アナタへの旅路【完結】 (鷹崎亜魅夜)
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前篇

 秘封倶楽部メインで物語構成は三話完結の物語です。オリキャラ介入は無しです。ただ、モブの店員と運転手のみが出てきます。その二人は特に関係ありませんが。

 全て三人称視点。いつもと書き方が違いますので注意。

 では本編どうぞ。


 かつては『古都』と呼ばれた京都も今は様変わりし、一昔前の東京のような――摩天楼の如くビルが立ち並ぶようになった。古都保存法なんて真っ向から無視したように、煌びやかなネオン灯や派手な色彩で溢れている。かつての京都で高層の建物と言えば「京都タワー」だったかもしれないが、今ではそれを抜いて多くのビルが乱立している。

 

 メインストリートは多くの人間で賑わっており、外食帰りの家族や夜のデートと洒落こんでいるカップル、塾帰りなどが入り乱れている。

 

 その雑多の中、ビルに背を預けるように麗しい少女が一人いた。

 

 

 

 

 

 宇佐見蓮子。京都府の某大学に通う女子大生である。

 

 

 

 

 

 黒い帽子を被り、白いブラウスに赤いネクタイを緩く締め、レースが施された黒いスカートを身に着け、ぼうっと佇んでいる。

 

 誰かを待っているのかもしれないが、それにしては妙だった。

 

 行き交う人たちはそんな彼女を薄気味悪く一瞥するだけで、声をかけようだなんて思わなかった。

 

 それもそのはずだ。

 

 彼女の目には精気は全くと言っていいほど宿っておらず、どんよりとした胡乱気な、どこか『壊れた』という印象を与える目をしているからだ。

 

 良く言えば呆然自失、悪く言えば死んだ目……と記した方が理解が早いかもしれない。とにかく、彼女は何かを失い、それを取り戻す算段が付かず、諦念しているかのようにも見える。或いは、目的の場所とは違う場所に辿り着いてしまった漂流者のようだ。

 

「……」

 

 虚空を眺めていた蓮子の視線が僅かに動く。視線は空へと向かい、星空を見上げた。ネオンの眩しさに慣れてしまうと、星の光すらも朧げになってしまう。その薄ぼんやりとした頼りない光を見つめていた蓮子はボソリと呟いた。

 

「……もう、こんな時間……なんだ」

 

 時計を見たワケでもないのに、蓮子は正確な時刻を知った。

 

 蓮子には特異な能力が宿っており、それは『星で正確な時間を知り、月で精確な位置を知る』能力である。日本限定の能力だが、蓮子はこれで時計を持つ必要はないのだ。

 

 

 

 

 

 ――だったら一度くらい、デートの待ち合わせに遅れずに来なさいよ

 

 

 

 

 

 不意に、そんな声が聞こえた。

 

「……え?」

 

 辺りを見渡して見ても、自分に声をかけてきた人物などいない。

 

「……誰、なの?」

 

 そう問いかけても、蓮子に答えを教えてくれる者はいなかった。怪訝に思ったものの、いつまでもここに突っ立っているわけにもいかない。通行人の邪魔にもなるし、さっさと家に帰ろうと思い、自宅へと歩を進める。

 

 歩きながら蓮子は思考に耽る。

 

 いつの日からか忘れてしまったが、蓮子は自分は何かを失ってしまったということを理解していた。殆ど直感でしかないのだが、蓮子はそれは失ってはいけない『何か』だと思い、こうして町に繰り出してはその『何か』を独りで探している。

 

「……私は、何を失くしたの……?」

 

 誰に問いかけるワケでもなく呟く。立ち止まり、自分の手のひらを見つめる。しかし、この手から零れ落ちた『何か』が分からない。十分にやってきたはずなのに

 

「……独りで、ずっと……探してきたのに……」

 

 手を胸に当て、ぎゅっと服を掴む。

 

 アレでもないコレでもない、と悩みながら探してきた。しかし、『何か』は見つからない。もがけばもがくほど沈んでいく底無し沼のように、焦れば焦るほど抜け出せなくなる。

 

 心のどこかにぽっかりと穴が開いてしまい――深い欠損が出来てしまったみたいな感覚に陥る。

 

 モヤモヤとした、それでいて締め付けられるような想いを抱きながら、蓮子は再び歩き出す。

 

 しばらく歩いていたら小腹が減った。そう言えば、捜し物に夢中になり過ぎて朝と昼をろくに食べていなかったことを思い出す。

 

「……お腹、空いたな……」

 

 家に帰ってから食事にしようと思っていたが、こんな時間から自炊をする気にもならない。辺りを見渡すと、大学の帰りに良く通っていた喫茶店が目に入った。

 

「……軽食でも食べないだけはマシ……か」

 

 どうせ食べようと思っても、今の状態ではあまり喉を通らないだろう。それに、この喫茶店は勉強したりすることでよく立ち寄るので顔馴染みでもある。

 

 蓮子は喫茶店へ向かい店内へ入る。

 

「こんばんは」

 

「いらっしゃ……あら、蓮子ちゃんじゃない。どうしたの、こんな遅くに」

 

「少し外に出てたんですけど、お腹がすいちゃって」

 

 顔馴染みのウェイトレスは蓮子を見ると「いつもの席ね」と言って窓際の席へと案内した。

 

「今日は一人なの?」

 

「え、えぇ……まぁ」

 

 突然何を言い出すのだろう、と不思議に思った。ここにはいつも一人で来て居たはずだが、なぜこの人は蓮子にはいつも連れが居るような口調で問いかけてきたのだろうか。

 

「まぁ、あの子もアナタも、一人でいたい時くらいあるに決まってるか。いつもので良いんでしょ?」

 

「あ、はい……お願いします」

 

 ウェイトレスはそう言って立ち去った。

 

 蓮子は一人、先ほどのことについて考える。

 

「確かに、大学の友達とたまに来たりはしてたけど……」

 

 それは不特定多数の友達とだ。誰か一人と、なんてことは無いはず。しかし彼女は『あの子』と言っていた。ということは、彼女もその『あの子』とは顔馴染みということだ。

 

 何かがズレている。蓮子と他の人との間に認識のズレが生じている。

 

 考えこんでいたら食事が運ばれてきた。

 

「お待ちどうさま。一人の食事は味気ないかもしれないけど、ウチの料理はそれを差し引いても美味しいから」

 

 テーブルに料理が置かれ、ウェイトレスは去って行った。蓮子はそれを見送り、テーブルの上の料理に視線を落とした。

 

「……とりあえず、食べるか」

 

 いただきます、と手を合わせて蓮子は食事を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 独りの食事を済ませ、食後の紅茶を楽しむ。スティック状の袋に詰められた砂糖を半分ほど入れ、かき混ぜる。ちらり、と対面の空席を眺める。

 

「……」

 

 心に小さな棘が刺さったような感覚があった。棘というよりは、違和感と言った方が正解かもしれない。

 

 

 

 

 

 なぜ私はこの喫茶店に入った?

 

 

 

 

 

 この時間までやっている喫茶店が珍しいからだろうか。違うはずだ、別に食事を済ませる程度であればそこらへんのファミレスでも良かったし、コンビニで適当に見繕っても良かったはずだ。それなのに、自分はこの喫茶店を選んだ。

 

 偶然なのだろうか、と考えた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 白い『誰か』がそこに居た。

 

 

 

 

 

 蓮子は驚いて動きを止めた。しかし、その白い『誰か』が居たのはほんの一瞬であり、すぐに消えてしまった。蓮子は見てしまった。

 

 その白い『誰か』が真っ直ぐに蓮子を見ていたのだ。

 

「……どうして……?」

 

 得体の知れぬ『何か』に責められるこの想い。失くしたらしい『何か』如きが

 

 

 

 

 

「どうしてこんなにも私を戸惑わせるの!?」

 

 

 

 

 

 バンッ、とテーブルを両手で叩き、対面の空席を睨みつけながら叫ぶ。周りの客がギョッとしてこちらを見つめる。いきなり怒りだしたかと思えば、対面には誰も居ないのだから、さらに驚きを加速させる。

 

 自分の胸中に渦巻く想い。歪んでしまっている『何か』が蓮子を責める。自分は蚊帳の外で事態が進行している孤独。

 

 その歪んだ『何か』を確かめることが出来たなら、暴くことが出来たなら、この胸に燻ぶり続けるやり場の無い想いを消せるのだろうか。

 

 蓮子は無性に叫びたかった。このやり場の無い想いを、責められる気持を。ただただ叫びたかった。

 

「……ッ」

 

 しかし、何を叫べばいいのか分からない。

 

 そもそも、誰に何を叫べばいいのかが分からない。

 

 じわりと涙が浮かぶ。ウェイトレスが「どうしたの?」と問いかけて来るが、蓮子が欲しいのはそんな言葉じゃない。

 

「…………ッ」

 

 誰も教えてくれない『言葉』は嗚咽となり、弱弱しく漏れるだけだった。

 

 心がざわつく。涙は頬を伝い、零れ落ちていく。

 

 その涙の意味を、教えて欲しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 会計を済まし、とぼとぼと自宅へと向かう。

 

 周りの喧騒がやけに遠くに感じる。まるで自分だけ別の次元に居るかのようだ。

 

 帰宅途中、蓮子の心は叫び続けている。蓮子の心は何かを否定し続けていた。こんな現実は嘘だ、と喚いていた。

 

