世界に愛された元徳者と世界を憎みし原罪者 ー世界を憎みし少年とその少年より生まれし九つの罪の王と罪徒となった少女達・世界に愛された少女達と聖徒に選ばれし少女達ー (OOSPH)
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0-1 Incipit Prolog
Incipit Prolog


光と闇、いわゆる昼から夜、或いは夜から朝に

なろうとしているように、あたりの光景が照らし出しているその場所

 

その場所にて、四人と一人の人物が対峙していた

 

一方は、それぞれが剣、槍、銃をもって外套を羽織り

どこか神々しさを思わせる雰囲気を醸し出している四人の少女達

 

一方は、右手に杖を逆手に持って剣のようにし

左手には正真正銘の剣を持ち、ローブのような衣服を纏う

フードに覆われている部分からは複数の目を持つような形の仮面が

その人物の顔の上半分と下半分の右半分を覆いって素顔を隠している少年

 

少女の後ろには四人の少女達が武器を構え

少年の周りには九つの影と、後ろには五人の少女が

 

そして、風が勢いよく吹くと同時に

対峙していた少年と少女はお互いの武器を手に持って

激しくぶつかり合って行き、互いの武器がぶつかったと同時に

 

辺りの景色が大きく変わっていく

雲が大きく避け、大地は大きく揺れていき

 

やがて本格的な戦いが始まらんとしていく

 

この戦いは過去のものではなく

寧ろこの先に起こり得る大いなる戦い

 

その予兆となる者である

 

この戦いはある意味、これから決まる

世界の運命を決める戦いでもあると言う事は確かである

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

月曜日

 

それはきっと誰もが憂鬱を感ず時るときであろう

その前の日曜日が休みであるがゆえに、だれもが

この日を迎えた時誰もが思うだろう、昨日はまさにパラダイスだったと

 

そんな誰もが憂鬱に感じるであろう

その日を迎えている学生達の反応は様々

 

久しぶりに友達と再会して、昨日はあんなところに行っただの

こういう事があっただのと仲の良い者達がお互いと喋っていくのを楽しく感じている

 

そんな中で一人の男子生徒が学校へと続く道を歩いていっている

やや頭を抱えながら、おぼつかない足取りながらもそれでも学校へと向かっていく

 

やがて、靴を履きかえて向かって行った、教室に入っていったその時

 

「っ!?」

 

突然、誰かに足を掛けられてその場に転んでしまう

 

すると

 

「おいおい、キモオタァ~?

 

 何勝手に人の足ひっかけてくれてんの~?

 

 いってえんだけど」

 

「大丈夫かよ、大介ぇ~?

 

 きっちり慰謝料請求しないと行けねえなぁ~」

 

そう言って、倒れた少年に顔を近づけて

何とも不快な笑いを浮かべ、その男子の顎を

思いっきり掴み上げて、無理矢理自分の方に向かせていく

 

その周りには彼の取り巻きであろう

三人の男子生徒がその様子をにやにやと見つめている

 

すると

 

「やめなさいよあんた達!

 

 朝っぱらからくだらない真似して!!」

 

そう言って一人の少女が四人の男子生徒に注意をしていく

 

「何だよ南野!

 

 悪いのはこのキモオタだぞ!?

 

 こいつが俺の足をひっかけて‥‥」

 

「私にはあんたが南雲が通ってくるタイミングを

 見計らってわざと足をかけてきたように見えたけど?

 

 とにかく、もうすぐ先生も来るから早く席につきなさい!

 

 あんた達がそんな風だと、クラスのみんなが迷惑するのよ!!」

 

突然現れた女子生徒に言われて

盛大に舌打ちをかましながら自分の席に戻っていく男子生徒達

 

「‥‥まったく、あんたもあんたよ南雲

 

 あんたがそうやって気を緩ませてるから

 ああいう奴らに絡まれちゃうのよ、もっとしっかりしなさい!」

 

「…すいません…」

 

そうびしっと絡まれた男子生徒の手を引き

助け起こしてやるも、彼に対してもはっきり言い放つ女子生徒

 

しかし、そんな彼から帰ってくるのは気持ちのこもっていない謝罪

だがそれは反省していないと言うより、どこか投げやりのように感じられる

 

すると

 

「南雲君、大丈夫!?」

 

一人の女子生徒が心配そうにその男子生徒に駆け寄っていく

 

「あ、うん大丈夫だよ…

 

 いつもの事だから…」

 

「いつもの事って‥‥南雲君は本当にそれでいいの!?

 

 私でよかったら力になるから‥‥だから…!」

 

「いいって言ってんだろ!」

 

「っ!」

 

そう言ってその女子生徒に対して突き放す様に言い放つ男子生徒に

その女子生徒は驚愕するように、眼を見開く、それはどこか悲し気であった

 

「南雲君…」

 

そう言って、自分の席に向かって行くハジメだが

自分の席の表面を見て、一瞬だけ動きを止めてしまう

 

無理もないだろうなぜならその机にはひどい傷や

バカや死ねなどの誹謗中傷、実は花瓶の花などが置かれていたが

流石にそれは誰かが元に戻していったのだろう、ここにはもうおかれていない

 

「…ちくしょう…」

 

その男子生徒の口惜しさを込めた呟きは誰の耳にも届かなかった

 

「‥‥相当参ってるのね、南雲‥」

 

「‥‥南雲君…」

 

しかし、彼の様子を見て何を思ったのかを察したのか

二人の女子生徒は何処か心配した様子で机にうつ伏した彼を見ている

 

「…‥まったく香織も、南野さんも優しいな

 

 あんな奴の事も気にかけてやるだなんてな」

 

そう言って一人の男子生徒が

香織に笑みを浮かべながら話しかけていく

 

その笑みは傍から見ると

優し気で誰もが見惚れるものだが

話しかけられた女子生徒二人はそれを見て

どこかうんざりした様子を見せ、ため息を付く

 

「あんな奴って‥‥どうして南雲君のことを悪く言うの!?」

 

「どうしてって当然の事じゃないか

 

 アイツはそれだけのことをしたんだ

 

 全部あいつのまいた種、自業自得じゃないか」

 

「ふざけないで!

 

 あの時も言ったけれど、南雲は私を襲ってなんてない

 寧ろ、南雲は私のことを護ろうとしてくれたんだって!!

 

 なんでそう何度も人の話が理解できないのよ!!!」

 

そう言って、男子生徒に抗議していくが

 

「…‥わかっているさ、南野さん

 

 君は本当に優しいからな

 一応はクラスメートである

 南雲のことも気にかけてあげているんだろう?

 

 でも南野さん、こういうのはしっかりとさせておくべきだ

 

 あんまりあいつに気にかけてやっているとまたいつ

 南雲が調子に乗って君のことを襲ってくるかもしれない

 

 だから南野さん、君は彼とは

 関わらない方がいい、それが君のためだ」

 

男子生徒は、何の悪びれもなくそう言いきって見せた

それを聞いて、二人の女子生徒はもうこれ以上は何を言っても意味がない

 

そう言いきるように黙り込んでしまった

 

すると

 

「そこまでにしておきなさい光輝…」

 

「雫…‥俺はただ南野さんのためを思って…」

 

「香織と姫の気持ちも察してあげなさいよ」

 

そう言って彼の後ろから

黒くて長い髪をポニーテールにまとめた一人の女子生徒が

なおも食って掛かっていく男子生徒を諫めつつ下がらせていく

 

「むう、それもそうだな…

 

 それにしても南雲の奴

 香織や南野さんに苦労を掛けさせるとは…

 

 やっぱり許せないな」

 

その女子生徒の言う事を了承しながらも

それでも男子生徒への中傷を続けていくこの男子生徒

 

「‥‥ごめんなさい、香織、南野さん…

 

 私が至らないばっかりに…」

 

「ううん、雫ちゃんは悪くないよ」

 

「そうよ、悪いのはそれこそ

 天之河のように、噂だけを信じて

 南雲のことを悪者扱いする奴等なんだから…」

 

そう言ったところでチャイムが鳴り

その場に居た生徒達全員が席についていくのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

とある高校、この高校には

注目されている生徒が数人いる

 

男子女子、同級生や

他の学年からも注目されている四人の女子生徒

 

四大女神、と呼ばれる女子生徒たちがいる

 

西宮 風香

 

 

運動部に所属しており

一年の頃よりレギュラーに選ばれる程の腕前

さらには、他のメンバーを率先して、引っ張るな

リーダーシップも兼ね備えており、周りからも頼りにされている

 

南野 姫奈

 

 

学年でもトップクラスの成績で、さらには

悩んでいる生徒がいたら率先して相談に乗るなど

 

クラス委員を務めているだけあり、教師陣からの信頼も厚い

 

白崎 香織

 

 

常に笑顔をたやさず、面倒みもよく責任感も強い

誰に頼られても嫌な顔を見せずに真摯に受け止める

 

さらにその美貌もあってマドンナとしても人気が高い

 

八重樫 雫

 

 

凛々しい顔つきに、そこから見える柔らかさ

更に実家が剣道場を営んでいることもあってその腕前もぴか一

美少女剣士として注目されて学内外とわずファンクラブがあるほど

 

四人の少女達は誰からも好かれ、愛されて

常に四人の周りでは笑顔の絶えない明るい雰囲気が現れていく

 

ただ一人を除いては

 

四大女神とは対照的にクラスメートにも

学校中のほとんどの教職員たちからも見放されている男子生徒がいた

 

その男子生徒が

 

南雲 ハジメ

 

 

彼はかつて、過去のとある出来事から

いや、それが決定的になって学校中のほとんどのもの達から

まるで仇を見るかの如く、敵愾心を抱かれてしまっており

 

実質、彼の居場所は学校の中にはほとんどないと言っても過言ではない

 

さらに、そのとある出来事のせいで両親からも見放されてしまい

学校に通っても、家に帰っても、もはや彼が当たり前に過ごせる場所はなかった

 

やがて、昼食休憩に入り生徒たちは学食や購買に行ったり

仲の良いもの同士、机を繋げ合ったりして談笑していたりする

 

しかし、そんな誰であっても楽しく感じる時間も

ハジメにとってはただの苦痛でしかなかった、あの日から

両親は自分に構うことはせず、お弁当も購買を買うためのお小遣いもくれない

 

しかもそんな彼に追い打ちをかけるように朝に彼の足を引っかけた男子生徒

 

檜山 大介

 

 

その取り巻きの男子生徒である

 

斎藤 良樹

 

 

近藤 礼一

 

 

中野 信治

 

 

彼ら四人に無理やり財布を奪われては、勝手におごらされしまい

今は彼の財布の中にはもう数えきれるほどの小銭が寂しく残っているだけである

 

そのせいで今の彼では、購買のパンはもちろんのこと

十秒で済ませられる栄養ゼリーも買えないために、空腹に悩まされている

 

だから、ここ最近の習慣は誰からも見つからないように教室から出て

誰も寄り付かないであろうある場所に向かって行きそこで昼を過ごしていた

 

「ふう…やっと一息つける…」

 

そう言って彼が入ってきたのは図書室

 

今時の学生はここにあるような本などめったに読むことは無い

そもそもここに図書室があること自体知っている生徒もいないのが殆ど

 

故にここが彼にとっても過ごしやすい場所であった

 

ここで少しだけゆっくりしていこうと思い

椅子に座って机の上にうつ伏していった、そこに

 

「ちょっとそこの君?

 

 ここは、休憩場じゃないよ?」

 

「っ!?」

 

そう言って慌てて体を起こして

声のした方を向くと、そこにいたのは

 

一人の女子生徒であった

 

「東雲…さん…」

 

「‥‥フフフフ…

 

 やっぱり来ていたんだね

 ここに居ればまた君に会えると思ってね…」

 

そう言ってハジメの向かい側に座ると

彼の方を見て笑みを浮かべる女子生徒

 

「それにしても今日もつかれているみたいだね…」

 

「…やっぱり、分かっちゃうかな…」

 

「さすがにそう毎日、君のあの様子を見ているとね…

 

 今日も君とお喋りをしたいと思っていたが

 その様子ではとてもそんな余裕はなさそうだ…

 

 ゆっくり休んでいるといい、私もしばらくは傍にいてあげるから」

 

そう言ってハジメに休ませてあげるように促す渚沙

ハジメはそれを聞いて、嬉しそうな笑みを浮かべていく

 

「ありがとう…」

 

「気にしないで、私と君の仲じゃないか…」

 

そう言って遠慮なく休ませてもらうハジメと

そんな彼に笑みを浮かべて、次に読む本を探しに行く女子生徒

 

「‥‥ごめんね南雲君…

 

 このぐらいしか、君に出来ることが無くて…」

 

そう言って、机の上にうつ伏して睡眠に入っているハジメ

そんな彼に向かって小声でそう申し訳なさそうに呟いていく女子生徒

 

東雲 渚沙

 

四大女神に並んで

男子生徒の人気が高い七人の女子生徒

 

七大天使、それに数えられる美少女の一人である

 

四大女神と区別されているのは、入学当初から

周りの人気の高かった四大女神とは違い、彼女らは

後になってから人気が出始めてきたからである

 

渚沙自身もそれを自覚しているが

はっきり言ってそんな程度のことでしか自分達のことを図れない

そんな周りの人間に心底うんざりしているのもあってここにきている

 

「‥‥まったく…

 

 どうしてこうも、回りの奴は

 あんなにもつまらないことに熱中するのかな」

 

そう言いつつ、次に読む本を探していく渚沙

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ、ハジメのいなくなった教室では

四時間目であった社会科の担当である教師

 

畑山 愛子

 

彼女が暫く、数人の生徒と談笑したのちに、気になるように教室を見回している

 

「南雲君‥‥今日も教室にいないんですね…」

 

彼女はそう言って、ハジメの席の方を見まわしていく

彼女自身、最近彼の周りで起こっているいじめの件において

頭を悩ませると同時に、常に心を痛めていた、同時に彼に何も

してあげることもできない自分自身に情けなさと憤りを覚えていた

 

そんな彼女のもとに歩みよってくる一人の女子生徒が声をかけてくる

 

「愛ちゃん先生」

 

そう言って話しかけて来たのは

栗色の毛の、切れ目が特徴の美少女

 

園部 優花

 

彼女もまた七大天使の一人に数えられる美少女で

実家が洋食屋をやっており、その手伝いもしている

こともあって料理の腕がとても良く、人への接し方もうまい

 

「園部さん…」

 

「…やっぱり、南雲の事…心配なんですね……」

 

「‥‥はい…

 

 私もあいつにはいろいろとお世話になりましたから…」

 

そんな彼女もまた

ハジメへのいじめの事に悩んでいる生徒の一人である

 

「私の力が及ばなかったせいで…

 

 あの時、私がしっかりしていれば…」

 

「愛ちゃん先生…

 

 先生は悪くないですよ…

 

 悪いのは、あいつ等なんですから」

 

そう言って愛子は教壇の上で手をぎゅっと力強く握りしめていく

 

「分かっています‥‥それでも…」

 

そう言って、内側から漏れていく

哀しみを堪えるように張り詰めた様子を見せていく

 

「愛ちゃん先生…

 

 あいつの味方である教師はもう先生一人なんです

その先生がそんな風に俯いてたら、それこそ南雲の味方が

 いなくなってしまいます、ですからしっかりしてください…」

 

「‥‥そうですね…

 

 園部さんの言う通りですね…

 

 人生一度キリしかない高校生活が

 こんなにもつらいままで終わらせるなんて…

 

 そんなの私は嫌です、目の前で苦しんでいる

 生徒の力になってあげないと、それこそ先生である意味もありません…

 

 どんな時でも生徒の味方でい続けることが先制の務めなんですから」

 

そう言って愛子はぐっと決意を新たにする

優花もそれを見て、その意気ですと愛子の背中を押してやる

 

そんな傍らでも、同じく南雲のことで悩む者たちが

 

「南雲君‥‥今日も教室からいなくなっちゃってる…

 

 せっかく南雲君のためにお弁当作ってきたのにな…」

 

そう言って手元に持っているお弁当を抱えて

シュンっと落ち込んでいるのは、香織であった

 

ハジメはここ最近、学校で食事をとることが減ってきている

 

例の事件のせいで食事も満足に取れなくなってしまっているからだ

両親が彼へのお小遣いを断った上に檜山達によるカツアゲなどがあって

 

彼はここ最近、満足に食事がとれなくなってきている

 

香織は心配して彼のために

こうしてお弁当を作ってきてあげているのだが

香織が話しかけていく前にさっさと教室から出ていって

しまうので、この通りいっつも空振りになってしまうのだった

 

「香織…」

 

そんな香織を心配そうに見つめる一人の背の高い女子生徒

 

八重樫 雫

 

彼女と香織は幼馴染であり、同時に親友同士でもある

故にここ最近ハジメのことで悩んでいる香織のことももちろん

 

学校中から理不尽な扱いを受けているハジメのことを心配している

 

最初こそ、ハジメのことをよく思っていなかったが

香織に付き合わされる形で彼のことを知っていくうちに

彼の人となりを知り、今やそれなりに彼に対して好感を持っている

 

故に彼女もまた、ハジメの周りに

起きている理不尽なやっかみに心を痛めていた

 

香織の気持ちを理解しているからこそ

彼女にかける言葉が見つからず、言葉を濁してしまう

 

すると、そんな香織の心情を理解しようとも

せずに、彼女の元へと話しかけてくるものが現れた

 

「香織、こっちで一緒に食べよう

 

 せっかく作った香織のお弁当なのに

 食べないなんてもったいないじゃないか」

 

天之河 光輝

 

容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能のまさに優等生だが

人の善意を無条件で信じてしまい、人の悪意というものに理解がない

 

ゆえにハジメが貶められた例の事件は

ハジメがやったのだと信じて疑っておらず

 

ハジメへのいじめをやめさせるどころかむしろ

ハジメの自業自得であると考えてもいるようであり

 

彼が貶められているのを見ても、いじめている方に

注意しないどころか、一方的にハジメの方を非難していく

 

それが原因でいじめっ子の中には何と

ハジメへの個人的な恨み、反抗的な感情のみならず

 

むしゃくしゃする、今日は気が立っているなどと言う

それこそ、理不尽な理由で暴力を振るう者もおり、さらに

ハジメの精神を追い詰めていった、そういう意味では光輝も同罪である

 

いじめは許されないがハジメに対しては

問題ない、だって光輝が許してくれるから

 

光輝のリーダーシップとカリスマ性が悪い方向に働いてしまった結果である

 

これがきっかけにより光輝と香織の間に溝ができてしまう

しかし、それが自身に原因があることは愚か、香織の気持ちも

理解しきれていない部分も手伝って、今でも香織と交流し続けている

 

「‥‥ううん、いいよ…

 

 私、雫ちゃんと食べるから

 光輝君は他の誰かと一緒に食べて来なよ…」

 

そういう訳なので香織も内心は光輝のことをうっとおしく思う様になり

こうやって光輝からの誘いを断っていこうとするのが殆どであるのだが

 

「だったら俺も一緒で問題ないだろ?

 

 だって俺たちは幼馴染なんだからな

 そうと決まったらさっそく行こうか」

 

光輝はこのように人の話しも聞こうともしなかった

今の香織ははっきり言って穏やかではない、このままだと爆発でもしそうだ

 

すると、そこに

 

「光輝君、あんまり強引だと香織がかわいそうだよ

 

 僕が代わりに一緒に食べてあげるから、今はそっとしてあげよ?」

 

お弁当を手に光輝を誘って行く一人の女子生徒

 

中村 恵里

 

昔は眼鏡をかけ、ナチュラルボブの黒髪で

良くも悪くも地味な印象の少女であったが

 

今は眼鏡はかけておらず髪はおしゃれに少し巻いており

最初の印象から一気に人気が上がって、七大天使に数えられるほどになった

 

因みに彼女はこの高校に上がる前から光輝に想いを寄せており

彼女がこうやっておしゃれをしているのも、光輝に振り向いてもらいたいため

 

なのだが

 

「そうか、やっぱりみんなで一緒に食べる方がいいもんな

 

 香織も一緒に行こう」

 

光輝は毎度のことながらこの調子である

 

恵里はこの反応に香織に申し訳なさそうに視線を向けていく

彼女が光輝を誘ったのは勿論光輝へのアプローチもあるのだが

香織の気持ちも察して彼女から光輝を引き離そうとしたのだ

 

もっとも、今回は失敗してしまったようだが

 

「(もう嫌だよ‥‥なんで南雲君がこんな目に合わないといけないの…

 

  南雲君は何にも悪くないのに‥‥こんなの…こんなのっておかしいよ…

 

  誰でもいい‥‥南雲君を、ハジメ君を…助けて‥‥…)」

 

香織はぐっと持っているお弁当箱を握りしめてそんなことを考えたその時

 

光輝の足もとから何やら幾何学模様が浮かびあがっていくと

それはやがて教室全体にまで広がっていく、さらに広がっているのは

そこだけでなく、その下の方にも円が広がるように大きくなっていき

その先にあったのは図書室であり、そこには二人の人物がいる、その二人は

 

「え…?」

 

「何…!?」

 

そこにいたハジメと渚沙もその光に包み込まれて行く

 

やがて魔法陣から、カッ、っと爆発でも

起こったかのように辺りが光に包まれて行き

 

やがてはれたそこには、蹴倒された椅子やめちゃくちゃになった机

その上にはまだ食べかけのお弁当や飲み物などが散乱していたのだった

 

これはのちに白昼の高校において

突如として起こった謎の神隠し事件として世間を騒がせて行く事になったが

 

それはここで割愛させてもらう

 

なぜならここから先に起こるのは

二つの世界の命運をかけた戦いが始まろうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運命はゆっくりと動き出していく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                  



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1-1 est originale peccatum Anfang
Ad alium se orbem terrarum Beschworene Personen


辺りが光に包まれて行く中

暫くして何やらどよめきのような気配を感じた一人の女子生徒

 

白崎 香織

 

彼女はゆっくりと目を開けるとそこに映ったのは

どう見ても教室ではない気味の悪いほどに絢爛豪華な装飾の為された一室であった

 

「ここは‥‥いったいどこ…?」

 

辺りを見回していく香織

そこには自分のように状況が飲み込めず

動揺している様子のクラスメートの姿があった

 

暫く見回していると

 

「香織、無事!?」

 

自分に声をかけていく三人の少女達が駆けつけてきた

 

「雫ちゃん、姫奈ちゃん、風香ちゃん!」

 

「香織、よかった…

 

 どうやら全員いるみたいね」

 

親友の無事を知って安堵の様子を浮かべるのは

黒い長髪をポニーテールにまとめている女子生徒

 

八重樫 雫

 

 

「ええ、それにしてもここは一体どこかのかしら…

 

 私たちさっきまで教室にいたはずなのに…」

 

香織の無事を確認しつつも状況をどうにか確認していく女子生徒

 

南野 姫奈

 

 

「まさか、誘拐とそう言うんじゃないよね…

 

 ちょっと不安になってきたかも…」

 

そう言って顔見知りに出会えて少し安堵の様子を浮かべたが

得体のしれない周りの景色にやはり不安を隠しきれない一人の女子生徒

 

西宮 風香

 

 

四人はしばらく辺りを見回している

香織は不意にもう一人の人物の安否を確認しようとする

 

そして、他のクラスメートよりやや離れた場所にいる二人の男女

香織はその内の男子生徒の方を見て、安心した様子を見せていく

 

「…こ、ここは一体…!?」

 

その男子生徒

 

南雲 ハジメ

 

 

彼もまた他のクラスメート同様に混乱している様子を見せる彼

 

「南雲君、無事かい!?」

 

そう言って彼に駆け寄っていく女子生徒

 

東雲 渚沙

 

 

彼女は彼の無事を確認して安どのため息を付く

 

「…な、何とか…

 

 それにしてもここは一体…」

 

「私にもわからないが…

 

 少なくともただ事ではないことは確かだろうね…」

 

そう言って辺りを見回していく二人、しばらくすると

自分達のもとに歩みよっていく足音が聞こえ、それらは

ゆっくりと彼等の前に三十人近くの人物が姿を現し、さらに

一同のもとにその中でも恐らく位の高いであろう人物が前に出てくる

 

「勇者様、そしてご同胞の皆様、ようこそトータスへ

 

 私は聖教協会において教皇の地位についております

 イシュタル・ランゴバルドと申します、よろしくお見知りおきを

 

 皆様への歓迎の準備は整っております、ご案内いたしますのでどうぞこちらに‥‥‥」

 

イシュタル・ランゴバルド

 

そう名乗った老人は一同に深々と頭を下げ

事情を説明するために場所を変えて話をしたいと一同を案内していった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

案内された部屋はいくつもの

長いテーブルと椅子が用意された部屋に案内される

 

全員の席順はそれぞれのカーストの順番に

さらには、仲のいいもの同士で構成されていく

 

香織と雫は姫奈と風香と同じグループに

光輝は香織を誘おうとしていたが恵里に止められ

 

光輝は恵里と、彼女の親友である女子生徒

 

谷村 鈴

 

 

光輝の幼馴染で親友でもある

 

坂上 龍太郎

 

 

この四人で座ることになった

 

一方でハジメの方は自然と後ろの方になってしまい

誰とも仲良くすることなく、最後尾の列の方に座っていくと

 

彼の隣の席に渚沙が座り込んだ

 

「騒がしいのは苦手だからね…

 

 失礼かもしれないが隣、座らせてもらうよ」

 

「うん…」

 

渚沙の様な美少女が隣に座られても特に何の反応もない

だからと言って別に嫌がるわけでもなく、彼女が隣に座る事を了承する

 

やがて、全員が座ったのと

ほぼ同時に給仕のメイドが入室し全員に飲み物を行き渡らせていく

 

その給仕のメイドは全員が若く整った顔つきであるために

男子のほとんどが年相応にメイドたちを凝視している、そして

 

そんな男子たちを見詰める女子の視線は冷たいものであった

 

そんな様子を後ろの方から見つめている渚沙とハジメ

 

「ハニートラップだな…

 

 どうしても、私たちをここから

 出さないようにするのが狙いらしいな…」

 

「そうだね…」

 

冷静に状況を分析している渚沙だが

ハジメの表情はどこか虚ろな様子であった

 

そんな彼を心配そうに見つめる香織の視線に

渚沙は気づいていたが、当人であるハジメは興味すらもわかないようだ

 

「‥‥さて、飲み物は行き渡ったでしょうか

 

 あなた方に置かれましてはさぞ混乱されている事でしょう

 

 一から説明させていただきますので、まずは話をお聞きください」

 

そう言って全員に飲み物が行き渡ったと同時にイシュタルが説明をしていく

 

「ここは貴方方がいた世界とは異なる世界、トータス‥‥‥

 

 我々人間族は何百年以上も前よりある種族と

 戦争を続けております、それはこの世界の南一帯を支配する、魔人族‥‥‥

 

 ここ数十年は特に大きな争いに発展することは

 無かったのですが、近年ある異常事態により人間族は追いつめられています‥‥‥

 

 もはや滅びるだけだった我々の元に我らが偉大なる創造神、エヒト様‥‥‥

 

 我が人間族が崇めし唯一神様がある日、我々に救いをもたらすために

 この世界よりも上位の世界より召喚されし勇者をこの世界に召喚していただけると‥‥‥

 

 それが皆様なのです‥‥‥」

 

イシュタルがそう言って一同の方を見て高らかに言う

 

「お願いいたします‥‥‥

 

 どうか我等人間族を救うために

 皆様の力を我々に貸していただけますか」

 

そう言って胸に手を当てて、頭をゆっくりと下げてお願いをする

 

しかし、それに抗議をする者がいる

 

「ふざけないでください!

 

 一体何の冗談ですか!?

 

 どっきりにしても度が過ぎますよ!!

 

 そもそも学校側の許可はとったのですか!?

 

 とっていないのならこれはただの誘拐ですよ!?

 

 早く私たちを返してください!!!」

 

畑山 愛子

 

召喚された際に教室にいたので

ともに召喚されてしまったようだ

 

しかし、そんな彼女の様子を見ていた生徒たちは

 

ーああ、また愛ちゃん先生が頑張ってるー

 

そんな風にちょっぴり和んでいる様子を見せていた

 

「…‥むう、困りましたな‥‥‥

 

 でしたら少々、外の空気を吸いに行きましょうか?」

 

イシュタルがそう言うとまたも案内を促されて

一同は恐る恐るイシュタルの後をついていく事になった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「イシュタルさん

 

 一つ、聞いてもいいですか?」

 

そう言って率先していくイシュタルに尋ねるのは一人の男子生徒

 

天之河 光輝

 

彼がそう言うとイシュタルは、何ですかなと受けごたえする

 

「先ほど、魔人族と戦争をしていると言っていましたが…

 

 その…‥魔人族以外に人間以外の人種がいるのですか?」

 

「おや

 

 あなたは私の言う事を信じて頂けるのですか?」

 

ほっほと微笑みながら話していくイシュタル

 

「…‥正直、信じられないという気持ちが強いです…

 

 しかし、この状況から考えて信じるしかないと思っています…」

 

「…‥いいでしょう

 

 それでは門につくまでの間に出来るだけ話をしていきましょう」

 

イシュタルの話によると

このトータスには大きく分けて三つの種族が存在する

 

北側の一帯を治めているのが、人間族

 

南側の一帯を支配しているのが、魔人族

 

上記二つの種族の大まかな関係は

先程説明された、それ以外の種族は

 

東側の巨大な樹海で過ごしている、亜人族

 

彼等は基本、自分達のいる樹海の中から出てくることは無いため

イシュタル自身はあまり気にしなくていいとやや綺麗に伝えていく

 

やがて、亜人族に関して簡単な説明をしていくと

 

「‥‥さて、つきましたぞ

 

 あとは貴方方の目で見て確認してくだされ」

 

そう言って門の前に立つと門がなんと自動的に開かれ

向こう側の景色が見えていく、そこに映ったのは自分達の

良く知っている景色とは全く別の景色を見て一同は固まる

 

「‥‥山の…上‥‥…?

 

 そんな‥‥それじゃ本当に…」

 

「信じていただけましたかな?」

 

これはどっきりでも誘拐でもない

ここは本当に異世界なのだと認識させられ

 

愛子先生はその場にへたり込んでしまった

 

生徒たちの方も愛子先生程ではないが

それなりに驚いている様子を見せていく

 

すると

 

「あの…」

 

そんな中、手を上げて質問をしていく生徒がいる

 

「私たちを召喚できたのなら…

 

 その逆はできませんか?」

 

その生徒、渚沙がそれを尋ねると

他の生徒達から質疑応答の嵐がイシュタルに投げかけられていく

 

「そ、そうだよ!

 

 喚べたんたら返せるはずだろ!?」

 

しかし、そんな生徒たちの問答にイシュタルは冷淡に答える

 

「皆さまのお気持ちは察します

 

 しかし‥‥皆様を元の世界に戻すことは私達には不可能です」

 

それを聞いて周りの者達から血の気が引いていくのを感じる

 

「どうしてですか‥‥召ぶことが

 出来たのなら返す事だって出来るでしょう…?」

 

「最初に言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です

 

 我々があの場にいたのは皆様を

 出迎えるためと、エヒト様への祈りを捧げるため

 

 我々には異なる世界に

 干渉するような魔法は使えません故

 

 皆様が元の世界に戻ることが出来るか

 どうかも、エヒト様のご意思次第と言う事ですな」

 

「そ、そんな…」

 

そう言ってその場にへたり込んでいく愛子先生

 

それと同時に生徒たちの方からもざわめきが聞こえていく

 

「ああ!?

 

 嘘だろ!?

 

 帰れないって何だよ!」

 

「な‥

 

 そんなの嫌よ!

 

 なんでもいいから返してよ!!」

 

「ふざけんな!

 

 戦争だのなんだのなんて冗談じゃねえ!!」

 

「なんで…なんでよ…

 

 私たちを返してよ!」

 

そう言って段々とパニックに陥られて行く一同

 

すると、そんな生徒たちに

呼びかけるように一人の男子生徒が声をあげていく

 

「みんな、ここでイシュタルさんを責めても意味がない!

 

 彼にだってどうしようもないんだ

 

 …‥俺は、俺は闘おうと思う

 この世界の人々が苦しんでいるんだと知って

 それを放っておくなんて俺にはできない、それに…

 

 俺たちがここに召喚されたのはこの世界の人達の危機を救うため…

 

 だったら、この世界の人達のために戦えば

 もしかしたら元の世界にかえしてくれるかもしれない…

 

 そうですよね、イシュタルさん!」

 

「…‥そうですな、エヒト様も

 我らをを救ってくれようとする皆様の願いを無下にはしないでしょう」

 

「だったら俺は…‥戦う

 

 それがこの世界に俺が召喚された理由なら…

 

 俺のやるべきことが、それしかないというのなら…

 

 俺は戦う、この世界の人々を救い、みんなとともに

 元の世界に帰れるように、俺が世界も皆も守るために…

 

 俺は戦います!」

 

光輝が一同にも聞こえるように高らかに声をあげていく

彼のリーダーシップとカリスマがいかんなく発揮されて行き

それまで後ろ向きだった他のクラスメートの表情に光がともっていく

 

すると

 

「へへっ、お前ならやっぱそういうと思ったぜ

 

 だったら俺もやる、お前一人にだけやらせるかよ」

 

「龍太郎…」

 

「ぼ、僕も、光輝君がやるって言うなら僕もやるよ」

 

「恵里…」

 

「わ、私も、エリリンがやるならやってみる‥」

 

「鈴‥」

 

光輝の親友であるがっしりとした大柄な男子生徒

 

坂上 龍太郎

 

 

光輝に思いを寄せる七大天使に連なる少女

 

中村 恵里

 

 

その恵里の親友であり

クラスのムードメーカー的な存在の女子生徒

 

谷口 鈴

 

 

彼女達が賛同するのと同時に

クラスメートの方から次々と声をあげていく

 

その傍らで愛子先生は、だめですよと

涙目になりながらあたふたしていたのだった

 

「(‥‥どうしよう…)」

 

クラスメイト達が次々と名乗りを上げていく中

香織は自分はどうすればいいのかわからずにいた

 

「‥‥香織、私ね、戦おうと思ってるの」

 

「え、どうして…!?」

 

雫の言葉を聞いて、香織は驚きの表情を浮かべる

 

「‥‥正直に言うと、私はイシュタルさんの言う事を全面的には信用してない…

 

 でもだからと言って戦争に参加しないなんて言って追い出されでもしたら

 それこそ、ここで何が起こるのかわからないのに持ち物らしい持ち物を持ち合わせていない

 今の私たちじゃあどんな危険が舞っているのかもわからないわ、だからここはあえて光輝に合わせて

 戦争に参加する方向で進めていきたい‥‥正直に言うと怖いけれども、そこに可能性が少しでもあるなら…

 

 私はやる!」

 

「雫ちゃん…」

 

香織は雫の言葉を聞いたと同時に気づいていた

彼女の身体が震えていることに、彼女も不安でこわいのだろう

 

戦争に参加すると言う事は、敵を殺さなければならない事

 

雫自身もそれが分かっている、しかしほかに元の世界に

もどれる方法が分からない、故に彼女は闘うと言う選択を選んだ

 

自分や親友である香織のために

 

それを感じた香織は、雫の震える体を

抑えてあげるようにそっと彼女の手に自分の手を添える

 

「‥‥大丈夫だよ、雫ちゃん…」

 

「‥‥香織…?」

 

香織は決意を秘めた瞳を雫に見せていく

 

「‥‥雫ちゃんを一人でなんて戦わせないよ

 

 怖いのは私もおんなじだけれど、雫ちゃんが戦うなら

 私も勿論戦う、雫ちゃんに全部を背負わせたりなんてしない

 

 どんなことがあっても私はいつだって雫ちゃんと一緒だよ…

 

 絶対に一人でなんて戦わせないから…」

 

「‥‥香織…ありがとう‥‥…」

 

「‥‥雫ちゃん…」

 

そう言って二人はお互いに笑いあって行く

 

すると

 

「ちょっとそこの百合百合のお二方?

 

 なに二人だけで盛り上がっているのかしら?」

 

「「っ!?」」

 

そんな二人の様子を傍らで見ていた姫奈が二人に話しかけていく

二人は驚いて姫奈と風香の方に目を向けて驚いていくのであった

 

「まったく、何勝手に二人だけの誓いにしようとしているのよ?

 

 その話し、私にもかませて頂戴よ

 元の世界に帰りたいって気持ちは私だって同じなんだから」

 

「ちょっと姫奈、抜け駆けはよくないよ

 

 その話し、私にも協力させてよ

 だって二人のことが心配だからさ」

 

そう言って姫奈と風香も雫と香織に協力したいという意思を示す

 

四人はお互いに決意を秘めて、何としても生き延びようと決意する

 

すると、香織は何かを思いついたように表情を明るくしていく

 

「ねえねえ、南雲君の事も誘っていいかな?

 

 南雲君のこともやっぱり心配だから…」

 

「フフフフフ、本当に香織は南雲君のことが好きなんだね

 

 でも…‥南雲君の方はオーケーしてくれるのかな?」

 

「まあ、声だけでもかけておきなさいよ…

 

 そんなに気になるんだったら」

 

そう言って風香と姫奈に背中を押され

香織はハジメの方に向かって行った

 

一方のハジメの方は

 

「ねえ、南雲君‥‥南雲君はどう思ってる?」

 

「…そうだね…」

 

一緒に行動をしている女子生徒、七大天使の一人

 

東雲 渚沙

 

彼女とともにこれからのことを話していた

 

「正直に言って、僕はあのイシュタルって人のことは信用するのは危険だと思う…」

 

「‥‥その理由は?」

 

ハジメは自分の意見を渚沙に話していく

 

「…まず第一にあの人、天之河君を誘導させているように見えた…

 

 多分だけれど彼が僕たちの中で一番影響力があるんだってことを見抜いたからだと思う…」

 

「なるほど…私たちにこの世界のことを話しつつ

 私たちをどうしてもこっち側に引き入れようとしている…

 

 思っていたよりもあのお爺さんはやり手の様ね…」

 

ハジメはさらに話を続けていく

 

「そしてこれが一番の理由…

 

 僕たちにあることをさせようとしている…」

 

「戦争‥‥だね…」

 

ハジメのその言葉を聞いて、渚沙は有ることを思い浮かべていく

 

イシュタルは、教会の者達は自分達に何をさせようとしているのか

渚沙もハジメの言葉を聞いて、いいやそれ以前に気が付いていたから

 

「口惜しいけれども僕にはそれを止めることは出来ない…

 

 教会の奴らに何をされるのかわからない以上は口惜しいけれど…」

 

「そうね‥‥ここは…天之河の意見にに乗るしかない…」

 

そう言って二人は、内心では賛同しつつ向こうの出方を見ていく事にする

 

するとそんな二人に、正確にはハジメに話しかけていく人物がいた

 

「あ、あの‥‥南雲君…」

 

白崎 香織

 

四大女神の一人であり

ハジメのことを気に掛ける人物の一人である

 

「え、白崎さん…?」

 

「あのね‥‥その…

 

 南雲君、私達のグループに入らない?

 

 その‥‥南雲君もきっといろいろ大変だと思うし…

 

 何より私、少しでも南雲君のことを助けてあげたいの…

 

 だから…」

 

「…ごめん」

 

香織がそこまで言うと、ハジメはハッキリといい放った

 

「…わるいけれど、急には決められないし…

 

 それに、僕なんかが白崎さんとおんなじグループに

 入ったって足手まといにしかならないと思うし、だから…」

 

「‥‥そんな…そんなことないよ南雲君!

 

 だって、南雲君は‥‥南雲君は…」

 

そういって言葉を続けていこうとする香織だったが

それを阻んできたものがいた、その人物とはもちろん

 

「ダメだよ、香織、こんな奴なんかじゃなくて俺と一緒に組もう?

 

 もしもこいつが香織に手でも出して来たらどうするんだ?」

 

天之河 光輝

 

彼であった

 

「…‥南雲、もう香織に関わるな

 

 確かに香織は誰にでも優しいから

 お前のような奴にも分け隔てなく接してくれている

 

 でもな、はっきり言ってお前みたいなやつが

 いつまでも香織の世話を焼かせているのはみるにたえない

 

 だから、はっきり言わせてもらおう、お前のような奴は

 香織の傍に立つのにふさわしくなんてない、二度と香織に関わるな!」

 

「…別に元からそんなつもりもないよ…」

 

そう言ってハジメは力ない声でつぶやいてその場から離れていく

 

「まって南雲君!

 

 お願いだから話を最後まで聞いて!!」

 

ハジメのもとに駆け寄ろうとする香織だが

それを光輝が彼女の腕を引いて、引き止めた

 

「やめるんだ香織!

 

 君は彼のような人間とかかわるべきじゃない!!」

 

「何でそんなこと光輝君に決められないといけないの!

 

 私が誰の傍に居ようとそれは私の勝手じゃない!!

 

 私がどうしたいのかは、私が決めたいんだよ!!!」

 

そう言って自分を引き留める光輝に必死に反論する香織

 

「香織、俺は香織のことを思って行ってるんだ

 香織をあんな奴の傍に置いたらどんな目にあわされるか!

 

 あいつが一年の時に何をしたのか香織も知っているだろう!!」

 

「知ってるわよ、そんなの!」

 

光輝がそう言うと、香織の代わりに答えた人物がいた

それは香織と雫の事を誘った二人と同じ四大女神と呼ばれる少女

 

「一年のころ、南雲が私を人気のない場所に誘って襲おうとして?

 

 そこを偶然通りがかった檜山達が助けに入った、だったっけ?」

 

「ああ、そうだ!

 

 しかもあいつはその罪に対しての罰を何も受けていない!!

 

 自分の行いを悔い改めないだなんていくら何でも最悪だ!!!」

 

「ふざけないでよ!

 

 あれは違うんだってさんざん言ったでしょうが

 そもそもあの件なら南雲だってしっかり罰はうけたわ!!

 

 それなのに何の罰も受けていないなんて何でそんなこと言うのよ!!!」

 

光輝と姫奈の口論はヒートアップしていくが

流石にこれ以上は大事になると考えて二人の人物が止めていく

 

「おい光輝、そこまでにしとけって

 

 こんなところで言い争ってたって

 どうにかなるわけでもねえだろう」

 

光輝の親友である、龍太郎

 

「姫奈もだよ、気持ちはわかるけど

 事を大きくしたらそれこそ南雲君が悪目立ちしちゃうよ…」

 

「香織も、ここはこらえて

 また落ち着いたときに南雲君と話をしましょう…」

 

「‥‥わかったわ、香織もここは言う通りにしましょう…」

 

「‥‥うん…」

 

姫奈と香織も、風香と雫にそれぞれ諫められ

納得していない様子でそれぞれが引き下がっていくのであった

 

「‥‥南雲君…」

 

悔し気な表情でその場を去っていったハジメに

心配そうに話しかけていく渚沙は、自分の元からも

離れていこうとするハジメの手を引っ張ることで引き留める

 

「まって‥‥話はまだ終わって…」

 

しかし、ハジメはその手をいつもの彼では

考えられないと言えるほどに乱暴に振りほどいた

 

「…終わらせるか終わらせないかじゃない…

 

 もうとっくに終わってるんだよ、僕の中ではもうね…

 

 僕は蜘蛛の糸のように張り巡らされた人の悪意に自分でも

 知らないうちに捕らえられ、その悪意を秘めたやつに食われた…

 

 その結果が、今の僕ってことさ…」

 

そう言ってどこか投げやり気味に言い放っていくハジメ

渚沙はそんな彼に何も言うことが出来ず、申し訳なさそうに顔を落としていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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statum Ereignis

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして、いろいろとひと悶着あったものの

全員が戦争に参加する意思を示したので、イシュタルは

さっそく準備にかかる、確かに彼らに特別な力を持っているとはいえ

今の今まで戦いとは無縁の生活をしてきた彼らにいきなり戦わせてるのは

流石に無茶が過ぎるだろう、だがそれについては心配はしていないとのことだ

 

これから彼らはある国に受け入れられ、そこで戦うための訓練を受けてもらうと言う事

 

こうして彼らは教会の発動した魔法によってまるでロープウェイのように

滑らかに移動していき、やがてその国、ハイリヒ王国へと訪れていったのだった

 

「なるほどね…

 

 これは言うなら、演出のようなものか…

 

 私たちの存在を、この世界の人間に

 知らしめようとしているわけだ、何というか…

 

 皮肉なものだな…」

 

「…そうだね…」

 

この移動方法を皮肉るようにつぶやく女子生徒

 

東雲 渚沙

 

 

それに対して力なくつぶやいていく男子生徒

 

南雲 ハジメ

 

 

そんなハジメを心配した様子で見つめている一人の女子生徒は

 

「‥‥大丈夫よ、香織…

 

 さっきも言ったけれど南雲のことは

 あとで時間があるときにゆっくり話せばいいんだから…

 

 だから今は生き延びることだけを考えましょう…

 

 南雲君と一緒にね…」

 

「‥‥うん、私の方も当てにしているからね、雫ちゃん」

 

背の高い女子生徒にそうさとされる

 

八重樫 雫

 

 

白崎 香織

 

 

彼女達は決意を新たに目的地である国

 

ハイリヒ王国にへとたどり着いていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして王国に辿り着いた一同はさっそく王の間へと招かれて行く

 

扉が開くとそこには、奥の方まで伸びていっている

レッドカーペットが豪奢な椅子、玉座の方にまで続いており

 

その前には王様と言える威厳に満ちた男性が立ちあがっており

その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年

十四、十五くらいの同じく金髪碧眼の美少女が控えており、更にレッドカーペットの

両サイドにも人がおり、左サイドには甲冑や軍服らしき衣装をまとったもの達、さらに

右側には文官らしき人物たちがざっと数十人くらいが佇んでおり、生徒達を見詰めている

 

イシュタルは生徒達を玉座の前にまで歩かせるとそこで待っているように合図をし

自分は王の隣に立ちおもむろに手を出すと、王は跪き彼の手に軽く触れない程度のキスをする

 

「(‥‥なるほどね、どうやらこの国では

  王様よりも教会の方が立場は上の様ね…)」

 

「(…おっさんの手におっさんがキスするって誰得だよ…)」

 

渚沙とハジメはこの国を動かしているのが実質教会であると見抜く

なお、ハジメの方はおっさん同士のやり取りを見せられてややげんなりしていた

 

こうして、イシュタルが自分達のことを高らかに言うと

王はそれに合わせて、この世界を救ってほしいと述べていく

 

そんな軽いやり取りをかわしていく中

ハジメは王妃の隣に立つ、王女ともいえる人物の方を見ている

 

何故だか彼女に何か、惹かれる何かを感じ取りながら

 

こうして、謁見は終わり、生徒達の歓迎会を開くこととなり

パーティー用の会場にまで案内させられることになったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そこでは生徒達をもて為すために

とても豪華な食事が用意されていた

 

一同は異世界料理に舌鼓を打ち

更には多くの貴族やその関係者が

生徒達と交流をもとうとしきりに話しかけている

 

そんなこんなでわいわいと騒がしくなっている会場だが

なにぶん、状況が状況でもあるためにあまり乗り気ではない者もいる

 

「はあ…」

 

その者の一人でもある女子生徒

 

白崎 香織

 

彼女はあまり食事には手を付けている様子がなく

寧ろどうするべきなのかと考え事をしているようにも見受けられる

 

「お、お主‥‥

 

 少しいいか?」

 

そんな香織に話しかけていく一人の美少年

 

それは先ほどの謁見の際に王妃の隣にいた美少年であった

 

「貴方は確か‥‥ランデル殿下…でしたか?」

 

「おお、覚えていてくれて何よりだ

 改めて紹介しよう、余はこのハイリヒ王国の王子

 

 ランデル・S・B・ハイリヒである‥‥

 

 良ければだが、そなたの名前も教えてもらえないだろうか」

 

「え、えっと‥‥白崎 香織と申します…」

 

「ふむ、香織か‥‥うむ、良き名前だ‥‥

 

 それにしても元気がないようだが、体調がすぐれないのか?」

 

香織に向かって、何やら緊張した様子で話しかけてくる美少年

 

ランデル・S・B・ハイリヒ

 

 

彼は元気のない香織のことが気になり

これを機に香織と交流を深めていきたいと考えていく

 

「はい、別に何ともありません…

 

 ただ少し、別の世界に召喚されたという実感がないだけです…」

 

「おお、そうであったのか‥‥

 

 なあに、心配することは無い

 余はこの国の王子なのだからな

 

 余が決して香織のことを不安にはさせない‥‥

 

 だから、その‥‥これからまた、こうして余と

 話をしてくれると嬉しい、これから余の傍にいてほしいのだ‥‥」

 

そう言ってプロポーズまがいのことを口にするランデル

年頃とはいえまだ十歳前後の子供なのだ、はきはきとしている部分が目立つ

 

それは傍から見ると微笑ましいが

今の香織にはただの子供の背伸びにしか受け取れない

 

「フフフフ‥‥、ランデル王子はお優しいのですね…

 

 私のことを源築けようとしてくださっているのですね…

 

 でも私は本当に大丈夫ですから、お気遣いは結構ですよ」

 

「う、うむ‥‥

 

 そ、その‥‥余は‥‥」

 

その後も香織とランデルの会話は続いていて

それを見ていた男子生徒の視線は鋭いものであった

 

香織の方も何とか優しく応対していくが

ランデルの方も中々ひかない、するとそこに

 

「ランデル殿下、申し訳ありませんが

 香織は突然この異世界に召喚されてまだ混乱しているんです

 

 お気遣いは嬉しいですが、どうかこの続きは日を改めてお願いします」

 

香織に助け舟を出してくる、女子生徒が現れる

 

八重樫 雫

 

香織の親友である

 

「よ、余はただ、香織が元気がないのが気になって

 

 少し話をしただけで‥‥」

 

「それはありがとうございます…

 

 それでは、これで失礼します…

 

 ほら、香織、こっちで休んでて…」

 

「‥‥ありがとう、雫ちゃん…」

 

そう言って香織と引き離された

ランデルはその場に立ち尽くしていたのであった

 

「ひょっとしてあの王子様…

 

 香織に一目ぼれでもしたのかしら?

 

 どうやらあの様子だと

 この世界の美人の基準は私たちの方と変わらないようね…」

 

「そうだね…

 

 まあ、ランデル君には悪いけど

 香織ちゃんを振り向かせるなんて無理だからね…

 

 ところ、香織の王子様はどこにいるの?」

 

その様子を離れた場所で見つめている二人の女子生徒

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

二人は香織の本命である、ハジメの姿を探していた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

生徒達のいるパーティー会場から離れた場所で

一人の男子生徒が夜空に浮かび上がる月を見つめていた

 

「…はあ…

 

 しつこい人だね、渚沙さんも…

 

 僕に何か用なのかな?」

 

そういうと彼の横の方から一人の女子生徒が現れる

 

「ううん、たまたまここに来ただけ…

 

 私はあんまり騒がしいのが好きってわけじゃないから…」

 

東雲 渚沙

 

 

向こうの世界にいた時に彼と最後にあっていた女子生徒である

 

「…そっか…

 

 まあ、いいよ…別に迷惑ってわけでもないんだし…」

 

特に気にすることなく、彼は夜空に浮かんでいる月を見ていた

 

「…ねえ、東雲さん…

 

 どうして東雲さんは、こんな僕に優しくしてくれるの?

 

 しってるよね…僕の噂…あの時と変わらず接してくれてるよね…」

 

「‥‥南雲 ハジメは一年のころに、四大女神の一人である

 南野 姫奈を人気のないところに誘い出して無理矢理関係を迫った

 

 しかし、寸でのところで檜山達四人によって止められ、学校側に告発されるも

 卑怯な手段を使って言い逃れをし、受けるべき罰を受けずにのうのうとしている

 

 最低最悪の人間…

 

 それが、貴方の学校でのほとんどの者達からの評価…

 

 でもそれは所詮は他人が勝手につけた評価だもの…」

 

渚沙はそこまで言うと、ハジメの方に向いて締めくくる

 

「‥‥貴方が本当はどんな人間かなんて…

 

 貴方の事をしっかり見ていればわかるもの

 あなたはそんなことをするような人じゃない…

 

 貴方の事をしっかりと見てくれる人は少ないけれどいるわ…

 

 だから卑屈にならないで‥‥貴方は決して一人じゃない…

 

 貴方がたとえそれを否定しても、受け入れようとしなくても…

 

 少なくとも‥‥わたしがいるんだから…貴方の事を

 本当の意味で理解してくれる人は少なからずいるのだから…」

 

そう言って教えられていた自室のある方へと去っていく渚沙であった

 

「…僕は…一人じゃないか……」

 

渚沙の背中を暫く見詰めていると

そんな彼のもとに誰かが歩いてくる音がする

 

「今夜は月がきれいですね‥‥」

 

「…うん?」

 

急に話しかけられ、ハジメはその声のする方に目を向ける

そこにいたのはきらびやかなドレスに身を包んだ美少女がいた

 

ハジメはその少女が何者かを理解していた

 

「…うん、貴方は確か…

 

 王女様?」

 

「謁見のとき以来ですね、改めまして

 

 リリアーナ・S・B・ハイリヒと申します」

 

そう言って左手でドレスのスカートの裾を上げ

右手自身の胸元に手を当てて頭を下げ、挨拶をする

 

「南雲 ハジメだ…

 

 それで、あんたのような人が僕に一体何の用だ?」

 

「い、いえ‥‥

 

 少し気になってしまったので‥‥

 

 どうして、南雲様は

 他の皆様とご一緒なさらないのかなと思って‥‥」

 

それを聞いてハジメの表情は

どこか鋭いものになっているのを感じるリリアーナ

 

「貴方には関係のない話だ…

 

 それに、僕はハッキリ言って

 あんた達の言う戦争には乗り気じゃない…

 

 いきなりこんな訳の分からない世界に連れてこられて

 そこで早々、戦争に参加して自分達を救ってほしい?

 

 僕たちのような子供にそんな大それたこと出来るわけないだろ!」

 

「っ!」

 

「あんた達の都合を勝手に押し付けられて

 しぬかもしれない戦いで殺し合いを強要して…

 

 はっきり言ってどうかしてんじゃないかって思ってる…

 

 エヒトだか何だか知らないけど、そんな訳の分からない存在に

 僕たちの人生を勝手に決められたり奪われたりなんかしてたまるものかよ!

 

 もううんざりなんだよ、訳の分からない都合に振り回されるのは!!」

 

ハジメはそう言って内に秘めた不満をリリアーナにぶつけてしまう

暫くして自分がやってしまったことに気が付いて少し公開をしている

 

すると

 

「…‥う、うううう~…うああ~…ああああ‥‥」

 

リリアーナは涙を浮かべて

まるで胸の内に秘めていたなにかをひりだす様に泣き始める

 

「…あ、いや…その……」

 

余りの反応にハジメは言いすぎてしまったかと思い

どう声を掛ければいいのかわからずしどろもどろになる

 

「…‥そうですね‥‥

 

 貴方の言う通りです‥‥

 

 私達は貴方達にすべてを押し付けようとしている‥‥

 

 お父様もこの国の方々も、皆さまを神の使徒として

 ていのいいように扱っていますが、扱いはある意味道具のようなものです‥‥

 

 本来だったら私達のことは私たち自身で解決しなくてはならないのに‥‥」

 

リリアーナは嗚咽交じりにそう言ってハジメに申し訳なさそうに頭を下げる

 

「実は私も、教会のやり方や今のお父様の在り方に疑念を持っていました‥‥

 

 かつての私が幼かった時のお父様はどんな時でも民の声に耳を傾け

 そのうえでこの国に住まう民のための政策を考える立派なお人でした‥‥

 

 しかし、南雲さん達をこの世界に呼び出すという神託を受ける数か月前の事です‥‥

 

 お父様は民の声に耳を傾けることはしなくなりました…‥毎日人が変わったように

 エヒト様に祈りを捧げるようになり、次第に教会の言いなりになってしまったのです‥‥

 

 私は何度も、何度も、お父様を説得しました、しかし…‥お父様どころか

 お母様も…‥ランデルも‥‥まるで、私の事をおかしなものを見る様な目で見るようになって‥‥

 

 気が付いたら、私の話を聞いてくれるものは殆どいなくなってしまったのです‥‥

 

 幸いにも私の話しを聞いてくれる者も何人かいたので、自分を保つことは出来ました‥‥

 

 でもやはり、同じ血を分けた家族にまるで

 異質な物を見る様な視線を向けられたショックはそう簡単には晴れませんでした‥‥

 

 今回のことだってお父様が決めた事です、まだ年端も行かない皆さんを

 戦いに行かせるなんてはっきり言って正気の沙汰ではありません、しかし‥‥

 

 それを言ったところで、お父様たちが聞いてくれるはずもなく‥‥

 

 私やランデルがパーティーに出席したのも、お父様からの指示です

 早めに神の使徒たちと交流を深めて、皆様からの信頼を盤石なものにしろと‥‥

 

 皆様と信頼を築くのは私も賛成です、でもその実は

 皆様を魔人族との戦いから逃さないようにするための楔を打ち込むこと‥‥

 

 それがあの歓迎の晩餐会の本当の目的なのです‥‥」

 

「…何だよそれ…

 

 どこまで腐ってるんだよこの世界は…」

 

リリアーナから聞いて、ハジメは驚愕と怒りに満ちた表情を浮かべている

 

「私も本音を言えば、皆様が元の世界に戻るための方法を見つけ‥‥

 

 皆様を戦いに巻き込むことなく、元の世界に帰還させたい

 しかし、召喚魔法を記していた記録のようなものは既に失われており‥‥

 

 調べようにも調べられなくなっているんです‥‥

 

 わたしがせめてお父様だけでも説得できていれば

 皆様を私たちの世界に呼び出し、この世界の都合を押し付けるような真似なんて‥‥

 

 そんな事を済んだかもしれないのに…‥ごめんなさい‥‥ごめんなさい…ごめんなさい‥‥」

 

そう言って泣き崩れてしまうリリアーナ

すると、ハジメは屈んでリリアーナの両頬に両手を当てて

 

自分野方へと優しく向けていく

 

「…そっか…あんたもつらかったんだな…

 

 それに、あんたも僕と同じなんだね…」

 

「え?」

 

リリアーナの言葉に何か共感するものを感じたハジメ

彼は彼女にリリアーナに嘗て自分の身に起こった出来事を話していく

 

高校に入学して一年が断とうとした時だった

 

ある日、ハジメは自分の事を

一方的に目の敵にしているグループの男子生徒

 

檜山 大介

 

 

中野 信治

 

 

斎藤 良樹

 

 

近藤 礼一

 

 

彼らに絡まれ、危うく集団リンチを

受けそうになったハジメの元に一人の女子生徒が通りがかった

 

南野 姫奈

 

 

彼らが思いを寄せている白崎 香織と同じく

四大女神に数えられている彼女が駆け寄っていく

 

すると、そんな姫奈に腹の虫を悪くしたのか

彼女の方にも襲い掛かろうとしたが、其れを止めんと

ハジメが抑え、姫奈に傷つくことは無くその場は収まった

 

結局、ハジメはボロボロになってしまったものの

どうにかその場を収めることが出来たハジメ、姫奈は

助けてくれたお礼と、結局助けられなかった謝罪の言葉をかける

 

ハジメは気にしないでいいよと笑って答え、姫奈にお礼を言った

 

しかし、檜山達の悪意はまだ終わっていなかった

そのことにこの時の二人は気づいていなかったのだ

 

後日、ハジメは生徒指導室に呼び出され

そこで何と衝撃的な言葉を耳にした、それは

 

ハジメが姫奈を人気のないところに

呼び出して関係を迫ろうとしていたと言うのだ

 

ハジメは混乱したが同時に察した

一体だれがそんなことを言ったのか

 

それを密告したのは案の定、檜山達であった

 

ハジメは必死に弁明した、檜山に襲われそうになったところを姫奈に助けられ

その姫奈に檜山達が襲い掛かろうとしたのを自分が止めたのだと、さらに言うと

彼は姫奈にはもちろん、檜山達の方にも一切手は出していない、覚えもないのだと

 

必死に意見をしていくハジメだったが

教職員たちはそんな彼の話など聞こうともしなかった

 

ハジメは何しろ授業中はほとんど寝ていることが殆どのため

殆どの教職員からはよく思われていなかったのだ、故に教職員たちは

ハジメの話に本気で耳を傾けようとはせず、処分が決まるまでの間、謹慎することになる

 

その後、事情を知った姫奈や教職員の中で唯一、ハジメの言葉に真剣に聞いていた教師

 

畑山 愛子

 

 

彼女らの奮闘によりハジメと檜山

喧嘩両成敗という形でどうにか退学は免れたものの

 

彼の周りの人間関係は大幅に変わってしまった

 

両親からは仕事の手伝いはおろか、愛情を注がれることもなくなり

学校においても殆どの生徒達から陰湿ないじめを受けるようになってしまう

 

おまけに教職員もそのいじめを黙認する始末

 

その結果、ハジメは全校生徒、すべての学校関係者

全員に疎まれてしまうことになり、やがて精神的にも追いつめられていった

 

それでも変わらず彼と親しくしている者もいたために

腐りきってしまうことは無かったものの学校でも家でも

居場所をなくし、ストレスにより、すっかりと変わり果ててしまった

 

「…あの日以来僕は両親の笑顔を見たことがない…

 

 どんなに話をしようとも僕の話を聞こうともしない…

 

 実の両親から理解されず、されようともしていない…

 

 その点は僕と貴方はまるで鏡合わせのようによく似ている…」

 

ハジメの話を聞いて、あまりにも壮絶な

過去の出来事に言葉を失ってしまうリリアーナ

 

「…僕だって毎日のように思っていますよ…

 

 あの時学校に申告していれば、いいや

 最低でも両親には相談していたら、もしかしたら

 両親だけでも僕の味方でいてくれるかも知れなかったのにってね…」

 

そういう彼の表情は口惜しさと悲しみの入り混じった表情で

リリアーナはその表情を見て、不思議と放って置いてはいけないと感じた

 

「…フフフ、何だかちょっと湿っぽくなっちゃったよね…

 

 今の今まで、過去の事なんて誰にも話そうとも思わなかったのに…

 

 どうして…話したりなんか…」

 

自分のやったことながら少し驚いた様子を見せていくハジメ

 

すると、彼の手にそっと手が優しく置かれていく

 

「…‥南雲さん、本当にお辛かったんですね‥‥」

 

「…え?」

 

そう言ってリリアーナはじっとハジメの顔を見つめていく

 

「…‥私もずっとこのつらさを誰かにわかってもらいたい

 ずっとそう思っていました、でも言ったところでどうしようもない‥‥

 

 そう思って話すことが出来ずにただたため込み続ける日々を送っていました‥‥

 

 つらかったんですね…‥苦しかったのですね‥‥私もそうでした…でも‥‥

 

 私は貴方に話をしてみて、本当に良かったと思いましたよ‥‥

 

 だって貴方は…‥わたしの話しを真剣に受け止めてくれたのですから‥‥」

 

「……」

 

不思議とハジメの目から涙が流れていく

 

「それに、貴方は決して貴方が思っているほど弱い人でもありません‥‥

 

 わたしこれでも、人を見る目はあるつもりなんですよ?」

 

「リリアーナ王女様…」

 

ハジメがリリアーナの名前をつぶやくと、彼の口元に

リリアーナのピンとたてた人差し指が突き出されてきた

 

「リリィ、と呼んでください‥‥

 

 王女様なんて言いにくい呼び方はなしですよ‥‥」

 

「で、でも王女様にそんな…」

 

「いいんです、それに‥‥

 

 ハジメさんとはこれからも仲良くしていきたいですから‥‥」

 

そう言ってリリアーナはその場から

離れるとハジメににこやかに微笑んで会場に戻っていった

 

「…リリィ…か……」

 

この世界に来て初めて親しい関係となった人物

だがハジメの心はどこか晴れやかになっている感じがしたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

その翌日、さっそく訓練と座学が始められていく

 

「勇者御一行、今回は我々への協力を感謝する!

 

 俺はハイリヒ王国騎士団長を務める

 

 メルド・ロギンスだ!!

 

 本日よりお前たちに訓練を行って行く事になるが

 その前に、お前たちに渡しておくべきものがある」

 

そう言って騎士の鎧に身を包んだ男性

 

メルド・ロギンス

 

 

彼がそう言うと、生徒達にある者を渡していく

それは銀色の12×7センチくらいのプレートであった

 

生徒達は其れをまじまじと不思議そうに見つめていた

 

「ようし、全員に配り終わったな?」

 

「これは…?」

 

「…これはステータスプレートと呼ばれている

 

 文字通り自分のステータスを数値化してくれるものだ

 

 またこの世界では最も信頼のある身分証明書でもあるからななくすなよ?」

 

そう言って気兼ねなく生徒たちに説明をしていくメルド

 

「まず、プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう?

 

 そこに、一緒に渡した針で指に傷をつくって

 魔法陣に血を一滴だけでいいから垂らしてくれ

 

 それで所有者が登録されるはず

 

 ステータスオープン、と言えば

 表に自分のステータスが表示されるはずだ、まずはやってみてくれ」

 

そう言って各々がステータスオープン、と呼ぶと

不思議なことにそのプレートに文字と数字が浮かび上がっていく

 

「浮かび上がっただろう、其れが今のお前らのステータスだ

 

 ああ、ちなみに原理とかそんなのは聞くなよ

 俺たちの方でもわからない、何せこいつはアーティファクトだからな‥‥」

 

「アーティファクト…?

 

 メルドさん、アーティファクトというのは…?」

 

アーティファクトという聞きなれない言葉に質問をしていく男子生徒

 

天之河 光輝

 

 

「アーティファクトっていうのはな

 現代じゃ再現することが出来ない機能を持った魔法の道具の事だ

 

 まだ神やその眷属たちが地上にいた神代に創られたと言われている

 

 そのステータスプレートもまたしかり

 昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ

 

 本来アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが

 これは一般市民にも流通している、身分証明に便利だからな」

 

「でもステータスプレートもアーティファクトなのに

 そんなに数をそろえていく事とかできるの、亡くなったりとかは…」

 

そう言って次に質問したのは女子生徒

 

南野 姫奈

 

 

「ああ、それについては心配いらない

 

 詳しくは話せないがこのステータスプレートを

 量産できるアーティファクトも存在しているから

 

 必要に応じて新しく生み出すことが出来るわけだ」

 

メルドはそう言って大まかな説明ををしていき

殆どの生徒達は少し眉をしかめながらもなるほどと納得していく

 

「さて、もう大体は確認できたと思うからさらに説明していくぞ?

 

 まず最初にレベルについてだ

 

 レベルは各ステータスの上昇とともに上がっていく

 

 上限は100で其れがその人間の限界を示す

 

 まあ大まかにいうとレベルとは

 その人間が到達できる領域の現在値を示しているという訳だ

 

 まあ、レベル100にまで達した奴はそうそうない

 自身の潜在能力をすべて発揮したと言う事だからな‥‥」

 

要するにゲームとは違ってレベルが上がるから

ステータスが上がるのではないと言う事である

 

「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔具上昇させられる

 なお、魔力の高い者自然と他のステータスも高くなる傾向になる、ちなみに

 この原理についても詳しいことはわかっておらず、あくまで仮設の段階だが

 魔力が身体のスペックを無意識に補助しているからではないかと考えられている」

 

どうやら、ただ魔物を倒すだけでは一気に強くなれるという訳ではないらしい

 

「次に天職というのがあるだろう?

 

 それはいうなればその人間が持つ才能だ

 

 末尾にある技能と連動していて

 その天職の領分においては無類の才能を発揮する

 

 実は天職を持っている奴はとても少ない

 

 天職は主に、戦闘系天職と非戦系天職に分類され

 戦闘系は千人に一人、物によっては万人に一人の割合

 

 非戦系天職も少ない方ではあるが…割合は百人に一人

 十人に一人というのも珍しくないのが結構あって、その中でも生産職が一番多い‥‥」

 

そう言って説明を続けていくメルド

 

「そして最後にステータスだが…それは見たままだ

 

 だいたいレベル1の平均は10くらいだ

 まあ、お前たちならその数倍から数十倍くらいはあるだろう

 

 全く羨ましい限りだ、さてそれじゃあ

 各々のステータスプレートの内容は報告してくれ

 

 それを元にお前たちの訓練内容の参考にさせて貰うからな」

 

そういう事で各々のステータスを提示しに行くことになった一同

 

「姫奈ちゃん、風香ちゃん」

 

そこに香織と雫が、姫奈と風香のもとにやってくる

 

「あら、香織に雫…

 

 二人の方はどうだったの?」

 

「えっとね、私達はこうだったよ…」

 

そう言って香織と雫、姫奈と風香は

お互いのステータスプレートを見せあって行く

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

白崎 香織 17歳 女 レベル1

 

天職;聖女

 

筋力;40

 

体力;60

 

耐性;50

 

敏捷:50

 

魔力;190

 

魔耐:190

 

技能;回復魔法・光属性適性・高速魔力回復・言語理解

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

八重樫 雫 17歳 女 レベル1

 

天職;剣聖

 

筋力;60

 

体力;80

 

耐性;40

 

敏捷:150

 

魔力;50

 

魔耐:50

 

技能;剣術・縮地・先読・気配感知・隠業・言語理解

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

そして、香織と雫は渡された姫奈と風香のステータスを見る

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

南野 姫奈 17歳 女 レベル1

 

天職;聖剣士

 

筋力;40

 

体力;20

 

耐性;50

 

敏捷:50

 

魔力;410

 

魔耐:410

 

技能:剣術・縮地・先読・気配感知・隠業・炎・雷属性適性・炎・雷属性耐性・言語理解

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

西宮 風香 17歳 女 レベル1

 

天職;聖騎士

 

筋力;60

 

体力;40

 

耐性;60

 

敏捷:450

 

魔力;50

 

魔耐:50

 

技能;剣術・縮地・先読・気配感知・隠業・凬属性適性・凬属性耐性・言語理解

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

それぞれのステータスを見て感服の声をあげていく四人

 

「聖女に剣聖ね…

 

 ファンタジー物にもよくある職業よね…」

 

「姫奈ちゃんに風香ちゃんも

 聖剣士に聖騎士なんてなんだかすごいじゃない?」

 

「あ、あははははは…」

 

四人はお互いのステータスを見せていき、笑いあっていく

 

そんな時に向こう側の方から何やら驚きの声が上がっていく

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

天之河 光輝 17歳 男 レベル1

 

天職;勇者

 

筋力;100

 

体力;100

 

耐性;100

 

敏捷:100

 

魔力;100

 

魔耐:100

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・限界突破・言語理解

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

「ほお、勇者か‥‥

 

 初期値で既に三桁…技能も普通は二つ三つなんだがな‥‥全く頼もしい限りだ!」

 

「いや~、あははははは…」

 

メルドに称賛されて照れ臭そうに笑みを浮かべる光輝

 

その後も光輝の親友である龍太郎や

同じグループに入っている恵里や鈴も続いて見せていく

 

その後もクラスメートが次々と見せていくが

ひとつのステータスは光輝にも匹敵する技能を持っている

 

おまけにそのほとんどが戦闘系天職である

 

そして、香織と雫もそれに続き

共にお墨付きをもらって行き、姫奈と風香も続いていく

 

「ほう、聖剣士に聖騎士‥‥

 

 聖なる力を持つとされる天職が

 さらに二人も現れるとはな、勇者ともども頼もしい限りだ」

 

「は、はあ…」

 

「が、頑張らせてもらいます…‥ね…」

 

どのくらい凄いのかピンとこないので

姫奈も風香も返事がしどろもどろになっていく

 

「香織、雫、南野さんに西宮さん…

 

 四人ともすごいじゃないか

 俺たちと力を合わせれば、きっと

 この世界を救える、一緒に頑張ろう!」

 

光輝がまたもずいっと四人の方に向かって行くが

四人はそれをややうっとおしそうにしつつも、なるべく

おとなしくいなそうとしていき、経過の方を見ていく

 

一方そのころ

 

「…うーん?」

 

何やらハジメは難しそうに頭をひねらせていると

 

「南雲君、どうした?

 

 早く見せに行った方がいいんじゃないか?

 

 それこそ目立ってしまうぞ」

 

「うん、ごめん…

 

 先に行ってて」

 

ハジメは自分を呼んでくれる渚沙にそう呼びかける

 

渚沙は渋々了承して、メルドの方にプレートを見せていく

 

その内容は

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

東雲 渚沙 17歳 女 レベル1

 

天職;槍・棒術師・錬成師

 

筋力;10

 

体力;10

 

耐性;10

 

敏捷:10

 

魔力;10

 

魔耐:10

 

技能:槍・棒術・錬成・言語理解

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

それを見た、メルド団長の表情は驚きの様子を見せる

 

「ほう、天職を二つ持っているのか

 それも一方は戦闘職でもう一方は非戦系‥‥

 

 しかし、ステータスが平均値なのと

 技能が最低限の者しかないのが気になるが‥‥」

 

「‥‥別にいい、あんまり多いと

 ごちゃごちゃして覚えにくいし、それに…

 

 寧ろその方が私にはあっているから…」

 

渚沙はそう言って元の位置に戻っていく

 

渚沙は改めて自分のステータスを確認ししようとしていると

何やら深刻そうな表情で見つめているハジメの姿が目に映った

 

「南雲君?

 

 どうしたの?」

 

「あ、いや…その…」

 

渚沙に話しかけられると驚いた反応を見せて

言葉もあやふやになっていき、少ししどろもどろになっている

 

すると

 

「おーい、そこの坊主ー!

 

 なにやってるんだー!!

 

 もう残っているのはお前だけだぞー!!!」

 

「っ!?」

 

だが、渚沙の姿をしばらく見ていたメルドが

それを通じて、ハジメの姿に気づき、彼にステータスを

見せに来るように大きく呼び掛けていく、ハジメはそれに思わず反応する

 

「あ、いや…僕は…」

 

言葉を濁しつつどうにかその場をやり過ごそうとしていくハジメ

 

しかし、そんな彼の様子に食いついてくるもの達がいた

 

「おいおい南雲~?

 

 いくら何でもそれはいけねえな~?

 

 皆見せたんだから、お前も見せろっての」

 

檜山 大介

 

 

更にはその取り巻きである

 

中野 信治

 

 

斎藤 良樹

 

 

近藤 礼一

 

 

彼らもまたハジメに寄ってくると

彼を逃がさないように四人で取り囲んでいく

 

「いいから見せろっての!」

 

「うわっ!?」

 

檜山が無理矢理ハジメの持っていたプレートを奪い

彼をそれこそ思いっきり突き飛ばす、檜山はまじまじと

ハジメのプレートを覗き込むが、四人とも不思議そうに首を傾げていく

 

「なんだこりゃ…何も映ってねえじゃん?

 

 まさか、南雲ぉ、びびって血を流してねえのか~?」

 

「ぶっあっはっはっはっ!!!

 

 マジかよ、俺たちは普通にできたぜ~?」

 

「自分でできねえんなら俺らが手伝ってやろうか~?

 

 やりすぎても知らねえけどよ~」

 

そう言って下卑た笑みを浮かべていく檜山達

すると、メルドがそんな一同のもとによって来る

 

「何をやってるんだお前等!

 

 集団で寄ってたかっていったい何をしている!!」

 

「い、いや違うんすよ

 

 南雲の奴がビビッてステータスプレート開いてねえから

 俺らで手伝ってやろうと思っただけで、別に何かしようとしてたんじゃ…」

 

メルドに言われてあわてて弁明していく檜山達

メルドは首を傾げながら檜山が取り上げたハジメのプレートを見る

 

確かにステータスは表示されていないが、メルドは有ることに気が付く

 

「…登録されている‥‥

 

 少なくとも、しっかりと手順は踏んでいるはずだが‥‥

 

 すまないが、予備のプレートを渡すから

 それにもう一度自分の血を垂らしてくれないか?」

 

「は…はい…」

 

そう言われて、メルドから予備のプレートを渡され

ハジメは持っていた針で自分の指をもう一回傷つけて魔法陣に垂らす

 

すると、プレートは光ることなく

刻まれていた魔法陣もまた消えてしまう

 

ハジメはステータスオープンと言うが

ステータスが浮かび上がってくる様子はない

 

「これは、どうなっているんだ‥‥?

 

 ステータスが浮かび上がらないどころか

 プレート自体の効力も失われているようにも見える‥‥

 

 こんなのは前代未聞だぞ‥‥」

 

ステータスプレートが表示されない

 

こんなことはメルド団長からしても驚きの事であった

 

そんな様子を見ていた他の面々の反応は

一部の者は侮辱、またはハジメに向けて

あからさまに小ばかにした様子を見せているものが大半である

 

「それってつ~ま~りぃ~

 

 南雲はステータスに表示されることが

 ないほどに弱いってことじゃないっすか~?」

 

「そうだよな、それ以外考えられねえよなあ?」

 

「あ~あ~可哀そうなやつだな~

 

 いいや、あいつみてえな奴にはお似合いか?」

 

「だな、やっぱりあいつみたいなやつはああいうのがお似合いなんだな」

 

そんな中でもあからさまにハジメをののしってくる檜山達

他のクラスメートは檜山達のようにあからさまな態度は出して来ないが

まるで同意する様に笑みをうっすらと浮かべていたり、中には頷く者もいる

 

だが少数ながらもそんなクラスメートの反応に一部の者は深不快げに眉をひそめている

 

やがて、クラスメートの反応に我慢ができずに声をあげようとした、その時

 

「いい加減にしなさい!

 

 平気で人を貶める様な事をして恥ずかしくないんですか!?」

 

そんなクラスメートを叱りつける一人の女性

 

畑山 愛子

 

クラスとともにこの世界に転移された教職員である

 

「へーへー、さーせんさーせん

 

 ちょっとしたじゃれ合いっすよ」

 

「もっと心を込めて謝りなさい!

 

 いくら何でも檜山君のやっていることは目に余ります!!

 

 そんな調子でいつかひどい目に合うのは檜山君なんですよ」

 

そう言って檜山に叱りつける愛子だが

当の檜山はうっとおしそうに彼女の言葉を受け流している

 

すると

 

「そこまでにしてください畑山先生

 

 檜山はただ、みんなと同じようにしない南雲を注意しただけですよ」

 

「天之河君…!」

 

そう言って愛子の肩を叩いて彼女を止めた光輝

 

すると、彼は

 

「いい加減にしろ南雲!

 

 どうしてお前はそうも周りに迷惑しか書けないんだ!!

 

 檜山や畑山先生に申し訳ないだろう、速く謝れ!!!」

 

何とハジメのことを一方的に攻め立てていった

さらにはハジメを無理やり引っ張り出していき

檜山と愛子の前で頭を掴んで無理やり頭を下げさせていく

 

「ほら!

 

 しっかり心を込めて謝るんだ!!」

 

「があああ…!」

 

物凄く強い力で掴まれているのか

痛みのあまりに悲鳴のような声を漏らしていく

 

「あああ…!!!」

 

「やめて、光輝君!

 

 南雲君が痛がってるじゃない!!」

 

「すまない香織、いくら君の言う事でも聞けない…

 

 南雲は人に迷惑をかけたんだ

 だからしっかり謝罪をさせないといけない!

 

 悪いことをしたら誠意を見せる、人として当然の事だろう!!」

 

香織が慌てて止めようとするが光輝はいう事を聞かず

なおもハジメの頭を力強く下げさせていく、ハジメはとうとう声も上げられなくなる

 

すると、そこに

 

「はあ!」

 

「があ!」

 

そんな光輝に一発ぶちかまして

彼をひるませて、ハジメを救出するのは

 

「‥‥人と屏風は直ぐには立たず…

 

 そうやっていつまでも自分の正しさばっかり

 こだわっていたら、それこそやっていけないよ?

 

 天之河君」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女はそう言って頭を痛そうに抑えるハジメを

安静にさせつつそう言い放ち、光輝の方を見る

 

「東雲さん、悪いけれどもこれは南雲自身の問題だ

 

 手を出すのはやめてもらえないか?」

 

「私にはむしろ手を出していたのは貴方の方にも思えたけど?

 

 いくら南雲君のことが気に入らないからって

 必要以上に痛めつけるのはいくら何でもやりすぎだよ」

 

「気に入らないって…

 

 俺はただ南雲にしっかりと…」

 

「正しいことを正しいと思う事自体は悪いことだとは言わない

 

 でも、正しさばっかり押し付けたってそれでどうにかなるわけでも無い!

 

 自分の正しさを無理やり相手に押し付ける貴方のやり方は‥‥間違ってる!!」

 

渚沙はハッキリ言うと光輝は打ちひしがれたようにその場に立ち尽くす

渚沙はそんな光輝に目もくれず、頭を押さえているハジメに付き添ってやる

 

「‥‥メルド団長…失礼ですが

 南雲君は今日の訓練は休ませてあげてください…

 

 いくら何でもこの状態で戦闘訓練は無理です…」

 

「…あ、ああ…わかった‥‥」

 

メルド団長の許可を得て

ハジメを連れてその場から出ていく渚沙

 

「南雲君…」

 

「‥‥ごめんなさい…

 

 先生がしっかりしていなかったばっかりに…」

 

「そんな…

 

 先生は何も悪くないですよ…」

 

渚沙に付き添われて退室していくハジメを心配そうに見つめる香織

ハジメを護れなかったどころか余計に火に油を注いだ結果になって

申し訳ない気持ちでいっぱいになって涙を浮かべて泣いていく愛子

 

そんな愛子を落ち着かせるように雫が彼女を諫めていた

 

「‥‥でもどうして南雲君…

 

 ステータスプレートが表示されなかったのかしら…

 

 檜山の言う通りって可能性も捨てきれないけれど

 メルドさん自身もあの現象には前例がないって言ってたし…」

 

「…‥まあ、それは今は置いておきましょ…

 

 それよりも今後はどうするのかよ、戦いのこともだけど

 南雲君、ただでさえ立場が悪っていうのにあの結果、もう

 彼がこの先どんな目にあってしまうのか想像に固くないしね…」

 

これからのハジメの待遇に最悪の予想をしていく二人の女子生徒

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

二人がそんな話をしていると

 

「‥‥そんな事…そんなことはさせないですよ…

 

 私がそんなことは絶対にさせたりなんてしません…

 

 私は教師として生徒の味方であり

 守り抜かなくてはならないんです…

 

 その中にはもちろん、南雲君も入っています…

 

 ですから‥‥わたしが

 絶対に南雲君につらい思いはさせません…

 

 あの時、南雲君のために何もできなかったから…

 

 せめてこのくらいは…」

 

そう言って決意を内に秘める愛子なのだが

そんな彼女の決意をあざ笑うかのようなことがすぐ後に起こる

 

「その…愛子殿‥‥

 

 申し上げにくいのですが‥‥

 

 愛子殿にはここにいる者達とは

 別行動をとってもらうことになります‥‥」

 

「ふえ!?」

 

申し訳なさげにつぶやいたメルド団長から出た言葉は

まさにそんな愛子の決意をむげにするようなものであった

 

「そ、それはどうして…」

 

「愛子殿の天職は作農師と言うとても珍しい天職で

 さらには技能の方も戦闘では役には立ちませんが

 

 生産職でさらには技能も含めればこの国の食糧問題を

 一気に解決することが出来る可能性も秘めているのです‥‥

 

 ですからこれより、愛子殿には戦闘ではなく

 農地開拓の方に力を入れてほしいとのことで‥‥」

 

「そんな!

