そこは見知らぬ世界でした……なのorz (dslprojecter)
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やっぱりパパの娘なのorz

「ちょっとナギサちゃんの家に行ってきますなの〜」

「気をつけて行ってくるですよ〜」

 

現在は朝9時、軽くおめかしをして、これから友人の家へと遊びに行くので、行き先を告げながら玄関へと向かう。

居間からは呑気な返答であるが、しっかりと返事が返ってきた。

やはり家族と呼べる人が居るのは良い事だと再認識し、少し嬉しさも相まって友人の家へと向かう足取りも軽くなっていた。

今日は日曜日、天気は快晴で久々に友人数人で遊ぶ事になっていた。

友人宅への道中はそれほど離れてもいない為、早足程度の軽快さではあるが日光浴を楽しみながら友人宅へと向かう。

そんな最中、不意に足元の感覚が無くなった。

 

ーーーどうか世界をタスケテーーー

 

何かが聞こえたのだが、嫌な予感とデジャヴが塗り消した。

 

「……やっぱり…ミュウはパパの娘なの」

 

自身の経験と諦念から、とりあえずエヒトみたいなヤツだけは居ませんように、と祈り目を凝らしながら悟りを拓くだけだった。

 

☆☆☆

 

木漏れ日の中、一人佇むのは神殺しの魔王の娘。

周囲を見渡せば歩くには遠いが、大きな城壁と天にも届く塔が見えた。

とりあえず行き先を定め、徐ろに左手を天に翳し一言。

 

「さ〜ちゃん、お願い」

 

左手の薬指に填められた指輪が光ったかと思えば、眼前に一体の多脚砲台が現れた。

 

「さ〜ちゃん、彼処まで載せてってなの」

 

頭部にある目元から光が灯り、多脚砲台は乗りやすい様に脚を折り曲げた。

 

「ありがとうなの〜」

 

んしょんしょ、と多脚砲台の上になんとか乗り、目指すはあの城壁なの〜、と告げて指を指した。

多脚砲台は脚から車輪を出し、緩やかに出発しようとした矢先、目の前に如何にもゴブリンといった個体が武器を持って3体立ちはだかった。

地球でゲームの知識を持っているミュウは、エネミーにエンカウントしたと察し、さ〜ちゃんに即座に命令を下す。

 

「さ〜ちゃん、ヤッちゃってなの!!」

 

ーーージャキン、ドガガガッッッ

 

ゲーム感覚からかミュウには会話をするという気持ちは存在せず、ゴブリンは瞬く間に制圧された。そのままの勢いで城壁へ向かう。

 

30分ほどだろうか、さ〜ちゃんはひた走り城壁へと着いたのだが、入口が見当たらなかったので、そのまま一周する事にした。

次第に行列が見えてきたので、安堵しつつも警戒の為、さ〜ちゃんからは降りずに近づき行列へと並んだ。

周囲の人達からは異様な目で見られているのは感じているが、地球からの直接転移とあって何が起こるかわからない為、さ〜ちゃんからは降りないと決めていた。

行列も幾分はけ、いざミュウの番になったのだが門番が騒ぎ出した。

 

「貴様、ソレはなんだ?なんの用でオラリオに来た?」

 

ミュウは最初、ソレと聞かれ首を傾げたが、さ〜ちゃんを指で指され納得した。

 

「さ〜ちゃんはさ〜ちゃんなの」

 

「さ〜ちゃんとは何だ?」

 

「さ〜ちゃんはさ〜ちゃんなの」

 

「だからさ〜ちゃんとは何だ?」

 

「さ〜ちゃんはさ〜ちゃんなの」

 

「…………」

 

門番には意味が通じなかった。門番には二人が待機していたが、一人が城壁の中へと走って行った。

待つこと約10分、一人の女性がやってきた。

 

「ふむ、少女か。私はシャクティ・ヴァルマ、象神の杖(アンクーシャ)と呼ばれている。君の名は?オラリオに何しに来た?ソレとソレは何だ?」

 

コレは面倒になりそうだ、と内心で冷や汗を掻きつつ、ミュウは本心を告げた。

 

「ミュウは此処に呼ばれたの、お腹減ったなの、さ〜ちゃんはさ〜ちゃんなの」

 

とりあえず伝える事は伝えたぞ、と両手を握りしめ相手の出方を待つ。空腹は敵だ。しかもこの街に入れなければ、食糧の確保が出来ない、切実である。

シャクティと名乗った女性は面を喰らった様な顔をした後、頭を掻きつつ告げた。

 

「とりあえず空腹についてはなんとかしてやろう、ついて来いミュウ。名前はミュウで良いんだろ?」

 

ーーージャキン

 

さーちゃんが砲塔を向けた。見れば少し怒りモードのようだ。

 

「コイツは何故、今、コレを私に向けた?」

 

砲塔を指差しつつ疑問を述べるシャクティ。ミュウもまさかいきなり攻撃モードに入るとは思って居なかった為、内心ヒヤヒヤしていた。

 

「さーちゃん、メッなの。とりあえずついて行くの」

 

ーーーガコンッ

 

さーちゃんは砲塔を戻し、ゆっくりとついていく事にした。コレがミュウのオラリオ初入場である。



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ヤラカシタなのorz

「ガネーシャ様、シャクティ・ヴァルマ戻りました」

 

恭しく眼前の仮面を被った男性に挨拶をするシャクティ。御主人様?と間違った解釈をしつつも、成り行きを見ているミュウ。しかし、さ〜ちゃんからは一度も降りる気がしなかった。

 

「私がガネーシャだ!!」

 

なにも意味の無い回答だった。

ふと、ガネーシャはミュウを見つつ、初めて見る多脚砲台に目を止める。

 

「コレは何だ?武器なのか?」

 

「わかりません、さ〜ちゃんというらしいですが」

 

「ふむ、ヘファイストスに聞くしかあるまい。とりあえず少女よ、私はガネーシャという、そなたは?」

 

「ミュウなの〜」

 

「ミュウか。ミュウよ、そなたはだれの眷属で、何が目的で此処に来た?」

 

ーーージャキン

 

「さ〜ちゃん、ちょっと大人しくして、メッなの」

 

一瞬で攻撃体制を取ったさ〜ちゃんを鎮めつつ、ガネーシャとシャクティを見る。自分が異世界からやってきたと告げて良いものか、今の自分には判断出来ないからだ。

異世界の事を知らない世界が多いのだ、簡単には話す事など出来ないだろう。

 

「何を悩んでいるのかは知らないが、下界の子は神に嘘はつけん」

 

ガネーシャははっきりと神と言った。

 

神…神かぁ、ミュウは世界の不条理を痛感した。いきなり相手が神である。神殺しの魔王の娘とわかれば何をされるかわからない。逃げるが勝ちと決め込んでも、食糧や寝床、衣服等の問題が何れ出てくる。

相手は神だ、どんな能力(マホウ)を持っているかわからない。ならば、愛してやまないパパを見習って、真実では無いが嘘を言わなければ良いと心に決める。

 

「ミュウは呼ばれて来たの、あと眷属ってなんなのかわからないなの」

 

「誰に呼ばれたのだ?」

 

「わかんないなの〜」

 

とりあえず要領を得ない会話が成立した。このまま押し通すなの、と内心で自分を誇示する。

 

「そなたの種族は何だ?初めて見るのだが」

 

「ミュウは海人族なの〜」

 

「!?」

 

この時点で気づいたのだが、ミュウの特徴のある耳はハジメのアーティファクトにより隠蔽されていた筈である。

しかし今は何処かに落としたのか、隠蔽されていなかった。後でパパに拾って貰おう、と心に決めた。かなりの無茶振りである。

うっかり本当の事を言ってしまったミュウも自己嫌悪を隠せず落ち込んだ、ヤラカシタ、と。

 

「そんな種族は聞いた事がないぞ」

 

シャクティは驚きつつも、興味深いのかまじまじとミュウを見る。ガネーシャにしても顔を近づけるくらいに見入っている、暑苦しい限りだ。

 

「シャクティよ、今は置いておこう。先ずはヘファイストスの元へ行こうか。眷属も知らぬようだし、私一人の手に余る」

 

「畏まりました」

 

またもシャクティは恭しくガネーシャに対応した。これでシャクティはガネーシャの従者か何かなのだろうと確信出来た。パパの様に一切合切抹殺はダメなの、と悟りを拓くミュウ。

ガネーシャとシャクティに連れ立って、ミュウは新たな場所を目指すのだった。



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パパ、ミュウは頑張ったなのorz

ガネーシャ達に連れられ、街並みを移動するミュウ。シャクティについて行った時には、余裕が無かったのだろう景色が見えていた。

大きな塔が見え、その中を3人は進む。

 

「私がガネーシャだ!」

 

道行く人々から奇異の視線を受けつつも人混みの中を縫い、とある店内のドアを叩いたのは言わずと知れた象神(ガネーシャ)である。

 

「いきなり出てきて何の用よ!!」

 

赤い髪に片眼に眼帯をした女性が怒り心頭で出てきた。オコである。しかし、ミュウには少しだけ親近感を感じた気がした、片眼眼帯だからかも知れない。序でに左肩を見てみたが、普通だった。

今も大好きなパパであるが、あの頃のパパは超カッコ良かったの〜、と一人で悶えていたのである。

 

「久しぶりだな、ヘファイストス」

 

猛る女性をモノともせず、ガネーシャは軽い挨拶を交わす。シャクティに至っては深々とお辞儀をしていた。

 

「相変わらずね、ガネーシャ。シャクティも楽にして良いのよ。って、あら可愛い子ね、ってコレ何?」

 

さ〜ちゃんを見て一言、赤髪の女性は凄く興奮していた。それもそのはずである。さ〜ちゃんの中身はともかく、外見はトータスでも稀代の錬成師でもあるハジメの手によって作成されたモノである。鍛冶と錬成という違いはあるが、モノ造りという事に掛けては通づるものがある。

 

「いったいコレの素材は何で出来ているの?見たこと無いわ、しかもなんか嫌な感じもするし……」

 

ぶつぶつとさ〜ちゃんを眺めながら、色々と思案している女性、確かに中身は悪魔の王の一角なので不気味ではある。

 

「神ヘファイストス、突然の訪問申し訳ない」

 

シャクティがヘファイストスへと謝罪をし説明を始めた。

 

えっ、神ヘファイストス?……神、神かぁ、またなの〜、ミュウの背中に冷たい汗が流れていく。いったい何体、ヤらなきゃならないの〜、とりあえず神の使徒二桁は居ませんように、と危機感を感じ、みんなを呼ぼうか迷っていた。

 

「実は本日、この娘ミュウと言うのですが、外より来ましてその際に……」

 

ーーージャキン、グルンッグルンッ

 

怒りモードのさ〜ちゃんがシャクティへと砲塔、ペンシルミサイルを向ける、流石にニ度目とあってかなり激オコである。向けられたシャクティも自身はLV.5の筈なのに、ちょっと焦りを感じたくらいだ。

 

ーーー姫をニ度も呼び捨てとは何事だ

 

怒り心頭のさ〜ちゃんの心の声がする。

ミュウも必死に宥めようと、さ〜ちゃんの頭部を抱きしめる。

 

「大丈夫だから〜、さ〜ちゃん。ありがとうなの」

 

「ミュウちゃん、何故かはわからないけど、なんだかかなり怒ってない、コレ?」

 

ヘファイストスから見ても、なんだか戦闘体制を取っていると見て取れた。しかもかなり危険を感じている。

 

「さ〜ちゃん、今は大事なお話をシテルの。気持ちは嬉しいけど少し大人しくして、なの」

 

ミュウの説得と抱擁もあり次第に戦闘体制が和らいでいく。シャクティ自身、何故かはわからないが、かなり身の危険を感じていたのも吝かでも無い。

 

「なんだかわからないが、ありがとうミュウちゃん」

 

「ハイなの〜、あとミュウの事、呼び捨てにしなきゃ、さ〜ちゃんも怒らないの〜」

 

シャクティがミュウに謝罪する。ミュウもさ〜ちゃんの怒りの原因を皆へと告げる。これでなんとかなるはず、と場を和らげようと、両手を天井へ掲げ、ふや〜っ、と笑う。ならばミュウちゃんと呼ぼう、とシャクティは言い、ハイなの〜、とミュウは答えた。

 

「それでミュウちゃん、コレは何?」

 

ヘファイストスはさ〜ちゃんを指差し疑問を向ける。

 

「さ〜ちゃんはさ〜ちゃんなの〜」

 

いけるところまで行ってヤルの〜、と真実を(ぼか)す努力を怠らないミュウであったが、ヘファイストスはガネーシャ達より上手であった。

 

「ならコレの材質は何?見たところ意思も有る様だし、私は見たこと無いわね」

 

「硬いモノで出来てるの〜」

 

「私はコレでも鍛冶神なのよ。硬い金属とかも知識にはあるけど、コレは見たこと無いわ」

 

「…………」

 

ミュウの内心ドキドキものである。パパ、ミュウにはパパの様に誤魔化せる力は無かったなの、と肩を落とした。

 

「世界一硬い鉱石なの〜」

 

「この世界で一番硬い金属は不壊属性(デュランダル)と言われるモノよ。コレは不壊属性(デュランダル)では無いわね、オリハルコンとも違うし、アダマンタイトともミスリルでも無い」

 

「…………」

 

ちょっとだけ抵抗してみたが無駄だった。神に嘘をつけない事がこんなに厄介だと、今更ながらに気づいたミュウだった。

 

「……ア……アザンチウム鉱石なの〜」

 

「アザンチウム鉱石?ソレは何処で取れるの?」

 

ヘファイストスは満面の笑みを浮かべ、更に追求の手を伸ばしてくる。

 

「洞窟の中なの〜」

 

もう少しだけ抵抗してみた。

 

「何処の洞窟なの?」

 

笑顔での更なる追求、ミュウの抵抗はムダだった。仕方ないと半ば諦めの気持ちで、半ばどーにでもなれっ、と焼けになりミュウは続けた。

 

「オルクス大迷宮なの〜」

 

「そのオルクス大迷宮は何処にあるの?」

 

「トータスにあるの〜」

 

「トータスって何処なの?」

 

「こことは違う異世界なの〜」

 

ここにきて最大級の爆弾が投下された。

問答をしていたヘファイストスもだが、ガネーシャ、シャクティに至っても驚愕を顕にしていたのだった。



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地球にあるデザートの方が何倍も美味しかったよ……なのorz

ミュウは今、オラリオの中心近くにある大衆酒場≪豊饒の女主人≫で一人、黙々とデザート(?)を食べていた。

周囲には店員さんと見られるメイドさん数人、パパや愁おじいちゃんが見たら狂喜乱舞するだろうなぁ、と思いつつ目の前にあるモノを食べる。

じゃが丸くん、と呼ばれるこの世界ではそこらの出店に売られているモノが、この店独自のアレンジが加えられ高級感が出されているのだが……。

所詮、地球のデザートを食べまくっていたミュウにとっては、ただのジャガ芋をまるまる一つ揚げたものでしかなく、高級感(?)どこら辺が?と超ブルーの気分を隠しつつも、おそらくは接待されているのだと思い文句の一つも言わず食べるのだった。

何故、そんなことになっているのかと言えば、あれからガネーシャ及びヘファイストス二神揃っての緊急の神会(デナトゥス)が開かれていたのである。

議題は「異世界から少女が一人キタ」である。

当然、珍しいものが好きなこの世界の神々は我も我もと、今までで最高の参加者を有する神会(デナトゥス)となった。

そんな事になっているとは露知らず、ミュウには、とりあえず此処で待っていてくれる?何か食べたいなら店員に言えば出してくれるから、と半ば放置されたのだ。

ミュウも異世界とあって、地球とは違う美味しいモノを期待して二つ返事で了承した。

それが目の前のじゃが丸くん(高級感だしてますよバージョン)である。ブルーになるのも当然である。

 

シャク、シャク、シャク

 

うん、どこを食べてもジャガ芋の味しかしない。ミュウはとりあえずジュースで誤魔化す事にした。

 

「店員さ〜ん、何かジュースはありますか?なの」

 

「少々、お待ち下さい。今、持ってまいります」

 

ミュウを奇異の目で見ていた店員ではあるが、すぐさま仕事と割り切り対応をする、それもそのはず未だにミュウはさ〜ちゃんから降りる事はしなかったのである。流石の一言である。

エルフの店員と思われるクールな美人がキッチンへと向かい、ジュースを持ってきた。

 

「どうぞ」

 

差し出されたジュースはオレンジジュースっぽかった。見た目はオレンジ、されど飲んだら違うモノでした、と更にブルーになるかも知れないと、恐る恐る飲んでみた。

結果、地球やトータスで飲んでいたオレンジジュースより、甘みと清々しさが格別だったのである。じゃが丸くんが出されたからミュウ自身の期待値が下がっていた。その下げて上げる効果は出ていたのかも知れない。

ミュウの表情は一変し、花の咲く様な笑みを浮かべ店員に告げる。

 

「このオレンジジュース、もの凄く美味しいの〜、ありがとうなの」

 

「ありがとうございます」

 

ミュウの笑顔で店員も安堵し、待機へと戻っていく。再び、オレンジジュースを片手に目の前のじゃが丸くんを黙々と食べ続けるミュウだった。

 

「こんにちは〜、今日はオススメはあるかい?」

 

一人の女性が入ってきた。ミュウは最初に胸を見て、シアお姉ちゃんに負けてないの、と不躾な事を考えてしまっていた。しかも衣服の上からなんだか知らないが紐で胸を支えている様だ。ナンダコレ?意味が無い紐って要らないよね、等とその人物のコーディネートにダメ出しすらしていた。

背丈はミュウより高く、あからさまなツインテール、シアお姉ちゃんに負けない胸、シアお姉ちゃん並みのヤバい服装、意味の無い紐コーディネート、この世界コレでも良いの?と様々に不躾な視線で見ていた。

その視線で気づいたのだろうか、ツインテ女性が近寄ってきて、右手をミュウに差出してきた。

 

「そこのキミ、ボクの眷属にならないかい?」

 

「眷属?」

 

突然、何を言われたのか解らなかったミュウ。眷属とはなんぞや?とりあえずオハナシから始めようと、会話してみる。

 

「眷属って何ですか?なの」

 

この一言で目の前の女性は動揺したらしく、え?眷属知らないの?と店員さん達を見廻す。さもありなん、と店員さんは呆れ女性に説明、ミュウはそのやり取りをただ見守っていた。

 

「素晴らしいよ、キミ。異世界からの転移で来たなんて、唯一無二の存在だ。是非ともボクの眷属にならないかい?今なら団長として迎えてあげるよ」

 

目の前の女性は興奮を隠そうとせず捲し立てる。ミュウにしてもこの世界の一端を知れると思い、女性に先を続けさせた。

 

「とりあえず眷属ってのを教えて下さいなの」

 

「そうだね。簡単に言えばキミはボクを主神と崇め、ボクはキミに神の恩恵(ファルナ)を刻む。神の恩恵(ファルナ)によってキミにステイタスを与え、レベルをアップさせる事が出来る」

 

ミュウは内心、RPG世界キタ~、と喜びウンウンと頷く。女性もミュウがその気になってきたと知ると饒舌になり、更に勧誘を強める。意気投合したミュウと女性、周囲の店員が呆然と見守るのもなんのその、二人は手を繋いて店を去っていく。後に残されるのは只今、緊急で神会(デナトゥス)を開いている女神と男神の胃の心配であった。



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リアルはゲームよりシビアでした……なのorz

神会(デナトゥス)にてー

 

「ファイたん、フカシでも言うたらアカン事もあるけど、ホンマか?」

 

「真実である」

 

「オマエには聞いとらんわ、ドアホ〜」

 

民衆の神(ガネーシャ)道化の神(ロキ)の掛け合いが始まりそうだった事もあり、鍛冶の神(ヘファイストス)は端的かつ早急な対応が必要だった為、真実を述べる。

 

「本当よ、ガネーシャと私の二人が彼女が嘘を言ってない、と確認したわ。今は別の場所で待ってて貰っているの」

 

「そうか」

 