「……なにが嘘なのよ」

 

 心から来る疑問に、蓮子は否定的な考えをしようとした。

 

「……でも」

 

 否定をするだけなら簡単だ。しかし、別の視点から物事を考えてみると見えて来る景色が違って見える時がある。少し、考え方を変えてみることにした。

 

「もし仮に、全部が嘘だったら?」

 

 今いる現実はすべて虚構で、それが歪みを生じさせているのではないだろうか。その歪みが『真実』を覆い隠しているのではないだろうか。

 

「『誰か』が私に何かをした……? だとしたらそれはきっと、その『誰か』にとって都合の悪いもの……。私に気付かれると、何らかのリスクを負うというコト……。うう、ここまで出てるのに……っ」

 

 蓮子は額を押さえながら呻くように言う。

 

「思い出せ、何か……何か忘れてる……。何かが足りない……」

 

 これでも頭はいい方だ。記憶の引き出しの開け閉めを繰り返しながら、蓮子は必死に思い出そうとする。

 

 

 

 

 

「たいせつなもの……だったはず……」

 

 

 

 

 

 蘇るは、美しい夜空に浮かぶ月。自分の傍らには『誰か』がいた。

 

 

 

 

 

「かけがいのないもの……だったはず……」

 

 

 

 

 

 自分がその『誰か』の手を引いて町を歩いている。

 

 

 

 

 

「私にとって……たいせつなもの? ……わたし……に、とって……たいせ――」

 

 

 

 

 

 違う。

 それは違う。

 だって、蘇る記憶の中に居るのは、自分と

 

 

 

 

 

「わたしたち……?」

 

 

 

 

 

 もう一人の存在。

 

 美少女のクセにそれを台無しにするかのような不可解過ぎる言動。

 

 白いナイトキャップをいつも頭にのせ、紫のワンピースを身に纏い、エセ外国人と罵られていた学友。

 

 それでも、そんな彼女でも、蓮子にとっては掛け替えの無い最愛の――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マエリベリー……ハーン……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間。

 

 メリーとの思い出が次々と蘇った。

 

 春に大学で彼女と出会ったのが運の尽き――もとい、数奇な運命の始まりだった。

 

 二人でオカルト調査『秘封倶楽部』を結成し、まともじゃない霊能調査を行った。メリーの謎言動に振り回されたり、謎行動に振り回されたり。時には彼女につらく当たった事も酷いことを言った事もある。それでも、蓮子は彼女から離れなかった。

 

 いつも一緒だった。春夏秋冬、蓮子の隣には必ずメリーが居た。

 

 

 

 

 

 ――れ、蓮子……もう少し……歩く、ペースを……お、落として……くれない……?

 

 

 

 

 

 石階段をするする昇る蓮子とは反対に、メリーは息も絶え絶えだった。

 

 

 

 

 

 ――蓮子……その、きょ、今日は……腕……組まないの?

 

 

 

 

 

 頬を染めながらメリーはおねだりをしていた。

 

 

 

 

 

 ――互いの両親への挨拶も済んだし、新婚旅行はどこがいいと思う、蓮子?

 

 

 

 

 

 少し前を歩くメリーは振り返りながらそう言った。

 

 

 

 

 

 ――でね蓮子っ、これがその夢の中で拾ったタケノコとクッキーなのっ

 

 

 

 

 

 いつもより少し興奮気味に、生き生きとした表情でしゃべるメリー(ちなみに蓮子は話を全く聞いていない)。

 

 

 

 

 

 ――雪だよ、蓮子っ。道理で寒いはずね

 

 

 

 

 

 二人で身を寄せ合いながら空から舞い降りる雪を眺めていた。

 

 

 

 

 

 ――蓮子ぉ……星よりもさぁ…………私を、見てよ……

 

 

 

 

 

 星に嫉妬したメリーは頬を少しだけ膨らませ拗ねていた。

 

 

 

 

 

 ――蓮子……私、蓮子がそばに居てくれてとてもうれしい

 

 

 

 

 

 眩しいくらいの微笑みを浮かべ、メリーは口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ――大好きだよ、蓮子

 

 

 

 

 

 

 

 満面の笑みを浮かべ、メリーは言った。

 

 蓮子がなぜ、メリーの傍を片時も離れなかったのか。

 

 応えは至極簡単だ。

 

 

 

 

 

 

 

 蓮子はメリーのことを……マエリベリー・ハーンのことを、愛していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 あのなにを仕出かすか分からない常軌を逸した変人を。

 

 いつも同じような服装かつ理解不能の言動で周りをドン引きさせた変態を。

 

 大学生にもなって厨二病を患っている可哀相な子を。

 

 自分には『境界を見る』能力がある、とか平気で言っちゃうぶっ飛んでいる人間を。

 

 誰よりも深く深く、愛していた。

 

 人はそんな蓮子こそが異常だ、と言うだろう。さもありなん、蓮子だってそれくらいは理解している。DV彼氏と別れようとしない彼女の心理が分からない、と思っていた蓮子だったが、しかし、今ならその気持ちが分からないワケでは無かった。

 

 愛の前に、そんなことは気に掛けるほどのことでもない。本当に愛しているからこそ、いつまでも傍に居たいと思うのだ。願うのだ。

 

 もはやそれは精神疾患と言っても過言ではないだろう。

 

 それでも。

 

 止められない、溢れ出てしょうがない、彼女のことを想う『感情』を否定する権利が、他の人間にあるのだろうか。

 

 愛しているがゆえに忘れ得ぬ存在。

 

 蓮子にとっては生活の中心になりかけている相手。

 

 蓮子はそれを、忘れていた。

 

 

 

 

 

「あ……あ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ」

 

 

 

 

 

 蓮子はその場で膝を折った。四っつん這いとなり、かぶっていた帽子がころりと落ちた。

 

 どうしてその名前を忘れていたの!? と自分を責め立てる。忘れたいと思ったことなど、一度も無かった彼女のことを、なぜ今の今まで忘れていたのだと殴ってやりたい。

 

 記憶が甦り、溢れんばかりの愛情と悲しみがこみ上げて来る。どう表現したらいいか分からないその『感情』は雫となって頬を伝う。

 

「メリー……メリー……っ」

 

 涙が次々と溢れ、アスファルトを湿らせていく。

 

 思い出すのはいつものやり取り。

 

 自分がデートに遅刻し、自分は「ごめんごめん」と軽く謝り、メリーがそれを呆れ顔で見つめて来る、そんな日常。

 

 それを奪ったのは……紛れでもないメリーだった。

 

「……」

 

 身体の奥から熱がこみ上げて来る。それはあの時に叫べなかった想いのはずだ。

 

 その想いは怒りとなって蓮子を突き動かす。

 

 こんな所で立ち止まって泣いている場合ではない。

 

 帽子を拾い上げ、かぶり直す。流れる涙を拭い、蓮子は虚空を睨みつける。

 

「……許さないわよ、メリー」

 

 最愛の親友の蛮行を、蓮子は看過できなかった。蓮子にはただ一つだけ、心当たりがあった。

 

 いつの日か、メリーが言っていた。

 

 

 

 

 

 ――多分だけど、この前に行ったあの廃れた神社。あそこは霊的な磁場が乱れてたし、何より境界の揺らぎが見えたわ。もしかしたらだけど、そこが「幻想郷」への入り口なのかもしれないわね。大丈夫よ、蓮子。蓮子を置いて行ったりはしないわ。私と蓮子……二人で秘密を暴くのが「秘封倶楽部」なんでしょう?

 

 

 

 

 

 蓮子は走り出した。

 

 目的地はあの廃れた神社。確か、名前を『博麗神社』といっただろうか。

 

「なに勝手に一人で行ってんのよ……っ!」

 

 私たちは二人で『秘封倶楽部』のはずだ。それなのに、メリーは単独で行動をした。

 

 あの厨二患者にはほとほと困っていた。事あるごとに「境界がどうのこの」とか「境界が云々」と語り出すのだ。彼女の行き過ぎた行動には流石に呆れてものが言えなかったが、それでも、蓮子にとっては唯一無二の親友だし、最も愛していた存在でもあった。

 

「どこまでだって、追いかけるんだからね……っ!」

 

 人と何度もぶつかったが、蓮子は「ごめんなさいっ」と言葉早く言うだけだった。

 

「メリー……貴女、私に何を隠したまま行こうとしたの……っ?」

 

 おぼろげな記憶でしかないが、メリーは先日、蓮子の下宿先に泊まった。自分は酒に酔ってすぐに潰れてしまったが、メリーはあまり酒を口にしていなかった。酩酊状態の人間は得手して催眠状態に陥りやすい。

 

 メリーは大学で対精神学を受講していた。それは簡単に言ってしまえば心理学だ。きっと蓮子に催眠術か何かを施して、自分の存在を曖昧にしたのかもしれない。それか、彼女の持つ異能の応用なのかもしれない。

 

 彼女は『境界を見る』能力があると言っていた。少しずつだけど能力が強まってきているとも言っていた気がする。厨二患者だな、と思っていたが、今になってみると本当なのかもしれない。自分が居ない現実と居る現実の境界をあやふやにして、蓮子にそれを見せていたのかもしれない。あやふやだったからこそ、『白い誰か』が見えたのだろう、と蓮子は推測する。

 

「諦めてなんて……やるもんか……っ! もう一度、私の名前を呼ばせてやるっ!」

 

