偽りの英雄~彼女に振られて異世界転生~ (オクたんじろう)
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彼女に振られて異世界転生
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「……今日は最悪な日だ」
175cmほど、日本人にしては白めの肌、細見、男にしては少し長めの黒髪をセンターパート、上の中、いや上の下といった、それなりの顔をした男が呟く
俺は
後悔はいっぱいあるが、いろいろ楽しい人生だったとは思う、一緒にふざけて笑いあえる友達も人並みにいたし、女遊びも人並みにしてきたし、かわいい彼女もいた。
だが先ほど、半年間ほど付き合ってた彼女に振られた。
「今までありがとう」
その言葉がどんなに悲しかっただろうか、これで終わりだと考えると、何か胸が空っぽになる感じがした。
別に浮気とかDVや束縛などの悪い原因ではなく、ただ単に俺に冷めたらしい。
しかも、俺はその言葉に流されて「わかったよ。今までありがとう」と言ってしまった。
未練はあったが俺は流されて何も言えなかった。もし、ここでやり直そうとか何か言って、諦めなかったらまた結果は違ったのだろうか……
今回の恋愛は本気だった、本気で彼女のことを幸せにするつもりだった。
でも、人生はそううまくいくものではないらしい。今まで適当に生きてきて、就職もできていないのだから当然だ。
涙が止まらない、どうすればよかったのだろう。
気づいたら夜景の見える展望台にいた、だが今は空に雲がかかり、今にも雨が降ってきそうだ。
あいにくの天気のため、周りに人はいない。ここにいるのは俺一人だ。
いつもはきらびやかな街並みが色あせて見える、これは本当に現実なのだろうか。
そういえば、彼女と一緒に夜景を見に行こうと約束したまま、結局、俺が行くのをめんどくさがって、行かなかったな。
「…………はぁ」
もっと彼女のことを第一に考えてやれればこうはならなかったのかな。
それとも、安定した企業に就職できてれば違っていたのだろうか。
いや、それ以前の問題だろう……俺は流されて生きてきた。
中学の時、友達に流され、いろいろ一般的には悪いとされることを始めた。
深夜徘徊をし、たばこを吸って、いろんな悪いことをして補導されたことも何度かある。
だが、要領だけはそこそこあったので、受験前に少し勉強するだけで、そこそこの公立高校に入れた。まあ、中卒は嫌だったし、親に高校は行っとけと言われたのもあったので自分の意志で受験したわけではないが。
高校になってからも、中学の時の馬鹿な友達と一緒に、クラブに行ったり、飲みに行ったりして、
馬鹿なことをしてきた。高校を卒業してまだ働きたくないかったこともあり、現在はニートだ。
馬鹿なことをして過ごしていた。
俺は今までの人生、流されて生きてきた、自分では決めずに人に流されて生きてきた。
「○○君って何考えてるかわからない」とか言われることもあったが、ただ単に何も考えずに生きてきただけだ。
しかし、今の彼女と出会って、初めて、人を好きになった。
今までは女なんて、ヤることしか考えてこなかったが彼女だけは違った。
初めの出会いは、SNSだった。SNSで話していくうちに、彼女からグイグイこられ、遊びたいといわれた。それなりに可愛いし、やれたらラッキーくらいの感覚で遊ぶことにした。しかし、それから何回か遊んで、彼女の純粋な好意がきっかけだったのか、気づいたら好きになっていた。
「○○のこと好きだから、俺たち付き合わない?」
告白は俺からした。人生で初めての本気の告白だった。
そして、俺たちは付き合った。
俺は初めて、本当の意味での自分の意志による行動をしたと思う。
彼女は学生だったのもあり、頻繁には遊べなかったし、家で遊ぶことが多くて、いろんな場所に行けなかったが、人生で一番楽しい時間だった。世界が輝いてみえた。
途中何回か、めんどくさくなったこともあったが、それでも彼女のことは好きだった。
幸せにしてあげたと思っていた。
しかし、人生はうまくいかないものだ。
俺は彼女に振られたのだ。
気づいたら、手すりを超えて、展望台のふちに立っていた。
雨が降り出してきた。
彼女のためにセットした髪が雨に濡れ、崩れていく。
「…………人ってなんのために生きるのだろう、、俺は生きてる意味があるのか?」
俺にとっての生きる目的は、彼女だけだったのだ。
やり直したい……
こんな気持ちになるなら初めから彼女のことを好きにならなければよかったのかもな。
いや、こんなこと考えるのは無駄だな、彼女のことは忘れよう、もう終わったことなのだから……
どうせ、一週間もしたら友達と飲みにでも行って、ほかの女子に声をかけたりして忘れてるんだろうしな。俺は流されやすい人間だから、周りに流されるまま楽して生きて行こう。
――何か気分転換がしたいな。
そういえば友達にゲームを誘われていたっけ?
そのゲームはたしか『フェアシーテ~偽りの世界~』だ。魔法とか使えていろんな陣営に加わって戦うゲームだっけな?なんかまだ人類陣営でクリアされたことのないって言ってて無理ゲーだとか友達は言ってたな。他には「名声値が足りなくて試練受けられない」とか「最終決戦までに神話級になれない」とか「大罪の力が手に入れられない」とかよくわからないがとにかく難しいゲームらしい。
「……よし、帰って、そのゲームでもしてみるか」
家に帰ろうと、展望台のふちから戻ろうとしたときーースッと、ふと誰かから、背中を押された気がした。
しかし、周りには俺しかいないはずだ。
俺は慌ててとっさに手すりを掴もうとしたが、手すりが雨で濡れていて、うまくつかめなかった。
展望台から落ちていく。地面は土だが、高さ20mはある。生存は絶望的だろう。
「あ……
世界がゆっくり進む
今までの人生は、自分で考えることもせずに、流されて生きてきた。そして彼女と別れて、生きる意味も見いだせないでいるし、生きてる意味もないと思っている。だがそんなこと思ったとしても、死にたいかと言われたら、それは違う。
ゆっくりな世界の中、これから死ぬんだな……と考えた途端、恐怖が襲ってきた。
ーーまだ、死にたくない…………」
その瞬間、眩い光が俺を包んだ。
「ーーほんと空っぽ」
光に包まれている中、何か聞こえた気がした……
主人公の強さ
魔力量:?
身体能力:G
魔力操作:?
精神力:G
加護:?
異世界の一般人の平均をFとする。
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フェアシーテ・オンライン
MMORPGであるフェアシーテ・オンライン、通称FOは世界的に人気のゲームだ。
FOではプレイヤーは王国軍や帝国軍、亜人連合といった様々な陣営に付くことが出来る。人以外にも7つの亜人種族に転生することが出来る。
そして1番の特徴はFOは一定の期間で世界のリセットがされることだろう。
つまりゲームが初期状態に戻るのだ。これによりプレイヤーは様々な違った歴史を体験することが出来るのだ。
今までにFOは十数回ほど世界がリセットされている。だがそれらの歴史は全て、バッドエンドになっていた。
――このゲームは俗にいう無理ゲーというゲームだった。
FOが無理ゲーと言われるのは単純にゲームの最終コンテンツをクリアするのが難しすぎると言うことだ。
このゲームが難しいと言われる要因は五つある。
一つ目、プレイヤーが転生して33年で世界がバッドエンドに向かう最終決戦になる。それまでにプレイヤーは準備をしなければならない。だが実はこの33年という期間はプレイヤーが赤ん坊の0歳から始まるので、実際に体感するよりもとても短い。
二つ目、プレイヤーが魔法を獲得するのにも膨大な時間がかかる。魔法とは
三つ目、プレイヤーのステータスが育ちにくい。ゲームは
さらにステータスには隠し要素である才能値もあり、これはプレイヤーが転生した時にランダムで決まるので、さらにステータスを上げるのを難しくする要因の一つだ。
四つ目、単純に敵のキャラが強すぎるのだ。ラスボスの仲間ですら今までのFOの歴史上倒されたことが数回しかない。
五つ目、FOでは一度死んだら、今の世界がリセットされて次の世界になるまでプレイするのが不可能。
この五つの要因がFOをクリア不可能の無理ゲーと言われる要因である。
――――
「おい、
「まじかよ、俺はまだ
「そういえば、
「ガチ? 彼女はいいのか?」
裕也と流星は久遠の高校の友達で一緒に遊ぶ仲である。
「うん、なんか別れたってよ。気分転換に遊びたいって」
「よっしゃ! じゃあ次のリセットからは俺らでFOを教えてやろうぜ」
裕也たちがはしゃいでいる。
すると、急に裕也たちは光に包まれ、目の前が白くなった。
――――
「昨日、発生しました集団失踪事件の詳細が分かりました。失踪した方々はフェアシーテ・オンラインというゲームで上位の成績を残したという共通点があったそうです…………
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世界の始まり
空が赤い。周りからは喧騒が聞こえてくる。
中世のヨーロッパ風の街並みが崩れ、燃えている。
光が飛び交い、轟音とともに、所々で爆発が起きている。
空に竜や天使のようなものが飛び周り人と争う、地上にはエルフやドワーフなどのが暴れている
天使の集団を人間が嗤いながら襲っている。
ここはこの世の地獄だ。
「--強くなりーー世界をーーそうか私がーー」
ーーーーー
目覚めると、そこは昔のヨーロッパのような見慣れない街並みがあった。
街にはレンガ風の建物が見え、街の周囲は壁に覆われている。
「ここはどこだろう?」
何故か少し懐かしい景色が広がっていた。
人々が歩いていて、顔立ちは白人のような顔立ちが多く。髪の色と目はそれぞれで、黒色がベースの赤、青、緑などの髪色をしている。
たまに貴族みたいな護衛を引き連れてる人がいるが、その人は他の人と違い、なんか変わった威圧感のようなものを身に纏っていた。
人々の中には身長は小さくガタイのいい樽のような体形の男や、恐ろしいほどの美形で耳が尖った人間?がいた。
これは俗にいうドワーフやエルフだろう。
しかし彼らは例外なく、首には首輪がつけられている。
奴隷なのだろうか?
俺は地球では見られない光景に呆然とした。
(……これは夢なのか?いや、こんなリアルな光景が夢のはずがない……それよりも、俺は確か、展望台から落ちたはずじゃ……あ、そういうことか、これは流行りの異世界転生ってやつだなーーきっとそうだな)
異世界に来たそう考えると、それは生きる意味も失った俺にとっては、とても希望のように感じた。
しかし、何かとても嫌で辛いことを見た気がした彼女に振られてセンチメンタルになっているか?
俺は状況を整理しながら異世界の街並みをしばらく観察していると、武装した衛兵のような男が俺のほうに来た。明らかに俺に用があるようだ。
俺は笑みを浮かべて、とりあえず場所を訪ねてみた。
「こんにちは、ここはどこでしょうか?」
「見慣れない格好の異国人風の奴がいると聞いた! 身分証、もしくは許可証は持っているのか?」
「……え?」
普段聞きなれない言語で怒鳴られた。日本語でも英語でもなさそうだ。
(日本語じゃない?……じゃあなんで俺は言葉がわかるんだ?)
俺がいろいろ考えていると、衛兵たちは急かすように怒鳴った。
「ーー……貴様、聞いているのか!」
そう言われても、俺は身分証も許可証も持っていない。素直に謝るしかないようだ。
「すみません。身分証も許可証も持ってません」
「持ってないなら詰め所まで同行してもらう」
そう言われると、俺は衛兵につかまれる、その時
「ーー衛兵様、そのくらいにしてあげなさい。 身分なら私が証明してあげます」
金髪の黄色の祭服のようなものををきた50代ほどの男がこちらに近づいてきた。
「司祭様がそうおっしゃるならかしこまりました」
司祭を見ると衛兵は俺から手を放す。
「……ところで、こんなところにどのような用件で?」
「いえ、久しぶりに加護の適性を持たない子を見つけたので、神の教えを与えようと思いましてね」
俺を置いて勝手に話が進む、しかし加護の適性とはなんだ?
