無限と問題児 (蛇龍好き)
しおりを挟む

プロローグ

問題児たちが異世界から来るそうですよ?無限王の帰還(強制)のリメイク版です。

過去編が難易度高すぎて断念しましたすみません。

女王に召喚されるのもやっぱなんか変だなと思い、オリ主は箱庭内スタートに変更です。


―――箱庭✕✕外門某所

 

「………ん」

 

眠りから覚めた金髪紅眼の少女。

ただの寝起きではなく、とある力を感じ取ったからだ。

 

「………ほう?奴め、箱庭に異世界人を召喚したか」

 

瞳を細めて口元に笑みを作る。

〝奴〟と言うからには召喚者は金髪の少女の知り合いなのだろう。

 

『―――ウロボロス様?どうかしましたか?』

 

金髪の少女の声とは違う、別のものの声がウロボロスと呼ばれた少女の頭に直接響いた。

金髪の少女もといウロボロスがムッと眉を顰めて言う。

 

「■■■よ、その名で私を呼ぶなと言った筈だぞ?私の事は〝無限王〟若しくは〝ウーちゃん〟と呼べ」

 

『す、すみません無限王様!』

 

「様付けもいらぬ」

 

『それは駄目です!それと後者の呼び方なんか恐れ多くて出来ませんから………!』

 

■■■は断固拒否!といった調子で返す。

ウロボロス改め無限王は「ぬぅ」と低く唸った。

 

「私は気にしないんだがな。■■■は()()()なんだからもっとフレンドリーに接してくれても良いんだぞ?」

 

『無理です!それに無限王様の器を果たす代わりに、私に掛けられた〝呪い〟を封印してもらってるんですから尚更失礼な態度は取れません!』

 

「………その様付けが失礼な態度なんだよな」

 

『へ!?』

 

「………ウーちゃんと呼んでくれたらこの件は不問にしよう」

 

『………っ!?』

 

究極の選択を迫られて■■■は困惑する。

許しを請うにはウーちゃんと呼ばなければならない。

だがそのウーちゃん呼ばわりを果たして許容して良いものだろうか!?

中々決断出来ずにいると、無限王はフッと小さく笑った。

 

「………まあ、冗談だがな」

 

『え!?ジョウダン!?』

 

「うむ」

 

『うむ、じゃないですよ!?危うく無限王様の術中に嵌まるところだったじゃないですか!』

 

「(■■■をからかうのは楽しいな)」

 

クックッと喉を鳴らして笑う無限王。

傍から見れば一人で笑ってる変質者でしかないが。

それからスッと真剣な顔つきになると、何処からともなく取り出した黒ローブを羽織った。

 

「さて、行くか」

 

『………え?行くって、どちらに?』

 

■■■がまさかと思いつつも訊ねると、無限王は口元に笑みを作るとこう言った。

 

「無論―――奴の召喚した異世界人を見に行くに決まってるだろ?」

 

『デスヨネー』

 

訊くまでもなかった。

これはもう嫌な予感しかしない。

■■■はこれから逢うであろう異世界人に向けて合掌。

この駄龍は、面白そうな場面には遠慮無用で乱入する悪癖がある。

勿論、乱入不可の場面もあるが。

最悪の場合は主導権を強奪してでも止めるしかない。

■■■はそう心に決めるのだった。

無限王は楽しみだと小さく笑ってその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

空間跳躍(テレポーテーション)なるもので異世界人が召喚された場所に跳んできた無限王の目に飛び込んできたものは、

 

「フギャアアアアア!!?」

 

丁度ウサ耳の少女が、異世界人とおぼしき三人の少年少女に弄ばれてるというものだった。

ウサ耳が。

その光景に無限王は目を瞬かせていると、ウサ耳の少女が彼女の存在に気が付いて助けを求めてきた。

 

「………ハッ!そ、そこの御方!何者か存じませんがどうかこの黒ウサギを助けて頂けませんか!?」

 

「………ふむ?」

 

無限王は考える素振りをしながら、ウサ耳の少女もとい黒ウサギのウサ耳を絶賛堪能中の異世界人の少年少女に視線を向ける。

誰だか知らねえが余計な真似はするんじゃねえぞ、と金髪紫眼の少年が睨んでいる。

邪魔をするなんて無粋な真似、しないわよね?と黒髪青眼の少女が睨んでいる。

邪魔しないで、と茶髪茶眼の少女が睨んでいる。

ついでに三毛猫も。

結論から言うと、これは止めない方が良いかもしれない。

何故ならその方が面白いだろうから。

 

「………どうやらお取り込み中だったようだな。すまない、私の事は気にせず続けてくれ」

 

「んなぁ!?」

 

「「「それじゃあ遠慮なく」」」

 

「あ、ちょ、待っ―――!!」

 

黒ウサギの待ったは虚しく、彼女のウサ耳は彼らの魔の手によって再び弄ばれ始めた。

そんな光景を小さく笑って眺める無限王。

■■■は余計な真似をしない無限王に安堵しつつも、黒ウサギを助けない人でなしもとい龍でなしだと溜め息を吐いた。

そんな感じで無限王と異世界人達の邂逅はカオスなスタートを切ったのだった。




■■■を器にしてる設定は残しました。
原作と違ってキャラがなんか黒ウサギっぽくなりそうで恐いですが
黒ウサギと無限王は初対面ではありませんが、黒ローブ効果で正体が分からなくなっているだけだったりします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ファーストコンタクトは大失敗!?

サブタイの通り、オリ主はやらかすようです

原作既読推奨タグの通り、黒ウサギの箱庭の説明はカットします


「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらう為に小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

それにそこの御方は黒ウサギのことを助けてくれなかったですし、と黒ウサギが恨みがましく無限王を睨み付けてきた。

無限王はフッと小さく笑い、

 

「彼らの楽しみを奪うのは些か気が引けたのでな」

 

「嘘です!ニヤニヤしながら見ていたじゃないですか!実は貴女も楽しんでいたでしょう!?」

 

「うむ」

 

ガクリ、と項垂れる黒ウサギ。

うむ、じゃないのですよこのお馬鹿様ぁあああああ!!!と内心で絶叫した。

一方、黒ウサギのウサ耳を堪能し終えた三人のうち、金髪の少年が無限王を見て訊いてきた。

 

「それで、何処からともなく現れたそこのお前は何者だ?」

 

「ん?私の事か?」

 

「貴女以外に一体誰がいるのかしら?」

 

「とぼけても無駄」

 

黒髪の少女と茶髪の少女も続いて言う。

それに無限王はスッと目を細めて返した。

 

「名を訊ねる前に、まずは貴様らが名乗ったらどうだ?礼儀を弁えぬ餓鬼共に教えてやることは何一つとしてないぞ?」

 

「なっ………!?」

 

「………ガキじゃない」

 

「へえ?」

 

少女とは思えない発言に驚く黒髪の少女。

餓鬼扱いされてムッとする茶髪の少女。

金髪の少年は物騒に瞳を光らせて無限王を見つめる。

中々面白い事を言うなお前、と。

無限王はフッと小さく笑い手を振った。

 

「―――というのは冗談だ。そうだな、ただで名前を教えてやるつもりはないが………箱庭出身の何某とでも答えておこうか」

 

「箱庭出身?」

 

最初に茶髪の少女が反応すると、黒髪の少女が不機嫌そうな態度で続く。

 

「そう、箱庭出身なのね貴女。私は………いえ、貴女が名前を教えてくれないのなら名乗る必要はないわね」

 

「………それなら私も名乗らない」

 

「なに意地張ってんだお前ら。ま、俺もそいつに名乗るつもりはないがな」

 

ヤハハと笑って続く金髪の少年。

無限王はほう?と感心したように小さく笑う。

まあ尤も、名乗ってもらう必要はないが。

 

「(少年の名は逆廻十六夜。少女二人の名は黒髪は久遠飛鳥、茶髪は春日部耀。〝      〟の連中が用意した人類最強戦力(ミリオンクラウン)か。はてさて、どれ程のものか楽しみだな)」

 

無限王は()()()()()知りたい情報を読み取ることが出来る。

故に、名乗らずとも名前を知ることが出来る彼女には何の問題もないのだ。

 

「さて、邪魔をしたな〝箱庭の貴族〟よ。来たばかりの異世界人に箱庭の説明をしてやってくれ」

 

無限王は黒ウサギにバトンタッチする。

ハッと我に返った黒ウサギは、自分の前の岸辺に座り込んで待機していた三人を見た。

まあその三人は『聞くだけ聞こう』という程度にしか耳を傾けていないが。

それでも話を聞いてもらえるのなら越したことはないと咳払い一つ、箱庭の説明を始めた。

 

 

 

 

 

《黒ウサギ説明中》

 

 

 

 

 

黒ウサギの用件が終わると、黒髪の少女改め飛鳥が無限王に視線を向けてきて、

 

「あら、まだいたのね貴女。帰ったのかと思ってたわ」

 

「ぬ?」

 

飛鳥に続いて金髪の少年改め十六夜がニヤリと笑って、

 

「邪魔をしたな、って言った割にはまだいるんだなお前」

 

「………む」

 

とどめに茶髪の少女改め耀が無表情で言う。

 

「なんでまだいるの?」

 

「……………」

 

容赦のない彼らの言葉に閉口する無限王。

黒ウサギが飛鳥達の失礼な態度に怒ろうとして、

 

「ちょ、御三人様!?そんな言い方をしなくても」

 

「構わんよ〝箱庭の貴族〟。生意気な子供は嫌いではないからな」

 

無限王に右手で制された。

それから彼女は十六夜達三人を見回して残っている理由を告げる。

 

「私がまだいるのはお前達に興味があるからだ。是非ともお前達のギフトを見せてくれないか?」

 

「断る」

 

「却下」

 

「やだ」

 

「………だろうな」

 

「当たり前だ。なんで見ず知らずのお前なんかにギフトを見せなくちゃならねえんだよ」

 

十六夜の言うことは尤もである。

初対面の相手に、況してや名も知れぬ相手にギフトを見せるのは自殺行為に等しい。

ギフトを知られるということは、自分の才能を露見するということなのだから。

だが無限王は彼らに興味があって下層に降りてきたのだ。

何の収穫もなしで帰るのは有り得ないし、だからといって彼らに付き添うつもりもない。

故に彼女が取る選択は一つしかない。

 

「………ふむ。あまり手荒な真似はしたくなかったが致し方ない」

 

「あん?」

 

十六夜が無限王の小言を聞き取り、眉を顰めた瞬間―――

 

 

「―――()()()()()()()

 

 

―――無限王の死刑宣告と共に、彼女の身体から凄まじい殺気が放たれた。

 

「「「「―――――ッ!!?」」」」

 

少女のものとは思えない殺気に息を詰まらせる十六夜達四人。

そのうち、飛鳥と耀は耐えきれずに青ざめてその場で尻餅をつく。

〝箱庭の貴族〟である黒ウサギが耐えるのは分かってはいたがまさか、

 

「………私の殺意に耐えるか、少年」

 

面白い、と思わず笑みが零れる。

無限王の殺気になんとか耐えた十六夜は、心地よい冷や汗を流しながら不敵に笑った。

 

「―――ハッ、俺はあんたを見縊ってたよ。いいぜ、テメェの望み通り見せてやらあ!」

 

そして十六夜は踏み込みだけで無限王に肉薄し、拳を振るい―――人差し指のみで受け止められた。

 

「なっ、」

 

「なんだ、ただ殴りに来ただけではないか。………ふん、興が冷めたな………帰る」

 

無限王は十六夜をつまらないものでも見るかのような目で見たのち、姿を消した。

一方、十六夜は己の渾身の一撃を人差し指一つで容易く受け止められた事実に絶望―――してなかった。

むしろ嬉々とした笑みを浮かべてさえいた。

この箱庭には、あんなヤバイ奴がいるのかと。

全身を震わせる。

この震えは恐怖によるものではない、武者震いというやつだ。

消えた黒ローブの少女の姿を思い浮かべて、十六夜は不敵に笑う。

次会ったら絶対に、一発叩き込んでやると心に決めたのだった。




十六夜達とのファーストコンタクトは大失敗に終わったオリ主

本当はこんな接し方をするつもりはなかったらしい

■■■に説教されたオリ主は十六夜達との険悪な関係を解消するべく後を追いかけるのだが………

次回、無限王はストーカー!?

○クスウェルほどではないが


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無限王はストーカー!?前編

サブタイは2話分になりそうなので急遽前編後編に変更致しました


「御三人様、御無事ですか!?」

 

「………ええ、なんとか」

 

「………うん」

 

黒ウサギの言葉によろよろと立ち上がりながら応える飛鳥と耀。

服についた土を払ってまず飛鳥が声を上げる。

 

「な、なんなのよあの子供は!?ガキ扱いするわ殺気振り撒いたと思ったら帰るって何がしたかったのよ!」

 

「………思い通りにいかなくてキレて帰るとかどっちが子供だよって凄く言いたい」

 

耀もムスッとした顔で怒りを露にした。

それに十六夜がヤハハと笑って言う。

 

「たしかにローブロリは見た目も中身も子供っぽいが、」

 

「「「ローブロリ?」」」

 

「………あの殺意と俺の拳を苦もなく、それも指一つで受け止めたあの実力は本物だ。序盤にラスボスと遭遇した並みのヤバさだ」

 

湖で危うく死にかけた次はラスボス級の怪物(ロリ)に喧嘩を吹っ掛けられるとは、本当に幸先がいい。

飛鳥は不思議そうに十六夜を見つめ、

 

「………十六夜君?頭でも打ったのかしら?」

 

「俺は至って健康男児だよ。それよりお嬢様、春日部」

 

「なに?」

 

「もし次にローブロリと遭遇したら、お前らはどうする?」

 

十六夜が問うと、飛鳥と耀は口を揃えて答えた。

 

「それはもう」

 

「決まってる」

 

「「ぶっ飛ばす!」」

 

「よしよし、それでいい。俺もローブロリの勝ち逃げは許さねえからな。次に会ったら絶対に一発叩き込む」

 

闘志を燃やす十六夜達三人。

圧倒的な力に絶望するのかと思いきや逆にやる気満々になる。

そんな彼らを見て、黒ウサギは不安もあるが頼もしいと思った。

本当にあの御子様に一発入れてしまえるんじゃないかと思う程に。

それにしても、

 

「(あの御子様………黒ウサギは何処かで会ったような気がするのは気のせいでしょうか?)」

 

 

 

 

 

『―――どうしてああなるんですか!?』

 

「うーむ、どうしてだろうな?」

 

『どうしてだろうな、じゃありません!あんな態度を取るからです!素直に正体を明かせとは言いませんが、相手を苛つかせる態度を取るのは駄目です!況してや殺す気もないのにフリをして相手を怖がらせるのも論外です!無限王様は彼らとギスギスした関係のままでよいのですか!?』

 

「………そうだな。だが彼らは私に興味を持ってくれたようだぞ?」

 

『………いえ、彼らはただ無限王様をぶっ飛ばしたいだけだと思いますけど?』

 

「そうとも言う」

 

『そうとしか思えませんけども!?』

 

むしろそれ以外ってなんですか!?と思わず叫ぶ■■■。

しかし無限王はふむ、と考えるような素振りを見せて、

 