 絶対に会うんだ、とこの心に誓う。

 

 休む間もなく、蓮子は走り続ける。最中、メリーの様々な表情が脳裏をよぎった。

 

 笑っているメリー。怒っているメリー。

 

 そして、泣いているメリー。

 

「……ッ! メリ――――――――――――――――――――――――――――――ッッ!」

 

 蓮子は声を張り上げる。周りの人がギョッとするが、そんなこと知った事ではない。自分もメリーに負けず劣らずの奇行を仕出かしてしまった。

 

 蓮子は周りからの奇異の視線にさらされながらも、それを無視し続ける。

 

 走り続けた甲斐があってか、蓮子はその場所に辿り着いた。

 

 オンボロな鳥居には掠れた字が書いてある。ボロ過ぎてもう判別がつかないが、この場所であることは間違いない。

 

 とある神社の巫女、神隠しの主犯の賢者、永遠に紅い幼い月の吸血鬼、歌聖に成り損なった天衣無縫の亡霊、遠くの星からやってきた姫の罪人、地蔵から成り上がった閻魔、二柱居るうちの軍神、核融合の力を手に入れた八汰烏、魔法で肉体を若返らせた超人、剣を依り代に封印されていた聖人――二人を引き裂いたすべての幻想。蓮子はそれらすべてに立ち向かうつもりだ。

 

 最愛の親友を取り戻すために。

 

「私は諦めないから!」

 

 神社に向けて蓮子は叫ぶ。

 

「いつか必ず……どんなに時間がかかっても良い! 必ず貴女を……マエリベリー・ハーンを取り戻してみせる!」

 

 蓮子は手を伸ばした。

 

 今一度、物語の幕を開けよう。

 

 いつもの始まりの言葉で。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、メリー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女が最愛の親友を捜す物語が、始まる

 

 

 




 そして中篇へ続きます。ゴールデンウィーク中に残り二話ちゃんと投稿しますので。

 ではまた。


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中篇

 とある旧作キャラ。大学と言えばこの二人。
 では本編どうぞ。


 最愛の親友――マエリベリー・ハーンことメリーが消息を絶っていると分かってから数日が過ぎた。

 

 宇佐見蓮子はパソコンやオカルト雑誌、大学構内に流れている噂話。なんでもいい、彼女へと繋がるものであれば何でも調べ上げた。もちろん、大学の講義にはちゃんと出席はしている。蓮子は、皆が板書している中、ただ一人だけ違う事をしていた。厳密に言えば蓮子以外にも授業に関係の無いことをしている者や寝ている者もいるのだが、蓮子は一際目立っていた。

 

「T県の心霊スポット……ダメだ、ただの心霊写真が撮れる程度じゃダメだ……。もっと超常的なものは……。E県の怪談? 怪談なんて用は無いのよ……」

 

 雑誌の見出し記事を読み漁っては首を横に振る。現在行われて居る講義は人気の講師によるものなので、いつもほとんど満席状態になる。しかし、蓮子の周りには空席だらけだった。

 

「A県のオカルト……これってこの間テレビでやってたやつじゃないの? 宇宙人なんてどうでも良いわよ」

 

 雑誌を乱暴に閉じ、蓮子はため息をつく。

 

「神隠しでも鬼隠しでも何でもいいわよ……。私が欲しいのは人が消えるオカルト」

 

 人が突如として消息を絶つことを『神隠し』と呼ぶ。地方によっては『鬼隠し』や『天狗攫い』とも呼ばれるらしいが、重要なのは名前ではない。その事件の内容だ。

 

「警察犬の鼻を振り切るなんて本来はあり得ない……。そのあり得ない事件が発生し、調査が打ち切りになるほどの『神隠し』……」

 

 人間は歩くだけでもにおいが残るという。警察犬はそのにおいの足跡を頼りに当人を探し当てる。しかし『神隠し』に遭ったと思われる場所に辿り着くと立ち止まってしまうらしい。何度やってもその場所に辿り着くと立ち止まってしまう。辺りは見晴らしの良いところで隠れるような場所も無いというのに、だ。

 

「人が消えるなんて大昔からあることなんだけどね……」

 

 メリーが聞いたら「ふふ、現と幻の狭間に閉じ込められちゃったのね」と言いそうだ。

 

 ここまで調べたというのに、何の収穫も無い。正直なところ、手詰まりだ。

 

 ネットのあらゆるオカルト掲示板は見て回ったし、雑誌だって漏れも無く目を通した。あと本格的に調べなければいけないのは噂話の類なのだが、ぶっちゃけた話、やりたくない。

 

 面倒だとかそう言うのではなくて、数が膨大なのだ。所詮は噂話だと思うなかれ、噂話とは日々変化する。さながら伝言ゲームで誰かが間違った情報を盛り込むように。

 

 嘘が真実を覆い隠し、それが世の理のように蔓延る。

 

「……メリー……どうして私を置いて行ったの?」

 

 いつも一緒。二人三脚でやってきた『秘封倶楽部』の活動。彼女は蓮子を裏切り、たった一人で何処かへと姿をくらませた。

 

 蓮子は問いただしたい。なぜ自分を置いて行ったのか、なぜ自分を裏切ったのか。

 

 あれだけ言葉を交わしあい、お互いの気持ちを確認し合ったのに。愛しあったのに。

 

 復讐しようとは思わない。蓮子はただ真実を知りたいだけだ。

 

「……今考えても意味は無いか……」

 

 再会できたら分かる。それまでは深く考えることはよそう。

 

 いつの間にか講義が終わっており、講堂は騒々しくなっていた。

 

 

 

 

 

「宇佐見蓮子」

 

 

 

 

 

 ハッとして顔を上げるとそこには講師の岡崎夢美が立っていた。

 

 若干一八歳にして大学の教授へと上り詰めた天才。ショートカットの紅い髪に同系色の瞳が蓮子を見下ろしていた。可愛いや美少女という言葉からは遠く、どちらかと言うとクールビューティーや綺麗な大人の女性といった印象が強い。やはり、社会に出ると同年代でも違って見えるのかもしれない。

 

「私の授業で堂々と関係無いことをするのは君が初めて……ではないけど、あまり感心しないわね」

 

「すいません」

 

 蓮子は頭を下げる。しかし、夢美は立ち去らなかった。

 

「ここのところ最近、君は一人みたいだけど……片割れはどうしたのかしら?」

 

 片割れとはメリーのことに違いないだろう。なんで夢美が知っているのだ、と思ったが、よくよく考えれば『秘封倶楽部』はまともじゃない霊能調査隊として有名なのだ。夢美からすれば蓮子やメリーはごっこ遊びをする幼稚園児のようなものなのかもしれない。

 

「少し、私用で出掛けているらしくて」

 

 似たようなものだろう、と蓮子はそう言った。しかし夢美は「ふむ」と言ってアゴを小さく撫でた。

 

「私の見立てが確かなら、君たちは世に言う恋仲ではなかったかな?」

 

「恋仲って……」

 

 随分と古風な言い回しをする人だ。第三者から見ても蓮子とメリーは相当仲睦まじく見えていたようだ。

 

「ま、まぁ……世間一般的に言うのであればそういう関係も無きにしも非ずというか、無くは無いというか……」

 

「なにを照れているの。愛の様式美など常識に囚われた愚かな思考に過ぎないわよ。好きなのであれば堂々としなさい。自分の気持ちに嘘をつくもんじゃないわ」

 

 本当に同年代なのだろうか、と思ってしまった。語り口もさることながら、思考までもが大人びている気がする。

 

「君は少し肩に力が入り過ぎているのよ。少しは気分転換をしてみたらどう?」

 

「気分転換……しようにも」

 

 独りでいるとメリーの事を考えてしまう。どうせならこうして話している方が幾分かはマシになるのだ。

 

「……どれ、少しは私も手を貸してあげましょう」

 

 夢美はそう言うと小さく笑みを作っていた。

 

「あの、それはどう言う意味でしょう?」

 

「宇佐見、少し付き合いなさい」

 

 夢美は有無を言わせぬ口調で出口へと向かって行った。蓮子は慌てて雑誌をかき集めるとバッグへと乱暴に放り込み、夢美の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、連れてきたってワケ?」

 

 ブスっとした顔で頬杖をつき、ストローを口にくわえながらこちらを睨みつけているのは北白河ちゆりといって、夢美の友達らしい。

 

 水兵が着るようなセーラー服を纏い、金色の髪をツインテールにまとめ上げている。ちゆりはイスに片足を乗せて非常に行儀が悪い体勢だった。

 

 夢美と同年代らしい。比較対象が夢美だからかもしれないが、どうもまだ高校生にしか見えない。

 

「ちゆり、ちゃんと座りなさい」

 

「別に夢美に迷惑かけてないぜ?」

 

「お里が知れるわよ」

 

「私にはそんなん関係無いね」

 

「もう一度言うわよ、ちゆり。……ちゃんと座りなさい」

 

 夢美が凄味を利かせて言う。幻覚だろうか、夢美から溢れんばかりの静かなる怒気が揺らいで見えた。

 

「チッ、仕方ねぇな」

 

 その怒気に気付いているのか居ないのか、はたまた知った上での態度なのか、ちゆりはぞんざいに言うとイスにちゃんと座った。

 

「ごめんなさいね、宇佐見。これは見ての通り子供っぽくて」

 

「……夢美?」

 