いろいろ考えていると司教様が「いいですか?あなたも神の教えを信じるのです。そうすれば資格を貰えるでしょう」と勝手に話し始めた。
「ーー今より遥か昔、神は聖の心である美徳により六人の人間を作りました。
はぁ……いきなり宗教勧誘かよ、まあ異世界だし神は存在する的な感じかな?しかし、それよりも……
「傲慢はないんですか? 七つの大罪では無く?」
俺は前世の知識と異なることが気になり聞いてしまった。
これが今思えば間違えだった。
「……あなた何を言っているのです! 傲慢などあり得ません。美徳も大罪も六つしかないに決まっているでしょう!! なんて背徳的なことを言うのです。衛兵様この背徳者を牢に連れていってくださいーー」
「ーーはい、かしこまりました」
俺はあまりの急変具合に面を食らっていた。何かまずいことを言ったか? でも悪気はなかったし、何もしていないのに捕まるわけにはいかない。
「……え? いや待ってください! 俺は何もしていません。悪気はなかったのです。ただこの世界のことを知らないだけです。何か失礼なことを言ったなら謝ります」
「……あなたはこの世界の住人ではないのですか?」
激高していた司祭が俺の言葉に反応したようだった。それはそうだろうここが異世界だとすると俺は利用価値がある。
「はい、私のことを保護していただけるなら、あちらの世界のことをある程度なら教えられます」
と言っても、俺は高卒だし、専門的な知識も無いから銃の作り方や薬の作り方などは詳しくはないが概要くらいなら話せるだろう。
「ふむ……いいでしょう。ですがその前に……衛兵様そちらの方を奴隷商で奴隷にしてきてください」
「え? それは話が違うでしょう! 私は保護してくれたらと言ったじゃないですか!」
「……別に嘘は言ってませんよ、ちゃんと保護はいたします。しかし、これからあなたを連れて行く場所で暴れられたり、逃亡されないようにという保険ですよ」
司祭はそんなこというが俺は逃げる気もないし、暴れる気もない。何より奴隷になるのは嫌だ。
「俺はそんなことしません。 奴隷はいやです!」
司祭は俺のことを道端に落ちているゴミを見るような目でみた。
「……連れて行きなさい」
衛兵に無理やり引っ張れていって、そのまま気づくと俺は奴隷商に連れて行かれてた。
ーーーーー
奴隷商に連れて行かれると、一旦牢屋に入れられた。
トイレを何倍もひどくしたような、とてもひどいにおいがした。周りにはいかにも犯罪をしてそうな男たちが十数人いて、「おう、新入り。お前は何をしたんだ」とか「これから地獄に行くんだぜ」とか言われたが、俺は何もしていない。
少し経つと、衛兵とともに黒いローブを着いて、顔などは見えないがどこか冷たいような感じがする男が来た。
衛兵は牢屋にいる一人の男に「出ろ」と言った。
男が牢屋から出ると、ローブの男が近づいき、ローブの中から首輪を取り出すと、男に首輪をつけた。そして、ローブの男が何か呪文らしきものを唱えると、首輪が光った。
(何か呟く、首輪が光ったな……これは魔法なのか? そうだとしたら、何か効果があるのか?)
ここが異世界だとすると、ローブの男が使ったのは恐らく魔法だろう。
俺は異世界で初めて見る魔法に感動しながらも、これからのことを思い不安になった。
(これからどうなるのだろうか、確かあの首輪は獣人とかエルフたちも付けていたような……じゃあ、やっぱり今から奴隷になるのか?……異世界に来てまで、奴隷になるのはいやだ!)
そんなこと思っていても無意味だった。
次々に男たちが牢から出されて、首輪をつけられていく。
ついに俺の番が来た。ローブの男は俺の目の前に来ると首輪をつけ呪文を唱えた。
呪文を唱えると、何か背筋が凍るような冷たいものを感じた。
(これが魔力?なのだろうか、じゃあ、どうやったら魔法は使えるのだろうか?……そんなことより俺はこれからどうなるんだ?)
こんな時にも未知の行為のことをいろんなことを考えているうちに俺は衛兵に引かれ、どこかに連れて行かれた。
ーーーー
連れて行かれた場所には馬車があった。
「ーーお前は奴隷になった。人権はないに等しい! これから王都に送られてそこでいろいろ聞かせてもらう、馬車で移動してもらうが逃げ出すとか考えるな! 脱走奴隷はこの国では死刑だ!」
俺は目の前が暗くなりそうだった。せっかく異世界に来たのに奴隷落ちさせられるなんて夢のない話だ……衛兵が他にも何かを言っているが、俺は呆然として周りの音が何も聞こえなかった。
それから、衛兵が話し終わると。馬車に乗せられ、発車した。
それから馬車で一日、過ごした。
それは日本に住んでいた俺からすると、最悪の環境だった。道があまり整備されていないのか、馬車は揺れて尻はいたいし、衛兵から出された食事は固いパンとくさいスープだけだ、朝昼晩の三食などではなく、夜の一食だけなので、少しでも栄養を取り死なないために吐きそうになりながらも食べた。
だが悪いことばかりではなかった。
この世界は魔法があるようなので、魔法の練習をすることにした。
初めは魔力の操作を練習することにした。
体のうち側にムズムズするような感覚があるので、このムズムズが魔力だと仮定し、これを動かすことにした。
始めから何故か、魔力の動かし方がわかった。初めは少ししか動かすことができなかったが、心臓から全身に血流と一緒に巡らせるイメージをすることで全身に巡らせることができた。移動中は暇だったので、この訓練をひたすらした。
俺の異世界ファンタジーはこれから始まるのに、奴隷なんてやってたまるか……そう思いながら、俺の異世界生活の一日目は終わった。
ーーーーー
馬車で移動して数日が経った。
この数日間は魔力の操作の練習をしたり、衛兵たちの会話を聞いて、いち早くこの世界のことを覚えようと頑張った。知識と強さが必要だ。
あと魔力について分かったことがある。
・魔力を全身に巡らせることで、身体能力が上がること。(巡らせる魔力の量によって出力が変わる。以降は身体強化と呼ぶ)
・操作できる魔力の量は練習次第で増やせること。(しかし魔力の量を増やすことで体内の魔力の消費が多くなる)
・魔力を体の外に放出するのは、難しいということ。(数日間、練習してもほとんど魔力を体の外に出すことはできなかった)
・「ファイアーボール」「ステータスオープン」とかいろいろ魔法を唱えようとしたが、魔法は使えなかったホントに加護?は存在するのだろうか
そんなことを考えていると、馬車が止まり、外の衛兵が入ってきた。
「ーー王城に着いたぞ!外に出ろ!」
(……王城? なんで王城なんだろう、まあなんでもいいか)
俺はこの馬車生活ですっかり精神が参っていた。もう反抗する気力も残ってない、少しでもいい生活をさせてくれるなら、もう奴隷でもいいと思っているくらいだ。
衛兵に引かれながら馬車から出る。
そこは立派な城があった。
先に王都についていた司祭が俺の目の前にいた。
「着きましたね。私についてきてください」
俺は司祭に着いていき、王城の中に入っていった。
ーーーー
少し歩いて、王座がある部屋に着くとそこには髭の生やした青髪のおっさんがいた。
多分こいつがこの国の王だろう。しかし威圧感が凄い。流石は王と言ったところだろう。
何か言われると面倒だし一応平伏しておこう。
「余がルシウス・セイドリーテだ! 貴様には知識の提供をしてもらおう! 生活はこちらが保証しよう!」
「かしこまりました」
俺は平伏したままそう言った。
(惨めだな……ほんと異世界に来てから魔力を使えるようになったこと以外、ろくなことがないな、)
主人公の基礎能力
魔力量:?
身体能力:G
魔力操作:E
精神力:G+
加護:?
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蒼との出会い
王城に来て一か月が経った。
ここでの生活はそこまで悪くなかった。むしろ奴隷になっていること以外は地球での生活よりもレベルが高いだろう。
仕事は地球の知識を伝えていくだけで楽だし、食事は美味しいし自由時間もある。
ちなみに地球の知識についてだが、一番食いついてきたのは食文化についてだろう。こちらの食文化はそれほど進んでないらしくいろんなレシピや醬油や味噌などといった調味料の知識などにとても興味を示していて、どこの世界も食欲は凄いんだなと思ったりした。
他には銃のことや医療品のことも伝えたが、どうやら興味がないらしい。
何故ならこの世界の上位の実力者にもなると銃のようなものは効かないし、世界のトップレベルの魔法師には核爆弾規模の魔法を使える魔法師もいるらしいし、光の上位魔法だと病気などは治せる。しかも手足も生やせるらしいので現代医療の知識も興味がないらしい。
そしてこの王城に来てわかったこともたくさんある。まず俺がなんとなくで使っていた、魔力を身体の中で動かすことや、魔力によって身体能力を上げる技術はそれぞれ魔力操作と身体強化といい。魔力を使う技術で魔法ではなく魔術というらしい。
ちなみに魔法というのは、ダンジョンという場所で神からの試練をクリアすると、神の加護を受けることができ、それでようやく使えるようになる。さらに魔法というのは加護の強さによって5段階に強さが分けれているらしく。下から【
人間の使える魔法は、火、水、地、風、雷、光の6属性であり、それ以外が属性なしの無らしく、俺が加護の適性なしと言われていたのはこの無だったということらしい。
人間の持つ属性は何でわかるかといえば、髪の毛の色らしい、火なら赤、水なら青といった感じで、ちなみに俺の髪のような白髪や黒髪といった髪の色は無という感じだ。なので俺は魔法を使うことは出来ない。それを聞いて少し落ち込んだものだ。でも魔術は使えるので毎日暇なときに魔術の練習をしている。
そんな感じで昼はメイドや執事に地球の知識を教えたり、それ以外の時は本を貸してもらってこの世界の知識をつけたり、魔術の練習をしたりといった生活している。
わりとこの生活は楽だし、このまま一生この生活でもいいな……と思っていると、俺に貸し与えられてる部屋がノックされた。
俺は思考を一時中断し、部屋のドアをあける。
するとそこには赤髪の筋肉質な男がいた。
「こんにちは、クオン」
この人はバン・シュナイダー侯爵で王国でもトップクラスの魔法師だ。
基本的にこの王城の貴族や王族は俺のことを無視するし、メイドや執事も仕事で話すとき以外は俺に近寄ってこない。しかしこの人はいろいろとお節介を焼いてくれるいい人だ。少し暑苦しいが
「こんにちは、何か俺に用がありましたか?」
「ああ、ちょっといいか? 暇だったら少し付き合ってくれ」
なにか用事があるのだろう、今はちょうど自由時間で時間は空いているし、この人に良くしてもらっているしと、俺は快く頷いた。
「はい! 大丈夫ですよ」
「よし、じゃあ連れていきたい場所があるから着いてこい!」
「わかりました」
そう言われて侯爵に着いていき、王城の中を進んでいくと侯爵はとある一室の前で止まった。明らかに俺の部屋よりもでかそうだ。
その部屋のドアを侯爵はノックする。
「ティリス様! 入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
侯爵に連れられて部屋に入る。
そこにいたのは人魚だった。比喩ではなくリアルに人魚だった。上半身は人間の姿だが下半身はヒレがついていた。どうやら普通に立っていられないらしく車椅子に乗っている。
俺は少し見惚れてしまった。サファイアのように澄んだ青髪と瞳、前の世界でも見たことのないほどの絶世の美貌、肌は日に当たったことがないかのように白く幻想的だ。10代前半くらいだろう。まだ幼さはあるがそれでも凄まじい。
俺がそんなことを考えていると侯爵が話始めた。
「お久しぶりです。ティリス様。こちらがクオンです。現在王城で異国の文化を教えているものです」
「お久しぶりです。バン様。わざわざ来てくれてありがとうございます」
侯爵がこんなに丁寧なので相当偉い人なのだろう。失礼がないようにしよう。そう思い俺は自己紹介をすることにした。
「俺はクオンです。奴隷ですがこの城に住まわせてもらっています。お目にかかれて光栄です。よろしくお願いします」
「私はティリス・セイドリーテです。第三王女ですが王位継承権はないのでそんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
そう言ってティリスは微笑む。凄く可愛い。ああ、これは一目惚れだろう。
「はい、わかりました!ティリス様とお呼び致しますね」
「では私もクオン様とお呼び致します」
俺たちがお互いに自己紹介をして、微笑みあっていると侯爵が嬉しそうな表情を見せた。
「仲良くなれたようでよかったです。ではこれで私は失礼いたしますね」
そう言って侯爵は部屋から出て行こうとする。俺はどうするのだろう?
