ラブライブ Start over 〜18人の物語〜 (ジョリポン)
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キャラ紹介

ここにメインのオリキャラ9人の紹介を書いていきます! 話に出てくると見た目が増えるよ。わたしが描きました!
読んでてコイツ誰になったらここを見るときっと思い出せます。

未登場のキャラは設定変わるかもしんないけど字数1000ないと投稿できなかったから仮で書きましたごめん!



白瀬 幸(しらせ さち)

 

2年。臆病で、知らない人が苦手。

昔に何かあったらしくそれ以来引きこもっている。

楽人の弟で穂乃果達3人とは幼馴染。

 

「白瀬幸、2年…………あの…もういいですか……?あんまりこういうの…得意じゃないので……」

 

【挿絵表示】

 

 

 

白瀬 楽人(しらせ らくと)

 

大学生の優しいお兄さん。

穂乃果達3人とは小学からの幼馴染。

両親は他界しているため弟の幸と2人暮らしをしている。

 

「どうも。白瀬楽人、大学生です。今日も幸をよろしくね」

 

【挿絵表示】

 

 

 

吉田 伊助(よしだ いすけ)

 

3年で生徒会の副会長。

明るく頼れる気前のいいお兄さん。

よく人のことを褒める。そのため人望は厚い。

眩期とは親戚。絵里に少し嫌われている。

 

「吉田伊助、3年だ。わざわざ自己紹介を見にくるなんて偉い!伊助さんが褒めてあげよう!」

 

【挿絵表示】

 

 

 

芽野 眩期(めの げんき)

 

1年。元気で人懐っこい性格。

何かと褒めてほしがる。

そのためよく誰かの手助けをしている。

伊助と親戚。

 

「はじめまして!芽野眩期、1年です!皆さん凄いなぁ〜!ぼくも頑張らないと!」

 

【挿絵表示】

 

 

 

犬神 健斗(いぬがみ けんと)

 

1年。素直じゃない性格。

凛と花陽とは幼馴染だが今はあまり仲良くない。

よく花陽にちょっかいを出し凛に怒られている。

 

「…犬神健斗、1年だ。…そんだけだよ。テンションが低い? うるせぇな! 言う事ないんだよ!」

 

 

友田 典人(ともだ のりひと)

1年。明るくノリの良い性格。

健斗と仲が良く真姫とは腐れ縁。

裕福な家庭で暮らしていてピアノがまぁまぁ得意。

絵里の事が好き。

 

「友田典人、1年でーす。西木野とはなんだかんだ仲良しだよ。セレ友って奴だね〜」

※セレ友=セレブ友達

 

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紀伊山 零(きいやま れい)

 

2年。献身的でおとなしい性格。

常に人助けや人の役に立つ行動をしている。

そのため顔は広い。

身体能力は高く、器用。

 

「紀伊山零、2年です。なにか困っていることはありませんか?」

 

【挿絵表示】

 

 

 

皐月 純(さつき じゅん)

 

2年。自信過剰で調子乗りな性格。

でも大体なんでもできる。

ちょい悪なため真面目な海未と仲が悪い。

たまに早退する。

 

「皐月純、2年だよ。まぁ?僕にかかれば大体の事は余裕かな!!(ドヤ)」

 

【挿絵表示】

 

 

 

喜楽 秀介(きらく しゅうすけ)

 

3年。お気楽でノリがいい。

しかしあまり頭はよくない。

よくギャグやウケを狙った発言をするが周りにはスルーされる。

希と2人で超常現象研究会という同好会をしている。

 

「喜楽秀介、3年です!!!!!!よろしくね!!!!!!!!!」




彼らをよろしくね!


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1章 スクールアイドル開始編
1話 廃校宣言 in 白瀬ハウス


1話は少し地味な感じになってしまいました。まだ切らないでくださいせめて2、3話までは読んでくださいお願いします!



ダッダッダッダッダッ

寂れた建物内を手を引かれ走る。

 

 

『待って……待ってよ! まだお父さんとお母さんが……!!』

 

 

このままだとお父さんとお母さんが死んでしまう。お願い、待ってよ。なんだってする。もう悪い事しないし手伝いだってする。

だから──────

 

 

 

 

「兄ちゃん!!!」

 

 

自分の声で目を覚ます。

心臓の鼓動がはやい。

気がつくと僕はベッドの上に居た。

 

 

「……またあの夢……」

 

 

ため息をつき起き上がる。時計を見ると朝の9時半だった。もう兄ちゃんは出てるかな。

 

階段を降りリビングに行くと机の上にサンドイッチとメッセージカードが置いてあった。

 

 

『おはよう。今日の昼ご飯は幸の好きなハンバーグだよ。冷蔵庫に入ってるからチンして食べてね。』

 

 

やった! サンドイッチは昼にまわすことにし、早速冷蔵庫からハンバーグを取り出してレンジにかける。兄ちゃんのハンバーグは絶品なんだよね。わくわく。

 

そして僕はハンバーグをペロリとたいらげる。美味しかった〜。よし、それじゃあ今日も──── ()()()()()()()()()()

 

 

僕、白瀬(しらせ) (さち)は高校2年生です。そして今は10時、学校では2時間目が始まる頃だと思います。

普通の人ならのんびりご飯を食べてる場合ではなく、起きた時点で急いで学校に向かっている事でしょう。でも僕は今こうしてテレビに向かいコントローラーを握っています。外に出る素振りもなく。

今日だけじゃない、昨日も一昨日ももっと前の日も。遅く起きた日も早く起きた日も関係なく、毎日毎日。

 

 

────そう、僕は引きこもっている。

 

 

 

 

 

ピンポーン

 

インターホンの音が鳴る。ふと時計を見ると午後4時だった。しまった。熱中しすぎて昼に回したサンドイッチを食べてなかった。

そんな事を考えつつ玄関の覗き穴から外をチェックする。まぁこの時間帯だとなんとなく誰か予想できるんだけどね。ほらやっぱり。早速僕は玄関を開けた。

 

 

「いらっしゃ」

「幸くうぅぅぅぅぅん! うぇぇぇぇぇん!!」

「うわぁ!」

 

 

扉を開けるや否や茶髪ロブカットでサイドテールの子が飛びついてきた。穂乃果ちゃんだ。

凄い勢いだったためバランスを崩し尻もちをつく。

 

 

「おじゃまします♪」

「穂乃果! いきなり入ると危ないでしょう! 幸くん、大丈夫ですか?」

 

 

後ろからベージュロングヘアーでサイドテールの子、ことりちゃんと青髪ロングの子、海未ちゃんが入ってくる。兄ちゃんを含めた僕たち5人は小学からの幼なじみだ。家も近いため彼女達は学校帰りによくうちに寄ってくれている。

 

 

「あはは、大丈夫だよ」

 

 

少し困惑しながらも海未ちゃんに笑顔を返す。そしてさっきからずっと僕の右側にひっついている穂乃果ちゃんに意識を向けつつ気になっている事を聞いた。

 

 

「それで何があったの?」

「それはでs」

「そう! 聞いてよ幸くん!!」

 

 

説明してくれようとした海未ちゃんを遮り穂乃果ちゃんが話しだす。少し不機嫌そうな海未ちゃんをよそ目に穂乃果ちゃんはとんでもない一言を発した。

 

 

「音ノ木、廃校になっちゃうんだって! どーしよーーー!!」

 

 

 

──────────────

 

 

 

「いや〜、今日もパンが美味い!」

 

 

場所を玄関からリビングに移し、話を続ける。ちなみに今穂乃果ちゃんが食べてるのは僕が昼食べるつもりだったサンドイッチだ。ここに移動した時凄い食べたそうに見つめていたため、わけてあげたのだ。さっきまで凄い悲しい顔をしてたのに今は満面の笑みでサンドイッチを頬張っている。その落差に思わず笑みが溢れた。

 

 

「それで、廃校ってどういうこと?」

「それが今年の1年生が予想より少なかったらしく、このままだと音ノ木は今年度いっぱいで廃校になってしまうようなんです……」

「お母さんにも聞いてみたんだけど、これを覆すには入学希望者が増えないとって……」

「そっか……」

 