「―――■■■と()()の関係にまで影響が及ぶのはたしかにまずい」

 

『え?』

 

「さて、関係を修復するにはまず、彼らのことを知る必要があるな」

 

そう言って無限王は黒ローブを深く被り、

 

「―――【認識阻害】」

 

【認識阻害】と呟き姿を消した。

否、認識出来なくなったと言った方が正解か。

黒ウサギから正体を隠す程度の【認識阻害】を使用していたが、今度のは認識そのものを阻害した状態だ。

この状態に入った無限王を見つけるのは容易ではない。

空間を司るもの達でさえ、〝そこに何かがいる〟程度しか理解出来ないほどのものなのだ。

これで堂々と十六夜達をストーカーもとい尾行出来る。

 

『あ、あの!』

 

「ん?」

 

『無限王様の仰った彼女というのは、』

 

「ああ、■■■の思い浮かべてる人物で間違いない」

 

『!!』

 

無限王の言った彼女とは、■■■■■の事だ。

■■■の■であり、とあるコミュニティが〝     〟から買い取り所有されている身である者。

その彼女は〝      〟に三年前まで所属していた者で、十六夜達がこれから所属するコミュニティ。

そんな彼らとギスギスした関係のままでは、彼女と■■■の関係にも影響が及ぶのではないかと危惧しているのだ。

恐らく、無限王が■■■に気を遣うのは彼女の器だからだろうけど、それでも気にしてくれている事に嬉しく思った。

尤も、無限王は■■■の事を器として見ているわけではないが。

 

「………む?二手に分かれたか」

 

尾行していた無限王は、飛鳥と耀には教えるが黒ウサギには内緒で十六夜が単身離れて別の方向へと走り去っていくのを見た。

あの〝箱庭の貴族〟に悟られる事なく離れられるとはたいしたものだ、と無限王が十六夜を評価する。

 

「………いや、二手に分かれられるのはまずいな。三人共観察したかったのだがふむ」

 

無限王は一瞬だけ思考し、

 

「―――【創造】」

 

【創造】と言って()()()()()()()()()()()()()()()()()

そのもう一体の無限王は、器である■■■とは全く別の容姿をしていた。

闇より深い黒髪ロング。

瞳は宇宙を彷彿させた無数の星々が輝き。

漆黒の外套に身を包んだ少女。

■■■は久しぶりに無限王の本当の姿を見て息を呑む。

まあ、彼女は無限王が生み出した無限王(仮)だが。

 

「では、ウーちゃん2号」

 

『ウーちゃん2号!?』

 

「………〝箱庭の貴族〟らの観察は任せたぞ」

 

無限王(仮)もといウーちゃん2号は無言で敬礼すると、黒ウサギ達を尾行しにいった。

さて、と無限王は森を疾走する十六夜を眺め、

 

「私も逆廻十六夜の観察をするとしよう」

 

尾行を再開した。




【認識阻害】
〝正しく認識させない〟程度と〝認識そのものを阻害する〟の二つが登場。前者は正体を隠す為で後者は存在自体を隠すもの。

【創造】
〝あらゆるものを無から生み出す〟ギフト。
ウーちゃん2号の実力は〝全能領域〟級。
倒し方は無限王が対の【破壊】を唱えるか〝全能領域〟以上のもの。本体と違って〝疑似創星図〟への耐性は無い。


十六夜達の尾行もとい観察を始めた無限王。彼らの力の一端を目の当たりにするが………

次回、無限王はストーカー!?後編


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無限王はストーカー!?後編

書いたものを丸々書き直したり夏の暑さでやる気が出なかったり寝落ちしたりで投稿遅くなりました。

中編、後編に分けるべきだったと後悔中………今回はちょっと長めです。


無限王は空から十六夜を尾行しながら、ウーちゃん2号の〝眼〟と〝耳〟で飛鳥達の様子も同時に観察していた。

十六夜が出鱈目な速度で森の中を駆けていると森の魑魅魍魎と遭遇、一戦交えていた。

彼らは本来人間の手には余る強さを持っているのだが、十六夜の出鱈目加減は人の域を超えており、圧倒された。

彼の強さに森の魑魅魍魎は完敗、道を譲った。

そんな彼らに十六夜は「黒ウサギの足止めよろしく」と伝えて先を急いだ。

森の魑魅魍魎は〝月の兎〟が此処を通る事を知り、待ち伏せするのだった。

 

 

一方、ウーちゃん2号の〝眼〟と〝耳〟。

箱庭都市の外門でジンと呼ばれた緑髪の少年と合流し、黒ウサギが新しい仲間を連れてきた事を報告するも、十六夜が消えている事に気が付く。

それについて飛鳥と耀に問い質すも、止めるのが面倒という理由で彼を見逃したようだ。

ガクリと前のめりに倒れる黒ウサギ。

ジンが蒼白になって、幻獣に遭遇したら不味い事を話す。

 

「………ついさっきその少年によって幻獣の一角である魑魅魍魎が蹴散らされたけどな」

 

空から十六夜を尾行しながら、無限王は苦笑を零す。

もしかしたら彼ならば〝世界の果て〟付近の幻獣も蹴散らせるのかもしれない。

そんな情報は黒ウサギ達が知る由もない。

黒ウサギはジンに飛鳥と耀を託すと、凄まじい速度で十六夜を捜しに行った。

それから飛鳥達は箱庭都市に入り、〝六本傷〟の旗を掲げるカフェテラスに座った。

そこで耀のギフトの力の一端が判明する。

《全ての種と言葉を交わせる》というものだった。

 

「………ふむ。()()()()の娘は彼から〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟を譲り渡されていたか」

 

『へ?コウメイってあのコウメイですか!?』

 

「うむ。〝      〟の前頭首を務めていた男だ。それと同時にコミュニティの最強戦力でもある」

 

そして〝生命の目録〟は、《全ての種と言葉を交わせる》だけではないのだが。

飛鳥のギフトの話に入る前に変な格好をした大男が乱入してきた。

〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパー。

〝六百六十六の獣〟の傘下に入ったコミュニティである。

全能領域(箱庭三桁)〟の魔王の傘下に入り、その権力を振り翳しては好き勝手やってるどうしようもない外道である。

 

「―――とはいえ()の魔王は箱庭にはいないがな」

 

とどのつまり、魔王無き〝六百六十六の獣〟は〝主催者権限(ホストマスター)〟に群がる烏合の衆でしかない。

だがその事実を最下層の者達が知る筈もない。

傘下のガルドならばいざ知れず、他の者達はいもしない魔王の存在に怯えながら暮らす日々を送っているのだ。

そんなガルドはジンのコミュニティを嘲笑い、召喚された新しい人材と黒ウサギを奪い取る算段だろう。

ガルドとジンが言い争っていると、飛鳥が割り込みコミュニティの事をジンに問い詰める。

しかしジンは答えない。

代わりにガルドがコミュニティの話とジンのコミュニティ〝ノーネーム〟について語り始めた。

《割愛》

話を終えたガルドは飛鳥と耀に黒ウサギを含めて自分のコミュニティに来ないかと提案。

しかし飛鳥は拒否、ジンのコミュニティで間に合ってると言う。

耀に至っては、友達作り目的でどちらでもいいらしい。

それが切っ掛けで飛鳥と耀は友達となり、三毛猫も嬉し涙を流した。

それから飛鳥はガルドの話で違和感を見つけ、彼を事情聴取することにした。

()()()()()」と言い、ガルドを強制的に黙らせると「()()()()()()()()()()()()()()()()()()」と強制的に椅子に座らせて逆らえなくなる。

 

「ほう、霊格が劣るものを従わせるか。だが、」

 

《人心を操る》程度のギフトではなかろう?と無限王は怪しく瞳を光らせ笑う。

〝生命の目録〟に〝()()〟か。

正しくあの娘達は人類最強戦力(ミリオンクラウン)と称されるに相応しいギフトの持ち主だ。

あの少年は一体どんなギフトを所持しているのだろうか?

後で彼のギフトを覗いてみるか、とクックッと喉を鳴らして笑う無限王。

飛鳥のギフトでガルドは逆らえずに悪事を吐露していく。

彼の絵に描いた外道っぷりに飛鳥は裁く事は可能かジンに聞くも、箱庭の外に逃げられたらお仕舞いだそうだ。

苛立たしげにガルドの拘束を解く飛鳥。

ガルドは激昂と共にワータイガーに変身して、魔王の存在を仄めかすが効果なし。

飛鳥に襲い掛かるも「喧嘩はダメ」と耀が割り込みこれを制圧。

耀に押さえ付けられたガルドに、飛鳥は提案する。

〝フォレス・ガロ〟存続と〝ノーネーム〟の誇りと魂を賭けたギフトゲームをしましょう、と。

 

 

視点戻って無限王。

十六夜は現在、トリトニスの大滝で足を止めて景色を嗜んでいた。

するとその滝壺から一匹の巨大な蛇が姿を現した。

 

「………ふむ、()()か。そう言えば此処は()()の眷属の縄張りだったな」

 

『………白夜王様の眷属ってたしか()()を持ってませんでしたっけ?』

 

暢気に言う無限王と緊張気味に言う■■■。

神格保持者の白雪は森の魑魅魍魎とは比較にならない強さを持つ。

流石にこれは十六夜に勝ち目は無しかと思ったが、予想外の結果になった。

白雪が『試練を選べ』と言うと、十六夜は上から目線で物を言うその態度が気に入らなかったらしい。

十六夜は「なら俺を試せるかどうか、試させてもらうぜ」と挑発的な態度で返した。

これに白雪はキレて竜巻く水柱を作り、容赦なく十六夜に向けて放った。

しかし十六夜は難なくそれを躱し、そして跳躍すると大蛇(白雪)の眉間に拳を叩き込んで滝壺に沈めた。

ギフトを使った形跡はない、素手で白雪を叩きのめしたのだ。

そんな出鱈目加減の十六夜に驚く無限王と■■■。

それから黒ウサギが森の中から姿を現し十六夜に駆け寄る。

怒る黒ウサギと笑う十六夜。

「水神のゲームに挑んだかと思いましたよ」と黒ウサギが言うと、十六夜は「アレの事か?」と返す。

アレと言われて黒ウサギが振り返ると、白雪が起き上がり『試練は終わってないぞ小僧ォ!!』と激昂した。

怒り狂う白雪を「蛇神!?」と言って驚く黒ウサギ。

十六夜が事の顛末を話すが、それに白雪が怒りと共に水柱を立ち昇らせる。

黒ウサギが十六夜を庇おうとするが、彼は本気の殺気でそれを阻み「これは俺が()()()、奴が()()()喧嘩だから邪魔すんな」と声を上げる。

十六夜のその心意気を買い、『この一撃を凌げば貴様の勝利だ』と条件を出す白雪。

それに十六夜は「決闘は勝者ではなく、()()()()()()()()()()()()」と返した。

その傲慢な物言いに白雪は呆れて閉口したのち、『その戯言が貴様の最期だ!』と言って三本の竜巻く水柱を作り、十六夜に放つ。

黒ウサギが叫ぶがもう遅い、激流は十六夜を呑み込もうとして―――()()()()()()!!と腕の一振で薙ぎ払った。

「嘘!?」『馬鹿な!?』と驚愕する黒ウサギと白雪。

全霊の一撃を弾かれ放心する白雪は、その隙を見逃さなかった十六夜の蹴りを腹部に受けて上空高く打ち上げられ、そして滝壺に落下した。

 

「………ギフトを使わずに神格保持者の白雪を倒すか………フフ、面白い少年だ」

 

『………彼は本当に人間なのでしょうか!?』

 

獰猛な笑みを浮かべて十六夜を見下ろす無限王と驚愕の声を上げる■■■。

無限王は丁度いい、と十六夜のギフトを覗いてみたが、

 

「―――【全知】………む?〝正体不明(コード・アンノウン)〟だと?」

 

【全知】を口にするも、鑑定はエラー。

まさか、観測不可領域(ブラックボックス)で発生したギフトか?

箱庭内でも閲覧規制が入る領域ならば、【全知】であっても見ることは不可能。

………口惜(くや)しいが直接ギフトを確認するまでは我慢するしかない。

黒ウサギがぼうっとしていると、十六夜がセクハラしようとしていた。

それに黒ウサギが怒り、ヤハハと十六夜は笑った。

それから白雪から勝利報酬を受け取りに行こうとした黒ウサギは、十六夜に阻まれた。

そして十六夜に、黒ウサギの隠していた事を見抜かれる。

黒ウサギは葛藤するも、彼を失うわけにはいかないし、それに真剣に〝箱庭の世界〟を見定めようとしている者を前にこれ以上誤魔化したところで無駄だと悟る。

黒ウサギは自棄っぱちでコミュニティの惨状を説明した。

〝名〟と〝旗印〟を失い、中核を成す者が一人もおらず、ゲームに参加出来るのは黒ウサギとジンのみで後は十歳以下の子供が百二十人しかいないと言った。

「もう崖っぷちだな!」「ホントですねー♪」と十六夜の冷静な言葉にウフフと笑う黒ウサギは、ガクリと膝を突いて項垂れる。

全てを奪った元凶―――〝魔王〟の事を話すと、「ま………マオウ!?」と十六夜が興奮気味に声を上げた。

彼は〝魔王〟と戦ってみたいらしい、野蛮な少年である。

十六夜は「新しく作ったら駄目なのか?」と訊き、黒ウサギは可能だがそれでは駄目なのだと答える。

仲間達が守る場所を守りつつ、コミュニティを再建し、コミュニティの名と旗印を取り戻し掲げたいと野望を口にする。

その為には十六夜達のような強大な力を持つプレイヤーを頼るしかない、その力を貸して欲しいと懇願する黒ウサギ。

それに「魔王から誇りと仲間をねえ」と十六夜は気無い声で返し、たっぷり三分間黙り込んだ後、「いいな、それ」と答えた。

「―――………は?」と黒ウサギが呆然とする。

「HA?じゃねえよ。協力するって言ったんだ。もっと喜べ黒ウサギ」と十六夜が不機嫌そうに言う。

そんな流れとはとても思えなかったのだから仕方がない。

「それとも俺がいらねえのか?失礼な事言うと本気で他所行くぞ」と十六夜が言うと、黒ウサギは全力で首を横に振って十六夜は必要だと返す。

素直でよろしい、と十六夜は言い、黒ウサギは白雪からギフト―――水樹の苗を貰うとウッキャー♪なんて奇声を上げて喜んでいた。

これで無事〝ノーネーム〟は十六夜・飛鳥・耀の三人に、一人も欠ける事無くコミュニティに入ってもらう事になったのだった。

その様子を見届けていた無限王は、スッと目を細めて言う。

 

「名と旗印を取り戻し掲げる、か。だがそれは過酷な旅路になるだろう。お前達のコミュニティ〝      〟を滅ぼした〝()()()()()〟に勝利することはな」

 

『………無限王様が滅ぼしたわけではありませんけどね』

 

「おいコラそこ!ネタバラシするな!」

 

『あら、口が滑ってしまいましたわ』

 

してやったりとクスクス笑う■■■。

「ぬぅ」と低く唸る無限王。

だがまあ〝ウロボロス〟に所属してこそいるが、黒ウサギ達のコミュニティを滅ぼしたラスボスではない。

そも、コミュニティ単一を滅ぼす理由は彼女にはないのだ。

滅ぼすならば()()の方だと、凶悪な笑みを浮かべるのだった。




ウーちゃん2号の〝眼〟と〝耳〟
創造主たる無限王は、被造物の五感と共有させることが可能。離れていても常時、被造物から情報を獲得できるというもの。今回は〝視覚〟と〝聴覚〟を共有させて飛鳥達の観察を行った。

【全知】
文字通り、全てを知ることが出来るギフト。
だが観測不可領域のような〝存在するも特定が出来ない〟ものは閲覧規制が入り【全知】であっても見ることが不可能。


噴水広場で黒ウサギと十六夜(【認識阻害】の無限王含む)は飛鳥達(【認識阻害】のウーちゃん2号含む)と合流するが、飛鳥達は外道に喧嘩を売ってきた!と言い、黒ウサギは説教する。それから〝サウザンドアイズ〟に向かうことになったのだが………

次回、無限と白夜と問題児


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無限と白夜と問題児

おかしいな、2000文字で終わらせるのってどうやるんだっけ?