 夢美の物言いが気に食わなかったのか、ちゆりは夢美に食ってかかった。

 

「私のどこがガキだって言うんだよ?」

 

「鏡を見ることを勧めるわよ」

 

 夢美は特に取り合おうともせず、優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「申し訳ないわね、付き合ってもらっておきながら騒々しくて」

 

「は、はぁ……」

 

 蓮子は曖昧に頷く。ちゆりは相手にされていないと分かったのか、イライラした様子でそっぽを向いていた。

 

「ちゆりのことは気にしないで、ただ拗ねているだけだから」

 

「す、拗ねてなんかないぜ!? 夢美のバーカバーカ!」

 

 そっぽを向いていたちゆりは頬を染めながら夢美に暴言を浴びせていた。しかし、夢美は気にした様子も無く紅茶を啜る。

 

「あの、拗ねている……とは?」

 

「なに、詮の無いことよ。私はこの後、講義も無くてヒマなのよね。だからちゆりは私をデートに誘うつもりでここに来たんだろうけど、君を見てヤキモチを妬いているだけよ」

 

「バ――」

 

 ちゆりは顔を真っ赤にしていた。どうやらその通りだったらしい。

 

「え、だとしたら私……お邪魔、なんじゃ……?」

 

「べ、別にデートしたかったワケじゃないんだぜ!? 私もヒマだから、ちょいとご飯を奢らせてついでに夢美の買い物を手伝ってやろうと思っただけだ!」

 

 バンバンッ、と机を叩きながら抗議するちゆりの姿は、なんだろう、とても愛しく見えたりする。

 

「そ、それより、こいつは誰なんだよ?」

 

 ちゆりは露骨に話題を蓮子へとズラしてきた。

 

「ああ。私の講義を無視して私事をしていた生徒の一人よ」

 

「……ほう」

 

 ちゆりの目が細くなった。

 

 確かに蓮子は授業に関係の無い私事をしていた。しかし、どう見ても大学の部外者であるちゆりに、なぜこうも睨まれなければならないのだろうか。褒められたことではないと蓮子自身も分かっている。でも、ちゆりに怒られるのはどうも筋が違っている気がする。

 

「怒らないのちゆり。この娘にも色々と理由があるのよ」

 

「……夢美に免じて引いてやるよ」

 

 苦笑を浮かべながら夢美が言うと、ちゆりはあっさりと引き下がった。

 

「さて、話してもらおうかしら」

 

「なにをですか?」

 

「惚けるのも良いけれど、言わせてもらうわ」

 

 夢美はそう言って紅茶をソーサーの上に置き、それをテーブルの邪魔にならない所においた。

 

「貴女、あんな真剣な表情をして何を探してたの?」

 

 どうやら、気付かれていたらしい。確かに独り言のようにぶつぶつ呟いていた実感はあったが、それはほとんと口の中で言っていたはずだ。聞こえて無かったにせよ、雰囲気だけで何かあったということは分かるらしい。

 

「……教授は心理学を専攻してたんですか?」

 

「私は見ての通り物理学の教授よ。心理学なんて門外漢よ」

 

 オカルトは好きだけど、と夢美は付け足した。

 

「何があったか知らねーけど、言うだけでもマシになる時があると思うぞ」

 

 ちゆりは頬杖をつきながらも聞く姿勢をとってくれていた。なんだかんだ言っていい人なのかもしれない。

 

 蓮子は一回だけ深呼吸をして語りだした。

 

 

 

 

 

「――と言った感じです」

 

「「……」」

 

 夢美は眉根にシワを寄せ難しそうな顔をしており、ちゆりはただ唖然としていた。

 

「メリーがなんで私を裏切ったのか分かりません。大学生にもなって厨二病を患った変態ですけど……それでも、私にとっては掛け替えの無い、大切な……大好きな、親友なんです」

 

 全てを話すと確かに、少しだけ心が落ち着いた。独りで抱えることがこんなにも苦しいとは知らなかった。

 

「無理だと分かっているんですけど、私は止まるつもりはありません。何を犠牲にしても、私はメリーを取り戻したいんです」

 

 二人は蓮子の言葉が嘘偽りの無いものであると分かった。講義中にもかかわらず、蓮子はオカルト雑誌を読みふけっていたのだ。

 

「とても正気とは思えねぇな」

 

 ちゆりはそう言ってイスに座りなおした。

 

「何処かへ消えた人間に、なんでそこまで執着するんだ? そら大切だってことは話を聞いてて感じたけどよ……」

 

 蓮子は静かにちゆりのことを睨みつけた。

 

「おいおい、そんな睨みなさんなって、過ぎたことを言ったことは悪いと思ってるよ」

 

「貴女は少し人を慮ることを覚えなさい。私は素敵だと思うけど?」

 

 夢美はそう言って蓮子に視線を向けた。

 

「そこまでの覚悟があって、それだけマエリベリーのことを想う……。消えた存在を追いかけるって、意外と精神的にきついものなのよ?」

 

「……」

 

 蓮子は黙って夢美の言葉の続きを待った。夢美はこちらに興味を示した蓮子を見て小さく笑みを作った。

 

「何かに躍起になることは、誰でも最初はできるのよ。でも、問題はその後……。鋼と言っても良いくらいの精神力、何物にも揺るがない強い決意……。そして、その人や物事に対する強大な想い……。その三つが無い限り、継続なんて出来ないわ」

 

 紅茶を啜り、夢美は続ける。

 

「すぐに折れる絹ごし豆腐メンタルで、生半可な覚悟で……。雑念に惑わされ、目的を見失い、挫折する程度の想い……。人は楽な方へと傾向し、努力する人間を否定する生き物よ。だから、人はすぐにこう言うの」

 

 夢美は蓮子の目を見て言った。

 

「『十分やったじゃん』……『もう頑張ったよ』……『これ以上は無理に決まってる』……『なんでそんなに一生懸命なの?』……。……貴様らに何が分かるというの?」

 

 ぞくり、と夢美の言葉に寒気を感じた。

 

「アンタ達から見れば矮小なことかもしれないけど、その人本人からすれば心の支えたるモノなのよ? それを、どういう心境でその境地に至ったのか分からないゴミどもに、否定されて良しとする人間がいると思う?」

 

 そんな人間は滅ぶべきよ、と夢美は憎々しげに語る。

 

 彼女は齢一八歳にして教授に昇りつめた才媛だ。学者の中ではそんな彼女を良しと思わない人も居るのだろう。彼女がどんな研究をしているか分からないが、蓮子は思う。

 

 きっとその人たちに否定されたのだろう。夢美がどうしても叶えたいと思う、その願いを。

 

「人にはそれぞれ譲れないものがあるわ。どうしても成就させたい、実現させたい……。周りに何を言われようと一心不乱に突き進もうとする君は、とても美しい」

 

 夢美はそう言って微笑んだ。

 

「羨ましいわね、そこまでして想ってもらえてるマエリベリーが。彼女のことを真に想う君だからこそ、私は君の願いをとても神聖なものだと思うわ」

 

 言外に褒められ、蓮子は照れてしまった。自分はそんな大層な人間ではない。

 

 ただ、彼女と再会したいだけだ。

 

「夢美が褒めるなんて珍しいな」

 

 ちゆりはそんな夢美が意外だったのか、目を丸くしていた。

 

「貴女は私をなんだと思ってるの?」

 

「人を人とも思わない鬼教授」

 

 ごっ、と夢美はちゆりの頭に拳骨を落とした。

 

「ってぇぇぇえええええ……っ」

 

「言葉を慎みなさい、ちゆり」

 

「おいおい、私の頭を叩くんじゃねぇよ、優秀な脳細胞が死滅したらどう責任取ってくれるんだよ」

 

「多寡が大学院を出たくらいで調子に乗るんじゃないわよ」

 

「え……」

 

 蓮子は驚いてちゆりを見遣った。

 

「あん? なんだよ。なに驚いてんだよ」

 

「院……出てたんです、か?」

 

「ん、まぁな」

 

 ちゆりは大したこともなさげに言う。

 

「つっても『こっち』じゃ普通のことなんだぜ? 大学を一一歳、院は一三歳で出るなんて」

 

「ちゆり」

 

 夢美の語気が若干強まる。言外に「下手なことを言うな」というニュアンスを感じた蓮子だったが、それを問いかけるのは憚られた。

 

「はいはい、分かってますよ」

 

「それはともかく、私個人はその『幻想郷』とやらに興味があるわね」

 

 夢美はそう言って身を乗り出してきた。

 

「マエリベリーからは何か聞いてないの? その『幻想郷』のことについて」

 

 オカルトが好きと言っていただけあって、食い付き度が半端ない。だが生憎、蓮子はその詳細を聞く前にメリーは行方をくらませたのだ。

 

「すみません……全く分からないんです……」

 

「……そう」

 

 夢美は少し残念そうにイスに座りなおした。

 

「でももしかしたら……そう言う可能性があるかもしれないのよね……」

 

 だとしたら価値はあるかも、と夢美は言った。

 

「教授?」

 

「ああ、気にしないで。私個人のことだから」

 

 夢美は小さく手を振った。

 

「でもよ、うさみみ」

 

「宇佐見です」

 

「どっちも似たようなものだろ」

 

 名字をそう捉えるとは、この人も中々に個性的な考えを持っているようだった。

 

 ちゆりに話しかけられ意識はそっちへと向いた。

 