 

ちなみに今話に出てきたことりちゃんのお母さんは、僕たちの通う音ノ木坂高校の理事長をしている。僕は通えてないけど。

その時、リビングの扉が開き白髪の青年が飛び込んできた。

 

 

「少し聞こえてきたんだけど音ノ木廃校になるの!?」

「兄ちゃん!」

「「楽人くん(さん)!」」

「ほはえい〜(もぐもぐ)」

 

 

彼は白瀬(しらせ) 楽人(らくと)。僕の兄で大学生。いつも僕の事を気にかけてくれる優しい兄です。

 

それから廃校の事を兄ちゃんにも説明した。

 

 

「……なるほど……それは困ったな……」

 

 

話を聞いた兄ちゃんは腕を組み、真剣な表情で何かを考え始めた。

 

 

「そうなんだよ! このままいくと別の学校に入らないといけないでしょ? 私頭良くないから受験とかやばいよーー!!」

 

 

いつの間にか食べ終わったらしく、穂乃果ちゃんが話に入ってくる。

 

 

「それは頑張ればどうとでもなります」

「そんなぁ!」

「それより楽人くんが考えてるのは多分……」

 

「僕の事……だよね……」

 

 

僕は何年も前から引きこもっている。それなのに高校に入学し2年生まで進級できたのは、理事長──ことりちゃんのお母さんのおかげなのだ。ことりちゃん一家は僕らの家の事情を知っているため、特例として対応してくれていた。でも……

 

 

「そっか! 今までは私たちが幸くんに勉強教えてあげてテストさえ通れば進級できてたけど、学校変わるとそれが通じなくなっちゃうのか!」

「穂乃果は教わる側の立場でしたけどね」

「えへへ」

「僕が普通に登校できれば解決する話なんだけどね……」

「幸……」

 

 

うっかり自虐が出てしまい、少し空気が重たくなる。しまった。後悔で俯く。

 

そう、僕も引きこもりたくて家にこもっているわけではない。昔の事件で負ったトラウマから、外に出ようとしたり知らない人と会ったりすると足が震えて動けなくなるのだ。最初の頃はそれでも学校に行こう、外に出ようと努力していたが、何日経っても変わらなかっためいつしか諦めてしまった。

 

暫しの沈黙の後、いきなり穂乃果ちゃんが立ち上がった。

 

 

「……よし! やっぱり私、頑張るよ!」

「何を?」

「実は今日廃校の話を聞いてから、それを阻止するために何かできないか3人で考えてたんだ!」

「なるほど。たしかにそれが叶えば一番だ」

「転校処理を考えなくていいというのもありますが、やはり今まで過ごしてきた学校がなくなるのは嫌ですからね」

 

 

また僕のせいでみんなに苦労をかける事になってしまった。さっきみたいにならないよう今度は心の中で呟く。

 

 

「それで、どうやって廃校を阻止するつもりなんだい?」

「それなんだよーー! 入学希望者を増やすために音ノ木の良いところを探して回ったんだけど、『これだ!!』っていうのが無くて……」

「何かいい案ないかな?」

 

 

ことりちゃんにそう振られ必死に考える。こういう時くらい役に立たないと。でも、そもそも一回も登校した事ないため全然思いつかない。すると兄ちゃんがアドバイスをくれた。

 

 

「こういうのは『どうやったら人気が出るのか』を考えるより『人気がある学校はなぜ人気なのか』を考えた方がいいかもね」

「なるほど。先人の知恵を借りる、という事ですね」

「さすが楽人くん! 伊達に二十数年生きてないね!」

「あはは、まぁね」

「この辺で人気の学校といえば……」

「「「「UTX!!」」」」

 

 

みんなの声が重なる。僕は外に出ないから知らないけど、みんなからパッと出るということはよっぽど凄い学校なんだろう。

 

 

「早速帰って調べてみる! ありがと楽人くん! 2人ともまた明日ね!」

 

 

そう言うと穂乃果ちゃんは玄関に飛んでいった。

 

 

「ちょ、ちょっと穂乃果! すみませんお邪魔しました!」

「またね楽人くん幸くん♪」

 

 

それを追い残りの2人もドタドタと出ていった。

 

 

「……みんな行っちゃったね」

「うん」

「いやぁ、それにしてもいきなり廃校だなんてビックリしたね」

「……うん」

「幸は心配しなくていいよ。僕とみんなですぐ解決するから」

「あ……ぇぅ……」

 

 

兄ちゃんは優しいからきっと気遣ってくれたんだと思う。でも今の僕には、お前は役立たずだと言われているように感じた。思わず顔が曇る。

 

 

「どうしたの幸」

「また僕のせいでみんなに迷惑かけちゃうんだなって……案も何も思いつかなかったし……」

「幸は悪くない。だからそう自分を責めないで?」

「…………」

 

 

兄ちゃんはいつもそう言ってくれる。それでもやっぱり僕は自分を責める事をやめられない。いつも僕のためにみんなが動いてくれる。それなのに僕はみんなに何も返す事もできず何の役にもたてず、ただただ甘え続けるだけ。

 

はぁ。

 

 

僕はこんな僕が嫌いです。

 

 

 

──────────────

 

 

 

「うわぁぁでかぁぁい!!!」

 

 

翌日、僕たち4人はUTX学園の下見に来ていた。あの後各自調べたけど、やはり実際に見た方がいいだろうということでいつもより朝早く集まって学校に行く前に来てみたのだ。

 

 

「ごめんね楽人くん。私たちの学校の事なのに手伝ってもらっちゃって……」

「大丈夫だよことりちゃん。幸の事もあるし、そもそも僕たちの仲でしょ?」

 

 

いやぁ、それにしてもことりちゃんは良い子だなぁ。つい撫でてあげたくなるけどそれは抑える。

 

それにしても朝早いのに人が多いな。周りを見ると男女関係なく多くの人が集まっていた。UTXの人気度合いがよくわかる。

 

 

「あれをみてください!」

 

 

海未ちゃんが建物に付いている大きなモニターを指差す。そこに映っていたのはこのUTX学園を人気たらしめている大人気スクールアイドル、A-RISEだ。

 

 

『みなさん、ようこそUTXへ! それでは早速聞いてください。Private Wars』

 

 

曲が流れ出し、モニター越しにパフォーマンスが始まる。さすが有名なだけあって凄いクオリティだ。元々これを見に来ている人だけでなく、偶然通りがかっただけの人も足を止めモニターに釘付けになっている。もちろん自分たちも例外ではない。

 

 

『ありがとうごさいました!』

 

 

曲が終わり、周りから歓声が上がる。

 

 

「ふわぁ……凄かったね……」

「そうですね……しかしこれは凄すぎて参考にはなりませんね」

「確かにね……さてどうしたもんかな……」

 

 

他のUTXの魅力といえば最新のカリキュラムとか、白と黒をベースとしたかっこいい制服とか色々ある。でもそれらは廃校が決まりかけている今の音ノ木で今更改革するのは難しいだろう。そもそも僕たちの力で真似出来るようなものでもない。まずいな、僕のアドバイスあんまり役に立ってないかも。

その時。

 

 

「これだ……」

「穂乃果ちゃん?」

「これだよ!! 私たちもスクールアイドル、やってみようよ!!」

 

 

穂乃果ちゃんが凄いことを言いだす。

 

 

「穂乃果……さっきのパフォーマンスを見ていましたか? 踊り未経験で素人な私たちではどうやっても敵うはずないでしょう」

 

 

音ノ木とUTXは割と近い場所にある。今回の廃校事件───音ノ木の志望者が減っている理由の1つとして、UTXに志望者をとられているからと言うのが少なからずあるはずだ。つまり音ノ木の廃校を防ぐ為にはUTXには無いもの、またはUTXに負けるにも劣らないものがないといけないのだ。ここで素人の集まりが真似っこでスクールアイドルを始めても効果は薄いだろう。

 

 

でも。

 

 

「やってみないとわからないよ! それに誰だって最初はやった事ないじゃん!」

「それはそうですが…… 」

 

 

