶつかってやるでやんす!」

 

「まだ少し怖いけど…オレもやるっす!」

 

 

少林や栗松に壁山も、この調子じゃ大丈夫だな。

染岡も1年の頃から本格的な練習をしてたからか、モチベーションは高い。前回も決して無かったワケじゃなかったけどさ。色んな意味で、オレが言えたことじゃないけど。

 

 

「……って、気づいたらオレしか残ってないじゃん。オレも行くか」

 

「…円堂くんたちが急いで出て行ったと思ったら、またキミだけですか。半田くん」

 

「って、冬海じゃん。何しに来たんだ?」

 

「……もういいです。夏未お嬢様から話を聞いたので、顧問として顔を出しに来ただけですよ。負けたら廃部なんて無茶苦茶な話とは思いますが、あの人の言うことなら、仕方ありませんからねぇ…」

 

 

って言いながらため息ついて汗拭いてる。まだ慣れないな、このフツーの先生してる冬海。

 

 

「……そっか。冬海は何も言わないのか?帝国と戦うなんて無茶だって」

 

「そりゃあ、無茶だと思いますよ。私よりキミ達の方がよっぽど分かってるとは思いますが、相手はあの帝国ですから」

 

「…………じゃあ、負けると思ってるのか」

 

「いえ、そうとは思ってませんけどね」

 

「………はぁ?」

 

 

なんだそれ。無茶だと思ってるのに、負けると思ってないって。

 

 

「円堂くんじゃありませんけど、やってみなきゃ分からないでしょう。それに、私も一応顧問ですからね。帝国学園ほどではありませんが、キミたちが河川敷で練習を積んでいるのは知っています。ありきたりな言葉ですし、必ずしもというワケではありませんが、努力は裏切りませんよ」

 

「……………」

 

「………やれやれ。自分でも言ってて恥ずかしくなりますけど、教師なんてそんなものです。ほらほら、染岡くん達が待ってるんでしょう?早く行きなさい」

 

「………ありがとな。冬海先生」

 

「……早く行きなさい」

 

 

……前回も影山と繋がってなければ、こんな…はねぇわ。流石に。

でも、今回の冬海は、ちゃんと顧問してるし、オレ達のことを考えてくれてる。

なんだ、けっこう心強いじゃん。冬海でも。

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、あんま威力変わんないな…」

 

 

河川敷グラウンドでローリングキックの練習をしてるんだけど、ほんの少し上がってるぐらいなんだよな。

どうすればいいんだろ。すぐ思い付くのは、染岡のドラゴンクラッシュにオレのローリングキックを足すぐらいなんだけど、ドラゴントルネードと被ってるし、根本的な解決になってないと思うし。

あと、そのドラゴンクラッシュも今は…

 

 

「うおおおおおお!!!」

 

 

ドラゴンが出てないドラゴンクラッシュになってるんだよなぁ。

イメージ的には、宍戸のグレネードショットに近い。というかほぼそれ。

………でもたしか、ドラゴンクラッシュって帝国との試合の後から使えるようになってたよな。ドラゴン出てないとは言え、半分ぐらい出来てるって、すごいな。さすが染岡。

 

 

「くそっ!まだまだ足りねぇな…」

 

「でもすごいな、染岡。ミッドフィルダーなんだから当たり前だけど、オレのローリングキックよりすごいシュートだぞ」

 

「……そりゃあ、負けてられなかったからよ。雷門の点取り屋が覚えてなくて、ミッドフィルダーが覚えてるなんて、かっこつかねぇだろ」

 

「………そっか」

 

「…なぁ、半田。お前がローリングキックを覚えたときって、どんな感じだった?参考にしたい、聞かせてくれ」

 

「えっ?えーっと、それは…」

 

ヤバい。そりゃいつか聞かれるだろうとは思ってたけど、まさか最初から覚えてたなんて言えるワケないし、かと言って言い訳が考え付いてるワケでもないぞ

 

 

「……………オレがよくビデオで試合を観てたってのは、知ってるよな?その選手達が使ってる必殺技に憧れて、追いつこうとして、頑張って…って感じで練習をして、覚えたよ」

 

 

……嘘は言ってない。あの時も、最初から一緒だった2人、染岡はドラゴンクラッシュ、円堂はゴッドハンドとねっけつパンチを覚えてた。

対するオレは、何も無かった。そのローリングキックも、試合では使う機会はほとんど無かった。

必殺技だけが全てじゃないってのは分かってる。地区大会決勝の帝国戦は、オレが最後の得点へ繋いだ……って、前回大人になってからの円堂にやたら言われた。よく覚えてたな、アイツ。オレも覚えてたけど。

 

 

「……追いつこうとして、か」

 

「…まぁ、染岡の場合、足りないのはイメージだと思うんだけどな。なんだろ、こう…染岡竜吾のシュート、かな?なんて言えばいいんだ…?」

 

「………それ、似たようなこと円堂にも言われたぞ。半田になろうとするなって」

 

「あー、そうなのか。………って、オレ!?」

 

「いや、別にお前になろうとは思って無かったけどよ。さっき言った通り、お前に対抗心燃やしてたのは事実だったからな。それを円堂に突かれたんだよ」

 

「あ、ああ…なんだ、そういうことか……」

 

「………だよな!オレもオレだけのシュートを作り出す!負けねぇぞ!半田!」

 

「いや、対抗心燃やすのはいいけど、せめて同じフォワードに燃やせって…ごう…いや、何でもない」

 

 

あっぶねぇ!!豪炎寺って言おうとしてたよな!?今言っても意味ないだろ!!

 

 

「半田さん!染岡さん!そろそろ帰りますよ!」

 

「……って、もうこんな時間かよ!?部室にカバン置きっ放しだったよな!?戻るぞ染岡!!」

 

「あぁ!?って、マジじゃねぇか!急ぐか!!」

 

 

 

 

そして、試合当日を迎えた。




次こそいよいよ試合です。
いや、本当です。本当に試合が始まりますから。


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オレのサッカー

本当に試合ですよ、みなさん。
先に言ってしまうと、原作と流れはそこまで変わらないので、ちょくちょく省略します。

あと感想欄で冬海先生ヒロイン説が流れてて笑いました。


「……で、その豪炎寺と話はつけれなかったってことか」

 

「ああ…でも、アイツは絶対来る!」

 

 

 

あれから少し経って、前回通りマックスと影野が入部して、風丸が助っ人として入って、最後の1人に目金が滑り込んだ。

試合が決まった日の翌日に、円堂が1人で河川敷で練習してた時に、豪炎寺と会ったらしい。

なんか、微妙に変わってるな?前回の円堂の話だと、帝国との試合が決まるよりも前に会ってたはずなんだが。

 

 

 

「来ねぇヤツのことなんか気にしても仕方ねぇだろ。そいつがいなくたって、オレが点を奪ってやるよ!」

 

「まぁ、たしかに豪炎寺が気になるのは確かだけど。いない人間ばかりを頼りにするのは違うよな」

 

「そこは分かってるさ。マックスと影野と目金も入ってくれて、風丸が助っ人に来てくれたしな!帝国相手でも、くらいつけるはずだ!」

 

「うん。僕も頑張るよ。器用さが売りだから、そこそこ頼ってね」

 

「………頑張って、目立つ」

 

「おいおい、自分で言うのも情けないけど、オレは付け焼き刃だからな?全力は尽くすけどさ」

 

「いや、ホント助かるよ風丸。引き受けてくれて、マジで感謝してる」

 

「あんな円堂の姿見たら、放っておけなくてさ。サッカーは付け焼き刃だけど、走りなら任せてくれ」

 

 

 

助っ人に入ることが決まった時にも言ったけど、改めて風丸に感謝だな。おかげで人数がギリで足りてる。

本当は陸上部なのに、これからサッカー部に入って、日本一と世界一をもぎ取り、10年後にはプロリーグでサッカーをすることになる。

……風丸にとって、陸上に戻って続けるのか、そのままサッカーを続けるのか、どっちが風丸のためになるのかは、オレには分からない。分かるはずがないんだけど。

どっちにしろ、風丸は自分で道を選ぶんだ。今回はどうなるかは分からないけど、少なくとも、今は風丸とサッカーが出来るのも、嬉しく思う。

 

 

 

「ふっふーん、この僕が入ったのなら、勝ったも同然ですね!」

 

「………ああ、うん。お前もありがとな。うん。ありがと」

 

 

 

どこからその自信が出てくるのか知らないけど、コイツも入ってくれなきゃ人数が揃わなかったワケで。

まぁ、目金も目金で、やる時はやる男なんだけどな。今はこんなだけど

 

 

 

「………なにか、来たよ」

 

 

 

校門の方から、凄い音が聞こえる。車輪の音だな。

…今でも忘れない。あの帝国学園の移動車。帝国学園が帝国たることを示す重厚さ、そこから現れる最高峰のサッカープレイヤーたち。

 

 

 

「……………ふっ」

 

 

 

鬼道有人。帝国学園のキャプテンであり、最高のゲームメイカー。

その実力は、オレもよく知っている。仲間として戦った時の、あのゲームメイクは、今でもよく覚えている。

だが、今は相手として…いや、雷門を叩き潰すために、目の前に立とうとしている。

影山のサッカーを信奉している今の鬼道は、容赦なく、オレ達を叩き潰そうとするだろう。

 

 

 

「……負けて、たまるか」

 

 

 

その言葉は、少し…いや、大分震えていた。

 

 

 

 

 

 

「さぁ!雷門中サッカー部と帝国学園サッカー部の試合が!いよいよ始まります!!」

 

「………木野さん。彼はいったい?」

 

「えーと、将棋部の角馬くんで、実況がしたいみたいで…」

 

「……放送部じゃないんですか」

 

 

 

あの移動車から帝国学園のメンバーが出てきて、鬼道曰く慣らしのための練習が終わり、試合が始まる。

あの慣らしの練習って、この時点でオレたちに格の違いを見せつけるためのものだよな。

 

 

 

「……半田。さっきのアイツら、すごかったな」

 

「円堂。まぁ、たしかにすごかったけどさ。でもあれ、動きが大袈裟じゃなかったか?」

 

「あ?どういうことだよ、半田」

 

「染岡も。さっきあのキャプテンが、慣らしって言ってたけどさ。慣らしのわりには、動きが派手な気がするんだよ。多分あれって、慣らしじゃなくて、オレたちに見せつけるためなんじゃないか?」

 

「お、おぉ…そうか…」

 

 

 

……これ、前回も誰か言ってたっけ?覚えてないんだよな。

 

 

 

「……まぁ、だからなんだって話なんだけど。アイツらの動きは、オレたちと全然違うのは、変わらない事実で。あんなことするなら、オレたちに何をしてくるか……」

 

「………だからって、負けられる理由にはならないさ」

 

「………ああ。もちろんだ」

 

 

 

こんなところで、負けてたまるか。

オレは、みんなとサッカーをし続けたいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

と、粋がったのはよかった。

最初は前回同様、帝国に大きな動きはなく、染岡が未完成のドラゴンクラッシュを打ったが、キーパーの源田に止められた。

 

 

 

「キラースライド!」

 

「サイクロン!」

 

 

 

それからは、蹂躙だった。

攻めに行った染岡やオレたちは、ディフェンス技をくらい…

 

 

 

「ジャッジスルー!」

 

 

 

止めに入ったディフェンス陣も、危険なドリブル技であるジャッジスルーは全員喰らい、ダメージが重なっていき…

 

 

 

「百烈ショット!」

 

「フリーズショット!」

 

 

 

数々のシュート技が円堂に襲い掛かり、それをもろに喰らってしまい…

 

 

 

「デスゾーン、開始。そしてやつを引きずり出せ!」

 

 

 

それはもはや、処刑宣告だった。

佐久間たちが回転しながら宙に浮き、ボールにエネルギーを込めて3人で放つ強力なシュート。

 

 

 

「デスゾーン!」

 

 

 

これも、円堂は止めきれず、今度は顔面に喰らってしまった。

それからも、帝国のラフプレーは続き、ボールを叩き込まれるわ、壁山に至っては直接ボールを蹴られたりされ、オレたちは続々と倒れてしまう。

こうなることは分かっていたが、対処のしようがなかった。

オレたちと帝国の力では、差がありすぎた。

 

 

 

「出てこいよ。出てこい。さもなければ、最後の1人を…アイツを…!」

 

 

 

くそっ…円堂……!

 

 

 

「ふざけるな…!こんなの、こんなのサッカーじゃねぇ……!!」

 

「風丸……!?」

 

「もう…もう…いやだああああ!!」

 

「目金くん!?」

 

 

風丸が円堂に向かって撃たれたシュートに割って入り、なんとか止めるも、完全に倒れてしまう。

それを見た目金は、ユニフォームを捨てて逃げ出した。

 

 

 

「ぐっ……風丸……!」

 

 

 

……対処のしようがなかったと言ったが、正確には違う。

オレは、こうなることを知っていた。にも関わらず、何をしてくるか分からないぐらいのことしか言えなかった。

オレが帝国の試合を知っていたことを隠したかった?

違う。帝国学園の試合を知っていたところで、怪しまれることはない。無敗であることを知ってるのだから、試合内容を知っていても、おかしくない。

なら何故言えなかったのか。それは、それを言うと、他のみんなが帝国と戦うのを嫌がると思ったから。

豪炎寺が来るまでの辛抱、そう思っていた。

 

 

 

「ふざ……けるな………!」

 

 

 

なにが嫌がると思ったから、だ。みんなとサッカーをしたいと言っておきながら、立ち上がってくれたみんなを信じ切れていなかった。

それに、自分でいない人間を頼りにしてもと言っておきながら、心の中では頼りにしていた。

 

 

 

「オレは…オレは……!」

 

 

 

前回と変わらないどころか、それよりもダメじゃないか。

自分で言っておきながら、それに裏切っていた。

 

 

 

「みんなで…サッカーをするって……決めたんだよ……!!」

 

 

 

こんなところで、終わってたまるか……!

 

 

 

「ほぅ、まだ立ち上がる気力があったか」

 

「お前1人で立ち上がって、なにが…」

 

 

 

たしかに、オレ1人が立ち上がっても、試合に影響はないだろう。

だが、それでも……

 

 

 

「負けて…たまるかあああああああ!!!!」

 

 

 

ボールと共にジグザグに移動して、青白いオーラを纏う。

これが、オレの……!

 

 

 

「ジグザグスパァァァァクッ!!!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 

前回、オレが練習の時に形だけ身につけ、FFIではリトルギガントの選手が使ってたドリブル技。ジグザグスパーク。

それを絞り出し、帝国のディフェンスを突破し、そのままボールと共に飛び上がる。

 

 

 

「ロォォォォリング!キックッ!!!!」

 

 

 

ローリングキックを源田にむけて放つ。

 

 

 

「…ふん」

 

 

 

だが、それも止められてしまう。

それはそうだった。未完成のドラゴンクラッシュに劣るのだから、止められるのは当たり前だ。

 

 

 

「くっそ……!!!」

 

 

 

だけど、分かってはいても、悔しいことに変わりはない。

 

 

 

「……威勢はよかった。あのドリブル技もなかなかだった。だが、そんなシュートではオレを破ることは不可能だ」

 

「届かなかった………か………」

 

 

 

二度の必殺技で気力を使い果たし、オレは気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「半田!!」

 

 

 

半田が怒涛の勢いで帝国に攻めに行ったが、そのシュートは届かなかった。

 

 

 

「……無駄なことを」

 

「………いま、なんて言った」

 

「なに?」

 

「なんて言った!!」

 

 

 

半田がやったことを、無駄とは言わせない。

諦めずに立ち向かって、シュートを打った半田を、馬鹿にさせない。

この試合に出てくれた他のみんなもだ。雷門のみんな、みんなのためにも、負けられない。

 

 

 

「……どっちにしろ、もう終わりだ。この有様で、何が出来る」

 

「まだ…終わってねぇぞ!!!!」

 

 

 

終わりになんて、させるか!!

 

 

 

「円堂くん……」

 

「……………そこのキミ、ユニフォームならありますから、行ってきていいですよ」

 

「えっ…?」

 

「…………………」

 

 

 

「おい!なんだあれ!」

 

「あんなやつ、サッカー部にいたか?」

 

 

 

「……来てくれたんだな。豪炎寺…!」

 

「……大丈夫か?」

 

「ああ、オレは大丈夫だけど,みんなが…」

 

「……そうか。とくに、あの半田ってヤツは、気力を使い果たしたようだな」

 

「……アイツは、オレと同じ……もしかしたら、オレよりもサッカー部を無くしたくないって気持ちがデカくて、サッカーへの気持ちも、熱くて、デカいんだ」

 

「………………」

 

「アイツのさっきの頑張ってるとこ見たら、オレも負けてられない」

 

「………オレもだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………終わった、のか?」

 

 

 

オレが目を覚ました時には、試合が終わって、帝国が帰った後だった。

スコアボードを見る限り、1点入ってて、豪炎寺がいるとなると、前回と同じって感じか。

…………ん?豪炎寺が、いる?

 

 

 

「………お前は?」

 

「…オレは豪炎寺修也。これから、よろしく頼む」

 

 

 

…………あれ、豪炎寺が入るのって、このタイミングだったか……?




豪炎寺 が 仲間になった !


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スタートライン

感想が今のところ冬海先生だけなのホント笑う。
この小説の主人公は冬海先生…ではありません。半田です。
いや感想くれるのは嬉しいので、文句ではありませんからねとは言わせてください。

あと、お気に入りが50人行ってました。うれしみ。
まだまだ地区予選も行ってませんが、これからもよろしくお願いします。


帝国との試合が終わってから目を覚ましたオレなんだけど、なんで豪炎寺がまだいるのかが分かっていない。

たしか豪炎寺って、影山の策略で妹の夕香ちゃんが交通事故にあって、それの責任を感じてサッカーをやめてたんじゃなかったけか?

 

 

「えーと……豪炎寺って、円堂が言ってた豪炎寺…だよな?たしかサッカー部には入らないって言ってなかったっけ。いや、入ってくれるってのはすごく嬉しいんだけどさ」

 

 

ここで夕香ちゃんのことをオレが知ってるのはおかしいから、最初はいなかったよな?って意味で豪炎寺に聞いた。

確かに試合の終わりの方にやって来て点を奪ってはいたけど、その後すぐに去っていったはずだ。まだこの場にいて、尚且つサッカー部に入るって宣言するのは、明らかに前回と違うところだ。

たしか前回って、フットボールフロンティア前の練習試合当日に仲間になってたと思うんだよな。

 

 

「……そのことなんだが、伝えたいことがあるんだ。本当はサッカー部全員に来て欲しいところなんだが…流石にこの人数は多すぎる。円堂と…同じフォワードの染岡に、半田。この後少しだけ、いいか?」

 

「あ?なんでオレもだよ。まぁ、いいけどよ」

 

「オレも大丈夫だ。半田は?」

 

「あ、ああ…オレもいいけど」

 

 

行く場所は想像付くけど、円堂だけじゃなくて染岡とオレもか。

円堂はもちろん分かるし、豪炎寺も言ってたから、同じフォワードだから染岡も分かる。

でもなんでオレだ?オレまで呼ばれる理由が思い付かないんだけど。

 

 

 

 

 

その後、稲妻総合病院に行って、眠っている妹の夕香ちゃんと対面した。

オレはこの時の夕香ちゃんを初めて見たけど、影山はこんな子供をこんな風にさせてまで勝ちたいのかよ………。

やるせない気持ちを抱きながら、4人はちょっと多いってことで病室から出て、今は病院の外にいる。

 

 

「………さっきも言ったが、オレは夕香のことで、サッカーをやめていた」

 

「……気持ちは分かる、とは言えないけど。察するよ。でも、なんでまたサッカーをやる気になったんだ?」

 

「………お前だ、半田」

 

「……………は?」

 

 

いや、待て。オレ?オレが何したよ。なんの話だよ。

 

 

「さっきの帝国との試合、実はずっと見ていたんだ。雷門と帝国とでは、明らかに実力差がある。にも関わらず、お前は最後まで諦めず、土壇場で帝国の守備を抜いて、シュートまで持ち込んだ」

 

「………でも、点は取れなかっただろ」

 

「点は取れなくても、オレの心にドカーン!って来たぞ。あのジグザグスパークだっけ?帝国だけじゃなくて、オレの心にもイナズマが走ったんだよ。それのおかげで、負けられないって気持ちがもっと強くなったんだ」

 

「……オレも円堂と同じだ。お前のあの時の叫びは、オレにも届いた」

 

「叫び、って……」

 

「負けてたまるかああああ!だろ。オレは地面に這ってたけど、その声はバッチリ聞こえたぜ。オレだけじゃねぇ、みんな聞こえたはずだ。目金は知らねーけど」

 

「………………なんか、恥ずかしくなるな、それ」

 

「なんで恥ずかしがるんだよ?さっきも言ったけど、お前の熱い想いが、オレの想いをもっと燃え上がらせたんだよ。そうしたら、ゴッドハンドを出せたんだから、あの勝利はお前のおかげでもあるんだぞ!」

 

「………そんなことはないだろ」

 

 

オレがあの時攻めなくても、豪炎寺はやって来たし、円堂はゴッドハンドを出せた。前回もそうだったんだから、そこに大した違いはないはずだ。

 

 

「いいやそんなことはなくない!そこを否定したら、半田のプレーを否定することになる。そんな風に、オレは思わないぞ!」

 

 

でも、こうして言われるのは…

 

 

「………ありがとな。円堂、染岡、豪炎寺」

 

 

スゲー嬉しい。

 

 

「……オレはあの時ほとんど何もできねぇまま終わっちまった。それに豪炎寺、お前も入るんじゃもっと負けられねぇ理由が出来た。オレは次の試合までに、絶対に必殺技を完成させる。これは、オレの宣誓だ」

 

「………フッ、オレ以外にも必殺シュートを使えるストライカーがいるなら、雷門の攻撃はもっと強くなる。当てにさせてもらうぞ。染岡」

 

「へっ、今更負けられない相手が増えたところで、オレは止まらねぇ。その内お前を抜かしても、知らねぇからな!!」

 

「そうなったら、またオレが抜かすだけだな」

 

「言ってくれるじゃねぇか……次の試合は覚悟しとけよ!」

 

 

染岡、豪炎寺とぶつかることは無いみたいだな。

この前染岡が言ってたけど、オレがいたから…ってことなのかな。分からないけどさ。

 

 

「へへっ、次の試合も勝って、フットボールフロンティアに出場するのがオレ達の夢なんだ。そこで優勝して、その次は世界だ!」

 

「世界って…気が早すぎるだろ」

 

「目標は高い方がいいだろ?それに半田も言ってたしな!日本一の次は世界一だって!」

 

「えっ!?あっ、ああ…言ってた……っけ…?」

 

「言ってた言ってた。オレも突っ込んだ」

 

「えーと…まぁ、いいだろ。オレはお前達とサッカーがしたいんだから。出来れば、世界でもって意味だよ。ダメかよ?」

 

「ダメなわけがあるか!絶対オレ達で世界まで行くんだからな!」

 

「な?豪炎寺。コイツの熱意、すごいだろ」

 

「……ああ。オレも熱くなれる。世界か。いい言葉だ」

 

 

 

まずは日本一。その次は宇宙一。そして最後には世界一だ。

宇宙一については、色々と考えないといけないことがあるけど、少しずつでも進めていかないとな。

……あの時のことは、オレの弱さもあったけど、今回はなるべくそうならないように、フォローできればと思う。




先に言っておくと、脅威の侵略者編と世界への挑戦編もやるつもりです。




エイリア学園の時に、みんなのフォローできるかどうかは、別として。


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マネージャーが来た

ジャーマネがふえまーす。


「ねっむ……」

 

 

帝国との試合の翌日、別に昨日が土曜とかましてや金曜ですら無かったから、授業というものは当然ある。捻じ曲げられない事実だ。

ただ疲れがまだ残ってるのも変わらない事実で。さすがに、あの状態から覚えたての必殺技のジグザグスパークとローリングキックまでやったら、一晩じゃ万全とまではいかなかったか。

でも、地区予選が始まればそんなことも言ってられない状況だろうし、身体も鍛えなきゃな。慣れないことをしたのが原因だろうし。

……なんか掲示板に人が集まってるけど、早めに教室行って少しでも寝たい。欠伸をしながら2年の教室へと向かった。

 

 

「……おはよ。って、大谷しかいないじゃん。そんな早かったけ」

 

「あっ、半田くん。おはよう。昨日はすごかったね…ちょっと顔が暗いけど、大丈夫?」

 

「昨日の疲れがまだ残ってて、眠い。ちょっとだけ寝る。大谷も早いけど、どうしたんだ?今日の日直って円堂だよな」

 

「え、えーっと…早く目が覚めちゃって?」

 

「……そっか。じゃあ、悪いけど冬海が来るまで寝る。おやすみ」

 

「えっ、うん。おやすみ…?」

 

 

そのままオレは机に突っ伏して、夢の中へと入っていった。

 

 

「……そんなに大変なんだ。なんかいつもより、フワフワしてるし」

 

 

そして案の定、オレは冬海が来てからも派手に寝過ごす。冬海の出席簿攻撃を喰らってのお目覚めとなった。

さらに案の定、円堂も派手に寝坊して遅刻。冬海の日誌攻撃を喰らってた。

あと昼休みで円堂とかと一緒に昼ご飯を食べてる時に、これまた一緒に食べてた東に「半分裏切り者」とかワケ分からないこと言われたけど、昨日のことを凄かったって言われた。でも半分裏切り者ってなんだ?

 

 

 

「今日からマネージャーをやらせて頂く音無春菜です!」

 

「……だ、そうです。木野さんの負担が減りますし、ちょうどよかったのでは?」

 

 

部室でのんびりしてるとこに冬海がやってきて、その後すぐに青い髪の女の子が入ってきた。

音無春菜、2人目のマネージャーになる女の子で、鬼道の妹。

今はまだ知り得ないことだけど、鬼道に近づく為にサッカー部に入ったんだっけ。でも音無には何度も助けられた。彼女も大切な仲間だ。

 

 

「オレはキャプテンの円堂守!よろしくな!音無!」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

「帝国の時に人数も増えたから、木野1人で12人を支えるってのもキツかっただろうし、ありがとな。入ってくれて。オレは半田真一、よろしくな」

 

「よろしくお願いします!本物の半田さんに会えて、感激です!」

 

「………ん?円堂とかじゃなくて、オレなの?なんで?」

 

「もちろんキャプテンや豪炎寺さん、それに帝国学園に立ち向かったみなさんに会えて嬉しいですよ。ですけど、あの時の叫びとか、必殺技とか、すごくかっこよかったんですよ!」

 

「………ん?」

 

「私元々新聞部にいたもので、その時の写真を載せた記事なんてすごかったんですから!」

 

「えっ、なにそれ知らない」

 

「なんだ半田、知らないのか?学内新聞一面にオレたちのことが載ってたんだぞ。小さめだけど半田の一枚写真もあったぜ」

 

「えっ、そうなの?風丸。てか、みんな知ってたの?なんで教えてくれなかったの?」

 

「むしろなんで知らなかったんだ?」

 

「眠くて掲示板スルーしたし、そのまま教室行ってからも寝てたから話すら聞いてなかった」

 

「………あー、そうなのか」

 

 

だからなんか、東に半分裏切り者とか言われたのか。

でも裏切ったつもりないからな。半分でも裏切り者って言われることなくないか?

 

 

「あー、あとですが。新しいマネージャーは音無さんだけではなくてですね」

 

「音無さん以外にも、マネージャーが増えるんですか?」

 

「ええ。木野さんも知ってる人ですよ。同じクラスなんですから。ほら、貴女も入ってきてください」

 

 

 

……ん?2人目の新しいマネージャー?雷門はこの時期じゃないはずだし、っていうかこの時期に入る理由ないだろうし。じゃあ誰だ?

………いや、木野と同じクラスってことは、オレとも同じクラスってことだよな。じゃあ尚更誰だろ。今朝会った大谷ってことはないだろうし…

 

 

「えーと、2年の大谷つくしです。よろしくお願いします」

 

 

なんで?

 

 

「大谷もマネージャーになってくれるのか!よろしくな!」

 

「うん。よろしくね、円堂くん。あと同じクラスだと、半田くんもだね。よろしく」

 

「………えっ、あっ、ああ。よろしく」

 

 

いや、なんで大谷もマネージャーになるんだ?

マネージャーが増えて、仲間が増えるのは嬉しいことなんだけど。前回ってそんなサッカー部と関わり無かったと思うんだけどな…

……いや、豪炎寺の加入とか、冬海のこととか色々あるし、まるっきり同じってことはないってことは薄々考えてたから、そこまで深く考える必要もないと思うけど。悪いことじゃないんだから。

 

 

「……埃臭いところね。こんなとこにいると、身体悪くするわよ」

 

「…………お前もマネージャーに」

 

「ならないわよ」

 

「だよな」

 

 

びっくりした。ちょうどいいタイミングで雷門が来るもんだから、まさかのマネージャー全員集合〜大谷も添えて〜になるのかと思った。まだならなかった。

あと案の定尾刈斗との練習試合が組まれて、これに勝てばフットボールフロンティア出場、負ければ廃部というハイリスクハイリターンな試合が控えることになった。しかも明日だと。突貫すぎるだろ。

 

 

「いいじゃねぇか!その試合にさえ勝てば、念願のフットボールフロンティアだ!絶対勝つぞ!」

 

「ああ!染岡の言うとおりだ、これから少しでも練習だ!」

 

「……フッ、そうだな」

 

 

みんなのやる気も十分。オレも負けてられないな。

 

 

「よし、じゃあ河川敷行こうぜ!今日もグラウンド使えないからな!」

 

「威張って言うことじゃないでしょ、それ」

 

「威張ってねぇよ!そんなこと言うなら置いてくからな!」

 

「……いつも半田が1人部室に残されてるって聞いたけど」

 

「そうはさせませんよ!1人遅れるのは半田先輩の十八番なんですから!」

 

「どういうことだよ!?」

 

「だっていつものことが起きないと違和感がするでヤンス!」

 

「だからどういうことだよ!?」

 

「任せた壁山!」

 

「オレが抑えるッスから、みんな先に行くッス!」

 

「おい!そこまでするかよ!?」

 

 

壁山に勝てるはずがなく、また部室にオレ1人になった。今回は冬海もいない。あとちゃっかり豪炎寺もノりやがった。なんだこれ。




部室で冬海と話してる時以外も、半田はわりと毎回遅れて練習に行ってました。
とどのつまり、これが雷門中サッカー部のルーティンなのです。そりゃあみんな結束もする。

あとなんとなく大谷さんもマネージャーにしました。にぎやかになりますねぇ。


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尾刈斗戦・前奏

( ゚д゚)
急なUAとお気に入り爆上がり。
(;゚Д゚)
初めて評価に色が着く。
((((;゚Д゚)))))))

何が起こったか分かりませんが、色々とありがとうございます。
これからも中途半端な逆行を温かく見守ってやって下さい。

(° Д°)


昨日は軽い練習で済ませ、尾刈斗中との練習試合の日となった。

いや、明日試合するって昨日言われたんだから、そりゃ最速で試合の日になるんだけどさ。よく尾刈斗も了承したな。目的は分かるけど。

今はそれぞれベンチ前にいる。最後の調整中ってやつだ。

 

 

「しっかし、ホラー映画に出てきそうなヤツばっかだな。学校の名前と一致しすぎだろ」

 

「違いますよ、染岡くん。オカルトというのは、主に超常現象のことを表す言葉です。ですから彼らを表すならホラーの方です。しかも主にB級の」

 

「お、おぉ?なんだB級って。あと目金、お前そういうとこはイキイキするよな」

 

「………不気味だ……」

 

「まぁ、そりゃ影野より不気味だよな。えーと、フランケンとかドラキュラとかと、うっわ、ジェイソンまでいるな」

 

「へぇ。けっこう詳しいんだね、半田くん」

 

「んー、そこまでじゃないぞ。ホラー映画ってあまり観ないからな。というか、年齢的に観れないのもあるし。大体ゲームに出てくる敵とかで覚えるのがほとんどじゃないか?」

 

「まぁね。エクスカリバーとかグングニルとかだって、大体強い武器って認識だもんね」

 

「エクスカリバーはアーサー王物語、グングニルは北欧神話に登場するものです。それぞれとても大事な…」

 

「いや、オレが話を振ったからだと思うから悪いんだけど、そろそろ試合が始まるから駄弁るのもそれぐらいにな?」

 

 

しかし、エクスカリバーか。エクスカリバーって、FFI本戦に出てたイギリスのエドガーのシュート技だったな。たしか、ゴールから離れてるほど威力が上がるとかだったかな。

んー…そこまでじゃないにしろ、オレもローリングキックの威力あげたいんだよな…どうすればいいかな。

 

 

「貴方たち、そろそろではなくもう始まりますので、グラウンドに整列してください」

 

「へーい」

 

「……まったく」

 

「ねぇ、半田くん。なんだか冬海先生への反応が雑だけど、いいの?」

 

「まぁ、冬海だし」

 

「本当、本人がいる前でよく言えますよね。大谷さん、良くはないですからね。これは諦めと言うんです」

 

「…………そ、そうなんですか」

 

「分かるぞ、大谷。それでいいのかってなる気持ち、分かるぞ」

 

「染岡くん……」

 

「でもな、大谷。昨日も観ただろ?サッカー部の十八番。あれだけじゃないんだよ」

 

「……えっ、そういうこと?」

 

「そういうことだ」

 

「本当にそれでいいんですか?冬海先生」

 

「………ははっ。これで2年目ですからね。慣れましたよ」

 

(哀愁漂ってるなぁ……)

 

「あのー、染岡くんと冬海先生。早く行かないと、尾刈斗の選手と監督が待ってますよ」

 

 

なんかベンチで染岡と大谷と冬海が話してて、木野に言われて染岡と冬海が急ぎ足でこっちに来た。

 

 

「なに話してたんだ?」

 

「いつものことだよ。気にすんな」

 

「染岡くんが言うことじゃ…いえ、もういいです」

 

「?」

 

 

変な染岡と冬海だな。あとなんか、ベンチの目金とマネージャー3人がオレの方見て苦笑いしてるけど、本当に何があったんだ。

 

 

「えーと、雷門中サッカー部顧問の冬海卓です。お待たせして、申し訳なく」

 

「いえいえ、構いませんよ。尾刈斗中サッカー部監督の地木流灰人。今日はお手柔らかにお願い致します。しかし、顧問とは。監督ではなく?」

 

「えぇ。私はサッカーにそこまで詳しくなく、下手な指揮をするワケにもいかなくて。文字通りの部員の監督役ですよ。その分、選手たちの判断力は上がっていってるので、悪いことだけではありませんが」

 

「ほほぉ!そうですか。しかしまぁ、豪炎寺くんがいたのなら帝国学園に勝利したのも納得です。豪炎寺くんさえいれば、対抗出来るでしょうからねぇ…」

 

 

そう。この監督は豪炎寺が目当てで、雷門との試合を受けたんだ。

なんか雷門曰く、練習試合の申し出を受けないと呪われるとか言われてたらしい。そこでオカルト出すのかよ。

 

 

「あの監督、嫌な言い方するでやんすね…」

 

「たしかに、豪炎寺さんが点を取ってくれたから勝てたっすけど…」

 

 

壁山の言う通り、豪炎寺のおかげで廃部にならないで済んだのは事実ではある。

でも、言われると分かってても、他のみんなはいても変わらないって言われるのは、腹が立つ。

 

 

「………豪炎寺くんが優れているのはそうですが、それだけではありませんけどねぇ」

 

「……ほぉ?どういう意味です?」

 

「どういう意味と言われても、サッカーは11人でやるものでしょう。あまりサッカーに詳しくない私でも、そこは分かりますからねぇ。まさか、豪炎寺くん1人で試合をすると思ってましたか?」

 

「…………くくっ、それはそれは。では、お手並みを見せてもらいましょうかね」

 

 

その間に両選手間で握手を済ませていたから、それを皮切りに尾刈斗の監督はベンチへ戻って行った。

隠してるつもりだったろうけど、顔が歪んでたぞあの監督。

 

 

「………珍しいな。冬海が煽り返すとは思わなかったけど」

 

「最初は言わせておけばいいとは思いましたが、やはりこういうのは面と向かって言わないとですからねぇ。それに、豪炎寺くんだけのワンマンチームと思われるのは、貴方達だけじゃなく、私も悔しいものですから。そうでしょう?円堂くん」

 

「はい!豪炎寺だけじゃない、オレたち雷門のサッカーを、あの監督に見せてやります!」

 

「やる気が上がったのなら、私も慣れないことをした甲斐がありました。では、後は任せますよ」

 

 

そう言って、冬海もベンチへ戻って行った。

 

 

「……冬海先生、やる時はやる先生なんですね」

 

「…オレたちも、頑張らないと」

 

 

少林や宍戸たち1年もやる気が上がってる。これはまぁ、冬海のおかげだな。オレ達が言っても、あの監督は何とも思わなかったろうから、冬海が言ってくれたおかげで、胸が軽くなったはずだ。

 

 

「よーし!この試合に勝って、フットボールフロンティアに行くぞ!」

 

『おぉ!!!』

 

 

 




本当は試合までやるつもりだったんですけど、なんか冬海がからげんきでイキイキしだしたので、分けますね。


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ゴーストロックを破れ

ヘブンズタイムと並んでイナイレヤバい初見殺論争(多分そんなのない)に出る必殺タクティクスさん。


円堂の号令のあと、俺たちはフィールドに立った。

昨日、手土産と言ったらあれだけど、音無が尾刈斗の試合映像を持ってきてたんだよな。対戦相手の動きが急に止まったあの映像。

タネは分かるんだよ。分かるっていうか覚えてる。

ゴーストロックっていう必殺タクティクス。

そこまでは覚えてるんだけど…

 

 

『さぁ!雷門中サッカー部対尾刈斗中サッカー部の試合が始まります!』

 

 

……考え事はあとでいいか。試合が始まるし。

フォーメーションは染岡と豪炎寺のツートップ、ミッドフィルダーとディフェンダー4枚の基本的なフォーメーションだな。

審判のコイントスの結果こちらからのボールになった。

 

 

「……染岡。いけるな?」

 

「任せろ。この前の宣誓、果たしてやる」

 

「フッ…頼んだぞ」

 

 

豪炎寺自身も、自分にマークが集中するであろうことが分かっていたのか、染岡に声をかけている。

あの様子だと、完成していそうだな。染岡。

あの監督に見せてやれ、雷門の点取屋は豪炎寺だけじゃないってことを。

 

 

「豪炎寺くんを中心にマークなさい!他はどうとでもなります」

 

「……半田、なんであの監督あんな僕たちに喧嘩売るんだろ」

 

「さぁな。でも今は好都合だろ。豪炎寺しか警戒してないなら、そこを突ける」

 

「まぁね。どうやら染岡が目にモノ見せてくれるらしいし」

 

「マックスもその器用っぷり、見せてくれよ」

 

「……やってみようかな」

 

 

そんなことを話してるうちに、宍戸がフリーの染岡にパスを回す。

 

 

「くらいやがれ、これがオレの…ドラゴンクラッシュだああああ!!!」

 

 

染岡が放った青い光のシュートは、竜と共に突き進む。

豪炎寺しか眼中になかったであろう尾刈斗中は、染岡が必殺シュートを放つとは思ってもなかっただろう。完全に対応が遅れている。

相手のキーパーは必殺技を放つこともできずに、ボールがゴールに突き刺さった。

 

 

「よっしゃああああああああ!!!!!」

 

「すごいじゃないか染岡!本当に完成させたんだな!」

 

「当たり前だろ!宣誓ぐらい果たさなきゃ、男とは言えねぇ」

 

「しかもドラゴンクラッシュって、いつそんな名前思い付いたんですか!ズルいっすよ!」

 

「なんだズルいって。あと名前だけどな、特訓してたとこを目金にバレて命名されたんだ。まぁ結構気に入ってるから、別にいいんだが」

 

 

その流れでベンチにいる目金を見たら、メガネ光らせて摘みながら上げるアレやってた。そんで隣のマネージャー3人は真ん中の大谷が両隣の木野と音無に抱きつかれながら3人とも喜んで、さらにその隣の冬海は呆然としてる尾刈斗の監督を見てニヤついてる。

なんだろ、さっき言ってたアレわりとマジだったのかな。あの様子見てスッキリするのは分かるけど。

 

 

「これでオレにもマークが付くようになるな」

 

「染岡だけじゃないんじゃない?豪炎寺だけだと思ってたんだから、慢心捨てて普通にやってくるでしょ」

 

「マックスの言う通りだと思うぜ。まぁ、今の1点はあっちの油断と、染岡の頑張りがデカいけどな。もう1点ほしいとこだけど、そう簡単にはいかなそうだな」

 

「いいじゃないか!ここからが本当の尾刈斗のサッカーってことだろ?真正面からぶつかってやるさ!」

 

「………まっ、それしかないよな。負けられないんだから、進むしかない」

 

 

その後、慢心を捨てた尾刈斗は普通に攻めてきた。

うん。本当に普通に攻めてきた。普通にドリブル技やシュート技を使ってきた。

 

 

「通さないでやんす!」

 

「フフフ…のろい……!」

 

 

栗松が護りに入るも、尾刈斗の選手の後ろから来た黒い何かが栗松に纏わり付き、動きを封じる。

 

 

「う、うわぁ!なんでやんすかこれ!?」

 

「のろわれたよ…キミ……」

 

「ひえええええ!?」

 

「幽谷……!」

 

 

おい、オレの後輩をあんまイジメるなよ。

そんなことを思ってたらワントップの選手…幽谷にパスが回った。

 

 

「くらえ!ファントムシュート!」

 

 

ヒールリフトで打ち上げたボールをボレーシュート。ボールは黒いなにかに変わり、ゴールへと突き進む。

いや、まぁさ。オカルトって言われて思い付くと怨霊とかそこらだと思うからいいんだけど、芸が無くないか?オレがそれ言っても意味ないだろうけど。

 

 

「ゴッドハンド!」

 

 

だがそこは円堂。オカルトなんてなんのその…って程じゃなかったはずだけど、あんま気にせずに右手から巨大な手を発現させる。

ゴッドハンド。円堂の爺ちゃんの技で、円堂の原点でもある技。

神の手と名付けられた護りは、幽谷のシュートをしっかりと抑えた。

 

 

「あれがゴッドハンドか。頼もしいな」

 

「あれ、半田は初めて見るんだっけ」

 

「まあ、帝国の時はぶっ倒れてたし、昨日の練習の時はジグザグスパーク中心にやってて、円堂の練習は見てなかったからさ」

 

「ふーん。じゃあその辺り期待してていいんだね」

 

「……………ほどほどに?」

 

「自信持ちなよ」

 

 

そんなこと言い合ってるうちに、前半が終了した。

その間に相手のキーパーがゆがむ空間を使ってきて、染岡のドラゴンクラッシュが止められた。その対策も考えないと。

……あれ、ゴーストロックってまだ使ってこないんだっけ?そこも覚えてないな。

 

 

「音無の映像で見た突然動きが止まるやつ、無かったな」

 

「今更だがよ、あれホントなのか?」

 

「音無を疑うことないだろ」

 

「疑うまではいってねぇけど、ならなんでそうならないんだって話だよ」

 

「うーん…なにか条件でもあるんですかね?」

 

「条件なら、自分たちが不利な時にそうなるように仕向けるものなんじゃないのか?自発的なことなのかまでは分からないけど」

 

 

水分補給をしながら話し合う。たしかに、なんでゴーストロック使って来ないんだろうな。

風丸が言ったとおり、不利になってる時に使わないってのならいつ使うんだって話なのに。

 

 

「まぁ、警戒はしておいた方がいいんだろうけどさ」

 

「あとあの不思議なキーパー技もだな。クソっ、オレのドラゴンクラッシュが引き寄せられがった」

 

「……染岡。聞きたいことが」

 

 

豪炎寺が染岡に話を聞こうとしたときに、審判から後半の合図が入った。

 

 

「豪炎寺、聞きたいことがあるなら歩きながらとか、ポジションに着いてからでもいいんじゃないか?聞きたいことがあるのって、染岡だけなんだろ?」

 

「………そうだな」

 

 

多分だけど、ゆがむ空間の攻略が分かったんだろうな。

さて、オレも並ばないと。ここまで使ってこないとなると、ゴーストロック使えなかったりするのか?

 

 

 

なんて思ってた時がオレにもあった。

 

 

「ゴーストロック!!」

 

「マーレ・マーレ・マレトマレ!!」

 

 

やっぱ使ってきやがった!おかげで動けねぇ!!

 

 

「くそっ…あの映像、こういうことかよ…!」

 

「本当に身体が動かないぞ……!」

 

 

……うん。名前と効果は覚えてたんだよ。どんなことをしてくるかってのは。

でもさ、肝心のことが分かってないんだよ。

 

 

「どうすれば…いいんすか…!?」

 

 

その通りだよな、壁山。どうすれば動けるようになるのかって。

そのことオレ、完全に忘れちまったんだよな。

しかもその間に2点入れられた。この時点で後半残り10分。

…………ヤバい。詰んだかもしれない。




バタフライエフェクト的な何かが起こって、ゴーストロックを後半からしか使って来ないので対処に遅れてしまう事態が発生。

あと半田さん、ゴーストロックの対策を完全に忘れてました。
そりゃ体感10年以上前の1度(じゃないかもしれないけど)闘っただけの初見殺しって印象しかない技の対策を覚えてろなんて、わりと無理な話だと思うんですわ。



予約投稿失敗してんじゃんなにやっとんねん。


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雷鳴の叫び

サブタイトルの方が考え付くのに時間かかりました。


後半からゴーストロックを発動され、対策が出来ないまま2点奪われてしまった。

現在のスコアは1:2。ここからあと2点奪い返さなくてはならない。

それと、後半は残り10分。公式大会でもないから、延長戦はない。

だから何としてでも2点取らないと、フットボールフロンティアには出れず、サッカー部も廃部となってしまう。

 

 

「くそっ!あのゴーストロックってやつ、どうすれば動けんだよ!」

 

「これが尾刈斗の呪いってやつか…困ったな」

 

「前半から使ってきてくれれば、ある程度考える時間があったってのに…まさか、それが狙いか?」

 

 

対策を考えないといけないけど、それを考える時間もない。

どうすればいいのか分からなくても、オレ達に立ち止まることなんて出来ない。

 

 

「……どうにか、しないとな」

 

 

 

 

「冬海先生…どうすればいいんでしょうか?」

 

「……分かりませんよ。フィールドに立ってるのは彼らなんですから。彼らの身に何かが起こってるのは分かっても、解決策も分からなくては、何を言えばいいのか」

 

「そんな…じゃあ、みんなはこのままってことですか?何も出来ずに、フットボールフロンティアにも出れずに?」

 

「………このままだと、そうでしょうね」

 

 

相手の呪文みたいので、半田くんたちの動きが止まってしまう。

それの立ち向かうことは出来ても、乗り越えることが出来ない。

冬海先生の言う通り、このままだと負けちゃうかもしれない。

 

 

「…………そんなの、ダメですよ」

 

「大谷さん?」

 

「あんなに、そのフットボールフロンティアに出たがって頑張ってたのに。しかも負けたら、サッカー部も無くなっちゃうなんて。未来も居場所も無くなるなんて、そんなのダメです」

 

「大谷さん……」

 

「私も、1年の頃からずっと見てたんです。グラウンドが使えなくても、どこかへ練習へ行くところも。テニスコートや野球場の端っこで練習してたのも。雪が積もってても部室前で練習してたのも。毎日、泥んこまみれになってたのも、ずっと」

 

 

そう、木野さん程じゃないけど、ずっと見てたんだから。

早めに学校に着いた時は、1人でドリブルしてたり、円堂くんたちと少しでも練習してたり。

教室でも、ノートに何かを書いてたり。最初は落書きしてるんだと思ってたけど、よく見たらシュートを打ってる絵だったから、あれも練習の1つなんだって、後になってから分かってさ。

お昼休みの時、東くんたちとご飯を食べてる時も、ほとんどサッカーの話ばかりしてて。

円堂くん程じゃないけど、半田くんも結構なサッカー馬鹿だってクラスでは評判なんだよ。

 

 

「……そうなんですか」

 

「……うん。そうだよ。フットボールフロンティアへ出るのが夢で、ずっと練習してて、ようやくその夢が叶うところまで来たのに、こんなところで終わっていいはずがない」

 

「それに、その夢が叶わないだけじゃなくて、その夢を叶える権利すらなくなっちゃいますからね。ひどい話ですよ!夏未さん!」

 

「……いや、まぁ。元を辿ればそうなんですけど、今夏未お嬢様のことを言うのはちがくありませんか?」

 

「……冬海先生。たしかに的確なアドバイスとかは送れないけど、私たちにだって、出来ることはありますよね?」

 

「………まぁ、そうですね。私が言うより、貴女たちが言う方が、彼らに届くと思います」

 

「さぁ貴方達!これでトドメをさしなさい!!」

 

「喰らえ!ゴーストロック!!」

 

『マーレ・マーレ・マレトマレ!!』

 

「……では、頼みましたよ」

 

 

 

 

『マーレ・マーレ・マレトマレ!!』

 

「くっそ…!動かねぇ…!」

 

「縛り付けられてるような……この感じ……!」

 

 

尾刈斗のゴーストロックが再び発動。オレ達の動きは封じられてしまった。

一番後ろにいるオレからは、みんなが動かなくなってしまったことが嫌でも分かってしまう。これで3度目だ。

どうすれば、どうすればいいんだ…動いてくれ……オレの身体……!

 

 

「これで最後だ!ファントムシュート!」

 

 

後半3発目のシュートが放たれ、こちらに向かってくる。

これが決まってしまえば、逆転は不可能になってしまう。

そんなの……そんなの……!

 

 

『頑張って!!みんなあああああ!!!』

 

 

秋たちマネージャーの声が聞こえる。

そうだ。オレたちは、こんなところで…

 

 

『終わってたまるかあああああああ!!!!!』

 

 

オレ。そして、半田から渾身の叫びが挙がる。

すると、さっきまで動かなかった身体が嘘かのように動くようになった。これなら…!

 

 

「ゴッドハンドは時間が足りない。なら…熱血パンチ!!!」

 

 

右手で向かってくるボールに対して思いっきりパンチする。

ただのパンチじゃない。少しでもパワーを込めた、新しい必殺技だ!

 

 

「ずああああああああああ!!!!」

 

 

オレの渾身の熱血パンチは、ファントムシュートを弾き返して、走る半田の元へと届く。

 

 

「いっけえええええ!!半田あああああ!!!」

 

 

 

 

円堂から託されたこのボール、絶対に決める…!

でも、あのゆがむ空間の対策も出来ていないし、ローリングキックじゃ、そもそもの力が足りないかもしれない。

 

 

「なにをしているのです!そのミッドフィルダーを止めなさい!!」

 

 

ゴーストロックが破られたことによる動揺からか、尾刈斗の動きが止まっていた。

万全の状態だったら、必殺技で止められていただろう。でも今なら、この隙を突ける!!

 

 

「止まってたまるか!ジグザグスパーク!!」

 

 

ジグザグスパークで、ディフェンス陣を突破する。

ゴール前、完全にフリーとなった。

ボールを先に打ち上げて、オレも続いて飛び上がる。

 

 

「ゴーストロックが破られても、これは破ることなんて出来ないさ!ゆがむ空間!!」

 

 

キーパーがまた、ゆがむ空間を発動してくる。

あの手の動き、まるであそこに吸い込まれる……

 

 

「半田!!あの手を見るな!!」

 

 

……ッ!そうか!

 

 

「ゴールだけを見れば!ローリングキック!!」

 

 

キーパーを見ずに、その奥のゴールだけを見据えてシュートする。

そうすれば、キーパーの手元に吸い込まれることなく、そのままゴールに…!

 

 

「アンビリー……バボー…!?」

 

「き、決まったあああああ!!半田渾身のシュートが、尾刈斗キーパーを越えてゴールへと突き刺さったああああ!!!!」

 

「ありがとな豪炎寺!お前のおかげで、キーパーの方を見ないで済んだぜ!」

 

「フッ…本当はあの時、お前にも言えたらよかったんだが、時間がなかったからな。間に合ってよかった」

 

「ゴーストロックのタネも分かったし、ゆがむ空間の攻略も分かった。あとは任せるぞ。染岡、豪炎寺!」

 

「ああ。後半が始まる前に豪炎寺から聞いて、1つ試したいことがある。合わせろよ、豪炎寺!」

 

「任せろ。染岡」

 

 

 

「こ、こんなことが起こるはずがない!あんなのはまぐれです!マーレ・マーレ・マレトマレ!」

 

「ゴーストロックは催眠術だ!止まれって言葉で金縛りが起きるんだ!ゴロゴロドッカーン!!!」

 

「う、動けるでやんす!!」

 

「そうか…さっきの円堂や半田は、そういうことだったのか!」

 

 

 

「冬海先生!これなら!!」

 

「ええ。あとはもう、あの2人が決めてくれるでしょう」

 

「豪炎寺くんと染岡くんですか。ということは、あの2人の必殺技なら…ドラゴ」

 

 

「行くぞ豪炎寺!ドラゴン…!!」

 

「フッ…!トルネード!!」

 

 

「あー!!僕が命名したかったのにいいいい!!!」

 

 

「ゆ、ゆがむくう…WHYYYYYY!?」

 

「決まったああああ!!豪炎寺と染岡のコンビシュートが、ゆがむ空間を発動させる間もなくゴール!!」

 

『ピイイイイイイイ!!!!』

 

「ここで試合終了!3対2で、雷門中の勝利です!!」

 

 

 

「へぇ……あそこから勝つなんて、やるじゃんか」

 

 

 

 

「約束だ、これでフットボールフロンティアに出場出来るんだよな!」

 

「ええ。約束は約束です。追って連絡しますので、それをお待ちなさいな」

 

「なぁ、それサッカー協会に連絡するんだよな?なんか別のとこに連絡しないよな?野球協会とかに連絡したりしないよな?」

 

「半田くん、疑いすぎだって」

 

「だってな大谷、雷門って基本しっかりしてるけどちょっと抜けてるとこがあるって話だから、念には念を入れとかないとさ」

 

「………ま、間違ったりしないわよ。そもそも、間違えようがないと言った方が正しいけど」

 

「まぁ、ならいいんだけど。じゃあ頼んだぜ、雷門」

 

「ええ。ではサッカー部のみなさん、今度私が来る時は、その時ですからね。色々と準備を済ませておくように」

 

 

試合が終わってすぐ、雷門がやって来てサッカー協会に連絡してくれることになった。

まぁ、雷門の親父さん…理事長がサッカー協会の理事も務めてるみたいだから、確かに間違えようは無いだろうけどさ。

 

 

「……でも、よかったね半田くん。フットボールフロンティアに出るの、夢だったんでしょ?」

 

「……いや、ちげぇよ大谷」

 

「えっ?」

 

「出るのが夢なんじゃなくて、優勝するのがオレたちの夢、だろ?半田」

 

「……ああ。染岡の言う通りだ。ここから、オレ達雷門中サッカー部の快進撃が始まるんだ」

 

「………そっか。頑張って!半田くん!みんな!」

 

 

いよいよだ。いよいよフットボールフロンティアに出場するんだ。

どんな相手が来ようと、負けたりしない。まず目指すのは、日本一だ!




半田たちが端っこの方で練習してたのをずっと見てた大谷さん。


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ファンタジスタ、来たる

まさかお気に入りが200を突破するとは思ってませんでしたわ。
投稿ペースは遅めですが、これからも中途半端な逆行を程々によろしくお願いします。


尾刈斗との試合の翌日、部室でのんびりしてるとこに雷門と冬海がやって来た。

 

 

「フットボールフロンティアの地区予選トーナメント表が届いたから、渡しに来ました。確認なさい」

 

「えっ、そんな1日で決まるもんなの?流石に早くね?」

 

「トーナメントはくじ引きで決まるみたいだから。出場校が決まればあとは番号を割り当てて散りばめるだけよ」

 

「ああ、オレ達が最後の方だったってことか」

 

「そんなところね。というわけで、確認したわね?初戦の相手は野生中となります。絶対に出場するなら、絶対に勝ちなさい。無様な負けは許しません」

 

「あったりまえだ。決勝で負けるならともかく、初戦で負けてたまるか」

 

「というか、優勝目指すんだからどこでだって負けるかよ」

 

「やる気だけなら十分みたいね。ちなみに私もマネージャーになるから、練習も気合い入れなさいよ」

 

「あぁ!今日も早速練習…いまマネージャーになるつった?」

 

 

そうなんだよなぁ。このお嬢様、マネージャーになるんだよな。

まあ、最初は不器用だったけど、色々とサポートしてくれたから、不安は抱いてないけどさ。

というか、今のところマネージャー含めて16人の部にマネージャー4人って多くね?4分の1がマネージャーなんだけど。

 

 

「それと、新入部員が来ましてね。どうぞ、入って来てください」

 

 

冬海が外にいるであろう新入部員に声をかける。

するとスタイルのいい男が入って来た。

 

 

「ども!土門飛鳥。DF希望ね!」

 

 

土門、か。アメリカ帰りのファンタジスタだっけ。

……そこは今は置いといて、帝国のスパイとして送られて来たんだよな。今回もそうなのかは分からないんだけど。

 

 

「大会が始まる前なのでね。少しでも練習して、チームに馴染んでもらった方がいいと思いますよ」

 

「おっ、じゃあ早速だけどそうさせてもらうかな。ユニフォームとかって、ある?」

 

「ユニフォームとかスパイクはマネージャーが管理してるから、もうそろそろ木野達が来るだろうし、それ待ちだな」

 

「すみません、遅くなりまし…土門くん!?」

 

「ア、アキ!?なんでここに!?」

 

 

同じアメリカにいた2人が再会したな。あとは、ここに一ノ瀬もいるんだけど、今はそれを知る術はない。オレたちも、木野たちも。

しかし、本当に冬海って帝国と繋がってないのかな。前回は土門が来た時、なんかこんなとこに来るなんて物好きみたいなこと言ってた気がするんだけど。どうだったけ。覚えてるのと覚えてないのと自信ないからな…

 

 

「……あぁ、それとなんですが。流石に大会に出るんじゃ、監督が欲しいでしょう。誰か心当たりとかありませんか?」

 

「えっ、ここ監督いないの?」

 

「いない。冬海先生はあくまで顧問だから」

 

「へー…まあ確かに、監督がいないチームもフットボールフロンティアには出てたらしいけど、やっぱりいた方がいいぜ?フィールドから見えるのと、外から見えるのとじゃ違うからさ。ビデオとかで見ると、感じたりしない?」

 

「そりゃあ、何度も見てたから感じるけどさ」

 

「………で、心当たりはないんですか?」

 

「いや、なんで冬海はオレだけ見て聞くんだよ。他のみんなにも聞けって。オレは心当たりないんだから」

 

「……………そうですか」

 

「……なんだよ、その間は」

 

「なんでもありませんよ。私の方でも少しは探しておきますが、貴方達も頭に入れておいてくださいよ」

 

 

……いや、心当たりないなんてウソなんだけどさ。なんでオレにピンポイントで聞いてくるんだよ。

………まあ、その心当たりも、一応あるんだけどさ。

 

 

「……あぁ、初戦の相手野生中なの?厄介なのと当たるな」

 

「あん?お前、知ってるのか?」

 

「ああ、前の学校にいた時に戦ったんだよ。名前の通り、野生溢れるワイルドな戦い方だったぜ。とくに空中戦がすごかったな」

 

「空中なら、オレ達も負けてないさ。半田のローリングキックに、豪炎寺のファイアトルネードもあるからな!」

 

「いや円堂、オレのローリングキックを先に出さないでくれよ。ファイアトルネードの方が強いんだから」

 

「んー……いや、それでも通用しないと思うぜ?空中戦だけなら、帝国に勝ってたぐらいだからな」

 

「そうなんだ。じゃあ、どうする?そこを突破するか、それ以外で攻めるかだけど。今のところじゃどっちとも言えないけどさ」

 

「マックスの言う通り、今はまだ方針を決めるとまではいかないな。とりあえず、土門も河川敷行こうぜ。そろそろグラウンド使えるようになるけど、今日はラグビー部の先約があるからな」

 

「おっ、分かった分かった。アキからユニフォーム達もらったし、あっちで着替えるかな」

 

 

………あっ、これ嫌な予感する。

 

 

「…………じゃあ、オレ先に行くぞ」

 

『させるか!!!』

 

「なんでだよ!!」

 

 

だろうなとは思ったよ!なんで毎回こうなるんだよ!

ていうか壁山毎回早くないか!?たしかに身体に似合わずそこそこのスピードはあるけど!流石に早すぎるだろ!?

早いと言えば土門もだな!今日初めて来たよな!?なんでそんなすぐに合わせられるんだよ!

 

 

「………いや、別に嫌な気持ちは抱いてないからいいんだけど。なんだよ毎回あの団結力」

 

 

部室に1人になったオレは、荷物を纏めて部室から出る。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

するとびっくり、大谷がいた。たしかにさっきマネージャーで大谷だけ部室にいなかったけど、扉を開けたらちょうど目の前にいたな。

 

 

「……わ、悪い。びっくりさせたな」

 

「………だ、大丈夫だよ。みんなが外に行くの見えたから、半田くんだけ残ってるのかなって思ってたのもあったから」

 

「えっ、なら先に行けばよかったのに。アイツら荷物だけはちゃんと持ってくから、その心配はないぞ?」

 

「………え、えーっと……」

 

「…まっ、いいや。大谷も行こうぜ。ったく、十八番ならちゃんと伝えとかないとだろ。オレは知らないんだからなこの十八番」

 

「う、うん……」

 

 

 

 

 

 

「………ちゃんと誘おうと思ったのに、いきなり出て来たからびっくりしちゃった」




この十八番どころか、半田自身はサッカー部の十八番のほとんどを知らないんだなこれが。


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伝説の産声

なんでわざわざ相手の土俵で戦うん?と今となっては思うけど、そこを乗り越えてこそなんだなとも思うっすね。


河川敷での練習が終わり、円堂や染岡と一緒に帰り道を歩いている。

帰り道を歩いてたはずなんだよ。でもオレ達はいま商店街に向かってるんだよ。

 

 

「なぁ、久しぶりに雷々軒に行こうぜ。腹減ってよ」

 

 

そんなことを染岡が言い出すもんだから、行くしかないんだよな。

1年の頃から通ってて、週一ぐらいで練習終わりにって感じでさ。今度豪炎寺達も誘って行くか。風丸とかは知ってると思うけどさ。

少しばかり歩いていると、目的地の雷々軒へと着いた。馴染みのカウンター席に座って、各々注文する。

 

 

「ラーメンください!」

 

「オレは…ラーメンと餃子セットかな。餃子分けてやるよ」

 

「じゃあオレはラーメン半チャーハンセット。小皿も2つください」

 

 

この1人が普通のラーメンで、それ以外の2人が餃子と半チャーハンセットを頼んで、餃子と半チャーハンを分けるって流れも変わらない。

この流れは大体ローテーションでやってるな。単品、餃子、半チャーハンって。

この前円堂が半チャーハンセットだったから、今回は単品注文。

前回単品注文だった染岡が餃子セット。

そんでオレは前回餃子セットで、繰り上がって半チャーハンセットだ。次来る時はオレが少し得する番だな。

 

 

「しかし、ファイアトルネードよりも高さがいる必殺技か…いいアイデアでもないもんかね」

 

「1人でやるならあれぐらいだと思うけどな。いや…たしかこの前KFCの練習観てた時、まこのすいせいシュート以外に、なんか必殺シュート撃ってた気がするんだよな…メテオアタックだっけ」

 

「あっ、あのすげぇ高く跳んでボールを両足で踏ん付けてたシュートか。たしかにアレが使えたらいいとは思うけど、威力が足りない気がするんだよな」

 

「小学生とかじゃなくて、純粋に技の威力の話か。オレのローリングキックが言えた話じゃないけどさ。となるとやっぱ、合体技か」

 

「ドラゴントルネードじゃ、ファイアトルネードよりも高さが必要って課題がクリアできねぇしな。誰がやるって話もあるけどよ」

 

「豪炎寺は確定として、もう1人か…」

 

 

河川敷でもやってた会議の続きを、ここでもやる。

練習が終わって、それの感想とかを言い合うのも変わらない。

言い合ってる時に、少しカウンターの奥を覗いてみると、雷々軒の大将の響木さんがちょくちょく反応してるのが見える。

まぁ、初めてここに来た時、オレが円堂の名前を呼んだ時に、響木さんが反応したんだよな。「そうかそうか!大介さんの孫か!」って。

まぁ、円堂の爺さんの大介さんって、稲妻町じゃ有名だったみたいで、とくに商店街に昔からある店だと、ほぼ全員が名前を知ってる。

というのも、そのほとんどが雷門のOBってのもあるんだろうけどさ。

響木さんの反応も、名前を知ってるどころか、大介さんのことをよく知ってるからだろうし。

 

 

「………理事長室に、秘伝書がある」

 

「そうかー…理事長室に秘伝書が……ってええええ!!?」

 

 

前回、オレはいなかったから知らなかったけど、本当に響木さんが教えてくれたんだな。

というか、通い始めて1年以上経つけど、響木さんからこうして話し掛けるのは最初の円堂の件以来2度目だな。元から親しい人以外にはあまり話しかけない人ってのもあるんだろうけど。

 

 

「ノートじゃなくて、秘伝書?凄技特訓ノートなら、オレの家にあるけど…」

 

「ノートは秘伝書の一部に過ぎん。ラーメン、待たせたな」

 

「あっ、はい…いただきます……」

 

 

それ以降、響木さんは言葉を発することはなかった。

いや、流石にお会計の時は発してたけど、秘伝書のことについては何も言うことはなかった。

食べ終わって、店を出た時に響木さんの背中を見ると、少しだけ雰囲気が変わったような気がしたな。

 

 

 

 

 

「と、言うわけで雷門。理事長室に秘伝書があるみたいだから探してくれないか?」

 

「……なにがと言うわけなのか分からないのだけど」

 

 

翌日、部室に行ったら既に雷門がいたから、秘伝書を探してもらえるよう頼んだ。

 

 

「そもそも、今日は半田くんだけなのかしら?いつもなら円堂くんや染岡くんも一緒に来てたはずでしょう?」

 

「染岡はともかく、円堂は理事長室に潜入しようとか言いかねないしさ。そんなことしなくても、お前がマネージャーになってるなら、直接頼んだ方が早いだろ?」

 

「………スジが通り過ぎてて笑えてくるわね。たしかに円堂くんならそうしそうってのも納得だし」

 

「あとはまぁ、お前って真面目だから、早めに来て準備してるってのは分かってたしな」

 

「……分かったわ。本当に秘伝書があるなら早い方がいいだろうし、探してきましょう」

 

「おぅ、頼んだぜ」

 

 

これでイナズマ落としの秘伝書はよしっと。

 

 

「あれ?夏未さんが出てって、半田先輩だけですか?キャプテンたちと一緒じゃないんですね」

 

「たしかに半田くん、教室から出るの早いなぁって思ってたけど、夏未さんと何か話してたの?」

 

「えっ……何話してたの?半田くん」

 

 

雷門と入れ替わりで、残りのマネージャー3人がやって来た。

っていうか、大谷近くね?あと目が若干怖いんだけど。

 

 

「いや、理事長室に必殺技の秘伝書があるらしくてさ、雷門に頼んだんだよ。円堂が先導すると、理事長室に潜入しようとするだろ?そんなことしなくても、直接雷門に頼めばいいと思って、先回りしたんだよ」

 

『あー、たしかに……』

 

「……オレが言うのもなんだけど、もう少し円堂を信用してもよくないか?」

 

 

 

 

「半田くん、それらしきノートがあったから持ってきたわよ」

 

「おっ、ありがとな雷門。おーいみんな、これが秘伝書みたいだから、みんなで見てみようぜ」

 

 

グラウンドで練習してる中、頼んでから数十分ぐらい経って、雷門がノートを片手にやって来た。

雷門はまずオレに手渡して、近くにいた風丸とマックス達と一緒に読んだ。

 

 

「これが雷々軒の親父さんが言ってた秘伝書なのか」

 

「あぁ。なにが書いてあるかは分かんないけど、オレ達が話してた流れを考えると、野生中に通じるものだと思うんだ」

 

「でもそれ、本当に秘伝書なの?」

 

「なんでそう思うのさ?」

 

「だって、読めないもの」

 

「……どういうこと?」

 

 

3人で囲んでノートを読んでみる。

 

 

「………………」

 

「………ねぇ、半田」

 

「………なんだ、マックス」

 

「殴っていい?」

 

「オレ悪くねぇだろ!?」

 

 

少し遅れてから染岡たちがやって来たから、問題のノートを手渡す。

 

 

「なに…これ……」

 

「暗号かなにかですかね…?」

 

「それとも、外国の文字でやんすか…?」

 

「いや、おっそろしく、汚い字なんだ」

 

 

風丸が深刻な顔で言い放つ。たしかに、オレ達には読めない字だけどさ…

 

 

「汚いんすか…」

 

「多分……」

 

「誰も読めないんじゃ…」

 

「それ使えないでしょ……」

 

『半田ァ!!』

 

「だからなんでオレなんだよ!?」

 

「は、流石に冗談で…」

 

『円堂ォ!!』

 

「すげー!ゴッドハンドの極意だって!」

 

『読めるのかよ!?』

 

 

まぁ、大介さんの文字だからな。小さい頃からノートを見てたんなら、読めるよな。

オレと染岡も、そのノート自体は1年の頃から少しだけ見せてもらったことがあるから、誰が書いた字かは分かるんだよな。

 

「あー、そういうことか。だからどっかで見たことある字だったんだな。読めねぇけど」

 

「たしかに、円堂の持ってるノートなら何度か見せてもらったことあるしな。読めはしないけど」

 

「じゃあ、高さのある必殺技もそれに載ってるのか?」

 

「あぁ!えっと…これだ!イナズマ落とし!」

 

「カッコいい名前じゃん。どんななの?」

 

「読むぞ!えっと…1人がビョーンッと跳ぶ!もう1人がその上でバーンッとなって!クルッとなってズバーンッ!これぞ、イナズマ落としの極意!………えっ?」

 

 

もう、みんなズッコケてる。いや、訂正する。豪炎寺と雷門以外みんなズッコケてる。

大介さんのノートもだったけど、擬音ばっかなんだよな。こういうのって感覚派って言うんだよな、多分。

 

 

「ま、まぁ…要するに、2人でやる合体シュートってことだよな」

 

「多分だが、1人を踏み台にして、その跳んだ1人が空中でオーバーヘッドシュートをするんじゃないか?バーンッとなってクルッとなってズバーンッ!も、踏み台にしてオーバーヘッドシュートと考えれば、頷ける」

 

「……豪炎寺も案外、そういうのノるタイプなんだな」

 

「………言わせるな」

 

「たしかにそう考えると、高さは十分そうだな!じゃあ、早速…」

 

「おぉ、サッカー部頑張ってるな。何を囲んで……ん?そいつは…」

 

 

豪炎寺の推理が的を射てそうだから、それを元に練習をしようと流れになっていた時、用務員の古株さんがやって来た。

 

 

「古株さん?どうしたんですか」

 

「そいつは…円堂大介のノートか!」

 

「えっ、古株さんも爺ちゃんのこと知ってるの?」

 

「爺ちゃん…?あぁ、そうか!円堂はあの大介の孫だったか!たしかに言われてみれば似てるなぁ、あの頃の大介に。しかし、あの大介の孫がサッカー部のキャプテンか。これは、イナズマイレブンの伝説がまた始まるかもしれないな」

 

「イナズマイレブン…?」

 

「なんだ、知らんのか?お前さんの爺ちゃんの円堂大介が率いた雷門イレブンは、その活躍っぷりからイナズマイレブンと呼ばれてたんだよ。この前の尾刈斗の試合に、その前の帝国から1点もぎ取ったのも、伝説の再来と言えるかもしれないだろ?まぁ、わしが勝手に思ってるだけだけどな」

 

「イナズマイレブン……か」

 

 

……そうだった。オレたち雷門イレブンは、フットボールフロンティアで優勝して、イナズマイレブンになれた…と周りからは思われた。実際オレも、その一員になれたと思った。

でも、前回オレは、大した活躍も出来ずに、おんぶに抱っこのような感じだったのは、否定できない。

 

 

「……なろうぜ、円堂。その伝説のイナズマイレブンってのに」

 

「ああ…そうだな、半田。いや、みんな!」

 

 

改めて、オレは誓う。今度のオレは、中途半端と周りに言われようと、オレのベストを尽くす。

イナズマイレブンになって、地上最強イレブンにもなって、世界一を掴み取る。

願わくば、ここにいるみんなと一緒にだ。世界一は、全員とは言えないだろうけど、地上最強イレブンは、脱落者を出したくない。

そのことも、ある程度考えないといけないな。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

半田くんって、たしかにみんなで優勝するって願いは強いんだと思うし、実際にそうだってのは、私も思ってる。

でも、たまに見せるその顔は、希望と同じく、心配の表情を浮かべてる時もある。

 

 

「……今度、聞いてみようかな」




顔に出てないワケはないよねって話で。


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はじめての公式戦

1ヶ月空いちゃいましたね。お待たせしました。
イナズマ落としの練習のお話もやろうかとも思ったっすけど、飛ばしました。
1万UA越えてましたわよ。みなさんホントありがとうございます。
一応試合BGMからサブタイ名を取ってるんですけど、もうちょいサブタイセンスどうにかならん?


大介さんの秘伝書を元に練習を始めて数日後、いよいよフットボールフロンティア地区予選が始まる。

 

 

「しかし、イナズマ落としの練習大変だったな。壁山が高いとこダメだったとは」

 

「苦手なものは誰にでもあるしね。半田くんはなにかないの?そういうの」

 

「んー…昔は中途半端とか言われるのが嫌だったけど、今はそんなだな。というか、よく考えればそこまで周りに言われてなかったんだよな」

 

「…えーと、自分がそう思ってたってこと?」

 

「そんな感じかな。まぁ今じゃ、仮に言われても、貫き通せば半端じゃなくなるとか思うようにしてるから大丈夫だぜ」

 

「……そっか」

 

 

大谷とそんなことを話してる所は、一回戦の対戦相手のグラウンド。

稲妻町から電車を乗り継いで行った山の方にある野生中。

サッカー部メンバーが動物みたいな風貌なのは覚えてたけど、普通の生徒もちょくちょくそれっぽい人もいたんだな。

というか、さっき雷門の乗ってたリムジンを見て、サッカー部メンバーが車を初めて見る反応してたけど。いくらこんな山の方とは言え車も見たことないって流石におかしくないか?ジープとかそういうのだったらここにもあるんじゃないのか?まぁ、リムジンを初めて見た、のかもしれないけど。

 

 

「しかし、フットボールフロンティアというより…あれだな。染岡」

 

「なんだよ。あれって」

 

「いやさ。こうやって他校に来て試合するってのも、初めてだからさ。感慨深いなぁってさ」

 

「………そういや、そうだな。今年になって1年や豪炎寺達が入ってくれたからだな」

 

「優勝するために負けられないけど、そういうのを楽しむことも大事ってことか。いいこと言うな、半田!」

 

「いや円堂。オレそこまで言ったつもり無いぞ」

 

 

なんか円堂って、オレの言ったことを過大にするとこあるんだよな。

悪い気はしないんだけど、流石に大袈裟だろって話で。

……まぁ、初対面で世界一目指すなんて言ったもんだから、それが原因なのかもしれないんだけど。

みんなの様子を見てみると、選手は準備体操や作戦会議、マネージャーはドリンク作りなど忙しくしている。

ふと冬海の方を見てみると、ベンチに座ってる土門のことを少しの間だけじっと見ていた。なにやってんだ?

まぁ、それよりも唯一チームの中で一人でいる壁山か。

 

 

「壁山。練習の成果は…どうした?なんか青い顔してるけど」

 

「は、半田さん…実は…」

 

 

……あー、壁山の弟と友達が応援に来るんだっけ。

そんで、壁山は弟に見栄を張ったと。

 

 

「豪炎寺さんの踏み台になるなんて言えるはずなくて…でも、イナズマ落としは必要で……どうすればいいんすかぁ!?」

 

「どうすればって…オレは壁山の弟じゃないし…」

 

「そ、そんなぁ……」

 

「……まぁ、カッコいいところを見たいってのはあるだろうけど、それよりも、うじうじしてるとこは見たくないと思うぞ。せめていつも通りの壁山でいた方がいいんじゃないか?」

 

「い、いつも通り…いつも通りってなんすかぁ!?」

 

「だからいつも通りだってば!お前緊張し過ぎて記憶飛んだか!?」

 

 

誰か医者呼べ医者!でもこのチームで医者となると……

うん。やっぱ呼ばないでいいか。前回マックスが裏で呼んでた、ファイアトルネード治療法が飛んで来るかもしれないからな。

 

 

「とにかく、お前の守りはいつも頼りになってるんだ。そこをしっかりしてくれればいいんだよ。イナズマ落としが必要になるかは、試合が進んでみないと分からないからな」

 

「……わ、分かったっす…」

 

 

必要にはなるだろうけど、そこを念押しして更にプレッシャーをかけるのも良くない。とりあえずはイナズマ落としよりも、普段のプレイに意識を向けてもらおう。

 

 

「おーい、半田と壁山。そろそろ始まるぞ」

 

「ああ、風丸!そら、いくぞ壁山」

 

「は、はいぃぃ!!」

 

 

……無理はないけど、まだ緊張は解けてないか。

 

 

 

 

 

 

開始前の挨拶が済んで、それぞれポジションに就く。

審判のコイントスの結果、前半は雷門ボールとなる。

豪炎寺と染岡のツートップ。

オレとマックス、宍戸と少林の中盤4枚。

風丸と影野と栗松、そして壁山の守備4枚。

キーパーの円堂。

目金と土門はベンチスタート。

これまでと変わらないポジションではあるけど、地区予選とはいえフットボールフロンティア。油断はしない。

 

 

「相手の出方までは分からないけど、まずは普段通りに行くぞ!」

 

『おお!!』

 

 

円堂の号令と共に、開始の笛が鳴る。

 

染岡が豪炎寺にボールを渡し、豪炎寺はオレの方へとボールを蹴る。

ボールを受けたオレは相手陣へと攻め入るが……

 

 

「動きが早いな…」

 

 

野生あふれるサッカーとは聞いていたけど、すばやさも中々だな。

とくにあのチーターみたいなのと、ワシみたいなプレイヤー。どうしたものかな…

 

 

「でも、攻めるしかないよな。マックス!行くぞ!」

 

「了解…っと!」

 

 

マックスと2人で一緒にラインを上げていく。他の中盤の少林と宍戸もオレたち程じゃないにしろ、上がっている。

ボールを奪いに来た相手ミッドフィルダーをマックスとのワンツーで突破して、残るはディフェンス陣だけとたる。

 

 

「豪炎寺、頼む!」

 

 

オレはボールを高く打ち上げ、豪炎寺もそれを追うように飛び上がるが…

 

 

「コケー!!」

 

「なにっ!?」

 

 

豪炎寺がボールにたどり着くよりも先に、相手のキャプテンがボールを奪ってしまう。

試合中にこんなこと考えるのもアレだけど、キャプテンがニワトリなんだな。ライオンとかチーターとかじゃなくてニワトリなんだ。

 

 

「コンドルダイブ!」

 

 

野生中のカウンターが始まり、上空で蹴ったボールはワシのようなプレイヤーが追いかけ、上空で必殺シュートを繰り出す。

 

 

「させるか……!?」

 

 

円堂はシュートを止めようとボールに視線をやるが、その先にはゴリラのようなプレイヤーがいた。

 

 

「ターザンキック!」

 

 

どこから生えてるのかは分からないが、蔦に捕まりながら両足でボールの軌道を変えてきた。

 

 

「させる……かぁ!熱血パンチ!!」

 

 

ゴッドハンドとは違い、力の溜めの動作をあまり必要としない熱血パンチで、相手の連携シュートを防ぎ切った。

 

 

「円堂!豪炎寺が無理なら、オレが行くぜ!」

 

「あぁ!頼む、染岡!」

 

 

円堂が弾いたボールを染岡が受け取り、攻め込む。

 

 

「スーパーアルマジロ!」

 

「うおっと…!?」

 

 

ライオンのようなプレイヤーが猛スピードで転がりながら突っ込んでくる。

ただ、染岡がいた位置がこちら側、つまり野生のディフェンス陣の方を向いていたため、接近するアルマジロに気づくことが出来たから、前回みたく吹っ飛ばされることはなかったが…

 

 

「クイックドロウ!」

 

「くそっ…!」

 

 

カメレオンのようなプレイヤーが瞬間的に近づき、染岡からボールを奪う。

一の矢の次に二の矢って感じか…ちゃんと連携を取ってくるな。

 

 

「ライオンを突破できても、まだまだ攻撃は続くんだよ」

 

「後ろ向いてて、いいの?」

 

「えっ?」

 

 

油断していたのか、ボールを奪った染岡の方を向きながらドリブルしていたカメレオン。

その隙をついて、さっきまでオレの近くにいたマックスが一瞬にして距離を詰め、ボールを奪っていた。

 

 

「あれって、今アイツがやってた技じゃねぇか!?」

 

「僕たちってディフェンス技が足りないから、イメージだけは出来てたんだ。ちょうどそのイメージにピッタリな技を目の前でやってくれたからね。使わない手はないでしょ」

 

「今の一瞬で、僕のクイックドロウを真似たっていうのか!?」

 

「僕って、器用だからね」

 

 

はー、さすがマックス。前回とはいえ、ほぼ素人から代表候補に選ばれただけはあるよな。

それに負けたオレって……いや、考えないでおこう。

 

 

「オレも負けてられないな」

 

 

 

ただ、染岡のドラゴンクラッシュを撃つ暇もなければ、ロングパスからのファイアトルネードもニワトリに封じられる。

0vs0で拮抗したまま、前半戦が終了した。




無印では風丸や豪炎寺も自力習得したクイックドロウさん。
風丸は分かるけど、豪炎寺お前どうした感はすごかったです。


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稲妻落ちる時

サブタイの方が考え以下略


前半が終わり、ハーフタイムとなる。

 

 

「ある程度予想していたとはいえ、ファイアトルネードがあんな封じられ方をするなんてな…」

 

「けど地上で打とうにも、あのライオンみたいな奴の縄張りみたいになってるからな…となると、やっぱ空中で攻めるしかねぇのか?」

 

「空中はあのキャプテンが制してると言っても、裏を返せばあいつぐらいなんだよね。地上だと他にもあのカメレオンみたいのとかいるけど、敵の数が少ないのは空中の方だよ」

 

「となるとやっぱ……」

 

 

染岡やマックスたちと話し合ってた内に、全員で壁山の方を見る。

 

 

「う、うううう……やっぱり、必要になるんすかぁ……」

 

「さっきはああ言ったけど、やっぱ、男なら覚悟決めなきゃいけないときが来るよな…」

 

「は、半田さぁん……」

 

「でもな、別にお前1人で上がって、シュートしてこいだなんて言うつもりはないぞ」

 

「そりゃそうだよ。中盤の仕事は、ボールを繋ぐことでもあるんだから。だから攻めてきなって」

 

「チャンスがありゃ、オレもシュートを打つ。お前も今からでも、ゴールを奪うことに意識向けとけ」

 

「……は、はいっす……」

 

 

頼むぞ…壁山。イナズマ落としが、必要なんだ。

 

 

「……では、壁山くんを前線に上げるわけですか。となると、守備はどうします?風丸くん、影野くん、栗松くんの3人でいいんですか?」

 

 

そんな流れを断ち切るように、冬海が割って入って来た。

いや待て。いま冬海、戦術について話してたよな。マジかよ。コイツ本当に冬海かよ。

 

 

「………おいみんな、明日は大雨どころか嵐が来るぞ。嵐・竜巻・ハリケーンだ。冬海がフォーメーションの話をしてきた」

 

「本当に失礼ですね、半田くん」

 

「あ、あのぉ……そのことでやんすけど…」

 

「栗松?どうしたよ」

 

「さっき相談されたんだよ。オレと代わってくれってさ」

 

「土門と?」

 

「オレだって、小さい頃からサッカーはやってたし、試合も何度も観てたでやんす。急にフォーメーションを変えるのも、見たでやんす。でも、そうなると、どうしても穴を埋めないといけないってのもほとんどで…」

 

「ってさ。壁山を上げるとなると、守備は3枚。正直、3枚じゃ野生の攻撃を防ぐのは、けっこうキツいってのはたしかだぜ」

 

「だからって、中盤は減らせないでやんすし…ケガもしてない染岡さんを下げてまで4人のディフェンスを保つってのは、考えづらいと思って…」

 

 

……たしかに、ディフェンダーが3人なら、土門を入れた方がいいというのは分かるけどな…

 

 

「………どうする。円堂」

 

「なんでオレに聞くんだ?」

 

「いや、お前キャプテンだろ」

 

「この状況で、キャプテンの指示が必要とは思えないけどな。栗松が考えて、考え抜いての結論なら、オレがとやかく言えないさ。土門、頼めるか?」

 

「まっ、ついこの前入ったばっかでも、後輩に頼まれたなら、それを果たすのが先輩っしょ。任せてくれよ」

 

「お願いでやんす、土門さん!風丸さんに、影野さんも!」

 

「分かった、栗松。オレの方がサッカー部としては後輩だけど、土門と同じ、お前の先輩だからな」

 

「…………こうして頼られるのって、初めてだから、もっと頑張るよ」

 

 

……ありがとな。栗松。

 

 

「栗松……」

 

「壁山!あれだけ練習したんだから、お前ならでやんす!だから、ばっちりゴールを決めてくるでやんす!!」

 

「……壁山。イナズマ落としは、お前1人でやる必殺技じゃない。オレとお前の必殺技なんだ。今ならそれが、練習の時よりも、よく分かるはずだ。行けるな?」

 

「…………」

 

 

豪炎寺に返事をすることはなかったけど、目の色は明らかに変わった。

ほとんど、覚悟を決めたんだろう。

オレの仕事は、ボールをゴール前まで繋ぐことだ。

 

 

 

 

 

「豪炎寺のファイアトルネードは封じて、他の攻撃も潰すコケ!フォワードはゴールを奪うコケー!!」

 

 

相手のキャプテンの号令により、野生中陣が攻め上がってくる。

 

 

「宍戸!止めるぞ!」

 

「はい!」

 

 

オレと宍戸がニワトリを止めにかかる。

 

 

「甘いコケー!ダッシュアクセル!!」

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

スロットルを上げて走り出したニワトリに吹き飛ばされるオレと宍戸。

 

 

「2人だからってそう簡単には止まらないコケ!」

 

「じゃあ3人だとどうよ?」

 

「コケ?」

 

 

オレ達を突破したニワトリに向けて、土門が強烈なスライディングを仕掛けている。

 

 

「キラースライド!!」

 

「コケー!?」

 

 

キラースライド。帝国学園のディフェンス技で、ボールを奪う。

 

 

「あれは…帝国学園の必殺技じゃないですか!?」

 

「おや、そうですよ目金くん。彼は帝国学園から転校して来ましたからね」

 

「な、何故そんなこと知ってるんですか!?」

 

「それはだって、教師ですから」

 

「…………あっ」

 

「……目金くん?まさかですけど、半田くんに続いてキミも、私が教師であるということを忘れたとか言いませんよね?」

 

「い、いやぁ……忘れてたとかそんなんじゃなくてですね…その……なんというか……た、助けてください大谷さん!」

 

「あの、この流れで助けを求めちゃったらダメだと思う」

 

 

ニワトリからボールを奪った土門は、マックスへとパスを繋ぐ。

 

 

「スーパーアルマジロ!!」

 

「知ってても危ないなぁ!」

 

「よくも真似してくれたな!クイックドロウ!!」

 

「この二段構え、普通に強いな…いいこと教わったよ」

 

 

染岡も引っ掛かった二段構えの守りに、マックスもボールを奪われる。

そのボールは、フォワードへと渡る。

 

 

「通しませんよ…!」

 

「邪魔するなウホ!!」

 

「うわっ!?」

 

 

少林がゴリラみたいなプレイヤーへと立ちはだかるが、流石に体格差には勝てず、突破されてしまう。

 

 

「まずは1点奪うウホ!」

 

「やらせないよ……」

 

「ウ、ウホ……?どこから声が……?」

 

「前からだよ……」

 

 

と思ったら、目の前に影野がいた。

えっ、ウソ。お前いたか?突然現れたように見えたんだけど。

 

 

「栗松に頼まれたからね…僕だって、練習してたから…!」

 

 

影野はゴリラを囲うように、高速で回転する。

 

 

「コイルターン…!!」

 

「ウホー!?」

 

「半田…!」

 

「サンキュー!影野!!」

 

 

オレは影野からボールを託され、攻め上がる。

 

 

「ライオン!さすがに、二段構えは三度も通じないはず…一気にいく!」

 

「おう!」

 

 

ライオンとカメレオンが、2人同時に襲い掛かる。

でも残念だったな。むしろそれは…

 

 

「お前ら、連鎖感電って知ってるか?」

 

 

好都合なんだよ!!

