ホロライブラバーズ 『数多の星を照らす者』獲得ルート (468(ヨルハ))
しおりを挟む

番外編
キミと願うミライ√雪花ラミィ


1周年記念話、です!
大変お待たせいたしましたぁぁぁ!!!

番外編ということで一応本編を読んでいなくても読むことができると思います。



それではどうぞ。


 

 

 

 

 

 これは、ありえたかもしれない物語。

 

 無限に分岐する人生の一つの可能性。

 

 一人の少女が願った、少年(キミ)とのミライ。

 

 

 

 その、一つの断章。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ん」

 

 小鳥のさえずる鳴き声とともに重い瞼を開けて少年は目を覚ます。

 しかしその意識はいまだ半分は夢の中。

 正直に言うと前日は遅くまで作業があったので二度寝をしていたい気分ではあるのだが、今日のこれからの予定のことを考えるとそうも言ってられないとベッドに寝ころんだまま指を軽く振って魔力で制御されたカーテンを開く。

 差し込む朝日に目が刺激され意識が徐々に覚醒する。

 

 

 

「眩しい…」

 

 しかしまだ春先とは思えない照りつくような朝日に思わず手で瞳を覆う。

 億劫とは言わないがさすがに朝一番に浴びるには些か過剰な光にもう少し何とかならないだろうかと太陽に向かって意味もない愚痴をこぼしそうになる。

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていると、少年の隣で安らかに夢の世界に飛んでいた()()()()が太陽の光を拒否せんとばかりにもぞもぞと動きながら毛布にくるまっていた。

 毛布に隠れて見えてはいないが少年の片腕はその少女の華奢な両腕によって抱きしめられて完全に固定されており自由に動けない状態。健康志向の少年がいまだにベッドから抜け出せていないのはこれが理由だったりする。

 

 毛布の隙間からわずかにクセのある艶やかなアイスブルーの髪がのぞく。

 それを見て何の気なしに指でその綺麗な髪を軽く梳く。一切の抵抗なく指の間をすり抜けていくそれが入念に手入れされているのは一目瞭然だろう。髪は女の命と分かってはいるが、これは一度体験してしまうとやめられない中毒性があるから仕方がないと自分に言い聞かせて二度三度と髪を傷つけないように梳いていく。

 

 

 

 

 

「んんぅ………」

 

 

 

 数分くらいそうしていただろうか。

 飽きることなく続けていると不意に聞こえてきたくぐもった声に少年はようやく我に返る。

 せっかく予定通りに起きたのにこのままではいけないとすでに若干の手遅れ感を感じながらも少年は少女を起こしにかからんといまだに固定されて動かせない腕とは逆の腕を使って軽くゆする。

 

 

 

「ほら、起きて。もう朝…」

 

「ん~、まだ寝るぅ…!」

 

「へ?うわ…!」

 

 

 

 少年の腕を固定していた腕が体の方に伸びる。

 少女の予期していなかった行動に少年は抵抗する時間もなく毛布の中に引きずり込まれた。

 

 二人が寝転んでもなお余裕があるサイズのベッドのスプリングが少年が倒れた衝撃でわずかに軋み反発する。

 だが巻き込まれた少年はそんな些事など気にするほどの余裕はすでになくなっていた。

 

 

 

 その原因は現在の二人の体勢にある。

 

 少女の腕は背中に回され、脚はもはや起きてやっているのではというくらいにしっかりと絡められており密着状態。扱いが完全に抱き枕のそれだった。

 さらにギューッという擬音が聞こえてきそうなほど結構な強さで抱きしめているのか、薄手のパジャマの上からよく分かる豊かな膨らみが胸板によって潰されフニフニと形を変えている。お互いの心臓の鼓動がダイレクトに伝わり心地よいやら恥ずかしいやらの感情が駆け巡る。

 

 そして何より顔が近かった。

 少年の視界は少女の顔で埋まっており、少し前に動けば触れられてしまうほどの近さ。それゆえに彼女の美しさというのがより鮮明に映った。

 白磁のような透き通った肌に人形のような整った美貌。視線を引き込み魅了するような黄金色の瞳は今現在閉じられているが、その美しさは贔屓目になるかもしれないが傾国の美女と称しても決して過言ではないだろう。

 

 

 

 少年としてはいつも見ている姿ではあるのだが、シチュエーションも相まって思わず赤面してしまい「ぅぁ…」と変な声が漏れる。

 

 しかし先ほども言った通り今日は予定がある。

 頭をブンブンと振ってたまっていた熱を飛ばす。眠っている彼女には申し訳ないがこれ以上の遅れは本格的にスケジュールに影響が出る。

 どうにか起こそうと声をかけようとして

 

 

 

 

 

「えへへ、悠くん…」

 

 

 

 

 

 そんな彼女の幸せそうな寝言を聞いた瞬間に全てがどうでもよくなった。

 

 確かに予定はある。だがそれは言ってしまえば二人のデートの予定であり、その内容も「お弁当を作ってどこかで食べよう」程度のもの。

 お弁当を作らなきゃいけなかったから早起きの必要があったのだが、今の彼女の様子を見て頭の中でリスケを決行した。

 

 これが惚れた弱みというやつだろうか。

 

 

 

 無防備な寝顔を見て自然と笑みがこぼれる。

 

 幸せそうな寝言を聞いて心が暖かくなる。

 

 抱き合って伝わってくる心音や温かさで多幸感が溢れてくる。

 

 

 

 一つ息を吐くと起き上がろうとした体から力を抜いてポスンと頭を倒す。

 すでに冴えたと思っていた頭が段々と生じた眠気によって夢へと誘われていく。

 元々二度寝したいと心のどこかで思っていたのもあったためかすぐさま意識が薄くなり瞼が落ち始める。

 

 

 

 

 

「おやすみ、ラミィ」

 

 

 

 少年───星宮悠は残った意識でどうにか力を振り絞ると少女───雪花ラミィの頭に手を置き一撫で。

 そして両腕をラミィの背中に回して抱きしめ瞼を閉じる。

 

 

 

 願わくば、彼女の見ている夢が幸せのままでありますように。

 最後にそんな祈りを捧げながら、悠は夢の中へと意識を落としていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたらラミィの顔が目と鼻の先になった。

 寝る前は閉じられていた黄金色の瞳が開かれており、悠の星のような瑠璃色の瞳と視線が交差する。

 

 

 

「あ、おはよう悠くん!」

 

「…おはよう、ラミィ」

 

 

 

 体勢は寝る前と変わらないまま、向けられるのは美しさというよりも愛らしさが際立つ花咲くような満面の笑み。

 

 寝る前に閉じていたカーテンを再び開けると差し込んでいた朝陽はすっかり昇りきり時間の経過を突き付けられる。

 ずいぶん長く寝てしまったようで体感的にはお昼前後といったところだろう。

 今から諸々準備して出掛けるとなるとあまり長い時間外に出ることはできなさそうだが。

 

 

 

「どうする?」

 

「…せっかくの休みだし出掛けたいな。最近話題になってるカフェがあるの、そこに一緒に行こ?」

 

「ん、そうしよっか」

 

 

 

 ということでリスケが完了。

 お互いに感じる温もりを惜しむように体を離すと、出掛ける準備を始めるためベッドから抜け出して行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とまあそれから少し経って今現在悠は一人待ち合わせ場所の公園でラミィのことを待っていた。

 同棲しているのだから家から一緒に行けばいいのではと思ったのだが、ラミィ曰く

 

「たまにはこういう雰囲気も大事にしたいの!」

 

 ということらしい。

 まあ離れることを嫌う彼女がこんなことをする理由は決してそれだけではないのだろうが、それは聞くだけ野暮というものだろう。それにこうして彼女を待つ時間も決して嫌いじゃない。いや、むしろこのわずかな緊張と楽しみが入り混じったドキドキ感もたまにはいいのかもしれないとすら思ってしまう。

 ちなみにこういう一人のタイミングで話すことの多い我が相棒のストライクハートだが、昨夜に行った大掛かりなメンテナンスで現在はスリープモードに入ってたりする。この状態の時のストライクハートはこちらから呼びかけない限り応答することはないので、メンテナンスはまあラミィとデートをする前日などの恒例行事なのである。

 

 春先にしては少々暑さがあるということで近場のコンビニでドリンクを二つ購入しそのうち一つをカバンに戻しもう一つに口をつける。喉を通る適度な冷たさが心地よい。

 

 

 

「ねえねえおにーさん、一人?」

 

「?」

 

 

 

 日差しをよけるために移動しながらそんなことを考えていると、後ろから声をかけられた。

 振り返ってみてみると、そこにいたのは一人の少女。服装といい出で立ちといいまさにギャルといった姿でポケットに手を入れながら下から覗き込むように悠を見つめている。

 

 

 

「暇だったらアタシと遊ばない?いいトコ知ってるんだ~」

 

 

 

 そう言いながらグイグイと距離と詰めてくるギャルの少女。

 客観的に見ても悠の顔立ちはそれなりに整っている方である。加えて今の服装はラミィセレクションで白を意識したカジュアルスタイル。一見して精悍というよりかは柔和な雰囲気を持つ悠だから押せばいけるという判断なのだろうか、悠が話す間もなく気づけば二人の距離はほとんどなくなっていた。

 普段はラミィがいつも一緒にいるからこういう(ナンパされる)経験なんて一度たりともなく一瞬口ごもるが、この状況をラミィに見られた時の未来を想像すると背筋が凍り付いた。

 

 

 

「えっと、申し訳ないけど彼女と待ち合わせしてるんだ。だから…」

 

「えー、こんなカッコいいおにーさんを待たせるなんてあんまりいい彼女さんじゃないんじゃない?アタシの方が楽しませられるよ~!」

 

 

 

 ギャルが悠の手を取り引っ張っていこうとする。

 だが悠は動かず、今の言葉を静かに反芻していた。

 

 

 

(今、この子は何て言った?)

 

 

 

 

 

 一瞬、悠は自分の顔から表情が消えるのを自覚した。

 どうしてだろうか?

 いや、理由なんて分かりきっている。

 

 よく知りもしない相手に彼女(ラミィ)をバカにされた。

 

 怒りを覚えるにはあまりにも自然で、至極真っ当な理由。

 そこに疑問を挟む余地なんてどこにもない。

 

 

 

(知りもしないくせに…)

 

 ふつふつと怒りが湧き上がる。

 前までならここまで怒りの沸点が下がることはなかったのだが、こと()()のことになるとどうしようもなく感情の振れ幅が大きくなってしまう。

 

 

 

「キミが…」

 

 ラミィの何を知っている。という言葉は出てこなかった。

 それより前に

 

 

 

 

 

「何をしているんですか?」

 

 

 

 迸る冷気とともに、件の彼女(雪花ラミィ)がやってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~~~~♪」

 

 ラミィは鼻歌交じりに悠との待ち合わせ場所までの道を駆け抜ける。

 足を踏み出すたびに彼女のトレードマークともいえるハートマークのアホ毛がぴょこぴょこと小さく揺れる。

 

 今日は朝から幸せの連続だった。

 朝の記憶自体はおぼろげだが、悠を無理矢理毛布の中に引きずり込んだラミィを優しくなででくれた。

 次に目が覚めたら悠に抱きしめられていた。普段抱きしめ返してはくれるものの、あまり悠の方からしてくれないだけにうれしさもひとしおだった。

 そして彼が起きるまで愛おしい寝顔を間近でずっと眺めることができた。

 

 加えてこれからのデートである。

 

 

 

 悠くんの一番好きなラミィでいたい。

 

 そのために洋服や化粧のチェックは入念にしたし、ちょっとしたサプライズ兼初デートのような外で待ち合わせるというシチュエーションに憧れて彼には先に待ち合わせ場所へ向かってもらった。

 好きな人に会いに行くという行為そのものがどうしようもなく鼓動を昂らせる。

 

 

 

(悠くんもそう思ってくれてるかな?…そうだと、いいなぁ)

 

 

 

 似合ってるって言ってくれるかな?

 

 かわいいって、思ってくれるかな?

 

 想像するだけで顔がにやけるのが止まらない。

 彼の声を聴いているだけで嬉しくて、見ているだけで嬉しくて、一緒にいられることが嬉しくて。

 そんな何気ない小さなことでも心臓が爆発しちゃうんじゃないかってくらいドキドキしっぱなしになってしまう。

 

 一途で純粋な(狂おしいまでの)愛情。

 

 それを親友の獅子の獣人に意気揚々と話したら「あーうん、まあらみちゃんらしいと思うよ…」と言外に若干引かれていたのは誠に遺憾だったが。

 

 

 

 

 

 閑話休題(そんなことはどうでもよくて)

 

 

 

 そろそろ待ち合わせ場所が見えてくる頃合い。

 逸る心のままに足並みを早めて駆け抜ける。

 十字路を曲がった先の公園が悠との待ち合わせ場所である。

 ラミィは抑えるつもりもない喜色にあふれた顔で十字路を曲がり、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠がギャルの少女に話しかけられているのを見てしまった。

 

 

 

「え………?」

 

 ラミィの足が止まり、そして思考が止まってしまった。

 その間にもギャルの少女は悠に迫り、その手を取って連れて行こうとする。

 

 なんでなんでなんで?

 ラミィの頭の中で一つの感情がはじけた。

 悠は絶対について行ったりしない。そんなことは当然分かってる。それだけの信頼とそれに足る時間を共に積み重ねてきた。

 

 分かっているし、理解もしている。

 それでも、納得できるかどうかは別の問題なのだ。

 他の女に言い寄られている事実に嫉妬してしまうのは、仕方がないじゃないか。

 

 はじけた感情が魔力を溢れさせ、現実を改変していく。

 足を踏み出す度に地面が凍り付く。

 周囲の空気が急激に冷却され、氷点下を下回った水分が小さな氷の粒に変化する。

 

 

 

「何をしているんですか?」

 

 気づけばラミィは、二人の目の前までその身をさらけ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(あー、これはやらかした…)

 

 湧き出していた怒りはすっかり鳴りを潜め、今の感情をいうなればそれは『諦観』だろう。

 本当ならラミィが来る前に終わらせたかったのだが現実はそううまくいかないもので。

 

 やってきたラミィはその足を止めることなく悠たちの元までやってくるとギャルの少女の手を悠の腕から引きはがし、そのまま自身の腕と胸の中に抱きすくめるとキッと睨みつけた。

 

 

 

 悠は自分の彼氏なんだと見せつけるように。

 

 自分は悠の彼女なんだと知らしめるように。

 

 

 

 正直に言うと少女に向けている視線もあまり怖いものではなかったのでひとまず直接的な矛先が相手にいかなかったことに安堵した悠だが、ラミィの感情の発露による凍てつくような冷気がいまだ続いていることに気づいた。

 春から冬へ季節が逆行したかのような急激な変化に空恐ろしさを感じつつも、ひとまずこの場を収めるために悠はおもむろにラミィによって固定されているのとは逆の腕を使ってラミィを抱き寄せた。

 

 

 

「ひぁ…!?」

 

 ラミィから頬を朱に染めて変な声が漏れる。

 すると冷気が収まりみるみるうちに周囲の気温が戻っていく。

 

 

 

「…まあということでこれ以上大事な彼女の機嫌を損ねるわけにはいかないから。遊ぶのは勘弁してくれるとありがたいかな」

 

 やや申し訳なさそうな表情で言う悠にラミィは腕の中でプクーと頬を膨らませて強い視線を悠に向ける。

 その顔にはいかにも「これで許したりしたわけじゃないから!」というなんとも可愛らしい心情がありありと浮かんでおり、最初の底冷えするかのような声に恐怖してしまっていた少女も今ではラミィをどこか保護者みたいな目線で見てしまっている有様である。

 

 

 

「アッハハハ!!!ゴメンゴメン!おにーさんがカッコよかったからついね。それじゃあお邪魔虫は退散ってことで、じゃーねー!」

 

 ニシシとあくどい笑みを浮かべて駆けだす少女。

 と思いきやふと立ち止まりこちらを見ると手をブンブン振って声を上げる。

 

 

 

「あ、おにーさん!こんなにに想ってくれるいい彼女を離しちゃダメだからねー!!!」

 

 

 

 さっきと言ってることが真逆ではないか、というツッコミが喉まで出かかってしまったのをどうにかギリギリで抑え込む。もはやノリと勢いだけで生きているかのような少女は再び二人に背を向けて走り出し、今度は止まることなく気づけば既にその姿は見えなくなっていた。

 

 まるで嵐が過ぎだった直後のような静寂。

 

 

 

「…ごめん、ラミィ。不安にさせ…ぐぇ」

 

 謝罪の言葉は最後まで出てこなかった。

 言葉の途中で顔を伏せたラミィの全力の抱擁によって止められてしまった。

 

 

 

「ラミィ以外の子の手をとってた」

 

「…ごめん」

 

 それに関しては弁明のしようがない事実である。

 すぐに離そうとした、などと言ったとしてもそれはただの言い訳でしかない。

 

 

 

「…頭撫でて」

 

「え?」

 

「抱きしめて、頭撫でて!」

 

 

 

 地味に要求が増えてるではないか。

 しかしこうなったときのラミィは止まらないし、やってくれるまで「やだやだやだ!」と子供の癇癪のように言い続けるのはここまで一緒に過ごしてきた中で学習した。

 

 

 

「そしたら、許すから」

 

 

 

 それに、こんなことを言われてしまったらやらないわけにはいかないじゃないかとわずかな逡巡の後にラミィの要求通りにする。

 下手に力を入れたら折れてしまいそうな細い体を抱きしめる。「んぅ」と声を漏らすラミィに愛しさを覚えながらポンポンと頭に手を置いて割れ物を扱うかのようにゆっくりと頭を撫でる。

 お互いに動かない、動けない。

 こんな幸せな時間がずっと続いてほしいと思ってしまうがゆえに。

 

 

 

 そこから二人が動き出すまで30分の時間を要した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的のカフェは待ち合わせに公園からほど近い場所にあった。カジュアルで明るいよくあるカフェというわけではなく、木を基調に彩られたその外観はシックで大人なイメージを感じさせる。

 最近話題とラミィが言っていたのもあって満席も覚悟していたが、時間帯がすでに昼を過ぎ黄昏時に近くなっておりピークタイムを過ぎているのか客足は悠とラミィを覗いて数組といったところであった。

 

 席に余裕があるということで背もたれがあるテーブル席を選ぶ。

 ラミィを先に座らせ、悠もまた当然のように向かい側ではなくラミィの隣へ座った。

 テーブル席に座るときの二人のいつものスタイルである。

 

 一息つくと置いてあったメニュー表を二人の間において顔を寄せ合って見る。

 思ったよりメニューは豊富でオムライスやパスタといった主食系、サンドイッチやパンケーキといった軽食系、はたまたケーキやパフェといったデザート系と種類には事欠かずの多さであった。

 どれにしようかと悩みながらも注文が終わり、悠はラミィの横顔をチラッと見て何かに気づく。

 

 

 

(あ、髪型が違うんだ)

 

 

 

 さっきの騒動が原因であまりゆっくり見る時間がなかったから気づくのが遅れたが、普段のラミィとは髪型が変わっていた。わずかにクセのある艶やかなアイスブルーの髪が今は綺麗なストレートに伸ばされており、その一部を黒いリボンで左右に結ったいわゆるツーサイドアップという髪型である。

 おそらくはこの準備兼サプライズのつもりで悠を先に行かせたのだろう。

 普段見れない姿というのは鮮明に、そして魅力的に映る。

 無意識にじっとラミィのことを見ていた悠だが、その視線に気づいたラミィが悠に視線を合わせる。

 

 

 

「?どうしたの悠くん」

 

「え?あー、その………」

 

 下から覗くようにこちらを見つめてくるラミィに思わず言葉を詰まらせる。

 付き合ってるとはいえいまだに可愛いと褒めるという恥ずかしさに抵抗がなくなるわけではない。

 でも、多分ラミィはそれを求めているのであろう。

 それが分かってしまうからこそ、悠は逃げることはしなかった。

 

 

 

「…髪型、変えたんだね。普段と違って快活なイメージで、とても似合ってる。…可愛いよ」

 

「………ふぇ」

 

 瞬間、ラミィの頬が朱に染まる。

 おや?と悠は一つ疑問。

 

 ラミィはかなりの甘え上手である。

 褒めて褒めてとねだってくることもあるし、それで素直に褒めたら満面の笑みを返してくる。

 少なくとも、こんなふうに褒められて黙ることはただの一度もなかった。

 

 

 

「み、見ないで!」

 

 

 

 咄嗟にラミィは悠の目を手で隠して物理的に視界を塞ぎにかかる。

 「え、ちょ!?」と悠が困惑しているが、ラミィにその声は聞こえず顔を伏せる。

 

 

 

 

 

 ダメダメダメ。

 絶対に悠くんに今の顔は見せられない。

 もし見られでもしたら恥ずかしすぎて死んでしまう。

 

 

 

 隠した理由は単純明快で、とてもこんな嬉しさで破顔しきった顔など悠には見せられないからだ。

 

 口角が上がるのが止められない。

 頭の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられない。

 絶対に今だらしない顔をしていると本能が告げている。

 

 普段は来るって分かっているから耐えられるのだ。

 こんな唐突に、こんなにまっすぐに目を見て褒めてくるなんて不意打ちもいいところだ。

 

 

 

 あぁ、でも、嬉しすぎる。

 嬉しくないわけがない。

 ぐちゃぐちゃになった頭がとめどなく湧き出る愛情で一色に塗りつぶされてふわふわと思考がまとまらない。

 

 悠の目を塞いでいた両手を離すと、ラミィはすぐさまそれを悠の背中に回す。

 顔はいまだ伏せたまま。それでいて強く強く、決して離さないと言わんばかりに腕に力をこめる。

 

 悠がまたもや困惑した声で呼びかけてくるが知らない。

 もともとそっちが原因なんだ。今はおとなしく抱きしめられていればいいんだ。

 

 そんなことを思いながら、ラミィは注文が届くまでグリグリと頭を悠に押し付けながら抱きしめ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れさま悠くん。今日もご飯美味しかったよ!」

 

「お粗末さまでした。ラミィも手伝ってくれてありがとう。助かったよ」

 

「ううん。ラミィも楽しかったし」

 

 

 

 デートも無事に終わり、時は夜。

 風呂、食事とすませた悠とラミィの二人はソファで並んで座っている…というわけではなかった。

 では何をしているのかというと

 

 

 

「ふっふっふ、気持ちいいですか~?痒いところはありませんか~?」

 

「あはは、気持ちいいよ」

 

「うん、それじゃあ反対向いて、反対のお耳も綺麗にしちゃうからね~」

 

 

 

 別にやましいことでもなんでもなくいたって普通の耳かきであった。

 悠の頭ををラミィの膝の上にのせてラミィは満足げな笑顔。綿棒や梵天を使って丁寧に悠の耳を綺麗して、気持ちよくしていく。

 

 

 

 カシュカシュと綿棒で擦る。

 フワフワとした梵天で耳の中をかき回す。

 時折ささやくように耳元で声をかける。

 

 

 

 まごうことなきASMR。

 耳から伝わってくる快感に悠は徐々に意識を微睡の中に落としていく。

 瞼が重くなり「ふわぁ…」と気の抜けたあくびをする。

 

 

 

「…あ、そろそろ眠くなってきちゃった?」

 

>「……ん」

 

 悠の寝ぼけた生返事を聞いてラミィはクスッと声を漏らす。

 そろそろ終わりかな、と考えながら持っていた梵天耳かきを悠の耳から外す。

 太ももに感じる悠の重さと温かさを感じながら悠の頭を撫でる。女性の髪とは違う、でもどこか癖になる悠の夜空を体現したかのような濡れ羽色の髪に優しく触れる。

 「んん」と再び悠が生返事をして

 

 

 

 

 

>「ラミィ、好きだよ………」

 

 

 

 悠が小声でこぼしたその言葉を聞いて、ラミィはその動きをピタッと止めた。

 意識が半分落ちた状態で放たれた今の言葉、すなわち無意識、深層で抱いている感情の発露だということを理解するのにさほど時間はかからなかった。

 

 

 

 あ、これ限界だ。

 ラミィは自身の中のストッパーが壊され…いや、消滅するのを自覚した。

 

 

 

 

 

「…ねえ、悠くん。こっち向いて?」

 

「…ん?ラミィ、どうした…んん!?」

 

「ん…」

 

 

 

 軽く寝ぼけたままラミィの方を向くと、視界がラミィの顔で埋まっていた。

 そして、唇に感じる柔らかい感触。

 

 眠気が一瞬で吹き飛んでしまった悠は星の輝きを持つ瑠璃色の瞳を目いっぱい開く。

 唇が軽く触れあうだけのライトキス。

 しかし悠の意識を覚醒させてしまうにはあまりにも十分すぎるものだった。

 

 わずかな硬直の後、チュッと小さなリップ音を鳴らし触れていた二人の唇が離れる。

 そして悠は見た。

 閉じていた瞳を開き、吸い込まれるような黄金色の瞳を悠に向けて妖しく微笑むラミィの姿。

 

 

 

 それは、朝に見た向日葵のような可憐な笑顔ではない。

 

 それは、とても美しく、それでいて妖艶な、薔薇のような魔性の微笑み。

 

 

 

「ねえ、悠くん」

 

「な、なに…?」

 

 ラミィはまたも微笑む。

 視線を決して逸らさず、逆に恥ずかしさから背けようとした悠の顔を両手で挟み込むように固定する。

 

 逃げちゃだめだと言うように。

 今のキミはラミィの為すがままなんだよと言い聞かせるように。

 

 この時点で悠は完全に抵抗するのを諦めていた。

 ラミィが手を離した後も赤くなった顔のままぼーっとラミィを見つめている。

 それを見てラミィは再び顔を悠に近づける。しかし触れ合うことはなく、触れ合う直前のギリギリの距離。

 妖しい光を放つ瞳の魔力にでもかかったかのように二人の視線は交差し、固定される。

 

 

 

「ラミィも悠くんのことが好き、大好きだよ、愛してる」

 

 

 

 とめどなく愛情があふれ出す。

 ダムが決壊したかのように際限なく、とどまることを知らず、まるで爆発したかのように。

 今のラミィに他の感情なんてひとかけらも存在しない。

 すべてを飛び越えた感情の暴走。

 

 

 

「悠くんを見てるだけでこんなに胸がドキドキする。ときめいてる。ラミィはもう悠くん以外見えないよ」

 

 

 

 

 

「だから、悠くんもラミィのことだけ見ててね」

 

 

 

 ラミィは再び悠とキスを交わした。

 先程より深く、深く、愛情を余すことなく伝えるように。

 

 二人の影が、ひとつに重なった。




ご読了ありがとうございました!
こういったテイストの小説は書いたことがなかったのでかなりの難産でしたが、楽しんでいただけたら幸いです。
今後もこういった番外編はちょくちょく投稿していこうと思います。



もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

設定集
世界観と設定集(随時更新)


【ホロライブラバーズとしての設定】

 

 選択難易度は『ハード』。

 

 完全スキル制。スキル獲得数に上限はなく、鍛錬、バトロワ、イベント、または特定条件達成でスキルを獲得できる。

 レベルという概念は存在せず、ステータスは鍛錬またはイベントによってのみ上昇する。

 ステータスの種類は『HP』『MP』『物理攻撃力』『魔法攻撃力』『防御力』『素早さ』の6つ。また表にはない隠しステータスに『技量』『知力』『精神力』などが存在する。

 

 

 

 

 

ー世界観設定-

 

 世界観は現世(うつしよ)幽世(かくりよ)、魔界、天界が共存する混合世界。

 共存しているといっても昔はだれでも自由に行き来できるわけではなく、その世界ごとに一応の隔たりは存在していた。しかし力ある者は無理やり通ることができ、それが繰り返されるうちにその隔たりが徐々に曖昧になっていくことで、今ではふとした拍子に世界を跨いでしまう『世界渡り』と呼ばれる事象も起きてしまう。

 また、皮肉にもそんな事象が繰り返されることで幽世に住む鬼や天界に住む天使などの様々な種族がすべての世界の中心に位置する現世で共生ができており、そんな多種族を受け入れているのが『ホロライブ学園』である。

 ちなみに現在はその世界間の歪みとも言えるものを固定化することで世界間を繋ぐ(ゲート)が作り出され、そこからさまざまな世界へ赴くことが可能になっている。

 

 月一で行われるバトルロワイヤルや日々の戦闘授業はホロライブ学園特有のもの。

 様々な種族を擁するこの学園では、それぞれの価値観や持ちうる歴史や知識に大きな違いが存在する。

 その中でただ一つといっていい共通する価値観が『武力』。

 魔物や聖獣、はたまた神や魔王といった超常の存在が跋扈するこの世界では『武力』というのは唯一無二の存在証明であり永劫不変の共通概念。

 多種多様な種族が生活を共にするホロライブ学園だからこそ、その『武力』に特化したカリキュラムを組む必要があったのである。

 

 

 

ー魔力について-

 この世界における超常的な力の源。

 ほかにも超常的なものに「妖力」や「霊力」が存在するが、根源的にはすべて同じ存在であり、宿す種族や世界によって呼び方が変わっている。

 

 

 

 

 

 

ー主人公設定-

 

星宮悠(ほしみやゆう)

 

 本作主人公。

 済んだ夜空を体現するような濡れ羽色の髪に、一番星のような強い輝きを秘めた瑠璃色の瞳を持つ。

 

 両親は3年前に他界しており、現在はその両親が残したインテリジェントデバイス『ストライクハート』と一人と一機暮らしをしている。

 一人(と一機)暮らしが長いため一般的な家事全般はこなすことができ、中でも料理は得意中の得意。

 両親の仕事を幼いころから見続けていて機械工学に興味を持ち、両親の仕事を手伝うようになり今では大人顔負けの知識と技術力を持つ。

 

 性格は基本的に温和な印象を与えるもので、種族に関わらず平等、困っている人がいたらつい声をかけてしまうほどにはお人よし。

 しかし一度戦闘になると表情が一変し、好戦的とはいかずとも目的のためなら絶対にあきらめない不撓不屈の精神を持つ。

 

 戦闘方法は魔法演算補助デバイス『ストライクハート』を用いたミッドチルダ魔導。悠はその中でも『セイクリッドタイプ』に分類される魔導師である。

 特徴としては飛行魔法で制空権を確保しつつ、高火力の中~遠距離魔法で圧倒していくスタイル。

 防御力にも秀でており、多様な防御・補助魔法でかなりの堅牢さを誇る。

 

 

 

 

 

 

ー所持スキル一覧ー

 

 

 

>基礎スキル

【魔導の才覚】【魔導の才覚】【人脈】

 

>エクストラスキル

【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】【リンカーコア】【カートリッジシステム】【???】

 

>一般スキル

【料理上手】【買い物上手】

 

>戦闘スキル

【空中機動】【適応力】【杖術】【高速変形】【マルチタスク】【挑戦者】【魔力感知】【起死回生】

 

>経歴スキル

【不撓不屈】【過去からの誓い】【???】

 

 

 

【魔導の才覚】

 魔法使用時の消費MPが半減する。

 

【人脈】

 ホロライブメンバーのイベント発生率、好感度上昇率がアップする。

 

 

 

【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)(Lv2)】

 今は亡き国の魔法形態であり失われた魔法(ロストマジック)。使用者は今現在では極めて限られている。

 

 ミッドチルダ魔法が使用可能になる。

 ミッドチルダ魔法以外の魔法が使用不可になる。

 (魔法使用時の消費魔力-10%)

 

【リンカーコア】

 心臓部に存在する魔力回路とは異なる魔力源。

 周囲の魔力を収集し自身の魔力へと変える特異な特性を持ち、同時に明確な弱所でもある。

 

 常時MPリジェネを付与する。

 被クリティカル時に20%の確率で自身のMPが50%減少する。

 

【カートリッジシステム】

 使用デバイスに「CVK-792」を搭載した状態。

 圧縮魔力を積んだカートリッジを炸裂させることで瞬間的に爆発的な魔力を得られるがその分扱いも難しく、知能を持つ分繊細なインテリジェントデバイスとの相性は決して良くない。

 悠たちの場合は本人の意思とデバイスの強度を引き上げることによって実装を可能にした。

 

 カートリッジ専用魔法が使用可能になる。

 使用デバイスの耐久力が上昇する。

 

 

 

【料理上手】

 料理が上手に作れる。

 ホロライブメンバーに料理を作ることで好感度が上昇する。

 

【買い物上手】

 買い物を行う時、商品の値段が10%低下する。

 

 

 

【空中機動(Lv2)】

 空中での移動速度、回避率が20(+5)%上昇する。

 

【適応力(Lv2)】

 戦闘開始から5分経過でクリティカル率、回避率が10(+5)%上昇する。

 

【杖術(Lv2)】

 「杖」を装備時、物理攻撃力が20(+10)%上昇する。

 

【高速変形(Lv2)】

 武器の形態変化速度が30(+20)%上昇する。

 

【マルチタスク】

 魔法の同時使用が可能になる。

 

【挑戦者】

 自身より最大HPが多い相手との戦闘時、クリティカル率が10%、クリティカル威力が30%上昇する。

 

【魔力感知】

 一定範囲内の魔力をの動きを感知する。

 対象は魔力を持つ生命体と魔力攻撃全般。

 

【起死回生】

 自身のHPが30%以下で物理攻撃力、魔法攻撃力が50%上昇する。

 

 

 

【不撓不屈】

  自分の為すべきことが、たとえどれだけ困難でも、どんな絶望が待っていようとも、決してくじけず諦めず、自身の限界すら超えて立ち向かい、乗り越えようとする強い意志の力。

 

 常時精神異常状態を無効化。

 自身のHPが30%以下時に魔法威力、魔法効果、クリティカル率、クリティカル威力が50%上昇する。パーティメンバーのHPが30%以下時は対象一人につき追加で30%(最大150%)上昇する。

 

【過去からの誓い】

  幼い頃から憧れて、過去に為すことができなかったもはや狂気じみた『自分の手に届く人を救う』という誓いである。

 

 『関係が大切な人以上』の人数に応じて全ステータス20%(最大100%)上昇する。

 

守る誓いと殺す呪い

 守ると約束した存在を目の前で殺された絶望は常人に計り知れるものではない。

 それでもなお守るという想いを捨てないのは、悠が内に眠るレガリアに死してなお願った『守る』という願いが彼を突き動かしているからである。

 

 しかしその『守る』という「誓い」は、同時に『殺す』という「呪い」でもある。

 殺された際にレガリアに願った『守る(殺す)』という相対する願いが、『守る』という気持ちが強い表の悠と『殺す』という気持ちが強い裏の悠を切り離した。

 呪いが表面上に出てくることは基本的にないが、守るべき者を守れなかったときや怒りが極限まで強くなった時など、要は表の悠の存在が揺らいだ時に裏の悠が姿を現す。

 

 敵が味方に攻撃時に確率で『庇う』強制発動。

 

 

 

 

 

ー技スキル一覧ー

 

>射撃魔法

『ディバインシューター』『アクセルシューター』

 

>砲撃魔法

『ディバインバスター』『ディバインバスター・エクステンション』『エクセリオンバスター』『クロススマッシャー』『スターライトブレイカー』

 

>防御魔法

『プロテクション』『ラウンドシールド』『エクセリオンシールド』『バリアバースト』

 

>補助魔法

『レストリクトロック』『フラッシュムーブ』『アクセルフィン』『エリアサーチ』

 

>その他

『閃打』『ワールウィンド』『スナイプ』『ダブルバースト』

 

 

 

『ディバインシューター(Lv2)』

 誘導操作が可能な魔力球を作り出して攻撃する小威力の射撃魔法。

 使用MPによって個数が変化し、最大は8個。

 (威力+20%)

 

『アクセルシューター(Lv2)』

 誘導操作が可能な魔力球を作り出して攻撃する小威力の射撃魔法。

 『ディバインシューター』より精密な操作が可能。

 カートリッジを1発使用し、生成個数は20個。

 発動中は移動不可。

 (威力+20%)

 

 

 

『ディバインバスター(Lv2)』

 魔力をチャージして撃ちだす高威力の砲撃魔法。

 チャージ時間は5秒(オーバーチャージで攻撃範囲と威力上昇)。

 防御無視、バリア特攻効果付与。

 発動中は移動不可。

 (チャージ時間-20%)

 

『ディバインバスター・エクステンション(Lv2)』

 魔力をチャージして撃ちだす高威力の砲撃魔法。

 『ディバインバスター』より射程距離、砲撃速度が大幅上昇。

 カートリッジを2発使用し、チャージ時間は5秒。

 防御無視、バリア特攻効果付与。

 発動中は移動不可。

 (チャージ時間-20%)

 

『エクセリオンバスター』

 魔力をチャージして撃ちだす高威力の砲撃魔法。

 僅かな誘導制御を持ち、着弾時に反応して炸裂・誘爆を引き起こす。

 カートリッジを1発使用し、チャージ時間は3秒(追加カートリッジかオーバーチャージで砲撃数増加、最大5門)。

 防御無視、バリア特攻効果付与。

 エクセリオンモードでのみ使用可能。

 

『クロススマッシャー(Lv2)』

 魔力をチャージして撃ちだす中威力の砲撃魔法。

 射程を犠牲にしてチャージ時間を限界まで短縮している高速近接砲。

 チャージ時間は1秒。

 防御無視効果付与。

 防御魔法の上から発動可能。

 (チャージ時間-20%)

 

『スターライトブレイカー(Lv2)』

 周囲に散らばった魔力を集めて放つ超高威力の収束型砲撃魔法。

 自身、相手が使用したMP総量によって威力上昇。

 防御無視、バリア特攻効果付与。

 発動中は移動不可。

 (チャージ時間-20%)

 

 

 

『プロテクション』

 触れたものに反応して対象を弾き飛ばす防御魔法。

 物理耐性に上昇補正。

 防御範囲が広く、発動速度が遅い。

 発動中は移動不可。

 

『ラウンドシールド(Lv2)』

 魔方陣を展開して円形の盾を作り出す防御魔法。

 物理耐性、魔法耐性に上昇補正。

 防御範囲が狭く、発動速度が速い。

 (シールド耐久力+20%)

 

『エクセリオンシールド(Lv2)』

 魔法陣を展開して多重装甲型の円形の盾を作り出す防御魔法。

 物理耐性、魔法耐性に超上昇補正。

 防御範囲が狭く、発動速度が遅い。

 カートリッジを1発使用する。

 (シールド耐久力+20%)

 

『バリアバースト(Lv2)』

 自身の防御魔法を爆発させる小威力の攻性防御魔法。

 防御魔法発動中のみ発動可能。

 吹き飛ばし効果付与。

 (威力+20%)

 

『レストリクトロック(Lv2)』

 発動から完成までに指定区域内に脱出できなかった対象全てを光の輪で拘束する捕縛魔法。

 対象に移動不可、技スキル発動不可効果付与。

 使用MPによって効果範囲、効果時間延長。

 対象の物理攻撃力によって効果時間短縮。

 発動から完成までは移動不可。

 (相手と接触時にチャージ時間-100%)

 

『フラッシュムーブ(Lv2)』

 瞬間的に加速する高速飛行魔法。

 『アクセルフィン』使用中のみ使用可能。

 (移動速度+20%)

 

『アクセルフィン(Lv2)』

 両足に魔力の羽を展開する飛行魔法。

 『フライアーフィン』より最大飛行速度が上昇。

 空中を移動中に継続してMPを消費する。

 空中で停止中はMPを消費しない。

 (移動速度+20%)

 

『エリアサーチ』

 索敵機(サーチャー)を生み出す索敵魔法。

 指定した地点から半径100mの情報をパーティメンバー全員に共有できる。

 目に見えない対象は補足不可。

 

 

 

『閃打』

 拳に魔力を纏って拳撃を放つ小威力の物理攻撃。

 相手にノックバックを付与。

 

『ワールウィンド』

 横薙ぎの2連撃を繰り出す中威力の物理攻撃。

 両手斧・槍斧(ハルバート)専用スキル。

 

『スナイプ』

 威力・命中率に上昇補正をかけて狙撃を行う高威力の物理攻撃。

 狙撃銃(スナイパーライフル)専用スキル。

 

『ダブルバースト』

 威力に上昇補正をかけて射撃を行う小威力の多段物理攻撃。

 両手に2丁持ったときのみ発動可能なフルオート銃専用スキル。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ホロライブ学園入学前
Part0 キャラクリエイト


RTA作品は初投稿です。


 

 

 ガッチガチのハーレムを作りに行くRTA(風実況)はーじまーるよー。

 (RTAでは)ないです。

 

 ということで今回やっていくゲームはこちら、『ホロライブラバーズ』!

 まあこのゲームを知らない人もいらっしゃると思うのでまずはこのゲームの説明をば。

 『ホロライブラバーズ』とはタイトル通りホロライブ所属のVTuberたちと恋愛をしていく、と言いたいのですがそれだけではなく、かなり自由度の高いキャラ育成とバトルロワイアル要素を組み合わせたゲームとなっています。

 

 また、恋愛ゲームにしてはバトロワを含めたバトルの難易度が非常に高く、トロフィーの種類も多種多様と非常にやりごたえのあるゲームですね。

 あ、ちなみにストーリーの分岐ルートはまさに無数といっていいほど存在しており、発売から時間が経ってるにもかかわらず解析も十分には進んでないというのが現状です。

 頭おかしいですね。(誉め言葉)

 

 ちなみに難易度は『ハード』でやっていきます。

 超鬼畜難易度の『オーディション』もあるのですが、あんなのやる人は天才か変態かドМしかいないと思うので。

 なんでみんな『オーディション』で走れるんですか?(真顔)

 

 

 

 さて、さきほどトロフィーの種類が多種多様という話をしたのでついでに今回獲得を目指すトロフィーの紹介をしたいと思います。

 今回目指すトロフィーはズバリ『数多の星を照らす者』です!

 トロフィーの獲得条件は後々時間が空いた時に説明していくとしてまずはさっそくキャラクリをやっていきたいと思います。

 

 

 

 まずは種族からですね。

 ホロライブラバーズには合計7種類の種族が存在します。

 

『人間』

 特に大きな特徴ナシ。

 ステータスも平均的だが、その分自由度が高い。

 

『魔族』

 戦闘時に時間経過で魔法攻撃力が上昇。

 ステータスはHPに下降補正、MPと魔法攻撃力に上昇補正。

 

『聖騎士』

 戦闘時に時間経過でHPリジェネ効果付与。

 ステータスはMPに下降補正、HPと防御力に上昇補正。

 

『獣人』

 基礎スキルに『敏捷』スキルを追加取得。

 ステータスは防御力に下降補正、素早さと物理攻撃力に上昇補正。

 

『妖精』

 戦闘時に時間経過でMPリジェネ効果付与。

 ステータスは物理攻撃力に下降補正、魔法攻撃力と素早さに上昇補正。

 

『機人』

 基礎スキルに『頑健』スキルを追加取得。

 ステータスは魔法攻撃力に下降補正、物理攻撃力と防御力に上昇補正。

 

『鬼人』

 全属性攻撃に耐性付与、戦闘時に時間経過でステータスが上昇。

 ステータスは全て上昇補正。

 プレイヤーは選択不可。

 

 

 

 以上の7種族ですね。

 はい鬼人だけ頭一つ抜けておかしい性能してますね。

 まあ当然としてプレイヤーは選択できないわけですが。

 

 ちなみに種族に関わらずホロメンと同種族の場合は好感度に上昇補正がかかります。

 攻略したいキャラがいるならそのキャラと同種族にするのもおすすめですねー(百鬼あやめ(かわ余)さんや天音かなた(ラージャン2Pカラー)さんを攻略したい人はがんばれ)。

 

 

 

 さて改めて選択する種族ですが、ここは迷わず『人間』ですね。

 理由はこの後の基礎スキルガチャでの自由度的に妥協ラインが若干下がるっていうのが一つ、もう一つあるのですがそれはまた後程。

 

 次は名前を決めましょう。

 といっても今回はランダムで決定していきましょうねー。

 

 

 

 

 

『星宮 悠』

 

 

 

 

 

 『ほしみや ゆう』ですかね。

 ほゆ君………呼びにくいのでここは普通にユー君でいきましょう。

 

 

 

 続いては基礎スキルガチャです!

 キャラクリにおいてはこの基礎スキルガチャが一番重要になってきますね。

 基礎スキルとはストーリー開始時に所持している3つのスキルのことで、この基礎スキルの組み合わせで主人公の育成ルートが大体決まるので、こういう風に育てたいっていうのがあるならここでリセマラする必要がありそうですね。

 ちなみに今回のプレイではこの育て方をするっていうのは特に決めてないので相当ひどい組み合わせでもない限り出たとこ勝負にしたいと思っています。

 

 ではではさっそく引いていきましょう!

 結果は………

 

 

 

 

 

【魔導の才覚】【魔導の才覚】【人脈】

 

 

 

 

 

 ………おお?

 これは面白い…ていうかこの組み合わせ、ある超珍しい発展スキルにリーチかかってますよ!!!

 そのリーチかかってる必要なスキルも基礎スキル限定ではないのでストーリー始まってから取れる可能性もあるので今回はこのままやっていきましょう!

 

 と、つい興奮してしまいましたが出たスキルの説明をしましょうか。

 

 まず【魔導の才覚】ですが、これは魔法使用時の消費MPが半減するスキルですね。

 今回【魔導の才覚】スキルが二つ取れているので1/4になります。

 やったねユー君!いっぱい魔法が使えるよ!

 

 もう一つの【人脈】ですが、これはホロライブメンバーのイベント発生率、好感度上昇率がアップするスキルですね。

 汎用性のあるスキルですし、今回獲得目指すトロフィーとも相性抜群です。

 あって損するスキルではないですが、戦闘で使えるスキルではないのでそれらと比べるとバトロワ時の難易度はより跳ね上がりますのでそこだけ気をつけましょう。

 

 

 

 では最後に攻略ヒロインの設定をしましょう。

 ちなみにこれ、攻略ヒロインは一人だけではなくゲーマーズや3期生などグループで設定することも可能ですし、未設定なんてこともできます。

 未設定の場合でもちゃんと好感度を上げていけば恋愛エンドに辿り着けるのでこれからやってみようって人も安心ですね。

 

 今回は『未設定』でやりたいと思います!

 

 

 

 これでキャラクリは終了ですね。

 それではこの後は恒例のながーいOP(オープニング)がありますので…

 

 

 

 

 

み な さ ま の た め に ~

 

 

 

 

 

 最初に説明していなかったトロフィー『数多の星を照らす者』の獲得条件の説明をしていきましょう。

 獲得条件は合計3つです。

 

 一つ目の条件は『種族:人間でプレイ』です。

 種族を選んだ際にもう一つの理由は後程と言いましたがもう一つの理由はこれですね。

 

 

 

 二つ目の条件は『学内バトルロワイアルで合計10回以上1位をとる』です。

 いやまあ条件見たときは「マジか」と思いましたよね。

 

 『ホロライブラバーズ』におけるバトロワは毎月の頭に「学内バトルロワイアル」という形で行われます。

 学年別に行われて、1学年100人+αで学園の敷地を舞台にバトロワが開始されます。

 +αの部分がキモで、これは上級生の乱入ですね。

 そして乱入してくる上級生はネームドキャラ、つまりホロメンに限定されているんですね。

 まあモブの上級生とか乱入されても誰得ではありますが。

 当然ホロメンたちはステータス、スキル共にモブなどとは格が違うのでこの上級生たちをどう攻略していくかがトロフィー獲得の一つのカギになってくるわけです。

 

 

 

 最後に3つ目の条件は『0,1,2,3,4,5期生、ゲーマーズそれぞれから合計5人以上交際した状態でクリアする』です。

 はい、ハーレムです。

 全力でイチャイチャしにいきます。(固い決意)

 

 ちょっとこれだけじゃ分かりにくいと思うので簡単に補足すると、同じグループから5人交際しても獲得条件は満たさないということです。

 5グループ以上からそれぞれ一人以上交際する必要があり、これは言ってしまえば6グループからそれぞれ一人ずつと交際しても、5グループ以上いれば同グループから二人以上交際してもトロフィー条件は満たしていることになります。

だから下手に攻略ヒロインを設定するとメインヒロインのイベントで時間をとられて学年の違う他のホロメンなどとの好感度が足りなくて条件達成ができなくなります。

 だから攻略ヒロインを『未設定』にする必要があったんですね。(メガトン構文)

 

 

 

 

 

 と、ちょうどいいタイミングでOPが終わりましたね。

 それでは今回はここまでにしたいと思います。

 ご視聴ありがとうございました。




最初は難易度『オーディション』で走ろうと思ったのをチキってやめたので失踪します。


 はい、ということで最後まで見ていただきありがとうございます!
 いろいろと初めてなことも多いので稚拙な内容になるかと思いますが、どうか温かい目で見ていただけると嬉しいです。

 誤字報告、感想、評価などは大きな励みになります!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part1 迷子のエルフと空を飛ぶ

感想が嬉しすぎたので初投稿です。


 入学前からホロメンと交流を持ちにいく実況プレイ、はーじまーるよー。

 

 

 

 ということで前回はキャラクリとOPが終わったところまでいきましたね。

 今回は入学1ヶ月前からスタートしていきます。

 ではいこう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マ………ター、マスター!朝ですよ、起きてくださいー!」

 

>時刻は朝の6時、耳元へ響く陽気な声を聞いて目を覚ます。

 

>いまだに重い瞼を開けてまず最初に視界に入ったのはチカチカと点滅しながら宙に浮かんでいる青い宝石。

 

>「…おはよう、『ストライクハート』。相変わらず朝から元気だね。」

 

「それはもちろん!マスターを起こすのは私だけの役目ですからね!」

 

>そう言いながら僕の周りをふよふよと漂う宝石ーーー僕の相棒兼意思を持つ魔導補助デバイスであるストライクハートのその姿に誇らしげにドヤ顔をする少女を幻視してしまった。

 

「さあ、顔を洗ってスッキリしたら朝の訓練を始めましょう!私の準備はいつでもオッケーですよ!」

 

>「分かったよ。それじゃあいこうか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 き、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

 初期からデバイス持ち!

 青い宝石なのに性格はややカレイドルビーを彷彿とさせますね、それはそれで良き…

 

 そしてこれは経歴スキルで発展スキル獲得に必要なスキルを得ちゃってますねぇ!

 スキルスキル連呼しちゃってますがこればっかりは致し方なし!

 ではこの間に所持スキルの確認と行きましょうか!

 

 

 

 

 

ースキル一覧ー

 

 

 

>基礎スキル

【魔導の才覚】【魔導の才覚】【人脈】

 

>エクストラスキル

【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】【リンカーコア】【???】【???】

 

>一般スキル

【料理上手】

 

>経歴スキル

【不撓不屈】【過去からの誓い】【???】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 来ましたねぇ、発展(エクストラ)スキルの【ミッドチルダ魔導】!

 前回言っていたリーチがかかっている発展スキルとはまさにこれのことです!

 

 【ミッドチルダ魔導】とは知ってる人は知っているリリカルマジカルな魔法少女の魔法が使えるようになるスキルのことです。

 このミッドチルダ魔導は獲得難度が高いうえに非常にバリエーションに富んだスキルで、今回獲得した【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】もそのうちの一つ。

 他のタイプにはライトニングやL・O・G(ロードオブグローリー)などが存在し、それぞれ獲得条件や戦闘方法も変わります。

 ちなみにミッドチルダ魔導と似て非なるものに【古代ベルカ魔導】や【近代ベルカ魔導】なども存在しており、元の作品は同じですがミッドチルダ魔導とは別枠のスキルとなります。

 

 今回はセイクリッドタイプに限定して説明していきますので、他のタイプについて知りたい場合はコメントで聞いていただけるとそちらの方で答えさせていただきますね。

 

 セイクリッドタイプは全力全開!な白い魔王少女(誤字にあらず)の魔法が使えます。

 まずはスキル獲得条件ですが、これは2つあり

 

「種族が人間」「【魔導の才覚】スキル×2、【不屈】系統のスキル×1所持」

 

となります。

 今回は経歴スキルの【不撓不屈】が不屈系統のスキルとしてカウントされてますね。

 

 

 

 ちなみにこのスキルの獲得難度が高いっていう理由の大部分が「種族が人間」「【魔導の才覚】スキル×2」の組み合わせにあります。

 先に言っておくと、基礎スキルガチャに出てくるスキルってそれぞれに確率の偏りがあるんですよね。

 その中でも【魔導の才覚】は出てくる確率が比較的低いです。

 逆に確率が高いのは【敏捷】や【頑健】といったステータスそのものに影響するスキルたちですね。

 

 さらにそこに追い打ちをかけるのが「種族が人間」というものです。

 実は種族によって基礎スキルガチャに出てくるスキルの確率に若干の補正がかかります。

 例えば種族が魔族であればそれこそ【魔導の才覚】や【黒魔術】といった種族によるステータス補正にかみ合ったスキルが出る確率が上がります。

 

 そして人間ですが………

 はい、お察しの通り補正は一切なしですね。

 そんな状態で【魔導の才覚】を二つ引き当てろっていうんですからそりゃ取得難易度も高くなるってものです。

 

 

 

 そしてセイクリッドタイプのスタイルですが、簡単に言うと中~遠距離特化で高防御力、超高火力の遊撃型ですね。

 戦闘方法としましては飛行魔法で空を飛びつつ、防御や牽制、拘束魔法で敵の動きを止めて大火力の砲撃魔法を叩き込む、というのが基本になると思います。

 防御が固く火力も出るので、近接戦に持ち込まれない限り1VS1ではそうそう不利にはならない性能してますね。

 

 

 

 さて、他のスキルも見てみましょう。

 一般スキルでは既に【料理上手】を取得していますね。

 このスキルの有用性は先駆者様が示してくれた通りです。

 特に今回は学年の違うホロメンも攻略していく必要があるのでそこらへんで大いに活躍してくれそうですね。

 

 

 

 エクストラスキルではもう一つ、【リンカーコア】が追加されていますね。

 これはミッドチルダ魔導や古代・近代ベルカ魔導を取得すると自動的につくスキルです。

 効果としては「常時MPリジェネ付与」と「被クリティカル時に20%の確率で自身のMP50%減少」という複合スキルになります。

 メリットとデメリットが両方混在しているスキルなのでうっかり忘れていると後が大変になるので注意が必要ですね。

 

 

 

 経歴スキルは【不撓不屈】【過去からの誓い】の二つです。

 えーと、それぞれのテキストですが…

 

 

 

不撓不屈(ふとうふくつ)

  自分の為すべきことが、たとえどれだけ困難でも、どんな絶望が待っていようとも、決してくじけず諦めず、自身の限界すら超えて立ち向かい、乗り越えようとする強い意志の力。

 

 「常時精神異常無効」「自身のHPが30%以下時に魔法威力・魔法効果・クリティカル率・クリティカル威力50%上昇。パーティメンバーのHPが30%以下時は対象一人につき追加で30%(最大150%)上昇」

 

【過去からの誓い】

  幼い頃から憧れて、過去に為すことができなかったもはや狂気じみた『自分の手に届く人を救う』という誓いである。

 

 「『関係が大切な人以上』の人数に応じて全ステータス20%(最大100%)上昇」

 

 

 

ですね。

 あっこれはトラウマ持ちですわぁ…(察し)

 

 ま、まあスキル効果を見るとなかなか強力なスキルたちですね。

 「常時精神異常無効」は文字通りですね。

 精神異常は具体例を挙げると『魅了』や『恐慌』状態が該当します。

 どちらもかかってしまうと行動そのものを制限されてしまうので単騎で挑む際には致命的です。

 それがなくなるだけでもありがたいですね。

 

 「自身のHPが30%以下時に魔法威力・魔法効果・クリティカル率・クリティカル威力50%上昇。パーティメンバーのHPが30%以下時は対象一人につき追加で30%(最大150%)上昇」はいろいろと書かれていますが、要は自身か味方のHP減少で火力が上がると思ってもらえれば楽ですね。

 【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】は防御が高いのであえてHPを減らしてからスキル発動圏内にしてから戦う戦法もできそうです。

 

 「『関係が大切な人以上』の人数に応じて全ステータス20%(最大100%)上昇」も見たまんまでしょうか。

 これは序盤からヒロイン攻略に乗り出すのもアリですね。

 まあそれに注力しすぎても序盤では効果を発揮しないスキルなのでうまくバランスをとっていく必要がありそうです。

 

 

 

 そしてみなさんの気になっているであろうエクストラスキルと経歴スキルにある【???】ですね。

 【???】は簡単に言うとスキルとして獲得はしていますが任意での使用ができないスキルとなります。

 解放条件は様々ですが、特定のスキルの熟練度によって解放、特定のアイテムを確保、特定のイベントクリアなどが多い印象ですね。

 

 スキル内容についてですが、これに関してはこの時点である程度の推測ができますね。

 

 エクストラスキルにある2つの【???】ですが、これは十中八九【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】の熟練度によって解放される強化スキルでしょう。

 どんな強化スキルかは出たときのお楽しみとしておきましょう!

 

 最後に経歴スキルの【???】ですが、まあこれは間違いなく『トラウマスキル』の類でしょうねー。

 解放条件は「過去回想イベントの閲覧」あたりでしょうか。

 どのタイミングで出てくるか予想が全くつかないのでこれも要警戒ですね。

 

 

 

 

 

 さてさて!

 スキル解説に結構時間がかかってしまいましたが、そろそろゲームの方に戻っていきましょう。

 今はちょうど朝の訓練が終わって朝食をとるところですかね?

 訓練を日課にしてくれているのは助かります!

 その分熟練度やステータスも上がりますからね。

 

 

 

 

 

>朝食を終えて食器を片付ける。

 

>もう一人暮らし…いや、一人と一機暮らしを始めてから3年たったが、ようやく人に出せそうなレベルまで料理はできるようになったようだ。

 

 

 

 

 

 んー、やはりというべきかユー君に両親はいないようですね。

 この原因も過去回想イベントなどで明らかになっていくのでしょうか。

 私、気になります!

 

 

 

 

 

>「さて…と、じゃあストライクハート。いつもの始めようか?」

 

「はい!朝のメンテナンスは大事ですよー!これで私の気分が良くなるんですから!」

 

>「そこは性能とか安定性とかじゃないんだね…」

 

>そんな僕の呆れ声は聞こえなかったふりをしたのかストライクハートは答えずにひとりでに地下のメンテナンス室に降りていく。

 

>僕もそれに遅れないように駆け足で追いかけていった。

 

 

 

 

 

 うーんこの二人(?)のやり取りを見てるとほわほわしてしまいますね。

 それにしてもユー君は自分でストライクハートのメンテナンスができるんですね。

 まあ外に依頼を出さない分お金はかかりませんし、もしかしたらストライクハートに取り付けられる武装ユニットとかもパーツなどを集められれば自作できるようになるかもしれませんね。

 

 さて、それでは無事にメンテナンスも終わったようなのでここから本格的に行動開始となります。

 

 

 

 

 

>今日はいい天気だし、外に出ればいいことがありそうな気がする。

 

>今日は何をしようか?

▶鍛える

 出かける

 休む

 

 

 

 

 

 はい、ということで初めての選択肢ですね。

 そしてここで注目してほしいのが選択肢が出る前のセリフです。

 このセリフのときに「出かける」を選ぶと高確率でホロメンとの遭遇イベントが発生します。

 まあ高()()なので外れることもありますが。(10敗)

 これが出たときは相当なことがない限り「出かける」一択が定石です。

 では「出かける」でいきましょう!

 

 

 

 

 

>出かけることにした。

 

>家を出たはいいが、どこに出かけようか?

▶ゲームセンター

 公園

 適当にぶらつく

 

 

 

 

 

 続いてどこに出かけるかですね。

 この選択肢は場所によって出現するホロメンやランダムイベントの種類が変わります。

 

 今回で言うと「ゲームセンター」は言わずもかなホロライブゲーマーズとの遭遇確率が高いです。(会えるとは言ってない)

 

 「公園」は種族が人間のホロメンが出てきやすいですね。(会えるとは以下略)

 また公園は体力回復の小イベントが出ることもあります。

 体力が少ないときは選択肢に入りそうです。

 

 「適当にぶらつく」ですが、これは遭遇できるホロメンは完全にランダムですね。

 特定のホロメンを狙う上では微妙ですが、逆にいい点もあって、この選択肢はホロメン遭遇イベント以外のイベントが存在しません。

 ですのでとりあえず誰でもいいので少しでも遭遇イベントの確率を上げたい時などは有効ですね。(会え以下略)

 

 今回は「適当にぶらつく」でいきましょうか。

 

 

 

 

 

>適当にぶらつくことにした。

 

>ネックレス状態のストライクハートと念話を使って何気ない会話をしていると、なにやら話し声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 お、来ましたね、遭遇イベントです!

 勝ったな、風呂入ってきます。

 …と、冗談は置いといて、続きを見ていきましょう。

 

 

 

 

 

「あの、困ります!急にそんなこと言われても…」

 

「いいじゃねえかYO!道案内してほしいんだろ!?その代わりにちょっとお茶しようぜってだけだからYO!」

 

「だから今日は急いでてそんな時間は…!」

 

>そこにいたのは一人のエルフ…いや、ハーフエルフの少女で、どうやら複数の男に囲まれているところらしい。

 

>ハーフエルフの少女は腰あたりまである水色の髪に特徴的な寒冷地仕様の服装…もしかして白銀の大地ユニーリアに住むっていう『雪の一族』だろうか。

 

>何やら状況を見るに男たちは無理やり迫って少女も困っているようだし…

 

>どうしようか?

▶助けに行く

 見なかったふりをする

 

 

 

 

 

 ラミィちゃんだーーー!!!!!

 ………と第一声で叫んだわけですが、その前に一個だけ言わせてほしいことがあります。

 

 

 

 

 

 なぜ男の語尾がDJ調!?

 

 いや多分さしたる理由なんてないんでしょうけど!

 なんかそっちのインパクトがデカくてラミィちゃんに対するリアクションが遅れちゃったんですけど!

 

 えー、それじゃあ改めまして、遭遇できたホロメンは5期生の清楚枠、雪国育ちの『顔が肝臓』こと雪花ラミィちゃんですね!

 軽く解説するとラミィちゃんはハーフエルフ…ゲーム内においては妖精族に分類されるので種族による好感度補正はかかりません。

 ですが戦闘では後衛での魔法火力と氷魔法による相手のデバフ、「ヒール」などで回復役もこなせるといういてくれるとかなりありがたい存在です!

 これはヒロイン一人目で確定しちゃっていい感じですかね?

 

 選択肢は当然「助けに行く」で!

 

 

 

 

 

>助けに行こう。

 

>〈ストライクハート、もしもの時のために準備よろしくね。〉

 

〈はあ、まあマスターならそうするだろうとは分かっていましたけど…分かりましたマスター、タイミングは合わせます。〉

 

>念話でやや気乗りのしない声のストライクハートにいつものように申し訳ないというような笑いで返すと、少女の方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 ふむ…?

 今の会話…というか魔法による念話の内容はちょっと気になりますね。

 

 単純にストライクハートが気乗りしないのはユー君との二人の時間を減らされたから…だけならいいんですけど、この情報だけでは詳しいことは分からないでしょうね。

 まあこのことは一旦置いといて、気を取り直してラミィちゃん救出といきましょうか!

 

 

 

 

 

>「あの、そこまでにしたらどうですか?無理やりは感心できませんよ。」

 

「え?あ、あなたは…?」

 

「ああ!?なんなんだYO!関係ない奴はすっこんでなYO!」

 

 

 

 

 

 だからDJ口調で話すのやめてもらっていいですか!

 ホントに気になってさっきからプレイしてて変な笑いが出そうなんですけど!

 

 

 

 

 

>とりあえず男たちの注意をこっちに引いて、ハーフエルフの子との間に入り込めたけど…ここからどうしようか。

 

>ここはそれなりに人通りがあるからこれ以上騒ぎになるのは僕としても急いでいると言っていた彼女としてもまずいだろうし。

 

>さて、どうする?

▶説得を続ける

 実力行使で撃退する

 一緒に逃げる

 

 

 

 

 

 おっとここで選択肢ですか。

 まず除外すべきは「説得を続ける」でしょうね。

 理由としましてはこの手のイベントでこの選択肢はループして無為に時間を使うだけになりそうですし、何より一番の理由はこんなしゃべり方をする人とは少しでも早く会話を終わらせたいからです!

 なんならそろそろ腹筋がヤバいことになりそうなので…クッ(漏れ出す笑い)。

 

 ということで残りは「実力行使で撃退する」か「一緒に逃げる」かですが、これはまあ「一緒に逃げる」が安パイでしょうね。

 「実力行使で撃退する」ですが、この選択肢でやれば間違いなく周囲の目に映って騒ぎになってしまいます。

 そうなってしまえば警察などが呼ばれて時間を食ってしまいますし、最悪乱暴なことをしたとしてラミィちゃんからの好感度が下がりかねません。

 そんなガバはこんな序盤でやっている暇はないので、ここは「一緒に逃げる」を選びます。

 

 

 

 

 

>「ねえ、お兄さんたち、よくこんな往来がある場所でこんなことできますね。周りの人が何しているか気付いてませんか?」

 

「な!?何言ってやがる…!」

 

>「…よし、キミ、逃げるよ!」

 

「へ?えぇ!?ちょ、ちょっと…!」

 

「あ、てめえ!何勝手に逃げてんだYO!」

 

>一瞬男たちの意識が周りの目に移った瞬間にハーフエルフの子の手を握って走り出す。

 彼女は突然のことで困惑しているようだけど、今だけはこのままでいてもらうほかない。

 ちなみにさっきの僕の言葉は当然男たちの気を逸らすためのフェイクであり、周りの人たちのほとんどはこの騒動を遠巻きに見ているだけであった。

 それに思わないことがないわけではないが、それはあくまで個人的な感情でしかないからこれ以上は気に留めないことにする。

 

 男たちは慌てて追いかけてくるが、少しでも距離が稼げた時点でもうやることは決まっている。

 僕は彼女の手を引いたまま裏路地に入り込んで男たちからの視線を切る。

 

>「よし、今のうちに…ごめんなさい、先に謝っておく。ちょっとだけ我慢してね。」

 

「へ!?あの、急に何をってひゃあ!!?」

 

>「静かにして、しっかりつかまっててね!」

 

 

 

 

 

 お、おおお!!!

 ユー君がラミィちゃんの背中と膝裏をもって横抱きに…これはもしかしなくてもお姫様抱っこやっちゃってますねえ!

 

 羞恥心で顔を真っ赤にしながらもユー君にしっかりとしがみつくラミィちゃんかわええんじゃあ~~~。

 対するユー君もラミィちゃんほどではないにしろ顔を赤くしちゃってますね。

 初々しくてこっちの顔がにやけてしまいます。

 

 

 

 

 

>「いくよストライクハート、『フライアーフィン』!」

 

「了解ですマスター!『フライアーフィン』展開!」

 

>飛行魔法である『フライアーフィン』を発動すると両足から魔力によって作られた青白い羽が展開される。

 それを確認すると、今一度しっかりと彼女のことを持ち抱えて空へ飛翔する。

 二人の体は一瞬で建物群の屋上を飛び越えて大空へと舞い上がる。

 

「ふわあぁ…!すごい………!!」

 

>腕の中にいる彼女はおそらく初めての「空を飛ぶ」という現象に、そしてそこから見える世界の景色に見惚れているようだ。

 先程まで不安や困惑といったものしか見せなかった瞳はキラキラと輝いており、しきりにキョロキョロと周囲を見回して初めての光景を目に焼き付けているように見える。

 

 そんな彼女を尻目に先程まで僕たちがいた場所を見てみると、男たちが慌てた様子で裏路地の探索を始めている。

 そしてしばらくするとようやく諦めたのか、イラついた様子を隠すこともなく裏路地から去っていく。

 

>…とりあえず何とかなった…かな?

 

 

 

 

 

 どうやら無事に解決したようですね!

 それにしてもラミィちゃん可愛いですね~!(2回目)

 いやあんなキラキラした表情見せられたらこんな感想しか出てきませんでした…!

 

 と、このままだったらずっと同じことを言うだけで終わっちゃいそうなのでゲームに戻っていきましょう。

 ラミィちゃんはひとしきり満足したのかユー君の方を見て…あ、今の状況を再確認した&かなり整ったユー君の顔を間近で見てまたみるみるうちに顔を真っ赤にしちゃいました。

 

 

 

 

 

「あ、あの!そろそろ降ろしてもらってもいいですか…?恥ずかしい……」

 

「むー!マスター!早く降りますよ!ハリーハリー!」

 

>「え、あ、ああ、そうだね。じゃあ戻ろうか。」

 

>地上に戻って彼女をゆっくりと降ろすと、彼女はトッと軽やかに降り立つと未だに赤い顔をしたまま頭を下げてきた。

 

「えっと、助けてくれて、ありがとうございました!ラミィの名前は『雪花ラミィ』といいます。お名前をうかがっても…?」

 

>「いや、こっちこそいきなりあんなことしてごめんなさい。そしてどういたしまして雪花さん。僕の名前は星宮悠、こっちが相棒のストライクハート。」

 

()()()()()()()のストライクハートです!よろしくお願いしますね。」

 

>ネックレス状態のストライクハートがピョコンと浮かび上がると雪花さんの前に躍り出る。

 なんだかセリフの一部分が強調されてた気がするけど…

 

「わ!?こ、この子は…精霊ではないですよね?」

 

>「うん、ストライクハートは精霊じゃなくてインテリジェントデバイス…えっと、意思を持つ魔法の補助をしてくれる機械って言ったらいいかな。」

 

>「機械!?それにしてはその…随分反応が自然というか…」

 

「ふふーん!それは私が高性能だからですよー!」

 

 

 

 

 

 ロボ子さんの決め台詞奪わないであげて(切実)。

 

 

 

 

 

>「そういえば雪花さん、何か急いでいたんじゃなかった?」

 

「え…あ!そ、そうでした!今度入学する学園の制服を取りに来たはいいんですけど、帰りの駅までの道が分からなくなっちゃいまして…」

 

>「道を聞こうとしたら絡まれてしまったと…」

 

「うぅ、その通りです。」

 

>「それは災難だったね…それにしてもこの近くの学園っていうと、ホロライブ学園?」

 

「は、はい。そうですけど…もしかして?」

 

>「うん、僕も来月からそこに通う予定なんだ。同期になるのかな?」

 

 

 

 

 

 ほう、ラミィちゃんと同学年ですか。

 実はホロメンの学年の分かれ方というのがいくつかパターンがありまして、大まかに3つ存在します。

 

 まずデビュー順に別れるパターンですね。

 この場合は0・1期生、2・3期生&ゲーマーズ、4・5期生という分かれ方になり、同学年は4・5期生ということになりますね。

 

 次は完全ランダムで分かれるパターンです。

 これに関しては一切の規則性がなく、1期生の先輩が5期生なんてことも起こりえます。

 

 そして最後に走者の皆様を例外なく地獄に叩き落としているパターンが全員同学年というパターンです。

 これに関してはもう言うことありませんね、オーディションであろうがなかろうかリセット安定です(20敗)。

 

 今はひたすら全員同学年じゃないことを祈りましょう。

 

 

 

 

 

「同学年だったんだ…あの、ご迷惑じゃなければ連絡先を交換しませんか?同じ立場の人がいてくれると嬉しいですし。」

 

>「こっちこそ喜んで!これからよろしく、雪花さん。」

 

「…ラミィ、でいいですよ。その代わりこっちも悠くんって呼んでいいかな?」

 

>そう言うと彼女は右手をこちらに差し出す。

 緊張しているのか少し強張った顔つきでこちらの様子をうかがっている。

 

 そんな彼女の…ラミィの手を僕はしっかりと握り返し、こう返した。

 

>「…うん、分かったよ。改めてこれからよろしく、ラミィ。」

 

>瞬間、ラミィは可憐な花のような笑顔を浮かべた。

 

《雪花ラミィと友達になった!》

 

 

 

 

 

 あ゜っ(尊死)。

 このラミィちゃんの笑顔は反則ですわぁ…!

 これでまだまだ序盤ですからね、これからどうなることやら。

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、悠くん。駅までの道を教えてもらっていいかな…?」

 

 

 

 

 

 あっ。




スキル解説で時間をかけてしまったので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part2 鍛錬、そして戦闘へ

平日に書けなくて土日での突貫作業なので初投稿です。


 ひたすら鍛錬に励む(予定の)実況プレイはーじまーるよー。

 前回は雪花ラミィちゃんに出会って終了しましたね。

 ちなみに前回投稿主()の腹筋を壊しかけたDJモブ男ですが、気になりすぎてサポートセンターに問い合わせてみたところ、

 

「ストーリーには何ら関係のない一般NPCです。そういうものです。」

 

 と返されました。

 

 

 

 そういうものなんだ。(洗脳済み)

 

 

 

 さて、それでは今回やることですが、まあホロラバ走者ならお馴染みひたすら鍛錬タイムですね。

 難易度が『ハード』とはいえトロフィー獲得条件に『学内バトルロワイアルで合計10回以上1位をとる』がありますからね。

 数回程度なら取りこぼしても何とかなりますが、一番難易度の低い初回のバトロワは1位をとっておかないと後が相当キツくなってしまいます。

 

 一応入学までに欲しいスキルはいくつかあるのですが、それは手に入った時にでも説明しましょうか。

 

 

 

 

 

>今日は何をしようか?

▶鍛える

 出かける

 休む

 

 

 

 

 

 さてさてそれでは自由時間に入りましたので早速やっていきましょう。

 何か変化がない限り1~2週間はずっと鍛錬タイムですので、ここら辺は倍速してやっていきましょうか。

 では「鍛える」で!

 

 

 

 

 

>今日は外で鍛錬をしていこう。

 

>……………

 

>魔法の使い方に慣れてきた気がする。

 

《【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】の熟練度が上がった。》

 

《【空中機動】を習得した。》

 

 

 

 

 

 お、初手で【空中機動】スキルの習得はウマ味ですね。

 これは欲しかったスキルの一つなので説明を入れていきましょう。

 あ、裏では鍛錬風景を垂れ流ししておきますねー。

 

 さて、【空中機動】のスキル効果ですが、これは二つあり「空中での移動速度20%上昇」「空中での回避率20%上昇」の複合スキルです。

 

 ちなみにこのスキルに限った話ではありませんが、殆どのスキルは熟練度の上昇によってスキル効果も上がっていきます。

 【空中機動】に関しては熟練度によって最大移動速度と回避率が30%まで上昇していきます。

 スキル効果が汎用的なものなので初手でこのスキルを習得しておけば鍛錬で熟練度が上がり、入学最初のバトロワでより有利がとれるというわけですね。

 これは運が向いてきていますね!

 

 

 

 

 

>少年鍛錬中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>少年鍛錬中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>少年鍛錬中

 

 

 

 

 

 な ん で 等 速 に す る 必 要 が あ る ん で す か

 

 

 

 

 

>今日も一日が終わり残すは寝るだけとなった夜、不意にストライクハートから報告が入った。

 

「マスター、こんな時間に申し訳ないですが、()()()()。」

 

>「…!うん、ありがとうストライクハート。こっちも感知したよ。」

 

>いつも陽気な雰囲気を崩さないストライクハートだが、()()()になると鳴りを潜めて冷静になる。

 そうさせている自分自身に嫌気がさして謝罪の言葉が出かかるが、それをギリギリで飲み込んで行動を開始する。

 

>「場所ははずれの森の中…エルフの森が隣接してるのか。」

 

「被害を出させるのも忍びない…ですよね、マスター?」

 

>「…敵わないな。さすが相棒だよ。」

 

「ええ、私はマスターの相棒ですから!」

 

>「よし、最速でいくよ!ストライクハート、セットアップ!!!」

 

>ストライクハートを天に掲げてセットアップ(起動)する。

 その瞬間僕の体が光に包まれて、光が収まるとそこに二つほどの大きな変化があった。

 

 簡素な部屋着だったのもが、白を基調に青のラインが入ったロングコートとボトムスに、局所的に金属パーツや宝石が取り付けられており絢爛でありながらやや重厚感がある見た目へと変化…『バリアジャケット』へと換装していた。

 さらに手には青い宝石がついた機械的な印象を受ける杖…「デバイスモード」のストライクハートを持っている。

 

 『バリアジャケット』の感触を確かめると、すぐさま『フライアーフィン』を展開、出しうる最高速度をもってはずれの森へ駆け出した。

 

 

 

 

 

 ええ…(困惑)

 

 いきなりの急展開ですね。

 ま、まあこのシリーズはRTAではないので別に急いでいるわけではないのですが、このイベントは経験したことがないので不安半分期待半分といったところでしょうか。

 

 イベントの流れとしてはユー君とストライクハートが何かを感知して急行ですね。

 初めてというわけではなさそうなので過去から繰り返しやってきたことなのでしょう。

 被害云々の話が出たのでおそらく敵対戦力との戦闘になるでしょうか。

 そしてさらっと初めての戦闘スキルが出ましたので説明をば!

 

 出てきた戦闘スキルは『バリアジャケット』ですね。

 これは【ミッドチルダ魔導】【古代ベルカ魔導】【近代ベルカ魔導】における共通スキルとなります。

 

 デバイス起動と同時に魔力で作られた防護服を着用するスキルで、効果としては「防御力上昇」「寒暖による影響の無効化」という複合スキルですね。

 地味にありがたいのが二つ目の「寒暖による影響の無効化」です。

 このゲームは本当に細かくて、ゲーム内の環境でプレイヤーに様々な効果が付与されます。

 例えば寒冷地では移動速度にデバフがかかり、熱帯地では「継続ダメージ」がかかります。

 

 他にも環境による効果は様々です。

 『バリアジャケット』はその中で先程説明した寒冷地と熱帯地の影響を無効化してくれます。

 今回ラミィちゃんは攻略していくつもりなので寒冷地に行くことはありそうですね。

 と、そろそろ目的地に着きますかね。

 

 

 

 

 

>はずれの森に到着すると、『フライアーフィン』を解除して地上に降り立つ。

 木が生い茂る森の中だ、空から森の中は見えないし戦闘時以外では魔力の無駄になるから飛行はしないでいこう。

 

「マスター、昔にこの町に住んでいたのですよね?」

 

>「うん、といっても6年前に2年間だけだったけどね。その頃は魔法は使えなかったし、こんなはずれの森に行くことなんてなかったからここの内情なんて分からないんだけど。」

 

 そんな会話をして森の中に入ると、魔力反応を追って対象を探していく。

 見つけたのはそのわずか5分後のこと。

 

 一見すればそれは獅子をかたどった魔獣であった。

 しかしその体長は一般的な獅子を軽く超えており5メートルほどはあるだろうか。

 加えて背中には蝙蝠のような翼、尻尾に至っては蛇になっている。

 探していた対象は合成魔獣…いわゆるキメラである。

 

>「見つけたはいいけど…デカいな。」

 

「そうですね、結構堅そうですし、下手な魔法じゃ傷一つつかない可能性もあるかと。」

 

>「まあ、それならそれでやりようはあるよ。…始めようか。」

 

 

 

 

 

 はい戦闘始まりましたー!

 予想はしてたけどやっぱりそうでしたね。

 まだキメラからは発見状態になっていないので今のうちに戦闘スキルと取得済みの魔法の確認をしましょうか。

 

 

 

 

 

>戦闘スキル

 

『バリアジャケット』『空中機動』

 

・魔法

『ディバインシューター』『ディバインバスター』『スターライトブレイカー』『フライアーフィン』『プロテクション』『ラウンドシールド』『バリアバースト』『レストリクトロック』

 

 

 

 

 

 お、このイベントまで鍛錬を続けてたおかげで初期では使えない『バリアバースト』と『レストリクトロック』が解放されてますね。

 ちなみに魔法の一種である『バリアジャケット』ですが、プレイヤーが任意で発動する魔法ということではないので魔法扱いとはなりません。

 ですがちゃんと展開と同時にMPは消費します。

 しっかりしてますね。(真顔)

 

 しかしまあこれだけ魔法の種類があると一個一個説明を入れたら時間がかかりすぎるので今回は魔法効果だけざっくり見ていきましょう。

 

 

 

 

 

『ディバインシューター』

 誘導操作が可能な魔力球を作り出して攻撃する小威力の射撃魔法。

 使用MPによって個数が変化し、最大は8個。

 

『ディバインバスター』

 魔力をチャージして撃ちだす高威力の砲撃魔法。

 チャージ時間は5秒(オーバーチャージで攻撃範囲と威力上昇)。

 防御無視効果、バリア特攻効果付与。

 発動中は移動不可。

 

『スターライトブレイカー』

 周囲に散らばった魔力を集めて放つ超高威力の収束型砲撃魔法。

 自身、相手が使用したMP総量によって威力上昇。

 防御無視効果、バリア特攻効果付与。

 発動中は移動不可。

 

『フライアーフィン』

 両足に魔力の羽を展開する飛行魔法。

 空中を移動中に継続してMPを消費する。

 空中で停止中はMPを消費しない。

 

『プロテクション』

 触れたものに反応して対象を弾き飛ばす防御魔法。

 物理耐性に上昇補正。

 防御範囲が広く、発動速度が遅い。

 発動中は移動不可。

 

『ラウンドシールド』

 魔方陣を展開して円形の盾を作り出す防御魔法。

 物理耐性、魔法耐性に上昇補正。

 防御範囲が狭く、発動速度が速い。

 

『バリアバースト』

 自身の防御魔法を爆発させる小威力の攻性防御魔法。

 防御魔法発動中のみ発動可能。

 吹き飛ばし効果付与。

 

『レストリクトロック』

 発動から完成までに指定区域内に脱出できなかった対象全てを光の輪で拘束する捕縛魔法。

 対象に移動不可、技スキル発動不可効果付与。

 使用MPによって効果範囲、効果時間延長。

 対象の物理攻撃力によって効果時間短縮。

 発動から完成までは移動不可。

 

 

 

 

 

 わーお、いかにもセイクリッドタイプ()()()魔法ばかりですね。

 メリットとデメリットがとても分かりやすいです。

 しかし初期魔法もそうですが特に追加された『バリアバースト』と『レストリクトロック』の使い方がカギになりそうですね。

 

 さてさて、それではどう戦いましょうか………うん、決めました!

 事前に戦い方を言っちゃうのもアレなので、実戦形式でやっていくとしましょう!

 もしかしたら状況次第で変わるかもしれませんし。

 あ、戦闘中は口数減ると思うのであらかじめご了承くださいね!

 それじゃあいきましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>(キメラはまだこっちに気づいてない…なら!)

 

 

 

 先手必勝とばかりに基本形態であるデバイスモードのストライクハートを構えて魔法を発動する。

 足元に僕の魔力光と同じ瑠璃色の魔法陣が展開され、周囲に計8個の同じく瑠璃色の魔力球が現れる。

 

 体外に発生した魔力に反応したのかキメラがグルンとこちらに振り返る。

 しかし既に魔法は展開済み、キメラが威嚇の咆哮をあげるがもう遅い。

 

 

 

>「ディバイン…シューター!!!」

 

 

 

 放たれた魔力球はそれぞれが別の軌道を描きキメラに殺到する。

 森の木々を利用して時折魔力球がキメラの視界から消える。

 それにイラついたのかうっとうしくなったのかキメラはそれらを無視して飛びかかってくるが、その次の瞬間、放たれたすべての魔力球が多方向からキメラの体を穿った。

 

 魔力球によるダメージと衝撃で飛びかかりで空中にいたキメラが地に落ちる。

 

 

 

>「…やったか?」

 

 おいそれフラグ。

 

「あ、マスター、それフラグ…」

 

 

 

 僕のセリフ(フラグ)にストライクハートと天の声(?)が何かを察し、そしてその通りにことは動く。

 傷を負いながらもムクリと何事もなかったかのように起き上がったキメラは、先程より獰猛な表情になると再び凶悪な牙をむいて突っ込んできた。

 

 

 

「だから言ったじゃないですかマスター!」

 

>「いや、うん…ごめんなさい。」

 

 

 

 そんなコントじみたやり取りをする二人だが、状況は決して待ってくれない。

 もう眼前に迫ったキメラに、それでも慌てることなく悠は次の魔法を発動した。

 

 

 

>「ラウンドシールド!」

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 発生した強烈な衝撃と音に周囲の木々が激しく揺れ動く。

 ぶつかりあうはキメラの牙と円形の魔法陣。

 二つの力がせめぎあい、火花を散らす。

 しかし仮にもヒトと魔獣、膂力の差は歴然である。

 その力は完全に拮抗しているとは言えず、悠が徐々に押し戻されるが、浮かべる表情は余裕の笑み。

 

 もうすでに、悠は勝利への道筋は描き切っていた。

 

 

 

>「バリアバースト!」

 

 

 

 派手な爆発とともにキメラがはるか後方に吹き飛ばされる。

 攻性防御魔法の『バリアバースト』は発動中の防御魔法を魔力を流して暴発させるものである。

 物理攻撃でバリアに接触している相手にしか効果はないが、条件が整っていればその効果は折り紙付き。

 彼方に吹き飛ばされたキメラはその勢いのまま木に激突し崩れ落ちる。

 

 しかしこの程度でやられるのであれば最初の『ディバインシューター』でとうに決着がついている。

 衝撃で多少ふらつきながらも四肢を踏みしめてキメラが立ち上がる。

 そして不意に背中の翼をはためかせると、その巨躯からは想像もできない速度で空へ舞い上がる。

 

 だが、一手こちらが早かった。

 

 

 

 >「捕まえ…た!」

 

 

 

 その瞬間、キメラの四肢、胴体、翼が光の輪に捕らわれる。

 突然の事態に暴れまわるキメラだが、光の輪はビクともしない。

 捕縛魔法『レストリクトロック』による光の輪での拘束である。

 そして同じく『フライアーフィン』を使って空にあがってきた悠に初めて恐怖の顔を浮かべる。

 

 

 

>「空に上がってくれて助かったよ。この魔法は範囲が広くて森を薙ぎ払っちゃいそうだからね。ストライクハート、モードチェンジ。」

 

「モードチェンジ、『カノンモード』。」

 

 

 

 杖の形態をとっていたストライクハートがその姿を変える。

 宝石の周囲を囲んでいた金属パーツが変形し、横から見たそれはまるで砲口のようである。

 

 ガシャンッと重厚な音を立ててストライクハートの切っ先をキメラへと向ける。

 そして魔法陣を展開、足元に円形が一つ、ストライクハートを取り巻くように円環状が4つ。

 するとストライクハートの切っ先に膨大な魔力が集まり、なおさらに膨らんでいく。

 

 それを見たキメラは必死に光の輪から逃れようとするが、それが壊れる兆しすら見えない。

 

 

 

>「ディバイィィン………」

 

 

 

「チェックメイト、です!」

 

 

 

>「バスタァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 ストライクハートと僕の声をトリガーに溜められた魔力が一斉に放出され、放たれた瑠璃色の光が一瞬でキメラを呑みこむ。

 空に駆ける一条の光はさながら流星か彗星か。

 

 魔力の放出が終わり、その場にいたのは完全に黒く変色しシルエットと化したキメラの姿。

 僕たちがそれに触れると、触れた端からキメラが音もなく崩れていく。

 そして、最後に残ったのは紫色の中央が淡く光る鉱石のようなもの。

 それを僕は躊躇いなく持つと、ストライクハートに触れさせて回収した。

 

 

 

>「魔鉱石、回収完了だね。」

 

「はい、マスター。解析しましたが、やはり()()()の魔力が含まれています。」

 

>「そうか…よし、とりあえず目的は果たしたし帰ろうか。誰かに見つかったら大変だ。」

 

「そうですね!帰ってゆっくり眠りましょう!」

 

 

 

 そうして僕とストライクハートはこの場を後にする。

 

 これからはもっと戦いも厳しくなる…()()()()()()も使わなくちゃいけないかもしれない。

 …ひとまずは体を休めよう。

 明日からはまた、いつも通りの日常だ。

 

 

 

 

 

《【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】の熟練度が上がった。》

 

《『ディバインシューター』『ディバインバスター』『ラウンドシールド』『バリアバースト』『レストリクトロック』の熟練度が上がった。》

 

《【???】→【カートリッジシステム】を解放した。》

 

《『アクセルシューター』『ディバインバスター・エクステンション』『エクセリオンシールド』『クロススマッシャー』を習得した。》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「…んー、戦闘音がすると報告を受けてきてみたけど、最後のスゴイ魔力攻撃以外に情報はナシかー。とりあえず周囲への被害もないし、出直しだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初戦闘終わりましたー!

 口数減るどころはほとんど無言でしたね。

 ユー君のフラグ発言にツッコんだくらいです。

 

 そして戦闘完了による経験値も美味しいです!

 なにより【カートリッジシステム】の解放ですね!

 これで戦闘の幅がグッと広がります。

 

 最後にセリフだけ出てきた人は一体誰だったんでしょうか…(すっとぼけ)

 

 

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました!




戦闘描写にどうしようもない不安が残ったので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part3 入学前の最終調整

かなたんが青ウパ爆誕させていたので初投稿です。


 

 

 入学まで一気に駆け抜ける実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回はユー君たちと関わりがありそうなキメラと戦闘になりましたね。

 無事に一対一では必勝パターンになりそうな「『レストリクトロック』での拘束から『ディバインバスター』」の流れがキレイに決まって勝利!

 

 さらには謎の『魔鉱石』なるものを手に入れました。

 これは今まで私がプレイしたホロラバでは出てこなかったものなのでおそらく経歴によって登場する今プレイ限定のアイテムなのでしょう。

 

 

 

 さて、それでは気を取り直して今回の流れですが…基本的に前回同様にひたすら鍛錬タイムとなります。

 と言いますのも現在のユー君、【ミッドチルダ魔導】を使っていくうえで殆ど必須といっていいスキルがまだとれていません。

 常に一対一で戦えるのであればそこまで必須というわけではないのですが、バトロワにおいては一対多や多対多の構図は間違いなくどこかで起こります。

 幸いというか【ミッドチルダ魔導】に関連した半専用スキルなので鍛錬で取得できる確率がそれなりに高いのが救いですね。

 あとは入学までに間に合うかどうかですね。

 

 

 

 

 

>今日は何をしようか?

▶鍛える

 出かける

 休む

 

 

 

 

 

 はいということで前置きを話していたらもう自由時間ですね。

 話しそびれたことも特にはないのでここからはひたすら倍速で鍛錬していきましょう。

 

 

 

 

 

>少年鍛錬中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>少年鍛錬中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>少年鍛錬中

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>今日は魔法の鍛錬をしていこう。

 

>……………

 

>魔法の同時発動がようやくできるようになった。

 

《【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】の熟練度が上がった。》

 

《【マルチタスク】を習得した。》

 

 

 

 

 

 キタァァァァァ!!!!!

 入学2日前とかなりギリギリでしたが何とか欲しいスキルを獲得できました!

 

 欲しかったのは【マルチタスク】(コレ)ですね。

 スキル効果はさっきユー君が言った通り「魔法の同時発動」が可能になるスキルです。

 ホロラバにおいて魔法は基本的に複数同時に発動することはできません。

 そして厄介なことにミッドチルダ魔導の飛行魔法は移動中のみではありますが魔法の使用中という扱いになります。

 

 つまり、空中戦メインのミッドチルダ魔導で【マルチタスク】を習得していないと魔法を発動するたびに足を止めなくてはならないということです。

 ハッキリ言って空中で足を止めることは対策がないとただの的にしかなりません。

 無論、ことセイクリッドタイプにおいてはそもそも魔法発動中の移動不可の効果がついている魔法も多くありますが、そこに【マルチタスク】がついているかどうかで生存力が大きく変わってきます。

 

 簡単に例を挙げると、移動不可効果を持つ『ディバインバスター』発動中に攻撃が来ても、【マルチタスク】があれば動かずとも『ラウンドシールド』などの防御魔法での防御が可能になります。

 バトロワにおいては乱戦が起こりやすいのでたとえ一人を拘束できても他からの攻撃は抑えられません。

 だからその対策として【マルチタスク】を入学までに習得しておく必要があったんですね。(唐突のメガトン構文)

 

 

 

 さて、【マルチタスク】も無事に習得できたということで入学前の鍛錬はここまでですね。

 ではここまでに習得できたスキルと魔法を再確認といきましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ースキル一覧ー

 

 

 

>基礎スキル

【魔導の才覚】【魔導の才覚】【人脈】

 

>エクストラスキル

【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】【リンカーコア】【カートリッジシステム】【???】

 

>一般スキル

【料理上手】【買い物上手】

 

>戦闘スキル

【空中機動】【適応力】【杖術】【高速変形】【マルチタスク】

 

>経歴スキル

【不撓不屈】【過去からの誓い】【???】

 

 

 

ー魔法一覧ー

 

>射撃魔法

『ディバインシューター』『アクセルシューター』

 

>砲撃魔法

『ディバインバスター』『ディバインバスター・エクステンション』『エクセリオンバスター』『クロススマッシャー』『スターライトブレイカー』

 

>防御魔法

『プロテクション』『ラウンドシールド』『エクセリオンシールド』『バリアバースト』

 

>補助魔法

『レストリクトロック』『フラッシュムーブ』『アクセルフィン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい、しっかり鍛錬を続けたおかげでスキルも魔法も結構増えてますね。

 

 

 

 まずはなんといってもエクストラスキルの【カートリッジシステム】でしょう。

 【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】の習熟度によって解放されるスキルで、物語的には「CVK-792」と呼ばれるシステムをストライクハートに組み込んだ状態です。

 デバイスの変化としては全てのモードでヘッド下に箱型弾倉のカートリッジユニットが搭載され、フレーム強化によるデバイスそのものの耐久度の上昇、さらには既存モードの強化と新モード「エクセリオンモード」が解放されます。

 このカートリッジユニットには圧縮魔力を込めた薬莢(カートリッジ)が6発装填されており、それをデバイス内で炸裂(ロード)させることで瞬間的に爆発的な魔力を得ることができます。

 また、カートリッジシステムを組み込んだことでストライクハートの名前も変わり「ストライクハート・エクセリオン」となっています。

 

 ゲームにおける効果としては、魔法使用時にカートリッジロードを行うことでMP消費量の変化ナシで魔法効果や威力の上昇、チャージ時間の短縮、果てはカートリッジロード前提の魔法の使用が可能になります。

 ただし制約として一日に使用できるカートリッジの総量は初期弾倉1つと予備弾倉2つの計18発となっており、短時間に使いすぎると自身に反動ダメージが入ってしまいます。

 いやはや使用量の制約込みでも十分なぶっ壊れスキルですわあ。(呆れ)

 カートリッジロード専用の魔法については後程まとめて説明しますね。

 

 

 

 次は一般スキルの【買い物上手】ですね。

 これは買い物をするときの値段が10%下がるスキルですね。

 地味ですが非常に有用で、序盤に取れればその恩恵はより大きくなります。

 習得条件も比較的簡単で

 

「同じ店で5回連続で買い物を行う」

 

 これだけです。

 ちなみに連続といっても厳密には()()()()()()()()()()()()()()()()という意味なので間に鍛錬やお出かけなどをしてもカウントリセットは行われません。

 気付かぬうちにとってたという人もいるのではないでしょうか?

 

 

 

 続いて戦闘スキルですね。

 【空中機動】と【マルチタスク】は既に解説しているので今回は残りの【適応力】【杖術】【高速変形】についてです。

 まず【適応力】ですが、これは戦闘中時間経過でクリティカル率と回避率が上昇するスキルです。

 倍率は初期で10%としょっぱいですが無いよりマシですし、【不撓不屈】でもクリティカル率とクリティカル威力に補正かけられますから合わせればそれなりに火力も上がる…はず。

 

 【杖術】ですが、まあこれはさしたる説明はいらないでしょう。

 「杖」に属する装備で攻撃した際に物理攻撃力の上昇補正がかかります。

 以上!説明終わり!

 

 最後に【高速変形】ですが、習得した際の感想が「マイナーなの引いたな」ってくらい使われることが少ないスキルですね。

 効果が形状変形がある装備の変形時、その速度が上がるスキルです。

 無くても困らないけどあるとありがたいって感じのスキルですね。

 

 

 

 

 

 ではいよいよ魔法の解説ですね!

 一度説明したことのある魔法はスルーしてサクサクとやっていきましょう!

 あ、別にいらないって人は飛ばしちゃってくださいね。(遅い)

 

 

 

『アクセルシューター』

 誘導操作が可能な魔力球を作り出して攻撃する小威力の射撃魔法。

 『ディバインシューター』より精密な操作が可能。

 カートリッジを1発使用し、生成個数は20個。

 発動中は移動不可。

 

『ディバインバスター・エクステンション』

 魔力をチャージして撃ちだす高威力の砲撃魔法。

 『ディバインバスター』より射程距離、砲撃速度が大幅上昇。

 カートリッジを2発使用し、チャージ時間は5秒。

 防御無視効果、バリア特攻効果付与。

 発動中は移動不可。

 

『エクセリオンバスター』

 魔力をチャージして撃ちだす高威力の砲撃魔法。

 僅かな誘導制御を持ち、着弾時に反応して炸裂・誘爆を引き起こす。

 カートリッジを1発使用し、チャージ時間は3秒(追加カートリッジかオーバーチャージで砲撃数増加、最大5門)。

 防御無視効果、バリア特攻効果付与。

 エクセリオンモードでのみ使用可能。

 

『クロススマッシャー』

 魔力をチャージして撃ちだす中威力の砲撃魔法。

 射程を犠牲にしてチャージ時間を限界まで短縮している高速近接砲。

 チャージ時間は1秒。

 防御無視効果付与。

 防御魔法の上から発動可能。

 

『エクセリオンシールド』

 魔法陣を展開して多重装甲型の円形の盾を作り出す防御魔法。

 物理耐性、魔法耐性に超上昇補正。

 防御範囲が狭く、発動速度が遅い。

 カートリッジを1発使用する。

 

『フラッシュムーブ』

 瞬間的に加速する高速飛行魔法。

 『アクセルフィン』使用中のみ使用可能。

 

『アクセルフィン』

 両足に魔力の羽を展開する飛行魔法。

 『フライアーフィン』より最大飛行速度が上昇。

 空中を移動中に継続してMPを消費する。

 空中で停止中はMPを消費しない。

 

 

 

 

 

 うーんこのカートリッジ専用魔法の多さですよ。

 まあ【カートリッジシステム】解放と同時に使えるようになった魔法は軒並みそうなってますね。

 致し方なし。

 

 ということで入学前の鍛錬はこれで終わりですが、残りの時間も無駄にはしません。

 まあ何をするのかと言ったらラミィちゃんの好感度上げです。

 理由としては初回バトロワで味方になる確率を少しでも上げるためですね。

 実は最初の出会い以降ラミィちゃんの好感度は一向に挙げられていませんので、ハッキリ言ってバトロワで仲間になってくれるかはいいとこ五分五分といったところです。

 隣の席か同じクラスであればもうちょっと確率も上がるのですが、同学年確定とはいえそうなるかどうかは不明なので少しでも不安要素は無くしておきたいんですよね。

 

 では、残りの2日間はひたすら「出かける」でラミィちゃんを探す旅といきましょうか。

 …別にストーカーじゃないですよ?

 

 

 

 

 

>今日は何をしようか?

▶鍛える

 出かける

 休む

 

 

 

 

 

 はいはい出かける出かける。(雑)

 

 

 

 

 

>出かけることにした。

 

>どこに出かけようか?

▶ゲームセンター

 誰かを探す

 適当にぶらつく

 

 

 

 

 

 はいここで新たな選択肢「誰かを探す」が出てきました。

 この選択肢は一人でもホロメンと知り合っていれば確定で出てくる選択肢で、そのまま知り合いのホロメンを探しに行くことができます。(会えるとは言ってない)

 まあ逆説的に選択肢が一個強制的にコレにつぶされるのでそこだけは考え物ですね。

 では気を取り直して「誰かを探す」でいきましょう。

 

 

 

 

 

>誰かを探すことにした。

 

>誰を探そうか?

▶雪花ラミィ

 

 

 

 

 

 誰かを探すとは?(選択肢ナシ)

 

 

 

 

 

>ラミィを探すことにした。

 

>近くの商店街までやってきた。

 だけど家の貯蓄は十分だし、帰るとしよう。

 

 

 

 

 

 知ってた。(真顔)

 まあそんなに何回も初回でヒットしたりしませんよね。

 前回の遭遇イベも選択肢前の特殊セリフで確率が上がっていたからですし。

 気を取り直して次に行きましょう。

 もう後がないし頼むぞ頼むぞー!

 

 

 

 

 

>ラミィを探すことにした。

 

>近くを探索していると、何やら大荷物を運んでいるラミィの姿を見つけた。

 

 

 

 

 

 お、ちゃんと引きましたね、ナイスー!

 

 

 

 

 

>「ラミィ。」

 

「あ、悠くん!」

 

>ラミィは僕の姿を見つけると両手に抱えていた荷物を置いて駆け寄ってきた。

 随分大きな荷物だけど何だろうか…?