5000文字超えてしまった…


日が暮れた頃に噴水広場で飛鳥達三人+三毛猫一匹と黒ウサギ達二人が合流。

無限王もウーちゃん2号と合流し、

 

「お務めご苦労、無に還るといい―――【破壊】」

 

【破壊】と言うと、ウーちゃん2号は黒い粒子へと変わり、跡形もなく消え去った。

黒ウサギは飛鳥達の話を聞いて、ウサ耳を逆立てながら説教した。

「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」と飛鳥・耀・ジンが口裏合わせたような言い訳をし、「黙らっしゃい!!!」と黒ウサギが激怒した。

ニヤニヤ笑って「見境無く喧嘩を売ったわけじゃないんだから許してやれ」と言って十六夜が止めに入る。

だがこのギフトゲームで得られるのは自己満足でしかない。

参加者(プレイヤー)が勝利した場合、主催者(ホスト)は参加者の言及する全ての罪を認め、箱庭の法の下で正しい裁きを受けた後、コミュニティを解散する〟

〝参加者が敗北した場合、罪を黙認する〟というもの。

時間を掛ければガルド達の罪は暴かれるが、それを飛鳥達は良しとはしなかった。

あの外道は早急に対処しないと駄目なのだと、野放しには出来ないのだと言う。

これに「〝フォレス・ガロ〟程度なら十六夜さんが一人いれば楽勝でしょう」と黒ウサギは言うが、

「俺は参加しねえよ?」

「貴方なんて参加させないわ」

と十六夜と飛鳥が拒否。

「仲間なのだから協力しないと駄目です!」と黒ウサギが食ってかかるが、

「この喧嘩は、コイツらが()()()、ヤツらが()()()。俺が手を出すのは無粋だろ?」と十六夜が言う。

「あら、分かってるじゃない」と飛鳥は感心し、「ああもう、好きにしてください」と黒ウサギは肩を落とした。

 

「前途多難だな、〝箱庭の貴族〟よ」

 

『わ、私は応援してますよ!』

 

黒ウサギに苦笑を零す無限王と声援を送る■■■。

その後、黒ウサギは飛鳥と耀にも秘密にしていたのがバレていた事を知りウサ耳まで赤くして恥ずかしそうに頭を下げた。

飛鳥と耀はその事には気にしていなかったが、「毎日三食お風呂つきの寝床があればいいな」と耀が言う。

それにジンの表情が固まり、耀が慌てて取り消そうとするが、

「十六夜さんがこんな大きな水樹の苗を手に入れてくれましたから大丈夫です!」と黒ウサギが嬉々とした顔で水樹を持ち上げて言う。

水を買う必要が無くなり、水路も復活させることが可能。

一転して明るい表情に変わり、飛鳥も安心したような顔を浮かべた。

「今日は理不尽に湖に投げ出されたから、お風呂には絶対入りたかったところよ」

「あんな手荒い招待は二度と御免だ」と飛鳥と十六夜が言い、耀を加えて黒ウサギに責めるような視線を向ける。

「そ、それは黒ウサギの責任外の事ですよ………」と怖じ気づく黒ウサギと苦笑するジン。

 

「………相変わらず悪趣味な召喚をするな、女王め」

 

『へ?女王様の趣味なんですか!?』

 

「そうとしか考えられんだろう。奴の力ならば普通に召喚することも可能なはずだからな」

 

『な、成る程』

 

十六夜達に合掌する無限王(と■■■)。

「コミュニティに帰る?」とジンが言うと、「〝サウザンドアイズ〟にギフト鑑定をお願いしないとですので、ジン坊っちゃんは先にお帰りください」と黒ウサギが返す。

 

「〝サウザンドアイズ〟か………このまま付いていくと白夜に見つかる可能性があるな」

 

『つまり〝ウロボロス〟にご帰還なさると?』

 

「………いや、敢えて白夜に見つかろう。そして奴を利用して少年達の仲を取り繕ってもらおうではないか」

 

『あらあらまあまあ、なんて悪知恵を働かせる()()がいるのでしょう?ご自分の不注意が招いた結果だというに流石にそれはなくてよ?』

 

「■■■よ、本音が駄々漏れだぞ?」

 

『……………ぁ、』

 

やってしまった、と(蒼白になって)黙り込む■■■。

無限王は良い事を思いついた、と悪い顔をして言った。

 

「そこまで言われたなら仕方がない。よし、私が器にしている■■■の正体を暴露するか」

 

『!!?』

 

「私としてはむしろ隠しておくべきではないと思っていたのだよ。彼女だってお前と再会出来たら嬉しいと思うが?」

 

『………無限王様の意地悪』

 

拗ねる■■■。

クックッと喉を鳴らして笑う無限王。

まあ尤も―――黒ウサギ達には正体を明かすつもりだがな。

 

 

 

 

 

黒ウサギ達四人+三毛猫一匹は〝サウザンドアイズ〟に向かっていたのだが、看板を下げる女性店員の姿を確認、慌てて黒ウサギが滑り込みでストップを、

「待った無しです御客様」と女性店員が言い、ストップを掛ける事も出来なかった。

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

「ま、全くです!」

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は出禁です」

「出禁!?御客様舐めすぎでございますよ!?」

などと言い争っていたが、女性店員にコミュニティの名前を聞かれて一転して言葉に詰まる黒ウサギ。

十六夜が躊躇なく「〝ノーネーム〟ってコミュニティなんだが」と名乗り、「旗印を確認させていただいても?」とすかさず女性店員が黒ウサギ達を追い詰める。

詰んだ、と思ったその時―――

「いぃぃぃやほおぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィ!」

店内から爆走してくる白髪の少女が黒ウサギに抱き着き(フライングボディーアタック)、彼女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半捻りして、

「きゃあーーー………!」と黒ウサギの悲鳴が遠くなり、ボチャン。

十六夜達は眼を丸くし、女性店員は痛そうに頭を抱えた。

 

「………本日も白夜は平常運転のようだな」

 

『………白夜王様』

 

無限王は苦笑を零し、■■■は呆れる。

十六夜と女性店員が真剣な表情で言葉を交わしていた。

「ドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

一方、黒ウサギは白髪の少女を「白夜叉様!?」と呼び、下層にいることに驚いていた。

白夜叉は「黒ウサギが来る予感がしたからの!」と言いながら彼女の胸元に顔を埋めてスリスリスリスリとセクハラ行為をする。

黒ウサギは「離れてください!」と白夜叉を無理矢理引き剥がし、頭を掴んで店に向かって投げつける。

クルクルと縦回転した白夜叉を、十六夜が「てい」と足で受け止めた。

「ゴバァ!飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

怒る白夜叉にヤハハと笑いながら自己紹介する十六夜。

一連の流れの中で呆気にとられていた飛鳥が思い出したように白夜叉に訊いた。

「貴女はこの店の人?」

「おお、そうだとも。この〝サウザンドアイズ〟の幹部様で白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼ならおんしのその年齢の割に発育が良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

「オーナー。それでは売上が伸びません。ボスが怒ります」

セクハラ発言の白夜叉に釘を刺す女性店員。

「うう………まさか私まで濡れるなんて」

「因果応報………かな」

『お嬢の言う通りや』

悲しげに服を絞りながら複雑そうに呟く黒ウサギに、耀と三毛猫が言う。

反対に濡れても全く気にしない白夜叉は、十六夜達を見回してニヤリと笑った。

「ふふん。お前達が黒ウサギの新しい同士か。異世界の人間が私の下に来たという事は………遂に黒ウサギが私のペットに」

「なりません!どういう起承転結があってそんなことになるんですか!」

ウサ耳を逆立てて怒る黒ウサギ。

白夜叉は笑って店に招く。

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

「よろしいのですか?彼らは旗を持たない〝ノーネーム〟のはず。規定では」

「〝ノーネーム〟だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」

ムッと拗ねるような顔をする女性店員。

しかし白夜叉はチラッと何もないところ(無限王)に視線を向けてニヤリと笑う。

 

「………とその前に忘れていたの」

 

そう言った白夜叉の姿が掻き消え―――ムニ。

 

「……………ぬ?」

 

『な、ななななな!?』

 

無限王が胸元に何かの感触を覚える。

■■■は(顔を真っ赤にさせて)恥ずかしさで悲鳴を上げそうになる。

(無限王の背後で)白夜叉はうむ、と納得したように頷き、

 

「この感触、やはりおんしか」

 

モミモミモミモミ。

遠慮無用のセクハラ行為をする白夜叉。

傍から見たら、虚空を両手でワキワキさせる変人だが、十六夜は瞳を光らせ白夜叉に訊いた。

 

「おい和装ロリ。そこに誰かいるのか?しかもその動作―――()()()()()()()?」

 

「へ?」

 

「ほう?分かるのか小僧。その通」

 

「いつまで揉んでるんだこの駄神」

 

無限王はそう言って白夜叉の頭を掴み―――ズドゴオォンッ!!!と地面に叩きつけた。

クレーターの真ん中に頭を埋める白夜叉。

■■■を辱しめた当然の報いだと冷ややかな眼で白夜叉を見下ろす無限王。

頭を埋めた白夜叉の側で無限王が黒ローブを脱いで【認識阻害】を解除した。

 

「さっきぶりだな、お前達」

 

「「「!!?」」」

 

あの時会った子供と気付いて臨戦態勢に入る十六夜・飛鳥・耀の三人。

しかしそれよりも、【認識阻害】が解除されたことで黒ウサギが驚愕の声を上げた。

 

「え!?まさか、貴女までこんな下層に来ていたのですか無限王様!?」

 

「あん?」

 

「「え?」」

 

黒ウサギの予想外の反応に十六夜達が訝しげに無限王を見つめる。

まさか、知り合いだったのか?

無限王は頬を搔きながら黒ウサギに返す。

 

「正体を隠して接触してすまんな。本当は様子見で済ませて帰るつもりだったが………この通り、興味が出てお前達を尾行していたのだよ」

 

「へえ?つまりアンタは俺達をストーカーしてたのか?」

 

「そうとも言う」

 

「子供な上にストーカー?」

 

「あら、なんて恐ろしい御子様なのかしら」

 

冷ややかな眼で無限王を見つめる耀と飛鳥。

クレーターに頭を埋めていた白夜叉が起き上がり、街道を元通りに直してから無限王に歩み寄る。

 

「ふふん。相変わらず興味があるものを観察するのが好きだの―――()()()よ」

 

「「「龍?」」」

 

〝龍〟という単語に瞳を輝かせる十六夜達三人。

それに苦笑する黒ウサギだったが、無限王から感じるある違和感に気がつく。

 

「(無限王様とはコミュニティが滅ぼされる前まではよく顔を合わせていましたが、こんな感覚は初めてです。どういうわけか彼女の容姿は―――()()()()()()()()()()())」

 

三年前までは感じることのなかった違和感。

容姿がハッキリしていなかったはずなのに、今の無限王はまるで〝箱庭の騎士〟のような特徴が出ている。

だが〝箱庭の騎士〟は太陽の光を直接浴びることは出来ないはず。

たとえコミュニティの同士だったレティシアに似ていても、箱庭の外に出ても影響が無い以上、〝箱庭の騎士〟ではない可能性の方が高い。

 

「(いや、無限王様ならば太陽の光から守る恩恵を与える事も可能なはず。ならば彼女が〝箱庭の騎士〟を器にして箱庭に顕現している可能性も捨てきれないのでは?)」

 

無限王の器の正体を突き止めようと思考をフル回転させる黒ウサギ。

そんな彼女とは別の意味で、十六夜が獰猛な笑顔で無限王に言った。

 

「無限龍、ね。もしかしてアンタ―――ウロボロスなのか?」

 

「む?」

 

「へ?」

 

「何?」

 

十六夜の言葉に驚く無限王・黒ウサギ・白夜叉の三人。

 

「ん?違ったか?」

 

「いや、正解だ少年。無限龍だけで私の正体を見抜くとは恐れ入った。参考までに〝無限〟と〝龍〟のみでウロボロスに行き着いた理由を聞かせてくれるか?」

 

「いやなに。元が多様性の高い象徴で『死と再生』とか『循環と回帰』とか、不死性の象徴として扱われるのがポピュラーなんだが、その中に〝無限〟が含まれてることを思い出してな。後は〝(無限)〟の記号の元になったものの中に〝己の尾を喰らう蛇〟のウロボロスが含まれていたこととかかな」

 

「………見かけによらず賢いのだなおんし」

 

十六夜の話を聞いて感心する白夜叉。

 

「ところで正体がバレたがどうする無限龍よ?」

 

「どうもしないな。むしろ興味を持ってもらえるのは嬉しい限りだ。ファーストコンタクトは見事に失敗してしまったからな」

 

頭を搔きながら無限王が言うと、ハッと思い出したように飛鳥と耀が声を上げる。

 

「そ、そうよ。貴女をぶっ飛ばすんだったわ!」

 

「うん、ぶっ飛ばす!」

 

「お?それなら俺も」

 

「む?」

 

無限王の体に三つの拳が叩き込まれる。

飛鳥と耀と十六夜の拳だ。

しかしぶっ飛ばすはずが、無限王の体は微動だにしなかった。

出鱈目な体幹(?)に言葉を失う飛鳥と耀。

十六夜も心地よい冷や汗を背に感じながら笑う。

 

「………参ったな。手加減はしたが〝世界の果て〟までぶっ飛ばすつもりで殴ったんだが微動だにしないとか」

 

「当たり前だよ童達。無限龍が持つ質量は()()()()()()だからの。人間の力で吹っ飛ぶわけなかろう」

 

「「「―――………は?」」」

 

素っ頓狂な声を洩らす十六夜達三人。

 

「は、話が大きすぎて最早何を言ってるのか理解できないのだけれど………?」

 

「………世界そのものってどれくらい?」

 

「ハハ、なんだよそりゃ、たまんねえな!()()が箱庭内を一人歩きしてるってことか!?」

 

「ふふ、まあそんなところだの。もし無限龍を倒すならばまず、()()()()()()を用意せねば話にならん」

 

「へえ?」

 

〝星を砕く一撃〟と聞いて十六夜が不敵に笑う。

それを見て白夜叉と無限王が驚く。

 

「(まさかこの小僧………()()()()のか?〝疑似創星図(アナザー・コスモロジー)〟を)」

 

「(神群の代表者か龍種が所持する世界そのものを()()として翳す領域に、あの少年が到達しているというのか?)」

 

人間にそんな御技が可能だというのか?