 

 

「ジグザグスパーク!!」

 

『シ、シビビビビビ!!?』

 

「二段構えだったら、先の1人だけで済んだかもしれなかったのにな!いけ!壁山!豪炎寺!!」

 

 

2人を突破し、オレは豪炎寺と壁山がいる方へとボールを打ち上げる。

 

 

「させないコケ!!」

 

 

豪炎寺が飛び上がったところへ、ニワトリがその上をいく。

ここまでは前半も見た光景だが、その先は違う。

 

 

「高いところが苦手でも、オレに託してくれたみんなの方を向けば、怖くなんてないっす!!」

 

 

豪炎寺の下から、壁山が仰向けに飛び上がる。

壁山を踏み台にして、豪炎寺はさらに飛び上がることで、ニワトリを越える。

 

 

「コケエエエエ!!?」

 

「これがオレの…イナズマ落としぃぃぃぃ!!!」

 

 

豪炎寺が上空でオーバーヘッドキック。

稲妻を纏った鋭いシュートは、相手キーパーの反応を許さず、ゴールを奪った。

 

 

「き、決まった…っすか?豪炎寺さん……」

 

「ああ。よく克服してくれたな、壁山」

 

「やったな!豪炎寺、壁山!!」

 

「よくやってくれたぜ!」

 

「や、やったっすうううう!!」

 

 

盛り上がるのは分かるし、オレも壁山のことを揉みくちゃにしてやってるけど、まだ後半は終わっていない。

 

 

「この時間なら、無理にゴールを奪う必要はない。全員で守るぞ」

 

「じゃあオレ、ディフェンスに戻るっす!」

 

「あぁ。頼んだ」

 

 

壁山がディフェンスポジションに戻り、いつもの4-4-2の布陣となる。

残り時間は少ないが、野生も猛攻を仕掛けてくるはずだ。

この1点、絶対に守り切るぞ。

 

 

「イノシシ以外、全員攻撃でいくコケ!!」

 

 

試合再開の笛が鳴った途端、その号令と共に野生布陣が攻め上がってくる。

少しは分かっていたが、全員攻撃か…!

 

 

「スーパーアルマジロ!!」

 

 

今までディフェンス技として使っていた、ライオンの必殺技。

今度は自分が丸まる時にボールを包む事で、ドリブル技として使ってきた。

これにはたまらず、染岡たちやオレたちも吹っ飛ばされる。

 

 

「ヘビ!あれをやるウホ!」

 

「キヒヒ……分かったよ。スネークショット!」

 

 

ライオンからボールを渡されたヘビみたいなプレイヤーは、中央からシュートを放つ。

 

 

「ロングシュートか!?にしては、クネクネして、ゴールに向かっては…」

 

「いや、違うよ半田。あれは…」

 

 

マックスが言おうとしていたことは、すぐに理解出来た。

ヘビが放ったロングシュートは、ただのシュートではなく、パスだったということを。

 

 

「ターザンキック!!」

 

 

前半の時にやった二段構えのシュートを、再び決めてきた。

 

 

「二度目だからって、通すわけにはいかない!熱血パンチ!!」

 

 

だが円堂は、それをある程度予想していたようだった。

ゴリラの方向をしっかり見てから、再び熱血パンチでボールを弾く。

 

 

「……!?円堂!まだ終わりじゃない!!」

 

「マックス…?まだってどういう…あっ!?」

 

 

気づいた時には、もう遅かった。

 

 

「行ってくるコケ!ワシ!!」

 

 

ニワトリがワシを空へと放り投げる。

その先には、円堂が弾いたボールがあった。

 

 

「ホークショット!!」

 

 

上空から強烈なシュートを放ってくる。

このタイミングでは、ゴッドハンドを溜める時間もない。

かと言って、熱血パンチではおそらく防げない。

このままゴールを奪われるか、そう感じてしまった。

 

 

「やらせるか…!!」

 

 

そうはさせないと、風丸がボールと円堂の間に割って入る。

 

 

「オレも、栗松に託されたんだ…やらせてたまるか!」

 

 

風丸はシュートの方へと飛び上がり、右足で放った蹴りは、地面を抉り、衝撃波を産み出す。

 

 

「スピニングカット!!」

 

 

その衝撃波はシュートに当たり、防げはしなかったものの、威力を格段に弱めることに成功した。

 

 

「円堂!頼んだ!!」

 

「ありがとな!風丸!!熱血パンチ!!」

 

 

三度目の熱血パンチは、今度こそ野生の猛攻を防ぎ切った。

 

 

「……完敗、だコケ」

 

 

その瞬間に、試合終了を告げる笛が鳴り響いた。

さっき壁山が揉みくちゃになってたところを、今度は風丸、そしてついさっき新しい必殺技を繰り出していた影野も揉みくちゃにされている。

当然オレも混じっている。もちろんな。影野なんてこんな時でもないと揉みくちゃに出来ないんだから、存分にやるぞ。

 

 

「……しかし、なぁ」

 

 

ふと、オレは思う。

ライオンの使ってた、スーパーアルマジロ…

 

 

「……あれ、ディフェンスにも使えたんだな。知らなかった」

 

 

その呟きは、誰の耳にも届くことはなく、今は円堂が揉みくちゃにされていた。




風丸に拾ったばかりのスピニングカットを覚えさせるのは、誰もが通る道だと思うんです。


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火が付く半田

火が付くらしいです。


野生との試合が終わり、次の試合に向けて河川敷で練習するオレ達。

 

 

「この前の野生戦で思ったけど、やっぱ僕たちって体力足りてなくない?野生中を比較対象にしないってのを抜きにしても、そう思うんだけど」

 

「たしかにな。二段構えを苦労して乗り越えるってのは、この先厳しいよな。このまま勝ち進めば、おそらく決勝戦は帝国だろうし。必殺技も大事だけど、地盤を固めなきゃな」

 

 

そんなことを学校から移動しながら話していたため、今日は身体作りの練習が基本となる。

前回の野生戦で、マックスと影野に風丸がそれぞれディフェンス技を習得し、護りは更に硬くなった。

とはいえ、オフェンス技がオレのジグザグスパークだけっていうのは不安要素だから、次の試合までには1つぐらいは習得したいというのは共通認識だった。

しばらくは身体作りを中心として、ちょくちょくオフェンス技の練習をと思っていたんだが……

 

 

「あそこの橋、他校の学生で埋め尽くしてるね」

 

 

大谷が言う通り、グラウンドの直ぐ近くに架かる河川敷の橋には、やたら他校の学生が多かった。

 

 

「まぁ、普通に考えたら偵察じゃないかしらね。流石にこの時期に、あれを全部ファンだと思うようなおめでたい人がここにいるとは思え…」

 

「えっ、オレたちのファンじゃないのか……!?」

 

「ここにいたね…」

 

 

なんか円堂と木野に雷門がコントしてるけど、半分スルーだスルー。

 

 

「偵察なんて来るんだな。まぁ、雷門ってしばらく無名だったんだから仕方ないのか?」

 

「帝国に1点もぎ取って、野生にも勝ってるからな。それよりも前に尾刈斗にも勝ってるし、突然現れた謎の学校ってところか?」

 

「しかも、私の調べによると尾刈斗は以前より力を付けたようですよ!なんでも打倒雷門を公言してるらしくて」

 

 

染岡の言う通りだろうし、音無の調べ上げたことも後押ししてるんだろうか。

過去のイナズマイレブンのことを知る人は少ない。ましてや雷門中の名前も知らない人がほとんどだろうしな。

もしかしたら、オレが知らないだけで前回の時も来てたのかもしれない。

 

 

「これだけ偵察が多いんじゃ、練習しづらいね…半田くん」

 

「プロチームですら、なかなか練習風景は表に出さないからな…どうしたものかな」

 

「このまま練習しないってのも時間が勿体ないし…走り込みぐらいにしとく?」

 

「んー…そうだな。円堂、大谷の言う通り、今は走り込みで済ませないか?」

 

「ああ。このまま何もしないのは良くないしな。よーしみんな!走り込みいくぞ!!」

 

『おー!!』

 

 

河川敷はこの辺りの散歩コースとしても有名で、道は長く繋がっている。3周もすれば、いい練習になるんだよな。

オレ達サッカー部以外にも、陸上部や野球部とかも、走り込みをしてるとこをよく見かけるな。

 

 

「……走り込みすら見ようとするって、あの人たち暇なのかな」

 

「えっ、ホントかよマックス」

 

「ずーっと見てくるっすよ…あの人たち」

 

「走り込みをあんな穴の開くような目で見ることってあるか?」

 

「一周回って、オレ達のファンでやんすね…」

 

「やっぱりオレ達のファンなのか!?」

 

「円堂、違う。一周回ってはそういうことじゃないんだ」

 

 

かれこれ5周ぐらい走り込みはしてたら、痺れを切らしたのか帰っていく人が多くなって来た。

偵察よりも、自分たちも練習した方がいいって思い直したのか、別の理由なのかまでは分からないけど。

 

 

「円堂。偵察が減ってきてはいるけど、今日は走り込みとかだけでよくないか?必殺技練習は様子見てやろうぜ」

 

「身体作りが中心って、さっきも言ってたもんな。じゃあこの後はストレッチとかやるか!」

 

 

そんなこんなで、今日の練習は終わった。

 

 

 

 

 

「偵察の連中、また増えてるぞ」

 

「今日も必殺技の練習、出来そうにないでやんすね」

 

「パソコンはともかく、なんかでっかいカメラ用意してるように見えるんだけど、中学でどこからそんなの用意したんだ?」

 

「必殺技だけがオレ達のサッカーじゃないさ。どっちにしろ地盤を固めなきゃいけなかったんだし、丁度いいよ」

 

 

偵察がこんな多いんじゃ、まともな練習は出来やしないしな。

というか、マジであのカメラとかどこで調達したんだよ。中学に写真部なんてそうそうないだろ。

 

 

「やれやれ…ん?」

 

「どうした、土門」

 

「や、なんかこっちに来るような…」

 

 

土門と一緒に土手の方を見ていると、本当になんか来たぞ。

 

 

「おい!なんか来たぞ!」

 

「なんだあれ、トラックか?」

 

「荷台が空いて…なんか、色々機材とか積んでますけど」

 

「偵察にしては、ずいぶん派手だな…」

 

「上にレーダーとか積んでるし、戦争でもするつもり?」

 

 

荷台にいる2人、顔も見えたな。あれは、たしか…

 

 

「次の対戦相手、御影専農のメンバーですね!色々と調べてたんで、分かりました!」

 

「音無さん、データベースも作ってくれたみたいだよ。それによると、あの2人はエースストライカーの下鶴改に、キャプテンのゴールキーパー、杉森威…だね」

 

「徹底的に観察するつもりみたいだね…」

 

 

マネージャー3人が、あのトラックについて説明してくれた。

なんとなく顔は覚えてたけど、やっぱり御影専農か。

データを徹底的に分析して、それを元に管理されたサッカーサイボーグ…やりづらいな。

 

 

「そういや、3人だけか。雷門はどうしたんだ?」

 

「理事長の仕事を手伝うんだって。なんでも、古い校舎の設計図の整理とか」

 

「すごいことしてんな」

 

「とにかく、御影専農のことは気にしないでいこう。シュート練習、いくぞ」

 

 

豪炎寺の声と同時に、オレ達はシュート練習に入った。

他の偵察はそこまで気にならないけど、あそこまで大々的にやってくると嫌でも気になるな。

 

 

「………………」

 

 

えっ、今目が合ったぞ。怖っ。

しかもなんかこっちに来るんだけど。いや待て、練習中に入ってくるのは流石にダメだろ。

 

 

「円堂!ちょっと練習ストップだ!アイツらがこっちに入ってきた!」

 

「えっ、本当だ…みんな!ストップ!」

 

「おいお前ら!いくら偵察だからって、限度があるだろうが!」

 

「御影専農のキャプテン、だな。練習中に入るのはやめてくれ」

 

 

オレや円堂、染岡と豪炎寺が、杉森たちを止めに入る。

 

 

「なぜ必殺技の練習を隠す?」

 

「今更隠しても無駄だ。我々は既に、君たちのデータを解析した」

 

「評価はD+…と言ったところだが、我々には100%勝てない」

 

 

淡々と言いやがるなコイツら…しかもD+って、最低ってワケでもないのかよ。

 

 

「何を言ってるんだ。勝負はやってみなくちゃ分からないだろ?」

 

「勝負?違うな。これは害虫駆除だ」

 

「はぁ!?」

 

「なにが害虫だ!」

 

「ムカつくっす!」

 

「最低…!」

 

「しかも駆除ってなによ駆除って!」

 

 

下鶴の言葉に怒りの反応を示すオレ達。

いくらなんでも流石に許せないよな。

 

 

「やめろみんな!お前ら、オレ達を害虫って言ったこと、取り消せ…!」

 

「事実を言ったまでのことだが」

 

「理解できないとは思わなかったが」

 

「もう絶対に許せねぇ…!オレ達の必殺技を見せてやる!今すぐ決闘だ!」

 

 

円堂、怒りの決闘宣告…っておい!

 

 

「おい円堂!決闘は流石にマズいだろ!」

 

「……決闘とは、どういう意味だ」

 

「お互いにシュートを1本止められるかで決着を着ける、いいな!」

 

「………あ、ああ…その決闘か……」

 

「半田。流石に円堂がストレートな決闘を申し込むワケないだろ。いくらサッカー馬鹿でもそこら辺は分かるはずだ」

 

「そ、そうだよな…風丸……」

 

「まぁ、最近授業で決闘罪って習ったから、焦るのは分かるけどさ」

 

「……我々は、その必要を認めない」

 

「そっちはそうでも、こっちは納得できない!害虫なんて言われてな!」

 

「何故そうなるのか、理解に苦しむ」

 

「助けてくれ半田!コイツら話通じない!」

 

「そこでオレに投げるのおかしいだろ!!」

 

「諦めろ半田。この流れ1年の頃からそうだっただろ」

 

「円堂も染岡も話投げるんだから残るのオレになるってだけだろそれ!!」

 

「……………」

 

「……そんなこと言われても納得できないから、実際に見せてみろってことだよ」

 

「……理解した」

 

「疲れるな…お前ら……」

 

 

まずは円堂と下鶴の対決が始まる。

 

 

「円堂!負けるんじゃねぇぞ!」

 

「何をしてくるか分からないからな!油断するなよ!」

 

「ああ!任せろ!」

 

 

木野の鳴らした笛と同時に、下鶴が駆け上がる。

しばらくドリブルをしていると、ボールを打ち上げ、回転しながらその後を追い、炎を纏って……は?

 

 

「ウソだろ!?」

 

「あれって、まさか…!?」

 

 

豪炎寺の必殺技…!

 

 

「ファイアトルネード!!」

 

「ファイアトルネード…!?くそっ…熱血パンチ!!」

 

 

突然のファイアトルネードに意識を奪われ、ゴッドハンドを出す暇も無かった。

熱血パンチで応戦するも、止めることは出来なかった。

 

 

「アイツ…ファイアトルネードが使えるのか…」

 

「僕たちのことを分析したと言ってましたが、まさか必殺技までコピーしているとは…」

 

「……オレが打つ。あんなもの見せられて、黙っていることは出来ない」

 

「半分ケンカ売られたようなものだからな。頼んだ」

 

 

豪炎寺と杉森の対決だ。

木野の鳴らした笛と同時に攻め上がり、ファイアトルネードを打つ。

 

 

「ファイアトルネード!!」

 

「データ通りだ。シュートポケット!」

 

 

杉森が展開させたバリアのようなものがファイアトルネードを防ぎ切ってしまい、ボールは杉森の手に収まった。

 

 

「これで立証された。キミたちでは、我々に勝つことなど出来やしない」

 

「……この決闘と、試合が全く同じだとでも言うのか」

 

「試合であれば、ドラゴントルネードを使えるから、シュートポケットを破れるとでも?」

 

「…………」

 

「円堂の言ってた通り、やってみなくちゃ分からないだろ」

 

「今の結果を見てもか?」

 

「ああ。オレ達は何度でも言うぞ。やってみなくちゃ分からない」

 

「…………鬼道の言う通りか」

 

「……は?」

 

「雷門はバカで、そのキャプテンの円堂守は大バカ。そしてキミ、半田真一は中バカだと」

 

「…………………………は?」

 

「立証が済んだ以上、我々の目的は完遂された。引き上げるぞ」

 

 

御影専農の2人はグラウンドを後にした。いや、それよりも……

 

 

「……中バカってなんだ中バカって!?」

 

「は、半田くん!落ち着いて!!」

 

「円堂が大バカってのはサッカー馬鹿って言いたいんだなってなるけど!オレが中バカってなんだぁ!?中途半端って言いたいのか!?」

 

「なんでオレだと納得するのは一旦置いといて、落ち着け半田!そこまでは言ってないだろ!」

 

「もうオレ達がバカって言われたことが飛んじゃうから!」

 

「鬼道の野郎!!絶対決勝まで行って問い詰めてやるから覚悟しとけよこの野郎!!!」

 

「落ち着いてええええ!!!」

 

「………何をしてるのかしら、一体」

 

 

遅れてやってきた雷門が、イナビカリ修練場のことを教えてくれた。

たしかにこのぐらいにイナビカリ修練場使い出したけど、中こんなだったけとか、ミニゲームとか試合とかしてなかったけとか思ってたけど、一度付いた火でそれどころじゃなかった。

 

 

「鬼道の前に杉森撃ち抜いてやるからな!!」

 

「お前ミッドフィルダーだろ!」

 

「鬼道もキーパーじゃないですよ!」

 

「……大丈夫かなぁ。半田くん」

 

 

その後、マネージャーが修練場の扉を開けた時、ボロボロになったオレ達を発見した。

 

 

「さ、流石に…もう…ダメ……」

 

「う、撃ち抜く前に、オレ達が死ぬ…」

 

「きゅ、救急箱持ってくるね!」

 

 

ようやく、オレの火は鎮火したらしい。




(多分)鎮火しました。
ゲームの修練場のファイターってどういう扱いなんすかね?


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イナビカリの特訓

試合前の特訓回です。
前回の野生中はスキップしたんすけど、あれはほぼ原作と変わんなかったからですね。
と言うワケで、今回はほぼオリジナルです。


なんか昨日の円堂達の決闘後から記憶が怪しい。

気付いたら前回の記憶とは違うイナビカリ修練場でぶっ倒れてた。

みんなに昨日何があったのか聞いてみたんだが…

 

 

『オレ達はお前のことをそんなだなんて思ってないぞ』

『半田さんはカッコいい先輩です』

『この前餃子分けてくれたっす』

 

 

って、風丸や少林たちに励まされたし、壁山に至ってはちょっと違うけど礼みたいなの言われたんだけど。

 

 

「昨日のオレなにがあったの?」

 

「えっ!?えーっと…あ、あはは…」

 

「えっ、なに大谷。オレって何か、はぐらかされる程の事しちゃったのか?」

 

「えーと、そのー……」

 

 

 

『大丈夫かな…半田くん…』

 

『だ、大丈夫だぞ大谷…は、半田なら……』

 

『そ、そうだぜ…し、心配しなくても……』

 

『え、円堂くんに染岡くん…なんでかは気になるけど、そんなボロボロなんだから、今は休んでてね…』

 

『じゃあ、私から。2人の言う通り、半田くんなら大丈夫だよ』

 

『秋ちゃんも言うなら、大丈夫だと思うけど…なんで?』

 

『あのね、半田くんがこうなることって、初めてじゃないの。1年の頃も、ラグビー部や野球部とかに、中途半端なヤツは黙ってろって言われたらしくて…』

 

『……そう、なんだ』

 

『それでね。火が付くのはさっき見た通りだと思うんだけど、しばらくして火が収まるとね、忘れちゃうの』

 

『わ、忘れる……?』

 

『そう。言われたことを忘れちゃう。そう言われて、見返してやるとか、鍛えてやるとか、やるべき事を覚えてるみたいなんだけど』

 

『………』

 

『……本当は、あまり大丈夫とは言えないと思うんだけど。今はそっとしておいた方がいいとも思うんだ。なんで中途半端って言葉に、そこまで火が付くのか、理由を全て知ってるワケじゃないから』

 

『………うん。今は、そっとしておいた方がいいのかな』

 

 

 

「………ううん。なにもなかったよ」

 

「なら、いいんだけど。とにかく、杉森は撃ち抜いて、鬼道には決勝で問い詰めないとな……あれ。何を問い詰めんだっけ?まぁ、決勝行くのは変わらないけど」

 

(本当にそこは覚えてるんだ……)

 

「と言っても、杉森撃ち抜くなら、もっと強いシュートを撃てなきゃいけないんだよな。オレのローリングキックも、分析されてるだろうし…生半可に鍛えても、対策を上回れないよな…どうしよう」

 

「うーん……あっ、ならさ…」

 

「おーい、半田。今日も修練場使えるみたいだし、行こうぜ」

 

「あっ、じゃあ行くか、風丸。って、大谷なにか言いかけなかった?」

 

「あっ…ううん。終わってからでいいよ」

 

「そっか。じゃあ、行ってくる」

 

「うん。気を付けてね」

 

 

 

 

「……よし。じゃあ、音無さんに頼んで…」

 

 

 

 

翌日の練習前。部室でユニフォームに着替え終わって、そろそろ出ようかなって所で…

 

 

「あっ、ここにいたんだね。半田くん」

 

「ん、大谷。どうしたんだ?」

 

「昨日言いかけたことなんだけど、ちょっとこれ見てもらってもいいかな?」

 

「んー?タブレットか、それ」

 

 

大谷が持ってたタブレットを見せてもらうと、そこには別のチームの試合風景が映っていた。

 

 

「これって…どっかの練習試合か。えーと?この前戦った野生と…木戸川清修?」

 

「うん。昨日の練習前、音無さんがどこかの試合風景が手に入りそうって言ってて。今日持ってきてくれたんだ。後でみんなにも見てもらうみたいだけどね」

 

「そうだったのか。どんなルートで手に入れたのかは聞かないでおくけど」

 

「そ、そんな怪しいルートで手に入れたみたいに言わないでよ…違うと思うからさ」

 

「冗談だって。でも、なんで先にオレだけに見せてくれたんだ?」

 

「次の試合、どうしても半田くんがゴールを決めたそうにしてたから。何かのヒントになれればいいなって思って…」

 

「……そっか。ありがとな、大谷」

 

 

しかし、木戸川清修か。あそこと言えば、武方三兄弟っていう、強力なスリートップがいたし、元々豪炎寺がいたところでもある。

それに、土門と、今はまだここにいない一之瀬の友達の西垣がいたっけ。アイツも強力なディフェンダーだったな。

 

 

「…………」

 

 

西垣、といえば。今でも忘れられないあのチーム。

なんでアイツが…いや、アイツだけじゃなくて、杉森とシャドウもあのチームに来たのか。あの時は知らなかったし、知ろうともしなかった。

今はまだ、どうしようも出来ないけど。あのチームの結成も防ぎたい。

オレ自身は、今のところああなるつもりは一切ない。

でも、そうすることで何か別のことが起こったりとかを考えると…

 

 

「……半田くん?」

 

「……あっ、えっと。どうした?」

 

「いま、すごく難しい顔してたから」

 

「……いや、今のオレだと、木戸川清修のシュート技を習得することは出来なさそうだなって思って。アイツら、かなりの強豪校だしさ」

 

「……そっか」

 

 

誤魔化したけど、嘘は言ってない。

木戸川清修のシュート技となると、トライアングルZか、バックトルネードになる。

他にもあったかもしれないけど、代表的なのはこの2つだ。

まずトライアングルZだけど、あれは無理だ。あんなの、見てどうにかなる技じゃない。

今も再生されてるけど、こんなの真似できる気がしない。

あれを覚えるには、多分だけど、三兄弟本人から伝授される必要があると思う。

 

 

「ホント、すごいシュートだなこれ…」

 

「こうして見るだけでも、気迫みたいのが伝わってくるね…」

 

 

となるとバックトルネードなんだが。こっちはまだトライアングルZよりは可能性あるだろうけど、これも無理だと思う。

あれは武方三兄弟が、ファイアトルネードに対抗して覚えた必殺技だったはずだ。そうなると、まずファイアトルネードを使えるぐらいの基準が必要だと思う。

オレはそんな基準まで行ってないし、今からじゃ無理だろう。そもそも覚えられる気もしないし。

……まぁ、なんとなくだけど、マックスならバックトルネード覚えられる気もするけどな。でもオレはマックスじゃないからな。

 

 

「……おっ、流石木戸川清修。あの圧がある守備を簡単に突破したな」

 

「ねっ。ドリブルの必殺技を使ったと思うんだけど、簡単に突破しちゃった」

 

「あー…たしかにあれはどう見てもドリブル……」

 

 

待てよ。いま木戸川清修のミッドフィルダーが使ったドリブル技…

 

 

「…………もし、これをあれと合わせられたら…」

 

「……半田くん?」

 

「……サンキュー、大谷。光が見えてきた。悪いけどオレ、自主練してくる!」

 

「えっ、ええっ?どこに?」

 

「広いとこじゃないとマズいから、河川敷!円堂達に伝えといてくれ!」

 

「えっ、えっと…」

 

「行ってくるな!マジでありがとな大谷!」

 

「…………う、うん。いってらっしゃい…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャプテン。偵察から1つ報告が来ました」

 

「改か。なんだ、報告とは」

 

「雷門に偵察に行った者からの報告です」

 

「…そうか。だが、昨日から河川敷には現れず、今日も学校のグラウンドにすら姿が見えなかったと聞いたが」

 

「いえ。1人だけ、河川敷グラウンドに姿が確認されました。ミッドフィルダー、半田真一です」

 

「……あの、鬼道曰く、中バカのか。何をしていた」

 

「……………」

 

「……改?」

 

「……いえ。どうにも、不可解で」

 

「目撃したのならば、不可解も何もないだろう。で、何を目撃したんだ」

 

「………偵察曰く、新体操の練習をしていた、と」

 

「…………………理解不能」

 

「………同じく、理解不能です」

 

 

 

 

 

 

「まこ!みんな!どうだ!?」

 

「10点!」

 

「10点!」

 

「10点!」

 

「すごいね半田お兄ちゃん!満点だよ!」

 

「よっしゃあ!!!!」




木戸川の必殺技、無印はもちろん、2までバリバリ現役の技が多いんですよね。3はハリケーンアローとかがギリ強かったような。


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新体操の秘密

( ゚д゚)

日刊ランキング入り…だと…?

( ゚д゚) ( ゚д゚) ( ゚д゚)ジェットストリ-ムポカ-ン

いや、皆さんありがとうございます。しかもお気に入り300超えてるんですけど。マジで感謝。



(°Д°) (°Д°) (°Д°)ジェットストリ-ムアングリ


自主練とイナビカリ修練場でボロッカスになる日が続き、試合の日が訪れた。

 

 

「自主練どうだった?半田くん」

 

「どうにかなりそうだな。いや、ホントありがとうな。大谷。まだ結果出してないけど」

 

「ううん。その顔を見れただけでも、嬉しいよ」

 

 

御影専農グラウンドのオレ達の方のベンチで、試合前の調整タイムを過ごしている。

そろそろトイレに行った円堂が帰ってくるはずだけど…っと、そんなこと思ってたら帰ってきた。

 

 

「おかえりっす。キャプテン」

 

「時間かかってたみてぇだけど、迷ったか?」

 

「迷ってないって。杉森と話してたんだ」

 

「杉森と?」

 

「ああ。トイレから出たら、ちょうど通り掛かってさ」

 

「へぇ。何を話してたの?」

 

「負けないって宣言した!」

 

「だよなぁ」

 

 

杉森がどういう反応をするかが目に見えるけど、オレでもその場にいたら宣言はするかな。

 

 

「あっ、あとアレも言われた」

 

「なんだ?アレって」

 

 

水を飲もうとする。

 

 

「半田。お前河川敷で新体操の練習してたんだって?」

 

 

そして盛大に吹き出す。

 

 

「ゲホッゴホッ、な、なんだ急に」

 

「いや、杉森に聞かれたんだよ。なんで半田は河川敷で新体操の練習をしてたんだって」

 

「おい、嘘だろ半田。お前自主練って言ってたけど新体操やってたのか!?」

 

「サッカー部を裏切る気ですか!?」

 

「そもそも半田さん男ですよね!?」

 

「帝国の時に逃げた目金が言うかそれ!?いや裏切ったワケじゃないだろうけど!あとオレも裏切る気は無いって!」

 

「じゃあなんで新体操なんかしてたんだよ!」

 

「なんでってそりゃ…ん?ちょっと待て円堂。新体操って言った?」

 

「ああ。言った」

 

「体操競技じゃなくて?」

 

「ん?まぁ、杉森は新体操って言ってたけど。それってなんか違いあるのか?」

 

「まぁ、新体操とオリンピックとかで見る体操競技じゃ全然違うな。それで、わざわざそう聞くってことは、けっこう重要なのか?半田」

 

「まっ、風丸の言う通りではあるんだけど…」

 

 

わざわざ新体操って言ったってことは、自主練のとこは見られてないってことかもしれないな。

 

 

「…まだ偵察がいるかもしれないってことを忘れてたけど、この分なら大丈夫かもしれないな」

 

「……いや、ちょっと待て半田」

 

「ん?なんだよ豪炎寺」

 

「なんで新体操をしていたのかの答えをまだ聞いてない」

 

「お前がまぜっ返すのかよ!?豪炎寺がそう来るとは思わなかったぞ!?」

 

「仕方ないだろう。経緯を聞かないと、気になったままだ。試合にも響く」

 

「なんでそんなに聞きたがるんだよ!」

 

「冷静に考えろ。半田」

 

「冷静に!?この流れでお前に冷静にって言われる!?」

 

「オレ達の立場で考えろ。仮に染岡が自主練すると言って1人だけ抜けるとする」

 

「なんでオレが出てくんだよ」

 

「あ、ああ…まぁ…それで?」

 

「この時、練習の切っ掛けが"マネージャーが観せた試合映像だった"ぐらいしか聞かれてなくて、その映像をオレ達も観たとする」

 

「そ、そうだな。経緯は同じ、だな」

 

「その練習の詳細を試合当日まで聞いていない」

 

「……うん」

 

「そして、試合直前で、第三者がいきなり"染岡が新体操をしてるのを見た"と言われて、染岡は理由をちゃんと話さない」

 

「だからなんでオレなんだよ」

 

「…………」

 

「木戸川清修と新体操なんて、少しも関連性が無いんだ。気にならないワケないだろう」

 

「ごめんなさい」

 

 

すごい理路整然とした話し方で詰められた。

いや、たしかにそう言われると気になっちゃうよな。これはオレが悪かった。豪炎寺じゃなくてもこうなるよな。

 

 

「……まぁ、なんで新体操してたかって言うと。まこのせいなんだよ」

 

「なんでここでKFCが出てくるんだよ」

 

「いや、それなんだけどさ…」

 

 

 

『悪いみんな!ちょっとここ使わせてくれないか!?』

 

『えー!アタシたち明日の体育の練習してるんだけど!』

 

『あまり時間取らないから!頼む!』

 

『じゃあ半田お兄ちゃんこれやってみせて!そうしたら場所譲るから!』

 

『ああ!どんなものでもやってやる…リボン?なんでリボン?』

 

『だって新体操やるんだからリボンいるでしょ!』

 

『なんで小学校の体育で新体操なんかやるの?』

 

『いいからやってよ!じゃないと場所譲らないよ!』

 

『…………やってやらあああああ!!!!』

 

 

 

「…………多分、それを御影専農の偵察に見られたんだろうな」

 

『……………プフッ』

 

「笑うなああああああ!!?」

 

「え、えーっと…じゃあ半田くんは、その後に自主練をしたってこと?」

 

「あ、ああ…もちろん、新体操とは全く関係ない。それを見られてたら、他にも言われてるはずだから、本命は見られてないと思う」

 

「そ、そうだね…し、新体操……だもんね……」

 

「………我慢するぐらいなら、笑っていいからな。マネージャー以外全員はジグザグスパークの刑決まってるから」

 

「横暴でやんす!」

 

「笑うなって方が無理ありますよ!」

 

「やかましい!」

 

「じゃあ、特訓の成果は出せそうってことでいいのか?半田」

 

「ホント豪炎寺お前…切り替え早いよな。でもお前も笑ったとこ見逃してないからな」

 

「……すまない」

 

「いや、別にいいけど。あー…そうだ。円堂、前半なんだけど」

 

「プッ、ククク……あっ、ああ…ど、どうした半田」

 

「いつまで笑ってんだよ。本当にジグザグスパークするからな。いや、前半なんだけどさ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始直前、みんながフィールドに立つ。

こっちはいつもの4-4-2の陣形なんだが、あっちも4-4-2だな。

御影専農の方は、統率を取ることを意識してるのかすごくピッチリしてるけど。

 

 

「……………」

 

 

…すごい視線感じるけど、気にしないでいくぞ。

 

 

「よーしみんな!昨日までのデータなんてぶっ飛ばしてやるぞ!」

 

『おお!』

 

 

円堂の号令と共に、試合が始まる。

染岡からボールを渡された豪炎寺は、後ろにパスする。

 

 

「んじゃ、行きますか」

 

 

受け取ったのは土門。

そう、中盤にいる土門だ。

 

 

「……………」

 

 

……おい、流石に試合が始まってるんだから、こっちなんか見てるんじゃねぇよ杉森。余裕あるのか、それとも分析がおかしくなったのかは知らないけど。

 

 

「……半田くん。本当にこれでいいの?」

 

「こうしとけば、前半と後半でオレのことに意識を割けるかもしれないしな。アイツらにどこまで効くかは知らないけど」

 

「監督の指示が直接頭に届いてるようですからね。それでも、あちらのキャプテンはこっちに意識を向けてるようだけど」

 

「あなたも狡い手を使いますねぇ…」

 

「狡いってなんだよ冬海」

 

 

そう。今回のオレはベンチスタート。

オレのポジションに土門に立ってもらって、オレの出番は後半からってことになる。

 

 

「……待ってろよ杉森。絶対撃ち抜いてやるからな」




杉森視点の半田
① 鬼道が中バカと称する
② 自分に向けて啖呵を切る
③1人だけ練習に現れたと思ったら新体操してる
④ なんかベンチにいる

そりゃ違和感しかないですわ。


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ローリングキック

先に言いますと、自分がアニメとゲームとで抱いてた疑問から生まれた展開です。
だってぜったいおかしいもの。 トラお


結果を言うと、前半はほぼ御影専農のペースだった。

 

 

「ディフェンスフォーメーション、ガンマ3発動!」

 

 

染岡がドラゴンクラッシュを打っても、シュートコースにディフェンダーが立ちはだかることで、威力を打ち消されてしまう。

他にもファイアトルネード、ドラゴントルネード、イナズマ落としを打っても、杉森のキーパー技のシュートポケット、ロケットこぶしに塞がれてしまう。

 

 

「あんな守備をしてくるなんて、サッカーサイボーグの名は伊達じゃないですね…」

 

「指示もそうだけど、それを少しの狂いもなく実行できるだけの実力もすごいぞ。やり口は気に食わないけど、あの監督も優秀なんだろうな。ひどいやり口だけど」

 

「やたら相手の監督を貶しますね。半田くん」

 

「冬海だって、気に食わないんじゃないのかよ」

 

「………まぁ、そうですね」

 

 

そういや、前回は雷門中にも洗脳の被害者がいたはずなんだけど、とくにそんな話は聞かなかったな。ちょっと体育館裏を覗いてみたけど、普段と変わらずに屯してただけだった。

やっぱ10年も経ってるし、オレの記憶もアテにならないな。

 

 

「スーパースキャン」

 

「くそっ…!」

 

 

風丸と壁山の守備を抜かされ、ゴール前まで攻められる。

 

 

「オレ達を分析して来た相手だ…どんなシュートを打ってくるんだ…?」

 

 

円堂が身構えてる内に、御影専農の選手がシュートを打ってくる。

 

 

「サイコショット!」

 

 

超能力?か何かで制御されたシュートがゴールに向かって打たれ…

 

 

「熱血パン…えっ?」

 

 

ゴールに向かっていたはずのシュートは、急にコースを変え、上へと向かう。その先には…!?

 

 

「円堂!ゴッドハンドを…!」

 

 

オレがベンチから声を上げるが、遅かった。

 

 

「野生中との試合のデータを分析し、最初のシュートをそれに真似れば、キミの反応が遅れる確率は97.5%。ファイアトルネード!」

 

 

野生中と同じく、二段構えのシュートを打たれてしまう。

しかも2発目のシュートはファイアトルネード。本家の豪炎寺程の威力では無いとはいえ、野生中のターザンキックよりも上回るのは変わらなく…

 

 

「くそっ…!熱血パンチ!!ぐぅっ……うわぁ!?」

 

 

弾き返すことが出来ず、ゴールを許してしまった。

 

 

「初見でしか通じないだろうが、その初見だけで充分だ。この1点、致命的であることを証明する」

 

「油断したワケじゃないけど、やられた…!」

 

「気にするな円堂。オレ達が取り返す」

 

 

点を取られた雷門から試合が再開されるが、すぐにボールを奪われてしまう。そのボールは大きく打ち上げ、キーパーの杉森に…

 

 

「……まさか、御影の奴ら…!!」

 

 

オレの予感は当たってしまい、御影専農は自陣でのパス回しや、コーナーでのボールキープなど、時間稼ぎに徹した行動を取り、前半が終了した。

 

 

「点差を守るのも戦術の一つだけど、流石にこれは…」

 

「勝てれば何でもいいんでしょうね。いい気はしないわ」

 

「こんなの、サッカーじゃないですよ!」

 

「私も…あんなサッカー、見たくないよ」

 

 

マネージャー達も、いい感情は抱いていない。

観客達の方を見てみると、同じ御影専農の生徒の顔もよくな……

 

 

「あっ」

 

 

御影専農の生徒が多くいる方の後ろに、見覚えのある姿を見かけた。

あのドレッドにおしゃれゴーグル、間違いない。

オレを中バカと呼んだらしい男。

 

 

「………どういう意図かは知らないけど、そこで見てろよ」

 

「半田!お前も杉森たちのとこに行こうぜ」

 

「ああ。オレも言いたいことがあるからな」

 

 

あんなプレイをさせられて、黙ってられる円堂やオレ達じゃない。

他のみんなも引き連れて、杉森達のところへと向かった。

 

 

「杉森!!さっきのプレイはなんなんだよ!!」

 

「…キミたちか」

 

「攻めてこないのはともかく、あそこまで徹底的な時間稼ぎはどうなんだ?」

 

「その方が効率的だからだ。1点差だろうが10点差だろうが、勝利は勝利だ」

 

「だからって!あんなプレイをしてて楽しいのかよ!」

 

「楽しい…?円堂。キミは一体何を言っている?楽しいというのは、感情の話だろう。我々がやっているのは、データに基づいた管理サッカー。そこに感情などという、不明瞭なものが入り込む余地はない」

 

「そりゃそのデータってやつからしたら、感情ってのは不明瞭だろうな」

 

「半田!?」

 

 

オレが杉森の言ったことに対してそう返すと、円堂やみんなが驚く。

……まあ、今のはオレの入り方が悪かったな。

 

 

「でもな。お前が言ってるその不明瞭なものって、必要ないって意味で言ってるんだとしたら、足元を掬われるぞ」

 

「…………キミはいったい、何がしたいんだ?」

 

「どういうことだ?」

 

「我々に宣戦布告したと思えば、数日間練習している様子を見せず。姿を表したと思えば、やっているのは新体操だった。そして今日の試合ではベンチスタート。我々でなくても、率直に疑問を抱くだろう」

 

「……いや、まあ。お前ら視点だと本当にオレなにしてんだって話だけど」

 

「ホント。新体操部は女子限定だからね。転部なんてできないよ?」

 

「いやマックス。その話はもういいから。とにかく、杉森」

 

「…なんだ」

 

「後半こそ、サッカーをしてもらうぞ。お前達だって、本当は分かってるはずなんだ。サッカーは楽しいものだって」

 

 

 

 

後半が始まる。

オレは土門のいたポジションに入り、その土門は栗松のポジションに入る。

 

 

「半田さんが打ち抜くとこ、ベンチで見てるでやんす!」

 

「ああ。見てろよ、栗松!」

 

 

栗松からのエールを受け取り、やる気も上がる。

前半がこちらからのキックオフだったため、後半は御影専農からのキックオフとなる。となると…

 

 

「やっぱり、こうなるか…」

 

 

後半も前半と同じく、時間稼ぎに徹するやり方をしてくる。

こちらのディフェンス技はクイックドロウ、コイルターン、キラースライド、スピニングカットの4つ。

どれも選手が固まってる場合は有効な手とは言えないものばかり。

帝国のサイクロンが使えたら、そこまで苦労しないで済むんだが…無い物ねだりだな。

ただ、杉森の方を見てみると不自然な動きをしている。

誰かと話しているようにも見えるけど、この状況だと監督とか…?

杉森が何をしているのか気になるけど、それよりも目の前のことをどうにかしないとな…

 

 

「どうしたものかな…」

 

「攻めて来ないんじゃ、こんなとこにいても仕方ない!」

 

「まあそうだな。あっちが攻めて来ないんじゃ、円堂がゴールにいても仕方な…はい?」

 

「うおおおおおお!!」

 

「円堂!?」

 

 

円堂の声が近づいて聞こえたと思って振り返ると、円堂がゴール前から走り出して来ていた。

そのガラ空きになったゴール前には、突然のことに半分対応できてない土門が両手をバタつかせながら立っている。

まさかのゴールキーパーが攻め上がってくることなんて、さすがの御影専農のデータにも無かったんだろう。ていうかあってたまるか。突然の円堂来襲に対応できず、ボールを奪われている。

 

 

「な、何故だ!?」

 

「杉森!いくぞおおお!!!」

 

 

円堂が渾身のシュートを叩き込む。

一応、1年の頃はオレ達とシュート練習もしてただけあって、ポストの端の方へとシュートを打てている。

円堂も円堂で、いいシュート打てるんだよな。

 

 

「キミのシュートは、データにない…!」

 

 

だから、あってたまるか。

円堂渾身のシュートは、杉森にキャッチされてしまう。

 

 

「くそおおおおお!」

 

「何故キミが攻撃に参加する?」

 

「何故って、点を取るために決まってるだろ!それがサッカーだ!」

 

「点を防ぐのもサッカーだ!早く戻れ!!」

 

「へへっ、久々のシュート、楽しかったぜ!」

 

 

今の円堂の行動が引き金となったのか、杉森の動きが変わった。

 

 

「オフェンスフォーメーション、シルバー1だ!」

 

「なっ、杉森!命令違反だぞ!!」

 

 

杉森が打ち上げたボールをミッドフィルダーが受け取るも、それを壁山が体を張って防ぐ。

そのボールをマックスが拾い、鋭いターンで守備を突破する。

 

 

「やっぱり、イナビカリ修練場の成果が出てるな」

 

「能力のデータを上回ろうが…!」

 

「ぐっ!」

 

 

マックスがボールを奪われ、そのボールは下鶴に渡る。

 

 

「いくぞ!パトリオットシュート!!」

 

 

下鶴がボールを打ち上げ、少しするとミサイルのようになったボールがゴールへと襲いかかる。

下がって来ていた豪炎寺がシュートコースに入ると、そこに円堂も割って入る。

 

 

「豪炎寺!」

 

「円堂!何をするつもりだ!?」

 

「このままシュートだ!」

 

「このまま…そうか!円堂!」

 

「ああ!いくぞ!!」

 

 

2人がシュートを蹴り返す。そのシュートはイナズマを纏って突き進む。

 

 

「なんだと!?」

 

 

円堂と豪炎寺のツープラトンシュート、イナズマ1号。

データを大きく上回ったのだろう。反応出来ず、杉森ごとボールがゴールへと突き刺さる。

 

 

「攻撃と守備が同時なら、あっちは対応できないんだ!」

 

「円堂くんと豪炎寺くん、あんなシュートを打てるようになるなんて!」

 

「前半の頃から思ってましたけど、みなさんの動きも格段に良くなってますよ!」

 

「イナビカリ修練場のおかげかしらね」

 

「うん。あとは、半田くんの練習の成果が上手く出せれば…」

 

 

まずは1点、取り返した。まだ試合は分からない…?

 

 

「なんでやんしょ?御影専農の様子がおかしいでやんす」

 

「監督…途絶って聞こえますけど…あっ、あの監督、逃げましたよ!」

 

「ウソ!?まだ試合は分からないのに…!」

 

「………」

 

「ふ、冬海先生?急に立ってどうしたんですか?」

 

「野暮用です。すぐ戻りますから、大丈夫ですよ」

 

 

司令塔を失い、呆然とする杉森達。

負けが決まったわけじゃなければ、まだ同点となっただけなのに逃げ出したあの監督に怒りが湧いてくるけど、それだけじゃない!

 

 

「杉森!!まだ試合は終わってないだろ!!」

 

「………指示がなければ、我々は何も出来ない。我々の敗北だ」

 

「何言ってるんだ!まだ同点だろ!!それにオレ、言ったよな!後半はサッカーをしてもらうって!」

 

「サッカーなら、今までもしていただろう。我々にはもう…」

 

「杉森、オレは見逃さなかったぞ。さっきお前は監督の命令に逆らって、攻めの指示を出したんだ。それは監督の管理サッカーじゃなくて、お前達、御影専農のサッカーだったんじゃないのか!」

 

「…っ!」

 

「………だったら、待ってろ杉森。オレが見せてやる。オレのサッカーを!!」

 

 

魂が抜けていたような御影専農の選手だったが、ほんの少し、勢いを取り戻したのか、試合が再開される。

 

 

「クイックドロウ!」

 

 

マックスがクイックドロウでボールを奪い、オレにボールが渡される。

 

 

「さっき啖呵切ってたけど、僕たちにも見せてよね。練習の成果。半田のサッカーってやつ」

 

「……ああ。見ててくれ!」

 

 

オレはボールと共に攻め上がる。

目の前には堅牢な守備が展開されている。

 

 

「ジグザグスパークを警戒しろ!足元に気をつけるんだ!」

 

 

杉森がジグザグスパークに備えているが、今回のオレは、ジグザグスパークじゃない。

オレが木戸川清修の試合映像で見たドリブル技。

それは、これだ!

 

 

「ムーンサルト!!」

 

「なにっ!?」

 

 

体操競技の技であるムーンサルト。

ボールと共に宙返りすることで、上空から守備を抜き去る。

 

 

「守備を突破しようが、キミだけでは…!」

 

「そのままなワケ、ないだろ!!」

 

 

ムーンサルトの捻りをそのまま利用することで、今までのそれとは勢いが全く違う。

今まで足りなかったのは、シュートの強さじゃなくて、これだったんだ!!

 

 

「ローリングキック!!」

 

 

今までのローリングキックと比べて、威力はたぶん2倍にはなっているだろうけど、ファイアトルネードを防いだシュートポケットを突破できる威力にはいってない。

でも、この状況からのシュートは予想してないだろ…!

 

 

「シュ、シュートポケ…うおおお!?」

 

 

そのままローリングキックを打つとは思わなかったんだろう。

さっき喰らった初見殺しのおかえしだ。

 

 

「見たか!オレのシュートを!!」

 

「見た見た!十分見た!まさか木戸川清修のドリブル技を流用するなんて!」

 

「これが…半田真一、いや…雷門の底力、ということか…」

 

「……杉森。まだ試合は終わってねぇぞ。残りの時間、お前達のサッカーを見せてくれよ!」

 

「………みんな!まだ諦めるな!ここで終わるワケにはいかないんだ!そうだろう!?」

 

 

杉森は頭に付いたケーブルを千切り、他の選手もそれに続いた。

完全に取り戻したようだな。管理なんかされない、自分たちのサッカーを。

 

 

「円堂!ここからが本当のサッカーだ!油断するなよ!」

 

「当たり前だ!勝つのはオレ達、雷門だ!!」

 

 

 

 

「よかった…半田くん。やったね」

 

「これはまた、新聞部に投稿しなきゃですね!イナズマ1号といい、新生ローリングキックといい、取れ高だらけです!」

 

「取れ高って、そういうのでいいんだっけ…?」

 

「……それにしても、遅いわね。冬海先生」

 

 

 

 

 

 

 

「いかがです?貴方が見捨てた選手たちは、実にいい選手たちだったじゃないですか」

 

「お、お前に何が分かる…!そ、総帥に見捨てられたら終わりなのは、お前もよく分かっているはずだ!そもそも、何故総帥の指示に逆らい続けられる!?このまま無事でいられるはずがないだろう!?」

 

「…………その内沈むと分かっている泥舟に、乗っていられるはずがありませんからね」

 

「な、なんだと…!?」

 

「あちらから切られたなら、このまま加担することも無いですし、今は大人しくしておいた方がいいですよ。あとまぁ、このことも内密に。貴方まで巻き込まれますからね」

 

「……な、何が目的なんだ、貴様は…」

 

「目的って、当然じゃないですか。私はただ、見たいだけですよ。彼らが優勝するところを。この目でね」

 

「…………」

 

「…こちらの勝ち、ですね。とにかく、今は大人しくしときなさい」




YouTubeで公式無料配信されてるんで、観て来てください。
ゲームのローリングキックとアニメのローリングキック、あれで絶対同じ威力なワケないし、なんならアニメの方未完成って言ってもいいと思うんすよね。
てことで逆行半田のローリングキックはゲーム準拠の挙動となって、威力上がりました。
その代わり二つの技を掛け合わせたみたいな感じなので、最初のうちは燃費悪いです。
具体的に言うとTPが3分の2まで減っちゃいます。めちゃくちゃ悪い。


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メイド喫茶へようこそ?

①秋葉名戸戦はどこもいじれる余地なさそうだしパスするかなぁ…
②やっぱ書くわ。
この現象に名前ありません?


ちなみに今更なんですが、なんで基本9時ちょうど投稿かというと、なんとなくアニメの時間に合わせてるだけと深い理由はないです。
最初の方は9時投稿になってませんでしたけど、この頃と今後は基本朝9時投稿です。
なので部屋を明るくして近づき過ぎないようにして読みましょうね。


御影専農戦が終わって少し経ち、明日の試合に向けてみんなで練習…と行きたいんだが。

 

 

「すまない…」

 

「気にするなって。早く治してこいよ」

 

 

御影専農戦の最後の方、まさかのファイアトルネード同士の激突により、豪炎寺が利き足を負傷。治療のため次の試合は不参加となってしまった。

 

 

「豪炎寺が出ないんじゃ、半田がフォワードに出てもいいかもな」

 

「それいいかもな。目金も出れるよう、準備しとけよ?」

 

「は、はい!僕もサッカー部ですからね」

 

 

よし。豪炎寺のためにも、明日の試合に向けた練習だ。

 

 

「グレネードショット!!」

 

「クンフーヘッド!!」

 

 

宍戸と少林がそれぞれシュート技を習得した。

一気に火力上がったな。後はドリブルとディフェンスもちょくちょく覚えていかないと。

ディフェンスは風丸と影野と土門が覚えてるけど、なるべく中盤のオレ達も覚えたいんだよな。

めちゃくちゃ喰らって身体が覚えてそうなやつがあるから、それ頑張ってみるのもいいかもな…

 

 

「みなさーん!次の対戦相手が決まりましたよ!」

 

「おっ、地区予選準決勝の相手か。たしか尾刈斗と…えーと、なんだっけ。秋葉…」

 

「そっちです、半田さん。秋葉名戸学園が尾刈斗学園に勝って、準決勝へ進出です」

 

「尾刈斗ってたしか、この前戦った時より強くなったって言ってなかったけ?」

 

「雷門にリベンジするためらしいです。その尾刈斗に勝ったんですから、実力が伺えます」

 

 

秋葉名戸か。アイツら自体は完全には覚えてないけど、それの前のことは覚えてるんだよな。

 

 

「どうやら、稲妻町の商店街にあるメイド喫茶に頻繁に通ってるらしいですよ」

 

「メ、メイド喫茶…?」

 

「メイド喫茶ですって!?」

 

「やっぱ反応するよなぁ…お前なぁ…」

 

「いや、目金お前。さっきやる気出した発言してたから練習に付き合ってたら、パス受けるよりも前に早くこっち来るのはどうなんだよ」

 

 

目金が高速で現れ、それに続いて青筋を立てた染岡がやって来た。

案の定来るとは思ったけど、染岡の立場からしたらそりゃ怒るよなぁ。

 

 

「ここは視察のため、メイド喫茶へ行くべきだと考えます!」

 

「オレはパス。興味無いって言ったらウソになるけど、今じゃないだろ。そこ行くんだったら雷々軒でラーメン食べたいし」

 

「えっ…半田くん、興味あるの?」

 

「まぁ、行ったことないとこだし、そういう意味での興味は…って顔怖いし近いって大谷!前にもこんなことなかったか!?」

 

「………まぁ、たしかに。私も雷々軒行ったことないから、そういう感じなら興味あるけど」

 

「そ、そっか…なら今度、一緒に行くか?」

 

「………えっ、いいの?」

 

「うん。そこそこ広いし、みんな居ても大丈夫だと思うぞ」

 

「…………………」

 

「………はぁ。ならば半田くん。今日は私がご馳走しますから、今度その分で大谷さんと行きなさい」

 

「えっ、急にどうしたんだよ冬海。奢ってくれるってのならいいし、別に大谷に奢るのもいいけど。ってかなんで冬海とオレで行くんだよ」

 

「ちょうど、私も行きたいと思ってところなんですよ。ほら、さっさと行きますよ」

 

「いや、みんなはどうすんだよ。オレだけ奢るのってダメだろ」

 

「………貴方、本当に気付いてないんですか」

 

「えっ?」

 

 

冬海がオレの後ろに目を向けてたので、それに振り返ると、オレと大谷と冬海以外誰もいなくなっていた。

 

 

「い、いつの間に!?」

 

「目金くんが男子全員を引っ張って行き、木野さんと夏未お嬢様は音無さんの手伝いをしに行きましたよ。ここで勝てば、次は帝国でしょうからね。秋葉名戸も含めて、情報収集だそうで。つまり、貴方と大谷さんが黙っていればいいだけの話です」

 

「置いて行くのも、ここまで来たかよ…まぁ、元からパスするつもりだったんだけど。じゃあ大谷、準決勝終わってからでいいか?」

 

「う、うん…楽しみにしてるね」

 

 

 

 

 

 

 

「ねぎラーメンと、雷々セット。待たせたな」

 

「……遠慮ってものは無いんですかねぇ」

 

「奢ってくれるってんなら、良いもの頼むだろ」

 

「だからって、ラーメンに餃子と半チャーハンと、欲張りにも程があると思うんですがねぇ…」

 

「……………珍しい組み合わせだな。アンタと坊主ってのは」

 

「冬海が奢ってくれるって言うんで…って、冬海のこと知ってるんですか?」

 

「………冬海って言うのか」

 

「仕事終わりにたまに来るぐらいですよ…この辺りの社会人なら、珍しいことはないでしょう」

 

「よく言う…昔サッカーをやってなかったかと、よく聞いてくる厄介な客のくせに」

 

「…………えっ?」

 

 

冬海が……響木さんにサッカーのことを?

 

 

「私も、一応今の雷門中サッカー部の顧問ですからね。過去の雷門中サッカー部の記録ぐらい、見たことはあります。雷々軒だけじゃなく、この商店街の店の主人の多くが、過去の雷門中サッカー部メンバーですよ。貴方も、スポーツショップとかぐらいは入ったことあるんじゃないですか?」

 

「ま、まぁ…ソックスとか色々買いに……えっ、あのゴツいおじさんのことか?」

 

「……………ええ。そうですよ」

 

 

…………なんか、冬海がオレのことを白々しいとでも言いたげな目で見てたけど、気のせい…じゃ、ないよな?

 

 

「……そこまで知ってるなら、わざわざオレに聞くことはないだろう。今はただのラーメン屋だ。サッカーの話がしたいんなら部員とすればいいだけの話じゃないのか」

 

「……次の準決勝に勝てば、決勝戦です。ここの地区予選で決勝戦と言えば、貴方ならよくご存知のはずではないんですかねぇ…」

 

「…………なんだと?」

 

「彼らは日本一を目指しています。そのためにも、まずは地区予選を勝ち抜かなければなりません。影山零治のいる、帝国学園に」

 

「………………」

 

「……準決勝は大丈夫でしょうが、決勝は激しい戦いになるでしょう。そうなるとやはり、監督は欲しいんですがね。どうも、候補がいないので…どうにかするしかないんですが。ほら、半田くんもさっさと食べなさい。冷めますし、伸びますよ。まさかそれだけ頼んでおいて、残すとか言いませんよね」

 

「あっ、ああ……流石にそんなことしないって」

 

 

とりあえず、食べちゃうけどさ…

……チラッと隣の冬海を見ても、トッピングのねぎを食べ続けるいつもの冬海だった。

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「ご、ごちそうさまです…」

 

 

冬海と一緒に店を出る。

後ろにいる響木さんを見てみると、この前秘伝書のことを教えてくれた時のように、雰囲気が変わっていたような気がした…

 

 

「………さて、雷門中に帰りますか。そろそろ円堂くん達がメイド喫茶から帰ってくる頃でしょうし。ここにいると、怪しまれますからねぇ」

 

「…………冬海」

 

「なんです?」

 

「………響木さんのことを知ってるの、記録を見たからじゃないだろ?」

 

「…………なんのことですかね。早く帰りますよ」

 

「…………ああ。分かってる」

 

 

雷々軒の主人の名前が響木さんっていうことを、一応記録を見たって言う冬海ならまだしも、オレが知ってるはずはない。

ただの客にしか過ぎないオレに、名を名乗るような人じゃないってことを、それなりに通ってる冬海なら、想像が付くはずだ。

なのに、冬海はそのことについて問い正すことをしない。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

雷門中に帰るまで、互いに無言だった。

このことは、お互い黙っているという、暗黙の了解なようなものが、そこにはあった。




ようこそ?と疑問系なので、タイトルにウソはないです。
ホントは雷々軒にようこそでした〜と大遅れのエイプリルフールです。

とりあえず、そういうことにしときましょうね。


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恐るべし必殺技

クセのある必殺技ばかりなんだもの。


400人以上もお気に入り登録してくれまして、嬉しい限りでごさいますよ。ウルトラ感激であります。
不定期更新ですが、中途半端な逆行を見届けてくれるとこれ幸いなのでございますよ。


ところでやっぱみんな冬海大好きじゃろ。そんなデートしたいかい。


迎えた準決勝当日。

昨夜はいよいよ試合だなと思って寝ようとしてたとこに、少し前から何か忘れてるようなと思ってたことが爆発した。

 

 

「メイド喫茶でご飯食べた翌日…試合前で体調悪くなったんじゃなかったか……?」

 

 

薄らとした記憶の底に、そんなことがあったようなとひょっこりと出て来てしまった。

もしそうだったとしたら本当にマズい。最悪オレ1人頑張らなきゃいけないと思い、朝一で全員に電話をしてみたところ…

 

 

「どうしたんだ半田。こんな時間から珍しいな」(風丸)

「お前からのモーニングコールとか、あんま嬉しくねぇぞ」(染岡)

「半田からのモーニングコールってなにさ。えっ、染岡と被ってる?」(マックス)

「ありがとな半田!おかげで寝坊しないで済んだぜ!」(円堂)

「オレこれから朝ご飯の牛丼なんですよ!」(壁山)

「…………遅刻なんて、しないよ」(影野)

 

 

みんな元気だった。なんなら試合前の今でも普通に元気。

………やっぱり、オレの記憶も当てにならないんだなぁ。戻って来たとはいえ、もう10年以上も前のことだし。

まぁ、流石にエイリア学園が襲来してきた日のことは、間違えようもないけどさ。

 

 

「ポジションはどうする?昨日言ったみたいに、染岡と半田でツートップやってみる?」

 

「やってみるか、染岡」

 

「この先オレや豪炎寺が参加出来なくなることもありそうだしな。そん時は半田がフォワードに入るだろうし、やってみるか」

 

「じゃあ、この前みたいに半田のポジションに土門にするか。目金も、いつ交代されてもいいように身体慣らしといてくれよな」

 

「も、もちろんです…」

 

 

で、それぞれポジションに着こうかって時に…そういえばマネージャーのみんなが居ないことに気づいてしまった。

 

 

「そういえば、マネージャーが誰一人もいないけど、どうしたんだ?」

 

「あと、冬海先生もいないな」

 

「……マジだ。冬海もいない。気づかなかった」

 

「キミはもっと周りを見なさい。まったく」

 

「あっ、帰って…き………」

 

 

冬海が帰ってきたら、その奥にマネージャー3人もいた。

ただ、その3人の格好がいつもの雷門制服とは違っていて…

 

 

「いえーい!」

 

「な、なんで私がこんな…」

 

 

というか、完全にメイド服だった。なんでさ。

 

 

「ふ、冬海……まさか……」

 

「そんなワケないでしょう。秋葉名戸の人たちがマネージャーに声をかけていたので、私も着いていっただけです。もちろん、部屋の前までですが」

 

「えっ、てことはアイツら…!?」

 

「いえ、あちらの女性マネージャーだそうです」

 

「アイツらを信じてた」

 

「おい、コイツ今すごい速さでカバンから携帯取り出したぞ」

 

「ああ。オレよりも速かったぞ」

 

 

やっぱ犯罪に手を染めるようなことはしなかった。そういうのは影山とかああいう奴らだけだよな。

いや、流石の影山もこの方面はないだろうけど。

 

 

「……………」

 

「………このぐるぐる巻き、なに?」

 

「まあ、残ってるメンバーで考えれば…」

 

 

木野と音無がノリノリでそこにいて、雷門は複雑な顔でそこにいる。

じゃあ、目の前にいるぐるぐる巻きのタオルは誰だとなると…

 

 

「……嫌なら無理しなくていいと思うぞ。大谷」

 

「……………」

 

「まぁ、似合ってると思うけどな。大谷。じゃあオレ達、フィールド行くからな。着替えるなら試合中にでも行って来な」

 

 

そう言ってオレは既にみんなが移動しかけてるフィールドへと向かった。

別にお世辞とかじゃなくて、普通に似合ってると思うんだよな。顔見えないけど。

………いや、これもしかしてよくない対応だったか?後で謝っといた方がいいのか?でも謝るってどう謝るんだよ。どうしよう。

 

 

「………………」

 

「……この湯気、どちらのなんでしょう。冬海先生」

 

「目金くん、私に聞かないでください。あとマネージャーの方々は、そろそろタオルを外してあげてください。お水の準備もです」

 

 

そんなことを思ってベンチの方を見ると、大谷からめちゃくちゃ湯気が出ていて、それを外そうとするマネージャー3人。それと生暖かい目でオレの方を見る目金と冬海。

正直めちゃくちゃ気になるけど、そろそろ試合だから放っとくか。

 

 

「…相手のフォーメーション、すごいな」

 

「フォワード5人か。攻撃メインなのか?」

 

「というよりは…いや、分からないか。後で言う」

 

 

マックスが何か言い掛けてたけど、オレもなんとなく察してる。

実際は分からないから、後半でって感じなんだろうな。

 

 

「とりあえず、まずは前半だな」

 

 

こちらのフォーメーションは、普段豪炎寺が入ってる所にオレが入り、オレがいるところに土門がいる。

オレと染岡がフォワード。マックスと土門に宍戸と少林がミッドフィルダー。風丸と影野、壁山に栗松がディフェンダー。キーパーは我らが円堂の布陣だ。

 

 

「よし!みんな、行くぞ!」

 

『おう!!』

 

 

 

 

 

と、気合いを入れたのはよかったが…

 

 

「めちゃくちゃ調子崩されたんだけど」

 

 

今は前半が終わってハーフタイム。

軽く前半を振り返ると…

 

 

 

「ジグザグ…」

 

「秘技!フェイクボール!」

 

「スパー…あれ?なんかボールが重っ…スイカ!?」

 

 

 

「ローリングキック!」

 

「ド根性キャッチ!!」

 

「いやお前なにしてんだ!?」

 

 

 

「円堂!シュート技来るから気をつけろ!」

 

「ああ!ゴッド…」

 

「うおりゃああああああ!!」

 

「って、ええええ!?」

 

「ド根性バットォォォォ!!!」

 

「えっ、ええ…うわぁ!?」

 

「円堂ォ!?」

 

 

 

「ドラゴンクラッシュ!!」

 

「行くぞ!五・里・霧・中!!」

 

「煙出したってオレのドラゴンクラッシュは…んな!?」

 

「あのシュートコースでゴール裏に行くことあるか!?」

 

 

 

「今度こそ!ローリングキック!」

 

「今度もド根性キャッチ!!」

 

「だからお前何してんだ!?」

 

 

 

「なんなんだアイツら…」

 

「妙な必殺技ばっか使ってくるし…」

 

「て言うか、なんでオレのローリングキックはあんな技使ってくるんだよ…」

 

「おかげで半田、調子崩されまくってるもんな…」

 

「でも、大丈夫だ!流石に次はあのシュートに対応できる!」

 

「まあ、最初にあんなの見たら対応出来ないよな…」

 

 

そろそろ後半が始まる。染岡のシュートが外れた理由も考えないといけないんだけど、前回の記憶思い出しても碌なのが無い。

前回のアイツが使ってた必殺技みたいなの、ずっと顔面からゴールに突っ込んでて気絶してたから、何してるのかよく分かんなかったんだよな…

 

 

「あのコースでゴールの裏に行くのは絶対におかしいはずなんです。ということは、シュートがというより……」

 

 

……目金が色々と考えてくれてるから、頃合いを見て交代するのもいいかもしれない。

一番アイツらに対抗できるのは、多分お前だからな。




なんとなくド根性キャッチも使わせました。
当時小学生でしたけど、友達と皆で大盛り上がりでした。
男の子ってば純粋にカッコいい必殺技も好きだけど、ああいうくだらない必殺技も好きなんだわさ。


次回、目金出陣。


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奮起する目金

奮起するそうです。


後半が始まり、しばらくは攻防が続き…はしなかった。

秋葉名戸の選手達が露骨にラインを下げていたからだ。

 

 

「あー…やっぱり、あのフォーメーションってこういうことだったのね」

 

「マックスも考えてたか。まぁ、やってることの本質は、管理されてた頃の御影専農みたいなものだよなぁ…」

 

 

フォワード5枚のフォーメーションの理由は、前半で点を奪い、後半はほぼ全員が守備に周り、その点差を守り切るってことだったんだろう。

オレ達の目の前に広がる光景は、露骨な時間稼ぎとまではいかなくとも、前試合の前半終盤の御影専農と同じようなものだった。

 

 

「僕たちが前後半ぶっ通しで全力出せるワケないだろ!!」

 

「何故ならスタミナが保たないからなのだ!!」

 

「何も言ってねぇし聞いてもねぇよ!!」

 

「威張ってんじゃねぇぞ!!」

 

 

オレと染岡がそんな声を上げながらボールを奪わんと攻めに行く。

スルーすればいいだけの話なんだが、やっぱ調子崩されるなぁ…!

 

 

「クイックドロウ!」

 

「なー!?おのれ悪の手先、おしゃれ帽子め!」

 

「誰が悪の手先だよ。半田!」

 

「あ、ああ!おしゃれぼう…マックス!」

 

「いま何言いかけた?」

 

 

ダメだ。次に戦う帝国や、恐らく本戦決勝で戦う世宇子中よりも、相手のペースに呑まれちゃいけない相手だ。別の意味で危険すぎる。

一度呑まれたら、とことん持ってかれるぞ…!

 

 

「2番線、電車が参ります」

 

「今度はこっちで…!ムーンサルト!」

 

 

上空から守備を抜き去り、この状況なら、アレで行くか…!

 

 

「3度目の正直ってやつだ!ローリングキック!!」

 

 

今までのローリングキックより、威力はかなり上がっている。

これなら、相手の動きもいくらかは変わるはずだ!

 

 

「ああああ!ギリギリ間に合った!五里霧中!」

 

「えっ、お前らいつの間に…!?」

 

 

本当にギリギリでシュートが届く前に間に合ってしまい、上空にいる間に煙を起こされ、オレが着地する頃には、ボールはゴールの後ろまで行ってしまった。

 

 

「尾刈斗じゃないんだから、不思議な力でも働いてるワケは…ん?」

 

 

なんだ?五里霧中を使ったディフェンス陣が疲れてるのはともかくとしと、ずいぶんとキーパーの息が上がってるように見えるな…

 

 

「……それに、ゴールの場所もおかしいような」

 

 

正面から見てるワケじゃないから何とも言えないけど、ゴールエリアの真ん中辺りにゴールがあるはずなのに、少し右に寄ってる気もする。

キーパーも息が上がっている。

強力なシュートが来たら煙を起こしてゴールを隠す。

ボールは毎回ゴールの後ろに行く。

そして、前回の記憶では、キーパーが毎回ポストに突っ込んでいて……

 

 

「………えっ、まさかそういうこと…?」

 

 

いや、たしかにそうなんだとしたら、合理的ではあるんだろうけど、実際どうなんだっけ?ちゃんとルール決まってたはずなんだけど。

まぁ、必殺技の1つって考えたらいいのか。そうだな。問題は無いのか。

 

 

「でも、流石に飛ばしすぎたか…」

 

 

これで3回目のローリングキックで、まだムーンサルトを混ぜたローリングに身体が慣れていない状況だ。

今すぐ次のシュートまでは、ちょっと無理だな…

 

 

「……選手交代です。半田真一から、目金欠流へ」

 

「えっ?」

 

 

珍しく、試合中に冬海の声が聞こえた。

しかもそれは、交代の合図と来た。

それを聞いたオレは、ベンチの方へと走る。

 

 

「あちらのゴールキックから始まるなら、このタイミングの交代は問題ありませんね?」

 

「ま、まぁ…そうだけど。にしても、よく分かったな。絶好のタイミングの交代だぜ」

 

「マネージャー4人の後押しもありましたし、何より目金くんのやる気がすごいのでね」

 

「はい!あんな戦い方、見過ごすワケにはいきません!」

 

「…なら、目金も気付いてるってことでいいか?」

 

「もちろんです!マルっとお見通しです!」

 

「分かった。1点もぎ取って来てくれ!」

 

 

目金はオレのポジションへと向かった。

その時の走り方もなんか、ズンズンって効果音付きそうな感じの走り方してたから、本当にやる気爆発してるんだろうな。

 

 

「んじゃ、この間にちょっとだけ休んで、いつでも出れるようにしとかないとな」

 

「はい、半田くん。お水」

 

「おっ、ありがとな大た…に……?」

 

 

大谷が水を差し出してくれて、それを受け取る。

お礼を言おうと大谷の顔を見たところ、なんか、後半始まる前と比べて、明らかに何かが増えてる。

 

 

「………ネコの耳なんて付いてたっけ?」

 

「秋ちゃんたちも、イヌとかウサギの耳とか付けてるよ。またあっちのマネージャーがこっちに来て、流れで」

 

「自由過ぎない?あと大谷も、慣れたの?」

 

「うん。慣れちゃった」

 

「慣れちゃったか…」

 

 

そんな話をしている内にも、試合は進んでいる。

 

 

「スパイラルショット!!」

 

 

サラッとマックスが新必殺技を繰り出してた。

たしかアイツ、ドリブル技を覚えたいとか言ってた気するんだけど、それどう見てもシュート技だよな?ドリブル技じゃないよな?

 

 

「未確認のシュートだ!ならやっちゃうぞ!五里霧中!!」

 

 

それを見て、もう何度目かの五里霧中を繰り出す。

 

 

「いい加減にその種、暴かせてもらいますよ!」

 

「お、おい!目金!?」

 

 

煙の中へ、目金が突撃していった。

 

 

「ちょ、ちょっとなにするんだよ!?」

 

「こちらのセリフですよ!よくもほぼ反則みたいなことしてくれましたね!」

 

 

煙が無くなると、そこには目金がディフェンス陣の邪魔をしていた。

いや、正確にはゴールを元の位置に戻そうとするのを邪魔していた、だな。

 

 

「どうりで、毎回打ったボールがゴールの後ろにあると思ったよ…」

 

「こんな選手に直接的な妨害してもいいと思っているのかね!?」

 

「ならゴールをずらしてもいいとでも思ってるんですか!?」

 

 

やっぱダメだよな。必殺技と言われたらそれまでだけど、やっぱダメだよなそりゃあ。

その流れのまま、あちらのゴールキックから再開される。

 

 

「僕たちはどんなことをしてでも、勝たなきゃいけないんだよ!」

 

「だからって手段を選ばなさすぎです!そんなことをして、自分が愛する作品達への冒涜へとなりかねませんよ!?」

 

「う、ううう……」

 

「……隙だらけだね。コイルターン!」

 

 

目金の言葉で、あちらの動きが鈍った。

その隙をついて、影野がボールを奪う。

 

 

「染岡くん!ドラゴンクラッシュを!」

 

「もちろん打つが、あれがなくてもまた同じことにならねぇか?」

 

「大丈夫です!僕に考えがあります!」

 

 

影野が染岡にパスを出し、目金も共に攻め上がる。

考えがあるって言うけど、どうするつもりなんだ?

 

 

「や、やらせてたまるか!五里霧中!」

 

「そんな卑怯な戦い方をして、これからも勝ち続けられるとでも思ってるんですか!?」

 

「これが、オタクの戦い方だ!」

 

「自分の好きなものに誇りを持ち、真っ直ぐにいられるのが真のオタクなはずです!今の僕の言葉に反論出来てない時点で、自分でも認めてるようなものじゃないんですか!?」

 

 

あっ、今のトドメになったな。

完全にディフェンス陣が崩れ落ちて、残るはキーパーだけになった。

 

 

「今です!染岡くん!」

 

「やってやらぁ!ドラゴンクラッシュ!!」

 

「こ、こうなったら僕だけでも!ゴールずらし!」

 

 

ゴールに体当たりして、ゴールごとずらしやがった…

まあ、どんな強力なシュートでも、ゴールに入らなきゃ意味ないからな…

あれ、世界大会の時に円堂が似たようなコンセプトの技使ってなかったか?これとは全然違うだろうけど。

さて、目金の考えって……

 

 

「ふっ!!!」

 

 

マジかよ。自分の顔面でシュートコース変えたぞ

たしかに、ゴールをずらされたんなら、シュートコースを調整すればいいってのは合理的なんだろうけど、メガネ大丈夫か?割れてない?

 

 

「こ、これぞ…メガネクラッ…シュ……」

 

 

言ってる場合か。気絶しちゃったし。

仕方ない。後はオレに任せて、お前は寝てな。

 

 

「冬海。もうオレは大丈夫だぞ。目金を拾いに行かなきゃいけないしな」

 

「……では、再び交代ということで」

 

 

秋葉名戸の方を見ると、目金のことを尊敬の眼差しで見てるような、そんな気がした。

オタクとか、そういうことはオレにはよく分かんないけど、自分の好きなことを貫き通すってのは、どれにおいても大事なことなんだろうな。

 

 

「………その姿勢は、オレも見習わないといけないな」

 

 

目金をおんぶしながら、そう呟いた。

 

 

 

 

 

結果を言うと、染岡のドラゴンクラッシュがド根性キャッチを吹っ飛ばし、勝利をもぎ取った。

目を覚ました目金は、秋葉名戸の面々に対して、しっかり勝ち続けることを約束したようだ。

 

 

「次は帝国か。リベンジと行こうぜ、円堂」

 

「ああ!地区予選を勝ち抜いて、全国に行かなきゃな!」

 

 

 

 

 

 

 

「………で、あなたはこれからどうするつもりですか?」

 

「……正直、もうこんなことはやってられませんよ。あっちでのサッカーより、雷門でのサッカーの方が、オレも楽しいし、何よりこれ以上アイツらを裏切れません」

 

「……そうですか。では、そのようになさい。私の方から、総帥や鬼道くんに伝えておきますよ」

 

「………お願い、します。オレからも、自分の口からアイツらに説明します」

 

「まあ、彼らなら許してくれるはずですよ。それは私が一番よく知ってますからねぇ…」

 

「……?」

 

「さっ、そろそろ戻った方がいいですよ。私も後から行きますので」

 

「あっ、はい。では…」

 

「………………」

 

 

土門くんが去ってから少しして、携帯電話にメールが届く。

 

 

「………やれやれ。潮時、ですかね」




ゲームだとスパイラルショットを覚えるのに、何故かアニメだとクロスドライブを使ってたマックスさん。
まあそんなこと言ったら、クイックドロウを使ったの代表選抜戦なんですけどね。


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いざ、雷々軒へ

先に言っときますが、タイトル詐欺ではないです。

前回の半田出戻りについてツッコミが入りまくりました。
あれに関しては普通に筆者のガバでございますね。
現実のサッカーとあの超次元サッカーとで一緒に出来るのかとは思いはしますが、それは主にジャッジスルーとかゴールずらしとかの必殺技に対してで、あれに関しては普通にルールの範囲内ですからね。
ゲーム、とくに無印じゃ前半中に交代して、後半始まる前におでんで全快させてまた投入ってやってたんで、それに引っ張られましたね…
こういうガバがまた起こってしまうかもしれませんが、その時は生暖かい目でツッコミを入れてくれると幸いです。

そのお詫びって訳ではないんですが、後書きにちょっとした予告を書くのでそれ関連と、ちょうど3回目のワクチンの副作用が治りかけだったのとで、連日投稿になります。次回はもう少し時間がかかりますけどね。


秋葉名戸との試合が終わった翌日のこと。

試合前に大谷と雷々軒に行くという約束を果たすため、出掛ける準備をしている。

 

 

「まあ、2人分ぐらいは出せるな。それぐらいの小遣いはあるし」

 

「真一!サッカー部の大谷さんから電話来てるよ!」

 

「えっ、大谷から?すぐ会うはずなのに、なんかあったのかな」

 

「とにかく、急ぎの用みたいだから、早く変わりな!」

 

 

母さんから電話を渡される。急ぎの用って、なんだろうな。

 

 

「もしもし、大谷?どうした?」

 

『は、半田くん……半田くんには、まだ連絡行ってない…?』

 

「えっ。連絡ってなんのだ?その様子じゃ、只事じゃ無さそうだけど」

 

『……………』

 

「……大谷?」

 

『……ふ、冬海先生が……』

 

「冬海が?」

 

『冬海先生が、車に跳ねられて、病院に運ばれたって……』

 

「…………………………は?」

 

 

 

 

 

 

 

その連絡を受けて、稲妻総合病院を向かうと、土門が病室の前に立っていた。

 

 

「半田だけで来たか」

 

「大谷に言われて、な……他のみんなは?」

 

「……円堂だけ、後から来る。大勢で来るのも、よくないからな」

 

「…………冬海は?」

 

「命に別状は無いらしい。まだ目覚めないけどな…」

 

「………」

 

「……跳ねられる前に、冬海先生から連絡があったんだ。総帥からの指示で、帝国へ来るよう言われたみたいで」

 

「…………総帥?」

 

「……ホントはみんなの前で言いたかったんだけどな。円堂が来た時に、全部話すよ。それで、自分に何かあったら、半田にこれを渡せってさ」

 

「これって…手紙?」

 

「半田だけで読んで欲しいらしい。むこうに待合室があるから、読んで来てくれ。円堂が来たら、誤魔化しておくからさ」

 

「………分かった」

 

 

 

 

 

「冬海のやつ…オレに何を……?」

 

 

待合室に着いて、冬海が書いた手紙を読む。

 

 

『これは半田くんが読んでいますね?土門くんは勝手に読むような人ではないでしょうから、それを前提として書きます。

貴方も分かっているでしょうが、私もキミと同じく、未来から戻ってきた人間です。』

 

 

……やっぱり、そうだったか。でなきゃ色んなことが説明つかないもんな。

 

 

『過去に戻れたらと思ったことは一度も無いワケではありませんでした。影山に捨てられ、落ちこぼれたり、校長の座から失脚したりと、色々ありましたからね。

ただ、私が気付いた時には、目の前に入部届けを持って叫んでいる円堂くんがいたんです。酷い言い方なのは理解してますが、目の前に悪魔がいたのと同義でしたよ。』

 

 

……………まあ、たしかに冬海からしたら、いっそのことサッカー部と一切関わらなかったら、平穏に生きていけたからだろうからな。

しかも円堂が叫んでるってことは、サッカー部は無いってことを伝えた後だったのか…アイツからしたら、最悪なタイミングに戻っちゃったのか。

 

 

『………まあ、この辺りはキミにとってどうでもいいことでしょう。

問題は、私の行動がキミからしたら、異常であったことについて。

前にも言ったかもしれませんが、私は今までマトモな教師として立ち回ってきました。

正直、キミ達に負い目がないと言うのは嘘になりますが、最終的に負けると分かっている影山に着くぐらいなら、キミ達という勝ち馬に乗った方がいいという、それだけのことです。』

 

 

…………。

 

 

『………ですので、私のことは心配なく。することも無いでしょうが、念の為です。

目を覚ますか、あるいはそのまま死んでしまうかまでは分かりませんが、影山に逆らい続けて来ましたからね。

マトモな教師として立ち回って来たこの1年とちょっとは、悪く無い時間でしたから。

帝国に勝つなら、響木正剛の力は必要です。

キミも理解してはいると思いますが、円堂くんと共に、雷々軒へ行くことですね。

キミの目的は、私も理解してるつもりです。

世界へ行くなら、こんなところで負けていられないでしょう?』

 

 

…………なにが、勝ち馬に乗りたかっただけだ。

バレてないとでも思ってるのか。アンタが、オレ達が優勝するとこぐらいはこの目で見たいって、言ったことを。

 

 

『あとは、土門くんのことについてですが…。

まあ、キミ達なら大丈夫でしょう。自分から伝えるようなので、それまでは何もしないようにしてあげてください。

……これぐらいですかね。では、また会えたら、会いましょう』

 

 

…………………。

 

 

「………目を覚ましたら、1発ぶん殴ってやるからな」

 

 

オレは冬海の手紙をポケットにねじ込んで、待合室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「本当はみんながいるところで言いたかったんだが、2人には先に言わせてくれ。オレは本当は、帝国から送られて来たスパイなんだ」

 

「スパイ…か」

 

「ああ。デスゾーンを止めた円堂や、あの土壇場でシュートまで持ち込んだ半田。豪炎寺は言わずともだし、他のみんなも成長することは目に見えてたらしい。雷門を警戒した総帥は、オレを送り込んだんだ。冬海先生も、総帥から指示を受けていたみたいなんだが、ずっと無視していてな…」

 

「冬海先生も……でも、ずっとオレ達のことを……」

 

「………なら、なんでそれをオレ達に明かそうと思ったんだ?」

 

「……今更、だけどよ。もうこんなこと、嫌なんだよ。死んだアイツにも怒られるだろうし、何よりこれ以上、お前達を裏切るようなマネは出来ない。たとえ帝国を裏切るようなことになっても、な」

 

「………そっか」

 

「だったら、最初からスパイなんて受けるなよって思うだろうけどな」

 

「そんなこと言われないさ。オレからしたら、土門も雷門中サッカー部の一員だからな!」

 

「……ありがとな。円堂」

 

「…なあ、円堂。冬海から前にも言われてたんだけどさ、雷々軒の親父さん…響木さんって言うらしいんだけど。あの人に監督になってもらえるよう、頼みに行かないか?」

 

「……そう、だな。帝国と戦うなら、監督がいてくれると、もっと戦いやすくなるはずだ。オレも、絶対あの人はサッカーをやってたって思ってたんだ。土門も行くか?」

 

「オレは…これから、みんなにさっきのことを言いに行こうと思う。わざわざ家に行くのもあれだろうけど、これはオレのやるべきことだ」

 

「……分かった」

 

「…それに、鬼道さんにも聞きたいことがあるんだ。オレが呼べば、来てもらえるだろうからな」

 

 

土門を置いて、オレ達は雷々軒へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「響木さん、お願いします!雷門中サッカー部の監督になってもらえませんか!?」

 

 

雷々軒に着いたオレ達は、客がいないことを確認してから、響木さんに頼み込んだ。

 

 

「………ここはラーメン屋だ。サッカーの話をしたいなら、顧問の冬海とすればいいだろう」

 

「……冬海は、交通事故に遭って、病院で意識を失っています」

 

「………………なんだと?」

 

 

さっきまで背中を向けていた響木さんが、こちらを向いた。

 

 

「恐らくですが、影山が関わってる可能性があります。だからと言うワケではありませんが、オレ達は絶対に帝国に勝ちたいんです。お願いします!」

 

「………………そんなに勝ちたいなら、俺に見せてみろ。お前達の覚悟を」

 

「…ッ!はい!やろう、円堂!」

 

「ああ!やるぞ、半田!!」

 

 

 

 

 

 

それから、オレ達は響木さんの試練を乗り越えた。

円堂が響木さんの打つシュートを全て止め、オレは響木さんへシュートを打ったが、止められてしまった。

止められてしまった時は、ダメかと思ったが……。

 

 

「お前のシュートには、執念が宿っている。ドス黒いものではなく、食らい付くという意思がな。そういう男は、俺も好ましい」

 

 

……響木さんのお眼鏡にかなって、なによりだ。

 

 

「帝国との試合は近い。本当は一から鍛えたかったが、時間がない。明日はみっちりと鍛えてやるから、覚悟しておけ」

 

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

………オレ達は、必ず勝つ。

目を覚ました時、腰抜かすんじゃねぇぞ、冬海。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前から呼び出すなんて、珍しいな。土門」

 

「……鬼道さん、冬海のことを知ってますか?」

 

「冬海…?ああ、雷門のことか。もちろん知ってるが、何かあったのか?」

 

「………冬海が、交通事故に遭い、病院に運ばれました」

 

「…………なんだと?」

 

「目撃者から話を聞きましたよ。明らかに、冬海目掛けて車がやって来たって。しかも、冬海は事前に、総帥から呼び出されていました。これは事故に遭う前に本人から聞いたことですから、間違いありません。呼び出された先で、事故に遭うなんて…偶然とは思えませんよ」

 

「……………」

 

「たしかに、総帥は勝つために手段を選ばない節はありました。だとしても、明らかにやりすぎです!これが帝国の、影山総帥のやり方なんですか!?」

 

「……………分かった。このことは、こちらでも調べてみよう」

 

「……それと、オレはもう、帝国のスパイではいられません。オレは、雷門中サッカー部の、土門飛鳥です」

 

「そのことは、もういい。お前がその道を選んだなら、止める筋合いは無いからな」

 

「……決勝は、こんなことがないように、頼みますよ」

 

「………もちろんだ。オレも正々堂々と戦い、お前達に勝つ。円堂や半田にも、伝えるんだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………トラックにしないで、正解だったか」




ほら、タイトル詐欺じゃなかったでしょう?