「侯爵! 俺はどうするのでしょうか?」
「これから暇なのでしょう? お互い王城で気軽に話せる人がいないのですから、私からのお節介ですよ」
そう言って侯爵は出て行ってしまった。俺は困惑してティリスを見ると微笑まれてしまった。
何も話さないのもなんだし、俺から話しかける。
「侯爵行ってしまいましたね、どうしましょう?」
「そうですね、では話でもしましょうか」
「はい! 是非しましょう」
俺はティリスにそう言われたので、嬉しそうにそう返した。
「じゃあ……そういえば、クオンさんは異国の方なのですか?」
「はい、そうですよ! 私は異国というより異世界から来たんです」
「そうなのですか! ぜひ話を聞きたいです」
そう言って、ティリスは目を輝かせた。未知の世界に興味があるようだ。
「よろこんで」
俺はそれから、ティリスといろいろ話した、地球のことを俺自身のことも、いろいろ話しているとわかったこともたくさんあった。
どうやらティリスは生まれつき人魚だったらしい。
この国では人魚は亜人とされ差別の対象らしく、王女であっても周りに人間じゃないと蔑まれて見られてきたらしく、ちゃんと人として接してくれるのはバン侯爵くらいらしい。
そんなこんなでいろいろ話しているとあっという間に日が落ちていた。流石にそろそろ帰るとしよう
「では遅いので私はこれで失礼します」
「楽しかったです。また来て話を聞かせてください」
「私の方こそ楽しかったです。ぜひまた来ますね」
そう言ってティリスの部屋を出て自分の部屋に帰った。
どうやら俺はティリスのことを好きになってしまったようだ。
我ながらちょろいが仕方ないだろう。あんなに親密に女子と話すのは一か月ぶりだし、この世界に来てからは俺と親しくしてくれる人がいなくて寂しかったし、なによりあれだけの美少女だ。俺でなくても少しの間で好きになってしまうだろう。
そんなことを考えながら、俺とティリスの初めての一日目は終わった。
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強さと誓い
この一か月、ティリスと出会ってからというもの暇さえあればティリスと合っていた。
どうやらティリスも話し相手がいなかったらしく俺たちはよく話した。とても楽しい日々を1ヶ月ほど過ごした。
最近はもう地球の知識を王城の人たちに話し終えて仕事もなく、だいぶ暇なので今日もティリスに会いに行く。
「ティリス入ってもいい?」
「いいよ!」
俺はそう言って部屋に入る。もうこの一か月でティリスとため口で話すくらい仲良くなったものだ。
「おはようクオン! 今日も来てくれたんだ」
「おはよう! まあ最近は暇だし、ティリスと話すの楽しいからね」
俺がそういうとティリスはほんのり頬を染めた。こちらまで照れてしまいそうになる。
「ねぇ、クオンは私から離れないでくれる?」
突然ティリスにそう聞かれたが俺の答えは決まっている。
「うん、逆に俺で良ければいつでもそばにいるよ」
この一ヶ月、毎日会いに来ていたが、この部屋に来たのは俺と侯爵くらいだ。周りの人とあまり話せないというのは、俺もそうだがやはり寂しいのだ。
「じゃあ約束ずっと一緒にいてね」
「ああ、俺は君から離れないよ」
ああ、幸せだ。と俺は思った。
現金なものだが、ティリスのおかげで前の彼女も忘れられていたし、仕事という仕事は地球関係のことを聞かれるくらいで楽だしここでも生活は最高だろう。
そんな感じで俺たちがいつものように話していると、急にドアが開いた。ノックもせずに誰か入ってきたのだろう。
「よう! ティリス、久しぶりだな」
そこには貴族風の茶髪の青年がいた。10代半ばといったところだろう。ティリスはあからさまに嫌そうな顔をした。
そして、そいつはこちらを見ながら話しかけてきた。
「そこの奴隷は誰なんだ?」
どうやら俺の首輪を見て分かったのだろう
「こちらは私の友人のクオンです」
「ふん、何故奴隷などを連れているんだ?しかも加護無しの無能じゃないか」
馬鹿にしたようにそう言った。
「ロック様、奴隷などと蔑まないでください。クオンは私の大事な人です」
「大事な人だと? 貴様は俺が飼ってやると言ってるんだ! 他の男に興味を持つな!」
飼ってやるとはどういうことだろうか? 俺が疑問に思っているとティリスが話し始めた。
「いえ、私は貴方のペットにも妾にもなりません」
どうやら、こいつはティリスのことを妾にしようとしているようだ。
しかし、このロックとかいうガキはとてもムカつく野郎だ。ティリスのことを完全にもの扱いしてやがる。だが俺の今の身分は奴隷で、貴族に文句を言うと不敬罪で処刑されてしまうので口を挟めない。
「その奴隷の方が俺よりいいというのか?」
「当たり前じゃないですか」
ティリスがそういうと、錯乱したように取り乱した。
「あり得ないだろ、俺は大司教の嫡男にして、たった3年で希少級魔法師になって冒険者ランクもC級の男だぞ!」
希少級魔法師と冒険者ランクC級とは一般的に一流と言われるレベルなのでロックくらいの歳なら凄いことなのだろう。しかしティリスはそんなのを気にも留めずに言った。
「そんなことは関係ありません、クオンは貴方と違って私のことを人として見てくれているのです」
そうティリスに言われたロックは覚束ない足取りのまま、ドアへ向かう。
「覚えてろよ! 絶対に後悔させてやる」
ロックはそういうと部屋を出て行った。
ティリスが申し訳なさそうに俺を見た。
「ごめんなさい。迷惑かけて」
「いいんだよ別に気にしてないから」
「ロック様は私のことを妾にしたいらしくずっと言い寄って来ているんです、無理だとはお伝えしているのですが」
「ティリスは美人だから仕方ないよ」
俺がそういうと、ティリスは頬を赤らめた。
「ありがとうございます、クオンもカッコいいですよ」
「お世辞でも嬉しいよ」
「お世辞じゃありません」
そう言ってティリスは頬を膨らませた。俺はそれが少し面白くて笑った。
「はは、なんだよその顔、ティリスはどんな顔しても可愛いな」
「そんなことありません」
俺たちはそう言って笑い合った。
ティリスさえいればいい、そう思う。
しかし人生はそううまくいくものではないものだ。
ーーーー
その日もいつものようにティリスと一緒に話していた。するとドアが開けられ、部屋に国王と衛兵数人が入ってきた。
「奴隷クオン、貴様に死刑を言い渡す」
いきなりのことに俺の頭は真っ白になった。
「お父様、待ってください! 何故クオンが死刑になるのですか!」
ティリスが激昂する。ここまで怒りを見せるのは珍しいだろう。
「どうやら、大司教様の息子に暴言を吐いたらしいからな、地球とやらの知識はだいぶ聞けたのでついでに死刑にしようということでな」
いや、流石にそれはおかしいだろう。俺は反論するようにした
「待ってください! 俺は暴言を吐いていませんし、それに保護を約束してくれたじゃないですか!」
「ふむ、それは司教が約束したことだ余には関係はない。それにこの国では王の言うことが絶対なのだ。私が決めたら過程はどうであれ決定事項だ」
王はそういうと、俺を捕まえろと衛兵に指示を出す。なんとか抵抗しようとするが無理だった。
「お父様、お願いします、私はなんでもします。どうなってもいいので死刑だけは許してあげてください」
ティリスが何かを決めたようにそう言った。
国王は考える素振りを見せる。
「ふむ、いいだろう。こいつをあそこに送れ」
「待って、少しだけ話をさせてください」
ティリスは車椅子を使い俺に近づいて来た。
「クオン、生きて、生きてさえいればまた会えるはずだから。短い間だったけど貴方と過ごした日々は私の人生で一番楽しかった。ありがとう」
ティリスは作り笑いをしながらそう言った。俺は自分が情けなくて仕方がなかった。
「でも俺が生きていても、君はこれからどうなるんだよ! 君には不幸になって欲しくない」
「酷い目になんて合わないから、大丈夫。それに私はクオンが生きていればそれだけで幸せだよ」
こんなに俺のことを想ってくれる人は初めてだ。地球での人生も含めても。俺の頬に涙が垂れる。
だったら俺も言うべきことを言おう……
「ごめん。約束守れなそうだね。そして助けてくれてありがとう……待っていてくれ! 君にどうにかして会いに来るから、そしたら俺とーー」「衛兵もういいこの奴隷を連れていけ」
最後の一言を言い切ろうとしたところで、王が俺の言葉を遮った。
そして俺は衛兵にどこかに連れていかれた。
この幸せな日々を理不尽に奪われた。ただティリスといれればよかった。奴隷だったとしても自由が無いとしても。
この日々が失われた理由は俺が弱かったのもあるのだろうか。奴隷だったからだろうか。
ああだったらこの腐った身分世界の王国で成り上がってやる! そしてティリスを迎えに行く、例えばどんな困難があったとしても……
俺は決意を胸にしていると、衛兵が止まった。
そこは煌びやかな王城の中とは思えないほどどこか暗い雰囲気がした部屋でローブを被った一人の男がいた。姿はローブに隠れて見えないがとても嫌な雰囲気の男だ。
「……ルシウスから聞いている。君は先に戻っていいよ」
ローブの男が衛兵にそう言うと、衛兵は帰っていった。
「あーなんだ、先に言っておくがこの先、王女様に会おうとか無理だぞ」
「何故でしょうか?」
ローブを被った男が話し始めた。
「だって、お前は俺の力で記憶を失うからな……でも王様も律儀だねこんなやつ殺しちゃえばいいのに、わざわざ記憶を消してまで生かしてあげるなんてな。感謝しろよ」
どういうことだろうか? なんの話だ? 記憶を失うだって? それが本当なら俺ももうティリスと会えないのか……それは絶対に嫌だ。
「お願いします。記憶をこのままで追放してくれませんか?」
「うーん、ダメダメ。もしも君が王国に反旗を翻してもダメだし、もしもの時があったら面倒だしね、ないとは思うけど一応だよ……じゃあバイバイ」
いろいろ聞きたいことがあるがそれよりも記憶を消されたくない。そんなことをしたらティリスを忘れてしまう。
まだ俺の気持ちを伝えてないのに、異世界に来て何もなかった俺に幸せを教えてくれたのティリスに……お互い寂しさの埋め合うだけの関係だったのかもしれないそれでもいいんだ。だって好きになったのだから。ティリスのことを忘れたくない
「待ってく…………」
俺が言い切る前に、男の手が俺の頭に伸びて意識が反転した。
王城でも生活を忘れていく。奴隷の俺によくしてくれた侯爵のこと。そして異世界で初めて好きになったティリスのことを……だがティリスと絶対に会おう、そしたらお礼を言って、そして感謝を言って、他愛もない話で笑い合うんだ、そして俺の気持ちを伝えよう、……記憶が無くなったとしても、心は覚えているはずだから………………
王城でも記憶は消え、意識が暗転していく。
強くなる……そして誰にも邪魔させない……
『ーーこれで目的に近づく』
俺の意識が暗転する直前何か聞こえたような気がした。
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とある転生者の視点1
俺の名前はアレン、転生者であり、FOの元トップランカーだ。
そんな俺は今年10歳になる。
「あれ知ってるか? 亜人殺しの剣神」
「亜人殺しの剣神? なんだそれ?」
俺の言葉にボブが答える。こちらも元ランカーの転生者だ。
こいつも同じ町に転生していてたまたま出会った。
転生者の特徴がいくつかあるため、すぐにお互い分かった。
「やっぱり知らないよな、なんか最近まで話題だった英雄で、黒いローブを着ていて正体はわからないが凄まじいほどの剣の腕を持ってるらしくて、亜人を殺しまわっているらしい……FOにそんなキャラいないよな?」
「……俺の記憶の中だといないな……でも亜人を殺しまくっているのは少しまずいな。予定よりも最終決戦が早くなる可能があるだろ」
――この世界はやはりおかしい。
明らかにFOの世界であることは確かだが俺たちの知っている歴史といくつも違う点があるのだ。FOのストーリーを周回しているはずの俺たちでも知らない歴史がいくつもある。
例えば、この世界では髪の色によって魔法の適性がわかる。俺であれば赤髪なので火属性の適性を持つ、目の前のボブであれば雷の色のような紫や青白い髪の色だと雷属性を持つといった具合だ。
そして、この世界では何故か、大器晩成の属性である白髪が無属性と呼ばれている。普通はありえない。白髪といえば使えこなせれば最強と言われる属性だ。
それに最強の白髪である『謙虚』の力を持つ純白の魔女ことクロノニアは何故歴史から消されている? 何故、最強の亜人である『傲慢』も歴史から消されているんだ?