穂乃果ちゃんは真っ直ぐに前を向いていた。その顔に迷いや不安は無く、自分たちもできる! と希望に満ちていた。その姿に、もしかしたら……という希望を感じる。

 

しかし海未ちゃんは反対のようだ。

 

 

「とにかく! 無理に決まってます! アイドルは無しです!」

「もう! 海未ちゃんの分からず屋! いいもんね私1人ででもやるもん!!」

「ちょちょちょっと2人とも落ち着いて!」

 

 

険悪な雰囲気になり仲介しようとするけど2人は「ふん!」と互いに顔を背け学校へ向かい始める。

 

残される僕とことりちゃん。

 

 

「はぁ……何回見ても慣れないなこの状況は……辛い……」

「大丈夫、きっと今回もすぐ仲直りしてくれるよ。まかせて!」

 

 

穂乃果ちゃんと海未ちゃんはのんびり屋と真面目という組み合わせなためよく対立する。その度に僕は仲介を失敗し、ことりちゃんが後から仲を取り持っているのだ。はぁ。

 

 

「いつも役に立てなくてごめんね」

「そんな! いつも2人が衝突しすぎないように最初に止めてくれてるでしょ? ありがと♪」

 

 

そう言ってことりちゃんは優しい笑顔を見せてくれた。

 

ああもういい子だなぁ!

 

 

──────────────

 

 

「という事で、私たち3人でスクールアイドルやる事になりました!! イェーイ!!」

 

 

大学から帰ってくると、そこには仲良く肩を組む穂乃果ちゃんと海未ちゃんの姿があった。その横には微笑みながらこっちにピースを向けることりちゃん。

 

 

いやはや。

 

やっぱりことりちゃんはすごいなぁ。

 

 




お読みいただき、ありがとうございました。続きは明日です。よろしくお願いします!


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2話 活動準備


下の名前で呼び合うのもいいけど名字で呼び合うのもいいよね。実在感が出る。



 

「アイドル部始めたいです!!」

 

「無理。」

 

「そんな!!!」

 

 

私、高坂穂乃果!!

通っている音乃木坂学院が生徒不足により廃校の危機に陥ったの!!

それを阻止するためにスクールアイドルを始めようと思い、生徒会室に部活申請をしに行ったら断られました。

 

 

「なんでですか!?」

「あのね。部活立ち上げは最低でも5人以上じゃないとできないって決まりがあるの」

 

 

淡々とそう答えるのは生徒会長の絢瀬絵里先輩。ロシアのクォーターらしく、金髪碧眼かつ美人。クールな振る舞いにより学内人気も高く、生徒の憧れの的だ。

 

 

「大体どうしてこんな時期に新しい部活を? 2年生よね?」

「廃校を阻止するために何かできないかと思って! スクールアイドルって最近流行ってて……」

「だったら尚更みt」

「偉い!!!!」

 

 

会長の言葉を遮り、褒めの言葉が飛んできた。

 

 

「ただの一生徒なのに学校のために活動してくれようとするなんて凄いじゃないか!」

 

 

副会長の吉田(よしだ) 伊助(いすけ)先輩だ。彼はこの学校で多分1番人望がある人だと思う。私は話した事無いけど、よく友達から良い噂を聞く。

 

 

「会長、俺たちも廃校を止めたい者同志、協力できないか?」

「吉田先輩……!」

 

 

私、気付いちゃった……

この人、凄く良い人だ!!

生徒会が協力してくれるならきっと上手くいくに違いない!

 

しかし生徒会長はため息を1つ。

 

 

「貴方ね……今日理事長に言われた事もう忘れたの? 学校のために学生生活を犠牲にしてはいけないって言われたばかりでしょ?」

「それは……でも生徒たちは不安がってる! こうして行動を起こそうとする子も出てきたし、会長だって……」

「でも理事長はそれを禁止しました。高坂さん……だったかしら。そういう事だから諦めなさい。残りの時間、自分のためになる行動をすることね」

 

 

 

 

 

はあぁぁぁぁぁ。まさか廃校を止めちゃダメだなんて……でも吉田先輩、凄く悔しそうにしてた……みんなも不安がってるらしいし、どうしたらいいんだろ……

 

生徒会室からの帰り道、うんうん唸りながら歩いていると、後ろから駆け足が聞こえてきた。

 

 

「高坂さーん!」

「吉田先輩! どうしたんですか?」

「はい、これ。君に渡しておこうと思って」

 

 

そう言って吉田先輩は1枚の用紙を渡してくれた。

 

 

「これは?」

「講堂の使用許可申請書だよ。今度新入生歓迎会があるんだけど、その後にライブをしてみるのはどうかな? 歓迎会で生徒も集まってるだろうし丁度良いかと思ってね」

「わわ、ありがとうございます! でもさっき生徒会は手伝わない、諦めろって」

「会長はそう言ってたけど、俺はこのまま何もしないのは良くないと思ってるんだ。何もしないで後悔、なんてのは嫌だからね」

 

 

そう言う吉田先輩はどこか遠い目をしているように見えた。

 

 

「まぁ、何か困った事があったらいつでも連絡して。力になるからさ」

「いいんですか!? やったぁ! 助かります!」

「いいってことよ! この伊助さんに任せときな!」

 

 

そう言って吉田先輩は右手でグッドマークを作る。

 

 

「っと、そろそろ生徒会室に戻らないとな。じゃあまた! 頑張れよ!」

「ありがとうございます! また!」

 

 

もうダメかと思ったけど、応援してくれる人もいる。よし、スクールアイドル頑張るぞ!

 

 

 

──────────────

 

 

 

「と言う事でライブすることが決定しました!」

 

 

穂乃果ちゃんからそういう報告を受ける。やっぱり穂乃果ちゃんは凄いなぁ。結成翌日にもうそこまで話が進んでるなんて。外に出ることすらできない僕には絶対無理な事だ。

 

驚きつつ横の2人を見ると、何故か2人も驚いたような顔をしていた。あれ?

 

 

「穂乃果! 初耳なのですが!」

「あれ? まだ言ってなかったんだっけ?」

「聞いてません! また貴方は勝手に決めて……なにか予定があったらどうするんですか!」

「まあまあ〜、どうせ暇でしょ〜?」

「否定はしませんが……とにかく! 次からは確認をとってから動いてください!」

「はーい」

 

 

そこでことりちゃんがおずおずと手をあげながら一言。

 

 

「予定もそうだけど、曲が無いんじゃ……」

 

「あ」

 

 

どうやら完全に色々見切り発車だったみたい。

 

 

 

 

「……しかし、曲を作るなんて全くの素人である私たちには無理なのでは……?」

 

 

確かに。このメンバーの中に音楽に関わった事のある人なんていない。

でも穂乃果ちゃんは全然動じていない。

 

 

「ふふふ……それがなんと! 私には心当たりがあります!」

「それは?」

「最近ピアノが上手い一年の子と知り合ったんだ! だからきっと頼めば作曲はどうにかなると思う!」

「なるほど。では作詞の方は?」

「それは……ねぇ?」

 

 

そう言って穂乃果ちゃんとことりちゃんは暫し目を合わせた後、海未ちゃんの方を見つめた。

 

 

「海未ちゃん、昔ポエム書いてたよね?」

 

 

なるほど。そういえば僕も昔見せてもらったことがあったな。クオリティも高く、良かった気がする。

しかし海未ちゃんは不満そうだ。

 

 

「それは昔の話です! それにもう今は書いてません!」

「そんな事言わずにさぁ〜頼むよ〜」

「私、海未ちゃんのポエム好きだったなぁ」

「ぼ、僕も!」

「他に頼める人もいないし……ね!! お願い!!!」

「…………仕方ないですね……」

「やったーーーー!!!」

 

 

ということで作詞が海未ちゃんに決まった。

 

 

「ただし! そのかわりレッスン内容は私が決めます!」

「レッスン?」

 

 

海未ちゃんは人差し指をたて、話を続ける。

 

 

「アイドルというのは激しい振り付けを1曲分、ずっと息を切らさず笑顔でやり切らないといけないんです。穂乃果、腕立て伏せをしてみて下さい」

「こう?」

「その状態で笑顔を作ってみて下さい」

 