前書きに書いたガバの件、よくよく思い返すと、GOのグリフォン映画の時、牙山たちが乱入してからいなくなったから、ゼロのメンツ出戻りしてね?と思ったんですけど、あれ別に公式戦じゃないし、なんなら俺たちがルールだ()のフィクスセクターのチームだしで、流石にノーカンだろうなと思いました。

で、前書きにも書きましたが、このお話を早めに投稿したことについての説明と、予告しちゃいます。
と言うのも、帝国戦を早く書きたいのでお話し進めたかったのと、帝国戦の話数が多くなるということですね。
別に今までの試合が手抜きだったと言うつもりはないんですが、帝国戦はガッツリ書きたいと思ってまして、具体的に言うと試合だけでも最低3話以上かけて書きます。多分4話は行っちゃいます。もっと行くだろうけど。
今までは前半投稿してしばらくしてから後半投稿って感じだったのですが、帝国戦は予約投稿を使って毎日投稿されます。
だって、山場の一つですし、試合BGMも帝国学園との"死闘"ですからね。ガッツリ書きたくもなっちゃいます。
次回はまだ試合には入りませんので、その連日投稿の対象外ですが、お楽しみにって感じです。


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影山の罠

前回のラストが鬼道のセリフと思われてますね。
いや、たしかに自分でも見返してみると、鬼道のセリフとしか見えないですわね。HAHAHA

ん?じゃあアレ、誰のセリフかって?
いやまあ、いるじゃないっすか。トラックに轢かれたら人は死ぬって、一番理解してる人が。HAHAHA


響木さんの短期集中練習を乗り越えて、いよいよ決勝戦を迎えた。

 

 

「………悪かったな、大谷。約束守れなくて」

 

「気にしてないよ、半田くん。あんなことがあったら、仕方ないもん。また今度、待ってるよ」

 

「ああ。必ずな」

 

 

改めて、大谷と約束する。

これに勝てば、響木さんがご馳走してくれるそうだから、それ以降になるな。

そう考えると、どの辺りになるかな…全国大会中は厳しいだろうから、フットボールフロンティアが終わってからか?エイリア学園が来るまで、少しは時間あったし。

 

 

「よし、じゃあ出発だ。向こうに着くまで、気を抜くんじゃあないぞ」

 

『はい!』

 

 

響木さんの声で、オレ達は駅へと向かった。

その間は、大した話もなかった。

まあ、強いてあげれば……。

 

 

「帝国の練習ってどんなだったんすか?」

 

「やっぱ四方八方から来るミサイルをドリブルで避けたりするんですか!?」

 

「いや、大砲から撃たれたボールを撃ち返すんだって!」

 

「いやいや、襲ってくる恐竜から逃げ回るでやんすよ!」

 

「お前ら帝国をなんだと思ってんだ?」

 

 

土門が帝国のスパイと分かった時は、誰も責めたりはしなかった。

むしろ1年達からは、帝国学園ってどんな所なのかと質問攻めにあっていたし、今もなってるな。

少林と宍戸のは百歩譲れるとして、栗松のはまず無理だろ。過去から連れて来たりでもしなきゃ。

 

 

「そうだぞ、お前ら。帝国を化け物だとでも思ってんのか」

 

「染岡……」

 

「やっぱ帝国って言ったら、あの雷門に来た時の派手な車から逃げ回るに決まってんだろ」

 

「お前もかよ染岡ぁ!?」

 

 

そんで誰かが悪ノリするまでがセットなんだよ。

今回は染岡だったけど、マックスとか風丸ものってた。

 

 

「あっちもそうだろうけど、オレ達も相当練習積んだからな。もうグラウンドの砂を味わったりはしないぞ」

 

「あれ、屈辱とかより新鮮さのが勝ったんだよね。たしかに僕とか筆頭に素人だったけど、差がありすぎてさ。あと半田のそれは、帝国のグラウンドは人工芝ってことでツッコミ待ちでいいの?」

 

「……………味わったりはしないぞ」

 

「まっ、僕も色々頑張ったからね。ちょっとは目に物見せてやりたいってね」

 

「マックスだけじゃないぞ。オレや影野も、1年達も響木さんにしごかれたからな。絶対に勝つぞ」

 

 

風丸やマックスもやる気充分。

と言っても、まだ帝国学園にすら着いてないから、燃え尽きないか心配ではあるけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼致します」

 

「……何の用だ、鬼道」

 

 

試合が始まる前。この時間しか、総帥に会うことは叶わなかった。

土門の密告後、オレは何度か総帥に連絡をしたのだが、何かと理由をつけられ、断られていた。

だがこの時間は何もないということは伝えられていたため、最終調整の時間を削り、ここへ来た。

 

 

「雷門中サッカー部の顧問である冬海卓が、交通事故に遭ったというのは知っていると思います。なぜ、彼をここへ呼びつけたのですか」

 

「大したことなどない。雷門には監督がいないとなると、顧問を呼ぶ以外ないだろう」

 

「答えになっていません。何故わざわざ、呼びつけたのですか」

 

「お前に話す必要はない。そんなことを聞きにくる暇があるのなら、最終調整に回せ」

 

「…………なにも、仕組んではいませんね?」

 

「何のことだ。ああ、わざわざここへ来たんだ。選手達に伝えておけ。試合が始まった後、攻め上がることは勧めないと。雷門は攻撃中心だったが、そこをカバーしにくるだろう。最も、お前に言う必要はないだろうがな」

 

「………失礼致します」

 

 

その言葉を聞き、オレは立ち去る。

ここまで具体的なことを言われるのは、今までになかったことだ。

………そう考えると、やはり……。

 

 

「………待て、鬼道」

 

「…総帥?」

 

 

静止の声を聞き、振り返る。

今まで誰かへの手紙を書き続け、オレの方を見ていなかった総帥は、そのサングラス越しに、オレのことを見据える。

 

 

「………………いい。行け」

 

 

短くも、長く感じたその間。

この間に何の意味があったかは分からない。

唯一分かったのは、総帥がオレのことを、焼き付けるかの様に見てきたということだけだ。

そう言い、再び手紙に意識を向けた総帥を確認したオレは、今度こそこの部屋を立ち去る。

 

 

「………今日は、やけに沢山書いていた気もしたが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあお前ら!何をしてくるか分からないところだ、気を付けろよ!壁が迫ってくるかもしれん!」

 

 

帝国学園に着いた途端、響木さんがそんなことを口にした。

それを聞いた1年たちがそこら辺の壁をチェックしている。真に受けるなって……

 

 

「響木監督、あんまウチの後輩で遊ばないでくださいよ」

 

「俺はそんなつもりはない。……実際、被害を受けた人がいるんだ。俺が警戒していればいい話ではあるんだが、お前達自身も、少しは警戒してくれ」

 

「…分かってますよ」

 

 

フィールドの雷門側ベンチに着き、準備をしていたところ…。

 

 

「……なにやってんだ、お前ら」

 

「急に宍戸がオレの腹を〜!」

 

「緊張してたから、それを解そうと…いてっ!?」

 

「なんすか宍戸、なにに…いたぁ!?」

 

「お前らどうした…うわっ!?」

 

 

壁山が宍戸を投げ飛ばしていたので、動機を壁山に問いただしていたところ、3人揃って上から降って来た何かに当たっていた。

 

 

「いった…なんですこれぇ…」

 

「おいおい…ボルトかこれ?大丈夫かよ宍戸」

 

「アフロじゃなかったら大変だったでやんすね」

 

「怪我がなさそうなら、よかったけど…」

 

「………たしかに、2人ともアフロみたいなもんだね」

 

「オレは言うほどアフロじゃないっすよ〜!」

 

「オレなんか普通の髪型だろ!」

 

 

……なんで上からボルトがって、そういえば…!

 

 

「……響木監督。この上から、こんなものが」

 

「……………影山め。やはり…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホイッスルが鳴った途端、分かるな?」

 

 

あれから試合が始まる前、鬼道から試合が始まる瞬間、センターサークルから離れるように言われた。

最初染岡とかが反発してたが、オレと円堂。そして響木さんの言葉により、それに従うことになった。

そして、試合開始の笛がなり、豪炎寺と染岡が急いで離れる。

 

 

「…………まさか、これを忘れかけるとは思わなかった」

 

 

この声は、目の前の轟音によって、かき消されている。

ホイッスルが鳴った途端、上からたくさんの鉄骨が降り注いできた。

もしあのまま、試合を始めていたら大変なことになっていた。

降って来てから少し経ち、舞っている煙が晴れると、相手の帝国学園のプレイヤーも、顔を青くしていた。

鬼道も、察してはいたんだろうが、まさか本当にこうなるとは…という気持ちのが大きいんだろう。複雑な顔をしている。

 

 

「……円堂、鬼道に着いていくぞ。オレ達も文句言いに行ってやる」

 

「あ、ああ……分かった。みんなは…」

 

「あまり大勢で行く必要もないし、どうなるか分からない。ベンチで待っててくれ」

 

「……そうだな」

 

 

鬼道たちがフィールドの外へ行くのに、オレ達も着いていく。

向かう場所は、影山のところだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「総帥!これが貴方のやり方ですか…!」

 

 

鬼道たちの後を着いて行くと、影山がいる部屋へと着いた。

 

 

「…………勝利こそ全てというのは、帝国の精神だったはずだ」

 

「あれが勝利のための手段だと言うなら、貴方は間違っている…!オレ達を信用していないとでも言うのですか!もう、貴方の指示では戦いません」

 

「オレ達も、鬼道と同じ意見です!」

 

「オレ達は、オレ達の意思で戦います!」

 

 

オレと円堂が入る時には、既に鬼道と、一緒に着いて行った源田と佐久間達が影山と決別していた。

 

 

「………そうか。好きにしろ」

 

 

そう言い、影山は立ち去る。

文句言いに行くと言って来たけど、このままでいいか…刑事さんたちの足音も聞こえるし。

いや、冬海のこととかさっきのこととか、言いたいことはあるんだけど、円堂はともかく、オレが言ったところで影山は何も気にしないだろうしな。

 

 

「…………」

 

 

立ち去る時、部屋に入っていたオレと円堂を見る。

円堂はまあ、大介さんのことがあるだろうから、何か思うことはあるんだろう。

さっさと行けよ。この後、神のアクアに繋がるんだろ。

 

 

「……………」

 

 

…………なんでオレの事見るんだよ。さっさと行けよ。

 

 

「…………ふん」

 

 

今度こそ、影山は立ち去った。

オレのことを見た後、鬼道達のことも見てから、アイツはいなくなった。

 

 

「………さっきは、すまなかった。今回のことは、お前達の不戦勝でいい」

 

「何言ってんだ。そんなこと、認められるか。だろ?円堂」

 

「ああ!お前達に勝つ為に、練習を積んで、ここまで来たんだ!それがこんな形で、しかもお前達に奪われてたまるか!」

 

「円堂…半田……」

 

「……それに、これはオレ達だけじゃない。他のみんなも、血気盛んでな。どういう形であれ、お前達と戦わなきゃ気が済まないだろうからな」

 

「………やはり、雷門はサッカー馬鹿の集まりだな」

 

「ああ。そりゃキャプテンが円堂だし、オレなんて……」

 

 

そこまで言って、思い出した。

鬼道が杉森に、オレのことを中バカと言い表したことを。

 

 

「…………中バカって言ってくれたらしいしな、鬼道くん?」

 

「お、おい…半田……?」

 

「何をもって中バカって言ったかは知らないけど、ていうか本当に中バカってなんだよ。大バカはまだしも中バカってなんだよホント」

 

「と、と言うわけだから、オレ達はもう行くからな!ほら行くぞ半田!」

 

「大丈夫大丈夫。別に怒ってるけど狂ってるワケじゃないから。ただホント中バカって初めて聞いたからいったいどういう」

 

「……………………」

 

「………鬼道お前。アイツのことそんな風に言ったのか」

 

「……試合が終わったら、謝るさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬼道を打ち抜くって言った覚えあるけど、そういや鬼道ってキーパーじゃなかったな」

 

「そうなんだよ!だから杉森みたいにローリングキックで打ち破るのは無理なんだって!鬼道じゃなくて源田打ち抜いてくれよ」

 

「だったらオレがジャッジスルー覚えればいいのか」

 

「なんでだよ!?」

 

「大丈夫大丈夫。ムーンサルト覚えれたんだからいけるいける」

 

「だからってアレを覚えちゃダメだろ!」

 

「まあ、流石に冗談だって。覚えたい技は、ほかにあるから」

 

「………本当か?」

 

「ああ。帝国の技には変わりないけど、ジャッジスルーじゃないって」

 

「なら、いいけど。とにかく、早く戻ろうぜ。みんな待ってる」

 

「…………まっ、そうだな。行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ!フィールドの修復も終わり、いよいよフットボールフロンティア地区予選決勝戦!雷門中学VS帝国学園の試合が始まります!!」




というわけで、次回から帝国戦です。
前回の予告通り、ぶっ通しでやりますので、かなり時間がかかると思われます。
その分、満足の出来るようなお話になればなと思いますので、楽しみに待って頂けたらなと思います。


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帝国学園との死闘①

シリーズ通しても帝国戦のBGMがトップクラスに好きなんすよ。
GOギャラクシーだとデスゾーンの方のBGMも聞けるので、全国1億5000万人の帝国学園生はギャラクシーを買いましょう。もちろんこっちも聞けます。


試合開始の笛が鳴り、豪炎寺と染岡が攻め上がる。

こちらのフォーメーションは、豪炎寺と染岡のツートップ。オフェンスは左から風丸、マックス、オレ、少林。ディフェンスは栗松、壁山、土門、影野だ。

今回風丸はディフェンスではなくオフェンスとして立っている。

というのも、この前の練習でドリブル技を習得したらしい。多分疾風ダッシュだな。

オレ達のチームで、ドリブル技を使える選手は珍しい。というか現状オレしかいない。他のメンバーも練習してたから、開花するかもしれないけどな。

それはあちらも知ってるだろうが、そもそも風丸は陸上部出身だから、素の突破力も警戒されているようで、風丸に注意が寄っている。

この時点で、このポジションにした効果がある程度出ているな。

控えの宍戸や目金も、いつでも出れるように準備している。

間違いなく、総力戦になるだろう。

 

 

「咲山、洞面!」

 

 

鬼道がオフェンスに指示を出し、2人が立ちはだかる。

帝国学園は、どちらかと言うと攻撃寄りのチームではあるが、守備が手薄かと言われると、決してそんなことはない。

キラースライドやサイクロン、何より…。

 

 

「豪炎寺、こっち!」

 

「やらせるかよ!アースクエイク!!」

 

「うわっ!?」

 

 

コイツだ。今回は鬼道の指示で前もってラインを上げていたようだが、ゴール前に立ちはだかるディフェンスの1人、大野。

その恵まれた体格を持って、硬い守備を得意とするプレイヤー。

マックスからボールを奪い、攻め上がる。

じゃあ、ボールを奪われたのなら、コイツからボールを奪えばいいのかと言われればそんなことを全くなく……。

 

 

「パスは上げさせない…!」

 

「へっ、イリュージョンボール…!」

 

「なっ…!?」

 

 

大野自身も、しっかりとドリブル技を習得していて、風丸を抜き去った。

他のディフェンスメンバーも、ドリブル技とディフェンス技の両方を習得しているが、とくにコイツは手強い。

流石は帝国学園。と言ったところかな…。

 

 

「鬼道!」

 

「佐久間!辺見!洞面!」

 

 

大野から鬼道へボールが渡り、鬼道が攻め上がっていた3人に向けて指示を出す。これは、やはり…。

 

 

『デスゾーン!!』

 

 

やはり、デスゾーンだ。

鬼道が打ち上げたボールを、3人がその後を追い、上空で闇のトライアングルを形成しながら放つ強烈なシュート。

前回に戦った時、ゴッドハンドで止めることが出来たシュートだが…。

 

 

「先制点はやらせない!ゴッドハンド!!」

 

 

円堂のゴッドハンドが、デスゾーンを防ぎ切る。

ただ、前回よりも威力が上がっているのか、円堂はシュートを止めた右手を見ていた。

デスゾーンでこれとなると、皇帝ペンギン2号はキツそうだな…。

いざとなったら、身体を張って護るしかないか……?

 

 

「今度はこっちの番だ!みんな、上がれ!」

 

 

円堂が蹴り上げたボールは、オレが競り合いに勝ち、マックスへと渡る。

 

 

「キラースライ…」

 

「何度喰らったと思ってるのそれ。イリュージョンボール!!」

 

「なにっ!?」

 

 

まーたマックスが必殺技覚えてるよ。しかもイリュージョンボール。

たしかに何かドリブル技覚えたいって言ってたけど、オレ達もビックリするから程々にしてくれないかな。贅沢な悩みだけど。

 

 

「豪炎寺!」

 

 

マックスは突破した瞬間、すぐにボールを蹴り上げた。

これはあらかじめ立てていた作戦の1つで、帝国は守備も硬いことは身を持って知っていた。

だからある程度前線で守備を突破出来た時は、豪炎寺に向けてロングパスを出してみるというものだ。

マックスのイリュージョンボールは、流石の鬼道も予想していなかったらしく、一瞬だけ隙が出来た。

その隙を突き、豪炎寺が付いていたマークを振り払い、飛び上がる。

 

 

「ファイアトルネード!!」

 

 

オレ達の単独最高打点であるファイアトルネードが、源田に向けて放たれる。

前回は反応出来ずに、そのままゴールしたらしいが…。

 

 

「パワーシールド!!」

 

 

源田のパワーシールドで、ファイアトルネードは跳ね返される。

跳ね返ったボールは、ディフェンダーの五条に渡る。

 

 

「通させは…」

 

「ヒヒヒ……ぶんしんフェイントです…!」

 

「こっわ!?」

 

 

ボールを奪おうとしたオレの目の前で、五条は分身した。

あんまこんなこと言いたくないんだけど、1人でさえなかなか怖い五条が3人になったら3倍怖いんだけど。

 

 

「ククク…クイックドロウとスピニングカットは飛んできませんね…では…!」

 

 

マックスと風丸が近くにいないのを確認し、鬼道へ向けてパスを出す。

 

 

「佐久間!いくぞ!」

 

「ああ!」

 

 

受け取った鬼道がボールを打ち上げ、それを追った佐久間がヘディングで撃ち落とす。

 

 

『ツインブースト!!』

 

 

それに追い付いた鬼道が強烈なダイレクトシュートを放つ。

 

 

「デスゾーンと違って、ゴッドハンドを使う時間がない…!熱血パンチ!!」

 

 

円堂の言った通り、ツインブーストはデスゾーンと違い、ゴッドハンドを構える時間がギリギリ足りなかった。

故に、熱血パンチで返す必要があったんだが……。

 

 

「うわっ!?」

 

「やらせない………!」

 

 

熱血パンチじゃ力が足りず、勢いに負けて吹っ飛ばされる円堂だったが、なんとか飛び込んだ影野がクリアし、失点にはならなかった。

 

 

「サンキュー、影野…」

 

「………間に合ってよかった。でも、パンチ1つじゃ、やっぱ足りないね」

 

「パンチ1つじゃ……か」

 

 

蹴り飛ばしたボールはエリア外に行ったため、帝国のスローインから始まる。

 

 

「佐久間!もう一度行くぞ!!」

 

 

ボールを受け取った鬼道達が、もう一度ツインブーストを叩き込む。

 

 

「1発でダメなら、今度はこれだああああああ!!!」

 

 

最初に熱血パンチと同じく、一度パンチングしてから、それから何度もパンチングを叩き込んでいる。

さらっとやってるけど、ボクサー顔負けのパンチング速度だよなあれ。

 

 

「熱血パンチの上をいくパンチ…故に、爆裂パンチです!!」

 

「影野の言葉が、ヒントになったんだ!ありがとな!!」

 

「…………ふふふ…」

 

 

なんかベンチから目金のネーミングが飛んできたぞ。覚えとけよ円堂。一応オレも覚えとくから。

新しく覚えた爆裂パンチによって、ツインブーストは防がれた。

 

 

「やはり…あれを使う必要があるようだな」

 

 

それを確認した鬼道が、何やらつぶやく。

あれと言うと、やっぱり皇帝ペンギン2号だろうな。

皇帝ペンギン2号は、佐久間が中心となって使ってたシュート技だったはずだ。

寺門もデスゾーンとか使えるし、他にも辺見のフリーズショットが控えている。

フリーズショットは分からないけど、皇帝ペンギン2号は警戒する必要がある。

佐久間にボールが渡ったら、要注意だな……。




というフラグを立てておいて、まずは1話目終わりです。
正直今までみたいに前後半でやってもよくね?とは思ったんですけど、長くなりそうなんでこの辺りで。
まずは2500文字ぐらいが丁度いいかなという感じです。

アースクエイクからイリュージョンボールでほぼ全抜きされてから、佐久間とか寺門にボール回され、皇帝ペンギン2号とかデスゾーンとか飛んで来てボロ負けしたことがあるんです。
実際、無印であの時期だとどちらもトップクラスのドリブル技とディフェンス技でして、それを両方覚えてる大野は手強かったですねぇ。
あとゲーム内でデスゾーンをゴッドハンドで止めるとか絶対ムリだからね。普通にデスゾーンめちゃくちゃ強いからね。

あと今更ですが、使う必殺技はアニメとゲームで使ってた技のごちゃ混ぜです。あれ、これ前も言ったっけか。
おかげでマックスが技のデパートと化してます。


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帝国学園との死闘②

連続投稿だと前書きの内容がないよう。

2話目です。シュートチェインですね。


爆裂パンチで弾き返したボールは、オレの方へと飛んでくる。

 

 

「キラースライドが飛んで来る前に、上に飛べば…!ムーンサルト!!」

 

 

近づいて来た辺見達を上空からムーンサルトで抜き去るが、ジグザグスパークとムーンサルトの違いは、オレが一度着地する必要があるということ。

つまり、着地点に何かをされると……。

 

 

「警戒してないワケないんだよな!サイクロン!!」

 

 

そのままローリングキックに移る可能性は低いと判断したんだろう。実際オレはそうしなかった。

オレが着地しようとしたところに、万丈がサイクロンを設置。

オレはそのまま飛ばされてしまう。

 

 

「くそっ、でも…!」

 

 

サイクロンを使ってくるのは、現状は万丈だけ。

オレが覚えようとしてる帝国の必殺技というのは、ずばりサイクロンなのだ。

自力の練習も必要だけど、実際に必殺技を目の前で見ることも、長い目で見れば必要なんだ。

まあ、ボールを奪われてはしまったけどな…。

 

 

「でもそれも、ボールを拾うためにトラップする必要があるよね…っと!」

 

「うおっ!?」

 

 

オレごと吹き飛ばしたボールを取ろうと、胸トラップした万丈が着地したところに、マックスがクイックドロウで急接近。

前も言ったけど、オレ達は前の試合で、帝国の必殺技を文字通り身体に叩き込まれたんだ。見たことない必殺技以外は、色々と対策している。

 

 

「染岡!」

 

「よし、行くぞ豪炎寺!」

 

「ああ!」

 

 

マックスからのパスを染岡が受け取り、豪炎寺も走り込む。

 

 

「ドラゴン!」

「トルネード!!」

 

 

ツートップの連携シュート、ドラゴントルネードが源田に向けて放たれる。

 

 

「パワーシールド!!」

 

 

だが、これも防がれてしまう。

 

 

「くそっ、これも防がれるならイナズマ落としとかに…」

 

「……待て、染岡。オレに考えが2つある」

 

「なに、2つ?」

 

 

ツートップが何やら考え付いたらしいが、帝国の攻撃が始まっている。

 

 

「クイック…」

 

「分身フェイント!」

 

「うわっ!どれが誰だよもう!」

 

 

マックスが佐久間にクイックドロウを仕掛けようとするも、五条も使っていた分身フェイントで突破される。

急に分身されるのはビックリするけど、五条ほどのインパクトはないな…

 

 

「ククク……そりゃあ佐久間さんと比べるとそうでしょうねぇ…」

 

 

……………………なにやら遠くから聞こえた気がするけど、スルーさせてもらう。

マックスを突破した佐久間は、前線に上がった鬼道へとボールを渡す。

 

 

「円堂ぉ!!」

 

 

ゴールの目の前へとたどり着いた鬼道が、シュートを打とうとするが…。

 

 

「キラースライド!」

 

「ぐっ…!」

 

 

土門のキラースライドが、鬼道からボールを奪い去る。

キラースライドが帝国からボールを奪うってのは、なかなか見ないな。

 

 

「やらせませんよ、鬼道さん……鬼道さん?」

 

「………大丈夫だ」

 

「……………いやいや、そんなワケないでしょっと…!」

 

 

土門がボールをフィールドの外に出し、試合を止める。

……今のキラースライドで、足をやったか…?

 

 

「土門……?」

 

「たしかに、今のキラースライドはボールを狙ったんで、ファールを取られることはなかったですけど、そのままにしておくことは出来ませんって」

 

「しかし、今のお前は雷門の……」

 

「前を見てくださいよ。円堂も同じことしますって」

 

 

足を抑えてる鬼道を、円堂が心配そうに見ている。

まぁ、オレもそうするだろうし、他のみんなもそうするだろうな。

 

 

「さっ、ベンチの方まで行きましょう。そっちのマネージャーが…」

 

「あっ、あの、土門さん!」

 

「ん…音無?どうしたの」

 

「鬼道さんの治療、私がします…」

 

「…………なるほど。じゃあ、頼む」

 

「………はい」

 

「……………」

 

 

フィールドの外まで行った2人の方に、音無が駆け寄る。

……わずかとは言え、兄妹の時間だな。

 

 

「………鬼道と音無って、兄妹らしいんだ。試合が始まる前に、トイレに行った時に、2人の話が聞こえてさ」

 

「……そうだったのか。円堂ってなんか、トイレ行くたびに何かしらに遭遇するよな。………ん?影山に聴いたとかじゃなく?」

 

「えっ、なんで影山が出てくるんだ?」

 

「…………あれ、なんでだ?」

 

 

いや、ホントになんでだろう。

たしかに、円堂を揺さぶるためにとかで、影山ならやりかねないだろうけど、なんでそう思ったんだ?自分でも分かんない。

 

 

「……勝ち続けて来たのは、また音無と暮らせるためにってのも聞いたけど、だからってわざと負けるようなのじゃ、アイツにも失礼だし、みんなも裏切ることになるからな。全力で戦うさ」

 

「…………そうだな」

 

 

音無の治療も終わり、鬼道が戻って来た。

音無の顔を見る限りだと、溝とかは無くなったようだ。

 

 

「待たせてしまってすまない。試合再開だ」

 

「ああ。絶対お前らに勝つからな」

 

「………望むところ、と言っておく」

 

 

帝国ボールから試合が再開される。

咲山が投げたボールは、鬼道へと渡る。

 

 

「イリュージョンボール!」

 

「覚えても、どれが本物か分かんないなこれ…!」

 

「当たり前だ。使った自分にしか分からない技だからな」

 

 

鬼道がイリュージョンボールでマックスを抜き去る。

佐久間や寺門にはマークが付いているから、パスを渡すことは難しいはずだ。

 

 

「佐久間、寺門!いけるな?」

 

「ああ!」

 

「おう!」

 

 

…?何をするつもりだ?

と思ったら、マークを振り切り、鬼道の前に集まっている。

…………待て、あの体勢で、鬼道が指笛を鳴らそうとしているってことは…!?

 

 

「これが、ゴッドハンドを破るために作り上げた、必殺技だ!」

 

 

考えが追い付くのが、遅かった。

鬼道が指笛を鳴らすと同時に、佐久間と寺門が走り出す。

すると、鬼道の足元にペンギンが呼び出される。

 

 

「皇帝ペンギン!」

 

 

 

鬼道が打ち出したシュートに、ペンギンが追尾する。

そのシュートは、走り出している佐久間と寺門の方へ。

 

 

『2号!!』

 

 

追い付いたシュートを、2人同時に蹴り出すことで、さらに勢いを増す。

現時点の帝国学園最大の必殺技、皇帝ペンギン2号が、円堂に向かって突き進む。

 

 

「スピニングカット!……ぐっ!?」

 

 

全てを言うワケにはいかなかったため、『デスゾーンやその次のシュートを防いだら、切り札を使ってくる可能性がある』と、やんわりとしか言えなかったが、皇帝ペンギン2号の存在を少しは伝えていた。

それを見越して下がっていた中盤の風丸が、スピニングカットでシュートブロックを試みるも失敗。

風丸のスピニングカットを突破しても、あまり威力が下がっているようには見えない。

 

 

「ゴッドハンド!!」

 

 

ツインブーストと違い、時間的な猶予があったことと、風丸がスピニングカットで少しの間でも防いでくれたことによって、ゴッドハンドを発動することは出来た。

 

 

「ぐっ…ぐぐぐっ……!!」

 

 

だが、ゴッドハンドの指の部分にペンギンが突き刺さっている。

着弾したと同時に、ペンギンの色が赤くなり、さらに深く突き刺さろうとする。

 

 

「なんだ…これ……!!うわぁっ!?」

 

 

戻って来てから初めて、ゴッドハンドが砕け散るところを目の当たりにした。

ゴッドハンドを破った皇帝ペンギン2号は、円堂ごとゴールへと突き刺さる。

 

 

 

「ゴオオオォォォル!!帝国学園の新必殺技、皇帝ペンギン2号が、円堂のゴッドハンドを打ち破ったぁ!!」

 

「そんな…ゴッドハンドが……」

 

「ゴッドハンドを破る。オレ達はそれを目標に、今まで積み重ねて来たんだ」

 

「くそっ…!」

 

「………お前達が、試合をさせてくれることを認めてくれたからこそ、このシュートをお前に見せることが出来た。だからこそ、簡単に止められるワケにはいかない」

 

 

まさか、鬼道が皇帝ペンギン2号を使ってくるとはな…。

前回はツインブーストだけだったはずなんだが、やはり丸っ切り同じというワケじゃないみたいだな…。

豪炎寺達が点を取っても、皇帝ペンギン2号を止められない限り、帝国に勝つのは難しいだろう。

本当にいざとなったら、さっきも思ったけど、身体を張ることも考えなきゃな……。




アレスの皇帝ペンギン2号は、ゴッドハンドを破るためじゃなく、純粋に強力なシュートにって感じで方向転換してああなったんじゃね?と個人的に思ってます。
だって相手は円堂だけじゃないんだから、ゴッドハンド対策としての皇帝ペンギン2号は使わないよねって。


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帝国学園との死闘③

前書きの内容が以下略

3話目です。シュートチェインで例えるとドラゴントルネードドラゴンです。


帝国学園の先制点が入り、雷門ボールから再開される。

とにかく、同点には追いつきたいところだが…。

 

 

「ドラゴンクラッシュ!!」

 

「パワーシールド!!」

 

 

なんとかディフェンスを突破した染岡がドラゴンクラッシュを打つも、源田のパワーシールドに跳ね返される。

その跳ね返ったボールは、上空へ行き……。

 

 

「行け!豪炎寺!!」

 

「ファイアトルネード!!」

 

 

その跳ね返ったボールに、豪炎寺が飛び込み、ファイアトルネードを打ち込む。

そうか。さっき言ってた作戦の1つは、この連続シュートのことだったのか。

 

 

「パワーシールド!!」

 

 

だがそれも、源田は防ぎ切る。

あの連続シュートに反応出来るのはすごいな…。

 

 

「残念だったな。パワーシールドは連続で出せる」

 

「くっ…」

 

 

パワーシールドは、地面から出す衝撃波でシュートを防ぐ技だ。

イメージ的にはスピニングカットに近いと思うけど、あちらは少しだけ溜めの時間がある分、範囲も広いし、厚さもパワーシールドより…。

 

 

「………待てよ、豪炎寺。パワーシールドって…」

 

「オレも考えていた。なら半田、頼めるか?」

 

「えっ、オレ?さっきみたいに豪炎寺がやれば…」

 

「ドラゴントルネードから入った方が、あちらも警戒することはない。それに、お前も連携シュートを打てるようにするのもいいだろう」

 

「……キングオブゴールキーパーを、しかも試合中に練習相手にするなんて、後で文句言われるんじゃないか」

 

「ぶっつけ本番みたいなものだ。それに、見下してかかるワケじゃないからな」

 

「そりゃあ、な」

 

 

負けるワケにはいかない試合なんだ。見下すなんてする筈がない。

今までだって、全力でぶつかって来たんだ。

 

 

「………やってやるさ」

 

 

少林のスローインから再開され、風丸が受け取り、染岡へとボールが渡る。

 

 

「さっきの話はオレも聞いたぜ。もっかい行くぞ!」

 

「何度来ても、同じだ!」

 

「ドラゴン!!」

「トルネード!!」

 

「パワーシールド!!」

 

 

さっきと同じ光景、ドラゴントルネードとパワーシールドのぶつかり合いが始まった。

パワーシールドの威力は変わらないように見える。このままだと、同じように弾かれるだろう。

だがそれは、今までと変わらなかった場合の話だ。

 

 

「ムーンサルト!!」

 

「なにっ!?」

 

 

ボールを持たない状態でムーンサルトをしながら、ボールとパワーシールドのぶつかり合いに参戦する。

 

 

「パワーシールドの正体は、衝撃波で出来た壁だ!」

 

「その弱点は、壁の薄さってことか!」

 

「つまり、ぶつかり合ってる至近距離から、シュートを叩き込めば!」

 

 

普通のローリングキックなら、至近距離でもパワーシールドを破るのは難しかったかもしれない。

でも、ドラゴントルネードでぶつかり合ってるこのタイミングと、ムーンサルトを挟んだこいつなら!!

 

 

「パワーシールドを破れるんだよ!ローリングキック!!」

 

「なんだと……!?」

 

 

少しの拮抗の間、パワーシールドが砕け散り、そのままゴールへ突き刺さる。

 

 

「ゴオオオォォォル!!なんということでしょう!染岡と豪炎寺のドラゴントルネードを、半田がローリングキックで加勢!そのままパワーシールドを打ち砕いたぁ!!」

 

「やりましたよ!さすが先輩たちだ!!」

 

「連携シュートではないので、新しく名前を付ける必要は無さそうですが…半田くんがいいタイミングで飛び込んでくれましたね」

 

「半田だけじゃないな。豪炎寺の発案で、ドラゴントルネードから入ったことや、短時間で2度打てた染岡と豪炎寺の成果でもある。3人でもぎ取った1点だ。これはデカいぞ」

 

「…………………」

 

「あれ、つくしちゃんどうしたの?」

 

「…………えっ、あっ。ううん。なんでもない」

 

「………そっか。よかったね、つくしちゃん」

 

「……うん。秋ちゃん」

 

 

このタイミングで、前半が終わる。

前半のうちに、追い付けたのはデカいな。

 

 

「やったな、半田」

 

「いや、オレだけじゃないだろ。染岡と豪炎寺が全力で撃ってくれたおかげで、オレが割り込むことを警戒されなかったんだから」

 

「たしかに、仮にオレのドラゴンクラッシュだけだったら、豪炎寺がマークされてたかもしれねぇな。でも、そんなもしものこと言っても意味ねえだろ。実際破ったのは、オレ達3人なんだからよ」

 

「………そうだな。ただ、パワーシールドだけとは考え難い。どうやって、追い抜くかだな」

 

「だったら、今のを基にしたドラゴントルネードローリングみたいのじゃダメなのか?」

 

「いや、あのな円堂。今のが成功したのは、パワーシールドにぶつかってボールが止まってたからであって、練習もなしにファイアトルネードに合わせられないっての」

 

「尾刈斗の時に、アドリブでドラゴントルネードが出来たのは、染岡のパス精度が良かったからだ。オレも急に半田の方に飛ばせるとは思えないぞ」

 

「あとネーミングセンスが壊滅的ですね!仮に僕が付けるとしたら…」

 

「まだやるつもりのない必殺技にまで付けようとしなくていいから」

 

 

そうしている間にハーフタイムが終わり、後半が始まる。

フォーメーションは変わらずだが、宍戸の準備も進んでいる。

本人は否定してるけど、マックスが色々と必殺技使ってるから、交代してもいいと思うんだけどな。

 

 

「本当に不味くなったら言うから、まだまだいけるって」

 

「………あんま無理すんなよな。イリュージョンボールなんて、覚えたてなんだから」

 

「分かってるよ」

 

 

帝国学園のキックから、試合が再開される。

すると、寺門と咲山が走り出し、佐久間がその後を追い、ボールは辺見が持っている。

 

 

「辺見が持って、3人………まさか!?みんな、下がれ!!」

 

「やれ!辺見!佐久間!咲山!寺門!」

 

『おう!!』

 

 

鬼道の指示が通り、辺見がシュート態勢に入る。

 

 

「フリーズショット!!」

 

 

辺見の先に、氷の地面が広がる。

そこからシュートを打つことで、氷を滑る回転によって、勢いを増したシュートが突き進む。

すると、その先には……。

 

 

「いくぞ!」

 

 

佐久間が指笛を鳴らして、ペンギンを呼び出す。

やっぱり、佐久間も使えたのか…!!

 

 

「皇帝ペンギン!!」

『2号!!』

 

 

足元に来たフリーズショットを、佐久間が蹴り上げ、寺門と咲山の方へと送る。

フリーズショットと、皇帝ペンギン2号のシュートチェインか…!

 

 

「スピニングカット……!」

 

 

風丸がスピニングカットを張ってくれるも、やはり突破されてしまう。

風丸は悪くない。何しろ、さっきの皇帝ペンギン2号よりも威力が上がっているんだから、突破されるに決まっていた。

むしろ、それでも何とか威力を落とそうとしてくれた風丸に、感謝はしても、非難なんかすることなんかない。

他のディフェンス技で、シュートブロックに使えるような技は無い。

残るは、円堂のゴッドハンドだけになってしまう。

 

 

「さっきよりも強くなっても、やらないワケにはいかないんだ!ゴッドハンド!!」

 

 

ゴッドハンドを使うも、さっきより威力が上がった皇帝ペンギン2号に抵抗は難しく、早々にヒビが入ってしまう。

 

 

「ぐぐぐっ…!!」

 

「円堂!」

 

「やらせねぇ…!」

 

 

そこに、全力で下がって来たオレと染岡が間に合う。

円堂の背中を、オレの右手と、染岡の左手が支える。

なんとか円堂を支えようとする…。

 

 

「ぐうううう……うわぁっ!」

 

「があっ!」

 

「くそっ…!」

 

 

3人いても、防ぎ切ることは出来ずに、ゴッドハンドは砕け散る。

くそっ…!これで2点目か……!

 

 

「させるかああああああ!!!」

 

 

ッ!土門……!?




変なとこで区切りますが、次から後半が本格的に進みますぜい。

野生戦や御影専農戦とか、なんなら以前の帝国戦で察してるとは思うんですけど、前に言った必殺技がゲームとアニメのごちゃ混ぜは雷門だけじゃなく相手にも適用されます。
つまり皇帝ペンギン2号は鬼道だけじゃなく佐久間も使って来ます。

あとフリーズショットは別にロングシュートじゃないんですけど、アニメでオーディンソードからグランドファイアでシュートチェインしてたんで、多分あの世界やりようによってはチェインもロングもブロックも色々やれます。


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帝国学園との死闘④

前書きの以下略

4話目になります。シュートチェインで例えると、ドラゴントルネードワイバーンブリザードですね。なにがなんやら。


「させるかあああああ!!」

 

 

フリーズショットの威力を得た皇帝ペンギン2号によって、オレと染岡が支えたゴッドハンドは破られ、失点となると思ったその時。

オレ達の目の前に、土門が割って入って来た。

しかも、シュートを顔面で受けて、だ。

 

 

「ど、土門……!?」

 

「お前…!なんて無茶しやがる!?」

 

「しっかりしろ!おい!!」

 

「オ、オレより…ボールを……!!」

 

「ク、クリアでやんす!!」

 

 

土門が決死の護りで防いだボールを、危うく無駄にするとこだった。

なんとか栗松がフィールドの外に出してくれて、試合を中断させる。

 

 

「ど、同点から始まったら、一気に点を取りに来るのは、薄々感じてたからな……」

 

「だからって、こんな無茶を……!」

 

「こうでもしなきゃ…て、帝国の猛攻は止められない…」

 

「たしかに、オレも最初の試合でやったけど、今回は必殺技だぞ…」

 

「…………情け無いことだけど、こうでもしなきゃ、スパイの汚名を返上出来ないと思ったのもある…し、心配されることなんて…」

 

「…………そんなこと、気にしてたのかよ」

 

「シュートを防いでくれたのは嬉しいけど、こんなことしなくたって、お前は雷門サッカー部の一員だ!スパイのことは、もう気にするなよ!」

 

「そもそも、帝国戦で逃げ出した僕に対しても、叱られても非難まではしなかった人達ですよ!土門くんのことについて、裏で何か言うはずないでしょう!」

 

「………ははっ、そ、そんなこと言われたら、説得力がちげぇ…や……」

 

「お、おい!土門!!」

 

 

オレ達の言葉に安心したのか、土門は気を失った。

帝国学園の事務員が、医務室まで担架で運んでくれた。

 

 

「………土門は心配だが、アイツのためにも、勝たなければならん。宍戸、いけるな?」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

「なら、オレのポジションについてくれ。オレは土門のとこに入る」

 

 

風丸がディフェンスに戻り、風丸のいたポジションに宍戸が入る。

響木さんの言った通り、土門のためにもこの試合、絶対に勝つ。

…………ついでに、冬海もだな。

栗松がクリアしたため、帝国ボールから試合が再開される。

 

 

「ヒヒヒ…分身フェイ…」

 

「クイックドロウ……!」

 

「………まさか、貴方がそれを使うとは…!」

 

 

五条が分身フェイントを使おうとしたが、その前にクイックドロウでボールを奪われる。

今のクイックドロウは、マックスじゃない。

 

 

「……最低限、オレもボールを奪えるようにはしときたかったからな」

 

 

そう、まさかの豪炎寺だ。

というのも、響木監督の短期集中練習中にマックスの使ってたクイックドロウを、豪炎寺が練習しているのを目撃していて、みんなも手伝ってたからだ。

たしかに、スピニングカットとかに比べると、そこまで細かい技術とかは必要のない技ではあるけど、ストライカーだと思ってた豪炎寺の意外な才能が見れたな。

 

 

「染岡!」

 

「通さねぇぞ…!」

 

 

豪炎寺からパスを受け取った染岡の前に、万丈と成神が立ち塞がる。

キラースライドやサイクロンを使わずとも、2人で奪おうとしたんだろうが…。

 

 

「半田!オレも使わせてもらうぜ!ジグザグスパーク!!」

 

「ぐっ!?」

 

「うわっ!?」

 

 

染岡も、ドリブル技を習得していたんだ。

最初に染岡が、オレにジグザグスパークの許可を得ようとしていたけど、別に特許取ってるワケでもないんだから、覚えてどんどん使ってくれと言った事で、この状況に至る。

 

 

「染岡さん!まずはオレから!!」

 

「おう!頼むぜ、宍戸!」

 

 

一緒に走り込んでいた宍戸が、染岡にパスを求める。

それに続いて、豪炎寺も走り込む。

この状態を見て、やりたいことはオレにも感じる。

 

 

「グレネードショット!!」

 

 

まずは宍戸が、グレネードショットを打つ。

進む方向には染岡がいて、さらに豪炎寺も飛び上がる。

 

 

「連続シュートは、お前たちだけの芸じゃねぇ!ドラゴン!!」

「トルネード!!」

 

 

さっきのお返しとばかりに、グレネードショットにドラゴントルネードを上乗せさせる。

ボールと一緒に突き進む真っ赤なドラゴンも、グレネードショットが混ざってるからか、青いオーラを纏ってるように見える。

 

 

「全力を出させてもらうぞ…!フルパワーシールド!!」

 

 

素早く連続で出せるパワーシールドと違い、エネルギーを込めた上でパワーシールドの時よりも高い位置から地面を叩く事で発生させた、フルパワーシールド。

範囲と衝撃波の厚さも、パワーシールドとは桁違いだ。

 

 

「だからって、やらないワケにはいかないんですよ!クンフーヘッド!!」

 

 

さっきのローリングキックを見て、よりによって大野がマークについていたため、振り切る事は出来なかった。

だが、その分フリーとなっていた少林がクンフーヘッドで飛び込む。

さっきのオレがやったことを、本人にとってダメ元でやってみたが…。

 

 

「無駄だ!いくら連続で打ち込もうと、お前たちではフルパワーシールドを破るには足りん!!」

 

「ぐううっ…うわぁ!?」

 

 

少林ごとボールが弾き返されてしまう。

たしかに、クンフーヘッドは強化ローリングキックよりは威力は下がるが、グレネードショットを加えたドラゴントルネードでも足りなかったか…。

 

 

「少林、大丈夫か?」

 

「え、ええ…大丈夫です。ただ、僕がクンフーヘッドを打ち込む前と、打ち込んだ後で、フルパワーシールドの勢いが全く変わりませんでした…」

 

「やっぱり、威力がパワーシールドとは違うからだろうな。連続で打ち込むよりは、一気に最大火力をぶつける方がいいのかも…」

 

「最大火力って、イナズマ落としかイナズマ1号ですよね?でもさっきの連続シュートと、そこまで差は無いと思うんですけど…」

 

「………だよなぁ」

 

 

グレネードショットとドラゴントルネードとクンフーヘッド。実質4つの連続シュートとイナズマ落としかイナズマ1号。

そこまで差がないというか、なんなら今のやつのが威力上なんじゃないかこれ。

 

 

「………どうすればいいかな。いや、まずは目の前に集中しないと」

 

 

考えるよりも行動、だな。

弾き返されたボールは、栗松が拾う。

 

 

「これ以上は…!」

 

「オレも練習の成果を見せるでやんす!たまのりピエロ!!」

 

 

咲山がスライディングで奪おうとするも、栗松が覚えたドリブル技、たまのりピエロで抜き去る。

 

 

「簡単にはボールを渡さないでやんす!」

 

「ならば、こうするまでだ!スピニングカット!!」

 

「う、うわぁ!?」

 

 

栗松がボールに乗ってそのまま進もうとしたが、鬼道のスピニングカットで、あえなく撃沈。

別に栗松が調子に乗ってたワケじゃなく、鬼道の動きが早かっただけだ。

 

 

「佐久間!辺見!洞面!咲山!寺門!」

 

 

鬼道を合わせて、6人が攻め上がってくる。

後半も残りわずかだ。何をしてくるかは、流石に分かるぞ…!

 

 

「雷門イレブン!オレ達の猛撃、防ぎ切ることが出来るか!!」

 

「………!みんな戻れ!!」

 

 

同点な以上、オレ達の勝ち筋はこれを防ぎ切り、カウンターで点を奪うしかない。

だが、カウンターを狙うにも、帝国の猛攻を防ぎ切らなければ意味がない。

なら、全員防御から、全員攻撃しかない。

絶対に守り切るぞ…!!




短期集中練習(ゲームで言うレベルアップ)です。
覚える順番がちょくちょくバラバラだと思いますが、そこはご愛嬌ってことで。

ドラゴントルネードはチェインじゃないけど、ドラゴンクラッシュがチェイン対応なので以下略です。


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帝国学園との死闘⑤

帝国戦ラストの5話目です。
シュートチェインで例えるとドラゴンドラゴンドラゴンドラゴントルネードですね。染岡何人いるんだよ。


帝国学園、最後の猛攻が始まる。

これを防ぎ切らないと、オレ達の負け。

これを防ぎ切っても、ゴール前までボールを運び、源田のフルパワーシールドを破らなくてはならない。

……どちらにせよ、まずはこれを防ぎ切らなくてはならない。

 

 

「辺見!咲山!洞面!」

 

『デスゾーン、開始!!』

 

 

まずはデスゾーンからか…。

皇帝ペンギン2号から入ってくれれば、後の2人が加速させる前になんとか妨害することも出来たかもしれないが、デスゾーンの場合はそうもいかない。

そう考えると、たしかに野生中のニワトリの存在は、デスゾーンを打ちづらくさせてたんだな。今となっては関係ないことだが…。

 

 

『デスゾーン!!』

 

「いくぞ、佐久間!寺門!!」

 

『ああ!』

 

 

……というか、さっきからさらっとやってるけど、フリーズショットやデスゾーンを鬼道の足元に運ぶなんてこと、簡単にできるはずがない。

この試合に勝つために、アイツらも相当練習を積んできた証拠ということだろう。

正直、やり過ぎだと思うけどな…!!

 

 

「これがオレ達の全力だ!皇帝ペンギン!!」

『2号!!』

 

 

デスゾーンの威力を足された皇帝ペンギン2号が、こちらのゴールへと突き進む。

シュートを防げるディフェンス技を持たない少林達が、なんとか威力を落とそうとシュートコースに割って入るが…。

 

 

『うわあああ!!』

 

 

少し勢いが落ちたものの、吹き飛ばされてしまう。

 

 

「くっ…!スピニングカット!!」

 

 

風丸が今度もスピニングカットを張ってくれて、更に勢いは落ちる。

しかし、これでもフリーズショットを加えた皇帝ペンギン2号の威力までにしかなっていない。

 

 

「土門さんが護ってくれたゴールを、オレも護りたいっす!!うおおおおおお!!!」

 

 

壁山がシュートコース前に入ると、その後ろから壁がそびえ立った。

 

 

「ザ・ウォール、ですね……!」

 

 

目金が命名した通り、壁山のディフェンス技のザ・ウォールが、この土壇場で開花した。

このおかげで、デスゾーンの威力をだいぶ抑えることができたものの、元の皇帝ペンギン2号よりは威力が上なのは変わらない。

 

 

「みんなが抑えてくれたこのシュートは…絶対に止める!ゴッドハンド!!」

 

 

皇帝ペンギン2号と、円堂のゴッドハンドがぶつかり合う。

ただそれでも、ペンギンは勢いを止めない。

 

 

「ぐ、ぐぐぐぐ………!!」

 

「半田ァ!!」

 

「分かってる!!」

 

 

今度も、オレと染岡が円堂を支える。

その時、オレ達の手にも光が宿ってたようにも思えたが、そんなことを気にしてられる暇もなければ、そんな時間もなかった。

 

 

「たしかに…帝国のシュートは、どれもすげぇよ…!」

 

「でも、だからってオレ達は…!」

 

「絶対に負けるワケにはいかねぇ…!」

 

「このボールは、絶対…絶対に……!」

 

 

円堂だけじゃなく、オレと染岡ももう片方の腕を加える。

 

 

『止めるんだあああああ!!!!』

 

「…………くっ…!」

 

 

とくに円堂が左手を加えたことが大きかったんだろう。

ゴッドハンドが更にデカくなり、皇帝ペンギン2号を防ぎ切った。

 

 

「円堂くん…!染岡くん…!」

 

「……すごいよ、半田くん」

 

「いくぞおおおお!!」

 

「オレ達もだ!行くぞ半田!!」

 

「ああ!!」

 

 

キャッチしたボールを円堂が投げ、それにオレと染岡が続く。

他のみんなも、前線に上がる。

 

 

「円堂たちが守り抜いたこのボールは…!」

 

「疾風ダッシュです!」

 

「絶対に…!はああああ!!」

 

「竜巻旋風です!」

 

 

受け取った風丸と、風丸から託された少林が、それぞれドリブル技で守備を抜き去る。

 

 

「ゴール前まで…!五里霧中!!」

 

 

宍戸が練習で覚えた秋葉名斗の五里霧中を、ドリブル技として使い抜き去る。

だが、それを黙って見てる帝国じゃなく…。

 

 

「煙があろうが、全部揺らせば関係ねぇ!アースクエイク!!」

 

「ぐうっ…!?」

 

 

キーパーよりも前に立ちはだかった大野が、アースクエイクで宍戸からボールを奪う。

ただ、それも……!

 

 

「分かってたさ!!」

 

「なっ…!?」

 

 

大野が宍戸を止めて落としたボールを拾い、前線に上げようとした万丈の前に、片足に風を纏ったオレが立ちはだかる。

 

 

「サイクロン!!」

 

「うおおおおっ!?」

 

 

最初の試合のお返しだ…!

これをただ拾っただけじゃ、また大野に、あるいは五条や成神に奪われるのは目に見えてる。

でも、今のオレなら…!!

 

 

「繋いでみせる…!ムーンサルト!!」

 

 

サイクロンで打ち上がったボールに、ムーンサルトで追い付く。

上空から、ボールを繋ぐことが出来るんだ…!!

 

 

「ローリングキック!!いけ!豪炎寺!壁山!!」

 

「行くぞ!壁山!!」

 

「はい!!」

 

 

ローリングキックで繋げたボールに、豪炎寺が飛び上がり、壁山も続く。

 

 

「だが、破らせはしない!フルパワーシールド!!」

 

 

2度目のフルパワーシールドが、ゴール前に広がる。

ローリングキックが加わったとしても、イナズマ落としだけだと、これを破ることは出来ないだろう。

でも、オレ達には……アイツがいる!!

 

 

「円堂ォォォォ!!!」

 

「うおおおお!!」

 

「なにっ!?」

 

 

壁山の後ろから、円堂も飛び上がる。

円堂と豪炎寺の2人が、壁山を踏み台にして更に飛び上がる。

………そうだ。この手があったんだ…!

 

 

「いっけえええええ!!」

 

 

イナズマ落としと、イナズマ1号の合体シュートが、フルパワーシールドに激突する。

少しの拮抗の間、フルパワーシールドにヒビが入り始め、そのヒビはどんどん広がっていき、とうとうフルパワーシールドが破られる。

 

 

「イナズマ…1号落とし……」

 

 

イナズマ1号落としが、帝国ゴールに突き刺さる。

それと同時に、試合終了の笛が鳴り響く。

 

 

『ここで試合終了!帝国学園の猛攻を防ぎ切った雷門イレブン、キーパー円堂も加わった全員攻撃で、帝国学園を打ち破ったあああああ!!!』

 

「やっ……た……?」

 

「……………ああ。ああ……!!」

 

「くぅっ……!やったああああああああ!!!!」

 

 

円堂が歓声を上げると同時に、オレ達全員が円堂に駆け寄る。

壁山が円堂を抱き上げ、染岡がオレの首に腕を回し、風丸が円堂に水をかけ、マックスがオレの両足を持ち上げ、影野がオレに水をかける。

…………いや、今のオレどうなってんだ?別に風邪ひく心配はないんだけど、なんでマックスはオレの両足なんか持ってんだ。

 

 

「…………やってくれたな、雷門イレブン」

 

「鬼道……」

 

「………中バカと言ったことは、詫びよう。サッカーバカの集まりで、円堂に続いて、お前が目立っていたことについて、そう言ったんだが…」

 

「えっ、そうだったの?そりゃ円堂はサッカー大バカだけど」

 

「半田?」

 

「………とにかく、オレ達の負けだ。地区予選、優勝おめでとう。雷門イレブン」

 

「………まっ、リベンジ果たせたんだから、こんなに嬉しいことはないってな。それとだ、鬼道」

 

「なんだ?」

 

「……ウチのマネージャーと、2人で話してこいよ」

 

「えっ……?」

 

「つもりに積もった話もあるんだろ。他の帝国メンバーも、顔でそう言ってるぞ」

 

「顔で…アイツら………ふっ。なら、そうさせてもらう」

 

「………じゃあ、行ってきますね」

 

 

鬼道と音無が、スタジアムの外へと行く。

オレ達のとこへ来るとき、音無のことを一瞬見ながら来たんだから、バレバレだっての。

 

 

「おめでとう。半田くん」

 

「大谷……。ああ、ありがとな。これで全国大会へ行ける」

 

「帝国に勝てたんだから、全国大会も行けるよ」

 

「………たしかに、自信には繋がったな。でも、全国大会は強豪校が多いはずなんだ。もっと練習しなきゃな…だから、2人で行くのは、フットボールフロンティアが終わってからになりそうで……悪いな」

 

「ううん。約束を破られるなんて、思ってないから。その分、楽しみにしてるからね」

 

「ああ。もちろんだ」

 

「おーい半田!見てくれよこのトロフィー!地区予選優勝でもこんなのくれたんだぜ!!」

 

「ったく、嬉しいのは分かるけど、気をつけろよ…だから落としそうになるなよ!?」

 

「あ、あはは……………。本当に、よかったね。半田くん」

 

 

こうして、フットボールフロンティア地区予選を勝ち抜いたオレ達、雷門中サッカー部は、全国大会への切符を手に入れた。

世宇守中とかの心配はあるけど、それまでに、戦国伊賀島と千羽山に木戸川清修が立ち塞がるんだ。

まだまだ、頑張らないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たか。帝国の選手は、お前を見限ったからこそ、こんな素晴らしい試合が出来たんだ」

 

「……………ふん」

 

「………どうした。お前らしくもない。敗北に価値など無いとでも言うんじゃないのか」

 

「…………………本当に価値の無いものを知っているか、鬼瓦」

 

「なに……?なんだ、それは」

 

「…………忘れろ。それから、頼み事がある。この手紙を、代わりに投函しといてもらおう。お前のせいで、出来ないのでな」

 

「なに人のせいにしやがる。お前が蒔いた種だろう。…………お前、イタリアに手紙を出し続けているが、何のためだ」

 

「………………貴様が知ることではない」

 

「………そうかよ」




アニメのこの話の最終回感すごかったけど、まだまだ続きます。
いや、トロフィー持った主人公と周りにみんながいたら、それは最終回なのよ。

ホントは影野にも新しく技を覚えさせたかったんですよ。
ただ影野が覚える技って
コイルターン
うしろのしょうめん
ざんぞう
かげぬい
コイルターン以外全国大会出場校の技だし、風丸みたく秘伝書枠でやろうにも、影野に合う技がなかったもので、今回の必殺技ラッシュに入れることは叶いませんでした。
全国出たら活躍の場面来るからな。待ってろよ、仁。


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旧時代の伝説

ホントはOBのところ、1話にまとめたかったんですが、帝国戦執筆で燃え尽きたのと、なんか長くなりそうだったんで、分けました。

なんで長くなったんだろうと思ったんですけど、考えてみりゃそこそこ長くなる状況でしたわ。


帝国との決戦が終わり、今は響木さんの言った勝利記念で雷々軒にいる。

 

 

「響木さん!チャーシュー麺おかわりっす!!」

 

「オレも!」

 

「オレはチャーハンでやんす!」

 

「………ねぎラーメン…お願いします……」

 

「影野渋いの頼むな…」

 

 

今は円堂と一緒に響木さんを手伝っている。

最初は染岡も手伝っていたんだが、オレが交代して、今は味玉ラーメンを啜っている。

アイツ、意外と料理が上手いのか知らないけど、豪快に炒飯作ってたな。響木さんも筋がいいって言ってたし。

 

 

「半田くん、私も手伝おうか?」

 

「いやいや、女の子だけにやらせるのは違うだろ。大谷はチャーハン食べてなって」

 

「……………こういうのって、女子の仕事だと思うんだけどなぁ」

 

「でも、ラーメン屋さんだからね。確かにこういうのは、男の人の方がいいかも」

 

「そうね。中華鍋振るうのも、少しは力がいるもの」

 

「ですから大谷さんは、普通の料理を磨きましょう!今度マネージャーだけで料理教室開きますから!」

 

「えっ、あっ、う、うん……た、楽しみにしてるね……?」

 

 

なんか少し目を離した隙に、大谷が他のマネージャー3人に囲まれてた。

なんかマネージャーだけで料理〜とか聞こえたけど…まあ、前回はいなかった大谷が、サッカー部に溶け込めてるようでなによりだ。

 

 

「半田、オレ餃子」

 

「じゃあ、私にも」

 

「あいよー。あれから何ともなくて何よりだけど、土門もよく食うな。えーと……あれ、響木さん。これ…」

 

「ん…そうか。悪いな2人とも。餃子はあと一人前しかないな」

 

「あら…」

 

「じゃあ夏未ちゃんに譲るよ。代わりにオレ、唐揚げね」

 

「夏未……ちゃん……?」

 

「………あっ」

 

「…………ふふっ。悪くないわね」

 

「そ、そうかい…」

 

 

なんか、夏未お嬢様が夏未ちゃん呼びを気に入ったらしい。

機嫌を損ねなくてよかったけど、なんだかんだそういうの求めてたってことか。

 

 

「………………」

 

 

……なんか、大谷がこっち見てくるけど、どうしたんだろう。別に何も頼まれてはないし…あっ、もしかして。

 

 

「お水無くなってたか?ゴメンな大谷、気が利かなくて」

 

「……………………ありがとう」

 

『はぁ……』

 

「えっ?なんでそこの3人はため息ついてるの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな。最後まで手伝ってもらって」

 

「ご馳走してもらったんだから、当然ですよ」

 

「円堂の言う通り、オレ達が好きでやってることですから、気にしないでください」

 

 

祝勝会が終わり、みんなが帰って、オレと円堂は響木さんの手伝いを続けている。

大谷たちも手伝おうとしてたけど、ほぼ無理矢理帰らせた。

わりと遅い時間だし、早く帰らせないとな。

そんなことを思っていると、扉が開く音が聞こえた。

 

 

「すみませんね。生憎今日は……」

 

「………響木」

 

「浮島…!?浮島じゃないか!」

 

 

オレ達が今日の分は全部食べ尽くしてしまい、新規のお客を断ろうとした響木さんが目にしたのは、過去のイナズマイレブンの一員である浮島さんだった。

片手には、オレ達のことが載っている新聞を持っている。響木さんも映ってるから、それを見てここに来たんだろう。

 

 

「久しぶりだな、浮島。元気だったか」

 

「……響木も、元気そうだな。雷門中が帝国学園に勝ったなんて見たら、お前の顔が見たくなってな」

 

「そうか。コイツらが、その雷門中サッカー部のキャプテンとメンバーだ」

 

「ど、どうも…半田真一です」

 

「オレ、円堂守って言います!」

 

「え、円堂……!?まさか……」

 

 

あの人たちにとって、円堂という名前は忘れられないもののようだ。

まあ、オレもその立場だとしたら、絶対に忘れないだろうけど。

 

 

「そのまさかだ。大介さんの孫だよ」

 

「そう…か………」

 

「響木さん。この反応だと、浮島さんって…」

 

「ああ。コイツも、イナズマイレブンの1人だ」

 

「やっぱり!爺ちゃんの名前を知ってるってことは、そうですもんね!オレ、爺ちゃんとイナズマイレブンの話を聞いてから、憧れてたんです!伝説のイナズマイレブンに!!」

 

「伝説……」

 

 

………?おかしいな。オレの知ってる浮島さんって、ここまで燃え尽きたかのような人じゃなかったと思うんだけど……。

 

 

「はい!連戦無敗で物凄く強かったって!カッコいいって!!」

 

「…………イナズマイレブンの悲劇のことは、知ってるのか?」

 

「えっ……はい。でも、あの事故さえ無かったら…」

 

 

…………もしかして、だけど…。

 

 

「…円堂。その辺にしとけ」

 

「は、半田?どうしたんだよ急に」

 

「たしかに過去のイナズマイレブンの一員だとしても、オレ達は今日初めて会ったんだぜ。お前の良いところではあるんだけど、そんなにグイグイ行ったら、浮島さんだって困るだろ」

 

「あっ……そ、そうだな。すみませんでした……」

 

「………いや、キミ達は悪くない。ここに来た、俺が悪いんだ。来るんじゃなかったな……」

 

「えっ…おじさん?」

 

 

浮島さんはそう言い残して、店から出て行った。

 

 

「……円堂、半田。後は俺1人でいける。もう大丈夫だ」

 

「……分かりました。今日はご馳走さまでした。行くぞ、円堂」

 

「あっ…はい。ご馳走さまでした!響木さん!」

 

 

オレ達は店から出ると、浮島さんが出て行った方へと向かった。

普段オレが帰る道とは逆方向で、円堂の家の方だな。

 

 

「あれ、半田。道こっちじゃなかっただろ?」

 

「………円堂。浮島さんを追うぞ」

 

「えっ?お前さっき、グイグイ行くなって…」

 

「にしても、さっきの歯切れの悪さは気になるだろ。それに、響木さんも追いかけろって言ってたもんだしな」

 

「……たしかに、オレも気になってた。聞きたいこともあるし」

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 

浮島さんが出て行った方を歩いていく。

ちょっとすると、その浮島さんを見つけた。

街角に貼ってある稲妻KFCのポスターを見て、立ち尽くしていた。

 

 

「いた!おじさん!」

 

「………追ってくるとはな」

 

「監督に追いかけろなんて言われたら、向かいますよ」

 

「………響木が、監督…か」

 

「なんでさっき、あんなこと言ったんですか?」

 

「あまり、俺たちを英雄視するな。そんな目で見られても、眩しくて敵わない」

 

「えっ…?」

 

「イナズマイレブンは英雄なんかじゃない。お前の言うほど、大きな存在じゃないんだよ」

 

「何でそんなこと言うんですか…!?おじさんだって、その一員だったんでしょ!?」

 

「一員だからこそ、だ。俺たちは諦めた。今でも忘れられず、引き摺ってるんだよ。サッカーを諦めた時の、無力感を」

 

「……………」

 

「みんなサッカーを捨てちまった。プロがダメでも、草サッカーなり続ける道はあったのに、それを選ばなかった。ただの負け犬が、イナズマイレブンの正体だよ」

 

「………おじさん……」

 

 

……そこまで関わったことはなかったけど、オレの知ってる浮島さんとは、だいぶ違った。

目の前にいる浮島さんは、過去の悲劇を引き摺ったままの、燃え尽きた灰のようにも見えた。

 

 

「だったら、なんで雷々軒に来たの!?」

 

「……ッ」

 

「サッカーが好きだから、響木さんに会いに来たんじゃないの!?だったらおじさんも、サッカーやろうよ!」

 

「なに…?」

 

「響木さんは…監督は、サッカーに帰って来たんだ!おじさんだって、帰ってこれるよ!」

 

「……響木は、別だ。俺達の中でも、昔から…」

 

「………会田さんも、指導者としてですけど、サッカーに関わってますよ。あの河川敷で、稲妻KFCの練習を見てますからね」

 

「………会田も?」

 

「それに、たった一度諦めたからって、自分の気持ちに蓋をし続けないでください。本当にサッカーを諦めて、二度と関わらないつもりなら、雷々軒にも来ないはずですし、このポスターに目を止めるはずもないです」

 

「………」

 

「やるぞ、浮島。日曜の朝、イナズマイレブンは河川敷に集合だ」

 

「響木……!?」

 

 

響木さん、いつの間にいたんだ……?

その言葉を皮切りに、とんとんと話が進んで行った。

浮島さんは、状況に追い付けていないようだけど……。

 

 

「本当に、あのイナズマイレブンとサッカーが出来るんだ!やった!やったぜ!!」

 

「………………」

 

 

一応の決着が付き、円堂と響木さんはその場を後にした。

オレも、家と真逆の方向だし、早く帰るか……。

 

 

「………待ってくれ」

 

「……浮島さん?どうしました?」

 

「…………キミのさっきの言葉。普通、ああいうことを言われたら、お前に何が分かると言いたくなるはずなんだ」

 

「……たしかに、知ったようなことを言ってしまいました。すみません」

 

「いや……知ったようなことじゃない。知っているんだ。サッカーに対して、光だけじゃない。暗いところも」

 

「……………」

 

「…………変なことを言ったな。引き止めて、悪かったよ」

 

「………いえ」

 

 

暗いところ…は、知っている。

サッカーの暗いところじゃない。

あれは、オレの弱さだっただけの話なんだから……。




そりゃ、ちょっとシンパシー感じますよねって。


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再熱する伝説

枯れ果てた心に再び火が付く展開ってのはよ、男の子の必要栄養素の1つなんだなぁ。


先に言っておきますが、諸々オリジナル設定です。


響木さんの言った日曜日になり、オレ達は河川敷グラウンドに集まっている。

 

 

「あの伝説のイナズマイレブンと試合が出来るとはな」

 

「……でも、目の前にいる人たち、稲妻町で見たことある人ばかりでやんすね」

 

「そりゃあ、雷門のOBなんだからそうだろうよ。まさか、生徒指導の菅田もそうだったとは思わなかったがよ」

 

「スポーツショップで見かける人もいますよ!」

 

「美容院の店主さんもいる……最近行ってないけど……」

 

「えっ、なんでだ?」

 

「サッカー部に入ったと知られて、丸刈りしようとしてくるんだよ……」

 

「丸坊主の影野ってなんだよ。そりゃオレ達はなかなか…」

 

「だからオレは常連なんだぜ」

 

「そういや染岡の髪ピッタリだったわ」

 

 

そんなことを言いながら、目の前にいる人たちを見据える。

後から来るらしい響木さんを除いても、商店街や雷門中で見たことある人ばかりだった。

 

 

「お嬢様。申し訳ありませんが、本日は休暇を頂きます」

 

「えっ?」

 

 

いつも雷門の側にいた執事さんも、過去のイナズマイレブンの一員だからなぁ…。

……まさかとは思うけど、いつも執事服の下、ユニフォームってワケはないよな?流石にないよな?

 

 

「バトラーさんも、イナズマイレブンだったんだ…」

 

「見たことあるどころか、ずっと近くにいましたね…」

 

「……なぁ、円堂。やっぱりおかしいと思わないか」

 

「ん?なにがだよ、半田」

 

「昨日、浮島さんが"俺達はサッカーを諦めた負け犬だ"って言ってただろ」

 

「は?なんだよ、そんなこと言ってたのかよ」

 

「……たしかに言ってた。でも響木さんは帰って来たし、会田さんもKFCを指導してるじゃないか」

 

「ああ。それに、おかしいと思わないか?本当にサッカーを、イナズマイレブンを捨てた人たちの集まりが目の前にいる人たちだとしたら、稲妻町で見たことある人ばかりだということがさ」

 

「…………えっ?どういうことだよ半田」

 

「……あー、あのさ、円堂。もしもだぞ、もしも。仮にお前が、雷門中サッカー部を辞めて、サッカーすらも辞めるってなって、雷門中サッカー部のユニフォーム…制服でもいいな。それらを町で見かけると、どう思う?」

 

「いや、オレはサッカーを辞めるつもりは全くないけど、例え話ってことだよな?うーん………サッカーを辞めるってことに、例え話でも実感は出来ないからしっかりしたことは言えないけど、仮にその状況になったとしたら…うーーん………うーーーーーーん………」

 

「………いや。やっぱりそんな深く考えないでいいよ。お前がサッカーを辞めるところなんて、想像も付かないからな。そのままでいてくれ」

 

「えっ?」

 

「あー……あれだろ?気まずいって言うか、稲妻町を離れるんじゃないかってことだろ?」

 

「…………ああ。たしかに、あの人たちを最後に、雷門中サッカー部は止まってしまったようだけどさ。部室は残ってたし、修練場も残ってたんだ。部室はともかく、修練場なんてなかなか取り壊せるものじゃない。どういう形にせよ、イナズマイレブンの伝説が残るってことは、あの人たちが一番理解してるはずなんだよ。にも関わらず、稲妻町に残り続けた」

 

「…………たしかに。言われて考えてみると、私もその立場だったら、引っ越しちゃうかも」

 

 

浮島さん。たしかに貴方は、サッカーを辞めた。

でも、捨てるまでは行ってないはずなんだよ。

今日のこの練習試合で、それを思い出して……。

 

 

「待たせたな。早速だが、試合を始めるぞ」

 

「へっ、このために休暇届を出して来たんだ。審判は俺が引き受けさせてもらう」

 

「鬼瓦さん……刑事さんがサッカーの審判してるよ……」

 

「しかもよく見たら、橋の上に理事長もいるぞ…」

 

「パ…理事長も、イナズマイレブンの大ファンだったようなのよ…」

 

 

………いや。違う。

何十年も経っても、貴方達のファンがまだいるってことは、この町にいる限り、感じてたはずなんだ。

ということは、忘れてたんじゃない。

見えてるものを、見えていないフリをし続けているだけなんだ。

そのことを、自覚してもらう…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな!今日は胸を借りるつもりで行くぞ!」

 

『おお!!』

 

 

今回は、目金と影野が控えにいる。

影野が言うには、イナズマイレブンのプレイをしっかり見るなら、フィールドよりもベンチにいた方がいいとのことだ。

たしかに、フィールドよりもベンチの方が、落ち着いてフィールドを見渡せるからな。

それを踏まえて、いつものツートップに、オレとマックスに宍戸と少林のオフェンス。ディフェンスは風丸と壁山と土門に栗松。もちろんキーパーは円堂のフォーメーションだ。

雷門OBのキックオフから、試合が始まる。

 

 

「………何十年ぶりだと思ってるんだ。そんなすぐに、まともな試合が出来るはずが…」

 

「そら行くぞ!坊主共!!オレ達のサッカー、しっかりと目に焼き付けろ!!」

 

「……えっ?」

 

 

その掛け声と同時に、備流田さんと民山さんが攻め上がってくる。

 

 

「ここは抜かせませんよ!」

 

「勢いはいいが、まだまだだな!ヒートタックル!!」

 

「うわっ!?」

 

 

ボールを奪おうと立ちはだかった少林を、備流田さんはドリブル技のヒートタックルで抜かす。

炎の勢いが弱かった気はしたが、オレ達を抜かす分には足りるってワケか…。

 

 

「まずは俺から行くぞ!」

 

「そんな位置から…なっ!?」

 

 

そのまま備流田さんはボールと共に上空へ。

何かシュートを打とうとしているのは分かったが、まだディフェンスも抜かしてない位置から打ってくるとは…。

しかも、あの動きは…!

 

 

「元雷門中ストライカーのシュート、受けてみな!ファイアトルネード!!」

 

「ファイアトルネード…!?」

 

 

豪炎寺の代名詞と言えるファイアトルネードを、備流田さんは使って来た。

ヒートタックル同様、炎の勢いが豪炎寺のものより弱いようだが、御影の下鶴のコピーされたものよりは上に見える。

 

 

「ザ・ウォー…うわぁ!?」

 

「くっ…!スピニングカット!」

 

 

壁山がザ・ウォールを使おうも間に合わなかったが、風丸のスピニングカットは間に合った。ただそれも、容易く突破されてしまう。

 

 

「ゴッドハンド!!」

 

 

だが、その僅かな時間でゴッドハンドの溜めが間に合い、なんとかファイアトルネードを止めることが出来た。

 

 

「話には聞いちゃいたが、本当にゴッドハンドとはな…!」

 

 

止められたことより、円堂がゴッドハンドを使っていることを嬉しく思ってるような顔をしている備流田さん。

当たり前なんだろうけど、あの人にとっても大介さんは忘れられない存在なんだろうな。

 

 

「ビルダー…?」

 

「…………」

 

 

備流田さんの一連の動きに、動揺している浮島さん。

全盛期よりは劣っているんだろうけど、一応現役のオレ達を突破して、シュートまで持っていったんだ。

元イナズマイレブンの名は伊達じゃない。

 

 

「いけ!半田!!」

 

「それは、貴方も同じなはずだ!ジグザグスパーク!!」

 

「ぐっ…!?その技は…!」

 

 

円堂からボールを受け取ったオレは、ジグザグスパークで浮島さんを突破する。

 

 

「どうした浮島!お前ならその技を止めることが出来たはずだ!」

 

「……言ったはずだ。俺はもう、サッカーを捨てて……」

 

「そんなはずはあるか!本当に捨てているなら、今日!この場所に!そのユニフォームを着て、フィールドに立っているはずがない!!」

 

「……ッ!」

 

「ビルダーだけじゃない!他のみんなも、まだ燃え尽きてはおらん!もちろん、俺もだ!!」

 

「ローリングキック!!」

 

 

浮島さんを突破したオレは、そのままローリングキックへ移る。

ようやく、ムーンサルトとローリングキックの合わせ技が効率よく行えるようになり、威力も上がったんだ。

ただ、響木さんが使ってくるのは…。

 

 

「よく見ておけ、円堂!雷門中サッカー部!そして浮島!!これが元祖の、ゴッドハンドだ!!」

 

 

響木さんのゴッドハンドは、オレのローリングキックを容易に止めてみせた。

円堂も後ろで言っているが、やっぱり元祖はすごいな…!

 

 

「浮島!何故お前が今日ここにいるのか、本当は分かっているんだろう!お前も稲妻町に居続けたのなら、この1年以上見ていたはずだ!目の前の子供達の姿を!!」

 

「……ッ!」

 

「彼らは俺達に憧れて、帝国学園を打ち倒し、ここにいる!それまでの姿を、お前は!俺達は!この稲妻町で見続けて来た!今日までに逃げようと思えば逃げれたものを、お前はそうせずに、フィールドに立っている!その理由、答えを見せてみろ!浮島ァ!!」

 

 

響木さんは浮島さんにボールを渡す。

立ち尽くしている浮島さんに、オレは立ちはだかる。

 

 

「動かないのなら、そのボールはもらいますよ!サイクロ…」

 

「………その技は、キミだけのものじゃない。そして、これもだ!ジグザグスパーク!!」

 

「ぐっ…!?」

 

 

立ち尽くしていた浮島さんは、オレがサイクロンを使う前に、ジグザグスパークで突破する。

そう。オレが使っているジグザグスパークやサイクロンは、貴方も使っていた技なんだ。

だからさっき、オレがジグザグスパークを使った時、驚いた顔をしたんだ。

 

 

「そうだ!俺達が使っていた技は、子供達にも受け継がれている!ならばその先達として、プライドを見せずにはいられないだろう!何故なら、俺達は…!」

 

「………ああ……!伝説の、イナズマイレブンだ……!!」

 

 

その長い髪に隠されて、瞳は見えないが、見えずとも感じる。

再びイナズマが走った浮島さんの瞳には、炎が宿ったんだ…!!

 

 

「ビルダー!!久しぶりに、アレをやるぞ!!」

 

「へっ、ようやくやる気になったか!!急に走り出して、乱れんじゃねぇぞ浮島!!」

 

「そんな無様な姿、子供達に見せられるか!!」

 

 

浮島さんと備流田さんが向かい合い、ボールを打ち上げる。

それを追い、2人は飛び上がる。

 

 

『炎の風見鶏!!』

 

 

備流田さんと浮島さんの同時シュートは、ボールに炎の翼が宿り、ゴールへと突き進む。

そのシュートの勢いは、風丸や壁山のブロックを許さない。

 

 

「ゴッドハンド!!ぐ、ぐうううう……うわあ!?」

 

 

円堂のゴッドハンドを打ち破り、ゴールへと突き刺さる。

全盛期とはいかず、しかもブランクもあったはずなのに、帝国の皇帝ペンギン2号と同等、あるいはそれ以上の威力を持った炎の風見鶏。

これが全盛期だったとしたら…いや、全盛期でなくとも、これ程のシュートを打てるなんて…!

 

 

「どうだ浮島!久しぶりの俺達のコンビネーションは!」

 

「………本当に、ダメだ。年甲斐もなく、胸の熱さが止まらんよ…!」

 

「ガハハ!そうかよ!!まだまだ若いもんには負けねぇな!!」

 

 

完全に、過去の情熱を取り戻した浮島さん。

それに触発されて、他のOBも顔付きが変わった。

姿は今のままでも、闘志と情熱は、全盛期のものとなったようだ。

 

 

「……へっ。最初、あんなこと言ってたと聞いた時はガッカリしたが、なんだよ。とんでもねぇのが出てきたじゃねぇか…!」

 

「いまの炎の風見鶏…オレ達も使うことが出来るなら、全国大会でも戦っていけるだろうが……」

 

「そんなことよりも目の前、だろ?豪炎寺」

 

「…………フッ。オレも、影響されたようだ。熱さが込み上げてくる…!」

 

「僕も。ガラじゃないんだけどね」

 

「やっぱり、元祖イナズマイレブンはすごい…!爺ちゃんの言った通りだ!!みんな!まだまだ試合は始まったばかりだ!!この試合、最後まで全力で楽しむぞ!!」

 

『おお!!』

 

「子供達だけに楽しまれるワケにはいかんな!久しぶりの俺達のサッカーなんだ!分かってるだろ、お前ら!!」

 

『応ッ!!』

 

 

円堂の言う通り、この試合は始まったばかり。

最後の最後まで、存分に楽しむぞ…!!

 

 

「……円堂くんだけじゃない。OBの皆さんも。全員この試合を、心から楽しんでる」

 

「いい笑顔でいっぱいです!これは元新聞部の腕が鳴りますよ!」

 

「あら、新旧イナズマイレブンの記事かしら。まだ新にはなれてないって、彼らは言うでしょうけど。その記事を書くことについては、私も勧めるわ」

 

「………みんな、ズルい。オレも、あの人たちとサッカーしたい」

 

「あれ、ベンチからOBのサッカーを見るって言ってたんじゃ…?」

 

「………ベンチで、サッカーは、出来ない…!!」

 

「ぼ、僕に掴み掛からないでくださいよぉ!?後半に交代すればいいじゃないですか!お、大谷さん!助けてください!!」

 

「私に言われても……がんばって」

 

「後半…後半まで……じっくり見る………!」

 

「わ、分かりました!分かりましたから!離してくださいよぉ!!」

 

「……いいなぁ。これが、楽しむサッカー…か」




OBとの試合についてはここまでですね。
いや、本当はもっと書けるんですけど、めちゃくちゃ長くなりそうなんでカットです。カット。スピニングカット。
後書きではあるんですけど、この先OBがめちゃくちゃハッスルするので、はじめての帝国戦みたいな必殺技の応酬となってます。アンタ達歳考えろ歳。
その辺りは、次の話でも触れますが、試合はここで終わりです。
いや、本当はもっと書きたいんですけど、泣く泣くカットです。カット。ボルケイノカット。


一応ですが、浮島以外最初からやる気あったのは、1年の頃から河川敷で練習し続けたのを会田から発信されて見続けてたからというオリジナル展開です。
もちろん浮島も見てたけど、見てないフリしてました。
それと半田や響木の「稲妻町に残り続けた〜」ら辺は作者の独自解釈です。
割りと合ってるとは思うんですけど、独自解釈です。


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全国に向けて

ここもあまり長くするつもりなかったんですけど、長くなっちゃいました。


OBの皆さんとの試合、その後の特訓を終えて、この日がやって来た…んだけど、その前にあれからどうなったのか、思い返したいと思う。

 

 

『クロスドライブ!!』

『爆裂パンチ!!』

『炎の風見鶏!!』

『ゴッドハンド!!』

『竜巻旋風!!』

『サイクロン!!』

『コイルターン!!』

『ドラゴンクラッシュ!!』

『ゴッドハンド!!』

『マジック!!』

『コイルターン!!!』

『ブレードアタック!!』

『コイルターン!!!!』

『イナズマ1号!!』

『落としぃ!!』

『ゴッドハンド!!』

 

 

それはもう、最初の帝国学園戦かよと思うぐらいの、必殺技の応酬だった。

なんなら、影野がコイルターン一本でめちゃくちゃ頑張ってた。

試合が終わった時なんて、めちゃくちゃスッキリしたような顔してたもんな。顔見えないのにハッキリ伝わったぞアレ。

それから、OBがそれぞれ練習を見てくれて、必殺技の伝授をさせてもらえることになった。

 

 

『炎の風見鶏!!』

 

「よし!もう、完全にモノにしたな!風丸!豪炎寺!!」

 

「まさか、影野が穴開けるぐらい見てたおかげで、こんな早くにコツを掴めるとは思わなかったよ」

 

「………我慢出来なかったから、必死に見てたんだ」

 

 

炎の風見鶏を覚えたいとなった時、炎以外にもスピードとジャンプ力が必要と浮島さん達が教えてくれた。

「陸上部の出番だな!」って、風丸が立候補してくれて豪炎寺と特訓を始めた。その時はとくに疑問に思ってなかったんだけど、スピードはともかく、必殺技に必要なジャンプ力が付く陸上部流石だな。

ただ、練習を始めた時は、2人の息をすぐに合わせられなかったこともあり、失敗が続いた。どうしたものかと思っていたところ…。

 

 

「……浮島さんたちの動きを見た限り、2人の距離が重要だって、ふと気付いたんだ」

 

「だとしても、ベンチだったとはいえ試合中の動きで気付くなんて、大した執念だよ」

 

「……早く、あの人たちと試合がしたかったからね」

 

 

影野のそのアドバイスのおかげで、見事2人は炎の風見鶏を習得した。

他にも必殺技を伝授させてもらえたんだが、それは後だな。

 

 

「さて、オレも練習……ん?」

 

「あの車…夏未ちゃんの?」

 

「私はここにいるから、違うわね。となると…」

 

 

雷門がここにいるとなると、もう1人の雷門だろう。

まあ、そのもう1人の雷門ってのが…。

 

 

「すげぇな。一応学校の敷地内をあんなクルマで移動かよ、理事長」

 

「へー。あの人、雷門の理事長だったのね」

 

「……いや、土門。転校生ってのを抜きにしても、この前のOBとの試合も見に来てたし、気付かなかったか?」

 

「悪い。気付かなかった」

 

「おいおい…」

 

「やあ!突然やって来てすまないね、諸君」

 

「理事長。どうしたんですか?」

 

「我が校のサッカー部が、帝国学園を打ち破り、全国大会へ出場したとなっては、私も居ても立っても居られなくてね。本当は、地区予選出場が決まった時にこうしたかったんだが…私も忙しくてね」

 

「そんなに忙しかったんですか?」

 

「そりゃあ、円堂。理事長って雷門中でも偉ければ、中学サッカー協会の会長だし、フットボールフロンティアの大会実行委員長もやってるんだぜ?この時期なんてとくに忙しいだろ」

 

「えっ、そうなのか!?よく知ってるな…」

 

「いやいや、お前は知らなすぎ…」

 

「そうかしら。中学サッカー協会会長はまだしも、フットボールフロンティアの大会実行委員長なんて、あまり知られてなかったと思うのだけど」

 

「…………えっ、そうなの?」

 

「私に聞かれても…」

 

「勤勉なのは、いいことじゃないか。ともかく、君たちの活躍によって、フットボールフロンティアは大きく盛り上がっている。全国大会の活躍も、期待している!」

 

 

理事長から激励の言葉を頂いた。

さっきオレ達が話してる間に、響木さんと話をしていたことから、この人もけっこうなサッカー好きなんだよな。

 

 

「そういえば、部室の件なんだが……いや、君たちの答えは決まっているだろうな」

 

「えっ、部室がどうしたんですか?」

 

「いや。部員も増えたことだし、あの部室を新しく建て替えようという話も出ていたんだがね。ただ、君たちを見ていると、その必要が無い…というよりは、あの部室が気に入ってるように見えてね。違うかな?」

 

「……はい!!オレ達は、あの部室から始まりましたから!!」

 

「まあ、なんだかんだ、あそこは落ち着くからなぁ。それに、あそこに刻まれた意志も、オレ達は引き継ぐべきだからな」

 

「ん、意志?意志ってなんだよ半田」

 

「えっ、マジかよ円堂。お前気付いてなかったの?」

 

「?」

 

 

そんなことを言いながら、オレ達は部室まで移動した。

サッカーボールの籠をどかすと、そこには…。

 

「"俺たちは逃げたんじゃない!"って…これ、響木さんたちが書いたんですよね?」

 

「気付いてたのか…たしかに、ここは俺達の時代から使ってるからな」

 

「こっちにも、"必殺技完成"って書いてるぜ」

 

「"強くなりたい"……影の存在、だね……」

 

「……たしかに。これは壊すわけにはいかないな。その代わりと言ってはなんだが、別の施設を作ることを検討してもいいかな」

 

「それは、是非。もしかしたら、部員も増えるかもしれませんから」

 

 

……あれ、これってもしかして、世界大会の時の合宿所とか、10年後とかのサッカー棟になるのかな。

流石にあのサッカー棟は違うだろうから、合宿所とか、その辺りになるのかな。

 

 

「……では、私はこれまでだ。時間を取らせてもらって、悪かったね」

 

「いえ。理事長も、けっこう熱い人なんですね」

 

「ははは。キミ達ほどじゃないとも。では、練習頑張ってくれたまえ」

 

「はい!みんな!練習に戻るぞ!」

 

『おお!!』

 

 

オレ達がグラウンドに戻るまで、校舎にいた生徒達からも応援の声が聞こえて来た。

やっぱり、応援ってのはいいな。届いてくる。

 

 

「あっ、風丸さん!!」

 

「ん…宮坂?」

 

 

あれ、風丸が誰かに呼ばれて……陸上部だな。

…………ああ。なるほど。

 

 

「風丸、どうしたんだ?」

 

「……先に練習に戻ってようぜ」

 

「あ、ああ……」

 

 

……今は、オレ達が口を挟むとこじゃないだろう。

しばらくしてから風丸が戻ってきて、練習に参加した。

だが、それから打った炎の風見鶏が、ゴールの枠を捉えることは無かった。

中断するまでは、全て枠を捉えていたんだが……。

 

 

「……意外と分かりやすいやつなんだな」

 

「はあ…はあ……なにが…?」

 

「陸上部に戻って来てくれとでも言われたんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 

豪炎寺のその問いに、風丸は答えなかった。

それから、炎の風見鶏の練習は中断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁあ……早く目が覚めちゃったな」

 

 

日が昇ってそこまで経ってないこの時間、オレは河川敷を歩いている。

こんなに早く学校に行ってもどうせ寝るだけだし、少し遠回りして向かってる。始業まで時間はあるしな。

……時間はあるで思い出したけど、そのうち冬海の見舞いに行かなきゃな。

まだ意識は戻らないって、病院から聞いたけど…ったく、早く目覚ませよ。

 

 

「………ん。陸上部の」

 

「……………」

 

 

向こうから風丸の後輩の陸上部。たしか宮坂だったけかな…。そいつが走って来たんだけど、オレのことを少し睨むような目で見てきた。

……となると、河川敷には……。

 

 

「………やっぱり、いるか」

 

 

そこには風丸と、円堂がいた。

状況を見るに、風丸と宮坂が話をして、宮坂が去った後、円堂がやって来たって感じかな…。

オレが行っても仕方ないな。オレも学校に…。

 

 

「ああ!?」

 

「ああ?」

 

 

そんな円堂の叫びに振り返ると、サッカーボールが川に落ちていた。

………って、何やってんだよアイツ。

 

 

「……流石に、放ってはおけない、か」

 

 

オレは2人のところに行って、3人で協力してボールを拾った。

オレがいなくても拾えたと思うけど、そこはいいか。

 

 

「ずいぶん早いなと思ったら、何やってんだよ円堂…」

 

「いやあ…はっはっは…」

 

「誤魔化せてないから…。で、風丸は……」

 

「……………」

 

「………いや、オレが言うことはないか。ほら、行こうぜ3人とも。円堂は今日日直だろ?」

 

「あっ!いっけね!忘れるところだった!ありがとな半田!!」

 

 

オレがそう言うと、オレと風丸を置いて、全力ダッシュで学校へと向かった。はっや。

 

 

「飛んでったよ、アイツ…べつに、冬海じゃないんだから日誌喰らうことは無いだろうに」

 

「ははは…まあ、円堂らしいよな。冬海先生のお見舞いも、その内行きたいな」

 

「開会式の日ってそれだけだろうし、その帰りにでも行くか」

 

「そうだな。………なあ、半田」

 

「ん?どうしたよ」

 

「…………どっちを選んでも、どっちも裏切るような気がする時、お前ならどうする?」

 

「…………」

 

 

……どっちを選んでも、どっちも裏切る……か。

 

 

「………さあな。オレはその状況になったことはないから分からないよ」

 

「………そう、だよな」

 

「………でも、案外さ。その選ばれなかった方が裏切られたって思うことって、そんな無いんじゃないか?そりゃあ、どっちか選んで、そのどっちかを踏み躙るようなことをすれば、裏切ることになるんだろうけどさ。お前がそんなことするとは思えないし」

 

「えっ……?」

 

「どっちも大切なんだろ?それがどれぐらい大切かなんて、お前にしか分からないんだ。その中でお前が選んだことなら、それがベストだと思うぜ」

 

「…………やっぱり、な。円堂にも言われたよ」

 

「………そうか。なら、それまでに悩め。辛い時間だろうけどな」

 

「……………」

 

「………?どうしたよ、風丸」

 

「いや。今の言葉、さ。妙に実感が篭ってたような気がして」

 

「……気のせいだろ」

 

「そ、そうか……?」

 

 

そんなことを言いながら、オレ達は学校へ向かう。

今の言葉が実感が篭ってたってのは、絶対に気のせいだよ、風丸。

オレは、選ぶまでに辛い時間を感じたんじゃない。

オレはあの時、選ぶまでもなく、手を伸ばしてしまったんだ。

………なのに、アイツが許してくれた、あの時からしばらくが、とても辛かったんだよ。




本当は開会式までやりたかったんですけど、次回になりますね。


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開幕!全国大会!