「これはオラリオ始まって以来の重大事件だわ」

 

ヘファイストスは一連のあらましの清濁は問わず、集まった神々達に問題を提起する。なんにしろ此処に集まった神ですら異世界があると認識して居なかったのだ、問題を先延ばしにする訳にはいかなかったが早急な対応も現時点では難しかった。その他の神々からは少女キタ~、コレはアレですわ、未知との遭遇ならぬ別世界からの贈り物ですわ〜、等と一部の男神からゲスな言葉が飛び交っていた。

そんな男神達の言葉はスルー一択でしかなく、今後の対応をロキと相談する事にした。

 

「とにかくその子から色々、聞かなアカンか」

 

「そうね」

 

「今、その子何しとるん?」

 

「おやつでも食べてるんじゃない?」

 

「ほな食事がてらその子と話でもしよか、フレイヤもそれで良いか?」

 

「そうね」

 

ロキに話しかけられた美の女神(フレイヤ)は逡巡せず首肯する。オラリオに於いて二大派閥であるロキ・ファミリアとフレイヤ・ファミリア、その二大ファミリアの神が決める事ならば、現在のオラリオではほぼ決定事項になるだろう。

ヘファイストスとガネーシャも加わる事になり、神会(デナトゥス)は一時、解散。進捗はその後の神会(デナトゥス)で、という事を集まった神々に告げる。

 

☆☆☆

 

「改めてボクの名はヘスティア。キミはなんて名だい?」

 

「ミュウなの〜」

 

「ミュウくんか、今後とも宜しくね」

 

豊饒の女主人から二人は連れだって歩きしばらく、見るからに今にも崩れ落ちそうな廃教会の中へと入っていった。好奇心旺盛なミュウは廃教会なの、エクソシストなの、とオカルト知識全開でワクワクしていた。ヘスティアからすればかなり失礼極まりない事であったが、ミュウはパパと違いそんな事を言うほど空気が読めない事もなく、ヘスティアに静かに付いていった。パパは敢えて空気は読ま(AKY)ないの、と一人納得していた。廃教会の中の奥まった部屋に入り、ヘスティアはミュウに腰掛けるようソファへと促した。

ヘスティア自身の対応もミュウには不快には感じなかった為、素直にヘスティアに従う事にした。因みにさ〜ちゃんはミュウの警護の為、出しっぱなしである。

 

「ではミュウくん、一応、最終確認だがキミは私のファミリアに入ってくれるのかい?」

 

ここに至ってミュウは今までの神話大戦を含め、数々の出来事を思い起こす。過去、自分には力が無かった、それはある意味でハジメ達に縋るしか無かった自分を情けないと思いつつ、関係を深める事にも繋がった。では現在ではどうか?今は地球でハジメ達と楽しく賑やかな生活を送っている。今後もあの生活を壊したくないとも思っているし、自分も手助け出来れば良いとすら思っている。目の前の女神は現在の自分に更なる力を与えてくれるようだ。間違った使い方さえしなければ、コレは自分もハジメやユエに近づけるかも知れないと考えた。逡巡は一瞬、ミュウは覚悟を決めた。

 

「お願いしますなの」

 

「ではキミに神の恩恵(ファルナ)を刻もうと思うんだが、服を脱いでくれるかい?」

 

「!!!!!」

 

いきなりの脱衣宣言、ミュウはここにき

てハジメの部屋にあったゲームを思い出した。イケない想像が膨らみかけたとき、目の前の女神から説明を受けた。

 

「勘違いしないでくれ給え、背中に神の恩恵(ファルナ)を刻む為、上半身だけ脱いで、そこにうつ伏せになってくれ」

 

ちょっと恥ずかしかったのだが、コレも今のミュウに無い力を得る為と割り切り素直に上着を脱ぎうつ伏せとなる。うつ伏せになったミュウの背後からヘスティアが跨がり儀式が始まった。眷属の登録をする為、ヘスティアは指先に針を刺し神の血(イコル)をミュウの背中に落とす。次第にミュウのステイタスが明らかになっていく。

 

「ミュウくん、コレは!!!」

 

「みゅ?」

 

ヘスティアは動揺を隠せなかった。それほどまでミュウに書かれていた一部のステイタスがヤバ過ぎた。

 

(ヤバいヤバいヤバい……ヤバ過ぎる、この子をイジメたり機嫌を損ねたらこの世界が終わる。なんとか穏便に事を奨めないと)

 

ヘスティアは喉が枯れる様な感覚を覚え、更に背中から冷や汗がダラダラ流れ出し、手先も震えてきていた。異世界の子だからと希少だからと安易に眷属にしてしまった結果、自身も含めこの世界の危機に直面していた。

 

「……ミ…ミュウくん、……つ、つかぬ事を聞くが、キ、キミのお父さんはどんな方なのかな?」

 

「みゅ?」

 

ヘスティアはなんとか言葉を絞り出し、ミュウの回答を待つ。

ミュウはハジメが大好きだ。今のハジメも大好きだがトータスでの神話大戦の頃が一番好きだった。ミュウも空気を読んで流石に神殺しの魔王とは伝えなくともカッコいい所はいっぱいあるなの、と気軽に考えていた。斯くてヘスティアに多大な心痛を(もたら)した。

 

「パパは超カッコいいの〜。ミュウをいつの時でも助けてくれて、ワルイ奴らにはいっ〜ぱいオシオキしちゃうの。凄く強くて敵をバンバン倒しちゃうの、悪・即・斬なの〜。お空から星を降らして地形だって変えちゃうの」

 

(…ヤバい、コレは。この娘に何かあったら絶対タダでは済まない)

 

「そっかー、ミュウくんはパパが大好きなんだね」

 

「ハイなの〜」

 

「とりあえずコレが今のミュウくんのステイタスだよ」

 

一枚の羊皮紙がヘスティアからミュウに渡された。ミュウは羊皮紙を見て何故、パパの話になったか理解できた。

 

☆☆☆

 

南雲ミュウ

種族 海人族

職業 調停者

称号 神殺しの魔王の娘

 

力   I0

耐久  I0

器用  I0

敏捷  I0

魔力  I0

 

≪スキル≫

[二丁銃術][戦槌術][双大剣術][八重樫流][打鞭術][言語理解]



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なんか出たorz

園部優花は洋食屋《ウィステリア》の《看板少女》である。

園部優花は《一途な夢見る乙女》である。

園部優花は天職《投術師》である。

園部優花は《魔法少女》である。

……そんな園部優花は《愛人》であるべきなのだろうか?

それは世界の中心と謂われた場所、迷宮都市《オラリオ》

都市の中心にはダンジョン、更にそのダンジョンの上には《バベル》と呼ばれる天空を突き抜け世界を見つめる塔があった。

《オラリオ》の街並みは《バベル》から東西南北に延びるメインストリートを中心に栄え、街は今日も喧騒を奏でている。

 

「よし、今日も安く買えた。このまま頑張ろうっっ」

 

栗毛のポニーテールを靡かせ、拳を握りしめる少女。切れ長の瞳に勝ち気な雰囲気を滲ませつつも、その内面は夢みる乙女17歳《園部優花》

さて、園部優花は何故、地球では無く、地上に降臨した神々の居る世界、迷宮都市《オラリオ》に居るのか?

ソレはハジメが光輝を探しにシンクレア王国に転移した日、暇つぶしがてら異世界《トータス》の森の中を散歩中、一匹のウサギを見つけた事から始まった。

 

優花は散歩をしていた。

かつて死んだと思っていた南雲ハジメとの邂逅と清水幸利の死、様々な事を自分だけの頭の中で整理する。気分転換も兼ねて《ウルディア湖》の畔を一人、もやもやとした気分のまま歩いていた。

空は少し雲がかかっては居たが、青空が見えていた為、肌寒くは無かった。

湖の畔に学生服で散歩をしている憂いを帯びた美少女が一人、ここがかつての日本であるならばナンパの一人も出てくるのであろう。

ふと湖の近くの森を見つめた際に、白いウサギを見掛けた。なんとなくも南雲ハジメを想起する様な気がしたので、優花はそのウサギを眼で追い掛けてみた。

突如、そのウサギは何故なのか理解出来ないが、湖へと飛び込んだ。

優花は慌てて近くまで走って行ったのだが、ウサギは浮かんでは来ない。

《死》という実感が未だに薄れる事が無い優花にとって、衝撃を隠す事など出来る訳は無かった。

そうして涙を流していた優花の前に、湖から一人の妖精がウサギを掲げながら出てきた。

 

「貴女が落としたのは、この金のウサギですか?それとも此方の銀のウサギですか?」

 

訳がわからない、優花は内心焦っていたが、そこは夢見る乙女である。

 

「いえ、私が探しているのは白いウサギです」

 

湖の妖精は微笑みと共に片手を掲げた

 

「真実を語る乙女よ、暫の間、夢を与えよう」

 

「えっ、何?」

 

妖精の片手から光が溢れんばかりに輝き、優花は眩しさの余り、片腕で光を遮ったのだが、優花の意識は徐々に途切れていった

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

優花は樹の根元で安らかな休息をしていた。そよ風が優花の頬を撫でる。

そこは快晴であるが、異世界《トータス》とは漂う空気や雰囲気、風景が違っていた。妖精に魔法を掛けられた(?)優花は、目覚めと共に驚愕した。

先ず湖が無い、周りを見渡せば見知らぬ高い塔が見える、なんだか知らないが人種も違って見えた。

とりあえず見えている塔へと向かうことへ決めた。塔へと近づくにつれ、高い城門も見えてきた。長い行列に紛れ城門へと向かう事に決めた優花。行列に並びながら近くの商人の様な格好をした人物を呼び止める。

 

「すいません、ここはなんという都市ですか?」

 

優花は不安ながらも期待を込めて尋ねてみた。

 

「迷宮都市オラリオだよ」

 

細面で少し痩せぎみであるが、どこか気の置けない商人風の男性はそう答えた。

優花は初めて聞く都市の名に戸惑いを覚えつつも《ウル》は何処の方角だろうかと思案した。

聞いた事の無い都市の名、見た事の無い天を貫く高き塔にしっかりした城壁、よく周りを見渡せば行列に混じっている人種にしても同様であった。

なんだか耳が尖って地球で言うところのエルフの様な者、背丈が低いが体格はがっしりとしていて此れもまたドワーフの様な者、犬や猫の様な耳を持ち尻尾がある者。

優花の違和感は盛大にアラームを鳴らしていた。

 

「すいません、ウルはどの方向ですか?」

 

「ウル?何ですか、それは?」

 

「いや、ウルなんですが?」

 

「ウルが何なのかわからないのですが?食べ物でしょうか?それとも人でしょうか?」

 

男性は真剣な顔で訊ねてきた。

此処にきて優花は少しずつではあるが、理解したくない現実を突き付けられたかの様に感じ顔が青醒めていく。まさか……と。

 

「すいません、此処はトータスですか?」

 

「?……オラリオですが?」

 

男性は優花を訝しみつつも現実を突き付ける。呆然とする優花を尻目に男性は列へと並び直し、立ち尽くす優花の心中は荒波に呑まれていた。

……くぅぅぅ……

事態を慌ただしくも頭の中で整理しつつ、優花は空腹を感じていた。空腹の音が漏れていないか、恥ずかしさで頬を火照らせながらも周囲を見渡したが、城壁に並ぶ雑踏に欠き消されていた事に安堵し、気を取り直しオラリオに続く行列に並び直した。

 

「そう言えば朝から何も食べてなかったかも」

 

世界が違う、金銭も無い、仕事も無い、着替えの服も無い、寝る場所すら無い。優花の頭の中では様々な事が過っていたが、とりあえず住み込みのバイトをしなければ生き抜く事すら出来ない。問題は山積みであるが彼方へと投げ捨て小さく気合いを入れ直す。僅かではあるが生きる気力が湧いてきていた。

どのくらい待ったのであろうか、長かった行列が徐々にではあるが減ってゆき、優花の番になった。

 

「……次、お前はオラリオに何の様があってきた?」

 

城壁の門番は腰に剣を携え、高圧的な態度で言い放った。優花はそれに内心不快に思いながらも、騒動を起こす気は無かったのでスルーする事にした。

 

「とりあえず仕事を探しに来たんだけど?何処に聞けば早いのか教えて?」

 

「ふむ、地方の者か。それならばギルドに行けば案内してくれるかもしれん。ギルドへ行け」

 

「ギルドって何処にあるの?」

 

「あの塔にあるよ。頑張れよ、お嬢ちゃん」

 

「ありがとう」

 

門番は塔を指し示し、意外にも優花に声援を送った。優花はそれで気を持ち直し、軽く謝礼をしつつ遥かな塔を目指し門をくぐった。城壁の中いやオラリオは雑多な人種の坩堝であった。エルフ、ドワーフ、小人、猫人、犬人、褐色の見るからに眼を背けたくなる女性達。トータスとは全く違う空気が其処にはあった。空腹ではあったがギルドに行けばなんとかなるかも知れない、と一縷の希望を胸に優花は歩きだした。

 

メインの通りを歩きかなり時間が経過していたが次第に見えてきた塔は、聳え立つというのを通り越して先端が見えなかった。近くを歩いていた女性を捕まえギルドのある場所を尋ねる。ようやく場所を確認出来た事で安堵の溜め息を優花が溢した。

 

「ふぅ、なんとかなりそうなら良いんだけど」

 

独りごちたが気合いを入れ直し、受付へと向かった。ギルドのカウンターには何人かの職員と思しき女性達が、これまた長くはないが行列を作っている様々な人達の要件を片付けていた。優花は行列の最後尾だと思われる場所へと並び順番待ちの列に並んだ。

 

「お次の方、どーぞ」

 

優花の番だ。目の前に居る職員を正面から見据えてみた。髪は肩に掛からないくらいのボブカットで眼鏡を掛けていた。耳の端は少しだけ尖っていて日本の定義でエルフだと見受けられる。服装は白いワイシャツで襟首を立て、紺色のベストにグレーのネクタイと執事の様な雰囲気が醸し出されている。翠色の瞳は穏やかで全体的に優しさが滲み出てきていた。性格が身体の内から出ている感じで親身に接客をしてくれそうであった。優花はエルフとは知り合った事は無いが、仲良しになれそうな気がしていた。

 

「少し聞きたいんですが、此処ら辺で仕事が出来る処は無いですか?出来れば住み込みで……。若しくは手っ取り早く金を稼げる様な事があれば教えて下さい」

 

「仕事ですか?何処かの眷属には成られましたか?」

 

「眷属?なんですか、それ」

 

「えっ?」

 

目の前の職員は明らかに動揺していた。それもそうであろう、この世界では神々の眷属となり恩恵を貰う、それが当たり前だからだ。むしろこの世界では常識であり知らない者は居ない筈なのであるのだから。職員の様子が未知なるモノを見るかの様に明らかに変わっていった。

 

「少々、お話をお聞かせ願えませんでしょうか?此方の方へ来て戴けますか?」

 

職員は優花を柔らかく促す様に、されど逃がさないかの様に案内をした。優花はそうとは知らず促されるままに案内に付き従い、近くにある個室へと向かった。案内されるまま個室に入り、椅子に座らせられる形となった優花は身動ぎをし慣れない椅子に落ち着かなかった。

 

「改めて宜しくお願いします。私の名はエイナ・チュールと申します。失礼ですが貴女のお名前を聞かせて戴けませんか?」

 

軽く会釈を踏まえ笑みを浮かべた表情は同性である優花であっても動揺を隠せずにいた。優花は居住まいを正し会釈を返した。

 

「私は園部優花と言います。住み込みの仕事で食事付きの場所、若しくは手っ取り早くお金を手に入れられる仕事を探してます。分かりづらくてすいません」

 

「ソノベユウカ……面白いお名前ですね。私の知る限り聞いた事の無い名前ですが、どちらからお越しでしょうか?」

 

「うっ……」

 

優花は此処にきて目の前に居るエイナ・チュールという職員に明らかに疑われている事を理解した。確かに園部優花などという名前は日本、延いては地球にしか存在しない、トータスでもそうであった名前だからだ。失敗を隠そうとしたが既に遅く、誤魔化そうとも考えたが逆に教える事で助言を貰ってみる方が後々にも頼れるかもと思った。

 

「実は異世界から来ちゃいましてー、なので仕事いやお金と寝床を下さい。あははははっ」

 

「はっ?」

 

おどける様な感じではあるが、この際なので色々とぶっちゃけてしまった。エイナ・チュール(以下、エイナ)は面を喰らった顔をしたが持ち直し話を切り出した。

 

「貴女が眷属の事を知らないのも理解出来ました。神々が居るんですからこんな事も有るかも知れないですし」

 

「理解出来ちゃうんだ?!ってか神々が居るって何?!」

 

エイナの発言で逆に優花が驚かされた。



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人生は爆発なの、自爆はロマンなのorz

神会(デナトゥス)を終えた神々は待機させていたそれぞれの眷属を呼び、ヘファイストス引導のもとミュウの居る筈の場所へと向かう。

 

「ほう、その子はミュウ言うんか」

 

「そうよ、ただ呼び捨てはダメよ。護衛が怒るから」

 

「護衛?」

 

「一人で来たんちゃうんか?」

 

「異世界から来たのはミュウちゃん一人よ。護衛は人では無かったわ」

 

「なんか解らんが、呼び捨てにしなければ良いんやな、わかったで」

 

「統一してミュウちゃんと呼びましょうか」

 

ロキ、ヘファイストス、フレイヤは揃って首肯する。雑談を交えつつ向かうは大衆酒場である豊饒の女主人、夜間は酒場ではあるが昼間は普通に食事を提供しているので、オラリオの中心からも近く店員も信頼出来るという事もあり重宝していた。

 

「ミュウちゃん居る?」

 

豊饒の女主人に着いた四人の神。ヘファイストスは近くの店員に声を掛け、ミュウを呼んで貰おうとした。ミュウが大人しく待っているだろうと気軽に声を掛けたのだが、店員の一人であるルノア・ファウストは青褪めた顔を見せた。

 

「?……ミュウちゃん、居る?呼んで欲しいんだけど」

 

ヘファイストスは未だ身動きしないルノアを不思議がる。

 

「実はミュウちゃんはヘスティア様と連れ立って外へ行きました。しかも眷属にならないか、とか言っていたのでもしかすると……」

 

「え?ヘスティア?」

 

「「!!!」」

 

「なんやと〜」

 

突然、ヘスティアの名前が出てきて戸惑うヘファイストス、それもその筈である。実はついこの間までヘスティアはヘファイストスの所に厄介になっていたのだ。天界では友人であったヘスティアが降りて来た、という事でヘファイストスは当面の世話をしていた。しかしヘスティアが引き籠もりの如く、いつまでも団員の勧誘等をしない事に、流石にヘファイストスも堪忍袋の緒が切れて叩き出したのである。確かに団員も居ないヘスティアでは神会(デナトゥス)に出ても肩身が狭いからか欠席ばかりだった。

結果、ミュウの状況を知らず勧誘したのだろう。ヘファイストスは頭が痛くなってきた。

ロキにしても天界にいた時から犬猿の仲であるヘスティアの名前が出てきた事で機嫌が悪くなっている。しかも今回は異世界から転移した少女が関わっているのだ。それにヘスティアが自分達が知らない内に横から掻っ攫う形で関わってきた。機嫌が悪くならない訳がない。

ガネーシャとフレイヤも閉口していた。

ヘファイストスはコレは一騒動起きるわね、と思案しつつもヘスティアのホームを訪れる事にした。

 

「とりあえず手遅れにならない内に、ヘスティアのところに行くわよ」

 

他の三人にそう告げ歩き出す。目的地はヘファイストス以外知らないので、付いていくしかないのだが。

 

☆☆☆

 

ー神殺しの魔王の娘ー

 

羊皮紙にはしっかり神殺しと書かれていた。なるほどヘスティアさんの態度も頷けるなの。この空気どうしたら良いの。

ゲームだと勇者〜とか魔法使い〜とかで表示されてたの、まさかのどんでん返しを喰らったなの。ヘスティアさんに掛ける言葉が見つからないの。

 

「…………」

 