 

>「少し久しぶりだね。連絡を取ることはあったけど直接会うことはなかったし。」

 

「お久しぶりですラミィさん!」

 

>いつも通りネックレス状態のストライクハートも一緒に話しかける。

 

「うん、久しぶり、ストライクハートも。今日はそこの家に引っ越しをしててね、荷物を運んでる最中だったんだ。」

 

>そう言って近くの一軒家を指さすラミィ。

 あれは引っ越しの荷物だったのか、ていうかあそこって…

 

>「へー、結構近い場所に引っ越してきたんだね。」

 

「へ?それってまさか…?」

 

>「うん。お隣さんとはいかなかったけど、僕の家はあそこだよ。」

 

>僕が指さした位置はラミィの家から5件ほど離れた一軒家。

 それを聞いたラミィはパァッと表情を柔らかくする。

 

「ホント!?あの、良かったら明日から一緒に登校しない?」

 

>「うん、僕でよければ喜んで。一緒に行く時間とかはまた後でって言いたいけど…」

 

「?」

 

>急に言葉を切った僕を不思議そうにこちらを見るラミィをよそに、僕は先程までラミィが持っていた荷物を持ち上げる。

 

>「その前にこの荷物を運んじゃおうか。手伝うよ。」

 

「あ…。うん、ありがとう!」

 

 

 

《雪花ラミィと仲良くなった!》

 

 

 

 

 

 イケメンムーブかましますねユー君!

 しっかし前日に引っ越し作業とはなんとギリギリな…

 そりゃ昨日は遭遇できませんわな。

 

 さてさてこれでラミィちゃんの好感度も上がりましたしちょっとは仲間になる確率も上がったことでしょう。

 最善の準備はしてきたつもりですので後は初回のバトロワをきっちり勝っていけるように頑張りましょう!

 まあ欲を言うともう一人くらいホロメンと知り合っておきたかったのですが、【マルチタスク】の習得に思ったより時間がかかってしまったが故ですね。

 ここは割り切るしかないでしょう。

 

 

 

 

 

>ラミィと別れて家に戻ると、段ボールで荷物が届いていた。

 中身を見てみると、そこには男子用の制服が一着。

 「おお…!」と若干の興奮も冷めぬままに早速袖を通してみる。

 

 …うん、違和感もなし、サイズもピッタリだ。

 確認が終わると、制服を脱いでハンガーにかける。

 それからやることを終わらせると、いつもより早い時間に早々に床についた。

 

 明日はいよいよ入学か…楽しみだ。

 

 

 

 

 

《『ホロライブ学園の制服』を手に入れた。》

 

 

 

 

 

 あ、最後に学園制服の入手イベがありましたね。

 バトロワ中は基本的にバリアジャケットを着るので制服姿はむしろレアだったり…?

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 次回はいよいよ入学&バトロワです!

 ご視聴ありがとうございました。




だんだん文字数が少なくなってきているので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1回バトロワ
Part4 入学式は解説タイムって偉い人が言ってた


最近ホロライブENの切り抜きを見だしてしまったので初投稿です。


 Part4でようやく入学していく実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回は宣言通り入学前まで駆け抜けることができました!

 今回からいよいよバトロワが始まるということで張り切っていきましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター!あーさでーすよー!」

 

>いつも通りの朝6時、ストライクハートの声によって目を覚ます。

 しかしていつもと違うと感じてしまうのは普段よりさらに高いその声音とテンションだろうか。

 かくいう自分も、今日はいつもより目覚めが良く気分も高揚している。

 新たな出会いと新たな環境に対する緊張か、歓喜か、はたまた両方か。

 …少なくとも、悪い気分ではなさそうだ。

 

>「おはよう、ストライクハート。いつもより楽しそうだね。」

 

「はい!マスターだけじゃなく、私だって楽しみだったんですから!」

 

>「…そうか。うん、それじゃあパパッと準備を終わらせようか!」

 

 

 

 

 

 はいということでいつも通り(?)の朝の一幕、そして日課ですね。

 まあ特に変わったこともなさそうなのでカットカットでいきましょう!

 

 

 

 

 

 ピンポーン

 

 

 

>諸々の準備をすべて終わらせると、タイミングよくベルが鳴る。

 彼女を待たせるのも悪い。

 学園指定のカバンを持ち、ストライクハートを首に下げて玄関へと急いだ。

 

「あ、おはよう悠くん、ストライクハート。」

 

>「おはよう、ラミィ。」

 

「おはようございますー!」

 

>扉を開けるとそこにいたのは同じく学園指定の制服とカバンを持ったラミィだった。

 両手でカバンを持ってぶら下げている様子はいかにも令嬢といった奥ゆかしさがある。

 いや、聞いた話実際に故郷の一族の中では令嬢らしいのだが、それを再確認させられた気分である。

 そして、恰好とはもう一つ違う部分を見つけ、ラミィに問いかける。

 

>「ラミィ?その後ろにいるのって…」

 

「あ、そうそう、二人には紹介しようと思って出てきてもらってたんだ。ラミィが契約した初めての精霊、雪の精霊。おいで『だいふく』。」

 

 ラミィが呼びかけると後ろにいた謎の生物がふよふよとラミィと僕たちの前にやってくる。

 見た目はなにやら雪の結晶の柄がついた壷に入ったデフォルメされたモコモコの白熊のように見える。

 しかしそのサイズは当然というべきか一般の白熊と比べて非常に小さく、いいとこ手のひらに収まるかといったレベルだ。

 そんな不思議生物ーーーだいふくは僕たちの前に躍り出ると、二パッと笑いながら一礼してきた。

 

>「わ、可愛いなぁ、だくふく。」

 

「………むぅ。私には言ってくれたことないのに…

 

「ねーマスター私は!?私も可愛いですよねマスター!」

 

>「え?」

 

「え?」

 

>「「……………」」

 

>「…冗談だよ、ストライクハートも可愛いよ。さて、そろそろ学園に行こうか。このままじゃ遅刻しちゃうしね。」

 

「!そうですね、それじゃあいきましょー!」

 

 

 

 

 

 ユー君もあんな冗談言うんですね。

 それはそうとふくれっ面のラミィちゃんも可愛いですね!

 ラミィちゃんにも言ってあげればいいのにと思う今日この頃。

 ではではこのまま登校と入学式は倍速してって…おや?

 

 

 

 

 

>「あ、そうだ、ラミィ。」

 

「…むー、なんですか?」

 

>「…制服姿、似合ってる。えっと、可愛いよ!それだけ!」

 

>それだけ言うと早々に顔を背けて歩き出す。

 ストライクハートに念話で「ラミィさんにも何か言ってあげた方がいいですよマスター」と言われて咄嗟に出た本音の言葉。

 本心とはいえ、やっぱりこういうことを女の子に言うのはどうしようもなく気恥ずかしい。

 すぐに顔を背けたのも早々に歩き出したのも、羞恥で赤くなったこの顔はとてもラミィには見せられそうになかったからだ。

 

 

 

 

 

………ずるいよ、急にそういうの…

 

>故にその呟きも、ラミィの顔が真っ赤に染まっていたことも、僕が気が付くことはなかった。

 

 

 

《雪花ラミィととても仲良くなった!》

 

 

 

 

 

 あああぁぁぁ!!!(発狂)

 

 このユー君の天然たらし!

 最高ですありがとうございます!!!

 好感度もイラストもめちゃくちゃおいしいです!

 …さて。(落ち着いた)

 それでは登校イベも終わったところでこのあとは恒例の入学式です。

 が、当然なんの見どころのないため倍速とさせていただきます。

 そしてその間に…

 

 

 

 

 

み な さ ま の た め に ~

 

 

 

 

 

 初回バトロワにおける注意事項をいくつか説明していきたいと思います。

 ちなみに結構長くなるので「別に解説はいいや」って人は「はい!」って大声で言ってるところまで飛ばしちゃってください。

 

 まずは難易度による変化ですね。

 ちなみに説明するのは初回バトロワで変化することのみなので、『オーディション』特有の仕様変更である好感度減少やホロメンの追加スキルについてはノータッチでいかせていただきます。

 現在私がプレイしている難易度は『ハード』なのですが、『ハード』以下の難易度でプレイした場合、初回バトロワに限り上級生の乱入が起こりません。

 つまりほとんど強化されていない同学年のみとの戦闘になるため難易度が2回目以降より下がるわけですね。

 まあそれでもホロメンは全く油断ならない存在なので舐めてかかっては簡単に脱落してしまいますので気をつけましょう。

 

 

 

 続いてはユー君が注意すべきホロメンですね。

 今回は4・5期生が同学年と信じてそこに絞って解説していきます。(これが出てる時点で察してください)

 

 まずは4期生です。

 

 なんといっても最大の相手は桐生ココ(会長)ですね。

 基礎スキルが【天性の肉体】【大胆不敵】【剛腕】の3つです。

 効果はそれぞれ「物理被ダメージ軽減」「相手よりHPが多い状態のときスーパーアーマー(被ダメージ微軽減&怯み無効)付与」「物理攻撃力に上昇補正」となっており、ゴリゴリの近接派ですね。

 戦闘方法は言った通りの近接型で武器は持たず素手での攻撃を主としていますが、そのリーチの短さにもかかわらず素早さはホロメンの中でもいいとこ平均といったところです。

 ちなみにこれが難易度『オーディション』になると初回から【龍化】スキルをもっていてまんま龍になり、大体のステータスが大幅上昇して手が付けられなくなるので『オーディション』走者は頑張ってくださいね。(余裕の笑み)

 まあその場合はオーディション先駆者様がやったように【龍化】を使われる前に不意打ちで倒すというのが手っ取り早くて楽な攻略法だったりします。

 

 と、ここまでの情報を聞いて「ユー君なら空中で遠距離ぶっぱしとけば完封できるんじゃね?」と思った方もいるでしょう。

 ところがそうは問屋が卸しません。

 では何が問題か、それは

 

「【大胆不敵】持ち」と「龍の翼による飛行が可能」

 

 なによりこの2点につきます。

 

 まず「【大胆不敵】持ち」ですが、これは率直に言うと『ディバインシューター』と『アクセルシューター』という中距離戦の要である射撃魔法が軒並み意味をなさなくなります。

 この二つの射撃魔法は多数行使できる魔力球の一つでも直撃すれば怯み効果を誘発できるという相手との距離を保つための最大の手段なのですが、【大胆不敵】持ちにはその怯み効果がなくなってしまいます。

 無論ダメージは軽減されても通るので、HPを減らして【大胆不敵】発動圏外までもっていくのも考えましたが会長はHPが群を抜いて高い上にそこに次の問題の「龍の翼による飛行が可能」という点につながってしまうのです。

 

 はい、つまりは射撃魔法で削ろうとしても会長がラッセル車のように、あるいは闘牛のように被弾覚悟で突っ込んでくるわけです。

 そして唯一止められるであろう砲撃魔法もこちらが足を止めなければいけない上、長いチャージ時間の間に距離を詰められ、万が一チャージが間に合ったとしても設定した射線を変えられない関係上拘束でもしない限り簡単によけられてしまいます。

 

 ね、天敵みたいな相手でしょう?(白い目)

 まあ他にも言いたいことはあるのですが、長くなりすぎてしまうのでこの辺で。

 

 

 

 お次は天音かなた(かなたん)です。

 基礎スキルですが、【槍斧術】【剛腕】【大胆不敵】の3つです。

 はい【大胆不敵】です、【大胆不敵】なんです。(大事なことなので2回言いました)

 なんなら天使の羽で空も飛びます。

 まあ救いなのはかなたんのHPはいうほど高くないので射撃魔法でもHPを削ってやれば意外と早く【大胆不敵】発動圏外までもっていくことも可能という点ですね。

 

 そして戦闘方法ですが、【槍斧術】と【剛腕】を持っている通りメインはハルバートを使った近接型ですね。

 ですがサブ的な動きとして効果の高い回復魔法と低位ではありますが攻撃魔法も使えます。

 あれ、回復…あっこれ時間を与えたら【大胆不敵】剝がしても再発動されちゃいますね!

 あ、そして機動力はかなり上位に食い込みます。

 やっぱりあれですかね、空気抵抗が少ないおかげですかね?

 おっと誰か来たようだ………ア"ッ。

 

 

 

 はい。(復活した)

 まあ総評が高火力、高機動力、低耐久力といったキャラです。

 会長に比べたら苦にはなりませんが、一番の問題がこの天使、その会長と同じ学年のときは大体ペアで行動してきます。

 えらいこっちゃ。

 

 

 

 そして他の4期生ですが、ハッキリ言ってユー君であれば割と完封していけます。

 というのも他の3人、常闇トワ(TMT)姫森ルーナ(んなあああ)角巻わため(非常食)ですが、殆ど空中の相手への対抗手段を持っていません。

 強いて言えばわためぇの角ドリルとトワ様の槍投げくらいですね。

 それに関しても軌道が直線的なので避けるのは容易ですし、避けた後はかなり無防備になるので反撃もかなり楽です。

 各個撃破を心がければ苦も無くやれるでしょう。

 

 

 

 

 

 では続いて5期生を見ていきましょう。

 

 ラミィちゃんはまあ除くとして一番の障害はおそらく獅白ぼたん(ららーいおん)となるでしょう。

 基礎スキルが【銃術】【気配感知】【直感】【敏捷】ですね。

 ししろんは種族が獣人なので基礎スキルの【敏捷】が別枠で追加されています。

 そしてスキルの効果ですが、それぞれ「銃に属する装備で攻撃時に物理攻撃力上昇」「自身を中心とした特定範囲の敵の位置の把握」「高確率で敵の攻撃を予測」「素早さに上昇補正」となっています。

 

 これ、ししろんの何が大変かって言うと知覚外からの狙撃なんですよね。

 彼女の使用する武器はアサルトライフル、サブマシンガン、グレネードランチャーなど多岐にわたりますが、メインウェポンともいうべき武器はスナイパーライフルです。

 知覚外からの狙撃というのは基本的に回避不能なうえ、彼女のスナイパーライフルの一発の火力はギリギリ『ラウンドシールド』を貫通してきます。

 つまり防御も現状では不可能ということです。

 まあ防御を挟むことができればシールドが威力に干渉して、たとえくらってもダメージはそこまでありませんが。

 

 そしてその対応策はズバリししろんの射線に入らないこと、もっと言うと建物などの障害物を利用して物理的に視界を塞ぐことですね。

 しかしこの策、空中戦をメインにしているユー君とは相性が悪いです。

 なのでできればししろんは優先的に撃破していきたいですね。

 

 

 

 続いては尾丸ポルカ(ポルカおるか?)です。

 基礎スキルが【奇術】【投擲術】【足捌き】【敏捷】ですね。

 ポルカもししろんと同じく獣人のため【敏捷】スキルを追加所持しています。

 スキル効果は大体見たまんまなので、しいて説明を入れるのであれば【足捌き】ですかね。

 【足捌き】は「地上にいるとき回避率に上昇補正」という効果になります。

 そして戦闘方法がマジックアイテムのジャグリングクラブやボールを使用した近~中距離での攻撃に加えて、技スキルによる自己バフを持ちます。

 特に基礎スキルの【足捌き】と回避率を上昇させる『クラウンステップ』の乗算バフでの回避率は異常なほど高いです。

 他のホロメンと組んで囮役をされる前に短期撃破を心がけましょう。

 

 

 

 最後は桃鈴ねね(クソガキ罪)ですね。

 基礎スキルが【槌術】【頑健】【大胆不敵】の3つです。

 はい、【大胆不敵】に加えて【頑健】持ちときましたか。

 ですがねねちは装備として大型ハンマーを持つのでその分素早さは下がります。

 加えて空中への攻撃手段は無いに等しいので先に空中へあがってしまえばほぼ完封できるでしょう。

 一応地上戦においては高防御力かつスーパーアーマーに加えて広範囲攻撃と高い怯み効果を持つハンマーの技を複数持っているのでプレイヤーが近接キャラだった場合は苦戦は免れないでしょう。

 遠距離持ちのホロメンと協力するか、防御貫通持ちの技で【大胆不敵】を早々に発動させなくするなどの対策を行いましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい!

 ということで長かった入学式(解説タイム)も終わって現在はクラス分けを見るところですね。

 ちなみにラミィちゃんとは入学式後に合流して一緒に見ている状況です。

 君たちホントに付き合ってないんだよね?(ガチな疑問)

 このままラミィちゃんが一人だけ好感度あがり続けると他のホロメンとの好感度調整が大変になるんですけど…

 まあラミィちゃんの可愛いところいっぱい見れるならいいですよね?

 

 

 

 

 

>「クラスは1組か。ラミィは?」

 

「えーと…あ、私も1組だよ!よかったぁ…」

 

>そうやって安堵の声を漏らすラミィ。

 こっちとしてもラミィと同じクラスなのには安心してしまう。

 知り合いが一人いるかいないかでは心の余裕が大分変ってくると思うから。

 確認を終えた僕とラミィは談笑しつつ自分たちの教室へ向かった。

 

 

 

 

 

ガラガラッ

 

>二人で教室に入るとクラスメイトの目が一斉にこちらへ向く。

 が、それも束の間、クラスメイト達はすぐに談笑の続きへと入っていった。

 静寂から喧騒へ移り変わるその様子に一瞬面食らうも、僕たちも気を取り直して黒板に張り出されている座席表を見に向かう。

 さすがにラミィとは席まで隣とはいかず、彼女と別れて自分の席へと向かった。

 

 

 

 

 

>(隣の席は『天音かなた』さんか。どんな人なんだろう?)

 

>そんなことを考えながら自分の席に辿り着くと、その隣には銀髪のショートヘアに天使の羽、さらに頭に特徴的な手裏剣(?)のようなものをつけた少女がおり、その綺麗なアメジストの瞳と視線が交差する。

 

「おはかなたー。初めまして天音かなたです!見て分かる通り天使だよ!」

 

>「…おはかなたー。そして初めまして、星宮悠です。見て分かる通りただの人間だよ」

 

「…はは!面白いね君。それに強そう。ねえ、何て呼べばいい?」

 

>「星宮でも悠でも好きに呼んで。一応友達には下の名前で呼ばれてるけど」

 

「じゃあ悠くんで!ボクのことはかなたでいいよ」

 

>「うん、それじゃあ改めてよろしく、かなたさん」

 

 

 

《天音かなたと知り合いになった!》

 

 

 

 

 

 隣の席はかなたんでしたね!

 それでは他のホロメンをサクッと確認してみますか。

 えっと、ラミィちゃん、かなたんの他にはししろんと会長ですね!

 これは同学年は4・5期生で確定でよさそうです。

 ししろんはラミィちゃんの隣で二人で話してますね。

 難易度高いですがワンチャンししろんも仲間になってくれると嬉しいですね。

 さて、そろそろ始まりますね。

 

 

 

 

 

〈新入生全員に通達します。現時刻より10分後、第1回学内バトルロワイアルを開始いたします。〉

 

>「…!」

 

〈開始時刻になると転送魔法で学園の敷地内にランダムで転送されます。それまでに各々準備を済ませておくようにお願いします。〉

 

 

 

>…もうすぐか。

 

>さて、どうしようか?

▶装備を確認する

 友達に話しかける

 クラスメイトの様子を見る

 準備はもう済んだ

 

 

 

 

 

 さてさてここで恒例の選択肢です!

 といってもまあやることは決まっていますね。

 装備…ストライクハートは毎朝のメンテナンスで万全ですし、クラスメイトの様子は見ても特に何かが変わるわけではないのでやる必要がありません。

 ということで「友達に話しかける」でラミィちゃんをパーティに引き入れましょう。

 さすがに好感度も結構上がったはずなのでいける…はず!

 

 

 

 

 

>友達に話しかけよう。

 

>誰に話しかけようか?

▶雪花ラミィ

 

 

 

 

 

 だから誰に話しかけるって?(選択肢ナシ)

 ワンチャンかなたんもあるかなと思いましたがまあ友達になったテキストが表示されなかった時点で察するべきでしたね。

 

 

 

 

 

>ラミィに話しかけよう。

 

>「ラミィ」

 

「あ、悠くん!いよいよだね」

 

>「うん、それで一つお願いがあるんだけど…」

 

「?うん、何?」

 

>「バトルロワイアル中に合流出来たら共闘できないかな?ルールで禁止はされてないし、多分他も同じことを考えてる人はいると思うから」

 

「確かにそうだね。ラミィもできれば上の順位にいきたいし、いいよ!」

 

>「ありがとう。よろしく!」

 

 

 

《雪花ラミィとパーティを組んだ!》

 

 

 

 

 

 よっし!

 無事にパーティを組むことができましたね!

 まあそれでも開始地点はバラバラなのでまずは合流を最優先にして動いていきましょう。

 

 

 

 

 

〈開始時刻になりました。只今より第1回学内バトルロワイアルを開始いたします!〉

 

>そんな放送とともに自分と、そして生徒たちの体が光に包まれる。

 いよいよ始まる。

 

>「さあ、いこうか、ストライクハート!」

 

「はいマスター!Stand by ready. Set up! 」

 

 

 

 

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 …あれ、これバトロワ始まった判定でいいのか?




ぐらちゃんとアメリアが可愛かったので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part5 悠VS羊VSダーク〇イ

船長の誕生日ライブが最高だったので初投稿です。


 ようやく対人戦をやっていく実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回はバトロワが始まったところで終わりましたね。

 今回から本格的にバトロワの戦闘に入っていきますので張り切っていきましょー!

 

 

 

 

 

 とりあえず戦闘中は集中してあんまりしゃべらなくなっちゃうと思うので先にバトロワの仕様や今回のユー君の動きをあらかじめ説明しておきたいと思います。

 

 

 

 とりあえずはバトロワの仕様についてですね。

 細々としたのはいろいろとありますが、とりあえず話しておきたいのは初期位置についてです。

 今回のホロラバのバトロワはランダム転送型で、主人公が転送される位置というのは完全にランダムなのですが、確定として主人公の目に見える範囲にホロメンが転送されることがありません。

 まあ壁を一枚挟んですぐ向こう側にいるということは稀にあるのですが、だとしてもいきなり壁をブチ抜いて接敵してきたりしない限り初手から主人公VSホロメンVSダーク〇イみたいな事態にはならないでしょう。

 

 

 

 他には時間経過で起きるサテライトスキャンとかでしょうか。

 実はバトロワ中は常に残り人数が分かるわけではありません。

 ではどうやって残り人数を把握するのかというと、それが先ほど言ったサテライトスキャンです。

 バトロワ開始から15分毎にアナウンスがなり、そのタイミングでホログラムの立体マップにスキャンされた残ったメンバーの位置が一時的に表示されます。

 これは残り人数の把握とともにバトロワの膠着状態を防ぐための措置ですね。

 他ゲーのバトロワなどでは時間経過によるマップ縮小などがあるのですが、ホロラバではその仕様がないのでその代わりのものなのでしょう。

 

 

 

 

 最後に今回のユー君の動きをざっと説明しておきましょう。

 全体としては基本的には屋外での戦闘をメインにしていきます。

 理由としてはまあ純粋に屋内に籠るメリットというのがほとんど存在しないからです。

 なので初手屋内でスタートした場合はまず外に出ることを優先していくことになります。

 そしてその後の動きですが、道中の生徒たちを倒しながらラミィちゃんとの合流を目指していって、合流出来たらあとはその場の流れで臨機応変にといったところですね。

 

 注意としてはホロメン以外との戦闘ではできるだけカートリッジの使用を控えるようにすることくらいです。

 カートリッジの総数が18発と多く感じるかもしれませんが、カートリッジ使用前提の魔法の多さとその利便性から普通に戦っていってはおそらく2~3戦で使い切ってしまいます。

 特に主砲となる『ディバインバスター・エクステンション』はカートリッジを2発使用し、チャージ時間短縮を狙ってさらに追加で使用する可能性も考えると使うタイミングを選ばないといけません。

 スキルの熟練度をあげていけば装填数を増やすこともできますが、今は考えても仕方がないことです。

 

 

 

 

 

 では事前説明はこのあたりにして、第1回バトロワ、開始です!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法による転移が終わり、眩しさによって閉じられていた眼を開く。

 一見すると校舎の廊下だろうか、直線に続く道には何人かの生徒がおり、それぞれあたりを見回して現状の確認をしている最中なのだろう。

 かくいう僕はもう準備は完了である。

 学園服は既にバリアジャケットに換装しており、さらに右手には『デバイスモード』改め新たな基本形態の杖のモードである『アクセルモード』のストライクハートを手にしている。

 

 改めて周囲の状況を確認する。

 周囲には僕を含めて3人の生徒、そして僕以外は剣や斧といった近接型の武器を構えており、その視線はもれなくすべて僕に向けられている。

 

 

 

>(まあこの中で唯一近接武器を持ってないからな…横やりを入れられるより先に倒しておこうと考えるのが普通か。)

 

 

 

 当初の予定としては早々に屋外へ出てラミィと合流するつもりだったのだが、廊下という一直線の道に加えて位置が悠を中央に他の2人がそれを挟んでいるという完全に退路を絶たれている状況である。

 少なくとも片方の敵を倒さなければここからの脱出はできないと察した悠は魔法を発動しようとし、その瞬間

 

 

 

 

 

「マスター!」

 

>「…!ラウンドシールド!」

 

 

 

 

 

 悠が起こした行動は、ほとんど本能的なものだった。

 ストライクハートの呼びかけに反応して悠は射撃魔法『ディバインシューター』を発動しようとした魔法陣を即座に破棄し、代わりに発動したのは防御魔法である『ラウンドシールド』。

 それもラウンドシールドを向けた方向は目に見える相手がいる廊下ではなく、外とつながっている壁である。

 見当違いな方向へ魔法を発動させた悠に対して他の二人の生徒が浮かべた表情は怪訝でも、嘲笑でもなく、驚愕だった。

 

 

 

 ドゴォッ!!!

 

 

 

 悠が発動させたラウンドシールドが展開しきったのと、壁を突き破って一人の少女が悠めがけて突撃してきたのは、ほとんど同時の出来事であった。

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 

 

「こんばんどどどー!…ってあれ止められた!?」

 

>「ッグ!(力強い!正面からじゃ長くは持たないか!)」

 

 

 

 

 

 威勢のいい掛け声とともに突っ込んできたのはクリーム色の髪の羊の獣人。

 そして壁をブチ破ってきて同時に攻撃を仕掛けてきたその方法に悠はさすがに戦慄した。

 

 

 

 

 

>(まさかの頭突きか!?)

 

 

 

 

 

 驚くことなかれまさかの頭突きである。

 正確には頭突きではなく頭についた角による『角ドリル』なのだが、それを訂正できる人がこの場にいるわけもなく。

 そしてわずかの間拮抗した角ドリルとラウンドシールドだが、ビキッとかすかな破砕音とともに二つの接触部分を中心に魔法陣にヒビが入った。

 

 だが悠の中に焦りはない。

 そもそも今回のラウンドシールドはガードを間に合わせるために強度を多少無視して発動速度をより速めたものである。

 このまま防御を続ければいずれ割られるといち早く察した悠だが、それと同時に視界の端に映った光景もまたしっかりと捉えており、悠はわずかな逡巡すらなく行動を開始した。

 

 

 

 

 

>「バリアバースト!」

 

「へ?ぎゃす!」

 

 

 

 

 

 攻性防御魔法の『バリアバースト』で目の前の少女を屋外へ吹き飛ばし、すかさず次の魔法を発動させる。

 

 

 

 

 

>「プロテクション!」

 

 

 

 

 

 防御範囲が広い『プロテクション』を自身を中心にドーム状に展開する。

 その直後、先程の獣人との衝突に間に接近していた2人の生徒が己が武器を悠めがけて大振りに振り下ろすが、それは先に展開された半透明の膜にせき止められる。

 止められたことにイラついたのか、2人は眉間にしわを寄せてプロテクションを突き破らんとさらに武器を持つ腕に力を込める。

 それに対して悠の表情はあくまで冷静、そして勝利を確信したものであった。

 防御魔法『プロテクション』には防御範囲のほかにもう一つ『ラウンドシールド』にはない特徴がある。

 

 それは、「触れたものに反応して対象を弾き飛ばす」というものである。

 

 

 

 

 

 バチィッと何かが弾ける音とともに発生した衝撃波が二人を後方に弾き飛ばす。

 そしてこうなることを予見していた悠は既に新たな魔法を発動させようとしていた。

 プロテクションを解除し魔法陣を展開させると、アクセルモードのストライクハートを横に薙ぎ、叫ぶ。

 

 

 

 

 

>「ストライクハート!ロードカートリッジ!」

 

「Load Cartridge.」

 

 

 

 

 

 ガシャンという重々しい音を立ててストライクハート内部で魔力カートリッジが炸裂し、開いた排出口から空薬莢が飛び出す。

 瞬間、内に抑えきれない爆発的な魔力が外に溢れ出し、瑠璃色の風となる。

 悠がストライクハートを構えると、その周囲に誘導弾の魔力球が発生する。

 その数、実に20個。

 カートリッジを使用しない『ディバインシューター』の最大数8個と比べると倍以上である。

 

 

 

 

 

>「アクセルシューター…シュート!!」

 

 

 

 

 

 掛け声とともに撃ちだされた魔力球はそれぞれ6つずつ、弾かれた影響で未だに体勢が整っていない2人の生徒へ容赦なく殺到する。

 迫りくる魔力球を視認した生徒はどうにか防ごうと手元の武器を振るが、魔力球は武器に当たる直前で軌道が変化、防ぐ手段を失った2人はなすすべなく直撃し吹き飛ばされる。

 それぞれ突き当たりの壁まで飛ばされた生徒は気絶し、バトロワ開始時と同じ光に包まれると姿を消した。

 

 

 

 

 

>「なるほど、戦闘続行不能と判断されたら自動的に転送される仕組みか。」

 

「そのようですね、後続の戦闘に巻き込まずに済むのでありがたいですね。」

 

>「ん、そうだね。そして…」

 

 

 

 

 

 そこで言葉を切ると、生徒を吹き飛ばした廊下の突き当たりを見て再び言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

>「見えてるよ。シュート!」

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()8つの魔力球が弾かれたように動き出し、今まさに魔法を放とうとした生徒へ襲い掛かる。

 羊の獣人の少女と激突していた際に視界の端にとらえていたのは接近していた二人の生徒だけではない、さらにその奥に一人いたのを悠は見逃してはいなかった。

 それ故に近接型の2人へ放つ魔力球の数を絞り、残りの魔力球を相手の視界から外れるように隠していたのである。

 そして二人を倒した後、魔法を発動しようと魔力を練りだしたのを周囲の魔力の動きから感知し、見事に隠れた相手を強襲してみせた。

 

 反撃が来ることなど考えてもいなかったのだろう。

 襲い掛かってきた魔法を避けようとするそぶりも見せないまま、その生徒は魔力球の直撃を食らい退場していった。

 悠は周囲に魔力反応がないのを確認するとバトロワ開始時からようやく訪れた静寂に一息つき、ストライクハートに問いかける。

 

 

 

 

 

>「どう、ストライクハート?カートリッジシステムを組み込んで初めての実践だったけど。」

 

「はい、稼働率、カートリッジロードによる反動、ともに問題ありません!ガンガンいけますよー!」

 

>「そうか、良かった。それじゃあこの調子でラミィとの合流を…!」

 

 

 

 

 

 悠の魔力感知でこちらに高速接近するなにかを感じ取ると、大穴があけられた壁に手を向け、再び『ラウンドシールド』を発動させる。

 その次の瞬間に悠めがけて突進してきたのは、先程『バリアバースト』で吹き飛ばしたはずの羊の獣人の少女だった。

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 

 

「うええ!またぁ!」

 

>「それはこっちのセリフなんだけど…よく無事だったね?」

 

「全然無事じゃないよ!アレのおかげで髪ボサボサになっちゃったんだから!うりゃあ!!!」

 

 

 

 

 

 少女が力任せに弾き飛ばすと、さしもの悠も受けきれなかったのか廊下の奥まで後退させられる。

 お互い距離が離れると少女は身を屈めて足に力を込める。

 あれが突撃の予備動作かと推測するも、居場所的に回避はもう不可能。

 先に攻撃しようにも、今から魔法を発動させようとしても時間的に相手が突撃してくる方が早いだろう。

 ならば、と悠は手を前に出し腰を落とし防御の姿勢をとる。

 

 

 

 

 

「さっきの防御じゃもう防げないよ!わためぇの全力、くらえぇぇぇ!!!」

 

>「………!」

 

 

 

 

 

 少女は足に込めた力を余すことなく爆発させ、こちらに突っ込んでくる。

 地面をえぐるほどの脚力だからこそ実現できたそのスピードもさることながら、問題は威力にこそあると悠は直感的に察した。

 彼女が通り過ぎた場所はビリビリと震え、窓には通った際の衝撃波でいくつかヒビが入っている。

 『ラウンドシールド』は発動しても即座に割られる。

 これもまた直感であるが、同時に悠にとっては確信でもあった。

 

 故に、悠にとっての選択肢はこれしか考えられなかった。

 

 

 

 

 

>「エクセリオンシールド!!!」

 

 

 

 

 

 悠が叫ぶと同時にストライクハートがタイムラグなしでカートリッジロードを行う。

 

 悠はストライクハートに使う魔法は伝えていないし、ストライクハートもまた悠からは何も聞いていない。

 普通であればマスターである悠の指示ありきでストライクハートによるカートリッジロードが行われるため、カートリッジロード使用前提の魔法というのは発動速度にどうしても難が出てしまう。

 しかしそれは逆に言えば悠が指示を出すという過程を飛ばすことができれば、魔法の発動速度は大きく短縮することができるということである。

 完璧な意思疎通によって為された本来カートリッジロードの処理が入るため発動が遅い防御魔法『エクセリオンシールド』の発動は、2人の衝突までにキッチリ間に合わせてみせた。

 

 

 

 ガアァァァン!!!

 

 

 

 

 

「ッ!かったい!!」

 

>「…最高だよ、ストライクハート!」

 

「はい!マスター!」

 

 

 

 

 

 この状態ならどんな魔法が来ても耐えられる、突き抜けられるという確信を持っていた少女は目の前の光景をどうしても受け入れられずにいた。

 少女の前に展開されているのは先程の魔法とは違う、幾重にも重ねられた円形の障壁。

 この身をもって体感している、「抜けられない」と本能が感じてしまっている。

 今まで全力の角ドリルで倒せなかった相手はいなかったという実績が、余計に少女の心を困惑させる。

 

 そして、その隙を見逃す悠ではなかった。

 

 前に出している左手に新しく魔力が集積していく。

 ストライクハート…デバイスからではなく、悠の掌から直接撃ち出すことができる唯一の砲撃魔法。

 接近された際の逆転の一撃として近接用に組まれた高速砲。

 チャージが溜まる直前でようやく異変に気付いた少女が急いで離れようとするが、すでに手遅れだった。

 

 

 

 

 

>「クロス…スマッシャー!!!」

 

 

 

 

 

 エクセリオンシールドの上から直接撃ち込まれた砲撃は少女をのみこみ吹き飛ばす。

 廊下の端から端まで飛ばされた少女は壁に激突して倒れる。

 悠とストライクハートが少女の傍によると、少女は力なく笑った。

 

 

 

 

 

「いやー、もう体動かないね~。全力でやって止められたのは初めてだよ。」

 

>「硬いのが取り柄だからね。」

 

「そっか。…ねえ、名前は?」

 

>「ん?ああ、僕は星宮悠。こっちが相棒のストライクハート。」

 

「ですー!」

 

「悠くんにストライクハートか~。わためぇは角巻わためだよ。同じ一年だし、バトロワ終わったら仲良くしようね。」

 

>「うん、よろしく。わためさん。」

 

 

 

 

 

 わためさんはその言葉を聞くと二へッと笑って退場していった。

 …さあ、バトロワはまだ始まったばかりだ。

 そう気合を入れなおすと、僕は開けられた穴から飛び出し空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はいということで無事にわため戦クリアです!

 正直初手で屋内だったときは運悪いなーと思っていたのですが、わためぇが壁突き破って突撃してきたときに「あっこれフラグ立てた私が悪いんだな」って自覚しちゃいましたね。

 幸い他のホロメンの乱入がなかったので危なげなく突破できました。

 さらに今回新しく近接型には「防御魔法→クロススマッシャー」というコンボも見つけられたので結果的にプラスかもしれませんね!

 

 

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。




投稿予定時間より一時間遅れたので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part6 女の子を縛るのはいけないこと

2週間以上サボったので初投稿です。


 大空(敷地内)を駆ける実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回はわためぇの奇襲を何とか防いで勝利したところですね。

 カートリッジの消費も2発と意外と少なく済んだので悪くない立ち上がりになったと思います。

 

 

 

 

 

 ではでは今回の動きですが、前回同様にラミィちゃんとの合流を最優先にしていきます。

 同級生なのでユー君のいないところでやられることはないのですが、できるだけHPは残した状態で合流したいですし、道中のモブ狩りも決して無駄にはなりません。

 前回の終わりに校舎内からは抜け出せたので今回は空中でのラン&ガン(またはヒット&ゴー)スタイルで進んでいくとしましょう。

 

 それではスタート!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 独特の風切り音が絶えず鼓膜を揺らす。

 羊の獣人の少女ーーー角巻わために勝利した悠とストライクハートは、その余韻に浸ることもなく大空へと駆けだした。

 両足には『フライアーフィン』から強化され1対から2対の羽となった新しい飛行魔法『アクセルフィン』が展開されており、かつてのそれよりはるかに速いスピードで飛翔し光の軌跡を残す。

 

 

 

 

 

>(パッと見ではラミィは見当たらない…合流を目指してくれてるなら屋外には出ているはず。)

 

 

 

 

 

 そこまで考えたところで悠は目下の地上で戦っている一団を見つける。

 4人ほどが入り乱れて近接戦を繰り広げており、武器同士がぶつかり甲高い金属音が鳴り響く。

 目の前の敵に集中しているのか誰一人としてこちらに気づいた様子はなく、遠距離特化の悠からすれば格好のカモが現れたようなものだ。

 しかし問題なのがその数。

 2人までなら『ディバインシューター』の初撃でとることができるのだが、4人となると最大8発のディバインシューターでは弾数が足りず複数回の発動、もしくはカートリッジ使用の『アクセルシューター』を使う必要がある。

 その何が問題かというと、複数回の発動は2回目までにタイムラグが発生する以上残った敵に逃げられる可能性があるという点、『アクセルシューター』の使用はカートリッジを節約したい悠としては避けたいという点である。

 

 

 

 

 

>(相手はこっちに気づく様子はない…なら多少時間をかけてもいい。確実に一撃でとれる一手を!)

 

>「ストライクハート、『バスターカノンモード』に移行。」

 

「『ディバインバスター』でまとめて撃ち抜くつもりですか?あの人数となるとオーバーチャージをする必要がありますし、そこまで時間をかけたらさすがに気付かれるんじゃ…?」

 

>「『ディバインバスター』は当たり。だけど()()()()んじゃなくて、()()させるんだよ。ファイアリングロックはしたまんまだよね?」

 

「…!分かりました。モードチェンジ、『バスターカノンモード』。」

 

 

 

 

 

 今のやり取りでやることを察してくれたのか、これ以上の問答はなくストライクハートは杖形態の『アクセルモード』から新しい砲撃形態の『バスターカノンモード』へと姿を変える。

 以前の『カノンモード』よりさらに重厚な見た目になったそれは、瞬間魔力放出の性能が上がっているとともにそれに耐えうるように耐久力の上昇も施されている。

 

 

 

 

 

 狙うは、4人のちょうど中間地点。

 ストライクハートの切っ先を向けると魔力がチャージされ、瑠璃色の魔力光が空に輝く星となる。

 異常に気づいた4人が同時に空を見上げる。

 今なおも膨らんでいく魔力の塊を見てある者は目を剥き、ある者は即座に逃亡を試みる。

 しかし、今から逃げようともそこ一帯は既に悠の攻撃射程内。

 そして、砲撃魔法(不可避の光)が撃ち落とされる。

 

 

 

 

 

>「ディバイン…バスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ファイアリングロックとは簡単に言うと「魔力による物理干渉を切って、地形破壊を防ぐため」の機能である。

 悠の魔法は大規模なものが多く、平地でその魔法を連発すれば周囲への被害は甚大なものとなる。

 そのため、周囲の建物や地形への被害を少なくするために悠の魔力が周囲へ影響を与えないようにする機能が「ファイアリングロック」なのである。

 つまり、ファイアリングロック機能がオンであれば、悠の魔法が建物などにぶつかってもそれらが壊れることはない。

 

 

 

 では、そのファイアリングロック機能がオンの状態で膨大な魔力を一瞬で打ち出す『ディバインバスター』を地面に向かって撃った場合どうなるか?

 

 答えは「地面と衝突して行き場を失った魔力が周囲に向けて炸裂する」である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 砲撃魔法によって地面に着弾した魔力は行き場を求めて瞬く間に周囲へ拡散していく。

 轟音とともに球状に広がる魔力はさながら爆裂が起こったかのように、一瞬で4人の生徒を吞み込んで土煙を巻き起こす。

 視界が開けた先には先程巻き込まれた生徒たちが倒れており、それぞれ転送魔法の光に包まれてその姿を消した。

 

 

 

 

 

>「…やりすぎたかな?」

 

「いいんじゃないでしょうか?」

 

 

 そう呟いた悠に返ってきた言葉は意外と辛辣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからも生徒を見つけては倒してを繰り返して、バトロワ開始から15分後。

 バトロワ前に教師から渡された腕時計型のサテライトスキャンの受信端末から機械音声が流れる。

 

 

 

〈バトルロワイアル開始から15分経過。サテライトスキャンを行います。〉

 

 

 

 その音声を聞いた瞬間悠は地上に降り、物陰に身を隠す。

 マップを見るという行動はどうしても周囲への注意は散漫になる。

 そうでなくともわざわざ見つけられやすい空中で足を止める理由など存在しない。

 周囲からの視界を切った悠は改めて端末を操作すると、高精細なホログラムの立体マップが現れ、そのマップ上にいくつもの光点が表示される。

 残った光点の数ーーー48。

 この15分で実に半数が既に脱落したということである。

 残った光点は総じてバランスよく散らばっており、2~3個固まっているところは戦闘中か、あるいか共闘中か。

 悠は光点の位置を記憶すると、続いて自身の近くにある光点を指でタッチして名前を表示させていく。

 表示された名前が10を超えたあたりで悠は『雪花ラミィ』の名前を見つけてーーー即座に『アクセルフィン』を展開して駆け出した。

 

 

 

 ラミィの光点の近くには既に2つの光点、加えて言うなら2つの光点がラミィに追いすがっている。

 即ち、戦闘中であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもうしぶとい!ねねたちもそんなに暇じゃないんだけど!」

 

「ねねち落ち着いて、押してるのはこっち!焦らずいけば勝てるよ!」

 

「くぅっ…(守るので精一杯、突破口が見つからない!)」

 

 

 

 

 

 氷の盾はハンマーを持った少女ーーー桃鈴ねねによって砕かれ、氷の飛礫はジャグリングクラブを持ったフェネックの獣人ーーー尾丸ポルカによって相殺される。

 さっきまで隣にいただいふくも疲労困憊でここにはいない。

 持ちうる術はあるだけ試した。

 が、それでもこの二人を倒すには至らず状況はジリ貧、正確には魔力を消費しているラミィの方が徐々に不利になっている。

 

 

 

 

 

(押し切るのはもうできない。でも絶対に攻め切らせない!)

 

 

 

 

 

 しかしラミィの瞳にはいまだ消えぬ光がある。

 その証左として、有利な状況でもなおねねとポルカの2人はラミィのことを未だに倒しきることができずにいる。

 二人で同時に攻めても、ラミィは絶えず後退しながらねねの接近を氷の飛礫で寸断して、ポルカの投擲を氷の盾で防ぐ。

 二人を倒すことは考えずひたすら守ることに専念したラミィに、ねねとポルカは決定打を与えられずにいた。

 

 

 

 

 

(サテライトスキャンはもう行われてる。ならきっと…)

 

 

 

 

 

 ラミィが思い浮かべるのは一人の少年。

 一か月前に助けてもらって、昨日再開したばかりの、言ってしまえばそれだけの少年。

 温和で、優しくて、困ってる人を見過ごせなくて、そしてそれが少し話しただけで分かってしまうほど純粋な人。

 だからこそそんな少年に、ラミィは信頼し、心を寄せ、助けに来てくれることをひとかけらも疑わない。

 優しげな彼の笑顔を思い出して、ラミィは一つ笑みをこぼす。

 

 

 

 一瞬の油断、一瞬の気の緩み、それこそが命取りとなってしまった。

 

 

 

 

 

 ガクンッ

 

(ッ!足が…!)

 

 

 

 

 

 ラミィの腰が落ちる。

 絶えず後退しながら移動していたラミィの足に小石が引っかかり、今までなら難なく避けれていたそれはわずかな気の緩みによって意識の外にはずれ、致命的なスキを晒す要因となってしまった。

 慣性の法則によって後方への動きを止められないラミィは、そのまま地に背を預ける結果となる。

 

 そしてそのスキを見逃すほど今回の相手は甘くはない。

 

 

 

 

 

「これで…終わりだあぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 手に届く位置まで接近したねねが勝利の笑みを浮かべて大型のハンマーを振り上げ、叩きつけの要領で振り下ろしにかかる。

 それにより風が唸りをあげ、容赦なくラミィの耳朶を叩く。

 普通なら恐怖を覚えかねないそんな光景でも、ラミィはなお瞳に光を失わない。

 しっかりと相手を見据え、逆転の一打を模索し続けているが、都合よくそんな方法は見つからず、回避も、迎撃も既に間に合わない。

 故にラミィは彼を想う。

 

 

 

 

 

(ごめんね、約束守れないかも。……………でも、叶うなら…助けて、悠くん!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女の願いは、聞き届けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「そのまま伏せてて!ディバインバスター!!!」

 

「Extension.」

 

 

 

 

 

 瑠璃色の魔力が荒ぶる波濤となって倒れたラミィの目の前を亜音速で駆け抜ける。

 それはそのままねねを巻き込んで突き進み、魔力ダメージ超過で彼女は転送魔法によって退場させられた。

 突然の事態によってラミィも、残されたポルカも硬直する。

 そしてその事態を引き起こした張本人はラミィの傍に降り立つと空いた手をラミィへと向ける。

 

 

 

 

 

>「ゴメン、遅れて。」

 

「お待たせしましたー!」

 

 

 

 

 

 陽気な相棒の声とともにそういって、ヒーロー()はラミィが思い浮かべたものと同じ笑顔を向ける。

 それがなんだかおかしくて、嬉しくて、自然と笑みを浮かべてしまう。

 その笑顔でこっちはピンチになったのに、などと自分でもよく分からない理不尽な言い訳を考えて、それをどうにかのみこんだ。

 戦いはまだ終わってない、相手もまだ残ってる。

 やるべきことは、まだまだたくさんあるんだから。

 彼の手を掴んで起き上がり、礼を告げる。

 

 

 

 

 

「ありがとう、悠くん。」

 

>「どういたしまして。じゃあ、続きといこうか。」

 

「ヤッバー…これってかなりピンチ…?」

 

 

 

 

 

 ポルカはひそかに自分の死期を悟っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ディバインシューター!」

 

「アイスバレット!」

 

「うわっちょちょ!ナニコレ避けずらい!」

 

>「む…(避けるのが上手い、というより足捌きが抜群に上手いのか。)」

 

 

 

 

 

 誘導弾である『ディバインシューター』に加えて直射だが手数が多いラミィの氷魔法『アイスバレット』を危なげながらしっかりと『クラウンステップ』で避けきったポルカに心の中で賞賛を送りつつ悠は考察する。

 彼女の長所がそこ(足捌き)にある以上対応策は大きく二つ。

 即ち、足の動きそのものを封じるか、足の動きが影響しない空中に引っ張り上げるかである。

 後者でやるとすれば彼女を掴んで直接持っていくというのが唯一の方法であろうが、そんな暇があったら近接砲である『クロススマッシャー』を撃った方が早いし、そもそも前提として掴ませることすらさせてくれないだろうということで却下。

 そこまで考えたところでポルカから抗議の声が上がる。

 

 

 

 

 

「ちょっとー!2対1は卑怯じゃないの!?」

 

>「いや先にやってたそっちが言っても…」

 

「説得力がないですよね。」

 

「うぐッ。」

 

 

 

 

 

 二人にド正論で返されたポルカが呻く。

 しかしそれでも手は止めず【投擲術】によって強化されたジャグリングクラブやボールで四方八方から攻撃を仕掛けてくる。

 が、それは二人になって見る範囲が実質半減した悠とラミィにとっては脅威とはなりえず、各々が防御魔法で確実に防ぎにかかる。

 回避は何とかなっているが攻撃する相手はまさに難攻不落、いよいよ現状で勝つビジョンが思い浮かばなくなったポルカに残された手は一つ。

 

 すなわち、逃走の一手。

 そしてそれは悠も承知済み。

 故にそこからの行動は早かった。

 

 

 

 

 

>「ラミィ、3秒足止めできる?」

 

「うん、任せて。」

 

 

 

 

 

 二人の間にそれ以上の問答はない。

 悠はラミィがどうやって足止めするのかは分からないし、対するラミィも悠が足止めの後に何をするかは分からない。

 だが、二人には確かな信頼があった。

 根拠はない、実際に一緒に戦うのはこれが初めて。

 だがそれでもこの1ヶ月で築いたものが、2対1を耐えきった実績が、あの状況から助けてくれた事実が、たしかに二人を結び付けた。

 

 

 

 

 

「『アイスフロア』!」

 

「わ!わわわわわ!!」

 

 

 

 

 

 ラミィが地面に手をつき唱える。

 その瞬間、冷気とともにラミィの前方からポルカの後方にかけて放射状に地面が凍り付く。

 氷に巻き込まれることはジャンプで回避したポルカだが、摩擦係数の少ない氷の床に変貌したことで『クラウンステップ』を刻めず、それどころか足が滑ることで立つこともままならない。

 ならばとポルカは地面の氷を破壊するためにジャグリングクラブを地面に叩きつける。

 地面に這うように発生した氷はそれによりたやすく破壊されるが、ラミィの目的はあくまで足止め。

 氷を壊すために足を止めた時点でラミィは役目をしっかりと果しており、その目的に気づかなかった時点でポルカは二人の策にはまったということになる。

 そして、悠の策は完璧に刺さった。

 

 

 

 

 

>「レストリクトロック!」

 

 

 

 ガキンッ!

 

 

 

「うぇえ!?」

 

 

 

 

 

 自身の足場を確保して安堵の声を漏らした瞬間、ポルカの体は光の輪で完全に捕らえられる。

 指定範囲の対象をまとめて拘束する『レストリクトロック』。

 悠はラミィが『アイスフロア』を発動した段階で既にこの魔法を発動させていた。

 キメラすら完全に抑え込んだこの魔法が竜などの幻想種ならともかく獣人の少女に破られる道理などなく、ポルカは抜け出そうと必死に体を動かすがそれは意味を成さず。

 

 

 

 

 

「女の子を縛って楽しいかー!?」

 

>「………ストライクハート、モードチェンジ。」

 

「あ、逃げましたねマスター。」

 

 

 

 

 

 そこちょっとうるさいよ。

 

 

 

 ポルカの言葉に悠はあからさまに顔を背け、ストライクハートを『バスターカノンモード』へ移行させる。

 勝つためとはいえなまじ客観的に見ると悠に非がありそうな光景というのは自覚しており、それをさらに言葉にして放つフェネックの少女は鬼か何かかと思ってしまう。フェネックだが。

 ついでに言うと先程のポルカの発言からこちらに向くラミィの顔がちょっと怖い。

 

 早々に終わらせようと悠は魔法陣を展開。

 足元に円形が1つ、ストライクハートを取り巻くように円環状が4つ、切っ先に魔力のチャージが開始され、それは同時にポルカの退場までのカウントダウンとなる。

 

 

 

 

 

「この変態!このまま縛られてあんなとこやこんな…」

 

>「バスター。」

 

「Divine Buster.」

 

 

 

 

 

 余計な被害を広げようとする輩に慈悲はなく、ポルカは二の句を告げることなく退場していった。

 間違いなく悠にとって一番抑揚のないディバインバスターの掛け声であり、締まりのない終わり方だった。

 勝ったはずなのに勝利の喜びは感じられず、訪れた静寂がとても痛々しい。

 

 

 

 

 

「………悠くん。」

 

>「言わないで、お願いだから。」

 

「…うん。」

 

 

 

 

 

 ラミィから感じる憐憫の感情が、悠の心を深く抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はいということでねね&ポルカ戦無事終了しました!

 したんですけど…なんとも締まらない終わり方でしたね。

 

 ポルカェ………。

 

 まあ無事に当初の予定どうりラミィちゃんとも合流を果たしたのでよしとしましょう。

 ここからは二人行動でどんどん相手を蹴散らしていきましょう!

 

 

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。




思ったより話が進まなかったので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part7 獅子の狙撃、魔導師の狙撃

5期生たちの新衣装が最高にかわいかったので初投稿です。


 

 

 

 

 仲間がいれば怖くない!な気持ちで行く実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回はラミィちゃんと合流、そしてその流れでねね&ポルカと戦闘、撃破しました!

 

 ねねちに関してはラミィちゃんを助けるためとはいえほぼ不意打ちみたいな倒し方になってしまいましたが、そこはまあしかたがなかったということで…

 あ、ちなみに細かい描写がなかったですがねねちを倒すために発動したのは初使用の『ディバインバスター・エクステンション』ですね。

 通常の『ディバインバスター』より射程距離と砲撃速度が大幅に上昇したもので、基本は発動に2発、今回はさらにチャージ時間短縮に2発の合計4発のカートリッジを使用しています。

 チャージ短縮してなければ十中八九間に合わなかったでしょうからこれは必要経費ですね。

 

 そしてポルカの()()ですが、見た限り他の人には聞かれてなかったようで一安心です。

 本人としてはまあ拘束を解くまでの時間稼ぎのつもりだったんでしょうけどこっちとしては肝が冷えた場面でした。

 主人公に関する噂というのはどこまで広がるかが序盤では特に予想できないので、万が一ほかのホロメンに聞かれでもしたら好感度調整がこの上なくめんどくさくなりますからね。

 

 

 

 

 

 ではではバトロワの続きをやっていくわけですが、もうラミィちゃんとの合流は果たしましたのでこの先は殲滅戦の動きでこちらからガンガン攻めて頭数を減らしていきます。

 一番の脅威になりそうなかなココペアですが先ほどのサテライトスキャンで位置は特定済みで、おそらく現在もグラウンドの中央に陣取ってやってきた相手を片っ端から叩く戦法で大暴れしていることでしょう。

 よってそこには終盤まで近寄りません。

 かなココ戦は間違いなく消耗戦になりますし仮に勝ったとしてもその後で漁夫でやってきた相手を処理することができない可能性が高いためです。

 

 ということで話してる間にユー君のカートリッジの再装填も終わったところでそろそろ移動を始めましょ………ん?

 ちょっと待って校舎の屋上でなんか光が反射しましたよね!?

 サテライトスキャンでも確かそこに一人いたはず、これは狙撃ですね!

 ヤバい回避…待ってなんか操作受け付けないんですけど!?!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ねねとポルカとの戦いが終わり、悠とラミィはそれぞれ息を整えながら木陰に移動する。

 悠は休憩がてら使い切ったストライクハートに取り付けられた空の弾倉を取り外し魔法で転送、代わりにその手に全く同じ形の予備弾倉を呼び出し取り付ける。

 これで残りのカートリッジは12発。

 サテライトスキャンで残り人数が半数を切っているのは確認しているが、無駄遣いはできないなと思いながら次の動きを考える。

 まず最初に避けるべきなのはグラウンド、遮蔽物も何もないあの場所は悠にとっては戦いやすいフィールドではあるが同時に空を飛ぶ悠は相手にとっても見つけやすい敵であり、つまりはまだ人数が残ってる現状では相手の狙いが自分に集まりやすいということである。

 ラミィに関しても悠と同じ遠距離型の魔法使い(メイジ)であることから乱戦が起こりやすいグラウンドではお互いにフォローが効きにくい。

 

 外回りに進みながら行こうかな…とそこまで考えたところで悠は弾かれたように顔を上げ校舎の屋上で光に反射する()()()を視認すると、その瞬間隣にいたラミィを反射的に突き飛ばしていた。

 ラミィは予想外の衝撃に小さな悲鳴を上げて尻もちをつく。

 

 

 

 

 

「いった…悠くん、なに…を………!?」

 

>「ぐっ…あ……!」

 

 

 

 

 

 悠を見上げたラミィの目に映ったのは空に舞う鮮血、そして苦悶の表情を浮かべて血に染まる肩を抑える悠の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずった。いや、ラミィと合流して戦いにも勝って気が緩んだか。

 さっきのサテライトスキャンでそこに一人いたのは確認したはずなのになんという失態だろうか。

 ギリギリで気づいてラミィを庇うことはできたがその代償がこれだ。

 

 しかし今もなお作られていく血だまりと肩口の傷を交互に見て重傷であるが致命傷ではないと判断、思考が加速する。

 撃たれたのは向かいの校舎の屋上から、獲物はスナイパーライフル。

 それもフィールド系の防御魔法に分類されるバリアジャケットを一切の抵抗なく貫通するほどの威力となるとアンチマテリアルライフル(対物ライフル)か。

 アンチマテリアルライフルはスナイパーライフルの中でも大口径の弾を使用したもので、元々は()()()()()()()と呼ばれており、軽量化と連射性能を犠牲に威力と貫通力を高めたものである。

 悠のバリアジャケットは通常のスナイパーライフルでは弾くまではいかなくとも貫通できないほどの防御性能を誇ることからアンチマテリアルライフルの貫通力の高さがうかがえる。

 しかし欠点として取り回しがきかないこと、そして一発撃てば次弾まで相応の時間がかかる点があげられる。

 

 故に悠は今にも泣きそうな顔をしているラミィを抱えて撃たれた側とは反対の校舎裏まで一気に飛翔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ふぅ、とりあえずここまでくれば…射線は切れたか。」

 

「悠くんそんなこと言ってる場合じゃないよ!すぐに治すから、清廉なる光をもって傷を癒せ『ヒール』!」

 

 

 

 

 

 ラミィが両手を悠の傷口に向けて呪文を唱えると傷が淡い光に包まれてまるで逆再生のように塞がっていく。

 回復魔法『ヒール』、それも追加詠唱による効果の増大がなされており悠の傷は10秒もたたずにきれいさっぱりなくなっていた。

 悠は「おお!」と言いながら治った肩をグルグルと回して違和感がないのを確認する。

 

 

 

 

 

>「ありがとうラミィ、助かったよ。」

 

「うん、どういたしまして。こちらこそありがとう。」

 

>「ん。…さてと、ストライクハート。」

 

「はいマスター!目標、補足中です。位置情報開示します。」

 

>「さっすが。」

 

 

 

 

 

 マスターである悠が傷を負ったにも関わらずストライクハートが反応を示さなかった理由はこれである。

 インテリジェントデバイスであるストライクハートは主の魔法補助がメインの機能ではあるが、デバイス自体に魔力がある程度込められている関係上デバイス単体での魔法行使も可能になっている。

 先ほどの狙撃の瞬間、悠はストライクハートに『狙撃手の追跡』を命令していた。

 それによりストライクハートは広範囲の索敵魔法(エリアサーチ)を展開、狙撃手の行方を追い続けていたということである。

 

 ストライクハートをサテライトスキャンの受信端末に疑似的に接続、MAP機能を使ってそこに光点が一つ表示される。

 表示された場所は撃たれたと思われる校舎の屋上から少し離れた別棟、そこの最上階である。

 校舎の屋上よりかは高さはないが周りに建物が少なく、なにより悠たちがいる校舎を余すことなく見渡せる位置。

 このまま出たら間違いなく撃たれるな、と確信できた悠は立ち上がるとストライクハートを『バスターカノンモード』へ移行、魔法陣を展開する。

 

 

 

 

 

「悠くん…?」

 

>「こっちの位置は補足されてる。でも、相手は自分の位置が補足されてる、ましてや反撃されるとは思ってないはず。それに…」

 

 

 

 

 

 そこで悠は言葉を切り、普段とは違う口角が上がった好戦的な表情を見せる。

 

 

 

 

 

僕って結構負けず嫌いなんだよね!ストライクハート、いくよ!」

 

「Load Cartridge.」

 

 

 

 

 

 ガシャンガシャンッ!と音を立てて排出口から空薬莢が2つ飛び出す。

 近くにいるラミィが咄嗟に顔を覆ってしまうほどの魔力の波があふれ出し、それが校舎の壁に向けたストライクハートの切っ先に集い膨らんでいく。

 エリアサーチによって相手の位置は確認済み、そして動く様子もない。

 これは、直接見えない敵に位置情報だけで標準を合わせられる腕があってようやく実現できる技。

 

 

 

 

 

「A firing lock is cancelled.」

 

 

 

 

 

 ストライクハートの勧告。

 A firing lock is cancelled.

 意味は、ファイアリングロックの解除。

 すなわち、この攻撃に関しては物理干渉があり、地形破壊を可能にする。

 

 

 

 

 

 

>「ディバイン…バスター!!!!!」

 

「Extension.」

 

 

 

 

 

 溜められた魔力がキーワードとともに解放、瑠璃色の閃光となって校舎に衝突。

 その光は校舎を丸々一つ貫通し、光点が表示されていた別棟まで一瞬で駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(まさかあの好条件で仕留められないとはね。私もなまったかな。…いや、あの男のことを過小評価していたせいか。)

 

 

 

 

 

 屋根伝いに校舎を移動しながら獅子の獣人ーーー獅白ぼたんは想起する。

 バトロワ開始直後、校舎の屋上に転移できたのはぼたんにとって最高に運が巡っているといっていいだろう。

 彼女の扱う武器は銃火器、その中でもメインウェポンと呼ぶべきものは今なお抱えているアンチマテリアルライフル(スナイパーライフル)である。

 視覚外、いや知覚外からの狙撃で遠くの相手を屠り、校舎を登ってきた相手は【気配感知】で位置を補足してサブマシンガンで蜂の巣にする。

 まさに遠近ともにスキがない、余程のアクシデントがない限りやられることはないと思っていたし、即死級の攻撃に限り当たったとしてもそれを肉体的ではなく魔力的なダメージに変換されて傷を受けない状態にするというこの学園のシステムが、ぼたんから()()という概念を取り払った。

 

 

 

 

 

 校舎の屋上を陣取って、さながら固定砲台のように射程内に入り込んだ相手を射抜く作業の繰り返し。

 その数が10を超えたあたりでぼたんは()()を見つけた。

 雪花ラミィ。

 同じクラスで、隣の席。

 男と一緒にはいってきたときはどんな奴かと思ったけど話してみればめちゃくちゃイイヤツで、話しやすかった印象。

 まあかといって不戦協定を結んだわけでもないが、頭数を減らせるならだれでもいいかと狙いをラミィではなく彼女に追いすがっていた黄色い少女に変えて標準を合わせた瞬間、巨大な瑠璃色の魔力が亜音速で視界を覆った。

 

 「…は?」と彼女らしからぬ呆けた声を漏らしたのは記憶に新しく、我に返って急いでスコープの倍率を下げて状況を把握すると、すでに戦闘が終わっていた。

 彼女とともにいたのは一人の男。

 たしかユウ、とか呼ばれてたっけか。

 スコープ越しに見た印象はいかにも優男といった感じで正直に言って強くは見えなかった。

 よって狙うならこちらの情報をもってるラミィの方かなと彼女に標準を合わせて引き金を引く。

 

 

 

 瑠璃色の瞳がこちらを見ていることに気づいた。

 

 

 

 ドクンッと心臓が跳ねる。

 ラミィの頭に向けて放たれた弾は寸分違わず飛んでいくが、それは代わりに彼女を押しのけた彼の肩に直撃し血で染める。

 

 

 

 

 

(バレた?あそこから?)

 

 

 

 

 

 予想外のことに動揺を隠せないぼたんはリロードを忘れてスコープを覗いたまま二人が去っていくのを見る。

 しかしいつまでもこのままではいられないとぼたんはわずかな硬直ののち立ち上がって動き出す。

 

 

 

 

 

(なんでバレたかはわからない。でも居場所を悟られた以上ここは危険だ。目指すは…別棟!)

 

 

 

 

 

 忘れていたリロードを終わらせて別棟にたどり着いたぼたんは二人が去った校舎の全域を見れる位置に移動すると片膝をついてスコープを覗き見る。

 どこから顔を出しても見える位置、加えて相手はこちらがどこに移動したかは見てないはず。

 たとえ回復したとしても次は一撃で屠ると意気込んで息を整える。

 焦りはない。

 スナイパーとしていつも通りのことをこなせばいいとただひたすら機会を待つ。

 

 

 

 10秒…20秒…30秒………。

 

 

 

 そして40秒が過ぎよういうとき、ぼたんの直感が警報を鳴らした。

 

 

 

(ヤバい!なにか…来る!!)

 

 

 

 

 

 【直感】によって何かを察知したぼたんは咄嗟にライフルを抱えて全力で横に跳ぶ。

 その直後、ぼたんが立っていた場所を瑠璃色の閃光が駆け抜けた。

 駆け抜けた光が細くなりやがて消え、光が通り過ぎた場所には()()()()()()

 床も、壁も、はたまた向こう側の校舎も何かに切り取られたかのように一部分が丸く消失し、その向こう側に()の姿を見た。

 ぼたんは身震いする。

 恐怖による震えではない、これは退屈だったこの戦いにおいて自分の予想を超えたものの出現による歓喜。

 これは、武者震いだ。

 

 

 

 

 

「面白いじゃん、楽しませてよ。ユウ!」

 

 

 

 

 

 そう言ってぼたんは笑みを浮かべながら駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…避けられましたね。」

 

>「まさかあれで決められないとはね…」

 

 

 

 

 

 ストライクハートはいつも通りの状況報告、そして悠は若干ひきつった笑みを浮かべていた。

 この反撃は相手側も予想はできなかったはず。

 いや、仮にできたとしても亜音速で駆ける魔力砲撃は見てから避けるというのはできないはず。

 つまり相手は攻撃を()()ではなく()()()()()()()したということになる。

 であれば、遠距離の撃ち合いは意味をなさないだろう、少なくともこちら側に勝ち目はないことになる。

 なら攻撃を予測できる相手にどう戦うか、悠の答えはもう決まっていた。

 

 

 

 

 

>「ラミィ、手伝ってくれる?」

 

「…うん!助けられたんだもん、今度はこっちが助ける番!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして顔を真っ赤にしたラミィを横抱き(お姫様抱っこ)しながら『アクセルフィン』で空を飛んだ悠はマークしている相手の位置まで一気にたどり着く。

 会敵は、すぐだった。

 ドドドドドッと激しい銃声とともに悠とラミィに鉛玉の雨が降り注ぐ。

 それを『ラウンドシールド』で危なげなく防ぐと、銃声が止むとともに獣人の少女が武骨な銃を持ちながら建物から悠たちの目の前に降り立つ。

 

 

 

 

 

「ヤッホー、キミと面と向かって話すのは初めてかな。私は………って、何やってんのあんたら?」

 

「悠くん、お願いだからもう下ろしてぇ………」

 

>「あ、ごめん。攻撃防ぐのに集中してて…」

 

 

 

 

 

 二人を改めて見据えたぼたんが気軽に挨拶をしようとして…目の前の光景に怪訝な表情を浮かべる。

 そこにいたのは機械的な印象の杖を持ちながら器用にラミィを抱き上げている悠と羞恥のあまり顔を両手で押さえながら震えた声で懇願するラミィの姿。

 挨拶次第やりあう気満々だったぼたんもさすがに毒気を抜かれ構えていたアサルトライフルを下ろす。

 そうしてる間に悠もラミィを下ろし、ラミィはパタパタと手で顔を扇ぎ一つ咳払い。

 

 

 

 

 

「えっと、今朝ぶりですね獅白さん。」

 

「あーうん、まあ何も見なかったことにしとくよ。」

 

「うぅ………」

 

 

 

 

 

 何事もなかったかのように仕切りなおすラミィにぼたんの気遣いの言葉が深く突き刺さり沈黙する。

 

 

 

 

 

「さて改めて…初めまして。私は獅白ぼたん、獣人だよ。」

 

>「ご丁寧にどうも。僕は星宮悠、ただの人間だよ。」

 

「オッケー悠ね、私もぼたんでいいよ。それにしてもただの人間にあの距離の狙撃が避けられるかって。ジョーダンきついよ?」

 

>「冗談じゃないんだけどね…狙撃に関してはサテライトスキャンであそこに一人いたのは記憶してたし、直前にスコープが光を反射してたからね。それでもギリギリ避けられなかったけど。」

 

「あーそれか。うん、その可能性に気づけないんじゃ私もまだまだだな。さてと挨拶もほどほどに…」

 

 

 

 

 

 そこまで言ってぼたんは下ろしていたアサルトライフルを再び構える。

 指をトリガーにかけ、サイト越しに悠たちを見るその瞳は獲物を捕らえる肉食動物のそれだ。

 それを見て悠も愛機を構え、復帰したラミィも詠唱の準備を整える。

 

 

 

 

 

「じゃ、始めようか。二人とも楽しませてよ?」

 

>「こっちだって負けない!いくよ!!!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 トリガーが引かれ、銃口が火を噴く。

 それが、開戦の狼煙となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃声が絶えず鳴り響き、鉛玉が魔法陣や氷の壁と衝突して火花を散らす。

 戦況は膠着の模様を呈していた。

 ぼたんが引き金を引き、撃ち出された弾は悠とラミィの防御魔法によって阻止され、返す刃として射撃魔法を撃ち込むも【直感】によって軌道を読まれたそれは最低限の動きで躱される。

 スキになりそうなリロードもぼたんが回避に専念することによって被弾はゼロ。

 

 ならばと悠はロードカートリッジを行う。

 足元に魔法陣が展開され、悠の周りに現れる計20個の魔力球。

 それにタイミングを合わせラミィも詠唱、攻勢に転じる。

 

 

 

 

 

>「アクセルシューター…シュート!」

 

「アイスランス!」

 

 

 

 

 

 魔力球がそれぞれ意思を持つように、それと同時に3つの氷の槍が空気を切り裂いてぼたんに向けて殺到する。

 ぼたんはその物量を見て重りとなるアサルトライフルを収納魔法で異空間へ飛ばし、軽快に回避行動にはいる。

 速度と攻撃力が高い『アイスランス』は近くに着弾してもその衝撃でダメージが入りかねないため大きくステップをとって攻撃の軌道上から外れ、通り過ぎた氷の槍が風を起こしぼたんの髪を揺らす。

 続くアクセルシューターはそのルートからすべて避けることは不可能と判断、即座に異空間からサブマシンガンを取り出し、相殺しにかかる。

 前方から上下左右と迫るすべての魔力球を処理して一息ついた瞬間、重心を横にずらして一つステップ。

 その次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()がさっきまでぼたんのいた場所に撃ち込まれた。

 

 

 

 ドドドッ!

 

 

 

 

 

「おお、危ない危ない。やっぱ油断ならないね。」

 

>(やっぱり…獅白さんは見てから避けてるわけじゃない。かといって攻撃を予知や予測をしているわけでもない。咄嗟の回避行動であの死角からの攻撃を避けるってことは攻撃を()()する能力ってところか。)

 

 

 

 

 

 悠は即座に対策を練る。

 不意打ちは不可能、ラミィとの同時攻撃も現状物量が足りない。

 問題なのは攻撃を感知する能力と、何気に高い彼女自身の素早さである。

 さすがは獣人というべきか素の移動速度というのが速く、逃げに徹せられたら悠はともかくラミィはとても追いつけないだろう。

 

 倒すための策は…ある。

 そのための仕込みも終わらせた。

 あとはタイミングと、勇気だけだ。

 

 

 

 

 

>「ラミィ、作戦がある…っと!」

 

「暢気に話してる場合!?させるわけないでしょ!」

 

 

 

 

 

 いよいよテンションが上がってハイになったのかぼたんは獅子さながらの獰猛な笑みを浮かべて片手の銃で牽制しながらさらに銃を呼び出し両手に持つ。

 2丁持ちの同時発射による超火力攻撃『ダブルバースト』。

 3人の距離は銃撃の回避が効く位置ではなく、悠とラミィは迷わず防御を選択。

 少しでも被弾を少なくするため、二人は寄り添って同時に魔法を発動した。

 

 

 

 

 

「くらいな!ダブルバースト!!」

 

>「エクセリオンシールド!」

 

「アイスシールド!」

 

 

 

ガガガガガガガッ!!!

 

 

 

 

 

 

 多重装甲の魔法障壁と花弁を形どる氷の盾が重なるように展開される。

 そこに容赦なく先ほどまでとは比較にならないほどの量の鉛玉の雨が降り注ぎ、二つの盾を削っていく。

 盾の全面に撃ち込まれる弾は盾を端の方から崩壊させ、その防御範囲を徐々に狭めていく。

 と、そこで悠がラミィをいまだ健在のエクセリオンシールドの範囲内まで抱き寄せた。

 

 

 

 

 

「悠くん!?それじゃあ悠くんが!」

 

>「大丈夫、このバリアジャケットも防御魔法の一種なんだ。くらい続ければさすがにキツイけどこのくらいなら…それより手短にさっき言った作戦の内容だ。彼女の銃が両方リロードに入ったタイミングで『アイスフロア』を使って。あとは僕が決める!」

 

「で、でも獅白さんの速さじゃ避けられ……ううん、分かった!」

 

「作戦会議は終わったかい!?それじゃあこっちも…ッマガジンが…!」

 

>「!今だいくよラミィ!」

 

「うん!任せて!」

 

 

 

 

 

 カチッと無機質な音と同時に銃声が止む。

 ここで決めようと思ったぼたんにとっては致命的で痛恨のマガジン切れ。

 その瞬間を見逃さず、悠とラミィは盾を解除して同時に動き出した。

 

 

 

 

 

「アイスフロア!」

 

「そんなの食らうか…っな!?」

 

>「『フラッシュムーブ』…まさか接近してくるとは思わなかったでしょ?」

 

 

 

 

 

 ラミィから放射状に地面が凍り付いていく。

 しかしそのスピードは決して速いものではなく、距離も避けるうえでは十分に空いている。

 あくまで冷静に範囲から外れようと動き出すぼたんだが、突然目の前に悠が現れ腕をつかまれて動きを封じられた。

 そして動きを封じられたが最後、迫ってきた氷に悠もろとも巻き込まれ足を固められる。

 

 

 

 

 

「悠、正気か?自分もろとも私を封じてくるなんて…」

 

>「魔法はぼたんさんを倒した後に解除してもらうさ。攻撃じゃなくて直接掴みにいったのは()()()()()()()なら感知できないと睨んでたから。それにさんざん遠距離戦をやり続けて今更突っ込んでくるなんてつゆにも思ってなかったでしょ?」

 

「たしかに…ね。」

 

 

 

 

 

 悠は空いてる左手をぼたんへ向けて魔力をチャージする。

 ぼたんは【直感】で攻撃を感知するが、当然避けられる状況ではない。

 だが、諦めるなんてもってのほかである。

 避けられない、防御もできない。

 なら、攻撃される前に倒すだけだ。

 

 

 

 

 

 マガジンが空になったライフルを捨てて即座に次の武器を呼び出す。

 収納しなかったのはその手間さえもこの瞬間においては負けの原因になるから。

 呼び出すのは片手でも取り回しがきくハンドガン、その中でも最も威力の高い「デザートイーグル」。

 さすがの悠もここから反撃が来るとは予想していなかったのかソレをみて目を見開く。

 悠の魔力チャージは完了した。ぼたんも悠のこめかみにデザートイーグルの銃口を向けて指はすでにトリガーにかかっている。

 先に撃った方が勝ちの早撃ち勝負。

 

 しかしぼたんは一種の極限状態のせいで頭から抜け落ちていた。

 ここにはもう一人いるという事実を。

 

 

 

 

 

「アイスバレット!」

 

 

 

 

 

 撃ち出された氷の飛礫が正確にぼたんの手を弾き飛ばす。

 状況を理解したぼたんが悔し気な顔を浮かべ、対してラミィはやや似つかない勝気な笑顔。

 

 

 

 

 

「ッチ、ここまでかぁ…」

 

>「次は、一人で勝ってみせるよ。」

 

「ッハハ、楽しみにしてるよ。」

 

 

 

 

 

 最後に言葉を交わして、悠は魔法を撃ち出した。

 

 

 

 

 

>「クロススマッシャー!!!」

 

 

 

 

 

 掌から放たれた魔力砲がぼたんを吹き飛ばして彼女は校舎の壁に激突、そして転送魔法の光に包まれる。

 そこにラミィが駆け寄っていく。

 

 

 

 

 

「獅白さん!」

 

「ん?あー、ぼたんでいいよ?私もラミィって呼ぶし。」

 

「…うん、ぼたんさん。ごめんなさい、2対1なんてしちゃって。」

 

「気にしなくていいって。悠にも似たようなこと言われたし、それに次はリベンジするよ。」

 

 

 

 

 

 ぼたんはそれだけ言うと転送魔法によって光を残して消えていった。

 わずかな静寂、そして感傷に浸ることも許されず機械音声が鳴り響く。

 

〈バトルロワイアル開始から30分経過。サテライトスキャンを行います。〉

 

 それを聞いて悠はサテライトスキャンの受信端末を操作してMAPを表示させ、ラミィも隣に立ちMAPを覗き見る。

 前回と同じようにMAP上に光点が表示され、二人して瞠目した。

 残された光点の数はーーー5個。

 

 

 

 

 

 最終決戦は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はいということでぼたん戦無事終了です!

 【直感】持ちなのは分かってましたけどさすがに返しの『ディバインバスター・エクステンション』を避けられたのは予想外でした。

 まあそれでもなんとかラミィちゃんとのコンビプレーが刺さって撃破できましたね。

 

 ちなみに最初に操作不能になった件ですが、操作可能になったのがアンチマテリアルライフルで肩を貫かれた後だったので割とすぐ復帰できましたね。

 これに関しては次回の冒頭で少し解説を入れていきたいと思います。

 次回はいよいよバトロワクライマックス!

 気を引き締めてやっていきます!

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。




ぼたんの口調がこれでいいのか不安になったので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part8 人間&ハーフエルフVS天使&竜

今話から書き方が少し変わったので初投稿です。


 

 

 

 初回バトロワもいよいよクライマックスに突入する実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回はVSぼたん戦を突破したところで終わりました。

 被ダメ自体は少なく済みましたがカートリッジを4発使用して残り8発なのでかなココ戦のことを考えると結構ギリギリですね。

 まあなんとかなるでしょう!というかなんとかしなくちゃいけません。

 

 

 

 

 

 ということで今回の話をしたいのですが、その前に前回の最初に操作不能になった件についてですね。

 前回が終わった後にいろいろとステータスなどを見直してみたのですが、そこで原因が判明しました。

 それがこのスキル欄ですね。

 

 

 

>経歴スキル

【不撓不屈】【過去からの誓い】【守る誓いと殺す呪い

 

 

 

 はい、今まで【???】だったスキルが変化してなんか靄がかかった表記になってますね。

 そして赤文字。ってことでトラウマスキル確定です。

 すっかり出てこないから忘れかけてたところでこれですか…

 えー気を取り直してこの靄がかかったトラウマスキルについてですが、扱いとしては「獲得しているが解放条件を満たしていないスキルが強制発動した」状態となります。

 以前の【???】が「スキルとして獲得はしているが任意での使用ができないスキル」という扱いなのでまあスキル獲得のために進歩はしたということなんでしょうか?

 そしてこのスキル、内容もわずかに判明していまして

 

 

守る誓いと殺す呪い

 守ると約束した存在を目の前で殺された絶望は常人に計り知れるものではない。

 それでもなお守るという想いを捨てないのは、悠が内に眠るレガリアに死してなお願った『守る』という願いが彼を突き動かしているからである。

 

 しかしその『守る』という「誓い」は、同時に『殺す』という「呪い」でもある。

 殺された際にレガリアに願った『守る(殺す)』という相対する願いが、『守る』という気持ちが強い表の悠と『殺す』という気持ちが強い裏の悠を切り離した。

 呪いが表面上に出てくることは基本的にないが、守るべき者を守れなかったときや怒りが極限まで強くなった時など、要は表の悠の存在が揺らいだ時に裏の悠が姿を現す。

 

「敵が味方に攻撃時に確率で『庇う』強制発動。」「?????」

 

 

 

 はい、スキル詳細こそ不明なままですが、スキル効果が一部解放されています。

 それがこの「敵が味方に攻撃時に確率で『庇う』強制発動。」です。

 狙撃の後すぐに動けるようになったのもふまえてこれが操作不能になった原因とみて間違いなさそうです。

 そして追加情報として複合スキルでしたねコレ。

 もう一つの効果は解放されていませんがこれもストーリーを進めれば判明するでしょう。

 ではそろそろ本題に戻りたいと思います。

 

 

 

 

 

 ということでかなココ戦についてですね。

 かなココ戦での動き方ですが前提としてラミィちゃんと分断されないように、最低でもラミィちゃんが単独で標的にならないように立ち回る必要があります。

 理由としましてはラミィちゃんと分断された場合、相性的にかなココどちらが相手でもラミィちゃんが先に落とされる可能性が高いからです。

 以前話した内容ですが、かなたんも会長も基礎スキルに【大胆不敵】を持っており、スキル効果は「相手よりHPが多い状態のときスーパーアーマー(被ダメージ微軽減&怯み無効)付与」。つまりユー君と同じ遠距離魔法使いのラミィちゃんでは『アイスバレット』や『アイスランス』で距離を保つことができず、動きを封じる『アイスフロア』も二人は空を飛べるので意味を為しません。空を飛びながら距離を詰められてエンドですね。

 

 そしてそうさせないために今回はかなココの標的(ヘイト)をユー君に集中させて空中戦を挑み、ラミィちゃんには地上からその援護に専念してもらいます。

 それではサクッと作戦も決めたところでやっていきましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「5人…ここまで一気に減るなんて」

 

 

 

 

 

 サテライトスキャンの結果を見て悠はラミィとともに驚愕する。

 バトロワ開始から15分後…つまり1回目のサテライトスキャンの時には残った人数は48人、そこからほぼ同じペースで人数が減っていることになる。

 バトロワでは時間が経過するごとに脱落する人数のペースは落ちていくのが普通である。

 なぜなら人数が減れば戦う人数も減り、同時に探索により多くの時間をかけることになるからである。

 考えられる理由としては…

 

 

 

 

 

>「徒党を組んだグループがいっせいに返り討ちにあったか…あるいは超広範囲の攻撃でもおきたか…」

 

「これからどうするの、悠くん?」

 

>「そう…だね、僕たちの他にいるのは3人。そして全員がグラウンド。罠があるかどうかはともかく僕たちも向かわないことには始まらない……ッ!」

 

 

 

 

 

 そういった瞬間、MAPに表示された光点が一つ消えた。

 悠はそれを見て急いで残った光点に触れて名前を表示させ…目を見開いた。

 

 

 

 

 

>「天音…かなた」

 

 

 

 

 

 そこに表示された名前は『天音かなた』と『桐生ココ』。

 残念ながら後者の名前に見覚えはなかったが、もう一人の名前を見てまっすぐ悠を見つめた綺麗なアメジストの瞳を思い出す。

 

 

 

 

 

「…知り合い?」

 

>「…うん、隣の席の人。比喩じゃなく本物の天使だよ」

 

 

 

 

 

 悠は一つ深呼吸をする。

 最終決戦で数少ない知り合いとぶつかるなんてなんて運命なのだろうか。

 しかしたとえ知り合いだとしてもやることは変わらない。

 戦って、勝つ。ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

>「いこう、ラミィ」

 

「うん、勝とうね」

 

 

 

 

 

 二人は同時に頷き、グラウンドに向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾多の攻撃を受けて瓦礫の山と化した校舎を抜けて悠とラミィはグラウンドに辿り着く。

 そしてグラウンドの有様を見て二人は絶句した。

 

 ()()()()()()()()

 

 まるで焼野原のような光景だった。

 グラウンドにあったであろうゴールポストや体育倉庫、草木などは跡形もなく消え去り、わずかな瓦礫が残るのみ。そしてグラウンドの全域に炎が拡がり、吹く風によって火の粉が舞い踊っている。

 正確には炎が舞っている場所は高密度の魔力の残滓が見せた半分幻覚のようなものであり、その炎にすでに実体はない。しかしそれが魔力の残滓ということはグラウンドを焼野原に変えた魔力攻撃が行われたという疑いようのない証拠であり、それをやった張本人がこの先にいる事実に悠はストライクハートを持つ手が汗に濡れ、ラミィは悠のバリアジャケットの袖を摘まむ。

 足が止まった二人はそれでも意を決して前に進む。

 その先で、二人の少女を見つけた。

 

 

 

 

 

「お、かなたん。やっと来たゾ!待ちくたびれタ!」

 

「そうだねココ。そして朝ぶりだね悠くん!」

 

 

 

 

 

 なんとも対照的な二人だった。

 悠たちから正面右に立つのは天音かなた。柔和な表情を浮かべる少女はホロライブ学園指定の制服をキッチリと着こなし、その手には小柄な彼女に不釣り合いな身の丈ほどの大型のハルバート(槍斧)を軽々しく持ち上げている。

 対して正面左に立つのは桐生ココ。オレンジの長髪に竜を思わせる角と尻尾と翼。そして勝気な笑顔を見せる少女は学園制服をラフに崩した格好で、制服を押し上げるほどの見事な肢体と大柄の体格ながらその手には何も持たず握り拳を悠たちに向けている。

 

 

 

 

 

>「ん、今朝ぶりだねかなたさん。それと初めまして桐生ココさん。僕は星宮悠、ただの人間だよ。こっちがストライクハート。そして隣にいるのが…」

 

「雪花ラミィです。初めまして天音さん、桐生さん」

 

「初めまして!ラミィちゃんでいい?ぼくもかなたでいいからさ!」

 

「おう!知ってるみたいだけど私は桐生ココ!好きに呼びナ!」

 

 

 

 

 

 そんなこんなで挨拶も終わり一瞬の静寂。

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 その次の瞬間、展開された魔法陣と魔力が込められた拳が轟音とともに衝突した。

 衝撃波が周囲の炎を散らし、舞った火の粉がココと悠を仄かに照らす。

 

 

 

 

 

>「いっきなりじゃないかなあ!?」

 

「ハッ!しっかり反応しといてよく言うナ!!」

 

 

 

 

 

 突撃してきたのはココ。人の状態でスケールダウンこそしているが竜としての膂力を如何なく発揮して繰り出された拳撃は音を超え岩を容易に砕くほど。

 迎えうった悠のラウンドシールドが激しく軋む。しかし当然攻撃が1発で終わるわけがない。ココは足を踏みしめて2発3発と防がれるのもお構いなしにラウンドシールドに拳を叩きつける。

 悠が苦悶の表情を浮かべ割らせまいとラウンドシールドにさらに魔力を込めて耐える。

 と、ここで突然の事態から復帰したラミィが加勢に入ろうとする。

 

 

 

 

 

「悠くん!今援護を…」

 

>「違うラミィ!後ろに盾を!」

 

「ッアイスシールド!」

 

 

 

 バキィン!!!

 

 

 

「そんな…!」

 

「そんな薄い盾で防げると思わないほうがいいよ!」

 

 

 

 

 

 ラミィが作り出した花弁の盾がかなたのハルバートによる横薙ぎの一閃で粉々に粉砕される。

 決してラミィの盾が弱いわけではない。ラミィが扱う氷は氷そのものではなくあくまで氷の特性を持った魔力の塊であり、その強度は実際の氷とは比較にもならない。その証左として『アイスシールド』はポルカのジャグリングクラブではヒビ一つはいることはなかったし、ねねの大型ハンマーも力を溜めた全力の一撃でもなければ壊されることもなかった。

 すなわち異常なのはそれをたった一振りで跡形もなく粉砕してみせたかなたの攻撃の方なのである。

 

 

 

 砕けた氷がダイヤモンドダストのようにキラキラと空を舞う。

 しかしそれを楽しめる者などこの中にいるわけもなく、かなたは追撃するべく振り抜いたハルバートを遠心力を利用して勢いを殺さずそのままラミィに向ける。しかし対するラミィはアイスシールドをたった一振りで砕かれた事実に一瞬硬直してしまう。戦い慣れていないラミィを責めることはできないが、それで止まってくれる相手でもないのは重々承知。

 悠の選択は早く、それがラミィの危機を救った。

 

 

 

 

 

>「クロススマッシャー!!」

 

「うわっきゃあ!」

 

 

 

 

 

 意識はココから背けず悠は空いてる左手をかなたへ向け、【マルチタスク】によって魔法を同時に発動させる。選んだ魔法は近接砲撃魔法の『クロススマッシャー』。予期せぬ方向からの攻撃にかなたは咄嗟にハルバートで防ぐも、すべての衝撃を殺しきることはできず吹き飛ばされる。

 それだけでは終わらず、ココの意識がわずかにかなたに向いたのを見逃さず続けて魔法を発動した。

 

 

 

 

 

>「バリアバースト!」

 

「くぅ!この…!」

 

 

 

 

 

 シールドの爆発をまともに食らったココがかなたと同様に吹き飛ばされる。

 お互いに距離があき、かなたとココが合流するのを見てひとまずすぐ追撃はないと判断した悠はラミィに駆け寄る。

 

 

 

 

 

>「ラミィ、無事?」

 

「う、うん。ありがとう。ごめんなさい役に立たなくて…」

 

>「ううん、そんなことないよ。それと一つ作戦なんだけど………」

 

 

 

 

 

 悠は手短に作戦を伝える。

 そしてそれを聞いたラミィは徐々に顔を青くさせた。

 

 

 

 

 

「…!そんな!それじゃあ悠くんが!」

 

>「分かってる、でもこれが最善。この戦況のまま戦ってたら()()()()()()()()()()

 

「っでも!」

 

>「大丈夫。こう見えて硬いのが取り柄だし、ラミィのことは守ってみせるから。じゃあよろしく!」

 

 

 

 

 

 悠はこれ以上反論を聞かないために話を切って動き出す。

 ラミィもそれが分かってしまったから、こうなったら彼は止まらないと察してしまったから涙をこらえながらもだいふくを呼び出して準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーやっぱり悠くんは強いね!ココはどう?」

 

「硬イ!それに周りがよく見えてるって感じがするナ」

 

「だよねー。じゃないとあのタイミングでボクに反撃なんてできないだろうし」

 

 

 

 

 

 合流した二人は吹き飛ばされた際についた煤を軽く払って情報を整理する。

 悠の実力はかなたとココにとって予想以上のものだった。ココの奇襲を受けきるほどの防御力と反応速度、背後をとったかなたを捉える索敵能力、そしてそれを同時に行い反撃に転じる行動の速さ、つまりは状況判断能力。

 人間の中ではスペックが高く、戦いにおいても一言で言ってしまえば()()()()()()()()

 あれを倒すのは難儀する、と考えたところでもう一人についても考察する。

 

 

 

 

 

「ラミィちゃんは…正直まだ分からないけど見た限り近接戦闘は得意じゃなさそう。二人を分断して近接戦に持ち込めればラミィちゃんの方はいけるんじゃないかな?」

 

「よし、じゃあそっちはかなたんに任せタ!私はアイツとやル!」

 

 

 

 

 

 ココは意気揚々と己の拳をぶつけ合う。

 それを見てかなたは頼もしいと思いながら、()()()()()()()()()()()ハルバートを持つ手を傍目で見やった。

 ハルバートとアイスシールドが衝突した瞬間、その強度に驚愕した。まるで鉄板かと思ったものだが、あの奇襲は後の戦いの展開を握る大事な試金石。どうにか魔力を全開にして叩き割ったがそのおかげで腕に衝撃が走りこの有様で、あの反撃(クロススマッシャー)をガードしたにも関わらず吹き飛ばされたのはこれが原因だったりする。

 薄い盾と言ったのはそれを悟らせないため、それと同時に「盾は通用しない」とラミィに刷り込ませるためである。

 悠とラミィ、どちらを相手取るとしても一筋縄じゃいかないかなと嘆息してかなたはようやく感覚が戻ってきた腕に力を込めハルバートを持ち上げる。

 ココはやる気全開でいつ抑えきれず飛び出していくか分かったものじゃない。

 

 こちらも準備が完了してココにGOサインを出そうとした瞬間、地面の炎を散らしながら瑠璃色の光が迫ってきた。

 

 

 

 

 

「「ッ!!!」」

 

 

 

 

 

 突然の攻撃に二人はそれぞれ天使の羽と竜の翼で上空に飛翔して回避する。

 光が通り過ぎたのを見て発射元を確認しようと視線を動かすと、すでに目の前に彼が左手をかなたに向けて佇んでいた。

 

 

 

 

 

>「スマッシャー!!」

 

 

 

 

 

 放たれた砲撃魔法はかなたに直撃する…その直前に再びハルバートを盾にして威力を緩和する。しかし羽で自由に飛行ができるといっても空中では地上ほど踏ん張りがきかないため勢いに逆らえず距離を離される。

 ココはかなたが吹き飛ばされたのを見て悠に襲い掛かる。握りしめられた拳が唸りをあげて迫り、悠はそれをラウンドシールドで押し返しにかかる。攻めて、守り、一種の膠着状態が形成される。それこそがココの狙いだった。

 

 

 

 

 

「かなたんいケ!離れるまでは抑えに専念してやル!」

 

「分かった、任せたよココ!」

 

>「行かせるか…くぅ!」

 

「それはこっちのセリフダ!おとなしくしてロ!」

 

 

 

 

 

 拳が魔法陣にぶつかるたびに轟音が鳴り火花が散る。それがココの拳撃の威力を如実に示しており、悠は迂闊にガードを外せずにいる。

 しかしかなたを放っておけばラミィを倒しに向かってしまい作戦は台無しである。よって悠は何が何でもこの二人をここに留める必要がある、留めなくてはならない。

だがかなたとココは天使と竜という幻想種。身体的なスペックは人間とは比較にならず、射撃魔法を一つ二つ当てた程度では威力が足りず動きを止めるどころが遅くすることもできない。砲撃魔法であればその限りではないが相手に見られている状況で拘束もできていない相手に当てられるわけもないし、そもそもココが攻めてきている現状では撃たせてくれもしないだろう。

 そういっている間にもかなたは移動を開始、ラミィを探しに地上に降りていく。

 

 

 

 

 

>(ダメだ、行かせるな!砲撃魔法は撃てない、でも射撃魔法じゃ威力…が……)

 

 

 

 

 

 射撃魔法を()()()()当てた程度では威力が足りず動きを止めるどころが遅くすることもできない。それは確実だ。

 

なら()()()()()()()()()()()()()()()

 

 無茶だ。たしかに全発当てること自体はさして難しくない。たとえ空中を動いている相手であろうとどういう状況下であろうとも当てられるように悠は訓練をしてきた。

 しかし同時にとなると話が変わる。動く的に全く同じタイミングで全ての弾を着弾させるというのは相当シビアな誘導制御と先読みを両立させる必要がある。意識の半分近くをココへ向けている以上それは現実的ではない。

 

 

 

 

 

(…マスター)

 

>(ッストライクハート…?)

 

(信じています。私のマスターなら必ずできるって!)

 

 

 

 

 

 念話でストライクハートから伝えられたのはそんな言葉のみだった。

 根拠もない。具体的な案でもない。

 ただ、信じているという信頼と激励の言葉。

 

 だが、ずっと一緒にいた相棒からのその言葉は、他の何よりも悠の心の中に届くものだった。

 無茶だったとしても。現実的じゃなかったとしても。

 信頼には応えせみせる。守るといった人は、必ず守ってみせる。

 行動は決まった。現実的にするための案も、今思いついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ストライクハート!」

 

「はいマスター!」

 

 

 

 

 

 ラウンドシールドは起動したまま悠の足元に新たに魔法陣が展開される。

 発動した魔法は『ディバインシューター』。それとともに悠の周りに現れたのは計8個の瑠璃色の魔力球。

 ココはそれを見てなお余裕の笑みを崩さない。

 

 

 

 

 

「そんなチャチな攻撃じゃあ私どころかかなたんの動きを止めることすらできねーゾ!」

 

>「…分かってるさ。だから、こうするんだ!

 

 

 

 

 

 悠が左手を天に掲げると魔力球が引かれあうように集まり、つながり、そして最終的に先ほどまでより二回りほど大きくなった一つの魔力球が完成した。

 悠が射撃魔法を操る際に行う誘導制御と魔力操作、その応用である。複数の魔力球を同じタイミングで当てることが現実的ではないのなら、最初から一つにまとめてしまえばいい。言うのは簡単だが、これを為すためには高いレベルの魔力操作能力と術式を分解して再構築するための知識が必要となる。言ってしまえば悠だからこそ出来たことなのである。

 

 

 

 

 

>「ディバインシューター・ユニオンシフト!」

 

「くっ…かなたあぁ!!!」

 

>「シュート!!!」

 

 

 

 

 

 クロススマッシャーに勝るとも劣らない魔力を秘めた弾丸が唸りを上げて射出される。

 それと同時にココが叫びかなたに警報を鳴らす。かなたは驚き後ろを振り返るとすくそこには子供が隠れられるほどの大きさの魔力球が猛追してきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええぇぇぇ!!!ナニコレェ!!!!!」

 

 

 

 

 

 そりゃそうなる。

 

 魔法の形は十人十色、そんなことはかなたもよく分かっているがさすがに自身の体ほどあるといっても過言ではない光球が迫ってくるなど経験がなく、しかもそれが振り返ってすぐそこにあるなどある意味恐怖体験である。

 しかし驚いてばかりではいられないと回避行動にはいる。幸い軌道はまっすぐで避けやすいと判断したかなたはその軌道上から外れるように飛行する。だが忘れてはいけないのはこの魔法の元は『ディバインシューター』。すなわち、誘導操作が可能な魔力球なのである。

 かなたに追いすがるように軌道を変えた魔力球はかなたに直撃、爆散した。

 

 

 

 

 

「かなたん!!!」

 

>「よそ見してる場合じゃないよ!」

 

「ガッ…!」

 

 

 

 

 

 ココの手が止まった瞬間を見逃さずに悠はラウンドシールドを解除、すぐさまストライクハートに魔力を込めそのままココに叩きつけた。

 そしてかなたについてはどうなっているか分かっている。()()()()()()()()のがいい証拠だ。

 怯んだすきに悠はココの間合いから離脱、爆風の影響で髪が乱れながらもハルバートを振り抜いた状態でいまだ健在のかなたを追い越して地上と二人の間に立ちふさがる。

 

 

 

 

 

>「ラミィのところに行きたかったら、僕を倒してからにしてもらうよ!」

 

 

 

 

 

 その瞳に心意を宿して、少年はそう高らかに宣言する。

 戦闘は、まだまだ激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。




前回あんなアンケートとっときながらかなココ戦一話で終わらなかったので失踪します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part9 氷の花と星の光

初めて10000字を超えたので初投稿です。


 

 

 

 

 どんな状況でも初めの挨拶は欠かさない実況プレイはーじまーるよー!

 ということで前回はかなココ戦の途中までで終わりました!

 

 ってことなんですけ…どっとあぶな!

 はい大体状況は察してくれたかと思いますが現在進行形でかなココとバチバチにやりあってる最中です!パートだけは分けましたが操作を切れるタイミングではなかったので実際はそのまま前回の続きですね!

 今回はいよいよ初回バトロワの終着点!

 ラミィちゃんとの作戦をキッチリ決めて勝っていきたいと思います!

 ではいこう!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギィンッギャリィィン!!!