 

 生徒達がたたかいにいくというのに

 私だけが安全なところにいるなんてできません!」

 

「お気持ちは俺も同じです‥‥

 

 しかし、これは教会が決定したことです‥‥

 

 みなさんの処遇の方は、教会に一任されているので‥‥」

 

「そんな‥‥だからって…」

 

愛子は抗議をしていこうとする、しかし

 

「いいじゃないすか先生

 

 行ってあげてくださいよ!」

 

「そうっすよ、なんてったって愛ちゃん先生の技能が

 この世界の人達の気がを救うってことなんですから

 

 行ってあげてくださいよ」

 

檜山グループが愛子に行くように進めていく

 

しかし、彼等が愛子に行くように進めているのは

当然この世界の人間のためではない、愛子がいない方が

ハジメを陥れやすいためで、邪魔ものである愛子を追い払おうとしているのだ

 

愛子は勿論、香織や雫、姫奈、香織、他の一部の生徒も四人の意図に気づいている

 

愛子はもしも自分がいなくなって大切な生徒であるハジメのみにもしもの事があれば

そう考えるとどうしても思い切って決断をしていく事は出来ずに戸惑っている様子を見せる

 

すると、そんな彼女の様子に彼女の背中を押してやる一人の生徒が現れる

 

「安心してください、畑山先生!

 

 先生がいない分は俺がしっかり見ておきます

 ですから先生は安心して訓練を受けてください

 

 先生の力で、この世界の人々を救ってあげてください!」

 

それは光輝である

 

光輝の方は檜山達とは違い、この世界の人々のことをしっかり考えている

 

だが彼の言葉にも愛子は安心することは出来ない

いかんせん、ハジメのことを悪物のように扱っている

そんな彼に任せていたら、それこそハジメは余計に追い詰められるかもしれない

 

それゆえ、さらに渋ってしまうも愛子を見て

光輝は、それを単純に自分達を心配しての事だと考え

心配入らない、俺たちは大丈夫だと力強く話していく

 

すると、そんな様子にとうとう我慢できなかったのか

一人の女子生徒がたまらず飛び出し、声をあげていく

 

「いい加減にしなさいよ天之河、愛ちゃん先生が困ってるでしょ!」

 

園部 優花

 

 

渚沙や恵里に並ぶ、七大天使の一人に数えられる女子生徒

 

彼女はそう言って愛子の方に行って彼女に進言する

 

「愛ちゃん先生、先生のお気持ちはわかります…

 

 でも、ここは行ってください…」

 

「園部さん!?

 

 しかし…」

 

「下手に逆らったら向こうは何をしてくるかわかりません…

 

 もしも、愛ちゃん先生が要求を拒んだせいで向こうが私達に

 理不尽な要求でもして来たら、それこそ大変なことになります…

 

 南雲やクラスのことは、私に任せて下さい

 愛ちゃんはとにかく教会になるべく怪しまれないようにして…」

 

優花の真剣なまなざしを見て、愛子は静かに頷く

彼女は檜山達や光輝のように自分のためでもなく

ハジメや他のクラスメートの事も視野に入れて話している

 

なにより彼女もまた、ハジメのことを気遣っている数少ない人物の一人

 

愛子は優花の言葉を聞いて、今は向こうの要求をのむことに決めたのであった

 

「‥‥わかりました…

 

 不本意ですが、行ってまいります…

 

 くれぐれも、けがなどをしないように…」

 

「はい…」

 

そう言って愛子は教会の申し出を受けることにするのであった

 

「メルドさん…

 

 生徒達のことはよろしくお願いします…」

 

「分かりました‥‥」

 

そう言って愛子は迎えが舞っている方に向かって行くのであった

 

 

「…‥さあて、先生がいない分不安は残るが

 それでも俺たちは頑張って行かないとならない

 

 みんな、これから力を合わせて乗り越えていこう

 絶対にこの戦いに勝利して、みんなで無事に元の世界に帰るんだ!」

 

光輝がそう言って他のクラスメートに呼び掛けていくと

クラスメートの表情にはどこか安堵のような雰囲気が出ている

 

「‥‥愛ちゃん先生…

 

 南雲君にとって数少ない味方なのに…」

 

「そうね‥‥愛ちゃん先生がいなくなることで

 南雲君への避難が今まで異常に集中していくでしょうね…」

 

香織と雫はそれぞれこれからのことを心配していた

 

「でも、優花の意見も最もね…

 

 下手に断っていたらそれこそ

 私達が何をされるのかわかったものじゃないし…」

 

「優花ちゃんの判断があれでよかったのか…

 

 はっきり言うと、私達の方でもわからないし…」

 

姫奈と風香は考え込むようなしぐさを浮かべていく

 

「はあ…」

 

当人の優花の方も、何やら思いつめた表情を浮かべている

 

「優花」「優花っち」

 

そんな彼女に心配そうに話しかけていく二人の女子生徒

 

菅原 妙子

 

 

宮崎 奈々

 

 

二人は向こうの世界にいた時から優花とは仲が良く

いっしょにおしゃべりしたり、プライベートでもよく

一緒に出掛けていたりしているほどである、そんな二人なので

優花がそれなりに決断を下したものであると当然ながら感じていたのだ

 

「…奈々、妙子…

 

 ごめんね、心配かけちゃって」

 

「ううん、あの時の優花の判断は正しかったと思うよ…

 

 下手をしたら私達の身の安全も脅かされる可能性もあったわけだしね…」

 

「でも、やっぱり問題は‥」

 

奈々がそう言ってちらりとあるグループの方を見ていく

それはもちろん、今いるクラスメートの中でも特に問題視されている

 

檜山達であった

 

「そうね…

 

 タダでさえ、南雲の立場は悪いのに

 ステータスが表示されないっていう理由で

 殆どの奴らが南雲を無能だって蔑む反応を示していくでしょうね…

 

 愛ちゃん先生がいなくなったことで

 それこそあいつらは行動を起こしてくると思う…

 

 しっかり目を光らせておかないと、あいつらただでさえ

 自分の力におぼれてる感じするから何しでかすかわからないしね…」

 

優花はそう言って渚沙に連れられて退室したハジメの安否を考えている

 

「それにしても優花は本当に南雲が心配なんだね…」

 

「ええ、あいつにはいろいろと恩があるからね…」

 

「そう言えば優花っちは前に南雲っちに

 不良に絡まれたところを助けられたんだっけ‥?

 

 前に話したことあるよね」

 

奈々の言葉に優花はそうよ、と頷くと

妙子の方はにやにやと優花の方を見ている

 

「あによ、妙子…?

 

 ずいぶんと腹立つ笑顔をこっちに向けているのね…」

 

「い~や~?

 

 あの時から、本当に南雲のことを気にするようになったな~って思ってね…

 

 もしかして優花、あんた惚れたか~?」

 

妙子がからかい気味に言うと

 

「んな!?

 

 い、いいいいきなり何言い出してんのよ!?」

 

「わ-い、優花っち顔まっかー

 

 すっごくわかりやすーい」

 

赤面して動揺を見せていく優花に

さらに奈々の方も妙子に便乗していった

 

優花は同様のあまりあわあわと手を振りながら否定していく

 

「あっはっはっはっはっ…

 

 ごめんごめん、からかいすぎちゃった…」

 

「わたしの方もごめんね‥」

 

暫く三人で騒いでいると

流石にやりすぎたと思ったのか、二人の方から折れる

 

すると、二人は先ほどとうって

変わって真剣な表情になっていく

 

「私も協力するよ優花…

 

 優花は南雲君の事を愛ちゃん先生から託されたんだもん

 私も勿論、優花に協力するから、一緒に頑張ろう、ね?」

 

「もちろん、私も協力するから」

 

「二人共…」

 

親友である二人の真剣なまなざしに

優花はお礼を言いながら互いの手をがっちりとつかみ合ったのであった

 

さらに

 

「ねえ、雫ちゃん‥‥姫奈ちゃん…風香ちゃん‥‥…

 

 わたし、ずっと思ってたんだ‥‥本当に

 このままでいいのかなって…あの時からずっと思ってたんだ‥‥…

 

 私‥‥ずっとどうしたらいいのかなって…考えていたんだ 

 

 ねえ‥‥私は南雲君のために出来ることって…何なのかな?」

 

「香織…?」

 

親友のいつもとは違う雰囲気に少し驚いた様子を見せていく雫

 

香織がそう問いかけると

 

「‥‥まったく、あんたらしくないわね香織…

 

 以前のあんただったらそんなこと口にせずに

 すぐに行動に移してたじゃない、今まではそれが問題だけど…

 

 今こそ、行動で示すべきなんじゃないかしら?」

 

「どういう事…?」

 

姫奈の言葉に香織は首を傾げていく

 

「アンタもうすうす感じていると思うけれど

 はっきり言って今の南雲には味方が全くと言っていいほどいないわ

 

 今までかばってくれていた畑山先生も

 私達とは別行動をとることになってしまっているから

 ハジメ君のことを実質護ってあげるうえで一番頼れる人がいない…

 

 そういう時はどうしたらいいのか、もう答えは出ているようなものよ」

 

「どうしたらいいのかって…?」

 

「決まってるじゃない

 

 香織が南雲のことを護ってあげればいいのよ」

 

「‥‥え…?

 

 ええええ!?」

 

姫奈は香織にそう言って提案すると

香織は驚いたように声をあげるのだった

 

「そ、それは無理だよ…

 

 だって南雲君がそれを受けてくれるのか…」

 

「‥‥どうしてそう思ってんの?」

 

「‥‥そ、それは…その‥‥…」

 

香織がここまで踏み込めないのには訳があった

 

ハジメが学校中の人々に

忌み嫌われるようになった事件

その事件のせいで、ハジメの立場が

それこそ危うくなっていくのを感じ

 

香織は自分は最後までハジメの味方でいてあげようと

彼にそれこそ今まで以上に構うようなっていったのだが

 

やがてそれによってハジメはたまりにたまった感情を噴出させた

 

いつ自分が香織に構ってほしいと頼んだ、香織が自分に構いすぎるから

自分がこんな目に合ったんだろう、はっきり言って迷惑以外の何者でもない

 

本当に自分のことを考えてくれているのなら、もう自分に構わないでくれ

 

その言葉を聞いて、香織はショックを受けた

自分はただハジメと仲良くなりたかっただけなのに

それが簡潔的にハジメの事を苦しめていたという事実に

 

それを受けて一時は不登校になりかけ

学校をやめるとまで言いだすまでになった

 

だが、自分の恋を応援してくれた雫や母、薫子の説得もあって

今はハジメとは必要最低限のかかわりしか持たないようにしつつ

ハジメのもとに降りかかっていく仕打ちから、何とかして彼のことを

ハジメを助けようと今まで行動してきた、しかしそれでも彼との関係は

変わることはなく、段々と自分に自信を無くしてしまっていたのだ

 

故に香織は今も、決断に迷っている

だがそんな彼女の様子を見て、姫奈は言った

 

「…‥なんであんたはそうやって自分を責めるのよ

 

 だってあんたは何にも悪い事なんてしてないじゃない」

 

「え…?」

 

「別に好きな人と仲良くなりたい、そう思うのは悪い事じゃないでしょ?

 

 ハジメ君があんな目に合ってるのは

 そもそも檜山達の下らない動機のせいであって

 アンタは何も非なんてないじゃない、むしろそれで

 いつまでもうじうじしていることの方が一番駄目なことよ!

 

 本当に彼のことが好きなら、彼の事を護ってあげたいなら

 いつまでもうじうじしないで、行動で示してあげなさいよ!!

 

 たとえ迷惑だって思われても、突き放されても

 それでもこういう時くらい我儘になりなさいよ!!!」

 

姫奈の言葉を聞いて、しばらく呆気に取られていた香織だったが

姫奈の最後の言葉を聞いて、ぐっと拳をつくり始めていき、姫奈を見る

 

「‥‥そうだよね、姫奈ちゃん…

 

 こういう時くらい

 我儘にならないとだめだよね…

 

 確かにハジメ君に拒絶されるのはショックだけど…

 

 だからってずっと子のままだっていうのも嫌だから!」

 

そう言って決意を新たにしていく香織

その力強い瞳には迷いは感じられることは無い

 

姫奈もそれを感じていたので

笑みを浮かべて香織を見ている

 

さらには

 

「香織、もちろん私も協力するわ」

 

「絶対に南雲君やみんなと一緒に

 この戦いを乗り切って、私達のいた元の世界に帰ろう!」

 

「雫ちゃん‥‥風香ちゃん…」

 

親友である雫や風香の言葉を受けて

頼もしさを感じた香織は二人と姫奈とともに決意を秘める

 

それぞれが、それぞれの決意を秘めていく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ、光輝に乱暴されたハジメを

彼の自室に連れて言って休ませてやった渚沙

 

その後、ハジメをゆっくり寝かしつけておこうと考え

渚沙は一度、彼の部屋を出ていき、その場に立ち止まる

 

「‥‥まったく…

 

 どこの世界にいても、どうして

 面倒な事しかもってこれないのか…」

 

そう、自分達がさっきまでいた訓練場の方を見て呟いた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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infirmi Die unterdrcken

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

タダでさえ危うい立場のハジメが

ステータスプレートが移されないという

前代未聞のハプニングによって、さらにその立場が

危うくなってしまう事態になってしまってから二週間が立ち

 

ある意味その騒動の中心に立たされてしまっている少年

 

南雲 ハジメ

 

 

彼は自分達の訓練を指導してくれている

メルド団長のご厚意の元、様々な王国お抱えの職業の元に

見学や体験をさせてもらっていた、しかしそこでもトラブルがいくつも発生する

 

何と、彼がそのさいに力を使わせてもらうとすると

突然その場に居る者や作業に使っている魔力が突然封じられてしまい

そこでの作業の続行ができないようになってしまうと言う現象が起こり

 

そのせいで作業が滞ってしまうという事態をひきおこしてしまう

 

なおそのトラブルもなぜかハジメがいなくなると続行できるようになり

作業の方の遅れの方もしばらくしてから、落ち着いていく事ができたものの

 

その代わりにハジメは作業場への出入りの禁止を言いわたされてしまい

 

ハジメはクラスメートからだけでなく

王城関係者の大半からも疎まれることになった

 

幸いにもメルド団長や一部の者のおかげで

その実の安全の方は保障されているものの

 

何かが起こったらそれこそハジメは王城から追い出され

いいや、最悪の場合処刑されてしまうかもしれない立場になってしまっていた

 

だが、そんな彼でも落ち着いて過ごすことの出来る場所があった

 

それは

 

「…あ、いらっしゃいハジメ君

 

 今日も来てくれたんだね…」

 

「先生…失礼します…」

 

有る場所に来たハジメのことを出迎えてくれたのは

見た目は彼と同い年だが、この王城の図書室の司書を務めている女性

 

シュガー

 

 

なんだか甘そうな名前をしているなと感じたものの

まあ異世界なのだから気にしてはいけないだろうと考えていた

 

最初はクラスメートや王城の関係者の嫌な視線から逃れるために

入り込んだのだが、そんな時に彼に気さくに話しかけてくれたのが彼女である

 

ハジメはこの世界の人々の第一印象があまり良くなかったこともあり

最初のうちは警戒心をあらわにしていたものの、彼女の気さくで砕けた人柄

 

さらには、ハジメにお勧めの本を勧めてくれたりと

今となってはハジメにとって心を許せる数少ない人物の一人となっていた

 

「そんなにかしこまらないの

 

 先生はいつだってハジメ君のことは大歓迎なんだから

 

 あ、そうそう、もうお友達が来てくれてるよ」

 

「お友達…?」

 

ハジメがそう言って辺りを見回していると

 

シュガーの後ろの方から近づいてくる一人の人物が

それはハジメにとっては嬉しい意味で意外な人物であった

 

「あら、やっぱり今日も来ていたのね…」

 

東雲 渚沙

 

 

七大天使に数えられる美少女で

この世界において、天職を二つ持っているものの

ステータスが低く、技能も必要最低限しかないために

他のクラスメートに比べると立場は低い方に値する彼女

 

しかし、彼女自身特にそれを気にしている様子はなく

この世界においても変わらずにハジメの事を気にかけてやっている

 

彼女も物心ついたときにはこの図書室に来ており

彼女もまたシュガーと話が合うようになり、三人でよく話をしていた

 

「ところで南雲君…

 

 ずいぶんと疲れている感じがするけれど

 夜の方はしっかり眠れているの、体壊すわよ」

 

「ごめん、気を付けてはいるんだけれど

 ここ最近本当にあんまり眠れてなくって…」

 

「…そっかそっか…どうやら経過は順調のようだね…」

 

「‥‥何か言いました、先生?」

 

「へ、ううん何でもないよ

 

 だったら今日は読みたいとか興味のある本を選んで

 仮て言ったらどうかな、そうすれば少しは身体を休めるかもしれないよ?」

 

「ありがとうございます、それじゃあ今日はそうさせてもらいます」

 

シュガーの心遣いに感謝し前々から読みたいと思っていた本や

ふと見て興味を抱いた本などをある程度借りていこうと思ったハジメ

 

向こうの世界ではハジメの味方もそれなりにいたが

彼はそんな存在を知る由など無いためか、信頼できる相手は渚沙しかいなかった

 

こっちの世界においてもステータスプレートにステータスが表示されないと言う

前代未聞のハプニングに始まり、さらには彼が訓練に参加するとなぜか周りの者が

使えたはずの能力が使えなくなるというトラブルが起こってしまい、それが原因で

王城の関係者にも疎まれるようになってしまい、リリィとへリーナを始めとする者が

彼の味方でいてくれているのだが、むろん、ハジメには知る由もないのであるのだが

 

まあそんな一部の人物のおかげで

ハジメはこんな不遇な立場に立たされながらも

腐ることなくしっかりとやっていっているのだった

 

やがて、回りの視線にさらされてしまっているストレスで

ここ最近寝付けなくなっているせいで疲れがたまりにたまっていたので

シュガーのご厚意に甘えることにして一部の本を借りて部屋で休むことにする

 

「うん…?」

 

すると、ハジメは不意にある場所を見つけた

 

そこには扉が半開きになっており奥の方は、真っ暗で何も見えない

 

「南雲君…?」

 

そんな彼の姿を見つけて目をやっていく渚沙

 

「っ!?

 

 待って南雲君!

 

 そこは禁書が保管されている部屋!!

 

 立ち入り禁止の場所よ!!!」

 

渚沙は慌てて、ハジメを止めようとするが

ハジメはそんな渚沙の制止も聞かずに開かずの間に入り込んでいく

 

渚沙もやむおえずに後を追ってその部屋に入っていき

急いでハジメの姿を探して至る所を探していくが見当たらない

 

ハジメは暗い部屋の中にうっすらと見えている

たくさんの本棚にびっしりと詰められている本に眼もくれず

 

奥の方に立てかけられているように

展示されているような二冊の本を見つける

 

「やっと追いついたわ…

 

 ってあれは‥‥一体…?」

 

ようやくハジメの姿を確認して、彼のもとに走り寄っていく

すると不意にハジメの視線の先にある、二冊の本に眼を向ける

 

「……」

 

ハジメは二冊並んでいるうちの左側の本にゆっくりと手を伸ばしていく

 

「っ!?

 

 ちょっと待ちなさい、南雲君!」

 

ハッと我に返り、本に手を伸ばしていくハジメを引き留めようとする渚沙

だがハジメはそれよりも先に本を手に取って、その本を開いていくのであった

 

すると

 

「…っ!?

 

 うぐ!?

 

 ぐうううう!!!

 

 うああああ!!!」

 

ハジメは突然頭を押さえて苦しみだした

しばらくボケッとしていた渚沙も慌ててハジメの方を向く

 

「南雲君、しっかりして!

 

 南雲君!!」

 

頭を押さえて、その場に蹲るハジメに必死に呼びかけていく渚沙

 

そんなことに気づけないほどに大きく叫んでいるハジメの脳裏には

断片的だが様々なイメージが映し出されて行く、底に映し出されたのは

 

九つの異形の姿をした何か

 

断片的なうえに頭痛が激しいのでそれが

どんなものなのかは具体的にわからなかったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「はっ!?」

 

ハジメは頭痛が収まり、気が付くと

医務室のベッドの上に寝かされていた

 

「はあ…はあ…はあ……」

 

彼は起き上がって、あの激しい頭痛のさなかに浮かび上がった

ヴィジョンを不意におもい返していった、あんな目にあっても

その様子をしっかりと覚えているのはさすが、と言うわけでもなく

 

彼自身にもよくわからず、鮮明に覚えているのだ

 

一体あの九つの異形は何だったのか

どうしてあんなものが自分の脳裏に浮かび上がったのか

 

そんなことを考えていると不意に扉の方が開き一人の女性が入っていく

 

「お目覚めになったようですね、南雲様」

 

その女性は侍女、すなわちメイドの格好をしている女性であった

 

「…貴方は確か、リリィの傍にいつも控えてた…」

 

「‥‥そう言えば、こうして面を向かってお話をするのは初めてですね‥‥

 

 私は、リリアーナ王女殿下の専属侍女のへリーナと申します‥‥

 

 改めて、よろしくお見知りおきを‥‥」

 

そう言って丁寧に頭を下げていく少女、へリーナ

 

「…僕は一体、何があって…」

 

「‥‥ハジメさんは、昨日禁書庫の中に入って急に倒れられたんです

 そこを渚沙様と司書の方がここまで運んでくださったのです、しばらくは

 暴れられて、お二人共本当に大変だったとぼやいていましたよ?」

 

「あははは…」

 

へリーナにそう言われて申し訳なさそうに苦笑いを浮かべていくハジメ

 

「‥‥それにしても、一体何があったのですか?

 

 話によると、禁書庫の奥にあった本を見て急に頭を押さえて暴れだしたとか‥‥」

 

「えーと、その…」

 

ハジメはやや説明に困ってしまい

とりあえず自分なりにへリーナに話してみる

 

「‥‥なるほど、禁書庫にあった本を見ると

 頭の中に何やら異形の何かが浮かんできた‥‥

 

 にわかには信じがたい、いいえよくわかりませんね‥‥

 

 何せ、そう言った前例がないものですから‥‥」

 

「…そうですか…

 

 しかし、あんなふうに錯乱気味になったのに

 その時に浮かんだそのシルエットが何でか鮮明に残っているんですよね…」

 

そう言って自分の頭を押さえるようにして触る

 

「‥‥まあ、何にせよ

 

 しばらくはここにいてもらいますよ

 

 まだ体の調子が治っていないと思いますし‥‥」

 

「…わかりました…」

 

へリーナに進められて、とりあえず安静にすることを決めたハジメ

 

こうして、しばらく安静にすることで

だいぶ体のだるさがなくなっていき、動ける分にはよくなったハジメ

 

しかし、彼は知らなかった、この出来事は偶然ではなく

仕組まれた運命であると言う事、さらに彼に迫っていく

破滅への第一歩であると言う事、それらは着実に迫っていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ところ変わって、ある少女達の視点

 

一人の少女が歩いていると、そこに一人の少女が

 

「渚沙ちゃん!」

 

そう言って話しかけてきたのは一人の女子生徒

 

白崎 香織

 

 

彼女が話しかけていったのは

クラスメートの中で数少ない、ハジメが心を開いていた相手

 

「‥‥白崎さん…?」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女であった

 

「その‥‥渚沙ちゃんに聞きたいことがあって…」

 

「‥‥南雲君の事?

 

 彼だったらもう体調はよくなったって聞いたけど?」

 

それを聞いて、香織はよかったとホッとしたような表情を浮かべていく

 

「ようはそれだけ?

 

 だったらそろそろこれで…」

 

「あ、待って!」

 

渚沙はそう言って去ろうとしたのを香織が止める

 

「‥‥なに?」

 

「えっとね‥‥その…えっと‥‥…」

 

香織は引き留めたものの

何から話していけばいいのかわからず

口ごもった様子を見せていってしまう

 

香織はハッキリ言って渚沙が羨ましいのだ

想い人であるハジメから一定の信頼を抱かれている

 

香織の方も、昔はハジメとそれなりに交流があったが

あの事件以来すっかり距離を置かれてしまっているのだ

 

だが、香織自身それに関しては何も言っていない

その件に関しては香織自身に原因があるがゆえに

 

しかし、だからと言ってこのまま

距離を開けているのはいけないとも感じている

 

だから、向こうの世界にいた時から今に至るまで

ハジメとそれなりに距離を縮めていきたいと思っている

 

もちろん、好きな男性とお近づきになりたいという気もある

 

だがそれともう一つ、自分はハジメの味方であるのだと知ってほしいのだ

 

ハジメの味方は想像以上に少ない、あの事件以来は光輝の影響力もあって

クラスではまるで仇を見る様な敵意を向けられており、そのせいでハジメは

クラスメートからは当然、他のクラスや他学年、教師や保護者からも疎まれている

 

香織をはじめとして一部の者はそんな光景をよく思っていない

だからこそ同に貸したいと雫や姫奈、風香とともにどうにかしようとしてきた

 

そして、この異世界に飛ばされても彼はステータスが表示されないこと

彼の周りでなぜか魔力が発動されないなど、不可思議な現象が起こっていき

 

そのせいでハジメが、王城の関係者達からも

爪弾きにされてしまっているのを、さすがに香織も気付いている

 

だから、渚沙に助力を頼みたいと思っているのだが

いかんせん渚沙は基本的に誰とも積極的にかかわろうとはしていない

 

故に、どう話をしていけば分からないのだ

 

「‥‥はあ…

 

 別に普通でいいわよ…だから早くしてくれる…?」

 

「う、うん…

 

 その‥‥渚沙ちゃんにね、南雲君との仲を取り持ってほしいの…

 

 私、今のように南雲君が理不尽な扱いを

 受け続けているのをどうにかしてあげたくて…

 

 別に男女の仲にうなりたいわけじゃない、ううんできれば鳴りたいけど…

 

 ただ、南雲君に分かってほしいの、私は南雲君の味方なんだって…

 

 私のように南雲君のことを気にかけている人はいるんだって、だから…」

 

香織は頼み込もうとするが、渚沙は即座にかえす

 

「‥‥申し訳ないけれど、貴方に協力することは出来ないわ」

 

「え…!?」

 

真坂の拒否の言葉に香織は驚愕の表情を浮かべていく

 

「‥‥本当に彼の支えになりたいと思っているなら

 誰かに頼るのではなく、自分の力でやってみなさい

 

 誰かに頼っていい結果を得たところで、長続きはしない…

 

 強力はしてあげるけど、手伝うことは出来ないわ…

 

 本当に彼のことを支えたいと思うなら

 自分の力で彼と向き合って見せなさい…」

 

「で‥‥でも、南雲君と話そうと思っても無視されちゃうし…」

 

「‥‥だから何だっていうの?

 

 それで、南雲君と向き合う努力をあきらめるっていうの?

 

 だったら彼の事なんて諦めなさい

 半端な覚悟で南雲君と向き合うくらいなら

 その方がむしろ、南雲君のため、もしもその覚悟が

 半端なものじゃないって言うなら、それを彼に示してみなさい」

 

渚沙は香織にぴしゃりと言い放っていく

 

「渚沙ちゃん…」

 

香織は不思議とそんな彼女の言葉を聞いてしばらく呆けていたが

暫くすると香織はなにかを決意したように真剣な表情を浮かべていく

 

「そうだね‥‥渚沙ちゃんの言う通りかも…

 

 私、自分でも気が付かないうちに誰かに頼るのが当たり前になってた…

 

 でもそれじゃだめだよね‥‥このくらい、自分の力でどうにかしないと…

 

 南雲君を支えるなんてこと‥‥できないもんね!」

 

そう言って前向きな姿勢で決意を大きく表していく香織

 

「ありがとう渚沙ちゃん、私、とにかくやってみる!」

 

「‥‥ええ、あんまり暴走しすぎないようにね…」

 

そんな微笑ましい会話をしていった後に渚沙は訓練場に向かうのだった

 

そこには誰も来ていないので

借りて来た本でも読んで待っていようかと考え

もってきていた本を開いて目を通していく、すると

 

「っ!」

 

渚沙は不意に後ろの方から抑えられ

口を防がれ、身動きがとれなくなってしまう

 

ふいに視線を向けると、そこにいたのは

 

「へへへ、悪いけどついてきてもらうぜ」

 

不良男子生徒四人グループの一人

 

近藤 礼一

 

 

彼はそう言って渚沙を無理やり

人気のないところにまで連れていく

 

そこには

 

「よお、東雲ぇ~?

 

 随分と久しぶりにあったなぁ~?」

 

不良男子生徒四人組のリーダー

 

檜山 大介

 

 

更にその両側には

 

中野 信治

 

 

斎藤 良樹

 

 

三人の姿があった

 

「‥‥あんた達…これは一体何の真似…!?」

 

「決まってんじゃん、俺らがこれから

 役立たずのお前に直々に訓練を付けてやんだよ

 

 所謂、親切心って奴さ」

 

「でも俺らってさ、女に手を上げる趣味はないからさ

 

 東雲にはかるーく相手をしてもらえればそれでいいんだよ」

 

「そーそー、何より別に俺ら東雲に恨みがあるわけでもねえし?

 

 だからさ、頼まれてほしいんだよ」

 

鋭く睨みつける渚沙に檜山達は下卑た笑いを浮かべていく

 

「‥‥頼まれてほしいですって?

 

 私にいったい何を要求させるつもりなの…?」

 

「それはさ、南雲を俺らのところに連れてきてほしいんだわ

 

 いっつも俺ら南雲の事を訓練に誘おうと思ってんだけどさ

 あいつここ最近どうにも慎重になってきてさ、それでアイツと仲のいい

 お前に連れてきてほしいんだよ、お前の誘いだったらアイツも来てくると思うしさ?」

 

渚沙にそう言って下衆な要求をしていく彼らに、心底軽蔑の感情を抱き始めていく

 

「‥‥卑劣な男…

 

 そんなのやってって言われて私がやると思う?

 

 私が貴方たちの言う通り、南雲君と仲が良くとも

 良くなくとも、貴方達のそんな最低な要求を呑むわけないじゃない

 

 そんな風だから、白崎さんに振り向いてもらえないのよ」

 

「…てめえ、役立たずの雑魚のくせに随分とでかい口を叩くじゃねえか…

 

 俺らの言うこと聞けねえっていうんなら、力づくにでも聞かせてやるよ!」

 

渚沙のすました態度に虫の居所が悪くなったのか、手を上げようとする檜山

 

「‥‥っ!」

 

渚沙は近藤からの拘束を逃れ、向かってくる四人に

蹴りと掌底をそれぞれ食らわせていき、吹っ飛ばしていく

 

「‥‥女だからって、甘く見たからそうなるのよ…」

 

「てめえ‥‥」

 

身体を鳴らしてほぐしていく渚沙に

檜山達四人はさらに虫を悪くしたのか、怒りの表情を見せていく

 

「‥‥悪いけれど、私は貴方達のくだらない

 憂さ晴らしに付き合うつもりなんてないわ…

 

 そういうわけだから失礼させてもらうわ…」

 

そう言ってその場から去ろうとする渚沙だったが

ふいに足元に何かがふるわれて、それによって渚沙はバランスを崩していく

 

「‥‥っ!?」

 

その犯人は近藤、彼が武器である槍を使って

渚沙の足を払ってバランスを崩させたのだ

 

「‥‥ちい!」

 

渚沙はそれを受けても持ち前の身体能力を使って

身体を一回転させ体制を整える、擦るとそこに中野と斎藤が

炎の魔法と風の魔法を放っていく、渚沙はそれをかわしていき

そのままその二人の方に迫っていき、それぞれにアッパーと膝蹴りを食らわせる

 

「ぐあっ!?」「ああっ!?」

 

二人はまたも吹っ飛ばされていき、地面に倒れこむ

 

「‥‥まだやるつもり?

 

 こんどはこっちからも行かせてもらうよ?」

 

そう言って近藤が持ってい槍を拾い上げ、残った檜山の方を見る

 

「こ、このクソアマ!

 

 調子に乗ってんじゃねえぞ!!」

 

そう言って剣を手に勢いよく切りかかっていく

 

「‥‥ねえ、知ってる?

 

 剣で槍にあてるには三段の構えが必要だって」

 

「あ?

 

 んだよそれ‥‥」

 

かわしつつそう言って行く渚沙に檜山は首を傾げるも

特に気にすることもなく、再び剣をふるって行く、彼の天職

軽戦士は力よりも早さの方に特化している天職故に攻撃の切り替えしが早い

 

それを生かして、素早く攻撃を渚沙の方にへと向かって振るって行く

 

「ひい!」

 

だが、攻撃は簡単にいなされ、さらに

檜山の喉元に槍の柄頭を突き付けていく

 

「‥‥槍は長い分、剣よりもリーチがあるの…

 

 そのリーチを上手くかいくぐって

 攻撃を当てるのに必要な距離なんだよ?

 

 でも、今の今まで剣を握ってこなかった貴方に

 そこまでの技量はない、天職や技能に頼っているだけなら、なおさらね」

 

「…へ、へへへ‥‥

 

 そんな風に粋がっていられるのも今のうちだぜ!」

 

そう言って檜山は槍を掴む、さらに

 

「‥‥っ!?

 

 しまった!?」

 

さらに両腕を使かれて抑え込まれる

抑え込んでいる犯人は中野と斎藤であった

 

「はあ…はあ…やっと取り押さえたぜこのアマ……」

 

「へへへへ‥‥随分とやってくれたじゃねえか…たっぷり礼をさせてもらうぜ!」

 

そう言って渚沙を地面に押し付ける中野と斎藤

さらに、抑えるように檜山が渚沙に馬乗りになる

 

「…ここまで来たらもうやけだ

 

 俺らに楯突いたらどうなるのかたっぷり思い知らせてやる!」

 

そう言って服をはだけさせていく檜山

それによって渚沙の肌が露わになっていき

胸を覆っている白いブラが露出していった

 

「‥‥っ!」

 

渚沙もこれから自分が何をされるのか理解し

必死に抵抗しようとするが腕を中野と斎藤に押さえつけられ

檜山に馬乗りされているせいで身をよじることも出来ないうえに

さらに足の方もむなしくばたばたさせるだけで何の役にも立っていない

 

やがて檜山があらわになった渚沙のブラを手に欠けようとしたとき

 

「やめろおおお!!!」

 

そんな声が聞こえると、横から飛び出してきた誰かが

檜山達三人を勢いよくぶっ飛ばしていき、渚沙は解放される

 

檜山達をふっとばしたその人物は

 

「はあ‥‥はあ…東雲さん、大丈夫!?」

 

「‥‥南雲君…」

 

息を切らしたハジメであった

 

「東雲さん、速くここから離れて!」

 

「‥‥何言ってるの!?

 

 ハジメ君はどうするの!」

 

渚沙は驚いた様子でハジメに反論する

 

しかし

 

「なあああぐううううもおおお!!!!」

 

檜山がものすごい怒りの声でハジメに向かって行く

 

「うおっぷ!」

 

檜山は力いっぱいハジメを押さえつけていく

 

「ぐう…」

 

「…よお、南雲~?

 

 この世界に来てから随分とご無沙汰だな~?

 

 俺たちが誘おうと思っても機会に恵まれなかったからな~

 

 まあ、そっちから来てくれたのは嬉しいぜ!」

 

そう言ってハジメの顔を思いっきり殴りつけると

倒れていたハジメを無理やり引っ張り出していく

 

「おらあ!」

 

「があ!」

 

檜山はそう言ってまるでさっきまで渚沙にやられた苛立ちや

渚沙の体によるお楽しみを邪魔された怒りをぶつけていくかのように

ハジメを殴ったりけったりしていき、ハジメの顔はひどくはれ上がっていく

 

「このキモオタ野郎が!

 

 いっつもいっつも、俺の邪魔ばっかりしやがって!!」

 

「ぐぶ!」

 

何度も何度も執拗に顔や腹など

殴られると苦しい部分ばかりを狙われて行く

 

「そうだ、全部てめえのせいだ!

 

 てめえさえいなきゃ、すべてうまくいってたんだ!!」

 

「ああ!」

 

そして、檜山は手に剣を大きく振りかざしていく

 

「お前みてえな奴がこの世に存在すること自体、間違ってんだあああ!!!!」

 

「うがああああ!!!」

 

檜山の振りかざした剣がハジメの体を思いっきり切り裂いた

 

その衝撃と痛みによって、ハジメの意識はフェードアウトしていき

段々と周りの景色を認識していく事は出来なくなっていったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「う‥‥うん…」

 

気が付くと、そこは以前にも見たベッドの上であった

違うのはあたりが隔離されており、全身に痛みが発していたこと

 

全身が包帯でぐるぐる巻きになっていたことだ

 

「いっつ~…

 

 確かあの時…檜山君にボコボコにされて…」

 

そう言って今、おかれている状況を整理していくハジメ

すると、ハジメの元に一人の少女が入っていく、その少女は

 

「っ!?

 

 ハジメ君!」

 

白崎 香織

 

 

何と、彼女であった

 

「…白崎…さん……?」

 

「あ‥‥うああああ…うわああああん!!!」

 

香織はゆっくりと起き上がったハジメに勢いよくだきついてきた

 

「うわああああん!!!

 

 バジメぐううううん!!!

 よがっだよおおおお!!!」

 

「いだだだ!!!

 

 ごめん、ちょっと離れて

 すっごい身体痛い、痛いからあああ!!!」

 

号泣してハジメに抱き着く香織にそのせいで

全身がさらに痛みに襲われてまたも気を失いかけるハジメ

 

香織はハジメの悲痛な叫びを聞いて

ハッと我に返るようにハジメを介抱する

 

「ご、ごごごごごめん!?

 

 ハジメ君の意識が戻ってきたのが嬉しくってつい…」

 

「…いったたた…

 

 あーまた意識がフェードアウトしてくと思った…」

 

ハジメはゆっくりと痛みが戻っていくの感じていくのと

それに合わせて段々と気持ちが落ち着いていっているのも感じていた

 

「そ、そのごめん…

 

 南雲君、あの時から全然目を覚まさなかったから…

 

 本当に心配になっちゃって…」

 

「…う、うん、分かってる…わかってるから…」

 

香織を制止させるように右手を突き出して答えていくハジメ

 

「‥‥その…ごめんね‥‥…

 

 いっつもその‥‥南雲君に迷惑ばっかりかけちゃって…

 

 今回のことだって‥‥原因は私にあるし…」

 

「そんな、白崎さんが謝る事じゃないよ

 

 悪いのは檜山君やそれに便乗してる周りの人達なんだし…」

 

香織が謝っているのは、ひょっとして自分が

檜山のせいでひどいけがを負ってしまったからなのだと思い

 

香織自身は本当に悪くないので

頭を下げて必死に謝る彼女を諫めるハジメ

 

「‥‥ううん、だってそもそもナ南雲君が

 あんなにもひどい仕打ちを受けてるのだって…

 

 そもそも、私が南雲君に必要以上に構いすぎたせいだし…

 

 私がもっと周りのことを見て、考える事が出来ていたら

 もしかしたら南雲君はきっと普通に当たり前の生活を送ることが

 出来たかもしれないのに‥‥本当に…本当にごめんなさい‥‥…」

 

そう言って涙を浮かべながらなおも謝り続けていく香織

 

「…もういいよ、何度も言ってるけど

 白崎さんは何にも悪くなんてないんだよ…

 

 もとの世界のことだって、さっきのことだって

 白崎さんが直接手を下したわけじゃないんだし…

 

 それに、白崎さんが向こうの世界にいた時から

 僕のことを気にかけててくれてたのも気が付いてたから…」

 

「‥‥南雲君…」

 

涙を浮かべた顔を上げて、ハジメの方を見ていく香織

 

「…本当はしっかりと白崎さんとも

 話をしておきたいって思ってたんだ…

 

 でも、僕が白崎さんと関わってるとそれこそ周りがうるさくなるし

 だからいっつも突き放すような態度を取って距離を取るしかなかった…

 

 別に僕自身は気にしないけど…白崎さんが悲しむと思ったから…

 

 でも…僕の方も考えが至らなかったみたいだね…結局

 白崎さんの事悲しませちゃったし…本当にごめんね白崎さん…」

 

「そ、そんな‥‥ハジメ君が謝る事じゃないよ…

 

 寧ろその‥‥嬉しいよ、ハジメ君が私のことを

 気にかけてくれていたんだってことが分かって…」

 

ハジメの言葉を聞いてまだ涙を浮かべて居るものの

ハジメが自分のことも気にかけてくれていたのだと言う事が

分かって少し嬉しそうにしていく、そこで香織は少し話をしていく

 

「‥‥実はね、私が南雲君のことを知ったのは

 高校に入学したときじゃないんだ、私が南雲君に

 出会ったのは中学二年のころなんだ、あのころから…

 

 私は南雲君のことが気になったんだよ」

 

「中学…二年の時…?」

 

香織は話していく、彼女が

ハジメのことを知るきっかけになったときのことを

 

ガラの悪いチンピラ風の男の服を飲み物をもって

走り回っていた子供がぶつかってしまい、その男は

その子供とその子の祖母に絡んでいき、子供の方に

殴りかかろうとしたときに、颯爽と現れて子供とチンピラの間に

割って入って、チンピラの男を抑え込んでいき、おばあちゃんと子供を逃がした

 

結局ぼこぼこにされて、そこに駆け付けた警察によって無事に救急車で搬送された

 

全治数か月のけがを負ったものの、それでも無事におばあちゃんとお孫さんを

無事に助け出すことが出来たのでお見舞いに来てくれた二人に感謝されたのだ

 

「…そうだったんだ…」

 

「‥‥あの時の南雲君は本当にかっこよかった…

 

 一見すると一方的にやられちゃって

 みんなかっこ悪いって感じるかもしれない…

 

 だけどあの時、私や周りの人達が怖くて何もできない中で

 迷わずおばあちゃんとお孫さんを助けるために飛び込んでいった南雲君…

 

 すっごくかっこよかく映ってた、だから高校に入って南雲君のことを

 見かけたときは本当に嬉しかったんだ、だから私、南雲君と仲良くなりたいって…

 

 だけれどそのせいで‥‥あんな事件が起こってしまって…」

 

またも、香織は少し悲しい表情を浮かべていく

 

「‥‥あの事件の時は本当にショックだった…

 

 私はただ南雲君と仲良くなりたいって思っただけなのに

 ただそれだけなのに‥‥南雲君が一方的に悪者にされて

 

 本当に学校をやめた言って思うくらい‥‥ショックだった…」

 

「白崎さん…」

 

香織はしばらく表情を落としていたが

それでも、意を決したように顔を上げていく

 

「‥‥でも、雫ちゃんに

 

 ここで逃げちゃったら本当の意味で

 南雲君を助けることの出来る人がいなくなる

 

 そうなったら、いくら彼のような強い人間でも

 きっといつかはガタガタになっちゃう、彼が苦しんでいるのに

 自分だけが逃げてていいの、私の南雲君への思いはそんなものなのって

 叱られちゃって、それで私も私になりに南雲君のことを護ってあげようって思ったの…

 

 結果は散々だったけどね…」

 

「…そっか…

 

 なんかその…ごめんね…

 

 気を遣わせちゃったみたいで…」

 

「ううん、南雲君が悪いわけじゃないもん…

 

 それに、私がこうして南雲君のことを支えて

 あげたいっていうのは、私自身が決めた事なんだしね」

 

そう言って笑顔を浮かべていく香織に

ハジメは少々気恥ずかしくなってきたのか

貌を真っ赤にしながら顔をそらしていった

 

「私、決めたよ、もう自分に嘘をつくのはやめる!

 

 これから南雲君の傍にいて、南雲君の事‥‥しっかり守っていくから…

 

 だから南雲君、何かあったら私に相談してね、力になるから」

 

「…うん、ありがと…

 

 それじゃあ、その時はお願いね…」

 

香織はそう言ってハジメの手を優しく握って

ハジメはそれにどこか頼もしさを感じていた

 

すると、そこに

 

「‥‥随分と仲よくなってるみたいね…

 

 お邪魔だったかしら…?」

 

渚沙が入ってきたことに驚いて

香織は顔を真っ赤にして慌ててハジメから離れていく

 

「んな、なななな、渚沙ちゃん!?

 

 こ、こここここれはそのえーっと!!!」

 

「東雲さん」

 

「‥‥無事に意識が戻ってきたのね…

 

 いえ、目覚めなかった方がよかったかもしれないけど…」

 

ふいに洩らした渚沙の言葉に香織は反応する

 

「ちょっと渚沙ちゃん!

 

 何今の良いかた、ハジメ君が

 目を覚まさない方がいいってどういう事!?」

 

「‥‥実は相当まずいことになっているのよ…

 

 南雲君にとっては特に、ね…」

 

香織の少し怒りのこもった言葉に対して

渚沙は深く頭を抱えるように答えていく

 

それを聞いて香織は怒りが収まって真剣になり

ハジメ自身もただ事ではないと感じてしっかりと耳を傾けていく

 

「‥‥実は…」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメが檜山の一撃を受けて気を失った後

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…

 

 ざまあみろ!」

 

そう言って気を失ったハジメに唾を吐き捨てる檜山

渚沙はさすがに見てられないと感じて駆け寄ろうとすると

 

「何やってるの!」

 

そこに時のこもった少女の声が聞こえ

一同が振り向いた、そこにいたのは

 

「やっべ!」

 

檜山達の想い人である女子生徒

 

白崎 香織

 

 

彼女とそのそばには同じように通りがかった数人の人物

 

天之河 光輝

 

 

坂上 龍太郎

 

 

中村 恵里

 

 

谷村 鈴

 

 

八重樫 雫

 

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

その者達も現れる

 

「ハジメ君!」

 

香織はすぐさまハジメに駆け寄っていき

かれに治癒魔法を掛けようとするのだが

 

「‥‥あれ?

 

 魔法が発動しない…?

 

 何で、何で治癒ができないの!?」

 

なぜか魔力を発動することが出来ず

必死に手をかざして詠唱を唱えていくも

どうしてか魔法を発動することが出来ない

 

その後も何度も何度も魔法を発動させようとするが

 

「何で‥‥何で発動しないの…早くしないと、南雲君が‥‥…」

 

涙を浮かべて何度も魔法を発動させようとしている

 

「‥‥どいて香織!

 

 とにかく安静にできるところに運んでもらうから!!」

 

そう言って渚沙は呼んできた救護の人間に

気を失ったハジメを安静にできる場所に運んでもらっていく

 

「‥‥それで、一体何があったの?」

 

「詳しく聞かせて頂戴、まあ大体は予想がつくけれどね…」

 

雫が檜山達に事情を聞くが、姫奈の言う通り大体予想がつく

 

「あ、ああ、いや‥‥

 

 俺らさ、なかなか特訓に来ない

 南雲を訓練に誘ってやろうと思って

 

 それで渚沙に南雲に俺らの元に連れてくるように

 頼もうとしただけで別に深い意味はないんだけどさ‥‥」

 

「ふうん、要するに…

 

 いっつもいつも厳しい訓練を受けているのに

 一人だけ訓練を受けていない南雲君を疎ましく思って

 それで南雲君を連れだすために私たちの中でも比較的

 南雲君と仲のいい東雲さんに南雲君を連れてくるように言ったけど

 

 東雲さんにそれを拒否されてその腹いせに東雲さんに襲いかかろうとして

 そこをハジメ君に邪魔されてボコボコにして今に至る、そんなところかしら?」

 

姫奈の脅威的な洞察力に一同は舌を巻いていた

 

「だ、だから俺らはもともと南雲に訓練を付けてやるつもりで‥‥」

 

檜山はそれでも見苦しく言い訳をしていく

 

「‥‥けない…」

 

香織はふるふると体を振るわせて

必死に声をひねり出すように声を漏らしていく

 

「し、白崎‥‥!?」

 

「ふざけないでよ!

 

 訓練だからって何?

 

 訓練だったらあんなに

 南雲君のことをボロボロにしてもいいっていうの!?」

 

香織は怒りと悲しみを込めて怒鳴り声をあびせていく

 

「挙句の果てには見苦しい言い訳して恥ずかしいと思わないの!?

 

 他人を平気で傷つけて、貶めて、何とも思わないの!?

 

 どうして貴方達はそんなにも南雲君のことを目の敵にするの!?

 

 私が南雲君に積極的に話しかけるから?

 

 南雲君がオタクで普段の態度が悪いから?

 

 本当にいい加減にしてよ!

 

 そもそも、私が誰と仲よくなろうと私の勝手じゃない!!」

 

香織の怒りのこもった言葉が辺りに響いていく

 

「この際だからはっきり言わせてもらうよ檜山君…

 

 貴方が私のことをどう思ってるのかなんて

 知らないし知りたいとも思わない、だからこれだけ言わせてもらうね…

 

 私は貴方みたいに自分の責任も碌に背負えないような卑怯者の負け犬、大っ嫌い!」

 

ハッキリそう言い放つ香織

 

檜山は想い人である香織に

はっきり嫌いと言われてショックを受け

その場に呆然と立ち尽くしていたのだった

 

「香織、やめるんだ!

 

 檜山にそんなひどいことを言うんじゃない」

 

だが、そんな時に空気を読まないことをする者がいた

 

天之河 光輝

 

 

彼はそう言って檜山を庇護するような言い方をする

 

「何、光輝君‥‥檜山君たちを庇うような言い方して…」

 

「確かに檜山達はやりすぎたかもしれない…

 

 だが檜山達はあくまで訓練をさぼっている

 南雲の不真面目さをどうにかしようとしたんだ

 

 それで東雲さんに頼もうとしただけなんだろ?

 

 だったら檜山達はあくまで親切でやってくれたんだ

 

 なにより俺たちは仲間、仲間が仲間を陥れるような

 真似をするわけないじゃないか、遣りすぎたのは事実でも

 そこまでひどいことを言われるような云われはないんだよ」

 

光輝はそう言って檜山達ではなく

ハジメの方に問題があると遠まわしに言って行く

 

「わかった…

 

 それだったらもういいよ…」

 

香織はそう言ってその場を離れていこうとする

 

「香織、何処に行くんだ!?」

 

「南雲君のところに決まってるじゃない!

 

 こんなやつと一緒のところにいるくらいなら

 南雲君の傍の方がずっといいに決まってるじゃない!!

 

 言っておくけれど光輝君、ついてこないでね!!!

 

 ついてきたら絶交だから…」

 

そう言って訓練場をあとにしていく香織

 

「おい香織…!」

 

「やめなさい光輝…

 

 あんたが言ったって余計にこじれるだけよ…

 

 今はそっとしておきなさい…」

 

香織を引き留めようとする光輝を止める雫

雫はむしろ香織側なので、香織の気持ちを優先させたのだ

 

やがて、騒ぎと話を聞きつけた

メルドと騎士団にもろもろの事情を話していく

 

やがて、訓練を中断させたことに糾弾された檜山は

土下座をしてメルドや一同に必死に謝っていくのだが

 

その口から出てくるのはあくまで南雲に稽古をつけてやろうと思った

南雲が弱すぎて手加減してもボロボロになったなど、出てくるのは口八丁ばかり

 

香織にあんなことを言われたのにまったく何にも変わっていない

 

渚沙はそんな檜山達に呆れてものも言えず

さらに檜山に厳しい事を言い放とうとするのだが

 

そこに一人の人物が割って入っていった

 

「‥‥何やら随分と騒がしい様ですが、何かあったのですかな?」

 

イシュタル・ランゴバルド

 

 

教会のトップである教皇の老人である

 

「イシュタル殿、実は‥‥‥」

 

メルドが詳しい話をイシュタルにしていく

 

すると、それを聞いた

イシュタルの言葉は納得しがたいものである

 

「‥‥なるほど、でしたら檜山様方に厳重注意をしておきましょう‥‥‥」

 

「‥‥はあ!?」

 

イシュタルの言ったことは何と注意喚起

今後からは気を付けるようにと厳しく言いきかせる事

 

ただ、それだけである

 

「‥‥ちょっと待ちなさいよ、たったそれだけ!?

 

 だって彼らは私のことを犯そうとして

 南雲君に重傷を負わせたんですよ、それなのに

 厳しく言いきかせるだけなんて、いくら何でも甘すぎです!」

 

「確かに彼らのやったことは行きすぎです‥‥‥

 

 しかし、何でも

 檜山様方がその物が傷つけてしまったのは

 あくまで不運な事故、それに檜山様方が彼らを

 傷付けたという確証を示す証拠もないのでしょう?」

 

「そうだぜ、証拠がないんだ!」

 

「証拠もないのに俺らを犯罪者にしようとすんなよなー!」

 

イシュタルの言葉に便乗して檜山グループが野次を飛ばしていく

 

さらに、イシュタルはとんでもないことを口にする

 

「それに、ワタクシといたしましては

 檜山様方よりもその者の方に問題があると考えますが?」

 

「‥‥はあ!?」

 

これには、渚沙も言葉が出てこなかった

 

「何でもその者の周りでは魔法を発動できなくなったり

 魔道具が使えなくなってしまうと言う現象が起こっているそうではないですか‥‥‥

 

 おかげで使徒様の訓練にはもちろん

 騎士団の魔法訓練に支障をきたしているそうではないですか

 

 私としましては、むしろそちらの方も問題があると考えますが?」

 

「‥‥そんなの、それこそ言いがかりです!

 

 だって南雲君だってその理由が何なのかも分かっていないのに…」

 

渚沙は必死にハジメの弁護をしていくのだが

 

「しかし、我々としても魔人族との戦争のことも考えると

 彼のように周りの足を引っ張るだけの存在は、ハッキリと

 申し上げて害悪でしかありません、私としても彼の待遇の方を

 そろそろ何とかするべきであると考えています、これは私のみならず

 

 教会、王族全員の創意です」

 

「‥‥そんな…

 

 でもだからって彼は被害者で

 私だって彼が助けてくれないとどうなっていたか…」

 

渚沙はそれでも何とか粘るが、イシュタルは聞く耳持たず

 

しかし、イシュタルは言葉を続けていく

 

「‥‥では、こうしましょう‥‥‥

 

 次の実践訓練に向かうオルクス大迷宮において

 目覚ましい結果を残すことが出来たなら、放免としましょう‥‥‥

 

 彼の天職はいまだに不明、参加をさせない理由にはなりません

 

 ですから、彼には参加するにあたって見事

 我々にとって益になると証明することが出来るなら‥‥‥

 

 彼をこの場に留まらせることを約束しましょう‥‥‥

 

 しかし…‥それができなかった場合は‥‥‥」

 

「‥‥わかりました…

 

 それでいいのなら‥‥問題はありません…」

 

イシュタルの提案に乗るものの

どこか不服そうな様子を見せる渚沙であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥なにそれ…

 

 それじゃあまるで

 南雲君が悪者みたいじゃない!

 

 しかも、実戦訓練って…

 

 こんな大けがを負ってるっていうのに!?」

 

香織はイシュタルのことを聞いて

怒りを抑えられない様子であった

 

「‥‥ええ、しかも予定はスケジュール通りよ…」

 

「確か実戦訓練があるのって‥‥明後日じゃない!?

 

 どう考えたって南雲君は戦闘どころか

 まともに動けるのかもわからないのに…」

 

香織はあまりの理不尽さに大いに取り乱していく

 

「‥‥私も進言したけど、聞きいられなかった…

 

 実践訓練が始まるまでに南雲君の意識が戻らないなら

 その分予定が遅れてけがの回復に専念ができたんだけど…」

 

「‥‥それで南雲君が目覚めない方がよかったって言ったんだね…

 

 でもそれだったら南雲君が目を覚ましたことを内緒にすれば…」

 

「‥‥いいえ、いずればれると思う…

 

 彼のこの王城での立場は悪い方だから

 それを知ったら真っ先に報告に行くと思うわ…

 

 関係者から言わせれば厄介者である彼には

 早めに南雲君にはいなくなってほしいだろうから…」

 

「じ、じゃあリリィに頼めば!?

 

 リリィも南雲君と仲がいいし、頼めばきっと…」

 

「‥‥教会の方が聞き入れないと思うわ…

 

 この国は宗教国家、王族よりも教会の方が立場は上よ…

 

 即位していない王女様の言葉なんて教皇であるイシュタルにとっては

 聞くにたえないものだと受け流されて行ってしまうのがオチよ…」

 

マウントばかり取っていく渚沙に香織は苛立つが

本当に攻めるべきは渚沙ではないとも理解している

 

逆を言えば渚沙も渚沙で考えてくれていたのだから

 

「‥‥そんな…どうしたらいいの‥‥…」

 

「…そんなの…決まってるよ……」

 

ハジメはそう言って

体中に走る痛みにこらえながら立ち上がっていく

 

「…行くしかない…あえてここは向こうの提案に乗るんだ……」

 

「‥‥無茶いわないでよ、今だって立ちあがるのもやっとなのに

 戦闘を想定した訓練に参加するなんて、そんなのいくら何でも無茶よ…!」

 

「そうだよ南雲君!

 

 私たちが何とかするから

 南雲君はここで休んでて!!」

 

必死にハジメを抑えようとする二人だが

ハジメはそれでも決意を揺るがせようとはしない

 

「無茶なのはもちろん、承知してる…

 

 でもここで待っていても何かが変わるわけでも無い…

 

 僕はずっと、理不尽な運命にさらされてきた

 最初は僕の方にも非があるんだって必死に言い聞かせてた…

 

 でも、これはきっとその運命に抗うチャンスなんだと思う…

 

 だから僕は行く、行って僕に定められた運命を変えたいんだ!」

 

「‥‥南雲君…」

 

そう言って決意を秘めた瞳を見詰めていく渚沙

 

すると

 

「‥‥わかった、南雲君がそうしたいって言うなら…止めないよ‥‥…」

 

「‥‥白崎さん!?」

 

すると、香織はハジメの肩に手を置くと

ベッドに無理や座らせ、横にして布団をかけてやる

 

「‥‥でもね、南雲君

 

 南雲君は確かに優しくて強いけど

 それでいて良く無茶とかもするんだもん

 

 止めないけれど、休めるときにはしっかり休んでね」

 

「白崎さん…」

 

香織はそう言ってハジメをベッドに寝かしつけ

彼の顔にそっと顔を近づけて、優しくつぶやいた

 

「私が南雲君の事、しっかり守るからね

 

 今回のように治癒が発動できないことがあったとしても

 魔法が使えない状況に陥ったとしても、私は南雲君の傍にいるから

 

 私が‥‥南雲君を…守るから‥‥…」

 

「…で、でも…」

 

ハジメが言葉を続けようとすると、渚沙に額を指で小突かれる

 

「女の子にあんなこと言わせておいて、恥をかかせちゃだめよ…

 

 ここは素直に受け止めておきなさい」

 

「っ!

 

 よ、よくわからないけど…わかったよ…」

 

渚沙に諭されて、よくわからないまま了承するハジメ

 

ただわかっていたことは香織が安心したように微笑んでいたこと

それを微笑ましく見つめていた渚沙の微笑んだ表情が写っていた

 

それからしばらく三人で雑談して香織と渚沙は自室に戻っていき

ハジメも明日の実践訓練に供えて体を休めていく事にしたのだった

 

しかし、実はこの時その様子を見ていた者がいたことに

ハジメは勿論、香織と渚沙も気が付いていなかったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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Unter dem Mond Disputatio

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ある場所

 

そこに一人佇むのは一人の女子生徒

 

「あれ‥‥ここは…?」

 

白崎 香織

 

 

彼女は今、治癒師としての格好をして

手にアーティファクトの杖を持っている

 

すると、目の前には

ボロボロになった一人の少年が磔にされていた

 

それは、香織がよく知る人物であり彼女の想い人である

 

南雲 ハジメ

 

 

彼であった

 

「ハジメ君!」

 

そんなボロボロの彼の元に、急いで駆け寄ろうとするが

突然後ろから引っ張られてしまい、引き留められてしまう

 

そんな彼女を引き留めたのは

 

「へっへっへっ‥‥」

 

「…‥…」

 

香織の方を見て下品な笑みを浮かべて居る男子

 

檜山 大介

 

 

表情を出してはいないが

行ってはいけないと言った様子で首を振る男子

 

天之河 光輝

 

 

更にその後ろには香織たちのクラスメートが大勢控えているが

目の前でボロボロになっているハジメのことを誰も助けようとしていない

 

「離して‥‥離してよ…離してってばああああ!!!」

 

そう言って声をあげて訴えるが

檜山も光輝もどちらも離そうとはしない

 

すると、目の前の暗闇が光に包まれた

 

「え!?」

 

香織はあわてて、目の前の方を見ていくと

そこには炎に包まれてもがき苦しんでいくハジメの姿が

 

「ハジメ君!?

 

 待ってて、すぐに助けるから!!」

 

香織は急いでハジメの元に向かおうとするが

檜山と光輝に掴まれて向かって行くことが出来ない

 

振り向いて二人に離してと言おうとするが

香織は二人の表情を見て絶句した、何故なら二人の表情は

 

香織が思わず声に出すのを憚れるほどに

醜くゆがんだように不気味な笑顔だったのだから

 

檜山と光輝だけではない

後ろにいるクラスメートたちも同様であった

 

まるで、ハジメが死に行くのを楽しそうに、喜ぶように

 

「いや…」

 

炎に包まれて行くハジメ

 

「いや…」

 

その様子を不気味なまでの笑顔で見つめるクラスメート

 

やがて香織の表情は

段々絶望に染まっていくのが分かり絶叫する

 

「いやああああ!!!」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「いやああああ!!!」

 

香織が大きな声をあげて飛び起きたそこは

これから向かうオルクス大迷宮の入り口がある町

 

宿場町ホルアドの王国が用意した宿部屋であった

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

香織は目を覚まし、アレは夢であったのだと理解したのだが

それでも体の震えとあふれてくる涙が止まらずに、必死に抑えようと

自分の身体を抱えるようにしていくが、それでも収まる様子はない

 

「‥‥アレは夢、アレは夢、アレは夢、アレは夢…」

 

必死に自分に言い聞かせるように呪文のように呟いていく

 

そこに、一人の影が訪れてくる

 

「どうしたの香織!?

 

 こんな夜に叫び声なんて上げちゃって…」

 

八重樫 雫

 

 

香織の親友で、剣聖の天職を持つ女子

彼女がどうして部屋の中にいるのかと言うと

 

現在、彼女らにはそれぞれ

二人部屋で二人ずつ分けられている

 

香織の相手は雫である、そこからも分かるように

中の良い者同士で相部屋になっていると言う事だ

 

なお、クラスの大半から嫌われているハジメは当然の如くはぶられ

なぜか騎士団の面々が止まっている大部屋に入れられてしまっていた

 

ハジメはこの時、修学旅行の班決めで

グループに入れなかったボッチみたいだと感じていたという

 

また、香織が、だったら私がハジメ君とおんなじ部屋になる。と暴走して

雫達や渚沙、ハジメ本人からも止められてしまっていたのは別の話である

 

「‥‥雫ちゃん…ねえ、南雲君本当に大丈夫かな!

 

 死んじゃったりとか、殺されたりとかしないかな!!

 

 今からでも南雲君を訓練から外すことは出来ないかな!?」

 

「香織、落ち付きなさいよ!

 

 一体何があったの?」

 

不安に駆られる香織を雫が必死になだめて落ち着かせていく

香織も雫と言う心を許せる親友の前なのか少しだけ安心しているようだ

 

「‥‥実は…」

 

香織は雫にさっき見ていた夢の内容を聞かせた

ハジメが目の前でボロボロになって磔にされていた事

 

自分がそれを助けに行こうとしたら檜山と光輝に止められたこと

 

ハジメの周りが炎に包み込まれて行ってしまった事

 

そんな様子を醜く歪んだ笑顔でクラスメートが見つめていたこと

 

「‥‥そう、だったの…」

 

「‥‥分かってる、アレはただの夢なんだって

 分かってるけれど何でか忘れられないの、あんなの…

 

 あんな夢なんて忘れたいのに

 いつもだったら夢を見てもすぐに忘れるのに…

 

 怖いの‥‥ひょっとしてこれから先、南雲君の身に

 何かが起きるんじゃないのかって、そう考えたら…」

 

香織は今もなお、体を振るわせていきながら

内に秘めている感情をひねり出していくように口にしていく

 

「‥‥怖かったでしょ…恐ろしいでしょう‥‥…

 

 少なくとも香織が不安になる気持ちはわかるわ…

 

 でも、あくまで夢は夢、それは香織も分かってるんでしょ?」

 

「‥‥うん…」

 

不安と恐怖に駆られて行く香織を優しく抱きしめ

その手をそれぞれ使って香織の背中をポンポンと優しく叩き

頭を優しくゆっくり撫でて、香織を安心させていく

 

「‥‥それでも不安だって言うなら

 香織が南雲君の傍にいればいいじゃない

 

 南雲君のことを護ってあげるって約束したんでしょ?

 

 だったら彼の傍にいて、南雲君のことを護ってあげればいいのよ…

 

 香織は南雲君の味方なんだっていう事を‥‥香織がしっかり

 行動で示してあげなさいよ、昔の香織がそうだったようにね…」

 

「‥‥雫ちゃん…」

 

雫の精一杯の言葉を受けて

香織の表情はどこか明るくなっていくように感じている

 

「‥‥そうだよね、雫ちゃん…

 

 こういう時こそ、私がしっかりしないといけないもんね…」

 

そう言って決意を新たにする香織

 

「‥‥ようし!

 

 明日の訓練、私は南雲君の傍から離れずに

 しっかりと南雲君の事を護ってあげるからね!」

 

「香織~、いつもの香織に戻ってくれたのは嬉しいけれど

 またいつものように暴走して、南雲君の足を引っ張らないようにね~?」

 

決意を口にする香織に、雫は、ああまた暴走するんだろうな、と

頭を抱えながらも、その表情はどこか安心したような表情を浮かべていたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

雫は香織を安心させて寝かしつけると

雫自身もまた、香織の言っていた夢のことが気になり

 

どうにも落ち着かない様子になってきていた

 

「‥‥少し、夜の風に辺りにでも行こうかしら…」

 

そう言って、香織を起こさないように部屋を出て

綺麗な月の光に照らされた夜の空を見上げていると

 

不意に足音が聞こえてきて、雫はその音のする方に眼をやっていく

 

そこにいたのは、雫もよく知っている人物であった

 

「…あれ?

 

 八重樫さん?」

 

南雲 ハジメ

 

 

香織の想い人であり

つい先ほど話題になった人物であった

 

「‥‥はあ…」

 

「え?」

 

あまりのタイミングの良さに呆れた様子で

ため息を付いていく雫にハジメは疑問符を浮かべていく

 

「‥‥ああ、ごめんなさい…

 

 いきなり知り合いがここに

 来たことにちょっとびっくりしちゃってね…」

 

「…そうなんだ…

 

 ところで八重樫さんはどうしてここに?」

 

「うん、実践訓練のことでちょっと緊張して眠れなくってね…

 

 そういう南雲くんこそ、こんな夜に何をしているのかしら?」

 

「あははは…何しろ僕の周りが大の大人ばっかりで

 どうにも落ち着かなくって、それでちょっと抜け出してきたっていうか…」

 

気まずそうに答えていくハジメに、雫は少し噴き出して笑みを浮かべる

まあ、いきなり知らない大人たち、それも鍛え上げられた戦士たちと一緒など

 

色んな意味で畏まってしまうのは無理はないであろう

 

「南雲君も本当に大変ね…」

 

雫は思わずそんな言葉を口にしてしまうが

ハジメは怒ることは無くむしろそうなんだよと肩を落としていった

 

「‥‥ねえ、南雲君…

 

 身体の調子はどう?

 

 けがはまだ治り切っていないって聞いているけれども…」

 

雫がそんなことを聞いていくと、ハジメはうんと呟きながら頷く

 

「最初のころに比べるとそれなりに動けるようにはなってる…

 

 でも、激しい動きをする分にはどうしてもうまくいかなくって…」

 

そう言って自分の右手を開いたり

閉じたりして少し悩んでいる様子で応える

 

「そっか‥‥でも、あんまり無茶はしないでね…

 

 貴方に何かあったら香織が悲しむし、私だってつらいの…

 

 だから無理だって思ったら遠慮なくいってね、私もサポートしてあげるから」

 

「うん…ありがと…」

 

雫の自分のことを気遣ってくれている言葉遣いにハジメも不思議と答えていく

 

「そう言えば、昨日…

 

 香織と仲直りしたんですって?

 

 香織がそのことで私に楽しそうに話しかけてきたわよ

 おかげですっかり辺りが暗くなっちゃったけれどもね…」

 

雫がそう言ってハジメに香織のことを聞いていく

 

「べ、別に喧嘩をしていたわけじゃ…

 

 むしろ…申し訳なかったというか…」

 

ハジメはあわてて弁明すると、最後はやや小さい声になっていく

 

「申し訳なかったって?」

 

「う…うん…」

 

雫はハジメに有無を言わせないように顔を寄せていく

ハジメはそれを見て、気まずそうに顔を背けるも話していく

 

「…実は僕ね、今まで白崎さんが

 傷ついちゃったのは僕のせいなんだって思ってたんだ

 

 両親の仕事の手伝いが忙しくって、学校の授業も殆ど寝てばっかりで

 そんな僕のことを白崎さんがいっつも気にかけていてくれていたこと

 

 でも、そのせいで檜山君たちに襲われて、そんな僕を助けようと

 してくれてた南野さんが襲われそうになったのを僕がどうにか抑えて

 

 それで、その時の出来事がみんな僕が主犯だってことにされて…

 

 それで白崎さんが学校をやめてしまおうかと思うくらいに僕のことで傷ついて…

 

 どうやって向き合っていいのかわからなかったんだ…」

 

ハジメは恐る恐る答えていく

 

「それで香織に対して、突き放した態度を取ってたのね…」

 

「うん…」

 

雫は納得したような不満そうな様子をハジメに向けていく

 

「まあ、南雲君の事情は分かったわ…」

 

「う、うん」

 

雫はしんけんな表情でハジメの顔を見詰めていく

 

「でもね、南雲君?

 

 あなたのその行動が結果的に香織を傷付けることになった…

 

 そのことはわかっているわね?」

 

「う、うん

 

 それはもちろん、分かってるよ…」

 

雫は其れを聞くと口元に笑みを浮かべていく

 

「‥‥だったら、私からは何も言わないわ

 

 香織もやっとあなたと話すことが出来て喜んでたしね…

 

 でも、覚えておいてね

 もしもまた香織を傷付けるような事をしたら…

 

 その時は、許さないからね」

 

「う…うん…

 

 それはもちろん…肝に銘じるから…」

 

そう言って、フフフフと笑顔を浮かべていく雫

それを見てハジメは緊張が解けたのか、ふうと一息ついていく

 

「まったく、頼りになるのかならないのか…

 

 でも、そうやって物おじしない

 ところも、南雲君の良いところなのよね」

 

「え?」

 

雫はそう言って話しをしていく

 

「‥‥南雲君、確かに貴方は私の中では一番弱いかもしれない…

 

 でも強さは力だけじゃないんだってことを、貴方が証明してくれてる…

 

 でもね、時には誰かの事も

 頼ってあげるのも大事な事よ

 あの時だって貴方は目の前で危ない目に

 あいそうになった姫奈のことを一心不乱に守ったし

 

 この間の時だって、東雲さんのことを護ろうと必死だった…

 

 例え腕っぷしが弱くても‥‥喧嘩が苦手でも…それでも‥‥…

 

 あなたはとっても強い人なのよ」

 

「八重樫さん…」

 

雫はそう言って微笑みながら言う

 

「明日は大変かもしれないけれど、心配しないで…

 

 あなたは決して一人なんかじゃないってことをね…」

 

「八重樫さん…」

 

やがてお互いに笑いあい、しばらく雑談したのち

それぞれの部屋に戻っていくハジメと雫であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

宿屋の庭の方で一人浮かび上がっている

月を見上げている一人の女子生徒がいた

 

「‥‥いよいよ、明日か…

 

 本当に、どうなってしまうのだろうか…」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女が一人、そんなことをつぶやいていると

 

「こ~ら、こんな夜中に女の子が一人で何やってるの?」

 

そんな渚沙に一人の女子生徒が話しかけてきた

 

「‥‥纏か…

 

 私に何か用事かしら?」

 

「ちょっと、確かにこうして

 ゆっくり話すのもしばらくぶりだけれど

 

 そんなに冷たく返すこともないんじゃないの?」

 

北浦 纏

 

 

渚沙、優花、恵里ら七大天使に数えられる女子生徒の一人

 

渚沙とは小中高と一緒なのだが

渚沙がハジメに構うようになってから、しばらく合う事もなかった

 

「それにしても、大丈夫かしら南雲さん…

 

 この間、檜山さんから受けた怪我だって

 全然、完治もしていないというのに、しかも

 訓練の方だってまともに受けさせてもらえなかったのに…

 

 そんな状態で実戦訓練なんて、非常識にもほどがあるわ…

 

 南雲さんの事を殺したいのかしら…」

 

「‥‥教会はむしろ、南雲君に死んでほしいのよ…」

 

渚沙のその答えに、纏は絶句する

 

「‥‥どういう事!?」

 

「‥‥簡単な事よ、教会にとって

 南雲君は目の上のたん瘤、とはいえハジメも

 奴らが言うところの神の使徒であると言うのも変わらない…

 

 向こうで死んでくれればそれでよし、生きてもどってきても

 なんらかの疑惑を持たせて異教徒認定してしまえばいい、奴らは…

 

 自分達の手を汚さずに、南雲君を排除したいんだよ…」

 

渚沙はそう言うと、纏は信じられないと言った表情を浮かべて居た

 

「そんな‥‥いくら何でもめちゃくちゃじゃない…」

 

「この世界は千年以上も戦争が続いている…

 

 命を奪い、命が奪われて行くを繰り返していくうちに

 私達の世界に比べても圧倒的に命の価値が低くなってしまったのよ…

 

 命が失われていくのに慣れすぎてしまってね…」

 

「どっちにころんでも‥‥南雲君はどうなるの…?」

 

纏はぎりっと渚沙の方を見ていく

 

「‥‥おそらく…最悪の展開になっていくでしょうね‥‥…」

 

「そんな…」

 

渚沙は淡々と答えていくが、その表情はどこか張っているような印象を受ける

 

「‥‥もちろん、そんなことは私がさせないわ…

 

 もうこれ以上、彼を虐げさせてなるものですか…」

 

その中で決意を口にしていき、ぐっと拳をつくっていく

 

「‥‥ねえ、渚沙ちゃん…

 

 渚沙ちゃんはどうしてそこまで

 南雲君をのことを気にかけるの?

 

 ひょっとして、彼のことが気になってるとか?」

 

纏は不意に気になったように聞いていく

 

「‥‥私も最初は別に南雲君に興味なんてなかった…

 

 いいえ、南雲君だけでなく周りの人たちに何の興味もなかった…

 

 最初のうちの南雲君への変わり者だって思ってたわ

 いっつもきだる気で寝てばっかりで、いまいちパッとしない感じだった…

 

 でもある日、彼と偶然図書館で会ってね

 それから話をする機会が多くなったの、初めてだったわよ…

 

 誰かに興味を抱いたのなんて‥‥

 

 それ以来、話す機会が多くなってそれなりに親しい間柄になったわ…

 

 そういう事なのか、どこか放って置けない感じがしてね

 あの事件があってからも、私なりに彼と交流し続けていったわ…

 

 ホント‥‥どうしてこうも、情に脆くなってしまったんだか…」

 

そう言って笑みを浮かべる渚沙

そんな彼女の様子を見て微笑ましそうにしていく纏

 

「‥‥なによ、にやにやしちゃって…」

 

「ううん、渚沙ちゃんが誰かのことで

 そこまで話をしていくなんてね、やっぱり

 渚沙ちゃんにとって南雲さんは特別な存在なんだね」

 

纏が少し含みがある様子で言うと、渚沙は驚いた様子を見せていく

 

「‥‥そう…なのかな‥‥…?」

 

「そうだよ、絶対に…

 

 なんだか南雲君が羨ましい

 私だってこうやって渚沙ちゃんと小学生のころに会ってから

 話せるようになるのに、中学校になってそれからしばらくかかったのに…」

 

「‥‥それは大げさなんじゃ…」

 

「そんなことないって!

 

 現に渚沙ちゃん、色んな男の子に告白されてるのに

 それに興味ないの一言でばっさり切り捨てられちゃって

 

 多くの男子生徒が撃沈していったんだよ!!

 

 しかもその中には天之河君ほどでないけれど人気の人もいたんだよ?」

 

纏にそう言われて、そうだったのと少しキョトンとしていた

渚沙も七大天使に数えられているためそれなりに男子からの人気は高いのだ

 

ただ、男子へのこのいわゆる塩対応や、七大天使が祭り上げられたのは

二年生に上がって少したってからなので、四人の女神程ではないのだが

 

あまり他人とかかわらず、一人で物静かに過ごしている事もあって

ミステリアスな雰囲気がすると、不思議と男子生徒を惹かれさせているのだ

 

「‥‥そうだったんだ…まあどうでもいい‥‥…

 

 興味だって湧かないしね‥‥私たちが今気にするのは明日の事…」

 

「そうだね…

 

 確かに私達は訓練を受けているとは言っても

 今の今まで戦いなんて経験したことなんてなかったもんね…

 

 渚沙ちゃんは、不安…?」

 

纏はそう言って、渚沙に聞いていく

 

「‥‥不安じゃないといえば嘘になる…

 

 でも、それでもやらないといけない事には変わらないから…

 

 だから‥‥やるしかない…」

 

「‥‥そうだね…

 

 渚沙ちゃん、絶対に生き残って元の世界に戻ろうね…

 

 もちろん、渚沙ちゃんの大切な人も一緒にね」

 

「‥‥うん…」

 

こうして、辺りが月の光に照らされて行く中で

二人の少女が決意を新たにしていくのであった

 

しかし、この時彼女達は気が付いていなかった

 

悪意の糸がゆっくりと、網を張っていく事に

 

それによってハジメに迫る恐るべき危機に

 

そんなことを知る由もなく、夜は明けていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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captionem Die beste Kreatur

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

夜が明け、日が昇ってまだ間が立っていない時に

一同は出発の前にある程度の体力をつけておくために

 

朝食を取っておくことになった

 

「…それじゃあ、食事を取ってしばらくしたら

 さっそくオルクス大迷宮に向かうぞ、それまでにしっかり喰っておけ?

 

 ただし、腹八分目にしておけよ、満腹になったら最悪動けなくなるからな」

 

そう言ってクラスメートたちや騎士団の面々に

行き渡る様にしっかりとお膳が運ばれていった

 

ハジメの方にも、もちろん運ばれている

ちなみにこれはお情けではない、彼の事情は

王城の関係者以外に知る由もない事であるため

 

確かにこの宿は王族の関係者が利用しているものだが

宿の関係者は王城関係者ではない一般人であるために事情は知らない

 

故に王城関係者から支給された朝食も他の者と変わらぬ量と見栄えである

 

「‥‥しっかり食べておいた方がいいわよ…?

 

 今までの訓練よりも厳しいものになっていくだろうから…」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女はそう言って隣に座っている少年に話しかけていく

 

「…うん、それじゃあ…いただきます」

 

渚沙にすすめられて、ハジメは恐る恐る食事を口にする

 

向こうの世界でも、食事を満足に与えられず

食費も与えられないせいで買ってくることもできない

 

この世界に来てからは王室の方では

他のクラスメートはそれなりに豪勢な食事だったが

 

ハジメの方は他のクラスメートに比べて見ても分かるほどに

質素なうえにで量も殆どいっても過言ではないほどに少なく

 

ハッキリ言って育ち盛りの男子生徒にしては物足りないもの

 

晩餐会の時に出た食事において久しぶりに感じた美味しいという感覚である

 

故に、彼からしてみれば久しぶりに食べるまともな食事である

 

彼は恐る恐る、用意された食事を口にしてみる

 

「っ!」

 

彼は口の中に広がるその感触に

思わず声をあげてしまいそうになるが

久しぶりに感じたそれにすっかり魅了されたハジメは

更に用意された食事を口に運んでいき、お代わりも頼み

 

やがて、食欲のままに用意されてきた食事を口にしていく

果たしてどのくらいの時がたったのかわからないがそれなりに多く食べたくらいに

 

「おい、坊主!?