「…………」

 

ヘスティアとミュウはお互いに目を反らした。コレではダメなの、とミュウは一念発起しヘスティアと会話を試みた。

 

「パパは悪い神モドキをやっつけただけなの。ヘスティアさんは悪い神モドキじゃないと思うの」

 

「!!!……そうだぜ、ボクは悪い神様なんかじゃないよ。むしろ善い神様なんだよ、安心してくれていい」

 

ミュウの言葉に重ねる様に頷くヘスティアは、不安は色々とあるが少しずつお互いの事を知っていけば、最悪は回避出来ると思えてきたのである。

 

「しかしミュウくんのパパは凄そうだな、神を殺せるんだね」

 

「エヒトっていう神様モドキの悪いヤツなの。ミュウとママも攫われたし、ユエお姉ちゃんも乗っ取られたし……」

 

過去を思い出しミュウは少し涙ぐんだ。

それを見てヘスティアは興味が出てきた。異世界の話ではあるが、そこには人々の営みがある。神であるヘスティアは下界の子を慈しむ事を辞めない。喩えそれが異世界であろうともだ。

 

「ミュウくん、キミの今までの話をボクに聞かせてくれるかい?」

 

「わかったなの」

 

ミュウは自分の知っている事をヘスティアに話し、ヘスティアはそれを静かに聞いていた。

 

☆☆☆

 

「しかしミュウくんのパパやお姉ちゃん達は色々と凄いな。しかし神代魔法に地球にトータスか、一度見てみたいなぁ」

 

「絶対、ミュウを迎えに来てくれるからその時にお願いしてみるの」

 

「ありがとうミュウくん」

 

そんな風に二人で話をしていた頃だった。外がなんか騒がしい。こんな廃教会に来るのはヘファイストスくらいだろうとヘスティアは表へ迎えに行った。

 

「ヘスティア、ミュウちゃんは此処に居る?」

 

いきなりヘファイストスから訊ねられ、しかも何故かガネーシャ、フレイヤ、ロキまで居るのには少し驚いてしまった。

 

「ああ中に居るよ。なんだい皆して?」

 

「ヘスティア、まさかミュウちゃんを眷属にしたんじゃ無いでしょうね」

 

ヘファイストスの剣幕に押されつつもヘスティアは凄く上機嫌だった。

 

「したよ。ボクの初の眷属だ」

 

その言葉を聞いたヘファイストスは額に手をやり、ガネーシャ、フレイヤは呆れ、ロキは怒り狂った。

 

「なにしとんじゃ、ワレ。異世界人やぞ、コトは慎重を要するんや。事態がわかってへんやろ」

 

「いや、キミ達より理解してるし、色々とミュウくんから聞かせて貰った。安心してくれていい。但し、コレは真実を知っているボクからの忠告だ。ミュウくんを悪戯に騒動に巻き込んだり危害を加えたら、この世界は終わる。それだけヤバい事態だ」

 

「「「「!!!」」」」

 

ヘスティアからのいきなりの世界の終了宣言。これには流石にヘファイストス達も言葉が出なかった。

ヘスティアはその後、穏便にヘファイストス達に帰ってもらい、後で公開出来る情報を渡す事を約束した。



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人間万事、塞翁が馬なのヽ(=´▽`=)ノ

ミュウを眷属にした翌日、ギルドで冒険者登録をすればダンジョンを探検出来ると聞いたミュウは早速、冒険者登録の為、ギルドに来ていた。カウンターには行列が出来ており小さなミュウは大勢の人の波に揉まれていた。なんとか行列に並んでいるのだが、周りの冒険者からは驚愕の目で見られているのは何故なのか?それもその筈である、いくら年齢制限が無くとも、自身は小学校低学年で更には、背丈にしてもそんなに高くないミュウがギルドの行列に並んでいるのだ。この少女は小人族(パルゥム)なのか?と勘違いされるくらいだろう。親切な大人なら間違いなく、ミュウに行列を間違えてないか聞くところだ。次第に目の前の行列が(まば)らになり、視界が開けてきた。

 

「お次の方、どうぞ〜」

 

ミュウの番が来たようだ。早速、冒険者登録をしようとするが、カウンターが高く手も届かない。万事休すである。

 

「冒険者登録、お願いしますなの〜」

 

声はすれども姿がどこにも見えない。カウンターに居る受付嬢は再度、呼びかける。

 

「お次の方、どうぞ〜」

 

「冒険者登録、お願いしますなの〜」

 

流石に見かねたミュウの真後ろに立っていた人物が、苦笑いをしつつカウンターに向けて人差し指を真下に下ろした。受付嬢は人差し指の先を見下ろすが誰も居ない。人差し指は更に下と押し下げるように何度も下を指差した。受付嬢はカウンターから身を乗り出して真下を覗き込むと、そこにはまだ年端もいかないどころかお父さんかお母さんは?といった庇護したくなるくらいの年齢に見える少女がいた。

当初、小人族(パルゥム)?と怪訝に思っていたが、耳の部分を見て認識を改めた。

 

「お嬢ちゃん、冒険者登録をするって事は危険が伴うのよ。お嬢ちゃんの様に可愛い子がやる事じゃないのよ」

 

受付嬢は懇切丁寧にミュウを説得にかかる。周囲の大人達もそうだそうだと頷いている。ミュウは周りを見た。ミュウは皆から侮られているなの〜、と。ここにきてミュウは自分の実力を見せつけるべきなの、でないと冒険者になれないの、と間違った方向へと思考が向いた。

 

「お姉さん、ミュウは冒険者になりに来たの、なの。ミュウに本気を出させたら其処らの木偶では相手にならないの」

 

あちゃ〜、コレは勘違いをした子が来たな〜、と応対している受付嬢は思い周囲を見渡す。丁度、知り合いの冒険者を見つけたので少し遊んであげてやれば考え直すかな、と軽い気持ちで知り合いを呼んだ。

 

「ガレスさ〜ん、ちょっとお願いがあるんですが、このお嬢ちゃんと遊んでくれませんか〜」

 

受付嬢に気づいたガレス・ランドロックは最初に受付嬢を見て、次にミュウを見た。ああ、なるほど、と合点がいき受付嬢の言う通りミュウに立ちはだかる。

 

「お嬢ちゃんや冒険者は大変だぞ。もう少し大きくなってから来るがいい」

 

ガレスを含めミュウの周りの大人全てが、ミュウを慈しみの目で見てガレスに賛同していた。ミュウは対抗心からヤル気を出していた。

 

「ミュウを舐めるんじゃね〜の、やってやるなの」

 

流石に刃傷沙汰は空気を読んだ為、ココはシアお姉ちゃんの戦槌技(ハンマーアーツ)が火を吹くの、と考えた。

ミュウの右手にはいつの間にか、ぴっこぴこはんまぁが握られていた。

周囲の大人達は少しだけ間隔を拡げ、ガレスとミュウの対戦を見守る形を取った。

 

「来るがいい」

 

ガレスは自身がLV.6の為、流石にたった今、冒険者登録をしようというミュウに遅れを取るとは思わなかった。しかもミュウの右手に握られているハンマーは、頭頂部に兎のキャラが取り付けられて赤と黄色に着色されていて、どこをどう見ても玩具でしかなく、完全にミュウを侮っていた。

 

「いざ参るなの、ぶっ飛びやがれなの!」

 

ガレスは当たろうが痛くも痒くも無いだろうと思い、敢えてハンマーを受けた。

 

ーピコンッ☆

 

鳴り響いた音は軽快だった。但し、ガレスは軽快に真後ろにぶっ飛んだ。よく見たらガレスが延びている。この事態を引き起こしたミュウに周囲の大人はドン引きした。コレでもガレスはLV.6の第一級冒険者であり、オラリオでも最強のロキ・ファミリアの幹部だ。まさかこんな少女にも満たない幼女に倒されるとは誰も思わなかった。しかもその幼女は今から冒険者登録をしようとしていた初心者である。

受付嬢は呆然とし、周囲に居た冒険者は恐れ慄いた。



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諦めたらそこで終わり、気持ちをリセットしてなのorz

冒険者登録に一騒動起きたが、その後すんなりと登録が出来、これからはミュウが主役なの、下剋上なのと意気込んでいた。

登録を終えたミュウの前には広い階段があり、多数の冒険者が階段を降りていく。ふむ、とミュウはこんな楽しそうな場所、ミュウだけ楽しんじゃ勿体ないよね、と地球におけるオモテナシ精神が浮上してきた。

ならば、とミュウは左手を掲げ、声を張り上げてヤツラを呼び出す。

 

「やろうども、出てこいやぁ〜なの」

 

ーーー大罪戦隊デモンレンジャー推参………ドッパ〜〜ン

 

7体の多脚砲台が現れ、その背後には爆煙が鳴り響いた。

見るからにヤバい何かが数体、周囲は先ほどのガレスの件もありミュウに好奇心に近いものを抱いていたが、それら全てを蔑ろにする光景が目の前に拡がっていた。ミュウはそんな周囲からの視線は知らん、さ〜ちゃん、載せてなのと言い、んしょんしょと現れたヤバいモノによじ登っていた。

 

「れっつご〜なの」

 

ミュウ達は残された人々を気にもせず、階段をガシャッガシャッと降りていった。その後、残された人々は階段を降りようとはしなかった。

 

☆☆☆

 

「なんやて?ガレスがやられた?どこのどいつや、いてこましたる」

 

「まあ待て、ガレス。一体、誰にやられたんだ、対応はそれからだ」

 

ファミリアの主神であるロキは憤慨していたが、副団長であるリヴェリア・リヨス・アールヴは冷静に対処しようとしていた。そんな二人を眺めつつ、団長であるフィン・ディムナはガレスに向き直る。

 

「ガレス、本当のところどうなんだい。君がヤラれるって事はロキ・ファミリアの名声にも傷がつくんだが?相手はフレイヤ・ファミリアかな?」

 

「すまん、フィン。相手は年端もいかない子供一人じゃ。儂も耄碌したのぅ」

 

「「子供!?」」

 

「どういう事なんだい?続けてくれ」

 

てっきり相手はフレイヤ・ファミリアか闇派閥(イヴィルス)か、と思案していたロキ達三人。

 

「あれはギルドに丁度、用事がありカウンターの近くを通った時じゃった。エイナに呼ばれて見てみれば、冒険者登録をしようとしていた女の子がいてのぅ。エイナや周囲のヤツラは、その子の冒険者登録を引き留めていたようで、儂が引き留め役兼力試しの相手に呼ばれたんじゃ」

 

「初心者なのか?」

 

リヴェリアも話を聞いていくうちに、そんな馬鹿な、と思い始めていたが、ロキはなんだか雲行きが怪しくなってきた為、顔色が悪くなってきていた。フィンは三人の様子を伺いつつも更に話を奨めようと先を促した。

 

「それで?」

 

「儂とその子で一対一で対戦を、という事になった。儂は言ってはなんだがLV.6じゃし相手はこれから冒険者登録を行う年端もいかない女の子じゃ。本気を出せる訳がなかろう。で、対戦なんじゃが、その子が持っていたのは、どこからどう見ても玩具に見えるハンマーじゃった。儂は大した事はないな、と踏んでその子のハンマーを受けたんじゃ、その後は記憶に無いのぅ」

 

「なんだか要領を得ない話だね。どうしたんだい、ロキ?」

 

顔色が(すこぶ)る悪くなっていたロキはガレスに問い詰める。

 

「ガレス、少し聞くんやが、その子の髪は長髪のエメラルドグリーンで、耳の部分に特徴は無かったか?」

 

「う〜む、髪はそんな感じじゃったかのぅ。耳の部分まではよく見なかったが」

 

「どうやらロキには心当たりがありそうだね。聞かせてくれないか」

 

そしてロキから明かされていくミュウの存在と脅威、フィン達は話を聞いていくうちにミュウに団員が関わる事を当面、禁じようと決定した。

 

「とりあえず神ヘスティアの公開情報を待つしかないな、ロキ、いつ聞けるんだい?」

 

「多分、そこまで時間はかからんやろ。早ければ今夜あたりやな」

 

「しかし世界の終わりか、勇者には丁度良いイベントかな、リヴェリア?」

 

「あくまでも人類が太刀打ち出来ればだがな」

 

フィンとリヴェリアは真相を知り得なかった為、そんな軽口を交わせた。真相を知っているヘスティアならば、そんな言葉は一言も出なかったであろう事は、考えるだに容易かった。

 

☆☆☆

 

ダンジョン16階層、辺りには爆音が響いていた。辺りには硝煙の匂いと肉の焦げる匂いが充満している。二丁の拳銃、どんなぁー・しゅらーくぅを両手に握り立ち尽くすのは神殺しの魔王の娘、感無量なの、頑張ったなのと笑顔だ。

 

「みんな〜戻ってこいなの〜」

 

自分を含め皆(?)も満足しただろう、と帰る事にした。足取りも軽く凱旋気分で帰る途中、一体のミノタウロスに出会う。両手には二丁の拳銃、良い的が居たくらいにしか思わなかった。

 

「狙い撃つぜ、なの」

 

二丁の拳銃の狙いは(あやま)たずミノタウロスをしっかり屠る。ミュウは意気揚々と帰って行った。ソレを影から見ていた者がいた。

 

「……今のはナニ?」

 

☆☆☆

 

ミュウは現在、ヘスティアのホームに居た。倒すだけ倒して意気揚々とホームに帰って来たのだが、ヘスティアに残念な目を向けられた。

そうミュウ達は魔物を倒しただけ(・・)。魔物から回収するべきだった魔石は放置どころか目もくれなかったのである。結果、本日の成果はあろうことかゼロである。ヘスティアが嘆くのも仕方ないのだ。明日からはしっかりやるの、と気持ちを新たにし、とりあえずステイタスの更新をお願いした。結果、今度はミュウが嘆いた。神の恩恵しょっぱいの、ショボ過ぎなの、と手を地面に着けガックリと肩を落とした。

 

 

 

南雲ミュウ

 

種族 海人族

職業 調停者

称号 神殺しの魔王の娘

 

力   I2

耐久  I0

器用  I5

敏捷  I1

魔力  I2

 

≪スキル≫

 

[二丁銃術][戦槌術][双大剣術][八重樫流][打鞭術][言語理解]



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上下上下左右左右び〜え〜なのv(´∀`*v)

その日、オラリオの神々は震撼した。

 

神会(デナトゥス)

 

「第一万ん〜?千回の神会(デナトゥス)やるで〜」

 

ロキが司会者となり、神々を見渡す。聞いとらんヤツラは度外視や、とスルーで強引に会は進行していく。

宴もたけなわ、レベルアップした子供の命名は終わりを告げ、最後にロキは代表として皆に告げる。

 

「さて、子の命名も終わり、ここまでは予定通りや。此処からが今日の本題になる。昨日の異世界の子の件で重要な事が解った。それを今から皆に聞いて貰おうと思うとる。よう聞いとけや」

 

集まった神々もロキの言葉に興味を惹かれ鎮まっていく。それを確認したロキはヘスティアを呼び出す。

 

「これから話す事は異世界の子の事を一番知っとるヤツから話して貰おうと思うとる。なんせウチラが神会(デナトゥス)をやっとる間に横から掻っ攫って眷属にしおったからな、こっちへ来いや、ヘスティアァ〜」

 

あまりにもロキのヘスティアに対する紹介が酷すぎた。集まった神々もロキの話しでブーイングを起こしていた。ヘスティアはおずおずと司会席へと近付いていく。

 

「酷いじゃないか、ロキ。ボクはただ眷属を増やそうと勧誘しただけで、異世界云々なんて事は知らなかったんだ」

 

「それが悪いんじゃ、ボケェ。状況も知らんかったヤツがほざくな」

 

ヘスティアも確かに緊急の神会(デナトゥス)の事は知っていた。ただ一人の眷属も居ない自分には全く関係無いだろうと参加しなかった。ロキからすればソレがダメなのだろうと思案したので二の句を継げなかった。

 

「まあ、それについては謝るよ。ただボクの状況も理解してくれ」

 

それだけ告げるとヘスティアは向きを変え、他の神々を前に息を整え面持ちを改める。

 

「これから話す事はかなり重大な事実だ、心して聴いてくれ」

 

いきなりなヘスティアの態度の変化で真剣味が増したのだろう、神々はヘスティアに注目せざるを得なかった。ヘスティアは注意が向いた事を感じ更に話し出した。

 

「先ずは異世界の子の名前はミュウ、南雲ミュウだ。そしてコレが一番重要な事だが、彼女は神殺しの魔王の娘だ」

 

神会(デナトゥス)に衝撃が走った。

≪神殺し≫ヘスティアは確かにそう言った。

この世界に於いて神を殺せた者は居ない。何故なら下界で傷ついた神は天界へと送還されるからだ。神が死ぬ事は今までの神生に於いて無い筈だった。

 

「動揺するのもわかる、天界へと送還される事も考慮した上で言う。かの魔王は天界ですら消滅させる事が出来る力があるんだよ」

 

「……………………」

 

神会(デナトゥス)に集まった神々が沈黙した。それもそうであろう傷付き天界へ送還されても神は死ぬ事は無かった。それが天界も含め消滅させられるなど魂の消滅と同義だ。

 

「ヘスティア、それは本当なの?そんな事が可能なの?」

 

ヘファイストスは全ての神々を代表としてヘスティアに訊ねる。ヘファイストスへと向き直り告げた。

 

「真実だ。現に彼女の世界の唯一神は神界ごと消滅していると聞いた」

 

「……………」

 

「此処に集まった神々全てに告げる。ミュウくんを神々の余計な悪戯や騒動に巻き込むんじゃない。かの魔王は娘を溺愛している。そして何れ、この世界に訪れるだろう、それは確定事項だ。かの魔王は異世界ですら転移する事が可能な力を持っているんだ。もしミュウくんを神の悪戯に巻き込んだなら、この世界は神々を含め天界も地上も消滅を免れないだろう。生き残れる者は皆無で、もしかしたら魂も消滅させられるかも知れないんだよ」

 

「…………………」

 

世界の終わり、ヘスティアはロキ達に確かにヘスティアのホームでそう言った。ロキ達からすれば下界に天変地異など地上に住む人々が過酷な人生を送るのかも、と半ば楽観視していた。あまつさえ神々が消滅するとまでは考えが及ばなかったのである。それがここに来ての地上を含めた神々の消滅だ、言葉が出ないのも無理はない。

衝撃的過ぎるヘスティアの言葉も終わり神会(デナトゥス)は一時解散となった。集まった神々の顔色は到底、直ぐには持ち直しそうには無かった。

 

☆☆☆

 

神々が神会(デナトゥス)を行っていた頃、ロキ・ファミリアの主だった団員は豊饒の女主人でダンジョン攻略後の酒宴を催していた。酒宴は主に豊饒の女主人で行われるのが常であり、酒好きのガレスを筆頭に盛り上がりを魅せていた。ロキ・ファミリアの主力団員でもあるベート・ローガも泥酔しては、同じ団員であるアイズ・ヴァレンシュタインやティオナ・ヒリュテ、ディオネ・ヒリュテ姉妹によく絡んでいた。その日は満月という事もあり、ベートは普段に増して絡んでいた。

 

「ミノタウロスがあんな風に逃げるなんざ、どうゆうこった。お前らのしっかりと退路を塞げば問題無かっただろうが」

 

「なんだと〜、アンタがやっつけてれば問題無かった筈じゃない」

 

ベートはティオナを眼で威嚇しながら、駄目出しをし、ティオナは売り言葉に買い言葉で、ベートを貶していた。そんな時、徐ろにベートは立ち上がりティオナと一触即発か、と思われた。

 

「……ぐぅ~、なの」

 

立ち上がったベートの椅子がミュウに直撃。ミュウもまさかのダメージを受けた。リヴェリアはそれを見て、ミュウを助け起こす。

 

「済まなかったな、大丈夫か?」

 

リヴェリアとしては自分の団員が年端もいかない女の子を転ばせた、と責任感を感じたに過ぎず、ベートを宥めようとした。

 

「ベート、とりあえず落ち着け。お前が立ち上がったせいで、椅子が当たりこの子が倒れた。周りには注意しろ」

 