 

そう言われた穂乃果ちゃんは笑顔を作りながら腕立て伏せを────できなかった。腕立て伏せの辛さにつられて笑顔は歪み、そもそも腕立ては苦手だったのだろう。頭から倒れこんだ。

 

 

「いったーーーーい!!!」

「このように、アイドルにはスタミナが必要なんです。やるからには半端なものにはしたくないので、厳しくいきますよ」

「はーい」

 

「あと決めておかないといけないのは衣装と集客方法かな」

「楽人くん!」

「おかえり〜」

 

 

いきなり兄ちゃんが話に入ってくる。いつの間にか帰ってきてたみたい。

 

 

「あ、衣装といえば見て欲しいものがあって……」

 

 

そう言ってことりちゃんは鞄から1冊のノートを取り出す。開くと、中には衣装案のイラストがいくつも描かれていた。

 

 

「うわぁ! 凄い! 凄いよことりちゃん!!」

「これ全部ことりが描いたのですか?」

「うん! こういうの好きで、昔から憧れてたんだ〜。だから衣装の方は任せてもらってもいいかな?」

「うん! もちろん!!」

 

 

凄いなぁ3人とも。みんな何かしら役に立っている。僕だけまだ何もできてない。

あと決まってないのは集客方法だけだ。知らない人を集める……想像しただけで恐怖で動けなくなる。

 

 

「あと集客と言えばやっぱチラシ配りになるのかな」

「まあそうなりますね」

 

 

その間にも兄ちゃんたちの話は進んでいく。

 

 

「はいはいはい! 私いっぱい絵描きたーい!!」

「私も手伝うよ♪」

「私は苦手なのでお任せします」

「じゃあ海未ちゃん配る係ねー」

「ええっそんな無理です!! 待ってくださいそうだ文字なら書けますよだから皆で────」

 

 

 

 

そんなこんなでチラシは完成した。

これをコピーして学校で配るらしい。

 

 

いつもの事ながら僕には何もできなかった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

♪〜

ポロンポロン

 

放課後の音楽室。

今日も室内にピアノの音が響き渡る。

 

 

私は西木野真姫。いつも放課後はここでピアノを弾いてから帰っている。この時間だけは勉強の事も、未来の事も、何も考えずにいることができる。なのに……

 

ピアノを弾き終わり、扉の外を見る。そこには満面の笑顔で拍手をする1人の生徒が。

 

 

バンッ

「西木野さん!!!」

 

 

扉が開かれ先輩が入ってくる。いつもの高坂先輩だ。

 

 

「……しつこいですね……作曲ならしないって言ってるじゃないですか」

 

 

頭を抱え、呆れ気味にそう答える。

 

先輩とは数日前ここで初めて出会ったのだが、私の曲が気に入ったらしく、それ以来毎日ここに来て作曲してくれないかと頼んでくるのだ。どうやらスクールアイドルとかいうものを始めるために曲が必要らしい。でも私には手伝う気なんて全くない。

 

 

「大体、アイドルの曲とか聞かないから。チャラチャラしてて薄っぺらいし……遊んでるみたいで気に食わないわ」

 

 

こうも毎日私の憩いの時間を邪魔されると流石にイラッとする。そのため少しキツく言い放ってしまう。

 

 

「そっか。確かにそう見えるのもわかるかも」

 

 

意外にもすんなりと聞き入れられた。少しポカンとする。

 

 

「でもね、本当は結構大変なんだ〜」

 

 

そう言いながら先輩はくるりと1回転。

 

 

「ね、腕立て伏せ出来る?」

「はぁ?」

「やってみてよ」

 

 

いきなり訳の分からない事を言われる。

 

 

「なんでよ」

「いいからいいから〜」

 

 

はぁ。ため息をつきながら従う。早く済ませたいからだ。

 

 

「これでいい?」

 

 

腕立てをしながら聞く。すると次の注文がきた。

 

 

「その状態で笑顔作ってみて?」

 

 

よくわからないけど笑顔を作ってみる。すると、思ったより腕立てに体力を使っていたのだろう。笑顔がひきつったものになってしまった。

 

 

「ほら、大変でしょ? だから毎日体力作り頑張ってるんだ〜」

「なる……ほど……?」

 

 

よく分からないけど、なんとなく言わんとすることは分かった。服を払いながら立ち上がる。すると、先輩からいきなり紙を渡された。

 

 

「これ、歌詞。1回読んでみてよ。返事はまた聞きに来るからさ……その時断られたらキッパリ諦める! でもさ、ダメだとしてもまた曲聞かせてよ! 私、西木野さんの曲初めて聞いた時から凄く好きで、感動して……だから作曲してもらえたら嬉しいなって」

「……ふぅん」

 

 

急な褒めに少し照れる。

 

 

「それじゃあ私もう行かないと! またね!」

 

 

そう言って高坂先輩は走って行ってしまった。

 

 

「……はぁ」

 

 

椅子に座り、貰った歌詞を読んでみる。ふーん割といいじゃない。字も綺麗で、この歌詞に込めた真剣な気持ちが読み取れる。

 

 

正直さっきの話により作曲の拒否感は大きく下がった。アイドルへの偏見も誤解だったみたいだし、私の曲で感動したっていうのもまぁ悪くないし?

けれど……

 

ピアノを弾き始めるが、集中できていないのか音を外す。

 

 

「今更言えないわよ……手伝うなんて……」

 

 

ぽつりと呟く。

 

これだけ毎日断った上に少し失礼な態度もとった。そんな私がいきなり「やっぱりやります!」なんて言いにくすぎる。そもそもここで折れたら押しに弱い人みたいになっちゃうじゃない。1回受けてしまえばそれ以降もまた色々頼まれてしまいそうだし断った方がいいんじゃ? でもせっかく私に目をつけてくれたのに────

 

 

ピン────

 

 

悩んでいると触れてもないのに鍵盤の音がした。

顔を上げると横から鍵盤に手が伸びている。

 

 

ピロロポロロピロポロン♪

 

軽やかな音が室内に響き渡る。

この指の動き、そして正面からでなくても綺麗に弾けるこの実力。顔を見るまでもない。昔からよく知っているアイツだろう。

 

 

「友田……」

 

 

ため息をつきながら見上げるとそこにはさらさらの髪を金髪に染めたにやけ顔の男子がいた。

 

 

「よ! 西木野〜」

 

 

友田(ともだ) 典人(のりひと)。うちの病院と仲の良い医療品メーカーの跡取りで小さい頃からの顔馴染み。この軽い感じが少し気に食わないのだが、小中高と一緒だった上、通っていたピアノ教室も同じだったため実質腐れ縁である。

 

 

「何の用よ」

 

 

少し睨みを効かせながら尋ねる。しかし友田はそれを気にせず明るい調子で答えた。

 

 

「いや〜偶然この辺通りがかったんだけど、今日下手だな〜って思ってさぁ! だから見本でも見せてやろうかなとか思ってね」

「下手で悪かったわね!」

 

 

腹立つわねコイツ。腕を組んでそっぽを向く。

 

 

「……で?」

「何よ」

「何かあったんだろ? 話してみろよ」

「……はぁ」

 

 

ホント、こう言うところで勘が鋭いんだから。

 

かくかくしかじか。今日の内容などをざっくり話す。

 

 

「あっはっは!! なんだお前そんな事気にしてるのか??」

「うるさいわね……」

 

 

聞くだけ聞いといてなんなのよ。言わない方が良かったかしら。

 

 

「バカにするだけなら帰ってくれる?」

「ゴメンゴメン」

 

 

片手で謝りのポーズをとる友田。

 

 

「で、要するに手伝いたい気持ちはあるけど自分とはバレたくないって感じなのかな」

「別に手伝いたいとは……」

「そんな君にアドバイスを授けよう!」

 

 

そう言って一言。

 

 

「バレたくないなら匿名でやればいい!」

 

 

なるほど。その手があったかと感心する。という事は朝机に入れておくとか先輩の家のポストに入れておくとかになるのかしら。

 

 

「たまには役に立つじゃない!」

「ははは、まあな!」

「じゃあまたね」

「え」

 

 

そう言って友田には退室してもらう。作曲作業は集中しないとできないからだ。扉の外から「せっかくお悩み相談してあげたのに」とか聞こえてきたけど気にしない。アイツの無駄に高いテンションが終始気に食わなかったし少しくらいいいだろう。いつもの事だし。

 

 

さてと、じゃあ早速やってやろうじゃない!