 

 もうその辺にしておけ、いくら何でも食べすぎだぞ!?」

 

「っ!?」

 

メルド団長に声を掛けられてハッと現実に引き戻された

 

ハジメは改めて、回りの方を見ていく

自分の周りに異様に積み上げられたお皿

 

驚いたように自分の方を見ているクラスメートと騎士団の面々

 

ハジメはそれにも驚いていたが、一番驚いていたのは自分自身

 

クラスメートや騎士団が呆然と

するほどの量を自分でも気が付かずに食べていた

 

何故気が付かなかったのか、その理由は単純である

 

まだ、お腹が減っているから

 

「とにかくもう、食事は終わりだ

 急いで訓練の方に向かうから準備をしておけ」

 

メルドはそう言って半ば強引ながら食事を終わらせていく

 

檜山達に暴行を受けた時に起こった謎の現象に

今回のハジメの異様なまでの食欲、渚沙は次々と

彼の身に起こっている異変に首を傾げていったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

オルクス大迷宮

 

全百階層からなると言われている大迷宮

 

この迷宮は魔物が溢れて行き

さらに階層が深くなっていくにつれて

現れていく魔物がより強力になっていくとされている

 

故にこの迷宮は冒険者や傭兵、新兵の訓練にとても適しており

実戦訓練にここが選ばれたのも段階を踏んで、訓練を行いやすいと言う事もある

 

故にハジメたちは訓練のみでは

得られない実戦経験をここで担って行こうと試みていく事になった

 

クラスメートたちはそれぞれが持っているプレートを受付に渡していくのだが

 

「…坊主、お前はステータスプレートがないからな

 俺が話をつけておくから、ここで待っていてくれ」

 

メルド・ロギンス

 

 

彼はそう言って、少年に話しかけて

受け付けの方に話を付けて言って行く

 

こうして一人取り残された少年

 

「…魔物がでてくる迷宮だって言うから

 もうちょっと重みのある雰囲気だって思ってたんだけど…」

 

そう言って迷宮の入り口を改めて見渡していくのは

 

南雲 ハジメ

 

 

彼の目に映ったそこに映っているのは博物館を

思わせる入場ゲートに冒険者たちなどに対応する受付

 

更にその付近には露店や出店などが所狭しと並び立っている

 

まるでお祭りのようだと彼は思った

 

「…いろんなお店があるな…

 

 どのお店にあるのも本当に美味しそうだ…」

 

ハジメは鼻腔をくすぐる香しい香りに何故だか惹かれている

朝の異変のとき以来、いまだに収まらぬ飢えのせいでどうしても

その匂いに引き寄せられていってしまうような感覚に陥ってしまう

 

すると

 

「南雲君!」

 

「っ!?」

 

急に手を引かれて意識を現実に引き戻されて行くハジメ

その手を引いた相手は、ハジメが今一番に信頼している人物

 

「東雲さん…」

 

「‥‥まったく、朝あんなに周りが引くくらいに

 たくさん食べたのに、まだ食べるつもりなの?

 

 あなたってそんなに大食いだったっけ?」

 

渚沙は呆れながらハジメに待っているように言うと

露店の方に行っていくつか食べ物を買ってくると、それを

ハジメの方に渡してやる、するとハジメの表情が傍から見ても

分かるほどに、明るく変わっているのが分かり、渚沙は呆れた表情を浮かべる

 

「今回はそれだけね、その代わり

 訓練から戻ってきてもまだお腹が減ってるようなら帰りにも買ってあげるから」

 

「わあ…ありがとう、東雲さん!

 

 それじゃあ、いただきます!!」

 

そう言って渚沙が買って来てくれたものを無我夢中で食べていく

 

「‥‥そんなにお腹減ってたんだ…」

 

それを見ていた渚沙ももはや呆れた様子を隠しきれていないが

それでもしようがないなと受け流せるくらいではある、すると

 

「本当によく食べるんだね、南雲さんって…

 

 やっぱり男の子は食べ盛りの方が生き生きしてるね」

 

そう言って話しかけてくる一人の女子

 

北浦 纏

 

 

渚沙とは小中高と一緒であり、同じく七大天使に数えられている

 

「…あれ?

 

 貴方は確か、北浦さん?

 

 ひょっとして東雲さんに何か用事でも?」

 

「う~ん、ちょっと違うかな?

 

 用事があるのは南雲君の方だよ?」

 

纏はそう言って、ハジメに微笑みながら話しかけていく

 

「え…僕に用事って…

 

 そもそも、僕と北浦さんってそんなに話したことなんて…」

 

「フフフフ、だって渚沙ちゃんが気にかけてる男の子なんだもん

 

 私としても、どうしてもきになっちゃうんだよね~」

 

「‥‥ちょっと、纏…」

 

そう言って纏は渚沙に意味深な視線を向けて

渚沙も物静かながらも困惑した様子を見せていく

 

「それに、南雲さんのお怪我もまだ完治していないでしょ?

 

 それだったら南雲さんの傍に控えていれば問題はないでしょ?

 

「そう言えば、北浦さんの天職って?」

 

「棒術師です

 

 これでも昔は槍を習ってたんですよ?」

 

そう言って自分の持っている

槍型のアーティファクトをくるりと回転させる

 

「渚沙ちゃんもおんなじ所で習っててね

 

 そのよしみで知り合ったの、不愛想で

 周りに誤解されやすいところがあったから

 昔は私が良く、お世話を焼いていたんだけれど…」

 

「‥‥纏…

 

 それ以上言ったら、叩くよ…」

 

「ええ!?

 

 照れ隠しにもほどがあるよ渚沙ちゃん」

 

渚沙と纏のそんなやり取りに

微笑ましそうに渚沙に買ってもらった

出店で売られていた食事を口に運んでいくハジメ

 

すると

 

「おはよう、ハジメ君」

 

白崎 香織

 

 

彼女が不意に話しかけてきた

 

「あ、白崎さん

 

 他のみんなのところに行かなくていいの?」

 

「フフフフ、せっかくだし

 南雲君に挨拶しておこうと思ってね」

 

そう言ってニコニコと嬉しそうに話しかけていく香織

 

そんな香織の元にやってくる三人の女子生徒

 

「香織、挨拶もいいけれども

 プレートの方も受け取ってよね…

 

 もう確認し終わったから

 それぞれが取りに来てくれって言ってたわよ…」

 

そう言って香織に話しかけるのは

 

八重樫 雫

 

 

香織とは親友で彼女の手綱を引いている少女だ

 

「なんだか昔の香織に戻ってきたみたいで安心したわ…

 

 しっかり南雲君とは話を下みたいね…」

 

南野 姫奈

 

 

「ウフフフフフ…

 

 香織ちゃん、本当にうれしそう

 やっと王子様と仲直り出来立って感じかな?」

 

西宮 風香

 

 

この三人と白崎 香織は同じチームである

 

「ち、ちちちちちょっと待って風香ちゃん!

 

 王子様って、た、確かにハジメ君は優しくて強い人だから

 出来ればそういう仲になれればいいなとは思ってはいるけれど…

 

 いざそうやって言われると、その…」

 

香織はしどろもどろになって早口で話しをしていく

 

「やれやれ…っ!?」

 

ハジメは急に何かの感覚を覚える

 

自分に向かっておぞましいほどの

憎悪をを込めた視線を感じ、その方向を見る

 

「(…今の視線は一体…

 

  いやそれよりもさっきの感覚…

 

  人の悪意だけじゃなく

  色んなものが感じられたような…)」

 

ハジメは二つのことが気になっていた

先程感じた悪意を秘めた視線、そしてその際に感じた感覚

 

まるで感覚その物を薄い膜のようにして

広げて伸ばしていったようなそれがどうにも気になったが

 

メルド団長が訓練を始めると呼びかけていったので

ひとまずその疑問に関しての事は保留にすることにしたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そんなこともありながら

オルクス大迷宮に入っていくことになる一同

 

だが、唯一魔法が使えないというより

何故か周りの魔力を阻害させてしまうハジメだが

その範囲は狭いのが救いなので、一同からなるべく

距離を開けていきながら、面々の後をついていく事になり

 

一部の魔法よりも単純な武勇に秀でた騎士団員と

フォローを申し出た渚沙と纏とともに迷宮の中に入っていく

 

「頑張りましょうね」

 

「うん」

 

纏は元気づけるようにハジメに声をかけていき

ハジメもそれにやや不器用ながらも笑顔をつくって返事をしていく

 

やがて暫く歩いていると前の方からメルド団長の声が響いていく

 

「よし、まずは光輝たちが前に出ろ、他はいったん下がれ!

 

 これから交代に出て相手をしてもらうから、準備をしておけ!!」

 

そう言って光輝たちがそれぞれ攻撃を仕掛けていくのだが

どうやら優れたステータスを持っている一同には一階層の敵は

弱すぎるようであり、メルド団長は苦笑いを浮かべつつ声をかけていく

 

「お前たちに一階層の魔物は弱すぎるな…

 

 まあ、今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭においておけよ

 

 明らかに、これはやりすぎだ…」

 

そう言ってボロボロになった魔物の死体をもって注意していく

 

メルド団長の言っている魔石とは、言うならば魔物を魔物たらしめる力の核で

強力な魔物であるほどより良質で大きな魔石を備えており、さらにこの魔石は

魔法陣を作成するための材料にもなり、それなりに値を張ることもあるのである

 

魔法陣はただ描くだけでも発動するが、魔石を粉末状にし、刻み込んだり

塗料として使うなりした場合と比較すると、何とその効果は三分の一にまで減退する

 

要するに普通に書くより魔石を使った魔法陣の力は単純水準でその差は三倍になると言う事だ

 

他にも日常生活用の魔法具には魔石が原動力として使われているため

軍関係だけでなく、普通に暮らしているときにも必要な大変需要の高い品なのである

 

「とまあ…こんな感じで交代に前に出て戦ってもらう

 

 お前たちの戦い方を一通り見て行けそうなら

 今日は二十回層を目指す、まあいつかは65階層を越えてもらうぞ?

 

 歴代最高記録だ」

 

メルドがそう言って一同にそう呼びかけていく

ハジメはなんだか先が思いやられそうだと肩を落としている

 

こうして、階層を進んでいき順調にクラスメイト達は魔物をせん滅していく

 

当然、彼女たちの方も

 

「うむ、雫が前線に出て姫奈と風香が

 それぞれ前方と後方のサポートに回り

 香織がフォローに回っていく、なかなかいい連携だ

 

 ただ、香織…もう少し魔力は温存した方がいい

 使いすぎると余計につかれていって、最悪動けなくなるからな‥‥」

 

一人だけ注意されて少し落ち込み気味になる香織

 

そして、いよいよ纏と渚沙の番になった

 

彼女達の目の前には狼型の魔物の群れが二人を睨みつけていた

 

「‥‥それじゃあ、段取りはわかるわね?」

 

「うん、それじゃあ私が行かせて貰うから」

 

そう言って槍型のアーティファクトを

ぶんぶんと振り回していき、大きく振りかざしていく

 

「炎よ、我の声を聞きて我の力となれ、炎付!」

 

纏がそう言うと彼女が持つ槍のアーティファクトに

炎が勢いよく纏われて行き、それが彼女が攻撃として

ふるって行くと同時に、それらが狼たちに勢いよく放たれる

 

「可哀そうな狼さん、許してくださいね…」

 

纏はそう言って狼たちの頭部を粉砕してとどめを刺す

うごかなくなった狼の死骸から魔石を取り出していく

 

「‥‥纏、すごいと言っておくけれど

 

 敵の方はまだたくさんいるからね!

 

 錬成!!」

 

渚沙がそう言って地面に手を付けると地面が変形し

それによって生じた穴に狼たちははまり込んでしまい

 

そこに渚沙が武器である槍を突き刺していき、とどめを刺していく

 

「ほう…中々に面白い使い方だな

 

 錬成を使って確実に動きを封じ

 余計な体力を使うことなく敵を確実に倒す

 

 実に合理的かつ、自分の短所を補っているな‥‥

 

メルドは素直に、渚沙の合理的だがそれでも

自分の能力の使い方の工夫の仕方を上手く利用した彼女の戦い方を称賛する

 

「すごいね、渚沙ちゃん!

 

 錬成師としての能力をここまでうまく使いこなすなんて…」

 

「‥‥はあ…与えられたカードが決まっている以上

 それで勝負するしかないのよ、私もみんなもただね…」

 

そう言って武器である槍を

肩において、やるせない様子を見せていく渚沙

 

「うむ…それで次は、南雲の坊主なんだが‥‥」

 

そう言って順番で行くなら次である

ハジメの方に不安そうに目を向ける

 

「…取り繕う必要…ないですからね……」

 

少々、上の空気味に言って行くハジメ

 

ハッキリ言ってどうしようもないのだ

なにぶん彼は、檜山達から受けた傷が感知しきれておらず

 

さらには朝から続いている

謎の空腹感と飢餓感のせいで一同についていくのがやっとの状態なのであった

 

騎士団の面々もハジメ自身も、はっきり言って不安しか抱いていない

 

「(…それで、僕の相手は…)」

 

ハジメが相手をするのはさっきまで

渚沙たちが戦っていたのと同じ狼型の魔物だ

 

狼型の魔物はうなり声をあげてハジメの方を見ていく

 

「一応弱らせておくか‥‥

 

 坊主には、身を護れるくらいには

 なってもらわないといけないからな‥‥」

 

そう言って剣を構えようとしていくメルドだが

それよりも早く、狼型の魔物が素早い動きを見せていく

 

「っ!?

 

 しまった!?

 

 身体強化の固有魔法か!?」

 

何と目の前にいた狼型の魔物は

身体強化系の固有魔法の使い手であった

 

メルドはあわてて対処しようとするが

その前に狼型の魔物はハジメに襲いかかっていく

 

「‥‥いけない!」

 

「南雲君!」

 

渚沙はそれを見て慌て、香織が悲痛な叫びをあげていく

しかし、そんなものおかまいなしに魔物は素早くハジメに襲いかからんとした

 

すると、ハジメは不意に騎士団より預けられた剣を構えていき

それで勢いよく向かってきた狼型の魔物の上顎と下顎を分けるように切り裂いた

 

これには渚沙や香織、他のクラスメートはもちろん、騎士団の面々も驚いていた

 

ただ、驚いているのはハジメの方である

だがそれは自分が魔物を倒せたことではなく

いいや正確にはそれに加えて別の事も含まれている

 

「(…あれ…?)」

 

それは、ハジメの身体に起こっている謎の異変に関する事

それを踏まえてハジメは、それに関してある仮説を立てていく

 

「坊主、大丈夫か!?」

 

すると、メルドが慌ててハジメの元に駆け寄っていく

 

「…はい…大丈夫です……?」

 

ハジメは不意に自分のお腹に手を当てていく

メルドはそれを見て、また何か異変でもあったのかと考える

 

「坊主、また何か体に異常でもあるのか?」

 

「…いいえ、異常というかなんというか…

 

 メルド団長、我儘を言うようで

 申し訳ないのですが一つ頼みごとをしてもいいでしょうか?

 

 すこし、確かめてみたいことがあるんです」

 

「確かめてみたいこと‥‥?」

 

すると、ハジメはメルドに有る頼みごとをする

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメがメルドにお願いしたことは

次に魔物の群れが現れたときは自分にやらせてほしいというもの

 

メルド団長は最初は渋ったが、彼なりに何か考えが

あるのだと思い、万が一に備えて騎士団が後方につけるという条件で了承する

 

騎士団の方も万が一の事態に備えて

いつでも、戦闘を行えるように武器を手に取っている

 

殆どのクラスメイト達は‘目立ちたくて出しゃばってるだけだろ’と

嘲笑的な表情を浮かべている、渚沙たちや一部の者は心配そうな様子で見ていた

 

だが、そんな表情などすぐに引っ込んでいってしまった

 

なぜなら目の前には先ほどハジメが真っ二つにしたのと

同じくらいの狼の魔物たちが、まるで仲間の仇を取ると

言わんばかりに始めの方を睨みつけて集まってきていた

 

「坊主、無茶はするな!

 

 危ないと思ったらすぐに引き返せ!!」

 

メルドはハジメにそう呼びかけるが、ハジメはそれに対して

特に何の反応も示すことなく、自身に支給された剣をゆっくりと構えていく

 

「‥‥…」

 

「南雲君…」

 

渚沙は表情こそいつも通りだが、ハジメの方から目を背けていない

香織の方も一人前に出ているハジメの方を心配そうに見つめている

 

しかし、そんな彼女たちの心配をよそに戦闘は突然始まった

 

見えている分の狼型の魔物たちが

一斉にハジメに向かって襲い掛かっていく

 

ハジメは支給された剣を構えると、何と

常人とは思えない素早い動きを見せていく

何と、襲い来る狼たちを切り裂いていった

 

「(何だあの動き…あれはもしや、さっき坊主が討伐した魔物の固有魔法!?)」

 

メルドはそう言って、先程のハジメのすばやい動きは

さっきハジメが討伐していった、魔物の使った固有魔法と同じように感じた

 

すると、最初の方こそぎこちなかったハジメの動きは

魔物を一匹倒していくごとにキレが上がっていくように感じていた

 

「(…すごい…魔物を倒していくたびに

  空腹感がなくなって言ってる…それだけじゃない…

 

  倒していけばいくほど怪我による痛みもひいて

  動きが自分でも信じられないくらいに軽く動いてる…

 

  しかも、身体だけじゃなく…感覚の方も研ぎ澄まされて行っているみたいだ…)」

 

やがて奥の方に控えていた、他の狼たちの群れも一斉に押しかかっていくが

ハジメはそれらがやってくるのが分かっていたかのように、次々と魔物を討伐する

 

ハジメが次々と向かってくる敵を剣一本だけで倒していくその姿を

渚沙はなぜか、向かってくる得物を次々と食らって行く捕食者のように映っていった

 

やがて最後の一匹を地面に勢いよくたたきつけ

その頭部に容赦なく剣を突き立てたことによって、無事にハジメの戦いは終わった

 

「……」

 

しばらくその場に立ち尽くしていたハジメだったが

やがて、線が切れたようにその場にあおむけで倒れこんだ

 

「「南雲君(さん!)!」」

 

纏と香織が慌てて倒れたハジメの元へと駆け付けていき

渚沙も二人のように声には出していないが、心配そうな表情を浮べ

一緒に駆け寄っていき、メルド団長たちも続いて駆け寄っていった

 

「南雲君、大丈夫!?」

 

「…うん、大丈夫…

 

 ちょっと力が入りすぎちゃってね…」

 

心配そうに倒れた自分のことを覗き込んでくる香織に

心配を掛けまいと乾いた笑いをあげながら話しかけていく

 

「まったく…今回は大目に見てやるがあまり無茶なことはするなよ、坊主‥‥

 

 あれほどの群れなんて普通に考えれば命を落としてもおかしくないんだからな」

 

「メルド団長も僕の頼みを聞いていただいてありがとうございます

 

 おかげで僕の中の仮説が一つ実証されましたから…」

 

ハジメは一息つくと、少し怠そうに体を起こしていく

 

「それと、みんなもごめんね…

 

 いろいろ心配かけちゃったみたいで」

 

「‥‥まったくよ、急に倒れるものだから

 てっきり魔物の一撃を受けて怪我でもしたのかと…」

 

「そうだよ南雲君!

 

 南雲君には何でか治癒が施せないんだから

 怪我をしたら、本当に治せないんだからね!!

 

 もう二度と、こんなあぶない事したら駄目だよ!!!」

 

渚沙の口ぶりは冷静ながらも

ハジメのことを心配していたのが感じ取れ

 

香織は涙を浮かべながらハジメに叱りつけるように言う

 

昨日の夜の夢のこともあって

人一倍ハジメへの心配が過剰になっているのだ

 

「う…うん…

 

 ごめん、でもちょっと確かめておきたかったんだよ…

 

 僕の身体に起こっている異変のことについて、ね…」

 

「異変って、朝から感じている飢餓感の事?

 

 それがさっきの戦いとどう結びついていくの?」

 

「そう言えば、坊主…確かめたい事があると言っていたな‥‥?

 

 それと何か関係があるのか?」

 

「…きっかけはさっき、僕に襲いかかった狼型の魔物を

 僕が倒した時に、ほんの少しだけ自分の身体に感じていた

 飢餓感に違和感を覚えたんです、ほんの少しだけれどそれが埋まったように…

 

 そして、今回メルド団長に頼んで

 魔物の群れの相手をさせてもらった時に確証したんです…

 

 僕のこの飢餓感は、魔物を倒すことで満たされていくんだって…」

 

ハジメがそう言って自分のみに起こった異変の変化

魔物との戦いにおいて得た確証を、メルドに説明していく

 

「魔物を倒したことで飢餓感がなくなった?」

 

「それだけではありません、魔物を倒していくたびに

 倒していった魔物の力が僕の中に流れ込んでいくような感じがして…

 

 それだけじゃなくって、どうやら治癒効果もあるみたいで

 この通り体のけがも、痛みの感覚もなくなりました、しかも

 ぼく自身の感覚の方も研ぎ澄まされて行っている様な気がして…

 

 魔物の場所が見えて、魔物の声や音が聞こえて

 魔物の匂いが辿れて、魔物が何処から攻めてくるのか感じられたんです…

 

 闘えば戦うほどに、感覚が研ぎ澄まされて行くように感じられました…」

 

初めからそう言われてメルドは

しばらくふむと顎に手を添えていく

 

「まあ何はともあれ、怪我による問題が

 解決したのなら、よかったに越したことは無いな‥‥

 

 それでは、この訓練の間に坊主のその力の扱い方を極めるように励んでくれ

 

 上手く扱うことが出来れば、戦力としても申し分ないものになるだろうからな

 

 そうすれば教会もお前を戦力として認めて処遇をを改めてくれるかもしれんぞ!」

 

メルド団長は頑張れよと声をかけて、ハジメの肩を強めに叩く

 

ハジメはけがを負っていると言う事が

抜け落ちていたメルド団長はすぐ慌てて謝罪したが

 

「…力の扱い方、か…

 

 いったい僕のこの力は…何なんだろうか…」

 

ハジメは自分の身に起こっている異変と先程の力

其れが一体何なのかが分からずに悶々としているのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「ようし、これで全員終わったな

 

 それではここでいったん休憩にしよう

 ちゃんと魔力回復薬を忘れずに飲んでおけよ

 いよいよ次の階層が20階層だ、そこをクリアしたら

 今日の訓練は終了だ、最後まで気を抜かずに行くようにな」

 

メルド団長の呼びかけに一同はふうと座り込んで

言われた通り魔力回復薬を飲んで一息ついていく

 

クラスメイトは大半は一息入れたり

仲の良いもの達で会話をして言ったりとそれなりに過ごしている

 

一方のハジメの方は他のクラスメートから距離を取った場所で

ひと息ついてその場に座り込み込んだ後に、支給された水を飲んでいた

 

「お疲れ様です、南雲さん」

 

そんな彼に近寄って、声をかけていく二人の女子生徒

 

「お疲れ様、二人共…

 

 それにしてもまさか戦闘では役に立たないって言われてた

 錬成のスキルをあんなふうに工夫して使って行くなんてね

 

 メルド団長が東雲さんの事、そうほめてたよ?」

 

「‥‥私はただ、用意されたカードを使っただけ…

 

 それを言うんだったら、貴方の方だって

 メルド団長があんなにも称賛していたじゃない…

 

 勇者よりも化けるかもしれないって言ってたでしょ…?」

 

「…まあ、それに加えて課題も入れられたけどね…

 

 確かに僕のこの力は傍から見ればすごいのかもしれない…

 

 でも、何だかその分妙な感覚に陥っている様な気がするの…

 

 何というか…外側から何かが見ている様な感覚が…」

 

「外側から、何かが見ている?

 

 それってどういう事でしょう…?」

 

うーん、と考え込む纏、しかし

 

「‥‥それを考えるのは後にしましょう

 

 今やるべきなのは、最後の階層を無事に乗り切る事…

 

 南雲君のその疑問は今は無事に戻ってから考えましょう」

 

「渚沙ちゃん‥‥確かにそうだけど、バッサリしすぎだよ…」

 

「…でも確かにそうだ…

 

 それに、今日を乗り切っても

 それで終わりじゃない、メルド団長が言っていたように

 

 いつかは歴代最高到達点である65階層、ううん

 最下層である100階層にも行ってもらう事になるかも…

 

 だったら、東雲さんの言う通り、今日を乗り切る事だけでも考えよう…

 

 しっかり気合を入れていかないとね」

 

そう言ってふうと漏らす様に息を吐いて気合を入れなおしていくハジメ

 

そう言って目線を前の方に向けていくと

不意に目の前で偶然に香織と目が合った

 

彼女はハジメの方に向かって

嬉しそうに微笑みながら手を振っている

 

ハジメはそれに対して、やや悩んだ様子を見せていくが

今まで突き放してきた分、放って置くわけにもいかないので

回りからは悟られない程度に会釈をして、改めて向きなおっていく

 

「フフフフ…」

 

ハジメが自分に気づいてくれていたことが

嬉しかったのか、想わず嬉しい笑いを漏らしていく香織

当然その様子に他の面々は気づいているものがいるわけで

 

「か~おり、何嬉しそうな顔を浮かべてるのよ?

 

 ひょっとして南雲君に見詰められでもしたのかしら?」

 

雫はからかうような口調でそう言って香織に微笑みかける

 

「もう、何なの雫ちゃん!

 

 私はただ、南雲君がこっちを見てくれたから手を振っただけで…」

 

「はいはい、その反応で分かるわよ…

 

 まったく、こんなどこで魔物が襲いかかって来るのか

 分からないような場所で、ラブコメってるなんて随分と余裕じゃない」

 

「しょうがないよ、一昨日南雲君と仲直りしたんだもん

 

 香織ちゃん、その時のことを

 嬉しそうに雫ちゃんに話してたらしいしね」

 

「そうね、長々と聞かされて大変だったわよ?」

 

香織は顔を赤くして反論するが

さらにそこに姫奈と風香も雫に加わっていったために

 

とうとう香織は、もう、と頬を膨らませて拗ねてしまった

 

そんな様子を呆れた様子で見つめているハジメ

 

「‥‥あれから随分と白崎さんに気にかけられているみたいね…」

 

「そうだね」

 

渚沙はその様子に表情ではわかりにくいが

香織たち四人の様子を面白くなさそうに見つめている

 

「‥‥ねえ、やっぱり渚沙ちゃん…

 

 南雲さんのことが気になってるの?」

 

纏もどこか気になる様子で渚沙に聞いていくと

 

「‥‥別にこのぐらい、普通よ…」

 

「あらららら、拗ねちゃった…」

 

渚沙の突き放すような言い方にやっちゃったと言った

感じながらもどこか笑っている様子で呟く纏であった

 

そんな様子にどこか気まずさを覚えて

苦笑いを浮かべていたハジメは、その時

 

「っ!?」

 

ハジメは不意に何か、重く嫌な感じの気配を感じ

慌てて回りを見回していくと、その気配は霧散していくように消えてしまう

 

「‥‥どうしたの?」

 

「…ううん、なんでもないよ」

 

「そっか‥‥でも何かあったときは遠慮なくいってくださいね…

 

 私たちが南雲さんのサポートをするって決めてるんですから…」

 

そう言って優しい笑顔を浮かべていく纏

 

「そうだね…それじゃあそろそろ休憩も終わるし…

 

 気合を入れていかない…と…ね……?」

 

ハジメはそう言って準備を進めていこうとすると

何故か倦怠感を覚え、思わず壁の方に手をついてしまう

 

「どうかしました?」

 

纏はそんな彼の様子を見て心配そうに声をかける

ハジメは大丈夫だよと声を掛けようとするが、なぜか喋れない

 

いいや、正確には声を掛けようとしても倦怠感がでるのだ

 

「(…何だこれ…異様に体がだるいような……

 

  身体を動かさないといけないのに、動かすことが出来ない…

 

  というより…動かすのが…怠い……)」

 

身体を動かすのが嫌になるほど猛烈な謎の倦怠感のせいで

思うように体を動かしにくくなってしまうハジメを見て、纏と渚沙

二人は嫌な予感を覚え、慌てて怠そうにするハジメの方に駆け寄っていく

 

「‥‥大丈夫…?」

 

「……」

 

渚沙が声をかけてくるも、そのかなりの倦怠感に

口を開いて簡単な受けごたえをすることもままならない

 

自分の事を心配してきてくれた二人の気づかいを感じながらも

とにかく今はさっき渚沙が言ってくれていたように次の階層が最後なのだ

 

これを乗り切って、還ったらゆっくり休もうと

どうにか自分の中にある力を振り絞り、最後の階層に挑んでいくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ついに今回の最終到達地点である二十階層に到達する一同

 

そこは鍾乳洞のようであり

辺りには氷柱のように飛びだした壁や

溶けたように地形が変形していて、とても

複雑な地形をしており、動きにくい地形であった

 

ハジメも纏と渚沙のフォローもあってどうにか進めているが

先程からなぜか感じている謎の倦怠感のせいで判断力が鈍っている

 

「‥‥南雲君、体の調子はどう?」

 

「…うん…」

 

「少し心配ですね…

 

 メルド団長に言って少し休ませていただくのは?」

 

先の階層の時から続いている謎の倦怠感のせいで

思うような受けごたえができず、二人への返事の方も

だんだんとそっけなくなってきている、それほどにひどくなっているのだ

 

実のところを言うと朝のころから倦怠感自体は感じていたのだ

 

ただ、最初のころは空腹感と飢餓感の方が勝っていたため

それによってどうにか抑えられていたのだが、それが解決すると

抑え込んでいた分、怠さが一気に押し寄せていき、今の状態になったという訳だ

 

ハジメは必死にそのあふれ出てくる倦怠感を抑えながら一同の後についていく

 

すると、前の方からメルドの声が響く

 

「周りをよく見ておけ、擬態しているぞ!」

 

すると、前方でせり出していた壁が突如として動き出し形も色も変わる

二本足で立ちあがると、ゴリラのようになって勢いよくドラミングしていく

 

「ロックマウントだ、怪力だから奴の腕には捕まるなよ!」

 

メルド団長の声が響いていき

光輝たちが前に出て相手を線としていく

ロックマウントが繰り出す一撃を龍太郎が

はじいていき、そこを光輝が後ろを取らんとする

 

しかし、鍾乳洞的な複雑な地形のせいで思う様に動けない

 

ロックマウントの方は簡単に突破できないと感じたのか

後ろの方にさがって体を仰け反らせて息を大きく吸い込んでいく

 

すると

 

グゥガガガアアアアー!!!!!!!

 

「ぐっ!?」「うわっ!?」「きゃっ!?」

 

一同のいる方向に向かって

大きくその部屋を震わせるほどの咆哮をあびせていった

 

それもこれは、ただの咆哮ではない

 

これは固有魔法である威圧の咆哮

相手を一時的に麻痺させる魔力を込めた咆哮

 

メルド団長はレベルやそれなりに耐性を秘めていることも手伝い

すぐに復帰するものの、クラスメートの一部はそれを受けて動けなくなっている

 

その隙にそのロックマウントは

近くにあった岩の方にまでジャンプしていき

それをさながら砲丸投げのように投げつけていった

 

すると、その岩もまたロックマウントだったようで

投げ付けられた途中で擬態を解き後ろの方にいる人物達に

向かって襲い掛からんと、大きく手を広げていくのであった

 

そこにいたのは

 

「ひいっ!?」

 

「‥‥…!」

 

纏と渚沙の二人、その後ろには倦怠感に襲われているハジメもいた

 

さながら、渚沙すぅわん、纏ちゅわんと

言いながらダイブしていくようにも映ってしまう

 

そうなのかどうかは定かではないが、なぜか目が血走り鼻息が荒い

 

纏は表情を引きつらせて悲鳴を上げてひるんでしまい

 

渚沙は悲鳴こそ上げないが表情を引きつらせながらも

武器である槍を構えていき、向かってくるロックマウントに攻撃をしかけるが

 

「‥‥っ!?

 

 ええ!?」

 

ロックマウントはどうやってと

聞きたくなるような見事な一回転で

渚沙の槍による攻撃を巧みにかわし

そのまま後ろの方に飛んでいった

 

その先にはハジメがいた

 

ただでさえ倦怠感でまともな判断ができない状態だというのに

敵の特攻に対処など到底できるはずもない、そんな無防備な彼に

ロックマウントは容赦なく向かって行き、大きく腕を振り上げていく

 

「南雲君!」

 

「‥‥ちい!」

 

香織が悲鳴のように声をあげていき

渚沙の方も悔しそうに舌打ちしていく

 

ロックマウントの振り上げた腕が

ハジメに振るわれんとした、その時

 

Komm mir nicht zu(私に近づくな)!」

 

ロックマウントが突然、何かに吹きとばされたように

吹っ飛び、そのまま後ろの方にふっとばされて行った

 

ふっとばされたロックマウントはそのままふっとばされて

自身をふっとばしたロックマウントに激突して、そのまま

身動きが取れない状態になってもがくように体を動かしていく

 

「今のって‥‥詠唱?」

 

「‥‥南雲君!」

 

暫くぼうっと突っ立っているハジメに駆け寄っていく渚沙

 

「…あれ…今のって僕どうやって唱えて……?」

 

ハジメ自身もぱちくりさせていくと

自分の口元を信じられないと言ったように抑えていく

 

「‥‥南雲君、今のってどうやったの…?」

 

「…わかんない、何でかわからないけれど

 自然に言葉に出していて、どうやって発音したのかもわからなくって…」

 

自分自身でもよくわからないので説明にも困ってしまうハジメ

 

やがて、二体のロックマウントが体勢を立て直して再び向かって来ようとする

 

すると

 

「そうはさせない!

 

そう言って前に出てきたのは、剣を持った一人の男子生徒

 

天之河 光輝

 

 

彼は向かって行くロックマウントに向かって剣を構えると

光輝の魔力に反応して、剣が真っ白なオーラに包み込まれて行く

 

「万象羽ばたき、点へと至れ!

 

 天翔閃!」

 

やがて、光輝の放った一撃を受けて

ロックマウントは吹っ飛ばされていったのだった

 

「すごい、弱っていたとはいえ、あんなにも強い敵を倒すだなんて‥」

 

「さっすが、光輝君だね」

 

谷村 鈴

 

 

中村 恵里

 

 

好機と同じパーティーを組んでいる女子生徒の二人が彼を称賛する

 

「ふう…

 

 これで問題ない

 

 もう、大丈b…」

 

「この馬鹿者が!」

 

「…‥へぶぅ!?」

 

光輝が一同に安心させようと声を掛けようとすると

メルド団長にものすごい勢いで拳骨を食らわされてしまった

 

「こんな狭い場所であんな大技なんぞ放って洞窟が崩落したらどうする!?

 

 お前はこの場に居る全員を殺す気か!?」

 

「…‥うう、すいません…」

 

メルド団長からおしかりを受けて、ばつが悪そうにする光輝

 

それを見て、その場にいた者たち全員が苦笑いを浮かべている

 

「‥‥あれ?」

 

すると、光輝のド派手な技の威力のおかげで

崩れ落ちた壁の方から何かが光るものが映し出されて行く

 

「何だろうあれ‥‥キラキラしてる…」

 

香織が指さす方向にあったのは

青白く発光する鉱物が花開くように壁から生えていた

 

その美しさに香織を含めた女子たちは

夢見るようにその鉱石に見惚れていた

 

「ほう、あれはグランツ鉱石だな

 

 あれほどの大きさのものがこんな浅い階層で見つかるとは…」

 

メルド団長も、それを見て珍しそうに鉱石を見詰めている

 

「‥‥綺麗ね、香織…」

 

「‥‥ホント…」

 

雫にそう言われて

香織はちらりと想い人であるハジメの方を見る

 

それを見て、雫は微笑まし気に香織を見詰めていた

 

更に同じような反応を見せているのは雫だけではなく

 

「ねえねえ、渚沙ちゃん…

 

 グランツ鉱石ってプレゼントとしても人気があるんだよね?

 

 渚沙ちゃんはもしも、あの鉱石をプレゼントされたら、どう?」

 

纏はそう言って渚沙に笑みを浮かべながら話をしていく

 

「‥‥別にどうとも思わないわ…

 

 それに、別に私はあれを欲しいとも思わないし」

 

「どうして…?」

 

渚沙の予想通りだがどこか含みのある言い方に纏は聞いていく

 

「‥‥実は私ね、鉱物鑑定の派生技能を持っているの…

 

 これは、対象の鉱物に向けて使うと

 その鉱物の詳しい情報が開示される技能なの…

 

 それで試しにあのグランツ鉱石に向かって使ってみたんだけど…

 

 引っかからないのよ‥‥鉱物鑑定に…」

 

「それって‥‥どういう事…?」

 

渚沙の説明に纏はいまだに

理解が追い付かない様子を見せていく

 

「じゃあ、俺が取ってきてやるよ」

 

そう言って行くのは一人の男子生徒

 

檜山 大介

 

 

「檜山君…!?」

 

「白崎、アレが欲しいんだろ?

 

 俺がちゃちゃっと行って

 ちゃちゃっととってきてやるよ」

 

彼はそう言って、グランツ鉱石のあるところにまで登っていく

 

「‥‥っ!?

 

 ちょっと、戻ってきなさい!」

 

「何をやっている、勝手なことをするな!」

 

「大丈夫っすよ、俺こういうの得意なんで‥‥」

 

渚沙とメルドが檜山に呼び掛けるが

檜山は軽く受け流すだけで一切聞こうとも

せずに、グランツ鉱石の方にまで向かって行く

 

「出発前に言ったはずだぞ!

 

 迷宮内ではどんな罠があるのかが分からないと!!

 

「はいはい、わぁ~ってますよ‥‥

 

 ったくおっさんがうっせえな‥‥」

 

やがて、とうとうグランツ鉱石の元にまでたどり着く檜山

 

「おら、楽勝だっての!」

 

そう言って檜山がグランツ鉱石を掴んだ、その時

 

その場にいた部屋の足もとに魔法陣が大きく展開されて行く

 

「っ!?

 

 いかん、トラップだ!」

 

やがて、その場にいる全員の足もとに魔法陣が展開されると

やがてその魔法陣が勢いよく輝きを増していく、それはまるで

 

このトータスに転送されたときのことを彷彿とさせ

やがて一同は元居た場所から一斉にいなくなってしまったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

一同はやがて、別の場所にまで転移された

 

その場所は、巨大な石橋の上で長さはかなりあり

天井との距離の方もかなりある、橋の下には川はおろか

何も見えないほどに深く、真っ暗な深淵の闇が広がっている

 

橋の幅の方は大きいものの、その端には手すりは勿論

緑石と言ったものもない足でも滑らせるものならば一発アウトだろう

 

かろうじて視界に映っているのは、橋の両側に映っている階段

向こうの方には奥に続く道が、こちら側には上に上る階段が見えている

 

「ここは…‥どこだ…?」

 

転送されたクラスメイト達はきょろきょろと辺りを見渡していく

 

「雫ちゃん、大丈夫?」

 

「ええ‥‥それにしてもここは…?

 

 多分、迷宮の中に当たるんだろうけれども…」

 

香織たちの方も辺りの方を見渡していく

 

「香織、雫!

 

 二人共無事!?」

 

「姫奈、風香…

 

 ええ、私も香織も無事よ…

 

 とにかく、ここは急いで後ろにある階段の方n…」

 

「雫ちゃん、姫奈ちゃん!

 

 あれを見て!!」

 

「何…‥あれ…!?」

 

香織が指をさした方に現れたのは赤黒い不気味な色の魔法陣

 

それは橋の通路側に展開されて行く

通路側に展開された魔法陣はその大きさが

十メートルは有ろう大きさをもほこっており

 

魔法陣からドクンと波打つように

何度も光が放たれていくと、魔法陣が魔物を生み出していく

 

現れた魔物は十メートルの大きさを誇り

兜のような頭部から角を生やした、四足歩行の怪物

 

突如として現れたこの魔物に一同は唖然とした様子で感じていた

 

ーこれは、やばいー

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥魔法陣から魔物が…

 

 あの魔物は、一体何なの…」

 

「‥‥わからない…でも‥‥…

 

 ヤバい感じがする、特にあの通路側の方…」

 

一同の方から一歩離れている位置にいる

纏と渚沙は、冷静に状況を分析していた

 

纏と渚沙が手立てを考えていた、そのころ

 

橋の奥にいる巨大な魔物が大きくこちらに体を向ける

その場に居る全員がひしひしと恐怖を感じ、体を震わせている

 

「アラン、生徒達を誘導して撤退させろ‥‥

 

 カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ‥‥

 

 奴を絶対にここに通すな…

 

 光輝、お前たちは今すぐ階段の方に逃げろ‥‥」

 

「メルドさん、待って下さい!

 

 俺たちもたたk…」

 

「馬鹿野郎!

 

 良いから早く行け!!

 

 奴はおそらくベヒモス、65階層まで行った最強の冒険者でも

 歯が立たなかった化け物だぞ、奴は俺たちが引き受ける、だからお前たちは行け!!!」

 

メルドの怒気迫る言葉遣いに光輝は一瞬ひるむ

それでも踏みとどまろうとしていく光輝だったが

 

グルァァァァアアアア!!!!」

 

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」

 

目の前の巨大な魔物、ベヒモスが大きく方向をあげると

それをあびたクラスメートはパニックになっていき、慌てて逃げ始める

 

「っ!?

 

 みんな待って、目の前にも魔法陣が!」

 

雫が一同に呼びかける、彼女の言葉通り

目の前からも同じ色合いの魔法陣が展開されて行き

 

そこから今度は大量の別の魔物が現れていく

 

「が…骸骨の化け物が大量に…!?」

 

「こっちに向かってくるぞ」

 

それは、ベヒモスを呼び出した魔法陣よりも小さいが

数は膨大、するとその展開された魔法陣から剣を携えた

骸骨が一斉に襲い掛かってきたせいで、更にパニックに陥っていく

 

だがそれを、副団長のアランが一同に呼びかけていく

 

「みんなおちつけ、奴らはトラウムソルジャー

 

 38階層に出現する魔物だ!

 

 訓練を忘れずに向かって行けば勝てない相手じゃない!!

 

 だからみんな落ち着け!!!」

 

しかし、パニックに陥ってしまっているクラスメートには

そんなアランの呼びかけが聞こえている様子はなく、動きが大いに乱れていく

 

「きゃ!」

 

そのせいで一人の女子生徒が突き飛ばされてしまう

 

「優花!」「優花っち!」

 

二人の女子生徒が、その女子生徒に呼び掛けていく

 

やがて、その女子生徒にトラウムソルジャーが迫っていく

 

「あ…あああ…」

 

迫って来るトラウムソルジャーにおびえてしまうが

その目の前のトラウムソルジャーが突然、斜めにずれて崩れていく

 

「はあ…はあ…

 

 何とか間に合ったね…」

 

崩れ行くトラウムソルジャーの向こう側から

現れたのは、その女子生徒もよく知っている人物であった

 

「な…ぐも…?」

 

「…早く行って!

 

 仲のいい子達からでもいい

 とにかく、クラスメートに呼び掛けて!!

 

 このままだと全滅する、騎士団の皆さんのフォローをしてあげて!!!」

 

そう言ってその人物、南雲 ハジメはその女子生徒に呼び掛ける

 

「ちょっと待って!

 

 アンタはどうするのよ!?」

 

「…僕も出来る限りのことはするよ…

 

 さっきまでの体のだるさはなくなったしね…

 

 僕は僕にできることをやるだけ…

 

 だから、君も出来る限りのことをやって見て…園部さん…」

 

そう言ってハジメは自身が助けた女子生徒

 

園部 優花

 

 

彼女にそう言いきって見せる

 

「南雲…どうしてそこまで…?」

 

優花は思わずそんなことを聞いていく

 

「…う~ん…なんとなくかな?

 

 だって目の前で誰かが死んじゃうのって

 やっぱり気分悪い感じがするし、それにさ…」

 

「それに…?」

 

ハジメはさりげない様子で、言いきっていく

 

「それに園部さんは僕にとって、大切な友達だから…

 

 だから…助けたかったんだよ…」

 

「あ…」

 

ハジメの不意に浮かべた笑顔に、優花は思わず見惚れてしまう

 

「…それじゃあ、お願いね!」

 

そう言って優花に背中を向けて、向かって行こうとすると

 

「南雲!」

 

「え…?」

 

優花はハジメのことを呼び止めると

 

「…絶対に…絶対に戻ってきてよね……

 

 私も頑張るから…あんたも頑張んなさいよ…」

 

「…ありがとう…」

 

ハジメはそう言って笑みを浮かべながら

メルドたちが食い止めている方に急いで向かって行く

 

急いで向かって行くハジメの元に

二人の女子生徒が両側についていく

 

「フフフフ、ハジメさんって意外にいいこと言うんですね」

 

「…え?

 

 何でそうなっちゃうんですか?」

 

「‥‥それよりも、体の方は大丈夫なの?

 

 問題なく動けているようにも見えるけれど、無理してるとかじゃ…」

 

北浦 纏

 

 

東雲 渚沙

 

 

二人はそう言ってハジメの身体の調子を聞いていく

 

「…そんなことはないよ!

 

 それよりも急いでこの状況を打破しないといけないんだ!!

 

 そのためには、天之河君の力が必要だ!!!」

 

「‥‥そうね、でもあの天之河君が

 南雲君の言う事を聞いてくれるとは思えないけど…」

 

渚沙がそう言うとハジメもそうだよなぁと頭を抱える

 

「‥‥しょうがないわね…

 

 私が何とかするわ、はっきり言って

 気が進まないけれども、やらなきゃ

 それこそ、全滅してしまうだろうしね…」

 

「私も手伝うよ

 

 だって、私も南雲さんや渚沙ちゃんを

 助けてあげるんだって決めてるんですから」

 

そう言って二人はハジメのサポートに徹する事をきめる渚沙と纏

 

「…ありがとう…それじゃあ天之河君のことはお願い……

 

 あの化け物は、僕が引き受ける!」

 

三人はお互いに頷き合って行き、急ぎ戦いの場に向かって行く

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

一方

 

「はああああ!!!」

 

雫たちのグループも優花たちと同様に

一同に呼びかけていきつつ敵を倒していっている

 

しかし、いかんせん敵の数が多く対応しきれていない

 

「ぐう、倒しても倒してもきりがない…」

 

雫も自身の出せる力をすべて出しきって

トラウムソルジャーを倒していくのだが

倒していくペースよりも増えていくペースの方が

はるかに早く、雫の顔色に疲労が見え始めていく

 

「やああああ!!!」

 

すると、雫の後ろを狙って行った

トラウムソルジャーを姫奈が撃退していく

 

彼女がいなければ雫は後ろからの攻撃を受けていたであろう

 

「姫奈…」

 

「後ろの方にも気を付けなさい!

 

 しかし、これじゃあキリがないわ…

 

 せめて階段までの道のりさえ確保できれば…」

 

姫奈は剣のアーティファクトを振るって行くが

いかんせん、こちらの方も疲労が見え始めている

 

「私たちにもせめて、天之河君みたいな攻撃力があれば…」

 

「その光輝は一体何やってるのよ…」

 

「メルドさんのところよ…

 

 メルドさん達を見捨てていけないって…」

 

雫が光輝の様子を尋ねると、姫奈が呆れたように答えていく

 

「くう、光輝君のところに行こうと思っても…

 

 これじゃあ、それどころじゃないし…」

 

「‥‥っ!?」

 

風香は光輝を連れてくればいいと考えているが

いかんせん、四人はトラウムソルジャーの猛攻のせいで

そんな余裕はなく、ただひた擦れに向かって行く敵の相手をしていく

 

すると、香織の目にあるものが映った

 

それは

 

「ハジメ君!」

 

ハジメが渚沙と纏とともに光輝の元に向かって行く姿であった

 

「南雲!?

 

 アイツ一体何を…」

 

「まさか‥‥光輝を説得するつもりじゃ…」

 

雫はどうしてハジメが橋に

向かっているのかを考察し、推論を述べた

 

「南雲君!」

 

それを聞いた香織は

不安そうな表情でハジメの姿を見詰めていたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

一方で橋の方では騎士団とベヒモスの攻防戦がくり広げられていた

 

必死で障壁を張ってベヒモスの特攻を防いでいるが

とてもではないが長くはもちそうではない、メルドも

既に加わってこそいるが、もはや時間の問題であろう

 

「ぐう…とてもではないがもうもたん‥‥

 

 光輝、お前たちも早く撤退しろ!」

 

「嫌です!

 

 メルドさん達を置いていくわけには行かない!!

 

 絶対に…‥みんなで生き残るんです!!!」

 

「他人のことを心配している場合か!

 

 俺たちはお前たちを死なせるわけには行かんのだ!!」

 

光輝に必死に言い聞かせようとするが

納得せずにその場に残って武器をかまえていく光輝

 

すると

 

「光輝君!

 

 ここはメルドさんの言う通り、急いで引き上げよう!!」

 

そう言って光輝に撤退を進めていくのは

 

中村 恵里

 

 

光輝と同じパーティーメンバーの女子生徒だ

 

彼女は光輝に急いで引き上げようと提案するが

 

「何言ってるんだ、恵里!

 

 メルドさん達を見捨てろって言うのか!?」

 

「でも、ここに至って僕達には何にもできないよ!

 

 それに、メルドさん達だって死のうとしてるわけじゃないんだ

 このままここに居たらそれこそメルドさん達の足を引っ張っちゃう‥

 

 光輝君は自分のせいでメルドさん達を危険な目に合わせてもいいの!?」

 

「…‥それでも、それでも俺は…」

 

光輝は、恵里に言われて戸惑うが

それでもメルドを見捨てられないと踏みとどまる

 

すると

 

「‥‥しようがねえな、だったら俺も付き合うぜ

 

 光輝が頑固なのは今に始まったことじゃねえしな…‥」

 

そう言って光輝の幼馴染で親友である男子生徒

 

坂上 龍太郎

 

 

彼は考えなしにそう言って光輝の横についていく

 

「龍太郎…‥すまない…」

 

「何勝手なことをやってるの!

 

 もっと周りを見てから言ってよ!!」

 

「えりりん‥」

 

龍太郎の言葉にがぜんやる気になっていく光輝

そんな様子を見て苛立ちを隠せない状態で恵里が言う

 

そんな彼女を、心配そうに見つめるのは

一人の小柄なツインテールの女子生徒

 

谷口 鈴

 

 

だが、そうこうしているうちに障壁にひびが入り始めていく

 

「ぐう…仕方ない‥‥

 

 応戦準備に入るぞ、構えろ!」

 

そう言って武器を手に取りながら

障壁を破られた後の応戦準備を始めていく騎士団員

 

やがて、障壁が敗れてベヒモスが突入戦としていったその時

 

Technik ist lang, das Leben ist kurz(技術は長く、人生は短い)!」

 

その声とともに、ベヒモスに向かってものすごい衝撃が走り

更にふっとばされてひるんだ様子を見せていくベヒモスに追い打ちをかけるように

 

Tag der Wut(怒りの日)!」

 

ベヒモスに向かって何やらいくつもの光球が放たれていき

それがベヒモスの身体に何発も被弾し、その体に傷をつけた

 

「な、何だ今のは…!?」

 

驚愕する光輝たちの頭上を何かが素早く通り抜けていき

それはベヒモスの目の前に立つと同時にその正体に気が付いた

 

「南雲!?」

 

「な、南雲!?」

 

「南雲君!?」

 

「南雲‥‥君‥」

 

四人は驚いた様子で目の前にいる人物の名をつぶやいた

 

だが、彼自身は天之河たちの方を振り向くことはなく

目の前でボロボロになってしまっているベヒモスの方に目を向ける

 

「‥‥天之河君!

 

 今のうちに急いでみんなのところに戻って!!」

 

すると、そんな光輝の元に女子生徒が駆けつけていく

 

「東雲さん、北浦さん!?」

 

「早く戻って、このままだとみんな無事じゃすまなくなるよ!

 

「何を言ってるんだ、ここは俺たちが…」

 

「‥‥いい加減にしなさいよ!

 

 後ろを見て見なさいよ、クラスのみんながパニックに陥ってる!!

 

 みんなのことを纏められるリーダーがいないからよ!!!」

 

渚沙はそう言って光輝を階段の方に向かせて言う

 

「‥‥確かにみんなはこの世界にいる人たちよりは強いかもしれない…

 

 でも、逆に言えばみんなはそれだけでしかないの!

 

 あんたのように強いってわけじゃないの、あんた言ってたわよね

 俺が絶対にこの世界の人々を、みんなのことを護って見せるって…

 

 だったら、今がその時でしょうが!!」

 

「…‥東雲さん…」

 

渚沙に激しく言われて、何かを振り払うように首を横に振るう

 

「わかった‥‥しかし、(ベヒモス)はどうするんだ…!?

 

 行くにしても、放って置くわけには…」

 

「それについては大丈夫ですよ、だって今の彼は…

 

 みんなが言うような無能ではありませんから」

 

光輝がそう言うと、纏が目の前にいる人物の方に目を向けていく

 

そこにいたのは左手に剣を携えて

ベヒモスを睨みつけるように見つめているハジメがいた

 

「……」

 

ハジメは静かに一同の方に少しだけ顔を向ける

それを見た渚沙と纏はしんけんな表情で頷くと

 

ハジメの方も何も言わずに頷くと、ベヒモスの方に目を向ける

 

すると、ベヒモスがよろよろと立ち上がって

再び一同の方にへと襲い掛からんとしている

 

だが、先程受けた攻撃によってほぼ全身が傷だらけで

左側の目玉が飛び出していたり顎が外れかかっていたりとしている

 

「‥‥さっきの攻撃を受けて、あんなにもボロボロに‥

 

 光輝君の一撃だって傷一つもつけられていなかったのに‥」

 

恵里はベヒモスの状態を見て、驚愕の表情を浮べていた

 

ベヒモスは満身創痍の状態ながらもそれでも戦意を失っている様子はない

 

自分の目の前にいる、一人の人物の方に

眼玉が飛び出ていない方の右目を向ける

 

その人物は左手に剣を携え

右手にオーラのようなものを纏わせている

 

そして、その目は緑色に発行してベヒモスを睨みつけていた

 

「‥‥急いで戻りなさい!

 

 貴方達にはやるべきことがあるでしょ!!」

 

渚沙がそう言って光輝たちに呼び掛けていく

急いで他のクラスメートの元に向かって行った

 

「私たちも…」

 

「‥‥ええ…」

 

纏と渚沙もこの場をハジメの方に任せていき

クラスメートの方に向かって行く、メルド団長は

その場に残り、ともにベヒモスの方に構えていくのだが

 

「…メルド団長、貴方もクラスメイトのところに行ってください」

 

「何を言っている!

 

 お前さんを残して戻るなんて‥‥」

 

「天之河君が言ったところで結局彼頼みになってしまうだけ…

 

 ましてや碌な戦闘経験もない天之河君が

 戦いの場でうまく彼らを纏められると思いますか?」

 

ハジメはそう言って、メルドにも

クラスメートの元に行くように進めていく

 

「…それにあなたが言ったんですよ

 

 力というのはうまく扱うことが大事だって…

 

 まさに、今がその時なんだって!

 

 だから、速く行って!!」

 

「…行けるんだな‥‥?」

 

メルドはそう言って真剣な表情でハジメに尋ねていく

 

「…行きます」

 

ハジメはメルドの方には向かずにただ

目の前の(ベヒモス)の方を見ながらそう答えた

 

「…わかった、必ず助けてやる‥‥だから頼んだぞ…‥‥!」

 

そう言って騎士団の面々に声をかけていき

急ぎクラスメートの元に向かって行くメルド団長

 

「…さあてと…ああは言ったけれどぶっちゃけノープランなんだよな……」

 

そう言って、ひと息ついて改めて相手(ベヒモス)の方を見ていく

 

「まあ、戦える分にはやりようはある…

 

 今僕が使える全部の力を使ってこいつを足止めするだけだ!」

 

そう言って左手に剣を持ち、右手に何かを掲げる様な仕草をしていく

 

ベヒモスは顎が負傷しているのでさっきまでのような

ものすごい咆哮はあげられないものの、戦意の方は失ってはいない様子で

ハジメに向けて、眼球が飛び出ていない右目の方を鋭く睨みつけていった

 

「…まあ、やるって言った以上、出来る限りはやらせてもらうよ!」

 

ハジメの方もそんな睨みに圧せられることなくベヒモスに睨み返した

 

その瞳はまるで、何者であろうとも決して揺らぐことのない

そう思わせるほどの鋭く、強いものであるとかんじさせる

 

すると、ハジメの足もとに映し出されている影が

異様に動き、なにやら不気味な笑みを浮かべた目と口が浮かんだように見えた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

一方、クラスメートの方でも一進一退の攻防戦が続いていた

優花達や雫達などの一部の者が呼びかけてどうにか持ってはいるものの

 

それでも決定打が足らず、どうしてもあと一歩が踏み出せないでいた

 

「まずい‥‥このままだと押し切られる…」

 

雫はなれないながらも武器を振るって対応はしていくが

疲労が見え隠れしていって判断力が鈍ってきている、すると

 

「雫、あぶない!」

 

「え!?」

 

姫奈が呼びかけていくと、後の方からトラウムソルジャーが

剣を大きく振りかざして雫を斬りつけんとしていた、その時

 

「天翔閃!」

 

その声とともに純白の斬撃が、雫に襲いかからんとした

トラウムソルジャーのみならず、多くの敵をなぎ払って行った

 

そこに現れたのは

 

「光輝!」

 

「大丈夫かみんな、遅れてしまってすまない

 

 まだ動けるものは俺とともに来てくれ

 絶対に階段前を確保する、俺が必ず道を開いて見せる!」

 

光輝がそう一同に呼びかけると

クラスメートの表情に光がともっていく

 

段々と士気が上がっているのを感じられている

 

さらにそこに駆け付けてきたのは

 

「お前達、なにをやっている!

 

 これまで一体何の訓練を受けていたのだ!!」

 

メルド団長であった、彼の言源溢れる声を聴いて

不思議と安どの表情を浮かべてさらに士気が高まっていく

 

「メルドさん!」

 

「いいかお前たち、前衛組は光輝とともに階段前までの道を確保しろ

 魔法組は前衛組のサポートをしろ、死にたくなければ自分のやるべきことを果たせ!」

 

光輝のカリスマ性とメルド団長の威厳ある言葉に

クラスメート達は画期を取り戻していき、即座に行動を移していく

 

それぞれがそれぞれの役割をしっかりと果たしていき

ついに一丸となって行動していった結果、無事に階段前を確保することに成功した

 

「ようし、道は開けた、後はここを護り切るぞ!」

 

光輝の言葉とともにクラスメートたちが一斉に

階段の方になだれ込んでいく、後はここから脱出するだけなのだが

 

「待ってみんな、南雲さんがまだ向こうにいます!

 

 南雲さんが皆さんを護るためにベヒモスを引き受けているんです

 

纏が一同に呼びかけていく、クラスメートの大半は

なにを言っているんだと首を傾げているが、それを聞いて

 

「みんな、お願い南雲君を助けて!

 

 南雲君は私たちを護るために戦ってるの!!」

 

「通り道は天之河のおかげで確保できてる!

 

 みんなで南雲を援護するわよ!!」

 

香織と優花がクラスメートに呼び掛けてつつ

橋の方にへと目を向けていく、するとそこに映っていたものを見て

 

香織も優花も、メルド団長や他の騎士団、クラスメートも驚愕している

 

何故ならそこに映っていたのは

言葉で表すのも憚られるほどの光景だったのだから

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

それは時をもどって、ハジメがメルド団長に

この場は任せてほしいと宣言した後にまでさかのぼる

 

「はあ…はあ…はあ……」

 

ハジメは武器である剣を手に持ってベヒモスと応戦していく

なんとか渡り合ってはいるものの、剣による攻撃がメインで

ほとんどが接近戦になってしまっているので、ダメージも小さくはない

 

先程ベヒモスに傷をつけられた一撃を放てればいいが

いかんせんあの時は空中に浮いていたからどうにかなったが

今度はそう簡単に当てられるとも思えない、何よりの問題

 

下手にさっきの攻撃を乱発していけば

もしかしたら限界が来るかもしれない

 

だが、無理に相手をする必要はないのだ

クラスメートたちが撤退するまでの時間稼ぎになればいいのだから

 

しかし、対峙していくハジメの心にはそんな考えはなかった

 

有るのはただ一つ、目の前にいる(ベヒモス)を倒す事のみ

 

ハジメはずっとあの日から感じていたのだ

どうして自分がこんな目に合わないといけないのか

 

どうして自分が虐げられ続けないといけないのか

 

問いかけても誰も教えてくれない、なぜなのか

 

理由なんてない、それが理由なのだから

 

人間は悪意を抱いて、網を張って待ち構えている蜘蛛のように

獲物がかかっていくのを待っている、そこに自分という獲物がかかり

餌食となってしまった、蜘蛛は獲物を選ばない、網にかかればそれが獲物

 

人間もまた同じこと、たまたま自分というマウントを取れる相手を選んだに過ぎない

 

ただハジメは最初のうちは特に気にはしていなかった

 

それをいちいち気にしても

状況が変わってくれるわけでも無いのだから

 

あの事件が起こってから

 

檜山達が引き起こし、光輝がそれに便乗したかの事件

それによってハジメはクラスメートや他学年の者たちからは勿論

 

両親や、畑山先生以外の学校関係者から疎まれるようになっていった

 

どうしてなのかと最初は自問自答を繰り返したが

やがてハジメは時が絶つにつれて、そんな事に意味がないと思う様になり

 

気が付いたら、そんなものだと心が慣れきってしまった

 

もう、抗う事も救いを求めることもやめたものの

それでも周りからのやっかみが気にならないわけでも無い

 

にげているのか、立ち止まっているのか

そんなことも分からなくなってきた矢先に起こったのが異世界召喚

 

そこで訳も分からないうちに戦争に参加させられ

さらには他の奴らは力を手に入れているのに、自分だけは

何も得らずに周りから無能だの、雑魚だのとののしられて行き

 

段々と心に真っ黒な影のようなものが覆って来ていた

 

自分の中でその黒い何かが自分でもわからないうちに渦巻いている

 

最初はそんな、やり場のない感情をどこにもぶつけられずにいたが

 

図書室において、禁書庫の中で例の本に眼を通して

その感情が浮き彫りになっていき、まるで自分の中で

意志をもって蠢いているようになっていき、段々とそれは

 

自分の中から時折現れる謎の力となって表れはじめていく

 

檜山達に暴力を振るわれたとき

朝の時の異様な食欲に、さっきまで感じていた異様なまでの怠さ

 

他にも様々だが、同時にその力のせいで

別の感情が抑えきれなくなっている、今もそうだ

 

自分の目の前でボロボロになりながらも

それでも自分の方に向かって歩みよって来るベヒモス

 

そんな奴の姿を見て、何やら激しい感情が沸き上がっていく

 

「…どいつもこいつも…

 

 もういい加減うんざりなんだよ…

 

 なんで僕ばっかりがこんな目に合わないといけない…

 

 僕が一体、何をしたっていうんだ…

 

ハジメがそう言って胸の内を噴き出す様に叫びだすと

彼の全身から炎のようなものが噴き出していき、それが

彼の身体を焼き尽くさんとするようにその体にまとわれて行く

 

ベヒモスはそれに構わず、ハジメの方に向かって突進していく

 

ハジメはそんなベヒモスの方に向かって鋭く睨みつけていく

自身が内に秘めていたどうしようもないほどの怒りを込めた一睨みを

 

それを受けたベヒモスは本能的に突進していった足を止めてしまう

 

ベヒモスが思わず前にすすんでいく事をためらっていく

だが、ハジメはそれを気にすることなくベヒモスの方に歩みよっていく

 

それを見てベヒモスはゆっくりと後ずさりをしていくが

ハジメはそれ以上に素早い動きでベヒモスの眼前にまで迫っていく

 

もういい加減うんざりなんだよ、アホンダラアアア!!!

 

ハジメの一撃がベヒモスの顔に大きく繰り出されて行った

 

その一撃を繰りだされたベヒモスは大きく吹っ飛ばされ

更にその一撃を受けると同時に地面に勢いよく頭部を叩きつけられ

 

ついに顎が完全に外れきってしまい

更には炎に充てられて蒸発する様に消滅していったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

その光景を見ていた騎士団やクラスメート達は

その光景に開いた口が塞がらなかったのだった

 

「‥‥南雲君…」

 

暫く、その場所で肩で息をしながら

その場に立ち尽くしていたハジメだったが

 

やがて、糸が切れた人形のようにその場に倒れこんだ

 

「南雲さん!」「南雲君!」「南雲!」

 

「‥‥!」

 

それを見て、急いで駆け寄っていく纏、香織、優花の三人

渚沙の方も急いでその後を追って行き、倒れたハジメの後を追った

 

「南雲さん!

 

 しっかりしてくだs‥‥っ!?

 

 すごい熱です、触らなくても肌で感じられる…」

 

「だったら急いで治癒しないと…!」

 

香織は治癒魔法を施そうとするが

どんなに詠唱を唱えても魔法が発動しない

 

それでも必死に治癒を施そうとするが

 

「お願い‥‥お願いだから…発動して‥‥…

 

 約束したんだもん‥‥南雲君のことを護ってあげるって…

 

 だから…」

 

結局発動することは無かった、すると渚沙はハジメに肩を貸してやる

 

「‥‥今はここを出るのを優先させるわよ!

 

 治療に関しては、ひと息ついてからやればいい…

 

 とにかく急いでここから出るわよ!!」

 

「香織さん、渚沙ちゃんの言う通りです

 南雲さんのことが心配な気持ちはわかりますが…

 

 今はどうにかここから出るのを優先しましょう…」

 

「‥‥うん、そうだね…」

 

「ええ、急ぎましょう…」

 

そう言って気を失ったハジメを連れて

急ぎクラスメートの者たちと合流していく

 

こうして、一同は無事に

オルクス大迷宮での危機を乗り越えるのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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Surgit Bösartig

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

気を失ったハジメを背負って無事に橋を渡った四人の少女達

 

「香織、みんな、よかった…

 

 南雲君は!?」

 

無事に戻ってきた彼女たちが

戻ってきたことに喜びの声を上げる少女

 

八重樫 雫

 

 

彼女はハジメの様子も訪ねていく

 

「‥‥それが南雲君、気を失っちゃって…

 

 まだ息はしているんだけど、熱がひどくて…」

 

そう言って答えるのは雫の親友である少女

 

白崎 香織

 

 

無事に戻ってきたものの、彼の意識が戻らず

さらにはひどい熱が下がる様子がないこともあって

 

表情が不安一色に染まっており、気が気ではない様子を見せていく

 

「だったら急いでここを出て、急いで南雲を安静にさせてあげないと…

 

 外に出ればそれこそゆっくり休ませられるわ」

 

提案をしていくのは

 

南野 姫奈

 

 

「‥‥もちろん分かってる…

 

 とにかく、ここを急いで脱出しましょう…」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女もまた姫奈と同じ考えを持ち

同じく急いで脱出することを勧めていく

 

すると突然、背負っていたハジメを誰かに取られる

 

その犯人は

 

「無事に戻ってきてくれて、本当に良かった‥‥

 

 坊主は俺が連れていこう」

 

メルド・ロギンス

 

 

クラスメートを引率してきた

ハイリヒ王国の騎士団の団長である

 

「大丈夫だ渚沙、おれがしっかり坊主を連れて行ってやる」

 

「‥‥ありがとうございます」

 

「いいや、礼なんていいさ‥‥

 

 寧ろ、こんな事態を引き起こしてしまったのは

 俺の監督不行き届きだ、お前さん達にしっかりと

 迷宮の恐ろしさを教えていれば、よかったのに‥‥

 

 まあ、そういう話はあとだ、とにかくここを出て無事に帰るぞ」

 

そうして、クラスメート一同と騎士団たちは急いで階段を上がっていき

 

無事に今いた階層を脱出するのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

檜尾段を上っていくとまたも転移の魔法陣が展開されると

一同は見覚えのある場所にまで転移されて行った、そこは

 

20階層のさっきまでいた場所であった

 

「帰ってきたの?」

 

「戻ったのか!?」

 

「帰れた…帰れたよ…」

 

そう言って殆どのクラスメートたちが座り込んでいく

相当な疲労がたまっていたのか、全員がその場に座り込んでいくが

 

「お前たち、座り込むな!

 

 ここはまだあくまで迷宮内で、絶対に安全とは限らない!!

 

 魔物との戦闘はなるべく避けて、最短のルートで進んでいく‥‥

 

 無事に戻るまでが訓練だ、気を抜くな!!!」

 

メルドの言葉があたりに響いていく

生徒達は不満そうな表情を浮べているが

 

メルドの間髪入れない様子の表情に圧されてしまい

渋々従い、ふらふらと立ち上がって進み始めていく

 

戦闘の方はなるべく

最低限で済ませつつ上の方に向かって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そしてついに、懐かしき地上にまで上り詰めていったのだ

 

今度の今度こそ無事に戻ってこられたのを実感し

ついに殆どの生徒達が戻ってきたことを実感してその場に座り込んだ

 

「ふう…戻ってこれたぞ坊主‥‥

 

 よく頑張った、ゆっくり休んでいろ‥‥」

 

メルドがそう言って優しく寝かしつけてやるのは

今の今までメルドが担いでいった今回の功労者である

 

南雲 ハジメ

 

 

メルドは彼を壁にもたれさせてやるとゆっくりと立ち上がる

 

すると、そんな二人の元に数人の生徒達が訪れていく

 

 

「メルド団長、南雲君は…?」

 

優花が恐る恐る訪ねていく

 

「いまだに目を覚まさない‥‥

 

 熱の方は一向にさがっている様子がない

 とにかく急いで、戻って身体を冷やしてやらないとな‥‥

 

 俺はすぐに手続きの方を

 すませるから、坊主のことを見ていてくれないか?」

 

「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」

 

メルド団長よりハジメのことを任された少女達は元気よく返事をし

それを聞いたメルド団長も安心した様子で少女達にハジメのことを任せ

 

手続きの方へと向かって行く

 

残った少女達はいまだに眼を覚まさないハジメの様子を見ていく

 

「‥‥熱が下がっている様子はないわね…

 

 やっぱりいろんなことがあって体調を崩したのかしら…」

 

「そうだね…

 

 自分の力が分からない状態で

 あんなにも強力な魔物と闘ったんだもの…

 

 なにがあっても不思議じゃないものね…」

 

ハジメの体調の方を改めて確認していく渚沙

 

「だけど、南雲があの時ベヒモスを引き付けてくれなかったら…

 

 いいえ…あの状況で最善の判断を下してくれたおかげで

 私も、ここにいるみんなも誰一人として欠けることなく戻ってきた…

 

 私だって…あの時、南雲に助けられなかったらどうなっていたか…」

 

そう言って嫌な想像をするように体を震わせる女子生徒

 

園部 優花

 

 

「…もしも、南雲の意識が戻ったらさ…

 

 あたし、しっかりお礼を言いたいんだ…

 

 あの時助けてくれて…ありがとうって…」

 

「優花…」

 

「優花っち‥」

 

菅原 妙子

 

 

宮崎 奈々

 

 

友人である優花のその言葉に

やや複雑な心境ながらも安どの様子を見せていく

 

「‥‥ねえ、渚沙ちゃん…」

 

「‥‥何?」

 

香織が不意に渚沙に尋ねていく

 

「これで教会の人達も南雲君のことを認めてくれるよね…

 

 南雲君が処罰を受けることは、ないんだよね」

 

そう言って真剣な様子で訪ねていく香織に

渚沙は一瞬だけ考える様な様子を見せていく

 

「‥‥それについてはハッキリはわからない…

 

 でも、少なくとも協会が

 南雲君の見方を変えてくれることは確かだと思う…

 

 わたしから言えるのは、今はそれだけよ…」

 

渚沙は少し言葉をひねり出す様にして答えていく

 

香織はしばらく、黙り込んだ後に答える

 

「‥‥そっか、よかった…

 

 これで、南雲君が二度と

 ひどい目に合う事はないんだよね

 

 南雲君がもうこれ以上、苦しまないで

 いいんだってことなんだよね、渚沙ちゃん」

 

香織はそこまで言うと笑顔を浮かべて嬉しそうにする

 

「‥‥あ、そうだお水もらってくるね」

 

そう言ってその場から離れていく香織であった

 

すると、一人の女子生徒が不意に渚沙の方に近づいていく

 

「東雲さん、東雲さんは協会が南雲君の事‥‥認めてくれると思う?」

 

「‥‥認めてくれるかもしれないわね…

 

 悪い意味で…」

 

八重樫 雫

 

 

香織の親友である、彼女が

ハジメの今後のことを問いかけると渚沙はそう答えた

 

「‥‥その事…香織に話さなくていいの?」

 

「‥‥話したところでどうなるのか…

 

 付き合いの長いあなただったら自ずとわかるでしょ?」

 

渚沙の言葉に、雫はそうねと一言のみで応えた

 

「ちょっと、そこの二人共!

 

 さっきから何をこそこそ話しているのよ…」

 

そう言って、話に入って来る女子生徒

 

南野 姫奈

 

 

「‥‥いいえ、大した話じゃないわ…

 

 ただ、南雲君の処遇がこれからどうなるのかって話を

 さっき。八重樫さんと話をしていた、ただそれだけよ…」

 

「‥‥そっか…

 

 これで少しは、こいつも

 報われてくれればいいんだけれど…」

 

そう言って壁にもたれかかっているハジメの方を見ている

 

「‥‥南野さん…」

 

「‥‥南雲がこんなにも苦しめてしまった責任は

 私にだってある、あの事件の誤解をどうにか解こうと思って

 

 必死にがんばったけれど‥‥どうにもならなかった…

 

 初めて自分が無力な存在なんだって、思いしらされたわ…

 

 だから‥‥だからせめて、私は南雲の味方であろうって決めたの…」

 

「‥‥そう…でも、きっと彼だったらこういうでしょうね…

 

 気にしないで、南野のせいじゃないって…」

 

「…‥そうだね、南雲君とっても優しいし…」

 

そう言って、笑顔を浮かべて返していく女子生徒

 

西宮 風香

 

 

彼女はそう言って、眠っているハジメの顔を覗き込む

 

「…‥フフフフフ…

 

 こうして見てみると、南雲君って

 可愛らしい顔つきしてるよね、ほんと…

 

 ぐっすり眠っちゃって…」

 

「‥‥こういう時ぐらいは休ませてあげましょ…

 

 こいつだっていろいろあって疲れたんだし…」

 

「そうだね…」

 

すると、風香は不意に立ちあがって

思いついたようにパンっと柏手をする

 

「ねえみんな、もし南雲君の意識が戻ったらさ

 南雲君のために、お疲れ様パーティーでもしてあげない?

 

 あんなにがんばったんだし、ちょっとくらい

 楽しいことがあってもいいと思うんだ、どう?」

 

「それ、素敵だと思います!

 

 なんていったって南雲さん、頑張ったんですからね」

 

風香の提案に一人の女子生徒が賛同する

 

北浦 纏

 

 

彼女は優し気な笑顔を浮かべている

 

「そうだね、私たちでハジメ君にお祝いしてあげよ」

 

そう言ってそこにいる女子たちでそんな話をしている中で

一人だけが浮かない表情で周りにいる他のクラスメートの方を見ていく

 

「‥‥…」

 

その一人の人物、東雲 渚沙の目に映るのは

意識の戻らぬハジメのことをあからさまに良く思っていないと

敵愾心をむき出しにしている一部のクラスメートの様子であった

 

「‥‥ほんとに、くだらないわね…

 

 本当、このまま何事もなく終わればいいのだけれども…」

 

渚沙はそう言って、しばらくは様子を見ることにする渚沙

 

渚沙はしばらくそれとハジメが目を覚ました時

どんなお祝いをして上げようかと盛り上がっている声を聞き流しつつ

 

今後のことを畏怖するのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

彼は、夢を見ていた

 

そこには四人の女の子がどこかに走って言っている

その女の子達が向かう先にいたのは、一人ぼっちの男の子

 

男の子の表情はどこか暗く、表情が浮かない様子である

 

女の子達はそんな男の子の元に駈け寄っていき

男の子に優しく手を指し伸ばしてやる、まるで遊びに誘っているよう

 

しかし、男の子はその暗い表情のまま

その手をはたき、挙句にはその女の子を突き飛ばしていく

 

その女の子を見降ろす様に見つめながら立ちあがる男の子

 

その目に、どす黒いまでの憤怒の色を纏わせて

 

彼は不思議と、その男の子に共感を覚え

 

自ずと彼の方に目を向けていってしまった

 

そこまで見ていくと

彼はフェードアウトしていくのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

あれから、しばらくたって

ハジメの容態は安定しつつあるものの

 

熱はまだ下がり切っておらず

ハジメ自身も今だに目を覚ます様子もない

 

せめて、自分達が彼にできることをやろうと

渚沙たちや優花達、香織たちが介抱をしていき

その過程で知り合った者たちとも交流を深めていく

 

着替えの方はメルドや騎士団の手の空いているものがやってくれ

自分達はハジメの額に冷たい濡れた布を当ててやったりしていた

 

次第に少女達は仲良くなっていき

気兼ねなく話をすることが出来る仲になっている

 

渚沙自身も自分の周りの人間関係が驚くほどに

変わったことに自分自身驚いているが、不思議と悪い感じがしないと思っていた

 

「‥‥あれからもう、三日は立つのね…

 

 ほんと、異世界に転移してからいろんなことが起こったわね…」

 

そう言ってその場にベッドの上で意識の戻らぬハジメを見ていた

 

「‥‥まったく…向こうでもこっちでも

 寝てばっかりなんだから、南雲君は…

 

 そんなに隙だらけだといざってとき困るよ…」

 

そう言って少し茶目っ気の入った口調で話していく渚沙

 

すると、緩んだ表情を浮べていた渚沙の表情が急に険しくなる

 

外の方からしばらくすると、部屋の中に

ずかずかと鎧を纏った兵士たちが入り込んでいく

 

「‥‥貴方達はっ!?」

 

「悪いがどいてもらおう

 そこで眠っているものの身柄を拘束せよとお達しを受けた!」

 

そう言って鎧を着込んだ者たちの一人が言い放った

 

「‥‥身柄を拘束…!?

 

 一体どういう事なの!?」

 

「我々は神殿騎士、教会直属の騎士也

 

 教皇、イシュタル・ランゴバルド様の命により

 裏切りの異教徒、南雲 ハジメを連行し尋問に掛ける!」

 

そう言って鎧の一団、神殿騎士と名乗った者たちはそう言い放つ

 

「裏切り者ですって…!?

 

 彼が一体何をしたっていうんですか!?」

 

「悪いが貴様に話すことは何もない

 

 おとなしく南雲 ハジメを引き渡してもらおう!」

 

そう言って間髪入れずにハジメの身柄を引き渡せと騎士たちは迫っていく

 

「‥‥断るって言ったら…?」

 

「無理やりにでも連れていく」

 

そう言って話しをしていた人物の両側から

鎧の人物たちが、歩みだしていき、ハジメを連行しようとする

 

「‥‥はああああ!!!」

 

すると、渚沙は何処からかに仕込んでいた槍で

その二人の鎧の人物を撃ち飛ばしていき、騎士団の前に立ちふさがる

 

「‥‥貴様、何のつもりだ!」

 

「‥‥悪いけれど南雲君は連れてなんて行かせないわ…

 

 たとえそれで、教会と敵対することになってもね!」

 

そう言って武器である槍を構えて牽制していく渚沙

 

「我らに刃を向けるとは、エヒト様への反逆と見なすぞ!」

 

「‥‥あいにくだけれど、私にはエヒトなんてどうでもいいわ…

 

 そもそも私は異世界人で、エヒトの事なんて知る由もないし

 なにより私たちを勝手に呼び出して無理矢理戦いに赴かせる神様なんて…

 

 はっきり言って敬う価値なんて感じられないわね!」

 

渚沙はハッキリ言い放った

 

「きさまああああ!!!!

 

 この異教徒めがああああ!!!!」

 

それが騎士達の逆鱗に触れたらしく、体調格とも言える人物が

周りの騎士団に命令させて、渚沙の事も捕らえるように命令する

 

渚沙は技能である槍術と棒術をフルに使って

ハジメの事を護りつつ応戦していく、ステータスは低いが

それを技能を極めることでそれを補っているので、神殿騎士の者達とも

互角に渡り合って行くが、ハジメを庇いながら戦っているので思う様に戦えない

 

「‥‥誰か来てくれるまで、時間を稼げれば…」

 

渚沙はややきつそうな様子で騎士団たちと戦っている

しかし、戦いにおいて予想だにしないことは多いことで

 

「‥‥があ!?」

 

渚沙が突然、後ろの方から不意をつかれて殴られ

そのまま気を失って行き、その場に倒れこんでしまう

 

「(‥‥南雲…君‥‥…)」

 

渚沙は最後までハジメの事を考えながら、意識を失ったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そんなことが起こっていたのと同じ時期

香織たち一同は、全員呼び出されていた

 

数日前もあってまだ立ち直り切れていない一同が

なぜ突然、呼び出されてきたのかと首を傾げていた

 

すると、そんなクラスメートの元に訪れたのは一人の老人

 

「本日は私の呼びかけを聞いてくださり

 本当にお礼を申し上げますぞ、勇者様方

 

 本日皆様に、お伝えせねばならないことがあり

 こうして集まっていただいた次第にございます」

 

イシュタル・ランゴバルド

 

 

聖教教会の教皇を務めている老年の男性だ

ハッキリ言って香織たちはもちろん、優花たちも纏も

あまり彼に対してよい印象をまったくもって抱いていない

 

檜山でのいじめの時でのハジメに対する態度

さらにはその時に怪我をしている彼を強制的に

実践訓練に参加させたことなどもあって印象はまったくもってよくはない

 

香織たちは正直に言ってあまり関わりたいとも思わないが

それをおくびに出すことなく、イシュタルの話しに耳を傾けていく

 

「実は皆様の中に、不当に力を得た

 裏切り者がいるという事を皆様にお伝えしに参ったのです」

 

イシュタルの話を聞いて、驚いた反応を見せていく香織たち

 

「そんな…‥俺たちの中にそんなことをするやつはいません!」

 

光がそう言ってイシュタルに意見をしていく男子生徒

 

天之河 光輝

 

 

 

しかし、イシュタルが次に言い放った言葉が

その場に居る一同をさらに動揺させていった

 

「勇者様のお気持ちも理解します

 しかし我々の方も確証をもってお伝えをしているのです」

 

「どういうことですか…?」

 

「…‥皆様も気が付いておられるはずです

 

 なんの力も持っていない弱者であったが突然に

 強力で圧倒的な力を得て、皆様に大きな動揺をおぼえさせたものが……」

 

イシュタルの言葉に香織たちは嫌な予感を覚えていく

かれが言うその者が誰なのかを理解してしまったのだから

 

「その者の名は、南雲 ハジメ!」

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

イシュタルが名前を告げ

驚愕の表情を浮べていく香織たち

 

「ちょっと待って下さい!

