過負荷の刃 (角刈りツインテール)
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序章
001 安心院さんの安心できない独断


鬼滅×めだかボックス。
誤字あるかどうか不安心院さんです。
初投稿ということで感想、評価していただけると助かります。


やあ球磨川くん。

君はどうしていつもいつも、そんなに面白い死に方が出来るんだい?

死にたいのに死ねない僕からしたら、君が羨ましくて仕方ないね。

生憎香典の持ち合わせは無いのでそこは許してくれ。

 

ところで球磨川くん。球磨川禊(くまがわみそぎ)くん。

これで転校した、もとい廃校させた学校は何校目かな?

そろそろ君も感じたんじゃないかい?

 

——————僕を倒しうるスキルホルダー、この世界にいないんじゃね?

 

ってね。

さて、どうなんだろうね。僕は今か今かと待ち続けているんだけど、まだ見つけていないんだね?

まあずっと君を見てたから知ってるけど。あはは。どんまい。

 

という訳で、僕から一つ名案をあげよう。

明案といってもいい。つまりただの思いつきだ。

すなわち、時代を遡るんだ。

宮本武蔵、織田信長、ナポレオン……その他諸々。

もしかしたら、あの強さはスキルによるものだったのかも知れないぜ?

いや、違うけど。

違うよ。テストにゃ出ないぜ。

ほんとほんと。

信じてくれよ。

えーとじゃあ時代は大正くらいでいいか...ん、どうしたんだい?球磨川くん。

 

ふむふむ。

なんで急に、って?

おいおい球磨川くん。僕のことが好きなくせにそんなことも分からないのかい?

それは、本当に愛なのかな?

どうなのかな?ねぇねぇ。ん?

僕のタイプが。

僕のことを全て理解してくれる人間だったらどうするつもりなんだい?

はは、冗談冗談。

分かってる癖にー。なんでタイムスリップさせるかって、そりゃあ。

面白いからに決まって……おっと、ハモってきたね。

嬉しくて仕方ねえぜ。

次やったら本気で殴る。

ま、いいや。

そういうわけだ。

時は大正、鬼狩りの時代。

僕を倒しうるスキルホルダーがいるといいね。

え?鬼は僕だって?はは、笑わせてくれるねえ。

僕は神だろう?

じゃ、精々僕を楽しませておくれよ。

東西東西、お立ち合い、っていう訳で、球磨川禊の、怪怪奇譚(かいかいきたん)始まるよ。

おっと、あれは違うアニメだったね。失敬失敬。

チャンネルはそのままで。

あぁ、そうそう。それとだね、球磨川くん———

 

 

私のことは親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

ミーン、ミーン、ミーン————

『——————え!?どこここ!?私は誰!?』

球磨川禊は、そんな安心院なじみとの会話を別にスキルの効果でもなんでもなく、ただただ完全に忘れて目を覚ました。

『いてててて……頭が痛い……』

まぁなにはともあれ、こういうときは一つずつ思い出していこう。着実に。正確に。

『えっと、確か僕の名前は東方仗助……それでここは……』

ここは?

あれ、ここどこ?

目の前には我が国が誇る古都・京都を彷彿とさせるまさに『the・和』の景色が広がっていた。

胸がざわざわしちゃうね。

わびさびなんか知らねえ。思いっきり騒いでやる。

『……と、茶番はここまでにして、通行人はいないかなーっと……』

辺りを見渡す。と、たった1人、田んぼ道を歩く人が見えた。

というか、よくよく考えたら畑仕事をしているお爺ちゃんが何人かいた。

完全によくある「日本の景色」として田んぼと農作業をする人を一緒くたに考えてしまった。

気をつけることとしよう。

当たり前を大事に、だ。

どうせ明日には忘れそうな教訓だけど。

まぁとにかく人がいた。

「表参道を無人にする」と言われているほど(咲ちゃんに聞いた。事実だけに何気にショックだった。)人を寄せ付けない過負荷である彼にしては珍しいことである。

幸運かどうかは分からない。

今の幸せが後々とんでもない災厄につながる男。それが球磨川禊だ。

 

閑話休題。

その人は、黄色い髪のいかにもヘタレそうな男だった。

キョロキョロと、忙しなく顔を左右に動かしているのが遠目でうかがえる。

……こういうタイプ、僕の世界線にはいなかったなぁ———とか思いつつ。

『よっしゃ、ここは一つ勇気を振り絞って話しかけてみようかな!』

球磨川は素晴らしい笑顔を浮かべながら(本人談)彼に駆け寄った。

『どうもどうも!ここにきてすぐだったから人に会えて安心院だぜ!僕の名前は東方仗助!よろしくおねがいしてください!』

「ひぃっ!何何なんなのもう急に大声出さないでよ!!!」

『なんというか、その……』『想像通りのキャラなんだね!』

「うるせぇよ!!!」

再度、閑話休題。

「俺は我妻善逸。鬼殺隊だけど、言っとくけど、俺すげえ弱いからな!」

『奇遇だね、僕もなんだよ!弱過ぎて蚊の威嚇に対しても穏便に済まそうとしちゃうくらいなんだ!』

「蚊の威嚇ってなんだよ……」

と、呆れ気味なツッコミ。

そして。

 

彼は、

 

笑わなかった。

 

 

『笑えよ』

 

 

「——————ッ!?」

その瞬間、善逸の胸には螺子が突き刺さっていた———螺子伏せられていた。

衝撃と、苦しさ、痛みで声も出ない。

『おいおい、人の冗談を笑わないなんて、人として最低だよ!』『君はもっと空気を真面目に読むべきだぜ』『そう……僕みたいに、ね』

「カ..…..ハ.......はっ!?」

そして、再び瞬間的に、螺子が全て消えた。

まるでそんなものは「無かった」かのように。

「……な、なんなんだよ、お前」

『へ?』『いやだから、さっきも言ったけど僕は通りすがりの一般人こと球磨川禊さ』『よろしく仲良くしてくれよ』

と、握手をしようと手を差し出す。

それも凄いニコニコ顔で。何も知らない人がこの光景を見たら、球磨川のことを好青年だと思うだろう。だが先程のことがある。善逸はすっかり怯えてしまった。

だが勇気を振り絞って善逸は、それに応えるために手を差し出し———触れた。

「ひっ.…..!」

冷気。

———尋常じゃない程冷たい。

ゾッとしてしまった善逸は手を離してしまう。

そしてハッと気付いたような顔をし、恐る恐る球磨川の顔色を見るが害している様子はなく、安堵。

一体、何者なんだ。疑惑の念が善逸に広がる。

『んで、ここどこ?』

「..…..東京だよ」

『よし、江戸じゃないならまだここが東京の未開拓地であるという可能性は見出せたぞ。』

「何言ってんだ江戸はとっくに終わってんだろ」

『あはは、ごめんごめん。それで?今は何時代だっけ』

「えっと.…..」

 

  大正時代だろ

 

 大正は、日本の元号の一つ。

 明治の後、昭和の前。大化以降245番目の元号である。大正天皇の在位期間である1912年7月30日から1926年12月25日まで。

 日本の元号として初めて、元年から最終年である15年までの全期間グレゴリオ暦が用いられた。日本史の時代区分上では、元号が大正であった期間を大正時代という

 

『たい……しょう?』『あ』『ああ……』『あれ?』『……』

 

『ああああああああああああああああああああああああああっ!!』

「何だよ叫ぶなよ怖いなぁもう!」

全部思い出した。

そうだ。

僕は東方仗助じゃない。

なんてことだ。

いや違う。そっちじゃなくて。今が大正時代だとすれば。

『……まじか……安心院さん……本気だったのか……嘘だぁ……』

「あのさ仗助。さっきから出てくるそのあんしんいんさんって誰だよ。」

『……僕の時代の神様だよ...あとごめん僕は球磨川禊だ……スタンドなんて使えない……うっわ面倒なことになったなあ……』

「事情は知らないけど、どんまい。できる範囲で助けてやるよ……まあ、どうせすぐ死ぬけど」

『ん、どういうことだい?あとごめん、暑くて死にそうだから飲み物貰ってもいい?割と本気で』

「あぁ、うん、これどうぞ……まぁ俺今から任務でさ、めっちゃさ、怖いさ、強いさ、鬼とさ、戦うんだよ。」言い終わると同時に善逸は肩をぶるりと振るわせた。あまりの震え具合に善逸から貰った水筒を飲んでいる(水筒は飲む者では無いというツッコミはさておき)球磨川も驚いて同じように肩を震わせた。

(はた)から見れば、それは滑稽でしかないが彼らにとってはかなり問題だったらしく、『飲んでる最中に驚かせないでくれよ善逸ちゃん』「いやまじでごめ…って急に馴れ馴れしいな」と小声で言い合った。

そして一息ついてから、本題へ戻る。

『ふぅん、鬼……?ははは、善逸ちゃんにも可愛いところがあるね!いいかい良く聞いてね?鬼は架空の存在なんだぜ?サンタクロースと同じだ。』

「いや、そのさんたくろおすが何かは知らないしなんか凄いムカつくけどさ...いるんだよ。隠れて生活してるから誰も気づいていなけど、鬼は存在してる。毎夜毎夜、人を喰ってんだよ。あぁ恐ろしい。...てかあれ。なんで鬼殺隊の服着てるのに鬼のこと知らないんだよ。」

あぁ、そういえば安心院さんも言ってたな。

 

鬼狩りの時代。

 

鬼殺隊。

 

なんというか…..うん。

 

すっげー面白そう。

 

週刊少年ジャンプの読者としては堪らない設定だね。

『あのさ、ここにちょっとした名案があるんだけどさ』『折角だから僕もついていっていいかい?』『いや、どうせ行く当てもないしさ』『君について行かなかったら餓死しそうなんだ。』『ね?人助けだと思って、どうかな?』

「ほんとにぃ!?いいの!?まじで!?いい奴だなぁこのこのぅ!」

飛び跳ねながらめっちゃ喜んでくれた。

そしてブリッジした。

無駄に綺麗なフォルムだ。

どうやら疑惑は完全に払拭されたようだ———善逸は、どこまでも単純な男なのだ。

自身で弱いと言っていたが、彼が果たしてどれくらい弱いのか。どれほどの過負荷(マイナス)っぷりなのか。球磨川は期待しながら目的の屋敷へ———鬼のもとへ向かった。

 

仲間は1人しかいないが、鬼退治の時間だ。

...え、そんな馬鹿なことある?

さて、ここから僕は多くの出会いをすることになる。

 

例えば自信過剰な夢見がちな鬼。

 

料理が上手い普通の女の子。

 

例えば兄を愛する絶世の美女。

 

例えば———人を真似て生きる鬼殺隊員。

 

多くの一般人(ノーマル)異常性(アブノーマル)、そして———過負荷(マイナス)に出会うことになる。

そんなこれから待ち受けている出会いに対して、僕は一つ言っておくべきことがある。

これは、宣言。そして忠告だ。

 

今後君たちに何が起きたとしても。

 

僕は悪くない。

 




次回
「球磨川、死す!」


まぁいつも通りですね。なるべく西尾節で書こうと思います。よろしくお願いしてください。
あと善逸は学ランと鬼殺隊服を見間違えてます。可哀想に。


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002 鼓鬼の感動できない小説

こいつら、意外と気が合いますね...
あと、いつかオリキャラ出しますのでお楽しみに。


「え!?お前鬼殺隊じゃないの!?」

静かな野原に善逸ちゃんの声が響いた。

「じゃあその服なんだよ。鬼殺隊服じゃねえか」

『これ?あぁ、これは「学生服」といって、僕の時間軸では冠婚葬祭にも行けるし顔パスみたいな役割もする優れものだぜ』

「なんだよそれええええええええ!!!!」

と、またまた悲鳴。さっきからずっとこの調子だ。

この精神力の弱さは過負荷目線では素晴らしいものであるが、畑仕事をしている爺ちゃん達は迷惑そうにこちらを見てくる。

別にどうでもいいけど。

『まぁ大丈夫だよ。刀も持ってないけどなんとかなる』

「ならないの!ねぇ!ならないんだよ!!」僕の学ランに縋り付いてくる。

『……』

なんか段々煩くなってきた。

一度見せた方が早そうだ。

『へい善逸ちゃん。ちょっとそこのおっちゃん見ててよ』

「え?何があるんだ———ってはぁ!?消えた!?」

『普段ならこうも安易とは教えないんだけどね』『ジャンプ展開に乗っかって教えてやるよ』『僕の過負荷(マイナス)、「大嘘憑き(オールフィクション)」さ』『いやんっ!恥ずかしい!』

「……え、なんだって?」

あ、そうか。

英語、まだあんまり流通してないのかな…

括弧つかないけど、仕方ないや。

今日のところは少しは許容してやろう。なんつって。

『あはは』

「何笑ってんだ気持ち悪いな」

……。

真顔で気持ち悪がられた……まぁいいや。

『僕の過負荷、大嘘憑き、だよ。』『全てを』『無かったこと(虚構)にする能力だ』『あ、これはこれでカッコいいな』

「は!?」

なんだ、それ。

何なんだその能力は。

いや、それよりも———

「あ、あのさ。あのさっきの爺さんはどうなった?」

『え?いやだから、「無かったこと」に』

「そういうことじゃなくて!戻せるんだな!?」

その悲痛な疑問に対し、球磨川は———

 

 

———笑った。

感情の読めない、シニカルな笑みを浮かべた。

そして、球磨川はこう言った。

『え?戻せる訳ないじゃん。』『週刊少年ジャンプじゃあるまいし』『人が生き返る、なんてねぇ』

絶句。

善逸は、こいつはヤバい———と純粋に思った。

 

……が。

『なんてね!嘘嘘!』『あくまで一時的に「無かったこと」にしただけだから、しばらくしたらまた戻ってくるよ。』『多分』球磨川は今度は純粋に楽しそうに、()()()()()笑いながら言った。

「な、なんだ……良かった……」

善逸は安心しきってへなっとその場に座り込んだ。

「怖いこと、言うなよ……」

『あはは、ごめんね?ちょっと君みたいな人に中々出会う機会って無いからさ』『ちょっとからかってみたくなったんだ。』

「誰がヘタレだおい」

 ……大嘘憑き。

それって、例えば

   「我妻善逸」を「無かった事」に

   「世界」を「無かった事」に

できるという事ーーーーー

「……過負荷って何だ?」

『えっと、なんだろう...改めて聞かれると難しいな...』『海辺のカフカ的な...いや違うな絶対。』『わかんねーから明日までに考えとくね!』

「何でだよ!今から死んだらモヤモヤして死にきれねえよ!」

『そんなに気になるの!?...あー、まあ、能力みたいなもんだよ』

「……血鬼術か?」

『へえ、鬼にも能力があるのかい?そいつは楽しみだな。安心院さんを打破しうる鬼はいるかな?』

「だから誰なんだよそいつ……」

雑談パート終了。

僕らは、森に佇む怪しい屋敷へたどり着いた。

『なんだろうね、ここ。いかにもって感じだけど』

「な、何が、なあ、いかにも、なんだよ、おい、なあ」

『あはは、ごめんって...ってあれ、男の子と可愛い女の子が』

震えていた。何か、怖いものを見たように。

ーーーーーーーーーー事情説明ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

『なるほど、遊郭で女の子に騙されて借金を背負った挙句イカツい男にお兄さんが連れてかれたんだね?』

「そんな話してた!?」

『嘘嘘嘘!鬼に連れてかれたんだね?もう大丈夫だよ。ほらーーーーー』『大嘘憑き』『君たちの恐怖心を』『無かったことにした。』『大人しくここで待ってな』

そう言った途端、彼らの震えは収まり、表情も落ち着いたものとなった。

兄の方は礼儀正しく「はい、わかりました。兄をお願いします」なんて言ってくる。

大嘘憑き。善逸は未だ良く分かっていなかったものの、どうやら「悪い」ものではなさそうだ、と判断した。

 

 

過負荷がーーーー良いはずがないのに。

 

♦︎♦︎♦︎

 

じゃ、早速突撃、隣の晩御飯、と洒落込もうか。

まぁ隣でもなんでないし、晩御飯も頂かないけどね。

 

晩飯になるのは貴様だ。鬼め。

 

...にしても、どうやって戦おうかな。

善逸ちゃんが使い物にならない、というか物理的に枷にしかなっていないけどまぁどうにかなるっしょ!

『じゃ、入るぜ?枷くん。』

「。やめて!枷になってることは分かってるから!ごめんね!」と、刀を持つために僕から渋々手を離した。

やれやれ、夏場だから苦しかったぜ。

『オッケー。それじゃあ、失礼しまーす!』

「声デカいよバカなの!?」

『いや、君も十分デカいけどね...』

屋敷に入ると、そこはかなり埃臭かった。

きっと何年も住んでいないのだろうーーーー人間が。

鬼は掃除なんてしないんだろうなぁ。綺麗好きの僕からしたら吐き気がするぜ。

なんつって。

とか僕が独りごちっていると、善逸ちゃんが突然言い出した。

「なぁ...なんか音がしないか?なんかこう...鼓みたいな。」

『え?鼓って、ああ、太鼓か...そんな音しないけーーーーー』

ーーーーーーーーーポン    ポン  ポン        ポン ポン ポン

ーーーーーーーーーーポン    ポン   ポン    ポン ポン  ポン   ポン

ポン     ポンーーーーーーーーポン    ポン ポン

 

ポン ポン      ポン   ポン                ポン

『あ、聞こえる』

ポン

「でしょ!?あああもうやだあああ...あ、ごめ、ってえぇ!?」

それは、ほんの一瞬のことだった。

善逸があまりの恐怖で暴れ回り、僕が隣の部屋へ押し出された。

そして鼓の音が聞こえた後、気づいたら部屋が変わっていた。

が、球磨川は少しビクッとしただけで動揺はしない。

『あ、あれ...?あ、これが今回の鬼の血気術ってことかい。ははーん、なるほどねぇ』と、へっぽこ探偵っぽくしてみるが、内心かなり失望していた。

ーーーーこんなスキルじゃ、安心院さんは倒せないだろうな。

そんな失礼なことを思っていると、何者かが現れた。

ズン、ズン、ズン、と、不吉な足音を立てながら。

ーーーー噂をすれば、か。

面白い。

 

 

あ、やっぱ面倒臭いな

大嘘憑き(オールフィクション)』『ただいま』

「うっわあああああああああびっくりさせるなよ球磨川のばぁぁぁぁぁか!」

『予想以上のリアクションをどうもありがとう。』

閑話休題。

『いや、さっき多分目的の鬼に会ったんだけどさ』

『戦うのは面倒じゃん』

『さっきの鼓による瞬間移動を「無かったこと」にした』

「いや馬鹿なの!?」

『違ぇよ』

これは逃げではない。

戦略的撤退なのである。

故に「馬鹿」などと言われるのは実に心外である。

『いいかい?逃げというのはね』

「あーもうわかった!分かったか...ら」

噂をすれば(2回目)

「...見つけたぞ。小僧。」

『あーもう、面倒臭いなあ...そういうのは女の子に嫌われるぜ?』

「はいはいはいもう分かったからなんとかして!!!!」

『了解。こんなヌルゲー久しぶりだぜ。』

ポン

『あ、やべ』

球磨川は、突如襲いかかった爪に切られ、死んだ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

やぁ、毎度お馴染み安心院さんだ。馴染んでないそこの読者は早く馴染んでね。

にしても球磨川くん———また死んだのかよ。

何が『ヌルゲー』だよ。

面白いなあ。笑っちゃうよ。

あ、嘲笑だぜ?

それじゃ、今回の鬼の復習だ。今回の鬼への復讐だ。

鼓鬼ーーーー響凱(きょうがい)という。

小説も、鼓も、人生もーー誰にも認められることなく死んだ哀れな鬼だぜ。

え、鬼が元々人間なのかって?

そうだけど

あれ、言ってなかったっけ?ごめんごめん

それだけ君を信頼していたんだぜ。

ほんとほんと。信じてくれよ。

全くもう。

あ、そうそう。この世界の鬼退治の要となる「全集中の呼吸」についても説明しておくよ。サービスだ。

どんなゲームでも設定を知らなかったらつまらないもんな。ピーチ姫が拐われているのを知らずにマリオをプレイするみたいな。あんなご苦労な冒険をする意義が見出せないぜ。

あ、別に楽しいか。どうでも良いけど。

全集中の呼吸

一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、血管や筋肉を強化・熱化させて瞬間的に身体能力を大幅に上昇させる特殊な呼吸術だ。

これにはさまざまな派生、そして「型」があってね

水、炎、蛇、岩 霞みたいな感じにさ。

善逸ちゃんは雷の呼吸なんだが、壱ノ型「霹靂一閃」しか使えないアンポンタンだ。

今の発言、善逸ちゃんには内緒な。

あ、そうだ。ついでに鬼の弱点について話しておくよ。

日光だ。そして、日光をたっぷり吸収している、日輪刀。

うん、善逸くんが持ってるやつ...と、おやおや、噂をすれば、だね。やっぱ死んだか。

やあやあ善逸くん僕は安心院なじみだ。親しみをこめてあんしんいんさんと呼んでも良いぜ?

そんなに怖がらないでくれよ...乙女心が傷ついちゃうぜ。

まぁいいや

乙女心なんて無いし。

そんで、君もあの鬼に殺されたんだね?

可哀想に。あんな雑魚鬼に殺されるだなんて。

怒るなよ。ごめんって。たしかに強いもんな。うん。仕方ない仕方ない。

でも球磨川くんと冒険するにはちっとばかしライフが足んねえのは事実だ。

つーわけで、君の攻撃力を上げよう。

具体的には、僕のスキルをあげよう。

 

1京2858兆0519億6763万3865個のスキルのうちの一つだ。

スキルって何って?あー、君らで言う血気術みたいなもんさ。

特殊能力だよ。

ほら、こっちおいで。

悪いことはしないから。

...よし、良い子だ。

ガシッと。

 

口写し(リップサービス)

 

はは、ごっそさん。

 

おいおい、そんなに照れるなよ、ちょっとキスしただけだろう?

悪いことはしてない。

僕は悪くない、なんちゃって。

あと球磨川くん、嫉妬してるみたいな顔しないでくれ。気持ち悪い。

で、これが僕のスキルーーーー他人に能力を受け渡す能力だ。

痴女だとか言いふらすなよ?

そんでもって、僕が渡した能力はーーーー

いや

ここまでしてあげたんだからそこぐらい自分で確かめなよ

名前だけは教えとこうか

過去の明星(かこのめいせい)

ロストワールドと読むが、まあそこは善逸くんにはどうでもいいだろう。

この能力に必要なのは、人との関わり合い、そして知識だ。

精々、球磨川くんが死なない程度に頑張ってくれたまえよ。

あ、君が過労死しちゃうなそれじゃ

それじゃあ2人とも、頑張って白星を勝ち取っておくれよ

僕はここでニヤニヤしてるから。

 

♦︎♦︎♦︎

 

そして球磨川はムクッっと何事も「無かった」かのように起き上がった。

少し後に善逸も起き上がる。

『...ふっ、流石ヌルゲー、痛くも痒くもない攻撃だったぜ』

「死んだよね俺ら!?何がヌルゲーなの!?」

「...ぬ。おかしい、確かに小生は貴様をころしたはずだが...」

「っ!おい急に角から出てくんなってくそ鬼が!」

善逸がキレすぎてそろそろ気が狂いそうになっている...

可哀想に。

憐れむことしか出来ない僕が腹立たしくて仕方がないよ。

『おいおい』『殺したくらいで僕が』『死ぬとでも思っているのかい?』

「面白い」   ポン

『おおっとその攻撃はもう読んでるってあれ違う!?』

「ぎゃ、部屋が動いた!!」

予想の斜め上を行くその攻撃はーーーーーどう説明すればいいのだろうか

『「大雑把な重力操作」って感じ、かな?』  ポン

「...みたいだなってうわっぶないもうやだあああああああああああ!」

『あー、いてて。大嘘憑きの標準が定まらねえ。ていうか使う脳が動かねえ。どうしよう、面白いな』

「はぁ!?おいどうするんだよ!どうにかなるって言っただろ!」 ポンポン

『あはははっと華麗な着地!』

「誤魔化すなよへブッ!」  ポン ポン ポン

『ねぇ、君が安心院さんに貰った能力って何なんだろうね?おっとあぶねえ!爪と重力同時はフェアじゃねえな...えっとほら確かーー「過去の明星」っつたっけ?』

「あー、そういえば...やってみるか。」

球磨川は最悪の場合に備えて善逸から離れる。

その瞬間、善逸の周囲の空気が変わりーー明るい星が善逸を囲んだ。

グルグル、グルグルと回転し、

そして唐突に。

眠った。

『...は?』

球磨川は唖然とした。奇跡である。

いや、それにしても。

なんだ、この能りょ     ポン

『あっぶな!』『...あはは君はどこまでもフェアじゃないね。全くもう。』

「...小生に隙を与えたのは貴様だろう」

少しだけ腕を切られてしまった———球磨川は、いたた、と少し目を細める。

そしてもはや鬼にすら呆れられているものの、先程の謎の能力の正体が掴めていない今、鼓鬼に出来ることは少ない。

『食べられたら胃の中で生き返ってやるもんね』

「嫌な想像をさせるな。」

『おやおや。鬼にツッコミされるなんて光栄だぜ。にしても美しいツッコミだ。きっと素晴らしい小説を書けるんだろうね』

「...」

あれ、キレた。

え、どこで?なんかまずいこと言ったけ?

と考えていると、鼓鬼は、今までが遊びだったと言わんばかりの、綺麗な構えをした。

まるで、一ミリ単位で細かく刻み込もうとするかのような。

あれ、これ、やばーーーーーーー

ポポポポポポポポポンポポポンポポポポポポポポポポンポポポンポンポンポポポポポン

『....あ、あはは、なんかごめんね?僕は悪く無いけどぅおっとっとっとっとっと!』

ゴロゴロゴロゴロと、ボールのように部屋が転がっていく。

うっわ、なんか地味に痛い...なんか物語栄えしないな...

ま、けど爪の攻撃はかなり痛い。

笑ってたけど実は凄く痛かった!

気絶するかと思った。

まぁ「無かったこと」にするから別にいいんだけど、さ。

———爪の攻撃をかわすので精一杯なんだよねぇ。

それに、脳が揺さぶられてまともな思考ができないーーーーあ、いつも通りか。

『ちょっと善逸ちゃんだいじょ「雷の呼吸」

『え?』

それは唐突だった。明らかに眠っている善逸が、起き上がり、歳に見合わない枯れた声を発した。そして先程までの善逸からは想像がつかないほどのーーーーーー完璧な、構え。

 

 

       陸ノ型「電轟雷轟(でんごうらいごう)

 

 

四方八方へ電撃が飛ばされた。

鼓鬼の首はいとも容易く、

まるで糸のようにぷつりと切れた。

壱の型しか使えないはずの、善逸がーーーー陸ノ型を。

これには球磨川も、というか安心院さんの情報が間違っていた可能性があることに驚いていた。

そして彼もまた糸が切れたように再び眠りに落ちた。

鼓鬼は、信じられない様子で、

「...小生は、首を切られたのか」と言う。

『ああ、そうみたいだ。かわいそーーーーあれ、これなんだ』

球磨川が見つけたのは、大量の紙の束。

 

ーーーーー小説も、鼓も、人生もーー誰にも認められることなく死んだ哀れな鬼だぜ。

 

『...なーるほどね』『大嘘憑き』『この物語を読む時間を』『無かったことにした。』

「小生の、本に、な、にを、している。」

『いや、』『君の物語を読んだんだよ。』『いやあ』『びっっっっっっっっくりするくらい』

 

 

ーーーーーー『面白く無かったぜ』

 

「...あ」その瞬間、鼓鬼は泣き始めた。

結局、誰にも、何も肯定されずに人生が終わることを思い知らされたのだ。

『だが、君の想いは感じられた。』『これじゃ君が可哀想だ。』『僕がーーーーーー』『良きに計らってやるよ』

 

「...誠か」

『うん!僕は嘘だけはついたことがないんだ。』『それじゃ』『地獄で、いつか会おうぜ』

そして、彼は微笑みながら、泣きながら、灰となって消えた。

球磨川が一仕事終えた顔で振り返ると、善逸は幸せそうに眠っており、

「...じいちゃん」と、静かに呟いていた。

『やれやれ』『()()()()()()()して得た勝利を、本当の価値というなんて恥ずかしいことこの上ないぜ。』『だから今回の白星はあの鬼にあげよう。』『つまり』

 

『また勝てなかった』

 

♦︎♦︎♦︎

 

後日談、というか今回のオチ。

途中で何度か別の鬼に遭遇しつつも、意外とあっさりお兄さんを見つけることができた。

びっくりするくらい、妬ましいくらい好青年であった。

好ましいくらい妬青年だった。

...彼女いるんだろうなあ。

まあ、そんな訳で彼ら兄弟に感動的な再会をしてもらった後、僕と善逸ちゃんは適当に宿を借りて一泊することにした。

善逸ちゃんのスキルの考察もしたいしね。

「....いや、それは明日に回させてくれ...もう色々ありすぎて眠ぃよ...」

『あはは、それもそうだね。』『僕はこんなので疲れたりしないけど、君はか弱い男の子だもんね。』『ほらこっちおいで。』『じいじが絵本読んでやるよ。』

「あーもう分かったよ起きてりゃいいんでしょ!?」

なんて会話をして善逸のアドレナリンを分泌させた後、球磨川は就寝した。

 

 

〜深夜〜

「...寝れない」




「なぁ、寝た?」
『寝たよ』
「目ぇギンギンやん」
『関西弁...いや、これはノンレム睡眠と言ってね』
「もう既に寝言の文字量超えてんだよ起きろやおい」

そういえば僕、マツオノアニメ好きなんですよね。
あの唯一無二の狂いっぷりがいいですよね。

そして、球磨川の「おっちゃんはすぐ戻ってくる」発言、本当なんでしょうかね。


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003 球磨川には向かない職業

次から本格始動、無限列車編に入ります。
球磨川先輩、書くのほんと楽しいですね。


鼓鬼との戦いを終えた翌朝。

『う...』と、球磨川禊はまるでうめき声のような音を立てながら起きあがろうと努力した。

 

———努力しただけである。

 

そもそも、だ。

どうして僕がこんな何もすることがない世界で8時に起きなければならないのだろうか。

 

週刊少年ジャンプも無ければ、アニメも無い。

 

『無かったこと』にできるものが無いのだ。

 

無い無い尽くしである。

 

———ということは、今起きたところで、することは何一つ無いよね。

 

僕は野球部じゃあるまいし、ましてや鬼殺隊でもない。

 

朝の素振り練習は彼らの特権だ。僕が介入する余地なんて無い。

 

「無かったこと」にするまでもない。

 

無い無い無い無い尽くしだ。

 

…いや、確かに僕は善逸ちゃんと昨日「明日は6時起き」って話したよ?えぇ、話しましたとも。

でもね。

いいかい?

 

———約束は破る為にある。

というか、そもそも当の善逸ちゃんも寝てるしね。ここからじゃ見えないけど。多分寝てるよね。

うん、だとしたら僕だけが起きるのはちょっと不公平かな。

悪平等(ノットイコール)とも言えるね。

 

そんな不公平がまかり通る世の中なんて、不幸としか言いようがないぜ、ほんと。

世も末だ。世紀末だ。

世紀末は違うか。違うな。

だが、一体この世に、僕同様に公平を愛する人間はどれくらいいるのだろうか。

あまり多くはないんじゃないかい?

そんな世の中に、僕は危惧の念を抱いてしまうぜ。

 

閑話休題。

というわけで、僕は今から世界の為に眠りにつかなければならない。

僕が地球を救うんだ。

この睡眠から、きっととんでもない物語が始まるはずさ。

出会い、そして別れ、そして...なんかあるかな。ラブコメとかあったらいいな…。

まぁそう言うわけで、壮大な話になると思う。だけど、お前らもちゃんと付いてこいよ。

僕の勇姿をとくとご覧あれ、だ。楽しみに待っててくれ。

というわけで

『おやすみ、善逸ちゃん』

「俺が起きてるの気づいてたよね?」

 

♦︎♦︎♦︎

 

「へぇ…昨日、あの屋敷で俺が眠ってる間そんな事が...陸の、型を、使ったのか?俺が?」

『あぁ、実に見事な構えだったぜ。僕は剣道部に所属しているからね。本当、憧れるよ』

「いや絶対思ってないよね!?」

『思ってないけど、上手かったぜ。なんか声も枯れて、熟練のお爺ちゃんみたいだった。』

「思ってないのね...お爺ちゃんって...あ」

『どうしたの?そんなショックだった?お爺ちゃんって言われて』

「陸ノ型...?爺ちゃん...?俺の?いや、そんなま、さか...」と突然ぶつぶつ何かを呟き始めた善逸ちゃん。

なんだろう、発作だろうか。

『?君のお爺ちゃんかい?一体全体どうしてその人が出てくるんだよ。あくまで比喩だぜ?』

「いや、その、もしかしたらなんだけどさ。...『過去の明星』って名前からも推察できるけど、もしかしたらこれ。」

 

死者を憑依させる能力かもしれない。

へぇ、そいつは脅威だな。

 

『確か安心院(あんしんいん)さんは、人脈と知識が大切ーーーーみたいなことを言ってたよね。知らない人は呼び出せないってわけか。』

「そういうことになりそうだな。ちょっと球磨川。俺が知らなそうな人の名前出してみて。」

『オッケー。織田信長』

「舐めてんのか?」

『ごめんごめん冗談だよ』

「上段を返してやろうか」

『こわっ!善逸ちゃんこっわ!そんなキャラだっけ!?...えっと、気を取り直して。 修多羅蝦夷(すたらえみし)ちゃんとか、どうかな?死んだ同級生なんだけど』

「すげぇ名前だな、そいつ...わかった。やってみる。」

ーーーーー過去の明星

そう善逸が唱えると、やはり前と同じように彼を明るい星々が囲んだ。

窓ガラスがギシギシと音を立てる。

あれ、もしかしていける?と球磨川は思った。

 

...が、前回と同じだったのはここまでで、善逸が眠ることはなかった。

『へぇ、どうやら合ってたみたいだ。奇遇だね』

「使い方完全に間違えてるぞ。まぁ、俺が知らない人は憑依させられないっぽいな。」

だからーーーーーーー人との関わりと、知識。

たしかに歴史の教科書を読むだけでも大分変わってくる。

『...なるほどねぇ』『てことはさぁ』『僕が死んで生き返るまでの間に僕は君に憑依できるって事だね?』

「何企んでるのかは知らねぇけど絶対にお前だけは嫌だよ、俺。」

やれやれ。

嫌われたもんだ。

にしても、この能力はかなり強いのでは無いか?

ほら、終末のワ○キューレみたいな感じに...なるんじゃない?

ならないかな。ならないな。

まぁいいや。

剣豪ということでいいのなら、宮本武蔵とか呼んでも良いんだよな。

...あ、でも問題が一つあった。

———呼吸が使えない人間が、果たして鬼に勝てるのか?というところだ。

それならば結局鬼殺隊員しか出せないし…。

『ねぇ善逸ちゃん。全集中の呼吸ってさ。使わなくても鬼倒せちゃったりするの?』

「いやいやいや無理でしょ...あれ使わなきゃ勝てないよ。あ、でも岩柱は確か、素手で鬼を殺したって言ってたっけ」

『素手で!?あれを!?』

「いや、そりゃあ昨日の奴の5倍は弱い鬼だと思うけどさ。あの人は化け物だよ。」

ふむ。岩柱、ねぇ。

四天王的な感じだよね?面白そうだ。いつか螺子伏せに行きたい。

「...とんでもないこと考えてるだろ」と言って善逸ちゃんがジロリと僕を一瞥する。

『いやぁとんでもない。心外だな。僕はただ裸エプロ...』『えっと、裸前掛けについて考えていたんだよ。』『これのどこがとんでもないんだい?』

「別方向でとんでもなかった...」

裸前掛けってなんか余計エロさが増した印象があるな。なんでだろう。

宇宙意志を感じる。

 

閑話休題。

 

『...でさ。やっぱ触れたほうがいいよね?』

「あぁ、多分な。」

得体が知れなくて怖かったので今まで見なかったことにしてきたが、そろそろそれも限界だ。

僕たちの前には、善逸のものでは無い刀と鬼殺隊服が置かれてあった。

…いや。

 

 

———誰の刀だ、これ。

 

 

「多分お前が使えってことじゃねぇのか?なんでかは知らんけど。」

『んー、思い当たる節が安心院さんしかいないなぁ...』僕はついため息をつく。『やだなぁ。絶対手紙とか入ってるもん。』

と言いつつ渋々隊服を広げてみると、案の定紙がはらりと落ちてきた。

『ほらね?』

 

♦︎♦︎♦︎

 

 球磨川くんへ

 僕からのささやかなプレゼントだ。

 もう分かってると思うが、鬼殺隊の服、そして日輪刀だ。

 これらを使って、もっと僕を楽しませる冒険をしてくれよ。

                    なじみより

♦︎♦︎♦︎

 

『最っっっっっっっっっっ悪だ....!』と僕は床にうつ伏せる。

「文面から悪意が漏れ出してるな…」と善逸も引き気味で言う。

『それな〜。あ〜もうまぢヤバいガン萎えなんですけどタピオカタピオカ〜。』

「今のセリフ一文字も聞き取れなかったんだけど...まぁ、こうなったもんはしょうがねぇよ。お互い頑張ろうぜ。」

『うん。早く元凶倒して家帰って週刊少年ジャンプを読みまくるぜ。んで、元凶は何処にいるんだい?今すぐ「無かったこと」にしてやんよ』

「早まるな早まるな。球磨川の暴走のせいで一般人が死んだらどうするんだよ」

『そのための大嘘憑き、だろ?』『別に大丈夫さ。なんとかなる。』『多分』

「あー...」と、善逸は命の尊さを目の前の馬鹿にどうやって説こうかと考えようとしたが、到底無理なことに気づいてすぐにやめてしまった。

懸命な判断だった。

『まぁ、なんにしろ服は着ないけどさーーーーーー刀くらいは持ってみようかな。楽しそうだし。』『僕あれ好きなんだよね。』『るろうに剣心』

「そっか、まぁ、頑張れよ。短い付き合いだったけど、ほんとありが「カァー!カァー!!北西!北西!無限列車で毎日毎日人が喰われてる!カァー!すぐさま迎え!善逸隊員!禊隊員!カァー!カァー!」

『...これからもよろしくね、善逸ちゃん!』

「もうやだ誰か助けて...!」

叫ぼうとするも、善逸の声を一時的に「無かったこと」にし、周囲への迷惑を今更ながら考えた行動(本人談)を取り始めた球磨川禊。そして声なしで泣き叫ぶ我妻善逸。

 

 

ヘタレと憎まれ役の冒険は、ここから始まった。

 

 




始まりました。始まっちゃいました。とんでもないカオスにしかならなさそう。
どんな話になるのか、楽しみですね(書け)


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無限列車編
004 間奏(入眠)


無限列車編、開始です。原作みたく感動的に出来る自信はありませんが頑張ります。


 

 

「あぁ、最高だなぁ。絶望にまみれた人間の顔は、ほんとうに素晴らしい。」

某日。無限列車にて。

恐怖に染まり、腰が抜けてしまった男の前で、恍惚とした表情を浮かべる者がいた。

 

それは、もちろん人間ではなく、鬼。

名を、魘夢(えんむ)と言う。

()()()から貰った異常性(アブノーマル)も、早く試したいなぁ。あ、これは異常性とは違うんだっけ?僕、外来語はてんで駄目だからなぁ。なんだったかな。忘れたなぁ。でもしょうがないよね。君も英語は難しいと思わないかい?」

魘夢は、球磨川を思わせる独り言をずっと発していた。

彼の前の男は、少しでも死なないためか、ご機嫌取りのために何度も首を縦に振った。

その反応に、魘夢は満足げな表情をした。

「何にしろ、これでもっと無惨様に血を分けて頂ける...そしたらもっともっと強くなって、いつかは上弦の鬼と入れ替わって...ふふふ、楽しみだなぁ」

 

下弦の壱・魘夢。

彼は列車に乗り込み、これまでも何度も人を食ってきた。

過程は、あくまで冷静に。努力して。策を練りに練って。

何度も何度も。

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

悔いることなく、人を食い続けた。

そして、昨日。彼はついに、大量の無惨の血を貰い、以前とは比べ物にならないほど強くなった。

進化した自分を試したかった。

累くんのようには、しくじらない。

そんな絶対の自信があった。

何度も作戦を考え、修正し、そして見つけた「最高の計画」。

ネズミの入る隙間もないほど完璧な作戦だった。

なのに。

 

彼は全く気付かなかった。

いつもなら気付くはずの、起床者がいることに。

 

隣の部屋から向かってくる者に。

 

危険分子に。

 

ネズミ以上の嫌われ者に。

 

事なかれ主義者に。

 

世界一の弱者に。不幸者に。

 

 

ーーーーーー混沌より這い出る。過負荷(マイナス)、球磨川禊に。

 

 

 

 

魘夢は、気付くことができなかった。

 

 

 




『あ、やっほ。いやー、皆寝てて暇なんだよね。良かったら話し相手になってよ。』
「友達は作らないよ。人間強度が下がるからね。」
『共通点鬼ってだけだし暦ちゃん吸血鬼だよ?...あといくら彼でも話をするくらいしてくれるよ流石に。』

て訳で無限列車編です。
魘夢ちゃんは一体安心院さんから何を貰ったのでしょうか。楽しみですね(書け)
良かったら感想お願いしまっす。

で、球磨川くんはどんな「幸せ」を夢見るんでしょうね?


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005 煉獄との奇妙な出会い

よくよく考えたら無限列車って凄いネーミングセンスですよね。西尾維新さながら。いやそこまではねぇか。掟上今日子で罪悪館とかあるし...そんな感じの第5話です。よろしくお願いします。


005

 

『へぇ、これが無限列車か!』『蒸気機関は動いてないのは見たことあるけど、やっぱり動いてると迫力が違うぜ。』『な、善逸ちゃん?』

「お前、意外と田舎っ子なのか...?俺は都会育ちだから見慣れてるけど。」

『ま、そういう事にしといてやるよ。君は1人で裕福な都会人であることに優越感に浸ってな』

「俺そんな性根腐った台詞言った覚えはないんだけど...?」

『覚えてないだけだろ?』

「黙れよもう...」

 

球磨川と善逸は、意外と仲良さげなこの2人は豪華蒸気機関車(現在で言うSL)に来ていた。

球磨川は今回、鬼殺隊員としては初の鬼退治だ。

 

で、あるのに彼の中に恐怖は微塵も、ミジンコほども無かった。

 

余談ではあるが、西尾維新のある物語にて、四国の魔法少女グループ「ウィンター」は、恐怖を、痛みを魔法で消してデスゲームを乗り切ろうとしたそうだ。

「なんか嫌だ」と拒絶した馬鹿な魔法少女だけが生き残り。

残りは苦しむことなく、安らかに死んだ。

 

恐らくは、球磨川も————死ぬのだろう。

 

そう、いつもみたいに。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「でさ、どうやら俺たちと一緒に炎柱(えんばしら)煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)さんも乗り込んでるらしいんだけどさ。一回話に行ったほうがいいよな?」

『ま、そうだよね。チームワークって大事だし。チームで動いたことなんてないから憶測だけどな。ちなみに柱ってめっちゃ強い人の集まりってことで良いんだよね?』

「凄い悲しい話が一瞬聞こえたけど聞かなかったことにするよ...で、柱はまぁそんな感じかな。俺のじいちゃんも、元は柱だったんだぜ。」

『へぇ、道理であんなに強い訳だ』『僕は言わずもがなだけど』『君にも到底届きそうも無いね』『ほんと、甘ちゃんだぜ、君は』

「言うなよそんなやる気なくすこと...分かってるよ。んなもん。」

善逸ちゃんが不貞腐れた。

おっとっと。

僕は悪くない。ので、ここは少し褒めてみる。

『が、その甘さ』『嫌いじゃないぜ』

「全然嬉しくねぇよ....」

あう。

失敗失敗。次があるさ。

と、雑談をしていると列車が動き始めた。

『おー、良いね、この揺れ具合』『母親のお腹の中を思い出すぜ』

「どんだけ動いてんだ。お前の母親、格闘技でもやってたのかよ」

やってない。

ていうか見たことないから知らない。

 

 

ずっと昔、僕が、彼女の「存在」と「記憶」を「なかったこと」にしたのだ。

ま、若気の至りってことだ。悪意は全く無かったんだぜ?ほんとほんと。お笑い芸人風に言うならリアルガチってやつだ。

でもまさか、ちょっと大嘘憑き(オールフィクション)を使っただけで消えるだなんて誰が思うかい?

母は剛、だろう?

違った。強しだ。誰だよ剛って。

つまるところ、要するに。

 

『僕は悪くないよね?善逸ちゃん。』

「あ?どうした急に」

最後だけ口に出したから善逸ちゃんに変な目で見られちゃった。

いやん。

 

そんなこんなで(どんなこんなだ?)僕たちは次の車両に入ったのだが、防音がしっかりしているのだろう。扉を開けた途端、びっくりするくらい大きな声が聞こえた。一瞬かなり混雑しているのかと思ったがーーー

 

 

 

 

「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」

 

 

 

一人だった。

...そんなに美味しいのかな、その駅弁。

そして何が怖いかって、リズムが一定すぎるのだ。

さながらメトロノームって感じ。

『....僕を超えるキワモノって、こういう人のことを言うんだろうね。』

「うん...食に熱中しすぎててどうも話しかけずら『どうもこんにちは僕は球磨川禊でっす!同じ週刊少年ジャンプの人間として仲良くしてください!』

「お前時々すごいことするよな!?」

『え?そうかい?』

「美味い!」「あのー...」「美味い!」「美味い!」「美味い!」『おーい煉獄さーん?』「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「あー、あの、煉獄さん?あの?」「美味い!」『美味い!』「美味い!」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「煉獄さんですよね?」「美味い!」「美味い!」「美味い!」「あれ、違った?」「美味い!」「美味い!」「人違いかな...」「美味い!」「美味い!」『美味い!』「美味い!」

 

 

『「美味い!」』

「いや、お前も乗っかるなよ」

バレた。

 

閑話休題。

 

「うむ、君たちが我妻隊員に球磨川隊員だな!よろしく頼む!」

「はい、よろしくお願いします...で、俺たちは今からどこで鬼と戦うんですか?」

「ここだが。聞いていないのか?」

「え!?これ鬼が出る場所への移動手段じゃないの!?ここォ!?ここに出るの!?わかりました!嫌です!俺降ります!今から俺降りまああああああああす!!!」と善逸が騒ぎ立てる。

他の乗客が白い目で見てきたが、ここにはそんなことを気にする人物はいない。

ラッキーなことに、というべきか悲しいことに、というべきか。

『なんでちゃんとカラスの言ってたこと聞いてないんだよ...』『あ、僕が驚いて印象に残ってるだけかな?』『「うわっカラスが喋った!」って』『普通そこまでちゃんと聞かないもんなんですかね?』

「いや、細部までしっかりと聞くのが常識というものだな!」

『ですよね』

「いやアンタに言われたかないわ!俺の話聞かねぇだろお前さァーーー!もうやだあああああああ!!」

 

その叫び声を聞いて、球磨川はようやく善逸が本調子を取り戻したことを感じた。

先程までのツッコミが比較的静かだったことからもわかるように、善逸はかなり疲れていた。

スキルの代償。

疲労感。

善逸はスキルを使い慣れていなかったため、かなり精神力を削っていた。

...というのには結構前から気づいていたのだが、球磨川はあることに気づいていなかった。

 

———— 大嘘憑き(オールフィクション)で「疲労」を「無かったこと」にすればよかったのだ。

 

以前、水槽学園においての元同級生である須木奈佐木(すきなさき)咲にも言われたことであった。

もっとも、その時は頭痛だったが。

その時も安心院さんに出会ったことがきっかけで体調不良になったのだ。

学ばない男、球磨川禊。

先週アニメが最終回を迎えた美少年探偵団団長の美学を見習って欲しいものである。

これでは無学の禊だ。

 

閑話休題。

 

『で、どれくらいの規模なんです?実際の被害って。』カチッ    カチッ

「もう既に何百人もの人が殺されている。かなり強い鬼と思われるため、こうして俺が来た。」

『へぇ、さながら英雄ですね。』   カチッカチッ

「そんな大それたものではない。これまで何度も助けを求める人を救うことができなかったしな。だがな。」

少なくとも正義の味方ではある。    ピカ ピカン

『僕にとっちゃ、それもかなり大それた存在ですけどね...でも、本当に出るんですか?』

「あぁ。今まであの鬼は3日に一回浮上している。今日が前回から三日目だ。気を引き締めろ。」  カチッ

「あぁやだやだヤダヤダ死にたく無いいいいいいいいい」  ピカン

ついに善逸ちゃんがブリッジをし始めた。ううむ。実に綺麗なブリッジだ。   カチッ

『ったくもう、昨日鬼殺隊に所属した人間がこうも冷静にしているのに、先輩である善逸ちゃんはそんなポーズをとってて大丈夫なのかい?』『あ、でも君は悪く無いよ!』『人によって向き不向きは違うもんね!』 カチッ

「だぁぁもううっさいなぁ分かりましたよやりますよ...てか先輩って言うならもっと敬ってほしいものだな。」

『それで、煉獄さん』と球磨川が善逸を無視して煉獄に質問しようとした矢先。

ダンッ!

唐突に大きな音がした後、列車の電気が全て消えた。

時刻は真夜中であるため、ほぼ何も見えない状態。

『あれ?おーい皆大丈夫?』

.......................静寂。

ガタン、ゴトン、という。列車の音のみが響き渡る。

まるで、世界に自分1人しかいないような。独りで海を揺蕩っているような、そんな感覚。

フワフワ、フワフワと。

 

違和感。————球磨川でなければ、「不気味」とも称したと思われる空気感。

 

そして、列車が進む向きも。

 

自分の居場所も。

 

自分の声も。

 

何もかも分からなくなってくる。

 

 

 

いつからだろう。

もしくは、いつから()()()のだろう。

僕が、眠りについていたのは。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

「...ねんねんころり、ねんころり。」

 

「幸せな、夢を————」

 

 

 

 

 




はい、眠っちゃいました。誰かさんの貸したスキルで、一体全体、魘夢の血気術はどれほどの進化を遂げるのでしょうか。

そしてその能力は球磨川に「幸せ」を見せることができるのか。乞うご期待です。


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006 魘夢の幸せな血鬼術

球磨川先輩の夢の中です。
他のキャラの夢は原作でわかっているので省略しますね。あ、駄目かな?どうしよ...


006

 

「「「「「「「誕生日、おめでとう!!!!!」」」」」」」

 

その日、生徒会室に行った僕は、生徒会メンバーやクラスメートのお出迎えに素直に驚いた。

理由は二つ。

 

一つは、純粋に『あ、そういえば今日って僕の誕生日だった』という驚き(ちなみに4月1日である。)。

 

そしてもう一つは——————

 

「ッ!?……おいおい、球磨川、もしかして泣いてんのか?カッ、お前らしくねーぜ」

と、()()()()である人吉善吉が言った。

                   (トモダチ...?)

    (ボクノ...?)

                     (ゼンキチ?)

『いやぁ、ごめんごめん……ははは、 ほら、僕って誕生日なんて祝われたことないしさ』

「改めて聞くと凄い可哀想ですよね……」

「君はどんどん不幸者から幸せ者になっていくよね!さいっこーに面白いぜ!アヒャヒャ☆」

                   (シアワセモノ……?)

                  (マイナス?)

『おっと半袖ちゃん。』『そんなわけがないだろ?』『僕はいつまでも』『世界一の不幸者だ』

「貴様、それは私達のサプライズがお気に召さなかった、という文句かな?」

と、宿敵、黒神めだかはちょっと怒ってる風に———だが笑いながら聞く。

              (シュクテキ……?)

                 (オキニメス……?)

               (メダカ?)

                (ワライナガラ……?)

生徒会室が笑いで包まれる。

あぁ。

ここには、僕のことを理解してくれる人が沢山いる。   (リカイ……?)

 

本当(マイナス)の自分を。球磨川禊を。

 

ほんっとうに嬉しいなぁ。

                   (ウレシイ?)

さっきはつい、いつもの癖で自身のことを『不幸者』と言ってしまったが、もしかしたらそうでは無いのかもしれない。

 

僕は——————

               (ボクハ……?)

                (マイナス……?)

もう既に正真正銘の幸せ者(プラス)なのかもしれない。

あの頃の自分が聞いたら、きっとびっくりした風の顔をして煽って来るんだろうな。

それか、マジギレか。

ま、そんなタラレバはどうでもいいや。

大事なのは、今この瞬間。

                  (プラス……?)

                (ボクガ……?)

                   (ドウシテ?)

「さてと、じゃあ食べましょうか!」と、喜界島さん。

「そうですね!俺ももう腹が減って仕方がありませんよ」と阿久根ちゃん。

江迎ちゃんや志布志ちゃんや、他にも様々な人が来ていた。

 

僕は、彼らに涙を見られるのが恥ずかしくて、涙を「無かったこと」にしようとした。

が、寸前で思いとどまる。

 

この思いは———想いは。

「無かったこと」にするにはあまりに惜しすぎる。

             (マイナス?)

               (オモイトドマル……?)

          (オモイ……?)

僕は涙目で、こう答えた。

 

 

「……うん!」

                (ボクハ……?)

             (ボクハ……)

幸せだ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

♦︎♦︎

 

♦︎

 

「……幸せな夢を見ているね」

魘夢は、列車の先頭の屋根の上で、まるで慣性の法則を無視しているかのように、ピシッと背筋を伸ばし、棒立ちしていた。

「幸せな夢を見ながら死ねるなんて、なんて素晴らしいんだろう」

が、魘夢の仕事はただ突っ立っていることでは無い。

「あぁ、あとちょっとだ」

あとちょっとで、彼は列車と同化する。いまはその待ち時間だ。

「あと少しで僕は人間を大量に食べて、そうしたらもっとも〜っと無惨様に血を分けていただける」

魘夢はとても幸せそうな笑みを浮かべ、後方を見た。

 

「さて、皆様。本日はご乗車頂き、誠にありがとう」

「僕の術の中で、幸せにお眠りください」

 

 

起きることのない———永遠の眠りを。

 




はい、と言うわけで西尾維新や綾辻行人の夢の書き方を真似てみました。いかがだったでしょうか。

幸せな球磨川を書くのって異常なほど、というか過負荷なほど難しいですね。

アンケート、感想等よろしければお願いします。


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007 球磨川の不幸な過負荷

夢、ということでそれにまつわる名言を書いてみました。
正直これ、僕はよく分かってないですけどね...