その他にも違う点がいくつもある。
明らかに俺たちの知るゲームの歴史から外れているだろう。イレギュラーに対応するためにも強くならなくてはいけないな……
「ところでアレン。今、ステータスはどんな感じだ?」
ボブが聞いてくる。
「少し待ってろ、確認してみる――ステータス」
俺の目の前に画面が開いた。
アレン
魔力量:F
身体能力:F
魔力操作:D
精神力:E
魔法:加護無し
武術:G-
「ほら、見てみろボブ、だいぶ上がったぞ! 成人までに全部のステータスをE以上に出来そうだ。身体が出来上がっていけば身体能力や武術のステータスは上がっていくだろ」
俺のステータスをボブが覗き込む。これが転生者の特徴の一つでステータスを表示することが出来るというものだ。ちなみにこれは転生者同士なら見せ合うことが出来る。そして、何故か転生者以外には見えない。
「おーいい感じに上がってきてるな。やっぱストーリーの開始までには魔力操作をCにはしておきたいな」
「まあ、序盤で魔力操作は一番重要だし、終盤になっても魔力操作は重要だから上げておいて損はないな、というよりも今は魔力量は上げようがないし、身体が出来上がってないから身体能力と武術を上げるにも効率が悪いし、この世界での精神力の上げ方はよくわかんないから、消去的に魔力操作を上げるしかないもんな」
俺の言葉を聞いてボブが納得したようだった。
「精神力もゲームだとキャラとのストーリーを通じて上がったけど、この世界だとどうなんだろうな?」
「それはわからないが、精神力が低いと大罪の力や元徳の力に精神支配されちゃうからな……どうにかして上げないといけないよな」
ボブが言う通りで精神力が低いと、大罪や元徳の力が多く出てくる終盤で何も出来ずに詰む可能性があるからだいぶ重要な項目だろう。
「でも、ほとんど同じ訓練をしているはずなのに、才能によってステータスにも個人差が出るよな……俺なんて魔力操作がDになってないよ。アレンずるいぞ」
「いや、ボブの雷属性は近距離戦強いんだし、少しくらい魔力操作が出来なくてもなんとかなるだろ」
この世界で、ステータスを上げていくのは大変なことだった。何故ならレベルとかはないので、身体能力、魔力操作、武術の三つはひたすらに訓練をしてあげるしかないのだ。だが、特殊な方法でしか上がらない魔力量、精神力、魔法の三つはそれ以上に上げるのが大変だ。
ゲームのストーリーが始まるまであと約5年。それまでにステータスを上げておかないと、過酷なFOの世界では生きられない。どうやらイレギュラーもあるようだしな……
「そういえば、あと三年もしないうちに帝国との戦争が始まるよな? ワンチャン、戦争に行って名声値とか稼いじゃうか?」
「馬鹿かよ、帝国との戦争ってストーリー開始前最大の戦争でゴモス平原の太陽事件だろ? 俺たちが行ったところで王国側の焼死体が増えるだけだろ」
ボブが俺に冗談を言うが、帝国との戦争で王国側は負けるのだ。それも圧倒的に。
「もちろん、冗談だよ。だけど、せめて15歳の成人前までに魔法を手に入れたいな」
「なんとかして名声値を集めないといけないことは俺もわかってるよ……あーあ、貴族の生まれなら成人したら、すぐに名声値が多く貰えたのにな」
帝国との戦争まで2年と半年、そしてストーリーの開始まで5年と半年ともうそこまで、無理ゲーと言われる地獄のカウントダウンは始まっているのだ。
強くならなくてはいけないな……
俺は心の中で呟いた。
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鉱山奴隷
かんかん……とツルハシを打ち付ける音が坑道に響く。岩が砕けて、岩盤の一部に半透明で光る紫色の石のようなものが見えた。それを砕かないように慎重に掘り進める。そしてポロっと
「お、やっぱ魔石あったな。これで今日のノルマは終わりだ」
俺が鉱山に来て、一年ほどすぎた。
何故か異世界に来て衛兵に捕まって、そして気づいたら鉱山という感じだ。
だが何故だろう何か忘れているような気がするんだよな……でも何故か強くなりたいという思いが強い。異世界に来たから冒険したいとかそんなところだろうか自分の心ですら、わからないことがあるな。
ちなみにここは普通の鉱山ではなく、魔石が取れる魔山らしい。ここは空気中より負の魔力が多い。負の魔力とは人間が持つ正の魔力と違い、人に対して毒とされている。
鉱山は暗くなり始めると閉山するため、そこまでに一日のノルマの魔石1g以上を採らなければならない。当然休みはないし、ノルマをクリアできなければその日の食事はない。
ここに来た当初はとてもつらく、ノルマを達成できない時や、閉山時間ギリギリでようやくノルマ分の魔石が掘れるような感じで、食事もろくに食べさせてもらえず、常に餓死寸前だった。ここにはいろんな大きさの魔抗石が採れるがどれも小さくて、肉眼じゃ見つけずらかった。
だがそんな日々を切り抜けられたのは、魔術のおかげだろう。
魔術は魔力を操作する技術が大切で、魔力を体で循環させ身体能力を上げる魔術ーー身体強化。魔力を体から放出する魔術ーー魔力探知。これらのおかげだろう。
まず身体強化がなかったら、貧弱なこの体では、初めのころで死んでいただろう。
そして、魔力探知だ。これが生き残れた一番の要因だろう。
その効果というのが、放出した魔力が届く範囲内の魔力を持ったものを感知することと、その感知したものの魔力の量を測れるというものだ。
これに気づいたのは一か月ごろ経ってからだった。
その日はいつもより早くノルマが終わり、坑道で魔力操作の練習をしていた。まずは魔力を身体を循環させる、そして魔力を放出させる。この時は範囲は数メートルほどだったが、ほんの少しの何かが俺の魔力探知に触れた感じがした。それを不思議に思い魔力が反応したところを掘っていると、そこには魔石があった。
それにより、魔力探知することで魔石を感知できることをしり、それに気づいてからは、魔力探知を使うことで、魔石を早く見つけてノルマを早く達成できるようになった。
あとわかったことは、どうやら魔力探知は距離が伸びれば伸びるほど魔力操作が難しくなっていく、これは身体強化も同じで強化の倍率を上げれば上げるほど魔力操作するのが難しくなっていくことがわかった。後は魔力探知は身体強化よりも魔力を使う量が大幅に多いということだ。
異世界に来てからの発見はいくつもある。一つ目は一般的に毒とされる負の魔力の塊でもある魔石を食べても俺は死なないということだろう。
これは思い出したくもないが、ここにきて1か月半ほど経ったある時、一部に俺のことをよく思っていない奴隷たちに魔石を食べさせられたからだ。
なぜ俺が嫌われているかというと、俺は安定してノルマを達成できるようになっていたこと、髪の毛も白く、細見で東洋風の顔立ちの俺は、あきらかに違う人種ということで、一部の奴隷たちからは目障りな存在だったんだろう。まあ、いじめの一環だったと思う。
魔石を食べると急性魔抗中毒という症状になり、死んでしまうと言われているので、この世界では魔石を食べることは禁忌とされている。
俺も食べてさせられた時は一瞬気持ち悪くなり死を覚悟したが、何故か自分の中の魔力が減って、一瞬で気持ち悪さがなくなった。その後、数日しても何も起こらずそれを見たやつらは悔しがり毎日のように俺に魔石を食べさせたが、結局、数か月経っても大丈夫だった。
いじめてきてたやつらはいくら魔石を食べても死なない俺を見て、不気味に思ったのか関わらなくなっていったが。
二つ目の発見は魔力探知は魔石の位置がわかるというメリット以外にも対象の魔力量もわかるという機能がある。そして俺の魔力量が明らかにおかしいことに気付いた。
俺の魔力量は膨大すぎるのだ。一日中、身体強化の魔術をしていても使いきれないレベルだ。俺の魔力量を湖とすると、衛兵や奴隷はそれこそ雫の一滴ほどだろう。
他には、異世界に来て変わった事といえば何故か俺の髪の毛が白くなっていることだ。髪の色彩が抜けて完全な白といった感じだ。
何故かこの髪の毛を見ると奴隷たちは「無能だ」と馬鹿にしてくる理由を聞いても、お前は生まれた時から無能なのだから無能なんだと話にならない。こいつらの知能レベルはチンパンジー並みだから聞いても無駄だろう。
そんなこんなで、いろいろあり、流石に1年も異世界で過ごした。
そして奴隷たちの話を聞いたり、衛兵に聞いたりして、この国のことが少しわかった。
・この国では奴隷は基本的には解放されない(抜け道を模索中)
・奴隷の首輪は聖職者にしか外すことができず、首輪によって居場所を特定される
・エルフ、ドワーフなどは亜人とされていて、この国では奴隷しかいない
・この国の身分制度は大きく分けると下から順に奴隷→市民→軍人→貴族(聖職者)→王族
あまり話を聞けなかったので、少ないがこんなところだろう。
今日のノルマを達成したため、俺はこの一年を振り帰りながらも、魔力操作の練習をする。今以上に身体強化や魔力探知の練度を上げて早く強くならなくてはいけないのだ……
閉山の時間となり、魔石は入り口で衛兵に回収された。
鉱山から出ようとすると衛兵に声をかけられた。
「B52、食事が終わったら鉱山長のところまで来い!」
ここでは奴隷は人間扱いされてない。
ちなみにB52とは俺のことだ、ここの奴隷には、Aから始まり、その後ろに二桁の数字をつけられた名称が奴隷の名前だ。この鉱山には奴隷が100人ほどいる。だが鉱山奴隷は怪我や魔抗中毒などで、すぐ死ぬため、入れ替わりが激しい、もう俺もこの中では古参なほうだろう。
そのまま衛兵から食事を受け取り、それを食べる。いつも通りの固いパンにくさいスープだ、もうこの味には慣れたものだ。ここに来たときはよく腹を壊したものだ。
食事を食べ終わると、鉱山長の部屋へ向かった。
俺は部屋の前に着くと、声を出した。
「……B52です。失礼します。」
「入りたまえ」
そう言われたので、俺は部屋に入る。鉱山長の部屋に初めて入ったが、悪趣味な成金趣味のような部屋だった。俺たち奴隷から巻き上げた魔抗石で随分と儲けてるらしいな。
禿散らかした頭にでっぷりとしたお腹の鉱山長が口を開いた。
「さっそくだが、貴様にはダンジョンに行ってもらう」
おいおい、よりにもよって次はダンジョンかよ、ダンジョンとは負の魔力が強くモンスターが出現する迷宮のことだ。モンスターとはゲームに出てくるゴブリンなどといった生物だ。そんな危険な場所に戦闘経験のない一般人の俺が行ったところで生き残れるはずがない。身体強化にしても、戦闘経験のない俺では地球のクマを倒すことすらできないだろう。
「……お言葉ですが、私には戦闘経験がありません。ダンジョンに行ったところで使い物にならないでしょう」
「奴隷ごときがわしに反論するつもりか!!」
俺がそう言うと、鉱山長が怒る。裕福な市民である鉱山長は奴隷に反論されてプライドが刺激されたのだろう。しかし、切れたいのはこっちの方だ。
(てめぇみたいな禿ブタに切れられる筋合いはないだろ……)
そんな思いは外には出さず、申し訳なさそうな雰囲気を装い謝罪し、考えを話す。
「大変、申し訳ございません。しかしダンジョンに行くよりも、鉱山にいたほうが鉱山長の役に立つと思いますが……」
「奴隷は何も気にせず言われたことをしてればいいんだ! お前などいたところで私の役にはたたないし、これは決まり事だ、ここで魔抗中毒を起こさずに一年以上働いた奴隷は、ダンジョンに送られることになっている」
なるほど、そんな理由があるのか。しかし、こっちが下手に出てるからっていい気になりやがって、いつか絶対ぶっ飛ばしてやる。
あと、魔抗中毒というのは魔力の低いものほどなりやすいため、俺は大丈夫なはずだろう……そんなことを考えていると、鉱山長はまた話をし始めた。
「だが、貴様の心配は無用だ、これからダンジョンの訓練所に送られて、そこで何か月か訓練をしてから貴様はダンジョンに送られるからな」
魔山で一年以上生きてる奴隷はあまり居ないようで貴重だからか、使い捨てはされないようだ。
しかし、なるほど、それなら何とかなるか?