だが十六夜の不敵な笑みを見れば嘘とはとても思えない。

 

「「(面白い)」」

 

白夜叉と無限王の感想が一致する。

その後「立ち話はこれくらいにして中に入ろうかの」と白夜叉が無限王を加えて店に招くのだった。




【破壊】
【創造】のギフトと対極に位置し、あらゆるものを無に還すギフト。基本的に自分で造った被造物にしかこのギフトは使わない。


白夜叉に店に招かれた無限王達。そこで色々話を聞くが、白夜叉が白雪に神格を与えた事と〝最強の主催者〟である事を知り、十六夜達が喧嘩を売るのだが………

次回、白夜の世界と問題児


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白夜の世界と問題児

原作の言葉多めに仕上がってしまった…


「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この黒ウサギとは少々縁があってな。コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておいてくれ」

 

「はいはい、お世話になっております本当に」

 

白夜叉の話を投げやりな言葉で受け流す黒ウサギ。

 

「ところで白夜よ」

 

「何かの?」

 

「何故私はお前の隣に座らされている?普通は少年達側に座るべきだと思うのだが」

 

「おんしは私と同じで上層に住まうものだろに。黒ウサギの同士というわけでもないし、私より強いおんしが下座はおかしいからの」

 

「………ふむ。そういうことにしておいてやるか」

 

今の白夜が弱いのは〝夜叉の神格(不純物)〟が原因だろうが、と内心で呟く無限王。

私より強い、と白夜叉に評価された無限王を、瞳を輝かせて見つめてくる十六夜・飛鳥・耀の三人。

それに苦笑を零す無限王。

 

「………そういえば、その外門、って何?」

 

無限王に気を取られて忘れかけていた、初めて聞く単語について質問する耀。

それに黒ウサギが説明する。

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達がすんでいるのです。七桁と六桁を下層。五桁を中層。そして白夜叉様の住む四桁から上を上層と呼んでおります」

 

「うむ。そして私の住む四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境になるの。無限龍の住む」

 

「【遮断】」

 

「―――――ともなればっておおい!?おんし、何故私の言葉を遮るかの!?」

 

「余計な話をするなということだ。私が何桁の外門に住んでいるかなど知る必要もなかろう」

 

ふん、と鼻を鳴らす無限王に唇を尖らせて拗ねる白夜叉。

黒ウサギも無限王の正体こそ知っていたが、何桁に住んでいるのかまでは知らない為、教えてもらえずしょんぼりする。

一方、黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図を見た耀・飛鳥・十六夜の三人は口を揃えて、

 

「………超巨大タマネギ?」

 

「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」

 

「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」

 

うん、と頷き合う。

身も蓋もない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。

成る程、そういう捉え方もありだなと感心する無限王。

白夜叉は呵々と哄笑を上げて二度三度と頷いた。

 

「ふふ、上手いこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。更に説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。あそこにはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が棲んでおるぞ―――その水樹の持ち主などな」

 

白夜叉は薄く笑って黒ウサギの持つ水樹の苗に視線を向ける。

 

「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」

 

「いえいえ。この水樹は十六夜さんがここに来る前に、蛇神様を素手で叩きのめしてきたのですよ」

 

「何故お前が自慢げに語る〝箱庭の貴族〟よ?」

 

無限王に指摘されて恥ずかしそうに頬を掻く黒ウサギ。

白夜叉は声を上げて驚いた。

 

「なんと!?クリアではなく直接的に倒したとな!?ではその童は神格持ちの神童か?」

 

「いえ、黒ウサギはそう思えません。神格なら一目見れば分かるはずですし」

 

「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族によほど崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではどんぐりの背比べだぞ」

 

「オマケにその少年はギフトも使わずに、しかも全力ではなく手加減をして白雪を倒すのだから全くどうして、出鱈目な人間よ」

 

「へ!?」

 

「何!?」

 

無限王の言葉に、驚愕の声を上げる黒ウサギと白夜叉。

 

「待て無限龍!それは真か!?」

 

「うむ。私がこの〝眼〟で直接見たのだから間違いない。そこの少年の身体に宿るギフトは規格外と言っても過言ではない。何せ裡に眠る力を引き出さずに()()()()()()()神格保持者に勝ったのだからな」

 

「「なっ………!?」」

 

絶句する黒ウサギと白夜叉。

身体に宿るギフトを使って倒したのではなく、その表層部分だけとか常軌を逸しているにも程がある。

 

「おい無限ロリ」

 

「無限、ロリ?それは私の事か?」

 

「ああ。なんでアンタがそんなこと分かるんだよ」

 

「私は見ただけで知りたい事を知ることが出来るからな。お前のギフトは【全知】のギフトでも分からなかったが、そのギフトを使用したかどうかは理解できる。相手を殺さぬよう手加減していたこともな」

 

「………無限王ってストーカーな上に覗き魔なんだ」

 

「あらやだ、なんて凶悪な犯罪者なのかしら」

 

十六夜と無限王の話を聞いていた耀と飛鳥が、冷ややかな眼で無限王を見る。

覗き魔とか凶悪な犯罪者とか失礼な娘達だ、と苦笑いを浮かべる無限王。

黒ウサギはハッと我に返り、無限王に質問した。

 

「蛇神様の事を〝白雪〟と仰ってましたが、無限王様はお知り合いなんですか?」

 

「ん?ああ。顔を合わせたことは無いから知り合いでもないが、白雪に神格を与えたのが白夜だという程度には知ってる」

 

「へ?」

 

「そうだの。白雪に神格を与えたのはこの私だ。もう何百年も前の話だがの」

 

呵々と豪快に笑う白夜叉。

それを聞いた十六夜は物騒に瞳を光らせて問い質す。

 

「へえ?じゃあお前はあのヘビより強いのか?」

 

「ふふん、当然だ。私は東側の〝階層支配者(フロアマスター)〟だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者(ホスト)なのだからの」

 

「「「〝最強の主催者〟?」」」

 

十六夜・飛鳥・耀の三人が一斉に瞳を輝かせた。

 

「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

「倒せば私達が最強………!」

 

剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る十六夜達三人。

白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。

 

「抜け目ない童達だ。依頼しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。―――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

白夜叉は〝サウザンドアイズ〟の旗印―――向かい合う双女神の紋が入ったカードを取り出し、壮絶な笑みで一言、

 

 

「おんしらが望むのは〝挑戦〟か―――若しくは、〝()()〟か?」

 

 

刹那、視界に爆発的な変化が起きた。

視覚は意味を無くし、様々な情景が脳裏で回転し始める。

脳裏を掠めたのは、

黄金色の穂波が揺れる草原。

白い地平線を覗く丘。

森林の湖畔。

記憶にない場所が流転を繰り返し、足元から呑み込んでいく。

投げ出されたのは、白い雪原と凍る湖畔―――そして、()()()()()()()()()()()()()

 

「………なっ………!?」

 

余りの異常さに、十六夜達三人は同時に息を呑んだ。

遠く薄明の空にある星は、緩やかに世界を水平に廻る白い太陽のみ。

世界そのものを体現している無限王が存在するように。

星を一つ、世界を一つ創り出す事も可能だというのか。

唖然と立ち竦む十六夜達三人に、今一度、白夜叉は問いかける。

 

「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か?それとも対等な〝決闘〟か?」

 

魔王を名乗る白夜叉。

少女の笑みとは思えぬ凄味に、再度息を呑む十六夜達三人。

十六夜は背中に心地よい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。

 

「水平に廻る太陽と………そうか、フィンランドやノルウェーといった特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる、太陽が沈まない現象―――〝()()〟と。水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神―――〝()()〟。あの水平に廻る太陽やこの土地は、お前を表現してるってことか」

 

「如何にも。この白夜の湖畔と雪原。永遠に世界を薄明に照らす太陽こそ、私が持つゲーム盤の一つだ」

 

「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」

 

「如何にも。して、おんしらの返答は?〝挑戦〟であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし〝決闘〟を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」

 

「……………っ」

 

飛鳥と耀、そして自信家の十六夜でさえ即答出来ずに返事を躊躇った。

これは勝ち目が無い、そしてそんな白夜叉よりも強い無限王に喧嘩を売ろうと考えていた自分達の浅はかさに肝を冷やす。

無限王はこんな白夜叉を軽くあしらう怪物なのだろうと。

暫しの静寂の後―――諦めたように笑う十六夜が、ゆっくりと挙手し、

 

「参った。やられたよ。降参だ、白夜叉」

 

「ふむ?それは決闘ではなく、試練を受けるという事かの?」

 

「ああ。これだけのゲーム盤を用意出来るんだからな。アンタには資格がある。―――いいぜ。今回は黙って()()()()()()()、魔王様」

 

苦笑と共に吐き捨てるような物言いをする十六夜。

白夜叉は『試されてやる』とは随分可愛らしい意地の張り方があったものだ、と腹を抱えて哄笑を上げた。

一頻り笑った白夜叉は笑いを噛み殺して飛鳥と耀にも問う。

 

「く、くく………して、他の童達も同じか?」

 

「………ええ。私も、試されてあげてもいいわ」

 

「右に同じ」

 

「ふふ、よかろう。おんしら三人を試してやろう」

 

苦虫を噛み潰したような表情で返事をする飛鳥と耀に、白夜叉は満足そうに応えた。

一連の流れをヒヤヒヤしながら見ていた黒ウサギは、ホッと胸を撫で下ろす。

 

「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!〝階層支配者〟に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う〝階層支配者〟なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」

 

「何?じゃあ元・魔王様ってことか?」

 

「はてさて、どうだったかな?」

 

ケラケラと悪戯っぽく笑う白夜叉。

ガクリと肩を落とす黒ウサギ・十六夜・飛鳥・耀の四人。

黒ウサギはハッと思い出したように無限王を見て言う。

 

「む、無限王様も静観してないで止めてくださいよ!」

 

「折角、やる気満々の彼らと、ようやく遊び相手を見つけて嬉しそうな白夜を、どうして私が止められるというのだ〝箱庭の貴族〟よ?」

 

「そういうと思ってましたよ!」

 

黒ウサギの読み通りです!と言うが、こんな読みが当たったところでちっとも嬉しくない。

白夜叉はニヤリと笑って、

 

「なんだ?私と遊んでくれるのかの無限龍よ?」

 

「断る。今のお前では私の相手にもならん。〝夜叉の神格(不純物)〟を返上して(取り除いて)から出直してこい」

 

「むぅ、ケチィ………」

 

無限王にきっぱり断られて唇を尖らせて拗ねる白夜叉だった。




【遮断】
あらゆるものを遮るギフト。不純物がある時の白夜叉にも通用し、聞かれたくない部分だけ遮りその内容の間を断った。


白夜叉の試練を耀が受け、見事クリアする。そんな彼女のギフト〝生命の目録〟の鑑定が始まるのだが、無限王はうっかりコウメイの名を口にしてしまい………

次回、生命の目録とコウメイ


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

生命の目録とコウメイ

今回は原作でも明かされていない自己解釈部分あり、合ってる保証はありません


彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえた。

獣とも、野鳥とも思えるその叫び声に逸早く反応する耀。

 

「何、今の鳴き声。初めて聞いた」

 

「ふむ………あやつか。おんしら三人を試すには打ってつけかもしれんの」

 

そう言って白夜叉が手招きすると、巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く現れた。

鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、耀は驚愕と歓喜の籠った声を上げた。

 

「グリフォン………嘘、本物!?」

 

「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」

 

白夜叉が手招きする。

グリフォンは彼女の下に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。

無限王がグリフォンに歩み寄ると、グリフォンがハッとして驚いたような表情で見つめ返してきて、伏せをした。

 

「………やれやれ。私に敬意を払う必要はないんだがな」

 

『そうはいきません。貴女様は我ら幻獣種の頂点におわす御一人。敬意を払わねば私は幻獣失格です』

 

「………そうか」

 

無限王は苦笑いを浮かべつつもグリフォンの毛並みを優しく撫でるように触る。

グリフォンは彼女からの寵愛の印と受け取り、大人しく撫でられた。

耀は唖然として無限王を見つめ、

 

「………無限王って幻獣の頂点の存在なの?」

 

「む?そうだが?」

 

「そ、そうなんだ」

 

耀と無限王の会話を聞いていた白夜叉が、あの娘、グリフォンの言葉が分かるのか、と感心した後ニヤリと笑い、

 

「無限龍は私と同じ最強種の一角だからの。幻獣の頂点にして系統樹が存在しない〝純血の龍種〟だ」

 

「へえ?」

 

十六夜が瞳を怪しく光らせる。

白夜叉よりも強いと言及されている無限王だが、〝純血の龍種〟とか語られては興味しかない。

 

「でも見た目は龍っぽくないよね」

 

「そうね。どちらかというと人ね」

 

「………まあ、今の私は〝箱庭の騎士〟の娘を器に箱庭に顕現してるからな。龍っぽくなかったり龍角が無いのはつまりそういうことだ」

 

「〝箱庭の騎士〟ですって!?」

 

黒ウサギが驚愕の声を上げる。

予想はしていたが、まさか本当だったとはという驚きと。

今まで隠していた器の情報をこうもあっさり話してしまう不気味さに困惑する。

だが同時にずっと謎だった、無限王がレティシア目的でコミュニティに足繁く通っていた理由が判明した。

全てはレティシアの同胞である〝箱庭の騎士(器の娘)〟の為だったのだと。

その器の娘(■■■)はというと、

 

『………無限王様?もしかして私の正体を彼らに教えるつもりじゃありませんよね………?』

 

「(はてさてどうかな?うっかり口が滑って■■■の名を言ってしまうやもしれぬ)」

 

無限王に自分の正体を隠し通してほしいようだった。

だが肝心の彼女は巫山戯た調子で返してきた。

これはいよいよ、覚悟を決めなければならないと、■■■は思った。

話が脱線したが、それから耀達はグリフォンの試練を受けることとなった。

 

 

『ギフトゲーム名〝鷲獅子の手綱〟

 

 ・プレイヤー一覧

 逆廻 十六夜

 久遠 飛鳥

 春日部 耀

 

 ・クリア条件

 グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。

 

 ・クリア方法

 〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかでグリフォンに認められる。

 

 ・敗北条件

 降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。

 〝サウザンドアイズ〟印』

 

 

これに耀が挑み勝利した。

白夜叉が耀のギフトについて問い、耀は父親から貰った木彫りのお陰と返す。

その木彫りを受け取り、白夜叉が見つめ顔を顰めるなか、飛鳥と十六夜も覗き込み、

 

「複雑な模様ね。何か意味があるの?」

 

「意味はあるけど知らない。昔教えてもらったけど忘れた」

 

「………これは」

 

白夜叉だけでなく、十六夜と黒ウサギも鑑定に参加する。

 

「材質は楠の神木………?神格は残ってないようですが………この中心を目指す幾何学線………そして中心

に円状の空白………もしかしてお父様の知り合いには生物学者がおられるのでは?」

 

「うん。私の母さんがそうだった」

 