夢を追うことは美しい

だが 夢を諦めることも

また同様に美しい

         ———「美少年探偵団」団長 双頭院学

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

007

 

僕は、引き続き誕生日パーティーに参加していた。

うめぇ。肉がうめぇ。なんだこれ。美味すぎて吐きそうになった。舌が貧民すぎて反応しない。これに比べたら普段食べてる肉なんてゴム塊だ。本気で今まで食ったステーキの中で一番美味い。

と、ステーキの美味しさのあまり泣きそうになっていると。

 

「皆さん、これやりませんか?」ゲーマーである喜々津ちゃんは人気ポータブルゲーム機を取り出した。

ソフトは最大8人でプレイできる、超人気バトルゲーム。

 

「これは挑戦状と受け取っていいんだな!カッ!俺が中学時代ケシオトを極めし男略して消し男と呼ばれていたと知らんらしい。よーし受けて立つぜ だが明日まで待て マイ消しゴムを用意する!」

『どうしてデジタルゲームを薦めるのをガン無視してアナログゲームをしようとしてるんだよ。あと準備が長ぇよ。もう誕生日終わってるよ』

 

もちろん現代っ子の皆には前者が優勢かと思ったが、思いの外とス◯ブラ派とケシオト派が綺麗に分かれてしまった。

むう。

確かにケシオトは昔ながらの誰でも楽しめる素晴らしいゲームだ。

だが、ス◯ブラの楽しさには敵うまい。

おっと、今のは発言の途中にステーキを食べた訳じゃ無いぜ?

念のためな。

だってお前、いくら楽しくても、ケシオトには大きな快感がないだろう?

何故って、ただ消しゴムを飛ばしているだけだからね。

ス◯ブラで横Bが決まった時はとんでもなく嬉しいものだ。

僕は決まったことないけど。

ケシオトに勝った負けたではそれほどの喜びは無かろう。

僕は勝ったことないけど。

まぁそれはともかく、だ。

悔しい、嬉しいなど、感情の起伏が楽しめるのは明らかに前者だ。

……と思ったが、以前善吉ちゃんと半袖ちゃんがケシオトをとんでもなく劇的に、面白そうにやっていたのを思い出した。

うーん。

この場合、どうすればいいのだろうか。

「球磨川、貴様が決めろ」と、めだかちゃん。

『うーん、やっぱそうなる?そうだなー……』

「禊ちゃんがしたことでいいんだよ?誕生日会なんだし」

あう。

喜界島さん、相変わらず良い人だよなぁ。

恋に落ちちゃいそうだ。

『いやいや、こんな素晴らしい会を開いてるんだから、折角なら皆で楽しみたいじゃない。』『最悪の場合殺人にも繋がるし』

「ねぇよ」

『ま、それはともかく、誰もが納得する意見……ね』『あ』『うんうん。良いこと思いついた』

「……嫌な予感がするけど」

『いやいや、僕は至ってまともな案を思いついたぜ』『だから安心しな。安心院(あんしんいん)さん...だけに……?』

あれ。

 

()()()()()()()()()()()()

 

……まぁいっか。

どうせ今まで廃校させてきたどっかの学校の元クラスメイトでしょ。

 

と言うわけで、僕たちは「ス◯ブラをしながらケシオトをする」という神ゲーをすることとなった。

……我ながら、よく分からないものを考案してしまった。

これなら第三ゲームの案を持ち出した方がマシだった。

まぁ、もうどうしようもない。

するからには本気だ。

『おいおい、負けたからって恨むなよ?』

『僕は悪くない』

『君が悪い』

『君が悪くて、良い気味だ』

僕は、絶対に勝つ。

そう胸に決め、僕はファイターに最弱キャラであるプ◯ンを選択した。

弱い者同士、頑張ろうぜ。

過負荷(マイナス)過負荷(マイナス)は、掛け合わせると勝者(プラス)になるってことを証明してやろう。

 

生憎、数学は苦手だけどね。

 

♦︎♦︎♦︎

 

ガタン

 

♦︎♦︎

 

ガタンゴトン

 

♦︎

 

ガタン

 

「うん——————そろそろかなぁ。あぁ、待ち遠しい……!」

 

♦︎

ガタン

♦︎♦︎

ゴォォォォォオ…………——————

♦︎♦︎♦︎

 

 

結果から言うと、惨敗した。

①「ねむる」がヒットせず、リト○マック(善吉ちゃん)のK.O.を食らう。

②自滅。

③ク◯パ(江迎ちゃん)にコンボを決められ(コンボを!?江迎ちゃんが!?)スマッシュ。

こうして僕のプ◯ンは3つの命を燃やし尽くした。ご冥福をお祈りします。

 

 

ケシオトも、僕が最初だったので、とりあえず一番近い消しゴムに当てた。

 

それが誰の消しゴムか、しっかり確認しておけば良かったのだ。

蛾々丸(ががまる) ちゃんのやつだった。

 

蝶ヶ崎蛾ヶ丸(ちょうがざきががまる)

彼の過負荷(マイナス)は「不慮の事故(エンカウンター)」。

 

その名の通り、カウンターの能力だ。

……。

いやいやいや。

流石にそれは反則じゃない?

ゲームに負けそうになったからコンセント抜いたみたいな、ギリギリ許されるレベルの狂気を感じるよ?

それでいてなんでそんなにさわやかな笑顔でいられるの?

まぁ、それでこそ過負荷なんだけどね。

それにしても、周りはなんでとんでもない勢いで壁にぶち当たった消しゴムを無視してス◯ブラ続けられるの?

レンガとかだったら貫通してるぜ?

 

これに関しては本当に僕は悪くない。

 

とはいえ。

負けたのは事実だ。

つまりは、

『また勝てなかった』

「結局かよ」

いつも通りの日常。僕の心を潤してくれる仲間。あぁ、やっぱり僕は本当にーーーー

って。

あれ?

()()()()()()()()()

 

           (シアワセ?)

             (シアワセ……?)

いやいやいや。

違う。

違う。

違う。

違う。

              (チガウ……)

……そうだ

僕の幸せは。

     いや、そんなもの、ある訳ないだろ。

何せ、僕だ。

 

……

 

()()()()()()()()

あれ……

なんだ、これ?

「あ?おい、球磨川どうした?すげぇ顔してるが」

『いや、大丈夫だよ、善吉ちゃん...ちょっと待って。今考え事してるから。』

そう。こういうときは。

 

  一つずつ思い出していこう。着実に。正確に。

 

僕の名前は球磨川禊。

大嘘憑き(オールフィクション)

それは僕の過負荷(マイナス)で。「事なかれ主義」の具現みたいなもので。

過負荷とは、要するにスキルで———————。

スキルといったら……

 

 

1京2858兆0519億6763万3865。そうだ。この数字。

なんだろう、これ。

何度も何度も、しつこいくらい、事あるごとに聞いた数字のように思える。

 

 

なんの数字だっけ、これ。

というか、()()()()()()

 

いや、だれってそりゃあ安心院(あんしんいん)さんで——————

 

あ。

 

…… 安心院(あじむ)、なじみ。

7932兆1354億4152万3222個の異常性(アブノーマル)と、4925兆9165億2611万0643個の過負荷(マイナス)、合わせて1京2858兆0519億6763万3865個のスキルをもつ人外。

スキル・インフレーションの権化。

そうだ。どうして忘れていたんだ。

あんなキャラの濃い存在を……。球磨川禊、一生の不覚だぜ。

深く反省しなきゃな。

 

じゃ、次だ。

「おい?球磨川?どうしたんだ?」

「ごめんめだかちゃん。本当に、あとちょっとで終わるから。』

「そうか……なら暫し待とう。今日は貴様が主役だからな。いくらでも待ってやる」

「キャハハ☆ めだかちゃんも、随分優しくなったよね!」

「そうかな?」

めだかちゃん。

黒神めだか。

どこの学校で、出会ったんだっけな。

忘れたな。希望ヶ丘学園だっけ?

違う気がする。

そうそう。僕は学校を転々として「安心院さんを倒しうるスキルホルダー」を探していたんだ。

あくまで安心院さんの暇つぶしとして。飽くまでの観賞用として。

 

それで、確か僕は水槽学園に入ってーーーー。咲ちゃんに出会って。

やっぱり廃校にして。

 

それで?

             (ソレデ……?)

あぁ。

そうだった。

僕は過去に行ったんだ。ーーーー()()()()と、出会ったんだ。

金髪でヘタレで、弱くて。でもどこか憎めなくて。優しくて。

そんな男に、出会った。

 

そして、鼓鬼を一緒に……一緒に、かな?まぁ一応倒したし。

...って、なんか最終回みたいなテンションになってしまった。

今までのおさらいが早すぎる。

 

まぁいい。

やっと、思い出したから。

そうだ、僕はーーーー

 

 

         ()()()()()

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

♦︎♦︎

 

♦︎

 

 

「……終わった、かな」

「ふふふ、ふふふ……」

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

「……ふう、ちょっと取り乱しちゃったよ」

「でも、もう僕の勝ちだ」

「一般人も、鬼狩りも、皆食ってやる。ーーーーーなんなら、()()()から貰ったスキルもあるわけだし、この体で行ってみようかな」

「仮に起きた鬼狩りがいたとしても、夢見がち乙女(オーバー・ノクタンブリスト)と、無惨様から血を分けて頂いて強くなった僕の血鬼術があれば……」

「もうだれも、僕を止められない。」

「ふふふ、ふふふふ……」




はい今回も見ていただき本当にありがとうございます。
そして魘夢の異常性?過負荷?の名前が明かされました。どんな効果のスキルなんでしょうね。
書きながらごちゃごちゃしちゃってたから、誤字がありそうで怖い……誤字報告お願いします……あと感想も良ければ……モチベになるので……批評も参考にしたいですしね……

ちなみに時系列
水槽学園廃校→
過去へ行く→
鼓鬼→
無限列車→
夢の中
ちなみに球磨川くんは夢のなかで箱庭学園で誕生日を祝われている「未来」を見せられています(まだ入学していません)。未来を見せるなんて、魘夢の能力がかなり強化されているように思われますが、果たしてそれは何故でしょう。


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008 箱庭学園との別れ、あるいは 冠石野(かぶしの)との出会い

オリキャラ、登場です。
めだかボックスの名付けかたに倣って九州の地名を名字にしてみました。
その過程で、「九州の難読地名」を調べてみましたが、中々面白いですね。
朳ですよ???えぶりってやばくないですか???
西尾維新ホイホイじゃないですか。そんなだから朳理知戯なんて狂ったキャラが生まれるんですよ。


無理だったかもしれない。

無茶だったかもしれない。

でも無駄じゃなかった。

          ———「猫物語(白)」阿良々木暦

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

007

 

『どうしたら、夢から覚めるんだろうなぁ。うわぁ、ちっとも分かんねぇや。困っちゃうなぁ。あぁどうしよう。僕は今、どうやら絶望の渦の中心にいるようだぜ。ははは、いやぁ参ったな。帽子を被ってはないが、完全に脱帽だぜ。打つ手なしだ。うーん、参った!』

この台詞からも分かるように、僕こと球磨川禊は、かなり焦っていた。

 

 

...

いや。

本当のことを言うとそこまで焦ってなかったし、なんなら全く焦ってなかったが。

が、驚いたことに(こっちは本当だ)、()()()()()使()()()()ときた。

本当本当。おったまげたぜ。

 

大嘘憑き(オールフィクション)を使えない、ということは、だ。

死んだ時も大嘘憑き(オールフィクション)の自動発動ができない、すなわち————

()()()()()()()()()()()()()()()ということだ(夢が現実にも干渉してるとすればだが。そこは全くの未知数なので侮らないようにしよう。僕は策略家だからね。全盛期の僕は「日本のナポレオン」と恐れ崇められたものだ。)。

 

つまり、夢での死が、現実での死に繋がる可能性があって、もう二度と生き返れないかもしれない、ということだ。

...まじかよ。

ま、いいけど。だから何だとしか言いようが無いね。

 

最悪の状況?

負けそう?

笑わせてくれるぜ。

    そんなの、いつも通りだろ?

僕はいつも、最悪の切り札(カード)でしか戦ってこなかったじゃないか。

それは夢の中でも同じことだ。

不変の真理。

もしくは、不偏の心理。

 

で、要するにここは夢の中なのであって。

目の前にいる親友たちは偽物、ということだ。

そして———この、友達を想う気持ちも、また偽物なのだろう。

全くの大嘘だ。戯言だ。

嘘を憑くはずの僕が。

嘘に、憑かれてしまっている。

「?どうした、球磨川。」

善吉ちゃん。

あぁ。

やだな。

別れたくねぇや。

夢とはいえ、幸せ者(プラス)思考に偏ってしまっている。

あー、いや。ただの夢じゃないのか。

これも血鬼術の効果か。

感情にも影響を与えるなんて、ほんと悍ましい能力だぜ。

ま、これじゃ安心院(あんしんいん)は倒し得ないだろうけどね。

なにせ、自ら夢の中に入れるんだし。

 

閑話休題。

さて、どうしようか。

...うーん。

こいつら、全員殺したらステージクリア、とか無いかな。

無いか。

いや、と言うかさ。

絶対いるよね?

()()()

 

『...安心院(あんしんいん)さん、隠れてないでそろそろ出てきたらどうです?』

「おっと、流石に攻めすぎたかな?くそぅ、悔しいぜ」

と、()()()()()()()()()突然、安心院なじみが出現した。

何故僕の夢の中(こんなとこ)にいるのか。

もちろんスキルだ。

おそらく「腑罪証明(アリバイブロック)」だろう。

突然現れた安心院さんを前に、生徒会室がざわつき始める。

『思っても無いこといわないでくださいよ。ていうか本当にいたんだ...改めて安心院さんの性悪さを実感したよ』

この章の最初の台詞に全く同じことが言えるが、そこはノーコメントだ。

誰のセリフだっけ?

まぁいいや。

「いやいや、君の台詞の寒さに比べたらまだマシだぜ。なぁ〜にが『僕は幸せ者(プラス)なのかもしれない』だよ。君が本当に幸せになるなんて、5億年早いぜ。」

『...で?僕はどうしたらここからーーーこの悪夢から、抜け出せるんだい?』

「んー、教えてあげても良いけどなぁ...あ、そうだそうだ。交換条件ってことでいいかな?」

『え?交換条件ってなにを「口写し(リップサービス)

キスされた!

僕とのキスを引き換えに教えてくれるってどういうこと!?

何!?え!?

僕のこと好きなの!?

「いやいや、何回も見たことがあるだろう。スキル移動のスキルだよ。それと、君のことは嫌いだよ?」

『...あー、なるほど、ですよね、はいはい。知ってましたよ。で?』

「すっごいテンション低くなったね...君がそんな表情をしてくれて、僕は幸せだぜ。」

『で、何をくれたんです?』

「何って、そりゃあ決まっているだろう。君の()()()()()()()さ。」

『え?』

なんだっけ。

あ、あれか。

 

—————「却本作り(ブックメーカー)」だ。

 

だが、何故今更僕に返したのだろうか。

「そんなのも決まってるだろう」

『脳内に干渉しないでくださいよ、安心院さん...で、これはどういういじめですか?』

「おいおい、いじめだなんて、全く酷いなぁ球磨川くんは。何かいいことでもあったのかい?...ま、いいや。今回は譲渡、というより交換だ。」

『へぇ?一体何をーーーー、ってまさか!?』

「おぉ、いい驚き具合だ。さいっこうだぜ。」

     手のひら孵し(ハンドレット・ガントレッド)を、返してもらった。

うっそーん。

 

♦︎♦︎♦︎

 

と言うわけで、僕は現実世界に戻る方法を教えてもらった。

まぁ、それは一旦後回しにして、折角だから僕の始まりの能力「却本作り(ブックメーカー)」と安心院さんからかつての僕が貰ったスキル「手のひら孵し(ハンドレット・ガントレッド)」についての説明をしておこう。

 

却本作り(ブックメーカー)

説明があった通り、僕が生まれながらにして持っていた過負荷(マイナス)だ。...うん、そうそう。大嘘憑き(オールフィクション)は後天性のものなんだぜ。

内容はすなわち、()()()()()()()()()、と言うものだ。

同じ弱さに、と言うべきかな。

精神力も、体力も、スキルも、何もかもが最底辺(マイナス)の僕と同じになる過負荷(マイナス)

 

んじゃ次。手のひら孵し(ハンドレット・ガントレッド)についてだ。

簡単に言うと、因果を逆流させるスキル。

え、分かりにくい?

あー、そうだな。

普通、卵が鶏になる訳だろ?

それが「逆」になって鶏が卵になるスキルってわけだ。

僕はこれを却本作りを安心院さんに渡す代わりに貰い受けたんだけどね。

ちょいちょいチョイッと改造した結果生まれたのが、今の「大嘘憑き(オールフィクション)」なのさ。

あ、分からない...?まぁ、こればっかりは感覚だから許しておくれよ。

僕は悪くない。

 

時系列でまとめると、

 

球磨川が安心院さんに惚れる>

安心院さんが球磨川の素質(ブックメーカー)が唯一自分に効くことに気づく>

取り上げたいから「手のひら孵し(ハンドレット・ガントレッド)」と交換しようとしてあげる>

もらって「却本作り(ブックメーカー)」を渡す前に「手のひら孵し(ハンドレット・ガントレッド)」を「大嘘憑き(オールフィクション)」に改造>

安心院さん滅多刺しと同時に「却本作り(ブックメーカー)」を渡す>「大嘘憑き(オールフィクション)」で存在を消す。

 

と言うわけさ。

 

その頭で、ちゃんと理解できたかな?

ちょっと恥ずかしい説明があったけど、そこは気にしないでくれよ。

僕は惚れやすい体質なんだ。

あ、いやスキルとかじゃなくてね?

それと、もちろん顔だけを好きになったわけじゃないぜ。そこは安心院さんの前でしっかり証明した。

 

———あの可愛い顔を剥いでも、彼女への恋心は変わらなかったんだ。

 

閑話休題。

今回は、それらのスキルをまた交換したんだ。

 

つまり僕は今、却本作り(ブックメーカー)を持っていると言うわけ。

...って思うじゃん?

思っちゃうじゃん?

いや、別になんでも無いけど。うん、そう言うことだ。合ってる合ってる。安心してくれ。安心院さんだけにな。

 

よし、説明パート終了。

ふう、疲れた。慣れないことはするもんじゃないぜ、全く。

よし、じゃあ帰ることとするか。

 

そういえば使ったことないし、折角だから螺子だけじゃなくてこの刀も使ってみようかな。

 

おぉ、いい刀身だ。これならーーー

 

————いくらでも、自分の首でも切れそうだ。

 

 

 

♦︎

 

♦︎♦︎

 

♦︎♦︎♦︎

 

ガバ、とノータイムで起き上がる。そして辺りを確認して———

『.............』『ッしゃあ戻ってきたぜ!』『理屈は無いけど今なら何でも出来る気がする!』『返ってきた却本作り(ブックメーカー)で無双する...あれ、君誰?』

 

寝ていた僕の顔を、じっと見つめる少女がいた。

おいおい…なんだよ。

モテ期、到来かい?

 

 

 

 

 




説明臭くなりましたが、やっぱり説明は必要だと思ったので、スキル二つの説明はさせていただきました。

さて、球磨川くんが目を覚ましました。彼は一体どう状況をぐちゃぐちゃにしていくのか。少女は一体何者なのか。乞うご期待でっす。


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009 冠石野の無難な選択

訂正:ちなみに当初、オリキャラの名前は「枝去木(えざるき)」となっていましたが、諸事情で「冠石野(かぶしの)」と変更いたしました。大変申し訳ありません。

理由は要するに口に出して言ってみるとダサかったからです。
僕は悪くない。
というわけで9話、始まります。


009

 

『それで、お嬢ちゃん。』『君は一体どうしたんだい?』『もしかして迷子?』『なるほどなるほど』『可哀想に』『安心しな。僕がついていってあげるぜ。』『僕は英国紳士だからね。』『見たら分かると思うけどさ。』『ところで、だ』『安心院さん曰く、この列車内の人間は全員眠りについている、とのことだったぜ?』

 

『じゃあここでクエスチョン、だ。』『ここであのBGMが流れるといいんだけどね...』『ま、いいや。』

 

『君は一体何者だ?』

目覚め直後からハイスピードでマシンガントーク(マシンガンは元々ハイスピードというツッコミはさておき)を括弧つけながら繰り広げた男は、もちろん球磨川禊。

横で爆睡している善逸や煉獄など眼中に無い。

彼は現在、目の前の可愛い女の子のことでいっぱいいっぱいだった。

 

遡ること数分前。

「夢の中で死ぬ」ことで現実へと戻ってきた球磨川禊。

大嘘憑き(オールフィクション)を失った、混沌より這い寄る過負荷(マイナス)ーーーそんな彼が目覚めた時、目の前に1人の少女がいた。

文字通り目が覚めた思いになった。

否。これは「想い」といっても過言では無い。

 

勝ち組。

モテ期。

...いやいや、そんな馬鹿な。

いやでも、ちょっとは期待したりしちゃうよね。

『...えーっと、どちら様かな?』

『... 明磧(あけがわら)学だよ』

『へぇ、なかなかボーイッシュな名前だね。』『僕はボーイッシュな女の子が好みでね。』『思いっきり優しくしちゃうけど、精々僕に溺れないように気をつけ...ろ...?』

あれ?

この子今。

()()()()()()()()()

『ごめんなさい、嘘ついたよ。本当は冠石野(かぶしの)胡桃(くるみ)っていうんだ。女の子っぽい名前の子は、タイプじゃ無いんだよね。ごめん...』

『いやいや、何を言っているんだい、胡桃ちゃん?』『もちろん可愛い乙女も大好きだぜ?』『というか、今君のことを見ているとボーイッシュ系スポーツ女子のことなんて眼中にも無くなってきた。』『不思議だな』『宇宙意思を感じるぜ。』『これは運命だとしか言いようが無いね』『これは、愛だ。』『というわけで結婚しよう!』

『分かりました...嘘ついたよ。嫌です。やめてください。』

おっと。

この子は一回嘘をつかないと喋れないのかな?

一瞬喜んじゃったじゃないか。

全く。罪な女だぜ。

ぬか喜びさせやがって。

『....で、最初に繋がるんだけどさ』

『急に簡略化を許しましたね...』

『君は何者なの?』

『一般人です。私、自傷癖があって。いつもみたいに腕を切っていたら、切りすぎちゃったみたいで。まぁ、それが功を期して、私はまたここにいるわけですけどね。』

『...へぇ?』

『...嘘ついたよ。本当はね。』

     安心院(あんしんいん)さんの端末だよ。

くそッ、安心院さんめ!君は僕の恋路さえも邪魔するのか!

 

閑話休題。

まぁ、それにしても、端末ーーーか。

 

端末。つまりは悪平等(ノットイコール)。ーーーー悪平等(ぼく)

僕も詳しくは聞いていないが、全世界に存在している安心院カンパニー派遣社員のようなものという認識で構わないと思う。

安心院さんの命令は絶対。

もしくは接待。

 

『...ていうか、この時代からいたんだね、悪平等...』『で、今回のお仕事は何なの?』『僕の手伝い、だよな?流石にもう安心院さんの考えは読めるぜ。』『理解はできないけど。』

『ぶっぶー。...嘘です。大正解です。ぱんぱかぱーん。』

イラッ!

ほっぺたつねってやろうかな...

いや、それでは可愛さに屈してるだけじゃないか。

危ない危ない。

こいつ、まさか精神関与のスキル使いか?

『違います』

『...それも嘘かい?』

『や、ほんとですよ。ひどいなぁ球磨川さんは。年下の言うことなんだから素直に信じてあげてくださいよ。...そう、何度裏切られても。』

『僕は君を裏切りたくなってきたけどね?』『で、一体君が持っている何のスキルなんだい?ていうかそもそも持ってるの?』『その話し方とも、関係があったりするのかな。』

『まぁ、そうですね...あの、そろそろ疲れてきたのでやめて良いですかね?』

...

『いや、いいけど...というか、もとより誰も強制してないだろう?逆に何で今まで続けてたの?』

その粘り強さ(?)は是非とも矯正してほしい。

「そうですね...ふう。」

と、()()()()()()話し方にした。いや、戻したのかな?

「じゃあ、そろそろ私の、安心院(あんしんいん)さんから借りたスキルについて教えます。...あ、嘘です。良い感じの伏線を作りたいので暫く内緒にしておきます。」

『...』

 

いやいやいや...

本当にさ。

今までの学校巡りでもおもったことだけどさ。

そろそろ大声で叫んでもいい頃合いだよね?

うん。

呼吸を整えて。

スゥー。

...

 

『安心院さんの端末、ロクな人間が1人もいねぇな!』

一回言って。

『1人もいねぇな!』

大事なことなので二回言った。

 

 

「じゃあ、私はちょっと見回りに行ってきますよ。球磨川さんは反対側へ行ってください。」

『効率性を重視してるような台詞だけど胡桃ちゃん。さっきの会話からも察するにただ僕から離れたいだけだよね?』

「そんな訳ないじゃないですか。...う『言わせねぇよ』

球磨川は続きを聞く前に、隣の車両へ進み、ドアを閉めた。

「...じゃ、私も行きましょうかね。」「球磨川さんの全てを()()()()()っと...」

『よっし。』『...やっぱり気持ち悪いなぁ、この感じ...過負荷(マイナス)って皆そうなのかな。』『...いつもこんななんだって知っちゃったら、同情して上手く話せないよね...』

 

冠石野(かぶしの)胡桃(くるみ)は、括弧つけながら、球磨川とは反対側の車両へすすむ。

 

こうして、無限列車の中で今起きている生物は、

過負荷(マイナス)だけになった。

 

 

下弦の壱・魘夢。

球磨川禊。

そしてーーーー冠石野(かぶしの)胡桃(くるみ)

彼らは、果たして乗客を救うことは出来るのか。あるいは、勝つことができるのか。

 

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

「あぁ、最高だなぁ。絶望にまみれた人間の顔は、ほんとうに素晴らしい。」

 

 




004の最後にて魘夢と出会いそうになった人の思わせありましたよね確か。球磨川、と書かれてありましたが、もしかしたら...?

今回は短めにさせていただきました。次も頑張ります。感想、評価、アンケート等よろしくお願いします。


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010 球磨川の普段通りの大嘘、あるいは冠石野の一世一代の物真似。

10話でっす。
冠石野(かぶしの)胡桃(くるみ)ちゃんが頑張ります。

球磨川?あぁ、うん、活躍するよ(すっとぼけ)


010

 

[サイド球磨川]

やぁ皆。いつかぶり。

僕だよ。

というわけで今回、冠石野(かぶしの)胡桃(くるみ)ちゃんに嫌われた僕こと「光の貴公子(プリンス)」こと球磨川禊は、『いつものことだ』と割り切って、のほほんと括弧つけて歩いていた。

『さーってと、しょうがないから僕はこっち側見回って見ようかなぁ...』

そう言いながら、僕は()()()()()()()()()()()()

美しいフォルムだった。

いや、そこはどうでもいい。

つまりは先程まで歩いてきた道を向いた。

『って』

『そんな訳ないよね!』『僕は人に命令されることが世界で一番嫌いなんだ。』『きっと彼女にもそれは分かっていたことだろう?』

『つまり。つまりは、だ。』

『これは僕を試してるんだ。』『「球磨川さんは私に見合う男か」って具合にね。』『全く、胡桃ちゃんも素直じゃ無いなぁ』『が、そのツンデレ』『嫌いじゃないぜ。』

『ま、そういうこった。』『悪いね乗客の皆!』『僕は君たちの命より、冠石野ちゃんの命もとい僕の恋心のほうが大事なんだ!』『恨むならこっち側の車両に乗った自分を恨めよ!』『僕は悪くない!』『じゃ、また明日とか!』

 

そう、眠っている人間に対して長広舌をふるった球磨川は、その予告通り、冠石野が向かった方向へ向かった。

再び、ドアに手を掛けると、その時、予期していなかった脅威が猛威を奮った。

不幸(マイナス)であるが故に引き寄せたトラブル。

すなわち「いつものこと」。

 

 

『...あれ、扉が開かね...』

その後、球磨川が扉を開くことができたのは現在から15分後の話だ。

静かな部屋に、過負荷の唸り声が虚しく、切なく響く.................。

 

......................

.............

.......

...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

[サイド冠石野]

『えーっとー、球磨川さんの思考ってどんな感じでしょうね』

『『よーっし、僕が君の胸に飛び込んでやる!だから待ってろ迷える眠り姫!』『なんとしてでも結構な美少女を助け出して裸エプロンにしてやるぜ!』』

『...こんな感じでしょうか?』

と、かなり失礼な、だが球磨川ならやりかねないと正当性を見出してしまうような辛辣な独り言を発していたのは、冠石野胡桃。

彼女は今、ピンチに陥っている。

かなりシンプルなものだ。

そう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()...!)

 

『いやだって仕方ないでしょうよ。乗客全員寝てる静かな列車だよ?逆によくここまで頑張ってきたよね...』

冠石野は既にその場に座り込みたくなっていた。

元々、彼女はヘタレなのだ。

それに加えて球磨川の()()が全身を支配している。

本当なら、一般人であれば他の乗客と同じように(理由は違うが)、怠惰のあまり再び眠り始めてもおかしくなかった。

それでも歩き続けることができるのは、何故か。

一般人ではないからだ。

悪平等(ノットイコール)であり、安心院さんに認められる「素質」があるからだ。

生半可な力で、端末になれるわけでは無い。

そう、生半可では————「完全」に近くなければならない。

あるいは球磨川のような、負完全。

『じゃあ行きましょうか...次の部屋、ひらけごまー。』

のへーっとした台詞と共に次の扉を開いた。

すると、予想外の光景が見える。

 

———血。

 

血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。血。

 

そして———鬼。

 

「...あれぇ、おかしいなぁ。起きた人間の気配は、なかったはずなんだけど...」

『...貴方が元凶ですか』

「そうだよ...僕は魘夢。短い間だけど、宜しくね。」

 

静寂が、彼女らのいる車両を支配する。

 

  ガタンゴトン、ガタンゴトン、と列車が動く音のみが聞こえる。

 

「...それで?どうやって僕に気づかれずに此処に来れたんだい?」

『質問に答えてくださいっ!』

「...質問したのは僕だよね?」魘夢が普通に困惑する。

『あ、そうですね。ごめんなさい。...嘘です。ちょっとした冗談にツッコミができない貴方が悪いです。気が狂っていると言っても過言じゃないですよ、実際問題。』

『じゃあ折角なので()()()()()()()()()質問に答えましょうか。でもなんでって、...ははは、そんなの当たり前じゃないですか。』

『馬鹿ですねぇ。』

『そんな救いようの無い貴方に、寛大な私は解答を教えて差し上げましょうかね。寛大な私がね。』

『はい。』

『そんなの』

    私の「気配」を「()()()()()()」にした。

『...()()に決まってるじゃないですか?誰でもできるでしょうそんな事。』

『あの()()()()()()()()()()()()()()球磨川さんですら出来るんですよ?あの球磨川さんですら。』

『ほんと、雑魚鬼ですね。やーいざーこざーこ。』

『...おや、無視ですか?子供みたいな幼稚なことす「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!」

 

うるせぇ!!!!!!!!!

 

おっと、これはこれはーーーー

冠石野は、静かに話を聞いていたと思ったら唐突に叫び始めた魘夢を見て、ペロッと舌を出す。そして、思わずニヤッとしながらつぶやく。

『————『僕は悪くない。』ってやつですね。』

 

 

とうとう、ここ無限列車で、初の戦闘が発生した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

[再度、サイド球磨川]

彼は未だ扉を開けることができずにいた。

『...もしかして安心院さん、この嫌がらせがしたくて大嘘憑き(オールフィクション)を回収したのか...?』『はは、なんてね..』

『いくら安心院さんでも、流石にそんなくだらないことしないよな...』

『...』

 

 

『いや、すげぇありそう!』

 

 

 

 

 




という感じです。如何だったでしょうか。
また癖の強いキャラが出てきちゃいましたね。いやぁ困った困った。この子書くのすげぇ楽しいぞ。


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011 魘夢の珍しい激怒そして暴走

前回に引き続き冠石野ちゃんメイン回です。


011

 

「なんッッッだよ手前(テメェ)何様のつもりだ!!!」

魘夢がキレた。

あの常にヘラヘラ、幸せそうな表情をする、球磨川を彷彿とさせる鬼、魘夢が———マジギレした。

それは彼の「計画」には存在しない感情であり。

それはすなわち、彼の血鬼術の暴走を意味する。

『...へぇ、結構効くんだね、これ。おもしれー。』

とい言って舌を出した冠石野(かぶしの)胡桃(くるみ)の、その舌の上には、()()が書いている。

 

その文字は———

 

 

    「挑」

 

挑む。

もしくは———挑発。

 

『私はね。「挑戦者遣い」なんだよ...ごめん嘘ついた。「挑発使い」だよ。それもつい一昨日に編み出したばっかりのとびっきり新鮮な、ね。』

前者の方が強そうだな、と冠石野は思った。

『だから、君を怒らせるくらい、お茶の子サイサイなんだよね。赤子の手を捻ってるみたいっていうか。暖簾に腕押しっていうか何というか。』

『ま、要するに弱い君が悪いよね』

『ていうわけで』

『どんまーい。』

『精々、精進しなよ?』

「くそが。くそがくそがくそがくそが。...分かった。そこまでお望みなら君だけ先に殺してやるよ。じゃあな。」

そう言い放ち、彼が人差し指を冠石野に向けた途端。

列車が揺れ始めた。

否、これは。

『...変形、してる?』

ぐにょぐにょ、ぐにょぐにょと———

電車の壁から、床から、天井から、触手が現れた。

食べ物を口に入れている他人の口内を見せられたときの不快感のような感覚に襲われる。

ゾッとした。

『なんだこのぐにょぐにょ...気持ち悪いね』

『こんなことで動揺している君同様。』

 

「死ね。」

その発言と同時にその()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

気持ち悪い...

が。

『よ...っと!』

大嘘憑き(オールフィクション)

『触手を「無かったこと」にしたよ。』

あくまで気持ち悪いだけだった。

冠石野には、そんなものは通用しない。何せ「無い」も同然なのだから。

『..,おっかしいな。()()()自体を無かったことにしたつもりだったんだけど...まぁいいや。どんまいどんまい。』

『でもでも、勝てるね、これは...おっと、危ない危ない。発動が追いつかなかった。やっぱ、まだ慣れてないな。しかも、どうやら()()()()()()()みたいだし...』

『生き返れるかも分からないから。』

『ちょっとは頑張ろっかな』

『私は球磨川さんみたいに捻くれてないし、螺子なんかじゃなくてしっかりと日輪刀ですよ。太陽光をたっぷりたっぷり吸ってます。』

『じっくり見てください。』

『これが今から貴方の首を切る刀ですよ...っと!』

「...あ?何戯言ほざいて...あれ?」

なんだこれ。

体が傾いてくる———いや。

首だけだ。

首が下に落ちているんだ。

今、地面の感触がした。

...ってことは、まさか

まさかまさかまさか!

『貴方の首を切るまでにかかった時間を、無かったこと(虚構)にしたよ。ははは、ざまぁねぇな』

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!そんな訳ないだろうが!おい!何してくれてんだクソ野郎!ぶっ殺してやる!」

『ごめんね。もう遅いよ。本当に取り返しがつかないことをしてしまった。だからちゃんと罪を償って、ちゃんと君の分まで精一杯生きていくね。』

「嫌だ...こんな簡単に死ぬなんて...まだ1人も人間を食べてないのに...もう死ぬのか...」

『えぇ。可哀想なことに「———なんてね。」

『え?なんです?それ。負け犬の遠吠...え?』

()()()()()()()()()()()()()()

というより、肉の触手から魘夢の顔が生えている、と言った方が適切かもしれない。

実に気持ち悪い。

『何です?それ。ちっちゃい頃の「電車になりたい」って夢が叶っちゃたんですか?』

『にしても、私しっかり首を切ったはずなんですがね』

あぁ。感触がしっかりとある。首を切った時の手応えが。

『———どういうことですか?』

「ふふふ、いいねぇその顔。焦りが出てるね。その変な術にも慣れてきたし。形成逆転、かな?」

『質問に答えろ』

「今度は正しいね。うん、今日の僕は機嫌が良いから教えてあげる。僕はね、今———」

 

   この列車と、同化しているんだ。

    つまり、この体は偽物で。

     首を切ったところでどうにもならないんだ。

 

わーお。あめーじーんぐ。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

数分後。

差は一目瞭然だった。

もともと精神力の弱い冠石野は、球磨川を「真似る」ことで更に弱体化していた。

そして何より、最も球磨川と異なる点は。

()()()()、ということだ。

やれやれ。こんなことなら死にかける練習でもしておけば良かったよ。

もう、服も体も心もボロッボロだなぁ...

「無かったこと」にしても、もう精神が保たないや。

やっぱ、一般人(プラス)過負荷(マイナス)を背負っちゃいけないね。

なら、それをやめればいいって思うけど。

でも、それは出来ない。

『...球磨川さんが起きる前、にさ。』

「うん?負け犬の遠吠えかい?」

『球磨川さんの全てを「真似」したんだよね。そしたらさ。私、どうなったと思う?』

「さぁねぇ。どうなったの?ちょっと気になるな、僕も」

『幸せになったよ。...嘘ついた。凄く泣きそうになったよ』

気持ち悪くて。

怖くて。

ぐちゃぐちゃで。

絶望的で。

壊滅的で。

真っ暗で。

混沌で。

でも。

あんなにヘラヘラしているのに、「()()()()()()」という思いだけにはしっかりと筋が通っていて。

なのにいつまでも勝つことができなくて。

悔しくて、泣きそうになったんだ。

抱擁さえしてあげたくなった。

...結婚はお断りだけどね。

だから。

球磨川さんに証明してやりたいって思ってしまった。

『...どんな負け犬(マイナス)でも、「挑み」続けていたらいつかは勝てる、ってね。良いこと言ったかな、私。』

我ながら、本当に自分は面倒くさい性格をしているな、と思った。

自分で言うのはなんだけど。

———私、ちょっとお人好しすぎるな。

あはは。

笑えねー。

「うんうん。とても良い話だ。感動したよ。最期の言葉として、何の申し分も無いね。それに、今日は満月が出ているし、絶好の死に日和だよ...っと!」

魘夢が人差し指で私を指さした。

あぁ。

次の攻撃が来る。

立たないと。

立たないと。

立たないと。

——————勝たないと。

...あ。

ううん。

もう駄目かも。

ごめん。

 

 

———ヒュン。

...ドッカーーーーーーン。

爆裂。爆音。爆風。爆風。爆熱。爆砕。爆発。

 

そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は。

彼女は。

彼女は。

彼女は。

...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『月が出てる絶好の死に日和、か。良い考え方だ。』

『でもね、生憎僕には(ツキ)が無くてね。残念ながら僕の周囲は死ぬには最悪の環境になるんだぜ?』『と言うわけで!』『悪平等(フェアプレイ)のお時間だ。』『久しぶりに使うぜ。』『『僕の始まりの過負荷(マイナス)!』

 

 

    『却本作り(ブックメーカー)

 

 

そして。

「炎の呼吸」

「———雷の呼吸」

 

『やぁ胡桃ちゃん』『助けに来たぜ。』

 

あぁ。

まーじか...

 

 

あんなに括弧つけてたのに、助けられるだなんて、恥ずかしい..な...

...........................

.................

.........

....

..

 

「...え、どこかなここ。」

「やぁ冠石野ちゃん。久しぶり。」

「...安心院(あんしんいん)さん...ってことは私。」

「あぁ。君が「真似た」大嘘憑き(オールフィクション)が無事発動したぜ。今どんな気分?」

「あー、最ッ悪だね...」

 

じゃなくて。

最高だ。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちなみに嘘な。君は今、緊張が解けてただ寝てるだけだぜ。」

「やめてくれませんそういうことするの!?」




ウザかったりひ弱でお人好しだったり。
言葉使いかと思えば過負荷だったり。
そんなよくわからない子が冠石野胡桃です。如何ですかね。感想、よろしければお願いします。


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012 煉獄の燃え盛る心の炎、あるいは善逸の消えない心の雷

初手から煉獄さんの名言入ります。そろそろ彼には夢である「穴に入る」を叶えてもらいたいものですね。


俺の屍を越えて行け。

でもその時は踏むな。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

012

 

「向かうのが遅れてしまい、本当に申し訳ない。このような緊急事態の中ぐっすり眠っていたとは、恥ずかしい限りだ。ーーーー穴があったら」

「入りたいッ!」

 

 

炎の呼吸・()ノ型   盛炎(せいえん)のうねり。

 

煉獄は、渦巻く炎のように舞い、広範囲を薙ぎ払った。

....業ッ!と一帯が燃えたかのような錯覚に陥る。

それは、あの()()()()()()()感じるものであり、すなわちそれが意味するのは。

 

———圧倒的な強さ。

 

そして、その一言、爆音、熱で、冠石野は目を覚ました。

そして、目の前の光景に衝撃を受ける。

部屋全体でうねっていた、先ほどまで冠石野を痛めつけていた肉の触手が、まるで何も「無かった」かのように()()()()()()()

『...流石だね、柱の名前は伊達じゃねぇぜ。』『僕なんか足元にも及ばねぇや。』『僕は煉獄さんの靴下に過ぎないね。』『証拠にほら、見てみろよ』『僕が投げた螺子、窓ガラスにぶつかったせいでガラスが割れて外に落ちちゃった。あはは。』

「...笑いどころじゃ、ないですね...ふふ...」

先程まで体感していたようなとんでもない最悪の気分だと言うのに、それでもヘラヘラとしてみせる球磨川。その様子を見て、私は何故か少し笑ってしまった。

『え、何が...?何に笑ってんの怖っ!』球磨川が引き気味の笑顔を見せる。

「球磨川さんが最初に笑いましたよね!?」

『あぁ、それは空気読んだ嘘笑いだってばよ』

「だってばよ?」

『まぁ、それも嘘だけど...遅れて悪かったね』『僕も僕で、ちょっとかなり手強い敵と戦っててさ。』『いやぁ壮絶な試合だった。』『どっちが勝ってもおかしくなかったぜ』

「で、勝ったって訳ですね?流石です。軽蔑したよ。...嘘だよ。感服したよ。」

『...え?あー、うん、そうだね。あれは勝ったと言っても過言じゃ無いかなーって思うかな。』と、球磨川は視線を逸らす。

胡桃ちゃんはよく分からない、と顔を傾ける。

可愛い。

 

いや、それにしても。()()()()()()()()()なんてね...

善逸ちゃんが目覚めてくれて助かった。

折角なので、その時のハートフルな会話を聞かせてあげよう。

チャンネルはそのままで。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「(え、お前何してんの!?)」

もう諦めて僕も寝てしまおうかと思い始めた時、口をパクパクさせながら扉のガラスから黄色の男がやってきた。

誰だっけ。

あぁ、善逸ちゃんか。

『助けて!扉が開かない!』

「(え、何て?ここの扉防音だから隣の部屋の音聞こえねぇんだよ。)」

「え?何て言ってるんだい?あ、そうかこれ防音なのか!』『素晴らしい文化だ!』『よっしゃ今なら善逸ちゃんの悪口言い放題だぜ!』

「(何やってんのかしらねぇが、着替えじゃなさそうだから開けるぞ?)」

開いた。

『やーい善逸ちゃんの意気地な..育児に前向きな優しいパパになりそうだよね、善逸ちゃん!愛してるぜ!』

「もう収集つかねぇよ」

開いた!?

『嘘だ...僕が一体何時間ここに閉じ込められてたと思ってるんだ...』

「そんなにいたのにその落ち着きようなの!?この状況下で!?」

無論嘘だ。

精々15分くらいかな。

そして、善逸の言う()()()()というのは十中八九()()のことだろう。

あの赤い、むきだしの肉のような触手。

壁中、床中に生えてきたので最初は気持ち悪いなぁと思い、この車両に現れた触手を却本作り(ブックメーカー)で「弱体化」させ殲滅させたのだが、攻撃する気配のない床のグニョグニョは、慣れてくるとフカフカで気持ちよく(過負荷だけに)、数分は寝転がってゴロゴロしていた。

実家のような安心感だった(安心院さんだけに)。

...

さっきから滑ってばかりいるが、気にしない。

滑らかなのはなんであれ良いことだしね。

 

『いや、でも助かったよ。ありがとう。』

「どういたしまして。」

『あ、そうそう。僕、さっき「大嘘憑き」なくしたから、そこんとこよろしくね』

「あぁそっか。うん分かった。そういうことで...ってはい!?何どう言うこと!?じゃあもう生き返れないじゃん!俺死ぬしか無いじゃん!」

『ノリツッコミもできるのか善逸ちゃん...完璧だね。言うことなしだ。』『まぁ強いて言うなら、できれば僕の心配もして欲しかったかな。』『で、詳しく説明するとね。カクカクシカジカ...』

「急にギャグ漫画みたいな雰囲気にするなよ。あれ、ギャグ漫画ってなんだ?まぁいっか。なるほどな。その「却本作り」っていう新しい能力と引き換えに「大嘘憑き」をなくしたってことか。」

『まぁ、新しい能力っていうか返してもらっただけなんだけどね。』『要するにそういうこーー』『おっと、危ねぇよ善逸ちゃん。』

    却本作り。

球磨川はそう呟きながら、善逸に牙を向けていた触手に、螺子を刺した。

ーーーーねじ伏せた。

その途端、触手は動きを遅くし、急激に水分が抜けたように干からびてしまった。

ーーーー球磨川と同じ精神力になった。

「ヒッ!」善逸は腰が抜けてしまった。

『まぁいいや、早く胡桃ちゃんのところに行こうぜ。僕を待ってるんだから。』

「あ?クルミって誰だよ...『良いから早く!「あーもう分かったよおおお!!!!」

 

    爺ちゃんお願いだから少しだけ力貸してくれ!!!過去の明星(めいせい)!!!!

 

そう叫んだ瞬間、善逸の周囲を星が囲み、やはり入眠(ここの流れは変わらないようだ。)。

そしてまもなくスッと起き上がった。起き上がった彼の周りの空気は荘厳なものとなっており、一見して別人であると分かる。

生憎、空気を読めない球磨川にはその荘厳さは分からなかったが。

『...えっと、君は善逸ちゃんのお爺ちゃんかい?』

「あぁ。事情は分かった。急ぐぞ。その胡桃とやらの元に。...って槇寿郎(しんじゅろう)!?なんでお前がここにーーーー」

『そいつは杏寿郎って名前の炎柱だぜ?同じ柱なのに知らないのかい?』『あぁ、「だった」なのかな?』と、寝ている事をいいことに「そいつ」呼ばわりをする球磨川。

先程の善逸への失敗を一ミリたりとも反省していないのが目に見えて分かる。

 

「あぁ...そうか。世代交代したのかのぅ...なるほどな。道理で若いと思ったわい。」

『うん、その、さっき君が言っていた人は杏寿郎さんのお父さんかな?』

「うむ。...ていうか、雑談に花を咲かせている場合ではなかろう。急ぐぞ。」

『そうだね。杏寿郎ちゃんはすぐに起きるっしょ。多分。』

「敬語を使え、小僧。」

『はいはーい。』

「はいは一回じゃぞ」と言ってニカッと人の良さそうな笑顔を向ける。

いやいや...

惚れてまうやろ。

善逸は顔だけイケメンだから尚更駄目だ。

と、そんな戯言を言いながら(間違いなく戯言だ。)次の車両への扉を開く。

 

球磨川は、もしかしたら既に惨劇が繰り広げられた後だという可能性も考慮していたがそんなことは全く無かった。

触手が、眠っている人間の周りを舐め回すかのように蠢いている。

なぜ隙だらけの人間をまだ喰っていないのか。

決まっている。

『あはは、随分と舐められたもんだぜ。』

「そうじゃの。だが、こちらからしたら好都合だ。」

爺ちゃん(そういえば名前は何なんだろう?あとで聞くこととしよう。)は、汗を一滴も流すことなく、軽やかに肉に細かい斬撃を加えつつ、そう言った。

かっけー。

週刊少年ジャンプの中でしか見たことないよ、こんなおっさん。

てかまだまだ現役じゃねぇか。

...じゃあ、なんでやめたんだろうね?

タブーっぽいけど、聞くだけタダだし、これも後で質問してみよう。

僕はタダのものは要らなくても貰っておく主義なんだ。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

『まぁ、そんなこんなでここに辿り着いたんだ。』『煉獄さんは、僕らは扉を開けるときに奇跡的なタイミングで猛ダッシュしてきたんだぜ。』『いや、あれは人じゃ無いよね...』

「雑談パート長すぎません?もっと早く来れましたよね?」

『おいおい』『僕がふざけずに生きていけると思うのかい?』『だとしたら君は病院に行った方がいい。』

「思えますけど...嘘です。全く思えません。」

『だろ?』と、ドヤ顔をキメる。

善逸同様、顔だけイケメンである。

ただし、性格の方向性は真逆であるが。

 

閑話休題。

作戦会議のお時間だ。

『煉獄さん。僕らはどうしたらいいですか?』

「そうだな。顔見知りらしい善逸隊員と私は乗客を守る。そして球磨川隊員と冠石野()()は、この鬼の()を探し出し、切るんだ。」

「え?でももうこの鬼は列車と同化してるんだよ?首なんてあるの...あるんですか?」

「姿形が変わろうと、鬼は鬼だ。それ以外の何者でも無い。すなわちだ。」

   ーーーーーー首は、必ずある。

『...面白くなってきたね。』『じゃ、そろそろ反撃といこうか。』『僕も、あんな悪夢(幸せ)を見せられてムカムカしてるんだ。』

「えぇ、そうですね。反撃です。」

「久しぶりに本気を出すとするわい。一緒に頑張るぞ、善逸。」

 

「よし!では任務終了後、また全員で笑い合えることを祈る!」

 

任務、開始。

 

 

終焉の刻は、近い。

 

 

 

 

 

 

 




ようやく全員目覚めました。存在するだけでパーティのゲスさが浄化される煉獄さん大好きです。



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013 魘夢の救えない夢

はい、そろそろ無限列車編終わるかな?
そういえば、副音声書いてみました。暇な人は良かったら読んでみてくだせぇ。
https://syosetu.org/novel/262675/



「鬼が出るか蛇が出るか」って。

蛇の方が良いに決まってるだろ?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

013

 

「伍ノ型 熱界雷(ねつかいらい)」「肆ノ型 遠雷(えんらい)」「肆ノ型 遠雷(えんらい)」「参ノ型 聚蚊成雷(しゅうぶんせいらい)

 

(何なんだよ...何なんだこいつら!急に目覚めたかと思ったら!)

 

「壱ノ型———霹靂一閃(へきれきいっせん)!!」

 

(ぐあッ……!)

 

「壱ノ型 不知火(しらぬい)」「弐ノ型 昇り炎天(のぼりえんてん)」「参ノ型 気炎万丈(きえんばんじょう)

 

(くそ、強い……)

 

「伍ノ型 ———炎虎(えんこ)

 

(痛い……!)

(はァ...まぁいい。)

(僕の能力2つがあれば、本気を出したらこいつらなんかすぐに倒せる)

(今はまだその準備だ。)

(ふふふ……)

 

♦︎♦︎♦︎

 

———ドゴン、ドゴン、と。

球磨川は後ろでとんでもない破壊力の攻撃が続け様に繰り出されているのを背中で感じていた。

音だけ聞いたらどちらがハイジャック犯か分からない。

 

『……にしてもさぁ……多すぎない……?どんだけ好きなんだよ、僕のこと』『生憎僕には胡桃ちゃんがいるんだぜ?』

「いないよ、そんな人間」

先程から、球磨川は肉の触手を「却本作り(ブックメーカー)」で「弱体化」させてばかりいる。

が、弱体化しているのは触手だけではない。

()()()冠石野ちゃんが持っている「大嘘憑き(オールフィクション)」も()()()弱体化しており、「鬼血術」自体を「無かったこと」には出来ず、発動範囲も狭くなっているらしい。

それに、倒すだけでなく、眠っている乗客の安全も考慮しなければならないというのもかなり大変だ。冠石野はかなり疲弊していた。

老婆、妊婦に紳士。それに———1人きりの少年。

家出だろうか。

凄い勇気だ。そんな小さな体で。素直にそう思った。———憧れた。尊敬した。

そして、自分も負けまいと、冠石野は再び触手に立ち向かう。

 

「えっと、どこにあるのかな』『あ、敬語じゃなくていい?」と触手を切りながら言う胡桃。

『今更すぎるだろ』『うん、まぁもちろんタメ口でいいけどさ』『胡桃ちゃんはどう思うんだい?』

「そうですね……私はやっぱり距離を感じるので年下にも年上にもタメ口でいきたいなって思いますね」

『いやそっちじゃなくて。首だよ首。鬼の急所が何処にあるかってことだよ。』

球磨川が分かりやすくため息をつく『タメ口談義を始めてどうするんだよ』

そう、僕らは()()()を探していた。

即ち、敵の弱点だ。

現在戦っている鬼———魘夢は、列車と同化しているが、炎柱の煉獄さんによると、「首は必ずある」とのことだった。

流石だよね。

相当の場数踏んでなきゃ、あんな断言出来ねぇよ。

 

「んー、そうだね。まぁ首だから列車の先頭辺りだと想像はつくかな」

『なるほどね。流石胡桃ちゃんだ』『でもね、捻くれ者の僕としては、ちょっと捻くれたところから探していきたいと思うんだけど、どう?』

「嫌です……嘘です。おっけーおっけー。で、例えば何処なのかな」

『例えばさ。』『トイレとか』

向かってきた触手を冠石野が「無かったこと」にし、そしてこちらを振り向く。

「そんな事あります?」

『って思わせるようなところに隠すのが普通だぜ?』『まさか映画にまでさせてもらったくせに列車の先頭なんていう何も考えてないこと丸わかりの場所に置く馬鹿いないでしょ』

「理屈は分かるけど映画って?」

『あー、いや何でもない』そう言って球磨川達は第三車両にあるトイレへ駆け出した。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

 

さて、結果から説明しよう。

無かった。

床までこじ開けて調べたのに出なかった。

『嘘だ……僕の推理が外れるなんて……』『「日本のシャーロックホームズ」と呼ばれていたこの僕が……?』『はっ、まさかこれも鬼血術!?』

「灰色の脳細胞どころか、黒色の単細胞のようですね、球磨川さん」

『時々出るその才能溢れる煽りは一体どこの道場で習ったものなの?』

「さっきの駅前の道場です」

『嘘だよね?』

「はい、嘘です。……まぁ、これについては全てが終わってから話しますよ」

『絶対そこまで引っ張るほどのストーリーは無いと思うんだけど...』

球磨川は釈然としない様子で既に走り出している冠石野の後ろ姿を見、そして同じように走り出した。

 

……。

 

何だろうな、この感情。凄くモヤモヤする……。

恋かな。……いや絶対違うな。

やっぱり釈然としない。

 

閑話休題。

『で、結局やっぱり最終的に先頭ってことでいいのかな?』

「違ぇよばーか。……嘘だよ。合ってる合ってる。おめでとう。」

『(怒りを堪える顔)』

「あれ?なんで「(怒りを堪える顔)」なんて言ってるんですか?」

『なんでもないよ、胡桃ちゃん』『で、ようやくここについた訳だけどさ』

「過半数雑談だったけどね」

『車掌さんもいないけど、どうなってんだろうね?』『まぁいいや』『とりあえずは』『螺子伏せてみるところから始めてみよう』

そう言って、球磨川はどこからからともなく螺子を取り出した。

その螺子を、床へ深々と突き刺す———螺子込む。

そして壊れた床には——————骨。

 

 

()()()()()()()

 

 

「ほら、やっぱりありましたね」

『だね。いやぁ胡桃ちゃんの才能には驚かされてばかりだぜ』『全く。親の顔が見てみたいもんだ』

「使い方間違ってるよ」

『たしか、骨って日輪刀じゃないと切れないんだっけ?』

「切れないっていうか、切っても()()()()んだよ。つまり鬼の弱点って日光しか無いんだよ。」

『ふーん、なるほどねぇ……』『じゃ、早速切ってみますか……っと、あれ?』

()()()()()()()()()()()()

流石に気づかれてるのね。

『折角だからちょっと話してみようぜ』

「は!?馬鹿なの!?……嘘です!馬鹿なの!?」

『落ち着いて。ステイステイ。はい深呼きゅ……っていたたたたた痛いって脛を蹴らないで!』

「何言ってるんですか。死ぬつもりですか?『大嘘憑き(オールフィックション)』も無いのにむちゃしないでよ。」

『いやいや、何言ってるんだよ』『君が守れば良いだけじゃないか』

なんでだろう。

どうしてこんなに守りたくなくなってくるんだ...