「何の手がかりも無いんじゃどうすることもできねぇぞ。なんかアテがあんのか?」

 

 痛いところを突かれ、蓮子は細々と答える。

 

「ネットの掲示板はすべて回ったつもりですし……、雑誌も色々と読んでみたんですけど……。やっぱり『神隠し』に関することは多すぎて」

 

 ふーん、とちゆりは分かったんだか分かってないんだか曖昧な返事をしていた。そしてちゆりは夢美の方へ向き直る。

 

「なぁ夢美、『神隠し』ってどのぐらいの頻度で起こるんだ?」

 

「あたかも自然現象のように言わないでちょうだい。『神隠し』はそんなカテゴリーに分類されるようなものじゃないんだから」

 

 超常現象よ、と夢美は説明した。

 

「詳しいことは現代科学においても解明されていないわ。突如として人が消えるなんてそんな非科学的なことが頻繁に起きてたら嫌でしょう?」

 

 夢美は講義をするように口を動かす。

 

「夢の現実……幻と現……幻実の狭間に堕ちた、と表現した方がいいかしら」

 

 メリーも同じようなことを嘯いていた気がしたので、やはり帰結点は同じだということが分かった。

 

「なんにせよ『神隠し』には遭いやすい気質というモノがあるのは確かなようね。明確なものは無いけれど、精神的に不安定な時期に遭いやすいとも考えられているわ」

 

「精神的に不安定……」

 

 心当たりがあり過ぎた。

 

 メリーは大学生にもかかわらず厨二病を患っている。親か社会に対する反抗か何か分からないが、常日頃から常人を逸した事ばかりするのだ。それを精神的な不安定と言わず何と言えば良いのだろうか。

 

「貴女たちは確か……『秘封倶楽部』……だったかしら、そんなサークル活動をしていると聞き及んでいるけれど」

 

「ひふうくらぶぅ? 大学生にもなってなにガキっぽいことしてんだか」

 

 ちゆりが冷ややかな視線を向けて来る。確かにそう見られても仕方ないので、蓮子は反論しなかった。

 

「活動内容についてまではとやかく言うつもりはないけれど……。もしかしたらマエリベリーは、その活動中にあることに気付いたんじゃないの?」

 

「あること……ですか?」

 

 蓮子はこれまで行ってきた『秘封倶楽部』の活動を思い出してみる。しかしこれと言ってメリーに変化があったとは思えない。いつもか、それ以上に変なだけだった。

 

「これは私の憶測なのだけれど……。マエリベリーは貴女を置いて行ったのではなくて、置いて行かざるを得なかったんじゃないかしら?」

 

「それ、どういうことですか?」

 

 蓮子が若干前のめりになる。夢美は僅かな間だけまぶたを閉じると、蓮子の目を見ながら言った。

 

 

 

 

 

「マエリベリーの異能が『そこ』で必要になった。そう考えられない?」

 

 

 

 

 

 蓮子はその言葉に耳を疑った。

 

「……メリーの異能が、必要?」

 

「君の弁を信じるのであればマエリベリーの異能は『境界を見る』能力……。だけど、君が見てきた数々の彼女の『人外な業』を加味して考えると、全く別の力にも見えるわね」

 

 つまり、と夢美は告げた。

 

 

 

 

 

「彼女の異能は強くなっている。もはや『境界を操る』能力と言っても良いかも」

 

 

 

 

 

 まさかの言葉に、蓮子は言葉を失った。確かに、人によっては異能が増大したりする場合もある。その反対に減退することだってあるのだ。しかし、メリーはそのさらに上を行っており、異能を『進化』させたのだ。

 

「た、確かに……メリーの異能は強くなっている感じはありました。でも、そんなレベルまでなっているとは」

 

「言ったはずよ、これは私の憶測……可能性の話でしかないわ。話半分程度に聞いておきなさい」

 

 しかしなぜだろう。夢美がそう言うとそうとしか思えないのだ。

 

「コレも憶測だけれど、マエリベリーはその進化した異能を使用してその『幻想郷』とやらに向かったんじゃないかしら? そして、そこでその異能が必要になった。その異能が無くては存在が保てなくなってしまったほどに、マエリベリーはその『幻想郷』に大きな影響を及ぼしてしまった。ゆえに――」

 

「もうやめてください!」

 

 蓮子は大声を上げてその先を言わせなかった。

 

「やめてください、そんな……そんな、意味の無い話! 教授の言い分だと、メリーはもう私のところには帰って来れないって言っている様なものじゃないですか!」

 

「……そうね、意味の無い仮定の話をしても仕方ないわね。それにごめんなさい」

 

 夢美は小さく頭を下げた。

 

「幾つもの可能性をシュミレートして、現実に最も近いであろう推論を立てて検証する……。科学者の性分なのよ。許してくれる?」

 

「……はい」

 

 蓮子も別に夢美を糾弾するつもりはない。ただ、夢美にその先を言って欲しくないだけだった。夢美が言ってしまうと、本当になってしまいそうな気がしたのだ。

 

「なんにせよ」

 

 剣呑な雰囲気が漂っていたが、それを無視するかのようにちゆりが口を開いた。

 

「ここで駄弁ってても仕方ねぇ。少しでもそいつに繋がりそうな情報を得てこないことには前進できねぇぞ」

 

 ちゆりの言うコトは正しい。こうして意味の無い推論をしているだけでは何も始まらない。やはり、足で稼ぐしかないのだろうか。

 

「……宇佐見、この話は聞いたことがあるかしら?」

 

 調べ方について再検討をしていた蓮子に、夢美が問いかけてきた。

 

「噂話ですか? でしたら、大概のものは調べたと思うんですけど」

 

「確かに噂話だけど、これはちょっと異質なものかもしれないわね。これはかつて、私が聞いた不思議な話」

 

 蓮子は怪訝な表情を浮かべた。蓮子だって手を拱いていただけではなく、足を使って調べ回った。大学構内で聞ける噂話など多寡が知れているが、もしかしたら蓮子が聞き漏らしたものかもしれない。

 

「どんな話ですか?」

 

 

 

 

 

「《零次元エクスプレス》」

 

 

 

 

 

 夢美の口からはとても信じられないような言葉が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

「乗客をどこへでも……いつの日にでも導いてくれる、次元を越えて走る列車の話よ」

 

 

 

 

 

 

 

 少女は最愛の親友への道標を見つけた

 

 

 

 




 中篇はこれでおしまいです。次回は最終話『後篇』になります。

 ではまた。


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後篇

 三話完結です。
 では本編どうぞ。


 某所、深夜。

 

 一人の少女がそこに居た。

 

 黒い帽子を被り、白いブラウスを赤いネクタイで緩く締めている。少しだけレースがあしらわれた黒のスカートを身につけ、少女は――宇佐見蓮子は辺りをきょろきょろと見渡している。

 

「……ここで……良いんだよね?」

 

 疑問形なのは『この場所』で間違っていないかどうかわかない不安から来るものであって、決して誰かに確認をとっているワケではない。

 

 深夜も深夜、草木も眠る丑三つ刻に出歩くなど、余程の暇人かヒキニートのいずれかしかない。蓮子はそのどちらでもなく、ちゃんと理由があって『この場所』に訪れたのだ。

 

 蓮子はいるのは、もう使うことは無い電車の車庫の付近だ。車庫に電車は一両も無く、ただ廃線路となった広大な土地に一人、ポツンといる。

 

 こうして懐中電灯だけを持ち、辺りは漆黒の闇の中に一人だけでいると、世界には自分一人だけしかしないのではないか、と考えてしまう。

 

 砂利を歩く音が異様に響き、不気味な雰囲気をさらに加速させる。こんな場所、さっさとおさらばしたいが、蓮子は「はっ」と自分の頬を叩いて喝を入れた。

 

「うぅ、少し強く叩きすぎた……」

 

 ひりひりと痛む両頬をさすりながら再び辺りを見渡す。

 

「……なんか、寂しいところね」

 

 廃線路なのだから寂れた感じがあるのは仕方ないにせよ、それを加味して考えても、ここは物悲しい。忘れられた場所、と言えば良いだろうか。もう誰も踏み事は無い、朽ちて行くだけの土地。

 

「……感傷に浸っている場合じゃないわね」

 

 蓮子は視線を正面の闇へと向ける。少し緊張しているのか、胸がドキドキしている。

 

「まさかこの歳で親を不幸にするとはね」

 

 蓮子は自嘲気味に呟く。

 

 先日の出来事を、蓮子は思い出していた。

 

 

 

 

 

     ●       ●       ●

 

 

 

 

 

「《零次元エクスプレス》……ですか?」

 

 初めて聞く単語に蓮子は眉根にシワを寄せた。

 

「その様子から察するに、知らないようね」

 

 対面に居る大学の教授の肩書を持つ赤い髪の少女――岡崎夢美は小さく息を吐いた。

 

「初耳ですね……。どんな話なんですか?」

 

「さっきも言った通り、乗客をどこへでも、いつの日にでも導いてくれる列車よ。分かりにくかったら青いネコ型ロボットに出て来るタイムマシンのようなものと考えてもらった方が早いかもしれないわね」

 

「その表現って大丈夫なのか?」

 

 頬杖をつきながら水兵服を着た金髪ツインテールの少女――北白河ちゆりが渋い表情を浮かべていた。

 

「明言はしてないから大丈夫じゃないかしら?」

 

「だったら別に言わんでも良いだろ」

 