世宇子のプラカード持ってたお姉さん、あの仕事辞めててもおかしくないと思うんですよ。
僕だったら世宇子中まで行って影山に文句言って鉄骨とトラック刺さりながら辞表出しに行きますね。


今朝は風丸と一緒に登校して、その放課後。

部室で風丸がサッカー部を辞めるんじゃないかって話を壁山や栗松がしてたけど、オレ達が何かする問題じゃないからな。

それは円堂や染岡も言ってたから、後輩たちは落ち着きを取り戻した。

今はグラウンドで練習をしている。風丸も一緒だ。

 

 

『炎の風見鶏!!』

 

「いいぞ、2人とも!」

 

「昨日とは大違いだな。枠に入り続けている」

 

 

炎の風見鶏。昨日のあれから勢いが戻って来ている。

風丸の中で、答えが出たってことなんだろう。

オレ達は、それを待つだけだ。

 

 

「じゃあ、オレも練習に…」

 

「………………えっ?」

 

「夏未さん?どうしたの?」

 

「ん、どうしたんだよ。携帯落として…」

 

「…………お、お父様が……」

 

「………は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様…」

 

「バトラー!何があったの!?」

 

 

雷門と、オレと円堂に木野と大谷の5人が病院に着く。

ちょうど雷門が電話に出た時にその場にいたメンバーで、音無もいたんだけど、6人は流石に多いとなり、染岡達への説明も兼ねて、残ることになった。

窓越しに治療室を見ると、そこには昨日オレ達に激励をくれた理事長が、眠っていた。

ここでようやくオレは、前回も理事長が大怪我を負ったことを思い出すが、この時期でもなければ、原因も違うはずだった。

バトラーさんが言うには、フットボールフロンティアスタジアムの下見の帰りに事故にあったという。

たしか前回は、雷門中のグラウンドで怪我を負ったんじゃなかったか……?

やっぱり、全部が全部同じ、ということはないんだな。

今思えば、OBと試合した場所も、商店街の倉庫じゃなくて河川敷グラウンドだったし。

 

 

「お父様………」

 

「夏未さん……」

 

 

……そんなこと考えてる場合じゃないな。

雷門にとって、唯一の肉親なんだし。理事長のことに専念してもらった方がいいだろうな。

 

 

「お父さんに着いててやれよ。その方がいい気がするんだ」

 

「うん。お父さんが目覚めた時、夏未さんの顔を見ると、安心すると思うから」

 

「夏未ちゃんがいなくても、マネージャーは3人いるから。任せて」

 

「そういうことだ。音無が説明してくれてるから、他のみんなも同じ意見なはずだぜ」

 

「みんな……」

 

 

そう言ってると、鬼瓦さんがやって来た。

理事長が事故に遭ったと聞いて、駆けつけて来たようだ。

鬼瓦さんが言うには、今の影山は手が出せるような状況ではないという。

……影山、か。

 

 

「アイツ……いったい、なんなんだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『全国サッカーファンの皆様!ついにこの日を迎えました!!今ここ、激闘の殿堂フットボールフロンティアスタジアムは、かつて無いバトルの予感に、早くも興奮の坩堝と化しております!!フットボールフロンティア!開幕!!』

 

 

角馬のお父さんの声が、外から聞こえて来る。

オレ達は今、フットボールフロンティアの開会式に出場している。

この年のフットボールフロンティアは、オレにとって2度目のことになるんだが、それでも興奮具合は変わらない。

また、目の前にいる皆んなと一緒に、全国大会に出場出来たんだ。

円堂も、みんなの準備が万端か聞いている。

 

 

「壁山!トイレは大丈夫か!?」

 

「さっき行ってきたッス!!」

 

「半田!遅れるなよ!!」

 

「えっ、なんの話?」

 

 

マジでなんの話だ。遅れるのは豪炎寺の十八番だろ。

………あっ、もしかしてアレか。最近は起きてないサッカー部の十八番のアレか?だとしたらお前らがやってるんだから、それがなきゃオレは遅れねぇよ!!

にしても、さっきから流れてる曲。どうも聞き覚えあるな。どこで聞いたのかは覚えてないけど、なんだっけ。ティーピスト…

 

 

『続いて関東ブロック代表!雷門中学!!』

 

「よし。行ってこい」

 

「みんな、頑張ってね!理事長さんのためにも!」

 

「アキ。気持ちは分かるけど、これ開会式だぞ」

 

「いってらっしゃい、半田くん」

 

「ああ。行ってくる」

 

 

オレ達が開会式に出てる間、響木さん達は観客席にいるらしい。

それもあって、同時に控室を出るが、方向は逆だ。

大谷達に見送られ、ゲートの方へと向かった。

 

 

「いよいよだな。半田」

 

「さっき土門も言ってたけど、これ開会式だぞ」

 

「だとしても、あそこから始まったオレ達が、あのフットボールフロンティアの全国大会に出れてるんだぜ。ちょっとは気合入るだろ」

 

「……まあな」

 

 

先頭にいる円堂が、後ろにいるオレに話しかけ、染岡もそれに混じる。

たしかに、開会式とはいえ、このスタジアムに来ることはオレ達の夢だったんだ。

あの部室を掃除してる時、円堂がフットボールフロンティアのポスターを見つけた事から、それは始まった。

戻って来てから1年と少し。思えばかなり濃い時間を送って来たんだと、改めて思い知る。

この先のこと…エイリア学園についての不安はあるけど、それはひとまず置いておく。

今の時点でオレがどうにか出来る問題じゃないし、フットボールフロンティアが終わってから、ちょっと時間があるからな。

 

 

「絶対に、優勝しような。円堂、染岡」

 

「ああ!」

 

「当たり前だ」

 

「オレ達のことも、忘れるなよ」

 

「そうっすよ!オレ達も雷門中サッカー部の一員なんすから!」

 

「や、忘れてたワケじゃないんだけどな…」

 

「分かってるさ、半田。お前達から始まったことは、みんな知ってる。それでも、今はオレ達もいる。そういうことだ」

 

「そうそう。これぐらい、言わせてよね」

 

 

風丸や壁山、豪炎寺とマックスもそれに入る。他のみんなの顔を見ると、同じ気持ちなようだ。

この先に加わる2人も含めて、大事な仲間だ。

そうだな。オレにとっては2度目だけど、新しい気持ちで迎えるこのフットボールフロンティア。全員で、テッペンを掴み取るぞ。

 

 

「みなさん。そろそろ行きましょう」

 

「あっ、はい!お願いします!」

 

「ふふっ、あなた達の試合、楽しみにしてますからね」

 

 

プラカードを持ったお姉さんに続いて、スタジアムに入る。

……いや、お姉さんって言い方どうなんだろ。たしかに今のオレは中学生だけど、中身は同じぐらいか上ぐらいで……深く考えない方がいいな。うん。

 

 

『雷門中学は、地区予選大会においてあの帝国学園を降した恐るべしチーム!伝説のイナズマイレブン再びと、注目が集まっております!!』

 

 

そんな煽り文句と共に、歓声を浴びながら入場する。

ふと観客席の方を見ると、音無の隣に座ってる角馬が盛大に涙を流している。

………えっ。これもしかして、お前が考えたの?だとしたらありがとうな。角馬。

 

 

『さらに昨年の優勝校、帝国学園が特別出場枠にて参戦!!関東ブロックで地区予選決勝において、雷門中と死闘を繰り広げながらも惜敗した超名門帝国が、特別枠にて王者復活を狙います!!』

 

 

続いて、帝国学園が入場し、オレ達の隣に並ぶ。

 

 

「足の怪我はもういいのか?」

 

「人のことより自分たちの心配をしろ。全国は今までとは違うんだぞ」

 

「だから燃えるんだろ」

 

「オレ達に勝っておきながら、このスタジアムで無様に負けたら許さんからな」

 

「おう。帝国こそ、負けるなよ」

 

 

円堂と鬼道のやり取りを、オレは後ろから聞いている。

円堂は地区予選決勝が終わった後、帝国スタジアムで鬼道と話をしていたらしい。

そこで、円堂は帝国が全国大会に特別枠で出場することを知り、2人は全国大会での再戦を誓ったようだ。

 

 

「………………」

 

「お?なんだよ、半田。ずいぶん難しい顔してよ」

 

「…………やっぱり。開会式とは言っても、いざこの場所に立つと、時間差で緊張してきてさ」

 

「なんだ、お前でも緊張するのかよ。オレ達の中でもわりと冷静っぽいことしといてよ」

 

「………えっ、オレってそんなだった?」

 

「いや、オレ達の中でって、平均よりも上みたいな話だよ。一番冷静なのって豪炎寺とかだろうけどよ」

 

「……そういうことか」

 

 

隣から話しかけて来た染岡に、そう返す。

オレは、知っている。この大会において、雷門と帝国の再戦の約束が果たされないということを。

 

 

『そして残る最後の1校。推薦招待校として、世宇子中学の参戦が承認されております!!』

 

「世宇子……?なあ鬼道、知ってるか?」

 

「………いや。オレも聞いたことはないな」

 

「変だな。推薦招待校なら、ある程度は名が通ってそうなのに」

 

「……………」

 

「……半田?」

 

「……いや。聞いたことがなくても、ここに推薦されて来たのなら、実力は確かなんじゃないかって思ってさ」

 

「まあ、それはそうなんだろうけどさ。鬼道ですら聞いたことないって、相当だと思うけど」

 

「それ、僕たちが言えることかなあ?」

 

 

風丸とマックスのやり取りを横目に、入場門を見据える。

そこからは、世宇子と書かれたプラカードを持ったお姉さん以外、誰もやって来なかった。

 

 

『えー、世宇子中学は、本日は調整中につき、開会式は欠場とのことです』

 

 

開会式にも姿を現さなかった世宇子中。

前回は開会式やトーナメント表でも、世宇子の名は出してなかったと思ったんだけど、オレの思い違いだったか…。

まあ、そこは置いておいて。これで全ての出場校が集まった。

あとは、ここから勝ち進むだけだ。

でも、その前に……。

 

 

「……鬼道」

 

「……?どうした、半田」

 

「……オレも、待ってるからな」

 

「……お前に言われるまでもないが、お前達も勝ち進むんだな」

 

 

世宇子に気を付けろ、と言いたかったが、そもそもまだトーナメント表が決まってなかった為、帝国の初戦が世宇子ということを、鬼道はまだ知らない。

それについて、オレは何も出来ずに、中途半端なことしか、言えなかった。




まあ描写されなかっただけで、前回も開会式出てると思います。


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風丸の決意

前回変な世宇子の誤字の仕方して、またガバしてましたね。
なんで子から守になってんだ。それだとゼウスじゃなくてゼウシュになるぞ。噛んだのか。


投稿してから気付いたんですけど、お気に入りが500突破してました。500ですよ500。
ガバ続出する中途半端な逆行ですけど、これからもよろしくお願いします。


開会式が変わり、部室にいるオレ達。

ちょうどトーナメント表が届いたようで、響木さんが初戦の相手を教えてくれる。

 

 

「一回戦の日程と対戦相手が決まった。明日、戦国伊賀島だ。オレ達も戦ったことがあるが、その時からなかなか手強い相手だ」

 

「響木監督たちも、ですか?」

 

「ああ。恐らく監督も変わってない。開会式の時に遠目で見えたからな。隠居するようなジジイではないことは分かってはいたが、これほどとはな」

 

「響木さんの頃から監督をしてるとなると、ベテランどころじゃないな」

 

「亀の甲より年の功だっけ?でも話し方的に、昔からお爺さんみたいな感じだけど」

 

「……いくつなんだろうな。その監督」

 

 

確かに、前回も響木さんがそんなこと言ってた気がするな。

詳しいことは覚えてないけど、大介さんのことも話してた気がする。

 

 

「試合は明日。今日はもう帰って、ゆっくり休め」

 

「じゃあ、半田。少しだけでも、冬海先生のお見舞いに行かないか?」

 

「……そう、だな。開会式終わったら行くって、言ったもんな」

 

「あっ…じゃあ、私もいいかな?」

 

「ん、いいぞ。3人で行くか」

 

 

風丸と大谷と一緒に、冬海のお見舞いに行くことになった。

今は夕方で、面会終了時間も近いからな。ちょっとだけになるけど、様子見に行かないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ、目を覚さないか……」

 

「先生が言うには、いつ目を覚ましてもおかしくないみたいだけど…」

 

「ったく…早く目覚ませよ、冬海の癖に」

 

「癖にって……」

 

「だって、オレは知ってるからな」

 

「知ってるって、何が?」

 

「OBの人達が、サッカーに戻りやすくしてくれたことを」

 

「………?」

 

「響木さんの店に何度か通って、昔サッカーをやってなかったか?って聞いてたのは知ってたけど、この前の試合の日に聞いたんだよ。去年の中盤辺りから、備流田さんや民山さん達と交流を持ってたらしいんだよ」

 

「えっ、そうなのか?」

 

「交流と言っても、備流田さんの場合は朝早くにジョギングしてるところを挨拶したりとか、民山さんのフォーク喫茶に足を運んだりとかぐらいらしいけどさ」

 

「そっか…菅田先生の場合は、同じ雷門中の教師だもんね」

 

 

オレ達が河川敷で練習してるのを会田さん経由で知ってたOBの皆さんは、冬海からもどんな子達か、どんな夢を持ってるとか、聞いていたらしい。

最初はサッカーに戻ることに抵抗があったようだけど、オレ達がフットボールフロンティアに出場することが決まってから、だんだんと昔の気持ちを取り戻していったらしい。

言われてみれば、テニスコートや野球場の端で練習していた時も、やたら菅田のことを見かけたような気がしたんだよな。

………どうせ聞いても、勝ち馬がどうこうとか言うんだろうけどな。負い目感じすぎだろ。半分半分ってとこだとは思うけど。

 

 

「……何が興味ありませんみたいな態度してんだ全く。いくらOBで稲妻町に居たとはいえ、全員にアプローチかけやがって。そのくせしてオレ達には何も言わないで」

 

「………オレ達のこと、そんなに考えてくれてたんだな」

 

「……………」

 

 

実際、勝ち馬に乗るってのはウソじゃないんだろうけど、オレは何も言わないし、修正してやらない。

大人しく普通の教師として受け入れられとけ。

優勝したらお前の奢りだからな。もちろん部員全員。

 

 

「………なあ、大谷。この複雑な半田の顔見るの、何度目だ?」

 

「え…えーと………どうだろう。なんだか、冬海先生と話してた時の顔にも似てる気がするけど…」

 

「ああ。その時の半田、やたら冬海先生に奢れーだの言ってたよな…」

 

「……………」

 

 

………オレの考えてることの方がほぼバレてるけど、何も言わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ、忍者………?」

 

「は、はい…。校長兼サッカー部監督が、忍者の末裔なんですって…」

 

「……そういえば、昨日言いそびれたな」

 

「ほ、本当なんすか…?響木監督…」

 

「ああ。秘伝の忍法だか知らないが、それで鍛えているらしい。どんな練習かまでは把握してないがな」

 

「に、忍法でサッカー……いったい、何をして来るんでやんしょ…」

 

「身構える事も大事だが、1つだけ教えてやる。奴らが使って来る必殺技の1つは、お前達は既に見ているぞ」

 

「ええっ!?忍法の必殺技を!?い、いったいなんなんですか!?」

 

 

伊賀島の必殺技で、オレ達が既に見ている必殺技……。

ああ、それってあれか。

 

 

「もしかして、分身フェイントですか?」

 

「ああ。それだ」

 

「ぶ、分身フェイントって…五条や佐久間が使ってた……?」

 

「な、なんで帝国が伊賀島の必殺技を……?」

 

「そこまでは俺も知らん。影山が目を付けたか、偶然の産物か、あるいは似て異なるものかもしれん」

 

「ま、まさか!?五条さんや佐久間さんも忍者の末裔ってことは…!!」

 

「目金。そりゃねえだろ」

 

「伊賀島の場合は分身の術とかを基にしてるんだろうけど、帝国の場合は別の原理って考えたら、納得は出来るかもしれないな」

 

「じゃあ、別の分身技が出てきたりするのかね」

 

「分身キャッチとか?」

 

「分身ヘッドですよ!」

 

「分身シュートとかじゃないかな……」

 

 

木野と少林がハズレで、大谷しか当たってないってのもすごいな。

ていうか少林の分身ヘッドって、自分のクンフーヘッドに引っ張られてるだろ。

 

 

「今まで通り、何をして来るか分からない相手だけど、同じサッカーをするってのも変わらないさ!全国でも、真正面からぶつかってやろうぜ!」

 

「まっ、それしかないよね。僕たちってさ」

 

「炎の風見鶏も、チャンスがあったら積極的に狙ってってくれよな!」

 

「ああ」

 

「もちろん!」

 

 

とかやってる間に、練習時間も近づいて来た。

それを狙った来たのか、木野の携帯へ理事長の所にいる雷門からメールが届いた。

全国大会最初の試合なのに、マネージャーの役目を果たせない事への謝罪と、勝利を信じている。必ず勝てとの激励だった。

 

 

「これは理事長の言葉と思ってもらっても構いません…だって」

 

「………応援と命令、どっちなんだろう」

 

「でもなんか、真っ先に謝罪から入るとことか、律儀だよな」

 

「まあ、こういう言い方もアレだけどさ。雷門夏未って感じがして、安心したよ」

 

「たしかに。お父さんの理事長があんな目に遭って、オレ達も心配してましたからね」

 

「よーし!理事長や雷門、まだ目覚めない冬海先生のためにもこの初戦!絶対に勝つぞ!」

 

 

円堂の声にみんなが続いて声を上げる中、風丸が1人だけ、顔を引き締めて気合を入れていた。

……その顔なら、答えは決まってるようだな。

みんなが先にフィールドへ行く中、最後に風丸が向かったのを確認して、オレと円堂もそれに続き、風丸に声を掛ける。

 

 

「風丸。あの後輩のことなんだけど…」

 

「宮坂か…。アイツは多分、言葉じゃ納得しないだろうから…」

 

「……ってことは、ここに来てるのか?」

 

「ああ。オレの答えを、サッカーで見せてやるつもりなんだ」

 

「えっ…ってことは……!」

 

「……そうだ。オレが今日、ここにいるのは…サッカーをするためだ」

 

 

そういう風丸の目は、この前豪炎寺に問われた時の目とは違い、覚悟を決めた目だった。

今回も、お前はサッカーを選んだんだな。風丸。

なら、一緒にこの道を進まなきゃな。

 

 

「そう決めたんだな。風丸」

 

「なんでサッカーをやるのか…オレ自身が、答えを探してる途中なんだろうけどな…」

 

「なら、見つければいい。思いっ切りボールを追い掛けて、その先の答えを。だろ?円堂」

 

「ああ!にしても…半田、上手いこと言うな。オレだったらその先の答え…まで思い付かないぞ」

 

「………よし。行くぞ2人共。置いてくからな」

 

『半田にだけは置いてかれない!!』

 

「なんで一語一句同じ事言うんだ!?」




えー、ホントは霧隠襲来まで書こうかと思ったんですが、次回に回します。

無印の頃はちょくちょく必殺技が被ってるのが多かったのは分かるんすけど、帝国→戦国伊賀島なもんで、帝国が分身フェイント使ってから多分本家分身フェイントを見ると、どういう経緯で帝国が分身フェイント使い出したんだと当時から気になってるんです。


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忍び襲来

忍者って多分闇討ちとかするはずなんすけどね。


練習時間の間、最終調整として軽めの練習をしている。

わざわざ相手にこちらの手札を晒す必要もないからな。普通のパス練習やシュート練習が中心で、今はミニゲーム形式の練習だ。

こうしてると最初の1年を思い出すから、こういう練習もオレは好きなんだけどな。

 

 

「豪炎寺!」

 

「ああ!」

 

 

オレが豪炎寺に向けてパスを出し、それを追って豪炎寺がトラップしようとするが…。

 

 

「なっ…!?」

 

「はあ!?」

 

 

ゴールの向こうから誰かが走ってきたと思ったら、豪炎寺が受け取ろうとしたボールを横取りされた。

……おい、アイツまさか……。

 

 

「誰だ!」

 

「お前に名乗る名は無い…」

 

「なに!?」

 

「オレが用があるのは…お前だ!」

 

 

そう言って、豪炎寺に向けてボールを蹴り、豪炎寺はそれを受け取る。

 

 

「豪炎寺修也!オレと勝負しろ!」

 

「なに?」

 

「お前の噂は聞いているぞ、天才ストライカーなんだってな。オレは戦国伊賀島の霧隠才次」

 

「円堂にって意味なんだろうけど、すぐ後に名前名乗ってんじゃねえよ…。で?今日の対戦相手が、一体何の用だよ。こっち練習中なんだけど」

 

「オレも足には自信がある。どっちが上か決めようじゃないか。ここからフィールドをドリブルで往復して、速さを競う。簡単だろ?」

 

「断る。迷惑だ」

 

 

そう言って、豪炎寺はボールを投げ返す。

まあ、当然だよな。オレ達練習中だっての。

 

 

「なにっ!?逃げるのか!?腰抜けめ!」

 

「腰抜けだと!?」

 

「お前には言っていない!」

 

「円堂。気持ちは分かるけど落ち着け」

 

「けどさ!」

 

「あのさ、霧隠。お前から勝手に吹っかけた勝負に受けなかったからって、腰抜けって言うのはおかしいだろ。たしかにストライカーでもドリブルも必要だけど、豪炎寺の場合はそこまで必要じゃない。お前だって豪炎寺が使う技の1つぐらい知ってるだろ?アレ使うのにドリブルが重視されるかよ。そもそもエースストライカーって知っててなんでドリブル勝負挑むんだよ。そこは普通シュート勝負じゃないのかよ。あと何度でも言うけど、オレ達練習中なの。そこに突然割って入って来て、なんで勝負引き受けられる前提なんだよ。当たり前だけどアポ無しで来てるんだから、断られる可能性のが大きく…」

 

「す、ストップストップ半田!!霧隠が半泣きになってるから!!」

 

「えっ?あっ…」

 

「お、覚えとけよ!お前!!!」

 

 

円堂を落ち着かせるためにオレが割って入ったら、何故かその円堂にオレが落ち着かされて、目の前の霧隠が半泣きになっていた。

それに気づいた途端に、そんな捨て台詞を残して忍び式の瞬間移動みたいなのでいなくなった。

 

 

「……………あーあ。半田、対戦相手いーじめた。いけなーいんだ」

 

「い、イジメ…!?イジメてないだろ!!」

 

「だってあんな幼気な戦国伊賀島キャプテンを正論で詰めてたらねえ…」

 

「ぶっちゃけ、オレもあそこまで詰められたらと思うと…ちょっと怖いッス……」

 

「…………気のせいじゃなきゃ、目もハイライト消えかけてた」

 

「……よーしお前ら、練習へ戻るぞ」

 

「強引にも程あるでしょ……」

 

 

いや、まあ…正直詰め過ぎた自覚はあったけど、なんか勢いが止まらなくなっちゃって。

だって言い続けてる内に、段々ここおかしいだろってなるとこがわんさか湧いて来てさ……これアレだ。戻ってくる前に職場の先輩に扱かれたのが原因だろ。絶対そのせいだ。そうに違いない。

 

 

「……半田くんのあの目、他人のせいにしようとしてる目だね」

 

「えっ。つくしちゃん分かるの?」

 

 

………何も聞こえなかった。オレは何も聞こえなかったです。はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!これよりフットボールフロンティア全国大会初戦!雷門中学対戦国伊賀島中学の試合が始まります!!』

 

「ポジションは前回の帝国戦通りだ。栗松や目金もスタンバイしておけ」

 

「は、はい!」

 

「わ、分かってますよ!」

 

「ガッチガチに緊張してんなぁ。シャキッとしろよシャキッと」

 

「だ、だって!こんなに観客いるのなんて初めてでぇ…!」

 

「無理ないけどさ。そこでガッチガチに緊張してる方が注目されるぜ?ほら、雷門も言ってただろ。シャキッとしろって」

 

「い、言ってたでやんすか…?」

 

「似たようなこと言ってただろ」

 

「まあ、必ず勝てよとは言われたかな。だったら、しっかり構えてた方がいいだろうし、シャキッとな!」

 

 

オレと風丸で、硬くなってた目金と栗松の肩を叩く。

風丸も面倒見良いんだよな。助かる。

 

 

「よし。じゃあ行こうぜ、風丸。いるんだろ?宮坂」

 

「……!ああ!!」

 

 

オレがそう言いながら観席を親指で指すと、ちょうどそこに宮坂がいたらしく、風丸が気合を入れ直している。

風丸たちが炎の風見鶏を決めやすくできるよう、立ち回るかな。

 

 

「……!お前、見てろよ!オレの力を見せつけてやる!」

 

「えっ…なんでオレに対抗心燃やすの…。馬鹿にしたつもりも無いのに…」

 

「まあまあ。スピードが自慢みたいだろうから、なるべくオレが引き受けるよ」

 

 

オレと風丸がポジションに着こうと移動してると、向こうからクソガk…いや霧隠がオレに威嚇して来た。

泣かれるよりは全然良いんだけど、キャプテンでフォワードな奴が、たかが普通のミッドフィルダーに威嚇するなよな…。

 

 

「よーしみんな!全国の舞台だろうと、オレ達のサッカーを忘れるなよ!」

 

『おお!』

 

 

そんなことがあった内に、円堂の号令が入り、試合開始の笛が鳴る。

こちらのフォーメーションはいつものツートップ。いつもの中盤に、守備陣は風丸と壁山に土門と影野。まあいつものだな。

雷門ボールで試合が始まり、これまたいつものごとく、オレにボールが回ってくる。

 

 

「お前!オレと勝負しろ!!」

 

「勝負挑めたら誰でもいいのかよ!?」

 

 

オレがドリブルで攻め込んで行ったら、目の前に霧隠が現れた。

簡単には抜かさないと、執拗にボールを奪おうとしてくるため、オレも細かい足技を絡めてボールをキープしている。

 

 

「どうしたどうした!オレ1人抜かせられないのか!」

 

「しつこ過ぎるぞお前!!」

 

「半田!こっちだ!!」

 

「……ッ!風丸!!」

 

 

後ろから風丸の声が聞こえた為、バックパスで風丸にボールを渡す。

必殺技だけじゃなく、基礎的な練習も忘れてなかったからここを切り抜けられたが、もうちょっと磨くべきかな…。

 

 

「ふん。味方がいなければ突破できなかったか」

 

「おい、サッカーは個人プレーだけじゃなくてチーム競技だろ。そこは分かってるはずだと思ったんだが」

 

「………なるほど。アイツのスピード、なかなかだな」

 

「話聞いて…いや、試合中だからそりゃそうなんだけど…」

 

 

オレの話を聞いてるのかすら怪しいが、あの目は次の獲物を見つけた狩人の目だった。

いやおかしいだろ。忍者ってそんな好戦的だったけ。絶対違うだろ。

 

 

「宍戸!」

 

「は、はい!!」

 

「伊賀島流忍法!影縫いの術!!」

 

「うわぁ!?」

 

 

風丸が宍戸にパスを出すも、ディフェンダーの必殺技によって防がれてしまう。

 

 

「こっちだ!」

 

「行け!霧隠!!」

 

「やらせない…!コイルターン…!!」

 

 

ボールを受け取った霧隠に影野が立ちはだかり、必殺技のコイルターンでボールを奪おうとするが…。

 

 

「………えっ?」

 

「何をしている?オレはここだ!!」

 

「い、いつの間に……!」

 

「ふん、伊賀島流忍法!残像の術!!」

 

「シュートを打たせるな!守りを固めろ!!」

 

 

円堂の指示により、影野を除いたディフェンス陣や、戻って来ていたオレや少林がシュートを打たせまいとシュートコースに立ちはだかる。

流石にこれだと、シュートを打ってこないだろう。

 

 

「伊賀島流蹴球戦術!集結!!」

 

『応ッ!!』

 

「えっ」

 

 

と思ったら、霧隠の横に7人ぐらい集まって、隊列を組んできた。

…………ヤバい!これって確か……!!

 

 

『偃月の陣!!』

 

「なにっ!?」

 

 

巻き上げた土煙を巻き上げながらフィールドを突き進み、オレ達守備陣は吹き飛ばされる。

そういえば…こんなことして来たよな……!!

 

 

「あとはお前だけだ!伊賀島流忍法!土達磨!!」

 

 

偃月の陣の中から霧隠が飛び出し、打って来たシュートは土を巻き込んで巨大化していき、霧隠が土達磨を解除すると、勢いはそのままにボールが突き進む。

 

 

「くっ…!熱血パンチ!!」

 

 

ゴッドハンドを溜める時間が無く、円堂は熱血パンチで防ごうとするが…。

 

 

「ぐうう…!うわあ!?」

 

 

防ぎ切ることは出来ず、点を奪われてしまった。

 

 

「見たか!オレの力、伊賀島流忍法を!!」

 

「くそっ…これが全国か……!!」

 

 

分かってはいたが、地区予選ですら実力者揃いだったのに、全国大会となると精鋭揃いにまで広がる。

食い付いて行きたいが、さっきの偃月の陣が厄介すぎるな…!!




偃月の陣とかいうゴリ押しの極みみたいな必殺タクティクス。けっこう好きっす。


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忍法破り

毎度のごとくオリジナル設定擬きが生えております。
というより独自解釈ってやつかもしれないっす。
あとなんか書き続けたらだいぶ長くなりましたけど、疾風ダッシュしながら読んでってください。


あとあとなんか変な予約投稿のミスり方してますけど気にしないでください。


あれから攻防が続いたものの、互いに得点につながることはなく、前半が終了した。

 

 

「忍法ヤバいな」

 

「ヤバいですよ忍法」

 

「ヤベェよな忍法」

 

「みんな日本語が下手くそになってるな…」

 

「忍法で破壊される日本語ってなに?」

 

 

いつもの如く、雷門側ベンチでハーフタイムを過ごす。

思い返すのは、前半で見た数々の必殺技だ。

 

 

「どれも強力な必殺技だったな。イナズマ落としをしようと壁山が上がれば、蜘蛛の糸で壁山を捕まえることでそれを阻止してきたし」

 

「分身技2つあったな。分身の質が上なのか、派生技があった」

 

「フェイントで突破するのと、3人同時でシュートするのとじゃ後者のが難しいとは思いますが、帝国もやろうと思えば出来るんじゃないですかね。今は関係無いですけど」

 

「あとは何より…必殺技もそうだけど、あの伊賀島流蹴球戦術だな。偃月の陣と、鶴翼の陣の2つか」

 

 

そう。あのゴリ押しの極みみたいな偃月の陣の他に、必殺タクティクスはもう1つあったんだ。

それは鶴翼の陣。オレの記憶だと戦国伊賀島のフォーメーションの名前だったはずなんだが、2つ目の必殺タクティクスとして現れたんだ。

オレが豪炎寺と一緒に攻め上がると、号令と共にオレ達の後ろから取り囲むように現れ、ゴール前中央へと誘導された。

オレが隣の豪炎寺にボールを渡すと、それを待っていたかのようにゴール前のディフェンダー2人掛かりで必殺技の四股踏みによって、ボールを奪われたんだ。

 

 

「…………なあ、マックス。あれについてさ、オレ思うところあるんだけど」

 

「なに?偃月の陣の攻略でも思い付いた?」

 

「いや、違う」

 

「ああ鶴翼の陣の方?あれ喰らったの半田と豪炎寺だけだもんね。何があるの?」

 

「いや、半分合ってるんだけど、それも違くて。今まではほら、影縫いとか、蜘蛛の糸とか、つむじとか、極め付けは分身フェイントとか、忍者っぽい必殺技でいっぱいだったじゃん」

 

「……………分かった。分かったから半田、その先言わなくても…」

 

「でも四股踏みだけおかしくないか!?口寄せでカエル呼び出してとかならTHE忍者って感じがして盛り上がったぜ!?でも四股踏みは忍者じゃないだろ!?"伊賀島流忍法!四股踏み!!"じゃねえよ!!」

 

「だから分かったから言わなくていいって言ってるじゃん!僕も思ったよそれ!多分皆んなも思ってるよ!でも言わなかったのに!!」

 

「誰か半田止めろ!」

 

「…………つくしちゃん。いってらっしゃい」

 

「えっ!?私!?」

 

「ええ。大谷先輩、お願いします!」

 

「春奈ちゃんも!?」

 

「大谷もおかしいと思うよな!?四股踏みは力士で、絶対忍者じゃないよな!?」

 

「え、えーっと……わ、私もそう思ったけど…」

 

「よし。その間に僕から。偃月の陣は無理だけど、鶴翼の陣なら、1つ考えてることがあってさ……」

 

 

数分後。

 

 

「……なるほど。たしかに、それはありかもしれない」

 

「でしょ?僕たちは使用者じゃないけど、見てた分だといけそうな気がするんだよね」

 

「ああ。マックスの作戦、アリだと思う」

 

「じゃあ半田。流石にそろそろ聞こえてたと思うけど、もしそうなったら…」

 

「オレだって忍者って聞いて楽しみにしてたんだぜ?忍者って言ったらカエル呼び出すじゃんか」

 

「そこは私も思ってた」

 

「ヤバいぞマックス。大谷も"忍者と言えばカエル口寄せ"トークに呑まれてる」

 

「………壁山おねがーい」

 

「は、はいっス!!」

 

 

気付けばオレは壁山に引っ張られ、フィールドに連れられた。

まだカエル口寄せは諦めきれてないけど、マックスの話は聞いた。

なるほど。分の悪い賭けって程じゃないし、アリだなそれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハーフタイムが終わり、これより後半戦が始まります!戦国伊賀島が点差を守り切るか、さらに広がるか!あるいは雷門が押し切るか!後半戦も目が離せません!!』

 

「ふん。伊賀島流忍法が破られるものか。この試合、オレ達がもらった!」

 

「おいおい。まだ後半戦が始まってすらいないってのに、そんなこと言ってていいのかよ」

 

「慢心するなとでも?油断も慢心もしないが、お前達に伊賀島流忍法や、伊賀島流蹴球戦術が破れるとでも言うのか」

 

「まあ、後半戦次第ってヤツだ」

 

「………ふん。ならば後半戦、お前達がどうか抗うか、見させてもらう」

 

 

また霧隠が突っ掛かってきたが、オレはそう返す。

自分達の伊賀島流忍法に自信があるのか……いや、アレは誇りってやつだろうな。

実際は分からないけど、戦国伊賀島の監督は、響木さんが現役の頃から現在までの現役で務めてるらしいけど、サッカーとは言え、忍法を他人に教えると言うのは、そう簡単じゃ無いと思う。

その中でもキャプテンを務めてる霧隠は、伊賀島流忍法を教えてもらえたことや、キャプテンを任命されたことについて、誇りを持っているんだろう。

そうなると、試合前に自分の力を見せようとなったのも、同意までは行かないけど、納得はする。

このフットボールフロンティア全国大会という舞台で、戦国伊賀島のキャプテンとしての力を見せたかったんだろう。

試合でやれよとか、練習に割り込むなとか、色々言いたいことはあるけどな。

 

 

「………だからって、こっちも負けてられないけどな」

 

 

そう呟くと同時に、後半戦開始の笛が鳴る。

戦国伊賀島からのボールで始まり、フォワード陣が攻め上がってくる。

 

 

「いかせるかよ!」

 

「ふっ…残像の術!」

 

「なっ…!クソっ、やり辛えな!」

 

「伊賀島流忍法は、破れやしない!」

 

 

染岡がボールを奪おうとするも、霧隠が残像で突破する。

 

 

「なら、3人で行くよ!」

 

「はい!」

 

「ああ!」

 

 

マックスが声を上げ、オレと少林もプレスを仕掛けようとするが…。

 

 

「甲賀!」

 

「伊賀島流忍法!分身フェイント!!」

 

「くっ…!」

 

 

霧隠がバックパスで後ろに居た甲賀にボールを渡し、そのまま分身フェイントで突破される。

 

 

「行け!柳生!」

 

「分身シュート!!」

 

 

その流れでボールが柳生に渡り、3人に分身した柳生が分身シュートを放ってくる。

 

 

「スピニングカット!!」

 

「ザ・ウォール!!」

 

 

だが、風丸と壁山がシュートブロックをしてくれたおかげで、シュートは円堂に届くことはなく防がれた。

 

 

「風丸!こっち!!」

 

「よし、行け!マックス!半田!!」

 

「ああ!」

 

 

マックスがボールを受け取り、オレもマックスに続き、攻め上がる。

 

 

「ミッドフィルダーが2人…両方ともシュート技を確認済みで、連携技が来ないとも限らない…フォワードも下がっている…ならば!伊賀島流忍法!鶴翼の陣!!」

 

「了解!疾風怒濤!!」

 

『応ッ!!』

 

 

初鳥が号令を出し、霧隠達がオレ達を囲うように現れる。

オレとマックスはそれぞれローリングキックやスパイラルショットを地区予選の時に使っていた為、それを戦国伊賀島も知っていたのだろう。オレ達のシュートを止めるべく、鶴翼の陣を使って来た。

一応、フォワードにボールが渡ることも警戒したのだろうが、2人とも雷門側に下がっていた為、ボールが渡ってもシュートに移らないと判断したのだろう。

 

 

「マックス。まだだよな。ギリギリまで…」

 

「うん。もう少し…」

 

 

周りの相手選手に聞こえないよう、小声で喋るオレ達。

そうだな。もう少しコイツらを…!

 

 

「……よし!今だ!!」

 

「了解!スパイラル…!」

 

「この状態でシュートを打つか!だがそんなのも想定済みだ!!」

 

 

タイミングを見計らったオレが声を掛けると同時に、マックスはスパイラルショットの体勢に入る。

霧隠の言う通り、それぐらいは想定していたのだろう。キーパーの百地がつむじの発動準備をしている。

 

 

「……なんてね!!」

 

「なにっ!?」

 

 

その体勢から、マックスは身体の向きを変えて、ボールを中心に後ろを向く。

スパイラルショットではなく、普通のロングシュートを雷門側に向けて打つような形となった。

 

 

「どこへ向けてシュートを打ってるんだ!?何をして…!?」

 

「ま、まさか…!?」

 

「そのまさかってな…!行け!風丸!豪炎寺!!」

 

『ああ!!』

 

 

マックスの打ったシュートは、センターサークルの方へと落ちる。

そこへ向かって走るのは、風丸と豪炎寺の2人だ。

この2人が揃えば、やることは1つしかない。

備流田さんと浮島さんから伝授させてもらった、新たな必殺シュート…!

 

 

『炎の風見鶏!!』

 

 

ちょうどセンターサークルを中心点にして打ち上げ、2人が同時に放ったシュートは、炎を纏った風見鶏と化し、猛スピードで突き進む。

 

 

「い、伊賀島流忍法…うおおおおお!!?」

 

 

炎の風見鶏は、つむじを発動させることも間に合わず、ゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴオオオオオオル!!なんということだ!センターサークルから放たれたシュートは、そのスピードを緩めることもなく、戦国伊賀島のゴールへと一直線!!雷門!同点に追い付いたああああ!!』

 

「ば、バカな…!伊賀島流蹴球戦術…伊賀島流忍法が…!?」

 

「油断も慢心もしてないのは事実なんだろうけど、オレ達の実力を見誤ったな」

 

「くっ…!」

 

 

一連の出来事に衝撃を受ける霧隠だが、実際コイツらは油断も慢心もしていなかったんだろう。ちゃんとフォワードが攻め上がってないことを確認して、オレ達にマークを付けた。

だが、それはマックスの立てた作戦にまんまと乗らされただけに過ぎなかった。

いや、これはマックスが上手かった。確かにあの練習で何度も炎の風見鶏を見て来たけど、センターサークルから打っても威力はそこまで落ちてないってのはオレも感じてた。ただスピードについては着目してなかったんだよな。

ロングシュートとしても、炎の風見鶏は強力だったんだ。

 

 

「……よし。じゃあ栗松、行けるか?」

 

「は、はい!準備は出来てるでやんす!」

 

「影野!栗松と交代だ!」

 

「………分かった。栗松、がんばって」

 

「はい!」

 

 

このタイミングで、栗松が影野と変わって入ってくる。

後半も折り返し。あと1点、取りに行くぞ。

 

 

「残像の術!」

 

「チッ…!」

 

 

再び霧隠が残像で染岡を抜き去る。

目の前に行ったタイミングで残像を置いて行くから、対応がしづらいんだよな……。

 

 

「ってことは、そっちに行くよね!」

 

「分かってても、破ることは不可能だ!分身フェイント!!」

 

 

同じく、再びボールを受け取った甲賀が分身フェイントを発動し、マックスを抜き去る。

 

 

「伊賀島流忍法によって授けられた分身の術、見極めることなど不可能と知れ!!」

 

「見極める必要なんていらないだろ。まとめて吹き飛ばせばいいんだから!!」

 

「なにっ!?」

 

 

抜き去ったマックスの後ろには、オレが控えていた。

今言った通り、どれが分身じゃない本体かなんて、見極める必要はない。コイツでまとめて吹き飛ばせばな!!

 

 

「サイクロン!!」

 

「うわああああ!!?」

 

 

3人の甲賀の着地点に向けて、オレはサイクロンを発動した。

竜巻に巻き込まれた3人の内、2人は消えていたが、そこを気にすることはない。

奪ったボールをトラップで受け、敵陣地へ向けて攻め上がる。

 

 

「突破はさせない!伊賀島流忍法、影縫いの術!!」

 

「そいつも、飛んじゃえば効かないよな!ムーンサルト!!」

 

 

後ろから高坂の影縫いがやって来るが、それを見越してたオレはムーンサルトで回避する。

 

 

「それはこちらも読んでいた!伊賀島流忍法!蜘蛛の糸!!」

 

 

さっきオレがやったことの仕返しのつもりなんだろう。風魔がオレの着地点付近に、蜘蛛の糸を設置している。

 

 

「くそっ…栗松!」

 

 

蜘蛛の糸に絡まる前に、空中で栗松に向けてパスを出す。

これでフォワードにパスを出すことを封じたと、戦国伊賀島は思っただろう。

だが、これは苦肉の策じゃない。むしろ、こちらのアドバンテージにもなる。

 

 

「行くでやんす!」

 

「通させない!影縫いの術!」

 

「追い付かなければいいなら、こうするでやんす!たまのりピエロ!!」

 

 

再び高坂が影縫いでボールを奪おうとするが、それを栗松はたまのりピエロで加速し、振り切る。

 

 

「栗松!アレをやるよ!!」

 

「分かってるでやんす!行くでやんすよ、少林!!」

 

 

そこへ少林がやって来て、栗松はたまのりピエロを解除して、少林と向き合う。

栗松はボールを頭の上へと打ち上げ、そこからヘディングで更に打ち上げると同時に、飛び上がる。少林もそれに続く。

 

 

『ジャンピングサンダー!!』

 

 

ボールに追い付いた栗松は、ヘディングで少林へとボールを渡す。

この時既に、ボールにはオーラが宿っていたが、それを少林が蹴ることにより、突き進んだボールはイナズマを纏い、ゴールに突き進む。

 

 

「伊賀島流忍法!つむじの術!!」

 

 

今度は警戒していたのか、百地はつむじを展開させるが、つむじ風では2人のシュートを弱めることは出来ずに、得点を許してしまった。

 

 

『ゴオオオオオル!!栗松と少林の新必殺技で、雷門!ついに点差をもぎ取ったあああ!!』

 

「やったなお前ら!練習した甲斐があったな!!」

 

「ったく、本当はオレがシュートを決めたかったんだが、くれてやるよ!全国大会での見せ場!!」

 

「あ、ありがとうございます!!で、でも!あんま揉みくちゃにしないでくださいよお!!」

 

「そ、染岡さんも!オレの頭なんてぐしゃぐしゃにしても意味がないでやんすよ!!」

 

 

少林達の言葉通り、オレが少林の、染岡が栗松の頭をめちゃくちゃ撫でてやってる。

染岡もあんなこと言ってるけど、内心めちゃくちゃ嬉しいんだろ。いい笑顔してるし。

 

 

「………まだだ。まだ試合は、終わってない!!」

 

 

霧隠がメンバーを鼓舞する声が聞こえてくる。

そろそろ試合が終わりそうだが、笛はまだ鳴っていない。

最後の猛攻を掛けてくるだろう。

 

 

「伊賀島流蹴球戦術!全員集結!!偃月の陣!!」

 

『応ッ!!!』

 

 

その予感は的中し、試合再開の笛が鳴ると同時に偃月の陣で突っ込んで来る。

流石にこれはサイクロンで止められないと、フォワードとミッドフィルダー陣は為す術もなく、吹き飛ばされる。

 

 

「通させないッスよ!ザ・ウォール!!!」

 

 

だが、そこに壁山が立ちはだかる。

渾身のザ・ウォールにより、偃月の陣を食い止めている。

防ぎ切ることは出来ないだろうが、時間を稼ぐことは出来る。

 

 

「ならば!オレだけでも突き進むだけだ!!」

 

 

ザ・ウォールを打ち破る一瞬も惜しいと、中から霧隠が飛び出す。

 

 

「同点に追い付く!喰らえ!土達磨!!」

 

 

霧隠が執念を込めた土達磨は、雷門ゴールへと突き進む。

 

 

「させるか!スピニングカット!!」

 

 

風丸がスピニングカットを張るも、執念を込めたからか、さっきの土達磨よりも威力は上がっているらしく、あまり威力を打ち消すことは出来なかったものの、1発目の土達磨よりも少し弱いまでに落とすことが出来たようだ。

だが、円堂のゴッドハンドが間に合わない。

 

 

「熱血パンチがダメでも、何発も打ち込んでやる!爆裂パンチ!!」

 

 

ゴッドハンドが間に合わなくとも、円堂には爆裂パンチがある。

高速で連続して打ち込むパンチングは、だんだんと威力を打ち消していく。

 

 

「だあああああああ!!!」

 

 

そして、円堂は土達磨を弾き返すことに成功する。

 

 

「ぐっ……!でも、まだだ……!!」

 

 

それでも、霧隠は諦めずに、円堂が弾き返したボールを拾おうと、走り出す。

とんでもない執念だな…!

 

 

「円堂が守ったボールは…拾わせはしない!!」

 

 

それに続き、風丸が走り出す。

ボールは既に地面に着き、2人の距離も同じぐらいだ。

風丸と霧隠のどちらかが先にボールに着くかの、スピード勝負が始まった。

 

 

「負けたくない!オレは、オレ達、戦国伊賀島は!!」

 

「それはオレも一緒だ!よりによってスピード勝負で、負けられるか!!雷門が勝ち進む為にも!!」

 

 

2人とも、互いに負けられないと叫び、ボールに向かって走る。

そして、2人の距離も近付き、ボールまで残りわずかになる。

先にボールを拾ったのは……。

 

 

「もらった……!疾風ダッシュ!!」

 

 

風丸だった。

タッチの差でボールを拾った風丸は、自身のドリブル技である疾風ダッシュで、更に霧隠との差を広げる。

 

 

「………ふふっ、届かなかった、か……」

 

 

そこで、試合終了の笛が鳴る。

風丸が先に間に合わなきゃ、再び霧隠にシュートを打たれていたかもしれなかった。

風丸のおかげ……だな。

 

 

「………オレの負けだ」

 

「ナイスファイト。いい執念だったぜ」

 

「オレも、少しでも遅れてたら間に合わなかった。ナイスファイト!」

 

「ふっ…だが、次は負けないからな!来年のフットボールフロンティア、首を洗って待っておけ!!」

 

「ああ!」

 

「……あと勝負したいなら、先に連絡を入れることを忘れるなよ」

 

「うっ……わ、分かったよ……」

 

 

言葉を詰まらせたが、霧隠は苦笑いしながら、オレに答えた。

ホント、いきなり来るのだけは困るからな。

 

 

「ははは……あっ…」

 

「ん、どうした?風丸」

 

「……宮坂が、手を振ってくれてるんだ。それに、笑顔で」

 

「………そっか。後で顔を出したほうがいいだろうけど、多分言われると思うぞ。カッコよかったって」

 

「………照れるな、まったく」

 

 

そう言う風丸も、いい笑顔をしている。

後輩に、良いところを見せられたのが嬉しかったんだろうな。

 

 

「……じゃあ、そう言うワケで」

 

「えっ?」

 

「みんな!風丸を胴上げだ!!」

 

『応ッ!!!』

 

「えっ、速っ!?さっきの偃月の陣の集結みたいな速さだったぞ!?」

 

 

オレが声をあげると、気付けばみんなが風丸を囲んで、胴上げしていた。

オレも速いなと思ったけど、気にせずに混ざる。

こうして、今回も風丸はサッカーを選んでくれたけど、とても嬉しく思う。

叶うなら、エイリア学園の時も最後まで一緒に戦いな。

そのためにも、オレが出来ることがないか、考えないとな。




初登場補正も掛けときましたが、ちょっとはジャンピングサンダーを活躍させたかったんです。

伊賀島流忍法の習得云々が独自解釈ってやつです。
サッカーとは言え一応忍法を教わるって、並大抵じゃ行かないと思うんですよね。


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帝国の崩壊

一応雷門ってOB達が現役の頃の武勇伝とかもありますし、ここ最近はアレでも名前は少し通ってるはずなんですよ。
ただ世宇子はマジの無名らしいんで、そりゃあ雷門以上の番狂わせですわよ。


戦国伊賀島との試合が終わり、オレ達は次の試合に向けてイナビカリ修練場で特訓をしている。

 

 

「わわわわ!?」

 

「壁山ー。それ足止めるとすぐ持ってかれるから気を付けてよー」

 

「は、はいいいいい!!」

 

「くそっ…!やってやらあ!!」

 

「染岡もー。それ永遠に続くから限界感じたら飛び降りなよー」

 

「分かってる!!」

 

「うーん……」

 

「どうしたの?半田くん」

 

「いや、イナビカリ修練場で特訓して、力を付けてきたとは思うんだよ。たださ、いきなりこんな力付けたりして、身体が追い付くのかなと思ってさ」

 

「ああ…なるほどね。でも、栗松くん達も新しい必殺技使えるようになってたし、そこまで心配しなくてもいいんじゃないかな」

 

「…………うーん………」

 

(あっ、これは他にも悩みを抱えてる顔かな…)

 

 

今も特訓を続けてる染岡や壁山を見ながら、思う。

ふと思い返しながら、KFCの練習を見てた時も感じてたことと重なっているんだ。

例えばいきなり強い必殺技を覚えると、身体がそれに追い付かことが出来なくて、すぐにバテてしまうというのは何度かあったことだ。

急激な成長に身体が追い付かなかったり、周りもそれに合わせられなかったりと、弊害もあった。

まあ、実際にそうなるかはまだ分かんないんだけどさ。

 

 

「そういえば、そろそろ帝国の試合結果が出るころじゃないかな。試合終わってる頃だと思うし」

 

「帝国の心配より、次の僕たちじゃない?対戦相手はまだ分からないとは言え、戦国伊賀島も強かったし、同等かそれ以上って思わないと」

 

「そうだな!鬼道と約束したし、オレ達も頑張らないと」

 

「………………」

 

 

……………帝国の試合結果、か。

たしかに、そろそろ結果が出るはずだ。

 

 

「て、帝国学園が……!」

 

「初戦突破か!」

 

 

そう思ってた時に、音無がイナビカリ修練場に飛び込んで来た。

勝利を信じていた円堂は、豪炎寺と拳を合わせている。

 

 

「10対0で……」

 

「結構な点差だね」

 

「世宇子中に、完敗しました……」

 

『えっ…?』

 

 

その場にいた円堂、豪炎寺、染岡、マックス、壁山、そして大谷の声が響く。

オレも初めて聞いた時は、とても信じられなかったことだが…。

 

 

「嘘だろ…?音無…」

 

「ガセじゃねぇのか!?あの帝国が初戦で負けるワケがねえだろ!?」

 

「し、しかも…10対0って……」

 

「………帝国が1点も取れなかった。そういうことになるけど」

 

「音無!どういうことだ!?」

 

「待てよ円堂。音無に詰め寄るのは違うだろ」

 

「………」

 

「………悪い。10対0って…どうなったんだ」

 

「……見たこともない技が次々に決まって、手も足も出せなかった……みたいです……」

 

「あの帝国が……」

 

「そんなワケない!帝国だぞ!?」

 

 

音無の話を聞いても、円堂はその事実を認めることは出来なかった。

正直、オレの記憶違いなり、微妙に異なる影響で、帝国が世宇子を破るかもしれないと思っていなかったワケじゃなかったが……。

流石に、そんな大きな差は無ければ、こんなこと、忘れるはずがなかった。

 

 

「アイツらの強さは、戦ったオレ達がよく知ってる…!アイツら本気で強いんだ…!!鬼道がいるんだぞ!?」

 

「お兄ちゃん…出なかったんです……」

 

「えっ…?鬼道くん、試合に出なかったの…?」

 

「はい…。お兄ちゃん、この前の試合で怪我したじゃないですか…。相手はノーマークの学校だったから、大事を取って控えに回っていたんです……。そうしたら相手が圧倒的で………」

 

「……無理して出場しようとした時には、帝国のみんなは既に……ってことかな」

 

「あの鬼道が……そんなこと絶対にあり得ねえ!!」

 

「キャプテン!落ち着いて欲しいッス…!!」

 

「落ち着いていられるか…!鬼道たちが完敗なんて…あり得ねえ!!」

 

「あっ、キャプテン!」

 

「円堂!!」

 

 

そう言った円堂は、イナビカリ修練場から飛び出して行った。

心のどこかでは事実だと分かっていても、素直に認めることは出来ないよな……。

 

 

「円堂……」

 

「……帝国に行ったんだろうね。少なくとも、鬼道がいるだろうし」

 

「ど、どうすればいいんすかね……」

 

「……………ひとまず、円堂の自由にさせよう。アイツのことだから、悪い方向にはならないはずだ」

 

「それは…そうだろうけど………」

 

「………あんな中途半端なことじゃなくて、もっと言えてれば……!」

 

「半田くん……」

 

 

今回も鬼道が雷門に来るかは分からない。

あの時、初戦から警戒しろよとか言えたらと、オレの中に後悔で埋め尽くされたが、それでも世宇子に勝てるとは思えなかった。

それからしばらくして、円堂が戻って来たことが確認出来た。

どうにも、帝国から鬼道の家に行き、しばらく話をしていたらしい。

少なくとも、円堂は大丈夫そうだけど………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全国大会二回戦の相手は、千羽山中に決まったわ」

 

「千羽山中か…それと、もう大丈夫なのか?」

 

「ええ。無理にお見舞いに来なくていいって、言われたから」

 

「そっか。でも理事長が目を覚ましてくれて、よかったな!!」

 

「だな。あとは冬海先生なんだが……」

 

「いつ目を覚ましてもおかしくないみたいなんだけどね…」

 

「早く目覚まして焼肉奢れよな」

 

「とうとう隠さなくなったな…」

 

 

なんか聞こえた気がするけど、スルーするぞスルー。

で、次の相手の千羽山か…。アイツらの守備は厄介だな。

 

 

「千羽山中ですが、山々に囲まれて大自然に鍛えられた選手達がいるそうです」

 

「きっと、自然に恵まれた環境なんすね〜」

 

「みんなのんびりしてそ〜」

 

「壁山と少林も釣られて長閑になってるぞ」

 

 

自然に恵まれたって言うか…。たしか千羽山中って、文字通り山の上になかったっけか?あそこで試合するの、けっこう怖かった記憶あるんだけど。

………そういや、初戦の戦国伊賀島と言い、試合の場所ってフットボールフロンティアスタジアムだな。

前回はたしか、相手の学校まで行ってたはずなんだけど……。

 

 

「千羽山中は、無限の壁と呼ばれる鉄壁のディフェンスを誇っています。未だかつて、得点を許していません」

 

「えっ…全国大会まで?」

 

「はい。1点すら、ですね」

 

「無失点神話……って言うのかな」

 

「その反面、シュート力に欠点があるそうなんですが…。鉄壁の守備で、ここまで勝ち進んで来たようですね」

 

「ってことは、その無限の壁を打ち破ればいいんだな!」

 

「破ればいいって…」

 

「簡単に言うよね…」

 

「………破れないから、鉄壁なんじゃないかな」

 

 

影野に呟きに、みんなが揃って頷く。

いや、たしかに破るしかないんだけど、簡単には行かないよな…。

 

 

「鉄壁って、鉄の壁だろ?」

 

「まあ、意味はそうだな」

 

「だったら!こっちはダイヤモンドの攻めをすればいいんだよ!」

 

『はあ!?』

 

「鉄壁のディフェンスを崩すまで攻めまくる!これがダイヤモンドの攻めだ!!その為には特訓だ!!」

 

『おー!!…………んんん?』

 

 

特訓だーの声に合わせて声を挙げたオレ達だけど、やっぱりダイヤモンドの攻めって言葉に意識を持ってかれたままだった。

実際どうなのかは知らないけど、ダイヤモンドぶつけまくっても鉄は壊せないんじゃないか?言わないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後の練習なんだけど、オレの心配が的中したのか、宍戸が送ったマックスのパスが明後日の方へと向かったり、ドラゴントルネードが豪炎寺が打ってすぐに離散したりと、いつも通りにいかないことが続いた。

そんなことがあって、今は休憩の時間だ。

 

 

「おっ、このレモンの蜂蜜漬けいいなあ」

 

「そう?作った甲斐があったわ」

 

「えっ、これ夏未の手作りなのか!?すごいな!」

 

「ひ、暇だったのよ…。喜んでくれたなら、嬉しいけど」

 

「雷門もマネージャーが板についてきたな。ん、このキュウリもいいなあ。浅漬けかな。これも雷門が?」

 

「いいえ。それは…」

 

「わ、私……」

 

「えっ、大谷だったの?すごいな。オレ好きだよ、これ。汗かくと塩味欲しくなるから、ちょうど良くて」

 

「そ、そう……?お婆ちゃんに教わったんだ…」

 

「へえー。うん。やっぱ好きだな、これ。次からも頼める?」

 

「う、うん!用意しておくね!!」

 

 

雷門はともかく、大谷もマネージャーが板に付いてきて、頼りになるな。いや、美味いなこれ。

キュウリを摘みながら、さっきから声が聞こえる円堂たちの方に行く。なんかしゃがんで落書きしてるように見えるんだけど、なにやってんだ。

 

 

「なにしてんだ?」

 

「ああ、半田。いやさ、オレがアメリカにいた時の必殺技の説明をな」

 

「なあ土門。なんでそうなんだよ」

 

「だからさ、こうして力がぶつかるだろ?そうすっと、こうなんだよ」

 

「ああ、そうか!なるほど!おもしれー」

 

「えっ。円堂、今ので分かったの?なんで分かるの?」

 

 

この絵を見る限り、多分ザ・フェニックスのことなんだろうけど、なんか中心点のとこ微妙に違うような…って、豪炎寺が門の方向いてるけど、どうしたんだ。

 

 

「………半田、着いてきてくれるか」

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みんなに一言伝えてから雷門中から離れて、もう夕方になる河川敷にまで移動した。

オレと豪炎寺は橋の上にいて、その視線の先にいるのは……。

 

 

「音無と…鬼道、か。何を話してるのかは聞こえないけど……」

 

「…………」

 

「……豪炎寺?」

 

「遠くからでも、ゴーグル越しでも分かる。アイツのあの目はな」

 

「いや、豪炎寺。それはいいとして、いつの間にボールなんて持ってたの?」

 

「フッ……!」

 

「豪炎寺??」

 

 

一瞬オレの目がおかしくなったかと思ったが、どうやら現実だった。

豪炎寺が炎を纏ったボールを、鬼道の方へと打った。

えっ、マジでお前なにしてんの??鬼道が跳ね返さなかったら、音無も危なかったと思うんだけど。

 

 

「豪炎寺か!それに、半田……?」

 

「いや、悪いけど鬼道。今のは豪炎寺の独断だからな」

 

「豪炎寺先輩!半田先輩!!お兄ちゃんは別に、スパイをしていたワケじゃないんです!本当です!!」

 

「分かってるよ、音無。酷い言い方だけど、今の鬼道がオレ達を偵察したところで、意味は無いしな」

 

「お兄ちゃん……か」

 

「えっ。豪炎寺お前、そこに引っかかるの?」

 

「豪炎寺先輩!!」

 

「……来いよ」

 

「……ああ」

 

 

豪炎寺が促し、鬼道と共に河川敷グラウンドに降りる。

グラウンドに降りるからには、やるのはサッカーだろうから、心配はいらないだろうけど……。

 

 

「………音無。何があったんだ?」

 

「……雷門中のグラウンドから、お兄ちゃんが見えて…。追い掛けて、話をしてたんです。お兄ちゃん、雷門のみんなが眩し過ぎるって……。悔しいなんてものじゃないって……」

 

「……………そっか」

 

 

グラウンドを見れば、豪炎寺と鬼道が互いにボールを蹴り合っていた。

サッカーと言えばサッカーなんだが、互いにボールをぶつけ合う、ドッジボールみたいなことになってるな。

 

 

「鬼道!そんなに悔しいか!!」

 

「悔しいさ!!世宇子中を!オレは倒したい!!」

 

「だったらやれよ!!」

 

「無理だ!!帝国は…フットボールフロンティアから敗退した……」

 

「自分から負けを認めるのか!鬼道!!」

 

「……ッ!!」

 

 

しばらくのぶつかり合いの末、豪炎寺が放ったファイアトルネードによってボールがパンクし、豪炎寺と鬼道は互いに向き合った。

 

 

「……1つだけ方法がある。お前は円堂を、正面からしか見たことがないだろう。アイツに、背中を任せる気は無いか?」

 

「なっ……!?」

 

 

……なるほどな。

 

 

「………オレも、正面に立つんじゃなくて、隣に立ちたいって言うなら、待ってるぜ。鬼道」

 

「豪炎寺先輩……半田先輩………?」

 

「………行こうぜ、豪炎寺。そろそろ完全下校時間だ。カバン取りに行かないと」

 

「……………」

 

 

そうして、オレと豪炎寺は河川敷から立ち去り、音無もちょっと遅れて、それに続いた。

残ったのは、パンクしたボールを見つめている鬼道だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えたフットボールフロンティア全国大会二回戦。

オレ達の前に、見慣れた帝国のユニフォームや赤いマントじゃなく、雷門のユニフォームと青いマントを身につけた鬼道が、そこにいた。




丸々アニメ1話分やりましたねコイツ。
まあ分散させることもないし、オリジナル要素入れることもなかったんで、こういう形になりました。
あんま原作と流れそのままってのはやりたくないんですけど、話進めたいってのが勝っちまいました。


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天才ゲームメーカー

アニメ版のこの話の完成度が高杉くん。
気になる人やどんな感じだったか覚えてない人はこんなの読んでないでYouTubeにワープドライブしてください。


「鬼道……!?」

 

「お、お前…その格好……」

 

「昨日付けで、鬼道は雷門中へ転校した。フットボールフロンティアの規定に違反はしていないぞ」

 

「鬼道さんが…雷門に……!?」

 

 

フットボールフロンティアスタジアムに現れた鬼道に、観客やオレと豪炎寺、響木さん以外の雷門メンバーが驚く。

て言うか、ヤジまで飛んでるし、千羽山の方から"オレ達に勝つ為にあんな奴引き入れた"とか聞こえたんだけど。まあいいや、気にしないで行こう。

前回とはタイミングが違うけど、今回もお前は雷門に来たんだな。

 

 

「もうちょっと早く来いよ。危うく規定違反で敗退するところだったんだぞ」

 

「鬼道、お前…!」

 

「あのままでは引き下がれない…。世宇子には必ずリベンジする」

 

「そのために、雷門に来たってか。なんて執念だよ」

 

「………お前達の隣に立ち、お前に背中を預けに来た。突然来ての事だが、よろしく頼む」

 

「おう。その分、頼りにさせてもらうぞ」

 

「鬼道さんがいれば、千羽山の守りを崩すことが出来るかもしれませんからね!よーし!頑張るぞ!!」

 

「………宍戸、お前はベンチだ」

 

「えっ?」

 

「代わりに鬼道が入る」

 

「あっ……オレ……っすか………」

 

「……………」

 

 

気合を入れていた宍戸に宣告されたのは、所謂スタメン落ちだった。

円堂が準備だけはしといてくれと、励ましを入れているものの、やっぱり完全に明るくはならなかった。

アフロで隠されてはいるものの、オレからもそれは分かる。

 

 

「………宍戸。別にスタメンから外されたからって、チームから外されたワケじゃないぞ」

 

「半田さん……。でも、鬼道さんに比べたらオレなんて……」

 

「あのな、宍戸。言っちゃなんだが、鬼道に比べたらそうなるのは当然だろ。あの帝国でキャプテン務めてた男だぞ。オレやマックスでもそう言うぞ」

 

「そうそう。言い方変えれば、相手が悪いってヤツ。っていうかこれ、励ましになってるの?」

 

「だからさ、今回はいつでも出れるように準備するぐらいでいいけど、この試合に勝ったら準決勝だ。そこにスタメン入れるよう、練習積もうぜ。オレ達蹴落とすぐらいにな!」

 

「は、半田さんやマックスさんを!?そ、そんなの無理っすよ!!」

 

「なんだ?少林だけって言いたいのか?コイツもコイツで練習積むぜ?」

 

「そうだよ!練習あるのみだよ!!」

 

「で、でも……」

 

「オレ達のフォーメーションは、ミッドフィルダー4人だぜ?なら、1人に絞るより3人抜くことを想定した方が、確率上がるだろ」

 

「それ理論上ってヤツっすよ!」

 

「無理は通せば道理が引っ込む!!」

 

「無理って言ってません!?」

 

「最初から諦めるのがお前の悪い癖だな。分かった。それ叩き折るためにも、この試合絶対勝つから覚悟しとけ」

 

「叩き直すんじゃなくて叩き折るんですか!?」

 

「バキバキに折ってやるから覚悟しとけ」

 

「ひいいいいい!!?」

 

 

オレがそう笑いながら肩に手をやり、青い顔をしながら悲鳴をあげる宍戸。とりあえず、大丈夫そうだな。

 

 

「宍戸も元気取り戻しましたね。半田さんのおかげかな」

 

「まあ、あの目はガチだろうけどね。この試合終わったら宍戸どうなるんだろ」

 

「…………とりあえず、目の前の試合に集中しよう」

 

「か、影野さんの言う通りっすよ!ポジションに着くっす!」

 

 

流石にそろそろポジションに着かないと規定違反喰らうらしいから、急いでフィールドへ走る。

上から染岡と豪炎寺のいつものツートップ。少林、オレ、マックス、鬼道の中盤。風丸、壁山、土門、影野。そしてキーパーもいつもの円堂。

対する千羽山は、フォワードが1人でミッドフィルダーが5人、ディフェンスが4人と、守備に特化したフォーメーションだ。

 

 

『鉄壁の守備で、地区予選から未だ無失点を誇る千羽山中と、戦国伊賀島を逆転で下した雷門中の試合が、いよいよ始まります!果たして準決勝に駒を進めるのは、いったいどちらになるのか!!』

 

「鉄壁の守備なんて、こっちのダイヤモンドの攻めで崩したやろうぜ!!」

 

『お、おー!!!』

 

「ダイヤモンドの攻めってぇ、なんだっぺ?」

 

「いんやぁ、オラ達には都会のモンが考える難しいことは分かんねえだよ」

 

 

なんか千羽山にちょっとした揺さぶりかけることが出来てるみたいだけど、開始の笛が鳴った途端、真面目な顔をして切り替えている。

お前達の守備が硬いことはよく知っているが、どう崩すかだな…。

 

 

「マックス!」

 

「よし、染岡!!」

 

「おう!って、弱いぞマックス!もっと強くだ!!」

 

 

キックオフでオレが受け取ったボールをマックスへ渡し、マックスが染岡にパスしたところ、染岡の後ろの方へとボールが行ってしまった。

それにより、千羽山のディフェンスにボールを取られてしまう。

 

 

「あれ…?いつも通りパスしたはずなのにな…」

 

「ドンマイドンマイ!落ち着いて回してこうぜ!!」

 

 

そう円堂が声をかけるものの、マックスだけじゃなく、土門や風丸、少林など、強く蹴りすぎたりで思うようにボールが回らなかった。

その隙を突かれ、千羽山が攻めてくる。

 

 

「行かせるか!」

 

「足元がお留守だべ!もぐらフェイント!!」

 

「なっ!?」

 

「いただきだべ!」

 

「させるか!!」

 

 

オレが千羽山のミッドフィルダー、育井からボールを奪おうとするが、ドリブル技のもぐらフェイントで突破され、そのままシュートを打たれてしまうも、なんとか円堂が防いでくれた。

 

 

「悪い円堂。助かった」

 

「気にするなよ!そう簡単に点はやらせないさ!」

 

 

そう言ってくれるものの、オレも含めて、みんなの連携が上手く行かない状況が続く。

 

 

「半田さん!!」

 

「さっきから弱いパスだな!!」

 

「くそっ…!」

 

「原野!!」

 

 

少林からのパスを受け取ることが出来ず、ボールはキャプテンの原野に渡ってしまう。

 

 

「ここからのオラはそう簡単に止まらないっぺ!ラン・ボール・ラン!!」

 

 

栗松の使うたまのりピエロのように、ボールに乗り急加速する必殺技、ラン・ボール・ラン。

ドリブル技とシュート技を両立したかのような、厄介な技だな…。

 

 

「都会っ子って、オラんとこの牛よりも遅いっぺ!!」

 

「やらせるか…!キラースライド!!」

 

「てえええい!!」

 

「なにっ!?」

 

 

どんどん抜き去る原野に対し、土門がキラースライドを仕掛けるも、飛び跳ねることによりそれも防がれてしまう。

 

 

「このまま点はいただきだっぺ!!」

 

「やらせないっす!ザ・ウォール!!」

 

 

土門を抜き去った原野は、ボールだけを突き進ませる。

それを防ぐため、壁山がザ・ウォールでシュートブロックを図るも…。

 

 

「影野さん!」

 

「……強い…!!」

 

 

弾かれたボールは影野の方に行くも、強く打ち上げられていたため、拾うことは出来なかった。

さらに、そのボールへ唯一のフォワードである田主丸が食らい付く。

 

 

「円堂!シュート技がくるぞ!!」

 

「任せろ!ゴッド…」

 

「1点さえ取れば、こっちのもんだべ!シャインドライブ!!」

 

「なっ……!?ぐっ……!!」

 

 

円堂に声を掛けて、ゴッドハンドを使おうとするも、強烈な光を発生させるシュート、シャインドライブにより怯んでしまった円堂は、ゴッドハンドどころか動きすら封じられてしまい、そのまま得点を許してしまった。

 

 

「なるほどな…。シュート力に欠点があるなら、その穴を塞ぐための必殺技を編み出してたってことか。でも、次は止めるぞ!!」

 

「…………」

 

「ん、どうしたよ?鬼道」

 

「これで10分…。ようやく、全て揃った」

 

「えっ、なんの話?」

 

 

そう言った鬼道は、影野やマックス、土門たちに話し掛けていた。

何やら、パスを出すときは3歩や2歩半前へだの、2歩後ろを守れだの聞こえてくる。

………なるほど。全て揃ったって、そういうことか。

 

 

「じゃあ、鬼道。オレはどうすればいい?」

 

「そうだな…。ならまず、マックスにパスを繋いで欲しい。染岡や豪炎寺には劣るものの、シュート技を持っていたはずだ。お前も持っているだろうが、前半はドリブルやディフェンスに専念してほしい」

 

「ああ。分かった」

 

 

たしかに、マックスは新しくシュート技を覚えていた。

切り込み隊長は、マックスにってことか。

オレ達のボールで試合が再開され、ボールはマックスに渡されるも、すぐに奪われてしまう。

 

 

「大鯉!」

 

「このまま追加点を…!」

 

「させないよ…!コイルターン!!」

 

「うおっ!?」

 

 

このまま抜かれてしまうかと思ったが、影野が下がってくれていたおかげで、すぐにボールを奪うことが出来た。

 

 

「影野!土門へパスだ!3歩先!!」

 

「3歩……?ここかな……!」

 

「ナイスパスだ!影野!!」

 

「通った……!」

 

「半田!」

 

「待て土門!!」

 

「えっ!?」

 

「1…2……今だ土門!」

 

「は、はい!!」

 

 

どんどんパスが繋がるようになり、こちらの攻めの勢いが強くなってきた。

オレがボールを受け取り、前の方にはマックスがいる。

 

 

「今だ!半田!!」

 

「はいよ!行け!マックス!!」

 

「よし!クロスドライブ!!」

 

 

マックスが民山さんから伝授させてもらったシュート技、クロスドライブを放つ。

 

 

「木枯らし!!」

 

 

キーパーの綾野が必殺技である木枯らしでシュートを吹き飛ばし、マックスのクロスドライブを防いだ。

 

 

「鶏の屁ずら」

 

「なにそれ」

 

「気にするなマックス。でも、シュートまで運べるようになったのはデカいな」

 

「鬼道のおかげ、かな。千羽山は鉄壁だけど、どんな段階まであるか知りたかったんだって」

 

「なるほどな。オレのローリングキックも、今ので防がれそうだ」

 

「ああ。だから攻略のカギは、染岡や豪炎寺になりそうだ。攻められる時は半田にも任せたいが、しばらくはフォワードの2人に頼みたい」

 

「ああ。さっきも言われたからな」

 

 

ボールが回るようになり、少しは勢いを取り戻せたな。

ただ、あっちはまだ無限の壁はもちろん、強力なディフェンス技を隠し持っている。

まずは1点奪わないとな……。




中身が20半ばの大人ってこともあり、半田さん自身はすんなり受け入れてます。
アニメ版のあの件も好きなんですけどね。流石に逆行してたら同じことさせるワケにもいかずって感じです。


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無限の壁を打ち砕け

初期案では打ち砕けじゃなくて打ち砕ーくっ!でした。


あれから前半終了まで攻め続けたが、得点には繋がらなかった。

ドラゴンクラッシュとドラゴントルネード、イナズマ落としまでやったものの、まき割りチョップや、本命の無限の壁で防がれた。

 

 

「豚の鼻くそずら」

「牛のフンずら」

「腐った卵ずら」

 

 

毎度止める度にそんなこと言うもんだから、気になって仕方ない。

イナズマ落としは腐った卵とか言ってたけど、どういうことだよそれ。

 

 

「次々にシュートが止められてるわね…」

 

「イナズマ落としが止められてるとなると、炎の風見鶏か、イナズマ1号でしょうか?」

 

「それとも、イナズマ1号落としかな…」

 

「帝国でやった連続シュートは多分通用しなさそうだし、その辺りになるか…」

 

「イナズマ1号落としするなら、シュートに3人必要だよなあ…。アイツらマークも徹底してるし、隙をつければいいんだけど」

 

「そもそも円堂を上がらせるチャンスを作れるかだな…」

 

「………ふむ」

 

 

そんな話をしている横で、鬼道が円堂の方をジッと見る。

たしかに、イナズマ1号落としやるなら円堂が必要だけど、円堂を上がらせるのはリスクもある。

タイミングが重要だろうけど、そこは鬼道に任せるか。

今回のオレの役目は、千羽山の守備を突破してパスを出すことになりそうだしな。

そう考えてるうちに、鬼道が全員の前で口を開いた。

 

 

「染岡。後半のしばらくはお前のワントップで頼みたい」

 

「染岡のワントップ?」

 

「あ?なんだそれ。考えでもあるのか?」

 

「無限の壁の弱点を突く。たしかにあれは鉄壁に相応しいが、3人による連携技という弱点がある」

 

「ああ、なるほど!さっき円堂を上がらせるのに悩んでたように、ディフェンス2人とキーパーがいなきゃ、そもそも無限の壁を使えないからな!」

 

「じゃあ要するに、オレが片方を引き付ければいいのか」

 

「ああ。出来るだけ5番のディフェンスを4番から引き離してくれ」

 

 

なるほど。それは良い手だな。

そうなると、さっき考えた通りオレはパス回しやディフェンスを崩すことを優先した方がいいだろうな。

 

 

「鬼道。後半もパス回しや守備を崩すことに集中すればいいか?」

 

「……そうしてもらえると助かる。それと、お前もサイクロンを使えるなら、カウンターもしやすくなる」

 

「たしかに、奴らの守備は一級品だけど、それ以外は付け入る隙もあるからな。任せとけ」

 

「…………」

 

「………?どうしたよ、鬼道。そんな間抜けな顔して」

 

「そんな顔はしてないだろう」

 

 

たしかにまあ、ちょっと意外そうな顔をしてただけだけどさ。

なんか鬼道のそんな顔を見るの珍しいからな。何があったよ。

 

 

「………お前たちがオレの指示に素直に従うのが珍しいと思ってな。来たばかりの余所者のオレに、雷門の指示を握らせることに不満を抱くかと」

 

「………なるほど」

 

 

オレが本当に中学2年生の頃の若いオレだったら、宍戸を差し置いてやってきた鬼道が指示を出していることに反感を抱いていたとしても、不思議ではないと自分でも思う。

染岡もまあ、似たような感じなのは分かる。

ただ、鬼道は悪意があってそういう指示を出すようなヤツじゃないってのは分かってるし、考えがあるのかって聞いてたしな。

 

 

「鬼道。お前一つ勘違いしてるぞ」

 

「……どういうことだ?」

 

「たとえ指示を握る人が変わったり、フォーメーションやポジションが変わったりしても、雷門のサッカーは変わったりしないんだよ。そのことは、ある意味お前が一番分かってると思うんだけどな」

 

「……………」

 

 

心当たりがあるような無さそうな微妙な顔をしている鬼道を横目に、ポジションに付く。

その内分かるだろうから、オレからは何も言わない。

今は無限の壁を破ることに意識を向けないとな。

 

 

『おーっと雷門中、大きくフォーメーションを変えてきたぞ!豪炎寺を中盤に下げ、染岡のワントップ!どのようなプレイを見せるのか!!』

 

「1点を取りに行く…まずはそこからだ」

 

「ああ。絶対に、だな」

 

「どんな形で来ようと、おら達のディフェンス、無限の壁を破ることは出来ないっぺ!」

 

「言ってろ。その自信、へし折ってやる。鬼道たちがな」

 

「おめえじゃねえのか!?」

 

 

そんなことを言い合ってるうちに、試合開始の笛が鳴り、千羽山ボールで後半が始まる。

よし。まずは作戦通り、豪炎寺にボールを渡すぞ。

 

 

「追加点を奪って、試合を決めるっぺ!」

 

「やらせない!クイックドロウ!」

 

「うわっ!?」

 

「いいぞ!マックス」

 

 

久しぶりにマックスのクイックドロウ見た気がするな。

そのまま持ち込んで、上手く豪炎寺に渡せば…。

 

 

「うしろのしょうめん!!」

 

「うわああああっ!?」

 

「えっ、なっ、はあ!?」

 

 

そんな声が聞こえたと思い、奥の方に向けていた視線をマックスの方に戻すと、マックスが吹っ飛んでいた。

何が起こったと思いボールの行方を探すと、千羽山のディフェンスの芹沢がボールを持っていた。

………おい。これってまさか。

 

 

「審判!今のディフェンス技はファールだろ!!帝国のジャッジスルーはボール越しだったからまだしも、今の確実に膝カックンしてただろ!!」

 

「…………?」

 

「審判仕事しろよ!?」

 

 

なんで見てないんだよ!たしかにあの必殺技使われるとき、何故か審判がよく見てないことが多く、ファールが取られないことも少なくはなかったけど、やっぱ納得いかないって!

 

 

「だったら奪い返させてもらうからな!サイクロン!!」

 

「くうっ!」

 

「半田!そのまま持ち込め!!」

 

「ああ!!」

 

 

オレがボールを奪い返し、鬼道の指示が聞こえ、そのままボールを持ち込む。

 

 

「よし…!」

 

「そうは行かないっぺ!」

 

 

オレが攻めあがると同時に、染岡もラインを上げる。

そうすることで、塩谷も染岡を追いかける。

上手く染岡が引き付けてくれている所に、豪炎寺と壁山が上がっているのを確認する。

よし、ここだ!

 

 

「いけ!!」

 

『イナズマ落とし!!』

 

 

塩谷をかなり引き付けることが出来た。これなら…!

 

 

『無限の壁!!』

 

 

はっや。えっ、なに今の。染岡の所から凄い速さでゴール前まで行ってたけど。

オレは今の流れ見てたから分かるけど、じゃなかったらホント一瞬で移動したように見えるぞアレ。

 

 

「ふー…危なかったっぺぇ…」

 

「アイツ、いつの間にゴール前まで…」

 

「なんてスピードだ…」

 

 

この作戦は、2度目は通じないだろう。

オレ達に残されたのは、正面から無限の壁を崩すことになるんだが…。

 

 

「壁山!もう一度イナズマ落としだ!!」

 

「はいっす!行くっす…」

 

「やらせないっぺ!牧谷!」

 

「おお!」

 

『ハーベスト!!』

 

「う、うわあああああ!!?」

 

 

強烈な二人掛かりのスライディング、ハーベストによりボールを奪われる壁山。

 

 

「う、ううう…」

 

 

しかも今ので足をやられたようだな…。

見たところ、地区予選決勝の鬼道ぐらいの負傷具合だけど、無理をさせるワケにはいかない。

 

 

「栗松、壁山と交代だ」

 

「は、はいでやんす!」

 

「すまないっす、みんな…」

 

「気にするな。無理をされて身体を壊す方がまずいからな」

 

 

ただこれにより、イナズマ1号落としは出来ないな。

かと言って壁山に無理をさせるつもりはない。ゆっくり休め。

雷門ボールで試合が再開され、鬼道は風丸たちにボールを渡す。

 

 

「風丸!豪炎寺!!」

 

『炎の風見鶏!!』

 

『無限の壁!!』

 

 

炎の風見鶏も防がれてしまう。

今の弾かれ方を見るに、オレのローリングキックを足しても防がれるな…。

 

 

「くっ…」

 

「鹿のフンずら」

 

「よく分かんないけど、余裕そうだなアイツ…」

 

「…となると、アレしかないか」

 

 

そうなると、オレ達にはイナズマ1号しかないな…。

もしイナズマブレイクが使えるなら、無限の壁を破れるはずなんだけど…。

 

 

「くっ…」

 

 

鬼道はさっき雷門に来たばかりだし、響木さんからイナズマブレイクを伝授されていない。

どうしたものか…。ひとまず、イナズマ1号を打てないと話は進まない。

 

 

「ボールを前線には上げさせないっぺ…!」

 

「しつこいなぁ…!」

 

 

ボールを奪おうとする山根から、キープを続けて持たせてるマックス。

あの状況をずっと続かせるワケにはいかないけど、前線には上げられないしな…。

……待てよ?前線には?