 

 確かに南雲は強い力を持ったけれど

 だからって裏切り者だなんて、そもそも私たちは

 その南雲のおかげでこうしてここに戻ってこられたのよ!!」

 

「そうだよ、みんながパニックに

 陥ってる中で、南雲君は適切な判断を下していたんだよ!」

 

「大体、あの時私たちが命の危機に瀕したのは

 檜山の軽率な行動によるものだし、責められるなら檜山の方じゃない!」

 

優花達グループの女子たちにいわれて、びくりと体を振るわせていく檜山

 

すると、イシュタルはその問いかけに対して、とんでもないことを言いだす

 

「ふむ…‥確かにメルド騎士団長殿より

 そのように報告を受けました、ですがもしも‥‥‥

 

 それ(・・)がもしも、その

 南雲 ハジメが仕込んだものであるとすればどうでしょう?」

 

「「「「「「「「‥‥‥‥はあ!?」」」」」」」」

 

優花たちも香織たちも何を言っているんだと首を傾げていく

 

「もしも、あの時檜山殿が起動させた転移のトラップは

 実は偽物で、本当は南雲 ハジメが発動させたものである

 

 それならどうでしょう?」

 

「そんなの‥‥そんなの無茶苦茶だよ!

 

 確かに南雲君にはすごい能力があったけれど

 南雲君はその力の扱い方を慣らしている途中だったんだよ!?」

 

 そんな器用なことが出来るとは思えないし」

 

「それも説明がつきます‥‥‥

 

 本当は力はとっくに扱いきれていて

 そのことを皆様に隠していた、と言う事でしょう」

 

「そんな!

 

 もし仮にそうだったとしても

 どうしてあの時ベヒモスと戦ってくれたの!?

 

 彼がどうして、私たちを陥れるようなことをするのよ」

 

ハジメを悪者に仕立て上げようとするイシュタルに

ハジメのために真っ向から意見していく香織たち

 

すると

 

「そこまでにするんだ香織、雫」

 

「光輝…?」「光輝君…?」

 

そう言って香織と雫を落ち着かせていく光輝

二人は彼の方を見やるが、次の言葉に絶句した

 

「二人が優しいのは俺が一番よくしっている…

 

 だが、それでも現実を受け入れないとだめだ

 

 イシュタルさんがそう言っているんだ

 だったらそれが真実なんだ、あいつはそうだったじゃないか!

 

 自分の犯した罪を認めずに、卑劣な手段で言い逃れして

 しっかりとした罰を受けない、許してはいけない人間なんだから!!」

 

「「っ!?」」

 

光輝が言い放った言葉はまるでイシュタルの言っていたことを

真実であると受け止めたような発言であると受け止めてしまうのだから

 

「イシュタルさん、本当にすいませんでした!

 

 夕社である俺が至らないばかりに、迷惑をかけてしまって…」

 

「いいえいいえ勇者殿、頭をお上げになってください

 

 それほどに南雲 ハジメが狡猾だった、それだけの事ですから」

 

光輝はそう言って頭を下げていく

ハジメの愚行を止められなかったことに対する謝罪として

 

「ちょちょちょちょちょっと待てって光輝!」

 

だが、そんな彼に慌てて声をかけていく一人の男子生徒

 

坂上 龍太郎

 

 

光輝の幼馴染にして友人である彼である

 

「どうした龍太郎?」

 

「どうした、じゃねえって

 

 いくら何でも気が早えんじゃねえのか!?」

 

「何言ってるんだ、イシュタルさんがしっかり調べて

 たどり着いた真実なんだ、疑う余地なんか無いだろう?

 

 それに、これで南雲がいっつも訓練に

 顔を出さない理由も分かったじゃないか」

 

「どういう事…?」

 

光輝の言葉に最初に疑問を浮かべた女子生徒

 

南野 姫奈

 

 

彼女が不審そうに問いかけていくと

 

「あいつは陰で俺たちを陥れる算段を整えていたんだ

 

 自分のやったことを棚に上げて俺たちに逆恨みして

 そして迷宮において檜山に責任が行くように巧妙に実行した、

 

 つまりはそういう事だ」

 

「いやいやいやいや…

 

 そもそも、迷宮にどんな罠が仕掛けてあるのかなんて

 知る由だってないんだから、無理があるにきまってるじゃない」

 

無理矢理に話しを纏めていこうとする光輝に姫奈は呆れるように反論していく

 

すると、そこにイシュタルが横やりを入れていく

 

「それでしたら、簡単な事です

 

 南雲 ハジメには独自の情報網を持っていたとすればね」

 

「独自の情報網って?」

 

イシュタルの言葉に首を傾げる女子生徒

 

西宮 風香

 

 

彼女が質問を投げかけると、イシュタルは答えた

 

「魔人族ですよ、南雲 ハジメは裏で魔人族とつながっていたのです」

 

「「はあ!?」」

 

イシュタルの言葉に姫奈と風香は大きく声を上げていく

行き成り突拍子もないことを言われたので無理もないことだ

 

「まとめるとこういう事です

 

 以前より皆様に敵愾心を抱いていた南雲 ハジメは

 自分一人だけなんの力も得られていないこと現状に腹を立てていた

 

 そんな彼のもとに魔人族が現れ、南雲 ハジメは甘言に乗って力を得た‥‥‥

 

 推察の域を出てはいませんが可能性としては充分でしょう」

 

「そんな、いくら何でも無理矢理こじつけたような発言…

 

 いくら何でもおかしいでしょう!」

 

イシュタルへの反論を止めるために

臆することなく発言を続けていく姫奈

 

しかし

 

「もうやめるんだ、南野さん」

 

「っ!?」

 

姫奈を引きとめていく光輝

 

「南雲に何の弱みを握られているのかは知らないが

 もうそんなに自分をごまかさなくていいんだ、そもそも

 

 君だってあの時に南雲にひどい目にあわされたんじゃないか…

 

 君の気持ちも分かる、でもここにいるみんなは君の味方だ

 

 だからもう、南雲におびえる必要なんてないんだ」

 

姫奈は何を言っているんだと言った様子で光輝を見ている

姫奈だけじゃない、風香も、香織も、雫も、優花達三人も同じ表情を浮かべている

 

だがそれは光輝の発言に対してだけではない

他のクラスメートの様子にも、動揺した様子を見せていく

 

クラスメートの口々から発せられるのは

ハジメに対する悪口、疑念、ひいては恐怖

 

彼の事をまるで異形扱いするような言い方である

 

「‥‥何だよ、お前ら…‥一体どうしたってんだよ!?」

 

龍太郎もまたクラスメートの変貌に動揺をおぼえている

 

「何を言ってるんだ龍太郎…

 

 別にどこもおかしくないだろう」

 

「光輝…‥!?」

 

そんな龍太郎に話しかけていく光輝に彼は畏怖する

さらに光輝は臆面もなく、なおかつ自然に言いはなった

 

「ハジメは俺たちが想像していた以上の悪だった…

 

 それが分かっただけなんだからな」

 

「っ!?」ゾクッ

 

光輝の言葉に龍太郎は背筋にゾクリと悪寒をおぼえる

今まで光輝の言う事に疑問を抱くことがなかった彼が

初めて感じた感覚で、もはや言葉が出ないほどに動揺していた

 

「そんな‥‥どうしたら…」

 

「‥‥南雲さんのところに行きましょう!

 

 多少強引になるかもしれませんが、このままでは

 南雲さんの身に危険が及んでしまうのは明らかです…

 

 急いで南雲さんの元に…」

 

動揺する香織や他の面々に纏が耳打ちをする

 

多少強引ではあるが、それでも

彼自身に危害を及ばせないためにも、やむを得ない手段である

 

さっそく決行せんと纏が香織たちに言うと

彼女達も頷いで同意、この場をこっそり抜け出して

 

急いでハジメを援けに行かんとこっそり抜け出そうとしたその時

 

その部屋に鎧を纏った人物が入っていき、イシュタルのもとに行くと

 

「報告します、大逆の罪人

 

 南雲 ハジメ及びその逃亡を

 手助けしようとした、東雲 渚沙

 

 両名の身柄を拘束いたしました!」

 

「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」

 

その人物の言葉を聞いて絶句する一同

 

「そうですか、ではすぐに行う様に伝えなさい」

 

「はっ!」

 

そう言って、その人物はその場を去っていく

 

「行うって‥‥一体何を…?」

 

雫が恐る恐る訪ねていく、イシュタルは

それに対してさも当然と言わんばかりに答えた

 

「もちろん、愚かにもエヒト様の威光を

 穢さんとした罪人を処刑するための準備ですよ

 

 南雲 ハジメ及びその協力者である、東雲 渚沙をね」

 

「そんな!?

 

 そう言えば、渚沙ちゃん…

 

 この場に居なかったのはそう言う事だったの!?」

 

「南雲君の見に危険が迫っていることを予感していたのね…」

 

驚いた様子を見せる纏と、悔しそうに表情を強張らせていく姫奈

 

すると、クラスメイトの前の方から挙手された手が上がっていく

 

「待って下さい、イシュタルさん!」

 

その手を挙げたのは、光輝であった

 

「イシュタルさん、その件なのですが…

 

 どうか、許していただけないでしょうか!」

 

「光輝君…!?」

 

「光輝…」

 

光輝の発現に香織と雫は思わず目を疑った

あんなにもハジメを悪者扱いしていたのに

 

嫌な予感をおぼえたが

光輝はそれを知る由もなく続けていく

 

「勇者殿‥‥申し訳ありませんが、いかに勇者である

 貴方様のお言葉でも処刑を取りやめることは出来ません」

 

「…‥そこを何とかお願いします…

 

 せめて南雲にチャンスを与えてあげませんか?」

 

光輝が必死に頼み込むが

彼の発現にはどうにも気になる部分があった

 

香織と雫はハジメのことを助けてくれるのかと

光輝への認識を改めんとしていたが、甘かった

 

「確かにあいつは協調性が無くて周りにいっつも迷惑をかけて

 おまけにそのことをちっとも反省しようともしていない卑怯者だ

 

 でも、それでも俺は、あいつが一言でも謝罪をしてくれるのなら

 俺はあいつのことを許してやりたいんです、あいつだって今回のことで

 みんなのことを危険にさらしてしまったんだ、流石のあいつだって自分の

 やったことの重大さを理解できているはずです、あいつがそれを踏まえて

 

 しっかりと反省してくれるのなら…‥俺はあいつを改めて仲間として迎え入れたい…

 

 だからお願いします…‥南雲にチャンスを与えてやってもらえませんか?」

 

光輝の言葉を聞いて香織と雫、姫奈と風香はもちろん

優花達も、纏も光輝に対しておぞましさを覚えていった

 

確かに光輝の発現は仲間を見捨てないというのはあっているが

これらはあくまでハジメのことを悪だと決めつけた上での発言だ

 

そもそも今回の件でハジメが悪い要素など何一つない

 

罠に落ちたのはそもそも檜山の軽率な行動のせいだ

そもそも、トラップの発動のキーであったグランツ鉱石も

光輝がメルド団長の制止を聞かずに大技を放ったから現れた

 

逆を言えば光輝が調子に乗って

大技を繰り出さなければトラップにかかる事だってなかった

 

それに向こうでの戦いだってハジメは何もしなかったわけじゃない

ハジメは優花を通じて生徒達に冷静に呼びかけて言っていたし、判断も迅速だった

 

その実践訓練の時に目覚めた能力だって、彼はそのおかげで

ベヒモスを撃退することが出来たのだ、そんな彼を一方的に悪だと責め立てるなど

 

お門違いもいいところである

 

だが、運命の歯車もまた、彼の事を嘲るように回り始める

 

「それでは‥‥まいりましょうか‥‥‥?」

 

イシュタルが淡々と告げていくと

 

「はい…」

 

光輝は返事をして、その後をついていき

クラスメートもぞろぞろとついていく、その表情は

これから何が起こるのか、正直言って気が気ではない事

 

だが一部の中には無気味な笑みを浮かんでいる者もいる

 

これからハジメが死ぬ、そのことに愉悦を感じているがごとく

 

「南雲君!」

 

「香織!」

 

香織は急ぎ、処刑場所に向かい

それをほかの面々が急いで追って行く

 

各々が各々、その内に秘めたる感情を抱いて

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「南雲 ハジメ!

 

 起きろ!!」

 

暗く閉鎖的な場所において

乱暴な物言いの声が響いていく

 

「起きろっと言っているんだ!」

 

そう言ってハジメの身体に水が勢いよくかけられる

 

ハジメはその水の冷たさによって意識を取りもどし

ゆっくりとぼやけた視界を見ていくと、やがて自分の身体が

どの様な状態になっているのか、ようやく理解ができてきた

 

両手を枷でつながれ、脚の方も折れているのか感覚がない

自分の今の状況を理解できたが、同時にどうして自分がこのような

状態になってしまっているのかという状態に理解ができずにいた

 

「…これは一体…!?

 

 一体何が起こってるんだ…!?」

 

ハジメが状況を説明してもらおうとすると

行き成り顔面を思いっきり殴られ、折れた歯が口から飛び出していく

 

「がはっ!?」

 

「口を慎め、この裏切り者め!

 

 貴様は自分が何をしでかしたか理解をしていないようだな!!」

 

目の前の男が言っていることが分からない

裏切り者、一体何を言っているのだと、そんな事だけだ

 

「まあいい、理解していないのならばさせてやる!

 

 貴様の身体にしっかりとな!!」

 

結局ハジメが理解に追いつく前に、更に拷問が開始されて行く

それはもはや、説明するのもおぞましいほど壮絶な拷問の日々であった

 

爪をはがされたり、骨を折られたり

体を打ち付けられたり、とにかくひどいもの

 

「がああああああ!!!!!!」

 

ハジメの悲鳴が暗い部屋の中に響いていくが

残念ながらそれを聞いて、彼を助けようとする者はいない

 

そんなハジメにとって地獄の日々が数日にわたって行われて行く

 

こうして、拷問にかけられる日々から一週間が立とうとしたころ

 

「はあ…はあ…はあ……」

 

毎日のように殴られ続けていく

日々によって肉体的にも疲労が見えていくハジメ

 

その顔は殴られ続けたことにより

原型をとどめないほどにはれ上がっており

 

四肢の方も完全に感覚を失い、立つことは愚か

指一本ですらも動かせないほどになっている、もはや

 

目の前にいるのが南雲 ハジメなのかどうなのか

教えてもらわないと分からないほどにまでになっている

 

拷問を担当している言うならば

拷問官はついにしびれを切らせたのか

 

とうとう、拷問とは何なのかわからないレベルで

ハジメにさらに暴力をふるって行くと、そこに一人の神殿騎士の者が

 

「ふん…よもやここまで抗うとは、だがどんなに惨めに抵抗しても…

 

 貴様の罪は決して消えることは無い!」

 

「はあ…はあ…」

 

ハジメは拷問官の言う事が理解できず、顔を上げていく

 

「どこまで、神の使徒の中に潜り込み

 勇者やその同胞共に交じってその命を脅かさんとする

 

 悪魔め!」

 

そう言ってハジメの腹を勢いよく蹴り上げていく拷問官

 

「かはっ!?」

 

もはや何度目かもわからぬ一撃がハジメを傷付けていく

 

「ついてこい!

 

 貴様のようなものにふさわしい場所に案内してやる!」

 

「くう…」

 

そう言って乱暴に連れていかれるハジメ

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメが連れてこられたのは広場のような場所

そこには、多くの国民が集められており、声を上げている

 

その大半は当然ハジメに対しての罵詈雑言であり

中にはハジメに向かって石を投げつけていく者もいる

 

ハジメは投げ付けられた石に思わず顔をそむける

すると、その隣にもう一人の人物がいたことを確認する

 

それは

 

「‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

東雲 渚沙であった

 

「…東雲さん!?

 

 とうしてここに!?」

 

「‥‥ごめんなさい…

 

 貴方を助けようと思ったのだけれど

 それに失敗してしまって‥‥それでとらえられて…

 

 尋問と言う名の拷問を受けて、それでここに連れてこられたの…

 

 ぐう‥‥想定していたはずなのに、まさかこんな事になってしまうなんてね…」

 

彼女もまた、暴行を受けたのか体中に傷が見えている

さらによく見ると、来ている服切れ目からボロボロにされた跡がある

 

おそらくは、凌辱されたのであろう

 

ハジメのように顔の原型が整っているだけまだましなのかもしれない

 

だが、彼女の様子を見る限り彼女の方も

相当きついことをさせられたのだろうと言うのがうかがえる

 

「そんな…ひとい…」

 

ハジメは、この国の人達が渚沙にどのようなことをしてきたのか

それを想像するだけでも、少なくともいい気分の者ではないと言いきれる

 

だが、ハジメのそんな思いとは裏腹に教会の者達は事を進めていく

 

「ハイリヒ王国の国民の皆様、イシュタル・ランゴバルドです

 

 今日ここに連れてこられし者は数日前、エヒト様のお力により

 召喚されし神の使徒、勇者御一行とともに召喚されたもの、名を

 

 男子の方を南雲 ハジメ、女子の方を東雲 渚沙ともうします

 

 実はここにいる二人が、使徒を偽った

 悪魔の化身であると言う事をお伝えしに参りました」

 

「え…?」

 

イシュタルの演説を聞いて、さらに驚きの様子を見せていくハジメ

 

「数日前、我々は勇者様御一行を魔人族を退ける存在へと導く

 そのための実践訓練にと、かのオルクス大迷宮にへと赴かせました

 

 最初のうちは、迷宮内の魔物を前に奮闘していき、順調だったのですが

 

 やがてある場所にて、悪意ある罠にかかりその先において

 かつて最強と呼ばれた冒険者ですらも敵わなかったとされる強大な魔物

 

 ベヒモスに襲われ、命を奪われてもおかしくない状況に陥りました

 

 しかし、そんな時でも勇者様は同胞や騎士団を導き

 そのおかげで誰一人として犠牲になることなく無事に帰還することが出来たのです」

 

ハジメはイシュタルの説明を聞いて違和感を覚えていく

それと同時に嫌な予感が脳裏を横切っていき、眼を見開いている

 

「ではどうしてこのような事態が起こったのか‥‥‥

 

 それは、使徒の中に潜み、その命を狙わんとした

 悪魔の使いが使徒たちの命を奪わんとするために

 仕組んだものであると言う事が、調査の結果明らかになりました!

 

 そしてその、悪魔の使いこそが

 ここにいる南雲 ハジメと東雲 渚沙、この両名なのです!!」

 

「…なんたって!?」

 

イシュタルの発現とともにその場に来ていた

国民たちが騒ぎ立てていき、たかが外れたように

ハジメたちを罵倒し、石だの卵だの色んなものを投げつけていく

 

「くう!?

 

 とうしてこんなことに…」

 

「‥‥ごめんなさい、南雲君…

 

 私にもっと力があれば

 貴方の事を助けられたかもしれないのに…」

 

渚沙がハジメに話しかけていく

 

「そんな、東雲さんか謝ることしゃ…」

 

「‥‥いいえ、こうなることは予測していたのよ…

 

 あの教皇は以前から、私達の事を排斥するつもりだったのよ…

 

 怪我が完治していない貴方を実践訓練に行かせたのも、自分達の

 やり方に反抗的だった貴方を実践訓練中の事故と言う形で葬る事が狙いだった…

 

 でも、貴方は帰ってきてしまった、それも教会も想像だにしない力をたずさえて…」

 

渚沙が語り始めていく

 

「‥‥だから、教会はこれまでにあった計画を変更したのよ…

 

 あの時みんながトラップにかかってベヒモスに襲われたのは

 南雲君が魔人族と手を組んで自分達の脅威になり得るみんなのことを

 

 偶然を装った、自己に見せかけて殺そうとした、そういう形にしてね…」

 

「…そんな…そんなの……」

 

信じられない、そう言おうとするが

自分達の今の状況が自分自身にそうなのだと理解させていく

 

「‥‥ごめんなさい…

 

 私がもっと早くに行動に移すことが出来ていれば…

 

 貴方の事を助けられたかもしれないのに…

 

 本当に‥‥本当にごめんなさい…ごめんなさい‥‥…」

 

ハジメから顔を背けて

何度も何度も謝罪の言葉をかけていく渚沙

 

ハジメは渚沙の話を聞いて、もはや言葉が出なくなっていたこのものと

 

しかし、そんな彼の思いとは裏腹にさらに状況は続いていく

 

「本来ならば、このようなものはすぐにでも

 処刑するべきであると思うのですが、このように

 どうしようもない裏切り者と話をさせてほしいと勇者殿が申されました

 

 よってこの場を借りて話し合いの場を設けさせてることにいたしました

 

 それでは、勇者殿‥‥‥」

 

イシュタルがそう言うとハジメから見てイシュタルのいる方の

更に奥の方にある通路の方から誰かがやってきている、二人の鎧を来た人物達

 

神殿騎士に連れられてやって来たのはハジメや渚沙もよく知る人物

 

天之河 光輝であった

 

「…あまのかわくん…!?」

 

思わぬ人物の登場に眼を見開いていくハジメ

光輝はハジメの前に立つと、静かに口を開いていく

 

「…‥南雲…まさかこんな形でお前と向き合うことになるとはな…‥…

 

 イシュタルさんに頼んでこうして

 お前と話し合いのための場を設けて貰ったんだ…

 

 お前としっかりと話をするためにな…」

 

「…話…?

 

 ほくと一体、何の話を…?」

 

ハジメは弱弱しくも自分の目の前にいる人物に問いかけていく

 

「単刀直入に言う、南雲…

 

 お前の犯した罪を認めてしっかり謝罪しろ…

 

 そうしたら、俺がイシュタルさんに頼んで

 お前を解放する様に言ってやる、この場でしっかりと誠意をしめせ」

 

「…何なんたよ罪って…

 

 ほくは何にもしていない…

 

 たいたい、ましんそくと手を組んてるっていったけと

 そもそもましんそくなんてあったことも見たこともないんた…

 

 とうやって手を組むなんててきるんたよ…」

 

ハジメはボロボロになった状態で弱弱しくもそれでも口を開いていく

 

「そうやってとってつけたような方便で言い逃れができると思っているのか!?

 

 もういい加減、観念して正直に自分の犯した罪を白状しろ!」

 

「…無理にきまってるてしょ、そもそも罪なんて犯してないんた…

 

 なにをはくしょうしろっていうんたよ…」

 

すると、光輝はハジメの事を乱暴に掴みあげて声を荒げて言う

 

「いい加減にしろ、どうしてお前はいっつもそうなんだ!

 

 自分の犯した罪を償おうともせずに

 いっつも逃げてばっかりで、責任逃ればっかりして!!

 

 あの時だってお前は卑怯な手を使って責任逃れして

 受けるべき罰をしっかり受けることなくのうのうとして…

 

 どこまでお前は周りに迷惑をかけ続けてれば気が済むんだ!」

 

「ふさけるな!

 

 そもそもほくは平穏にすこしたかったたけた!!

 

 それなのにくたらない因縁ていっほうてきに突き放して

 ほくか何をしたっていうんたよ、ほくかとうしたっていうんたよ!!!

 

 ほくの罪ってなんなんた、オタクたから?

 

 白崎さんに構われてるから、ステータスかわからないから?

 

 ほくか周りとはちかう力を持ってるから?

 

 そんなのとれもほくししんかのそんたものしゃないしゃないか…

 

 それなのになんて…なんてほくはっかり

 いっほうてきに責められないといけないんたよ…

 

 父さんも母さんも先生もたれもかほくと悪いときめつける…

 

 どうしてほくばっかり…こんな目に合わないといけないんたよ…」

 

ハジメは涙を浮かべながら問いかけていく

 

「‥‥南雲君…」

 

隣でともに磔にされているハジメをじっと見つめる渚沙

 

すると

 

「…‥どうしてだって?

 

 そんなことも分からないのかお前は…?」

 

光輝はそう言って怒りに身を震わせていく

 

「…え…?」

 

「さっきから聞いていればまるで自分が被害者のように言っているが

 お前が言っていることはすべて、お前自身が招いたことじゃないか!

 

 香織がお前に構っているのは協調性もやる気もないお前を気遣っての事だ

 それなのにお前は、香織の優しさを踏みにじって態度を改めようとしない…

 

 そんなの責められて当然だろう!!

 

 平穏に過ごしたいって言うならそれに見合う生き方をすればいいだけの話だ

 周りに合わせようともせず、そのための努力もしないでだらだらしてばっかり

 

 この世界にきてからもそうだった、みんながみんな一生懸命

 魔人族との戦いに挑むために鍛錬をしていく中で、お前は訓練をさぼってばかり…

 

 挙句の果てには倒すべき魔人族と手組んで不当に力を得て、挙句に

 逆恨みで俺たちのことを殺そうと、俺たちを罠にまで嵌めるなんて…

 

 そんなお前を認める奴なんて居るわけないだろう!!!」

 

光輝はハッキリといい放った

 

そして、その目はハジメにはっきりと伝えている

お前は死んでしかるべき存在であるのだと言う事を

 

「…‥お前がどんなにろくでもなくても

 それでもお前は仲間なんだ、せめてもの情けに

 

 お前がしっかりと自分の犯した罪を認めて

 しっかりと償ってくれたらお前を解放してやろうと思ったが…

 

 もういい、お前には幻滅した…

 

 イシュタルさん…‥あとはよろしくお願いします…」

 

「分かりました‥‥‥」

 

そう言って騎士団に連れられてその場をあとにしていく光輝

 

「まったく何という愚かな事‥‥‥

 

 折角勇者様が与えてくださった慈悲を

 無下にするとは、エヒト様の恩恵を受けられぬ

 愚か者はその結末も愚かしいと言う事が証明されましたな‥‥‥

 

 では、始めろ!」

 

イシュタルがそう言って指示をすると

執行人たちがハジメと渚沙を取り囲んでいき

 

剣を二人の命を手にかけていこうとする

 

そこに駆け付けていく複数の影が

 

「南雲君!」

 

「渚沙ちゃん!」

 

渚沙のほかにハジメの味方であった香織と纏であった

 

二人はハジメと渚沙を助けに行かんと

飛び出していこうとするが、騎士団に止められていく

 

「離して、行かせて!

 

 お願いだから、こんな事止めて!!」

 

「渚沙ちゃん!

 

 絶対に助けるから!!」

 

それでも二人のもとに行こうとする香織と纏

 

だが、二人は女性であることを差し引いても

騎士団、オマケに複数人に抑えられては、身動きは取れない

 

「香織!」

 

「雫、あぶない!!」

 

雫も香織のもとに行こうとするが

姫奈に止められる、よく見ると騎士団の面々が立ちふさがっている

 

仮に向かおうとしてもあっさり止められるだろう

 

「よせ、香織!

 

 君が言ったところで結果は変わらない!!

 

 南雲たちが選んだ選択だ、君が出張っていい問題じゃない!!!」

 

だがその香織を後ろから引っ張る形で引き離していく光輝

だが、香織はそんな光輝を敵を見る様な目で見つめながら言う

 

「ふざけないで!

 

 南雲君も渚沙ちゃんも何にも悪くないじゃない!!

 

 あの時、南雲君がいなかったら

 私たち全員生きてもどることが出来なかったかもしれないんだよ!?

 

 南雲君は自分にひどいことをしてきた

 私達の事ために全力で立ち向かってくれたんだよ!?

 

 光輝君だって、あの時の南雲君の姿を見たでしょ!?

 

 それなのにどうして‥‥どうしてこんな…こんなひどい事‥‥…」

 

「イシュタルさんが言っていたじゃないか!

 

 そもそも、南雲のあの力だってどうやって

 手に入れたのかもわからないんだ、だったら

 

 魔人族と手を組んで、不当な力を得たと考えた方が自然だ!!」

 

「じゃあ、南雲君が魔人族と手を組んでいたって証拠はあるの!?

 

 証拠もないのに、どうして南雲君の事ばっかりせめるの!?

 

 あの事件の時だってそうじゃない、証拠も何もないのに

 檜山君達の証言だけをうのみにして、みんなで南雲君をせめて…

 

 南雲君が何かした!?

 

 南雲君が光輝君や誰かの家族でも傷つけた、奪った!?

 

 南雲君はもう十分すぎるくらい苦しんだのにどうしてそれからも

 苦しめられ続けていかないといけないの、どうして南雲君ばっかりが報われないの!?

 

 南雲君のような裁かれるべきでない人間が裁かれて

 南雲君を苦しめている奴らがへらへらと何事もなく過ごしてる…?

 

 ふざけないでよ!

 

香織は声を荒げて、光輝に不満をぶちまけていく

だが、光輝には香織のそれを冷静さを失って混乱しているように思えたようだ

 

「大丈夫だ、香織…

 

 香織は混乱しているだけだ

 香織は優しいから現実を受けとめられないんだろう…

 

 だが大丈夫だ、俺はどんなことがあっても香織を

 ここにいる誰の事も絶対に裏切らない、最後まで守り抜いてみせるから…

 

 だから、落ち付いて気をしっかり持ってくれ!」

 

だが、光輝の的外れな言葉に香織は怒りを覚えていく

 

「気をしっかり持ってくれ…?

 

 目の前で南雲君が殺されそうになってるのに

 逆になんで落ち着くことが出来るって言うのよ!

 

 誰も裏切らない…?

 

 南雲君のことは裏切ったじゃない!!

 

 現実を受け入れられずに混乱している…?

 

 それは、光輝君やみんなの方じゃないの!!!」

 

そう言って光輝に勢いよくとびかかって掴みがかっていく香織

 

「そもそも光輝君はいっつもそうだったじゃない!

 

 南雲君のことをろくに知ろうともしないで

 一方的に勝手に悪者扱いして、それを改めようともしないで…

 

 どうして光輝君は相手をを知ろうともしないで決めつけるの!?

 

 どうして自分の正しさを微塵も疑わないの!?

 

 私はもう…‥光輝君が何をしたいのか…わからないよ‥‥…

 

 分からなくなっちゃったよ!

 

香織はそう言って涙を浮かべていき、訴えるように言った

 

「香織…?」

 

いつもと違う香織の様子に戸惑う様子を見せていく光輝

 

すると向こうの方から

 

「うあああ!!!」

「ああああ!!!」

 

ハジメと渚沙の悲鳴が聞こえていく

 

「南雲君!」

 

それを聞いて急いでハジメのもとに駆け付けようとしたが

其れを神殿騎士の者達に止められてしまう、それでも向かわんとしていく香織

 

「もうやめて!

 

 もうこれ以上、南雲君を苦しめるのはもう…

 

 もうやめてええええ!!!」

 

香織は必死に呼びかけていくが誰もそれに耳を貸そうともしない

 

それどころか

 

「っ!?」

 

香織は何者かに首元に衝撃を叩き込まれたことで、意識を手放していった

 

それが、香織がハジメの姿を見た、最後の光景であった

 

かくして南雲 ハジメは東雲 渚沙とともに

神の使徒に紛れ込まれた悪魔の使いとして、教会や国民たち

クラスメートたちに見守られながら、処刑されたのであった

 

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

 

「うあああ!!!

 

 はあ…はあ…はあ……」

 

「‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

ハジメと渚沙は処刑の苦しみに悶えながらその意識を遠のかせていった

 

すると、突然二人はどう見ても

さっきまでいた景色とは全く違う場所に連れてこられた

 

真っ黒で小雨が降り注ぎ、月明りのようにあたりが

うすぼんやり輝いており、そこに照らされて見えているのは

枯れきった木々と、足がやや浸かる程度の水面に何もない地面

 

「…ここは一体…僕は確か、あの時死んだんじゃ……」

 

「…その通りだよ…君は死んだんだよ……

 

 本来は背負うはずのない罪を背負わされてね…」

 

「‥‥っ!?

 

 誰…!」

 

あまりのことに混乱する二人に声をかけ

そんな二人のもとに足音が自分達の方に向かって聞こえてくる

 

やがて、そこに現れたのは

 

「…司書さん…!?」

 

図書室で二人が良くしてもらっていた司書の女性であった

 

「…ここは、精神世界…

 

 君達は精神のみがこの場所にやってきたのさ…」

 

そう言って二人の前に止まっていく

 

「…どうして…僕たちをここに連れてきて?」

 

「…どうしてって、それは君達自身が一番分かってるじゃない?

 

 君達はさっき死んだんだよ、君が信頼していた仲間たちに裏切られてね…

 

 ううん、その認識も違うね、だって彼等にとって君達は仲間でもなければ

 クラスメートでもない、自分達と言うクラスの中に紛れ込んだ異物、そう言う認識だ…

 

 だからこそ君が処刑されると知っても誰も君の事を助けようとしなかった…

 

 それどころか君が殺されるってわかっててみんなどうしてたと思う?」

 

「‥‥どうしてたって…一体‥‥…?」

 

渚沙が恐る恐る

 

「みんな笑っていたよ…

 

 君が傷つき悲鳴を上げて苦しんでいる姿を

 まるで、娯楽を楽しんでいるかのようにね…」

 

「嘘…だろ…!?

 

 いくらなんでもそんなの…」

 

ハジメは恐る恐る聞いていくが

司書の女性は有る光景を二人に見せた

 

そこに映っていたのは

ハッキリ言って目を疑うようなものであった

 

ハジメが目の前で処刑されているのをまるで

興奮する様に見つめているクラスメート達がいた

 

「ぎゃははは!!!

 

 見ろよ、あいつ悲鳴上げて苦しんでるぜ?」

 

「あーっはっはっはっ!!!

 

 ほんとに無様だよな、あいつ!」

 

「あー面白れ、ほんっと気分が晴れるわー」

 

「だよな、ほんとにいい気分だぜ」

 

狂ったような笑顔を浮かべていくもの

 

「ざまあないわね、あんな奴死んで当然なのよ!」

 

「天之河君の新設を無下にするなんて!」

 

「むしろ、どうしてあんな奴が今の今まで生きてたんだろうね?」

 

「ほんと、生まれてこなければよかったのよあんな奴」

 

目の前で苦しんでいるものを罵倒する者達

 

「エヒト様には向かう、愚か者に死を!」

 

「我ら人類をうらぎった罪人に報いを!」

 

教会の者達はハジメを見て不敵に笑みを浮かべている

 

ーあんたのような奴は幸せになんかなれないー

 

ーそれがお前の運命なんだー

 

うああああああ!!!!!!

 

ハジメは耳を抑えながらその場に蹲るように崩れ落ちる

 

「南雲君!

 

 く…」

 

ハジメを心配しつつ、映し出された光景を辛そうな表情で見つめている

 

「…つらいだろうけれども、これが現実だよ…

 

 本当に惨めだよね、あんな奴らを助けるために

 必死な思いで頑張ったのにね、所詮あれが周りの君への評価だったのさ…

 

 その証拠に君が処刑されて悲しんでいる人間はいない…

 

 それどころか、君が苦しんでいるのをまるで楽しそうに見ている…

 

 なにより君はあそこで死んで、あいつらはこれからぬくぬくと生きていく

 教会からの援助を受けて、オマケに国民たちからも支持されていってね…

 

 本当に君は救われないね…報われないね…本当に、本当に救いようがない」

 

「…黙れ…」

 

「でも間抜けなのは君の方だよ…

 

 だって君も分かったんでしょ?

 

 あいつらが君のことをどう思っているのかなんて…

 

 でも君はありもしない希望にかけて、あいつらのために奮闘した…

 

 その報いがこれだなんてね…ホントこれが、世も末って奴だね…」

 

「…黙れ…」

 

「まあ別に君一人が死んだ程度で世界がどうにかなるって言うなら

 君も多少は救われたのかもしれないけれども、君にはそんな力なんてない…

 

 弱い奴が淘汰されて行くのは自然の摂理、こっちの世界でもあっちの世界でも一緒…

 

 君なんて、世界から見れば失ってもなんとも思われないちっぽけな存在なんだものね…」

 

「黙れ黙れ黙れ…!」

 

「本当に君は、存在そのものが何の価値もなかったってことだもんね…」

 

黙れええええええ!!!!!!

 

ハジメは今までのおとなしい様子とは似合わないほどの激動を上げる

 

「どうして僕ばっかりがそんなに言われないといけないんだ!

 

 僕だってしっかりぼくなりに頑張ってきたんだ

 この世界でもあっちの世界でもそうだ、僕はただ僕なりに

 色々と工夫を咲いていただけなのに、何でそんな風に言われないといけない!!

 

 なんで僕ばっかりが責められないといけないんだ…何をやったって報われないなんて…

 

 これじゃあ…僕の人生は…いったい何だったんだ……

 

 何のために生まれて何のために生きて何のために死んだんだよおおお!!!

 

「‥‥南雲君…」

 

狂ったような様子意を見せていくハジメに何も言えなくなっていく渚沙

 

「僕は一体…何だったんだよ…」

 

そう言ってその場に膝をついていくハジメ

 

すると、そんな彼の前に司書の女性が立っていく

 

「…君が一体何なのか…その意味を…私が上げよっか……?」

 

「…え?」

 

そう言ってさっきまでの態度が一変

優し気な様子で語り掛けていく司書の女性

 

「君が一体何なのかなんてはっきり言って誰にもこたえられない…

 

 当然だよね、だって君は君でしかないんだもの…

 

 だから、君の生きている意味を教えて上げることは

 出来ないけれども、君の生きている意味を導いてあげることは出来るよ?

 

 だからね…このトータスと君のいた世界を真っ黒にしてみない?」

 

「…どういうこと…?」

 

司書の女性の歪んだ顔を見てやや圧倒され気味になっていくハジメ

 

「…君はずっと考えていたんじゃないか?

 

 どうして自分ばっかりがこんな目に

 自分はどうして不当に扱われないといけないのかを…

 

 ずっと、ずっと考えていたんじゃないかい?

 

 私がその答えを教えてあげる、その答えは至極単純…

 

 弱いからだよ…」

 

彼女はハジメに不気味な笑みを浮かべながら話をしていく

 

「どうして君が犯してもいない罪をかぶせられたと思う?

 

 どうしてそれで、君は周りから見放されたと思う?

 

 どうして、この世界での君のやったことは踏みにじられると思う?

 

 どうして君はここで殺されると思う?

 

 その答えは、君が力がないからだ、弱いからだ

 

 力のない奴は力のあるやつに食われるのは世の摂理だ…

 

 法律だとか倫理だとか、そんなものはまったく何の関係もありはしない…

 

 君はたったそれだけのことですべてを失ってしまったと言う事だよ…」

 

彼女に言いくるめられる様に納得させられていくハジメ

 

「…でもね、君は運がいい…

 

 だって君にはこうしてここで

 世界を圧倒できる力を手にする機会が得られている…

 

 力さえあればどんなことも許されるのはお前を追い込んだ

 あいつらが証明してくれたんだ、だったらあなたもトータスを…

 

 君のいた世界を好き勝手にすることのできる力をここで得られるんだ…

 

 君はもう人としては死んでいる、だが人やすべての者を超越できる力を得る素質がある…

 

 だったら後は…君がその首を縦に振るだけだ…」

 

女性がそう言うと、ハジメはしばらく悩んでいる様子を見せていく

 

「…ねえ、司書さん…

 

 もしもその力を手に入れられれば

 僕はもう二度と、こんな理不尽な運命に

 振り回されることはなくなるんだよね…?」

 

「…それについては君次第としか言いようがないね…

 

 私がするのはあくまで君に力を与えてあげることだけだし

 力を得たのだとしても君のその運命とやらについては興味もない…

 

 あくまで、君が勝手にどうにかしろってことだよ」

 

女性がやや突き放し気味にそういうと

ハジメは顔つきを変えて彼女の方を見る

 

「…わかった…

 

 貴方の提案、受けるよ!

 

 僕にそれ以外に道がないって言うなら

 僕は貴方の提案を受け入れる、だから僕に力をくれ!!」

 

「‥‥南雲君!?」

 

渚沙は其れを聞いて、慌てて彼に呼びかけていく

 

「‥‥南雲君、本当にそれでいいの?

 

 この彼女の提案は遠まわしに貴方に

 ひとであることを捨てるように言っているのよ…

 

 それで力を手に入れたとしても、その先に

 待っているのは地獄、そうだともいえる苦しみに道なのよ!?」

 

「…分かってる!

 

 でももう地獄なんていやと言うほど

 経験してきたんだ、今更地獄が同かなんてどうでもいい…

 

 僕は…僕に課せられた理不尽な運命を…変えたいんだ!」

 

ハジメの決意を秘めた瞳を見て渚沙はふっと目を閉じる

 

「‥‥わかったわ…

 

 貴方がそうすると決めたのなら

 私はもう何も言わないわ、でも…

 

 その代わりっていう訳でもないけれど…

 

 あなたにお願いがあるの…」

 

渚沙はそう言って女性の方を見る

 

「何かな…?」

 

「‥‥その提案だけれど、私にもやらせてほしい…

 

 私はね、あんな奴らでも認めるところはあるんだって

 あいつらの中にある少しの善意に期待をしていたんだ…

 

 でも、結局あいつらは何にも変わらなかった…

 

 あいつらは結局、私の思った通りの奴らだった…

 

 私も意味も分からずに裏切られて、殺されてしまって…

 

 いまさらもう戻ることなんてできない、どうせ戻れないなら…

 

 私は彼、南雲 ハジメ君と運命を共にしていきたいと思う!」

 

そう言って女性の前から見て、ハジメの隣に立って言う

 

「東雲さん…?」

 

「‥‥貴方だけに全部を背負わせたりなんてしないわ…

 

 どっちにしろ私だって人としての生は終わっているんだもの

 だったらもう戻ることなんてできない、それだったら私は南雲君…

 

 あなたとともに最後までこの道を進んでいく!

 

 それは、私なりの覚悟よ!!」

 

そう言って女性の前に立って、決意を口にしていった

 

すると

 

「…フフフ…

 

 そうか…それはそれでいいかもね…

 

 まあ、せいぜい、その力を

 好きなように使ってみるんだね…」

 

そう言って彼女は二人の方に

ゆっくりと手をかざしていった

 

こうして、ハジメはまたも意識を失って行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

トータス

 

神に導かれ、人々と魔人族たちが洗いあう狂気の世界

 

その世界に召喚された勇者と呼ばれた少年と

共に導かれし同胞の少年少女達、その中に二人

 

世界に嫌われ、傷つけられた少年と

力を与えられず、見放された少女がいた

 

二人はその世界の人々や

共に召喚されしクラスメートの悪意によって

 

ともにその生涯を終えた

 

だが、少年たちのもとに残った少年の力は残り

それはこの世界で暗躍をしていた悪意ある者の手により

 

九つに分けられていった

 

自身の力によって周りから認められるという驕りから傲慢

 

誰よりも傷つきながらもそれを何とも思わぬように張った虚飾

 

どうして自分ばかりが傷つくんだという思いから生まれた嫉妬

 

自分を傷付けあざける者達への怒りから生まれた憤怒

 

自身が傷つけられることによる諦めから生まれた怠惰

 

頑張る事への意味を理解することが出来ない無知からの憂鬱

 

自分の運命に抗う力を求めていく重いから生まれた強欲

 

誰かに認められたい、欲されたいという貪りから生まれた暴食

 

愛されたい、求められたいという重いから生まれた色欲

 

九つの罪は、悪意ある者によって分けられていき

世界中にばらまかれて行った、やがてこのばらまかれた罪が

 

やがてこのトータス、ひいては地球

この二つの世界を大いに蹂躙していくことになるのを誰も知らなかったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

原罪者は世界への憎しみとともに動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          



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1-2Nascitur autem peccator Erwachen des Heiligen
Et virtute, ut inquinavit Die Kraft, die Welt zu erschaffen


          

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメと渚沙が裏切り者として処刑されてから、五日はたった

 

クラスメートのほとんどが目の前でハジメと渚沙が

目の前で死んだことによって最初のうちは動揺こそ見ていたが

 

翌日から、まるで何事もないように彼らは元の生活に戻っていた

 

まるで、南雲 ハジメと言う人間なんて最初っからいなかったと言わんばかりに

 

そんな様子を異様な様子で見ていたのは

 

八重樫 雫

 

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

園部 優花

 

 

宮崎 奈々

 

 

菅原 妙子

 

 

相川 昇

 

 

仁村 明人

 

 

玉井 淳史

 

 

畑山 愛子

 

 

北浦 纏

 

 

そして意外なことにその中には

 

坂上 龍太郎

 

 

彼の姿もあったのだった

 

トータスの人々の方では

 

リリアーナ・S・B・ハイリヒ

 

 

へリーナ

 

 

メルド・ロギンス

 

 

メルドに至っては立場のこともあって

どちらかにつくことは出来ないという意味で中立となっている

 

その中立に立っているのは他にも

 

中村 恵里

 

 

谷村 鈴

 

 

永山 重吾

 

 

野村 健太郎

 

 

辻 綾子

 

 

吉野 真央

 

 

以上の面々である、だがそれをお首に出す者は

悲しいが誰もいなかった、彼彼女らの心に有ったのは

ハジメへの敵愾心ではなく、下手に口を挟めば自分も

ハジメを庇った渚沙のように処刑されるのではないのかと言う恐怖

 

その恐怖によって、彼等も含め、ハジメに敵愾心を抱いている者達もまた

教会に対して下手に逆らってはいけないと言う恐怖と言う名の楔が撃ち込まれていた

 

そんな恐怖を抱いている中でもしも教会がクラスメートに戦えと言えば

それこそ戦いたくない者達でも無理矢理に戦いに行かされるのは目に見えている

 

そうはさせまいと立ち上がったのが愛子であった

 

愛子はハジメが殺されたのを知って誰よりも悲しみ

守るべき生徒を付帯も失ったことによる哀しみを押し殺し

 

教会に必死に直談判をしていく

 

その甲斐もあって戦いに出たくない生徒が戦場に

無理やり連れだされて行くという最悪の事態は防げた

 

だが、その代わり二人の生徒に関しての問題は

これで終わりだと冷たく切り捨てられてしまうのだった

 

こうして、ハジメと渚沙は使徒の中に混じった

悪魔の化身として国中に認知させられてしまうのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥…」

 

教会より戻ってきたのは一人の小柄な女性

 

畑山 愛子

 

 

背が低い事とやや幼い印象もあって生徒達から

愛ちゃん先生の愛称で呼ばれて親しまれている

 

だが、そんな彼女は今はそんな

雰囲気に意識を向けられるような状態ではない

 

「‥‥何が先生ですか…何が味方であり続けるですか…

 

 南雲君と東雲さんが訳の分からない罪を背負わされて

 みんなが見ている前で処刑されて、挙句にはそんな二人のために

 何にもしてあげることも出来なかった‥‥私は結局…あの頃と何も変わってない…

 

 ごめんなさい南雲君‥‥ごめんなさい東雲さん…」

 

そう言ってその場に立ち止まって涙を堪えようとするも

その涙を止めることが出来ずに嗚咽を漏らしながらその場に

立ち止まり、拳をぎゅっと握りしめながらなく崩れて行く

 

そんな、彼女の前に一人の女子生徒が近づいてきた

 

「…愛ちゃん先生…」

 

「‥‥園部…さん‥‥…」

 

園部 優花

 

 

七大天使の一人でクラスメートの中でハジメの味方であり続けた彼女

そんな彼女の様子は穏やかなものではないと愛子は表面上ながらも感じていた

 

「…教会の方は、なんて…?」

 

「‥‥教会は私の提案を承諾してくれました…

 

 その代わり、南雲君と東雲さんのことでこれ以上

 干渉しないようにと注意勧告を受けました、おそらく

 

 南雲くんと東雲さんをそれぞれ神の使徒にまぎれた悪魔の使い

 そしてその彼に加勢した裏切り者として片を付けたいのでしょう…

 

 生徒達の方はどうですか?」

 

「…はっきり言って雰囲気は良いとは言えません…

 

 あれ以来誰も、南雲や渚沙の話題を口にしようとする人はいません…

 

 なかには、まだ裏切り者がいるんじゃないかって疑心暗鬼に陥って

 攻撃的になっている人やほかのクラスメイトと接触するのを嫌って

 自室に引きこもりになっている奴もいます、もうこの世界に来る前の雰囲気は…

 

 無いに等しいでしょう…」

 

「‥‥そうですか…」

 

優花と愛子はどこか複雑そうな表情を浮べていた

 

「…先生…私、オルクス大迷宮でトラップにかかったときに

 南雲に助けられたんです、もしあの時南雲に助けられなかったら…

 

 私はもしかしたら、ここにはいないかもしれません…

 

 アイツには何だかんだいっつも助けられてばっかりで

 それなのに私、結局あの時何にもできなくって、あの時…

 

 先生と約束したのに…先生に心配を掛けないようにって決めたのに…」

 

「‥‥園部さん…」

 

優花は辛そうに表情を伏せ気味にしながら、涙を浮かべていく

愛子はそんな優花を見て、彼女をそっと優しく抱きしめてやる

 

「‥‥園部さん、園部さんはしっかりと

 やるべきことはやってくれました、ですから謝らないで下さい

 

 寧ろ謝るのは私の方です、私がもっとしっかり教師として

 大人として、南雲君の傍にいてあげないといけなかったのに…

 

 やるべきことを果たせなかったのは‥‥むしろ私の方です…」

 

「そんな…愛ちゃん先生は…」

 

「いいえ、あの時無理にでもこうしておくべきだったんです…

 

 そうすれば、生徒達が危険な目に合う事も、南雲君と東雲さんが

 理不尽な理由で命を奪われることもなかったんですから、本当に…

 

 本当に‥‥わたしは…」

 

思い悩む愛子に、優花は掛ける言葉が出てこなかった

ここで何か言えば愛子、ひいては自分自身を追い詰めかねなかったから

 

「‥‥それと教会は私に、あることを提示してきました…

 

 これから、国中を回って本格的な農業改革に行くことになります…

 

 数日後には神殿騎士のご同伴とともに

 近隣の町を巡っていく事になるでしょう…

 

 本当に‥‥本当に私がやるべきことは…これでいいのでしょうか‥‥…

 

 もうどうしたらいいのか‥‥わからなくなってきて…」

 

「愛ちゃん先生…」

 

すると、優花はなにかを決意したように表情を変える

 

「だったら…だったら私も一緒に行きます!」

 

「‥‥え?」

 

優花の言葉に、愛子は目を丸くして彼女の方を見ていく

 

「私たちはあいつに助けられたからこそ

 こうして生きて居られることが出来る…

 

 だからこそ、あいつに救われたこの命を無駄にしないために

 私は自分が後悔しない道を選びたいんです、愛ちゃん先生はいつだって

 私達のことは当然、あいつのことも唯一気にかけてくれていました…

 

 先生がしっかり教会に意見してくれなければ

 きっと私たちは教会に振り回されて、それこそ取り返しのつかない

 状態に陥っていたのかもしれません、だから私が先生の傍について

 

 こんどは私が先生の事を支えてあげたいんです!」

 

「園部さん…」

 

優花の決意を秘めた目つきを見て、愛子は小さく首を振る

 

「‥‥いけませんね、これじゃあ…

 

 生徒に気を遣わせてしまうなんて…

 

 こういう時こそ、先生である私がしっかりしないといけないのに…」

 

そう言って自分の両方の頬をぱんぱんと強めに叩く

 

「‥‥園部さん、ありがとうございます…

 

 すこし、前を向かないとって気持ちになりました…

 

 でも、園部さん、くれぐれも一人で無茶は

 なさらないようにしてください、貴方だって私の大切な生徒なんですから」

 

「…フフフ、はい!」

 

優花は少し噴き出しながらもすぐに返事を返していく

 

「それでは‥‥よろしくお願いしますね、園部さん」

 

「こちらこそ、お互いに頑張りましょう、愛ちゃん先生」

 

こうして二人は決意を新たに笑顔で答えていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こっちの方では一人の女子生徒が自室に引きこもっている

 

白崎 香織

 

 

四大女神に数えられ、男子生徒から絶大な人気を誇る彼女

そんな彼女が自室に引きこもっているのは思いを寄せていた男子生徒

 

南雲 ハジメ

 

 

彼と通じていく事で仲よくなった女子生徒

 

東雲 渚沙

 

 

この二人が香織の見ていた目の前で殺された

正確には教会の手によって殺されてしまったのだ

 

あの後、騎士団の手によって気を失った香織は

その二日後辺りに目を覚ましたものの、ハジメと渚沙が死んだこと

そんなことがあったのにクラスメイトはいつも通りにしていたこと

 

教会は結局、ハジメと渚沙の認識を改めなかった事

 

幾つものショックを感じて、とうとう部屋に引きこもってしまった

 

雫や姫奈、風香、更にハジメのために奮闘してくれた龍太郎に

心配はないかと様子を見てきてくれた恵里や鈴などがお見舞いに来てくれた

 

光輝や檜山達などの男子生徒も見舞いに訪れようとしたが雫らに断固として拒否された

 

彼等は教会の提示したハジメは裏切り者であると言う言葉を肯定したのだ

そんな彼らを合わせればただでさえ香織は参っている状態なのに、それは

余計に彼女を傷付け、苦しめていく結果になっていく事になるであろう事は明かであった

 

「‥‥南雲君…ごめんね‥‥…

 

 あの時、決意したのに…

 

 もう二度と南雲君のことを傷つけないように

 南雲君のことを守ってあげるって決めたのに…

 

 ごめんなさい‥‥ごめんなさい…ごめんなさい‥‥…」

 

ハジメを傷つけないようにと傍にいるのだと決めていたのに

結局、彼が傷ついていくのを止められなかったことに対しての

懺悔のように、贖罪のように何度も何度も謝罪の言葉をつぶやいていく香織

 

そんな香織の自室の扉が開いていき、その中に一人の女子生徒が入っていく

 

「白崎さん‥‥お加減の方はどうですか…?」

 

「‥‥纏ちゃん…」

 

北浦 纏

 

 

七大天使の一人で、渚沙とともに

ハジメとグループを組んでいた女子生徒だ

 

「‥‥ねえ、纏ちゃん…

 

 私って‥‥誰かを傷付けることしかできないのかな…?」

 

「え…?」

 

香織はやや自暴自棄になって言葉を続けていく

 

「‥‥私はただ、中学校の時に南雲君のことを知って

 

 高校に入って南雲君のことを見つけて、仲よくなろうと

 積極的に接していって、でもそのせいで南雲君はあんなレッテルを張られて…

 

 この世界に来ても、ハジメ君はみんなのためにあんなにがんばったのに…

 

 私は、ハジメ君の事‥‥好きになっちゃいけなかったのかな…?」

 

香織は涙を浮かべながら、そんなマイナスなことを言うようになる

 

「‥‥誰かを好きになること、それはとっても素敵な事ですよ…

 

 誰が誰を好きに思う事を決める権利は、誰にだってないんです…

 

 私は香織さんが南雲さんを好きになった気もち、ほんの短い間に

 彼と一緒に過ごしていって分かった気がします、彼はあの場にいた

 誰よりも強くて頼もしい、本物の勇者だったって感じましたから…」

 

纏はそこまで言うと、香織の方を向いて笑みを浮かべていく

 

「それに、香織さんが南雲さんのことを

 好きになったことは何も不幸ばっかりではなかったと思います…

 

 だって、彼の周りのほとんどが

 彼に対して敵意を向けていた中で

 あなたは数少ない味方だったんですから…

 

 貴方の存在に本当は彼も救われていたはずですよ…

 

 ですから‥‥貴方の彼への思いを

 貴方自身が否定しないでください…

 

 それこそ‥‥彼が浮かばれなくなってしまいます…」

 

「纏ちゃん…」

 

纏の言葉を聞いて、香織は涙を浮かべていく

 

自分で自分の思いを否定するのは、本当に悲しくてつらいことだから

 

「‥‥纏ちゃん…

 

私ね、もう決めていることがあるんだ…

 

 纏ちゃんも協力して貰えないかな?」

 

「‥‥決めている事…?

 

 それは一体、何を…?」

 

纏がそれを聞くと香織は自分自身が決めたことを話していく

 

「‥‥本当にそれでいいんですね…

 

 最初に言っておきますけれど、それを選んだら

 本当の意味で後戻りはできません、それはわかっていますね?」

 

「‥‥もちろんだよ…

 

 少なくとも、私にとってはそれが十分なことだって思うから…」

 

香織の決意を秘めた瞳に纏はふっと笑みを浮かべていく

 

「‥‥わかりました、私もどこまでできるかわかりませんが

 強力をしましょう、はっきり言って私ももうあんな人たちの傍には

 

 居たいとは思いませんから‥‥でも、その代わり

 何人かに声をかけていきましょう、全員が全員、あんな人たちではないでしょうし…」

 

「そうだね…

 

 雫ちゃんは当然

 姫奈ちゃん、風香ちゃんに優花ちゃんもそうだし…

 

 それにこういうのは多い方がいいだろうしね…」

 

こうして、香織と纏は一つの決意とともに動き出していった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

更に所が変わって

 

「リリアーナ様‥‥

 

 へリーナでございます‥‥

 

 入室して、よろしいでしょうか?」

 

一人の少女がリリアーナ王女の元を訪れていく

部屋の前でそう言って声をかけていくと、中から

 

「…‥許可します‥‥」

 

「失礼いたします」

 

声が聞こえたので、へリーナは扉を開けて入室していく

彼女のほかにも何人かの人物も入ってくる、それはへリーナとは違い

 

騎士の鎧に身に纏った女性であった

 

奥のベッドの方で寝込んでいる女性に歩みよっていく

 

「…‥クゼリー‥‥

 

 あなたも来てくれたのね‥‥」

 

「‥‥申し訳ありません…

 

 へリーナがリリアーナ様のもとに行きたいと

 おっしゃっていたので、失礼を承知でご同伴させてもらいました…」

 

そう言って、奥にいる女性に向かって行って跪いて声をかけていく

 

「…‥いいえ、私の方こそ心配を掛けてしまったようでごめんなさい‥‥

 

 そのままで楽にしていてください、今は公の場ではないのですから‥‥」

 

リリアーナがそう言うと

クゼリーと呼ばれた女性騎士は顔を上げて立ちあがっていく

 

「それでクゼリー‥‥

 

 その後の動きの方は‥‥?」

 

「‥‥残念ですが、リリアーナ様の予想どおりであると

 お伝えするほかありません、国王陛下や教会たちは騎士団の者達に

 

 南雲 ハジメに勘する一切の詮索を禁止いたしました…

 

 メルド団長の方も最後まで申請をしましたが、聞き入れてもらえず…

 

 引き続き、神の使徒たちの訓練の方に取り掛かるようにともうしつけられました…」

 

「…‥あんなことがあったのに、まだ無理に戦いにいかせようとしているのですか!?

 

 彼を一方的に悪だと決めつけて、訳の分からな言いがかりをつけて

 揚句には大衆の目の前に置いて処刑を行うなど、彼のご学友たちが見ている目の前で!

 

 目の前で彼が死ぬさまを見せられたというのに、どうして‥‥」

 

リリアーナの表情は悲しみに暮れている様子で怒りの声を上げていく

 

「‥‥リリアーナ様…

 

 その件についてですが、おそらく…

 

 リリアーナ様にとっては気分の良くない話になるので

 出来る事でしたら、お話するのは躊躇われるのですが、実は…」

 

しかし、クゼリーの伝えた言葉を聞いてリリアーナはさらに怒りの声を上げていく

 

「…‥なんてすって‥‥!?

 

 彼が死に行く姿を見て、何とも思わぬばかりか

 彼の事を悪く言うとは、メルド団長より聞いた話では

 

 オルクス大迷宮で全員が窮地に陥ったのを

 ハジメさんが助けてくださったと聞きました!

 

 それなのに‥‥それなのに…その恩をあだで返すとは…なんて‥‥

 

 なんてふざけた人たちなのですか!?

 

リリアーナの怒号があたりに響き渡っていく、そんな彼女の怒り声に

へリーナもクゼリーもおっしゃる通りですと言わんばかりに何も言わない

 

リリアーナも必死で自分の中に湧き上がる怒りを抑えるように息を切らす

 

「…‥ごめんなさい…二人の前で見っともない姿をさらしてしまって‥‥」

 

「‥‥いいえ、リリアーナ様のお怒りはごもっともです‥‥

 

 むしろ、私自身も湧き上がる怒りを抑えきれないもので‥‥」

 

「ですが‥‥

 

 全員がそうであったという訳ではありません‥‥

 

 白崎殿と八重樫殿、南野殿、西宮殿、薗部殿やその友人たち

 愛子殿に至っては彼の汚名をはらそうとふんとうしてくださりました‥‥

 

 結果はあまり芳しくありませんでしたが‥‥」

 

クゼリーの言葉を聞いて、リリアーナは安どの様子を見せていく

 

「香織や雫たちが‥‥

 

 それを聞いて、少し安心しました‥‥

 

 雫と香織が向こう側でないだけでも、私としては救いです‥‥

 

 しかし…‥わたしはもう、この国と手を切るのがいいのかもしれませんね‥‥」

 

「リリアーナ様‥‥

 

 もしその時が来れば

 ご一緒させていただきますよ‥‥

 

 私はあくまで、リリアーナ様にお仕えする身ですから‥‥」

 

「‥‥私も同じです…

 

 私もはっきり言って、今の王や教会の言いなりになって

 動きたいとは、思いませんから、私も南雲 ハジメの人柄は知っています…

 

 周りからどんなにさげすまれても、その者達を傷付けるよりも

 自分を磨いてしっかりと結果を残そうとする、芯の強い御人でしたから…」

 

リリアーナは信頼のおける二人が

自分と同じ意志であることに嬉しさを感じていた

 

「…‥ええ、私にとっても彼と過ごしていく時間は

 本当にかけがえのないものでした、あのように感じられたのは

 

 後にも先にも…‥本当に…彼と過ごした…あの時間だけだったのに‥‥」

 

リリアーナの表情が段々と暗いものになっていく

それを見てへリーナもクゼリーも表情を悲し気にしていく

 

「‥‥彼のいない時間を過ごしていかなければならないと言うのならば‥‥

 

 もういっそ、こんな世界なんて滅んでしまえばいいのに‥‥」

 

リリアーナは不意にそんなことをつぶやいた

彼女のそんな発言を、へリーナもクゼリーも否定も肯定もしなかったという

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥何なんだよこれ…‥一体何なんだよ‥‥…‥」

 

有る場所で一人佇んでいる一人の男子生徒

 

坂上 龍太郎

 

 

彼は五日前に起こったハジメと渚沙の処刑を見て

いったい自分は何を信じればいいのだと思い悩んでいた

 

彼は五日前のオルクス大迷宮の時の出来事を今でも思い浮かべていた

 

龍太郎にとって南雲 ハジメと言う男子は

ハッキリ言っていい印象はなかった、例の事件もあって

彼の事を男の風上にも置けない最低最悪の屑野郎とだと

 

幼少のころから一緒だった光輝の言う事を信じていた彼は

かの事件を起こしたのはハジメであると信じて疑っていなかった

 

この世界に来てからも彼は訓練に参加することなく

図書室に転がっているという噂を聞いて、自分たちが

真剣に県連を受けているというのに一人だけさぼっているのかと

 

だが、オルクス大迷宮において彼は驚くほどの成長を遂げていった

 

極めつけは、トラップにかかってその先で

ベヒモスやトラウムソルジャーに襲われて死ぬような思いの中で

 

彼は自分達を守るために渚沙や纏とともに奮闘していった

 

そんな彼を見て、龍太郎は正直にすごいと思

ったと同時にハジメへの認識が変わっていった

 

だが、そんな折で起こったのが例のハジメと渚沙への処刑

 

龍太郎は死んでいくハジメと渚沙を見て

激しく動揺をおぼえていった、自分達のために

必死に立ち向かった彼が自分達を裏切っていたなどと

 

光輝はかたくなに彼のことを悪だと決めつけていた

だが、龍太郎はそれを聞いてふと思ってしまっていたのだ

 

裏切っていたのは自分達の方ではないのかと

 

そんなことに悶々としていく中で龍太郎は食堂に来ていた

そこには光輝や、恵里や鈴と言ったパーティーメンバーや

見慣れたクラスメートの姿があった、だが龍太郎にはそれが異様に見えた

 

「おはよう龍太郎、もうすぐオルクス大迷宮の攻略だな」

 

「‥‥お、おう…‥」

 

そう言って挨拶をかわしていくのは龍太郎の幼馴染にして親友

 

天之河 光輝

 

 

彼はいつものように話しかけていた、そう

いつものように、あの日からこれが何処か

異様に映ってしまっている、本当にこれが現実なのかと

 

「あれから畑山先生が進言をしてくれたおかげで

 訓練に参加するのは希望者となった、まあ俺も

 周りの意志を無視してまで、意見を強要するつもりはない…

 

 七日前の事もあるしな…」

 

「‥‥七日前…‥それって‥‥…‥」

 

龍太郎が恐る恐る聞いていくと

光輝はさも当然のように答えていく

 

「決まっているだろう、南雲の裏切りに巻き込まれて

 処刑されてしまった東雲さんの事さ、本当につらかったよ…

 

 出来る事だったら俺は東雲さんのことは助けてあげたかったのに…

 

 まったく南雲の奴は本当に許せないな、自分の努力不足を棚に上げて

 魔人族と手を組んで不当に力を手に入れ、挙句に俺たちの命を狙って行くなんて…

 

 あいつは卑劣でろくでもない奴だったけれどそれでも

 俺はいつかあいつが自分の罪をしっかり認めて、まっとうに

 なってくれると信じていたのに…‥本当にあいつには裏切られたよ…

 

 死んで当然とまでは言うつもりはないが、受けた報い自体は相応の者だったよ…」

 

光輝の表情はうかない者であった、だがそれはハジメが死んだことに対してではなく

渚沙が死んだことへの哀しみ、逆にハジメの方は遠まわしに裏切り者だと蔑んでいる

 

周りにいたクラスメートはそれに同意する様に光輝に頷いていく

 

龍太郎はそれに内心激しく動揺していた

どうすればいいのかと立ち尽くしていると

 

「‥‥今は何も言わずに合わせておいた方がいいよ‥」

 

そんな龍太郎に小声で話しかけていくのは

 

中村 恵里

 

 

彼女はそう言って龍太郎に下手に突っつかないように進言する

 

「‥‥中村…‥」

 

「‥‥僕も多分、坂上君とおんなじ意見だよ‥

 

 はっきり言って今のクラスの雰囲気は異常だ‥

 

 まあ無理も無いよ、南雲君が裏切り者だって言われて以来

 クラスメートもお互いがお互いのことを信用できなくなってきているからね‥

 

 気が気じゃなんだよ、僕だってこの中で信じられるのは鈴くらいだからね‥」

 

「えりりん‥」

 

恵里の言葉を聞いて安どの声で彼女の名前を呼ぶのは

 

谷口 鈴

 

 

彼女もはっきり言ってこの空気に圧され気味になっており

故に親友であると信じている恵里に信じていると言われて安心したのだ

 

「それに坂上君‥‥僕は君の事も信用できるって判断してる‥

 

 この空気を異常だと感じられているっていうだけで十分すぎるくらいにね‥」

 

「中村…‥」

 

龍太郎の表情は少し、安心したようにも思えた

しかし恵里はすぐに彼に話はここまでだと言わんばかりに座るように進めていく

 

すると、そこに一人の男性が入っていく

 

「みんな、集まっているな!

 

 それでは改めてオルクス大迷宮に向かう日程を

 ここで報告しておく、お前たちは戦いに志願すると受け取っていいんだな?」

 

メルド・ロギンス

 

 

ハイリヒ王国 王国騎士団長である彼がそう声をかけていく

すると、光輝が挙手をしながら立ち上がっていき、質問する

 

「待って下さい、メルドさん!

 

 香織と雫たちがまだ来ていません!!」

 

光輝はそう言って聞いていく

 

「…香織と雫は訓練の参加を辞退した‥‥

 

 よって二人はここにはいない、それだけの事だ」

 

 

メルド団長はそう言ってその場にいる者達に伝えていくと

思い出す様にそっと目を閉じる、それは昨日の夜にまでさかのぼる

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「…そうか‥‥それがお前たちの答えか…‥‥」

 

「‥‥はい、正直に言ってもう

 

 ここに居続けても、苦痛でしかありませんから…」

 

メルド団長の職務室

 

彼に用があってと言ってきたのは五人の少女

 

先程、率先して答えたのが

 

白崎 香織

 

 

八重樫 雫

 

 

南野 姫奈

 

 

西宮 風香

 

 

北浦 纏

 

 

彼女たちであった

 

「…この事を、光輝たちには‥‥?」

 

「話してなんていませんよ‥‥話したら絶対に止められますから…」

 

メルドの次の問いに答えたのは雫だった

 

「メルドさんも納得はしないでしょう、でも私達できめた事です…

 

 はっきり言ってここにいても教会や王国にいいように使われるのがオチです…」

 

「だから私たちは、この国を出ていこうと思ってます…

 

 あてはありませんが、少なくとも

 この国やほかのクラスメートの傍にいたいとは思いませんから…」

 

「…だが、外の方にも魔物が生息している地域だってある‥‥

 

 確かにお前たちのステータスは優秀ではあるが、だからと言って

 全てにおいて負けることがないと言うわけじゃないんだ、最悪死ぬかもしれない‥‥

 

 それをわかったうえで、この国を出ようと言うのか‥‥?」

 

「‥‥はい、異様な力を持っているからって平気で人の命を奪うこの国や教会

 

 それに対してなんとも思わないクラスのみんなの傍にいることの方が嫌ですから…」

 

メルドはそう言ってそうかとため息交じりにつぶやくと

 

「…だったら、冒険者になってみるのはどうだ?」

 

「「「「「「「冒険者?」」」」」」」

 

「うむ、面に魔物の討伐や護衛、救出などを請け負っている者たちだ

 

 危険な職業だが、その分稼ぎはいい

 国から出るのならある程度のかせぎどころは必要だろ?」

 

メルドはそう言って五人に冒険者になってみるように進めていく

 

「止めたり‥‥しないんですね…」

 

「…本来ならそうするべきなんだろうが、俺もはっきり言って

 坊主たちの処刑に思うところがあってな、それにある意味では

 俺が坊主の、ひいては二人が処刑されるきっかけになってしまったようなものだからな‥‥

 

 俺があの時、教会の意図も考えずに軽はずみな報告をしなかったら‥‥」

 

「そんな、メルド団長は南雲の処分を変えたい一心でやったんですよね!?」

 

「それでも、俺の力が及ばなかったせいで坊主は‥‥

 

 あの時坊主に俺たちは紛れもなく救われたっていうのに‥‥

 

 本当にすまなかった!」

 

そう言ってメルドは五人に頭を下げていく

 

「…だから俺は、お前たちを止めるつもりはないし止める権利もないと思っている‥‥

 

 ただせめて、謝らせてほしい、これが俺なりに出来る精一杯のけじめだ‥‥」:

 

「‥‥メルド団長、頭を上げてください

 

 私たちはメルド団長がハジメ君の事も気にかけて

 くれていたことは知っています、ですからどうか顔を上げてください…

 

 私たちはメルドさんのことは怨んでなんていません‥‥」

 

香織はそう言ってメルドに優しく話しかけていく

メルドはそれを聞いて、顔を上げて最後の言葉をかけていく

 

「…じゃあ、最後にお前たちにここで最初で最後に言っておく‥‥

 

 死ぬな、何があっても絶対に生きろ!」

 

メルドのその言葉をしっかりと受け止める五人

 

「「「「「はい!」」」」」

 

五人はそう言って、力強く返事をするのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

香織と雫がいないことを知って騒ぎ始めていく訓練志願組

 

「静かにしろ!

 

 ここに来る前に言ったはずだぞ!!

 

 訓練に参加するものはここに集まり

 残るものはしっかりとここにいるようにと‥‥

 

 2人は訓練に志願しなかった…それだけの事だ!!!」

 

「嘘だ!

 

 香織も雫も、戦いから逃げ出すような奴じゃない!」

 

そう言ってわーわー騒ぎ始めていくクラスメート達

 

すると

 

「いい加減にしろよ!

 

 さっきから聞いてりゃ勝手な事ばっかり!!

 

 あいつらが戦おうと逃げようと別にいいじゃねえか!!!」

 

龍太郎がクラスメイトに怒鳴るように呼び掛けていく

 

「そもそも、香織や雫以外にも戦いに参加したくない奴だって

 大勢いるじゃねえか、そいつらのことは無視であの二人がいないと文句言いやがって…‥

 

 俺たちは闘うためにここに来てんだ、それ以外の動機でここにいるんだったら出てけよ!

 

 はっきり言って邪魔だ!!」

 

龍太郎の激高にさわいでいた一同は一瞬に静まり返っていく

これには幼馴染である光輝もまた舌を巻いて黙りこんでいた

 

「…龍太郎の言う通りだ‥‥

 

 俺たちが求めているのはあくまで魔人族と戦えるもの…‥

 

 俺たちだけじゃない、教会も王国もそれを求めている…‥

 

 だから、それ以外の動機でここにいるのならここから出ていってくれ…‥」

 

そう言われて、その場にいたもののほとんどが出ていき

残ったのは光輝と龍太郎、恵里、鈴の勇者パーティーに

 

永山 重吾、

 

野村 健太郎

 

辻 綾子

 

吉野 真央

 

以上四人の永山パーティー‥‥‥‥‥

 

「ちょっと待てい!

 

 俺の事も忘れるなよ!!

 

「どうした、浩介?」

 

突然叫びだした男子生徒

 

遠藤 浩介

 

 

暗殺者の天職を持つ彼の特徴は影が薄い事

 

彼はこの技能(?)を使って

相手に気づかれずに行動することが出来るのだ

 

もっともこの技能のせいで訓練の時には

遅刻の常習犯のように扱われて仕舞っているが

 

「…では、ここに残っている者たちで改めて明日から訓練を再開する

 

 以前よりも厳しいものになっていく事は、覚悟しておけよ」

 

メルドがそう言って、その場に残った八人に改めて呼びかけt‥‥‥‥‥

 

「九人!

 

 だから俺も入れろって!!」

 

「だからどうしたんだ浩介?」

 

‥‥‥‥‥九人に呼びかけていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

王国にあるとある奴隷市場

 

そこには首に奴隷の首輪を取りつけられた者たちが

檻の中に閉じ込められ、大漁に並べられていた、そして

 

その中に怒りの表情を浮べている二人の少女がいる

 

その少女達の背中には鳥を思わせる翼が生えているのが見える

 

「‥‥くそ、なんだってあたい達がこんな目に‥‥

 

 父ちゃんも母ちゃんも殺されて、敵を討とうにも

 こんなところに閉じ込められて、ちっくしょう、なんでなんだよ‥‥

 

 なんであたい達はこんなにも無力なんだ、なんであたい達には力がないんだ‥‥

 

 力が欲しい‥‥ここにいる人間どもを全員殺せるほどの‥‥力が‥‥」

 

「ちーちゃん…」

 

そんな呪詛のような言葉をつぶやいていく少女

その少女を心配そうに見つめているもう一人の少女

 

すると、そんな二人のもとに何やら足音が静かに響いていく

 

二人はそれを聞いて、音のする方を見る

その音の発信源は自分達を閉じ込めている檻の前で止まる

 

「‥‥だ、誰だ‥‥?」

 

少女が恐る恐る声をかけると

その音を発していた人物は二人の方を見ていく

 

「…力が欲しい…

 

 君はさっきそう言っていたね…」

 

「‥‥な、何だよ!

 

 だからってそんなのお前には関係ねえだろ!!」

 

そう言って少女はその人物の言葉に強気に答えていく

 

「…君はこの世界が憎いか?」

 

「‥‥え?」

 

するとその人物は更に話しかけていく

少女は不意にその声を聴いてあっけにとられる

 

まるで、自分の心の中を見透かされたように

 

「…僕もこの世界が憎い…

 

 こんな世界なんて滅んでしまえばいいと思っている…

 

 君が望むのなら、君にこの世界を

 ここにいるすべての人間を殺すことのできる力を上げようか?」

 

「‥‥そ、そんな言葉を信じると思うか!

 

 適当なことを言ってあたしたちを蹂躙しようとしているんだろ!!

 

 お前たち人間の言う事なんて信じないぞ!!!」

 

少女がそう言って、怒りの声をあげると

その人物は檻の鉄格子を思いっきり蹴りあげる

 

すると、そこからものすごい衝撃が走っていき

それによって二人の少女は後ろの鉄格子にまで飛ばされ

 

更には周囲にあった、あたりの物がその衝撃風によって

いきおいよく吹っ飛ばされ、割れたりふっとんだりと大惨事となる

 

「ひいいいい!?」

 

少女の方も園あまりの光景におびえた声を発し

さらにその彼女の首を思いっきり掴まれて引き寄せられていった

 

「あ‥‥ああああ‥‥」

 

「僕が何だって?

 

 僕が人間だって?

 

 あの下等で存在事態が無意味な人間だって?

 

 脆弱で無知な下等生物だって?

 

 違う、僕はこの世界のいや

 すべての世界に置いて何よりも

 最強にして最高の生物なんだ、分かった?」

 

その首の締める力はすさまじく

金属性の奴隷の首輪越しにでも

かなり首が締めあげられており

 

少女は声をあげるのも

きついほどの苦しみを味わっている

 

「‥‥ゆ、許して‥‥ください‥‥

 

 謝ります‥‥謝りますから許して‥‥‥‥」

 

必死に命乞いをしていく少女

その人物は手を放してやると少女はようやく

苦しみから解放されて、急いで息を吸っていく

 

隣で其れを見ていたもうひとりの少女も

怯えた様子でその人物の方を見ていた、すると

 

「…まあいいさ、別に僕は君達にぢどうしようってわけじゃない…

 

 むしろ僕は君たち二人に提案をしようと思っているんだ…

 

 もしも君達が僕の提案を受けてくれるのなら

 君達をここから出す、ううん、出られるだけの力を授けてあげる…」

 

「‥‥提案‥‥とは‥‥?」

 

何とか声を出せるようになった少女だが

すでに抵抗する気力もない様子で、恐る恐る聞いていくと

 

その人物は口口角をにやりと上げて言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この世界を壊したいと思わない…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

城から出ていく準備を整えた

香織たち五人は人気のないところに集まっていた

 

「‥‥それじゃあ、いよいよ出発だね…

 

 みんな、聞くまでもないけれどもう後悔はしないよね」

 

「ええ、私達の意志で決めた事なんだもの…

 

 今更後戻りをしていくつもりなんてないわ」

 

「それにしても、優花は一緒に行けないのが心残りね…」

 

「しょうがないよ、優花ちゃんは

 愛ちゃん先生の護衛に行くんだって言ってたんだもの…

 

 ある意味ではそれも正解だって私はおもうよ?」

 

「そうだね…

 

 それじゃあさっそく行こう!」

 

こうして、五人はいざ

城の外に出ようと歩き出そうとしたその時

 

「香織!?

 

 雫!?」

 

後ろから聞き覚えがある声がして

うんざりした様子でその方向を見ていく一同

 

そこにいたのは光輝と迷宮志願組のクラスメートであった

 

「何をやっているんだ二人共!

 

 そんな大荷物を抱えてどうしたんだ!?」

 

光輝は五人のもとに走り寄っていく

 

「‥‥はあ、見てわからない天之河君

 

 私たちはこの城、ううん

 この国を出ていこうって決めたんだよ」

 

「何だって!?

 

 なにを言っているんだ香織!

 

 香織はこの国の人達を見捨てようって言うのか!?」

 

「当然でしょ、だってこの国の人たちは

 ハジメ君を、私の大切な人を殺したんだよ!?

 

 周りと違う力を持っているからとか

 自分達に非協力的だからだとか、そんな理由で

 意味の分からない罪を押し付けて処刑したんだよ…

 

 なんでそんな最低な人たちのために戦わないといけないの!?」

 

「香織、香織は優しいから南雲の事を信じたいのはわかる

 

 だが、現実は受け入れないとだめだ、南雲が処刑されたのは

 当然の処置なんだ、君がどうこう言ってもそれが覆るわけじゃない!」

 

香織と光輝が激しく口論をしていくと

 

「香織、落ち付きなさい!

 

 今はここで言い争っている場合じゃないでしょ?」

 

そう言って雫が光輝と香織の仲裁に入っていく

 

「雫、ありがとう、君だったら分かってくれると信じていたよ

 

 香織を説得してここに留まってこの世界の人達のために…」

 

「‥‥悪いけれど、天之河君…

 

 私も香織とおんなじ意見よ…

 

 はっきり言って私はこんな国にいたいとは思わない…

 

 あんたやほかのクラスメートのところにも、もちろんね」

 

雫の発現に光輝は呆気にとられたように黙り込む

 

「何を言っているんだ…‥意味が分からない…

 

 香織も…‥雫も…何を言い出しているんだ…‥…」

 

「分かんないんだったら教えてあげる!

 

 二人共もうあんたに愛想をつかしているのよ!!

 

 当然、私も風香も、纏もね」

 

姫奈がハッキリと自分達の意志を伝えていく

 

「そんな…‥そんなの嘘だ…

 

 だって香織も雫も俺の傍にいたじゃないか…

 

 だって二人共俺の幼馴染で…‥だから。俺と一緒に居るのが当然で…」

 

「天之河君にとって幼なじみっていう肩書は

 私達の事を縛り付けるための鎖なんでしょ!?

 

 だいたい、幼なじみだからって何なの?

 

 そんなのただ小さいころから一緒に過ごしてたってだけでしょ!?