「生物学者ってことは、やっぱりこの図形は系統樹を表してるのか白夜叉?」

 

「おそらくの………ならこの図形はこうで………この円形が収束するのは………いや、これは………これは、凄い!!本当に凄いぞ娘!!本当に人造ならばおんしの父は神代の大天才だ!まさか人の手で独自の系統樹を完成させ、しかもギフトとして確立させてしまうとは!コレは正真正銘〝生命の目録〟と称して過言ない名品だ!」

 

興奮する白夜叉。

耀は不思議そうに小首を傾げて問う。

 

「系統樹って、生物の発祥と進化の系譜とかを示すアレ?でも母さんの作った系統樹の図はもっと樹の形をしていたと思うけど」

 

「うむ、それはおんしの父が表現したいモノのセンスが成す業よ。この木彫りをわざわざ円形にしたのは生命の流転、輪廻を表現したもの。再生と滅び、輪廻を繰り返す生命の系譜が進化を遂げて進む円の中心、即ち世界の中心を目指して進む様を表現している。中心が空白なのは流転する世界の中心だからか、生命の完成が未だに視えぬからか、それともこの作品そのものが未完成の作品だからか。―――うぬぬ、凄い。凄いぞ。久しく想像力が刺激されとるぞ!実にアーティスティックだ!おんしさえよければ私が買い取りたいぐらいだの!」

 

「ダメ」

 

耀はあっさり断って木彫りを取り上げる。

白夜叉はしょんぼりした。

 

「で、これはどんな力を持ったギフトなんだ?」

 

「それは分からん。今分かっとるのは異種族と会話が出来るのと、友となった種から特有のギフトを貰えるということぐらいだ。これ以上詳しく知りたいのなら店の鑑定士に頼むしかない。それも上層に住む者でなければ鑑定は不可能だろう」

 

「え?白夜叉様でも鑑定出来ないのですか?今日は鑑定をお願いしたかったのですけど」

 

黒ウサギの言葉に、白夜叉は気まずそうな顔をする。

 

「よ、よりにもよってギフト鑑定か。専門外どころか無関係もいいところなのだがの」

 

「なんだ?白夜叉でも鑑定は無理なのか?」

 

「不甲斐ないが、その通りだの」

 

申し訳なさそうに頭を掻く白夜叉。

十六夜は不意に無限王を見つめて一言、

 

「なら仕方ねえ。そこで暇してる―――()()()()()()()()にでも聞くか」

 

「ん?それは私のことか?」

 

「お前それ、わざとやってんだろ」

 

十六夜に指摘されて、バレたかと苦笑を零す無限王。

 

「無論、〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟のことなら知っている。それは私の()()が造ったギフトだからな」

 

「え?」

 

無限王の言葉に、耀がキョトンとして見つめ返した。

 

「この木彫りは私の父さんが造ったものじゃないの………?」

 

「ああ。たしかにお前の父親コウメイは偉大な男ではあるが、〝生命の目録〟を人の手で造れるものかよ。そのギフトは私の同類の―――」

 

「へ?コ、コウメイ!?」

 

無限王の話を遮るように黒ウサギが声を上げる。

無限王のドレスの裾を強い力で引っ張る耀の姿もあった。

 

「待って!父さんを知ってるの!?」

 

「無限王様!?コウメイ―――いえ、コウメイ様とはまさかあの!?」

 

「ちょっと待って!黒ウサギも父さんを知ってるの!?」

 

「フギャア!?って、なんで黒ウサギはウサ耳を引っ張られなければならないのですか!?」

 

無限王と違う耀の対応に不満を叫ぶ黒ウサギ。

哀れな兎である。

耀はキッと二人を睨み付けて、

 

「いいから二人は黙って私の質問に答えて。父さんを知ってるの?」

 

「「うむ(YES)」」

 

「父さんとはどういう関係なの?」

 

「えっとですね。コウメイ様はコミュニティの同士にしてジン坊っちゃんの前に頭首を務めていた御方でございます!」

 

黒ウサギが先に答えて耀が目を大きく見開いて驚く。

 

「え?父さんが〝ノーネーム〟の前リーダー!?」

 

「はいな」

 

黒ウサギが頷くと、飛鳥がハッと思い出したように口を挟む。

 

「………そういえばあの外道が言っていた、ジン君の前のリーダーは優秀な男、というのは春日部さんのお父様の事だったのね」

 

「え?あの外道も父さんの知り合い………?」

 

「………いえ、そうとは思えないわ。もし知り合いなら名前で言ってるはずだもの」

 

「あ、それもそうか」

 

「それにあの外道と春日部さんのお父様が知り合いとか嫌でしょう?」

 

「うん、超いや」

 

全く隠す素振りもなく本音を言う耀。

それに苦笑いを浮かべる飛鳥。

耀は無限王に向き直り、

 

「それで貴女は?」

 

「私か?………ふむ、そうだな。コウメイとは友達と言っておこう」

 

「友達?」

 

「うむ、友達。それもコウメイの方からな。初対面の私に、正体を知るや否やいきなり両手を掴んできて―――〝俺と友達になってください!〟て目を輝かせながら言ってきたのを覚えている。流石の私も思わず面食らったが」

 

頬を掻きながら語る無限王。

そんな彼女の両手を掴んで耀が一言、

 

「………父さんだけずるい。私とも友達になってください!」

 

「む?お前の私の評価は〝我が儘な子供〟ではなかったのか?」

 

「………う、それはまだ貴女のこと知らないから」

 

「嘘。コウメイの娘ならば喜んで友達になろう。尤も―――最初の友達はそこの娘に奪われて口惜(くや)しいがな」

 

チラッと飛鳥を見て言う無限王。

飛鳥は勝ち誇ったような顔をして、

 

「そうよ。春日部さんの最初の友達は私が貰ったわ。羨ましいでしょう?」

 

「超羨ましい。だからお前とは友達にはならん」

 

「な、なんですって!?」

 

「なんだ?その反応はもしや私と友達になりたいのか?」

 

「―――ッ!?そ、そんなわけないでしょう!?あ、貴女こそ、私と友達になりたいのではなくて?春日部さんの最初の友達よ?本当はなりたくてなりたくてしょうがないんじゃないかしら?」

 

バチバチと火花を散らしながら睨み合う無限王と飛鳥。

謎のバトルが勃発しそうななか、白夜叉がオホン!とわざとらしく咳払いをした。

 

「当事者の私を差し置いて何勝手に盛り上がっておるんじゃおんしら!特に無限龍!おんしには聞きたいことが山ほどある!後で根掘り葉掘り聞かせてもらうから覚悟しておけ!」

 

「ぬ?」

 

「そういうことなら俺からもいいか?」

 

続けて十六夜が挙手して言う。

 

「春日部の親父の話でかなり逸れちまってるが、〝生命の目録〟ってのはどんなギフトなんだ?無限ロリの同類が造ったって話だから〝純血の龍種〟なんだろうし、そいつのことも気になる」

 

「ふむ?教えてやってもいいが、〝生命の目録〟はコウメイの娘のものだからな」

 

「耀でいい」

 

「む、そうか。では耀と呼ばせてもらう。私の事も無限王とかいう堅苦しい呼び名ではなくウロボロスのウーちゃんと呼んでくれ」

 

「え!?」

 

黒ウサギがギョッとする。

そんな彼女を無視して無限王は続ける。

 

「タメ口で全然いいぞ。友達のコウメイも〝ちょっと試したいことがあるんだが付き合ってくれるかウーちゃん〟という感じにフレンドリーに接してくれるからな」

 

「わかった。これからよろしくウーちゃん」

 

握手を交わす無限王と耀。

ウーちゃんと呼んでくれて嬉しそうな笑みを浮かべる無限王。

そんな二人を羨ましそうに眺め、あんなすぐに春日部さんと距離を縮められるなんてずるいわ、と飛鳥が内心で呟く。

一方で黒ウサギは、コウメイ様まで無限王様の事をあのような呼び方で!?と驚愕し困惑していた。

 

「して耀よ。〝生命の目録〟について彼らにも話してもよいか?」

 

「ダメ。私が最初に知りたいから後で教えてウーちゃん」

 

「了解した。というわけですまないが耀の許可が取れなかったから〝生命の目録〟については今は内緒だ。教えてやれるのはこのギフトを造った同類についてだな」

 

「………チッ、しょうがねえ。春日部のギフトだからな、本人が駄目って言うならそれに従うしかねえか。んで、〝生命の目録〟を造ったっていうあんたの同類は何者だ?」

 

十六夜が問うと、無限王は頷いて答えた。

 

「〝生命の目録〟を造った純血の龍種の名は〝曼荼羅(マンダラ)〟。知識量の多い少年ならば聞いたことはあるだろう?」

 

「勿論知ってるさ。〝曼荼羅〟は古代インドが起源で、サンスクリット語でマンダラを語源とする、本質のものまたは丸いを意味し、聖域、仏の悟りの境地、世界観などを仏像・シンボル・文字などを用いて視覚的・象徴的に表したものだろ?」

 

十六夜の話がさっぱりな飛鳥と耀が小首を傾げる。

無限王は苦笑を零し、頷く。

 

「ああ。そしてその〝曼荼羅〟は()()()()()()()で描かれているだろう?」

 

十六夜達はハッとする。

〝生命の目録〟もまた幾何学線が描かれていたことを思い出して。

 

「〝生命の目録〟の見方だが、中心の内側から外側に向けて幾つもの線が伸びて枝分かれしているだろう?これは異種族の交配や進化を遂げて新たな生命の系譜を刻んでいる事を示している」

 

「へえ?じゃあ逆に外側から内側に向かうと、〝混血種〟から色濃い血を持つ混じりけのない〝純血種〟へと至るってことか?」

 

「そうだ。そして中心が空白なのは………白夜ならばこれが何を意味しているのか気づいただろう?」

 

無限王が白夜叉に話を振ると、彼女は驚愕の表情で声を上げた。

 

「空白………まさか系統樹が存在しない()()()()()()()()()()である〝純血の龍種〟のギフトまでもが獲得出来るというのか!?」

 

「まさかも何もその通りだが?」

 

当然だろう?と小首を傾げる無限王。

白夜叉はプルプルと肩を震わせて、

 

「おんしら〝純血の龍種〟のギフトが使えるとなると、最強種に手が届くということになるのだぞ!?なんじゃそのチートギフトは!?人がリスクなしで使えるのか!?」

 

「はてさてそれはどうかな?これ以上の詳細を知る権利があるのは〝生命の目録〟所持者の耀だけだ。以降は黙秘権を行使するぞ」

 

「ぐぬぬぬぬ!」

 

知りたい欲半端ない白夜叉をニヤニヤと見つめる無限王。

そんな無限王のドレスの裾を強い力で耀が引っ張ってきた。

 

「………もしかして友達になったウーちゃんのギフトも使えたりする?」

 

「それについては後で教える。今の耀では私のギフトを引き出すことは出来ないとだけ言っておこう」

 

「むぅ、早く貴女のギフトも使いたい」

 

今は使えないと言われて拗ねる耀。

そんな彼女に苦笑を零す無限王。

一方、黒ウサギは耀のギフトが最強種級であることと彼女の父親がコウメイであることに興奮し。

十六夜は、春日部がギフトを使いこなせるようになったら俺並みかそれ以上の存在になるのか、と彼女の成長を密かに楽しみにし。

飛鳥は、春日部さんは本当に素敵なギフトを持っていて羨ましいわ、と羨望の眼差しを耀に向けていた。

そんな飛鳥を無限王がバレないように盗み見て、

 

「(お前のギフトも人が使うにしては十二分チートものだぞ、久遠飛鳥)」




ふと思ったこと。曼荼羅のことを白夜叉知ってたりするかな?生命の目録も名前しか知らないし曼荼羅とも面識なしみたいな書き方(白夜叉が無反応)しちゃってるけど


試練をクリアした耀達に〝恩恵〟を贈る白夜叉。ギフトカードを受け取る三人と興奮する黒ウサギ。それから三人は腕試しがしたいと無限王に頼み込み………

次回、ギフトカードと腕試し


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ギフトカードと腕試し

文字数を少なく書くということが出来なくなってしまっている………


それから白夜叉が試練をクリアした耀達に〝恩恵(ギフト)〟を与えることになった。

復興の前祝いという名目で。

パンパンと柏手を打つ白夜叉。

すると十六夜・飛鳥・耀の眼前に光り輝く三枚のカードが現れた。

 

 

コバルトブルーのカード

逆廻 十六夜

ギフトネーム

正体不明(コード・アンノウン)

 

ワインレッドのカード

久遠 飛鳥

ギフトネーム

〝威光〟

 

パールエメラルドのカード

春日部 耀

ギフトネーム

生命の目録(ゲノム・ツリー)

〝ノーフォーマー〟

 

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。

黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で三人のカードを覗き込んだ。

 

「ギフトカード!」

 

「お中元?」

 

「お歳暮?」

 

「お年玉?」

 

「ち、違います!というかなんで皆さんそんなに息が合ってるのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納出来る超高価なカードですよ!耀様の〝生命の目録〟だって」

 

「ちょっと待って」

 

黒ウサギの話を遮る耀。

 

「へ?」

 

「なんで様付けされるの?」

 

「そ、それはコウメイ様の娘様でございますからね!」

 

「え、なにそれウザい。普通に接して。父さんの娘だからとかそういうのいらない」

 

「ハイ、ゴメンナサイ」

 

耀に叱られてしょんぼりする黒ウサギ。

気を取り直してTake2。

 

「このギフトカードは顕現しているギフトを収納出来る超高価なカードですよ!耀さんの〝生命の目録〟だって収納可能で、それも好きな時に顕現出来るのですよ!」

 

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

 

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

黒ウサギに叱られながら三人はそれぞれのカードを物珍しそうに見つめる。

 

「我らの双女神の紋のように、本来はコミュニティの名と旗印も記されるのだが、おんしらは〝ノーネーム〟だからの。少々味気無い絵になっているが、文句は黒ウサギに言ってくれ」

 

「ふぅん………もしかして水樹って奴も収納出来るのか?」

 

何気無く水樹にカードを向ける。

すると水樹は光の粒子となってカードの中に呑み込まれた。

溢れるほどの水を生み出す樹が差し込まれ、ギフト欄の〝正体不明〟の下に〝水樹〟の名前が並んでいる。

 

「おお?これ面白いな。もしかしてこのまま水を出せるのか?」

 

「出せるとも。試すか?」

 

「だ、駄目です!水の無駄遣い反対!その水はコミュニティの為に使ってください!」

 

「………チッ」

 

つまらなそうに舌打ちする。

まだ安心出来ないような顔でハラハラと十六夜を監視する黒ウサギ。

その様子を高らかに笑いながら見つめる白夜叉。

 

「そのギフトカードは、正式名称を〝ラプラスの紙片〟、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトネームとはおんしらの魂と繋がった〝恩恵〟の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

「へえ?じゃあ俺のはレアケースなわけだ?」

 

「ん?」

 

白夜叉が十六夜のギフトカードを覗き込む。

そこには確かに〝正体不明〟の文字が刻まれている。

ヤハハと笑う十六夜とは対照的に、白夜叉の表情の変化は劇的だった。

 

「………いや、そんな馬鹿な」

 