周りを見わたせば、染岡や豪炎寺、鬼道やオレ達にマークが多くついている。

そこで思い出す。千羽山のフォーメーションはワントップ。正確にはキャプテンの原野もフォワードだった気もするが、ミッドフィルダーの位置にいるため、実質ワントップと考えていい。

さらに、元々千羽山はディフェンス重視のフォーメーション。現にセンターサークルから雷門側のフィールドには、千羽山のプレイヤーは2人ぐらいしかいない。

となると、これは……!!

 

 

「円堂!!」

 

「えっ…あっ!!」

 

「松野!バックパスだ!!」

 

「えっ?」

 

 

鬼道も同じことを考えてたみたいだな。

オレが円堂に声をかけると、意図を察した円堂はゴールから攻めあがる。

鬼道の声が聞こえたマックスが雷門側ゴールに目を向けると、円堂の姿が見えたのだろう、すぐに対応してくれて、パスが通った。

 

 

「行くぞ、豪炎寺!」

 

「ああ!」

 

『イナズマ1号!!』

 

 

イナズマ1号落としには劣るも、現状オレ達のトップクラスの火力を誇るシュート、イナズマ1号が千羽山ゴールへと向かう。

 

 

『無限の壁!!』

 

「……なっ、ゴールライン…。チッ、ミスったぜ」

 

 

惜しくも無限の壁に止められてしまうも、今までと違いゴールライン外へとボールは弾かれ、オレ達はコーナーキックの権利を得た。

 

 

『イナズマ1号も止めたぞ千羽山中!これが鉄壁のディフェンス!無得点神話は伊達ではない!!』

 

「イナズマ1号まで止められたか…」

 

「……ん?おいみんな!どうしたんだよ?」

 

 

円堂がそう言い、オレも周りを見てみると、みんな顔が沈んでいた。

豪炎寺や染岡はそうでもないが、鬼道の顔色も若干優れない。

イナズマ1号を防がれたとなると、イナズマ1号落としが使えないこの状況、手詰まりだと思うよな…。

 

 

「何ヘコんでんだ!試合はまだ終わってないんだぞ!!まさか、諦めるって言うんじゃないだろうな!?風丸!少林!土門!」

 

「でも、無限の壁が破れないんじゃ…」

 

「やっぱり必要なんだよ。必殺技が…」

 

「必殺技ならある!!」

 

「えっ…?」

 

 

無限の壁を破るために必殺技が必要と言う土門に対して、必殺技ならあると言い切る円堂。

ああ。たしかにオレ達には、必殺技…と言えるかは分からないけど、千羽山に負けてないものなら、ある。

 

 

「オレ達の必殺技は、ドラゴントルネードでも、炎の風見鶏でも、イナズマ1号落としでもない!オレ達の本当の必殺技は、最後まで諦めない気持ちなんだ!!」

 

「諦めない…気持ち…」

 

「そうだな。尾刈斗の時だって、最後まで諦めなかったから、ゆがむ空間を破れたんだ」

 

「地区予選の時も、戦国伊賀島の時もだ。諦めなかったからこそ、オレ達はここにいる」

 

「何より!最初に帝国と戦った時からそうだった!!最後まで諦めずに戦い切ったからこそ、雷門中サッカー部は始まったんだ!!諦めない気持ちこそ!オレ達の原典なんだ!!」

 

 

その円堂の声と、それに続いた染岡と豪炎寺の声によって、みんなの表情が明るくなる。

オレは驚いて固まっている鬼道の方に近づく。

 

 

「言っただろ、鬼道。雷門の、オレ達のサッカーは変わったりしないって。今ならそれを、お前も分かるだろ?」

 

「……これが、円堂と共に戦うということ…。雷門の本当の強さなのか…」

 

「覚悟しろよ、鬼道。お前も雷門の一員になったんだ。やってもらうぜ、オレ達のサッカー!!」

 

「半田の言う通りだ!!残り5分!最後まで突っ走るんだ!オレ達のサッカーをやろうぜ!!」

 

「……ああ!!絶対に勝つぞ!!」

 

 

みんなの気合いも最高潮だ。

円堂も上がり、最後の全員攻撃と行こう。

 

 

「行くぞ!みんな!!」

 

 

オレのコーナーキックから始まり、ボールは染岡に渡るものの、綾野に弾かれる。

だがすぐに円堂がヘディングで弾き、マックスにボールが渡る。

 

 

「スパイラルショット!!」

 

「薪割りチョップ!!」

 

 

ゴールに近いところから打ったため、木枯らしが間に合わずに薪割りチョップで弾く綾野。

ボールは原野へと渡ってしまう。

 

 

「ボールを引き離すべ!ラン・ボール…」

 

「やらせるか!クイックドロウ!!」

 

「んだあ!?」

 

 

ここで風丸がクイックドロウを披露し、なんとかボールを奪う。

 

 

「半田!!」

 

「うしろのしょうめ…」

 

「やらせないっての!ジグザグスパーク!!」

 

「んぐぐぐ!!?」

 

「染岡と豪炎寺にはマークが…。だったら!鬼道!!」

 

 

比較的フリーだった鬼道にボールを渡す。

しかしそこに、3人のディフェンスが立ちふさがる。

 

 

『かごめ、かごめ、かーごめかごめ』

 

「くっ…」

 

 

千羽山のディフェンス技、かごめかごめが使われようとする。

ここでボールを奪われると、後がないが…。

周りを見れば、3人が鬼道に行った分、円堂がフリーになっている。

それを確認した円堂は、鬼道の方へと走る。

 

 

「……そうか!豪炎寺!!」

 

「…っ!ああ!!」

 

「鬼道!お前も加れば、イナズマ1号を超えられる!!」

 

「イナズマ1号を…!?し、しかし…この状況で…!!」

 

「場所ならあるだろ!!」

 

「…っ!?そうか!」

 

 

オレが上を指すと、その意図が通じた鬼道がボールを打ち上げる。

打ち上げたボールは、イナズマを纏って落下する。

 

 

「行くぞ!!」

 

『ああ!!』

 

 

それを追って飛び上がった円堂、豪炎寺、鬼道の3人。

空中にあるボールに向かった3人が同時に放ったシュートは、激しいイナズマが込められ突き進む。

 

 

『無限の壁!!』

 

 

無限の壁に当たったボールは、その勢いを弱めることはなく、徐々に壁を崩していく。

 

 

『うわあああああ!!!?』

 

 

そしてとうとう、無限の壁を打ち砕いた。

 

 

『……………はっ!無限の壁が破られたあああ!!千羽山、遂に失点!無失点記録が途絶えたぞおおお!!!』

 

 

少しの静寂の間、歓声と共に角馬の親父さんの実況も響く。

オレがやったワケじゃないけど、スッとするな。

 

 

「すまない半田。助かった」

 

「オレは場所を教えただけだろ。しかし、こんな土壇場でよくあんなシュート打てたな」

 

「帝国の時から、オレもシュートを打っていただろう」

 

「まっ、そうだけどな」

 

 

ベンチの方から「無限の壁をブレイク、突き崩す。これこそまさに、イナズマブレイク…」って声が聞こえてきたけど、大谷たち全く聞いてないな。抱き合ってるし。

しかし、こんな土壇場でイナズマブレイクを覚えるなんてな。嬉しい誤算ってやつだ。

 

 

「よーし!あと1点、入れてくぞ!!」

 

『おお!!』

 

 

オレ達の気合いはまだまだ十分なものの、それに反して千羽山の雰囲気は大違いで、茫然としたまま動きが優れなかった。

絶対の自信があった無限の壁が破られたのなら、仕方のないことだと思うんだけど…。

 

 

「ジグザグスパーク!染岡!!」

 

「おう!ドラゴンクラッシュ!!」

 

「えっ……」

 

 

必殺技が通用しなくても諦めなかったオレ達雷門と、必殺技を破られて自信を喪失した千羽山。

この差は大きかったようだな。簡単に突破され、簡単にゴールを奪われ、勝ち越しを許した。

 

 

『ここでホイッスル!!雷門、絶体絶命の状況から逆転勝利!!準決勝へ進出だあああ!!』

 

「やったあああ!!勝ったんすね!!オレ達勝ったんですよね!!勝ったんですよね!?」

 

「ああ!勝ったぞ!オレ達!!」

 

「う、ううううう!!!」

 

 

感極まって飛び込んできた宍戸に対して、そう言う円堂。

それがトドメとなり、泣き出す。

 

 

「言っただろ、宍戸。絶対勝つって」

 

「は、半田さああああん!!」

 

「おいおい、泣くなって。こんなことで泣いてたら、明日どうなるんだよ」

 

「そ、そうですよね…!明日…えっ、明日?」

 

「ああ。言っただろ?宍戸」

 

 

オレは最高の笑顔を宍戸に向けながら、試合が始まる前のことを思い出させる。

 

 

「お前の悪い癖を、バキバキに叩き折るって」

 

「……………………」

 

 

それを聞いた宍戸は、完全に顔を固まらせながら、ジワジワとオレから距離を取る。

もちろんそれに合わせて、オレもジワジワと距離を詰める。

 

 

「……………………」

 

「……………………」

 

 

反転する宍戸。

走り出す準備をするオレ。

 

 

「逃げますううううううううう!!!!!」

 

「逃がすかあああああああああ!!!!!」

 

 

急に走り出した宍戸だが、それを見越して準備していたオレはすぐに追いかける。

なんならスタートダッシュを完全に成功させたため、すぐに距離を詰めることが出来る。

逃げられると思うなよな!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をやってるんだ、アイツは…」

 

「あ、はははは…。まあ、半田のことだからよ。宍戸を鍛えるんだと思うぜ」

 

「叩き折ると言っていたが」

 

「本当に叩き折ったりはしないと思うよ。半田くんだもん」

 

「…お前たち、よっぽど半田のことを信用してるな」

 

「だって、悪いヤツじゃなくて、サッカーへの気持ちが熱いことは、よく知ってるしな」

 

「私も。マネージャーになる前から、ずっと練習してたのを見てたから」

 

「……たしかに。オレもそう思うがな」

 

「……どうした鬼道。気になることでもあるのか?」

 

「いや。不信感を抱いたりしていることはない。半田はいいプレイヤーだというのは、戦っていたオレでも感じていたことだ」

 

 

ただ、気になる点が無いということではない。

地区予選決勝の頃から、周りのことをよく見ながらプレイする選手だなというのは感じていた。

それだけならいい選手止まりなのだが、気になるのは試合が始まる前の宍戸へのフォロー。

スタメンを奪ったオレが言うのもなんだが、お前の分まで頑張るなり、すぐ出れるようにしておいてくれと言うならまだしも、半田は『次にスタメンに入れるように練習を積もう』と言っていた。

これは、選手と言うより…。

 

 

「…………指導者、コーチ…だな」

 

 

まあ、そういう視点を持つ選手がいるというのは、聞かない話でもない。

オレは宍戸のアフロを雁字搦めにしている半田を見ながら、考えを落ち着かせる。

…………本当にアイツは何をやっているんだ…。




次回の宍戸の運命や如何に。


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帰って来た男

オレだよ★の前に、宍戸に災難が降りかかる。


先に自首しときます。一瞬予約投稿ミスったので仕切り直してます。
もしその時に読んでた人がいましたら、どういう状況になってるか分かりませんが、すみません。


千羽山との戦いが終わったその日の内、オレは豪炎寺に呼び出され、ある場所へと連れられている。

 

 

「どこへ連れて行くつもりだ?」

 

「今日も、アイツはいると思ってな」

 

 

進んでいる方を見てみれば、稲妻町のシンボルである鉄塔があった。

たしか、あそこには広場があったと聞くが、誰がいると言うんだ?

 

 

「ずああああああ!!!」

 

「円堂……?」

 

「やっぱり、ここにいたか」

 

 

階段を登り切り、広場へと辿り着く。

そこにいたのは、タイヤを背負いながら別のタイヤを受ける円堂だった。

 

 

「ふう…。ん?豪炎寺に鬼道、どうしてここに?」

 

「お前なら、今日もここにいると思ってな」

 

「いつもこんな無茶な特訓をしているのか?」

 

「もう慣れたけどな」

 

「慣れていいのか……?」

 

 

タイヤを背負いながら走るとかなり、タイヤと自分の腰を縄で括り付けて、ひたすらそれを引き摺るとかなら、聞いたことはある。

ただ、勢いをつけたタイヤに立ち向かうというのは、流石に聞いたことはない。

豪炎寺も慣れたような反応だが、身体を壊したりはしないのか……?

 

 

「タイヤはオレの原点でさ。流石に小学生の頃にはやらなかったけど、中学に入ってからはずっとやってんだ。染岡と半田の2人にも、驚かれたぜ」

 

「そりゃあ、驚くだろう…。しかし、そうか。これが、円堂守の原点、なのか……」

 

「けど驚いたよなー。まさかお前が来るなんて、夢にも思わなかったよ」

 

「悪かったな、驚かせて」

 

「けど、嬉しかったぜ。お前と一緒にサッカーが出来たら、楽しいだろうなって思ってたんだ。あの時、初めてシュートを受けた日からさ」

 

 

………オレは、あの人からサッカーを教わった日から、勝つ為だけのサッカーを続けてきた。

天才ゲームメイカーと呼ばれようと、それだけでは勝てない。

勝つ為に、味方はもちろん、相手の動きやクセなど、考え続けながらやってきた。

それは、これからも必要なことなのだろう。

 

 

「………だが、サッカーはそれだけじゃない。もっと別のサッカーがあると気付いたのは、その時からなのかもしれない」

 

「別の、サッカー…?」

 

 

目の前にいる円堂は、あの土壇場でゴッドハンドを開花させ、デスゾーンを防いだ。

それ以外にも、御影専農の時のイナズマ1号や、地区予選決勝のイナズマ1号落とし。どれも雷門に重要な1点をもたらした。

ここにはいないが、アイツも数々の必殺技を開花させ、勝利に導いたことが多かった。

自分の必殺技に足りないものを自分で見つけ、特訓でそれを身につけ、実践で結果をもたらしたというのは、簡単に言うものの中々出来ないものだろう。

とくに、響木監督も言っていたが、雷門メンバーの中で1位2位を争う程の執念を持っていた。

ああいう選手は、オレも好ましく思う。

 

 

「それが何なのかは、今は分からない。だが、今日お前達とのサッカーで思った。ここなら、それが見つかるかもしれないと。再び豪炎寺にボールを蹴らせた、お前なら」

 

「へへっ、そうか。改めてよろしくな。鬼道」

 

「ああ、こっちこそだ」

 

「だがな、鬼道。オレがまたサッカーを始めた理由は、円堂だけじゃない」

 

「なに……?そうなのか?」

 

「あの時、円堂の執念も感じた。ただもう1人いただろう?諦めてたまるかと、叫んだ男が」

 

「…………ああ、そうだな」

 

 

たしかに、アイツは円堂より早く、必殺技を開花させ、源田にシュートを打ち込んでいた。

相手側からだったが、アイツの気迫はオレも感じた。

諦めてたまるかと、そう叫んだアイツは、ジグザグスパークとローリングキックで攻め込んだんだ。

そう、アイツが……。

 

 

「半田さあああああああん!!さっき明日って言ったじゃないっすかあああああ!!」

 

「いや逃げてるのお前だからな!!でも確かにここまで来たら今日でいいな!明日なんか待ってられないってことだな!宍戸!!」

 

「ぎゃああああああ!!やぶへびいいいい!!」

 

「………………」

 

「………………」

 

「あれ、この声って宍戸と半田じゃないか?下から聞こえるから、こっち来そうだな」

 

 

………………本当に、何をやっているんだアイツは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「観念します!観念しますからアフロを雁字搦めにしないでください!!」

 

「よーし、じゃあ捕まえたし河川敷に…。あれ、円堂に豪炎寺に鬼道?なんでここに?」

 

「それはこっちの台詞だ…。声がここまで聞こえたぞ」

 

「あー、悪い。うるさかったか」

 

「そこまでの大きさじゃないし、オレ達以外に人はいない。そこまで気にする必要はないだろう」

 

 

階段を登り切った鉄塔下の広場の入り口で宍戸を捕まえたと思ったら、円堂達3人組がいた。

近くにタイヤあるし、円堂が1人特訓してたとこに2人が来たってところかな。

 

 

「じゃ、オレ達はこれから河川敷行くから。円堂もあんま無理すんなよー」

 

「待て、半田」

 

「ん、何だよ鬼道」

 

「これから宍戸を鍛えるつもりか?」

 

「ああ、そのつもり。次にスタメン入れるよう、バッキボキにしてやろうと思って」

 

「ビシバシとかじゃないんですかあ!?」

 

「…………ふむ」

 

 

なんか今、鬼道のゴーグルが光った。

オレが言うのもアレだけど、変なスイッチ入ってたりしてないよな?

 

 

「元はと言えば、オレが入ったことでこうなったんだ。宍戸を鍛えるなら、オレにもその義務はある」

 

「えっ、マジ?鬼道も手伝ってくれんの?」

 

「手伝うどころか、オレが全てやってもいい」

 

「いや、オレが言い出しっぺだから、オレもやるけど」

 

「そうか。じゃあ合同だ」

 

「おっけー」

 

「オレの意思とかは反映されないんですか!?」

 

「まあ、さっき観念するって言ってたからな。オレも聞こえたぞ」

 

「豪炎寺さん!?」

 

「おお、特訓か!じゃあオレも付き合うぜ!何するかは知らないけど、シュート受けるならキーパーが必要だろ?」

 

「キャプテン!?」

 

「あっ、丁度いいや。何やるか方針定まってなかったけど、シュートの千本ノックだな」

 

「奇遇だな半田。オレもそう思っていた」

 

「そう言うことなら、オレも手伝おう」

 

「よーし、じゃあ宍戸。ボッキボキの時間だぞー」

 

「ひ、ひいいいいいい!!!」

 

 

その後、河川敷へとオレ達は移動した。

ビックリしたのが、どこから嗅ぎつけたのか知らないけど、染岡も乱入して来たんだよ。

宍戸鍛えるならオレも呼べって。まあ、確かに染岡って宍戸のこと結構気にかけてるしな。

既に夕方になってたはずなのに、何故か全く夜にならなかったことを良いことに、宍戸への鬼特訓は体感時間で半日ぐらい続いた。

 

 

「時間見てみたら2時間ぐらいなのに、不思議だよな」

 

「なっ。夢中だと時間があっという間に過ぎるってのはよく聞くけど、逆パターンもあるんだな」

 

「何もしていないと時間が遅く感じると言うのは、よくあるんだがな」

 

「鬼道からそんなの出るとは思わなかったな」

 

「だがその分、オレもいい特訓が出来た。新しくドリブル技が編み出せそうだ」

 

「おっ、豪炎寺のドリブル技か。お前ってシュート以外にもクイックドロウでディフェンスも出来るから、ストライカーってよりオールラウンダーになりつつあるな。オレ達のポジション奪うなよ?」

 

「ふっ。生憎だが、オレのポジションはフォワードだ」

 

「ああ。オレ達のツートップだ」

 

 

宍戸がぶっ倒れてる中、オレ達はそんな会話をしている。

ただぶっ倒れるまで特訓した甲斐があって、新しく必殺技を叩き込ませることが出来た。

あとは宍戸の地盤次第だけど、昨日までの宍戸とはダンチなのは間違いない。

ミッドフィルダーは魔境になりやすいからな。オレも負けてられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スピニングシュート!!」

 

「ゴッドハンド!!」

 

 

宍戸の猛特訓から一夜が明けて、オレ達は雷門中のグラウンドで練習をしていた。

染岡のドラゴンクラッシュを円堂が熱血パンチで弾いて、そのボールはフィールドの外へ向かったんだけど、そのボールを拾ったのは、まさかの一ノ瀬だった。

木野と土門の2人がいないとは思ってたけど、病院で会うんじゃなくてこっちに来るとはな…。

 

 

「オレの負けだよ」

 

「お前のシュートもすごかったぜ!」

 

「キミの必殺技もすごかったよ!アメリカの仲間にも見せたいよ」

 

「アメリカ…?お前、アメリカでサッカーしてるのか?」

 

「うん。この前、ジュニアチームの代表候補に選ばれたんだ」

 

「聞いたことがある。将来アメリカ代表入り確実だろうと噂されている、天才日本人プレイヤーがいると」

 

「へえー!すごいじゃないか!!」

 

 

たしかに、後に開催されるFFIではアメリカ代表に選ばれている。

仮にアメリカ代表じゃなくても、日本代表にも選ばれそうな気はするけどな。

 

 

「どうして日本に来たの?」

 

「会いたい友達が、ここにいるんだ」

 

「何してるの?みんな」

 

「なんか凄い集まってるけど、誰か来てるのか?」

 

 

で、その会いたい友達だろう木野と土門が帰って来た。

 

 

「あっ、秋ちゃんと土門くん」

 

「2人もこっち来いよ!今凄いサッカーが上手い奴が来ててさ!」

 

「アキ!!」

 

「えっ」

 

 

………おおう。大胆だな。

多分アメリカ仕込みのスキンシップなんだろうけど、こんな大勢の前で抱きつくかね。

 

 

『ええええええええ!?』

 

「お、お前何を!って、お前……!?」

 

「久しぶり、2人とも」

 

「一ノ瀬………くん……?」

 

「うん。オレだよ」

 

 

一ノ瀬一哉。

死んだと思われていた男が、帰って来たんだ。

 

 

「そう言えば、みんなに名前を言ってなかったね。一ノ瀬一哉。アキ達とは幼馴染なんだ」

 

「お前が一ノ瀬だったのか!木野と土門から話は聞いてたよ!生きてたんだな!オレは円堂守!よろしくな!」

 

「うん、よろしく!ちょっと事情があって、黙ってもらってたけど、この通り」

 

「……まあ、どんな事情か話せるなら、木野と土門には話すんだろうけど。オレは半田真一、よろしくな」

 

「よろしく、半田!そうだね。会いに来ただけじゃなくて、2人に話すつもりで来たんだ」

 

「じゃあ、話してこいよ。それが済んだら、一緒に練習しようぜ」

 

「うん!やろう!………あの、それよりさ」

 

「ん?どうしたよ」

 

「………いや、さっきから気になってたんだけど…。そこで倒れてる彼、大丈夫?」

 

「ああ、宍戸のこと?いや、昨日バッキボキの鬼特訓したから、今日は休めって言ったんだけどさ。なんか休んだらまた追いかけられそうとかワケ分かんないこと言うから、止めなかったんだよ。そんなことしないって言ったんだけどな」

 

「…………そうなんだね!」

 

「おい一ノ瀬。諦めるな」

 

 

それから一ノ瀬は2人と話した後、オレ達の練習に混ざった。

円堂と仲良くなった記念って言って必殺技の練習までして、しかも身につけてたな。

木野が自分も混ざるって言い出した時は心配だったけど、なんとか成功して良かった。

まあ、後輩たちが盾になってたり、オレ達もしっかり何かあった時の為に用意してたけどさ。

 

 

「あの飛行機かなあ」

 

「うん、多分ね」

 

「嵐のようなやつだったな」

 

「でも、楽しそうにしてて、よかったね」

 

「一ノ瀬!また一緒にサッカーやろうぜ!!」

 

「うん!やろう!!」

 

「えっ?」

 

 

アメリカに帰るって言って、雷門中を去っていた一ノ瀬だったけど、何故か背後から声が聞こえて振り返ると、当の本人がそこにいた。

 

 

「あんなに胸がワクワクしたのは初めてだったんだ。帰るに帰れなくて、もう少しここにいたいんだ」

 

 

そう言って、一ノ瀬は帰りのチケットを破り捨てた。

アメリカに帰らず、日本に残るという表明だ。

 

 

「1つのことに熱く燃えるみんなと、円堂達とサッカーがしたいんだ!」

 

「雷門に来てくれるのか!?」

 

「うん!よろしく頼むよ!」

 

「こちらこそ、よろしく!!」

 

 

円堂と一ノ瀬が握手しているところに、みんなが手を重ねる。

アメリカに帰るって聞いた時は驚いたけど、今回も一ノ瀬は、雷門中サッカー部の一員になったんだ。

ただ、気になることが1つだけある。

 

 

「トライペガサス……か」

 

「ん?どうしたの、半田」

 

「ああ、いや。後から思い返しても、凄いシュートだったなって思ってさ」

 

「そりゃあ、オレ達が編み出した連携シュートだからな。そんじょそこらのシュートとは、比べ物にならねえって」

 

「………ああ。本当に、凄かったよ」

 

 

なんで、ザ・フェニックスじゃないんだろうな。

たしかにトライペガサスは、後に木戸川清州の西垣が使ってたから、同じ幼馴染の一ノ瀬が使うのは不思議じゃない。

でも前回で一ノ瀬達が使ってたのは、ザ・フェニックスの方だった。

前回との微妙な差は、今に始まった事じゃないんだけど、妙に気になるな……。

 

 

「………………」

 

「………ん、なんだ?大谷。オレの顔ジッと見て」

 

「あっ…ううん。何でもないよ」

 

「そう?」

 

「………うん」

 

 

まあ、それよりは準決勝の方だな。

丁度いま、音無から試合結果の報告が伝えられて、オレ達の対戦相手が決まった。

前に豪炎寺が所属していた強豪校、木戸川清修。

これに勝てなきゃ、世宇子と戦うことすら出来ない。

絶対に勝って、日本一をつかみ取ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、半田くんは難しい顔をしていた。

私がジッと見ている事に気付くと、いつもの半田くんに戻った。

今に始まった事じゃないけど、1人だけ悩みを抱えていて、それを隠してるようにしか思えなくて…。

 

 

「…………こういう時、どうすればいいんだろう」

 

 

あまり踏み込むのは良くないって思ったりもするけど、1人で抱えたままってのも、良くないと思う。

半田くんから話してくれるのが一番いいんだけど、そうなると、多分私じゃなくて、円堂くんや染岡くんへ行くと思う。

…………それが一番良いってのは、分かってる。長い付き合いだし、男の子同士だもん。

でも、分かってても……思っちゃうんだ。

円堂くん達だけじゃなくて、私も頼って欲しいって、そう思っちゃう。

これって、ワガママなのかな……?




ふと思ったんすけど、一ノ瀬と土門とついでに西垣って苗字呼びなんすよね。
あっちだと名前呼びが基本だと思ったんすけど、仲悪いワケでもないのに、なんならめちゃくちゃ仲良いのに、なんか中途半端に日本人の血でも残ったんすかね。
日本人でも仲良ければ名前呼びするけど、よくよく考えてみればイナイレで名前呼びの男子って守呼びしたヒロトだけだったっす。
はい、中身の無い後書きでした。


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グラサントリオ

トライアングルZ自体は強いんだけど、無印だと三兄弟全員揃えないといけなくてあまりにも使いづらい。

先に言っておきますけど、作者は別に武方三兄弟が嫌いなワケではありません。
ただそれはそれ、これはこれです。


一ノ瀬が雷門に来た翌日。

オレ達は今日も練習の為、部室で準備をしていた。

 

 

「まさかよりによって、準決勝の相手が木戸川清修なんてな…」

 

「もしオレが別んとこに転校したとして、対戦相手が雷門中だと思うと、気まずいったらありゃしねぇな……」

 

「……どこが相手だろうと関係無い。サッカーはサッカーだ」

 

「……まっ、豪炎寺がいいんならいいんだけどさ」

 

 

……でも豪炎寺って、そういうのそこそこ気にするようなタイプだと思ったんだけどな。

ただまあ、豪炎寺が気にして無いなら、オレ達も気にすることはないな。

あの三兄弟も、別にオレ達に対してどうこう……。

 

 

「…………あー」

 

「あ?どうしたよ、半田」

 

「いや、木戸川清修と言えば三兄弟のスリートップだったなって思って。前に大谷に見せてもらった映像にも、めちゃくちゃ映ってたし」

 

「あー、そうだったな。たしかにアイツらのシュート、映像越しとは言えスゴい威力ってのは感じたからな」

 

「どんなシュートだろうと、オレが止めてみせるさ!」

 

「ああ。頼りにしてるぜ、円堂」

 

 

………そういや、円堂っていつマジン・ザ・ハンド覚えるんだっけ。

あまり覚えてないんだけど、なんかとっくに覚えてて、トリプルディフェンスとか覚えるか覚えないか辺りの時期だと思ったんだけど。

まあ、気にしてても仕方ないな。とりあえず練習だ練習。

ちなみに毎度の如くグラウンドに来たのはオレが最後だった。

土門が一ノ瀬になんか話してるけど、それ違うよな?あの話じゃないよな?

 

 

 

「よし、ダイレクトで裏に通してそのままシュートだ!!」

 

「染岡!」

 

「おう!」

 

「なっ…!やられた!」

 

 

それから練習に入り、鬼道の指示通りにボールを運ぶことが出来た。

一ノ瀬のボールコントロール、流石だな。

あのコースならそのままシュートかと思うのも無理は無い。

持ち直したとは言え、円堂も引っ掛かったしな。

 

 

「今のボールすごかったな。ゴール裏から見てたけど、あれはロングシュートって誤認しても仕方ないぞ」

 

「染岡が良い位置にいてくれたのもあってね。みんな良い選手だよ」

 

「よし、ならば半田。次はお前の番だ」

 

「えっ、オレ?オレに一ノ瀬ぐらいのボールコントロール求めんの?」

 

「なんでそうなる。お前だけじゃないが、雷門のミッドフィルダーはシュート技も覚えている。中でもお前は、シュート、ドリブル、ディフェンスと覚えているが、そろそろローリングキックでは厳しいだろう」

 

「あー……。まあ、それはオレも感じてたんだ。一応シュートの練習もしてるけどな」

 

「ならば、その練習だ。宍戸の特訓の時、お前にも特訓させたからな。それを開花させてもらう」

 

「ああ。準決勝までには、仕上げるさ」

 

 

この前宍戸の鬼特訓の時、宍戸だけじゃなくてオレや染岡達も猛練習が出来たんだ。

おかげで新しくシュート技が使えそうなんだよな。

 

 

「よし!じゃあ半田、どんどんシュートを撃ってこいよ!」

 

「オレってばミッドフィルダーなんだけどなぁ…。まあ、いいか。やるぞ!」

 

 

その調子で、シュートを中心に練習を進めていった。

そのおかげで、段々と感覚が掴めてきた。手応えがある。

うん。この分なら準決勝には間に合いそうだな。

 

 

「よし!今日はここまでだ!」

 

「みんなー!お水とタオルとか用意してるわよー!」

 

「おおー。いつもありがとうね、マネージャー達」

 

「今日は大谷先輩がキュウリを持ってきてくれましたよ!」

 

「おっ、この前のか。もらってもいい?」

 

「う、うん…」

 

「………うん。やっぱ美味い」

 

「……ホント?」

 

「この前といい今回といい、ありがとな大谷。お婆ちゃんにもお礼言っといてくれよ」

 

「……うん!また持ってくるね!」

 

 

いや、ホントいい塩加減でオレ好みなんだよな。

戻ってくる前だったらこれで酒呑んでたかもしれない。

よく風丸とかに爺臭いとか言われてたけど、漬物っていけるんだからな。

 

 

「……………」

 

「ん、どうしたよ一ノ瀬」

 

「いや、土門さ。あの大谷さんだっけ、なんかオレには犬みたいな尻尾が付いてるような幻覚見えるんだけど」

 

「あー………。アレだろ?めちゃくちゃブンブンなってるような」

 

「そうそう。あの機嫌が良い時になってるやつ」

 

「………まっ、半分幻覚で半分現実だと思うけど」

 

 

なんか土門と一ノ瀬の声が聞こえるけど、気にしないでいく。

そんで他のメンバーからもなんか視線感じるけど、それも気にしないでいく。

 

 

「……コホン。いいかしら」

 

「ん、雷門。別の準決勝の結果出たのか?」

 

「ええ。狩火庵中を10対0で下して、世宇子中が進出したわ。しかもチームのほぼ全員が負傷して、開始10分で試合放棄という形でね」

 

「………そうか」

 

「世宇子にリベンジするんだろ?準決勝は負けられないな」

 

「ああ。もちろんだ!」

 

「よし!みんな!頑張るぞ!!」

 

『おお!!』

 

 

そこでグラウンドでは解散となり、オレと円堂に染岡、鬼道に豪炎寺は公園で作戦会議を進めていた。

 

 

「円堂は守備の確認を徹底してくれ。相手はオフェンス重視のチームだろうからな」

 

「ああ!ディフェンスは忙しくなりそうだな!」

 

「まあ、スリートップの時点でな。となると、カウンター主体か?」

 

「そうなるだろうな。豪炎寺と染岡の2人は、攻守の切り替えに注意してくれ」

 

「おう。いつでも戻れるようにするし、攻められるようにもな」

 

「……ああ」

 

「ん……?」

 

 

豪炎寺の反応が鈍い。

さっきはああ言ったけど、やっぱ気にしてるんじゃないか?

 

 

「よし!作戦会議は休憩だ!来いよ!!」

 

「お、おい!どこに行く気だ!」

 

「あー…。あそこか、染岡」

 

「まあ、あそこだろうぜ。着いてこいよ」

 

 

ピンと来てない豪炎寺と鬼道を、オレと染岡が引っ張る。

まあ、ここの所行ってなかったしな。鬼道はともかく、豪炎寺も知らないよな。

 

 

「ここだよ!」

 

『駄菓子屋……?』

 

「なんだよ、来たことないのか?」

 

『ああ…』

 

「2人揃って同じ反応してるぜ」

 

「まっ、この2人が駄菓子屋ってのも、なかなか想像付かないしな」

 

「お前たちも、よく来るのか…?」

 

「頻繁に、ではないけどな。さっきの公園で話して、帰りにここへってのは、1年の頃からやってたんだよ」

 

 

でも、この駄菓子屋。たしか雷門中の裏門の方にあったはずなんだけどな。ここ商店街なんだけど。

雷門中卒業して10年以上経っても、まだこのおばちゃんがやってたし。

まあ、これも細かい違いってやつなのかな。

 

 

「おばちゃん!こんちわ!」

 

「おやおや、サッカー少年たち。いらっしゃい」

 

「おっ、まこ達も来てたのか」

 

「うん!半田ちゃんと円堂ちゃん達、次で準決勝でしょ?がんばってね!」

 

「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃんか。お礼にそれ、オレが奢ってやろう」

 

「えっ、いいの!?」

 

「半田お兄ちゃん!ぼく達もいい!?」

 

「いいぞいいぞ。ただし、1人60円までな」

 

「その微妙な制限なに〜?」

 

 

KFCの子供たちの憩いの場なんだよな、ここ。

まこは10年後にKFCでコーチやってるから、割と付き合いはあったけど、他のKFCの元メンバーもちょくちょく遊びに来るから、こういうような事は戻る前からやってたんだよな。

今のまこは可愛げあるけど、これが10年も経つとなあ……。

 

 

「ん〜?どうしたの?半田ちゃん」

 

「いや、なんでもないよ。美味いか?」

 

「うん!あたりめ美味しい!」

 

「渋いの食うよな。まったく」

 

「おばちゃん。オレはこのラムネ貰うぞ」

 

「はいよ。それ80円ね」

 

「中学生ってリッチだよな〜。オレも早く大きくなりたい」

 

「おっ、なんだよガキンチョ共。小学生から中学生なんて割りとあっという間だぞ?」

 

「でも染岡お兄ちゃんも2年前までは小学生だったんだよね?」

 

「まあ、1年とちょっと前って感じだな」

 

「…………想像出来な〜い!!」

 

「ブハッ!」

 

「おい半田。なんでお前今吹き出した。言ってみろ」

 

「いやいやいやいや気のせい気のせい」

 

「おばちゃん!オレはこのソースせんべいちょうだい!」

 

「はいはい」

 

「………なるほど。たしかに、この街にはピッタリだな。こういう所は」

 

「………ああ。そうだな」

 

 

オレが染岡に問い詰められてる間、豪炎寺と鬼道も駄菓子をいくつか見繕い、おばちゃんの所へ持って行った。

気が済んだのか、染岡は会計を済ませた鬼道と豪炎寺に続いて外に出て行き、中にはオレと円堂とKFCの子供達だけになった。

 

 

「うーん……。うめぇ棒かあめ玉足すか……。うーん……」

 

「……そんな悩むぐらいなら、どっちも持って来いよ。他の2人も、それ足して良いから」

 

「いいの!?やったあ!」

 

「………ん?」

 

 

まこ達が駄菓子を持ってくる時、別の3人組が店の中に入って来た。

この辺じゃ見ない制服だな。緑色……。あれ、これってたしか…。

 

 

「どけよ」

 

「あっ、割り込みはいけないんだよ!?」

 

「お前ら!順番守れよな!」

 

 

思考を続けていたら、その3人組がまこ達を抜かして来た。

………って、コイツらよく見れば武方三兄弟じゃないか。

 

 

『い〜けないんだ!いけないんだ!!』

 

「うっせぇ!」

 

「アンタ達!ちゃんと並びなさい!」

 

「3対1でオレ達の勝ちぃ!みたいな?」

 

「人数の問題じゃないだろ!!」

 

「いいえ〜?人数の問題ですよ」

 

「オレ達は常に、三位一体なんだよ!」

 

「なに言ってんだお前ら?」

 

 

いや、マジで何言ってんだコイツら。意味が分からん。

こんなクソガキみたいなヤツだっけ。霧隠よりクソガキだぞ。

 

 

「……!豪炎寺!」

 

「久しぶりだな!決勝戦から逃げたツンツンくん!」

 

「…………」

 

 

入り口に目をやれば、外に居た豪炎寺達が様子を見に来ていた。

あー……。なるほど。コイツら豪炎寺が試合に来れなかった理由知らないってことか。

だからってこう言って良い正当な理由にはならないけど、仕方ないかもしれないな。

誤解を解くのは、今でもいいよな…。

 

 

「あー…。あのな、お前ら。豪炎寺は……」.

 

「えっ、誰?知り合いか?」

 

「いや、円堂。お前もあの映像見ただろ?コイツらは……」

 

『オレ達は!』

 

 

あー、これ面倒くさくなるやつだ。

 

 

「武方!勝!」

 

「友!」

 

「努!」

 

『3人合わせて!武方三兄弟!!』

 

 

おい。ここ店の中だぞ。トライアングルZのポーズ取るんじゃねえ。

 

 

「な、なんなんだよ!コイツらは…!」

 

「去年豪炎寺の代わりに決勝に出場した、木戸川清修のスリートップだよ」

 

「ってことは、豪炎寺の元チームメイトか……」

 

「流石は鬼道有人。有力選手のデータは全てインプットされてるみたいじゃん?」

 

「フッ……。三つ子のフォワードが珍しかったから覚えていただけだ」

 

「なにぃ!?今年のオレ達の……」

 

「いや、そんなことはどうでもいいから」

 

「ど、どうでもいい!?お前はなん…」

 

「どうでもいいから。お前らのせいでおばちゃんが腰抜かしたんだけど」

 

「えっ?あっ………」

 

 

オレが今まで口を挟まなかったのは、腰を抜かしたおばちゃんの介抱をしていたからだ。

幸い、頭をぶつけたりはしなかったけど。何考えてんだコイツら。

 

 

「順番抜かしたり、店の中で派手な動きやったり、あまつさえお年寄りに迷惑かけて何してんだお前ら。木戸川清修ってこの辺りの学校じゃないよな?わざわざやって来てやる事が、子供の順番を抜かして、おばちゃんにケガを負わせるかもしれないことなのか?マジで何考えてんだお前ら」

 

「………すみませ」

 

「オレに謝ってどうすんだ。おばちゃんに謝れ」

 

『…………すみませんでした!!』

 

「息ピッタリだねぇ。気にしてないって言ったらウソだけど、二度としてくれなきゃいいよ」

 

「ついでにまこたちにも謝ってよ!順番抜かしたんだから!」

 

「な、なんでお前達にも…」

 

「謝れ」

 

『すみませんでしたぁ!!』

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

円堂達が目を丸くしながらオレ達の方を見てるけど、これぐらいで済んだ事をマシに思ってくれ。

相手が相手なら、学校に通報して色々と問題をややこしくする事だって出来るんだからな。

オレにはそのつもりは無い。おばちゃんもそのつもり無さそうだし、まこ達を面倒ごとに巻き込むのも良くないからな。

 

 

「……で?ここまで来た経緯なに?話だけは聞いてやるよ」

 

「えっ、えっと……。オレ達はその……。豪炎寺にオレ達の力を見せつけてやろうと……」

 

「準決勝でも出来たよな?」

 

『はいいいい!!!』

 

「………豪炎寺。心当たりがあるなら、後で教えてくれよ。コイツらもう帰そうぜ」

 

「…………ああ」

 

 

その後、武方三兄弟は帰って行った。

一応、話を広げることはしないとは言っておいた。

自業自得とは言え、試合に影響を出させると、後味悪いからな。

後から聞いた話だけど、一ノ瀬達の幼馴染の西垣が木戸川の監督と一緒に三兄弟を探しに来てたらしく、一緒に帰ってた木野と土門に一ノ瀬と偶然会って、再会出来たらしい。

これも後から聞いたけど、アメリカにいた4人で話すことが出来てよかったって、一ノ瀬達が言ってたな。

 

 

「………あっ」

 

「どうしたよ、半田」

 

「………いや。アイツらのことだから、あのまま何事も無ければ、アイツらのシュートを知る事が出来たんじゃないかって思って」

 

「……………まぁ、お前は悪くねぇよ」

 

「………なんか、悪いな。染岡」




おばちゃんが腰抜かしてるの誰も触れてなかったんすけど、アレ下手したら大怪我につながるから許しません。
あの後街の中でボールを蹴ってたのはマジで言い逃れ出来ないので、それが無かっただけマシです。


えっ?ゲームだとフツーにミニゲームやっててなんなら必殺技撃ちまくってる?知るか。


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木戸川清修の猛攻

スリートップって普通に強いフォーメーションなんすよね。

それとまさかの1ヶ月遅れるという事態となり、本当にすみません。
スランプ6割ゲーム4割という形であります。はい。スランプだけじゃなくてゲームやってました。自首します。


あれから数日が経ち、準決勝の日を迎えた。

前の試合の時のように、オレ達は更衣室で準備を進めている。

 

 

「あの三兄弟、大人しくなったのかね」

 

「どうだろうな。プレイは変わらないだろうが、普段の態度がどうなるかまでは」

 

「いや、この前駄菓子屋のおばちゃんに聞いたんだけど、なんか菓子折り持って改めて謝りに来たみたいだぞ」

 

「そうなのか!?」

 

「しかもなんかしっかりしたやつみたいで、3人で金出し合ったらしい。当分お茶請けには困らないって言ってたな」

 

「しっかりケジメを付けてやがったか……」

 

 

悪いヤツじゃないってのは知ってたから驚きはしないが、謝罪を形にして来たか。

オレも働くようになってから身に染みてるんだけど、誠意を示すってのは大切なことだからな。

 

 

「みなさん。以前に映像を見たり、この前に話を聞いたりとで分かってると思いますけど、木戸川清修は前の対戦相手の千羽山とは真逆の、攻撃的なチームです」

 

「三兄弟がスリートップだからな。それに、かと言ってディフェンス面に欠陥あったりとかは無いんだろ?」

 

「はい。シュートはもちろんのこと、ドリブルにディフェンスと、強力な連携技を隠し持っています」

 

「点を奪うこと自体は、そこまで難しくはないはずだ。流石にキーパーは千羽山には劣る。ただ、シュートまで持っていくことは厳しくなるだろうな」

 

「うん。オレの記憶の話だけど、西垣は昔からディフェンスが上手かったから、そう簡単には抜かすことが出来ないと思う」

 

「ああ。オレからも言える。アイツのディフェンスは相当だぜ」

 

 

鬼道と一ノ瀬、土門の補足が入り、木戸川清修の戦略分析を進める。

たしかに、ブーストグライダーやハリケーンアローとか、下手したら世界でも通用するような技持ってたからな。

ただ、それらは強力な分連携技なものだから、それを上手く引き出せれば隙も生まれるし、ガス欠も早くなる。

体力だって、無尽蔵ってワケじゃないからな。

 

 

「よし、フィールドに行くか。みんな準備できたよな?」

 

「ん?ああ、まあ…」

 

「どうした半田。歯切れが悪いぞ」

 

「いやな、鬼道。アイツらのことだから、出た瞬間因縁付けてきたりとかしそうと思って」

 

「………否定は出来ないな」

 

「その時はその時だろ。ほら行くぞ、半田」

 

「………ああ」

 

 

まあ、オレの心配は杞憂だったようで、出てすぐに因縁付けられたりはしなかった。

ただその分、フィールドに出てから、木戸川清修側のベンチから視線はチラチラと感じたけどな。

これぐらいなら特に気にしないから、いいけどさ。

 

 

「さて…。今回のスタメンだが」

 

「……………」

 

 

1人。緊張した顔をして、響木さんを見る男がいる。

あれから猛練習を積んだみたいだけど、どうなるか…。

 

 

「フォワードは豪炎寺と染岡。ミッドフィルダーは、半田と鬼道に一ノ瀬。そして、宍戸だ」

 

「……………え?」

 

「おい、宍戸。そんな情け無い声なんか出してんじゃねえよ。呼ばれたんだから返事しろ返事」

 

「えっ、あ……。は、はい!!!」

 

「あーあ。スタメン取られちゃったや。まっ、その分暴れてきなよ」

 

「うんうん!点取ってくるぐらいにね!」

 

「マ、マックスさん……少林………!!」

 

 

………よかったな、宍戸。

オレ達が特訓をさせたとはいえ、そこからはお前自身が頑張ったから、今回の結果に繋がったんだ。

 

 

「ディフェンスはいつもの4人だ。風丸、壁山、土門、影野。キーパーは言わずもがな。さあ、行ってこい」

 

「ここで勝てば決勝戦だ。みんな!絶対に勝つぞ!!」

 

『おお!!』

 

 

その勢いのまま、オレ達はポジションに着いた。

いつものフォーメーションのオレ達に対して、木戸川清修はフォワードとミッドフィルダーが3人、ディフェンスが4人のフォーメーションだ。

攻撃的ではあるんだが、攻守に隙が少ないな…。

それに、三兄弟のシュートの威力を把握出来てないのも不安材料だな。

トライアングルZはもちろんだけど、バックトルネードもなかなかな威力だったはずだ。

今の円堂で、どれだけ歯向かえるか……。

 

 

『さあ!いよいよフットボールフロンティア全国大会準決勝!雷門中学対木戸川清修の試合が始まります!!』

 

「……やってみなきゃ分からない、よな」

 

「……ああ。データはあるが、実際にやってみなければどうにもならん。半田、お前も攻められるなら積極的に頼むぞ」

 

「分かってる。点の取り合いになりそうだな」

 

 

そう鬼道と話してる間に、試合開始の笛が鳴った。

この試合は木戸川清修からのキックオフで始まり、三兄弟が攻め上がってくる。

 

 

「………今日こうして、試合をすることが出来ることに対しては、感謝してる」

 

「でも、だからってオレ達がやることは変わらない!」

 

「豪炎寺に見せつけるんだ!オレ達の強さを!!」

 

「宍戸!一ノ瀬!止めるぞ!」

 

『邪魔するなああああ!!』

 

『うわっ!?』

 

 

そう言って、三兄弟はオレ達を突破する。

コイツら、執念からか圧がすごいな……!

 

 

「そこで見ていろ豪炎寺!これがオレ達の、ファイアトルネードに対抗する為に作り上げた、必殺技だ!!」

 

 

そう言って、長男の勝がボールと共に飛び上がる。

その動きは、豪炎寺のファイアトルネードと酷似していた。

 

 

「あれはファイアトルネード!?」

 

「いや違う!回転が逆で、炎も青い!!」

 

「喰らえ!バックトルネード!!」

 

 

青い炎を纏ったボールがゴールに向かって突き進む。

 

 

「くっ…!爆裂パンチ!!」

 

 

ゴッドハンドを出す余裕がなく、爆裂パンチで応戦する円堂。

だが、何度パンチを打ち込んでも、威力が削られるようには見えなかった。

 

 

「ぐっ……うう……!うわあ!?」

 

「よっしゃああああ!!」

 

『ゴォォォオオル!!木戸川清修の武方勝!試合開始早々に1点を叩き込んだぁ!!』

 

 

あっという間に先制点を取られてしまった。

バックトルネードの威力でこれなら、トライアングルZなんていったいどうなるんだ……?

 

 

「すまない、円堂。カバーに入れなかった」

 

「キャプテン……」

 

「お前達が悪いなんて言うかよ。別にわざとこっちにシュート打ってオウンゴール狙ったとかじゃないだろ?止められなかったオレの責任だ!」

 

「…………」

 

 

円堂がそう言うってのは、分かってる。

だけど、バックトルネードはまだしも、トライアングルZを止められるかという疑念は残ったままだ。

両手のゴッドハンドでも、止められるかどうか……。

 

 

「……まずは1点取って、並ぶ。そこからだ」

 

「どうする、豪炎寺。お前が一番警戒されるだろうし、どう攻める」

 

「点を取るのは、フォワードだけじゃない。新しく身に付けたシュートが、たくさんあるだろう」

 

「……そうだな」

 

 

オレもそうだが、宍戸も特訓の末に身に付けたんだ。

通用するかまでは分からないけど、攻めるしかない。

そう考えてるうちに、試合は再開される。

豪炎寺が後ろに蹴ったボールは、鬼道へと渡る。

 

 

「ミッドフィルダーも上がれ!点を取り返す!!」

 

「フォワード、とくに豪炎寺は警戒しろ!!一応ミッドフィルダーもな!!」

 

 

鬼道の支持が飛び交う中、三兄弟の勝の声も上がる。

やっぱり、豪炎寺が特に警戒されてるみたいだ。

 

 

「と、なると……。土門!!」

 

「おっ?声が掛かるってことは……。よし。円堂!行こうぜ!!」

 

「ああ!」

 

「土門と雷門のキャプテンが前線に…?いったい何を……」

 

 

オレが土門に声を掛けると、意図を察した土門と円堂が前線に飛び出す。

それを見た西垣が怪しんでいるが、何をするかまでは分かっていないようだ。

 

 

「半田!」

 

「させるか!!」

 

「通させてもらう!ムーンサルト!!」

 

「なにっ!?それはオレ達の…!?」

 

 

鬼道からボールを渡されたオレは、ムーンサルトで木戸川のディフェンス、女川を突破する。

そういえば、これは元々お前達の試合映像を見て身に付けたんだったな。

そういう意味じゃ、お前達に感謝しないといけないか。

 

 

「決めろ!一ノ瀬!!」

 

「うん!行こう!土門!円堂!!」

 

『ああ!!』

 

「あの2人に加えて、一ノ瀬まで!?ま、まさか……!?」

 

 

西垣が察した様だが、もう遅い。

ボールを受け取った一ノ瀬を中心に、土門と円堂の3人がクロスし、その跡のトライアングルからエネルギーが巻き起こる。

そのエネルギーは青いペガサスとなり、3人はそれに向かって飛び上がる。

 

 

『トライペガサス!!』

 

 

3人が踏み付けたボールはペガサスと共にゴールへと突き進む。

あまりのスピードに相手のキーパー、軟山は反応できず、ゴールを許してしまった。

 

 

『ゴォォォオオル!!一ノ瀬と土門、そして円堂の3人の強烈な連携シュートがゴールへと突き刺さり、雷門!すぐさま同点へと追い付いた!!』

 

「決まったな!2人とも!!」

 

「ああ!」

 

「早いうちに同点に追いつけたのはデカいな」

 

「このままもう1点と行きたいね」

 

 

オレは3人に声をかけながら、陣地へと戻る。

後ろを向くと、西垣が一ノ瀬たち3人の方へ目線を向けながら、武方三兄弟と話していた。

…………やっぱり、気になるよな。

 

 

「同点になったなら、もう1点奪うまでっしょ!」

 

「まだまだ試合は始まったばかり。みたいな?」

 

「オレ達の力は、こんなものじゃない!」

 

 

試合再開と共に、三兄弟が攻め上がる。

パス回しで中盤までは突破してきたが、そこに土門が立ちはだかる。

 

 

「簡単に突破させるかよ!ブレードアタック!!」

 

『うおっ!?』

 

 

土門がOBから受け継いだディフェンス技、ブレードアタックで三兄弟の進撃を防ぐ。

 

 

「円堂!もう1点行くぞ!!」

 

「ああ!!」

 

 

それを好機と見た土門は、再びトライペガサスを狙って円堂と共に攻め上がる。

そこに一ノ瀬が合流し、トライペガサスの準備は整った。

 

 

「カウンターを狙うのはいいが、オレの目の前で、それを何度もやらせてたまるか!!スピニングカット!!」

 

『うわっ!?』

 

 

それを防ごうと、西垣が渾身のスピニングカットで3人を吹き飛ばす。

鬼道や風丸も使ってる技だけど、西垣のスピニングカットの方が衝撃波も大きいか……?

 

 

「ペガサスの羽が折れたな…」

 

「に、西垣……」

 

 

それと同時にボールはフィールドの外へ出た為、試合はスローイングまで中断。

………これは、トライペガサスは使えなさそうだな。

 

 

「……宍戸。特訓の成果、見せる時だぜ」

 

「は、はい!!」

 

 

その間にオレは宍戸に声をかける。

作戦とまではいかないが、目にものは見せたいよな。

 

 

「ムーンサルト!」

 

「その弱点は、オレも分かってるぜ!サイクロン!!」

 

「うわあ!?」

 

 

試合が再開され、ムーンサルトで染岡を突破した茂木の着地点にサイクロンを設置し、ボールを奪い返す。

 

 

「来い宍戸!」

 

「………はい!!」

 

 

宍戸も覚悟を決めたようだ。

さっきと違い、確固とした返事で答え、オレと一緒に突き進む。

 

 

「無理にボールを奪い返そうとしなくていい!軟山はシュートを止めることに集中しろ!!」

 

「他のディフェンスと距離離れてるからだろうけど、甘く見られたもんだな!!」

 

 

オレは隣にいる宍戸にボールを渡し、準備を整える。

指示としては正しいんだろう。無理にディフェンスに入ることによって、シュートコースを防げたらいいが、それを突破されたら、反応が難しくなるだろうからな。

でも、それはシュートを見たことのない選手に向けてやるのは、悪手とも言える。

この隙、突かせてもらうぞ!!

 

 

「行くぞ!宍戸!!」

 

「はい!!」

 

 

宍戸がボールを打ち上げると同時に、オレがそのボールへ追い付き、ヘディングで打ち落とす。

そこにはそのまま進んでいた宍戸がいて、ボールをダイレクトで打ち込む。

オレが打ち落としたのと、ダイレクトで打ち込んだエネルギーが合わさり、強力なシュートとなってゴールへと突き進む。

 

 

『ツインブースト!!』

 

「そ、それは帝国の……!?」

 

鬼道から伝授され、見事に宍戸がモノにした必殺技。ツインブースト。

鬼道のものと比べて、威力は劣りはする。

だが帝国の、ましてや鬼道が使っていた必殺技を、オレ達が使ってくるとは思わなかったのだろう。

怯んだ軟山に、必殺技を繰り出す暇を与えず、追加点をもぎ取った。

 

 

『ゴォォォオオル!!なんてことだ!帝国学園のツインブーストを、雷門の宍戸と半田が使用!!これにはキーパー軟山!反応が遅れたああああ!!』

 

「………やった……んですか……?」

 

「ああ。表示板見てみろ。2対1だぜ」

 

「や…や………やったああああああ!!」

 

 

試合に勝ったかのように喜ぶ宍戸だけど、無理はないな。

あの厳しい特訓を乗り越えて、この大舞台で得点をもぎ取ったんだからな。

 

 

「それにしても、まさか宍戸たちにツインブーストを教え込むとはな。今でもびっくりだ」

 

「………半田の執念に負けただけだ。実際に、突然湧いたオレが宍戸のスタメンを奪ったのだから、これぐらいはしないと申し訳ない。それに、オレはツインブーストを身に付けさせただけで、実際に得点を奪ったのは宍戸たちだ」

 

「まっ、そりゃそうだな。しっかし、いい顔してやがるぜ宍戸のヤツ。オレも負けちゃいられねえ」

 

「ふっ…。ならば、お前も次までに新しい必殺技でも覚えたらどうだ。豪炎寺との連携があるのなら、他のメンバーともいけるだろう」

 

「他の…か。アリっちゃアリだが、まずはこの試合に勝たなきゃだな」




実際、向こうに鬼道がいるとは言え、前回の試合でスタメン落ちした選手始動で帝国の必殺技使ってきたらビビり倒すと思います。思いなさい。


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不死鳥の飛翔

ドラゴン→ワイバーンもよく分かんないけど、ペガサス→フェニックスもよく分かんない。
まあしっかり理解出来る必殺技のが珍しいんで今更ですけど。


あとスプラ3にどハマりしてました(自首)


あれから再びバックトルネードの猛攻で点を奪われ、2対2の同点で前半が終わり、ハーフタイムとなった。

 

 

「アイツらのシュート、とんでもない力だ……!」

 

「名門木戸川清修のスリートップは、伊達じゃないか…」

 

「あとさ、あの口ぶりだとバックトルネードだけじゃないんじゃない?」

 

「と、言うと?」

 

「いや、オレ達の力はこんなもんじゃないって言ってたじゃん。それに、あのトリオのことだしさ。3人の連携シュートとか持ってるんじゃないの?」

 

「……………なくは無い、で済ませなさそうだ」

 

 

マックスすごいな。ビンゴだぞそれ。

アイツらはまだ、トライアングルZを隠し持っている。

点の取り合いとなると、こちらが厳しくなりそうだな…。

 

 

「………マックス、出れるな?」

 

「いつでも」

 

「では宍戸、交代だ」

 

「は、はい!マックスさん。後半は任せました」

 

「もちろん。まあ、今回は僕のシュートの番は無さそうだけどね」

 

「スパイラルショットはともかく、クロスドライブなら打ってみてもいいんじゃないか?」

 

「いやぁ、それもいいんだけど……。見に撤するって程じゃないけど、フィールドでシュートを見させてもらうよ」

 

「………?」

 

 

何を言っているんだ。そして何を見るんだ、お前は。

その口ぶりだと、シュートを見るって言いたいんだろうけど、オレ達のシュートなんていつも見てるんだから違う。

じゃあ木戸川清修のシュートか?トライアングルZなんて見てどうにかなる技じゃないし………。

 

 

「………おい、まさかマックス」

 

「いやぁ。良さそうなの見つけちゃって」

 

 

…………これは、決勝まで取っとくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「同点なんざ、すぐに追い抜けばいいだけっしょ!」

 

「まだ試合は後半戦。みたいな?」

 

「オレ達の本当の力、見せてやる!」

 

「さっきほとんど同じこと聞いたんだけど?」

 

 

フィールドに入り、ポジションに付いた途端、向こうからそんな声が聞こえてきた。

実際、トライアングルZがあるからハッタリとかじゃないんだけど。

バックトルネードはそろそろ何とかなりそうというか、何とかするんだけど、トライアングルZはな……。

 

 

「最初から攻めまくる!ガンガン行くしかない、みたいな?」

 

「じゃあ止めるしかないよね。クイック…」

 

「努!」

 

「ああ!」

 

「えっ、今ノールックでバックパスして、そんなすぐ反応できる!?」

 

「聞いてなかったかよ!オレ達は常に、三位一体ってな!友!!」

 

「追加点いただき!バックトルネード!!」

 

 

流れるようにシュートへと移られたな…。

実際、あのコンビネーションは三つ子だからこそというのは納得出来るけど、他のメンバーとのプレイが目立たない。

ただ、そこを考えるのは後でいい。今度こそ止めないとな…。

 

 

「風丸!壁山!!」

 

「スピニングカット!!」

 

「ザ・ウォール!!」

 

 

今まではブロックが間に合わなかったけど、今回は違う。

風丸と壁山が間に合い、かなり威力を削ることが出来た。

 

 

「これなら…!ゴッドハンド!!」

 

 

今度こそ、バックトルネードを止めることが出来た。

ただそれを見た三兄弟は、予想通りと言わんばかりだ。

 

 

「まあ?これぐらいはしてもらわないと歯応えがないし?みたいな」

 

「お次こそ、本当の力を見せてあげましょう」

 

「オレ達の切り札、止められるはずがない!」

 

「………マックスの言ったこと、間違いないようだな」

 

「外れて欲しくはあったけどねえ。まあ、バックトルネードは充分見れたし、切り替えてかないと」

 

「本当にお前何しようとしてんだ」

 

「別に?悪いことはしないし」

 

 

さっきからマックスが不穏なこと言ってるけど、試合に集中しよう試合に。

円堂が蹴り上げたボールは風丸に渡る。

 

 

「疾風ダッシュ!半田!!」

 

「させるか!西垣!黒部!」

 

『ああ!!』

 

「えっ」

 

 

風丸からボールを渡されたオレを、女川達が取り囲み、周りをグルグル回り出す。

あれ、これまさかハリケーン…。

 

 

『ハリケーンアロー!!』

 

「うわあ!?」

 

 

発生した竜巻に足を封じられたオレに、強烈なスライディングが三連続で叩き込まれた。

これ前から思ってたんだけど、明らかにボールじゃなくて選手自身狙われてるんだけど、ダメだろ。見ろよ審判。仕事しろ。

 

 

「いけ!勝!!」

 

「ナイスディフェンス。とは言っとくか」

 

「見せてやろうじゃん?オレ達の本当の力!」

 

「行くぜ!!」

 

 

勝を中心に、努と友が走り抜ける。

そこからは勝から友へダイレクトパスによって力を込められ、最後に努のボレーシュートにより、ゴールへと突き進む。

 

 

『トライアングルZ!!』

 

 

最後にふざけたポーズを取ってはいるが、威力は折り紙付きだ。

コイツはキツいな……!!

 

 

「スピニングカット…!」

 

「ザ・ウォール!!」

 

 

何とか風丸と壁山がブロックしてくれるも、威力が削られているようには見えなかった。

 

 

「くっ…!ゴッドハンド!!」

 

 

ゴッドハンドは間に合ったものの、激突した時から既にボールの勢いに押され、体勢が崩される円堂。

何とか両手で抑えようとするも、ゴッドハンドは割れ、そのままゴールを許してしまった。

 

 

『ゴォォォオオル!!武方三兄弟の強烈な連携シュート!木戸川清修、勝ち越しだあああ!!』

 

「な…なんて、威力だ……」

 

「最後のふざけたポーズからは想像出来ねぇな…」

 

「ホント。僕の勘、外れて欲しかったんだけどね」

 

「……次は止める。絶対に……!」

 

「……無理するなよ。円堂」

 

 

円堂が覚悟を決めた目をしているけど、あまり無理はさせられない。

せめて、同点には並ばないとな…。

 

 

「……染岡、半田、鬼道。頼みがある」

 

「どうした、豪炎寺」

 

「軟山のキーパー技だが、どれも弾き返す技だ。そこの隙を突きたい」

 

「………えっ、そうなの?」

 

「そりゃ元いたチームなんだから、そうなんじゃねぇのか?」

 

「まあ、そう…だよな」

 

 

………あれ。たしかアイツの技って、カウンターストライクとタフネスブロックだよな。

カウンターストライクはそうだけど、タフネスブロックって別に弾き返す技じゃなかった気がするんだけど……。

 

 

「………お前の新必殺技、頼りにさせてもらうぞ。半田」

 

「……ああ。任せろ」

 

 

…まあ、こんなの今に始まったことじゃない。

オレ達のやることは、点を奪うことだからな。

 

 

『雷門ボールで試合が再開されます!雷門はこの点差を埋められるか!?』

 

「埋めてやるさ…!」

 

「へっ!その前にもう1点奪うだけっしょ!」

 

「クソっ…!影野!!」

 

 

開幕ボールを受け取ったオレに、三兄弟が容赦なく詰めてくる。

流石に突破出来ず、後ろの影野にボールを渡す。

 

 

「渡したところで、ディフェンスからボール奪えばいいだけですよ!」

 

「…………」

 

「立ち尽くすしか出来ませんか?もらいましたよ!」

 

 

影野からボールを奪おうとスライディングを仕掛ける努。

だが、その結果は……。

 

 

「………はい?」

 

「残像だよ……」

 

 

まさかの影野、戦国伊賀島の残像をモノにしていたようで、努から突破することに成功した。

いや、たしかに必殺技増えたとは聞いてたけど、それとはな…。

 

 

「鬼道……!」

 

「よし。行け!染岡!豪炎寺!!」

 

「おう!ドラゴン…!」

「トルネード!!」

 

 

鬼道に渡されたボールは、そのまま染岡に繋がり、ドラゴントルネードが木戸川ゴールへと突き進む。

 

 

「流石に反応出来る…!カウンターストライク!!」

 

 

軟山渾身のパンチングにより、ドラゴントルネードが弾き返される。

しかもそのボールは、雷門ゴールの方へと突き進む。

 

 

「このままボールを貰えば、さらに点差を広げて…!」

 

「させるワケないだろう。スピニングカット!!」

 

「なにっ!?」

 

 

だが、豪炎寺のおかげでこの事を知っていた鬼道は、スピニングカットでボールを受け止め、そのまま拾うことに成功した。

 

 

「行け!半田!!」

 

「よし。行くぞ!」

 

 

オレの先に氷が広がり、そこへ向けてシュートを打つ。

氷に打ち出されたボールは凄まじい回転を経て、その勢いのままゴールへと突き進む。

 

 

「フリーズショット!!」

 

「なっ…!?タ、タフネスブロック…!!」

 

 

カウンターストライクを出す隙は与えなかったものの、タフネスブロックが間に合ったか…。

しばらく軟山とボールがぶつかった後、ボールは上空へと弾き飛ばされる。

 

 

「おお!ナイスカット!!」

 

「……豪炎寺!!」

 

「ああ!ファイアトルネード!!」

 

「え、えええ!?」

 

 

ドラゴントルネードと、フリーズショットは半分オトリだ。

本命は、この弾き返された後のファイアトルネードだったんだ!

 

 

『ゴォォォオオル!!染岡と半田と豪炎寺による3人がかりの連続シュートで、雷門!追い付いたぞおおおお!!!』

 

「サンキュー、豪炎寺」

 

「こちらこそだ。よくタフネスブロックを引き出してくれた」

 

「まっ、本当はフリーズショットで決めたかったけどな」

 

「おっ。言うようになったじゃねえか半田。こりゃあ鬼道の言う通り、オレ達でなんかやるか」

 

「………いいな、それ。すごくいい」

 

 

オレと染岡で合体技か……。前回じゃやってなかったし、オレもやりたいな。

出来れば円堂も一緒だといいんだけど、どうだろ…。

 

 

「まっ、まずはこの試合勝たなきゃな」

 

「……ああ。もう1点、なんとかな」

 

「…………一ノ瀬、土門、円堂。話がある」

 

「えっ?なに、鬼道」

 

「ああ、多分オレも言いたかったことと重なると思うんだよな。アレのことだろ?」

 

「風丸も勘付いていたか。そうだ。アレは……」

 

 

フォーメーションを整える僅かな間だが、鬼道と風丸が一ノ瀬達と話をしていた。

鬼道と風丸となると、共通点としてはスピニングカット使用者ってとこだけど……。

 

 

「…………ああ。なるほど」

 

 

となると、オレのするべきことは……。

 

 

「……秋ちゃん。残り時間って…」

 

「……もう、残ってない」

 

「あとはロスタイムを残すだけってことですか…!?」

 

「……頼むわよ。みんな……」

 

 

残り時間はあと僅か。

延長戦に巻き込まれれば、こちらが不利になる。

何とかして、この内に決めるぞ…!

 

 

「点が並んだところで、また奪えばいいだけです」

 

「オレ達は絶対に負けない!」

 

「勝つのはオレ達、武方三兄弟のいる木戸川清修だ!!」

 

 

試合が始まった途端、ボールを中盤に預けた三兄弟が突出してきた。

アイツらを止める術はない。ボールを奪わないと…!

 

 

「光宗!」

 

「おう!そら!!」

 

「もう一回!」

 

『ブーストグライダー!!』

 

「くそっ…!」

 

 

跳山、茂木、光宗によるブーストグライダーで突破されてしまい、ボールは三兄弟に渡る。

 

 

「何度でも言う!オレ達は絶対に負けない!」

 

「負けたくないとでも言いましょう!」

 

「このシュートで、勝利はいただきだ!!」

 

 

再びフォーメーションを整えた3人が、トライアングルZをしかけてくる。

これを決められたら、一気に厳しくなってしまう。

何としても、止めるぞ……!

 

 

『トライアングルZ!!』

 

「壁山!!」

 

「分かってるッス!!」

 

 

風丸と壁山が再びブロックをしてくれて、時間を稼いでくれた。

その間に円堂がゴッドハンドを溜め、準備は整った。

 

 

「ぐっ……!ゴールを許したら、チームのみんなの想いが途切れてしまう…!だからオレは絶対に止めてみせる…!!ゴールを背負うというのは、そういうことなんだ……!!」

 

 

ゴッドハンドでボールを抑える円堂。

今回は両手でしっかりと支えてはいるが、勢いに押され、身体ごとゴールへと向かってしまっている。

 

 

「ぐ、ぐぐぐ……!!絶対に…止めないと……!!」

 

「円堂ォ!!」

 

「間に合ったな…!!」

 

「そ、染岡!?半田も!?」

 

 

風丸と壁山がブロックしてくれたこと。

そして、円堂がしっかりと支えてくれたことで、オレ達は間に合った。

オレと染岡の2人で、円堂の背中を支える。

 

 

「何驚いてんだ。帝国の時もやっただろうが……!!」

 

「全力を出して戻って来たんだ。絶対に止めるぞ……!!」

 

「………ああ!!」

 

『うおおおおおお!!』

 

 

帝国の時と違うのは、オレと染岡が最初から両手で円堂を支えていることだ。

前回で言うトリプルディフェンスになるんだろうが、染岡はこれに割ってくることは無かったはずなんだけど、そんなことはどうでもいい。

オレと染岡が全速力で戻って来て、支えているこの瞬間。

絶対に、抑え切る……!!

 

 

「………やっぱり。あの3人が揃ったら、無敵だよ」

 

『と、止めたあああああああ!!武方三兄弟のトライアングルZを、3人がかりのキーパー技で阻止!!木戸川清修ゴールならず!!』

 

「マジかよ……!?」

 

「オレ達の…トライアングルZが……!?」

 

「止められた……!?」

 

「クソっ…オレはこれ以上無理みてぇだ…」

 

「ははっ…オレもだ。みんな、後は頼んだぜ……」

 

「サンキュー2人とも!みんな!行くぞおお!!」

 

 

円堂が蹴り上げたボールは、マックスへと渡る。

オレと染岡、円堂以外のみんなが攻め上がる。

 

 

「やらせるか!!女川!光宗!!」

 

『ハリケーンアロー!!』

 

「うわあ!?」

 

 

ボールを持つマックスに、ハリケーンアローが襲い掛かる。

 

 

「あの2人はダウンしてる…。もう一回やれば……!」

 

「クイックドロウ……!!」

 

「えっ…!?」

 

「ご、豪炎寺がディフェンス技を……!?」

 

 

ボールを拾った尾形から、豪炎寺がクイックドロウで奪い返す。

豪炎寺がディフェンス技を使ったことに、三兄弟が衝撃を受けているが、豪炎寺が足を止めることはなかった。

 

 

「く、黒部!豪炎寺からボールを奪え!!」

 

「はああああ……!ヒートタックル!!」

 

「うおおおお!?」

 

「ドリブル技まで……!?」

 

 

豪炎寺の新技、ヒートタックルで黒部を抜き去る。

だがその間に、武方三兄弟が下がって来ていた。

 

 

「そんな技を持ってようが、3人を突破できるかよ……!」

 

「やらせねえぞ…!!」

 

 

たしかに、3人はヒートタックルじゃ突破出来ないだろう。

でも、豪炎寺はそんなこと想定しているはずだ。

 

 

「……円堂。行ってこい」

 

「えっ……?」

 

「豪炎寺だけじゃ流石に無理。となると、お前達しかいないだろ」

 

「……今だ!トライペガサス!!」

 

 

やっぱり、豪炎寺も同じことを考えていたな。

豪炎寺がバックパスをして、その先にいたのは一ノ瀬だ。

 

 

「行け!決めるんだ!!」

 

『……おう!!』

 

 

円堂と土門が飛び出し、一ノ瀬と並ぶ。

一ノ瀬を中心として、3人がゴールへ向けて走り出す。

 

 

「トライペガサスは決めさせない…!スピニングカット!!」

 

 

西垣が再びスピニングカットでトライペガサスを阻止しようとする。

地面から噴き出す衝撃波が、3人を阻むが……。

 

 

『スピニングカットは、衝撃波でシュートを阻止したり、相手を吹き飛ばす技だ。だが、衝撃波が噴き出す瞬間は強烈な風も生まれて吹き飛ばせるが、少しでも間が空けばその風は弱まる』

 

『要するに、あらかじめ置いてあるスピニングカットなら、足を止めずに突き進めば、突破出来なくもないってことだ。実際は難しいだろうけど、円堂はそういうの、得意だろ?』

 

『ああ。諦めずに前へ進むこと。オレが何度も目の前で、見て来たことだ』

 

 

後ろから聞こえていた鬼道や風丸の言葉を思い返す。

その言葉通り、3人はスピニングカットを突破し、一点を同時に通過する。

そこから巻き起こった青いエネルギーは、途中から赤い炎に変わり、不死鳥が生まれる。

 

 

『うおおおおおお!!』

 

 

トライペガサスと同じく、3人がボールを蹴り込む。

そのボールは、不死鳥と共にゴールへと突き進む。

 

 

『させるかああああ!!!』

 

 

三兄弟がシュートコースへと割って入り、それぞれ足で止めにかかる。

オレ達が言えたことじゃないけど、凄い執念だな…!

 

 

「こんなの、冗談じゃないっしょ…!!」

 

「僕たちはこのままじゃ終われない……!!」

 

「決めさせねえぞ……!!」

 

 

だが、悪いけどそんなんじゃこのボールは止められない。

一ノ瀬と土門、円堂の3人のシュート…ザ・フェニックスは。

 

 

『ぐぐぐ……!うおおお!?』

 

「う、うわあああああ!!?」

 

 

三兄弟を弾き飛ばしたボールは、そのまま軟山ごとゴールへと突き刺さった。

3人のパワーが勝ったな。

 

 

『ゴォォォオオル!!雷門中!遂に逆転!!そしてここでホイッスル!!決勝戦へと駒を進めたのは雷門中だああああ!!!』

 

 

それと同時に、試合も終わった。

なんとか勝つことが出来たな……。よかった。

 

 

「へへっ……。やったな、半田」

 

「ああ……。いよいよ決勝戦だ。絶対にアイツらが来るだろうな…」

 

「……世宇子中か。コイツらでさえだいぶ苦労したってのに、さらに上だって言うしな……。なあ、マジでオレ達でなんかやろうぜ」

 

「…………ああ。でも、その前に……」

 

「あん?」

 

「………燃え尽きたからぶっ倒れる」

 

「お、おい!!半田!!せめて家に帰ってからぶっ倒れろ!!」

 

「は、半田さあああん!!起きてくださいっすううう!!」

 

「えっ、半田くん!?大丈夫!?ねえ!!」

 

「…………………えっ。大谷さん……。ベンチにいたよね……?」




半田がぶっ倒れてる裏で、豪炎寺と三兄弟の溝は埋まりました。


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神を越えるために

円堂が粉々になるとこ、初見の時普通に怖くて泣いた。


『うわあああああ!!!』

 

『があああああああ!!』

 

『みんなあああああ!!』

 

 

……なぜ、みんながやられているんだ…?

いや、そもそもオレはどこにいるんだ…?

目の前に広がっている光景も、いったいなんなんだ…?

みんなが戦っているのは、いったい何者なんだ…?

 

 

『ゴッドハンド…!!』

 

 

誰かも分からない相手がシュートを打ち、ゴッドハンドで止めようとする円堂。

だが、ゴッドハンドは簡単に砕け散ってしまう。

 

 

「…………は?」

 

 

崩壊は、それだけに留まらなかった。

ゴッドハンドを砕かれた円堂自身にも、段々とヒビが広がって行き、最終的には砕け散ってしまった。

そして、そのシュートは残ったオレにも………。

 

 

「うわあああああああ!!!!??」

 

 

………結論を言えば、今のはただの夢だった。

どこかも分からない場所にもいないし、周りには誰もいない。

自分の部屋のベッドの上で、汗だくになりながら飛び起きただけだった。

 

 

「…………やっぱ、不安にもなるよな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………半田くん、大丈夫?」

 

「寝覚めが悪かっただけだから、大丈夫だって」

 

「顔色も悪いし、クマもすごいけど……」

 

「……まあ、今日の練習は休ませてもらうけどさ。1日休んで、明日から頑張る」

 

「うん。その方がいいよ」

 

 

木戸川戦から1日が経ち登校中、門の前で大谷と会い、そんな話をしながら歩いていた。

流石にこんな状態で練習しても、すぐにぶっ倒れそうで、迷惑かけそうだしな。

昨日もぶっ倒れた後、染岡や風丸に迷惑かけたみたいだし、あと目覚めたら目の前にいた大谷にも。

流石に2日連続でぶっ倒れたくはない。

 

 

「………あれ、大谷。あのトボトボ歩いてるヤツ、オレの見間違えじゃなかったら、円堂だよな」

 

「あっ…。そ、そうだね。あのバンダナ、円堂くんだよ」

 

「んー…。なんか、後ろの方に風丸に豪炎寺、鬼道とかもいるな。なんで追いかけないんだ?」

 

「秋ちゃんや一ノ瀬くんもいるし…。何かあったのかも」

 

「……とりあえず、そこに合流するかな」

 

 

オレは大谷と一緒に、円堂を見送ってるグループに合流した。

 

 

「おはよう、みんな。なんかあったのか?」

 

「半田か、おはよう。いや、円堂が……。お前もどうした。酷い顔だぞ」

 

「寝覚め悪かっただけだよ。それより、円堂はどうしたんだ?」

 

「昨日の木戸川戦で、不安になったようなんだ」

 

「昨日の……。ああ、ゴッドハンドが通用しなかったからか」

 

「少なくとも、オレ達は初めて見ることでさ。1年の頃、そんなことなかったんだよな?」

 

「まあ、な。今までのやってみなくちゃ分からないって気持ちだけじゃ、不安になったんだと思う。どうすりゃいいか分かんなくて、頭ぐちゃぐちゃになってるとか言ってなかったか?」

 

「すごいね。当たってる」

 

「こればっかりは、アイツがその殻を破ってもらわないとどうにも出来ないな。アイツ、昨日の最後のシュートを止める時、ゴールを背負うことの責任を言ってたけど、それが連鎖してるんだと思う。オレ達は突破されても、円堂がいる。でも逆に言えば、円堂……と言うより、キーパーはそうもいかない。チームの最後の砦だからな。そう言う意味じゃ、二回戦目の千羽山とかが分かりやすかった」

 

「……たしかに。無限の壁が破られた後、茫然自失と言わんばかりの状態だったな。今までの鉄壁がウソかのように、簡単に決勝点を奪っての勝利だった」

 

「いつかはぶつかる壁だった、と思うしかないんだよな。他人事のように聞こえるだろうけどさ」

 

「………………」

 

 

そうして、クラスが違う鬼道たちとは別れ、オレと大谷たちは円堂のいる教室に着く。

不安そうなその背中は、さっき見たものと変わらなかった。

授業になってもその状態は続き、先生に指名されたことに気付かなかったり、この前解けてた問題を間違えたりと、不調なままだった。

 

 

「………休んではいられない、かな。無理はしないけど」

 

「……本当に大丈夫?」

 

「倒れるまではしないさ。でも、オレより無理しそうなヤツがいるからな。アイツが倒れるようなことだけは、させられない」

 

 

 

 

 

放課後、オレは日直だったこともあり、部室に行くのが遅くなった。

それは土門と一ノ瀬も同じだったようで、3人揃って部室へ着くと…。

 

 

「ごめん!遅くなっ…た……」

 

「………珍しい空気だな」

 

 

土門の言う通り、円堂と豪炎寺、鬼道が机を囲んでいる辺りから、暗い空気が流れていた。

まあ、3人って言うより、主に円堂から出てるんだけど。

 

 

「練習は染岡達に任せてるのか」

 

「そうだ。それと半田、お前は今日参加するのは止めておけ。昨日倒れたばかりじゃ、こちらも不安だ」

 

「ああ、悪いけど元々そのつもりだったんだ。顔は出すけど」

 

「ならいい」

 

「けど、ゴッドハンドのことよっぽど深そうだな。大丈夫かよ?」

 

「………………」

 

「……そんなにか」

 

「鬼道。世宇子にゴッドハンドは通用すると思うか?その力を目の当たりにしたのはお前だけだ」

 

「…………分からないと言いたいが、恐らく厳しいだろう。武方三兄弟のトライアングルZも凄まじいシュートだった。しかし、奴らのシュート……とくにキャプテンのシュートは、それを上回る」

 

「染岡と半田と一緒に止めてたアレなら…。いやでも、そう毎回2人をゴール前まで下げるのは厳しいか……」

 

「………トリプルディフェンス。一応名前を付けとくけど。あれ自体は、別にオレと染岡じゃなくても出来るはずだ。ディフェンスの壁山でも、多分風丸や影野、土門でも。円堂を支えることが出来ればな」

 

「だが、壁山と風丸はシュートブロックが出来なくなる。そうなると、影野と土門になるだろうが……」

 

「ディフェンスが薄くなるよな…」

 

「…………それ、大介さんのノートだよな。見てたのか?」

 

「……ああ。爺ちゃんの最強のキーパー技って、書いてあったんだ。マジン・ザ・ハンド……だって」

 

 

マジン・ザ・ハンドか……。

でもあれよりたしか、トリプルディフェンスの方が強かった覚えがあるんだけど、あまり信用ならないな。オレの記憶。

となると、これを頼りにするしかない…か。

 

 

「ここ、赤く書かれてるんだよ。これが重要って意味だと思うんだ」

 

「左胸……ってより、心臓?」

 

「これだけじゃ分からないな…」

 

「………でも、オレはこれを身につけるしか、無いと思うんだ」

 

「……だろうけど。こうなったらさ、聞いてみようぜ」

 

「聞いてみるって、誰に?」

 

「決まってるだろ。先輩だよ」

 

 

そう言ったオレは、円堂たちが練習を終えるのを待った。

その間に、響木さんから連絡先を聞き、準備を進めた。

 

 

 

 

 

練習が終わり、オレと円堂。そして豪炎寺に鬼道、染岡は河川敷へ向かった。

 

 

「おう、来たか坊主達」

 

「備流田さん……?それに、浮島さんに、会田さん……」

 

「まあ、コイツらはいつも河川敷にいるけどな。んで、半田。目的のものはこれでいいか?」

 

「すみません。ありがとうございます」

 

「なに。頑張ってる可愛い後輩の頼みだ。これぐらいはするぜ」

 

「おい半田。それってなんだ?なんか、大介さんのノートと同じぐらい古びてるぜ」

 

 

オレは備流田さんから2枚のボロボロな紙が入ったクリアファイルを受け取った。

この人たちからもらって、ボロボロのものと言えば……。

 

 

「これは、大介さんがOBのみんなに渡してた必殺ノートの別ページみたいなんだ。円堂が見たことない必殺技が乗ってるらしい」

 

「そんなのがあったのかよ!?」

 

「ほ、本当なのか!?爺ちゃんのノートの、別ページ!?」

 

「ああ。見てみろ円堂。そいつは間違いなく、大介さんの遺したものだぜ」

 

 

それを聞いた円堂に、オレはファイルを渡す。

それを見た円堂は、震え出した。

 

 

「ま、間違いない…!これ、爺ちゃんのノートだ!!」

 

「ったく、ウソつくワケないだろうが」

 

「あっ…。いや、その……。す、すみません……」

 

「別に、備流田もオレ達も怒ってるワケじゃない。しかし、驚いたな。まさか読めるとは」

 

「………?みなさんはこれ、読めていないんですか?」

 

「あー……。あのな、坊主達。お前らも使ってたイナズマ落としあるだろ?それ、あのノートを見て覚えたんだよな?」

 

「はい。オレと壁山が、そうやって」

 

「もちろん、それは私たちも使えるものだ。ただ、問題はノートが先じゃあ無かったんだよ」

 

「…………まさか」

 

「そう。そのノートは、先に大介さんが言葉や特訓である程度形にした後、書き記したものなんだ。当時、イナズマ落としや炎の風見鶏は、オレ達も練習していた。だがその2つは、形にしてないものだ。大介さんから受け取り、その後練習しようとしていた時に、あの事件が起こってな……」

 

「…………そう、なんですか」

 

「だが……、そうか。流石は孫だな。読めるんだろう?そのノート」

 

「………はい。必殺技の名前は書かれてませんけど、どんな必殺技なのかは、書かれてます」

 

「それ、読んでもらっても構わんか?オレ達も、大介さんが遺したものを、知りたいんだ」

 

「………分かりました!!」

 

 

円堂がページをしっかりと持ち、息を吸う。

いったい、どんな必殺技が書かれているんだ……?

 

 

「まず前の2人がボールを持ち、後ろで守護者がドゴン!そして2人がバビューン!!となり、パッとしてズバーン!!これが、最強のシュート技!!……………え?」

 

 

もう、豪炎寺と鬼道を除いた全員ズッコケた。

ただ2人とも、なんとか耐えたような感じだぞ。オレには分かる。

それとOBの御三方も一緒にズッコケてる。反応が若い。

多分これ、OBが現役の時も同じだったんだろうな。

 

 

「………はは、ガハハハハハ!!やっぱり大介さんだ!答えを見てからでないと、さっぱり分からん!!」

 

「ドゴンとかズバーンとか、音ばかりなのも大介さんらしい。いやはや、ありがとう円堂くん。おかげで懐かしい体験が出来た」

 

「い、いえ………。でもこれ、シュート技なのは間違い無いです」

 

「守護者ってことは、これキーパー含めた3人の合体技なのか?」

 

「いや、ディフェンスという可能性もある。安易に決め付けるのはよくないな」

 

「まあ、それ以前にバビューンの後の、パッとしてズバーンも分かんないんだけどな。豪炎寺、前みたいにピンと来たりしないか?」

 

「……………すまない」

 

「いや、謝る事はないだろ……」

 

 

やっぱり大介さんのノートってことは間違い無いな。

こんな擬音……擬音でいいのか?まあ、音ばっかなのは大介さんだ。

しかし、最強のシュート技、か。是非とも形にしたいところだけど……。

 

 

「………あれ?もう1つのこのページ、字が1つも書かれてない。でっかい絵だけだ」

 

「ああ。それはオレ達にも分かった。どういう必殺技なのかも、なんとなくだがな」

 

「円堂。見せてもらえるか?」

 

「あ、ああ……。これだよ」

 

 

円堂が見せてくれた、もう1つのページ。

そこに写っていたのは……あれ?

 

 

「なんだこれ。でっかいゴッドハンドか?」

 

「その後ろに3人いるようだが……」

 

「恐らくだが、それは3人でやるゴッドハンドだと思うぞ。名付けるなら……。シンプルだが、ゴッドハンドトリプル。だろうな」

 

「OBのみなさんは、形にできなかったんですか?」

 

「いや、ゴッドハンド自体は響木が形にしていた。だが、それを出す機会が、もう無かったんだ」

 

「……そう、なんですか」

 

「それより、響木はマジン・ザ・ハンドに拘ってたのと、他のメンツで、ゴッドハンドを覚えたヤツがいなくてな。ちゃんとした形にすることは、無かった」

 

「………今からオレ達がゴッドハンドを覚えるのは、難しく無いか?」

 

「そうだな。これを形にしたい気持ちはあるが、マジン・ザ・ハンドに集中した方が良さそうだ」

 

「…………………」

 

 

ゴッドハンドトリプル……か。

たしかに、今からオレ達の誰かがゴッドハンドを覚えるのは、間に合わないと思う。

でも、なんだろうな。心当たり………って程ではないんだけど、何か引っ掛かるな。

本当に、ゴッドハンドを覚える必要があるのか……。

 

 

「おう、なんだお前ら。マジン・ザ・ハンド覚えるつもりなのか?」

 

「………はい。その為に、オレは今日から練習を始めて、明日からも続けます」

 

「…………ほーん?」

 

 

もう夜になるということもあり、オレ達はそこで解散した。

最後の備流田さんの含みのある返事が気になるとこだけど、もう帰ったし、気にしないでいい……のか?