身体強化を練習し続けた俺の能力は、地球でのトップアスリート並みだろう。戦闘方法を教えて貰えさえすれば、異世界でいうところのゴブリンは倒せるはずだ。なにより魔法についてもっと詳しくわかるかも知れない。
「明日の朝に出発する、ーー」
鉱山長が何か言っているようだったが、魔法について知れるかもしれないという期待とダンジョンが危険な場所だと聞いていた不安から、俺の耳には話が入ってこなかった。
話が終わると、期待と不安を胸に俺は牢屋に戻った。
主人公の基礎能力
魔力量:S+
身体能力:F
魔力操作:D
精神力:E
加護:?
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ダンジョンに行きたい
ダンジョンというのは、世界中に存在し、神が作ったとされる迷宮である。火、水、風、地、雷、光の各属性ごとのダンジョンが存在し、自身の適性を持つ属性と同じダンジョンの試練をクリアすることで適性があった加護が与えられる。
ダンジョンは難易度により入り口が分かれていて、自身の持つ魔力量によって入れる難易度が決まってくる。
試練は難易度により5段階あり、クリアする難易度が高くなるほどより高い加護を与えられる。
ただしダンジョンには二つの種類がある。一つは加護を手にすることが出来るダンジョン。、もう一つは神の力を失うことで、ダンジョンの機能が失われ、加護を手にすることができなくなり、モンスターだけが生成されるダンジョンがある。それを
地下にあるロストダンジョンを囲むように建てられている建造物を訓練所とよぶ。訓練所の目的は、加護を手に出来ないため冒険者に不人気のロストダンジョンを奴隷により管理するための施設だ。
ロストダンジョンは放置することでダンジョンブレイクが起きる。これは本来はダンジョンでしか生息できない魔物がダンジョンから出てきてしまうということが起きるため。それを防ぐために定期的に中の魔物を狩らなければならない
ーーダンジョン史ーー
「はぁ、、はぁ、」(あの筋肉ゴリラ、絶対にいつかぶっ飛ばす)
俺は今、自分の体重と同じくらいの60kgの荷物を担いで走っている。止まることはできない止まったら最後だ。とてもきつい罰があるからだ。
後ろから、鬼のような赤髪、身長は190cm、体重は150kgあるかという巨漢が追いかけてくる。この修練場の教官の一人のリク教官である。
「おい、もやし!走れ!ちんたらするな!そんなんだから貴様はもやしなのだぞ!くそども走れ!、おいE21、E36!お前たちもーーー」
どうも名前が変わりましてもやしです。もやしというのは白髪ですらっとした細見だからというあだ名です。
地獄の訓練所にきて、2か月が過ぎた。筋肉は多少ついてがっしりしたが、所詮二か月だ。周りの男たちと比べると細い。鉱山にいたときは食事のせいか全然筋肉が付かなかった。
そのため、走り込みの訓練ではいつも最下位争いをしている。
身体強化があるだろうって?それは俺も思ったよ、しかし「馬鹿をいうな、身体強化を使ってたら素の体力がつかないだろう」と教官に言われてからは諦めている。
まあ、もし使えたとしても、例えば100kgの力を持つ男と60kgの力を持てる男がいたとして120kgを持つためには、前者であれば1.2倍、後者であれば2倍の強化倍率が必要だろう。身体強化の魔法とはそういうもので、元の身体能力が低い俺は身体強化を使っても、周りの
あくまで力はだ、速度は体重の差で確実に俺のほうが早い。あとは防御力も俺のほうが高い。何故筋肉の無い俺の方が防御力が高いかというと、魔力を纏う量によって体全体が丈夫になるからだ、これは人間の体だけではない。物質全部がこの性質を持っている。
ちなみに修練場に来てからは初めに身体強化を教えられたので、ここのやつらのほとんど身体強化が使える。
流石に1年の差があるのと、魔力操作が得意な俺は身体強化の練度は一番だ。
ちなみにここの奴隷たちは魔山で一年以上死ななかった者たちがいろんな鉱山から集められているらしく。魔力量が普通の奴隷多い。さすがに俺よりも魔力量が高いやつはいなかったが……そして意外にもあのゴリラ教官は脳筋のくせして、今のところ俺以外でナンバー1の魔力量をしている。
そしてこの訓練所に来てから、一つ悲しいことがあった、どうやら俺は魔術は使えても、魔法を使えないらしい。
それを教官から聞いた俺は数日間落ち込んだ。その落ち込み用はなんとあの鬼教官が
「大丈夫だ、平民のほとんどは加護を持たないんだし、魔法は使えないんだから、無属性と同じだろ?……逆に考えろ無属性はある意味才能だろ」と慰めてくれたくらいだ。
それを言われて逆に俺は傷ついたもんだ……魔法を使えたら今以上に強くなれるのに
昼飯を食べ終わると、午後からは戦闘技能の鍛錬だ。
魔力を槍に浸透させて行くように込めていく、魔力を体の外に放出するのと似た抵抗感を感じる。これは魔力浸透と言われる一種の魔術だ。
槍を正面に構え、突く。何回も何回も繰り返す。
敵を薙ぎ払うように、槍を振る。
槍を突き、振るうことで空気が唸る。そこには、確かな技術があった。この2か月の努力だ。
(俺、才能あるんじゃね?)
そこには慢心している一人の男がいた。
二か月前は「もやし!槍はもっとねじるように突くんだ!力任せにやるんじゃなくて、下半身も使って、腰を使い、手首も使い、全身を使え!」「なに休んでるんだ、休まずに振り続けろ!力任せにやるからそうなるんだ」などと教官に言われたことをとうに忘れている。
俺がそうして調子に乗っていると教官に話しかけられた。
「お前もやるようになったな、もう槍の技術に関しては上級クラスだな!」
ちなみにこの世界には、武術ギルドというのもあり、誰でも入会することが出来る。【
武術ギルドは初級が初心者、中級が中級者、上級は上級者、超級は達人といった感じの強さで、超級にもなると、剣や槍を振るうだけで周りの敵が吹き飛ぶらしい。聞いたときは、ほんとに同じ人間か?竜級や神級はどんなレベルなんだ?と思ったものだ。
ちなみに上級クラスというのは、俺や教官のように技術があり、
もっとも同じ上級クラスといっても、教官のほうが全然レベルは上だ。それもそのはずで教官は元B級の凄腕の冒険者だったらしい。
ちなみに武術ギルドではほとんどの人が魔力浸透させることができないため、大半は中級で終わるらしいが……
(やはり俺は天才ということだろう!)
なんてことを考えながら俺は槍を振るった。
訓練所の基本的なスケジュールは、朝から昼まで基本的な体力作り→ご飯休憩→昼から夕方までは戦闘技能の訓練→ご飯休憩→夜はダンジョン知識についての座学→就寝となっている
体力作りではダンジョンにおいて一番重要なスタミナをつけるために、主に重りをつけての走り込みなどが多い。
戦闘技能の訓練では自分の選んだ武器についてそれぞれ講座を受ける、といっても槍と剣の二つに大まかに分けられた。ちなみに槍の担当はリク教官だ。それを知った当時の俺は剣にしとけばよかったなと思ったもんだ……他にも訓練の内容はあるが主にこんな感じだろう。
ダンジョンについての座学ではモンスターの対処法や、ダンジョンのことを暗記させられたり、ボスモンスターなど色々な知識について教えられる。
食事については昼と夜の二回だが、鉱山にいた時と比べると、質も量を天と地ほどの差があり、栄養バランスについてしっかりと考えられている
他にも、怪我や筋肉痛の時は自由に休むことができる。自由に休めるといっても、訓練をサボるとダンジョンに行ったとき生存できなくなるので、奴隷のほとんどはサボったりしていない。俺もここに来た当初は毎日のように筋肉痛になったので、初めのころは結構休んでしまっていたが、最近は無休である。あとは、部屋も大人数で雑魚寝ではあるが毛布や布団などもしっかりしており、鉱山で牢屋の中で固い岩の上で寝てた時と大違いだ。
このような扱いから、鉱山奴隷と違って、ダンジョン奴隷は大切にされているようだ。ここの教官たちが奴隷差別をしないことも要因の一つである。
ーーーーー
「もやし! よく頑張った! お前は貧弱なもやしなどではなく、強い繁殖力を持った。生命力豊富なもやしだ!!」
「結局、もやしなのは変わんねぇじゃないか! このゴリラめ」
……しまった心の声が出てしまった。
「あ? なんか言ったか?」「ーーいえ、なんでもございません」
「まあいい。そうだ卒業したならこれをやろう」
そう教官は言うと、鉄でできた槍を俺にくれた。訓練で使ってた槍と違い矛先がつぶされてないので、刺したり、切ったりできる。
訓練所を卒業する奴隷は武器が貸し出される。それでダンジョンに潜るのだ。
俺は結局2か月と少しという普通より早めに、訓練所を卒業することになった。
体力作りの鍛錬はビリ争いをしていたが、座学と戦闘技能を教えることはもうほとんどないからだ。
「明日からはダンジョンに行ってもらう……しかしホントにソロでダンジョンに行くのか?」
「はい、自分のペースで行きたいので」
ダンジョンに行くときは、パーティーを組んでいくことのが普通だ。ソロでいくのは自殺行為と言われている。しかし俺にはサボるという目的があった。
いや厳密にいえば、モンスターを必要以上に狩りをしないといった感じだ。何故そんなことをするのかというと、ダンジョンで魔力操作をすると効率がいいからだ。ダンジョンというのは負の魔力が強く、魔力操作が地上よりもやりにくいため、魔力操作の練度を効率よくあげることが出来る。アスリート選手がやる低酸素トレーニングみたいなものだ。
パーティーを組んでいたら、魔石を分けないといけないので、ノルマを達成するのにも効率が悪いし、何より一人だけサボって魔力操作の練習をしているわけにもいかないだろう。
強くなるためにも魔力操作の練習は必須だ。身体強化や魔力探知、魔力浸透も魔力操作の練度が上がるほど強力になる。
明日からはダンジョンに行くことになる。ちなみにダンジョンは訓練所の中にある。なので結局、寝泊りはここの訓練所になる。
(せっかくこのゴリラと別れることが出来ると思ったのに)
新しい刺激を期待に胸を躍らせ、やっと訓練から抜け出せると思い喜ぶ。しかし、そんなことを上辺では思っても、ここでの生活は悪くないなと心のどこかで思っている自分がいた。
リク教官の基礎能力
魔力量:C
身体能力:A
魔力操作:C+
精神力:D
加護:火の希少級加護
槍術:B
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灰色の天使
ダンジョンの試練はクリアすると加護を貰え、魔法が使える。しかし第一の試練をクリアするにも冒険者ランクにしてDランクほどの力が必要であるため、ほとんどの人は魔法すら使うことが出来ない。
「準備は大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
ロストダンジョンの入り口で、衛兵に声をかけられる。どうやらここの衛兵や教官は奴隷のことも気遣ってくれるようだ。鉱山のやつらとは大違いだ。
俺は食料や水、ロープ、予備の武器などといった荷物を入れたバッグを背負いダンジョンに入っていく。
ダンジョンの中は高さ3m、幅は10mくらいの通路で、予想よりも広く囲まれたら大変そうだ。ちなみにダンジョンは地下にあるのだが、何故かそこまで暗くない。入り口5つにわかれている。これは難易度によって分かれていて、右から順に難易度が上がっていくらしい。
ちなみにここはゴブリンやオーク、オーガなどのモンスターがでるダンジョンで、火のロストダンジョンと言われている。