「なんだと、ババァ。ちっ、よえ〜ヤツが其処らにいるんじゃねーよ、家に帰れザコ」

 

この言葉を聞きミュウはキレた。

 

「面白いの、どっちが雑魚か思い知らせてやるの、表へ出ろなの」

 

「ああっ?俺が誰だかわかんねーザコになんざ言われたくねーな。良いぜ、相手になってやる」

 

ミュウとベートが表へと連れだって行くのをリヴェリアは見守っていた。フィンに顔を向けて頷き、リヴェリアも表へ出て行く。アイズ、ティオナ、ティオネは女の子の心配をしつつも成り行きを見ようとリヴェリアの後に付いて行った。

 

「良いぜ、かかってきなガキ」

 

ガキ呼ばわりをされ、ミュウの機嫌は更に悪くなっていく。

 

「やってやるの、犬の躾をしてやるの」

 

「あぁ?犬だぁ〜?言うじゃね〜か。ただじゃ済まさね〜ぞ、ガキ」

 

「むぅ、またガキって言ったの、躾は大事なの。やろうども、出てこいやぁなの」

 

ーーー大罪戦隊デモンレンジャー、姫を愚弄する犬を成敗に参上……ドッパ〜ン

 

ミュウを中心として多脚砲台が爆煙と共に7体出現した。リヴェリアは摩訶不思議な現象を起こした少女と多脚砲台を見てロキに言われた事を思い出した。

 

「まさか、この子が……」

 

ベートとミュウはお互いにかなり激情している。何かあったら割ってでも入るつもりではあったが、多脚砲台を見て尻込みした。ベート、済まない。ヤラれてくれ、と。

 

「あの犬を躾けるの、皆、手を貸してなの」

 

ラジャ〜、とさ〜ちゃん達(多脚砲台)の片手が上がり、一方的な蹂躪が始まった。かくて、ベートは取り押さえられ、キリスト同様に張り付けられていた。

 

「おらおらおらぁなの、犬は躾けられてナンボなの、人に謝る事は大事なの」

 

「ぐ、ぐわぁ、や、やめろ〜」

 

ミュウは片手に、これは武器ですという鞭を持って打鞭術を駆使し、ベートの息子を蹂躪していた。あまりの悲劇にリヴェリア、アイズ、ティオナ、ティオネは顔を赤らめ、成り行きを見守るだけだった。

 

「仕上げなの、コレを付けてアゲルの」

 

そう言ったミュウは片手に首輪を持っていた。そうかつてハジメがウルの街で披露した誓約のキラメキである。

かくてベートは魔法少女になり、一曲を歌いきった。それを見ていたリヴェリア達は青褪め、ベートは泣いて走り去って行った。



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勇者の凱旋?違ったの、特殊災害警報発令中なのorz

仕事が佳境に入り、更新遅れたの。皆様、大変長らく待たせたのm(_ _)m


ーロキ・ファミリア(黄昏の館)ー

 

幹部執務室ではフィンが正面の執務机に座り、リヴェリア、ガレスは両脇に立っていた。三人と主神ロキは深刻な表情をしていた。

 

「神殺しの魔王、異世界転移すら可能の力を持ち、何れこのオラリオに来るか」

 

「眉唾と言いたいところだが、あの娘を見てると強ち嘘とは思えんな」

 

「うむ、冒険者登録前の時でさえ儂を一撃で、ベートに至っては躾けられて暫く使い物にならんしのぅ」

 

「ウチだけ被害甚大だね、ハハハハッ」

 

執務室にはフィンの空笑いが響き渡り、それを呆れた目でリヴェリアとガレスは見ていた。

 

「笑い事ではないぞ、フィン。あの奇妙な護衛(?)ですら、かなりの力を持っているようだしな」

 

「魔力をかい?それとも別な意味で?」

 

「なんとも言えないがアレで本気では無いだろう、まだ何かありそうだ」

 

「仕方ないか、とりあえず団員全てに対して、ヘスティア・ファミリア及び南雲ミュウへの干渉を控えるように通達しよう。接触に関しては友好的であれば良しとし、揉め事になるようなら即撤退または謝罪としよう。現時点で魔王の被害に合いそうなのはロキ・ファミリアだ」

 

「そうだな。まぁ、私としてはあの娘と友好関係を築いても構わないとは思っている」

 

「儂はどうするかのぅ」

 

「ロキはどう考えてるんだい?」

 

「そうやな、いくらいけ好かないアイツでもあんなデマは流石に言わんわ。真実と思おて動いた方が無難やろ」

 

「ふむ、とりあえず友好関係からになりそうだね。ロキも天界にいた頃に関して色々あるとは思うが、我慢して欲しい」

 

「しかし、ガレスを油断は有っただろうが一撃か、オッタルですらあの娘と対戦するような事になったら、どうなるかわからないな」

 

「そうじゃな」

 

フィン達三人は思い思いにその時を夢想した。オッタルがヤラれるならそれも仕方ない。もし、オッタルがミュウを倒したなら、フレイヤ・ファミリアはその後が怖い。オッタルはある意味、勝つ事すら出来ないだろう、と三人は想った。

 

ーフレイヤ・ファミリア(戦いの野)ー

 

窓辺には女神が一神、ワインを片手に下界を見下ろしていた。

 

「オッタル、暫くヘスティア・ファミリアを……いえ南雲ミュウを監視し報告しなさい。間違っても接触・干渉はダメよ。最優先でやりなさい」

 

「はっ」

 

脇に控えている従者へと女神は命令を下す。従者は平伏し静かに退席する。団員を招集し行動に移した。

 

「……無邪気な色」

 

☆☆☆

 

「それじゃあ、ヘスティアさん、行ってきますなの。今度はしっかり稼いでくるの」

 

「ミュウくん、必ず帰っておいで」

 

「ハイなの〜」

 

ミュウはヘスティアへ手を振り、スキップしながら出口へと向かう。ミュウの様子は冒険者に成り立てだからか、ダンジョン探索が楽しいのかも知れない、とヘスティアは思った。こうして見てみるとそこらに居る普通の下界の子供と大して変わらない。ヘスティアはやはり神の視線からか、慈しみを持ってミュウを見ていた。

 

ミュウはホームを出てメインストリートを目指して歩いていく。道中、なんだかミュウを見て呟いている人々が多々、見受けられた。不思議に思いながらもミュウはダンジョンへと向かう。もうその角を曲がればメインストリートの端に差し掛かろうという時、ミュウを見咎めた冒険者が走って逃げた。ん?後ろに何かいたなの?くらいにしかミュウは感じなかった。

だが、ミュウがメインストリートに出てから直ぐに事態が急変したのである。

ミュウを中心に半径20メートルほどの空間が出来たのだ。ダンジョンに向かう周囲の冒険者は、あからさまにミュウを避けていた。とりあえず近くの出店に近付いてみる。周囲の冒険者の大移動が起こり、ミュウを中心とした空間は無くならない。ミュウは孤独を感じた。この孤独感はハジメに出会う前に感じたモノだった。母親であるレミアから引き離されて、ハジメ達に見つけて貰うまでの一人という孤独。今もこの世界ではミュウが好きなパパやママ、お姉ちゃん達は居ない。泪が出そうになったが、絶対にハジメが迎えに来ると信じている為、挫ける訳にはいかない、と精神を立て直す。

そんな折、どこかで聞いた声がミュウには聴こえた。

 

「いったい何なのよ、この人だかりは」

 

声の方角をよく見ると、見知った人物を見掛けた。ミュウは知り合いが居た事に安堵し大声を張り上げる。

 

「優花お姉ちゃんなの〜」

 

「えっ?」

 

ミュウは優花の側へと走り出す。優花は最初、誰?としか思わなかったが、ミュウの姿を確認して、微笑みながら両手を拡げミュウを迎え入れる。

 

「ミュウちゃん!!どうして……」

 

「優花お姉ちゃ〜ん、優花お姉ちゃんなの〜」

 

二人は衆人環視の元、抱き合った。

此処に、お互い異世界に転移したのもあり、感極まって抱き合いながら涙したのである。

 

二人は今、手を繋ぎながらメインストリートを歩いている。相変わらずミュウを中心とした空間は出来ているが、優花がいる事で寂しさは消え失せた。優花も知らない世界で唯一の知り合いが居た、という事もあり安心していた。

そして二人はお互いの状況を確認し、ヘスティアのホームへと戻った。

ゆっくり話し合いたい事もあったが、先ずはヘスティアに事情を説明して一緒に居たい事を告げる。その際に優花もヘスティアの眷属にしてもらおう、という話の運びになった。

 

「ヘスティアさん、優花お姉ちゃんを眷属にして下さい、お願いしますなの」

 

「私からもお願いします。ミュウちゃんと離れたくはありません、どうかお願いします」

 

深々とヘスティアにお辞儀をし、伺いを立てる。ヘスティアは二つ返事で了承した。

 

「いいとも、まさか同じ世界から二人もも転移しているとは思いもしなかったけど、キミ達を離れ離れにさせるつもりはこれっぽっちも無いよ。宜しく、優花くん」

 

「はいっ」

 

「なら、早速だが眷属にするから服を脱いでくれ給え」

 

「えっ?」

 

優花の顔は次第に赤くなっていった。

 

「優花お姉ちゃん、背中に神の恩恵(ファルナ)を刻むの、上だけ脱いでそこにうつ伏せになる、なの」

 

優花は勘違いをしてしまった、と恥ずかしくなったがミュウの言う通りにした。

優花がうつ伏せになり、ヘスティアはその背に神の血(イコル)を滴らせる。次第に明らかになっていくステイタスを見て、ヘスティアは優花くんお前もか、と頭を掻きむしる。

なんとか落ち着きを取り戻し、優花へとステイタスを見せた。優花はステイタスを見て真っ白に燃え尽きた。

ステイタスを横から見たミュウは喜びはしゃぐ。

 

「優花お姉ちゃん、パパが好き?香織お姉ちゃんとオハナシするの」

 

ミュウの駄目押しが効いたのか、そのまま優花はテーブルに突っ伏した。その後、なんとか復活を果たし、優花とミュウはお互いの転移について話し合った。

 

「ん〜、ミュウちゃんの話からすると、世界をタスケテという話だけど、私から見るとミュウちゃんだけでは世界は救えないと思う」

 

「ミュウも無理だと思うの」

 

「なら、こういうのは?ミュウちゃんを呼んだのは最終的に南雲達を呼びたかった。だけど南雲達に直接転移を仕掛けてもキャンセルされるからってどうかな?」

 

「ありえるの」

 

「で、おそらくだけどミュウちゃん一人だと可哀想というのもあるけど、多分、報復が怖いから私をミュウちゃんのお守りで転移させた。ユエさん達だと普通にキャンセルしそうだもんね」

 

「ユエお姉ちゃん達、最強なの〜」

 

世間話程度の会話で異世界転移を話題に持ち出している事に違和感を感じない二人。しかも転移をキャンセルとか尋常じゃない内容だ。それを横で耳を塞いで、私は何も聞いてない、と震えるヘスティア。そして会話は弾み、夜は更けていった。

 

園部優花 LV.1

 

種族 人間

職業 魔王の愛人

 

力   I0

耐久  I0

器用  I0

敏捷  I0

魔力  I0

 

≪スキル≫

[投術][言語理解]



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地雷とは意外なトコロに転がってるのorz

更新かなり遅れました、なの
ごめんなさい、なのm(_ _)m
仕事、キツイ(T_T)


優花とミュウは異世界への転移疲れかヘスティアから神の恩恵(ファルナ)を受けた後、一緒にソファで眠りについた。

ミュウはハジメ達を恋しがり、優花もまた地球にいる家族や仲間、愛しい人々を恋しがった為、お互いを抱き合う形で眠りについていた。

そんな二人をヘスティアは素直な瞳で見つめていた。

(こうしていると其処らにいる普通の子と変わらないな、むしろ可愛いじゃないか。お父さん達の事は置いておいて、現状はミュウくん達が元気に育ってくれる事を願おうか。)

 

ヘスティアは神の目線でミュウ達を見つめ、子供たちを見守り続けようと思った。たとえハジメ達がオラリオに来ようと自分の立ち位置は変わらない。裏を返せばミュウくん達を保護した自分は被害者にはならないだろうという打算もあった。

明日からは優花くんとミュウくんが一緒にダンジョン攻略に挑むだろう。そこでどの様な事が起ころうと笑顔で流して見せる、と一抹の不安を覚えながら微睡みつつ眠りについた。

 

翌朝、軽い食事を取りダンジョンへと向かう二人を応援し、ヘスティアはいつものアルバイト(ジャガ丸くんの売り場)へと向かう。

 

ミュウと優花は手を取りながら二人でメインストリートを歩いていた。相変わらず二人の周りには不自然な空間が拡がっていたが、気にしたら負けだ、と冷や汗を掻きつつも笑顔で歩いていく。

丁度、この間、ご飯待機を言い渡された

食堂の前を通り掛かった時だった。

 

「ダンジョンに潜るなら昼食は要りませんか?」

 

薄鈍色の髪をした緑色のメイド服を着た少女が声を掛けてきた。ミュウ達はお互いを見合わせ、そう言えば、と頷き合った。

 

「昼食を二人分下さい、おいくらですか?」

 

優花は少女に二人分の代金を訊ねる。メイド服がハジメの好みである事を意識しつつも、流石に空腹では翌日の食費を稼げない。自分の衣装の何が気になっているのだろう、と不思議に思いつつも少女は笑顔を絶やさなかった。

 

「差し上げますよ。ただ後で夕食にでもうちに立寄って戴けたら嬉しいです」

 

笑顔の眩しさが一段と極まり、うっ、と優花はたじろいだ。ミュウはそんな優花を見て一言。

 

「優花お姉ちゃんもメイド服着るの?」

 

ミュウの何気ない一言が少女を変えた。

 

「ソレは良いですね。なら、夕食時に来られた際、メイド服を着ませんか?」

 

優花はミュウに胡乱な顔をしつつも断りを入れようとした。

 

「いや、流石にメイド服は……」

 

引き気味に断りを入れようとしたが、何故かミュウと少女は意気投合を発揮、優花を黙らせた。

 

「優花お姉ちゃん、絶対似合うの。パパもイチコロなの」

 

「気分転換に一度、着てみてはどうですか?意中の男性に違う自分を見せてポイントを上げたい、と思いませんか?」

 

「いやいやいやいや、流石に南雲はココに居ないし……ミュウちゃん、とりあえずスマホを仕舞おう」

 

優花のメイド服姿を写メに収めようと、ミュウは乗り気であった。流石、魔王の娘、畳み掛けるように優香を追い込んでいく。

 

そんなこんなのやり取りをしつつも、夕食時には立ち寄る事を確約し、昼食をゲットしたミュウ達はダンジョンへと向かっていった。

 

 



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ダンジョン探索はアンビリーバブルなのorz

ダンジョン1階層、2階層と順調に攻略しつつ、魔石を集めるミュウと優花。

昨日?群がる蝿を潰したよ、何か?と失敗とは成功の肥やしである。と一切を彼方へと飛ばし、二人の快進撃は続いていく。

「優花お姉ちゃん、あそこにシアお姉ちゃんが居る」

 

ミュウは目前に居たホーンラビットのウサミミを見てそう言った。違う、そうじゃない。

 

「……ミュウちゃん、ウサミミだけでシアさんとか、シアさん聞いたら泣いちゃうよ」

 

一部では、世界が滅びない為の抑止力とか世界がうっかり設定を間違えたバグだとか超越者、無敵存在、戦神、世界外超生命体とか敵対したらどうしようもない絶望とか色々と言われているシアだが、普通に家事が得意で笑顔で南雲家を支えている。

普段のシアは南雲家一の良妻なのだ。

 

「ウサミミがあればシアお姉ちゃんと一緒に居られるなの、だからアレ欲しいの」

 

普通にスプラッター的な事を口走るミュウに、南雲家の良心である雫や実母のレミアさんも交えて後で南雲に制裁を入れよう、と心に決めた優花(香織?ヤンデレってこの場合、意味あんの?)。

 

「ミュウちゃん、魔物は倒しても魔石しか残らないわよ。今度、裁縫でウサミミ作ってあげようか?」

 

優花は真っ当に現実を言い、ミュウの思考を誘導しようと頑張った。ミュウはキョトン、とした顔をした後、少し哀しげな顔を見せたが、元気に振る舞おうとしているのが優花にも見て取れた。

 

「わかったなの、その時、優花お姉ちゃんも一緒にウサミミ付けるの」

 

うん?何を間違ったんだろう?かと優花は思ったが哀しみの裏返しなのだろうと思い、序でに異世界という事もあり知り合いが居ないという安心感から安請け合いをしてしまった。

 

「しょうがない、ミュウちゃんに付き合うよ。一緒にウサミミ付けて遊ぼうか」

 

「はいなの〜、約束なの〜、破ったら針千本飲ますなの〜」

 

簡単な返事が返ってくるかと思えば、最後には約束を破ったら後が怖くなった優花。冷や汗を掻きつつもミュウちゃんが元気になればいいや、と考えた。

 

「それよりも目の前のウサギをどうにかしないとね、シッ」

 

優花は右手を振り抜きナイフを投擲すると、三匹のウサギのアタマを貫通し手元に戻って来た。ナイフを片手で華麗にキャッチした優花を見ていた者が居たら、何故、前方に飛んだ筈のナイフが戻って来るのか理解出来ないだろう。

 

世間話をしながらダンジョンを悠々と攻略していく二人は、傍から見たらショッピングでもしている様な気安さだった。

 

☆☆☆☆☆

 

難なく16階層までを突破した二人はさて17階層に行こうか、と先を進んだ。ギルドできいたのだが、17階層には門番が居るらしい。ミュウはボスモンスターと聞いてから、真っ直ぐに17階層を目指していた。RPGにボスは必要なの、経験値上がりまくるの〜、と。まぁ、言ってはなんだが16階層までのモンスターは、ミュウ達には敵では無かった。5階層を超えた辺りから、ミュウが雑魚モンスター討伐に飽きてきたのかさ〜ちゃん(魔王)達を呼び出したからである。

途中、周囲を警戒させつつ簡単な昼食を取り、いざ行かんボスモンスターのトコロへ、と相成った。

そして現在に至る……。

 

「皆、ヤッてやるの。倒せばお宝ザクザクなの。経験値沢山貰えるの〜」

 

目の前にはミュウを何十倍にもしたモンスターが立ち塞がり、巨体を武器に豪快に手を振り下ろしていた。脚を踏み出せば、その脚力で砂埃を伴って地面が揺れ動き、腕を振り回せば当たれば即死するだろう怪力をこれでもか、と打ち据える。

流石に優花自慢のナイフであっても容易くは無かったのだが、そこはミュウと仲間達との連携を重ね、なんとか左腕を落とすまでは凌いでいた。

 

「コイツ硬すぎ、ミュウちゃん右肩に集中攻撃して右腕を落とそう」

 

「わかったなの〜、やろうども〜右肩を狙いやがれ〜なの」

 

アイアイマム、と片手を振りつつ多脚砲台達は右肩を集中攻撃し始める。ミサイル、レーザー、高分子カッター等、この世界では有り得ない攻撃を行った甲斐もあり右肩の付け根から切り落とされた。

後は魔石を砕くだけという場面で、ボスモンスターは…………………逃走した。

 

えっ?と呆気に取られたミュウと優花。

少しばかり呆けてしまったがあんな巨体が逃げ回ろうが17階層からは出られない。端まで追い詰めたミュウ達を正面に、あろう事かボスモンスターは土下座をした。あまりにも華麗な土下座に南雲家を思い出したミュウ。なんだか倒すのが可哀想になったので、オイデオイデをしてボスモンスターを腕のあるトコロまで誘導。先ずは右肩に沿って寝転がるよう促す。ボスモンスターが寝転がったトコロで神水を振りかける。あら不思議、右肩がくっついた。次いで左腕を繋げる様に言い、またもや神水を振りかける。