 

 

 

 雲一つない快晴の空に3つの光の軌跡が駆け抜る。

 その軌跡が交差するたびに火花が散り甲高い金属音が鳴り響く。

 そして一際大きい衝突音が鳴ると、そこには悠とかなたがそれぞれの得物をぶつけ合い鍔迫り合いとなっていた。

 

 

 

 

 

「アハハ!ボクのハルバートをぶつけて互角なんてね!そんな格好しながらもしかして近接戦もいけるクチ!?」

 

>「まさか、必要最低限…だよ!」

 

 

 

 

 

 悠はハルバートを受けるたびに走る衝撃に苦悶しながら心の中で馬鹿げた力だと軽く愚痴をこぼす。

 ハルバートを受け止められているのは知識と技術、それがうまい具合にハマった結果である。まずは受け止める位置をハルバートの刃先ではなく手元の柄の部分にすることで威力の減少、さらに悠は魔力による身体強化に加えストライクハート自体にも魔力を纏わせ威力と耐久力の上昇、ここまでやってようやく拮抗状態を保っているのである。

 そしていい加減反撃の時間だと悠はハルバートを受け止めていた杖形態(アクセルモード)のストライクハートの角度をずらし攻撃を受け流す。得物を振り抜いて体勢を崩したかなたにカウンターとばかりに掌に魔法陣を展開、間違いなくこの戦いの中で一番使用しているであろう近接砲撃魔法『クロススマッシャー』を放つ。

 

 

 

 

 

「ぐぅっ…!」

 

 

 

 

 

 

 芯こそずらしたが砲撃を避けきれずにかなたは吹き飛ばされ、その間に後ろから接近していたココが魔力を込めた拳撃を繰り出す。しかしココの飛行速度はそこまで速くないため余裕をもって魔力感知でそれを把握していた悠は当たる直前に高速飛行魔法『フラッシュムーブ』を発動し、瞬間的に背後をついたココのさらに背後に移動。こちらに振り向く前に痛打を加えようと再びクロススマッシャーを放とうとして…構築していた魔法陣を解除、アクセルフィンを最大出力で稼働させその場から飛び退く。

 その次の瞬間、砲撃をもらったはずのかなたが髪を激しくたなびかせ直下から先ほどまで悠がいた地点をハルバートで切り裂いた。とてつもない風切り音が響き、すでに飛び退いて離れたはずの悠の髪を揺らす。

 戻ってきたかなたの様子を見て、悠の予想は確信へと変わった。

 

 

 

 

 

>「砲撃をくらってダメージを受けてたのは確認してる。なのに今の体に外傷らしいものは全くナシ。…まったくもって厄介だね、()()()()()()()は」

 

「高位ってとこまで分かっちゃうんだね、目の前で直接使ったわけじゃないのに」

 

>「低位の回復魔法じゃああの短時間で無傷になるまで回復はできないでしょ?僕も一回受けたから分かるよ」

 

 

 

 

 

 そう話しながらも悠は決して二人から意識を離さない。戦闘開始して約5分、だいぶ二人の戦い方は把握できた。

 

 まずかなただが、高機動力で相手を翻弄してからのハルバートによる超威力の一撃を与える奇襲戦法をメインにしている風に感じる。しかしそれ一辺倒というわけではなく、高位の回復魔法(ハイヒール)によって前線での継戦能力も高く、補助的に攻撃魔法も織り交ぜられており、死角から放たれるそれにいくつか反応しきれず被弾してしまっている。

 

 ココに関してはもはや言うまでもなく己が肉体を頼りにした超近接タイプ。戦闘方法こそ愚直だが()()()特有の高い身体能力に加えてその豊富な魔力をすべて肉体強化に振っているのだろう。その近接攻撃力と防御力は極めて高く、さながら竜そのものを人間の体に落とし込んだかのようであり、そのスペックに押されて自由な立ち回りができていないのが現状だ。

 

 そしてこの二人が組んで戦った場合何が厄介かというと、シンプルな組み合わせ故に対処法が少ない点である。基本はココが前線を張り、その隙をかなたが突く。たとえこれを崩されてもかなた自身も正面戦闘が可能なためカバーは容易だし、痛打を食らってもハイヒールによって回復して状況はすぐに元に戻せる。

 数少ない対処法としては、手段は問わないがかなたに回復される前に片方を退場させてしまうことだろう。回復させる時間を与えない連撃で削りきるか、あるいはかなたやココの体力を超える超火力を直接叩き込むかである。

 ラミィに伝えた作戦は、その数少ない対処法を無理やりにでも通すための一手である。

 

 

 

 

 

>(そろそろ5分経つ…まだか、ラミィ…!)

 

 

 

 

 

 背水の陣ともいえる状況での手に汗握るギリギリの攻防戦は悠の体力と魔力、そして気力を容赦なく削っていく。息はわずかに荒れ、額にはいくつもの雫を浮かばせ、身にまとうバリアジャケットにはいくつもの傷を残している。

 今の悠がやっていることは自身を囮にした耐久戦、加えてその耐久戦には明確な終わりの時間というのは決められておらず、ラミィが魔法を完成させるまでこれは続く。終わりの見えない戦いというのは常に集中が求められ、そしてそれが切れた瞬間一瞬で破綻してしまう。

 憎むべきはそのタイミングの悪さか、()()はすぐに訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「い…やあぁ!!!」

 

「もらっタァ!!!」

 

>「ッ!まず…!?」

 

 

 

 

 

 一瞬の集中の途切れ、それは一瞬の意識の途切れとなり、二人からの攻撃に対する致命的な隙となってしまった。

 前からココの拳撃、後ろからかなたのハルバートの一撃が悠めがけて繰り出される。悠が気付いた時には2つの攻撃はすでに眼前に迫っており、咄嗟にラウンドシールドを展開するも、即時展開された防御魔法というのは得てしてその性能のどこかに綻びが生じるもの。展開された2つのラウンドシールドは攻撃をわずかに押しとどめるのみでわずかな破砕音とともに砕かれる。

 悠はどうにかラウンドシールドによって作り出した刹那の時間で危険度の高いかなたの攻撃の軌道上から外れることはできたが、もう一つの攻撃を躱すことはかなわず胸に拳を叩きつけられて地面へと急落下していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ぐっ……『アクセル…フィン』!」

 

「Axel fin.」

 

 

 

 

 

 ココに叩きつけられた勢いのまま地面に衝突する直前、悠は受けた衝撃によって解除されていた飛行魔法『アクセルフィン』を再展開させる。足から魔力によって作られた羽が2対現れその羽を羽ばたかせる。それによって悠の体に急制動がかかり上体を起こさせる。殺しきれない勢いは着地時に緩和させ、ダメージを最小限にして地面へと降り立った。

 そして横を見ると、魔力を練りながらも驚いた表情で悠を見るラミィを見つけた。

 

 

 

 

 

「悠くん!?大丈夫なの!?」

 

>「ん、効いたけどバリアジャケットが緩和してくれたおかげで何とかね。そっちはどう?」

 

「あと10秒…ううん、5秒で終わらせる!」

 

>「助かるよ。用意ができたらすぐに撃って、それまでは…」

 

 

 

 

 

 悠はそこで言葉を切ると魔力の羽に魔力を集中させ屈み、空を見上げ2つの影を見る。

 その正体が何なのかは明白、故に悠に迷いはなかった。

 

 

 

 

 

>「絶対にラミィに近づけさせない!!」

 

 

 

 

 

 集めた魔力を解放させ、『アクセルフィン』『フラッシュムーブ』の併用による超加速で一気に天空へ舞い上がる。距離が近づいたことで2つの影が特徴的なシルエットを映し出しその正体を現す。

 

 

 

 

 

>「あと5秒間、おとなしく付き合ってもらうよ!」

 

「ちょっはや!てかココの攻撃まともにもらったはずだよね!?」

 

「その服に加エテ当たる瞬間ニ同じ方向に飛んだんだロ!感触が薄かったカラすぐ分かっタ!」

 

「そーゆーことは早く言ってよココ!」

 

 

 

 

 

 そんな軽口を言い合っているかなたとココだが、悠へ向ける瞳に驚愕こそあれ油断の感情は一切入っていない。かなたはハルバートを振り上げココは拳を引き絞る。が、悠はその類稀なる空間把握能力でどのタイミングで二人と衝突するかの計算はしっかりとはじき出しており、反撃の一手は刹那の差で悠が先だった。

 

 

 

 

 

>「クロススマッシャー!!!」

 

「なんの!…てあれ?」

 

「フンッ!…オオ?」

 

 

 

 

 

悠が放ったのは近接砲の『クロススマッシャー』。しかしかなたとココはすでに幾度もその攻撃を見ており、悠が左手を向けるという事前のモーションも戦ううちに把握していた。故にそのクロススマッシャーは二人の攻撃でしっかりと相殺できたが、相殺し終わった後には目の前にいたはずの悠の姿が消えていた。

 

 

 

 

 

>「チェック・シックス(後ろに注意)、だよ!」

 

「!?」

 

 

 

 

 

 そんな声が聞こえてきたのはかなたとココの背後からだった。二人が弾かれたように後ろを振り向くと、そこには愛機のストライクハートを可視できるほどの魔力を纏わせて振り上げている悠がいた。

 

 

 

 ガァァァン!!!

 

 

 

 

 

「くう…!」

 

>「あそこから防ぐんだね。まあ予定通りだ…っと!」

 

 

 

 

 

 振り下ろされた攻撃をかなたが間一髪でハルバートを滑り込ませて防御する。しかし空中という環境下に加えてどう考えても無理な体勢で受けているかなたは悠の攻撃に押し込まれて反撃もままならない。

 唯一フリーだったココがかなたの後ろから直接反撃しようともっともリーチの長い尻尾を振りかざそうとして、すぐに離れた悠に呆気にとられる。

 

 

 

 

 

「…何のつもりダ?」

 

>「準備ができたってことだよ。…ラミィ!」

 

 

 

「うん!いくよだいふく、『アイス…トルネード』!!!」

 

 

 

 

 

 ラミィの詠唱とともに極低温の嵐が巻き起こる。今もなおグラウンドに残っていた魔力の残滓が見せた炎がまとめて消し飛ばされ、巻き上げられた火の粉が空を舞い、消える。

 ラミィと雪の精霊であるだいふくが残された魔力をかき集めて放った紛れもなくラミィにとっての最大魔法。その威力はさすがの一言で、先ほどまで焼野原のようであったグラウンドが一瞬で銀世界へと書き換えられていく。

 

 

 

 

 

「あとはお願い、どうか無事に帰ってきて…悠くん」

 

 

 

 

 

 ラミィは魔力の放出を続けながら両手を顔の前で合わせて、ただ祈る。

 彼の無事を。そして、勝利を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 >「まさかこれほどとは…凄いなラミィ」

 

「私も予想外ですが、ありがたいことです。これなら逃げられません」

 

 

 

 

 

 ラミィが作り出した氷の竜巻、台風の目とも呼ばれるその内部で悠とストライクハートは感嘆する。

 二人の会話から察する通り、悠の作戦とは単純明快。『アイストルネード』によって悠とかなたとココをまとめて竜巻の中に閉じ込め、逃げ場を塞いで超火力の砲撃魔法で一掃するというものである。半端な攻撃ではかなたの『ハイヒール』で回復される、しかしチャージが必要な砲撃魔法は3次元での空中戦では動き回る相手に当てるのは至難の業。なら逃げ場のないように疑似的な2次元空間を作り出せばいいということである。

 悠は直下に見えるかなたとココを視認するとストライクハートを『バスターカノンモード』へ移行させる。

 

 

 

 

 

>「これで終わりだよ。かなたさん、ココさん。ロードカートリッジ!」

 

「Load Cartridge.」

 

 

 

 

 

 ガシャンッガシャンッという音とともに魔力を放出しきった空薬莢が排出口から飛び出す。悠の体から魔力があふれ出し、悠は即座に魔法陣を展開、魔力のチャージが開始されストライクハートの切っ先に魔力が集積していく。

 あれは受けてはいけない攻撃だとかなたとココは本能的に理解する。しかしここはラミィが作り出した氷の竜巻の中、吹きすさぶ風に乗って氷の飛礫が悠もろとも2人を襲い、極低温の環境下のよって体のいたるところに霜ができ体温が奪われ満足な飛行はできない。

 しかしこのままあの砲撃魔法を食らってしまえばどちらにしても負けは確定。

 かなたは絶望的な状況だと半ば諦めかけていたが、もう一人は「フゥー」と一つ息を吐いて好戦的な笑顔を見せる。

 

 

 

 

 

「かなたん、私の後ろに下がっとケ!()()()()!!」

 

「ココ、それは…!」

 

>(ココさんのあの目、全く諦めてない。でもどうやって?()()()の身体強化による防御力は脅威だけどこの砲撃魔法は防御を貫通する。『クロススマッシャー』も同じ特性を持ってるからソレが分かってないとは思えないし…)

 

 

 

 

 

 悠が思考をまとめる前に砲撃のチャージが溜まりきる。

 まあいいと思考を打ち切る。ココが何をしてこようともこれを撃たないという選択肢はすでに悠にはない。

 これで終わらせると声高らかに砲撃開始のキーワードを唱えた。

 

 

 

 

 

>「ディバイン…バスターーー!!!」

 

「Divine Buster Extension.」

 

 

 

 

 

 瑠璃色の極光が竜巻の中を駆け抜ける。

 すでに悠に二人の姿は見えておらず、砲撃が終わるのを待つのみ。

 しかしこの状況でもなお悠は未だに言いようのない不安感が拭えずにいた。

 

 そんな虹彩が揺れる悠の瞳に光の奥に迸る虹色の炎が映った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆音、衝撃、そして閃光。

 高エネルギー同士が衝突した際の特有の現象とともにラミィが作り出した氷の竜巻はその破片も残すことなく砕け散った。

 ラミィは発動していた魔法の維持ができなくなり膝をつき、光の爆発を見て顔を青くする。

 

 

 

 

 

(悠…くん!)

 

 

 

 

 

 あまりの眩しさに目を覆う。

 悠は念のために前面にラウンドシールドを展開しながら光が収まるのを待ちながら思考を再開、ついでに今の攻撃で空になったカートリッジの弾倉を交換(リロード)する。

 ラウンドシールドを張ったのは正解だった。先ほどの大爆発による余波がこちらまで響いているのを肌で感じる。もし何の対策もなしにいたらあの爆発に巻き込まれてただでは済まなかったであろう、バリアジャケット込みでもそれなりの怪我は覚悟しなければならなかったはずだ。

 しかしそうなってくると懸念すべきはやはりあの二人。爆発が起こった地点はちょうど二人との中間地点、爆発の余波としてはこちらと同等のものがいったはず。倒せていれば御の字ではあるが、悠はそこまで楽観的ではない。

 あの爆発はどうやって引き起こされたか、思いつくフシは…ひとつだけ。

 

 爆発の直前に光の奥で見たあの虹色の炎である。

 

 しかしどうやって、という疑問が残る。

 ()()()は豊富な魔力を持ちながら体外に魔力を放出するのは総じて不得手である。現にココは今まで身体強化にしか魔力を使っておらず、魔力放出を行うそぶりすら見せてこなかった。そんな彼女が『ディバインバスター』にも匹敵しうる魔力攻撃なんて…と、そこまで考えたところで。

 

 

 

 爆発の中からラウンドシールドを突き破ってきたあらゆるものを切り裂く竜の爪と、鋼すら上回る強固さを誇る竜の鱗が見えた。

 

 

 

 カチッ、とパズルのピースがハマる音が頭の中に響いた。

 

 

 

 グラウンドを焼野原に変えた魔力攻撃。

 

 光の奥に見た虹色の炎。

 

 そして、竜の爪と鱗。

 

 

 

 

 

>(ああ、そういうことか…彼女は竜人族なんかじゃなく…)

 

 

 

 

 

>(正真正銘のそのもの)

 

 

 

 

 

 固く握りしめられた竜の拳が悠の腹部を穿ち天空へ跳ね上げた。悠の体がくの字に折れ、肺にたまった空気が声にならない叫びとともに一気に吐き出される。

 しかしここで攻撃は止まらない。

 すでに腕を竜から人へ戻し(変化させ)たココが大きく息を吸って頬を膨らませる。それを見た悠は受けたダメージで意識が朦朧としながらも予想を確信へと変える。あれこそ竜種にのみ許された御業。各々が持つ竜の因子に反応する千変万化の高密度のエネルギー波であり、悠の主砲たるディバインバスターを相殺してのけた一撃。

 

 その名を、竜の息吹(ドラゴンブレス)

 

 ココの口から放たれたそれはまさに悠が光の奥で見た虹色の炎そのもので。しかし体勢を崩され意識もハッキリしていない悠にはそれを避けることはすでにできない。ココの勝ち誇った顔を最後に見て、悠の視界は虹色の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠くぅぅぅん!!!!!」

 

 

 

 

 

 竜の息吹が悠に直撃して爆散する。発生した煙と火の粉によって悠の姿が視認できず、それがなおのことラミィの絶望感を加速させる。

 必死に伸ばした手は彼には届かず、ただ空を切るのみ。揺れる瞳に涙をためてラミィは徐々に散っていく煙と火の粉を見続けていた。

 

 

 

 

 

「ココ助かったよ。でもよかったの?竜の姿に戻るのは当面の間しないはずじゃ…?」

 

「そりゃ最初からアノ姿だったら面白くないだロ?でもアイツはそうするだけの力を持ったヤツダッタ、それだけダ」

 

「なるほどね。それじゃあボクとやるときも竜の姿だったり?」

 

「ンー、それはどうカナー」

 

「なんだろう、ありがたいんだけど素直に喜べないこの感じ」

 

 

 

 

 

 合流したかなたとココはもう勝負は決まったとばかりに小休止をはさみながら話す。しかしそう考えるのも当然だろう。悠はココの竜の息吹が直撃しており人の身で耐えられるはずもない、ラミィも茫然自失となっておりここから攻撃されることもないだろう。

 

 だが念には念を。わざわざ残しておく必要もないとかなたはハルバートを軽々と持ち上げ、ココは拳を引き絞りラミィへと突撃する。小細工なし、そもそも小細工する理由もないためその軌道は直線的。反撃するには格好のシチュエーションだがラミィは未だにかなたとココではなく悠がいた場所を何かに驚いたかのように見つめていた。

 

 

 

 そして顔をほころばせて彼女が紡いだ言葉に、こんどはかなたとココが驚愕することになった。

 

 

 

 

 

「もう、心配させないでよ………悠くん」

 

「…!?」

 

 

 

 

 

 二人が振り向くより早く、突如現れた光の輪が体を縛り付ける。

 その光の輪の色は鮮やかな瑠璃色。それはこのバトロワの中で最も手強かった男の魔力光の色であり、かなたとココにとって今日はもう見ることはないと思い込んでいたものであった。

 唯一動かせる頭を背後に動かし、4つの瞳は()を捉える。

 

 発生していた煙と火の粉は彼を中心に渦巻く魔力によって払われ、その姿をハッキリと見せる。

 竜の息吹によるダメージで身にまとっていたバリアジャケットはボロボロでいたるところが焼け焦げて綺麗な場所を探すほうが難しいほどだ。加えて最もひどいのが二人に向けている左手で竜の息吹を一番受けた箇所なのだろう、バリアジャケットは残っておらず腕全体が焼けただれて一部は炭化しており、とても人に見せられたものではなかった。

 しかしかなたとココを見るその瞳には霞むことのない強い輝きを宿していた。

 それは、自分の為すべきことがたとえどれだけ困難でも、どんな絶望が待っていようとも、決してくじけず諦めず、自身の限界すら超えて立ち向かい、乗り越えようとする強い意志の力。

 

 守るという誓いと、勝つという意思を宿した、不撓不屈の心。

 

 星宮悠が、その強い心を胸に宿し二人を見下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なーんで無事なわけ?いや無事ではないんだろうけどさ」

 

>「ギリギリでストライクハートが防御魔法を張って押しとどめてくれたおかげで僕自身のラウンドシールドが間に合ったんだよ。まあそれも壊されてこの有様なわけだけど。」

 

 

 

 

 

 かなたの呆れた声に対して悠は焼けただれた左手を軽く動かしながら言う。

 が、それも束の間。左手を楽にして下ろすと、代わりに『バスターカノンモード』のストライクハートを天に掲げる。

 

 

 

 

 

>「今度こそ終わらせる、これが最後の一撃だ!ストライクハート!!」

 

「Load Cartridge.」

 

 

 

 

 

 カートリッジロードが行われ、空薬莢が排出される。

 その数、実に6発。

 弾倉に残るすべてのカートリッジを使い、発動するのは正真正銘悠の切り札であり最大魔法。

 

 悠の正面に巨大な魔法陣が展開される。その魔法陣は悠の魔力を集積し、魔力の塊を作り上げていく。

 しかし今回はそれだけにとどまらない。

 肥大化する魔力塊の周囲にいくつもの光の欠片が現れ、魔力塊に収束していく。

 この光の欠片はこれまでの戦闘によって大気中に散らばった魔力の残滓であり、つまりこの魔法は自身と、そして周囲の魔力をすべて使用した収束型の砲撃魔法。

 

 軌跡を残しながら流れていく光の欠片はさながら星の光(スターライト)

 

 悠を除く全員がその幻想的な光景に一瞬目を奪われるが、かなたとココにとってはまったくもって他人事ではない。

 どうにか脱出しようと膂力を限界まで振り絞る。

 

 

 

 

 

「こんの、うぐぐぐ…!!」

 

「この程度すぐ破っテ…!!」

 

 

 

 

 

 二人を拘束した魔法は悠の十八番である『レストリクトロック』。

 数ある補助魔法の中でもその強固さは折り紙付き、加えて今の悠は普段より強い(【不撓不屈】が発動中)

 しかし、それでもなお圧倒的な膂力を持つかなたとココを封じておくには些か強度が足りなかった。

 ピキッと光の輪の一部にヒビが入る。

 そしてそれは伝播していくように広がっていきすでに砕かれる寸前。

 悠の魔法はまだ完成しておらず、このままでは射程範囲から逃げられるのは必至。

 

 

 

 しかしそれを見てもなお悠の表情に変化はない。

 何故なら悠は信じていたから。

 

 かなたとココが拘束を破る力を残しているであろうことも。

 そして、それを見て信頼した人が動かないはずがないと、そう信じていたから。

 

 

 

 

 

「咲き誇れ、氷の花々よ」

 

 

 

 

 

 鈴を転がすような声が響く。

 

 

 

 

 

「彼の者たちに、永久の祝福を。『アイスブーケ』!!!

 

 

 

 

 

 詠唱と同時に天空に氷の花が咲く。

 それはかなたとココを包み込み、極低温の氷によってその動きを完璧に封じられる。

 

 

 

 

 

「これは…!?」

 

「アー、やられたナ…」

 

 

 

 

 

 寸でのところで機能し続けている『レストリクトロック』に加えて『アイスブーケ』による二重の拘束。さらにアイスブーケには凍傷を引き起こす効果もあり、それがなおさらに拘束を破る可能性を潰していく。

 そうしてる間にも悠の魔法は周囲からの魔力を収束させ、一際強い輝きを見せた。

 

 

 

 

 

>「集え、星光。今こそすべてを撃ち抜く光となれ」

 

 

 

 

 

 空に瞬く一番星のように、それは強く光り輝く。

 収束を終え、溜められた魔力はだれにも止められない絶対的な一撃と化す。

 想いを貫き、すべてを撃ち抜く。そのために悠が作り出した魔法。

 

 

 

 

 

>「貫け閃光!全力全開!スターライトォォォ…」

 

 

 

 

 

 光の奔流が、巻き起こる。

 

 

 

 

 

>「ブレイカァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 

 

 天に掲げていたストライクハートを魔法陣に打ちつける。

 それがトリガーとなり収束していた魔力が指向性をもって放たれ、ディバインバスターとは比較にもならない光の奔流が氷の花に捕らわれていたかなたとココを一瞬で吞み込んだ。その余波だけで大気が揺れ、烈風を作り出し、服や髪を激しくはためかせる。

 それは実に10秒以上も続き、ゆっくりと魔力の放出が終わっていく。

 すべてが終わったそこに残っていたのは、悠とラミィの二人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠は僅かに残った魔力で『アクセルフィン』を稼働、ラミィの元へ降り立つ。

 それと同時にストライクハートが放熱部を解放、ブシューッとその放熱部から溜まった熱と魔力の残滓を外に放出する。

 

 

 

 

 

「マスター、メイン性能が76%低下。戦闘続行は不可能と判断します」

 

>「さすがにカートリッジ6発のスターライトブレイカーはストライクハートでも堪えたか。うん、今はゆっくりお休み。帰ったらメンテナンスだね」

 

「はい、マスター。おやすみなさい」

 

 

 

 

 

 その言葉とともに悠のバリアジャケットが解除され、手に持つバスターカノンモードのストライクハートは待機形態に戻っていく。

 

 

 

 

 

>「さて、と…お疲れ様ラミィ。最後は助かったよ」

 

「あ、うん、お疲れ様悠くん。勝ったん…だよね?」

 

>「そうだね、でも協力していたとはいえこれはバトルロワイアル。どういう形であれ決着をつけなくちゃいけないんだけど…」

 

 

 

 

 

 悠は空を仰ぎ見てそう呟く。

 空から見下ろすことはあっても空を見上げることなんてなかったし、連戦に次ぐ連戦で景色を楽しむ余裕なんてなかったけど、こうしてみると実に綺麗な青空である。

 なんてことを考えられるのは今まで常に集中しっぱなしだった反動なのか否か。

 と、そこでラミィがポンと手を叩く。

 

 

 

 

 

「それなんだけど、前にこのバトロワについて調べてみたら同時優勝なんてケースもあったんだって。理由はモノによって違うけど、範囲攻撃に二人とも当たって退場だったり、一人倒した後に倒された人が残したグレネードに引っかかって倒れたり。…てことで、はい悠くん」

 

>「?うん」

 

 

 

 

 

 ラミィはなにか懐から取り出しソレについているピンを勢いよく外して悠に差し出す。

 悠は差し出されたソレをつい反射的に受け取り、なんだろうとその形状を見てみる。黒色で球状の形にレバーがついたもの、そしてそのレバーの部分に小さな穴が開いており、ここにさっきラミィが外したピンが差し込まれていたのだと判断する。

 なんてことはないただの手榴弾であった。ラミィが持ち込んだものとは思えないから、おそらくぼたんあたりから拝借したものなのだろう。

 

 

 

 

 

>「……………ん?え、ちょ!?」

 

 

 

 

 

 と、そこまできてようやく持たされたものの正体に気づいた悠が目を見開く。

 咄嗟に捨てようと振りかぶるがラミィの行動が一足早く、振りかぶろうとしていた悠の腕ごとしがみついて背中に手を回す。

 お互いが最後に見た表情は、悠の引きつった笑顔、そしてラミィの満面の笑顔であった。

 二人の間に光が溢れ、爆発音とともに第1回学内バトルロワイアルは終結した。

 

 

 

《第1回学内バトルロワイアル優勝者『星宮悠』『雪花ラミィ』》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ゆう…くん………やっと、見つけた」

 

 

 

>「あの魔力攻撃…あの夜の…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はいということで第1回学内バトルロワイアル終結です!

 長かった!!!

 しかしなんとか優勝できてよかったです。正直に言ってこのビルドでプレイする機会ってあまりなかったのでちょいちょい戦闘中にガバをやってしまいましたがなんとか盛り返すことができましたね。

 

 そしてまさかのラミィちゃんとの同時優勝でした。

 結末としては意外でしたが、かなココ戦終了時にユー君のステータスがHP、MPともに超ギリギリだったのである意味助かった感じですかね?

 

 あと最後のセリフたちはいったい何なんだ…

 

 

 

 

 ということで今回はここまでにしたいと思います!

 ご視聴ありがとうございました。




第1回バトロワがちゃんと終結できたので失踪します。

あと今回から章分けをやっていきます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4月編
Part10 自覚なき想い


前話投稿日:2021/10/09
今話投稿日:2022/03/29

ふーん、マジで失踪してたじゃん(他人事)
マジで半年近くも投稿せず申し訳ありませんでした!

私生活にいろいろ変化がありホロライブも6期生加入などで追加で考えることも多かったりとズルズルとここまで投稿が伸びてしまいました。
ひとまずモチベーションも回復したのでこれからもゆるく走っていきたいと思います!

あ、後書きにちょっとした告知があるので見ていただけると嬉しいです。



それではどうぞ。


 

 

 

 

 大型アップデートしても変わらず走り抜ける実況プレイはーじまーるよー。

 ということで前回は無事に初回バトロワを優勝して終えることができました!

 一区切りついたということでちょっとした休止状態だったわけですが、その間に大型アップデートが入りましたね!

 

 バージョン6.0.0!つまりは秘密結社holoX、ホロライブ6期生実装という待望のアップデートですね!

 

 またその他にもアイテムやスキルの追加、新トロフィーに新シナリオに新クエストなどまさに大盤振る舞いなアップデートです!まあまだまだ全容は把握しきれてないんですけどね。ほんとこのゲーム頭おかしいですよ。(誉め言葉)

 

 

 

 

 

 あっそうだ。(唐突)

 先程のアップデート内容で『新トロフィーの追加』があったわけですが、それだけではなく既存のトロフィーの獲得条件にも一部変更が入っているそうです。まあこれはある意味当然というか6期生が加入したことによる影響ですね。主に特定の期生のホロメンが関わるトロフィーは軒並み変更が入っているみたいです。

 

 ということは……………?

 はい十中八九現在走ってる最中のトロフィー『数多の星を照らす者』の獲得条件も変更が入っていることでしょう。

 ということで今回はトロフィーの変更内容を確認してから本編に入りたいと思います!

 まあ変更点といっても必要攻略対象に6期生たちが追加される程度のことだとは思いますが………っと、でましたね。なになに…。

 

 

 

 

 

ー数多の星を照らす者ー

 

・条件1『種族:人間でプレイ』

・条件2『学内バトルロワイヤルで合計10回以上1位をとる』

・条件3『0,1,2,3,4,5、6期生、ゲーマーズそれぞれから合計6人以上交際した状態でクリアする』

 

 

 

 

 

 …????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????

 

 

 

 失礼しました、宇宙猫が出てしまいました。

 いやていうかちょっと待ってください!条件1と2が変更ないのはいいんですが、条件3なんかおかしくないですか!?えっと、変更前と見比べてみますね。

 

 

 

変更前『0,1,2,3,4,5期生、ゲーマーズそれぞれから合計()()以上交際した状態でクリアする』

変更後『0,1,2,3,4,5、6期生、ゲーマーズそれぞれから合計()()以上交際した状態でクリアする』

 

 

 

 

 

 ………ねええええぇぇぇなんでえええぇぇぇ!!!!!(音割れ注意)

 

 6期生追加はいいよ!むしろ嬉しいけどなんで人数まで増えてるんですか!?6期生だから6人にしましたってか!こちとら5人攻略前提でどこまでに好感度ここまで上げるみたいなチャートは頑張って作ってたんですけど!バトロワは行き当たりばったりですけどね!!!(ブチギレ)

 

 ハァ…ハァ…ハァ………

 はい、お騒がせしました。

 まあなっちゃったのをウダウダいうのはやめましょう。正直やり直すのもちょっと考えましたがこのままいきたいと思います。理由としてはビルドが珍しい【ミッドチルダ魔導】なのでシンプルにやってて楽しいっていうのと、【人脈】スキル持ちなので調整次第でまだまだやれそうだと思ったからですね。

 要はここからはオリチャーになるわけです。ヤバいですね!

 

 とまあひとまずトロフィーの確認も終わったところですので本編に行きたいと思います。

 ではいこう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さあさあゲーム画面に戻ってまいりまして!

 前回で無事にバトロワ終結したということでリザルトを見ていきましょう!

 

 

 

 

 

ー順位-

 

1位…星宮悠、雪花ラミィ〈グレネード〉

 

3位…天音かなた、桐生ココ〈スターライトブレイカー〉

 

5位…常闇トワ〈ワールウィンド〉

 

6位…獅白ぼたん〈クロススマッシャー〉

 

 ………

 

 

 

ー最終戦果-

 

・一般生徒撃破数…12人

 

・ホロライブメンバー撃破数…6人

 

・最終順位…1位

 

 

 

 

 

 よっし!改めて初回バトロワで無事優勝です!

 順位については言わずもがな。強いて言うなら5位がトワ様だったってことくらいですかね。ちなみに後ろについてるのは脱落理由です。トワ様を脱落させたのはかなたんの『ワールウィンド』でしたね。両手斧・ハルバートの技スキルで水平の二連撃技で、ラミィちゃんの『アイスシールド』を破ったのもコレです。

 

 最終戦果もいい感じでしたね。一般生徒撃破数は平均的といったところですが、ホロメン撃破数の6は相当においしいです!ただこれラミィちゃんは撃破数にカウントされてませんね。残念。

 

 ということで最後に獲得スキル、熟練度、好感度ログを見ていきましょう。結構期待しちゃいますよ?

 

 

 

 

 

《【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】【リンカーコア】【カートリッジシステム】【空中機動】【適応力】【杖術】【高速変形】【マルチタスク】の熟練度が上がった》

 

《【ミッドチルダ魔導(セイクリッド)】【空中機動】【適応力】【杖術】【高速変形】のスキルレベルが上がった》

 

《『ディバインシューター』『アクセルシューター』『ディバインバスター』『ディバインバスター・エクステンション』『クロススマッシャー』『スターライトブレイカー』『プロテクション』『ラウンドシールド』『エクセリオンシールド』『バリアバースト』『レストリクトロック』『フラッシュムーブ』『アクセルフィン』の熟練度が上がった》

 

《『ディバインシューター』『アクセルシューター』『ディバインバスター』『ディバインバスター・エクステンション』『クロススマッシャー』『スターライトブレイカー』『ラウンドシールド』『エクセリオンシールド』『バリアバースト』『レストリクトロック』『フラッシュムーブ』『アクセルフィン』のスキルレベルが上がった》

 

《戦闘スキル【挑戦者(ちょうせんしゃ)】を獲得した》

 

《戦闘スキル【魔力感知(まりょくかんち)】を獲得した》

 

《戦闘スキル【起死回生(きしかいせい)】を獲得した》

 

《補助魔法『エリアサーチ』を獲得した》

 

《技スキル『スナイプ』を獲得した》

 

《技スキル『ダブルバースト』を獲得した》

 

《技スキル『閃打(せんだ)』を獲得した》

 

《技スキル『ワールウィンド』を獲得した》

 

《雪花ラミィととても仲良くなった!》

 

《角巻わためと友達になった!》

 

《角巻わためと仲良くなった!》

 

《桃鈴ねねと知り合いになった!》

 

《桃鈴ねねと少し仲良くなった!》

 

《尾丸ポルカと知り合いになった!》

 

《尾丸ポルカと少し仲良くなった!》

 

《獅白ぼたんと友達になった!》

 

《獅白ぼたんと仲良くなった!》

 

《天音かなたと友達になった!》

 

《天音かなたと仲良くなった!》

 

《桐生ココと友達になった!》

 

《桐生ココと仲良くなった!》

 

 

 

 

 

 んーログが長い!まあ難易度『ハード』にしてはいい内容だったと思います!

 

 まず獲得済みのスキルに関しては熟練度の上昇によってスキルレベルが上がったものがありますね。スキルレベルの上昇はすなわちスキル効果の上昇を意味します。

 今回上がったものから抜粋すると、スキルレベルが2になったことで『ディバインシューター』や『アクセルシューター』は威力の上昇、『ディバインバスター』や『クロススマッシャー』はチャージ時間の短縮といったところですね。

 

 新規獲得スキルも軽く説明しておきましょう。

 【挑戦者】は自身より最大HPが多い相手と戦う時、クリティカル率とクリティカル威力が上昇するスキルです。クリ率とクリ威力の上昇ということでかなりの火力アップが見込めますね。それにユー君の種族が人間ということで同種族の人間とHP下降補正のある魔族以外のホロメンやボス敵には基本的に発動してくれます。

 

 【魔力感知】は一定範囲内の魔力を感知するスキルです。似たスキルでししろんの【気配感知】がありますが、似て非なるものです。【気配感知】が範囲内の生物すべての位置を把握なのに対して、【魔力感知】は感知できる相手は魔力を持つ者に限定されますが、加えて魔法攻撃などの『魔力を有する』ものすべてを把握できます。個人的にはかなり有用なスキルだと思ってます!

 

 【起死回生】は自身のHPが30%以下で物理攻撃力、魔法攻撃力が50%上昇するスキルですね。シンプルで分かりやすい、かつユー君の経歴スキルの【不撓不屈】と同じ発動条件なので相乗効果で火力の伸びが凄まじいことになりそうです。

 

 

 

 魔法・技スキルはサクッといきましょう!

 『エリアサーチ』は【気配感知】の範囲をより広げた魔法といった感じです。これで得た情報はパーティメンバーにも共有されるので使う機会は多そうですね。

 

 ここからのスキルはホロメン撃破によって得られたスキルです。

 『スナイプ』『ダブルバースト』はししろんから。それぞれ『スナイプ』がスナイパーライフル使用時により威力と命中に上昇補正がかかった狙撃、『ダブルバースト』が両手にフルオート銃を持ってるときに威力に上昇補正をかけて2つの銃を同時発射します。銃を使う機会があればって感じですね。

 

 『閃打』はココ会長からのスキルで、拳に魔力をまとって拳撃を繰り出します。片手さえ空いていれば使うことができるので隙を作らず追撃や反撃ができますね。

 

 『ワールウィンド』はかなたんからですね。一度説明はしましたが両手斧・ハルバートの技スキルで水平の二連撃技です。現状では『スナイプ』などと同様に死にスキルになりそうです。今後使える武器が増えることを期待です!

 

 ちなみに一番覚えそうなラミィちゃんの魔法に関しては掠りもしなかったわけですが、これにはちゃんと理由があります。

 一言で言うと、【ミッドチルダ魔導】を獲得している場合は他の魔法系のスキルが獲得できなくなるからです。おそらく【ミッドチルダ魔導】がそもそも別作品出のエクストラスキルで、設定的にも【リンカーコア】という通常とは違う魔力源を持っていて既存の魔法への適性を持っていないためだと思います。少し残念ではありますが仮に使えるようになっても使える魔法の種類が多すぎてスキルレベルを上げる余裕がなくなってしまいます。魔法使いは特にMPの関係上近接型よりスキルレベル上げが難航する傾向にあるのでこれでよかったのかもしれませんね。

 

 

 

 ではではリザルトも見終わったのでプレイを進めていきましょう!

 バトロワが終わった後は特に何事もなく終わったので翌日からになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「………んん」

 

>ふと、体勢に違和感を覚えて悠は微睡から覚醒する。

 枕代わりにしていた腕から若干の痺れを感じながら顔を上げると、目に映る光景はいつもの自室ではなく大量の配線につながれた機械群、そしてポッドに入った状態で待機状態のストライクハートの姿。

 

 

 

>(ああ、そうだった。夜通しでメンテナンスをやってて、終わったらそのまま寝てしまったのか…)

 

>バトルロワイヤルが終わって帰宅後、最低限のことだけ済ませたらすぐさま地下の工房に籠りストライクハートのメンテナンスを開始した。

 「CVK-792」ー--カートリッジシステムを搭載してからの初めての実戦、そんな舞台で重量武器との衝突、カートリッジのフルロードによるスターライトブレイカーとかなりの負担を強いてしまった。無論その選択が間違いだったとは今でも思っていないしストライクハートも承知の上ではあったのだが、それでも申し訳ない気持ちというのは感じてしまうわけで。

 

 悠は椅子から立ち上がると凝り固まった体をほぐすように上体を伸ばす。ゴキゴキッと快音を鳴らす体に一つ苦笑。

 そしてストライクハートが入っているポッドに近づくと腕を軽く振って空中に魔力で作られたモニターとパネルを顕現させる。映し出されるのは大量の幾何学模様にもう悠以外のほとんどが読めないであろう謎の文字列。それらを見渡して異常がないのを確認すると悠はパネルを操作。

 その次の瞬間ポッドが開き、待機状態のストライクハートが浮かび上がり悠の元へ舞う。悠はそれを掌で受け止めて声をかける。

 

 

 

>「おはようストライクハート。調子はどう?」

 

>悠の声にストライクハートは一瞬の硬直、そして自身を激しく点滅させるといつもの陽気な声が聞こえてきた。

 

 

 

「…おっはようございますマスター!!!完全復活ですー!!!」

 

>いつも通り…いや、いつも以上に元気なその声に、悠は微笑みを浮かべてストライクハートを連れて日課へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 いやーやっぱりこのコンビのやり取りはいいですねー!個人的には大好きです!

 メンテナンスも無事間に合って完全復活、加えて今まで描写がなかった工房も初めて見ましたが相当立派ですね。まだスキルは持っていませんが【武器作成】関連のスキルが手に入ればいろいろ面白いことができそうです。

 さてさて日課終わりの朝食も終わり、ラミィちゃんとの登校シーンいきましょう!

 

 

 

 

 

「それにしても知らされていたこととはいえ入学してすぐバトルロワイアルなんてすごい学園だよね」

 

>「『自由』と『革新』がウリとはいえ確かにね。でもきっと必要なことなんだと思う。ココはこういうところなんだって、最初に体に叩きこむことこそが」

 

「なるほどー…」

 

 

 

>他愛のない話をしながら二人並んで通学路を進む。

 先日のバトロワの話、知り合った友人の話、帰ってから何をしたなどなど…とりとめのない、中身なんてあってないような登校の時間を潰すための会話。しかしそんな時間を過ごすことが、ラミィはとても嬉しかった。故郷にいたときはこんなことはできなかったから。隣に彼がいるから…なのかどうかは分からないが。

 

 と、コツンとラミィと悠の手がかすかに触れる。

 瞬間、気恥ずかしさからラミィは頬を赤らめ顔を悠から背ける。

 触れるか触れないかの境界、意識していなければ気づかない可能性もあるかのようなわずかな感触に気づいてしまった自覚があるからこそ余計にラミィは心を乱される。不自然に思われてないだろうか、と傍目で悠を見てみると、悠はさして気づいた様子もなくいつも通りに歩を進めていた。

 

 

 

(……………むぅ)

 

>雪花ラミィ、おかんむりである。

 

 たしかに気づかなくてもおかしくないような小さな触れ合いだったかもしれないが、それにしてもこっちだけ気づいてそっちが何も感じないというのはどうなんだと。これじゃあまるでこっちだけ意識しちゃってるみたいじゃないかと。

 

 

 

(…ラミィ、そんなに魅力ないのかな…)

 

>ラミィは自身の体を見下ろしながらそう考える。見た目にはそれなりに気を使ってるつもりだし、胸だって同世代の子と比べたら大きい方なはずだ。

 しかし改めて考えるとこれまで悠とは幾度か触れ合ってきたが、ついぞ悠が赤面したり恥ずかしがった様子を見せたことはない気がする。無論悠に意識してほしくて触れ合ったという訳ではないのだが、まったくもって意識されないというのもそれはそれでおもしろくないと感じてしまう。

 

 そんな複雑な(めんどくさい)年頃のラミィだったが、悠の横顔を見て一つ覚悟を決めるとむんっと胸の前で握り拳を作る。そんな動作にさすがに疑問を持ったのか悠が顔をラミィに向ける。

 

 

 

>「ラミィ?どうかしたの?」

 

「…ううん、何でもないよ。ほら、早くいこう!」

 

>「ええ、ちょっラミィ!?」

 

>正面から見る悠の星のような瞳に一瞬意識が吸い込まれるも、かぶりを振ると伸ばした手で悠の手を取り走り出す。突然の出来事にさしもの悠も驚いたような、ポカンとしたようなよくわからない表情を浮かべる。

 それを見てラミィはイタズラが成功したかのような笑顔を浮かべて握っていた手をさらに強く絡めた。

 

 

 

 隣にいてほしいと願うように。

 

 ラミィのことを見てほしいと祈るように。

 

 

 

 顔を真っ赤にして駆ける少女は、彼に向けるその想いの名前をまだ知らない。




6人以上攻略なのにまだ1人としかまともに恋愛してないってマ?
ま、まあこれからですよ…(震え声)

ちなみにラミィがユー君の赤面を見たことがないと言っていたのはあくまでラミィ視点での話です。
過去話を見てみたらわかりますがしっかり恥ずかしがってる時もあります。

もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!





前書きで行っていましたがここで軽く告知タイム!
GW(ゴールデンウィーク)企画ということで4/30~5/5まで当小説の連日投稿をやっていきたいと思います!(日付は多少前後する可能性アリ)
現状ストックが全く足りてないのでGWまではよくてあと1話のみの投稿であとはストック作りになると思いますのでご了承ください。
行き当たりばったりな企画ではありますがよければ応援してくれると嬉しいです!

ではではまた次回!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part11 こんこんきーつねが幼馴染の確率高い…高くない?

GW企画初日!
本日から本編の更新開始します!

ちなみに今回初回バトロワ終了時にあった謎のセリフの一つが誰かわかるかも?
一体何キングなんだ…?




ではでは本編へどうぞ!


 

 

 

 

 

 まともな学生生活がここから始まる実況プレイはーじまーるよー。

 前回はラミィちゃんのイベント『自覚なき想い』が発生したところまでいきましたね。

 このイベントはラミィちゃんの好感度が半分を超えているときに起こるイベントです。

 基本的にホロメンの好感度はいつでも確認できるものではありません。こういった好感度を推測できるイベントはいくつか存在するので今後の好感度調整をやりやすくするためにも複数人攻略を目指す方などは覚えておくといいかもしれませんね!

 

 

 

 ではではやっていきましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ラミィと共に学園に到着し教室に足を踏み入れると、迎えられたのは数多の目線。そこに含まれる感情は様々だった。

 

 好奇、羨望、疑心、そして嫉妬。

 いきなりのこの空気にさすがに面食らった二人だったが、そんな中でクラス中の視線を全く気にせず二人に話しかける人物がいた。

 

 

 

「おはよ、二人とも!」

 

「オーッス!」

 

「はよ。朝から人気者じゃん」

 

 言わずもがなかなた、ココ、ぼたんの3人である。

 ぼたんのからかい交じりの言葉に悠は苦笑いで返す。

 

 

 

>「おはよう、かなたさん、ココさん、ぼたんさん」

 

「おはようございます」

 

「…んー--」

 

 悠とラミィが挨拶を返すとかなたが顎に手を当ててなにかが引っかかっているといったような思案顔。

 するとそれがなんなのか分かったのかポンッと手を叩く。

 

 

 

「あー!そうだよ名前だよ名前!」

 

>「え?」

 

「悠くんバトロワの時ラミィちゃんのことは呼び捨てで呼んでたよね!なんでボクたちのことはさん付けなの!?」

 

 かなたが気にしていたのはどうやら悠の呼び方だったようだ。

 確かにそうだったなとは思ったが、悠としてはなにか特別な理由があるわけではなくなんとなくの流れでそうなったと言うしかないのだが。

 まあ逆を言えば特段名前で呼びたくない理由があるわけでもなく。

 

 

 

>「えっと……かなた、でいいの?」

 

「…!うん!改めてよろしくね、悠くん!」

 

 かなたは悠の言葉に満足そうに顔をほころばせる。喜色を隠しきれていないのか背中の羽がパタパタと揺れ動いてなんとも愛らしい。

 顔を至近距離まで近づけてのそれ(笑顔)は並の男子であれば即落ち2コマで恋に落ちたであろうがこの男、例に漏れず鈍感体質(主人公補正)のためあえなくスルー。

 馬に蹴られてしまえ。(天の声)

 

 

 

「お、それなら私もソウシテもらうかナ!」

 

「んじゃあ便乗して。私ももう悠って呼び捨てにしてるし」

 

>「…分かったよ。これからもよろしく、かなた、ココ、ぼたん」

 

 さらに追加で二人からの要望にわずかな戸惑いはありながらも悠はそれに応え、各々笑顔で返す。

 話がひと段落したところで悠は先ほどから気になっていた疑問を口にした。

 

 

 

>「そういえば3人って知り合いだっけ?」

 

 そう、そこである。

 悠とラミィに話しかける際、3人は同じところからこちらに来た。つまりは直前まで3人で集まっていたことになる。別にそこに何か問題があるわけではないのだが、知り合いだったという話は聞いたことがなかったため気になってしまったのである。

 悠のそんな疑問に対して3人は

 

 

 

「いや?今日初めて話したばっかだよ。ただ結果発表の時に上位入賞してたのは知ってたから今日私から二人に話しかけたわけ」

 

「みんなまとめて悠くんとラミィちゃんにやられた仲だからね~」

 

「リベンジのタメに情報共有ってヤツダナ!」

 

 個人的には何とも物騒な話し合いである。

 とてもイイ笑顔で話す3人を見て早くも次のバトロワに対して戦々恐々としながらも悠はラミィと共に授業開始まで話の輪に加わるのだった。

 

 

 

《天音かなたと仲良くなった!》

 

《桐生ココと仲良くなった!》

 

《獅白ぼたんと仲良くなった!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お、これは好感度がおいしいです!

 こういった小イベントの好感度上昇値って《少し仲良くなった!》が多いのですがこれも【人脈】スキルのおかげですね。上昇値が大きいと後々の調整が大変ではありますが今回は6人攻略する必要がありますからね!序盤のうちはメンバー関係なくガンガン上げていってもらいましょう!

 

 ではではここからは授業タイムです。

 といってもまあここに関しましては特に見どころがあるわけではないですね。通常の授業では稀にスキル獲得や好感度上昇の小イベントが起こる程度で、他にはランダムで起こる「選択授業」や特定の時期に行われる「定期考査」などがあります。

 「選択授業」では複数の選択肢から好きな授業を一つ選んで受けることができます。選んだ選択肢によってスキルを獲得したり基礎ステータスが上昇しますので出たらラッキーと思いつつ自分のキャラにあった授業を受けていきましょう!

 「定期考査」は年3回行われるイベントですね。主人公の授業への出席率や前述の選択授業の種類、あとはシンプルに初期段階でランダムに設定される主人公の知力などを総合して順位に反映されます。

 ホロメンとの勝負イベントが発生しない限りは自力で問題を解く必要はなく、上位であるほどもらえるスキルや上昇ステータスの内容がよくなるので自力で調整できる授業への出席はちゃんとやっておきましょう。ちなみに定期考査で赤点を出し続けると問答無用で退学です。(2敗)

 

 それじゃあ特にイベントも起こらなさそうなのでお昼までカットカット!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お昼だー!」

 

 午前の授業の終了とともに昼休憩の開始を告げるチャイムが鳴り響くと、隣にいたかなたが両手を上げて歓喜の表情を浮かべる。比較的授業を真面目に受けている分その反動からか、あるいは開放感からなのか。

 ちなみに授業中の他の面々の様子はというと、悠とラミィはやや眠そうにしながらもかなたと同様に真面目に。

 ココはいっそ清々しいほどの爆睡。しかし教師に注意される前にスッと起き上がるあたり流石というべきか危険察知能力の無駄遣いというべきか。

 ぼたんは華麗なペン回しを披露しながらも要所はしっかりとメモを取っており要領の良さがうかがえる様子だった。

 

 そんなこんなでお昼時。

 ともに昼食をとる約束をしていた面々はそれぞれ動き出す。購買組のかなた、ココ、ラミィは購買戦争に。弁当組の悠とぼたんが机をくっつけてスペースの確保を行う。

 早々にスペース作りが終わった二人は各々お弁当を広げて待ちながらちょっとした雑談タイムに突入していた。

 

 

 

>「へー、ぼたんもそのお弁当は自作なんだね」

 

「まあね。流石に家が遠くて今は一人暮らしだからさ。銃の整備費とかも考えると自炊したほうが費用も浮くんだよ。悠も一人暮らしなんだったら分かるでしょ?」

 

>「まあ…「ちょっとー!マスターは一人暮らしじゃないですよ!私がいるんですから!!!」

 

 

 

「………え?なにコイツ?」

 

 突如悠の制服の内側から飛び出してきた喋る青い宝石にぼたんはさすがに呆気に取られて気の抜けた声が出る。

 それに対して悠の反応は「ああ…」とどこか納得したようなものだった。

 

 

 

>「そういえばぼたんには紹介してないままだったね。この子は僕の相棒で知能を持つ魔法演算補助デバイスのストライクハート。バトロワの時に機械じみた杖を持ってたでしょ?あれがこの子だよ」

 

「改めましてマスターの相棒のストライクハートです!よろしくですよー!」

 

「あーあれか。私は獅白ぼたん。よろしくなー」

 

 

 ぼたんは指先をストライクハートに向け、ストライクハートはその指先に自身を軽く当てて返事をする。

 二人(?)のやりとりに嬉しそうに悠がやさしく笑っていると、ちょうどそのタイミングで購買組の3人が返ってきた。

 

 

 

「戻ったゾー!」

 

「二人ともスペース作りありがとね」

 

「うう、二人とも強すぎるよ。任せっきりになっちゃった…」

 

 かなたとココの余裕綽々といった様子に対してラミィは現実逃避をするようにどこか遠くを見るような眼をしていた。

 

 聞いた話によると購買はまさに戦争のような模様を呈していたらしい。カウンターの前には隙間なく人が張り巡らされており無事に買えた人も抜け出すのが困難なほどの人の波。

 これは捌けるまで待つしかないのかなと悠に連絡を送ろうとしたラミィをかなたとココが止めると二人はラミィが止める間もなくその人の波に突撃。生徒たちをちぎっては投げちぎっては投げ…というのはさすがに語弊があるが、二人は圧倒的なフィジカルでもってあっという間にカウンターに到達。ラミィの分もまとめて購入してまるで何事もなかったかのように帰還してきた。

 ラミィを含めたその場に居合わせた生徒たちのその時の感情は推して知るべしだろう。悠もその場面に遭遇していたら同じような表情を浮かべていたに違いあるまい。

 

 …この二人、ヤバい。と

 

 

 

 とまあそんなちょっとした事件もあったが全員無事に合流を果たし、昼食を開始。

 ぼたんとともに弁当の蓋を開くと周囲から感嘆の声が漏れた。

 

 

 

「うわぁ、ぼたんさんもだけど悠くんのお弁当美味しそうだね」

 

「…じゅるり」

 

「ココ」

 

「おっとっと」

 

 思わずよだれを垂らすココにそれを諫めるかなた。

 悠のお弁当はそうさせるのも納得の内容だった。食材自体は特段値段が高いものや珍しいものが使われているわけではない一般的な料理だったが、色彩豊かで蓋を開けた瞬間に鼻腔を甘く刺激する香り。見ているだけで空腹感が増していくような、嗅ぐだけで美味と感じてしまうような、そんなお弁当だった。

 

 

 

「…ゴクリ」

 

「かなたん」

 

「おっとっと」

 

 思わず喉を鳴らすかなたにそれ諫めるココ。

 そんなみんなの様子を見た悠は軽い気持ちでちょっとした提案をする。

 

 

 

>「えっと、よかったら今度みんなの分のお弁当も作ってこようか?そんなに手間も増えるわけじゃない…」

 

>「「「「よろしく!!!」」」」

 

 もはや食い気味に言われた返事にさしもの悠もたじろぐ。

 しかし今更撤回するわけにもいかず、どうにか「う、うん…」とだけ返してこう思うのだった。

 

 

 

>(今度()()って言わなくてよかった…!)

 

 さすがにこの人数に毎日作るのは勘弁願いたい悠であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠とぼたんのお弁当をみんなでちょいちょいとつまみながら全員が昼食を食べ終わり正真正銘の休憩タイム。つなげていた机を元に戻し悠とかなたの席の近くで話していると、不意にバンッという音とともに教室のドアが思いっきり開かれた。

 「ひゃっ!」っとラミィの小さな悲鳴を聞きつつドアの方に顔を向けると、そこには一人の女生徒がおりこちらを見ていた。

 

 ざわざわと教室がざわめく。

 それもそうだろう。その女生徒は悠たちのクラスの生徒ではなく、それどころかこの学年の生徒ですらなかったから。

 学年ごとに色が分かれるネクタイ、彼女が身に着けているのは青色だった。1年生の悠たちが身に着けている赤色ではなく、2年生がつける緑でもない。すなわち彼女は最上級生である3年生ということである。

 

 そんな場違いとも言えてしまう彼女の存在は否応なく周囲の視線を引き付ける。

 しかし当の彼女はそんな視線など全く気付いていないかのように悠たちを…悠のことを見続けていた。

 

 

 

「悠のこと見てるみたいだけど…知り合い?」

 

>「いや………」

 

 そんなぼたんの指摘に悠はその女生徒を改めて見てみる。

 身長はかなた以上ラミィ以下といったところで女子としては平均的。制服の着こなしもいたってスタンダードでそれが彼女の真面目な性格を容易に想像させる。顔のパーツはその一つ一つ非常にが整っておりよく手入れされているであろう穢れのない艶やかな白髪がよりその可憐な容姿を際立たせている。

 そして何より目を引くのは頭から二つ飛び出た狐耳と大きな尻尾。それが意味するのは彼女の種族が獣人、ついては狐の獣人であるということ。

 

 だが悠は彼女に心当たりがすぐに思い浮かばなかった。

 そもそも悠はほんの一ケ月前にこの町に戻ってきたばかりである。少なくともその1ケ月の間に彼女と知り合いようなことは…と、そこまで考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ゆうくうううぅぅぅん!!!!!」

 

>「ゴフゥッ!?」

 

「ちょお!?」

 

「ええ!?」

 

「お」

 

「へえ」

 

 

 

 考えている間に瞳に涙をためて突撃してきた彼女の頭が悠の鳩尾にクリティカルヒットした。

 突然の抱擁(奇襲)など全く想定していなかった悠は完全に無防備な状態でそれを受け入れてしまった。そして意識外からの攻撃というのは脳が実際に受けた衝撃よりも大きく感じてしまうものらしく、悠は完全に悶絶。

 そんな光景に対して他の面々の反応は様々だった。

 

 ラミィは悠の心配はしながらもなにより謎の闖入者と悠の関係性にヤキモキし。

 

 かなたは突然の事態に驚きながら先輩であろう彼女の行動を無意識に羨ましく思ったり。

 

 ココとぼたんはそんな彼女たちの様子を見て「こいつは面白くなってきやがった」を顔を見合わせてほくそ笑んだ。

 

 

 

 

 

 一瞬意識が飛んだ悠だったが、今の状態に既視感を持ち。

 そして、脳裏の奥に幼い狐の少女を見た。

 

 それは、かつての記憶。この町に戻ってくる前の6年前の場景。

 あの時もあの子は泣いていて、それを幼い悠は彼女を抱きしめながら慰めていて、最後にはお互い笑いあって袂を分かつことになった。

 

 突然の衝撃からようやく我に返った悠は視線を下げて狐の少女の虹彩が揺れている翡翠の瞳と目を合わせる。

 そして困惑の表情を隠しきれないまま、ある種の確信をもって彼女の名前を呼んだ。

 

 

 

>「………フブキ…」

 

「………!はい、白上フブキです!ようやく会えました、ゆうくん!!!」

 

 6年越しの幼馴染みとの再開は、喧騒渦巻く教室の中で行われることとなった。




圧倒的サブタイトルと前書きによる伏線回収。
初回バトロワ終了時にあった謎のセリフの一つはフブキングでした!

もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!



次話更新は翌日12:00です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part12 はずれの森での攻防

GW企画2日目!
ちなみにまだゲーム内時間で入学二日目すら終わってないという現状。
これから徐々に加速していけたらと思う所存。





ではでは本編へどうぞ!


 

 

 

 

 

「ふーん、つまり悠くんとフブキ先輩は幼馴染で、6年ぶりの再会ってことなんだ」

 

>「そうなるね。すっかり見違えてすぐには思い出せなかったよ。まあ思い出せた理由がアレ(奇襲)なのは自分でもどうかとは思ったけど…」

 

「いやーははは、お見苦しいところをお見せしました…」

 

 

 

 翌日に『白上フブキ、入学二日目の新入生にチャージタックル事件』とソッコーで新聞部に取り上げられてしまう出来事から5分後、どうにか落ち着いたフブキとともに悠はみんなに二人の関係を説明していた。

 

 悠とフブキは幼馴染である。

 悠は8年前から約2年間この町に住んでいる時期があり、その時に知り合ったのが幼き白上フブキである。現在悠たちが過ごしている世界である現世に対して表裏一体というべきもう一つの世界である幽世(かくりよ)を故郷とするフブキがなぜ現世の出身である悠と幼馴染の関係であるか。

 

 一言で言うとフブキが現世に迷い込んだのである。

 

 現世と幽世に限らず、世界を隔てる境界線は今現在ではひどく曖昧になっている。古来より力を持つ者が長い時間を経て世界を繰り返し渡ることで、『世界を隔てる』という概念そのものが徐々に曖昧になってゆき、今ではふとした拍子に別の世界に行きついてしまう『世界渡り』と呼ばれる事象も決して珍しいことではなくなってしまっていた。

 フブキはまさにその事象に巻き込まれてしまった一人である。

 外に出てからの帰り道、近道として普段は通らない小道を通り、気がついたら現世のとある公園に辿り着いていた。周りには誰もいない、ここがどこだか分からない、そもそも現世であることすら当時のフブキには判別ができていなかった。

 混乱のあまりうずくまって泣き出してしまい、そこに偶然巡り合わせたのが幼き悠とその母親であった。

 当時から既に世界渡りの事象は話題になっており、幼きフブキの姿と様子から事情を大方理解した悠の母親がフブキを保護、フブキの故郷が見つかるまでの間悠の家に住むことになった。一緒に住んだ期間は一週間程度であったが、その間に悠とフブキが(えにし)を結ぶには十分すぎる時間だった。

 

 そして無事にフブキの故郷が見つかってからもフブキと悠の交流は続いた。

 フブキの家は幽世の中でも十指に入る名家の「白上家」だったからこそではあるが、現世と幽世の行き来もその権限で自由にできるようになった。無論白上家としても将来的にフブキを現世にあるホロライブ学園に入学させる予定ではあったため現世での生活に慣れてもらうという打算はあったのだが、本人たちにとってはそんなことは些末な問題でしかなかった。

 しかしその交流も2年後に悠たちの引っ越しというものであっさりと終わりを迎える。

 そのときのフブキは恥も外聞も捨てて悠に泣きついたものである。そして悠もまた目尻に涙を溜めながらフブキを抱きしめて宥めていた。これはフブキに限らず悠にも当てはまることだが、お互いの存在はお互いにとって掛け値なしの初めての友人であり家族のようなものだった。方や家柄によって、方や出生によって普通の人のような交流など皆無だったから。故に悲しむ気持ちは当然あるが、だからこそ悠は涙をこぼすフブキの頭を撫でて一つ約束をする。

 

 

 

>「いつになるか分からないけど、絶対また会おう。約束!」

 

「………うん、うん!」

 

 確約ではない。幼いからこそできるその場しのぎの約束事かもしれない。

 でもそれでもいいとその時の二人は思った。

 お互いがまた会いたいと強く思っている。その事実こそが大きな縁となり、再び出会う運命を結んでくれると信じているから。

 そうして、二人は笑顔でひと時の別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだゆうくん、おじさんとおばさんは元気にしてますか?今度ご挨拶にでも行こうと思うんですけど」

 

>「あ…えと………」

 

 話が終わったタイミングで思い出したといった表情で言うフブキのその言葉に悠は歯切れの悪い返事を返す。

 その反応にある程度察したものが数名、しかしあくまで憶測の域を出ないため静かに悠の言葉を待つ。

 一瞬苦虫を嚙み潰したような顔をした悠だったが、意を決して言の葉を紡ぐ。

 

 

 

>「父さんと母さんは亡くなったよ、3年前」

 

「あっ…ご、ごめんなさい」

 

>「大丈夫だよ、これでもちゃんと折り合いはつけてるから。よかったら今度祈りに来てあげて」

 

「…はい、必ず!」

 

 悠の様子は悲しんではいても引きずっている様子はなかった。

 それならばこれ以上触れるのは野暮というものだろう。

 と、一区切りした瞬間に昼休憩終了5分前を告げるチャイムが鳴る。最初から教室にいた悠たちはともかく学年が違うフブキはそろそろ移動しなければならないだろうと彼女の方を見ると、いかにも話したりませんといった様相で恨めし気にスピーカーを睨んでいた。

 

 

 

 すると本日二度目の思いっきりドアが開かれる音が響く。いよいよ壊れそうである。

 この学園ではドアは全力で開かなければならないという暗黙のルールでもあるのだろうかといよいよ勘違いしそうになってしまう。

 ドアの向こうにいたのは腰に手を当てて呆れた表情の人間の女生徒だった。

 ネクタイの色が青色ということなので3年生なのだろう。サイドに一つにまとめられたライトブラウンの髪とクリクリと大きなペリドットの瞳が快活な印象を与える。しかしその大きな瞳はジト目によって半分ほど閉じられており、彼女の心情を露にさせていた。

 

 

 

「フーブーキー?」

 

「ま、まつりちゃん…」

 

 

 

 フブキは「YABE」みたいな顔になる。

 まつりと呼ばれた彼女はそれを見るとおもむろに目を爛々とさせて手をワキワキとさせフブキに近づいていく。何事だと困惑する周りの空気など関係ないかのように彼女はフブキに跳びかかった。

 

 

 

「予鈴のチャイムまでには戻るって言ったでしょー!」

 

「ひゃあぁ!?」

 

 

 

 悠は咄嗟にフブキたちから目を逸らし、それは見事に功を奏した。

 もし目の前の光景を見続けていればラミィやかなたによって物理的に無理矢理この場から排除されていただろう。それくらいの煽情的な(セクハラ)現場だった。

 まつりが満足したように離れるとそこにいたのは羞恥のあまり耳までトマトのように真っ赤にしてうずくまるフブキの姿。むせび泣く声がわずかに聞こえてくるあたり本気でやられたらしい。そんなフブキを置いておいてまつりは悠たちの方を覗き込む。

 

 

 

「ほほー、キミたちがねー。なるほどなるほど…」

 

>「あの…?」

 

「あぁごめんごめん!1年のバトロワ優勝者と上位入賞者っていうからどんな人か気になっちゃってつい。私は3年の夏色まつり、フブキの親友だよ!『まつり先輩』と呼ぶように!よろしく、新入生!!」

 

>「1年の星宮悠です。よろしくおねがいします、まつり先輩」

 

 ほかの面々もそれそれ挨拶を交わす。

 まつりはそれにうんうんとうなずくと未だにうずくまったままのフブキをどうにか立たせて移動を開始する。しかし教室を出る直前に悠たちの方を振り返ると満面の笑顔を見せて

 

 

 

「みんな強そうだね、2ケ月後が楽しみだよ!」

 

 それだけ言い放って今度こそフブキとともに教室を出ていった。

 残された悠たちは顔を見合わせて同じ疑問を抱く。

 

 

 

「2ケ月後って、どういうこと?」

 

>「さあ…?」

 

 その疑問に対する答えが出ることはついぞなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業はお昼の衝撃的な出来事のおかげで眠気に襲われることなく切り抜け、現在悠はラミィとともに下校中。校舎を出る際にフブキに呼び止められたが先約があったらしいまつりと他の先輩方に問答無用で連れていかれていた。南無三。

 登校時と同じように他愛のない話をしながら歩いていたが、ピクリと悠が何かに反応したかのように反応して歩みを止め、同じタイミングでストライクハートから念話が入る。

 

 

 

〈マスター〉

 

>〈分かってる。授業中じゃないのが幸いしたかな〉

 

 悠がわずかに顔を曇らせる。

 しかしそれも一瞬のこと、すぐにかぶりを振ると急に止まった悠に疑問符を浮かべていたラミィに話しかける。

 

 

 

>「ごめんラミィ。ちょっと行かなきゃいけないところがあるの思い出したから今日はここで!」

 

「え?う、うん。それはいいんだけど…一緒に行こうか?」

 

>「ごめん。気持ちは嬉しいけど個人的な用事だし時間もかかりそうだから先に帰ってて。また明日だね」

 

「…うん、また明日」

 

 自分の事情にラミィを巻き込むわけにはいかないと嘘こそ言っていないが内容をぼかして断る。少し寂しそうにするラミィに罪悪感が湧くも、悠は踵を返して来た道を駆け足で戻る。周囲に人がいない路地に入ると首に下げていた待機形態のストライクハートを握りしめ、掲げる。

 

 

 

>「場所はまたエルフの森近くのはずれの森だ。被害が出る前に急ごう。ストライクハート、セットアップ!!!」

 

「Stand by ready. Set up!」

 

 光が悠を包み込み制服をバリアジャケットへと換装する。

 右手に握られた杖形態(アクセルモード)のストライクハートを一振りして魔法陣を展開、飛行魔法『アクセルフィン』で空へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フレア」

 

「うん」

 

 暁が空を染めあげる夕暮れ時、はずれの森の中で二人の少女が空を睨む。

 肩ほどまで届く光を跳ね返す銀髪にエメラルドの瞳、機動性を求めつつも重厚感を感じさせる騎士甲冑を身にまとう人間の少女は白銀ノエル。

 リボンで一つにまとめられた煌びやかな金髪にガーネットの瞳、手にした弓も相まって狩人を彷彿とさせる衣装を身に着けているハーフエルフの少女は不知火フレア。

 

 二人がこの場を訪れていたのは偶然に近いものだった。

 本来であればホロライブ学園所属の二人は学園内の施設である仮想戦闘室で訓練をする予定だったが、抽選が外れたことによりこれを断念。ならば人のいない場所で訓練すればいいということでフレアの提案でエルフの森のすぐ近くのこの森まで足を運んでいた。

 

 そこに現れたのがいま二人が警戒している生命体。

 その体躯は優に5メートルを超えており、外皮は赤黒い硬質の鱗で覆われている。

 何より特徴的なのは雄大に空を駆け、一振りで突風を生み出す一対の大翼。

 こんな場所に生息していい生物ではないー--翼竜(ワイバーン)の姿がそこにあった。

 

 ノエルを前衛に、後衛のフレアがワイバーンの様子をうかがう。

 手に弓を持ってはいるが矢をつがえはしない。その行為はすなわち相手に対して交戦の意思を示すことになり戦闘突入は必至。二人からすれば空を飛ぶワイバーンの存在は厄介極まりないものであり、交戦せずに去ってくれるのであればそれが一番であった。無論、攻撃してくれば即座に対応する態勢は整えているが。

 

 ワイバーンは一周二周とその場を旋回、そして竜の相貌が二人を射止めると静止。その瞬間、フレアの狩人たる圧倒的な視力はワイバーンの口からわずかに炎が漏れ出すのを見逃さなかった。

 

 

 

「ッ!!属性付与(エンチャント)(フレイム)!!!」

 

 コンマ数秒という驚異的な速度で弓を構えて矢をつがえ詠唱。身に秘めた魔力が矢に流れ、業火を宿す。

 ワイバーンが火球を放つと同時にフレアも火矢を撃つ。直線状で結ばれた二つの攻撃は予定調和のようにぶつかり爆発音とともに炎を振りまいて弾ける。

 威力は互角、しかし状況はまったく芳しくなかった。二つの攻撃の衝突によって生じた残火が雨のように地上に降り注ぐ。このままでは森に火が付き大炎上、下手すれば隣接するフレアの故郷たるエルフの森にも火の脅威が迫る。

 

 

 

「ハアァ!!!」

 

 そしてそれを阻止したのはノエルだった。

 声に覇気を乗せ、己の得物たるメイスに魔力を乗せ全力をもって振るう。人間の少女にあるまじき膂力から繰り出されたその一撃は大気を唸らせ烈風を作り出し、降り注いだ残火をまとめて吹き飛ばした。

 さらにそこで終わらないのが二人のコンビネーション。

 ノエルがメイスを振りかぶった瞬間にフレアはすでに第二射を構えていた。

 狙うは火球を放ったことにより開かれた顎、その奥の喉元。外殻は見るからに硬い鱗に覆われているため却下。外殻の中で唯一急所といえるであろう眼もさすがにここまで離れた距離で動く対象に狙うのは現実的ではない。文字通り面と点を狙うくらい難易度に違いが出てくる。

 

 矢に魔力を込める。エンチャント無しの純粋な威力を引き上げと確実に当てるための誘導制御。火を扱う相手に火で対抗するのは愚策。フレアの専売特許はなにも属性付与だけではないのだ。

 つがえた矢の数は3本。

 

 

 

「ナイスノエちゃん!いっけぇ!!!」

 

 ヒュヒュンッとかすかな風切り音を鳴らしフレアの指から離れた矢がワイバーンを襲う。二つは牽制兼ブラインドとして眉間に、そしてわずかに遅れて隠された本命の一矢が無防備に開かれた喉元に。

 

 

 

 二人に油断はなかった。

 警戒も決して解いてはいなかった。

 しかしカウンターの一矢を放った瞬間にフレアは「とった」と確信して反撃のイメージがわずかに薄れ、ノエルもまたフレアの実力を信じたがゆえに同様の思考を持ってしまった。

 反撃の矢が迫ってきてなお、攻撃が終わってなおワイバーンが口を閉じなかった理由を二人は追いきることができなかった。

 

 

 

「ー----!!!!!」

 

「グゥッ!?」

 

「なに、この音…!?」

 

 なににも形容しがたい()()()がワイバーンを中心に鳴り響く。

 幾重にも重ねられた音が共振波を生み出し、矢をまとめて弾き飛ばす。それに驚愕したのは耳を抑えながら膝をつくフレアだった。

 

 

 

「そんなッ、魔力が消された…!?」

 

 フレアの放った矢は魔力によってフレアの制御下にあった。そしてワイバーンのあの音を聞いた瞬間に矢がフレアの制御下を離れるのを感じ、即座に原因を理解する。

 

 あの攻撃は魔力そのものを抹消する。

 ふざけるなと言いたかった。

 直接的な攻撃性能はほとんどないにしても破格すぎる。そもそもそんな能力を持ったワイバーンなど昨今聞いたことすらない。

 

 ワイバーンが再びタメの動作に入る。

 気づいたフレアがいまだに耳に残る残響を無理矢理振り払い弓を構える。しかし次の光景に再び驚愕することになった。

 

 

 

(多…いっ!!)

 

 ワイバーンから炎弾が放たれる。それだけなら何も驚きはしなかったが問題はその数であった。

 ゆうに20を超える炎弾、その一つ一つは小さいが決して無視できるものではない。一つでも取りこぼせばアウト、しかも先ほどのようにノエルの攻撃の余波で振り払えるようなものではない。

 フレアはあきらめずに矢を放ち続け相殺、ノエルも余波で振り払えないならと木々をジャンプして駆けあがって直接炎弾を打ち落とす。

 しかしそれでも圧倒的に足りない。

 手数が、時間が。

 

 二人はワイバーンを睨みつける。

 そんなワイバーンは、二人をどこまでも冷たく見下ろしていて。

 

 

 

 その次の瞬間、炎舞い落ちる暁の空に数多の流星が駆け抜けた。




相変わらず戦闘描写は切りどころが難しい…
ということで続きます!

もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!



次話更新は翌日12:00です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part13 金と銀との共同戦線

GW企画3日目!
はずれの森での戦闘後半戦!





ではでは本編へどうぞ!


 

 

 

 

 

>「マズイ、ストライクハート!ここから撃つ!炎弾をロックして!!」

 

「了解ですマスター。……対象物計15ロックオン完了、いけます!」

 

>「アクセルシューター・バニシングシフト!」

 

 全速力で空を駆ける悠は視界の先に翼竜を見つけ、奴の行動を見るや否や足を止める。

 展開するは一つの魔法陣、発生するは20の魔力球。

 本来の射程から外れた距離ではあるが、これ以上撃つのが遅れれば取り返しがつかない事態になるのは明白だった。

 

 演算処理や発射軌道の制御はストライクハートに一任し、悠はなにより魔力を込める。

 少しでも早く、速く、疾く、迎撃に特化したアクセルシューターのバリエーション。

 

 

 

>「シュート!!!」

 

 弾かれたように発射された魔力球はさながら流星のように駆け、炎弾を残さず撃ち抜いた。

 悠は一息つくこともなく再び魔法陣を展開、ストライクハートを杖形態(アクセルモード)から砲撃形態(バスターカノンモード)へと移行しカートリッジロード。

 空薬莢が飛び出し切っ先に魔力が収束する。

 息つく暇を与えない連続攻撃、流れを止めず悠は叫んだ。

 

 

 

>「ディバイン…バスター!!!」

 

「Divine Buster Extension.」

 

 一条の瑠璃色の閃光が圧倒的な魔力を伴ってワイバーンに迫る。

 しかし直前にアクセルシューターの軌道を見せたのがワイバーンにとっては幸いし、悠にとっては災いした。

 

 

 

「ー----!!!!!」

 

 砲撃が直撃する直前に再びワイバーンがより広範囲にあの音を響かせる。

 それにより純粋な魔力攻撃であるディバインバスターは霧散、残ったのはグルルと喉を鳴らすワイバーンのみだった。

 

 

 

>「砲撃が…いや、魔力そのものを消された?」

 

「おそらく後者ですマスター。ワイバーンの周りに一切の魔力の残滓が感じられません」

 

>「厄介な…」

 

 悠は顔をしかめる。

 対処法はあるにはあるが如何せん一人ではなかなかに厳しいというのが正直なところだ。

 だがこのままワイバーンを放置することは絶対にできない。やるしかないとアクセルフィンを再稼働させようとして

 

 

 

「待って!」

 

>「ひゃい!?」

 

 突然誰かに呼び止められて変な声が出た。

 ちなみにこの男、急な大きな音などのドッキリ系は苦手だったりする。

 

 視線を下におろすとそこには二人の少女。しかしてその隙のない立ち姿から手練れであることはすぐに分かった。しかしアレの相手は自分、知らぬ人は巻き込めない、巻き込ませないために警告しようとするがその前に彼女たちから声を掛けられる。

 

 

 

「君、星宮悠くんでしょ!団長はホロライブ学園2年の白銀ノエル!こっちが不知火フレア!」

 

「協力してほしいの!アレを倒すために!」

 

>「いや、あれは自分が…」

 

 

 

 そこまで言いかけて悠は口をつぐんだ。二人の目を見て、とても素直に引いてくれるとは思わなかったから。

 ああ、バトロワの時のラミィも同じ気持ちだったのかなと申し訳ない気持ちを感じつつ、二人の元へ降り立つ。

 

 

 

>「知ってるみたいですが改めて、ホロライブ学園1年星宮悠です。よろしくお願いします先輩方」

 

「んじゃあ悠くんって呼ぶね、礼儀正しい子は好感持てるよ~」

 

「ノエル、続きは後で。さっそくだけど、何か案はある?」

 

 

 

 フレアはそう言いながら空を見上げる。ワイバーンは先ほどからこちらを視界に入れつつ滞空状態を保っている。

 警戒しているのか、それとも攻撃のための力を溜めているのか定かではないが、いずれにせよずっとこのままというわけにはいかないだろう。

 

 

 

>「あ、それなら自分にちょっと考えが…」

 

 悠は先ほどまで考えていた対処法を述べる。

 一人では厳しかったが人も増え、しかも弓という遠距離持ちとメイスという近距離特化。これをやらない手はないと思っていたが、ノエルとフレアの表情は硬いまま。そして口を開いたのはノエルの方だった。

 

 

 

「…それは、悠くんの負担が一番大きいの分かってる?下手すれば大怪我じゃ済まない可能性もあるんだよ?」

 

>「分かってます。でもこの中で飛べるのは僕だけ。なら、やらないと」

 

「でも!」

 

「ノエル、待って」

 

 フレアは自分を犠牲にするような作戦を伝える悠に憤るノエルを宥めると、視線を悠に合わせる。

 

 

 

「…ひとつ、答えてほしい。やられるつもりはないんだよね?」

 

>「もちろんです。僕は、アレを倒すためにここにきたんですから」

 

 フレアの質問に対して悠はハッキリと言い切る。

 瞳の奥に感じる強い意志。人より長い刻を生きてきたハーフエルフたる彼女だからこそ、それは嘘も偽りも一切ない彼の本心だと理解できた。

 

 

 

「…分かった、それで行こう」

 

「フレア!?」

 

「彼がひとりでやろうとしたのを無理矢理引き留めたのは私たちの方。なら、この戦いにおいて彼は我を通す権利がある。それが無茶なことだったら止めるのが先輩である私たちの役目なんだろうけど…」

 

 フレアの視線に対して悠は視線を交わすことで返事をする。

 

 

 

「…問題はなさそうだし、なにより本当に危ない目にあいそうだったら私たちで助ければいい。でしょ、ノエル?」

 

「!…うん、分かった!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠はアクセルフィンで飛翔、一瞬でワイバーンと同じ高度まで駆け上がる。

 ワイバーンは悠を見ると怒りを孕んだ咆哮を響かせる。それが開戦の狼煙となり、同時に動き出した。

 

 『アクセルフィン』を稼働させて『フラッシュムーブ』の併用で瞬間的な加速を得た悠はワイバーンの死角を取る。

 左手を前に、魔法陣を展開。発動するは近接砲撃魔法の『クロススマッシャー』。

 しかしワイバーンもそれに気づくと口を開き魔力を消し去る共振波を放つ。嫌な音が鼓膜を通って脳まで響く。咄嗟に耳を塞ぐが、防ぐことはかなわず魔力で構成された防御魔法の一種である『バリアジャケット』と飛行魔法の『アクセルフィン』が強制的に解除される。

 

 飛行魔法の補助を失って重力に従い落ちていく悠に追撃をかけんとワイバーンが火球を放つ。近づくだけで燃えてしまいそうなほどの灼熱に目を細める。しかしそれと同時に、魔法が解除されたタイミングで悠の背中で新たに発動されていた『ディバインシューター』がワイバーンの火球をかいくぐって標的に殺到した。

 悠は即座に『バリアジャケット』と『アクセルフィン』を再展開し、空中で静止するとともに展開速度に優れる『ラウンドシールド』で火球を防ぐ。対してワイバーンは迫りくるディバインシューターを大きく旋回することで避けてみせた。

 

 

 

 そのワイバーンの動きを見て悠は確信を持つ。

 地上にいるノエルとフレアに合図を送り作戦を開始する。

 

 現在の立ち位置は上空にワイバーン、地上にノエルとフレア、その中間地点に悠といった状態。

 作戦を遂行するためにはまずはワイバーンの上をとって地上の二人と挟み込まなければならない。悠はストライクハートを握りなおすと飛翔を開始。移動中でも発動可能な『ディバインシューター』を展開、現れた8つの魔力球はそれぞれが僅かなタイムラグを経て発射されワイバーンを襲う。

 当てるためではなく牽制、相手をその場から動かさないために逃げ道を塞ぐ射撃ルート。しかし当たれば無傷では済まない攻撃にワイバーンは苛立ちのまま再び共振波を放つ。

 これにより『ディバインシューター』は残滓すら残さず消滅。だがその間に共振波の射程範囲外ギリギリを縫って『フラッシュムーブ』で高速移動、目にもとまらぬ速さでワイバーンの上をとる。

 

 

 

>(とった)

 

 ワイバーンに対して真上に位置どった悠はストライクハートを天にかざし、魔力を練る。

 

 

 

>「アクセルシューター・ユニオンシフト!」

 

 カートリッジロードとともに叫ぶ。それは初回バトロワでかなたに対して放った魔法の調整版。

 20あった魔力球を収束させ、最終的に3つの巨大な球へと変貌させる。ひとつひとつが下手な魔物なら一撃で消滅しかねない魔力量を秘めており、その脅威はワイバーンも感じ取っていた。

 狙いは一つ、故に迷いなく悠は攻撃を開始する。

 

 

 

>「シュート!!!」

 

 3つの魔力球が弾丸さながらのスピードで射出される。

 だがその軌道は直線的。ワイバーンと迫る魔力球、そして悠が一直線で並んでおり、それを本能的にチャンスだと感じ取ったのかワイバーンは今までの中で最大規模の共振波を悠めがけて三度繰り出す。

 射程内にあった魔力球はまとめて消滅し、さらにはその奥の悠にまで直撃し魔法を解除させる。

 ワイバーンの真上をとっていた悠は自由落下によってワイバーンめがけて落ちていく。これで終わりだと言わんばかりに顔を怪しく歪めて最大威力まで炎を溜める。

 

 まさに絶体絶命、しかし距離が近づきワイバーンが見た悠の表情は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …笑っていた。

 

 

 

「!GRUAAAAAAA!!??」

 

 瞬間、ワイバーンの瞳に鋭い痛みが走り視界の半分が黒く塗りつぶされる。

 少しでも痛みから逃げるために叫び声をあげてその場でのたうち回る。

 

 それを見て地上にいたフレアは弓を放った態勢で安堵の息を漏らした。

 

 

 

「ふう…良かった。ここで失敗するわけにはいかなかったからね」

 

「やったねフレア!」

 

「次はノエちゃんの番だよ。いける?」

 

「もちろん!団長に任せて~!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠の案とは単純明快で、共振波のスキを突く。それだけである。

 そもそも悠にとって疑問だったことはなぜワイバーンがあのような攻撃(共振波)を持っていたかということだ。まあ理由ということならばあのワイバーンの正体を知っている悠としては間違いなく自分への対策なのだろうとすぐに確信できたが。

 

 問題はそこではなく()()()()()()()あの攻撃を実現しているのかということであった。本来普通のワイバーンはあんな攻撃はできない。

 ワイバーンの体の構造を変えた?

 それとも大量の魔力で無理矢理再現したか?

 初めて見たときはどちらか判別はできなかったが、二回目の攻撃で確信を持つに至った。

 ワイバーンは共振波を放った直後の悠の反撃に対して、再び共振波を用いるのではなく()()をとった。それが何を意味するか。

 

 十中八九、共振波は連続で放つことができない。より正確には、撃った後に共振波の規模に応じて相応のインターバルを必要とするということだ。

 

 体の構造を変えて実現したのであれば連続で放てない道理はない。できるなら連続で撃てるような構造にすればいいからだ。つまり共振波は魔力による再現とみて間違いない。魔力そのものを無力化するほどの破格な性能である。再現するために必要な魔力量は通常の比ではない。

 であればそれを放つためには相応のタメとクールタイムは必須なはず。

 

 

 

 これにより悠たちの作戦が決定した。

 まずは悠が囮となりワイバーンに全力の共振波を撃たせる。

 次にフレアが無防備になった悠に夢中になって動きを止めたワイバーンを射抜く。

 最後に墜ちてきたワイバーンにノエルがとどめを刺す。

 

 手順としてはひどく単純。故に一つ間違えれば囮となった悠がバリアジャケットを解除された状態で攻撃をもらうことになるので少なくとも重症、下手したら最悪の事故も起こりうるかもしれない。ノエルが憤った理由はここにあった。

 

 それに対して一番プレッシャーだったのはフレアだ。

 なぜならばフレアの狙撃が失敗すれば、それが悠の被害に直結するから。

 しかし悠はそれに対して最高のお膳立てをした。ワイバーンのヘイトを完全に自分に向けてみせ、さらにいかにも攻撃してくださいと言わんばかりの無防備な姿を演出。

 それによりワイバーンはフレアとノエルから意識を完全に外し、悠にとどめを刺すために空中でその動きを完全に止めた。ここまで好条件を後輩に整えられてなお外すなど先輩の名折れである。たとえ狙う対象が眼という点を狙うような難易度であったとしても関係ない。

 

 

 

 結果は上々。

 放たれた矢は吸い込まれるようにワイバーンの目を貫いた。

 しかしまだ墜ちてはいない。墜ちたらやられると理解しているのか眼に刺さった矢を引き抜きなお滞空を続ける。

 残ったもう片方の鋭い眼で悠を射抜くと咆哮をあげる。

 下位とはいえ竜種の咆哮にはそれだけで相手を怯ませる力がある。

 

 しかし悠にソレは効かない。

 意思を貫き通す不撓不屈の心が後ろに下がることを許さずひたすら前に進ませる。

 

 落下によるGを感じながら解除されていた『バリアジャケット』を三度展開。

 『アクセルフィン』は出さずに掌に魔力を集中させ、魔法を発動。

 フレアの弓で墜ちないのであればそれ(追撃)は悠の仕事である。

 類稀な空間把握能力でワイバーンとの距離を算出し、ちょうど接触する完璧なタイミングでそれは撃ち出された。

 

 

 

>「墜ちろぉ!!!」

 

 ワイバーンの頭部に直撃した近接高速砲撃(クロススマッシャー)により脳を激しく揺らされ、受けた衝撃のまま地上まで墜落。

 そしてその先で待ち受けていたのは、白銀の聖騎士。

 長年の戦友たるメイスを携え、少女騎士は跳ぶ。

 

 

 

「団長だって怒るときは怒るんよ」

 

 それは森を荒らそうとしたワイバーンに。

 そして、後輩を危険に晒すことを止めることができなかった自分自身に。

 

 振りかぶったメイスに魔力を集中させ、己が全力をもって振り下ろす防御不可の強烈な一撃。

 

 

 

 

 

「砕け、『白亜の鉄槌』!!!」

 

 

 

 

 

 

 まるで小さな隕石が落ちてきたかのような地響きが起きた。

 ノエルの魔力光によって薄く白銀に光るメイスがワイバーンの頭部に叩きつけられ、その衝撃によってノエルを中心に放射状に大地に亀裂が入った。あたりの木は根元から倒れ一つの巨大なクレーターが作り出されている。

 受けずともわかるその絶大な威力に悠は思わず戦慄し、おおよそ生物が出してはいけない音をだしたワイバーンはそのまま完全に沈黙。

 それを確認してノエルとフレアは喜びを露に抱き合った。

 

 

 

「やったよフレア!」

 

「うん、ノエちゃん!」

 

 

 

 ノエルがとどめを刺したタイミングで地上に降りていた悠はそれを見て張りつめていた緊張をほどき表情を柔らかくする。

 そして踵を返してワイバーンに向き合うと、それはいつの間にか黒く変色しシルエットのようなものに成り代わっていた。悠がそれに無造作に触れると触れた端から崩れ落ち、残ったのは紫色の中央が淡く光る鉱石のようなものー--魔鉱石だった。地に落ちた魔鉱石を拾うと杖形態のストライクハートに収納しようとして、その直前にノエルに止められた。

 

 

 

「待って悠くん!」

 

>「…?どうしましたか?」

 

「その鉱石みたいなの、前も魔獣を倒して集めてたよね。3月の夜に」

 

>「!……見ていたんですか」

 

「うん。あの、どうしてそれを集めてるの?その鉱石、傍から見てもすごい魔力を秘めてるのが分かる。個人で持つには危険なものだと思うんよ」

 

 

 

 ノエルの言っていることは真実だ。

 この魔鉱石はいわば膨大な魔力の結晶体である。それこそこれ一つで生物の核として成立し完全に無の状態からあのワイバーンが作り出せるほどのもの。なればこそこれは混乱と抗争を呼ぶ。これを利用しようとする輩が必ず現れる。

 ノエルが示唆しているのはそういった輩に巻き込まれる危険性だ。加えてこれを悠が使おうものならそれもまた大きな危険が伴う。

 

 

 

「別にそれを渡してほしいわけじゃない。ただ、悠くんがそれに…それによって造られた魔獣たちに対してすごく執着してるように見えたから」

 

>「………」

 

 悠は口をつぐんだ。

 ここで何も言わずに去るのは簡単だ。お互いの間に遺恨は残るだろうがそれでもすべてを話すよりかは心情的にも楽だろう。

 だが彼女たちには手伝ってもらった恩がある。それに対して何も返さないのは自分の意思に反することだ。

 だから、悠は話すことにした。全てではなく、行動の目的を。過去の詳細に触れないギリギリのラインを。

 

 

 

>「…僕がこれを集める…これを宿した魔獣を狩っているのは、これが作られた原因が僕自身にあるからです。原因が僕にあるなら、僕がケリをつけなきゃいけない。僕が原因で周りに被害を出させるわけにはいかないから。なぜ、というのは話せませんが…」

 

「悠くん、それは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダが関係してるの?」

 

 

 

 ノエルのその言葉にドクンッと、心臓が跳ねた。

 なぜ、ナゼ、何故?どうして彼女がそれを知っている?

 ボロは出していないはず、だが彼女が言っているのは間違いなく悠が想像したあれだ。

 想起するのは遥か過去、悠を悠たらしめんとする負の遺産。

 戦火、怒号、そして、血で構成された屍山血河の地獄のような戦場。

 そして、その後に起こった悠に大きな業を背負わせることになった両親を失った事件。

 悠は激しく心を乱される。しまい込んだはずの感情があふれ出す。

 

 心臓が痛む。

 呼吸が浅くなる。

 視界が暗く、歪んでいく。

 

 

 

 悠の異変には二人同時に気付いた。

 胸を押さえ、浅い呼吸を繰り返し、フラフラと立つことすらおぼついていない。

 明らかに様子がおかしいと悠を支えようと近づいて

 

 

 

>「来るなっ!!!!!」

 

 

 

 穏やかな印象だった彼の予想外すぎる怒声に足を止めてしまった。

 その間にも悠は近づこうとした二人に気づいていないかのようにブツブツとうわ言のように口を開く。

 

 

 

>「来るな、出て、来るな…!ミッドチルダ…父さん、母さん……!」

 

 やがて、足を踏みしめ呼吸が落ち着いた悠が小さく呟いた。

 

 

 

>「ああ、そうだ。あいつらは………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「オレが殺さなきゃ」

 

 

 

 

 

 溢れ出すは『殺意』。

 その瞬間、ノエルとフレアの体が瑠璃色の光の輪で縛られる。

 

 

 

「え!?」

 

「これ…!?」

 

 悠(?)が二人に手を向けている。

 補助魔法の中の十八番といえる『レストリクトロック』。

 続けて掌に魔法陣を展開、魔力を集中させる。何を撃とうとしているのかは、明白だった。

 

 

 

>「オレの邪魔をするやつも、全員…」

 

「マスター!落ち着いてください、マスター!!!」

 

 悠(?)のその行動にノエルとフレアが困惑する中、愛機たるストライクハートがあらん限りの声で叫ぶ。

 すると、悠の動きが、魔力の収束が止まった。

 

 

 

>「…!グッ、こいつ、まだ……!」

 

 悠(?)が突き出していた右手を逆の手で押さえる。

 するとわずかな膠着ののち、忌々し気な舌打ちをして脱力とともにその手を降ろした。

 

 悠は顔を俯かせたまま指を鳴らし『レストリクトロック』を解除。

 こちらに近づこうとする二人に対して手で制止すると

 

 

 

>「…ごめんなさい」

 

 震える声でそれだけ呟き、背を向けて空へと駆け出した。

 静寂の中に風の吹き抜ける音だけがいやに響く。

 悲し気に顔を俯かせるノエルにフレアは背中を撫でながら話しかける。

 

 

 

「ノエちゃん…」

 

「フレア。私、悠くんにひどいことしちゃったかな…」

 

「気にするな…ていうのは無理だと思う。だから、また話に行こう?なんであんな風になったのか、きっと全部を教えてくれることはないんだろうけど。それでも会って、話して、また一緒にいられるように」

 

「…うん」

 

 

 

 フレアにその言葉にノエルは胸が暖かくなる。

 明日、会いに行こう。断られるかもしれないけど、何度でも、何度でも。このままお別れなんて、絶対に嫌だから。

 

 そう決意するノエルにフレアは思い出したように問いかける。

 

 

 

「そういえば、今聞きにくいことではあるんだけど…『ミッドチルダ』ってなんなの?どこかで聞いた気はするんだけど思い出せなくて…」

 

「…ミッドチルダっていうのはとある国の名前なんだ。悠くんの魔法陣を見て気になって過去の文献を見てみたら見つけたの。高度な魔法文明と科学文明を両立させた、高い軍事力を誇る大国。そしてそれゆえにその力を恐れた隣国の同盟軍に10年前に滅ぼされた超魔導国家ミッドチルダ。

 

 

 

 

 

 悠くんは、その国の生き残りなんだと思う」




走者の一言コメント
「(ここでその曇り方は)マズイですよ!!!」

ホロラバ主人公は曇るもの。古事記にもそう書いてある。
過去についてもいずれ明らかになりますのでお楽しみに!

もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!