俺は一番右に行き、奥に歩いていく。しばらく歩くと、そこには二体のモンスターがいた。緑の肌に老婆のようにしわだらけで醜い顔、頭に小さな角が生えていて、身長は120㎝の人型、手には棍棒を持っている。ゴブリンだ。このダンジョンの第一階層に出てくるモンスターである。
ちなみに強さは武器を持った成人男性なら余裕で倒せるくらいのG級モンスターといったところだ。
モンスターは冒険者ギルドによって、脅威ごとにランク付けされており、下からG→F→E→D→C→B→A→S→EXとなっている。これに対応する冒険者ギルドも下からG→F→E→D→C→B→A→S→EXとランク付けされている。
ちなみに冒険者ランクD級=国の兵士レベルで、だいたい冒険者はD級以下がほとんどらしい。さらにS級以上の強さを持つものは、一国の中でも数えるほどしかいないといわれている。
ちなみに俺は教官にDかC級くらいの強さだろうと言われている。
だがゴブリンは最下位のG級モンスターであるから、俺の敵ではないだろう。
ゴブリンが俺の方に駆け出してくる。
「楽勝だな」
俺はそう呟き、魔力を全身に巡らせ、手に持つ槍に魔力を浸透させ、ゴブリンの頭に槍を突きだす。
ゴブリンの頭は一撃で消し飛んだ。もう一匹のゴブリンはそのまま槍を振るうことで、頭を切断する。
「こんなものか……」
異世界での初めてのモンスター戦闘があっけなく終わった。
人型のモンスターを倒したはずが、俺は抵抗感も何もなく、何も思わなかった。それは転生した影響なのか、元からの俺の人格だったのかわからない。
ズボンにぶら下げている短剣を手に取り、ゴブリンの心臓辺りを切り取る。そこには、1㎝ほどの魔石があった。
俺たち奴隷がダンジョンに行かされる目的は主に二つある、一つ目はこの魔石を取るため、二つ目は
俺はもう一体のゴブリンからも魔石を取りだし、魔石をバッグに入れると、奥に向かって歩き出した。
ーーーーー
扉のようなものが見えてきた。ゴブリンは等間隔でいて、だいたい1~3匹の集団がいるようだったが、槍術上級の俺の敵ではなかった。ここまでで合計で20匹ちかくの敵を倒した、通路は一本道だったので迷わずにここまでこれたようだ。そして、ようやく中ボスの部屋だ。ダンジョンは一本の通路に中ボス部屋、ボス部屋があり、それぞれに今まで以上のモンスターが登場するらしい。中ボス部屋とボス部屋に一度入ると、そのボスを倒すまで逃げることが出来ない。
槍を握りしめ扉を開けて、中に入る。すると後ろの扉が閉まり、魔力が濃くなり、地面が光かった。そしてそこから4体のゴブリンが出てきた。ゴブリンはそれぞれ剣を装備していて、後ろのゴブリン一体は170㎝ほどで、明らかに大きい、F級のホブゴブリンだろう。
俺はゴブリンの集団に走りだし、槍で一気に薙ぎ払った。剣で武装していようと所詮はゴブリンだ。前にいた3体のゴブリンは、身体強化によって向上した俺の腕力で、そのまま吹き飛ばされる。
そのままの勢いで槍を突きだした。捩じられた槍はホブゴブリンの頭を穿ち、大穴を開ける。
そして吹き飛ばされたゴブリンたちを処理して、俺の中ボス戦はあっけなく終わった。
ホブゴブリンから魔石を取る。そして、中ボスの部屋の奥にある通路まで行く。
ここからは未知の領域だ。といっても、一番簡単な右の通路のためそこまで強い敵は出ないだろう。
俺は奥の通路を進んでいくと、今度はホブゴブリンが三体出てきた。だが所詮F級三体だし苦労せずに突破できた。
ーーーー
それからだいぶ進んで、ホブゴブリンを何体も倒していった。どうやら中ボス以降の通路に出るのはホブゴブリンのみなのだろう。
合計で6時間ほどかけて通路を進んでいくと、大きな扉が見えた。ここがボス部屋だ。
魔力の残量は充分だ。俺は槍を構え、気合を入れると中に入った。
扉が閉まった。何か嫌な感じがする。すると何故か、俺の魔力が活性化して一気に魔力が減る。膨大な魔力を持つ俺の魔力がほとんど持っていかれた。
部屋の魔力が濃くなった。予想よりもやばそうだ……だけど、一番右の通路のボスはE級のゴブリンロードに取り巻きF級ホブゴブリン5体のはず。
しかもダンジョンのボス戦の敵は魔法を使ってくるが、ここはロストダンジョンであるため通常のモンスターと同じで魔法を使えないはずだ。知能もないただのE級モンスターのゴブリンロードが出てくるはずだ。
ボス部屋はこんなもんだろう。今の俺の実力はC級くらいだし、大丈夫……と自分に言い聞かせて、冷静になる。
魔力が地面に収束し、眩しいほどに光る。
そこから出てきたのは、灰色の羽が生えて、髪も灰色の天使のようなモンスターだった。身長は2mほどで、その目には理性らしきものが残っている。取り巻きもいない、明らかにおかしいことだろう……
俺が混乱していると天使が言葉を出した。
「試練に挑みしものよ、その力を示せ、さすれば恩寵は与えられん」
「……え」
明らかにこいつは知能があるようだった。知能があるモンスターはロストダンジョンにはいないはずだ。しかも、神の試練と言っている。それもロストダンジョンではありえないことだろう。
明かに不測の事態だろう。しかも魔力量は充分であったはずなのに、さきほど何故か魔力が持っていかれたため、長時間戦闘するのは不可能だ。
一体何が起こっているんだ?
俺は混乱し、動けないでいる。
「ーークイック」
天使が何か呟き、突然目の前に現れる。
俺は呆然としていても目を離していないはずだと……と考える、しかし天使は俺に向かって拳を突き出してきたため、一時思考を停止して、攻撃を槍の柄の部分で防御をしようとする。
「ーークイック」
しかし、天使の拳が俺の胸に突き刺さる。
俺はダンジョンの壁まで吹き飛ばされた。
「ッッツ」
俺は声を出せないほどの衝撃で吹き飛ばされ、ダンジョンの壁に倒れこむ。
何が起きたんだ?攻撃に防御は間に合ったはずだ、でも急に天使の攻撃が速くなって俺は吹き飛ばされたーーと考えていると急に痛みが襲ってきた。
胸が痛い通り越して熱い。
身体を確認してみると、骨が何本も折れているようだし、胸の肉が抉り取れて、臓器が丸出しだ。身体強化で耐久も上がっているはずだったが無意味だった。
「……ッぐっは」
口から血が溢れてきて、息がしにくい。
意識の外から殴られたため、変に力を入れてなかったのが幸いし、足と腕はまだ動くようだ。
灰色の天使が近づいてくる。
俺は震えることしかできない。
(逃げなきゃ殺される…………早く逃げなきゃ。もう敵はすぐそこだ。でも足が震えて動かない。逃げなきゃ死ぬ。死ぬのは嫌だ……『逃げるな、強くなるんだろ?』)
俺の頭に逃げなきゃという思考で一杯だったが、何故かその言葉を聞いた瞬間、目の前の敵を倒して強くならなきゃいけないという気持ちが襲ってきた。
(何故、強くなる?…………そうだ俺は強くならなきゃいけない。誰にも邪魔させない……やるしかない、ここで倒さなきゃ、俺に未来はない)
思考が濁る感じがした。
だが俺はそう決意し、心を奮い立たせる。
しかし、決意があっても、恐怖がよぎり身体が言うことを聞かずに足が震えてなかなか立てない。
天使はもう目の前だ。
(……死にたくない、死ぬのは嫌だ、だけどそれよりもこいつを倒さなきゃ強くなれない……まだ異世界でやることがあるんだ……流されるな! 恐怖に流されてたら、死ぬだけだぞ! )
俺は震えた足に力を入れ、足と槍に限界まで残り少ない魔力を集中させる。どうせ身体的にも次の一撃が限界だろう、だからこの一撃で天使を倒せなきゃ俺が死ぬ。
多すぎて操作できなかった魔力が体から留めきれずに皮膚を破りだし、血があふれる。
魔力の許容限界を超えた鉄の槍にひびが入っていく。
すべての魔力を使い切る勢いで、出し惜しみせず魔力消費の大きい魔力探知も発動させ、天使の魔石の位置を探る。
(この一撃に全てをかける……)
「……クイック」
天使が呟き。
天使が加速し、姿が霞む。
(上に来る!)
魔力が抜けていく。俺は力が抜けそうになり、意識が飛びそうになる。
しかし気力を振り絞って踏ん張り、体に力を入れて身を縮む。
すると俺の顔があったはずの場所に天使の拳が通り抜け、ダンジョンの壁に当たる。
瞬間、俺は足を蹴りだした。
縮んでた力も一気に使い加速し、空中に飛び出す。
蹴りだした足は勢いに耐え切れずに折れた。
痛みに顔をしかめる。
しかし今、痛みがどうとか言ってられない。
今度は槍に集中する。
身体の勢いを伝えて、膨大な魔力を纏った槍に捻りを加え、さらに力を伝える。
旋回した槍の穂先が空気を引き裂く。
スパンっとその威力の籠った一撃は天使の胸にある魔石一直線にその勢いのまま飛び出していった。
ザッシュッと槍はそのまま胸をとらえた。
その衝撃で腕は折れた。
しかし、槍の勢いは止まらない。槍は旋回しながら天使の胸の肉をもろともせずにその奥にある魔石を穿った。
鉄の槍は天使の体を突き抜け背中まで貫通した瞬間に耐え切れなくなり、鉄の槍は砕け散った。
あまりの速さに姿が霞み、純白の髪と黒光りする矛先だけが煌めく、すべてを賭けたその一撃は、純白と漆黒が交じり合う雷が如く一閃だった。
「見事なり……加護を与えよう」
天使はそう呟くと、後ろに倒れていった。
力が入らない俺は天使を下敷きに倒れこむ。やりきった……全身が痛い、しかし謎の達成感があった。
(生き残ったぞ……あ、でも血が止まらない……意識が途切れていく……)
血を失いすぎた俺はそのまま気を失った。
ーーーー
そこには、数千、いや数万の武装した人間たちが争いあっていた。
怒号が鳴り響き、幾千もの武器と武器がぶつかり合い、剣戟が鳴り響く
人が剣や槍で引き裂かれ、血が地面を汚し、元の色がわからぬほど赤く染まる。
その地獄に空より一人の人間が現れ、戦いは止まる。
皆がその圧倒的な雰囲気に息を呑む
背中に炎の赤き翼を生やしたその姿は天使のようでもあり悪魔のようでもあった。
「ーーーーーーー」
炎を身に纏う男が何か呟く
すると、太陽の如き巨大な炎がその地獄を包んでいく
ーーーーー
「……眩しい、暖かい」
自分の寝言で目覚める。
(……ここはどこだ?……何か変な夢を見ていた気がする……そういえば天使はどうなった?)
俺は体を起こすと、近くを見渡す。下には天使の死体があり、手元の槍は壊れている。
「……俺は勝ったのか。」
感慨深くそう呟く。しかし同時に違和感もある、魔力切れで確かに体はだるいが、痛みがないからだ。血を流しすぎて意識をなくしたはずだが違和感がある。
(痛みがない? 何故だ? 体中ボロボロだったはずなのに……)
体を確認すると折れたはずの腕や足、胸などにも傷一つない。
(試練攻略の特典なのか?……)
まあ、わからないことを考えても仕方がなので、俺は立ち上がり、天使の魔石を取ろうとする、しかし最後の一撃で魔石を砕いていたのかわからないが、魔石のあるはずの胸には何もなかった。
(やっちゃたな、まあいいか、怪我が治ってただけで儲けもんだ)
俺は気を取り直して、ボスの部屋から出ようとする、ボス部屋は行き止まりなので、入り口の扉の方に引き返す。
(あーあ、槍も折れちゃったし、予備の槍を使って帰るとするか……)
教官に貰ったばかりの槍が折れたことを考え、気を落としす。
すると、またボス部屋の地面が光りだした。俺は警戒をする。
だが光が収まると地面の中心には、一本の純白の槍があったのだ。
「なんだこの槍? 試練のクリア報酬か? でもそんなこと聞いたことないもんな……ん? 試練?そういえば、試練をクリアすると、加護がもらえるんだっけ? じゃあ俺は魔法を使えるのか?」
俺は加護のことを思い出し、魔法を使おうとするが全然ダメだった。
むしろ俺の適性はないんだし魔法などあるのだろうか?