パシッと白夜叉はすぐさま顔色を変えてギフトカードを取り上げる。

 

「〝正体不明〟だと………?いいやありえん、全知である〝ラプラスの紙片〟がエラーを起こすなど」

 

「何にせよ、鑑定は出来なかったってことだろ。俺的にはこの方がありがたいさ」

 

パシッとギフトカードを白夜叉から取り上げる十六夜。

静観していた無限王は、やはりか、と呟いて、

 

「〝千里眼(ラプラス)〟でも少年のギフトを暴けなかったか。ならば私の〝全知〟のギフトでも視る事が敵わなかったのも頷ける」

 

「何?おんしでもこの童のギフトを調べられんかったのか?」

 

「うむ。だが〝全知〟ほどのギフトを無効化するとなると、余程強力なギフトか箱庭内でも閲覧規制が入る〝観測不可領域(ブラックボックス)〟で発生したギフトの何れかだな」

 

「〝観測不可領域〟だと!?」

 

驚愕の声を上げる白夜叉。

その彼女を右手で制す無限王。

 

「落ち着け白夜、あくまでも可能性の話だ。だがこれは確認しておきたいのだが少年」

 

「なんだ?」

 

「お前は星を砕く一撃を持っているか?」

 

「ちょ、無限王様!?流石にそれは十六夜さんでも」

 

「ああ、持ってるぜ」

 

「持ってるわけ―――って、なんですとぉ!?」

 

十六夜の即答にギョッと目を剥く黒ウサギ。

相も変わらず忙しない兎である。

やはりか、と無限王は凶悪な笑みを浮かべる。

 

「なら〝千里眼〟と私の〝全知〟のギフトが無効化されたのは〝疑似創星図(アナザー・コスモロジー)〟の持つデフォルト機能によるものだと仮定しておこう」

 

「………〝疑似創星図〟?」

 

「うむ。本来人間が手にしていること自体驚愕ものだが、それは世界そのものを武具として顕現させるもので、これを超えるギフトは存在しない。〝千里眼〟や〝全知〟のギフトは世界の一要素にすぎぬからな、故に無効化されるのだ」

 

「へえ?」

 

十六夜の瞳が怪しく光る。

世界そのものを武具として顕現、ということは世界そのものの質量を持つ無限ロリにも通用するのか?という期待を込めて笑う。

そんな彼の視線に気付いて、無限王が目を細めて笑う。

 

「なんだ少年?私に通用するのか試してみたいのか?」

 

「人の心を読むなコラ。ああ、超試したい」

 

「馬鹿かおんしら!ここで〝疑似創星図〟を使ってみろ、私のゲーム盤が消し飛ぶわ!」

 

「………チッ」

 

またお預けを食らって盛大に舌打ちする十六夜。

それから白夜叉がトドメに一言、

 

「大体おんしに〝疑似創星図〟は効かんだろに」

 

「は?」

 

「はてさてどうだったかな?そういう白夜もだろう?〝疑似創星図〟の直撃を受けてもピンピンしてたのを覚えてるぞ」

 

「はてさてどうだったかの?」

 

無限王と白夜叉がとぼけ合う。

この二人こそが最大成長龍と星霊の上位種の一角にして、〝疑似創星図〟を真っ向から受け止める怪物達だとは、十六夜達は知る由もない。

一方、飛鳥は己のギフトカードを眺めて溜め息を吐いていた。

十六夜君は人間とは思えない強力なギフトを持ち。

春日部さんは〝ノーネーム〟の前リーダーがお父様で、〝生命の目録〟という素敵なギフトを持っている。

だけど私のギフトは………〝威光〟は人心を操る魔女のようなもの。

とてもではないけれど、素敵なギフトとは思えないわ。

 

「―――どうした娘よ?お前は〝威光〟を人心を操る程度のギフトだと思っているのか?」

 

「ちょ、勝手に人の心を読まないでくださる!?ええ、そうよ!だってあの時の事を知っているなら私のギフトがそういうものだって分かるでしょう!?」

 

「それが勘違いだというのだよ久遠飛鳥。お前のギフトもまた、逆廻十六夜や春日部耀に勝らずとも劣らぬギフトなのだからな」

 

「え?」

 

無限王の言葉に驚く飛鳥。

私のギフトが、十六夜君や春日部さんに勝らずとも劣らずですって………?

それってどういう意味よ、と訊ねようとしたがそれは敵わなかった。

十六夜が提案してきた。

 

「せっかくギフトカードも貰ったことだし、あんたで()()()()()()?無限ロリ」

 

「ふむ?」

 

「あ、それ賛成。私も〝生命の目録〟について全く知らない状態でどれだけやれるか試したい。ダメかな、ウーちゃん?」

 

「………お前はどうする?」

 

「え?あ、そうね………貴女の言葉が真実なら、私のギフトも強力なのよね?」

 

「無論だ」

 

「そう。なら、私も試させてもらおうかしら」

 

「よし、承ったぞ―――と、その前に」

 

無限王は右手を前に出して、

 

「―――【創造】」

 

【創造】と言うと光り輝き、彼女の右手に何かが出現した。

そしてそれを、

 

「受け取れ娘」

 

飛鳥に向かって投げた。

 

「え?ちょ!?」

 

それを危なげにキャッチする飛鳥。

飛鳥が文句を言おうとするが、それよりも早く無限王が言った。

 

「そのギフトは〝純血の龍種〟のデフォルト機能―――無から有を生み出すギフトを付与させた指輪だ。それはお前がギフトを十全に使いこなす為に必要なものだ、存分に使うといい」

 

「「「「―――………は?」」」」

 

素っ頓狂な声を漏らす飛鳥達四人。

そりゃそうだ、渡されたギフトが〝無から有を生み出す〟とか言われれば当然の反応だろう。

飛鳥は無限王から受け取った指輪を見る。

それは〝己の尾を喰らう龍〟をモチーフにした形の指輪だった。

その上に乗る宝石は、飛鳥のギフトカードと同じワインレッドの色で輝いていた。

それを見た十六夜と耀が抗議する。

 

「ちょっと待てやコラ。なんでお嬢様だけなんだよ?」

 

「激しく同意。友達を差し置いて、それも飛鳥だけギフト贈呈はずるい」

 

「そう言ってやるな少年、耀。その娘は他のギフトが無いと十全に力を発揮できぬのだ、許してやれ」

 

「え?」

 

無限王の言葉に、飛鳥は目を瞬かせる。

私のギフトは、人心を操るだけじゃなくてギフトにも作用するってことなの?

ようやく気付いたか、と無限王がニヤリと笑う。

 

「さて、いい機会だから私の本来の姿を見せてやるとしよう」

 

「「「「え?」」」」

 

「〝箱庭の貴族〟よ、我が器の娘を頼むぞ」

 

「へ?」

 

黒ウサギが首を傾げた途端―――■■■の体から真っ黒い風のようなものが吹き荒れ、彼女の体から完全に分離する。

いきなりのことで驚く■■■。

そんな彼女の側に、黒ウサギが寄り添う。

十六夜達の視線は、最初こそ■■■に向いたが、すぐに真っ黒い何か(無限王)へ向くことになる。

頭に真っ黒い立派な二本の龍角。

瞳は宇宙を彷彿させ、深淵の中には輝く星々があり。

漆黒の外套に身を包んだ、暗黒の長髪を靡かせた少女がいた。

この姿は無限王の被造物ことウーちゃん2号と大差ないが、彼女から発せられる霊格(そんざい)は、比べ物にならないものだった。

圧倒的な気配を放つ無限王に、十六夜も、飛鳥も、耀も、黒ウサギさえ息を呑む。

実は黒ウサギも無限王の本来の姿を見るのは初めての事だった。

無限王は黒とは対照的な色白い両手をグーパーさせて感触を確かめる。

 

「うむ。仔細無し」

 

「仔細無し、じゃありませんよ無限王様!?出てくるなら一言私に断ってくださいよ!吃驚(びっくり)したじゃないですか!」

 

「おっと、それはすまなんだ。以後気を付けるとするよ―――()()()

 

「「「………ラミア?」」」

 

「ちょ、無限王様!?」

 

あっさりと金髪少女の正体をバラす無限王に、口をパクパクさせながら叫ぶラミア。

十六夜達が首を傾げるなか、黒ウサギだけ時間が停止したような感覚になっていた。

 

「(………え?黒ウサギは、幻聴が聞こえたのでしょうか………?ラミア………この名前には聞き覚えしかないのですよ………ラミアは、いえ、ラミア様は………!)」

 

レティシア様が全てを犠牲にしてでも取り戻したい、かけがえの無い、何者にも代えがたい、愛する()()ではなかったか。

その彼女が、無限王様の器となって、正体を隠してレティシア様に会っていたということになる。

どうしてそんなことをしたのですか………レティシア様にバレたくなかった理由とは一体………?

詮索する黒ウサギに、無限王がスッと目を細めて言う。

 

「〝箱庭の貴族〟よ、悪いがラミアの件は後にしてくれないか?これから少年達の腕試しをするからな」

 

「え?あ、はい。その代わり、後で教えてくださいよ?」

 

「それは約束できんな。これはラミアの問題だから余計な世話は焼くなよ?」

 

「む」

 

納得いかなそうな顔をする黒ウサギ。

だが無限王の異常な威圧が反論を許さない。

この問題は彼女達のものだ、貴様如きが出ていい幕ではない!

正体こそ教えても、彼女達の関係に深入りするようならば容赦はしない、と珍しくも怒りの籠った瞳を見せる。

黒ウサギは言葉に表せないような恐怖を感じた。

一方、十六夜は〝ラミア〟と聞いて自身の脳に詰まった知識から洗い出していた。

 

「(………ラミアといえば、ギリシャ神話に登場する古代リビュアの女性。主神ゼウスと通じた為に本妻のヘラによって子供を失い、その苦悩のあまり他人の子を殺す女怪と化したという蛇の下半身を持つ………?だがあいつの見た目は人間っぽいしギリシャ神話とは無関係か?)」

 

十六夜が一人考え込んでいると、無限王がそれに気付いて言う。

 

「ラミアについての考察はすんだか少年?」

 

「だから人様の思考を読むなコラ」

 

「ふふ―――さて、こちらは準備万端だが、ただの腕試しだからギフトゲーム形式にする必要もなかろう?」

 

「うん。早くやろ」

 

やる気満々の耀に苦笑を零す無限王。

 

「白夜、念のため〝箱庭の貴族〟とラミアをよろしく頼むぞ」

 

「うむ、引き受けたぞ」

 

白夜叉は頷き、黒ウサギとラミアを背に守るように立つ。

彼女に任せれば安心出来る。

まあ尤も―――無限王は()()()()()()()()()()()()()

その証拠に、無限王は身構えることなく一言、

 

「ではまずは少年―――逆廻十六夜から来い。手加減は不要だ、全力で来い」

 

「………カッ、あんたに言われなくても最初から全力でいくぜッ!」

 

十六夜の踏み込み一つで雪原の大地が爆裂する。

たった一度の踏み込みで風を追い抜き、音速を凌駕し、大気を焼き尽くすほど加速し―――第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度を叩きだし、一瞬で無限王に肉薄する。

そのままの速度を維持して右拳を彼女の体に叩き込む。

人間が受ければ骨も残らないだろうその一撃を無限王は―――棒立ちのまま受け止めた。

 

「―――ッ!?」

 

やはり彼女には微塵も通用していない。

そればかりか、世界そのものの質量を持っていながらも、十六夜が全力で殴りかかったのにも拘わらず、彼の拳は消し飛ぶどころか傷一つついていなかった。

無限王が十六夜を傷つけないようにギフトを使ったのかもしれない。

無論、そのギフトもまた十六夜の一撃で無効化(キャンセル)されたようだが。

 

「………ハッ、しゃらくせえ!!」

 

構うものかと、十六夜は気合い一閃―――拳のラッシュを無限王に叩き込む。

凄まじいその一撃一撃は第三宇宙速度を遥かに凌駕し、大気に幾つもの波紋を生み出す。

これだけの猛攻があるにも拘わらず、周囲に全く被害が無いのは無限王が全てを受け止め吸収しているからなのだろう。

十六夜は自分の拳がまるで通用しない、圧倒的な格上の存在を前に絶望するどころかむしろ血湧き肉躍ってすらいた。

自身の限界を越えようと、全身に力を込める。

もっとだ、もっと(はや)く―――ッ!!

だがどれだけやろうとも、第四宇宙速度には遠く及ばない。

そして十六夜の拳は無限王の人差し指で受け止められて、

 

「―――終了だ。お疲れ少年」

 

「………チッ、僅かでも後退してくれることを期待したが、まるで動かねえなあんた」

 

「当たり前だ。私をぶっ飛ばせる者など、この箱庭でも両手の指で数える程しかいないからな」

 

「………ハッ、そいつはいい。異世界に喚び出された初日にそんな超大物と巡り会えてかつ挑戦出来た奇跡に感謝しねえとな!」

 

ヤハハと笑う十六夜に、やれやれと呆れたような顔で見つめる無限王。

しかし彼女は知っている。

彼が内心では悔しがっていることに。

プライドを深く傷つけられていることに。

しばらくはそっとしてあげた方がよさそうだ。

 

「では次は耀。コウメイから譲り渡された〝生命の目録〟をどれくらい使いこなせるか見せてみよ」

 

「うん」

 

耀は頷いて踏み込み跳ぶと、白夜叉の試練で友達になったグリフォンのギフトを早速使った。

風を纏い、覚束無い飛翔ではあるが、使っていけば何れは使いこなせるだろう。

無限王の頭上まで移動し、

 

「(力を貸して、象さん!)」

 

グリフォンのギフトから象のギフトへ変更し、大気を震わせながら自由落下して無限王の頭を踏みつける。

当然だが、象程度の質量で彼女が揺らぐわけもなかった。

例えるならそう、象が毎日踏み締めている大地そのもの。

世界そのものの質量を持つ彼女は無論、大地程度ではないが。

 

「(………凄い。これがウーちゃん―――父さんの友達!まるで歯が立たないよ)」

 

象が効かないのならば他の友達では到底無理だろう。

耀は悔しそうな顔をしたのち、ふと視界に無限王の真っ黒い立派な二本の角が映った。

そんなものを見てしまったら触りたいに決まっている。

耀は象のギフトを消して無限王の背後に降り立つと―――

 

「えい」

 

彼女の二本の龍角を根元から鷲掴み引っ張った。

 

「………………………何をしてるんだ耀?」

 

「ウーちゃんの角に触りたかったから掴んでるだけ」

 

「………………………誠に耀はコウメイの娘なのだな」

 

「………?それはどういう意味?」

 

「いや、なんでもない」

 

「………?」

 

耀は小首を傾げる。

無限王は、コウメイにもこの姿を見せたことがあったのだが、まさに耀と同じ行為に走ったことを思い出して苦笑を零す。

それから無限王の角を堪能した耀が離れると、

 

「では最後はお前だ娘―――久遠飛鳥。私が与えたギフトを使い、お前のギフトを見せてみろ」

 

「ええ。でもその前に、試していいかしら?」

 

「構わんぞ」

 

無限王が許可すると、飛鳥はありがとう、と言ったのちに右手を前に突き出し一言、

 

()()()()()!」

 

「……………………」

 

飛鳥は〝威光〟で無限王を跪かせようとしたが、微動だにしない。

やはりというか効かなかった。

そもそも、無限王には霊格の差云々関係無しにギフトが通用しないのだから、直接〝威光〟を使うなど焼け石に水でしかない。

飛鳥は悔しそうな表情を見せた後、無限王から受け取った〝無限の指輪〟を左の指にはめて問う。

 

「無限王さん、これはどうやって使えばいいのかしら?」

 

「ああ、それは単純に思い浮かべるだけでいい」

 

「思い浮かべる?」

 

「そう。例えば無から生み出される火を思い浮かべてみよ」

 

「わ、分かったわ」

 

無限王に言われて、飛鳥は左手を前に突き出して目を閉じる。

無から生み出される火をイメージして―――!