次話更新は翌日12:00です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part14 追憶とその後

GW企画4日目!
ちょこっと過去編挟まります。





ではでは本編へどうぞ。


 

 

 

 悠の記憶は戦火の中から始まった。

 駆け巡るは銃撃と剣戟、動乱と混乱。

 

 近未来感を感じさせる中心都市はもう見る影もなく、すべては瓦礫の中に消えていた。

 そしてそこかしこに倒れ伏す人、人、人。

 人々が赤黒い液体を流しながらピクリとも動きはしないこの戦場はまさに屍山血河。

 

 

 

 そんなおぞましき光景を幼き悠は体を揺られながら見ていた。

 その表情に変化はない。まるでこの光景をなんとも思っていないように傍からは見えるだろう。しかし正確には悠はこの光景が現実のものとは思えなかったのだ。

 建物が崩れ去る様子も、人が血を流す瞬間も、その時の悠にとっては映画を見ているような、別世界の光景のように映っていた。

 

 すると急に視界がガクンと揺れる。

 その先に映ったのは一組のうら若い男女。

 焦燥を隠せていない二人は、男性がおぶっていた悠がこちらを見ているのに気づくと慈愛の笑顔を浮かべて語り掛ける。

 

 

 

「ああ、目を覚ましたか。良かった…」

 

「悠、私たちが分かる?」

 

>「………だれ?」

 

 悠のその返事に二人は顔を見合わせ一瞬驚き、悲しげで、それでいて納得の表情。

 こうなることが分かっていたのかあくまで冷静に、駆ける足は決して止めずに続ける。

 

 

 

「…私たちは悠、キミの両親だ」

 

「星宮悠。それが、あなたの名前よ」

 

>「ほしみや、ゆう」

 

 この時の悠は、ピンと来ていなかったのだろう。

 うわ言のように自分の名前を繰り返す。反芻するように、刻み込むように。

 

 すると近くで爆発音が響く。

 続いて大量の怒号と足音。

 悠の両親は苦虫を噛み潰したような顔をして走るペースを上げた。

 

 

 

「地下の秘密口まではどのくらいだ?」

 

「もうすぐそこよ。私が開けるわ」

 

「よし、なら…「待てえぃ!!!」…ッチ!追いつかれたか」

 

 男性が舌打ちをしながら悠をおぶったまま女性を隠すように立ちふさがる。

 悠が男性の視線の先を追うとそこには杖、銃、剣と様々な武装をした大人と、最前列にいかにも研究者然とした初老の男がいた。

 男はイラついた様子を一切隠すことなく頭に血管を浮かばせながら叫ぶ。

 

 

 

「貴様らぁ!!!我が国が襲われているこんな時に我らを裏切るとはどういう了見だ!」

 

「ハッ笑わせてくれる!この事態に乗じて俺ら二人を始末しようとしてたこと、気づいてないとでも思ったか!」

 

「ッチィ、こんな時だけ勘の鋭い…!」

 

『裏切る』、『二人を始末』、『勘の鋭い』。

 

 人に対する知識はなくとも考える知能は年不相応に持ち合わせていた悠は、今の会話で怒鳴り散らかしている男の目的をある程度察してしまった。同時に、両親と名乗った二人が何をしようとしているのかも、間近で二人の所作を見たがゆえに理解する。

 男は悠に指をさしてまくしたてる。

 

 

 

「さっさとその成功体を渡せ!!!()()があればこの状況をひっくり返せる!我が国を守ることができるのだ!」

 

「誰が渡すかよ!俺たちの息子を戦争の道具になんかさせねえ!!いや、たとえ息子じゃなかったとしても、何も知らない子供を無理矢理戦場に駆り出そうとする国なんてクソくらえだ!!!」

 

 悠の予想は正しく、研究者の男の目的は悠の確保、そして父親たる男性の目的はこの国からの逃亡であった。

 

 そして初老の男が言っていた成功体…すなわち悠は実験体だということだ。

 二人の言葉をそのまま捉えるのであれば、男に連れていかれれば悠は戦争の道具として戦場に駆り出されるのだろう。守ると銘打ってはいるが、研究者の男の瞳に隠し切れない狂気が宿っていたことを悠は見透かしていた。

 そしてその時に悠が思ったのは、連れていかれればこの二人は悲しむのだろうかということだった。

 

 

 

 あぁ、それは…嫌だな。

 

 両親たる二人がその実験とやらに関わっていたのかは定かではないが、二人が悠を大切に思ってくれているのであろうことは幼き悠でもよく分かった。だからこそ、何も知らないこの世界で、必死に自分を守ろうとしてくれている人たちを、悠は信じたいと思った。

 なら、としがみついてた男の耳に口を寄せ、尋ねる。

 

 

 

>「なにをすればいいの?」

 

「………!悠…」

 

>「信じる。二人を…おとうさんと、おかあさんを。だから…」

 

「…ありがとう、悠」

 

 

 

 男性は嬉しかった。

 拒絶されなかったことが。

 また悠が自分のことを父と呼んでくれたことが。

 

「数秒後、合図をしたら目を耳を閉じるんだ。あとは任せろ!」

 

「…うん!」

 

 追っていた二人も部門こそ違うが優秀な工学研究者であった。条件次第では生かすことも考えて連れ戻すことを第一命題とされていたが、ここまできてようやく交渉の余地がないと判断したのか、研究者の男がおもむろに手をあげると後ろにいた大人たちが武器を向ける。

 

 

 

「ヤツは殺して構わん。ただし成功体には傷一つつけるなよ」

 

「はっ」

 

 じりじりと距離を詰められる。

 そんな中悠の父はアイコンタクトで母に合図を送る。

 そして詰め寄ってくる輩を一瞥すると不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「その判断は一歩遅かったな!今だ悠!」

 

「…っ!」

 

 合図に応じて悠は目と耳を塞ぐ。

 その瞬間、塞いでもなお聞こえてくる爆発音とともに視界がフラッシュアウトを引き起こした。

 巻き起こる混乱、その間に母が開けていた地下への秘密口に入るとすかさず扉をロック。これでしばらくは奴らは入ってこれない。

 

 

 

>「…なにをしたの?」

 

「特製のフラッシュバンさ。普通の攻撃はバリアジャケットで防がれちまうからな」

 

>「バリア…?」

 

「あなた急いで!扉だって長くは持たない。急いで脱出するわよ!」

 

「ああ!いくぞ悠。…いいか?」

 

>「………うん。行くよ」

 

 父の質問にはいろんな意味が含まれていたのだろう。

 それも全部ひっくるめて、悠は是の返事をした。

 母が立っていたのはポータルのようなもの。つまるところ人工的な転送魔法である。

 悠は父とともにポータルに立つとふと振り返り、先ほどまでの光景を思い出す。

 

 夥しい血の河と死体の山。

 それでもなおなりやまない銃撃と剣戟、そして雄叫びと悲鳴。

 悠はそれらをすべて見捨ててここを去る。

 知らない人だからなど関係ない。助けられる可能性のある人たちを、奴らの手から逃れるために、自分の身可愛さに自分の都合を優先させて切り捨てる。

 自分がやろうとしているのは、そういうことだと心に刻み込んだ。

 

 悠たちの輪郭がぶれる。

 その次の瞬間、眩い光とともにその3人は忽然と姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「……………朝、か」

 

 まだ朝日が昇りきっていない未明、悠は冷たい汗が流れるのを感じながら目を覚ます。

 心臓がうるさい。汗で服が張り付いて気持ち悪い。

 

 ノエルとフレアの元を逃げるように去って家に帰った後、それから今までの記憶はほとんどなかった。

 何も考えられず、事務的にやるべきことをやって、泥のように寝たのだろう。

 思い返すは夢の記憶。

 文字通り悠が覚えている一番初めの記憶。

 戦乱と混乱、一国の民全てを見捨てたあの日。

 

 

 

>「…それだけだったら、アイツが出てきたりしないんだけどな…」

 

 それだけ呟くと、気持ち悪さを洗い流すためシャワー室へと向かった。

 日課の鍛錬は、する気にならなかった。

 

 

 

 

 

 ノエルとフレアの元を逃げるように去ったことを今になって激しく後悔していた悠は落ち込んだ気持ちのまま授業を消化していた。

 どうにかラミィたちに余計な心配させないようにとポーカーフェイスに勤しんでいたが、あえなくバレて心配される結果となった。全くポーカーフェイスできていなかったのが原因だが。

 

 時は流れ放課後。

 事情を聴いたラミィたちの「とりあえず会って話すこと!」という念を押されたアドバイスの元、2年の教室を目指す。そして校舎の階段を上って2年の教室が並ぶ2階に辿り着いた瞬間、人とぶつかった。

 手すりにつかまっていた悠は無事だったが、急いでいたのかぶつかってきた生徒はバランスを崩していたためその手を取って助ける。

 

 

 

>「っと、大丈夫ですか……って…」

 

「うう、これは失敬…って悠くん!」

 

>「白銀先輩、不知火先輩も…こんにちは」

 

「うん、こんにちは」

 

 そこにいたのは件の探し人であるノエルとフレアだった。

 どことなく気まずい空気が流れる。

 口を開いたのはほぼ同時であった。

 

 

 

「あの!」

 

 再び沈黙。

 黙りこくった悠とノエルを見かねてフレアが助け船を出す。

 

 

 

「二人とも落ち着いて。悠くん、私たちを探してた…ってことでいいのかな?」

 

>「…はい」

 

「うん、ならちょうどよかった。私たちも同じだから、場所移そっか」

 

 フレアはそう言うと踵を返して歩き出す。

 昨日と違いストレートに伸ばされた煌びやかに揺れる長い金髪を見て、悠とノエルはお互いを見あう。

 そしてわずかに苦笑いを浮かべると、二人してフレアの後を追う。

 

 ノエルとぶつかった際に顔にとんでもなく柔らかい感触を感じたのは、勘違いだと信じることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい!」

 

 空き教室に着いて、開口一番の謝罪とともにノエルに頭を下げられる。

 悠はそれを見て慌てて止める。

 

 

 

>「ちょ、謝らないでください!それは僕がするべきことであって…」

 

「ううん、団長は謝らなきゃいけない。不用意に悠くんの過去に踏み込んだこと。悠くんの言葉で触れるべきじゃないって察しておくべきだったのに…」

 

 ノエルは頑なに頭を上げない。

 自分に非があると譲らない。

 こうなれば梃子でも動かないだろう。白銀ノエルとは、そういう少女だから。

 悠もそれがなんとなく分かったから、視線をノエルと同じ高さまで下ろして話す。

 

 

 

>「解離性同一性障害…って、知ってますか?」

 

「?ええと、二重人格、みたいな?」

 

 突然の質問にノエルはつい顔を悠に向け答える。

 しかしなんとなく聞いたことがあるといった程度の知識しかなかったため質問で返してしまうようなあやふやな回答になってしまった。

 それに対して悠は顔を上げたノエルに視線を合わせて続ける。

 

 

 

>「似てるけど少し違いますね。二重人格は一人の人間の中に全く別人の人格が共存している状態。それに対して解離性同一性障害はもともと一人の人間が何らかの要因で心の中に別の人格を生み出してしまう…僕の場合は切り離してしまうが正しいのですが」

 

「…???」

 

「ノエちゃん…」

 

 これがアニメであれば頭に大量のハテナマークが浮かんでいるであろうノエルの表情にフレアは頭を抱える。

 そんなやり取りに暗い顔で話していた悠の肩の力が抜ける。

 

 

 

>「要は、もともと僕という一人の人間の心ががある日を境に二人に分かれたんです。今の僕と、そして、昨日二人を襲おうとしたもう一人の僕に」

 

「あー!そういうことか!」

 

「ノエちゃん………」

 

 以下略。

 悠は改めて二人を見ると深く頭を下げる。震える声で、謝罪を伝える。

 

 

 

>「本当にごめんなさい。あの時の僕はたしかに今の僕ではなかったけど、僕がやったことには変わらない。いや、あの感情をもってあの行動をしたのも、たしかに自分自身なんです。だから…ごめんなさい」

 

 

 

 悠が話して、そして頭を下げるのを見て、ノエルとフレアは顔を見合わせる。

 そして先ほどと逆になるように二人は頭を下げた悠に視線を合わせて言った。

 

 

 

「…ありがとう。そこまで話してくれて」

 

「顔、上げて?」

 

>「…え?」

 

 ポンポンと頭を撫でられる感触とその言葉に驚いて悠は弾かれたように顔を上げる。

 そこにはどこまでも優しい笑顔を浮かべる二人の姿。そして今だにノエルによって頭を撫でられ続ける現状にポカンとした顔をする。

 

 

 

「ふふ、悠くんでもそんな顔するんだ~」

 

「だね、少し意外だったかも」

 

>「え、あの…え?」

 

「別に怒っとらんよ。話を聞いた時はちょっとビックリしたけど…あの時だって最終的に攻撃されたりはしてないし」

 

「それにこうやって謝りに来てくれたし。これで怒ろうものなら…ねえ?」

 

 意外過ぎる二人の言葉に悠は未だ言葉を続けられずにいた。

 ノエルは撫で心地のいい悠の頭から名残惜しそうに手を放し、逆の手をフレアとともに悠に伸ばす。

 

 

 

「だから、これは仲直りの握手!これから、団長たちの友達になってくれる?」

 

「…どうかな?」

 

 ノエルとフレアに悪感情は一切ない。

 本当に怒ってないし、あんなことをした自分にこうして手を伸ばしてくれる。

 それが嬉しくて、申し訳なくて。

 それでも、悠は意を決して二人の手を取った。

 ここで何もしないのは逃げでしかないから。

 二人もまた勇気を出してこう言ったのだと、そう思ったから。

 だから、こう言うことにした。

 

 

 

>「…はい、()()()先輩、()()()先輩」

 

「…!」

 

>「友達なら、こう呼んだ方がいいのかなと。あ!もちろん嫌ならすぐにでも…「「そんなことない!」」…!」

 

「そんなことないよ。むしろ言ってくれなきゃこっちからお願いするつもりだったんだから…」

 

「改めて先輩後輩として、そして一人の友達として。よろしくね、悠くん!」

 

>「…はい!」

 

 

 

 3人は笑いあう。

 空き教室の窓から差し込む夕陽は昨日と同じで、そして全く違う温かさで3人を包み込んでいた。




走者の一言コメント
「…あれ、じゃあもう1人のユー君が生まれる原因になった事件が別にある…ってコト!?」

ノエフレ編一区切り!
ここから時間は加速する…!(宣言)

もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!



次話更新は翌日12:00です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part15 迷子の侍注意報

GW企画5日目!
侍登場!の巻となります。
そして申し訳ありませんがGW企画は今日で最終日となります。
詳しくは後書きで。





ではでは本編へどうぞ!


 

 

 ノエルとフレアとの禍根がなくなり無事に友人関係となった。

 心配してくれていたみんなにそう報告すると笑顔で祝福してくれた。まあ一部では「そのノエルって先輩に頭を撫でられたってどういうことかな、かな?」と詰め寄られたりもして伝えるべき情報の厳選は大切なんだなと思い知ることになったが。

 

 そんなこんなで学園生活は充実して過ぎてゆき、今日はホロライブ学園に入ってから初めての週末。

 すなわち休みの日である。

 

 今日の悠の予定は何もなし、完全にフリーな一日となっていた。

 実際にはラミィやフブキから誘い自体はあったのだが、それぞれ急に家の事情が入り断念することになった。二人の家の大きさを痛感した瞬間だった。

 

 

 

 そんなこんなで日課を終わらせてすることがなくなった悠は近くの商店街まで足を運んでいた。

 具体的に何かを買いたかったからというわけではなく、何かいいものがあればいいなという行き当たりばったりな理由からである。

 しかし今までの経験則からしてこう思って出かけたらその度に有用なものが見つかったりするので、意外とこういう感性というのは馬鹿にできないなというのが正直なところ。

 

 休日ということでいつもよりにぎやかな喧騒が鼓膜に響く。

 見えるのは子連れの女性に老夫婦、商店街という場所なだけにやはり自分のような未成年の学生の姿は少ないようだ。

 

 

 

 ふと、視界の端に映った小さな露店に視線が固定される。

 無造作に広げられたブルーシートに乱雑に商品が提示されており、胡坐をかくフードを被った店主といういかにもな()()()()()感が漂ってくる。

 普通であれば特に何も思うことなくスルーするところではあるが、視線が吸い込まれたようにそこから外すことができず、気づけばその露店の前まで歩を進めてしまっていた。

 

 

 

「らっしゃい」

 

>「あ、どうも…」

 

 顔をこちらに向けることもなく店主は短くそう言う。

 それに何とも言えない気持ちになるが、まあせっかく来たということで商品を見てみる。

 

 

 

 まあハッキリ言ってガラクタばかりであった。

 悠は自宅の地下に大規模な工房を持っており、繊細なインテリジェントデバイスであるストライクハートの改修、メンテナンスを一人でできるほどである。機械系統にはめっぽう明るく造詣も深い。

 そんな悠の眼から見てもこの露店の商品はまともなものは少なかった。

 

 ただし、それはあくまで商品をトータルとしてみた場合ではあるが。

 確かに一見すれば最初の感想通りガラクタばかりである。商品単体で使えそうなのはまともになく、見た目も煤けているものは多い。

 しかし使われているパーツが非常に珍しいものが多いのだ。

 少なくともこの町で手に入るパーツはほとんどなく、流通数も少ないものが多い。

 まさに知る人ぞ知るといった宝の山。

 

 しかしだからこそ悩ましい。

 現在の悠の手持ちは多くない。提示されている金額も正体を知っている人からすれば破格だが、それでも現状ただの学生である悠にとっては決して安いものではなかった。

 

 あーでもないこーでもないと悩み、ふと一つの指輪を見つける。

 小さな鉱石が埋め込まれた素朴な指輪。だが魔力を扱う人からすればそれがただの鉱石出ないことは一目瞭然、それは魔力を秘めた鉱石ー--魔石だった。

 

 

 

>「店主さん、この指輪は?」

 

「ん?…ああ、それは曰くなんらかの魔術的な加護を秘めた魔石の指輪らしいんだが…その加護が何だか分からん妙なシロモノさ」

 

>「分からない?」

 

「ああ。少なくとも付けた奴はそれが何の加護なのか分からんかったらしい。んでつけても何の意味もない、下手したら呪われるかもしれないシロモノなんぞ誰も持ちたがらん。そんな経緯で流れ着いたもんだ。買うならまけておくが?」

 

>「…」

 

 悠は顎に手を当てて思案。

 確信はない。持って帰って工房で調べてみないと正確なことは分からないが、なかなかに希少な能力がありそうだと悠の機械工学者としての勘が言っていた気がした。

 

 

 

>「…じゃあこの指輪と、コレとコレを」

 

「まいど。次来たらまたまけてやるよ」

 

 結局購入を選択。

 これが正解かどうかは分からないが、買ったことをいまさら言うまいと待機形態のストライクハートに買った指輪とガラクタを収納する。

 店主に一つ礼をすると、悠はその場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからはぶらりぶらりと特にあてもなく商店街を練り歩く。

 時折お得な商品を見つけては購入しストライクハートに収納。それを何度か繰り返し、商店街の中央付近に着くと、なにか焦りを含んだ少女の声が聞こえてきた。

 

 

 

「ぽこべぇ~どこでござるかー!」

 

 目にしたのは一人の和装の少女だった。

 淡い金髪を木の葉のようなリボンでポニーテールにしており、瞳もまた色素の薄い浅葱色。身に着けている和装も髪と瞳に似通ったカラーリングをしている。

 そしてなによりは背中に差している一振りの刀。

 純朴そうな少女ではあるがその刀が相まって周囲の人は彼女を恐れて距離をとっている。

 

 悠は周りの人たちの対応にわずかに嘆息をつく。が、今はそんなことをするより優先することがあると少女に近づいて声をかけた。

 

 

 

>「あの、誰か探しているんですか?」

 

「へ?」

 

 少女がこちらに振り向き、その拍子にまとめられた金髪が揺れ光を跳ね返す。

 目をパチクリさせて周囲をきょろきょろを見渡す。そしてようやく自分に話しかけているのだと気づいた少女は慌てて頭を下げた。

 

 

 

「あわわ、ごめんなさいでござる!かざまのことだとは気づかずつい…」

 

>「気にしないでください。それより誰かを探しているのでは?」

 

「そう、そうなのでござる!ひじょ…お供の『ぽこべぇ』という狸を探していて…さっきまでは一緒だったのが気付いたらいなくなってしまっていたのでござる…」

 

>「ひじょ?」

 

「聞かなかったことにしてほしいでござる」

 

>「あっはい」

 

 初対面の人に圧を感じたのは初めてである。

 それにしても尋ね人ならぬ尋ね狸だとは思わなかった。

 しかしまあだといって聞いてしまった以上手伝わないという選択肢は悠にはない。

 

 

 

>「探すの、手伝いますよ」

 

「え?いや、気持ちはありがたいでござるがそんな見知らぬ人に…」

 

>「悠。星宮悠です。これで、見知らぬ人ではないですよね?」

 

 それは些か強引ではないだろうかと少女は思った。

 悠もまたそれは自覚していたが、少女のような手合いは多少強引に行かなければ手伝わせてはくれないというのを悠の経験が物語っていた。無論これでもなお遠慮されたり嫌がられたりしたら悠としても引き下がるつもりではいたが。

 そしてその考えは彼女に対しても例に漏れず

 

 

 

「…分かったでござる。わたしは風真いろは、しがない侍でござるよ。よろしく頼みます悠殿」

 

>「はい、よろしく頼まれました。さっそくなんですけどその『ぽこべぇ』の大まかな特徴って分かりますか?魔法で探すので教えていただけると」

 

「魔法が使えるでござるか!?」

 

 魔法という単語が聞こえた瞬間いろはは目を輝かせて詰め寄る。

 

 

 

 

>「あの、近い…です……」

 

「へ?…っあ………」

 

 悠もさすがにたじろぎ赤面しながら曖昧に返事を返す。

 すると興味津々といった様子だったいろははピタッと立ち止まり今の状況を再確認する。

 いろはの両の手は悠の手をしっかりと掴み、体はあと数センチ進めば触れてしまうほどに近い。魔法という存在に興奮してしまったとはいえどう考えても初対面の異性相手にやっていいレベルを超えていた。

 

 いろははスススッと悠から離れて一つ咳払い。耳まで赤くなった顔を深呼吸することでどうにか落ち着かせるとぽこべぇの特徴を伝える。

 それに対して悠はこの一ヶ月で多少女性の扱いを理解してきたのか、特にツッコむこともなく胸元からストライクハートを取り出し魔法陣の構築を開始。杖形態(アクセルモード)にしていないため多少構築まで時間がかかったが、完成させた魔法陣を足元に展開、索敵魔法『エリアサーチ』を発動させた。

 その一連の光景にいろははさらに目を爛々とさせる。さすがにもう悠に詰め寄るようなことはなかったが。

 

 『エリアサーチ』とは索敵機(サーチャー)を生み出す索敵魔法である。

 しかしその範囲は探し物をするには少々狭い半径100m。よって悠は索敵のエリアを今いる中央エリアを含めた悠が通った道の反対側に限定した。

 理由としてはいろははぽこべぇとは先ほどまで一緒にいたと言っていた。であれば距離自体はそこまで離れてはいないはずだし、ゆっくり商店街の道を練り歩いていた悠がいろはたちの姿をここまで見ていないということはいろはたちが来たのは悠が通った道とは反対側だろうという読みだった。

 

 案の定ぽこべぇなる狸はすぐに見つかった。

 悠たちのいる場所からほど近くの裏路地で頭を抱えて震えている。なんとも人間臭い仕草だなと思ってしまったが、そんなぽこべぇに近づく影に気づいた悠は即座にいろはに警告を飛ばした。

 

 

 

>「見つけた…けどまずい。誰かががぽこべぇに近づいてる。物珍しさから見てるだけならいいけど、タチの悪い輩だったら…」

 

「!すぐに行かないと!!待ってるでござるよ!!」

 

>「ちょっと待った!!」

 

「どうしたでござるか!?早くいかないと…」

 

>「そっち、ぽこべぇとは逆方向」

 

「………」

 

>「………いきましょう」

 

「…………………………はい」

 

 『エリアサーチ』の情報はいろはにもしっかりと伝わっている。

 ああ、方向音痴なんだな。と思った瞬間であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠を先頭に手をつかまれたいろはがそれに追従する。

 手を握って移動している理由としては単純に「はぐれそうで怖いから」である。

 そしてほどなくしてサーチャーに反応があった裏路地に入るとそこには今まさにガラの悪い男に連れていかれそうになっているぽこべぇの姿があった。

 悠はそれを見ると加速、ぽこべぇを掴んでいる腕を掴まえて睨みをきかす。

 

 

 

>「その手を放してください」

 

「あぁ?てめぇには関係ねえだろ!こいつは俺のペットだ、なんか文句あっか!?」

 

>「…は?」

 

 男の口から息をするように出たデタラメ。

 そのあまりの自然さに何も知らない悠であれば一考する程度の時間は稼げたであろうが、今回に限って言えばものの見事に一瞬で嘘だと看破されてしまった。

 

 チラッとぽこべぇを見てみる。

 見られた狸は悠と目が合うとブンブンブンと全力で首を横に振る。ますます人間臭いと思ってしまった。

 悠は男をすごく残念そうな人を見る目で見ると後ろにいたいろはに視線を投げかけて促す。

 いろははそれに頷き一歩前に出た。

 

 

 

「ぽこべぇは風真の大切なひじょう…お供なのでござる!返してもらうでござるよ!!!」

 

 やはりこの少女、お供たるぽこべぇを非常食として見てないだろうか。

 そんな悠の視線は華麗にスルーされた。

 

 

 

「うるせえ!たてついてんじゃ…ねえ!!!」

 

 男はぽこべぇを掴んでいないもう片方の手をいろはに向ける。

 男としては今時珍しい生き物だから売れば多少の金になるだろうという軽い気持ちで今回の犯行に至った。それが突然やってきた男女にここまで邪魔をされたことでただでさえ短い堪忍袋の緒がいとも簡単に切れてしまった。

 

 衝動的なうえにあまりにも雑で大振りすぎる拳。

 避けるのは簡単だがいろはとて人間、気心知れたお供を連れ去られようとして腹の内に何も溜まらないわけではない。

 背中に差した愛刀『チャキ丸』に手をかけようとして

 

 

 

 パアンッ!

 

 

 

 振りかぶっていた男の腕が乾いた音とともに弾かれたことによりその手が止まった。

 

 

 

「は…?」

 

「え……?」

 

 

 

 二人して弾かれた腕の先を見る。

 そこには一つの光る球体。色は鮮やかな瑠璃色で、それが魔力によって作り出されたものだとすぐに気づいた。

 その球体ー--魔力球はヒュンヒュンとその場を高速機動、すると弾かれたように上に跳ね上がって…すさまじい勢いで男の脳天に落ちてきた。

 

 

 

「おぶ!」

 

 パコォン!と先ほどとは違う軽快な音を立てて男は地に伏し完全に沈黙。

 いろはもさすがに毒気を抜かれて「ええ…」みたいな顔。

 魔力球はそのまま悠の手元にまで飛んでいき、淡い光とともに消えた。

 悠はどこか苦笑いを浮かべながら謝罪する。

 

 

 

>「邪魔しちゃったならごめんなさい。でもこんなところで刀を振るうと後々面倒なことになりそうだったので」

 

「あ、いや。助かったでござる。…あ、そうだぽこべぇ!」

 

 いろはは思い出したかのようにぽこべぇの元に走ると持ち上げて抱きしめる。

 どうやら怪我も特にないようでいろはは安堵の息を漏らす。

 

 

 

>「よかったですね」

 

「うん、本当に良かったでござる。それもこれも全部悠殿のおかげ。感謝するでござるよ!」

 

 いろははそう言って悠に屈託のない笑顔を向ける。

 それにつられて悠もはにかんだ。

 

 

 

 

 

 裏路地から抜け出して今は商店街の入り口。

 自分も商店街での用事は終わったのでいろはに別れを告げて帰ろうとすると、袖を引っ張られて止められた。

 

 

 

>「…風真さん?」

 

「…いろは、でいいでござるよ。さんもいらないでござる。見たところ年も変わらないと思うし…かざまだけ名前というのはちょっと距離を感じてしまうでござる」

 

>「あ、ええと……じゃあ、いろは」

 

「うん、それでいいでござる!」

 

 いろはは悠の言葉に対して満面の笑み。

 そしてすぐさま恥ずかしがるような申し訳ないような顔になってモゴモゴと口を開く。

 

 

 

「それで、ええと…お願いついでで申し訳ないのでござるが…」

 

>「?どうかしたの?」

 

「…駅までの道、教えてほしいでござる」

 

 「一人ではちょっと…」と声を小さくしながら指をツンツンとさせて言ってくるいろはに悠は激しいデジャヴを感じ、乾いた笑いをしながらいろはの手を引いて駅までの道を連れ添った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれと同時刻、雪の一族の令嬢たる水色のハーフエルフが盛大なくしゃみをかましていた。

 

 

 

「ふえっくしょいあー--い!!!」




走者の一言コメント
「オチ担当雪花ラミィ爆誕」

清楚な侍登場でござるー!

ということでGW企画について。
本来であれば明日までがGW企画の期間だったのですが、執筆の時間がとれない、もし今の状態で書けば自分の納得いかない作品になる可能性が高いと判断したため、やむなく中断することにしました。
楽しみにしてくれた方がいたら本当に申し訳ありません!
これからも執筆自体は続けていきますので気長にお待ちいただけたら幸いです。



もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part16 先輩の教え

時系列で言うとかざま殿と出会った次の週のどこかのお話。
予定ではあと数話で四月編は終わります!

あ、そして後書きにまたアンケートがありますのでよろしければ軽い気持ちで答えてくれたらありがたいです。





ではでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 刻は夕暮れ。

 無機質で真っ白な空間にひとつ銀閃が煌めく。

 空を裂き一切のブレなく弧を描く一閃は美しさとともに恐ろしさを感じさせる冷たい刃。

 触れたわけではない。近くで見ただけにすぎないそれに、対面している少年と少女は首筋に鋭い刃物を添えられたような錯覚を覚えた。

 

 それは肉体(からだ)ではなく精神(こころ)、理性ではなく本能に刻み込む見えない刃。

 無駄という無駄を削ぎ落とされた一振り。

 軽く振るところを見ただけで理解してしまうほどに洗練に洗練を重ねられた一閃。

 

 それはまるで彼女の歩んできた軌跡を体現するかのようで。

 そうしなければならないほどの壮絶な修羅場をくぐり抜けてきたという経験の差を、否応なしに突きつけられているかのようで。

 

 

 

 そんな少年少女の心情などまるで気づいていないかのように、件の元凶である白狐の少女は抜き身の刀を鞘に戻し柔らかく微笑んだ。

 

 

 

「…よし。それじゃあそろそろ始めましょうか!準備はいいですか、ゆうくん、ラミィちゃん?」

 

 笑顔で言われたそんな問いかけに、二人の少年少女ー--星宮悠と雪花ラミィは顔を見合わせ、添えられた見えない刃の恐怖を振り払うように勝気に言の葉を結ぶ。

 

 

 

>「…いつでも!」

 

「…いけます!」

 

「………ふーん」

 

 

 

 

 息ピッタリな二人のその返事に、白狐の少女ー--白上フブキの瞳にわずかな嫉妬の炎が渦巻いたのは、ココだけの話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「仮想戦闘訓練室?」

 

 事の発端は同日のお昼時。

 いつものクラスのメンバーに加えて時たま合流するようになったフブキから不意に発せられたのはそんな単語だった。

 それに対して反応したのはもはやここ最近でいつも通りとなってしまったみんなへのおかずの分け与えをしていていた悠である。

 

 

 

「そう。みんなも知っても通りこの学園は武を磨き、競い合う。だからこそこの学園にはそのための施設も数多くあるんです。今言った仮想戦闘訓練室もその一つ」

 

 フブキはそこまで口にして隣にいた悠に向けて口を大きく開けて言葉にしない催促。そんな今まで離れていた時間を取り戻すかのような大胆な行動をとるフブキに、周囲の視線がある手前あまり積極的になれず「ぐぬっ!」と唸ったのが若干名。そして当たり前のようにそれに全く気付いていない悠はフブキの動作を見て昔を思い出すかのように何も言わず自身のお弁当にあったミニハンバーグを彼女の口に放り込んだ。

 「ん~!」と美味しさに打ち震えて尻尾をブンブンと振るフブキを尻目に話は続く。

 

 

 

「それで、フブキ先輩はなんで急にその話を?」

 

「~~~っと、そうでした!これ、一緒に行ってみませんか?」

 

 ミニハンバーグによって飛んでいた意識を無事に取り戻したフブキが懐から取り出したのは1枚のチケット。

 『仮想戦闘訓練室1号室利用券ー白上フブキ他5名』と書かれたそれがなんなのかはもう見たままだろう。先ほどフブキが言っていた仮想戦闘訓練室、それを利用するためのチケットだろう。

 フブキは件のチケットをピラピラとさせながら身を乗り出す。

 

 

 

「この利用券のチケット、実はほかの施設も含めてすべて抽選式でですね。午前中に応募してお昼に抽選発表があるんですけど、仮想戦闘訓練室はより実践的な施設ということで他の施設より人気みたいで倍率がかなり高いんですよ」

 

「へー、知らなかったです」

 

「仕方ないですよ。新入生たちにはまず学園生活に慣れてもらうというのを優先しているのか本来施設の説明があるのと抽選に応募できるようになるのは来月からですから。

 まあ入学初日にバトルロワイアルをさせてるのに何を言ってるのか感はありますけど」

 

>「確かに」

 

 まったくもって同感であった。

 それと同時に一つの疑問。

 

 

 

>「あれ、新入生たちが使えるのが来月からなんだよね?それなら僕たちが参加するのは無理なんじゃ…」

 

「あぁ、大丈夫ですよ!新入生ができないのはあくまで応募だけ。上級生が手に入れたチケットに同伴する形で入る分には問題ないんです!まあ誘う人に自身と比肩する実力があってかつ誘えるだけの交流がある人じゃないとこういった実戦形式の訓練において上級生が新入生を誘う理由というのがないのでそういうことをする人は殆どいないんですけどね」

 

 「アハハ…」と申し訳なさそうに乾いた笑いをこぼすフブキ。

 別にフブキに一切の非などないのだが、そういう性格故か新入生が学べる機会が減っている現状に少々思うところがあるようである。

 だからこその今回のお誘いなのだろう。無論悠がいるからというのが大きな理由であろうことは悠以外の全員が察しているのだが。

 

 

 

「それで、どうしますか?同伴の人数は5人なのでここにいる皆さんが来てくれるならありがたいですけど…」

 

 遠慮がちに訊ねてくるフブキに対して5人の心情は一致していた。顔を見合わせ、わずかに笑い、そして答えた。

 

 

 

>「「「「「是非!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、いつでもどうぞ」

 

 そして話は冒頭に遡る。

 悠のバリアジャケットへの換装を終えて、現状は互いに適度な距離を保って無手のラミィ以外の二人は己が得物に手をかけている状態。

 

 悠はいつも通り機械的な印象を持つ杖形態(アクセルモード)のインテリジェントデバイス『ストライクハート』。

 対するフブキは白い柄巻を巻いた白銀の刀身を持つ刀『ムラサメマル』。

 

 高鳴る鼓動を落ち着かせるように静かに深く呼吸をする悠だが、体はそんな心情と相反するように鼓動を早めストライクハートを持つ手に無意識に力が入る。

 先程のフブキの一閃を見てしまったが故か、人数的には2対1と有利なはずなのに明確に勝利するビジョンが思い浮かばない。いかなる術もあの美しくも恐ろしい一刀のもとに切り伏せられるイメージが脳裏にこびりつく。

 

 だが、退くわけにはいかない。まだ何もしていない相手に逃げ腰なんて、絶対にゴメンだ。

 高鳴る鼓動はそのままに、悠は瞳に意思を宿しフブキと向かい合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、どっちが勝つと思う?」

 

 そんな悠たちを部屋の外から見ているのはかなた、ココ、ぼたんの3人。悠たちの一挙手一投足を見逃すまいと視線は外さず興味本位でかなたは二人に質問する。

 

 

 

「悠たちには悪いけどフブキ先輩かな。まだ始まってないから何とも言えないけど、傍目で見てもフブキ先輩にスキが全く見当たらない」

 

「同感ダナ。あの人は強いゾ」

 

「そう………!動いたよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かなたが言うと同時に展開は加速した。

 武器を見る限り近接型のフブキが遠距離型の悠とラミィにいまだに距離を取り続ける理由は誘いか、あるいはこちらの初手を見てみたいのか。しかしどちらにせよ動かなければ事態は変わらないと意思を固めた悠はラミィと一瞬のアイコンタクト。

 ストライクハートに取り付けられた弾倉から炸裂音が鳴り響き、内に秘めた魔力が瑠璃色の光となり魔法陣を形作る。同時にラミィも詠唱を開始。

 二人の周囲に浮かび上がった魔力球と氷の飛礫は、キーワードとともに撃ち出された。

 

 

 

>「アクセルシューター!」

 

「アイスバレット!」

 

 

 

 ダメージを与えるためではなく動きの観察のため。しかし一切の手加減なく撃ち出されたそれは並の人なら一撃で昏倒させられる威力を秘めている。

 上下左右から様々な軌道を描いて迫る二人の攻撃に対して、フブキは微動だにせず、鞘に納めたムラサメマルを緩く握るのみ。

 軌道が直線故に速度の速い『アイズバレット』が先行してフブキに辿り着く。

 氷弾が直撃するその直前。

 

 

 

 鯉口を切るかすかな音とともに氷弾が一つ残らず粉々にに切り裂かれた。

 

 

 

「えっ……!」

 

 ラミィの驚愕の声をよそにフブキは止まらない。

 わずかに遅れてやってきた悠の誘導弾、複雑な軌道で迫るそれも鋭い剣閃でもってそのすべてを両断した。

 はじけた魔力の残滓が光の欠片となって漂う中でフブキに損傷はなく完全に無傷。ただの一歩も動かず数多の飛来物すべてを一振りの刀のみで迎撃しきった技量に悠とラミィに加えて見物人のかなたたちも顔色を変える。

 

 経験したからこそかなたたちも分かる。一歩も動かずそれをこなすことがどれだけ難しいか。

 ラミィの『アイスバレット』はその物量の多さ、悠の『アクセルシューター』は悠の意思で軌道を変えられる複雑性がある。

 フブキは同時に迫るそれらを完璧に捌ききってみせた。

 回避ならまだ理解できる、迎撃ならぼたんもこなしていた。

 しかしそれは()()()()()()という条件が加わっただけで一気に難易度が跳ねあがるのだ。

 

 

 

「うん。じゃあ、次はこちらからいきますよ!」

 

 そしてそれをこなしたとは思えない緩やかな表情を浮かべるフブキはムラサメマルを手に構える。

 体は半身に、刀の切先を悠たちに向けた霞の構え。

 悠はそれに対して『アクセルフィン』を起動、空には浮かばずラミィを庇うように前面に立つ。

 一つフブキから短い呼吸音。

 

 

 

>「…ッな!!??」

 

 

 

 フブキの体がブレたと感じたその次の瞬間には、10メートルは離れていたフブキが眼前に立っていた。

 悠は反射的に魔法を発動。展開速度に優れ、安定した防御力がある『ラウンドシールド』。円形の魔力盾が二人の間に瞬く間に形成される。

 それを見てもフブキは構わずムラサメマルを振り下ろす。刀を扱う者にとって最も基本的な技である袈裟斬り。

 

 

 

>(これを防いで、カウンターのクロススマッシャー。防がれても距離はとれる!)

 

 瞬間移動かと錯覚する速度で接近されたのには驚いたが、その後の展開を予想した悠はさらに魔法を同時展開し、左手に魔力を集中させる。

 つい見惚れるほどの剣筋、受ければ悠の頭と体がお別れすること請け合いなブレなき白銀の剣閃が迫り『ラウンドシールド』と衝突する、その直前。

 

 

 

 

 

 ムラサメマルを見た悠の体を得も言われぬ悪寒が駆け抜けた。

 

 

 

 

 

>(ッ!これ、ヤバ…い!!!)

 

 一切の抵抗なくムラサメマルがきれいな弧を描き振り抜かれる。

 空を切る音すら聞こえない一閃。その一刀によって『ラウンドシールド』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 フブキはムラサメマルを振り抜いた状態のまま目線だけを二人に合わせて語り掛ける。

 

 

 

「…それごと切り裂いたつもりだったんですけど。よく気づきましたね、ゆうくん?」

 

>「あっっっぶなかった…!刀身から冷気が漏れていたのに気づかなかったらアウトだったよ…」

 

 悠とラミィはフブキから5メートルほど離れた地点にいた。ラミィは突然の事態に言葉が出ず悠の腕の中。悠はバリアジャケットを袈裟斬りの軌道通りに切り裂かれながらもいまだ健在、そしてバリアジャケットにつけられた傷はその切断面が凍り付いていた。

 『アクセルフィン』と『フラッシュムーブ』の併用による悠が出せる最大加速、それをもってしてもギリギリの回避。『ラウンドシールド』は刀の一振り程度では破られないと信じてしまっていたが故の反応の遅れ。いや、その認識は決して間違いではなく、フブキが繰り出したものがただの剣閃であれば間違いなく悠が予想した通りの展開になっていたはず。

 

 問題があるとすれば悠が『フブキは魔法(妖術)が使えない』と誤認したこと。

 その結果、フブキの刀であるムラサメマルに属性付与(エンチャント)ー--それもバリアジャケットと『ラウンドシールド』を同時に切り裂くほど高練度のものー--が施されていることに気づくのが遅れた。

 

 自身の誤認を責めたくなるも今はその時間ではない。

 悠は腕に抱きかかえていたラミィを降ろし、問いかける。

 

 

 

>「ラミィ、大丈夫?」

 

「…うん、ごめん悠くん。でも、大丈夫!」

 

 ラミィの瞳に光が宿る。

 それを見た悠はかすかに笑い、『アクセルフィン』を稼働させ上空をとる。

 

 

 

「いいんですかゆうくん?」

 

 なにが、とは問わない。

 だが悠にはそれがなにかは分かっていたし、その答えも持ち合わせていた。

 

 

 

>「フブキの属性付与が氷ならラミィの『アイスシールド』とは相性が悪く突破は難しいし、それでもなおラミィを狙うつもりならまた割り込ませてもらうだけだよ。それに、()()()()()()()()()()()()

 

「…!」

 

「アイスフロア!」

 

 氷同士がぶつかるような独特の音を響かせラミィを起点に放射状に地面が凍り付く。しかしフブキは1年のバトロワを見てその魔法も、そして射程範囲も知っているため射程外に逃げようとする。が

 

 

 

(…!やられた、ラミィちゃんがいるのは部屋の隅。つまり、射程範囲はこの部屋全域!)

 

 フブキはそれを察すると即座に進路を変える。後方から、側方ー--壁に向かって駆け出す。

 

 そしてそのまま、氷に足を取られる前に地面を蹴り壁に足をつけ全力で()()()を走り出した。

 

 

 

「う……っそぉ」

 

 そんな声が漏れたのは悠か、ラミィか、あるいは他の3人か。

 そのあまりにも常識はずれな行動に思考が止まるが、いち早く復帰した悠はラミィに向かって駆け出しているフブキを止めるべくストライクハートを向ける。

 

 

 

>「させない。モードチェンジ!バスターカノンモード!」

 

 変形を終えると同時に即座に行われるカートリッジロード、そして魔法陣の展開。

 渦巻く魔力がストライクハートの砲口に集積し、膨大な魔力の塊が星のように輝く。

 フブキの移動経路、撃つタイミング、速度。そのすべてが完璧に計算されたソレは正確無比、回避不能の一撃にして悠が絶対の信頼を置く主砲。

 

 

 

 

 

>「これで決めるよ!ディバイン…バスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 ゴッ!と空気を消し飛ばす音とともに魔力砲撃がフブキめがけて撃ち出される。

 高速で迫りくる砲撃に気づいたフブキが視線を合わせるが、さすがに壁面上で軌道変更はできないのか避けるそぶりはない。

 

 しかし砲撃を、そしてその奥にいる悠を見る瞳には焦りも恐怖もなく、ただ静かに目の前の事象を見据えていた。

 

 おもむろに抜き身の刀を鞘に戻す。

 抜刀の構えから脱力し無駄な力が一切入っていない自然体の姿。

 砲撃がフブキに直撃するその直前に、悠とラミィは、フブキの声を聴いた。

 

 

 

 

 

「白狐一刀流抜刀術………」

 

 

 

 

 

「『月閃』!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 音は、しなかった。

 

 

 

 刀の軌道は、見えなかった。

 

 

 

 ただ、結果として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フブキを中心に、瑠璃色の光が綺麗に2つに分かたれていた。

 

 

 

>「……………そん、な…!」

 

 ココのときのような相殺ではない。ワイバーンのときのような対魔力特化のような対策をされたわけでもない。ただの一振りの得物とその技量だけをもってして主砲を完膚なきまでに打ち砕かれ茫然とする悠をよそに、悠の砲撃の余波が地を揺るがし、『アイスフロア』によって形成された氷の床が粉々に砕かれる。

 それを見たフブキは壁を蹴って地面に降り立ち、その勢いを落とさないままラミィに迫る。

 

 

 

「ッアイスシールド!」

 

 ラミィとフブキの間に氷の花弁の盾が現れる。

 力業での突破もできるが、()()()()()()()()()

 足に妖力を集中させ、序盤でも見せた一瞬の超加速。足に負担がかかるため連続で使えないのがネックだが、今回に関しては特に気にする必要もない。

 

 ラミィからしたら目の前からフブキが突然消えたかのように見えただろう。

 運よくジャリッと氷の破片を踏み抜く音で気付き後ろを振り向くが時すでに遅し、眼前に迫ったムラサメマルによって切り裂かれダメージ超過によってステージ外へ転送されていった。

 

 

 

>「くっ…ラミィ!」

 

「嘆いてる暇はないよゆうくん!」

 

 フブキは再び壁走りで高度を稼ぎ、いまだ反撃の準備が整っていない悠に向かって跳ぶ。

 その勢いのまま悠に向かってムラサメマルを斬りつけ…いや、叩きつけた。

 反撃は論外だがどうにかギリギリでムラサメマルの軌道上にストライクハートを滑り込ませた悠だったが、衝撃を殺しきることはできずに地上まで叩き落される。

 

 

 

>「グッ…ああぁ!!」

 

 墜落した衝撃でほんの一瞬意識が飛んだ悠だったが、見上げた天井から落ちてくる人影を視認するとすぐさま『アクセルフィン』で無理矢理その場から離脱。かなり不格好だったが直後に悠がいた場所に白銀の刀が突き刺さったのを見ると英断だったと言えるだろう。

 

 フブキが突き刺さったムラサメマルを引き抜く間に態勢を整える。

 再びフブキは霞の構え、そして三度の超加速で悠の眼前に迫り氷の属性付与を施したムラサメマルで高速の突きを繰り出す。

 

 

 

>(っまたか!)

 

 息つく暇を与えない連続攻撃。半ばカンで首をひねることで悠はどうにかその攻撃を避けると『アクセルフィン』で離脱を図る。

 しかし当然フブキがそれを許すわけがない。

 『アクセルフィン』で地上から上空まで飛翔するには、水平移動と違ってどうしても一瞬の()()が必要になる。平時であれば枷と呼ぶまでもない些細なことではあるが、その一瞬を狙うことができる相手であれば話は変わる。

 

 下段からすくい上げるような逆袈裟斬りを上体を反らすことで回避。しかしそれによって『アクセルフィン』を起動することができず、フブキの猛攻はとどまることを知らない。最後のラッシュと言わんばかりに効率度外視で永続的に属性付与をかけたムラサメマルを振るい続ける。

 

 防御不可のラッシュ。であればこのままいけば確実に悠が競り負ける。よって悠の勝機があるとすればもうここしかない。

 この二人の間で属性付与をかけたムラサメマルの攻撃は『ラウンドシールド』を無効化するというのは共通認識だ。

 

 故に()()()()()()()()()()()()()()

 この思考をフブキが持っていることに懸けて、悠は動き出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ストライクハート!」

 

「Load Cartridge.」

 

 アクセルモードに戻したストライクハートの内部でカートリッジが炸裂し、膨大な魔力が溢れるとともに開いた排出口から空薬莢が排出される。

 悠の状況は完全に劣勢。回避も偶然に偶然を重ねたもので態勢もすでに崩れ切っている。

 そんな中での反撃などまともな効果を発揮しない。

 フブキは余裕をもってこちらに向けてきた悠の左手の軌道上から離れて首筋めがけてムラサメマルを振り抜く。

 

 その瞬間、悠の瞳の奥にある星のような光が輝きを増した。

 

 

 

>「エクセリオンシールド!!!」

 

 発動したのはまさかの防御魔法。しかしその防御魔法は『ラウンドシールド』とは一線を画す堅牢さを誇る多層障壁の『エクセリオンシールド』だった。

 これこそ悠の逆転の一打。格上の相手に勝つには正攻法では不可能、であれば奇策しかない。

 

 相手にとっての意識の埒外の行動。それはすなわち『属性付与状態のムラサメマルに対してのガード』である。

 

 『エクセリオンシールド』の堅牢さは他の防御魔法とは比較にもならない。少なくとも、属性付与状態のムラサメマルであっても一刀では絶対に突破できないと確信できるほど。

 これによってフブキの攻撃を防ぎ、一瞬でもフブキの動きが止まればゼロ距離からの『レストリクトロック』で拘束、砲撃でとどめという悠の黄金パターンに入れることができる。

 

 

 

 展開された魔法障壁はしっかりとムラサメマルの軌道上に入っている。ムラサメマルはそのまま吸い込まれるように『エクセリオンシールド』まで進み

 

 

 

 

 

「…ゆうくんなら、無謀な反撃はしないと思ったよ!」

 

>「ッ消え…!?」

 

 目の前からフブキの姿が跡形もなく消え去った。

 その直後、魔力感知によって背後に反応があり左手に発動させた『エクセリオンシールド』を咄嗟に背後に向ける。

 しかし背後に視線を向けてもフブキの姿は見当たらず、ドスッという生々しい音と同時に悠の胸から白銀の刀身が生えてきた。

 

 

 

>「…あ………」

 

「えへへ、白上の勝ち、です!」

 

 背後からそんな声が聞こえてくる。

 顔を見ることはできなかったが、それはそれは満足そうな笑顔を浮かべていたのだろうと、悠は確信をもちながら転送魔法の光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ということで、二人の課題は行動の素直さ、そして単純に近接戦ですね」

 

 全員が転送されて戻ってきた後、悠とラミィはフブキからダメ出しをもらっていた。

 こういう言い方は語弊があるので言い換えると反省会、あるいは総評のようなものである。

 

 

 

「二人ともおそらく対人戦というのをほとんど経験してこなかったんでしょう。遠距離戦においても近接戦においてもフェイントなどの相手との駆け引きというのをほとんどしていませんでした。あくまでその場その場での最適解を出す。まあそれができるだけでも十分すごいんですが、それだけではいつか限界が来ます。上級生との戦いになったら嫌でも痛感することになると思うんですが」

 

 今現在絶賛痛感していますとは言えない雰囲気だろうなー。

 悠とラミィは顔を見合わせて同時にそう思った。

 

 

 

「近接戦についてはまあ言葉の通りです。二人の基本戦術は遠距離戦ではありますが戦況が目まぐるしく入れ替わるバトルロワイヤルにおいて近接戦は必須項目。今回で言えばラミィちゃんは最後の場面で粘ることができればゆうくんの援護が間に合ったかもしれませんし、ゆうくんも白上のラッシュを捌けるようになればカウンター以外の選択肢も取れて結果は逆になっていたかもしれません」

 

「なるほど…」

 

 そう話しながらいったいどこから取り出したのか、フブキはいつの間にか伊達メガネをつけて知的な雰囲気を醸し出していた。あくまで雰囲気だが。

 

 

 

「手っ取り早い解決法は武器を持つことですかね?たとえ今まで使ったことがなくても持つだけで動きは変わります。ラミィちゃんは氷を自在に操りますからそれを応用して作ってみてもいいですし、ゆうくんは杖を持っていましたがそれを無理に使って壊されたら困るでしょうし近接戦をする上ではリーチも威力もハッキリ言ってあまり怖くありませんでしたから、何か別で持つのもいいかもしれませんね」

 

 「まあこれはあくまで一つの意見ですので」と言葉を切るフブキ。話の途中でストライクハートが憤慨しそうになっていたが念話でどうにか抑えていた悠であった。

 

 

 

>(しかし武器か…設備はあるし、材料もこの前あの露店で買ったのがある。…試してみるか)

 

 悠は顎に手を当てて思案顔。

 そんな悠を尻目にフブキはかけていたメガネをはずすと先ほどまで見学していたかなたたちに振り返る。

 

 

 

「それじゃあ次いきましょうか!かなたちゃん、ココちゃん、いきますよ?」

 

「は、はい!悠くん、ラミィちゃん、代わりにリベンジしてくるね!」

 

「ヨーシ、パイセン!ヨロシクたのみます!」

 

 かなたとココはそれぞれ気合を入れて、そうして三人は戦闘室へ転送し第二戦が始まった。それからは時間いっぱいまでひたすらメンバーを入れ替えて模擬戦を繰り返すこととなり、最終的にフブキに勝てた人は、ただの一人としていなかった。





走者の一言コメント
「『兵装作成』スキルきちゃー!!!」

 フブキング強すぎん?と書き終わった後に思った。
 ま、まあ彼女は三年生ですしいいかな…(震え声)


もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part17 日常の最中(さなか)

三ヶ月…放置……!?

ということでようやく更新です。
できれば年内に一章完結させたいと思っているのでモチベーション向上のために感想や評価などぜひぜひお願いいたします(本編前に乞食をするクズ)





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 今日も今日とて相も変わらずな喧騒が鼓膜を揺らす。

 

 今日は週末と言うことで最近ではもう恒例となったショップエリアの一角である商店街への買い出しにやってきていた。

 この町一番の規模を誇るこのショップエリアは、古き良きな自営店が並ぶ商店街の他にもなんでもござれな大型スーパーや遊びっ気盛んな学生たちに人気なホビーショップやゲームセンター、さらには骨格にそもそも違いが出る人間以外の多種族御用達のアパレルショップなどが立ち並ぶ迷ったらとりあえずこことまで言われる中心地の一つ。まあそれぞれが似たような店ごとにエリア分けをされているので商店街とゲームセンター等のエリアでは大きく客層や人の数も異なりはするのだが。

 

 この町に帰ってきたばかりの頃は食材が少なくなってきたら買い物に行くみたいなスタイルだったけれど、最近では鍛錬やクラスメイト達との交流、さらには個人的な捜査をやっていたのもあって平日に買い出しに行く時間というのがとれなくなってきていた。

 そのためこうして週末にまとめての買い物に来ているのだが、これはこれで休日の時間を使ってまとめて食材や日用品の補充を済ませておけば買い物に行く回数を減らせてその分の時間を違うことに使うことができるというメリットもあったりする。

 

 できるだけ効率よくかつ安く回るため、日用品や消耗品は大きめのスーパーでまとめて、肉や野菜などの食材はそれぞれ精肉店や八百屋などで一つ一つ購入していくというのが最近定まった一連の流れである。

 その様子を見てもう一端の主夫とでも思われているのか、近所の主婦や行きつけの店主さんによく愚痴を聞く代わりに余りものをもらったりなにかとサービスしてもらったりしているのは喜ぶべきなのかどうか。

 

 

 

 とまあ近況はこんなもので行きつけのスーパーに辿り着く。

 春から夏へ変わる直前の絶妙な暑さによってかいた汗を袖口で拭いながら自動ドアをくぐると特有の空調の冷気が体を刺激する。

 

 

 

>「ふう、生き返るなぁ」

 

「もうじき夏に入りますからね。水分補給はしっかりですよ、マスター」

 

>「わかってるって」

 

 買い物カゴ片手にストライクハートと会話を繰り広げながらポイポイと手際よく商品をカゴに入れていく。ラップやキッチンペーパーなど買うものや種類もあらかじめ決めていたためその動きは非常にスムーズで、ものの10分ほどで空だったカゴが商品で溢れていた。

 

 我ながら今回はスムーズで早くいったと小さな満足感に浸りながらレジに並んでいると、いつのまにか自分の会計の番になっていた。

 「お願いします」と軽く声をかけながら重くなったカゴをレジの人に渡す。待っている間に財布を出して、考えるはこの後の動き。

 

 

 

 >(えっと、後は精肉店と八百屋か。久々に揚げ物も作りたいし今回は鶏肉かな。野菜はたしか玉ねぎとキャベツと………って、こんなこと考えてるから主夫とか言われちゃうんだろうな…)

 

 指折りしてこれから買うものの数を決めながら思案顔を浮かべるその姿はまさに主夫の一言。今更ながらそんな自分の現状を再認識してしまいなんとも微妙な表情をしてしまうが、まあ損をしているわけではないから別にいいかと諦観する。

 そして無事スーパーでの買い物も終わりエコバックに入れた日用品たちをストライクハートに収納して外に出ると、ちょっと入れ替わりでスーパーに入ろうとしたであろうフードを被った人物と肩がぶつかった。

 

 

 

「きゃっ!」

 

>「っと」

 

 バランスを崩した人物を見て悠は咄嗟にその手をとって支える。

 色白く細いしなやかな指だった。聞こえてきた声と外で見るには少々過激な格好で女性であることは分かっていたが、ぶつかった際にフードが外れその相貌が露になる。

 愛らしいといった第一印象を持ちそうな整った顔立ちだった。きめ細やかなシルバーグレイの髪の隙間から覗く深紅の瞳が悠の星の瞳を射止める。まるで見続ければ宵闇に引きずり込まれそうなその瞳に悠は動きを止める。

 わずかな硬直、その後に先に動き出したのは少女の方だった。

 

 

 

「…ありがとう」

 

 体勢を立て直した少女が悠に一つお礼を言うとフードを被りなおしスーパーの中に駆け込んでいった。

 どこか引っかかるといった表情を見せ考え込む悠だったが、まだ買い物の途中だったことを思い出すと悠はかぶりを振って次の目的地に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…うん、接触したよ。………こよちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう坊主、今日も時間通りじゃねえか!」

 

>「あ、こんにちは。今日もお世話になります」

 

「ハッハッハ!相変わらずかてえ奴だな!」

 

 各所を回り本日最後に向かった精肉店で、もうすっかり顔を覚えられてしまった店主に先んじて気軽に声をかけられる。

 短く切りそろえられた赤髪に服の上からでもわかる発達した筋肉、細かいことは気にしないと言わんばかりに腕を組みながら笑い飛ばす様はまさに絵に描いたような豪快な気質を思わせる男性。その分無遠慮さも目立つ人ではあるが、誰にでも分け隔てなく接する彼に絆されて諦める人は数知れずらしい。かくいう悠もその一人なのだが。

 

 

 

「んで、今日は何を買っていくよ?」

 

>「鶏肉で。唐揚げとかにして食べたいんですけどおすすめってありますか?」

 

「ホォー、まあ定番で言ったらムネかモモだろうな。おっ、そういや今日は鶏モモでいいのが入ってんだ。これにするか?」

 

>「じゃあそれで。あと…」

 

 店主が陳列棚を漁って件のものを悠に見せる。身も大きく程よく脂がのったそれが並んでいるものの中でも上物であることは素人目線でもよく分かった。

 悠はそれを見ると即断即決で購入を選択。店主のおすすめなら間違いないし、そこは今まで通い続けた信頼のようなものだ。ついでに他のお肉もちょこちょこと選びつつサクッと会計を済ませる。

 

 

 

「お、そうだ坊主、これ持っていきな!」

 

>「え、ちょ!…なんですかこれ?」

 

 そして帰る直前に店主に呼び止められると紙袋を押し付けられる。

 それなりの重さを感じるそれを開けてみると、鼻腔をくすぐるなんとも美味しそうな匂いが立ち込める。思わず「ふわっ」と無邪気な子供のような声を出してしまうが、気持ちを落ち着けて改めて中身を確認してみると、そこにはきれいな形で揚げられたコロッケがところせましに詰め込まれていた。

 

 

 

「ついさっき揚げたばかりのウチ特製のコロッケだよ。坊主は自分で料理できちまうからこういうの買ったことねえだろ?持ってけ!」

 

>「いや、さすがにこんなにもらっていくには…払いますよ」

 

「ああいいっていいってお代なんて!いつも買っていってくれっからサービスだよ!ま、これで美味しいって思ってくれたら次来た時に買っていってくれ。そっちのほうが嬉しいからよ」

 

>「……分かりました。ありがとうございます!」

 

 悠が深々と頭を下げると店主は二ッと笑う。

 悠もまた笑って返すと買ったお肉ともらったコロッケをまとめてストライクハートに収納してその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、ずいぶん貰っちゃいましたけどどうするんですか?」

 

>「それなんだよねぇ。揚げ物だから長くは持たないし、保存するにしてもあのサクサク感がなくなるのは考え物。うーん…」

 

 首に下げたストライクハートと話しているのは当然察するというべきか先ほど貰ったコロッケの消費方法である。当然自分でも食べるのではあるが、さすがに量が多すぎた。もはや一家庭でも一食では消費しきれないのではというほどの量をもらってしまっており、一人暮らしということを教えていなかった自分にも非はある故にどうしたものかと頭を抱える。

 いっそみんなに配って回ろうかとうんうん唸りながら商店街の帰り道を歩いていると、ふととある少女が目に入った。

 

 薄紫に水色のインナーカラーという特徴的な髪をツインテールにしたメイド服を着た少女だった。「重い~」と呻きながら両手に大きなレジ袋をもってフラフラと足がおぼつかない様子。

 なんとも見てて非常にハラハラする少女の姿に大丈夫かなと声をかけようとした瞬間、少女の体が後ろにグラついた。

 

 

 

>「危ない!」

 

 悠の行動は反射的だった。

 足に魔力を込めて解放。フブキが使用していた加速法の疑似模倣であり、本家には比べるべきもない程度の練度ではあったがそれでも少女に追い付くには十分の速度であった。

 ポスンッと少女の小さな体が悠の腕に中に納まる。

 転んだ際の衝撃に備えていたのであろう。レジ袋を頑張って細い両腕で抱え込んで固く目をつぶっていた少女は想像していた痛みが来ないことに不思議に思ったのかゆっくりと目を開く。

 

 

 

「へ…?」

 

>「あの、大丈夫ですか?」

 

「え……………!!??」

 

 そして不意に響いたどこか落ち着く声音が聞こえる方へ顔を向けると、そこには心配そうにこちらを見る一人の少年がいた。雲一つない真昼の青空と対比するように澄んだ夜空を体現するような濡れ羽色の髪がサラサラとなびき、太陽にも負けない星のような輝きを宿した瑠璃色の瞳がこちらをまっすぐ見つめてくる。

 そんな彼に目を奪われる少女だったが、その少年とのあまりの距離の近さに少女は一瞬で我に返ると顔を真っ赤にして声にならない叫びをあげて立ちずさった。

 立ち上がってからも「え…あの…」とか細い声で呟きながら視線が定まらずあっちいったりこっちいったりと忙しない。

 

 

 

>「…?えっと…怪我はないですか?」

 

「あ………ご、ごめ……さい!」

 

>「え、ちょっ!」

 

 近くにいた悠ですらどうにかギリギリで聞き取れるかどうかくらいの絞り出すような声量でそれだけ言うと少女は脱兎の如く逃げ出した。

 さすがに逃げ出されるのは予想してなかったのか悠は手を少女に伸ばした状態で硬直、そのまま少女が見えなくなるまで茫然としたままだった。

 

 

 

「…行っちゃいましたね」

 

>「…だね」

 

「まったく、マスターを無視していっちゃうなんて!」

 

>「まぁまぁ、そこは別に気にしてないから。人見知りだったのかもしれないし、()が勝手に触っちゃったもの悪かったし」

 

 少女の対応に憤慨するストライクハートに対して悠は乾いた笑いを返す。

 また転んだりしないだろうかと心配ではあるがすでに見えない少女のことを慮っても詮無し。むしろあの様子だとまた避けられるのがオチだろうという結論に至った悠は残った僅かな気掛かりを振り払い、気を取り直して立ち上がり歩き出そうとして、ポンポンと右肩を後ろから叩かれた。

 

 

 

>「?なん…」

 

 

 

 グニッ

 

 

 

「あはは!引っかかった!」

 

 悠が後ろを向こうとしたら先んじて置かれていた人差し指に頬を貫かれた。いや実際に貫通などはしていないのだが。

 直後にイタズラが成功したとケラケラ笑い声が聞こえてくる。悠はその笑い声に聞き覚えがあり、イタズラをした犯人の顔を見ると呆れたように名前を呼んだ。

 

 

 

>「…かなた」

 

「へい悠くん、こんかなたー!可愛い女の子に振られちゃったね~」

 

>「こんかなたー。あと、そういうのじゃないからね今のは」

 

 かなたの独特な挨拶に悠も同様に返す。

 そこにいたのは銀髪と天使の輪が眩くきらめく天音かなた。手提げバッグ片手に学園制服とは違う衣装を身にまとった姿で笑顔を向けてくる…その笑顔自体は非常に可愛らしいのだが、それよりも気になることがありすぎてついまじまじと見てしまう。

 

 

 

「ん、どうしたの悠くん?あ、もしかしてボクの私服姿に見とれちゃったとか~?いやぁ~ん」

 

>「え、いや、なんていうか…」

 

「ファッションセンスないですねー、かなたさん」

 

 

 

 

 

 ビシッと、空気が凍った。

 

 先程までの笑顔から眉一つ動かさずかなたは硬直、笑顔自体は可愛らしいのに放たれるオーラがどうしようもなく不穏である。

 そして爆弾を突拍子もなく言い放ったストライクハートは悠に念話で怒られる羽目になっていた。正直悠も同様の感想を持ったのだが言わぬが花というやつなので思うだけである。なんだその花柄のズボンは。

 

 かなたがプルプルと震えだす。

 そして一歩二歩と悠に歩み寄り手を差し出して一言。

 

 

 

「ストライクハート、貸して?乱暴はしないから」

 

>「………はい」

 

「マスター!?」

 

 笑顔が怖いとはこのことか。かなたから感じるあまりの圧に悠はおとなしくストライクハートを差し出した。

 ストライクハートが驚き悠に縋るが悠は気まずそうにそっぽを向く。今この場にストライクハートの味方は誰一人いなかった。

 かなたは通行人の邪魔にならないようにストライクハートを連れて路地裏に向かう。人通りの少ない場所ということでいろはのときのように厄介な輩がいないか悠があらかじめ魔力感知で探査し、人がいないことを確認してかなたに忠告済み。まあ今のかなたを見て何かする輩がいるとも思えないが。

 その直後、憤怒の叫びが聞こえてきた。

 

 

 

「オメェ自分で服着たことないくせにヒトの服にケチつけてんじゃねえぞ!!!」

 

「ひえーごめんなさいごめんなさい!つい本音が…」

 

「本音だったらなおタチが悪いわ!!!」

 

 

 

 容赦なく飛び交う罵詈雑言に悠は一つ深呼吸。

 そしてかなたに聞かれないように小さな声でこう呟いた。

 

 

 

>「何も言わなくてよかった」

 

 人生経験の差が、今回の悠とストライクハートの処遇を分けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「スッキリした?」

 

「した!ありがとね悠くん」

 

「マスタァ~、ただいま戻りました~」

 

>「はい、ストライクハートもおかえり」

 

 しっかりと己が思いをぶつけたかなたは満足気に悠にストライクハートを渡す。

 吐き出すものを吐き出して爽やかな表情を浮かべるかなたに対してストライクハートはいかにも疲弊しきったような声を漏らす。まあこれに関しては完全に自業自得なので特に慰めたりはしない。

 

 

 

「そういえば悠くんは今日どうしてここに?」

 

>「週一でやってる買い出しで今はその帰り。かなたは?」

 

「ボクも買い出しの帰りだよ。ココと二人でルームシェアしてて前回はココに行ってもらったからね」

 

>「へえ、ルームシェア」

 

 何気に出てきた初情報に悠は驚く。仲がいいのは知っていたがルームシェアまでしているのは予想外だった。

 そういえば教室に入ってくるときもいつも一緒だったなと思い出しつつ二人して歩く足は止めない。

 そこで悠は何か思いついたのか「あっ」と声を漏らす。

 

 

 

>「てことはかなたはあと帰るだけなんだよね?」

 

「そうだよー。それがどうかした?」

 

>「この後、ちょっと時間貰っていい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うっわなにこれ!サクサクジューシーでめっちゃおいしいじゃん!」

 

>「ホントだ。僕も初めて食べたけど揚げたてっていうの抜きでも美味しいね」

 

「え、初めてなのにこんなに買ったの!?」

 

>「ああ、違う違う。これはいつもそこのお店で買ってくれてるからってサービスでもらったんだ。美味しかったらまた買ってくれっていう商魂たくましい宣伝付きでね」

 

「あっははは!」

 

 悠の誘いで二人が向かったのは公園だった。

 設置してあるベンチに座って途中で悠が買ったドリンクと一緒に大量にもらっていたコロッケの消化に付き合ってもらっていた。

 コロッケの大きさはほどほどだが過不足なく揚げられたそれは肉厚でありながら中までしっかり熱が通っており、なにより噛んだ瞬間に弾けんばかりに肉汁が口の中に広がる文句なしの一品だった。

 二人ともその美味しさには大満足、食べる口が止まらず気付けば一個まるまるあっという間に食べ終わっていた。

 

 

 

「ふわあ美味しかった!ごちそうさま悠くん!」

 

>「こっちこそありがとう、とても一人じゃ食べきれなかったからね。まあまだまだたくさん残ってるんだけど…」

 

「いやいや!お土産でココの分まで貰っちゃって。ココも喜ぶよ!」

 

 かなたは悠の手をとるとブンブンと振る。

 普段からフブキやラミィの触れ合いを見ているせいか異性…というより悠との接触自体はそこまで抵抗はない。

 

 しかしいざこうしてやってみると嬉しいような恥ずかしいような、自分でもよくわからない気持ちが心の奥底から湧いてくる。

 無論ココたちとは違う男子特有の固い感触に慣れていないからというのもあるのだろうが、それにしては天界で別の男子と握手した時なんかは特段こういった感情はなかった。

 

 

 

(まさか悠くんのことが気になって意識しちゃってるとか…いやいや、ないない!悠くんはあくまで友達!)

 

 唐突に頭に浮かんだ推測を即座に否定する。

 しかし一度考え出してしまったものはなかなか頭からは離れてくれず、脳内会議中の小さなかなたたちはてんわやんわの大騒ぎ。次第に顔に熱がたまって赤くなっていくのを自覚するとかなたは「うーっ」と唸りながら熱を飛ばすように頭を振る。

 

 

 

(そりゃあ悠くんはタッグとはいえ物心ついてから初めて負けた男子でそういう意味で気になってるのは否定しないし、お弁当もおいしいし、学園でもしれっとさりげなく助けてくれるけど…)

 

 などなど考えれば考えるほど先ほどの推測の裏付けになってしまいそうでかなたは無理矢理思考を止める。

 

 

 

(それに、ラミィちゃんのこともあるしなぁ…)

 

 一つ息を吐いて、次に思い浮かんだのはクラスメイトのハーフエルフの顔。

 悠とタッグを組んでいたもう一人の負け越し相手であり、かなたにとっても大事な友達である。

 さらに悠とは家がご近所らしく、ともに仲睦まじく登校するのをよく見かける。

 そしてそんな彼女が悠に向ける視線がただの友達に向けるそれじゃないことも、仲間内では割と周知の事実である。

 

 

 

 もし2人が付き合ったとしたらきっととてもお似合いで。でもそんな仲のいい二人の姿を想像してみると微笑ましいと思うとともにちょっとだけモヤモヤしてしまう。

 

 その原因なんて自分にも分らなくて。

 

 でも、そう感じてしまうのはどうしようもない事実で。

 

 

 

 だから、これからやることは自分をモヤモヤさせた二人へのちょっとしたイタズラ。

 友達としてやることであり、それ以上の感情なんて、これっぽっちもない。

 

 

 

 

 かなたは持っていた荷物をベンチの脇に置くと懐から携帯端末を取り出す。

 先程から百面相をしていたかなたを不思議そうに見ていた悠を一瞥すると、意を決して悠の腕に抱きついた。

 

 

 

>「へ?か、かなた!?」

 

 突然の事態に悠は困惑する。

 格好はともかく、天音かなたはクラスでも指折りの美少女である。現在の格好はともかく。

 バトロワや無頼漢に絡まれた際にラミィにも似たようなことを自分からしていたが、そのときは戦闘中というのもあったし今とはシチュエーションが全く異なる。見知った中である彼女から感じる体温や香りをより鋭敏に感じてしまい気恥ずかしさで顔が熱くなる。

 

 そしてなかたはそんな悠を見てニヘラと笑うと携帯端末に内蔵されているカメラ機能を使ってパシャリ。

 悠から離れて撮った写真を見てみると、そこに映っていたのはお互い顔を赤くして笑顔と困惑の表情を浮かべるかなたと悠の姿。

 かなたは頬を緩ませると携帯端末をポケットに戻して荷物を持つと立ち上がる。未だに困惑の感情を隠しきれていない悠を置いて踵を返す。

 

 

 

「今日はありがとね悠くん!また週明けに!」

 

 

 

 悠の返事を聞かずかなたは駆けだした。

 

 夕陽に照らされた彼女は眩く、そしてそれに負けない満開の笑顔を浮かべていた。





走者の一言コメント
「一気にフラグ立てすぎでは?ヤバいですよクォレは…」

バッキバキに建てられたフラグ。
大丈夫です、ちゃんと回収しますよ。



 あと、前回の感想で「元ネタの割にガードが脆いのでは?」と指摘を受けましたのでちょこっとだけ補足。
 ハッキリ言うと現在のユー君は元ネタの主人公のような魔法出力量は持ち合わせていません。
 そのため魔法による火力も防御力も元来のものには遠く及ばないものをカートリッジシステムでどうにか補っているというのが現状です。
 まあ()()()ということで、今後に期待していただければと思います。



もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part18 強襲、(つるぎ)は交叉して

ギリギリ一週間で投稿完了!

このペースを守れるように頑張っていきます。




それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 風が吹き森がざわめく。

 朝日を遮る深い森の中で魔力によって作り出された淡く光る光球だけが緑の世界を仄かに彩る。

 

 

 

「トレーニング開始します。カウントダウン…3…」

 

>(…もう、敗けるわけにはいかない)

 

 そんな中で、白と青で構成された戦闘装束(バリアジャケット)を身にまとう少年が一人静かに佇んでいた。

 思い出すのは、仮想戦闘訓練室でのこと。

 2対1でありながら決定的な敗北を喫した。相手が年上だとか、学園有数の実力者だとか、そんなのは関係ない。

 ただ一人の少女に負けたという事実が少年の心に重くのしかかった。

 

 どうしようもなく悔しくて、たまらなく無力感に苛まれて。

 そしてそれ以上にその強さにひたすら純粋に焦がれて。

 心の奥底で闇すら焦がす熱く燃え滾る気持ちを凪がせるように目を閉じ静かに深呼吸をする。日が差さない場所かつ時間帯の影響か季節にそぐわぬかすかに冷えた空気が肺を刺激する。

 

 集中、集中、集中。

 意識が一つ切り替わる。

 目を開き、先ほどより広くなった視界から余計なものを排除し、映るのは障害物の樹々とターゲットたる光球のみ。

 

 

 

「2…」

 

>(いや、そうじゃないか…)

 

 その手に持つのは()()の得物。

 普段と逆である左手に握るのは杖形態(アクセルモード)にしたインテリジェントデバイスであるストライクハート。

 そして右手に握るのは少年にとっての新しい兵装(武器)

 

 刀身1メートル弱、バリアジャケットにも使用されている白と金の硬質装甲によって形成されたそれは一般に”ロングソード”と呼ばれる武器である。

 一つ違う部分を上げるとするならば、刃の部分が他の硬質装甲ではなく周囲に浮かぶ光球と同じ瑠璃色の光で形作られているという点。一つ二つと少年が剣を振るう度にその光の軌跡が薄暗い森の中に舞う。

 

 

 

「1…」

 

>(僕は、ただ…)

 

 足に魔力を込める。既に展開されていた2対の魔力の羽が震え、一つ大きく羽ばたく。

 

 好調だ、と少年は確信した。

 頭の中がクリアになり、神経の一つ一つに意識を張り巡らせ、自分の体を余すことなく自在に操作できるような、そんな感覚。

 わずかに口角が上がり、右手の剣を構える。

 

 

 

「0!」

 

>(もう、誰にも負けたくない!)

 

 

 

 瞬間、地面が爆ぜるような音と衝撃を伴って少年───星宮悠が軌跡を残して飛び出した。

 超低空で飛翔する悠は一番近くのターゲットまで一直線に接近すると、通り過ぎ様に右の剣の薙ぎ払いで光球を真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

>「次!」

 

 切り裂かれた光球は弾けて魔力の残滓をまき散らす。

 しかし悠はそれには目もくれず軌道を修正、急激な方向転換を行うとそのスピードを一切緩めることなく次のターゲットに意識を向け猛追。その途中で視界を狭め進行を邪魔する樹々を最低限の軌道変更で避け続ける。

 やっていること自体は単純だがその難易度は想像を絶する。

 

 悠の飛翔スピードはただの走行とは一線を画す。

 目まぐるしく切り替わる景色に加えて生い茂る樹々は閑散としているわけでもなく不規則に並び立っている。それらを『エリアサーチ』と肉眼の視覚情報のみで知覚し、ルート構築を行う必要があるのだ。

 常に位置情報を更新しリアルタイムで軌道修正とルート構築を行うのは並列思考と情報処理能力に負荷をかける。

 これができなければみっともなく樹木に正面衝突して怪我は避けられまい。

 

 悠は迫りくる気樹々の幹や枝をどうにか避け続け覇気の乗った声とともに辿り着いた次のターゲットを二つ同時に切断してのけた。

 

 そこからは同じことの繰り返しである。

 ひたすらに森の中を縦横無尽に駆け抜け、樹々を避けながらターゲットを撃破していく。

 繰り出される斬撃の一つ一つが振るわれる度に光が舞い霧散していく。

 

 

 

>「これで…最後!」

 

 全速力の突進に乗せたまさに神速の突きが最後のターゲットを寸分の狂いもなく貫いた。

 ひと際大きい爆発音とともに光が弾ける。

「ふぅ」と一つ息を吐いた悠は左手に携えた相棒に向かって話しかける。

 

 

 

>「ストライクハート、タイムは?」

 

「24秒63。記録更新ですね、マスター!」

 

>「ありがとう。ようやくコレにも慣れてきたよ」

 

 悠は手元の剣を見やりそう呟く。

 この剣は悠がフブキに敗北したすぐその夜に製作に着手したシロモノである。

 バリアジャケットにも使われている硬質装甲をベースにいつぞやの露店で購入したパーツを組み込むことでいくつかの機構の搭載を実現した悠にとって初めての近接兵装、そのプロトタイプ。

 

 その名を、刀剣型近接兵装『ストライクセイバー』。

 

 

 

 これが成長への足掛かり、その最初の一歩。

 悠はストライクセイバーを強く握りしめると顔を上げる。

 そこに憂いの表情はない。敗北を糧とし、ただ上を向き、前を見据え、高みへと駆け上がらんとする挑戦者の瞳。

 

 

 

>「…さて!そろそろ帰ろうか!」

 

「はい、マスター」

 

 悠が今いる場所はノエルとフレアから教えてもらったはずれの森にある練習場。といっても整備も何もされておらず人の手が入った形跡はないただの森の一角。故に多少暴れてもお咎めはないし、緑の聖地たるエルフの森と隣接しているせいか、樹々をいくつか切り倒そうが一週間もすれば元の状態に戻っているのだという。

 

 んーっと体をIの字に伸ばしながら帰路につく。

 休日とはいえ帰ってからもやることは多い。

 家の掃除に学園から出された座学の課題、昼になれば昼食の準備もある。幸いというべきか昨日大量にもらったコロッケはあの後とある子に譲ったことで無事に消化し終えていたりする。

 何から手を付けようかなと考えながら歩いていると

 

 

 

 

 

「っマスター!」

 

>「!くっ」

 

 悠とストライクハートが反応したのはほとんど同時だった。

 まだ『バリアジャケット』と『アクセルフィン』を発動したままだったのが幸いしたか、魔力の羽を全力稼働させて悠は横っ飛び。その直後、背後から悠がいた地点を人の顔くらいの大きさはあろう鉄球が唸りを上げて通り過ぎた。

 鉄球はそのまま木に衝突すると木片をまき散らし沈黙。数秒してメキメキと音を立ててそれなりの年数を持つであろう立派な大木がへし折れた。

 

 冗談だろうと悠は息をのむ。

 あんなものが当たってしまえば間違いなくただでは済まない。いくら『バリアジャケット』の上からであろうがよくて骨折、当たりどころが悪ければ最悪の場合そのまま死である。

 嫌な想像をしてしまったと言わんばかりに悠は顔をしかめる。

 だがそんなことをしても状況は変わらない。

 

 悠は正体を見極めんと振り返る。

 

 

 

 

 

 そしてそこに、悠のよく知る魔法陣から魔鉱石の反応を持つ魔獣が這い出してきていた。

 悠が驚愕の表情を浮かべる。

 

 魔獣の特徴を一言でまとめるのであれば、「黒いアリゲーター」といったところだろう。当然その全長は動物としてのアリゲーターを優に凌駕しており全長は7~8メートル程度といったところか。こちらに向かって大きく口を開いており、十中八九そこから先ほどの鉄球を発射したのだろうと容易に想像がつく。

 だが悠が驚愕したのは魔獣に対してではない。

 

 

 

>「あの魔法陣…ミッドチルダ式!」

 

 分かってはいた。

 ストライクハートの分析もあったし、そもそも出所(でどころ)()()でなければ何度も悠をしつこく付け狙う必要性はない。

 分かっていたし、覚悟だってしていたつもりだった。

 だが、実際にこうして見てしまうとどうしても考えてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 ───ああ、奴らはどうあがいても自分を殺したかったのか、と。

    僕をもう一度殺してでも、アレを手に入れたかったのか、と。

 

 

 

 

 

 別に悲しみはない。

 同郷とはいえ悠だって奴らにはいい感情を持ってはいない。むしろ憎んでる、恨んでると言ってもいいだろう。奴らはそれだけのことをしたし、逆に悠だって奴らの仲間に手をかけた。

 憎み憎まれ、己が目的のために手段は選ばない。そうした負の連鎖はどちらかが事切れるまで途切れることはない。

 

 故に、悠は戦うための武器をその手に取った。

 己が目的のため、過去への清算のため。

 そして、逃れられないその負の連鎖に悠の大事な人たちを巻き込まないために。

 

 

 

 

 

 殺す感情はあくまでオレのもの。

 

 それと同時に、守る感情は僕のものなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ディバインシューター!!」

 

 魔力球が生み出され、撃ち出される。

 先程まで淡く森を照らしていた道標が敵を刈り取る獰猛な牙となり替わって魔獣へ殺到する。

 危険を察知したアリゲーターは見た目にそぐわぬ俊敏さで回避を試みるが、悠からすればその動きはあまりにも鈍重。

 

 

 

>「フブキの方が、もっとずっと速かったよ!」

 

 悠はアリゲーターの動きを見ると『ディバインシューター』を誘導制御。鋭く軌道を変えた魔力球が逃げ場のないように全方位を取り囲み、悠が掌を握りこむと同時にその全てがアリゲーターを穿った。

 直撃した魔力球は光と煙を放ち薄れていく。その直後にその光の中から黒光りする鉄球が一直線に悠の頭めがけて飛来した。

 

 

 

>「っと!」

 

 

 

 ギャリィィン!

 

 

 

 咄嗟に発動した『ラウンドシールド』に角度をつけて鉄球を受け止め、力の方向がずれた鉄球は甲高い音を響かせて悠の横を通り過ぎていった。通り過ぎた際の風圧で悠の髪が激しく揺れる。

 それを見届けた悠がアリゲーターの方を振り返ると、光がはれてそこにいたのは一切の傷が見えず敵意を剝き出しにしてこちらを睨みつけているアリゲーターの姿。

 

 

 

>「硬いな」

 

「マスター、報告します。あの魔獣の外皮、以前戦ったワイバーンと同等の硬度と推測。加えて敵全体を覆うように『AMF(Anti Magilink Field)(アンチマギリンクフィールド)』が展開されています。完全に魔法を無効化するほどの濃度ではありませんが、射撃・砲撃魔法ともに相応の威力弱体が予想されます」

 

>「そうか…」

 

 

 

 実に面倒なことになった。

 『AMF』とは、ミッドチルダ式魔導における上位の防御魔法の一つである。

 範囲内の魔力結合や魔法の発生効果を無効化する特性を持つ魔法防御。攻撃魔法はもちろんだが、範囲内に入ってしまえばこちらの防御魔法や補助魔法もその効果対象内になってしまう。反面物理に対する防御性能は持ち合わせてはいないが、対魔法に特化した分その効果は折り紙付きだ。

 

 つまるところ、近づかれてしまえば悠は戦闘面において機能不全に陥ってしまうといってもいい。

 であれば威力弱体があっても遠距離から攻めるというのが定石と言いたくなるがそうは問屋が卸さないのがつらいところ。先程ストライクハートの報告にあったもう一つの情報、これが悠の遠距離戦の可能性を潰しにかかっている。

 

 それが魔獣の外皮の硬さである。

 以前戦ったワイバーンと同等の硬度、つまりは『AMF』を張られていない状態の砲撃魔法であっても一撃では倒しきれないということの証左になってしまう。

 であれば『AMF』ありでは与えられるダメージなどたかが知れている。

 

 まさに八方ふさがり。

 少なくとも、悠が持つ魔法ではあのアリゲーターに対して決定打は与えられないだろう。

 ノエルでもいてくれれば楽に終わるのだが、こんな深い森の中では援軍など呼べるわけもないし、そもそも自分の戦いに自分から他の誰かを巻き込むつもりなど毛頭ない。

 

 

 

>(まあ、それならそれで、ここにあるものを使うしかないってね)

 

 

 

 無いなら見つけ出せ。

 

 足りないなら捻り出せ。

 

 諦めるという選択肢など、自分の中にはとうに存在しないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 右手に持っていたストライクハートを左手に持ち替える。

 すると無手になった右手に瑠璃色の光が集う。転送魔法特有のエフェクト。亜空間から呼び出したるは、悠の新たな兵装(チカラ)

 

 

 

>「来い、ストライクセイバー!」

 

 光が弾け、その姿が露になる。

 白と金、そして瑠璃色で構成された細くも重々しい印象を持つロングソード。

 

 

 

>「アクセル…シューター!!」

 

 続けて左手のストライクハートでカートリッジロード、空薬莢を吐き出し渦巻く魔力を魔法陣と20の魔力球へと変える。

 流れるような動作で軌道を決めた悠はすかさず魔法を撃ち出した。

 8つの魔力球ですら避けることがかなわなかったアリゲーターが、倍以上の弾数とより精密な誘導制御を得たものを避けられる道理などなく直撃。いや、もとより同系統の攻撃だと本能で判断したのか避けるそぶりすら見せなかった。

 

 先程より大きな光と煙がアリゲーターを覆い隠す。

 悠はそれを見ると移動を開始。相手は煙で状況を把握できない。無論視覚以外の感覚器を持つ可能性があるので警戒は解かないが、煙が晴れるのを待つにしても煙がない場所へ移動するにしても多少の時間稼ぎにはなる。

 そして辿り着いたのは程よい太さの樹。

 悠はストライクセイバーを何の躊躇いもなく振りかぶると、「ふっ!」と根元に向かって振り抜き樹を切り離した。

 

 支えを失って倒れる木を『レストリクトロック』で固定。

 【魔力感知】にて敵の位置を補足する。実際には『AMF』の影響でアリゲーターの魔力自体は感知できないが、逆に()()()()()()()()()()()()()が敵のいる場所ということだ。

 

 最後に立ち位置を調整。

 持ち前の空間把握能力をフルに用いて敵との距離、必要な威力を計算する。

 ようやく煙が晴れ、アリゲーターは苛立ちを隠すことなく凶悪な顎を開いて大気を震わせる咆哮をあげた。

 

 

 

>「一手、こっちが速い!」

 

 ストライクハートを樹に向け、魔力を収束させる。

 周囲を見回したアリゲーターがようやくこちらを視認する。

 だがすでに遅い。

 

 

 

 悠は強力な物理攻撃は持っていない。

 ならば、すでにある大質量のものをぶつければいいだけの話だ。

 

 

 

>「クロススマッシャー!!」

 

 青い閃光がストライクハートから迸る。

 それは『レストリクトロック』によって固定されていた木を吹き飛ばし、その木は大気を唸らせ旋風を伴いながら開かれていたアリゲーターの顎門へキレイに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 ゴキャッ!!!

 

 

 

>「なっ…!」

 

 しかしその大木は、顎門へ吸い込まれた瞬間に小枝でも砕くかのようにいとも容易く嚙み砕かれた。

 続けてアリゲーターは閉じた顎を再び開くと口の中をわずかに発光させる。

 そう認識したときには、悠に向かって三度の鉄球が放たれていた。

 

 近づくにつれ感じる圧の大きさに、しかしなお悠は動かない。

 空気を吹き飛ばし周囲の樹々をしならせる圧倒的な脅威に対して、悠は僅かに驚きつつもあくまで平静だった。

 まさに直撃する、その直前にストライクハートを握った左手をゆるりと鉄球に向け、唇を揺らした。

 

 

 

>「エクセリオンシールド」

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 甲高い衝撃音と火花を撒き散らし、悠を砕かんとした鉄球は完全にその動きを止める。

 バチバチと未だに標的に向かってその脅威を振りまくが、悠が持ちうる最強の盾を突破するには能わず。

 

 

 

>「元から大木程度で倒せるとは思ってなかったよ。まああそこまで簡単に噛み砕かれるとも思ってなかったけどね」

 

 悠はそう言いながら展開している『エクセリオンシールド』に魔力を集中させる。

 大木で倒せると思っていなかったのならば、悠の本命とは一体なにか。

 

 それは、悠を殺そうとした今目の前にある質量体に他ならない。

 

 

 

>「バリアバースト!」

 

 攻性防御魔法『バリアバースト』。

 防御魔法に接触している対象を魔力爆発によって吹き飛ばす魔法である。

 

 魔力爆発によって進行方向を180°反転させた鉄球は飛んできた勢いそのままアリゲーターへと直進し脳天に直撃した。

 外皮が砕かれその内部が露出する。衝撃で脳を揺らされたアリゲーターはフラフラとおぼつかない脚でどうにか逃走を図る。

 そしてその隙を逃すほど、悠は情け容赦をかける性格ではなかった。

 

 

 

>「ストライクセイバー、魔力励起!」

 

 右手の剣に魔力を込め駆けだす。

『アクセルフィン』、『フラッシュムーブ』を併用しての超加速。

 その間にストライクセイバーの魔力刃が煌々と輝き森を照らし、その刀身を伸ばした。

 

 これが『ストライクセイバー』に搭載した機構の一つ。

 使用者によって刀身に込められた魔力を励起、強化することで自在に威力、射程を伸ばす特殊構造。

 

 

 

 最大加速によって一陣の風となった悠は一瞬でアリゲーターまで追いつく。

 アリゲーターも必死に速度を上げようとするが、それを行うにはあまりにも遅く、そして相手が悪かった。

 

 

 

>「くら…えええぇ!!!」

 

 大いなる大海のような深い青の輝きを秘めた剣が狂いなく砕かれた外皮の中央を突き刺した。

 その瞬間に魔獣が動きを止め、全身を黒く染色させる。

 悠がストライクセイバーを引き抜くと黒が端から崩れ落ち、紫に輝く魔鉱石だけが残った。

 

 悠はそれを拾うと、ストライクハートに問いかける。

 

 

 

>「…ねえ、ストライクハート。僕、少しは強くなれたかな」

 

 誰かを守れるくらいに、なれたのだろうか。

 

 

 

「っはい!マスターは、いつだって最強です!」

 

 ストライクハートからの答えは悠が求めていたものとは、ちょっとだけ違ったのだろうけど。

 でもその心は、ちょっとだけ晴れやかになって、悠は一つ笑みを浮かべた。

 

 

 

>(はずれの森で3回連続の襲撃。この森には、きっと何かある。また調べないとね)

 

 新たに発生した疑問は頭の中にしっかりと留めて、悠は歩き出す。

 

 

 

>「じゃあ、改めて帰ろう…!?」

 

 

 

 キィン!っと、草木の中から魔鉱石を持つ左手を狙って突き出された短剣をギリギリで展開した『ラウンドシールド』で防ぐ。

 

 

 

>(強襲!まさか…っ!)

 

 ミッドチルダの手の者かと襲撃者を見ると、本日何度目かの驚愕に見舞われた。

 

 

 

 

 

>「きみは…」

 

「ごめんねー、これも掃除屋としての仕事だから」

 

 見知った顔だった。

 といっても知り合いというほどでもない。昨日ぶつかって手をとっただけの関係。マスクを着けていて宵闇のような深紅の瞳は隠れているがきめ細やかなシルバーグレイの髪と動物を模したような黒いフードは見間違えようもない。

 キリキリと『ラウンドシールド』を押し返そうと短剣(ダガー)を両手で押し付けてくる。

 

 

 

>(このまま『バリアバースト』で吹き飛ばすのは簡単。でも…)

 

 敵かどうか断定できない以上、その手をとるのは憚られる。

 いや、武器をこちらに向けている以上敵だと言われればその通りである。

 だが…

 

 

 

>(彼女から明確な()()()()()を感じない)

 

 故に、判断に悩んでしまう。

 ひとまず無力化する方向に舵を取るべきかと考えて。

 

 

 

 発動していた【魔力感知】で背後から近づくもう一人の反応を感じ取った。

 直後、木の背後から煌めく鈍色の刀身が悠めがけて振り下ろされた。

 

 

 

>「ぐっ!」

 

 

 

 キィィン!

 

 

 

 悠は右手の『ストライクセイバー』を振って刀身同士がぶつかり鍔迫り合いとなる。

 新手の出現に顔をしかめる。

 どうする、どう切り抜けると頭をフル回転させて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうして………」

 

 

 

 そんな枯草のような震える声を聞いて思考が止まってしまった。

 

 

 

>「えっ…!」

 

 だって、その震えた声にどうしようもなく聞き覚えがあって。

 

 

 

 

 

「どうして……」

 

 

 

 

 

 震える声に込められた感情は、どうしようもなく悲壮感に満ちていて。

 

 

 

 

 

「どうして…!」

 

 

 

 

 

 振り下ろされた刀に込められた力は、どうしようもなく弱々しくて。

 

 

 

 

 

「どうして、悠殿なのでござるか…!」

 

>「いろ、は…」

 

 

 

 

 

 こちらに向けられる水晶のような浅葱色の瞳はいっそ綺麗だと言ってしまえるほどに涙に濡れていた。





走者の一言コメント
「holoXきちゃ!でもなんかまずい流れですよ!?」

 ここできました秘密結社holoX!
 残りの3人は登場するのかどうか、次回もお楽しみに!





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part19 秘密結社holoX①

滑り込みセーーーフ!

切りのいいことろまで書こうと思ったら余裕で10000字オーバーしたので分割しての投稿となります。
今回はちょっとした回想編になります。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 ホロライブ学園を擁する巨大都市、その中心地からわずかに外れた住宅区。

 俗に「ベッドタウン」と呼ばれるその場所に()()はある。

 

 

 

 古ぼけた4階建てのビル。

 設置された窓ガラスには堂々と『秘』『密』『結』『社』と書かれた文字ステッカーが貼られており、それを見るたびに秘密結社という意味を問いたくなってしまう。

 ちなみにこれはそのビルを所有する組織の長たる総帥のご意向で、わざわざ付けた理由が

 

「え、だってカッコいいだろ?」

 

 だったのには構成員の過半数がため息をついていた。

 

 

 

 そしてそこに入り込む一人の少女。

 両手に段ボールを抱えているがその足取りは非常に軽く鼻歌もこぼれており浮かれているのがよく分かる。カンカンカンッと階段を一息に駆け上がり、主な生活スペースになっている3階に一切息を荒げずに辿り着くと勢いよくその扉を開け放った。

 

 

 

「ただいま戻ったでござる〜!」

 

 バァンッと音が鳴り響く。

 水晶のような浅葱色の瞳に後ろで一つに束ねられた淡い金髪、瞳と同じ浅葱色の羽織を身に着けている独特な語尾を持つ少女の正体は風真いろは。

 本人曰く"しがない侍"でありこのビルを拠点として活動する組織『秘密結社holoX』の用心棒である。

 

 

 

「お、戻ったかサムライ」

 

「おかえりいろは。荷物取りありがとね」

 

 そんないろはの帰宅の言葉に返事を返したのが二人。

 

 一人は銀の長髪をなびかせるあどけなさが抜けない見た目童女のような少女。しかしてその頭には実にその容姿からは不釣り合いな二つの大きな角を生やしている彼女の名前は『ラプラス・ダークネス』。

『秘密結社holoX』を設立した張本人であり、総帥。

 

 もう一人は短く切ったワインレッドの髪にマントを羽織ったラプラスとは正反対の大人を感じさせる女性。頭に折りたたまれた鳥の羽と彼方を見通す鷹の目を有する彼女は『鷹嶺ルイ』。

 『秘密結社holoX』の女幹部にして交渉事やその他諸々(面倒事)を担当する実質的な組織の司令塔。

 

 

 

 ここにいる3人にあと2人を加えた5人が『秘密結社holoX』の構成員。

 そして『秘密結社holoX』とは、総帥たるラプラス・ダークネスの夢である「世界征服」を目的に活動する少数精鋭の秘密組織である。

 

 …と銘打ってはいるが、実際のところラプラスの考えている「世界征服」とは一般に思われている権力や恐怖による世界征服とは全く異なるし、holoXの活動内容ももっぱら資金調達のために要人護衛からアングラ系まで様々な依頼をこなすいわゆる「何でも屋」のようなものだ。

 総帥のラプラスとしても仲間と過ごす現状には割と満足しているし、いろはやルイ、そして他の二人もそれが分かっているからこそみなを仲間として、もう一つの家族として認識しそれぞれが思い思いに過ごしている。

 

 

 

 

 

 いろはは持っていた段ボールを床に置くと逸る気持ちをどうにか抑えて背中に差していた愛刀『チャキ丸』を握り一閃。直後、ピッと音がなったと思うと段ボールを固定していたガムテープがその切れ目に合わせて切り裂かれていった。

 

 

 

「あの一瞬でガムテープだけ切る腕前はさすがだが、たかが開封に使われる刀の気持ち考えろよ」

 

「チャキ丸は刀だから物事を考えたりはしないでござるよー?」

 

「そーゆーことじゃねえよ」

 

 すでに関心が段ボールの中身に向いていることによるいろはの雑な返答にラプラスはツッコむ。

 そんなラプラスをよそにいろはは段ボールの中を漁りだし、ルイはそろそろ残りの二人も帰ってくるであろうとお風呂と夕飯の用意を始めた。

 

 

 

「おおぉ、やっときたでござる~!」

 

 段ボールを漁っていたいろはが中身を取り出し歓喜の声を上げる。

 その手に持っていたのはシャツにブレザーにスカート…要は学園の制服であった。いろはが取り出したもの以外にもサイズの違うものが段ボールの中に入っており、その数は計4つ。

 いろはは鼻歌を歌いながらその場で目にもとまらぬ早着替え、あっという間にその装いを新たにしていた。

 早着替えは侍の嗜み(本人談)らしい。

 

 

 

「じゃーん!どうでござるか?」

 

「テンション高くね?」

 

「転入も2週間切ってるからね、逸る気持ちも分かるよ。あ、それとも…()()に会えるのが楽しみだったり?」

 

「ちょお、ルイねぇ!?いきなり何言ってるでござるか!?」

 

「あ、フライパンの様子見なくちゃ」

 

「ルイねぇ!!?」

 

 いきなりルイからぶち込まれた爆弾にいろはは顔を真っ赤にして大慌て。もうその時点で墓穴を掘ったも同然ではあるが、追撃と言わんばかりにあからさまな話題ずらしでその場から立ち去ったルイを見ていろはは膝から崩れ落ちた。

 ラプラスはそれを見て大爆笑である。

 

 と、どこか漫画のようなワンシーンの光景が巻き起こる中、入口の扉が開き二人の人が入ってきた。

 

 

 

「たっだいまーって、なーにこの状況?」

 

「ただいまー!あー!いろはちゃんカワイー!!」

 

 そこにいたのは二人の少女。

 

 ふわふわとしたピンクのロングヘアーに薄紫の瞳の獣人の少女。試験管のついたベルトや白衣を身に着けたいかにも研究者然とした格好の彼女は『博衣こより』。

 『秘密結社holoX』の頭脳にして格好通りの研究者。

 

 もう一人はラプラスよりやや暗いシルバーグレイの髪に深紅の瞳を持つ少女。黒いフード付きのパーカーが特徴的な彼女は『沙花叉クロヱ』。

 『秘密結社holoX』では一番の新人で研修(インターン)生にして掃除屋。

 

 これにて『秘密結社holoX』、全員集合である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いろはちゃんそれってホロライブ学園の制服だよね!もう届いてたんだ~!」

 

「ちょ、さかまたばっちいでござるよ」

 

「ねえええ!!!なんでそんなこと言うの!!?」

 

「はいはい、クロたんはまずお風呂入っちゃおうね~」

 

「やあだあああ!!!」

 

 いろはに抱き着こうとしたクロヱが抵抗むなしくこよりによってお風呂場に連行される。

 任務帰りだったのか沙花叉の体にはいたることろに血が付着していた。本人がいたってケロッとしていたし彼女の実力はみなが認めているので返り血だろうとだれも心配しなかったが、そんな状態で抱き着いてこようとすればさすがのいろはもこの反応である。

 

 

 

「相手は?」

 

「畑を荒らしてた害獣。向かわせたのはクロヱだけだったけどこよりは多分別件で動いてたのかな」

 

「ふーん」

 

「聞いておきながらそれか。みんなも順番にお風呂入っちゃいな」

 

「了解でござる~」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「「「「「いただきます!」」」」」

 

 お風呂も終わり夕飯の時間。

 全員がそろってテーブルにつくと手を合わせて食事を開始した。

 

 

 

「んー、やっぱルイルイの料理はおいしい!」

 

「ありがと、こよ」

 

「あーラプ殿、お野菜も食べなきゃダメでござるよ」

 

「現在進行形でナスを生食してるおまえも大概だろうがちゃんとメシ食えよ」

 

 ちょっとした雑談交じりの食卓。

 和気藹々とした雰囲気の中、話題は食卓に乗ったある料理に行きついた。

 

 

 

「そういえばルイルイが揚げ物って珍しいね、洗い物が面倒だからって普段あんまり作らないのに。何かいいことでもあった?」

 

 こよりが箸で皿に乗ったコロッケをとりながら問う。

 それに対してルイの返答は何とも意外なものだった。

 

 

 

「あ、これ用意したの私じゃないよ。これはラプ」

 

「ええ、ラプラスが!?」

 

「おいしんじん、後で吾輩への態度について話す必要がありそうだな」

 

 いかにも信じられないといった表情のクロヱにラプラスは圧をかけながら自身もコロッケに箸を伸ばす。

 

 

 

「まあ別に吾輩が作ったわけじゃないんだけどな。これは貰いもんだよ」

 

「貰いもの?」

 

「ああ、なんか帰り道の公園でコロッケ食ってるやつがいてな。じっと見てたらなんか貰った」

 

「…ラプ、それは強請(ねだ)ったってやつじゃ」

 

「目は口ほどものを言うってやつでござるな」

 

「やかましいわ、お前らも食ってる時点で同罪だよ同罪」

 

「まあそれを言われると…それよりちゃんとお礼は言ったの?名前とかは?」

 

「さすがの吾輩もそのくらいの常識はあるっての!名前は確か…」

 

 

 

 

 

 瞬間、フッとアジトの電気が消え、視界が暗闇に染まった。

 

 

 

 

 

>「「「「「!」」」」」

 

 それを知覚した瞬間にholoXの面々は警戒状態へと移行する。

 いろはとクロヱは己が得物を手に取り、ルイとこよりはラプラスを守るように寄り添う。

 

 

 

「敵の気配はなし」

 

「変な音も匂いもしないよ、少なくとも、今すぐ何かを仕掛けられるわけじゃなさそう」

 

 少数精鋭の通り、それぞれの行動は的確で明確。

 すると、背後に設置してある大型モニターがひとりでに起動した。

 

 そこに表示してあったのは一人の人間の黒いシルエットと背後の謎の機械群。

 すなわち、ハッキングによる強制的な回線の接続だった。

 

 

 

「やあ、食事中だったか。これはすまないね」

 

 聞こえてきた声はなんとも皺がれた老人のような声だった。

 その声に覇気はなく、圧力も感じず、そしてそれゆえにどこか不気味さを感じさせる。

 

 

 

「ああ、実に傍迷惑だ。早々に切ってくれるとありがたいが?」

 

「ふっ、そう邪険にしないでくれたまえ。一つ仕事を頼みたいのだよ。『秘密結社holoX』の諸君」

 

「…チッ」

 

 ラプラスの言葉にも老人は一切動じず要件を告げる。

 その傍らで簡易キーボードを操作していたこよりに目配せてみると、返ってきたのは首を横に振る否定の意。

 ただの古ぼけたビルと侮るなかれ、holoXの頭脳たる博衣こよりが作り出した電子的なセキュリティは強固なものである。少なくともそこいらのハッカーに破られるほどやわではなかったし、それは今日までの実績が証明している。

 すなわち、異常なのはそれをここまで容易くこじ開けた相手側の方である。

 

 

 

(はかせ力作のセキュリティウォールを易々と突破してきて、カウンターも現状不可能。ここは話を聞くしかないか)

 

 ラプラスは次にルイに視線を送る。

 それに頷いたルイは一歩前に出ると凛とした声を張る。

 

 

 

「それで、わざわざハッキングしてきてまでの要件とは?」

 

「なに、そんな難しいことではないよ。私が頼みたいのは、とある人物の始末だ」

 

「!…随分と物騒ですね」

 

「予想くらいはしてたのだろう?それに、諸君らはこういったアングラ系の依頼もこなすと聞く」

 

 始末、すなわち人の命を刈り取る事案だ。

 無論、この手の依頼は裏稼業に足を踏み入れている者にとっては切っても切れぬ縁である。

 復讐、正義、あるいは快楽的理由から度々彼女らのところにもそういった依頼は舞い込んでくる。

 そして、その中のいくつかを、彼女たちはこなしてきた。

 

 

 

「…対象は?」

 

「ほう、受けてくれるのか。嬉しいねえ」

 

「勘違いしないように、受けるかどうかはこちらが決めます。依頼であろうと罪なき人の命を摘み取るほど私たちの天秤は軽くない」

 

「これは手厳しい。が、いいのかね?自分たちが今現在どういう状況か、よもや分からないわけではあるまい」

 

「ッ…」

 

 ルイが歯がゆさから唇を嚙む。

 要は引き受けなければおまえたちから始末する、ということだ。

 前触れもなく引き起こされた停電(ブラックアウト)、電気系統は完全に掌握されている、すなわちここは敵の胎の中といえるだろう。

 こちらとて素人ではないが、何が起こるか分からない以上ここで逆らえば誰かが犠牲になる可能性は完全には否定できない。

 

 それが分かってしまうから、そしてそれを覆すだけの力がないことが、子どもを守る大人であり生徒を導く教師である自分が守ると言い切れないことがどうしようもなく嫌になる。

 

 

 

「なに、依頼をこなしてくれればいいだけの話だ。報酬もしっかり用意しているとも」

 

 

 

 

 

「それに、ヤツは罪人だ。民を見捨て、我が国の至宝を盗み出し、取り返そうと放った我らが同胞を殺した大罪人だ!」

 

 老人の声に初めて感情が宿る。

 そこに込められたのはただひたすらの憤怒。

 抑えられぬ負の感情が言葉に乗って発露する。

 

 

 

「…その対象とは?」

 

「ああ、そうだったな。私としたことがつい昂ってしまった」

 

 老人はそう言うとモニターに新たなウィンドウを表示させる。

 そこに映っていたのは一人の少年の顔写真とプロフィール。

 

 それを見た瞬間、holoXの全員の顔色が変わった。

 

 

 

「……」

 

「なっ…」

 

「!……」

 

「ふーん…」

 

「…うそ………」

 

 

 

 

 

「始末してほしい対象とは、ホロライブ学園1年…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「星宮悠だ」





走者の一言コメント
「おいおいおいおいコロッケきたぞこれは完全にフラグだしこの依頼人どう見ても黒幕の一人だろ」

秘密結社holoX、登場したはいいがゲーム内時間(もはやゲームを名乗っていいかは永遠の謎)驚異の0秒を叩き出す。




もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part20 秘密結社holoX②

お気に入り、感想、評価ありがとうございます!
ここまでなんとか週一投稿が続けられました。

今回で4月編最終話です。
そして分割したにもかかわらず10000字超えました。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 

「どうして、悠殿なのでござるか…!」

 

>「いろ、は…」

 

 鈍色の刀身と瑠璃色の魔力刃がチリチリと火花を散らす。

 いろはの切なる慟哭に悠は激しく心を揺さぶられる。

 

 どうすればいいとまとまらない思考の中で必死に考えを巡らせる。彼女たちを不用意に傷つけるわけにはいかないし、自分だってやられるわけにはいかない。

 しかし、その想いに反して体は動いてくれない。

 いろはの涙が、その震えた声が、見えない鎖となって悠を縛りつける。

 

 

 

「昨日は優しいんだと思ってたけど、いろはちゃんを泣かせるなら…」

 

>「ッ!」

 

「さっさと消えろ!!!」

 

「っさかまた!」

 

 刹那、無からあふれ出した膨大な殺気とともに悠の視界が反転する。

 その視界の端でとらえたのは僅かに差し込んだ朝陽に反射した細長い糸のようなナニカ。

 それが悠の足に絡みついてすくい上げていた。

 

 

 

>(仕込みワイヤーか!)