そう自分で考えて落胆する。
(まあ、いいか!武器壊れちゃったし、この槍使うか)
槍を手に取る。重さと長さはちょうどよく、妙に手に馴染むようだった。
(帰りはこの槍使って帰ろう……)
俺は純白の槍を担ぎ、ボス部屋を後にした。
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侮辱と決闘
頭に二本の角を生やし、身長は2mを優に超え、肌は褐色、手には金属の金棒を持ち、その顔をまるで鬼のようなだ。
その鬼は近くにいる、槍を持った男に襲い掛かる。
キン、キン……と、金棒と槍がぶつかり合い、火花を散らす。
男は金棒を受け流したり、避けたりしながら、確実に槍で鬼の体を刺していく。
しかし、その身に纏う筋肉と魔力のせいでなかなか致命傷が与えられないようだった。
ズドンと鬼が倒れる。
永遠に続くかと思われたその戦いは、男の勝ちで終わった。
「はぁ~」
三番目の通路の中ボスであり、B級モンスターのハイオーガを倒した俺は地面に腰を下ろし、ため息を吐いた。
「……ここが今の限界だよな」
灰色の天使との戦いから2年が経った。
その間に二番目の通路(オークが出てくるので、オークの間と呼んでいる)をクリアした。もちろん前のようなイレギュラーはない。三番目の通路の中ボスであるハイオーガを倒したところで、俺は伸び悩んでいた。
あの戦いが終わってから、神の加護なのか知らんが、確実に魔力の質が上がった。他にも二年間魔力操作の練習をしていたため、その二つのおかげで身体強化の倍率なども上がったといえるだろう。
他にはあの天使戦で手に入れた純白の槍だ。どうやらこの槍は魔法の武器らしくて、まずその魔力の許容量がとんでもなく多い。しかも元の耐久性や鋭さもミスリル以上だろう。
魔力許容量とはその名の通り物質の持つ魔力を込められる限界値のことをいう。
ちなみにミスリルはこの世界の鉱石で他にもオリハルコンやアダマンタイト、ヒヒイロカネなどの鉱石も存在している。
そして俺がダンジョンで死にかけてから、この二年間リク教官に模擬戦形式で鍛錬を頼んでしてもらっていたので、槍術は明らかに上達しているだろう。教官にも槍術は超越級一歩手前だなと言われたほどだ。
しかし、俺は加護?を手にしたはずだが、結局魔法を使えていない。だから魔力を有効活用できていない。身体強化や魔力浸透、魔力探知などといった魔術だけでは膨大な魔力を持て余しているのだ。全くもって贅沢な悩みだ。
上位難易度のロストダンジョンのモンスターたちは固すぎるのだ、物理攻撃の限界だろう。
そんなこんなで、俺は強くなるための案を考えながら、訓練所に帰った。
ダンジョンから出ると、入り口の衛兵に声をかけられた。
「そういえば、リク教官がお前のこと呼んでたぞ」
「え?あのゴリラがですか?」
「多分、あの話だろうが、取りあえず行ってみろ」
「わかりました。ありがとうございます」
この二年でここの衛兵、教官、一部の奴隷たちなどとは冗談がふざけたことを言えるくらいまでは仲良くなったもんだ。
鉱山にいたときはこちらが仲良くなろうという努力を見せても無駄だったが、ここでは強さ至上主義なところもあり強くなった俺は人種とかは関係なしに、ある程度は認められているらしい。
しかし、教官が呼んでいるらしい。俺がダンジョンで死にかけてから、この二年間リク教官に鍛錬を頼んでしてもらっていたので、あの話とはいつも通りの鍛錬の話だろうか? 俺はとりあえず行ってみることにすることにした。
ーーーー
教官のところに行くと、新しく入ってきた奴隷たちを訓練しているところだった。
訓練中に話しかけるのもあれだしと、休憩の時間までここで待つことにした。
その間、奴隷たちの様子を見る。午後の時間なので、戦闘技能の訓練をしているところだった。
リク教官はその大剣でも使ってそうな巨体に似合わず槍の教官である。しかも実は、力押しではなく、技巧派である。人は見た目じゃないんだな……と考えていると、教官が話しかけてきた。
「おう!もやし来たか……ずいぶん遅かったじゃないか」
教官は俺の肩を叩いて言った。未だにもやし呼びだ、まあ他の奴隷は番号で呼ばれているので、それと比べたらまだましだろう。
「ダンジョンに行ってたので仕方ないじゃないですか……話とは何でしょうか?」
教官は珍しく真剣な表情で言った。
「……うちの国と帝国が戦争するかもしれないらしい」
帝国というのはヘイトス帝国といい、セイドリーテ王国の東に位置する国の名前だ。面積、人口ともに王国よりも多く強大だ。
しかし帝国のさらに東に位置するアネロイ連邦国とも現在戦争しており、南に位置するゲーア共和国ともが仲が良くないはずだ。ここで王国に戦争を仕掛けてくるのは流石に強大とはいえ、厳しいはずだが……
「なるほど、それで俺が戦争に徴兵されるというところでしょうか?」
「そういうことだ、ここの奴隷たちも半分ほどは戦争に徴兵される。そいつらと一緒に戦争に行ってもらう、王国側が用意した指揮官がいるとは思うが、お前には奴隷たちの部隊のリーダーとなり、ある程度の指示を出しながら戦ってほしい」
「……俺はリーダーなんて柄じゃないですよ?」
「知っているよ、しかしお前にしか頼めないと俺は思っている。頭がいいし、見る限りだいぶ腕も上げたようだしな」
ここの半分の奴隷だと200人ほどだろう、奴隷たちの中では腕もよく、座学の成績もよかった俺が奴隷たちを仕切れということか。柄ではないが俺の師匠ともいえる、リク教官に頼まれたら断りずらいしな……
「わかりました。やってみます」
「ありがとう!この戦争で活躍すれば奴隷から解放されて、市民権を受け取ることが出来ることもある、だから頑張れよ!」
そういって肩を叩かれ激励された。
でもやはり、奴隷から解放されると聞くとやはりやる気が出るものだ、
「あ、そういえば言うの忘れていたが、リーダーとして候補に上がった奴はお前を含めて二人いるから、そいつとどちらが部隊のリーダーに相応しいか戦ってもらうからな。俺はお前こそリーダーに相応しいと思うのだがな」
「え? じゃあ俺はリーダーじゃなくていいですよ」
「リーダー戦は明日に訓練所でだから、準備しておけよ。じゃあな」
俺は候補がいるならリーダーじゃなくてもいいと言ったが、教官は俺の話を聞かずにそのままどこかに行ってしまった。
「まじかよ……急すぎだろ」
ーーーーー
次の日になり、俺は訓練所に行くとそこには教官たちと、1人の女か男かわからない10代半ばほどで160㎝ほどの薄い青色の髪のやつがいた。
「おう、もやし来たか! 候補の奴らが揃ったことだしお互いにまずは自己紹介をしてくれ」
リク教官が俺ともう一人のやつにそう言った。
「俺はクオンです。なんか戦うことになってしまったけど、よろしくお願いいたします」
「僕はルーイです。よろしくお願いいたします。僕はリーダーになりたいわけではないです。ただあなたのような無能には負けるのは嫌なので本気で行かせてもらいます」
「……はは、まあお手柔らかにお願いするよ」
俺が無難に挨拶をすると、そいつは煽ってきた。少しムカッとしたので本気で行こうと思う。
「じゃあお互い自己紹介は終わったことだし、ちなみにルーイは第二段階目の加護持ちの希少級魔法師でもあるから、この戦いは魔法ありの戦いでやってもらうがいいな?」
どうやらこいつは希少級魔法師らしい。自信はそこから来ているのだろう、魔法の使えない俺に負けるはずがないと。しかしなぜ奴隷に落ちたのだろうか?
「あなたの噂は少しは聞いています。魔法の使えない無能にしてはやる方だと。ですが、僕は別に魔法なしでもいいですよ。無能は魔法を使えないんだしそっちの方がフェアでしょう?」
「いや、それで負けて言い訳されても嫌だし、魔法ありで俺は全然大丈夫だけどな」
「僕があなたのような底辺の人間に負けるわけがありません」
「それはどうだろうな? 俺もお前みたいなチビのクソガキに負ける気はしないけどな」
俺とルーイが言い合っていると、教官が咳払いをした。
「魔法ありで行くぞ! お互い全力でやらないと意味がないだろう! ほらとっとと戦う準備をしろ」
教官にそう言われて、俺たちは対峙する。
俺は初めは負けてもいいと思っていたが、さんざん煽られたので本気で勝ちに行こうと思う。
この世界に来て初めての魔法師との戦いに俺は不安よりも怒りがあった。
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魔法の力
ルーイとの距離は10mほどある。身体強化を使って近づけば一瞬で詰めることが出来るだろう。
相手の髪色的に使う属性は水なのでそこまで強力な魔法は使えないはずだ、水の希少級魔法までだと、普通級の氷の塊を発射するアイスボール、自身の身体に水を纏わせ攻撃を防ぐエンチャントウォーターなどが代表的で、希少級だと水の壁を作り出すウォーターウォール、氷の槍を飛ばすアイスランスなどがある。
俺がいろいろ戦闘について考えていると、教官が話し始めた。
「じゃあお互いに準備はいいな?」
そう言われて、俺は槍を構え、ルーイは剣を構える。互いの手に持つ武器は模擬戦用に刃を潰されているが、金属の塊なので当たり所が悪ければ死んでしまうだろう。
教官が手を挙げた。
「これより、リーダー候補どうしの戦いを始める……始め!!」
教官がそう言って手を下げた。
瞬間に俺は、身体強化を使い距離を一気に詰めた。
その勢いのまま槍を突きだしこのままルーイに当てに行く。
「ーーウォーターウォール」
しかし、目に前に水の壁が出てきて、俺の一撃は防がれた。
殺さないように手加減していたとはいえ槍の一撃はそれなりの威力があったはずだが防がれたということはなかなかに耐久度はありそうだ。
「ーーアイスボール」
さらに俺に追い打ちをかけるように氷の塊が勢いよく発射された。当たれば骨くらいは折れそうな勢いだ。
それを避けるために一時的に後ろに俺は引いた。
対峙してみてわかった水属性は俺にとってはなかなかに厄介だろう。火や風と違って質量で壁を作ってくるのでなかなかに近づけない。無理に壁を破壊して、突破しようとすれば魔法を正面から当てられるだろう……しかしなんとかなりそうだ。
「なかなか言うだけはあるんだな」
「あなたこそ、身体強化が凄いですね……気づいたら目の前でした。ですがその一撃で決められなかったあなたの負けです」
「それはどうかな? じゃあ行くぞ」
俺はもう一度は距離を詰めた。
するともう一度水の壁を作り出されたので、槍を突くのではなく、振ることでそれを切り裂く。
水の壁が破られ、ルーイの姿が見える。
今度は氷の塊ではなく、氷の槍がさっき以上のスピードで飛んできた。
その氷の槍が俺に当たる瞬間、ギリギリ槍でそれで防いだ。
速度の緩急があったため、防ぐのがギリギリであと少しで当たるところだった。
「っな!! アイスボールよりも速いアイスランスを防ぐなんてあり得ない」
もう距離は近い、魔法の詠唱は間に合わないだろう。俺が槍を振るう。
キン、とルーイは焦りながらも剣でその一撃を防いだが威力に耐え切れずに剣を手放す。
俺はそのまま勝負を決めようと攻撃したが、今度はギリギリでルーイは「ーーエンチャントウォーター」と詠唱する。
水を身体に纏わせその一撃を防ぐ。
殺さないように手加減しているため水の衣を突破できなかったようだ。
「凄いな三度も攻撃が防がれるなんてな、でも君はもう手に武器を持っていないし、この近距離では魔法は使えない……降参したら?」
「まだ勝負は終わってないです。魔法の使えないあなたにだけは負けるわけにはいかないんです」
ルーイにも何か事情があるように言った。
そして、今度は「ーークリエイトアイス」と言って氷の剣を手に作り出した。
そのまま俺たちは槍と剣で打ち合った。
しかし、その均衡は長くは持たなかった。俺の方が身体強化と武器の練度も高いため、近距離で打ち合っていると数十秒のうちに氷の剣は折られ、俺が優勢になった。
そして、槍をルーイの首に突き付けた。
「まだ奥の手がある?」
「降参です」
ルーイが降参して、俺の勝ちが決まった。
ーーーー