「というか第一、こちらに対して律儀に応答してくれるわけ「呼んだ?「うおっ!?」

何も無かったはずのところから、唐突に魘夢が現れた。

いや、魘夢の姿をした肉塊、と言うのが正しいか。

いつも通りの、球磨川を彷彿とさせるヘラヘラとした顔。

『やっほー魘夢ちゃん。元気?』

「うん、すご〜く元気だよ!今からこんなに大勢の人間を食べるんだって思うとワクワクするよ...はぁ、早く絶望の顔を見たい。知ってる?幸せな夢を見せた後に絶望的な夢を見せると、凄く良い顔をするんだよ、皆。」

『そっか、それは良かった!』『僕のその顔、ちょっと興味あるぜ』『ところでさ』『君、過負荷(マイナス)持ってるよな?』『分かるぜ。僕と同じものを持ってるよ、君は』『ほら、スタンド使いとスタンド使いは惹かれ合うって言うじゃん?』

「あ、そうだ「マイナス」だ...いやぁ僕英語には疎くてさ。呼び方を忘れちゃってたんだよね。本当にありがとう。まぁ、能力名の方は覚えてるけどね」

 

 ——————夢見がち乙女(オーバー・ノクタンブリスト)

 

「これは能力向上の能力。ねぇ、素晴らしいと思わないかい?」

『へぇ、「過ぎた夢遊病患者」ねぇ……いい名前じゃないか』『君らしくて、ね』『それで?誰に貰ったの?』

「……それを言ったら殺されるんだよねぇ。だから内緒。僕を殺せたら教えてあげるよ。」

『そっか。じゃあ遠慮なく。』『———却本作(ブックメー)差異欠陥(モーターパンク)」『!?は……』

肩に触れる手の感覚。いつもの笑顔を少しだけ強張らせながら振り向くと、そこには()()が立っていた。

『いやいやいや……そんなことある?』

少年が———魘夢ではない()()いた。

それを察知した瞬間のこと。

 

———ダンッ!

『え……?』

何かの音がした。爆発音が。それとほぼ同時に感じる感覚。

背中が熱い。痛い。息が苦しい。いや、これ———

『……銃弾じゃねぇ、か……』球磨川は、少年の背後に浮かんでいる1()0()()()()()()()()()()()()()

過負荷(マイナス)———いや、異常性(アブノーマル)

 

「あ...今出る場面じゃ無かったのに。これ食らっても、一部分がシワッてなるだけだよ?」

「あ?うっわまじかしくじったー。俺の優しさが失敗の原因か。くっやしー。まぁいいや」

 

———どうせ勝つしな。

彼はニッと、悪巧みしてそうな、性格が悪そうな笑みを浮かべた。

 

……おいおい。

ここに来て新キャラとか、ジャンプ展開としちゃあ邪道すぎるぜ、全く。

 




新キャラ〜〜こっから一体どうなるの〜

いや、僕、行き当たりばったりで書くタイプの人間なのでほんとうに分からないです。
有川浩さんがどっかのあとがきで(「シアター!2」だったかな?)言っていた、「登場人物が勝手に動いてくれる」ってやつがよく分かります。

つーわけでまぁそろそろ無限列車も終わるでしょう。皆さんどうかお付き合いください。感想、評価等もお願いします。


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014 ナイスな心意気

最終局面です、よろしくお願いします。


014

 

「く、球磨川さんッ!」

冠石野(かぶしの)が、背中に銃に撃たれた球磨川(くまがわ)のもとへ走る。

『はは...悪いけど、僕はもう無理みたいだぜ...』『冠石野、ちゃん...最期のお願いだよ、僕に、僕に君のパンツを見せてくれ...』

「マジで見捨ててやろうか」

もちろん冗談だ。

が、そんな冗談を言い合っている(球磨川に関しては本気かもしれなかったが)間にも血がドクドク流れ、床を(あか)で染めていく。

明らかに致命傷。———だが、彼女はそれを「無かったこと」に出来る。

不思議なことに。

『よっしゃ球磨川禊世紀の大復活!』『て言うわけでどうもありがと、冠石野ちゃん。』『ま、でもこんな攻撃「無かったこと」にするまでも無かったんだぜ?』『何せ、君の前にいるのはかつて「最恐」と謳われた僕なんだからね』

「死ね。...嘘です。死んでください。」

『距離が遠くなった!?』

球磨川は立ち上がり、少年と向き合った。そして、冠石野は魘夢に向かい合い、結果的に球磨川と冠石野は背中合わせになった。

『おいおい...これは僕の大好きな構図じゃないか...週刊少年ジャンプ読者としては堪らないぜ。』

「おいおい、何イチャイチャしてんだよ。俺はさながら恋のキューピットってか?」

と、先程()()()()()()()少年がシニカルに嗤った。

彼が放つのは、弓矢ではなく、弾丸だ。

 

『じゃ、冠石野ちゃんにはあっちの男の子を任せるよ。僕は魘夢(中ボス)倒してくるから』

「そうやって煽った挙句負けるんですよね、球磨川さんって。」

『おいおい』『泣くぜ?』

「ごめんなさい」

その謝罪を合図に———2人は向き合い、互いの顔を見て()()()()()()、前へ飛び出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

<サイド冠石野>

「俺は豪國(ごうごく)だ。よろしくな?姉ちゃん。」

「そうですね、私は先輩ですよ、人生の。さぁ敬ってください。」

「ま、そうだな。俺なんか負け組だしよ」

「?どう言うことです?」

「あーいや、言って良いかなこれ...まぁいっか。どうせ勝つし。俺血鬼術使えないんだわ。皆にいつもいつもバカにされてきたもんだ。...でも、この前()()()異常性(アブノーマル)を二つもくれたんだよ。いやーほんとやっさしーよなぁ?俺と同じくれぇ優しいわ。」

「あの人、と言うのは教えてくれそうに無いよね。...で、それが、球磨川さんの「却本作り(ブックメーカー)」を「無効化」した能力と、銃を操る能力?」

「ピンポーン!」豪國は嬉しそうに答える。

 

差異欠陥(モーターパンク)」———「異常」を生み出す異常性。

銃版(テンプレート)」———10個の銃を生成、操作する異常性。

 

「...なーるほど、確かに驚異だね」『私以外には』と、冠石野は括弧つけてみせる。

「虚勢ならいらねぇよ。そこで自分の無力さに向き合っとけ。」そう言うと、彼は10の銃口をこちらに向けた。

———ので、私も()()()()()()

10個。

「ハッ...!?」

「おー、面白い焦りようだね。良い様だ。剣呑剣呑。」

...多分使い方は間違えているが、面倒なので生涯改めようとしたことはない。

別に生きる上で障害になることはないしね。

「いやぁ、10個出たのはほんと奇跡だよ。何せ、私の()()()粗悪品(マイナス)だからね...」

 

   「私の過負荷(マイナス)は———付便な印撮機(トランシエンス キャパビリティ)。」

他人を、真似る能力だよ。

 

『そうそう、だからこんなこともできるし。』冠石野は括弧つけ、

『こんなこともできるって訳よ』一発撃った。

玉が豪國の右足に当たる。

その瞬間、撃たれた箇所がジュワッと溶ける。

「痛い...なんだよそれ...なんだよそれえええええええ!!!!!!」

豪國は怒りに身を任せ、銃をぶっ放した。

 

———が。

『ざーんねん。全部「無かったこと」にしちゃったよ。』

『コピーしておける能力が一つだけだと思った?』

『思ったよね、思っちゃったよねぇ』

『「痛い」っていうか、「痛々しい」って感じだよね』

『あは、』

『ほんと、「挑発」に乗るとろくなことが起きないよね。気をつけた方が良いよ?』と、冠石野は舌をぺろっと出す。

 

そこには、「挑」の文字。

 

「な...んだよそれ?」

『あー、これ?うーん、あとで球磨川さんにも説明しないといけないし、作者の苦労が増すからしなくて良い?』

「死ねよほんと...」豪國が本当に嫌そうな顔をした。が、撃っても「無かったこと」にされるので動けない。

この均衡状態が、奇跡的に会話をする機会を与えていた。

『ごめんごめん———って、私は悪くないけどさー。いいよ、折角だから教えてあげる。』

安心院(あんしんいん)さんに聞いたんだけどね、これ、「言葉(スタイル)」って言うらしいよ?』

異常性(アブノーマル)でも過負荷(マイナス)でもなく。

言葉。

『さしづめ私は言葉使い(スタイリスト)、かな?』

 

もしくは、挑発のスペシャリスト。

 

『イラッときたのがねー、これ、未来では別の人が作ったことになってるんだよね』

『フクロウさん、だっけ』

『私がちゃんと()()()編み出した技なのにさー。』

『まぁいいや。』

『どうせ君ともすぐにさよなら———』

「———隙ありッ!」

豪國の指が、()()()()()()()()()()()()

『!?』

「あっぶー。これが一つ目の能力「差異欠陥(モーターパンク)」だ。異常を生み出す———テメェの能力を、狂わせた。」

『———じゃ、それを「無かったこと」にした。』

「は...なんで!なんで何だよ!」

『おやおや、そんなことも分からないんですか?』

『まだまだ甘ちゃんですねー、かわいいよ、坊や。』

 

『過負荷なんですから、そんなの、とっくに狂ってるに決まってるじゃ無いですか。』

 

 

勝負、あり。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<サイド球磨川>

『やぁ魘夢ちゃん。』『僕だよ』

「うん、よろしくね?ミソギ。」と、馴れ馴れしく球磨川の名前を呼んだ。

『さっきはあんな素晴らしい夢を見せてくれてありがとう。『とんでもない悪夢だったぜ。』

「へぇ、もしかして怒ってる?」

『怒らないわけないだろ?』『()()()()()()幸せを見せられて、さ。』『そのせいでせっかく返してもらった「却本作り」も弱体化しちゃうし...』『あーあ、ほんと幸せだったな。僕が首を切ろうとした時、友達(あいつら)何したと思う?』

「———全力で止めに来たよね。」

全員が。

めだかちゃんも。

善吉ちゃんも。

喜界島さんも。

阿久根ちゃんも。

余すとこなく全員が助けにきた。

『そ。おかげで全員螺子伏せないといけなくなったんだぜ?』『まったくもう』『———とんでもなく、苦しかった。』

「...あれは、君の未来だよ。君は、いずれ幸せになるんだ。おめでとう」

『へぇ...どうせ食べるのに。優しいんだねぇ。魘夢ちゃんは。』『ま、どうでも良いや』『次、君の過負荷について教えてくれない?魘夢ちゃん』と不気味な笑みを浮かべる。

「うん、いいよ。僕は今機嫌がいいからね。でもその前に———」

球磨川の眼前に、肉の触手が現れる。そしてそこには。

目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目目。

「死んでもらおうかな。」

 

———強制昏倒睡眠(きょうせいこんとうすいみん)(まなこ)

 

『(まっずい...これは、睡眠の血鬼術——)』

そして、球磨川は眠った。

倒れそうになる———

が。

ダンと大きな音を立て、力を振り絞って立ったままを維持した。

『....よッとおはよう!良い朝だね!』『生憎、僕には()()()()()()()()()さ。その血鬼術は僕には無意味

...だ!』『おっと眠っ...ちゃった。』すぐに起床し、そしてまた目が合い、血鬼術が発動する。

「ふふ。これはまだ僕の本気じゃないよ。ほらほら、早くこっちにおいでよ。」

『あ、クソっ...あいつ逃げや...がった!!...まぁあれ倒して...本体じゃ無い...んだけどさ...』

駄目だ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

それに、「却本作り(ブックメーカー)」を発動する隙も無い。

全く。

親はどういう教育してるんだろうね?

っと。またギャグ方面に流れるとこだった。危ない危ない。

閑話休題。

 

どうにかして目を閉じて起きれないものか...

『いや...これ無理じゃ...っとうわ!あっぶね!?』

目が覚めた瞬間、目の前に触手が突撃してきていた。

こっわ!

ずるいよそれは!

にしても、だ。

何か。

何か一つきっかけがあれば。

———瞬殺できる。

『思いつけ...思いつけ...』『働け灰色の脳細胞』『そうそう、いい細胞分裂だ...』『よっし閃いた!』

 

飛び道具は、他人の目に放つよりも()()()目に打った方が早いよね!

 

それなら間に合う。

自分の目をつぶせば———もう見えない。鬼の目も、何もかも。

そして血鬼術で、眠ることもない。

よし、次起きたら決行だ。

.....

...........

.................

 

———起きたッ!

目が覚めたのち、コンマ数秒のスピードで球磨川は、自らの眼にネジを刺した。

グニャリ、と眼球の独特な感触が指に伝わってくる。

め...

めちゃくちゃ痛い。

血がドバドバと溢れ出る———

が、()()()()()()()()()

 

人生で初めての勝ちを目前として。

人生で初めての価値を目前として。

 

『あはは』『僕の、勝ちだ。』球磨川は、笑いを堪えられなかった。

 

 

勝負、あり。

 

 




はい、と言うわけで次回は後日談です。とりあえず一区切りですね。ここまでおありがとうございました。これからもよろしくお願いしてくだせ。

ちなみに豪國が冠石野に銃をコピーされて焦っていたのは、その弾丸が日輪刀の素材でできているからなんですが、これは周りの鬼に「血鬼術を持っていないから」といじめられていたため自分の身は自分で守るためにした行動でした。

それが自分に返ってくるとは思いもしなかっただろうなぁ。



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015 終局(起床)

後日談です。うぇい。
それと、「〇〇(人の名前)の〇〇」というタイトル縛りが中々キツくなってきたのでそろそろ止めます(
もしかしたら今までのも変える可能性も微レ存...?


後日談、というか今回のオチ。

僕こと球磨川、善逸ちゃん、胡桃ちゃん。

僕たちはある場所で療養を取っていた。

蟲柱——— 胡蝶しのぶの家。

いや。

家というかこれはもう旅館と言っても過言では無いと思う。

広いという言葉では説明がつかないほど、すっごい広い。

「『大嘘憑き(オールフィクション)』で全部無かったことにしてるから、療養なんて要らないんですけどね...」

『ま、精神的なヤツだと思ってさ。思いっきり遊ぼうぜ』

「そうだねー。騒ぎ回りましょう。」

『いや、それはしのぶちゃんが怖いからやめとこう...』

あの子、器が大きい代わりに(直径70cmくらいだろうか)、一度怒るとそれはもうとんでもなく怖いのだ。

 

あれは昨日のこと。

僕は全力で「紅」を歌い、胡桃ちゃんもそのテンションに侵されてベッドの上で騒いでいた。

ちなみに胡桃ちゃんがこの歌を知っている可能性はゼロなんだけどね。

さながら修学旅行の気分だったのだけれど。

それはサビに入った時だった。

しのぶちゃんが「バァァァン!!!」と激しく扉を開けて入ってきた。

 

場が凍りついた。

手を全力で握り締めているのに対し、爽やかな笑顔だったのが印象的だ。

『…あ、あはは…どうしたんだい、しのぶ…さん?』

と言いつつも僕はちゃっかり螺子伏せようとしたのだが、しのぶちゃんは人差し指と中指で摘んで受け止めてみせた。

笑顔だった。

 

———まぁそんなこんなで僕はそこそこのトラウマになっていたのだった。

あぁ、今思い返しても恐ろしい。

あれだね、まさに『味方でいる分には頼もしいけど敵になったら一番怖い人物』だね。

頭の片隅にでも入れておくことにしよう。

 

「なぁ球磨川ぁぁぁぁ...体が動かない...」

あ、そうそう。そういえば。

善逸ちゃんの体の怪我は、「過去の明星」で爺ちゃんを憑依させていたせいで「死んだ爺ちゃんの怪我」判定だそうで、そもそもこの世に「存在しないもの」なので胡桃ちゃんの大嘘憑き(オールフィクション)でも「無かったこと」に出来なかったようだ。

なのでガチ療養。

水槽学園で絵図町筆くんの「色々色(カラーオブビューティー)」で生じた青痣を「無かったこと」に出来なかったのと同じだ。...多分。

『頑張れよ、善逸ちゃん。君は一切頑張ってなかったからね。その分だと思いなよ。』

「うわぁぁ...恐ろし痛いぃぃぃ...」

善逸は布団に包まって叫ぶ。

...なんか、他人に寄生して堕落していく人間って見るの面白いよな。

あ、僕だけ?

幸せ者(プラス)過負荷(マイナス)の違いかな、これが。

 

閑話休題。

「まぁ、それに関連してなんだが、俺の意識が無い間って何があったんだ?俺今日やっと目覚めたから分かんねぇんだよ。」

『あぁ、確かに君だけあの壮絶な戦いを知らないなんて嫌だよね。』『つーわけで教えなーい。』

「は!?なんで!?」

『いや、今言ったけど...?』『ったくもう、しょうがないなぁ善逸ちゃんは。』『じゃ、あの時の話をちょっとだけ「却」色つけて話すよ。』『どうせ暇だし』

「そうだな...とりあえず却色も脚色もつけずに教えてくれ」

『おっけーおっけー、じゃあ僕の1人語り、始めるぜ!』

 

東西東西(とざいとうざい)、お立ち合い!

 

♦︎♦︎♦︎

 

<サイド球磨川>

「!?何を...」

『え?何って』『ちょっと自分の目を抉っただけだぜ?』『そんなに怖がるなよ』『僕は悪くないのに』『乙女心が傷ついちゃうぜ』

魘夢の中に、戦慄が走る。

こいつは、やばい———そう彼の経験が。第六感が伝えていた。

...が、そんなことで動揺するようでは、上弦どころか下弦にも入れない。

魘夢はすぐに落ち着きを取り戻した。

「ふぅん...でもね。僕はまだまだ全力をだしてないんだ。なんなら、触手をとんでもなく硬くすることだってできるよ。」

 

 ———螺子が刺さらないくらい、ね。

 

「この過負荷(マイナス)は本当に素晴らしい。僕をどこまでも強化させてくれる!」

『...』

 

球磨川は。

『あはは』

笑った。

『———強化、ねぇ』『強化、強化、強化、強化、強化...』『...ははっ』

「?どうしたの?絶望で気でも狂ったかな?」魘夢は事の重大さに気がつかず、今でさえ自分が優勢だと信じ込んで笑う。

そう、球磨川と同じように、過負荷的に。

『へい魘夢ちゃん。』球磨川が楽しそうに言う。『君、過負荷(マイナス)のことをてんで分かってないぜ』『そもそも、強化(プラス)なんてものが過負荷(マイナス)から生まれてくるわけがないじゃ無いか。』『あっれー、もしかして魘夢ちゃん、数学は苦手なのかい?』

「...」

数学なら、マイナスどうしの掛け算で生まれてくるのだが。

どちらかというと数学が苦手なのは球磨川だった。

 

『もしかして、「自分最強!」とか思っちゃった?』『自分が幸せ者だとか、思っちゃった?』『———甘ぇよ。』『過負荷(マイナス)って言うのはねぇ…』と、球磨川は一呼吸溜めて。

そして言い放つ。

 

 

———あくまでも欠点(マイナス)なんだぜ?

 

 

「…は?」魘夢が何を言っているんだこいつは、と顔から表情が抜ける。

何を当たり前なことを、という風に。

自分のことを棚に上げて。

『例えば「大嘘憑き(オールフィクション)」は「事勿れ主義」だね、今僕が持っている「却本作り(ブックメーカー)」だって、「好きな人とどこまでも一緒に堕ちていきたい」という思いから生まれているんだ』

「...何が、言いたいんだい?」

『じゃあ、君の「夢みがち乙女(オーバーノクタンブリスト)」はどうかな?』『魘夢ちゃん、君はどう思う?』『是非とも君の灰色の脳細胞に問いたいぜ』

「...さぁね」

『そっか、わからないか。』『じゃあ、僕の考察を教えてあげようか?』

「...もう、死ね。———鉄化!」魘夢は球磨川を人差し指で出す。

『僕が察するにさ。』が、しかし。

 

『「自意識過剰」、ってとこじゃ無いかな?』

———鉄でできた触手は現れず、普通の触手さえ襲ってこなかった。

 

『そういうことだ。』『今から僕は君の首を断つけどさ。あくまで僕は被害者だよね。』『てことはさ』『僕は悪くない。』

『君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い君が悪い』

 

        『君が悪くて———いい気味だ。』

 

「...何者なんだよ、お前。」

『え?言ってなかったっけ?』『じゃあ…ここで改めて自己紹介しよっかな。』『僕はね』

 

 

 

     混沌より這い寄る過負荷(マイナス)、球磨川禊さ。

 

 

 

『うん、じゃ、そういうとこで!』『さようなら』『また明日とか!』

そして、球磨川禊は唖然としている魘夢の横を通って、易々と首の骨を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

———と、終われないのが彼だ。

先程まで首の骨があった場所へ行ったが、()()()()()()

それどころか、いつの間にかあの気持ち悪い、ぐにょぐにょした肉の触手すらも消えていた。

それらから考察できることはただ1つだった。

『あ、あれ?』『...もしかして、魘夢ちゃん』

 

『...逃げた?』

 

♦︎♦︎♦︎

 

『———というわけさ。めでたしめでたし。』

「いや、逃げられてんじゃねぇか」

『おいおい、何言ってんだい?あれは戦略的撤退と言ってね』

「敵の擁護をしてどうするの、球磨川さん。」

 

たしかに。

 

まぁそういうことだ。

逃げられました。

 

...

逃げられました!

文句があるかい?文句があるなら僕に直接言えばいいのさ。ほら言えよ。僕は画面の中だぞ、ほら。目の前だぞ言えよ。だがその声は僕には聞こえないがなッ!

聞こえないんだからそれはもう無いに等しいよね?うん、無いね。オッケーオッケー。

 

つまり、僕は悪くない。

僕にだって休む権利はある———というわけで療養編が始まるよ。

…まぁ、療養だなんて口が裂けても(使い方あってる?)言えないほど、あれは過酷な訓練だったが。

 

 

 

 

                      《Happy nightmare》is C”LOSE”D

                                Good morning!




いや、そもそも球磨川先輩の螺子、学校の壁のコンクリート貫くから鉄も楽勝で貫くと思うんですけどね。

療養編スタート。しのぶちゃんのサイコパスが炸裂するよ(希望)


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番外編+訓練編
016 番外編 「ナシゴレン」前篇


唐突のナシゴレン。暇つぶしで書いた謎番外編です。面白さは期待しないで(


016

 

これは俺———我妻善逸が、胡蝶しのぶ邸で療養中に体験した、世にも恐ろしい出来事である。

 

早朝、四時。まだ鶏も鳴いていないこの時間帯。

『ところで恋と性欲って何が違うのかな、善逸ちゃん?』

「朝からする会話内容じゃねぇよ。」

冠石野ちゃんはまだ寝ているため、すでに目が覚めていた俺と球磨川で雑談していた。

球磨川曰く、これを男子会と言うそうだが、多分違う気がする。

やはりこういう話を球磨川とするたびに思うことなのだが、球磨川は確かに面白い人間だ。

でも、それ以上に掴みどころの無い男だと思う。

あぁそうそう、言うのを忘れていたけど俺はかなり耳がいい。

 

異常に———一般人以上に。

 

少なくとも「音」でその人の性格とか分かったりするくらいには。正直自分でも理屈は分かっていないのだが…。

でも。

 

 

球磨川だけは何一つ分からなかった。

 

 

———気持ち悪いくらい、ごちゃごちゃした黒だったんだ。

まぁ別にだから何だって話なんだけどな...閑話休題。

そんなこんなで暫くくだらない話をし続けていたのだが。

 

『...インドネシア及びマレーシアの焼き飯料理…か』

 

と、球磨川が突然言い始めた。

ほんともう、何の脈略も無しに。

 

 

……………???

 

 

えっと…。

何がだ、と一瞬かなり困惑したが、その目は虚ろで、もう救いようがないんじゃないかと思わせるような雰囲気だったので何かあったのかと少し心配になった。

...まぁ、こいつが俺の目の前でおかしいことばっかり言うのは普通なんだけどさ。

なんだか、今回はいつもと違う顔だったので一応尋ねてみることにした。

俺は優しいからな。

目の前のこいつとは違って。

「どうした?球磨川」

『インドネシア及びマレーシアの焼き飯料理』

「...?」

ついに気でも触れたか、こいつ。

うーん可哀想に。

 

 

「…で?まじでどうしたんだ?」

『いや、ちょっと今いきなり食べたくなった料理があってね...』『それのことを考えてただけさ。』

それであんな表情ができるのか、こいつ。

正気の沙汰ではない気がするんだけど。

「それがさっき狂ったように唱えてたやつか?焼き飯料理ならこっからちょっと行ったとこの店で作ってたぞ」

『いやいや、ナシゴレンをそんじゃそこらの焼き飯と一緒にしてもらったら困るぜ』『なんたって、インドネシア及びマレーシアの焼き飯料理だからな』

「あ?梨?まぁいいやとりあえずそんじゃそこらの焼き飯に謝れ。」

焼き飯に謝るって何だ。

『いや、ほんとこう言う時って無力だよね。人間って。』『もう届かないと分かっているのに、つい手を伸ばしてしまうんだ。』と、大袈裟な身振り手振りとともに話す球磨川。

なんで恋の物語みたいになってるんだ。

そこまで感動的な話にするつもりは毛頭無いだろうに。

『はぁ...ナシゴレン...現代に戻りたい...くそぅ、安心院(あんしんいん)さんめ...』と、謎のことを言いながら球磨川が溶け出したので、これはいかんと思って俺は咄嗟に閃いた救済案を出した。

「いや、ていうか、じゃあ作れば良いだろ」

『...』

突然ムクリと、球磨川が起き上がり、マジマジとこちらを見つめた。

気持ち悪いなぁもう。

『...もしかして善逸ちゃんって天才?』

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

天才と言われ調子に乗った俺は、ナシゴレンとやらを作る羽目になったんだ。

今思うと馬鹿だな、自分って思わずにはいられないよ。ははは。

全くもう。お茶目だなぁ俺は。

まぁ、そういうわけで、しのぶ邸の台所の使用許可を葵ちゃん(何者かは不明だが、ここで働いているかわい子ちゃんだ。)に貰って、早速作ることになった。

 

料理開始。

「で、まずどうしたら良いんだ?」

『さぁ?』

終わった。

いやいやいやいやいやいや。

 

「なんでさぁ作ろうってとこで作り方知らない宣言するの!?!?ばっかじゃねぇの!?」

『へ?いやー、なんとかなるかなぁって。』『当たって砕けろってよく言うだろ?』

ならねぇよ。

砕けるほど材料ねぇよ。

『大丈夫大丈夫。材料ならなんとなく覚えてるからさ』

「信用はしてないけど、まぁ言ってみろ」

えっとね...

 

・ニンニク

・唐辛子

・牛肉

・生野菜

・ケチャップ

・塩

 

『...ってとこだったはず』『多分な』『多分。』

「了解。じゃ、作ってみるか。俺、料理は美味いからさ」

『へぇ』『それは期待のし甲斐があるってもんだぜ。』『じゃあ僕は応援してるね。』

「お前も手伝うんだよ」というわけでしっかり作った。

失敗したら準備した食べ物が勿体無いしな。

ケチャップなんてものは無かったのでトマトを潰して代用した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして様々な奇跡が重なりに重なって完成。俺はついそれを見て拍手をしてしまった。

意外にも、めっちゃ良い匂いする。

...。

いやまぁ。

正直、全く信用していなかったんだけどね。

球磨川を信用したら絶対に後悔する事になると、この数日でしっかり刷り込まれたからな。

『酷くね?』

「いや、当然の評価だわ。今までの行動思い出せよお前」

『悪いけど僕、過去は振り返らない主義なんでね』『ほんとごめんね!』『でも、僕は悪くない』

「あーはいはい」

俺はもうその辺りでめんどくさくなって会話を無理やり切り、料理を食堂へ運んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

てなわけで試食!

「『いやマッズ!?」』

良かったのは匂いだけだった。

球磨川でさえ『うっそだぁ…』みたいな顔をしているので、恐らく本当に不味いのだろう。なんつーもんを生み出したんだ俺たちは。

『なんだこれ...』『これが、これが本当に僕の故郷の味か...?』

「いや…さっきお前インドの料理とか言ってなかったか?」

『今まで内緒にしてきたけどさ』『実は僕———インド人なんだよね。』『あと、これはインドネシアおよびマレーシアの料理だ。』『そこんとこ間違えるなよ?善逸ちゃん』

「いや、だとしたら無関係じゃねぇか」

お前何者なんだよ、ほんと。

キャラが濃すぎて俺の個性が薄くなってんだよ。もうこれ以上濃くなるのはやめてくれ。後生だから。

「まぁそうだな、まずは問題点を洗い出そうぜ」

『え?なんかあったかな...』『善逸ちゃんのナシゴレンへの愛が足りなかったかな?』

「どっからどう考えても分量測ってないことだね」

ちょっとだけ。

ほんっっっっっっっっのちょっとだけ球磨川を信用してしまったのだ。

俺が目を話している間に球磨川が『調味料入れとくよ?』と言っていたことを思い出す。

その時に決まっている。

その時じゃないことがあるだろうか。

いや、無い(反語)。

きっと『ん〜多分これくらいだよね〜☆』と言って塩大さじ10杯くらい入れやがったのだろう。

この脳死野郎め。

過去の自分を殴ってやりたい...なぜこいつに料理の一端を担わせたんだ。

「はぁ」

...まぁ過ぎたことは仕方がない。とりあえず今回は一旦全て水に流して(本当に台所に流すなんて勿体無いことはしない。もったいないおばけが出ないようにしっかり球磨川に全部食べさせた)、また明日作ることとしよう。

匂いから察するに、しっかり作れたら美味しいのは確実っぽいしな。

ていうか、もう葵ちゃんに頼んでも良いかも…。

そのほうが安全だ。

 

そう思いながら、僕は冠石野ちゃんと一緒に葵ちゃんが作っためっちゃ美味い朝食を食べた。

どんまい、球磨川。

すげぇ美味いぞ。

 

 

という訳で後編へ続く。

 

え?どこが怖い話だって?

 

いやいや。

 

こっからだよ———あいつの狂い具合は。

 

 

 

追伸

冠石野ちゃん、めっちゃ幸せそうに鮭を食べます。

か〜わ〜い〜い〜!

 

 




か〜わ〜い〜い〜!
というわけで一話挟んで後半に続きまっす。
そろそろ胡桃ちゃんのキャラデザを考えたいお年頃ですがいかがお過ごしでしょうか。きっと白髪ジト目美少女だと思います。誰か描いてくれ…俺の画力じゃ無理…!


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017 しのぶのパーフェクト体育教室

療養編でっす。というわけで、ゆっくりしていってね。


017

 

「はい、では皆さん体調良好なようなので、強化訓練を開始します。皆さんにはそもそもの体力が無いようですし。負傷後に普通行う機能回復訓練より少しきつい内容にしようと考えていますが、よろしいですね?」

朝7時。鶏が鳴く頃。

僕らへっぽこ隊(僕こと球磨川禊、我妻善逸ちゃん、冠石野胡桃ちゃんの3名)は、道場のような場所に集められ、この家の主であり、蟲柱であるエリートの胡蝶しのぶちゃんにそう告られた。

痛いところを突かれた、と球磨川禊は自身の体を眺める。

 

ひょろひょろの腕と脚。

太っても痩せてもいない微妙なお腹。

 

...うん、これは運動不足だな。

現代(あっち)でも過去(こっち)でも、わざわざ運動をしよう、と思うことは人生で一度も無かったし。

暇な時はいつも週刊少年ジャンプを読んでたからね。

これじゃ、鬼殺隊として周りについていけなくなるぜ。

...って。

あれ?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

僕は確か物凄く嫌々だったはずなんだけど...年中無休のイヤイヤ期だったはずなんだけど。

ま、いっか。

どうせ安心院(あんしんいん)さんの何かしらのスキルでしょ。

気にしない気にしない。

人間如きが気にしたら駄目だ。人外の行動なんて。

精神関与のスキルなんていくらでもあるだろうし。

 

に、してもだ。

機能回復訓練がどれ程のものかは知らないが、「訓練」と呼ばれているのだからキツいものなのは当然だろう。

ハッキリ言ってしまおう。

 

最弱(ぼく)()()なるなんて、あり得ないぜ?

 

それこそ、僕が強くなろうだなんて魘夢ちゃんもびっくりするくらいの自意識過剰具合だ。

冠石野ちゃんが引くくらいの、とも言えるね。

美意識のかけらも無い。

うん。

だとしたら、僕が参加したところでただしのぶちゃんの苦労が増すだけじゃないのかい?

それよりも、胡桃ちゃんや善逸ちゃんを訓練した方が、よっぽど甲斐があるってもんだ。

だよね?

僕は可愛い女の子の味方だからね。こういう小さい気配りはしていきたいんだ。

そう、ギャルゲーだと思ってもらっていい。

この女の子を喜ばすためにはどうしたらいいのか、常に最適解を考えることが大事だ。

確かに先人たちはこう言った。

 

急がば回れ。

あれは嘘だ。

 

...よし、人生で一回は言いたい台詞の一つを言えたぞ。

言ってないけど。

ちなみに僕はジョジョが好きなんだ。いつか来る僕の誕生日のために覚えておいておくれよ。

 

閑話休題。

それで、だ。きっと僕だけじゃなくて、読者(君たち)も思ったことがあるはずだぜ?

———急いでんなら近道した方が良いに決まってる、ってな。

急がば回れだなんて、所詮アブノーマルなのだ。

異常性とも言えるね。

まぁそういうことで。

これらのことから、僕が言える結論はひとつだ。

 

———この僕がついていける訳ねぇだろ。

 

『っていうことで僕は今日、週刊少年ジャンプをコンビニで買わないといけないから!』『今日の訓練はお休みさせてもらうぜ!』『じゃあな皆!』『陰ながら応援して...る、よ。』『あ、あれ?しのぶちゃん?どうしたんだい?』

「...」

気付いたら後ろで僕の肩を掴んでいた。

もちろんとびっきりに笑顔で。

笑顔なのだが、そこに騙されてはいけない。強さが半端じゃ無い。

DSなら壊れてるぜ?これ。

『...』『僕は、悪くない。』

「さて、始めましょう!我妻さん、冠石野さん、———そして、球磨川さん!」

 

なんで一節置いたか、僕には全く理由が分からないが———

やれやれ。

 

いつも通りの、嫌な予感がするぜ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

次の日。

僕、善逸ちゃん、胡桃ちゃんの3人は部屋のベッドで硬直していた。

硬直というか、死んでいた。

死後硬直である。

まぁ、強化訓練で何があったのかというのを説明しておこう。

訓練。

基礎の成っていない僕は、ただただ腹筋、背筋、スクワット等を行っただけである。

一日中。

そりゃあもちろん、過負荷(マイナス)である僕が言うことではないんだけどさ———

 

狂ってるわ。阿保か。

「だ、大丈夫か球磨川...あっ痛...」

因みに体はしっかり引き締まっている善逸ちゃんと胡桃ちゃんは(胡桃ちゃんの腹筋は見たことがないけど。いつか見る機会があることを祈る)、僕よりは肉体的苦痛は少ないだろうが、代わりに精神的な苦痛が加わった。

らしい。

『僕は大丈夫だぜ、善逸ちゃん。』『それにしても、君はよくもまぁあんな()()()()()訓練をしておきながら、絶望的な顔ができるね。』『なんたって、女の子に触ってもらえるんだぜ?』『ベタベタ、ベタベタと。』『いちゃいちゃ、いちゃいちゃとさ。』『君の本望じゃないのかい?』

「いや、お前さ、浅はかなんだよ...思考がさ...いやまぁ、俺も最初はそう思ってたけどさ...女の子に連敗しまくるのって、かなりヤバいぞ...」

ふむ。

まぁ負けっぱなしが苦痛というのは、()()()()()の僕からしたら、全くわからない感情だけれども...

どんな内容の勝負か、詳しくは分からないが要するに真剣白羽取りのお茶バージョンみたいな感じだったと思う。

先にお茶を取った方が、相手にそれをぶっかけることができる。

あ、そうそう。それとマット運動(by girls)や、ごく普通の鬼ごっこもしていた。

 

因みに善逸ちゃんと胡桃ちゃんが戦った相手は栗花落(つゆり)カナヲという子だ。

この子も例に倣ってかわい子ちゃんである。

此処には女の子が可愛くなる空気でも流れているのだろうか。

最高じゃねぇか。

『...でさ、胡桃ちゃん、君はどうしてそんなに元気なんだい?』

先程から会話に参加しない胡桃ちゃん。恐らくは疲労している僕らに「会話」という動きをさせないための優しさなのだろう。

先程から話していなかったため、読者からすると文字列では僕ら(ここでは僕と善逸ちゃんのことだ)と同じように疲れているのだと思うだろう。

が、実際はそんなことなく、元気な顔でロボットダンスをしていた。

...

いや、胡桃ちゃんがロボット知ってる訳ないよな...

何ダンスのつもりだろう。

まぁでもこれもまた、硬直、であると言えよう。

死後では無いにしても。

ていうか、横でそんなことをしていた方が休めないということに気付いていないのだろうか、この子は。

優しいんだけどね。ちょっと空振りすぎだね。僕から言わせてみれば、まだまだ甘ちゃんだ。

...が、その甘さ、嫌いじゃないぜ。

「ま、凄く難しいな事なので分からなくて大丈夫ですよ、球磨川さん。...嘘です。至極簡単なことですよ、球磨川さん。ばーかばーか。」

イラッときた。

『hahaha、愉快なジョークだね!』『今から君のお口で図画工作してやろうか、兄弟(ブラザー)?』

「それじゃ化物語になっちゃいますよ、球磨川さん。お口にホッチキスを入れるのは戦場ヶ原ちゃんの専売特許だよ、兄さん?」

「いや、誰であってもしたらいけないだろそれ...あと誰だ戦場ヶ原さん。」

『あぁ、体重が無い女の子だぜ。』

「なんだそれ」と、最後の一言で作り話だと判断したのか、目を閉じて眠る準備をした。

『おいおい、信じてくれないのかい?』『親友の言葉を。』『酷いなぁ全く。』『何か良いことでもあったのかい?』

まぁ、作り話なんだけどね。

閑話休題。

「まぁ、どうして疲れていないのかって、ただ私がかなり鍛えているだけなんですけどね。...嘘です。「大嘘(オールフィク)」...あ、善逸さんがいるから「大嘘憑き」って言った方が良いかな。英語を使えない善逸さんが。」

「ついに俺にまで毒牙を向けてきたな」と、唐突に目を開いて善逸ちゃんが言った。

起きてたのかよ。

「いや、うるさいわ。眠れる訳ないだろこの状況下。」

『そうかい?僕なら床でも廊下でも外でも眠れるけどね』

「お前はもっと危機感を持て」

善逸ちゃんは危機感を持ちすぎだと思うけど。

まぁいいや。

『ふぅん。じゃ、訓練での「疲労」を「無かったこと」にしたってことかい?』

「や、違いますよ。訓練中です。『コップを掴むまでの時間』を『無かったこと』にしたりとか...」

『なるほどねぇ...』『僕よりも上手い使い方してるじゃねぇか。』『流石胡桃ちゃんだ。』『僕なんか君の足元にも及ばないぜ』

「球磨川ってよく誰かの靴下になるよな...」

その言い方はどうかと思うけど。

まぁ、要するに僕ら(胡桃ちゃんを除く)は相当に疲弊していた。

いくら大量の貨幣を貰ったとしても、この疲れが癒えるとは言えないだろう。

なんちゃって。

 

ちなみに今日は休憩。訓練は無い日だ。

幸せの絶頂である。

...

本当は、これを療養と言うはずなんだけどね...

あ、療養はもうしたんだっけか。失敬失敬。

そしてベッドに寝転がる。

それにしても、今日は暇だな(休むと言う選択肢は僕の中には無い)と、ぼーっと窓から見える青空を見上げながら思う。

今日は強化訓練(凶)が無いからね———

あ。

そうだ。そういえば。そうだった。そうなんだ。そうなんですけど。

する事が———しなければならない事が一つあった。

 

僕はそう思いたってすぐスっと立ち上がり、バッと宙に自分の学ランを広げ、そのまま羽織った。

そして、いつものように()()()()()()()、善逸ちゃん、そして胡桃ちゃんにこう言う。

 

『———ナシゴレン、作るぜ』

「...あぁやっぱそうだよねぇもう最ッ悪だお前!!!!!」善逸ちゃんが叫ぶの声が響いた。

...おいおい、そんなに騒いだら、またしのぶちゃんが来るぜ?

っと、ほら見たことか。こっちに向かってくる音が聞こえる。

 

ま、この音が葵ちゃんの足音じゃ無かったら、無視することとしようかな。

僕は悪くないしね。

 

 

ということでナシゴレン作り後編、はっじまーるよー!

 




ちょっとずつ僕ですらよく分からない伏線を積み立てていって、いつかそれらを崩そうかなっていう作戦です。
我ながら策士ですね...!
はい。
次回、番外編後篇です。原作で人気のあの子が出るよ。


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018 番外編「ナシゴレン」後篇

番外編後半戦です。ちなみに僕はナシゴレン未経験者ですがお手柔らかに。


018

 

「この話から見始めた!」という奇異な読者がいなければ、今何が起こっているのかは分かるだろう。

時間帯は午前10時。

百熱の太陽とは対照的に、俺らは絶望の真っ只中だった。

俺こと我妻善逸(あがつまぜんいつ)、そして冠石野胡桃(かぶしのくるみ)球磨川禊(くまがわみそぎ)の鶴の一声(悪魔の囁き?)で、訓練後のとんでもない疲労感の中、ナシゴレン(?)作りを再開することとなった。

昨日から「その痛みは努力の証です!」と言って「疲労」を「無かったこと」にしてくれていなかった冠石野ちゃんがようやく慈悲で能力を行使してくれたのが唯一の救いだ。

うんうん。

流石冠石野ちゃんだよね。

球磨川とは真逆の心優しい子だ。

頭を撫でてやりたくなるね。

だが、それでも絶望的な状況であることには間違いないため、少しでも負担を軽減するために、球磨川には傍観してもらうことにした。

『おいおい、発案者の僕が参加しないとは何事だい?』『それに椅子に縛りつけたりなんかしてさ。』『悪いけど、あいにく僕は縄抜けのプロとしてサーカス団では一躍人気者になったこともあるんだぜ?』

「はいはい、分かった分かった。...で、どうすりゃ良いかな?冠石野ちゃん。一応材料はこれなんだけどさ...」

「ふむふむ、なるほどですね...まぁ、大丈夫でしょう。なんたって私は天才料理人として時の人となったこともある女ですからね。」

「冠石野ちゃんもあの馬鹿と同じ属性なのか...まぁいいや。やってみよっか。ここまで来ると俺も完成させたくなってきた。」

「了解です」

『了解です』

「お前は本当に黙ってろ」

『おいおい、そんなに怒るなよ』『善逸ちゃんは元気がいいなぁ、何か良いことでもあったのかい?』

「お前は廃墟を転々とするアロハシャツのおっさんにでもなりたいのか?」

いや、誰だそれは…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

というわけで(どういうわけで?)俺と冠石野ちゃんが本気でナシゴレン作りに取り掛かり、そして完成した。

うんうん。匂いも良いし、見た目も最高の出来栄えだ。

我ながら惚れ惚れする。

...いや、飾り付けに関しては俺にセンスが全く無かったから冠石野ちゃんに任せたんだけどね。

ナシゴレンの正解は分からないけど、料理としては割と成功なんじゃないだろうか?

球磨川が縄抜けして塩をまぶしていない限りは。

...うん、まぁ大丈夫そうだ。ずっとさっきから座ってニヤニヤしているのは事あるごとに確認している。

何であんなに人の神経を逆撫でできるのだろうか、球磨川の笑顔は。

軽く論文を書けそうだ。

そして、チラチラ見る俺の視線を感じ取ったのか、球磨川がようやく完成に気付き、

『お、もう完成したのかい!?』『流石胡桃ちゃんだね』『もうさっきからお腹がペコペコでさぁ...』と言った。

「俺も作ったんだけどね...まぁいいや。そんな球磨川に朗報だ。ほら、冠石野ちゃん。」

「了解です」

そう言って冠石野ちゃんは縛られている球磨川の前に料理を置き、そして箸で掬った。

そして少し照れながら———

 

 

「はい、あーん」

 

 

と、かなり破壊力のある台詞を放った。

その瞬間、小さな部屋に電撃が走る!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

…ちなみにこれは俺の作戦だ。

何のって?

ははは、決まっているだろう。

 

早く地獄(これ)を終わらせる大作戦だよ。

 

まぁ簡単に説明すると「可愛い女の子に『あーん』された後『美味しい?』って聞かれて『美味しくない』って答える人いないだろ」っていう作戦なんだけど...

ちょっと浅はか過ぎたかな。

 

もう完成したんだからあとはどうだって良いんだよね、正直。

早く葵ちゃんの美味しい昼食を食べて落ち着きたい。

そう思ってしまうと、なんか球磨川の思いなんてどうでもよくなってしまった。

冠石野ちゃんも同じ心情だったらしく、易々と俺の作戦に乗ってくれた。

...いや。

俺が言えることではないけど、ここに球磨川の味方はいないのか。

ちょっと可哀想になってくるわ。

いつもごめんな。

改めることは無いよ。

 

閑話休題。

『もしかして僕のこと好きなのかい...!?』とか一通りの漫才をしたがそこは本編とはどうでもいいので割愛しよう。

というわけで試食だ。

『よっし、じゃあ頂いちゃうぜ』『いただきまーっす!』

食べた。

すげぇ嬉しそう...なんだかこっちが羨ましくなってきた。

くそっ...策士策に溺れるとはこのことか...。

恐ろしい限りだ。

「お、美味しい、かな…?」

———よし来た!

そしてこの後の答えは男として一つに決まっている!

決まっているよな!

信じてるぜ球磨川!

 

 

『ふむふむ、なるほどねぇ...』

『美味しいよ』

『うん、たしかに美味しい』

『これはこれで』

『…でもね』

『まぁなんというか、あのさ』

 

 

    『なんか足りないんだよね...』

 

 

俺と冠石野ちゃんがズルッと盛大に転けた。

さながら漫才だ。残念ながら夫婦漫才ではないけどね!

冠石野ちゃんなんて座っていたのに。

いや、問題はそこじゃなくて。

「嘘だろお前!!!!女の子に!!あーんされて!!!!美味い以外のことを言うなよ!!!馬鹿なの!?」

「ちょっと、あの、改めてあーんしたという事実を突きつけられると恥ずかしいんだよね...」

「あっごめ...」

『おっと、善逸ちゃんが冠石野ちゃんを悲しませた!』『日本男児としてあるまじき行動だぜ、全くもう!』

「最低だなお前!?」

最低だった。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「まじか...まじか球磨川...」

『え、今の僕が悪いの!?』

「あぁ、お前が悪い。お前以外誰も悪くない」

なんてことだ。

抜け目なんてないと思っていたのに。

球磨川が空気を読めないことを完全に忘れていた。

「えっと...じゃあどうするの?足りないって何がかな?」

『んー...なんだろうな...ちょっと2人も食べてみなよ』

「良いけど、俺らナシゴレンがなにか分からないから不足はわかんねぇぞ。...いただきます。...うん、まぁ美味いと思うけど」

「はい、なかなか美味しいですよ?」

『いやいやいや』『本物のナシゴレンにはまだ程遠いぜ』『別物といってもいい』『これじゃカキゴレンだ』

「訳わかんないけどムカつく...」

一回殴ってやろうかな、こいつ。

にしても。

多分、ナシゴレンの「完全体」を食べさせなければ、球磨川の狂気(これ)は止まらないだろう。

行き過ぎた愛って、恐ろしい。

とすると、どうするべきか———

 

「...試行錯誤、かな?」と、冠石野ちゃんが首を傾げる。可愛い。

「それしかないよなぁ...あーもったいねぇ。失敗作は全部食えよ、球磨川」

『あはは、それは面白い冗だ「わー!何やってるの皆!そしてなんで君は縛られてるのかな!?格好良い..

あ!美味しそう!もしかしてこれって!」

 

 

   ———ナシゴレンじゃない!?

 

 

「『「あ。」』」

 

僕ら3人は、綺麗なタイミングで言った。

いや、というか。

誰だ、この人。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

この美女は一体全体何者かと思ったのだが、このピンク色の髪と巨乳は。

間違いなく「恋柱」———甘露寺蜜璃である。

…なんだか、この言い方だと俺が女性を髪と胸で判断しているように思われてしまいそうなので、そこは否定しておこう。

違うぞ。本当だ。

「あの、甘露寺さん、どうしてナシゴレンを知っているんですか...?」

「私ね、料理が好きでねぇ!あ、食べるのも作るのもだよ?それで海外の料理も色々作ったりしてるんだよね!最近はパンケーキ作りにハマっててさ、自家製の蜂蜜で食べたらもうほんと天国なの.....」

なるほど。

パンケーキについてもっと詳しく聞きたいところではあるが、それはまたの機会があることを祈ろう。

今回は、そこじゃない。

『へぇ、じゃあ蜜璃ちゃん、もしかするとナシゴレンを作れたりするのかい?』と、球磨川は馴れ馴れしく聞いた。

「えぇ、もちろん!」と、怒ることなく笑顔で返す甘露寺さん。

器が大きいなぁ。

いや、胸の大きさの比喩とかじゃなくてね。

本当だよ?本当。

信じてくれ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

で、甘露寺さんがご好意でイチからナシゴレンを作ってくれたんだけれども。

びっくりするぐらい違う味になった。

馬鹿みたいに美味しい。

何が足りなかったのか。

おそらく辛味が強いせいで「辛いだけの」料理となっていたのだろう。

甘みが必要だった。

 

そう、例えば———卵。

 

目玉焼きを乗せて食べるだけで格段に美味しくなったのが目に見えて分かる。

流石に材料忘れてたらどうにもならねぇよ、球磨川。

「へぇ、美味しいんだね、これ」と、冠石野ちゃんもあまり表情に出ないなりに美味しそうに食べている。

か、可愛い…。

そして当の球磨川も、

『うわっなんだこれ...』『今まで食べたナシゴレンの中で一番美味しいんだけど...?』

と嬉しそうに、困惑しながら食べていた。

か、可愛くねぇ…。

「あらもう、お世辞が上手いなぁ禊ちゃんは!」と、甘露寺さんも体をくねくねさせて嬉しそうにしていた。

可愛い…ッ!

ちなみにお世辞ではない。

本当に、めっちゃくちゃ美味しいのだ。

俺らが最初に作ったものとはまさに月とスッポンだった。これは形が同じだけの別物だ。

食レポとか苦手だから「美味しい」しか言えないけどさ...。

『ふぅ』『いや、これは大満足だぜ』『ありがとう、蜜璃ちゃん』『良かったらあとでレシピを書いておいてくれないかい?』と球磨川。だから敬語を使え。

あと多分、作るのは僕か冠石野ちゃんだよな?

「お安い御用よ!いやぁ気にいってくれて嬉しい!」と満面の笑みの甘露寺さん。

可愛い。

台所に、笑顔が溢れる———

 

 

———ちなみにその日の夕食は、球磨川が作ったナシゴレンだったのだが。

 

びっっっっくりするくらい不味かった。

なんでだよ。

なんでレシピ通りにやってこうなるの、と俺と冠石野は泣いた。

『え!?そんな泣くほど美味しいのかい!?』と喜ぶ球磨川の声が本当にウザかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

———と、まぁ。

そんなこんなでナシゴレンを巡った何かしらは終わった。

あ、そうそう。

勘違いする人もいそうなので言っておくが、これは制作2回目の話ではないということも話しておこう。

これ以前にも何回か行っており、一度は球磨川の「却本作り」で俺の「ナシゴレン愛」を球磨川と同等にしたり(強制)してみたのだが、ナイフの扱いが下手になりすぎたため断念した。

本当に、長かったと、振り返ってみると感動すら覚えるね。

まさかあのクソ不味い料理から、あそこまで美味しいものに辿り着けるなんて。

他力本願だけど...

まぁでも暫くは球磨川も大人しくしてくれるだろう...おっと。

球磨川が2階で僕を呼んでいる。

嫌な予感がするぜ。

けど、今回の話はここまでだな。

球磨川のことは無視することにするよ。

仕方ない仕方ない。

じゃないと長くなりすぎて今ですら少ない読者が去ってしまうもんな。

まさに僕は悪くない、ってやつだ。

 

 

そういうことで、お相手はこの俺、我妻善逸でした。お疲れ様!ここまで読んでくれてありがとう!

 

                     《Make Make Make!》is nasi “goal”eng.

                               Delicious!

 

 




はい、と言う訳です。次回からついに遊郭編です。よろしくね。
感想、評価等も宜しければ。


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遊郭編
019 全開浴衣先輩


タイトルからわかると思いますが(わからねぇよ)、遊郭編スタートです
あ、それとお気に入り30件突破しました。本当にありがとうございます。

ま、舞台設定的に仕方がありませんが直接的ではないにしても微量の下ネタはあります。ご注意を。


不健全?