 

 

 

──────────────

 

 

 

「西木野さーーーーん!!!!」

 

 

次の日。廊下で高坂先輩に声をかけられた。

 

 

「これ! 作ってくれたの西木野さんだよね!?」

 

 

そう言って先輩はCDを取り出す。昨日帰りにポストに入れたあのCDだ。

 

 

「ヴェ!? な、何の事よ!」

「んも〜とぼけちゃってぇ!」

 

 

なんでバレたの!? CDには先輩の名前しか書いてなかったはずなのに!

その疑問は一瞬で解けることになる。

 

 

「だってあの歌詞知ってるの、私たちと西木野さんだけだもん」

 

 

あーーーそう言われるとそうかもーーー。完全に盲点だった。というかこうなる事をアイツが予想していなかったとは考えられない。

 

 

「みんなに紹介したいからちょっと来て!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 

高坂先輩に腕を引かれ廊下を走る。その途中、視界の隅に友田の姿が映った。

 

 

「と、友田! あなたこうなる事分かって……!」

「はっはっは! まさかあの適当なアドバイスを間に受けて実行しちゃうなんてねぇ! いやー恥ずかしい子」

 

 

あーーもう!! これだからコイツは……!!

 

 

「なんなのよー!!」

 

 

私の声は廊下のざわめきの中に消えた。

 




吉田伊助副会長と友田くんが出ましたね。という事でその2人の見た目がキャラ紹介で解放されました!
次回もよろしくお願いします。


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3話 チラシ配り


前回言い忘れたのですが評価や感想、お気に入り登録ありがとうございます! やる気がupします!



 

「今日はチラシを配ります!」

「うぐ」

 

 

西木野さんの協力によって曲を手に入れた私たち。これで本格的な振り付けの練習や、歌の練習ができるようになりました。

しかし、それらの技術的な上達も大切ですが、見てくださる方がいなければ意味がありません。ということで今日は校門前でチラシを配ることになりました。ですが……

 

 

「どうしたの海未ちゃん?」

「いえ……やはり私も参加必須ですか……?」

「あ〜海未ちゃん人前苦手だもんね〜」

 

 

そう、私こと園田海未は少々人前に出る事が苦手なのです。

 

 

「でも克服しないとライブなんてできないよ〜はいチラシ」

「それはそうですが……」

 

 

分かってはいるのです。しかし……しかし!! 恥ずかしいじゃないですか!! 私は知っていますチラシ配りというものがいかに難しいものか勇気を出して渡そうとしてもサッとスルーされるんですよすると1人でお辞儀をしている変な人になるんですあぁもうなんてことで

 

 

「大丈夫だよ♪ みんな優しいからきっと受け取ってくれるよ♪」

 

 

そんな私の心を知ってか知らずか、ことりが励ましてくれます。この子は昔からこういう時丁度欲しい言葉をかけてくれてくれるんですよね。

 

 

「じゃあ今日はこれ全部配り終えるまでね! よーいスタート!!!

 

 

そういって穂乃果は人がいる方に駆け出していきました。ことりも違う方に歩いていきます。

 

 

「明日講堂でライブしまーす!」

「おねがいします♪」

 

 

穂乃果はその元気で押し切ってチラシを配っていく。ことりはなぜか手慣れているようで、早いペースで捌けている。私も早く配らなければ。丁度こちらに来る人がいます。あの人に渡しますよ! 勇気を出すのです私!

 

 

「あ、明日ライブをするのでよかったら……」

 

 

そう言いつつチラシをおずおずとチラシを差し出しますがスルーされてしまいました。

挫けずもう1度違う人にも挑戦しますが結果は同じ。やっぱりこうなるんじゃないですか!

はぁ。どうして2人はあんなに上手くできるんでしょう。手を止めて2人の方を見る。2人のように明るく振る舞うことができれば上手く配ることができるのでしょうか。しかし私ではあのようには……

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

不意に声をかけられる。振り向くとそこには青髪の男子がいました。クラスは違うはずですがなんだか見覚えがあります。

 

 

「もしよければ、配るの手伝いましょうか?」

「い、いいんですか!? ぜひ!!」

 

 

思い出しました。彼は紀伊山(きいやま) (れい)さん。学内外問わず困ってる人を常に助けて回っている事でこの辺りでは少し有名な人です。

 

という事で手伝ってもらう事になりました。紀伊山さんにチラシを半分強(本当は全てお願いしたかったですが)渡し、チラシ配りを再開します。

 

 

「ラ、ライブします!!」

「お願いします」ニコ

 

 

紀伊山さんが道ゆく生徒に微笑みかけると、どんどんと人が集まってきました。

 

 

「あれ? 紀伊山君なにかやるの?」

「紀伊山〜何それ」

「彼女たちのチラシ配りをお手伝いをさせてもらってます。明日ライブをするそうです」

「また手伝い? ほんと優しいよね〜」

「じゃあ1枚貰ってあげる! 頑張ってね!」

「ありがとうございます!」

 

 

そんなこんなでチラシは減っていき、彼のチラシは私の半分以下になりました。

……そう、()()()()です。

いや、まあ彼の持ち分が減るスピード早いのはわかりますよ? 優しいし今までの手伝いの過程でたくさん知り合いもいるでしょうし。でもこんな短時間でここまで捌けるなんて!! 私もちゃんと少しずつは配る事ができましたが、こうも差を見せつけられるとガッカリします。

 

 

「どうかしましたか?」

「いえ! 別に!」

 

 

いけませんいけません。顔に出ていたようです。さあ! やるからにはやりきりますよ!!

そう気合を入れ直したその時。

 

ビュォォォォ

 

 

「ああっ!!」

 

 

急に吹いた強風により持っていたチラシが飛んでしまいます。

 

 

「ま、待ってください!!」

 

 

急いで追いかけますが広範囲に散らばって飛んでいくため全て拾うのは無理そうです。

どうしてこんな事に……いや、ですがこれはこれでアリかもしれませんよ? 手で配るより地面に落ちている方がなんだろうコレと興味が向くのでは?? しかもそれが風により広範囲に配られる事でより多くの人が目にするのでは??? これはこれで配ったと言っても過言ではないのかもしれません!!!(過言)

 

そんな事を考えながらもちゃんと追いかけます。少し遠くまできてやっと1枚目に追いつきそうになった時、目の前にあったチラシが正面にいた人に拾われました。

 

 

「拾ってくださってありが」

「なんだコレ」

 

 

感謝を述べながら顔を上げるとそこにいたのはあのオレンジ色の髪をした男子でした。

 

 

「へぇ〜? 最近高坂達と何かやってるとは思ってたけどさ、まさかオマエがアイドルやるなんてなぁ」

「さ……皐月……さん……」

 

 

最悪です。この活動中に1番遭遇したくない人に出会ってしまいました。

皐月(さつき) (じゅん)さん。俗に言う不良で、クラスでは大体いつも1人でいます。真面目と不真面目という性質上、彼とは何度か対立した事があり、互いに嫌い合っているのです。

 

 

「遠くから見えてたけどあんまり受け取られてなかったよね? ライブする本人がこんなのじゃ客も来ないんじゃないか??」

「ぐ……!」

「そもそも僕の方が何倍も上手くチラシ配れるし。オマエ向いてないんじゃないの」

 

 

責めるのにいいネタを見つけたからか嫌味を放ってきます。

分かってますよ私には向いてないんじゃないかって事くらい……それでも私は穂乃果や学校、幸くんのために頑張ってみると決めたんです!