「まさか、希少級魔法師に勝つとはなーー」「私もルーイが勝つと思っていましたがまさかですね」「あの距離でアイスランスを防ぐとは凄まじい」
「それに凄い身体強化の練度で速かったな」「身体強化だけではなく槍の練度も凄いですね、リク教官に匹敵するほどだ」
「これなら奴隷部隊の隊長を任せられるでしょう」「そうですね」
リク教官以外の試合を見ていた教官たちがざわめいている。
「あの距離で魔法を切り落とすとはな……凄かったじゃないか」
リク教官が俺に近づいてきて声をかけてきた。
「教官との鍛錬が身になっただけです。ありがとうございます」
「初めのころと比べて、お前も強くなったもんだな。俺はこの勝負は勝てると思っていたが、魔法が使えなくても努力し続けたお前自身の成果だよ」
教官が褒めてくれている。だが気がかりが有る。
「ありがとうございます……ちょっとあっちでルーイと少し話してきます」
俺は落ち込んで、座り込んで下を向いているルーイに声をかける。
「凄い魔法だったので、手加減をあまりできなかったです。怪我はないですか?」
「怪我はありません。あとお世辞はいりません」
ルーイはそう言って、そっぽを向く。
「最後のアイスランスはアイスボールの速度で来ると思っていた俺の意表がつけていて、防ぐのがギリギリになったから危なかったです。ほんとに凄かった、魔法も凄かったけど……なにより頭もいいんですね」
「凄いのは魔法だけです」
ルーイはそう言って、顔を俯かせる。とても暗い顔だ。過去に何かあったのだろうか。でも俺の気持ちは本当だ。魔法だけが凄いとは思わない。
「いや、そんなことはないですよ、魔法だけじゃなくて戦略も詠唱速度も凄くて、あと俺の攻撃を剣で防いでたじゃないですか。自慢じゃないですけど、俺の攻撃を防げるのは奴隷の中でもそう多くはないと思いますよ。ちゃんと魔法だけじゃなくて訓練をしてるんだなと思いましたよ」
「ですがそんなのは関係ないです! 僕の価値は魔法だけなんです!」
その言葉は俺にとっても聞き捨てならない。
「……人の価値が魔法だけのわけはないだろ!」
「あなたに何がわかるんですか!!」
何がわかるか、確かにルーイの過去に何があったのかわからない。それでも魔法だけが人の価値だとは思わない。何より魔法の使えない俺がそれを認めるわけにはいかないしな。
「君のことはわからない。でも俺も鉱山奴隷だったときは、魔法の適性の無いこの白い髪のせいでさんざん嫌な目にあってきた……それでも今はこうして強くなっている、リク教官に認められている。別に魔法がなくても強くなれるし、人に認められるじゃないか……君の過去に何があったのかわからないけど、過去と今の君は違う! 俺は今の君を認めているんだよ」
俺がそう言うとルーイは涙を流した。
「なんで褒めてくれるのですか? 僕はあなたを貶したんですよ」
「褒めてるわけじゃなくて事実だし、別にそんなに気にしてないよ。魔法が使えない無能だからどうしたって感じだね」
「え? でもさっきは怒ってましたよね?」
あ……たしかに何故だろう? でも今は全然、怒りの感情はない。さっき貶された時は感情が抑えられなかった。まるで自分の感情じゃないかのように、もしかして戦闘でスッキリしたのか?感情というのはよくわからないものだ。
「まあ、あの時は戦闘前で気が立っていたかもしれないな。ごめんなさい」
「僕の方こそすみませんでした。魔法の使えない無能などと言って、人を傷つけるなんて僕は最低ですね。無能と言われる痛みは知っているはずなのに……」
「別にいいよ。俺は傷ついてないし、俺も悪口言ってしまったし、これからお互い気を付けよう」
「はい」
俺とルーイは無事仲直り出来たみたいだった。
「そういえば、凄い身体強化の練度と槍捌きでしたね。相手をしていて思わず見惚れてました」
「ありがとう。でもそれならよかった努力したかいがあったもんだね」
「こちらこそ私のことを褒めてくれてありがとうございます」
俺とルーイはお互いを褒めあった。
「そういえばお互いさ、君とかじゃ分かりにくいし、俺のことはクオンでいいよ」
「ではクオンと呼びますね。僕のことはルーイと呼んでください。ちなみに僕は男ですよ」
ルーイはどうやら男だったらしい。見た目は女にも見えるけど本人が言うならそうなのだろう。
「じゃあ、ルーイって呼ぶね」
「はい、わかりました」
これで試合前のごたごたは解決でいいだろう。
しかし、俺は感情が高ぶって、ため口になっていたことに気付いた。
「あ、なんか熱くなって話してたら気づいたらため口使ってました。不愉快だったらごめんなさい」
「ふふ、全然不愉快じゃないですよ。ため口で大丈夫です」
俺がそう言うとルーイは初めて笑顔を見せた。その笑顔は男であるとわかっていてもドキッとするとても魅力的な笑顔だった。
「わかったよ。じゃあルーイも気軽にため口でいいよ」
「僕はこのままで大丈夫です。こっちの方が慣れているので」
「了解! ところで水の魔法のこと良かったら教えてくれよ」
「いいですよ! じゃあ私にも身体強化のコツとか教えてください」
「そうだねーー」
一時はやばい奴が来たと思ったが、どうやら、ルーイと仲良くなれそうだった。これから一緒に戦場に行くのだし仲良くなっておいて損はないだろう。
それに男のくせして可愛いし、ってあれ俺ってホモじゃないよな?
ルーイの基礎能力
魔力量:C
身体能力:E+
魔力操作:C+
精神力:E
魔法:水の希少級加護
剣術:D+
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奴隷たち
ルーイとの戦闘から数日が経ち、俺が奴隷部隊のリーダーになることが決まり。
戦争に行く奴隷たちとの顔合わせの時間が来た。
教官が言うには、ヘイトス帝国との戦争はほぼ確定で起こるらしくて、今から早かったら数か月、遅くとも1年以内には始まりそうだということだ。
それまで戦争に行く奴隷たちはダンジョンに行かなくていいので戦争の訓練をしろとのことだ。
あと連携力とかを高めるために俺がこの奴隷たちを戦争が始まるまで訓練しなければいけないらしい。
200人の屈強な男たちが武器を持ち、並んでいるところを見ると壮観だ。
俺は奴隷たちの前に立つ。隣の教官が口を開く。いつものゴリラ……いやリク教官じゃなく、剣を指導している教官だ。
「こいつはE49、いやクオンだ。お前たちの隊長になる予定だ、おい、クオン挨拶をしろ」
E49とは俺のここでの奴隷名だ。いつもはあだ名か名前で呼ばれていたため久しぶりに聞いた。
やはり、いくらここが居心地が良くても奴隷なんだと実感がわいてくる。
「奴隷名はE49だ。まあリーダーでも隊長でもクオンとでも適当に呼んでくれ」
同じ訓練をしていたやつや、ダンジョンで俺の戦闘を見たことあるやつ以外の、大半の奴隷は細身で全体的に白い俺の体と白い髪色を見て、侮蔑の表情をしている。
ダンジョンではだいたい身体強化をしていたため、二年たってもあまり筋肉はついていない。こんなことなら筋トレをしとけばよかった。
仕方ない、奴隷たちをまとめるために強く言うことにする。俺はわざと魔力放出をすることで威圧感を出す。
「俺に従えない奴や文句があるやつは前に出てこい、直接指導してやる!」
それを聞いた奴隷たちの中から、ニヤニヤしながら10人の奴隷が俺の目の前にくる。筋肉はついているが、魔力の流れを見ると、魔力操作のレベルは低い。せいぜい身体強化しか使えないだろう、しかも練度も大して高くなさそうだ。
俺はいけるなとニヤリとし、殺さないためにも木の槍を持ち、目の前の奴隷たちを挑発する。
「俺は木の槍を使うがお前らは刃の着いた武器を使っていいぞ。あと10人まとめて相手してやる、掛かってこい」
「上等だ、ぶっ殺してやる」
奴隷たちはそれに腹を立てたらしく、武器を構え向かってくる。
身体強化の練度が低く遅い。俺は圧倒的な力の差を見せつけるため、それらをわざと避けない。体に剣や槍が突き刺される。
しかし、魔力浸透も出来ていない武器での攻撃では身体強化の練度が奴隷のやつらとは桁違いの俺の皮膚には刺さらなかった。
「……な!なぜだ!なんで剣で切れないんだよ!」
奴隷たちが困惑する、俺は手にもつ木の槍を使って、奴隷たちを薙ぎ払った。そして、戦意を喪失している奴隷たちを一人ひとり、痛めつけてやった。異世界にきて初めての人に対する暴力に僅かに興奮しながら…
「……これで、文句はないな。文句があるやつはまだいるか?」
200人の奴隷たちから前に出てくる奴はいない。
俺の前には、10人の奴隷たちが倒れている。だいぶボコボコにしたため、気絶しているやつも何人かいる。
まあ、俺は奴隷たちをまとめるカリスマ性などは持ち合わせてないため、暴力により200人という大人数を支配するしかないだろう。
近くにいた剣の教官が声をかけてくる。
「戦闘狂っていうのは本当なんだな」
「……戦闘狂って何でしょうか?」
「ダンジョンにずっと潜ってるじゃないか、ロストダンジョンに潜る奴隷は普通は休みながら潜るし……その割には魔石を提出しないから、モンスターを倒すだけ倒して、魔石を取る時間も惜しんで、戦ってるって噂だぞ」
おいおい、魔石を取りだす時間も惜しんでモンスターと戦い続けるとかどんな戦闘民族だよ……ダンジョンで魔力操作の練習をずっとしているから、ダンジョンに潜る時間が多いのであって、けして戦闘狂ではないと思う。まあ、奴隷たちを指導するには戦闘狂と思われてる方が好都合かと思い話を合わせる。
「戦うのって楽しいですよね。なんか生きてるって感じがしません?」
剣の教官は顔を引きつらせた。
「……今日は顔合わせだけでこれで終わるが、明日からの訓練は部隊の連携力も高めるために、君に教官役をしてもらうが、奴隷たちを殺すのはなしでな」
「大丈夫です。殺したら勿体ないじゃないですか、これ以上戦闘できなくなるんで」
俺はそう言うと、剣の教官は恐怖の感情を僅かに見せてさらに顔を引きつらせた。
ーーーー
一日が経った。今日からは奴隷たちとの戦闘訓練だ。一応教官たちも指導を手伝ってくれるが、基本的には俺が中心になって教えなければならない。
とりあえず、今の練度を見るためにも二人一組になってもらい身体強化などの魔術ありで戦ってもらうことにした。
奴隷たちが剣と剣、槍と槍を打ち合わせあっている。教官に指導されているだけあって武器と身体強化の練度はそこそこだろう。だが奴隷たちは武器での戦いで重要な魔力浸透が出来ていなかった。
基本的によほど才能が無い限り人は身体に魔力を巡らせて身体能力を上げる魔術である身体強化は数か月で出来るようになる。そこから練度を高めていくのは努力が必要なことだが……
しかし身体の外に魔力を纏わせるという技術である魔力浸透はこの世界では才能が無ければ出来ない技術とされている。
それで何故、魔力浸透は重要なのかというと。魔力を纏ったものは、魔力を纏っていないものや物理攻撃を防ぐ効果があるということだ。つまり何が言いたいのかというと、大半の兵士は身体強化で身体に魔力を纏っていて耐久力は高いが、魔力浸透が出来ず武器に魔力を纏わせることが出来ないので同じ
なので魔力浸透を使えるか使えないかで、魔法の使えない兵士同士での戦いは決まると言っても過言ではないだろう。
しかし、この世界の住民は何故か魔力を身体の外に出すことが苦手みたいだった。それにより魔力浸透や魔力探知といった魔術は難しいとされている。
相手はモンスターじゃなくて身体強化の使える人間の兵士相手だ。大体の訓練の方向性は決まったな。
「戦うのをやめて、俺の方に集まってくれ! 今後の訓練の内容を伝える」
俺は奴隷たちにどのように訓練をしていくのかを伝える。
しかし、数か月で武術ギルドでも上級クラスと言われる魔力浸透を出来るようになるのだろうか? そして、今以上に戦闘技術を高めないとな。奴隷だけでなく俺自身も……
奴隷たちの基礎能力※平均
魔力量:E
身体能力:D
魔力操作:E
精神力:E
魔法:無し
武術:E
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