三代欲求に従ってるだけなんだから健全だろ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

019

 

満月が闇の中で美しく光る深夜。

季節は夏真っ盛りであり、こんな夜ですら暑さを感じる。

嫌な時期だ、全く。

そんな夜の、冠石野ちゃんが深い睡眠に入った頃(ノンレム睡眠って言うんだっけ?レム睡眠?どっちだったかな)のこと。

『あー、もうほんと嫌だなぁ。生きていけねー。お嫁に行けねー。』

僕こと球磨川禊は珍しく凹んでいた。

そして善逸ちゃんはそれを慰めているという、かなり滑稽な状況になっていた。

「いや、そこまでのことではねぇだろ...?あとどっちみちお前はお嫁には行けないから」

『いやいや...あの決め台詞を忘れるを忘れるということはね、善逸ちゃん』『僕のアイデンティティの喪失を意味するんだぜ』

「そんなとんでもない台詞だったのか、あれ。えっと...何だっけ」

 

『———「また勝てなかった」、だよ。』

 

一体全体いつの話をしているのかといえば、記憶に新しい、無限列車での話である。

魘夢に逃げられたとき、疲労感などが唐突に襲ってきて、うっかり言うのを忘れてしまっていた。

『しかも、煉獄さんの行方について一ミリも描写しなかったし...』『語り部としてどうなんだ、僕は...』

「そっちは結構な大問題だったな...」

『まぁそれはどうだっていいけどさ』

「良くない良くない。どっちかっていうとそっちのほうが大問題だわ」

そうかなぁ。

あ、ちなみに煉獄さんは普通に無傷で乗客全員を守り切っていたよ。

いつもの笑顔で眠っている善逸ちゃんを担いでいたんだけどさ。

全て終わった後にあの笑顔を見ると少し狂気を感じたぜ。

家に帰るときまでずっと笑顔だったから尚更、ね。

僕らと別れた途端泣いてたりしないかな———もしそうだったら、ちょっとオチがついて面白いんだけど。

『あー、まじでやっちまった。』『これじゃあ僕が勝てたみたいな印象を読者に与えてしまうぜ』

「いや、それは無い」

と、善逸ちゃんは言ったが、おそらく球磨川の弱者ぶりをしっかり理解しているものは一体どれほどいるのだろうか。

ちょっと気になるな。

是非ともZ◯Pとかで街角インタビューして欲しい。

『はぁ……ほんと辛たん……』

「お前ほんとキャラブレっブレだな」

『まじガン萎えだぜ』『この辛さは()()に行かなければ消えないだろうなぁ』

「?あれってなんだよ。またナシゴレンか?」

『おいおい』『こんな夜更けにナシゴレンを食べるだなんて』『馬鹿としか言いようがないぜ、善逸ちゃん?』

「ド早朝に作り始めた馬鹿はどこのどいつだ」

『いや、ドイツじゃなくてインドネシア及びマレーシアだ』

「失せろ」

失せろって言われた……。

いやキャラがブレまくっているのは一体どっちだよ。どっちもか。どっちもだな、うん。

 

閑話休題。

「で?あれって何だよ」

『お、気になっちゃう!?善逸ちゃん、気になってるのかな!?』

「……(怒りを堪える表情)」

『あれ?善逸ちゃんどうして「怒りを堪える表情」だなんて言っているんだい?』

「空気の読めない球磨川が俺の思いに気付くためだよ」

『思い……』『想いじゃなくて?』『はは、全くもう善逸ちゃんは』『君のことは何でも、言わなくても分かってるからさ』

「重いわ」

『おいおい』『この時代にいるからには行かなければならない場所があるだろう?』『同じ()()()()()分からないとは言わせないぜ』

「同じ、男子としてって……え、いやいや、まさかだよな?」

『そのまさかだぜ』

そう言って、僕は目にも留まらぬ速さで(目に留められていないだけかもしれないけど)寝巻きから学ランへと着替えた。

そしてこう告げる。

 

     『———遊郭、だよ』

 

今の台詞、括弧つけずに話そうかと一瞬迷い、ギリギリで思い止まった僕を誰か褒めてほしい。

 

♦︎♦︎♦︎

 

遊郭とは何か。

名前の響きがとてつもなくカッコいいから、誤解のないように言っておくが。

 

まぁ、要するに風俗である。

 

『現代よりも規制法律が整っていないこの時代!』『きっと学生の僕でも行けるはずだ!』『なら、行かないという選択肢は無いぜ!』

そう。

実はこのプラン、僕が過去へいったと分かった瞬間から練っていた。

……いや、それは言い過ぎたが、でもその日の夜には既に思いついていた。

我ながら思考回路が狂っているぜ。

「そうかよ……俺は行かねぇぞ。今日はもう眠ぃんだ。あと日輪刀持っていくの忘れんなよ」

『オッケー、持って行っとくぜ。じゃあ明日感想伝えるね』

「誰がお前の、せ……あー、淫らなあれの話を聞くか馬鹿。」

『いや、あれって……』『善逸ちゃんって、女の子好きな割にピュアだよね?』

電車でも可愛い女の子がいる度にニヤニヤしながら「ねぇ今の子すっごい可愛くなかった???」なんて言ってくるしさぁ。

やっぱりこういうキャラ、僕の世界線にはいないな。

1人くらいいても良さそうだけど……

 

閑話休題。

『ったく、しょうがないなぁ善逸ちゃんは』『僕は一人で全開浴衣を楽しんで来るぜ』

「あ?全開浴衣ってなんだよ」

『あぁ、僕の最近のトレンドさ』『浴衣の下に何も着ていないっていうことなんだけどね』『清楚の代名詞とも言える浴衣を着た女の子が、その下には何も着ていないというギャップに、僕の中に来るものがあるんだよね』

「お前に来るものは警察だ」

辛辣だなぁ。

前々から思ってたけど、意外と善逸ちゃんって毒舌なんだよね。

いつか、どっかのタイミングでめちゃくちゃ暴言吐くキャラになるのが楽しみだ。

『分かったよ。』『じゃ、行ってくるぜ』『13歳くらいの女の子を探しに』

「おう、いってらっしゃ……」

 

「13歳?」

 

♦︎♦︎♦︎

 

ちなみに13歳というのはもちろん冗談である。

しっかり訂正しておかないと、最近は都条例が厳しいからね。

ロリコンには息苦しい社会だぜ。ちなみに僕は違う。

ま、ストライクゾーンは広いけどね。

前も言ったけど、僕は惚れやすい性格をしているんだ。...惚れられたことは無いけど。

だから僕に彼女はいた事がない。

……ていうか、片っ端から螺子伏せてたから男女問わず人が寄り付かないだけなんだけどね。

ま、でも僕は悪くないぜ。

僕の冗談を笑うだなんて最低な人間は、螺子伏せられて当然だろう?

 

———なんて、一人で考えながら歩いていると、ようやくそれらの建物が並ぶ場所にたどり着いた。

うん。

現代とは違って目に毒じゃなくていいね。

やっぱりそれくらい、楽しみの少ない大正時代には日常に寄り添うものだったってことかな?

いや、単純に技術不足か。

ネオンなんてある訳ないし。

 

『さてと、何処に行こうかなっと……』

物件探しのお時間だ。

ということでぶらぶらと歩き回ったのだが。

…..まぁ、どこが良いか、だなんて純情な僕には全く分からないため、結局は一番大きいところを選んだ。

名前は「吉原」だと思う。

達筆すぎて読みづらかったから多分だけど……。

いや、もしかしてここら辺一帯が全部「吉原」っていう遊郭地なのかな?

だとしたら幕府公認って恐ろしすぎるぜ...?

入ってみると、そこは現代の高級旅館のように美しい内装だった。

すげぇ、と純粋に思う。

儲かってるんだろうなぁ。

日本のビル・ゲイツって感じかな。

「いらっしゃいませ」と、勝手にあちこち見て回っていると、凛とした女性が現れた。

美人すぎるくらい美人だった。

……あれ?今のところ僕、美人にしか会ってなくない?

ラッキースケベの下位互換...いや、上位互換みたいなものかな?

もしかすると安心院(あんしんいん)さんがこっそり()()()()スキルを僕に使ってくれていたのかもしれない。

たまには良いところあるなぁ、安心院さんも!君のそういうのが大好きなんだぜ、僕は。

……っと、そんなこと言っていたら次に死んだ時にまた色々言われてしまう。やめておこう。

あー、いや、違った。

僕、もう「大嘘憑き(オールフィクション)」持ってないんだった。

つーことは生き返れないから...安心院さんと会えないのかな?どうなんだろう。元の時間軸に戻れる可能性も無きにしも非ずだけど。

ま、いいや。

とりあえず、もしそうなんだとすればToLOVEる(トラブル)展開を期待せずにはいられないぜ。

と、そんなやましい事やらなんやらの考え事をしながら

『どうもどうも!僕の名前は球磨川禊です!よろしく仲良くしてください!』『そうだね...とりあえずお金はたっぷりあるから、ここで一番可愛い子を紹介してくれるかな?』と、爽やかに言ってみせた。

ちなみにお金は善逸ちゃんのものである?

許可?

あぁ、うん。どうだったかな。

忘れちった。……ま、今はそんなことどうでもいい。

とにかく全開浴衣を鑑賞したいのだ。

「一番美人の花魁ですね。えぇ、大変別嬪なのがいますよ。」

蕨姫(わらびひめ)、と大声で呼んだ。

 

すると、15秒もかからずにひとりの女の子が来た。

 

清楚で———それでいて少女のような可愛さも持ち合わせる、完璧な女性だった。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「球磨川様でございますね。本日はこの私、蕨姫が()()()させていただきますので、何かとよろしゅうお願いします」

『うん、こちらこそだぜ、かわい子ちゃん』『こんなところまできたんだから』『今日は是非とも夢にまで見た全開浴衣をやってもらいたいものだ!』

「ぜ、全開浴衣ですか……いいですよ」

なんで知ってるんだよ。

……に、しても。

うーん、すっごい美しい。

胡桃ちゃんのような無垢そうな女の子も良いが、こういう「大人の女性」もまた堪らない。

ホストに貢ぐ女性の気持ちが理解できる気がするぜ。

()()()()、人間の気持ちが。

『じゃ、早速……ていうかまず最初ってどうしたらいいんだっけ』『ほら、僕って純情だからさ』

「……うふふ、面白いことをおっしゃりますね。ですがご安心ください、球磨川様。球磨川様は私に身を委ねていただければ———」

 

球磨川は、すっかり油断してしまっていた。

だからこそ———

言わなくてもよかったことを言ってしまった。

気づかなくてもよかったことを気付いてしまった。

またしても敗北に、近づいてしまった。

 

『———あれ?』『今気付いたけど』『君ってもしかして』

 

 

『.... × × × × × × ×?』

 

 

 

 

その日、混沌より這い寄る過負荷(マイナス)、球磨川禊は失踪した。

 

満月が、綺麗な夜だった——————

 

 

 




ちなみに冒頭のやつは完全に僕のミスですね。煉獄兄貴のこと一ミリも覚えていませんでした(
大変申し訳ないです。

遊郭編。どうなる球磨川。
まぁ負けるんだろうけど。


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020 サバサバ系蛇

そういえばタイトルって「かふかの刃」なのか「マイナスの刃」なのか..僕は原作寄りの名前なので「かふかの刃」って呼んでいますが、まぁ皆さんにお任せします。


020

 

「...起きます。おはよう。」

さーて問題。

私は誰でしょう。ヒントは冠石野胡桃です。

シンキングターイム。チックタック、チックタック。

 

はい、流石にもうお分かりになったでしょうかね。

えぇ、私は冠石野胡桃です。

正解した方、おめでとうございまーす。景品は何も無いけどね。

...朝からちょっとテンションがおかしかった。

そういえば「おかしい」って漢字で「可笑しい」って書くみたいなんだけど、これってちょっと面白くないかな?

おかしすぎて笑えてきちゃうぜ、みたいな感じなのかな。

まぁいいや。

とりあえず、体を起こす。

そして背伸び。

オビワン・セノービ。

...いや、誰だそいつは。

そしていつもならこの後、習慣になっている滝行をするのだが(嘘)、今日はちょっと体が重いのでパスする事にした。

ナイスパスだね。

なんというか、その、凄く、嫌な予感がするのだ。

ちなみに私の嫌な予感レーダー的中率は87%だよ。

機械ならポンコツなのかもしれないけれど、人間でこの的中率はもう完璧といっても過言ではないと思う。

最近なら球磨川さんに出会ったときとか。

私、ヘタレだから普段言えないけどさ。アイツ、かなりヤバいよね。

性格といい、動きといい、武器といい———だって、螺子だよ?螺子。

螺子伏せる、だなんて洒落た事言ってさぁ。

おかしいよね、ほんと。

笑えてきちゃう。

でも、それでも憎めないのはどうしてなんだろうね。

彼の秘められた魅力なのか、はたまた私がまたしてもお人好しを発動しているだけなのか。

 

閑話休題。

時計を見ると、既に10時。

ほぼ頭の真上で、日が燦々(さんさん)と光り輝いていた。

あっぶねー。

今日が修行の日じゃなくて助かった。

でもこの時間帯、屋敷のどこかをフラフラしている球磨川さんならともかく、我妻さんはここにいるはずなんだけど...

あれ?今更だけど、どうして男女で部屋同じなんだよ。

部屋が足りなかったのかな。うん、なら仕方ないね。

「...いや、そんな事ないけど。まぁ、一回我妻さん捜索しましょうかねぇ。どうせ暇...」

 

バァァン!!

 

と、私が独り言を言い終える前に、大きな音でそのセリフは遮られた。

なんの音だ、と思ったら部屋の扉の音だった。

びっくりしたー。

音量大きすぎて銃声かと思っちゃった。

そして、その扉を開けた主が酷く焦燥しきっていることを確認して、私は二度驚いた。

お買い得だね。

で、その大音量の犯人は———

 

「冠石野ちゃん、やばい」

 

「———球磨川が、いない。」

 

我妻さんだった。

今何て言った?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

球磨川さんが失踪した。

最初はそう聞いても何の不安も抱かなかった。

が、我妻さんによる、「屋敷の人が総動員で屋敷内と辺り一帯を探し回ったがいなかった」という事実のプレゼン(チグハグだった)を聞き、事の重大さに気づいた。

以前、我妻さんが「球磨川、事情は教えてくれねぇが帰る場所が無いんだとよ」と言っていたのを思い出す。

どこにも帰らない———帰れない。

なら、()()()()()()

 

「我妻さん、心当たりってあるかな?」

「いや、心当たりっつても、アイツ自分の事あんまり教えてくれなかったし...」

「ふむ...じゃあ昨日、何か不自然なところはありました?」

「冠石野ちゃん、敬語とタメ口を使い分けるのってどうしてなのかな...いや、特に変なところはなかったけ」

あ。

我妻さんがそう言った。

何かを思い出した時の顔だ———早急に教えて欲しいのだが、顔を真っ赤にするばかりで教えてくれそうもない。

なのでもう自分から問いただす。

「あいつぁ今何処にいるんだ?あぁ?」

「なんで取り調べ風なんだよ。いやまぁ、その、あのー、うん。」

銃版(テンプレート)

「あー何何何!ごめんってば頼むから銃口を向けないで!遊郭!遊郭に行ったんだよはいこれで満足ですか!」

「...ッ!?ゆ、遊郭って...」

()()()()()()

「...」

「...」

 

静寂。

 

...うっそだー球磨川さん。

そういう事だけはしないと思ってたよ。

「ふぅん...じゃ、今現在、球磨川さんは酒池肉林状態である可能性もある訳ですね。というかその可能性しか無いですね。よし、今からその店に殴り込みに行くぞ」

「いや、流石にそんなことは...第一、アイツは確か一文なしだった筈だからお金なんて持ってねぇ———あれ?」

と、ポケットに手を突っ込んだのち、驚愕の表情をこちらに見せた。

そして自身のありとあらゆる場所、そしてこの部屋も隈なく調べる我妻さん。

そして「無い...」と一言。

何が無いんだ。

「?どうしたの、我妻さん」

「やばいやばいやばいやばい何処だ何処だ何処だ何処だ...」と呪文の様に唱えている。

本当にどうしたんだ。

気でも触れたのかなぁ。

そう思い始めた時、つまりは全て探し終わったのち———俯きながら我妻さんはこう言った。

 

「...財布が、無い。」

 

さてと。

殴り込みに行こうか。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「全く、あんな場所へ行くなんて球磨川さんの品性が知れます。」

「んもう何なのあのバッカ野郎!あームカついてきた!絶対一発殴ってやる」

遊郭へ行く道中、私たちは大いに切れていた。

通行人が二度見するレヴェルだった。

待ってろ球磨川。

そんな感じで歩いていると、注意散漫だった(私が言える立場ではないが)我妻さんが人の肩にぶつかり

「ヒャ!ご、ごめんなさささささい!!」と、ヘタレを発動していた。

この人面白いなぁ、本当。

そして、肝心の相手は

「.........気をつけろ」とこちらを一瞥することもなく私たちが行く方向へ歩いて行った。

たったの五文字だったが、かなり苛立っていたのがうかがえる。

おもしれー。

私の挑発がどれくらい通じるかな?

「...なぁ、おいちょっと今ぶつかった人見ろよ」と、さっきまでビビりちらしていた我妻さんが指さした。」

「え?どうしました?凄く怖かったという話なら———」

 

日輪刀を持っていた。

とっても特徴的で、刃が蛇のようにグニョグニョと曲がっている。

 

...って。

いや、鬼殺隊かーい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「俺は伊黒だ」と、その男は端的に言った。

うーむ、サバサバ系ですかぁ。

カッコいいと思ってるのかなぁ、そういうスタンス。

それと、型に掛かっている蛇(蛇!?)が物凄く怖い。

なんでそんなに懐いているんだ...しっかり肩の動きに合わせた動きをしている。

目の色が異様なのも気になる。

左目が青緑、右目が黄...こういうのをなんて言うんだっけ...いつだったか、安心院(あんしんいん)さんに聞いたんだけどな...

あ、そうそう。厨二病だ。

と思っていたら、横で我妻さんが

「え、伊黒さんってまさか、蛇柱の...?」と言っていた。

 

...

柱かーい。

いやぁ、普通にエリートだったね。失敬失敬。

厨二病とか言っちゃった。

 

閑話休題(皆これ使ってるけど、どういう意味なんですかね?)

「...ほう、鬼殺隊の仲間の1人が行方不明になった、か」

「はい、そうなんです。宜しければ捜査の協力を———」

「断る」

我妻さんの頼みは一瞬にして断られた。

おーいおいおい。嘘だろぅ。

一瞬ノリツッコミしそうになるぐらいの勢いだった。危ない危ない。

「夜道を歩き回り、挙げ句の果てに失踪。———これを注意散漫の馬鹿という他にあるか?大体だな...」

おぉう。

思ったよりネチネチ言ってくるなぁ。

ついに本人を知らない人からも罵声を浴びせられるようになってしまった。

可哀想な球磨川さん。

「...まぁ、遊郭は今から討伐へ向かう場所だから、その馬鹿を助けたければ勝手について来い」

「え!?また鬼絡みなのぉ!?今回は日常パートだろおぉぉぉ!?」

...まぁ。

いつもの我妻さんヘタレはさておいて。

伊黒さんの今の発言は少し好感度上がりましたね。

これが噂のツンデレってやつですか。...違うかな。

「依頼では、若い花魁が事あるごとに消えているそうだ———何の前触れもなく。かなりの人数が食われているらしい。」

というわけで男二名、女一名は超有名な遊郭「吉原」へ向かうこととなった。

改めて読むと凄い文面ですねぇ。

一体何をしに行くんだって感じ。

死地に行くっていうんなら合ってるかもだけど。

ま、伊黒さんがいるから安心だね。

まさかこんな所に上弦の鬼が出てくる訳なんてあるまいしさ。

はっはっは。

 

...上弦がいた場合に怖いので今の発言は訂正するね。

 

てなわけで作戦会議だー。

いえーい。

「当初の計画であれば俺単独での夜の奇襲がメインだったわけだが、これでは一般人への被害の拡大という問題点が残されていた」

「まぁ、そうですね」単独で、という恐ろしいワードが聞こえたが、ツッコミのタイミングでは無さそうなので無視。

またネチネチされたら嫌だしね。

「が、そこにお前らが現れた」

「そうですね。現れちゃいましたよ、私たち。」

「...。それによって、被害を最小限に抑える事ができる最善の案を見出す事ができた」

「ほうほう、それは一体?」

 

   「———冠石野、潜入捜査をしろ」

 

ミッションインポッシボー。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「いやいやいや!無理ですよ私経験無いですし!2つの意味で!」

感情があまり表に出ないことで有名な(有名?)私が、珍しく大きな声で拒否をした。

あとから恥ずかしくなりそう———だけど、今回は今叫ばなければもっと恥ずかしい思いをする。

それは嫌だなー。

「安心しろ、今回は1つの意味の方だけでいい」

「...それは、ちょっと、困る、っていうか」

「いや絶対にそっちじゃないだろ」と、予想外にも我妻さんの方からツッコミが来た。

伊黒さんに至っては真面目に聞かない私にイライラし始めている。

ごめんごめん。冗談だってばよ。

ネチネチは御免だよ。

「なるほど、あくまで下働き、っていうことですね?」

「そういうことだ」伊黒さんが小さく頷く。

蛇の方が感情表現が上手そうだな、とか考えてみたりしていたら通じてしまったのか伊黒さんがギロ、と睨んできた。おぉ怖い怖い。

「それなら大丈夫ですよ、実は私、雑巾掛けと愛想笑いはプロなんです」

「嫌な人間だな、それ」

うろさいなぁ、我妻さん。

「上出来だ。...よし、なら本日から働いてもらうこととしよう。まぁ、鬼に喰われないよう精々頑張ることだな」

もうちょっとやる気の出る言い方は無いのか。

 

うーん。

にしても、帰りが遅くなったわんぱく球磨川さんを連れて帰るだけだったはずなのに、ちょっと壮大な感じになってしまった。

 

待ってろ球磨川。

 

別に好きなだけ負けても良いけど、私たちが来るまでは我慢してね。

 

 

 




原作にて活躍の場面が少なかった伊黒さんを召喚。
活躍してくれよー。


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021 潜入捜査官の先入観

ちなみに僕の鬼滅での推しは時透くんです。良いよね、あのギャップが。

そういえば最近、漫画「シャドーハウス」にハマっているんですが、仲間います?
あの独特な雰囲気とジョンが最高です。アニメ、漫画あんまり好きじゃない人でも楽しめると思うので良かったら是非。


021

 

「ねぇ、どうして我妻さんもここにいるの。そしてなんで女装しているの?」

「いや、悪いけど俺が聞きてぇよ」

遊郭での会話である。

伊黒さんから「潜入しろ」と言われた後、下働きとして難なく雇われた私こと冠石野胡桃は、雑巾を掛けながら同じく横で雑巾を掛けている我妻さんに問うた。

いや、凄い可愛いんだけど、我妻さん。

もとい善子ちゃん。

「...ナシゴレンのときの女の子、覚えてるか?」

「あぁ、えなりか◯きだよね」

「誰だよ。甘露寺さんだわ」

そうだった。えなりか○きではない。誰だその人。

甘露寺蜜璃。確か———恋柱、だったはずだ。

「その人がどうかしたの?」

「次の任務の道中でのついでだったらしいんだけど、冠石野ちゃんが屋敷を出てからその人がまた来てさ。...まぁ、そっから一悶着あって甘露寺さん監修の元、女装する羽目になった。あーもう最悪...お嫁に行けない」

「大丈夫ですよ、可愛い可愛い。萌えだね。あとこれデジャブだと思うけど、どのみち我妻さんはお嫁には行けないよ」

「萌えって何だ...デジャブって何だ...」

という様に、2人でそんなユーモラスな雑談をしていると

「そこ!ぺちゃくちゃ喋ってるんじゃないよ!口じゃ無くて手を動かしな!」と婆ちゃんが言ってきた。

いやどっからどう見ても動かしてますけどね、手。

「...すいませ〜ん」

少し申し訳なさそうに言ってみたりしたら、「ふんっ!」と荒い鼻息を出してから向こうへ歩いて行った。

人間ってこえー。

「...じゃ、この仕事が終わったら各自、調査ってことで」

「了解」

小声で言い合った。

さて、家宅捜査のお時間だ。

 

鬼さんどちら?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<サイド我妻>

というわけで鬼探しの時間———なのだが。

人探しをするには、あまりにも広すぎる。

何なんだ、ここ。

しのぶ邸より広いんじゃねぇの?

砂漠で米粒を探すようなもの...いや、それは言い過ぎた。失敬失敬。

穴があったら入りたいね。

 

そしてさらに。

もう一つ、重大なことに気が付いてしまった。

この俺の良すぎる耳が捉えてしまった。

 

「...一大事だ」

 

()()()()()()()()

 

これは実にいけないことだ。

女の子には常に笑顔であってほしいという俺の思いに反している。

思い、というよりこれはプライドだ。

泣いている女の子は、助けなければならない。

背に腹を変えてでも。

球磨川に変えてでも。

そうだろう?

彼だってこう言ってくれるはずだ———君は悪くない、ってね。

そういうわけで球磨川探しは一時中断。

泣いている子猫ちゃん探しを始めるとしよう。

「さて、何処にいるのか、なんだけど...」

深呼吸、そして。

 

———耳を澄ませる。

 

 

音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音。音———!

 

 

何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ何処だ!!

 

 

そして、雑音の中に一つの———泣き声。

 

 

   見つけた。

 

 

よしよし。やったぞ、俺。

「...うん、左右左左右左右、ね。」

普段はここまで鮮明に道順がわかることは無いが、「女の子が泣いている」という事実が俺を覚醒させていた。

いや、本当は別の要因があるのかもしれないけど...まぁとにかく、場所が分かったのならすることは一つだ。

「待ってろ子猫ちゃぁぁぁんッ!」

 

 

    雷の呼吸 壱ノ型———霹靂一閃ッ!

 

 

走る。

走る。

走る。

走る。

走る。

そして、僅か1秒(実際にはそんなにかかっていないはず)で目的の場所へ着いた———その時

 

ドシャァァン!

「うわっぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

突然、左から襖がこちらへ襲ってきた。

のでは無く、こちらへ突撃してきたのは、女の子だった。

声は、先程まで探していたものと寸分違わない。

つまりこれは———

 

「運命の出会いだ!結婚しよう!」

「いたたた...いや何でですか!」

突っ込まれた!

このタイミングで!?

律儀な子だ。そして可愛い。

いや、今はそこでは無い。今、とんでもない勢いで吹き飛ばされたのは一体...

そう思い、女の子が元々いたと思われる部屋を覗くと———

 

花魁が1人、立っていた。

首を傾けて、下からこちらを睨みつけてくる。

そんな彼女は、今まで人生で見たなかで最も美しい女性だった。

少なくともどうして今まで道で出会った女の子を口説いていたのかと、思わせるほどには。

美しい。確かに容貌は美しい。

でも。

どんな理由があろうと。

 

()()()()()()()()()()()

というわけで怒ります、俺。

「...謝ったほうが、いいと思います」

「気安く話しかけるな、ガキが」そう言いながら近づいてくる美女。

こわっ!

いや怖すぎるんですけど...

一体何を食べていたらこんな毒舌を吐けるのだろう。

フグとか食べてんのか———

...って、あれ?

 

()()()()()()()()()()

それに気付いた途端、空気が変わったような気配がした。

鳥肌が立ち、思わず身震いする。

 

...いやー。

まさかね?

球磨川探しをやめた途端、犯人に出会う、なんてねぇ?

はっはっは。

 

そんな、馬鹿なことあるか?

やっべー...

 

体の震えが止まらない。

 

どうしよう。

 

 

あ、手が近づいてくる。

やばい。

え、やばくない?

ていうか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あぁ、そっか。

...室内。

 

やってしまった。

完全に先入観で油断してしまった。

 

えっと、どうしよ...

 

あ。

これ死ぬかも?

 

嘘、それ、やばいんじゃ

 

おい、誰か助けて

身体が、動かねぇんだよ。

爺ちゃん。

冠石野ちゃん。

...

球磨川でもいいから、この際...

いや冗談抜きでさぁ...お願いだから...

 

あ、やばい。

 

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやば———

 

 

———俺の、そこからの記憶は無い。

死んだかも。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<サイド冠石野>

 

さて、というわけで球磨川さん捜索ー!いえーい!

いや何でもないです。ごめんなさい。

閑話休題(この前球磨川さんに意味を聞きました。薄識かと思ってたけど意外と博識?)

 

それにしてもここ、あまりにも広すぎる。

もしかしたらあのとてつもなく広いしのぶさん宅より広いんじゃないのかな。

あ、よく考えたらここ、店だから当たり前か。

「...遊郭、か」

こんないかがわしい店が、政府公認っていうんですからねぇ。

まぁ事情を抱えている女性には有難いんでしょうけど。

 

...男性にも有難いんでしょうけど。

全く、世も末です。

世紀末で———おっと、これもデジャブでした。

そろそろ読者が飽きてしまう。

チャンネルはそのままで。

小説なのにチャンネルとはどういう事だ、前々から思っていたがお前は適当なことを言い過ぎだ、というツッコミはさておき、球磨川さん探しを本格的に始めるとしよう。

代入大嘘憑き(サブフィクション)」(私命名)を使って「壁」を「無かったこと」にすれば簡単なんだよねぇ。

ま、鬼殺隊って政府公認の団体じゃないし、大事にはしない方がいいかな。

...ってあれ。なんで遊郭が政府公認で鬼殺隊が非公認なんだよ。

おかしくないか、それは。

まぁいいや。

とりあえず聴き込みからかな。

よし、では張り切って参りましょう。

 

「あの、すみませ「はいはいごめん今忙しいから!」ドタタタ。

 

「あの、実は私「ごめん後で!」ドタタタタ。

 

「あの「...」ドタタタタタ。

 

はい。

駄目でした。最後に関しては無視されたんですけど...

私、そんなに会話力無いことは無いと思うんだけどなー。

流石にちょっと凹んでみたり。

...まぁ自力で探せ、ってことですかね。

めんどくせー。

おっと、つい本心が。

でも探さないとこのままストーリーが続かないし———ゲホゲホ。

球磨川さんが死んじゃうかもしれないし。

とかひとりごちっていると突然。

 

———ドッシャァァァン!

 

何何何なんの音!?

後ろから聞こえた———つまり、我妻さんが向かった方向。

 

我妻さんが、向かった方向から爆音。

 

...あれ?これやばいんじゃない?

嫌な予感がしたので全力疾走してみました。

 

走る。

走る。

走る。

走る。

走る。

走る。

あ、通り過ぎた。

ブレーキ。

 

我妻さんの姿が右手に見えた気がしたので、少し戻る。

するとそこに居たのは———

 

 

 

   床に倒れている我妻さんだった。

   床に倒れている我妻さんだった。

   床に倒れている我妻さんだった。

 

 

 

...え?

 

死んで...る?

 

 

 

 

 




ツー訳でっす。どういう訳だ。
善逸ちゃんがちょっと狂気じみちゃいました。いやこんなもんだっけ?そんな感じの021話です。あんま関係ないけど「お兄(021)ちゃん」ですね。炭治郎...今頃何やってんのかな。

評価、感想等おねがいしまっす!


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022 蕨姫

タイトルは「わらびひめ」です。わらび餅って美味しいよね...


022

 

「我妻さん!?大丈夫ですか!?」

私は野次馬をかき分け我妻さんの元へ駆け寄り、脈を取った。

前試したら、「代入大嘘憑き(サブフィクション)」はどうやら人の生死までは関与出来ないようだったので。

流石粗悪コピーですね。不便です。

トク、トク、トク、と———血が流れる音がした。つまり。

 

あー、良かった。

生きてた。

 

いやでも、生きてたにしてもかなり重傷。

とんでもない威力で殴られないとこうはならないだろう。

それこそ、鬼塚教師か鬼くらい...

「え、じゃあこれ、一体誰が...」我妻さんに「代入大嘘憑き(サブフィクション)」をかけつつ考える。

考えていると。

後ろから人影。

...おっと。

これはこれは...

ゾッとした。

冷や汗が頬をつたる。

私、やっぱり根はヘタレなんだなぁ...

うん。

このプレッシャー、間違いない。

 

()()()()()()()()()()()

 

恐る恐る振り返ると、そこには———

 

「悪いね。新入りにキツく当たりすぎちゃった。」

笑顔で立っている花魁がいた。

美しい笑顔。

だが、それはしのぶさんが球磨川さんによく見せる笑顔と似ていて。

半端ではない怒りが込められていた———多分。

ごめん、ちょっと適当なこと言った...

美人ってことしか分からなかったです、はい。すみません。

そして彼女は過ぎ去る。

姿勢いいなぁ。

 

...あれ、もしかして私って結構やばい?

そろそろふざけるのも止めたほうがいいかな...

 

「うっ...いっててて...」

「あ、我妻はん!大丈夫どすえ!?」

止めれなかった。

「心配のあまりキャラがおかしく...なってるとこ悪い...けど、痛いから...肩揺さぶらないで...」

「おっとそれは申し訳ない」

「...冠石野ちゃん、本当に心配してた?」

「まぁ正直そんなにしてませんでしたよ」

「おい」

「だってほら———ちゃんと受身取ってるじゃないですか」

 

我妻さんが。あの我妻さんがしっかり受身を取れている。

 

つまりは、しのぶ邸での訓練がしっかり身についている、ということだ。

我妻さん、結構頑張ってたからねぇ。

みんなが眠った後、夜中に一人ですぶったり(すぶったり?素振りをしたりかな)腕立て伏せしたり、呼吸の練習をしたり。

多分、一人だけ爺ちゃんに助けてもらっているのが嫌だったんじゃないかな?

良いとこあるじゃないか。

嫌いじゃないよ、そういうスポ根。

「ま、今日は一旦退いた方が良いかもな...」

「そうだね。我妻さんが失態を犯しましたし、捜査は明日に回しましょうか。我妻さんが失態を犯しましたし。はい、起き上がってください失態を犯した我妻さん。手を貸しますから、ほら」

「本当に心配してないんだね...いや1人で立てるよ...あぁまじで怖かった...もうやだよ...」

そう言いながら自分で起き上がった我妻さん。

...そういうときは手使ってもらったほうがいいんですけどねぇ。

まぁいいや。

そういうわけで今日は。

 

「「ちょっと下痢と副鼻腔炎と肺がんと中耳炎とインフルエンザなので今日は休みます」」

 

二人揃って体調不良ということで早期退社した。

なんで許可してくれたんだ、女将さん。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「今日の夜、遊郭を攻める」と伊黒さんが言った。

...。

え、まじで?

「冗談じゃなくて?」

「冗談で言うわけがないだろ殺すぞ。...我妻の失態で此方のことがバレているのは確定だ。だから急がなければならない」

 

最悪、遊郭で働いている人全滅、なんてこともあり得るぞ

 

そう言った。

「それは...不味いですね」と我妻さん。凄く申し訳なさそうな顔をしている。

ちょっと面白い。

頬っぺた突いてみたいなぁ。

「というわけだ。夜までは時間があるから休め」

「あれ?伊黒さんそんな優しい人でしたっけ?」と言ってみたら立ち上がりながら伊黒さんにジロっと睨まれた。

こわっ。

最悪漏らすぞおい。

殴られるかな———と思ったが。

「...俺だって常にネチネチしているわけではない」と、不機嫌そうに言いながら扉の向こうへ行った。

あれ。どうしたんだろうか。

私の覇王色に怖気付いたかな。

はっはっは、ようやく見込みのある人間を見つけたよ。

「...伊黒さん、甘露寺さんのこと大好きだよなぁ...」

「あぁ、分かる分かる。...嘘だよ。え、そんな感じあった?いつ?」

「そっか、俺しか見てないのか。俺が甘露寺さんに女装させられたって話しただろ?そのときふと伊黒さんの方向いたら、めっちゃ睨まれててさぁ!終わった後凄い勢いで駆け寄ってきて甘露寺と話し始めて!甘露寺が次の任務に向かうってなったときも『...頑張れよ』だってさぁもう幸せ者だよなぁ伊黒さん!」

「だからなんで女たらしの癖にピュアなの...?はぁ、なるほどね。甘露寺さんが心配でネチネチする暇がないんだ」

なんだっけ、そういうの何て言うんだっけ。

えーっと、あー、なんだっけ。モヤモヤする...

ツ...つ...TU...

 

まぁ良いや。

何気にコアな話のできる球磨川さんに聞いてみよう。

 

———現在行方不明の、球磨川禊に。

じゃあ、私の快適な睡眠のためにも早く助けないとね。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「怖い怖い怖い...どうするのどうするの...あぁ怖いぃ...とうとう俺も死ぬんだ...ひぃ...」

深夜0時。私たちは再び遊郭に訪れていた。

私はクルッと後ろを向き、ヘタレな我妻さんに対して教授のように人差し指を上にあげて言った。

 

「寝込みを襲うんだよ」

「それは何か違くないか?」

 

襲う———寝ている鬼を。

寝ているフリをしている鬼を切る。

流石伊黒さんだ。

戦略も意地汚いね。

まぁけど人間が大勢いる遊郭で被害を最小限に減らすためにはそれしかないんだけれども..

「球磨川さん、大丈夫かなー。」

「お前の本心が分からないよ、俺。まぁでもアイツなら大丈夫だろ。なんとかなるさ。問題は、俺なんだよ...」

そうだよね。安心院(あんしんいん)さんがあの人の生命力、ゴキブリ並みって言ってたし。

服も黒いしね。

「じゃあ、行こっか。いやぁ私が地図をこっそり盗んでて良かったですねぇ。我妻さんと違って良い仕事をしましたよ」

「本当にありがとうございます冠石野様」我妻さんが土下座しそうな勢いで謝ってきた。

冗談なんだけどね...

ちょっと可哀想だな。

あ、そうだ。

「ねぇ、善逸って呼んでもいい?」

「え!?あ、えっと、その、あー...うん、えっと。いい、ぜ?」少しずつ顔を真っ赤にしながらそう答えた。

下から上へ。真っ赤になっていく。

さながら林檎だ。

...ちょっと可愛い。

ていうか、前々から思ってたけど「我妻さん」って呼ぶの少し面倒なんだよね。特に寝起きは。

まぁそこは内緒だね。まずは我つ...善逸の機嫌を回復しなければ。

「よっ、男の中の男!漢!」

「えへへ...そうかな...」

「カッコいいよぉ善逸!広い背中が頼もしいわ!」

「よっしゃ存分に俺の背中眺めとけ!」

 

ズン、ズンとさっきまでのヘタレが嘘かのように遊郭へ突き進んでいった。

いやいやいや...

単純すぎない...?

まぁ結果良ければ全て良し、なんだけどさ。

というわけで私たちはようやく遊郭のなかへ侵入した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どーも。引き続き語り部は冠石野です、よろしく。

ただいま階段の裏に隠れているんですが...

はい、さっき一つ重大なミスを見つけました。

今思うとどうして皆気づかなかったのか不思議で仕方ないんだけどさ。

 

「...なぁ冠石野ちゃん。ここでしてるのって何だっけ?」

「えっと...うん、“夜の営み”だね...」

 

夜の。

夜の。

夜の。

夜の。

.......

 

いや、()()()()()()()()()()()

馬鹿なのかな?

私も善逸も伊黒さんも。

さっきから卑猥な声が襖の向こうから聞こえて気まずいんだけど...

「あー、これじゃあ、鬼にバレたらいけない作戦が、()()()()()バレたらいけない作戦になっちゃったね」

「うん...あの、場所が場所だから『いけない』とか言わないでくれる?」

「え?何で?」

「...何でもない」

え、何だろう...まぁ下ネタなんだろうけど...

私が無知なだけか、善逸が変態なだけか。

多分後者かな。いや絶対そうだ。

 

閑話休題。

「じゃ、とりあえず優秀な冠石野ちゃんが奪った部屋割りに書いてある「蕨姫寝室」に行くか?」

そう尋ねてきた。

が、生憎私は球磨川さんと同じ捻くれ者だ。

別の場所から探したくなるのが(さが)なんだよね。

 

「...いや、寝室じゃない。そこには球磨川さんはいないだろうし———人間を隠すとしたら、何処だと思う?善逸」

「やっぱ名前呼び、恥ずかしいな...えっと、何処だろう。トイレとか?」

「なんで...?ま、これはあくまで憶測だけどさ」

 

地下、とかありそうじゃない?

私は親指で下を指差しながらそう言った。

善逸が戦慄した。

あ、ごめん指間違えた...

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「それは...ありそうだ。だけどさ冠石野ちゃん。そんなの地図には無いぞ?」

「うん、だから———鬼が作った地下があるんじゃないかって」

「お、鬼が...」

秘密のアジト。

それ以外に、この大人数の従業員の目から逃れて人間を隠せる場所が思いつかない。

だから、問題はそこじゃなくて。

()()()()ではなく、()()である。

どうやって、地下に行くか。

大きい音を立てれば、騒ぎになるし———あ、そうだ。

良いこと思いついた———と、私は少しニヤッとする。

何を思いついたかって?

なぁに、ちょっとした過負荷(チート)だよ。

 

というわけで私は、スッと地面の木目に指を当てて、こう善逸に忠告した。

「...受身、取ってね」

「え、何す——————」

 

  「代入大嘘憑き(サブフィクション)

  この辺りの床を

  無かったことにした。

 

 




あれっ冠石野ちゃん、善逸のこと好...え、冠石野ちゃん???そんな感じの022話です。如何だったでしょうか?
まぁどうせ冠石野ちゃんのことだから適当でしょうけどね。うん。そうだと信じたい。
そろそろ球磨川を書かないと禁断症状が...手が震えます...早く続き書きますね...

どうでもいいけど022(おにいに)ですね。炭治郎今頃何し(ry


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023 違和感のない血鬼術

今回は先に言っておきますね。
023(お兄さん)ですね。今頃炭治郎さん何やってるんだろうね。
それとお気に入り登録者数40人突破しました。いえーい。ぴーすぴーす。
本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いしまっす。


「いってててて...」

「大丈夫です?善逸」

「うん、大丈夫...受身は取れた...」凄く痛そうに善逸が言った。

それに、なんだそのへなちょこな受身は。

ただ寝そべっているに等しいじゃないですか———まぁ、流石にこの状況で受身を取れるまでの領域にあの数日で到達していたら逆に恐ろしいけどね。天才児どころの話ではない。

まぁいいや、「無かったこと」にすれば。

そういえば球磨川さんはこれのことをただの「面白手品」だと思っていたようだけど、いやはや、中々便利な過負荷(マイナス)だ。

これを持つべき人間は球磨川じゃなかったなぁとつくづく感じるね。

 

閑話休題。

前回述べたように、私たちは下に落ちた。

もちろん、アリス・イン・ワンダーランドの如きメルヘンな落下ではなく、純粋な、身のすくむような落下だった。

5mくらいはあったかな...いや、まじで怖かった。

余裕余裕とたかを括っていたけれど、思いの外高さがあり、何かに引っかかったりもしたのでかなり焦ってしまった。

ちなみに善逸は

「いぃぃぃやぁぁぁぁ!!何何なんなの!?ひいっ蜘蛛ぉ!?」と、隣で叫んでいた。

そんな苦労の末たどり着いたここ、遊郭の地下。

さっきは一体何に引っかかったのだろうかと、私たちが落ちてきた方向を向いた。

ハッと、目が覚めた思いになる。

そこにあったのは———

 

  ()()()()()()()()

 

ホワット?

大量の、帯...?

なんだそれ。

なんだ、この———異様な光景は。

「あ、なんだ着物だったのか...まぁ、普通か」と善逸。

まぁ確かにそうだね。

これくらいの風景、何処でだって見る事ができるよ。

うんうん、これくらいでビビってた私が恥ずかし———

 

いや、なんでだよ。

「いや、なんでだよ」

「なんで一回ツッコミの予行練習したんだよ。...え?どこが?」

...あれ?

もしかして私の感性がおかしい?

こんな、まるで蜘蛛の巣のように帯が張り巡らされている光景が...普通?

いや、そんなわけない....

...え、どいういうこと?

あ、困惑のせいで日本語おかしくなっちゃった...

仮に、今回の犯人である鬼の血鬼術が「着物操作」だとして———

あ、そうか。

...そうだとすると、また別の謎が生まれてくるけれど...

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

まぁそれは、後のストーリーで明かされるだろうから良いとして...

なるほど、完全に理解しました。

前回の魘夢、豪國に引き続き、これも———

 

 

  これも鬼の過負荷(マイナス)———!

 

 

だとすると、これは。

「……おっけーおっけー、善逸ちゃん、ちょっと下がってな。」

「あ?何でだよ?……まぁいいけどさぁ」善逸が太々しく、私の頼みを聞いてくれる。

うん、やっぱ可愛いな。

それはともかくだ。この過負荷。

おそらく、これは同族にしか感じ取れない違和感。

「違和感操作」であるというのが、今の私の予想だ。

まぁ間違ってそうだけど、方向性は正しいはずだ。

この帯を、日常の「一風景」と「同化」させる能力。

だから善逸にはこれは普通だと感じたのだろう。

 

同族とは———すなわち、過負荷(マイナス)

あくまで善逸の持つスキルは、異常性(アブノーマル)なのだから。

 

……よし、状況が掴めてきた。

が、これは一体どういう状況なのか(掴めてないじゃねぇかというツッコミはさておき)。

 

一旦整理しよう———そう思った矢先。

『あ、胡桃ちゃんに善逸ちゃんじゃないか!』『どうしてこんな所にいるんだい?』『あ、もしかして僕を助けに……?』『いやぁ、有り難くないとは言わないけどさ、来るのが遅いぜ君ら』『待ちくたびれちゃったよもう』

 

飄々とした、あの男の声が聞こえた。

いや展開が早すぎるってば。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「え、何処ですか、球磨川さん!?」

辺りを見渡したが、何処にもいない。

球磨川さんどころか、善逸と私の他にはこの洞窟内に人間——————ネズミ一匹すら生命を感じない。

更に、ここは音が響くため声で居場所を特定するのも不可能に近い。

あ、耳がいい善逸に頼めばいいのか——————そう気付いた時には、もう球磨川さんが答えを言ってしまっていた。

面白みがないなぁ。

いや、こんなところに面白さを求めるべきではないのは分かっているけど。

『おいおい、さっきあんなに注目していたじゃないか!』『上だよ、上』

上。

え、上……?

って、あぁ、なるほどね。そういうことか。

「なぁ見つけたか?冠石野ちゃん」善逸が心配そうに尋ねる。

「私にはこの真相が最初から分かっていました」

「嘘つけ」

()()()()()だよ、善逸」

私は中指を教授のように立てながらそう言った。

善逸が戦慄した。

 

あ、立てる指間違えた……。

 

閑話休題。

見上げてみる。そして、よく目を凝らしてみると——————帯の中に。

 

——————着物の中に球磨川さんがいた。

いつものヘラヘラした顔で、こちらに手を振っていた。

私たちの努力を理解しているのだろうか、この人は。

それに、球磨川だけではない。

ほかにも、多くの女性が。

若い女性が着物の中に囚われていた。

「……ふぅん、これが今回の鬼の血鬼術か」

『うん、拘束系だね。だからずっと暇しててさぁ!』『隣の女性に全開浴衣してもらったりして、なんとか時間を潰してたんだ』

「全開浴衣……?」

「冠石野ちゃんが知るべき世界ではない」善逸が早口に言った。

そっかそっか。なら仕方ない———が、さっきから球磨川の隣の女性が顔を真っ赤にしているのはどういう訳だろうか。

謎だ。

まぁいいや。

「どうやって助けたら良いかな?」善逸に問う。

「うーん...お前の『大嘘憑き』を使って何かできないのか?」

ふむ。

一見良さげな案だけど、それを採用するにしても———

 

一体何を「無かったこと」にすれば良いのか。

 

という問題が浮かび上がってくる。

が、それ以外に前進する案が思いつかないというのも事実。

...っと、そうだった。

ここには、この能力のプロフェッショナルがいるじゃないか。

ならば彼に聞かなくてどうする。

「あ、そうだ初代所有者さん。もとい球磨川さん。この場合何を「無かったこと」にしたら良いのかな?」

『さぁ』

 

....

この瞬間、部屋全体が「だからお前は負けるんだ!」という空気に包まれる。

いや、まぁそうだろうなぁとは思ったよ、球磨川さんのことだから。

脳内で思考しながら既に感じてたよ薄々。

この女の子達、きっと敗北の武勇伝でも聞かされたんだろうなぁ。

可哀想に...。

「あ、着物を無かったことにすれば良いんじゃねぇか?」と、善逸。

一見良いアイデアにように見えるが。

「いや、それだと最悪———」

 

この人たちも同時に消える———「無かったこと」になる可能性がある。

だから却下だ。

おっと。

これは想像以上に難問じゃないか。

面白いねぇ。実に面白い。

「...球磨川さん。内側から着物を螺子伏せることはできないのかな」

『あー、それね』『やってみたけど、無理だったよ』『なんたってこの着物、脅威の伸縮力なんだから、さ』『螺子が刺さらないんだ』

なるほど。つまりこれは八方塞がりということで、私たちはもう球磨川さんをあきらめたほうがいいのかもしれない。

ここの長期間の滞在は、かなりのリスクがある。

もし鬼に見つかってしまえば、彼女ら、球磨川さんと同じように着物に閉じ込められ———そして食われる。

それは嫌だ。

よし、帰ろう。

『いや、もうちょっと頑張ってくれないかな?』

「私の心を読まないでよ...」

『あしひきの〜』

「私の心を詠まないでよ...」

あしひきの、って。

一体何を考えているんだろう、私は。

『大丈夫だよ胡桃ちゃん』『なんとかなるって』『ほら、例えばそこで座っている男の子と協力すれば何かできるんじゃないのかい?』

「ひっ...お、俺?」

先程の麻薬が切れたようで、再びヘタレな善逸に戻っていた。

もう一度注入する必要がありそうだ。

私は顔の前で自身の両手を繋いで(いい表言葉での表現が思いつかなかったけど、まぁ要するに萌えポーズだ)、こう言う。

「好きだぜ、球磨川」

バッキューン、と善逸の心臓に何かが貫く音が聞こえた気がした。

ついに私も超聴力の使い手になってしまったのかな...いや、無いか。

善逸が分かりやすすぎるだけだ。

現にほら、もう呼吸の構えをしている。

流石———最速の呼吸の使い手だ。

 

 

雷の呼吸 壱ノ型———霹靂一閃。

 

 

「あ、善逸...っ!?あれ!?」

そう

  聞こえ

た時には、

 既に

そこ

    に善逸の姿は無

かった。

 

 

巨大な地響き、そして風が音をかき消していく。もは自分の声すらも聞こえない。

そして。

人間を超え、鬼を超え、音を超える一筋の鋭い光———雷。

そう。

()()()()()()()()()()()()()()()、布如きを切れないはずがない。

 

突然グニャリと帯が変形したかと思ったら、またまた突然それが真っ二つに切れた。

「わ...ふふ、流石だね、善逸」あまりの人外加減に、思わず笑ってしまった。

だって、良く考えてみてよ...5()m()()()()、布を切ってるんだよ?

ほんと、戯言だ———笑いたくもなるね。

帯の中の人を見ると、誰もが目を丸くしていた。誰も、一言も発しない———いや、発せないのだ。

ま、そりゃあそうだよね。

 

善逸の姿は、誰にも見えなかったのだから。

 

私にも。

花魁達にも。

球磨川さんにも。

———善逸本人にも。

誰もが、自然に切れたと思ってしまっただろう。

そして、続け様に、同じように布が綺麗に切れていく。

 

光が線を描き、薄暗かった洞窟を彩る。

光の残像は、私にはやけに美しく思えた。

音すらも聞こえず。

 

私はただ、その“光”景に釘付けになっていたんだ。

 

あー。

うん。

...らしくないなぁ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その後、切られた断面からゾロゾロと人が溢れ出てきたので、私と善逸は落ちてくる彼ら彼女らを受け止める作業に徹した。

のべ50人。

ここまで多かったのか。

もしかすると、今回の鬼は今まで戦ってきた中で最強かもしれない。気を引き締めていこう。

えいえいおー。

はい、引き締まった。

『よっと』『ただいま皆!』『僕に会えなくて寂しかっただろう?』

「黙れ変態」

さっきからずっとヘラヘラしていたので忘れていたが、この人は遊郭に行った結果こうなったんだった。

じゃあ球磨川さんが悪いね。

そしてそんな馬鹿野郎に抱きついて泣いている善逸は、やっぱりいい奴だ。

うーん、まじでいい奴だな。キュンキュンしちゃうね。

『おいおい、再会していきなりこれとは酷いなぁ胡桃ちゃん』『週刊少年ジャンプだったら規制されかねない描写だぜ』『いやん!』

「はぁ...まぁいいですよ。あなたのおかげでさっきからの私のキャラ崩壊も治りましたし...」

何があったんだろう、さっきの章。

思い出すと頬が赤くなってくるのは分かる。

ま、いいや。「無かったこと」にしちゃおう。

あ、でもあの景色は綺麗だったからそれは惜しいな...

 

閑話休題。

「ぐすっ...それで、どうするんだよ。行くのか?」

「うん、そうだね、鬼のところにいこうか」

『お、いいねぇ』『堪らない展開だぜ』『折角だから僕の実力の6割を解放しちゃおうかな』

「いつも本気出してほしいところですね、私からすると」

まぁ本気でいつものあれなんだろうけど...

ここからは討伐の時間だ。

どちらかと言うと潜入捜査よりこちらの方がミッションインポッシブルだったな、と今更ながら当たり前のことを考える。

「じゃあ、心の準備はいいかな」

『おっけー』

「あぶぶぶぶぶ...いいよもう...」

「分かりました。...あの、危険ですので皆様はここで待機をお願いします」

しっかり花魁への配慮も忘れない私。流石私だ。球磨川さんとは比べ物にならないね。

「よーし、それっじゃ、しゅっぱー「その必要は無いわ」」

 

...あれ?どちら様?

いや、これ...

 

「あーあ、一気に食べようと保存してたのにさ....ほんと」

 

最悪だよッ!

ヒュルヒュルと、先程まで人間を閉じ込めていた帯がまるで吸い付くかのように今朝の人———否、鬼に集まった。

目には。

眼には、右には「(ろく)」の文字。左には「()()」の文字。

こいつ、上弦の鬼か———!

誰だ、ちょっと前にフラグ立てたやつは———!

 

———ビュンッ

 

それらが、ものすごい勢いで、此方へ襲ってきた。

まるで、蜘蛛の足のように

ワラワラ、ワラワラと。

帯の花柄も相まって、まるで食虫植物のようにも見えてしまった。

だが、ここにいるのは食人鬼。

普通———ではない。

現実から、違和感から目を逸らしてはいけない。

 

...これで、戦略が全ておじゃんになってしまった...畜生め。

一般人もいるのにやばいなこれ...

「...あは、」

あぁ。

ピンチすぎて、ちょっと笑えてくる———

 

———けど、まぁいいや。

しのぶ邸での訓練の成果を見せる絶好の機会だ。是非とも有効活用させていただこう。

いや、本当、感謝したいぐらいだよ。だから。

 

「だから、殺して(バラ)して並べて揃えて晒してあげるね」

 

それに。

「それに、さ」

 

 

()()()()()()

 

 

久々に、括弧つけて挑んでやろう。

 

 




一般人もいるのにピンチッ!伊黒さん何やってんだ!というわけで次回に続きます!
それと冠石野ちゃんには生粋の殺人鬼である零崎人識くんの決め台詞を言ってもらいました。
冠石野「なんかいい決め台詞あります?」
球磨川『「殺して解(バラ)して並べて揃えて晒してやんよ」とかどうかな?』
冠石野「採用」
みたいな感じで、まるで自分が考えたかのように言ったんだと思います。やべーなこいつ。


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024 How ジャンプ展開 it is!

遊郭編、ついに戦闘開始ですいぇい。
冠石野ちゃんの動向が最近心配なんですよね。僕の書き方ってどちらかというと登場人物に勝手に動いてもらうみたいな感じなので...頑張れよ善逸も...


『———どうせ、勝つし』

 

胡桃ちゃんが、括弧つけてそう言った。

そして。そんな彼女をいつも通り ニヤニヤしながら眺めている僕は誰なのでしょうか。

はいそうです!

やぁ皆、久しぶり。最近出番の無かった球磨川禊だぜっ!

いえーい、ぴーすぴーす!皆見てるー?

いやはや。実に暇で暇で仕方がなかった。孤独死するときの気持ちがよく分かった。これからは老人を僕なりに労ることにしよう。

3話くらいかな?ずっと出番無かった訳だしね...これでも一応この物語の主人公だったはずなんだけど。

言うならば「グットルーザー球磨川害伝」って感じな筈なんだけど...