両腕が繋がった事を喜んだボスモンスターはいきなり壁を叩き壊した。

いきなり何だ?と警戒心をMAXにしたのだが、ボスモンスターは壁から一つの魔石をミュウ達に手渡した。

直径は優香の一回り大きいくらい、持てないのでさ〜ちゃん達に持って貰った。

遣る瀬ない気持ちもあったのだが、まぁ、ヘスティアにいいお土産が出来た、と今回の攻略に区切りを付けた二人。

とりあえず帰ろうか、と出口へと向かった。

 

「……………」

 

後に残されたのは、一部始終を見ていたオッタルだけであった。



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レコードホルダーとは人外認定とイコールでした……なのorz

「報告しなさい」

 

「はっ、南雲ミュウともう一人の異世界人と思われる人物がダンジョン攻略に動きました。一部始終を観察していましたが、有り得ない事ばかりでした。」

 

「簡単で良いからに言ってみて」

 

「はい、何も無い処からいきなり聞いていた護衛が出現したり、投げたナイフが手元に戻ってきたり、17階層のゴライアスを鍛冶と魔法を組み合わせた様な武器で攻撃、両腕を落としたのちゴライアスは逃走、土下座したのちに薬品を振り掛け両腕を繋げ巨大な魔石をゴライアスより進呈されました」

 

「魔物が魔石を進呈って……なにか要領を得ないけど、もう何でもありなのね。……はぁ、魔王が溺愛する娘だから何が出てくるかわからないわね」

 

「フレイヤ様、対応を間違えれば一大事どころでは無いと具申します」

 

「そうね、とりあえずロキのトコロの様に友好から始めないと駄目かもね。オッタル、観察はもういいわ。ガリバー兄弟を南雲ミュウへの牽制に友好関係を築かせなさい」

 

「はっ」

 

恭しく一礼をして去っていくオッタルを眺めた後、月明かりを眺め今後を憂うフレイヤ。

 

「……神殺しの魔王ねぇ」

 

不敵な笑みを浮かべつつも、思い通りにはならないだろう事は明白である。ならば被害を最小限に抑えるべく動くしかない、と思案に耽る。南雲ミュウを身近に置ければ良し、但し魅了を使った場合、溺愛している娘が神に魅了されたと魔王に看破された場合、被害甚大果ては自身の消滅まであるだろう。フレイヤは月明かりの中、テーブルにあったワインを一口嗜んだ。

 

☆☆☆☆☆

 

ゴライアスから貰った魔石を意気揚揚と掲げ、ミュウ達はギルドへと戻ってきた。途中、何を勘違いしたのか他の冒険者が幾人か「売って欲しい」と言ってきたのだが、実売価格がわからないのでギルドで買い取りして貰う事にした。

余りにもその幾人かがシツコイのでちょっとだけビリビリして貰ったのだが、日本に居た時でも色々なトラブルを引き寄せて居たので対応はバッチリであった。

 

「優花お姉ちゃん、コレってパパにあげると喜ぶかなぁ?」

 

「確かに……南雲は珍しいモノに目が無いし……ただ、今は私達の現状の生活維持が先ね。南雲ならもっと良いものも手に入れられるだろうし……」

 

ミュウ達は替えの衣服も無く明日の食費にも事欠く現状を打破しなければ、普通の生活など出来ない。使い続けていれば優香の持っているナイフですら錆や劣化が起こるだろう。ミュウにしてもいつまでも同じ服を着ていたら綻びが目立ってくる。

二人は女の子なのだ。新しい服も着てみたいし、大好きなパパの前では可愛く在りたい、と願っている。そんなこんなで換金後は衣服や武器等を買うため、ショッピングを楽しもう、と意気投合していた。

 

階段を上がった先にはギルドの受付が見えていた。周囲には数多の冒険者が立ち並び、一斉に……ミュウ達を凝視していた。

それもそのはずである。

魔石は巨大でミュウ達にはとても持てるモノでは無く、かと言って宝物庫に入れるには冒険をした後の気分的に嫌だった。では魔石を持っているのは誰だろうか?

 

ーガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャ、キュイーン、グルグル

 

そう云わずと知れた多脚砲台のさーちゃんだ。しかも1体だけで無く、7体全てがミュウ達の周りを警戒していた。それもこれもビリビリさせた冒険者達の賜物であった。シツコイ冒険者を排除したのは良いが、今後、この手の手合が出ないとはいえず、まぁ、しょうがないよね、となったのだ。

優花は気にしたら負けだ、と冷や汗が背中を伝い、ミュウはおっきな魔石、どーだ、と言わんばかりに胸を張っていた(慎ましい胸ではあったが)。

 

「買い取りお願いしますなの〜」

 

ミュウは受付の女性を捕まえて魔石の買い取りをお願いした。しかし、女性には別の疑問が頭を過ぎった。

 

「えーと、南雲ミュウちゃんでしたよね。たしか昨日、冒険者登録したばかりでしたよね?そちらは今日、登録したばかりの園部優花さんですよね?その魔石はどうされたんですか?」

 

「「?」」

 

二人は受付の女性が何を不審がっているのかがわからなかった。それもそのはず、一般的なレベル1の冒険者は大抵、5階層くらいまでが攻略出来る階層なのだ。間違っても17階層には行かないし、行けないはずである。また、数多いる普通の冒険者は魔物を土下座させてから、魔石を譲渡もされる事は一度として無いだろう。それら全てを二人が理解出来たのは、受付女性とのやり取りの後であった。

 

「ボスから貰ったの〜」

 

「はっ?……すいません、聞き間違えたかも知れないので、もう一度お願いします」

 

「ボスから貰ったの〜」

 

「…………すいません、園部様、詳しくお聞かせ願いますか?」

 

「たはははっ」

 

流石にミュウちゃんの説明では理解出来ないだろう、と空笑いを浮かべた優花。

 

「実は17階層のボスから進呈された魔石なんです。まさかボスが土下座するとは思わなかったので……たははっ」

 

「はっ?土下座?誰が?」

 

有り得ない事を平然と言っている事に気付かない優花と受付嬢との温度差。そして聞き耳を立てていた周囲の冒険者達。

嘘だろ、アリエネェ、夢かな?と現実逃避さながらにざわめきが周囲に湧き立つ。

 

「って言うか、17階層ってなんです?何故、レベル1の冒険者がそこまで行ってるんですか。有り得ないですよ、死んだらどうするんです」

 

受付嬢、激おこを通り越して激おこぷんぷん丸でした。ここにきて漸くミュウ達にも理解出来た。そういえばミュウは昨日、優花に至っては今日、冒険者登録したばっかりだった、と。

 

「あー、すいません」

 

優花は素直に謝った。ミュウは何故?と不思議な顔で首を傾げた。

 

「ここのモンスター、オルクスに比べて弱っちぃの〜。雑魚なの〜」

 

ミュウに悪気は無かった。但し、周囲の冒険者、受付嬢からはドン引きされ人外認定されてしまった。

 



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不条理に向き合うと人は笑顔になる、なのorz

「普通にスルーしてましたけど、ボスから魔石を貰ったって何ですか?」

 

よく見ると受付嬢は怒りの沸点を超え、一時、ミュウ達に冷静に訊ねてきた。

懇切丁寧かつ謙りながら説明したのが功を奏したのだろうか、受付嬢は眉間に指を添えながらもなんとか対応仕切って見せた。当然、周囲には冒険者達が集まっていたので、一連の流れを受付嬢と一緒に聞いていたのだが、ミュウ達を化け物でも見ている様な雰囲気を醸し出していた。ミュウ達は可愛い女の子です、危険は(多分)無いの〜。

 

「レベル1という事を置いておくにしても、ゴライアスから魔石を貰ったというのは前人未到ですね。コレは昇格に値すると思いますよ、しかもたった二人だけでの偉業ですので、レベル上昇も早いと思いますよ」

 

「レベルアップするの〜」

 

受付嬢からの多大な賞賛を受けたミュウではあったが、上げて下げるのがこのオラリオ(デザート→じゃが芋、神の恩恵→ショボイ)。

 

「ええ、規定の経験値を稼いだらレベルも上がりますよ」

 

受付嬢はニッコリ笑い、ミュウは愕然としていた。日本でRPGゲームをやり込んだミュウである、規定の経験値と聞き呆然になるのは当然だろう。なにせ神の恩恵がアレなのだから、しょっぱいのだショボイのだ。

 

「はい、ミュウはレベルアップ頑張りますなの」

 

肩を落とし今までの威勢の良さが成りを潜めていた。優香はそんなこととは知らず更に追い打ちをかけた。

 

「大丈夫だよ、ミュウちゃん。ボスを討伐はしなかったけど、かなりの魔物も倒してるんだし、直ぐにレベルアップするよ」

 

「はいなの、ミュウは頑張りますなの」

 

壊れたラジオの様に繰り返すミュウ。

傍から見たら、かたやがっくりと肩を落とし呆然とするミュウ、かたやレベル早く上がると良いね、と笑顔の優花。対象的な二人であった。なんだコレ?

 

「とりあえず魔石を換金したいのでお願いします」

 

「それではあちらの換金場所で換金して下さい」

 

優花はミュウの気配に気付くことなく受付嬢の案内通りに換金場所へと向かう。ミュウも肩を落としつつも優花と逸れたくは無かったのでついて行った、背中が泣いているのは何故だろうか。

 

「コレを換金お願いします」

 

優花は魔石を指差し換金係を呼び出す。ミュウは換金中、暇だったので辺りを見回し何か面白いモノでも無いか、と物色し始めた。ピコーン、とふと目に止まった人物が居た。ミュウは護衛の1体を引き連れ目標に向かう。

 

ミュウが向かった先には神ヘファイストスが居た。知り合いが未だに少ない中での知り合いかつ片眼眼帯という出で立ちは、ミュウに親近感を覚えさせていた。

 

「お姉さん、久しぶりなの〜、オハナシするの〜」

 

「あら、誰かと思ったらミュウちゃんじゃない」

 

神に対して気安過ぎるかと思われたが、ヘファイストスにしてもヘスティアの件もあり無視は出来なかった。

 

「お姉さんはコレから何処へ行くんですか、なの」

 

「私は用事を済ませて自分のファミリアへ帰るところよ」

 

「神様達の帰るトコロ、なの?」

 

「違うわよ、ヘスティアもそうだけどホームとも言われているわね」

 

「お姉さんにもホーム在るんですか、なの?」

 

「ええ、そうよ」

 

「ベッドは在るんですか、なの?」

 

ーピシィ

 

何か可笑しな会話になった。ヘファイストスは笑顔を貼り付けている。

 

「ちゃんとご飯は食べられるんですか、なの?」

 

確かに今のヘスティアではマトモな食事が期待出来ないだろう。あまつさえ今にも潰れそうな廃教会だ。寝場所にも事欠く始末。詳細を知っている(自分が追いやった)だけにヘファイストスは二の句を告げなかった。ヘファイストスは暫く笑顔を貼り付けながらミュウの話を聞いていた。

 

暫くして、苛酷なミュウの言葉責めに合い、ヘファイストスが笑顔を絶やすことが出来ない中、優花が換金を終えミュウと合流した。

 

「はじめまして、こんにちは。すいません、ミュウちゃんの知り合いですか?」

 

ヘファイストスにはその時、優花が天使に見えただろう。笑顔が次第に柔らかくなっていった。

 

「私はヘファイストス、鍛冶神よ。武器とか防具を販売しているわ」

 

やっと自己紹介がマトモに出来たヘファイストス。優花も武器、防具と聞き丁度良かった、と喜んだ。

 

「ホントですか?実はちょっと武器とか補充したかったんです。良かったら案内お願い出来ますか?」

 

「良いわよ、付いて来て」

 

ココまで優花とヘファイストスは二人で意気投合していた。ミュウの事を忘れた訳では無いが、疎外感は別物である。

 

「優花お姉ちゃん、ミュウにも武器下さいなの」

 

「大丈夫、ミュウちゃんの分も一緒に買おうよ。そして衣服や下着、あとヘスティア様と一緒に食事もね。換金したら3億5千万ヴァリスだったよ。多分だけどかなりお金持ちだから。ミュウちゃん、無くすと困るから宝物庫に入れてくれる?」

 

「ハイなの〜」

 

ミュウは左手薬指を光らせ多額のヴァリスを仕舞い込んだ。その光景を見ていたヘファイストスの眼が輝いた。

 

「ミュウちゃん!それもっと見せてみて。お願い」

 

ミュウは左手を翳し宝物庫見せた。

マジマジと宝物庫を見ているヘファイストス。何が珍しいのだろうか?この人、神だよね?このくらい造れるはずなの〜、とヘファイストスの現在の力量を大幅に上昇させていた。

 

言わずともこの世界の神々は神生に飽きて外界に降りてきており、神の御業を使う事を禁じられていた。また、ヘファイストス自身も鍛冶神という事で鍛冶は得意なのだろうが、錬成というモノとはかなり方向性が違う為、神の御業であっても成し得ない事もあった。それが今、目の前にある宝物庫である。

 

「何が珍しいの?神、なの?」

 

このくらい簡単に造れるよね?とミュウは自然にヘファイストスの自尊心を潰しに罹った。ヘファイストスにミュウは宝石の山に見えていた。異世界の技術、意志のある護衛達。しかし自らの自尊心を削り続けてくる言葉の棘だけは耐えられそうも無く、ミュウの左手を握り締め覚悟を決める。

 

「ここではなんだから、とりあえず私のホームへ来なさい。お茶やお菓子も出してあげるわ」

 

と、平然を装いつつヘファイストスは告げた。周囲の冒険者達の視線を躱す行動を取る事に決めたのだ。このままでは鍛冶神としての信頼が揺らぐ、と。有無を言わせぬヘファイストスの笑顔にミュウは頷く事しか出来なかった。



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ママ?……なのorz

ミュウ達はヘファイストスに連れられ、ヘファイストスのギルド兼武器・防具店に半ば無理矢理、連行されていた。

 

「そこらにある武器とか見ていても良いわよ。その代わり後でミュウちゃんと貴女の事を少し聞いても良いかしら?」

 

ミュウと優花はお互いを見合わせ、この世界に召喚された原因を探す為にも、他の神ともコミュニケーションを作りたい、と思っていたので頷きあった。

 

「わかりました、なの〜」

 

「話せる事なら大丈夫です」

 

ミュウはもの珍しいのか武器の色々商品棚を見廻していた。優花は今後の為にもナイフの補充を念頭に置き、手頃なモノを探そうかと見ていたが、有り得ない金額が見えていたので躊躇していた。

 

「あの〜ヘファイストス様、なんか平気でナイフ一本3千万とかするんですが、もっと安いナイフは無いですか?」

 

「それなら鍛冶師見習いの子達が造って販売してるトコロがあるわね。案内させるわ」

 

優花はミュウに用事を済ませてから戻ると告げ、ギルドの販売員に連れられ部屋から立ち去っていった。ミュウは空気が読める子である。ここで自分も、と言ったら一人残されるヘファイストスが凹むのは目に見えて想像出来た。

 

「お姉さん、ここにある武器でどんな事が出来るんですか?なの」

 

ヘファイストスはミュウが話しかけてくれた事には喜んだが、ナニカ質問が可怪しい。どんな事?魔物を倒す以外無いでしょ、と極々、一般的な事を思った。

 

「?……魔物を倒して魔石を得る事が出来るわ。因みに今、ミュウちゃんが見てるのは不壊属性(デュランダル)製のモノよ」

 

「魔物を倒すだけ(・・)なの?他に何も出来ないの?」

 

魔物倒す以外に武器って必要なの?ミュウちゃんが言ってる事がわからない。オラリオの極々、一般的な知識で考えていたヘファイストスは武器とは、軽くて丈夫、壊れにくく魔物を容易く倒せるモノ、超重量で圧潰したりするモノである。けして魔物以外を倒す事に使うモノでは無い。

 

「魔物を倒せれば問題ない、と思うわ?」

 

ミュウの言おうとしている事が理解出来ないヘファイストスは、オラリオでは魔物を倒して魔石を得て生活出来れば充分だろう、と考えていた。むしろソレ以外ではギルド同士の抗争程度でしか使用しない。

 

「雫お姉ちゃんのは空間斬ったり、相手の意識切れる、なの」

 

「…………」

 

「シアお姉ちゃんのドリュッケンには色んな神様が入ってるの〜」

 

「…………」

 

ここに来てヘファイストスはヘスティアが言わんとしていた事が、真の意味で理解出来た。異世界……オラリオの常識が全く通用しない、という事を。もしヘファイストスが自分達が使う武器に他の神を宿らせたとしたら、宿らせた神から盛大な報復が待っているだろう。また武器で空間を斬ったり、相手の意識を切るというのは既に神の力の行使をしなければ不可能だろう。しかもヘファイストス自身の鍛冶能力だけでは到底なし得ず、他の神との共同合作が常である。

 

宝物庫って、その程度だったのね、という軽い落胆がヘファイストスを襲っていた。因みにハジメは宝物庫の中に既に『箱庭』を作っていたりする。それを知ったヘファイストスがどういう反応をするのか見てみたい、とチラッとミュウは思っていた。

 

「パパは宝物庫に箱庭作ったの〜」

 

「箱庭ってなに?」

 

「お空と山とか海とかいっぱいなの〜、龍とか妖精も住んでいるの〜」

 

「…………」

 

なんか世界の創造めいた事を言い出したミュウ。おそらくヘファイストスが考えている事に間違えはないだろう。ミュウちゃんのパパは魔王じゃなくて魔神、いや異世界転移出来るというのなら超越神か。魔王以上でしょ、と不意にヘスティアを殴りたい気持ちで満たされていた。

 

「因みにミュウちゃんと優花さんはどんな関係なのかしら?」

 

ナニカ疲れる事でもあったのだろうか、ヘファイストスの声には梁がなかった。

 

「優花お姉ちゃんはパパの愛人さんなの〜」ガクッ

 

優花ちゃん、お前もか。この二人を保護しなければ後が怖い。そしてコレ以上、ミュウちゃんの話の先が怖くなったヘファイストスである。優花早く戻ってきて。タイミングが良いのか、丁度、買い物を終えた優花が戻ってきた。ヘファイストスには優花が天使に見えた瞬間だった。

 

☆☆☆☆

 

ミュウとヘファイストスが話をしている間に、武器の補充を済ませた優花が戻り、ヘファイストスの自室を退室した。そしてミュウを伴って衣服を購入しようと市場へ向っている最中の出来事であった。

 

「犬、お手」ペタッ

 

「おすわり」スタッ

 

「…………」

 

この時点で皆さんには予想がついただろう。実は魔法少女になったベートは精神的治療の為、ギルドに通って来ていたのだ。あたかも神に懺悔する敬虔な教徒の様に。そしてギルドへと向かうベートと

市場へ向かうミュウ達、すれ違う様にお互い対峙した出来事である。

ミュウを見たベートは自然に「お手」をしていた。周囲には数多の冒険者や商人、市民が未だに居たのにである。うん、壊れてるね。

 

「……ベート」

 

治療の付き添いにはリヴェリアが付き添っていたのだが、相手がミュウであり、この間の件に関しても一方的に悪いのはベートであった。現状成すすべもなく躾けられているベートを残念に思うしか無かったのだが、ミュウの隣の優花を見咎めたリヴェリアが助けを求める眼差しを優花に送った。優花はリヴェリアの眼差しを受け、ミュウを止めに入った。

 

「ミュウちゃん、そろそろ行こっか。色々と用意しなきゃいけない物もあるし。今度、一緒に遊べるよう、この人に頼んでみようよ」

 

優花は何気にリヴェリアを巻き込みつつ、現在の事態の収拾に罹った。死なば諸共の精神である。リヴェリアは仕方ないとため息を尽きつつも笑顔で対応を決め込んだ。

 

「了解した。今度、ロキ・ファミリアに遊びに来ると良い。案内してやろう、私はロキ・ファミリアの副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴだ」

 

「私は園部優花って言います。今はヘスティア・ファミリアです」

 

「ミュウもヘスティア・ファミリアなの〜」

 

「ミュウちゃんは有名だから知っている。君の事は今、知った。一応、聞くがヘスティア・ファミリアは団員は君達だけで良いのか?」

 