 

 気づいた時にはもう遅い。

 背中を思いっきり地面に叩きつけられて肺にたまった空気が一息に吐き出される。

 衝撃で視界が歪み、次の攻撃への対応が一手遅れた。

 

 

 

「シールドピアッシング!」

 

 短剣(ダガー)の切っ先、ただその一点に魔力を集中させ、クロヱは悠の喉元めがけて狂気の刃を振り下ろす。

 回避は間に合わない。悠はそれだけどうにか判断を下すと目の前に魔法陣を展開した。

 

 

 

>「ラウンドシールド!」

 

 

 

 ギィンッと先程より鈍い音が響く。

 クロヱがあらん限りの力をこめて放った一撃は重く、そして鋭かった。マスクが外されて露になった瞳に浮かぶ深紅の光が恨みの炎へと昇華する。その形相はまさに命を狙った怨敵に向けるそれで、しかしその中にはほんの僅かなためらいの色があった。

 

 魔力同士のぶつかり合いで光が弾け、消えていく。

 しかしそれも束の間、防御貫通に特化した一撃は悠が展開した『ラウンドシールド』にヒビを入れ、伝播していく。

 魔法陣が割られるその直前、悠はどうにかクリアになった思考をフル回転させ行動を開始した。

 

 

 

>「く…ああぁぁ!!!」

 

「!こんのぉ…」

 

 悠は割られかけの『ラウンドシールド』を『パリィ』の要領で振りあげてダガーをクロヱの手から弾き飛ばす。

 その隙に体を起こし、返す刃でフリーになっていた右手のストライクセイバーを一閃して足を捕らえていた仕込みワイヤーを切り裂いた。

 

 

 

>「アクセルフィン!」

 

「Axel fin.」

 

 ストライクハートの機械音声とともに悠の両足に2対の魔力羽が展開、即座にそれを激しく羽ばたかせると後方へ急激な水平移動で二人から距離をとった。土煙が舞い、お互いに視界が制限される。

 ようやく解放された極限状態に悠は一つ息を吐く。

 だが当然これで終わりなわけがない。濃密な殺気が纏わりつくように悠を取り囲む。

 

 

 

「いろはちゃん!」

 

「さかまた…でも…!」

 

「でもじゃない!失敗すれば、次のあのジジイの矛先が沙花叉たちに向くかもしれないんだよ!」

 

「ッ…!」

 

 クロヱは声を荒げる。

 いろはに向けたはずのその言葉は、まるで自分に言い聞かせているかのように。

 ほんの僅かでもためらってしまった自分自身に戒めるかのように。

 

 それを見て、いろはは愛刀を握りしめると踏み出した一歩で悠へと肉薄した。

 

 

 

>「いろは!話を…くぅっ」

 

「聞けないでござる!!」

 

 

 

 チャキ丸を振り上げ、悠の首筋めがけて振り下ろす。

 先程の弱々しさなど皆無の岩や鉄すらも両断せんとする一閃。悠はそれをストライクセイバーを軌道に滑り込ませることで受け止めた。

 

 

 

 ギィィィン!!!

 

 

 

「かざまは、悠殿の友達である前に、『秘密結社holoX』の用心棒!みなに危険が及ぶのなら、かざまはたとえ悠殿でも………斬る!!!」

 

 いろはの怒涛の連撃が悠を襲う。

 高い身体操作能力と人間の中ではまさにトップクラスのフィジカルから繰り出されるそれは生身で受ければすべてが必殺の一撃となりうる死神の鎌。

 一撃から一撃への移行がこれ以上ないくらいシームレスで繋ぎの隙というのがほとんど存在しない。

 

 悠はそれを右手のストライクセイバーと左手に展開した『エクセリオンシールド』を器用に使い分け防御に徹することでどうにかその刃を避け続けていた。

 

 

 

 

 

 ギィンギィンギィンッ!と連撃は途切れない。

 袈裟斬り、返しの斬り払い、そして突き。

 

 

 

 

 

───あの、誰か探しているんですか?

 

 

 

 

 

「かざまは、たとえ悠殿でも………!」

 

 初めて訪れた場所でぽこべぇとはぐれて、独りで不安になっていた自分にかけてくれた彼の心配そうな声が脳裏にこびりつく。

 

 ずっと一緒に過ごした仲間と、少し前に出会って一度助けられただけの少年。

 どちらかしか選べないなら、どちらを選ぶべきかなんて火を見るより明らかなはずなのに。

 

 ギィンギィンッ!と、いろはは愛刀を振るうのをやめない。

 逆袈裟、下段からの斬り上げの高速コンビネーション。

 

 

 

 

 

───悠。星宮悠です。これで、見知らぬ人ではないですよね?

 

 

 

 

 

「悠、殿でも………」

 

 まっすぐこちらを見つめてくる星の瞳が、目を閉じるだけでいつも克明に思い出される。

 

 自分は『秘密結社holoX』の用心棒で、holoXのみんなを守ることが仕事で、そのために私情は捨てなきゃいけなくて。

 分かっているし、理解もしているはずなのに…

 

 ギィン…ギィン……!と、ブレた剣先が魔力刃とぶつかる。

 右から、左から、もはや剣撃とすら呼べない攻撃。

 

 

 

 

 

───あ、ええと……じゃあ、いろは。

 

 

 

 

 

「ゆう、どのぉ………」

 

 手に触れた彼の体温と感じた心は、不安と疑心を一瞬で溶かしてしまうくらい暖かくて。

 

 感情を押し殺そうとすればするほど枷が外れたかのようにとめどなく溢れ出す。

 親愛が、友愛が、恋愛が。

 こんな状況でも、得物を向けてきた相手であっても”敵”として見ず、自身も相手の命も切り捨てようとしない強くも優しい彼を想う感情が溢れて止まらない。

 

 助けてもらって気になってしまったなんてチープだと言われるだろう。一目惚れなのかと言われてしまえば自分はきっと否定できないのだろう。

 でも、たとえどう言われようとも、自分はもうこの気持ちに嘘はつけない。今こうやって対面して、刃を交えて尚更強く自覚してしまった。

 もう心の奥底に閉じ込めておけないほど、彼への想いは強く、大きくなってしまったんだと。

 

 

 

 ギィン…!と、振り上げられたチャキ丸はストライクセイバーとぶつかり、握る力を失った手から零れ落ちる。

 いろははそのまま握りしめた拳を悠の胸にぶつけ、頭を押し付ける。

 

 かすれるような嗚咽が、聞こえてきた。

 

 

 

「どうして、反撃してこないでござるか…!」

 

>「いろは…」

 

「かざまは、悠殿を…殺そうとしたでござるよ!?斬られたって文句は言えない!それなのに…どうして……!」

 

 

 

 反撃してくれれば、自分も刀を握ることができたのに。

 holoXの敵であると認識できれば、対立するだけの大義名分があれば、自分を殺してでもholoXのために戦えたのに。

 たとえその末に、自身が絶望する未来が待っていようとも。

 

 それでも彼は最後の最後までその刃をいろはとクロヱに向けてはくれなくて。

 それがどうしようもなく悔しくて。

 

 そして、どうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

 ドンドンと力の入っていない拳で悠の胸を叩き続ける。

 顔を上げられない。悠の顔を見ることができない。

 

 いろはは選んだ。

 その刃を悠に向けた。

 holoXを選び、そしてたとえ一瞬でも悠を()()()()()()()()()

 その事実が、強烈なまでの罪悪感となって重く重くいろはにのしかかった。

 

 

 

 嫌われるのが怖くて。

 自分のしたことで記憶に残るあの優しげな表情に、あの輝かんばかりの星の瞳に影が差すことが斬られることよりもずっと怖くて。

 

 

 

 

 

 

>「…えっと、いろはは僕にとってもう、『守りたい人』になったから…かな」

 

「へ…?」

 

 だからこそ、あまりにも予想外の言葉にとっさにいろはは顔を上げ、悠の顔を視界におさめる。

 そこに映っていた悠の表情は、どこまでもいろはの記憶に残ってる表情そのままで。

 悠は泣き腫らしてどこか幼く見えるいろはの頭に手を置いた。

 

 

 

>「2人が僕を襲った理由は、想像はできても断定はできない。依頼されたか、脅迫されたか。でもたとえどんな理由があったとしても僕は死ぬわけにはいかなかったし、かといって『守りたい人』であるいろはにも、いろはの仲間であろう彼女にも刃を向ける覚悟もできなかった」

 

 

 

>「ただそれだけだよ。死にたくなかったから剣を手に取った、守りたかったから盾を手に取った。どちらかを切り捨てることができなかった、ただの臆病者だ」

 

 

 

 そう言った悠の表情は、なんだか申し訳なさそうで。

 そしていろはは、そんな悠を見てズルいって思ってしまった。

 

 だっていろはだってどちらかを選ぶことなんてしたくなかったのに。

 holoXのみんなに死んでなんてほしくなくて。

 そして同じくらい悠を殺したくなんてなかった。

 

 ホロライブ学園で教員として働いてるルイから悠がいることを聞いて、ずっと楽しみだったのだから。

 

 一緒に授業を受けたりして。

 一緒にお弁当を食べたりして。

 一緒にとりとめのない話をしながら帰ったりして。

 

 そんな想像をすることすら楽しくて楽しくて仕方がなかったのだから。

 

 

 

>「どうにかできないか、一緒に考えてみない?」

 

「それって…?」

 

>「これ以上戦わずに済む方法を。自分勝手なのは、分かっているんだけど…」

 

「あるわけないでしょそんなの」

 

>「!!!」

 

 

 

 ギャリィィィン!!!

 

 

 

 咄嗟にいろはを突き飛ばした直後、魔力を纏った短剣とストライクセイバーが軋みを上げてぶつかり合う。

 悠に向かって突貫してきたのは短剣を握りしめて射殺さんばかりに悠を睨みつけるクロヱ。

 

 

 

「お前の言う通り、沙花叉たち秘密結社holoXはお前の始末を依頼された!お前は至宝を盗んで人を殺した大罪人だって言われて!回線をハックしてきたジジイから、ご立派な脅し付きでね!」

 

>「脅し…!」

 

「沙花叉たちに選択する時間なんてなかった!依頼報告は今日の夜!達成できてなければこよちゃんのセキュリティを簡単に突破できるあの男に何されるか分からない!だったらイヤでもやるしかないじゃん!!」

 

 

 

 ギャン!と華奢な腕からは考えられない強烈な一撃がぶつかり合った悠のストライクセイバーを弾き飛ばした。

 先程までいろはの剣撃も受け止めていたためか悠の右腕はすでに限界だった。

 生まれた決定的な隙。クロヱは本能に従い全力で悠に向かって跳び出し短剣の切っ先を喉元へ向けた。

 

 

 

 そう、本能的だった。

 そしてそれゆえに、二人の間に飛び込んできた一人の影にクロヱは気づくのが遅れてしまった。

 

 

 

 

 

「さかまた、止まるでござる!」

 

「いろはちゃん!?」

 

>「いろは、なにを!?」

 

 マズイ、とクロヱは戦慄した。

 クロヱはすでに悠に向かって跳び出し地に足はついていない。これではブレーキをかけることができない。

 そして突き出した短剣もしまいこむにはあまりにも遅く、そして勢いをつけすぎた。

 

 そして悠もまた同様の見解に辿り着くとともに視界の奥にあるものを見た。

 

 

 

>(ミッドチルダの転送魔法陣!?なぜこのタイミングで…!)

 

 その瞬間、悠の頭の中で散りばめられていたパーツが、一つにつながった。

 

 秘密結社holoXへの依頼人。

 あまりにも短い依頼の制限時間。

 なぜわざわざholoXに依頼を出したのか。

 そして、3人がもつれ合ったこのタイミングでのミッドチルダの転送魔法陣。

 

 そこから導き出される答えは…

 

 

 

>(最初から僕が殺せない二人ごと巻き込んで僕を殺すつもりだったのか!!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悠の思考が加速し、即座に行動に移りだす。

 

 クロヱによって弾かれた右腕を無理矢理引き戻す。無理に動かしたおかげで筋肉が断裂したかのような痛みに襲われるが知ったことかと強行。

 伸ばした右腕で眼前に立ついろはの肩を掴むと思いっきり自分の後ろへと引っ張った。

 

 これで自分の前にいるのはクロヱのみ。

 だが魔法陣からはすでに丸い体を持つ機械兵器(ガジェット)が現れており、その目の部分に光が収束していっている。敵の攻撃まで時間がないのは明らかだった。

 安全策で行くのはもう不可能。であれば、

 

 

 

>「片腕くらい、くれてやる!!!」

 

 悠は全速力で前方に向かって加速。その最中、ストライクハートの弾体(カートリッジ)炸裂(ロード)、膨大な魔力が瑠璃色の風となり吹き荒れる。

 背後からの異様な光にクロヱも異変に気付くが、今更どうこうできる状態ではない。

 

 突き出された短剣は、バリアジャケットを切り裂いて悠の右肩を容易く刺し貫いた。

 

 

 

>「ぐあ…!」

 

「悠殿!!」

 

「なんで…!?」

 

 鮮血が舞い、白いバリアジャケットを紅く染め上げる。

 いろはが叫び、クロヱも驚愕の表情を隠せずにいるが、今は説明している時間はない。

 悠は痛みでまともに感覚がない右腕をどうにか動かして眼前のクロヱを抱き寄せる。

 

 

 

「ちょ!いきなりなにやってんの!?」

 

>「説明はあとでする!!エクセリオンシールド!!!」

 

 

 

 直後、光の収束を終えた目から赤白い熱線が照射され、間一髪展開が間に合った『エクセリオンシールド』と正面からぶつかり合った。

 逸れた熱線が角度を変え周囲を焦がす。

 直撃していないというのに押し寄せる熱波だけで思わず目を細める。

 

 

 

>(コイツ…!こっちが熱でやられるまで続けるつもりか!)

 

 悠はバリアジャケットによって影響を限りなく軽減できるが、他の二人はそうはいかない。

 現にクロヱはすでに息を荒くし滴る汗が止まっていない。

 いろはは2人より離れていたため現状被害はほとんどないが、それも時間の問題だ。

 

 

 

>(加えてご丁寧にアイツも『AMF』持ち!外殻が硬質装甲できているなら射撃魔法で壊せないし、片腕が使えない以上砲撃魔法は威力も精度も安定しない…)

 

 であれば、悠が持ちうる案など、もう一つしか残されていなかった。

 

 

 

 

 

>「…いろは!!!!!」

 

「は、はい!!!」

 

 悠は後ろを振り向き、いろはと目を合わせる。

 状況が状況とは言え、戦いに巻き込むことには抵抗は当然ある。

 だが、これはもう自分だけで済む問題ではなくなってしまった。

 

 だからこそ、悠は初めて自分の戦いに『守りたい人』を()()()

 

 

 

>「今の僕じゃアイツは壊せない!だから!…頼っていい?」

 

「…!!」

 

 瞬間、心臓に熱が宿った。

 

 崩れていた両足を踏みしめ、立ち上がる。

 

 弾かれて落ちていた愛刀をしっかりと握りしめる。

 

 顔を上げ、一末の不安を宿した悠の瞳をまっすぐに見据える。

 

 

 

(あぁ…悠殿とともに戦えるのは、こんなに心が昂ってしまうものなんだ…!)

 

 やっぱり敵より味方がいい。

 

 向かい合うより、隣に立っていたい。

 

 高鳴る心臓がこれ以上ないくらいに速いビートを刻んだ。

 

 

 

「当然!holoXの用心棒に、友達に任せるでござるよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「ラウンドシールド、多重展開!!!」

 

 大地は熱線と倒れた木々によってまともな通り道はない。

 それならば、道を新しく作る他ない。

 そんな発想で空中に大量に展開された『ラウンドシールド』が宙に浮かぶ浮島となる。

 

 

 

>「アレをつたっていって!アイツもまだ違う攻撃手段を隠してるかもしれないから近づいたら注意を!」

 

「了解でござる!」

 

 抜刀した愛刀チャキ丸を手にいろはは空中に駆け出した。

 ガジェットが接近してくるいろはを知覚すると、現在照射している目の上に設置してある二つの複眼に光を収束、その直後に光の弾丸をいろはめがけて発射してきた。

 

 

 

「っと!は!とう!」

 

 視認することすら難しい小さな光の弾丸をいろはは危なげなく回避、さらに接近する。

 ガジェットも近づけさせまいと発射速度(レート)を上げてより多くの弾丸を飛ばすが、結果は変わらず。着地の瞬間を狙おうとも抜き身の刀で切り払われる。

 

 

 

「辿り着いたで…ござるよ!!」

 

 最後の『ラウンドシールド』に着地するといろはは体を深く沈める。

 直後、さながらいろは本人が弾丸になったかのようにガジェットに向かって突貫を仕掛けた。

 ガジェットはそれを確認すると最優先排除対象をいろはに設定、照射した熱線を収め、左右からベルト状の太い腕を展開し、それぞれ違う角度からいろはを打ち落としにかかる。

 

 

 

「…遅いでござる」

 

 

 

 キンッ

 

 

 

 とても小さな金属音。

 いろはが天に向かってチャキ丸を振り抜いており、ガジェットの横を通り過ぎる。

 瞬間、金属で作られたベルト状の両腕がバラバラに切り裂かれて崩れ落ちた。

 その切断面に一切の淀みはなく、すさまじい切れ味と技量を容易に想像させる。

 

 

 

「っと、本体まで切ったつもりであったが、さすがに硬いでござるな」

 

 いろははそう言うと一歩下がり、脚を踏みしめ、体をねじる。

 

 

 

「なら、これで終わらせるでござる!風真流…!?」

 

 いろはが大技を出すために隙をさらしたその瞬間、ガジェットの体から大量の砲門が飛び出してきた。

 肉薄された際の最後のカウンター、超至近距離での全門斉射。これを避けることなど不可能で、事実いろはも避ける動作まで移行できなかった。

 

 しかし、忘れてはならない。

 いろはは決して一人で戦っているわけではないということを。

 彼女を守りたい人だと言った少年が、この場にはいたということを。

 

 

 

>「エクセリオンシールド!」

 

 

 

 ガガガガガッ!!!

 

 

 

 いろはの眼前に展開された瑠璃色の魔法陣が、いろはの命を刈り取らんとした弾丸を完璧に塞き止める。いくら『AMF』の影響下であろうとサブとして取り付けられた副砲程度に破られるほど悠の最強の防御魔法は脆くはない。

 クロヱを近くの木に休ませていろはの隣まで駆け付けた悠は痛みで苦悶の表情を浮かべながらもいろはに笑いかけた。

 

 

 

>「守るって決めたからね。さあ、今だよ!」

 

「悠殿…最高でござるよ!」

 

 悠はガジェットが弾を撃ち尽くしたことを確認すると『エクセリオンシールド』を解除。

 そしていろはは、身体中に溜めた力を一気に解放し叫んだ。

 

 

 

「風真流剣術秘技『嵐穿牙(らんせんが)』!!!」

 

 全身のねじりを剣の切っ先ただその一点に集約させた神速の突きがガジェットの目に吸い込まれる。

 高度な身体操作能力を持ついろはだからこそ出来る絶大な破壊力と貫通力を秘めた突きはまるで豆腐のようにガジェットの体を貫いた。

 

 ガジェットは小さな駆動音を最後に響かせると光が止み完全に沈黙する。

 悠はそれを見届けると緊張の糸が切れたようにその場に倒れこんだ。

 

 

 

「わ、悠殿!大丈夫でござるか!?」

 

>「アハハ…ちょっと大丈夫じゃないかも」

 

「悠殿ぉ!?」

 

 戦闘が終わって気が抜けたのもあるし、止血もなしに戦闘を続けたものだからさすがに血を流しすぎた。

 いっそこのまま寝てしまおうかと体の力を抜くと、不意に首筋に冷たい刃が押し付けられた。

 

 

 

>「…沙花叉さん、だっけ」

 

「ちょっと!さかまた何をやって!?」

 

「いろはちゃんはちょっと黙ってて。別に今すぐ殺すつもりはないから」

 

 その犯人は沙花叉クロヱ、冷たい深紅の瞳を悠に向け、首筋に刃を固定する。

 これで殺すつもりはないと言われても納得できないのは当然だが、首以外はどこも拘束すらされておらず、悠がその気になれば抜け出すこと自体はさほど難しくない。

 

 

 

「改めて、私の名前は沙花叉クロヱ。いろはちゃんと同じ『秘密結社holoX』の構成員で掃除屋」

 

>「ホロックスっていうんだ。僕はホロライブ学園1年の星宮悠だよ」

 

「えっと、ちなみにかざまは用心棒としてholoXに雇われているでござる」

 

 二人の自己紹介に風真も控えめに参加する。

 

 

 

「まずお礼は言っておかなきゃね。…助けてくれてありがとう。あなたが助けてくれなきゃ、沙花叉は多分死んでた」

 

>「…どういたしまして。お礼ついでに殺さないでくれると助かるんだけど」

 

「それとこれとは別の話。殺したい、殺したくないで言ったら沙花叉だって殺したくない。でも沙花叉たちに危険がある以上、あなたを生かしていくにはぁぁぁーーーーー…!」

 

 ドッカーーーン!となにかの衝突音が鳴り響いた瞬間、何故かクロヱが吹っ飛んでいった。

 

 

 

 

 

>「…え?」

 

「…はえ?」

 

 悠といろはは二人して意味が分からないと呆けた顔。

 すると、悠の真上から第三者の声が聞こえてきた。

 

 

 

「よーしみんな生きてるね!?」

 

>「…約一名おそらくあなたに吹っ飛ばされて死にかけてますけど」

 

「よし、生きてる。やっぱこよは天才!」

 

 どうしよう、会話が成立しない。

 そこにいたのはふわふわとしたピンクの髪を腰まで流した獣人の少女。

 いかにもドヤァといった顔をしており、割と重傷の悠としてはどう反応したものかと少ない体力で考えてしまう始末である。

 

 

 

「こらこよ」

 

「あいた!」

 

「ケガ人いるんだからさっさと手当てに入る!」

 

 そんな少女は背後から近づいていたもう一人の女性にはたかれて頭をさすりながらも悠の治療に入る。

 そして悠はその人物に覚えがあった。

 

 

 

>「え、鷹嶺先生…?」

 

「や、星宮くん待ったかね~。あなたの担任教師、鷹嶺ルイ先生で~す。ちなみに『秘密結社holoX』の女幹部も兼任してるよ」

 

 そう言って悠にウインクを決める女性の名前は鷹嶺ルイ。ホロライブ学園の教師で悠のクラスの担任を務めている人物である。

 ルイは悠の頭を一撫ですると、ほっと胸をなでおろす。

 

 

 

「…生きててくれて、本当に良かった。ありがとう」

 

>「あ……はい。ありがとう、ございます」

 

 心から安堵したような声に悠はたじろぐ。

 こんな僕でも生きてることを喜んでくれている人がいるということがなんとも現実感がなくて。

 それでもどうにか笑顔を浮かべてお礼を言う。

 そういうふうに思ってくれて、ありがとうと。

 

 

 

「はい、応急処置終わり!あとはこの薬飲んで一日しっかり休めばばっちり治ってるはずだよ!」

 

>「あ、ありがとうございます。えっと…」

 

「あ、ぼくはコヨーテの獣人にして『秘密結社holoX』のずのー!博衣こよりだよー!よろしくね助手くん!」

 

>「よろしくお願いします…って、助手くん?」

 

「あ、いっけないつい口が滑っちゃった。今のは忘れてね!えっと…悠くん!」

 

>「…?はあ、分かりました」

 

 止血と包帯巻きを手際よく終わらせた少女が悠に試験管に入った液状のなにかを渡す。

 おどろおどろしい緑色の液体を見ていったい何が入っているんだという疑問は尽きないが、治療してもらった手前そういう質問は憚られる。

 その後に出た謎の「助手くん」発言も本人が忘れてというなら深く突っ込むこともないだろうと右から左へ受け流した。

 

 

 

「フッフッフ、主役は遅れて登場するというやつだな」

 

 そうして落ち着いたことろへ3人目の謎の声。

 森の奥からザッザッと草木をかき分けてこちらへ近づいてくる音が聞こえてくる。

 

 

 

>(あれ?この声どこかで…)

 

 悠がどこか聞き覚えのある声に首をかしげていると、声の正体が姿を現した。

 

 

 

「刮目せよ!吾輩こそいずれエデンの星を統べる者にして『秘密結社holoX』の偉大なる総帥、ラプラス・ダークネスだ!!!」

 

>「あ、ラプラスちゃん」

 

「吾輩を気安くちゃん付けで呼ぶんじゃない!!!」

 

 ポーズと口上を完璧に決めて現れたのは外見的な年齢は10にも満たないであろうあどけなさが残る少女だった。

 先程のこよりにも負けないドヤ顔を決めて「決まった…!」といった表情であったが、悠が発したその一言に一瞬で瓦解。悠に詰め寄ってポカポカと殴り掛かっていた。

 

 

 

「あれ、星宮くんラプと知り合いだったの?」

 

>「あー、知り合いというか、昨日公園でコロッケを食べてたら物欲しそうにしてましたので譲ったんです。そのくらいの仲ですね」

 

「あ、あれ星宮くんのだったんだ…」

 

 まさかの事実にルイは微妙な表情を浮かべる。

 その胸の内は「つまり生徒に奢られたってコト…?」と教師としての尊厳の一部が粉々に砕かれそうになっているのだが、そこはまあ知らぬが仏というやつである。

 

 

 

「………ちょっとこよちゃん!!!なんなのいきなりーーー!!!」

 

 今の今までこよりに吹っ飛ばされて気を失っていたクロヱがようやく復活し全速力でこよりに詰め寄る。

 それに対してこよりはあくまで冷静に状況を説明する。

 

 

 

「だってクロちゃんじょ…悠くんを殺そうとしちゃってたでしょ?もうそんなことする必要がなくなったんだから無用な殺生はしっかり止めないとね!」

 

 再び何か口走りそうになったのを慌てて修正。

 しかしそんなことより気になる情報が出てきてクロヱが聞き出そうとしたが、横やりが意外なところから入ってきた。

 

 

 

「もう必要ないって本当でござるか!?」

 

 今までずっと悠に寄り添っていたいろはである。

 その顔に浮かぶ感情は驚愕と期待。

 

 それを見たこよりはブイブイとピースサインを作って満面の笑みを浮かべる。

 

 

 

「ホントのホントだよ!こよたちがあの依頼にのらなきゃいけなかったのは矛先がこちらに向く可能性があったから。秘密がいっぱいなアジト全体をハッキングされればいくらこよたちでもどうなるか分かんないからね!だったらそれができないようにすればいいってわけだよね。そして…」

 

「ちょ!いきなりなにやってるでござるか!?悠殿も!見ちゃだめでござるよ!?」

 

>「うん、見えてない。何も見えてないからあんまり力強めないで?目ががが…」

 

 こよりはそこで言葉を切ると自身の豊満な胸の間に手を突っ込み、とあるメモリを取り出した。

 それを見た瞬間いろはは顔を赤くして悠の顔を両手を使って全力で塞ぎにかかる。

 悠は正直何かが起こる前にいろはによって視界を塞がれたからなにがなんだか分からないのだが、いろはが手の力を徐々に強めてくるのでその解除に四苦八苦していた。

 

 

 

「そしてこれがあの依頼人(クライアント)が再びハッキングしてきたときに自動で発動するカウンタープログラム!徹夜で作るの苦労したよ~!」

 

 そういったこよりはふわぁ…と伸びをしながら一つあくびをする。

 四苦八苦の末にようやく解放された瞳でよく見ると薄紫の瞳の下にはわずかに隈ができており寝不足であろうことがよく分かる。しかしセキュリティウォールを突破された立場にも関わらず一日もたたずにそのカウンタープログラムを作り出すとは尋常じゃないと悠はこよりに対してその卓越した頭脳に驚嘆の念を送っていた。

 

 

 

「……よかったぁ…!よかったよ悠殿ぉ…!」

 

 ふと横からいろはの心から安堵したかのような声が漏れる。

 見てみるといろはは泣き腫らしてもなお溢れてくる涙を拭くこともせず悠を見つめていた。

 その瞳には、表情には、ただひたすらの歓喜と安堵。

 それを見て悠もようやく笑顔を浮かべることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ吾輩たちは夜に備えて先にアジトに戻ってるから、いろははソイツのことちゃんと見とけよー」

 

「星宮くん、また明日。あ、でも無理はしないようにね」

 

「じゃあね悠くん!また会おうねー!」

 

「改めて今日はゴメン。そしてありがとう。でも、いろはちゃんに手を出しちゃぜーったいだめだからね!」

 

 さすがにここで固まり続ければ人が少ない場所とはいえいつか依頼人の監視の目に引っかかる可能性があるということで、未だにダメージと疲労から回復しきれていない悠と護衛という建前のもと一緒にいることを希望したいろはを残しholoXのメンバーはアジトへ帰宅していった。

 

 騒がしかった森に静寂が訪れ、聞こえてくるのは乾いた春風にのって響く葉擦れの音。

 緑の聖地(エルフの森)の影響で戦いによって荒れ果てた木々もすっかり新しく芽生え始め、深緑の森に香る匂いを感じながら悠といろははひとつの大木に背中を預けて肩を寄せ合っていた。

 

 

 

>「えっと、いろは…?」

 

「んー?どうしたでござるか?」

 

>「あの、ちょっと距離が近い…というか…」

 

「嫌だった?」

 

>「いや、決してそういうわけじゃないんだけど…」

 

「じゃあ問題ないでござるな!」

 

 えへへと満面の笑みを向けられて悠は返す言葉を無くし、肩越しに感じる温もりを意識して視線を逸らす。

 初めて会ったときは顔を赤くして俯いていたというのにどういった心境の変化だろうかと考えていると、戦闘の際はおそらく避難していたのであろういろはのお供で狸のぽこべぇがいろはから見えないように悠に向かってグッとサムズアップしていた。

 申し訳ないが「どういうことだ?」という感想しか出てこなかった。

 

 しかしいつまでもこうしているのは時間的にも心境的にもあまりよろしくない。

 家に帰ってからやらなければいけないことも多いし、なによりいろはと寄り添いあってるこの状況はなんともこそばゆくて落ち着かない。

 覗く横顔が、草木とともに春風にのった香りが、悠の心を揺さぶってくる。

 

 

 

>「…も、もう大丈夫!あとは飛んで帰れば家で休めるから…っと……」

 

「ちょ、悠殿危ない!」

 

 これ以上このままなのはまずいと悠は足に力を入れて立ち上がろうとするが、わずかに意識が遠のいて体がふらつく。肉体的なダメージや疲労自体はこよりの薬と休んだことでマシにはなったが、失った血だけはどうしようもない。

 いろははふらついた悠を支えると、子供を叱る親のような顔をする。

 

 

 

「もう、まだ万全じゃないんだから動いちゃダメでござるよ!……………ほら、こっちに横になって」

 

>「え、うわ…!」

 

 なぜか正座で座りなおしたいろはに腕を引っ張られ、体を横に倒される。

 結構な勢いだったためか地面との衝突に備えていた悠だったが、訪れた感触は想像したものとは相反する柔らかく、そして暖かいものだった。

 

 

 

「…どうでござるか?かざまの膝枕は…?」

 

>「えっ…~~~~~!!!」

 

 上から声が聞こえてくる。目を開けてそこに映ったのは、上から覗き込むように顔をわずかに赤らめて恥ずかしそうにこちらを見ているいろはの姿。顔を赤くしながらも武人のように力強く、それでいて女性ならではのしなやかで柔らかい手は悠に頭に乗せられておりくしゃっと軽く悠の濡れ羽色の髪を梳いている。

 

 いろはに膝枕をされている。

 その事実にようやく気付いた悠は赤面しながらもすぐさま起き上がろうとするがいろはに止められた。

 

 

 

「もう、こっちだって恥ずかしいんだから…ちょっとくらい察してほしいでござる」

 

>「………ごめん」

 

 これ以上恥ずかしくさせないでという言葉にしない言葉に悠はおとなしく頭をいろはの太腿に戻す。再び訪れた感触に今度は気恥ずかしさとともに心地よさを感じはじめた。疲労を回復せんと体が眠気を発し始め瞼が落ち始める。

 いやいやさすがに眠ってしまうのはダメだと残った意識でどうにか覚醒しようと試みるが、意思に反して体は正直なのか眠気は増していくばかり。

 そんな眠気と必死に格闘している悠に気づいたのか、いろははポンポンと頭を撫でながら慈母のような微笑みを浮かべる。

 

 

 

「眠っちゃっていいでござるよ。少ししたら起こしてあげるから」

 

>「あ……ごめん、ありが…と………」

 

 すでに限界が来ていたのか、いろはのその言葉を聞いた悠はなんとかお礼を伝えながらその次の瞬間には意識を落としていった。

 ざわめく森の中でかすかに聞こえる悠の寝息にいろはは再び微笑みを浮かべた。

 

 先程までの強い意志を宿した男の子の顔とは違う、どこかあどけなさを残した少年の寝顔を見てこんな顔もするんだなあとまじまじと見つめてしまう。

 

 

 

 

 

「…悠殿は、気づいているのかな」

 

 そう言いながら頭を撫でていた手で悠の髪を軽くかき分ける。

 なんともクセになる触り心地に二度三度と同じことを繰り返す。

 

 

 

 

 

「かざま、誰にだってこういうことをするわけじゃないでござるよ?」

 

 いろはの頬はさっきよりもより赤くなっていて。

 言葉にすることが恥ずかしく、それでも口を止めることはなかった。

 

 

 

 

 

「他の男子には、絶対こんなのしないんだから」

 

 キミだけは特別なんだよ。

 

 最後に呟いたその言葉は、森のざわめきの中に溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、報告を聞こうか」

 

 同日の夜、再びハッキングによる停電(ブラックアウト)からモニターに映し出されたシルエットと老人の声にholoXの面々はピリッと張りつめた空気を醸し出す。

 ラプラスたち5人が立ち並び、シルエットを睨みつける。

 口を開いたのは他でもない総帥のラプラスだった。

 

 

 

「失敗だよ」

 

「………ほう」

 

「戦って分かったよ。吾輩たちじゃアイツは殺せない」

 

 そこに嘘はない。

 戦って勝てないわけではない。いろはが全力を出せれば1対1でもいけるし、全員で囲い込めば勝算は決して低くない。

 けれど、自分たちは悠と友誼を結びすぎた。心根に触れすぎた。

 要は、心情的な問題だ。

 

 

 

「アイツを…悠を、殺させるわけにはいかない」

 

「…残念だよ。こんな結末を下してしまうことに」

 

 シルエットのみの老人はカタカタとキーボードを操作する。

 それを見てラプラスはニヤリと口角を上げた。

 

 

 

「ああ、そういえば実働隊の二人から聞いた話なんだが、どうやら依頼遂行中にトラブルがあったらしくてな」

 

「………」

 

「なんでも私たちの他に悠を殺そうとした第三勢力が現れたらしい。吾輩の仲間たちも巻き込んで殺そうとしたんだとか」

 

 老人は答えず、キーボードの操作を続ける。

 どうせ答えるつもりはないのだろうと分かっていたラプラスは構わず続ける。

 

 

 

「まあトラブルなんていかなる時も付き物だ。それ自体はもう解決してるし、件の敵も排除済み」

 

「…それが?」

 

「ん?いや、何というわけじゃないさ。ただ、吾輩が言いたいのはただ一つ…」

 

 ラプラスはそこで言葉を区切ると、黄金の瞳をつり上げてモニター越しに老人を睨みつけた。

 

 

 

 

 

「吾輩の仲間を殺そうとして、ただで済むと思うなよ」

 

 

 

 

 

 ビーッ!ビーッ!ビーッ!と、けたたましい警報音がモニターの奥で鳴り響く。

 老人がわずかに驚いたように後ろを振り向く動作を見せる。

 直後、ダンッ!と机に手を叩きつけた音を響かせて忌々し気な声を漏らした。

 

 

 

「やってくれたな」

 

「フン、一度やった手法を馬鹿正直に繰り返す貴様の失態だ。そら、早く動かないと中のデータが全部パアだぞ?」

 

「なめるなよ、この程度造作もない。それに、我らを敵に回したことをすぐにでも後悔させてやろう」

 

 直後、ダダダッとアジトの階段を駆け上がる音が聞こえてくる。その足音から軽く10人は越えているだろう。

 分かっていたことだ。

 ヤツは依頼の段階でこちらを始末する算段をすでに立てていた。それが失敗した以上次の策は張ってて然るべきである。

 

 いろはがチャキ丸を手に取り、クロヱもワイヤーが仕込まれた黒のグローブと短剣を身に着ける。

 しかしラプラスはそんな二人を片手を上げて制するとゆらりと立ち上がる。

 もう片方の手には、悠に渡された紫に光る一つの鉱石。

 

 

 

「貴様こそ吾輩たちをあまりなめるなよ」

 

 

 

 ガチンッ

 

 

 

 鉱石が光輝いたかと思うと何かが外れたような金属音がなり、その瞬間、言葉にするのも烏滸がましいほどの圧倒的で暴力的な魔力の渦が吹き荒れた。

 ラプラスを中心に紫の荒ぶる波濤となったそれはそこにいるだけで重苦しく、敵と認識したものすべてを無慈悲に呑み込む力の権化と化す。

 

 

 

「また吾輩たちや悠に手を出してみろ。その時は吾輩が持てる全てを以て…」

 

 ラプラスが手を高く振り上げ、そして振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様らを叩き潰す」

 

 

 

 ドンッ!という衝撃音とともに大地が揺れる。

 その瞬間、こよりのカウンタープログラムとラプラスの魔力によってつながれた回線が強制的に焼き切られ、モニターの映像が切断された。

 

 

 

「…っぐ!はあ…はあ…」

 

「ラプ!」

 

 再びガチンッと音が響くとラプラスが息を荒げながら力なく椅子に座りこんだ。

 一番近くにいたルイが寄り添い、こよりたちもそれに続く。

 左手に握る鉱石は、その輝きを失い真っ二つに割られていた。

 

 

 

「フン、悠から貰った魔鉱石を使っても一つ解除しただけで10秒が限界か…」

 

「ラプ、無理はしないで。その封印は強い、無理に外せば反動が来るんだから」

 

「分かってるっての。おいしんじん」

 

「なにー?」

 

「ドアの向こうに固まってる。掃除頼むぞ」

 

「はーい、任せて」

 

 もしもの護衛としていろはとともにクロヱはドアを開けて奥を確認する。

 そこにいたのは倒れ伏す大人の山。軽く10は超えるその山にすでに生命は宿っておらず、ただの屍となっていた。

 クロヱはそれを見て瞳を細めると内なる魔力を解放、屍が固まってる部分の床が黒く染まる。さらにその外縁部には対照的に白の三角模様が規則的に並んでいる。

 

 

 

「ばっくばっく…」

 

 クロヱがそう呟くと、三角模様が黒とともに動き出し屍たちを包みだす。

 これは、()であり、()であった。

 まるで口が閉じるように、遍くすべてを葬り去るように。

 開かれた顎はどんどんと閉じていき、そして

 

 

 

「ばくーん」

 

 余すことなくすべてを呑み込んだ。





走者の一言コメント
「これは(ヒロイン確定演出)きましたねえ!!!」

ここまで読了ありがとうございます!
前書きにもあります通りこれで4月編は終了です。
一つ区切りがつきましたがこれからもゆっくり更新していきますので気長にお待ちいただければ幸いです。





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゴールデンウィーク編
Part21 純白の少女①『天と雪と白銀と』


お待たせ!しました!!!

今回より新章突入!
といっても間章のようなものであまり長くはしない予定です。



それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 ゴールデンウィーク。

 

 それは年度のはじめ、4月の終わりから始まる生きる人すべての夢見た期間。祝日という祝日が重なり訪れる超大型連休。

 学校から、職場から、あらゆるものからひと時の間解放されるまさに黄金週間。

 

 日々の苦労から解放された人たちのゴールデンウィークの過ごし方は様々である。

 思いっきり羽を伸ばして安らぐ人もいればこれを機にと自身の趣味に没頭する人もいるし、はたまた寝る間も惜しんで鍛錬に明け暮れる人もいるだろう。実家から離れて暮らしてる人は帰省し家族団欒を過ごしたり、人によっては仕事を入れて金を稼いだりもする。

 

 要はみな普段ではあまりできないようなことをすることが多いのだろう。

 

 

 

 では悠の周りの人たちはどうかというと。

 

 

 

「あたしは休んでた傭兵稼業の復帰でいったんここを離れるよ。割のいい仕事もあるし、それで装備も新調したいからね」

 

 ぼたんは仕事(荒稼ぎ)

 

 

 

「コノ時期はオヤジが帰ってこいってしつけーノヨ。マアあっちでやりたいこともアルシ今年はむこうで過ごすカナー」

 

 「ンムム」と唸りながらココは家族と過ごすために帰省。

 

 

 

「白上は最初の数日は実家の事情で幽世に帰りますかね~。でも戻ってきたら残りの時間は溜まってた積みゲーを消化していきますよ!ゆうくんも一緒にどうですか?」

 

 フブキも帰省を選択。やはり実家から離れて過ごしてる面々は帰省を選んでる人が多いようだ。

 

 ではでは帰省を選択しなかった悠を含めた他の面々はというと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドドドドドドドッ!!!

 

 

 

 

「もー何やってんですかノエル先輩!!!」

 

「いやーははは…申し訳ない…」

 

>「2人とも言ってる場合じゃないから!ラミィ、まだ走れる?」

 

「も、もう…限界です……」

 

「ラミィちゃんーーーーー!!!」

 

 

 

 閑散とした森の中をイノシシたちに追われながら全力疾走で駆け抜けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんくださーい。星宮悠くんいますかー?」

 

 事の発端は数日前、学園でのお昼休憩まで遡る。

 いつも通りに1-Aの教室で卓を囲って悠がラミィ、かなた、ココ、ぼたんとともに食事をとっていると、控えめなノックとともにのびやかな声を上げて一人の女生徒が扉をわずかに開けながら教室内に顔をのぞかせていた。

 「あ、教室の扉って全力で開け放たなくてもいいんだ」とクラスメイト達の偏った知識が一つ矯正された中、少年少女たちの意識は一瞬でその女生徒の()()()()に釘付けになってしまった。

 

 それは、二年生を示す緑色のネクタイではなく。

 

 それは、制服姿に優し気な印象を持つ女生徒が持つには少々似つかわしくない鈍色に光る一振りのメイスではなく。

 

 

 

 それは、窮屈さゆえに開かれているブレザーにより殊更にその存在を強調している圧倒的なまでの大胸筋(意訳)である。

 

 

 

 

 

「でっっっか…!」

 

「やべ、鼻血が…」

 

「あ、あと一年あればボクだって……!」

 

 突然の事態に大興奮のクラスメイト達(主に男子)のざわめきが巻き起こる。それに交じってなにやら悲しい友人の言葉が聞こえた気がしたがひとまずそれは置いておいて、予期せぬ人物の登場に真っ先に反応したのはその件の女生徒に呼ばれた悠であった。

 

 

 

>「ノエル先輩?」

 

「あ、よかった悠くん。いてくれたんだねー。ここにいなかったら連絡入れるところだったよー」

 

 探していた人物を見つけて女生徒―――ホロライブ学園2年の白銀ノエルはほっと安堵したような表情を浮かべて悠に駆け寄る。

 ノエルが一歩歩み出すたびに女性の象徴が揺れ、それを見た男子生徒は湧き立ち、女子生徒は己のそれと見比べ、とある生徒(天音かなた)は絶望した。

 ちなみに彼女(ノエル)に比肩しうるモノを持っている生徒もこのクラスにもいるにはいるのだが、そこは慣れとギャップの違いだろう。当然初見では男子生徒たちは大いに沸き立っていた。

 そのままノエルは悠の前までやってくると、フフーンとどこかイタズラめいた表情を浮かべてその圧倒的な膂力を秘めているとは思えない細い手をおもむろに悠の頭に乗せて撫ではじめた。

 

 

 

「えへへ、やっぱり好きだな〜悠くんの頭撫でるの」

 

「なぁ!?」

 

 

 

 

 先ほどとは打って変わってご満悦な表情のノエル。

 これを見て男子生徒は嫉妬し、女子生徒は黄色い悲鳴をあげ、とある生徒(雪花ラミィ)は絶叫した。

 

 

 

>「っな、何やってるんですか人前で!?」

 

「あ、じゃあ二人きりの時はいいんだね?」

 

>「~~~~~っ!!!あまりからかわないでください!」

 

 突然のノエルの行動に悠は動揺しいらぬ墓穴を掘ってしまう。

 そもそもノエルとはフレアも含めてこれまで携帯端末でのやり取りがほとんどたった。学年が違うのもあるし、ノエルは現世(うつしよ)における秩序と安寧を守護する存在である『白銀聖騎士団』の若き団長であり、フレアもまた『エルフの森』の防衛隊の中枢を担っている存在である。学生である以上できることは限られているがその忙しさは並の人たちを優に超えており、直接会ったのだって友達となったあの時以来なのである。

 久々に会って最初にされることがまさかアレ(頭撫で)だと誰が予想できようか、こんなの混乱するに決まっている。

 あとなまじ撫でられるのもやぶさかではないと一瞬でも思ってしまった自分自身を全力で殴りたくなった。

 

 もう何を言っても返しの言葉で封殺されるのがオチだろうと諦めた悠はせめて赤くなった顔は見せまいと机に頭を突っ伏して顔を隠す。そんなことをしてもバレバレなのは分かりきったことではあるがそこは気持ちの問題である。

 そんな悠を見たノエルはニコーッと満面の笑みを浮かべて頭撫でを続行しようとするが、そこに待ったをかける声が上がった。

 

 

 

「ちょ、ストーップ!!!いいいいつまでやってるんですか!?」

 

「そそそそうですよ不健全です!!!」

 

>「おぐっ…!」

 

 

 

 ゴキッという音とともにあがった声は二人分。

 一人目は悠の手を無理矢理引きながら自身の元へ引き寄せ声を荒げたハーフエルフ。

 二人目は悠の頭を引っ張りノエルからはがして顔を赤くしながら叫ぶ天使。

 

 誰であろう全世界お前が言うな選手権代表の二人(雪花ラミィと天音かなた)である。

 

 ちなみに事の元凶たる悠はラミィとかなたからそれぞれ逆方向から引っ張られたため首が曲がってはいけない方向に曲がって悶絶していた。ちなみに先ほどの快音は首の関節が鳴った音であり決して首の骨が折れた音ではないことをここに明言しておく。

 

 

 

「えー、悠くんの頭って撫でてると触り心地よくて気持ちいいんだけどなぁ~」

 

「…!」

 

>「…え、ちょっと待ってラミィにかなた、眼が怖いんだけど…」

 

 ノエルの発言でラミィとかなたは一瞬固まるとグルンと顔を悠に向ける。しかしその瞳に映るのはこんな日常風景からは考えられないわずかな狂気、まるで狙いを定めた肉食動物のように悠の頭をロックオンしていた。

 突如襲われた首の痛みからようやく復活できたと思ったらジリジリと近づいてくる二人を見て恐怖、どうにか二人の興味を逸らすために悠はノエルの話の続きを促した。

 

 

 

>「そ、それでノエル先輩は何の用事で?」

 

「あー、そうだった!つい忘れるところだったよ~」

 

 そう言いながらノエルは懐から一枚の紙を取り出して悠たちに見せる。その動作に悠たちは仮想訓練練習場に誘ってくれた時のフブキと重なったが、見せてくれた紙の内容を見てまず抱いたのは疑問符だった。

 

 

 

>「…依頼書(クエスト)?」

 

「うん。この学園には課外活動の一環で様々な依頼が発行されていて、それを生徒たちは自由に受けることができるんだ~。依頼者は様々で、学園の教師だったり生徒だったり、あるいは学園外から依頼が舞い込んできたり。当然報酬も出るし、学園からの評価も上がるから人によっては精力的にやってる人もいるんよ」

 

 なるほど、と納得した。

 この学園は武を磨き、競い合う。

 なればその武の力を有効活用しない手はない。それは学園側の認識であり、同時に学園外からの認識でもあるのだろう。

 

 学園としては外部からの評価も上がるし、外部とのつながりが増えれば生徒たちの卒業後の進路の手助けにもなる。外部の人たちからしてもいざという時の信頼できる依頼先があるのはありがたいし、未来の即戦力を見繕うことができるまさにwin-winの関係性である。

 

 

 

>「それは分かったんですけど…どうしてそれを自分に?こう言っては何ですけど誘われる理由というのが思い浮かばなくて…」

 

 納得と同時に浮かんだのはその疑問だった。

 たしかに悠は第一回学内バトルロワイアルの優勝者である。

 戦った人たちがいる手前さすがに自身を過小評価するつもりはないが、しかしこの優勝は決して一人でつかみ取ったものではないし、これはあくまで1年生の中での話だ。

 2年3年ともなれば自分より強い人、信頼できる人など数えきれないほどいるであろう中でノエルが悠を選んだ理由が悠には分からなかった。

 

 

 

「いやー、この依頼って団長に指名が入った依頼でね。ホントはフレアと一緒に受ける予定だったんだけど『GWは世界樹の防衛隊の方に顔を出さなきゃいけないから』って断られちゃって。それに依頼内容のことも考えると悠くんが一番かなって思っちゃったから」

 

>「依頼内容?…!」

 

「そう、依頼場所はガルナ村。白銀聖騎士団管轄の()()()()()に接している村の一つで、依頼内容は村周辺で出現するようになった獰猛な獣たちの駆除。翼竜《ワイバーン》の件もあるし、悠くんも気になってるかなって。………どう?」

 

>「…行きます!行かせてください!」

 

 悠にとってはまさに渡りに船な内容だった。

 3回連続で襲撃があったことからはずれの森に関してはいつかどこかでは調べなきゃいけないところだったし、それが依頼としてやってくるなら願ったり叶ったりだ。

 

 

 

「うん、それじゃあ決まりだね!この依頼の参加上限は4人までだからできればあと2人誘いたいところなんだけど…」

 

「い、行きたいです!」

 

「へ?」

 

 ふと零したノエルの言葉にラミィとかなたが即座に反応する。

 言ってしまった後でこう思うのはなんだがいきなりすぎたかなと二人は若干の反省をしていた。

 二人のこの行動はほぼ反射的なものだった。ただ件の先輩と悠を二人きりにさせたくないという浅ましくも年頃の少女らしいわずかな独占欲。

 先のことなんて何も考えていない衝動的な行動であったが、それでも二人は後悔はしていないのだろう。

 

 予想してなかった言葉に一瞬面食らうノエルだったが、わずかな思案顔のあと笑顔を浮かべた。

 

 

 

「雪花ラミィちゃんに天音かなたちゃん…だよね?」

 

「え、名前…」

 

「学内バトルロワイアルって参加者以外の人は観戦することができるんよ。二人のこともちゃんと見てたし学年内トップクラスの実力者なら不足もなし、悠くんが大丈夫なら二人にも頼もうかと思うけどどうかな?」

 

>「断る理由はないです。二人のことは信頼してますし、一緒に戦ったこともあるので連携もできますから」

 

 悠のその言葉にラミィとかなたはパッと花が咲いたような笑顔を浮かべる。

 信頼されているというのはどうしたって嬉しい言葉である。それを言われたのが人としても異性としても気になっている相手からであればその嬉しさもひとしおだろう。

 現にラミィは顔を赤く染めながら指先で髪をクルクルといじりだし、かなたも平静を装おうとしているが背中の羽がパタパタと動き出しその心情を露にしていた。

 

 

 

「よーし、じゃあ参加メンバーも決まったことだし、細かい話はまた後で連絡するね!団長は教室に戻ってお弁当食べてくるから!もうお腹ペコペコなんよ~」

 

 グウウッとまるで予定調和のようにノエルの腹の虫が鳴る。タハハと恥ずかし気に苦笑いを浮かべ教室を去ろうとするノエルにラミィが声をかけた。

 

 

 

「あの、突然のお願いだったのに受け入れてくれてありがとうございます!えっと…」

 

 ラミィが言葉を詰まらせたことでノエルはようやく自分がやらかしていた失敗に気が付いた。

 

 

 

「ああ、そういえばなんやかんやでまだ自己紹介もしてなかったね、失敬失敬。団長は2年生の白銀ノエル!秩序と安寧を守護する白銀聖騎士団の団長でもあるよ~。改めてよろしくね!」





走者の一言コメント
「ペッタンボンボン(遺言)」

ということで新章GW編開幕です。開幕なのでというわけではありませんがだいぶ短くなっちゃいました。
次回もよろしくお願いします。




もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part22 純白の少女②『出会いは森の中で』

連日投稿です。
本来つなげるはずの話だったので前話を読んでない方はそちらから読むことを推奨します。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 ノエルからの誘いから数日後、世はゴールデンウィークに差し掛かりノエルに悠、ラミィにかなたの計4人は学生服に身を包みはずれの森の中を歩いていた。

 わざわざ休みの日に制服を着ている理由としては学園から依頼でやってきた存在だと分かりやすくするため。それと同時にホロライブ学園の制服は耐熱、対刃など各種性能を備えた簡易的な戦闘装束でもあるからである。

 当然悠のバリアジャケットよろしくそれぞれが自分に合った甲冑や衣装などは持ち合わせているが今現在は魔法で収納していたり手荷物の中に持っていたりする。

 

 

 

「この辺は騎士団の巡回でよく回ったりするからね~。少し獣道になるけど森を抜けるための最短距離かつ会敵を極力しないような道なんだ」

 

 ガサガサッと草木をかき分ける音が響く。

 やや凸凹した道をまるで自宅への帰路をたどるかのようにすいすいと進むノエルに悠たち3人は足元に気を付けながらどうにか追従していた。

「フィジカルおばけ…」とすでに若干の疲労感が拭えないラミィがノエルを見てそう零す。やはりこういうのは経験の差なのだろう、いざという時に空が飛べるかなたや各地を転々としてきた悠と比べて雪国育ちのラミィはこういった道は不慣れなようで時折小さく躓く仕草を見せる。

 

 ラミィが転ばないようにかなたと悠が傍に立ち歩いていると、ピクリと悠が顔を上げて進行方向を見据える。

 悠が周囲の警戒用に展開していた『魔力感知』と『エリアサーチ』、2種類の索敵魔法に引っかかる何かを捉えていた。

 

 

 

>「ノエル先輩、気を付けてください。この先に生体反応が見えます。外見はイノシシみたいですけど…」

 

「ああ、この森に出るなら『ワイルドボア』だね。ちょうど食料も欲しかったしサクッとやっちゃお~!」

 

>「え、ちょ待っ!」

 

 既に腹を空かせて思考能力でも低下していたのかと言いたくなるほどのノエルの突発的な突撃は悠が止める間もなくその姿は気づけば遥か彼方に消えていた。

 マズイ、と悠は急いでストライクハートを起動(セットアップ)、即座に『バリアジャケット』と『アクセルフィン』を展開して隣にいた二人に警報を鳴らした。

 

 

 

>「ラミィ、かなた、急いで追うよ!」

 

「え、でもノエル先輩余裕そうだったよ?そこまで焦る必要もないんじゃ…」

 

>「2,3体程度ならそうだけど数が異常なんだ!軽く30は超えてるし、そのあたりから妙な魔力が漂ってる!ノエル先輩の実力は確かだけど不確定要素が多すぎる!」

 

 悠はそこまで言うとストライクハートを砲撃形態(バスターカノンモード)へと移行、ファイアリングロックを外すとすかさず砲撃を放った。

 

 

 

>「ディバインバスター!」

 

「Divine Buster.」

 

 大気をうねらせる轟音とともに撃ち出された地形破壊を可能にした一条の閃光は樹々を薙ぎ払い大地をえぐり、草木生い茂る獣道に一直線の通り道を作り出した。

 環境破壊もいいところだがパーティメンバーの危機だしこの森の樹々なら数日あればすぐに復活するので大目に見てもらいたいと悠は心の中で独り言つ。

 

 

 

>「さあ、急ごう!」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、どうすっかな~これ…」

 

 目の前に所狭しと見えるイノシシたちを見てノエルはそう零す。

 初めてできた後輩にいいところを見せようと張り切った結果がこれだ。

 依頼に行く前にもフレアから「張り切りすぎて空回りしないようにね」と釘を刺されていたのに見事にその通りになってしまって申し訳ないと同時によく知っててくれてるんだなあとわずかにニヤついてしまった。

 

 と、緊張感がなくなってしまった顔をブンブンと振って思考を切り替える。

 目の前に見えるのは茶色の体毛と重量を感じさせる体躯、そして口から見えるねじれた二つの牙。

 

 

 

「なんでこんなところに『アサルトボア』が…それにこんな数」

 

 ノエルが予想していたものとは異なる様相をした獣の名は『アサルトボア』。アサルト(突撃)の名を冠するこのイノシシ型の獣の大きな特徴はなによりその突進力にある。重い体とそれを動かすために発達した足の筋肉によって繰り出される突進はひとたび直撃すれば常人であれば骨折は免れない破壊力を秘めている。

 

 アサルトボアたちはノエルの姿を視認すると喉を鳴らし、強靭な足で一度二度と地面を蹴る。30を超える奴らが一斉にそれを行う光景はなかなかに壮観であり、威圧感で満ちていた。

 そしてノエルもまた四方を囲まれたこの現状からの撤退は不可能と判断し地に足をつけて腰に携えていたメイスをその手に取る。

 

 

 

(立地が悪いなぁ、樹々が乱立してるから動きにくい。それはアサルトボアたちも同じなんだろうけど…)

 

 むー、とノエルはへの字口を作りながら思案する。

 小回りが利く以上ノエルの方がまだマシなのだろうが、大味な立ち回りを得意とするノエルとしてはやりにくい環境だと言わざるを得ない。加えて相手には圧倒的な数の暴力という揺るぎない優位性がある。いくら歴戦の騎士といえどこの数に四方を囲まれてしまえば無傷ではすまないだろう。

 無論負けるつもりなどさらさらないが、一人で勝手に突っ込んで怪我しましたとなればそれは先輩としての威厳に関わる。今更もう遅いと心の中のフレアが呆れ顔でやれやれとしている気がするが絶対に気のせいである。

 

 

 

(ここはバシッと華麗に切り抜けてみんなを驚かせちゃる!)

 

 アサルトボアたちが一斉に突撃を開始する中でノエルはそう意気込むとゆらりとメイスを振り上げる。

 

 とった戦法はカウンターからの一撃離脱。

 一番近い先頭のアサルトボアの突撃を撃ち返して、後続の妨害とともに空いたスペースから一気に包囲網を抜け出す。

 直線的な行動しかできないイノシシ型の相手であり、かつそれを正面からパワーで打ち勝てるノエルだからこそ可能な攻略法。

 

 

 

「…え、ちょ、はっや!?」

 

 しかしここで一つ誤算が生じてしまった。

 アサルトボアの突撃速度が想像より速い。体感としては通常個体の1.5倍くらいだろうか。

 騎士団の巡回をする中でアサルトボアとの交戦は幾度となく行ってきたし、その生態も、能力も、当然最高速度(マックススピード)も把握しているつもりだった。現時点での想定外の事項こそあれどこの作戦も余裕をもってこなせると自負していた。

 

 それゆえにノエルは虚を突かれてしまった。

 重なった想定外に思考が止まる

 振ろうと思っていた腕が一瞬止まる。

 しかし当然アサルトボアたちはその足を止めることなく威圧感を押し付けるようにその体躯をノエルに向かって走らせる。

 

 

 

(これやっばい!戦況ぐちゃぐちゃになっちゃうけどせめて回避…!)

 

 タイミングが要となるカウンターはもう間に合わない。

 しかしここで回避をとれば無被害(ノーダメージ)かつ同士討ちで多少は数は減らせるだろうが、それ以上に後続のアサルトボアたちを止めることができず反撃のための体勢を整えることもできない。有利か不利かで言ったら圧倒的に不利に状況は傾くだろう。

 しかしすでに最善策(ベスト)は潰された。

 であれば、次善策(セカンドベスト)を選ぶ時だ。

 

 

 

 

 

 そう考えて突撃を躱そうとノエルが足に力を込めた刹那、瑠璃色の極光がアサルトボアの大群の一角を容赦なく穿った。

 

 

 

「…え?」

 

 突然の事態にノエルも、そしてアサルトボアたちの足も止まる。

 極光に包まれたアサルトボアは吹き飛ばされて事切れ、戦況は一気に移ろいてゆく。

 

 

 

「凍れ、『大地氷結(アイスフロア)』!」

 

 ノエルのみを綺麗に避けるように氷同士がぶつかる独特の音とともに押し寄せてきた氷の波がアサルトボアたちの足を封じる。

 声の方向を見てみると白い吐息を吐きながら水色のハーフエルフの少女が地面に手をついていた。そしてその隣には、自身の魔力を練り上げ魔法陣の光で照らされる2人の影。

 術式の構築と詠唱を終えたその2人は同時に叫んだ。

 

 

 

>「アクセルシューター…シュート!」

 

「『雷の雨(サンダーレイン)』!」

 

 少年の周りに作り出された20もの魔力球が高速かつ複雑怪奇な軌道で標的を穿つと同時に、少女の詠唱によってアサルトボアたちの頭上に展開された魔法陣から耳をつんざく音を響かせて幾重もの紫電の雷が標的を貫いた。

 肉が焼け焦げる匂いとともに断末魔を上げたアサルトボアたちはそのまま力なく倒れ、そのまま動かなくなった。

 戦闘終了を表すかのように静寂が森を包む。

 

 

 

>「ノエル先輩!大丈夫ですか!?」

 

「すぐ追いついてよかったです…!」

 

「危機一髪でしたね!」

 

「みんなぁ…後輩たちが頼もしすぎるよ~」

 

 ノエルに駆け寄ってきた3人…悠、ラミィ、かなたの登場にノエルは歓喜で表情が緩む。

 手に持った得物を降ろし3人とハイタッチを交わした。

 

 

 

 しかしそんな平穏も束の間、四方八方から聞こえてくる鳴き声に四人はすぐさま意識を切り替えた。

 

 

 

「悠くん!」

 

>「分かってます」

 

 ノエルの呼びかけに悠はストライクハートを持つ手を前に魔法を発動。

 索敵魔法の『エリアサーチ』に加えて『魔力感知』を展開、その情報をパーティメンバー全員に共有する。

 さらなる会敵は、すぐだった。

 

 

 

「BMOOOOO!!!」

 

「うええ、また!?しかもさっきより多いよ!?」

 

>「隠れてた…いや、誰かによって()()()()()?ううん、問答は後か…って、ノエル先輩!?」

 

「よいしょーーー!」

 

 

 

 カッキー――――ン!!!

 

 

 

 というホームランさながらの効果音(SE)が聞こえてきそうなほどに豪快に振られたメイスが先頭にいたアサルトボアに直撃して重量のある一頭のイノシシは天に昇る星となった。

 いつの間にか最前線に突っ込んでいたノエルはそれを見て「やり切った」と言わんばかりの笑顔。

 それとは対照的に後ろからそれを眺めた3人はみな一様に顔を引きつらせている。

 

 

 

「えぇ………」

 

 そりゃそういう反応になるだろう。

 悠はその膂力を知っていたとはいえここまでとは思っていなかったのかラミィたちとともに絶句。それと同時に登場間もなく星となった哀れなイノシシに合掌を送る。

 

 

 

「よーし、とりあえず…走ろうみんな!」

 

「は、はい!!」

 

 なんとも微妙な空気が流れるが、ここは敵に囲まれた戦場の真っただ中。

 ノエルが作り出した突破口を頼りに4人は全力疾走で森の中を駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 という経緯のもと4人は今現在閑散とした森の中をイノシシ(アサルトボア)たちに追われているわけである。

 

 当然ながら直線では人の走行速度でアサルトボアの突進速度に勝てるはずもないが、そこは木という障害物を巧みに利用して悠たちはどうにかアサルトボアたちの猛追からどうにか逃れ続けていた。

 木を避け、誘導し、敵にぶつける。ノンストップで繰り広げられる逃走劇。

 ちなみに飛行能力持ちの悠とかなたでラミィとノエルと持ち上げて回避するという手もあったのだが、この数のアサルトボアたちを放置するのは後々問題になりかねないし、結局のところノエルが誘ってきた依頼(クエスト)から考えてもここで倒しきってしまった方がいいだろうという話である。

 

 

 

 そう、ここですべて倒しきる。

 今までの逃走も、誘導も、すべてはこの一点のために集約されていた。

 

 

 

>「…そろそろですかね?」

 

「うん、ラミィちゃんの足も限界だし、()()()()()()()。みんな、この先の平地で決めちゃるよ!」

 

「っはい!」

 

「りょーかいです!」

 

 走る、走る、走る。

 それぞれが程度の違いはあれど息も絶え絶えな状況で、それでも一様に描いた勝利への道筋は揺るがない。

 

 森の樹々によって遮られていた日の光がより強く差し込んでくる。

 長時間の全力疾走で限界を訴えてくる両足をラストスパートなんだと叱咤し無理矢理動かし、四人はようやく目的地の木々が生えていない平地へと到着した。

 

 足を止め、向かい合い、残された時間で息を整えると同時に四人は内に秘める魔力を解放する。

 渦巻く魔力の波がそれぞれの魔力光を伴って風となる。

 青銀が、白銀が、群青が、瑠璃が。

 混ざり合い、紡ぎあい、風を越え、嵐へと昇華していく。

 

 

 

>「足止めは僕とラミィで」

 

「トドメが団長とかなたちゃんだね!」

 

「よーし、散々追いかけてまわしてきたツケはしっかり払ってもらうよ!」

 

「…ッ来ました!!」

 

 ベキベキベキィッ!と木々を容赦なくへし折りながら肉の巨大塊(アサルトボア)が苛立ちと怒りを乗せた形相で悠たちめがけて突っ込んできた。

 何十頭か数えるのも億劫なほどのアサルトボアは度重なる誘導によって密集してもはや一つの巨大生物に見えてしまう。

 背後からではない、正面からだからこそ感じる重圧(プレッシャー)に一瞬気負ってしまうが、隣に立つ仲間たちを見てそんなもの吹き飛んでしまった。

 

 

 

 勝つ。

 みんなとなら、敗ける気がしない。

 

 

 

>「まずは僕たちからだ、いくよラミィ!」

 

「うん!」

 

 まずは足止めから。悠とラミィが一歩前に出て、魔法陣の構築と詠唱によって解放した魔力を収束し練り上げ、各々が望む形に作り替える。

 悠が望むのは数多の危機を阻む光の壁。

 ラミィが望むのは敵の進行を阻止する氷の波。

 

 まずは悠が、魔法陣を煌めかせ星の瞳に輝きを宿し唱えた。

 

 

 

>「すべてを阻め、『ワイドプロテクション・パワード』!!!」

 

 

 

 ガアァァァン!!!

 

 

 

 とてつもない衝撃音が鼓膜を容赦なく叩く。

 悠たちの目の前に展開された視界一面に広がる瑠璃色の光の壁はアサルトボアたちの突撃を完璧に防ぎきってみせた。

 

 悠が個人的に痛感していた『防御魔法の強度』。

 ココにも、フブキにも、ホロライブ学園に来てから幾度となく破られた防御魔法の強度というのは悠の一つの課題だった。故に研究し、開発し、鍛錬し、防御魔法の種類(バリエーション)強度(ハードネス)の強化に悠は力を入れていた。

 

 『ワイドプロテクション・パワード』もその成果の一つ。

 元々持っていた『プロテクション』の派生版。使用魔力は多く発動速度にも難はあるがその分効果範囲と強度は従来のそれをはるかに凌ぐ。

 通常の『プロテクション』であれば破られていた可能性も否定できなかったため、これはまさしく悠の鍛錬の成果といえるだろう。

 

 

 

「ラミィもいきます!『大地氷結(アイスフロア)』!!!」

 

 漏れ出す冷気で息が白く染まる中、ラミィから放射状に放たれた氷の波がアサルトボアの足をからめとり、その動きを止める。

 自慢の足を封じられたアサルトボアは抜け出さんと必死に動かすが魔力によって作り出された氷はびくともしない。外からの衝撃にこそ弱いが、一度掴まえた相手は逃がさないのがこの魔法(アイスフロア)の真骨頂である。

 

 足止めは完璧。故に、()()()までは速かった。

 

 

 

「悠くんにラミィちゃんさっすが!ボクも続くよ!」

 

 かなたがそう言うと同時にアサルトボアの上空に大きな魔法陣が展開される。

 既にその魔法陣から抑えきれない魔力が変換された雷となって帯電している。

 

 

 

「轟け雷よ!『雷環の計(サークレットサンダー)』!!!」

 

 かなたが唱えると魔法陣から円環状の雷が現れアサルトボアを縛り付ける。その刹那、雷撃音を響かせ円環の雷が放電(スパーク)、範囲内の敵全てに感電してダメージを与えていく。

 『雷の雨(サンダーレイン)』ではすべての敵に有効打を与えられないからこその選択、倒すことこそ叶わなかったがこの攻撃は確実に次へと繋がる一打となった。

 

 それを見たノエルは「ふっ」と息を漏らして跳躍する。

 携えたメイスを両手で握りこみ、狙いすますはアサルトボアの群れのその中心地。

 

 

 

「団長も負けてられないんよ。砕け、『大地砕破(アースインパクト)』!!!」

 

 ノエルが魔力を纏ったメイスを叩きつけた瞬間、大地が爆ぜた。

 ノエルと中心点として地面が砕け、隆起し、砕けて尖った大地がラミィの大地氷結(アイスフロア)の氷ともども敵を穿つ刃となってアサルトボアに襲い掛かる。

 衝撃波と大地の刃による二重攻撃(ダブルアタック)。既にかなたの『雷環の計(サークレットサンダー)』によって瀕死寸前まで追い込まれていたアサルトボアに耐えられるはずもなく、そのすべてが地に伏して動かなくなった。

 

 

 

「…ふう、今度こそ終わり…かな?」

 

>「『エリアサーチ』も『魔力感知』も隠れている反応はないよ。一段落はしたと思う」

 

「はあぁ、よかったあ…」

 

 1年生組3人が勝利で安堵の表情を浮かべる中、ノエルがポツリと疑問をこぼした。

 

 

 

「それにしても…どうしてこんなに…?」

 

>「どういうことですか?」

 

 ムムムと呻きながら考え込むノエルに反応したのは悠だった。

 ノエルは会敵からずっと抱いていた想定外の事項を共有する。

 

 

 

「アサルトボアって本来の生息地はココじゃないんよ。それに、アサルトボアは一匹で行動する習性がある」

 

「え、でも…」

 

「うん、だからこその疑問。今回戦った個体は群れで行動して、その動きもどこか統率されていた」

 

 悠はその疑問に同意すると同時に、アサルトボアにどこか命令が組み込まれていたようにも感じていた。

 イノシシは雑食だ。当然強い個体であれば人を糧とすることもあるだろうが、それにしても敵対行動をとっていないノエルにあそこまで敵意を剥き出しにしていたのは妙である。

 縄張りに踏み込んだからだと言われてしまえばそれまでだが、それにしてもあそこまで自分たちが力を見せたうえで縄張りから離れても追いかけ続けてきたというのが引っかかる。

 防衛本能としては逃亡する個体がいてもおかしくなかったはずだ。現に今まで悠が戦ってきた魔獣たちもそういったやつは存在していた。

 

 

 

>「まあここで解けない疑問を持っても仕方がないし、それも依頼者に聞けば分かるかもしれない」

 

「そうだね、ひとまず一掃はできたことだし村に向けて再出発…!」

 

 ガサッと、草むらが揺れる。

 その瞬間、4人は警戒状態に移った。

 何が来てもいいように、即座に対応できるように。

 

 ガサガサッとさらに大きく草むらが揺れて、そして

 

 

 

 

 

>「………女の子?」

 

「………。」

 

 純白の少女が、そこに立っていた。





走者の一言コメント
「あああ誰だその子見たことないんですけど!?」

ということでキーマン登場です。
今後どういった展開になるのかどうかお楽しみに。






もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part23 純白の少女③『ガルナ村』

少々お久しぶりです!

なんやかんやでこの章のキーマンと遭遇。
この出会いがどう物語に影響するか、お楽しみにしていただけたらと思います!






それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 草むらから出てきたのは一人の少女だった。

 

 見た目の年齢は10歳に届かないであろう程度でラプラスと似たり寄ったりといったところか。

 着古したような白いワンピース一枚に森の中を歩いてきたからなのか至る所に葉っぱや泥がついておりハッキリ言ってしまうとみずぼらしいと言う他ない服装。

 しかし、それでもなお『無垢』だと感じさせてしまう穢れなき長い白髪と少女特有のクリっとした眼。

 そんなどこかアンバランスな純白の少女(イノセントガール)

 

 少女に宿るこの世のものとは思えない淡い虹色に縁取られた銀の瞳は、まるで己を写し取る鏡のようで。

 その瞳と目が合った悠は、その瞳を通じて己のすべてを見透かされたかのような錯覚に陥った。

 

 

 

 ドクンと心臓が脈打つ。

 恐怖ではない、畏怖でもない。

 それでも、こちらをじっと見つめてくる目の前の少女から感じる()()()に、悠は言葉を発せずにいた。

 

 

 

 葉擦れの音だけが響く静寂の中、最初に口を開いたのは少女の目線まで体を下げたノエルだった。

 

 

 

「お嬢ちゃん、一人?迷子かな?」

 

「………」

 

 ふるふる、と首を横に振る。

 そのやり取りにようやく我に返った悠は隣にいたラミィとかなたにアイコンタクト、コクリと頷いた二人とともに少女とノエルの元に近づく。

 

 

 

「こんにちは!お名前言えるかな?」

 

「なまえ……マシロ」

 

「マシロちゃんか~、ボクは天音かなただよ、よろしくね!」

 

 満面の笑みで差し出されたかなたの手を少女───マシロはおっかなびっくりといった様子で握る。

 このかなたの社交性は見習わないとなとそれを見た三人はふっと笑みをこぼした。

 

 

 

「こんにちは。マシロちゃんはどこから来たの?」

 

「えっと…ガルナ村…から……」

 

>「!」

 

 ラミィからの質問に対して少女から出てきた思わぬ単語に四人は顔を見合わせる。

 ガルナ村とは先の依頼(クエスト)の依頼先であり、悠たちが目指している村の名前だ。

 ついでに言ってしまうと悠たちはアサルトボアたちに追いかけられた影響で今現在迷子中。不幸中の幸いというべきかなんというべきか、渡りに船を得た一行は首をかしげているマシロに訊ねる。

 

 

 

>「マシロちゃん、僕たちも今ガルナ村を目指してたんだ。だけどトラブルでちょっと迷子になっちゃって…。もしよかったら村まで案内してもらえないかな?」

 

「………」

 

 コクリ、とマシロが頷く。

 

 悠の言葉の中に隠されたのは二つの意図。

 たしかに悠たちは迷子だったのは事実だが、それでもはずれの森の地理に詳しいノエルに加えて『エリアサーチ』で周囲の状況を先読みできる悠がいれば時間さえかければ特に問題なく村までは辿り着ける。

 それでもなおマシロに案内を求めたのは当然理由がある。

 

 ひとつはマシロの護衛だ。

 当のマシロがどうやってこの森の中を獣たちに一切襲われずに来れたのかは謎だが、こんな幼い少女が一人で歩くのはこの森は物騒が過ぎる。ただでさえ予期せぬアサルトボアの出現があり今後どういうイレギュラーが起きるかなんて予想できない現状で、悠たちは幼き少女(マシロ)を放っておくという選択肢などとれるわけがなかった。

 

 もう一つは村に入るまでの情報収集だ。

 ガルナ村からの依頼は『村周辺で出現するようになった獰猛な獣たちの駆除』。

()()()()()()()()()()という文言から察するに最近になってそういう状況になったのだろう。環境の変化か、生態系の変化か、あるいは人為的なものなのか。現状で原因が分からない以上どんな小さなことでも手に入れられる情報は耳に入れておきたい。ガルナ村の出身であり森を闊歩していたマシロならあるいはそういった情報を持っているかもしれないという理由である。

 

 

 

「それじゃあ改めてガルナ村に向けて、しゅっぱーつ!!!」

 

「おー!!!」

 

「お、おー!」

 

>「おー!」

 

「……おー?」

 

 絶妙な息の揃わなさだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>「…で、なんでこうなってるんだろう…」

 

「…重い?」

 

>「ああいや、そんなことないよ。大丈夫」

 

「一番なつかれちゃったね~悠くん?」

 

 それぞれの自己紹介もほどほどにマシロもいるということで獣道ではなく最低限の舗装がなされた森の道を一行は歩くその最中で、悠は肩にマシロを乗せながら…いわゆる肩車の状態でなんとも微妙な表情で歩みを進めていた。歩き出そうとした際にマシロに服を掴まれた結果である。

 その表情から浮かび上がるものはただひたすらの疑問。

 とても初対面とは思えないマシロのなつきように「どこかで知り合ってたっけ?」と頭に乗せられたマシロの手の温かさを感じながらグルグルと思考するが思い当たる節はなく。

 まあ目が合った時の不思議な感覚は未だに気にかかるところではあるが子どもは決して嫌いじゃない。

 真っ先になついてきたのも子ども特有の感性ゆえなのだろうと結論付けた悠はマシロを落とさないようにしっかりと固定しながらかなたとともに会話を広げる。

 

 

 

「そういえば、マシロちゃんはどうして森の中にいたの?」

 

「…探しもの、してた…」

 

「探し物か~、もう見つかった?まだならボクたちも手伝うよ!」

 

「ううん、もう…見つかったから…」

 

 キュッとマシロは悠の頭に乗せていた手に力を込める。

「?」と悠が上を見上げてマシロを見るがマシロの表情は変わらず悠をじっと見つめ返すのみ。つかみずらい印象の子、といった感じである。

 

 

 

「…みんな、は…?」

 

>「僕たちはガルナ村からお願いされてこの森の調査に来ていたんだ。最近急に危険な獣たちが出てきたからってね。マシロちゃんは何か知らない?」

 

「……知ら、ない…」

 

「そっか…ありがとうねマシロちゃん」

 

 まあ予想はしていたことだと悠たちは特に落胆した様子は見せない。

 なんにせよ今するべきことは第一にマシロを安全に村まで送り届けること、そして次に依頼(クエスト)の達成だ。

 

 道の誘導はノエルとマシロに任せて悠は索敵魔法の『エリアサーチ』と『魔力感知』に集中する。

 マシロたちを危険には晒させない。守ってみせる。

 それが自分の為すべきことだと誓いを胸に秘めつつ『エリアサーチ』の視点を変え、『魔力感知』の範囲を広げる。いつ何が来てもいいように、ストライクハートに魔力を込める。

 

 

 

「…あ、おねえちゃん、危ない」

 

「へ?…うわっきゃあ!!?」

 

 

 

 そう考えている間にマシロがかなたに声をかけた瞬間、悠たちの隣からかなたの姿が掻き消えた。

 

 

 

>「…は?」

 

「…え?」

 

 突然の事態に悠も、そして前を歩いていたノエルとラミィも時間が止まったかのように立ち止まり言葉をなくす。

 

 

 

>(…ッ!敵か!?守るって誓ったそばから…くそ!)

 

 悠は思わず歯ぎしりを立てながら右手のストライクハートを強く握りしめる。

 あんなことを誓っておいてなんてざまだと己の非力さを嘆くが、歯をかみしめてすぐさま行動に移る。

 連れ去られたのかどうかは分からないが、まずなにより最優先なのはかなたの居場所の補足。今ならまだ間に合うかもしれないと索敵魔法に意識を向けつつ呼びかける。

 

 

 

>「かなた!!!どこに…って……」

 

 

 

 見つけた。

 それはもう思いの外ずっと早く。

 『エリアサーチ』によって悠を中心に展開されていた索敵機(サーチャー)のすぐそばで。

 それすなわち

 

 

 

「も~、なんなのこれぇ…!」

 

 悠たちの頭上である。

 なんとも弱々しい声が悠たちの頭上から聞こえてくる。

 悠たちが上を見上げてみると案の定かなたがそこにいた。

 

 体を上下逆にした状態で突然のことで天使の羽を使う暇もなかったのか脱力した状態。そんなかなたの足には地面の保護色になっていた茶色のロープが絡まっており、それがこの状態になってしまった原因だと察した。

 なんとも古典的なロープトラップである。

 村人が食料を確保するため仕掛けたものだったのかは定かではないがひとまず命の危険などがなかったことに安堵した悠だったが、ふと()()()()に気づいてしまい即座に索敵魔法を消してかなたから視線を背けた。

 

 

 

「?どうしたのさ悠くん、急にそっぽ向いて。助けてほしいんだけど~」

 

 そんな行動を疑問に思ったのかかなたから質問が飛んでくる。

 バタバタと手足を動かしながら暢気に懇願する。頼むからやめてほしい無防備にもほどがある。すでに手遅れ感は否めないが気付かず見続けていれば間違いなく(悠が)大惨事だったところだ。

 

 ホロライブ学園の女性用の制服は当然ながらスカートである。

 そしてかなたは現在体が上下逆の宙ぶらりん状態。そんな体勢で足をバタつかせてしまえばどうなるかなんて明らかだろう。なんなら上も捲れてへそまで丸見えである。

 

 

 

「ちょ、ちょっとかなたちゃん!足、足閉じて!!!」

 

「へ?………~~~!?!?」

 

 事態にようやく気付いたラミィが急いで警鐘を鳴らす。

 かなたはそれを聞いて自分の状況を確認すると、一瞬で顔を真っ赤にして片手でスカートを押さえた。

 

 

 

「こ、こっち見るなバカァ!!!」

 

>「理不尽な!?」

 

 かなたが呼び出した己の身の丈を大きく超える槍斧(ハルバート)を滅茶苦茶に振り回す。幸いというべきかかなたは結構な高さまで吊り上げられていたのでその凶刃が悠に届くことはなかったが、かなたが落ち着きを取り戻すまでに結構な時間をかけてしまうことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…着いた」

 

「お~、案内ありがとう、マシロちゃん」

 

 トラブルこそあれどそこからは会敵もなく一行は無事に『ガルナ村』まで到着した。

 第一印象としては「思ったより古い」といったところだろうか。

 

 現世の中でもホロライブ学園を擁するこの都市は控えめに言っても時代の一つどころか二つも三つも先を行ってると言ってもいいだろう。

 近代化に加えて幽世、天界、魔界につながる歪みを集中させたこの都市はあらゆる世界のあらゆるものが集まってくる。

 それは人材であり、技術であり、物質であったりと様々だ。

 そしてそれゆえにこの都市は発展し、大きくなり、今のような形を成している。

 

 そしてこのガルナ村は言ってしまうとそのようなものの影響を受けなかった地区なのだろう。

 村を囲う柵は傷つき幾度もの修繕の跡があり、建てられている家もその全てが木造でこじんまりとしており、機械の類は殆ど見受けられない。

 よく言えば「歴史を感じる」、悪くいってしまえば「時代に取り残された」村のようであった。

 

 

 

 ひとまず門番のような者もいなかったので悠たちはガルナ村へ足を踏み入れる。

 瞬間、数多もの村人たちの視線が遠慮なく悠たちに集まった。

 当然と言えば当然なのだろう。

 見る限りガルナ村は他との交流をほとんど行っていないのだろう。完全に自給自足での生活なのであろうことは村を見れば大体の予想はできる。

 こういった村は村人たちの結束が強い反面外部の人間に対しては排他的な印象を持ちがちである。現に悠も両親と幾度の引っ越しをしてきた中でそういったことを経験してきた。

 だが…

 

 

 

>(なんだ、この視線…排他というよりも…畏怖…?)

 

 村人たちの視線に宿る感情がなんとも不可解である。

 排他的な視線もあるにはある。だが、それよりもより強く感じるのは畏怖や恐怖…すなわち()()だ。

 

 

 

「ねえ、どうしてアレが…」

 

「なんで村に入ってきてるんだ…」

 

 村人から聞こえてくる声は知らないことを恐れるものではなく()()()()()()()を恐れている類のものだ。

 しかもその視線が

 

 

 

>(マシロに向いてる…?)

 

 その視線の行き先は今現在悠の肩から降りて手をつなぎながら隣を歩いているマシロである。どう考えても同じ村の人間に、それもこんなに幼い少女に向けるべき目線ではない。

 そして当のマシロは顔を俯かせてぎゅっと悠の手を強く握りしめていた。

 まるで離れないでというように、仲間はずれにしてほしくないというように。

 悠はそれを見ると痛くならない程度にマシロの手を握り返した。少しでも安心できるようにと、そう願いながら。

 

 

 

「…ねえ、なんなの、この雰囲気」

 

「あんまり、気分はよくならないですね…」

 

 かなたとラミィは揃って顔を顰める。

 村の外から来た以上自分たちは部外者だ。依頼とはいえ決して村人たちから好意的な目を向けられるわけではないと理解はしていたが、ここまであからさまに、それも自分たちだけではなく年端もいかない少女であるマシロにまでこんな感情を向けられていることに心がざわついてしまう。

 

 

 

「うん…気にはなるけどまずは村長のところに話を聞きに行こう。マシロちゃんは…」

 

「………」

 

 マシロは悠の手を握る力をさらに強くしながら離れようとしない。

 そしてそれが何を意味するかが分からない人は、この中にはいなかった。

 

 

 

>「一緒に連れていきましょう。村長なら何か知ってるはずですし、何かあったらマシロを連れて村の入り口で待ちますから」

 

「…そうだね、それでいこう」

 

 ノエルはそこで言葉を切るとマシロの目線まで体を下げてその白く穢れのない髪を優しく梳きながら微笑む。

 

 

 

「大丈夫だよ、マシロちゃん。何があっても、お姉ちゃんたちが守るからね」

 

 マシロはその言葉にゆっくりと顔を上げて、不安で顔を歪ませながらもひとつ頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、ようこそお越しくださいましたホロライブ学園の皆様方。どうぞおかけになってください」

 

>「………どうも」

 

 村人たちからの視線を耐えつつ出迎えられたのは村の中でもひときわ大きな家だった。一目見て村長の家なんだなと分かってしまう程度には大きく、そして年代を感じさせられた。

 おそらく護衛なのであろう革の装備で武装した人たちの案内の元、そんな皺がれた声を発したのは一人の老人。

 椅子に腰かけこちらを見据えるその姿は一つの村を束ねる長に相応しい貫禄があった。

 

 対して悠たちの表情は硬いままだった。

 緊張…というものなくはないがやはり一番の原因は護衛たちのその不躾な視線だった。

 先程の人たちよりも露骨な、もはや人としてすら見ていないような圧倒的な畏怖と嫌悪。しかもそれを隠すつもりもない様子に悠たちは気分がどんどん悪くなってしまう。

 しかし依頼は依頼だと割り切ってここまで来たんだ。いざ話を聞こうと席につこうとして、しかしそこで待ったがかけられた。

 

 

 

「ああ、依頼の話の前に一つよろしいですかな?」

 

「…なんでしょうか?」

 

「なぜ、()()を連れているのでしょうか?」

 

>「……!?」

 

 ビクッと、マシロの体が跳ねる。

 途端、場の空気が一気に冷え込んだかのような静寂に包まれた。

 悠たちを…マシロを見る村長の瞳はどこまでも冷たく、そこには一切の感情が宿っていないかのようだった。

 

 そして決定的だったのは村長が放った「()()」という呼び方。

 マシロと村人たちとの間に何があったのかなんて悠たちは知らないし、想像もできない。だけれども、人と人とも思わないような。いや、実際に思っていないとも言いたげなその物言いに、心優しき彼女たちが我慢できるはずもなかった。

 

 

 

「…っなんですかその言い方は!?マシロちゃんがどんな…!」

 

「待ってかなたちゃん」

 

「ノエル先輩、でも…!」

 

 ノエルに肩を掴まれるがかなたは止まろうとしなかった。肩に乗せられた手を払いのけて村長に掴みかかろうとして、そして、ノエルの手が震えていることに気づいた。

 

 表情に変化はない。

 でも、その震える手はノエルの心情を雄弁に語っていて。

 それが分かってしまったから、かなたはやるせない気持ちのまま伸ばした手が止まってしまう。

 

 

 

「お願いだから。分かってるから…!」

 

「かなたちゃん…」

 

 そんな悲痛なノエルの声とともに隣にいたラミィがかなたの伸ばされた手を優しく包んで下ろした。

 ここで掴みかかってしまえばこれまでのすべてが台無しだ。

 ここまでの道のりも、先ほどの戦闘も。

 そして何より、こうなることが分かっていたであろうにも関わらず自分たちをここまで案内してくれたマシロの勇気と頑張りが。

 

 マシロは分かっていたはずなのだ。

 恐れられることも、嫌悪されることも、残された唯一の肉親にすら突き放されることも。

 決してそれが怖いわけじゃない。怖いはずなのだ。

 体は震え、幼い顔には影が差し、その綺麗な銀の瞳は防衛本能のように外界の情報をシャットアウトせんと強く瞑られている。

 

 ガルナ村という隔絶された狭い世界の中でのそのような扱いは本人からすれば世界そのものから拒絶されたようなものだ。

 そんな世界に再び自分から足を踏み入れるということがどんなに勇気がいることか。

 出会ったばかりの悠たちのためにありったけに勇気を振り絞ってくれたマシロのそんな姿を見て、悠はマシロを抱きしめた。

 

 

 

 ここにいるよと伝えるように、一人じゃないんだと訴えかけるように。

 

 

 

 マシロの震えが少しずつ収まっていく。

 全身を包み込むように伝わってくる温かさが恐怖を溶かしていく。

 まるでゆりかごの中にいるかのような安心感に包まれて、マシロはそのまま意識を夢の中に落としていった。

 

 わずかな寝息が腕の中で聞こえてくる。

 悠はマシロをしっかりと抱きかかえると踵を返す。

 

 

 

>「ノエル先輩、僕はマシロちゃんと一緒に入口で待ってます。かなた、一緒に来てもらっていい?」

 

「…うん、分かった」

 

「よろしくね。悠くん、かなたちゃん」

 

 悠はかなたが付いてきたのを確認すると歩き出す。

 部屋を出る際に護衛の二人と目が合う。その瞳には畏怖や嫌悪の他にわずかな困惑の感情。「なぜソレを庇うのか」という心情がありありと表れており、悠はそれに対して目を細めて睨みをきかす。

 護衛の二人がかすかに動揺したのを見ると、視線を外してかなたとともに村の入り口まで歩を進めていった。

 

 

 

 

 

 やけに静かに感じる村の中を二人分の足音だけが鼓膜を揺らす。

 かなたは自分がやろうとした行動の浅はかさに意気消沈しながら僅かに目を伏せて先に歩き出した悠を追従していた。

 

 

 

>「…ありがとう、かなた」

 

「…?」

 

 突如として言われた悠の言葉の意図が理解できなかった。

 罵倒されるならともかく、お礼を言われることなんてなかったはずだ。感情に任せて依頼人に掴みかかろうとして、迷惑をかけて。仮にも学園の代表としてきているにもかかわらずその信頼を損ねようとした。

 後悔したかと言われればそれはないと自分は返すのだろうが、それにしたってもっとやり方があったはずなのだ。

 

 なのに、どうして悠くんはお礼なんて…

 そんな感情が顔にでも出ていたのか、かなたの顔を見た悠はどこか張り詰めていた表情を緩めて二の句を継いだ。

 

 

 

>「かなたが動いてなきゃ、多分僕も同じことをしてただろうからね。だから、こう言っちゃいけないんだけど…嬉しかったんだ。同じように思ってくれていたことが」

 

 だから、ね。

 そう言って悠はあははと空いた片手で軽く頬を掻く。恥ずかしいことを言ったとでもいうように視線をかなたに合わせようとせず背中に背負ったマシロや周囲に向ける。

 

 それがなんだかおかしくて、嬉しくて。

 

 悠の隣まで歩を進めたかなたに先ほどまでの意気消沈した暗い顔はなく、喜色を抑えきれない笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「…こっちこそありがと、悠くん!」

 

>「どういたしまして、でいいのかな?」

 

 そうして軽く話し合いながら歩き続けること数分、気づけば二人は来た道を歩ききりガルナ村の入り口まで戻ってきていた。

 今頃ノエルとラミィの二人は村長から話を聞いてる頃かなとかなたが考えていると、隣にいた悠がマシロを背中に抱えながら器用にネックレスにしていた待機形態(スタンバイモード)のストライクハートを杖形態(アクセルモード)にしていた。

 ストライクハートを正中に構えて固定している悠の瞳はどこか遠くを見ているようで、かなたは咄嗟に声をかける。

 

 

 

「悠くん?何やってんの?」

 

>「え、ああ。ちょっとした仕込みの成果の確認。かなたにも見れるようにするよ」

 

 キィンと瑠璃色の魔力が二人の前で発光したかと思うと、そこにはそこには半透明のスクリーンが現れていた。

 そこに映っていたのは木製の家具で構成された一室。和洋折衷というよりかは使えるものをとりあえずかき集めたような不統一感のある作り。

 というより、かなたはこの光景に見覚えがあった。昔とかそんな話ではなく、ついさっき同じものを見ていたはずだ。

 

 

 

「これって、村長さんの部屋?」

 

>「そ。部屋を出る前に護衛の人たちにばれないようにこっそり『エリアサーチ』を仕掛けておいたんだ。ノエル先輩に先に話をしておいて、先方が大丈夫そうだったら遠隔で発動するって予定でね」

 

 そうしなきゃやってることただの盗撮だしね、とわずかに苦笑しながら悠は見やすいようにスクリーンの位置とサイズを調整する。

 これが見れているということはつまり先方(村長)の許可がとれたということだ。正直現時点であの老人に対してよくないイメージが先行しすぎていてこの許可がとれたことも不思議でならないのだが、依頼の詳細は聞かねばならないだろうと切り替えて二人はスクリーンに注目する。

 そして二人が目にしたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本当に申し訳なかった!!!』

 

『ちょ、ちょっと落ち着いてください…!』

 

『え、ええと、ええっと………!』

 

 

 

「…はい?」

 

 まるでお手本のような綺麗な土下座で謝罪をする老人とそれをどうにか諫めているノエルとラミィの姿だった。

 





走者の一言コメント
「うーむ不穏も不穏。私だったら護衛を殴り飛ばしてましたね(いい笑顔)!」

ということで読了ありがとうございます!
いやー重い、重いですよこれは…

あ、ストックがありますのでまた翌日更新となります。
公開は19時予定です!




もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part24 純白の少女④『悪魔の子』

書くことが特にありませんでした。(ド直球)





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

「改めて、依頼を出させていただきましたガルナ村村長の相良(さがら)クロナです。この度は依頼を受けていただいて、そしてマシロを…儂の孫を助けてくれて、ありがとうございます」

 

 2人の護衛は家の前で待機させており部屋の中には村長とノエルとラミィ、そしてスクリーン越しの悠とかなただけ。

 備え付けられた椅子に向かい合うように座ると、クロナと名乗った老人が再び深く頭を下げた。

 

 そこに虚偽の感情は見られない。

 ただひたすらの感謝と安堵。先ほどのマシロを見ていた氷のような冷たい瞳はどこへやら、悠の背中で未だに眠っているマシロを見る瞳は温かさを感じる柔らかなものだった。

 そのあまりの変化に悠たちは戸惑いを隠せない。

 

 畏怖や嫌悪はないのか?

 先ほどのマシロを見る瞳は何だったのか?

 どうして、今こうやって頭を下げているのか?