あ、でも隣の女の子———徳ちゃんって言ったかな?あれはねぇ。いやぁ可愛かったね。

全開浴衣もしてくれたし、もう思い残すことは無いぜ、ほんと。

...あ、でもなぁ。

どうしてか分からないけど、さっきから胡桃ちゃんが僕に怒ってるんだよね。どうしたんだろうか。

気になるなぁ。それが聞けないのだけが悔いだな、うん。

まぁいいや。それはともかく、だ。目の前では———

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

『...ッ!キリが無いよね...嘘だよ.....余裕余裕。弱いね、君.......ッ!』

「ははっ、アンタなかなか可愛いじゃないの。私に食べられる気はない?」

『ごめんなさい、私...百合はあまり好きじゃない......ッ!』

 

 

...いや、絶対にそういう意味ではないと思うんだけど。なんだろう。遊郭に来てから下ネタのボーダーラインが曖昧になってきているのかな。

まぁそれもまた置いておいて。

胡桃ちゃんが、僕を拘束した鬼と戦っていた。強さは互角くらいで、両者ともに必殺の間合いに入れない状況が続いていた。

胡桃ちゃんが銃版(テンプレート)で弾丸を放ち。鬼が帯でそれを受け止める。

その繰り返しで、埒があかない。それに、ここは地下だから日の出(タイムアップ)をねらうこともできない。

『...あはは』『いいねぇ、この感じ』『僕にピッタリの状況じゃないか』

 

『———面白い!』

 

と、鬼の元へ駆け出す。

そして全力で踏み込み———ジャンプ。

 

『てめぇの罪を———数えろッ!』

螺子伏せた。

 

 

僕の始まりの過負荷———「却本作り(ブックメーカー)」。

 

 

久しぶりに使う気がするので説明しておこう。

これを受けたものは、僕と同じ強さになる。

否、()()()()()()()と言った方が良いだろう。

そして、鬼の髪の毛は白色に——

 

「...へぇ、アンタの得物は螺子かい。なかなか面白いじゃないか」

『あれ?おかしいな...』

ならなかった。

胡桃ちゃんの弾丸と同じように、僕の螺子もしっかり帯に包まれていた。

危険を感じ、後方へ一時撤退する。

『ふむふむ、なるほどぇ』『上弦レヴェルになると、僕の攻撃なんてすっかり読めるんだ...』『あはは、今回もまた負けたかなぁ』

最初に客として出会った時とは打って変わって、人の悪そうな笑みをこぼした。

それを見て、僕もニヤッと笑う。

———これは、なかなかの過負荷(マイナス)だぜ。

魘夢のような出来損ないの過負荷ではない。彼女は。

本物の、

純正の、

骨の髄までの過負荷。

 

この世界で初めて出会ったそんな存在に、僕は興奮せずにはいられなかった。

あ、いや性欲とかじゃなくてね...あぁ余計なこと言っちゃった。締まらないなぁ。

『締まらないついでに言うけどさ』『「制欲」って制服着た女の子への性欲って意味だと思ってた仲間はいないか———うわっと!』

「はっ、いるわけないだろうが馬鹿め」

こえー。

攻撃ついでに口撃された。当たり前だ。これは猛省しなければならないね。

『俺...この戦いが終わったら謝罪会見開くん「お願いだからもうフラグを立てないでくださいよッ!」

帯を避けながら胡桃ちゃんにガチギレされた。

...あれ、僕いつフラグ立てたっけ。立ててないよね?

まぁいいか。

折角だから解説しておくけど、今回の戦いでの問題は実は力量の差ではないんだよね。

それだけならまだこちら側にも勝算がある。

何が問題かって、それは体力の差だ。RPG風に言うならHP...あぁいや、スタミナかな?

鬼は底なしの体力を持っている———が。

僕ら2人だっていつかは疲れる。

胡桃ちゃんが疲労を「無かったこと」にするにしても、彼女曰く弱体化されているらしいため一瞬の隙を突かれたらゲームオーバーだ。

あちらには弱点があり、こちらには弱点がある。

ただでさえこっちには僕がいるというのに。可哀想な胡桃ちゃんだ。

だが。

『へい、そこの鬼』『君の名前は何だい?』

「私かい?私はわらびひ———あ、もうこの名前で名乗らなくていいんだった。私はねぇ」

 

  堕姫(だき)さ。

 

『へーぇ。「堕ちる姫」かぁ』『うんうん、いい名前だ』『僕と———実に似ているよ』『恵まれない人生だったんだろ?あはは、可哀想に』『そんな堕姫ちゃんにはさぁ———』

 

『強キャラの思考なんて、これっぽっちも読めないだろうね?』

ス———と音もせず。

「———え?」

突然堕姫ちゃんの首に一本の、跡が現れる。

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()切れ跡。

———そう。もしそこに突然、()()()()()()()()()

欠点(マイナス)長所(プラス)にできるぐらいの強い味方がやってきたら。

どうなるだろうか。

 

「......悪い、遅れた」

堕姫ちゃんの首が、その声から少し遅れてポトッと地面に落ちる。

 

その声の主は———小芭内(おばない)伊黒。

蛇柱である。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「嘘...」

その声の主は僕ではなく、善逸ちゃんでも胡桃ちゃんでも、勿論伊黒さんでもなかった。

切られた張本人、堕姫ちゃんである。

『ま、そりゃあそうだよねぇ』『訳もわからず突然切られたってんだからさ』『あはは、堕姫ちゃんかーわいそっ!』

「...お前、性格最悪だな」

伊黒さんまでそんなことを言い始めた。そんなにクズなのかな、僕。

自分からすると普通なんだけどな。ほんと、どうしてなんだろうね?

「なぁ冠石野。この鬼、本当に上弦の鬼なのか?」

『え?どういうことですか?』括弧つけながら聞く胡桃ちゃん———いや、今は普通に話していいと思うんだけどね。

キャラ被りが凄いんだよ。冠石野(かぶしの)だけにね。

と、その時。

「う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

 

「———コイツ、()()()()んだよ。雑魚にも程がある」

堕姫が大声で泣き始め———そのせいで伊黒さんの声がよく聞こえなかったから———いや、普通に聞いていても、聞き間違えかと思うだろう。

へぇ...こいつが———弱いだって?

まぁ、僕より弱いっていうことは無いだろうけど。僕以外の人から見て、「弱い」と思う事があるのだろうか。

 

これが、柱の実力ってことか。

煉獄さんのときは別行動だったからあまり見れていなかったけど、やっぱ凄かったのかな。

もっと乗客そっちのけでちゃんと見ておけば良かった。

いや、でもそれにしても———たしかに弱い気がする。下弦だって柱が二人もいてあれだけ時間がかかったのだ。

なのに上弦を、たった一人で一瞬で。

どういうことなんだろうか。

ていうか。

「うわあああああああん!!私まだ本気出せてないのに!!あああああ!嫌だ死にたくない!!うわあああああ!!嫌だ嫌だ嫌だ!助けて!」

泣き声がうるさい...どうせもう死ぬんだから最期くらい自分の人生を振り返った方がいいんじゃないのかな。

どうしてこんなに意味のない行動に時間を費やすのだろうか———そう思っていて周囲を見渡したら。

女性を全員上へ運び終えた善逸ちゃんと。

胡桃ちゃんと。

伊黒さん。

全員が、奇妙なものを見る目で見ていた。

もちろん見ているのは僕ではなくて———鬼。

何か、おかしいことあるかな?...って、あれ?

 

 

こいつ、()()()()()()()()()()()()()

 

 

一向に身体が崩れる気配がなく、ただただ胴体から離れた顔が泣きじゃくっている光景。

流石の僕でも、不気味に思えて———まぁ、来ないけど。

あいにく僕は空気が読めないからね。仕方ない仕方ない。

「気をつけろ、嫌な予感が、する」伊黒さんが刀を構える。

それに倣い、胡桃ちゃんと善逸ちゃんもそれぞれに構える。

———ま、いっか。僕の隠し玉を試すチャンスだ。そう思い、僕も刀を構える。

「ああああああああああ!助けて!助けてよぅ!!まだ死にたくないよ!!!ねぇお願いだから助けて!!」

堕姫の号哭が洞窟に。

響く。

響く。響く。

響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。響く。

響く。響く。響く。

響く。響く。

響く。

そして———

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

パラパラと、突如壁が崩れ始める。

『...あれ』『なぁ皆』『なんかここ、揺れてない?』

「ひっ!ほ、ほんとだ...あ、ここここここれ、やばいん、じゃ...?」

『これは、あの泣き声で揺れて...?』

「...!ここは危ない!一旦上に出るぞ!」

最後の、伊黒さんのその声は、今までで一際大きい叫び声でかき消された。

 

 

———お兄ちゃああん!!

 

 

そして爆風が吹き、僕らの視界は砂嵐で真っ暗になった。

それとほぼ同じタイミングで、強い衝撃と、重力感———

 

なにが、起きているんだ?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして、僕らが次に目を開ける事ができたその時。

 

そこに鬼は居らず———眼前には、久しぶりの遊郭通りがあった。

つまり。

『...なるほどね』

多分、というか絶対善逸ちゃんだろう。

危険を察知した彼が、文字通り光の速さで、僕らを地上へ引き戻したということ。

『善逸ちゃんも、なかなかの男前になったじゃないか!』『最高だよ、ほん———あれ?善逸ちゃん?』

何処にもいなかった。

善逸ちゃんどころか、胡桃ちゃんも、伊黒さんも。そもそも、街の人居ない。

『まぁ、街の人は善逸ちゃんが避難させたにしても...』『もしかして僕、気絶してた?』『いやいやまさかねぇ』『僕に限ってそんなことがあるはずがないだろう』『だから僕は悪くない』『...さてと、探してみようかな』

と、長い独り言を終え、ようやく捜索する気分になった僕はとりあえずトボトボ歩いてみた。

そして特に用心することなく曲がり角を曲がる。

すると、そこには驚きの光景があった。

右の建物の瓦の上では善逸ちゃんと伊黒さんが堕姫ちゃんと。

左の建物の瓦の上では胡桃ちゃんが———え?

誰、あの鬼。

なんというか、凄くイカつい顔をしているけれど...こわっ。

任侠ドラマでしか見たことないよ、あんなゴワゴワのヤンキー。

ていうか、一つ凄いことに気付いてしまった。

 

強い味方と共に、訓練を活かして更に強い敵と戦う。

 

これは。

『これは...そう!』『友情・努力・勝利!』『圧倒的()()()()()()じゃないか!』『ははっ、これで熱くならない僕じゃないぜ』『舐められちゃあ困る』『さて、と』

 

『———救っちゃいますか、世界。』

 

僕はいつも通り括弧付けてそう言った。

その小声に気づいたのか、僕の高貴なオーラに気づいたのか、どちらか全く分からないが、胡桃ちゃんがこちらを向いた。

「くまがっ...球磨川さん!早く来てください!」

もはや、括弧つけるのを止めている———つまり。

彼は、この鬼はかなりの強敵ということだ。

だがしかしそれは。今の僕にとっては「都合がいい」としか思えなかった。

週刊少年ジャンプらしくなる、素材の一つ。

それが彼だ。それ以上でもそれ以下でもない。

と、いうわけで。

友情・努力———

 

『———勝利っ!』血気術 飛び血鎌『うわぁいってぇええええええええええ!』

突如現れた、緋い鎌。球磨川はそれに切られ、鬼の背後へぶっ倒れた。

...はは、めっちゃいてぇや。

「あぁん?なんだこのガキ。ヘラヘラしてて、腹立つなぁ。さぞかし()()()なんだろうなぁ。妬ましいなぁ殺しちゃおうかなぁ」

「...あ、妓夫太郎(ぎゅうたろう)さんそれNGワードです」

「はぁ?なんだそ「もう遅いよ」

ハッと、何かに気がついた鬼が後ろを向く。

そこには———もちろん球磨川がいた。

 

ボキ。

ボキボキボキボキ。

...

ボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボキボボキボキボキボキキボキボキボキボキボキボキ。

 

 

球磨川が身体中の骨を折りつつ、ブリッジもような体制で立ち上がっていた。

『あーあ、すっごく痛いなぁ!』『これは多分肋骨折れたなぁ』『後遺症になっちゃうかもね?あはは』『やべー、まだ死にたくないなぁ!』『あ、そういえば。ところで君さぁ、さっき———』「僕のことを幸せ者、とか言ったっけ?」「馬鹿かよ、お前」「僕が君より幸福だなんて———ある訳ないじゃない」『大体さぁこの状況を見ても同じことを言えるのかい?』

妓夫太郎はそんな球磨川を見てゾッとした。

ヘラヘラしていたと思ったら唐突にキレたり、またヘラヘラしたり。

これではまるで、向こうのほうが化け物だとさえ思ってしまった。

が。

「...俺の苦労も知らないで、酷いなぁ。死んだ方がいいなぁ」と、すぐさま体制を立て直す。

『あはは、いいねぇ』『週刊少年ジャンプっぽくなってきたぜ』『じゃ、そろそろ———』

 

 

本気の6割、出しちゃおっかな。

僕も勝ちに———価値に拘らなくちゃね。

 

 




どうだったでしょうか!!次回から本格的に戦います!球磨川の隠し球とは一体何なんでしょうか!暇な人は考えてみてね!!!!
あ、感想評価アンケートなども暇だったらよろしくお願いします〜。


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025 醜い兄と美しい妹

最近ラブコメ読んでよく「あああああああああああっ!」ってなってます。なんかもうこっちまで幸せになるよねあーいうの見ると。
ちなみに僕のなかでの最高傑作は「堂島さんは動じない」です。あれはほんとにヤバい。


『へぇ、君は堕姫ちゃんのお兄さんなの』『あ、鬼いさんって言った方がいいかな?あはは』『それにしても、いい話だよね』『やられた妹のためにわざわざこうして出てくるんだから、さ』『僕だったら間違いなく出ないよ』

冠石野の「代入大嘘憑き(サブフィクション)」で負傷が「無かったこと」になった球磨川は不気味な鬼に対して軽口を叩きつつ冠石野の隣に向かう。

あくまで、普段通りの声色で。

ヘラヘラ、ヘラヘラと言った。

「妹はなぁ出来損ないだからなぁ。俺たちは()()()()()()()()()()なぁ。俺がアイツを守らねぇといけねぇんだ」

 

  血気術 血鎌

 

そう言って、堕姫とは真逆のお世辞にも美しいとは言えない顔をした鬼———妓夫太郎(ぎゅうたろう)は自身の腕を鎌に変え襲いかかる。

その攻撃を球磨川は。

『ばっかだねぇ君!』『『僕が同じ攻撃に引っかかるとでも思っているのかいってぇ!!』

普通に食らった。それもかなり深く。

右腕がポトリと落ちる音と同時に「あらら」とでも言いそうな表情を見せた。

「だからフラグ立てないでって言ったんですよっ!銃版(テンプレート)!」

冠石野も応戦しようと試み、10の銃口から日輪刀と同じ素材で出来ている弾丸を連射する———が。

「いい能力持ってんなぁ。いいなぁださい能力のおれらとは違って。羨ましいなぁ殺したいなぁ」

「ふぅ...じゃあさ」『これならどうかな?』

冠石野は再び括弧つけ、頬に汗を流しつつもニッと笑ってみせてから弾丸を撃つ。

そして妓夫太郎はそれを難なく受け止める。そして、それ以上に何もないことを知り、困惑する。

球磨川が何もしてこないことも違和感の一つだ。

どうして、冠石野の後ろでポケットに手を突っ込んでニコニコ見ていられる———?

相手の戦闘方法がこれしかないのか、はたまた自分が何かに気付いていないだけなのか。

恐らく前者だ、と妓夫太郎は判断した。そして彼は言葉を紡ぐ。

「?学ばねぇな『———嘘の呼吸』

紡げなかった。括弧つけた言葉を、誰かが被せてきたからだ。

『肆ノ型』

深い呼吸と共に———聴き慣れた呼吸法と共に小さい声が聞こえる。

妓夫太郎は誰が言っているのか分からなかった。

検討すらもついていない。

何故なら彼の目の前には()()()()()()()()()()()()()()

だが、こんな風に気味の悪い話し方をする人間がここに3人も集まる筈がない、と考える。

ならば——— 妓夫太郎の後ろにいるのは。

 

『虚影心』

 

確実に、球磨川禊だ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

嘘の呼吸。

そう言って瞬間的に———否、分身して妓夫太郎の後ろに現れた球磨川。

何よりも驚いていたのはそれを傍観していた冠石野だった。

隣にいる男が敵の後ろにもいるのだから驚いて当然だ。当事者の二人よりも状況はよく見えている———が理解は出来ていない。

それに、虚勢を張って「これならどうかな?」などと言ってしまったことに後悔し、さてどうしようかと考え始めたときのこれだ。

横で何かブツブツ言っていたのは聞いていたが、それは完全に無視していた。もしやこれが———と思ったが違うな、と冠石野は思い直す。

変な伏線を作って回収しない男が球磨川禊だ。

一度深い深呼吸をし、冠石野は()()()()()球磨川に問いかける。

『...あの、これって』

『そうだね』『君が思っているものと多分同じだよ』

『え...じゃあやっぱり———』

 

大嘘憑き(オールフィクション)」を、取り戻した?

 

確かに、そこまでは何となく想像はつく。———理屈は理解できていないが。

だから冠石野にとっての問題はその次なのだ。

 

『で、でもこれ、明らかに「大嘘憑き(オールフィクション)」では出来得ないことなんです、けど...?』

そう、分身。

そんなもの、一体何を「無かったこと」にすれば可能なのか。

不可能だ。

『いい質問だ』

イラッとしたので軽めにラリアットを入れる———そして実体はあるようだと気付く。

もう一体の方の球磨さんをチラッと見ると、あろうことかしっかり攻撃をかわされていた。

あんなカッコイイ演出しておいて...

『おいおい、友達に対してそれはないだろう、胡桃ちゃん?

『まぁでも許すよ。僕は優しいからね

『いやんっ!

『で、それで解説を聞きたいんだって?仕方ないなぁ

『自分で考えることも、このIT社会だからこそ必要なんだぜ?

『おっと、タンマタンマ。殴ろうとしないでくれよ、あはは

『うん、それでね、分かりやすく説明するとね———

『僕は前に安心院(あんしんいん)さんから「手のひら孵し(ハンドレットガントレット)」を没収された訳だけどさ

『それは「大嘘憑き(オールフィクション)」の没収とは同じようで全く違うんだってことさ

『違いが分かるかい?

『そう。

『ほんの少しだけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『僕が強ければ大嘘憑き(オールフィクション)を自ら作り直したりしたのかもしれないんだけど...

『生憎様、僕は根っからの敗者(ルーザー)だからね。

『まぁそういう訳でさ。

『しのぶちゃんの家でこの素材を色々弄ってたら

『「大嘘憑き(オールフィクション)」を「型」に落とし込む事が出来たんだ

『いやぁほんと、不思議だよねぇ!

『タネも仕掛けもありません、つってね。

『あはは

『まぁそういうわけで、そっから更に改良してみたら

『結構いい感じになっちゃってさ

『おっけー?』球磨川が尋ねる。

が、冠石野は訳がわからないという表情をしている。球磨川の長広舌は無意味なものとなった。

「あー...うん、多分...え、そんなことある?」

『だから僕としても奇跡としか言いようがないんだってば』

奇跡。球磨川に似合わない言葉ランキング上位に輝く物だ———が。

目の前の光景は、それが奇跡である事を物語っていた。

それを見て、冠石野は。

「...なんだよ、成長してないの私だけじゃないですか」

拗ねた。

 

♦︎♦︎♦︎

 

一方その頃、善逸・伊黒チームはというと。

(くそっ、帯が邪魔で冠石野の補助に行けない...!)

こちらは、どちらかといえばこちらが有利、という状況だった。

まだ油断はできない———だが、強いのは明らかにもう一体のほうの鬼。

何とかしてそちらへ向かえないかと動いてみるが、伸縮する帯によって阻まれてしまい再び攻撃の隙を与えてしまう。

「...鍛錬不足だな」

 

蛇の呼吸 ()ノ型 頸蛇双生(けいじゃそうせい)———

 

左右から交差するように斬り込んでいく。

まるで2つの頭を持つ大蛇が、敵に牙をむくように素早く。

それでも、伸縮スピードには追いつかない。

そして、唯一追いつける善逸はといえば———

 

雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃

 

同じ技を出し続けていた。勿論、堕姫には既に「一つの攻撃しか使えない」ということは看破されており、全く当たらなくなっていた。

そう。

彼は今、()()()()()()()()使()()()()()()

ようやく———亡き者から卒業した。師匠の屍を超えた。

もはや、眠らずとも。自分の意思で———意志で、戦えるのだ。

だがそれも上弦には通用せず、ついに善逸は力任せを諦め伊黒のもとへ戻る。

善逸の息遣いはかなり荒い。危ないと判断した伊黒が咄嗟に前へ出る。

「おや?もう終わりかい?つまらないねぇ。もっと楽しませておくれよ」

堕姫が余裕そうな笑みを浮かべてそう言う。それに対して善逸は。

「.....なぁ」

「あん?なんだい?坊や」

 

「...さっきお前がぶん投げて怪我をさせた女の子に、謝るつもりはないか?」

善逸は、確かな怒りを込めてそう問う。

それに対して堕姫は

「ないよ」とハッキリ言った。

球磨川みたいな奴だな、と思い一瞬笑う。

そしてすぐさまキリッと真剣な表情になり、真っ直ぐに目の前の敵を見据える。

「そっか。良かった」

「...どうした、善逸」伊黒が心配になって聞くと———

「いや、これで罪悪感なく殺せると思いまして」善逸は、真顔で———多少の怒りを覗かせながら言った。

「今まで罪悪感なんてもの抱きながら戦ってたのか?」

「まぁ、自分で倒したことなんてほとんどありませんけどね...可笑しいんですよ。いつもなら震えている筈なのに———今日はすこぶる調子がいいんです」

そう言って、前へ飛び出す。

構えは先程と全く同じ「霹靂一閃」。特攻としか言いようがないこの動き。

不安がよぎり伊黒も援助の為に走る。———そして、やはり善逸の口から「雷の呼吸 壱ノ型 」と聞こえる。

霹靂一閃と合う型を考えていると、恐らく鬼には聞こえていないであろう小さな声で予想外な言葉が聞こえた。

それは—————————

 

 

 

 

聚蚊成雷(しゅうぶんせいらい)

 

 

 

 

———は?

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

「「は...?」」

伊黒と、堕姫の声が重なった。同じタイミングで両者がキッと睨み合う。

伊黒の目には確かに霹靂一閃ではない型の動きを見せる善逸が写っていた。

それは確かに、善逸の師匠———元柱である桑島慈悟郎(くわじまじごろう)が使っていた型。

()()()()()()

「だっ...騙したわね!?一つの攻撃しか使えないと思い込ませといて!卑怯だわ!」堕姫が焦りを隠そうともせずに叫ぶ。

「いいや。俺は何一つ騙しちゃいないぜ」それに対し善逸は、至って冷静に返答する。そしてそれが更に、堕姫の悔しさを増大させ———攻撃スピードが格段に上がった。

が、善逸はそれを全てかわす。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 電轟雷轟(でんごうらいごう)」——— 一瞬の内に広範囲にいく筋もの雷のような斬撃を放ち、相手の全身に攻撃を与える。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 稲魂(いなだま)」——— 一息で瞬く間にあらゆる方向から稲妻が放電しているかのような5連の斬撃を繰り出す。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 遠雷(えんらい)」——— 自分を中心に放射状に稲妻のような斬撃を放つ。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 熱界雷(ねっかいらい)」——— 上昇気流のように相手を上へと斬り上げ、吹き飛ばすほどの激しい斬撃を放つ。

 

多様な技を使ってかわす。それだけではなくただのかすり傷ではあったものの、何度か堕姫に刃が届くことすらあった。

何かおかしい、と伊黒は感じる。確かにしのぶの家で善逸は「俺は壱ノ型しか使えない雑魚ですよ」と言っていたはずなのに。

違和感を感じ、攻撃を出しながら善逸を観察する———そして不意に、ある事実に気付いた。

「な———」

それは、霹靂一閃だけを極め抜いた男の境地だった。

「こ、いつ、まさか…!」

 

()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

気付いた時、伊黒はぎょっとした。

脅威の再現力。

そして、彼から聞いた話だが———師匠には「一つの型しか使えないならそれを極めればいい」と言われたそうだ。

師匠の教えをどこまでも信じ続ける精神力の強さ。

これはとんでもない後輩が生まれたと、らしくもなく苦笑いする伊黒。

良い継子を持ったな、と心の中で呟く。

1人の、俺とは違って———

 

「善逸!次の一撃で決めるぞ」

「分かりました」

次で、確実に殺す。

伊黒は善逸と、相棒の蛇である鏑丸(かぶらまる)にアイコンタクトをし、堕姫に突撃する。

「あぁもう!!!!消えろ!!!」叫び、そして大量の帯をこちらに飛ばしてくる。

———が。

「———雷の呼吸 壱ノ型 電轟雷轟(でんごうらいごう)ッ!あとはお願いします!」

それらは全て善逸が消し去る。

走る。

走る。

走る。

そして———間合いに入る。

 

 

  壱の型 委蛇斬り(いだぎり)

 

 

伊黒は、全てを込めて刃を振るった。

首は、刃に水平な美しい断面を見せながら地面へ落下していった。




伊黒さんがんばえ〜
はい、いかがだったでしょうか。球磨川さん善逸さんが覚醒しましたね。
さて、こっからどう展開していこうか...(無計画野郎)
そろそろ冠石野ちゃんメインのストーリーを動かしていきたいところではありますね。
今話もありがとうございました!!!
感想待ってます!!!!!


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026 括弧つけずに言えたなら

ちなみに本日8/9は僕の誕生日です。ええんやで?感想欄で祝ってくれても(しなくていいです)。
そんな感じの26話、よーいスタートです。


「『好きな人とペアを組んでください』という言葉が何より怖い」

「どうして?好きな人とペアになれるなんて嬉しいことじゃないか」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

結果から言うと。

堕姫は死ななかった。

これは失敗だと客観的には思われるだろうが、伊黒からしてみればこれが最適解。

奇怪な鬼に立ち向かう為の、最適解。

堕姫は、灰になることなく再び顔を再生した。ぐにょぐにょ。ぐにょぐにょと肉を畝らせながら不気味に。

だが、これは伊黒にとっては予想通りの展開だった。彼はこれで一体倒せるとは毛頭思っていない。

何故そう思っていたのか———それは、球磨川が眠っている最中のことだった。

今、伊黒が戦っている方でない鬼———妓夫太郎(ぎゅうたろう)が現れたとき。

切ったはずの堕姫の首は、綺麗に元通りになっていたのだ。

美貌が蘇ったとも言える。

そこには必ず何か仕掛けがある。そう考えた伊黒は思考を重ねた。

抗争をしながら構想を練った。

そして、ついさっきある仮定にたどり着いたのだった。

 

もしかしたらこの二人の鬼は、「鬼にしては珍しく群れている」のではなく、元より「二人で一つ」なのではないか。

という仮定に。

 

ただし。

それを確認するためには、自分で妓夫太郎の首を切らなければならないというのが問題点。

もし妓夫太郎も堕姫と同じように首を切っても再生するのであれば———黒だ。

そう。

伊黒の目的、それは———()()()()()()()()()()である。

「冠石野ッ!交代だ!」そう伊黒が叫ぶと冠石野は「あっはい!」と軽めにそれに答えた。

そして二人は走り出し———跳躍。道を跨いで反対側の屋根に向かう。

必然的に、冠石野と伊黒の目が合う。

「...こいつには伝えとくか」

宙で丁度隣になった時、伊黒は小声でこういった。

 

「同時に倒せ」

 

冠石野は一瞬意味がわからないという顔をしたが、すぐに理解する。

屋根に飛び移った後、自分の顔を叩いて勇気を奮い立たせる。

『ふむ...同時にかぁ』

『球磨川さんがどう働くかによるけど』

『ま、なんとかなるでしょ』

『ね?お兄ちゃんに頼ってばっかのお姫様?』

「死ねっ!!!!!!!」

久しぶりに使った気がするが、良かったと冠石野は安堵する。

「挑発」の言葉(スタイル)の効果は絶大だった。

そして(マイナス)の感情は———人を弱くさせる。

 

堕落させる。

丁度、球磨川の様に。

 

『さて、どうしようか』と吟味する冠石野。頭を自分の手で作った拳でグリグリし、思考を促す。

冠石野はまだ、善逸が壱ノ型以外を使えることを知らない(厳密には使えていないが)。だが、一人で堕姫と戦っている善逸を見て、一つだけわかる事があった。

 

尋常じゃない成長を遂げている、ということだ。

 

冠石野は彼にも———追い抜かされてしまった。

『...じゃ、私なりに頑張るとしようかな』

そう言いながら冠石野は、懐から何かを取り出した。

堕姫に気付かれないよう、こっそりと。

そして「銃版(テンプレート)」を発動する。

「はっ、芸が無いねぇ、全く」と嘲笑する堕姫は、先程地下で行ったように帯で弾こうとする———が。

 

軌道変更。

 

「はぁっ...!?」

帯にぶつかる寸前、弾丸が突如右に動いた。もう一度弾こうとする———しかしまた避けられる。

自由自在に、まるで弾丸自体に意思があるかのように堕姫を襲う。

そればかりに気を配っていると———今度は善逸が突然、光速で眼前に現れる。

(な...なんなのこの2人!)

 

()()()()()()()———!

 

そしてついに帯の防御を抜け、善逸の刃が堕姫に届きザクッと胴体を抉る。

もちろん倒せる訳ではないが。

「っしゃあやったな———胡桃!」

「...........!?うわっはぁ.......」

下の名前で呼ばれた衝撃で変な声が出た冠石野。真っ赤な顔を下に向け、プルプルし、小声で「そういうとこだって...」と呟く。

善逸には内容は分からなかったがギリギリ聞こえていたらしく、戦いながら聞く。

「え?なんて?胡桃?」

「..................」

「胡桃?できれば戦って欲しいんだけど...下の名前で呼ばれるの嫌だった?あそれだったらマジでごめんなさい本当に謝ります」

「...................」

「...冠石野ちゃー「ああああもう分かったよ本気出してやるよ!」

覚悟しとけ!と堕姫に指と鋭い目線を刺す冠石野。

 

「へぇ....久しぶりに面白い奴が来た」

『こっちの台詞だね、それは』

 

ここでようやく本気の戦いが始まった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

球磨川が「嘘の呼吸」で妓夫太郎に応戦していると、道路の向かいの屋根から伊黒が飛んできた。

『お?あ、伊黒さん!』『ちょっとこいつ何とかしてくれない?息が臭くてさぁ』『あはは、そんなんじゃモテないよ君?』『女子LINEできっと悪口言われてるぜ』

「殺すぞ」と妓夫太郎。

「....」そんな二人の様子に伊黒は呆れ果てた。

ちなみに今は妓夫太郎が血鬼術で鎌に変えた腕で球磨川の持つ刀を押している状況。

勿論球磨川が押され気味である。

その状況でヘラヘラ笑う男、球磨川禊。

伊黒は、再び「とんでもない後輩が現れた」と思った。

先ほどとは違う意味で。

「弱い奴は死ね。俺は勝手に戦う」

『あれ?酷くない?』

「普通だ」その台詞を合図に妓夫太郎を切りに行く伊黒。

 

蛇の呼吸 ()ノ型———蜿蜿長蛇(えんえんちょうだ)

 

スルスルと蛇が這うように相手の間合いへ入り込み———

 

「遅いなぁ」球磨川を封じているほうとは逆の鎌で伊黒の攻撃を受け止める。

「...それで拮抗状態にしたつもりか?」

『はっはは、それな!』

 

 

蛇の呼吸 参ノ型———塒締め(とぐろじめ)

嘘の呼吸 陸ノ型———裏切(うらぎり)

 

 

伊黒は周囲をグルグルと周り、切り込みを入れながら相手の後ろへ。

球磨川はまるでそこに「いなかった」かのように後ろに瞬間移動。

二人は物理的に妓夫太郎の裏をかいた。そして———

球磨川が右腕を。

伊黒が左腕を切り落とす。

(な...なんなんだよぉこの2人!)

 

()()()()()()()———!

『あれ?コイツもしかして弱い?』『あはは、僕でも勝てるんじゃねーの?』

「お前は天下無勝の男だと聞いたが」

『そうだね。まぁそこはご愛嬌だ』

「....そうか」

伊黒は呆れ果て、会話を放棄する。勿論、これは攻撃しながらの会話だ。

『いや、でもさぁ』『こいつ鎌作るだけでしょ』『なんとかなるっしぃ!』

「言ったそばから攻撃受けてんじゃねぇか雑魚が。黙ってろ」

『はいはーい』球磨川は普段通り、軽く言う。

『じゃ、そろそろ本気出そうかなっと』『酷いことに幸せ者扱いされた訳だし』『それ相応の罰は必要だよね!』

そんな球磨川の台詞を無視した伊黒は攻撃しながら、ふと妓夫太郎が先程までと違う構えをしていることに気がついた。

微弱ながら、ほんの少しだけ違う。その()()()を、伊黒は———

 

血鬼術  跋扈跳梁(ばっこちょうりょう)

 

感じ取れなかった。

普段なら、確実に気がつく違いだったのに。

「......ッ!」

伊黒の左腕が———無くなっていた。

痛みが脳を支配する。気が狂いそうになる程に。だが流石は柱。呼吸を使って直ぐに止血し、球磨川を助けに向かう。

———が。

そこで伊黒が見たのは。

 

 

 

ぐちゃぐちゃに。

ぐちょぐちょに。

バラバラに。

ドロドロに。

見事に死んでいる———球磨川禊の姿だった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「よっ、久しぶりだね球磨川くん」その声でぼくは目を覚ます。

其処は見慣れた教室———とは言っても自分の教室、というわけではなく。

僕の目の前にいるのは、安心院なじみ。つまりここは。

安心院さんの領域(テリトリー)

......ということは。

『...僕、また死んだんだ?』

「ピンポーン!」安心院さんが本当に楽しそうに答える。

暫く見ていなかったため、その笑顔に少しの懐かしさを覚える。

教卓に座って足をぶらぶらさせながらするその笑顔に。

「いったいどれだけ僕を放置すれば気が済むんだい?君の封印のせいで、僕は君が死なないと登場できないんだぜ?」

『分かってるよ...で、今回の死因は?』

「おいおい、つれないなぁ球磨川くん。泣いちゃいそうだよ」

よよよ、と泣き真似をする。江戸時代なら大爆笑を掻っ攫ってそうだ。

「まぁいいや。今回の君の死因は斬撃だねっ☆」

『いや、そんなライトノベルみたいな語尾...あ、あれも鎌だったんだ』血の、鎌。

「そういうことだぜ。あれは四方八方に血の斬撃を放つ血鬼術だ」

『....へぇ』

「あ、そうそう球磨川くん。僕を倒しうるスキルホルダーは見つけられた?」

安心院さんが、自分を倒す相手について聞いてきた。楽しそうに。

安心院さんは———死ねない。

最強故に。

故人になれない。そもそも人でもないし。

彼女は今、「死ぬ」という「出来ないことリスト」の中の一つに挑戦しているのだ———確かそういうことだったはず。

『...一人だけ、可能性がある人がいる』

「へぇ?誰誰?」

『胡桃ちゃん』

「ほう、その根拠は?」

『ま、勘だよ』

「勘かよ。あはは、嫌いじゃねーぜ、そういうの。まぁでも確かに胡桃ちゃんは強いよねぇ。びっくりしたよ。『 付便な印撮機(トランシエンス キャパビリティ)』まさかコピー能力だなんて。めだかちゃんのような主人公でも無いのにさ」

『あれなら、安心院さんの「相手より強いスキル」だって「神化」のスキルだってコピー出来る———もしかしたら、ね』

「なるほどねぇ?まぁけど、あれはあくまで粗悪コピーだってことを忘れないでほしいかな」

『だから可能性なんですよ。僕だって絶対出来るだなんて思ってない』

「そんなのじゃ駄目だぜ、球磨川くん。僕がご所望なのは絶対的な強さを持つ奴だ」

確率ではなく———確実に殺せる誰か。

安心院さんを、楽しませることができる人間。もしくは鬼。

果たしてそのような人間がいるのだろうか。

「まぁもう暫くは頑張っててくれよ。って、球磨川くん死んじゃったんだったね。あはは、どんまい」

『すごくいい笑顔ですね』

「ありがと」

『褒めてないです』

「安心してくれよ。大丈夫大丈夫。死者蘇生なんてチョチョイのちょいだぜ」

『...あれ、安心院さん、いつか死者を蘇らせることだけは出来ない、とか言ってたような...』

「あぁあれは嘘だよ。時間移動のスキルがあるんだからできない訳ないじゃーん。ばーかばーか」

そう言いながら教卓から床に降りる。

初めて胡桃ちゃんに会った時から、誰かに似てるなと思っていたが今ようやくその謎が解けた。

目の前の人外だ。

着地した勢いで後ろに束ねた長い髪がフワッと揺れる。柑橘系の匂いが僕の鼻腔をくすぐった。

こういうのってやっぱり少しドキッとするよね。

「でもさ球磨川くん。敗者(ルーザー)である君が再び参戦したところでどうにもならないと思うよ?」

『まぁ、そうですけど』

「けど?」

そんなことは理解している。

けど。

だけど。

『安心院さん』

僕は。

 

 

  「———勝ちたいんだけなんですよ、僕は」

 

 

そう、括弧つけずに言った。

カッコつけず、本心を語った。

勝ちたい、と。

「嫌われ者でも、憎まれっ子でも、やられ役でも。...主役を張れるって証明したいんだ。ただそれだけさ」

ほんの少しの静寂。

そして。

「面白い」

安心院さんが唐突に僕にキスをした。何度目だろうか。流石にもうこれで動揺するようなウブさは捨ててしまった。

慣れって恐ろしい。

せっかくいい台詞を言っていたのに「ただそ」ぐらいで被せられたためちょっとダサくなってしまったのは是非とも謝罪してほしいところである。

まぁいいや。

別に、括弧つけたいわけではないんだし。勝ちたい。ただその一心だ。

そして10秒くらい経過したのち、ゆっくりと柔らかい唇が離れていく。少し残念な気もする。

 

...いや。

すっごい残念!

もうちょっとしてたかった!

まぁそれは置いといて。

このキスの意味はというと、勿論僕のことが好き、というわけではなく(悲しいことに)。

「....大嘘憑き(オールフィクション)、ですね」

「せいかーい」安心院さんはそう言って拍手をする。かなり尊大な感じで音を響かせながら。

...異様に音が大きい気もするが、これも一京分の1のスキルなのだろうか。

拍手の音を大きくするスキル。

いらないな、それは。

閑話休題。

そう、そのキスが意味するのは全てを「無かったこと」にする過負荷(マイナス)———「大嘘憑き(オールフィクション)」の返却である。

 

「でも、なんで?」

「いや、この前返してもらったのだってただの悪戯だったわけだし別にいつ返しても良かったんだぜ?」

「最悪だ...」と頭を掻く。

「そして物語を面白くするために威力は冠石野ちゃんの代入大嘘憑き(サブフィクション)と同じにしてある」

「悪魔だ!」

「だから神だってば」そう言って安心院さんはニヤリと嗤う。

いつだってこの人は、性悪だ。性根が腐っている。

この人外は———人でなしだ。

「じゃ、行ってきなよ球磨川くん。あ、そうそう。必要か知らないけど、一応助っ人呼んでおいたぜ。君と似た属性の人間だから、仲良くするといいよ」

『へぇ、安心院さんにしては優しいな。...って、これもストーリーを面白くするためか』再び括弧つけながらそう独り言を言う。

『ツンデレ属性ですか?』

「君が自分のことをそう思ってるんだったら今からツンデレを呼んであげてもいいけど」

『遠慮しておきます』

僕はツンデレではない。どちらかと言えばツンドラって感じかな?あはは。

「じゃ、新婚さん行ってらっしゃ〜い」手をヒラヒラと振り、教室から出て行く僕を見送る。誰が新婚さんだ。何のテレビ番組だよ。

そしてそれに対して僕は振り返ることなく、たった一言で別れを済ます。

我ながら冷たい人間だぜ。さながらツンドラ気候だ。

さてと。

 

『いってきます』

 

 

勝とうかな。

ドロドロした遊郭に、過負荷の花を咲かせよう。

 




大嘘憑き(オールフィクション)」が返却されましたー!いえい。
さて、助っ人とは一体誰なのか。皆さんも知ってる人物ですぜぃ。楽しみにしててくだせぇ。
というわけで今後もよろしくお願いします!感想・評価・アンケート等もよろしければ。

あ、そうそう。
オリジナル作品も書いているので暇な方はご覧になってみてください。
囲碁部の日常を描いたものです。まだ二話だけど。
https://syosetu.org/novel/264926/


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027 夏疾風

次回で遊郭編終了です。の予定です。ここまでとりあえずはありがとうございました。


安心院さんとの会話ののち、パチっと目を覚ました球磨川禊。体を眺めてみると、鎌による切り傷は一切合切消えていた。

しっかりと「無かったこと」になっていた。

『よっと』『お、おはよう伊黒さん。』『うーん、あまりいい目覚めとは言えないね』『ちょっとばかし頭が痛いや』

「あ!?お前死んで……ッ?」

球磨川が目醒めたその時、目の前では伊黒と妓夫太郎は北斗の拳を彷彿とさせる白熱の戦いを繰り広げていた。

力では妓夫太郎の方が上だが、それを巧みな戦術でカバーする伊黒。二人の戦いはほぼ互角だった。

そんな状況の中で球磨川の死体をこれ以上傷つけないように動いていたらしい伊黒。もしかすると、自分が思ってたより優しい人なのかな、と球磨川は感動する。

勿論嘘である。

まぁけど、人は見た目に寄らないって、本当だなぁ。

『あぁ、そういえば僕、死んだんだっけ?』『はは、そんなのは———』『「無かったこと」にしたよ』

 

返却された球磨川禊の過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)」。

全てを———無かったことにする能力。

 

安心院(あんしんいん)さんが「冠石野ちゃんの粗悪コピーと同じ威力になってるよ」と言っていたものの、そこの加減は適当だったようで胡桃ちゃんの「代入大嘘憑き(サブフィクション)」では不可能だった「蘇生」が出来たため安心院さんの手を煩わせることなく生き返ることができた。

『...まぁ、流石に多少は弱体化してるんだろうけどさ。』『そこら辺は許容範囲ってことで』そう言いながら、笑顔を作る球磨川。

何も知らない人から見れば子供らしい、可愛い人間だと思うような、そんな笑顔を———この戦場で。

 

———改めてよろしくね?妓夫太郎ちゃん。

 

球磨川のしがらみの無いその笑顔を前に———妓夫太郎は戦慄した。

「……お前、何者なんだよぉ」

『うーん、それは難しい質問だなぁ』『ま、強いて言うなら』『「悪の味方(ダークヒーロー)」といったところかな?』『ははっ、面白くなってきた!』

そういって、球磨川は大量の螺子を四方八方へ投げた———が、その軌道は誰にも見えなかった。

サクッ、という何かが刺さった音だけが聞こえる。

早すぎた、のではない。

()()()()()()にしたのだ。

そして、そのほんの一拍ののち、球磨川は下を向けていた顔を上げ、正面を見据える。勿論笑顔で。

そこには———

 

「カッ……く、くま、がわ……?」

 

螺子伏せられている妓夫太郎。そして。

 

小芭内伊黒。

 

伊黒にまでも、螺子が刺さっていた。

螺子伏せられていた。

心臓に、深々と刺さっており——————どちらも驚愕の表情を浮かべている。

『あぁ……ごめん、伊黒さん』『手が滑らなかった』

先程までとは打って変わって真面目そうな——————否、括弧付けた表情を見せた球磨川。口元だけは、微笑を浮かべている。

仲間を傷つけたというのに。

どこまでもどこまでも空虚な台詞を吐く球磨川に、伊黒は憤りを覚えた。

「なんの、つもりだ……」

『いやぁ、仕方なかったんだよ伊黒さん』『攻撃すると、どうやっても2人に当たってしまうんだ』『だから——————仕方がない』『これは僕なりの努力の結果さ。だから———』『僕は悪くない』

 

避けられなかった君が悪いと、伊黒に指を刺した。

これは、球磨川の始まりのスキル「却本作り(ブックメーカー)」。

妓夫太郎と伊黒、両者の髪が徐々に白くなって——————。

『が、その甘さ』『嫌いじゃないぜ』

そう言った瞬間、2人の心臓から螺子が抜けた。

「……は」

抜けただけではない。本来ならあるはずの胴体にできた空洞も、すっかり消えていた。無くなっていた。

『いやぁごめんごめん』『2対1なのに流石にこれを使うのはフェアじゃないよね!』『君は弱いからさぁ』『だから、正々堂々刃で勝負するよ』『この、鬼滅の刃でね』『よし、タイトル回収完了』

相手が弱いから、などというそれでは寧ろ相手にとっては有難い話なのではないかと思わせる、理解に苦しむ理論だったがお陰で助かった、と伊黒は安堵する。

もし、あのまま髪が白くなりきっていたら、どうなっていたのだろうか。考えると普段冷静な伊黒でも背中に汗が浮かんできた。

「舐めやがって。ふざけるなよぉ。赦さねぇからなぁああああッ!」そして妓夫太郎は、キレた。

 

 嘘の呼吸 漆ノ型——————嘘月。

 

2人同時に襲いかかってきた球磨川、

 

 蛇の呼吸 参ノ型——————塒締め(とぐろじめ)

 

そして少し遅れて伊黒。

その二人に対し、妓夫太郎は。

 

  血気術 円斬旋回(えんざんせんかい)・飛び血鎌

 

 

業ッ!と凄まじい音をたてながら腕の振りも呼び動作も無しで繰り出した。

跳び血鎌を腕の周りに螺旋状に出しその場で広範囲に攻撃を与える———だが。

『よっと』「……ふっ」

勿論ギリギリではあったが二人は、綺麗にそれをかわした。

球磨川は奇跡だったが——————伊黒は良い意味でも悪い意味でも、球磨川の先程の行動に影響を受けた。

あの攻撃に比べれば、遅い。

そう考えるようになった。

あれに比べれば——————馬鹿みたいに遅い。

勝てる、と。そう伊黒は確信した。

 

待ってろ蜜璃。

これが終わったら祝いに君のパンケーキをたらふく食べさせてくれよ。

そう胸で唱えながら、再び攻撃を仕掛ける。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

一方その頃、善逸・冠石野ペアは。

『...いや、貴方弱すぎませんか...』

()()7()()()()()()()()()

強くなった冠石野と善逸にとって、堕姫一人ではまだ勝てる確率は低いものの、二人では余裕で勝てる存在だった。

「…あぁ、でも問題がある」

『うん、そうだね』冠石野はチラリと横の屋根を見る。

そう。球磨川と伊黒さんが、中々妓夫太郎を倒してくれない。

一体なんなんだ、この2人の鬼の間にあるとんでもない力量の差は。怖いくらいだ。何か、裏があるのではないかと思わせるくらいに、弱い。

『何かの異常性(アブノーマル)...いや、過負荷(マイナス)...?』

冠石野は考える———が、答えは出ない。

なら、ただこの堕姫が兄に頼りきっているだけ———?

「がはっ…!」鬼が胴体を真っ二つにされ、口から血を吐く。

「あっちにもう一人いればいいんだが…」善逸も何かいいアイデアは無いかと試行錯誤しているようだ。

『…善逸さん、鬼の方をお願いできますか』冠石野が善逸を見つめながら言った。

「は…いやそれじゃあ流石にく…冠石野ちゃんが無理だろ!?」

『大丈夫ですよ、善逸。ほら、私って強いですから』

「聞きたいのは空元気じゃなくてさぁ…!行けるわけねぇだろお前が死ぬかもしれないのに!」善逸は泣きそうな顔で叫ぶ。

『いやいや、大事ですよ空元気は。それが出来てるうちは余裕ってことです』対照的に冠石野はニコッと笑う。

「……でもさ冠石野ちゃ…っとあぶねぇ。ほんとに出来る…..ってあれ、なんだありゃ…」

善逸が鬼から目を離し、後ろの冠石野を見たその時。

冠石野から後ろ10メートル辺り。

何か、黒いものが走ってくるのが見えた。

「ひっ…待ってこれ以上敵増えたらまじで無理だって!!」善逸は叫ぶ。

冠石野も同じく振り返り———同じものを視界に捉える。

『な、なんですか、あれ…?堕姫さんの仲間ですか?』

そう鬼に問いかけてみるが———

「———ああっ!?知らないわよもう!」半ギレ気味でよく見ずにそう返答した。

なら、つまりあれは私達の仲間。…と思いたいところだが。

『たたずまいが味方じゃないんだけど…』

その人影は、黒い何かを周囲に畝らせながら、それを器用に足として用いて此方に向かってきていた。

どちらかと言うとキャプテンアメリカというよりはヴェノムのような感じだ。

ヴェノムとはmarvel史上最悪の悪役である。

冠石野が銃口の向きを変え、攻撃の構えをする。

軽快な動きでここまで高速で移動して、そしてしばらくしてようやくここまで来た。

「…………………..。」だが何も喋らない。

さらに目の前で見ると迫力が凄いのもあり、冠石野は完全にビビっていた。肩が震えている。

ウネウネと動かしている真っ黒なそれは———一体何なのだろうか。

まるで球磨川の心を具現化しているような、気持ち悪さを感じた冠石野は、ブルっと身を震わせる。

10秒程見つめあった末、目の前に男が口を開いた。

「…安心院(あんしんいん)さんからの遣いだ」

予想外の人物名に、驚く冠石野。

『え、安心院さんから….の?ってことは貴方も端末———悪平等(ノットイコール)ですか...?』

「然り」

そう言ったと思えば、気づけば冠石野の後ろへ———即ち堕姫の元へ走った。

それと同時に、自己紹介も済ませる。

 

 

(やつがれ)は、芥川龍之介。しがない作家だ。」

———羅生門・(アギト)

 

 

どす黒い顎のような影が堕姫を襲う。まるでそれ自体に意思があり噛み砕こうとするように。

だがそれを見切った彼女は、帯で応戦しようとする。

しかし。

「….はぁ!?」

「笑止」それらは全て切り裂かれた。美しい布の断面が見える。奇しくも、堕姫の容貌と合わさってこの世のものとは思えないほど美しい光景になった。

そしてその場にいた全員が確信する。

 

こいつは、柱並みに強い。

 

『…あの、芥川さん。もう一体の鬼をお願いしたいです』

「ゴホッゴホッ。…承知した」芥川がキツそうに咳をしたのち、了承する。

そして、再び刃(刃?)で飛び立つ。その姿は、禍々しい死神を彷彿とさせた。

そして、冠石野、善逸、そして堕姫までもその姿に釘付けになっており———なっていたのに、その光景を目視出来なかった。

妓夫太郎の血鎌と、芥川の刃で視界が、あまりにも黒くなりすぎて。

これには球磨川と伊黒も驚いたようで、呆然とするのみだった。

そして、ついに——————。

 

——————斬。

 

妓夫太郎の首が、切れる。

その首を芥川が刃で受け止めると同時に芥川が此方を向く。

「此奴は(やつがれ)が引き受ける。早く其奴をやれ」

安心院から聞いたのだろうか。どうやら現状は把握しているようで、早く堕姫の首も切るように促した。

やれ———殺せ。

そう言った。

『安心院さんも、なかなか酷いことをするね……』

「そうか?普通に有難いと思うけど」

『そう思わせといて後で大どんでん返しが待ってるんだよ。そういう人だからね』

「どう言う人だ……まぁいいや。行くぞ」

『うん』そして、最後の戦いの火蓋が切られる。

「……今まで、どんだけ苦労したと思ってんのよ!こんなところで易々と死ねないの私はッ!」

妓夫太郎の首が切られたことで焦りを見せた墜姫は、最後の力を最大限に振り絞り、先ほどまでとは比べものにならないほどの密度の———おびただしい量の帯を繰り出してきた。

それらが球体になり、堕姫を守る盾になる。

「うおっあぶね!」

それだけでなく、時折攻撃までも仕掛けてくる。

これでは、触れずに堕姫のもとへ行くことが出来ない——————善逸の高速、もとい光速移動では重傷を負ってしまう。これで2人は完全に拘束され、八方塞がりとなった。

『——————な訳、無いよね』冠石野は、唐突にニヤリと笑う。

不気味に。

『善逸』

「あ?なんだ胡桃」

『それまじでやめて恥ずいから……まぁそれでさ、善逸。君って林檎剥いたことある?』

「なんだそりゃ。まぁ剥いたことあるけど……」

『じゃあ出来るよね?これを突破すること』

「ど、どうい——————あ」

気づいたか、と冠石野は嬉しそうな顔をする。

『正解!よろしくお願いするよ』

「……やってみる」

そういって善逸は構える。

慣れ親しんだ壱ノ型で、慣れ親しんだ何の工夫も凝らさない正々堂々の攻撃を。

経験を。

苦労を。

我妻善逸の全てを。

そこに燃やす。

即ち。

 

 

    雷の呼吸 壱ノ型———霹靂一閃

      六十連ッ!