 

 私は天之河君のものでもないし、当然誰のものでもない!

 

 私が誰の傍にいたいのかをきめるのは

 私自身が決めることにきまってるじゃない!!

 

 そんなので私のことを縛り付けようとしないで!!!」

 

香織は怒った様子で光輝に言葉を投げかけていく

 

「‥‥私ね、本当に悲しかったんだよ…

 

 あの事件が起こった原因が私が南雲君と仲よくなりたい一心で

 積極的に話しかけていったことが原因何だって、そのせいで南雲君は…

 

 ありもしない罪を着せられて、回りから冷たく突き放されて…

 

 もう、目も当てられないほどに追い詰められてるのにそれでも

 いつも通りにふるまおうとしてるのを見て、本当に苦しかった…

 

 この世界に来てからも、この世界の人達からもぞんざいに扱われて…

 

 やっと自分の力に目覚めて、みんなのことを守れるくらいに

 強くなれたと思ったら、その恩をあだで返されて処刑なんてされて…

 

 なんで彼ばっかりが責められないといけないの?

 

 彼は何にも悪い事なんてしてないのに!」

 

「それは南雲が魔人族とつながっていたってイシュタルさんが…」

 

「イシュタルさんが何?

 

 あの人が言ったことが言うなら全部本物になるってこと?

 

 じゃあもしイシュタルさんが私や雫ちゃんが

 裏切ってたって言ってたら、天之河君は信じるの!?」

 

「そ、そんなことない!

 

 俺は香織や雫がそんなことを

 するような奴じゃないことを一番理解s…」

 

「じゃあ、なんで南雲君のことは見殺しにしたの!?

 

 そもそも天之河君、私達の事知ってるって言ってるけど…

 

 結局、それって天之河君がこう

 であってほしいって考えている理想の中での私達だよね!?

 

 そういうのはね、知っているって言わないんだよ!!!」

 

香織はそう言って光輝を突き飛ばした

 

「‥‥とにかく、私達はここを出ていくよ…

 

 メルドさんにも、もう話はついてるから…

 

 天之河君に何を言われても、私達は出ていくから…」

 

「香織、待ってくれ!

 

 考え直してくれ!!」

 

光輝はなおも香織を引き留めようとしたが

そんな彼の前に姫奈と風香が立ちふさがる

 

「いい加減にしなさいよ!

 

 アンタは何処まで香織のことを傷付ければ気が済むの!?」

 

「むしろ今まで香織ちゃんと雫ちゃんが我慢して

 あんたと変わらずに接していたことに感謝してほしいものね」

 

「傷つけるだって!?

 

 俺はただ、香織のためにと思って…」

 

「違う!

 

 あなたはただ香織ちゃんをじぶんの傍に置きたいだけ!!

 

 そんなのただの自己満足だよ!!!

 

姫奈と風香、纏にも拒絶されて光輝も

そのやり取りを見ていたほかのクラスメートも唖然としている

 

「‥‥そういう事だから、私達がここを出るわ

 

 さようなら天之河君、勇者としてのお勤め頑張ってね」

 

雫がそう言って呆然と立ち尽くしている光輝にそう告げて

 

こうして、香織、雫、姫奈、風香、纏の五人は

国を出るための一歩として王城の外にまで出ていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「‥‥まったく、とんだハプニングに遭遇したものね…

 

 でも、天之河の奴にしっかりと言いたいこと言って

 

 ちょっと胸が空いたな…」

 

姫奈はそう言ってフードのように

布で顔を隠して国の外にまで歩いていく

 

「お腹空いたのなら何か買ってく?」

 

「違うわよ、すっきりしたってこと!

 

 まったくあんたって本当にそうやって天然かますんだから」

 

「まあ、香織ちゃんらしいよね…

 

 さあて、まずはメルドさんに勧められた通り

 冒険者になっていこうと思うのだけれど、どうする?」

 

「この国では冒険者登録は難しそうね…

 

 顔を隠しても、登録にはステータスプレートが必要だし

 私たちの名前は広くこの国の人達には知られているからね…」

 

「だとすると、まずは王都から出て

 ホルアド以外の場所の冒険者ギルドに向かいましょう…

 

 王都と外の町の方ではそれなりに

 情報規制がされているとのことですし…」

 

こうして、五人はまずは王都を出て冒険者登録をするために

どこかの町に寄ろうと計画を立てていく、そんな矢先の事だった

 

「‥‥ねえみんな…

 

 なんだか、寒くない?」

 

香織が不意にそんなことを聞いてきた

一同はそんなわけないと言おうとするが

 

他の面々も不意に冷たい空気の感触を覚えていく

 

「‥‥ほんとだ…

 

 ねえ、トータスの気候って確か

 北に行くほど暖かくなっていくのよね?」

 

「ええ、私達のいた世界とは逆にね…

 

 でも確か今の季節は、まだ温かい方のはずよ?」

 

「どういう事?」

 

そんな疑問を持っていると

不意に町の方から悲鳴が上がっていく

 

五人は何事なのかと思い駆けつけていく

 

そこには何と、全身が氷でできたような怪物が

王都にいる人々を次々と襲いかかっている光景であった

 

「何あれ!?

 

 魔物!?」

 

「どういう事なの!?

 

 確か、王都には結界が張られていて

 外部から侵入をしていくのは不可能だって…」

 

「考えている暇はないわ!

 

 とにかく何とかするわよ!!」

 

そう言って五人は人々を襲っている魔物の群れに挑んでいく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

やがてその知らせは、王城の方にも入ってきた

 

「団長!」

 

訓練の準備を進めていたメルドの元に

騎士団の者が飛び込むようにやってきた

 

「どうした、そんなに慌てて!?」

 

「王都内部において、魔物が大量発生!

 

 住人たちを次々に襲っています!!」

 

報告をあげると、メルドは椅子を蹴飛ばす勢いで立ちあがる

 

「何だと!?

 

 被害の状況は!?」

 

「魔物の数は、いつにもまして増え続けています!

 

 被害の方は甚大で負傷者の方も多数です!!」

 

「急いで向かうぞ!

 

 近くにいるものはすぐに現場に向かう様に通達を出して行け!!」

 

メルドがそう呼びかけると騎士団の者達はてきぱきと動き始めていく

 

「どういう事だ?

 

 この王都には結界を張るアーティファクトがあって

 魔物が侵入をしてくることは無いはずなのに、いや今はそれはいい‥‥

 

 今は一刻も早く、魔物たちを討伐せねば!」

 

そう言ってメルドの方も急いで出撃をしていくのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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Mediolanum Praeses Ritter der Kälte

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

王都において突如発生した異常な温度下降に

さらには結界に守られて、侵入することのない魔物の大量発生

 

その場に居合わせた香織たちがその謎の氷の魔物たちに戦いを挑んでいく

 

「はああああ!!!」

 

まずは雫、姫奈、風香が先行していき

それぞれが氷の魔物たちに攻撃を仕掛けていく

 

雫がまずは一体に一撃を叩き込むと

何とも呆気ないぐらいにバラバラに砕けてしまった

 

「‥‥今のうちに早く逃げてください!」

 

「あ、ありがとうございm…うう…」

 

助けられた人々は、お礼を言おうとするが

体を震わせる、さらにはその場に蹲るように固まってしまう

 

「っ!?

 

 なにこれ…さっきより寒さが増してるじゃない!?

 

 うう‥‥こっちの方も寒くなってきた」

 

「本当にどうなってんのこの寒さ…

 

 うごけなくなる前に何とかしないと」

 

寒さによって体力が奪われているのに気が付き、姫奈と風香は

このままでは自分達が動けなくなってしまうと畏怖していく

 

すると、後から香織が魔法を掛けていく

 

「これで少しは大丈夫だよ」

 

香織はそう言って寒さに震えた二人や

助け出された人々の方に回復の魔法を掛けていく

 

「‥‥ありがと、でも香織は住人たちの方の治療をお願い!

 

 私は出来る限りは自分の力だけでやってみるから!」

 

「私も、みんなのことお願いね香織ちゃん!」

 

そう言って姫奈は香織に住人たちの治療するように呼び掛ける

 

香織も分かったと返事をしていき

住人たちに出来るだけ魔法を掛けていく

 

「やああああ!!!」

 

姫奈は武器である剣に自身の適正魔法である

炎の魔力を流し込んでいき、それを使って氷の魔物たちを切り伏せていく

 

氷の魔物たちはそれでも姫奈に襲いかかっていき

左腕からひものようなものを飛ばし、それで魔物たちを縛り付けていく

 

魔物たちはその糸を千切らんともがくがその前に

 

姫奈がその紐に自身のもう一つの適正である電撃流し

それで魔物たちをあびせていく事で、魔物たちの息の根を止めていく

 

「さっすが姫奈!

 

 私も負けて居られないよ!!」

 

そう言って風香の方も姫奈に比べると細身の剣を

すばやくふるって行き、更に風属性の魔法を体にまとって

 

それで、冷気を吹きとばし、少しでも寒さを軽減している

 

そのおかげで寒さのせいでぎこちなかった動きも

風香のバスケ部で鍛えた動きと柔軟さが蘇り、魔物たちを次々と切り伏せていく

 

「はあ!」

 

雫も幼少期から始めていた

剣道によって鍛えられた身体能力で

剣こそ雫の技にはあっていないが、そこは

彼女の技術センスもあってそこで補っている

 

こうして、魔物たちを次々と撃破していく三人だったが

それでも魔物の方が数が多く、それによって圧され気味になっていく

 

「さすがにこれはまずいかもね…」

 

「ええ、私と風香は魔法のおかげで寒さを抑えられるけれど…」

 

姫奈と風香は息を切らしながらも、それでも戦う余力は残っている

 

だが

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

雫の方はひどく息を切らしている

だが、身体能力面では二人にも劣らぬ雫が

ここまでどうして苦しそうにしているのか

 

その理由は明白であった

 

「ひょっとして雫ちゃん!?

 

 風邪ひいちゃったの!?」

 

香織の言う通り、雫はあまりの寒さ故に風邪を引いてしまっていたのだ

 

「‥‥大丈夫、足手まといには…ならない、から‥‥…」

 

「そんな状態で戦う方がむしろ足手まといよ!

 

 香織、雫をお願い!!」

 

「雫ちゃん!」

 

姫奈は雫に大人しくするように言い、香織に彼女を預ける

姫奈と風香は再び、魔物の群れの方に立っていき再びいどんでいく

 

「雫ちゃん!」

 

「香織‥‥ごめんなさい…心配かけちゃって‥‥…」

 

辛そうに涙を流していく香織に雫は弱弱しく言う

 

「‥‥ううん、私の方こそごめん…

 

 雫ちゃんにはいっつも助けてもらってばかりいたのに

 私はいっつも雫ちゃんの事を振り回してばっかりいて…

 

 雫ちゃんの気持ちを考えもしないで、いっつも我儘ばっかりで…

 

 それなのに私‥‥雫ちゃんには何にもしてあげられてないよ…」

 

「香織…」

 

香織は雫を治療しながらも涙ながらに謝罪していく

 

「‥‥でも、もう私には雫ちゃんしかいないの…

 

 ハジメ君が目の前で殺されて

 また私の大切な人がいなくなって…

 

 こんな時に雫ちゃんまで何かあったら…

 

 私‥‥私…うああああ‥‥…」

 

「香織…」

 

雫は香織の頬に優しく手を添えてやる

 

「大丈夫よ香織‥‥わたしは絶対に香織の傍からいなくならない…

 

 どんな時でも、どんなところでも‥‥私は香織の傍にいるから…

 

 それにね‥‥香織は何にもしてあげられてないって言ったけど…

 

 そんなことは無いわよ…」

 

「ふえ…?」

 

雫は笑みを浮かべて香織に言って行く

 

「私が光輝の事でいじめられていた時…

 

 精神的にも打ちのめされた私のことを

 救ってくれたのは、ほかでもなく貴方よ香織

 

 香織がいたから、私はこうして前を向けるようになったの…

 

 そんなあなたが南雲君のことでいっつも嬉しそうにお話してて

 あなたのそんな幸せな声を聴いて、私も本当に嬉しい気持ちになっていたもの…

 

 だから、そんな悲しい顔をしないで‥‥私はそばにいるから…一緒に居てあげるから‥‥…」

 

「雫ちゃん…」

 

雫の言葉に心が温かくなっていく感じになっていく香織

 

その間

 

「数は減ってきている、元が多すぎてどうしても押しきれない…」

 

「一気に倒しきることが出来れば…」

 

二人で奮闘していた姫奈と風香だが、そこに

 

「姫奈さん、風香さん!

 

 お二人共、下がってください!!」

 

纏が武器である棒状のアーティファクトを振るって

ふたりの間を駆け抜けていくと、棒を慣れた手つきで振り回していき

 

「はああああ!!!」

 

其れを振り降ろすと、目の前にいた

魔物たちを見事に全滅させて見せる

 

「纏!」

 

「ありがとう纏ちゃん!

 

 すっごい威力だね」

 

「‥‥ごめんなさい…ちょっと無理してます‥‥…」

 

そう言う纏の表情は疲れている様子だった

 

「そう言えば、さっきまでいなかったけれどどうしてたの?」

 

「はい、魔物に襲われている人たちの救出に

 行っていたのですが、その途中で厄介な人達に遭遇してしまいまして…」

 

「厄介な人たちって?」

 

そう言って纏が気まずそうに視線を横に向けていくと、そこに現れたのは

 

「みんな、無事か!?」

 

何とさっきまで香織と言い争いをしていた、男子生徒

 

天之河 光輝

 

 

その傍には彼のパーティーメンバーである

 

坂上 龍太郎

 

 

中村 恵里

 

 

谷村 鈴

 

 

更には他のパーティーメンバーである

 

永山 重吾

 

 

野村 健太郎

 

 

辻 綾子

 

 

吉野 真央

 

 

この八名が駆けつけてきた

 

「天之河君…」

 

「香織!

 

 良かった無事だったんだな…‥って雫!?

 

 どうしたんだ、怪我でもしたのか!!」

 

光輝は先ほど香織と口論をしていたことなんて

もう忘れているかのように二人に話し掛けていく

 

すると、光輝は図々しく体調を崩したシズクの方に行こうとすると

 

「やめて天之河君!

 

 雫ちゃんは風邪を引いているんだよ!!

 

 今は安静にさせてあげないと…」

 

「何だって!?

 

 それは大変じゃないか

 急いで城に戻って手当をしないと…」

 

光輝はそう言って雫を城に連れていくように勧めていく

 

確かに普通に考えれば王城に連れて行って

そこで安静にさせておく方がベストではあるだろう

 

だが

 

「悪いけれど天之河君…

 

 雫ちゃんも私達も御城には戻らない!

 

 言ったでしょ、私達はもうこの国を出るんだって!!」

 

「そんなことを言っている場合じゃないだろう!

 

 早く雫を治さないと取り返しのつかないことになるぞ!!」

 

香織の言葉を聞こうともせずに雫を連れて行こうとする光輝

だが、そんな光輝の肩にポンっと手を置いて彼を止めるのは

 

「よせ、光輝

 

 悪いが俺たちがやるべきことは

 香織たちを連れ戻す事じゃなく

 この王都にいる人びとの救出だ

 

 雫の体調のことはもちろん心配だが

 何も王城に連れていくほどのものでもない」

 

「メルドさん…!?」

 

メルドはそう言って香織と雫たちの方に向いていく

 

「香織、雫の病気の方は治せるか?」

 

「はい、私自身治療の方に当たっているので

 魔力の方にも余裕はあります、ですので問題は無いです」

 

メルドは香織の問いに、ただ、そうか、と呟いた

 

「メルドさん!

 

 雫が心配じゃないんですか!?」

 

「もちろん、心配だとも!

 

 だが、ここには治癒師の香織もいる

 雫のことは香織に任せておけばいいだろう‥‥」

 

「だからって…

 

 あんなにも弱っている雫を見て放って置くなんて…」

 

「俺たちにはもっと放っておいてはいけない者達がいる!

 

 どこから魔物が発生しているのかわからない以上

 また魔物の大群が現れて、住人たちを襲い来るかもしれない!!

 

 そうなる前に俺たちは住人たちの避難の方を勧めておかなければならん!!!」

 

メルドがやや厳しめに光輝に言い聞かせていく

 

「ですが…」

 

「香織たちのことは香織たち自身で決めた事

 それに関しては俺も了承した、だからもう俺から

 香織やお前たちにいう事は何もない、俺たちは引き続き町の様子を見る‥‥

 

 光輝たちもついてこい、俺の制止も聞かずに勝手に飛びだしてきたのだ

 だったら最後まで付き合ってもらうぞ、言っておくが意見は求めんからな」

 

メルドにそう言われて、まだ納得がいかない様子を見せている光輝だが

そんな彼に話しかけていくのは彼以外のパーティーのメンバーであった

 

「なあ、光輝…‥

 

 俺はメルドさんの意見に賛成だ

 

 俺だって正直言って別れるのは思うところあるけどよ

 

 あいつらがそう決めたっていうんなら

 それを止めるのはなんか違うんじゃねえか?」

 

「龍太郎…?」

 

「‥‥光輝君、僕も坂上君とおんなじだよ‥

 

 南雲君が処刑されてしまってから、もう

 ぼくたちの関係は大きく変わっちゃってる‥

 

 光輝君には納得できない事かもしれないけれども

 はっきり言って僕だって香織や雫たちとおんなじ気もちさ‥」

 

恵里はうつむき気味な様子で光輝に話していく

 

「恵里まで何言ってるんだ…」

 

「‥‥正直に言うとね、僕は南雲君が処刑されたことには納得いってないんだ‥

 

 だって、僕もみんなも彼が命をかけて僕達のことを守ってくれたのに

 教会の奴らはそんな彼を本来だったら彼に着せるべきでない罪を着せて処刑した‥

 

 その時はっきりしたんだ‥‥僕たちなんて所詮、戦争の道具でしかないんだって‥

 

 でも愛ちゃん先生が決死の説得をしてくれたおかげでそんな僕たちにもようやく

 選択の余地を与えられる機会を得られた、そうして香織たちはこの国を出る選択をした‥

 

 それだけのことさ‥」

 

恵里はしんけんな表情で光輝に話していく

 

「エリリン‥」

 

その様子を彼女の親友である女子生徒

 

谷村 鈴

 

 

彼女が見ていく

 

「‥‥うん?

 

 ねえ、みんな‥‥なんかやけに暗くない?」

 

纏が不意に周りを見て呟いていく、すると

 

「っ!?

 

 気を付けて、何か来る…

 

 さっきまで戦ってきた奴よりも…

 

 ううん、この感じは…」

 

姫奈がそこまで言いきろうとすると

一同の前に一人の人物がおり立っていった

 

そこにいたのは

 

「何?

 

 あたいの創ったマモノが次々と

 倒されて行くのが感じたから何事かと思ったら…

 

 へえ‥‥何、そこの無駄にギラギラしている鎧付けたやつ…

 

 まるで、物語とかに出てくる、勇者君みたいじゃないか」

 

一人の少女であった

 

少女は何やら学生服と軍服を合わせたような服に身に纏い

更にその上に氷のように白銀の外套を羽織っており、彼女の頭部には

 

狐を思わせる耳がまるで角のように生えていた

 

「あの耳…狐人族か!?」

 

「かつてはね…でも今の私は魔力と言う恩恵を受けられず

 お前たち人間どもに虐げられてきた亜人ですらもない!

 

 アタシはお前たち人間どもへの復讐のために有る御方より力を賜ったもの…!!

 

 それが今のあたしさ」

 

そう言って笑みを浮かべながら言う

 

「…‥これは君の仕業なのか!?

 

 だったらもうこんなことはやめるんだ!」

 

「ふん、言われて止めるくらいだったらこんな事するわけないじゃん

 

 それに今のあたしには、お前たち人間どもの悲鳴こそが最高の癒しなのさ!」

 

そう言ってその女性がダンと勢いよく地面を踏みつけると

そこを中心に氷が張っていき、それは瞬く間に周りの地面や建物を凍らせていく

 

「一瞬でこれほどまでの範囲を凍らせた‥‥!?

 

 と言う事はこの国をこの冷気に包み込んだのは貴様か!」

 

「そうだよ、ついでにこの国の人間どもをマモノに襲わせたのもあたしさ…

 

 アタシがその気になったらこんな程度の国を

 一瞬で氷の世界にかえちゃうなんてたやすいことだよ」

 

そう言って高らかに言い放っていく少女

 

「だったら力づくでも止めさせてもらうぜ!」

 

「まて、龍太郎!」

 

そう言って拳を構えていく龍太郎、さらにそこから攻撃を放っていく

 

だがそれを少女は何の抵抗もなしに受けて見せる

するとなんと、彼女は傷一つつかないどころか微動だにもしていない」

 

「んな!?」

 

「こんな程度?

 

 もっと攻撃してきなさいよ?」

 

そう言って挑発をしていく少女に、更に攻撃を仕掛けていくが

何度は鳴ってもその場から動かす事すらもままならない様子を見せた

 

「ぐう‥‥俺の攻撃が効いていない!?」

 

「貴方の攻撃なんて、私の身体を傷付けることなんてできないわよ

 

 これで終わりだって言うなら、次はアタシの番だね」

 

そう言って彼女は外套の袖から右手を突き出すと

その手に冷気を纏わせていく、すると腕は氷に包まれて行き

 

やがて一本の太く大きな剣のような形状となった

 

「何だあれは‥‥!

 

 あんな能力、見たことがないぞ‥‥」

 

すると、少女はすばやく踏み込んでいき

一同に向かってその剣をいきおいよくふるって行く

 

騎士団の一人がそれを受けようとするが

少女の振るった剣はその防御と鎧事その剣を切り裂いて見せた

 

「エイト!?」

 

体を両断されて、そのまま動かなくなった騎士団員を見て

光輝たちクラスメートは言葉を失ってしまう、だが少女はそんな

彼らの様子など知らないと言わんばかりに自分の剣についた血を払う

 

「フフフフフ…

 

 素晴らしいわ、これが私の新しい力…

 

 ううん、私の新しき姿…

 

 全ての人間を殺しつくすことのできる最高の力よ!」

 

そう言ってさらに騎士団たちに向かって行く少女に

騎士団たちは次々と切り伏せられていく、メルドは其れを見て

 

後ろの方にいるクラスメートたちに呼びかけていく

 

「お前たち!

 

 直ぐに撤退しろ!!

 

 こいつらは俺たちが止める!!!」

 

「何言ってるんですか!?

 

 メルドさんを置いて逃げるなんて…」

 

「馬鹿者!

 

 ベヒモスとの闘いのことを、もう忘れたのか!!」

 

メルドにそう怒鳴られて、光輝は口を紡ぐ

 

「いいか、ここには動けない雫がいる!

 

 ここは雫を連れて離れるんだ!!

 

 俺たちが何とか時間を稼ぐ、その間に行け!!!」

 

「光輝君!

 

 ここはメルドさんの言う通りにするよ!!

 

 私達が思いっきりメルドさん達が戦えるようにするの!!!

 

 だから、急いでここから離れるよ!!!!」

 

恵里が光輝に言い聞かせる様に言って行く

 

「…‥わかった…

 

 みんな、強力してくれ!」

 

そう言ってクラスメートたちは動けない

雫を連れて急いでその場を離れていくのだった

 

「あーっはっはっはっはっはっ!!!

 

 ここから離れるってそれって本気で言ってるの?

 

 さっきのあたしの言葉聞いてなかったの?

 

 アタシが本気になれば

 この国氷漬けにするくらいたやすいんだって…

 

 つまり、何処に行ってもあんた達に逃げる場所なんてないんだよ!」

 

そう言って全身からとてつもない冷気を噴き出していき

それをもろに浴びてしまったメルドはほぼ全身に凍傷が出来てしまう

 

「ぐううう‥‥

 

 それでも、たとえそうであっても

 俺はこの国の王国騎士団長として‥‥

 

 この国に危害を加える者を放ってなどおけるものか!」

 

それでもメルドは寒さと凍傷によって

感覚がマヒしていきながらも、それでも持てる力をすべて使って向かって行く

 

「ホント…‥人間って言うのは本当に弱くて愚かな生き物だよね…」

 

そう言って呆れたような口調で右腕に装着された剣をふるっていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「雫ちゃん!」

 

どうにか建物の中に入って

暖を取ろうとするが、辺りが冷たい空気に覆われているせいで

火をつけることも出来ず、だったらと香織が近くにあった布を羽織って

 

それで雫にぴったりと寄り添って行く

 

「思い切ったことするのね、貴方…」

 

「ごめん‥‥でもこれぐらいしか思いつかなくって…」

 

姫奈に突っ込まれるが、香織も自覚はあったようで苦笑いを浮かべていく

 

「それにしても、今の奴って一体何なんなの?

 

 見たところ、亜人って言う人のようにも思えたけれど…」

 

「でも確か亜人は魔力を持っていないから、魔法は使えないって聞いたよ?

 

 それにさっきの子、自分達はもう亜人じゃないみたいなことも言ってた…」

 

「とにかく、こんな状態が続いてたら雫ちゃんはもちろん…

 

 私達の方もあぶなくなる…‥このまま隠れていても状況は変わらない…」

 

どうにか対策を練ろうと考える姫奈たちだが

 

「だったら早くメルドさん達のもとに!

 

 早く助けに行かないと…」

 

「バカ、行ったところで勝てるわけないでしょ!

 

 アイツは間違いなく、あの時に戦ったベヒモス以上に強敵よ…

 

 ベヒモスでも倒しきれなかった私達が勝てるはずないじゃない!!」

 

考えなしに向かおうとする光輝に姫奈が激しく抗議する

 

「‥‥俺の渾身の一撃も効かなかった…‥

 

 ここで待っていても状況は変わらねし

 だからって戦いに行っても勝てるわけもねえ…‥

 

 こういう時はどうしたらいいんだよ…‥」

 

「‥‥相手はもとより人間を殺すことを目的としてる‥

 

 きっと私達が降参を提示しても

 あいつは容赦なんてしてこないと思う‥

 

 はっきり言ってこっちにはカードが無いに等しいんだ‥」

 

龍太郎も恵里も、精神を張り詰めていき余裕がなくなっていく

 

すると

 

「えーりりん!」

 

「うわっ!?」

 

鈴がいきなり恵里を後ろから抱きしめていく

 

「なーに、思いつめた表情しているのエリリンもさがみんもさ」

 

「鈴‥

 

 こういう時くらいはふざけないでまじめに‥」

 

「ふざけるよ!「

 

「‥‥え?」

 

恵里は不意に鈴の方を見る

 

「鈴はね、どんな時でも自分らしさを失わない!

 

 周りにどんなことを言われても、蔑まれたって

 だってこれが鈴らしさなんだもん、鈴はさ、はっきり言って

 こんな暗い空気なんて耐えられないもん、だったら無理にでも

 笑った方がいいに決まってんじゃん、笑えば気分が晴れるしね‥」

 

鈴はいたずらっこな笑みを浮かべて、一同に言って行く

 

すると

 

「‥‥フフフフ、鈴がいつも通りでちょっと安心したよ

 

 ほんとにこんな状況なのになあに馬鹿な事やってるんだか‥

 

 でも‥‥鈴の言う事にはちょっと賛成かな‥

 

 こういう状況だからこそ、どうにかしないとね」

 

「へ、どんな時でも自分らしさを失わない‥‥か…‥

 

 まったく、何かを深く考えるなんて俺らしくもなかったな…‥

 

 今は何も考えずに生き残る事のみを考えようぜ、光輝…‥

 

 メルドさん達のことは心配だが、きっと大丈夫だ

 なんてったってここにいる俺たちよりも強いんだからな…‥」

 

「龍太郎…‥恵里…鈴…‥…」

 

二人の表情に笑顔が宿っていき、光輝も呆気にとられ始めた、そこに

 

「っ!?

 

 みんな、建物から出て!」

 

姫奈がそう言うと、一同は急いで建物から出ていく

すると、建物に氷が走っていき、やがて建物は氷に包み込まれて行く

 

一同はそうなる前に、無事に建物から脱出するのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

一同が建物から出てくると、そこに現れたのは

 

「み~つけた~…

 

 かくれんぼはもう終わりだね?」

 

先程の元狐人族の少女が右手に剣を装着して佇んでいた

そして、左腕の方には一人の男性が首を絞められていた

 

その男性は

 

「っ!?

 

 メルドさん!?」

 

凍傷と敵の攻撃を受けた傷で

ボロボロになってしまっているメルドの姿であった

 

それを見た光輝は聖剣を手にしていき

天翔閃を放とうとしたが、突然魔力を感じられなくなっていく

 

「っ!?

 

 なんだこれ…」

 

「私達‥‥魔力が使えなくなってる!?

 

 どういう事…?」

 

突然、魔法が使えなくなったことに驚き慌てた様子を見せていく一同

 

そんな一同をおかしいものを見る様子で大きな笑い声をあげていく少女

 

「あーっはっはっはっはっは!!!

 

 何その顔、魔法が使えなくなって程度大したことないでしょ?

 

 あーそっか、あんたたち人間族は

 魔法に頼りっぱなんだもんね、私達

 亜人は魔力がなくって魔法が使えない事なんて当たり前だから

 わからなかったよ、でもこうして傍からみて見ると、想像以上に

 滑稽な光景なものね、あんたたちの気持ちも分かる気がするわ!」

 

少女は剣を装着していない左手を抱えて笑って行く

 

「今この国は私の広げた空間、ラルヴァフィールドっていう

 空間を張っているのよ、この空間ではいかなる力も私の力に塗りつぶされる…

 

 つまり、あんた達の自慢の可愛らしい魔法はもう使うことは出来ないってことよ」

 

「ラルヴァフィールドですって…!?

 

 そんな‥‥タダでさえ力の差は歴然なのに

 魔法まで封じ込められてしまうなんて、どうしたら…」

 

姫奈はとにかく武器である剣を構えていく

せめてもの抵抗だ、だがこれでも目の前の相手を倒しきるのは無理だろう

 

「本当にすごい力よ…‥世界を瞬く間に制してしまうなんてね…

 

 この力さえあれば私は何でもできるし、何にでもなれる…

 

 この国にいる人間全員を皆殺しにだってできるんだからあああああ!!!」

 

そう言って少女が叫ぶように言うと彼女の背中から

三対の巨大な天使のような翼が展開され、一本のまるで

霜が走っている様な形状の尾が展開する様に振るわれていく

 

「どうする‥‥このままだと…」

 

この場に居る誰もが目の前にいる敵の様子を見て悟っている

 

ただでさえ力の差が歴然だと言うのに

その上に魔力が封じ込められて、向こうも本気になっている

 

とてもではないがまともにやり合えるとは思えない

 

だが、それでも立ち上がっていく一人の人物がいた

 

「メルドさんを…‥メルドさんを…放せぇ!」

 

光輝であった

 

彼は武器である聖剣を手に目の前の強敵に立ち向かおうとしていく

 

「あーっはっはっはっはっはっ!!!

 

 逃げられないって悟って、自棄になった?

 

 それとも、勇者様は諦めが悪いのが売りなのかな?

 

 いいよだったら相手になってあげる

 あんたが私の相手になれるんだったらね!」

 

そう言って右手の剣をふるって冷気を纏った斬撃を放っていく

光輝は其れを聖剣を使って受け止めようと試みていくのだが

 

「ぐあああああ!!!」

 

大きく吹っ飛ばされ建物に叩きつけられてしまう

 

「光輝君!」

 

「ぐう‥‥俺たちの方も魔法が使えれば…」

 

クラスメートの中でも強い光輝が

ふっとばされてさらに追い詰められていく一同

 

「何よ?

 

 これが人間族を救う勇者とでも言うつもり?

 

 だとするなら人間族…‥ここで終わりね…」

 

そう言って冷めた様子の表情で見つめる少女

 

だが、そんな彼女の前にもう一人

立ち向かわんとしていくものがいた

 

「‥‥香織…悪いけれど、そいつらの事見ていてもらえる?

 

 私が何とかして引き付けて見せるから!」

 

「姫奈ちゃん…」

 

姫奈がそう言って剣を手に対峙していく

 

「ふうん…‥次は貴方が相手になってくれるんだ?

 

 でも、貴方からは少なくともさっきの勇者君に比べれば

 感情をむき出しにしている感じがしないけれど、其れとも?

 

 動揺を必死に隠しているのかな?」

 

「‥‥御託はいいわ…

 

 私はただ、私がやるべきことをやるだけよ!」

 

そう言って剣を逆手に持って姿勢を低く構えていく

 

「…‥なるほど、さっきの勇者君よりは骨がありそうだ…

 

 だったら、精々頑張って私に傷の一つでもつけてみるんだね!」

 

そう言ってメルドを無造作に放り投げていき

右腕に装着された剣で空を切り、構えていく

 

「‥‥どんな時でも自分らしさを見失わないか…

 

 それを聞くと一番に思い浮かぶのはあいつね…」

 

そうつぶやいて一呼吸置くと、姫奈は敵に挑んでいく

 

その際に脳裏に浮べたのは例の彼の事であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

元の世界にいた時、彼は例の事件のせいで

ありもしない容疑を掛けられて、学校でも家でも

理不尽な扱いを受けてしまっていた、その様子に心を痛めていた姫奈

 

何故なら、例の事件に関して彼女もある意味では関わっているのだ

 

學校では毎日のように檜山達にいいようにこき使われ

何かがあるとすぐに彼のせいにされ、本当は彼自身相当参っているはずだ

 

其れでも彼は、決して自分を見失うことなく、彼なりに前を向いている

 

姫奈はそんな彼をすごいと思うと同時に心配をおぼえる様になる

 

だが、姫奈自身でもこの状況をどうにかする術もなかった

 

それが心苦しかった

 

あの時助けてもらったのに

 

自分のせいで苦しむことになってしまったのに

 

そんな折に訪れたのは、異世界召喚

 

訳も分からずいきなり戦争に参加させられて

揚句にはクラスメートの軽率な行動のせいで死地に追いやられ

 

だが、それを救ってくれたのも彼だった

 

姫奈はまた、いいや今度はクラスメート全員のことを

救ってくれたんだと感激もした、これでようやく彼も報われる

 

そう思っていたのに

 

この世界でも彼は全ての罪を着せられ、人々が見ている前で殺された

 

その様子を、笑いを浮かべながら

見つめているクラスメートを見て恐怖を覚えた

 

姫奈はもう、何を信じればいいのかわからなかった

 

しかし、そんな中でも抗うものはいた

 

彼の事を最後まで信じてくれた先生

 

彼を誰よりも思い、誰よりも彼を愛した少女

 

彼が死んで何もできなかった自分よりもずっと強く映った彼女達

 

その彼女たちのように強くなりたいと、彼女は

そんな少女の傍で支えてやりたいと願い、彼女の誘いに乗ったのだ

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「がはあ!」

 

姫奈は壁に叩きつけられて吐血する

その吐血した血も空中において瞬く間に凍り付き

 

地面に落ちて砕け散る

 

そんな姫奈の身体は、戦いで受けた傷と凍傷でもうボロボロである

 

「姫奈ちゃん!

 

 お願いだから早くにげて!!」

 

香織の悲痛な言葉が響いていく

 

「‥‥ぐう…」

 

姫奈はもう限界が近いのか、その場に跪いてしまう

 

「覚悟だけは認めてあげる

 

 でも、もうこれ以上は無理な様ね…

 

 だったらせめてもの情けとして

 苦しまない程度に一瞬に殺してあげる」

 

そう言って氷で生成した剣をゆっくりと振り上げていく

 

「‥‥ごめんね、南雲くん…

 

 結局私、貴方に何にもしてあげられなかった…

 

 でも‥‥だからこそもう二度と…

 

 守れなかったと二度と後悔なんてしたくない!

 

 あの時あなたが見せてくれた勇気に答えるためにも!!

 

 こんなところで倒れてなんて、いられないのよ!!!」

 

姫奈はそう言って剣を再び構えて言いきって見せた

 

「そんなボロボロの状態で一体何ができると言うの!

 

 悪いけれどさっさと終わらせてもらうわ!!」

 

そう言って素早く向かって行く少女

 

「終わったりなんてしない…

 

 終らせたりするもんか!

 

 彼があの時に見せてくれた勇気を見習って

 私は絶対に最後の最後まであきらめたりしないんだから!!」

 

姫奈がそう言って決意を口にしたその時

 

姫奈の身体を光が包み込んでいく

 

「のわあああああ!!?」

 

その光に弾かれるように吹っ飛ばされていく少女

 

姫奈はそのまま光に身をゆだねると

その首元に一つの紋章が浮かび上がっていく

 

「これって…!?」

 

「なんだろう…

 

 すっごく‥‥あったかい…」

 

その光を帯びた風香と纏、回りにいた者達も

この二人と同じことをつぶやいた、やがて光が晴れるとそこには

 

「え…!?」

 

そこには白を基調とした服装になった姫奈がおり

姫奈自身もまた自身の姿が変わっていることにおどろいていた

 

「姫奈ちゃんの姿が‥‥変わった…!?」

 

「一体何が起こったの‥!?」

 

姫奈の変化に其の場にいる者のうち

意識が朦朧としている雫やメルド、先程の攻撃を受けて

気を失っている光輝以外の全員が驚いた様子を見せていく

 

「‥‥よくわからないけど…

 

 なんだろう、不思議と力が見なぎって来てる…

 

 魔力を使うときとは別の力をかんじる!」

 

彼女は先ほどまでボロボロだった自分自身の力が

嘘のようにみなぎってきている事に驚いた様子を見せ

 

不思議とこれならいけると思い、敵の方を向く

 

「…‥へえ、驚いたね!

 

 異世界からやってきたとはいえただの人間が

 そんな力を秘めているとはちょっと驚きだね

 

 でも忘れたのかな?

 

 このラルヴァフィールドでは

 どんな力も抑え込まれてしまうんdだってね!」

 

そう言って武器である大剣を振るい

冷気を帯びた斬撃をふるって行った

 

姫奈はそれを見て、武器である剣をふるい

 

「姫奈ちゃん!」

 

風香が姫奈に呼びかけるが、姫奈はそれを意にかえすこともせず

剣に炎を纏わせて力強く振るい、何と斬撃を相殺して見せるのだった

 

「何!?」

 

まさか破られるとは思わなかったのか驚いた様子を見せる少女

 

「はああああ!!!」

 

姫奈はその隙に剣をふるって

その相手に斬りかかっていく

 

「馬鹿め!

 

 どんな力かは知らないけれども

 貴方程度の力で私を傷付けることは…」

 

「はああああ!!!」

 

姫奈は武器である剣に炎を纏わせていき

それで冗談から勢いよく斬りかかっていった

 

すると

 

「っ!?

 

 があああああ!!!?」

 

何と、龍太郎やメルドの攻撃にもびくともしなかった敵の身体に

さすがに両断は出来なかったが相手が油断をしていたこともあって

 

見事に左肩から脇腹にかけて、勢いよく斬りつけて見せた

 

「すごい…!?

 

 力が使えるだけでなくって

 相手に傷をつけることもできた…

 

 これだったら行ける!」

 

姫奈はそくざに距離を取って剣を構えていく

 

「すげえ…‥

 

 なんだかわかんねえけれど

 アイツの身体に傷をつけられたなんて…‥」

 

「きゃーひめちん、かっこいいー!

 

 結婚してー!!」

 

龍太郎は目の前の光景に思わず言葉を失い

鈴はテンションがおかしくなって、姫奈にプロポーズしている

 

そんな鈴をまた始まったと言わんばかりに様子で黙って見つめる恵里

 

「ぐう…

 

 何なのよその力…

 

 何なのよその力ぁ!」

 

あまりのことに敵は叫ぶように問いかけていく

 

「さあね、はっきり言ってわからないわ…

 

 ただ一つ言えることは、これで私は貴方と戦えると言う事よ!」

 

そう言って武器である剣の切っ先を向けていく

 

「そんな…‥わたしは…私は…‥…」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ーきょうの売物は女一人と餓鬼二匹かー

 

ー女の方は上玉だ、貴族共に紹介すりゃ高く売れるぞ?ー

 

ーガキの方はまあ物足りねえが、まあ素材は悪くねえだろー

 

ーこいつも売るのか?ー

 

ーそりゃそうだ、大人だろうが子供だろうが亜人は亜人

 

 神に見捨てられた獣なんだ、まあ見た目が人間である分

 慰み者としてもちょうどいいだろうさ、そらこっちにこいよー

 

‥‥‥‥‥

 

ーほら、こっちに来て相手をしろ!ー

 

ー亜人風情が抵抗しているんじゃない!

 

 エヒト様に見捨てられた下等な生物が!!ー

 

ーガキの方はちょうどいいころあいだろう

 

 そろそろ売りに出しちまおうぜ?ー

 

ーだなー

 

…‥‥‥

 

ーそう言えばこいつの母親はどうした?ー

 

ーああ、殺したぜ

 

 いい加減年食ってなえて来たしな

 

 まあ別にいいんじゃねえか?

 

 死んじまったらまた新しく買えばいいし

 この餓鬼だってそろそろいい慰み者になるだろうよ

 

 しっかし、こいつの母親は傑作だったぜ

 俺がもう飽きたからお前の娘で楽しませてもれあうっつったら

 

 必死にもがきやがんの、私はどうなってもかまいませんから娘だけはーって

 

 どんだけ俺らとやりたいんだっての、ったく獣はやっぱり欲情しやすいんだな

 

 ま、あんまりにもしつこく引っ付いてくるからうざくて殺したけどなー

 

―ひっでねえなお前ー

 

ー別にいいだろ、死んじまってもまた買えばいいだけだ!

 

 なんてったって亜人なんて孕ませて産み落とさせりゃ

 吐いて捨てるほどに増やすことが出来るんだからよー

 

ーーーーーーーーーあーっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!!!!!!!ーーーーーーーーー

 

…‥‥‥

 

ーお姉ちゃん…ごめんね…

 

 もう私…耐えられないよ…

 

 本当に…ごめんなさいー

 

…‥‥‥

 

ーちぇ、下の餓鬼がおっ死んじまいやがったか

 

 まあ別にいいや、亜人が死んだって別に処刑されるって

 訳でもないんだしな、しっかしひでえ奴だよな、お前の妹も

 

 お前の妹が死んじまったせいで、姉のお前がひどい目に合うんだからよ

 

 ま、怨むんだったらてめえを置いて死んだ妹

 エヒト様に見捨てられたてめえ自信を怨むんだなー

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「…‥母さん…ラティ…‥…

 

 二人共私の前からいなくなった

 母さんは殺され、妹は自ら命を断った…

 

 お前達人間族の…‥お前たち人間どものせいで…

 

 私は…‥わたしはあああああ!!!

 

そう叫ぶようにして言い放つと、その辺りに冷気を纏った威圧があたりに放たれ

それを受けて一同は思わず顔を腕をクロスさせて覆って行く、するとその少女は

 

「凍れ、クローセル!」

 

武器である大剣の切っ先を天に掲げると

彼女の身体をまるで繭のように氷が覆い尽くしていき

 

彼女の全身を氷が覆い尽くしていくと、やがて氷に罅が入っていき

やがてそれは内側から砕けていき、その中から現れたのは先ほどの姿とは

打って変わって異形と言う言葉が似あう姿に変わっていたそれはまるで

 

狼あるいは狐、その両方の特徴が合わさった様子の姿で

背中には三対拡げられていた翼が十枚にまで増えており

 

尾の方もさらに両側にそれぞれ二本ずつと合計三本となり

 

頭部から一本の氷のように透き通った一本の角が生えていた

 

「何‥‥あのすがた…!?」

 

あまりのその光景に言葉が出てこない姫奈

 

ほかもクラスメイト達の方も同様だ

 

「人間ども…‥お前たちには何も渡さない…

 

 平和も…‥自由も…希望もなにもかもだ…‥…

 

 何故ならお前たちは…‥私の全てを奪った!

 

 それがお前たちの罪だ、その罪こそがこの私の糧だあああああ!!!」

 

そう言って両手を覆っているのは槍状に生成された巨大な腕で

それを使って姫奈に向かって攻撃を仕掛けていく、姫奈はそれを

剣を使って受けようと構えていく、だがそこに槍に攻撃が振るわれると同時に

 

「‥‥え!?」

 

剣はいともたやすく破壊されてしまうのであった

 

「があああああ!!!」

 

さらにそこに追い打ちをかける様に巨腕を振るって

姫奈に必要に突き出していく、まるでさっきの屈辱を晴らさんとするかのように

 

「ふん、所詮人間の力なんてこんなもの…

 

 罪徒の力を賜ったこの私に適うと思っているのか!」

 

そう言って乱暴に腕を振るって行く少女

 

姫奈は武器を破壊されてしまい

ただただ逃げ回っていくしかできなくなる

 

魔法も放って応戦はしていくが効いている様子はない

 

「貴方さえ、貴方さえいなければ!

 

 私は母さんと妹の仇を討って

 私からすべてを奪った人間どもを皆殺しに出来たんだ!!

 

 それをそんな訳の分からない力に

 目覚めただけの貴様に邪魔をされてたまるもんかあああああ!!!」

 

そう言って勢いよく両腕を突き出していく

 

姫奈はどうにかその攻撃をいなしていくが

姫奈自身はどうしたらいいのかと頭を悩ませていた

 

「(どうしたらいいの‥‥どうしたら…)」

 

姫奈がそんなことを考えているとそこに

 

ー勇気を出してー

 

「‥‥え!?」

 

姫奈の頭に何かが聞こえる

何処から聞こえたのかと辺りを見回していく

 

其れでもまた、声は響いていく

 

ーあなたのその力は貴方が勇気を求めてる

 その思いに答えたからこそ、目覚めた力です

 

 あなたは誰よりも、勇気と言うものを求めている

 

 あなたがその勇気を忘れない限り、その力は答えてくれますー

 

「勇気を‥‥求めている…?」

 

姫奈は不意にあることも思い浮かべていく

 

「‥‥そうよ、私はあの時の彼の勇気を見て

 私は決めたのよ、彼のようになりたい、彼の勇気を…

 

 私も手にしたいんだって!」

 

姫奈がそう言うと、逃げ回っていた動きを止めて

地震に迫りくる攻撃の方を見ていく、その先には

 

「死ねえええええ!!!

 

 人間があああああ!!!」

 

その叫び声とともに、少女は

槍状の腕で姫奈を串刺しにせんと突き出していく

 

姫奈はそれをどうにか交わしていき

ほぼゼロ距離で手をかざしていき、そして

 

「ぶぎゃあああああ!!!」

 

彼女の放った炎の攻撃を顔面に受けて大きくひるんでいく

ダメージ自体は見られないもののいきなり攻撃されたことにより

 

驚いて後ろの方にさがっていく

 

「くっそおおおおお!!!

 

 どいつもこいつもあたしをバカにしやがってえええええ!!!」

 

そう言って三本生えた内の二本

両側それぞれの尾を地面に張和せるように迫らせていく

 

それはまるで、地面に氷が張っていくような感じだ

 

姫奈はそれでも気を落ち着かせるようにそっと目を閉じていく

 

「私はもう二度と‥‥あの時そうして

 いればと後悔なんてしない、したくない

 

 だからこそ、貴方がどんなに強いと…!

 

 私は絶対に逃げたりなんてしないわ!!」

 

そう言って姫奈が改めてその決意を口にしていくと

彼女の胸元に浮かび上がった紋章が光輝き、そこから

光が浮かびあがり、姫奈は一体何なのかと動揺を見せるが

 

ーそれを手に取って、其れは貴方の勇気に世界が答えたあかし

 

 その証を手にして、この国を救って!ー

 

「‥‥また例の声…

 

 でも、それで戦えるなら!

 

 私はもう、迷わない!!」

 

そう言ってその光を手にすると

その光は形をつくっていき、それは何と

 

一本の剣にへと姿を変えるのであった

 

「あれって武器!?」

 

「どこからあんな武器を‥」

 

それを見て驚いた様子を見せていくクラスメート

 

「それがぁ、何だっていうのよおおおおお!!!」

 

そう言って槍状に変形させた両腕を姫奈に向けて突き出していく

 

「この一撃に‥‥すべてをかけるわ!」

 

そう言うと、彼女の持つその剣に炎がまとわれて行き

唐竹割のような構えを取って、向かってくる少女に向かって行く

 

「はああああ!!!」

 

「があああああ!!!」

 

姫奈の攻撃は、見事に少女の身体を

頭部から股にかけて、両断に切り裂いていった

 

「ええ!?」

 

 

あまりの威力に姫奈自身も驚きを覚えていく

 

「いぎゃあああああ!!!

 

 そんな…‥この…あたしがあああああ!!!」

 

そう言って少女は後ろに倒れると

爆発し絶命、地面に何らかのマークを残したのだった

 

「はあ‥‥はあ…はあ‥‥…」

 

姫奈は姿勢を元に戻すと、持っていた武器は元の光に戻り

そのまま彼女の首元に浮かんだマークの中へと溶け込むように消えていった

 

「か‥‥かったの…?」

 

「みたいだ…‥ね…」

 

先程までの激しい光景が嘘のように静まり返っているのを見て

この戦い、ひいては王都の危機、ハイリヒ王国の危機は終わったのだと自覚する

 

こうして、犠牲は出たものの辛くも勝利を手にした一同であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

それから七日が立ち、寒さに覆われて

魔物や強大な力を持った亜人によって蹂躙された

ハイリヒ王国の王都は、復興の方を勧めていた

 

香織たちの方も雫の体調が回復したので

改めて国を出ていく事を決め、その見送りにメルド

光輝以外の勇者パーティーのメンバーと永山パーティーの面々に

見送られて行くことになった、まず第一に言葉を発したのはメルドだった

 

「…すまなかった‥‥お前たちを助けるつもりが

 まさか助けられる形になってしまうとはな、だが‥‥

 

 騎士団とこの国を代表して例を言わせてほしい‥‥

 

 ありがとう‥‥」

 

「‥‥いえ、お礼なんて良いですよ

 

 わたしだって無我夢中でやっていたんですから」

 

メルドに礼を言われて、やや照れ臭そうにする姫菜

 

「‥‥ところで、姫奈ちゃんのさっきの力…

 

 一体なんだったんだろう、突然光に包み込まれて

 服装が変わっちゃったらと思ったら、武器まで生み出しちゃって…

 

 どうしてあんな力が出せたの?」

 

「わからないわ…

 

 なんだか急に声が聞こえたと思ったら

 あんなことが起こって、無我夢中だったし…」

 

姫奈は少しでも何かわからないかと

不意にステータスプレートを取り出す

 

すると、姫奈はうん、とプレートを

驚いたように眼を見開いて見つめている

 

姫奈の様子がおかしいので一同も恐る恐るプレートを覗き込むと

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

南野 姫奈 17歳 女 レベル;9

 

天職;聖徒(せいと)(セインター) 

 

職業;稀人

 

称号;勇気の聖徒

 

筋力;320(188000)

 

体力;160(94000)

 

耐性;400(235000)

 

敏捷:400(235000)

 

魔力;3280

 

エーテル;13120

 

魔耐:3280(1927000)

 

技能:剣術【+斬撃速度上昇】・縮地【+重縮地】・先読・気配感知・隠業【+幻撃】・炎・雷属性適性【+炎・雷属性効果上昇】・炎・雷属性耐性【+炎・雷効果上昇】・言語理解・聖痕解放【+聖器召喚】・エーテル操作【+エーテルフィールド】

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

「なにこれ‥‥エーテル?

 

 魔力とは違うのかな?」

 

「天職が変わってるし

 技能も見たことのないものばっかり出てる…

 

 聖徒って書いてるけれど…」

 

「魔力以外のこの横の数値ってなんだ?

 

 見たところすっげえ数値だけれど…‥」

 

覗き込んだ面々の感想は様々

天職の聖徒、エーテルと言う力が主体である

 

「メルドさん、このエーテルっていうのは何なのですか?」

 

「俺にもわからない、この世界では魔力以外の力はないはずだが‥‥」

 

纏の問いに対してメルドもまた

このステータスプレートには頭を悩ませていく

 

「多分だけれど、このエーテルがあったからこそ

 私はさっきの亜人の狐人族の女の子と戦えたんだと思います…

 

 エーテルっていうのはどんなものなのかはわかりませんが…

 

 でも、私はこの力でできる限りのことはやってみます…」

 

「…そうか‥‥まあ俺もよくわからない以上

 

 俺が教えられることも無いだろうしな、気を付けてくれ」

 

姫奈の言葉にメルドも特に何も言うことは無く、そう返した

 

「‥‥それにしても、メルドさん

 さっき闘った狐耳の女の子だけれど‥

 

 一体あの力って何だったの?」

 

「すっごい力だったよね‥

 

 あたりをものすっごく寒くさせて

 見たことのない魔物を使役して、さらには

 姿まで変わっちゃって‥‥あれって何なんだろう‥」

 

「…確かにそれも謎と言えば謎だな‥‥

 

 亜人族は魔力を持っていない故に

 魔法も身体強化も一切使えないはず‥‥

 

 それに亜人があのような

 力を使ったなどと言う記録はない‥‥

 

 一瞬で国を亡ぼせる力なぞ、なおさらだ‥‥」

 

「‥‥そういえば、あの女の子…

 

 誰から力を賜ったと言っていました…

 

 つまり、あの女の子はその誰かに力を与えられたと…」

 

纏が先程の少女が言った言葉を聞いて、一同はそっちに注目していく

 

「…もしそうだとすると、その何者かは

 またもこのようなことをひきおこすかもしれん‥‥

 

 亜人は力を持っておらず、人間族からはぞんざいに扱われている

 あれほどの力を手に入れられるならば、のどから手が出るだろうからな‥‥」

 

「さっきみたいなやつが、また現れるかもしれないってことか‥

 

 もしもそうなったら、僕たちは魔法が使えない

 能力も奴らの方が圧倒的に上、戦力も心もとない

 あれに抵抗できるのは現時点では姫奈ただ一人だしね‥」

 

メルドの推測に、ため息交じりに問題点を口にしていく恵里

 

「‥‥だったら、だったらその時は私が戦います…

 

 はっきり言ってどこまでやれるかわかりませんが

 それでも、私しか戦えないって言うなら私、頑張るから!」

 

姫奈がそう言うと突然、横の方から小突かれるi

 

「姫奈、私、じゃないでしょ?」

 

「そうだよ、私達だよ」

 

「うん、私達だって姫奈のような力は持っていないけれども…

 

 だからって姫奈だけを戦わせるつもりもないよ!」

 

「ですから、一緒に頑張りましょう!」

 

雫、香織、風香、纏の四人は唯一さっきの力に対抗できる

姫奈に向かってそう言いきって見せた、確かに四人は姫奈のように

聖徒ではないし、エーテルと言う対抗する力を持っているわけでも無い

 

それでも四人は姫奈ひとりを戦わせないと

彼女に笑みを浮かべて決意を口にしていくのであった

 

「みんな…」

 

そんな彼女たちの言葉に姫奈の心に温かい何かを感じる

笑顔で姫奈のことを力強く見つめていくその眼差しに頼もしさを感じた

 

「ありがとう…」

 

こうして、姫奈は新たな力とともに

心強い仲間たちの存在を再確認していったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「…さっそく一人、罪徒を生み出してみたんだね?

 

 それで調子の方はどうかな?」

 

とある空間、そこでは玉座に座って

縛り付けられたように微動だにしないフードの人物がいた

 

その少年の後ろから女性が話しかけられていく

 

「…うん、それなんだけれどもね…

 

 倒されちゃったんだよ、僕が殺したいほど

 憎んでいる奴らの一人が、何やら妙な力に目覚めてね…」

 

「うん…?

 

 妙な力…確かにそれは妙だね…

 

 このトータスに罪徒の力に抵抗できる

 存在なんていないはずだけれども、それは…

 

 ちょっと気になるかもね…」

 

顎もとに手を当てて考える様なそぶりを見せながらも

どこか笑みを浮かべている様な様子で話しを聞いていく

 

「…でも別に問題ないよ…

 

 あの子はあくまでこの僕の力が

 どれほどのものであるのかを見るための

 

 言うんだったらただの実験材料だ…

 

 あのままあの王国を滅ぼしてくれたら

 それでもよかったけれど、やられても大したことはないよ…

 

 なんていったってこの世界には、理不尽に虐げられて

 力を求めているやつらなんて、吐いて捨てるほどいるんだからね…」

 

「…本当に、恐ろしいものだね…

 

 今まで無力だったものが力を持つと

 まさかここまで変わってしまうなんてね…

 

 ううん、それでいいんだよ、君はそれでいい…

 

 そんな君だからこそ、私もここにいる王達も

 君のために使えるんだって決めているんだからね…

 

 フフフ…」

 

そう言って二人が見下ろす先には九つの影、その中には

 

「‥‥…」

 

東雲 渚沙

 

 

彼女もまた含まれていたのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

 

そのころ

 

王都に割り当てられたとある一室にて

一人の少年が目をさまし、辺りを見回していく

 

そこにいたのは

 

「起きたみたいだね、おはよう光輝君」

 

中村 恵里

 

 

七大天使に数えられ、香織や雫ほどではないが

男子たちにそれなりに人気がある女子生徒である

 

その彼女が話しかけているのは

 

「…‥恵里…?

 

 どうして俺は…」

 

天之河 光輝

 

 

この世界に召喚された勇者である

 

彼はどうして自分がここにいるのかを

必死に散策していると、不意に記憶が脳裏を横切る

 

「そうだ!?

 

 王国が危ない…っ!」

 

そう言って慌ててベッドから抜け出そうとするが

その際に起こった体の痛みのせいで思わず表情を歪めてしまう

 

「落ち付いて光輝君

 

 まだ体の怪我が治り切っていないんだ

 そんな状態で動いたら、傷口が開いちゃうよ‥」

 

「…‥す、すまない…

 

 それで、俺が気を失った後…

 

 一体何があった?」

 

光輝が恐る恐る恵里に尋ねていく

 

「‥‥あの後、僕も姫奈たちも

 相手の強大な力に圧され気味になっていってね‥

 

 もうだめかと思ったら、姫奈が見たことのない力を

 目覚めさせたんだ、そのおかげで敵は倒して王都は今

 復興作業の真っ最中だよ、何しろ昨日の出来事だからね‥」

 

「昨日…‥っ!?

 

 そうだ、香織、雫!

 

 二人はどうしたんだ!?」

 

光輝は恵里にとびかかる勢いで訪ねると彼女は答える

 

「二人だったら姫奈と風香、北浦さんと一緒に

 王都を出たよ、今頃はもうこの国を出たんじゃないかな?」

 

「…‥そんな…どうして…‥‥‥

 

 どうして、引き留めてくれなかったんだ!?」

 

光輝は恵里を責める様に問いただしていく

 

「僕にそんな資格はないからだよ!

 

 ううん、きっとそれはあの場に居た全員が

 言えることだって思う、だってそうでしょ‥

 

 僕達は香織を傷付けてしまったんだ‥

 

 そんな僕たちが彼女を、彼女を本当に大切に

 思っている雫を引き留める資格なんて、あるわけないじゃないか!」

 

「傷つけた…‥一体何の…?」

 

光輝は恵里の今までにない様子に思わず落ち着き

恐る恐る恵里の言葉の意味を訪ねていく光輝に恵里は答える

 

「‥‥そんなの‥

 

 南雲君と東雲さんの事に決まっているでしょ‥」

 

恵里は怒りと呆れを合わせたような口調で答える

 

「南雲と…‥東雲さんの事…?

 

 何を言っているんだ、二人が裁かれたのは

 むしろ当然のことだろう、二人は俺たちの事を…」

 

「裏切っていたから‥‥とでも言いたい?

 

 じゃあ、どうして光輝君は

 二人のことを裏切り者だって思ったの?」

 

「そ、それは…‥イシュタルさん達が

 南雲が俺たちをうらぎった証拠を見つけたからだって‥」

 

「イシュタルさんが、ねえ‥

 

 あんな取ってつけたような証言

 さすがに僕でもおかしいっておもうよ?

 

 現に僕だけじゃないよ、永山君グループや

 鈴だってうすうすながら感づいてたし、龍太郎君も

 少なくとも違和感の方は覚えていた様子を見せてた‥

 

 多分、クラスメートの方も殆どが気が付いてた‥

 

 でも、それをおくびになんて出せなかった

 もしも庇ったら、自分もどうなるかわからなかった‥

 

 僕だって、出来る事だったら違うって言いたかった‥

 

 でもできなかった‥‥僕にはそんな勇気がなかった‥

 

 あの時、ふたりを助けるために、必死に抗った

 香織たちの様にできなかった、僕たちは間違いなく‥

 

 南雲に助けられたのに‥」

 

恵里はどこか悔しそうに表情を暗くしていく

 

「…‥南雲の事と、香織たちが俺たちの元を離れていった理由…

 

 それが関係あるのか?」

 

光輝は不意にそのように聞いていくと

恵里は更に呆れたようにため息を付くと説明していく

 

「やっぱり気が付いてなかったんだね‥

 

 香織はね、南雲君のことがずっと好きだったんだよ」

 

「…‥は?

 

 何を言っているんだ?

 

 意味が分からない

 なんで急にそんな話になるんだ!?」

 

恵里の答えを聞いて、光輝は

あからさまに動揺する様子を見せていく

 

「いやいやいやいや‥

 

 だって香織、積極的に南雲君と

 接点を持とうとしていたじゃん‥」

 

「何言ってるんだ、あれは香織が優しいから

 南雲が一人でいるのを可哀そうに思ってしていたことだろ?

 

 やる気が無くて協調性もないオタクな南雲をどうして香織が…」

 

光輝は本気で分からない様子であった

 

「‥‥確かに南雲君はオタクなのは本当だけど‥

 

 少なくともやる気が無くて

 協調性がないっていうのはちょっと違うよ‥

 

 南雲君は協調性がないって言ってるけれど

 そもそもの話し、回りのみんなが南雲君の事を

 突き放してたんじゃない、協調性も何もあったものじゃないよ‥

 

 やる気がないって、そもそも回りが勝手に

 南雲君の評価を下げてたんでしょ、やる気があっても

 そもそも回りがそうだって認めないと、それこそ何やっても無駄じゃん」

 

「…‥だからって、ありえない…

 

 そもそもの話し、あいつは

 あんな事件を引き起こしたんだぞ?

 

 それで香織は南雲と距離を取って…」

 

「それは、あの事件を起こすきっかけになったのが

 自分のせいだって攻めていたからだよ、知ってる光輝君?

 

 香織ね‥‥あの事件の後、学校をやめようとしていたんだよ?」

 

恵里の言葉に光輝が、えっ、と驚いた様子を見せていく

 

「‥‥自分の軽率な行動のせいで、南雲君は

 いわれのない罪を着せられてしまったって‥

 

 自分を責め続けて、もう南雲君と

 関わらないようにって、だから学校に

 話しをしようとしていたんだ、でも何とか

 雫や姫奈が、どうにかして香織を説得して

 思いとどまらせることが出来たって言ってた‥

 

 ぼく自身はそれに関わってないから

 詳しいことは知らないけれどね、でも‥

 

 香織はもう以前のように積極的にハジメ君に

 関わることが出来なかった、回りからやっかみを

 受けている南雲君を助けたい、でも自分が言ったら

 それこそ余計に南雲君を傷付けることに繋がってしまう‥

 

 でもね、このトータスに飛ばされて

 南雲君とひさしぶりにお話をすることが出来て‥

 

 香織はいっつも嬉しそうにしてたよ‥

 

 でも、南雲君と東雲さんが処刑されたのを見て‥

 

 本気でショックを受けてしまったんだよ…」

 

「…‥俺だって別に南雲が処刑されるのは本意じゃなかった…

 

 だからあいつが自分の罪を認めてしっかり謝罪をしてくれていたら

 俺はイシュタルさんを説得して、あいつのことを助けてやるつもりで…」

 

光輝はそれでも、自分の意志を否定するようなことはしない

 

「‥‥だーかーらー!

 

 そもそもの話し、南雲君も東雲さんも

 僕達のことを最初っから裏切ってなんていないって!!

 

 さっきからそう言ってるでしょ!!!」

 

「で、でもイシュタルさんが…」

 

「‥‥だからあれはイシュタルさんが

 でっち上げたものだって、さっきも言ったでしょ

 

 本当に光輝君は人の言う事聞かないんだから‥」

 

恵里はしょうがないなと一息つくと

落ち着いた様子で光輝に言って行く

 

「光輝君、光輝君はいつだって

 まっすぐで正義感が強いところは

 

 僕が好きな光輝君の良いところだっておもってるよ‥」

 

「恵里…?」

 

「‥‥でもね、もういい加減に

 光輝君はその正しさを疑うべきだって思う」

 

「…‥正しさを疑う?」

 

「うん、確かに強い思い芯の強さは

 なにかを成し遂げるのに必要なことだよ‥

 

 でも、だからってそれを常に疑わずして

 妄信し続けて居たらどこかで綻びが出てしまう‥

 

 だからこそ、その時にその場所で起こっている

 あらゆる事象を受けとめて、自分の正しさは果たして

 このまま貫き続けていいのか、または間違っていることを

 間違っていると受け止めた上でそれでも自分のそれを貫くべきか‥

 

 生きていくうえできっとそれは

 いつか起こりうることなんだって僕は思う‥

 

 本当にこのまま教会の意志に従って戦うことを選ぶか

 あるいは自分達の事をただの道具としか思っていない

 教会とこの国の人間の束縛から逃れて、自分で道をきめるか‥

 

 香織たちは後者の方を選んだ‥‥本当にすごいよ‥

 

 だってみんな自分の意志を貫いていったんだから‥」

 

恵里はそこまで言うと光輝の方に向きなおっていく

 

「光輝君、いつかは光輝君の正しさが

 通用しなくなる時が来る‥‥だからね‥

 

 時には自分の正しさを否定することも

 正しい選択になるんだってこと、忘れないで」

 

恵里はしんけんな表情で光輝に告げていく

 

「恵里…」

 

光輝はただ、彼女の名前をつぶやき

彼女のその表情を見つめ続けていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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Quinque puellae Neun Könige

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

とある町の門のところに

ひとつの馬車が通過しようとしていく

 

「とまってくれ、ステータスプレートを…

 

 それと、街に来た理由を?」

 

門番に呼び止められて、御者は説明をしていく

 

「ああ、王都までの配達の帰りさ

 それから、この子達の送迎もね」

 

そう言って荷台の方に目を向けていく

門番は不意に荷台の方に目を向けると

そこには五人の少女達がそこに乗っていた

 

「お前たちはどうしてここに?」

 

「‥‥食料の買い出しです、それから

 冒険者登録の方をしようと思いまして」

 

そう言って少女の一人が説明をしていく

 

「うん?

 

 冒険者登録なら、王都の方でもできるだろ?」

 

「いいえ、私たちは途中でこの馬車に拾われたので

 王都から来たわけではないんです、それで事情を話したら

 

 この街でも冒険者登録ができると言う事なので

 それだったらと思いまして、それでこちらの方に」

 

「ふむ、遠くの方から王都の方にまで来たと言う事か

 

 何か事情があありそうだが、まあいい

 冒険者ギルドならこの街の中心の通路をまっすぐ行けばある

 

 そこでなら登録も行ってくれるはずだ、後の詳しいところは

 そのギルドの方で聞いてくれ、しっかり説明してくれるはずだ」

 

門番も特に事情を聴くことなく、彼女達の通行も許可してくれた

 

「‥‥ふう、どうにか通れたね…

 

 それじゃあ、さっそく

 ギルドの方に行って来ようよ」

 

「そうね…

 

 ここに来るまで結構色いろんな魔物を倒してきたし…

 

 さっきの馬車の人から護衛の報酬として一部もらったし

 それでさっそく、冒険者登録を済ませてしまいましょう…」

 

香織がうーんと背伸びをして一息つくと

雫がそう言って、自分達が分けてもらった

魔物の素材をもって、ギルドの方に向かって行く事にする

 

「‥‥あの門番さんって意外にいい人なのかしらね

 

 私たちのこと深くは聞こうとしなかったけれども…」

 

「まあ、あの人のおかげでこうしてここまで来れたんだし

 

 ここは素直に甘えておきましょ

 それじゃあギルドの方に行きますか…」

 

そう言って五人は自分達をここまで運んできてくれた

馬車の人に軽く挨拶をしたのち、さっそく教えられたギルドの方に行く

 

「‥‥それにしても…

 

 思い切ったことをしましたね、香織さん…

 

 こうしてみて見ますと、本当に印象が変わりますね」

 

纏はそう言って香織の方を見て言う

彼女だけでなく、雫以外の他の二人も同じことを思っていた

 

なぜなら、今の香織は

 

「‥‥私、もう決めたの…

 

 過去のバカな自分と決別するんだって…

 

 あの時、私にもっと力があったら

 ハジメ君や渚沙ちゃんのことを助けられたかもしれない…

 

 だけれど、どんなに後悔したところでハジメ君と渚沙ちゃんが

 もどってきてくれるわけでも無いから、だから私はもう過去の自分と

 決別するんだって決めたの、だから私はその証として髪を斬ったんだから」

 

長い髪の印象が180度変わってしまう見た目になっていたのだから

 

「香織なりに覚悟を決めたってことなのね…

 

 まあ、あなたの意志でそうしたって言うなら

 私はそれでいいわ、其れにその方がもしかしたら

 教会の目を欺くことが出来るかもしれないしね…」

 

「でも今の香織ちゃんもすっごく可愛いよ

 

 見違えちゃったけれど、そんなの

 感じさせないくらいに本当に似合ってるよ」

 

「ありがと…

 

 それじゃあ、急いでギルドの方に行こっか」

 

そう言って一同は改めて、ギルドに向かって行くのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

冒険者ギルド

 

「ようこそ、冒険者ギルドへ

 

 わたくしは冒険者ギルドの受付を

 担当させていただいています、フレアと申します

 

 本日はどのようなご用件でしょう?」

 

「はい、素材の買取と、それから冒険者登録をお願いします」

 

姫奈が代表して要件を述べていく

 

「わかりました、それではステータスプレートをお預かりします

 それから、こちらに登録に必要な書類の方をお願いいたします…

 

 お連れ様の方も一緒に登録されるなら

 纏めてご提出されていただいてもかまいませんよ」

 

フレアと名乗る受付嬢が説明をしていき

登録の手続きをスムーズに進めていった

 

「…うん?

 

 聖徒に…エーテル…?

 

 何やら聞いたことのない表示がされていますね」

 

「‥‥ああ、えーっと…

 

 ごめんなさい、其れに関しては

 私自身にもわかっていないのよ…

 

 元々の天職は聖剣士だったんだけれど…」

 

そんな姫奈の反応を見て、フレアはしばらく見つめながら

 

「…わかりました、まあ技能は有るようなので

 問題は無いでしょう、それでは登録には一千ルタとなります

 

 五名様ですので、合計五千ルタになります」

 

「わかりました、それでお願いします

 

 それから素材の買取の方もお願いできますか」

 

「畏まりました、それと査定額から登録料金を

 差し替えることも可能ですが、いかがですか?」

 

「わかりました、それでお願いします」

 

こうして、もろもろの手続きを済ませていく一同

素材の方も鑑定所の方に提出していき、ひと段落が付いた

 

「ふう…

 

 私のステータスの事で

 何か聞かれると思ったけれど…

 

 思っていたよりはすんなりしてくれたわね…」

 

「ようし、これで晴れて私たちは冒険者だね

 

 なんだかちょっと楽しくなってきちゃった…」

 

「‥‥香織、あんまりはしゃがないでよ

 

 此処には一応ほかの冒険者さん達もいるんだから…」

 

ウキウキで上機嫌になっている香織を落ち着かせる香織

 

「査定結果が出ました、それにしてもすごいですね

 

 どれも並の冒険者では太刀打ちできない強力な魔物でしたよ

 

 査定金額は四万八千七百ルタですので、そこから

 登録料である五千ルタを引いた、こちらをお渡しいたします

 

 それでは、お気をつけて」

 

そう言って受付の方に戻っていくフレア

 

「なるほどね…

 

 やっぱり基本的なステータスは

 高い方だから、この国では強力な方の

 魔物とも取り合えず闘うことが出来るみたいね…」

 

「四万ルタか、それじゃあまずはこれで

 食料や最低限の装備の買い出しに行きましょうか…

 

 折角お金の方もあるわけだしね」

 

「そうだね…

 

 ここに来るまで思うような食事はとれなかったし

 しばらくぶりにまともな食事を食べたいしね」

 

それぞれの行動方針を決めていく五人

 

さっそくそれぞれ分かれて買い出しと

宿屋の方を取っていこうと計画を立てていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「冒険者っていうのは本当にお得なのね…

 

 基本的に宿なんかの施設が割引されるなんてね…」

 

こうして、姫奈たちは冒険者登録をして

あらかた買い出しを済ませていくと、ギルドにおいて

進められた宿屋においてわりあてられた客室に置いて

 

今後のことについて話しをしていく

 

「‥‥それじゃあ、私たちのある程度の活動方針を決めていくわよ

 

 まず、私たちは冒険者として様々な依頼をこなしていきつつ

 もとの世界に帰るための手がかりを見つけていく、そのうえで

 気がかりなのは聖教教会とハイリヒ王国、きっとあそこは私たちのことを

 血眼になって探していると思う、特に私の力はさっきのあの戦いのときに

 国一つを滅ぼしかねない力を持つ敵を倒したこともあって特に重宝しているでしょう…」

 

「でも、ハイリヒ王国だけじゃなく

 ほとんどの国が教会の息が掛かってるってメルドさんも言ってたし…」

 

姫奈の言葉をやや不安そうにつぶやいていく雫

 

「‥‥でもすべての国が教会の意に完全に従っているわけじゃない…

 

 だから私たちは冒険者活動を足掛かりにして、国やお偉方の

 後ろ盾を付けていこうと思っているの、時間はかかるかもしれないけれど

 

 でも、いざってときに私たちの事を守ってくれるところは多い方がいい…

 

 現に高位の冒険者のほとんどは後ろ盾が得られるほどの信頼を得られているらしいし…」

 

「‥‥なるほど…

 

 つまり今後の行動方針は冒険者としての活動をやりつつ

 私たちの後ろ盾を増やし、同時に元の世界に帰るための手がかりを探す…

 

 そういう事でいいのかな?」

 

香織がそう言って、姫奈が頷いていく

 

「‥‥とは言っても私たちの今のランクは青…

 

 冒険者のランクでは最低の方で、受けられる依頼も

 素材回収だったり魔物の討伐等が主な任務になるわ…

 

 だからまずは地道にランク上げね

 最低でも白か黒を目指しましょう、そのためにはまずは

 依頼の方を幾つか受けていきましょう、今受けられる中で

 なるべく高難易度のランクを受けていけばそれなりに昇格が望めるはずよ」

 

「ようし、ここからいよいよ

 私たちの冒険者としての人生を歩むんだね

 

 腕が鳴るね!」

 

「‥‥戦闘に関しては香織さんが後方支援で

 私、風香さん、雫さんが前衛として活動して

 

 姫奈さんには陣頭指揮を執っていって貰いましょう」

 

纏の言葉に姫奈はえっ?、とやや素っ頓狂な声をあげていく

 

「えーっと‥‥それってつまり…

 

 私がチームリーダーをやるってこと?」

 

「「「「え?」」」」

 

姫奈の問いかけにほかの四人は何言ってるの?、的な様子で首を傾げていく

 

その様子を見た姫奈はしょうがないなと頭を抱える

 

「‥‥わかったわよ…

 

 私も出来る限りのことはするわ

 それに、また例の亜人が現れた時も

 このエーテルって力に目覚めた私の力でしか

 戦えないってこともあるしね、その代わりに

 こき使ってやあげるんだから覚悟しなさいよ?」

 

「あ、あはははは‥‥ほどほどにお願いします…」

 

こき使ってやる宣言にやや、抵抗感を見せていく香織であった

 

「さてと‥‥それでさっそく何をやるのか…

 

 それについては何かある?」

 

「‥‥そうね…

 

 現在、出されている依頼の中で

 私達が受けられる依頼はほとんどが素材集めと

 魔物対峙が主ね、魔物討伐に関してはギルドから

 丁度いい話をここに来る前に聞いてきたのよ…」

 

「ちょうどいい話…?」

 

そう言って姫奈がギルドより用意して貰った

地図をほかの面々にも見える様に、見せていく

 

「この街はね、亜人の集落であるフェアベルゲンがある

 ハルツィナ樹海やライセン大峡谷と言った場所があって

 

 そこに生息している魔物たちがここ最近外に出て

 周辺の町や集落を襲っているらしいの、被害が大きくなる前に

 数を減らしてきてほしいと周辺の冒険者ギルドから、お達しが出てるみたい

 

 聴いたところ、ランクに関係なく使命が出てきているみたいだし

 これだったら活躍次第でランクを上げられる可能性も出てくるわ」

 

「物語によくあるデスマーチって奴だね…

 

 でも、考えたらどうして魔物って

 発生場所から出てこないんだろ?

 

 オルクス大迷宮だってあんなに魔物が

 自然発生しているっていうのに、入り口のある

 ホルアドに、全然出てこないみたいな感じだったし…」

 

風香が不意にそんな疑問を投げかけていく

 

「‥‥まあ、其れに関してだけど

 オルクス大迷宮の入り口には常に

 戦闘経験がある見張りが常駐しているみたいで

 

 入り口にある程度近づいてきた魔物を定期的に

 討伐しているからみたいよ、まあもっともそもそも

 近づいてくる魔物たちもそんなにはいないみたいらしいけどね…」

 

風深の疑問にそれなりに答えていく姫奈は一息つくと

 

「‥‥それじゃあ、明日はこの依頼を受けることにしましょう

 

 それから、この依頼においては

 他の冒険者さん達との合同依頼になるから

 

 それなりに問題は起こさないようにしましょう…」

 

「「「「了解」」」」

 

こうして、流されて行く形でチームのリーダーとなって

しまった姫奈がそう言ったので、他のメンバーも異議なしと

言った感じでそれぞれが疲れた体を休ませていくのであった

 

「‥‥本当に大丈夫かしら…こんな調子で‥‥…」

 

姫奈は一人、そんな不安を口にしていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

翌日、姫奈たちは依頼を受けるために

冒険者ギルドに向かっていた、彼女達をそれぞれ

男性は嫌らしい目つきで、それを冷たい視線で女性たちが見ていた

 

「‥‥魔物の調査と討伐の依頼ですね…

 

 承りました、それにしても登録してから

 行きなり魔物の討伐何て、気合が入っているのね…

 

 でも、この付近にいる魔物は並の冒険者では

 命がいくつあっても足りないくらいに強いですから

 

 あまり無茶だけはなさらないようにしてくださいね」

 

「了解です」

 

「それにしてもこの街も大変なんですね

 

 時折やって来る魔物の対応をしないと

 行けないことになるなんて、そもそも

 魔物が人間族の元に現れる事ってあるんですか?」

 

香織が不意に受付嬢のフレアに聞いていく

 

「はい、確かにここは魔物が発生する

 ライセン大峡谷やハルツィナ樹海の大体

 

 真ん中あたりに位置するのですが、基本魔物は

 樹海や峡谷から出てくることはめったにありません…

 

 ですが、ここのところそこに生息していた魔物たちが

 そこを離れて、街や集落に現れることが多くなってきました…」

 

「どうして、滅多に人間族の住まうところに現れなかった魔物たちが?

 

 基本的には自分達の生息地から離れることのないのに?」

 

風香がどうしてなんだろうと、頸を傾げると

 

「…皆さんは、ハイリヒ王国の王都に

 おいて発生した大災害のことは御存じでしょぅか?」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

それを聞いて、少し驚いた表情を見せていく五人

 

王都で起こった大災害とは、謎の強大な力を持った

亜人族の少女が王都を危うく氷漬けにするところであった

 

あの時のことは公には魔人族によって引き起こされ

神に使わされた勇者達の手によって見事に収められたということになる

 

もっとも実際は、あの事態を収めたのはエーテルの力で

聖徒に目覚めた姫奈で、引き起こしたのは強力な力に目覚めた亜人族であるのだが、

 

まさか、いきなり自分達がかかわったあの時の事件が

話しに出てくるとは思わず、思わず驚きの声をあげそうに

なってしまったが、まあ難なく抑えることができ、続けていく

 

「‥‥噂ぐらいなら…

 

 それがどうかしたんですか?」

 

「…いえ、直接関係あるという訳ではないのですが…

 

 実はあの出来事が起こってから、樹海や各地において

 今まで見たことが無い、新種の魔物が発生する様になったんです

 

 その魔物たちが元からそこにいた魔物たちを襲っていって

 それで追われてきた魔物たちがここまでやってきてなし崩し的に

 近くの町や周辺の村々を襲うようになったて、それで現在全国の

 冒険者ギルド総出で対応に当たっているところなのです、皆さんが

 今回うけることに鳴った調査依頼も所謂その過程によるものなんです」

 

「‥‥なるほど…

 

 全てのギルドがその魔物の生態による異変を調査したいけれど

 

 新種の魔物たちは並の冒険者でさえ苦戦させるほどの力を持った

 非常にやっかいな相手で、調査が円滑に進めていくことが出来ず

 

 それで、冒険者たちに調査依頼を発行していると言う事ね…」

 

姫奈の言葉にフレアははいと力なく返事をしていく

 

「‥‥新種の魔物って、ひょっとして

 この間、王都に現れたすっごく強いあの亜人の子かな?」

 

「‥‥可能性はあるわね…

 

 でも、奴らが使役している魔物自体も

 非常にやっかいなやつらだったし、何にせよ…

 

 あの時の王都の異変は、まだ終わったわけじゃない…

 

 簡潔に言えばそういう事ね…」

 

香織と雫はフレアの話しを聞いて

あの時の異変は終わっていないのではと予測していく

 

「ですので基本、依頼の報酬は依頼書に書かれている通りですが

 その際に何か新しい情報や進展につながる何かが見つかったら

 その重要度によって報酬の額が上乗せされることもありますから」

 

「‥‥わかった、それじゃあさっそく行ってみるわ」

 

こうして、彼女達五人で冒険者として

初めての依頼に向かうことになるのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

雫と香織達五人が離れた場所で

冒険者としての活動を始めようとしていたころ

 

こちらの方でも動きがあった

 

それは、王国に残ったクラスメートの中で

訓練に参加すると決めた一同は再び訓練を再開し

 

再び、オルクス大迷宮の攻略にいそしむことになっていく

 

五人が冒険者として出発してからおよそ数日で

先の冷気を操る亜人の攻撃から光輝が回復したのち

 

訓練がすぐに開始された、香織たちが国から離れて

街につき、冒険者登録を済ませ、その翌日に依頼を受けたその時には

光輝たちが迷宮攻略を再開しておよそ六日の時が立ち、光輝たちはついに

 

六十階層にまで到達することになった

 

天之河 光輝率いる勇者パーティー四人に

永山 重吾が率いるパーティー四人、そこに

さらに、訓練に参加者に加えられた者達がいた

 

それは、檜山 大介率いる小悪党グループだ

彼らはリーダーである檜山の軽率な行動が、あの時

クラスメートを危険な目に合わせてしまった事を咎められ

 

そのことを放免にしたかったら、訓練に参加する様に言われたのだ

 

無理もない、クラスメートの内五人が国を出て

更に七人は世界中に開拓に出ている畑山 愛子の

護衛の任務についている、参加希望は光輝たち8人

 

ハッキリ言って戦闘に持ち込むには心もとないのだ

 

こうして8人に檜山達四人を加えて現在12人になって‥‥‥‥‥

 

「‥‥はあ‥‥

 

 また影で、俺の存在が忘れられている気がする‥‥」

 

そう言って肩をがっくり落としているのは

 

遠藤 浩介

 

 

永山グループに一応所属している男子生徒である

 

「一応て‥‥」

 

「どうした浩介?