 

 未だに何も言葉を発さない悠たちを見て大体の心情を察したのか顔を上げたクロナはあくまで冷静に言葉を続ける。

 

 

 

「重ねて申し訳ない。立場上、あの二人(護衛たち)がいる前では下手なことは言えないものですから」

 

「それは、どういう…?」

 

「そうですね、依頼の話の前にマシロと、この村の現状についてお話しすることにしましょう。彼女はまだ眠ったままですね?」

 

>『え、ええ……』

 

 スクリーン越しのかなたと悠がマシロを見て頷く。

 クロナは悠たちに嫌悪されるであろう胸糞悪い話に苦い顔をしながらもその重い口を開いた。

 

 

 

 

 「『悪魔の子』と、あの子はこの村では呼ばれています」

 

「悪魔…ですか?」

 

「ええ、みなさんもすでに理解しているとは思いますが、あの子…マシロはこの村において迫害の対象になっています」

 

「それは…はい」

 

 苦い顔で悠たちは頷く。

 村に入ってからクロナの家に入るまで、齢10にも満たないであろう幼い少女が村人という村人全てに畏怖と嫌悪を向けられるその光景は、間違いなく異常なものだった。

 それは個人の感情にとどまらない、村全体の共通認識の感情であることに他ならない。

 

 マシロは嫌悪されて当然だと、そうあってしかるべきともはや魂に刷り込まれたような狂気。

 

 

 

「そうなった原因はいくつか存在しますが、その中でも大きいものはガルナ村の環境と…そしてマシロの眼にあります」

 

「…!」

 

「『魔眼』というものは…あの学園にいる者ならご存じですね?」

 

 

 

 魔眼。

 それは読んで字の如く、魔の力を秘めた特別な目のことを指す。

 その瞳自体に特有の魔力回路が存在し、魔法陣や詠唱といった魔法を扱ううえで必要な過程を飛ばして魔法を行使、あるいは『視る』ことで超常的な現象を引き起こすことができる先天的な特異体質。

 持ち主がその力に気付くのに時間の違いはあれど先述の通り先天的…つまりは生まれながらにして持つものでありそれを人工(後天)的に生み出した例は今現在でもただの一つとして存在しない。そのためその希少性は極めて高く、『魔眼持ち』と呼ばれる存在は常に表裏を問わずその類の研究者たちから標的とされており、表立って有名な魔眼持ちはほぼいないと言っていいだろう。

 

 有名なもので言えば見たものを石化させる「メドゥーサの眼」などが挙げられ、ホロライブ学園においても魔眼持ちはごく少数ながら存在する。

 

 

 

>『それって、まさかマシロちゃんも…!?』

 

「…その通りです。マシロもまた『魔眼』の持ち主なのです」

 

 悠たちはマシロを見ると息を吞む。

 クロナはそれを見ながらもあくまで冷静に続ける。

 

 

 

「マシロの魔眼の能力は『未来視』。その名の通り視たものの未来を見ることができる、魔眼の中でも破格といっていい代物です」

 

『っあ…!』

 

 それを聞いて一同は思い出した。

 森の中を歩いていた時のマシロのとある発言。

 

 

 

───…あ、おねえちゃん、危ない。

 

 

 

 あのマシロの発言の直後、かなたはロープトラップに引っかかってしまった。

 そのときはかなたを探すのに必死で深くは考えていなかったが、今思えばそういうことかと納得した。

 あの後悠が『エリアサーチ』で調べてみたところ、悠たちが通った道にはかなたが引っかかったものと同様のトラップがいくつも仕掛けられていた。その中には偶然引っかからず通り過ぎていったものもあり、もしマシロがトラップの存在を知っていて警告を飛ばすのであればかなただけでなく全員に向かって言っていたはずだ。

 

 つまり、マシロにはかなたがロープトラップに引っかかるという『未来が視えていた』のだろう。

 それ故の、あの発言。

 

 

 

「どうやら身を以て知っていたようですね」

 

「…はい」

 

「子どもというのは純真です。分かっていても抑えるべきことがあるということをまだ知らない。そしてそれが…もう一つの理由につながります」

 

 そこで言葉を切ったクロナは一層顔をしかめる。

 同情、哀れみ、無力感。あらゆる感情で押しつぶされたように影が差した表情をするが、意を決してクロナは表を上げる。

 

 

 

 

 

「それこそがこのガルナ村の根幹をなすとも言っていい…閉鎖環境故に育った圧倒的な内輪主義です」

 

『…っ!』

 

 それを聞いた瞬間、悠たちの脳内にフラッシュバックしたのは村を訪れた悠たちに向けられた村人たちの視線。

 村人同士小声で話しながら向けられたのは排他的な感情。

 それは好き嫌いの類のものではなく、自身の仲間以外の存在を()()()()というものだ。

 そこに個人の感情が付け入るスキはない。仲間という境界線は周囲の環境によって形作られる絶対的な線引きなのだ。

 しかしそういうことだと疑問が残る。

 

 

 

>『でも、村長(クロナ)の孫であるマシロちゃんもガルナ村の出身なんですよね?内輪主義ということなら村長さんが入っててマシロちゃんがそこに入っていない理由は一体…』

 

「…簡単な話です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「っど、どういうことですかそれ!?」

 

 クロナから放たれたあまりにもな事実にラミィが思わず立ち上がり声を荒げる。

 しかしそんな反応も当然だろう、ラミィがそうしたおかげで抑えられたが悠たちも思ったことはラミィと同じだ。仲間であったが外された、つまりは外されるだけにナニカがあったと考えるのが妥当だろう。

 その答えを示すように、クロナは席を立ち棚の中から一つの写真立てを手に取った。

 クロナはそれを悠たちに見えるようにテーブルにかけ立てる。

 

 そのに映っていたのは四人。

 一人の老人と二人の若い男女、そしてその女性に抱きかかえられている一人の子ども。

 

 

 

「それって、村長さんとマシロちゃんですか?」

 

「ええ、今から3年ほど前の写真です。儂とマシロ、そして残る二人の名前は相良グレイと相良ユウリ。儂の息子と義娘であり、マシロの両親です」

 

 写真を見つめるクロナの表情は柔らかく、それと同時にどこか悲痛なものだった。

 誰も言葉には出さなかったが、()()()()()()なのだろう。

 悠たちは静かにクロナの言葉を待った。

 

 

 

「…そんな二人が亡くなったのは1年前。義娘のユウリはガルナ村の外から嫁入りした子で、旅行が大好きな子でした。家族水入らずでの旅行中の事故だったそうで、帰ってきたのはマシロ一人でした」

 

>『………』

 

「生まれがこの村のグレイはもとより、嫁入りで入ってきたユウリもとても気が利く子で村の人気者でした。それこそ、村人全員が二人の死を嘆き悲しむほどに」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして…その感情がすべてひっくり返ってしまった要因が、マシロの『未来視』の発現なのです」

 

 拳を固めて体を震わせる。

 それは己の無力をかみしめるように、起こってしまった現実を受け入れたくないと言うように。

 

 

 

「っ、どういう…ことですか?」

 

「見ればわかる通りガルナ村は古く、その思考は極論を言ってしまうと村の外から入ってきた儂やユウリからすれば前時代的でした。他者を認めず、変化を恐れる。そして、仲間を奪ったものを認めず、理解が及ばぬものを恐れて、排斥したがる。

 

 これは時代に残されたものの防衛本能です。理屈じゃない、古くから刻まれてしまった負の遺産。決して取り除くことのできない思想という名の傷跡(タトゥー)」 

 

『ちょっと待ってください!それって…!?』

 

 クロナの発言に割って入ったのはかなただった。

 この先の発言が予想できたから、できてしまったから。

 しかしそれはあまりにもマシロにとっては残酷で、無情で、無慈悲で。

 そうじゃなくあってほしいと願う中で、しかしクロナの表情がそれを完膚なきまでに否定してくる。

 

 

 

 

 

「…マシロの『未来視』を恐れた村人たちは、『そんな眼がありながらグレイとユウリを守れなかったのか』と、『お前が殺したも同然だ』とマシロを責め始めたのです」

 

「そ…そんなのただのこじつけじゃないですか!?大体『未来視』と事故に何の関係があるって…!」

 

「ええ、ただのこじつけです。そもそもマシロが『未来視』の力に気付いたのだって二人が亡くなった後のことで、関連性なんてあるはずもない。でも…村人たちにとってはそんなのどうでもよかったのですよ」

 

「…理由付けが欲しかった…ってことですか?」

 

「…はい。二人は事故死です、責める相手なんていない。だが村人たちは怒りを、悲しみを何かにぶつけたがる。そんなときに自身の理解が及ばない魔眼(モノ)を持った存在が亡くなった二人のすぐそばにいたのだとしたら…」

 

『…怒りの矛先がそこに向かってしまう……』

 

>『そんなの…』

 

 

 

 そんなのあんまりじゃないか。

 誰よりも嘆き悲しみたいのはマシロのはずなのに。

 それすらも許されない負の嵐。両親を亡くし、暖かな場所が奪われ、残されたのは祖父と得体のしれない魔眼(望まぬ力)だけ。

 

 

 

「儂はマシロを連れてすぐに村を出ようとしました。しかし、村長という立場がそれを許してはくれなかった」

 

>『それが…護衛の前でのマシロの態度ということですか』

 

「罵られても何も文句は言えません。事実儂はマシロにそれだけのことをしている。表立って庇えば長がいなくなりこの村は崩壊し、かといって村の意識を変えるだけの力が儂にはなかった。あの護衛たちも、半分は儂の監視のためなのですよ」

 

「…マシロちゃんは、今どうやって暮らしているんですか?ここで暮らしてるわけじゃないですよね?」

 

 ノエルがそう切り出す。

 少なくとも村の中で暮らせるような状況ではないだろう。だがマシロは「ガルナ村から来た」と言っていたはずだ。

 であれば村に隣接したどこかなのか、送り届ける以上それを知る必要がある。

 

 

 

「…今は村を囲う柵の外側、はずれの家屋で暮らしています。一人ではなく、とある老人と一緒に」

 

「…?それはガルナ村の人…ではないですよね?」

 

「ええ、今から半年ほど前に村にここに住まわせてほしいと一人の老人がやってきたのです。本人は村人の前では名前と遭難した経緯以外は頑なに語ってくれませんでした」

 

『…怪しすぎません?』

 

「その通りです。ですがこのまま捨て置くわけにはいかない。当然村人たちは認めたりはしませんでしたが、そこで村人の一人がこんな提案をしたのです」

 

 

 

この娘(マシロ)と一緒ならばはずれの家屋に住まわせてやってもいい』と。

 

 

 

「それって…」

 

「体のいい厄介払いです。村人たちからすれば自分たちに関わらない場所で暮らす分には何も関係ないですし、何より儂がどうにか暮らす家だけは守っていた扱いに困るマシロを村の外へ放り出せる」

 

「………」

 

「儂も了承せざるを得なかった。ただでさえ酷くなるマシロへの扱いに加えてジェイルと名乗ったその老人を放っておくわけにもいかない。せめてもの譲歩で定期的に物資を提供する確約をさせるので精一杯でした」

 

 それにジェイルさんからマシロの様子も秘密裏に教えてもらっていますから悪いことばかりではありませんよ、と悠の背中で眠っているマシロを見て微笑む。

 その瞳に映るのはどこまでも深い慈愛。

 たとえともに暮らせなくとも、嫌われようとも、幼い心に傷をつけることになっても、その命だけは守るという意思に悠たちはもう何も言えなかった。

 

 するとクロナは面持ちを真剣なものにする。

 

 

 

「そして先日ジェイルさんから教えてもらったのが、あなた方へ頼む依頼の内容になるのです」

 

「…!」

 

 そこにつながるのか、と悠たちは意識を切り替える。

 そこにはもう村の現状を憂うものはなく、依頼を遂行せんとする表情。

 

 

 

「近頃森に食材を取りに行っていると獣が暴れたような跡が多くなっている言われたのです。加えて村人からもその手の報告が相次いでいました」

 

「それの調査、並びに駆除…ということですね」

 

「はい。…村のために、そしてマシロのために、どうかよろしくお願いします…!」

 

 クロナは深く頭を下げる。

 悠たちはスクリーン越しに顔を見合わせる。

 そしてひとつ頷くと未だ頭を下げたままのクロナに向かって宣言する。

 

 

 

『全力を尽くします!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして悠たちは村の入り口で合流後、マシロと老人が住んでいるというはずれの家屋に向かっていた。

 さすがに村の近くで獣も少ないのか会敵は特になく、風に乗ってさえずる森の音と足音だけが聞こえてくる。

 

 

 

「マシロちゃん、つらかったよね…」

 

「うん…でも、話を聞いただけのラミィたちじゃ共感なんてできないし…」

 

「…団長たちはいつも通りでいいと思うな」

 

>「ノエル先輩…?」

 

 ノエルは「んっ」と体を伸ばして凝り固まった体を軽くほぐすと未だ眠っているマシロを優しく見つめる。

 

 

 

「騎士団の仕事の関係上、こういった子はたまに見るんだ。事故や天災、あとは魔物の襲撃にあったりって理由は様々だけど」

 

 その表情はどこか歯がゆそうで。

 現世における秩序と安寧を守護する『白銀聖騎士団』。当然平和を脅かす事案の際には出撃に駆り出されるし、それでもなお助けられない命というのはどうしても存在し、それはそう簡単に避けられるものではない。

 そして取り残された命に対して、ノエルたち騎士団ができることなどほんの些末なものでしかないということもまた現実である。

 

 親元探し、孤児院の設立と運営。

 できることはこれからの生活の援助でしかなく、傷ついた心の寄り添うことなどできない。

 守れなかった自分たちに、そんな資格などないのだから。

 

 

 

「結局のところ立ち直れるかどうかはその子たちの気持ち次第でしかない。それでもなお団長たちが何かできることがあるとするなら、それはきっといつも通りであることなんだと思う」

 

 子どもというのは感情の変化には過敏という話も聞く。下手な気遣いは余計な感情の機微を悟らせることになりかねない。

 乗り越えて歩み出すのはあくまで本人たち。

 であれば、必要なのは本人たちが自由に歩みだすための環境だ。

 

 誰かに話しやすい環境。

 体を動かしやすい環境。

 その子たちがしたいと思えるようなことがすぐにできる環境。

 

 

 

「だから、特別なことはきっと必要ない。団長たちは団長たちがしたいことをすればいいと思う!…まあ、ただの持論だけどね」

 

 あははと恥ずかしそうに顔を赤らめるノエルに対して悠たちは吹っ切れたようにそれぞれの思いの丈を吐き出す。

 

 

 

「じゃあボクはどこか広い場所で一緒に遊びたいな!」

 

「ラミィは花冠を作ってみたいです。きっと似合うと思うから」

 

>「僕は、一緒に空を飛んでみたい…かな。森の中からじゃ見られない景色もあると思うし」

 

 願うのは未来への希望。

 憂いではなく、期待を込めた願い。

 いつも通りに戻った面々にノエルが安堵の表情を浮かべると、悠の背中から「んん…」と声が聞こえてくる。

 

 

 

「あ、起きたかな」

 

「あれ、ここ…?」

 

「おはよ、マシロちゃん!」

 

 もたれかかっていた悠の体から身を起こしやや寝ぼけたような目で周囲を見渡すマシロ。

 そして覚めてきた頭で眠ってしまう前の記憶を思い出したのか、目を伏せてか細い声で呟く。

 

 

 

「…ごめんなさい。わたしがいたから……」

 

 悠たちにもたくさん向けられた村人たちからの忌避の視線。

 自分がいなければ、『悪魔の子』と呼ばれている自分がいたからと己を責めるマシロに対して悠たちはあっけからんと答えた。

 

 

 

「何かあった?」

 

「え…?」

 

「んーん!それにマシロちゃんに不躾な目線を送っていた護衛たちは悠くんが鉄拳制裁…」

 

>「してないからね?」

 

「それにそういうこと真っ先にしそうだったのはかなたちゃんの方…」

 

「何か言ったラミィちゃん?」

 

「ナンデモナイデス…」

 

 そう軽口を叩きあう悠たちは本当に何も気にしてないようで。

 神秘的な銀眼をパチクリとさせるマシロに代表してノエルが話しかける。

 

 

 

「マシロちゃん。団長たちはこの森でやらなきゃいけないことがあるんだけど、泊まれるところがなくって…もしよかったらマシロちゃんのお家にお邪魔させてもらえんかな?」

 

 お願い、とマシロの前で手を合わせるノエル。

 マシロが負い目を感じているところにお願いをするのはちょっと申し訳なく思うが困っているのは事実だし、なによりこれでちょっとでもマシロが感じている負い目を軽くできれば一石二鳥にもなる。

 そんなわずかな打算が混じったお願いにマシロは必死に顔を頷かせた。

 

 

 

「…うん、うん!わたしも、おじいちゃんにおねがいする!」

 

「…ありがとう、マシロちゃん」

 

 

 

 そう話しながらも足を止めなかった一行はほどなくして目的地にたどり着いた。

 

 失礼なことを言ってしまうと想像したよりもずっと立派な家屋だった。

 村の外、それもガルナ村のような古いと言わざるを得ない技術で作られた家を見た後だと余計にそう感じてしまうほどのもの。

 高さこそ村の中にあった家とさして変わらないが、何より広い。軽く倍くらいの広さがあり、使われている木材も腐っておらず加工された跡が見受けられる。

 さらに周囲には森の木で作られたであろう薪が雨風にさらされないように薪小屋に入れられており生活水準は相当高いものだと想像がつく。

 

 

 

「なんか、村のものとはずいぶんと違いますね」

 

>「うん。こう言っちゃなんだけど本当に厄介払いだったのか分からなくなるくらいには」

 

 マシロは悠たちが茫然としている間に悠の肩から降りるとガチャッと無造作に扉を開けて中に入っていく。

 そして数分後、マシロは一人の老人を連れて家の中から出てきた。

 

 

 

「おじいちゃん。この人たち…」

 

「おお、これはこれは。初めましてご客人。私はジェイルと申します。まずは中で、お話をしましょうか」

 

 その老人は細い目を悠たちに向けて、なんとも朗らかな声でそう言ってきた。





走者の一言コメント
「あぁ~ホロメンみんなあったかいんじゃぁ~」

ここまでご読了ありがとうございました!
次回もまたよろしくお願いします。




もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part25 純白の少女⑤『Short Break』

ストックまだあったので3日目です。
そういえば皆様のおかげで日刊ランキングに入ることができました!
めちゃくちゃ嬉しく思います!




それでは本編はどうぞ。


 

 

 

 

 

 

 ジェイルと名乗った老人に招かれて足を踏み入れた家は外装に違わず綺麗なものだった。

 テーブルに椅子にタンスと生活するのに必要なものは揃っており、使い込まれているのがよく分かる。

 さらに周囲を見渡してみれば一部金属や石材で作られているものも存在し、その中にはキッチンや窯なんかもある状態だ。

 

 どう考えてもガルナ村で見た生活水準を大きく超えており、悠たちの疑問は尽きない。

 そうして周囲をキョロキョロと見回していると、ジェイルが一足先に椅子に腰を掛けて悠たちのことを微笑ましく見ていた。

 

 

 

「ほっほっほ。そんなに意外でしたかな?」

 

「あ、えっと…ご、ごめんなさい」

 

「気にすることはありませんよ。村から外れた場所でこんなものが建っていれば疑問に思うのは自然でしょうから。ちなみにその疑問の答えは…」

 

 ジェイルはそう言うとコンッと軽く目の前のテーブルを叩く。するとそのテーブルが淡く光ると同時にわずかに地を離れ浮き上がる。

 ピクッと悠たちが眉を動かしたのを見るとジェイルはどこか得意げな表情を浮かべてテーブルを元に戻す。

 

 

 

「こういうことです」

 

>「魔法…ですか」

 

「正確には物体に埋め込んだ魔石の効果です。と言ってもそんな大層なことはできません。せいぜいが軽く物を浮かしたり動かしたりといった程度です」

 

「あ、じゃあもしかして村長さんたちに名前以外を語らなかった理由って…」

 

「魔法を知らず、『魔眼』を忌避するあの村で魔石なんてものは見せられるものではないですからな」

 

 なるほどと納得した。

 要するにその魔石を使って長い時間をかけてここまで増築してきたということなのだろう。

 他にやることもなかったものでしてなとジェイルは語ったが、悠としては柔軟な発想というかよくここまでやれたなというのが正直な感想だった。

 

 本人曰く昔は魔石を研究していた研究者だったそうだ。本来何の効果も持ち合わせていない魔石を分析し、改良し、魔法を持たぬものでも魔の力が使えるようにする『魔道具』を生産していたらしい。

 しかしそれも世代が変わることで進化し発展していく。いい加減年も重ねて潮時だろうと研究職を引退し隠居生活、その矢先に遭難しこの村に辿り着き今に至るのだという。

 それはまあなんというか…

 

 

 

>「随分と波乱万丈というか…」

 

「ほっほっほ。もう親戚もいないもので意外と気楽なものですよ。それに今は一緒に過ごしてくれる子もいることですし」

 

「……?」

 

 ジェイルはそう言うと傍にいたマシロの頭を撫でる。

 対してマシロは話の内容をよく分かっていないのか撫でられてなお首を傾げるだけである。

 それを見てふっと軽く笑いをこぼしたジェイルはそのままマシロに話す。

 

 

 

「マシロや、私はこの人たちと少しお話をしなければならんのでな。少しの間外で遊んでいてくれるか?」

 

「…うん」

 

 マシロはそれを聞くと特に疑うこともなくパタパタと外に駆け出していく。

 

 

 

「ちょ、大丈夫なんですか!?外の森には狂暴化した獣が…」

 

「心配には及びませんよ。家の周りには獣が嫌う魔力の波を放つ魔石を設置していますから」

 

「ですけど…」

 

「…それじゃあジェイルさんとの話は団長と悠くんで聞いておく。かなたちゃんとラミィちゃんはマシロちゃんについていてあげて?」

 

「!…分かりました!」

 

 マシロちゃーん一緒に遊ぼ―!と置いていかれないように急いで駆け出したかなたと慌ててそれを追いかけるラミィ。

 それを傍目に見ながらノエルと悠はジェイルの対面側に座った。

 

 

 

「ごめんなさい、あなたのことを信用していないわけではないんですが…」

 

「構いませんよ。私も少し過信してしまっていたのかもしれません。現状が変わっている中いつ想定外(イレギュラー)が起こるか分からないというのに…申し訳ない」

 

>「そう、僕たちが聞きたかったのはそのことについてです」

 

 ジェイルの言葉に反応したのは悠の方だった。

 そこから話し合ったのは情報のすり合わせ、ならびに現状の森の様子についてだった。

 

 一体いつ頃から森に異変が起きたのか。

 その異変の前後でなにか変わったことはなかったか。

 実際に何がどう変わったのか。

 

 村を出る前に村長のクロナからも同様の話をしたが、やはりより近い場所で過ごしていたからかその情報は細やかで分かりやすかった。

 当然ながらジェイル自身は獣に対して正面から対抗できる力は持っていないので獣たちが通った後の痕跡などからの推測というのがほとんどだったが、それでもその情報量には舌を巻く思いであった。

 そしてその話を総合すると…

 

 

 

「…つまり、森の獣たちが獰猛化し始めたのは今から一週間ほど前、場所は不規則でその頻度は日を追うごとに増していってる…っと」

 

>「あまり時間はなさそうですね。加速度的に増えていってるなら一刻の猶予もない。だけど…」

 

「これといって原因に手掛かりはナシか~」

 

「いやはや申し訳ない…」

 

 現状を理解できたのはいいが問題はやはり原因が特定できていないことだろう。

 原因が分からなければ対策も立てられない。その原因を探るにしてもこの広大な森の中から獰猛化した獣の目を掻い潜りつつともなればその難度は相当なものだ。砂漠の中から一粒のダイヤモンドを探し出せと言っているようなものである。

 悠としては今日の会敵やその状況を鑑みて多少の憶測を立てられなくはないのだが、如何せん憶測に憶測を重ねたもので自分で言っておきながら信憑性はあってないようなものだしその信憑を得るにしても実際に森の中を散策(フィールドワーク)を行う必要がある。

 そしてそれをするにも…

 

 

 

>「ここまで暗くなると今日の探索は厳しそうですしね…」

 

「だねえ…行動するにしても明日からかなぁ」

 

「そういうことでしたら本日の宿はここを使われるといい。マシロからも聞いていましたからね」

 

>「ありがたいです。ありがとうございますジェイルさん」

 

 壁に備え付けられた窓から外を覗くとそこには雲一つない満天の星空が広がっていた。

 空気や環境の問題なのだろうか都市部で見るより幾分か鮮明に映る星々は己の存在を証明するかのように強く光り輝く。その中に大きな星や小さな星が線を結び繋がることで星座が生まれる。

 

 悠はこの星々を見るのが好きだった。

 あの星たちは悠が目指す夢であり、憧れでもあるから。

 

 悠は星を見つめて一つ深呼吸をすると勢いよく立ち上がる。

 

 

 

>「ジェイルさん、もしよければ台所をお借りしてもいいですか?」

 

「ええ、構いませんが…如何様で?」

 

>「せめてものお礼返しと言いますか…今日の夕飯は自分に作らせてもらいたいなと」

 

「あ、そういえば悠くんお弁当は自分で作ってたもんね~」

 

「…そういうことでしたらどうぞお使いください。私はなにぶん家事は総じて得意ではなく…マシロも喜ぶでしょう」

 

 幸い泊りで行くことは想定していたためあらかじめ持ち込んだ食材や調味料一式はあるしチラ見した限り火を起こすだけの設備はあった。

 これならそれなりにいいのが作れるだろうと悠は意気揚々と台所に向かってその姿を消していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マ、マシロちゃん体力あるなぁ~。そんなイメージなかったけど…」

 

「子ども特有の遊びに対するエネルギーなんですかね…?特にマシロちゃんは今までそういうことはできなかったと思いますから余計にそうかも…」

 

 時間は少しさかのぼり場所は家屋のすぐそばの広場。

 そこでは初めて触ったゴムボールを持って走り回るマシロと、それを眺めながら息も絶え絶えで豪快に地面に寝そべるかなたと手元に集めた花たちでなにやらチマチマと作業をしているラミィの姿があった。

 

 マシロを追いかけて一緒に遊び始めたのが1時間前、それから今の今までほぼノンストップで動き続けた結果である。

 かなたはそのマシロのエネルギーに当てられて今はもう動く体力が残されていないのかうつ伏せで顔だけ動かしている状態である。

 ちなみにすでに陽は完全に落ち、今かなたたちがいる広場はこれまた木に設置された魔石の明かりによって照らされている。便利すぎないかとかなたとラミィは思った。

 

 二人してマシロを見るとそこには疲れた様子を一切見せないままボールを一心不乱に追いかける姿が映る。

 表情が希薄なため分かりずらいところはあるが、夢中になってボールを追いかけているあの姿はなんとも楽しそうで。それを見て二人は嬉しそうに笑いあった。

 そうしている間にラミィが「よし!」ととある作業を完了させるとマシロを呼ぶ。

 

 

 

「マシロちゃん、ちょっとこっち来て〜!」

 

「…?うん」

 

 ボールを抱きしめながらマシロが二人のそばまで走ってくる。

 そんな姿にどこか庇護欲をくすぐられるが、ラミィは気を取り直すとその手に取っていたものをこちらをじっと見つめるマシロの頭に慎重に乗っけた。

 そこに乗っていたのは色とりどりの花によって作られた花冠だった。

 森の中ということで自生している花はあまり多くなかったが、そこはラミィの魔法の使いどころ。武器錬成の過程で一緒に練習していた小さな氷の花を作り出し、それを織り込まれた花冠は魔石の光に反射して煌びやかなティアラのようにも映った。

 

 

 

「なに、これ…?」

 

「お花で作った花冠だよ。とってもよく似合ってる!」

 

「うん!妖精さんみたいで可愛いよマシロちゃん」

 

「はな、かんむり…きれい…」

 

 そうしてマシロが零した言葉と表情にかなたとラミィは思わず瞠目した。

 

 ほんの一瞬のことだった。

 だけど、マシロの顔は確かにほころんでいて。

 神秘的な銀眼を細めて頭に添えられた花冠を眺めるその表情は確かに笑っているようだった。

 

 それはまるで小さな花の妖精のようで。

 かなたとラミィの二人は気が付けば同時にマシロのことを抱きしめていた。

 

 

 

「あーんもうマシロちゃん可愛い!!」

 

()いやつめ~このまま持って帰りたいくらいだよ~!」

 

「わ、わわ…!」

 

 突然二人にもみくちゃにされてマシロは混乱する。

 それでもマシロの心を占めていたのは「嬉しい」という気持ちだった。

 

 『悪魔の子』と呼ばれてから半年間は悲しみに暮れる暇もなく来ることが視えている村の人たちからの罵詈雑言を浴びせられる日々。その後はおじいちゃん(ジェイル)と比較的平穏な日々を過ごしていたが、遊ぶ時はいつも一人だった。

 暗く、不透明で、彩りのない灰色の世界。

 ずっとこんな日々が続くんだろうかと思っていたところに、夢を通じて未来を見た。

 

 ヘンテコな服(学園制服)を着た四人の男女。

 そんな人たちが誰もが負の感情をぶつけてくるマシロに笑顔を向けてくれた。

 震えていた手を握ってくれた。

 一緒に遊んでくれた。

 灰色の世界に、様々な色を与えてくれた。

 

 そんな夢なら覚めないでと願ってしまうくらいに眩しい夢。

 

 だからマシロは探した。

 夢が夢じゃなくなるように。

 夢で焦がれてしまった温かさをもう一度感じるために。

 

 

 

 そうして、マシロは再び悠たち(夢の未来)と出会うことができたのだ。

 そんなマシロの心を埋め尽くす感情が『嬉しい』以外に存在しなかったのは、ある意味必然だったといえるのだろう。

 

 

 

「…えへへ」

 

その嬉しさは微かな笑顔となってマシロを色鮮やかに輝かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふーさっぱりした―!あんなお風呂があるなんでビックリだったよ!」

 

「ですね、五右衛門風呂っていうんでしょうか?」

 

「みたいだね!でもいざ入るときは胸が引っかかりそうで大変だったよ~」

 

「あ、ラミィもです。やっぱり二人用のものを四人で使うのは無理がありましたね…」

 

「………」

 

「さっぱり…」

 

 お風呂上り特有の湯気を立ちこませながらマシロ含む女子四人組が悠とジェイルのいるリビングに入ってきた。

 さっぱりした表情のノエルとラミィ、普段と表情が変わらないマシロに対してかなたは二人の発言を聞いた瞬間に目線を下に下げてその表情はやや暗い。決して風呂に満足できなかったわけではないのだが、その理由は先ほどの会話から推して知るべしだろう。

 現在はそれぞれが持ち込んでいた部屋着を着用しておりそのラフな格好に年頃の男子(星宮悠)は極力彼女たちを見ないようにやり過ごしていた。

 

 その後は悠も五右衛門風呂を堪能し夕飯の時間。六人で囲うにはやや小さいテーブルに所せましと並べられた料理を見てラミィたちは「ふわぁ…!」とため息を漏らした。

 

 

 

「お弁当のおかずもらった時から知ってたけど本当に悠くんの料理どれも美味しそ~!」

 

「うん!どれもこれも…って、悠くん、このお肉って…」

 

>「ああ、あの時の『アサルトボア』の肉だよ。ちゃんとストライクハートに検査してもらって毒や残存魔力の有無は確認済み。まあ他の料理も含めて借りた設備と持ち込んだものじゃそんなに手の込んだものは作れなかったけどね…」

 

「じゅる…っは!いけないいけない!ここは立派な先輩として我慢我慢…じゅる」

 

「ノエルおねえちゃん、だいじょうぶ…?」

 

 テーブルに並べられた料理はアサルトボアの肉野菜炒めやキノコ和えに一口ハンバーグなどが大皿に乗せられていた。

 人数も多かったためドカッと作ってそれぞれが手取り皿に取って食べるスタイルである。

 悠の料理は初体験であるノエルがそのかぐわしい匂いによって飢えた獣のようによだれを垂らしている。どうにか自制しようと試みているようだが既に片手にはお椀に寄せられたご飯が握られており後は待ったが解かれれば即座にその口いっぱいに料理を放り込むことだろう。

 

>「あはは…引き延ばしてもあれだし早速食べちゃおうか。それじゃあ…」

 

 

 

「いただきます!」

 

 しっかり手を合わせて合掌。それぞれが気になった料理を皿に寄せながら口の中にかきこんでいく。

 

 

 

「ん~~~!美味しい!イノシシのお肉なのに臭みもないし柔らかい!」

 

「キノコ和えも触感が残ってて美味しいよ!ほら、マシロちゃんもどうぞ」

 

「うん…お、おいしい……」

 

>「お口にあったならなによりだよ」

 

「いやはやこんな美味しい料理を食べたのは久方ぶりですな」

 

「あびゃびゃびゃびゃ!!!」

 

 みな一様にその美味しさに舌鼓を打つ。

 ある者は味わうようにゆっくり食べたり、ある者は豪快にかきこむようにとんでもない勢いで食べたりと楽しみ方は十人十色だったが美味しいという感想はもれなく全員が零しており、それを聞いた悠は嬉しそうに頬を緩めていた。

 と、食事を続けていると悠は隣にいたマシロを見て懐からハンカチを取り出す。

 

 

 

>「マシロちゃん、口元汚れてるよ」

 

「んぅ」

 

 パクパクと木のスプーンを使って食べていたマシロの手を止めると悠は手に持ったハンカチを使ってマシロの口元を拭う。マシロはされるがままでじっとしており、悠が拭き終わるのを見ると「あり、がとう」とぎこちなくお礼を言って食事を再開する。

 そんな二人の様子はどこか年の離れた兄妹のようで、それを見たラミィたちはほっこりした表情を見せるとともにとある邪推をしてしまう。

 

 

 

(は…!もしかして同じことをすれば…)

 

(ボクもマシロちゃんみたいに…!?)

 

 どう考えてもこんな純真無垢な少女がいる前でやる想像ではない。というかそれ以前の問題である。

 悠もマシロであったから自然にできたのであってそれがラミィやかなたが相手であれば流石にその手は止まってしまうだろう。年下にするのと同年代にするのとでは意味合いも心構えも全く変わってくるのである。

 さすがにわずかの逡巡のみでそれを察したとある二人は申し訳なさと恥ずかしさで悠から視線を外し頬を朱に染める。

 

 

 

(さすがにこんなこと想像しちゃうのは…)

 

(人前じゃなくても恥ずかしすぎる…!)

 

 当然の帰結というべきか、食事の終わりまでとある二人は悠とマシロに対して目を合わせることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜もすっかり更けて就寝の時間、幸いにして部屋の数には余裕があったので一人一部屋をとってもらって寝ようという話になるところだったのだが。

 

 

 

>「えっと、マシロちゃん?」

 

「…いっしょが、いい……」

 

 

 

 というわけである。

 もっと具体的に言うとそれぞれが部屋に分かれようとしたタイミングでマシロが悠の袖をつかんで離さない状態。ラミィたちも予想していなかったのかやや困り顔である。

 別にマシロと寝ることに問題があるわけではない。そもそもマシロは最初から誰かと一緒にという話だったし、それをマシロから言ってくれるなら話も速い。

 では何が問題なのかというと

 

 

 

「マシロちゃん、やっぱり()()()一緒がいい?」

 

「ん………」

 

 誰か一人ではなく全員でという点である。

 鈍いとはいえ当然ながら悠は年頃の男子であり、同じ部屋で同年代の女子が一緒に寝るという状況はさすがに気恥ずかしさと抵抗感がある。そしてそれはラミィたち女子側も同様だろう。

 無論ラミィたちは悠が手を出してくることなどないとは思っているが、それで「じゃあできますか?」と問われればそれはまた別問題なのである。

 

 

 

「……だめ…?」

 

「…みんな、いいかな…?」

 

 答えを出し渋っている悠たちを見てマシロは少し寂しそうな顔と消え入りそうな声で聞いてくる。

 まあマシロにこんな顔をされてしまえば抵抗できる人間なんてこの場にいるはずもなく。

 

 

 

「恥ずかしいけど…分かりました!」

 

「まあマシロちゃんのためだもんね。悠くん、手出しちゃだめだからね~?」

 

>「分かってますって…」

 

 やや諦めの表情を浮かべて、悠はマシロの頭を軽く撫でた。

 

 

 

 

 

>「マシロちゃん、どう?寒くない?」

 

「へいき…」

 

「ラミィちゃんもうちょっと詰めて―」

 

「はーい、このくらいで…」

 

 マシロを中心にして用意してもらった敷布団に全員が一列に並んで寝そべる。

 マシロの両隣に悠とかなた、そのさらそれぞれに隣にノエルとラミィという順である。ちなみにこの位置は厳選なるくじ引きの結果であったりする。

 

 悠は深く意識してしまう前にさっさと寝てしまおうと瞳を閉じる。

 幸いというべきか戦闘から長時間の移動となかなかに体力を使っていたため眠気はすぐに襲ってきた。

 この眠気に逆らわず意識を落としてしまおうと身を委ねていると、ふとマシロの声が聞こえてきた。

 

 

 

「おにいちゃん、おねえちゃん…」

 

>「…マシロちゃん?」

 

「どうしたの?」

 

 両隣の悠とかなたがマシロの顔を覗き見る。

 それに対してマシロはどちらかに顔を向けるわけではなく天井を、その奥の空を見上げていた。

 

 

 

「…わたし、たのしかった」

 

>「…!」

 

「おにいちゃんたちとあそんで、ごはんたべて…」

 

 その表情の変化は希薄だが、やはりどこか嬉しそうにしていて。

 それが分かったから悠たちもまた顔をほころばせる。

 

 

 

「…ありがとう。…おやすみなさ…い……」

 

「…寝ちゃったね」

 

「仕方ないですよ、今日はいろんなことがありましたから」

 

「うん、団長たちも明日に備えてもう寝ちゃおう!早く問題を解決して、マシロちゃんを安心させないと!」

 

>「…はい!…おやすみ、マシロちゃん。よい夢を」

 

 悠はマシロの手を握って願う。

 

 夢の中でもどうか幸せでありますように、と…





走者の一言コメント
「同衾(やってない)はさすがにマズイですよ!?」

ここまでご読了ありがとうございました!
前話とはうって変わって平穏でした。
そうだよこういうのでいいんだよ(洗脳済み)
ちなみに就寝時の並びはラミィ、かなた、マシロ、悠、ノエルの順でした。
それではまた次回をお楽しみいただけたらと思います!



もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part26 純白の少女⑥『少女は星に願う』

星には様々な色がありますが、それらは基本的にその星の表面温度によって変わるらしいです。
具体的には温度が低い順に「赤→オレンジ→黄→青や白」と移り変わります。

前置きで書くことがなかったときはこういった豆知識を書いていこうかなと思います。





それでは本編へどうぞ。



 

 

 

 

 

 マシロの心を知って決意を新たにした夜から日が明けて、珍しくかけておいた定刻のアラームによって悠は目を覚ました。

 

 

 

>「…知らない天井だ」

 

〈寝ぼけてますマスター?〉

 

 普段とは違う木製の天井をぼーっと見つめていると、耳元から聞こえてきたすでにスリープから覚めて待機形態(スタンバイモード)になっていたストライクハートからの辛辣なコメントに「うっ」と唸り声を上げると悠は頭だけを起こして首を振ったり目を擦ったりして未だ覚め切らない意識をどうにか覚醒させる。

 ストライクハートの指摘通り、悠がしっかりと眠れなかったのは事実である。というかこの状況で熟睡できる人がいたらぜひともその方法を教えてほしい。

 

 右にも左にも映るのはあどけない寝顔を浮かべる美少女たちの姿。極力見ないようにと瞼を閉じても否応なしにその存在は意識してしまうし、右にいたマシロはともかく左にいたノエルの無防備な寝息が聞こえるたびに悠は声にならない唸り声をあげてしまう羽目になった。

 

 そんなことを考えながらようやく覚醒した頭を左右に振って周りを見渡してみると悠以外の全員は未だ夢の中のようで、布団から体がはみ出していたり逆に頭まで布団をかぶっていたりとそれぞれ違っていたりしたが総じて当分起きる様子は見られない。ストライクハートに表示させたアナログ時計を確認してみると示されていたのは長針が12、短針が6ということで午前の6時ジャスト。悠にとってはいつも起きている時間ではあるが他のみんなはそうではないのだろう。

 みんなを起こさないように慎重に音を立てずに布団から抜け出すと首に下げたストライクハートとともに玄関から庭へと赴いた。

 

 

 

 季節にそぐわないやや冷えた空気だった。

 まあ超常が闊歩するこの世界で”季節外れ”なんて言葉は日常的に起こりうるものではあるのだが、先ほどまで温かい布団の中にいただけにその寒暖差にわずかに体を震わせる。

 悠はある程度広いスペースまで歩を進めると首に下げていたストライクハートを自身の目の前に軽く放る。備え付けられた魔力によってストライクハートがその場に浮遊したのを確認すると軽く腕を振って自身の魔力で構成されたいくつものモニターとキーボードを眼前に出現させた。

 

 

 

>「今日は設備がないしソフト面の簡易メンテナンスだけだね。ただカートリッジの補充ができないのは痛いな…」

 

「仕方ないですよマスター。その代わり帰ったらばっちりお願いしますね!」

 

>「分かってるよ、任せて」

 

 悠が行っているのは先ほどの会話から察する通りストライクハートのメンテナンスである。これは二人にとって日課でありルーティーン、たとえ場所や状況が変わろうともやるべきことは変わらない。

 軽い会話を繰り広げながらもその手はよどみなくキーボードを叩き続け、モニターが増えては消える。瞬く間に切り替わる情報に悠はいたっていつも通りと言うように涼しい顔で目と手を忙しなく動かしていく。

 数えて約10分ほど、タンッとキーボードを勢い良く叩くと映し出されていたモニターが音を立てて消えていった。

 

 

 

>「…よし、今日も異常なし。完璧だね」

 

「ありがとうございますー!朝の鍛錬はどうします?」

 

>「ん、今日は探索もあるし魔力をあまり使うわけにはいかないからね。射撃訓練はナシの空中機動トレーニングだけにしようかな」

 

「了解です!ターゲット表示します」

 

 ストライクハートがそう言うと自身をわずかに発光させる。

 魔力放出による特有のライトエフェクト。

 悠がそれを見て視線を上にあげるとそこに映ったのはやや曇りがかった空に、自身を象徴する瑠璃色の光を帯びたいくつもの魔力球。

 

 

 

>「…『バリアジャケット』、『アクセルフィン』、『ストライクセイバー』」

 

 悠は視線を動かさずストライクハートを眼前に突き出して小さく呟く。

 すると悠の体が光に包まれ、まばたき一つする間にその光が弾け、装いを新たにしていた。

 

 白を基調に青のラインが入ったロングコートとボトムスに、局所的に金属パーツや宝石が取り付けられており絢爛でありながらやや重厚感を感じさせる戦闘装束(バリアジャケット)

 その脚部には青白い2対の魔力羽(アクセルフィン)

 さらに両手に握るのは杖形態(アクセルモード)となった自身の相棒と、細くも重々しい印象を抱かせる片手長剣(ストライクセイバー)

 

 今の悠の完全武装(フルカスタム)

 ()()()自体はまだ持ち合わせてはいるが、主力兵装という意味ならこれが現在の完成系となるだろう。

 ストライクセイバーの魔力刃を細めた目で見つめ一つ深呼吸、その小さな動作がトリガーとなり悠は魔力羽を羽ばたかせて大地を蹴り上げ天空に舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………んん」

 

 ところ変わって家の中、もぞもぞと布団が動くとともに小さな声が漏れる。

 そのまま10秒ほど布団の中でうずくまったかと思うと「んばっ!」という効果音でも聞こえてきそうなほど勢いよく体を跳ね上げ一人の少女が目を覚ました。

 

 

 

「…いただきます!?」

 

 まだ少々寝ぼけているようである。

 

 「うえぁ~」となんとも間の抜けた声をあげながらふらふらと頭を揺らす少女───誉ある白銀聖騎士団団長の白銀ノエルその人である。

 先程まで布団でくるまっていた影響か肩で切り揃えられていた艶やかな銀の髪はところどころ跳ねており、エメラルドの瞳も意識が覚めきってないためかその半分ほどが閉じられている。わずかにはだけたパジャマも相まってそのあまりにも無防備な姿は悠がその場にいれば即座に顔を逸らして立ち去ったことだろう。

 今の彼女はどこからどう見てもただの一人の少女であり団長としての威厳などはカケラも見受けられない。だがそのマイペースさもまた彼女の魅力であり長所でもある。

 

 そんなノエルの「いただきます」発言が思いの外声量が出ていたのか同様に布団を被って夢の世界に旅立っていた他の面々───雪花ラミィに天音かなたものそのそと緩やかな動きで体を起こしていた。

 

 

 

「おはよう…ございましゅ…」

 

「ふわぁ…おはよーございますー」

 

 ラミィは朝に弱かったのかしぱしぱとまばたきをして目を擦りながら未だに意識が半ば夢の中で、対するかなたはひとつ大あくびをするも起き上がった後ははきはきとした様子で今すぐにでも二度寝を敢行しそうなラミィを起こしにかかっていた。

 

 

 

「おはよー二人とも。みんな早起き太郎だ~」

 

 そんな二人の様子を見てすっかり目が覚めたのかノエルはそう返し、あることに気付くとキョロキョロを周囲を見渡す。

 ここで寝ていたのは自分たちを含めて五人、しかして今現在ここにいるのは三人のみ。

 

 

 

「あれ、悠くんにマシロちゃんは?」

 

「へ…?布団にはいないですね…」

 

「悠くんは分からないですけどマシロちゃんなら、ホラ」

 

 ラミィの肩を揺さぶっていたかなたが向けた視線の先をノエルとラミィも同じように見てみると、そこには家の窓からじっと空を眺める白髪の少女。

 空に映る何かに余程夢中になっているのかノエルたちに気付いた様子は一切ない。視線は不動でありながらその小さな体は何かに合わせるようにゆらゆらと揺れており、それに伴い絹のような純白の長髪が踊る。

 一体なんだろうかと顔を見合わせた三人はマシロの元へ歩み寄り声をかけた。

 

 

 

「おはよう、マシロちゃん。何見てるの?」

 

「!…おは、よう…。あれ……」

 

 マシロは一瞬だけ視線をノエルたちに移すもすぐに空を仰ぎ指をさす。

 三人もそれに倣い空を見上げて、その視界の中で一際際立つものを見つけた。空模様自体はあいにくの曇りがかったものだったが、それ故にマシロが夢中になっているものがより鮮明に映えていた。

 

 

 

 それは、縦横無尽に空を駆ける青い星。

 

 その星は空に点在している光の玉(魔力球)に衝突するたびにパンッと小さな破裂音を鳴らして光の粒子と煙を撒き散らす。

 右に、左に、上に、下に、光の軌跡を残しながら飛翔するそれはさながら流星の如く。

 それが一体なんなのか、ノエルたちはすぐにその正体に気づいた。

 

 

 

「悠くんだ。自主練…かな?」

 

「相変わらずエッグい機動力だよね〜。ココと一緒ならともかく一対一じゃあ捉えられる気がしないや」

 

「うん、でも悠くんは決して速いわけじゃない。加速魔法(フラッシュムーブ)を使わない通常時の速度なら多分かなたちゃんの方が速い。ただ、最高速(マックススピード)から速度を一切落とさない切り返しの連続行使が悠くんの空中機動の強さの一つなんだと思うよ」

 

 簡単に言うと0から100、100から0という停止状態からの急加速、最高速度からの急停止を悠は一切のリスクなしで行なっているということである。

 物体が動く以上そこには必ず慣性が生じる。故に人は急には止まれないし、無理に別方向に動こうとすればその分体に相応の負荷がかかってしまう。

 無論魔力で肉体を強化したり、せずともその負荷を前提で動けば同じことはできるだろう。加速で言えばフブキが使用していた一瞬の超加速もそれに該当するし、停止で言えばかなたも同じようなことをした記憶がある。

 

 しかしそれは出来てもせいぜいが2〜3回といったところ。

 インターバルを挟むならともかく、短時間での連続行使は当然ながらその回数に比例して体への負担は劇的に大きくなるし、継続的な魔力での肉体強化はいかんせん燃費が悪いの一言に尽きる。それ故にフブキも仮想戦闘訓練室での対決では加速歩法の連続使用はしていなかった。

 

 

 

「『バリアジャケット』…だっけ?悠くんが着てるのって」

 

「はい。バトロワの時に聞いたことなんですけど、あの服そのものが一種の防御魔法らしいんです。銃弾を弾くくらいの性能だったし、あの服で体への負担を減らしてるってことなのかな…?」

 

「多分そうだと思うよー。ボクも飛んでる身だから分かるけどあれだけの急速転換を生身でやってたらすぐに移動のGで飛行酔いからの全身筋肉痛を起こす自信があるもん」

 

 そんな酔い方があるのかと飛べないノエルとラミィは人知れず同じことを思った。

 三人がそんな会話をしているうちに悠が最後のターゲットを破壊した音が空に響く。三人が会話を止めて空を仰ぎ見ると空を駆けていた星───悠が杖と剣をその手にゆっくりと庭まで下りてきていた。

 

 

 

>「あれ、みんなもう起きてたんだ」

 

「みたいですね」

 

「おーい!悠くんおっはよー!」

 

 いの一番に気付いたかなたが真っ先に悠に向かって手を振る。昨日のマシロにあてられたのか快活でエネルギー溢れるその笑顔は周りの面々も不意に笑顔をこぼしてしまうほど眩しく、悠もまた同様に鍛錬の疲れが吹っ飛んだかのように軽やかに地面に降り立った。

 

 

 

>「おはよう、かなた。ラミィにノエル先輩、それにマシロちゃんもおはよう」

 

「うん、おはよう悠くん」

 

「悠くんおはよー」

 

「えと、おは、よう…」

 

>「起こしちゃったならごめん。すぐ朝ご飯にするから」

 

「あ、手伝うよ!」

 

「お皿運ぶのは任せて~!あと団長は牛丼がいいな~」

 

「朝から!?」

 

 悠が光を纏ったかと思うとその次の瞬間には両手に持っていた武器は淡い光とともに消え、優美なバリアジャケットは簡素な部屋着に変化していた。

 鍛錬でわずかにかいた汗を袖口で拭いながら手伝いを申し出てくれたラミィに感謝しつつキッチンに向かおうとする最中、シャツの裾を引っ張られて思わず足を止める。

 

 

 

>「…マシロちゃん?」

 

 裾を引っ張った正体はマシロだった。

 言葉は発さず、シャツを握りながら悠を見上げるその銀の瞳には興奮と興味、そして期待が入り混じっているように感じた。

 

 悠は腰を落とすとマシロと同じ視線までもっていき、目線を合わせるとマシロの空いている手を優しく握る。催促はせず、マシロの言葉(願い)を静かに待つ。

 ノエルが道中に言っていた、苦境に、不運に見舞われた子どもに自分ができること。普段通りに、そしてその子(マシロ)がしたいと思えることがすぐにできる環境作り。催促してしまえばきっと、マシロはその言葉(願い)を己の内に押し留めてしまうだろうから。

 

 待ったのは10秒か20秒か。マシロを見つめる星の瞳に少女は一瞬顔を俯かせるも、意を決して面を上げると唇を揺らして訊ねた。

 

 

 

「…そらをとぶのって、どんなきもち?」

 

 それは、未知への興味だった。

 辺境の隔絶した村という閉鎖環境。そこに突如として舞い降りてきた神秘(魔法)。少女が持ち合わせる好奇心に対してその神秘の存在はとても大きく、それと同時にその好奇心を持つ少女にとってこの閉鎖空間はあまりにも小さなものでしかなかった。

 故に、少女はそう訊ねた。言葉にしない願いとともに。鳥籠に捕らわれた鳥が閉ざされた大空へと続く扉が開くことを願うように、その翼で自由に無限に広がる空を駆けまわることを(こいねが)うように。

 

 

 

>「…とっても気持ちがいいよ。風が心地よくて、空気が澄んでて。縛られるものが何もない、何にも囚われない無限の空を駆けることは、ね」

 

「そう…なんだ……!」

 

>「特に夜に満天の星空を飛ぶのは格別かな。まるで自分自身が星の一つになったみたいに思えるから。…よかったら今日の夜にでも一緒に飛んでみる?」

 

「!…うん、うん………!」

 

 悠の誘いを聞いたマシロは目を輝かせてブンブンと首を必死に縦に振る。感情の起伏が表にあまり出ないマシロにしては珍しい喜色にあふれた表情。それほどまでに悠の誘いは魅力的であり、マシロが言葉にしなかった願いそのものだったのだろう。

 悠はそれを見ると顔をほころばせてマシロの頭に手を置きゆっくりと撫でた。

 

 か細くも輝かしい存在を慈しむように。そして、この子のためにも頑張らないとという、誓いにも似た強い意志とともに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからはいたっていつも通りというべきか、さしてトラブルやイベントがあったわけでもなく時が進んだ。使わせてもらった布団を戻して、ラミィの手伝いのもと作られた朝食を後から合流したジェイルとともに食べた。ちなみに牛丼はさすがに時間と材料の問題もあって作ることはなかった。

 

 そして全員の準備が終わり場所は先日マシロやかなたが遊んでいた庭、すなわちはずれの森の入り口。四人はすでにそれぞれ服を部屋着から戦闘用のものに着替えていた。

 

 悠はもはや恒例となったバリアジャケットに杖形態(アクセルモード)のストライクハート。

 ノエルは特注の騎士甲冑に腰に据えた鈍色に煌めく一振りのメイス。

 ラミィは故郷(ユニーリア)で作られた寒冷地仕様の専用衣装。

 かなたは唯一昨日に引き続きホロライブ学園の制服に身の丈を大きく超える槍斧(ハルバート)

 

 あとはさあ森に出発となるだけなのだが、ここで問題なのがこのはずれの森の広大さである。

 当然ながら探索員はここにいる四人だけ。索敵魔法が使える悠がいるとはいえさすがに森一つを丸々カバーするのは土台無理な話である。固まって動けばその分安全なのだろうが必然的に効率は落ちるし、加速度的に脅威度が増していってると推測されるこの森で悠長に時間はかけられないというのはここにいる全員の共通認識である。

 だが同様の理由で一人一人で行動するのはどうしても身の危険を孕む。

 それ故の折衷案。それ故の

 

 

 

「じゃあ組み合わせは団長と悠くん。そしてラミィちゃんとかなたちゃんってことで!」

 

>「分かりました。よろしくお願いしますノエル先輩」

 

「よろしくね、かなたちゃん」

 

「うん!絶対手掛かりを見つけてやる!」

 

 ペアで別れての広域探索である。

 ちなみにペア決めはそれぞれの得意な戦闘距離を考慮してのもの。

 

 近距離メインのノエルとかなた。

 中・遠距離メインの悠とラミィ。

 

 それぞれを分けて配置した結果が先ほどのペア。まあ個人の感情として納得いっていない者もいたが、ジャンケンなどの運ではなくそうするべきという理論で決まった手前その感情を表に出すことはなかった。

 ペア決めも終わり、経過連絡の手段や集合時間も決定済み。四人はいざ出発ということで見送りに来てくれていたマシロとジェイルに振り返る。

 

 

 

「じゃあ、いってまいります!」

 

「ええ、待つことしかできぬのは歯がゆいですが。どうかお気をつけて」

 

「任せといてください!バッチリ解決してみせますから!」

 

「お気遣いありがとうございます。いい報告ができるよう尽力します!」

 

 それぞれが言葉を交わす中、マシロと悠は朝と同じように目線を合わせて手を握る。

 

 

 

「…いって、らっしゃい…ぶじでかえってきてね」

 

>「うん、いってきます。帰ったら例の約束、果たさなきゃいけないからね。みんなでちゃんと帰ってくるよ」

 

 その言葉を聞いてマシロは僅かに目を細めて口角を上げる。

 まだ二日とない付き合いだが、最初の時よりも随分と表情が柔らかくなったなと悠は嬉しくなった。自分たちがいたことは、やったことはたしかにこの子のためになったんだなと、そう思えたから。

 そしてその表情の変化を見たノエルたちも同じように嬉しくなりマシロを抱きしめた。

 

 

 

「待っててねマシロちゃん。もう怖い思いはさせないから」

 

「帰ってきたらまた遊ぼうね!」

 

「わ…!う、うん……!」

 

 こんなあたたかな光景はずっと見ていたいものではあるが時間は有限。触れた温もりを惜しむようにゆっくりと離れると悠たちは立ち上がり、森に向かって歩を進める。

 

 

 

 ───絶対に、解決してみせる。

 

 こんなふうに強く思ってしまうのは、きっと既視感があったからなのだろう。

 依頼だということもある。でもそれ以上に、親を失い、同郷から恨まれて、自身が持つには過分な力によってありったけの悪感情をぶつけられて。

 そんなマシロの姿が、かつての自分と被っていたから。

 いるはずもない、妹のような存在だと感じてしまったから。

 

 だから、幸せになってほしいと思った。

 したいと思ったことはさせてあげたいと思った。

 美味しいご飯を食べて、元気いっぱいに外で遊んで、恐怖なんて何もない明日を楽しみにしながら眠って。

 

 そして、今日の夜はマシロの願いに応えて空を飛ぶ感動を目いっぱい覚えてもらおうと。

 

 

 

 

 

 そのくらいの時間は残っているはずだと、悠は信じて疑わなかった。





走者の一言コメント
「あああああマシロちゃん頼むから幸せになってくれ!!!(迫真)」

ここまでご読了ありがとうございました!
思った以上に話が進まない…間章とはなんだったのか。このままでは普通に10話超えそうで慄いております。
そしてこれからは新年度ということで今まで以上に不定期になりそうな予感…
どうか気長にお待ちいただけたらと思います。




もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part27 純白の少女⑦『不穏を告げる足音』

お気に入り登録、感想、評価本当にありがとうございます!
励みになります!

そして今回はちょっと短めですがご容赦を。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 

「ねえ、悠くんってラミィちゃんやかなたちゃんのこと好き?」

 

>「ブフッ!!!?」

 

 思いっきりむせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラミィとかなたとは別れてノエルと二人での探索を始めてから約一時間ほどが経った。といってもこの広大な森の中を一切の手掛かりなしであてもなく探し回ったところでそんなすぐに成果が得られるわけもなく現状は空振り状態。

 ずっと気を張っているのもあれということで休憩がてら持ち込んでいたドリンクに口をつけているところに、雑談に興じようとしたノエルから振られたのが先ほどの話題である。

 無警戒なところに放り込まれた爆弾は悠は口の中に含んだ液体を全て吹き出す結果となった。ちなみに一部気道に入り込んだことによって現在えずいてる最中である。

 

 

 

>「えほっ…な、なんですか急に…?」

 

 唐突に振られたデリケートな話題。

 予想だにしていなかった、そして自分の内心を見透かされたかのような質問に悠は心臓を跳ねさせながらその意図を探る。

 

 

 

「いや~、あの二人(ラミィとかなた)が今回の依頼に立候補してくれた理由って悠くんがいたからだと思うんよね。もちろんGW(ゴールデンウィーク)で時間があったからっていうのもあるんだろうけどさ。そのへん悠くんはどう思ってるのかなって」

 

 当人がいないからこそできる話題。ノエルのニヘラとした笑顔に浮かぶのはただただ年頃の少女特有の恋愛がらみの好奇心。

 それに安堵するべきかどうかはさておき悠は何とも複雑な表情でお茶を濁す。

 

 

 

>(好き…か………)

 

 その質問に対する答え自体なら既に持ち合わせていた。そうでなければこんなに動揺したりしない。

 二人だけじゃない。フブキも、いろはも、フレア先輩に目の前にいるノエル先輩も。

 みんながみんなとても強くて、個性的で、そんな個性が魅力的で、自分みたいな存在にもとても優しくて。

 そしてみんなが自分に対して多少なりとも好意的に接してくれていることがこれ以上ないくらい嬉しくて。

 

 だからこそ、自分の口からソレ(好き)を出すのが躊躇われてしまった。

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 一つ目を伏せる。

 そうするだけで彼女たちとの思い出が鮮明に浮かび上がってくる。

 迷子になっているところを助けたり、味方や敵として戦ったり。はたまたご飯を一緒に食べたり、実りのない雑談に花を咲かせたり。

 

 色鮮やかな(青春)は直視するには眩しすぎて、同時にその光は自身の(裏側)をより色濃く映し出した。

 そしてその影は訴えかけてくる。

 

 

 

 いつまでこんなことを続けるつもりか、と。

 オレたちの為すべきことを為せ、と。

 

 

 

 その度にうるさい、と僕はその影を払いのけた。

 分かっている。僕はオレであり、過去に縛られたオレの願いと為すべきことは僕が為すべきことでもある。溢れ出る感情を抑えることなんて僕にはできないし、するつもりもない。もし奴らが目の前に現れたその時には、(オレ)は己のすべてを投げ捨ててでも為すべきことを為すのだろう。

 

 でも、それは今じゃない。

 僕がオレであるように、オレもまた僕だ。

 誰かを守りたいと思う僕のこの気持ちは、大切にしたいという僕のこの願いは、オレにも絶対に裏切らせはしない。

 

 

 

 たとえこの想いが間違っていたとしても、認められなかったとしても。

 せめて、今を生きる大切な人たちと過ごすこの日常を希うくらいは許されるはずだと、そう信じているから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうにかこうにかノエルからの追及を免れた悠は申し訳なさそうに乾いた笑いを浮かべながら探索を続ける。ノエルはどうしても諦めきれないのかブーブーと不満顔。しかし悠がそこまでして言いたくないことならば強制はできないかとひとつ嘆息をつくとキョロキョロと悠と同様に探索を始めた。

 

 しかし目で見えるものに気にかかるものは見当たらない。

 いたって静かで、響くのは森のざわめきと二人の足音のみ。

 とても脅威が迫っているようには思えない…と、そこまで考えてハッとした表情を浮かべる。

 

 

 

>「…静かすぎる?」

 

「…やっぱり悠くんも気付いた?」

 

 悠とノエルは顔を見合わせる。

 あまりにも静かすぎる。探索を開始してから二時間強、悠の『エリアサーチ』も駆使して探索したエリアはそれなりに広い。それにも関わらず今に至るまで獰猛化した獣どころか熊や鳥などの生物とすら一向に出会う気配がない。

 昨日出会ったアサルトボアたちに狩られたかとも考えたが、奴らが暴れた跡はこのあたりには見受けられないしそもそも遭遇地点が違うかとその考えを排除。それと同時に昨日と今日とで一つの相違点が思い浮かんだ。その正体を確かめるべく、悠はすぐさま魔法を発動する。

 

 

 

>「魔力感知、エリア最大」

 

 目を閉じ、意識を集中させる。

 放たれた小さな魔力の波、過去に見ない広範囲故にその微細な変化も見逃さないように。

 

 

 

「悠くん、なにか思いついたの?」

 

>「はい、昨日アサルトボアと遭遇した際、『魔力感知』で妙な魔力を感知したんです。まるで何かの拍子で閉じ込められた魔力が弾けて広がっていくような、そんな妙な魔力の流れが…」

 

 もしあの魔力が獣の獰猛化を引き起こした原因なのだとしたら。

 チリッと、悠の意識、魔力の波に引っかかる何かを見つけた。そして一つ見つければその後は伝播していくようにドンドンとその反応が増えていく。それは10や20は下らない、ガルナ村を中心にはずれの森全域を覆い隠すように張られた魔力の痕跡。注意深く意識を向けなければ見落としてしまうであろう明らかに人為的に仕掛けられたナニカ。

 

 

 

>「ノエル先輩、こっちです!」

 

「!わ、分かった!」

 

 悠は『魔力感知』を発動し続けながら一番近くに反応があった場所へ駆け出す。ようやく掴んだ手掛かりを無駄にはしないように、はやくはやくと『アクセルフィン』も併用して速度を上げる。

 

 その地点へは1分もかからず到着した。

 何の変哲もない森の一角。何か特別なモニュメントがあるわけでもなく、何か意味のある座標でもない。まあ優に50を超える反応だったからある意味では当然なのかもしれないが。

 

 悠は追いついてきたノエルを確認すると『魔力感知』のエリアを縮小。その代わりにより精度の高いものへ切り替わる。

 

 

 

>「…ここか」

 

「いったい何を見つけたの悠くん」

 

>「…これですよ。ノエル先輩」

 

 掘り起こした地面から取り出したものをノエルに渡し、掌に乗せられたものをノエルはまじまじと見つける。

 地面に埋められていたせいで泥を被っているが、それが何なのかはすぐに分かった。というより、つい最近同じものを見たから思い出したが正確かもしれない。

 

 

 

「これ、魔石…?」

 

>「…この魔石に込められた魔力、先ほど話していた妙な魔力とパターンが全く同じなんです」

 

 いわば魔力の固有パターンというべきか、人や物体が持つ魔力にはそれぞれ固有に持ちうる魔力の波がある。

 これは魔法を使う使わない、あるいは魔力を放つ放たないにかかわらずそこに存在するだけで誰もが持ちうるものであり、ある一定の例外を除きその魔力の波形パターンは一つとして同じものは存在しない。

 この特徴は世界が定めた摂理であり法則であるがこれを認識できるものは限られており、分野としての開拓もさして進んでいないのが現状である。

 

 悠たちの中でもこの認識ができるのは悠と、そして精霊と契約し魔力そのものを認識する能力が高いラミィくらいなものだろう。

 現にノエルはそれを言われても「???」と首を傾げるのみで、かなたもおそらく似たような反応をするだろう。

 

 

 

 埋め込まれた魔石と、不自然なまでに遭遇しない動物たち。

 ここに関連性があるとするならばきっと…

 

 

 

>「多分この魔石の中の魔力が、昨日のアサルトボアのような獰猛化した獣を生み出したんじゃないかと思います」

 

「でも魔石ってことは…」

 

>「…考えたくはありませんが、外部犯を除くのであればおそらく…」

 

 悠とノエルは二人して複雑な、そして焦りを含んだ表情を浮かべる。

 巧妙に隠されて配置された魔石、これが原因なのだとしたら今回の騒動は明らかに人為的によって引き起こされたものということになるだろう。

 

 しかしここは辺境の、外部との交流などほとんどない閉鎖的な村。さして特色もないし、言ってしまうと悠たちもガルナ村という名前も依頼書で初めて知ったくらいだ。

 つまりは外部の人間が狙う理由がない。

 無論自分たちも村の人たちも知らない何かがある可能性も否定はできないがそこは考えるだけ時間の無駄でしかないだろう。

 

 そうなるとこれを仕掛けた存在は内部の人間ということになるが、村の人たちは魔法そのものを知らなかった。

 知っていたとすればそれは村長である相良クロナと

 

 

 

>「ジェイルさん…か」

 

「で、でもそうする理由は?それに村長さんが学園に依頼したのだって元々はジェイルさんの報告があったからだよね?」

 

>「はい、これじゃあ自分で騒動を起こして自分で解決策を講じるマッチポンプです。それで得られるものなんてせいぜいが村からの信用くらい。でも…」

 

 もし、本当にそうすることが目的だったら?

 ここまで起きたこと全てが彼の予定の内だったとしたら?

 そうして疑えば疑ってしまうほど、不審な点が浮き上がってしまう。

 

 もともとこの依頼は、ノエルを指名した依頼だったはずだ。

 じゃあ誰が指名を出した?

 普通に考えれば直接の依頼人である村長(クロナ)であろうが、二人は初対面だったはずだ。加えて村長からノエルを指名した理由は語られていない。指名の依頼であればそれ相応の理由があるはずだが、そこが未だに不透明なまま。

 

 村長たちに素性を語らなかった理由は?

 本人は「魔法を知らず、『魔眼』を忌避するあの村で魔石なんてものは見せられるものではない」と言っていたが、そもそもなぜ村の現状を把握していた?

 ガルナ村は外との交流がない以上情報が出ることはないし、ジェイルは遭難してガルナ村に辿り着いたと言っていたはずだ。であれば村の現状なんて知れるわけがない。それを初見で把握して素性を隠すなんて以ての外だ。

 

 加えてこの地面に埋め込まれた魔石。

 偶然で片づけるにはあまりにもジェイルに見せてもらった魔石と形が似通いすぎている。

 魔石の形は千差万別、三角錐に四角柱、はたまた無秩序な鉱石型など様々だ。それがこんなに似ていることなんてあるのか。

 

 

 

 あまりにも多い不明点。

 考えれば考えるほど浮き上がるジェイルへの不審点。

 確かめなければいけないことが多く、やるべきことも多い。

 その中でも最も最優先事項が何なのか、言葉を交わさずとも悠とノエルの間で結論はすでに出ていた。

 

 

 

「まずは何よりマシロちゃん…だよね!」

 

>「はい!信号弾を上げます。ラミィやかなたたちとも合流を急ぎましょう!」

 

 悠はストライクハートを天に掲げると魔法陣を構築。ストライクハートに収束した魔力は悠の意思のまま解き放たれ、天空で大きな破裂音とともに瑠璃色の大輪を咲かせる。

 出発前に決めていた各種信号弾、その中でも今回の信号弾の意味は『緊急集合』である。

 

 

 

>「よし、それじゃあマシロちゃんのところへ…」

 

「待って悠くん!魔石が…」

 

>「え…!?」

 

 駆けだそうとした悠を焦燥を孕んだノエルの声が呼び止める。

 悠が振り返りノエルが持っていた魔石を見ると、そこには中に閉じ込められた力が溢れ出さんと脈動を打つ魔石の姿。しかしそう見えたのも束の間、ビキッと亀裂が入るとその隙間から怪しい光が漏れ出す。それと同時に、呼応するかのように『魔力感知』によって捉えていた他の魔石の反応が一気に増幅した。

 悠は顔を青ざめて叫ぶ。

 

 

 

>「ノエル先輩投げ捨てて!早く!!!」

 

「うん!!!」

 

 ノエルが魔石を持った手を大きく振りかぶると己が持つ膂力に身を任せて全力で空に向かって投擲した。

 魔石はものの一瞬で悠たちの視界から消えキランと小さな星屑と化す。

 なんとか無力化はできたが、それはあくまで50を超える反応の一つでしかない。

 

 

 

 ───パキィィィン

 

 

 

 呪いの蓋が開き、絶望が溢れ出す。

 魔石の封印が解け、尋常じゃない魔力がはずれの森を覆う。

 その瞬間。不穏を告げる足音が、悠たちの鼓膜を容赦なく叩いた。





走者の一言コメント
「あああ本格的にヤバい事態!ってかユー君もなんか闇抱えてるし情報量過多なんですけど!!!」

ここまでご読了ありがとうございました!
事態急転、ここからがいよいよ本番となります。
ユー君たちと、そしてマシロちゃんは一体どうなるのか、お楽しみに。

ちなみにプロットの時点ではここまで2話で来る予定だったんですけどどんだけ話数嵩んでるんだと…







もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part28 純白の少女⑧『魔獣討滅戦』

三週連続更新だオラァ!
え、そのくらいやれるだろって?
一時期半年休んだことがある私にそれを言います?

ということで無事更新です。
お気に入り登録、感想、評価もいつもありがとうございます!

今回はオルタのとあるシーンを参考にした場面がありますのでよければ探してみてくださいね。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 朝にかかっていた曇り空はすっかり晴れ、太陽が惜しげもなくその身を晒している。全てを照らす日輪が世界を光で包み込む。

 にも関わらず、エルフの森に隣接するはずれの森一帯はいっそ不自然なまでに暗い霧によって影が差していた。

 

 それは、まるで世界そのものを拒絶しているかのように。

 それは、まるで地獄からの門が開いたかのように。

 

 そして森の中の様子はまさしく地獄と呼ぶに相応しい様相を呈していた。

 大地から這い出すように現れる魔獣の数々。

 もう数えることすら億劫になるほどのそれらは例えるなら百鬼夜行、あるいは地獄より責め苦を与えにやってきた獄卒。一人の人間の知識と技術、そして際限ない悪意によって生み出された意思なき傀儡(かいらい)

 

 その魔獣たちはみな一様に瞳に怪しい光を宿し、雄叫びを上げる。

 しかしそこに生物としての感情はなく、意思はなく、本能も理性も存在しない。あるのはただ人為的に組み込まれたただ一つの命令。

 

 

 

 「すべてを破壊せよ」という単純明快な標が、森へ入った四人の少年少女たちの命を刈り取らんと獰猛な牙を剝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああもう数が多すぎるんやけど!?マシロちゃんのとこに急がんといかんのに!」

 

「気持ちは分かりますけど今は目の前の敵に集中しましょう!やられたら元も子もありません!」

 

 魔獣への怒りとマシロへの焦燥で語気が強まるノエルをどうにか諫めつつ悠もまた脳内で軽く舌打ちを零す。

 

 魔石の封印が壊され魔獣の群れが溢れ出してからどれくらい時間がたっただろうか。

 一時間?二時間?

 空を見上げてもそこには暗い霧が見えるのみで一切の変化が見られない。時間の経過すら認識できない森の中で悠とノエルはひたすらに現れ続ける魔獣たちを倒し続けていた。

 

 襲いくる魔獣も多種多様種々雑多だ。昨日交戦したアサルトボアを筆頭に強靭な爪が特徴の「クロウベアー」、なんとも毒々しい色の糸を放つ蜘蛛形の「ブラッドスパイダー」、その他にもモグラやカラスなど枚挙にいとまがない。

 倒しても倒してもその奥から魔獣が湧き出しマシロへの道筋を塞ぐ壁となって立ち塞がる。

 

 

 

「もー!一気に叩くよ、大地砕破(アースインパクト)』!!!

 

 痺れを切らしたノエルが魔力を解放。一見怒りに任せて放ったように見えるかもしれないが、ノエルの頭はいたって冷静だった。一度のリスクで最大のリターンを。魔獣たちが無作為に詰め寄ってくる中、魔獣が一番固まる瞬間を的確にとらえた一撃。

 

 振り下ろされたメイスが大地に衝突した瞬間に爆ぜ、魔獣たちを薙ぎ払う。

 そのまま倒しきれたのはそのうちの半分くらいか。衝撃波の中心点付近にいたのは倒しきれただろうが、当然そこから距離が離れれば衝撃波は威力減衰を引き起こす。吹き飛ばされて命を削られ態勢を崩されてもなおその痛みも感じていないかのように魔獣はその牙を、その爪をノエルの喉元へ突き立てんと突撃を開始する。

 だがそれを見て…いや、見ずとももう一人の勇士はすでに動き出していた。

 

 

 

「アクセルシューター…シュート!!!」

 

 光が駆ける。

 カランッと金属製の何かが地面に落ちたとともにノエルのすぐ背後から放たれたソレは空を切る音を響かせながら的確に魔獣たちの急所を穿った。ブラフなし、全弾必中の超精密射撃。大地砕破(アースインパクト)のダメージも相まって限界を超えた魔獣たちは糸が切れたように地に伏し、そのまま魔力の残滓となって霧散する。

 訪れたわずかな静寂時間、ノエルは先の魔法の主に賞賛を送る。

 

 

 

「ナイス悠くん!」

 

「これが役目ですから。ストライクハート、ラミィにかなたは?」

 

「あちらも交戦が続いています。ですが魔力反応は健在ですし、彼女たちも少しずつ村に近づいています。心配は不要かと」

 

「了解。ノエル先輩、このまま進みましょう!フォローは任せて暴れてください!」

 

 当然ながら先の魔法を放った正体は悠。

 近距離型と遠距離型のペアにおける戦い方は大きく分けて二つ、近距離型が護衛(ガード)をしつつ遠距離型の大火力で攻めるか、逆に遠距離型がフォローに回って近距離型が最前線で暴れるかである。その中でも今回悠たちが選択したのは後者。悠としては火力で劣るつもりは毛頭なかったが、ペアの相手が実戦経験豊富で多数対少数の戦い方を熟知しているノエルであればその能力を最大限活かしてもらった方が効率的だ。

 

 悠は今の攻撃で空になった弾倉(カートリッジ)を新しく入れ替える。

 昨日から使用した分を除いてこれで残りは12発。戦闘時間の割には温存できてはいるが余裕があるかと言われればそれは否だ。

 こうしている間にも視界の奥からは魔獣たちが詰め寄り始めその行先を塞いでいく。()()()()()()()()()()()()それも時間の問題だろう。

 

 

 

「村に張った結界魔法はあとどれくらいもちそう?」

 

「幸いと言うべきか村への進行は思ったほどじゃありません。だけど…おそらく良くて二時間、下手したら一時間もつかどうか…」

 

「よーし、じゃあ一時間以内に終わらせるよ!」

 

「了解です!」

 

 悠が彼方を見やるとそこに映ったのは円柱状に伸びた光の柱。時折その柱がわずかに歪み、瑠璃色の光を放つ。

 言わずもがなそれは悠が出立前に仕込んでおいた遅効性の結界魔法。悠たちが探索に出る以上村の防備は周辺に張ってあった古い柵と少数の警備隊のみ。昨日のアサルトボアがもし村に現れてしまえばその被害は甚大なものになる。

 それ故の保険。まあこんな状況になるとは結界を張った本人も予想だにしていなかったが結果として功を奏したといえるだろう。

 

 時間制限こそあれど一先ず村のことを気にする必要はなくなった。

 憂いの解消は迷いをなくす。そして迷いのない戦い方ができる人は、強い。

 

 悠は視線を戻す。

 そこには変わらず大量の魔獣の姿。しかしやるべきことは変わらない。

 こいつらを突破して、マシロの元へ辿り着く。

 

 そうして悠が新たに魔法陣を展開しようとした瞬間、不意に感じた悪寒とともにこちらを振り向いたノエルから警鐘が鳴らされた。

 

 

 

「悠くん後ろ!!!」

 

「…っ!」

 

 その警鐘に従って本能的に体を伏せる。

 悠が体を伏せたのと、轟音を鳴らしうねりを上げる何かが悠の頭上を通り過ぎたのは同時の出来事だった。

 

 

 

 ジッ、と濡れ羽色の髪をわずかに掠めその組織が消し飛ぶ。

 あまりにも紙一重な回避に息を呑む。しかしそれも束の間、追撃をかけるように頭上から繰り出された二撃目を視認すると悠は歯を食いしばって即時展開した『アクセルフィン』を全力で羽ばたかせてその場から飛び退いた。

 

 

 

 ドン!!!

 

 

 

 衝撃音とともに大地が揺れる。

 直撃こそ避けたが直前まで悠がいた地点には巨大なクレーターが出来上がっておりその威力を如実に示していた。そしてそれを引き起こした正体を見て悠とノエルは揃って同じ感想を漏らす。

 

 

 

「「でっか…!」」

 

 見上げなければ頭上をとらえきれないほどの巨体。森の木々を優に越えるその体長は最低でも15メートルは下るまい。

 しかし一番驚くべき箇所はそこではなかった。

 頭は獅子を思わせる雄々しい鬣があり、胴体は熊のような筋骨隆々とした黒色、二足で大地を踏みしめる鉤爪は一番近いもので言うと猛禽類のもの。そして悠を屠らんとクレーターを作り出した正体は紛れもなく(ドラゴン)のそれだ。

 あまりにもちぐはぐな造形の怪物。悠はこれを知っていた。故に苦虫を嚙み潰したような顔で小さく呟く。

 

 

 

合成獣(キメラ)…」

 

 それは自然に創造されることは決してない生物。知能を持つ生命体によって非人道的に造られ、ただ創造主の目的を果たすことでのみ存在を許される悲しき遺産。

 そんな合成獣は他の魔獣のように瞳に怪しい光を宿すと大気を震わせる咆哮を放つ。

 それは開戦の狼煙であり魂に組み込まれた命令を遂行するための意志なき意思となる。

 

 合成獣はその双眸を悠とノエルに定めるとおもむろに右腕を振り上げる。

 二人は一瞬のアイコンタクトを交わし即座に行動を開始、生身で受ければ一撃で絶命は必至であろう凶爪をバックステップで躱す。

 再び大地が揺れ、魔獣が何体か合成獣の爪に貫かれるが二人は止まらない。流れるように位置を入れ替える(スイッチする)と二人は背中を預けて駆けだす。この合成獣の討伐は必須事項ではあるが、決して敵はその一体だけではない。

 

 

 

「ノエル先輩、背中は預けます!ストライクハート、ロードカートリッジ!」

 

「Load Cartridge.」

 

「さあ、キミには団長の相手をしてもらうよー!」

 

 あれだけの巨体、さしもの悠とノエルも単独で攻略するには少々時間がかかるが、現状でそんな時間をかけている暇はない。しかし二人でその合成獣を相手にすれば当然その他の魔獣を止めることができない。

 

 そこで二人が選んだ手段は役割の分担、そして作戦の一時変更である。

 先程までは悠がフォローに回ってノエルが暴れまわるという作戦だったが、それはあくまで小型の魔獣に対する多数戦闘を念頭に置いたものだった。しかしその作戦はその魔獣たちをはるかに超える脅威度を誇る大型の合成獣が現れたことによって瓦解しかねない。

 

 故に、()()()()()()()()

 

 ノエルが悠の護衛に回り、悠の大火力の魔法で一気に押し切る。前者の作戦のようなリスクを減らすような守勢のスタイルじゃない、一点突破のカウンタースタイル。

 リスクは高い諸刃の剣であることは間違いない。しかし絶対に負けない、この二人なら出来るという意志と信頼の上で二人は笑みを浮かべて役割を果たすために動き出す。

 

 

 

 

 

「やぁ!!」

 

 硬い。そして強い。

 振り下ろされた双腕を長年の戦友たるメイスで弾き飛ばすとノエルは腕にきた衝撃に心の中でそうこぼした。己の膂力をなまじ理解している分、たとえ僅かにでも押し込まれたという事実に合成獣への警戒度を一つ引き上げる。

 

 脳裏を掠める最悪の未来。

 一つでも合成獣の攻撃を通してしまえば、そんな想像がチラつく。

 

 だけど、絶対に負けはしない。負けるわけにはいかない。

 悠くんは自分を信じて背中を預けてくれた。

 ここで押し負けてしまうのは、彼への裏切りであり、そして一人の騎士としての誇りを汚すことになる。

 

 そんなことは認められない。

 騎士として、そして友達として、悠くんのことは絶対に守ってみせる。

 これこそが自分の今の存在理由。

 

 

 

「安心して。絶対に守ってみせるから!」

 

 白銀聖騎士団団長としての、誓いだ。

 

 

 

 

 

 ノエルは意識に切り替えて合成獣と向かい合い繰り出される攻撃をメイス一本のみで捌き続ける。凶爪を弾き、いなし、己が領域(テリトリー)への侵入を絶つ圧倒的な防御技術。

 対して悠は瞳を閉じ意識を集中、『並行思考(マルチタスク)』による魔法の同時行使。『魔力感知』で敵の居場所を常に捕捉しつつ幾何学模様の魔法陣がカートリッジロードとともに悠に周囲に浮かび上がる。

 これは殲滅戦。求められるのは防御ではなくただひたすら攻撃の火力と密度。

 

 

 

「アクセルシューター、そして…ディバインバスター…魔法陣構築…展開完了!」

 

 防御を完全に捨てた魔法構成。今の悠は『ラウンドシールド』も『プロテクション』も、常時展開されている『バリアジャケット』を除く一切の防御魔法は発動できない。

 信頼するからこそ、信頼されているからこそ悠は己の身を無防備に晒す。

 荒れ狂う魔力が砂を巻き上げ、バリアジャケットをはためかせ、瑠璃色の風が悠を包み込む。砲撃形態(バスターカノンモード)となったストライクハートの砲口を合成獣に向け、魔力を収束させる。

 それと同時に、悠の周囲に浮かぶ魔力球が障害を射抜く魔弾となって一足先に撃ち出された。

 

 

 

「アクセルシューター…シュート!!!」

 

 悠のキーワードとともに魔力球が弾かれたように動き出した。

 それは角度を変え、速度を変え、縦横無尽に、変幻自在に跳ね回る光の輪舞(ロンド)

 その魔力球に振り回された魔獣たちは足を止めてしまう。しかしそれをしたが最後、翻弄から駆逐へと目的を変えた魔力球が魔獣の急所を一撃で穿ち地に堕とす。

 魔獣たちが変色し、霧となって霧散していく様子を悠は静かに見届ける。

 

 よし、と悠は心の中で一つ息を吐く。

 片側の脅威は排除完了、あとは後続が来るまでにもう一つを処理するのみ。

 

 砲撃の準備完了までもう間もなく。

 そうして合成獣を見やると、悠は思わず目を見開いた。

 

 

 

「っ!?」

 

 視界いっぱいが黒で覆われる。これが何かはすぐに気が付いた。

 最初に見せた竜の尻尾による薙ぎ払い。あの巨体を器用に回転させ、遠心力を加えたその一撃の威力は先に生み出されたクレーターが雄弁と物語っている。

 

 今砲撃を止めることはできない。否、したところで回避は間に合わないだろう。

 ならば防御。これも間に合うかは刹那の差だろう。『アクセルシューター』からの冷却機能(クールダウン)も完了していないし仮にできたことろで即時展開の防御魔法の脆さは悠も知るところ、この攻撃を受け止め切れるとは思えない。

 

 

 

 だが、悠の顔に浮かぶのは僅かな笑み。

 忘れているわけがない。信頼されているのにこちらが信頼していないわけがない。

()()の実力も、意志の強さも、悠はここまでの間によく知っているのだから。

 

 

 

 

 

「悠くんには尻尾一本も触れさせんよー!」

 

 

 

 ドン!っと再びの衝撃音。

 しかしてその結果は先ほどとはまるで違うものになっていた。

 

 悠の眼前で煌めくは白銀。

 受けた風圧によって靡くそれはどこまでも美しく、見惚れるほどの衝撃だった。まるでそれは泥を被ってもなお輝く宝石のように、決して色褪せない煌めき。

 

 

 

 その正体───白銀ノエルは相棒たるメイスを投げ捨て圧倒的な膂力を秘めているとは思えないしなやかな両の腕で合成獣の竜の尻尾を完璧に受け止めていた。

 足元の地面は抉れ、悠の居る場所やその周囲まで大地には大きな亀裂が走っておりその威力は決して衰えていないのは分かる。しかしそれでも受け止められてもなお薙ぎ払おうともがく合成獣の尻尾をノエルは涼しい顔で掴み離さない。

 悠のことは守ると、その誓いはたしかにノエルの力の原動力となる。

 

 

 

「ふっ!」

 

 ノエルは今一度尻尾を掴みなおすと足を一歩大きく踏みしめる。

 そして遠心力を利用して尻尾ごと合成獣を振り回し始める。合成獣ほどの重量を持つ存在を振り回せばどうなるかなど察して余りあるだろう。

 周囲の木々は吹き飛ばされ、後続の魔獣ともども薙ぎ払われる。合成獣を『怪物』と称していたがこれではどちらがそうなのか悠は分からなくなっていた。

 十分速度が溜まったと判断したのかノエルは左足を大きく踏み込むと覇気を乗せた声とともに合成獣をはるか天空へ投げ上げた。

 

 

 

「悠くん、今だよ!!」

 

「っ!はい!!」

 

 魔力の収束はすでに終えている。

 ストライクハートの砲口に集う魔力は煌々と輝きその周囲には円環状の魔法陣が四つ。

 これで終わりだと、悠は強く相棒を握りしめて光を解放した。

 

 

 

「撃ち抜け一閃!ディバイン…バスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 

 

 指向性をもって放たれた魔力の奔流は瑠璃色の軌跡を残して合成獣を貫いた。

 天に向かって撃ち上げられた砲撃はまさに天に昇る流れ星。影を切り裂き、暗い霧を晴らす一筋の光。

 

 砲撃に貫かれた合成獣は空中で静止するとその端から崩れ落ち、魔力の残滓を残して霧と消えた。

 確かな勝利、そして後続こそまだまだいるが一つの大きな山を越えたとようやく実感した二人は一つ大きな息を吐いて体の力を抜いた。

 

 

 

「ふう…やったね悠くん!」

 

「はい…!でも、まだ終わってません」

 

「うん!この調子でマシロちゃんのところまで一直線に…「マスター!ノエルさん!」…へ?」

 

「ストライクハート、何があった?」

 

 二人の会話に割って入ったストライクハートの声には言い知れぬ焦りが含まれているのがよく分かった。

 普段はどこか快活で奔放なイメージのストライクハートであるが、戦闘時の彼女は冷静で的確、こうして感情を乗せて会話に入ってくるのは悠としても初めての事態だった。

 つまりはそれほどのことが起こったのだろう。悠とノエルは続きを促した。

 

 

 

「…たった今ラミィさんとかなたさんの魔力反応が急激に減退。そして二人の付近に強大な魔力反応を検知しました。二人が…危険です」

 

「「!!!?」」

 

 そんなストライクハートの報告に、悠とノエルは目を大きく見開いて驚愕することしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っう、くぅ…」

 

「なに、この…怪物は……」

 

 

 

 森の木々は徹底的にまで荒らされ、大地は抉れている。

 見境なく周囲を破壊しつくされたかのような惨状の中、二人の少女がボロボロの状態で地に伏していた。

 

 

 

 一人はアイスブルーの髪をしたハーフエルフ、雪花ラミィ。

 

 もう一人は銀の短髪に天使の羽と輪を持つ少女、天音かなた。

 

 

 

 二人はもはや動くことすらかなわないというように体を小さく震わせる。

 そこに宿る感情は恐怖か、あるいは無力感か。

 どうにか動かせる手をあらん限りの力で握りしめ、伏せていた顔をずらして二人は()()()()をその瞳で捉える。

 

 

 

「……………」

 

 

 

 そこには、膨大な魔力を宿した異形の悪魔が、二人を静かに見下ろしていた。





走者の一言コメント
「よっしゃあ団長とのコンボ炸裂!って思ってたらかなラミが大変なことに!?後続の魔獣もいるしどうするんですかこれ!?」

ここまでご読了ありがとうございました!
久々の戦闘パートでしたがいかがだったでしょうか?
うまく臨場感が出せていたら幸いです。

あと、今回試験的にキャラの前のコレ→>を消してみました。
アンケートもあるので気軽に答えて言ってくれたら嬉しいです。





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part29 純白の少女⑨『絶望と希望の境界線』

2週間空きましたがどうにか更新です。

世はゴールデンウィークに入る時期ですがみなさんはどう過ごす予定でしょうか?

私?わたしはホロの配信追いながらのんびりまったり過ごしたいと思います。
更新はまあぼちぼちできたらと…





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

「もう、こっちこないでったら!『氷の飛礫(アイスバレット)』!」

 

「ナイスラミィちゃん!ワール…ウィンド!」

 

 

 

 時間は少し巻き戻り、悠からの信号弾を視認したラミィとかなたは立ち塞がる魔獣の群れを掻い潜りながら着実に村への距離を縮めていた。

 

 ラミィが眼前にかざした掌から放たれた氷弾が魔獣を穿ちその足を止め、かなたがその隙をついて持ち味のスピードで急速接近、己の身の丈を大きく超える装飾絢爛な槍斧(ハルバート)による超速の二連撃が魔獣たちをまとめて切り裂いた。最前線にいた狼やイノシシは情け容赦なく胴体を真っ二つにされ、後続の魔獣も一つの例外もなく槍斧が生み出した風によって吹き飛ばされる。

 吹き飛ばされた魔獣はさらに後ろの魔獣や森の木に激突し崩れ落ちる。態勢を崩されたそれらは痛みを感じないかのようにゆらりと立ち上がり雄叫びを上げながら再び突撃を敢行しようとするが、吹き飛ばされ、激突し、立ち上がる。そんなことに時間をかけてしまえば、それは魔法を放つための詠唱の時間となり、格好の餌となる。

 

 

 

「貫いて、『氷魔槍(アイスランス)』!」

 

 ラミィの声とともに撃ち出された氷の槍が風切り音をかき鳴らして標的へ殺到する。

 数にして10と2つ。近づくだけで凍えそうな冷気を携えるグレシャーブルーの魔槍が大気中の水分を凍らせ氷霧を発現させる。一切の慈悲を与えないその攻撃は突撃を敢行しようとした魔獣の眉間をまとめて易々と貫いた。

 生命体としての稼働限界を迎えた魔獣たちはその姿を欠片も残すことなく霧となり音もなく静かに散る。

 

 一先ず目に見える範囲の敵を屠った二人は小さく息を吐いて呼吸を整える。

 

 

 

「…よし。ラミィちゃん、まだいける?」

 

「…大丈夫。はやく、悠くんたちと合流しなきゃ」

 

 

 

 あまり余裕はなさそうかなと、ラミィの様子を見てかなたは思案する。

 

 心配させまいと気丈に振舞ってくれてはいるがラミィの消耗はかなりのものだ。

 ただでさえ慣れない地形での戦いに加えてここまでの戦いでかなりの魔力を消費している。空も暗い霧に覆われて時間の経過も定かではないが戦闘開始してから体感して2〜3時間くらいは経っているだろう。

 その間ラミィは敵の足止め、後方からの火力出し、さらには防御手段に乏しいかなたの援護とかなりの広範囲に渡ってその培った魔法を遺憾なく発動している。

 それは本当にありがたく、頼もしい。事実ここまで二人とも被弾らしい被弾はゼロでやってこれているし、村までの距離も着実に近づいている。

 

 だがそれはイコール疲弊なしということではない。特に実戦というシチュエーションにおいては尚更だろう。

 これは訓練じゃない。確かな敵がいて、お互いがその命を賭けて戦う。そこには緊張が走り、重圧(プレッシャー)がのしかかり、負荷(ストレス)がかかる。普段のパフォーマンスは十全には発揮できず、疲労は重なるばかり。

 

 

 

(実戦らしい実戦はこれが初めてみたいなのに、本当に凄いよラミィちゃんは)

 

 それでもなお渦中の只中に立たされたハーフエルフの少女は手を止めず、足を止めず、そしてなにより思考を止めない。その輝かしい金色の瞳はひたすらに前を見据える。

 その瞳に映る意志の強さはいったい誰に似たのやら。

 

 恐怖はたしかにあるだろう。

 だが、それは彼女が立ち止まる理由にはなり得なかった。その感情を飲み込んででも、彼女は彼が残した(しるべ)に応えることを選んだ。踏みとどまることよりも、恐れながらも前に進むことを選んだ。

 今彼女を突き動かしているのは、ただ彼を、そして彼が守ろうとしているみんなを助けたいという願い。

 

 

 

 健気で、一途な、そんな眩い感情(おもい)

 

 

 

 そんなものを間近で見せられて、少しだけ羨ましいと思った。

 ただ純粋に願いのために進むことができるラミィのことを、そして彼女に想われている悠のことを。

 

 だからこそそんな二人のことを、ボクは支えたいと思ったんだ。

 

 もちろん頑張る理由はそれだけじゃないし、ボクの気持ち的にもラミィや悠にも譲れないものはある。

 でも、今この瞬間だけは。

 救いと祝福を与える天使として、友達として。

 仲間のために、友達のために、精一杯のことを。

 

 

 

「…うん。村までもうちょっとだから、あとひと踏ん張り頑張ろう!前はどーんと任せておいて!」

 

 また視界を埋め尽くすように溢れ出した魔獣たちを見てかなたは内に眠る魔力を解放して体中を巡るように循環させる。イメージとしては心臓から供給される血液の流れのように。多すぎず、だが少なすぎず、過不足なく全身に均等にいきわたるように。

 

 これはココ直伝の魔力による身体強化。

 今までかなたは悠なども使っていた武器に魔力を纏わせ威力と強度を引き上げる『武装強化』をメインにして戦っていた。

 理由としては『武装強化』は『身体強化』と比べて対象が小さい分使用する魔力を抑えられるし、あくまで武器を持って戦うことを主題としてるかなたとしては『身体強化』に重要性を見出していなかったから。

 

 だが、このココから教えてもらった『身体強化』は普通のそれとは違う。

 従来の『身体強化』が『武装強化』と同様に魔力を外に放出して対象に纏わせるものだとすれば、今かなたが使っているのは魔力を放出せずに身体の内側で循環させるものだ。言うならば『身体強化・(かい)』といったところだろうか。

 これはならば対象が使い続ける己の魔力と親和性が高い己の肉体のみという制約こそつくが通常の『身体強化』と遜色ない…いやむしろそれより効力が高いものを魔力消費を抑えて行使することができる。

 

 

 

(ここまではラミィちゃんのおかげで魔力を温存できたからね…ここからはノンストップ、一気に駆け抜ける!!!)

 

 

 

 村までの距離はもうだいぶん縮まった。ラミィの疲労もある。であれば、ここはもう時間をかけずに一気に行くべきだ。

 足を踏みしめて力を込める。前傾姿勢で『武装強化』を施した槍斧を後ろに引き絞り、天使の羽を準備運動のように軽く羽ばたかせる。フェイントも何もない、これから突撃しますよと宣言しているかのような構え。

 対人戦では論外と言う他ないバレバレの構えではあるが相手が意思も思考も存在しない魔獣であればさして問題はない。

 

 己の感情に身を任せろ。

 今やるべきことはなんだ。

 それは、目の前の敵の掃討だ。

 こいつらを乗り越えて、ラミィと一緒に悠とノエルの元へ辿り着くことだ。

 

 グッと槍斧を握る力を強める。

 いくぞいくぞと一気に飛び出そうとした瞬間、わずかに冷気が己の目の前に集積するのを知覚した。

 

 

 

「かなたちゃん止まって!なにかくる!!!」

 

「…!?」

 

 

 

 そんなラミィの呼び声とともにかなたの眼前に『氷華盾(アイスシールド)』が形成される。

 その直後、けたたましい衝撃音を響かせて目の前の魔獣もろとも正体不明の力の波にのみこまれた。

 

 

 

「な、なに…これ!?」

 

「分かんないよ!でも、そこから魔力反応がするの!ラミィでも知覚できるくらいとんでもない反応が!!」

 

 なにかを削るような音が、抉るような音が、叩きつけるような音が何とも言えない不協和音となってラミィとかなたの鼓膜を割りにかかる。二人は咄嗟に耳を塞ぎながら現状把握をしようとするが、花弁を象った氷の盾の向こう側は巻き上げられた土煙で物理的な視界が奪われているのが現状だ。

 ただ分かるのは、この先にいるのは想像を絶するであろうナニカ。この音だけで理解できる暴力的な力をあたりに無作為に振りまく自分たちの常識を飛び越えた存在。

 まず間違いなくまともなものではない。

 

 警戒は解かず、叩きつけられた重圧(プレッシャー)を振り払うように一つ息を吐く。

 目の前で行われた暴力の嵐はようやく鳴りを潜め、徐々に土煙が晴れていく。

 

 そこには、惨烈と言う他ない光景が目の前に広がっていた。

 荒らされた大地、抉り削られ薙ぎ倒された森の樹々、そこにいたであろう魔獣たちは一匹残さず霧となって消えていた。まるで局所的な嵐が通り抜けたかのような天災の痕。

 そして、二人はその中心地でその異形の姿を見た。

 

 

 

 

 

「……あく、ま…?」

 

「さて、ね。まあ、少なくとも味方じゃないのはたしかっぽいかなぁ…」

 

 ラミィの震えた声で称した『悪魔』という表現は、あながち間違ってはいないだろう。かなたもそれに対して軽口を叩きはしたが視界に映るその異形は二人の心に恐怖を植え込むには十分なシロモノだった。

 

 体格自体は思いがけず小柄である。

 全身が漆黒で覆われたそれはいいとこ2メートルもないだろう。しかしその姿と雰囲気があまりにも狂気的で不気味さを感じさせる。

 骨格はヒトのそれに近いが、猫背のような立ち姿と全身で狂気を体現しているのかと錯覚するほどの先鋭的なフォルムは、見た者の心臓を締め付けるかのような言い知れぬ()()()を突き付ける。

 

 

 

 恐ろしい。

 ただただ本能から発せられるその信号に一歩後ずさってしまう。

 

 逃げ出したい。

 這い上がる感情に、しかし背を向けない。

 

 アレを見続けていたくない。

 それでも、一歩足を踏み出して異形の悪魔を見据える。

 

 

 

 怖くても、逃げ出したくても。

 それは、悠を、ノエルを、マシロを、村の人たちを見捨てる理由にできない。したくない。

 アイツは明らかにボス格の相手。であれば、アイツさえ倒してしまえばあとは残党狩りだけだ。

 

 顔を上げ意を決したかなたは『身体強化・廻』で強化した足で思いっきり地面を蹴り抜いて突撃をかました。

 

 

 

「…悪魔がのこのこ天使の前に現れるなんてね。後悔させてあげるよ!!!」

 

「かなたちゃん、正面から!?」

 

 かなたのその全速力は風を置き去りにし、音とともに最短距離で標的へ飛翔した。

 しかしラミィが言った通りその軌道はひどく単純で直線的。いくら速いといってもその動きを見られてしまえば対応は難しくない。強さの底が不明に相手にその行動は危険と評して差し支えないものだ。

 

 そしてその異形の悪魔はかなたの速度に対応できてしまえるほどの反応速度を有していた。

 右手を振り上げ、鋭く尖った五指を揃え、出来上がるは漆黒の凶刃。傍から見ただけで理解できるその鋭さたるや人の肉体など一切の抵抗なく豆腐のように骨ごと切り裂くだろう。そしてそれは身体強化を施した天使の肉体だろうとさして結果は変わるまい。

 

 かなたの接近と同時に振り下ろされたその刃を視認して、しかしてかなたは表情を変えることはなかった。

 

 

 

「予想は…してたよ!!」

 

 ブンッと、かなたの輪郭がブレたと感じたその次の瞬間には、かなたは異形の悪魔の目の前から消え、その背後で既に煌めく槍斧を振りかざしていた。

 

 天使の羽を使った急制動。

 速度を乗せた状態で羽の角度をつけることで羽が受ける空気抵抗が急激に変わり速度が一気に落ちる。そしてその速度が落ちた瞬間に切り返しを行うことで目の前から消えたように見せる空中機動。今朝の悠を見て咄嗟に思い付いたものだが意外とうまくいくものである。

 

 

 

「くら、えぇ!!!」

 

 覇気を乗せたその一撃は空を裂きながら異形の悪魔へ迫る。

 異形の悪魔はこちらを見ていない。なら回避はできない、今気付こうがもう遅い。防御も『身体強化・廻』と『武装強化』を合わせたこの一撃なら大抵のものは突破できる自信がある。

 一撃で倒すと豪語するつもりはないがある程度のダメージと隙はできるはず。そしてその隙があれば既に魔法の詠唱に入っているラミィの追撃が入るはずだ。

 

 このまま一気に攻め潰す。

 勝利への道筋、その第一幕は通過したと確信したかなた。しかしその確信は

 

 

 

 ガンッ!!!!!