 

 

バババババババババババッと光が帯で出来た球体を囲む。

まるで、花火を真正面から見ているような、そんな光景だった。

横から球磨川だけの視線を感じる。いや、お前はもっと動け。

伊黒さんだって頑張っているだろうに。

少しづつ、球が小さくなっていく。計画通りだ、と冠石野は笑う。

そう、これは。

『「林檎の皮剥き」、だね。』

果物を外側から回して切っていけば、皮を剥くことができる。そんな簡単な理論だ。

ならば———同じようにすればこの帯だって、削っていける。

「「ああああ「「ああああああああああああああああ「ああああ「あああああああ」ああああ」あああああああ」」ああああああ」あああ!!!」」

善逸と堕姫の叫び声が混同して聞こえる。恐らく善逸ももう既に限界を超えているのだろう。

頑張れ、善逸と祈る。

そして最後に一回だけ喝を入れようと目論む。

息をしっかり吸って。

深呼吸。

スゥー。

 

『帰ったら膝枕してあげるよーーーーーー!!!』

「よっしゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」

 

更にスピードが増した。そんなに嬉しいのか、と冠石野は少し呆れた表情を見せる。

『なんか、ラノベみたいな空気感になってしまったけど…っと』

そろそろかな、と緩んでいた表情を真面目なものに変え、弾丸を再度堕姫に向け直す。

林檎が剥けるタイミングを見計らい———

 

 

………………。

 

 

………………。

 

 

………………。

 

 

………………。

 

 

そして、その時が訪れた。

 

堕姫の顔がチラッと覗く。その表情は。

 

まさしく「絶望」。

 

『やぁ』『さっきぶり』

 

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ

 

 

 

そう格好つけながら冠石野は、首を狙って弾丸を集中砲火する。

「なんなの、あんたら……なんなのよおおおおおおおああああああああああああああああああああああああああッ!」

叫び声と発砲音で、耳がおかしくなりそうだった。だがアドレナリンが出まくっている冠石野はそんなことはお構いなしに、弾丸をぶっ放す。

『ああああああああああああああああああああああああああああッ!』

「『ああああああああああああああああああああああああああッ!」』

 

ぶっ放す。

『ああああああああああああああああああああああああああああッ!』

 

「『ああ、ああ……!!わああああああ!!!わあああああああ!嫌だ…嫌だ死にたくない!」』

 

ぶっ放す。

『ああああああああああああああああああああああああああああッ!』

「あああああ….死に、たく………..ッ」

ぶっ放す。ぶっ放す。ぶっ放す。ぶっ放す。ぶっ放す。

『……何人食ったんだよ…それで自分だけ死にたくないなんて自分勝手にも程があるよねッ!如何なんだよ!ちょっとでも人間(こっち)の気持ち考えたことあんのかよっ!!!』冠石野は——ひたすらに叫んだ。

理由は冠石野にも分からなかった。その叫びはもはや反射のような——魂そのものだった。

「わ……私だって……ッ!あぁ……..あ」

そしてついに首が、弾け飛んだ。

横を見ると、妓夫太郎の首も飛ばされていた。軌道から察するに同じ場所に落ちていきそうだ。

偶然か、それとも芥川さんの粋な計らいか。どちらだろうか。

まぁどちらにせよ。

「か、勝ったのか?」

「……はは、そうだよ、善逸」「私の———いや。」「私達の、勝ちだ。」

冠石野は疲労の中、しわがれた声で、括弧つけずにありのままの自分を囁いた。

「……あー、疲れた」

『おーい胡桃ちゃん!善逸ちゃーん!』

どこかの馬鹿が手を振ってくる。冠石野と善逸は、顔を合わせてついつい苦笑いをしてしまう。

そして球磨川に目を向ける。

どうだい、球磨川さん。

お前を真似した私が勝てたんだから———お前だって勝てるんだよ。

だから———だから、頑張れよ。

球磨川にそんなメッセージを伝えるために親指を立ててニカっと笑い、そして、疲労が祟ってその場にばたりと倒れる。

「……伝わってなさそうだなぁ」

 




原作「鬼滅の刃」にて実在人物は出てこなかったのでちょっと芥川龍之介を出してみました。設定は「文豪ストレイドッグス」の芥川龍之介とまんま同じです。


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028 兄弟愛と許容

今回で遊郭編終了です。タイトルで上手いこと言おうとしたけど無理でした。兄(きょよう)弟愛って感じですかね、頑張って上手いこと言おうとするなら。そんな感じの28話です。よろしくお願いします。


後日談。というか、今回のオチ。

語り部はこの私、冠石野胡桃です。いーえい。ぴーすぴーす。

とか、巫山戯(ふざけ)るべき場面でないとこは重々承知しています。だがまぁ改善はしない。

『FuZAKEる』っつってね。何を言っているんだ私は。

何故ならこれが私らしさだからだ。アイデンティティだからだ。私は悪くない。

…話が逸れそうだ。ここであまりに早すぎる閑話休題をしておいた方がいいかもしれない。

というわけで。

閑話休題。

二人の鬼の首を同時に切断することに成功した私たち一行(+芥川)。

私たちはその首を見つけるために屋根から地上に降り立っていました。

久しぶりの全員集合に、いくら最低野郎である球磨川との再会であっても多少の感動を覚えた、のだが。

『もしかして君たち、僕のことを心配してくれていたのかい?』『はは、「江戸のピカソ」と呼ばれた僕も舐められたもんだぜ』『僕が死ぬ訳ないだろう?』

と、溜息混じりで言われたことでその感情は消え失せた。

むしろ殺意が湧いた。

あとピカソに強いイメージは無い。

と、まぁ和気藹々とした会話はここまでにしておいて(そろそろ伊黒さんもイライラしてきた)、堕姫と妓夫太郎の首探しへ向かった———と、大袈裟に言ったもののすぐ近くに着地していたようだった。

「…行ってみようか」

「いや、でもまた攻撃されたりとか…」

『あはは、善逸ちゃんはいくら強くなってもヘタレは変わんないんだな』

「うっせ」

というわけで首の元へ。善逸ががっしりと球磨川に抱きついていた。歩きづらそうだ、と他人事のように考えるう私はクズなのだろうか。そう考えると多少は凹む。

ザ、ザ、ザ、と砂の地面を蹴りながら少しずつ近づいていく。

「あ、なぁ冠石野ちゃん。そういえば、さっきの弾丸の方向転換は一体どういう手品なんだ?」と善逸が聞く。

そういえば説明していなかった気がする。私としたことがついうっかりしていた。

この、おもしろサーカス団の飼育員としてしっかりしなくては。

「手品いうな。…まぁ手品みたいなものですけどね。ただの糸だよ」

勿論、日光をたっぷり含んでいるためそれ自体でも殺傷能力はあるが流石に鬼の近くに来ると光を反射して気づかれるため、今回のような小道具としての役割が最も好ましいのだ。

これは、身近なもので出来る護身術として父に教わったものである。護身術を、鬼を殺めるために使ったと聞けば、父は怒るだろうか。その様子を思い浮かべるとつい笑ってしまった。しかも結構な音量で。

辺りを見回すと予想通り皆から白い目で見られている。お前にそうやって見られる筋合いはないよ、球磨川さん。

『ふーん、僕らにそんな凄いの隠してたんだー。信用されてないなー、悲しいなー』

「いや、球磨川さんは信用していませんよ?」

と、当たり前のように言ったら珍しく球磨川さんが肩を落とした。そんなこともあるんだな、と申し訳なさ2割感動8割の感情になる。

「あーはいはい、ごめんなさい冗談で———あ。」

そのとき。

「………………………?……!」

「…………….!」

何やら言い争いの声が聞こえた。予想通り同じ場所に着地できたようだ。

流石は兄弟、と言ったところか。いや関係ないかな。芥川さんの腕の良さだろう、おそらく。

「…ってあれ?芥川さんは?」

「首を切ったらすぐに消えたぞ。」伊黒さんが呆れ口調で言う。「全く、何者なんだアイツは。知人か?」

質問に答えたいところではあるが、それでは悪平等———もとい、安心院なじみについて説明しなければならない羽目になる。

誰でも引き摺り込んでいい界隈ではないのだ、あそこは。

知らなければ知らない方がいい。

なので私は「さぁ?」と軽く受け流した。ぎろりと睨まれたが気にしない。

『…ねぇ、芥川って、あの芥川龍之介?』

と聞く声がしたので振り返ってみると、まじまじとこちらを見つめる球磨川がいた。

なんだろう。いつものニコニコ笑顔ではないのに不思議とイラっとする顔だ。

ぶん殴りたくなる。…まぁ冗談だけど。

「えぇ、確か龍之介だった筈ですが———有名人なのかな」

『これから有名になるぜ、アイツは。僕が保証する』と、胸を叩いた。

じゃあならないんだろうな。

と、そんな下らない話をしている間に目的地に辿り着いた。

「私お兄ちゃんに合図したよね!?なんで無視したの!?」

「分かるわけねぇだろそんなの!この出来損ないが!」

やはり首だけになった兄妹が喧嘩をしている。

後ろで善逸と球磨川が「合図とかあったっけ…?」『さぁ』と小声で話していた。私も全く気がつかなかった。一体何処でしていたのだろうか…。

「それになんで首切られちゃうのよ!弱すぎるでしょ!」

喧嘩は続く。

「お前が言えることか!?何回切られてたよお前!」

喧嘩は続く。サラサラと体が少しずつ灰になって消えていく。

「私はいいの!お兄ちゃんは私を守れよ!!」

「いつもいつも自分勝手だよなお前!」

「もう———お兄ちゃんなんて大嫌い!!!」

二人が消えるまで終わらなそうなその口喧嘩。その終止符を打つ空気の読めない男がいた。

『おや、喧嘩かい?』『人生最後に寂しいねぇ』『折角だから僕が救済措置を与えようか?』『うん、それがいいね。そうしよう』

勿論、球磨川禊である。

ヘラヘラと堕姫、妓夫太郎部話しかける。

 

———2人のこめかみに深く螺子を刺しながら。

 

後ろで善逸が「ひっ!?」と怯えているのが聞こえる。私も出来ることならそうしたい———が。

体が動かない。

まさか、この男に恐怖しているのだろうか。何を考えているか全く分からない、この3枚目の男に?

まっさかー。

それにこの私だぜ?冠石野胡桃だぜ?うん。そういうことよ。

と、自分に語りかける———何故か効果はあったようで体は動き始めた。なんであるんだ、効果。

「え…と、何してるのかな」

『え?』『あー、いや』『喧嘩してるからさ』『仲直りの機会が必要かなと思ってさ』『「却本作り(ブックメーカー)」で封印してみました』『何十年、何百年と2人で語り合って、そしていつかは仲直りするのさ』『なんで優しい人なんだろうね、僕は』『いやんっ!』

その思考に、ゾッとした。相手は鬼である。勿論攻撃という観点からすれば、球磨川さんの行動は大いに正しい。

が。

球磨川さんは、それを優しさと———慈悲と呼んだ。

慈悲。そのはずなのに、心は一切こもっていない。

これでは茲非である。

『さて、お二人さん』『早く仲直り出来るといいね』

「ま、待って!お兄ちゃんどうなるの!」

「堕姫!」

「助けてよお兄ちゃん!」

 

「———梅!」

 

そして、二人の髪は真っ白になり———突如。

蝋燭の煙のように儚く消えた。

『?あれ』『何処に行ったんだろ』『…まぁ安心院さんが便宜を図ってくれたってことにしとくか』『うんうん、それがベストだ』『じゃ、行こっかみん…あれ?皆?』

伊黒を除いて(勿論驚きはしていたがそんなことは表情には出さない)全員、球磨川を見て立ちすくんでいた。

「…行きましょうか」私が先陣を切って動く。すると、伊黒、善逸も動き出す。

一体彼は何者なのだろうか。

安心院さんは彼のことを未来人と言っていたけど。

こんな人ばかりの未来しかないのだろうか、地球は。

だったら今、鬼に全員喰われてしまったほうがいいのではとか思ってしまう。

嘘つきで。

剽軽者で。

空虚で。

馬鹿で。

弱くて。

敗北者で。

そんな人間しかいない世界。

「うーん、それはちょっとやだなぁ」

『どうしたんだい?胡桃ちゃん』

お前のことだよ、とは言えない。私は思慮深い人間なのだ。大人なのだ。

だから「何でもないんだよ」と答える。

そんな感じで、私は一歩一歩重い足を動かしていった。

『全く、僕も甘いなぁ』『鬼に仲直りの手助けをしちゃうなんてさ』『ま、兄弟愛が認められない世の中なんて救えないし』『今回ばかりは許容することとしよう』『つまるところ———』

 

『また勝てなかった』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そしてしのぶ亭へ帰宅。

私たちは広間で濃いお茶を飲んでいた。暑さと旨さが体に染み渡る。美味しい。

シェフを呼んで欲しい…と、葵ちゃんか。

あとで褒めまくっておこう。

「…それにしても」と辺りを見渡す。

訓練をした広間。

昨日までここにいたのに、随分とあの訓練が昔のことのように思える。

大変だった、と素直に思う。

時間こそ無限列車のときより短かったが、強さで言えばこちらの方が倍は強い。

芥川さんがいなければ、きっと今も戦っていただろう。

時間は午前2時。見かねた葵ちゃんが伊黒さんも泊まらせる。

うーん、いい子だ。

是非お嫁に欲しい。

「お前らは今回は良く頑張ったと思っている。だが問題点もある。善逸、お前は………」

と、一人10分くらいの小言が始まった。ネチネチ、ネチネチと。

3人で顔を見合わせてクスッと笑う。先程まで球磨川さんに疑念を抱いていたはずの善逸も私も、球磨川を見て笑った。

単純だなぁ、私。

「あ、伊黒さん。甘露寺さんはいました?」

「いないな。明日甘露寺の家に向かってみる」

『確か誰かの手助けだったんだよね?誰なの?その人』

「タメ口…まぁいい。確か竈門炭治郎、嘴平伊之助と言ったか。功績は上がっているが俺はまだアイツらを認めてねぇ。何たって鬼と共に鬼狩りをしているんだぞ。もしそいつが人を食ったらどうするつもりなんだ」

鬼と一緒に鬼狩りを。それは一体どう言う状況なのだろうか。

伊黒さんの言葉から察するに、未だ被害は出ていないようだけど。少し心配だ。

「竈門…嘴平…どっかで聞いたんだよなぁ。何処だっけなぁ」と善逸が唸っている。昔の知り合いなのだろうか?

と、そんな雑談をしていると

『お』『あれ何?』

1人の客が来た。

だが、それは甘露寺ちゃんではなく———というか、人でもなく。

 

 

「カァー!カァー!」

 

 

一羽。

鎹鴉(かすがいがらす)だった。

見覚えがないので恐らくは伊黒さんのもの。

こんな夜更けにどうしたのだろうか、と次の言葉を待つ。

 

———静寂。

 

「……」

「…… 」

『……』

「……」

 

早く言えよ!

 

ここにいる誰もが思った。意味もなく額に汗が流れるほどの謎の緊張感。

こういうのは苦手なんだよね。

本当に早く言ってく「カァー、甘露寺蜜璃が死亡!」

 

え?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「は…!?」

それは伊黒さんの声だった。

その表情は、驚愕、悲しみ、怒り———色々な感情で染まっている。

善逸はもちろんの事、あの球磨川でさえ驚愕していた。

あの、球磨川でさえ。

そして、私も。

自然と涙が浮かんでくる———泣くべきは伊黒さんと分かっていながら。

こんなに涙が出る人だったかな、私。

初めて出会った時の笑顔。

共に料理をした時の笑顔。

一緒にナシゴレンを食べた時の幸せそうな笑顔。

自然と甘露寺さんのあの屈託のない笑顔が脳裏に浮かぶ。

話したのはほんの僅かな時間だったが。

でも。それでも———

「…他の二人はどうなった。鬼は倒せたのか」

伊黒が声を絞り出して聞く。

そうだ。

もしこの2人が生き残っていれば

もし鬼を倒せていれば

讃えることができる。

甘露寺の死は無駄ではない。

そう思える。

諦めもつくかもしれない。

前を向けるかもしれない。

そう思っての質問だろう。

藁にも縋るような問い。

だが。

 

「竈門炭治郎、死亡!嘴平伊之助、行方不明!カァー!」

ドンッと。

伊黒さんが机を叩いた———そこにはヒビが入っていた。

怒り。

それは何に対してのものなのか。

鬼か。

世界か。

はたまた、何もできなかった自分への怒りか。

相棒の蛇、鏑丸が慰めようとするも(恐らく)伊黒さんは聞く耳を持たない。

私たち3人は伊黒さんに何も言い出せなかった。

『……。』球磨川だけは先程までの驚愕の色を既に消していたが。

「…今回は、ハッピーエンドだと思ったんだけどね」と呟いてみる。

誰にも聞こえないように言ったつもりだったが横から「そうだな」という返事が聞こえた。

いい人だな、と思う。

それからしばらく経って、伊黒は突然立ち上がった。

追いかけられないようにだろうか。「便所だ」とこちらを見ずに言ってから襖の向こうへ行った。そして襖を開けつつ、もう一言呟く。

「俺は信じない」

バタン、と襖が閉まり、伊黒の姿が見えなくなる。

 

「……。」

『……。』

「……。」

沈黙。

 

「…なぁ、伊黒さんの(カラス)。その、甘露寺さん達の敵の名前はなんだ」

善逸が、顔を伏せながら、伊黒さんと同じように涙声で問う。

「カァー!鬼の名前は———」

 

  童磨!上弦の弍だ!

 

空元気のような、明るい鴉の声が広間に響く。

上弦の、弍。

「そんなに、強いのか」

上から2番目というのは。

『…ねぇ、皆』『一応聞くけどさ』『今の僕らでそいつを倒せると思うかい?』

「無理だよ」即答した。無理に決まっている。

『そっか』『いやー、今実はさ』『僕、甘露寺さんを殺されて許せないと思っているんだ』球磨川さんが肩をすぼめて言う。『まるで悪い夢を見ているみたいだぜ』

こいつもこいつなりに悲しんでいるのか。

なんか意外だな。

「ふう。…じゃあ、結局鍛錬しないとか」

『そうだね。』『あ、また煉獄さんのお世話になるのもいいかもね!』

「はは…アイツは熱血そうだからやだ」

『あー!あいつって言った!』『いーけないんだいけないんだー!』『あとであいつに言いつけてやる!』

「お前も言ってんじゃねぇか」

はは、と善逸が笑う。

つられて球磨川さんと私も笑う。

完全体の「大嘘憑き(オールフィクション)」を使えたらな、だなんてそんなことを思っても仕方がない。

甘露寺さんは、全力を尽くした。

その姿勢を見せて———人間を守る、という強い思いを後輩に見せつけてから死んだのだろう。

だったら私たちにできることは。

その意志を———遺志を、継ぐことだ。

「じゃあ、明日から頑張りましょう?善逸、球磨川さん!」私は、涙で赤くなった目を擦りながら言った。善逸も同じような感じなので恥をかかずに済んだ。ありがとう善逸。

『あのさぁ善逸ちゃんだけ下の名前で呼ぶって言うのはどうかと思うぜ?』『胡桃ちゃんは僕の気持ちを考えたことがあるのかな?』

「無い、というしかありませんけど…嘘ですよ」

 

 ———禊。

 

そう言うと、球磨川さんは感動したのだろうか、涙を浮かべ始めた。タイミングそこじゃないぞ、禊。

あ、なんかこれ恥ずかしいな。

「おっけー、じゃあ甘露寺さんの仇とるぞー!」

 

「『「おー!!!」』」

私たちの団結が深まった夜だった。

『…と、その前に』『一つ提案があるんだけど…』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そのとき。

小芭内伊黒は宣言通りトイレにいた。

目的は用を足すこと———ではなく。

「…蜜璃…!」

泣くこと。

未だ信じきれていないのは事実だ。だが鴉がそう言った。

だったら———そうなのだろう。

それが事実なのだろう。

助けてやりたかった。

帰って一緒に甘いものを食べたかった。

最期に立ち会ってやりたかった。

無惨を倒した後は、一緒に幸せに暮らしたかった。

一緒に、死にたかった。

それだけ。

「…それだけのことが…できないのか俺はッ!」

叫ぶ。トイレの個室に虚しく響き渡った。それがさらに自分の惨めさ。そして孤独さを引き立たせた。

もう、あの子には会えないのだ、と。

あの笑顔を見ることは二度と無いのだ、と。

 

もう、あの声を聞くことは———

と、その時。

「伊黒さん」

声がした。高い女性の声だった。

聴き慣れた、あの声。伊黒はツー、と涙を流しながら、彼女の名を呼ぶ。

「蜜璃…!?」

「…そうだよ、伊黒さん」

「やっぱり生きて…!待ってろ、今開けるから」ガチャガチャと鍵を開けようとする。だが手が震えて上手く開けれない。

「…開けないでいてくれると嬉しいかな。ほら、私今死んじゃってるからさ」

 

死んでいる、そう言った。ということは今話しているのは———

「幽霊、か?」

「そんな感じかな?ふふ、あの子達、ほんといい子だなぁ。好きになっちゃいそう」

いつも通りの口調で言った。

いつも通り、笑った。

死んだはずの女の子が。

もう2度と聞けないはずの、その笑い声が確かに耳に届いた。

あの子達、とは誰のことだろうか。

「…ごめん、助けに行けなくて。俺女の子一人の命も救えねぇんだな」

「ううん。大丈夫だよ。私が弱かっただけ。それに、伊黒さんは勝てたんでしょう?なら誇ってよ、もっと」

「そんな、」

お前のことを馬鹿にするような、と続けようとした。

「私ね、伊黒さんのその優しい目が好きなの」

だがその台詞甘露寺の言葉で遮られる。

「伊黒さんの、その優しい言葉が好き」

「…俺はそんな人間じゃない」

「伊黒さんのさりげない思いやりが好き」

「…俺は」

「伊黒さんが———」

「俺はそんな人間じゃねぇッ!!!」

つい叫んでしまった。蜜璃がビクッと驚いたことが壁越しでも分かる。

あぁ、俺はやっぱり最低な男だ。やっぱり。

「貴方の優しさに、救われている人が必ずいる。だからさ、そんなこと言わないで、自分に胸を張ってよ」

蜜璃まで泣きそうになりながら、そう言う。

瞳を潤ませた蜜璃の姿が浮かぶ。

こんなにも克明に。

でも、そんな優しさはお前にだけだった———そう思っているのに、それは何故かストンと空虚だった胸に何かがはまるような言葉だった。

だから俺は。小芭内伊黒は。

「分かった」と言った。

 

「あのさ。来世では私のこと、お嫁さんにしてくれるかな」

それはあまりにも唐突な愛の告白だった。

脈略も雰囲気も何もない。

出来れば生きている間に聞きたかった、そう思わざるを得ない言葉。

だが。

「———勿論だ」それにも、俺は即座に肯定した。

「君が僕でいいと言ってくれるのなら。絶対に、君を幸せにする。今度こそ死なせない。必ず、守る———」

 

「…うん」壁越しに、鼻を啜る声が聞こえる。衝動的に扉を開けたくなるが、それをグッと堪える。

「じゃあね、伊黒さん。大好きだよ」

「…あぁ、俺も、好きだ」

「…ははっ」

 

その笑い声を境に、何も聞こえなくなった。

静寂。

蝉の音だけが聞こえる。

恐る恐る扉を開け、外に出てみるも、そこには誰もいない。

もしかしたら、ただの幻聴だったのかもしれない。だが———

「…助けられたな」

そういう、ことなのだろう。

ふと頬に触れると、顔がとても熱いことに気付いた。

きっと今、鏡を見たら真っ赤になっていることだろう。

ウブな自分に、微笑を浮かべる。

恥ずかしさを紛らわすためにも、涙を落とさないためにも俺は星を見上げてこう呟く。

「———あぁ、末永く、よろしく」

初恋は始まったばかりだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ…ただいま」善逸が、涙目で私と禊のもとへ戻ってきた。

そう。

禊が提案した計画とは今後もう使い道が無くなったであろう、「過去の明星」を使うことだ。

安心院さんが善逸に渡した、死者を憑依させるスキル。

これで、甘露寺さんを憑依させたのだ。

「たまには良いこと言うじゃん、禊?」

『おいおい、たまにはって』『いつも言ってるだろうに』

「言ってねーよ」

『そんな馬鹿なッ!?』

「自覚症状なしか…貴方バカなことしか言ってないよ」

『…嘘だよね?』

「うん、嘘…ではないよ」

『えぇ…』

部屋に笑う声が響く。

今度は、空虚ではない。

暖かい音だった。

 

 

どうか、甘露寺蜜璃と小芭内伊黒がまたいつか出逢えますように。

 

 

 

                      《Merry Bad End》is C”LOSE”D

                                I love you!




この二人には幸せになってほしいですね。
最初は「お、これ凄い西尾維新展開じゃん…!」って思いついてからここを書くのにワクワクしっぱなしだったんですが書きながら泣きそうになってました。いや、もうね、うん。
ここまで読んでいただきありがとうございました。アンケートから察するに、恐らく球磨川メインの話になりそうです。「禊がば祓え編」ってとこですかね?とりあえずはここまで読んでいただきありがとうございます。そして出来ればこれからもよろしくお願いします。


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禊がば祓え編
029 a Day in Our Life


ここから完全オリジナルストーリーです。球磨川メインなのでよろしくお願いします。


リー、リー、リー、と鈴虫の鳴き声が響き渡っていた。

これはある深夜のこと。

いつの深夜かという注釈を加えるとすれば、これは遊郭での一件が終了した2日後のことである———甘露寺蜜璃が死亡してから2日後のことである。

俺———我妻善逸と球磨川禊、冠石野胡桃の一行は未だ疲れが取れず(まぁ球磨川はこっそり「無かったこと」にして疲れているフリをしているだけなのだろうが。そこら辺の彼の性格は分かってきた。)、療養を続けていた。

勿論、蟲柱の胡蝶しのぶの家である。まさに至れり尽くせりと言って申し分ない扱いなので個人練習に努めなければ堕落人間になってしまいそうだ。

堕落。

球磨川のように———とは流石に言うまいが、堕落するというのはとても恐ろしいことだ。

もっとも、堕落してしまえばそんな怖さは感じなくなるだろうけど。

でもだからといってそれを許す理由にはならない。死んだら何も感じ取れなくなるから死んでもいいと言っているようなものだろう。

俺の中では堕落は、死ぬことと同義だ。

ベッドの上で俺は「あぁ今いい言葉言ったな」などと思考していると(言っていない)、突如のこと。

 

『なぁなぁ善逸ちゃん。起きてる?』

ガサガサと音がしたかと思えば何者かが俺の肩をユサユサと揺さぶってきた。

まぁこの場合は何者か、なんていうぼかしは何の意味も持たないだろうが。

 

球磨川禊である。

出来ることならば起きているか聞くだけにしてほしい…揺さぶったらそりゃあ寝ていても起きるだろうに。このアンポンタンはそれが分かっていないのだろうか。

分かってないだろうなぁ。

「はいはい起きてますよ…で、何だよ」まぁ幸いにもまだ起きていたので今回ばかりは許すこととしよう。僕は頭を掻きながらそう尋ねた。

『いや、する事ないから雑談しようぜ』

予想以上に下らない用件だったので(これなら一緒に便所に行こうのほうがまだマシだ)、怒鳴りそうになったが冠石野ちゃんがいることを思い出してそれをグッと堪える。

ナイス冠石野ちゃん。後で褒めなくては。

「…寝ればいいんじゃねぇの?」と、気怠げに言ってみる。

喉が渇いたので棚の上に置かれているコップに手を伸ばす。

んー、あとちょっとなんだけどな。

届け、届け、届け。

うん無理だこれ。ここは潔く諦めよう。

『なんか眠りにつけなくてさぁ』『恋バナでもしようぜ』『善逸ちゃん誰が好きなの?胡桃ちゃん?』

唐突の衝撃発言。

水を飲んでなくて良かった、と安堵———なんて出来るわけがない。

「わっ馬鹿…!」大慌てで冠石野が就寝しているベッドを見る。スースーと寝息を立てているのを確認してから静かに球磨川を見る。

「ぶっ殺すぞ」

『怖いって善逸ちゃん…落ち着けよほら。』『どうどう、どうどう…あはは、冗談だってば』『それとも図星かい?』

う。

「…まぁ、そうだけど」今鏡を見たら真っ赤になっていそうだ。黄色の髪の毛とも相まってかなりファンキーな姿になっていることだろう。

今が深夜であり、相手の顔色までは見えない状況であるということに感謝した。

今何に感謝したんだろう、俺。

『へぇ…これは面白…』『げほっげほっ』『愉快なことになってるね』

「何も訂正出来てないぞ」

『ていうか、普段の善逸ちゃんなら速攻告ると思うんだけど、どうしてそんなに渋ってるんだい?』

確かにそうかもしれない。普段なら確実に告っている。

しかも出会って数秒で。いつもそうだ。

そう思いながら彼女との出会いを振り返る———無限列車。

あ、そうか。

「俺さ、今まで『女ッ!』って感じの女の子としか話したことなかったわけよ」

『ほう、で?続けたまえ』

「ムカつくな、それ…で、冠石野みたいな、なんていうか…男っぽい?な感じの女の子…あ、悪口じゃねぇぞ。あぁいう子に会ったことなかったからどうしたらいいのか分からなくてさ」

『ふむふむ』『つまりあれだね』『殴られたら嫌だってことだよね』

「いや、そこまでされるとは思ってないし女の子に殴られるのは慣れてるけどさ…まぁでも反応が想像できないんだよな、要するに」

…って、コイツにここまで話してよかったかな。

いや駄目だ。絶対に駄目だ。

最悪本人に暴露してくる。

それだけは防がなければ。

『ふーん、そっかそっか』『…でもさぁ善逸ちゃん』『———お前、明日死んだらどうするんだ?』

急に、本気っぽい語り口調になった。

明日死んだらどうするのか。———当然思いは伝えられなくなる。

『もしかしたら冠石野ちゃんだって、甘露寺さんみたいに死ぬかもしれねぇぜ』

 

恋柱———甘露寺蜜璃。

彼女が死んだのは、記憶にもまだ新しい一昨日のことだった。

伊黒さんは今何をしているのだろうか。話そうにも朝目覚めたらいなくなっていたし。

いつかまた出会えることを祈っておこう。

「…そうだな。ま、あとちっとだけ待ってくれよ。今はそういう気分でもないしさ」

『ん、どうしてさ』『人間、年中無休で発情期だろ』球磨川が不思議そうに聞いた。

「嫌な言い方だな、それ…実はさ、今探してる奴がいてさ」

そう言いつつ、自分のベッドの横の棚を開け、紙の束を球磨川に見せる。

『ん…』『これは?』

「俺の、兄弟子の行方を追ってまとめたものだ」

 

 

俺の兄弟子、すなわち師匠の弟子———元弟子、獪岳(かいがく)の行方を調べ上げた紙。

 

 

「コイツ、雷の呼吸の使い手のなかで一番優秀で、爺ちゃんにも随分と褒められてたんだ。なのに。」

なのに。

 

 

———どうして鬼になんかなったんだ、お前。

 

 

獪岳(かいがく)が鬼になったせいで、爺ちゃんは、腹切って死んだんだ———!」

凄く、痛かったと思う。心も体も。

それを思うと、今だって居ても立っても居られなくなる。今すぐに首を切りに行きたい。

『へぇ…それで、復讐したいってことね』

「そうだ」と言いながら紙束をまとめて元の棚に戻す。そしてため息。「でもさぁ、まだ正確な情報はあんまり手に入れられて無いんだよな」

『そうなの?あんなにいっぱい紙あったのに』

「噂話も多いんだよ。正確なのは、アイツが鬼になって———上弦の下っ端になったってことだ」

上弦の鬼。

それは即ち、彼が堕姫ほど強いと言うことだ。

今回だって、芥川さんが居なければ勝てなかっただろう。

『えっと…それってすっごい強くない?』

「あぁ、だから今こうやって訓練しているんだ。いつか、アイツを倒すために。」

『意外とちゃんとした目標があるんだね』『頑張れよ、善逸ちゃん』『僕は陰で笑ってるから』球磨川が片目を閉じる。どういう仕草だろう。

「笑うな笑うな。折角いいこと言ったかと思ったのに」一応俺も右目を閉じてみる。なんだこれ。

『まぁけどさ』『時には休養も必要だよね?』『だからさぁ、折角だから明日———』

「断る」

『えっ何で!?』

「ろくでもないことを提案するのは目に見えてるからな」

『おいおい』『相手が僕だからって言っていいことと悪いことがあるんだぜ?』と言って球磨川は肩をすぼめる。

毎回思っていたけど、なんだその気に触るポーズは。

「…これはどっちだろうな?」

『言わなくちゃ分からないのかい?』『まぁいいや、それでさ善逸ちゃん。良かったら———』

 

———うちに来ない?

 

そう言った。

それはそれで衝撃発言だった。俺はその申し出に空いた口が塞がらなかった。

そもそも家族とかいるのか、こいつ?

もっとも、この後更なる衝撃事実公開によってそれ以前の驚きは全て「無かったこと」になったに等しいのだけれど。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次の日の朝。

俺らは球磨川家に出かけることになっていた…昨晩の会話を知らない冠石野は困惑一色だろう。

あの後僕が聞かされた事実もまた衝撃的なもので、同じように俺も困惑していたけどな。

「…なぁ、冠石野ちゃん」

「あっごめんちょっと待って…。はい、なんです?」クルッとまわってこちらを振り返った、可愛い。

じゃなくて。

「えっと…昨日アイツに聞いたんだけどさ」

「はいはい」

「球磨川が未来から来たって本当なのか?」

「うん、本当だよ。マジと書いて本当って読みますよ」

「それは逆だろう」

凄く自然に言われた。

…え、これって結構当たり前のことだったの?

知らなかったの俺だけ?

「はい。日本国民なら皆知ってますよ、球磨川さんが未来人だなんて話」

「そっか…それは済まなかった…」

…。

ん?

いや、流石にそんな訳なくない?

「まぁそれは嘘にしても———服装とか所持品、言葉などで気付かなかったんですか?馬鹿すぎませんか?」と、久々に辛辣な言葉をかけられた。つい「うぐっ…」と唸ってしまう。

「でも大丈夫ですよ善逸さん。無知は罪だけれど、馬鹿は罪じゃないんですよ。馬鹿は罪じゃなくて、罰ですからね」

「何の!?ねぇ俺何やったのぉ!?おい無視しないで!」

暫く話しかけていたらニヤッと笑って「化物語ジョークです」と言った———言ったらしいがそれが何かは分からないのでもしかすると聞き間違えかもしれない。

あとで聞いておこう。

それはともかく、確かに時々気になる部分はあったのだが「まぁ球磨川だもんな」と自分の中で解決させてしまっていたのだ。

例えば———と、机の上に置かれている球磨川の所有物を見る。

四角い箱のようなもの。

ガラケー、と言うらしい。

球磨川によると「時間を凍結させる道具」らしい…信じられなかったが、球磨川が実際にやってみせると「パシャ」という音の後にその画面の中に俺の姿が現れた。

いやぁあれは驚いたね。…ていうか最近の俺は驚きすぎている気がする。あれ、いつも通りかな?

むしろ成長したことで自身のそう言う部分(球磨川風に言うならばマイナス?)がより一層際立っているのだろうか。

綺麗な場所にあるほこりほど目立ちやすいものだ。

閑話休題。

「ていうことは今から行くのは球磨川の先祖ってことだよな?なぁ球磨川、大丈夫なのか?」

『大丈夫大丈夫。いくら時代が流れていても血は繋がってるんだからさ』『顔パスさ顔パス』と、軽めの返事が返ってきた。

とても信憑性が薄い返答だった。

にしてもどうしていきなりそのようなことを言い出したのだろうか…まぁいつもの適当かな。

恐らく変な企みなどは無いだろうし、今回は鬼と戦う展開にはならないはずだ。

そんなことを考えているうちにいつの間にか全員の準備が終わっていた。

というわけで出発———

「あ、皆さん!良かったらこれをどうぞ」

出発する寸前で声をかけてきたのは、いつぶりの出演だろうか、しのぶさんだった。

家に泊まらせてもらっているのにこの出演量は可哀想だなと思う。今度からは出来るだけ出していくこととしよう。

 

まぁそれはともかく、彼女の手にあったのは大きく膨らんだ笹の葉だった。

温かそうな湯気が出ており、それに乗って美味しそうな匂いが鼻に届く。

「お、これはもしや…」

「はい、おにぎりです。加熱した藤の花を混ぜておいたので道中にでも召し上がってください」

なるほど。そういえば藤の花は鬼にとって有毒なんだ。だとするとそれを食べるのは鬼避けとして有効…

有効なのか、この少量で?

「別に効果があるわけではありませんよ。一種の願掛けみたいなものです」

『ふーん、美味しそうだねぇ』『ありがとね、しのぶさん!』と、いくら願掛けをしても無駄に終わりそうなほど不幸な男が感謝の言葉を述べた。

「えぇ、いってらっしゃい」と球磨川の失礼なタメ口をサラッと受け流せるしのぶさんは、やはり心が広いのだろう。

凄くモテそうだ。実際俺もお嫁に欲しい。

まぁそんな感じで、俺らは球磨川の家を訪れることとした。

 

 

…あれ、今と昔じゃ家の場所違うんじゃないのか?

 

 

 




グダグダになりそうだ…。球磨川家どんな感じなんでしょうか…「禊がば祓え編」も是非よろしくお願いします。


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030 思考(至公)

「至公」というのは、「公平」と言う意味らしいです。僕も知りませんでした。



猛暑と言って差し支えない太陽からの有難いことこの上ない日光の降り注ぐ昼間。

はっきり言って気が狂いそうだった———まぁ、こんな気温の中歩いている時点で既に気が狂っているとも言えるけど。

何が悲しくてこんなことをしているんだ、俺は。

そんな言葉を脳内でループさせていると突然、『しりとりしようぜ!』と球磨川が言い出した。

『人類は遊びと共に進化してきたんだぜ』『もしかすると、遊んでいれば強くなれる理由を知れるかもしれないよ?』

「今とんでもない理論の跳躍があった気がしたんだけど…」

しりとり。

知らない人はいないであろう、古典的な日本の遊びだ。まず参加者のうちの一人が、最初に適当な単語を言う(最初に言う単語は「しりとり」とするルールもある)。以降の人は順番に、前の人が言った単語の最後の文字(つまり『尻』=語末 である)から始まる単語を言っていく。

遠足なんかの道の途中ですることが多いよな?

球磨川が童顔であること、今歩いているのが土手であることも相まって、まるで遠足中の小学生のような印象を受けた。

本性を知っている俺からしたら微塵も微笑ましさなど感じないが。

「いいですよー」と少しもウザがらずに冠石野ちゃんがそう答えた。

冠石野ちゃんも参加するようなので俺も「分かったよ」と参加する事にした。

仲間はずれは寂しいからね。

あと冠石野ちゃんと話したいし。

『よっしゃ、じゃあスカートめくりの天才と恐れられた僕が君らの尻をもぎ取ってやるぜ』

「スカートめくりってそんな殺伐とした競技でしたっけ」

「いや、競技ですらねぇぞ…まぁけど恐れられてはいそうだな」主に女子に。

全く威張れる話では無い。むしろ恥に近いものだろう、それは。

それにしてもしりとりなんていつぶりにするだろうか。

爺ちゃん家にいたときは訓練ばっかで遊ぶ暇なんて無かったからな。

幼少期ぶりと言っても過言ではないだろう。

まぁけど、やるからには本気で…とはいえ、本気でしなくても球磨川には勝てるだろうけど。

敵は冠石野ちゃんのみだ。そしてそんな彼女もあくまで遊びとしてのしりとりをしようとしている。

うん、甘いな。

実に甘い。

今から行うのは本気の、大人のしりとりだ。

故に妥協はない。

俺の勝ちだ。

順番は俺→球磨川→冠石野となった。

さてさて。

俺のターンだ。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

どうも、冠石野です。

しりとりで先程圧勝した冠石野胡桃です。

いえーい。

おっと、ヒーローインタビューですか?ははは、照れますねぇ。

ちゃんと事務所を通してますか?はいはい、ならいいですよ。

そうですね、こちらに向けた殺意を感じたため高貴な私が早急に「ぷ責め」の体制を取ったのが功を期しましたね。

後期の彼の悩む姿は見ものでした。あれだけで白米3杯はいけるね。

流石に言いすぎましたね。精々2杯ってところでしょう。

ははは、私がのほほんっとしりとりをしているとでも思っていたか。

甘いな。

甘ちゃんだぜ、ほんと。———とか言うと禊っぽいのでやめておく。あれに似ているだなんて冗談でも言われたくはない。

私だってしりとりは本気なんだよ。どれくらいかって言うと…うーん、鬼狩りくらいかな。

…。

まぁ、流石にそれは冗談にしても、この遊びでかなり本気で思考していたため疲れてしまった。

 

なので2人に「あのー、休憩にしません?」と提案した。既に頭も体も困憊している。あとどれくらいの距離なのだろうか?と思い前方を確認する。

だが目の前には土手が広がっている———土手が広がっているっておかしいな。それはもう土手じゃない。まぁ自然が広がっていた。

ぶっ倒れたくなった。

何で私たちはこうまでして禊の家に向かっているのだろうか。

訳がわからないよ。

『いいよ。実は奇跡的に僕も同じことを思っていたんだ』と禊が肩を回す。『はぁ、疲れた』

お前の提案だろうが。

「何が奇跡的だよ。俺だって思ってたわ。よっしゃおにぎり食うぞ!」

そう言って善逸が笹の葉を風呂敷から取り出した。

おにぎりだ!

おにぎりだ…おにぎりだ?

おにぎり…。おに…ぎり?

鬼———

「あっ」

今凄いことに気がついてしまったかもしれない。

 

 

おにぎり———鬼切り。

 

 

うぉううぉう。

これはこれは…鳥肌がたった。

なかなか粋な事をするな、しのぶさんも…まぁ偶然かもしれないけれど。

どれだけゲン担ぎをしたら気が済むんだ。

『どうしたの?胡桃ちゃん』

「や、何でも無いですよー。」この発見はちょっとの間隠しておこう。

何故かって?…まぁ、優越感に浸りたいからですよ。

悪いですか!?

いいですよね、えぇ。人間というものですよ、それが。

仕方がないよね。私は悪くないんだよ。

「さて、じゃあ食べましょうか」

「そうだな…あ、あれ?なぁ冠石野ちゃん。おにぎりってもしかして鬼切りって意味じゃないか?」

光速でバレた。

嘘だろ。

あれ、そんなに凄くないのかな、この発見。いや、これも彼が雷の呼吸の使い手だからだろうか。流石善逸、と言う事なのか。

まぁでも、閃いたのは私が一番初めですから———

『———おおおおおお!凄いね善逸ちゃん!』『これはなかなか気付けねぇよ』『なぁ胡桃ちゃん?』

しまった。

さっき欲をかいて気がついた事を言わなかったんだった。

これはまずい。善逸が持て囃されてしまう。

嫌だ。

持て囃されたい。

それだけは避けなければならない。さて、思考だ。

 

至高で

志向な

嗜好を、思考しろ。

そして———最適解を試行する。

 

 

「いや、私が最初に思いついてましたけど???」

ゴリ押ししか思いつかなかった。

死にたくなるほどダサい…いや何をやっているんだ私は。

まぁそんな感じで僕私たちは一本道を歩いていた———。

歩いて。

歩いて。

歩き回った(回ってはいないが)———だが。

『ねぇ善逸ちゃん…』『土手ってこんなに長いっけ?』

「さぁ…なんか、景色が変わっていない気がするんだけど…」

「良くお分かりで」

「えぇ、流石私たち———あれ」

誰だ、今の人。

年配の男性の声が聞こえた気がしたのだが。

気のせいだろうかと思い他2名の顔色を伺い、ついでにその声について伺う。

「あの、皆さ…」

絶句した。

それも当然の話だ。何故なら———

その声の主は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え…なんのギャグですか、善逸」

「あ?何がだよ」

矢張りだ。

こいつは、頭の上のこの男の存在に気付いていない。

どういうことだ?と訝しみその男の風貌を確認する。

西洋風のタキシード。

真っ白に染まった、それでいて美しいとさえ思える年を感じさせない髪。

人の懐に入り込むのが上手そうな、清楚な笑顔。

行動だけが異常だった。慣れ親しんだ言い方をするならば、その男はまさしく異常(アブノーマル)だった。

もしくは———。

『…あのさ、胡桃ちゃん』『これ遊郭でも同じようなことあったよね?』

禊も気付いている…?

これは一体どういうことだろうか。

それに———遊郭で?

そんなことあっただろうか。こんな男、見たことないけど。

いっちゃ何だけどこんな行動をするヤバい奴を忘れる訳がない、と思う。

自分をそこまで記憶能力皆無な人間だとは思いたくはない。

私は鳥じゃない、人間だ。

いや、そんな訂正をしている場合ではなくて———本当に、何なのだろうか。

何も分からない。

「球磨川様、流石でございます。実の所、遊郭での鬼『堕姫』殿、そして『妓夫太郎』殿の『違和感』を『無くした』のは私めで御座いまして。もっとも、同じ過負荷(マイナス)の方には効果が薄いようですが」

「あぁ…」そういうことか。

道理で、「違和感操作」なんて使いようによってはかなり良い武器になる物を持っていながら戦闘で使わないなぁと思っていたのだ。

それはつまりあの兄妹の過負荷(マイナス)ではなく。

この男のスキルだったから、か。

かつて球磨川が言ったように、それを欠点(マイナス)と考えるならば———「見て見ぬ振り」といったところか。

非日常に気が付かないように、平凡な人生を謳歌する——たとえ目の前で人が倒れていても無視を無視をする。

そういう、人間なのだろうか?

「あの、一先ず、そのスキルを解除して頂けませんか」

「言われなくともそのつもりで御座いますよ」

そう言って男は顔を善逸の頭から離す。すると。

「———っはぁ!?なんだお前!?」善逸が、まるでその男が今そこに現れたかのようなリアクションをしてみせた。

「では早速参りましょうか」

『ん…』『何処にだい?』

「何処へって、ほっほ、中々ユーモアのあるお方ですね。決まっているではありませんか———」

彼は、一拍待って溜めた後、こう言った。

 

「———球磨川様のご自宅です」

 

爽やかな笑顔だった。

へぇ、それは願ったり叶ったりだ…って、いやいやいや。

 

罠の匂いしかしないんですけど…?

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「私めの名前は名梨野権兵衛(ななしのごんべえ)で御座います。」

その後、彼は丁寧に自己紹介を済ませた。

土手を歩き、球磨川の家を目指しながらのことだった。

「……。」

『……。』

「……。」

名無しの権兵衛。

私たちは全員、それがツッコミ待ちなのかと思ったが先程までと変わらないにこやかな笑顔をこちらに見せていたため、恐らく本当なのだろう。とんでもない名前だ…是非とも親の顔が見てみたい。

まぁそれはともかく。

気になることは山ほどある、と質問をしようかと思ったら、心を読んだのではないかと思わせるようなタイミングで

「質問がありましたら何でもお聞きください」と言った。

この人は少し不気味だ。

キャラが薄いと言うか…何処にでもいそうな紳士。そのはずなのに何処か、何かがおかしいように———頭の螺子が外れているように感じてしまうのはどうしてだろうか。

外れていると言うか、元々無いかのような。

そう。まるで、球磨川禊だ。

『似ている』では足りず、もはや禊『そのもの』と言った方が近いこの人———権兵衛は、何者なのだろうか。

まずはそこかな、聞くことは。

「えっと…。権兵衛さん。貴方は何者なんですか?」

「いい質問ですね」先頭を歩いている権兵衛さんはこちらに顔だけ向けて言った。

勿論のこと、今世紀稀に見る最高の笑顔だ。

「私は球磨川家に勤める召使い(サーヴァント)でございます。球磨川家は由緒正しき血筋で御座いまして多くの私めのような者を雇っておられるのです」

『へぇ』『僕の家って金持ちだったんだね…』

「左様です。最も、禊様の時代では既に廃れているようですが…」

『じゃ、僕からも質問だ』『どうして僕が未来から来たって知っているんだい?』

「いい質問ですね」

もしかして全部の質問に言うんじゃないのか、それ。

私は褒められて嬉しかったというのに。

この野郎。やっぱり油断ならないな。

「それは私めのこの能力のお陰で御座います。私めの能力は『違和感操作』———そしてその過程で『何に』『どのような』違和感があるのかも全て分かるのです。例えば———球磨川様がお持ちのその電子機器」そう言って権兵衛さんは禊の服のポケットを指さした。

そこに何があるかなんて、知っている筈が無いのに。

油断ならないな、と思った。

恐らく他の2人も。

———と、ふと球磨川が権兵衛の後ろに歩み寄る。

『ふぅん…そっかそっか』『権兵衛さん』

そう言ったかと思えば———球磨川は権兵衛に螺子を刺していた。

『———うん、これならうちの召使いも務まりそうだ』

「———流石で御座います」

と思いきや、彼は人差し指と中指でその螺子をしっかりと受け止めていた。

力む事もなく。

汗もたらさず。

後ろを振り向くこともなく。

先ほどまでと寸分変わらない笑顔で。

余裕綽々、という感じで。

「球磨川様は血気盛んでございますな。私も戻れることならば皆様の歳に戻りたいですね」

ほっほ、と笑う。

そして再び歩み始める。

球磨川はどうかというと、彼もまた同じように悔しがったりすることなくいつものニコニコ顔で歩き出した。

「…こいつ」と善逸がぼやいた。「軸がブレない」

「はい?何ですって?」そう尋ねると、誰かに訊かれる予定じゃ無かったのか、驚いた顔を見せた。

それから、前方を見つめる。

前方の———謎の男を。

「いや、さ。こいつ、さっきから全然、体の『軸』が動かないんだ。ずっとまっすぐでさ———はっきり言ってバケモンだ」

めちゃくちゃ強いよ、こいつ。と言いつつ額に汗を流す。

強い。それは一体どれ程の強さを表しているのだろうか。

魘夢か、堕姫か、はたまた———

 

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

 

まさかな、と焦りを隠して小さく笑い、善逸にこう言う。

 

「えぇ、私もそう思っていました。私の師匠でぎりぎりってとこですかね」

「お前に師匠はいねぇよ」

 

 




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031 五里霧中

最近いい感じのタイトルが思いつかなくて困っています。誰か助けて。そんな感じの31話です、よろしくお願いします。


「到着いたしました。此方で御座います」その声を聞いてようやくたどり着いたのか、と久しぶりに前を向いた。

そこには———

『おぉ…!なかなか立派な建物じゃないか!』

球磨川が、きっと未来で凄い建造物を見ているであろう球磨川禊が感動するほどの、立派な建物があった。

摩天楼、と言って過言ではない大きい建物だった。

素晴らしい———はずなのに

(どこかがおかしい…?)

何処だろうか。

普通の住宅なら必ずあるものが、ない様な…

『なんというかさ』『ここまでくるとマンションって感じだよね』『いやぁ、流石の没落加減に僕でも凹んじゃうね』加えて球磨川はヘラヘラと、肩をすぼめてそう言った。

一切凹んでいないような笑顔で。

実際傷ついていないと思うしこいつが傷つくことは天地がひっくり返しても無いだろう。

虚勢でも。

虚勢でなくとも。

「あの…窓が無いんですけど…?」と善逸が権兵衛に尋ねる。

なるほど、おかしさの原因は窓か。

そこは『違和感操作』していなかったらしく善逸でさえ気付いたようだった。

もしくは『でさえ』というよりもヘタレな善逸であるが故に気づけたのかもしれない。

どうでもいいか。

「えぇ、実は主人の希望でして…何しろ日光に当たれないという大変な奇病———難病なので御座います。故に窓は無くして紫外線を防いでおります」権兵衛は語った。

 

 

———日光に当たれない奇病、か。

 

 

………鬼の可能性って、どれくらいだろうか?

流石にそれは無いと願いたいんだけれど。

これはあくまで日常パートだ。戦闘シーンなんて望んでいない。

フリじゃないよ、本当なんだよ。やめてくれ。

正直甘露寺さんのショックが未だ抜け切れていない部分があるのだ。

もし、善逸や禊が死んだら、と思うと。

おぉ怖い怖い。

ま、いざとなったら——余裕の表情で勝たせていただくけどね。

余裕のよっちゃんである。

そういえばこの『余裕のよっちゃん』という言葉は一体誰が使い始めたのだろうか。

そして何故、わざわざ『よっちゃん』とつけたのか———そのせいで一体古今東西何人ものよっちゃんが揶揄われたことか…いや、知らないけど。

おどけることで余裕さを強調しているとかそんなところかな?うん、適当に考えたにしては割とありそうだ。

そういうことにしておこう。

うぅむ、なかなかに深いな。

…閑話休題。

「それで、一番気になることを聞き忘れていたんですけど、アポなんて取っていないのにどうして私たちを待っていたんですか…?」

と、ここで道中気になったことを聞いてみた。

疲れ切っていたせいで聞く気力も無かったからね。

「……それはお答えできかねますな」

あれ?

さっきまでどんな質問でも簡単に答えてくれていたのに…。

禊のどんなに失礼な質問であっても。

歴代彼女人数なんて聞きやがって。君のメンタルが羨ましいんだよ。全くもう。

「それでは、どうぞお入りください。私めは少々しておかなければならぬことがありまして…」

「あ、了解です」善逸が代表して返事をした。

上を見上げると先程より近づいたからか、より一層高く見える。今からこの屋敷に入るのかと思うと緊張してしまうものだ。

球磨川禊の家———。

嫌な予感は、その話を聞いた時からあったのだが、見て見ぬふりをしていた。

勘違いだったら恥ずかしいし。

「…まぁ、気のせいだよね?」

『ん』禊が私の顔を覗く。『どうしたんだい、胡桃ちゃん?』

「なんでもないですよー」と気楽に返した。

さて。

そろそろ入室———というよりも入場といいたくなるような広い玄関扉を叩く事としよう。

そう覚悟を決め、私はギギギと音の鳴る大きな扉を動かした。

そこは—————————

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

広大な広場(ホール)が存在していた———というわけでもなく。

広さは6畳ほどの部屋、そして。

()()()()

ただそれだけがあった。

「うわぁ…罠っぽいなぁ…」と善逸が後ろで小声で言った。震えているのが振り返らずとも分かる。

そして善逸が言っていることもまた、とても理解できる。

明らかにおかしい。

外から見た時は奥行きはこんなものでは無かった。

少なくとも5倍はあっただろう。

扉と扉の間をコンコン、と叩いてみるが奥に空間がある気配はない。

…って、扉があるのに空間が無いってどういうことだ。

それはそれでおかしいんじゃないか?

いや、でも流石に…とかうだうだ考えていた、その時。

『まぁとりあえず入ってみようぜ』と私たちの葛藤など一ミリも考えていないであろう禊が扉を———開けた。

「はっ…!?」驚いた我々は全力で後ろに逃げたが、特に何も起こらず。

その後に聞こえたのは、

『あれ、これ…』

 

『———エレベーターじゃないか』

 

という、禊の驚いた声だった。

「あ?なんだって?」と英語の知識が薄い善逸が問う。

「簡単に説明すると上へ上がる機械だね。西洋なんかじゃ使われてるはずだよ」そしてその返答を私がする。

「へぇ…なかなかハイカラなんだな、この屋敷」

ハイカラと言えばそうなのだろうが、西洋でもこんな違和感のある造りはしないだろう、恐らく。

真っ白な部屋にエレベーターだけ、だなんて。

勿論、窓も無い。

さて…。

「…3人で別れる?」

『別に付き合ってないけどね』

「黙れ」

『まぁいいんじゃないの?合理的選択ってやつだね』と言っても指をパチンと鳴らして見せる。実にウザったらしい。

だけどOKしてくれるだけ有難い。

問題は禊ではなく。

「ひ…!嫌だ嫌だ嫌だ!絶対怖いって!禊の家だぞ!?」と何気に酷いことを言う善逸だった。

いやまぁ怖いけどさ。

どうしようか。前回みたいに応援か?

でも使いすぎたらいずれ効かなくなるかもしれないし、このドーピングにはタイミングが重要だ。

難しい。

と、解決策を考えていると、またしてもしでかしたのは禊だった。

『ほら善逸ちゃん』『終わったら胡桃ちゃんが何でも一つお願い聞いてくれるってよ』

「へ!?」

なんでも!?

ていうかなんで!?

なんで私なの!?

馬鹿なの!?

「いや、男子の『何でも』は信用できないと言いますか、調子に乗ってエロ方面のお願いしてくる奴ばっかなのでお断りです」

『経験ある言い方だね…』

「忘れもしない、12歳の夜…」

『情感たっぷりにせつめしなくていいからさぁ、善逸ちゃんを何とかしてくれよ』

クイっと後ろで震えている善逸を親指で指す。その動作がまた癪に触るんだよなぁ。

それに、あんな語りが始まったら普通聞いてあげるよね。普通は。

普通であれば。

…うーん。

なんでも。なんでも。なんでも。

いやぁ…。

『それとも何だい?君は仲間を信用していないのかい?』

「うぐっ…」

何を言っているんだこいつ!?

頭おかしいのか!?