多分1枚目のやつ、何の秘伝書なのかモロバレでしょうけど、お口チャックお願いしますね。


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アフロディ

鬼道だけちゃっかり手洗ってたとこ、好き。

あとタイトルが思い浮かばなかったのでストレートに行きました。
ど真ん中ストレートです。


「鬼道と一ノ瀬!もう一回頼む!!」

 

「もう一回だね。分かった!」

 

「ツインブーストの練習になるからいいが、あまり無理はするな。これで5回目だぞ」

 

「…さらっと言ってるけど、よく鬼道さんと一ノ瀬さんもあんなに打てるよね」

 

「オレも使えるようになったから分かりますけど、3回連続打ったぐらいで疲れるんだけどなあ…」

 

「次からオレが変わる。染岡は別件中だから、ファイアトルネードになるがな」

 

「なあ、半田。円堂から預かって、大介さんのページ見せてもらってるけどよ」

 

「……ああ」

 

「……アイツいないで見て、分かるワケないよな」

 

「言うな染岡。オレから言い出して、ページもらってから気付いたけど、何も言わないでくれ」

 

 

円堂がマジン・ザ・ハンドの特訓をしてる中、オレと染岡は大介さんのノートの別ページを見ていた。

文字は分からなくても、絵を見ればもしかしたらと思ったんだが、そう甘くなかった。

そもそも、この流れは1年の頃もやってたな。

学習しろよ、オレ。

 

 

「せいぜい、ゴッドハンドみたいのが後ろに見えるのは分かるんだけどよ…。なんでシュート技にゴッドハンドが写ってんだ?」

 

「ゴッドハンドが関係してるってことなのかもしれないけど…。じゃあ、あのドゴンやバビューンはどこ行ったって話だしな…」

 

「………頭痛くなってきやがったな」

 

 

ダメだ。こればっかりは、考えても仕方ないのかもしれない。

放置はしないけど、気を取られ過ぎちゃったら元も子もないしな。

 

 

「みんなー!そろそろ休憩よ!」

 

「いっぱいおにぎり作りましたから、食べてくださーい!!」

 

「おっ、だってよ半田」

 

「行くか。円堂!お前もこっち来いよ!」

 

「っと、ああ!すぐ行く!!」

 

 

マネージャーたちの方を向くと、たしかにたくさんのおにぎりが並んでいた。

そういえば、大谷たちが部室の方にでっかい炊飯器持ってくのをさっき見たっけ。

 

 

「……あー、染岡。行く前に手洗いに行こうぜ」

 

「おっと、そうだな。どうせマネージャーに言われるだろうし、先行っとくか」

 

 

さーて、水道のとこ行くか。

蛇口捻ってー………。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「どうした、2人とも」

 

「いや、別に…」

 

「…お前、ちゃっかりしてるよな」

 

「何の話だ。それに、オレだけじゃないぞ」

 

「えっ」

 

 

後ろを振り向けば、豪炎寺がこっちに来るのが見えた。

それで、その後ろの方では雷門に怒られているみんなの姿が。

 

 

「あー…」

 

「水の出しっぱなしは良くないぞ。では、先に戻ってる」

 

「お、おう…」

 

 

その後、鬼道のあとを追い、オレと染岡と豪炎寺はベンチの方に戻った。

その時円堂たちと入れ違いになったけど、鬼道のインパクトが大きかったのか、何も言われることは無かった。

分かる。鬼道のインパクト、デカかったもんな。

その後、みんなが揃って洗った両手を見せて、いざ実食タイム。

 

 

『いただきまーす!!』

 

「おにぎりと大谷さんの作った漬物もありますから、食べてくださいね!」

 

「おっ、じゃあオレもーらい」

 

「う、うん。この前作ったのより多く作ったんだけど、味はちゃんと付いてると思うから…」

 

「ん。やっぱ美味いなこれ。優しい味がして。おにぎりと合うなぁ」

 

「あっ…それ…」

 

「えっ、どうした。なにかあった?」

 

「う、ううん。なんでも…」

 

「そっか。このおにぎりも美味いよ。4人の内誰が握ったか分かんないけど」

 

「…………」

 

 

みんなも美味そうに食べてるな。

となりの染岡に、前の円堂も…。

 

 

「ははは。ヘンテコな形だなあ」

 

 

………よし。

オレと染岡はアイコンタクトを交わす。

 

 

「大谷。こっち行こう」

 

「えっ?」

 

 

オレと染岡、大谷はその場から退避した。

達者でな円堂。

その後オレたち3人は、そのおにぎりを一気に食べ、しょっぱさに涙し、詰まって苦しみ、雷門に背中を叩かれる円堂を遠目に見るのだった。

 

 

「…強く生きろよ、円堂」

 

「アイツが結婚したとしたら、尻に敷かれるんだろうな…」

 

「あ、あはは……」

 

「…そういやアイツ、マジン・ザ・ハンドの特訓って言ってたけど、胸鍛えるって言って修練場でノック受けてたんだよな」

 

「えっ、本当?」

 

「ああ。たしかに胸の部分にマーク点けてあったけど、肺とか心臓の可能性あるんじゃないか?って言ったら飛び出して行ってさ。そのせいでオレもノック受けるとこだったけど」

 

「ああ。その後ならオレも見たぜ。水張った洗面器に顔突っ込んでたな」

 

「オレも影野から聞いた。アイツも呼吸のことじゃない?って言ったみたいでさ」

 

「心臓、肺、呼吸…」

 

「……けどよ。言ったお前に言うのもなんだが…」

 

「…分かってる。影野も言ってたけど、違う気がするんだよな」

 

「完全に迷走してるってことか…」

 

 

どうしたものかな…。

マジン・ザ・ハンドは必要になるんだろうけど、囚われすぎてる気もする。

円堂自身のことは、オレにも分からないから、信じるしかないんだけどな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

その翌日。今日もオレ達はグラウンドで練習だ。

 

 

「ドラゴン!」

「トルネード!!」

 

『ツインブースト!!』

 

 

…さすがにやりすぎじゃないか?

円堂が2つのシュートを同時に打ってきてくれって言うから、4人もそうしてるけど…。

 

 

「一応、救急箱はここにあるから…」

 

「まあ、そうなったらオレもすぐに駆け寄るけどさ…」

 

 

ドラゴントルネードと、ツインブーストが円堂に迫る。

 

 

「なっ……!?」

 

「ウソ…」

 

「あれは…」

 

 

そこに割り込み、グローブも無しに素手で止めた者がいた。

 

 

「すげえ!ドラゴントルネードと、ツインブーストを止めるなんて!お前すごいキーパーだな!」

 

「いや。私はキーパーではない。我がチームのキーパーならばこの程度のシュート、指1本で止めてみせるさ」

 

「そのチームというのは世宇子中のことだろう。世宇子のキャプテン、アフロディ!!」

 

『えええ!?』

 

 

アフロディ…か。

前回だと、神のアクアに依存したままだったはずだけど…。

 

 

「改めて自己紹介させてもらうよ。円堂守くん。私は世宇子中のアフロディだ。キミのことは、影山総帥から聞いている」

 

「やはり、影山は世宇子に…」

 

「てめえ…。宣戦布告に来たってのかよ!」

 

「宣戦布告?ふっ…」

 

「な、なにがおかしい!?」

 

「宣戦布告と言うのは、戦うためにするためにある。私はキミ達と戦うつもりなんてないのでね」

 

「じゃあ、何しに来たんだよ!」

 

「警告さ。キミ達は、戦わない方がいい」

 

「なんでだよ!?」

 

「負けるからさ」

 

『なっ!?』

 

 

……今回も、そうらしいな。

 

 

「神と人間が戦うなど、勝敗は見えているだろう?」

 

「自分が神だとでも言うつもりかよ…!」

 

「さあ。どうだろうね」

 

「試合は、やってみなきゃ分からないぞ」

 

「そうかな。リンゴは木から落ちるだろう?世の中には、逆らえない事実というのがあるんだ。それは、そこにいる鬼道有人くんが一番よく知っているよ」

 

「くっ…!」

 

「抑えろ、鬼道」

 

「半田…」

 

「だから練習もやめたまえ。神と人間の間にある溝は、練習なんかじゃ埋まらない。無駄なことさ」

 

「うるさい!練習が無駄だなんて、言わせない!練習はおにぎりだ!オレたちの血となり、肉となるんだ!!」

 

「……ふふふ。上手いこと言うね、キミ。練習はおにぎり、か。ふふふ…」

 

「笑うとこじゃないぞ…!」

 

 

円堂があんなに怒ってるの、今回だと初めて見たな…。

……と言うより、こうやって見てると……。

 

 

「しょうがないな。ならば、証明させてあげようじゃないか」

 

 

そう言って、アフロディは反対のゴールの方へとボールを蹴る。

それと同時に、姿が消えた。

 

 

「えっ…?」

 

「ボールの方だ…!」

 

「い、いつの間に!?」

 

 

大谷の言う通り、いつの間にだ。

まるで瞬間移動したかのようなスピードでボールに追いついたアフロディは、軽くボールを蹴る。

だが、そのボールは勢いを段々と勢いを強めていく。

 

 

「ぐ、ぐぐぐぐ…!うわあああ!!」

 

 

それはまるで、必殺技かと思うぐらいにまで強くなったシュートが、円堂と激突する。

ゴッドハンドどころか、熱血パンチすら使っていない円堂に、止め切ることは出来なかった。

 

 

「円堂!!」

 

「キャプテン!!」

 

「円堂くん!!」

 

 

ゴールネットまで吹き飛ばされた円堂に、オレを含めたみんなが近づく。

ボールは、ゴール裏にまで飛んで行った。

鬼道が介抱する中、円堂が目を覚ます。

 

 

「どけよ…!」

 

「おい!円堂!!」

 

「来いよ…!もう1発…!!今の…本気じゃないだろ…!!本気でドーンと来いよ…ッ!!」

 

 

完全に、アフロディのことしか見えていない。

足が震えて、立つこともままならないってのに…!

 

 

「円堂…!!」

 

「離せよ、半田…!!」

 

「アハハハハ…!面白い!神のシュートをカットしたのは、キミが初めてだ…!決勝戦が少し、楽しみになってきた…!!」

 

 

そう言って、アフロディは姿を消した。

それから少し経ち、円堂は地面に座り込んだ。

 

 

「…大丈夫かよ、円堂」

 

「…ごめん、半田」

 

「謝ることないって。オレがお前の立場だったとして、噛みつくこと出来る気しないしな」

 

「とんでもないヤツだったな…」

 

「世宇子にはアイツのような選手ばかりなんだ」

 

「決勝戦、とんでもないことになりそうだな」

 

「円堂。肩貸すぞ」

 

「悪い、半田」

 

 

………ただ、アフロディのやつ…。

 

 

「………アイツ、神って言い切りやがったな」

 

「えっ…?」

 

「……いや、なんでもない」

 

 

 

 

 

 

 

 

「円堂守…。総帥から聞いた以上の人間だ。決勝戦、楽しみだよ」

 

 

……ただ、彼もそうだが。1人だけ、気になる男がいた。

最後に、彼を支えていた男。

他の選手…。鬼道くんを含めて、僕を驚愕の目で見ていたというのに…。

 

 

「…………いや。まさかな」

 

 

まさか、神である私に向けて、哀れみの目を向けるなど、あるはずがない。




ぶっちゃけ半田にとって、黒歴史を見せられてるようなものです。


そんで先に予告しますが、次話を挟んで世宇子戦になるワケですが、帝国戦と同じく何話かに分けて連続投稿しますので、お楽しみに。


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合宿!!

タイトル思い浮かばな過ぎて勢いでやったら某軽音楽部みたいになったぞ。


600人以上のお気に入り登録、ありがとうございます。
ようやく無印編の終わりが見えて来ましたが、これからもよろしくお願いします。


アフロディが茶々入れに来た翌日。

あれから色々あったが、いま何をしてるかというと…。

 

 

「よーし!坊主。野菜切ったか!?」

 

「はい!おかげで涙止まらないです!」

 

「玉ねぎはいっぱい入れた方がいいからな。あくまでオレのレシピだが」

 

「備流田さん。肉の炒めどうですか?」

 

「おう。そんぐらいで大丈夫だ。あとは煮込む内に火が通るからな」

 

「では、玉ねぎを炒めてくれ。キミ達は辛い方が好きかな?それとも甘い方かな?」

 

「辛い方!!」

 

「甘い方っす!!」

 

「普通の!!」

 

「……三種類にしておこう。炒める時間によって味が変わるからね。甘い方はこちらがやるから、半田くんと…」

 

「あっ、じゃあ私がやります」

 

「ん。じゃあ大谷くん…だったかな?頼むよ」

 

「はい。会田さん」

 

 

カレー作ってる。

まあ、なんでこうなったかと言うと…。

 

 

 

 

 

 

 

「はっきり言おう。今のお前たちじゃ世宇子に勝つことは出来ない」

 

「えっ……?」

 

「…………そう、ですか」

 

「ああ。絶対に不可能だ」

 

 

アフロディが去った後、響木さんがそう言った。

あのシュートが、神のアクア込みの力までは分からないとはいえ、圧倒的だったことに変わりはないしな…。

 

 

「絶対なんて、そんなこと…!」

 

「言ってるだろう。"今の"お前たちでは、と」

 

「……………」

 

「あんなものを目の前で見たのだから仕方ないが、今のままでは力が入り過ぎるに決まっている。そんなことでは、試合までに燃え尽きたり、空回りすることになるぞ」

 

「…………たしかに。否定はできません」

 

「だから、合宿だ」

 

「が、合宿………?」

 

「学校に皆んなで泊まり、料理でも作る。それ以外は練習になるが、気分転換にはなる。いいか?雷門夏未」

 

「………ええ。理事長には、私から話を通しておきます。あの人なら許可してくれると思いますから」

 

「そういうことだ。作戦会議ならば止めはしないが、今日はもう練習はするな。明日からの土日で、合宿をする。親御さんたちに報告して、着替えなどを持ってくるようにな」

 

 

そう響木さんに言われ、その日は解散となった。

戻って来てからだと、初めての合宿になるな。楽しみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「合宿している暇なんて……」

 

「響木監督も言ってたじゃねぇか。気分転換って」

 

「それに練習だってするともな。しかし、半田はどうした?」

 

「たしかに、半田さんだけいないっすね」

 

「体調崩したなんて連絡も来てないし、遅刻だと思うけど…」

 

「悪いみんな。ちょっと遅れた」

 

「来たか半田。怪我とかも無さそうでなにより……?」

 

 

校門前。遅れてやって来たオレに反応した鬼道が、少し固まった。

それに釣られて、他のみんなもちょっと固まってる。

 

 

「どうしたんだよみんな。オレの顔になんか付いてるか?」

 

「いや、顔じゃなくて……。なんだよ、その大荷物」

 

「ああ。これ?買い物行ってたんだよ」

 

「大袋4つてお前。母ちゃんの買い物でも中々見ねえぞ」

 

「んや、これだけじゃなくてもっと増えるぞ」

 

「えっ」

 

 

そうオレが言うと、後ろから軽自動車がやって来る。

運転席や助手席からは……。

 

 

「おう、お疲れさんだ。半田の坊主」

 

「商店街からそこそこ距離があるはずなんだが、やはり若いな」

 

「備流田さんに、会田さん…?」

 

「ギリギリ車に乗り切らなかったもんでな。そうしたら坊主が持って行くって言うもんだからよ」

 

「母さんとの買い物に付き合うこともあるから、大丈夫って言ったじゃないですか」

 

「その言葉が通るなら、キミは一体普段からどれだけの荷物を持たされてるんだい?」

 

「秘密です」

 

「その様子だと、あまり遅れてはいないようだな。よかった」

 

「う、浮島さんまで……?あの、そのリアカーは一体?」

 

「これか?見た通り、デカい鍋とその他だ」

 

「響木からお前達が合宿をすると聞いてな。助っ人に来たということだよ」

 

 

そこへリアカーを引き摺った浮島さんも合流した。

オレ達が材料の買い出しに行き、浮島さんは道具などを用意してくれていたワケだ。

 

 

「今日の夕飯は、コイツらで作る特製カレーだ。レシピはオレ達が保証する。女子もいるが、どうしても男が多いとこれになるんだわな!」

 

「すごく簡単に言えば、切って炒めて煮込めば出来ますからね。量の調節もしやすいですから。ちなみにこれ、オレのリクエストなんだ」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「オレもカレーは大好物っすけど、半田さんもそうなんすね!」

 

「まあ、嫌いな人はあんまいないだろうけど。ほら、みんなで作るとなると、そこまで複雑な料理は出来ないだろ?その点、さっき言ったけどカレーは切って炒めて煮込むだけ。本格的なのはもっと作業が必要だろうけど、そういうのはこんな機会でやるものじゃない。しっかりレシピ通りにやれば、美味しくも作れるしさ」

 

「たしかに。初めて料理を作るならカレーがいいって、家庭科の先生も言ってたね」

 

「そうそう。オレも昔からよく母さんに言われてさ」

 

「昔からって…。アナタ、よっぽど昔からお手伝いしてたのね」

 

「えっ?あ、ああ………。まあ、そうだな」

 

「なによ。その変な誤魔化し方」

 

 

いや、ウソは付いてない。

オレの母さんって、子供の頃からこういうことを言ってたから。

ただ、今オレ完全に大人目線で言ってたな。危ない危ない。

 

 

「まずは練習からだ。腹ペコで料理というのも酷だろうから、希望者は途中で切り上げて作ると良い」

 

「オレが希望したし、もちろんオレは参加しますよ」

 

「マネージャーも全員ですね。予め監督から聞いてたから準備も出来てます!」

 

「オレもやるかな。この前雷々軒で作ってから、妙にハマっちまってさ」

 

「今立候補しなくても、後から参加という形でも構わん。では、早速始めるぞ。着替えて来い」

 

『はい!!』

 

 

 

 

 

 

 

「よし。ではまず、2人でシュートを打ってみろ。ページのことが気になるだろうが、最初はそこからだ」

 

「はい!行くぜ、染岡」

 

「おう。合わせろよ」

 

 

オレと染岡の前に、ユニフォームに着替えた響木さんがゴールで構えている。

備流田さん達からもらったページの必殺技の練習をしているところなんだが、まずはオレ達の連携を鍛える必要があった。

たしかに、守護者のことも気になるけど、土台を整えなきゃな。

 

 

『せーの!!』

 

 

イナズマ1号のフォームとは違うが、オレと染岡のツープラトンシュート自体は打つことが出来た。

 

 

「…………ふむ」

 

 

だが、響木さんに簡単に止められてしまった。

必殺技でもない、ただの2人同時に打ったシュートなんだから、予想はしてたけど……。

 

 

「威力はまだまだだが、息は合っているな」

 

「………まあ、サッカー部が始まった頃からの付き合いですからね」

 

「ただ威力が足りねえな。もうちょっと工夫が必要そうだぜ」

 

「工夫……か。色々試してみるか」

 

 

他にも走りながらとか、オレが蹴ったボールを染岡が蹴ったりとか、色々試してみたが、どれも大した成果にはならなかった。

 

 

「………他の連携シュートとなると、炎の風見鶏やツインブースト、イナズマ落としになるけど、参考になるかな…」

 

「オレと豪炎寺のドラゴントルネードもあるけどよ。ただ、2人で同時に打つのなんて、炎の風見鶏ぐらいだろ?方向性違う気するんだよな」

 

「……いや。一応あるぞ。3人ではあるが、元々2人でやる連携シュートが」

 

「3人だけど、2人……?」

 

「………あっ、イナズマ1号落とし」

 

「………ああ。高さを加えたイナズマ1号だもんな。たしかに、上から落とせば威力も上がる……。なあ、半田」

 

「……それだ。染岡。試してみようぜ」

 

 

その後も、オレと染岡が飛び上がり、空中からボールを撃ち落とす形のツープラトンシュートの練習を続けた。

一応、威力は上がりつつあるけど、まだまだ足りない。

威力……と言うより、高さな気もするけど。

 

 

「………さて。そろそろ夕飯の時間だ。お前達は備流田達と合流するんだろう?着替えに行って来い」

 

「あっ、もうそんな時間か。行こうぜ、染岡」

 

「おう。んじゃあ、半田の手並み見せてもらうか」

 

「そんな大したもんじゃないっての」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

「…………………」

 

 

…………なんか、マネージャー達からの視線が痛い。

穴が開くほど見られるって、こういうことなんだなって、身を持って体感してるんだけど。

 

 

「………えっと、どうした?そんなにジッと見られることしてるか?」

 

「………いえ、そういうことじゃないんですけど……」

 

「………半田くん。包丁さばき、上手なんだね」

 

「上手って言うか、普通ぐらいじゃないか?」

 

「………たしかに、私が言うのもなんだけど、普通ぐらいってのは分かるのだけど…」

 

「………女子として、敗北感が……」

 

「……………」

 

 

いや、本当に普通ぐらいだって。

普通に自炊をしてる社会人ぐらいの腕前でしかないぞ。

そんなに敗北感とか抱かれるもんじゃないだろ。

 

 

「いや、素人から見たら普通に上手いだろ。半田って普段から料理とかしてるのか?」

 

「普段からはしてないぞ。母さんにレシピ聞いたりとか、手伝うことはたまにあるけどさ」

 

「レシピ聞くって、珍しいな」

 

「そうか?仮にオレ達が大人になって自炊するとして、そういう時ってやっぱり馴染みのある味のがいいだろ?親の作る好きな料理とかって、なかなか食べれなくなるんだから」

 

「………お、おう。たしかに、言われてみりゃそうだな」

 

「なんだか、実感がこもった言葉だね……」

 

「……………」

 

「そういう意味じゃ、中学卒業したりしたら、大谷の作る漬け物も食べれなくなるな。ちょっと寂しいな、それ」

 

「えっ……」

 

「………いやいやいや!でも半田さん!レシピは教えられませんからね!!」

 

「えっ。なんで音無が言うんだよ?たしかになかなか教えられるものじゃないってのは分かるけど」

 

「ですよね大谷さん!?あれって作るの相当難しいですよね!!」

 

「いや……。あれって他の漬け物と変わらな……」

 

「む ず か し い で す よ ね !」

 

「…………う、うん」

 

「えっ、なにあれ染岡。なんか音無が怖いんだけど」

 

「あー…………。オレに言われても困るだけだから、聞いてねぇことにする」

 

「私に言われても困るからね。半田くん」

 

「一応、私もよ」

 

「オレも困ってるんだけど?」

 

 

そんなことは言ってる間に、各自練習を終えた皆んながやって来た。

とくに円堂がボロボロになってたけど、ほんの少し、マジン・ザ・ハンドを掴めた気がしたらしい。

円堂もがんばってるんだ。オレもがんばらないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は勝利しか望まない。だが泥まみれの勝利など、敗北も同然。完全なる勝利。圧倒的な勝利を欲している。その勝利をもたらすものだけが、神のアクアを口にするがいい」

 

 

試合が近づくこの時間。

総帥はその言葉を述べ、我々に神のアクアをもたらせてくれるのだ。

この神のアクアがある限り、我々は総帥に報いることが出来る。

無名でしかなかった世宇子中に、圧倒的な神の力を授けてくれた、総帥に。

だが最近、ふと思う。

いつも総帥は、同じ言葉を発する。

勝利しか望まない。泥まみれの勝利など望まない。完全、圧倒的な勝利のみを欲する。

勝利を望むのは、感じる。

敗北を求めて戦う人など、いるはずはない。

しかし、勝利しか望まないと言う割に、敗北のことを忌み嫌うようなものは感じないのだ。

私の他に神のアクアを飲み干した者たちは、それを感じることはない。

ただ、自分が抱いた力に歓喜し、頂点に登り詰めることしか考えていない。

私もその1人ではあるのだが、どうにも気になってしまう。

………総帥。貴方は一体、何を隠している?

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ全国の中学サッカーファンの皆様!遂に、遂にこの日がやって参りました!!フットボールフロンティア全国大会決勝戦!!ここ世宇子スタジアムにて、戦いの火蓋が切られようとしております!!』




はい。次回からいよいよ世宇子戦のお話になります。
長かった。主に更新頻度のせいですけどここまで長かったです。
最初にちょっと小話を挟んでから、試合パートになります。
年内中には無印編を終わらせられるよう、がんばリーヨ。


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神々の聖戦①

アニメ版もゲーム版もどっちのBGMも好き。

ちなみになんですが、今まで半田さんが前回の記憶と違うな〜ってなってたとこありましたけど、現状1つ見逃してますし、何ならそれが結構デッカいことです。



すみません。スランプのドツボにハマってました(40敗目
あけましておめでとうございます(2月


オレ達は既に、世宇子スタジアムの控え室にいる。

あの合宿からそこまで日は経ってないけど、ずいぶんと長い間練習していた気がする。

前回のオレ達は、世宇子に勝てた。

マネージャー達が神のアクアをすり替えてくれたことが大きかった。

それは木戸川戦までも同じだった。前回勝てて、今回も勝てた。

だけど、この試合もそうかは、分からない。

勝つ気で挑むが、勝てるかは分からない。

 

 

「それでも、オレ達は勝つ」

 

「……顔に出てたか?」

 

「いや、半田だけじゃない。考えてることは、みんな一緒だ」

 

「………だよな」

 

 

そう考えていたオレに、豪炎寺や鬼道が話しかけて来る。

ああ。豪炎寺の言う通りだ。それでも、オレ達が勝つ。

絶対なんてことはないけど、"今のオレ達ならいける"とまで思えてしまう。

 

 

「………勝つぞ。みんな」

 

「ああ。絶対に勝って、日本一になるぞ」

 

『おお!!』

 

 

円堂とオレが言い合ってる間に、みんなが手を合わせる。

掛け声と共に手を挙げるアレだ。気持ちを上げるには、丁度いいんだ。

そうだ。保証なんてなくても、押し通すしかない。

絶対に、勝つ。

 

 

「よし。行くぞ、みんな」

 

『はい!!』

 

 

準備は済んだ。

決勝の舞台、世宇子スタジアムのコートへ向かうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!とうとうこの日がやってまいりました!フットボールフロンティア全国大会、決勝戦が始まろうとしています!!』

 

「スタンディングメンバーは、昨日言った通りだ。豪炎寺と染岡のツートップに、中盤はマックス、一ノ瀬、鬼道と半田。土門、影野、壁山、風丸のディフェンス。キーパーは円堂。さあ、行って来い」

 

「…………」

 

「……半田。絶対に勝って、冬海先生に知らせに行こうぜ」

 

「………だな。風丸」

 

 

昨日、決勝前最後の面会に行った。

だけど、冬海はまだ目を覚まさなかった。

脈も安定していて、本当にいつ目を覚ましてもおかしくはない状況から、全く変わっていなかった。

………だったら、オレ達が勝つまでに目を覚ませよ。冬海。

 

 

「やはり逃げ出したりはしなかったか。雷門イレブン」

 

「……何の用だ?アフロディ」

 

 

ベンチからグラウンドに向かおうとするところに、アフロディが話しかけて来た。

用という用は無いんだろうけど、返事ぐらいはしてやらないとな。

 

 

「対戦前の挨拶のつもりか」

 

「対戦…?神と人間の間で、対戦になるはずが無いだろう」

 

「テメェ…!」

 

「流石にそれは嘘だな。この前決勝戦が楽しみとか言ってたし。で、本当に何の用だよ。神ってのは用も無しにちょっかい出しに来るのかよ」

 

「………ふふっ。神に対してその口とは、面白い。試合が楽しみだ」

 

 

そう言って、アフロディは自陣の方へと歩いて行った。

…………いや。本当に何の用だったんだよ。謎すぎるだろ。

 

 

「なんなんだよ。アイツは…!」

 

「気にしてても仕方ないって。態度は気になるし、慢心が見れるけど、それに伴う実力持ってるんだ。ペース呑まれてちゃ何も出来ないぞ」

 

「…………悪い、半田」

 

「オレも気持ちは分かるからな。さっさとポジション就こうぜ」

 

 

オレと染岡以外は、既にポジションに就いていた。

こちらのフォーメーションはいつも通りだが、世宇子のフォーメーションは千羽山と似たワントップのフォーメーション。

千羽山と違うのは、守備に特化したものではなく、攻守の切り替えがしやすいものだということ。

それに、フォワードがデメテルだけにしか見えなくても、油断は出来ない。

 

 

「………アフロディだけじゃない。他の選手も、強力なシュートを打ってくる」

 

「シュート技だけじゃなく、ドリブルやディフェンス、キーパー技も、今までとは比べ物にならなそうだな………」

 

「……だが、やるしかない」

 

 

鬼道と豪炎寺の言う通り、アイツらがいくら強力な必殺技を持っていようと、オレ達はやるしかないんだ。

世界一になると、あの部室で約束したのだから、こんなところで躓いてはいられない。

………冬海にも、そう言われたからな。

 

 

「どうやっても埋められない差というものを教えてあげよう。雷門イレブン」

 

「………勝つぞ!みんな!!」

 

『おおっ!!』

 

 

円堂の声を背に、こちらのキックオフから試合が始まる。

豪炎寺がこちらにボールを回し、受け取ったマックスがドリブルで進んでいくが……。

 

 

「……なに?やる気あるの?」

 

「一歩も動かないって、ふざけてんのか!?」

 

 

染岡の言った通り、世宇子のヤツらは誰1人動き出すことはなかった。

中盤のアフロディたちはもちろん、ディフェンスもだ。

コイツら、完全にオレ達を馬鹿にしてやがるな……。

 

 

「だったら…、やってやりなよ。染岡!」

 

「おう!行くぞ豪炎寺!」

 

 

マックスからボールを受け取った染岡は、豪炎寺と共にゴールへ進む。

 

 

「ドラゴン!」

「トルネード!!」

 

 

2人の連携シュート、ドラゴントルネードが炸裂。

世宇子のキーパー、ポセイドンに向かって突き進むが……。

 

 

「………ふん」

 

 

片手で止められてしまう。

力を溜めるワケでもなく、キャッチボールをしているかのように、簡単に防いでいた。

 

 

「チッ……。アフロディがあんなだったから、ある程度は予想してたけどよ…」

 

「2人とも戻れ!すぐに攻めて……」

 

 

カウンターを警戒したオレだったが、そうはならなかった。

ドラゴントルネードを止めたポセイドンが、豪炎寺へわざとボールを投げ、もう一度シュートを打って来いと挑発までして来た。

 

 

「くっ……!」

 

「打ってこいと言うのなら、望み通りにしてやる」

 

「やろう、豪炎寺!」

 

 

鬼道がボールを持ち、その前に豪炎寺と一ノ瀬が立つ。

あれから鬼道の主導で練習して、2人も身に付けた技だ。

 

 

「皇帝ペンギン!」

『2号!!』

 

 

鬼道達がゴッドハンドを破るために開発した必殺技、皇帝ペンギン2号がポセイドンへと迫る。

帝国の技とは言え、現状の雷門から見てもトップクラスの威力になるシュートだが……。

 

 

「つなみウォール!!」

 

 

ポセイドンが両手で地面を叩くと、ポセイドンの前に巨大な波が広がる。

皇帝ペンギン2号がそこへ刺さるも、すぐに弾かれてしまう。

 

 

「皇帝ペンギン2号もダメか……」

 

「となると、イナズマブレイクかその辺りじゃないと…」

 

「だが、今の弾かれ方を見るに…」

 

 

豪炎寺たちが分析するも、弾かれたボールはオレが受け取る。

オレが持ってても仕方ない。

せめて、染岡たちに渡さないと……。

 

 

「………半田真一くん」

 

「………なんだよ」

 

 

後ろの方から、アフロディの声が聞こえる。

この状況で、なんでオレに声なんか掛かるんだよ。

 

 

「キミもシュートを打つと良い。ゴールを奪えるかもしれないよ」

 

「………なんでだよ。染岡や豪炎寺、鬼道達でダメだったんだぞ。オレに出来るワケがあるかよ」

 

「おや。やってみなければ分からない、じゃなかったのかい?」

 

「…………」

 

「……やってやれよ、半田。あの鼻、へし折ってやれ」

 

「…………ああ。フリーズショット!!」

 

 

そう染岡が声をかけてくれるも、結果は見えている。

フリーズショットが、ポセイドンへと迫るが……。

 

 

「…………ふん」

 

 

簡単に、弾かれる。

ドラゴントルネードを止めた時よりも、力を抜いてるように見えるパンチングで、オレのフリーズショットは止められた。

…………分かっては、いた。

ドラゴントルネードや、皇帝ペンギン2号が止められたんだ。

オレのシュートなんかが、通用するはずはなかった。

だけど、悔しいことに変わりはなかった。

 

 

「……やはり。これが人の限界なのさ。既にポセイドンが見せたが、これから、本当の神の力を見せてあげよう」

 

 

ボールを受け取ったアフロディが、動き出す。

ここからが、地獄の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生!608病室の患者さんが、目を覚ましました!」

 

「おお!そうか!では向かわなければ……」

 

「あっ、その前に先生。その患者さんが、頼み事があるらしくて…」

 

「ん、頼み事?なんだ、それは」

 

「はい。どうやら、雷門中の校長に……」




やってみなければ分からない〜って言ってたアフロディの顔、別に表情は変わってないのにムカつく顔してたで伝わると思います。


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神々の聖戦②

そういや無印は攻略本かなんかの懸賞限定でゴッドノウズとつなみウォールの秘伝書が配られてましたね。
もちろん作者は外れました。


試合が始まって数十分が経った。

今の状況は……。

 

 

「ゴッドノウズ!!」

 

「ゴッド……ハンド…………!!!」

 

 

白い羽根を背中に宿し、そこから発生されたエネルギーをボールに注ぎ込んだシュート、ゴッドノウズ。

現時点のアフロディ最大の必殺技が打たれ、円堂がゴッドハンドを発動、激突する。

 

 

「ぐっ……くそ……!」

 

「止め……ないと………!」

 

 

後ろには、オレと染岡が円堂を支えている。

帝国戦や木戸川戦でやった、ゴッドハンドにトリプルディフェンスを足したもので抵抗するも……。

 

 

「3人集まろうが、無駄さ」

 

『うわあああああ!!!』

 

 

ゴッドノウズを止めることは出来ず、得点を許してしまった。

 

 

『ゴォォォオオル!!世宇子中、これで4点目!!恐るべし力だ!!』

 

 

いま角馬の父さんが言ったように、今ので4点目。

1点目は、今と同じようにゴッドノウズ。

2点目は、デメテルの打ったリフレクトバスター。

3点目は、ボールを奪ってすぐに打たれた、ヘラのディバインアロー。

どれもこれも、今までの比較にならない程の威力を持っていたが、やはりゴッドノウズは違った。

直近の木戸川清州の武方三兄弟のシュート、トライアングルZの比ではなかった。

 

 

「くそ…!オレと半田が来ても、ダメかよ……!!」

 

「……ディバインアローまでなら、これで行けるとは思うけど、ゴッドノウズを抜きにしても、リフレクトバスターまであるか……」

 

「…………だけど、これ以上の失点はさせない…!絶対に止めてみせる……!!」

 

 

円堂がそう言い、気合を入れ直している。

現在のスコアは0-4。

今オレが言った通り、ヘラのディバインアローならオレたちのゴッドハンドとトリプルディフェンス…。長いからゴッドハンドディフェンスとかでもさせてもらうけど、それでいけるとは思う。

だが、それを止めても、デメテルのリフレクトバスターを止められないし、何よりアフロディのゴッドノウズを止められなきゃ、失点は免れない。

………失点を防いでも、得点を奪わなければ、勝てないんだけどな。

 

 

『ここで世宇子中、水分補給だ!4点を奪って尚、その余裕を崩さないぞ!!』

 

 

……あの水分補給、神のアクアをどうにか出来れば何とかなるかもしれないけど、それを当てにしたプレイは、出来ない。

それだと、あの帝国戦の時と同じになってしまう。

豪炎寺が来るから大丈夫だと思っていたオレと、変わらない。

せめて、足掻いてはみせるさ。

 

 

『世宇子中の水分補給が終わり、試合が再開されます!雷門中、これからどう立ち回るか!?』

 

「…………あの水分補給」

 

「…?大谷さん、どうしたの?」

 

「いや…。遠くでも、最初から見てたんだけど、黒服が持ってきてたし、何より水筒とかじゃなくて、変なグラスで飲んでたから……」

 

「………たしかに。意味深に思えるわね」

 

「あっ。あの黒服、中に戻って行きますよ」

 

『………………』

 

 

そんな会話が行われてるとは知らずに、オレたちは試合を再開させる。

豪炎寺からボールを受け取り、マックスや鬼道と共に上がっていくが…。

 

 

「前半も終わることだ。ディフェンスまでは行かせてあげるさ。突破出来たならば、シュートを打ってみるといい。キミ達の最大のシュートなら、行けるかもしれないよ?」

 

「………知ってて言ってんだろ。この状況で、円堂まで上げさせられるかよ」

 

「おや。流石にその手には乗らなかったか。ならば、キミ達だけで行くつもりかい?結果は変わらないはずだけどね」

 

「…………調子に乗りやがって。染岡!!」

 

 

動きを見せないアフロディを突破したオレは、染岡にパスを回す。

 

 

「せめて、シュートぐらいは…!」

 

「ポセイドンまで行かせん!メガクエイク!!」

 

「うおおおお!?」

 

 

突然染岡の前に立ちはだかったディオが高く飛び上がり、地面に亀裂が走り、地割れが起こる。

その地割れは染岡の足元まで届き、地面が隆起し、染岡は吹き飛ばされる。

 

 

「染岡!大丈夫か!?」

 

「な、なんとかな…。帝国の大野のアレを見てなきゃ、ヤバかったかもしれねえ…」

 

 

吹き飛ばされた染岡は、なんとか受け身を取っていた。

今のメガクエイクは、大野が使っていたアースクエイクの強化版と言っていいディフェンス技だ。

あの挙動で、相手が世宇子となると、警戒はしてたか……。

 

 

「ディオ」

 

「………ふん」

 

「は?」

 

 

アフロディに声をかけられたディオが、オレにボールを渡して来た。

 

 

「………どういうつもりだ」

 

「ポセイドンは突破出来なくても、ディフェンスなら突破出来るかもしれないだろう?ディオ以外のディフェンスが立ちはだかるさ」

 

「いい加減にしろよ…!お前……!」

 

「その反抗的な目は、同じ立場になってからにしてもらいたいものだね。まあ、反抗という意味なら、今の立場のほうが正しいのかな?」

 

「………くそっ!」

 

 

ジグザグスパークで突破は出来ない、と考えたまでは良かった。

だったらせめて、鬼道や一ノ瀬達と一緒に攻めた方が良かったんだろう。

でも、完全に熱くなったオレは、単独で、ムーンサルトで突破しようとしていた。

 

 

「さばきのてっつい!!」

 

「くっそ……!!」

 

 

そりゃあ、こうなる。

オレが着地しようとしたところに、アポロンがさばきのてっついを落とし、吹き飛ばされる。

 

 

「………僕に哀れみを向ける前に、今の自分の力を自覚したらどうだい」

 

「なんの……ことだよ……!!」

 

「…………無自覚だった、ということか。それはそれで、罪深いことだけどね」

 

 

アフロディが何を言ってるのか、理解出来ない。

いや、オレとアフロディでは力の差があり過ぎるというのは、分かるけど、哀れみとか、何の話だよ……。

 

 

「では、もう1点もらうとしよう。埋められない差を広げれば、流石のキミたちも諦めるだろうしね」

 

「やらせるか…!!」

 

「攻めさせはしないよ…!!」

 

「ヘブンズタイム」

 

『なっ…!?ぐわあああ!!』

 

 

こちらの陣地へ攻めようとするアフロディからボールを奪おうと、鬼道と一ノ瀬が立ちはだかるも、一瞬にしてアフロディが背後に立ち、2人が吹き飛ばされる。

ヘブンズタイム。主にアフロディが使う、世宇子のドリブル技だ。

 

 

「デメテル。キミがシュートを打つんだ」

 

「任せろ」

 

「キラースライド!!」

 

「コイルターン!!」

 

「クイックドロウ!!」

 

「無駄だ!ダッシュストーム!!」

 

『うわあああああ!!!』

 

 

土門と影野、マックスがデメテルの巻き起こした風によって吹き飛ばされる。

ダッシュストーム。これも世宇子のドリブル技で、猛烈な風と共に突き進まれ、防ぎ切ることは出来なかった。

 

 

「これで最後だ。リフレクト…」

 

「クイック…ドロウ……!!」

 

「おっと。ヘラ!」

 

 

ここで、忍び寄っていた豪炎寺がクイックドロウでデメテルに突っ込む。

ボールは奪えなかったが、リフレクトバスターを打たせず、ヘラにボールが渡った。

 

 

「……ふむ。では、ディバインアロー!!」

 

「やらせないっす…!ザ・ウォール!!」

 

「ああ…!スピニングカット!!」

 

 

何かを感じたヘラだったが、さっきと同じく、ディバインアローを放つ。

シュートコースの先に、残ったディフェンスの壁山と風丸がいる。

なんとか、ザ・ウォールとスピニングカットで威力を削ってくれた。

 

 

「5点目は…、絶対にやらせない……!ゴッドハンド…!!」

 

「間に合ったか…!」

 

「絶対に止めるぞ……!!」

 

 

そこへ、オレと染岡が間に合う。

ザ・ウォールとスピニングカット、仮称ゴッドハンドディフェンスならば、ディバインアローぐらいなら……!!

 

 

「………やはり。そこまでやれば、オレのシュートぐらいは止めてくるか」

 

『止めたぞ雷門中!!5点目の失点は回避!!そしてここで前半が終了!!0対4のスコアで、後半へ移ります!!』

 

「まあ、それぐらいはしてもらわなきゃね。後半も、精々足掻くといいさ」

 

「ぐっ……」

 

「さっきから、ムカつくことばっか言いやがって…!くそっ…!!」

 

「………爺ちゃん…」

 

 

ディバインアローが止められるのは、あちらの想定内だったようで、態度が崩れることはなかった。

神のアクアだとか、そんなの関係無しに、コイツらの驕った態度。

やっぱり、あの時のオレを見ているようで……。

 

 

「……どうしたよ、半田」

 

「あっ…。いや、とくに何かあるワケじゃなくてさ。あいつらに一泡吹かせるには、どうすりゃいいかなって」

 

「……あれ、かもな」

 

「あれ、かあ……」

 

 

あのシュート技のこと、だよな。

どうやって打つか分かんないけど、染岡の言う通り、あれが使えればいいんだろうけど……。

 

 

「……あれ、響木さん。マネージャーが誰もいませんけど、どうしたんですか?」

 

「…………むっ。確かにいないな。試合に集中してて、気付かなかったか……?」

 

「えっ、じゃあ誘拐されてたりとかじゃないっすよね……!?」

 

「いや壁山。流石にそんなことになってたら、オレ達も気付くでやんすよ」

 

 

風丸の言う通り、ベンチを見てみてもマネージャーが1人もいなかった。

このタイミングでいないってことは、そういう事なんだろうけど……。

 

 

「………大丈夫、だよな」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり……。あれはただの水分補給じゃなかったのね」

 

「これ…、言ってしまえばドーピングですよね…」

 

「そこまでして……。でも、どうすれば……」

 

「あのお水をどうにか出来ればいいんだけど…」

 

 

黒服の後を追って忍び込んだ私たちは、あのお水…、神のアクアって言うみたいだけど、それが世宇子中の桁外れな力の源と知った。

そんなものを使って、半田くんたちを……。

いや。今までの学校の想いを踏み躙ったなんて、絶対に許せない。

でも、あのお水を隠したとしても、すぐにバレるだろうし、別の新しい神のアクアを用意されるだろうし、どうすれば……。

 

 

「……あれ?つくしちゃん、水筒持ったままで来ちゃったの?」

 

「えっ…?あ、あれ…?なんで私……」

 

「ああ…。ちょうど、選手の分を用意してたところだものね。無意識でいられるかどうかは、疑問だけど」

 

「うう……」

 

 

………あれ?ということは、この水筒には……。

 

 

『………あっ!』

 

「………ん?今、声が聞こえなかったか?」

 

 

しまった…!秘策を思い付いたけど、4人同時に声を出しちゃったから、黒服に気付かれちゃった………!!

 

 

「……みんな、お願い…!」

 

「大谷先輩……!?」

 

「どうするつもりなの…!?」

 

「4人でここにいたら、絶対にバレちゃうから…!私が走れば、音が鳴る…。その間に、3人はそこの部屋に入って…!」

 

「つくしちゃん……!」

 

 

秋ちゃんに水筒を託して、私は走り出す。

3人が部屋に入ったのと同時に、曲がり角の奥の方から黒服の声と走る音も聞こえてくる。

大丈夫。ここは入り組んでるし、同じように部屋もあったから、隠れることも……!

 

 

「あっ……」

 

 

ウソ……。ここで、この人に会っちゃうなんて……。

 

 

「…………ふん」

 

「……えっ?」

 

 

その人に押され、私は部屋へと入れられた。

 

 

「そ、総帥……!?」

 

「なんだ。騒々しい」

 

「いえ、あの……。走る音が聞こえたので、侵入者を追っていまして……」

 

「そうか。ならば、ここを右に行ったはずだ。この先は角があっても、行き止まりだ。必ず確保するのだ」

 

『は、はい!!』

 

 

………な、なんで……?

 

 

「左に行けば、フィールドに戻れる」

 

「……………」

 

「それと、この事は誰にも話さない事だ。話した場合、分かるな?」

 

 

なんで……。影山が、私を助けてくれたの……?




曲がり角であのグラサンに出会す恐怖。


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神々の聖戦③

原作アニメの鬼道が雪辱を晴らす怒涛の連続ツインブーストFも好きなんですけど、展開ほぼ同じとは言え書く身となると、色んなの書きたくなります。
つまりそういうことです。はい。


「つくしちゃん!よかった、無事で…!」

 

「秋ちゃん…」

 

 

先に戻って来ていた3人から事情を聞いていたが、無事に大谷は戻って来た。

………無事でよかった。本当に。

 

 

「無茶するなよ、大谷。心配したんだからな」

 

「ご、ごめん…」

 

「でも、何ともなくてよかったよ。影山とかに見つかったら、大変だからな」

 

「えっ!?あっ、そ、そうだよ…ね……。うん……」

 

「ど、どうした…?そんなに慌てて…」

 

「いや、本当になんでもないから…。大丈夫だよ」

 

「……なら、いいんだけど」

 

 

……何か隠してる気がするんだけど、それより今は試合のこと、か。

世宇子のベンチの方を見ると、アフロディたちがグラスで用意されている水を飲んでいた。

 

 

「……むっ?」

 

 

何やら、違和感を覚えているような顔をしているアフロディたち。

ただ、それ以上は気にしないようにしたのか、フィールドへと歩いて行った。

 

 

「……………」

 

「……上手くいったようだね、秋ちゃん」

 

「うん。つくしちゃんが引き付けてくれたおかげだよ」

 

「………事情は聞いた上でだけど、無茶しやがって」

 

 

このことも、先に木野たちからみんなにも知らされている。

だから、この会話も小声で行われている。

小声の染岡とか、珍しいな。

 

 

「……爺ちゃん。オレに力を、貸してくれ……」

 

 

円堂は、大介さんの形見のグローブを付けることを決意。

オレもこうして見るのは、こっちだと初めてだからずいぶん久々だな。

 

 

「それ、大介さんが使ってたグローブなんだな」

 

「……ああ。ちょっとは、気持ちにも繋がると思ってさ」

 

「………でもなんか、大介さんが使ってたにしては、綺麗だな」

 

「えっ?」

 

「いや。大介さんが使ってたってことは、10年前どころじゃないだろ?にしては、綺麗って言うか……。あっ、違うか。左手のがボロボロで、それに比べたら右手のが綺麗に見えるだけか?」

 

 

こうして改めて見てみると、そうだな。

むしろ左手のが焦げるぐらいまでボロボロなのに、右手は普通のボロボロって感じだ。

まあ、大介さんが左利きだったから。ということなんだろうけど。

 

 

「左手……」

 

 

……円堂が、両手に付けた大介さんのグローブをじっと見つめている。

何かを掴みかけてるのか、そこまではオレには分からない。

オレも、アイツらに一矢報いたいんだけど…。

 

 

「オレ達のシュートが通用しないのは、ある程度は想像してたんだがな…」

 

「アイツら、口を開けば神々言いやがって。なにが神だよ」

 

「……まあ、実際必殺技は強いしな。つなみウォールに、他にも隠してそうだし」

 

「ポセイドン…な。そんなに神って言うなら、神を越える勢いで行くしか無ぇってことか?」

 

「そりゃあ、神を越えられたなら、アイツらにも勝てるだろうけど…。神越えるって、どうするんだよ」

 

「…………宇宙?」

 

「…………宇宙、か」

 

 

………そうだよな。世宇子に勝てないようじゃ、エイリア学園に勝てるはずがない。

アイツらに…。宇宙に届く勢いで行かなきゃな。

 

 

 

 

 

 

 

 

『さあ!遂に後半戦が始まります!世宇子中の大幅リード。雷門中、この点差を覆すことは出来るか!?』

 

「ふっ…。もし出来たとしたら、それは神を越えることに等しい。出来るものなら、ね」

 

「………神だろうと、足元の石に気付かなきゃ、そのまま転ぶぞ」

 

「……まだそんなことを言うつもりかい。決して埋められない実力の差というものを、前半で学ばなかったのかな?」

 

「前半だけで、オレたちの全てを知った気でいるのか」

 

「へぇ。言うじゃないか」

 

 

言い終わると同時に、後半開始の笛が鳴る。

世宇子ボールから始まり、デメテルが攻めてくる。

 

 

「ダッシュストーム!!」

 

『ぐっ…!』

 

 

開始と同時にデメテルはダッシュストームで豪炎寺と染岡を吹き飛ばす。

2人を簡単に突破したデメテルだったが…。

 

 

「なっ……!?」

 

「…?どうした、デメテル」

 

「力が、抜けていく…?いや、これは…!」

 

「なに…?」

 

「やっと気付いたの?クイックドロウ!」

 

「くっ…!」

 

 

自分の身に起こったことを理解しだしたデメテルは、完全に足を止めていた。

その隙を付いたマックスが、クイックドロウでボールを奪う。

 

 

「ウチのマネージャー特製のスポーツドリンク、味良かったでしょ?」

 

「やはり…!すり替えたというのか!?」

 

「インチキなことしてんじゃないよ。行くよ、鬼道たち!」

 

「ああ。頼む!」

 

「スパイラルショット!!」

 

 

マックスがスパイラルショットを打った先には、鬼道とオレ、一ノ瀬がいる。

 

 

「出来るな?半田」

 

「ああ。やってやるさ」

 

「よし。行こう!」

 

 

鬼道が口笛を鳴らすと同時に、オレと一ノ瀬が走り出す。

オレも、練習はしていたからな。

 

 

「皇帝ペンギン!」

 

『2号!!』

 

 

まさか、オレがこれに混ざる日が来るとは思ってなかったけどさ。

オレと一ノ瀬が打った皇帝ペンギン2号は突き進み、先で控えていた染岡たちへ届く。

 

 

「最後のおまけだ!ドラゴン!」

 

「トルネード!!」

 

 

スパイラルショット、皇帝ペンギン2号、ドラゴントルネードを加えたシュートが、ポセイドンが護るゴールへと一直線。

 

 

「さばきのてっつい!!」

 

 

だが、そこへアレスが割り込み、さばきのてっついで威力を削られる。

アレスの他にも、アポロンも使えたはずなのに、割り込まなかったな…。

 

 

「うおおおおお!ギガントウォール!!」

 

 

その間に、ポセイドンは巨大化。

巨体から放たれる拳でボールを抑え込み、オレたちのシュートは止められた。

 

 

「これでも、ダメか…」

 

「だが、手札は切らせることは出来た」

 

「えっ。どういうことだ?」

 

「今のシュートブロック。今までだったら、アポロンたちも加わって、ディフェンスだけでほぼ完全に威力を封殺していたはずだ」

 

「ああ。アフロディも、慢心はしてても、油断はしてないもんね」

 

「だがそれをせずに、ポセイドンに必殺技まで使わせることになった」

 

「…ああ。神のアクアの供給がなくなって、スタミナも無尽蔵じゃなくなったからってことか」

 

「おそらくそういうことだ。世宇子の必殺技はどれも強力だが、その分必要な力も大きいはずだ。そこを突くことが出来れば…」

 

「……ってことは、時間とオレたちの体力次第…か」

 

「じゃあ、今みたいに連続シュートより、1発1発の威力を優先した方がいいね」

 

 

………一ノ瀬の言う通り、だな。

ギガントウォールと、つなみウォール。

どれも強力なキーパー技ではあるけれど、神のアクアを絶った今では、無限の壁よりちょっと強い技ぐらいのものになったはずだ。

そこに、さばきのてっついのブロックを加味したとしても……。

 

 

「…円堂にも、出てもらわなきゃならないかもしれないね」

 

「………ああ。だが、今は自分のことに集中してもらいたい。何かを掴みかけているはずだ」

 

「みたい……だな」

 

 

ザ・フェニックスや、イナズマブレイクの出番もあるはずだけど、それよりもキーパーのことへ意識を向けてもらうってことだな。

さっき、後半が始まる前に何か引っ掛かってたようだし、そこから繋がれば……。

 

 

「作戦会議は終わりかい?それを通せるとは限らないけどね。アテナ」

 

「行かせてもらう。ダッシュ…」

 

「行くぞ、一ノ瀬!」

 

「ああ!」

 

『スピニングカット!!』

 

「なに!?」

 

 

ダッシュストームを使われる前に、鬼道と一ノ瀬、2人がかりのスピニングカットでアテナからボールを奪う。

 

 

「鬼道!」

 

「突破はさせん!メガクエイク!!」

 

「ぐっ……!」

 

 

一ノ瀬からボールを受け取った鬼道に、ディオが立ち塞がる。

染岡の時のように、メガクエイクで鬼道を吹き飛ばすが…。

 

 

「まだ…だ……!豪炎寺!!」

 

「なにっ!?」

 

 

アースクエイクは、その場の衝撃で相手を転ばせる技だったため、発動して、相手をダウンさせてしまえば、すぐにボールを奪うことが出来た。

一方メガクエイクは、地割れを引き起こし、相手を吹き飛ばす技。

一見こちらのが強力に見える。実際、ほとんどの場合はこちらのが強力という認識でいいはずだ。

だがメガクエイクの場合、ボールごと相手を吹き飛ばすため、すぐにボールを奪うことは出来ない。

それに、メガクエイクを喰らっただけでは、ボールを奪われた内には入らない。

それが鬼道の狙いだった。鬼道は浮かされたボールを、ヘディングで弾く。

そのコースの先にいたのは……。

 

 

「ファイアトルネード!!」

 

 

既に炎を左足に纏った豪炎寺だった。

ファイアトルネードが突き進むも、方向はゴールではなく、ほとんど真下だった。

 

 

「ツイン…ブースト!!」

 

 

そこへ、体制を立て直した鬼道が追い付く。

ツインブーストの中継役を、ファイアトルネードに変えた技。

ツインブーストF……だっけな。

 

 

「くっ…!つなみウォール!!」

 

 

この展開は、予想していなかったのだろう。

ディフェンスは誰も反応出来ず、ポセイドンが単体でシュートを防ごうとする。

だが、その炎の勢いが止まることはなかった。

 

 

「な、なんだ……!?この力は…!う、うおおおおお!!」

 

「………なんだと?」

 

『ゴ、ゴォォォオオル!!雷門、ついに1点を獲得!!』

 

 

波の壁を突破し、それでも尚抑えつけようとしたポセイドンを吹き飛ばしたボールは、そのままゴールへ。

その声がした方向を向いてみると、ほんの少し、目を見開いたアフロディが見えた。

 

 

「助かった、豪炎寺」

 

「ふっ…。鬼道も、よくあそこから持ち込んでくれたものだ」

 

「この1点はデカい。この勢い、乗ってこうぜ」

 

「……ああ」

 

 

世宇子ボールで、試合は再開される。

後半開始時の光景と変わらないが、世宇子イレブンの顔に、動揺の色が見え始めた。

 

 

「……デメテル。そこからでもいい。シュートを打つんだ」

 

「あ、ああ…!リフレクトバスター!!」

 

 

アフロディの指示に従ったデメテルが、オレたちの陣地とはいえ、ほぼ中央の位置からリフレクトバスターを打ってくる。

どういう意図かは知らないけど、これなら…。

 

 

「半田!染岡!2人が戻る必要はない!」

 

「ああ!この状況なら、流石に…!」

 

 

だろう、な。

ポジションからそこまで動いてない状況なら、シュートブロックもしやすいし、なにより…。

 

 

『スピニングカット!!』

 

「ザ・ウォール!!」

 

「円堂!今度はオレたちが…!」

 

「………オレも、円堂を支える……!」

 

「サンキュー!土門、影野!ゴッドハンド!!」

 

 

鬼道、一ノ瀬、風丸のスピニングカット。

壁山のザ・ウォール。

ここまで削れば、経験がなかった土門と影野でも、トリプルディフェンスが機能する。

今回のリフレクトバスターは、あっさりと止めることが出来た。

 

 

「今度はこっちの番だ!豪炎寺!!」

 

「………っ!」

 

 

円堂が蹴ったボールは、豪炎寺へと渡る。

だが、ボールを受け取ったが、すぐに足を止めることになった。

 

 

「シュートを止められても、キミを封じればいい。フォワードの動きを止めるのは、初歩的な戦術だろう?」

 

「くっ……」

 

 

豪炎寺の周りを、アルテミスにヘパイス、アポロンなど、複数の守備が囲っていた。

その少し後ろでは、アレスも備えている。

囲った守備と、さばきのてっついが控えている状況。

豪炎寺のドリブル技、ヒートタックルでは突破出来ない。

と、思っているんだろうな。だったら……!!

 

 

「豪炎寺!!」

 

「半田……!?」

 

 

オレが豪炎寺に声をかけた時、オレはサイクロンを右足に宿し、すぐにでも使える準備を整えていた。

流石の豪炎寺も、これには動揺していたが……。

 

 

「オレとお前で、まとめて吹き飛ばせば…!」

 

「……っ!そうか!頼む、半田!!」

 

「ああ!サイクロン!!」

 

 

オレの意図を、豪炎寺は察してくれたようだ。

返事を聞いたオレは、すぐにサイクロンを豪炎寺に向かって設置した。

 

 

「なんのつもりだい?ヤケにでも…」

 

「やれ!豪炎寺!!」

 

「ああ!はあああああ……!」

 

『うわあああああ!!』

 

「な、なんだって…!?」

 

 

突然のオレの行動に、嘲笑うかのような表情をしていたアフロディは、すぐにその表情を変えることになった。

オレが設置したサイクロンの中で、豪炎寺はいつものように、ファイアトルネードの準備をした。

この時、飛び上がる時前から少しだけ、既に左足に炎を宿す。

そしてサイクロンで吹き飛ばせると同時に、飛び上がる。

すると、普段のサイクロンとは色がガラッと変わると同時に、その勢いは強くなる。

サイクロンとファイアトルネードの合体、炎の竜巻で守備を吹き飛ばす技が生まれたというワケだ。

 

 

「くっ…!だが、ファイアトルネードだけでは、ポセイドンは…」

 

「なんで豪炎寺だけになるの?」

 

「なに……!?」

 

 

炎を左足に纏って飛び上がる豪炎寺の所へ、ファイアトルネードとは逆に回転しながら青い炎を宿したマックスが合流する。

アイツ、本当にあれをモノにしてたなんてな……。

 

 

「マックス…。お前……!」

 

「豪炎寺は普段通りやってくれればいいよ。僕が勝手に合わせるから」

 

「……分かった。行くぞ!マックス!!」

 

「オッケー…!!」

 

 

豪炎寺のファイアトルネードと、マックスのバックトルネード。

2つのトルネードが同時に叩き込まれたシュート。

ダブルトルネードが、ゴールへと突き進んだ。

 

 

「くっ……!つなみウォール……!!」

 

 

同じファイアトルネードの派生技に、2度も破られるワケにはいかないという意地があったのか、ポセイドンは再びつなみウォールを発動。

波の壁が、炎を消そうとする光景も、2度目だ。

 

 

「……そういうプライドって、神ってより人間のモノなんじゃない?」

 

「ぐ、ぐおおおおお!!!」

 

 

そして、それが破られるのも、2度目だ。

 

 

『ゴォォォオオオオル!!雷門、怒涛の攻撃で2点目だ!!点差を2までに縮めたぞおおお!!』

 

「……なんだ、これは。何が起こっている……!!」

 

 

……アフロディの余裕も、崩れ始めたな。




やりたかったことその①
ダブルトルネード


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神々の聖戦④

ところでここのポセイドンって逃げるんですかね(作者感


「僕たちは…神の力を得たはずだ…!神のアクアが無くなっても、得た力が無くなったりは……!!」

 

 

アフロディの余裕が崩れ始めて来たまま、試合は再開される。

ボールを受け取ったアテナが攻めてくるが…。

 

 

「ダッシュストーム…!!」

 

『ぐわあっ!!』

 

「オレたちの必殺技が、破られるはずがない!」

 

「クイックドロウ!」

 

「そう何度もやらせは…!」

 

「ブレードアタック!!」

 

「なにっ…!?」

 

「半田!!」

 

 

染岡たちを突破したアテナは、マックスのクイックドロウまでは効かなかったが、その後に続いた土門のブレードアタックによって防がれた。

アフロディだけじゃなく、他の選手の余裕も無くなってきたな。

いや、というより……。

 

 

「……今まで、その力を振り回して来て、優越感を得ていた。たしかに、強くはなったんだろうけど…」

 

「なにを…!」

 

「お前たちの事情は、よく知らない。だけど、そんな力に頼ってばっかりな今のお前たちには、負けられない…!!」

 

 

立ち塞がったアフロディを、そのまま突破する。

ああ、そうだ。この先のお前に負けるならまだしも、今のお前にだけは、絶対に負けられない…!!

 

 

「鬼道!!」

 

「円堂!お前も上がれ!この勢いを逃すワケには…!」

 

「ああ!分かった!!」

 

「行くぞ!円堂!鬼道!」

 

 

オレからのパスを受け取った鬼道は、円堂に声をかける。

円堂がやって来る間に、鬼道は上空へボールを蹴る。

そこへやって来た豪炎寺と、円堂も合流して、3人は飛ぶ。

 

 

『イナズマブレイク!!』

 

「こ、これ以上はやらせん……!!ギガントウォール!!」

 

 

現状の雷門イレブン、単体最大威力を誇るシュート、イナズマブレイクと、ポセイドンのギガントウォール。

激しいイナズマを纏ったシュートと、巨大化したポセイドンの拳が、激突する。

 

 

「ぬ、ぬおおおおお……!さ、さっきからなんなんだ!?お前たちの、この力は……!!」

 

「今のお前には分かるまい!神となったと驕った、お前には!!」

 

「オレたちの、諦めなかった想いから生まれたものだ!」

 

「う、うおおおおおお!?」

 

 

巨大化したポセイドンをも、打ち破った。

V2とまではいかないだろうけど、千羽山の時よりも、威力が上がったイナズマブレイク。

マジン・ザ・ハンドに集中していた円堂だけど、少しでも慣れようと、練習していたからな。

 

 

『雷門怒涛の勢いで、点差が1点まで追い付いたぞ!!このまま逆転なるか!?』

 

「逆転など…させるものか……!!」

 

 

余裕が崩れると言うより、焦りが見え始めたアフロディ。

パスを繰り返し攻め込まれ、ボールはアルテミスに渡る。

 

 

「いくら奪いに来ようと、突破さえしてしまえば…!ヘブンズ…」

 

「それをさせる前に、動きを止めればいいんだろ!?」

 

「なっ…!?」

 

 

そこに、土門と風丸、影野が現れ、アルテミスを囲む。

3人はアルテミスの周りを走り出し、竜巻を作り出す。

 

 

「西垣…。お前の技、使わせてもらうぞ…!!」

 

『ハリケーンアロー!!』

 

「ぐうっ!?」

 

 

木戸川清修のディフェンス技、ハリケーンアロー。

土門が主軸となって、身に付けた技だ。

 

 

「風丸、頼む!」

 

「ああ!」

 

「さばきのてっつい!」

 

「喰らうものか!ぶんしんフェイント!!」

 

「なっ…!どれが……!!」

 

 

さばきのてっついを落とそうとしたアポロンだったが、風丸のぶんしんフェイントによって、翻弄される。

みんなも、この時のために新しい必殺技を身につけていたんだ。

 

 

「半田!!」

 

「やらせはしない…!」

 

「アフロディ……!」

 

 

風丸からのパスを受け取ったオレに、アフロディが立ち塞がる。

 

 

「その程度の技より、僕たちの力が劣るだなんて…!」

 

「お前の力じゃないだろ…!!」

 

「なんだと…!?」

 

「今のお前の力は、神のアクアで付けた力だ!」

 

「力に、本物も偽物もあるとでも言うつもりか!」

 

「さっきも言ったけど、お前たちの事情なんてオレは知らない!だけど、お前たちだって、最初からそうだったワケじゃないだろ!!」

 

「何が言いたい…!!」

 

「お前たちだって、最初は地道に頑張って、みんなで頑張って、上を目指していたはずだ!0から必殺技は生まれない。神に関係する必殺技ばかりなのは、そういう想いがあったからなんじゃないのか!?」

 

「知ったようなことを……!いったいキミに、僕たちの何が分かると言うんだ!!」

 

 

そう言い合ってる間にも、オレとアフロディの攻防は続いていたが、今のアフロディの言葉が引き金となり、タックルのぶつかり合いとなった。

 

「……っ!知らないって言っただろ!でも、少なくともこれは言える!今オレが言ったことを、お前は否定しなかったな!だったらお前は、その時の自分に言えるのかよ!与えられた力で自分は強くなったって、胸を張って言えるのかよ!今のお前は、自分が積み上げたものじゃ、ここへは辿り着けないって言ってるようなものじゃないのか!?」

 

「なっ……!?」

 

 

オレの言葉に、アフロディの動きは鈍くなった。

過去のお前の事情なんて、オレは知らない。

それでも、オレは知ってるんだ。

少し先の未来のお前は、韓国の世界代表に選ばれるまでになるって。

その先でも、お前はサッカーに関われるって。

そんなお前が、神のアクアなんかに溺れるところを、2度も見たくは無いんだよ……!!

 

 

「これで目を覚ませ!ジグザグスパーク!!」

 

「ぐぅっ……!!」

 

「お前は神なんかじゃない!オレと同じ…。力を求め続けて、目標を見失って、迷った先の闇に溺れただけの、ただの人間だ……!!」

 

「なに……!?」

 

「半田!!」

 

「ああ、頼んだ!!」

 

 

ジグザグスパークでアフロディを止めたオレに、後ろから声をかけられる。

一ノ瀬と土門、そして円堂の3人と、その後ろには豪炎寺も走って来ている。

 

 

「半田の言う通りだ!オレたちは、今まで頑張って来たからこそ、ここにいる!」

 

「オレたちは、自分を裏切るようなことをしない!どんな逆境に立っても、最後の最後まで、全力で走り続ける!!」

 

「最後の1秒まで、ボールを追い掛けて、全力で戦う!」

 

『それがオレたちの……!!』

 

「サッカーだ!!」

 

 

3人が呼び出したザ・フェニックスを、豪炎寺のファイアトルネードでエネルギーが叩き込まれたシュートが、ポセイドンに向かって突き進む。

 

 

「う、うおおおおおお!!」

 

 

つなみウォールも、ギガントウォールも使う余裕が無かったのか、自分の手だけで立ち向かったポセイドンだったが、すぐに吹き飛ばされた。

……逃げはしなかった、か。

 

 

『ゴォォォオオル!!雷門、ついに同点!あの大きな差を埋めて、追い付いたぞおおおお!!』

 

「…………………」

 

「アフロディ…」

 

 

今までと違い、色んな感情が混ざったような顔をしたアフロディが、ポジションへと戻って行く。

余裕が無くなったのは分かったけど、あの感じだと……。

 

 

「まさか、あの差を埋めて来るなんて……」

 

「オレたちの力は、神の力は……」

 

 

……それより、他のメンバーがだいぶ来てるみたいだな。

ポジションには戻っているが、その表情は死んだも同然だった。

だが、そんな状態でも、試合再開の笛は鳴らされる。

 

 

「………まだだ」

 

「えっ……?」

 

「まだ試合は終わっていない…。同点に追い付かれたなら、もう1点取るだけだ……!!」

 

「ヘブンズタイムなら、もう対策してるぞ!!」

 

 

ドリブルで攻め込んで来たアフロディを、再び土門たちが囲む。

いつでもハリケーンアローを使えるが……。

 

 

「ならば、それよりも前に…!」

 

「なっ……!?」

 

 

3人が走り出す前に、アフロディはボールを蹴り上げ、それを追う。

また打って来るか……!

 

 

「今度は、壁山くんしか障害はない!これを止められるものか!ゴッドノウズ!!」

 

「少しでも…!ザ・ウォール!!」

 

 

最後のディフェンスの壁山が、少しでもゴッドノウズの威力を封じてくれた。

その間に、オレと染岡が…!

 

 

「今度こそ、止めてみせる…!ゴッドハンド!!」

 

『うおおおおおお!!』

 

 

なんとか、円堂を支えるまでは間に合った。

だが、それでもゴッドノウズの力は絶大だ……!!

 

 

「ぐ、ぐぐぐ……!!」

 

「くそ…!これを止めれなきゃ……!!」

 

 

何とか、抵抗してはいるが……。

 

 

『うわああああ!!』

 

 

止めることは叶わず、ゴッドハンドは砕け、オレたちは吹き飛ばされる。

くそ…!ここまで来たってのに……!!

 

 

「ファイアトルネード……!!」

 

「なにっ……!?」

 

「ご、豪炎寺!?」

 

 

そこへ豪炎寺がやって来て、ファイアトルネードでゴッドノウズを防いでいた。

お前も、ここまで下がってきてくれたのか……!

 

 

「はああああああ…!」

 

 

何とかゴッドノウズの威力を抑え切り、蹴り上げる。

ボールはゴールの後ろへ行ったが、豪炎寺の決死の護りで、ここはどうにかなったな……。

 

 

「あ、ありがとな…。豪炎寺……」

 

「あ、ああ…。ぐっ……!」

 

「豪炎寺!?お前、今ので足を……」

 

「大したことにはなってない…。だが、オレはここまでみたいだな…」

 

 

一応、豪炎寺の足を見てみたが、たしかに大きな怪我にはなっていなかった。

でもどちらにせよ、今まで豪炎寺はたくさんのシュートに参加し続け、今ので体力を使い果たしたようだった。

 

 

「交代…だな。染岡のワントップになるけど、さっきみたいに、ザ・フェニックスにオレが混ざれば……」

 

「……いや。円堂も次の攻撃を防ぐ頃には、そこまでの余裕は無くなるだろう」

 

「……まあ、否定は出来ないけど…。でも、それ以外に……」

 

「……半田」

 

「な、なんだよ」

 

「お前がフォワードに立て」

 

「……………」

 

 

オレが、フォワード……か。

 

 

「……分かった。絶対に、決勝点を取ってくる」

 

「………任せたぞ」

 

「豪炎寺さん。あとはオレも‥!」

 

「ああ…。少林も、頼んだぞ」

 

 

豪炎寺に代わって、少林が入る。

少林のポジションはオレのところになり、オレは豪炎寺がいたところ、フォワードになった。

皇帝ペンギン2号が止められてるなら、オレたちのシュートに賭けるしかないってのは、薄々感じていたことだった。

それよりも前に、このコーナーキックを乗り越えなきゃな…。

 

 

「アフロディ…!」

 

「この距離で、防ぎ切ることなど出来るものか……!!ゴッドノウズ!!」

 

 

ヘラが蹴ったボールはアフロディへと渡り、すぐさまゴッドノウズへと移った。

アフロディの言った通り、ゴールに近いこの位置では、壁山のザ・ウォールは使えない。

防げなかったとなると、壁山が吹き飛ばされ、円堂もそれに巻き込まれる形になるからだ。

 

 

「それでも…!!」

 

「オレたちなら、行けるから…!!」

 

「ああ…!少しでも削るぞ!!」

 

『スピニングカット!!』

 

 

鬼道たちが、スピニングカットを張ってくれた。

3人はすぐに正面から離れ、巻き込まれないようにしてくれた。

あとは、オレたちだな。

 

 

「……なあ、染岡」

 

「……分かるぜ、半田」

 

「えっ…?どうしたんだよ、2人とも」

 

「大介さんのページに書かれてたゴッドハンドトリプル。あれ、本当はゴッドハンドを使えなくてもいけるってことだと思うんだ」

 

「今までは、オレたちが後からお前を支えてたけど、今は違うだろ」

 

「あっ…!そうか!今の状況なら、最初から……!じゃあ、頼んだぞ!半田!染岡!!」

 

「ああ……!行くぞ!!」

 

「おお!!」

 

 

スピニングカットの壁を突破して、ゴッドノウズが突き進んでくる。

だけど、今までのオレたちとは違う。

オレと染岡の手にも、円堂に反応するように、黄色いオーラが宿っている。

3人がゴッドハンドを使う必殺技じゃなくて、3人が共にゴッドハンドを作る必殺技…。

それが、この技の正体だったんだ……!!

 

 

「ゴッドハンド!!」

 

『トリプル!!』

 

 

円堂がゴッドハンドを掲げた後に、オレと染岡も腕を掲げる。

すると、ゴッドハンドがさらに巨大なものとなる。

 

 

『うおおおおおおお!!』

 

「3人で……神の手を作り上げるだと……!?」

 

 

……今度は、止め切ったぞ。アフロディ。

 

 

『と、とととと、止めたああああああ!!あの猛威を振るったゴッドノウズを、円堂と染岡、半田のゴッドハンドトリプルで、防ぎ切ったぞおおおおお!!』

 

「すごいですよ!ゴッドノウズを止めるだなんて!!」

 

「ふふっ。あの3人なら、どんなことだって出来ちゃうよ。ね?つくしちゃん」

 

「………うん!」

 

 

たしかに、オレたちは止め切ることができた。

あとはオレたちが、得点を奪うことが出来れば、勝てる。

 

 

「…………………」

 

 

………オレにも分かるぞ、アフロディ。

その、時計を睨み付けるその目。

お前はまだ、諦めちゃいないんだな。




逃げませんでした(作者感

やりたかったこと②と③
イナズマブレイクでポセイドンを吹っ飛ばす。
この3人のゴッドハンドトリプル。


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神々の聖戦⑤

調べたところ、このお話でちょうど50話目だそうです。
そんでこのお話でちょうど無印編、FF編が終わります。
もちろん狙ってやりました(大嘘)


オレたちがゴッドノウズを止めた後、世宇子の選手たちの動きが止まった。

 

 

「アフロディのゴッドノウズが…、止められた……!?」

 

「そんな……。あれが止められたら、オレたちは……」

 

「………なにが、神だ……。僕たちは、いったい……」

 

 

その顔に浮かべるのは、驚愕、諦め、そして絶望。

今まで、神のアクアで得た力を振るい、勝ち進んで来た。

だが、ここで躓くことになった。

神のアクアに溺れる前にも、こういうことは何度もあったはずだ。

練習を重ね、力を付けても、通用しなかった。

だから神のアクアの誘惑に負けて、力を得た。

自分たちじゃ、上は目指せないから、それに頼った。

……………オレも似たようなことがあったから、お前たちを責めたりなんかは、出来ない。

でも、お前は……。

 

 

「………まだ、だ……!!」

 

 

お前はそこから這い上がって、たしかに上へと行けたんだ。

いまも、お前だけは諦めないで、オレたちを、奪うべきゴールを見据えている。

アフロディ。やっぱお前は……。

 

 

「……そうでなくちゃ、な」

 

「へっ。アイツ、いい目するようになったじゃねぇか」

 

「ああ。今のアフロディなら、良い気持ちでぶつかれそうだ!!」

 

 

拳を合わせる円堂。笑みを浮かべる染岡。

………今更だけど、お前たちも、やっぱり変わらないんだな。

 

 

「行け!みんな!!」

 

「オレたちも行くぞ!」

 

「ああ!!」

 

 

ずっと、ここにいても何にもならない。

円堂が投げたボールは少林に渡り、オレたちもそれに続く。

 

 

「顔を上げろ!僕たちは、まだ負けていない!終わってない戦いから逃げては、神どころか、人間ですらなくなる!!」

 

「アフロディ……?」

 

「………たしかに、今の力は偽物の力だ…。分かっていたんだ…!だけど、心まで失うわけにはいかない!せめて、最後まで走り続ける!終わりの笛が鳴る、その時まで…!!」

 

「………ああ。それが、オレたちが憧れた……」

 

『サッカーだった……!!』

 

 

アフロディ以外も、絶望の顔から勝利を諦めない、人間の顔に戻った。

今までは、その圧倒的な勝利から、走り続けて試合を終えたことはなかったんだろう。

でも、今の言葉を聞いて、過去に戻って来て、オレは初めて知った。

お前たちも、大きな舞台で戦うことに憧れていた、1人のサッカー好きだったということを……。

 

 

「竜巻旋風!」

 

「ぐぅっ…!!」

 

「マックスさん!!」

 

「やらせるか……!!」

 

「………そこまで、プレイスタイル変わるもの…?」

 

 

マックスの言葉には、オレも同感だ。

ヘルメスを突破した少林のパスは、通らなかった。

今までさばきのてっついで吹き飛ばしていたアポロンが、その身軽な身体を活かして距離を詰めて、ヘディングでボールを弾いたからだ。

 

 

「こっちだ、アポロン!」

 

「デメテル!!」

 

「突破はさせないよ……!コイルター…」

 

「邪魔をするな!!」

 

「うわっ……!!」

 

 

コイルターンで囲っていた影野を、デメテルが強引に突破する。

コイルターンに足を取られず、ドリブルを維持するのは、言うほど簡単じゃない。

……たしか、デメテルって大地の女神の名前だったよな。

その粘り強さは、名前譲りってところ…かな。

 

 

「頼む!アフロディ!!」

 

「……円堂くん。次こそ点を決めさせてもらう。これが、正しい道で得た力じゃなくても、この必殺技は、昔から思い描いていたものだ……!!」

 

「やっぱり…。オレの言ったこと、的外れではなかったんだな」

 

「キミたちのイナズマで、目を覚ませたことには礼を言わせてもらう。でも、雷門イレブン………。いいや、イナズマイレブン!勝負だ!!」

 

「………半田」

 

「………ああ」

 

 

それを聞いたオレと染岡は、世宇子ゴールへと走る。

アフロディの方、円堂の方へは向かずに、ただ走る。

 

 

「なっ…、何故です2人とも!?また、ゴッドハンドトリプルじゃないと……」

 

「……いや、違うな目金。時間を見てみろ」

 

「………あっ」

 

「も、もうロスタイムに入ってるでやんす…!」

 

「だから、2人は……」

 

「………円堂を、信じている。そういうことだ」

 

「それって、あの時の豪炎寺くんのように…」

 

「カウンターで、決勝点を取る。それしか、2人には見えてない」

 

 

たしかに、ゴッドハンドトリプルなら、ゴッドノウズを止められる。

だけど、それだと間に合わない。

この少ない時間で、オレたちが取るべき行動は、戻ることじゃなくて、進むことだ。

それをアフロディも分かっていたからこそ、円堂の名前しか言わなかったんだ。

 

 

「ゴッドノウズ!!」

 

「………………」

 

 

後ろから、ゴッドノウズが放たれる音が聞こえる。

その間、円堂が何をしているかは、分からない。

だけど、オレには…。いや、オレたちには分かる。

 

 

「アイツ……!」

 

「ああ……!」

 

「胸に付いてた丸印……。左手がボロボロなグローブ……。爺ちゃんは左手でやってたけど、オレの場合は……こうすればよかったんだ…!!」

 

 

この土壇場で、ようやく見つけたんだな……!!

 

 

「これがオレの…!マジン・ザ・ハンドだああああああ!!!」

 

「………神を越えた、魔神……か」

 

 

点を奪った笛は、鳴っていない。

円堂は、マジン・ザ・ハンドをモノにして、ゴッドノウズを止め切った。

あとは、オレたちだ……!!

 

 

「頼んだぞ!!2人共おおおおお!!」

 

『おおおおおおお!!!』

 

 

円堂が守ったボールは、オレたちに届いた。

オレと染岡が並び、世宇子のゴールへと進んでいく。

 

 

「突破はさせん…!!」

 

「ポセイドンの元へは、行かせない……!!」

 

 

そこへ、ディオやヘパイスが立ち塞がる。

再びゴッドノウズを止められても、今度は絶望しなかった選手たち。

でも…こっちだって、負けられないんだ……!!

 

 

「半田!来い!!」

 

「ああ!!」

 

 

ボールを持った染岡が滑り込んでるところに、オレが飛び乗る。

それぞれ足を掴み、ボールを囲んで車のように回りながら突き進む。

 

 

『じごくぐるま!!』

 

『うおおお!!?』

 

 

2人を突破し、残るはポセイドンだけだ…!

 

 

「来い…!守護神として、今度こそ止めるぞ!」

 

「チッ…。ここまで来たが、2人でどうするか……」

 

「……いや。あれも、2人で打つシュートじゃなかったとしたら…!」

 

「……っ!ああ、そういうことかよ…!!」

 

 

あの、2人の後ろにあったゴッドハンドも、今なら分かる。

あれは、2人のシュートじゃなくて、3人でやるシュート技だってことが……!!

 

 

『円堂ォォオ!!』

 

「ああ…!!行け!染岡!半田ぁ!!」

 

 

円堂が拳に緑のエネルギーを纏わせ、地面を叩く。

オレたちの下から、薄緑色になったゴッドハンドが出てきて、オレたちを乗せて空へ。

守護者がドゴン。2人がバビューン…か。

 

 

「……へっ。マジで宇宙じゃねえか…!」

 

「神を越えるなら、宇宙……。足元へは来たんだ。宇宙も、越えてやる…!!」

 

 

薄緑色の拳が開かれると、そこは宇宙だった。

パッとなったら、同時にズバーン……。

 

 

「合わせろよ、半田!!」

 

「お前もだろ、染岡!!」

 

 

これで、決めるぞ…!!

 

 

『ザ・ギャラクシィィイイイ!!!』

 

 

2人が出した技の名前は、同じだった。

円堂に連れて来られた宇宙から叩き落とすシュート、ザ・ギャラクシー。

大気圏を突入し、放たれたシュートはポセイドンが護るゴールへと進んだ。

 

 

「ぬおおおおおおおお!!つなみウォール!!」

 

 

上空から見えたのは、巨大化しながらつなみウォールを発動させるポセイドンだった。

アイツも、全力ってことか…。

 

 

「まだだ…!ギガントウォール!!」

 

 

つなみウォールは、すぐに突破された。

だけどポセイドンは、諦めなかった。

そのまま巨大化した身体で拳を振り下ろし、ギガントウォールで防ごうとする。

 

 

「ぬ、ぬうううううう…!うおおおおおおお!!!!」

 

 

その均衡は、破られることになった。

巨大化したポセイドンは吹き飛ばされ、ボールは……。

 

 

「まだ…だ……!!」

 

 

ゴールラインを割る直前、息を切らしながら戻って来ていたアフロディが、かろうじて防いでいた。

試合が始まってすぐの、自分が得た力に酔いしれ、驕っていたアフロディは、もういない。

最後の最後まで、なんとか自分たちの勝利を引き寄せようとする、1人のサッカー選手が、ゴールを守っていた。

 

 

『いっけえええええええ!!!!』

 

「させる……かああああああ!!!!」

 

 

オレたちの心からの叫びと、アフロディの執念の唸り。

それを乗せたボールの攻防は……。

 

 

「ふっ……。これが、本当のサッカー……か」

 

 

吹き飛ばされる直前、穏やかな笑みを浮かべたアフロディ。

勝ったのは、オレたちだ。

 

 

『…………ハッ!雷門!!ついに逆転!!円堂と染岡、半田のミラクルシュートが、執念の守りを打ち破ったあああああああ!!そしてここで、試合が終了!!フットボールフロンティア全国大会!優勝は、雷門中学だあああああああ!!!』

 

 

角馬のお父さんの実況が響いている間に、試合終了の笛が鳴った。

…………また日本一に、なれたんだな……。

 

 

「やった……んだよな……?」

 

「5対4……。オレたちのが先で、後が世宇子だから……」

 

「勝ち越しで、笛が鳴った……」

 

「………くううう…!やったあああああああ!!!」

 

『やったああああああああああ!!!』

 

 

円堂の歓声を引き金に、オレたちも声を上げる。

もう、すぐに円堂のところへ集まって、胴上げの時間だ。

ザ・ギャラクシーのメンツで、お前だけ行ってないもんな。

行かせてやるよ、宇宙。

 

 

「よし!次は半田だ!!また宇宙行かせてやれ!!」

 

『おお!!』

 

「えっ、なんでオレなんだよ!?オレはいいから…」

 

「逃しませんよ。半田さん」

 

「えっ。何やってんの宍戸。離してくれると、先輩嬉しいんだけど」

 

「いやいや。離しませんよ半田さん。だって離すと逃げるでしょ半田さん。絶対に逃しませんからね半田さん」

 

「………もしかしてお前、この前の追いかけっこ根に持って」

 

「頼んだ壁山!!」

 

「任せるっす!!」

 

「るだろおおおおお!!!」

 

 

壁山に投げられ、下にはみんなが待機してて、お手玉状態なオレ。

ねえ、今のオレどうなってんの?大丈夫?ちゃんと地上帰って来れる?

 

 

「………よかったね、半田くん。みんな。あの部室前、テニスコートの端から始まったのが、日本一になったんだよ」

 

「つくしちゃん。その時から見てたって言ってたもんね。私もそこから始まったから、すっごく嬉しいや」

 

「いやぁ、あの胴上げは全員分撮りたいですね!キャプテンや半田さんの分は撮れましたし、他のみんなもどんどん飛んでって欲しいです!!」

 

「飛んでって…。まあ、写真ならいっぱい撮っておきなさい。永久保存となるでしょうからね」

 

「………大介さん、やりましたよ。あなたの孫と、その仲間たちがこうして、イナズマイレブンの伝説を継いでくれました」

 

 

…………あの、余韻に浸るのは、オレもよく分かる。

分かるんだけど、そろそろオレのこれ、誰か止めてくれると嬉しいなって思います。

でないとそろそろ、ホントにオレ重力というモノを認識できなくなりそうなんだけど………。

 

 

「…………その辺りにしとかないと、本当に半田くんが神になっちゃうと思うんだけど」

 

『ア、アフロディ……!?』

 

「ぶべっ」

 

『あっ』

 

 

………うん。それを望んだのはオレだから、何も言わない。

だから、せめて誰かは、ちゃんとオレを受け止めて欲しかったなんて贅沢なことは、オレは言わない。

……………地面って、痛いんだなぁ……。

 

 

「声を掛けた僕が言うのもなんだけど……。大丈夫かい……?」

 

「ま、まあ……。痛いけど、重力感じれなくなるよりは、絶対マシだから……。逆に大丈夫…」

 

「キミたちがやってたのって、本当にただの胴上げなのかい?重力を感じれなくなるなんて言葉、なかなか聞かないんだけど」

 

「………何をしにきた、とまでは言わない。お前も、影山の被害者とも言えるだろうからな」

 

「………影山、か」

 

「………?」

 

 

鬼道が影山の名前を出した途端、アフロディは複雑そうな表情を浮かべた。

手を伸ばしたのはお前たちなんだとしても、用意したのは影山だろ。

全く悪くないって思ってるわけじゃなさそうだし、別にそこまで複雑な顔しなくても良くないか?