 

 

「まぁ、どうs」

「あなたには関係ないでしょう!! 私だって頑張っているんです!」

「……へぇ? じゃあ踊ってみせなよ今ここで」

「そ、それは……」

 

 

こんなまわりに人がいる中一人で踊るなんて……考えただけでも恥ずかしい……! 

すぐに返事を返せず、少し俯いてしまいます。

 

 

「ハッ! 踊れないんだろ。まあチラシ配りであの状態なんだ、そりゃ無理だろうよ」

「う、うるさいですね!! 大体何なんですかさっきから!! 喧嘩でも売りにきたんですか!?」

「はぁ? 別にそういう」

「人の気にしてるとこばかりついてきて……私のことが気に食わないのは知ってますが、わざわざ正面からこんなに言ってくるなんてヒマなんですか!? まあそうでしょうねいつもあなたは一人ぼっちですもんね!!」

「なんだとテメェ!」

 

 

睨み合う。とはいえ最初に言ってきたのはそちらですからね! これくらい言い返されても当然です!!

 

そこに紀伊山さんが小走りで近寄ってきました。

 

 

「おーい園田さーん、チラシ全部拾ってきましたよ……って何してるんですか!?」

 

 

そう言って私と皐月さんの間に割って入ってきます。

 

 

「だめですよ喧嘩なんて! お、落ち着いて……」

「あ? 1組の紀伊山か。聞けよ、コイツが」

「さっきからコイツだとかオマエだとか……私には園田海未というちゃんとした名前が」

「うるさいな! 今僕は紀伊山と話してるんだよ!!」

「ふ、2人とも……」

 

 

紀伊山さんには悪いですが悪いのは皐月さんです。彼が引くまで私も引けません!

 

 

「海未ちゃーーん、ちゃんと配れてるーー?? ってげ、皐月くん」

「け、喧嘩はよくないよぉ!」

 

 

チラシを配りきったのか穂乃果とことりもこっちにやって来ました。

 

 

「……はぁ。セコいよな大勢でさ……まぁいいや。せいぜい頑張ればいいさ」

 

 

そう言って彼は持っていたチラシを捨て、立ち去っていきました。ふう。

 

 

「大丈夫だった?」

「私は大丈夫ですよ穂乃果」

「それにしても本当仲悪いよね〜なんで?」

「そうだよ! 喧嘩なんてしちゃダメだよ」

「そ、それは彼が───」

 

 

そこまで言ってハッとします。今私たちはライブの宣伝をしているんでした。そんな中その本人が喧嘩をした……これでは怖がられてイメージダウンになってしまったかもしれません……

 

 

「す……すみません……」

「わわ、分かってるなら大丈夫だよ!」

「きっと酷いこと言われたんだよね? 真面目な海未ちゃんから喧嘩をふっかけるなんて考えられないもん!」

「ふ、2人とも……ですが、私のせいでグループのイメージが……」

「大丈夫だよ! 校門から離れてるしあんまり見られてないって! それより早く戻って残りの分配ろ?」

「……はい」

 

 

励ましてもらって少し情けなくなります。このミスを取り返すため、より一層頑張らないと……!

 

 

「ところで彼は? 紀伊山くん……だったよね?」

「あ、どうも。チラシ配りを手伝わせてもらってます紀伊山零です。宜しくお願いします」

「ああ! あの紀伊山くんだったんだ!! すごーい本当に人助けして回ってるんだぁ」

「いえ、このくらい当然です……むしろまだまだだと」

「またまたそんなご謙遜を〜」

 

 

そんな事を話しながら校門まで戻り、紀伊山さんからチラシを受け取り宣伝を再開します。

 

やはり配るのは恥ずかしいですが、先程の件もあり、もう無様な姿は見せられません。気合を出すのです、私!!

 

 

「お願いします! 明日新入生歓迎会の後、講堂でライブを行います!! 是非、足を運んで下さい!!」

 

 

勇気を出してはっきりと喋りきりながら手渡しを行なっていきます。すると、最初の恐る恐る喋っていた時よりも受け取ってもらえる率が上がったように感じます。

 

 

「あ、あの……!」

 

 

その時、メガネのショートの女子に声をかけられました。

 

 

「スクールアイドルの方ですよね……! それ、1枚下さいっ!」

「は、はい!」

 

 

向こうから話しかけられるとは思っていなかったので少し焦りながらチラシを渡します。

 

 

「ふわぁ〜……あ、あの! 絶対明日見にいきますので……! 応援してます! 頑張って下さい!」

「かーよちーーん、どこ行ったのーー?」

「あぁっ! で、では失礼します!!」

 

 

そう言って彼女はそそくさと去っていきました。

 

 

「海未ちゃん、今の子って……」

「もしかして私たちのファン!? いいな〜話しかけてもらえて……ズルい!」

 

 

すぐに2人が駆け寄ってきます。

まさかもう私たちにもそんな方がいただなんて……彼女のような方のためにも明日のライブ、絶対成功させなければ……!

 

 

 

──────────────

 

 

 

「よし、衣装の仕上げ完成です!」

「お疲れさま、ことりちゃん」

「ありがとう楽人くん♪」

「できたんだ! 見せて見せてー!」

「す……凄い……!」

「えへへ……」

 

 

ライブ前日の夕方。毎日ここや自分の家で作っていたライブ用衣装がついに完成したみたいです。衣装を担当したのはことりちゃん。昔からこういうのが得意だっただけあってクオリティの方は抜群です。

 

……でも海未ちゃんは不満そう。

 

 

「こ……ことり! 聞いていません! こ、こここここ」

「ニワトリ?」

「違います! こんなにスカートが短いと足が!!! ハレンチです!!!」

「ま〜た海未ちゃんたらそんな事言うー」

「言います! 膝下に直してください!」

「もう明日だしそれは難しいんじゃない?」

「そんな卑怯な手を……!」

「ごめん、海未ちゃん。私がミニでいこうって言ったんだ……」

「穂乃果……!」

 

「でも、絶対成功させたいんだもん! 今までみんなで頑張ってきて、西木野さんから曲ももらった。このライブの話も吉田副会長のおかげだし、チラシ配りも紀伊山くんに手伝ってもらった。……色んな人に協力してもらったんだ、絶対無駄にはしたくないんだもん!!!」

「穂乃果……」

 

 

海未ちゃんのことを見つめながら穂乃果ちゃんが思いの丈を喋る。横から聞いてるだけでもこの熱量だ、目を合わせている海未ちゃんはこれよりもっと凄いパワーを感じているだろう。

 

 

「そのために、より良いライブができるようにできることは全てやっておきたいの!!」

「……仕方ありませんね」

「海未ちゃん!」

 

 

そうして穂乃果ちゃんたち3人は和解した。これできっと明日のライブもみんな全力のパフォーマンスをすることができるだろう。

 

 

それにしても、いろんな人に協力してもらっている……か。穂乃果ちゃんたちの報告でなんとなくは知っていた。けど、改めて聞くとみんな頑張っているのにいまだ僕は何の役にも立てていないという事実に嫌気がさす。事の発端の1人なのにこのままではみんなに迷惑かけるだけの存在になってしまう。なにかできることはないかとあれからずっと考えていた。でも結局何も思いつかずにライブ前日になってしまった。うう。

 

 

「あ、そういえば楽人くんって明日見にきてくれるの?」

「丁度予定は空いてるんだけど部外者だからなぁ……難しいんじゃないかな」

「そうですね……たしかに基本的には生徒以外立ち入り禁止でしたもんね」

「そんな〜! 手伝ってもらったんだし本番、2人にも見てもらいたかったなぁ」

 

 

そう言われ、少し苦しくなる。僕もできるなら見に行きたい。みんながこれだけ準備した結果を見届けたい。僕なら音ノ木の生徒だし見に行くことも可能のはずだ。でも、僕は外に出ることができない。いつまでもあの事を引きずって閉じこもって……僕はどうしようもないやつだ。

 

 

「まあまあ、3人はこれからスクールアイドルとしていろんなところでライブしていくんでしょ? まだ見に行くチャンスは沢山あるよ」

「うん……でもせっかくの初ライブなのになぁって」

「そんな事言っても校則なのですから仕方ないでしょう! 楽人さんも困っていますよ!」

「わかってるよぉ!」

「ごめんね楽人くん。幸くんも困っちゃったよね、大丈夫?」

「……うん」

 