 ちゆりは呆れながら言った。

 

「話が逸れたわね。これは噂話……と言うには、性質が違うとも言ったわね」

 

「ええ」

 

 蓮子は頷いた。夢美は異質なものであると言っていたのだ。

 

「本質は異なるんだけど、最も近い分類となると……『神隠し』に近いわね」

 

『神隠し』。蓮子はその単語に食い付いた。

 

「『神隠し』が超常現象とするのであるならば……《零次元エクスプレス》は言うなれば……願い」

 

「願い……ですか?」

 

 ある日突然と姿を消す・消えてしまう超常現象を『神隠し』と呼称する。しかし、似たような性質を持ちながらも《零次元エクスプレス》は願いに近いという。

 

「『神隠し』は当人の意思に関係無く発生する言わば天災……。神だけに『神災』と言ったら、少しは楽しい言葉遊びかしらね。でも、当人の願いによって、人の願望によって発生する《零次元エクスプレス》は人災よ」

 

 天然か人工かの違い。なるほど、それならば分かりやすい。

 

「でも、言っても噂話ですよね?」

 

「本質は異なると言ったけど、なにもそれが噂話を修飾してるとは言っていないわ。性質が違う、と言ったのよ」

 

「?」

 

 蓮子は意味が分からず首を傾げた。それを見た夢美は驚いていた。

 

「君は頭の回転が早い方だと思っていたけれど……それは私の勘違いだったのか? この程度のことが理解できないなんて……」

 

「お前、自分がどれだけぶっ飛んでる人間か自覚しろよ。んでもって、自分と同じことを他人に求めるな」

 

 ちゆりはそう言って夢美の態度に呆れていた。

 

「悪いな、こいつ……天才をこじらせてバカなんだよ。悪気があるワケじゃねぇから許してやってくれ」

 

「は、はぁ……」

 

 ちゆりの謎のフォローに蓮子は曖昧に頷くだけだった。夢美はいまだに「なぜわからない」と言いたげな表情を浮かべていた。

 

「要はあれだ、あれ。『神隠し』と……なんつったか、零次元なんたらってやつの現象の本質は違うが、内容自体は似たようなもの。けど、噂話として見てみると、その零次元なんたらは他の噂話とは性質が異なるって言いたいんだよ」

 

「ああ、なるほど」

 

 ちゆりが噛み砕いて説明してくれたのでようやく夢美が言っていたことを理解出来た。忘れていたが、ちゆりだって大学院を出ているのだ。

 

「そんなに噛み砕かないと分からなかったかしら?」

 

「お前……まぁいいや、先に進めろ」

 

 ちゆりは何か言いたそうな表情だったが、諦めて手を振って先に進むように促していた。

 

「性質が異なるって、どう言う意味なんですか?」

 

「噂話とは基本的にデマのことよ。デマとは、人の悪意によって生み出される偽りの話のこと。十中八九がその『悪意』だと言っていいわね。だけどしかし、極稀に、ほんの僅かな真実が紛れ込んでいるわ。火の無いところに煙は立たない、と言えば分かるかな?」

 

 また意味の分からないコトを、と思った蓮子だったが、少し考えてみることにした。その意味を吟味していると、ハッとした。

 

「……まさか、そう言うことなんですか?」

 

「君はこっちの方は察しがいいんだね。まぁ、そう言うことよ」

 

 夢美は冷めた紅茶に映る自分を見つめながら言った。

 

 

 

 

 

「《零次元エクスプレス》を見た人物がいる」

 

 

 

 

 

 蓮子は言葉を失った。夢美はどうしてだろうか、心苦しそうに続けた。

 

「丑三つ刻を少し過ぎた廃線路……そこに《零次元エクスプレス》は現れるわ」

 

「本当……なんですか、それ……」

 

 蓮子の声は震えていた。

 

 これまで沢山のサイトや雑誌に目を通してきた。しかし、有力な情報を得ることは出来なかった。何一つ、消えた最愛の親友――マエリベリー・ハーンことメリーに繋がるモノは無かった。

 

 しかし、今。希望の光とも言える話が聞けそうなのだ。

 

 藁にも縋る思いで問いかける。

 

「ええ、本当よ」

 

 夢美はそう断言した。

 

 蓮子の目尻には涙が浮かんでいた。自分の今までの苦労が報われようとしている。《零次元エクスプレス》に乗れば、自分はメリーに逢うことが出来る。この腕で彼女を抱きしめることが。

 

 歓喜の声をあげようとしたところで、夢美が「でも」と続ける。その表情はどこか、影が射していた。

 

「《零次元エクスプレス》に乗車するには……とある条件があるの」

 

「条件……ですか?」

 

 ふと見ると、ちゆりまでもが表情を変えていた。思い出すのも憚るような、そんな表情だ。

 

 夢美はちらりと蓮子を見る。そして一瞬だけまぶたを下ろすと、蓮子のことを見据えながら言った。

 

 

 

 

 

「その条件は……死ぬことよ」

 

 

 

 

 

 その言葉を理解するのに、長い時間を要した。どうしてだろうか、周りの声が遠く聞こえる。

 

「…………………死ぬ、こと……?」

 

 どうか聞き間違えであってほしい。蓮子はそんな淡い期待を込めて問いかけてみるが、否定の言葉が返って来ることは無かった。

 

「は……はは……」

 

 蓮子の口から掠れた笑い声が漏れた。

 

「なにそれ……。え? 死ぬことが乗車の条件……? 意味分かんない」

 

 それでは元も子も無いのではないだろうか。逢いたい人に会いに行きたいのに、なぜ死ななければならないのか。

 

「意味分かんない……。だって死んじゃったら……触れないじゃないですか……」

 

 メリーを。

 

「抱きしめられないじゃないですか……」

 

 メリーを。

 

 

 

 

 

「なにも、出来ないじゃないですか」

 

 

 

 

 

 蓮子の言葉に、夢美は反論しない。それはつまり、そう言うことだからだ。

 

「やっと……やっと、逢えると思ったのに……。そう思ったのに……このザマですか……。結局、私はメリーに逢えないということなんですか。逢いたいと願うことが、それほどまでに罪深いことなんですか?」

 

 先ほどとは違った意味で目尻に涙が浮かんだ。声をあげて泣けたらどれだけ楽なことだろう。蓮子の自制心が泣くのを阻止しているのか、それとも、もうどうしようもなくなってしまい途方に暮れて泣くことが出来ないのか。

 

「……零次元は」

 

 夢美が口を動かす。

 

「点も線も無い、完全なる無を定義しているわ。それはつまり『死』を意味しているわ。だから《零次元エクスプレス》とは《死の列車》とも言い換えられるわね」

 

 詭弁だ、と言いたかったが、乗車の条件を知ってしまうと強ち間違いではないと思ってしまう自分が居た。

 

「《零次元エクスプレス》に乗車する人たちは全員……もう逢えない人に逢いに行く為に乗っているのよ」

 

 故に条件は『死ぬこと』が求められる。簡単な数式だ。

 

「……お前にだって親が居んだろ?」

 

 ちゆりが重々しく口を開く。

 

「親だけじゃない。兄弟姉妹だっているかもしれない。ついでに祖父さんや祖母さんもだ。ダチだって。……お前はたった一人に逢いたい為だけに、人生終わらせんのか? お前のことを憎からず思っているヤツはどうするつもりだ?」

 

 ちゆりは視線を蓮子へ向けながら問いかける。

 

「お前の人生だ、勝手に決めればいい。だけど、その選択一つで全部が変わっちまうことだってあるんだぞ。それでもお前はまだ『逢いたい』なんてほざくのか?」

 

 ある一言で、ある行動で。当人からすれば些細なことかもしれないが、全体からすれば大事となる。歴史を紐解いてみても、本当に瑣末なことで国が滅んだり戦争が起きたりしているのだ。

 

「私はお前を止めようとはしない。もちろん、夢美だってそうだ」

 

「君が一人で決めなければならないのよ」

 

 二人に見つめられ、蓮子は俯いた。

 

 家族のこと、親族のこと、友達のこと。これまで自分に関わってきた様々な人。

 

 それらを思い出し、天秤にかける。

 

 蓮子は無言で考えこんでいた。夢美もちゆりも、それを見守るだけだった。

 

「……私は」

 

 蓮子は『答え』を言った。

 

 

 

 

 

 

 

「それでも、逢いたい」

 

 

 

 

 

 

 

 多くの人々とメリーを天秤にかけた結果、蓮子はメリーを選んだ。

 

「多くの人に迷惑をかけることは分かってます。ここまで育ててくれた親にはとても申し訳ないことだと思います。でも、それでも……ッ」

 

 ぽたぽた、と蓮子の双眸からは雫がこぼれた。

 

「私は……逢いたいんです……ッ。大好きな、メリーに……ッ」

 

 たとえ触れられなくなったとしても。抱き締めることが出来なくなったとしても。

 

 蓮子にとっては命にも代え難い、大切な存在。最愛の彼女にもう一度逢えるのであれば、命など惜しくは無かった。

 

「私のこの決断は間違っているでしょう。愚かだと、浅ましいと……嘲笑されても仕方ないことです。だってそうでしょう……? たった一人に逢いに行く為だけに、人生を捨てるんですから……。これを間違っていると言わず、何と言えば――」

 

「間違ってないわ」

 

 蓮子の言葉を遮るように、夢美が言った。

 