リヴェリアはミュウの頭を優しげに撫でながら優花に問いただす。ミュウは気持ち良いのか、はたまたリヴェリアがママ(レミア)に似た感じを醸し出しているのか、目を細めてリヴェリアに張り付いていた。

 

「今後はわかりませんが、そうですね。何があったかは聞きませんが、今度伺います。見るとミュウちゃんも貴女と離れたくなさそうなので。ミュウちゃん、今度、このお姉ちゃんのトコに遊びに行くから、今はやる事をやろう。その時は宜しくお願いします」

 

優花は日本人特有の挨拶を返し、リヴェリアも頷いた。ミュウだけが名残り惜しそうではあったが、気を取り直し優花と市場へと消えていった。

 

リヴェリアは去っていく優花達を見届けてから、ベートへ向き直り哀しげな眼差しを送った。未だにオスワリをしているベートであった。



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緩やかな滅びの音色……なのorz 

ジリリリリーンッ

 

「電話ですねー。私が出ますよー」

 

時刻は朝の9時半前、元気いっぱい居るだけで周囲を明るくする白髪碧眼の美少女が自宅を清掃していた。一部では抑止力、無敵存在、世界外超生命体、闇落ちしたら人類最終試練とか言われている南雲家の良妻さんである。

 

「もしもし、南雲ですがどちら様ですか?」

 

「朝早くからすいません、ナギサです。ミュウちゃん居ますか?」

 

「ナギサちゃんでしたか、ミュウちゃんは朝早くから出掛けましたよー。ハジメさーん、ミュウちゃんて何処に出掛けましたっけ?」

 

「ん?30分ほど前にナギサちゃんの所に遊びに行ったぞ」

 

「ナギサちゃん、30分ほど前にナギサちゃんの所に遊びに行ったそうです。まだ着いていませんか?」

 

「え?ミュウちゃん家から30分前に私の所に?まだ着いてません。可怪しいですよね、誘拐でしょうか?」

 

普通に物騒な事を言い出したミュウ大好きのクラスメートのナギサちゃん。確かに人目を引くだけの美少女であるミュウではあるが、それなりの護身術も体得している。そんなミュウが近場の友人宅に未だに到着していない。

シアに電撃が走った。

 

「ハジメさん!ミュウちゃんがナギサちゃんの家にまだ着いてないそうです。何かあったかも知れません」

 

家中に聞こえる様に声を荒らげたシア、ハジメに緊張が走る。シアの声を聞きユエ、ティオ、菫、愁が居間に集まってきた。

 

「…ハジメ」

 

「御主人様」

 

「「ハジメ」」

 

集った全員に悲壮な表情が見えていたが、ハジメはそれら全てを否定するかの様に険しい顔を研ぎ澄ませる。

 

「いや、先ず誘拐は地球人には無理だろう。デモンレンジャーが居るからな。次に事故についてだが、コレもほぼ不可能だろう。ミュウに渡している結界を壊せる程の衝撃を、自動車では出せないからだ。最後におそらく一番可能性が在りそうなのが……召喚だ」

 

「「「「!!!」」」」

 

「何処のどいつだか知らねーが、ミュウに手出ししたんだ。落とし前はつける」

 

ハジメはそう言うとオルヌスを自宅からナギサ宅へと飛ばし、自身はG10(アーヴェンスト)を呼び出した。

 

「G10、今から起動出来るか?ちょいと野暮用が出来た」

 

ーYES,my captain.engine start. waiting for captain to arrive. ー

 

ハジメがG10に連絡している頃、ユエ達もただ黙って待っていた訳ではない。

 

「……ばかおり、いますぐ雫と一緒に家に来て」

 

「レミアよ、緊急事態じゃ。家に戻れ」

 

戦闘能力や対処を考えても香織と雫は外せない。またミュウの実母であるレミアも論外だ。逆に愛子は仕事柄、途中での職務放棄は出来ず、非戦闘系のリリアーナではむしろ足手まといになる。

 

そして……オラリオは窮地に立たされていた。



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モテ期の到来それは意味を変えるとタダの冷やかしでした……なのorz

「ミュウちゃん、こっちも可愛いよ」

 

「いっぱい可愛い服があるなの。優花お姉ちゃんも似合ってるの。一つのに決められないの」

 

「お金に余裕があるからちょっと多めに買っても大丈夫だよ。我慢しないで買おう」

 

「ハイなの〜」

 

ミュウ達は色々な店を見廻りながら、必要な物を購入していく。ヘファイストスの武器屋に始まり服屋、パン屋、化粧品、医薬品と。最低限とはいえ荷物は嵩張っていたが、そこはデモンレンジャーの出番だ。二人には抱え切れない荷物でも7体のデモンレンジャーが居れば問題は無い。但し、周囲の視線はかなりイタかった優花は完全にミュウだけを見て話をしていたりする。

買い物は宝物庫に隠せば確かに問題は無い。だが買い物をしたという事実とストレス発散は別である。意外にもデモンレンジャーは購入した物を喜んで運んでいた。あたかも戦利品を持って行くような足取りで。ナニカ違わないか?

 

二人は一通りの買い物を楽しんだ後、ヘスティアの居るバイト先へと向かう。その頃には流石にデモンレンジャー達にお別れをして、荷物とともに宝物庫に戻ってもらっていた。

 

「ヘスティア様はちゃんとバイトしてるのかなぁ、なの」

 

「大丈夫じゃないかな?案外、しっかりした神様のようだし、エヒトみたいな傲慢な神様でないだけマシだと思うよ」

 

「ヘスティア様、優しそうなの〜」

 

「私達は運が良かったかもね」

 

「ハイなの〜」

 

そんな二人を物陰から観察する数人。

 

「アレが目標か」

 

「油断するな、冒険者登録前でガレス・ランドロックを一撃で意識不明にし、更にはベート・ローガを再起不能手前まで追い込んだヤツだ。事前の首尾通りいくぞ、それが我らに与えられた使命だ」

 

数人は頷き合い、ミュウ達との距離を縮めていく。そして他にも一組がミュウ達を眺めていた。

 

「アレが南雲ミュウか。我がギルドに欲しいな」

 

「ですが神ヘスティアの言葉では手を出してはならぬ、と」

 

「ただの戯言だ。他にもう一人いるようだな。やり方は任せたぞ」

 

「はっ、畏まりました」

 

恭しく一礼をし男はその場を離れる。残された者の瞳は、ミュウに叶わぬ恋をしている様であった。そしてミュウ達を含め全てを見渡せる場所に別の男女が見下ろしていた。

 

「ふむ、どうやら騒がしくなりそうだね。ヘスティアがあんなわかり易い嘘を言うとは思えない。暫くは様子を見ようか。真実であれば火中の栗を拾うどころじゃないからね。オラリオの存亡に関わるだろう」

 

「……また使いっ走りですか」

 

女は疲れた様な声をあげ、男を蔑んだ目で見つめる。男は溜息ひとつ、既に何度めかの決まった言葉を告げる。

 

「そう言わず、働いた働いた。働かないとご飯が食べられないんだから、さ」

 

パンパンッ、と両の手を軽く叩き男は女を送り出し、女は額に手を当て項垂れ肩を落とし去っていった。

 

☆☆☆☆☆

 

「ヘスティア様〜、来ちゃいました」

 

「お仕事頑張ってるの〜」

 

ミュウと優花は二人揃ってヘスティアのアルバイト先へと遊びに来た。さきほどまでは混んではいないが、まばらではあるがお客対応をしていたヘスティアを見て、たとえ神様でもアルバイトしなきゃ生活出来ないんだ、と哀しさが過ぎっていた二人。

そんな哀しさを出しては頑張っているヘスティアに申し訳ない、と明るい挨拶でいこうと二人で示し合わせた。

 

「やぁ、ミュウ君に優花君か。二人は街中散策かい?色んなところがあるから楽しいだろうが、変な処に行って迷子にならないでくれよ。因みに一番危険な場所はダイダロス通りだから覚えて置くと良いよ」

 

「「ダイダロス通り?」」

 

「あぁ、一度入ると街中が迷宮の様になっているらしく、出てこれないともっぱらの噂だよ」

 

「ご忠告ありがとうございます、ヘスティア様。絶対近づきません」

 

「き、気をつけるなの〜」

 

優花は元気よくヘスティアにそう返したのだが、ミュウに至ってはハジメの娘という事もあり『フラグ』の様に感じ内心冷や汗ものだった。そんなミュウ達を他所にお客が一人やって来た。

 

「……ジャガ丸くん3つ」

 

清廉な声がミュウ達の耳朶を打つ。

そこには金髪、金眼でエルフ並に整った顔立ちを持ち、体型もスレンダーではあるが美少女が一人立っていた。ミュウ達も美少女度では並以上ではあるが、其処にはミュウ達を凌ぐ美少女がいた。

そんな美少女が『ジャガ丸くん』を購入しに来ている。ミュウ達は凄い違和感に囚われた。日本であれば普通に高級カフェで一人、優雅なひとときを愉しんでいそうな美少女だ。

そんな美少女が『ジャガ丸くん』を食べる。

うん、異世界バンザイ。

 

ヘスティアは美少女に『ジャガ丸くん』を渡し、お代を受け取っていた。美少女は目的の品を嬉しそう(?)に受け取ったのだが、ちょうどその時ミュウと目線が合ってしまった。

 

「……!……こないだの子」

 

美少女は何かを口ずさんだのだが、ミュウには聞こえなかったようだが、美少女の瞳はミュウにロックオンされていた。流石に美少女から見つめられ続ける、というのはミュウにとっても羞恥に耐えられない。

 

「綺麗なお姉さん、ミュウに何か用なんですか、なの〜」

 

とりあえず『綺麗なお姉さんという言葉』と『可愛い笑顔と仕草』でこの場を乗り切ろうと考えた。大抵の揉め事は小さな女の子の何気ない無邪気さで凌げるのだよ、ワトソンくん。

黒ミュウ降臨しました。

 

「……とりあえず対戦しよ。場所は私のホームで出来るから」

 

「ちょっと聞き取れなかったの〜、もう一度言ってくださいなの〜」

 

美少女からのいきなりの挑戦に聞き間違いか、と思い笑顔でもう一度尋ねた。

 

「私のホームで対戦しよう」

 

どうやら聞き間違いでは無かったようだ。ミュウは冷や汗を隠しつつ、コレもパパの娘の宿命なの〜、と半ば諦めていた。傍で聞いていた優香ですらミュウに憐憫の眼差しを送っている。

 

「南雲ミュウを貴様のホームへは渡さん。どこへとも去れ」

 

「みゅ?」

 

なんだか小さい子供が4人出てきた。4人は美少女に対して高圧的に出ているが、ミュウはなんだかより美少女に共感を持ってしまった。

それも仕方のない事かもしれない。

脈絡もなく話を進めるのは南雲家の常套手段だ。大抵、家族の誰かが問題を起こして、誰かが慰めるか対処に負われている。

そしてなんとなくだが美少女はユエお姉ちゃんにどことなく似ていたのだ。金髪で言葉が少なく近寄りがたい雰囲気などが。

ただ小さなお子様達を邪険にする気もないミュウは、お子様達に向けあからさまに告げた。

 

「お母さんかお父さんを探してたの?迷子ならギルドに行って探してもらえる、なの。アッチにあるの、ヘスティア様、この子達をギルドまで送ってください、なの。私はこのお姉さんと用事が有ります、なの」

 

ミュウはヘスティアに会釈をし、ギルドを指差し子供達を託す事にした。ミュウ自身は対応は間違ってはいなかったはず、と内心奮起していたのだが、言われた子供達は何故か涙を流して駆け足で去っていった。

優花とヘスティア、ミュウは訳が分からずに見送り、美少女だけは変わらずに佇んでいた。

一部始終を見ていた他の神、街中の通行人達は揃って「あちゃー」と目頭を抑えていた。

 



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上には上があって、下には下があるvol.1……なのorz

ミュウは暇つぶしがてら美少女に付いていく事にしたのだが、まぁ対戦とか言っていたので怪我をしないように気をつけつつ、自分の今迄の鍛錬の成果がどの程度なのかを識るためにも楽しむ事にした。

 

「……着いたよ」

 

「うわぁ、おっきい建物なの〜」

 

「凄っ、どんだけ稼いだら建てれるのよ、コレ」

 

金髪美少女に案内された建物は広さも高さもミュウ達の居る廃教会の数倍はあった。ミュウは普通に感嘆し、優花は金銭面で驚いていた。そこへ黒髪、褐色肌の美少女が一人、こちらへと走り寄ってきた。

 

「アイズー、お帰りー」

 

金髪美少女の名前だろうか、大声で叫びながら満面の笑みを浮かべ金髪美少女に抱きついた。アイズと呼ばれた金髪美少女(以後、アイズ)は戸惑いつつも、いつもの事なのか静かに対応した。

 

「ただいま、ティオナ」

 

アイズはティオナという黒髪美少女(以後、ティオナ)に告げる。ティオナはアイズに抱きついた後、アイズとミュウ達を見比べ不思議そうに尋ねる。

 

「アイズ、この子達どーしたの?」

 

「……対戦してみたくなったから連れてきた」

 

「えっ?ダメダメ、アイズ、こんな小さい子イジメちゃ可哀想だよ。って、よく見たらこないだの子じゃん」ビクッ

 

「お姉さん、ミュウのこと小さいって言ったの。このお姉さんと対戦した後でどっちが上か分からせるの、覚悟するの」

 

「えっ?」

 

いきなりのミュウからの宣戦布告であった。

 

「あちゃー」

 

優花はやっちゃったという顔を隠さず、ティオナはアイズとミュウ達を見比べ、アイズを引き止めようとしたが双方ともヤル気になっているらしく、とりあえず団長であるフィン達を呼んで見守る事にした。

 

☆☆☆☆☆

 

アイズとミュウは10メドルほど離れて向き合っていた。周囲にはティオナに呼ばれたフィン、リヴェリア、ガレス、ティオナの姉であるティオネ達、他にもロキファミリアの主だった団員が集まって来ていた。総勢20人は下らないだろう。

 

「二人とも聞いてくれ。最初に言っておく事がある。ひとつ、どちらかが勝とうが負けようが一切の蟠りを以降に持ち越さない。ふたつ、ミュウちゃん、キミの護衛達(?)は、この対戦では使わないで欲しい。みっつ、ティオナの事は私がミュウちゃんに謝罪するので対戦はナシにしてくれ。以上が守られなければ、この対戦はナシだ。良いだろうか?」

 

「……分かった」

 

「〜〜。分かったなの」

 

アイズは容易に同意し、ミュウは自分の腕を試したい事もあり渋々同意した。

 

(くっ、策士なの。アイズお姉さんを倒してからと言った手前、アイズお姉さんと対戦しないとあの女と闘えないの、失敗したなの)

 

「では、双方とも用意は良いかい。それでははじめ」

 

フィンから開始の合図がかかり、アイズは愛剣デスペレートを抜き放ち右手から打ち下ろしてきた。対してミュウは左手にしゅらーくぅ、右手にどんなぁーを構え二丁拳銃で対抗していた。

アイズの剣戟に対して二丁拳銃、中・長距離ではミュウに分があるが、接近戦ではアイズに若干の分があった。ミュウは懐に入れまいとアイズが少しでも離れたら容赦なく弾幕を張り、アイズは弾幕を回避しつつ接近し斬撃を繰り出し、ミュウは斬撃を受けるため二丁拳銃の十字交差で受け流す。

 

(これでは勝負はつかないの。なら……)

 

ミュウはアイズが離れた瞬間を狙い後方へと下がる。アイズとミュウの距離が大幅に離れる結果となった、その距離、約30メドル。

ミュウはおもむろに腰へ手をやり、宝玉を人指と中指の間に挟め前方へ突きだす。

 

「オーダー!!シビル……」

 

「ミュウちゃん、それダメーーー」

 

大声で優花からストップが掛かった。熱くなった対戦を一気に冷やした優花に全員の視線が向いた。優花は恥ずかしい思いをしながらもミュウに諭す。

 

「ミュウちゃん、流石にソレはダメだから、対戦でしょ?」

 

「分かったなの、コレは使わないで違うの使うの」

 

優花が必死で止めた攻撃がどの程度の威力なのか、集まっていた団員には分からなかったが、かなりヤバい攻撃だとは理解出来ていた。フィンですら親指の震えが止まらないらしい。

ミュウはどんなぁー・しゅらーくぅを仕舞い両手に二本の黒剣、むぅらまさ、こてつぅを握った。

 

「今度はコレでヤルの。お姉さんだけが剣術を使える訳じゃないの」

 

「……面白そう」

 

両者は再び対峙し、辺りを静寂が漂う。一枚の木の葉がミュウの目の前を過る。アイズがミュウの視界から一瞬だが消えた。

 

木の葉の影に隠れアイズはミュウに仕掛けた。タイミングはバッチリだった。木の葉が流れた一瞬を付いた突きであった。ミュウは回避が遅れたが咄嗟に右手のむぅらまさを打ち下ろす。

 

(……勝った)

 

アイズはそれが普通の対戦であれば勝てただろう。だが今の相手は異世界人、しかも異世界をも飛び越えられる魔王(魔神)の娘であった。

 

「あっ」

 

ポキン、乾いた音がした。アイズは目の前の光景を凝視する。ミュウもちょっと吃驚していた。周囲の団員に至ってはアゴが外れていた。



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上には上があって、下には下があるvol.2……なのorz

ミュウは現在、ハジメ謹製アーティファクトの四点結界に守られていた。

コレはミュウ自身も知らなかった事だが、ミュウの危険察知レベルに応じて、ハジメがミュウに渡したアーティファクトもレベルが上がるというものだ。

四点結界とは『触るな、この変態!』という十字架が普段は持つだけに限られているが、ある一定の危険レベルに達した時にだけ、本来の性能を発揮し自動起動で守護をするクロスビットであった。

また現在、ミュウの右手に握られている黒剣も危険レベルによって自動で性能を発揮する仕様だ。雫には及ばないものの千刃ならぬ十刃黒刀だったりする。そんなむぅらまさであるから、雫の技のひとつである絶断という技に近いモノが出来ても仕方ない。所詮、名剣であろうと『全てを切り裂く至上の一閃!』には敵わないのだ。

 

ミュウは現在、非常に居た堪れない感情を抱いて立ち尽くしていた。何故なら目の前の金髪美少女アイズお姉さんが剣を地に置き、両手を地につけ項垂れていた。お互い承知のうえでの対戦ではあったがソレはあくまでも命のやり取りをするのではなく、切磋琢磨してお互いの技量を高め合うためであった。

 

「……修理費」シクシク

 

「…………」

 

アイズ、美人のお姉さん台無しで泣いていた。

周囲の団員たちは言葉を掛けれなかった。そんななかミュウはアイズに声を掛ける。

 

「アイズお姉さん、パパに頼んでもっと良いの創って貰うの。ミュウもお願いするの」

 

「…………」

 

アイズの視線が地面からミュウへと向かう。

ミュウはアイズに朗らかに微笑む。

 

「……ホント?創ってくれるの?」

 

「ハイなの。ミュウは嘘を言いません、なの。ミュウに嘘を付かせる事が出来たら大したモノなの。お姉さんが思っている以上のモノが創れるハズなの」

 

コレには聞いていた団員だけでなく団長のフィンも驚いた。

 

(もし本当ならコレを機会にミュウ君達に取り入ってアイズだけでなく、ロキ・ファミリア全部に魔王謹製の武具が加われば一段も二段もランクアップできる。悪い取り引きじゃない。ただなぁ、ゴブニュはともかく、ヘファイストスがそんのモノを放置する訳もないしねぇ。ヴァリス換算で幾らのモノが出来るんだろうか。アイズ、僕達の為にも更に追い縋るんだ)

 

などと内心では計算高いフィン。だが相手は魔王である。危険を勘案しつつも、こうなれば良いなぁと思案していた。

実際は一段も二段もランクアップどころか、この世界では太刀打ち出来ないシロモノが出来上がる訳なんだが。あと何気にフィンの下心がエグい。

 