 

 

「…………いや、何でもない。僕の思い違いかもしれないからね」

 

「思い違いって、なんだよ」

 

「そこまでの間を、関わって来たわけじゃないということだ。踏み込んだことは、そうそう言えないよ」

 

「………にしても、気になるんだけど」

 

「まあ、機会があれば話すよ。時間はかかるけど、僕たちは必ずリベンジする。それまで、待っててくれるかな?」

 

「………ああ!次は、最初からあのスタイルでやろうぜ!!」

 

「あ、あれ……か。あの泥臭い感じ、まだ少し抵抗があるのだけど……」

 

 

そんなことを言ってる間に、オレたちに優勝トロフィーが渡され、スタジアムを紙吹雪が舞っていた。

………やっぱり、嬉しいな。この瞬間。

 

 

「オレたち、なれたのかな。イナズマイレブンに」

 

「……さあな。伝説って、自分たちで決めることじゃないし。呼ばれるならまだしも、自分からそう呼ぶことって、あまりないしな」

 

「でも、OBは言ってたぞ?」

 

「あれは周りから呼ばれてたんだから、いいだろ」

 

「………まっ、そうだな。日本一だけじゃ、終われないもんな」

 

「初めて夕香のことを教えた時に聞いただけだが…。世界一を目指すという言葉、オレは忘れていないぞ」

 

「なんだ、半田。そんなことを言ったのか。志は大きい方がいいが、それにしては大き過ぎるぞ」

 

「ご、豪炎寺…。鬼道まで………」

 

「………だが、悪くない。日本一で満足しないで、世界一を目指すか。お前の場合は、最初から目指してたみたいだがな」

 

「いいじゃねえか。オレも初めて聞いたときは、気が早過ぎるって思ったけどよ。オレたちなら、夢じゃないかもしれねえだろ」

 

「………否定もしないぞ」

 

「…………オレも、撤回するつもりはない。オレは、世界一の舞台でサッカーをしたい。そのためにも、これから練習しないとな」

 

「……ああ。とりあえず、雷門中へ帰ろう。そうしたら今日は休んで、明日から特訓だ!」

 

 

………ああ、そうだ。

流石に今日は、この状態じゃ練習すらままならないけど、明日からも頑張らないとな。

エイリア学園の襲来まで、1週間ぐらいはあったはずだ。

せめてコンディションは整えられるし、もしかしたら、必殺技も磨けるかもしれない。

まずは初めて戦う、ジェミニストーム。

せめて、脱落者は出さないよう、頑張らなくちゃな………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなオレの決意は、すぐに打ち砕かれることになった。

 

 

「あれ……?」

 

「どうした?大谷」

 

 

バスに乗って、スタジアムから雷門中へ戻る途中。

車内から、それは見えた。

 

 

「なにか黒いのが…雷門中の方に…………」

 

「………………………………えっ?」

 

 

なんで……だよ……。

いくらなんでも、これを忘れることなんて、あり得ない……!

なんで、もうエイリア学園が、来るんだよ……!?




やりたかったこと④と⑤
最後まで抗い続けたアフロディとポセイドン。
円堂、染岡、半田のザ・ギャラクシーでポセイドンとアフロディを吹っ飛ばす。

はい。これにて無印編は終了です。
ずいぶんと時間がかかりましたが、一区切り着くとこまでいけたのは、一種の達成感がありますね。
エイリア学園編も執筆していきますので、気長にお待ちいただければと思います。




ところで、なんで半田さん。決勝戦終わったら即エイリア学園戦になるなんて一番大事なこと、覚えてなかったんでしょうね?(作者感


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脅威の侵略者編
崩壊の雷門


始まりました、脅威の侵略者編。
またの名を"半田、地獄編"


オレたちは、雷門中へ戻った。

そこはもう、つい昨日まで見ていたものとは、違っていた。

 

 

『雷門中の方に、黒いのが……』

 

『えっ……?』

 

 

その直後、大きな音が鳴り響く。

バスの中でも、それは聞こえた。

それから少し経ち、雷門中に着き、オレたちが見たのは……。

 

 

「学校が……」

 

「こんな、壊されて………」

 

「なにがあったんだよ、いったい…!!」

 

 

徹底的に何かをぶつけられ、崩壊した雷門中だった。

校舎はもちろん、体育館、部室棟まで、全て壊されてしまった。

 

 

「お、おお…!サッカー部のみんな……!!」

 

「火来校長…!?み、みんなは無事なんですか!?」

 

「ああ…。キミたちの試合が終わった後で、建物の中には1人もいなかったんだ。キミたちを、教員も含めた全校生徒で迎えようと思っていたのだが……」

 

「怪我人はいない…。ということで、いいですね?」

 

「それは間違いない。あいつらも、それを確認していたようでな……」

 

「彼らって、いったい誰のことなんですか…?」

 

「う、宇宙人………」

 

「…………は?」

 

「宇宙人だ…!宇宙人が、攻めて来たのだ…!!」

 

 

火来校長が、恐ろしいものを見ていたかのような表情で、そう言った。

宇宙人が攻めて来ただなんて、普通は信じることは出来ない。

でも、崩壊した雷門中を目の前にしては、冗談を言っていたり、寝ぼけているとも思えないと、みんなは感じていた。

 

 

「宇宙人って……どういうことなの……?」

 

「ほう。お前たちが、本来の雷門中の相手だったか。だが、来るのが遅かったようだな」

 

「えっ……?どこから……」

 

「なっ…!あそこだ!壊れた校舎の上に、何かいるぞ!!」

 

「あ、あああ……!あいつらだ!校舎を破壊したのは……!」

 

 

崩壊した校舎の方に目を向けると、そこには3つの人影が見えた。

1つは、大きな体格をした、青い髪の男。

1つは、ピンクの髪をし、暗い肌をした女。

そして、最後の1つは……。

 

 

「我々は、遠き星エイリアよりこの星に舞い降りた、星の使徒である」

 

「エイリア……?」

 

「地球の言葉で言えば、宇宙人。我々は、この星の秩序に従い、お前たちに力を示すことにした」

 

「力を示すって…」

 

「そして、その秩序とは……。サッカー…!」

 

 

………いつものオレだったら、何が遠き星エイリアの使徒だこの抹茶ソフトだとか、なんで来たばっかの宇宙人が目を付けたのがサッカーなんだとか、言ってたかもしれない。

でも、今のオレは、コイツらのことを知らない。

そもそも、こうして再び壊された雷門中を見て、そんな余裕なんかない。

そして、もっと言えば……。

 

 

「見るがいい。この場において、我々の力が示された証拠だ。キミたちの学校は、破壊された」

 

「なんで、こんなことを……!!そもそも、力を示すって、誰に示したんだよ……!!」

 

「ぐっ……!すまねえ、円堂……!!」

 

「あいつらに、敵わなかった……!!」

 

「備流田さん!?浮島さんも!?」

 

「OBのみなさん…!そんなボロボロに!?」

 

「お前たちの代わりに、我々に刃向かった者たちだ。結果は、見ての通りだ」

 

 

オレたちのところに、ボロボロにされた備流田さんたちがやって来た。

雷門中にいなかったオレたちの代わりに、戦ってくれたのに……。

 

 

「お前たちの星において、戦いで勝利者を決めるための手段、サッカー。サッカーで我々に勝たぬ限り、地球上に安寧など、存在しない」

 

「お前たち、いったい何者なんだ……!!」

 

「名を聞くか。いいだろう。我の名はレーゼ。そして、あえてお前たちに合わせるなら…」

 

 

最後の1人。緑色の髪をした男、レーゼが名乗る。

そして、こいつらの名前は……。

 

 

「"エイリア学園"とでも、そう呼ぶがいい!」

 

 

エイリア学園。

そして、コイツらはその内の先鋒とでも言うべき、ジェミニストーム。

コイツらに勝てなきゃ、他のチームに勝てるはずがない……!!

 

 

「ここでの目的は果たした。さらばだ、人間どもよ」

 

「ま、待てよ!!」

 

「貴様らの言葉に、耳を貸すつもりはない。だが、どうしても追いかけるというのなら、傘美野中に来ることだ。我々の次の目的は、そこの破壊である」

 

「か、傘美野中を……!?」

 

「ふざけんな!!ここだけじゃなく、傘美野中までぶっ壊すつもりかよ!!」

 

「先ほど言ったはずだ。我々にサッカーで勝たぬ限り、安寧など存在しない。止めたければ、我々に勝つことだ」

 

「なんてやつらだよ……!!」

 

「地球にはこんな言葉がある。雉も鳴かずば撃たれまい。何もせず、黙っていた方がいいこともあろう」

 

 

そう言い残し、レーゼたちは姿を消した。

雉も鳴かずば撃たれまい……か。

 

 

「………行くぞ。傘美野中へ行って、アイツらを止めるんだ……!」

 

「はい!こうしちゃいられないッス!」

 

「傘美野中まで壊させるワケにはいかないでやんす!!」

 

「……ああ。とりあえず、豪炎寺たちにも言っとかないとな。あとで合流してもらうか……」

 

「……いや。一ノ瀬たちは間に合わないだろう。木戸川清修へ向かったならば、いくら少なく見積もっても、こちらの駅まででも数十分はかかる。連絡はしておいた方がいいだろうが、試合には間に合わないはずだ」

 

「………そう、か」

 

 

たしかに前回も、一ノ瀬や土門は最初の試合にはいなかった。

となると、豪炎寺が来るまで、なんとか………。

………………。

 

 

「……半田くん?」

 

「………いや。なんでもない。行こう、みんな」

 

「ああ…!絶対にアイツらを止めるんだ!!」

 

 

…………豪炎寺が来るまで、どれだけ無事でいられるのかなんて、考えてはいけない。

たしかに、さっきの世宇子との試合のダメージはまだ引き摺ってるけど、最初から諦めるのだけは、違うはずだ。

勝利の女神は、最後までどちらに微笑むか分からない。

あの試合において、本当の勝利を掴めるとまでは思えないけど、この言葉を忘れないで来たんだ。

せめて、誰1人欠かさせやしない。

……そう、だよな。円堂。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほう。まさか、本当に来るとはな」

 

「え、円堂!?雷門中のみんな!?」

 

「すまないな、出前。この試合、オレたちに預からせてくれ!」

 

「世宇子に勝ったんだ。コイツら相手だって、やっていけるはずだ…!」

 

「地球にはこんな言葉がある。井の中の蛙、大海を知らず。世宇子というチームに勝てたところで、我々に勝てる理由などないことを、身を持って知るが良い」

 

 

そうしてオレたちは、傘美野中に代わり、ジェミニストームと戦うことになった。

……………目の前が揺らんだり、手が震えているのは、気のせいなんかじゃない。

それでも、オレは決めたんだ。

絶対に、風丸たちをダークエンペラーズなんかにさせやしないと。

そのためにも、この試合を乗り越えなきゃいけない。

どんな形だろうと…。絶対に……!!




現在半田が立たされてる状況。
「前回脱落したところを疲弊した状態で乗り越えな!ちなみにこれからもっとヤバいヤツがいっぱい来るけど頑張って乗り越えな!!最終的に仲間がどうにかしてくれたけど、今回もそうかは分からないからさらに気を引き締めな!!!あとなるべく仲間の脱落も避けたいんだろ!?ハードモード頑張れよ!!!!ちなみに分かってるだろうけど、この先心の底からサッカーを楽しめるところって、そんな無いからな!!!!!」


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脅威の侵略者

こっちのが脅威の侵略者感あるよなってことで、前話のサブタイ変えました。


地獄の一丁目です。



投稿から20分後追記
投稿してからこれ足すべきだよなとか行間こうするべきだよなとかで珍しく再編集してますので、よかったらもっかい読んでください。


豪炎寺と一ノ瀬、土門がいないため、フォーメーションがさっきの世宇子戦とはだいぶ変わっている。

FWが染岡とオレ。

MFが宍戸とマックス、鬼道と少林。

DFが影野と壁山、風丸と栗松。

GKはもちろん、円堂だ。

 

 

「やってやろうぜ、半田。宇宙人だかなんだか知らねえが、サッカーだったら負けられねえ」

 

「…………………ああ」

 

 

染岡がやる気を出しているところに、オレが絞り出すように、返事をする。

さっきの世宇子戦から、そこまで経っていない。

完全に回復したとは言えない状況で、どこまで太刀打ち出来るか……。

 

 

「傘美野中まで壊させてたまるか!みんな、絶対に勝つぞ!!」

 

『おお!!』

 

 

………いや。さっき決めたじゃないか。

そんなことを考えてはいられないって。

それに、戻ってきた時から、決めたことなんだ。

絶対に、マックスたちをここで脱落させやしない。

ダークエンペラーズなんて、結成させやしないって。

だったら、前へ進むしかないんだ……!!

 

 

「………………」

 

 

レーゼたちが佇む中、オレたちのキックオフで試合が始まる。

染岡からオレに渡されたボールは、風丸へと渡った。

 

 

「とにかく、ボールを前へ運ばないと……!」

 

 

ボールを持った風丸は、そのまま佇むレーゼを抜かし……。

 

 

「………えっ?」

 

「………は?」

 

 

風丸と、オレの言葉が響いた。

オレが見ていた限り、風丸は明らかに、レーゼを抜かしたはずだ。

ボールを持ったまま、真っ直ぐに、走り抜けたはずだ。

なのに、なんで、一歩も動いてなかったはずのレーゼが、ボールを持っているんだ…!?

 

 

「この程度で驚くか。あまりに隙を晒しながら歩いていたのは、わざとじゃなかったのか?」

 

「ドリブルで抜かしたはずだぞ…!?なんで、お前がボールを!?」

 

「わざわざ拾ったボールを、相手に渡す趣味は無い。致命的な1点、いただくとしよう」

 

「させないよ……!!」

 

「通させないでやんす!!」

 

 

風丸からボールを奪ったレーゼに、影野と栗松が奪い返そうと立ちはだかる。

 

 

「コイルターン…!!」

 

 

影野がコイルターンでレーゼを囲み、その後ろで栗松が待ち構える。

アフロディの時みたいに、飛び抜けられた時に対応しようとしてのことだろう。

 

 

「立ちはだかるならば、もう少しやる気を出してもらいたいものだ」

 

「………えっ?」

 

「は、早すぎるでやんす……!?」

 

 

今のは、流石に分かった。

だけど、それだけだ。

分かっただけで、目で追えたワケじゃなかった。

レーゼはコイルターンで囲んでいた影野を飛び抜き、そのまま栗松を抜き去った。

それが分かった時には、既に栗松の遥か後ろに、レーゼはいた。

だから、何が起こったのか分かっただけだったんだ。

経緯なんて分からないけど、結果は嫌でも分かってしまう。

圧倒的なスピードで、今の一連の流れをやってのけた。

アイツにとって、それだけのことなんだろう。

 

 

「壁山、頼む…!」

 

「は、はいっす…!ザ・ウォー…」

 

 

シュートを打ってくることを警戒した円堂は、壁山にザ・ウォールのシュートブロックを頼んだ。

その裏で、マジン・ザ・ハンドが間に合わないそうにないことを察した円堂は、ゴッドハンドを出せるように、準備をしていた。

 

 

「ル………。えっ?」

 

「…………は?」

 

「1点。致命的な1点を、貰ったぞ」

 

 

…………いくらなんでも、それはないだろ……!!

ザ・ウォールが発動される直前まで、ボールを持っていたはずなんだ……!!

なのになんで、発動しきった瞬間には、既にボールが無いんだよ!?

しかも、なんでよりによって、そのボールがゴールに入ってるんだよ!?

 

 

「み、見えなかった……。い、いつの間に、シュートを……?」

 

「……今のも把握できなかったか。弱き者め」

 

「くそっ……!気にすんな円堂!取られた分、オレたちが奪い返してやる!!」

 

「1点では折れないか。ならば、宣言しよう。この前半で、10点頂く。そして、お前たちは1点すら奪えない」

 

「ふざけたこと言いやがって…!!」

 

「地球にはこんな言葉がある。"論より証拠"。安心しろ。すぐに力の差というものを、身をもって実感するだろう」

 

「…………地球に来たばかりにしちゃ、さっきからずいぶんと物知りだな…。宇宙人さん……!!」

 

「………………ふん」

 

 

アイツからしたら、負け犬の遠吠えとでも言うだろう言葉を吐くが、ノーダメージなようだ。

それよりも、戻って来てから、改めてエイリア学園の力を目の当たりにして、分かった。

オレたちと、ここまで力の差があったのかよ……!!

 

 

「………まだ、だ。まだ、試合は始まったばっかだ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………さて。有言実行とは、このことか。0対10。前半を終えたが、まだ続けるつもりか?」

 

「……………くそっ…!!」

 

 

ダメだった。

オレたちのボールから試合が再開されて、誰が攻め込もうと、レーゼやFWのディアム、リームにボールを奪われ、作業のようにゴールを奪われてしまう。

世宇子との試合に出ていた染岡たちは、ただでさえ体力が回復しきれていなかったというのに、前半だけでかなり消耗されてしまった。

それは、ベンチにいた栗松たちも同じだった。

みんな息を切らし、太刀打ちすら出来なかった。

 

 

「棄権を勧告する。0対10というスコア。そして、これまでの実力差。これ以上は無意味ではないのか?」

 

「そんなこと…、出来るか……!!」

 

「傘美野まで、壊させるワケにはいかねぇ……!!」

 

「………弱き者め。では、これからのこと。自らが蒔いた種だということを、よく覚えておくがいい」

 

「すまない!みんな!!」

 

「ご、豪炎寺!!」

 

 

ここで、ようやく豪炎寺がやって来た。

豪炎寺が来てくれれば、イナズマブレイクが使える。

世宇子の試合の時、威力が上がっていたのをこの目で確認した。

もしかしたら、1点は奪えるかもしれない……!

 

 

「……よし。ならマックス、下がってくれ。マックスがいた所には半田が入り、豪炎寺と染岡のツートップだ。行けるな?」

 

「了解。まっ、何かあったらまた戻ってくるからさ。1点、奪って来てよ」

 

「ああ。任せろ」

 

 

鬼道の指示通り、オレはMFに戻り、いつものツートップが帰って来た。

 

 

「………なるほど。お前たちのエースストライカーが来たということか。ならば一度だけ、シュートの機会をやろう。その結果によって、これからの動きが決まる」

 

「………ずいぶんと優しいんだな。宇宙人さんは」

 

「世宇子の時も同じだっただろ。くれるって言うなら、やるしかない。豪炎寺、鬼道、円堂。頼んだぜ」

 

「ああ。来い!円堂!!」

 

「よし!行くぞ!豪炎寺!鬼道!!」

 

 

ボールは鬼道に渡され、ボールを上空に蹴る。

その間に円堂が間に合い、3人がボールを追い掛ける。

 

 

『イナズマブレイク!!』

 

 

激しいイナズマを纏ったボールは、ゴルレオが護るゴールへと突き進む。

やっぱり、千羽山の時よりもイナズマの激しさが増している。

これなら、もしかすると……!

 

 

「ふあああ……」

 

 

…………………………そう、だった。

今ようやく、思い出した。

前回も、豪炎寺がやって来て、なんとかボールを運び込んで、イナズマブレイクを打ってたんだ。

その時も、今も、こうやってなんて事もないように、オレたちの最強クラスの必殺技は、簡単に止められていたんだ。

 

 

「……なんだぁ?今の貧弱なシュートは」

 

「ウソ……?」

 

「イナズマ…ブレイクが……」

 

「あんな、簡単に………?」

 

「し、しかも、ボールの方を見ないで……」

 

 

言葉にすら出来なかったオレたちの代わりに、マネージャーたちが今起こったことを言ってくれた。

………どう、する。

ここから、オレたちはどうする……?

 

 

「………底が知れたな。では、これより…」

 

 

今の結果を見たレーゼが、口を開く。

 

 

「蹂躙を始める」

 

 

それは、最初の帝国との試合に聞いたものよりも、重く響く宣告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……。うっ………」

 

「ううっ………」

 

「影野と宍戸をベンチまで運んでくれ!マックス!悪いが……」

 

「………仕方ないよね。僕も入るよ」

 

 

これよりも前に、少林がガニメデの強烈なタックルに吹き飛ばされ、目金と交代している。

そして今、ディアムとリームの激しいシュートが打ち込まれ、影野と宍戸がベンチへ。

この時点で9人になってしまったが、マックスが再び戻って来て10人になった。

 

 

「くそっ…!化け物か……!!」

 

「今までとは、次元が違う……!!」

 

「…………………」

 

 

…………少林たちの怪我は、前回ほどでは無いように見える。

だけど、それはオレから見えていることなだけで、本人たちにしか分からないことだ。

 

 

「………棄権も断り、あれから何点も奪われ、立っている数も減り、まだ続けるつもりか」

 

「………。半田、染岡」

 

「……なんだよ?マックス」

 

「……アレなら、ボールを持った瞬間でもシュートはいけるんじゃない?」

 

「……!そうか!ザ・ギャラクシーなら……!」

 

「ザ・ギャラクシー……?我らの前で、宇宙の名を冠する必殺技を使おうと言うのか?」

 

「……なんだよ。悪いか?」

 

「不遜な態度ではあるが、面白い。では、最後のチャンスだ。もしそのシュートで点を奪えたのであれば、これ以上の蹂躙は止めてやるとしよう。打ってくるがいい」

 

「………やるぞ、半田。これ以上、傷を負うワケにはいかねえ…!!」

 

「………ああ。やるしかないよな……!!」

 

 

前回、ザ・ギャラクシーなんて使ってはいなかった。

もうこれしか、打つ手が無い……!!

 

 

「円堂!頼む!!」

 

「ああ!行って来い!染岡!半田!!」

 

 

円堂が出した薄緑のゴッドハンドに連れられ、オレたちは再び宇宙へ。

これが本当の、最後のチャンスだ。

絶対に決めないといけないんだ…!!

 

 

『ザ・ギャラクシー!!』

 

 

宇宙から撃ち落とされたシュートは、ゴルレオへと向かう。

頼む……!!決まってくれ……!!

 

 

「……………ふん」

 

 

………………………………。

 

 

「………いい茶番ではあったな。大方、宇宙を越える覚悟を持って名付けた技だったのだろう」

 

 

…………これが届かないなら、もう……。

 

 

「だが、所詮地球人。弱き者」

 

 

……………なにが、ダメだったんだ。

世宇子の時に、力を出し過ぎたことか?

いや、違う。

あそこで全力を出さなかったら、日本一にはなれなかった。

 

 

「そこの黒髪よ、聞け」

 

 

オレに、特訓が足りていなかったということか?

………いや、全部がそうってワケじゃない。

あの土壇場とは言え、ザ・ギャラクシーをモノにすることが出来たんだ。

前回よりは、特訓を積んだはずだ。

 

 

「貴様がどれだけ、自分の必殺技に大それた願いを込めようと、その願いが叶う事はないと知れ」

 

 

……………………前回。前回………。

ああ………。そうか。

 

 

「貴様に宇宙など、届きはしない」

 

 

オレが、戻って来たことが間違いだったんだ。

もし、戻って来ていたのが円堂や豪炎寺、染岡だったら、もっとマシになっていたはずなんだ。

少林や宍戸、影野が怪我することなんて、なかったはずなんだ。

 

 

「貴様には、地面がお似合いだ」

 

「……ッ!避けろ!半田ぁ!!!」

 

「半田くん!避けてぇ!!」

 

 

オレなんかが、戻って来たところで………。

 

 

 

 

 

 

「なにそんな顔してんのさ!!」

 

 

えっ………?

 

 

「ガハッ……!!」

 

「マッ………クス…………?」

 

 

な、なんでマックスが……、オレなんかを庇って……!?

 

 

「マ、マックス!しっかりしろ!な、なんでオレなんか……」

 

「………ふ、ふふっ。なんだ、戻って来たじゃん。その目」

 

「ど、どういうことだよ!?そ、そもそも!こんなことしなきゃ、お前がそんな目に遭うことなんて……」

 

「…………………」

 

 

オレの問いに応えることなく、マックスは意識を失った。

そして、それと同時に、試合は終了した。

傘美野中は、壊された。

オレに出来ることは、意識を失ったマックスを背負いながら、病院へと運ぶことだけだった。




でもお前は、半田真一なんだよ。




以下雰囲気台無し警告(突発性ギャグ挟まないと死んじゃう病発症

















「…………地球に来たばかりにしちゃ、さっきからずいぶんと物知りだな…。宇宙人さん……!!」

「………(あっ、やっぱり?やっぱりそこ気になっちゃう!?でもこういう方向性で行くって決めた以上、キャラ変えることなんて出来ないしなぁ……!とりあえず誤魔化さないと!!)………ふん」



実はちょっとだけダメージ与えることに成功してました。
まあ、そのせいで最後の地べたがお似合いだに繋がったりもしたんですが。


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襲撃のあと

イナイレ2の病院、2階と3階とでBGMの落差がやばたにえん。


ジェミニストームに大敗を喫したオレたちは、稲妻総合病院へと走った。

オレがマックスを、壁山が少林と宍戸を、染岡が影野を抱えて、なんとか到着した。

………あまり気にしてなかったけど。よく壁山は2人抱えることが出来たな。一番デカい体格してるってのを加味してもすごいぞ。

 

 

「………………」

 

 

いまオレたちは、エントランスで報告を待っている。

少なくとも、マックスの入院は決まってしまったはずだ。

………オレの、せいで。

 

 

「………みんな。先生の検査が終わったって」

 

「みんなは!?みんなは、どうなった!?」

 

「お、落ち着け半田!ここ病院だぞ!」

 

「…………悪い」

 

「……みんな、病室に入ったって。影野くんと宍戸くん、少林寺くんは軽い怪我で済んでるけど、検査入院だって」

 

「検査入院ってことは、短めってことか……?」

 

「………だって」

 

 

先生から話を聞いた木野から、影野たちの状況を聞かされた。

そうしている間に、オレたちは影野たちのいる病室へと向かっていた。

 

 

「……マックスは?」

 

「……………」

 

「…………病室だけ、教えてくれ」

 

「………224だって」

 

 

それを聞いたオレは、1人その場から離れた

走り出さずにいれただけ、ギリギリ、本当にギリギリ落ち着いていることが、自分でも分かった。

 

 

「……………」

 

 

病室に入ると、そこにはマックスがいた。

ただ、まだ目を覚ましていなくて、眠ったままだった。

 

 

「………なんで、オレを庇ったんだよ。そんなことしなきゃ、こんな目に遭わなくて良かっただろ」

 

 

オレが怪我を負ったところで、前回とやる事は変わらない。

みんながイナズマキャラバンに乗って、全国を巡って、エイリア学園と戦うということまでは、変わらないはずだ。

………オレの記憶と違って、世宇子との戦いからすぐに来たけど、それ以降は………。

 

 

「……………どっちにしろ、お前がこんな目に遭う理由なんて、無かっただろ」

 

 

木野から話を聞く限り、影野たちの怪我は軽いもので、すぐに復帰出来るはずだ。

前回に比べたら、それだけでも全く違う流れになっていた。

マックスだって、怪我を負うことも無かったかもしれない。

………オレがあの時、ボーッとしてたのが、いけなかったんだ。

 

 

「半田くん……。マックスくんは…?」

 

「………まだ、寝てる」

 

 

マックスの病室に、大谷が入って来た。

……たしかあの時、オレに声をかけてくれたのは、円堂と大谷だったっけ。

 

 

「………あの、半田くん」

 

「……悪い。1人にさせてくれ」

 

「あっ……」

 

 

大谷と入れ違いになるように、オレは部屋から出た。

いまはとにかく、1人になりたかった。

 

 

「………また、あの目をしてる……」

 

 

そんな大谷の言葉は、オレには届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

 

オレはいま、1人で病院のラウンジにいる。

オレはこれから、どうすればいいんだ。

もちろん、エイリア学園と戦うことになるのは、分かってる。

でも、本当にオレは、アイツらと満足に戦えるのか?

前回と比べれば、強くなってると自覚はある。

それでも、さっきの試合では、何も通用しなかった。

 

 

「……………この先、オレは……」

 

「おや。久しぶりですね、半田くん」

 

「………えっ?」

 

 

オレだけがいたラウンジに、オレ以外の声が響いた。

入り口の方に目を向けると、そこにいたのは……。

 

 

「……ふ、冬海……」

 

「影野くんたちが運ばれたと聞いたのでね。病室に行く前に、キミを見つけるとは思いませんでしたけど」

 

 

この前みた患者服と違い、寝巻き姿をした冬海が、そこにいた。

 

 

「………目、覚ましたんだな」

 

「どうせ目を覚ますなら、決勝戦前が良かったんですがね。ちょうど始まるタイミングだったらしく、火来校長に声をかけるのが遅くなってしまいました」

 

「……校長に?」

 

「全校生徒で、キミたちの試合を見届けるように後押ししたんですよ。元々その気はあったみたいですから、話しは早かったですね」

 

「………だから、みんなが校舎に居なかったって言ってたのか」

 

「エイリア学園が来るのは分かってましたからね。前も生徒に被害はありませんでしたが、念には念をということで」

 

 

………エイリア学園が来るのは分かってた、か。

 

 

「……………なあ、冬海」

 

「なんです?」

 

「……オレの記憶だと、エイリア学園って、世宇子の試合から少し経ってから来てたんだよ」

 

「………はい?」

 

「……やっぱ、そんな反応するか」

 

「いや、それは流石に。いくらなんでも、この事を忘れるとは思いませんでしたから」

 

「………オレも、そう思ってた。でも、違ったんだよ。これまでも、オレの記憶と違ってたことが、何度もあってさ」

 

 

そう。いま思い返すと、エイリア学園襲来のタイミング以外にも、オレの記憶とは違うことがいくつもあった。

その時は毎回、オレの記憶違いだったり、丸っきり同じじゃないんだと、軽く流してた。

 

 

「……今思い返すと、世宇子との試合前に、稲妻町のみんながおかしくなってたんだ。それもたしか、影山の仕業で」

 

「い、いや……。いくら影山でも、そんな大規模なことは…」

 

 

………影山のことは、他にも気になる事はあるけど、それは一旦置いておく。

だけど冬海の反応的に、冬海からしたら、前回はそんなことはしてなかったようだった。

と、なると……。

 

 

「……オレと冬海がいたところって、別なんだろうな」

 

「別、とは……?」

 

「そもそも、オレたちが戻って来た原理とか、何にも分かってはいないけどさ。これだけは分かったよ。エイリア学園の襲来時期の認識の違いの原因は、そういうことなんだって」

 

「……………ふむ」

 

 

それを考えると、この先もどうなるか、全く分からない。

みんなも、どうなるか……。

 

 

「……私の記憶ですと、あなたたちが戦い続けて、最終的にどうにかしてと思いますがね。過剰に身構えすぎるのも、どうかと」

 

「だけど、これからもそうかは…」

 

「………はあ」

 

「えっ……?」

 

 

えっ、なんで冬海にため息を吐かれなきゃいけないんだ?

 

 

「あなた。ここまで来たのは、これから起こることを知ってて、優位に進められるからだったんですか?」

 

「そ、そんなことはない!オレだって、頑張って……」

 

「でしょうね。さっきまで眠ってましたけど、それまでも見てましたし、世宇子の試合も見ましたからね。分かってますよ」

 

「な、なら…なんで……」

 

「やることは変わらない。じゃなかったんですか?」

 

「…………」

 

「それに、あなたには夢があるはずでしょう。ならば、こんなところで立ち止まるワケには、いかないんじゃないんですか?」

 

「…………それ、でも……」

 

「…………はあああ」

 

 

………なんか、さっきよりも大きなため息を吐かれたけど。

 

 

「やっぱり、あなた分かってませんね。マックスくんのところに行きなさい」

 

「えっ……?」

 

「そろそろ、目を覚ますはずでしょう。ほら、さっさと行ってくる」

 

 

冬海に背中を押され、オレはラウンジから出された。

マックスのところに行ったって、何をするワケじゃ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、半田くん……」

 

「ホントに来た。大谷の言う通りだね」

 

「マックス……」

 

 

冬海の言う通り、病室に行くと、マックスは目を覚ましていた。

包帯を付け、ベッドの上に寝ながら、入り口にいるオレに顔を向けて、そう言った。

 

 

「半田に怪我は無さそうだね。良かった良かった」

 

「良かった…って……」

 

「まっ、僕が勝手にやったことだからさ。でも、次は無いからね?」

 

「…………なんで、だよ」

 

「ん?」

 

「なんで、オレなんか庇ったんだよ。あんなことしなきゃ、お前がこんな目に遭うことなんて、無かっただろ」

 

「なんでって、そりゃ……」

 

 

マックスは、オレの顔をじっと見つめる。

……なんだよ。オレの顔に、なんか付いてるのかよ?

 

 

「………さっきよりはマシだけど、戻りそうだね。こりゃ」

 

「………何がだよ」

 

「気付いてないようだから言うけどさ。半田って、わりと考えてること、分かりやすいからね?」

 

「………?」

 

「ああ、ほら。今も急になんだよ?みたいな顔して」

 

「いや、今の流れだったら、誰だってそうするだろ」

 

「さっきもさ、すごい顔してたからね?全てを砕かれた、絶望したかのような顔してたから」

 

「……………………」

 

 

………否定は、出来ない。

記憶通りとは言え、今までよりも大きな差を見せつけられて、新しく身に付けた力ですら届かなかったと、嫌でも分からされた。

オレが戻って来たところで、何も変わったりはしなくて……。

 

 

「……だから。その目、やめろって」

 

「えっ……?」

 

「やっぱり、庇って良かったよ。じゃあ、大谷。頼んだよ」

 

「………うん。行こう、半田くん」

 

「お、大谷?いや、行こうって……」

 

「ああ、半田?先に言っておくけど」

 

「な、なんだよ…。オレの質問に、全然答えないで……」

 

「半田が怪我して病院来たら、僕がバックトルネードでトドメ刺すからね」

 

「………………は?」

 

「まあ、半分冗談だけどさ。ほら、さっさと行った行った。敵討ち、任せたからねー」

 

 

そう言って、マックスはカーテンを閉めた。

オレは、大谷に引っ張られて、影野たちの病室へ向かった。

 

 

「…………大谷」

 

「……なに?」

 

「……マックス、なんて言ってたんだ?」

 

「………私も、同じこと考えてるんだからね」

 

「えっ…?」

 

「……今の半田くん。1人にさせちゃ、絶対にダメだって。たしかに、今は少しだけマシになってる。でも、さっきの半田くんって、目に光が無かったもん。もし、怪我をして入院なんてことになってたら、もう二度と、戻って来なかったかもしれないって、マックスくん言ってた」

 

「……………………」

 

 

………そう、か?

いや、ダークエンペラーズには、絶対にならない。

またみんなに、迷惑をかけたりは、しな…………。

 

 

「………………そう、かもな」

 

 

いや、そうとは言い切れない…か。

あの時のオレは、どん底に叩き落とされていた。

もう少し力があったらと、ベッドの上で自分を呪ってたあの時よりも、どん底だった。

そんな時に、また病院のベッドで、自分を呪うようなことになってたとしたら……。

 

 

「……どうなってたか、自分でも分からない……か」

 

「……絶対に、どこかに行ったりなんかしちゃ、イヤだからね」

 

「…………………」

 

 

大谷の言葉に、今は返事は出来なかった。

そうしている間に、影野たちの病室へと着いた。

3人がベッドの上にいて、他のみんながそれを囲んでいた。

 

 

「あっ、半田さん!オレたち、ちょっとだけお休みもらいますけど、すぐに戻りますからね!あのことわざ宇宙人に、クンフーのなんたるかを叩き込みたいですから!」

 

「この前の鬼特訓がなかったら、オレも大怪我してたかもしれないですし……。半田さん、戻ったらまた特訓、お願いします!」

 

「あっ、オレもお願いします!びしばし鍛えてください!」

 

「………………2人、とも…」

 

「…………壁山、栗松。オレが戻ってくるまで、雷門の守備、頼んだよ」

 

「もちろんでやんす!影野さんがいない間、その分オレたちが何倍も頑張るでやんす!」

 

「はいっす!影野さんも、すぐ戻って来てくれると嬉しいっす!」

 

「……もちろんだよ。負けっぱなしなんて、嫌だからね」

 

「おい、影野。オレは?」

 

「………………風丸はその内、疾風ディフェンダーから、疾風プレイヤーに変わるでしょ」

 

「何の話だよ」

 

「………だから、半田。円堂たちにも言ったけど、オレたちが戻るまで、ここに来たら許さないからね。とくに半田が来たら、オレたち3人でハリケーンアローするから」

 

「……………殺意、高過ぎるだろ」

 

 

………この3人も、前回とは違う。

自分に力が無かったからと言う事はなく、リベンジに燃えていた。

………そう、だな。

 

 

「………大谷。さっき、返事を言えなかったけど」

 

「……うん」

 

「流石に、ハリケーンアローも、バックトルネードも喰らいたくないからさ。オレ、頑張るよ」

 

「…………うん!」

 

「えっ、半田。ハリケーンアローはともかく、バックトルネードってなに?」

 

「そういや、マックスは目を覚ましたんだよな?オレたちも行くぞ」

 

 

そうして、オレは円堂と染岡にガッチリ掴まれて、またマックスの病室に向かった。

………いや、逃げないって。そんなにガッチリ掴まなくてもいいってば。

 

 

「マックス!大丈夫か!?」

 

「いや、円堂。僕しかいないけど、病室だから」

 

「あっ、ごめん……」

 

「…………」

 

 

またマックスは、オレの顔をじっと見つめる。

…………いや、そんなに見る?10秒以上見てるけど。

 

 

「…………うん。なら、良し」

 

「…………そうかよ」

 

「僕が戻るには、ちょっとばかし時間かかるだろうから、敵討ちは任せたよ。そうしたら、またサッカーやろうよ」

 

「……ああ。任せてくれ。それと、待ってるからな」

 

 

……マックスも、大丈夫だな。

オレのせいで、入院することにはなったけど、ダークエンペラーズには、ならなそうだ。

あとは、染岡と栗松、風丸……か。

 

 

「ん?なんだよ、半田」

 

「………いや。今度こそ、勝ちたいよなって」

 

「まあな。次はぜってぇにあのキーパーから点を奪ってやる」

 

 

………染岡は、真帝国との戦いで怪我を負った。

今回もそうかは分からないけど、少なくとも、そこが重要って考えてもいいはずだ。

これからもそうだけど、その時はとくに、気をつけないと……。




マンモス校であの体育館に全員入らないと思いますけど、入ったってことで。


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未知の旅へ

前回脱落した後の、半田の体験してない旅が始まりますわよ。


あっ、春休み満喫してたんでこれから更新スペースなるべく戻しますね。


病院を後にしたオレたちは、一先ず雷門中へと戻った。

どうやらオレたちが病院にいる間に、一ノ瀬たちが戻って来ていたらしい。

……アイツらと、合流しなくちゃな。

 

 

「一ノ瀬!土門!」

 

「円堂!みんな!」

 

「話は聞いてたけど、本当に壊されちまってるな……」

 

「………エイリア学園。すごい力だった」

 

「神の次は宇宙人、か……。とんでもないことになっちゃったね」

 

 

無事に一ノ瀬、土門と合流することが出来た。

……今の雷門イレブンのメンバーは、11人。

前回と違い、影野たちの怪我が軽いことから、早いうちに復帰は出来そうだけど…。

 

 

「雷門中だけじゃなく、傘美野中まで壊されちまった。このまま放っておいたら、アイツら……」

 

「キミたち!無事……では、ないか…」

 

「理事長!」

 

「松野くんと影野くん、そして少林寺くんと宍戸くんが怪我をして、病院に運ばれたわ…」

 

「……そのようだな。すまない。私がしっかりと把握して無くてはいけないことだと言うのに…」

 

「こんなことがありましたから、仕方ないと思います」

 

「ここの他にも、傘美野中が壊されて…」

 

「………実は、傘美野中だけではないんだ」

 

「えっ………」

 

「着いて来てくれ。このこと以外にも、話さなければならないことがある」

 

 

そう言った理事長は、オレたちを部室の方へと連れて行った。

そういえば、この下には…。

 

 

「地下への入り口…?」

 

「入ってくれ。話さなければならないことと、見せなければいけないことが、この中にある」

 

 

オレたちはその中に入り、先へ進む。

その先には、大きなモニターのある部屋があった。

 

 

「ここは、影山の調査のために造った作戦指令室なんだ」

 

「学校の地下に、こんなものが…」

 

「こんなふうに使うとは、思ってはいなかったがね。では、まずはこれを見てほしい」

 

 

大きなモニターに、映像が映し出される。

そこに映っていたのは、試合風景。

いや、試合と言うには……。

 

 

「に、西垣!?」

 

「これ、木戸川清修か!?」

 

「女川たち…!」

 

「ああ!三兄弟が…!!」

 

「0対86、って……」

 

 

それはもう、蹂躙のあとの、トドメの映像だった。

エイリア学園に歯が立たなかった木戸川清修は、雷門や傘美野と同じく、学校を破壊しつくされてしまった。

 

 

「……理事長。これは…」

 

「先ほど、サッカー協会に緊急資料として届けられたものだ。木戸川清修だけでなく、フットボールフロンティア出場校を中心に、破壊活動を続けているようだ」

 

「オレたちが西垣と別れてから、そんなことが…」

 

「彼らに勝利しない限り、侵略者の破壊活動を止めることはできない」

 

「……次こそ、勝ってみせる。でも、今のオレたちは…」

 

「……うむ。11人。試合が出来る人数はいるものの、戦力としては、もう何人か欲しいはずだ」

 

「影野くんたちが復帰するには、もう少し時間がかかります。でも、その間にも…」

 

「被害が広がるであろう。そこで、私はもう1つ、見せたいものがある」

 

 

そう言った理事長は、オレたちを再び地上へと連れて行った。

目的地は、オレたちがいつも使っている、グラウンドだった。

 

 

「見せたいものって、いったい何でやんすか?」

 

「グラウンドには、何もないっすけど…」

 

「では、古株さん。お願いします」

 

「えっ、古株さん?」

 

 

通信機を持った理事長がそう言った途端、センターサークルの所から地面が開かれる。

完全に開くと、その下にあったのは、坂の車道だった。

そこからやって来たのは……。

 

 

「な、なんだこれ!?」

 

「バス…かな?」

 

「その通り。これからキミたちは、このイナズマキャラバンに乗り、全国行脚をしてもらう」

 

「ぜんこく……あ、あん………?」

 

「"あんぎゃ"だ、円堂。これに乗って、全国を回るってこと」

 

 

青色の大きな車、機能は普通のバスと変わらないという、イナズマキャラバン。

脱落し、世界代表にも選ばれなかった前回は、乗ることは無かったもの。

……まあ、実はちょっとだけ乗らせてもらったり、何なら車中泊とかさせてもらったこともあったんだけどな。

ただ、これに乗って全国を回ったことはなかった。

 

 

「先も言った通り、エイリア学園に勝利しない限り、破壊活動を止めることは出来ないだろう。そこで、これに乗り、全国を回り、全国の強者をスカウトし、共に戦ってもらいたいのだ」

 

「全国の強者…ですか」

 

「……エイリア学園を追うなら、そのための足は必要だよな」

 

「侵略者を打ち倒すために、戦力を揃えろってか」

 

「その場合、名付けるなら…。地上最強イレブン、ですね」

 

「地上最強…か」

 

 

日本一の次は、侵略者を倒すために、地上最強を目指せ…か。

これから、前回のオレが知らない旅が始まる。

脱落は、したくないな。

 

 

「そこで、お前たちを率いていく監督を紹介する」

 

「えっ?響木監督は来れないんですか?」

 

「悪いが、調査をしないといけないことがあってな。鬼瓦さんと共に行かなくてはならん」

 

「そう…ですか」

 

「その代わりと言ってはなんだがな。では、来てくれ」

 

 

響木さんが声をかけると、イナズマキャラバンの裏から、1人の女性が現れた。

……ああ。これ、古株さんと一緒に乗ってたのか。

ビックリした。オレたちが話してる間に忍び寄って、スタンバってたってことじゃないよな。

 

 

「……そこのキミ、何か変なこと考えてないかしら」

 

「い、いえ。そんなことはないですけど…」

 

「……そう。そういうことにしておきます」

 

 

…初対面の人にもバレるって、相当じゃないか?

試合で考えてることがバレてないだけ、今まではマシだったのかもしれないけど。

 

 

「これから、雷門イレブンの監督を務めさせてもらいます。吉良瞳子よ」

 

「瞳子監督…。女性の監督って、珍しいですね」

 

「フットボールフロンティアの監督、全員男だったもんな」

 

「女性だから、何か問題があるかしら」

 

「い、いや!そんなつもりは…」

 

「珍しいってだけで、悪く言うつもりは欠片もありませんよ。よろしくお願いします、瞳子監督」

 

「………ええ」

 

 

瞳子監督……か。

その手腕は確かなものと言うのは、大人になった円堂たちからもよく聞いていた。

実際に同じチームでサッカーをしたこともなければ、対戦もしたことはなかったけど、KFCでコーチを経験したオレには、よく分かる。

その辺りのことは、信頼していいはずだけど……。

吉良……か。

 

 

「ん、鬼瓦さんからか。はい、響木です。……なんですって?」

 

「響木監督?」

 

「……お前たち、今すぐに家に帰って、親御さんの了承を経て、荷造りをして来い」

 

「……なにか、あったんですか?」

 

「……奈良に来ていた財前総理が、エイリア学園に襲われたらしい」

 

「えっ…!?」

 

「今すぐにでも行きたいところだが、流石に話も通さずに行くのは良くない。悪いが、急ぎめでお願いしたい」

 

「わ、分かりました!みんな、あとでここに集合だ!」

 

 

……今は置いておこう。

それに、オレがどうにか出来る問題じゃないしな。

父さんたちには、すぐに話が通せるはずだ。

早く荷造りしないとな。




ゲームの瞳子監督の初登場時、画角の関係で眼にハイライトが無いように見えてめちゃくちゃ怖かったです。


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奈良公園にて

財前総理が拉致された時の作者の言葉。
「総理大臣を拉致って、急に王女を誘拐みたいなことしてきやがった。RPGかよ。………超次元サッカーRPGだったわ」


あれから少し経ち、オレたちは雷門中に戻って来た。

全員、親御さんたちから許可をもらって、大きな荷物を持っている。

 

 

「よし!みんな乗ったな!出発するぞ!!」

 

「はい!お願いします、古株さん!」

 

「これから、長い旅になるからな!なに、お前さんたちを乗せて、どこまでも運んでやるさ。無事に終わって、帰ってくるまでな!」

 

 

そう言ってくれた古株さんは、早速イナズマキャラバンを動かし、奈良へと向かわせた。

グラウンドでは響木さんと理事長、そして火来校長がオレたちを見送ってくれた。

次にここに帰ってくるのは、何時だったけな。

 

 

「………そういえば。悪いな、大谷」

 

「えっ?急にどうしたの、半田くん」

 

「雷々軒行くの、どんどん先延ばしになっちゃうからさ。これで2回目だから、申し訳なくて」

 

「……ああ。半田くんが悪いワケじゃないんだから、謝ることないのに。でも、楽しみが先延ばしになるのも、悪いことばかりじゃないからさ。私は大丈夫だよ」

 

「……そっか。これが終わったら、行こうな」

 

「うん」

 

 

なんか、誰かの陰謀でも働いてるんじゃないかってレベルで邪魔されるんだけど。

でも、このエイリア学園騒動が終われば、世界大会の選抜までは時間があったはずだから、今度こそこれを乗り切れば行けると思う。

…………選抜に選ばれるかどうかって話もあるけど、それは今気にしてられる状況じゃないから、置いておこう。

 

 

「………あっ」

 

「どうしたんだ?円堂」

 

「古株さん!すみません、ちょっと止めてください!!」

 

 

円堂が何かを見つけた場所は、ちょうど稲妻総合病院の前だった。

円堂の目線的に、病院の方に何かを見つけたってことだろうけど…。

 

 

「おい、円堂。急に止めてどうしたんだよ」

 

「………あそこ。6階の窓」

 

「窓って、いったい……」

 

「………あっ」

 

 

染岡が詰め寄り、それに合わせて、オレを含めたみんなが、円堂が言った病院の6階の方へ向く。

そこには、オレにとってはさっきぶりの…。

 

 

「………冬海先生」

 

「目、覚ましたんだな」

 

「しかも、頑張れって書いた紙まで持って……」

 

 

……そういや、オレだけが知ってたんだよな。

伝えるのを忘れてたけど、あえて言うことも無いか。

こうして、自分の無事をみんなに知らせたんだから。

 

 

「………というか、冬海がああやって紙持ってるの、めちゃくちゃシュールだな」

 

「……でも、無事でよかった。戻って来たら、お見舞い行かないとね」

 

「まだ入院してたらだな。お互い、どれだけかかるかは分からないけどさ」

 

 

………行ってくるよ、冬海。

全部終わったら、2回分の祝勝会、やってもらうからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーしお前ら、奈良に着いたぞ!」

 

「長かったなぁ……」

 

「関東から関西ですからね……。この距離をバスで移動することは、あまり無いかと……」

 

「まあ、目金の言う通り、ほとんどが新幹線か飛行機だよな…」

 

 

古株さんしか運転手がいなかったこともあって、途中で休憩を挟んだ結果、東京を出発したのが朝だったのに対し、奈良に着いたのは昼過ぎだった。

高速道路が混んでたら、もっと掛かってただろうな……。

 

 

「キャラバンは古株さんに任せて、私たちは奈良公園へ向かいます。そこが財前総理が襲われた場所よ」

 

「奈良公園ってたしか、巨大な鹿の像を置こうとしてた場所じゃなかったか?」

 

「よく知ってるな、風丸」

 

「いや、ニュースでチラッと見ただけなんだけどさ」

 

「巨像の落成式が行われ、それに財前総理が出席していたはずだ。そこをエイリア学園に襲われたんだろう」

 

「ら、らくせい…式……?」

 

「………今回の場合、巨大な鹿の像の完成を祝うための行事ってことだ」

 

「とにかく、その公園に行ってみるか。像の前まで行けば、何かあるかもしれないしよ」

 

 

染岡の言葉を皮切りに、オレたちは奈良公園へと向かった。

でも、総理大臣が襲われた場所ってなると、そう簡単に入れないんじゃないか……?

 

 

「……で、これがその像か」

 

「ひどいな…。首が折られてる。というか、壊されてる」

 

 

入れちゃったよ。

明らかに現場なのに入れちゃったよ。

 

 

「壊されたとなると、傘美野中を壊したあのボールの仕業か?」

 

「その可能性は高いな……」

 

「み、みなさぁん!!こ、これ見てほしいっす!!」

 

「えっ」

 

 

後ろから壁山の声が聞こえたから、そこへ振り向く。

するとコイツ、ものすごく見覚えのあるものを持ってた。

 

 

「…………現行犯」

 

「ち、違うっすよ半田さん!そもそも、一緒に来たじゃないっすかぁ!!」

 

「これ、エイリア学園が持ってたボールでやんすよ!?」

 

「えー……。なんでそんなのが残ってんだよ……」

 

「これ、めちゃくちゃ重いっすよ!」

 

「こんなのを蹴って…は、いなかったけ。浮遊してぶつけたんだよな」

 

「どっちにしろ、こんなの当たったらタダじゃすまないぞ…」

 

 

流石に人間には当ててはいなかったけど、そもそも学校を壊してたものだからな…。

サッカーボールの形はしてるけど、ほぼ解体用の道具だろうな。

 

 

「財前総理、無事なのかな……」

 

「目的が分からない以上、そこまでは……」

 

「現れたね!宇宙人の手先!!」

 

「えっ」

 

 

後ろから女の子の声が聞こえたので、そこへ振り向く。

そこには、黒服を着込んだ、その声の主だろう女の子や、大人数名がいた。

…………たしか、財前総理のSPたちだよな。

 

 

「……………………?」

 

「後ろを向いても、お前たちしかいないよ!」

 

「……………………?」

 

「だから!自分に指を刺してても、お前たちしかいないんだって!やっぱり現場に戻って来たね、宇宙人の手先め!!」

 

「えっ……。オレたちが、宇宙人……?」

 

「地球人も宇宙人ってなる、あれでやんすか?」

 

「そのボールを持ってるのが、何よりの証拠だよ!」

 

「オレたち、今来たばっかなんだけど」

 

「どう証明するのさ!!」

 

「高速道路の定点カメラとかに映ってると思うけど。それか目立つ車で来たし、料金所の人に聞けば……」

 

「問答無用!!」

 

「なんでさ」

 

 

話を聞かないヤツだな。

………まあ、前回に円堂から少しだけ話を聞いてたから、ある程度は知ってたけどさ。

財前塔子。財前総理の娘で、前回地上最強イレブンとして、最後まで戦ってくれた女の子。

こう見ると、どこか円堂と似てるよな……。

 

 

「サッカーで勝負だよ!そんなに自分たちが宇宙人の手先ってことを否定したいなら、私たちに勝つんだね!」

 

「な、なんでサッカーになるんですか……?」

 

「プレーを見れば、ウソを吐いてるかどうかなんて、すぐに分かるよ!私たち、SPフィクサーズは、そうして来たんだから!」

 

「SPフィクサーズ……。春奈、どういうチームなんだ?」

 

「えっと………。あった!財前総理のボディーガードたちで構成されたチームです!何でも、財前総理自身が大のサッカー好きなようで……」

 

「ニュースでもよく言ってたな」

 

「ってことは、お前がキャプテンなのか?」

 

「なに?子供がキャプテンなのが意外?それとも、女の子がサッカーするなって?」

 

「そんなことないさ。子供や女の子だからって、関係無い。大切なのは、サッカーが大好きって気持ちだからさ」

 

「えっ………」

 

「………こんな時でも、変わんないな。円堂」

 

 

後ろの大人たちを見るに、オレたちを疑ってる"風"なのは分かる。

普通にサッカーをすれば、どうにか……。

 

 

「……大人相手でどこまで戦えるか、見させてもらいます」

 

「流れ的に、仕方ないか…。みんな、すぐに準備しよう」

 

「もちろんだ!大人と戦えることなんて、そうそうない。みんな!オレたちが宇宙人じゃないってこと、証明しようぜ!!」

 

『おお!!』

 

 

瞳子監督と円堂の声によって、オレたちは準備を進める。

来て早々にサッカーするとは思わなかったけど、ストレッチとかをやっとけば…。

 

 

「………ん?」

 

 

オレが見つけたのは、それぞれ足を気にする染岡、風丸、壁山の3人だった。

………お前ら、まさか。

 

 

「………瞳子監督」

 

「染岡くん、風丸くん、壁山くん」

 

「あん?」

 

「はい?」

 

「なんっすか?」

 

「あなた達3人は、試合に出てはいけません」

 

「えっ…!?」

 

「ど、どういうことだよ!」

 

「何がいけないんっすか!?」

 

 

………なるほど。話に聞いてた通り、かな。

この分なら、任せられそうだ。

 

 

「………なんだったかしら、半田くん」

 

「いえ、やっぱり何でもないです。ありがとうございます」

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

(3人と一緒に抗議することなく、引き下がり、お礼まで言う……ね)




どんな人が仲間になったか〜ぐらいしか、聞いてないです。
なんで、具体的に何が起こったかは知らないっすね、この半田さん。


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走るイナズマ

サブタイはいつも通りBGMからですわよ。

あっ、お気に入りが700を超えていました。
まだまだじわじわと伸びていってくれてるので、嬉しい限りです。
これからもよろしくお願いします。


染岡、風丸、壁山を除いた8人で、試合が始まる。

公式戦じゃないからな。この人数でも、試合は出来る。

 

 

「監督!なんでオレたちが試合に出てはいけないんですか!」

 

「こっちは8人だぞ!?オレたちが出れば11人だろ!」

 

「それに、ほとんどが大人っすよ!?人数差があったら、厳しいっす!」

 

 

風丸たちは、瞳子監督に抗議を続けていた。

あの様子だと、あの3人が出てくることはないはずだ。

こっちは8人だけど、なんとかするしかない。

 

 

「目金。久しぶりの試合だけど、頼んだぞ」

 

「は、はい!僕も練習はしてましたので、少しは力になれるかと!」

 

「知ってるさ。点はオレたちが取りに行くから、他を任せた」

 

 

目金が出るのは秋葉名斗との試合ぶりになるのかな。

OBの時とも、試合に出ることはなかったから。

その間でも、マネージャーの仕事を手伝うだけじゃなく、しっかりと練習をしてたのはオレたちも知っている。

コイツも立派な雷門のサッカー部員ってことに、変わりはない。

 

 

「どういう意図かは知らないけど、3人も人数差があって、私たちに勝てるつもり?」

 

「宇宙人の手先って言ったわりに、こっちの心配してくれるのか」

 

「別に。負けた時、それを言い訳にされるのがイヤなだけだよ」

 

「……ふーん」

 

 

財前…だと総理と被るな。塔子って呼ぶか。

話しかけてきた塔子に、オレはそう答える。

まあ、オレがそう言ってる間にも、鬼道とかが監督に不信感を抱いてるようだけど。

 

 

「………なぜ、監督はこんな指示を」

 

「理由も無しにこんな指示は出さないだろうけど、それにしても…」

 

「あー……。鬼道、一之瀬。あの3人は…」

 

「こら!宇宙人の手先!喋ってないで、さっさとポジションついて!」

 

「……わ、悪い。あとで話す」

 

「あ、ああ……」

 

「……初対面なんだけど、あんなふうにされると、自然と体が動いちゃうよ」

 

 

一之瀬の言う通り、塔子の声が聞こえた途端、なんか勝手に体が動いたかのようになった。

SPフィクサーズのキャプテン務めてるってのも、納得ではあるんだけど……。

3人が怪我してること、言いそびれちゃったな。

 

 

「さあ!ここ奈良公園にて、雷門中学サッカー部対、SPフィクサーズとの試合が、まさに始まろうとしています!!」

 

「えっ、角馬くん!?」

 

「いつの間にいたんですか!?」

 

「……まさか貴方、その自転車で来たの…?」

 

「ここ、奈良県だよ……?」

 

 

ウソだろ。なんでお前がここにいんだよ、角馬。

東京からどれだけ距離あると思ってんだ。

もし本当に自転車でここまで来たんだとしたら、お前将棋部じゃなくて自転車部行った方がいいぞ。

それかサッカー部に来い。お前鍛えたら絶対いいとこまでいけるから。

 

 

「………よし。さっそく始めよう。宇宙人の手先じゃないって証明したいなら、私たちに勝つんだね!」

 

「おい、オレたちが宇宙人の手先になるなら、あの東京から奈良まで自転車で来たアイツも宇宙人の手先になるけど、いいのか」

 

「………それだけ聞いたら、だいぶ宇宙人の手先だと思うけど」

 

「よし。じゃあ勝てばいいんだな。8人でも絶対勝ってやる」

 

「墓穴掘ったからって無理やり誤魔化そうとしたな!?」

 

 

なんか塔子がやいのやいの言ってるけど、気にしないで行く。

8人のフォーメーションだけど、豪炎寺のワントップ、オレと鬼道、一之瀬のオフェンス。栗松と土門、そして目金のディフェンス。キーパーは円堂。

目金がディフェンスにいるのは、自己申告によってだった。

たしかに、ワントップとなるとオフェンスの負担も大きくなる。

オレたちの3人のうち誰かがディフェンスに行くよりは、目金が行ってくれたほうが攻めやすい。

 

 

「目金!そっちは任せたぞ!」

 

「は、はい!」

 

「よーし!人数が少なくても、全力で行くぞ!!」

 

『おお!!』

 

 

3人少ない分、やっぱり声の響きも違う…か。

オレたちからのキックオフで、試合は始まった。

豪炎寺が後ろに回したボールは、オレへと渡る。

 

 

「行かせないよ!ザ・タワー!!」

 

「ぐっ…!」

 

 

攻めようとしたオレに、塔子が立ち塞がった。

地面が光が漏れ出したと思ったら、突然タワーが生える。

頂上にいる塔子が雷を叩き落とし、オレは吹き飛ばされた。

 

 

「そうそう突破なんてさせないよ!」

 

「やるな…!」

 

「舞!」

 

 

塔子が前に送ったボールは、ミッドフィルダーの館野へと渡る。

……心の中とはいえ、年上を呼び捨てで呼ぶのも気が引けるけど、いつも通りでいこう。

 

 

「通させませんよ…!」

 

「極火!」

 

「ああ!」

 

 

突破はさせないと立ち塞がった目金。

久しぶりの試合とは言え、気合いは十分だったようで、そこはオレも嬉しかった。

ただ、そこへ同じくミッドフィルダーの極火が合流して……。

 

 

『あい!』

 

「えっ」

 

『き!』

 

「えっ」

 

『どう!』

 

「えっ、あっ、うわぁ!?」

 

 

………なんか、この、なんだろう。

館野と極火の2人が、突然シンクロした動きを見せたと思ったら、突然2人でソニックブームを打ち出して、目金を転ばせた。

言えることは、それ全然合気道じゃないだろってことしか言えないんだけど。

とにかく、なんかすごい珍妙なドリブルに、目金は抜かされた。

マジで災難だな、目金。

 

 

「加賀美!」

 

「いくわよ、木曽久」

 

「ああ!」

 

 

ボールを渡された加賀美が、ボールを打ち上げると、空中で4つの鍵でボールを固定する。

そのボールは回転し、周りの鍵を巻き込んでエネルギーを纏う。

そこへ木曽久が追いつき、かかと落としでボールを蹴る。

 

 

『セキュリティショット!!』

 

「風丸と壁山がいないから、あらかじめ準備はしてたさ…!マジン・ザ・ハンド!!」

 

 

円堂の言葉通り、2人がシュートを打つ前から準備してたことから、マジン・ザ・ハンドが間に合った。

ゴッドノウズを止めたマジン・ザ・ハンドは、そう簡単に破られはしない。

 

 

「行け!栗松!」

 

「はいでやんす!」

 

「やらせるか…!」

 

「たまのりピエロ!鬼道さん!」

 

 

ボールを渡された栗松は、ドリブル技で先手を突破。

それからすぐにボールは鬼道へと渡された。

 

 

「行くぞ!一之瀬!半田!」

 

「ああ!」

 

「任せて!」

 

 

オレたち3人となると、やることは1つだけだ。

初めてやった世宇子戦では、点を奪うことは出来なかったからな。

八つ当たりってワケじゃないけど、今度こそ決めさせてもらう。

 

 

「皇帝ペンギン!」

『2号!!』

 

「セーフティプロテクト!!」

 

 

相手のキーパーの鉄壁が、警察たちが使うライオットシールドを召喚し、皇帝ペンギン2号を止めようとする。

だけど、それぞれにペンギンが突き刺さり、止めることは叶わず、シールドごと吹き飛ばされる。

 

 

「……やっぱり。噂は間違いなかったね」

 

「決まったあああああ!!鬼道、一之瀬、半田の皇帝ペンギン2号が炸裂!雷門、初得点を奪い取った!!」

 

「……これぐらいは、やるようね」

 

「やったな、鬼道。一之瀬」

 

「うん。この前は、止められちゃったからね」

 

「ただ、やはり人数差は気にした方がいい。攻めるなとは言わんが、積極的に行くことは出来ないな。豪炎寺、負担は大きくなるが、このままワントップで行かせてもらうぞ」

 

「……………………」

 

「……豪炎寺?」

 

「………あ、ああ…。構わない」

 

 

………東京でキャラバンに乗る前から、豪炎寺の様子がおかしかったのに、オレは気付いていた。

他にも気付いてる人もいるだろうけど、やはり試合中も、色々と考えているようなことが多かった。

後から話を聞いただけなんだけど、この原因は、たしか………。

 

 

「……オレたちも攻めるときは攻めるからさ。その時は、シュートを打ってくれよな」

 

「………ああ」

 

 

……今のオレたちには、どうすることも出来ない。

それから、大きな苦戦をすること無く、試合は終わった。

その間に豪炎寺がファイアトルネードを打っていたけど、それはしっかり決まっていた。

この試合に限っては、大丈夫なようだった。

でも、問題はこの後……だよな。




あの距離チャリで来たのも化け物だし、車で来た円堂たちにわりとすぐ追い付いてるのが一番化け物です。


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新たな仲間

しばらくはザ・タワーで大体止められるから強かった女の子。


試合が終わり、オレたちは奈良公園を後にした。

その前に、オレたちに仲間が増えたことを説明しないとな。

 

 

「しかし、本当に着いてきてよかったのか?総理の娘が全国行脚って、そう簡単には無理だろ」

 

「私自身は普通の女の子だから、気にすることないって言ったじゃん。それに、パパを探さなきゃいけないんだから」

 

「……さっきも言ったけど、止めはしないけどさ」

 

「と言うより、こっちも本当に良かったの?って聴きたいんだけど。雷門中サッカー部だって知ってたのに、宇宙人の手先扱いしたこと」

 

「さっき円堂が言ってただろ。オレたちも同じ気持ちだよ」

 

 

この通り、塔子が仲間になった。

着いてきてくれるというのは、正直助かる。

ポジションで言ったらミッドフィルダーなんだけど、あのザ・タワーは強力なディフェンス技だった。

人数を削がれたオレたちにとって、渡りに船みたいなものだ。

………と言うか、それより…。

 

 

「…………で、そこの3人はいつまで端っこにいるんだよ。もっとこっち来ていいって言ってるだろ」

 

「え、えーっと……」

 

「そ、そのー……」

 

「……………お、おう」

 

「だから、さっきからなんだよ。その反応」

 

「…………………」

 

 

 

 

 

『監督!なんでオレたちが出てはいけないんですか!?』

 

『今は有利っすけど、やっぱ8人はキツいっすよ!』

 

『オレたち出せば11人だろ!早く出してくれ!!』

 

『………まーだ抗議してんのか、お前ら』

 

『だって!納得出来ないっす!』

 

『……あのな。染岡、風丸、壁山』

 

『ああ!?なんだよ、半…田……』

 

『まだそれ続けるなら、オレ本気で怒るからな^^』

 

『えっ、は、半田……?』

 

『マジだからな。本気で怒るからな^^』

 

『………えっ、えっと……』

 

『^^』

 

『…………お、おう……』

 

 

 

 

 

「い、いや、なんでもねぇぜ。半田」

 

「そ、そうっす!ちゃんと治療してもらったから、大丈夫っすよ!」

 

「だ、だから、しばらくはちょっとここいるよ。いや、いさせてくれ、頼む」

 

「答えになってないと思うんだけど」

 

「あ、あはは……」

 

 

まあ、本人たちが言う通り、あれからちゃんと治療してもらってたから、もう大丈夫ってのは本当だ。

全く。状況的に無理したくなる気持ちは分かるけど、こんなところでまた退場者とか出たら目も当てられないんだからな。

説教はしないで済んだけど。

 

 

「よーし、目的地に着いたぞ!」

 

「………ここが奈良シカTV局」

 

「ここにアイツらがいるってことだよな」

 

 

オレたちが試合を終えた後、突然奈良公園のビジョンにレーゼたちが映し出された。

スミスさんによると、あの映像は日本全国に向けて発信されていたらしく、ここがあの映像の発信源らしい。

そんな偶然があるのかと、一瞬思ったけど……。

 

 

「………………」

 

「………豪炎寺。大丈夫か?顔色が優れないけど」

 

「……体調が悪いワケじゃない。気にしないでくれ」

 

「……そうか」

 

 

………そういうこと、なんだろう。

豪炎寺。オレから何か言うことは出来ないけど……。

とにかく、オレたちは進まなきゃいけない。

これから、何が起きようと。

 

 

「SPフィクサーズだ!ここを通して!」

 

「え、SPフィクサーズと言うと…。財前総理の……?」

 

「さっきの映像は、ここから発信されたってのは掴んでる!ハッキングされたってのも察してるから、すぐに通して!」

 

「わ、分かりました…!ですが、そちらは…」

 

「協力者たち!さっさと開けて!」

 

「は、はい!」

 

 

塔子やSPフィクサーズと同行してたから、すぐに入ることが出来た。

たしか、前回の時はこんなスムーズには行かなかったとか言ってたよな。

だから奈良県最強って言われてる選手をスカウトしたとか……。

 

 

「どこかのスタジオを占拠してたんだとしたら、すぐに話が広がるはずだ」

 

「それに、さっきの映像、後ろにフェンスが見えたよね」

 

「と、なると……」

 

 

鬼道と一之瀬が言ったことを基に、アイツらがいる場所を特定する。

たしかに、アイツらの後ろにはフェンスが見えていた。

となると、ほぼ屋上ってことになるな。

 

 

「すみません!荷物用のエレベーターって、屋上に繋がってますか!?」

 

「えっ?は、はい……。繋がってますよ。あちらの奥、角を曲がった先にありますが……」

 

「どうも…!よし、みんな!こっち行くぞ!」

 

「なんでだよ半田。エレベーターならそこに……」

 

「オレたちの人数考えろ!普通のエレベーターなんて使ってたら、何往復すればいい!」

 

「そ、そうか……」

 

「大谷たちはそれに乗ってくれ!瞳子監督、4人を頼みます!」

 

「……ええ」

 

「先に着いても、少し待っててくださいよ!」

 

 

そう言い残して、オレたちは荷物用エレベーターの方へと走る。

案内表示を見れば、受付の人に聞いた通り、この角の先に……。

 

 

「うわっ……!」

 

「あっ、す、すみません!急いでて……」

 

「き、気を付けてくれよ……」

 

「ああ…。本当にすみ……」

 

 

曲がり角の先で人にぶつかってしまい、もう一度謝ろうとして、改めて目の前の人の顔を見る。

あれ、前回の時に見たような顔が目の前にいるんだけど。

 

 

「………あの、さ。キミの名前って、中谷だったりしない?」

 

「えっ…?そ、そうだよ……。この辺りじゃ見ないジャージなのに、ボクのこと知ってるんだね…」

 

「中谷……?奈良で中谷となると、中谷真之か……?」

 

「き、鬼道有人……!?って、キミたち、よく見たら雷門イレブン!?ど、どうしてこんなところに……」

 

「鬼道。中谷って?」

 

「奈良県最強と呼ばれるサッカープレイヤー、中谷真之。所属校も所属チームも不明だが、その噂が一人歩きしている。実力は本物なのは、オレも知っているがな」

 

「そ、そうなのか!?奈良県最強って、お前すごいな!」

 

「に、日本一になったチームのキャプテンに褒められた…。へへ…」

 

「しかし、半田はよく知っていたな」

 

「あ、あー……。前にニュース番組で、見たことあってさ」

 

「ふむ。たしかに、何度かテレビに出ていたな。今回も、その関係だろうが……」

 

「………………」

 

 

よし、決めた。

 

 

「……頼む!オレたちと一緒に着いてきてくれないか!?」

 

「え、ええ!?なに、急に!?」

 

「お前の力が必要なんだ!頼む!」

 

「おい、半田。そんなこと急に言われても困るだけ…」

 

「ボ、ボクの力が必要…?よ、よし!このボクに任せとけ!」

 

「マジかよこいつ」

 

 

よし。また1人仲間を増やすことが出来た。

鬼道も言った通り、実力は本物なのは、前回の時にオレも聞いた。

頼りにさせてもらうぞ、中谷。

 

 

「よろしくな、中谷!オレ円堂守!」

 

「し、知ってるよ……」

 

「自己紹介はあとだ、円堂。はやくエレベーターに乗るぞ」

 

「……………………」

 

 

………豪炎寺、オレは見逃さなかったぞ。

お前、いま中谷が仲間になったのを見て、ちょっと安心しただろ。

たしかに、オレはほぼ無理やり中谷を仲間にしたけど、決して代わりを求めてってワケじゃないんだからな。

これが全部終わったら、お前にも説教だぞ、豪炎寺。

 

 

 

 

 

「見つけたぞ、エイリア学園!」

 

「ほう。まさかそこまでとは思わなかったぞ。以前の大敗を経ても尚のこのこ来る愚か者の集まりとはな」

 

「何とでも言え!財前総理を返してもらうぞ…!」

 

「ああ!絶対にお前たちを倒して、パパを取り返す!」

 

「は、話の流れは聞かせてもらった…!ボクも、本気でやらせてもらう…!」

 

「…………総理の娘と、奈良県最強プレイヤー、か。いいだろう。己の無力さを思い知るがいい」

 

 

二度目のジェミニストームとの戦いが、始まろうとしていた。




新たな仲間が塔子だけとは一言も言っとらんぜよ。
急に言われてもすぐに仲間になったのはゲーム準拠。


^^のとき、染岡たちにはなんか半田の背後からオーラが見えたらしいです。
なお、その時のことについて、未来の染岡たちは
「錦の化身みたいな影が一瞬見えた」
と語るとか語らないとか。
別にこれは伏線でも何でもないです(作者感


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黒いサッカーボール

筆者「あれ、円堂時代のジェミニ戦のBGM名なんだっけ。調べよ」
Yah◯◯!「ジェミニストームとの死闘だよ」
筆者「ちげぇよそっちじゃねえよ」
G◯◯gle「ジェミニストームとの死闘だべ」
筆者「だからそっちじゃねぇんだっての」
Y◯utube「ジェミニストームとの死闘ですわよ」
筆者「お前ら鉄骨落とすぞ」

DS引っ張りだして調べました。お前しか勝たん。


なんか投稿時間1時間ずれてますけどミスです。ミス。


奈良シカTVの屋上で、2度目のジェミニストームとの戦いが始まる。

相手は既にポジションについているが、オレたちの準備を待っているらしい。

 

 

「はい、中谷くん。ユニフォームだよ」

 

「こ、これが雷門のユニフォーム……」

 

「中谷くんのポジションはミッドフィルダー。風丸くんと壁山くんが復帰できるから、中盤を強固にするわ」

 

「は、はい……!」

 

「んで、オレも出れるからいつものツートップだ。豪炎寺!今度こそ点取りにいくぞ!」

 

「…………………」

 

「………?おい、豪炎寺。聞いてるかよ」

 

「……あ、ああ…。分かってる」

 

「大丈夫かよ、らしくねえな。調子悪いならベンチいくか?半田とツートップで、目金も入れるし」

 

「いや、大丈夫だ。心配かけて、すまない」

 

「…………………」

 

 

………お前の事情を知ってるのは、オレだけ。

いや、瞳子監督も知ってるのか?前回、円堂がそう言ってた気がする。

事情を知ってるとは言え、オレが出来ることは、何もない。

だから、この試合も、負けるのだろう。

 

 

「今度こそ勝つぞ!みんな!!」

 

『おお!!』

 

 

……でも、やることは変わらない。

サッカーでしかコイツらを止められないなら、するしかない。

たとえ、いまは敵わないと分かっていても。

 

 

「"今度こそ"と言ったか。この短時間で、我らに追いつくとでも思うか?」

 

「うるせえ!この前みたいに行くと思うんじゃねえ…!!」

 

「地球にはこんな言葉がある。"弱い犬程よく吠える"。自分の実力を見誤った者に、出来ることは何もない」

 

 

ボールを持ったレーゼにスライディングをしかける染岡だが、簡単に突破されてしまう。

 

 

「ここは通させない……!!」

 

「アンタたちの好きになんか……!」

 

「……奈良県最強プレイヤーと、総理の娘か。穴埋めにしては上々だろうが、星の使徒である我々に敵いはしない」

 

「う、うそ…!?」

 

「な、なんて速さだよ…!!」

 

「地球人が、我々のスピードに着いて来れるとでも思ったか?」

 

 

それを止めるべく立ちはだかった中谷だったが、この前のオレの時のように、その圧倒的なスピードで振り切られる。

 

 

「丁度いい機会だ。2度も我々に挑んだ貴様らに、正式な名で名乗ってやる。我らは遠き星、エイリアより来たエイリア学園。チームとしての名は、ジェミニストーム」

 

「シュートを決めさせは…!」

 

「くっ…!マジン・ザ・ハンドじゃ間に合わない…!ゴッドハンドで…」

 

 

ゴール前まで来たレーゼを前に、スピニングカット、ゴッドハンドの準備をする風丸と円堂。

ザ・ウォールが間に合わない壁山と、マジン・ザ・ハンドを使う猶予も無いという考えは、オレたちも感じていたことだった。

 

 

「遅い」

 

 

だが、レーゼはそれすら、させることはなかった。

 

 

「………えっ?」

 

「見え…なかった………」

 

「当然だ。ジェミニストームの名が、飾りだけのものだと思ったか?」

 

 

傘美野中での試合の時のように、レーゼが打ったシュートは、オレたちがシュートを打ったと認識する前に、ボールが動き出した。

そんなものに反応出来るはずは、無かった。

 

 

「………世宇子ですら、シュートを打とうとする動きは分かった。だが、コイツらは……!!」

 

「西垣の試合も見たし、話も聞いた………。でも、こうして実際に戦って、嫌でも分かる……」

 

「……とんだバケモノだな、こりゃ……」

 

 

相手の桁外れの実力を再確認した鬼道。

そして、一之瀬と土門も、その差を同じフィールドで見ることになった。

 

 

「………せめて、反応ぐらいは出来ないと、話にならない…!この試合で、掴んで見せなきゃ…!!」

 

「実力の差を見せつけても、それでも立ち向かうと言うか」

 

「当たり前だ…!お前たちを止めるには、サッカーしかないのなら、オレたちがやらなくて、誰がやるって言うんだ!!」

 

「……仲間が倒れ行くとこを見ても、その反応ということから、薄々は感じていたが…。お前たちの愚かさは、底抜けなようだな」

 

「………………」

 

「いいだろう。前回のように、叩きのめすようなことはしないでおこう。身体に刻み込むより、心に刻み込めば、諦めも付くだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

"叩きのめすようなことはしない"

そのレーゼの言葉の通り、ジェミニストームは、傘美野の時と違い、オレたちを徹底的に痛め付けるようなことはしなかった。

だがオレたちは、その後の"身体に刻み込むより、心に刻み込む"という言葉の意味を、思い知ることになった。

 

 

「…………あの最初の得点から、さらに30点……か」

 

 

前半が終わり、オレたちは仮設のベンチへと集まっている。

中谷の言った通り、得点板にあったのは、0対31という圧倒的なスコアだった。

傘美野の時の前後半通してのスコアが、0対20だった。

その時のスコアですら、前半だけで大きく上回られた現実に、オレたちは打ちのめされた。

分かっては、いた。ついこの前の試合で、あれだったんだから。

だけど、こうしてその現実を見せられると、来るものはあった。

 

 

「………キミたち、アイツらと戦うの、これで2回目なんだよね」

 

「……………巻き込んで、悪かった。中谷」

 

「い、いや…。文句を言いたいワケじゃ、ないんだ。たしかに、巻き込んだのは、キミだけど…さ。誘いに乗ったのは、ボク自身だから」

 

「そう言ってくれる、のか。でも、この試合は……」

 

「う、うん……。分かってる。この試合には、勝てない。入ったばかりのボクが言うのも、おかしなことだけど……」

 

「……………」

 

「……でも、この想いを、キミたちは一度感じてる。なのに、また立ち向かうことが出来たんだ」

 

「……仲間や色んな人に託されて、決めたんだ。オレたちが、エイリア学園を止めるって」

 

 

円堂がオレの代わりに、そう言ってくれた。

オレは、絶対にダークエンペラーズにはならないし、ならせないということと、前回脱落したことから、今回はそうはならないという、意地なようなところが大きかった。

でも、オレにも円堂が言った通り、託されたことはあった。

 

 

『敵討ち、任せたからね』

 

 

マックスに、そう言われたから。

 

 

「………傷だらけでも折れない、雑草魂、か」

 

「えっ……?」

 

「たしかに、この試合には、勝てないかもしれない。でも、キミたちが諦めないなら、ボクも諦めない。チームに入れてもらったんだ。最後まで、着いていくよ」

 

「中谷……」

 

「………あっ、ご、ごめん…!こんな、ポッと出な男なのに、偉そうなこと言って……」

 

 

そう言った中谷は、出会った時のように、どもった口調に戻った。

でも、さっきまでの中谷の目は、たしかな強さを感じた。

……オレは前回、中谷と関わることは、ほぼ無かった。

こうして一緒に試合をすることも無かったけど、今ならよく分かる。

たしかにこの男も、地上最強イレブンの1人なんだと。

 

 

「……そんなことはない。無理矢理だったけど、誘って良かった」

 

「ああ!そう言ってくれて嬉しかったぜ、中谷!」

 

「この試合には勝てないかもしれない……。でも、少しでも、次に繋がるようなことにすればいい……。そうだよね、みんな」

 

「そうだ、一之瀬。あの圧倒的なスピードに慣れるのは、この試合中には無理だ。だが、少しでも、ほんの少しでも、アイツらの動きを見極める。この試合において、それが目的になる」

 

「……パパをすぐに助けることは出来ないのは、すごく悔しいけど…。私は絶対に諦めない。絶対に、パパを助ける!」

 

「……………………」

 

「豪炎寺。この前は効かなかったが、もう一度シュート打ってみねえか?キーパーの動きも見れるしな」

 

「……………」

 

「………?おい、豪炎寺!聞いてるか!?」

 

「あ、ああ……。聞いている。イナズマブレイクであれだったが、本命でないなら、ドラゴントルネードで様子も見れる、か」

 

 

声をかけてきた染岡に、そう返す豪炎寺。

話を聞いていたのは、事実だったようだけど、その反応は優れなかった。

 

 

「………待ってはみたが、本当に後半戦までやるのか?このスコアを見て、まだ折れないと言うのか?」

 

「最初に言っただろ!オレたちは絶対に諦めないって!」

 

「………………………そうか」

 

 

オレたちのボールで、後半戦が始まる。

染岡と豪炎寺がボールを運ぶが、ジェミニストームたちの動きは無い。

 

 

「得点を奪われることを知ったのなら、得点を得られないことも、その身に刻むと良い」

 

「この前と同じようなことを言いやがって……!!」

 

「地球にはこんな言葉がある。"論より証拠"。だが、以前はお前たちの最大のシュートも効かなかったのだったな?ならば、"馬の耳に念仏"……か」

 

「バカにしやがって……!いくぞ!豪炎寺!」

 

「………ああ…!」

 

 

染岡の後ろに豪炎寺が控え、シュートの準備をする。

 

 

「ドラゴン…!」

 

 

染岡が打ち上げたドラゴンクラッシュに、豪炎寺がファイアトルネードを発動させながら追いかける。

 

 

「……!!」

 

 

ドラゴントルネードを決めようとした豪炎寺が、目を見開いた。

ゴールの後ろの方に、何かを見つけたようだったが、それが何かまでは、オレには分からなかった。

 

 

「…………なんだぁ?」

 

 

ジェミニストームのキーパー、ゴルレオが発したのは、飽きれの一言だった。

簡単に止めるならまだしも、ゴールの枠すら捉えなかったシュートを見ての言葉は、みんなに衝撃を与えた。

 

 

「豪炎寺が、シュートを外した……?」

 

「………豪炎寺、本当に大丈夫か?」

 

「………すま、ない」

 

「ドンマイドンマイ!次こそ決めてこう!!」

 

 

その後、ジェミニストームのボールから試合は再開された。

だがそれからすぐ、ディアムがオレへとボールを渡してきた。

 

 

「……どういうつもりだ。またオレにシュートを打てって言いたいのかよ?」

 

「近くにいたのが貴様というだけだ。シュートを打つのは誰だっていい。結果は変わらないのだからな」

 

「………」

 

「半田!オレに回してくれ!炎の風見鶏で…!!」

 

「……ああ。頼んだ!」

 

 

風丸へボールを渡し、そこへ豪炎寺も合流する。

ボールを打ち上げるまでは、いつも通りに上手くいった。

 

 

「……くっ……!!」

 

 

だが、また豪炎寺は、何かを見つけてしまったようだった。

2人が打った炎の風見鶏は、ドラゴントルネードのように、あらぬ方向へと向かう。

そして、ちゃんと着地した風丸に対し、豪炎寺は体制を崩し、背中から地面に墜落してしまった。

 

 

「ご、豪炎寺!!大丈夫か!?」

 

「だ、大丈夫……だ………」

 

「どうしたんだよ豪炎寺…!いつものお前らしくねえぞ!!」

 

「豪炎寺さん……。何かあったんでしょうか……?」

 

「シュートを止められるならともかく、あそこまでシュートコースが外れるようなことは無かったわ。どうしたのかしら……」

 

「体調が悪いようには見えないけど……。いつもの豪炎寺くんらしくないってことは、私たちも分かるかも…」

 

「…………うん。エイリア学園より、そっちの方が気になっちゃう……かな」

 

 

2度の豪炎寺のシュートミスに、みんなは動揺を隠せない。

……豪炎寺が脅されていたってことは、前回に聞いた。

だけど、ここまでは聞いては、いなかったな……。

 

 

「………頃合いか。喜べ、地球人。諦めの悪い貴様らに、1つだけプレゼントをしてやろう」

 

「プレゼントだって……?」

 

「これを見て、絶望するがいい。貴様たちが見たがっていた、我々の必殺技だ…!」

 

「……!円堂!!」

 

 

ボールを持ったレーゼが、何やら準備をしていた。

それを見たオレは、円堂へ向けて声を上げて、走り出す。

 

 

「あの体勢、アイツがやってくるのはシュート技…。なら…!」

 

 

レーゼがボールを回転させると、そこへ壮絶なエネルギーが集まってくる。

あれが、エイリア学園の必殺技か…!