『それなら仕方ないけどね』『別の案を考えよっか』

「…………。」

『ほら、善逸ちゃん、どうやら君は信用されていないらし———』

「———あーもう分かりましたよ!受けて立つよもう!」

と、最終的にはヤケクソ気味に承諾した。

「…分かったよ、じゃあ行くよ」と私の声を聞いて渋々立ち上がる善逸。

そうだな、仲間を信用しないと。

小さなところから友情の崩壊は始まっていくんだ。

昔しっかりと学んだはずなのにさ、忘れてたよ。

気をつけよう。

「…じゃ、ご武運を」

『おっけー、またね』

「……頑張る」

そして私たちはエレベーターに乗る。

この先に何があるのか。

私の不安が間違っていて、扉が開いた先は美味しい料理が大量に用意されているのか。

もしくは、鬼の罠か。

何も分からない私は、兎に角『銃版(テンプレート)』で生成した銃を構えて2階への到着を待つしか無かった。

3人で再会できることを祈りながら。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「弓月君也です、えっと、まぁ…弓月くんとでも呼んでください」

そんな私こと冠石野胡桃を2階で待っていたのは、爽やかな———『the・青少年』と言う感じの毛先を遊ばせている中世的な男だった。

うわ。

あうっげー可愛い。

なんなら私より可愛いんじゃないのか、こいつ。

腹立つわぁ…。

その苛立ちとともに何故か「『也』は断定の助動詞なのかな…?」なんてどうでもいい疑問が脳裏に浮かんでしまったので頭をブンブン振って無理矢理消し去る。

今はギャグ方面はやめておこう。

一応ね。

「はぁ、弓月くんね。私は冠石野胡桃だよ。何とでも呼んでね。もしくは読んでね。———で、ここはなんなの?」

先程、壁の向こうには明らかに空間が無かった。

なのに今眼前にあるのは、外から見た時と同じくらいの奥行きのとてつもなく広い部屋。

まさに広場、という感じだ。

1階より2階の方が広いとは、これいかに。

…ってあれ。

この部屋だけでこの大きさなら、他の2部屋は一体どうなっているんだ?

それとも、3階4階に着いたのか…憶測することしかできない。堂々巡りになりそうなのでやめておこう。

そして、弓月くんは部屋の奥の椅子に座っていた。

「何処、と言いましてもね…まぁ、今からするのはちょっとした遊戯です———えぇ、ちょっとした。簡単なゲームですよ。それに勝てば3階へ招待しますよ」

「遊戯?」

「うん。“きゅうぎ”———、と言ってもいいかな」

「なんで私が遊戯の漢字が分かって球技の漢字が分からないと思ったの…?」

球技。

ボールを使って行うスポーツの総称。

ターゲット型ゲーム

ネット・壁型ゲーム

ゴール・ポール型ゲーム

投・打球型ゲーム———ジャンル分けはそんな感じだったかな。

女子の中では筋力があるとはいえ球技はなかなかする機会がなかった———できるだろうか、私に。

まぁ、やるからには本気で。

鬼狩り程度には。

「それじゃ」

『いつも通り勝ちましょうか』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こんにちはなのだ!私は高向玄理(たかむこくろり)さ!ロリちゃんって呼んでくれたまえよ!」

2回に上がって早々、そんな声を聞いたのは僕———球磨川禊だった。

久しぶりの語り部だから緊張するぜ。

さて。

目の前にいるのは10歳程度の小柄な女の子。

小柄な割には気が強そうだけど。

人は見た目によらないんだなぁ、とこんな場面で実感する。

そしてそれだけではなく———広い———だけでなく———

メルヘンなベッド。

ピンク色の化粧台。

お洒落なライト。

そして、日本から西洋まで、多種多様な人形の数々。男の僕でも可愛いと思ってしまうような部屋だった。

『おやおや、なんて可愛らしい子なんだ!』『よろしくね、ロリちゃん!』

これはお世辞じゃないし嘘でもない。

凄く可愛い。

それこそ、一目惚れする程には。

…。

冗談だぜ?

「うふふ、ありがとっ!」とロリっちゃんは満面の笑みを僕に返してきた。

可愛いなおい。

抱きしめたくなるわ。

『ねぇ、後生だからハグしてもいい?』

僕は美しい土下座をかました。

何しろ、それは三代欲求の一つだ。

欲に素直なのは人間らしい、と言えるんだぜ?

そのためならどんなに美しい土下座だってするのを惜しまない。

美少年探偵団の仲間入りを果たしてしまうかもしれないな。

 

美謝の禊。

 

…いやダサいな。却下だ却下。どんな脚本よりも薄い物語になる自信がある。

「駄目なのだ」

そして駄目だった。

『…ま、そんな茶番は置いておいて』

「茶番って感じじゃなさそうな頼み方だったけど?」

『ここは何だい?』『窓もないしさ…』『ちゃんと日光に当たってるのかい、ロリちゃん?』

「えぇ、ボタンひとつで壁がもうね、すっごいガガガッって動いて日光に当たれるわ」

『最先端過ぎない?』なんてものに注いじゃっているんだ、その技術。

もっといい使い方があっただろうに。

「じゃあそろそろルール説明をするわよっ!」とロリちゃんが唐突に大きい声を出した。

『ルール?何の?』僕は問う。まぁそりゃあ知らないからね。

「え?もちろん決まって…って、もしかして権兵衛から聞いてないの?はぁ、あの執事はもう…あとで躾けておかないとね」

ちょっと待って。

階級がおかしくなかったか、今。

君の方が上なの?

『何者なんだよ、君は』

「んー、なんですかね…うん、わかんねっ!」てへぺろ、と舌を出す。

 

か〜〜〜〜わ〜〜〜〜い〜〜〜〜い〜〜〜〜!

 

じゃなくて。

「じゃあ簡単に説明するとね。貴方には私と勝負をしてもらうわ。勝てたら上へ上がれるって訳」

『ふむ。で、その種目は?』

「ふふん、それはねぇ…」

と、少し勿体つけてから、彼女はそのゲームの名前を言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しりとりなのだ!」

『そこまで勿体つけるほど革新的な遊びでは無ぇよ』

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「…ロックです」

「なんでここだけ外国人でしかもキャラ薄いんだよ」

「なんです…?」

「いえ何でも」

そんな『ロックだぜ!』って感じの会話をエレベーターの先で行っていたのは、俺こと我妻善逸だった。

うーん、当たりといえば当たりなんだけど、何故か損をした気分になるな…。

人間とはつくづく贅沢な生き物だ。

「え…なんなの、ここ」と、俺は周囲を見渡す。

大量の本棚。

壁一面に本が敷き詰められていた。

一体どんな本が置いてあるのかと確認してみると、フィッツジェラルドから紫式部まで多種多様な古今東西の文豪の書物が不規則に並べられていた。

あまり綺麗好きな人ではないのかな。

「2階…です」

「んなこと分かってるよ!?何の目的だって聞いてんの!」

「あぁ…目的…」

「そうだ」

「目的…目的…目的…。     ………あ、思い出した」

忘れていただって?

いくらなんでもそれはかなり重症な気がするぞ。

「そう、目的…それは君との勝負…君が勝てば…3階へ…招待します…」

「勝負」

なるほど、そういうことか。

ここの主人はかなりの遊び人だと思われる。…あくまでこれがロックの独断で無ければの話だが。

一体何者なのだろうか、禊の祖先は。

彼と同じように狂っているのだろうか?そうやって推測を立ててみるとちょっとは楽しみになってくるものだ。

知らないものを知れることは嬉しいもんね。

知らぬが花という言葉はあまり信じていない。

あとついでに言っておくと急がば回れもあまり信じていない。

「えぇ、勝負…この階での勝負は…鬼ごっこ…」

「ゲーム内容も他の二人と違ってしょぼい…」いや、しりとりよりはマシか?

「我妻さん…さっきからメタ発言が過ぎますね…」

おっと、失礼。ついつい言ってしまった。

一番楽に笑いが取れるからな、メタ発言って。けど今後は控える事としよう。

「てか、俺あんまりビビらなくなったなぁ…」とぼやく。

ちょっと前までは命令を受けるたびにギャン泣きしていたというのに。

今では最初に少し駄々をこねるくらいだ。いやそれもどうかとは思うが。

さて。

兄弟子探しからは多少脱線するものの、たまにはこういう遊びで本気になるのも良いだろう。

どんなことでも、いずれは生かされる。

球磨川が言っていたが———人間は遊びと共に進化してきたんだ。

だから。

いつか鬼になった兄弟子———獪岳(かいがく)を倒すためにも。

「———勝たせてもらうぜ、ロック」

 

ここで、勝ち癖をつけておくこととしよう。

 

「うん…よろしく、我妻」

そんなロックな会話と供にゲームがはじまった。

 

 

 

 

…いや、どこがロックなんだ。

 




[現在]
冠石野胡桃vs弓月君也(2F) 球技(?)
球磨川禊vs高向玄理(2F) しりとり(?)
我妻善逸vsロック(2F) 鬼ごっこ(?)

と言うわけで唐突にいかにもめだかボックスって感じの遊びが始まりました。ここからどうなるんでしょうか、さっぱり分かりませんが頑張ります。


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032 ニ階(球磨川禊)

僕の友人「どうして異能力者ってすぐ殺し合いしたくなるの????」
そんな感じの32話です。ちなみに上の台詞は僕が未来日記について説明したときに返ってきた言葉です。未来日記まじで面白いよ。


前回までのあらすじ

しりとりをして爺ちゃんとあって———要するに何も無かった。

 

そして球磨川は今から、再びしりとりをする羽目になりそうだった。

「さっきも言った通り、いまからしりとりをするのだ!ルールは君が普段行なっているものと同じ———ではないっ!」

まぁそうだろうな、と球磨川は思った。

でなければこんな所でわざわざしりとりをする意味は無い。

『じゃあ、何が違うんだい?』

「することは同じ———だけど、勝敗の付け方が違う!」

そう言って一度息を吸ってから言葉を連ねる。

肺活量が異常に小さい。

「私のスキルは『超魅了(ドレッシング)』って言ってね、姿形を自在に変えられるのだっ!自分だけじゃなく他人にも使用できるぜー。例えば———こんな感じに?」と、玄理が1つの人形を指さした。

すると。

ぐぐぐぐ、と人形が捻れ、気づいた時には。

『お…おぉ!これは』『なかなか面白いじゃないの』

()()()()()()()()()()()()()()

後ろに回って確認するが、ハリボテではないようで、むしろ精密であると言うことが証明された。

何故か。それは、その球磨川もどきには血が流れていたのだ。

球磨川が触れたとき、そこに温かさを感じた。

人肌の温もりを。

『なるほどなるほど…もしかして、()()()使うだけじゃなくて()()()使うこともできるのかな?』

「そうっ!読み込みが早いね、大好きだよ!基本的なルールは君がいつも遊んでいるものと同じだぜっ!今回は君にもこのスキルを貸与するのだ———君と私で強弱とかはついてないから安心してね!それとそれと、君の優秀な過負荷も使用不可だよ、なんつって!『超魅了(ドレッシング)』だけでの、正々堂々勝負さ。ルールは———先に相手を倒した方が勝ち!手数はここにある道具の数と同じで、この部屋の大きさより大きいものは出せないのだ!それとそれと、ジャンルを言った時にはその中から何が出るかはランダムだよ!えーっとあとはあとは…あっ!召喚したものは倒されても倒されなくても自分が次の言葉を言ったら消えるし、制限時間は相手が言ってから1分だ!!10秒以上倒れたら負け!」

…。

長い上に理解が難しすぎる説明だった。もう少しまとめてくれればいいのに。

『おいおい…随分と長台詞だけど大丈夫かい?』

「はっはー、大丈夫に決まって———っ!……はぁ…はぁ…」

『息切れのタイミングどうなってるの!?』

僕よりキャラが濃い奴に久しぶりに出会った気がするぜ。まぁ強いて言うなら胡桃ちゃんくらいかな。

それにしても、このゲーム。

要するに彼女の能力を用いた言葉の暴力、での勝負というわけだ。

言葉のキャッチボールならぬ、言葉のドッヂボール。

相手より強い言葉を言わなければ負ける。

 

相手の言葉を———螺子伏せる。

 

あぁ。

もしかすると。

これは。

『これは』『僕の得意分野じゃないか…!?』

もしかすると勝てるかもしれない。そんな期待が球磨川の脳裏に浮かんだ。

『…っと』

危ない危ない。

不思議なことに最近、自身の目的が分からなくなる時がある。

第一目標は———安心院さんを倒しうるスキルホルダー探しだ。そして、現代に帰ることだ。

記憶力が心配になってくる…おかしいな。老いだろうか、これが。

まぁ、でもロリちゃんが安心院さんを倒せるようには思えないし、ここは諦めて———

『いいね、そのゲーム!』『燃えてきたよ』『文脈的におかしいけど一応言っておくことにしようかな』

 

『どうせ勝つし』

勝ちにこだわる事としよう。

 

 

って、毎回言ってる気がするな、この台詞。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃ、はじめるよっ!準備はいいのだ?」

『うん、バッチグーだ』

「ばっちぐーが何かは分からないけど良さそうだから始めるねっ!まずはじゃんけんしよう!」

最初は私から、なんて言いかねないと思っていたが、意外と公平さは完璧に守ってくれるようだ。

結果は僕がチョキでロリちゃんがグーだった。

いつも通りの敗北だ。

さて、本番はここから。らしくもなく気を引き締めていこう。

人生初めての勝利になるかもしれないのだから。

「私から始めるのだ!いくぜ!」

最初の言葉は———

 

 

  猟奇殺人鬼

 

 

『いやいきなりフルスピードなの!?』

可愛い幼女からそんな言葉が出てきたのでかなりびっくりした。

人形が、人型に姿を変える。そして現れたのは。

ハサミを持った英国紳士。

まさか、この男———

 

切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)———!?』

その通り(That’s right)

 

初手から引きが良すぎるだろ!

どうやって倒そうか。

僕は考える。

『き』で伝説の殺人鬼から逃れる方法を。

『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』『き』

 

『き』…?無くね…?

「油断は禁物ですよ、sir」

———と、気付けばジャックが目の前に現れていた。

ハサミを球磨川に振り下ろす。

『うぉっと危なかった…!』僕は間一髪でそれを躱し屈んだ状態のまま前方を見る。『やれやれ、この攻撃、鼓鬼を思い出すぜ』

なんて余裕ぶってみるが、かなりピンチだ。

死ぬことは無いとはいえ死んだらそこでゲームオーバー。これより上の階には行けなくなるだろう。

だから、ここは———

相手の弱みに漬け込む!

 

 

  キリスト

 

 

「…なんてことだ(Oh my god)……」

ジャックの目の前には、我らが(?)神、イエス・キリストが笑顔で立っていた。

「これは…なんという奇跡…!」

ジャックは彼の周辺の空気の暖かさに思わず涙を浮かべた。

「うっわ、まじか…」ロリちゃんは驚愕の表情を見せた。「キリスト教信者の前にキリスト出すのはヤバくない…?」

『僕は不正とか———嘘とか———裏切りとか、そういう一般人が使わないものを使って戦うのが趣味なんでね』そう言って指をパチンと鳴らす。

括弧つける。いつもみたいに。

「うーん、こんなに簡単に無力化されちゃうとは思ってなかったねっ!さて、じゃあもう次の言葉を言った方がいいかなぁ…」

 

 

  トラップ

 

 

玄理がそう言った瞬間。

球磨川が立っている床に穴が空いた。

———トラップ!

下を向くと、そこには無数の針がギラギラと光り輝いていた。

『う…おぉぉぉお…!…っと』壁を必死に上がっていく。『はは、危機一髪ってとこだね?』

球磨川は汗の一つも垂らさずに笑ってみせた。

「おぉ!なかなかやるねぇ!大好き!」

『おいおい、そんなこと言っちゃ』『僕が恋に落ちちゃうぜ?』

 

 

  ぷよぷよ

 

 

一応説明しておくと、ぷよぷよとは株式会社コンパイルから発売されていた昔ながらの落ち物パズルゲームシリーズのことである。

『ぷよ』と呼ばれるスライム状の何かを積み立て、同じ色のぷよが3つ以上そろえばそれが消える。そんな対戦ゲーム。

僕の手にはゲーム機が現れた。そして眼前には———

ドット柄の巨大なぷよ。

『つまりはこれで潰せってことだね…』『概ね計画通りだ』『おっと、今のは君の控えめな胸への皮肉じゃないぜ?』

「黙るのだ…っと。これはなかなか…」

ズドン。

ズドン、と。

玄理の上に落とそうとするも、体型が小さいこともありスルスルと避けていく。

1分。

長いと思っていたがチャンスタイムとしてはかなり短いようだった。

この中で倒せるのか…?

まぁ勝てなくても、それは『いつも通り』の一言で片付くんだけどね。

そうやって保険をかけておくことで誰にも怒られない。

信じた君が悪い、と言えるのだ。ぜひ皆も使っていこうね。

「はっはー!そんなんじゃ当たらないのだ!」と言いながら易々と交わしていく玄理。

残り30秒———少し動こうとしたそのとき、球磨川は足元に何かの感覚を感じた。

さっと下を見てみると、そこにはキランと光る一筋の光。

これは。

『い』『糸…はっ』

「私の作戦勝ちだねっ———!」

何かに気づいて上を向くがもう遅かった。

天井には大きな正方形の穴が空いており、そこから無数の弓矢が降ってきていた。

まずいと思う時間すらも無く、球磨川は—————————

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

『はぁ…いててて…』『何個でも、出せるのかよ…』

それは何処からどう見ても、トラップだった。

完全に失敗した。

前の言葉の効果が消えるのは、次の言葉を言った時。

ならばそれまではずっとトラップは続いている。

そんなの、当たり前じゃないか。

球磨川の右肩、背中、左足にそれぞれ一本刺さっていた。

脳への直撃は避けたものの完全に当たらないようにするのは不可能であった。

手遅れ。

そうとしか言いようのない攻撃だった。

「ふっふー、大丈夫?もしかしたら毒とか混ざってるかもねっ!私が用意したんじゃ無いから知らないけど!」

と言ってカラカラと笑う。この状況下で笑える彼女はかなり狂っているのかもしれない、と思った。

僕のように、と。そう感じた。

ならば、僕だってきっと笑えるはずだ———笑え。

『…はは、これはちょっと痛いかなぁ』『週刊少年ジャンプだったら規制されかねないシーンだぜ』

「あれ、余裕だね?」

さて、考えよう…と。

痛みで思考がまとまらないな。こういうときは一度深呼吸をしよう。

すー。はー。

よし…いや何も良くなってはないけど。

ここからどう巻き返していくか?

出来ることなら、『僕らしい』戦いにしたい。勝ったとしても負けたとしても。

いつもみたいに。

ルールギリギリを。

不正を。

悪を。

大嘘を。

裏切りを。

行使して戦うためにはどうしたらいいだろう?

…なんて、考えているフリをしているけれど、実はもう一つは思いついているんだ。

我ながらニヤけてしまう程の、まさに戯言のような一手。

今からすることは———その一手のための伏線作り。

 

『…ねぇロリちゃん』『ルールで1つ確認していなかった事があるんだけどいいかな?』

「うん?いいよ、何なのだ?」

焦燥した表情を浮かべながら、それでもなお笑いながら言葉を紡ぐ。

『例えば———『は』だったら———『ば』『ぱ』とかでもありなのかな?』

「ん、確かにねぇ…普段なら駄目っていう所だけど今回は君が負けそうだからいいよ。許してあげるのだ!」

『そっか…ありがとう』『じゃあ、行くよ———』

 

 

  却本作り(ブックメーカー)

 

 

人形は三つの無機質な螺子へと変化した。

「は…」

僕はそこで、慣れ親しんだ自身の過負荷(マイナス)の名を呼んだ。そして、その言葉を聞き———というよりも、自分の胸に深々と突き刺さった螺子を見て玄理は目を丸くした。

一撃。

「な…なんでなんでなんで!は、()()()使()()()()()()()()()()()()!どうしてどうしてどうして!どうしてなのだっ!?」

『それはあくまでルールの範囲外での話だろう?』『範囲内であれば———それは十二分に可能なことなのさ』『さて、ロリちゃん』『これで君は、僕と同じ強さ…いや、僕と同じ弱さになったんだけど、ねぇロリちゃん』『それは一体全体どんな気分なんだい?』『是非とも教えて欲しいなぁ』

あぁ、最近の僕は日和っていたんだなぁと感じる。

こういうシーンに懐かしさを感じるようになってきたのだ。

そんな哀愁に浸りながら———二撃目。

そして三撃。

玄理の髪の毛がスーッと白くなっていく。

まるで時間が早まったかのように。

「く…はぁ…いやだ…い…やだっ!」

 

 

  回復

 

 

『おぉ…なかなか考えたじゃない』『やっぱり非物質でも召喚できるんだね』『じゃあ、行くよ———』

 

そこからは、まさに双方向の言葉の暴力だった。

ボクシングのような、そんな光景。

 

アナコンダ

 

大打撃

 

キューピット

 

闘牛

 

薄型テレビ

 

ビースト

 

トップクラス

 

スピーカー

 

アイアント

 

トラクター

 

 

…………………………

 

………………

 

…………

 

 

『速歩———』

「かはっ……!?」

球磨川は後ろから高速で玄理にぶつかった。

ゴキ、と鈍い音がする。

もはやどちらの骨の音かすら分からない。それくらいにはどちらも疲弊しきっていた。

「はぁ…やるね、君…大好きなのだ…」

『ははは』『お褒めに預かり光栄だぜ』

残り手数は3。部屋は既にがらんとしており、先ほどまで人形で鮮やかだった様子は見る影も無くなっている。

次の相手の言葉の最初の文字は『ほ』。

『「ほ」———か。』

その文字から始まる強い言葉といえば()()しか思い浮かばない。

正直に言って、いくら足が速くたって()()からは逃げられないだろう。

恐らく善逸だって、こんな密室ではいつかは追い付かれる。

…いや、追いつかれなくても一酸化炭素中毒で死んでしまうか。

どちらにしろ敗北だ。

いつもの。いつも通りの。

僕の負け。

「…じゃあ、次行くよ」

 

 

  ———炎ッ!

 

 

あぁ。

またか。

今回は勝てると思ったんだけどなぁ。

目の前に広がる緋い海を見つめながらそんな哀愁に浸る。

 

『また、勝てなかった。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

「は…!?なんで!?どういうことなの!?」

目の前の炎は全て消えていた。それどころか焼けたはずの壁や天井、床までも修復されている。

そう、まるで———

 

その炎が「無かったこと」だったかのように。

 

「ま、さか…」

 

 

『そう!』『炎を「無かったこと」にした!』

 

 

球磨川が出した言葉は言わずもがな、「大嘘憑き(オールフィクション)」であった。

球磨川禊の、「全て」を「無かったこと」にする過負荷。

『いやぁ、最後の文字を「ほ」にしないようにするのは大変だったぜ』『「ほ」から始まる強い言葉なんて「炎」しか無いからね…』『ギリギリ作戦勝ちってところかな?』球磨川はニコッと笑う。

だが。

「いやでも!やっぱりルールに反しています!だって語尾が『ん』なんですから!あなたの負けですよ!」と玄理がまるで言い訳をするかのように必死に喋った。

一見それは道理とも言えた。

そう。大嘘憑き(オールフィクション)の最後の文字は『ん』である。

だから普通のしりとりならば球磨川の反則負け———なのだが。

思い出して欲しい。

このゲームのルールを。

『ねぇ、ロリちゃん』『このゲームの基本的なルールについて、君は何と言っていたかな?』

「え?いや、普通のしりとりだって———」

『違う』

そう言って球磨川は玄理の言葉を遮った。そして否定した。

『おいおい、主催者がそんなのでいいのかい?全くもう』『仕方がないから僕が思い出させてあげるよ』『いい?君はねぇ』

一度深呼吸をする。

そして、言葉を紡ぐ。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「え...?いや、だから何なのだ!だったらやっぱり———」

『いや、その二つは全然違うよ』『「普通」のしりとりならば確かに末尾に「ん」がつけば負けだ』『だけど、だ』『ローカルルールって知ってるかい?』

 

ローカルルール。

もしくは地方ルールとは、ある特定の地方、場所、組織、団体、状況などでのみ適用されるルールのことを指す。

つまりは。

『僕が通ってた小学校ではね』『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』『最後が「ん」でも良いんだ』『ほら、世界に目を向けて見な』『ンギリ———確か猪って意味だったかな?それだとか、ンゴンゴロ国立公園———は堂々巡りになるか』『あはは』『まぁそういうことだよ』『で、どうするんだい、ロリちゃん?』『ほら、あと10秒だぜ』

残り10秒。

9秒。

言ったところで「無かったこと」にされてお終いだ。

8秒。

7秒。

6秒。

くそが、と下唇を噛む。

5秒。

4秒。

肩をプルプルと震わせる。

3秒。

そして。

「もういいよ…これが、鍵なのだ。早く行って」

涙声でそう言った。

何か一つくらいは言えそうな、2秒の時間を残して。

左手で鍵を投げ———それを球磨川が綺麗にキャッチしようとするも掠りもしない。

あれ?とでも言いたげな不思議そうな顔をして頭をポリポリしながら床に落ちた鍵を拾う。

『ありがとね、ロリちゃん!』『えっと、ここのドアでいいのかな…』

と独り言を言いながら、最初に出たエレベーターとは逆の場所にあったドアを開ける。

すると驚くことに、そこもエレベーターであった。

『…このドアは流石に階段だと思ったんだけどなぁ』『あ、そうそう、ロリちゃん。ひとついいかな?』

「ん…なんなのだ」玄理が不貞腐れながら小声で聞く。

それを見て球磨川がニコッとする。

爽やかな、美しい笑顔だった。

『実はね』『さっきのローカルルールは嘘だよ』

「は…!?」

『どころか小学校には行ってすらないし…』『でもロリちゃんが「早く行って」って言ったからね』『仕方がない。さっさとお暇することにしようかな』『はぁ、全く』

 

 

 

『———また勝てなかった』

 

 

 

その不思議な服装をした男は、手をヒラヒラさせながら、だがこちらを向くことなく上へ登っていった。

全く。

どこまで括弧つけたいんだ、球磨川禊は。

流石は祓様———球磨川(はらえ)様の子孫だ。

「…追い剥ぎにでも遭った気分なのだ」

要するに、最悪の気分だった。




球磨川禊 lose! 2F→3F
次回は善逸回です、よろしくお願いします。


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033 二階(我妻善逸)

そろそろ総合評価が100にいきそうなんですよね…みなさんまじでありがとうございます!!!!記念に胡桃ちゃんのキャラデザでの誰かにお願いしようかなぁ…。


「今からするのは…鬼ごっこさ…」

と、特に特徴のないアフロ頭の外人———ロックは俺———我妻善逸に対してそう言った。

黙々と。

抑揚もつけずに。

ボソボソと。

細々と。

「へぇ、鬼ごっこね、なるほどね」

「…うん………」

「………」

「………?なんか俺おかしいこと言った……?」

「…あぁいや、なんでもないぜ…」

「………」

「………」

 

(き———気まずい!)

 

もっとはっきり喋れよ、とは流石に言いにくかった。

俺は人を思いやれる人間だからな。それに、爺ちゃんの稽古場でも寡黙な子はいたし。

なんて言ったっけ、あの男の子の名前…流石に覚えてないな。

だが俺がその昔会った少年よりも彼の声はあまりにも小さすぎ、更に言葉数も少ないため少しでも間が開くとなんとなく気不味くなってしまう。

やばい、どうしよう。

この人と遊ぶのか、今から。

大丈夫だろうか…?

まぁそこはとりあえず許容しておくにしても今から俺がする競技は鬼ごっこだそうだ。ロックが自らの口からそう言ったのだから彼が嘘をついていないのであればそうなのだろう。

鬼ごっこ。

それは。

それは、あまりにも俺の得意分野すぎやしないか———?

「…いいのか、それで?」と一応尋ねてみる。

「うん…そういう…ルールだから…」

ん?

何か引っかかるな、その言い方。

それはまるで自分で決めたルールではないかのようだ。

であれば一体誰が、こんな遊戯のための部屋を設けるのだろうか。

まぁ…球磨川家の頂点の人か。

本当に何者なのだ、ソイツは。

「あ、あのさ。お前の主人って何者なんだ?」別にタブーでもないと思ったので思った通りに尋ねてみた。

「それは禁則事項…いや別にそんなこと言われてないか…じゃあ教えるね…僕らの主人は…球磨川祓さん…イケメン…能力は…ルール作り…」

球磨川祓。

ロックはそう言った。

『禊』と『祓』。まるで兄弟のような名前の付け方だ。

時代を超えた兄弟のような…まぁそもそも人間どころか生物にそんな名前をつけるべきではないと思うが。

「なるほど。お前らはその能力で拘束されてるのか?」

「いやそれは自分の意思…給料が弾むからね…」

給料とか出るんだな、ここ。

時給なのだろうか、月給なのだろうか。

まぁわざわざ聞くほどの興味は持ち合わせていないが。

「あの、本当にただの鬼ごっこ?勝っちゃうよ俺」

「うん…まぁ、あやとりくらいはするけど許してね…」

「ん、ていうことは糸でも使うのか?」

「…そう言うわけだからよろしくね…」と、あまりにも簡単に武器の存在を知らせたロック。

戦術としても心配になるし———冠石野ちゃんと武器がかぶっているが大丈夫なのだろうか。

まぁそれはさておき、理解した。

恐らく、かなり硬い糸を用いるつもりであろう。

超スピードで触れれば大惨事になるような———だがそれでも光には敵わないはずだ。

はち切れるに決まっている。

勝てる、と。そう確信した。

———が油断は禁物。

なにせ僕だ。あのヘタレ野郎だ。

絶対何かやらかすに決まっているじゃないか。

「じゃあ…ルール確認しようか…制限時間は5分…棚とかなんとか、ここにあるものは好きに使って良いよ。刀は使わないでね…タイムアップした時….鬼だった人が負け…それ…だけだよ…」

つまりそれは、最後まで気が抜けない戦いだということ。

そして、部屋をぐるりと見渡す。

使えそうなものは———棚、本、椅子———それくらいだろうか。

「…まぁ、大丈夫だろ」

俺はあの女の子を思い浮かべながら

「どうせ勝つし」

括弧つけてこそいないが、冠石野ちゃんと同じようにそう言った。

球磨川とかぶっていないことを祈るばかりだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「じゃんけんしようか…」

「あ?」

「え、何が…僕何か言った…?」

「いや、なんでもない。始めるぞ」

お前から鬼、とか言い出すのかと思っていたら、意外にも公正な鬼の決め方で驚いてしまっただけだ。

意外にも良い人なのかもしれない。———まぁ、ここでの壁であることに変わりはないけれど。

結果は僕がグーでロックがパー(ややこしい)で俺の負けだった。

相手の戦術が見えない以上、先手を取られてしまったことは痛いがまぁ5分もあれば大丈夫だろう。

勝てる筈だ。

「じゃ、始めるぞ」

「うん…」

そんな盛り上がりにかける合図によって鬼ごっこは始まった。

全力で走って距離を詰めていくロック。個性が薄いと思っていたが、なかなか足は速いようで普通の競走であれば負けてしまうのではないかと思われる。

「やるね、お前———っと危ねぇ」

「…ありがとう…」と彼は感謝を口にした。このタイミングでか。

律儀な人なんだなぁ、と感心する———いや、僕の方がこのタイミングですることかっていう感じだ。

さて、どうするか。

このまま逃げ切っても良いだろうが、糸の話を聞いたたばかりだ。油断はできない。

まぁ、勝てるんだけどね。

一応ってことだよ、一応。

にしてもなかなか糸を使わないな、と感じ始めた。既に開始30秒経過しているのに、これではただの鬼ごっこである。

言うならば時間の無駄遣いだ。

———と、そのとき目の前に何かが現れた。

糸かと注意して見ると、それは薄い本だった。

横を見るとロックが手当たり次第に本を投げている。

「…は?何のつもりだよ」

「こういう…ことさ」そう言ってロックは再び俺に猪突猛進してきた。

捕まるはずがない、そう思い走るために前方を向く———が。

俺はそこから先に進むことができなかった。

それは恐怖に身がすくんだから、なんて理由ではなくただ単に、そこに物があったからだ。

物。

物語———即ち、本。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

「…はぁっ!?」しまっ———

「———『言われるままに信じるだけの知識は、ただの切れ端に過ぎない。切れ端としては立派でも、それを集める人の知識の蓄えを少しも増しはしない。』」

ロックが何かの名言らしき言葉を口にし、それと同時に俺は肩を触れられてしまった。

「君が、鬼だ」

時計を見ると残り4分。

大丈夫。

まだ勝てる。

「…それ、誰の名言だ?」

「俺」そしてロックは初めて俺に笑顔を見せる。

彼には悪いが少し不気味な笑顔だった。

夢に出てきそうだ。

いや、笑顔について語っている場合ではない———俺は本の壁(とはいえ抜け道はかなりある)を抜けながら考える。

彼の捕まえ方を。

恐らく———最初に説明した『糸』というのはブラフだ。

そんなもの使う予定は無いし、まして用意もしていないだろう。

何故かって?

自分にもリスクが大きいからだ。

見えない糸に当たってしまえば切り傷が生まれる———その一瞬を狙われるかもしれない。

それよりは明らかにこちらの方が使い勝手がいい。

「…頭いいな」俺は呟く。

問題はこの『本』だけだ。

俺は壁一面に張り巡らされた本棚を見る。

つまり今の僕について分かることは。

四面楚歌としか言いようがなく。

この部屋の生物も非生物も敵だと言うことだった。

次いで彼の能力についても考える。

「なぁ、お前の能力って何だ?」

 

「俺の能力は…『空気抵抗(オンエア)』———良くある、物質固定能力さ」

 

ふむ、固定能力か。

浮いている本に触れてみると、確かにがっちりと固まっているのが分かる。初めは『浮遊』かと思ったが、これは『固定』。

最悪、俺の雷の呼吸でも動かせない可能性がある。

というか『固定』能力なのだからその可能性しかないだろう。

動かない。それ故に『固定』と呼ばれるのだから。動くのならばそれは固定できているとは言えない。

要するに、光速移動への期待は過度にしないようにしておこうという話だ。

いやはや、まさかこんなところでしのぶさんの家での訓練が生かされるとは。

毎日家の周囲50周はやはり無駄では無かった。…まぁ無駄じゃ無かっただけって感じはあるけれど。

むしろもっと効率の良い方法があったのではないかとさえ思えるけど。

さぁ、ここからどう展開していくか。

…あ、そうか。

とりあえず先程、霹靂一閃は使えないと言ったばかりだが…『固定』された本がまだ僅かである今ならまだ間に合うんだ。

つまり。

つまりは。

全集中の呼吸を使えるタイミングは、今しかない。

真っ直ぐ直進して、本がない場所を探す—————うん、やはりあった。

俺はいつもの慣れた(フォーム)を取って———

ここを、狙う!

 

「雷の呼吸 壱ノ型  霹靂一閃———!」

「———ッ!」

ロックは特に何もすることなく触れられた。

近づいてみると息が少し荒くなっていることが分かった。

…そうか。

分かったぞ。

こいつの弱点。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

…いや、なんだそのダサい弱点は。

だとしたらどうして鬼ごっこを選んだんだ。

———能力への過信、か。

実に分かりやすい動機だった。

まぁとにかく。

「…つまりは能力を封じれば俺の勝ちって訳だ」

「それが出来れば今頃苦労してないよ」と言ってニッと笑うロック。彼は喋りながらも次々と本を投げては空中で固定していく。

先程までの怠惰な表情はとっくに消えている…こいつ、勝負事になると熱くなるタイプの人間か。

心なしか室内の気温も上昇しているように感じられる。

さて、ここからどう展開していこうか…。

悔しいが彼が言ったように、能力の無力化なんて出来るはずがない。

だったらもう、純粋な鬼ごっこをするしかないのか?

「考えるのも良いけど俺のこと忘れないで」と言って飛びかかってくるロック。

しまった。

思考してばかりで周囲の確認を怠ってしまった。

だが———やはり易々と避けられる。

本を投げつけてくるとはいえ、動きがあまりにも単調すぎるのだ。

能力を封じれば———だけど———!

あぁくそ、何も思いつかねぇ。

もっと座学に励んでおけばよかったと今更ながら後悔をする。

残り時間2分。

ここで捕まったらかなり厳しくなるぞ…?

「はは…なぁ善逸。気づいているか?もうお前に逃げ場はないってことに———」

「———っ!」と、少し油断した隙を突かれ、俺は触れられてしまった。

やってしまった。

本格的にまずい、と俺は焦り始めた。

それに加えて。

話し方は先ほどまでと変わらないトロトロした印象だ。

それが余計に不気味さを強調していた。

少しばかり怖い。

というかかなり怖い。

顔を見るだけで足がすくみそうになる。

実際、昔の俺であればすくんで動けなくなってしまっていたであろうこの状況。

「だ、けど。」

だけど。

だけど今は自然と笑顔さえ浮かんでくる。

何故なら———そんなのは。

「球磨川よか何倍もましだ———!」

いつも通りなのだから。俺はそう言い聞かせて自分を奮い立たせた。

「何それ普通に酷くない!?」ロックが初めて抑揚のついた言葉を発した。

そのタイミングここで良かったのか、本当に。

ここで残り1分30秒を切った。

既に本は大量に散りばめられており真っ直ぐに進める道は無い。

それどころか、屈まなければ進めない場所も多くなってしまった。

つまり雷の呼吸は使えない。

全力疾走だって不可能だ。

「はっ…俺だけ上がれなかったら面白いな…」

いや、全然面白くはないんけれど。

そのはずなのにどうして笑えてくるんだろうか。

自然と口角が上がった。

「てかそもそも…どうしてここまで本気になって上まであがらなきゃいけねぇんだ…?」

球磨川の祖先に会うため。

いや。

それなら俺必要なくないか?

それに———そこまで興味があるわけでもない。

どうぞご自由にと言いたいところだ。

ならきっと。

俺の目的は。

ここで勝とうとする理由は。

 

「———あいつらと一緒にいたい」

 

それだけのことだ。

だからここは。

「勝たせてもらうぜ」

俺が勝つ。

「なぁロック。別に俺が本を投げても良いんだよな?」

「…いいよ?まぁどうせ固定するから意味はないけどね」

「そっか。なら———とことんさせてもらうぜ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

なんて大層に言ってみたは良いものの特に革新的なことはやっていないので結末から先に行っておく事としよう。

俺の勝ちだった。

いやぁ、準主人公補正ってすごいな!

なーんて奇跡が起きた訳ではなく。

そこにあったのは道理だ。

それ以外の何者でもない。

ここで当たり前の事実を確認しておこう。

例えば人間がギリギリ入るような小さな穴があるとしよう。

本当にギリギリのギチギチで入る穴。

そこには何であれば余裕で入るだろうか?

スマホやポーチ、リュックなどであれば余裕で通り抜けることができるはずだ。

なら———本ならどうだろうか?

これももちろん余裕綽々だ。

()()()()()()()()()()()()()()()

そう、俺が行った作戦とはただひたすらに『固定』されている本の隙間を縫ってロックに向かいまだ『固定』されていない本を投げつけることだった。

その結果、どうなるだろうか。

彼は投げつけられた本を見てつい『固定』してしまうだろう。

更に俺は投げ続ける。

まるで何も考えていないかのように。

無心かのように。

それを不思議に思いながらもロックは本を『固定』していく。

何冊目だっただろうか。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

彼が気づいた時にはもうすでにあと30秒で。

もう取り返しがつかない事を悟ったロックは。

肩を落として清々しく負けを認めた。

「これが…鍵だよ」

「おう、ありがと…あれ、噛み合わせが悪…あ、開いた。いやエレベーターじゃねぇかよ。なんで鍵かかってんだ」

「まぁ細かいことは気にしないで…」

なんだそりゃ。

ていうか、いつの間にこんなに楽しく話せるようになったのだろう。

なぜかすごく嬉しい気分だ。

「じゃ…また…何処かで」とロックは笑った。

「おう、また会おうぜ」と俺も笑った。

さて。

あとは球磨川が上に上がれていることを祈るだけだ。

冠石野ちゃん?

大丈夫でしょ。

だってあの冠石野だぜ?

まさか一人脱落だなんて…。

 

…ないよな?

 

 

 




善逸 2F→3F!
次回胡桃ちゃんパート!!!

あ、そういえば最近また別作品書き始めてまして。よかったらこちらもついでにどうぞ。物語シリーズ×〇〇のクロスオーバーになっております。
https://syosetu.org/novel/263319/


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034 ニ階(冠石野胡桃)

ちなみに敵の名前は歴史上の人物から取っています。名前だけしかとっていないの本人のキャラとかは分かりませんがまぁそれっぽく可愛い感じになったんじゃ無いかなと思います。そんな感じの34話、よろしくお願いします。


「じゃ、ルール説明しようか」

と、私———冠石野胡桃へ爽やかに提案したこいつの名前は。

…名前は。

あれ?

誰だっけ、こいつ。

まぁ実を言うと前回私が語り部になっていた時の投稿からかなり時間が空いてしまっているので記憶が無いに等しいのだ。

だが安心してくれ。

二人が戦っている中、私だけみかんを食べなからスマ◯ラをしていた訳ではないのだ。

信じてくれ。

私はそこまでクズ野郎ではない。

で、だ。

「名前何だっけ?」

弓月君也(ゆみづききみなり)だよ。弓月くん、とでも呼んでくれ」と彼———弓月は2回目の自己紹介を億劫に思っている素振りも見せずに言った。

爽やか———そして可愛い!

保護欲をそそられてしまう…これが彼の異常性(アブノーマル)か。

なんて恐ろしいんだ。

「…で、本題に入るよ?」

「あ、うん」

どうやら雑談パートは終了のようだった。

説明してくれるのならば、ここはしっかり聞こう。

貰えるものは貰っとけ。

私の座右の銘である。

「僕たちが今から行う競技は———きゅうぎさ」そう言いながら弓月は自身が椅子にしていたかなり大きめの箱を広げた。

「だからどうして漢字で———て、あれ。それって…」

そこにあったのは、球、そして弓だった。

弓…?

球技だったはずでは?

「…って、まさか…」

「うん、そのまさかだよ。これは球技であり———そして」

 

弓技でもあるのさ。

 

そうドヤ顔で言った。

あー、だからさっきから『きゅうぎ』って平仮名で喋っていたのか…。

なるほどね。

…まぁ、うん。

確かに意表を突かれたといえば突かれているのだが…。

一体それに何の意味があったのかな。

それにルール説明の時に意表を突くんだったら勝負において何の影響も出ないだろう。

当たり前だ。

自明の理だ。

もしくはもっと何かの策があるのか…。そう思って彼の顔を見てみたのだが、その自慢げな表情には一切の曇りがなく、ただこれがしたかっただけなのだろうということが容易に判明した。

なんだか少し可哀想になってきた。

まぁいいや。

あいにく私は空気が読めない性分なもんでね。

私にとって空気っていうのは読むものじゃなくて吸うものなのさ。…いや、皆そうだったね。あはは。

…こういうところが禊に『安心院さんに似ている』と言われる所以なのだろうか?

「で、ルールは?」

「え?あ、うん。ルールはね…」と、弓月は『もう少し感想が欲しかった感』のある顔で説明を始めた。

「今から行うのは…球技でもあり弓技でもあるんだ。ルールは至って簡単さ。…とその前に、そこの弓矢を取ってもらってもいいかなー」と言って弓月は箱の中の弓矢を指差した。

そして特に逆らう理由もないので私は言われた通りにそれらを取り出す。

ふむ。

使ったことがなかったが、想像していたより重い。…いや、私が非力なだけかもしれないが。

これは流石に実戦では使えないな。

準備している間に殺されてしまいそうだ。

それにこんなものがなくとも銃版(テンプレート)があるしね。

「じゃ、いい加減ルールせつめ———え?」

そろそろこちら側も『はやくしてくれ』と苛立ち始めたその時、彼は突然喋りを中断して自身の腹部を見た。

そこは———血。

血で赤く、紅く染まっていた。

そして弓矢が深々と刺さっている。

と、いうか…。

私が刺した。

この今私が手に持っている弓を使って。

引いて。

撃った。

どさり、と倒れる弓月。

「がっ…!おま…お前…!ひ、きょ……!」と唸り声にも似た言葉を発して彼は意識を無くした。

先程実戦では使い物にならないと言ったが。

流石にこの距離でなら、確実に当てられる。

相手が死ぬ場所にも、死なない場所にも。

今回刺さったのは勿論後者である。読者のみんな、安心して欲しい。

…。

死んでないよね?

なんだか唐突に心配になってきたので(度々言っているが私はこう見えてヘタレなのだ)、一応首に指を当てて脈動を確認する。

うん、生きてる。

…。

あれ、これ結構ゲスいことしてるな…。

と一つ解決すると再び別のことが心配になってきた。

血で染まった床。

そして倒れている男。

大丈夫かな、これ…。

まさに大惨事だ———第三次世界大戦に繋がりかねない。

ということで彼の傷はしっかりと『代入大嘘憑き(サブフィクション)』で『無かったこと』にしておいた。勿論意識はそのままで、こっそり鍵を拝借して。

久しぶりにこの能力使ったなぁなんて思いつつ扉の鍵を開ける———扉の雰囲気からして階段が続いているのだろうと思い込んでいたのでエレベーターが続いていて驚いた。

思い込みっていけないね。

と、いうわけで。

私は2人より一足先に3階へ辿り着いたのだった。

やれやれ。

世界救っちゃったぜ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

やぁ読者諸君。

久しぶりだね。まさか僕のことを忘れてはいないだろうね?

いないよね。

そうそう、安心院なじみだ。それと、僕のことは親しみを込めて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい。

———で、だ。

今回、どうして誰も死んでいないのにわざわざ現れたのかというと——— 1京2858兆0519億6763万3865個分の1のスキル『時感操作(タイムバニー)』を使ったことをお伝えするためなのさ。

時間移動のスキルをね。

ま、なんだ。

ちょっとした作者の事情さ。あまり気にしないでおくれよ。

…ん?

おやこの説明では納得できないのかい?ふむ、それは困ったな。

君、見かけによらず(失礼)なかなかやるね。僕を困らせることができる人間なんて君が初めてかもしれないよ。

なんてね。

あはは。

じゃあ建前の方の理由説明を始めよう———

ん、普通順番が逆じゃないのかって———おいおい。

おーいおいおいおい、しっかりしてくれよ君。説明の順番なんてどちらでもいいだろう?

 

事実を言おうと建前を言おうと。

 

運命なんて、そんなどうでもいいことでは何も変わりはしないのだからさ。

 

じゃ、続けるよ。

君たちは『 物語はどうであれ全て同じ場所に行き着く(バックノズル)理論』というものをご存知だろうか?

おや、知らないか。

まぁ知らなくてもルビの下の文字が全てを語っているのだけれどね。

知らなくても当然———何故なら、その理論はほとんど無名に等しい()()()()()()()()が1人で———たった独りで唱えているだけのくだらない理論なのだからね。

ここで一つ具体例を挙げようか。

そうだねぇ…恐らくここにいる読者は既に鬼滅の刃を見ているであろうから、鬼滅の刃で説明しようかな。

アニメと原作では必ず一部に違いが表れるだろう?

尺の都合である程度カットされる場面があるはずだ。

なんなら登場すべきキャラクターが現れない場合もある。

もしくは、原作には無かった話が追加されているかもしれない。

第二期の最初で全くその通りの話を放送するそうじゃないか?確か、煉獄杏寿郎が———本作では生存しているが原作では死んでいる、悲しき男、煉獄杏寿郎が無限列車に向かう前日譚だそうだ。

原作派の僕は見ようかどうか迷っているところなんだが———っていうのは冗談なんだけど、良かったら君たちも見てね。

この場を借りて宣伝させてもらうが、結構面白かったよ。

———おっと、話が逸れていたね。失礼失礼。

閑話休題といこうか。

ともあれ、アニメと原作ではごく僅かに違いが出る。

当たり前だよね?

だがそれでも———『妹が鬼になったがために竈門炭治郎が鬼殺隊へ入り、最終的には鬼舞辻無惨を倒す話』という大筋は寸分たりとも変わらない。

分かってきたかな?

 

そう、これが———バックノズル理論さ。

 

その道中で何が起きたとしても。

 

誰が死んだとしても。

 

結局は同じ結果に至る。

 

冒頭と終結は堅い糸で結ばれている。

 

そういうことだ。

これがどうしたのか、と言う疑問も持った人もいるかもしれないが、まぁ一度落ち着いて茶でも飲んで、ここで最初の議題を思い出してほしい。

何故僕が『時感操作(タイムバニー)』を使ったのか、だ。

そうそう、そういうことだ。

ここでの勝敗は———物語に一切影響を与えない。だから。

 

 

我妻善逸はルソー、モンテスキューと戦って勝ち。

冠石野胡桃は阿知使主(あしらしあるじ)王仁(ワニ)と戦って『どうせ』勝ち。

球磨川禊は南淵安請(なんぶちやすうけあい)(みん)と戦って『また』負けた。

 

 

そして最上階———5階へと到着した。

 

その概要は、今回はカットすることにしたのさ。

あぁ、心配してくれなくても大丈夫。完結後に番外編みたいな形で投稿するつもりだからさ。安心してくれ(安心院さんだけに)。

…まぁそういうことだ。

悪かったね、突然物語に割り込んできちゃって。僕が想像するにここからまだまだ面白くなりそうだから、もう少しばかり僕も観察するとしようかな...。無惨ちゃんが球磨川くん相手にどう行動に出るのかも気になるしねぇ。

僕を殺しうるスキルホルダーは果たして過去に存在するのか。

君たちもよければ、球磨川くん達のこのくだらない冒険を見届けておくれよ。

という訳で。

カミングスーン。神だけに。

 

♦︎♦︎♦︎

 

5階へ昇るエレベーターの中。

私は服や身体への被害を『無かったこと』にしていた。

おそらく最後のゲームはあと少しで死んでいた———本当に私に相性の悪いゲームだった。

これも計算のうちだろうか。

他の二人はどうなったのだろうか。

心配だ、と。そう思っているとどうやら到着したらしくガクンと動きが止まった。

そして扉が開く。そして一番最初に目に入ったのは、真っ白な部屋。そして一つの扉。

二番目に目に入ったのは———

『おや胡桃ちゃんじゃないか。』『あは、さっきぶりだね』そう言って片手をポケットに突っ込んだまま気怠そうにこちらに歩み寄ってきたのは———だなんて、素でこんな喋り口調なのは世界で彼一人なのでわざわざ言う必要は皆無だと思うが———球磨川禊だった。

こちらの苦労を知りもせず(まぁカットされているのだから当然か)、爽やかな笑顔だった。

腹立たしいくらいに。

いや、ていうかなんでカットしてるんだよ?

おかしくないか、普通に。

ゲームが思いつかなかったとかだろどーせ。覚えとけよツインテール。

角刈りツインテールめ。

もうちょっといい名前無かったのかコンニャロ。

…とまぁ作者への文句はここら辺でやめておいて。

私は素直に「うん、さっきぶり」と返した。

「ぜぬっ…善逸は?」

『よくこの言いやすい名前で噛んだね…』そう呆れてから『まだ来てないみたいだよ』と返した。

まじか。

いや大丈夫だろうな…?

まさかどこかで敗退していたりとか…あぁすごくありそうだ。急に心配になってきた。

ヘタレはつどー。

いぇーい、ぴーすぴーす。

じゃなくて。

「本当に大丈夫なのかな…」

『正直、あまり信用は出来ないけどね…』『ま、主人公補正の力を信じようぜ』『ほら僕たちジャンプ連載なんだしさ』

「ジャンプ…?」

なんのことだろうか。…まぁ球磨川のことだ。多分本当にどうでもいいことなのだと思う(最近区別がやっと分かってきたのだ)。あまり深く考えてはいけない。

5分。

私が5階へ到着してから経過した時間である———だが、一向に目の前のエレベーターが動く気配がしない。

やはり、善逸は負けて———と。

そう思ったその時。

 

ギィィィィィイ

「あ」

『お?』

 

目の前の———というのは嘘で、別に正面に立っていたわけでは無いのだが———一人でに扉が開いた。

怪しい音をたてながら。

ポルターガイスト、という西洋の言葉が思い浮かぶ。

えぇ…。

まさかここにきてホラー展開?

などと怯える私。扉の向こうの暗闇で何かが黒いウニョウニョ動いている気がするのは気のせいだろうか…。

気のせいか。気のせいだな、うん。

よし、帰ろう。

うんそれがベス『もしかすると善逸ちゃんもここにいるかもしれないし行ってみない?』

「わっばっかお前…!」

球磨川が言ってはならないことを口にした。

そのせいでお前とか言ってしまった。いけないいけない、つい本性が。

折角帰ろうとしたのに…第一、善逸に一人でここに入る勇気はないはずだ。もし善逸がこの階に到着しているのであれば、きっとこの中には入らず部屋の隅でぶるぶると震えているはずだ。故にこの先に進む意味は微塵もない。

だからさ、うん。

帰ろうぜ?

『じゃ、おっじゃましま〜す!』

「あーおいおい待ってよ〜!!!」

『え、何何なんなの…?』

「いや…禊は…善逸が…ここに一人で入れると思う…?」

『さぁ?』『でもまぁ———』『信じる気持ちは大事だろ!』

 

———何言ってんだこいつ!

 

馬鹿なのか!?あぁ馬鹿なんだな!

今やっと分かったよ!

あとお前が信じるなんて言葉を使うな!価値が薄れる!○ね!

…いや最後だけちょっと失礼だったかもしれない。

まぁいいや。

私は先に中へ入ろうとした、というかもう既に入っていた球磨川を見て、流石に一人は嫌だったのでついて行くことにした。

動く理由すらもヘタレだった。なんかもう自分が嫌になってくるね。冗談だけど。

あいらぶみー。

わんふぉーわん、おーるふぉーわん。

 

というわけで。

 

どうか私、死なないでね。

 

「私は死なないわ。あなたが守る者」

「間違ってるけど同音異議だし意味も通ってる…』『あ、けどけど、言ってることは人間として大いに間違ってるからね?』『そこんとこよろしく頼むぜ、胡桃ちゃん』

球磨川に諭されてしまった…。

なんという不覚。深く猛省しよう。

日本語が今少しおかしかった気もするが、まぁ。

なんとか———なる、よね?

うん、なるね。超なる。

どうせ勝つし。

そう思っていたら。

 

バタンッ!

 

と先程とは違う勢いのついた音で扉が閉まって。

当然のことながら私はパニックになった。

 

 

「何何何何何何何何どうしたのこれ何!?!?!?待ってやばいやばいやややばいってててて足打った球磨川の馬鹿!!!死ぬよ私たち!!どうしたらいいのねぇ!!!なんか喋ってよ!!!おーい!!!辞世の句読んだほうがいいかな!?読むよいくよ!?!?!?『ええいああ 君から もらい泣き』あぁやばいやばい!!!!泣きそうてかもう泣いてる!!!!咽び泣いてる!!!!!これはもうぴえん通り越してぱおんだわ!!!」

 

 

『…胡桃ちゃん、もしかしてふざけてる?』『それともそれが普通の狂人なの?』

多分後者だった。

悲しいことに。

恐ろしいことに。

「…はー、ほんと災難だなぁ…」とため息をつく私。

なんて可愛いのだろうか

そして次回は『私たちが扉の中へ入って最初に目にしたものは』という全く捻りのない言葉から始まりそうです。仕方ない。怖いんだもの。

ふぅ…

覚悟決めるかぁ。

 

じゃ、また次の話で。

 

 

お互い生きてたら会おうぜ。

 




ちなみに僕のテストは死んでいました。特に古典がエグかったです。実にどうでもいいですね。
んでまぁ大事なのはついに親玉登場か?といったところですかね?まぁ、なんと言いますか。

次回、球磨川死す!デュエルスタンバイ!(2回目)

というわけで次回もよろしくお願いします!そして感想・評価などよろしければ!