ポウッと飛鳥の左手から小さな火が生まれた。

それを見て飛鳥が興奮する。

 

「で、出来たわ!これでいいかしら!?」

 

「うむ。では次の段階へいこうか」

 

「………?次の段階?」

 

「ああ。私のギフトで火を生み出すイメージが出来たのなら、今度はお前のギフトを使ってみろ」

 

「私の?」

 

「そうだ」

 

頷く無限王に、飛鳥は言われるがままにやってみることにした。

 

「(ええと、火に命ずるのならこうよね)」

 

飛鳥は小さな火に向かって〝威光〟を使った。

 

()()()()()!」

 

そう命じた刹那―――小さな火が急激に物凄い勢いで燃え上がった。

 

「………え?」

 

「「「「「………なっ―――!?」」」」」

 

尋常ならざる光景に、愕然とする十六夜達五人。

なんだ、今のは?

小さな火が、飛鳥の命令で激しく燃え上がる。

命令しただけで小さな火があそこまで成長するものか?

無限王はうむ、と満足げに頷いて、

 

「それがお前のギフトの力だ。我ら最強種が持つ与える側の力の恩恵―――()()()()()()()というものだ」

 

「「え!?」」

 

「何!?」

 

「「「………疑似神格の付与?」」」

 

有り得ないような表情で飛鳥を見る黒ウサギ・ラミア・白夜叉の三人。

初めて聞く単語に首を傾げる十六夜・飛鳥・耀の三人。

それについて無限王が説明する。

 

「疑似神格の付与は恩恵に使えばその恩恵を極大化させ、限定的に神格級の力を解放する事ができ、相手に使えばその相手は命を削るリスクを負う代わりに神格級の力を得るというものだな。後者の使い方はやらないことをオススメするが」

 

「「「……………」」」

 

無限王の話を聞いて、十六夜・耀・飛鳥は目を瞬かせる。

 

「………なんだよ、お嬢様のギフトもチート級だったんじゃねえか」

 

「うん。私達三人は人智を超越したギフトの持ち主ってことだね」

 

「正直実感が湧かないのだけれど………無限王さんがくれたこの指輪を使いこなせれば十六夜君と春日部さんの役に立てることが分かっただけでも自信が持てたわ」

 

一方、白夜叉はそんな三人を眺めながらニヤリと笑う。

 

「(〝疑似創星図〟を所持する小僧に、〝生命の目録〟を所持する小娘、仕舞いには〝疑似神格〟の付与が出来る小娘ときたか。こうも人間を超越したギフト保持者が一気に召喚されるとは………くく、面白いのう)」

 

黒ウサギは三人を見つめながら、ウサ耳と尻尾をパタつかせ興奮させていた。

 

「(す、凄いのです!十六夜さんも、飛鳥さんも、耀さんも!黒ウサギに彼らを召喚するギフトを与えてくださった〝主催者〟様の―――クイーン・ハロウィン様の言葉は決して眉唾物ではなかった………!)」

 

とはいえ、コミュニティ再建には過剰戦力な気がしてならないと苦笑を零す黒ウサギ。

彼らが召喚された真の理由を黒ウサギは知る由もない。

そんな様子を無限王が眺めていると―――ミシリ、と白夜の世界が悲鳴を上げ始めた。

続けて世界全体が激震する。

何事かと声を上げる十六夜達。

白夜叉はハッとして無限王を見て、

 

「私のゲーム盤が崩壊しようとしておるな………おんしが顕現してるのが原因か無限龍よ?」

 

「………そのようだな。しくじった、ここは白夜のゲーム盤の中だ。私のようなものが居続けては何れ崩壊してしまうか」

 

「「「「は?」」」」

 

「ラミアよ、私の下へ来い」

 

「………!はい、無限王様!」

 

駆け足で無限王の下へ向かうラミア。

無限王はラミアの頭を優しく撫でたあと、人型だった彼女の体は真っ黒い風のようなものへと変わり、ラミアの体の中へと収まる。

それと同時に、白夜叉のゲーム盤の崩壊が止まった。

無限王はラミアと同化を完了した事を確認するように両手をグーパーさせ、

 

「うむ。仔細無し」

 

「仔細無しなわけあるかこの大戯け者があああああッ!!!」

 

ズドグシャアアアアア!!という痛そうとかいう次元を超えた扇子の一撃を無限王の頭頂部に叩き込む白夜叉。

何故私は叩かれたのだ?と不思議そうに小首を傾げる無限王。

無限王は存在するだけでゲーム盤が崩壊する。

十六夜達四人は満場一致で、やっぱこいつの方が化け物だわ、と思うのだった。




〝無限の指輪〟
無から有を生み出すギフトと表記されているが、この有とは恩恵を指す。無からイメージした恩恵を生み出し、その恩恵に飛鳥の〝威光〟を使うことで極大化の現象が起きたというもの。
望めば武具なども生み出せるが、このギフトの使用者に適した恩恵を生み出す為、使用者の霊格が低いほど生み出される恩恵も弱くなる。

飛鳥の強化に伴い、原作の敵にもオリ主が何かするやもしれぬ


腕試しを終えてラミアの話に移るのだが、彼女はレティシア(姉上)にはまだ正体をバレるわけにはいかないことを言う。それを聞いて十六夜達が邪悪な笑みを浮かべて、正体をバラされたくなかったらメイドをしろ、と脅迫めいたことを言われ!?しかしそれこそが〝ノーネーム〟との関係を持つ為の無限王の狙いだった………

次回、問題児の吸血姫妹メイド計画


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

問題児の吸血姫妹メイド計画

思ったより時間がかかってしまった…


場所は戻って白夜叉の私室。

ゲーム盤の中だと白夜叉の世界と無限王の内包する世界の質量が衝突して崩壊を招いてしまうが、箱庭の中ならば無限王が顕現してても崩壊することはない。

即ち、再び無限王とラミアが分離している状態である。

暗黒の長髪、星々が輝く瞳、漆黒の外套を纏った無限王と。

黄金の長髪、宝石(ルビー)のように紅い瞳、華美なドレスを纏ったラミア。

その二人を交互に眺めて飛鳥が口を開く。

 

「………そういえば、無限王さんとラミアさんってどういう関係なのかしら?」

 

「それ気になる。よかったら教えてくれるかな、ウーちゃん?」

 

「俺も気になる。あんたみたいな強い奴が、器なんてものを必要としなきゃならない理由ってのはなんだ?」

 

「く、黒ウサギも気になります!無限王様がラミア様を助けた理由やその他諸々!」

 

「一度に質問するな。ふむ、どれから話してやるか。ラミアよ、聞かれたくない質問とかはあるか?」

 

「問題ありません。私の正体を知られてしまった以上、今更隠す必要はありませんからね。ただ―――」

 

ラミアは僅かに逡巡するが、意を決したように続けた。

 

「私の正体はまだ姉上に知られるわけにはいきません。ですので皆様には秘密にしていただけるとありがたいのですが」

 

「え?ラミア様のお姉様というのはレティシア様のことですよね?どうして彼女には秘密にしなければならないのですか?」

 

「それは………私は本来ここにいること自体がおかしいからです。封印されているはずの私が姉上の前に姿を見せる資格なんてありません」

 

「そ、そんなことは………!」

 

黒ウサギが反論しようとするが、ラミアは小首を横に振って、

 

「私は正体を隠しながら今まで姉上を傍で見守ってきました。姉上が私の為に頑張ってくれてることも、自分のせいで私を怪物にしてしまったということに罪悪感で押し潰されそうになりながらも必死に生きようとしていたことも!そんな姉上が愛おしくてズルをしてまで会いに来た私に、どうしてそんな資格があるというのですか!」

 

ズルをしてまで会いに来た私に、そんな資格はない。

私の為に頑張ってくれてる彼女に対する冒涜行為だと、ラミアは言う。

それに十六夜が口を挟む。

 

「馬鹿言え。お前の選択は間違ってる。正体を隠して己の肉親に会う方がよっぽどズルしてるじゃねえか」

 

「………え?」

 

「え?じゃねえよ。正体を隠してるってことは相手側からしちゃ赤の他人同然だろ?それってつまり―――得してるのはお前だけってことになる」

 

「………ぁ」

 

「お前は無限王がくれたチャンスを最大限に活かすべきだったんだ。お前は正体を隠さずに姉に会い、罪を許し抱きしめてやれたのなら………それだけでお前の姉は報われたかもしれないのにな」

 

「……………、」

 

十六夜の発言に思うところがあるのか、何も言い返せないラミア。

たしかに、彼の言う通りかもしれない。

あの日、無間で出逢った無限王様に与えられた自由に酔いしれて、自分の欲求を満たすことしか考えられなかったのかもしれない。

彼の言う通りに、私が姉上の罪を許し抱きしめてあげられたら………姉上の心を蝕む罪悪感から解放してあげることが出来たのかもしれないのに………!

私はどうして姉上を避けるような真似をしてしまったのだろう。

今更になって自分の選択に後悔するラミア。

両手で顔を覆い、悔恨の涙を流すほどに。

十六夜は意地悪そうにニヤリと笑い、

 

「ま、お前がそれでも秘密にして欲しいってんなら協力してやらんでもない」

 

「え?」

 

「だが、タダでとはいかねえなあ。そうだろ?お嬢様、春日部」

 

「「え?」」

 

突然話を振られてキョトンとする飛鳥と耀。

 

「え?じゃねえよ。俺達がこいつの言う通りにしなきゃいけない理由はないだろ?」

 

「そ、そうね」

 

「う、うん」

 

「そう、タダでは、な?しかしもしこいつを好きにしていいなら、協力してやってもいいだろ?」

 

「「!!」」

 

十六夜の企みに気づいて、飛鳥と耀がニコォリと邪悪な笑みを浮かべた。

さて、あの小娘をどうしてやろうかという風に。

邪悪な笑みを浮かべてラミアを見る問題児三人。

身の危険を感じたラミアは、身震いして後ずさる。

そんな彼女を庇うように無限王が十六夜達を睨み付けた。

 

「ほう。我が器であり永き(とき)を共に過ごしてきた友によからぬことをしようと企んでるのか?変なことをするようなら容赦はせんぞ?」

 

「「「―――ッ!!?」」」

 

無限王は殺気のみで空間に亀裂を入れる。

初めて出会った時よりも籠められた殺意は比じゃない。

息を呑む十六夜達だが、別に変なことをするつもりは毛頭ない。

なんとか堪える三人に「ほう?」と感心したように笑う無限王。

背中に流れる心地よい冷や汗を感じ取りながら十六夜は首を横に振る。

 

「………別にあんたが思うような変なことはしねえよ。ただ金髪美少女なんだし是非ともやってもらいたいことがあるだけさ」

 

「ふむ?それはなんだ?」

 

「それは―――()()()だ」

 

「「へ?」」

 

「ほう、メイドか」

 

「ああ、メイドだ」

 

変なことではなくて一安心する無限王。

しかしそんなことは黒ウサギが許さなかった。

 

「ちょ、十六夜さん!?ラミア様をメイドにしようとするとかどういう了見ですか!」

 

「そこに金髪美少女がいるから」

 

「黙らっしゃい!!」

 

スパァーン!とどこからともなく取り出したハリセンで十六夜の頭をはたく黒ウサギ。

一方で、飛鳥がラミアをまじまじと見つめて頷く。

 

「私、金髪の使用人に憧れてるのだけれど、貴女のような可愛らしい子がしてくれたらとても嬉しいわ」

 

「ウーちゃんと長い付き合いなら是非私も友達になりたい。メイドになれば私達の関係も深くなる」

 

耀も続いてラミアのメイドを希望する。

怒る黒ウサギと困ったような顔をするラミア。

白夜叉はニヤリと笑って、背に隠していたものを提示する。

 

「おおっと、こんなところにメイド服があるの。これはそこのおんしにピッタリサイズかもしれんのう?」

 

「え?」

 

「準備周到だな、この駄神」

 

「なんだ駄龍。文句でもあるのか?」

 

睨み合う両者。

同時に親指をビシッと立てて、

 

「超グッジョブ。それでこそ我が友よ」

 

「うむ」

 

「ちょ、無限王様まで!?」

 

そう、ノリノリだった。

完膚無きまでにノリノリだったのだ。

ギョッと目を剥く黒ウサギ。

苦笑いのラミア。

しかしこれだけでは終わらなかった。

 

「白夜よ」

 

「なんだ?」

 

「聞くまでもないが―――レティシアの分のメイド服も用意してあるな?」

 

「「へ!?」」

 

レティシア様(姉上)をメイドに!?と内心で叫ぶ黒ウサギとラミア。

白夜叉はフッと笑って、

 

「無論だ。おんしの分も用意してあるぞ」

 

「私の分はいらんだろう。普段はラミアの中にいるんだから」

 

「………チッ」

 

「何故に舌打ち?」

 

「気のせいだの」

 

「……………そうか」

 

私にメイド服なんて着せてどうするつもりなんだ?と小首を傾げる無限王。

前に着せ替え人形なるものになってあげたというのに。

一方、耀が不思議そうに小首を傾げて、

 

「ウーちゃん、ラミアさんのお姉さんもメイドにしていいの?」

 

「うむ」

 

「それは太っ腹なことだな」

 

「だろう?」

 

「そう。でも、ラミアさんの許可無しで勝手に決めていいのかしら?」

 

「そうだな。だがラミアは満更でもなさそうだぞ?」

 

え?とラミアに視線を向けると、

 

「あ、姉上のメイド姿………姉上と同じ立場………姉上と一緒に衣食住を共に出来る………姉上と永遠に一緒にいられる!?」

 

どうやらラミアは妄想が捗ってるらしい。

黒ウサギ達はポカーンと口を開けてラミアを見る。

まさか彼女は俗にいう姉好き(シスコン)なるものか。

そのまま百合(ガールズラブ)に発展しないことを願おう。

妄想中で思考そっちのけなラミアに、無限王は意地悪そうに笑みを浮かべて、

 

「それを実現するには、レティシアにも正体を明かさないとな?」

 

「………ッ!!?」

 

ハッと我に返るラミア。

そうだ、また同じことを繰り返しては姉上が報われない。

ラミアは覚悟を決めたような顔で無限王に言った。

 

「………分かりました。姉上が〝ノーネーム〟に帰還出来たら、姉上にも正体を明かします」

 

「そ、それってつまり………?」

 

「はい。黒ウサギさん達が姉上を取り戻した暁には、姉上共々喜んでメイドになることを約束しましょう」

 