 

大丈夫ではないけど全部自分のせいなので心配をかけないように大丈夫と言っておく。

しかし僕の具合が良くなさそうなのに気付いたのか兄ちゃんが3人に提案をする。

 

 

「それより本番に向けて今日は早く帰って休んだ方がいいんじゃない?」

「そうですね。ここで騒ぎすぎて明日力が出せなかったらいけませんもんね。ありがとうございます、行きますよ穂乃果」

 

 

そう言って海未ちゃんは一瞬で荷物をまとめ玄関に向かいだした。

 

 

「海未ちゃん行動が早い!」

「またね2人とも、明日頑張るね♪」

「頑張ってね」

「お……応援してるよ!」

 

 

そうして3人は帰っていった。

 

 

「……さっきは大丈夫って言ってたけど、無理してない? 外に出れないのは幸が悪いわけじゃないんだ、気負う必要はないんだよ」

「でも…………うん……」

 

 

やっぱり兄ちゃんは優しい。でも僕はこの自己評価を変えることはできなかった。

 

 

 

──────────────

 

 

 

翌朝、僕は久しぶりに玄関に向かった。

 

扉に近づくたびに冷や汗が増していく。手足の震えが止まらない。

 

扉の前に立つと足が動かなくなった。呼吸も荒い。力を振り絞りなんとか扉を開ける。

 

そこから覗いたのは知らない人、人、人─────

 

 

そのまま僕は意識を失ってしまった。

 




紀伊山くんと皐月くんの絵が追加されました!
次回1章ラストです!よろしくお願いします!


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4話 ファーストライブ


ヒフミトリオって名字無いよね、少し困った



 

「う〜……緊張する!!」

 

 

ついに本番当日! 新入生歓迎会が終わり、私たちはライブを予定している講堂にいます。

 

 

「穂乃果、本当に待ち合わせはここなんですか?」

「本当だよ! 私が間違えるわけないでしょ?」

 

 

私たちはここで、今日手伝ってくれるはずの吉田先輩を待っています。助っ人も何人か連れてきてくれるみたい。

 

 

「穂乃果ちゃん、来たみたい!」

 

 

ことりちゃんが指さす方向を見ると、扉が開かれ丁度人が入ってくるところでした。

 

 

「ごめんごめん、少し遅くなったね。歓迎会の後処理とかに時間がかかって」

 

 

そう言って吉田先輩が5人の助っ人を連れてきた。……というかあれって……

 

 

「ヒデコ、フミコ、ミカ! それに紀伊山くんだ!!」

「やっほ! 穂乃果たちが頑張ってるんだし、私たちも負けられないなってね!」

 

 

ヒデコ、フミコ、ミカは私の友達! いつも仲良しな3人組で私はまとめてヒフミちゃんってよんでる。

 

 

「どうも、昨日ぶりですね」

「紀伊山さん! 先日はお見苦しいとこをすみません」

「あれ、彼女たちと仲良いのは知ってたけど紀伊山くんとも既に知り合いだったんだね」

「チラシ配り手伝ってくれたんだよね♪」

「はい」

 

 

やっぱ色んな人に手伝って貰えるって嬉しいなぁ。あ、そういえば吉田先輩が連れてきてくれた助っ人はもう1人いるんだった! まだ話していないそのもう1人を見る。

ピンクの髪をした小柄な男子。見たことないし1年生かな? 邪魔しちゃ悪いと思ってるのかタイミングを伺ってるみたい。

 

 

「キミも手伝ってくれるの?」

「は、はい!」

 

 

そう話しかけると顔がぱっと明るくなった。少しかわいいな。

 

 

「はじめまして! 僕は1年の芽野(めの) 眩期(げんき)って言います! 今日は伊助にいちゃんの紹介でお手伝いに来ました! 精一杯頑張るので、よろしくお願いします!」

「わぁ……! 凄く礼儀正しいんだね♪」

「えへへ」

「というか、伊助にいちゃんって……」

「あぁ、眩期は俺の親戚なんだ」

「そうなんですね」

「よろしくね芽野くん!」

「はい!」

 

 

「よし、それじゃあ挨拶も済んだことだし作業の分担を発表するぞー」

「はーい」

「音響係としてヒデコさん。ライト係に眩期とフミコさん。集客、接客係に紀伊山くんとミカさん。高坂さん達は音響、ライト係と協力してステージ準備の方をよろしく。俺は全体的にまわりながら手伝っていくよ。みんなOK?」

「「「はい!」」」

「よし、じゃあ開始! ヒデコさんは俺についてきて。機械の説明するから」

「わかりました!」

 

 

そうしてみんなそれぞれ作業に取り掛かりはじめた。だけど今の話で気になった事が1つ。

 

 

「ねえことりちゃん気付いた? 吉田先輩、ヒフミちゃんのこと全員下の名前で呼んでたよね!?」

「確かに……も、もしかして……!!」

「穂乃果、ことり。私たちも早く準備しますよ!」

「「はーい」」

 

 

という事でステージに上がる。それから立ち位置チェック、音響チェック、ライトの流れや振り付けの確認などを済ませていく。みんなに手伝ってもらったおかげでスムーズに準備は進んでいき、後は着替えて開演を待つだけとなった。

 

 

「みんな着替えた? 私は着替えたよ! ほら!」

 

 

そう言いながら更衣室のカーテンから飛び出す。そこには既に着替え終わったことりちゃんがいた。

 

 

「わあっ穂乃果ちゃんかわいい! 似合ってるよ♪」

「えへへ、ことりちゃんも似合ってるよ!」

「ありがと♪ あとは海未ちゃんだけど……」

 

 

まだ海未ちゃんの姿は見えない。まだカーテンの中で着替えているんだろう。

 

 

「す、すみません……着替えてはみたのですが、やはり恥ずかしくて……やはり私にはこんなフリフリの服は無理かもしれません……」

「大丈夫だよ! ほらはやく見せて見せて」

「うう……」

 

 

カーテンから海未ちゃんが渋々出てくる。青い衣装が海未ちゃんの性格や髪色に合っていて凄くかわいい。

 

 

「凄い似合ってるよ! ねぇことりちゃん」

「うん! 私の見立て通り、すっごくかわいいよ♪」

「2人とも……」

「この最高の衣装でお客さんたちを楽しませよう!!」

「……はい!」

「うん!」

 

 

そして3人で幕の閉じたステージに立つ。

 

 

「……そろそろはじまるんだね」

「そうですね……」

 

 

ふと海未ちゃんの方を見ると手が震えていた。それもそうだろう。この私でも緊張してるんだ、真面目な海未ちゃんはきっと私より緊張してるに違いない。

 

緊張を和らげるために2人と手を繋ぐ。

 

 

「大丈夫だよ。ここまで色々頑張ってきたの思い出そう? 毎日3人でレッスンして、振り付けも歌詞も衣装も頑張って作った。宣伝もみんなでやったし、今もみんな手伝ってくれてる。チラシ配りの時、応援してくれた人もいたよね……」

「穂乃果……」

 

 

今までの準備を思い出す。笑ったり、辛いときもあったけどみんなのおかげでここまでやってこれた。

 

 

「このライブにはいろんな人の思いが詰まってる! これだけ頑張ったんだし、絶対上手くいくよ!」

「穂乃果ちゃん……」

 

 

これらの努力を無駄にはしたくない! だから……

 

 

「私たちのファーストライブ、最高のライブにしよう!」

「うん!」

「もちろんです!」

 

 

思い返して自信がついたからか、心をひとつにしたからか。いつの間にか緊張は収まっていた。

 

 

開演のブザーが鳴る。

客席、どれくらいの人が来てくれてるかな? 楽しみだな……

2人と手を離し、期待を膨らませながら幕が開くのを待つ。

 

そしてカーテンが開く。

 

 

 

 

 

しかし。

 

 

 

 

 

そこに広がっていたのは無人の客席だった。

 

 

 

 

 

すぐには状況が飲み込めなかった。あれ? これリハーサルだっけ? 時間告知間違えちゃったとか? 