「何を根拠にその決断を間違っているというの? 確かに、愚かな決断だと言わざるを得ない。馬鹿げていると言われても仕方の無いことだわ」

 

 でもね、と夢美は続ける。

 

「そんな美しい想いから来る決断を……どうして間違っているだなんて言うの? 君は誰よりもマエリベリーのことを愛している。全てのしがらみを捨て、愛の為に生きている君は……他の誰よりも神聖なのよ」

 

 夢美はイスから立ち上がり、蓮子に近づく。そして蓮子の頭を自分の胸に抱き寄せた。

 

「私は君を称えよう。愛に生きた殉教者ではなく、愛を貫いた聖人として。それと、君には謝らないといけないわね」

 

 夢美は蓮子の涙を拭いながら言った。

 

「謝る……?」

 

「死ぬという条件だけど……アレは嘘よ」

 

「……」

 

 蓮子はぽかんと口を開けていた。

 

「言ったでしょう? 本質は異なるけど『神隠し』と似たようなものだって。超常現象か願いかの差異だって。どこへでも、いつの日にでも導いてくれるのに、肉体が無ければ逢いに行く意味が無いじゃない」

 

「……は?」

 

 蓮子は素っ頓狂な声を上げた。

 

「強ち死ぬことには違いはないけれど、肉体を失うことは無いわよ」

 

「死ぬっつっても『この次元から消える』って意味だからな。要は自分から『神隠し』に遭いに行くワケだから、この世界から失踪することになる。必然的に『この世界から宇佐見蓮子は死んだ』という扱いになるってワケだ」

 

 ちゆりも、先ほどの陰鬱とした表情とは打って変わって明るい口調で補足をして来る。

 

 どうやら蓮子は夢美とちゆりに一杯喰わされたようだ。この二人は蓮子の覚悟の度合いを確かめていたのだ。

 

「全てを捨ててまでマエリベリーに逢いたい……ね。中々出来ることじゃないわ」

 

 夢美は蓮子の頭を撫でていた。

 

「その覚悟があるのであれば、君にはこれを渡しておくわ」

 

 そう言って夢美は自分が腰をかけていたイスに戻ると、高級そうなポーチから、厳重に保管されている紙を差し出してきた。

 

「この紙は?」

 

「《零次元エクスプレス》の乗車券よ。私はこれを【時渡りの旅券】と呼んでいるわ」

 

 蓮子は目を丸くしてその紙を見た。

 

 神は普通の切符と同じくらいの大きさだ。しかし、目的地の場所も運賃も書いていない。ただの厚紙のように見えるが、触ってみると不思議な感触だった。紙なのにプラスチックのような手触りなのだ。しかし、よく見てみると何かを文字を消したような跡が残っていたが、どういう事だろうか。それを聞く前に、夢美が説明を始める。

 

「この乗車券に目的地を書くの。それだけで連れて行ってくれるわ」

 

「あの、運賃とかは……」

 

「は?」

 

 夢美から素っ頓狂な声が漏れる。

 

「あ、いや……普通、電車の切符って運賃とか書かれてるじゃないですか。それがないから……。もしかして、時価な上に後払いとかなんですか?」

 

 大学生の小遣いなど多寡が知れている。それに蓮子はバイトをしていないのだ。もし仮に、自分が払える上限を越えていたらどうなってしまうのだろうか、という不安があるのだ。

 

「ぷっ……くくく……あっはっはっはっ!」

 

 ちゆりが腹を抱えて笑いだした。

 

「運賃! 運賃って!」

 

 ゲラゲラ笑うちゆりを見て、蓮子は羞恥と怒りで顔を赤く染める。

 

「運賃は必要ないわよ。なにせ、その人の想いがそれの代わりなんだから」

 

 まだ爆笑しているちゆりとは反対に、夢美は穏やかな表情を浮かべて言ってくれた。

 

「そ、そうなんですか……」

 

「問題があるとすれば君が失踪した後のことなんだけど……。そこらへんは私たちで手を打つとしましょうか。なに、気にすることは無いわ。君の純粋な想いに胸を打たれたのと、先ほど君を謀った詫びの印よ」

 

 蓮子が何か言う前に夢美がそう決めてしまった。

 

「となると、簡単な理由としては留学かしら。君は超統一物理学を専攻していたようだし。奇しくも私は物理学の教授だしね。そうね、私の助手として海外を回る……ということにしておきましょうか」

 

 確かに海外留学という名目なら帰って来れなくなったと言ってもいくらでも理由をでっちあげることが出来る。

 

「善は急げって言うわね。宇佐見、君は手早く準備を整えなさい。ちゆり、書類を偽造するから手伝いなさい」

 

「えー……。私、細かい作業とか好きくないんだけど……」

 

 げんなりした様子のちゆりだったが、思いの外すぐに腰を上げた。

 

「《零次元エクスプレス》に乗る日時は宇佐見の都合の良い日で構わないわ。決まったら私に連絡しなさい」

 

 はいこれ、と蓮子は夢美のアドレスが書かれた紙を受け取った。

 

「じゃあ私たちは行くわね」

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 蓮子は頭を下げた。

 

 そして背を向けて歩き始める。

 

「待ってなさい、メリー」

 

 今、逢いに行くから。

 

 蓮子の目には強い意志が灯っていた。

 

 

 

 

 

     ●       ●       ●

 

 

 

 

 

 蓮子は小さくため息をついた。

 

「ごめんね、お父さん……お母さん……。私は、この世界を捨てて……メリーに逢いに行くわ」

 

 蓮子は首にさげられているペンダントを見下ろす。そのペンダントは拳の半分ほどもある大きさをしたモノだった。その中には、一枚の写真が入れてある。

 

 蓮子はペンダントの中にある写真を見て物憂げな瞳を揺らす。

 

「……メリー」

 

 その写真はメリーとのツーショットの写真だった。

 

 きっとこの旅はひどく長いものとなるだろう。もう二度とメリーを忘れない為に、蓮子はこれを持って行くことにしたのだ。

 

「……そろそろ、かな」

 

 携帯で時刻を確認すると午前二時を少し過ぎた頃だった。

 

「……お願い、来て……《零次元エクスプレス》……」

 

 

 

 

 

 

 

 私をメリーのところに連れて行って……

 

 

 

 

 

 

 

 蓮子は祈るように手を組み、その『願い』を口にした。《零次元エクスプレス》に乗る条件は……その人への強い想い。

 

 夢美は最後に――最期に会った時にそう言っていた。その強い想いに呼応して、その願いを叶えるために《零次元エクスプレス》はやって来るらしい。後処理は任せて、と言って夢美は蓮子の前から立ち去って行った。それ以来、夢美とちゆりに会っていない。

 

 

 

 

 

 心からの願いを何度も口にする。辺りは静まり返っており、蓮子の声だけが響いていた。

 

 遠くから、甲高い音が聞こえた。

 

 最初は空耳かと思ったのだが、音はだんだん近づいて来る。

 

 するとどうだろうか。

 

 廃線路の上に、影が浮かび上がる。

 

 甲高い汽笛は蓮子の悲しみの心を慰めるかのように、あるいはこれから消える者を弔うように鳴り響く。漆黒の車両が錆び付いた車輪を回しながらやって来る。

 

 

 

 

 

「これが……《零次元エクスプレス》……ッ」

 

 

 

 

 

 目の前に現れた魔鉄道。乗客をどこへでも、いつの日にでも導いてくれる列車。

 

「本当だったんだ……ッ」

 

 蓮子は感動に胸が震える。蓮子はようやく、辿り着いた。しかし、蓮子はようやくスタートラインに立っただけに過ぎない。

 

 蓮子の目の前で停車した《零次元エクスプレス》の入口が開いた。中から運転手だろうか、帽子を目深にかぶった存在が居た。

 

『乗車券を』

 

 野太いような、鈴を転がしたような、不可思議な声が聞こえる。蓮子はハッとしてポケットから【時渡りの旅券】を差し出した。

 

 

 

 

 

【目的地:マエリベリー・ハーン】

 

 

 

 

 

 そう書かれた切符を渡す。

 

『確かに当列車の乗車券です。最後の確認となりますが、この列車にお乗りになった際にはもう引き返すことは出来ません。如何なる場合、状況になりましても、お客様は目的地に着くまではお降りになることはできません』

 

「構わないわ」

 

 夢美から概要を聞いた時から覚悟はしていた。これが片道切符だと分かった上で、蓮子は乗ることを――逢うことを決断したのだ。

 

「どこへでも、いつの日にでも導いてくれるなら……今さら後悔なんてしないわ」

 

 蓮子はあの廃れた神社の前で誓ったのだ。

 

「この身を懸けて必ず逢いに行くわ」

 

 そう言って蓮子は《零次元エクスプレス》に乗り込んだ。

 

『ご乗車、誠にありがとうございます。当列車はお客様に旅路を満足していただけるよう、最高のおもてなしをさせて頂きます。お食事、睡眠、運動……。様々なご注文を承ります。宇佐見蓮子様、ごゆるりと、お過ごしくださいませ』

 

 運転手らしき存在は恭しく頭を下げた。自分の名前を言い当てられ、多少は驚いたが、取り乱すことは無かった。

 

『こちらへどうぞ』

 

 運転手に導かれ、蓮子は個室に案内された。見かけは一両しかなかったのだが、中に入ってみると全然違った。どうも次元が歪んでいるらしい。

 