 

 また誰にも相手にされないことに落ち込んでいるのか?」

 

そんな彼に話しかけていくのは

グループのリーダーで浩介の親友である大男

 

永山 重吾

 

 

重格闘家の天職を持つ、クラスの中でも一番に大柄な男子生徒である

 

「‥‥なんでもねえよ、それにしても‥‥

 

 ようやくここまで、辿りつけたんだな」

 

「ああ、あの時は行き成りの事だったから

 はっきり言ってパニクったけど、今だったら

 何が起こっても、不思議とどうにかなるって感じがするぜ…‥」

 

浩介の言葉にそう返していくのは同じく浩介の友人

 

野村 健太郎

 

 

土術師の天職を持ち、土属性に対して適性を持っている男子生徒だ

 

「ああ、ここから先がいよいよあの六十五階層だ‥‥

 

 俺たちはあの時、死にそうになって

 それを南雲が助けてくれたんだよな‥‥」

 

「‥‥南雲、か…」

 

「……‥」

 

浩介の言った一人の男子生徒の名前

 

南雲 ハジメ

 

 

ステータスプレートにステータスが表示されず

更には謎の力に目覚めていき、それによって自分達の

危機を救ってくれたものの、のちに裏で魔人族とつながっていたと

教会に決めつけられて、自分達の目の前で殺された男子生徒である

 

「ここにくると、思い出すよね…

 

 南雲君のこと‥東雲さんの事も…」

 

「そうだね‥」

 

そう言って悲し気に呟くのは永山グループに所属する女子生徒の二人

 

辻 綾子

 

 

吉野 真央

 

 

それぞれ、治癒師と付与術師の天職を持つ

 

永山グループはどこか悲し気な表情を浮かべていた

 

「もうすぐ、65階層だね‥」

 

「うん‥」

 

そしていよいよ差し迫ってきたのは嘗て

自分達が最大の危機に訪れた、65階層にまで差し迫っていく

 

嘗て自分達が死の局面にまで追いつめられた場所

 

ついにいろいろと因縁深いこの場所にまで迫っていた

 

その様子に緊張の声をあげていくのは

勇者パーティーに所属する二人の女子生徒

 

中村 恵里

 

 

谷口 鈴

 

 

二人は不安を見せていく

すると、そんな二人に声をかける者がいた

 

「大丈夫だ、恵里、鈴

 

 俺たちはあのころよりも確実に強くなっている

 もう二度と、あんな目に合わせることなんてない…

 

 強くなって、魔人族との戦争に勝利して

 香織と雫を迎えに行こう、みんなで一緒に元の世界に帰るんだ」

 

そう言って二人に力強い声をかけていく男性生徒

 

天之河 光輝

 

 

彼の中では香織と雫が自分達の元を離れたのは

二人は優しいから、ハジメと渚沙の裏切りが信じられず

 

それでいたたまれなくなって

暴走したものであると勝手に解釈している

 

そんな見当違いも甚だしいその解釈だが

それを指摘したところで光輝は聞く耳を持たないだろう

 

恵里も鈴もそれが分かっているのであえて何も言わずにいた

 

「(そうだ、どんなに言ったところで‥

 

  ぼくたちはただ進むしか道はないんだ‥

 

  香織も雫も、姫奈も風香も、そして纏も‥

 

  あくまで、僕達と違う道を選んだだけにすぎない‥

 

  だったら僕も僕がすすむべきだって

  決めた道を進んでいくだけだ、ただひたすらにね‥)」

 

恵里はそう言って持っている杖を持っている手を強く握りしめる

 

「エリリン、大丈夫‥?」

 

そんな彼女に心配そうに声をかけていくのは

彼女の親友である鈴、それに気づいた恵里は鈴の方を見て

 

「‥‥うん、大丈夫だよ‥

 

 ぼくはもう、覚悟を決めてるから」

 

「‥‥そっか、だったら鈴も

 エリリンの事守ってあげるからね

 

 鈴の天職は結界師だから、いざってときは

 私がエリリンやみんなのことを守ってあげるから」

 

鈴はそう言ってガッツポーズを決めて言う

恵里はそんな様子に少し安心したのか、笑顔が浮かんでいく

 

「うん、わかったよ

 

 いざってときは遠慮なく頼らせて貰うからね、鈴」

 

「まっかせなさーい」

 

恵里がそう言うと鈴はふっふーんと控えめな胸を張って自信ありげに言う

 

「(まったく、鈴はこんな時でも相変わらずなんだから‥

 

  でも、鈴をみていると不思議と前向きになっていける‥

 

  ぼくもしっかりしないとね)」

 

そう言って改めて気を引き締めなおしていく恵里

 

永山グループと勇者グループがそれぞれ覚悟を決めていく中

そんな様子を疎ましく思い、睨みつけるようにしているものがいた

 

それは

 

「(…畜生、畜生‥‥

 

  畜生、畜生、畜生、畜生ぉ…

 

  何でこうなちまうんだよ、南雲やあの女が死んで

  漸く俺にもツキが回ってきたって思ったら、何で‥‥)」

 

檜山 大介

 

 

軽戦士の天職を持った男子生徒である

 

やがて、彼は先のオルクス大迷宮から戻ってきた際に

彼の軽率な行動がクラスメートを危険にさらしてしまったことで

 

本来だったら彼はそれに見合う処罰を受けることになるはずだった

 

だが、彼は必死に土下座して必死に謝罪の言葉を口にすることで

それを見た光輝が必死に謝る様子を見せる檜山のことを許すように

呼びかけたことで、檜山はどうにかその場をやり過ごしていく事に成功する

 

取りあえずはやり過ごせた檜山にさらに彼にとっては転機が訪れた

 

何と教会は檜山ではなく、ハジメのことを断罪することを決定

彼と彼を助けようとした渚沙は自分達が見ている目の前で殺された

 

それを見た檜山は心の底から言い放った

 

ざまーみろ、と

 

これでもう自分の邪魔をする奴はいない

むしろここから一気に香織との中を進展させていこうと考えた

 

香織の優しい心に付け入って

そこから一気にと考えていた矢先に、何と

香織が雫や三人の女子生徒とともに、国を出ることを決めたというのだ

 

だが、それ自体は特にきにはしていなかった

教会が神の使徒である彼女たちのことを見つけ出して

連れてくるという話を聞いているから、彼が一番気にしているのは

 

その際に王都で引き起こされた大寒波とそれをひきおこした謎の敵

 

それらが起こったことで教会も王族も大いに警戒態勢を敷き

自分達に更なる強化をほ施さんと訓練に参加する様にお達しをした

 

それによってせっかく畑山 愛子の尽力によって

闘いたくないと、前線に出ることを拒否したものも

無理矢理に戦闘訓練に参加させられることになってしまった

 

特に檜山は先の事もあって断ることも出来ずにとうとう

自分達はこうして、戦闘訓練に実質無理矢理参加させられることになり

 

今に至るわけである

 

「(…まあいい、いざってときは

  俺一人だけでも生き延びてやる‥‥

 

  どんな手を使ってもな‥‥)」

 

そう言って右手で自分の髪をかき上げ

ふうと勢いよく息を漏らし、自分を抑えていく

 

「おい、大介?」

 

そんな彼にどうした?、と声をかけていくのは

 

近藤 礼一

 

 

更にもう二人の男子生徒

 

中野 信治

 

 

斎藤 良樹

 

 

かれも気になった様子で檜山の方を見詰めていく

 

これでも一時期は檜山の軽率な行動の件もあって

ややギクシャクしていたが、彼の表向きの殊勝な態度を見て

三人とも檜山とまたつるむようになっていき、以前の関係に戻っていた

 

もっともそれを友情であるのかと判断するのかは微妙であるが

 

「あ、いや、何でもねえよ‥‥

 

 もうここまで来たんだなって思ってただけだよ」

 

「あ~、確かにな

 

 しっかし無理矢理訓練に参加させられたときは

 一時はどうなる事なのかって思ったけど、案外順調だよな」

 

「そうだな、まあ俺らが特別ってだけなのかもな」

 

「だな、この分だったらあんときの南野と

 肩を並べられるのもそう遠くねえかもな?」

 

そんな会話をしていく小悪党グループ、するとそこに

 

「こら、お前たち!

 

 いつまでもふざけている場合じゃないぞ!!

 

 休憩は終わりだ、ここからいよいよ65階層

 一度来ていたとはいえ、我々から見ても全く未知の領域だ!!!

 

 いつでも戦える準備をしておけ!!!!」

 

すると一人の男性の怒号が大きく響いていく

 

メルド・ロギンス

 

 

ハイリヒ王国の騎士団長である彼は彼らの付き添いとして

騎士団の人間の内、何人かを引き連れてともに階層に入っていた

 

メルドはハジメが処刑されてから光輝たちに以前よりも厳しく接するようになった

 

とはいえ相当無茶をしているようで、どこか疲れ果てているようにも見える

 

彼はあの時、ハジメの勇士を見ていたし

彼の人となりもそれなりに見て来た彼には今回の処刑の件は

ハッキリ言って納得のいかないところである、しかしそれを抗議しても

教会は実質王族よりも立場は上、王族の決定に従わざるを得ない立場である

彼に出来ることなど、何もないに等しく、自分の見解の甘さを大いに悔やんだ

 

だからこそ、これ以上彼のようなものがあらわれぬように

今のこっている彼らだけでも守るために出来ることをやっていこうと決意する

 

こうして、一同は65階層へと続く入口へと進んでいくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

オルクス大迷宮 65階層

 

嘗て、最強の冒険者がたどり着いた

歴代最高到達階層にいよいよ足を踏み入れていく一同

 

まず、騎士団の者達が先行して

何か異常はないのかと見ていくことに

 

そして、しばらく進んだその時

 

「っ!?

 

 みんな、気を付けて!」

 

恵里が一同に呼びかけていくと

前方に巨大な魔法陣、後方に小さくも複数の魔法陣が展開されて行く

 

そこから現れたのは嘗て、自分達が対峙したかの存在

 

ベヒモスとトラウムソルジャーであった

 

「ま、まさか…‥あいつなのか!?」

 

「嘘だろ‥‥あいつは死んだんじゃないのか!?」

 

驚愕の表情を浮べる光輝とともに驚愕するのは

 

坂上 龍太郎

 

 

彼もまた目の前に現れたベヒモスに驚きの様子を見せていく

 

「迷宮の魔物たちの発生原因は解明されていない

 

 一度倒した魔物と何度も遭遇することも普通にある

 

 みんな構えろ、それから退路の準備も忘れるな!」

 

メルドが的確に指示を出していくと

それに意見する様に言い放つ者がいる

 

「メルドさん!

 

 此処は俺たちに任せて貰えませんか!!

 

 俺たちだってあの頃から強くなったんだ

 それを証明するためにも、俺たちは必ず奴を倒します!!!」

 

「俺も光輝に賛成だ、ここで逃げちまったらそれこそ

 あの時の奴と戦おうなんてのは無理だ、だから今度こそ

 

 あいつを倒して、俺達はその先を行くぜ」

 

そう言って目の前に立つ光輝と龍太郎

 

そんな彼らの前に立ちふさがるように咆哮をあげるベヒモス

 

一同もベヒモスに立ち向かうために身構えていったその時

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

ベヒモスの背中から突然、蛇の口だけが付いたような何かが

ベヒモスの体を食い破っては、耳鳴りになりそうな甲高い声をあげていく

 

それは、洞窟内にうるさく響いていき、一同は思わず耳をふさぐ

 

「な、何だあれは‥‥

 

 あんな魔物は見たことがないぞ!」

 

メルドはベヒモスの体を勢いよく

突き破ったそれを見て驚愕の様子を見せていく

 

すると、魔物はベヒモスの腹からはい出てくると

ベヒモスはそのままその場に倒れこみ、動かなくなる

 

そして、魔物は光輝たちに襲いかからんと

光輝たちを睨みつけていき、低いうなり声をあげていく

 

「たとえだれが相手であろうと関係ない!

 

 俺達は必ず勝って、佐紀を進むんだ!!」

 

「そうだぜ、俺達にはこれからまだまだ

 やらねえとならねえことが山ほどあるんだ

 

 こんなところでつまずいてなんて居られねえよ!」

 

そう言って光輝と龍太郎は現れた謎の魔物に臆することなく向かって行く

 

謎の魔物の方も光輝たちを自分に向かってくる

敵であると判断したのか、そのままゆっくりと

動かなくなったベヒモスから離れていくと、そのまま一同の前に現れる

 

「まずは俺が行くぞ!」

 

光輝がそう言って、聖剣を構えて攻撃をしかけていく

 

「万翔羽ばたき、天へと至れ

 

 天翔閃!」

 

光輝の放った斬撃が轟音とともに

ベヒモスを食い破った謎の魔物に放たれて行く

 

しかし、その魔物の前に突然何かが遮るように現れ

それがなんと光輝の攻撃を防いでしまう、その正体は

 

何と奴の頭部であった

 

「何、もう一体!?」

 

「いいや、違う!

 

 あれは‥‥」

 

良く見てみると、その頭部はよく見ると

腕のように生えており、それが光輝の斬撃を防いだのだ

 

よくよく見るとその反対側に生えており

まるで、頭部のついた両腕のようであった

 

そして、その頭部もまた一同に威嚇する様に咆哮をあげていく

 

「おいおいおい‥‥

 

 首が三つもついてんのかよ‥‥」

 

「こ、これって逃げた方がいいんじゃ‥‥」

 

檜山達が逃げ腰になりかけているが、不意に声が響く

 

「いいや、見ろ!」

 

光輝がそう言って先ほど

自分の攻撃を防いだほうの頭部を指さす

 

そこからはよく見ると、何やら

煙のようなものが噴き出している

 

それが奴の体が傷ついたことによって

起こったことなのだと全員が理解する

 

「あいつは俺の攻撃を受けて、確実にダメージを与えられている

 

 つまり、勝てない相手ってわけじゃない

 此処にいる全員で力を合わせれば、勝てない相手じゃない!

 

 永山たちは左側を、檜山達は背後のトラウムソルジャーたちを

 メルドさん達は右側をお願いします、後衛は魔法による後方支援を頼む!!」

 

光輝が的確に指示を出していく

 

「ほう、悪くない指示だ

 

 ようし、全員、光輝の指示通りにするぞ!!

 

そう言ってメルドたちは魔物の右側に向かって行く

すると、魔物の右腕のように生えている頭部が騎士団の方を向くと

 

その口から冷気のようなものを吐き出して攻撃をしかけていく

 

騎士団が行ったのを見て、他の者達もそれぞれ動き出していく

 

すると、中央の頭部が口元を赤い光を帯びさせていく

なんらかの攻撃を後衛の方に向けて放とうとしているのか

 

「そうはさせねえぞ!」

 

「俺達で行くぞ!」

 

そう言ってクラスメートの二大巨漢

坂上 龍太郎と永山 重吾が飛び出していくと

 

二人は魔法で身体を強化して、それで大きく飛び上がり

頭部の上あごの部分にほぼ同時に拳を打ち付けていく、すると

 

魔物の方もそうはさせるかと二人に向かって頭部を突き出していく

 

「らぁああああ!!!!!」

 

「おぉおおおお!!!」

 

二人はその一撃を見事に止めていくが

いかんせん空中という不安定なところなので

思う様に攻撃を抑え込んでいく事ができずに放り出されそうになる

 

だがそこに

 

「はああああ!!!!」

 

遠藤が隠密スキルを使って敵の横に飛びだしていき

それで、魔物の首元に武器の刃を突き立てていくが

 

「ぐう‥‥硬い‥‥」

 

「浩介、下がれ!

 

 粉砕せよ、破砕せよ、爆砕せよ!!

 

 豪撃!!!!」

 

そこにメルドが自身の剣速と威力、さらには

彼自身の腕力も強化された重く鋭い一撃がさらに追撃する

 

すると、魔物の首から勢いよく煙のようなものが噴き出していく

 

それによって真ん中の首が断末魔のような雄叫びをあげ

そのままゆっくりと一同の方に向けて倒れていくと、物凄い

地響きとそれによる轟音をひきおこし、永山、龍太郎、浩介、メルド

 

四人はすばやくその場から離脱したので

敵の巨体に圧し潰されずに済んだ、それでやったのかと

誰もが思ったが、その際にほかの二つの首がゆっくりと頭部をあげていく

 

「残るは二本か‥‥」

 

「あれさえ落とせれば‥‥っ!?」

 

すると、動かなくなった真ん中の首に入っている

浩介とメルドから受けた傷がみるみると塞がっていき

 

やがて真ん中の首も体を起こす様にして首をあげていく

 

「まじかよ‥‥」

 

「そんな、あんなに苦労して通した傷が治っちまうなんて‥‥」

 

「…超速再生か!?

 

 全員いったん離脱しろ!」

 

すると、両側の頭部がぶんぶんと

降りまわしていく様に突っ込んでいき

 

それによって四人は一気に吹き飛ばされて行く

 

すると

 

「優しき光は全てを抱く!

 

 光輪!!!」

 

綾子が素早く一同に衝撃を和らげる魔法を放つと、さらに

 

「天恵よ、遍く子らに癒しを…

 

 回天!!!」

 

そこにすかさず、回復魔法を掛けて四人の体が回復していく

 

魔物の両側の首が動きを止めると

再び一同の方に頭部を向けていく、すると

 

「うおおおおお!!!」

 

そこにすかさず光輝が聖剣を突き出しつつ突っ込んでいく

三つの頭部は一斉に光輝の方に襲いかからんと向かって行く

 

「天翔破!」

 

光輝がそう言って聖剣を手に

身体を勢いよく回転させていくと

 

三つの首ともその攻撃によって切り刻まれて行く

 

だが、三つの首の中で負傷が少ない真ん中の首が

光輝に勢いよくかぶりつかんと牙を突き立てんとしていく

 

「ぐううううう…」

 

光輝はそれをどうにか聖剣で受け止めるが、やがて

真ん中の首はそのまま光輝を勢いよく吹っ飛ばしていった

 

「光輝君!」

 

「光輝!」

 

光輝の方はかろうじて無事のようだが

さすがに、無傷という訳ではないようである

 

だがそれでも、聖剣を杖の様にして体を支えつつ

それでも目のまえにいる魔物の方をしっかりと見据えていく

 

魔物の方は健在だが、先程光輝のつけた傷は

殆ど再生されていない、だがそれでも弱っている様子が見られない

 

すると、真ん中の首の口元から炎が

右の口元から冷気が、左は口から息を漏らす様にしていく

 

「天恵よ、かの者に今一度力を

 

 焦天!!!」

 

綾子がそう言って一点型の回復魔法を光輝にかけていく

 

一方、魔物の様子を見て

 

「なんだかまずい気がする‥

 

 鈴、早く結界を張って!」

 

「わかった!」

 

恵里の指示を受けて、鈴は前に出て手を突き出していく

 

「ここは聖域なりて、神敵を通さず!

 

 聖絶!!」

 

鈴はそうして結界をはると同時に敵の放った攻撃を防いで見せる

 

しかし、魔物の放つ三つの属性を一点の集中させたその攻撃は

次第に攻撃を防いでいる鈴を押していき、鈴の方も普段の明るい雰囲気が

感じられないほどに必死な表情で魔法を発動させている鈴、その彼女に

 

「天恵よ、神秘をここに!

 

 譲天!!!」

 

綾子がそう唱えると同時に

聖絶を発動させている鈴の体が光に包まれて行く

 

しかし

 

「うおおおお!!」

 

それでも何とかたもったが、それでも敵の攻撃の方が圧倒的である

 

「みんなが後ろにいるんだ‥

 

 負けてたまるもんかああああ!!」

 

鈴はそう言ってさらに結界の強さを高めていくが

段々と限界が迫ってきているのが分かり、結界が軋みをあげていく

 

「鈴‥」

 

そんな自分達を守るために頑張っている親友を見て

そんな彼女に何もできない自分自身が悔しく感じていた

 

しかし、だからと言って自分には何もできない

 

自分は降霊術師、死者の残留思念に干渉し

極めれば、死者を蘇らせ使役することもできる職業

 

逆を言えば魂と肉体がそろっていなければその真価を発揮できない

 

現在だって後方に回っていて親友である鈴があんなにも

体を張っているのに、自分自身は何もできずにいるのが悔しい

 

彼女は手に持っている杖をぎゅっと握りしめていく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

それはまだ、自分達がトータスに召喚される前の事

 

彼女はそこでは図書委員を務めていた

 

だが、漫画やアニメが主流の今時の高校生は

こんな難しい本ばかりを置いている図書館になど

 

誰も滅多に来ることは無い

故にどこか暇をしており、たまに

図書室にある本を適当に手に取って

読んでいたりして時間をつぶしていた

 

だが、特にと友達が欲しいとは思わなかった

いいや、自分に友達なんていらないと自分に言い聞かせる様にしていた

 

こんな自分と友達になってくれるなんて言う人はいないだろうと言い聞かせて

 

中村 恵里の人生はまさに悲惨そのものであった

 

実の父親が自分の不注意のせいで亡くなり

母からはそのことで虐待を受け、再婚相手には

強姦されそうになって、やがて母に捨てられて

実父の両親に引き取られ、そこで過ごしていった

 

だが、母に捨てられたというショックからやや欝のようになっていき

ついには川から飛び降りようとしていたところを、救ってくれたのが光輝だった

 

やがて彼と再会したのは高校に入ってからで、彼の姿を見たときは本当に嬉しかった

 

しかし、彼の回りには自分なんかよりも彼と釣り合う女性が二人もいた

 

それが白崎 香織と八重樫 雫であった

 

彼女がその二人に対しては嫉妬や憎悪以上に抱いたのは

 

敗北感であった

 

二人なんて自分では到底かなわないと悟り

彼女は不意に、脳裏にある言葉を浮かべた

 

初恋は実らない、と

 

もちろん、光輝が二人と仲がいいからと言って

二人のどっちかと付き合っているとは限らないが

 

その時、様々なことがあって

心身ともに打ちのめされていた彼女には

そんな可能性を思い浮かべる余裕もなかった

 

入学して早々、二大女神という美少女の存在に打ちのめされた彼女は

誰ともかかわろうともせず、目立たずに生きることの喜びもなくすごしていた

 

そんな時に、彼女に話しかけてくる一人の同級生がいた

 

それが、谷口 鈴であった

 

彼女は良くも悪くも有名であった

明るくて誰にでも積極的に過ごして

 

その中には光輝や香織たちの事も含まれていた

 

恵里はハッキリ言って、そんな彼女が苦手だった

だが、そんな彼女はそれでも積極的に自分に話しかけてきた

 

最初のうちは、うっとおしく感じていき

ときにはひどい言葉を投げかけてしまう事もあったが

 

それでも、彼女はめげずに自分に話しかけている

 

やがてそんなことがあって不思議と彼女が話しかけてくることに

何処か、安心感のようなものを抱くようになった自分自身に驚いていた

 

不意に恵里はそうして鈴に自分に話しかけてきたのかと聞いた

 

彼女は見慣れた明るい笑顔とは違う雰囲気の笑みを浮かべて応えた

 

ー鈴が中村さんと友達になりたいなって思ったから‥ー

 

恵里は何だよそれと思ったが不思議とそれを聞いても悪い気はしなかった

 

やがて、鈴を通して想い人である光輝とも親しくなり

やがてそれを通して香織の想い人である南雲 ハジメの存在も知った

 

不思議と闇しかなかった自身の心に

明るい光がともされている感覚を覚えていった

 

中村 恵里は間違いなく、谷口 鈴という少女に救われたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「鈴‥」

 

恵里は自分達のために体を張っている鈴に駈け寄っていき

彼女の体を後ろから、勢いよく支えるようにして抑えていく

 

「エリリン!?」

 

「ごめんね‥‥鈴‥

 

 ぼくが鈴のために出来る事はこのくらいしかない‥

 

 でもそれでも、僕は僕たちのために

 頑張っている鈴の事を助けたいんだ!」

 

そう言って恵里は鈴の小さな体が圧されそうになっているのを必死に抑えていく

 

「エリリン‥

 

 ありがとね、エリリン!」

 

「ううん、お礼を言うのは僕の方だよ鈴‥

 

 きっと鈴がいなかったら僕は今頃

 人生に絶望してた、暗い気持ちで過ごしてた‥

 

 そんな僕に初めて光をくれたのは鈴だよ‥

 

 だから、たとえこの先、僕が死ぬことになっても

 それでも僕は鈴のことを守り切って見せるよ、それが僕の‥

 

 ぼくなりに決めた、覚悟だから!」

 

恵里はそう言って力強く決意を口にしていく

 

すると、恵里の体から真っ白なオーラが噴き出していき

それが彼女や彼女が支えている鈴の体を包み込んでいき

 

恵里の右手の甲に何やら紋章のようなものがうかびあがった

 

すると、その紋章からあふれ出ている力が

恵里の手を通じて、鈴に流れ込んでいく

 

「なにこれ、すごい‥‥すごいよエリリン!

 

 あんなにきつかった体が嘘みたいに治ってく!!

 

 うおおおお!!」

 

鈴も先ほどまでの体の負担が嘘のように回復していき

さらに自身が展開している結界にもその力が宿っていき

 

それが魔物が放っている攻撃を段々と打ち消していき

 

それはついには魔物にまで及ぶと

魔物は悲鳴のような断末魔の咆哮をあげながら消滅していく

 

魔物はそれでも、恵里と鈴の方をにらみつけていく

 

すると

 

ー罪深き者どもよー

 

「「え!?」」

 

魔物が突然言葉を発した、これには鈴や恵里はもちろん

其の場にいたほかのクラスメートやメルド団長たち騎士団も驚きの様子を見せる

 

ー我らマモノ、我らが主により生み出され

 我らが神により創りだされし者、我らが神は目覚める

 

 我らが背負いし罪をもって目覚める、お前たち罪深きもの共によって蘇る

 

 我らが神が蘇り時、我らが主が生み出され、その王たちが目覚める

 暗黒の楽園は始まらん、始まりてお前たち己が罪を悔やむこととなる

 

 時は来た、神は蘇り、主が生み出され、王は目覚め、我等が楽園が始まる

 

 そのとき来るとき、罪深き者どもは滅び、世界は終わりの気迎えるだろう

 

 時は来た…時は来た…時は来た…ー

 

そう言い残して、魔物は完全に消滅を迎えていくのであった

 

「…‥何だったんだ今の言葉…

 

 というより魔物が言葉を話すなんて…

 

 メルドさんはさっきの魔物のことは?」

 

「…すまない、俺にもわからない‥‥

 

 さっきの魔物は俺自身も見覚えが無いからな‥‥

 

 それにさっきの言葉は、俺達に向けて警告を発しているようだった‥‥

 

 奴らの神が目覚める…それによって

 世界が終わる‥‥演出にしても手が込んでいるな…‥‥」

 

先ほどの魔物が言った言葉にやや意味深に感じてしまうメルド

 

すると

 

「いいじゃねえか、魔物が何を言おうとさ!

 

 俺達は勝ったんだ、それが事実だろ?」

 

「そうですよメルド団長!

 

 今は強敵に勝ったことを喜びましょうよ」

 

そう言って呼びかけて行くのは檜山達小悪党グループだ

彼等は魔物が何を言っていたのかと言う事よりもこの戦いに

勝ったことの方を喜んでいこうと、メルド団長に呼びかける

 

「…‥そうだな、相手は未知なる相手だったが

 それでも俺たち勝った、生き延びた、そのことを喜ぼう!

 

 俺達の勝利だ!!」

 

光輝はそう言って一同に呼びかけていくと

檜山グループを中心に一同が喜びの声をあげていく

 

「‥‥‥」

 

恵里は不意に自分の右手を見詰めている

そこにはもう、先程浮かんでいた勲章のようなものはなかった

 

「エーリリン!」

 

「うわっ!?」

 

すると、そんな彼女に勢いよく後ろから抱き着いていく鈴

 

「す、鈴、びっくりさせないでよ」

 

「えへへへへ、ごめんごめん

 でも、ありがとねエリリン‥

 

 エリリンのおかげであの魔物に勝ったんだよ?」

 

そう言って普段の鈴とは

全く印象が違う声で恵里に話しかけていく

 

「エリリンがね、後から鈴の事、支えるてくれたおかげで

 鈴は不思議と力が湧いてきたんだ、これはきっとエリリンの

 鈴への愛情パワーだって思うんだ、だからこうしてみんなが生き残れたのは

 

 エリリンのおかげなんだよ」

 

「鈴‥」

 

鈴がいつもとは違う笑顔で自分にお礼を言うのを見て

不思議と温かい気持ちになっていくのを感じ取っていく

 

すると、そんな二人のもとに声をかけていくものが現れる

 

「二人とも無事か

 

 ありがとう鈴、素晴らしい結界だったよ」

 

「えへへへへ、ありがとね」

 

それは光輝であった

 

光輝はそう言って、鈴の事も労って行った

 

恵里は損な様子を最初は微笑まし気に見詰めていたが

光輝のその後の言葉を聞いて、心境が大いに変わってしまう

 

「まったく南雲の奴は本当に出しゃばった真似をしたな…

 

 俺達がその気になればベヒモスぐらい倒せるんだ

 勘違いでヒーロー気分で調子に乗って好き勝手するから

 あんな自業自得の結末を迎えることになったんだからな…」

 

「‥‥‥」

 

それを聞いて恵里はどこか複雑そうな表情を浮べている

 

光輝の中で、南雲 ハジメという人物は

オタクという社会最底辺の人間でおまけに周りに合わせようともせず

おまけにやるべきことをやろうともしない怠け者、そのくせ自分の幼馴染である

香織に構われても態度を改めないどころか彼女の厚意をいつも無視しているだけでも

赦せないことだが、彼は一年のころにクラスメートの南野 姫奈を人気のない校舎裏に

連れ込んでは無理矢理関係を迫ろうとした人の道を外れたまさに断罪されるべき悪である

 

更にこの世界に来てからはそれに、自身の無能を棚に上げて悪の道に進んで

不当な力を手に入れた、許されざる裏切り者の悪であるという認識であった

 

恵里自身、その話を信じているわけではなかったが

そのせいで香織や雫をはじめとする、一部のクラスメートの反感を

買ってしまっているのも事実、その結果が香織たちのクラスメートからの離脱である

 

恵里自身は光輝のこの良くも悪くもまっすぐなところに惹かれて

それでも今もなおも思い続けているが、ここ最近は心境の変化も起こり始めている

 

その証拠に、光輝の先ほどの言葉にあまり良い感情は抱いていない

 

だが、それでも彼女にとって彼は生き続ける事、そのおかげで

鈴というかけがえのない親友に引き合わせてくれた人なのだ、故に

 

恵里はたとえこの先、彼が壊れることがあっても彼の味方であり続けよう

 

そう決意を秘めたのであった

 

そして、そこにはもちろん

 

「エ~リリン!」

 

「うわ、もう行き成り抱き着かないでよ」

 

「ぐへへへ~、良いではないか良いではないか~」

 

「親父発現やめぇ!」

 

大切な親友である鈴の事も含まれている、何があっても

彼女は彼女の大切を守り抜く、そう決意を露わにするのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷

 

この場所もまたオルクス大迷宮と同様に

魔物が発生する事でも有名であった、オマケに

ここに住まう魔物たちは何よりも迷宮にいた魔物たちとは

比べ物にならないくらいに強く、一瞬でも気が抜けない場所であった

 

もっともオルクス大迷宮の場合は、下にいけばいくほど

強くなっていく次第なので、一概に迷宮の魔物より強いのかと言われれば微妙である

 

なにより

 

「はああああ!!!」

 

「たあああああ!!!」

 

「やああああ!!!」

 

今この峡谷にて魔物の討伐を行っている五人の少女は

迫って来る魔物の大群を次々と討伐していっているのだった

 

雫は王宮より抜け出した際に持ち出したアーティファクトの剣

幼少期のころからふるっていた剣道の技術によって次々と敵を倒していく

 

風香は刀身が大きく幅の広い剣を使っている

女性である風香にも扱えているのはアーティファクトの効果によるものか

 

纏は天職である棒術師にあった、杖型のアーティファクトを振るい

それで魔物たちに打撃を次々と入れていき、更には棒から出てくる雷で

攻撃を受けた魔物たちはそれによって倒れてそのままこと切れてしまう

 

やがて、気が付くとその周りには魔物たちの死体が転がっていた

 

死屍累々、まさにそれである

 

「随分と倒しては来たけれども…

 

 どれも記録にあった魔物ばっかりね…

 

 そう簡単に敵の方も姿は現さないってことかしら…」

 

そう言って姫奈も辺りをきょろきょろと見回していく

 

「その‥‥ごめんね…

 

 私、結局何の役にも立てなくて…」

 

そう言って申し訳なさそうに言うのは香織であった

 

彼女がこういうのにはもちろん訳がある、それは

 

「しょうがないわよ、何しろこのライセン大峡谷は

 魔力が分解されて魔法が思う様に使えないんだもの…

 

 上級治癒魔法でも一般レベルにまで落ちてしまうのは痛いわね…」

 

「そうね‥‥討伐ではなく調査に主流を置いている理由もなんとなくわかったわ…

 

 もう一つの魔物の発生場所であるハルツィナ樹海では

 探知阻害の効果がある霧で常に覆われているらしいし…」

 

そう言って一旦は野営の準備をしていく五人、その中でも

てきぱきと動いているのは香織であった、戦いの中では約に立てなかったし

 

せめてこのぐらいはと香織が申し出た、他の四人もそんな彼女の気持ちを

十二分に理解しているので彼女の申し出を受ける、もちろん彼女らも手伝ったが

 

ハッキリ言って今まで寝ていた王宮やホルアドの宿屋のそれと比べると

快適とは言えないが、それでもゆっくり休める空間がるのはいい、やがて

休める時には休んだ方がいいと、他の面々が眠りにつき始めていく中で一人

 

焚き火の前で、一人見張りのために起きている姫奈

 

すると、テントの中から一人の少女が姿を現し、彼女のもとに来る

 

「‥‥香織?

 

 どうしたの、まだ見張りの交代には早いと思うけれど…」

 

「‥‥うん、そうなんだけれど…

 

 なんだかちょっと寝付けなくって…

 

その少女、香織は姫奈の隣にしゃがみこむ

 

「まあしょうがないわよ、今までがむしろ恵まれすぎたのよ…

 

 今のうちに慣れておかないとそれこそ身がもたないわよ?」

 

「あ、ううん、違うの‥‥そういう事じゃなくって…」

 

姫奈はテントが寝心地が悪かったのかと思い話しかけたが

香織は違うとあわてて否定する、それと同時に暗い表情になる

 

それを見てなんとなく察していく姫奈は

しょうがないわねと言う様に息を漏らした

 

「ひょっとして、今日の事気にしてるの?」

 

「ふえ!?

 

 えーっと‥‥その…」

 

図星を付かれたように驚いた様子を見せた香織だったが

このままごまかしてもしょうがないと考えて、静かに首を縦に振った

 

「‥‥私、ずっとこの力でみんなのことを助けてあげたいって思ってた…

 

 私の聖女の天職の力で、普通の人だったら会得するのが難しい

 上級治癒魔法を使えるようになって、それで雫ちゃんやみんな…

 

 なによりハジメ君の事を助けられるようになりたいって…

 

 今まで、ハジメ君のことで傷つけてしまった分

 私がハジメ君の事を最後まで支えてあげるんだって、それなのに…

 

 肝心な時に何にもできない‥‥そのせいでハジメ君は…

 

 いまだってそう‥‥私は雫ちゃんたちのように

 直接戦える術は持ってないから、何の役にも立ててない…

 

 私、ずっと不安なの‥‥またあの時みたいに何にもできずに

 また、大切な人を失ってしまうんじゃないか、私も強くなりたい…

 

 雫ちゃんや姫奈ちゃん達のことを守れる、ううん一緒に戦えるくらいに…

 

 もっと…強く…なりたいよ‥‥…」

 

「香織…」

 

香織の胸の内を聞いて、姫奈は少し言葉に迷いが生まれる

 

香織はずっと自分のことを責めていたのだ

ハジメの処刑を止めることも、彼を助けることも

 

もしあの時、彼の傍に居たら

あの時もっと彼のもとに早く駆け付けることが出来たら

 

そう言って彼女はずっと自分のことを責めていた

彼女はもともと優しい性分で、誰かを責めるという選択肢ができない

 

勿論それはいいことではある、だがそのせいで香織はあのころから

今の今まで自分のことを責め続けていた、ここにきてからだいぶ落ち着いてきたが

 

このライセン大迷宮の魔力が分解される現象のせいで

魔法で支援することでしかできない香織は再び自分の無力さに打ちひしがれて行く

 

そんな、彼女の肩に優しく手を置いていく姫奈

 

「‥‥そんなことないわ、香織は強いじゃない…

 

 だって貴方は南雲君が処刑されそうになった時

 迷うことなく彼の方に橋って言ったじゃない、あの時

 足が竦んで動けなくなった私なんかよりもずっとすごかった…

 

 香織は強いわよ、ただあなたがそれを信じきれていないだけ…」

 

「姫奈ちゃん…」

 

姫奈が香織のことを元気づけるために彼女にしっかりといい放つ

 

「貴方は強い‥‥それは誰よりも私が分かってる…だからしっかりと回りを見なさい!」

 

「姫奈ちゃん…」

 

そう言ってそんな会話をつづけていると

不意に向こうの方でなにやら大きな音が聞こえてくる

 

更にはそこから、悲鳴のようなものも混じって聞こえてきた

 

「敵襲!?

 

 香織、皆を起こして!」

 

「うん!」

 

そう言って急いでテントに向かう香織に

姫奈は向かってくるであろう敵に供えて武器を取っていく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「はあ‥はあ‥」

 

ライセン大峡谷において、一人の人影が

なにかに追われているようにその場から逃げている

 

「どうして‥どうしてこんなことに‥‥」

 

それは一人の女性であった

 

その女性は見た限りはどこか

大人な雰囲気のとてもきれいな女性であるが

 

その頭からは兎の耳が生えていた

そしてそんな彼女を追いかけ回しているのは

 

複数の巨大な、兎のような魔物であった

 

だが、それは兎にしては大きさは当然

草食である兎には不釣り合いの爪と牙が生えており

 

それらをカチカチと鳴らしながら、女性を追い回していた

 

「嫌だ‥こんなところで‥‥

 

 こんなところで絶対に死ねない‥‥

 

 もう一度生きて、あの子に会うためにも‥‥

 

 会ってあの子に、私は…私は‥‥」

 

追われながらも、自分の服の胸元を思いっきり掴み

なにかを耐えるようにして、表情を険しくしていく

 

「うああ!!!!」

 

なにかを吹っ切るような女性のさけびごえがあたりに響くのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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Fatum puella Wille der Zerstörung

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

昔、昔のその昔

 

かつてある場所に異能の力を授かり

その力で最強の力をほしいままにしてきた女王がいた

 

少女は家族や周りの人たちに大切に育てられていた

最初のころは少女はそれを嬉しく思っていた、しかし

 

大人になっていくにつれてだんだんと疑問を抱くようになる

 

自分がどうして大切にされているのかと

 

そして、彼女は自分の身体に疑問を持つようになった、そう

 

十二歳のときから、体が成長しなくなった

さらにはどんなに傷を負っても死ぬことのない再生能力

 

全ての魔法に対してのとてつもなく高い適性など

 

彼女も家族たちもどうしてなのかと疑問を持つ

やがて、それは彼女の身に起こった先祖返りという力を持ち

その影響によってこの異能を持ったのではないかと推測した

 

やがて彼女はもともと持っていた才能を使って

当時の最強格とも称される力を存分に振るって国につくし

 

やがて、五年後に即位し女王となる

 

その後もさらに頭角を現していく彼女であったが

やがてそんな彼女を見て彼女の家族は豹変していく

 

ーあの子は悪魔だ、この世に存在してはいけないのだー

 

それを見て、一人の人物は危機感を覚え

急いでその少女のもとに走り出していった

 

「アレーティア!」

 

「っ?

 

 ディン叔父様?

 

 どうかなさったのですか?」

 

あわてて中に入り、目のまえにいる少女の腕をつかむ男性

 

「‥‥‥アレーティア

 

 すまないが急いでここから出る

 そしてしばらく身を隠してほしい‥‥‥」

 

「っ!?

 

 なぜです、どうしてそのような‥‥‥」

 

少女、アレーティアは叔父である

ディン叔父様ことディンリードの様子にただ事ではないと

感じていたが、彼はそんな彼女の様子など考えていなかった

 

いいや、考えている余裕などないと言った方が正しいのかもしれない

 

「‥‥‥悪いが説明をしている余裕はない

 

 とにかく一刻も早くここから離れて身を隠そう」

 

しかし

 

「どこに行こうというのだ?

 

 ディンリード?」

 

「っ!?

 

 兄上、義姉上!?」

 

そこには親族や兵士たちを引き連れたアレーティアの両親達が現れた

 

「ディンリードよ

 

 まさか、そこにいる悪魔を

 逃がそうと考えているのではあるまいな?」

 

「え!?

 

 お父様…‥いったい何を言って‥‥‥?」

 

「黙りなさいこの化け物め!

 

 貴様の様な汚らわしい存在が口を開くことを許すと思うな!」

 

両親からの非情な言葉にアレーティアは言葉を失ってしまう

 

「兄上、義姉上!

 

 自分の娘に何というひどいことを!?」

 

「黙れ!

 

 悪魔にかけてやる情などないわ!!」

 

「お前の様な化け物が私から生まれてきたのかと考えたら

 今すぐにでも、この腹を切り開いてすべてを洗い流したいものよ

 

 ディンリード、今すぐにそこをどきなさい

 その悪魔はすぐにでもこの世から消し去らなければならないのです」

 

そう言ってアレーティアの母は義弟のディンリードに

自分の娘をこれから殺すから我々に引き渡すのだと言ってくる

 

「そんな…‥」

 

すると、そこに

 

「待って下さい、叔母様

 

 アレーティアは再生能力を持っています

 殺そうとしたところでそう簡単には行かないでしょう

 

 ですから、二度と我々の目に届かぬように封印をしてしまうのはいかがでしょう?」

 

「っ!?

 

 貴方は!?」

 

そう言って前に出てきたのは一人の青年

アレーティアよりも少し年上のように思える男性だ

 

「お前は、どうして!?」

 

「従兄様、これは一体‥‥‥!?」

 

「言葉のままだよアレーティア、君は我々のもとに

 いいや、この世界に存在してはならない存在なんだよ

 

 だからこそ、私は叔父上と伯母上

 その他の親族とともに決めたのです

 

 アレーティアを女王の席から降ろし、処刑する

 いいや、二度と誰の目にもとまらぬように封印するべきだとね」

 

そう言って青年は笑みを浮かべていた

一見すると優しそうだが、アレーティアとディンリードには歪んで見えた

 

「さあ、父上、アレーティアをこちらに引き渡してください

 

 そうすれば叔父の奇行は不問にいたしましょう、私は貴方の事は嫌いだが

 それでも私の父親には変わりません、ですから私も貴方の事は殺したくはありません

 

 さあ、アレーティアを渡しなさい」

 

「断る、何が悪魔だ、何が化け物だ!

 

 どんな力を思っていたとしても

 それでもアレーティアは私の愛する姪だ!!

 

 殺させも、封印もさせなどはさせるものか!!!」

 

「叔父様‥‥‥」

 

アレーティアを護るように後ろにやって立ちふさがるディンリード

 

「残念です父上、貴方は本当に愚かな御人ですね」

 

「衛兵、ディンリードとアレーティアを捕らえよ!」

 

「今すぐに悪魔と悪魔に魅入られた愚者を排斥なさい!」

 

アレーティアの父と母の命令で、兵士が次々と突っ込んでいく

 

「アレーティア、ここは私に任せて、早くここから逃げなさい!」

 

「そんな、おじさまも一緒に‥‥‥」

 

「ダメだ、ここでお前を失うわけにはいかん!

 

 お前だけでも無事ならば、私は‥‥‥っ!?」

 

ディンリードがそこまで言うと、彼の胸元を何かが突き出していく

 

その正体とは

 

「まったく、愚かな父親だ

 

 自分の息子よりも怪物として生まれた姪の方を選ぶとはな」

 

「叔父様‥‥‥」

 

そう言ってその場に倒れこむディンリードを

呆然と放心状態で見つめているアレーティア

 

「叔父様あああああああああー!!!!!」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「いやあああああーー!!!!!」

 

そう言ってアレーティアは目を覚ます

 

そこには、ひたすら真っ暗で何も見えない

果てしない果てしない暗闇が広がっていた

 

「はあ…‥はあ…‥はあ…‥‥‥はあ‥‥‥」

 

そう言って息を切らすアレーティア

 

彼女はあの後、両親と甥に捕らえられ

無理矢理女王の座を降ろされ、ひどい拷問の末に

この場所に封印されてしまった、その後はもう

 

どのくらいの時が絶ったのかもわからない

一秒は進んでいるのが分かる、でもそれだけだ

どのくらいたったのかはわからない、一分じゃないのはわかる

 

一時間でもないのはわかる、では一年、多分それも違う

十年、百年、もうどのくらいの時が絶ったのかもはや考えるのも放棄した

 

元々ぼろぼろだった服は長い時の流れの末に、ボロボロになり、やがてなくなった

 

でも自身の身体は朽ちていく事はない

再生の力のおかげでずっと十二歳の時のままだ

 

だが、それがさらに自身の心を荒ませていく

 

何度も何度も自問自答した、何度も己に問いた

どうして自分はこんな目に合う、どうして自分がこんなところに

延々と閉じ込められないとならない、どうして、どうしてと誰かが

答えてくれるわけでも無いとわかっていても、彼女は何度も心の中でつぶやいた

 

「(もう嫌だ…‥もうこんなところに…‥

  閉じ込められているのは…‥‥‥もう‥‥‥)」

 

何度も何度も願い続けている、だれでもいい私を

この永遠の様な闇の中から連れ出してほしい、と

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

 

異世界からこのトータスに召喚されて

およそ数日が立ったぐらいのころ、ある場所にて

 

一人の少年のもとに数人の人物が訪れていく

 

「‥体の調子は大丈夫?

 

 ハジメ君、貴方に力を与えてから

 随分と立つけれども、だいぶ慣れてきたかな?」

 

そう言うのは、ハジメに

原罪者の力を与えた王国の司書の少女

 

彼女が彼に安否のほどを訪ねていくと

 

「…うん、最初は行き成りの事で

 ちょっと戸惑っちゃったけれど…

 

 今は何とかね、それにしてもすごいね…

 

 色んなものが見えて、色んなものが聞こえて

 色んなものを感じ取れて、まるで神様になった気分だよ」

 

そう言って自身の調子を伝えていく少年

 

南雲 ハジメ

 

 

彼はハイリヒ王国に理不尽な罪を背負わされて

無実の罪で処刑されたが、彼女と契約をして原罪者としての力を与えられる

 

最初のうちこそは大きすぎる力に振り回されてしまったものの

今ではすっかり慣れたようで自分の思い通りに制御しきれていた

 

「やっぱり君はすごいね…

 

 いきなりそんな強い力を手に入れても

 普通は力にのまれて、我を失うのがオチなのに…」

 

「…そんなことないよ、ただ見っともなくても

 それでも僕は、僕のために生きることをきめたんだ…

 

 そしてそのためだったら僕はどんなことでもする…

 

 それを邪魔するなら、僕はぜったいに容赦なんてしない…」

 

そう言って、鋭い目つきで少女を見詰めるハジメ

 

「‥本当にすごいよね…原罪者の力に適応しただけでなく

 まさかあんなにも強い子達を生み出してしまうなんてね

 

 それで、これからどうするつもり?」

 

少女は少年にこれからどうするのかを訪ねていくと

 

「…そろそろ外の世界に立つ…

 

 いい加減こんなところにいても

 気がめいってしまうからね、それで…

 

 みんなはもう、集まってる?」

 

「うん…向こうでみんな待ってるよ…」

 

少女がそう言うと、そっか、と歩いていき

少女が言った彼の言うみんなが集まっている場所に向かって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

彼と少女がそこに入ると

そこには九人の人物たちが集まっていた

 

「‥‥来たわね

 

 みんなはもう集まってるわ…

 

 こうして、顔を合わせるのは

 しばらくぶりになるわね、原罪者様…」

 

そう言って話しかけてくるのは一人の少女

 

「……

 

 ごめん、普通に話してもらっていい?

 

 流石に君に畏まられると、僕もどう

 話したらいいのか、ちょっと迷っちゃうからさ…」

 

「‥‥まったく、そんな調子で

 これからさきやっていけるの?

 

 寧ろ、ここから私たちの道は

 始まっていくんだからね、まったく…」

 

そう言って呆れた様子を見せていくのは

 

東雲 渚沙

 

 

ハジメが処刑された際に、ハジメを助けようとしたせいで

ハジメとともに処刑されてしまった少女、だが今の彼女もまた

 

ハジメと同様に強い力をえているのであった

 

「わかっているよ、僕はもう決めたんだ…

 

 もう絶対に後戻りなんてしないって…」

 

そう言って、彼女の横を通っていき

彼女の他にいる八人の人物たちの方に目を向ける

 

「…みんな、良く来てくれたね…

 

 ぼくの呼びかけを聞いてくれて嬉しいよ…

 

 僕と同じ道を歩んでくれること、本当に感謝する…」

 

ハジメがそう言うと、八人のその者達は

それぞれが思い思いにハジメの方に目を向けていく

 

ハジメが原罪者として力に覚醒する際に

ハジメの中から零れ落ちた罪の力、原罪の力そのものは

ハジメの体に宿り、その際に艫に宿った九つの力は彼が殺された際に

それぞれの部分に補う様に宿っていったが、その際にあふれ出てしまった

力の一部にハジメは自身のその罪のイメージを吹き込んでいき、九人の王を誕生させた

 

なお、その際に渚沙にその内の一つの力を宿し、彼女にも強大な力を与えた

 

彼女達の二つ名と名前は以下の通り

 

色情の皇帝

 

マヌエラ

 

 

暴食の皇帝

 

マリア

 

 

強欲の皇帝

 

サディ

 

 

憂気の大王

 

ノルベルト

 

 

怠落の皇帝

 

カレン

 

 

嫉望の大王

 

チヒロ

 

 

虚栄の大王

 

リュカ

 

 

傲慢の皇帝

 

‥‥

 

 

憤情の皇帝

 

東雲 渚沙改め、ナギサ

 

 

彼女達はハジメが抱えていた九つのそれぞれの感情を

原罪者の力で具現化することで巨大な力を持った罪徒に覚醒し

 

ハジメから王として認められ、そのまま自分達の通称にした

 

九王、と

 

「…行こうか、このトータスを…あの世界を滅ぼしに……」

 

ハジメはそう言ってその場から先導する様に歩き始める

少女はもちろん、渚沙も他の八人の人物達も彼の後をついていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして、改めて外に出るハジメ

その後ろからは彼に従う者達が集っていた

 

「…まさかこうして再びここに戻って来れるとは

 本当に思ってもみなかったよ、あの時僕は死んで…

 

 気が付いたら、こうしてまたここに現れることに

 なったんだしね、せっかくこうしてここに来れることに鳴れるなんてね…」

 

「‥‥そうね…

 

 異世界召喚なんてそれこそ

 現実味のない体験をしていたとはいえ

 

 まさか死んで蘇って、こうしてここに

 もどって来ることになるなんて思わなかったわ…」

 

そう言って眼下にうつるトータスの景色を見詰めていく二人

 

「…こうしてみて見るとこの景色は本当にきれいだ…

 

 でも、この場所において人間たちの醜くおぞましい悪意が

 激しく大きく渦巻いている、そう考えると本当に見方が変わるね…」

 

「‥‥そうね…

 

 こんな見せかけの美しい世界なんて

 いっそのことぐちゃぐちゃにつぶれてしまえばいい…

 

 いいえ、私達がそうさせることになるのでしょうね…

 

 私たちの力で、この世界を、あの世界を滅ぼしてあげる…」

 

二人がそう言って物思いの干渉に浸っていると

 

「二人共、仲睦まじいのはいいことだけれど

 

 これからどうするのかもしっかり決めてるの?」

 

そう言って司書の少女が呼びかけていく

 

「…ねえ、先生…

 

 僕のこの原罪者の力って

 確か、色んな人を罪徒にすることが出来るんだよね?」

 

「うん?

 

 それは、そうだけれど…それがどうかしたの?」

 

ハジメは不敵な笑みを浮かべて少女、先生に尋ねる

 

「ねえ、せっかくのこの力だし…

 

 他にも仲間を増やしてみるのはどう?」

 

「おや?

 

 それはどうして?」

 

ハジメの提案にどうしてと質疑をする先生

 

「…僕がこの原罪者の力を得た時に僕はこのトータスの

 すべてを見て、すべてを聞いて、すべてを感じたんだ…

 

 そうしたらこの世界には、僕の様に何もしていないのに

 理不尽な理由で虐げられて苦しめられて、それこそ無残に

 その人生を狂わされている人たちが大勢いるんだ、僕はね…

 

 そんな子達を放ってなんてどうしても置けなくってね…

 

 それに、いざってときのために戦力が多いのは良いに越したことは無いしね…」

 

「‥‥まあ、そうね…まったく‥‥…

 

 そんな風になっても根っこは相変わらずね…」

 

「フフフ、まあ君がそうしたいならそれでいいよ…

 

 それに先生にしても、私たちの仲間を増やしていく事には大賛成だからね

 

 みんなもそれでいいよね?」

 

そう言って先生は後ろ、渚沙は横に並んでいる八人の者達に声をかけていく

 

「私は主様がそうしたいならそれでよいと思うー‥」

 

「私も構いませんよ…」

 

「私も主様がそう望まれるのなら…」

 

「僕もそれでいいよ、どうせ主様の決定には従うしかないだろうし‥‥」

 

「うちもそれでいいよ、めんどくさいし…」

 

「私も構いませんよ、主様」

 

「俺も構わないぜ、な、姉貴?」

 

「…」

 

八人の人物達は黙って彼の意見に従って行く

 

「それじゃあ、さっそくどこにいくー?」

 

マヌエラがハジメに最初にどこに行くのかを尋ねた

 

「…オルクス大迷宮だ…」

 

ハジメは十人の同胞に静かに答えたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

王国においてのちに大災害と呼ばれる事件が

王国の王都において引き起こされている間に一同は

 

オルクス大迷宮に入り込んでいった

 

中に入ってしばらくすると

ハジメは驚いた様子でその場に立ち止まる

 

「…どうしましたか、主様?」

 

「…さっき囮のために生み出した罪徒が倒された…」

 

「「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」」

 

ハジメの言葉を聞いて、驚いた様子を見せていく先生と九王たち

 

「‥‥そんな、いくら与えた力が弱かたとはいえ

 あの子の力は王国を滅ぼせるくらいにはおきかたのに‥‥

 

 いたい誰が、そんな奇跡のような事を起こしたのー?」

 

「…わからない…

 

 ただ一つ言えることは

 僕が一番この手で屠りたい奴によって

 

 僕の生み出した罪徒が倒されたと言う事だ…」

 

「…なるほど…

 

 それは実に興味をそそられますね…

 

 もしもこの迷宮を抜けたら

 その彼女のもとに向かいますか?」

 

マリアがそう言ってハジメに提案する

 

「…いや、確かに倒されたのには驚いたけれど

 僕たちの当初の目的は果たされているんだ、後は

 

 この迷宮の中で封印されている、お姫様に合うだけ…

 

 そのものをどうするのかはどっちにしろその後だ…」

 

「了解です」

 

そう言って当初の目的の方を

勧めていく事を決めるハジメ

 

他の面々もそれに賛同していく

 

「…さあて、この迷宮の中に封じ込められているもの

 蛇が出るか鬼が出るか、それとも僕たちにとって大きな力になるか…

 

 行こうじゃないか、運命の場所に…」

 

そう言って進んでいくハジメ、その先にあったのは巨大な扉であった

 

「…さあて、何が出るのかな」

 

そう言ってハジメは扉にそっと手を伸ばすと

そこからいきおいよく何かが振るわれて行き

 

扉を無惨にも切り刻んでいってしまうのだった

 

すると、それが引き金になったのか二体の巨大な魔物が現れるが

ハジメがその二体を人睨みすると、たったそれだけで二体の魔物は倒れてしまう

 

「…フン、迷宮の魔物も案外大したことないんだな…

 

 ここに来るまでにいろんな魔物たちと対峙していったが

 どれもこれもたったの一睨みで撃沈、想像以上に拍子抜けだね…」

 

「…そりゃ、今のハジメ君は神にも等しい存在だしね…

 

 ぎゃくに今の君と戦える人なんてこのトータスにはいないと思うけれどね」

 

先生がそう言って話しをしていく

 

「…神に等しいねえ…

 

 悪くはないけれど、嬉しいものでもないね」

 

そう言って開かれた奥の方にへと進んでいく十一の影

やがてその奥にある一つの出会いが彼の復讐劇の開幕に近づいていく

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

迷宮に封じられたアレーティアは何やら向こうで

何かが音を立てて崩れ落ちていく音が聞こえると同時に顔をあげる

 

辺りは暗く、何が起こっているのかが分からない

暫く静かになっていたが、奥の方からゆっくりと音を立てて

なにやら静かな足音が響いてくる、すると奥の方からポッポっっと

光が灯っていき、そこから数人の人影が自分のもとに歩いてきた

 

「…見つけたよ、君が囚われの御姫様だね…」

 

「‥‥‥誰‥‥‥?」

 

そう言って少年がアレーティアの前に立っていく

 

「…さあ、僕は何者なのか…

 

 少なくとももう僕は君達とは

 別の次元の存在になった事には

 変わらないけれどね、まあそれはいい…

 

 それで、君は何者だい?

 

 どうしてこんなところに

 閉じ込められているのかな?」

 

そう言って訪ねていくハジメ

 

「…‥わたしは、先祖返りの吸血鬼で‥‥‥

 

 生まれながらに強い力を持ってる

 だから国のために頑張ったの、でもある日

 

 私の力に脅威を感じた

 両親と甥が私を王座から引きずり下ろすって‥‥‥

 

 叔父様は私を助けようとしたけれど

 でも、そのせいで甥に殺されて、それで‥‥‥」

 

ややしわがれた声で精一杯に説明をしていくアレーティア

 

ハジメはそれを黙って聞いていた

 

「そうか、肉親に裏切られて

 自分の大切な人も殺されたのか…

 

 そいつはつらかったろうな…

 

 しかし、それでどうして

 君の両親と甥は此処に君を封印したんだ?

 

 それだったら単純に君のことを殺せばいいだろうに…」

 

「私は…‥しねないの…‥心臓を貫かれても…‥‥‥首を斬り落とされても‥‥‥

 

 それから…‥わたしは魔力を直接操れる…‥‥‥陣もいらない‥‥‥

 

 だから私は封印された…‥‥‥この迷宮に封じられた‥‥‥

 

 お願い、私をここから出して‥‥‥」

 

アレーティアは頼み込むようにハジメに言う、だがハジメは冷たく言う

 

「…断る」

 

「え‥‥‥!?」

 

ハジメはアレーティアに冷たい目を向けて言い放つ

 

「…どうして僕が君ごときのためにそこまでしないといけない?

 

 そもそも、誰かに助けを求めるだけの惨めな弱者何て助けだしたところで

 何の役にも立たない、僕がここに来たのはそんな役立たずを拾うためじゃない

 

 絶対に死なない?

 

 魔力を直接操れる?

 

 それがどうした!?

 

 本当に自由になりたいなら誰かに頼らずにお前自身の力でつかみ取れ!

 

 それすらもできないからこそ、こんな何もないところに

 閉じ込められている、自分の運命すらも、ものに出来ない奴が

 

 自分の望む未来を手に入れることなどできるはずもない、本当に自由になりたいなら

 今の自分の運命を変えたいと本気で願うなら、お前自身の力で手にして見せるがいい!!

 

 それができないなら一生此処で苦しんでいろ、ありもしない希望を抱き続けていろ!!!

 

 そうやって誰かに縋る事しかできないがゆえに両親からも甥からも裏切られている…

 

 そんな自分を恥じるなら、本気で抗いたいなら

 その決意が偽物でないことをお前自身の力で証明して見せろ!」

 

ハジメにそう言われてハッとするアレーティア

 

そうだった、自分は大切にされるだけで

自分で何かをしようという事をしなかった

 

自分の強すぎる力故に自分は必死に抗う事を知らなかった

 

そのせいで自分は、両親に裏切られ、甥に大切な人を殺され

 

揚句には、このようにこの場所に封印されている

 

その際に思い浮かんだのは

自分が封印されていく際に、下卑た笑みを浮かべる両親と甥

 

自分がここにずっと封印されて、あいつらはどう思ったのだろうか

あいつらはどれだけ私のことを嘲笑っていただろうか、私を守るために

命をかけた叔父のことをどんな風に思っていたのか、そんなことを考えていると

 

自分の中から怒りと憎しみがこみあげていく

 

「うううううーおおおおおあああああああああー!!!!!」

 

アレーティアの体から、とてつもないほどの力があふれ出ていき

それによって彼女を封じていた封印が段々と崩れていき

 

やがてその中から、金髪で赤目の美少女が立っていた

体自体はきれいなのは彼女の言っていた再生能力のおかげだろう

 

ただ、流石に服自体はボロボロだったようで

今の彼女はなにも身に着けていない状態になっていた

 

「…そうだ、それでいい…

 

 最後まで抗うのをやめなければ

 おのずと自分の手で運命は掴めるものさ…」

 

すると、アレーティアはひたひたと彼の前に立つ

 

「ありがとう、私貴方の言葉のおかげで気づけた‥‥‥

 

 私の運命は私自身で掴まないといけないんだって‥‥‥

 

 わたし、両親や甥に裏切られたショックでどこか諦めてた‥‥‥

 

 でも、諦めずに手を伸ばせば運命はつかみ取れるんだって‥‥‥

 

 貴方がそれを気付かせてくれた‥‥‥本当に…‥本当にありがとう」

 

「僕は何もしていないし、礼なんて言われる筋合いもないよ

 

 それは君の力によって成し遂げられたものなんだから、君の強さを誇るといい」

 

ハジメはそう言って先ほどの冷たい表情とは全く違う優し気な笑顔を浮かべていく

 

「あ、あの‥‥‥貴方の名前は‥‥‥?」

 

「はあ…さっきも言っただろ…

 

 僕は何者でもない存在だって

 僕には名乗る名前何てものはないよ

 

 ううん、正確にはあったというべきかな?」

 

ハジメはそう言ってややそっけない様子で返していく

 

「私は、アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール‥‥‥

 

 アレーティアでいい、私もあの両親につけたこの名前は

 嫌だけれど、それでも私はしっかり名乗った、だから名前を教えて」

 

「…君って意外に図々しいね…

 

 本当にいい性格してるよ」

 

なおも名前を聞いていくアレーティアに呆れた様子を見せていくハジメ

 

「…南雲 ハジメだ…

 

 南雲が苗字でハジメが名前…

 

 でも、本当にこの名前には意味がない…

 

 もうすでに、死んだ名前だからね…」

 

「‥‥‥どういう事?」

 

アレーティアは不意に訪ねると、ハジメは自分の事を話していく

 

異世界から急に人類側の助っ人として呼び出されたこと

ステータスが表示されなかったせいで、無能呼ばわりされたこと

 

迷宮においてクラスメートの軽率な行動が自分達をピンチに追いやった事

 

でも、それもどうにか乗り越えられたこと

 

だが、その際に教会によって裏切り者扱いされ処刑されたこと

 

ある人物に出会って自分の持っていた力を覚醒させて蘇った事

 

そこから今に当たること、その全てを話していった

 

「…まあこれがここまでの敬意って訳なんだけれど…

 

 どうかしたの?」

 

すると、アレーティアは怒りの表情を浮べていた

 

「‥‥‥ひどい、ハジメに助けられたにも関わらず

 その恩をあだで返したどころか、未知の力をもっているって

 それだけの理由で処刑にするなんて、そんなの絶対に許せない!」

 

そう言ってハジメをうらぎった教会や王国

彼とともに召喚されたクラスメートたちに対して怒りの表情を向けて行く

 

「…ねえ、ハジメ…

 

 私をハジメと一緒に連れて行って!

 

 ハジメは私を救ってくれた私だけの愛しいしと

 私にとっては太陽のような人、私を救ってくれた貴方に

 恩返しをしたい‥‥‥私はどんなことがあってもハジメを裏切らない‥‥‥

 

 だから、私にハジメのことを手伝わせてほしい…‥なんでもするから」

 

そう言って必至に協力を申し出ていくアレーティア

 

「…どんなことがあっても僕を裏切らない…?

 

 もしもその言葉が本当だというのならば、僕がこれから

 君のことをこれから、別の存在に生まれ変わらせるといっても…

 

 それでも君は僕のことを裏切らず、僕に変わらずについていくといえるかい?」

 

ハジメは意味深に聞いていく

 

すると、アレーティアはどこか艶めかしい表情を浮かべて言う

 

「‥‥‥私は私自身が、あいつらの血肉から生まれたっていう事実が耐えられない‥‥‥

 

 だからそれで私の子の体を脱ぎしてることができるのなら、むしろそれでハジメが

 私のことを受け入れてくれるというのなら、私はハジメに何をされてもかまわない‥‥‥

 

 だからお願いハジメ…‥私のことを精一杯愛して…‥‥‥そうしたら私も

 ハジメのことをいっぱい愛してあげる…‥どんなことだってしてあげるしさせてあげる‥‥‥

 

 だから…‥私をハジメのものにして‥‥‥」

 

アレーティアはそう言ってハジメを受け入れる態勢に入っていく

 

すると

 

「があ!?」

 

アレーティアの首元を何やかが勢いよく掴みがかっていった

するとそれは、彼女をゆっくりとハジメの方に引き寄せられていく

 

「…自分を受け入れろ?

 

 そうすれば自分は言う事を聞いてやる?

 

 君は本当に傲慢だね…

 

 でも気に入ったよ、君に僕の力を分けてあげるよ」

 

「ん‥‥‥!」

 

すると、アレーティアの首元を掴みかかっている巨大な何かの

首元にくいこんでいる部分から何かが彼女の中に流れ込んでいる感覚をアレーティアは感じていた

 

「ああ、感じる‥‥‥

 

 ハジメの力が私の中に溶け込んで

 一つになっていく感覚が、私の全てがハジメに支配されて行く‥‥‥

 

 これが私の運命‥‥‥私の望み…‥もう私には

 何もいらない…‥‥‥私の全てはハジメのために‥‥‥」

 

「…運命とまで言いきるか、本当に面白いね君は…

 

 僕にすべてを預け、自分自身すら失った君は…いったい何を望むのかな?」

 

ハジメはもう一度、アレーティアに尋ねていく

 

「‥‥‥私とハジメの前に立ちふさがるもの…‥私に破滅の運命に陥れた

 この世界に破滅の運命を与える…‥‥‥それが私の何よりの望みだよハジメ‥‥‥」

 

アレーティアの言葉を聞いたハジメの表情は実に満足気であった

 

こうして、この世界にまた一人、新たなる罪科が生み出されたのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメはアレーティアを連れて、他の面々のもとに戻って来る

 

「‥‥随分と遅かったわね…

 

 それで、貴方が欲しかったものは手に入れられたの?」

 

ナギサが訪ねていくと、ハジメは笑みを浮かべて一同のもとにやってきた

 

「…うん、僕にとっては大満足だよ

 

 折角だし、みんなにも紹介しておくよ

 運命と破壊の罪徒、アレーティア・ガルd…」

 

「‥‥‥まって、ハジメ‥‥‥

 

 どうせだったら新しい名前を付けて‥‥‥

 

 あの時にも言ったけれど、私はあいつらが付けた

 その名前何てもう名乗りたくない、それだったら‥‥‥

 

 私の名前は、ハジメにつけて貰ったものがいい‥‥‥

 

 私の全てはハジメの物、だったら名前もハジメに決めてもらいたい‥‥‥」

 

「…僕に名付け親になってほしいという訳か‥‥‥

 

 本当に君は図々しいというか、ちゃっかりしているというか‥‥‥」

 

ハジメはそう言うが、表情は何処か満足気である

 

「…決めた、君の新しい名前…

 

 運命と天命、破滅と崩壊の罪徒

 

 リュナ・プレーヌ…

 

 

 今日から、そう名乗るといい…」

 

「‥‥リュナ・プレーヌ…

 

 満月を意味するフランス語からとったのね…

 

 月というのは確かに、彼女にあっているかもね」

 

ナギサはアレーティア改めてリュナの名前の由来に感心する

 

「それでは改めて歓迎しよう、リュナ…

 

 この世界にさらに新たな罪徒がここに誕生した…

 

 君がこうして僕とともに来てくれること、本当に感謝するよ…」

 

「感謝の言葉なんていらない、私はハジメにすべてを捧げると決めた‥‥

 

 寧ろ感謝をするのは私の方、私を受け入れてくれて本当にありがとう‥‥」

 

そう言って丁寧にお辞儀をしていくリュナ

 

「…それじゃあ…みんなのことを紹介していこう……」

 

そう言って彼とともにあるナギサ達九人の王たちを紹介していく

 

「それじゃあ、最後は貴方ですよ先生…」

 

「え~…

 

 ちょっと恥ずかしいけれど

 でもまあいいや、まあ別に問題ないだろうし…

 

 私の名前は…」

 

先生は自分の名前をリュナに紹介していくと

リュナは不思議とその名前に驚いた様子を見せる

 

「…まあ、あんまり気にしないでね…

 

 それに、私のことは気軽に先生って

 よんでくれればいいから、それじゃあ…

 

 これからよろしくね、リュナちゃん…」

 

「ん…これからよろしく…‥‥」

 

リュナはそう言ってスカートの裾をたくし上げ

頭を下げて上品に挨拶をする、育ちがいいのが見て取れる

 

「運命と天命、破滅と崩壊か‥

 

 よほどマスターはリュナに思い入れがあると見える‥」

 

そう言って前に出てきたのは、装束に身を包んだ

仮面をかぶって素顔を隠している、一人の人物であった

 

「‥‥リュカ…

 

 今回はその姿なのね…

 

 ひょっとしてこの子のことは

 貴方が引き受けてくれるのかしら?」

 

「儂でよろしいというのならもちろん引き受けましょう‥

 

 それではリュナ殿にはさっそく、貴方の持つ力がどのようなものかを

 知ったうえで、儂らの戦力に数えられるようにしなくてはなりません‥

 

 そうでなければ、前に生み出した

 あの少女のような悲しい者が生まれてしまいますからね‥」

 

リュカはそう言って、ハジメの方に提案をしていく

 

「…確かにね、真麻アイツはそもそも

 倒されるのを前提に生み出したからね…

 

 別にあのまま倒されたところでどうと言うことは無い…

 

 でも、リュナは違うさ、彼女はきっと僕やみんなの片腕になれる…

 

 彼女にはその素質がある、僕はそう信じているとも…」

 

「ん、ここにいる人たちにも負けるつもりはない!」

 

リュナはそう言って自信満々に言っていく

 

「へえ、随分と生意気な口を利くじゃないか…

 

 餓鬼のくせに随分と調子に乗っているね…」

 

「っ!?」

 

リュナは突然、リュカのいる方に突然

別の人物が現れたことに驚いた様子を見せる

 

リュナは普段の態度も忘れて、驚いた様子を見せていく

 

「‥‥だ、誰‥?」

 

「フン、お前さんはさっきまで目の前にいた奴の顔も覚えてられないのかい

 

 そんな程度の認識で、其れこそマスターや私達の役になんて立つのかい?」

 

無気味な雰囲気を漂わせつつリュナに顔を寄せていくその人物

 

「…ああ、そう言えばリュナは初めて経験するんだったね…

 

 虚飾と虚栄の大王

 

 リュナ…

 

 

 彼は複数で一つの存在

 たとえるならば一本の幹から

 伸びていく数本の枝のようなものだ…

 

 お前がさっきまで話していた仮面の男も

 今目の前にいる不気味な雰囲気の男も同じリュナだ…」

 

「え、えーっと‥‥それって、つまり‥?」

 

いまだに混乱の抜けないリュナ

 

すると

 

「…っ!

 

 皆さん、気を付けてください!!

 

 何かがこちらに来ます

 とっても活きが良い感じがしますよ?」

 

マリアが鼻をぴくぴくと動かしつつ

一同にそう呼びかけていく、すると突然

 

上の方から何やら巨大な魔物が現れる

巨大な鋏を携えた四本の腕に二本の鋭く

巨大な針を持ち合わせた蠍のような魔物である

 

「あれ?

 

 こんなやつ、今までここに居たっけ?

 

 ひょっとして、リュナちゃんを助け出されるくらいなら

 いっそのこととこいつで一気に、的な感じなのかな?」

 

先生がそんな分析をしていくと

 

「‥どうやらよっぽど‥‥

 

 私にいなくなってほしいってことだね

 あいつらめ、そこまでして私のことを!

 

 舐めるなああー!!!」

 

そう言ってリュナは右手を突き出して、何かをつかむような仕草をすると

 

「グリップ‥アンド‥‥

 

 ブレイクダウン!

 

リュナがそう言い放つと、自分達に襲いかからんとした巨大な蠍の魔物は

それこそ元の形が分からなくなってしまうほどに粉々に砕け散っていった

 

「おお…なかなかやりますね…

 

 さっきのがあの子の能力ですか…」

 

「‥‥ありとあらゆる者を破壊する力…

 

 確かにこれは‥‥恐ろしくも頼もしい力ね…」

 

サディとナギサが先程のリュナの能力を見て率直な感想を述べていく

 

「‥どんなもの」

 

キランとドヤ顔をきめていくリュナだが

そこにすかさず誰かから強力な一撃を額にもらう

 

それは

 

「‥まったく、一度能力を使えた程度で調子に乗るなんてね‥

 

 そんな風だから中途半端な結果を残してしまうんだよ‥」

 

「うう‥‥」

 

因みに犯人はリュカ、何をやったのかというとデコピンである

ただ相当強力だったようで、リュナの額と彼の指からは煙が上がっている

 

リュカが言う通り、蠍の魔物はリュナの能力でバラバラになったものの

息はまだ残っている、やるなら一撃で殺して見せろという意味を込めているのだろう

 

だが、体はボロボロなので最早虫の息と言ったところであろう

 

「それで、この蠍さんはどうしますか?

 

 もういっそここでとどめでも刺しておきましょうか?」

 

マリアはそう言って自分の武器を持っている手とは

反対の右手を掲げて、ハジメに許可を求めていった

 

「…はあ…好きにするといいよ……

 

 っていうか、どうせダメって言っても

 食べるんだから、そんないちいち僕に確認を

 とらないでもらえないかな、絶対にそれって無駄でしょ?」

 

「えへへへ…

 

 それでは遠慮なく…」

 

そう言ってマリアが右手を掲げると

その右手の親指の部分とほかの四つの指の部分が

バックリと別れて、さながら巨大な口の様に分かれていく

 

すると

 

「まて、マリアさん‥‥」

 

マヌエラがそう言ってマリアを止める

 

「どうしたんですか、マヌエラさん?」

 

「‥‥だて、せかくこして生きて居るんだもん

 このまま殺しちゃうのなんて、何だか可哀そだよ‥‥

 

 この蠍さんの事は、私に任せて貰ってもよいー?」

 

そう言ってマリアに頼み込む、マヌエラ

 

「…そこまで言うのならわかりましたよ…

 

 うう、ここに来るまでお腹が空かせてきたのに…」

 

「いや、ここに来るまでさんざん兎だの熊だの食べてきましたよね!?」

 

マヌエラに止められて、しょんぼりとした様子と

腹を鳴らして、シュンと落ち込んだ様子を見せていく

 

それに対してサディは苦笑いを浮かべてそうつぶやいたのであった

 

一方、マヌエラの方は損な様子を気にすることなく

虫の息となっている蠍の魔物の頭部の方に歩みよっていく

 

「‥‥蠍さん、痛いよね‥‥苦しよね‥‥

 

 ほんとに可哀そだね、私が貴方を救ってあげるー」

 

そう言って蠍の魔物の頭部をそっと両手で

優しく包み込むようにして掲げあげていく、すると

 

彼女の手袋に包み込まれた左手から何やら黒い

何かがその触れている左腕を中心に広がっていき

 

それが段々と蠍の体を包み込んでいき、やがて

頭部もほかのバラバラになった体のパーツもだんだんと包み込まれて行き

 

「これでずっといっしょだねー‥‥」

 

マヌエラのそんな無邪気な笑顔とともに蠍の魔物の肉体は

ひとかけらも残すところなく、マヌエラの広げた黒い何かに飲み込まれた

 

やがてその黒い何かはマヌエラの左手の形に戻って、収まるのだった

 

「い、今のって一体‥」

 

リュナはそれを見て、何やら身震いのようなものを覚え、訪ねる

 

「ああ、アレがマヌエラの能力や‥

 

 マヌエラは自分が愛したいって思った奴を

 ああして、自分の肉体として取り込むことが出来んねん‥

 

 そんで取り込まれた奴はマヌエラが死ぬまで

 あの子ん中で、永劫ともいえる時をあの子んなかで過ごす‥

 

 ホンマ、ひどく残酷なもんやで、永遠にあの子と一つなって生きて居くんは‥」

 

すると、またも姿と口調が変わって、今度は

何処か子供のような印象を抱かせる明るい雰囲気の人物になっているリュカ

 

すると

 

「ひどくなんてないよー

 

 これはむしろ愛だよ

 だて私が私の中でずとずと

 愛し続けてあげるんだからー」

 

マヌエラがプンプンと頬を膨らませ、リュカに抗議をしてくる

 

「愛ねえ‥

 

 とてもじゃないけれども

 僕にはそれが愛とは思えへんな

 

 そもそも僕らは別に誰かを愛すんのも

 愛されたいって思たこともないからの‥」

 

「むう‥‥

 

 それだったら、私が愛を知らない

 悲しいリュカさんに、愛を教えてあげるよ‥‥」

 

そう言って手袋に包まれた左手を向けていくマヌエラ

 

「やるっちゅうんやったら‥

 

 手加減はせえへんぞ‥」

 

そう言って身構えていくリュカ

 

色欲と肉欲の皇帝と虚飾と見栄の大王の一触即発が起こらんと

その辺りに周りが思わず逃げ出してしまいそうな威圧感がひしめき合って行く

 

「‥な、なにこれ‥‥

 

 ただにらみ合っているだけなのに

 こんなにも近づくのをためらうなんて‥‥

 

 これが‥王と呼ばれる者たちの力‥‥」

 

リュナは思わず、近づくのをためらってしまうが

このままではこの辺りが大いに崩壊をひきおこしてしまう

 

そんなひきおこされんと互いの武器を抜かんと構えた底に

 

いい加減にしろ!

 

『「っ!?」』

 

ハジメのその一喝によって

その一触即発の事態は防がれた

 

「…せっかく僕たちのもとに新たな同士が加わっためでたいこの時に

 なにをもめているんだよ、特にリュカ、これから君と彼女にリュナを

 任せることになるのに、みっともないことをするんじゃないよ…」

 

「‥ふえ?

 

 リュナを任せるってそれってつまり、僕が

 この御嬢ちゃんのお目付け役をやるってことかいな?」

 

リュカは不満な様子を隠すつもりは無いようであり

ハジメに恐る恐る聞いていくと、ハジメは答えていく

 

「そうだ、彼女の力は強力ではあるがさっき君が言ったように

 その力を完全に扱いきれているわけじゃない、その力の使い方を

 しっかり学んでおくべきだ、だからリュカ、リュナの教育はよろしく頼むよ」

 

「はあ!?

 

 そりゃねえだろマスター!