「……分かった。なら貴女のパパを待ってる。それまで違うのを使う。すぐ出来る?いつ来るの?」

 

「ハイなの〜、必要ならミュウもお手伝いするの。いつ来るのかはわかりません、なの」

 

(アイズ、そうじゃない。ココは受け入れつつも更なる一手を……)

 

アイズとミュウはお互いに頷きあい、フィンは笑顔ではあるが内心で地団駄を踏んでいた。

 

☆☆☆☆☆

 

対戦後、ミュウ達は団長であるフィンからとりあえずお茶でも飲まないか、と誘われた。けしてお菓子に上等なお菓子に眼が眩んだわけではないと言っておく。

で、上等なお菓子がコレ。

 

「どうぞ、美味しいですよ」

 

「「…………」」

 

目の前に置かれていたのは、じゃが芋の山だった。この世界の上等なお菓子っていったい。因みにじゃが丸くんにあんこを載せてバターが置いてあるだけのシロモノだった。命名、じゃが丸くんあんこバターらしい。

地球のお菓子が恋しい2人であった。

 

「ちょっと調理場へ行きたいんですが良いですか?」

 

優花はフィンに尋ね了解を貰い、いそいそと料理場へ向かって行った。残されたミュウは頑張って優花お姉ちゃん、と優花を応援していた。

 

「ミュウくん、少し話をしたいんだが良いかい?」

 

「ハイなの〜」

 

フィンからそう言われたミュウは二つ返事で笑顔で応対する。聞かれて困るモノは何ひとつないのだ。

 

「とりあえず紹介しよう。僕の名前はフィン・ディムナ、ロキ・ファミリアで団長をやっている。キミがさっき対戦したのはアイズ・ヴァレンシュタイン、幹部の一人だよ。で、彼がガレス・ランドロック、彼女がリヴェリア・リヨス・アールヴ、どちらも副団長だ」

 

ミュウはフィンを見てから、ガレス、リヴェリアと目線を移動し、おもむろにリヴェリアに引っ付いた。

 

「……ママなの」

 

「!!」

 

これにはリヴェリアも驚いていたが、幼い子からの親愛の情を無下にも出来ずされるがままになっている。

 

「リヴェリアが気になるのかい?」

 

「……ママに似てるの」

 

「そうか、なら私に甘えるがいい」

 

リヴェリアはミュウを撫でつつ、幼子をあやしていて、フィンとガレスはニヤニヤしていた。そこへいきなり扉が勢いよく開け放たれた。

 

「異世界っ子が来とるんやろ、見に来たで〜、何処や〜」

 

ミュウは驚きつつもリヴェリアから離れようとはせず、胡乱な眼差しだけ向けた。そこには細身で絶壁、ショートの赤毛女性(?)が居た。

 

「おおぅ、この子やな。よろしゅうな、ワイがロキや。ここの主神やっとる。あんたがミュウちゃんやろ?」

 

「神なの?」

 

「異世界のコト聞きたいねん、ミュウちゃん、ちょっとおハナシしよか」

 

「どんなことですか、なの」

 

「どないな事でも良いねん、聞きたいんやわぁ」

 

「ロキ、とりあえず僕が先に話をしてたんだが」

 

神と聴きエヒトを思い出したミュウは朗らかな笑顔の裏側を感じ取り、ちょっとだけ警戒をしていた。フィンはロキに呆れていたが、似たような事を話したいため忠告程度に収める。

 

「じゃあ、ミュウは南雲ミュウです、なの。さっき居たのは優花お姉ちゃんなの」

 

「なんやて、もう一人居たんか」

 

「煩いぞロキ、大人しくしろ」

 

ミュウの自己紹介でロキは一喜一憂し、それをリヴェリアに諌められる。ロキの言動には毎回、苦労をさせられている為フィンもガレスも黙っていた。

 

「神は地上で何をするんですか、なの」

 

「そんなん決まってるわ、騒いで酒呑んでときたま地上の子らにファルナを与えるだけや」

 

「穀潰し、なの」

 

「かはっっ」

 

「〜〜〜〜」

 

「がはははっ、言われたなロキ」

 

ミュウの辛辣な言葉がロキを抉る。胸を抑えながら涙目でフィン達に助けを求めたが、フィンは軽くスルーしリヴェリアは静かに苦笑し、ガレスは豪快に笑った。

 

「と、とりあえずやな。異世界の事聞かせてーや、聞きたいねん」

 

ロキは復活も速かった。まぁ、この世界の神はエヒトとは違うの、とミュウは感慨に浸る。

 

「じゃあパパの事でも話します、なの」

 

何気にこの世界の住人がパパ(魔王)の事を気にしているらしい、と考えていた。

 

「パパの名前は南雲ハジメなの。奥さんが8人いるの」

 

「なんやて?8人、羨ましい」

 

「ミュウちゃん、ロキは相手にしなくて良いから続きを頼むよ」

 

「ハイなの」

 

ロキは涙を流して悔しがっていたが、フィン達は無視して先を促す。

 

「パパの正妻はユエお姉ちゃんなの。あとはシアお姉ちゃん、ティオお姉ちゃん、香織お姉ちゃん、雫お姉ちゃん、愛子お姉ちゃん、リリィお姉ちゃん、レミアお母さんなの」

 

「じゃあミュウちゃんはパバとレミアさんとの子供なのかい?」

 

「ミュウとパバは血が繋がっていないの、でも大好きなの」

 

「ふむ、とりあえず続きを聴こうか」

 

それぞれ家庭の事情がある為、フィンは深く追及はしなかった。

 

「パバは格好いいの。ユエお姉ちゃんは綺麗で最強なの。シアお姉ちゃんは優しいけど超ツヨイの。ティオお姉ちゃんは変態さんだけど、いざとなったら頼れるの。香織お姉ちゃんはちょっとアレだけどユエお姉ちゃんと仲良しなの。雫お姉ちゃんは苦労人だけど師匠なの。愛子お姉ちゃんはパパも尊敬する女神様なの。リリィお姉ちゃんはスルーされるけど王女様なの。レミアお母さんは優しいけどたまに怖いの」

 

とりとめの無い拙い言葉であり、微妙に気になる単語も聞いたがスルーして静かに聞くことにした。

 

「優花お姉ちゃんはパパの事好きなの、愛人さんなの。料理が超上手いの」

 

「優花お姉ちゃんってさっき調理場へ行った子かな?」

 

「ハイなの」

 

「〜〜〜〜」

 

その時、ちょうど調理場から戻ってきた優花がこの言葉を聞いて真っ赤になって立ち竦んでいた。やり場のない怒りは全てハジメにやろう、と決めた瞬間だった。

 

「あっ、優花お姉ちゃん戻ってきたの。真っ赤になってどうしたの、なの?」

 

「いえ、なんでもないわ。ハイ、ミュウちゃん、コレあげる」

 

差し出されたモノはこの世界には無いホールドケーキだった。物珍しそうにフィンを含め皆が凝視してた。

 

「皆さんにお裾分けなの、食べてみてね、なの」

 

取り分けられたケーキを手掴みで豪快に食べるガレス、小分けにして食べるフィン等を見てミュウはにんまりと目を細めた。どーだと言わんばかりである。

 

「なんやコレ、メチャ美味いやんか。優花ちゃんゆーたか。ウチのファミリアに来んか」

 

「いや、流石にミュウちゃんと離れたくないんで勘弁して下さい」

 

「ならミュウちゃんも一緒にどーや?」

 

「ヘスティア様が可哀想なので無理なの、ヘスティア様は良い神様なの」

 

「ウチかて良い神様や、どや?嘘やないで」

 

「ミュウ達居なくなったらヘスティア様一人なの。エンドウにはさせないの」

 

「?エンドウ?なんやソレ」

 

「エンドウはアビスゲートなの」

 

「ミュウちゃん、とりあえず遠藤をディスらないの」

 

意味がわからないロキと意味が分かる優花であった。対照的な二人を見つつ、フィンはひとつ訊ねてみた。

 

「ミュウちゃん、いや優花君でも良いか。何故、ミュウちゃんのパパは神殺しをしたんだい?」

 

この世界は神だらけだ。異世界の魔王の逆鱗に触れたら、この世界の神が消滅してしまう。フィンにとっては生殺与奪を握られている様なモノだった。

 

「それは……」



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上には上があって、下には下があるvol.3……なのorz

ミュウ達から語られた話はかなり衝撃的であり、悍ましくも目新しさもある物語であった。詳細はハジメ達にしかわからないという話であったが、片鱗だけの話であってもフィン達には到底、容認出来るモノではなかった。

 

「しかし人を操作して玩具にした神か、僕達でも操られたら抵抗は出来ないんだろうな。ミュウ君のお父さん達はよく対抗出来たものだ」

 

「パパは強くて格好いいの、大好きなの」

 

「まぁ、あの二人には誰も敵わないわね」

 

フィンからハジメ達に対して過大な賞賛を貰い嬉しがるミュウ。優花はハジメとユエの関係を羨ましいとは思いつつも、ユエには絶対に敵わない事も自身の中では認めていた。

 

「しかし、7つの大迷宮に神代魔法か。私達でも神代魔法を習得する事は可能なのだろうか?」

 

「ん〜、多分、無理だと思うの。パパ達でも死にそうな目にあったって言ってたの。とりあえず、エンドウに勝てないとやるだけ無駄死にするの」

 

「???ミュウ君、さっきも聞いたけどエンドウって何だい?」

 

「パパの手下なの。黒くてウネウネしていっぱい居て増えるの」

 

「エッッ?黒くてウネウネしていっぱいで増える?それって魔王の使い魔か何かなのかい?」

 

「フィンさん、違うからちゃんとした人間だから。ミュウちゃん、遠藤を何気にディスらない」

 

手下=人類のはずなのだが人類(?)に入るのか怪しい発言を聞いたフィン達、話の流れを聞き咎め修正する優花だった。最終的には台所のアレになるような話が出ただろう事は察せられた。

 

「ミュウ、ならばどのくらいの実力ならば迷宮を制覇出来るのだ?目安くらいは教えて貰えんか?何を目標とすれば良い?」

 

あまり饒舌ではないガレスであったが、七大迷宮と神代魔法に興味を持ったのか、普段のガレスを知っているフィン達も真剣にミュウを見つめていた。

 

「ん〜、どのくらいって言うと困るの〜、イナバさんでも迷宮制覇は無理だと思う、なの」

 

「「「イナバさん?」」」

 

「イナバさんもパパが好きなの、いっつもシアお姉ちゃんと喧嘩してるの〜」

 

脈略の無いミュウの話を理解出来ず、フィン達は優花に対して「詳しい説明はよ」と一斉に眼を向けた。流石に一同に睨めつけられた優花は少したじろいだ。

 

「あ〜、イナバさんと言うのは七大迷宮の一つオルクス大迷宮のモンスターだったんだけど、南雲を追いかけて自力で地下1階層から90階層まで辿り着いたらしいのよ。流石に詳しい経緯は鈴達からは聞いてないけど、鈴達って言うのは私達の仲間の一人なの。で、そのイナバさんなんだけど神話大戦後は脚撃王イナバと人類全体に呼ばれるくらいにはなっていたわ」

 

「ただの地下1階層のモンスターが人類全体から脚撃王とまで呼ばれたのか!?」

 

これにはフィンを始めリヴェリア、ガレスも驚きを隠せない。モンスターとは一匹だけのはずはないのだから。この世界ではモンスターとは常にダンジョンから絶え間なく湧いて出てくる。それを倒し魔石を回収するまでが討伐なのだから。進化するモンスター、この世界では強化種にあたるだろうが、話を聞くだけでもかなりヤバい。想像してみて欲しい1階層のゴブリンが誰の助けも借りず地力で90階層に辿り着くような事を、そんな進化するモンスターがいる世界を。

 

「すまない、続けてくれないか」

 

フィン達が冷や汗を隠しつつも迷宮制覇を行う目安を確認しようと優花を促す。優香も首肯し話を続ける。

 

「一応、七大迷宮攻略に関して言うなら、ホントに遠藤君並の実力は要ると思うわ。実際、神代魔法を自力で会得出来たのは南雲達を除けば彼しか居ないから」

 

「では、その遠藤君とやらの実力はどんなモノなのだ?詳しく教えてくれないだろうか」

 

リヴェリアも神代魔法に興味はあったのだろう、真剣な眼をしていた。そして優花は現実を突き付けた。

 

「先ず彼は分身が出来ます」

 

「はぁ???」

 

「分身が出来ます。大事な事なので二度言いました」

 

いきなり難題を突き付けられたフィン達。この世界に於いて、力が強くなる、速く動ける等の身体強化、または独自魔法の発現はよくあるのだが、分身とか有り得ないのである。せいぜい分身に見せかけた幻影や超高速での移動で分身に見えるくらいだろうか。

 

「因みにその分身は実体なのか?」

 

「彼曰く、【深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いているのだ】という事らしいわ。まぁ、簡単に言えば、全てが実体で全てが幻影らしいわよ。任意で痛覚遮断とか出来るらしいし。因みに、神話大戦時には1000体に分身出来たらしいし、こないだ聞いたけど10000体に分身出来る様になったらしいわよ」

 

「ソレハジンルイナノカ?」

 

「アビスゲートなの〜」

 

「遠藤君は呼び名がいくつか在るのよ。アビスゲートとか深淵卿とか」

 

カタコト言葉で返したリヴェリア、かなり驚愕であった事は見た目からも伺える。フィンやガレス、ロキに至っても二の句を継げない様だ。

七大迷宮制覇はほぼ潰えたといった感じが辺りを漂う。居た堪れない空気がソコにはあった。

 

「そんな彼でも制覇、私達は攻略と言ってるけど出来たのは一つだけ。唯一、七大迷宮全てを攻略出来たのは南雲とユエさんだけね。まぁ、多分、今ならシアさんなら余裕で攻略出来るんじゃないかなぁ、あはははっ」

 

優花の脳裏にバグったウサギが過る。怒らしたらユエですら恐れるのだから。可愛いウサギは何処行った。更に過るのは首刈りウサギ、これ以上は考えないようにしようと心に決めた優花であった。

 

「シアお姉ちゃん、料理上手だし凄く強いの〜、エンドウなんて目じゃないの〜」

 

何気に遠藤君を軽くディスるミュウ。彼に怨みでも在るのか心配になった優花である。

 

ただでさえ分身が出来る遠藤という人物。ソレを超えるシアお姉ちゃんがどのくらい強いのか想像すらつかないフィン達。会話がカオスに突入してきましたw

 

「まぁ、流石にボク達は分身までは出来ないね。でも一人では無理だろうとパーティーを組んで攻略ならばどうだろうか?」

 

「うーん、多分、この世界の人には無理だと思います。なにせ迷宮全部のコンセプトが神を信じるな、ですから」

 

優花から告げられた事実、確かにフィン達、いやこの世界の人類全てが無理である。ファルナは神の恩恵であり神を信じるなとは恩恵に縋るな、という本末転倒だったからだ。

 

「それはどうしようもないね。諦めるよ。」

 

「でも強さの目安ならコレで解決なの〜」

 

ミュウが取り出したのは一つのメモリーカードであった。タイトルには『神話大戦-格好いいハジメも好き編-』と書いてある。タイトルからしてどうやらユエお手製らしい、と優花は呆れた。

 

そしてかつての映像が室内に流れていく。その映像内容はフィン達そしてロキですら冷や汗モノの大作であった。絶え間なく溢れ出すモンスターと天使、それにも劣らないソレ等を駆逐する武器の数々。戦闘序盤からの山崩しはフィン達の想像すら超越していた。ほんの一部分ではあった映像ではあるが、自分達との隔絶した戦闘力がそこにはあった。

 

見終わったフィン、リヴェリア、ガレス、ロキには一言も言葉が出せなかった。山崩しを行った天より降り注ぐ岩塊の数々、モンスターや天使を駆逐する天からの光や地上にいくつもの太陽すら生み出す爆発。一般兵士達の持っていた未知の兵器等々。

 

対してフィン達はどうだろうか、この世界の有り様は良く言えば正々堂々、悪く言えば効率が悪いと言わざるを得ない。一対一というのがオラリオを含む、この世界の在り方だからだ。一対多なんてものは魔法でなければ無理なのがこの世界だ。ミュウの取り出したメモリーカードは意図せずフィン達に目安では無く絶望を与えていた。

 

「格好いいパパ大好きなの〜♡」

 

「………す、すまない。言葉が出なかったがコレが君達の戦い方なのかい?」

 

久々に見たハジメの姿に眼を潤ませているミュウ、これでは話にならないと優花に質問を切り替えたフィンであった。ミュウは平常運転を誇示していた。

 

「かなり当てにならない目安だけど山崩しも天からの光も爆発も南雲だけの実力よ」

 

優花は事実だけを突き付けた。フィン達の顔色がみるみる青褪めていく。ホントに全く目安になりようが無かった事だけは理解出来ただろう。

 



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上には上があって、下には下があるvol.4……なのorz

ロキは焦っていた。

 

(なんやアノ破壊力は、天から星を降らしいくつもの太陽まで作るやと。あり得ん、たとえ神で在ろうと彼処までの事は出来へん。しかも天界にも行き来が出来、異世界への移動も可能なんぞ、神の御業でも無理や。こんなん魔王や魔神であろうと無理や、超越神と言わざるを得へん。ヘスティア〜、ワレの理解以上にヤバい案件やんけ。いっぺんアイツをドツキ倒したるっ)

 

こうして意図せずヘファイストスとロキという最強タッグの見解が一致し、ヘスティアは無駄に二神のヘイトを稼いでいた。

 

対してフィン達はと言えば、超常を超えた破壊力や兵器に目新しさを覚えるも、コレが魔王だけの実力と言っていた優花の言葉に絶望していた。魔王単体でコレである。それに匹敵する実力を持つ正妻のユエやシア達という戦力まで居ると言うこと。何れそんな魔王軍団が必ずミュウ達を迎えに来るという得も言われぬ恐怖と現実。先ほどの映像を見た後でミュウ達に対して居丈高な対応など取れる筈も無いのである。そうフィンの脳裏には下手に出てミュウ達をヨイショする以外、手が無かったのである。揉み手は何処の世界でも共通の営業手段だった。

 

「え〜、凄いモノを見せて貰いましたが、幻影とかなんかじゃないですよね?」

 

何故かヘコヘコしている卑屈なフィンがそこに居た。ミュウや優花に対して敬語と揉み手である。ロキ・ファミリア団長の矜持は何処いった。

流石にリヴェリアとガレスは、そんなフィンを胡乱な目で見ていたが、見たくは無かったのでスルーする事を決めた。アレはいつもの団長じゃない団長という違うナニカだと。

 

「実際の過去映像ですよ」

 

優花、もう少し違った言葉があるだろう。項垂れるフィン、あまりにも自分の理解からかけ離れた戦闘映像に理解を放棄したガレス、そんな二人に呆れたリヴェリアがそこに居た。ロキは自棄酒をかっ喰らっていた。ロキはもう少し神としての威厳を持った方が良いんじゃ無いのか?

 

(違う、考えを改めるんだ。コレはミュウくん達に巧みに交渉すればロキ・ファミリアが他を抑えてオラリオで君臨出来る他、ボクが本当の英雄になれるかも知れない近道だ。実際、アイズにはミュウくんを通してだが魔王謹製の武器が与えられる筈だ。やれば出来る、やらなければならない。俺はフィン・ディムナ、ロキ・ファミリアの団長だ、やってみせる!)