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035 そして五階にて誤解は解かれる。

35話です、よろしくお願いします。最近やっと伏線とか考えられるようになりました。というわけで皆探してみてね。
そういえばいろんなところで投稿していますが、この小説に登場する冠石野胡桃ちゃんのキャラデザを描いてみました。理解の助けになればなと思います。それから、僕の友人(多分)がイラストを描いてくれているのでお楽しみに。




【挿絵表示】



「よくお越しくださいました、お二方」

そう言って拍手で我々を迎え入れたのは———私たちをこの屋敷へ導いた案内人、名梨野権兵衛だった。

あれ…?

何か用事があるって言ってた気がするんだけど…。

『…なるほどね』と何かを察したらしい球磨川が意味深な呟きをする。

なんだよ。この空間で分かってないの私だけかよ。

仲間外れはよしてくれ…普通に寂しいから。

あと、昔のトラウマが蘇る…いや、別にそんなものは無かった。

ここまで常に平和に生きてたなぁ、と自分の人生を振り返る———暇は今はない。

それくらいは流石の私でも分かる。もしくは流石私、と言うべきかな?

なんちゃって。

『で、善逸ちゃんはどこだい?』と私の思いに気付きもせずに問う。

「まだお越しではございませんが…」

あ、まだ来てないのか。

心配して損したわ———とか言う私ってかなりクズいのだろうか…?まぁ、横でニコニコしている気色悪い男よりかはマシだ。と信じたい。

信じよう。

『…今僕のこと考えてた?』

「うん、別に間違っては無いけどその言い方は語弊を生むよね」

べ、別に恥ずかしいわけじゃないんだからね!

「あの。今までのあの遊びって一体何だったんですか…?」

「あれはですな。所謂()()でございます」

戦抜と言った方が宜しいですかね、と言って口に手を当てつつ上品に笑う権兵衛。

上品な筈なのに、どこか不気味だった。

人畜無害そうなのに不気味な球磨川と通じるものがあるな、と思った。

『選抜っていうのは一体なんの目的だい?———僕の先祖さん』

「ふぇっ!?」

変な声出ちゃった。

この初老のお爺ちゃんが———球磨川家の人間?だから球磨川禊と似ているように感じている?そういうことなのだろうか。

「で、でも…証拠がないよ」と言って謎に権兵衛を庇う———いや別にこの点において彼は何も悪くは無いのだが———反論を試みた。

だが、それに返答したのは、球磨川ではなく、権兵衛のほう。

「証拠、ですか…では」『こんなのはどうでしょう?』

「お…?」

権兵衛はごく自然に括弧つけてみせた。

こんな喋り方ができるのは球磨川かそれを『真似』する私だけであって———それは言うまでもなく、彼が球磨川家の人間であることの証拠になる。

と、思う。

「…信じます」『じゃあノリで私も真似しますね』

『感謝申し上げます』

『待って待って待って権兵衛さん胡桃ちゃん』『流石にこれは僕も見逃せないカオスだよ』

『いや、でもよく考えて?小説では逆にこれが普通なんだよ?』

『そうでございますよ、禊様』

『まぁそう言われるとそうなんだけどね…』球磨川はため息をつく。『なんか、僕のアイデンティティがどんどん薄れていくぜ』

確かにそれは少し可哀想だった。

というわけで球磨川以外は普通の喋り方にすることにした。こいつに可哀想なんて感情を抱く日が来るとは…いや、出会った一番最初は思ってたんだったな、そういえば。

あれはもう過去の出来事だ。今はそんなこと微塵も…いや、多少は感じてるかな?

 

いつかはやっぱり、勝って欲しいと———そう思っているのは、借り物の過負荷に苛まれた私に残っている最後の良心なのだろうか。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「…で、目的って一体なんです?」私は問いかける。

「目的。その前に一つ宜しいでしょうか?」だが逆に、私は権兵衛に質問を返される。

「…?いいですけど」

正直、質問に質問で返されるのってちょっとイラついたりしちゃうけど、今回だけは許そう。今日はそういう気分だ。

「先ほどのゲーム、如何だったでしょうか、難易度は…」

ふむ、難易度———か。

最初、私ちゃんとゲームしてないからな…まぁけど、二つ目と三つ目は難しかったように思える。代入大嘘憑き(サブフィクション)を使ってはならない時、こうも苦戦するのか、と驚いた。

今度、日輪刀の素材でできた糸でも作ってもらおうかしら。

「まぁ、難しかったんじゃないです?」

『僕は楽勝だったけどね』『あれ?胡桃ちゃんともあろうお方が、あれ如きのゲームで死にかけていたのかい?』『君も、随分と弱くなったものだ』

「はは、禊は一体何を言っているのかな?あんな雑魚みたいなゲームで私が苦戦すると本気で思ってるの?大爆笑させて呼吸困難で殺すつもり?」

チョロかった。

最近、みんなどんどんキャラが変わっていっている気がするのだけれど、大丈夫なのだろうか。

最初の私、もっとウザいキャラだった気がするんだけど…。

まぁいっか。これも成長の一つだということで。

それに、あの頃は黒歴史でもあるしね。

「で、それが何か?」

「いえ…今後の参考にと」

『今後?』『もしかして、またするつもりかい?』

「皆様が無理だったら、ですがね」

「無理?何が———」と聞こうとしたその時。

 

「———悪い、遅れた!」

 

突然扉が開き、暗かった部屋に光が溢れ、そして声がした。

『ドン!「ひいっ!」』というふたつの音がしてから再び暗くなる。

だが顔が見れない程ではなく、その声の主が一体何者なのかという質問は愚問に等しかった。

 

即ち、我妻善逸である。

 

意外にも彼はあまり傷ついておらず、正直に言って私は驚いた。もっと死にかけになって来ると思ってた…なんて言うまい、と思っていたら善逸に「冠石野ちゃんの思ってること分かりやすすぎるんだよ…」と言われた。

あう。

そんなに顔に出るっけ、私。

『お』『おかえり善逸ちゃん!』『全く待ちくたびれたぜ』『君は約束の時間も守れないのかい?』球磨川がまたウザイ感じで嘲笑する。

「いや、別に時間指定とかねぇし…てか、なんで権兵衛さんがここにいるんだよ…」暗いなここ灯りはないのか?と重ねて聞く。

「ない。それがね、善逸——————」

以降、説明。

 

♦︎♦︎♦︎

「かくかくしかじかこうこうで…」

『こういう時ギャグ小説って便利だよね』

♦︎♦︎♦︎

 

「なるほど、こいつが球磨川家の人間…じゃあどうして嘘ついてたんだ?」

「それを今から話そうと思っていたのでございますよ、我妻様。まず、私の名前は球磨川(はらえ)と申します。このような選別を勝手ながら行ったことをお詫びしたいと思います…」

して、と咳をした。

どうやら、長話になりそうだったので、私たちは床に座った。

え、危機感がないって?

立ち疲れていた方が戦闘に支障が出るでしょう?

というわけで。

東西東西、お立ち合い。

 

♦︎♦︎♦︎

「私はある人間を倒しうる人間を探していたのでございます。

「その男の名前は———球磨川禊。

「と言っても、あなたのことではございません。

「私の息子———名を、球磨川禊とお申すのです。

「我が子ゆえに思っているだけかもしれませんが———彼は、天才でした。

「絵を描けば大成し。

「勉学も励み。

「小説を書けば売れる。

「そんな、私とは対照的な人間だったのです。

「まぁ近頃は紫外線が苦手になったようで日中に外出することはなくなりましたが。

「私?私は———出来損ないでしたよ。何も出来ませんでした。

「だから、私は嫉妬したのです。

「嫉妬し———そして()()()()()を彼に設けたのです。

「あぁおっと…そういえば私の能力の説明がまだでしたね。

「『いざ尋常に勝負あり(フェアプレイ)』———ルールを作るスキルです。

「私はその力で、彼を縛りました。

「ここにいる禊様はすでに理解しているのでしょうか。

「あぁ、わかっていませんでしたか…失礼しました。

「私が取り付けた『ルール』。それは『球磨川禊は一生勝てない』というものでした。

「私は。

「こんな名前の人間、後にも先にも彼しか存在しないと思っていたのです。

「だから、労力を抑えるために人物指定を名前だけにした。

「それが間違いだったのです。

「まさか、()()()()()()()()()()()()()()()()()…。

「禊様はこれまでに一度も勝ったことがないと伺いしております。

「それは———私の責任なのでございます。

「大変申し訳ございません。

「だから。

「きっと能力の持ち主である私が死ねば、ここで全てが解決するでしょう。

「だから———

「これは、私からの切実な頼みでございます。聞き受けてもらわなくてもかまいません。無理強いはしません。

「我が子、球磨川禊共々———

「ここで全てを終わらせてほしいのです」

 

♦︎♦︎♦︎

 

「そんな重い頼みに囚われずに強者を探すために名前も明かさずこのような場を設けました。何にしろ私」

強いもので、と恥ずかしげもなく言った。

おそらく事実なのだろうな、と思った。

「は…?」

私はその簡潔な一人語りの情報量の多さに絶句していた。

球磨川の『敗北』が『性質』ではなく———『過負荷』であって、名梨野権兵衛———もとい、球磨川祓を殺すことでそれが消える?

うーん…。

こんな簡単なことでいいのだろうか。

というか、本当に治るものなのだろうか。

『いいのかい、祓さん?』『僕が生まれている時代に君は死んでいるんだぜ?』『今存在しないはずの人間に———命を差し出すなんて』『それは———すごく偽善者(マイナス)的だね?』と球磨川は尋ねる。身内だと知った途端に砕けた口調で話し始める。

お前、お爺ちゃんにそんな喋り方してんの?計算できないから何世代前なのか知らないけど…。

それと、切り返しが早すぎる…まぁ、それが球磨川の美点とも言えるが。

だが祓はにこりと微笑を見せてから「構いません」と言った。

球磨川の態度のことだろうか。それとも———

 

「少し前の話になりますが———彼は持ち前のスキルで人助けをしたそうです。私はそれを聞いて、勝たなくても、サポートしかできなくても戦ってやるという強い意志を感じました。同時に、自分の浅ましさを理解しまして…私の能力は取り返しがつかないのですよ」

貴方の大嘘憑き(オールフィクション)のようにね、と言った。

後者だった。

うーん…

想像以上に、普通以上にいい人だった。

ていうか、私だってやつあたりとかしてしまうことは良くある。そんなことで逐一、命をかけていてはいくつ命があっても足りないではないか。

まぁ、球磨川曰く『過負荷はなかったことにできない』そうなので解決策を考えるまでには至らないが…改めて自分の代入大嘘憑き(サブフィクション)への依存を感じた。少し抑えたほうがいいのかもしれない。

とにかく。

私は彼を許し『了解、祓さん』『じゃあね』『また明日とか!』

 

———え?

 

そう言って———括弧つけて、球磨川は指を『パチン』と小気味よく鳴らした。その瞬間、球磨川祓の姿は消えた。

 

———『無かったこと』になった。

 

最後の祓の表情は、笑顔だったように思われる。

「「…………。」」

いやいやいや…。

私は言いたいことを飲み込もうとして、でもやっぱり我慢できずに大きく息を吸い、そして告げる。

 

 

「お前も大概クズだな!!!」

 

 

『え?何が?』

私の叫びに球磨川は笑顔で返す。私だってさっきそれやって流石に罪悪感を覚えていたよ?

いやまぁ、やったのはやったんだけど…。

『だって、殺せって言ってたし…』『それに、僕の敗北体質が消えるんだったら万々歳だぜ?』『君たちにとってもそうじゃ無いのかい?』

「まぁ…そうだけどよ」善逸は息を飲んだ「可哀想とか思わねぇのか?」

『ん?』『なんで?』と球磨川は首を傾げた。

善逸は絶句した。

私はまぁ、体の半分が過負荷みたいなものなので免疫は生まれているものの、やはり好きにはなれない。

慣れない。

だが、私たちには仕事があった。

もう存在しない『球磨川祓』の、最後の願い。

私たちは。

「…じゃ、行こっか」

『オッケー』

「わかった」

祓の息子———球磨川禊を殺さなければならない。

私たちは覚悟を決めて———ん?

あれ?覚悟を決めたはいいものの…。

 

 

扉とかないけど、こっからどうすんの?

 

 

締まらないなぁ、と3人で笑ってからあちこちを調べ、結果それを打開したのはエレベーター付近を調べていた球磨川だった。

『あ、見て見て』『エレベーターのボタンに地下一階のボタンがあるぜ』『…でもおかしいな』『こんなボタン、前からあったっけ?』

「え?」

そう球磨川が言ったので善逸と共に見てみると、そこには確かに『地下一階』というボタンがあった。

 

「いやいや、これは普通にあったよ?なんで覚えてないの?馬鹿なの?死ぬの?…嘘だよ。()()()()()()()()()()

『うわぁ懐かしい』『その口癖久しぶりすぎて設定から消えてたよね』

「設定言うな。…まぁ、あれだよ。最近ちょっと恥ずかしくなっちゃって…」

『あぁ…どんまい』と球磨川に慰められた。

 

正直「〇〇…嘘だよ、◇◇」という台詞は私の中で黒歴史認定されている。今使ったのはちょっとしたその場のノリだ。

きっともう2度と使わない。

まぁ、それは置いておいて…。

 

どういうことだ?

さっぱりわかんねぇ。

あいにく私には学がなくてね。あるのは美学だけさ。

 

…って、あれ?

思い出そう。

登る時、いつもボタンは一つだった。

3階へ行くときには3階のボタンが。

4階へ行くときは4階のボタンしか無かったはずだ。

 

 

なのに、()()()()()5()()()()()()()()()()()()()

 

 

どうして、と考えようとした時。

「あ、あのさ」

とほとんど空気になっていた善逸が声をかけた。

かっこいい。

じゃなくて。

「どうしたの?」

「うっわかわ…じゃなくて。それってもしかして、『違和感操作』の能力が解除されたんじゃないのか?」

「あー…名梨野権兵衛が能力を二つ持ってたってこと?」

「うん。権兵衛じゃなくて祓さんだけどな」と善逸が訂正したその時、球磨川はある仮説を述べ始めた。

『———ま、捻くれ者の僕からはもう一段階嫌な答えを提唱したいけどね』

「いや?いやってどういう…げほっげほっ」

「おい、大丈夫か?」

「げっほげっほげっほ!!!!!ごほっ!!げっほげっほ!!!ごっふ!!!」

「本当に大丈夫か!?」

「ご..ごめんごめん大丈夫。続けて?禊」

『うん』と球磨川は私の心配など無しに言葉を紡いだ。…まぁこいつに気配りなんてハナから求めてないけどね。

それ以前に何も求めていない。

是非そこら辺で———底らへんですみっこぐらししていてください。

それで、球磨川の見解は何だろうか。

こいつのことだ。きっと見当外れなものだろうが、精々検討して健闘してほしい(何さまだ)。

そんな軽い感じで聞いてみたのだが———

 

 

 

『———()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だぜ』

 

 

 

うわぁ、すっごいあり得そう。

私は嫌な予感がして、背中に冷や汗をかいてしまった。これが伏線にならないことを祈る。

 

まぁ何はともあれ、頑張るぞい。

…でも。

だとしたら誰が、『いざ尋常に勝負あり(フェアプレイ)』の能力者なんだ…?

 

 

♦︎おまけ♦︎

『ねぇ、ややこしいから呼び名変えない?』

「まぁそれは私も思ってた…どうすればいいかな。なんか案ある?無いか。無いよね皆独創性ないし」

『クマーとかどうだい?』

「あ、お前の方なの?変えるのは」

「センスはともかく禊には合ってないよ」

『可愛い賢い?』

「唐突にスクールアイドルになるのはやめろ」

『えぇ…!?』『お前、優木あんじゅちゃんの良さがわからないのかい?』『それは日本男児としてどうかと思うぜ?』

「いや分かるけど今はその話してねぇだろ」

「分かるんだ」

 

 




呼び方は主人公の禊が『禊』、敵(?)の方が『ミソギ』になりました。
というわけで次回、ミソギとの対面です。
ちなみにおまけの『可愛い賢い?』への最適解は『僕は悪くない』でした。決して『エリーチカ』とか『ミソーチカ』とかではありません。なんだミソーチカって。

あ、そういえば名梨野権兵衛、センチメンタルな感情に囚われて全く気づいていませんが、誰が来たって『名梨野を殺す』という違和感を消せばいいだけの話なんですよね。まぁそれ故に最期に懺悔の時間が出来たのかもしれませんが。


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036 とまどいながら

そういえば最近読ませて頂いている二次創作作者さんに影響されて、僕の好きな嵐の歌のタイトルを話のタイトルにしてみました。できそうだったら続けていきます。おそらく長続きしません。というわけで今話も始まります。

追記
なんとお気に入り登録者数70突破です。鬼滅の知名度にあやかっている結果とはいえ正直驚いています。このまま100まで突っ切っていきたい…。まぁとにかく感謝感激雨嵐!!!!
それと感想・評価・誤字報告などもいつもありがとうございます!今後ともぜひ『過負荷の刃』、よろしくお願いします!


僕らはエレベーターで再び下へ、下へ、更に下へと降りることになった。

今回の語り部は———そう。僕だよ。

やぁ皆。久しぶりだね!

そうそう、ハンバー…じゃなくて、球磨川禊だ。別にカウボーイみたいな格好はしていないから安心してね?久しぶりの語り部でかなり緊張しているけどそこはご愛嬌、ということでよろしく仲良くしてくれよ。

それはともかく現在エレベーター内部。

ガタン、ゴトンと不安になる音がするが大丈夫なのだろうか——なんて考えているうちに、停止。———が、止まったのは目的の地下一階では無かった。

「え…?なんで?」

それは、一階。

善逸はまるで怪談話のような出来事に思わずゾッとし、「ごめんなさいごめんなさい…」とお経のように呟いている。まぁ、刀に手を置いているところは評価できるし、成長だと言えるだろうが、全く動じていない胡桃ちゃんを見習って欲しいとは思うぜ。

ドアが開き始め、一応(僕も含めて)全員が身構える。いや、一名だけ腕をクロスさせて謎の構えをしているだけだったが。

冠石野胡桃だった。なんでそんなにふざける余裕があるのかって?

いや、ない訳ではないんだ。正確には()()()()()()()()()()()だけなのさ。

ん、言っている意味がよく分からないかい?うーん、そうだな。簡単に言うと…

 

胡桃ちゃんはシリアスシーンを乗り越えたことでもう既にやり切った気分になっていたんだよ。

 

それはここからは私のターンだ、と言わんばかりの自信たっぷりの表情だった———ようするに、彼女は今以上な程にアホになっていた。

…やれやれ。

ギャグ要員は僕だけで十分だってのに。ツッコミ役の善逸ちゃんの苦労が二倍になるじゃないか。いや、僕は悪くないんだけどね。

それにしても昔の(と言ってもほんの数ヶ月前のことだが)僕以上のウザキャラだった君はどこに消えたんだい?なんて思いつつ肩をすくめる。他人から見れば体をほぐしているようにしか見えない行為だろう。

まぁそれはともかく。

ゆっくり、ゆっくりとドアが開き一階から乗ろうとしている犯人の姿が明らかになった。

『…あ』

「…あ」

それは僕が———僕だけが知っている人物だった。

 

高向玄理(たかむこくろり)

 

巨乳の小さい女の子。…小さい女の子だけで良かったな。

彼女に向かってまず行動を仕掛けたのは、先ほどから謎の呼吸の型をとっている冠石野だった。

徐に顔を上げ、クロスしていた腕を、まるで刀で相手を斬るように、荘厳な雰囲気を漂わせて動かす。

そしてロリちゃんはそれを訝しみ、顔見知りである僕の方へ——

ではなく。

むしろ嬉々とした表情で彼女が向かった先は。

「胡桃さんじゃないですか!?」

「こんにち殺法!」

「こんにち殺法返し!」

「『………………。」』

冠石野胡桃の方だった。

そして高等的なギャグを交わした。

「元気だった〜?」とほんわかしている女性2名に対して、僕ら男性2名はポカンとしている他無かった。

 

え?

 

嘘、知り合いなの?

ていうか今の何?

 

え?

…え?本当に何?

「うん、知り合いだよ。家が近所でね。2人ともお母さんしかいなかったから気があってさぁ。よく一緒にご飯食べてたんだよ。ねぇロリちゃん今何歳?」と普段よりテンション五倍で言った。顔は未だアホのままである。ていうかお前もロリちゃんって呼んでんのかよ。お前かよ名付け親は。

「13なのだ!」と言ったのち、僕の存在に今気がついたのだろうか、ハッと目を開く。

 

「あ!さっきの追い剥ぎ!」

 

「『「え?」』」

全員の声がシンクロした。恐らくこの場でその言葉の意味を理解しているのはロリちゃんだけだと思う。だって僕にすら覚えがないもん。

「お前、それは流石に…」

『いや、何言ってんの?』『僕がそんな変態に見えるかい?』『生憎そんな趣味は持ち合わせてないぜ』

「まぁ見えなくはないっていうかかなり見えるっていいますか…」

『うっそ胡桃ちゃん!?』

おかしいな、僕の味方はいないのか…?今まであんなに献身的な働きを見せた僕に対してその仕打ちとは…。

 

こりゃ、螺子伏せられても仕方がないよね。

そう思って、僕は———この場にいる全員に螺子を刺した。

「え」

「いっ!?」

「は、球磨川!?」

『全く、酷いなぁ皆』『穴があったら入って泣いてるところだぜ?』『だけどまぁ』『ロリちゃんも含めて友達だからここいらで許してあげるとするかな』

パチン、と指を鳴らすと自分が脳内でイメージしたように全員の胸に貫通していた螺子が消えた。

ロリちゃんは「え!?なんなのだ今の!?」と困惑しているが(普通の反応である)、それとは対照的に胡桃ちゃんと善逸はもうすっかり慣れてしまったのだろう。

「…」二人は静かに、ゆっくりと立ち上がった。

幻覚なのだろうが、彼らの後ろに何か禍々しいものが見える気がする…何だろう、スタンドかな?

あはは。

やべー、死ぬかも。

『ま、待てよ二人とも』『謝るからさ。ほら、僕が悪かった』『それにさぁ復讐は何も生まないぜ?』自分の危機を感じ取り敢えず謝る僕。

だがしかし、そう上手くは行かず。

「そりゃそうだ。なぁ冠石野ちゃん?」

「うん、そうだよ。だってさ———復讐は生産のためではなく」

 

———精算のためにあるんだからね。

 

『えっ何それかっこよす』『がはっ——!?』

二人揃ってビビることなく僕に全力のアッパーと腹パンを食らわせてくる。

僕は空を飛び、美しい弧を描き地面に倒れた。

背中が打ちつけられて普通に息が止まった。

いや、まじで痛いぞこれ…本当に手加減した?してないよね?してないね、うん。

『パトラッシュ…もう眠いんだ…』『真っ白に…燃え尽きたよ…』

「さて、じゃあ事情説明をするね」

いや、流石に無視はちょっと傷つくよ…?

まぁけど、胡桃ちゃんが元の表情に戻っているし彼女がどうしようもないアホから復活したのだとすれば、これはきっと無駄な犠牲ではないはずだ。

むしろ貢献。大いなる貢献なのである。

だからそう、僕は悪くない。

 

『…また勝てなかった』

ぐはっ。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「それはねぇ…」と、いうわけで。

僕が大嘘憑き(オールフィクション)で痛みを『無かったこと』にしている最中に胡桃ちゃんは僕らが鬼殺隊であること、現在僕の提案でここに来たことを伝えた。

「ふむふむ…」「といいますと?」「なるほどなのだ…」というロリちゃんの程よいタイミングでの相槌は話す人の気分を良くし、胡桃ちゃんはペラペラとあることないこと話し始めた。

「そこで私はこう言ったの。———ここにいる人間は絶ッ対に守」

『「言ってねぇよ』」

「ちょっ馬鹿…」と事あるごとに訂正するのは僕らの仕事だった。

まさにブラックだったその仕事を終え、ロリちゃんは全てを理解した。いやぁ理解力があって助かるね!

ブラック、ねぇ。

久しぶりにマッ缶が飲みたいな…。

「なるほどなのだ…いや、()()()()()()()()()()()()()()()()何があったのかと不安になって来てみたのだけど…それが功を期したのだ」そう言って笑うロリちゃん。こうして敵としてではなく人として見てみると、とてもいい人である。

そしてすごくロリだ。僕らのほんの少し下とは思えない…。

そして胸だけ見ても僕らのほんの少し下には見えない。

「…何だかロリコンのおぞましい気配がするのだ」と肩を抱くロリちゃん。

なんだよ、ロリコンの気配って…ていうか、文字列が異常すぎるそろそろゲシュタルト崩壊しそうだ。

『…で、どうするの?』僕は善逸に尋ねる。

「何がだよ」

『いやロリちゃんを連れて行くか否かっていう話』

「お前がロリちゃんって言うとマジで気持ち悪いな…まぁ俺は賛成だぜ?能力だって強いんだろ?」

『うん———「()()()()」』『まぁ変装どころかそれは実態になるんだからね』『流石の僕でも強いと認めざるを得ないぜ』

何様のつもりだ、と頭を叩かれる。

人間様だ、と答えたら再び叩かれた。これが理不尽、日本の闇である。

『じゃ、いいか…』『ねぇロリちゃん』『僕と一緒に来るかい?』

「え…いいのだ?」

「いいも何も、行くしかないでしょ」胡桃ちゃんも僕に同意してくれた。「私たちは彼女を家に帰さないといけない」

『そうだね、というわけでよろしくね、ロリちゃん!』

「あ———はい!よろしくお願いするのだ!」とにっこり笑う。

それだけを聞けばいい場面なのだが、問題もある。

「でもよ———他にも人がいるだろ?そいつらはどうするんだ?」

そう。

僕らはそれぞれに3度の勝負を行なっており、その分の人間がいる。

それを無視してって言うのはやはり可哀想だ、いうのがらしくもない僕の意見っであり、善逸の意見である。

———本当に、僕らしくない。

甘露寺さんの時も思ったことだが、自分の過負荷性が薄れてきたことに正直かなり驚いている。もしかすると折角元に戻った大嘘憑き(オールフィクション)もまた消滅してしまうかもしれない。

だけど、まぁ。

戸惑ってはいるものの、そこまで危惧はしていなかった。

 

何故かって?

 

だってそりゃあ、この僕だぜ?

 

いくら幸せになったって、どこかでまた不幸になるに決まっている———

 

そう、ルールを『無かったこと』にしたとしても。

 

きっと僕の深層が『負け』を求め続ける。

 

だから———だから僕は。

 

 

これからもきっと、負け続ける。

 

 

♦︎♦︎♦︎

 

と、まぁ。

いい感じの締めっぽい言葉を言いつつもまだ少しこの話は続くのでついて来ておくれ。結局ここにいる人間は全員あとで(かくし)(鬼殺隊の事後処理部隊のことである)の協力も借りて助けに来ようという話に落ち着いた。そこが妥当だろうな、と僕も思う。

さて、というわけでロリちゃんもパーティに加わった今———いや、『ロリ』とか『パーティ』とか、なんかもう不味い気がしてくるけど———それは置いておいて、ミソギとの対峙においてこれほどのベストコンディションはないと思われた。

 

エレベーターはとうとう地下一階へ。

ゴゴゴ、と不気味な音を立てて扉が開く。

そのまま中を見てみるも、そこは何もない空間であり———ミソギとやらもいなかった。

しかしここにいても何も始まらないのでとりあえずエレベーターから出ることにした。

『…おっかしいなぁ?』『おーい、お邪魔するよ?』

「わっ馬鹿もっと偵察してから———」と善逸がいつものヘタレを見せる。

だが胡桃ちゃんとロリちゃんも出てきたことでまさに背水の陣となり出てくる他なかった。

可哀想に。

そして全員が部屋の中央に集まったものの、特に何も起こらない。

 

どうしたものか、と口を開こうとしたものの、それは叶わず、代わりに別の男の声がした。

 

 

「———やぁお嬢さん。さっきはどうもね」

 

 

一瞬にして空気が変わった———というのは周りの反応から察したことなので僕はよく分からないが、とにかく何者かの声がした。

誰だろうか、と僕らは同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そこには一人の爽やかな表情をした男。彼の服の腹の部分には血が滲んでいる。

「な———」

彼に反応したのは、胡桃ちゃん、そしてロリちゃんだった。

先に口を開いたのは胡桃ちゃんで。

「あ……弓月、君也」と声を震わせつつ呟いた。

ここまで動揺する彼女は初めて見た気がする。

「おいおい、つれないね。弓月くんって呼んでって言っただろ?」その男———弓月くんは肩をすくませた。それだけ見ればただの好青年だが、こんな状況下で正常な人間な訳がない。

どうやら、過負荷ではなさそうだけど…。

『なぁロリ胡桃ちゃん、あの人は誰だい?』

「ちゃん付けが面倒になったからって略さないで欲しいのだ…あの人は———胡桃さんと二階層で戦った男なのだ。能力は」

 

()()()()()

 

そう、確かにロリちゃんは言った。

「嫌な予感的中、か」と善逸ちゃんが小声で言う。その通りだった。

ルール作成の能力者は、球磨川祓では無かったのだ。

だとすれば僕の敗北性も消失していない、ということで。

その能力者である彼がここにいるということは。

 

『———あ』

弓月君也は、ミソギとタッグを組んでいる、ということで。

 

そう気がついた時にはもう遅く———

ばたり、と横で音がした。

何だ、と見てみるとそこには、血溜まりが広がっていた。

『えぇ…?』

誰の、と言われると、今残っているのは僕と善逸ちゃんと胡桃ちゃんだから、消去法的にロリちゃんのものということになる。

消去法で無ければそれが分からないくらいにロリちゃんの身体はぐしゃぐしゃになっていて。

血。目。肉。血。内臓。血。腕。血。指。肉。血。内臓。血。肉。血。肉。肉。

あらゆるものがごちゃ混ぜになっていた。

「ひっ…!?何何何!?なんでなんだよ玄理ちゃん!?」と善逸が()()()()()()()()()()へと叫ぶ。

ごちゃ混ぜで。

どろどろで。

バラバラで。

そして、そこで僕らは、不意に気がつく。

目の前があまりにも暗いことに———否。

それは暗かったのではなかった。

 

「———黒」と胡桃ちゃんが、まるで女子のスカートを除いた結果を感慨深げに呟くときの僕のように言った。

そう、()()()()()()()()()()()()()()()

ゴキブリのように、うようよと蠢いている。だがそれは複数ではなく、一つであることが次第に分かってきた。

『…へぇ、これは正真正銘の過負荷だね』

僕はこの過負荷に、少し期待していた。

もしかすると、安心院さんにも———なんて思っていた。

「いや、ていうかこれ…」と胡桃ちゃん。

この光景を見たことがある、という目だった。

それに関しては僕も同意で、なんなら凄く最近目撃した者だった。

 

「———笑止」

 

そう呟いた人物———ミソギの名前を最初に口に出したのは善逸ちゃんだった。

 

 

 

 

 

 

「あ…芥川…?」

 

紛れもなく遊郭で僕たちを助けてくれた、安心院さんの端末である芥川龍之介だった。

 

そう。

 

 

球磨川禊の正体は———芥川龍之介だった。

…え、嘘。それ本気で言ってるの?

 




さて、こっからどうなるんでしょうね。正直僕が一番わかっていません。頑張ります。


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037 ゆらゆら。

はい、嵐タイトル縛り速攻で終わりました。そんな感じで37話、始まります。ロリちゃんいい子だったのになぁ…


♦︎♦︎♦︎

 

ある日の暮れ方、主人から暇を出されて途方にくれる下人が、荒廃した羅生門の下で雨やみを待っていた。

彼が門の楼上に登ると、そこには女の死体の髪を抜く老婆がいた。

憎悪を抱き、力で老婆を押さえつけた下人だったが、老婆から生きる為の悪事を正当化する言葉を聞く。

「私は悪くない」

それによって下人の心に悪を肯定する勇気が湧き「自分もそうしなければ餓死する体なのだ」といい、老婆の衣服を剥ぎ取って夜の中に駆け去ってしまう———。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「……あーあ、ロリちゃん」

胡桃ちゃんはロリちゃん———高向玄理(たかむこくろり)の姿形も残らない死体を眺めながら、そう言った。

まるで、すっかり諦めているかのように。僕はその一言に違和感を感じ、そしてすぐにあることに思い当たった。

 

『胡桃ちゃん、ひょっとして』『「怒り」を「無かったこと」にしたのかい?』

 

そう、常人なら幼少期からの友人を殺されて、ここまで冷静さを保てる筈がない。もっと取り乱していいはず、というよりも取り乱すのが普通だ。

僕のような負完全でない限りはね。

「悪かった?」と胡桃ちゃんが問う。一般に質問に質問を返すのは悪手と言われているが僕にとっては握手のようなものなので気にならない。どころか過負荷的にかなり好感を持てた。テストなら100点———あぁいや、ここはあえて-100点とでも言っておこうかな。

 

『あぁ、最悪だぜ』『最悪———だが』『だが、嫌いじゃない』

 

僕の言葉に対して胡桃ちゃんはニヤリと微笑を浮かべる。かっこよすぎだろ。うん、流石はスキルのオールラウンダー・冠石野胡桃ちゃんである。なんというか……出会った頃から思っていたことだが僕の大嘘憑き(オールフィクション)にしても芥川の羅生門にしても飲み込みが異常に早いのだ。僕が安心院さんに勝てるかもしれないと思った所以はそこである。

安心院さんに能力をプレゼントされても僕ではそのほとんどを使えないように、誰にも向き不向きがある。

 

それなのに彼女はあらゆる能力を使いこなす。異常性(アブノーマル)も、過負荷(マイナス)も。

 

正直、僕よりも『大嘘憑き(オールフィクション)』を使いこなしていると感じる時が最近増えてきた。それは実際の過負荷(マイナス)の使い方とはかけ離れているものの、かなり有意義で、そして実に頼もしい。

……いや、ほんと僕の存在意義ってどこなんだろうね?まぁ別にどうだっていいけど。そんなの、誰かに決めてもらうようなものじゃない。

 

「な……なぁ。過負荷自体を『なかった』ことにすることって…出来るんだっけ?」善逸が声を震わせながら聞く。

『うーんと』『それは無理だね』

「…だよなぁ」善逸ちゃんが分かりやすく落胆する。

『だけど』『相殺することなら出来る』そう言って僕は笑う。普段通りな爽やかな笑みを。善逸は首を傾げる。

相殺、とは一体何の話かと言われば答えは単純、冠石野胡桃のことである。彼女の本来の能力は『付便な印撮機(トランシエンス キャパビリティ)』。コピーをする能力なのだ。自分では『こんなのは劣化品ですから』と謙遜しているものの、現物との違いはほとんど誤差と言って過言ではなく、それはどうにかすると、もしかすると安心院(あんしんいん)さんにも対抗できるのかもしれなかった。

『……ま、その「どうにかすると」ができないから困ってるんだけどね』

僕は誰に言うわけでもなくそう呟き、そして見上げた。

 

芥川龍之介を、そして冠石野胡桃を。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「あっ———複製能力か!」善逸がようやく『相殺』の意味を理解できたかのような口ぶりで言った。いや本気で分かってなかったっぽいなこいつ。

『おいおい勘弁してくれよ』『その推理力でよく僕の相棒をできているね?』

「いや、お前の相棒はしてない」

『そんなバナナっ!』僕は美少年探偵団の美脚顔負けの美しいフォームで駆け出した。そして飛び上がり。

『———「却本作り(ブックメーカー)」』

いつも通りに、芥川龍之介の胸を目掛けて螺子を差し込んだ。

螺子伏せた。

はずだった。

「———温い」

『!?』

はらりと螺子が落ち、地面にぶつかって金属音がする。今何が起きたのか、僕には全く見えなかった。あれは…そう。まるで、()()()()()()()()()()()ような...。疑問が僕の頭の中をぐるぐると巡る。芥川はそれに気がついたのだろうか、質問もしていないのに答えを出してくれた。

 

 

(やつがれ)の能力は『羅生門』。あらゆるものを断然する———それは空間も同じこと」

 

空間断絶。なんてカッコいい響きなんだ。

これには素直に驚いたと言う他あるまい。弾丸のような速度の螺子を受け止めるとは…ていうか、それ自体能力云々の問題ではなく、反射神経がとんでもない気がする。どれだけ練習すればそこまでの極地に至るのだろうか……やれやれ、この世にはまだ化け物がいっぱいいるんだなぁ。

……もし、スキルを断絶できるとすれば…いや、流石に無理か。安心院さんの前では動体視力なんて何の意味も持たないし、きっと倒せない。僕は再び失望した。ここにもいない。なら一体どこにいけば———

『———にしても』『君、いつから鬼になってたんだい?』

「え?」

僕が何の気なしに尋ねたら芥川とは違う人の声が聞こえた。先程から芥川のスキルをコピーしてふわふわと浮遊している胡桃ちゃんである。

そう、芥川は明らかに鬼になっていた。善逸だって、僕だって分かっているからここにいいる全員が分かっているものと思っていたが、これはどういうことだ?

「え、うそこいつ人間じゃん」

初めはいつもの冗談かと思った。だが胡桃ちゃんの顔を見れば見るほど、彼女が本心を言っているようにしか見えなくなる。

「何言ってんだよ、冠石野ちゃん…ありゃどっからどう見ても鬼だろ」善逸も僕に肯定する。そりゃそうだ。だってこんなに禍々しい様子の男が人間なはずがないだろうに。一体何を———あ。

『…違和感操作、か』僕は不意に気がつく。違和感使いである弓月君也は、僕の視線を受けて爽やかに笑った。なるほど、彼は一度胡桃ちゃんに敗北している。しかも外道な方法で。あ、外道の『道』って方法って意味なのかな……まぁいいや。だから弓月くんは胡桃ちゃんを警戒している。芥川を『人間』と思わせることで油断させて———といったところだろうか。

そして恐らく大勢の『違和感』を操るよりも一人のを操るほうが精度が高くなって、バレにくくなるのだと思う。そうでなければ僕らにスキルをかけない意味がない。

『なかったこと』にするまでもないね。

その根拠に俺たちがどれだけあいつは鬼だ、と言っても『は?何言ってるんですか、ついに人間と鬼の違いもつかなくなりました?可哀想に……嘘です、別に可哀想だなんて思ってませーん』と謎に過去のキャラクターに戻ってまで全力の煽りをしてきている。

ほんと、よく無限列車で我慢できてたよね、僕……。

「ま、別に鬼とか人とか関係なしに殺すけどね」

「———え」

これは僕でも善逸ちゃんの声でもなく———弓月くんの声。

目を大きく見開いていた。

『ふふふ』『人間だと思わせていたことで油断したな!』『だが残念!甘い!いちごミルクのように甘ったるい!』『こいつのクズさをなめるなよ!低脳が!』

「何でお前がそんなイキれるの!?被害が及ぶのこっちなんだからな!?」善逸が僕の煽りを必死で止めようとする。が、僕は止まらない。

『そうやっていつも安全圏から呑気に戦いを見ているんだろう?』『だから胡桃ちゃんの奇襲にも気がつかないのさ』『だから君はいつまで経っても弱いままだ』

「いや、私の話なんで知ってんの」

「確かに」

横と上で何か聞こえたが気にしない。

『本当に君は甘ちゃんだね。だが———』『その甘さ、嫌いじゃな』

「砕け散れ」

僕のはいつもの決め台詞を中断した。理由は簡単、それどころじゃなくなったから。

「ひっ———」善逸が僕の顔を見て小さな悲鳴をあげる。えっ何僕の顔そんなに不細工?…って、まぁ何を見て怖がっているのかなんて分かりきっているけどね。

 

「禊———!」

「球磨川ッ!」

 

 

『あ———あれ』『なんだこれ』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そりゃあ誰だってビビるよね。うん、仕方ない仕方ない。僕は君たちを責めるようなことはしないぜ。

ってことは、またあの人と会うことになるのかな……はぁ、やだなぁ。全然安心できねぇ。

 

『……それにしても』

また勝てなかった。

そう言う前に僕の足が砕けて立つことが困難になり、どさり、と地面に倒れる。

二人が何かを言っているのが聞こえたがそれも段々聞こえにくくなり、そして視界が霞む。

これが一体どういう目的だったのか———それは彼の冷静さを欠くことである。どうしてロリちゃんたちの『違和感』、そして『ルール』が敗れたのか。 僕はそこに意味を見出した。冷静さ。それがキーポイントなのではないか、というのが僕の根拠のない考察だ。……まぁ、そのせいでこうなったんだけど…てか、なんで違和感操作でこんなことができるんだ?

何か違和感がある気がするが、まぁ何はともあれ。

 

 

『あとは……よろしく』

 

最後にそう念じ、僕は意識を失った。




安心院さんの!これで安心ステータスまとめ!

・球磨川禊
劣化大嘘憑き(マイナスオールフィクション)
全てを無かったことにする過負荷(マイナス)大嘘憑き(オールフィクション)が弱体化したもので、今は幸せになりすぎたことで他人の死を無かったことにできなかったり正確性に欠けていたりと色々面倒が多い。
却本作り(ブックメーカー)
螺子を差し込んだ相手のステータスを球磨川と同レベルにする過負荷(マイナス)。球磨川曰く『最近受け止める人が多くて困っている』

そのほかの攻撃方法…嘘の呼吸
1 戯言
2 虚いゆく景色
3 嘘八百
4虚影心
5 無味魍魎
6 裏切(うらぎり)
7 嘘月

・我妻善逸
①過去の明星
死者を体に憑依させる異常性(アブノーマル)。前はよく使っていたが彼自身が強くなった今、使い所はほとんどない。甘露寺を憑依させたのが一番最後の使用。善逸曰く「なんか使うと罪悪感がある」

そのほかの攻撃方法…雷の呼吸

・冠石野胡桃
付便な印撮機(トランシエンス キャパビリティ)
カービィの上位互換みたいなコピー能力。目を合わせるだけで複製が可能。多少劣化するものの、本物とほとんど変わりない。また、コピーした能力を消すことはできない。冠石野曰く「覚えるのが大変」
〜以降、コピーしたスキル〜
代入大嘘憑き(サブフィクション)
大嘘憑き(オールフィクション)をコピーしたもの。劣化のため他人の死は無かったことにできないものの、現在の球磨川よりは強い。
銃版(テンプレート)
10個の銃を形成し浮遊させるスキル。劣化のため時々6個だったりする。弾丸は無限に湧いてくる。
差異欠陥(モーターパンク)
『異常』を生み出すスキル。正直あんま使わないので詳細不明。
⑤血鬼術 羅生門
服を刃や竜にする血鬼術。その刃、牙はあらゆるものを切り裂き、空間でさえ断絶できる。

そのほかの攻撃方法…糸(日輪刀と同じように日光を吸収した特殊な素材からできている)


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038 されど限界へ。

ひっさしぶりの投稿になりましたごめんなさい!!それと最近別作品と同時進行になっているのでペース上げるために一話を短くしようと思います!


そこからは泥試合が続いた。負の感情を「無かったこと」にしている冠石野による無慈悲な攻撃、そして彼女をサポートする善逸。その二人の阿吽の呼吸と言って過言ではない攻撃を真正面から受け止める芥川。

はっきり言ってアウェイであった。

「…ッ!キリがねぇ!」

 

  雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃 神速

 

善逸は個の数日で編み出した自分の中で現時点において最強の技を喰らわせようとする。だがその刃も芥川には届かず、断絶された空間によって遮断されてしまう。

 

つまり、だ。現状最も芥川を倒せる可能性の高い人物は消去法で芥川の血鬼術をコピーしている冠石野ということになる。だが、芥川の血鬼術『羅生門』は冠石野の持つ『銃版(テンプレート)』のようにオートではない。刃、そして龍は全て自分の意思で動かさなければならないのだ。故に彼女の羅生門は精度が低く、完成された状態である芥川とは雲泥の差。誰がどう見ても圧倒的に押されてしまっている。

「芥川さん、いつから鬼だったんです?」

ギリギリの戦いの中、冠石野は余裕ぶって尋ねる。

「覚えていない。だが———貴様らと遊郭で会ッた時にはすでに鬼だッた」

芥川も、それに応じる。こちらは空元気でなく、本当に余裕そうな表情を見せている。

「せめて球磨川が生きていたら…いや、そんな変わらないか」

球磨川禊は先程無駄死にと言って過言ではないような死に方をした。今頃は安心院(あんしんいん)さんと会っているのだろうな、と冠石野は想像する。生涯無勝のあの男が生きていても状況を掻き乱してくるだけであって、価値につなげる行動は一つたりともしないはずだ。故に冠石野は球磨川の蘇生を考慮するよりも戦いに徹した。

(銃版(テンプレート)も使えたらいいんだけど…意識が分散しちゃって羅生門のクオリティが下がるからメリットとしては弱いんだよねぇ…)

さて、どうするかと冠石野は考えていた。代入大嘘憑き(サブフィクション)では相手の刀、龍の一部しか削れないし、すぐに再生されてしまう。なら応用の効く羅生門に力を注ぐのがこの戦闘においての最善策だろうというのが結局の結論。

そして開始10分ほどのこと、初めて赤色が宙に飛び散った。

それは———

「!?お、おい大丈夫か胡桃ちゃん!切られたのか!」

だが、彼女のどこにも切られた跡は伺えず———口から血が流れているだけだった。

「え?…いや…なんだろ、これ…けほ、けほ…」と、咳が出るたびに冠石野は顔を歪ます。

冠石野にさえも意味が分かっておらず、さらに驚くべきことに芥川でさえも目を見開いて、攻撃が止まっていた。

(痛い痛い痛い…なんなのこれ…)

冠石野の体から生えて蠢いていた黒い影は消滅し、それに乗って宙に浮かんでいた冠石野は当然のことながら勢いよく落下した。

「ガハッ…!」

「胡桃まじでどうした!!!」

「へぇ、よそ見してる暇があるんだね」

「———ッ!」

「はぁ…はぁ…ゲホ…ご、めん……」

善逸は善逸で弓月君也との戦いで必死になっており冠石野の下へ駆け寄ることができずにいた。

ヤバい、と2人同時に呟く。

球磨川禊はまだ、目を覚さない。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「わかったぞ、お前の能力」善逸は弓月を指差しながら言った。「お前の能力は———スキルを入れ替える能力」

「ご名答♪なんでわかったのかな」

彼は当てられても焦りを見せることなく爽やかに笑ってみせた。ぞ、とする。

スキル入れ替え。一見して冠石野の下位互換のような能力だがそうとも言い難い。胡桃ちゃんの場合、それはあくまで劣化複製版であり、それ故にその能力をあまりに使いこなせすぎている人物やその能力が強すぎる場合、勝つことが難しくなる。

だがこのスキルは別だ。恐ろしくて考えたくもないが、例えば彼ば服の裏に死んだ人間の指を大量に潜ませていたら?

 

善逸は彼の中に球磨川のような過負荷性を見出し、それに当てられ喋る気が失せるが、気を持ち直して続ける。

「まず、お前がルール作りの能力者だとすれば疑問点がある。どうしてわざわざ胡桃と戦ったのか、ってことだ

「この城の核になるような能力だろうがそんなもん。なのにお前は最前線に立ってた。それは何故か———ルールだからだ。

「多分、初代のその能力の持ち主は死んでいるんだろう。そしてお前は相手が死んでなければ能力を入れ替えることができない。

「じゃなかったら、玄理ちゃんの強いスキルを今まで使わなかった理由がわからないからな。

「そしてこの場所でのルール、それは『3人と戦う』だ。そこまでは想像がつく。

「あとは…そう、ここまで強いスキルなんだ。必ずどこかに欠点(マイナス)があるはず、俺はそう考えたんだ。

「たとえば———()()()()()()()()()()()()()

「これで十分だろ?」

善逸は律儀に何もかもを話した。それを聞いた弓月はうんうん、と顔を縦に振って「いいんじゃないかな」と拍手した。いちいち、彼の振る舞いが苛立たしい、と善逸は息が荒くなった。

だが———そうなら話は簡単だ。

「で、わかったから何?どうするつもりだい?」

「あぁ…どうすることもできねぇんだよ。何なら球磨川の能力を奪われたら俺たちはおしまいだ」

「———!ふふ、自分で自分の首を絞めたね。そっか、不死身の彼とはいえ今は死んでいる判定なんだ」

「あ」

そしてさらに高笑いを上げた。

気高く。

美しく。

爽やかに。

甚だしく。

笑顔で。

雄叫びを部屋中に響かせた。

 

まずい。

完全にやってしまったああああああ!!!!

終わった!!!!!まじで終わったってこれ死ぬじゃん!!!!

「じゃあ使わせてもらうよ」

「ヒェぇぇェェェエ!!!!ごめんなさいごめんなさいさっきから高圧的な態度ばっか取っててごめんなさい許してくださいいぃぃぃぃぃい!!!!!」

 

それを見て彼は性格の悪い笑みを浮かべた。

「んー…どうしようかなぁ…」

「…ゴクリ……」

「許して欲しい?」

「うんうん!!!」

「死にたくない??』

「うんうんうんうん!!———ん?」

今一瞬、聴き慣れた喋り方が聞こえたような気が———

 

 

大嘘憑き(オールフィクション)

あ、死んだ。




次回、頑張れ善逸くん!


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039 球磨川禊

お久しぶりです。
こんなの書いてたなぁ、懐かしいなぁとさえ思いながら過去の話を読み返していました。自分でも驚きました。違和感ありまくりですね。以前が下手すぎたのか、今が成長したということなのか、はたまたその両方か、神のみぞ知るという奴です。そういえばこれってイントネーション的には神『のみぞ』知る、ですけどどう考えても神『のみ』ぞ知る、じゃないんですかね。それはそれで、じゃあ『ぞ』って何なんだという新たな疑問が生まれますけども。そんな感じの第39話始まります。さんきゅー。


「——————なんつってな」

弓月君也は俺の失言を受け、ナイスパスだと言わんばかりに自身の異常性でしっかり球磨川禊の過負荷をコピー。それを使って今から俺の存在なり何なり二宮◯也を『なかったこと』にしてしまおう。

と。

少なくとも、弓月本人は考えているだろう。先程までの「しめた」という表情が物語っていた。しかし、これは長い間連れ合っている俺たちだからこそ分かることなのかもしれないが——————過負荷という概念は、そう簡単なものじゃない。

『な、なんだこれはあああああああああッ!』

球磨川をコピーした結果、括弧つけた喋り方に変貌した弓月は自身の身体に起こっている『異常』に、思わず思いがけず思いのままに声を漏らした。

『お前……何をした』

身体中の穴という穴からから血が溢れ出る。

血。血。血。血。血。血。血。血。

コンクリートの床がみるみると緋く染まりっていく。

その光景は。

誰がどう見ても明らかな——————異常だった。

「俺は何もしてねぇよ。なぁ、そうだろ?球磨川」

『………………』

いや、まだ死んでるのかよ、お前……。いい加減復活すると思って話しかけちゃったじゃねぇか恥ずかしい。

さっさと生き返れ。じゃないとツッコめねぇじゃねぇか。

ゴホンと咳払いを一度して、解説に戻る。

「アンタは結局のところただの異常性——————まぁ、認めたくはないけどその点は俺とお前は同じだな」

異常でこそあれ、それは誰しもが持ちうる『個性』でしかない。

金髪、男、カッコいい——————そんなものと全く変わらない。

対照的に、過負荷は欠点(マイナス)——————悪意や敵意や罪悪感や絶望感。ありとあらゆる負の感情を纏わせた、災厄。

「それをテメェがそう簡単に担えると思ってんのか!?はっ、甘ぇんだよ!」

甘露煮くらいに甘々しい。

甘依存。

それが過負荷(マイナス)

それが——————

 

「だけどその甘さ、嫌いじゃねぇよ」

 

それが、球磨川禊。

目を瞑って。

スゥ、と静かに息を吐いて。

そして。

 

 

  雷の呼吸 壱ノ型——————霹靂一閃。

 

 

斬!

「な——————ッ!」

光の線が弓月を貫く。血さえも溢れずに、彼の身体はばかりと倒れた。

あれだけウザったらしかったその顔も、もう二度と表情を変えられなくなり——————そこで初めて、あれコイツ結構イケメンだな、ということに気がついた。まぁ、そんなことは本当にどうでもいい戯言だけどな。

「あとは、頼んだぜ、胡桃」

天井付近で未だ黒々とした争いを続けている芥川と胡桃を視界の隅に置きながら、俺は睡魔に襲われてバタリと倒れた。

 

♦︎♦︎♦︎

 

「やぁやぁやぁ善逸くん、久しぶり」

「うるさ……って、誰かと思ったら、安心院さんじゃないですか」

『やぁ善逸くん!』『さっきぶり!』

「うるさっ!……ってか球磨川じゃねぇか人が死にかけてたのに何やってんのまじで!?」

次に目を開いたのは、安心院さんのテリトリー——————教室?まぁ寺子屋的な雰囲気だと思うが、あまりに近代的すぎる場所だった。

「えっ何何何俺死んだの?」

『そのヘタレな部分は相変わらずみたいだね……』『大丈夫!それも君の個性さ』『胸張って生きなよ』

「お前もそういう気味悪い部分、何も変わってねーな」

『僕は悪くない』

「夫婦漫才はそろそろいいかな?」

痺れを切らした安心院さんが尋ねる。夫婦じゃねーよ。どうぞ、と促したのはなんとびっくり、ほぼほぼ同じタイミングだった。この後に「仲良いね」「『良くねーよ!』」の下りがあれば満点なのだが、面倒だったらしく彼女からその言葉は返ってこなかった。

「勿論のこと、準主人公体質な善逸くんは死んじゃいねーよ。安心しな。寝てるだけだ」

「そ、そうか、なら良かった」

『ちなみに僕ははねぇ』『週刊少年ジャンプを読んでたんだ』『見ろよ!維新大先生の最新作が連載されているじゃないか!』『暗号学園のいろは、だとよ』『暗号マニアの僕からしちゃあ黙ってはおけねぇぜ』『というわけで妹である球磨川雪ちゃんが高熱を出したというのに家には誰もいないんだ。だから僕は帰らせてもらう!』『冗談じゃねぇ!こんな場所にいられるか!!』

「帰らせねぇよ」

安心院さんから正体不明のスキルを発動されて、突如青いアザが生まれた——————そして、バタリと倒れた。

え?

死んだ?

「そんな訳ないだろう。陰で中学時代はゴキブリと言われていたあの球磨川くんだぜ?」

『え?』『初耳……』

球磨川がショックを受ける瞬間ってあるんだな、と珍しいものを見たことによる感動を覚えた。流石のコイツでも、どうやらゴキブリは気色悪いと感じるらしい。——————あるいは、同族嫌悪?

「で、俺たちはいつになったら戻れるんですか?」

『そうだよ』『僕だっていち早く仲間のピンチに駆けつけたいってのにさ』

「ほざけ」

「いや別に戻ろうと思えばいつでも戻れるよ?ただ、ちょっとさ」安心院さんは手をパンと鳴らした。「君たちにひとつ、伝えておかなくちゃいけないことがあってね」

はて。なんだろうか。身に覚えがないのだけれど、まさかこの人はまた何か、俺たちの知り得ない領域で悪質な悪戯をしでかしやがったのだろうか。だとしたら無意味だと分かっていても、いい加減キレるべきなのだろうけれど。ったくもう。今度は一体何をやったんだ——————

 

「君たちの仲間の冠石野胡桃ちゃんだけど——————そろそろ死ぬよ」

 

え。

何、急に。




善逸の声が最近デンジくんで再生されてしまうせいでキャラがちょっとおかしくなっちゃう。誰か助けて。

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