 

 

 

「………へ…?」

 

「………」

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()を見て、ものの一瞬で崩れ去った。

 

 うそ、そんな馬鹿な、ありえない。

 

 予想外の事態に思考の中でグルグルとそんな単語が行き来する。

 決してかなたは自分の力を過信していたわけではない。皆に認められたその膂力は、実力は正当な評価で、確かな事実であった。

 回避もまともな防御もできないという状況分析は当たっていた。異形の悪魔は回避をせず、防御だって緩く構えられた左手のみ。しかし想定外だったのは、その緩く構えられた左手のみで己の渾身の一振りが完璧に止められたという点。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()という点である。

 

 槍斧が止められた衝撃で風が薙ぎ、服や髪を揺らす。

 それが思考が止まっていたかなたを現実へ引き戻した。槍斧を殊更に強く握って羽を羽ばたかせるとひとまずの脱出を図る。

 

 

 

「え、う…わぁ!!?」

 

 だがそれは異形の悪魔の行動によって中断を余儀なくされた。

 異形の悪魔はグルンを顔をかなたへ向けるとその銀眼でひと睨みし、左手で掴んだ槍斧を無造作に振り回し始めた。かなたはいきなり視界が乱転したことで慌てた声を上げる。だがここで己の得物を失ってしまえば状況はさらに悪化するのは必至。どうにか離すまいと必死に槍斧の柄を持つ手に力を入れるが、異形の悪魔はそれを見越していたかのようにその槍斧をかなたもろとも投げ捨てた。

 

 

 

「ガッ…!」

 

「かなたちゃん!?」

 

 遠心力を加えて投げられたかなたは羽を使って速度を落とす暇もなくその進路上にあった木に背中を激しく打ち付ける。

 打ち付けられた衝撃で肺の空気とともに苦悶の声を吐き出しそのまま崩れ落ちる。

 ラミィは咄嗟に叫び駆け寄ろうとする。が、脳が揺れて意識が朦朧としながらもラミィを見つめるアメジストの瞳と視線が交差して立ち止まる。まるで今やるべきことはそうじゃないと訴えているかのようなその瞳に、ラミィは駆けだそうとした足を止めて異形の悪魔へと振り返った。

 

 

「…分かってるよ。ラミィが今やるべきことは…!」

 

 掌を眼前にかざす。

 イメージする、望むのは刺し貫く氷の槍。

 

 

 

「貫いて、『氷魔槍(アイスランス)』!!!」

 

 詠唱を終え、撃ち出されるのは先ほどより多いグレシャーブルーの魔槍。元はかなたの攻撃の追撃用だったため現状での最適解ではなかったかもしれないが、手加減と温存という考えを取っ払ったその魔法は魔獣たちへ放ったそれとは段違いの密度とたしかな意志を伴って異形の悪魔へ迫る。

 

 異形の悪魔はそれを見ると右手のみだった凶刃を左手にも作り出し、氷の魔槍をその両腕で切り裂きはじめた。

 バキィンと氷が割られる音が暗い森の中に何度も空しく響き渡り、異形の悪魔の周りに氷の残骸が積み重なっていく。総計18回、それが、ラミィが『氷魔槍(アイスランス)』を撃ち終わるまでに聞こえた氷割の音の回数であった。

 

 

 

「…無傷だなんて…っ!」

 

 『氷魔槍(アイスランス)』によって発生した冷気で氷霧がわずかに立ち込める中、ラミィはそう悔し気に零す。

 おそらくこの魔獣の大量発生という事態を引き起こした元凶であり、今目の前でかなたを傷つけた張本人。手加減や油断など一切していないラミィの攻撃には確かに異形の悪魔に対しての敵意が籠っていた。

 そしてそれを、ヤツは真正面から打ち砕いた。

 

 まるで届かないと言わんばかりのその結果はラミィを自信喪失させるには十分で、それ故に異形の悪魔の接近にラミィは僅かに気づくのが遅れた。

 

 

 

「!っくう…!」

 

 悉くを両断する漆黒の双刃が両サイドからラミィを襲う。

 ラミィはほぼ無意識に『氷華盾(アイスシールド)』を展開。ぶつかり合った二つの技はもはや必然と言わんばかりの結果を示し、双刃が氷華を切り裂いた。

 しかしあくまでラミィの目的は防御ではなく回避のための時間稼ぎ。『氷魔槍(アイスランス)』が切り裂かれた時点でこの展開を予想していたラミィは盾がわずかに双刃を押し留めている間に足元に氷を生み出し、その勢いに乗って後方へのジャンプを行い異形の悪魔の攻撃範囲から脱した。

 

 だが当然これで終わりなわけがない。

 ラミィのジャンプ、その着地を狙いすました刃が振られる。それに対してラミィは失敗したと言わんばかりに顔を歪ませる。

 ジャンプを高くしすぎたのだ。凶刃から逃れることに必死だったラミィはそこに芽生えたかすかな恐怖心から生み出す氷の規模を自分が想像していたよりも大きくしすぎてしまった。心に巣くった恐怖心が、強みの精密な魔力操作をわずかに狂わせた。

 

 

 

「…あああああ!!!」

 

 凶刃がラミィを貫く、本人ですらそれを覚悟したそのコンマ数秒前、刹那の差で異形の悪魔の後方から飛来した存在がギリギリラミィを掴まえて凶刃の射程外まで連れ去った。

 予想だにしていなかった結果にラミィは困惑し、その表情のまま己を凶刃から連れ出してくれた正体を見つめる。

 

 

 

「かなたちゃん…」

 

「っへへ、ギリギリセーフ…」

 

「あ、ありがとう…ってかなたちゃん、血が!?」

 

「だいじょーぶ。かすり傷だよこんなの」

 

 慌てるラミィにかなたはそう笑いかけるがそんなわけがないと心の中でそう確信する。

 かなたは右の二の腕から手の甲にまでかけてバッサリと長い切り傷が刻み込まれていた。ドクドクと鮮やかな赤い血が溢れて学園制服を瞬く間に紅く染め上げる。見ただけで想像に難くないその痛々しさにしかしかなたは左手でそれを抑えるのみでおくびにも顔には出さない。

 

 かなたはラミィと共に異形の悪魔と距離をとりながら思考を続ける。

 ラミィにはああ言ったが、助け出すこと自体はできてもそれでも被害は甚大。よりにもよって利き腕の右腕を負傷、これでは槍斧を持つことはできても振ることができない。先ほどの初撃の後隙のようにハイヒールを使うことができれば回復は可能だが、向かい合っているこの状況では果たしてアイツが使わせてくれるかどうか。まあおそらくは無理だろう。

 だがこの怪我を負った状況で戦い続ける方が土台無理な話だ。どこかでアイツを撒くか隙を作るかしないと。

 

 

 

「…?追撃、してこない…?」

 

 ラミィのそんな声にかなたはハッと異形の悪魔を見る。

 異形の悪魔はかなたを斬った右手の凶刃をじっと見つめ動く様子がない。

 おかしな話だ、想像の域を出ないがあの異形の悪魔は大量発生した魔獣たちとは違い意思が、そうでなくとも知能があるはずだ。それはかなたの攻撃への対処、そしてラミィのジャンプの隙を的確に狙ったことから予想できる。

 そしてそんな奴なら一人を負傷させて二人がかたまっているこの瞬間を見逃すはずがない。

 

 だが現実はどうだ。

 異形の悪魔はこちらを見ることすらせずに自身の右手を、正確には右手についたかなたの血を眺めている。

 感情は見えない。喜んでいるのか、あるいは苦しんでいるのか。

 異形の悪魔がその瞳に宿す感情が何なのか、二人には理解することも、窺い知ることもできない。

 

 しかしどうあれ奴が動いていないならチャンスだ。

 回復するにしても態勢を立て直すにしても、ここを逃してはいけない。

 ラミィとかなたが同時にそう結論を出し動き出そうとした、その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───aaaaaAAAAAAAAA!!!!!」

 

 

 

 

 

 暴力的な漆黒の魔力の渦が、異形の悪魔を中心に吹き荒れた。

 

 

 

「ぐぅ…!」

 

「これ、声……!?」

 

 漆黒の風が、纏わりつくようにラミィとかなたを巻き込んで渦巻く。息苦しく、重苦しい。不快感を強制的に募らせるような重く暗い魔力。

 それにのって響く音は、何重にも負の感情を重ねたようなつらく、そしてどこか悲しい音色。

 それを目の前で聞いた二人は脳みそを無理矢理かき回されたかのように意識が遠のき立つことすらおぼつかず、手と膝を地面について息を吐き出す。

 

 

 

 いけない。

 魔力を有していることは知っていたがここまで近接戦だけだったくせにここにきて開放してくるなんて予想外もいいところだ。

 ヤツは特別な何かをしたわけではない。ただ魔力を解放しただけだ。それなのにこの重苦しさ。一体どれだけの負の意識が込められたものなのか想像すらしたくない。

 幸いと言うべきか自分は天使特有の聖の魔力である程度効果を抵抗(レジスト)できるが他はそうはいかない。かなたは隣のラミィに目を向ける。

 

 

 

「……ぅ、あ…」

 

「ラミィちゃん…!」

 

 意識は、ある。だがそれが身体まで追いついていない。

 どうにかして今は逃げないと、このままでは二人ともあの凶刃の餌食だ。

 

 

 

「…『祝福(ブレッシング)』」

 

 淡い光が二人を包み込む。すると、さっきまでの息苦しさが気持ち和らいだ。

 天使のみが使える聖属性魔法『祝福(ブレッシング)』。闇を祓い、祝福を与える魔法。天使の中でもまだ見習いの自分だがその効果は確かにあったようだ。

 

 動くようになった体を寄せ合いながらラミィと共に起こす。

 しかしマシにはなったとはいえ未だに周囲に渦巻く黒い魔力は健在だ。

 加えて、対面する異形の悪魔がすでにこちらを見据えている。

 

 

 

(ヤッバいなあ…これ。逃げ切れる…?)

 

 割と本格的な絶望的な状況にかなたは心の片隅に「諦め」の文字が浮かんでしまうくらいにはまいってしまっていた。

 当然諦めるつもりなど毛頭ない。だが自分自身は肉体的な負傷、そしてラミィはさっきの魔力によるダメージがまだ残っている。万全の状態ですら防御がギリギリだったのに今のままではその防御すらおぼつかない。

 

 

 

 ───いや、それでもやらなくちゃ。

 

 

 

 決めたんだ。助けるって、支えるって。

 ボクはどうなってもいい。でも絶対、彼女だけでも…

 

 

 

 バチッと、雷光が走り銀の髪が軽く逆立つ。

 かなたの魔力の開放。

 自身を回復してる暇はない。必要なのは、アイツの隙を作ること、そしてラミィから意識を逸らすこと。

 

 

 

「轟け雷よ、『雷環の計(サークレットサンダー)』!!!」

 

 上空に魔法陣の展開、そして轟音とともにその魔法陣から円環状の雷が迸り異形の悪魔を縛り付け、放電(スパーク)する。それと同時に碌に力が入らない右腕を叱責して槍斧を握りしめた。

 倒すことは、きっと無理。でも、これでできるだけ時間を稼げれば…

 

 

 

「ラミィちゃんいって!ここはボクが…」

 

 己が身を切るかなたの作戦。しかしそのかなたの言葉は、最後まで紡ぐことはできなかった。

 

 その言葉は、音は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガアァァァン!!!

 

 

 

 

 

 突如二人の真下から響いた大地が砕かれる音に無慈悲に搔き消された。

 

 

 

「きゃあぁ!!!」

 

「うああぁぁ!!!」

 

 

 

 大地から這い出した刃が、衝撃波と伴ってラミィとかなたを襲った。大地の刃が足を裂き、腕を裂き、衝撃波が二人をもろとも吹き飛ばす。

 もう立ち上がる力すら奪われた二人はどうにか動かせる頭でこの元凶を見やる。

 そこには、自身の両腕を地面に突き刺せたままの異形の悪魔の姿。おそらくは地面に魔力を通してラミィとかなたの直下で爆散させたのだろう。その威力は見ての通りだ。

 

 普通に受ければ間違いなく致命傷の攻撃。異形の悪魔が放ったその魔法は二人の命を容易く刈り取れるほどのものだった。

 だがしかし

 

 

 

「…う……」

 

「……間に、あった………!」

 

 生きていた。二人とも。

 ボロボロで、立ち上がることすらできず、絶望的な状況でも。しかしそれでも二人はまだ生きていた。

 

 

 

「ラミィ、ちゃん…?まさか…」

 

「…あはは、さっきのおかえし、ね…」

 

 ラミィの魔力感知能力。こんなギリギリの状況でも…いやだからこそ、ラミィは異形の悪魔の魔法の発動兆候を捉えていた。

 魔力の流れから地面からの攻撃と判断したラミィはすぐさま『大地氷結(アイスフロア)』を足元に可能な限り分厚く展開して衝撃を緩和させてみせた。

 

 どうにか命をつなぎとめた二人だったが、それでも死神の鎌は依然首にかけられたまま。

 そしてその死神の足音が、氷を踏み潰す音とともに徐々に二人に近づいてくる。

 

 

 

 いやだ、死にたくない。

 風前の灯火となったこの命、それでもなおかなたが願うことは生存だった。

 

 だってまだやらなきゃいけないことがある。

 やりたいことがある。

 

 神様からホロライブ学園入学の際に承った使命。

 そしてボクがこの学園に来てから芽生えた感情。

 

 まだそのどちらも成し遂げられていない。

 叶えられていない。

 

 辛いこともある、苦しいこともある。

 でもそれ以上に楽しくて、嬉しくて、輝かしいあの日々を大切な仲間たちとともに過ごしたい。

 

 

 

 異形の悪魔がその漆黒の双刃を振りかぶる。

 狙いは、ラミィとかなたの無防備に晒された首。

 二人は揃って自分の首を断ち切るであろうその凶刃を見つめる。

 

 

 

 

 

(いやだよ。こんなところで死にたくないよ)

 

 

 

 

 

「………助けてよ、悠くん…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「させるかああああああああ!!!!!」

 

 

 

 

 

 二人の目の前で、光が弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前で、光が弾けた。

 それはとても鮮烈で、それでいてとても暖かい、闇を通さない守護の光。

 その光を見た瞬間にラミィは我を忘れたかのように呼吸を忘れて、思考が止まり、視線がその光を生んだある人物へ固定された。

 

 彼の横顔が覗いた刹那、得も言われぬ安心感に包まれる。

 

 

 

 「あ、ここで死んじゃうんだ」と、ラミィは本気で命を落とすことを覚悟した。

 目の前まで迫った死を告げる凶刃にラミィは魔力を練ることも、身を捩り回避に動くこともできなかった。防がなきゃ、避けなきゃと頭では分かっていたのに、体が全く動いてくれなかった。

 

 偏に、恐怖が体を支配してしまっていたから。

 

 こわくて、怖くて、恐くて。

 

 ここはホロライブ学園じゃないし、仮想戦闘訓練室のような仮想空間でもない。

 致命傷を魔力ダメージに置換する安全装置(セーフティ)なんてものは存在しないし、この肉体は紛れもなく本物なんだ。

 傷つけば痛いし、致命傷を受けてしまえば本当に死んでしまう。

 

 足がすくんだし、手も震えた。

 それでも、隣で一緒に戦ってくれる仲間がいたから。ラミィを待っててくれる人たちがいたから、ここまで頑張ってこれた。侵食するかのように滲む恐怖という感情を押し殺して前を向くことができた。

 

 

 

 でも、この異形の悪魔は、そんなラミィの前を向こうとする心をどうしようもないほど徹底的に打ち砕いた。

 攻撃は通用しないし、防御は簡単に破ってくる。

 

 絶望というのはこういうことを言うのだろうと場違いながら冷静に思ってしまった。

 

 かなたちゃんと一緒に戦って、それでも手も足も出なくて。異形の悪魔の攻撃からかなたちゃんに守られて、そしてラミィも守って。

 でも結局は死の間際まで追い詰められた。

 

 そしてラミィは願ってしまった。

 「助けて」って。

 助けたいと思っていた彼に、またそう願ってしまったんだ。

 

 そう願ってしまった弱い自分にどうしようもなく腹が立った。

 でも同時に、やっぱりどうしようもなく嬉しかった。

 

 

 

 

 

「本当に、僕はいつも遅れてばかりだ」

 

 

 

 だって。

 

 

 

「でも、間に合った…!」

 

 

 

 だって。

 

 

 

「助けに、来たよ!!!」

 

 

 

 ラミィたちの希望()は、こんな絶望すらも塗り替えてくれるんだって。

 ラミィたちのことをたしかに想ってくれているんだって。

 そう、心の底から思えたのだから。





走者の一言コメント
「あっぶなあああ!!!?あと数舜遅れてたらエンドでしたよ!?」

ここまでご読了ありがとうございました。
物語はここから核心に向けて進んでいきます。
これからものんびり見ていただければ幸いです。

あとかなり急いで今回の話は書いたので多分細かいところは修正が入ると思われます。






もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part30 純白の少女⑩『迷ってはいけない選択肢』

無事更新です!

GWはこんこよ24があったりホロライブワールドがこれからあったりと個人でも企画でも配信がが盛りだくさんで退屈しない日々でしたね。
まあおかげで投稿が遅くなってしまったわけですが…


いつもお気に入り登録、感想、評価もいつもありがとうございます!
しっかりとモチベーションにつながっております。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 

(くっそ…展開速度優先だったとはいえ『エクセリオンシールド』ですら完璧には受けきれないのか…!)

 

 

 

 強力無比な矛と盾が火花をあげてぶつかり合う。

 その度に漆黒の凶刃と光の障壁が軋み、弾け、音を上げる。

 

 ラミィとかなたの命を刈り取らんとした異形の悪魔の双刃をまさにこれ以上ない間一髪というタイミングで多層障壁の魔法陣が受け止める。

 そしてその間に割り込んだ魔法陣の主───星宮悠は自身の最高の盾の様子を見て険しい顔を浮かべた。

 

 

 

 チリチリと、光が弾ける。

 漆黒の凶刃が多層障壁の魔法陣にほんのわずかに食い込み始める。

 

 互いの十八番。無論確実に仕留めるために全開(フルパワー)まで溜められた矛と防御を間に合わせるために展開速度を優先した盾とではフェアじゃないし比べるべきではないのは分かっているが、それでもなお全幅の信頼を置く『エクセリオンシールド』がほんのわずかにでも傷が入った事実に悠は内心で舌を打ちつつわずかに体勢を変える。

 

 

 

 思考の停止は戦いの場では致命的な隙であるとフブキから学んだだろう。

 事実をしっかりと受け止めろ。そして、持てるもので乗り越えるしかないんだ。

 

 それに僕は一人じゃない。

 僕は、決して一人で戦っているわけではないのだから。

 

 

 

「…ノエル先輩!!」

 

「おっけーい!」

 

 刹那、悠の背後から飛び出した影が陽気な声とともに異形の悪魔を吹っ飛ばした。

 弾かれたように後方へ吹き飛ばされた異形の悪魔だが、腹部を片腕で抑えながら木々に激突して視界のはるか先へ消えていった。

 それを見た影───白銀ノエルは鈍色に光るメイスを片腕で振り抜いた状態で驚きの声を上げた。

 

 

 

「おお…あれガードするんだ。不意を突いたと思ったんだけどなあ」

 

「魔獣の群れとは根本的に違いそうですね。防ぐ動作を見せたってことは本能か知能がある」

 

「悠くん…ノエル先輩も……!」

 

 こちらを呼ぶ…というより存在を確かめるようなかなたの声に反応して、伏している二人に目を向けた悠はその様子に悲痛な表情を浮かべるとともに一先ず安心した。

 

 怪我は二人して酷いものだった。

 着ている服は土を被り、いたるところが切り裂かれたかのように破けている。そこからさらに血が滲んでおりなんとも痛々しい。かなたにいたっては右腕が一文字に長く裂かれており学園制服を深紅に染めている。

 呼吸もやや浅く、顔色も悪い。

 

 だが間に合った。

 そこには確かな命があった。

 最悪の状態だけは、どうにか避けることができた。

 

 

 

「かなた、ラミィも…生きててよかっ…!?」

 

「………ゔ~~~~~!」

 

 二人に駆け寄った悠に、ラミィが抱き着いた。

 思わず声を失う。

 

 震えていた。

 傷だらけの体も、言葉にならない声も。

 そこには異形の悪魔への恐怖と、何も為せなかった自分への無力感がありありと浮かんでおり、そして堪えきれなかったそれが透明な雫となって白磁のような頬をつたう。

 

 怖かったのだろう。悔しかったのだろう。

 その場にいなかった悠ではラミィの激情は推し量れない。彼女の恐怖をぬぐいとることも、彼女の無力を否定することも、今の悠にそれをする資格はない。

 

 それでも、気付けば悠は自分の胸に顔をうずめるラミィをゆっくりと抱きしめ返していた。

 

 

 

「あ…」

 

 腕の中のラミィが小さく声を漏らす。

 片手は頭に、反対は背中に、どこか小さな子供をあやすようにポンポンと撫でる。

 

 この行動は悠が意識して行なったものではなかった。

 使命感でもなく、同情でもなく、ただそうしたいと自分ですら自覚していなかった願望。ただもう泣かないでほしいという願い。それが悠の体を無意識に動かしていた。

 

 心と体に流れ込む温かさにラミィは無意識に体を悠に寄せ、悠に抱き着く腕に力が入る。じんわりと滲んでいた恐怖心を溶かしていく。凍り付いていた心臓が動き出し高鳴りを訴えるように強く脈打つ。

 

 震えは、いつの間にか収まっていた。

 

 

 

「遅れて、本当にごめん。生きててくれて、本当に良かった」

 

「……うん、うん…!」

 

 震えが収まったラミィが温もりを惜しむようにゆっくりと離れる。

 その顔にもう恐れはなく、二へっと緩やかに笑顔を浮かべる。

 

 

 

「よし、じゃあ二人は…って、どうしたの二人とも?」

 

「かなたちゃんコーヒーある…?」

 

「手持ちにないので後で淹れます…」

 

「「…?」」

 

 振り返ってみるとノエルとかなたが二人して何とも言えない表情でこちらを見ていた。不快感というよりかはなにか甘いものを過剰摂取させられてしまったかのような訴えの表情。

 悠とラミィは顔を見合わせて「???」とハテナマークを浮かべる。

 

 

 

 直後、四人の背後で轟音が鳴り響いた。

 

 

 

「「「「!」」」」

 

 そこからの行動は速かった。

 ノエルが我先にと三人の眼前に立ちふさがりメイスを構え、悠は未だに立てない二人の周囲に結界を施す。

 

 

 

「かなた、魔力はまだ残ってる?」

 

「!うん」

 

「じゃあ二人は今は回復に専念して。いけそうなら後で合流を、無理なら…」

 

「合流するよ。絶対!」

 

「…分かった。この結界は内から外へは出られる。…待ってるよ」

 

 悠はそれだけ言い残すともうこちらへは振り返らずノエルの隣に並び立つ。

 その直前、どうしても聞いておきたかった疑問を投げかけた。

 

 

 

「そういえば、悠くんたちはなんで助けに来られたの?そっちも魔獣はいたんじゃ…」

 

 かなたは悠の性分を知っている。

 困っている人は放っておけない。そこには種族も立場も関係ない。自分の手に届くのであればその全てを守ろうとするそんな気質。

 そんな彼が自分とラミィがピンチだからとはいえそこら中に巣くっている魔獣を放置するとはとても思えない。結界が張られているとはいえそうしてしまえばガルナ村の人たちと、そして何よりマシロに危険が及ぶのは言うまでもない。

 

 そんな心情を察したのか悠は「あぁ…」と一つ零して表情を緩める。

 それは大丈夫と言わんばかりの顔。

 

 

 

「…頼もしい狐と妖精が、助けに来てくれたからね」

 

 記憶に新しいとある二人の顔を思い浮かべて、悠は敵を迎え撃つために己が魔力を解放して魔法陣を展開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど…けえ!!!」

 

「じゃ、まぁ!!」

 

 時間は遡り四人の合流前、悠とノエルは焦る気持ちを抑えられずに迫りくる魔獣たちをひたすらに屠っていた。

 悠は右手に片手長剣(ストライクセイバー)を握り突貫を仕掛け、ノエルも『武装強化』で強化したメイスを振るい魔獣をまとめて吹き飛ばす。

 

 ストライクハートから知らされたラミィとかなたの危機。

 魔力反応で位置自体はすでに判明していたから迷うことはなかったが、まるでこちらの意図を把握しているかのように進路上に魔獣が大量に湧いてくる。

 

 空を飛んで一直線に行くのも考えたが、下手にガルナ村まで近づいてしまった関係上この場に魔獣を放置してしまえばその魔獣たちの矛先は十中八九村に向かってしまうだろう。結界こそ張ってあるが未だに保っていられるのは自分たちが魔獣の大部分を相手しているからだ。その枷がなくなってしまえば瞬く間に村へ魔獣がなだれ込んでしまうのは自明の理。

 故に、どうにかここの魔獣たちを一掃してから向かわなければならない。

 

 

 

「ラミィとかなたのとこに急がなきゃいけないんだ。だから…そこをどけえ!!!」

 

 悠が必死の形相で吼え、振られた長剣が光の軌跡を残して魔獣を両断する。

 時間がない。もうどれくらい経った。まだ二人は無事なのか。

 魔力制御に集中しているためストライクハートからの続報はない。聞いている時間がもったいない。一分でも、一秒でも、可能な限り早く進まなければ。

 

 焦りは冷静さをなくす。

 四方を敵に囲まれた現状でその心理状況は危険だ。

 ノエルは悠を見てそれを察すると悠の背後に回りフォローする。

 

 

 

「圧倒的に人手が足りない…三人、いやせめて二人だけでも味方がいれば…」

 

 無いものねだりは愚の骨頂。

 分かっていてもそう愚痴をこぼしてしまったのはそれだけノエルも今の状況に余裕がない証拠である。

 

 決して不利なわけじゃない。敗北する未来が見えたわけじゃない。

 だが、目の前の魔獣によって現状から前に進めていない事実がノエルの焦燥感を掻き立てる。

 

 ラミィとかなたはノエルにとっても大事な後輩なのだ。

 守りたい。それは騎士としての本懐であり、同時に白銀ノエル個人としての願望でもある。

 

 振りかざされた熊の魔獣の爪を屈んで避けて、一転攻勢のメイスを熊の無防備に晒された腹部へ思いっきり叩きこむ。あまりにもな過剰攻撃(オーバーキル)に断末魔を上げる間もなくその輪郭がブレるが、もはや黒い霧へ変わるのを見届ける暇もなくノエルは増え続ける後続へ目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その刹那、ノエルの目に映った魔獣たちが不意に空より飛来した矢によって体を貫かれていた。

 

 

 

 

 

「え…これ……!」

 

 断末魔を上げて魔獣たちが霧となって消える。

 だがそんなことは今のノエルにとってはどうでもよかった。

 

 知ってる。

 ノエルはこれを知っている。

 誰よりも時間を共にして、誰よりも信頼している、そんな人物の得意技を分からないわけがない。

 

 後ろを振り向く。

 まず目に映ったのは、自身と対を為すような煌びやかな黄金の長髪。続いてこっちを優しく見つめるガーネットの瞳。矢を撃ち放った体勢で自分たちを見るその表情は安心と安堵が入り混じっていた。

 そこにいた想像した通りの人物の姿に思わず声を漏らす。

 

 

 

「…フレアぁ…!」

 

「や。助っ人その1、不知火フレア参上ってね」

 

「ナイスだよぉ…!で、でもどうしてフレアがここに?」

 

 ふわりとノエルの隣に降り立ったハーフエルフの少女───不知火フレアがパチッと一つウインクをする。

 感涙を浮かべて思わず抱き着きそうになるが、さすがに状況が状況なので自粛。

 

 

 

「うん、本来はエルフの森の『(ゲート)*1の護衛をしてたんだけどね。突然空に砲撃が撃ちあがるし見てみたら森一帯が黒い霧で覆われてるしで、緊急事態だろうって来てみたわけ」

 

「なるほどー…ってそうだ!悠くんの援護いかないと!」

 

「あ、悠くんの方も大丈夫だよ」

 

「へ?」

 

「言ったでしょ?()()()()()()だって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白狐一刀流…『細雪(ささめゆき)』!!!」

 

 

 

 目の前で、魔獣たちが瞬く間に両断されていく。

 突然起きた現象に悠は頭に昇った血が下りてゆき冷静さを取り戻した。

 

 今目の前に映る光景に戦場の只中だというのに思わず目を奪われる。目にも止まらない速度で一人の影が縦横無尽に駆け、繰り出される超速連撃が数多の白銀の剣閃となって暗闇の中で美しく煌めく。

 暗い森の中に浮かび上がるそれはどこか幻想的で、同時に綺麗だと思ってしまった。

 

 キンッと、刀が鞘に収まる小さな金属音が響き、目に見える範囲のすべての魔獣を切り払ったその影が悠の前に姿を現す。

 ピョコンと跳ねた白い狐の耳にゆらゆらと揺れる大きな尻尾、悠を見つめる翡翠の瞳はなんとも誇らしげ。白を基調とした服装に、すべてが白で統一された一振りの刀の名は『ムラサメマル』。

 

 

 

「…フブキ」

 

「うん!助っ人その2、白上フブキ!ババンと参上!なんてね」

 

 コンコンと両手で親指と中指薬指をくっつけた狐のマークを見せるその正体は狐の獣人───白上フブキその人である。

 まったくもって普段と変わらない様子にこんな状況だというのにふと笑みがこぼれてしまう。

 

 なんでこんなところにいるのかとか、聞きたいことはいろいろある。

 ああ、でもまずは、これは伝えなきゃいけないだろう。

 

 

 

「…ありがとう、フブキ。助けられちゃったね」

 

「いえいえ!困ったときはお互い様ってことで!」

 

 

 

 フレアとフブキの助太刀によって一呼吸置くことはできたが、依然として余裕はない。

 ラミィとかなたの救助は目下最優先の事項ではある。しかしそれをするにしてもまだまだ増える魔獣たちを放るわけにはいかない。

 

 

 

「フブキ、フレア先輩。その…」

 

 悠は開こうとした口を閉じて言いよどむ。

 悠からしても今から言おうとしているのは事態の押し付けだ。

 まだ何も知らないであろう二人に難題を押し付けようとしている。

 

 あの二人を助けるためには言わなければいけない。

 でも、それはひどく身勝手で、我儘な行為。

 自分たちの問題に二人を巻き込んでいいのかと考えがまとまらない。

 

 そんな葛藤の中悠が拳を握りしめていると、バチンと額に衝撃が走った。

 

 

 

「………へ?」

 

 額に受けた衝撃で顔が自然と上がる。

 そこに映ったのは、やれやれと呆れ顔を浮かべるフブキとフレア。

 なにを迷っているんだと言わんばかりにフブキが五指をこちらに向けた状態で軽くため息をつく。おそらく彼女がデコピンをかましたのだろう。不意の事態に変な声がこぼれた。

 

 

 

「フ、フブキ…?」

 

「…例えば白上がすっごくピンチで困っていて、でもなにも知らないみんなを巻き込めないと誰にも声をかけられずにいたとします。それを見たゆうくんはどう思う?どうする?」

 

「え…あっ………」

 

 当然助けになると答える前に、納得した。

 どうするかなんて考える前に、理解した。

 

 同じだ。今の自分と、問いかけたフブキのシチュエーションは。

 ラミィとかなたを助けるために少しでも急がなきゃいけなくて、でも状況も知らないであろう二人に押し付けるのは抵抗があって。

 でも逆の立場だったら自分がどうするかなんて、フブキたちがどう思うかなんて、そんなの当然分かりきっていた。

 

 

 

「白上たちだって同じだよ。迷惑とか、面倒とかそんなこと考えたことすらない。大事な人が困ってるなら助けたい、力になりたい。それっていたって自然な感情(コト)でしょ?ね、フレア」

 

「うん、困ってるなら頼ってほしい。友達に頼られるって、それはとても嬉しくて、誇らしいことなんだよ」

 

「………でも」

 

「でもじゃない」

 

 フブキが両手で悠の頬を抑える。

 下を向きかけた顔を無理矢理あげて翡翠と星が交錯する。

 

 

 

「ゆうくんは人を頼るのが下手になっちゃった。…いや、正確には自分のせいで誰かが傷つくのが怖くなっちゃったんだ」

 

「…!」

 

「それは誰だってそうだと思う。自分のせいで誰かが傷つくのは怖くて、想像するだけで苦しい」

 

 それは、確かに正常な感情だ。

 自分にとって大切な誰かが傷つくのが嬉しい人なんていやしない。いるとすればそれは狂気に染まった異常者だけだ。

 怖くて、苦しくて、だから頼らない。傷つくのは自分だけでいい。

 

 そして悠は、その考えが人より少し過敏なのだ。

 自分の手で守ろうとする意志が強いが故に。自分の手が届くところで守ると決めた人の命が散ってしまうことを究極的に恐れるが故に。

 それはきっと、過去に守りたくて、それでも守れなかった大切な人がいたから。

 

 これが自分だけの問題だったら、悠は二人を頼ろうとはしなかっただろう。葛藤することすらしなかったはずだ。

 

 だけど違う。

 この選択には自分以外の命が係わっている。今まさに風前の灯火となっている存在がある。

 二人とも悠にとっては大切な存在で、守りたい人なのだ。

 そしてそれは、今目の前にいるフブキとフレアとて同じ。自分より強いと分かっていてもなおその想いは揺るがない。

 

 故に、心に迷いが生じてしまった。

 誰も危険に晒させない方法が、悠には思い浮かばなかった。

 

 

 

「ゆうくんは優しいもん。迷ったってことは、白上たちに助けを求めなかったらゆうくんじゃない誰かが危険なんでしょ?」

 

「そうなの、ノエル?」

 

「…うん。ラミィちゃんと、かなたちゃん。フレアたちが来てくれる前に二人の魔力反応が急に弱くなったんだ。今どうなってるのかは分からない。でも、ここの魔獣を放置しちゃったら依頼を受けた村が危険になる」

 

「ゆうくんは二人を助けたいんでしょ?何が何でも守りたいんでしょ?じゃあなおさら、これは迷っちゃいけない選択肢!」

 

 フブキは最後に悠の頬をパンッと軽く叩くと笑顔を浮かべる。

 悠たちのところへは行かせないというように再び現れた魔獣たちの前に立ちふさがり、ムラサメマルの柄を緩く握りシャランと淡い音色を奏でながら鞘から白銀の刀身を抜き放つ。

 それにフレアも続くように矢筒から一気に矢を5本引き抜き弓につがえる。

 

 その二人の表情には、悠たちを助けるというたったひとつの決意が宿っていた。

 

 

 

「悠くん。悠くんは多分納得しきってないだろうし、ここは悠くんから私たちへの依頼ってことでどうかな?」

 

「依頼…?」

 

「あ、じゃあ白上はGW(ゴールデンウィーク)中に一日ゆうくんの時間をください!ゲーム祭りじゃい!!」

 

「私は…いつかお弁当でも作ってもらおうかな。ノエルから聞いたけど料理できるんでしょ?」

 

 なにやらトントン拍子で進む話に疑問符が抜けない。

 いや、言ってること自体は理解できる。

 このまま何も返せず二人に任せるのは自分が納得しないだろうから、()()()()()()で二人に対して自分が報酬を用意するといったところだろう。たしかにそれならまあ一応の納得はいく。無論いきなりすぎて追いついていない節はあるのだが。

 

 しかし自分が言いたいのはそういうことではなく…と考えていたところで二人がそろって悠に振り返り挑発的に口角を上げる。

 

 

 

「それとも…白上たちがやられると思ってるのかい?」

 

「学園の序列は結構上の方なんだけどなあ~」

 

「………」

 

 

 

 ああ、もう。ズルい言い方をする。

 ここで首を振れば、それは僕が二人の実力を信用していないということになるじゃないか。

 

 ここまで言われてしまえば、頼らないわけにはいかないじゃないか。

 

 

 

「…分かりました。ここは、任せていいですか?」

 

「白上に任せとけー!」

 

「うん、ラミィちゃんにかなたちゃん、助けてあげてね」

 

「…はい!ノエル先輩、行きましょう!」

 

「分かった!」

 

 悠はノエルの手をとると『アクセルフィン』を展開して即座に加速、音を置き去りにする勢いで飛翔していった。

 加速している最中に「のわああぁぁぁ…!」というノエルのなんとも珍妙な声が聞こえた気がするがまあ気のせいだろうとフレアはひとつ頷いてフブキとともに改めて眼前の魔獣の群れを見据える。さっき救援に入ったときは標的(ターゲット)が悠たちに向いていたから楽に取れたが、こう向かい合ってちゃそう簡単にはいかないだろう。

 

 でも、まあ問題はあるまい。

 

 

 

「じゃあフレア、いこっか」

 

「りょーかいフブちゃん、援護は任せてよ」

 

 フブキが自然体のまま駆け出し、フレアがつがえていた矢を狙いを定めて解き放つ。

 その次の瞬間、魔獣の首が跳ねとび、眉間に容赦なく風を切る矢が突き刺さった。

*1
現世から幽世、天界、魔界などの世界間をつなぐ場所。世界間の歪みを固定化している存在のため実際に門の形をしているわけではなく見た目はワープホールのようなものである。





走者の一言コメント
「これはフブちゃんに惚れてしまう…!約束したからには助けるっきゃないよなあ!」



ここまでご読了ありがとうございました!
思ったより話が進みませんでした。
次回から戦闘に次ぐ戦闘回になりそうなのでしょしょお待ちを。





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part31 純白の少女⑪『覚悟と真実』

戦闘描写が入るとどうしても長くなってしまいますがどうかご容赦ください。
ということでどうにか週一投稿継続です!

ちなみに来月にはもうこの小説が2周年を迎えるということで…
まあ何かしらはする予定ですので期待しない程度に期待していただけたらと思います。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

「んあ~、ようやく帰ってこれたぁ」

 

 ガタガタと揺れる座席からようやく解放されたと大きく伸びをしてとある少女が久方ぶりの硬く安定した大地を踏みしめる。

 獣魔術師(ビーストテイマー)による飛行便。獣魔術によって使役した翼竜(ワイバーン)を用いての移動は言わば空を駆けるタクシーのようなもので、駅のような機関を関さずに済む関係上自由度が高く個人での利用には便利だが、快適度が如何せん獣魔術師の技量に大きく左右される。

 その点で言うと今回は揺れも少なくまだましな方ではあったが、どうしたって空での移動は苦手だ。他に使える移動機関がなかったため妥協したができれば二度と使いたくはない。無論その獣魔術師が傍にいるため思うだけだが。

 

 そう考えながら黒いコートを緩く羽織り長布で保護した相棒(狙撃銃)を持ったホワイトライオンの獣人───獅白ぼたんは獣魔術師に一つ礼を言うと自宅に向かって歩き出す。

 

 GW(ゴールデンウィーク)中にこなした依頼の数々。

 どれもこれも時間こそかかってしまったが無事完了。むしろ掃討対象も数だけで手ごたえがなさ過ぎて途中から退屈してしまうレベルのものだった。

 比べる対象は当然というべきか自分に泥を塗った学友と先輩。あの時の高揚感と比べてしまえば今回の依頼はまったく震えなかったしテンションが上がることがなかった。まあ報酬はおいしかったしそれで宣言通り武器の新調もできた。

 

 次のバトロワでは、リベンジしてみせる。

 

 そうして見上げた空はいっそ清々しいほどの雲一つない快晴。日の光が眩しくぼたんは思わず空いた手で光から目を守る。

 何も変わらない日常。明日も明後日も陽は変わらず昇るのだろうとただただ当然のことを考えながらふと思い出したことを誰に言うわけでもなくぼたんは独り言を零す。

 

 

 

「そういや悠たちもそろそろ依頼終わった頃か…?」

 

 何気ないその言葉は、ぼたんが髪を抑えるほどの突風に流されて消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わりはずれの森が変容して実に数時間、しかしそこは未だ暗き霧に包まれたままだった。

 世界の光を断絶したその一帯はまるで世界から切り離された別世界(アナザーワールド)。みなが何気ない日常を謳歌する中で、そこだけがひっそりと暗く、境界は歪み、すべてが曖昧となった辺境の地。

 その環境故に、その中で起こっている事象を世界は認知しない。

 

 その事件は世界の誰かに知られることはなく。

 その戦いは世界の誰かに称えられることはなく。

 その想いは世界の誰かに届くことはない。

 

 それでもなお、少年少女たちは戦い続ける。

 すべては己の意志を貫くため、己の誓いを果たすため、己が守りたいと願った誰かを守るために。

 

 得物に意思を宿して、魔法に誓いを乗せて、宵闇の戦いは今、激化する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 漆黒と瑠璃の刃が激突し、その衝撃によって散らされた焔が暗がりの森を仄かに照らす。

 本来最前線を張っていたノエルは先ほど空中に浮かされたところを叩かれて背後に飛ばされた。気にかかるのはやまやまだがノエルもガードはしていたし異形の悪魔をこのまま放置はできないので悠が代わりに前線を張っているのが現状だ。

 もう幾度この交錯を繰り返しただろうか。

 10か?20か?

 いや、少なくとももう二桁を下ることはないだろう。

 

 飛行魔法である『アクセルフィン』の機動力を近距離での切り返しや重心移動に転用して、悠は前後左右、縦横無尽に加速を行って異形の悪魔へと剣撃を繰り出していた。

 異形の悪魔も生物であり人型だ。目は顔の正面にしかついていないし、その眼で捉えられるものにはどうしたって限界がある。故に異形の悪魔が悠を視界から一度でも外せばこの連撃のすべてを防ぐことなどできはしない。

 

 足の羽を羽ばたかせ、異形の悪魔の背後をついた悠が左足を踏み込んで右手に握ったストライクセイバーを袈裟斬りの要領で振り下ろす。

 異形の悪魔は悠を見ていない。死角を取った。この攻撃は必中だ。

 

 ()()()()()()()

 

 

 

 ギィィィン!!!

 

 

 

「っくそ…!」

 

 異形の悪魔のうなじを狙ったその一撃は、その寸前で漆黒の凶刃によって止められる。

 戦闘を開始してから同じことの繰り返しに悠はため息にも満たない声を漏らす。

 

 いくら背後をとろうとも、いくら剣速を上げようともその悉くが双刃に止められ、弾かれる。いや、剣だけじゃない。射撃魔法(ディバインシューター)砲撃魔法(クロススマッシャー)も、悠のいかなる攻撃もがここまで異形の悪魔へただの一度も直撃(クリーンヒット)になってはいない。

 まるでこちらの攻撃がすべて読み切られているかのような異形の悪魔の的確なガードに武器たちを握る両手に力が籠められわずかに汗で濡れる。

 

 

 

「悠くん飛んで!」

 

「っ!」

 

 突如耳を叩いた指示に悠は反射的に『アクセルフィン』に魔力を込めて中空へ舞う。

 その次の瞬間には、地上を見ていたはずの悠の視界は青銀の氷で埋め尽くされていた。

 

 

 

「最大出力、『大地氷結(アイスフロア)』!!」

 

 後から聞こえたその声に、悠はこらえきれない笑みを浮かべた。

 それは、頼もしさからくる安心感と、彼女たちの無事を確信できた嬉しさ。

 

 見ればそこには、二人の少女がいた。

 一人は先ほど悠に指示を出した声の主でもう一人の少女を守っていた白銀ノエル。

 そしてそのもう一人はもう言うまでもないだろう。地に両手をつけて吐く息は魔法の余波によって白く凍り、体全体に霜が張り付いている。ところどころが破けながらもその特徴的な寒冷地仕様の服装を身にまとった少女は雪花ラミィ。

 

 そんなラミィが己の魔力をありったけ込めて放った『大地氷結(アイスフロア)』は実物を見たことがある悠たちの想像を絶する威力だった。

 驚くべきはその規模だ。以前見たときはいいとこ足首までの厚さのものだったが、今目の前で展開されたソレはその厚さも範囲も以前の倍は優に超えているだろう。下手したら下半身が丸ごと埋まるほどの威力。加えてその範囲も学園のグラウンドくらいなら完全に包みこめるであろう。

 時間をかけ状況がかみ合えばここまで威力が跳ね上がるのかと驚愕していた悠だったが、ふっと顔をあげて異形の悪魔の姿を探す。

 

 あれだけの高威力、広範囲のラミィ渾身の魔法だ。さすがにと淡い期待を抱いて魔力反応を探ると、異形の悪魔はすぐに見つけ、よしとひとつ零す。

 見れば異形の悪魔はラミィの氷の波に囚われていた。自由に動くのは上半身のみ、どうにか脱出しようとしているのかグラグラと上半身を動かしている。

 

 間違いなく絶好のチャンス。

 ここを逃してしまえばまた一からやり直しだ。

 

 ラミィが魔力の放出を続けて氷をより強固に固めつつノエルとともに悠を見つめて頷く。

 いって、と声にしない後押しに悠はストライクハートを砲撃形態(バスターカノンモード)へ変えて構えるとともにその切先を異形の悪魔へ向けると、隣に頼もしい魔力反応を感じた。

 

 

 

「ボクのこと、まさか忘れてないよね?」

 

「…当然、待ってたよ」

 

 瞳に紫電を走らせ、宙を自由に駆ける星と雷がともに輝く。

 隣を見ればそこにいたのはすでに魔力を滾らせて勝気な笑顔を浮かべこちらを見やる天音かなたの姿。

 お互いに何を言うでもなく小さな共鳴音を響かせると二色の魔法陣が天空に映し出された。

 

 片や瑠璃、片や群青。

 

 内に眠っていた魔力が魔法陣を通じて外へ溢れ出す。

 それは木々を揺らす風となり、森を照らす光となり、天を轟かせる雷となる。

 

 

 

「ストライクハート、ロードカートリッジ」

 

「Load Cartridge.」

 

 悠の宣言、そしてストライクハートの冷徹に響く機械音声。

 それがトリガーとなり、ガシャガシャガシャン!と弾体が内側で弾け空薬莢が排出、風と光が、暴風と極光へと成り代わる。

 弾倉に残ったカートリッジをすべて吐き出して現界したのは他を圧倒する魔力の奔流、近くにいたかなたはビリビリと肌を叩くその力にさすがと思うと同時にやや空恐ろしさを感じた。

 

 バトロワの時も感じたことだが、これだけの魔力を齢15の人間の少年が一度にその身に宿すには少々過度だ。身に余る魔力は当然それ相応の負担がかかるはず。それが外部から無理矢理得たものならなおさらだ。しかし悠の横顔に苦の表情はない。まるでそれが当たり前とでもいうように涼しい顔をする。彼が今まで身に受けた痛みを顔に出したことは、果たしてあったのだろうか。

 

 かなたのそんな杞憂は、己と悠の魔力の充填とともに打ち消された。

 

 

 

「じゃあ、いこうか」

 

「…りょーかい!」

 

 かなたは頭を振って思考を切り替える。少なくとも今はそれを考えるべき時間じゃない。

 右手に持つ槍斧(ハルバート)を掲げ、魔法陣が群青を超えた青白い雷を放つ。それは、天使特有の聖なる魔力を帯びた雷。天より降り注ぐ悪を罰する神の雷。文句なしのかなたが持ちうる最大火力。

 

 

 

「悪しきを滅せよ!『天雷(ヘヴンズサンダ―)』!!!」

 

 

 

 そして悠もまた、放つのは己の限界を超えた一撃。それは星宮悠の代名詞にして、本来必要な魔力量を大きく超えた不安定でありながら一撃必倒の威力を秘める火力特化の砲撃魔法。

 

 

 

過充填(オーバーチャージ)臨界突破(リミットブレイク)!さあ、いくよ!!!」

 

 吹き荒れる魔力によって髪が逆立つ。内で暴れまわる魔力で肉体が悲鳴を上げる。

 だが悠は止まらない。照準は外さず、視線はそらさず、悠は、高らかにキーワードを唱えた。

 

 

 

「ディバイン…バスタァァァァァ!!!」

 

「Divine Buster Overcharge.」

 

 

 

 

 

 神の雷と一筋の極光が音すらも消し飛ばす威力を孕みながら異形の悪魔へ向けて撃ち出された。

 一度吞み込まれればチリすら残さないであろう魔力密度、いくら異形の悪魔が硬かろうといえどこれを受けてしまえばひとたまりもないのは確実。

 威力よし、照準よしの必中と言うべき二つの魔法は、そのまま異形の悪魔へ迫り大地に到達し強烈な爆発音を上げた。

 

 

 

「よっしゃ―――!!!」

 

「当たった…か」

 

 中空にいたかなたと悠は思い思いの反応をする。

 当たった。そのはずだ。

 今は土煙が上がって仔細を確認はできないが異形の悪魔があの場を最後まで動かなかったのはこの目で見た。もし仮に防御をしたとしても、あの二つの魔法の直撃に加えてラミィの『大地氷結』を巻き込んでの魔力爆発。避けられない以上溜まったダメージは相当なもののはずだ。

 

 動けまい。動けたとしても戦闘続行はできない。

 自慢じゃない、誇張じゃない、これはあの魔法を撃った本人としての強い自負だ。

 しかし、それでもあそこまで簡単に直撃したという事実に悠は少しばかり戸惑いを隠せずにいた。

 

 

 

「やったね悠くん!ラミィちゃんにノエル先輩も!」

 

「うん!倒せた…よね」

 

「さすがにあれを食らって動けるのは団長も想像できないかな~」

 

 かなたは地上に降りラミィやノエルとハイタッチを交わす。その微笑ましい光景を見て、悠は張りつめていた緊張をほぐすように一つ息を吐く。

 

 そうだ、直撃したのは見た。であれば問題はない。

 それよりも、未だ安全の確認がつかめていないマシロのところへ急がないと。

 

 そう判断して悠もまた三人に合流しようと『アクセルフィン』を稼働させる。あくまで視線は異形の悪魔がいたであろう場所からそらさず、しかしここまで動かないのであれば倒したのだろうとそう思いながら。

 

 

 

 悠が下降を始める、その寸前。

 悠は、巻き上がった土煙がわずかに揺れるのを見た。

 

 

 

「…!!?」

 

 悠は内心で嘘だろと零した。

 たしかに拭えない不安はあった。倒しきれたという確信を持っていたわけではなかった。だがそれでも、あの攻撃を受けてなお動くのかと悠は驚愕の表情を浮かべる。

 まだ終わっていない。あの悪魔は、まだ生きている。

 

 加減など知らないとでもいうように悠は全力で加速を始める。

 間に合え、間に合えとそう祈りながら『アクセルフィン』と『フラッシュムーブ』の同時使用で一陣の風と化した悠が三人の元へ駆ける。その三人が異変に気付く前に悠は警鐘を鳴らした。

 

 

 

「三人ともまだ終わってない!!!」

 

「「「…!?」」」

 

 悠の必要最低限の警告に三人が後ろを振り向く。

 悠が『ラウンドシールド』を展開する。

 そして、土煙の中から異形の悪魔が五指を揃えて作り出した凶刃が『ラウンドシールド』とぶつかるのは、すべて同時の出来事だった。

 

 

 

 つんざくような衝撃音が耳朶を叩く。

 ギリギリと金属が擦れるような音を鳴らして黒の刃と光の壁がせめぎ合う。

 

 

 

「コイツ…なんでまだ動けるの!?」

 

 かなたのその叫びはもっともだ。

 理解が及ばない、恐怖より先にその感情が頭を埋め尽くした。『天雷』と『ディバインバスター・オーバーチャージ』が直撃したのは確実だった。『大地氷結』の氷に囚われて回避することは不可能だったはずだ。

 しかし、目の前で黒の刃を攻め立てる異形の悪魔はダメージこそ負っているが明らかに自分たちの攻撃と釣り合っていない。焼け焦げ、土を被ってはいるが重症とは程遠い程度のダメージ。それは攻撃を受けて間もなく反撃を仕掛けたことからよく分かる。

 

 

 

「だけどダメージはある、このまま押し切るしかない!!悠くんなんとか抑えてて!かなたちゃんいくよ!」

 

「分かりました!」

 

「!は、はい!」

 

 真っ先に動き出したのはノエルだった。

 腰に戻していたメイスを即座に引き抜き重心を低くして駆けだす。かなたもそれに続き挟撃の構え。悠は今にも割られそうな魔法陣にありったけの魔力を流し、ラミィは悠の援護に回り『氷華盾(アイスシールド)』を展開する。

 最低限の言葉で行われた連携は想像以上の流麗さだった。時間にして一秒にも満たない連携速度。互いを信頼したからこそ実現したその動き。

 

 正面で漆黒の凶刃を受け止める悠の両サイドから駆けたノエルとかなたはそのシンクロした動きで異形の悪魔の腹部めがけてメイスと槍斧を振るう。異形の悪魔の両腕は攻撃に使われているならガードはできない。避けられるかもしれないがそれなら既に次の魔法の詠唱を始めているラミィと魔法陣を展開している悠の追撃を決められる。

 両択どちらでもいい。相手にこれ以上攻撃の隙を与えず攻め倒す。その選択は最善で、考えうる限りの最良。

 

 

 

 

 

 ギャリィン!!!

 

 

 

 

 

「っは…?」

 

「…なん、で……?」

 

 しかしそれは、異形の悪魔が発動した()()()()によって根本から破綻させられてしまった。

 漏れ出た声は、果たして誰のものだったのか。かなたとノエルか、それとも悠とラミィか。

 しかしその心境は、ここにいる全員が共通しているものだっただろう。

 

 知らないものを見たからではない、その逆だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが、悠たちの思考を否応なしに止めた。

 

 メイスと槍斧、それと異形の悪魔の間に展開されたもの。

 それは、まごうことなき魔法陣だった。

 円状で、幾何学模様と文字列が描かれた魔法陣。異形の悪魔と同じく漆黒の光によって映し出されたそれを、悠たちはよく知っていた。

 

 

 

「ラウンド、シールド…?」

 

「どうして、悠くんと同じ魔法を…」

 

 そう、それはまさしく今悠も展開している『ラウンドシールド』と同じものだった。魔力光を除けばまさしく鏡写しのように描かれている模様も文字列も、不気味なほどに一致してしまっている。

 違うと否定することができない。使っている悠だからこそ確信できる。

 あれは間違いなく『ラウンドシールド』であり、【ミッドチルダ魔導】に通じる魔法だ。おそらく悠とかなたの魔法もあれでダメージを軽減したのだろう。

 

 そう確信できたからこそ、悠は苦虫を噛み潰すように顔を歪める。

 

 なぜなら、今目の前にいる異形の悪魔、ひいては今回起こった騒動の元凶がミッドチルダの生き残りだと確信してしまったから。そしてミッドチルダの生き残りの奴らの目的は一貫して()()()()()、ひいては悠が持つ()()()()の奪取。つまりは、今回の事件は悠がここに来たから起こってしまったものだとも言えるのだ。

 

 それは違うとラミィたちは言ってくれるのだろう。

 このガルナ村に来たのはあくまで依頼が来たからだと、それを偶然ノエルが受けて、そして偶然悠たちが誘われたからだと。

 

 たしかに事実としてはそうだろう。

 だがそれを細かく紐解けば、その事実はただの偶然ではなくなってしまう。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

(そうか…そういうことかよ…!)

 

 悠が歯ぎしりを鳴らす。

 しかし今この瞬間にも時間は動いている。

 目の前の敵は、決して止まってはくれない。

 

 異形の悪魔が二人の攻撃を『ラウンドシールド』で受け止めつつ、悠とラミィの防御を割らんとした双碗の内の片方をおもむろに地面に突き刺した。

 それに反応できたのはラミィとかなた。その身を以て、その異形の悪魔の行動が何を意味するのかを二人は知ってしまっていた。

 

 

 

「ッヤバイ!みんな逃げ…」

 

「!っアイスフロ…」

 

 二人がすぐさま行動に移る。

 かなたは一番近くにいたノエルの手をとり全速力で飛翔、ラミィは先ほどと同じように魔法で防御を行う。

 しかし、あと一瞬、刹那と呼ぶべき時間が足りなかった。

 

 

 

 

 

 異形の悪魔を中心に、大地が粉々に砕かれる音が響き渡った。

 

 

 

 

 

「がっ………!」

 

 瞬く間に巨大なクレーターが作り上げられる。

 もう、痛みで声を上げる余裕すら、今の悠たちには残されていなかった。掠れた声だけを上げて、悠たちは四人まとめて吹き飛ばされ力なく他に伏せる。

 二回目の攻撃で、異形の悪魔はラミィの防御方法に適応した。

 両腕ではなく片腕でのみの攻撃、当然ながら威力は落ちるだろうが、その分わずかながら発動速度は引き上げられる。そして異形の悪魔にはそのわずかな差がこの結果につながると視えていた。

 

 凄惨、そう呼ぶ他ない状況だった。

 大地は抉れ、木々はその悉くを薙ぎ倒され、四人の少年少女は血を流し倒れ伏す。

 そしてそれを見下ろすのは、この現状を引き起こした一匹の悪魔。それは死神か、あるいは冥府の使者か。

 

 心がへし折られるには十分だった。再び心が恐怖で埋め尽くされるに足る状況だった。それが自然だし、恐怖を抱いたのは紛れもない事実なのだろう。

 しかし、しかしそれでも。

 

 

 

 

 

「まだ、終わってない………!」

 

「負け、られんよね…!」

 

 それでもなお、立ち上がる者がいた。

 頭から血を流しながら、吐く息を荒くしながら、傷だらけで、ボロボロになりながら。

 それでも、心は折れず、誓いは歪まず、まっすぐに異形の悪魔の銀眼を睨み返す者がいた。

 

 

 

「…ノエル先輩、ラミィにかなたは…」

 

「…ラミィちゃんは気を失ってる。かなたちゃんは…どうにか意識はあるけど、魔法で回復しないと復帰はきつそう…」

 

 他でもない、悠とノエルだった。

 違いはひとえに体力と防御力の違いだろう。

 悠は常に防御魔法の一種である『バリアジャケット』を発動させているし、ノエルも身に着けている甲冑に加えて生命力はホロライブ学園の中でも群を抜いている。

 

 悠は二人の様子を聞いて得物を握る力が無意識に強くなる。

 敵は健在、対してこちらは全員が負傷しており万全とは言えない。

 状況は刻一刻と悪くなるばかり。加えてフブキとフレアが間引いてくれているが村にもわずかに魔獣が向かっている。結界が破られるのも時間の問題だ。

 

 それでも、やるんだ。

 必ずみんなを守って、こいつを打ち倒す。

 そして、マシロを救う。

 

 悠は空になっていたストライクハートの弾倉を素早く入れ替えると即座にカートリッジロード。もう悠が持っている最後の弾倉だが、時間をかけられない以上出し惜しみはしてられない。

 足元に魔法陣を展開し、周囲に浮かび上がるは計20個の淡い光の魔力球。

 

 

 

「援護します。信じて…くれますか?」

 

 それに対するノエルの返答なんて、当然決まっていて。

 

「…当然!!」

 

 それだけ残してノエルはまっすぐに駆けだす。今までの戦闘で奇策は通じない相手という判断か。あくまで正面を切って、真向勝負で打ち破るつもりだろう。

 であればと、悠も魔力球の軌道を設定、段階ごとに光の帯を残して撃ち出される。

 その最中、悠は相棒に問いかけた。

 

 

 

「…ストライクハート。アレ、いけると思う?」

 

「…!無茶ですマスター!万全の状態でさえ負担が大きいのに…!」

 

「だよね。分かってる」

 

 そう言う悠の顔はどことなく申し訳なさそうで、怒られるのを待つ子供のようだった。

 分かっていたのだろう、ストライクハートが反対するのも、その理由も。全て分かったうえで、それでも悠は問いかけた。

 

 それは、決して曲がることのない意志の表れ。ダメだと分かっていても通さなければいけない意地があるというエゴ。たとえその結果自分の命が文字通り削れるものだとしても、悠は止まるつもりなど微塵もありはしなかった。

 

 魔力球が異形の悪魔を取り囲むように動き、その足元を穿って土煙をあげさせる。その中を、ノエルがお構いなしに突撃していった。

 

 

 

「それでも、今はやらなきゃ。あの防御を確実に突破するには、多分これしかない」

 

「…ラミィさんやかなたさんを待ったら…」

 

「できればそれが一番だけど…原因が僕なら、無理に巻き込めないでしょ?」

 

「………」

 

 それはあくまで悠の持論だ。でも持論であるがゆえに、意思が強い悠は止まらないことをストライクハートはよく知っている。

 

 使ってほしくはない。

 私が壊れる分にはどうだっていい。核さえ無事なら直せるし、またマスター()と一緒にいられる。

 

 でも、これで削られるのはマスターの命だ。まだ改良も実戦もまともにできていないこの『新モード』は、『カートリッジシステム』と併用することで爆発的な能力が使えるがその分身体への負担は『カートリッジシステム』の比じゃない。

 既に脆くなった彼の命でそれを使うのはまさに自殺行為に等しい。故に、改良が済んでいない今までは使えても使ってこなかった。

 だが…

 

 

 

「頼むよ、ストライクハート」

 

 本当に…相棒にこんなに心配をかけるなんてとんでもないマスターだ。私じゃなければとっくに見限られてるに決まっている。

 すぐに無茶をして、それを悪びれもせず。周りを守ることに夢中で、自分のことなんて二の次で。それでも、みんなに優しい、出会った時から私が大好きなマスター。

 

 

 

「…3分。これが、私が出せるギリギリの譲歩です。それ以上は絶対に許しませんから」

 

「…ありがと、ストライクハート」

 

 だから、頷いた。

 頷きたくなかったけど、マスターには、したいと思ったことをさせてあげたかったから。

 

 

 

 

 

 刹那、暴風を巻き込んでノエルと相対していた異形の悪魔がこちらへ突っ込んできた。

 

 

 

「ッごめん悠くん、抜かれた!」

 

 その背後でノエルが全速で異形の悪魔の後ろを追いかける。

 つまりは相対しているノエルを無視してまでこちらを狙ってきたということだ。その意図は測れない。後衛を先に潰しにかかったのか、あるいは別の理由があるのか。だが、こちらもすでに覚悟は決まっている。

 右手に持ったストライクセイバーを亜空間にしまい、緩くストライクハートを眼前に突き出す。

 

 

 

「ガードの直後、始めるよ」

 

「…はい、マスター!」

 

 キィンという音とともに足元に魔法陣が展開される。

 願うは障壁、そして、己の新たな力。

 

 

 

「プロテクション・パワード!!」

 

 重い衝撃を伴って放たれた凶刃が光の壁にせき止められる。

 発動したのは物理防御に特化した『プロテクション・パワード』。いくらこちらの動きを読めようが全体を覆う防御であれば受けに関しては問題ない。交錯した二つの力の境界線で、悠の星の瞳と異形の悪魔の不釣り合いな銀眼が交差する。

 さあ、ここからが本番だ。

 

 

 

「いくよストライクハート!!!」

 

「っはい!!!」

 

「ストライクハート、形態変化(モードチェンジ)!フルドライ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………オ……ニイ……チャ…」

 

 

 

 

 

「…………………は…?」

 

 

 

 突如として異形の悪魔が発したその声に、悠は、世界が止まる音を聞いた。





走者の一言コメント
「……………はい?え……え???」



ここまでご読了ありがとうございました!
えー、はい。何も言いません。というか何も言えません。
次回の更新も緩くお待ちください。




もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part32 純白の少女⑫『燃え盛る瞋恚の焔』

ハイラルを救う旅をしていたため更新が遅れてしまいました申し訳ありません(第一声)

やれること多すぎてクリアまで約60時間。それも地底探索は殆どほったらかしなのでまだまだ楽しめそうですね。

まあしかしこっちもほったらかしにしたくないということで更新です。





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

「おにいちゃんって、おそらがすきなの?」

 

「ん?」

 

 依頼を受けて訪れたガルナ村。そこで過ごした、最初にして最後の夜。

 夕食を終えたのち少女たちの申し出によって後片付けを一任し、食休みと称して庭で満天の星空を眺めていると、隣に座りこんだ一人の少女が唐突にそう問いかけてきた。

 

 見上げていた星空から視線を隣に移してみるとそこにいたのは予想通りの純白の少女。

 星の光に照らされた腰に届きそうなほどの絹のような白の長髪は夜風に靡き、一点の曇りもなくこちらを見つめる神秘的な銀の瞳は好奇心に満ちていた。

 髪と同じく真白のワンピースを着て細い両腕で膝を抱え込んだ体育座りで殊更に小さく見えるその少女は、どこか気まぐれで訪れた小さな妖精(ピクシー)のよう。

 

 こちらが言葉を紡がないのを見ると少女───相良マシロは視線を外すことなく続ける。

 

 

 

「さっきから、ずっとみてたから…」

 

「…そうだね」

 

 悠はそれを聞くと視線をまた空に戻し、届くはずのない手を空に、そしてその奥の星へ伸ばした。

 

 

 

「うん、好きだよ。空もそうだけど、何より星が好き」

 

 悠にとって星は憧れであり、自分が目指したもの。

 いつだったかも覚えていない遥か過去、幼い自分のその瞳に焼き付けられた光景は確かに悠の道標となっていた。

 再び瑠璃色の星の瞳をマシロに向けると小さく微笑む。

 

 

 

「星は遥か彼方から暗い夜を照らしてくれる。月や太陽よりもずっと遠い遠い場所にいても、あんなに光り輝いている。たとえどれだけ遠く離れていても、僕たちを見ていてくれる。見つけてくれる」

 

 だからこそ、そんな存在でありたいと思った。

 どれだけ遠く離れていようとも、誰かを照らし見守ることができる、そんな存在に。

 記憶に靄がかかったように全てが不透明で顔も思い出せないけど、それでもなお輝かしいと感じる、僕たちを助けてくれたあの人たちのように。

 

 そう語る悠の瞳は、憧憬と羨望が入り混じったように揺らぎ、しかしその次の瞬間にはいつもと変わらない人のいい笑顔を浮かべていた。

 

 

 

「…なんて、マシロちゃんにはちょっと難しかったかな」

 

「んん、よくわかんない…ックシュ」

 

 眉をひそめていたマシロが一つくしゃみ。

 もう春とはいえ時間帯は夜、さらに言えば現在のマシロは薄手のワンピース一枚という格好である。であれば体が冷えてしまうのも当然だろう。

 

 

 

「風邪引いたら大変だし、そろそろ家の中に…って」

 

「…ここなら、あったかい」

 

 マシロのその行動に悠は体が動かせなかった。

 隣にいたマシロは唐突に動き出すと悠の懐に潜り込みすっぽりとその体を収めた。そのまま悠の両手を自身の体の前に回して固定。二人の体がぴったりとくっつきお互いの体温が伝わる。

 

 突然のその行動に悠がやや困惑した表情を浮かべていると、腕の中からこちらを見上げたマシロを目が合う。

 その表情自体は不動。しかし背中を悠に預けて前に回された腕を掴むその様子に悠は一種の諦めとともにマシロの体を支えた。

 

 銀の瞳にわずかに映ったのは、懇願と寂寥。

 触れた温かさに縋っているかのように。込み上げる寂しさを紛らわせているかのように。

 

 それを見て、悠は一つの推測とともにどこか納得した表情を浮かべた。

 

 

 

 きっと、マシロも同じだったのかもしれない。

 悠がマシロを妹のようだと感じたように、マシロもまた悠のことをどこか兄のように、かなたたちを姉のように感じていたのかもしれない。

 

 そう思うことで、無意識に少しでも心にぽっかりと空いた穴を埋めようとしていたのかもしれない。

 

 

 

「…すこしだけ、だから」

 

「…わかったよ」

 

 悠は掴まれた方の腕はそのままに反対の腕をマシロの頭に乗せる。

 「ん…」とかすかに漏れた声を聞いて、軽く梳くだけでサラサラと流れる白髪に心地よさを感じつつゆっくりと頭を撫でる。

 

 

 

「明日は少し寂しくさせちゃうけど、大丈夫だよ」

 

 回した腕に少しだけ力が籠る。

 この子(マシロ)はここまでたくさんつらい思いをしてきた。両親を失い、望まぬ力を宿し、村のみんなから淘汰された。加えて、ようやく訪れかけた平穏に新たな脅威が迫った。

 

 それでも、この子は懸命に生きている。いろんなことを我慢して、今を生きている。

 

 ならば、それは必ず報われなければならない。これから先の人生は、この子にとって幸せなものでなければならない。

 

 その一助となるのが、僕たちの今の目的。

 為すべきことなんだ。

 

 

 

「この村を…マシロちゃんを脅かす脅威は、必ず僕たちが祓ってみせるから」

 

「…うん」

 

 空に輝く星を見上げ、少年は少女にそう誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………オ……ニイ……チャ…」

 

「…………………は…?」

 

 

 

 せめぎ合う二つの力の境界線で、悠の青眼と異形の悪魔の銀眼が交差する。衝突した力の余波で生まれた風が悠の髪をなびかせ、露になった瞳がその心情を詳らかにした。

 

 困惑と驚愕、空虚と絶望。

 思考は混濁し、体が急速に冷えていくのを自覚する。

 

 

 

 待て、待って、待ってくれ。

 

 

 

 開こうとした口が閉じなくなった。

 

 練ろうとした魔力が霧散した。

 

 動かそうとした体が凍り付いた。

 

 

 

 世界が、その動きを止めた。

 

 

 

 ありえない、ありえていいはずがない。

 頭の中を駆け巡るのはそんな現実を受け止められない言葉ばかり。たどり着いた結論を己の脳が拒否している。

 

 守るべき光は討つべき闇へ、希望が絶望へと挿げ替わる。

 

 悠にとっては理不尽という言葉すら生ぬるい真実に、戦場という場で決して止めてはならない思考すら金縛りにでもあったかのように動かなくなった。

 脳が縛り上げられ、同じような言葉の羅列だけが延々と頭に響く。

 

 受け入れられるわけがなかった。

 だってあの子は、今までずっと辛い思いをしてきたのに。

 失って、虐げられて、色のない世界で生きてきて。これからの人生は絶対に報われなくちゃいけないのに。さんざん苦痛を味わったはずの少女が行きつく末が、これなのか。

 

 

 

 

 

「悠くん!!!」

 

 突如として悠の耳に響いたノエルの悲鳴にも似た叫び声。その刹那。

 

 

 

 ズブッ…

 

 

 

「…っあ…」

 

 熱い。

 最初に知覚した感覚はそれだった。

 

 左の脇腹、内側から溢れ出した熱がじわじわと広がっていく。意識外からの感覚に悠が我に返ってその発生源に目を移す。

 白と青、その二色で構成されていたはずのバリアジャケットがみるみるうちに紅に染まっていく。一つの斑点が滲んで広がっていくかのようなそれがいったい何なのか、分からないはずがなかった。

 そしてその中心地にあったのは光の反射すら許さない漆黒。鋭く、研ぎ澄まされた狂気の刃。

 ここまできてようやく、悠は己の現状を理解した。

 

 

 

「…ゴフッ……」

 

 目の前の異形の悪魔によって脇腹を貫かれていた。血がとめどなく流れ出し、体内から逆流したそれが口からも滲みだす。

 わずかに遅れて、焼けつくような激痛が襲った。

 

 

 

「悠くんっ!!!!!」

 

 つんざくような悲鳴が聞こえた。

 後ろを見てみると、そこには悲痛どころの騒ぎではない、まさに絶望を表すような顔をしたかなたの姿。まだ完全には回復しきっていないのか立ち上がれてはいないが、体の傷自体は大方塞がっているのを見て自分のことを棚に上げるが少しだけ安心した。

 

 しかし状況は一転悪い方へと加速している。

 ラミィはまだ気を失ったまま、かなたは復帰までまだ時間がかかる。ノエルはまだ重症というほどではないが疲労が見え始めているし、悠にいたってはこの有様だ。

 

 さらにはあの異形の悪魔の正体。

 不幸中の幸いと言うべきなのか異形の悪魔が発した言葉を聞きとれたのは悠だけだったため自動的にその正体に気付いたのも悠だけだろう。故にノエルたちが正体に気付いていない以上その戦意が途切れることはないだろうが、気付いた場合がどうなることか。あるいは気付かず倒せたとしても、その後に正体が割れればその心に深い傷を負いかねない。

 

 

 

「く…っそが…っ!!?」

 

 今ここにはいない黒幕に悪態を吐いた瞬間、異形の悪魔が悠を貫いていた右腕を引き抜かれる。

 引き抜かれた際にさらに血が溢れ出すが、悠がそれに反応する間もなく対の左腕で悠の首を掴んだ。

 

 

 

「ッ悠くんを…離せ!!」

 

 地を這うように重心を落として急接近したノエルが異形の悪魔の足首めがけてメイスを振るう。上半身を狙えば悠を盾に使われるかもしれないし、使われなくともあれだけ近くにいれば攻撃の余波だけで悠に被害が及びかねない。今の悠にはそれすら致命傷になりかねない。なんとか引きはがしてすぐに魔法で治癒しないと。

 

 

 

 そしてそんなノエルの思惑を嘲笑うかのように異形の悪魔は少女騎士を視界にとらえて動き出す。

 

 グッと少しだけ体を低くして跳躍。

 掴んだ悠をそのままにいとも容易くノエルの攻撃圏内から脱した異形の悪魔はノエルがメイスを空振らせたのを見るとその先鋭的なフォルムの足を叩きつけた。

 

 

 

「ぐっ…!!」

 

 どうにか左腕を相手の足の軌道上に滑り込ませてガードには成功したが、如何せん急なガードだったためまともに受けきれる体勢ではなくお構いなしに振り抜かれた足によって吹き飛ばされる。二度三度小石のように地を転がり視界の彼方まで飛ばされていった。

 異形の悪魔がそれを見やると視線を掴んだままの悠に移し、先ほど悠を貫いた黒爪を振りかぶる。

 

 振り下ろされれば間違いなく終わり。

 星宮悠という一人の人間はこの世から消え去ることは確実。

 

 

 

「やめてえええええ!!!!!」

 

 

 

 かなたがありったけで叫ぶ。

 しかし止まらない、止まるわけがない。それで止まるのなら事態はここまで深刻になってなどいない。

 風を切る音とともに異形の悪魔がその死神の鎌を振り下ろし悠を切り裂く、その寸前。

 

 

 

 

 

「…ごめん、マシロ」

 

 

 

 

 

 異形の悪魔にしか聞こえないほどの掠れるような小さな声に、今度は異形の悪魔が動きを止めた。

 振り下ろされた腕が寸でで止まる。異形の悪魔の銀眼が今一度悠の星の瞳とぶつかる。

 

 星の瞳に浮かぶ鮮やかな虹彩が、揺れていた。

 それは、気付けなかったことへの無力感。刃を向けてしまったことへの罪悪感。

 そして、もう元に戻すだけの力がないという己への憤怒。

 

 他の誰でもない、異形の悪魔(相良マシロ)へと向けられた切実で純粋な感情。

 

 

 

 

 

「───aaaaaAAAAA!!!!!」

 

 

 

 

 

 異形の悪魔が頭を押さえて漆黒の魔力が暴れ出す。

 頭に混ざりこんだ雑音(ノイズ)を振り払うようにその元凶たる悠を一切の力加減なしで投げ飛ばした。

 

 

 

 そして亜音速かと錯覚するほどの速度で投げ飛ばされた悠は体を襲うGを感じつつ確信した。

 分かる。いや、最初から分かっていた。

 ただ、認めたくなくて、心のどこかで否定したがっていただけで。

 

 この事件の一連のつながり。悠だからこそ知りえた真実。

 ほんのわずかにでも残っていた少女の意思と、それ故にあまりにも残酷すぎる未来の結末。

 

 たとえあの異形の悪魔を倒せようとも、そうでなくても。

 

 あの子は。

 

 マシロは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう助からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキィッと木々をへし折る音とともにようやく悠を襲っていた直線運動がその働きを終える。

 背後を見てみればそこにははずれの森の中でも一際大きい部類に入るであろう巨木。さすがにこの巨木をへし折るほどの速度は出ていなかったようで、などと場違いなことを考えながら悠はなんとも自嘲気味な笑顔を浮かべる。

 

 

 

「グ…カハッ…!」

 

 咳き込む声と吐き出される鮮血。

 まばらに散った紅が大地をわずかに染める。

 

 

 

 ───ひどいな、これは。

 

 

 

 致命傷には至らない。だがその一歩手前といったところだろう。

 全身に擦り傷、背中は先ほど木々をへし折った際に強打して裂傷、加えて一番重傷なのが今もなお血が止まっていない脇腹。おそらくは内臓もいくつかやられていることだろう。

 普通に考えて絶対安静、出血量も相まって治癒魔法が存在するこの世界でも珍しい入院も十分視野に入るレベルだ。無理に動こうとすれば傷が開いて失血死、そうでなくとも出血多量でなんらかの後遺症が残りかねない。

 

 

 

 ───それでも、まだ終われない。止まれない。

 

 

 

 悠は乱暴に口元の血を拭うととあるモニターを開く。

 映し出されたのはとある一室、ガルナ村を訪れたその日に設置しておいた『エリアサーチ』。

 それすなわち

 

 

 

『ほ、星宮さん!?どうされたんですかその傷は!?』

 

「…問題ありません。村長さん」

 

 ガルナ村の村長、相良クロナへとつなげる魔法である。

 

 

 

「村長さん、時間がないので簡潔に。村の様子は?」

 

『え、ええ…黒い霧がかかったり村のすぐ近くに獣が出たということではみな一様に家に避難しています。なにやら光の壁が村を覆っているようですが…もしや』

 

「僕の結界魔法です。もうしばらくは持ちますのでそのままに、絶対に外に出ないようにしてください」

 

 一先ずの懸念事項を確認して安堵する。

 しかし本題はそれじゃない。言い方は悪いがこの緊迫した状況下でそのためだけにわざわざ連絡したりしない。

 本題はここから、9割の推測を10割の確信へ変えるためのたった一つの質問。

 

 

 

「あと、最後に一つ伺います。…指名依頼って、ご存じですか?」

 

『は…?いったい何のことでしょう…?』

 

「…いえ、何でもありません。では、村長さんも家からは出ないように。また後程」

 

『え、ほしみ…』

 

 ヴンと、モニターが消滅する。

 それを見届けた悠は、叫びそうになる想いを抑えて一つ大きく息を吐く。

 

 点在する事実という名のピース。一見バラバラのそれを一つ一つ組み上げていく。

 傍から見ればすべてが不可解と言えるこの事件。目的も、犯人も、ただ事実だけを見ても何一つ明らかにならない。

 

 だが、そこに新しいピースを加えれば、この事件とは一見関係のなさそうな事実を足してみれば、そこには今まで全く見えなかったひとつなぎの真相が映し出される。

 それは吐き気を催すような過去からの因縁と憎悪。巡り巡って積み重なった負の連鎖。

 

 

 

 ───これで確定、か。

 

 

 

 左手に持ったストライクハートに力が籠る。

 おぼつかない脚を懸命に奮い立たせ、右手に再展開した片手長剣(ストライクセイバー)を杖代わりに体を起こす。

 

 まずはみんなの元へ戻る、そして異形の悪魔(マシロ)を止める。たとえ、その結果自分がどんな業を背負うことになっても。

 そう決意して駆けだそうとして

 

 

 

「おお、これは星宮さん。大丈夫ですか」

 

 

 

 道端で知人を見つけたかのような、そんなありふれた声だった。しかしそれは悠にとっては背筋を撫でるような、不気味な声にしか聞こえなかった。

 刃を突き付けられるような恐怖ではない。怨敵が現れたような怒りではない。それはまるで、泥を被った無法者を見た時のような、正体がつかめない異様な不気味さ。

 これを聞いたのがあの秘密結社5人組であればピンときて大声をあげたことだろう。

 

 

 

「…ジェイルさん」

 

「そんな怪我を放置していれば体に障ります。どうぞこちら…」

 

 振り返って見てみればそこにいたのは一人の老人。古ぼけた衣装をまとい、皺の入った顔には心配の色が垣間見える。

 傍から見れば怪我をした悠に向かって手を差し出すどこにでもいる優しそうな老人。しかしそんな彼の言葉は最後まで紡がれなかった。

 

 

 

「…ど、どうしましたかな。そんな物騒なものを向けて…」

 

「………」

 

 闇に仄かに照らされる瑠璃色の魔力刃。この戦いだけで数多の魔獣を屠った近接兵装ストライクセイバー。

 その切先をジェイルへ向けて、悠はその瞳に燃え盛る瞋恚の焔を宿していた。





走者の一言コメント
「やっぱり犯人お前じゃねえかジェイルウウウウウウウウ!!!」



ここまでご読了ありがとうございました!
ちなみに瞋恚とは怒りや恨みなどの憎悪の感情を意味しています。
魔獣たちが闊歩する中で堂々と何事もないかのように平然と接するジェイル、もはやわざとやってんだろと。
あ、ちなみに今回割とストーリーに深いところに関わる伏線を張ったつもりなのでいつか回収されることをお楽しみいただけたらと思います。






もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part33 純白の少女⑬『二つの戦い、その前哨』

どうもござるのジューンブライトボイスで死亡していました。
投稿一週間ぶりです。間に合いました。






それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 暗い森に一陣の風が吹く。

 木々を揺らし、木の葉を乗せたその風は葉擦れの音を届けながら二人の間を通り抜ける。それは、まるで少年の心を代弁しているかのようだった。

 

 冷えた心の中にざわついた怒りが燻っている、深く強い憤怒の情。

 

 

 

「…ど、どうしましたかな。そんな物騒なものを向けて…」

 

「………」

 

 どこか困惑した顔で一歩後ずさるジェイル。

 その物言いを聞いて、悠は反吐が出そうになった。十中八九分かってやっているだけに余計に(はらわた)が煮えくり返る思いだ。ギリッと歯軋りをしてどうにか殴りたくなる気持ちを抑え込むと向けたストライクセイバーをそのままに問いかけた。

 

 

 

「…何故ここに?」

 

「…食料を摂りにですよ。ここらには食用のものが多く…」

 

「手ぶらの状態で?」

 

「い、今さっき出たところで…」

 

「村の周りは1時間以上前に結界で塞いでいる。外から内はおろか、その逆もできはしない。もう誤魔化すのはなしにしようぜ」

 

 ストライクセイバーの切先をジェイルの喉元まで近づけて悠はそう言葉を切り捨てた。

 

 だめだ、意識が()()()に引っ張られかけてる。

 

 語気が強まってるのがいい証拠だ。

 溢れそうになる感情を押し殺すように深呼吸をする。

 原因は分かってる。悠を分かつ原因になった二つの感情、その均衡があっち側(怒りと殺意)に傾いている。このままでは完全に切り替わってしまう。

 

 

 

 ───落ち着け。なにもこの感情をなくす必要はない。これ(怒り)をぶつけるのは、全てが終わってからだ。

 

 

 

 悠はこの感情を否定しない。なぜならこの感情は間違いなく悠自身が正しく持ち合わせているもので、それを否定することは自己の否定でありもう一人の自分への拒絶だ。そして、悠は己を否定してまで目の前の男を案ずるほど聖人君子ではない。

 

 

 

「最初に疑問に思ったのは、ノエル先輩に『指名』で依頼が来たという点だった」

 

「…なにを」

 

 突然の発言にジェイルが口を挟もうとするが悠はそれを無視して続ける。

 

 

 

「村長さんとノエル先輩は初対面だった。無論学外にも有名な白銀聖騎士団の団長を頼ったという線も考えたけど、ノエル先輩が団長に就任したのは一年前。既にマシロの両親が亡くなって村長さんがその立場に縛られている状況でノエル先輩を知っているとは思えない」

 

 加えて直前に聞いた「指名依頼」を知らないという事実。曲がりなりにも現状村の危機を食い止めている悠に嘘をつけるわけはないし、仮に嘘をついたとしてそれに何のメリットがある?

 せいぜいがその場逃れでしかなく、村の中で依頼書を…ならびに文字を書ける人間が彼以外にいない以上事態の収束後に精査すればすぐバレることだ。

 つまりは

 

 

 

「アンタが学園に出す依頼内容をいじくった。違うか?」

 

「………」

 

「大方村から出られない村長さんに代わりに依頼書を出すとか言って勝手に追記したんだろう。まさか森の異常を真っ先に報告してくれた人がそんなことをするわけがないって思うだろうからな」

 

「…もしそうならなぜ私がそんなことを?私がそうする理由なんて…」

 

(オレ)をここに呼びたかったんだろ?」

 

「………」

 

 ジェイルが押し黙る。

 沈黙は肯定だ。いきなり突っ込まれた核心にジェイルの優しそうにしていた面の皮が剥がれる。

 

 

 

「あの異形の悪魔が発動した『ラウンドシールド』、あの魔法陣は間違いなくミッドチルダのものだ。元凶がミッドチルダのものと分かればそこからは早い」

 

 今現在でミッドチルダ魔導を理解できる存在なんてほとんどいないと悠は断言できる。それは過去の事件が雄弁に物語っている。もしできる存在がいるとすればそれは悠本人と、そして今なお悠を狙う『ミッドチルダ戦争』の生き残りだけ。

 そして奴らが何らかの行動を起こすときは大抵悠を狙ってのことだ。

 

 だからこのために餌を撒いたのだろう。

 

 再三にわたってこのはずれの森近辺で魔獣を作り出し、襲わせ、悠の意識に植え付けた。

 森に異常があれば悠は必ず食いつく。それが魔獣を相手にともに戦ったノエルからの情報となればなおさらだ。今更だが再三送り付けてきた魔獣も、今回のための実験体でしかなかったのかもしれない。その推測が、余計に悠を苛立たせる。

 

 

 

「ノエル先輩である必要はなかった。(オレ)がここに来るのであれば誰でもよかったんだ。ノエル先輩は、ただ都合の良い当て馬にされただけ」

 

 それのなんと歯がゆいことか。

 ノエルはただ利用されただけだ。底なしの善性で謎の指名依頼にも疑うことなく受け、そして予定調和とばかりに悠を誘った。その善性が白銀ノエルという少女のいいところであり、同時に付け込まれやすい弱所でもある。

 全ては、星宮悠(僕という存在)がいたせいで。

 

 

 

「そして疑問はもう一つ」

 

 だがそれに気づいても悠は止まらない。止まるわけにはいかない。

 責任があるならまずはそれを果たせ。謝罪も、贖罪も、そのあとですればいい。

 

 

 

「…なんですかな?」

 

「アンタ、遭難して偶然ガルナ村に辿り着いたと言っていたな」

 

「…ええ」

 

「嘘だろう?」

 

「…」

 

「もっと言うなら、最初からこの村のことも、マシロが魔眼持ちであることも知っていたんじゃないか?」

 

 そうでなければわざわざこんな辺境の村に、それも内輪主義が横行している場所に来る理由などない。

 大前提としてジェイルが遭難してこの村に辿り着いたというのは頭から否定できる。偶然にしては魔石を用いた改装など村の外に住まいを決められてからの準備が周到すぎるし、偶然辿り着いた村でこんな大掛かりな事件なんて計画できるわけがない。少なくともジェイルは初めからこの村の存在を知っていたし、この計画もおそらくはこの村に辿り着く前から構想していたもののはずだ。

 

 目的は言うまでもなくマシロの魔眼『未来視』だろう。

 珍しい魔眼の中でも破格の性能。誰も見ることができない『未来』を見ることができるという唯一無二、前代未聞と称するべき超能力。そんな能力(チカラ)が辺境の村に眠っているとなれば利用するに越したことはない。

 それは、悠を殺すための都合の良い道具として。

 

 

 

 そして問題なのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 相良マシロという少女は純粋で優しい。悪意にさらされ、迫害を受けてもなお揺らがなかったその強い精神は知り合った時間が短い悠たちでも十分に理解している。

 そんな少女が自ら負に堕ちるとは考えられない。

 

 

 

 ───いや、原因なんて、分かりきっている。

 

 

 

「…一つだけ、答えろ」

 

「…どうぞ?」

 

 悠の絞り出すような言葉にジェイルがもう隠す気のないどこか高圧的な声で答える。

 手に握った得物をあらん限りの力で握りこむ。そうでもしないと、今にでも全霊を以って振るいそうになっている腕を抑えられそうにないから。

 

 マシロが変えられた理由なんて分かってる。

 それでも、その口から聞かないと納得なんてできそうにない。

 

 

 

 

 

「マシロに…マシロの体に何を埋め込んだ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたの想像通りのものですよ」

 

「ッ!!!?」

 

 

 

 ギャリィィィン!!!

 

 

 

 背後から聞こえてきたその少女のような声に、悠は殆ど反射で右手の片手長剣(ストライクセイバー)を背後に向かって振るう。

 瑠璃色の魔力刃を纏ったそれは、甲高い衝突音とともにその動きをなにかに止められた。

 

 

 

 ───奇襲!誰が…っ!

 

 未だに耳にわんわんと響く音に顔を顰めながらその正体を暴くべく後ろへ振り替える。

 その瞳に捉えた一人の少女を見て、悠は瞠目した。

 

 

 

「………」

 

「………」

 

 

 

 最初に目に入ったのは、陽の光を凝縮したかのような淡い白金色の髪だった。二つの得物の衝突によって生じた風が後ろで二つに束ねられた髪を揺らし、薄暗い森の中でも仄かに光を放つ。悠の星の瞳と交差したやや切れ長の瞳は太陽のように明るい赤が揺らめき、しかしその中にどこか空虚のような暗さを感じさせた。

 

 身にまとった衣装は悠のバリアジャケットとは対照的に黒を基調に赤のラインが入った軽装。一目で機動力を重視していると分かる体のラインが浮き出た服装は彼女のスタイルの良さを強調し、その上からオーバーコートの役割を果たす白いマントで覆われている。そして現在悠のストライクセイバーと鍔迫り合いを繰り広げているのは、金色の魔力刃で覆われた漆黒の大鎌。

 

 

 

 初めて出会った、それでも初めての気がしない。

 理屈じゃない、本能が告げている。

 

 

 

 彼女は、()()()()だ。

 

 

 

「…キミは………」

 

「………ククク」

 

 悠が茫然と目の前の魔導少女を見つめると、そんな抑えきれない笑い声が聞こえた。視線を少女から外し声の元凶を見てみると、ジェイルが顔を抑えて俯き、肩を震わせている。

 見るだけで、聞くだけで理解できる狂気の嘲笑。

 

 

 

「──ハハハハハハハハ!!!」

 

「っなにを…!」

 

 ジェイルに気をとられたその一瞬、大鎌を持った少女の姿がブレる。そう知覚した次の瞬間には、悠はガードの上から繰り出された少女の足蹴りによって吹き飛ばされていた。

 ガード越しにも響いた衝撃で苦悶の顔を浮かべつつも、浮き上がった体を悠は『アクセルフィン』で制御、距離は離されながらも危なげなく着地する。その間に少女もまた飛行魔法を用いてジェイルの隣へ降り立った。

 

 

 

「ハハハ…!まさかまだ理解していなかったとは思わなかったよ。そこまで愚鈍だったとはな」

 

「…何が言いたい」

 

「貴様の推理は見事だったよ星宮悠。依頼書の偽装、この村を利用した経緯、全てその通りだったとも」

 

 未だに喉を鳴らすジェイルを見て悠は眉間に皺を寄せる。

 対してジェイルは一つ息を吐くとさぞつまらないといったように見下した目で悠を捉えた。

 

 

 

「だがそれだけか?」

 

「…どういう…」

 

「それしか分からなかったのかと言った。ヒントは今もなお目の前に転がっている。この実験における…いや、貴様の根幹に関わる真実を、貴様は未だに掴めていない。だから愚鈍だと言ったのだ」

 

 

 

 再びジェイルが手で顔を覆うと「まあこの顔なのだから仕方あるまいか」と小さく呟き、そしてその体が濃い紫の光で包まれる。紛れもなく魔力によるライトエフェクト、今まさに進行している事態に、しかし悠は動けなかった。

 あくまで推測に過ぎない。しかしそれでも頭をよぎったその結論に、感情がぐちゃぐちゃにかき回される。

 

 

 

「相良マシロ…あの小娘に埋め込んだのは、貴様が『魔鉱石』と呼ぶものだ。今のヤツは貴様が葬ってきた魔獣と同じ存在だということだよ」

 

 グラついた頭にジェイルの声が響き渡る。

 不定周期の波によって作り出された音のように不快感をもたらすその声に悠はやはりと理解しつつ頭を抑える。

 

 

 

「それくらいは分かっていたのだろう?いくら愚鈍ではあってもそれすら理解できぬ間抜けではあるまい。なにせ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は、この私が作り出した存在なのだからな」

 

「─────」

 

 

 

 その言葉が、悠のぐちゃぐちゃになった思考をたった一色に塗りつぶした。

 

 ジェイルを包んでいた光が音もなく消える。顔を覆っていた手を降ろし、造形が変わったその顔が露になる。

 

 それを見て、悠は表情を失った。

 見覚えがある、なんて話ではない。忘れられるわけがなかった。絶対に、何があっても忘れてはいけない顔だった。10年前、そして3年前、直接見たのはその二度だけだが、それでも克明に覚えている。

 国に抗争を呼び、そして、他でもない悠の両親の命を奪った、生涯相容れぬことのない仇。

 

 

 

「久しぶりと言っておこうか、星宮悠」

 

 超魔導国家ミッドチルダにおける主任研究者。

 悠を実験体として扱った張本人。

 

 

 

「いや………成功体よ」

 

「あ、ああああああああああああ!!!!!」

 

 

 

 悠の瞳に宿るその星のような輝きが、光を呑み込む怨嗟の炎で包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠、くん…!!!」

 

「く…攻撃の密度が高すぎる…!反撃に出られんっ!」

 

 時間は僅かに遡り、ノエルは悠が投げ飛ばされた直後に見境なく暴れ出した異形の悪魔の猛攻からラミィとかなたを守りつつ防衛戦の様相を呈していた。

 

 内にくすぶる感情は不安と焦り。

 間違いなく瀕死の状態から亜音速かと見間違える速度で投げ飛ばされたのだ。一刻も早く治療しなければいけないし、もしかしたらと最悪の状況が脳裏をよぎる。

 

 袈裟斬りの要領で振られた漆黒の刃をノエルのメイスが受け止める。激しい火花が散り、衝突した箇所がわずかに削れるのを見てノエルは「やばっ」と咄嗟にその刃を掴んで思いっきり投げた。飛ばされた異形の悪魔は近くの木に鋭い五指を引っ掛けると慣性の勢いのまま一回転し突撃を敢行した。

 

 

 

「こ…のお!!!」

 

 威勢のいい掛け声とともに青い稲妻がノエルと異形の悪魔の間を駆け抜け雷撃音が木霊する。

 ノエルはそれによって生じた隙に一歩後退、異形の悪魔は来ることが初めから分かっていたかのように直撃ルートから外れるように横に避けると再びノエルに向かって駆け出す。

 

 これが一瞬でも早ければノエルは投げとばした体勢から戻りきれず反撃をもらっていただろうが、先ほどの雷がその一瞬の隙を埋めた。

 

 

 

轟天衝波(グランドインパルス)!!!」

 

 異形の悪魔がノエルに辿り着く寸前、薙ぎ払われたメイスによって繰り出された暴風と衝撃波が扇状にすべてを薙ぎ払う。直前で『ラウンドシールド』を張った異形の悪魔だったが生じた勢いまでは消すことができず足が宙に浮きそのまま風に乗って吹き飛ばされていった。

 訪れたわずかな膠着、ノエルは後ろへ振り替えるとそこにはどうにかこうにかといった様子で立ち上がる一人の少女を見た。

 

 

 

「かなたちゃん!大丈夫なの!?」

 

「あはは、まあ傷はこの通り塞ぎました。体力までは戻ってないですけど、これ以上魔力は使いたくなかったので…」

 

「…!」

 

 ノエルはすぐにかなたの意図を察した。

 万全で挑むなら全開になるまで回復に努めるべきだ。これだけギリギリの状況、わずかな差がそのまま勝敗を決めかねない。それでもそれをしなかったということはつまり

 

 

 

(悠くんのためにとっているってこと…)

 

 かなたは信じている。

 悠が今もなお生きていること。生きて、まだ戦おうとしていること。絶体絶命に瀕してなお誰かのために己が身を賭そうとしていること。

 そして、彼がいないと勝利が厳しいものであるということを正しく理解している。

 

 異形の悪魔が用いた魔法『ラウンドシールド』。他でもない悠と同じ魔法。これを打倒するには、間違いなく悠の知識が必要になる。

 であれば、ノエルが今やるべきことは…

 

 

 

「…うん。いってかなたちゃん」

 

「ノエル先輩…」

 

「きっと、かなたちゃんの思ってる通り勝つためには悠くんの力が絶対に必要になる。あんな怪我を負った悠くんに戦わせるのは、先輩としてすごく恥ずかしいんやけど…」

 

 グッと、メイスを強く握る。

 きっと、不甲斐なさを感じているのだろう。もともとこの依頼はノエルが受けて、そして悠たちを誘って成立したもの。だからこそ、ノエルはみんなを危険に晒したことに責任を感じている。自分が守らなければいかなかったのにと、自責の念に囚われている。

 

 それでも

 

 

 

「でも、()()()で勝つには、悠くんがここにいなきゃいけない!だから…!」

 

 凛としたエメラルドの瞳がかなたを見つめる。

 苦しくても、自分を責めたくても。それでも、みんなを守るために選択した気高き騎士の心。

 

 

 

「…はい!すぐに、連れて帰ってきます!」

 

 かなたは地面に落としていた槍斧(ハルバート)を担ぐと背中の羽を羽ばたかせ己が出せる全速力で悠の元へ飛び立った。

 

 

 

(…お願い、どうか、無事でいて…!)

 

 ノエルは心の中でそう祈り、ラミィを守るように立ちふさがり一つ深呼吸をする。

 耐える。耐えてみせる。

 

 ここから先は耐久戦であり消耗戦。

 悔しいけど今の自分じゃ一人であの悪魔は倒せない。あまり頭を回すのが得意じゃない自分じゃきっと倒せる策は思いつかない。

 でも、絶対にラミィちゃんには手を出させない。何が何でも守ってみせる。

 

 そうしてメイスを構えた瞬間、爆音と暴風を伴って黒い影がまっすぐにノエルに向かって直進する。

 ノエルが捉えたのは小柄な体格に先鋭的なシルエット。それを見てノエルは「フッ」と小さく息を吐き、右手に握るメイスに魔力が集中していく。

 

 

 

「ハァ!!!」

 

 覇気を乗せた声とともに放たれた一撃が飛来したシルエット───異形の悪魔へと吸い込まれる。

 完璧なタイミング。相手の突撃に合わせた反撃(カウンター)。ノエルもここまでただやられていたわけではない。速度とタイミングを体に叩きこんだこの一撃は、このままいけば必中と呼ぶべきものだった。

 

 しかし忘れてはならない。

 悠たちの悉くの攻撃を躱し続けてきた異形の悪魔(相良マシロ)。その存在だけが持ち合わせている唯一無二にして対人において無類の強さを誇るであろう魔眼『未来視』。

 

 

 

「………」

 

「っく、そお!!」

 

 ノエルの渾身の一撃が叩き込まれるその直前、異形の悪魔の急ブレーキによって土煙が舞い、視界が封じられる。ノエルは吼えながら構わずメイスを振り抜くが、それに当たってくれるほど容易い相手ではない。立ち込めた土煙が風圧でさらに巻き上げられ、局所的な砂塵の竜巻(サンドストーム)が作り上げられる。

 

 その中を異形の悪魔が最短距離で突っ込み、そして

 

 

 

 

 

「…氷魔槍(アイスランス)!!!」

 

 ノエルの眼前で作り上げられた氷の槍が、異形の悪魔を穿ち遥か後方へ押しやった。肌を撫でる冷気が否応なしにノエルの意識を覚醒させる。

 ノエルは思わず後ろを振り向き、倒れながらもその手だけをこちらに向けた一人の少女を見た。

 

 

 

「ラミィ、ちゃん」

 

「気を失ってて、ごめんなさい」

 

 そう言いながら少女───雪花ラミィはその手に清廉な癒しの光をともしながら立ち上がる。

 その金色の瞳に絶望はない。ただまっすぐに、自分の信じたものを待ち、前へ進もうとする希望の光が宿っていた。

 

 

 

「ラミィちゃん、まさか」

 

「…はい、少し前から、起きてはいました。だから、今の状況も、多少は把握しています」

 

 瞳を閉じ、魔力を練る。

 清廉なる光がラミィと、そしてノエルを包み込み、瞬く間にその傷を癒していく。それは紛れもなく今までラミィが扱うことができなかった高位の回復魔法『ハイヒール』。

 二人の傷を全開させ、目を開いたラミィがノエルを見る。

 

 

 

「ラミィも、まだ戦えます!」

 

「…参ったなあ。本当はこっちから言わなきゃいけなかったのに…」

 

 言うまでもなく、ラミィはノエルの想いに応えていた。

 ともに戦うと。みんなで勝つために、立ち上がるのだと。

 

 ガラガラと音を立てて、異形の悪魔が自身を押しつぶしていた氷の塊を吹き飛ばし吼える。ビリビリとそれだけで空気が震えノエルとラミィの耳朶を叩く。

 グオンとメイスを一振り、ノエルがラミィの前に立つ。

 

 恐怖はある。でも、それ以上に引けない理由がある。

 みんなを信じて、みんなで勝つために。

 

 

 

「援護、頼んだよラミィちゃん!」

 

「全力で、サポートします!」

 

 ノエルが駆けだし、ラミィが冷気を携える。

 (希望)を待つ戦いの、第二幕が切って落とされた。





走者の一言コメント
「中ボスかと思ったらユー君にとってはラスボスだった件」

ここまでご読了ありがとうございました!
いよいよ純白の少女編の物語も終盤に差し掛かりました。
これからどんな結末を迎えるのか、楽しみにしていただけたら幸いです。

ちなみに謎の少女の服装はリリなの劇場版A'sのフェイトをイメージしてもらえたらと思います。





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part34 純白の少女⑭『二人の魔導師』

日曜に投稿する予定でしたが諸々の私用で遅れてしまいました。
その代わり今日までにまとめて書いた勢いで次の話まで書き終わりましたので次話は早めに出せると思われます。






それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

「ほお」

 

 しわがれた声でジェイルがそう零す。浮かべる顔にはわずかな驚嘆があった。

 

 視線の先には痛みから逃れるように頭を抑え、呪いを吐き出すかのように叫び声を上げている一人の少年。ジェイル主導で行われたミッドチルダの極秘プロジェクトの最初の成功体であり、ジェイルから言わせれば与えられた力を自身のものだと過信し幼稚にそれを振りまく『旧世代の罪人』。名を星宮悠。

 

 そんな悠は自身の魔力を暴走させ現界した瑠璃色の風が嵐となって森の木々を軋ませている。その風はジェイルたちの元まで届き、しかしジェイルは聞こえる叫び声と肌を撫でる風に心底うざったそうに鼻を鳴らす。

 

 

 

「今のうちに殺しますか?」

 

 ふと、隣から声。凛と響いたその少女の声は良く言えば静謐で、悪く言ってしまえば無機質さが感じられた。

 

 ジェイルが流し目に横を見てみればそこには金と黒で彩られた人形のような少女。太陽のように明るい赤の中に潜む黒点を思わせる暗い闇が同居した瞳がジェイルを静かに見つめている。それはまさに命令を待つ機械のようで、ジェイルが一言イエスと言えばその少女は即座にその手に持った金色に輝く漆黒の大鎌で悠の首もろともその命を刈り取るだろう。

 

 

 

「いや、少し面白いことになりそうだ。殺すのは、ヤツの底を見てからだ」

 

「イエス、マスター」

 

 少女が持ち上げていた鎌を降ろし、同時にその瞳が眼前の悠に向けられる。

 

 肯定の意を示しはしたが少女としては理解不能だった。

 少女が…ひいてはジェイルがこんな辺鄙な村に半年もの間腰を据えたのは偏に悠をこの村におびき出し、大量に用意した魔獣と『未来視』の少女、そして己自身という三つの力を以って悠を殺すこと。そして、悠の体に眠る至宝を奪うことだ。それなのに何故わざわざ悠に時間を与えるのか。

 

 それだけの価値が、彼に存在するのか。

 

 

 

「今のヤツはこの私の想像の埒外の現象を引き起こしている。それを分析し、解析することができれば、お前もより強力になれる。…そら、()()()

 

 

 

 一瞬の煌めき。

 

 音を置き去りにした瑠璃色の光は森を包み、そして淡く消えていく。

 あまりの眩さに少女は目を瞑る。訪れた静寂の中、再び目を開いた少女の瞳にはゆらりと立ち上がる悠の姿。そして

 

 

 

 先程までの瑠璃に光る星の瞳ではない、全てを焼き尽くすような緋色の灼眼と目が合った。

 

 

 

「!」

 

 

 

 ガキィィィン!!!