 

フィンの団長としての矜持が再燃、卑屈な揉み手団長が消え失せた瞬間ではあるが、魔王謹製の武器頼みの思考は英雄なのか?と疑問を呈するトコロではある。

 

「突然ですまないがミュウちゃん、優花くん。もし、まお…南雲氏の兵器を欲しいと言ったら購入出来るものなのかい?お金に糸目は付けないんだが……」

 

「みゅっ?」

 

ミュウは今までの表情を改め、フィンを見つめる。その瞳は全てを見透かすかの如く澄みきっていた。優花はミュウの生い立ちや過去をハジメ達から聞かされて居たため、ミュウの判断に任せる事にした。

 

「だんちょーさん、人生は過去から未来へ繋がってるの。未来から過去へは行けないの。楽しちゃダメなの」

 

なんとも奇妙な返答が返ってきた。優花は思う。偶にだがミュウには違うモノが見えているのではないかと。それはミュウが『友達』と称している妖怪(?)達からも伺える。

そんなミュウが「楽しちゃダメ」と言うのだから、それが真実なのだろう。フィン達には悪いのだが南雲謹製の道具は得られないだろうと確信した。

但し、今、現在でもミュウが引っ付いているリヴェリアにだけはおそらくではあるが物凄いモノが渡る事も確信していた。



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上には上があって、下には下があるvol.5……なのorz

(まだだ、まだ終わらんよ。俺はフィン・ディムナ、ロキ・ファミリアの団長だ)

 

「そう、人生は過去から未来へと繋がっている。確かにそうだ、人は経験という知識を糧にあらゆるモノを克服してきた。かつて冒険者は未知を探求し既知としてきた。それは何故だ?ソレは彼等が冒険者だからだ!ボクはミュウくん、君達の世界にある迷宮に挑んでみたい。例え、力及ばずとしても経験が全てを克服出来るだろう。ボクの後に続く者も出てくる筈だ…………」

 

なんかフィンさんが語りだした、ミュウちゃんはフィンの熱意に手を握りしめ感動しているようだ。ゴメン、私にはムリ。隠れた意図が見え過ぎるんだもん。

 

切々と身振り手振りを交えミュウちゃんに訴えるフィンさん、それを見て呆れてる私とリヴェリアさん、ガレスさん。ミュウちゃんは珍しさもあってかフィンさんに同意している。

 

「ミュウもだんちょーさん達と迷宮攻略してみたい、なの。パパ達はまだ早いって言うだけなの。ミュウも頑張るの」

 

あっ、コレはヤっちゃいましたねぇ、フィンさん。南雲に怒られなきゃ良いけど。ミュウちゃんをノセたら駄目でしょ。

 

フィンさんは同士を得た充実感と不確定ながらミュウの同意を得られもしかしたら千載一遇の武器が手に入れられるかもしれないという高揚感、ミュウちゃんは未知の迷宮を探索したい期待感がお互いの感情を共有していた。話に聞く大迷宮ってかなりヤバいんだけど。

 

「あ〜、フィンさん?とりあえず未知を既知に変えたいのは理解しましたが、大迷宮はかなり危険ですよ?特にオルクス大迷宮は南雲とユエさん二人がかりで死にかけたらしいですし……」

 

ちょっとだけ意地悪をしてみたくなった。

 

「ふむ、確かに未知を既知に変えるには実力が現状足りてないかも知れないね。でも何事もやってみなければわからないだろう。ボクはコレでも勇者を目指しているんだ」

 

「えっ?勇者を目指してる?」

 

「あんな残念なのを目指してるんですか、なの?だんちょーさんにはもっとマトモな目標を持って欲しいです、なの」

 

「……残念?」

 

「ハイなの〜、残念なの」

 

光輝を知っている私とミュウちゃん、今でこそ、ちょっとはマトモに成りつつあるが、以前の彼を知っているだけに『勇者』というモノを過小評価している。

勇者と聞いたミュウちゃんも冷静に成りつつ、私達とフィンさん達でかなりの温度差を感じた。

リヴェリアさんから『説明はよ』とちょっと睨まれた。何故、ワタシを睨むんですか?

 

「あのですね。勇者というのは少数を犠牲にしてでも大勢を救う人を言うんです。その少数に自分が大切にしている人が居ようともです。私達の仲間には『勇者』が居ます。今でこそマトモですが、最初の頃はかなり独善的な思考をしていましたよ」

 

フィン達は優花の話を静かに聞いていた。

 

「『力があるなら正しい事の為に使うべきじゃないか』この言葉は勇者が南雲達に言った言葉で、南雲の返答は『そんなだからいつもお前は肝心な処で地面に這い蹲る事になるんだ。力があるから何かを成すんじゃなく、何かを成したいから力を求め使うんだ』と。私も強大な力は無闇矢鱈と使うべきではないと思うんです」

 

「ミュウもそう思うの〜」

 

「……ふむ、一理あるか。ただ言わせて貰えるなら力を求める為の努力も必要だとは思わないかい?必要な時に必要な力が無ければ何も成す事は出来ないだろう?火中の栗を拾う努力は必要なんじゃないかな?」キラッ

 

(ミュウくんにはちょっと遠回し過ぎたが、優花くんには理解出来た筈だ。優花くんの助言で魔王謹製の武器が手に入るなら問題はない)

 

(とか思っているんだろうなぁ。しかも無駄に煌めいてるみたいだし。南雲の事だからメンドイ、とかで終わりそうだけど。たはははっ)

 

フィンさんは私に期待を込めた眼差しを送っていたが、当の私は「あ〜ぁ」という残念な気持ちが内心に渦巻いていた。顔には出さないけどねぇ。だってリヴェリアさんやガレスさんもちょっとソノ気になってるみたいだし。

まぁ、ミュウちゃん次第かな。私はミュウちゃんを見つつ微笑んだ。ミュウちゃんは首を傾げて不思議そうにしていたが、私に微笑み返しをした。(遊んでる訳でないんだけど)

 

☆☆☆☆☆

 

(何がどうなったら私がフィンさんと対戦する事になるんだろう?誰か教えて)

 

眼前には槍を構え、いざ参るといったフィンさんが居る。私は当初、どうして私?と断り続けたのだが、勝負の賭けに南雲への取次ぎを願われ受けざるを得なかった。仕方ないので危険度の低いトランプを使用しての対戦と相成った。因みにトランプは216枚(4セット)とした。ナイフや野菜スティックでは貫通するが槍を無効化するのは難しいからね。私も怪我とかしたくないし危ないので槍を斬り刻みましょうかね。

私とフィンさんの距離は20メドル離した。コレは私は中距離から長距離、フィンさんが近距離から中距離が間合いだからだ。

フィンさんの顔には並々ならない気迫を感じてるのだが、ソレが南雲に凄い武器を造って欲しいと下心が見え見えなので、なんとも言えなくなってしまった。

お互いに立ち位置も決まり、リヴェリアさんの合図を待つ。

 

「はじめっ」

 

号令が掛かりフィンさんは突進から槍を突き出す。私はこういったモノは不得手だから、接近させまいと弾幕を張った。片手で108枚、両手で216枚のカードが、さながら桜吹雪の様に順次に解き放たれる。

 

「優花お姉ちゃん凄いの〜、もっとやってなの〜」

 

上下左右、前後も関係なく208枚のカードが舞いフィンさんを襲う。フィンさんは槍を回転させたり凪いだり、移動を繰り返しながらも接近戦を狙って居るようなので、危険な穂先は排除しとこうかな。

 

「…コレで終わらせます」

 

私はコレでも投術師、貫通させるだけなら野菜スティックでも大丈夫だし。かなり硬い金属らしい槍には既に百枚以上のトランプが刺さっている。

此方の手持ちのトランプは既に半減し、かなりの苦戦だ。ちょっと卑怯ではあるのだが、私なりにアレンジした技を披露してみよう。

そう私は投術師なのだから。



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上には上があって、下には下があるvol.LAST de GESU……なのorz

【リヴェリア視点】

 

「シッ」

 

優花くんがトランプをフィンへ投げた。見た目には今までと同じ様に見えたのだが明らかにフィンの顔つきが違う。

投げ方も使っているトランプも変わりは無いというのに。

今までは道具がトランプという事もあり、多彩な芸ではあったがそれなりに躱し打ち返していた。だがさきほどからのフィンの様子は躱すのは同じでも打ち返しに苦慮している様に見える。

見えない何か、風魔法や重力魔法でも使っているのだろうか?

 

「これは吃驚だね。トランプだけじゃ無かったのかい?」

 

「種明かしをしますと私達の科学の基本ですよ」

 

フィンは苦笑いを浮かべ、優花くんは余裕ある笑顔を浮かべていた。

 

「ふむ、科学というのはわからないけど、君達の世界と共通の事象があるという事になるのか。面白い、後で聞きたい事が増えそうだ」

 

数合を交え、お互いに手を出し尽くした様子が伺え、このままではお互いに決着はつかないだろう。

 

「そこまでにしておけ、フィン。とりあえず優花くんに匹敵出来るくらいには実力はあると理解出来たんじゃないか?」

 

「リヴェリア……そうかも知れないが、これでは大迷宮を、ミュウちゃんと一緒に攻略出来るとは思えない。出来ればそれなりの武器が有れば安心なんだけどね」|д゚)チラッ

 

何気にミュウちゃんに強請ってる様に見えるのだがな。たしか威厳もあり決断力もある優秀な団長だったはずなんだがな?因みにミュウちゃんは対決に飽きて寝ているぞ。

 

「あー、フィンさん残念な事を言いますが、私程度の実力では大迷宮攻略はとうてい無理ですよ」

 

「えっ?」(゚Д゚)

 

優花くんはフィンの自信を砕きにかかっているのか?フィンがかなり驚いているのが見て取れる。フィンとの対戦でもそれなりに戦えていた彼女ですら、迷宮攻略は無理なのか。そして改めてミュウちゃんの親御さん達の実力が計り知れないな。そんなミュウちゃんをノセて禁止されてる迷宮攻略?うん、コレは後で酷い目に遭いそうだ、下手な事を言って言質を取られたら後が大変な事になりそうだな、大人しく黙っていよう、次いでに武器とかも強請ってたようだから、さもあらん。フィン、南無( ˇ人ˇ)

 

「それにしても彼女も含めて迷宮攻略をしてみても良いんじゃないかな?実力もあるし充分にあてには出来ると思う、どうかなミュウちゃん?」

 

「迷宮攻略楽しいの〜」

 

(フィン、それは悪手だろうに、ガレスですら冷や汗かいてるぞ、周りを見ろよ)

 

ロキファミリアの強化にばかり目が逝って、フィンがおかしい。ヤバい雰囲気が満ちているんだが。なんかフィンが優香くん達を迷宮攻略に誘ってるんだが、どうしたものか。私としても文句は無いのだが、後で魔王達に可愛い娘に危険な事をさせたな、等と言い寄られたら速攻逃げ出すぞ(逃げられないとは考えていない、その時はフィンを盾にさせて貰おう)

 

しかしおかしいな、普段であれば指が震えて躊躇しているはずなんだが?全く指が震えていない様に見えるのは何故だ?

 

あぁ、身体全体が震えていたのか。そりゃ、指だけ震えないか。間違っても同意も否定もしないでおこう。かなり危険だ。



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『愛』とは受け取る側で変化する…なのorz

「すいません、お待たせしました」

 

そう言いつつレミアはハジメの手を握る。スーツにハイヒールというハイソな出で立ちであるが、普段はおっとりしているが、趣きが違い不安な表情を見せていた。

 

「大丈夫だ、何が起ころうが必ず助ける」

 

「はい、お願いします。あなた」

 

たしか急いでいるハズなんだが、何故かハートマークがレミアから飛んでいる。周りのユエ、香織からジト目で見られているが、レミアは気にならないようだ。

 

ーI've been waiting for you.

 Please,take a seat.

 first engine,3.2.1 Start

 next,second & third engine.3.2.1 start.

 world compass setting standby,clear.

 captain order.Please.ー

 

英語で指示が来ているのはハジメの趣味なんだろう。厨ニ病というのは治らないらしい。

因みにアーヴェンストには戦艦には無い帆が付いている。何処かの有名な宇宙海賊に習ったのだろうか。羅針盤から送られてくる情報をモニター投影までしている。

 

「アーヴェンスト、発進」

 

ハジメは何処かの宇宙海賊に習っているのか、真横から右手を前に突き出しキャプテンらしさを出していた。知る人が居たら「ドクロの旗とTシャツ、マントが必要では?」と言っていただろう。

 

ーRoger,Gate open.

 going to pick up Princess Myuu.ー

 

アーヴェンストの中では既に「姫扱いなのか」とユエ達が苦笑いしつつ、全長四百メートル級の超大型豪華帆船が静かに異世界に通じるゲートを潜っていく。この先にはどんな世界が待ち受けているのだろうか。

ユエ、シア、香織、ティオ、レミアの顔には一筋の緊張感が纏っていた。しかし、ハジメと共に居るという安心感も少なからず存在していた。

 

☆☆☆☆☆

 

ハジメ達が船出をしたその頃、ミュウは眠くなったのか船を漕いでいた。それを見かねたリヴェリアがあやしつつ、優花に問いかける。

 

「優花くん、お願いがあるのだが大迷宮も行ってみたいのは本当だが、それよりも異世界に行ってみたい、駄目だろうか?」

 

「解りました、南雲に頼んでみます」

 

リヴェリアの真剣な眼差しを受け、優花は逡巡もせず了解した。フィンとガレスは驚愕(一人は物欲しそうに)していたが、ロキにはリヴェリアが何を考えているのか理解出来ていて眼を細めつつも仕方がない、とばかりに溜息をついた。

 

「多分、戻る事も出来ると思いますから、少しの旅行だと思って下さい」

 

仮にも神の下僕の彼等だから、ロキの心配も頷けるというもの。それも考慮しつつ優花は告げる。

 

「そうか、それは助かる」

 

「僕も行きたいんだが、駄目だろうか?」

 

なんか物欲センサーに反応したらしいフィンが目を輝かせていた。うわぁ~

 

「ワシも行ってみたいのぅ」

 

なんだか大迷宮攻略したい、みたいな印象を受ける。ガレスさん、あんたもか。

 

「まぁ、ヘスティア様も連れていきますし、その時なら…」

 

「ワイも行くで」

 

「…えっ」

 

なんかロキが対抗心を燃やしている。なにか言い間違ったのだろうか。たしかこの世界の神様だよね。異世界に行ったら、ミュウちゃん曰く「ただの穀潰し」なんだけど。

 

「ロキ様ってこの世界の神様ですよね?」

 

「そうや」

 

「異世界に行ったら、神様の権能が無くなっちゃうんじゃ」

 

「………」

 

「ロキ様ってなにか出来ますか?」

 

「なにかってなんや?」

 

「料理とか裁縫、武術とかなにか」

 

「……酒が好きや」

 

「………」

 

無言でリヴェリアを見る。リヴェリアは溜息をしつつも仕方がない、と面倒をみるようだ。

とりあえずロキには忠告だけはしておこうかな、と懇切丁寧に諭す。

 

「とりあえずロキ様は南雲の奥方達にはちょっかい出さないようにして下さい。後、子供のように駄々をこねるのも禁止です。どーなっても知りませんよ?因みに、過去にユエさん達にちょっかいを出して性別不肖になった男の冒険者は数しれず、神様だろうが消滅させてますから、充分に注意して下さい」

 

「………はい」

 



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カウントダウン。精神安定とデスマーチ、魔改造は日本のお家芸vol.1……なのorz

【オラリア上空、高度50万メドル】

 

ーArrived,please give me instructions.ー

 

「不可視化及びバリア発動後、待機しろ」

 

ーRoger,invisibility,all range barrier activate.wait at the standby positionー

 

「ちょっと様子を見てくるから、とりあえずユエ達は呼ぶまで待っててくれ。安全を確認したら呼ぶから」

 

「………わかった、待ってる」

 

「危なくなったら呼んで下さい。どんな相手だろうが、一撃ですぅ」

 

「シア、お主が言うと洒落にならんのじゃが、フラグを立てるでない」

 

「うん、早くね」

 

「気をつけて行ってきて」

 

「あなた、ミュウをお願いします」

 

ミュウは召喚で呼ばれている。勇者でも無いミュウが神か人か何かに呼ばれている。現在の状況が判らないハジメは、ミュウの居場所を羅針盤で確認した後、オラリオ近郊の林の中にゲートを開く。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

「「「「「行ってらしゃい」」」」」

 

☆☆☆☆☆

 

「すいません、ミュウちゃんが遊び疲れたようで、一旦、帰りますね。用があればヘスティア様のところに居ますから」

 

優花はミュウの事も心配であったが、ロキに対して居た堪れない気持ちが大きくなり、にっこりとリヴェリアに告げる。何故、リヴェリアなのかは言うまでも無いだろう。ロキファミリアの良心はリヴェリアだからだ。フィンさん?たしか団長でしたね、それがナニカ?

 

「こちらこそ、色々と迷惑を掛けたようですまない。そのうちお邪魔させてもらおう」

 

「お待ちしてます」

 

そうしてロキファミリアを後にした優花達、ミュウは優花におぶわれて眠っていた。見慣れない街中ではあったがヘスティアファミリアへ帰るのは塔を目指せば帰りに迷う事は無かった。次第に塔へと近づいていくにつれ、人の往来は激しくなっていく。

 

「お願いします、ボクをファミリアに入れて下さい」

 

「悪いがお前では無理だ、諦めろ」

 

よく見ると背のあまり高くない少年がファミリアの門番に素気なく袖にされているのが見えた。少年は項垂れ、とぼとぼと門番から離れ、宛もなく彷徨うところであった。優花は少年を見かね声を掛ける。

 

「キミ、もし良かったらウチに来ない?」

 

優花は自然だった。今までの優花であれば目を背けていただろう。だがトータスに行ってからは男女を超えた友情や助け合いを経験し、ハジメに対して恋慕を懐くようになっていた。そんな優花であるから少年の哀しみを感じたのだろう、笑顔で少年に声を掛けたのだ。

 

「……お、お姉さんお願いしますぅ。うぁぁん」(ノД`)シクシク

 

少年はどれだけ感動したのだろう。その場で静かに泣き始めた。

流石に、子供を泣かした様に見えるのは跋が悪かったので、優花は急ぎホームへと少年を促す。

 

「大丈夫だから一緒についてきて」

 

「はい」

 

優花はそう言い少年の手を取り、人混みを避けつつも迷わないように一緒に歩く。少年は優花から離れないように気を付けながらついていく。

 

「あった、ならこっちね」

 

お目当ての目印を見付けたのだろう、優花達は裏路地へと入って行く。そうして少年が辿り着いた先は、今にも崩れ落ちそうな廃墟同然の教会であった。少年の顔は不安そうに青褪めていた。

 

折しも、ソレはハジメ達が到着する八日前の事である。

 

☆☆☆☆☆

 

「ようこそ、ヘスティアファミリアへ」

 

満面の笑みを浮かべヘスティア様が両手を拡げている。単純に団員が増えた事が嬉しいのが見てとれる。

 

「宜しくお願いします、神ヘスティア」

 

きっちりお辞儀をして神を敬うベル・クラネルと名乗った少年。

私達の場合は最初の神がアレだったので、ここまで敬う事が出来ない。其処ら辺は私達とこの世界の人々との意識の違いなんだろう、と思ってしまう。

 

「ベル君、とりあえず神の恩恵(ファルナ)を刻むから、上着を脱いでそこにうつ伏せになってくれ」

 

「私達は外へ出てますね」

 

ミュウちゃんを連れ私達は部屋の外へ出る。少年は多少、恥ずかしがっていた様に見えたが、コレはこの世界では最初にしなければいけない事だ。

 

ミュウちゃんを横に寝かしつけ今後の事を考える。どうにか団員は3人になった。今はまだベル少年のレベルは低いだろうが、それもダンジョンに潜り続けていればなんとかなる。ダンジョンがどのくらい深いのかは解らないが、助け合えば結構良いトコロまでは行けるだろう。しかもそのうちに南雲達が来れば万事解決しそうな感じでもある。日々の生活費を稼いで、安全にダンジョンを踏破しつつ南雲達が来るのを期待する。コレが最善だろうか。

そんな事を考えている間にファルナを刻み終わったようだ。

 

「優花さん、ありがとう御座いました。コレから一緒に頑張ります」

 

「もう少ししたら夕飯の買い出しに行くから、それまでヘスティアと休んでて、ダンジョン探索は明日からにしよう」

 

「はい」

 

ミュウちゃんを柔らかく撫でつつ、夕飯何が良いかなと考える。少年はこれから頑張るんだからガッツリ系かな、と思わず自分が子供を産んだ時の事を考え優花は悶えるのだった。誰のとは聞くだけ野暮である。



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