 

 

「これを受けて、その心ごと砕かれるがいい!アストロブレイク!!」

 

 

そのままボールを蹴ると、地面を抉りながらゴールへと突き進む。

一方で、円堂はマジン・ザ・ハンドの準備が出来たようだった。

 

 

「受けてやる……!マジン・ザ・ハンド!!」

 

 

黄色い魔神の右手と、レーゼのアストロブレイクが激突する。

だが、その拮抗は一瞬だった。

 

 

「うわあっ!!?」

 

「円堂!!」

 

 

急いでゴール前まで戻ってきたオレが、本当にギリギリで間に合った。

マジン・ザ・ハンドを破ったアストロブレイクが、円堂に当たる直前、オレごと円堂の身体を地面に伏せた。

最悪の事態は防ぐことは出来た、が……。

 

 

「……マジ、かよ…」

 

「ゴ、ゴールが……」

 

 

顔を上げたオレと円堂の目の前に広がっていたのは、ネットを突き破られ、半壊したゴールと、抉られた後ろの地面だった。

 

 

「これを見ても、まだ立ち上がるというのなら、その時は本気で叩き潰すだけだ。この言葉、忘れるな」

 

 

その言葉を残して、ジェミニストームは姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大丈夫か?円堂」

 

「……あっ、ああ…。お前が駆け付けてくれたおかげだ。ありがとな」

 

「アイツのシュート、この状況を見れば分かることだけど、凄まじいものだったね…」

 

「すごいシュートだったけど、一度ぶつかって、何かを掴めたような気がするんだ。あの試合は、無駄にはさせない……!!」

 

「あのわずかな間だったが、他の選手の動きも少しは確認出来た。あとはあのスピードに追い付けるかどうかだが……」

 

「……それより豪炎寺。やっぱり調子悪かったんじゃねえか。しばらく休んだ方がいいだろ」

 

「………………」

 

「……おい、豪炎寺?」

 

「そのことですが、豪炎寺くん」

 

 

そこへ瞳子監督がやって来る。

…………やっぱり、こうなる…か。

 

 

「貴方には、雷門イレブンから去ってもらいます」

 

「…………えっ?」

 

「な、なんでですか監督!2回もシュートを外したからですか!?」

 

「たしかに豪炎寺らしくはなかったけど、それぐらいで……!!」

 

「私の使命は、地上最強のチームを結成させること。そのチームに、今の貴方は相応しくありません」

 

「あ、あんまりでやんすよ!!」

 

「アンタ、勝手なことを……!!」

 

「………分かりました。短い間ですが、お世話になりました。瞳子監督」

 

「ご、豪炎寺さん………!?」

 

 

そう言って、豪炎寺はその場を去って行った。

 

 

「………円堂。行くぞ」

 

「ああ……!!待てって、豪炎寺!!」

 

 

いまオレたちは、テレビ局から公園まで移動したところだった。

アイツが行ったのは、シカの巨像の方だ。

 

 

「豪炎寺!」

 

「…………円堂、半田」

 

 

シカの巨像の前に、豪炎寺はいた。

そこへオレと円堂が追い付き、円堂が声をかける。

 

 

「たしかに、あの失敗はお前らしくなかった。でも、一度や二度の失敗がなんだよ!誰にだって、調子が悪い時はあるだろ!オレだったら、いくらでも特訓に付き合うぞ!」

 

「……………」

 

「初めての帝国との試合の時、お前はピンチだった雷門中サッカー部を勝利に導いてくれた!あの時、オレは感じたんだ!お前となら、すっげー楽しいサッカーが出来るって!きっと、どんな相手だろうと、お前やみんながいてくれたら、絶対に勝てるって!」

 

「…………言いたいことは、それだけか。円堂」

 

「………悔しくないのかよ!?アイツらに負けたままで…!学校めちゃくちゃにされて、仲間をあんな目にあわされて!一緒に誓っただろ!?伝説のイナズマイレブンになるって……!!」

 

「……伝説の、イナズマイレブン」

 

「豪炎寺!オレたちのサッカーは、まだ終わってないだろ!?まだまだこれからじゃないか!!」

 

「…………悪いが、これ以上は付き合えない」

 

 

その豪炎寺の態度を見た時、オレの中で、何かが燃え始めた。

 

 

「何を言っても変わらない。オレはチームを抜ける」

 

「……!豪炎寺!!」

 

「監督の言う通りだ。今のオレは、お前たちの足手纏いにしかならない…」

 

「………………足手纏いだなんて、思ってない」

 

「……半田?」

 

「でも、お前がそうまでして、チームを抜けることを選んだなら、オレから言えることは、何もない」

 

「半田まで…!何言ってるんだよ!?」

 

「だけど、瞳子監督や、今もお前は言った。"今の"豪炎寺は、チームにいることは出来ないって。事情があったんだとしても、聞かない。あの時何も言わないで、素直に従ったのはそういうことなんだろ」

 

「………………」

 

「………でも、これだけは言わせろ」

 

「………!?」

 

「お、おい!半田!?」

 

 

気づけば、オレは豪炎寺の胸ぐらを掴んでいた。

円堂が止めようとするが、今のオレの中に宿った火は、止めることは出来ない。

 

 

「中谷が仲間になった時や、さっきの試合のハーフタイム中に、オレたちが諦めてなかったのを見て、お前は安心してたよな。オレがいなくても、雷門中は大丈夫だって」

 

「ぐっ……」

 

「………さっき言ったけど、今のお前の事情なんて、オレは知らない。言えないことなんだろうってのは、察してるけど。これだけは言わせろ」

 

「…………」

 

「雷門中サッカー部に、お前の居場所が無くなるなんてことはない。伝説のイナズマイレブンになるって誓ったこと。そして、世界一になるって誓ったこと。それに背を向けることは、許さない」

 

「……………」

 

「………だから、絶対に帰って来い。お前が帰って来るまで、オレが雷門中サッカー部を支える。潰れそうになるかもしれないけど、オレは信じてる。そうなる前に、お前は帰って来るって」

 

「…………半田、お前……」

 

 

………そう言って、オレは豪炎寺を放した。

今言うつもりは、無かった。

たしかに、豪炎寺が帰ってきてから、説教しようとは思った。

だけど、事情があるとはいえ、円堂や染岡と一緒に誓ったあの約束に、背を向けようとしたのは、許せなかった。

例え、その誓いを忘れていたワケではなかったとしても、だ。

 

 

「………世界一になるんだ。宇宙人ぐらい倒せなきゃ、その夢は掴めない。だから、オレたちも強くなる。だから、お前も強くなるはずだ。豪炎寺」

 

「……………すまない。円堂、半田」

 

 

そう言って、豪炎寺は去って行く。

……言い過ぎたとは、思う。

帰って来るって分かってるなら、あそこまで言うことはなかった。

 

 

「………また会おうぜ、豪炎寺」

 

「……ああ!絶対、待ってるからな!!」

 

 

だから、お前が帰った時に謝るさ。

お前が帰って来た時にやることが、説教から謝罪になるとは思わなかったけどな。

 

 

「…………このこと、内緒にしようか。夏未さん、つくしちゃん」

 

「………そう、ね」

 

「……半田、くん……」




気づいたらめちゃくちゃ長くなってました。
あばよ豪炎寺。沖縄で待ってろこの野郎。





第二次雰囲気崩壊警報発令
※前回よりは損傷軽微な様子









「………待ってはみたが、本当に後半戦までやるのか?このスコアを見て、まだ折れないと言うのか?」

「最初に言っただろ!オレたちは絶対に諦めないって!」

「………………(そりゃあ、フットボールフロンティアの試合映像だってオレたちも見たから、雷門中の諦めの悪さは知ってるけどさ。仮にオレたちを倒したとして、佐木沼さんやヒロトとかのチームの存在知ったり、豪炎寺のこともあると思うんだけど、その時どうするんだろ)………そうか」


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温泉パニック

実際アレ、最初「総理、娘にどんな教育してんだ」とは思いました。


新情報が色々公開されましたね。
そんで今更ですけど、以前に公開された大集合イラストについて一言。
「お前、栗松に押されてんのか、大野に押されてんのかどっちだ」


豪炎寺がチームを去り、オレたちは奈良を後にした。

豪炎寺がチームを去ったことに対して、大荒れになることをオレは覚悟していたが……。

 

 

『納得はしてねえが、お前と円堂が見送ったんだろ?なら、アイツは絶対に帰ってくる。それまでに、力を付けとかないとな』

 

 

染岡の言葉と、みんな同意見なようだった。

豪炎寺を追い出した瞳子監督に、不満が無いワケではない。

ただ、オレと円堂が戻って来た時の顔を見て、少しでも豪炎寺と会話をしたことが、みんなにも分かっていたようだった。

染岡の言葉に、オレと円堂がしっかり同意したことも、大きかったようだけどさ。

 

 

「………」

 

「……?どうした、大谷。複雑そうな顔してるけど」

 

「えっ…と……。う、ううん。なんでも…」

 

「もの凄く歯切れ悪いんだけど、本当に大丈夫か…?」

 

「………………」

 

 

『お前が戻ってくるまで、オレが雷門中サッカー部を支える。潰れそうになるかもしれないけど……』

 

『………このこと、内緒にしようか』

 

 

「………うん。なんでもないよ」

 

「そうか……?なら、いいんだけど」

 

 

明らかに何かを隠してそうな大谷だけど、これ以上は何も言わなそうだしな……。

というか、大谷だけじゃなくて、音無以外のマネージャー3人がなにか隠してそうな顔してるんだよな。

豪炎寺のことを気にしてるなら、音無も同じような顔をしそうな気もするんだけど…。

 

 

「……しかし、北海道か」

 

「まさか、初めて北海道に行くのがお前らとは思わなかったな」

 

「多分だけど、そんなこと言ってられないんじゃないか?全国を回るんだから、オレたちと一緒に色んなとこ行くことになるぜ」

 

「オレは別に気にしねえけど…。まあ、ゆっくり行きたければ、出直せばいいしな。これが終わって落ち着いたら、どっか行こうぜ」

 

「いいなそれ!未来の予約しとくか!」

 

「ずいぶん先の話するな……」

 

「サッカー部が完成しきってない頃に世界一目指すとか言ったお前に言われたくねえよ」

 

「うっ…」

 

 

染岡に痛いとこを突かれたな……。

いや、何度でも言うけど、あれは仕方ないだろ。

まさか、中学の頃に戻って来る事になるとは思わなかったんだから。

今思うと、あれってやる気が爆発したのもあるけど、無意識に後の不安を誤魔化そうとしてたのもあるのかな…。

まあ、それはどうでもよくてさ。

今オレたちは、響木さんの連絡を受けた瞳子監督の声によって、北海道へと向かっている。

ストライカーをスカウトしろ、って…。

吹雪のこと、だよな。

 

 

「雷門のエースストライカーは、豪炎寺だ。アイツの席は、そう簡単には埋められねえ」

 

「いや、お前も点取り屋だろ。染岡」

 

「………お、おう」

 

「まあ、今は中谷もいるし、その北海道のストライカーってのも、実力は確かなんだろうさ。鬼道は心当たりってあるか?北海道のストライカーって言われて」

 

「………すまないが、すぐには思い付かないな」

 

「そっか…。中谷は?」

 

「ボ、ボクに聞かないでよ……。ボクの選手知識って、キミたちとそう変わらないはずだし……」

 

「名前は響木さんが教えてくれました。吹雪士郎、だそうです」

 

「………尚のこと、心当たりは無いな」

 

「色々と噂は多いようですよ」

 

「そうなの?どんなのがあるのかしら」

 

 

そういや、アイツの色々な噂って、聞いたことなかったな。

噂があるってのは知ってたけど、どんなのなんだろ。

 

 

「まず、ブリザードの吹雪の異名を持つ」

 

「豪炎寺の、炎のエースストライカーみたいなもんか」

 

「次に、1試合で10点を1人で叩き出した」

 

「それは凄い……。けど、帝国とかでもありませんでした?」

 

「まあ、佐久間や寺門がよくやっていたな」

 

「あんま珍しくはねえな……」

 

 

………なんかすごく感覚がバグってるような気もするけど、オレも同意見だから気にしないでおくか。

 

 

「しかし、それが本当なら大会の記録にも残るはずだ」

 

「そ、それに…。ボクみたいにインタビューとかあるはずだよね……」

 

「火のないとこに煙は立たないって言うし、謎は深まるね」

 

「それと、熊殺しの吹雪」

 

「………は?」

 

「熊よりでかい、とかも言われてますね…」

 

「………春奈。その噂、どこで言われているものだ」

 

「インターネット」

 

「尚のこと信用ならんな……」

 

「まあ、いくらネットの噂でも、どれかは本当なんじゃないか?」

 

「じゃ、じゃあ熊殺しの吹雪が本当なんすか!?」

 

「熊よりもでかいでやんすよ!!」

 

「よりによってそっち信じる?」

 

 

そんなことを話してる間、財前総理が発見されたとの報告が入った。

ちょうど奈良から離れ始めたことと、塔子の気持ちを察して、一度総理が発見された国会議事堂のある東京に寄ってから、北海道へと行く事になった。

初めて総理と直接会ったけど、いい人だってのは、画面越しで見た時からの印象と変わらなかったな。

 

 

 

 

「北海道までは、まだまだ時間がかかるわ。ここでお風呂に入ってちょうだい」

 

 

しばらく移動したけど、ここはどの辺なんだろ。分かんないな。

キャラバンに乗りっぱなしで鈍った身体を叩き直すために、トレーニングをして、その後に夕飯も済ませた。

マネージャーたちが飯盒でご飯を炊いてたけど、小学生の頃の移動教室ぶりって言ってたわりには、ちゃんとしてな。

その後、立ち寄り温泉施設があったみたいで、そこに寄ってる。

男女で着替え場所が分かれてるのを確認して、あと注意書きを……。

 

 

「ん…?水着着用?」

 

「なんでだろうね?まあ、偶然持って来てるけど」

 

 

一之瀬が言った通り、偶然オレたちは水着も持って来てるから、大丈夫ではあるんだけど……。

いや、なんでわざわざ水着着用って書いてあるんだ?

 

 

「んじゃあ、さっさと着替えて入ろうぜ」

 

「秘湯ってヤツだな」

 

「もう汗だくだよ」

 

 

あの一文がずっと気になってるけど、みんなも着替えてるし、オレもそうしなきゃな。

えーっと、先に水着出しといて……。それから上脱いで…。

 

 

「円堂!一緒に入ろうぜ!!」

 

 

……………………………………?

 

 

『う、うわあああああああああああ!!?』

 

 

この悲鳴の中に、もちろんオレも入ってる。

というか、円堂と鬼道以外の声だな。

オレって外見中学生でも、中身20半ばってか折り返しの男なのに、めちゃくちゃに悲鳴挙げてしまった……。

 

 

「と、塔子!お前ちょっとは考えろよ!!」

 

「えっ?なにが?」

 

「その反応マジでやってるのかよ?ここ男子の着替え場所なんだけど!なんで突っ込んで来たんだよ!!」

 

「言いながら開けただろ!一緒に入ろうって!」

 

「一緒に入ろうってどういう意味か分かってんのか!?」

 

「えっ?だってここ、水着着用の混浴なんでしょ?」

 

「………………………」

 

 

………ああ、なるほど。なら、いいのか。

いや、よくねえよ。流されるな、半田真一。

 

 

「………だとしても、着替え場所開けるのは違うだろ」

 

「えっ?なんで…」

 

「と、塔子さん!こっち戻って!こっち!」

 

「うわぁ!?つ、つくし!何するんだ…」

 

 

…………なんか、一気に疲れたな……。

 

 

「……いや、たしかに。小学生の頃までは、男女で分かれないで水着に着替えてたけどさ……」

 

「なんで分かれたあとの中学生になって、わざわざ突っ込んで来たんだよアイツ……」

 

「水着に着替えてるって認識だとしても、おかしいでやんすよ…」

 

「というかここ、そうだったんすね…。水着着用って書いてあった別のとこに、そう書いてあったっす…」

 

「………着替え終わったら、さっさと行くぞ。この気まずい雰囲気を無くすには、温泉に浸かるしかない」

 

 

鬼道がなんとか軌道修正して…しきれてるかコレ?

まあ、鬼道の意見にみんな同意して、さっさと着替えて、奥へと進んだけど。

 

 

「ちゃんといい景色で、いい湯だな」

 

「な。さっきのことも流せそうでよかったぜ」

 

「さっきのことってなに?」

 

「塔子がそれ聞く?」

 

 

山の中にあるからか、やっぱり景色はよかった。

しかし、なんでオレたち水着なんて持ってたんだろな。

オレの場合、母さんにも荷造り手伝ってもらったけど、なんで水着なんか入れてくれたんだ?

しかも誰一人持って来てない人がいないってのも、色々と不思議だし。入れない人がいるのよりはマシだけど。

 

 

「………ごめんね、半田くん。私がもっと早く止められたら良かったのに」

 

「いや…。あれは大谷のせいじゃないだろ……。むしろ来てくれて助かったって言いたい」

 

「気付いたらいなくて…。まさかと思ったら、悲鳴が聞こえて……」

 

「………オレの悲鳴も混ざってるから、忘れて欲しい」

 

「絶対忘れない」

 

「なんでだよ」

 

 

 

 

 

「坊主、どこまで行くんだ?」

 

「蹴られたボールみたいに、ひたすら真っ直ぐ」

 

「ははっ。いい言葉だな!」

 

「いや。北海道の道でひたすら真っ直ぐって、だいぶふわっとしてないか?」

 

 

それからしばらく経って、北海道へとたどり着いたオレたち。

イナズマキャラバンで広い雪原を走っていると、1人の男の子を拾い、しばらく走っていた。

………ただ、オレの記憶の中の姿とは、少し違うように思えた。

 

 

「こんなところで、何をしてたんだ?」

 

「サッカーの練習さ。ここ、北ヶ嶺は、僕にとって特別な場所なんだ」

 

 

 

その途中で、イナズマキャラバンが大きく揺れたと思ったら、デカい熊がキャラバンを襲っていた。

隣の大谷を庇いながら、熊が去ることを祈っていたけど、気付いたらアイツの姿が無かった。

 

 

「お、おい!さっきのヤツいねえぞ!」

 

「えっ!?ま、まさか、外に出たの!?」

 

「嘘だろ!?外にあの熊がいるってのに……」

 

「………あれ?急に揺れが無くなったけど」

 

「ごめんね。もう大丈夫だよ」

 

「………えっと。一応聞くけど、大丈夫って?」

 

「もうあの熊は襲って来ないから、大丈夫だよ」

 

「………………そ、そっか」

 

 

そしたら、揺れが無くなったと同時に、アイツが戻って来たもんだから、色々と聞きたいことがあったけど、スルーするしか無かった。

そのあとすぐで、アイツは降りて行った。

………やっぱり、オレの記憶とは少し違うな。吹雪。




ぶっちゃけこの世界で選手1人で1試合10点を叩き出すの、そこまで珍しいことじゃないんすよね(感覚麻痺の術


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ブリザードの吹雪

風になろうよ。


なんかここに来て新作の情報がだいぶ明らかになりました。
背景とか諸々は理解出来るし面白いなとは思うんですけど、ハルのあのセリフぜってえ親父たちに言うなよ。言ってるだろうけどぜってえ言うんじゃねえぞ。


10万UAと800人以上のお気に入り登録、スゲーッマジで感謝!!です。
投稿ペースはめちゃくちゃでも、失踪はしないので、気長にお待ちいただけたらと思います。


あれから少し経ち、古株さんの運転で雪原にある中学校に着いた。

白恋中学。吹雪のいる中学校の名前だ。

 

 

「ここに、吹雪士郎がいるのか」

 

「く、熊殺しの……!」

 

「熊よりもデカい……!」

 

「いつまでそっち信じてんだ」

 

 

今は瞳子監督が白恋中のお偉いさんやサッカー部の監督に話をしに行っている。

事前に響木さんが話をしてくれてるとは言ってたから、スムーズに行きそうだけどさ。

 

 

「白恋中サッカー部と会うことになるわ。グラウンドへ行きましょう」

 

「ブリザードの吹雪、か…。どんな選手なんだろうね」

 

「他の選手も気になるな。オレが帝国にいた頃でも、北海道の学校はあんま情報無かったからさ。そうだよな?鬼道」

 

「無いことはなかったが、少なかったのは事実だな。場所の都合上、足腰を鍛えられた選手がいるだろうというのは、想像の範囲ではあるが……」

 

「ああ、雪道を歩くからってことか。でも、いつも山歩いてる千羽山も似たようなもんじゃないか?鉄壁っぷりはすごかったけど」

 

「山道と雪道とじゃ、ちょっと違う気もするけどな」

 

 

そうしている間に、グラウンドへ着いた。

そこには白恋中のサッカー部のメンバーがいて、もちろん……。

 

 

「やっぱり。キミたちが雷門中サッカー部だったんだね」

 

「あっ!?お前、さっきの!」

 

「そう言えば、名前を言ってなかったよね。ボクは吹雪士郎」

 

「えっ!貴方がっすか!?」

 

「熊よりもデカくないし、熊殺しも出来なさそうでやんすよ!?」

 

「だからさっきからずっと言っただろ…。オレたちは雷門中サッカー部。コイツがキャプテンの円堂守で、オレは半田真一」

 

「今紹介されたけど、オレは円堂守。よろしくな、吹雪!」

 

「うん。よろしくね」

 

 

そこには、吹雪の姿もあった。

ただ、やっぱりと言うか…。

改めて吹雪の姿を見てみても、オレの記憶とは少し違うんだよな…。

 

 

「うー、さむさむ。白恋中サッカー部監督の高山だ」

 

「雷門中サッカー部監督、吉良瞳子です。よろしくお願いします」

 

「おー。美人な監督さんだな。よろしくさん」

 

「あの雷門中サッカー部と試合が出来るなんて、感激だよ!」

 

「けっぱるぞ、お前ら!」

 

「あっちは準備万端か。こっちも準備しようぜ」

 

「ああ。監督、スタメンは?」

 

「今回は、私は決めません。貴方たちで決めなさい」

 

「じゃあ、そうするか」

 

 

オレたちの作戦会議の元、フォーメーションが決まった。

FWは染岡と中谷。

MFはオレ、鬼道、一ノ瀬、風丸。

DFは栗松、壁山、塔子、土門。

GKはもちろん円堂。

 

 

「さあ!ここ、北海道の白恋中学グラウンドにて、"雷門中サッカー部"対"白恋中サッカー部"の試合が、始まろうとしています!」

 

「………」

 

「……一応聞くね、角馬くん。そこの自転車で来たの?」

 

「はい!流石に北ヶ嶺を超えるには、ちょっときつかったですがね!」

 

「そ、そうなのね…」

 

「……?あれ、ちょっと待ってください。それ以前に角馬くん、どうやって青森から北海道まで渡ったんです?」

 

「………………」

 

「いやいや。流石にフェリー乗ったんですよね?青函トンネルは鉄道トンネルですから、奈良で見たその自転車がここにあるのはおかしいです。でしたら海路しかありません。そうですよね?」

 

「……………………」

 

「あの…。なんで、ずっと無言なの…?」

 

「………まもなく、試合が始まります!」

 

「答えてよ!?」

 

 

なんか、すごく問いただしたい会話が聞こえて来るけど、スルーするしかない。

で、向こうのフォーメーションは…。

 

 

「……あれ?」

 

「おい!アイツはたしか、ストライカーって聞いたよな!なんでディフェンスにいるんだよ!?」

 

「ブリザードの吹雪…。人違いなのか…?」

 

「…それは、アツヤの方だよ」

 

「今は、雪原のプリンスの方」

 

「…?」

 

 

白恋側からなにやら聞こえたけど、距離があって聞き取れはしなかった。

ただ、吹雪がディフェンス、か。

オレからしたら、そっちの方がイメージあるんだけどな。

一応、あの時も吹雪はフォワードだったし、10年後のプロリーグだとフォワードの方が多かったけど。

ただ、吹雪とサッカーをすることがほとんど無かったから、オレの中だとイナズマジャパンの試合を応援してた時に見たポジションの方が想像しやすい。

そうなると、やっぱディフェンスなんだよな。

ただこれって、戻る前からずっと思ってたことだけど、イナズマジャパンってフォワードが多すぎ…。

 

 

「半田、試合が始まる。そろそろ帰ってこい」

 

「ん…。あ、ああ。サンキュー、鬼道」

 

「お前は色々と深く考えだすところがある。今更だ」

 

「ご、ごめん…」

 

「謝らなくていい。さて、吹雪士郎か。白恋中も、どんなチームなのか」

 

 

鬼道がそう言った途端、試合が始まった。

中谷からボールを受け取った染岡は、中谷と共に攻める。

 

 

「仲間になったばかりだからな。実戦的な連携の練習にもなる。着いて来いよ、中谷!」

 

「う、うん!」

 

「突破はさせない…!」

 

「遅え!」

 

 

中谷とのワンツーで、荒谷を突破する染岡。

そのままシュートへと移ろうとする。

 

 

「まずはオレからだ!ドラゴンクラッシュ!!」

 

 

青い竜と共に、ボールはゴールへと突き進む。

そのままキーパーが止めようとすると思ったけど、その前に吹雪が立ちはだかった。

 

 

「シュートブロックか…!」

 

「でも、何かをしようとはしてないぞ…?」

 

 

風丸の言う通りだった。

例えばスピニングカットを使おうとする場合、足にエネルギーを込めたりする。

ザ・ウォールの場合なら、この時点で既に壁が隆起したりする。

とにかく、何かをしようとしたり、何かが起こったりするものなんだけど、吹雪は何もせずに、ただそこで立っているだけだった。

何をするつもりなんだ…?

 

 

「遅いよ」

 

「なっ…!?」

 

 

そう言った途端、吹雪は足を振り上げた。

ドラゴンクラッシュとぶつかったと思ったら、アイツはそのまま蹴り返した。

 

 

「一之瀬!」

 

「うん…!」

 

『スピニングカット!!』

 

 

すぐに鬼道と一之瀬がスピニングカットを張ってくれたおかげで、蹴り返されたドラゴンクラッシュは止まった。

 

 

「そ、染岡さんのドラゴンクラッシュを蹴り返すなんて…」

 

「やっぱり、熊殺しでやんす…」

 

「ううん。その名前は、多分アツヤの方が似合うよ」

 

「アツヤ…?」

 

「…ふふっ」

 

「一之瀬!もう一度ボールをくれ!今度こそ決めてやる!」

 

「うん!頼んだ!」

 

 

一之瀬からボールを受け取った染岡が、再びゴールに向かって走る。

 

 

「キーパーに止められたならともかく、ディフェンスに蹴り返されたままでいられるかよ…!!」

 

「お、おい!染岡!あんま熱く…」

 

「そうだね。少し、冷やした方がいいよね」

 

「なっ!?」

 

「なんだ、あのスピード…!?」

 

 

風丸の驚きも分かる。オレも同じ感想だからな。

その驚異的なスピードで、一瞬で染岡の前に立ちふさがった。

 

 

「アイスグランド」

 

 

凍った地面を蹴ると同時にエネルギーが走り、染岡の足元まで届く。

すると染岡が氷に閉じ込められ、ボールを奪われてしまった。

 

 

「熱いのは趣味じゃないんだ。ごめんね」

 

「なんてディフェンス力だ…!」

 

「アイツ、千羽山にも匹敵するんじゃないか…?」

 

「それ以上かもしれん。ディフェンスもそうだが、真に恐ろしいのはスピードだ。一瞬で間合いを詰め、相手を凍らせるあの必殺技との相性は光るものがある」

 

「じゃあ、そろそろ…」

 

 

ボールを持った吹雪は、そのまま走り出す。

 

 

「行くよ。アツヤ」

 

 

マフラーに手を添えた吹雪は、途端に雰囲気が変わった。

髪型も変わり、目つきも変わった。

そして、なにより…。

 

 

「行くぜ!!」

 

 

その目の色も変われば、性格も大きく変わった。

だが、今までの驚異的なスピードは変わることが無く、突然の豹変に驚き動きを止めたオレたちをあっという間に抜き去ってしまった。

 

 

「勝負だ!雷門中サッカー部!!」

 

「ああ!来い!!」

 

 

ゴール前までたどり着いた吹雪は、両足でボールを回転させる。

 

 

「吹き荒れろ…!!」

 

 

すると、周りから冷気が注入され、ボールは凍る。

 

 

「エターナル…!」

 

 

吹雪は回転を利用しながら勢いを付け、ボールに蹴りを叩き込む。

これが、吹雪の必殺シュート…。

 

 

「ブリザァァァァドッ!!」

 

 

極寒の冷気を纏いながら突き進むシュート。

エターナルブリザードが、円堂に襲い掛かる。

 

 

「ゴッドハンド!!」

 

 

マジン・ザ・ハンドでは、力の貯めが間に合わない。

そう判断した円堂は、ゴッドハンドで止めようとした。

 

 

「ぐっ…!うう……!うわあ!?」

 

 

だが、その拮抗もすぐに破られた。

円堂の後ろのゴールは、シュートを叩き込まれた勢いをそのままに、完全に凍り付いた。

 

 

「ゴオオオオル!!白恋中学ストライカー、吹雪士郎の必殺シュートが炸裂!!初得点をもぎ取ったのは、白恋中だあああ!!」

 

「円堂!大丈夫か!?」

 

「あ、ああ…。大丈夫だ…!」

 

「改めて、自己紹介だ」

 

 

円堂を支えてるオレたちに向かって、吹雪が歩いてくる。

……さっきああ言ったけど、違う。

ディフェンスの時より、その姿の方が、あまり記憶にないな。

 

 

「オレがエースストライカーの、吹雪士郎だ」

 

 

その圧倒的自信に見劣りしない、圧倒的実力。

実力はともかく、自信の方は、やっぱり記憶とは違うと、オレだけ別の衝撃を受けていた。

ただ、吹雪の実力は、噂通りなのと、オレの印象とも大きな差は無く、そこは確認できた。

それよりも、他の問題があった。

 

 

「…よし、キッカリ時間だ。練習試合はこの辺りでいいか?雷門の監督」

 

「……ええ。ありがとうございました」

 

 

白恋中学との試合と言うより、吹雪個人との試合と言った方が良いんじゃないか?と、小さくない疑問や違和感を抱いて、この試合は終わった。

……オレが気にすることは無いんだろうけど、どうしても…な。




ちなみに作者はGOギャラクシーで、半田にエターナルブリザードを覚えさせてました。

理由①同属性
理由②そこそこの燃費と威力
理由③手持ちの秘伝書

③が一番大きな理由です。
だって真っ先に目に着いたのがこれだったんだもの。


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特訓in北の大地

振り返ってみると、この特訓けっこう重要なものじゃね?となりました。


白恋中サッカー部との試合が終わり、今は交流の時間となっている。

みんな吹雪と話がしたくて堪らなくなってるな。

 

 

「すごい動きだったな!攻撃と言い守備と言い、全国クラスだ」

 

「たしかに。吹雪個人の動きは、凄まじいものだとは感じたな」

 

「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいな」

 

 

鬼道の言う通り、吹雪の実力は確かなものだった。

そこは疑いようもなくて、オレもこの目で見て感じたものだ。

でも、やっぱりオレの記憶との違いで、一番気になるのは……。

 

 

 

 

 

 

「吹雪!なんなんだ、今のプレーは!」

 

「…?だって、僕って今までずっとこうしてたし…」

 

「白恋じゃ良くても、ウチじゃ良くねぇんだよ!」

 

 

瞳子監督のスカウトを受けた吹雪を迎え、オレたちは紅白戦をしていた。

紅チームが吹雪、中谷、鬼道、一ノ瀬、、栗松、壁山。

白チームがオレと染岡、目金、風丸、塔子、土門だった。

紅チームの吹雪のプレイを見た、対する白チームの染岡が一時ゲームを中断させ、吹雪に詰め寄っている。

………まあ、オレも同じ気持ちだから、染岡を止めることはしないけどさ。

 

 

「………やっぱり、こうなるか…」

 

「半田。お前もこうなると思っていたのか」

 

「まあ、な…。たしかにさっきの試合で、吹雪の力がすごいってことはよく分かったけど。ただ、それ以外がな……」

 

「他の白恋中のメンバーと連携を取るところが見えなかった、か…。それはオレも感じていた。個人の動きが良くても、そこの課題は見えていたが…」

 

「辞めてよ、染岡くん。そんな汗臭いの、疲れるよ」

 

「ああ!?」

 

「…流石に止めるか。行ってくるよ、鬼道」

 

「………ああ」

 

 

吹雪と爆発寸前の染岡の所へ、オレも混ざる。

………これ、なんだよな。オレが感じてる、吹雪の最大の違い。

 

 

「なあ、吹雪。瞳子監督の誘いに乗ってくれたのは嬉しいけど、雷門に入ってくれたからには、ある程度オレたちに合わせてくれないか?せめてパスを求められたら、無視はしないでくれよ」

 

「………うん。たしかに、無視は良くなかったね。ごめん」

 

「おい、お前…!オレの言いたいこと、まだ完全に理解してねえだろ…!!」

 

「まあまあ、落ち着けよ染岡。オレが言ってもまだ我関せずな態度だったら問題だったけど、そうじゃなかった。それに、吹雪は雷門に入ってくれてすぐなんだぜ。初っ端から争い合うのは良くないって」

 

「……………」

 

 

完全に納得してはいないものの、頭が冷えてくれたのか、矛を収めてくれた染岡。

吹雪も改善の兆しが見え……たかどうかは分からないけど、少なくともこの場はどうにかなった。

吹雪のプレイスタイルは、オレも予想外だったんだけどな…。

 

 

「でも、エイリア学園からボールを奪うには、あのスピードは必要だな」

 

「…そう、だな」

 

「なあ、吹雪。お前のそのスピードって、何か秘訣でもあるのか?」

 

「……………」

 

「ど、どうしたんだよ?半田。そんなにオレのことをガン見して」

 

「い、いや…。悪い。気にしないでくれ」

 

「気にするなって…無理ないか…?」

 

 

………風丸のことも、ちょっと心配なんだよな。

 

 

「そうだね。キミたち風に言うなら、ボクの特訓に付き合ってもらおうかな」

 

「吹雪の特訓か!いったい、どんな特訓なんだ?」

 

「おいでよ。キミたちを風にするから」

 

「………???」

 

「キャプテンの後ろに、宇宙が広がって見えますね…」

 

「どんな特訓?って聞いて、風にするって言われたら、思考停止も止む無しじゃないかしら…」

 

「あっ、ブラックホールが見えてきた…」

 

「円堂くん円堂くん。吸い込まれる前に帰ってきて」

 

 

そんなこと思ってたら、円堂が木野に引っ張られてた。

なんか円堂の後ろに宇宙が見えた気がしたけど、気のせいだよな?

円堂が木野に引っ張られて、吹雪の後を追ったから、オレたちもそれに続く。

アイツが行ってるの、白恋中の校舎裏だよな?

そんなとこに何が…。

 

 

「すごい!学校内にゲレンデがあるんだね!」

 

「学校内にゲレンデがあるの?」

 

「一之瀬の言葉に質問するな」

 

「そして、これで特訓するのさ」

 

 

そう言って吹雪が取り出したのは、スノーボードだった。

………ああ。風になるって、そういうこと?

 

 

「吹雪くんは小さいころから、スキーやスノーボードが得意なんだよ!」

 

「なんでサッカーやってるでヤンスか?」

 

「………まあ、約束があってね。とにかく、キミたちも準備して。雪がボクたちを風にしてくれるんだ」

 

 

荒谷の言葉を聞いた栗松の率直な疑問が、一瞬だけ吹雪の顔色を変えた。

………そういうとこは、オレも知らないんだよな。

正直、栗松の疑問はオレも思ったことだし。

で、吹雪の特訓か。もちろん、参加させてもらうぞ。

 

 

「よし。じゃあ吹雪の特訓、オレたちもやるぞ!」

 

「オレはいい。そんな遊びじゃなくて、しっかりした特訓を…」

 

「まあまあ染岡。やってみようぜ?」

 

「おい半田。オレはいいから…」

 

「まあまあ染岡。やってみようぜ?」

 

「いや、だから半田。オレは…」

 

「まあまあ染岡。やってみようぜ?」

 

「さっきから同じことしか言わねえな!?分かったからそれ辞めろ!怖ぇから!」

 

 

なんか吹雪の特訓に参加しないとか言い出す染岡がいたから、無理やり参加させることにした。

いや、どう考えてもこの特訓、必要だろ。

だって前回にこの特訓をしたお前たちがイナズマジャパンに選ばれて、参加してなかったオレが選ばれてなかった…。

 

 

「…えいっ」

 

「わぶっ」

 

「危ねっ!?おい大谷!狙うなら半田だけのときにしとけよ!オレが居る時にやるんじゃねえ!」

 

「ごめんね。染岡くん」

 

「オレを狙うのはいいの?」

 

 

その先を考えようとしたときに、大谷に雪玉を投げられた。

…まあ、そのおかげで思考は止まったんだけどさ。

 

 

「じゃあ荒谷たち、お願いね」

 

「うん!じゃあ雷門のみんな、頑張って避けてね!」

 

「なんの話?」

 

「これは話が読めないときの言葉ですね」

 

「わたしたちが大きな雪玉を作って、丘の上から転がすから、それを避けるんだよ!」

 

「えっ、なんの話?」

 

「これは話を聞いたけど理解できなかった時の言葉ですね」

 

「目金さん!解説してる場合じゃないッスよ!」

 

 

荒谷からとんでもないセリフが聞こえたけど、聞き間違いじゃなかった。

…まあ、死にはしないだろ。多分。

みんなから離れてるところで、身体を抑えて震えてる吹雪に気付かないまま、オレたちは準備を進めた。

 

 

 

 

 

 

「死ぬかと思った」

 

「ほぼ初めてって言ってたもんね…」

 

 

本当に雪玉が襲ってきたのを辛うじて逃げ切ったオレは、ゲレンデの麓で大谷と一緒にみんなの様子を見ていた。

一之瀬と土門、そして塔子と鬼道は経験者だったようで、すんなりとスノボを乗りこなしている。

他のみんなは、まあ、うん。

 

 

「あっ、転がってる壁山くんに、栗松くんと目金くんが巻き込まれてる…」

 

「でっかい雪玉が出来て、正体に気付かれずにみんな避けたな。まあ、正体分かってもみんな避け…」

 

「ゴッドハンド!!」

 

「受け止めるヤツいたわ」

 

「おい半田!人を無理やり誘っておいて、サボってんじゃねえぞ!」

 

「悪い悪い!どうだよ染岡。感覚つかめてるか?」

 

「分かんねぇよ!始めたばっかってのもあるし、スノボなんてやったことねぇしよ!」

 

「そりゃそうか。じゃ、行ってくるよ」

 

「うん。頑張ってね」

 

 

オレも慣れてるワケじゃないしな。

早いとこ、乗りこなすまでは行かなくても、慣れないと。

 

 

 

 

 

 

夕飯が終わりしばらく特訓し、風呂も入り終わり、あとは寝るだけなんだけど…。

 

 

「…声が聞こえると思ったら、こんなとこにいたか」

 

「あっ、半田」

 

「………」

 

 

キャラバンの屋根の上に上がると、そこには円堂と風丸がいた。

お悩み相談ってとこかな…。

 

 

「円堂、風丸に何言ったんだ?いつも通り、何か言ってくれたんだろ?」

 

「ああ。"人に変われって言う前に、自分が変わらなきゃいけない"ってさ。吹雪に賛同したのも、自分が歯向かう資格無いとか思ったみたいでさ。そんなことは、絶対ないだろ?」

 

「…耳が痛いな。でも、お前らしい。そら、風丸。円堂にも言ったんだろうけど、オレにもぶつけろよ。何に悩んでんだよ」

 

「…吹雪のスピードに、圧倒されたんだ」

 

「それはオレたちも一緒だ。アイツの速さは、とんでもないよな」

 

「エイリア学園は、まだいいんだ。2度戦って、差を理解させられた。でも、吹雪は同じ人間なのにって、思ってしまってさ…。自分でも、情けなくなる」

 

「………まあ、オレたちの中で、一番の快足はお前だったしな。風丸。でも、吹雪の特訓、始めたばっかだろ?実際、少しだけやっただけだけど、スピードを感じたような気がしてるんだ。お前もじゃないのか?風丸」

 

「………それでも、アイツのスピードには、届きは…」

 

「よし。風丸。強制連行だ。こっち来い」

 

「は、半田?」

 

「おっ、なにするんだよ?オレも混ぜろよ!」

 

「円堂も来るか?じゃあ、お前も来いよ。今から雪まみれになるぜ」

 

「えっ」

 

 

そう言って、風丸を連行したのは、白恋中の校庭。

見事に雪まみれで、玉には困らないな。

 

 

「悩み抱えてんだろ?パスのぶつけ合いもいいけど、せっかくの雪国なんだ。雪合戦と行こう…ぜっ!!」

 

「うわっ!くそっ…!やったな半田!くらえ!」

 

「オレも混ぜろって!くらえ半田!」

 

「えっ、2対1なの?こういうのってロワイヤル形式じゃぶべっ」

 

『あっ』

 

 

2人が投げ続けた雪玉は、オレの顔面に見事にヒット。

よし。こいつらしばいてくか。

 

 

「………は、ははは…。はははの半田さんってな」

 

「は、半田…?その、2人で顔面に当てちゃったことは謝るから、怒りを収めて…」

 

「そ、そうだぞ、半田…。はははの半田さんって、意味分かんないこと言って…」

 

「お、おい!円堂…!」

 

「ローリングスノーボール!!」

 

『うわあああああ!!』

 

 

ムーンサルトの回転を活かして、すごい勢いを付けて投げた雪玉が2人を襲う。

雪玉の貯蔵はばっちりでな。覚悟しろお前ら。

 

 

「おっ、なにやってんだアイツら。中谷。オレたちも混ざるぞ」

 

「ほ、本気で言ってる…?混ざるって、どっちに…?」

 

「もちろん、円堂側に決まってんだろ。暴走した半田を抑えるのは、オレたちの役目だからよ」

 

「そ、そっか…。じゃあボクは、応援してるから…」

 

「逃がすワケないだろ」

 

「ひいいいい…」

 

「んじゃあ、オレたちも混ざりますかね。1年たちはどうする?」

 

「じ、自分たちは遠慮しとくッス…」

 

「あとでバレたら、痛い目みそうでヤンスし…」

 

「ボクも遠慮しておきます。返り討ちは目に見えてますし」

 

「半田はそういうの気にし無さそうだけどね。じゃあ、行こうか!」

 

「では、オレも混ざるとしよう。少しぐらい、痛い目を見るといい」

 

「恨みでもあるの?鬼道」

 

「いや?全く無いが」

 

 

気付いた時には、タメの2年たちにボッコボコにされたオレがいた。

………まあ、風丸の悩みも一旦吹き飛んだみたいだし、別にいいか。

とりあえずお前ら、あとで覚えてろよ。とくにあとから参加した染岡たち。




初期退場かつ風になってないのに、代表候補に選ばれたマックスisなに?


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白熱スノーバトル

先に言っときますけど、今回は短めですわよ。


「………」

 

 

イナズマキャラバンの中で寝泊まりさせてもらってるボクは、ふと目が覚めてしまって、外へと出た。

白恋中…と言うより、北ヶ峰の近くは、季節問わずに雪が積もってて、夜となると更に寒くなるんだ。

ボクとかは普段から動いてるから、そこまで寒さは感じないんだけど、東京や奈良から来た雷門中の人たちには、あまり経験したことのない寒さだと思うんだけど……。

 

 

「やるな、半田!残り2人まで追い詰めるとは…」

 

「うん…!みんなのためにも、負けてられないね!」

 

「あとは鬼道と一之瀬だけだからな。2人とも、あの仲間にしてやる」

 

 

………なんだか、楽しそうに雪合戦してる。

それはとても良いことだと思うんだ。うん。それ自体は、仲が良いんだなって思うぐらいだから。

でも、あの…半田くん?が言ったことなんだけど、あの仲間ってのは……。

 

 

「うー…。オレ自身のスピードはあっても、雪のスピードでは負けちゃったか」

 

「しかも、アイツ一度フルボッコにされてたもんな?起き上がったと思ったらこのザマって。鬼道と一之瀬には、仇を取って欲しいもんだ」

 

「そ、それより……。円堂や染岡は、大丈夫なの……?」

 

「あー……。まあ、大丈夫だろ。オレたちも人のこと言えないと思うし」

 

「これ終わったら、全員でもう一回風呂だな」

 

 

雪だるまが、並んでる。

頭と腕だけ出されて、それ以外が大きな雪玉で埋められてる、人間雪だるまが、並んでる。

その雪だるまが、たしか…。風丸くん、土門くん、中谷くんだったよね?その3人で…。

残ってるのは、鬼道くんと一之瀬くんだけ。

じゃあ、中谷くんが言った、円堂くんと染岡くんの行方は…。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

………えっと。これ、なんて言うんだっけ。犬がm…。

 

 

「こらぁ!みんな何してるの!明日も早いんだから、早く寝る!」

 

「やっべ!オカンに見つかった!逃げるぞ!」

 

「誰がオカンよ!」

 

 

と思ってたら、マネージャーの木野さんがやって来て、3人は逃げて行った。

誰がオカンよって言ったけど、それを言う人って大体オカンな人だと思うんだよね。

 

 

「おーい、アキ。追いかけるのはいいから、オレたち助けてくれよ。とくに円堂と染岡。そこにいる吹雪も、悪いけど助けてくれ」

 

「もー。また半田くんに仕掛けたんでしょ?ゴメンね吹雪くん。手伝ってくれる?」

 

「えっ……。あっ、うん……」

 

「じゃあ先に土門くんたち解放して、あの埋められてる2人を助けるのに合流しよっか」

 

「………えっと。木野さん」

 

「なに?」

 

「あの…。見ての通り、円堂くんと染岡くん、頭から雪に埋められてるんだけど、驚かない…?」

 

「うーん…。そりゃあ、初めて見た時は驚いたよ?」

 

「………初めて?」

 

「うん。これ初めてじゃないもん」

 

 

雷門中どうなってるの…?

 

 

「グラウンドを借りれなくて、雪の積もった部室前で練習してたんだけどさ。どういう流れかまでは覚えてないんだけど、雪を抱えた円堂くんと染岡くんが、そのままその雪を半田くんに掛けたんだよね」

 

「2人はなにしてるの…?」

 

「ああ、オレも見た。半田のヤツ、そのまま雪に倒れてたよな」

 

「そう言えば後から風丸くんも来たっけ。それでその後、起き上がった半田くんに捕まった2人が、こんな感じで報復を受けてたんだよね」

 

「半田くんはなにしてるの…?」

 

「まあ、仕掛けたコイツらが悪いからな…っと!」

 

「いやぁ、ひっさびさの体験したぜ。サンキュー!」

 

「おーいお前ら。大浴場開いてるの確認したから、みんなで行こうぜ」

 

「それにしてもすごいね、白恋中。校舎の中に温泉あるなんて」

 

「北海道の山奥にあるからな。そこまでの驚きは無いが」

 

 

そうしてたら、逃げたと思った3人が戻って来た。

………埋めた本人が、身体を気にしてるってことなの…?

 

 

「おっ、まだ開いてたか。んじゃあ雪まみれのみんなで行こうぜ」

 

「な、奈良に住んでるボクには、染みる寒さだよ…」

 

「吹雪も行くか?」

 

「ボクは大丈夫……。このままキャラバンに戻るよ」

 

「そっか。じゃあおやすみ、吹雪」

 

「………うん。おやすみ」

 

「湯冷めには気をつけるのよー」

 

 

………色々すごいね。雷門中。

 

 

 

 

 

「みんな、大丈夫?」

 

「ああ。誰1人体調崩してないぜ」

 

「あんなことがあったのに…?」

 

「オレがみんなを再起不能にさせると思うか?」

 

「ああ。コイツがそんなことにさせるとは思わんな」

 

「雪に埋めたのに…?」

 

 

翌朝、みんな元気で昨日と同じく、ジャージを着て集まった。

吹雪がすごい微妙な顔でオレを見てるけど、お前ってそんな顔出来たんだな。新しい発見ってヤツだな。

というワケで、みんな集まったらやることは1つ。特訓と行きたいけど……。

 

 

「ねえ、雷門中のみんな」

 

「ん?えーっと、荒谷だっけ?どうしたんだよ」

 

「遠目だったけど、昨夜雪合戦してたでしょ」

 

「見てたのか。やってたぞ」

 

「雪合戦…?」

 

「雪合戦で、いいのか…?」

 

「アレって雪合戦じゃなくない…?」

 

「やってたぞ。雪合戦。そうだよな?」

 

『ああ』

 

「脅してたワケじゃないのに、意見が変わった……」

 

「じゃあさ!白恋と雷門で分かれて雪合戦しようよ!特訓する前に、身体を温めるのも兼ねてさ!」

 

「おっ、いいなそれ!」

 

「昨日は事前にサッカーをしていたが、今は起きてからそこまで経ってない状態だ。身体を温めるのは、必要なことだな」

 

「じゃあ、私たちは何してようか?休憩のお水とかはもう用意してるし…」

 

「あっ!じゃあみんなでかまくら作りません!?東京じゃ絶対出来ないですし!」

 

「たしかに。東京じゃこんなに積もったりはしないものね…」

 

「ふふーん!こんな時のために、かまくらの作り方を調べておきましたからね!ボクに任せてください!」

 

「じゃあ、しばらくかまくら作ってよっか」

 

 

マネージャーたちが離れたのを確認したオレたちは、一度雷門と白恋で離れ合い、少し経ってから古株さんが開始の笛を鳴らして、雪合戦が始まった。

 

 

「おっと…!さすがは北海道。良い球投げるな!」

 

「東京の人には、負けられない」

 

「ちょっと!鬼道くん今の当たったでしょ!?」

 

「フッ…。マントはセーフだ!」

 

「そんなのあり!?」

 

「実際、身体には当たってないしな…」

 

「じゃあ、アフロはセーフにはなるッスかね!?」

 

「なるワケないでやんしょ」

 

「実際に身体に当たってるからな…」

 

「マントはセーフなのに、アフロがアウトはおかしくないッスか!?」

 

「マントが鬼道から直接生えてたら、その理論は認めてたよ」

 

 

身体は温まってるけど、代わりにIQが下がってる気がする。

それからもしばらく「マントはセーフだ!」とか「ゴーグルはセーフだ!」とか聞こえて来たな。

マントはともかく、ゴーグルってどうなの…?

 

 

 

 

 

「白恋中サッカー部。我らと戦え。さもなくば、貴様らの学校を破壊する」

 

 

そしてついに、その日はやって来た。




Q.コイツらなにやってんだ?
A.中学生なんだから青春したっていいだろ。

当作は飴と鞭をしっかりしてます故。


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ジェミニストームとの決戦/前編

この前鉄骨落としそうになったBGM(名)ですけど、けっこう好きなんですよね。


「荒谷たち、ここは任せてくれ」

 

 

吹雪たちによる特訓から数日後。

突然現れたジェミニストームが、白恋中サッカー部へ宣戦布告しようとしていたところに、オレたちが割って入った。

 

 

「まさか、こんなところにもいたとはな。奈良から北海道まで、ご苦労なことだ」

 

「お前たちこそ。こんな雪山の学校まで来て、暇なのか?」

 

「売り言葉に買い言葉、か。いいだろう。そこまでして戦いたいのであれば、挑んでくるがいい。最も、お前が味わうことになるのは、雪の混じった土の味になるだろうがな」

 

「言ってろ。その上から…、いや。宇宙から目線とでも言うのか?今日こそ叩き落してやるよ、ジェミニストーム」

 

 

売り言葉に買い言葉って、吹っ掛けてきたお前が言うなよ。レーゼ。

思わず宇宙から目線だなんて、意味分かんないこと言っちゃっただろ。

 

 

「雷門中のみんな、大丈夫…?」

 

「ああ。円堂の言った通り、オレたちに任せてくれ」

 

「アイツらとは因縁がある。そう何度も負けると思うな」

 

「地球にはこんな言葉がある。二度あることは三度ある。いい加減学習するべきだ。弱きものよ」

 

「地球にはこんな言葉があるよ。三度目の正直。そう何度も勝てると思わない方がいいんじゃないかな?」

 

「…ほう。言うじゃないか。貴様、この地で仲間になった者か」

 

「宇宙人相手だけど、名前を名乗ろうか。ボクの名前は吹雪士郎。ボクには雷門中ほどの因縁は無いけど、この試合は勝たせてもらうよ」

 

「……………ずいぶんな自信だな。驕った者は身を亡ぼす。貴様の末路、見ものだな」

 

「驕った者云々は、お前が言えることじゃないだろ」

 

 

そう言い放ったレーゼは背を向け、他のジェミニストームの面々もそれに続いた。

まあ、鬼道と吹雪の言う通りだ。今日こそアイツらに勝つぞ。

 

 

「みんな、今日こそ決着を付けるぞ」

 

「あんな学校破壊なんて、もう起こさせはしない」

 

「あの特訓で、かなりの力を付けたはずだからね。あんな目には遭ったりしないよ」

 

「やる気は十分なようで、何よりです。ポジションは、あなたたちが決めたものにしなさい。私に異論はありません。ですが、前半は先の私の指示通りに」

 

「分かりました。みんな!行くぞ!」

 

『おお!!』

 

 

オレたちが決めたポジションと言うのは、以下のもの。

FW:染岡・中谷

MF:オレ・鬼道・一之瀬・風丸

DF:吹雪・塔子・壁山・土門

栗松の代わりに吹雪が入っただけのように、レーゼたちは見えるだろう。

 

 

「さあ!これより雷門中サッカー部とエイリア学園ジェミニストームとの試合が、始まろうとしています!!」

 

「流石に驚きは無いわね」

 

「はい。白恋中との試合から、そんなに経ってないですし」

 

「学校も休校中だもんね」

 

「むしろ居ない方が驚いてたかな…」

 

 

角馬もいたか。実況頼んだぞ。

この試合は、ジェミニストームのボールから始まる。

ディアムが蹴ったボールは、隣のリームへ。

 

 

「攻めろ。1点でも5点でも奪えば、奴らは三度思い知ることだろう」

 

「はっ」

 

 

レーゼの指示が、リームに届く。

ドリブルで攻め、そのまま点を奪いに来るつもりなんだろう。

 

 

「させないよ…!」

 

「なっ…!?」

 

 

そこへ、中谷が立ちはだかる。

前の方にいたオレたちならともかく、FWの中谷が目の前に現れたことに、驚きを隠せなかったのだろう。

 

 

「パ、パンドラ…!」

 

「…?今の速さは、いったい…」

 

 

思わずバックパスを選んだリームを見て、レーゼは表情を歪ませる。

パスを受け取ったパンドラは、リームの本来の目的を果たそうとするのだろう。

 

 

「今のは、リームが油断しただけ…!」

 

「じゃあ、キミは違うとでも言うつもり?」

 

「くっ!?イオ…!」

 

「やらせるか!」

 

「なんだと…!?」

 

 

中谷のように、一之瀬がパンドラに立ちふさがり、パンドラを止める。

そこから、イオにボールが渡る間に、オレがカットする。

 

 

「この動き、まさか…?」

 

「行け!半田!」

 

「ああ!フリーズショット!!」

 

 

そのまま、オレはフリーズショットを発動。

点を奪えるとは、思ってはいないが…。

 

 

「貧弱なシュートだ…?」

 

 

シュートを止めたゴルレオは、違和感を覚えているようだった。

当たり前だ。オレたちがしてたのは、あのスピード特訓だけじゃないんだからな。

 

 

「…レーゼ!」

 

「少しは、力を付けたようだな。だが…」

 

「風丸!」

 

「ああ!」

 

「我々の必殺技を、破ることは不可能だ。ワープドライブ!」

 

『なっ…!?』

 

 

レーゼが右手から展開させた謎のゲートに、アイツはボールと一緒に入っていく。

すると、アイツの姿は無くなった。

2人の少し後ろにゲートが開き、2人を突破することになったけど、それ宇宙関係ないだろ。

 

 

「砕け散るがいい!アストロブレイク!!」

 

 

そして、奈良でも見たあのシュートを、再び使ってきた。

シュートを打つまでに少し間があっても、一度打たれてしまえば、かなりのスピードで進んでいくんだよな…!

 

 

「ザ・タワー!!」

 

「ザ・ウォール!!」

 

 

塔子と壁山がブロックしてくれるも、すぐにそれぞれ崩れてしまう。

ワープドライブからそこまで時間が経ってなかったこともあって、マジン・ザ・ハンドは間に合わないか…。

 

 

「ゴッドハンド…!!」

 

 

円堂はゴッドハンドで抵抗するも、勢いを殺しきることができず、得点を許してしまう。

 

 

「ゴォォォォル!!先制点は、エイリア学園ジェミニストームだあああ!!」

 

「やっぱり、すげえパワーだ…!」

 

「大丈夫か?円堂」

 

「ああ。前ほどじゃない。これ以上の点は、許しはしないさ!」

 

 

そう言った円堂が、見栄を張ってるワケではないというのは、オレにも分かる。

今と同じ状況で、以前ならゴッドハンドすら間に合ってなかったはずだ。

 

 

「…染岡。吹雪。どうだ?」

 

「前半は厳しいが、後半は行けるはずだぜ」

 

「うん。こっちも同じ。監督の指示通りでよさそうだよ」

 

「………分かった。みんな!このままいくぞ!」

 

『ああ!』

 

「何を考えているか知らないが、ここから何が出来る?絶望を抱いてないのは結構だが、それは空元気にしか見えないな」

 

 

レーゼがこっちを見てそう言うが、アイツはまだ気付いていない。

いや。認めたくないんだろう。

さっきのお前のつぶやき、聞こえてるんだからな。

 

 

 

 

 

「ここで前半戦が終了!スコアは0:1!まだ試合の行方は分からないぞ!!」

 

「………どういうことだ?あれから、1点も奪えなかっただと…?」

 

 

前半が終わったが、レーゼの言う通り、あれから失点することはなかった。

こちらも得点を奪えなかったから、膠着状態が続いたとも言えるんだけどさ。

 

 

「監督。後半からは…」

 

「ええ。吹雪くん。いいわね?」

 

「分かってるよ。あとは…」

 

 

吹雪は、マフラーに手を当てる。

それがトリガーなんだろう。吹雪の雰囲気が変わった。

 

 

「オレに任せな」

 

「じゃあ、試合前に話した通りでいいよな?吹雪と中谷とオレでポジションを変える」

 

「ああ。トライアングルの形になるな」

 

「交換ってワケじゃないしな…」

 

図にすると、中谷→風丸→吹雪→中谷って、それぞれがいたポジションになるんだけど。

まあ、染岡と吹雪でツートップになるって分かれば、それでいい。

だけど、アイツらからしたら、オレたちがこうして抵抗出来てることすら、予想外だったんだろう。

 

 

「グラビテイション!!」

 

「ぐっ…!」

 

 

後半開始直後、ボールを持った中谷が、パンドラのディフェンス技でボールを奪われる。

そして、そのまま進もうとするが…。

 

 

「ドンピシャだぜ!」

 

「なっ…!?」

 

 

近くにオレたちがいないのを確認したんだろうが、そこを染岡が詰め、ボールを奪う。

アイツ、めっちゃいい顔してるな…。

 

 

「くっ…!ガニメデ!イオ!」

 

 

すぐさまレーゼが指示を出し、染岡からボールを奪おうとするが…。

 

 

「へっ…!」

 

 

2人の猛攻を、軽くいなす染岡。

それから蹴られたボールは、オレへと渡る。

 

 

「バカな…!グリンゴ!カロン!」

 

「遅いな!ジグザグスパーク!!」

 

『がああっ!?』

 

「頼んだ!風丸!!」

 

「させは…!」

 

 

グリンゴたちを突破したオレは、風丸にパスを出す。

それを阻止しようとするレーゼだったが…。

 

 

「なにっ…!?」

 

「スピードは、お前たちだけのモノじゃない…!」

 

「まさか、貴様たちは…!?」

 

「行け!鬼道!!」

 

 

続いて、風丸は鬼道に向けて大きいパスを出す。

ボールの着地点に向けて走る、リームとディアム。

 

 

『なっ…!?』

 

「ふっ…」

 

「バカな…!我々のスピードについてくると言うのか!?」

 

「二度あることは三度ある、じゃなかったのか?吹雪!」

 

「させるかああああ!!」

 

 

鬼道は、レーゼを挑発しながら、吹雪の方へとパスを出す。

そこへ向かって、レーゼが全力で走る。

 

 

「オオオオオォォ!!」

 

 

あと少しでボールに届きそうなところで、レーゼは手を伸ばす。

…いや、それハンドになるけど。

 

 

「なっ…あっ…」

 

 

レーゼのハンドは、未然に防がれた。

必死の表情をしたレーゼとは対照的に、涼しい顔をした吹雪が、ボールを受け取ったからだ。

 

 

「どうした。その程度か?」

 

「あ、ありえん…!」

 

 

吹雪の挑発に、今度は返せなかったレーゼ。

間違いない。あの特訓で、ジェミニストームに食らいつけるぐらいには、オレたちは力を付けたんだ。

 

 

「…へへっ!よし!行くぞォ!反撃だ!!」

 

『おお!!』

 

 

今度こそ、勝たせてもらうぞ。ジェミニストーム…!!




リュuレーゼさん、必死になりすぎてサッカーのルール忘れかけるの巻


ゲームの話ですけど、あの映像の流れから、勝てると思うじゃないですか?
実は直前に加入する吹雪が、そんなに強くないんです。
どういうことかと言うと、吹雪の本領が発揮できるの、後半戦なんですよね。
その間は染岡で点を奪えはするんですけど、ジェミニのシュートを円堂さん止められないんです。
なんで染岡と後半のエターナルブリザードじゃ補えないぐらいに点を奪われてると、そのまま負けます。
ソースは友人(2敗)


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ジェミニストームとの決戦/後編

イナイレどころか、今まで筆者が見て来たキャラ全体でもトップレベルでよく分からない設定。
いや、アレ考えたの誰だよ。

それと今話は試験的に色々といじってみてます。ついでにあけおめです。


 前半の間と、ついさっきの攻防で、確信した。

 今のオレたちなら、ジェミニストームに太刀打ち出来ると。

 この試合で、因縁にケリを付けるぞ……! 

 

 

「いけ、吹雪! お前のスピードなら……!」

「任せろ。まずは1点、取ってきてやる」

「我々のスピードに着いて来れるようになったからと言って、調子に乗るな!」

 

 

 ボールを持った吹雪に、パンドラがスライディングを仕掛ける。

 完全に視覚外からの襲撃だったが、吹雪は簡単に避けてみせた。

 

 

「おせぇよ」

「くっ……!」

「わざわざ付き合ってやる必要も無い。ここからでも1点奪えるって、見せてやるぜ!」

 

 

 そう言った吹雪は、シュートの体勢へと移った。

 あの時見たのと同じ動き、ボールに冷気が集まり、力が込められる。

 

 

「な、なんだ……。あの力は……!?」

「吹き荒れろ……!」

 

 

 頼んだぞ、吹雪…!

 

 

エターナルブリザード!!」

「ブラックホー、う、うおおおおお!?」

 

 

 放たれたエターナルブリザードが、ゴルレオを吹っ飛ばした。

 吹雪のエターナルブリザードは、威力もそうだがスピードもかなりのものだ。

 油断していたワケでは無かったのだろうが、初見でそれを見抜けというのも無理な話だろうな。

 

 

「ゴォォオオル!!吹雪のエターナルブリザードが、ジェミニストームから1点を奪い取った!雷門、同点に追い付きました!!」

「なん…だと…!?」

「足を掬われたのは、お前らだったようだな」

 

 

 そう言いながら戻って来た吹雪を、オレたちは迎える。ジェミニストームの方を見てみると、自分たちのスピードに追いつかれことと、自分たちから得点を奪ったという事実に挟まれて、全員がとんでもない顔をしていた。

 …やったのはオレじゃないから、前回からの因縁はまだ断ち切れてはいないけど。アイツらに抱いていた恐怖は、少しは晴らせたかな。

 

 

「やったな!吹雪!」

「言っただろ。1点取って来てやるって」

「だがこれで、ヤツらは吹雪を大きく警戒するだろう」

「振り切れなくはねぇぞ。ただ、アイツらが隠し玉持ってるとか考えると、あんま無理はしたくねぇのが本音だが…」

 

 

 吹雪のその言葉は、オレたちも同じ考えだった。

 なにもレーゼやパンドラだけが、必殺技を使ってくるワケではないこと。中でもほぼ確実に、ゴルレオがキーパー技を持っているというのは、察していたことだった。

 無理して突破することに固執するあまり、シュートの機会を失いたくはない。

 

 

「…なら、オレに任せろ」

「お前がか?士郎に蹴り返されたあの技で、何が出来んだよ」

「ドラゴンクラッシュだけが、オレのシュートじゃねぇ。以前のオレと同じと思うなよ」

「へぇ…?なら見せてくれよ、お前の新しいシュート」

「ああ。アイツらに囲まれながら、見ていやがれ…!」

 

 

 染岡の気合いは十分だ。アイツがしていた特訓は、オレたちがやっていたこととそこまで差は無い。

 でも、アイツだけがやっていたことは、あった。

 

 

「…ずっと、シュートの特訓してたからな。染岡」

「ああ。おかげでオレも良い特訓になったけどさ」

「ゴッドハンドの力も、増えたように見えたしな。円堂もそこの力を付けたなら、オレも少しは付き合った意味もあった」

「ただ、マジン・ザ・ハンドは力を溜める必要があるってとこは、克服出来なかった。そこは不安だけど、だからってそれを引き摺ったままではいないさ。絶対に失点なんかさせない!」

「頼んだぜ、円堂。アイツらのシュート技、他にもあるだろうからな」

「任せろって!」

 

 

 染岡だけじゃなく、お前も特訓していたのは知っているから、その言葉は信頼に値する。

 吹雪を警戒するのは分かるけど、オレたちも少なからず警戒されるだろうから、どうやって染岡にシュートまで持って行ってもらうかだな…。

 

 

「…なるほど。始まる前のあの啖呵は、虚構のものではなかったようだ」

「疑ってたのかよ。それで足もと掬われてちゃ、世話ないな」

「だが、チーム全体としてはどうだろうな。警戒に値するとは認めるが、我らを破るに足りるかは別だろう」

「言ってろ。ぜってぇに今度こそ勝ってやる」

「ああ。因縁はここで断つ」

 

 

 レーゼに向かって、オレと染岡はまた啖呵を切る。お前だいぶ効いてるだろ。分かるぞ。

 

 

「パンドラ。攻めろ」

「はっ」

 

 

 ボールを受け取ったパンドラが、攻めてくる。そこへオレが立ちふさがる。

 

 

「通させは…」

「………」

「……?」

 

 

 オレが立ちふさがると、パンドラは動きを止め、オレの方をじっと見てくる。えっ、なに?なにかあったの?

 

 

「ふっ…!」

「えっ」

 

 

 それから、オレから見て右に向かってパスを出した。アイツ、あの間になにしてたんだ…?嫌に気になるな。

 

 

「グリンゴ!そのまま上がれ!」

「ワープドラ…」

「させるか!スピニングカット!」

「ぐうっ!?」

「あの技は、ゲートに入られてしまうと手出しが出来なくなる。ならば、ゲートに入られる前に…!」

 

 

 グリンゴのワープドライブを、鬼道がスピニングカットで未然に防いだ。

 たしかにあの技は、その弱点を付ければ対策はしやすいって、前回も誰かが言ってたっけな。

 

 

「中谷!」

アステロイドベルト!」

「ぐうっ…!」

 

 

 鬼道が中谷に向けたパスは、コラルに防がれる。2人の周りに宇宙空間が広がり、その周りにあった隕石の欠片を操り、中谷にぶつけられた。とんでもない技だな…。

 こぼされたボールはパンドラに拾われ、近くにいたのは、さっきと同じくオレだけ。ここは、オレが行くしかないな。

 

 

「今度は…」

「………」

 

 

 すると、またパンドラは動きを止めて、じっと見てくる。

 ……コイツがなにしてるか、ちょっと見てみようかな。

 

 

ペロッ

「は?」

 

 

 なんか、パンドラが自分の唇を舌でペロリってやって、パスを出した。

 クセか何かなのか…?たしかに舌を出した方向と、パスを出した方向は同じだったけど…。

 

 

「…いや、でも。そんなことある?」

「考え事とは、ずいぶん余裕だな」

「いや、お前の仲間のせいなんだけど…」

クイックドロウ!」

 

 

 そんなことをレーゼと見合いながら話してるうちに、風丸がクイックドロウでリームからボールを奪っていた。

 いや、本当にさ。余裕だなとか言われてるけど、これパンドラのせいだからな。

 

 

「一之瀬!」

「ああ!」

「させるか!フォトンフラッシュ!」

「うわっ…!」

 

 

 風丸からボールを受け取った一之瀬が攻めようとしたが、上空で身体を回転させたカロンが、身にまとったエネルギーを開放し、発光現象を引き起こした。

 目をふさがれた一之瀬はそのまま、カロンにボールを奪われてしまう。

 

 

「パンドラ!」

「………」

「………」

 

 

 本日、3度目の対面だけど。同じことが起こっている。オレの目の前にいるパンドラが、オレの顔をじっと見て、オレもパンドラの顔をじっと見ている。

 ボールじゃなくて、顔を見合ってるこの状況はなんなんだと思わないでもないけど、オレの考えていることが本当なら、必要なことで…。

 

 

ペロッ

 

 

 今度は、オレから見て左の方に舌を出した。それを見たオレは、完全に左の方へと意識をやり…。

 

 

「やっぱりな!サイクロン!!」

「うわあああ!?」

 

 

 あらかじめ準備していたサイクロンを、パスの方向にディアムがいたことを確認してから、設置する。

 ちょうどボールを受け取ったタイミングで置けたからな。ファールにはならないし、不意も付けた。

 

 

「な、なぜそんなすぐに対応できて…!?」

「………」

「なぜそんな神妙な顔をして黙る!?」

「言わない方がいいんだろうなってなったんだよ察しろ!!」

「どういう意味よ!?」

「行け!染岡!!」

「無視するな!!」

 

 

 無視するに決まってんだろ!『お前、パスするときに、その方向に向けて舌をペロリってするクセがあるぞ』なんて言えるワケあるか!仮にレーゼが知ってたとしても言えないだろこれ!緑川に戻っても言えなくないか!?

 

 

「サンキュー半田!今度こそぶち抜いてやるぜ!」

「今度は油断せん!来い!!」

「行くぜ!!」

 

 

 染岡がボールを打ち上げると、染岡の後ろの地面が割れ、そこからなにかが出てくる。

 

 

「あれは、ドラゴンクラッシュではありませんよ!?」

「たしかに、出てきたのが明らかに違うわね」

「ちゃんと腕や足も見えるし、それに…」

「……翼が、生えてる…?」

 

 

 マネージャーたちが言ったように、ドラゴンクラッシュとは違うもの。

 翼の生えた巨大な龍、ワイバーンが現れ、打ち上げられたボールに追いつき、エネルギーを込める。

 エネルギーが込められたボールは、染岡の足元にまで降りてくる。

 

 

うおおおおおお!!

 

 

 咆哮を上げた染岡が打ったシュートは、ワイバーンと共に猛スピードで突き進む。

 ドラゴンクラッシュと比べて、威力も上がっているのは感じるけど、一番の違いは…。

 

 

「な、なんだ!?この速さは…!う、うおおおおお!!」

 

 

 ゴルレオが言った通り、ドラゴンクラッシュと比べてシュートのスピードが段違いだった。

 スピードで言うと、エターナルブリザードよりも上な気がする。

 

 

「ゴォォォオオル!!染岡による新必殺シュートで、雷門!勝ち越しだあああ!!」

「勝ち越し…だと…!?」

「入院してるアイツらの分だ。オレが点を取らなきゃ意味がねえ」

「…やったな。染岡」

「おう。お前があそこまで持ち込んでくれたおかげだ」

「オレだと、アイツらから点を奪えそうになかったからな。お前がやってくれて、オレもスッとした」

「へへっ、そうかよ。なら、オレも頑張った甲斐があったってもんだ」

 

 

 今のオレたちなら、ザ・ギャラクシーでも点を奪えそうな気もするけど、ゴルレオにブラックホールを使わせたくなかったことから、速攻性のあるシュートで挑む必要があった。

 ザ・ギャラクシーは威力は折り紙付きだけど、相手に迎撃の準備をさせるぐらいには隙がデカいものだし、何より円堂の体力を余分に減らしたくはなかった。

 アストロブレイク以外にシュート技がありそうってことは、みんなも感じてたことだからな。

 

 

「……我々に、負けは許されない。ディアム!行くぞ!」

「ああ…!」

「止めるぞ!」

「うん…!」

「邪魔をするな!!」

 

 

 試合再開と同時に、レーゼとディアムが突っ込んでくる。

 そこへオレや中谷が立ちふさがるが、レーゼとディアムが並んで走ることによって生まれたエネルギーを身にまとい、圧倒的なスピードでオレたちを抜き去る。

 

 

「な、なんてスピードだ…!」

「いや…。今の一連の動きは、かなり無理をしてやってることのはずだ。すれ違う瞬間に、アイツらの顔に汗が見えたからな」

「ということは…」

「ああ。この攻撃を防げれば…」

 

 

 オレたちが戻ることは叶わない。だから、ゴッドハンドトリプルは使えない。

 それを察してる円堂は、既にマジン・ザ・ハンドの準備をしている。

 

 

「この一撃、受けるがいい…!」

「勝つのは我々、ジェミニストームだ…!」

 

 

 レーゼとディアムの2人がボールを蹴り上げる。すると、上空でボールの周りに宇宙が広がる。

 

 

「来るぞ!みんな!!」

「壁山、塔子、風丸、頼む…!」

「はいッス…!」

「任せて…!」

「ああ…!」

 

 

 そこへ、風丸たちがシュートコースになるだろう位置へ入る。

 土門はシュートブロック出来る技を覚えてないから入れないが、それは仕方のないことだな…。

 

 

ユニバースブラスト!!』

 

 

 宇宙の中心にあるボールへ2人が飛び込み、同時にボールを蹴る。

 広がっていた宇宙を纏ったボールは、ゴールへと突き進んだ。

 

 

「行くぞ!2人とも!」

「うん!」

「少しでも、削るッス!」

 

 

 既に準備していた3人が、シュートブロックに入る。…頼んだぞ。みんな…!

 

 

スピニングカット!」

ザ・タワー!」

ザ・ウォール!」

 

 

 3人のディフェンス技が、ユニバースブラストと激突する。少しの間、拮抗は保たれたが…。

 

 

『うわああああ!!』

「止められるものか…!」

「再び絶望を抱け、地球人…!」

 

 

 その一瞬の後、ユニバースブラストが勝ち、3人は吹き飛ばされた。

 だけど、今の激突のおかげで、威力を削ぐことはできたはずだ。あとは…。

 

 

「円堂!頼んだ!!」

「ああ!なにが絶望だ…!オレたちが大好きなサッカーで、そんなこと、してたまるかああああああ!!」

 

 

 円堂の叫びと同時に、魔神が姿を現した。今回は、充填が間に合ったようだ。

 

 

マジン・ザ・ハンド!!」

 

 

 ユニバースブラストを、円堂のマジン・ザ・ハンドが防いでいる。

 オレたちに出来ることは、何もない。円堂が止めるのを、信じるだけだ。

 

 

「うおおおおおおお!!」

「な、なんだと…!?」

 

 

 円堂の叫びに応えるかのように、魔神の輝きが増した。それと同時に、ユニバースブラストは防がれる。

 

 

「絶望なんて、してたまるか…!」

「くっ…!」

 

 

 そのやり取りの後、試合終了の笛が鳴らされる。

 とくに、大きなことは出来なかったけど。前回からの因縁は、絶つことが出来たかな…。

 

 

「バ、バカな…。我々が、負けるだと…?」

「やった…。やったあああ!!」

「ああ…!これで、エイリア学園の破壊活動は、止められる…!」

「おい!お前ら前に言ってたよな!オレたちが勝ったんだ。とっとと帰りやがれ!!」

 

 

 集まった円堂たちは、ジェミニストームに向けてそう言った。

 たしかにこれで、ジェミニストームは止められた。そう。ジェミニストームは。

 

 

「ふ、ふふふ…。たしかに、貴様たちは我々に勝利した。だが、まだ終わりではない」

「なんだと…?」

「なぜ奈良でわざわざ、チーム名を名乗ったと思う?エイリア学園で通っていたのなら、そのままその名で名乗り続ければ良いだけだったはずだろう」

「…たしかに。それは妙だと思っていた。それではまるで、エイリア学園に、他にも…!?」

「ま、まさか貴方たち…!?」

 

 

 鬼道と雷門が、顔を青ざめる。それに続いて、皆も同じ結論に至ったんだろう。

 …エイリア学園が、ジェミニストームだけではないってことを伝えるかどうか、最後まで悩んだんだ。

 でも、それを遠回しにでも伝えることは、出来なかった。瞳子監督のことを考えると、そこまで出過ぎた真似をすると、勘繰られそうで。

 

 

「そうだ。我々ジェミニストームは、セカンドランクのチーム。言わば、エイリア学園の控え選手だ」

「なっ…!?」

「お前たちが、控えだって!?」

「本当のエイリア学園は、我々のことではない。我々など、あの方たちに比べれば…」

「本当に…お前たちよりも上の選手がいると言うのか…?」

「貴様らは、これから思い知ることになるだろう。我らエイリア学園の、本当の恐ろしさを…」

少し喋りすぎのようだな。レーゼ

 

 

 レーゼの言葉を、遮った者がいた。声がする方へと目を向けると、黒い煙みたいなものが発生していたのが分かった。

 そしてその中心には、黒いユニフォームで身を包んだ、乱れた髪型の男が、そこにはいた。

 

 

「デ、デザーム様ァ!?」

「誰だ!?」

 

 

 その周りにも、他のメンバーが生えてくる。コイツらが、ジェミニストームより上の…。

 

 

レーゼよ。これよりお前たちジェミニストームを、エイリア学園より追放する

「なっ…ああ…」

この地で死に絶えるがよい。さらばだ

 

 

 そう言うと同時に、アイツが手元に持ってた黒いボールが、ジェミニストームの方へと打たれる。

 固まっていたジェミニストームのメンバーたちの所へ着弾すると同時に、ボールから光が放たれる。

 

 

「くっ…!なんだ…!?」

「なにが、起こって…!」

 

 

 光が止むと、ついさっきまでジェミニストームがいた場所には、誰1人の姿も無く、ジェミニストームの存在は無かったことにされたようだった。

 

 

「…お前ら。何者だ」

…ほう?今の光景を見ても、我らのことを知りたがるか

「……どうせ、次に戦うのはお前たちなんだろ。対戦相手にぐらい、名前を名乗れよ」

フッ…!ハハハ!!なるほど。それは道理だな。いいだろう

 

 

 帰ろうとしたアイツらを、なんとか引き留める。せめて、これぐらいはさせてもらうぞ。

 

 

我らはエイリア学園ファーストランクのチーム、イプシロン。そして、私はキャプテンであるデザーム。貴様と、隣にいるオレンジのバンダナは、なんと言う

「……半田真一」

「……円堂守」

ふむ。他のメンバーは、後のお楽しみに取っておこう。さらばだ、雷門イレブンよ。次に会うときのこと、覚悟しておくがいい

 

 

 そう言って、デザームたちは消え、去っていった。

 ……………イプシロン、か。

 

 

 

 

 

 

 

 雷門イレブンが、北海道から去ろうとしているのと同じ頃。

 

 

「…真・帝国学園、か」

 

 

 白恋中から離れた場所にある雪原。そこには倒された護送車があり、そこから1人の男が出てくる。

 

 

「だが、同じ負け方などせんよ。抵抗はさせてもらう」

 

 

 その男の名は、影山零治。帝国学園、世宇子中での悪事が明るみとなり、逮捕された男だった。

 

 

「……負けを受け入れるのは、これが最後だ」

 

 

 彼も再び、動き出す。ポケットには、少量の便箋と共に、2つのページの断片が、忍ばせていた。




"サッカーでパスをする時、パスしたい方向に対して舌で唇を舐めるクセがある"。こんな設定聞いたことねえよ。

必殺技のセリフがロゴ意識ってのも変な気はしますけど、気合い入ってるからいいかなと。






以下、雰囲気台無し警報発令中。
追記。今までの比ではないです。遅めのお年玉変わりのぶち壊しです。





(あーあ。負けちゃったか。これでオレたちはエイリア学園を追放ってね。せっかくだし、雷門イレブンに少しだけ情報残しとくかな。画竜点睛…とは違うか)
「オレたちが勝ったんだ。とっとと帰りやがれ!」
「(ちょうどパスが来たし、返そうかな。オレたちよりも上がいるってことだけね)ふ、ふふふ…。たしかに、貴様たちは我々に勝利した…」

~以下略~

マズいな。敗北した下っ端が組織のことコツコツと話すムーブ、ちょっと楽しい
「本当に…お前たちよりも上の選手がいると言うのか…?」
「貴様らは、これから思い知ることになるだろう。我らエイリア学園の、本当の恐ろしさを…(あっ、ヤバい。いい反応してくれるもんだから、もっと喋っちゃう。誰か止めて!)」
少し喋りすぎのようだな。レーゼ
「(あっ、砂木沼さん!ありがとう止めてくれて!)デ、デザーム様ァ!?」
レーゼよ。これよりお前たちジェミニストームを、エイリア学園より追放する貴様だけ敗北した下っ端を楽しむのはズルいぞ!私も混ぜろ!)」
(あっ、違う。この人も混ざりたかっただけだな)
(緑川と砂木沼さん、楽しそうだな…)


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雷門イレブン、西へ

東京→北海道→京都→愛媛→東京→大阪→福岡→沖縄→東京→富士→東京→各メンバーを送る旅(北海道・京都・大阪・福岡・沖縄)
アニメ版とゲーム版で若干差はあれど、こんな感じでキャラバン移動してんすよね。桃鉄か?
京都→愛媛の後に東京→大阪ってなんだよって思いますよね。原因染岡さんの入院なんすけど。


「ひとまず、東京へ戻ります。通信が出来るとは言え、直接話した方が早い状況です」

「……はい」

 

 

 北海道でジェミニストームを撃破したオレたちに重くのし掛かるのは、エイリア学園のファーストランクチーム、イプシロンの存在。

 あらかじめ知っていたとは言え、あれだけ苦労したジェミニストームのさらに上の実力者たちのチームの存在は、オレにも響く。

 そして、この中の選手でオレだけ、それよりもさらに上のチームの存在も知っている。

 

 

「……半田くん?」

 

 

 知っているだけで、対策なんかあるワケじゃないってのに。

 

 

「……アキちゃん。水筒ある?」

「えっ?ここにあるけど…」

「貸して」

 

 

 ……そんな事実だけ知っていたところで、何が出来るって言うんだ…。

 

 

「えいっ」

「……なにふんふかおおふぁにふぁん」

 

 

 隣にいる大谷に、いつの間にか持ってた空っぽの水筒で両頬を挟まれた。

 この前は雪玉投げられたし、オレを玩具と思ってないか…?

 

 

「声掛けても返事してくれない半田くんにはこうしてやります」

「わるふぁった。わるふぁったふぁら、ふぉれやめふぇくふぇ」

「なにやってんだお前ら」

 

 

 珍妙なものを見る目をしてる染岡の介入により、大谷は水筒を木野に返して謎の時間は終わった。

 オレまでそんな目で見ないでくれよ…。

 

 

「大方お前のせいで始まったんだろ」

「否定出来ないけど…」

「じゃあいいだろ。ったく、そんなモン見せられたら、さっきのインパクトが薄れるだろうが。いい迷惑だぜ」

「どういうこと…?」

「それに、オレだけじゃないと思うけどな」

 

 

 そうして周りを見ると、オレンジバンダナと水色髪、そしてドレッドヘアーが後ろの席から見え、染岡の目から感じた雰囲気と同じのを感じ、コイツと同じような目をしてるんだろうなと察する。

 コイツらオレを何だと思ってんだ。

 

 

「……あれ。携帯が鳴ってる。はい、もしもし」

 

 

 その間に、木野の携帯に着信が入った。

 

 

「……えっ。本当ですか!?」

「どうしたんですか?木野先輩」

「古株さん!東京に行く時、先に稲妻総合病院へ向かってもらえますか!?」

「おお?別に構わんが、何かあったのか?」

「影野くんたち、退院ですって!」

「ほ、本当か!?」

 

 

 それは、影野たちの退院報告だった。

 検査入院とは聞いてたけど、前回よりもずっと早い退院だ。

 

 

「よーし!そうとなりゃ早速向かわなきゃな!構わないか?監督さん」

「ええ。合流するなら、早いうちの方が望ましいですし、お願いします」

「……あっ、監督。オレから提案があるんですけど、いいですか?」

「なんですか?半田くん」

「影野たちが復帰してからなんですけど…」

 

 

 病院へと向かう前に、瞳子監督に1つ提案をしてみる。

 結果は、監督としても望ましいことだったらしく、すぐにOKをもらえた。

 とにかく、今は東京に戻るのを待つしかないけど。

 

 

 

 

 

 

「宍戸佐吉!」

「少林寺歩!」

「………影野仁」

『ただいま戻りました!!』

「……………………ったよ」

「1人周回遅れがいるぞ」

 

 

 それから数時間後、東京に戻って来たオレたちは、早速影野たちを出迎えた。

 3人とも元気そうだな。よかった。

 

 

「話は聞いてますよ。雷門を壊した奴らよりも、上のチームがいるんですよね?」

「だ、大丈夫ですかね…?オレもやる気はありますけど…」

「……………たしかに。また怪我をするようじゃ、困る」

「あっ、その心配は無いぞ。3人とも」

『えっ?』

 

 

 オレが少しの不安を感じてた3人に向けてそう言う。

 その途端、若干身構えてるように思えたけど、全スルーしてやる。

 

 

「なっ、吹雪」

「うん。キミたちの心配も分かる。話を聞いた時は、ボクも同じことを感じたからね。だから、半田くんは既に策を講じてたよ」

「……………」

「……ねえ、宍戸。千羽山のときの宍戸の気持ち、ちょっと分かったかも」

「い、いや…。これは、多分…あの時よりは……」

「よーしみんな。早速だけど、長野行くぞー」

「長野……?」

 

 

 

 

 

 

「マックスくん。起きてます?」

「あれ、珍しいね冬海先生。どうしたの?」

「突然現れた半田くんに、言付けを頼まれまして。ジェミニストームが倒されたのは、知ってますね?」

「知ってるよ。それと、イプシロンの存在も」

「それですね。イプシロンに勝つまでは、貴方のいる病室には来ないそうですよ。バックトルネードとまでは行かずとも、スパイラルショットを喰らいそうとか、よく分からないことを言ってましたが」

「……まあ、やる気は伝わるからいいんだけどさ。そう言えば、影野たち退院だっけ?」

「ええ。それと、この写真も託されましたね」

「ん、写真?どれどれー…………」

「これからの影野くんたちと、退院したキミの姿らしいですよ」

「なんで円堂たち雪玉に潰されそうになってるの?」

 

 

 

 

 

 

 オレたちは、長野のスキー場にいる。

 そこでやっているのは、もちろん…。

 

 

「スキー場の許可は取れました。存分にやりなさい」

「取れちゃったんですか…?」

「雷門イレブンの名前と、エイリア学園対策の特訓という話をすれば一瞬だったわね」

「よーし吹雪!頼んだ!」

「あの待ってください先輩。こんなことに一体何の意味があるって言うんですか?」

「おい宍戸。実際オレたちはこれでジェミニストームに勝てるぐらいの力付けたんだぜ?そこに関しては保証するぞ」

「…………困った。ちょっと言い返せない」

「か、影野先輩!正論に負けないで…」

「行くよー」

「やったれー!!」

『いやだああああああああ!!』

「…………でもこれ、やってるとすごい目立つ…!」

「1人だけ別のモチベーション見つけたヤツいるぞ」

 

 

 北海道でやったあの特訓を、復帰した3人に長野で叩き込んでるところだ。

 染岡が言った通り、この特訓の効果はオレたちで実証済みってのもあり、瞳子監督がOKを出してくれたのは予想出来た。

 でもスキー場の管理人が二つ返事でOK出してくれたのは、ちょっと予想外だったんだけどな。シーズンオフってのもあったのかな?

 

 

「3人だけじゃなくて、オレも追加でやろうかな。吹雪ー!オレにも頼んだ!」

「うん。すぐに作れるから、みんなも風になろうよ」

「なら、オレもやろうかな。イプシロン相手にするなら、ちょっとでも力を付けとかないと」

「おーいみんな!風丸も風になるらしいぜ!」

「お前覚えとけよ」

 

 

 悲鳴を上げる宍戸や少林と並走して、オレと風丸も特訓を始めるけど、これどっちかと言うとオレのことを風丸が追いかけてないか?

 悲鳴が聞こえない影野だけど、アイツはアイツで適応し出したみたいで、特訓を始める前とは動きが変わり始めたように思える。

 やっぱりこの特訓って大事なんだなって、風丸に雪を被せられながら思い始める。甘んじて受け入れるのもこれぐらいだぞお前。

 

 

 

「みんな。次の目的地が決まったわ」

「えっ、いつの間に?」

「響木さんから連絡があったのよ。イプシロンの襲撃先は、京都の漫遊寺中だそうよ」

「ま、漫遊寺中ですか!?」

「うおっ。少林が屍から復活したぞ」

「見た目も相まって、キョンシーみたいだったのに」

「漫遊寺中か…。そこが狙われるということは、奴らは全国の学校の実力をある程度把握してるのか…?」

 

 

 そうして、オレたちは漫遊寺中へと向かうことになった。

 ということは、イプシロンと戦うことになる…か。

 

 

「……イプシロン、か」




早期退院と風になったことで、現状微強化されてますわよ。


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