 

 何で俺が、こんな餓鬼に指導なんて!!」

 

すると、またも姿が変わり今度は

何処か動物的というか本能的な印象の男性に変わる

 

「あの子の力は君達姉弟のそれと同じものだ…

 

 だったら君ほど彼女の力に合う者はいないだろう」

 

「そ、それだったら姉貴にやらせれば‥」

 

リュナがそこまで言うと、彼の体をなにやら真っ黒い

何かが張っていき、彼の頬にその先だ勢いよく届いていく

 

リュナは其れを見て、恐る恐る振り向くと

 

‥‥

 

そこには彼の事を虫けらを見詰める様な目で睨みつける

傲慢と高慢の皇帝がぎろりと睨みつけ、有無を言わさぬ雰囲気を漂わせていた

 

「‥わ、分かった‥やる、やるから

 早くこれをほどいてくれよ、姉貴‥

 

 もう文句も不満も言わねえから、さ‥」

 

「‥‥」

 

それを聞いて、リュカをゆっくりと解放していく傲慢と高慢の皇帝

 

「…どっちにしろその力を使いこなすには

 その力の大元を知っている人から直接学んだほうがいい…

 

 ちょっとした運試しだと思ってうけてみるといいさ…

 

 その方がむしろ、リュナにとってもいい刺激になるだろうしね」

 

「ん‥わかった‥‥」

 

ハジメに進められて、リュナは特に不満を口にすることなく了承する

 

「フフフ、リュナさんの方が大人ですね」

 

「やかましい」

 

サディにそう言われて、すっかり罰を悪くしたリュカであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

オルクス大迷宮においてハジメたちは

アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール

 

改め

 

運命と天命、破滅と崩壊の罪徒

 

リュナ・プレーヌ

 

 

彼女を新たに率いれ、新たな体制で望むことになる

 

「はああー!!!」

 

リュナが武器である槍を手にもって

本能的な雰囲気で動物のようにもおもえるリュカに挑む

 

「フン!」

 

すると、リュカは武器である大鎌を振るい

それで、リュナの一撃を止めて見せていく

 

「今度こそ‥勝つ!」

 

「‥フン、粋がっているところ悪いが今回も俺の勝ちだな!」

 

そう言って鎌から伸びている紐状の鎖が

リュナの横を通り過ぎる様に伸びていることに気が付く

 

だが、リュナはそれに素早く気が付いていたので

自分の方に向かって振るわれて行く鎖の先の刃をどうにか交わす

 

「‥フン、流石にそう何度もやられてはくれねえか‥」

 

「‥もちろん、私だってハジメに選ばれてこの力をもらったんだもの

 

 いつまでも貴方にやられっぱなしだと、ハジメに顔向けができない‥‥

 

 私は運命と天命を司る罪徒、故に運命は私の力でつかみ取って見せる!」

 

そう言って一撃を与えんと武器である槍をリュカに向けて振るって行き

彼に今度こそ一撃を加えんとして、とびかかっていったのであった、のだが

 

「っ!?]

 

リュナの体を突然、何やら長いものが巻き付けていき

それによって身動きが取れない状態に陥ってしまった

 

「‥まあ、詰めが甘いのは相変わらずだな‥

 

 これで十勝十敗か?」

 

「‥うぬぬ‥‥

 

 リュカはずるい、私にはリュカのような

 盾にもなる翼も武器のようにしなる尾も持っていない‥‥

 

 フェアにその二つを使わなければ私は絶対に勝てる‥‥!」

 

そう言って不満を口にするリュナだが、そのさい不意に横の方から声が上がる

 

「え?

 

 リュナちゃん、知らない~?

 

 リュナちゃんも罪徒にかくせした時に

 翼と尾をもってるはずだよ、ひょとしてリュカさん‥‥

 

 教えてないー?」

 

マヌエラにそう言われると

リュカは何やらごまかす様に眼をそらしていく

 

リュナは其れを見て、ジト目で彼を睨む

 

「‥マヌエラ、翼と尾の事教えてほしい‥‥

 

 それで、あいつの寝首を掻っ切ってやる‥‥」

 

「いよー!

 

 リュナちゃんが強くなてくれるのは

 私にとても、マスタにとっても嬉しいからねー」

 

そう言ってリュナはマヌエラに翼と尾の出し方の

練習の方に付き合ってもらう様にお願いし了承された

 

ついでに、覚悟する様にとリュカを睨みつけてもいた

 

そんな様子をある建物の中から見ているハジメ

そのハジメのもとに一人の人物が歩み寄ってきた

 

「‥‥ハジメ君、リュナの調子はどう?」

 

そう言って訪ねてきたのは

 

憤怒と激情の皇帝

 

ナギサ

 

 

旧名、東雲 渚沙

 

 

彼女であった

 

「…いい感じだよ、属性に関しては

 元々の適正がいいものだからね、後は…

 

 罪徒の力をある程度扱うことが出来る様になれば

 戦力としては申し分ないくらいにはなるだろうさ…」

 

「‥‥それで、出発はいつにするの?」

 

ナギサは不意にハジメに聞いていく

 

「…リュナの修行が終わり次第

 すぐにでも出発する、他の奴にも

 そう伝えておけ、ところで先生はどうした?」

 

「‥‥なんでも調べ物がしたいからって

 この屋敷の中を調べて回っているわ…

 

 リュナの修行が終わるまでには終わらせるとも

 言っていたけれども、あの調子だとまだまだ終わらなそうよ…

 

 本当に大丈夫かしら…」

 

ナギサはややあきれた様子でため息を付いていくが

 

「…いいじゃないかそれでも

 その分、リュナの修行に割く時間を

 確保できると考えれば、むしろちょうどいいだろう…

 

 僕の方も、あれから地上の様子を見ていたけれど

 クズ共がまたしてもこの迷宮に入り込んできたことを除いて

 

 とくに変わった変化はないよ、あいつらの方も分裂したみたいだしな…」

 

そう言って怒りをにじませるように目を細めて上の方を見上げていくハジメ

 

「…それにしても、この迷宮の最深部には

 こんなにも大層な屋敷があるとはね、リュナから

 このオルクス大迷宮を生み出したのは嘗てこの世界を

 破滅に導こうとしたもの達、反逆者の手によって生み出されたと聞いてたけど…」

 

「‥‥それに、この屋敷にあったその反逆者の一人…

 

 オスカー・オルクスの言っていたことも驚きね…

 

 何でもこの世界は、この世界の人類が侵攻している

 エヒトが自分の京楽のために戦争をひきおこしたという話…

 

 もしそうだとしたら、私達がここに召喚されてきた理由って…」

 

ナギサがそこまで言うとハジメは

ゆっくりと座っていた椅子から起き上がっていく

 

「…もし事実であろうとも関係はない…

 

 僕たちはこのトータスを叩き潰し

 それと同時にあの世界もまた叩き潰す…

 

 僕達には、それを成し遂げられる力があるのだから!」

 

そう言って部屋を出ていハジメはそこからある場所に向かって行く

 

「‥‥しかし、気掛かりなのは

 罪徒を倒したっていう南野さんのあの力ね…

 

 どうしてあのラルヴァ空間の中で力を

 発揮することが出来たのかしら、もしかしたら…

 

 私たちにとってもこれは、脅威になり得るんじゃないかしら…」

 

ナギサがそう言って自分達がおとりとして

生み出した罪徒を倒した姫奈の力をどうするのかを聞いていくが

 

「…小石が転がっていたところで

 皮をせき止めることなんて無理だよ…

 

 確かに目を見張るものではあるが、現状でその力を

 持っているのは南野 姫奈ただ一人なんだし、それとも?

 

 君は僕があいつらに負けるとでも思っているの?

 

ハジメが最後の言葉をつぶやいたときに、空気が揺れたのを感じ

ナギサは慌ててそ、そんなことは無いわよと慌てて返していった

 

「…まあ、こっちもこっちで

 仕込みの方はしっかりとしておくさ…

 

 僕は必ず、この力ですべてをつかみ取ってやるさ…

 

 すべてを手に入れるために…すべてを滅ぼす…そのために…」

 

「‥‥すべてを手に入れるために…すべてを滅ぼす‥‥…

 

 どんなことがあろうとも、私たちの進む道は一緒…

 

 私達はもう、後戻りという選択肢はないのだから…」

 

そう言ってある部屋の扉を開いていくとその奥の方に目をやっていく

 

「…ホント…

 

 この力を手にしてから笑う事ばっかりだよ…

 

 ねえ、みんな…」

 

ハジメはほくそ笑みながらそうつぶやくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷

 

そこでは、何やら一隻の馬車が走っていた

 

その馬車にはある国の兵士ともいえる

数人の男性が乗っており、何やら機嫌がよさそうにしていた

 

「しっかし、今回は運が良かったな!

 

 大量の兎人族を捕まえることが出来るなんてなあ

 

 まあ、随分と抵抗されて残ったのはほんの数体になっちまったが…」

 

「それにしても、まさか兎人族がこんなにも大量に

 見つけられるなんて、ひょっとしてあんまりにも弱くて

 

 他の亜人たちから、見捨てられたってわけじゃねえよな?」

 

「まあ、ありうるかもな

 

 兎人族は魔力の使えない亜人族の中でも

 同じ亜人族たちからも蔑まされる脆弱なやつらだからな

 

 まあ、その分慰み者としては十分すぎるくらいにはいいけどな

 

 それにしても…」

 

帝国の兵士は大量にとらえている、兎人族の中でも

一人だけ髪色の違う、兎人族の少女の方に目を向けていく

 

「白銀の兎人族族なんてのは本当に珍しい…

 

 本国に持ち帰ればきっとこれはいい手見上げになるだろうよ」

 

「ねえ、隊長!

 

 本国に戻る前に何人かで楽しんでもいいですかね」

 

兵士の一人が、下衆な笑みを浮かべて聞いてくる

 

「ダメだ、さっきも言ったがあれは国への献上品だ

 傷一つでもつけちまったらそれこそ俺もお前等も殺されちまう…

 

 まあ、どうせ本国までには時間はかかるし少しぐらいだったら構わねえぞ」

 

隊長のその言葉に帝国兵たちは喜びの声をあげていく

 

それを力のない表情を浮べた少女はそっと瞳を閉じていく

思い浮かぶのは人にはない自分のことを優しく背中を押してくれた母

 

母が亡くなった後に自分のことを懸命に育ててくれた父や

自分のことを温かく受け入れてくれた一族のみんなと過ごした日々

 

彼女の回りには常に幸せに包まれていた

 

あの時が来るまでは

 

その時に思い浮かんだのは、自分達を追い出した奴らの事

 

自分を陥れた者たちの事であった

 

「‥許せない‥‥あいつらも‥‥‥

 

 此処にいる奴らも‥絶対に‥‥

 

 許さない‥‥」

 

白銀の髪の兎人族の少女は

内に秘める憎悪を滾らせていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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felix lepus Wach auf zu den Wellen des Wahnsinns

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

私はなぜか力があった

 

でもその力は本来ならば目覚めることのない力

 

私は力を持たずに生まれてくる亜人族の中で例を見ない

 

力をもって生まれた存在

 

更には本来ならば魔物にしか目覚めない固有魔法矢

魔力操作をもって生まれた私、本来だったらその場で

殺されるはずだった、でも母様はそんな私のことを励ましてくれた

 

ー人にない力を持って生まれた貴方には必ず

 何か成し遂げなければならない役目がある

 

 だから、自分に力があることを誇りなさい

 

 その力を自分が正しいと思ったことに使いなさい

 そうすればいつかあなたのことを認めてくれる人に出会えるわー

 

私は幼いながらもその言葉を私はしっかりと受け止めました

 

やがて私が十歳になり、母様がなくなったものの

父様や一族の皆さんが私のことを真剣に愛してくれ

 

私は母様を失った悲しみから逃れることもでき

同時に、私はお母様の力は自分が正しいと思った事のために

使うという、母様のその言葉をしっかり心に刻み、私はしっかりと

これからを生きていくようにと決意しました、それから今より少し前に至る

 

私はある日、樹海の魔物に襲われている他の亜人族の女の子を見つけました

 

その女の子を助けるために私は私の持っている能力を使いました

 

さすがに魔物から逃げるのが精一杯でしたが

それでもその女の子を援けることが出来ました

 

私は母様の言いつけ通り、私はこの力を自分が正しいと

思ったことに使った、祖の力を誰かのために使えばいつかは

私のこの力も受け入れられるのだと、私は信じていました

 

でも‥私はそのすぐ後に‥‥自分の行ったことに対して‥‥‥

 

後悔することになるなんて‥思ってもみませんでした‥‥

 

‥‥‥‥‥

 

「ふんふふーん‥‥」

 

鼻歌交じりで何かの準備をしている男性は

 

カム・ハウリア

 

 

兎人族の部族の一つであるハウリア族

その族長にして、シアの父親でもある

 

「族長、嬉しそうですね」

 

「フフ、分かるか?

 

 何といってももうすぐシアの生まれた日だ

 

 妻を亡くしてしまった私にとって

 たった一人の大切な娘だからな、お祝いをしてやりたいんだ‥‥」

 

「そっか、良かったら私たちにもお手伝いをさせてもらえませんか?

 

 あの子には前に助けてもらったからね

 恩返しって言うほどでもないかもだけど

 私もシアちゃんのことをお祝いしてあげたいし」

 

「あ、よろしかったら僕たちも一緒に‥‥

 

 シアちゃんにはうちの子達にいっつも遊んでいって貰ってますから‥‥」

 

「「「「僕達もシアお姉ちゃん、お祝いする!」」」」

 

そう言ってハウリア族の者達全員が

シアの生まれた日をお祝いしようと挙手する

 

「‥みんな、ありがとうな

 

 ようし、そろそろシアが戻って来るはずだ

 それまでにみんなで祝いの準備を終わらせよう」

 

『『『『『はい!』』』』』

 

ハウリア族の温かさを見て改めてカムは

本当にうちの娘は幸せ者だなと感慨深く感じていた

 

そんな幸せ者の娘である、カムの娘

 

シア・ハウリア

 

 

彼女は父親に頼まれて薬草や山菜取りに出かけている

まあそれは口実で、父親から娘へのサプライズのための準備のためであるが

 

シアはそんな事とはつゆ知らずにしっかりと父親からの頼まれごとをこなしていた

 

「‥ようし‥‥

 

 これだけ集まれば十分ですかね‥‥

 

 今日も十分すぎるくらいに集まりましたから

 これで、今年の冬も十分に越せますね、そうだ!

 

 せっかくですから、他の皆さんにもおすそ分けしましょう!!

 

 何せこんなにあるんですからね、きっとみんな喜びますよ~」

 

シア・ハウリア

 

 

ハウリア族の族長、カムの娘で

亜人族でありながら魔力を持ち、さらに

魔物しか持たないとされている魔力操作に固有魔法をもって生まれた

 

本来ならば忌み子として粛清されるはずであった彼女だが

心優しい両親や一族のみんなの温かさを受けて、優しい少女にそだった

 

だが、彼女は不意に何かを察知した

 

「っ!?

 

 みんな!?」

 

そう言って急いでハウリアの集落に戻っていくシア

そこには、めちゃくちゃにされた集落と縛り上げられている一族の者達がいた

 

「父様、みんな!?」

 

それを見て思わず声をあげていくシア

 

「シア!?」

 

それに気が付いたカムは驚いた様子でシアの方を見る

 

すると

 

「貴様か、亜人族でありながら魔力を持った生まれた娘は!」

 

そう言うのは虎のような尻尾と耳を持った者達

 

「な、何なんですか‥‥!?

 

 どうしてこんな‥‥」

 

「黙れ、兎人族風情が!

 

 お前たちは犯してはならぬ罪を犯したのだ

 こやつは亜人族でありながら魔力を持って生まれた忌み子!!

 

 さらには、本来ならば魔物が持つ

 魔力操作と固有魔法を持っているというではないか!!!

 

 このような存在がなぜ、ここに存在している!!!!」

 

ハウリア族の者たちがそう聞いてくると

その者達によって一喝されて無理矢理、黙らせられる

 

「ど、どういう事なんですか‥‥?

 

 そもそも何で、私の力のことを‥‥?

 

 私、お父様やみんな以外には

 誰にも話していないはずなのに‥‥」

 

シアは後ずさりしながら、不意にそんな疑問を浮かべていく

 

シアは父親から、自分の力のことは自分の一族の物以外には

話さないようにと言いつけられて、しっかりとその言いつけを守っていた

 

だから、そんな簡単に自分の能力のことが表に出ることは無いと踏んでいたのに

 

「フン、これから死ぬ貴様がそれを知る必要はない!」

 

「‥死ぬ‥‥どういうことですか!?」

 

虎人族の放った言葉にカムは不意に聞いていく

 

「当然だ、忌み子は即刻処刑

 

 それを隠し続けてきた貴様らもまた処刑

 

 当然の事だろうが!」

 

「待って下さい!

 

 いくら何でも、この子は確かに

 魔力を持って生まれましたが、だからと言って

 その力を悪用しているわけでも無いのです、それなのに

 

 有無を言わさずに処刑だなんて、そんなのはいくら何でも!!」

 

カムは必死に弁明を図るのだが

 

「黙れ、ひ弱な兎人族風情が口出しをするな!」

 

「がはっ!」

 

顔面を思いっきり殴られて、その場に倒れこんでしまうカム

 

「父様!」

 

慌てて、殴り倒されたカムのもとに駈け寄っていくシア

しかし、そこから有無を言わさずにシアとカムはもちろん

ハウリア族全員が次々と捕らえられていき、そのまま無理矢理立たされていく

 

「こっちにこい、これより貴様らを裁判にかける!

 

 本来だったらこの娘も貴様らもこの場で全員処刑に処すところだが

 我々の独断で其れをきめるわけにも行かん、よってこれより長老衆のもとに連行し

 

 厳正な裁判の元、貴様らに厳しき沙汰を下してやる!」

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

その後、シアを初めとしたハウリア族の者たちは

全員が尋問にかけられ、それぞれが亜人の国の長である

長老衆の六人の者たちに判決の時を言い渡されるときとなる

 

カムも他のハウリア族たちの者達も必死に弁明するが

魔力を持つ亜人は忌み子である、その常識を覆すには至らなかった

 

おまけにハウリア族を含む兎人族は亜人族の中でもひ弱もひ弱

 

ただでさえ人々から蔑まれている亜人族の中でも

同じ亜人族からも蔑まれている、そんなもの達の言葉など

弱者の妄言と切り捨てている者たちが大半である、最初っから

ハウリア族にとって不利な状況でしかなかった、シアはその中でそう感じていた

 

どうして自分には力があるのに、どうして自分はこんなにも弱いのだろう‥‥

 

シアには他の亜人族にはない、魔力がある

そして母の言いつけ通り、その力を誰かのために使ってきた

 

自分の中では正しいと思えることに使ってきたはずだ

そうすればいつか自分のことを認めてくれる人に出会えるんだと

 

しかし、現実はどうだ

 

今、父親たちハウリア族は自分のことをかくまったせいで

こうして他の亜人たちからひどく責め立てられてしまっている

 

自分の力を誰かのために使えば、いつか自分の事を認めてくれる人が

現れるんじゃないの、みとめられるどころか私も周りの人もこんなにも責められている

 

どうして、兎人族だからってこんな仕打ちを受けないといけないの

どうして弱いからって、こんなにもひどく虐げられないといけないの

 

そんな私の問いに答えてくれる者は、ここにはいない

 

それを言ったところで、この場に居るもの全員が喜宇だと聞き流すだろう

 

弱者のに手を差し伸べてくれる強者何て‥そうそうこの中には‥‥

 

シアはやがて、希望の光を失わんとしていた

 

「…‥‥では、これより

 シア・ハウリアお呼びハウリア族の処遇について言い渡す…‥

 

 シア・ハウリア及びハウリア族全員を、国外追放とする」

 

長老衆の長である森人族

 

アルフレリック・ハイビスト

 

 

彼の声が静かに響いた

ハウリア族たちの処遇がここで決定づけられてしまった瞬間であった

 

唯一の救いは、本来だったら処刑になるはずだった

シアの命もまた、奪われることがなかったという点であろうか

 

しかし、シアの心はこれで晴れることは無かった

 

のこったのはどうして自分達がこんな目に合うのかという疑問と

自分達が弱いからという理由で蔑み、好き勝手に弄んだ他の種族への憎しみで会った

 

‥‥‥‥‥

 

「‥‥‥」

 

シアの心は、何処から晴れない様子であり

そのまま通報されるその時まである場所に隔離されることになった

 

他のハウリア族からも引き離される形で閉じ込められ

そこでも同じようにどうしてと言った疑問を持ち続けていた

 

すると、自分のもとに歩いてくる一つの足音が聞こえてくる

 

そうして、シアの目に移るその人物には見覚えがあった

その人物はかつて、自分が魔物に襲われそうになっていたところを援けた

 

虎人族の女の子であった

 

「貴方は‥あの時の‥‥!?」

 

それを見て、驚いた様子を見せるシア

どうしてわざわざここまで、もしかして

自分のことを心配してきてくれたのかなどと考えていたが

 

その目の前の彼女の言葉を聞いて、まったくもって違う事を思い知らされた

 

「フン、いい気味ね

 

 あんたみたいな奴なんてその姿がお似合いよ」

 

その少女はシアを嘲るように言い放つ

 

「い、一体何を言って‥‥」

 

「そのまんまの意味よ、アー本当に気分が晴れるわ

 

 人間どもにいいように扱われ続けて神経をすり減らし続けていくから

 はっきり言ってストレスがたまってたのよね、オマケに私たちの方でも

 いつ帝国や魔人族の奴らに襲われるかたまったもんじゃないからほんっとに

 ピリピリしててさ、だからさ~、ちょっとした気分転換が必要になって来るのよ

 

 こうやってあんた達兎人族が虐げられている時だけ本当に何もかも忘れられる

 

 帝国の事も魔人族の事も、それで毎日のように虐待じみた両親からの鍛錬の事もね…」

 

そう言ってすがすがしそうに言い放っていく少女

そこにはシアや他のハウリア族への思いやりなど微塵もない

 

そこにあるのは自分よりも弱い奴を虐げていく事への愉悦と喜びであった

 

「そんな‥そんなのいくら何でも!」

 

「ひどいとでも言うつもり?

 

 言っとくけど私だけじゃないわ

 あんた達以外の亜人族の奴もみんなそうよ!

 

 それに、あの長老衆の爺たちだってそうよ!!」

 

少女は嘲笑う様に言葉を続けていく

 

「そもそも、おかしいと思わなかったの?

 

 あんなにもあんたのことを処刑だのなんだの言ってた

 亜人の奴らが何であんた達の査定の時に何もさわがなかったのか?

 

 とくにあんたの処刑を望んでいた熊人族や虎人族がどうして騒ぎ立てなかったのか?

 

 それはね…

 

 あんた達を帝国や魔人族へ捧げて、自分達の種族の身の安全を守らせるためよ!

 

「っ!?」

 

少女の告白にシアは驚いた様子を見せる

 

すなわち、あの時自分達をあの場で処刑にさせなかったのは

慈悲からくるものではない、ただ殺すよりも最も残忍な選択を彼らは取ったのだ

 

それを聞いてシアは、涙が止まらなかった

これから自分や自分達の待っている地獄のことを思い浮かべて

 

「何を泣いているのよ

 

 寧ろこれは誇らしいことなのよ?

 

 自分達の国のために、その命を捧げられるんだから…

 

 ああ、どうせこれで最後になるから言っておくわね、長老たちに

 あんたの力のことを話したのも、あんたたち一族の居場所を伝えたのも…

 

 わ・た・し・よ」

 

「っ!?」

 

更に残酷な告白にシアは更に絶望に叩き込まれて行く

どうして、仮にも危ないところを助けた自分のことを、なぜ

 

「何でって顔してるわね?

 

 その答えは至極単純…

 

 むかついたからよ」

 

「‥むかついた‥‥?」

 

「…だってさ、あんたみたいな弱小種族に

 命の危機を助けたれたなんて、そんなの一生の恥よ

 

 そんなの私の生涯で一番の汚点よ…

 

 そんなのさらされるくらいだったら、あんたにはどっちにしても

 死んでもらうっていう形で、あんたには墓場まで持っていって貰うわ

 

 それじゃあ、永遠に…さ・よ・う・な・ら…

 

 あーっはっはっはっ!!!」

 

絶望に打ちひしがれるシアを嘲わらう虎人族の少女

 

シアの中で、何かがひび割れていくような感覚に見舞われていた

 

シアの心の支えであった母の言葉

 

人と違う力を持っていても、それを

正しいことに使えばいつか認めてくれる

 

それが、ただの理想でしかなかったことを思い知らされて行った瞬間であった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

やがて、長老会の決定通り

シアは勿論、ハウリア族全員の

 

フェアベルゲンからの永久追放が執行され

 

彼等は樹海の外に連れ出されて行く

虎人族た熊人族の者たちからは不満そうな視線だったが

 

樹海の外から連れ出された後

あとは好きにしろといわんばかりにその場に放り出された

 

「‥すまない、シア‥‥

 

 私たちの力が及ばないばかりに

 このようなことになってしまって‥‥」

 

「‥お父様や皆さんは悪くないですよ‥‥

 

 悪いのは私です、私がこんな力をもっていたから‥‥

 

 私みたいな子が生まれてなんて来なければ

 少なくともみんなは、追い出されることなんてなかったのに‥‥」

 

シアの声にはどこか覇気がない

 

自分のせいで一族全員が糾弾され

更にはその発端が、自分の軽率な行動が原因なのだと

 

追放される先日に、思い知らされてしまったのだから

 

そんなシアの方を優しく叩くのは父であるカムであった

 

「‥大丈夫だ、もうここには

 お前やお前の力のことを悪く言うものはいない‥‥

 

 此処から新たに、一歩を踏み出していけばいいんだ

 

 忌み子であるとか、そんなものは関係ない

 私たちだけの道を共に作っていこう、シア‥‥」

 

カムの精一杯の励ましを聞いて、頼もしいのと

本当に申し訳ない気持ちが織り交じって涙が流れてくる

 

こうして、追放を受けて新たな一歩を

歩みだしていく事をきめるハウリア族

 

しかし、そんな彼らに待ち受けるものは

 

絶望、ただその言葉のみであった

 

フェアベルゲンを追い出されてしばらくしたのち

どうにかして身を隠しながら移動を始めていた一族

 

しかし、一族が恐れている事態が引き起こされてしまう

 

亜人狩りを行っていた帝国兵に見つかってしまい

その襲撃によって一族の大半が捕らえれて行ってしまう

 

どうにかして、魔力が分解されて行くライセン大峡谷に向かおうとするが

その道中で、シアの父、カムの体力が限界を迎えてしまいとうとう足をくじいてしまう

 

「っ!?

 

 父様!」

 

慌てて倒れた父のもとに駈け寄っていくシア

 

「シア‥お前だけでも逃げろ‥‥」

 

「そんな、嫌です!

 

 母様がなくなったうえに父様まで

 いなくなってしまったら、私は‥私は‥‥」

 

カムに行くように勧められながらも

シアは唯一の肉親であるカムに寄り添って行く

 

「頼むシア‥お前だけでも生き残ってくれ‥‥

 

 母さんや‥私の分まで、強く生きてほしい‥‥

 

 だから‥逃げてくれ‥‥早く‥‥‥」

 

「諦めないでくださいよ、諦めずに前に進もうって言ったのは父様ですよ‥‥

 

 私がどうにか、支えますから急いで‥っ!?」

 

シアの未来視が発動し、カムの身に起こることが見える

 

「お父様、お父様早く!」

 

「シア‥すまない‥‥

 

 先立つ私を‥どうか許してくれ‥‥」

 

そう言ってシアをつき飛ばすカム

 

その後、シアの目の前に移ったのは

無情にもカムに降り注ぐ、魔法の嵐であった

 

「父様‥‥」

 

そこに映ったのは動かなくなったカムと

下卑た表情で自分を見詰める、帝国兵の者たちであった

 

父様ああ!!!!

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

いやああ!!!!

 

シアの叫びが馬車の中で響いていく

その目の前に移ったのはシンと静まり返った馬車の中

 

外を見てみると、そこにはぱちぱちと燃えている焚き火と

相当羽目を外したのか、眠りについている帝国兵たちと力なく

ぐったりとその近くで衣服をはだけて倒れている同じ一族の女性達

 

「があ‥ぐう‥‥!」

 

檻に閉じ込められているせいで逃げ出すことはできず

その場に頭を抑えながら倒れこんでいくシアは恐怖のあまりにに息を切らす

 

その中で不意にシアはどうして自分がこんな目にあったのかをおもい返していた

 

他の亜人たちは私が生まれてきたのが悪いのだといった

自分だって望んで力をもって生まれてきたわけではないというのに

 

帝国兵は自分達のことをただの慰み者の奴隷だとしか思っていない

 

此処にいる仲間の半分は自分と同じように捕まった

もう半分は、自分や父親を置いて一目散に峡谷内に逃げ込んだ

 

誰もが自分を陥れ、自分を卑下し、見捨てた

 

シアは憎んだ、自分を陥れた他の亜人族を

自分やここにつかまっている仲間たちを虐げる帝国の者達を

自分体を置いて、さっさと逃げだしていったかつての仲間たちを

 

しかし、彼女がその三つの対象よりも憎んだのは、自分自身

 

力があるのに結局大切なものを守れなかった、弱い自分

 

首輪の力に耐え切れずに息を切らしながらもシアは渇望する

 

力が‥ほしい‥‥

 

無駄だと分かっていても、分かっていなくても

シアはそれを望まずにはいられなかった、彼女は力を求めるように

 

空に向かって手を伸ばしていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷

 

そこに十二の影が歩いていた

 

「…ついに出られたね…

 

 まあ、この力を持った今の僕なら

 このぐらいは楽なものだよ、そうだよね?」

 

そう言って自分のもとについてきている面々の方を見ていくが

その内の二人の人物の間から、どこか微妙な空気が流れているのが分かる

 

「‥」

 

虚栄の大王

 

リュカ

 

 

「‥フフ‥‥」

 

運命と破壊の罪徒

 

旧名;アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール

 

新名;リュナ・プレーヌ

 

 

この二人である

 

「‥‥はあ、あんた達ね…

 

 リュカ、一撃貰われたからって

 いつまでも拗ねてるんじゃないわよ…

 

 リュナも、いくら自分の力が上手く

 扱えるようになったからって、あんまり調子に乗らないの…」

 

憤情の皇帝

 

旧名;東雲 渚沙

 

改名;ナギサ

 

 

彼女は呆れたように二人にそう声をかけていく

 

「フン、別に拗ねてなんかいねえよ

 

 寧ろこれでクソガキのお守りをしなくていいと

 思ったら済々するぜ、一撃貰われた程度でどうこう言うかよ」

 

「せやせや‥

 

 僕から言わしたらこんなかわええ女の子が

 いっしょに来てくれるんやったら、大歓迎や

 

 これからよろしくのう、リュナちゃん」

 

そう言ってどこか子供のような雰囲気を持っている少年の姿のリュカが

リュナの肩をなれなれしく組んでいく、リュナは其れをうっとおしそうに払って行く

 

「触らないで‥‥

 

 私に触っていいのは

 ハジメだけ、いくら貴方達が

 ハジメから生まれた存在であろうとも、ね‥‥」

 

「フン、随分と大きな口を叩くじゃないか‥

 

 まあ精々私たちの足を引っ張らないようにするんだね‥」

 

そう言ってユエの後ろの方から

不気味な雰囲気を漂わせた槍を持った青年姿のリュカが気だるそうに言う

 

それを聞いて、リュナも不快そうに見ていく

 

「あーららら…

 

 随分と嫌われちゃったみたいだね、あたし達…」

 

「へ、おいらは何でもいいぜ

 

 思いっきり、戦えるんだったらな!」

 

「…」

 

それを見ていた他の者たちもそれぞれの反応を示していく

 

「ところで、私たちいつまで歩かされてるのー?

 

 さきから映てるの岩とかそんなのばかりだよー」

 

飽き飽きした様子で駄々をこね始めるのは

 

色欲と肉欲の皇帝

 

マヌエラ

 

 

彼女は不意に聞いていく

 

「しょうがないですよ

 

 見たところこの峡谷は

 なかなかの広さの様に見受けられますから…

 

 あっちこっちから、魔物の気配を感じますが

 こっちに襲い掛かる気配すらも感じませんしね…」

 

どうしてでしょうかと、首を傾げていく少女は

 

暴食と大食の皇帝

 

マリア

 

 

「…そう言えば個々にも魔物がいるんだったね…」

 

「そうだね、噂によるとこの大峡谷にも

 オルクス大迷宮と同様に、反逆者の残した迷宮が

 存在しているとされている、ただそのオルクス大迷宮や

 グリューエン火山、ハルツィナ樹海のそれと違って確信はないけどね…

 

 まあ、同じく噂程度だったシュネー雪原の方は確信が出たからね…」

 

そう言って説明気味に教えていくのは

ハジメを原罪者として覚醒させた張本人

 

先生‥‥‥‥‥‥‥‥‥

 

 

名前はまだ、分からない

 

「‥‥と言う事は、ここのどこかに

 オルクス大迷宮と同様、迷宮があると言う事ね…

 

 それでどうするのハジメ、貴方ならもう場所はわかっているでしょ?」

 

そう言ってハジメに聞いてくるナギサ

 

「…もちろんだよ、でも行かないよ

 

 別に興味もないし、行ったところで

 無駄な時間を取ることに鳴るだけだしね…

 

 それよりも、この先で気になる物を見つけたんだ」

 

「気になる物ですか‥…

 

 貴方が言うのなら確かでしょうが‥…

 

 それよりか、少し休みませんか‥…

 

 いい加減こっちも体力が限界になってきていまして‥…」

 

そう言って音を上げるのは

 

憂鬱と嫌気の大王

 

ノルベルト

 

 

彼はそろそろ休憩を提案していく

 

「何だよだらしねえな

 

 この大峡谷に来てから

 まだ、そんなに歩いてなんて居ねえぞ」

 

「‥…君はむしろ、良くこの状況でそんな人事なこと言えるよね‥…

 

 僕から言わせればちっとも余裕なんて感じもしないのだけれど‥…」

 

そう言ってノルベルトの背中には

怠そうにその背中でだらけている女性がいた

 

「カレンさん!

 

 いい加減に自分の足で動いて下さい!!

 

 重いは、動きにくいはで、いい加減精神すり減らしてるんですよ!!!」

 

「…うーん、あともう四十九日間だけ…」

 

「どのくらい寝るつもりなんですか!」

 

その一見すると少女のように見える女性は

 

怠惰と堕落の皇帝

 

カレン

 

 

彼女であった

 

「‥カレン、わたしと出会った時から

 ずっとあんな調子だけれど、強いの?」

 

「…フフフ…

 

 リュナさん、あまりうそう言うのは

 不覚詮索しない方がいいですよ、確かに貴方は

 罪徒の力を受けたとはいえ、決して不死身という訳ではないんですし…」

 

そう言ってリュナのことを引き留めていく女性は

 

強欲と貪欲の皇帝

 

サディ

 

 

柄を自分の首元に充てる様に

武器である大鎌を持っている彼女はリュナの方を

物欲しそうに見つめながら、忠告の方をしていく

 

「サディ‥‥

 

 さっきも言ったけれどp

 私はこの全てをハジメに捧げると決めている‥‥

 

 幾ら貴方達がハジメによって

 生み出された存在でも、それは変わらないと‥‥」

 

「フフフ…

 

 それは残念ですね…

 

 私自身はリュナちゃんに興味があるのに…」

 

あっちこっちでやや騒ぎ始めていく一同だが

そんな一同に向けて、とてつもない威圧感が放たれて行く

 

「「「「「「「「「っ!?」」」」」」」」」

 

そのオーラを放った張本人は

 

「‥‥」

 

傲慢と高慢の皇帝

 

 

彼女であった、彼女は一同に静まれといわんばかりに

オーラを放って、一同を一気に黙らせてしまうのであった

 

「‥な、なにこれ‥‥」

 

「…フフフ、みんなあんまりは目をはずしすぎないようにね

 

 でないと彼女が不機嫌になってしまうからね…」

 

ハジメはそう言って一同に呼びかけていくと

さてと、と言って彼は不意にある場所の方に目を向けていく

 

「ふうん、どうにも厄介事の種というのは尽きないようだね…

 

 でも、もしかしたらもう少し仲間を増やせるかもしれないよ…」

 

「どいう事ー?」

 

ハジメは不意に何かを見つけたようで

峡谷のある場所の方に意識を向けると

 

そこには、何やら団体の者達が

魔物の群れに襲われているようであり

 

ハジメはそこに行ってみようと早速向かって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大峡谷の方で魔物の群れが

とある岩陰に長い首を必死に伸ばして奥にいる

獲物を捕らえんと必死な様子で、岩場の影の奥にいるものを

 

引っ張り出さんとしていた

 

その奥にいたのは、フェアベルゲンを追い出され

帝国軍からどうにかこの大陸に逃れていった兎人族であった

 

「‥ラナお姉ちゃん‥‥

 

 怖いよ、僕たちどうなっちゃうの‥‥」

 

「大丈夫よ、少なくともこの場で大人しくしていれば

 ハイぺリアも諦めて帰っていくはずよ、それまで持ちこたえられれば‥‥」

 

そう言ってハイぺリアが諦めて去っていくのを待つ兎人族

 

だがハイぺリア、兎人族を狙い続ける魔物は

諦める様子もなく、自分達のいるところまで首をねじ込まんとしていた

 

「(‥ひょっとしたら‥‥

 

  あの時、シアちゃんや他の仲間のことを

  見捨ててしまった事の報いなのかもしれない‥‥)」

 

ラナはそう言って帝国兵に追われた際に

やむなく見捨ててしまった仲間たちのことを思い浮かべる

 

自分達では勝てないと分かっていたとはいえ

それでも、見捨ててしまった事には変わらない

 

もしかしたらこれは、その報いなのかもと感じていた

 

やがて、ラナは自分が守るようにしてかばっていた子を

近くにいた同じ一族の者に預けていくと、一人前に進んでいく

 

「‥私がおとりになります‥‥

 

 どこまでもつのかわからないけれども

 それでもできるだけ奴らを引き連れていきます

 

 その間にみんなはここから離れてください‥‥」

 

「そんな、いくら何でも!

 

 奴らが諦めるまで待っていれば‥‥」

 

そう言って引き止めようとするハウリアの男性

 

しかし

 

「‥諦めるっていつなの‥‥?

 

 奴らはいつここから離れるの

 それまで私たちはいつまでここに書くれていないといけないの‥‥?」

 

ラナはふるふると体を震わせながら言う

 

「それまでに全滅してしまったら元も子もないじゃない!

 

 私はあの時思い知ったのよ、私たちがこの峡谷に逃げられたのは

 あの時、仲間がつかまった御かげなんだって、もうこれ以上全員で

 生き残っていくのはもう無理なんだって、だからここは誰かが犠牲に

 ならないといけないの、私だって本当はそんなの嫌だ、でもそうも言えないの‥‥

 

 だって私たちは‥弱いんだもの‥‥」

 

ラナは涙を流しながら言い放つ

その言葉に他の兎人族は何も言えなくなる

 

「ごめんねみんな‥私の分まで頑張って‥‥生きて‥‥‥」

 

「ラナお姉ちゃん!」

 

ラナはそう言って、ハイぺリアのもとに飛び出していく

すると、その群れは一斉にラナに襲いかかろうとしたそこに

 

「っ!」

 

ラナは思わず目を閉じるが、何の違和感も感じられない

 

不意に目を上げていくと、ハイぺリアの表情は

驚愕と恐怖、その二つの入り混じった表情を浮べていた

 

ラナはどうしたのかと、不意に耳をぴょこぴょこ動かしていき

自分から見てハイぺリアの群れの奥の方から何かがゆっくりと近付いてくる

 

ラナはその近付いてくる何かに気づくとその気配を感じて

不意にその場から動けなくなっていってしまう、何故ならそこにいるのは

 

他の魔物とはもちろん、このハイぺリアなんて

比べることもおこがましいほどの絶対的強者であった

 

ハイぺリアたちもおそらく心境はラナと同じなのだろう

だからこそ、ここに居たら殺されると分かっていても動けない

 

それほどの恐怖を覚えているのだから

 

やがて、ハイぺリアの足もとの悠然と通り過ぎていく

それは、自分の体から何かをのばしていき、それを周りにいる

ハイぺリアに向けてゆっくりと包み込んでいくように呑み込んでいき

 

ハイぺリアの群れはやがて、もがくことも

許されないように跡形もなく食らわれてしまうのであった

 

「あ‥ああああ‥‥」

 

目のまえに現れたそれはラナの前にまで来ると

自分の体からあふれる様にのばしていたそれをゆっくりと

自分の体の中に取り込んでいくようにして、戻していった

 

「おや…

 

 こんなところに人間…

 

 いいえ、亜人族がいるとはね…」

 

そう言って話しかけていったその絶対的強者は

ラナの方を見て、無邪気な笑顔を浮かべて話しかけた

 

ラナは目の前のその少女に、優し気に話しかけられても

恐怖の感覚はぬぐいきることが出来ず、その者の顔を見るのも

まるでこれから死地に向かうように意を決したものに感じた

 

ラナは不意にその者の姿を見て驚愕する、何故ならそこにいるのは

 

赤髪で橙色の瞳に黄色い目をし

その手には円刃のようなものをひもでつないだ

杖のような槍のような武器を右手に持って肩に置いている

自分よりもやや年下の少女が笑みを浮かべ、そこにいたのだから

 

「兎人族…でしたね…

 

 どうやら奥の方にまだ生き残りが

 いらっしゃるようですから、宜しければ顔合わせをお願いできますか?」

 

そう言って優しくも無邪気で丁寧な口調でラナにそうお願いをしていく

ラナは出来る事ならばこんな恐ろしい相手に一族の者達に会わせたくはない

 

だが、だからと言ってこれほどの相手にどうこうできるはずもない

 

別に命が惜しいわけではない、だが生存本能が告げている

 

この少女に逆らっては、いけないのだと

ラナはやがて、自分でも気が付かないうちに

 

この恐るべき存在を、招き入れてしまったのだった

 

だが、この恐怖を感じていたのは当然ラナだけではない

 

彼女が守らんとした他の兎人族の者たちも

その物が生み出すオーラに充てられて、その場に動けなくなっていた

 

「…お初にお目にかかります

 兎人族の皆さん…私の名前は…

 

 暴食と大食の皇帝

 

 マリア

 

 

 皆様どうぞ、お見知りおきを…」

 

しかし、そんな兎人族の様子など、知らないと

言った感じに満面の笑みを浮かべて自己紹介する少女

 

いいや、化け物

 

ハウリア族の者たちは全員が本能で感じていた

この化け物に逆らえばさっきのハイぺリアのように

自分達もまた餌食になり得るかもしれない、そう感じていた

 

「‥ま、マリア殿‥‥

 

 先程は助けていただいてありがとうごz‥‥」

 

「…なに行き成り話しかけて言ってるんですか…

 

 まったく礼儀のなっていない人達ですね…

 

 どうせ話すのなら、私が聞いたことだけにしてください…」

 

マリアはそう言って自分にお礼を言おうとした兎人族の者を黙らせ

余計なことはしないでさっさと自分の用事を済ませようといった様子で

話しの方を勧めていく、兎人族の者たちは黙っていてもどうにもならないと踏み

 

包み隠さずに話していく事にした、フェアベルゲンを通報されたこと

その道中で帝国の兵士たちに襲われたこと、追うに追われてここにまで来て

 

その際にハイぺリアの群れに襲われて今に至ることまでを話していく

 

「‥それで、もうだめかと思われた際に

 貴方に助けられたんです、ですから本当に

 

 どの様に感謝をすればいいのやら‥‥」

 

兎人族の代表者がマリアに話しかけていく

 

「そうだったのですか…

 

 本当に皆さんも大変だったのですね…

 

 私がもしたまたまここを通りがからなかったら

 本当にどうなっていたことか…私個人としても

 

 結果的に皆さんを助けられて本当に良かったですよ…」

 

対するマリアのほうも、嬉しそうな表情を浮べて

安心した様子を見せていき、不思議とその笑顔を見て

 

兎人族の者たちも、最初に感じていた恐怖心も

すっかり忘れて、マリアに気軽に話しかけていった

 

「‥マリア殿‥‥

 

 差し出がましいことをお願いするようで

 申し訳ないのですが、マリア殿にぜひとも力を貸してもらいたいのです‥‥」

 

「ほう…それは…?」

 

代表者の兎人族の男性が恐る恐る話しかけていく

 

「帝国兵に捕らえられた一族の者を

 助ける手助けをさせていただきたいのです‥‥

 

 私たちは亜人族の中でも特に力が弱く

 帝国兵の者は魔力も扱えるので、とても相手にならず‥‥

 

 私たちも出来る事ならば私達の手で助けたい‥‥

 

 ですが、無謀に挑んでもそれこそ多くの犠牲が出ます‥‥

 

 お願いします、我々を助けていただけませんか!

 

 お礼は出来る限りでいたします、ですのでどうか‥‥

 

 お力をお貸しいたしいただけませんか‥‥」

 

そう言って地面に頭をこすりつける勢いで頼み込んでいく代表

 

マリアは其れを見て口元を手で覆って考え込むような仕草を見せる

 

その中で微妙に口角をあげて

 

「…いいでしょう、そう言う事でしたら

 不詳、暴食と大食の皇帝たるこのマリア…

 

 是非とも、協力させていただきましょう…

 

 そう言えば皆さん、お礼は出来る限りするといいましたね…」

 

「は、はい‥‥」

 

息をのみながら次の言葉を待ち続けていく兎人族

 

すると、マリアは真剣な顔つきからまたも無邪気な笑みを浮かべる

 

「…まあとは言ってもすぐには思いつきませんね…

 

 取りあえずは、皆さんのさらわれた仲間たちを助けてから…

 

 まずは、そちらの方に行きましょう、それでいいですか?」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

それを聞いて、ハウリア族は歓喜の声で返事をしていく

 

その中には、ラナの姿もあった

 

「(‥よかった‥‥

 

  私たちはまだ、救いの手がある…

 

  最初は恐ろしい雰囲気だったけれど

  こうして、私たちのことを助けてくれて‥‥)」

 

ラナもまた、他の者達と同様に歓喜の声をあげていた

自分達にはまだ、救われる道があったのだと心の底から喜んだ

 

マリアは最初のころに感じた、恐ろしい雰囲気のせいで

本当に大丈夫なのかと、少し心配な様子を見せていたのだが

 

話してみると、意外にも気さくな人たちで

おまけに自分達の話しも真剣に耳を傾けてくれて

 

あんなにも強くて、おまけに自分達のことを

助けてくれようとしてくれている、本当に自分は幸福だ

 

「(‥待ってて、シアちゃん‥‥

 

  それから、さらわれてしまったみんな‥‥

 

  絶対に助けるから‥そして、あの時の事‥‥)」

 

ラナはこの大峡谷に逃げ込んだ時に

敵の凶弾に打たれて動かなくなったカム

 

族長に寄り添って行くシアのことを見捨ててしまった

 

仕方がなかっとはいえ、それでも何も感じなかったわけではない

 

むしろ、申しわけな罪悪感でいっぱいであった

 

どんなに悔やんでも、悔やみきれず

もしも会うことがかなうなら、謝りたいとも思っていた

 

今となってはそれは叶わない者であると諦めていた

 

だが、そんな自分達の元には強く優しい

強力な味方が、付いていってくれることになった

 

彼女は心の底より、喜んだ

 

「フフフ…

 

 どうやら決まったようですね…

 

 それでしたら、少し休んでから

 少し歩いていきましょうか、私の方は

 まだ大丈夫ですが、皆さんの方もいろいろあって

 お疲れになっている事でしょう、今日のところは休んで

 

 お互いに万全の準備を整えていきましょう…」

 

「「「「「「「はい!」」」」」」」

 

マリアの自分達への気づかいに

またも嬉しさが、込みあがっていき

 

再び、喜びの声で返事をしていく

 

すると、何処からかお腹の鳴る音が響いていく

 

「‥ご、ごめんなさい‥‥

 

 安心したら、急にお腹が空いてしまって‥‥」

 

そう言って白状したのは、ラナであった

 

それを見ていた他のハウリア族は思わず

笑い声をあげてしまう、その様子から心に

余裕が出てきた様子で、ラナは羞恥で赤面しつつ

どこか安心した様子を見せ、思わず自分もつられて笑って行く

 

「‥しかし、どうしましょう‥‥

 

 食料はここでは手に入りませんからね‥‥

 

 此処にいるのはほとんどが魔物ですから

 残念ながら、食料にはなりませんしね、どうしましょう‥‥」

 

そう言えばと、ハウリア族の面々たちは

自分達の危機的状況を思い出した、最初のころは

 

野草や動物などを食べていたものの

帝国兵に追われて、ここまで逃げ込んでからは

 

ある分の少ない食料をどうにかやりくりしていたのだが

それもだんだんと限界を迎えてきており、どうにか食料を

見つけ出そうと、勇気を出して出てきたものの魔物の群れのせいで

 

思う様に動けなかった、魔物はいずれも強力な上に

その肉は亜人族でも例外なく猛毒である、最初の時は

色々あって気を張っていたために空腹を感じなかったのだが

 

マリアの人柄に触れて、安心した様子を見せていき

改めて、空腹感が襲ってきたと言う事なのであった

 

それを聞いたマリアはまたも少しだけ口角をあげる

 

「…なるほど…

 

 そう言う事でしたら

 また私、皆さんのお力に

 なれるかもしれませんよ…」

 

そう言って、マリアは一同の前に大きな肉の塊を取り出した

 

「…今ある分はこれだけですが

 

 皆さんに行き渡らせていく事は

 出来ると思います、宜しければ…

 

 皆さんでどうぞ分けて食べてください…」

 

マリアはそう言って笑顔で一同に食料をふるまって行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「‥ねえ、どうしてわざわざこんなところに向かっているの?」

 

リュナはそう言ってともに向かっている二人の人物に声をかける

 

「‥‥この付近三どうやら、馬車があって

 そこに気になる物があるって言っててね…

 

 要はそれを馬車から、奪って来いって事

 

 一方の方は、マリアの方に一任してるけど…

 

 あの子って口調は丁寧なくせに、意外に歯止め効かないからね…」

 

ナギサはため息を付きながら目的のものが現れるのを待っている

 

「‥ナギサ殿、リュナ嬢‥

 

 馬車が見えてきました‥

 

 なるほど、アレは帝国のものですな‥」

 

そう言うと仮面をつけたリュカが

こちらに向かってくる馬車の影を見つけた

 

「‥‥なるほどね…

 

 それじゃあ、いってくるわ

 二人は他に馬車があったらそっちの方をお願い…」

 

そう言って、馬車の方に一直線に向かって行くナギサ

 

「さてと、あと少しでこの峡谷をでる

 そうすりゃ、本国はすぐそこだ、全速力で走らせるぞ」

 

帝国兵の隊長ともとれる男性が、そんなことをつぶやいていると

 

帝国兵の一人が、急に妙なことを言いはなつ

 

「た、隊長!

 

 もうそろそろ休憩いたしませんか?」

 

「はあ、何を言っている

 さっき休憩が終わって走り出したばかりだろう!」

 

「い、いえ‥‥

 

 疲れたとかそういうのではなく‥‥

 

 その‥‥のどが渇いて‥‥」

 

兵隊の一人が水分補給を求めていく

 

「休憩を取らずとも用意していた水があっただろ?」

 

「‥それが、先程全部飲みつくしてしまって‥」

 

「はあ、何を考えている!?

 

 本国までまだ数日はかかるんだぞ!」

 

「だから言ったでしょう!

 

 喉がカラカラなんです‥‥

 

 幾ら水を飲んでも、収まらないんです‥‥」

 

「そんな我儘が通るか!

 

 一体どうするというのだこのs‥‥」

 

すると、隊長は不意に自分の唇が異様に張るような感覚を覚え

試しに触ってみると、唇が渇いて切れて、そこから血が出てきた

 

「‥‥なんだ、なぜか妙に体が熱く感じる様な‥‥」

 

隊長の方もようやく、自分のみに起こった異変に気が付いた

 

すると

 

「っ!?

 

 なんだ!」

 

「うん?

 

 どうしt‥‥」

 

馬車の御者を務めていた、兵士が声をあげたので

隊長は何事かと思いたずねると、突然馬車全体に大きな衝撃が走り

 

後続していた馬車たちは慌てて、止めていく

 

「ぐう‥‥

 

 いったいなんだ‥‥」

 

馬車より放り出された隊長以下数人は

自分達の馬車のあった方に目を向けていくと

 

砂埃が晴れていったそこに、一つの影が見える

 

そこにいたのは

 

「‥‥どうやら当たりの様ね…

 

 帝国の紋章が見えたから、ここと帝国を

 繋いでいく道をさ飽き回りしてきてみれば…

 

 さあて‥‥それじゃあさっさと目的のものを回収して

 ハジメ君のところに連れて行かないと、まあこの分だったら…」

 

そう言って、左手から爪の様に延びている紐をピンと張らせていく

 

「貴様、何者だ!

 

 俺達を誰だと思っている!!」

 

「‥‥知らないわよ、あんたたちの事なんて…

 

 そもそもこれから死ぬってわかっているやつらから

 聞く事なんて何もないから、とっととあんた達の積み荷を

 全部明け渡して、おとなしくその命を散らしなさい…

 

 私はこれでも、時間をかけるのが嫌いなのよ…」

 

帝国兵の者達のことなど眼中にないといわんばかりに言いきるナギサ

それを聞いた帝国兵の者たちは腹の虫がおさまらなくなったのか、剣を抜いていく

 

「貴様、帝国には向かうとどうなるのかその身をもって‥‥」

 

「うるさい!」

 

隊長がそう言って振りかぶろうとしていくが

その前に彼の首が体から離れると同時にその切り口から

炎が噴き出していき、頸は瞬く間に燃え尽きていき、体の方も

火だるまになってどさりとその場に倒れこみ、ごおごおと燃え盛っていた

 

「ひい!?

 

 た、隊長!」

 

「ひ、ひるむな!

 

 魔法で系激するぞ!!

 

 詠唱を始めろ!!!」

 

「は、はい!」

 

そう言って魔法担当が詠唱を開始しようとするが

不意に彼らは異変をおぼえ、その様子のおかしさに

どうした、と訪ねると、魔法担当はわなわなと身体を振るわせて言う

 

「…魔力が…発生しません……」

 

その言葉とともに、帝国兵の表情は絶望に染まっていった

 

と同時にその場に居た者たちの視界は突然地面に落ちていく

そこには左手から爪の様に延びている紐状の何かがまるで、自分達の

命を刈り取っていくように張られており、それを笑みを浮かべている

 

少女の姿をした、怪物の姿があったのであった

 

こうして、帝国兵はものの数分で全滅したのであった

 

「‥‥さてと…」

 

そう言ってこきこきと身体を鳴らしてほぐしていると

ナギサの後ろから二人の人物がおり立って歩み寄っていく

 

「‥‥そっちの方はどうだった?」

 

「‥他のルートの方もみて見たけれど

 それらしい影はなかったわ、もう本国に

 もどっているって可能性も否めないけれど‥」

 

「‥ん、こっちも異常なし‥‥

 

 そっちの方は、当たりのようだけれど‥‥」

 

リュカとリュナはそう言ってごおごおと炎に照らされた

その場所の方に目を向けていくリュナ、その燃えている炎は

先程、ナギサがすっ飛ばした帝国兵の亡骸であることは言うまでもない

 

「‥‥そうみたいね…

 

 さてと、ハジメ君が欲しがっている人物は

 果たしてこの中にいるのか、調べてみましょう…」

 

「‥調べるって、あてはあるの?」

 

女性のリュカがナギサに尋ねていく

 

「‥‥ええ、確か白銀の髪をした女の子だって言ってたわね…」

 

「へえ、白銀ね…

 

 っていうか、そんなのあてになるのか?」

 

「‥とにかく探してみればわかる‥‥

 

 最悪、ハジメをここに呼んで確認させる‥‥」

 

そう言って馬車の中を確認していくと

最後尾の方にある馬車の中に兎人族が数人いた

 

「‥‥ひどい、ボロボロじゃない…」

 

「‥おそらく、道中で暴行を受けたのでしょう‥‥

 

 壊れるまで犯しつくされて、このようなことに‥‥

 

 なんともむごいことですね‥‥」

 

そう言ってしばらく歩いていくと檻

奥の方に檻に閉じ込められた、一羽の少女がいた

 

「‥白銀の髪の兎人族‥‥

 

 こいつだな、主が言ってた

 兎人族っていうのは、此奴の方は無事のようだな‥‥」

 

「‥よかった‥‥これでハジメが悲しまないで済む‥‥」

 

そう言って檻の中に閉じ込められた目的の少女を檻ごと外に出していく

 

「‥貴方達は‥‥一体‥‥‥?」

 

この出来事が、罪徒達と

 

忌み子の兎人族

 

シア・ハウリア

 

 

運命の出会いであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

ハウリア族の元に、切り分けられても

十分すぎるくらいに、大きな肉がこんがり

焼かれた状態で準備されていた、其れを見て

ラナは本当にはしたなく涎を垂らしてしまいそうになる

 

「‥あ、あの‥‥

 

 本当に食べていいのですか?

 

 こんなにも立派でおいしそうなお肉を‥‥」

 

「…構いませんよ…

 

 寧ろ、空腹である皆さんを

 幾ら早く皆さんの一族の方々と

 

 合わせて差し上げたいですが…

 

 その前に行き倒れてしまえば

 それこそ、元も子もないですからね…

 

 むしろ、皆さんにご用意できるのが

 このぐらいしかないことが、本当に申し訳ないですよ…」

 

マリアはそう言って遠慮しないでと

いわんばかりに一同に食料を勧めていく

 

マリアは、其れともお肉はお嫌いですかと

やや申し訳なさそうに聞いていく、それを見たラナは

 

「‥そんな‥‥むしろ、私たちのために

 そこまでしてくださるなど、本当になんと申し上げればいいか‥‥

 

 マリア殿のお気遣いには、本当に私たちは救われっぱなしです

 

 必ずこの御恩は、一生かかってもお返しいたしますので‥‥」

 

「はい、其れではその時が来ればよろしくお願いいたします…」

 

マリアの気遣いに心を温かくしていくハウリア族の面々

 

しかし、ハウリア族はあまりにも悪意と言うものを知らな過ぎた

 

そして、目の前にいる存在の大いなる悪意にも簡単に言いくるめられてしまう

 

そして、内なる悪意を隠し続けたマリアはついに、最後の一手を繰り出す

 

「…さてと、まずはこの峡谷を抜けるためにも

 しっかりと体力をつけないといけませんからね…

 

 私の持っていた食料、量は足りるのかわかりませんが

 がっつり行ける食材なのでそれなりに精力もつくと思いますよ…

 

 それでまずは、この峡谷をどうにか抜けていきましょうね」

 

「ありがとうございます‥‥

 

 それでは早速、いただかせてもらいます」

 

そう言ってハウリア族はマリアが

差し出してくれた食料を口に運んでいく

 

殆どの者が空腹と、目の前のお肉の

美味しそうな匂いに惹かれていて、思わず

かぶりついていった、ややはしたないがそれを

気にしている様子は見られない、それほど切羽詰まっていたのだろう

 

「うん、おいしい!」

 

「なにこれ、今まで食べたことのない味だ」

 

「本当にこれは精が付くよ」

 

一斉に味を評価していく一同

 

ラナもさっそく、食事をとろうして

不意にマリアの方を見ると、眼を見開く

 

マリアの一同が食べている姿を見ているその顔が

恐ろしいほどに歪み切っている笑顔を浮かべて居ることに

 

それを見たラナはやや引きつった様子の表情を浮かべていき

慌てて一同の方を見ていくと、目の前でとんでもないことが起こる

 

「うぐ‥‥」

 

「ぐう‥‥」

 

「うあ‥‥」

 

突然、一族の者達が苦しそうなうめき声をあげていく

 

「だ、大丈夫‥‥?

 

 ど、どうかしたの‥‥?」

 

ラナはそう言って、近くにいた一族の子供に声をかけるが

その子供の体にとんでもない変化が訪れていき、ラナは驚愕する

 

うがああ!!!!

 

その子供は何と突然、大きな咆哮をあげて

怪物のような姿になっていく、さらには何と

 

ごああ!!!!

 

がああ!!!!

 

うああ!!!!

 

「「「「「「「「うがああ!!!!」」」」」」」」

 

次々と他の兎人族の姿が、恐ろしい魔物のような姿になっていく

もはや、兎人族であった頃の容姿は微塵も感じられず、全員が怪物の姿となった

 

「みんな‥何で‥‥」

 

一族の変わり果てた姿を見て、言葉を失って行くラナ

 

そんな彼女のもとに、一つの影が歩み寄っていく

 

「おや…あなただけ普通のままなのですね…」

 

それは、マリアであった

 

だが、今、ラナの目の前にいるマリアは先ほどまで

気さくに自分達に話しかけてくれたマリアではなかった

 

そこにいたのは同じように笑顔を浮かべている姿でありながら

 

恐ろしい雰囲気を醸しだしている、恐ろしい怪物であった

 

「ま、マリアさん‥‥

 

 これは一体何を‥‥」

 

「何をって言ったじゃないですか…

 

 しっかり食べて力をつけて、改めて

 助けに行きましょうって、ほら見てください…

 

 み~んな、強そうなお姿になれましたよ

 

 これでもう皆さん、自分の弱さに悲観することもありませんね」

 

マリアはどこか興味なさげに怪物に変貌した兎人族の者たちを目をやる

 

「‥まさか‥‥

 

 私たちを騙したの‥‥!?」

 

「だましたなんて人聞きが悪いですね…

 

 私はしっかりと、皆さんに

 力を貸してあげたではないですか

 

 さあて、ここからいよいよ皆さんのお披露目ですよ…」

 

そう言うと、怪物になった一族の者達は全員が

隠れ家から出ていき、そのままどこかに行き始めてしまう

 

「まってみんな、待って!」

 

ラナは外に出ていく一族であった怪物たちを引き留めんとしていくが

どの怪物もラナのことなど無関心といった具合で、無視して外に出ていってしまう

 

「そんな‥どうして‥‥」

 

結局、怪物になった一族の皆を止まることが出来ずに

悲観に暮れていくラナにマリアはゆっくりと迫っていく

 

「ラナさん、貴方は本当に可哀そうですね…

 

 他の皆さんの様に、力を得る好機を逃してしまい

 揚句には一族の皆さんに見捨てられるとはね、まあ…

 

 しょうがないですよね…結局あなたは誰も救えないのですから…」

 

「ああ‥ああああ‥‥」

 

自分のことを嘲るように無邪気な笑いを浮かべていく

その様子に、ただただ怖がることしかできないラナは声も上げられない

 

しかし、マリアはそんな彼女の様子を意にかえしていないように見せる

 

「さようなら…

 

 可哀そうな兎のお姉さん」

 

そう言ってマリアは武器から稲妻を発生させていき

それを、ラナの方に向けて大きく吹っ飛ばしていった

 

「きゃああ!!!!」

 

ラナはそれを受けて、大きく

ふっとばされて行ってしまうのであった

 

それを、笑みを浮かべて見詰めていくマリア

 

「フフフ…

 

 本当にかわいそうですね…

 

 仲間外れにされてしまうなんてね…」

 

くすくすと笑みを浮かべて言うマリア

 

そこにぱんぱんと手を叩きながら一人の女性が現れる

 

「フフフ、随分と大それたことをやったね…

 

 まさか、亜人に貴方の力を与えて

 怪物に変えてしまうなんて、何とも恐ろしい事…」

 

「…力が欲しいというから

 与えただけにすぎませんよ…

 

 それに、どっちにしても

 あの子達はこの先生き残ることも敵わなかったでしょうし…」

 

マリアのもとに現れた女性

 

先生

 

 

彼女にそう言われて、当たり前のことだと

いわんばかりに淡々と答えていったマリア

 

「‥しかし、結局それでも一人貴方の

 術中にはまらなかったものがいましたが…」

 

「…それについてはしっかり処分しておきました…

 

 さあて、それではマスターのもとに戻りましょう…

 

 恐らく、あちらの方も問題なく終わらせているもので

 あるでしょうしね、ついでにマスターのお目当ての子も…

 

 しっかり見ておかないとね…」

 

そう言ってその場から飛び去っていくマリア

 

先生の方はしばらく、ラナのいた方を見詰めたものの

やがて、興味をなくしたのかその場から去っていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

牢屋ごと、外に運び出されたシアは

自分の目の前にいる、複数人の人物の方を見る

 

五人の女性と二人の男性、更にその奥から

一人の人物が現れ、ゆっくりと自分の方に歩みよっていく

 

「‥‥白銀の兎人族…

 

 この子がそうね、ハジメ君…」

 

ナギサが確認をするように声をかけていく

 

「…状況を教えてくれるかな?」

 

「ん‥‥

 

 帝国兵の奴らは、ナギサが全部殺した

 それと、彼女以外にも兎人族がいたみたいだけれど‥‥

 

 どうやら‥慰み者にされたみたいで‥‥生きては

 いるけど死んでいる‥ほとんどの兎人族がそうだった‥‥」

 

「…そっか…

 

 それで無事だったのは、この子だけだったと‥‥」

 

リュナが答えていき、ハジメは興味なさげに答えていく

ハジメはゆっくりと、シアの前に立って彼女の方を見つめていく

 

「っ‥‥」

 

シアは突然現れた、ハジメたち一行を警戒した様子で見つめる

 

「…初めましてだね、兎人族のお嬢さん…

 

 こうして会うことが出来て、嬉しいよ…」

 

「あ‥‥」

 

シアは目の前に現れた男性、ハジメの表情を見て思った

 

彼に不思議と引き込まれるような感覚

 

すると、彼はシアの顔をじっと見て、笑みを浮かべて言う

 

「…ふうん、いいねぇ

 すっごく綺麗な瞳をしている…

 

 この世界の全てを憎んでいる

 この世界の全てをつぶしてやりたい…

 

 そんな、瞳だ…」

 

「‥っ」

 

その言葉を聞いて、驚いた表情をうかべていくシア

まるで、彼に自分の心の内を見透かされたような感じがした

 

「…君と僕たちは同じ領域にいる…

 

 ねえ、君は一体だれのことを憎んでいるのかな?」

 

「‥聞いてどうするんですか‥‥

 

 私の恨みを代わりに晴らしてやるとでも

 いうつもりですか、良いんですよそんな同情は‥‥」

 

シアはやや自暴自棄になりながら、そう返していく

 

「おや…?

 

 それだったら、君は君自身の力で

 君の復讐を果たしたいと言う事でいいのかな?」

 

「当たり前じゃないですか!

 

 私たちのいた国の奴らは私のことを

 化け物と罵り、一族もろとも国に追い出した!!

 

 此処でくたばった奴らは私たちを奴隷として

 慰み者として扱って、犯しつくして、精神的に殺した!!!

 

 ほかの仲間は捕らえられていく私たちのことを見捨てて逃げた!!!!」

 

先程までの物静かな雰囲気から打って変わって激しく言い放っていくシア

 

「許せない!

 

 どいつもこいつも許せない!!

 

 だれ一人とて、許したりなんてしない!!!

 

 全員、全員にこの手で地獄を見せてやりたい!!!!」

 

シアはハジメの方を睨みつけながら叫ぶように言うシア

 

「へえ…

 

 地獄を見せるって何?

 

 そいつらを、殺してやりたいの?」

 

「そんなわけないでしょ!

 

 ただ殺してやるだなんて生ぬるい!!

 

 あいつらにも味合わせてやりたい‥‥

 

 私の受けた痛み‥苦しみ‥‥絶望‥‥‥

 

 それをたっぷり味合わせてやったうえで

 そいつらを地獄の底に叩き落してやりますよ!!!」

 

そう言って吠える様に言いきるシア

 

その瞳には、かつての優しいシアの面影はなかった

 

あるのはただすべてを破壊し

すべてを蹂躙する事しか興味がない

 

復讐者であった

 

「…フ、フフフ…

 

 フフフ…

 

 ハハハ…

 

 あーっはっはっはっ!!!」

 

そんな、シアの言葉を聞いて大きく笑顔を浮かべていくハジメ

 

「いいねいいねぇ、最高だよお嬢ちゃん!

 

 そのすべてを受け付けない、狂気と執念…

 

 それこそが、僕が求めているものだ…」

 

「え‥‥?」

 

ハジメはそんなシアの言葉を聞いて

狂気に満ちた歓喜の笑顔を浮かべていき

 

「…でも君には、それを実行できる力が無い…

 

 内心では無理だと理解していたが、それでも

 あきらめきることが出来ずにただただ憎悪を

 その身に宿し続けた、憎しみっていうのは時が立てば

 

 和らいでいってしまうもの、でもどうやら君は違うみたいだね…」

 

ハジメはシアの方に檻越しに顔を近づけていく

 

「君は運がとてもいい、君はどうやら運に恵まれているようだ…」

 

ハジメは格子に隔てられているはずなのに不思議と自分の目の前に

彼の笑顔を浮かべた顔が目前に迫ってきているようにもおもえている

 

「ねえ、兎人族のお嬢さん…

 

 僕達と一緒に来ないかい?

 

 来てくれるというのなら

 君に君が果たしたい復讐のための力をあげるよ…

 

 君が大っ嫌いなこの世界なんて簡単に振り切れる力だ…

 

 そうすれば君が最も憎んでいる弱い自分ともおさらばできる…

 

 悪魔で選ぶのは君だ…君はどうしたい…?」

 

シアに選択と言う名の提案をしていくハジメ

 

「‥教えてください‥‥

 

 どうしてあなたは、私にここまで?

 

 私のような大した魔力も

 力もない私を助けてくれるのですか‥‥?」

 

シアはそう聞いていくと、ハジメは答えた

 

「…君と僕は、似たものどうしだからかな?」

 

「‥似たもの同士‥‥?」

 

シアは更に聞いていく

 

「…僕も君と同じさ、他の奴ら

 同郷、大人、ひいては家族でさえも

 まるで他とは違うような扱いをしてきて

 

 他と違う力を持っているという理由だけで

 今度は化け物の様に扱って、挙句には訳の分からない

 罪を押し付けて、否が応で処刑、まったく腹立たしいよ…

 

 そもそもの話し、力をしめす様に言ってきたのはあいつらの方だ!

 

 戦争に役に立たないならとっとと死ぬ

 逆に強くても自分達にはない力という理由で、裏切りの罪を着せて処刑!!

 

 てめえらのくだらねえ事情に俺を振り回すんじゃねえよ!!!」

 

「あ‥‥」

 

ハジメはまるで自分の胸の内を吐き出す様に言い放つ

シアは不思議とそんな彼の言葉に共感して、聞いていく

 

「だがもうそんなものはどうでもいい、どっちだっていい!

 

 なんていったってこっちにはもう、てめえらの下らねえ事情に

 振り回されることのない、いいやそれ以上の力があるんだからな!!

 

 思い知らせてやる、俺を虐げてきた連中にも、この世界にも

 ただ殺すだけなんてつまらねえ、俺があいつらに受けてきた

 そのすべてを思い知らせて、その上で地獄の底に叩き起こしてやる!!!

 

 おれはそう決めたんだ、絶対にやり遂げるって決めたんだからな!!!!」

 

シアはそれを見て、聞いて、感じていた

 

彼も、自分と同じなんだと

 

彼もかつては自分と同じように未知の力を持っている

たったそれだけのことで、虐げられ、傷つけられてきた

 

いいや、彼の言葉を聞いて、自分はまだ恵まれた方なのかもしれない

 

自分は両親から、父にも母にも愛されていた

二人共死ぬ間際まで自分のことを気にかけてくれていた

 

しかし、彼は違う、彼は最初っから両親に愛されていない

正確には愛されていたが何かが理由で愛されなくなった

 

確かに彼の言う通り、自分と彼は似ている

いいやある意味では自分よりも悲惨だったのかもしれない

 

彼には心の底より味方だと呼べる相手が

居ないようなものなのだと察した、そんな彼は自分を必要としてくれている

 

自分を求めてくれている、自分に力を貸そうとしてくれている

 

シアは不思議とそれが心地よく感じられた

恋と呼ぶには歪んでいるのかもしれないと自分でも思う

 

それでも、シアは彼を求めずにはいられなかった

 

故にシアは、答えをきめた

 

「‥私は今、本当に幸せな気持ちです‥‥

 

 こうして、貴方に求められている事

 あなたに必要とされているのが本当に幸せです‥‥」

 

シアは狂気的に恍惚とした表情を浮べて呟いていく

 

「‥お願いです‥‥

 

 わたしを貴方の手で、女にしてください‥‥

 

 私の血を、肉を、わたしの全てを貴方様に捧げます!」

 

シアはそう言って彼を求める様に手を伸ばしていく

それを見たハジメはしばらく表情を変えなかったが

 

その際に

 

「ぐぶっ!?」

 

シアの顔に巨大な爪を携えた巨大な手が掴みかかられている

 

「…まったく、はしたない兎だ

 見ず知らずの相手に随分と図太いことをする…

 

 でも、そんな君の事も嫌いじゃないよ、だから望み通り…

 

 君のことを僕の力で一気に染め上げていってあげるね…」

 

「ぐああ!!!!」

 

余りの事にシアは驚きもがくが

その際に、彼の力が自分に流れ込んでいくのを感じる

 

肉体が、心が、彼の力によって染め上げられていくのを感じていた

 

シアはそれを全て感じることによって、本心より思っていた

 

ーああ、自分は何て幸せなんだろうか‥‥ー

 

こうして、兎人族の忌み子と呼ばれた少女は

彼の手によって、強大な力を持つ罪徒として生まれ変わったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「はあ‥‥はあ…‥はあ‥‥‥…」

 

とある場所、そこでは

一人の少女が息を切らしていた

 

地面にまで、届きそうな金髪で美麗な見た目で

思わず見とれてしまいそうなそんな人物がいた

 

不意に髪の中から出てきたそれは

人間かにしてはとがっていて長いもの

 

所謂、エルフ耳というものであった

 

しかし、今の彼女の様子はどう見たところで

ただ事ではないことは明白である、良く見てみると

 

彼女の服からは血がしみだしている、その場所は脇腹のあたり

辛うじて、直撃はまぬがれているためか命に別状はないようだが

 

出血の量の事も考えると、彼女の命はそう長くはないだろう

 

それでも、彼女は出血を必死で抑えながら

必死で薄れていく意識をたもっていた、そんな中で

彼女はどうして自分がこのような目にあっているのかをおもい返していた

 

と同時に、その表情を哀しみで曇らせていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 



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Filia in arca Die den Wald regieren

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメのもとに新たな罪徒が誕生しておよそ十日が立った

 

ある場所では、一人の少女が何やら

悪だくみをしているような笑みを浮かべて

 

ある場所に静かに忍び込んでいた、その少女は

 

「‥ウフフ、ハジメさんの寝込みを襲って

 既成事実を作ってしまえば、もう誰にも私とハジメさんの仲を‥‥

 

 ひいては、私のハジメさんへの思いを邪魔するものは誰もいません‥‥

 

 それでは、失礼いたしましてぇ‥‥」

 

そう言ってある場所に入り込もうとした、そこに突然

 

「ふぎゃああ!!!!」

 

巨大な手が迫っていき、シアの顔面を勢いよく掴み込んでいった

 

「…まったく、君が何を考えているのかなんて

 僕からすればとっくに丸わかりだからね、っていうか…

 

 それに寝込みを襲うって言ったけれども、そもそも

 僕も今の君も、食事も睡眠も必要ないのは知ってるでしょ?」

 

「そ、そうでしたああ!!!!

 

 ごめんなさいごめんなさい

 別に取って食おうとしていたんじゃないんです

 

 ハジメさんに報告があってきたんですうう!!!!」

 

呆れたように話していくハジメに、シアは慌てて本来の用事を申し付ける

ハジメ自身、シアが別に自分のことを裏切ろうとしていたわけではないことは

原罪者の力によって理解していたので、アイアンクローからすぐに解放してやる

 

「報告?

 

 そう言えば、リュナちゃんと一緒に

 マヌエラから修業を付けてもらっていたんでしょ?」

 

「ふっふーん…

 

 そのことなのですが、私先ほど

 マヌエラさんの方針でリュナさんとお手合わせをしたのですが

 

 それで見事に、リュナさんに一撃を与えられたんですよ」

 

シアはドヤ顔で自慢する様に言う

 

「…知っているよ、全部見ていたからね…

 

 まあ、かすり傷程度だけれども、最初のころの

 ボロボロに打ちのめされていた時に比べればすごい成長だね」

 

「‥うう、ハジメさんには全部お見通しなんですね‥‥

 

 でもそれでしたら、話が早いです

 ハジメさん、頑張ったご褒美をください、私と一緒に夜を明かし‥‥」

 

シアはそこまで言うと、またもアイアンクローがシアの顔面に炸裂する

 

「ふぎゃああ!!!!」

 

「…まったく、兎は年中発情期っていうけれども

 逆に、ここまでオープンなのも考えものだよ、ほんとに…

 

 でも、その様子だとどうやら君は君の中にある能力を

 ある程度は使える様になってきたようだね、良く頑張っているようだ…」

 

アイアンクローをしながらもシアを称賛していくハジメ

 

「も、もちろんです!

 

 私はハジメさんのお役に立てるのなら

 どんな困難も目ではありません、リュナさんには負けませんよ!」

 

シアは話してくださいと巨大な腕を叩きながらも呟く

その後すぐに解放してもらい、自分の顔に異常はないか触れて確認していく

 

「嬉しいよ、僕にはシアも必要な存在だからね…

 

 シアが僕のために頑張ってくれるのは素直に嬉しいよ」

 

「フフ、ハジメさんにそう言っていただいて私も嬉しいです‥‥

 

 でもいつかはハジメさんに、私が必要だって言わせてあげますよ」

 

そう言ってシアは笑みを浮かべて言う

 

それに対してハジメは笑みを浮かべて返していく

 

「さてと、それじゃあそろそろ行こう…

 

 シアはある程度、能力の使用ができる様に

 なったみたいだしね、今後の方針について…

 

 他の皆と話をしていきたいと思っているから…

 

 シアちゃんもついてきてもらえるかな?」

 

「もちろん、何処までもついていきますよハジメさん」

 

そう言ってハジメの後をついていくシア

 

それからしばらくして、ナギサをはじめとする王たち九人に

リュナ、シアを加えた十一人がハジメの前に控えていく、その前には

 

ハジメ、右隣には先生もいる

 

「さて、こうして僕たちのもとにシアという

 新たな同士が加わった、今後の方針を決めていく前に

 

 マヌエラ、シアの能力についてはどうだい?」

 

「うん、すごいと思うよー

 

 ただ、シアちゃんはリュナちゃんと違て

 ラルヴァの力を攻撃力に転換するのが苦手みたいでねー

 

 あ、でも、逆にその力を自分の肉体の方に転換させる方は

 逆にシアちゃんの方に軍配が上がるよ、リュナちゃん同様に

 元々そちの方に適性があたて感じかな、そちの方では頼りになるかもー」

 

色欲の皇帝

 

マヌエラ

 

 

シアの修行に付き合ってあげていた彼女は

彼女のスペックを自分が感じた範囲に話していく

 

シアはそれを聞いて、リュナにドヤ顔を向けていくが

リュナは調子に乗らないとシアにジト目を向けていく

 

「そっか、要するに身体能力強化に優れているという訳か…

 

 彼女の能力と合わせると、実に興味深そうだね…

 

 今後も期待しているよ、シア…」

 

「もちろんですとも、あの時ハジメさんに出会えなければ

 私はこのような機会には恵まれませんでした、これから先も

 

 ハジメさんの期待にこたえられるように、日々精進していきます」

 

シアはそう言ってハジメに自身の言葉を伝えていく

 

「期待しているよ…

 

 幸雲と天運、狂気と波長、次元と銃弾、団子と大食の罪徒

 

 シア・ハウリア」

 

 

ハジメがそう言うと、シアは嬉しそうに笑顔を浮べていく

 

「それにしても、吃驚だよね…

 

 まさか、四対八つの能力に目覚めるなんて

 リュナちゃんだって、二対四つの能力なのに…」

 

強欲の皇帝

 

サディ

 

 

彼女はそう言ってシアとリュナの方を見て言う

 

「問題ない、能力の質と魔法に関しては負けていない‥‥」

 

運命と破壊の罪徒

 

リュナ・プレーヌ

 

 

彼女はそれがどうしたといわんばかりに反論する

 

「フフ、リュナさん

 

 そうやって油断をしていると

 私がいつかハジメさんをものに

 出来るくらいに強くなって、リュナさんを

 引き離していってしまいますからね、ふっふーん」

 

「ふん、寝言は寝てから言うもの‥‥

 

 あなたこそ、調子に乗って足元を掬われないようにするといい‥‥」

 

シアとリュナはそう言ってお互いに火花を散らしていく

 

「フフフ、仲がいいようで何よりだね…

 

 それじゃあ、そろそろ今後の方針に

 ついて説明の方をお願いね、ハジメ君」

 

そう言って、話を進めていくのは

 

先生

 

 

ハジメを原罪者として覚醒させた張本人の彼女である

 

「…ようし、それじゃあこれから僕たちは

 このトータスへの攻撃の足掛かりとして、まずは…

 

 拠点となる場所と、さらなる同士を増やしていく…

 

 そのためにこれから、君たちの中から何人かを選抜して

 とある二つの場所に向かって行く事とする、その場所とは

 

 ヘルシャー帝国とフェアベルゲンの二つだ」

 

「‥帝国とフェアベルゲン?