「なるほど、だから『零次元』ね」

 

 本来は存在しえない次元。異次元、と言った方が分かりやすいだろうか。

 

『こちらが宇佐見様のお部屋になります』

 

 部屋の中も異次元らしく、部屋の広さはおよそ十畳と言ったところだろうか。

 

 天蓋付きのベッドがあったり、本棚には大量の物理学に関する本が埋められていた。他にも蓮子の好みに合いそうな小物などがある。クローゼットを開けてみると、洋服まで完備されている。良く見ると、バスルームまであるようだ。

 

『宇佐見様が心地良くお過ごしになれるようにと、御用意させて頂きました』

 

 蓮子のプライバシーは一体どこへ消えたのだろうか。もしかすると『神隠し』に遭ったのだろうか。

 

 それでも、着の身着のままで来たのだからありがたいと言えばありがたい。

 

『間もなく発車いたします。少々お待ち下さい』

 

 運転手は頭を下げると下がって行った。蓮子は部屋の中を見渡す。

 

「これ、私が下宿してたところよりも高価なんじゃないの?」

 

 本当に運賃が『想い』だけで良いのだろうか。あとで高額な金銭を要求されるんじゃないだろうか、と不安になる。

 

 恐る恐るベッドに腰をかけようとしたら、列車が大きく揺れた。蓮子は衝撃でベッドに倒れ込んでしまった。発車したのか、と思ったがそう言う類の揺れではない。何か巨大なものがぶつかったような、そんな揺れ方だった。

 

「ま、まあ、廃線路だったし……。どっかの野生動物がぶつかったのかな……」

 

 蓮子がそう漏らすと、アナウンスが流れてきた。

 

『当列車に何者かがぶつかったようです。安全確認のため、発車までお待ちください』

 

 どうやら蓮子の読みは当たったようだ。

 

 蓮子はベッドに改めて座りなおし、発車の時を待った。

 

 

 

 

 

     ●       ●       ●

 

 

 

 

 

 同時刻、《零次元エクスプレス》から少し離れた場所にて。

 

 教授の肩書を持つ赤髪の少女――岡崎夢美と、水兵服を着た金髪ツインテールの少女――北白河ちゆりがそこに居た。

 

「ほらよ、目的のブツだ。パチって来たぞ」

 

 ちゆりはそう言うと《零次元エクスプレス》から盗み取ってきた部品を夢美に投げ渡した。

 

「貴重なモノなんだから投げるんじゃないわよ」

 

 夢美はそう言いながら飛んできたモノを受け取った。

 

「これが……【次元超越の歯車】なのね。なんて美しいのかしら」

 

 夢美はうっとりとした表情を浮かべながら幻想的な輝きを放つ歯車を見つめる。幾何学な模様や意味不明な文字羅列が施されている、摩訶不思議な歯車。これさえあれば、夢美の目的は達成したも同然だ。

 

「にしても……お前、本当に鬼だな」

 

「なんのことよ」

 

 夢美はいそいそと、大切なものをしまう為のポーチに【次元超越の歯車】をしまい込んだ。

 

「宇佐見のことだ。お前、ソレを手に入れる為にあいつを人柱にしたようなもんだぞ」

 

 ちゆりの声はいつになく硬く、それでいて夢美のことを非難する口調だった。

 

「あいつのマエリベリーに会いたい気持ちを利用して、付け込んで……。何が純粋な想いに感動して~だよ。お前は……人を、殺したんだぞ」

 

 ちゆりのその表現に、夢美は少しだけ顔を歪める。

 

「殺していないわ」

 

「同じようなもんだろ。このペテン師が」

 

 ガシガシ、と後頭部を掻きながらちゆりがぼやく。

 

「……言ったはずよ。私はどうしても叶えたい願いがあるの……。例え、何を犠牲にしても……ね」

 

「……」

 

 ちゆりだって、夢美が追い求めるモノが何なのか理解している。かと言って、周りの人間を巻き込むのはどうか、と考えたりすることもある。

 

「宇佐見のお陰で、重要なパーツが手に入ったことは私としても助かったと思ってる。だからと言って、人の気持ちを踏みにじるのは――」

 

「……いつになく、私に食ってかかるわね……従僕のクセに」

 

「主にほいほい付いて行くような、主の言うことが絶対だ、主の言うことを全てに是を返すような従僕なんてクソ喰らえだ。間違っていると思ったら刃向かう覚悟を持って説得する従僕こそが、従僕の鑑だと思うけどな」

 

 ちゆりはちゆりで、独自の考えの元に夢美に付き従っている。それを初めて知った夢美は、少しだけ笑っていた。

 

「なんにせよ……今までの急ごしらえの不完全な移動船じゃなく、【次元超越の歯車】さえあれば、私の『可能性空間移動船』が完成するのよ。完成した暁には、宇佐見に全てを話して許しを請うわよ」

 

 どこで会うのか分からないけどね。と夢美は言った。

 

「これまでにいくつもの並行世界を渡ってきて、その過程で【時渡りの旅券】を手に入れて《零次元エクスプレス》を知ったは良いけど……まさか目的地に着くまで永遠にその列車に閉じ込められることになるとは思いもよらなかったわ」

 

 夢美はあの運転手から《零次元エクスプレス》の概要を聞いて、その目的を断念せざるを得なかった。

 

 いくら如何なる目的地へ連れて行ってくれるからとはいえ、着くまでに一体どれだけの時間がかかるか分かったものじゃない。そう考えると、別の手段を講じるしかなかったのだが、『この世界』の蓮子には大きな借りができたと言えるだろう。

 

「【次元超越の歯車】は手に入った。行くわよ、ちゆり。私の目的のために」

 

 

 

 

 

 私は『幻想郷』に行かなくちゃいけない。

 

 

 

 

 

 ちゆりは、そう言って歩き始めた夢美の後に付いて行く。

 

「どこまでも行かせてもらうぜ、我が主さま」

 

 二人の姿は闇の中に消えた。

 

 そしてその日以降、彼女らを見た者は誰一人としていない。

 

 

 

 

 

     ●       ●       ●

 

 

 

 

 

 しばらく待っていると再びアナウンスが流れた。

 

『安全の確認が取れました。間もなく発車いたします』

 

 本当に間もなく、列車が動き出す。

 

 遠く異次元から現れた《零次元エクスプレス》は、蓮子のような巡礼者――再会を望む者を乗せ、動き出す。

 

 蓮子は立ち上がり、窓際へと向かう。汽笛の音が聞こえ、錆び付いた車輪が軋み回る音が聞こえる。

 

 この世界には様々なものを置いてきた。独りぼっちで抱きしめてきたこの町。守りたい場所もある。けれど

 

「確かめたいのよ」

 

 蓮子は答えを求めて、最愛の親友の下に逢いに逝く。

 

 ガタゴト、ガタゴト、と列車は揺れながらレールの上を走る。

 

 蓮子は押し寄せるやり場の無い感情を、揺れる振動で掻き消そうとする。列車は速度を増し、絡みつく落ち葉を舞い上がらせながらレールの上を突き進む。

 

 キーン、と耳鳴りがする。

 

「いえ、耳鳴りじゃ……ない? これは……空間が、軋む音?」

 

 窓から見える風景が歪んでいく。月が、夜空が、大地が、歪む。普通の列車の加速度を越え、《零次元エクスプレス》は亜音速まで加速し――異次元を、走り出した。

 

「なに、これ……」

 

 これが時空の隙間。現実と幻の境目。異次元の景色。

 

「あれは……」

 

 窓から外を見下ろすと漆黒の闇が広がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その闇の中に、メリーが居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「メリー!?」

 

 しかし、列車はメリーを通り過ぎた。蓮子の目的地はメリーだったはずだ。しかし、停まることは無かった。見下ろし続けると、さらにメリーが居た。

 

「……もしかして……これって、記憶……なの?」

 

 蓮子がメリーと過ごしてきた記憶。漆黒の闇は乗客の記憶を投影し、逢いたい人を見せているのかもしれない。

 

 時の山を越え、黄泉の河を渡り、メリーが居る世界へ。メリーと生きた世界へ。

 

 暗闇の中を《零次元エクスプレス》は駆け抜ける。

 

 蓮子は確信を得た。この《零次元エクスプレス》は間違いなく、自分を最愛の親友の下へと導いてくれる。

 

 それは夢の世界かそれとも真の世界か。未来か過去かさえもわからない。

 

「夢でも幻でも……前世でも現世でも構わないわ……」

 

 もしもこの願いが叶うのであれば

 

「お願い、もう一度その世界を見せて……。もう一度、その世界へ連れて行って」

 

 蓮子はペンダントを握りしめながら呟いた。

 

 果て無き悲哀を乗せたこの会葬列車は、暗闇の迷路を駆け抜ける。

 

 蓮子はメリーに逢える日を、心から待ち望んだ。

 

「メリー……愛してるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今も、蓮子は果ての無い再会の旅路を続けている。

 最愛の親友に逢える日を願って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ―アナタへの旅路 完―

 




 これにて『アナタへの旅路』は完結です。この物語の前篇は凋叶棕さんの「rebellion -たいせつなもののために-」を、後編はSOUND HOLICさんの「零次元エクスプレス」を参考にしました。中篇は完全にオリジナルです。物語性のある音楽を聴いていると、こうして物語が書けたりします。機会があったら、この2曲を連続で聴いてみてください。

 では。


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