 

 

 

 衝撃。

 

 咄嗟にジェイルを守るように展開した金色の『ラウンドシールド』と、突きの要領で繰り出された敵対者(星宮悠)片手長剣(ストライクセイバー)が火花を散らして激突した。ギリギリと金属が擦れるような音が響き、それを聞いたジェイルが実に不快そうに眉を顰める。

 

 

 

「…それが、貴様が『皇玉(レガリア)*1に願った力か」

 

「知らねえよ。黙って殺されろ」

 

 普段の悠からは想像もつかないような怒気の籠った声をあげて悠は体を一ひねり。軸を固定し、遠心力を乗せた一閃が少女の『ラウンドシールド』をわずかな抵抗の後に切り裂いた。流れる動作で左手に握ったストライクハートをジェイルへ向ける。その先端に光が収束、解き放たれたのは、刹那のタイムラグの後の出来事だった。

 

 

 

「クロススマッシャー」

 

 近接砲撃魔法『クロススマッシャー』。射程距離に難はあるが発射速度と威力を両立したその一撃はたしかに少女もろともジェイルを呑み込んだ。砲撃の余波で大地が抉れ、一本の木がその中ほどから消失し、自重によって倒れる。それを悠は目を細めて見ていると、瞳に走った鋭い痛みに片手でその灼眼を抑える。

 

 

 

「…ッチ、為すべきことの前に気を失ってんじゃねえよ。バカが」

 

「あなたは…」

 

「オレはオレ()だ。分かったらキリキリ働けよポンコツ」

 

「な、誰がポンコツですか!?この超絶有能AIの私に向かって!」

 

「だったらさっさと索敵ぐらいしねえか。アレくらいでヤツが死んでるわけねえだろうが」

 

「あーもう!マスターだったらもっと優しく言ってくれますよ!」

 

 ぶつくさ言いながらストライクハートが自身の魔力を波にして放つ。悠はその間に乱雑に髪をかき上げ血を拭う。痛みはある、未だに腹部の傷は塞がっていない。だが、動けるのなら問題はない。

 脚部に二対の魔力羽『アクセルフィン』を展開し、体を脱力させる。

 

 

 

「…!10時方向、30メートル先、反応2!」

 

 悠はストライクハートの言葉を聞いた瞬間に『アクセルフィン』で加速。緋色に燃える瞳の先に映った影に一直線に突き進む悠は上段にストライクセイバーを構えて呟く。

 

 

 

「ストライクセイバー、魔力励起」

 

 光が揺らめき、鮮やかな瑠璃色の刀身がさらに深い、瑠璃を超えた大海のような濃青色へと変化する。その濃さは魔力密度の証明。秘められた威力は先ほどまでとは比べるまでもない。

 

 

 

「死ね、簒奪者(さんだつしゃ)が!!!」

 

「…させません」

 

 再びの衝突音。悠が怨嗟を込めて上段からジェイルめがけて振り下ろされた青の剣はその間に滑り込んだ影がそのとても力があるとは思えない細腕で持つ金色の鎌によって止められる。一瞬目を見開いた悠は、そのまま切り伏せると言わんばかりに力を込めるが、魔力刃同士の衝突で光が弾けるのみで目の前の少女を切り伏せるには届かない。

 

 ストライクセイバーに込めた力はそのままに悠は少女に問いかけた。

 

 

 

「テメエ、何者だ。何故()()()()()()()()()()()()?」

 

「…貴方と同じ実験の被験体であり成功体だからですよ。古代遺失物(ロストロギア)*2である皇玉(レガリア)を体内に埋め込んで後天的に強力な魔導師を作り上げるミッドチルダの極秘計画、『プロジェクト・レガリア』。

 私はその実験の被験体番号(コードナンバー):X、エリクシア。初めまして、被験体番号(コードナンバー):U、悠()()

 

「…!?」

 

 聞かされた言葉に悠は驚愕する。しかし、それを反芻させる暇を目の前の少女───エリクシアは与えてくれなかった。

 

 キィンと共鳴音が響き、悠の周囲に魔法陣が展開される。その数全部で八個、金色に輝く魔法陣には雷が宿り、その中央には同色の鋭さを感じさせる針のような弾体が生成されている。その魔法陣による砲門は一つ残らず悠を取り囲むように向けられており、エリクシアが紡ぐ声とともにその弾体が淡い光を放った。

 

 

 

「プラズマランサー…ファイア!!」

 

「ッチィ!」

 

 魔法陣から弾体が槍となりて雷を伴って撃ち出され悠を穿つ。その寸前で悠はさすがの反応速度で後退しつつ『ラウンドシールド』を発動するが、全方位からの攻撃はシールド一つで防ぎきれるものではなく、背後から撃たれた雷の槍が悠を貫いた。雷が弾けて炸裂し、衝撃で数メートルほど吹き飛ばされる。

 

 どうにか地に伏せる寸前でストライクセイバーを地面に突き刺してそれを支えに身を起こすが、くらった雷の影響で視界が歪み、思考がショートする。その視界の端で再び金色の雷が迸った。

 

 

 

「ガッ…!」

 

 避ける暇などなく…いや、そもそも攻撃が来たという認識すらないままエリクシアの大鎌によって腹部に衝撃が走り、その勢いで上空に撃ちあげられる。未だに戻らない視界と体中に走る痛みに苦悶の表情を浮かべるが、悠は撃ちあげられた体勢のまま左手のストライクハートを振り上げて魔法陣を構築した。

 

 

 

「っ舐めんな…!ディバインシューター…シュート!!!」

 

 視界が定まらないのなら視界以外の情報で捕捉すればいい。『ディバインシューター』と同時並行で発動させた『魔力感知』での位置情報を頼りに瑠璃色の魔力球を発射した。八つの光が複雑怪奇な軌道を描いて追撃を仕掛けようとしたエリクシアへと正確に撃ち込まれる。

 

 対してエリクシアは空を駆ける速度はそのままに自身の周囲に魔法陣を展開。驚異的な速度で構築された『プラズマランサー』が腕を振ると同時に放たれ、吸い込まれるように魔力球とぶつかり対消滅を引き起こした。

 

 二つの射撃魔法の衝突によって光と煙が二人の間に立ち込める。悠は即座に『アクセルフィン』を再展開しチカチカと光る視界に溜息にもならない声を上げ目を細める。刹那、煙の中心を突き抜けて雷を纏った少女が音をも超える速度で悠に向かって最短距離で強襲を仕掛けてくる。それを

 

 

 

「同じ手が通じると思うなよ…!」

 

「…!」

 

 悠の全周を覆うシールドが突撃をせき止めた。速度で悠がエリクシアに勝てないのは織り込み済み、そして一度成功した連携に無意識に頼りたくなるのは人の性。視界を封じられれば再びあの驚異的な速度での突撃が来るであろうと読んだ悠は『ディバインシューター』を放ったその直後にはすでに防御魔法の『プロテクション』の構築を開始していた。

 

 結果はご覧の通り。そしてここまで悠の想定通りであればその先の展開も当然用意してある。

 

 ストライクハートをエリクシアへ向けて魔力をチャージ。防御魔法の上から直接発動ができる唯一の魔法。砲撃、射撃魔法を主とする魔導師の近接戦における逆転の一撃。

 

 

 

「クロススマッシャー!!!」

 

 瑠璃色の閃光が空を衝く。しかし、悠の表情は晴れなかった。砲撃魔法によって生じた風、それが周囲の霧をまばらに吹き飛ばし、わずかにクリアになった視界の先で少女の姿を射止める。

 

 無傷であった。機動性を重視しているであろうエリクシアの『バリアジャケット』は間違いなく脆弱。悠のそれのように内側にアーマープレートを仕込んでいるわけでもなく、金属装甲も腕部と脚部のみの最低限。一度でもまともに当たれば間違いなくそれでノックアウトできると確信できるほどの装甲の薄さ。

 

 しかしそれは裏を返せばそれをするだけの圧倒的な機動力を誇るということだ。「当たらなければどうということはない」という名言を体現しているかのようなエリクシアの動きはものの見事に悠の攻撃の悉くを躱してみせた。

 

 

 

「ハッ…厭味ったらしいまでの速度だな」

 

「誉め言葉として受け取っておきましょう」

 

 空という開けた空間。十メートルほどの間をあけて二人の空戦魔導師が静かに対峙する。片や白と青、片や黒と赤で彩られたバリアジャケットを身に纏い、己の武器、相棒を相手に向け、緋色の灼眼と闇を秘めた紅の瞳をぶつけ合う。

 

 

 

「…なあ、なんでテメエはヤツに付き従う。人を人とも思わない実験、その果てに生まれた数多の屍。その元凶に対して、なぜ忠誠を誓う」

 

「………」

 

 今の悠の目的はあくまですべての元凶であるジェイルだけだ。無論自分が負の感情(怒りと殺意)を強く反映した一側面であり、それが結局のところただの私怨と復讐心にまみれた存在であることは自覚している。決して褒められたものではないし、ジェイルのやってきたことを理由に自身の存在と行動を正当化するつもりもない。

 

 自身もまた、誰かの命を奪おうとしている簒奪者であることは変わらないのだから。

 

 だが、かといって無作為に殺しをしたいかと言われればそれは否だ。たしかに必要であれば厭わない。しかしそうでないならしたくないというのが本音だ。悠は、決して殺人に快楽を見出す人間ではない。

 

 だからこそ、問いかけた。もしその理由が、彼女の意思を無視した強制的なものであれば、戦わずに済むかもしれないと、()であればそう考えるだろうと思ったから。しかし、彼女が自分の意志でこの場に立っているのなら、そのときは…

 

 

 

「…私は、マスターの道具であり、武器であり、兵器です」

 

「…」

 

「道具にその持ち主を疑う必要がありますか?武器に自らを判断する必要がありますか?兵器に…意思は必要ですか?」

 

 そう語るエリクシアの瞳はどこまでも暗く、どこまでも冷たかった。それはまるで人形のようで、機械のようで、すべてが空っぽの空虚の瞳。吹いた風が陽だまりを思わせる白金の髪を揺らしその瞳をかすかに覆い隠す。

 

 それを見て、悠は諦めとともに息を吐く。もう考える必要はない、疑う必要はない。確信した。

 

 

 

「そうかよ。じゃあ…さっさと終わらせるぞ」

 

 

 

 彼女(エリクシア)は、どうしようもないほどの敵だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ディバインシューター…シュート!!!」

 

「プラズマランサー…ファイア!!!」

 

 青と金の軌跡が暗い空を駆け、音と光を上げてぶつかり合う。その直後、風を切る音とともに飛来した閃撃が展開された魔法陣に衝突し甲高い金属音を鳴らした。

 

 正面から突撃を仕掛けたのはエリクシア、彼女は唯一無二の武器である大鎌を止められたのを見ると即座に軌道転換。上段からの斬り下ろしは止められた、であればと流れる動作で手元でクルンと逆回転させた鎌を今度は下段からすくい上げるように振り抜く。

 

 上段からの攻撃を止めるため発動した悠の『ラウンドシールド』、それ故にあまりにもシームレスに下段から繰り出された二撃目をそれで止めることはできない。

 

 

 

「──フラッシュムーブ」

 

 刹那、悠の輪郭がブレる。エリクシアがそれを知覚した次の瞬間には、悠はエリクシアの十メートルほど後方にまで距離を離していた。そして、響き渡る撃鉄がカートリッジを叩く音と魔力の収束音。いつの間にかストライクハートを砲撃形態(バスターカノンモード)に変形させていた悠がその砲口を真っすぐにエリクシアへ向けている。

 

 ここに来て初めて、明確にエリクシアの表情が驚愕で歪んだ。

 

 

 

「…!」

 

「ディバインバスター!!!」

 

「Divine Buster.」

 

 空に響く詠唱、それと同時に撃ち出された一条の光はまるで流れ星のように暗き空を駆け抜けた。正確無比な一撃、間違いなく直撃すればそのまま昏倒させられる威力を秘めたそれは寸分の狂いもなくエリクシアに向けて直進し、そして

 

 

 

「っくう!」

 

 全力で稼働させた飛行魔法によって、身に纏うマントの一部を消し飛ばすにとどまった。

 

 

 

「…そんな距離で砲撃魔法を使いますか…」

 

「生憎さま、オレとアイツ()を一緒にしないでもらえるか?」

 

 多少のリスクなら一向に厭わないと言わんばかりの攻撃にギリギリでの回避に一つ息を吐くエリクシアに今度は悠が追撃をかける。再びのロードカートリッジ、足元に展開される魔法陣に周囲には先ほどの『ディバインシューター』とは比較にならないほどの大量の魔力球。

 

 

 

「アクセルシューター…シュー「ライトニングムーブ」…!?」

 

 体勢の整いきっていないエリクシアへ向けた射撃魔法。しかしそれを放とうとした相手は、瞬き一つする間もなく悠の視界から掻き消えた。驚きで一瞬硬直した悠だが、すぐに発射しようとした魔力球をその場に留めて冷静に状況を俯瞰して見る。

 

 チリッと、かすかに雷走の音が聞こえたのはその直後だった。

 

 

 

「くっ…プロテクション・パワード!」

 

 駆け抜けた悪寒に悠は反射で『マルチタスク』を行使し魔法を同時に並行処理、防御魔法である『プロテクション・パワード』で全体を覆うように障壁を張る。

 

 

 

「先輩、あなたのことは魔獣との戦闘の際に随分と研究させていただきました。そして弱点も」

 

「へえ、言ってくれるじゃねえか。で、その弱点って?」

 

「一つ、あなたの魔法はその特性上発動の際に足を止めなければいけないものが多い。今の『アクセルシューター』もその一つ」

 

 ギャン!とガードの上からお構いなしに斬撃が叩き込まれる。しかしソレが分かっていても悠は未だにエリクシアの姿が捉えられていない。音を超え雷速へと至った少女は肉眼はおろか『魔力感知』を用いてもその残像を捉えるのみで終わる。

 

 だが、その速度もずっと持続できるわけではないはずだ。それができるなら初めからやっておけば今よりもずっとエリクシアが優位に立てていただろう。敗けていた、と言わないのは僅かな意地であり、またそうはならないという自信もあったから。

 

 仮に今の速度が維持できたとしてもエリクシアの攻撃は悠に比べて()()。ここまで発動した攻撃魔法は直射型射撃魔法*3の『プラズマランサー』のみ。それなら余程の密度での多重射撃でなければ割られることはないし、それほどの規模の攻撃なら発動前に必ず気付ける。

 

 

 

「二つ、全方位ガードの『プロテクション』系統の魔法は物理攻撃より魔力攻撃への耐性が低い。意図的に呼び込んでの一点突破ならば破壊は容易い」

 

 聞こえた声は、悠の直上からだった。

 

 

 

「バルディッシュ、ロードカートリッジ」

 

「Yes sir.」

 

「なっ…!?」

 

「カートリッジシステム!?私たち以外に…!?」

 

 エリクシアから聞こえてきた宣言、そしてそれに反応したデバイスの声に、悠とストライクハートはともに隠し切れない動揺の色が見えた。

 

 

 

 『カートリッジシステム』。

 

 それは魔法演算補助デバイスに「CVK-792」と呼ばれる特殊パーツを搭載した機構。

 圧縮魔力を積んだカートリッジと呼ばれる弾体をデバイス内で炸裂させることで瞬間的に爆発的な魔力を得ることができ、一見すれば魅力的だがその反面取り扱いも非常に難しく、デバイスと術者本人に大きな負荷がかかり、一手間違えればデバイスの自壊すら引き起こしかねない危険なシステムでもある。

 

 その危険性は悠もよく知っているところ。だからこそ驚愕した。そのシステムをエリクシアが使っていることに。そしてそれを使わせたであろうジェイルに対して怒りがこみ上げる。

 

 

 

 ギャラララッ、と擦過音をかき鳴らして悠の弾倉タイプのものとは違う鎌の付け根部分に取り付けられているリボルバータイプのカートリッジが回転し、その後にガシャンガシャンと特有の撃鉄音が鳴り響く。

 

 瞬間、金色の風が吹き荒れる。

 

 

 

「そして三つ、あなたは論理で戦術を組み立てるタイプ。故に、想定外の展開にめっぽう弱い」

 

 エリクシアが持つ金色の魔力刃を持った漆黒の大鎌───デバイス名『バルディッシュ』がひときわ強く輝く。エリクシアが右手を前に、『プラズマランサー』を放った時より二回りほど大きくなった魔法陣が現れる。バチバチと魔法陣に雷光が走り、金色の魔力が集積していく。紛れもなく、大出力の砲撃魔法の前兆。

 

 それを見ても悠は動かなかった。いや、動けなかったというのが正確だ。

 悠が現在『マルチタスク』を用いて『プロテクション・パワード』と『アクセルシューター』を同時に発動したままであり、その魔法はいずれも発動中は自身の移動が封じられる。本来であればエリクシアがカートリッジロードを行った時点で魔法を破棄して回避か防御に回るべきだったが、そのカートリッジロードが悠の動きを縛った。

 

 『カートリッジシステム』でチャージ時間が短縮された以上今からではもう遅い。そう自覚したときには、既にエリクシアから魔力の奔流が悠を襲っていた。

 

 

 

「全てマスターの計算通りでしたよ。プラズマ…スマッシャー!!!」

 

「Plasma smasher.」

 

 エリクシアから放たれた砲撃魔法『プラズマスマッシャー』が雷撃音を轟かせて『プロテクション・パワード』と衝突する。

 

 拮抗は、ほんの一瞬だった。

 バキンッと砕かれるような音とともに光の障壁は消滅し、黄金の雷は悠を呑み込んで大地まで一瞬で突き抜けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「が、あ…!」

 

───…おい!しっかりしろ、おい!!

 

 雷撃をまともに食らって大地に叩き落された悠。全身傷だらけの満身創痍と言わざるを得ない状態の悠の脳内に、焦りと心配を孕んだ声が響いた。

 

 

 

「…んだよ、今更…起きたのか、()…」

 

───少し前から起きてはいたさ!今は(オレ)の方がいいと思ったから黙ってただけ…って、そんなことより代われ!今の状態で(オレ)が戦っても…

 

「黙れ、これは…オレの戦い…だ……!」

 

「もう貴様の戦いなど終わっているんだよ、この愚鈍が」

 

「ぐあッ…!!?」

 

 二人(悠と悠)の会話に割り込む一つの影、先ほどまでエリクシアと悠の戦闘を眺めていたジェイルが悠の腹部を踏みつけ悠が苦痛の声を漏らす。踏みつけられた部位は異形の悪魔(マシロ)によって貫かれた箇所、血が噴き出し地面を殊更に赤く染める。

 

 それに対してジェイルは実に愉快そうに、そして実につまらなそうに言葉を吐き捨てた。

 

 

 

「『精神の二分化』、まさかそんなものを皇玉(レガリア)に望んだとはな。いや、意図的なものではなかったのか?どちらにせよ、元より手負いの状態だったとはいえエリクシアに遠く及ばなかった時点ですでに興味もないことだが」

 

「お、まえ…!」

 

「もう貴様に対する興味はその体に眠る皇玉(レガリア)だけだ。…あぁ、安心しろ。()()()も、あの未来視の小娘にすぐ殺される。仲良く天国で会えるだろうさ。まあ、国を見捨てた貴様が行きつく先が天国かは知らんがな」

 

「…!」

 

 体が、震えた。

 それは、死に対する恐怖だったのかもしれないし、仲間を侮辱された怒りなのかもしれない。ただ、一つ確信して言えることは

 

 

 

 これは、僕とオレが初めて同時に思った感情だ。

 

 

 

「だま、れよ…!」

 

「…なに?」

 

「お前が、オレをどこまで知っているかは…知らねえが…」

 

 空いていた右手を動かし、悠を踏みつけていた脚を掴む。

 力は入っていない、本当にただ掴むだけ。それでジェイルの脚をどかせるわけではないし、その行動が何かを変えたわけではない。

 

 しかしそれでも、悠は左の燃え盛るような灼眼を、そして右の瞳に宿った瑠璃に輝く星の瞳を、まっすぐジェイルに向けて言い放つ。

 

 

 

 

 

「オレを…僕の仲間を…バカにするんじゃねえ…!!!」

 

 

 

 

 

「…ふん、くだらん」

 

「がはっ…」

 

 ジェイルが踏みつけていたその脚で悠の顔を蹴り抜く。悠はもう声にならない声をあげて呻くだけ。ジェイルはそれを見て鼻を鳴らすと隣に降り立っていたエリクシアに向けて命令する。

 

 

 

「さっさと殺せ。もう用済みだ」

 

「イエス、マスター」

 

 ザッと大地を踏みしめる音を上げてエリクシアが悠の元まで歩み寄る。悠を静かに見下ろすそのルビーの瞳はやはりどこまでも無機質で、感情のない暗さを伝えてくる。

 

 ヒュンッと軽い動作で左手に握ったバルディッシュを振り上げる。

 

 

 

「…さようなら、先輩」

 

「エリクシア、キミは…そんな生き方でいいのか…?」

 

 二つの眼が星の輝きに戻った悠から告げられた疑問。

 それに対して、エリクシアはほんの僅かに動きが止まり、そして

 

 

 

「私は、ただの道具ですから」

 

 変わらぬ表情のまま、バルディッシュを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠くんっ!!!!!」

 

 

 

 群青の星が、瞬く間に悠とエリクシアの間を駆け抜けた。

 

 

 

「…!?」

 

「…なんだと?」

 

 突然の事態にさしものジェイルとエリクシアも瞠目する。星が残した軌跡、その先を見てみると、そこにいたのは天使の羽と輪を持った銀髪の少女。余程急いだのか息は絶え絶えで悠を見つめる瞳はどうしようもないほど涙で濡れていた。

 

 もしかしてという期待をしていなかったのかを言われればそれは確かに嘘だろう。だが同時に、己の戦いに来てほしくもないとも思ってしまっていたがゆえに助けられた悠が浮かべる表情は複雑だった。

 

 そんな悠の心情などつゆ知らずといった迫真の顔で天使の少女が詰め寄る。

 

 

 

「…かなた」

 

「生きてる…生きてるよね悠くん…!!」

 

「…うん、なんとか…って痛い、割と本気で痛いから力強めないで…ごふっ」

 

「えあ、ご、ごめん!?大丈夫!?」

 

 存在を確かめるように全力で抱きしめるかなただが、今の悠はどう考えても重傷。メキメキと音が聞こえそうなほどの力で抱きしめられた悠は苦悶の表情でかなたをタップした。かなたは慌てて悠を抱きしめる力を緩めると残った魔力で悠に『ハイヒール』を施す。

 

 みるみるうちに傷が癒えていく悠を見てジェイルは苛立ちを隠そうともせずエリクシアを怒鳴りつけた。

 

 

 

「何をやっているエリクシア!さっさと殺せ!」

 

「…!イエス、マスター」

 

「悠くんを殺す…?そんなことさせるかって…の!」

 

「…手伝うよ、かなた」

 

 バルディッシュを構えて突貫するエリクシア、それに対してかなたと悠はその行く手を阻むため同時に魔法を発動する。

 

 

 

「『雷の雨(サンダーレイン)』!」

 

「ラウンドシールド、多重展開!」

 

「!これは…」

 

 悠とかなた、二人を取り囲むように二つの魔法が光を放つ。落雷と障壁、断続的に降り注ぐ雷と行く手を阻む障壁にエリクシアは思わず足を止められる。見境なしの範囲攻撃は間違いなくエリクシアの苦手とするところ。元々悠を殺すことを想定して組まれた作戦だったため、それ以外の事態を考慮していなかったエリクシアは助けを求めるようにジェイルを見やった。

 

 そして悠は、それを見逃さずに魔法を組み上げる。

 

 

 

「かなた、あっちを狙って!ディバインシューター!」

 

「!りょーかい、いっけえ!!」

 

「マスター!」

 

「ぐ、きさまらぁ…!!」

 

 ジェイルを狙って撃ち出された光の弾と青の雷、それを見てエリクシアは即座に悠たちから反転、『ラウンドシールド』を展開して防御に入った。響く衝撃音。二人のタイミングをずらした連撃は絶えることなくジェイルへ襲い掛かり、そのガードにかられたエリクシアは攻めに転じることができない。

 

 

 

「マスター、どうすれば…」

 

「………チィ!退くぞ、ヤツの底は見た。殺すチャンスなどいくらでもある。それに、うまくいけばアレがそのまま殺すだろうさ…!」

 

 心の底から忌々し気に悠とかなたを睨みつけるとジェイルは懐から魔石を取り出し地面に叩きつける。すると、ジェイルとエリクシアを包むように一つの魔法陣が展開された。悠はそれに一つ心当たりが浮かぶ。

 

 

 

「転送魔法陣…」

 

「許さんぞ星宮悠、そしてそこの天使も!私の計画の一つを潰したこと、地獄の底で後悔させてくれる…!」

 

「うっわあ逃げる立場であんなこと言うんだ…」

 

 相手が退くということでどこか安心したかなたが小声でそう零す。幸いジェイルには聞こえなかったようで問答はそこで打ち切り。ジェイルとエリクシアを包む光が強くなる。光によって二人の輪郭がブレて転移するその直前、悠はエリクシアに向けて叫んだ。

 

 

 

「エリクシア!また…会おう」

 

「…それは、私が決めることではありませんので」

 

 

 

 キンッと、一際まばゆい光が放たれると、その次の瞬間には二人の姿は忽然と消えていた。

 

 …なんで去り際の彼女にあんなことを言ったのか、明確な理由は自分でも分からなかった。

 ただ、なんとなく放っておけなくて。紅の瞳に、どこか寂しさを感じた気がして。

 

 自分と同じ存在でも、生き方次第でここまで違ってしまうものなのかと、知ってしまったから。

 

 

 

 解放された極限状態に、悠は大きく息を吐いて呼吸を整える。その間にも『ハイヒール』をかけ続けていたかなたが、どこか伺うように問いかけてきた。

 

 

 

「悠くん、結局今の二人は一体…?」

 

「…一言で言えば老人の方はジェイルさんであり今回の事件の黒幕、女の子の方はあの男が作り出した人造魔導師…ってとこかな」

 

「…え、え!?ちょ、ちょっと待って!いろいろ情報が多すぎて…!」

 

 かなたが頭を抱えて軽くパニックを引き起こす。まあそれはそうだろう。そもそもかなたはあの男がジェイルであることすら知らなかったはずだ。それがいきなりその知らない老人がジェイルで、しかもそれが今回の事件の黒幕だと言われればパニックにもなる。

 

 そう言っている間にひとまず最低限の治癒が終わったようで、まだまだ重いが出血は止まって動けるようになった体を軽く動かして悠はかなたに礼を告げる。

 

 

 

「治癒、ありがとうかなた」

 

「う、うん…あ、そうだ悠くん急がないと、ノエル先輩にラミィちゃんが!」

 

「…うん、分かってる」

 

 当然忘れているわけがない。二人だけじゃない。悠たちを前に進ませるために今もなお大量の魔獣と戦っているであろうフブキとフレアのためにも、一刻でも早く事件を解決しなければならない。

 

 しかしそのためには、一つ大きな事案が残っている。

 

 …だが、覚悟はもう決まってる。

 罵られようとも、恨まれようとも、それでも、みんなを守るために。

 

 

 

 たとえ守りたいと思った、幸せになってほしいと願った子の未来を、この手で摘むことになったとしても。

 

 

 

「かなた、移動しながらでいい、聞いて」

 

「え、う、うん」

 

 移動を開始した二人は森の中を低空飛行で飛翔する。その最中、悠が重い顔持ちでかなたへ話しかける。それはちょっとした話では済まないとすぐに分かる、覚悟を決めた顔と声。故に、かなたは戸惑った声を漏らしてしまう。

 

 

 

「…時間がないから率直に言うよ」

 

 静謐で、しかし激情を必死に抑え込んだような声で、それでも悠は告げた。

 

 

 

 

 

「あの異形の悪魔の正体は…マシロだ」

 

「っえ………」

*1
ミッドチルダが所有していた『古代遺失物(ロストロギア)』(後述)の一つ。虹色の結晶体の形をしており膨大な魔力を溜め込む性質を持ち、所有者の望むものを魔力で生み出す願望機でもある。

*2
古き時代にかつて存在した超高度文明より流出した、現代では再現しえない技術や魔法の総称。通常は白銀聖騎士団をはじめとするそれぞれの世界の治安維持機関が管理・保管を行っている。

*3
『ディバインシューター』のような術者による誘導制御ができないタイプの射撃魔法。しかしその分速度や威力が高くその優位性は比べられるものではない。





走者の一言コメント
「対魔導師の戦闘キッツ!!?いやでもエリクシアちゃんこれ和解フラグ立ちそうじゃないですか?(新たなフラグ建設)」



ここまでご読了ありがとうございました!
はい、バルディッシュです。知ってる人は知ってますけどそのまま使わせていただきました。
一応バルディッシュという武器自体は実在するポールウェポンなので気になった方は検索してみてくださいね。





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part35 純白の少女⑮『天穹を衝く光の翼』

早い、早いぞ!(投稿が)

ということで前話の前置きで話した通り早めの投稿です!
この勢いのまま純白の少女編完結まで突っ走っていきたいと思います!





それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 

「ぬ、ああぁ!!!」

 

「く、『氷華盾(アイスシールド)』!」

 

 止まることのない異形の悪魔の猛攻、もう幾度防いだかも分からないその攻撃を、ノエルとラミィはもはや気合だけで跳ね返し続けていた。

 

 繰り出される斬撃はノエルがメイスで弾き飛ばし、魔力による魔法攻撃はラミィが操る氷で寸断する。『未来視』を持つ相手の攻撃を躱す、あるいは防ぐのは生半可な集中力では実行できない。常にギリギリの攻防が求められ、すり減らす体力と精神力は相当なもの。しかもそれですら防ぎきれない攻撃が、じわじわと二人を削っていく。

 

 地を這うようにノエルに接近した異形の悪魔が下段からの切り上げを仕掛け、ノエルがそれを軌道上に滑り込ませるようにメイスを振って防御する。しかし当然未来を視る異形の悪魔がそれを読めないはずがない。体に軸を切り替えて急速転換したその斬撃は下からではなく右からの薙ぎ払いに瞬時に変化する。

 

 

 

「させま、せん!」

 

 だが、ノエルとラミィもまたこの手の攻撃は幾度となく受けてきた。故にその対処法も既に用意してある。

 あらかじめ展開していた『氷魔槍(アイスランス)』、そのうちの一つが異形の悪魔の斬撃の角度を変えるようにその腕を穿ちにかかる。

 

 本体を狙うのは相手の攻撃を止めるという点では愚策だ。異形の悪魔は『ラウンドシールド』が使える。本体へそのまま攻撃しようとすれば魔力障壁で防がれ、相手の攻撃は止める間もなくそのまま通ることになる。

 

 であれば狙うべきは異形の悪魔が攻撃しようとしている腕部だ。それ自体で切り裂かれるにしても『ラウンドシールド』で防がれるにしても最低限攻撃は止めることができる。

 

 

 

「…!」

 

「よっし、これでも…くらえぇ!!!」

 

 予想通り振り抜こうとした腕でノエルではなく氷の槍を砕いた異形の悪魔は一瞬視線がノエルからラミィへとずれる。そしてその瞬間を狙ったノエルは地面に向かってメイスを叩きつけた。

 

 

 

 『大地砕破(アースインパクト)

 

 魔力を込めたメイスによる一撃は大地を砕き衝撃波を生む。

 単発の直接攻撃はまず防がれるが、範囲攻撃ならたとえモーションを読まれても攻撃の余波で相手を退けることができる。

 

 『ラウンドシールド』を展開した異形の悪魔ではあったが、意識がラミィに向いた状態で完璧なガードはできず、体を浮かされて衝撃波によって後方に吹き飛ばされる。

 

 

 

「…やっぱりあの悪魔、戦い慣れてないって感じ」

 

「どういう、ことですか?」

 

「あの視線がラミィちゃんに移ってからの『大地砕破(アースインパクト)』、このパターンはもう三回目だけど全部まともにもらってる。学習していないっていうか…そもそもそこまでの考えがないっていうか。読みが正確すぎる割にはずっとこういう単純なフェイクに引っかかってる」

 

 要は、一度受けた攻撃パターンにもかかわらず二度目以降の予測ができていないのだ。

 それを聞いて、ラミィは一つ思い当たるものがあった。

 

 

 

「…以前、悠くんと一緒にフブキ先輩と稽古したときに言われたことがあるんです。対人戦をしてない影響か、フェイクをせずに、その場その場の最適解で動いてる節があるって。もしかしてあの悪魔も…」

 

「かもしれんねえ。でもそれならなんとかなるかも、ね………!」

 

 

 

 咆哮が、轟いた。

 強く、悲しく、そして虚無を思わせる真黒の叫び。

 

 

 

 そんな響きがノエルとラミィの鼓膜を叩いた瞬間、突如として周囲を覆っていた霧が晴れた。空を見上げればそこには朝とは違い雲一つない満天の星空が覗き、木々の隙間から差し込む月光がノエルを、ラミィを、異形の悪魔を照らす。

 

 

 

「これは、どういうこと…?」

 

「なにが…!ノエル先輩下がってください!!!」

 

 ラミィが何かに気付くとノエルの前まで躍り出てありったけの魔力を練る。もうここで全てを吐き出すと言わんばかりに魔力の渦がラミィを取り巻き青銀の風が極低温の冷気を纏い、両手に収束していく。パキパキと冷気によって氷点下を下回った空気中の水分が凍結して氷の粒となりラミィの周囲を煌めく。

 

 冷気を携えダイヤモンドダストによって彩られた彼女の姿はまるで氷の姫君。

 

 そんな幻想を体現するラミィは険しい顔で視線の先の異形の悪魔を見つめる。異形の悪魔は棒立ち。しかし、魔力を扱うものならば心に冷たい刃が突き刺さるかのような根源的な恐怖を抱きかねない、暴力的な漆黒の魔力が異形の悪魔の頭についた二つの角の中間点に収束して巨大な魔力塊を形成している。紛れもなく周囲の霧が晴れた原因は()()だ。

 

 こうして見ている今もなおその魔力量が周囲の魔力を取り込んで増大している。下手したら、悠の切り札である『スターライトブレイカー』にすら匹敵しうるかもしれない魔力量。本能的に理解できる。アレが放たれれば回避はできない。どこに逃げようかその射程圏から逃れることはできない。かといってすでに止められる状態ではない。無理に止めようとすればその場であの魔力塊が暴発して森の一帯が赤茶けた荒野になり果てることだろう。

 

 だからこそ、ここで、今度はラミィが守ってみせる。

 

 

 

「立花よ、今ここに咲き誇れ。『氷華盾(アイスシールド)』!!!」

 

 

 

黒虚閃(リヒト・シュヴァルツ)

 

 

 

 

 

 氷同士がぶつかる独特の音とともに氷の大輪がノエルとラミィの眼前に咲く。それは言葉にできないほど美しく、幻想的だった。

 

 対して異形の悪魔が放射状に放った漆黒の魔砲撃は、音もなく…いや、音すら呑み込む虚無の轟砲。

 

 二つの魔法、氷の盾と黒の矛の衝突は、しかして思った以上に呆気ない結末を迎えた。

 

 

 

 バキンッ!

 

 

 

「ッ!待って…!お願い、耐えて…!!!」

 

 衝突からわずか数秒、氷の花が漆黒に蝕まれるように脆い音を立ててひび割れる。それを見てラミィは縋るような声をあげて必死に魔力を込める。

 

 誤算だと言うつもりはない。

 元より悠の『スターライトブレイカー』に匹敵しうる魔力量などラミィ一人だけで受けきれるものではないことなんて分かりきっていた。それでもなおラミィが防御の選択をしたのは、その他に選択肢がなかったから。そして、あの攻撃が超広範囲の攻撃であれば一点集中の防御で守り通せるかもしれないという淡い期待があったから。

 

 

 

「う、あ、あああぁぁぁ!!!」

 

 ラミィが声を張り上げる。

 だが結果は残酷だ。

 拮抗は僅か数秒で崩れ去り、今もなお漆黒の砲撃が氷の花を呑み込まんと押し寄せる。すでに氷の花全体にヒビが入り、いつ砕かれても不思議ではない。それでもその臨界点ギリギリで留まっているのは、ひとえにラミィの意思の力だろう。守る、耐えるという意地にも似た誓い。

 

 

 

 そんな彼女の誓いが、意思が、間一髪のところで星を呼び込むことに成功した。

 

 

 

 

 

「エクセリオンシールド!!!」

 

 

 

 ラミィの耳朶を叩いたのは星の呼び声。絶望を希望へと変える、光の鐘。

 幾重にも積み重ねられた光の魔力障壁がひび割れた氷の花を覆うように展開され漆黒の砲撃を防いだ。そしてラミィとノエルの眼前に降り立った二人の姿。それを見て、自然に顔はほころんでいた。

 

 

 

「悠くん、かなたちゃん…!」

 

「ただいま、二人とも」

 

「おまたせ!」

 

「間に合ったんだね…良かった…!」

 

 二つの魔法の衝突によって吹きすさぶ風、それが四人の髪を揺らす中、傷だらけでありながらも希望を運んだ少年はそれでもわずかに眉間に皺を寄せた暗い顔をする。

 

 

 

「悠、くん…?」

 

 よく見ればかなたも似たような顔つきだ。それはまるで、するべきこととしたいことが嚙み合っていないような、覚悟はしてても受け入れたくないと言っているような、そんな顔。

 

 

 

「…ラミィ、ノエル先輩。先に言っておかないといけないことがあります」

 

 口を開いたのは悠。異形の悪魔が放った『黒虚閃(リヒト・シュヴァルツ)』を防ぎ続けている彼の横顔は余裕がなく頬に汗が流れている。それでも、声色を変えずに悠は続ける。

 

 

 

「まず、今回の事件。その全ての元凶はジェイルさんです」

 

「はぇ…」

 

「………やっぱりそうなんだね」

 

「はい。そしてその当人はすでに逃亡済み。捕まえることはできませんでしたが、代わりにあとは異形の悪魔と残った魔獣さえ倒せれば事態は収束できます」

 

 ラミィは寝耳に水と言わんばかりの反応だったが、ノエルは事前に推測は話していたおかげですんなりと悠の言葉を呑み込んだ。無論信じたくないという気持ちもなくはないが、悠がここで確信のない憶測で話をするとは思わないためその気持ちを硬い意志で排除する。

 

 しかしそうなると一つの疑問。

 

 

 

「…他に何か問題があるの?」

 

「………」

 

 悠は言葉を返さず沈黙。

 

 ノエルがそう思った理由は話を切り出す際の悠の表情だ。

 悠はノエルにジェイルが犯人かもしれないと推測を話した段階で焦りはあれど自分の推測に疑問は持っていなかったし表情もいつも通りだった。であれば少なくとも、ジェイルが犯人であったと確信しただけではあんな顔はしないだろう。

 

 じゃあ、どうして───

 

 と、そこまで考えて、ノエルは悠の瞳を見た。見てしまった。

 漆黒の砲撃の奥に見える異形の悪魔を見つめる悠の星の瞳が、どうしようもないほど悲痛に歪んでいた。

 

 

 

「…悠、くん……待って。嘘、だよね……?」

 

 とある推測がノエルの頭を駆け巡った。正確には思い出したが正しいかもしれない。

 自分たちが村に集合しようとした最初の理由。ジェイルが犯人かもしれないと推測した時点で弾き出された最優先事項。一体自分たちは、何のために村への到着を目指していたのか。

 

 信じられない。信じたくない。

 

 しかしそんなノエルの心情を真っ向から否定するように、悠は全てを覚悟の上で言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「…あの異形の悪魔は、マシロです」

 

「っ………」

 

「そん、な………」

 

 ノエルとラミィの顔から色が抜け落ちた。ラミィにいたってはあまりの真実に体に力が抜けてしまったのかぺたんと座り込み咄嗟にかなたがラミィの体を支える。ノエルはどうにか崩れ落ちることはなかったが浅い呼吸を繰り返す。少ししてきゅっと唇を結ぶと問いかける。

 

 

 

「助ける方法は、ないの…?」

 

「…マシロをあの姿に変えた原因は『魔鉱石』です。異形の悪魔(マシロ)を止めるには埋め込まれた魔鉱石を砕くしかない。そして魔鉱石の魔力に浸食された存在は…魔鉱石を壊すと同時に消滅する。これに例外はありません」

 

「っ!本当になにも方法は……!?」

 

 視線は正面から逸らさず、そう静かに、淡々と事実を告げる悠にノエルはどうにかならないのかと詰め寄ろうとして。

 

 そして、右手に握ったストライクハートを握りつぶさん勢いで力を込める悠を見てその手が止まった。

 

 

 

「悠…くん」

 

 震えていた。握りこんだせいで爪が食い込み血が流れていてもお構いなしに、その力を緩めることはしなかった。それを見て、ノエルは自分の言おうとしたことの浅はかさを恥じた。

 

 きっと、考えに考えを尽くしたのだろう。どうにか助けられないか。どうにか魔鉱石だけを取り除くことができないだろうかと。

 当然だ。悠とマシロは傍から見ても本当に兄妹のようで、きっと本人たちにとっても、ただの知り合いだけにとどまらない思いがあったはずだ。だからこそ必死に考えて、知恵を絞って、それでもその方法を見つけることはできなくて。

 

 悔しかったはずだ。自身の無力さを恨んだのかもしれない。呪ったのかもしれない。『魔鉱石』をよく知っている、そしてその原因の一端が悠自身にあるという事実がよりその思いを強くしてしまったのかもしれない。

 それでも、何を言われるのも覚悟の上で、悠は自分たちに真実を伝えてくれた。

 

 その折れてもなお立ち上がる気高き悠の心に、ノエルは胸を強く締め付けられる。

 

 

 

 

 

「僕は、異形の悪魔を…マシロを止めます。たとえその結果、人殺しの業を背負うことになっても、恨まれることになっても。だからみんなは…」

 

「っバカ…!」

 

 言葉は最後まで紡がれなかった。悠の言葉を遮ったのは、今の今までへたり込んでいたラミィだった。

 未だに顔を俯けながら、足元もおぼつかないまま立ち上がって、悠の背中を力の入っていない拳でポスンと叩く。その声は、泣き出す寸前の霞んだ声。

 

 悠から告げられた衝撃的な真実にへたり込んでいた自分が何かを言える立場ではないのかもしれない。

 だけど、悠が言おうとした言葉。彼の性格から想像できるセリフを、ラミィは許すことができなかった。

 

 

 

「今、なんて言おうとしたの…」

 

「それ、は……」

 

「ラミィたちだけ逃げろって…?罪は自分だけが背負うからって言いたいの?…バカにしないでよ!!!」

 

 

 

 未だにラミィは顔を上げない。しかし、ラミィの芯に響くような慟哭が、背中に叩きつけられた拳が、地に時折落ちる透明な雫が、否応なしに彼女の心情を伝えてくる。ラミィは止まることを知らずに続ける。

 

 

 

「なんで一人で背負い込むの?なんで一人で苦しもうとするの?なんで、ラミィたちを頼ってくれないの…?」

 

「………」

 

 今思えばという話ではあるが、悠は今までもそういった節があった。

 バトルロワイヤルの時も、今回の一連の戦闘でも。

 

 悠は確かにラミィたちを頼ってはくれる。だが、その時は必ずと言っていいほどラミィたちに責任を負わせようとはしなかった。一緒に戦っていても、危険に晒そうとはしなかった。

 

 一緒に戦っているのに、まるで同じ場所にいない。悠はラミィたちを隣ではなく、後ろに置きたがる。傷も、痛みも、責任も、全て自分一人で背負いたがる。

 

 そしてそれを、決してラミィたちに見せようとしない。

 それははたして、頼っていると本当に言えるのか。

 

 

 

「苦しいんでしょ?辛いんでしょ?本当は…こんなことしたくないんでしょ…?なら、せめてラミィたちにはそう言ってよ…!一人で全部背負い込もうとしないでよ…!」

 

 悠は言葉を返せなかった。悠だけじゃない。かなたも、ノエルも、ラミィの必死の訴えに口を挟める者は、誰もいなかった。

 

 

 

「言いたいことは分かるよ。ラミィも立場が違ったら同じことを言うかもしれない。でも…悠くんが苦しいと、ラミィも苦しいんだよ」

 

 彼が苦しい顔をすれば、ラミィも苦しくなる。胸がどうしようもなく締め付けられる。逆に彼が笑顔を向けてくれた時は、ラミィも自然と笑顔になる。胸の内が、ポカポカと温かくなる。

 

 

 

「悠くんがラミィたちを守りたいって思ってくれてるように、ラミィたちだって、悠くんのことを守りたい!苦しい時は一緒にいたい!辛い時は支えたい!」

 

 

 

「だから!後ろじゃなくて、隣で一緒に戦わせてよ!!頼りないかもしれないけど、罪も、罰も…ラミィたちに一緒に背負わせてよ!!!」

 

 

 

 ラミィの心からの叫びと願い。ただただひたむきで、純粋で。穢れを知らない少女だからこそ出てきた言葉。

 

 それはきっと、全てが正しいものではなかったのかもしれない。合理的ではなかったのかもしれない。私情と利己がかすかに入り混じった、しかしそれ故に雪花ラミィという少女の嘘偽りない悠への想い。

 

 悠はそれを聞いて、付き物が落ちたような顔をして一つ静かに息を吐いた。

 

 

 

───あぁ、僕はきっと、心のどこかでみんなを信頼してはいなかったのかもしれない。

 

 

 

 もっと言うなら、踏み込みすぎないように、踏み込まれすぎないように一線を引いていたというべきなのかもしれない。

 

 生まれながらに人の手が加えられたデザイナーチャイルド。兵器として、戦うためだけに生まれてきた存在。遠くない未来に消えると分かっているこの仮初の命。自分は他の人のように普通を生きるべきではないと心のどこかで思い、無意識のうちに遠ざけていた。特別な感情を持たないようにしていた。

 

 表面上では仲良くしていても、きっとみんなを同じ存在だとは思っていなかった。庇護対象としてしか、見ようとしていなかった。

 

 

 

 だけど、そうじゃない。

 

 

 

 たとえ生まれ方が違っても、限られた命だとしても、歩み寄ってきてくれる人を拒絶するのは、間違ってる。歩み寄ることは、きっと間違いじゃない。仮初だとしても、生きていればそれは確かな命で、そこに違いはない。

 

 他でもないそれを最初に教えてくれたのは、この世界で最初に信頼した父さんと母さんだったはずなのに。

 

 本当に、どうして忘れてしまっていたんだろうか。

 

 

 

「………ごめん、ラミィ」

 

「あ……」

 

 悠は後ろを振り向き、こちらを見つめていたラミィと目を合わせる。

 

 ひどい顔だった。ぐちゃぐちゃに泣き腫らして、あふれる涙は今も止まってなくて、普段の令嬢然とした気品は一切感じられない。

 

 それでも、悠は目の前の少女を綺麗だと思った。美しいと思った。

 

 

 

「僕が間違ってた。踏み込ませたくないって、みんなから一線を引いてた」

 

 ラミィから視線を外して、かなたとノエルを見やる。

 

 

 

「かなたに、ノエル先輩も…」

 

 かなたは、笑顔で握り拳をこっちに向けてくれた。

 

 ノエルは、ただ優しく微笑んでくれた。

 

 言葉にせずとも、二人の想いは、悠にしっかりと届いた。悠の言うべきことは、もう決まっていた。

 

 

 

()()()。僕に、力を貸してほしい。危険なのは承知の上だけど、僕と一緒に戦ってほしい」

 

 真摯に、ひたむきに、まっすぐに。

 対等に、平等に、悠から歩み寄ったその言葉。

 

 

 

「異形の悪魔を食い止めるために、マシロを解放するために!」

 

 それを聞いた三人は、静かに、でもしっかりと、笑顔で頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、どうするの?」

 

「…まずは、僕がこの砲撃を止めます。そしてみんなには、3分以内にどうにか異形の悪魔(マシロ)を空中まで引っ張り出してほしい」

 

 漆黒の砲撃が未だに盾を突き破らんと撃たれ続けている中、ノエルの質問に悠は簡潔に答える。

 

 悠はサクッと言ってくれたが、言うは易し行うは難しだ。『未来視』でこちらの行動を読める相手を空中まで飛ばす難易度は相当なものだろう。

 

 

 

「りょーかい!その後は、任せていいんだよね?」

 

「うん。絶対に、決めてみせる」

 

「…分かった。ラミィたちも、絶対につないで見せるから!」

 

 しかしそれでも、ラミィたちは二つ返事で請け負った。

 

 悠は信じてくれた。たとえ至難なことであっても、ラミィたちならやってくれると。保険などない一発勝負で、失敗すれば悠だけではない全員の命が危ぶまれる状況になるとしても、それでも悠は、前に進むために己の命をラミィたちに預けてくれた。

 

 だったらその期待には応えなければ。それこそが、ラミィたちが悠に返すことができる、信頼の証。

 

 疑うことなく首を縦に振ってくれた三人を見て、悠は隠し切れない安堵と歓喜を浮かべて右手に握る相棒を見やる。

 

 

 

「…ストライクハート…いいものだね、信頼し合うって」

 

「…はい。その通りですね」

 

「ちなみに、一番信頼してるのは間違いなく相棒(ストライクハート)だよ」

 

「それは当然そうでしょう!そうじゃなかったら怒りますよ!」

 

 一瞬の静寂。

 

 すると、どちらともなく同時に小さく噴き出す。そんなことをしている状況ではないのだが、それでも自然と笑みが零れる。

 

 

 

「それじゃあ、3分でキッチリ決めようか!」

 

「はい、いつでもいけます!」

 

 顔を上げ、目の前をまっすぐに見据える悠の星の瞳が一番星のように強く煌めき、それに呼応するように瑠璃色の魔力が荒れ狂う力の奔流となる。

 

 右手を前に、ストライクハートを眼前に突き出す。

 

 

 

「ストライクハート、形態変化(モードチェンジ)!フルドライブモード!!!」

 

「Load Cartridge.」

 

 弾倉に残った最後のカートリッジが勢いよく排出され、眩い星の輝きが光の柱となって一人と一機を包み込む。

 

 

 

 

 

「「ドライブイグニッション(Drive Ignition)!!!」」

 

 

 

 光の柱は、一条の極光へ。

 そして、天穹を衝く光の翼へと至る。





走者の一言コメント
「奥の手きちゃあ!これで勝つ!決めるしかないでしょうが!!!」



ここまでご読了ありがとうございました!
いよいよ最終決戦です!ユー君の奥の手とは一体どんなものなのか、お楽しみに。

そして次回、純白の少女編最終回です。
早ければ土日の間に出す…かも?





もしよければお気に入り登録感想評価をよろしくお願いいたします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

Part36 純白の少女⑯『星は少女に誓う』

早くないぞ!?(投稿が)

というわけで無事投稿です。
話した通り今話で純白の少女編完結です!
約半年間、お付き合いいただき誠にありがとうございます!

これからも物語は続きますがひとまずの区切りということで、お楽しみいただければ幸いです。



あと、章完結と言うことでお気に入り、感想、評価ほしいな。チラッ。





あ、それでは本編へどうぞ。


 

 

 

 

 

 天へと昇る光の柱は、まるで夜空への架け橋。煌めく星々を繋ぐ道標のようだった。

 

 そんな昇り橋はその端から残光を揺らめかせて緩やかに収束する。瑠璃の光を以って森を照らしたそれは、相対していた漆黒の砲撃を打ち消し、散らし、気付けば周囲を呑み込む力の奔流はつゆと消えていた。

 

 

 

「きれい…」

 

「すごい…!」

 

 それを間近で見ていた少女たちは思わず声を漏らす。

 

 押し寄せていた真黒の奔流、ラミィの全力の『氷華盾(アイスシールド)』をものの数秒で決壊寸前まで追い込んだ異形の悪魔(マシロ)の『黒虚閃(リヒト・シュヴァルツ)』は決して少なくない恐怖を刻み込んでいた。

 

 それをチリも残さず打ち消した光の奔流は、まさに闇を照らす一番星であり希望の象徴、反撃への序曲(オーバーチュア)

 

 

 

 そして、光が収束したその先には一人の少年がいた。

 

 

 

 ボロボロで紅に染まった『バリアジャケット』は一新されており、その装いが露になる。

 変わらず白と青で構成されてはいるが、より強固に、より堅牢に、フルドライブの最大出力に耐えうるように再設計されたソレは金属装甲の増加に青い宝石の形をした魔力を制御するための『魔力制御ジェネレーター』が各所に取り付けられており、従来のものより重いながらも洗練さを感じさせる。

 

 そしてその手に握られたインテリジェントデバイス『ストライクハート』もまた形態の変化が見られた。

 

 形だけを見れば砲撃形態(バスターカノンモード)に近い。砲口を思わせる切先に射撃姿勢を安定させるためのサブグリップ。しかし今のストライクハートはそれよりもさらに先鋭的に、そして高速機動に対応してシャープな形に置き換えられており、あえて名称で表すなら槍といったところか。

 

 

 

最終形態(フルドライブ)、『エクセリオンモード』」

 

「満を持して、登場です!」

 

 閉じていた瞳が開かれる。

 満ちる瑠璃色の魔力に照らされて、より輝きを増した星の瞳が静かに、たしかな意志をもって対面する異形の悪魔(マシロ)を見つめる。

 

 

 

「さあ、終わらせよう。悲しみも、苦しみも…今、ここで!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───わたしは…ここは、どこ……?

 

 暗い、昏い、右も左も分からない暗闇の中、一人の少女がまどろみから目を覚ます。

 

 絹を思わせる純白の長髪に虹色の虹彩を放つ神秘的な銀眼、素朴なワンピースを身に纏った純白の少女───相良マシロは、しかしそんな自分の姿を認識できないでいた。

 

 いや、決して視界が何も見えないわけじゃない。視線を動かしてみれば暗闇の中でも視界が動く感覚はあるし、手や足を動かそうとして見れば()()()()()()()()という感覚もある。

 

 しかし、いざその眼で自分の体を見ようとして見ても何も映らない。視界の目の前で手をグーパーと動かそうとしてみても、まるで自分が暗闇の一部になったかのように映るのは黒だけ。

 

 

 

 途端に、不安になった。

 

 

 

───おにいちゃん、おねえちゃん。

 

 体を丸めてうずくまる。無論体はマシロには見えないのでそういうふうにしているという感覚なだけなのだが、不安を紛らわせる方法が他に思い浮かばなかったが故である。

 

 思い出せない。

 ここにいたるまでの経緯が。最後に覚えているのは、悠たちを見送って、ジェイルと家の中に入ろうとしたところまで。そこから先が、まるで記憶が抜け落ちたかのようにスッパリ消えている。ただ、その時に向けてくれたジェイルの笑顔が、ちょっとだけ怖かったのは記憶に新しい。

 

 楽しい一日になると思っていた。

 起きたら隣でかなたがよだれを垂らしそうな顔で眠っており、クスッと笑ってしまった。そして反対側にいたはずの悠がいなくて探し回り、そして空を自由に飛び回る青い星を見つけた。夢中になって見ていたらノエルやラミィが声をかけてくれて、一緒に眺めた。

 星が降りてきたと思ったらそれは悠で、一緒に空を飛ぶ約束をした。ご飯を一緒に作って、みんなで食べた。

 

 一人じゃないんだって、そう思えた。

 

 あたたかくて、色鮮やかで。

 こんな日々がずっと続いてほしいって、そう願って。

 

 そんな矢先に起こった、この現状。

 不安になったし、助けてほしいとも思ってしまった。

 悠、ラミィ、かなた、ノエル。みんなの顔を思い浮かべて、少しだけ心が晴れる。

 

 

 

 すると、突然視界が移り変わる。

 突然の事態に訳が分からなくなっていると、マシロの視界に、薄暗い森が映し出された。

 

 覚えている。これははずれの森、マシロたちの家からはやや離れてはいるが、間違いはない。

 

 

 

───えっ。

 

 目に移った光景に、声を失った。

 

 ラミィに支えられているかなたが怪我をしている。いや、怪我なんて言葉で済ませていいレベルじゃない。

 学園制服はボロボロで、土を被っている。強く打ち付けたのか、のぞく背中には打撲痕。

 そして何より、申し訳程度に左手で抑えられている右腕全体に走った大きな切り傷。血が未だに止まっておらず、服と大地を赤で染め上げている。顔色は血の気が引いており、すぐに治療しないといけないのがすぐに分かる。

 

 それを見て叫びながら近づこうとして、そして

 

 

 

 右手に流れる温かい液体の感覚に気が付いた。

 

 

 

 見てはいけない。本能的に分かっていても、それでもマシロは見てしまった。

 

 自分のものとは思えない黒く尖った五指に、真っ赤な液体が、流れていた。

 

 

 

───あっ。

 

 意識が、途切れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再びの覚醒。

 景色は変わらずはずれの森の中。弾ける閃光がわずかに森を照らしている。

 

 

 

───もう、何も見たくない。

 

 マシロの瞳から光が消える。視界を無理矢理閉じる。

 それは、少女が背負うにはあまりにも重い自責と後悔の念。想像と憶測でしかないが、確信する。

 

 かなたを傷つけたのは、自分(マシロ)なのだと。

 

 今見ている光景が、夢なのか現実なのかはもうマシロには判別がつかない。むしろどうでもいいとすら思った。無論夢なら早く覚めてほしいが、もし現実だったらもう目も当てられない。下手にどっちか分かってしまうくらいなら、ずっとこの暗闇の中にいたい。

 

 『悪魔の子』である自分には、お似合いの場所だろう。

 

 胸の内に燻るモヤモヤが晴れない。何が原因とか、なんでこうなったとか、いろいろと頭には浮かぶが、全てが泡沫となって消えていく。思考が混濁の中へと低迷していく。

 

 

 

 もう、どうだっていいか。

 

 そう思考を放棄しようとした瞬間、声が聞こえてきた。

 

 

 

「いくよストライクハート!!!」

 

「っはい!!!」

 

 それは、無意識に兄のように慕っていた少年の声。強く、猛々しく、強い意志の乗った声。そんなマシロの冷めた心を叩くように響いた声に、少女は呼応した。

 

 

 

───おにい、ちゃん!

 

 それは、わずかに芽生えた希望。助けてくれるかもしれないという期待。縋るように込められた思いは、たしかに「未来を生きたい」という少女の夢そのものだった。

 

 閉じていた眼を見開く。たとえ暗闇の中でも彼なら、悠なら、光で照らしてくれるかもしれないと、その手で自分を引っ張り上げてくれるかもしれないと。そう信じて、信じたくて、前を向いたマシロの瞳に。

 

 

 

 腹部を貫かれて茫然とこちらを見つめる悠の姿があった。

 同時に、右手に感じる先ほどと同じ、そして先ほどより明確な熱と感触。

 

 

 

───いや、いや、いや…!

 

 思考が止まる。いや、途切れる。何も考えられない。光が闇に呑まれていくかのような絶望。クリアなはずの視界がみるみるうちに歪んでいく。

 

 もういやだ、こんな光景を見るのも、みんなが傷ついていくのも、自分という存在自体が、どうしようもなく嫌になる。わたしがいるから、みんなが傷ついていく。

 

 おねがい、だれかわたしを

 

 

 

───こわして。

 

 

 

 

 

 …たすけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リロード完了」

 

「エクセリオンモード専用大口径カートリッジ。弾倉残り六発です」

 

「了解」

 

 空になった弾倉を入れ替える。新しくつけられたのは最終形態(エクセリオンモード)でのみ使える大口径カートリッジ。内包する圧縮魔力は通常の倍は下らない。そこから放たれる魔法の威力は想像に難くないだろう。

 

 悠はゆらりとストライクハートを構え、切先を異形の悪魔(マシロ)へ向ける。

 短い呼吸音。

 

 

 

「ロードカートリッジ!」

 

「Load Cartridge.」

 

 吐き出される空薬莢。瞬間、あふれ出した魔力に三人は思わず目を細める。中でも一番驚いたのは、一番長く一緒に戦ってきたラミィだった。

 

 

 

「カートリッジ一発でこの魔力量、今までの比じゃない…!」

 

 悠の奥の手である『エクセリオンモード』、この形態の真骨頂は「魔力出力量の上昇」と「術者の能力強化」にある。

 

 そもそもストライクハートには術者の負荷を軽減するための安全装置(セーフティ)が取り付けられている。これは要するに瞬間的な魔力出力量をデバイス側で制限することで使用魔力による反動を軽減するためのもので、これがあるからこそ今まで悠はお構いなしに自身の限界まで魔力やカートリッジを使うことができた。

 

 そして現在の『エクセリオンモード』では、この安全装置(セーフティ)が限界までカットされている。

 それにより使用魔力の上限解放とともに速度をはじめとする術者の各性能を最大限引き上げることができるが、術者とデバイスの負荷はこれまでの形態の比ではなく、同時に戦闘可能時間も大きく制限されてしまう。

 

 故に、奥の手。故に、これは悠の命を削る諸刃の剣でもある。

 

 

 

 だが、これによって強化される戦闘能力もまた、これまでの比ではない。

 

 

 

「アクセルシューター…シュート!!!」

 

 魔力球が生成され、瞬く間に撃ち出される。

 その数、三十二個。

 

 通常時の数が二十個と考えればその強化具合がうかがえるだろう。しかし当然ながら二十個でギリギリ制御できた誘導弾。それがプラス十二個となれば悠一人では制御しきれない。

 

 そう、()()()では。

 

 

 

「ストライクハート、半分頼んだ。狙いは任せる」

 

「了解です、マスター!」

 

 星が降り注ぐ。

 

 撃ち出された魔力球は一つ残らずわずかなタイムラグを経て異形の悪魔(マシロ)へ殺到する。包囲網を敷くような全方位攻撃、異形の悪魔(マシロ)は両腕を漆黒の凶刃へと変形させると迎撃に走る。

 

 弾ける光と煙、全方位から迫る光弾に必然的に異形の悪魔(マシロ)は足を止めての迎撃になる。

 

 

 

「つかまえ…た!」

 

 全ての魔力球を叩き落とし、光と煙で覆い隠された異形の悪魔(マシロ)を背後から超加速で飛来したかなたが捕まえた。首に腕を回し、離れないという強い意志とともに天使の羽を羽ばたかせる。

 

 

 

「あの驚異的なまでの読み。あれは『未来視』の魔眼があってこそ。なら、物理的に視界を塞げばその読みはできないよね!…って、うわわわ!!!」

 

「かなたちゃん!」

 

 かなたの仮説は当たっていた。

 異形の悪魔(マシロ)の唯一にして最大の武器は間違いなく『未来視』の魔眼。これがあるからこそあの驚異的な読みが成立し、『魔鉱石』によって変質した肉体が最大限の力を発揮する。逆に言えば、その魔眼さえ封じてしまえば有効打を通すことは十分に可能。

 

 しかし誤算というべきは『魔鉱石』によって変質した肉体が質量にも影響していたという点。

 

 持ち上げようとして想像をはるかに超える重量に驚愕したかなたは振りほどかんと暴れ出した異形の悪魔(マシロ)にしがみついたまま暴れ牛(ロデオ)よろしく振り回される。

 

 

 

「離すもんかって…っうわぁ!?」

 

「っと、ナイスキャーッチ!」

 

 必死にしがみつくも健闘空しく弾き飛ばされるかなた。最初に相対したときの二の舞のように再び大木に激突しそうになったが、その直前で進路に滑り込むように間に立ったノエルによるギリギリのキャッチで事なきを得た。

 

 

 

「うへ~、ありがとうございますノエル先輩」

 

「仕切り直し、だね…」

 

 見てみればそこにはすでにしっかりと体勢を立て直して四人を見れる位置に陣取っている異形の悪魔(マシロ)の姿。分かっていたことではあるがこちらも四人揃ったとはいえやはり一筋縄で通用する相手ではない。

 

 わずかな膠着状態、ラミィはふと気になったことを悠に問いかけた。

 

 

 

「悠くん、あの光の輪で捕縛する魔法は?」

 

「『レストリクトロック』…もう何回かは試してるんだけど、発動の兆候を見せたらすぐに指定区域外まで逃げられる。完全に見られていない状況か、接触した状態で発動しないと効かないだろうね…」

 

 『レストリクトロック』

 

 悠の十八番(おはこ)で、発動から完成までに指定区域内に脱出できなかった対象全てを光の輪で拘束する捕縛魔法。

 

 本来であれば前述のとおり効果範囲を指定して発動まで時間を要する魔法。『未来視』を持つ異形の悪魔(マシロ)に見られている状況では当たるべくもないが、悠は魔法のバリエーションの強化の過程で、拘束したい相手と接触状態であれば無時間(ノータイム)での発動を可能にしている。

 

 もし接触状態にまで持っていければ間違いなく発動は可能。そして、この魔法の強度はかなたとココですらすぐには破壊できないほど。いくら異形の悪魔(マシロ)であっても少なくとも数秒は動きを止められる。

 

 

 

「そう…じゃあ、悠くんが接触できればいけるんだね」

 

「…!…援護、できる?」

 

 悠はラミィの目を見てそう問う。これはラミィの実力を疑っているわけではない。問題なのは、純粋にラミィの残存魔力量だ。

 

 ラミィは戦闘が始まってからここまでほぼノンストップで魔法を発動し続けている。途中で多少魔力を補う時間があったとはいえさすがにもう底が尽きかねない時間帯だ。故に、ラミィの魔法によるアタックはどうしたって慎重にならざるを得ない。

 

 

 

「…大丈夫!ここまで悠くんたちが時間を稼いでる間に少しは溜められた。大技と小技が一発ずつ。ギリギリいける!」

 

「…よし、それじゃあいこうか!」

 

 ラミィはまっすぐ悠の星の瞳を見返す。悠がそれに頷くとストライクハートを握りしめ『アクセルフィン』を展開し異形の悪魔(マシロ)に向かって飛翔した。それに合わせてラミィも魔力を練る。

 

 発動タイミングはシビア、そして失敗は許されない。必要なのは、異形の悪魔(マシロ)の視線がこちらに向いていない時、そして、悠と異形の悪魔(マシロ)の間に障害物がないタイミング。

 

 当然ながらそんなタイミングを受動的に待つなんてしている暇はない。既に悠が最終形態(エクセリオンモード)になってから一分が経過している。残り二分弱、焦りは禁物だが、悠長に構えている時間はない。

 

 隙が無いなら作り出せ、それが一人でできないなら、仲間に頼ればいい。

 

 

 

「かなたちゃん!一緒に魔法で包囲、いける!?」

 

「うん、後一発、どうにか振り絞る!」

 

 悠はこちらが動きやすいように異形の悪魔(マシロ)が悠と自分たちを同時に視界に入れないような立ち回りをしてくれている。超速で常に死角に入り込み、異形の悪魔(マシロ)の首を常に動かす。

 

 ラミィとかなたの魔力はギリギリ、しばらく反撃がないと判断すれば必ずこちらから視線を外すタイミングが来る。

 狙うは、そこだ。

 

 

 

「さあて、こっちと遊んでもらおうか!」

 

「団長のことも忘れてもらっちゃ困るよ~!」

 

 異形の悪魔(マシロ)を挟み込むように悠と、そしてノエルが一瞬のアイコンタクトから同時に迫る。

 

 倒す必要はない。元より視認されている状況での有効打はほぼ決まらないということはお互いに自負している。故に求められるのはヘイト買い、要は囮役だ。

 

 圧倒的な空中機動で翻弄する悠と、ガードもろとも吹き飛ばしにかかる超パワーのノエル。強みが違う二人からの同時攻撃、しかし異形の悪魔(マシロ)は二人を視認するとその銀眼を煌めかせて動き出した。

 

 

 

「………!」

 

「っと!」

 

 先手は悠。強化された全能力を集約してのストライクハートでの突きは亜音速と錯覚するレベル、しかも突きという攻撃は攻撃のポイントが文字通り点である。受け手の防御の難易度は相当に高い。

 

 しかし異形の悪魔(マシロ)はその超速の突きを事前に展開した『ラウンドシールド』で受け止め、その防御が割られる前に五指で掴もうとするが悠はこれを『フラッシュムーブ』で回避。あくまで悠の目的は時間を稼いで隙を作ること。前掛かりになる必要はない。

 

 そして追撃をかけるのはメイスを天空に掲げたノエル。異形の悪魔(マシロ)が悠に気をとられている内に視認できるほどの魔力を纏わせて異形の悪魔(マシロ)…ではなくその眼前の地面にメイスを叩きつけた。

 

 

 

 『大地砕破(アースインパクト)

 

 大地を砕く音が鳴り響く。

 

 発生した衝撃波とともに砂塵が舞い、視界が制限される。悠とノエルで作り出した絶好のチャンス。しかし制限されたのはあくまで視界だけ、砂塵の範囲は決して広くなく少し動けば容易に脱出ができる。

 

 なればこそ、ここで止めることができればそれは一転して絶好のチャンスになり得る。

 

 

 

「かなたちゃん!ラミィちゃん!」

 

 ノエルが二人を呼ぶ。お膳立てはしっかりとしてもらった。なら、ここでしっかり決めなければ、二人に報いることなどできない。

 

 

 

「轟け雷よ、『雷環の計(サークレットサンダー)』!!!」

 

「凍れ、『大地氷結(アイスフロア)』!!!」

 

 天に轟く円環状の雷が、視界を確保しようと動いた異形の悪魔(マシロ)に触れ放電(スパーク)する。視界が封じられた状況での雷撃、それ自体に大きな威力はないものの確実に足を止め、次へつなげるための一手。

 

 そして、続くように押し寄せた氷の波が異形の悪魔(マシロ)の足を絡めとった。脱出しようともがくように体を動かすが、一度動きを封じれば外からの衝撃がない限りその強固さは悠の『レストリクトロック』にも匹敵しうる。

 

 

 

 だがここでは終わらない。

 ノエルが作った砂埃はもう晴れており、その銀眼がすでにまっすぐラミィとかなたを捉えている。『未来視』に加えて『ラウンドシールド』を使える以上足を数秒止めたところで悠がゼロ距離まで詰めるのは至難の業。

 

 故に、もう一段の罠。

 

 

 

「聳え立て、『氷絶壁(アイスウォール)』!!!」

 

 

 

 ギャギャギャッ!!!

 

 

 

 ラミィが『大地氷結(アイスフロア)』の際に地面につけた手をそのままにさらに唱える。

 刹那、耳鳴りがしそうな音を奏でてラミィからまっすぐに20メートルの高さはあろう氷の壁が這い上がった。それは瞬く間に悠と異形の悪魔(マシロ)を分断し、その姿を隠す。

 

 

 

「悠くん!!」

 

「…了…解!!!」

 

 悠はそれを見て驚きとともにフッと小さく笑みをこぼす。

 予想以上、想定以上、そんな言葉で言い表すこともバカみたいに思えるほどの連携、そして信頼。彼女たちは決して守られるだけの存在ではなく、ともに苦難に立ち向かう仲間なのだと己が身で証明してみせた。

 

 ああ、本当に…掛け値なしでこれ以上ないくらいの最高の仲間たち。

 己の全てを賭すに足る、大切な人たちだ。

 

 

 

 だからこそ、敗けられない。

 悠は『魔力感知』で異形の悪魔(マシロ)の居場所を把握すると、最短距離でラミィが作り出した『氷絶壁(アイスウォール)』へ突撃を仕掛けた。掌を前に、魔法陣を展開、わずかな呼吸の後、それは撃ち出される。

 

 

 

「クロススマッシャー!!!」

 

 バカンッ!と音を鳴らして閃光が分厚い氷の壁の一角を砕いた。砕け散った氷の破片がキラキラと舞い、その奥に異形の悪魔(マシロ)を見据える。

 

 

 

「これなら、間に合う!」

 

 異形の悪魔(マシロ)は悠を見ていない。視えていないし直前まで姿を隠していた以上『未来視』は発動しない。視えてないなら壁を挟んでの『レストリクトロック』も考えたが、『大地氷結(アイスフロア)』を砕いて脱出を図る時間を考えると決まるかは確定じゃないと判断し却下。このまま決めると速度を落とさず直進しその手を異形の悪魔(マシロ)へ伸ばす。

 そして伸ばした左手が異形の悪魔(マシロ)へ触れる、その寸前

 

 

 

 グルン、とラミィたちを見ていたはずの異形の悪魔(マシロ)が視線をこちらへ向けた。

 

 

 

「なん、で…!」

 

 出てきた言葉を呑み込み、納得した。

 

 氷の破片だ。

 

 『未来視』の魔眼は未来を視る。その対象は、決して人に限るものではない。目に捉えられる物、つまりは先ほど異形の悪魔(マシロ)が目を向けていたラミィ、そして彼女が作り出した『氷絶壁(アイスウォール)』をはじめとする物体の未来すらも、あの魔眼は見通すことができる。

 

 だがそれが分かっても止まれない、止まるわけにはいかない。

 ラミィとかなたの魔力は今のでもう底を尽きた。悠の制限時間も既に残り一分近い。この制限時間で二人の援護なしで再び異形の悪魔(マシロ)を捉えるのはもう不可能に近い。

 

 だから、ここで絶対に決めなくちゃ。

 悠は必死に手を伸ばす。魔力を込めて飛翔する。届け、間に合えと、そう祈りながら。

 

 

 

 瞬間、周りの景色がスローモーションになる。思考だけが、加速していく。そんな光景を不思議に思う間もなく、現実はコマ送りのように、しかし確実に進む。

 

 異形の悪魔(マシロ)が身体を戻すと同時に右の手を振りかぶる。そのまま悠の手をたたき切るつもりだろう。

 回避、無理だ。既に止まれないほどの勢いだし、ここで止めてしまえばそのまま脱出される。

 なら防御、ダメだ。最終形態(エクセリオンモード)で強化された今なら受けきれるだろうが、結局は悠の進行方向に展開しなくちゃいけない以上次の手に繋がらない。次の手を打つ頃には逃げられて終わる。勝つためには、ここは引けない。

 

(くそ…!なにか…方法は……!)

 

 

 

 

 

「やらせるかあああ!!!」

 

 悠を現実に引き戻す覇気を込めた咆哮が響くと同時に、白翼の天使が身の丈を大きく超える槍斧(ハルバート)を振りかざしてこちらに向かって全力で飛翔してきていた。

 

 全力全開、後のことなんて考えていない。最後の最後、もはや搾りかすほどしか残っていなかった魔力を全て羽にかき集めての突貫はまさに刹那のタイミングで二人の元に辿り着いた。

 

 

 

 甲高い衝撃音。

 

 激しい火花を散らし銀の槍斧(ハルバート)と漆黒の凶刃がぶつかる。

 

 

 

「かな、た…」

 

「あとお願い、悠くん…!」

 

 もう全部の力を使い果たしたかのように突撃した勢いのまま倒れ伏したかなたがそう笑いかける。

 正直に言って、かなたはこの結果が予想できたわけではなかった。ただ、止まったままではいられなくて、少しでも、悠の力になりたくて。気付けば取り落していた槍斧(ハルバート)を掴んで突撃を敢行していた。

 

 結果としては正解だったかなと内心でそう思って、それでも魔力切れでもう動けない自分の体を見て少し悔しくなって。

 でも、繋ぐことができた。

 

 あとは、みんなが上手くやってくれる。

 

 

 

「っ最高だよ、かなた!!!」

 

 あと一歩、その差を埋めてくれたかなたに悠は最上級の感謝をしつつ。

 そして、その左手がとうとう異形の悪魔(マシロ)に届いた。

 

 

 

「レストリクトロック!!!」

 

 魔力を込め、そう唱える。

 

 返しの刃で悠を切り裂こうとした異形の悪魔(マシロ)が幾重もの光の輪に雁字搦めにされる。腕、足、首と、もはや捕縛されていない部位がないのではと言わんばかりの強固な捕縛。

 

 しかしそれでも、異形の悪魔(マシロ)は動き出す。

 ギリギリと音を鳴らし拘束を解きにかかる。徐々に、しかしたしかに光の輪にヒビが入り始める。

 

 当然だ。異形の悪魔(マシロ)はあのかなたを簡単に振りほどいた。膂力は間違いなく互角以上、いくら強固にしようと時間をかければじきに破られるのは自明の理。

 

 だが、時間が稼げればいい。異形の悪魔(マシロ)が動けない時間を作り出せれば、目標は達成できる。

 

 残り、三十秒。

 

 

 

「…ノエル先輩!」

 

「…ゴメンねマシロちゃん。ちょっと痛いかもだけど、我慢して!」

 

 颯爽と、月光に煌めく銀髪を揺らめかせて少女騎士が飛び込む。

 

 下段に構えられたここまでの戦いで傷付き、ボロボロになったメイス。彼女の魔力光である白銀の光を纏って放たれるそれは乾坤一擲を賭した一振り。

 

 

 

「白亜の鉄槌!!!」

 

 

 

 吸い込まれるように異形の悪魔(マシロ)の腹部めがけて繰り出された一撃は、寸前で展開された一枚の『ラウンドシールド』をまるで角砂糖のように粉々に砕き異形の悪魔(マシロ)をはるか彼方の天空へ打ち上げた。

 異形の悪魔(マシロ)に飛行能力は持ち合わせていない。すなわち、はるか上空に打ち上げられたこの状況(シチュエーション)こそが、唯一未来視を鑑みずに必中の一撃を放つことができる最後の瞬間。

 

 

 

「いって悠くん!!」

 

「お願い、マシロちゃんを!!」

 

「解放して…ううん、助けて!!」

 

「………っ!!」

 

 分かっていた。ラミィも、かなたも、ノエルも、そして悠も。その選択が何を意味するか。悠にどんな業を背負わせることになるか。

 

 他に出来る人がいなかったから、悠がその選択を望んだから。理由なんていくらでも出てくるけれど、そんなことはただの言い訳にしかならなくて。

 分かっていたし、理解もしていた。それゆえに三人は悔しさと情けなさで涙を浮かべながらも、それでもなお悠から目を逸らすことはなかった。

 

 悠を一人きりにしないために。決して一人でその業を背負わせはしないと伝えるために。

 

 悠がその意図を読み取れたのかは定かではない。

 それでも、悠は自分を見つめて呼びかける三人を見て、わずかに頬がほころばせた。

 

 

 

「…ストライクハート!ここで決めるぞ!!!」

 

「ACS Stand by.」

 

 カートリッジロード、ストライクハートから吐き出された二つのカートリッジが落ちる音とともに、足元に瑠璃色の魔法陣。そして、星の光を束ねた、光の翼が顕現する。

 

 切先が異形の悪魔(マシロ)へ向けられたストライクハート、その両側面に四対八枚の光の翼が現れた。

 膨大な魔力を秘めたそれらは互いに共鳴し、呼応し、抑えきれない魔力が嵐となって悠の周囲を駆け巡る。

 

 

 

「終わらせてみせる。悲しみも、苦しみも…!僕は、そのためにここにいるんだ!!!」

 

「Strike Frame.」

 

 開かれた砲口、そこから瑠璃を超えた大海を思わせる濃青色の細長い魔力刃が展開された。

 それは、半実体化した超高密度の魔力によって形成された打撃機構『ストライクフレーム』。どれだけ堅牢だろうとも、撃ち貫く。ただそれだけを追い求めた魔法。

 

 

 

「エクセリオンバスター・ACS!ドライブ!!!」

 

 光の翼を纏って、少年は夜空へ飛び立つ。光の軌跡を残して空を駆けるその様は、まさに彼自身が流星になったかのよう。

 

 『アクセルフィン』に加えてストライクハートに展開された四対の光の翼による加速機構。それらをかけ合わさった速度はほんの一瞬だが、音すらも超える。

 

 疑似的に光速へと至った悠が瞬く間に異形の悪魔(マシロ)の元までたどり着く。それに対して異形の悪魔(マシロ)は空中では回避が不可能と判断してか、漆黒の『ラウンドシールド』を悠の眼前に多数展開する。

 

 その数、五枚。

 

 一枚でもその硬さは堅牢と言える。これだけの多重展開はそれだけ悠の攻撃を警戒した証拠だ。しかし、悠はそれを見て苛立つでもなく、悲観するでもなく、ただ真っすぐに異形の悪魔(マシロ)を見つめていた。

 

 

 

「貫け…!!」

 

 悠の展開した『ストライクフレーム』と異形の悪魔(マシロ)の『ラウンドシールド』が衝突音とともに激突する。

 

 今度は、拮抗すら起こらなかった。

 

 

 

 バキンッ!と脆い音を立てて漆黒の『ラウンドシールド』が砕かれる。さらにそこで勢いは止まらず、続けざまに二枚目、三枚目と立て続けに濃青色の魔力刃が黒の盾を貫き異形の悪魔(マシロ)へ突き進んでいく。

 

 だが四枚目、そこでわずかに悠に勢いが落ちる。バチバチと実体化した魔力同士特有の音を響かせて拮抗を始める。

 

 

 

「ここで…止まれるか…!!!」

 

「Load Cartridge.」

 

 吐き出される空薬莢にカートリッジの撃鉄音。新たに得た魔力でさらに輝きを増した光の翼をはためかせて悠はさらに加速、四枚目の盾を突き破る。

 

 残る盾はあと一枚。

 残り時間は、残り十秒を切る。

 

 

 

「っぐ、あ…!」

 

「マスター!」

 

「大…丈夫!」

 

 はじけた魔力が身体の内で暴れまわり苦い表情を浮かべるが、それも一瞬。強くストライクハートを握りしめると悠は最後の『ラウンドシールド』と衝突する。

 

 

 

「ッ硬い!」

 

 おそらくこれまでの四枚は最後の五枚目に魔力を集中させるための時間稼ぎでしかなかったのだろう。それが分かってしまうほど、五枚目の硬さはこれまでのそれとは比較にもならなかった。

 

 火花が絶え間なく散り、金属の擦過音のような音が響き続ける。

 

 

 

「…ごめん、マシロ」

 

 静かに、だけどどこか心に響くような強さを秘めた声で悠は小さく呟く。その謝罪は、何に向けたものだったのだろうか。

 

 正体に気付けなかったことだろうか。今こうして刃を向けていることだろうか。それとも、助ける選択肢を見つけられなかったことだろうか。

 

 どれも正解かもしれないし、もしかしたらどれも違うのかもしれない。その真意は本人以外に知る由はないし、それを悠本人から聞くことは、きっと未来永劫訪れることはないだろう。

 

 

 

「どうか許さないでほしい。恨んでほしい。罪も、罰も、僕たちは刻み続ける」

 

 ストライクハートのグリップを握る力が強くなる。

 

 

 

「そして、絶対に忘れない。相良マシロという女の子が、たしかにいたんだってことを!」

 

「Load Cartridge.」

 

 弾倉に残った残り二発のカートリッジを一気に吐き出す。体を蝕む魔力を受け入れ、ただ突き進むための力へと変える。

 

 バチッと、ほんのわずかに『ストライクフレーム』が『ラウンドシールド』を突き破る。少しずつ、少しずつ、それは深くなっていき、五センチメートルほど突き破ると、『ストライクフレーム』の先端に膨大な魔力が収束していく。

 

 これこそが悠の最終手段、シールドを突き破った状態での、全魔力を解放した完全ゼロ距離砲撃。自身に返ってくる反動など何も考慮していない、自爆特攻と称して差し支えない正真正銘最後の一撃。

 

 

 

 

 

突破(ブレイク)砲撃(シュート)!!!!!」

 

 

 

 

 

 異形の悪魔(マシロ)を音もなく呑み込んだ瑠璃色の極光が、満天の星空を衝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ッグ、ハ…!」

 

「マスター!魔力がもう限界です!すぐに降下を!」

 

「…分かってる。でもちょっとだけ、待ってくれ…!」

 

 ゼロ距離砲撃による反動ダメージに加えて魔力を一気に消費したことによる魔力欠乏症。ふらつく頭と体を気合だけで耐え抜くと悠は空を見つめる。

 

 ただの希望的観測だ。だけど、もしマシロがその自我をわずかにでも残していたならば、『魔鉱石』の魔力に完全に侵食しきっていなかったのであれば、もしかして…

 

 

 

「…!見つけた!」

 

 わずかに残された魔力で『アクセルフィン』を稼働、星が煌めく夜空の中、一つだけ淡く光った光源の元へ駆け出す。

 

 距離が近づくにつれてそれは人のようなシルエットを象っていく。小さな淡い光を散らしながら落ちていくその半透明の人のような何かを悠は空中で抱きとめ、その正体を確かめると急いでラミィたちの元へ戻る。

 

 悠がラミィたちの元へ辿り着くのと、悠が抱き留めた半透明となった少女───マシロが目を覚ましたのは同時の出来事だった。

 

 

 

「悠くんに…マシロちゃん!?」

 

「…あれ……ここ………」

 

「マシロちゃん!ボクたちが分かる!?」

 

「マシロちゃん…!」

 

 悠に横抱きにされたマシロはその体を薄れさせてもなお神秘的な銀眼をゆっくり開いて周りを見渡す。ラミィを、かなたを、ノエルを見て、そして…最後に悠を見た。

 

 みんなを見るその顔は、とても穏やかで、晴れやかだった。

 

 

 

「……あり、がとう……たすけて…くれ…て…」

 

「っ!ごめん、マシロ…!」

 

「…どう、して……あやまる…の…?」

 

「だって、僕は、マシロを助けることは…!」

 

 ふと、悠の懺悔の言葉が止まる。

 悠の腕の中にいたマシロが、右手をそっと悠の頬に添えていた。それは、慈しむように、泣く子をあやすように、優しいものだった。

 

 

 

「なんとなく、だけど…おぼえて、るの…。わたしが、みんなを…きずつけた、こと…」

 

「マシロ、ちゃん…!」

 

 ラミィが堪えきれないようにその金色の瞳から大粒の涙を落とし、二度三度と嗚咽を漏らす。

 それにつられるように、かなたやノエルも雫を零しマシロの手をぎゅっと握る。

 

 

 

「みんなが、とめて…くれたんでしょ…?あのまま、じゃ…きっと…おじいちゃんや…むらの、みんなまで……きずつけ、てた…から。だから…ありがとう……だよ…?」

 

 咄嗟に、言葉が見つからなかった。目の前の、今にも儚く消えてしまいそうな少女に、何を言うべきか咄嗟には思い浮かばなかった。

 少しの逡巡、零れだしそうな嗚咽をどうにか堪えて、それでも悠は一言、こう告げた。

 

 

 

「…どう、いたしまして」

 

「…うん。それと…ごめん、ね……いたかった…よね……」

 

「っ…大丈夫、だよ!ちょっと休めば…すぐ元気になるから…!」

 

「そっかあ…なら、よかった……」

 

 マシロはそこで言葉を切ると視線を悠から空へ…満天の星空へ向けた。

 一つ大きく目を見開くと、悠の頬へ添えていた右手で今度は服を控えめにつかむ。そこには先ほどまでの優しさではない、子ども特有の懇願するかのような姿。

 

 

 

「おにい、ちゃん…あの、ね……やくそく、って…おぼえて…る…?」

 

「…!…うん、もちろん」

 

 悠は一度マシロから視線を外しラミィたちを見る。

 そこに込められた意図に、ラミィたちはすぐに気づいた。今一度三人はマシロの手を強く握ると、ボロボロと零れ落ちる涙をそのままに優しく笑いかける。

 

 

 

「マシロちゃん、マシロちゃんのこと…絶対…忘れないから…!」

 

「マシロちゃんと遊んだ時間、すっごく楽しかったよ!だから…ありがとうね…!」

 

「マシロちゃん…向こうでも元気でね…!また、会おうね…!」

 

「…うん。ありがと…おねえちゃん……!」

 

 マシロはそう締めると悠の服を軽く引っ張る。

 それを合図に、悠はひとつ頷き、脚部に魔力消費の少ない『フライアーフィン』を展開、マシロを落とさないようにしっかりと抱きしめるとゆっくりと満天の星空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

『よかったら今日の夜にでも一緒に飛んでみる?』

 

『!…うん、うん………!』

 

 事件が起こる前の朝にマシロと約束したこと。閉鎖環境で育った彼女が希った小さくとも大きな望み。まさかこんな形で叶えることになるとは、思ってもみなかったけれど。

 

 風を切る音が鼓膜に響く。抱きしめたマシロを見てみると、体は先ほどよりも薄れてきており、零れる光もさらに儚く淡いものになっている。

 

 

 

「…怖くない?しっかりつかまっててね」

 

「…うん……あっ………!」

 

 そう言っていたのも束の間、高度はいつの間にか森を抜け、視界いっぱいに星の煌めきが映りこむ。

 

 マシロからすれば夢のような光景だろう。

 手を伸ばせば届きそうなほどに近い星々、それが瞬く間に移り変わり、頬を撫でる夜風が心地よい。

 

 縛られるものが何もない、自由を体現する無限の大空。

 

 

 

「…す、ごい……!」

 

「…そっか、ならよかった」

 

 マシロは悠の服を握りしめたままあっちこっちと指を差して懇願し、悠もまたそれを見て微笑みながら言うとおりに空を飛び回る。

 

 マシロの体から零れる光、空を飛び回りながら振りまく姿はまるで美しい蝶が鱗粉を振りまいているかのようで、どこか幻想的なその光景に地上にいた三人は顔を見合わせて笑っていた。

 

 

 

 

 

「…ねえ、おにい、ちゃん……」

 

「…どうしたの?」

 

「…わたし、ね…パパとママが、いなくなって…から……どうして…いきてる、のか……わからなかった、の…。」

 

「………」

 

 それはきっと、相良マシロという少女の、最後の独白。少女の口から紡がれる、最後の言葉。

 

 

 

「おじいちゃんは、たすけて…くれたけど…。それでも…いたくて…くるしく、て…。さいご、には……みんなを、たくさん…きずつけて……」

 

 マシロは小さく息を吐いて言葉を切ると、悠を、そしてその奥の星空を見つめる。

 

 マシロの体が、さらに薄くなる。命の灯火が消えてしまうのを示すように悠の服を握る手の力が弱くなる。もはや触れているだけとなったその手を、悠は空いている手でしっかりと握りしめた。温もりを伝えるように。最後の一瞬まで一緒にいると、そう伝えるように。

 

 

 

「ずっと、ずっと…わからな、かった……けど…。さいご、に……こうやって、おねえちゃんたちに…おくりだして…もらえて……じゆうに、そらを…とんで……。そして…おにいちゃんの…あたたかさを……かんじながら…ぱぱと、ままの…ところに、いける…。それ、だけは……とっても…うれしい……よ……」

 

 そうしてマシロは、笑顔を浮かべる。

 これ以上ないくらい幸せだと言わんばかりに。後悔も憂いも何もないと言わんばかりに。

 

 悠は、それを聞いて、自分の頬を暖かな液体が伝っていくのに気づいた。

 泣くまいと決めていた。マシロの人生を終わらせた自分に、泣く資格などないのだと、そう思っていたから。

 

 でも、一度自覚してしまうとそれはもう止めることはできなくて。溢れる感情が抑えられなくて。涙をぬぐうことはせず、悠はマシロの体を支える力を、手を握る力をさらに強めた。

 

 

 

「…ありがとう、マシロ。僕たちと…出会ってくれて。短い時間だったけど…傍にいてくれて。…マシロと過ごした時間は、紛れもなく僕の…僕たちの宝物だ」

 

 

 

「そして…マシロは、僕にとって世界で一人だけの、大事な妹だよ」

 

 それを聞いた瞬間、マシロは少しだけ驚いたような顔をして。

 そして、最後にはやっぱり笑顔を浮かべて、目を閉じた。

 

 

 

 ブアッと、マシロを構成していた光が、弾けた。

 腕に感じていた重みが溶けて消える。手を握っていた感触が、そのかすかな温もりだけを残して儚く消えていく。

 

 その光はゆっくりと天に昇っていき、その一つ一つが淡く薄れて、そして消えていく。

 

 悠は、声を殺して泣いた。今この場で声をあげることは、一人の少女の旅立ちに相応しくはないと思ったから。

 

 

 

 淡い光とともに残された純白に煌めく鉱石を抱きしめて、その温もりをかみしめるように、そっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしまあ、村を救ったとはいえ村人たちから謝罪されるとは思いませんでしたね…」

 

「そういうこと言わないの。人はいつだって変われる。きっかけさえあれば、ね」

 

 事件が収束してその翌日、悲しみの暮れにジェイルとマシロが過ごした家で一晩を過ごし涙を涸らして、改めて今日村長である相良クロナへ依頼達成の報告を行い、現在はその帰路の途中である。

 

 今はもうはずれの森もすっかり落ち着きを取り戻して実に静かである。戦闘で薙ぎ倒された木も一部はすでにエルフの森の祝福で生えなおっており、もう一週間もすればすっかり元通りとなるだろう。

 

 

 

 「でも、クロナさんも元気そうでよかったね。空元気…なのかもしれないけど」

 

 ラミィの言葉で思い出すのは、報告に行った際のクロナとの会話。

 

 

 

 

 

「そう、ですか。ジェイルさんが今回の事件の犯人で。そして、マシロは…」

 

「…申し訳ありません。守ると、そう決めていたのに…」

 

 時間はわずかに遡り、場所は村長であるクロナの家。クロナは悠たちから一連の報告を受けると目を掌で覆って一つ息を吐く。

 

 クロナの心中を、悠たちに推し量ることなどできないだろう。唯一残された家族の死、しかもそれが自分が善意で保護した人物の手によるものだったなど、数奇な運命にもほどがある。

 

 

 

「…一つだけ、お伺いしてもよろしいですか?」

 

「っはい」

 

 どんな罵倒でも、叱責でも甘んじて受け入れる。そう覚悟を決めて、悠たちはクロナの言葉を待った。だからこそ

 

 

 

「…マシロは、笑えていましたか?」

 

「───え」

 

 クロナから問われたその問いに、一瞬言葉を失った。

 

 

 

「どうでしたか?マシロは…皆さんといて、楽しそうでしたか?」

 

「えっと、はい。笑ってくれてたと、思います…」

 

「一緒に遊んでいるときも、楽しそうでした、けど…」

 

 戸惑いつつも返答を返したのは悠とかなた。当然戸惑った理由はその質問の意図が分からなかったから。

 

 クロナはそれを聞くと手元に置いてあったクロナとマシロ、そしてマシロの両親であるグレイとユウリが映った家族写真を手に取り、そっと撫でる。その顔にはどこか昔を懐かしむような色があった。

 

 

 

「グレイとユウリが亡くなってから、儂はマシロが笑ったところを終ぞ見れませんでした」

 

「あ…」

 

「昔は、ユウリに似てよく笑う子だったんです。素朴な食事に笑顔を浮かべて、庭でグレイとかけっこをすれば笑いながらグレイの背中を追いかける。優しくも、笑顔が絶えない子でした」

 

 クロナは悠たちの表情をうかがうと一つ苦笑しながらパタンと写真立てを倒す。

 

 

 

「儂では、マシロに笑顔を取り戻すことはできなかった。きっと、儂のことも恨んでいたことでしょう。こんな仕打ちをすれば当然「…恨んではいませんでしたよ」…は…?」

 

 クロナの言葉を遮って間に入ったのはノエル。キュッと自身の胸のあたりの服を掴むと目を逸らさずに告げる。

 

 

 

「マシロちゃんは、クロナさんや村のみんなのことを案じていました。そして、傷つけなかったことに心から安堵していました。そんなマシロちゃんがクロナさんを恨んでいるなんて、絶対にないです!」

 

「………」

 

 さすがのクロナも信じられないといった顔。しかしまっすぐクロナを見つめるノエルの顔に嘘はないということもよく分かる。

 

 クロナは目尻を抑えて顔を伏せる。

 あそこまで拒絶してもなお、そう思ってくれていたマシロに、罪悪感と後悔の念、そして至上の愛が募る。押さえてもなおこぼれそうになる涙を大きく呼吸をしてどうにか押し留めると顔をあげて悠たちを見る。

 

 

 

「…まったく、そんなことを思われれば長生きしなければいけませんね。あの子の分まで」

 

「…ええ、ぜひ、そうしてください」

 

 クロナは年老いてすっかり重くなった体を「よっこいせ」と起こして立ち上がる。そして悠たちを一人ずつ見やると、深々と頭を下げた。

 

 

 

「…この度は本当に、ありがとうございました。村を救ってくれて。マシロに笑顔を取り戻してくれて。ガルナ村を代表して、マシロの祖父として、心から感謝いたします」

 

 悠たちはお互いに顔を見合わせる。するとそれぞれがふと顔をほころばせて、クロナに向き合う。

 

 

 

「「「「どういたしまして」」」」

 

 そう声を揃えて、四人は笑顔を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ねえねえ!もうお昼時だし、街に戻ったらみんなでご飯食べに行かない?お疲れ様会!」

 

 はずれの森の入り口付近、木々の奥にはすでに見慣れた建物群が乱立しており戻ってきたんだと同時に濃い二日間だったとちょっとした感慨に更けていると唐突にノエルが腕を振り上げながらそう提案してくる。

 

 見れば目をキラキラさせていて興奮していると同時にどこかテンパっているようにも見える。ノエルを除いた一年生三人組は顔を寄せ合ってしゃがみ込むと小声で密談を開始する。

 

 

 

「…どう思う?」

 

「自分が持ってきた依頼であの事件と遭遇したから気を使ってる…とか?」

 

「いや、これは元から計画していたのを意気揚々と提案したはいいけどあんな事件の後だからタイミングを間違えたと思って狼狽えていると見た」

 

「全部聞こえてるんやけど!?」

 

「おっとしまった」

 

 もちろんすべてわざとである。

 

 「もー!」と揶揄われたことに怒ったノエルが固まっていた三人のところへダイブし、その細いながらも力強い両腕で三人まとめて抱きしめた。意図せずおしくらまんじゅうのような状態になった四人はしゃがんだままで体勢が安定しなかったのかバランスを崩して仲良く倒れこむ。

 

 わずかな静寂。

 しかしその次の瞬間には、おかしさからそれぞれが笑い声を上げる。

 

 

 

「それじゃ、はやくいきましょ!」

 

「わ、待ってよかなたちゃん!」

 

「あー!団長が発案したんやけどー!?」

 

 森の外へ駆け出す三人を見て、悠は一つ苦笑を浮かべる。

 

 ふと、風が森の奥から吹き抜けた。少し冷たい乾いた春風が、葉擦れの音を届ける。

 クスクスと、小さな子どもが笑っているかのような、そんな葉擦れの音が。





ねえ、パパ、ママ。

はなしたいことが、たくさんあるんだ。

えへへ、それはね…



───わたしたちをたすけてくれた、わたしだけのおにいちゃんとおねえちゃんのはなし!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。