 

 どうして、その二つに向かうので?」

 

そう言って聞いてくるのは

 

虚栄の大王

 

リュカ

 

 

仮面をかぶっている彼は、ハジメに問いかけていく

 

「…まず第一に、この二つはエヒトに対しての庇護下にない事…

 

 帝国は完全実力主義の思想を持っていて、エヒトへの信仰心は無いに等しい…

 

 ハイリヒ王国と不可侵条約をかわしているらしいが、あのエヒト狂いの

 国がそんな国のことを良く思っているはずもないだろう、そんな国をエヒトが

 何の手も加えていないってことは、そもそもあの帝国自体に興味を向けていない…

 

 そう考えるのが妥当だろう、だからあそこを拠点とするために帝国を訪問する…

 

 次に向かうフェアベルゲン、あそこは言わずもがな

 亜人の国で、実質神に見捨てられているといってもいい…

 

 それに、どうやらあそこにもオルクス大迷宮同様に迷宮とされているらしいからね…」

 

「大迷宮…

 

 反逆者もとい解放者が遺したという

 神代魔法を手に入れるための試練…

 

 でしたよね、マスター」

 

暴食の皇帝

 

マリア

 

 

彼女が不意に、それを聞いていくとハジメはそうだと返す

 

「…まあ、そもそも魔法が使えない僕達には

 神代魔法を手に入れることは出来ない、でも…

 

 神代魔法を残しておいたところで、それを手に入れたやつが

 もしかしたら、僕たちの前に愚かにも立ち塞がろうとするかもしれない…

 

 だったら、迷宮を残しておく理由もないだろう…」

 

「‥マスター‥

 

 神代魔法の件もそうですが

 もっとなんとかしくてはならぬものがいるのでは?」

 

すると、何処か本能的な印象のリュカが意見を述べていく

 

「…南野 姫奈か…

 

 確かに彼女の能力は厄介だが

 今は慌てるものでもないだろう…

 

 実質、その力を使えるのは彼女一人だけなんだからね…

 

 それに、挑むにしても時期も早すぎるしね

 準備が整い次第にすぐに向かう事にしよう、今はまず…

 

 帝国とフェアベルゲンの攻略だ」

 

「‥…そう言えばこのライセン大峡谷にも

 大迷宮があるのではないでしょうか、確か‥…

 

 オルクス大迷宮の中にあったオスカー・オルクスの

 資料の中にあった解放者の死霊の中にあった名前に‥…

 

 確か、ミレディ・ライセンと‥…」

 

憂気の大王

 

ノルベルト

 

 

彼が、そんなことを尋ねると

 

「…まあ、ライセン大迷宮には

 マリアの奴が仕込んだ奴らが解き放たれている…

 

 大迷宮の攻略どころじゃないだろうさ…」

 

「…仕込みと言えば、マリアさん…

 

 兎人族を一羽、取り逃がしたらしいですね…

 

 本当に貴方は、詰めが甘い、施しを与えるなどという

 回りくどいことをしないで、一気に力を与えればよかったものを…」

 

嫉望の大王

 

チヒロ

 

 

彼女はそう言って、兎人族をマモノに変えたマリアを指摘する

 

「…問題はありませんよ…

 

 生き残ったその一羽の兎は私がしっかりと

 処分しておきました、ですので何の問題もありません…

 

 仮に生き残ったとしても、今やマモノ達が救うあの谷で

 非力な兎人族が生き残れる可能性はゼロに等しいでしょう…」

 

「‥‥…」

 

マリアの言葉に少し難しい表情を浮べているのは

 

傲慢の皇帝‥‥

 

 

彼女はじっとマリアの方を見詰めていた

 

「…何にせよ、これから行う

 帝国とフェアベルゲンの攻略の方も進めていく…

 

 フェアベルゲンの方は、チヒロ…

 

 ヘルシャー帝国の方は、マヌエラ…

 

 それぞれが行って来てほしい…」

 

「承りました…」

 

「任せてー!」

 

選抜された二人は、それぞれの反応を示していく

 

「それから、シア!」

 

「っ!

 

 はいですぅ!!」

 

ハジメに呼ばれて、嬉しそうに

跳び上がって彼の方に行き、前に立つ

 

「何でしょう、ハジメさん!」

 

「シア、それではさっそくだが君には

 マヌエラのお傍付きを任せたい、今後は

 彼女の指揮の下で活動をしてもらいたい…

 

 任せられるね?」

 

ハジメがそう言うと、シアはふうと息を漏らすと

 

「それがハジメさんの意志ならば‥‥」

 

と、静かに了承するのであった

 

「…それで、どうやって帝国に行くのかだけれども…

 

 何か考えはあるの、マヌエラ?」

 

ハジメはマヌエラに段取りを聞いていく

 

「‥‥うん、まずはこの帝国兵が使てた馬車を

 利用して、帝国兵として中に入っていくかなー

 

 身分証明書のステタスプレトもあるしー

 

 ただ、問題は帝国兵の顔が分からないー‥‥」

 

「うぐ…」

 

マヌエラにそう言われて、ばつが悪そうにするのは

 

憤情の皇帝

 

ナギサ

 

 

それはそうである、帝国兵はみんな

ナギサが倒して燃やし尽くしてしまったのだから

 

しかし

 

「あの‥帝国兵の顔でしたら私、覚えてますよ‥‥

 

 皆さんに会うまで本当に、嫌でもあってましたから‥‥」

 

シアが恐る恐る聞いていくと

マヌエラはシアの手を嬉しそうに握っていく

 

「ホント!?

 

 ありがと、シアちゃん!

 

 さそく教えてもらてもよいー?」

 

「え、ええ‥‥

 

 教えてあげるくらいなら‥‥」

 

「わあ、ほんとにありがとー!

 

 シアちゃんはほんとにすごいねー」

 

そう言ってシアの腕をぶんぶんと

振り回す勢いで引っ張っていくマヌエラ

 

シアはあまりのテンションの高さにやや引き気味である

 

「…それで、作戦の方は?」

 

「はい、まずは私の能力で、帝国兵になて

 シアちゃんを奴隷として、国の方に入っていきます」

 

「ちょっと!?

 

 それってつまり私のことを売るってことですか!?」

 

「そだけど何か?」

 

「正直に答えましたね!?

 

 っていうか、それってつまるところ

 私を取引材料にするおつもりですか!?」

 

 いくらなんでもそれは‥‥」

 

シアはやや慌てた様子で、マヌエラに抗議するが

それをマヌエラはピンと自身の人差し指を立てて、それを

シアの唇に当てていく、それを受けて思わず言葉を止めてしまうシア

 

「大丈夫だよー、売りに行くて言ても本当に売るわけじゃないしー‥‥

 

 それに、シアちゃんみたいな子を売りに出すなんて

 そんな愛のないことなんてしないよー、だから落ち着いてー‥‥」

 

「あ‥‥」

 

マヌエラの無邪気な笑顔を見て、シアは不覚にもときめいてしまう

 

同姓であるのに、自分には

ハジメという心に決めた相手がいるのに何たる不覚

 

「まあ、ようするにシアちゃんを国に献上するて口実で

 国のふところに入ていて、一気に王様の寝首を刈ちゃうてことー

 

 分かたー?」

 

「‥わ、分かりました‥‥

 

 しかし、思っていたよりも過激ですね‥‥

 

 はっきり言って、穏便に済ませられるとかんがえましたけど‥‥」

 

シアは恐る恐る聞いていく

 

「もちろん、それで済ませられるならそうするよー

 

 それに、実力主義なんて愛のないのは嫌いだしねー‥‥」

 

マヌエラはそう言って、馬車の方に向かって行くと

シアにおいでと手招きして、さっそく準備を進めていく

 

「…それじゃあ、チヒロの方もお願いできる?」

 

「…お任せください、主様

 

 主様にお仕えする身として恥ずかしくない働きをして見せます…」

 

チヒロはそう言って、ハジメに片膝を立てて頭を深々とさげていく

 

「…さてと、それじゃあ僕の方もそろそろ、行きますか…」

 

そう言って、ハジメの方も何やら動き始めていく

 

「マスター、どうなさいましたか?」

 

「うん、ちょっとね…

 

 もしかしたら、また一人

 同士を増やせるかもしれないと思ってね…」

 

「同士、ですか‥…

 

 果たしてそれは、我々のひいては

 主様の役に立てるほどのものなのでしょうか‥…」

 

ノルベルトはそんなことを言って行く

 

すると、そんな一同をよそに

その場から動き出していく影が

 

「うん‥‥?

 

 どこに行くのナギサ?」

 

リュナは不意に、その場から離れていく影

ナギサに声をかけ、何処に行くのかと訪ねていく

 

「‥‥ちょっと気がかりをつぶしにね…

 

 それに、動く予定がないなら暢気に待っている必要もない…」

 

そう言って、ナギサの両腕が巨大な翼状に変化していき

彼女はそのままいずこかへと飛び立っていくのであった

 

「‥‥」

 

それを見た傲慢の皇帝は

弟であるリュカに目配せをしていく

 

「‥リュナ、行くぞ‥

 

 ナギサさんが何処に向かったのかは

 大体予想がつく、俺たちもついて行くぞ‥」

 

「何で私が貴方の言う通りにしないといけないの‥‥

 

 私に命令してもいいのは、ハジメだk‥‥」

 

リュナがリュカに物申そうとしたとき

 

「行ってあげてリュナ…

 

 君は傲慢の皇帝のお傍付きでしょ?

 

 だったら、弟君のリュカにもついていってあげて…」

 

「ハジメ‥‥!?」

 

「…それに、あんまり弟君を邪険にすると

 それこそ、お姉さんが後になって怖いからね…」

 

ハジメがそう言うと、リュナの後ろの方から

罪徒になってそれなりの力をつけたリュナでさえも

圧倒されてしまうほどの威圧感を大きく感じていく

 

リュナは恐る恐る、威圧感のする方を見てみると

 

「‥‥」

 

傲慢の皇帝が、リュナに黙って行けと

いわんばかりにリュナを睨みつけていた

 

「‥わかった‥‥ついていく‥‥‥

 

 行きますからもうやめてください‥‥

 

 もう、文句なんて言いませんから‥‥!」

 

リュナがそう言うと、その場に蹲る様に跪き

やや息を切らしたものの、すぐに呼吸を整えていく

 

「‥行こう‥‥」

 

「フフ、さすがのリュナも

 姉さんには敵わないようだね‥

 

 まあ、かくいう私もそうなんだけれどね‥」

 

そう言ってリュナとリュカは

それぞれ九人で向かって行った

 

「…まったく、ナギサさんは…

 

 そんなにまでして、神代魔法を

 脅威に感じているのかね、まあいいけれど…」

 

そう言ってハジメはさっそく、自分の

目的の者のいる所に向かって行くのだった

 

その者とは

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハウリア族が忌み子をかくまっていたという理由で追放されて数日後の事

 

亜人族の中でも特に位の高い種族

 

森人族、ハジメたちの世界で言うエルフ族

 

そのエルフ族を束ねているのは亜人の国

フェアベルゲンを束ねている、長老衆の一人

 

アルフレリック・ハイピスト

 

 

彼は、ハウリア族の件においての執務作業に励んでいた

 

そんな彼のもとに、一人の人物が入り込んでいき

ずかずかとアルフレリックのもとに歩みよっていくと

 

「お爺様!

 

 一体どういうことですか!!」

 

そう言ってアルフレリックに怒鳴り込んできたのは

 

アルテナ・ハイピスト

 

 

アルフレリックの孫娘で、同じ森人族の少女だ

 

「アルテナか、すまないが後にしてもらえるか‥…

 

 これでも事後処理で手が回っていないのだ‥…」

 

「お爺様、シアさんを

 ハウリア族を追放したというのは本当ですか!?」

 

アルテナはそう言って、アルフレリックに詰め寄っていく

 

「‥‥…本当だ」

 

「‥‥どうしてですか‥…

 

 確かにシアさんは魔力を持ってそれを

 操る力をもっていたかもしれません、でも‥…

 

 でもだからって、何もこんな事を‥…

 

 シアさん自身は何にも悪いことはしていないのに‥…」

 

納得出来ないといった感じで詰め寄っていくアルテナ

しかし、アルフレリックの方は呆れたように一息をつく

 

「‥‥…アルテナよ、もうこれ以上私を困らせないでおくれ‥…

 

 ハウリアの処刑の時も、今のように異を唱えて他の長老方を

 戸惑わせては、それこそ我々の顔が立たなくなる、なによりも

 今回の判決とて、出来るかぎりお前の意見を聞いた上でようやく

 下した決断なのだ、なのにお前はまたもこうして我儘を言うなど‥…

 

 すまんがもうこの話は終わったことだ、悪いがまだ仕事が残っている

 

 速く自分の部屋に戻れ‥…」

 

「ですが、お爺様‥…」

 

「出て行けと言っておる!

 

 もうこれ以上、私を困らせるな!!

 

 もうハウリア族の刑は執行されたのだ

 過ぎたことでいちいち私に我儘を言うな!!!」

 

アルフレリックはたまらず、孫娘でアルテナを怒鳴り付ける

 

それを受けたアルテナは涙を浮かべて

プルプルと体を震わせながら強く握り拳を作る

 

「‥‥お爺様はいっつもそうですよね‥…

 

 私の意見も話にも、耳を傾けずにいっつも

 自分の都合ばっかりで私の意志を理解しようともしていない‥…

 

 揚句には、私にとって初めての友達だって、お爺様は平気で捨てた‥…

 

 お爺様も結局は、私の事なんて興味がないのですね‥…」

 

「アルテナ‥…?」

 

様子のおかしい、アルテナを見て不意に彼女の方を見る

 

「‥‥長老の馬娘、美しき森人族の姫君‥…

 

 最初のころはそう呼ばれることに何の疑問もなかった‥…

 

 でも、大人になっていくうちに、理解した、してしまった‥…

 

 周りの者は、一族の者達は私に対してその程度の価値しか

 見出していないと、そんな中で出会ったのがシアさんでした‥…

 

 魔力を持ってる‥‥魔力を操れる‥…固有魔法を持ってる‥‥‥…?

 

 それが何だっていうんですか!

 

 彼女は‥‥シアさんは‥…私にとって初めてできた友達です!!

 

 それを、亜人族の風習なんかのために

 そんなくだらないもののために奪われてしまって‥…

 

 わたしには自分の友人すらも自由に作ることも許されないんですね‥…」

 

アルテナの目からは、涙がうかんでいた

顔をあげると同時にその目から涙があふれていく

 

「こんなに苦しい思いを抱えて生きていくくらいなら‥…

 

 私は‥‥貴方の孫娘になんて生まれたくなかったですよ‥…

 

 お爺様‥…」

 

そう言って、何もかもから逃げ出す様にアルテナは部屋を出ていった

 

「待てアルテナ、待ちなさい!」

 

アルフレリックは思わず仕事を中断して

アルテナを追って行くが、もうすでに彼女の姿はなく

アルフレリックは部屋の前で呆然と突っ立っていたのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

アルテナ・ハイピスト

 

 

彼女は亜人族の中でも特に位の高い

森人族として生を受け、更にはその長老である

 

アルフレリック・ハイピスト

 

 

彼の孫娘であると言う事に重ねて、心優しく美麗な容姿の持ち主故に

同族の者達からは慕われていた、幼少のころはそれに満足していたが

 

大人になっていくにつれて、やがて

その待遇に対してある感情を抱き始める

 

自分は、美しくて優しい族長の孫娘という色眼鏡でしか見られていない

 

彼女は気が付いた、自分は自分が思っていた以上に孤独なのだと思い知らされた

 

大人になっていけばいくほどに心に穴が空いていくように広がる虚しさ

 

気がついたら、森人族の里から離れて

森の中で一人で過ごすことが多くなっていた

 

風の音、風によって木々がなびく音、川のせせらぎ、鳥の鳴き声

 

森の中で聞こえてくるその音は不思議と彼女の心に安らぎを与えてくれる

 

だが、その日は少し訳が違っていた

 

アルテナが暫く、森の中で静かに過ごしていると

なにやら森の奥の方から何か野太い鳴き声と大きな足音が響く

 

いったい何なのかと、様子を見に行こうとすると

それを一人の兎人族の少女に止められて、ここは危険だと

そう言われて、その場から連れられていった、それがアルテナと

 

シア・ハウリア

 

 

彼女との初めての出会いであった

 

そのころからシアとともに過ごす時間が多くなり

彼女はアルテナにいろんなことを離してくれた、まず

 

自分には亜人族には本来はない、魔力を持ち

更には魔物の様に魔力を自由に操ることができるらしく

 

さらには、魔物しか持たない固有魔法を持っていると

 

アルテナの危機を知れたのは、この固有魔法、未来予知によって

自分が強力な魔物に襲われて行く未来が見えたので、助けてあげた言う事

 

アルテナは忌み子の事は聞かされていたため、最初の方こそ驚いたが

その能力のおかげで自分の命が救われたのだから、もちろんお礼は言った

 

その際に、シアは幼いころに母が自分の力のことで励まされたことも話した

 

アルテナも、両親を亡くしているので家族がいなくなる気持ちはわかる

 

なにより、その言葉と固有魔法のおかげで、自分の命は救われたのだ

 

忌み子と呼ばれても、兎人族であろうとも関係ない

彼女は自分にとっては命の恩人である、それにもしかしたら思い

 

アルテナは思い切ってシアに言う

 

「私と友達になってくれませんか?」

 

その言葉を聞いて、シアは笑みを浮かべて嬉しそうに了承してくれた

 

こうして、アルテナにとって初めて心の底から友達と呼べる相手が出来た

シアにとっても、自分の力のことを知っても普通に知ってくれるかけがえのない

そんな相手が、一族以外の亜人族の者の中から現れてきたのだ、二人は大いに喜んだ

 

二人は森の中でおしゃべりなどをして過ごしていた

 

だが、そんな日々など送らせるものかと

言わんばかりに、そんな楽しい時間は運命によって終わらせられてしまった

 

何と、シアのことが長老衆にばれて

一族もろとも裁判にかけられることとなってしまった

 

アルテナはそれを聞いて、慌てて祖父に掛け合い

シアも他のハウリア族の者たちの事も許してもらいたいと掛け合った

 

しかし、本来ならば処刑に処されるはずだった決定を抑えられたものの

下された判決はある意味、処刑されるよりも残酷な判決であった、それは

 

ハウリア族全員の追放

 

フェアベルゲンの外には強力な魔物が住まっている

亜人族の中でも非力と呼ばれている兎人族では絶対に生き残れない

 

生き残れたにしても、最悪人間族に奴隷として捕らえられて

おおよそ、まっとうな生活など送れるとは思えない人生を送らされることになる

 

アルテナはこの残酷な判決を下した祖父を始めとする長老衆を怨んだ

だがそれ以上に考えが浅かった自分自身の無知さを呪った、彼女の心には

 

憎しみと虚しさのみが残った

 

やがて、祖父の元を跳び出した彼女はそれこそ

どのくらいにまで走ったのかわからないほどに必死に走った

 

しかし、元々大切に育てられた彼女は体力などそれほどない

さらに亜人族であるため魔力にも恵まれていない、そんな彼女が

樹海の外で、生き残っていこうなど、到底簡単なことでないのだ

 

さらに、そんな彼女をさらに追い詰めていく出来事が起こる

 

何と、魔物の攻撃にやられて瀕死の状態になってしまう

急所すれすれの場所に対する場所の上に毒の付与、とてもではないが

彼女の命は助からない域に達している、アルテナは薄れゆく意識の中で

 

ある一つの心残りを口にしていく

 

「‥‥シアさん‥…死ぬ前にもう一度‥‥‥…

 

 あなたにお会いして‥‥謝りたかった‥…

 

 許してもらえなくていい‥‥嫌われてもいい‥…

 

 それでも‥‥謝りたかった、あなたを助けられなかった事‥…

 

 あなたという大切な友人を守りきれなかった事を‥…」

 

何度も何度も、ごめんなさい、ごめんなさいと

意識が薄れていく中で謝罪を続けていくアルテナ

 

命の炎が静かに燃え尽きようとしていた

 

その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう言うのは、直接会ってからじゃないと伝わらないよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「‥‥え‥…?」

 

意識が薄れていく中で、アルテナの耳に

なにやら優しい声が聞こえて意識が薄れて

良く見えなくなっている目を声の方に向けていく

 

「…そっか…君はシアさんの友達だったのか……

 

 でもこのままだとしんでしまうね…ねえ。お嬢さん…

 

 助けてほしい?

 

 もっと生きたい?」

 

アルテナは弱弱しく声も出せないが、それでも精一杯唇を動かす

 

ー生きたい‥…ー

 

アルテナがそう唇を動かすと、彼女の顔に

なにやら鋭い爪の生えた指を大きく食い込んでいく

そんな感触を感じていき、アルテナはそっと意識を失って行った

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

シアが一族もろとも、フェアベルゲンを追放されて

十日以上が立ち、アルテナの件でややざわついていた空気が収まってきたある日

 

フェアベルゲンに一人の来訪者が訪れていく

 

その突然の来訪者のもとに現れるのは

フェアベルゲンの警備隊を務める、虎人族の者であった

 

「動くな!

 

 なぜここに人間がいる!!」

 

そう言って、来訪者の女性に呼びかけるも

女性はそれを見ても特に意に返すことなく口を開く

 

「…亜人族の皆さん、お初にお目にかかります…

 

 私はある御方の使いとして、こちらに来訪しました…

 

 チヒロと、申す者…

 

 フェアベルゲンの長老方と是非ともお会いしたく

 思い、こちらにはせ参じました次第でございます…」

 

チヒロと名乗ったその人物は至極丁寧にそう返していく

 

「黙れ、人間風情が長老様方にお会いできるわけがないだろう!

 

 さっさとここから出ていけ、さもなくば貴様をこの場で‥っ!?」

 

虎人族の男性がそこまで言いきると、チヒロはそんな彼の方に目を向ける

赤色で緑色の瞳孔が自分の方を向けた際に、たったそれだけのことでその男性は

 

本能的に悟ってしまった、この人間いいや

 

あれは恐ろしくヤバい、と

 

「…話を通して、いただけますね…」

 

『『『‥』』』

 

その場にいた虎人族もまた、その恐ろしさを肌で感じ

リーダーともいえる人物が、話をとしてくるから待って

ほしいとその場を離れて、フェアベルゲンの方へと走っていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

そのころ

 

「はあ‥…」

 

なにやら、気の重そうな雰囲気を纏わせるアルフレリック

 

そんな彼のもとに一人の森人族の者が入っていく

 

「アルフレリック様…」

 

「どうした、アルテナは見つかったのか?」

 

「…いいえ、実は…」

 

もしかして孫娘であるアルテナのことに関してなのかと思ったが

別の用事である事にやや気落ちしてしまうものの、何かと布告を受ける

 

「‥‥…なに、客人が?

 

 悪いが今はそれどころではない

 申し訳ないが帰ってもらってくれ‥…」

 

「…それが、どうやら例の資格者らしいのです…迷宮の攻略者…」

 

「‥‥…なに‥…!?」

 

資格者、それを聞いて驚いた様子を見せていくアルフレリック

 

「…‥‥そうか、もしもそうだというのなら

 口伝に従わなくてはなるまい、客人の方は私が出迎えよう‥…

 

 お前は引き続き捜索の方を続けてくれ、必ず…‥‥見つけてくれ‥…」

 

「はい」

 

そう言って重い腰を上げて、自分のやるべきことを為そうと考え

アルテナの捜索を引き続き続けてほしいと、言伝を伝えた森人族に伝えるのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

数人の森人族の護衛を連れて

アルフレリックは、客人のいる場所にへと案内される

 

そこにいたのは、水色の長い髪をなびかせた

人間族の女性にしては背が高い方で、美麗な容姿の女性であった

 

どこか、生真面目で凛々しい見た目をしている

 

「お前さんが、我々と話をしたいと申し出てきた客人か?」

 

「…チヒロと申します…

 

 本日は私のようなものの頼みを聞いて下さり

 心より感謝申し上げます、お近づきの印というほどのものではありませんが

 

 まずは、こちらの方を…」

 

そう言って、チヒロはあるものを見せていく

それは、一つのただの指輪である、それを見て

アルフレリックは驚いたように眼を見開いていく

 

「ほう…‥‥これは、オスカー・オルクスの紋章‥…

 

 これを持っているという事は、どうやらオルクス大迷宮を

 攻略したという報せは本当だったようだな、そういう事ならば

 私たちはお前さんを歓迎しよう、満足のいくもてなしは出来んが‥…」

 

「お気になさらず、むしろ私の方こそ突然押しかけていく形に

 なってしまって申しわけありません、長老の皆様もいろいろと

 お忙しい身であるというのに、お気遣いのほど痛み入ります…」

 

生真面目な雰囲気だが、落ち付いている雰囲気があり

アルフレリックは言動の中から見える自身たちへの気遣いを感じ

 

不思議と、孫娘の事ですり減らしていた精神が不思議と安らぎを覚えていた

 

やがて、アルフレリックの案内を受けて

フェアベルゲンの案内をしつつ、自分達の国の方を見せて回っていた

 

「いかがでしょうか、チヒロ殿…‥

 

 我らの国、フェアベルゲンは…‥」

 

「…ええ、とても美しく心が洗われるようです…

 

 やはり美しいものは見ていて、安らぎをおぼえます…

 

 実に、素晴らしいものです…」

 

チヒロはそう言って、フェアベルゲンの景観の美しさを素直に称賛する

それを聞いてアルフレリックもその場に居合わせた亜人たちも悪い気はしていないようで

 

動物の特徴を持つ者は尾を動かしたり、ピンとたてたりと

それぞれ動作は違うものの、嬉しそうな表現を現していた

 

やがて、ある部屋に案内されたチヒロはアルフレリックに

案内され、応接間ともいえる場所で向かい合うように座っている

 

「それで、チヒロ殿…‥

 

 あなたの目的はこの七大迷宮が一つ

 ハルツィナ樹海の攻略という事でいいのですな?」

 

「…ええ、この樹海に来る前に私どもはオスカー大迷宮を攻略し

 このトータスという世界の歴史の裏に隠された真実の形を知りました…

 

 それに対抗するためにも、私たちは七大迷宮を攻略する事を目標としました…

 

 私どもがこのフェアベルゲンにやってきた理由は、このハルツィナ樹海

 その中心にそびえるとされている大樹ウーア・アルトにあると考えています…

 

 そこに向かうためには、ぜひとも皆様のご協力を仰いでほしいと思いましてね…

 

 もちろん、それまでの間は私どもがあなた方の安全の保障は致します

 私どもとしても皆様と敵対したいわけではありませんからね、私たちは

 この樹海にある迷宮の案内を要求し、その対価として皆様の安全を保障する…

 

 私としても、皆様にもメリットのある話だと思いますが

 アルフレリック殿の意見の方を、お聞かせ願いたいのですが…」

 

チヒロは自分の要求を口にする

 

チヒロの申し出は確かに彼女の方にも

亜人族たちの方にもメリットはある、ここ最近

人間族と魔人族の戦いが激化している中で、自分達のことを

守ってくれるものがいるのは心強い、アルフレリックの方も

わずかな期間ながらも、自分達のもとに余裕ができるのならば

もちろん、その申し出を受けるべきであると考えている、なにより

 

彼女の実に落ち着いた雰囲気に好感を持ち始めていた

 

「確かに私どもとしては、チヒロ殿のような方に

 我々の守護の方を任せられるというのであるならば心強い

 

 それに、チヒロ殿が迷宮の攻略者であるというのであれば

 我々は口伝に従い、大樹に向かうというのならば、ご案内させていただこう…‥

 

 ですが、大樹付近は特に霧が深く、索敵能力に優れる我等亜人族でさえも

 方角を見失ってしまうほどです、そしてその霧は十日に一回のペースで晴れていきます…‥

 

 故に、すぐに案内をすることは出来ませぬゆえに、どうかその点のみはご了承を…‥」

 

「そうですか…

 

 それでしたら、ぜひとも我が主と会っていただきたい…

 

 皆様が私とこうして友好関係を結べたと

 知れば、快く来訪してくださるでしょう…」

 

ハルツィナ樹海は方向感覚を狂わせる作用のある、霧に覆われている

 

亜人族は優れた探知能力を持っているが

だからと言ってその影響を受けない訳ではない

 

ゆえに、その霧が特に濃くかかっている大樹付近では

亜人族ですらも方角を見失ってしまう、故に霧が薄まっていく

ある周期の時にしか、大樹の方に向かうことは出来ないのである

 

「フム、チヒロ殿の様な方が言うお方ならば

 私としても是非ともお会いして話をしてみたいものです‥…

 

 御来訪いただけるなら我ら一同是非とも歓迎させていただきます…‥

 

 ただ、問題はこの場にいない長老たちが賛同してくれるのか…‥」

 

アルフレリックがそこまで言い切ると

いきなる扉がけ破られる音とともに、誰かが会談の場に入ってきた

 

アルフレリックは少し怪訝な表情を浮かべ

チヒロは視線のみをそちらに向けていった

 

「アルフレリック!

 

 貴様、どういうつもりだ!

 

 なぜ人間をこの地に招き入れた!」

 

そう言って会談の場に割り込んできたのは

熊の亜人、熊人族の男性で、彼は怒鳴る様にアルフレリックに言う

 

「なに、口伝に従ったまでだ

 

 お前も各種族の長老の座についているのなら、事情は理解しているだろう?」

 

「ふん、何が口伝だ、あんなもの眉唾物ではないか!

 

 この、フェアベルゲンが建国されて以来

 ただの一度も実行されたことがないではないか!!」

 

「だから、今回が最初になる、それだけの事だ

 お前も長老ならな掟に従え、掟を守らねばならぬ長老が

 その掟を軽視しては、それこそ面目が立たんだろう」

 

「なら、こんな人間族の子娘が資格者だというのか!」

 

そう言ってなおも食って掛かるが

アルフレリックはその男性にあるものを見せる

 

「これが、その証拠だ…‥」

 

それは先ほど、チヒロが見せた指輪

オルクスの紋章の入った指輪であった

 

「ふうん、これはオルクスの紋章だね‥

 

 証拠としては申し分ないけれども

 ただ、攻略者としての実力のほどはあるのか、だけれど‥」

 

そう言って、ちらりとチヒロの方を

見る狐の耳を生やした、糸目の男性

 

チヒロは特に長老衆のやり取りに関して

何かを言おうとしている様子は見たところはない

 

「ふん、紋章があったところで何だというのだ!」

 

「そうだ、そもそもあのような華奢な娘が本当に

 オルクス大迷宮を攻略したのかどうかすらも疑わしい!

 

 おれは絶対に認めんぞ!」

 

そう言って長老衆は、承認派と否認派

あくまでその様子を見る中立派に分かれて口論していく

 

チヒロ、もとい彼女の言う主を承認するアルフレリックと

チヒロのことをかたくなに認めぬ、熊人族、虎人族とさらに

土人族、所謂ドワーフのそれぞれ三種族の長老による否認派

 

あくまで、双方の意見に耳を傾けている狐人族と翼人族の長老の中立派

 

三方、というよりアルフレリックと

否認派の三人の意見のぶつかり合いになっている

 

双方の意見は完全に平行線だったが

 

やがて、反対派の者が放った一言

たったの一言がすべてを変えることになった

 

「‥そもそも、あのような薄汚い(・・・)人間の言うことなど

 信用するに値などせぬ、すぐにでも化けの皮をはがして

 

 その醜い(・・)本性を白日の下にさらしてくれる!」

 

そう言って、熊人族の者がチヒロの方に向かって行こうと

彼女の方を振り向いたその瞬間、彼に向かって途轍もないオーラが放たれる

 

そのオーラを受けて、反対派の長老たちはもちろん

中立派の長老たち、承認派のアルフレリックでさえも震えあがっていく

 

その途轍もないオーラを放っているのは先ほどまで

自分達のやり取りを落ち着いた様子で見ていたチヒロであったのだ

 

チヒロの体からあふれ出てくるオーラはその威圧感だけで

周囲の壁や地面に音を立てて罅を走らせていき、天井の装飾が地面に落ちていく

 

「…汚いだと?

 

 醜いだと?

 

 それは私のことを言っているのか

 

 

彼女はそう言ってひりだすような声を放つと

彼女の頭からそれぞれ二本の角がメキメキと音を立てて生えていく

 

チヒロが俯かせていた顔を前の方に向けた、その時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  私の事を言っているのかあああ!!!  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その声があたりに響き渡る怒号

それと同時にチヒロの姿が段々と変貌していく

 

やがて、それは長老たちを見降ろすほどの巨体となり

その見た目に見合う力、いいやそれ以上の力を発していった

 

 うがあああ!!! 

 

叫び声のような雄叫びを上げる今のチヒロは

先程まで長老たちや、他の者達の目に映っていた

 

美麗な女性などとは、とても呼べぬ姿になっていた

 

その口から放たれた雄叫びは

たったそれだけでフェアベルゲン、ハルツィナ樹海

いいやトータス全域の天候を大きくそれも激しく変えていった

 

空は黒い雲で覆われ、雷は鳴り響き

強風と雨が入り混じった激しい嵐が巻き起こっていく

 

余りの突拍子もない光景に

長老たちは先ほどまでの口論など

 

とっくに頭の中からに抜け落ちていた

 

だが、チヒロにとってはそんな程度のことなど

決して意に返す者ではない、変貌したチヒロの力は

フェアベルゲン、ハルツィナ樹海、その周辺、否

 

トータス全土に響き渡っていった

 

彼女の叫び声とともに、あたりの空気が勢いよくふるえ

気がざわついていき、地面が振るえ、海が波打っていき

 

トータス全土が彼女の力に共鳴し始めていく

 

それはそこに住まう人々の方にも影響が出始めていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

トータスに住まう者達全員が感じた

 

感じて無意識に行動した、多くの者が

これまでやり残していたことを遣ろうという如く

 

時には食事を、時には愛するものと添い遂げて

 

思い残すことが無いように、悔いが残らないように

 

トータスに住まう者達はすぐさま、行動を起こしていた

 

さらにそれは、トータスに召喚された勇者一行の方にも影響が出始めた

 

「ねえ、エリリン‥」

 

そう言う彼女は

 

谷口 鈴

 

 

「ど、どうしたの鈴?」

 

中村 恵里

 

 

親友である彼女にいきなり抱き着いてきた

セクハラやいたずらならばいつもの事だが

 

恵里は、鈴の様子がおかしいことに気が付いていた

 

鈴の表情は怯えてていた、不安も悲しみも

それこそ、何も感じないほどの恐怖が彼女の表情から感じ取れていた

 

さらにそれは、他のメンバーにも起こっていた

 

「つ、辻!

 

 頼む、俺の傍に居てくれ!!」

 

勇者パーティーとともに戦闘訓練に参加していた土術師の男子生徒

 

野村 健太郎

 

 

彼はそう言って、同じパーティーの治癒師

 

辻 綾子

 

 

彼女を後ろから行き成り抱きしめていった

 

「ち、ちょっと野村!?

 

 いきなり何やt‥!?」

 

そんな健太郎を注意しようとする、同じパーティーの付与術士

 

吉野 真央

 

 

彼女はそこまで言って、言葉が出なかった

何故なら彼の顔も、今の鈴と同様におびえていた表情だったから

 

しかし、永山パーティーの他の面々も他の者たちも

 

「こ、これは一体何が起こって…」

 

クラスのリーダーであり、勇者である

 

天之河 光輝

 

 

彼もまた、鈴や健太郎のようなあからさまな態度は

見せていないが、それでも動揺の方は隠せていない

 

だが、それ以上にひどかったのは

 

「ああ…あ…あぁあっあぁぁぁあ……ぁあ!ああああ…‥‥ああぁ…あ‥………………ああああ…‥‥‥…………………!ああああ…‥‥」

 

小悪党グループのリーダー格

 

檜山 大介

 

 

彼は頭を抱えてひどくその場に蹲って、頭を抱えていく

 

「だ、大介!?

 

 どうした?」

 

「しっかりしろって!」

 

余りのその反応に、他の三人は心配になって駆け寄っていく

だがそんな彼らの心配など、檜山は気にかけることなくただだた怯えていた

 

更にこの影響は、彼等のみならず

 

「だ、団長‥‥!」

 

彼等に同伴していた騎士団の面々も感じ取っていた

 

「(何だこの気配は‥‥

 

  これまで戦ってきた魔物たちでさえ

  これほどのプレッシャーを感じたことなどない‥‥

 

  いったい、何が起こっているんだ‥‥?)」

 

ハイリヒ王国騎士団長

 

メルド・ロギンス

 

 

彼は今まで感じたことのない

その威圧に、今までにない焦りを覚えていた

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「っ!?」

 

ある場所より放たれたそのオーラを感じ取ったのは、こちらも同じであった

 

「な、何なんですかこれ‥‥

 

 なにか強大な力を持った何かが

 すぐ近くにいるかのような威圧感は‥‥」

 

帝国に向かっている途中であったシアも

その強大なオーラに圧倒されて行き、思わず身じろいで行く

 

「あらら、どやらチヒロさん‥‥

 

 我慢できなくて、爆発しちゃたー?」

 

そう言って何やら呆れた様子でつぶやくのは

 

色欲と肉欲の皇帝

 

マヌエラ

 

 

彼女は、シアほどの動揺は見せておらず

むしろ、どこかなれた様子でそのオーラを感じ取っていた

 

「チ‥ヒロ‥‥さん‥‥‥?

 

 このオーラは‥チヒロさんが‥‥?」

 

「そだよー、チヒロさんはね、普段こそ

 シアちゃんが挨拶したときのように、おしとやかな

 雰囲気を纏ている感じを見せてるんだけどもねー‥‥

 

 実は私たちの中でも特に凶暴で暴力的な本性を持ているんだー

 

 一度でも、暴走しちゃたら今みたいに

 とんでもない力を発揮するんだー、まさに今この力に

 当てられちゃてる人間、ううんすべての存在がこう感じているとおもうよー?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界が終わるー、てー‥‥」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「あ、あああああああ…‥‥あああああ…‥」

 

アルフレリックは、今起こっている現実を受けいれられなかった

 

彼の目の前には、どうやって言葉で表せばいいのかも

わからない、そんな恐ろしく強大で絶対的な存在がいた

 

その彼の回りはハッキリ言って地獄絵図としか言えなかった

 

ボロボロで、頭から血を流している彼の回りには

先程まで何事もなかった集会場が粉々に砕かれており

 

その周りには、長老衆や他の亜人族の者達

しいては自分の同族である、森人族でさえも皆殺しであった

 

どうして、こうなったのかと動揺してあまり回らない

 

自分はあくまで、口伝に従って客人を迎え入れただけなのに

 

最初はとても落ち着いた雰囲気で

気品を感じさせるおしとやかな女性で

 

自分達の故郷のことを気に入ってくれて、更には

こちらの事情の方も理解を示してくれた、彼自身もまんざらではない

 

そこに、他の長老たちが乗り込んできても

しっかりと出方をうかがってくれていた、しかし

 

長老衆の一人のどうと言う事のない言葉

 

薄汚い、醜い

 

ただ、それだけを言っただけで、街を、国を

更には彼女自身に好感を持ってくれた他の亜人族達でさえも皆殺しにされた

 

「なぜだ…‥‥私は一体、何を…‥何をしてしまったというのだ…‥‥…‥

 

 私は、ただ…‥‥口伝を守っただけだというのに…‥」

 

アルフレリックは目の前の惨状を受け入れることができずに

ただどうして、なぜ、そんな誰も答えてくれない質問をただ告げていくだけであった

 

やがて、そんな彼の方を六つの緑色に恐ろし気に光る同行のない瞳が彼を見詰め

その口から放たれる炎はたったのひと息で、フェアベルゲンの美しい景観を焼け野原に変えた

 

その大きさは普通の者ならば思わず見上げてしまうほどであるが

見上げてしまえばその瞬間、その圧倒的な威圧感により身をすくませてしまう

 

アルフレリックの問いに対して誰も答える者はいないが、あえて答えるならこうだろう

 

お前たちは、目覚めさせてはならない者を目覚めさせてしまったのだと

 

 グオオオ!!! 

 

フェアベルゲンにおいて覚醒した絶対的強者は

燃え盛っていくその場所の中心で天に向かって勢い良く吠える

 

すると、天もその声に恐れおののいたのか、激しくその天候を変えていく

辺りに雨が降り注ぎ、雷が落ちていき、強風が吹き荒れていき、辺りが悪天候になっていく

 

それはフェアベルゲンのみならず、いくつもの国を経由して引き起こされて行った

 

こうして、フェアベルゲンは

ほんの些細なきっかけで、ほんの一瞬で壊滅状態となってしまったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

 

「…あーあ、チヒロの奴…

 

 また癇癪を起こしたな…

 

 本当に見かけによらず

 こらえ性がないんだから…」

 

そんな様子を、やれやれといった感じで見ていたハジメ

そんな彼のもとに、一人の女性がそわそわとした様子で近づいてくる

 

「は、ハジメさま‥‥お待たせいたしました…‥」

 

それは、先程まで来ていた服とは全く別の

どこか、おとなしい雰囲気を見せている落ち着いたものであった

 

「…アルテナか、訓練の方はどうだい?」

 

「ええ、皆さん本当に良くしてくださって

 本当に感謝しています、おかげで私の方でも

 驚くくらいに強くなっているのが感じ取れます…‥

 

 本当に、あの時にハジメさまに助けていただけなかったら

 今頃、私はどうなっていたことなのか‥‥考えただけでも恐ろしいですわ…‥」

 

「そうか…」

 

そう言ってちらりとある方向に目を向けていくハジメ

その方向は、フェアベルゲンのあるハルツィナ樹海の方である

 

「どうかなさいましたか、ハジメさま?」

 

「…ねえ、アルテナ…

 

 アルテナはさ、自分の故郷に戻りたいって思ってる?」

 

ハジメは、アルテナに顔をそむけたままそう聞いていく

 

すると

 

「‥‥いいえ、戻りたいとは思いません…‥

 

 あそこでは私には私と言うものがもとよりいませんでした…‥

 

 私のことをしっかりと見てくれる人はもう

 あの場所にはありません、ですから私の戻るべき場所…‥

 

 その居場所は、ハジメさまのお傍のみです…‥」

 

「…そっか…

 

 そう言ってくれたなら

 僕も君のことを助けたかいがあったよ…

 

 それじゃあ、改めてよろしくね、アルテナ」

 

ハジメがそう言って彼女の方を向いて、笑みを浮かべて言う

 

それに対してアルテナもまた、笑顔を浮かべて返していく

 

「はい、これからもよろしくお願いいたしますハジメさま」

 

植物と浸食の罪徒

 

アルテナ。ハイピスト

 

 

彼女がさらに、ハジメのもとに加わったのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ハジメが自身のもとに

 

アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール

 

 

シア・ハウリア

 

 

アルテナ・ハイピスト

 

 

以上の三体を引く抜いていき

着実に戦力を拡大していっているハジメ

 

だが

 

うごきを見せているのは

ハジメたちだけではなかった

 

勇者パーティーの方は確実に攻略の方を

進めて言っている、更には国から抜けた五人の少女達

 

彼女達の方にも、動きは見え始めてきたのであった

 

五人の少女は、そこで

一羽の兎人族に出会い、そこで

 

このトータスにおいて引き起こされんと

していることを、おおよそながら察知することになる

 

暗黒の時は迫ってきている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘いの時は刻一刻と近付いてきていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          



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Audax puellarum Eine wunderschöne Hasenfrau

トータスに召喚されて一か月がたたんとしていた時

 

クラスメートの元を離れ

晴れて冒険者としての活動に精を出している

 

五人の少女達

 

彼女達は突如として峡谷に反響して

魔物の鳴き声のようなものが聞こえた

 

しかし、探知能力も峡谷の力で阻害され

声の方も反響のせいでおおよその場所が特定できない

 

最悪、間に合わないかもしれないと

ある程度の可能性を秘めておく一同

 

「‥‥く、本当に厄介なところですね…

 

 魔力が分解されてしまう上に、この谷のせいで

 声が反響されて、思うような位置特定ができないなんて…

 

 もしも誰かが襲われているというのなら

 出来れば助けてあげたいですけれど、この調子だと…」

 

そう言って不安そうにつぶやいていくのは、棒術師の少女

 

北浦 纏

 

 

彼女はそう言って、魔物に襲われているであろう

その人物のことを心配していたが、間に合わないのではという不安も抱えている

 

「それでも行くしかないよ…

 

 やれるだけのことはやらないと…」

 

そう言って手に持っている杖をぎゅっと

握りしめているのは、優秀な治癒能力を秘めている聖女

 

白崎 香織

 

 

彼女もそうは言うが、それでも不安の方は隠し切れない様子

 

「香織‥‥纏…」

 

そんな二人を心配そうに見つめているのは、剣聖の天職を持つ少女

 

八重樫 雫

 

 

彼女自身も、香織と纏の不安の方は理解ができるからこそ

出来れば、襲われている人には助かってほしいと願っている

 

だが、間に合う可能性が低いこともまた、自覚している

 

「姫奈~、そっちの方には何か見える?」

 

そう言って先行している少女に声をかけていく、聖騎士の少女

 

西宮 風香

 

 

彼女がそう言うと

 

目のまえに先行している少女は

ピクリと身体を震わせて立ち止まる

 

「‥‥みんな、武器を取りなさい!

 

 見つけたわ、でも私たちの知らない魔物…

 

 どうやら、誰かを追いかけているみたい!!

 

 私、風香、雫がマモノを引き付けていくから

 纏と香織は終われている人の方を助けるわよ!!!」

 

そう言って指示を出していくのは

 

南野 姫奈

 

 

彼女達のリーダーで、勇気の聖徒という天職となり

エーテルと呼ばれるこの世界でも未知なる力に目覚めた少女である

 

彼女の眼前には、何やら兎を思わせる巨大な魔物に

何やら人影が追われている光景が見えていた、それを聞いた一同は

 

「「「「うん(ええ)(はい)!!!!」」」」

 

それぞれが返事をして、そのまま向かって行くのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

「はあ‥はあ‥‥はあ‥‥‥」

 

必死な思いで、必死に走って

息を切らして足がパンパンになっても

 

それでも必死に逃げ続けていく女性

 

だが、走りすぎたことによる疲労がたたりすぎたのか

 

「きゃ!」

 

とうとう転んで、うつぶせに倒れこんでしまった

 

女性は後ろの方に目を向けると、そこには

兎を彷彿とさせる怪物が自分のことを獲物と

見なしているように見つめて、集まってきていた

 

「みんな‥どうして‥‥

 

 私の事‥忘れてしまったの‥‥?」

 

女性は魔物たちに語り掛けるようにして話しかけていくが

魔物たちからは何の興味も抱かれることもなく、涎を垂らしているだけである

 

やがて、魔物のうちの一匹が女性に食らいつかんと勢い良く飛び出していく

 

「っ!」

 

女性は涙を流しながら、死を悟って目を力強く閉じた

 

すると、そこに

 

ぎゃああああ!!!!

 

「‥え?」

 

魔物の悲鳴が聞こえて、何事かと思って

恐る恐る目を開けていくと、そこに移ったのは何と

 

真っ二つにされて行く魔物と、その向こう側から

一人の少女が剣を振り下ろした状態で立っていた

 

「‥‥ふう…何とか間に合ったみたいね‥‥…」

 

そう言ってゆっくりと姿勢を上げていき

剣についた血を払う様に、ふるって行く

 

「あ‥‥」

 

女性はその女性の姿を見て、不思議と神々しさを覚えていた

 

「みんな、一気に仕掛けるわよ!」

 

そう言って、少女が指示を出していくと

そんな彼女のもとに四人の少女達があらわれていく

 

少女達はそれぞれ、剣や杖を手に魔物たちに戦いを挑んでいく

その際に一人の少女が、女性の方に付き添って行き、彼女を支えていく

 

「今のうちにここを離れましょう!」

 

「あ‥‥」

 

少女にそう言われて、その場から連れ出されて行く女性

 

「はああああ!!!」

 

雫は持ち前の剣術で魔物たちに斬りかかっていくが

魔物たちの方もタダで倒されることはなく、爪を振るって反撃する

 

「くう…

 

 こいつら、今まで戦ってきた魔物よりも強い…

 

 ひょっとして、峡谷に元々いた魔物を

 追いやってしまった新種の魔物ってもしかしてこいつ!?」

 

「そうだと思います!

 

 王城や町の図書館に乗っていた

 魔物の中にこのような魔物は乗っていませんでした…

 

 これほどの強さの方もありますし、間違いはないでしょう…」

 

思わぬところに現れた強力な敵に、苦戦を強いられる一同

 

おまけに峡谷の魔力を分解する作用の方も手伝って

使えるのが身体能力だけに限定されているのも拍車にかけている

 

「はああああ!!!」

 

そこに、姫奈が先行していき

武器である剣に炎を纏わせて、勢いよく切り付けていく

 

兎型の魔物がそれを爪で受けとめ

激しい衝撃が、辺りを大きく揺らしていく

 

「はああああ!!!」

 

すると、姫奈の右腕に浮かんでいた紋章のようなものが光り

姫奈の服装を白を基調とした、何処か神の使いを思わせる姿となる

 

「え!?」

 

姫奈自身はそれを見て、大きく驚いていく

自身の姿が変わったこともそうだが、技の威力や

使っていた武器も、大いに変わっていくの事にも

 

更にはそれに加えて、今までびくともしなかった魔物の爪を

燃やしながらへし折って行き、やがてそれが魔物の頭部も真っ二つにしていった

 

真っ二つにされた魔物の前、姫奈から見れば背後の方から

同じ固体の魔物が爪を振るって、姫奈を切り裂かんと振るって行く

 

しかし、姫奈はそのまま剣に自身のもう一つの適正属性である

雷を纏わせていくと、それでリーチを広げていき、後の魔物は

身体ごと縦に真っ二つに切り裂いていって見せ、その巨体は音を立てて地面に倒れていった

 

「すごい…」

 

香織がそんな姫奈の戦いぶりに感服する

当然、他の四人の方もそれを見て素直に評価する

 

こうして、殆どが姫奈の土壇場で

魔物たちは見事に全滅させていった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

魔物たちをどうにか討伐し、襲われていた女性のもとに駈け寄る四人

 

女性に寄り添っている香織に付き添われているが

まだ恐怖が残っているのか、体を震わせている女性

 

その女性の頭部からは、何と兎の耳が生えている

 

「頭から動物の耳を生やしているという事は‥‥亜人族?」

 

「…‥みたいだね、でも確か亜人族って

 東にある広大な樹海、ハルツィナ樹海に

 隠れ住んでいるって聞いていたけれども…

 

 そんな子がこの樹海にいるんだろう…

 

 なんだか、訳がありそうだけれども…

 

 この様子だと、話は聞けそうにないね…」

 

風香の言う通り、助けた兎人族の女性は

ややショックの状態のようであり、とても

詳しい話を聞ける状態ではなく、まずは休ませてあげることを提案し

 

どこかで、休息を取れる場所を探して

そこでゆっくりと寝かせてやることにするのであった

 

それからしばらくたって、女性の瞼が数回揺れてゆっくりと目が開く

 

「‥‥あ、気が付きましたか?

 

 よかった‥‥心配だったんですよ…」

 

「‥貴方達は‥‥?」

 

それに気が付いた香織が安堵の表情で声をかけていく

意識を取り戻した、兎人族の女性は少し体を起こして

 

姫奈たちのことを訪ねていく

 

「‥‥私たちは、冒険者で

 この近くの町で依頼を受けて調査をしてここにきているの…

 

 あ、私は、南野 姫奈…

 

 姫奈でいいわ」

 

「私は、西宮 風香

 

 風香でいいよ」

 

そう言って続けて、他の三人も自己紹介をしていく

 

「え、えっと‥私は兎人族のハウリア族のラナ・ハウリアと申します‥‥

 

 助けていただいてありがとうございました‥‥」

 

「いいえ、ご無事で何よりです…

 

 ところで、ラナさんはどうしてこの峡谷を?

 

 差し出がましいですが、特に支障がなければ話していただけませんか?」

 

纏がそう言って、ラナに何がったのかと聞いてみると

彼女はこれまでのことを話していった、順を追って説明すると

 

亜人族の中で本来ならば持っている事のない魔力を持って生まれた子が

自分の一族の中に生まれたせいで、フェアベルゲンに一族ごと追い出されたこと

 

その際に帝国兵に襲われて、仲間を何人かさらわれたこと

 

その際に自分達はこのライセン大迷宮に逃げ込み

そこで魔物の群れたちに尾0沿われてしまったこと

 

それを、ある御人に助け出されたこと

 

そのある人によって食料を分け与えられると

一族の者達は自分を除いて全員が化け物の姿になった事

 

唯一食事を口にせずに魔物にならなかった自分は

そのせいで殺されかかっていってしまったことなどを話していく

 

「‥‥食べると魔物化する肉に

 暴食の皇帝と名乗るマリアという謎の人物…

 

 どうにもきな臭いけれども、いったい何者なのかしら…」

 

「‥わかりません‥‥

 

 私も気が付いたら、谷の底で目が覚めて

 みんなのことを探してようやく見つけたと思ったら

 

 いきなり襲われて、そこを皆さんに助けてもらって‥‥」

 

「‥‥ちょっと待って…

 

 さっき魔物化した仲間をようやく見つけて

 話をしようとしたら、逆に襲われてしまったって…

 

 それってひょっとして…」

 

香織は少し表情を引きつらせていく

 

他の四人のうち三人もだんだんとその意味を理解したのか

表情からどこか戸惑いのようなものが見え隠れしている、唯一

 

「ふう…」

 

姫奈はやっぱりねと言わんばかりの反応であった

ラナはそれを見て、複雑そうな様子で五人に答えていった

 

「‥そうです‥‥

 

 皆さんが倒したあの魔物は、元々

 私とともにこの峡谷に逃げ延びたハウリア族です‥‥」

 

それを聞いて四人は、大きくひゅっと息を吸う音を立てていく

 

頭の中ではわかっていた、でも出来る事なら間違っていてほしかった

だが、先程の魔物たちの兎を彷彿とさせる姿、ラナの話しと照らし合わせても

 

その事実は揺るぎがなかった

 

「そんな‥‥それじゃあ、私たち…」

 

余りの事にショックを隠せない雫、魔物となって

理性を失っていたとは言え、自分達はラナの一族を倒してしまったのだ

 

四人がショックを受けていたのを察したのか、ラナは慌てた様子を見せていく

 

「待って下さい、皆さん!

 

 皆さんは私のことを助けてくれたんですから

 そんなに落ち込まないでください、それに魔物になったのだって

 

 マリアさんの優しい言葉に翻弄された私たちの自業自得ですし

 私が襲われたのだって、私の自己責任なんです、皆さんが気にすることではありません‥‥」

 

ラナが慌てて一同に呼びかけていく、すると

 

「そうよみんな、私たちはあくまでラナさんを助けるために

 あの魔物と戦った、正体がどうあってもそれは事実なのよ…

 

 それに、どのみち放って置いても私たちの方もあぶないし…」

 

「どういう事ですか?」

 

ラナは不意に姫奈の言葉の意味を問うと、姫奈は答えていく

 

「私たちが、調査のためにここに来たのは

 この峡谷に現れた新種の魔物への調査のためなんだけれど…

 

 その新種の魔物のせいで、もともとこの峡谷にいた魔物が

 峡谷の外に出てきて、近隣の村や町を襲って行く被害が多発しているの…

 

 その原因の調査及び討伐のために私たちはここにきてる…

 

 どのみち、倒さないとそれこそ

 被害は拡大していって人間族の方でも被害は出てしまう…

 

 倒さないという選択肢何て、もとよりなかったのよ…」

 

姫奈の言葉に四人は納得は出来ないが理解はする

 

「‥‥それで、ラナさん…

 

 これからきくことが本題なんだけれど、貴方はどうするの?

 

 私たちなら出来る限りのことは何でもしてあげるけど

 私たちは依頼でここにきている以上はもう少しこの峡谷に留まるわ…

 

 だから、この谷を抜けるのにはもうしばらくかかってしまうけれども…

 

 それでもいいというのなら、私達と一緒に来る?」

 

姫奈はラナに自分達と一緒に付いてくるかと提案をしていく

他の四人も彼女とのことは放っては置けなかったし、守って

あげてもよいとも考えている、ラナ自身の方は少し戸惑っている様子を見せていく

 

「‥そ、その‥どうして皆さんは私のことを

 そんなに良くしてくださるのですか、皆さんは人間族ですよね‥‥?」

 

「そうね、確かにその通りだけれど…

 

 別にだからって、貴方達のことをどうにかしようと

 思ってはいないし、そもそも私たちはこの世界の人間じゃないからさ…」

 

ラナが恐る恐る問いかけていった問いかけに

風香が何気なく答えていく、そんな彼女の言葉に疑問符を浮かべていくラナ

 

「この世界の人間じゃない‥どういうことですか?」

 

「え、ああ‥‥話すと長くなるのですが…

 

 実は、私たちは…」

 

纏がラナに詳しく話をしていく、自分達は

この世界とは別の世界から召喚された異世界人で

 

人間族の助っ人として、王国で訓練を受けていたが

 

訓練の際に起こったある事件のせいで、王国の事

教会の事、おなじクラスメートの者のことが信用できなくなり

 

一部のものの手引きによって、王国を抜け出し

現在は冒険者として活動している、と事細かく説明していた

 

「そっか‥皆さんにとってハジメさん‥‥

 

 その、無実の罪で処刑されてしまった男の子は

 本当に大切な御人だったんですね、でも守れなかった‥‥

 

 私と同じ‥‥」

 

「‥‥でも、私たちが冒険者を始めたのには

 実は明確な目的があるの、元の世界に戻るための方法を見つける事…

 

 いまはまだ、その方法は見つかっていないけれども

 いつかは本格的にその方法を見つけるためにも下準備をしているの…

 

 それで今は地道にがんばってるところよ‥‥あの時

 私たちを命がけで生かしてくれた、南雲君の勇気に報いるためにね…」

 

姫奈のその言葉を聞いて、ラナは決意を新たにしていく

 

「‥わかりました、皆さんについていきます

 魔力がなく、能力の方も大したことのない私では

 どのみち、この峡谷を生きて抜けていくことは不可能でしょうし‥‥

 

 それに、皆さんはとてもお強い、そこは信頼するに値すると私は考えています‥‥」

 

ラナはそう言って、一向に加わりたいと申し出ていく

 

「‥‥了解、それじゃあ

 改めて、明日に供えて今日は休みましょう…

 

 見張りはあらかじめ決めた通りにね…

 

 日が昇るくらいにまた、改めて活動しましょう…」

 

「「「「はい!」」」」

 

こうして、五人の少女に新たに

兎人族の女性のラナが加わることになったのだった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして、野営の準備を済ませて

改めて一同は寝静まっている、現在

 

見張りを務めているのは、姫奈である

 

すると、テントの中からもぞもぞと

一人の人物が出てくる、姫奈もそれに気づき

そっちの方に目を向けていくと、その正体はラナであった

 

「どうしたの、ラナさん?

 

 まだ寝付けない?」

 

「‥い、いえ‥‥そういうわけではなく‥‥‥

 

 その‥ちょっとお花を摘みに行こうかなって‥‥」

 

「‥‥そ、そう…

 

 それじゃあ、気を付けてね…」

 

そう言って岩陰にいそいそと

向かって行くラナを見ていく姫奈

 

「ふう…

 

 どうやら少しは落ち着いてくれたみたいね…」

 

暫く眠ったおかげか

ラナの顔色が少し良くなったように思えたので

 

安心した様子で、ラナの後姿を見ていた姫奈

 

一方、ラナの方も信用できる人物達であると感じたのか

生理現象のせいで起きてしまったが、それでも安心して眠ることができた

 

こうして、穏やかな気持ちで眠りにつくのはいつぶりになるだろうか

 

峡谷に逃げ延び、同族たちがマリアの手によって怪物に帰られて

魔物やかつての同族たちからも逃げ続けていくことになった、しかし

 

そんな折に出会った、異世界から召喚されてきた彼女たちは

自分のことを亜人族であると知っても態度を変えず、それどころか

自分の体のことを気遣って、さらには食料の方もしっかりと与えてくれた

 

こんなにも、温かい気持ちに鳴れたのは

フェアベルゲンに過ごしていた時以来だろうか

 

不意に、一族のこと、一人の忌み子と呼ばれた同族の少女の事を思い出す

 

「シアちゃんの事、あの人たちに話してみよっか‥‥

 

 もしかしたら、協力してくれるかもしれないし‥‥」

 

そう言って用を済ませると、立ち上がろうと

体を支えるために岩に手を掛けたその時であった

 

「きゃあ!?」

 

突然、岩が回転ドアの様に動いて

そのせいでラナは転びそうになって身体をよろけさせた

 

ラナは何が起こったのかが理解できずに

岩の壁の方を見る、どう考えても自然の者ではないそれを見て

 

ええええええ!!!!!!?

 

ラナは大きな声をあげて、激しく驚いた様子を見せた

すると、見張りをしていた姫奈がいち早くラナのもとに駈け寄っていく

 

「どうしたの、ラナさん…?」

 

「姫奈さん、これを見てください!」

 

そう言って回転して向こうに

つづいている扉のような、岩の壁があった

 

姫奈はこれは一体どういうことなのかと辺りを調べていくと

ある壁に掘られた石板のようなものが目に入り、そこにはこう書かれていた

 

ーおいでませ!

 

 ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪ー

 

「「‥」」

 

余りにも場違いなその筆跡に思わず声を失ってしまう二人

 

「‥‥ね、ねえラナさん…

 

 ラナさんはこれを見てどう思う?」

 

「‥わ、私にきかれても‥‥

 

 ですがこれは恐らく反逆者と呼ばれている

 人たちが創り出した、迷宮なのではないでしょうか?」

 

「何、その反逆者だのって…?」

 

姫奈が訪ねると、ラナはそのことについて教えていく

解放者、トータスに広くは反逆者と伝えられている者たちは

 

神代の時代に、神に反旗を翻し世界を滅ぼさんとしたもの達の総称

 

しかし、その反逆は失敗に終わり中心人物であった七名の人物は

世界の果てに逃げ込み、その果てにおいて生み出したのが七大迷宮

 

嘗て姫奈達が訓練のために訪れたオルクス大迷宮も、その一つ

 

ラナがそのことを知っているのは、自分の故郷である

フェアベルゲンが、七大迷宮の一つであるハルツィナ樹海の中にあり

 

彼女達も大まかにそのことを伝えられていたから、らしい

 

「つまり、この石板に刻まれているミレディ・ライセンっていう人も…

 

 その反逆者の一人ってことね、どう考えても胡散臭い感じがするけれど

 世間で反逆者だって伝えられている人の名前何てそんな使う人もいないだろうし…

 

 調べて見る必要があるわね…

 

 ラナさん、皆を起こして連れてきて」

 

「え‥‥?」

 

姫奈の言葉に、彼女は不意に彼女の方に目を向けていく

 

「この迷宮に入ってみましょう…」

 

姫奈はそう言って、開いた扉の向こう側を見詰めながら言いきった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして、ラナによって連れてこられた

風香、香織、雫、纏の四人は迷宮の入り口に連れてこられた

 

「…‥七大迷宮を作り上げた、七人の反逆者か…

 

 でも、オルクス大迷宮だってベヒモスなんて

 とんでもない魔物と戦わされたぐらいなんだし…

 

 この中だってオルクス大迷宮と同じくらいは危険なんじゃ…」

 

「‥‥危険でも、行くしかないわ…

 

 これからさき、教会と本格的に

 対立したときのためにも、それなりに

 力を付けて行った方がいいし、それに…

 

 もしかしたら、私たちが元の世界に戻るための

 足がかりを得られるかもしれないしね、そう考えても…

 

 この大迷宮には、挑んでいく意味はある」

 

風香の不安そうな声に対して、姫奈は決意を秘めて手を伸ばしていく

 

「‥‥私も行く、少しでも

 私たちが元の世界に帰れる方法が

 この先にあるというのなら、私は行きたい…」

 

雫もそう言って腰に差している

アーティファクトの剣を強く握りしめて言う

 

「‥‥雫ちゃんが行くなら、私も行くよ

 

 魔力が使えなくても、出来る事はあるし

 それにこの世界に来てそれなりに自分でも

 戦えるようにはなってきていると思うし、なにより…

 

 私はもう、大事な人を失いたくはないもん」

 

香織はそう言って決意を込めた瞳で訴える

 

「‥‥最初に言っておくけれど、この先には

 どんな危険が待っているのかわからないし…

 

 最悪、貴方の事も守り切ることは出来ないかもしれない…

 

 いざってときは、私たちのことを置いてでも生き残って…

 

 それを了承するなら、ついてきて…」

 

姫奈はしんけんな表情で、香織に言って行く

ここから先はオルクス大迷宮と同じかそれ以上に

過酷な場所が待っている、おまけにここでは魔力は分解され

 

魔法が実質使うことができない仕様になっている

 

姫奈には魔力の他にエーテルという力があり

エーテル自体は使う分には問題ない、さらに言えば

 

風香、雫、纏の方も武器による戦闘やそれに合わせた技能があり

身体能力を向上させる効果には特に支障が見られない故に、戦う分に問題は無い

 

しかし、香織は典型的な後方支援系の魔法職

元々戦闘向きではない上に、身体能力系の技能も持ち合わせていない

 

魔力が分解されて、更にその状態で何があるのかわからない

迷宮に挑むのは、無謀とも取れるようなものである、他の者達は当然

香織は他の者達が迷宮攻略に行っている間は外で待っていてほしいというのが本音であった

 

だが、香織は昔っからこうだと決めたら簡単には曲げない頑固な一面がある

 

香織は高校に入ってから、人間の悪意の醜さをさんざん思い知らされてきた

 

香織の想い人であるハジメが貶められた件、王国の自分達への扱い

更には、それに対してのクラスメートたちの身勝手なふるまいなど

 

その中で、香織が感じてきたのは自分自身の無力さ

 

愛する人との約束を果たせず、更にはそれによって親交を持った友達も

守り切れず、嫌というほど自分自身の無力さを思い知らされてきた、それでも

 

それでもこうして必死にあがこうとしているのは香織自身の意地

独りよがりであと先考えない者であることは香織自身も理解している

 

しかし、それでも香織は仲間たちとともに行く決意を秘めていく

 

二度と、自分の大切なものを取りこぼさないようにするために

 

「‥‥それじゃあ、行きましょうか…」

 

「待って下さい!」

 

「‥‥うん?」

 

行きましょうかと、迷宮に挑もうとする

一同を呼び止めたのはラナであった、彼女もまた告げる

 

「私も‥私の事も連れて行って!」

 

自分も迷宮攻略に連れて行ってほしいと

 

「ダメよ、この先はさっきも言ったけれども

 なにが待ち受けているのかわからないのよ…

 

 魔力を持っていない上に、身体能力だって

 優れてもいない貴方が行っても命の保証は無いのよ!?」

 

「‥わかっています‥‥私が行っても足手まといにしかならないって‥‥

 

 そういう事だったらここで待っていた方がいいのも、理解しています

 でも、それを受け入れてしまえば、私はあの時、何もできない自分のまま‥‥

 

 そんなの、私は嫌なの‥あの時何もできなかったせいで何も守れないのは‥‥

 

 もう嫌なの!」

 

ラナもまた、涙を浮かべながら嗚咽交じりに言う

 

ラナ自身も香織同様に自分自身の弱さに打ちのめされてきたのだ

 

フェアベルゲンを一族で追放され、帝国兵に仲間を連れられ

峡谷では仲間たちが魔物になってしまい、結局元に戻すことは愚か

 

救う事も出来なかった、その過程で姫奈たちに出会えたのは幸運だが

このまま彼女たちの強さに縋っていくのも違うのだとも、ラナ自身感じしていた

 

だからこそ、自分の足で進んでいこうと

決意をした、もうあの時のような後悔をしないように

 

「‥‥まったく…2人そろって頑固なんだから‥‥…

 

 それじゃあ行きましょう、ここで立ち止まっていても

 どうしようもないだろうし、私たち自身にとっても大きな一歩になる…

 

 気を引き締めて、行きましょう」

 

姫奈の言葉に、その場にいる一同は頷き

迷宮への入口をくぐっていくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

ライセン大迷宮

 

姫奈たち一行は大峡谷において

偶然にも発見した、この場所を進んでいく

 

そこには迷宮の中とは思えないほどに

明るく照らされており、内装も良くも悪くも

迷宮らしさが醸し出されている作りで覆われていた

 

「思っていたよりも複雑そうな構造ね…

 

 下手をしたら迷いそうね…」

 

「でもこのくらいだったら…

 

 まだ何とかなりそうじゃない?」

 

姫奈と風香がそれぞれそんな会話をしていると

 

「‥‥油断しない方がいいわ…

 

 こういうのは、眼に見えないトラップの

 ようなものがどこかに仕掛けられているのが定番よ…

 

 オルクス大迷宮の時だって、そのせいで

 私たちは危うく死にかけることになったんだから…」

 

「‥‥そうだね…

 

 とにかく気を付けて進みましょう…」

 

「はい‥‥」

 

姫奈の言葉を聞いて気を引き締めなおす香織とラナ

 

暫く進んでいくと、ラナが不意に足ががくっと下がり

同時に前の方からガコンと音を立てて何かが迫って来る

 

「みんな、ふせて!」

 

姫奈の声とともに慌てて地面にしゃがみこむ一行

すると、一同の首に当たる位置の部分を鋸のような回転刃が通りすぎていった

 

「今のは物理トラップね…

 

 やはり、この迷宮も一筋縄ではいかないようね…」

 

姫奈はそう言って自身の過信を深く反省する

 

オルクス大迷宮においても騎士団たちが使っていた

フェアスコープを使用していたが、それは迷宮のトラップの

大半は魔力によって起こされるものであるためである、故に

この迷宮にあるのも同じようなものだとし、姫奈も警戒していた

 

しかし、今のは単純な物理トラップ

 

魔力は勿論、特別な何かを何もしているわけでも無い

 

それゆえに、魔力を感知するタイプの技能には一切引っかからない

 

「ひょっとしてこういうタイプの罠が何処までも続いてるってこと…?」

 

「‥‥可能性としてはあるでしょうね…

 

 でも、そうだったとしてもここまで来た以上は

 進んでいくしかないわ、たとえこの先に罠がある言ってわかっててもね…」

 

「そうだね…」

 

雫の問いかけに姫奈はそれでも進むしかないと告げる

纏もそれに同意し、一同は警戒を怠らずに進んでいく

 

「‥‥なんだろう…こういう何もないところって…

 

 かえって、何かありそうな雰囲気があるよね…」

 

「ちょっと香織、そんな不吉なこと言わないでよ…」

 

香織が縁起でもない発言をするので、雫がツッコミを入れていくと

 

ガコンッ!

 

何やら、静かな雰囲気でそれこそ嫌な音が響いていく

 

「「「「‥‥か~お~りぃ~‥‥」」」」

 

「ええ!?

 

 わ、私のせいじゃ…」

 

理不尽な追及に意見しようとする香織だが

そんな彼女の発現を遮るように床が傾いて

スロープのようになっていく、さらにそこに

追い打ちをかけていくように何やら上の方から

ぬめりを持っている液体が流れてさらに摩擦力まで奪われて行く

 

一同はどうにかして、耐え抜いていくのだが

 

「きゃああ!!!!」

 

ラナのみは手段を持っていないので

そのまま下の方にまでラ落下していくが

 

そんな彼女の手を掴み上げていくものがいた

 

「しっかりしなさい!

 

 こんなくらいで動揺していたら

 それこそ、身なんて持たないわよ」

 

「‥はい‥‥」

 

姫奈はそう言って、辺りの方を見回していく

良く見ると、その奥には何やら穴のようなものが見えていた

 

「あれって、ひょっとして落とし穴!?

 

 いくら何でもガチすぎるって…!」

 

「‥‥っ!?

 

 皆さん、横の方に抜け穴があります!

 

 そこから脱出しましょう!!」

 

纏が指さした方に、確かに抜け穴があり

一同はそこに、急いで飛び込んでいく、纏につづいて雫

 

「香織!」

 

「うん!」

 

その雫に手を引かれて、無事に穴に入った香織

さらに続いて、風香もまた抜け穴に到達していき

 

姫奈はラナを抱えているので手を伸ばすことは出来ない

 

「ラナさん、しっかりつかまっていて!」

 

「はい!」:

 

姫奈はそう言うと、聖痕を解放して

身体能力を高めて、横穴の方まで飛ぶように走りながら辿り着く

 

「ふう‥‥みんな、大丈夫?」

 

「な、何とかね…

 

 それにしてもガチでこっちの事殺しにかかってるよね…」

 

「まあ、迷宮なんだし半端なことは仕掛けてこないと思ってたけど…」

 

「うう、ごめんなさい‥‥私のせいで…」

 

「香織さんのせいではありませんよ‥‥まあ、でも…

 

 流石に今のは少し、吃驚しました‥‥少し休憩を挟みまs…」

 

纏がそう言って休憩を提案しようとすると

纏は不意に目に留まったあるものを見て硬直する

 

「どうしたの、纏ty…」

 

「何かあった‥‥の…」

 

一同は纏の様子がおかしく、彼女の方に駈け寄ると

そこにうつっていた者を見て、言葉を失ってしまう

 

そこにあったのは一つの石板、そこに書かれていたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー焦ってやんの、だっさ~い

 

 このくらいで手間どるようじゃ先が思いやられるね、ぷふー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「‥‥‥」」」」」」

 

石板に書かれている煽り文句に思わず一同は怒りで拳を強く握っていく

 

「‥‥すーはー、すーはー…

 

 落ち着きましょう、そう落ち着くのよ…

 

 こんなので心を乱していたらそれこそ

 相手の思う壺、気にしていたらきりがないわ…

 

 纏の言う通り、此処はいったん休憩を取ってまた攻略を勧めるわよ…」

 

姫奈は深呼吸しつつ、呼吸を整わせて一同に指示し

一同もまた、気を落ち着かせて、姫奈の言葉に同意するのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

休憩を挟んだ一同は、その後も色んなトラップや

待ち受けていく魔物等と対峙しながらも進んでいく

 

五人のうち四人が、魔力の分解に対して

あまり大した障害にならぬ身体強化系の技能を

持ち合わせていたために、難なく突破していくが

 

「‥‥…」

 

やがて開けた道に出てきた一同

 

先ほどとはうって変わって、そこはとても

物静かで、一同の歩いていく音のみが聞こえている

 

「‥香織さん‥‥?

 

 どうかしたんですか?

 

 さっきから、元気が無いように見えますけれど‥‥」

 

「‥‥え!?

 

 ううん、大丈夫だよ…」

 

「とても、大丈夫には見えませんけど‥‥

 

 何か気にしている事でもあるんですか?」

 

ラナはそんな香織の様子が気になって

彼女に尋ねていく、香織は立ち止まって

 

すこし俯き気味になって、ラナに話していく

 

「‥‥ねえ、ラナさん…

 

 私ってやっぱり、誰かを

 傷付けることしかできないのかな…」

 

「え‥‥?」

 

香織のそんな問いかけに、ラナは思わず香織の方を見る

 

「‥‥ラナさんには前に話したよね…

 

 私たちの仲間の一人が、他の皆に裏切られて

 理不尽な冤罪を突き付けられて、殺されたこと…

 

 実はその男の子はね、私たちがこの世界に召喚される前から

 ずっと他の皆に疎まれていたの、私の浅はかな考えが原因でね…」

 

「‥どういうことですか‥‥?」

 

香織の悲し気な表情にどこか気が引けてしまう部分もあったものの

何故だか不意に、聞いておかないといけないと感じてそのまま聞いていく

 

「私ね、その男の子がね、おばあさんとそのお孫さんが

 ガラの悪い人達に襲われているのを守っている姿を見て

 

 私は彼に惹かれたの…

 

 ある日、再会して仲よくなろうと思って

 私の方から積極的に話しかけていったんだ…

 

 でもそのせいで彼は、ありもしない汚名を着せられて

 学校では勿論、家の方でも居場所をなくしてしまったんだ…

 

 この世界に来て、少しでも彼が傷つかないように守ることが出来たら…

 

 そう思って、私は聖女の天職で優れた回復能力で彼の事を

 守れればッて思ったの、でも結局私は彼のことを守れなかった…

 

 それどころか、彼のことを目の前で殺されて行くのを止められなかった…

 

 あの時‥‥守ってあげるって…約束したのに‥‥…」

 

香織は目元に涙を浮かべていき、拳を震わせながら嗚咽交じりになっていく

 

「‥香織さん‥‥大切な人を守れなかった後悔は

 私にもわかります、でも私は香織さんは間違っていない‥‥

 

 少なくとも、私はそう思っています‥‥

 

 だって、誰を守ろうとすることは絶対に間違ってなんていないと思いますから‥‥」

 

「‥‥ラナさん…」

 

ラナはそう言って、前を向いて自分達が付いていっている者たちの方を見る

 

「もう二度と、大切な人を失いたくないなら

 失ったものよりも今いる人を見ていきましょう‥‥

 

 私は少なくとも‥大切な人達が失っているとは考えていませんから‥‥」

 

「‥‥うん…そうだね‥‥…

 

 もう二度と、大切なものを失わないように

 もっと気をしっかり持たないと、ここでくじけたら

 それこそ、私はあの時と同じ、また守れなかったって

 

 後悔するだけに、なっちゃうんだもん…」

 

そう言って持っている杖を強く握りしめて

他のメンバーに遅れないようにしっかりついていく

 

つもりだったのだが

 

ガコン!

 

「「「「うん?」」」」

 

「「あ‥」」

 

掛けだした際に、香織の足もとから何やら不吉な音が鳴り響いた

 

「「「か~お~りぃ~‥‥」」」

 

「香織さん…」

 

「え、ちょっと待って!?

 

 別にそういうつもりじゃ…」

 

ジト目で睨まれ、いたたまれなくなる香織

すると、一同の元に何か大きく重たいものが

ゴロゴロと転がってくる音が響いていく、そして

 

一同の前に現れてきたのは

通路をほぼ埋め尽くすほどの大きな大岩で

一同の方に向かって、勢いよく転がって来る

 

「わあ、定番の転がって来る岩だねー…」

 

「っていうかいざ受けて見たらシャレにならないんだけど!?

 

 とにかく逃げるわよ!」

 

そう言って、身体能力系を持っていない香織とシアを

それぞれ雫と風香が抱えて急いでその場から逃げ出していく

 

ただ一人を除いて

 

「姫奈!?」

 

「何してるの、早く逃げるわよ!」

 

一人、姫奈は逃げずに転がっていく

岩の方に向き合う様にして立ち止まっている

 

「‥‥あのねえ…こっちだってねぇ‥‥…

 

 我慢の限界ってもんがあんだよこん畜生おおおお!!!

 

姫奈のそんな怒り声とともに、炎を纏った拳による一撃が放たれて行き

それによってその一撃をもろに受けた、大岩はものすごい轟音とともに粉々に吹っ飛んだ

 

「「「「「えええええ!!!!!?」」」」」

 

余りの光景に、一同は思わず驚いた様子を見せていく

 

大岩がふっとんだ衝撃でパラパラと辺りに砂埃が吹き荒れていき

それによって姫奈の服が大きくたなびいていき、しばらくしてそれも収まった

 

「‥‥ふう…これですっきりした‥‥…

 

 それじゃあ、急いで先に行きましょ…」

 

ガコン

 

「‥‥え…?」

 

「「「「はい?」」」」

 

姫奈はすっきりした様子で先に行こうと一同に進めていくが

その際に後ろから何か大きなものが勢いよく落ちていく音が響いた

 

そこにあったのは

 

「「「「「「ウソでしょおおおおお!!!!!?」」」」」

 

今度は先ほどの大岩と同じくらいの大きさの鉄球

 

更にはその鉄球からは何やら液体が流れていて

周囲のがれきなどを溶かして迫ってきているのであった

 

「ああああもう、何てもの

 作ってんのよミレディ・ライセエエエエン!!!」

 

そう言いながら、必死の形相で逃げていく一同

 

すると

 

「皆さん、あそこに横穴があります!

 

 あそこに入りましょう!!」

 

纏が横穴を見つけ一同は急いでその中へと飛び込んでいくのであった

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

 

‥ …‥ … ‥‥ ‥‥‥ …‥‥ ‥‥‥‥

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

こうして、無事に転がる鉄球の追求から逃れられた一同

 

「‥‥た、助かったみたいね…」

 

「うえええええ…

 

 もう二度とあんな目には合いたくないよ…」

 

風香がそう言ってグロッキーになったようにその場に座り込む

 

「休んでいる暇はないわよ、ここにだって

 何らかの仕掛けが施されている可能性は否定できない…

 

 油断しているとまたさっきの様に…」

 

「‥‥あら?

 

 この部屋、一度来た覚えがあるような…」

 

そう言って、纏が姫奈の言葉を遮って一同に問いかける

遮られた姫奈も他の面々も、そう言われてきょろきょろと見回していく

 

「‥‥ねえ、ここってひょっとして…」

 

「‥‥最初に入ったところに…似てるよね‥‥…」

 

雫と香織が、そんなことを言っていると

不意に目の前にあった見覚えのある石板の足もとに文字が浮かび上がる

 

そこに書かれていたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーお疲れ様でーす、ようこそスタート地点へ

 

 ねえねえ、今どんな気持ち?

 

 苦労して辿り着いた場所が最初の部屋だったって知って

 

 いまどんな気持ちー?

 

 どんな気持ち―なのー?ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「‥‥‥」」」」」」

 

今まさに、ここまでたどり着くまでの

苦労を嘲るような煽り文句に六人の表情は

怒りも何もかも通り越して無表情となっていく

 

ここまで死にそうになってようやく辿りついた場所が

まさかのスタート地点、さらにはこれ以上にない煽り文句

 

ただでさえ、ここまでいろいろと苦労した罠をくぐった

その苦労をまさに、一気に踏みにじられたような気分に

 

一同はプルプルと身体を震わせていた

 

これまではなるべく、迷宮攻略に専念するために

こみあげてくる怒りをどうにか抑え込んできた彼女達だったが

 

五人のうちの誰か、或いは

五人全員の口から、声にならない声が

漏れる様にして、辺りに響き渡っていく

 

ここまでどうにかして、抑え込んできた一同だが

 

もう最早、抑えが効かず

あふれ出てくる怒りをこらえきれなかった

 

それは、普段は温厚な香織や纏、ラナも

流石の二人もついに堪忍袋の緒が切れた

 

当然ほかの三人も

 

一気に爆発させた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「ミレディイイイイイイ!!!!!!」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

… ‥‥ ‥ …‥ ‥‥‥ ‥‥‥‥ …‥‥ …‥‥‥ ‥‥‥‥‥

 

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