 

だが、外から入ってきた吉田先輩の言葉で現実を受け止めることとなる。

 

 

「……ごめん……手は尽くしたんだけど……部活勧誘に生徒、取られたみたいだ……紀伊山くんはまだ頑張ってくれてるみたいだけど………俺の考えが甘かった……本当に申し訳ない……」

 

 

その瞬間、今までの準備の全てが頭の中を駆け巡る。あれは全部無駄だったって事? みんなの協力も、頑張りも、何もかも……やっぱり、初心者の私たちがいきなり見様見真似でスクールアイドル始めるのは無理だったって事? そりゃそうか。最初に海未ちゃんも言ってたじゃないか。その通りだ。何を舞い上がっていたんだ私は。

 

 

「あはは……そうだよね! 世の中そんなに甘くない……!」

「穂乃果……」

「穂乃果ちゃん……」

 

 

空元気でなんとか明るく言い放つが、もう限界だ。顔が歪む。涙が滲み出す。膝が折れそうになったその時。

 

 

講堂の両側の扉が勢いよく開いた。

 

 

「はぁ……はぁ…………あ……あれ? ライブは?」

 

 

そう言いながら右側の扉から息をあげて入ってきたのは昨日のチラシ配りの時海未ちゃんに声をかけていたメガネの子。

 

 

そして左側の扉から入ってきたのは────

 

 

「ま……間に合った……のか……?」

 

 

楽人くんだ。なんで!? 学校には入れないはずなのに……

 

いや、それもだけどそれよりもっと驚く事が1つ。楽人くんの背中に人影が見える。あの白髪、まさか……

 

 

「さ……幸くん……!?」

 

 

 

──────────────

 

 

 

目を覚ますとそこはリビングだった。

 

 

「幸!!!」

 

 

兄ちゃんが駆け寄ってくる。

 

 

「大丈夫か!? 朝降りてきたら玄関で倒れてたんだよ。誰かに何かされた? それともまた挑戦してみたのか?」

 

 

そうだ。どうしても初ライブを見に行きたかった僕は数年ぶりに外出に挑戦し、失敗したのだ。

 

 

「うん……またダメだった……」

「そうか……でも無理はしないでくれ……兄ちゃん、心配しちゃうからさ」

「ごめん……」

 

 

心配かけてしまったことを反省しながら時間を確認する。長い間意識を失ってしまっていたようで、時計は既に午後を指していた。

 

 

「穂乃果ちゃんたちのライブって……」

「ん? あぁ、あと30分くらいで始まるね。上手くいくといいなぁ」

 

 

ここから音ノ木まで約50分くらいかかると聞いた事がある。もうどんなに頑張ったところで間に合わないだろう。

 

穂乃果ちゃんたちのファーストライブ、見に行きたかったなぁ……

 

落ち込んでる僕の様子を気遣ってか兄ちゃんが励ましてくれる。

 

 

「今回は僕も行けなかったけどさ、もし行けたら動画撮ってくるよ。だからそしたら幸もみんなで一緒に見ようよ。ね?」

 

 

それは優しい提案だった。でも、僕はその言葉で気付いてしまう。僕が外に出れない限り僕は本番を直に見ることはできないということに。なんで僕は外に出られないんだ。どうして体は動いてくれないんだ。せっかくの穂乃果ちゃんたちの晴れ舞台なのに、僕のために頑張ってくれているのに僕には何も、見届けることすらできないのか。悔しさが込み上げてくる。

 

 

「………きたぃ……」

「?」

「みんなのステージ……見に行きたいよぉ……!!」

「幸……」

 

 

涙が溢れて止まらなくなる。僕だってみんなの役に立ちたい。みんなの頑張りの結果を直に見たい。でもその気持ちに身体がついてきてくれないこの状況に、この無力感に、どうしたらいいのかわからない。その場に崩れ落ちる。

 

 

「……幸。どうしても見に行きたいんだね?」

「うん……!」

 

 

 

すると兄ちゃんが一言。

 

 

 

 

「わかった。兄ちゃんに任せろ」

 

 

 

 

そう言うと兄ちゃんは僕のことをいきなり背負った。

 

 

「しっかり掴んでるんだよ。あと、目も瞑っておいた方がいい」

 

 

必死に腕に力を入れ、瞼をぎゅっと閉じる。

 

 

それからはどうなっていたのかあまりわからない。でも僕が怖くないようにちょくちょく話しかけてくれていたのは覚えている。途中から風を切るような感触があったから多分バイクでも使ったんだろう。

 

 

 

そして今。

 

 

「ま……間に合った……のか……?」

 

 

目を開くとそこは知らない建物だった。人はほぼいない。

 

 

「さ……幸くん……!?」

 

 

声の方を見るとステージの上に人影が3つ。穂乃果ちゃんたちだ。

彼女たちは少しの間呆然としていたが、すぐに真面目な表情になり、穂乃果ちゃんが一言。

 

 

「やろう……歌おう! 全力で!! だって、そのために今日までやってきたんだから!!!」

「……うん!」

「ええ!」

 

 

 

 

そうして彼女たちのファーストライブは始まった。僕はその圧倒的な魅力に、外に出る事ができた事実にも気づかずにただただ見入っていた。

 

 

 

──────────────

 

 

 

────そのライブを見た者は学内の生徒数百人のうち、たったの十数人しかいなかった。

 

 

 

「…………!」

 

ある者は無言で、ただひたすら夢中に見入っていた。

 

 

「ふわぁぁ……!」

 

ある者は目を輝かせ声を漏らした。

 

 

「……うぐ……」

 

ある者は感激の涙を流した。

 

 

「……ふぅ」

 

ある者は彼女たちがライブをやり切れたことに安堵した。

 

 

「……」

 

ある者は何も感じなかった。

 

 

「だからこうなると思ったんだよ……」

 

ある者は悔しさを呟いた。

 

 

「ゼッタイ認めないんだから……!」

 

ある者は彼女たちに憤怒を抱いた。

 

 

「…………」

 

ある者は彼女たちのこれからを見定めるかのように冷静に見つめていた。

 

 

 

 

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 

ライブが終わり、客席から拍手が沸き起こる。

 

やりきった顔の穂乃果たちの前に近づく人影が1つ。絢瀬絵里生徒会長だ。彼女は穂乃果たちに問いかける。

 

 

「どうする気?」

 

「続けます」

 

 

即答する穂乃果。

 

 

「この人数よ? 私には意味があるとは思えないけど」

 

 

まわりを見渡しながらそう言う。しかし穂乃果は動じない。

 

 

「やりたいからです! 私今、やってよかったって思ってるんです。きっと2人もそう。……もしかしたらこれ以上誰も見向きもしないかもしれない……誰も応援してくれないかもしれない……でも! ここにいる人たちには届きました!」

 

 

そう言って穂乃果は会場のみんなを見つめる。

 

 

「これからも頑張って頑張って、私たちがここに立つこの思いをもっともっと届けたい!」

 

 

そして最後に一言。

 

 

「私たち、いつかここを満員にしてみせます!」

 

 

 

これは、彼女たちの始まり。

彼女たちが世界一のスクールアイドルになるまでの第一歩目だ。




3人称、ムズェ〜!!

ここまでお読みいただきありがとうございます!!
第1章、これで完です! 早かったですね!
最後らへんいい感じにしようとしてあんな感じにしてみましたがどうでしょうか。なんとも言えませんね。

さて、これでずっとウジウジなってた幸くんが外に出る事ができました!(人のおかげだけど) なのでここからは少しずつ彼も明るくなってくると思います。ヤッター!

続きはキリがいいとこまで書き溜めたらになります! 予想はPV撮る回くらいまでですかね。今ストック完全に0というかむしろギリギリ書いたところなので頑張らないとですね。感想、評価、お気に入りを貰えると嬉しくなって続きが出るのが早くなります! ぜひお願いします!

あ、あと芽野くんが出たので絵が追加されました! キャラ紹介から見ていってね!

それでは2章、部活立ち上げ編をお楽しみに!


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