それを聞いてぱあっと黒ウサギの表情が明るくなる。

メイド化はアレだが、レティシアの奪還が出来ればラミアが〝ノーネーム〟に来てくれる。

レティシアは帰還出来るだけでなく、ずっと取り戻したかった妹と、ラミアとも再会を果たせる。

彼女にとってこれ程嬉しい展開はないはずだ。

無限王が思い出したように言う。

 

「何を期待してるのか知らんが、私とラミアが〝ノーネーム〟に入るわけではないぞ?我々は既に入ってるコミュニティがあるのでな」

 

「え?」

 

「そうですね。あ、でも私の愛娘も連れ出して構いませんよね?」

 

「「「愛娘!?」」」

 

「構わないぞ。むしろ『お母様と離れ離れになるのは嫌です!私もご一緒させてほしいのだわ!』と言って付いてくるのは見え見えだろう?」

 

「それもそうですね」

 

ラミアの娘は人類を目の敵にしているが、母親が一緒ならそんな障害は関係無いと付いてくるに決まっている。

そんな自分の娘を思い浮かべて苦笑いを浮かべるラミア。

一方、ラミアを愕然とした表情で見つめる飛鳥達が、

 

「………ラミアさん、お子さんがいたのね」

 

「とてもそうには見えなかった」

 

「若作りしてましたからね」

 

「人妻か。流石に手を出すわけにはいかないな」

 

「あら、手を出そうとしていたの?私に手を出したらどこぞの神王様のように人妻好きのレッテルが貼られましてよ?」

 

「どこぞの神王様の仲間入り?………ハッ、そいつは面白そうだが遠慮しとくよ」

 

皮肉に笑うラミアと遠慮する十六夜。

十六夜はチラッと無限王を見る。

彼女の眼が訴えてきている。

ラミアに手を出せば、分かってるな?という恐ろしい意思が。

もしそんなことをすれば、ラミアの最強保護者様(無限王)を敵に回すことになる

勝ち目のない戦いに挑むほど十六夜は馬鹿ではない。

肩を竦ませる十六夜。

一方、黒ウサギがさっき無限王の言った言葉について質問する。

 

「条件を満たしても無限王様達は黒ウサギのコミュニティには所属してくれないのですか?」

 

「ああ。そもそも所属したところで戦力にはなれんぞ?」

 

「へ?」

 

「まあ、少年達の恩恵(ギフト)は逸材だし腐らせるわけにもいかぬからな。面倒は見てやる」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ」

 

頷く無限王。

喜ぶ黒ウサギ。

 

「そこの少年、逆廻十六夜は兎も角、久遠飛鳥と春日部耀。お前達は現状だとかなり厳しいな、強力な恩恵を手にしていても使いこなせねば意味はない」

 

「そ、そうね」

 

「ウーちゃんとの腕試しでよく理解してる」

 

「うむ。自信過剰でなく謙虚でよし。自分の力に溺れていてはただ死に急ぐだけだからな」

 

無限王の言葉に返す言葉もなく、悔しそうな表情を見せる飛鳥と耀。

無限王はそんな彼女達に歩み寄り、頭を撫でてやる。

 

「使いこなせれば強力な恩恵なのは間違いない。私がみっちり修行してやるから心しておけ」

 

「わ、分かったわ」

 

「お、お手柔らかに」

 

〝みっちり〟という言葉に恐怖する飛鳥と耀。

ただでさえヤバイ存在の彼女の〝みっちり〟とか嫌な予感しかない。

十六夜はヤハハと笑ったあと、スッと目を細めて無限王に言った。

 

「俺もその〝みっちり〟修行に参加してもいいよな?」

 

「む?お前は元々規格外な存在だからな。〝みっちり〟修行ではなく―――遊んでくれ、だろ?」

 

「………!!ヤハハ、それだ。いいよな?」

 

「無論だ。私もお前の〝疑似創星図(アナザー・コスモロジー)〟に興味あるしな。いいだろう」

 

十六夜の要求を呑む無限王。

彼の所持する〝疑似創星図〟に興味があるのは本当だ。

それを知らなければ、彼を強くすることも出来ないだろうから。

その後は黒ウサギ達と別れて、ラミアの中に戻った無限王は白夜叉の下へ残った。




次回の会話をちょい見せ

「………おんしが〝ウロボロス〟に所属しているのは、〝ノーネーム〟の『敵』を演じる為だろう?」

「おんしが何をしようと、何を成そうとも〝善〟にも〝悪〟にも成れんぞ。おんしを見つけ、育てた私には分かる」

「偉大なる我らの原初の星(マザー)よ。何もない、何ものでもない〝無(ワタシ)〟を〝無限(わたし)〟に導いたのは他の誰でもない、貴女ではなかったか」

「………おんしが再びこの箱庭を滅ぼそうとするならば〝封印〟ではなく―――私がこの手で〝無に還そう(殺してやろう)〟」

次回、原初の星と〝無〟すめの対話


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

原初の星と〝無〟すめの対話

話が完全にオリジナルな上にオリジナル設定や自己解釈ありの回です。


白夜叉の私室。

〝   〟はラミアを強制的に眠らせると、龍角と尻尾を生やした。

次に白夜叉を強制的に正座させると、その膝にゴロンと横になる。

最後に丸くなって生やした尻尾を咥えて寛いだ。

白夜叉はやれやれと呆れたような表情をしつつ、ラミア(〝   〟)の頭を優しく撫でてやる。

 

「その馬鹿っぽい姿は相手を心の底から信頼してる証、だったかの?」

 

「むぅ、馬鹿っぽいは余計だ。こんな無防備な姿を見せるのは貴女の前くらいだからな」

 

「尻尾を咥えたまま器用に喋るのおんし」

 

「?」

 

小首を傾げる〝   〟。

こうしてみると、小動物みたいで可愛らしい。

抱きしめてやりたい衝動に駆られるが、なんとか耐える白夜叉。

そのままの状態で〝   〟に質問した。

 

「おんしが所属しているコミュニティ〝ウロボロス〟についてなんだが、」

 

「断る」

 

「まだ何も言っておらんだろ?」

 

「その先の内容は容易に予想できる。〝ウロボロス〟の情報は仮令(たとえ)貴女であっても教えられない」

 

〝   〟は尻尾を咥えたまま白夜叉に言う。

そんな〝   〟に、白夜叉は悲し気な表情で言う。

 

「………おんしが〝ウロボロス〟に所属しているのは、〝ノーネーム〟の『敵』を演じる為だろう?」

 

「ああ。箱庭に多大な貢献をしてきた〝ノーネーム〟の『敵』を演じることで、私は今度こそ『悪』になれるのではないかと期待している」

 

〝   〟は期待の眼差しで白夜叉を見る。

〝   〟はこれまで『敵』を演じては『悪』になろうと努めてきた。

数多の神群に喧嘩を売りにいったり。

〝神殺し〟なるものに協力したり。

仕舞いには箱庭すら滅ぼそうとすらした。

だというのに、〝   〟は殺されることはなく〝封印〟などという方法で無力化しようとしてきた。

白夜叉を含む星霊達が、星々の境界に〝   〟を〝封印〟しようとしたのだ。

〝   〟はその対応に不満しかない。

しかし白夜叉は小首を横に振って否定する。

 

「不可能だの」

 

「え?」

 

「おんしが何をしようと、何を成そうとも〝善〟にも〝悪〟にも成れんぞ。おんしを見つけ、育てた私には分かる」

 

「………むぅ」

 

〝   〟は否定されて不貞腐れる。

 

「偉大なる我らの原初の星(マザー)よ。何もない、何ものでもない〝(ワタシ)〟を〝無限(わたし)〟に導いたのは他の誰でもない、貴女ではなかったか」

 

「そうだの。だが実際はどうだ?おんしは〝無限〟になれたか?私はそうは思えん。おんし自身も、『ウロボロス』という器を箱庭に住まう何某が用意したものに過ぎんと、そう感じておるだろ?」

 

「……………、」

 

そう言われると返す言葉も見つからない。

遥か昔、〝   〟は〝無〟として気の遠くなる程永く存在していた。

そんな〝   〟をある日、宇宙真理(ブラフマン)の一人にして白夜王を名乗る以前の原初の星が見つけた。

見つけた、という表現は正しくはないが。

そもそも、〝無〟は文字通り〝無〟でしかない。

そんな〝   〟を見つけることは愚か、感じ取ることも出来ないはずだ。

しかし原初の星は〝   〟の存在に気付き、見つけることが出来た。

ブラフマンだからか、はたまたただの偶然か。

それから原初の星と共に〝   〟は歩むこととなる。

関係は母と子といった感じか。

それ故に、原初の星(白夜叉)に否定される程悲しいものはない。

白夜叉は困ったように頭を掻く。

 

「ああ、いや。別におんしのこれまでの歩みを否定するつもりはないのだが………」

 

「………分かってる。私は〝無〟。色々なことを学び、模倣(まね)をしたところで何かを得ることなど出来やしないのだからな」

 

完全に拗ねモードに入る〝   〟。

心なしか咥えてる尻尾を強く噛んでるようにも見える。

〝無〟として箱庭に存在する〝   〟には、何も通用しない。

〝無〟故に、あらゆる力は通用しないのだ。

逆に〝   〟から干渉してきた場合は、干渉されたものの全てを〝無〟にする。

ラミアが太陽光を直接浴びても大丈夫だったのは、〝   〟が干渉したことによって彼女は全てを〝無〟にされ、無力な少女になってるからだ。

〝   〟がラミアとの干渉を完全に断てば、彼女は再び詩人達の恩恵(のろい)に苦しみ、己を無間に封印せざるを得なくなるだろう。

干渉するもの全ては通用せず、逆に干渉されたものの全てを〝無〟にする。

〝   〟が持つデフォルト機能だ。

いや、元はこれしか持っていないはずだった。

〝無〟しか存在しない場所にブラフマンや星霊が生まれ、龍種が訪れ、神霊が現れるなど〝無〟ではない〝有〟なるものの存在が次々と箱庭を占めていった。

それがきっかけか、〝   〟は『無から有を生み出す』権能を手にしていた。

その権能を使って自由に力を振るい続け、数多の神群に御迷惑を被ってきたが『ウロボロス』の名を与えられ〝無〟から〝無限〟の存在―――純血の龍種になれた。

しかし結果は違っていた。

箱庭に住まう何某が、第四の最強種と呼ばれた詩人達によって造られた、存在するはずのない架空の純血の龍種『ウロボロス』の名を名乗っていただけなのだと。

そして、詩人達の力を以てしても〝   〟に恩恵を与えることが敵わなかったということを。

白夜叉はラミア(〝   〟)の頭を優しく撫でながら言う。

 

「おんしが〝無〟ではない何かになろうと様々なことをしてきたのを私は知っておる。おんしなりに必死に足掻いてきた結果なのだろうがの」

 

「うん」

 

「だが、限度というものがある」

 

「え?」

 

「………おんしが再びこの箱庭を滅ぼそうとするならば〝封印〟ではなく―――私がこの手で〝無に還そう(殺してやろう)〟」

 

星の殺意を〝   〟に向けて凄む白夜叉。

〝   〟はキョトンと彼女を見返し、

 

()()()()()()()?」

 

「は?」

 

「私はね、()()()()()()()。〝無〟であるが故に、『死』とは無縁の存在だから」

 

「そ、そうか」

 

「―――だから箱庭を滅ぼそうとしたのに」

 

「………ッ!!?」

 

白夜叉はギョッと目を剥く。

死にたいが為に、箱庭に住まう全てを敵に回しただと?

今まで子供のように無邪気に遊び回っていただけだった彼女が、急に箱庭を滅ぼそうとした理由がそれと?

―――狂っている。

そして私は彼女の意思を汲み取れずに〝封印〟などという方法を取ってしまった。

いや、そもそも〝封印〟すら通用しなかったはず。

彼女は寂しげな表情を見せ、箱庭から姿を消した。

まあ、外界に行ったわけではなかったようだが。

 

「いや、どんな理由であっても箱庭を滅ぼそうとするのは駄目だ戯け者!」

 

「貴女の願いは箱庭を永遠の都市にすること、だっけ?」

 

「そうだとも」

 

「よし、じゃあ今からでも箱庭を滅ぼしに」

 

「行かせるか大戯け者がァアアアアアッ!!!」

 

グゴシャァアッ!!!と白夜叉が全力でラミア(〝   〟)の頭に扇子を叩き込んだ。

したり顔で笑う〝   〟。

冗談だったらしい。

こやつの冗談は冗談に思えんから油断できんわ。

 

「まあ、今のところは変な真似はしない」

 

「ほ、本当かの?」

 

「うむ。面白い連中に出逢えたからな」

 

「………童達のことか?」

 

「ああ。鍛え甲斐のありそうな連中だった。はてさてどうやって遊んでやろうか」

 

「………やはりそういう目的だったか。おんしらしいといえばおんしらしいが」

 

これは童達も()()()()()目をつけられたのは災難だったとしか言い様がないの。

こやつが興味を持った相手への愛情表現はかなりズレておるからな。

合掌でもしておくか。

白夜叉はフッと思い出したように〝   〟に問う。

 

「ところでおんしは〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟を模倣できるかの?」

 

「無論だ」

 

〝   〟が頷くと、白夜叉の眼前に無から生み出された恩恵、〝生命の目録〟が現れる。

白夜叉はそれを手に取り、まじまじと見つめる。

 

「コウメイの小娘が持っておった〝生命の目録〟とそっくりだの。実はおんしが造ったとかでは?」

 

「それは100%有り得ない。私が造れるのは本物(オリジナル)が存在するものの贋作(レプリカ)だけ。私は〝無〟だから私だけの創作物(オリジナル)を造る権利すら与えられてない」

 

飛鳥に与えた〝無限の指輪〟も、一見オリジナルに見えるが『ウロボロス』をモチーフにした指輪に、『無から有を生み出す』権能を付与させただけのものだ。

それ即ち、白夜叉が手にしている〝生命の目録〟もまたオリジナルではなくレプリカなのだ。

 

「して、この〝生命の目録〟とはどんな恩恵なのだ?」

 

「それは耀が先だと言ったはずだけど?」

 

「………チッ」

 

「舌打ちしても駄目」

 

断固拒否の〝   〟に、唇を尖らせて拗ねる白夜叉。

 

「それはそうと、いつまで私の膝枕を堪能する気だおんし」

 

原初の星(マザー)の膝枕、極楽だから」

 

「ふふ、そうか。だがそろそろ起きんと―――他の者に見られるやもしれんぞ?」

 

「………ああ、この気配は―――レティシアか」

 

〝   〟は白夜叉の指摘した者の名を口にして起き上がる。

生やしていた龍角と尻尾を引っ込めて強制的に眠らせていたラミアを起こす。

 

『―――はっ!?』

 

「おはようラミア。良い夢は見れたか?」

 

『え?って急に眠らさないでくださいよ無限王様!?吃驚(びっくり)したじゃないですか!』

 

「すまないね。ラミアでも聞かれるわけにはいかないお話をしていたからな。なあ、()()?」

 

「う、うむ」

 

いつもの態度に戻った〝   〟もとい自称無限王に、ちょっぴり残念そうな顔をする白夜叉。

あっちの方が可愛がり甲斐があるというものを。

それを察して苦笑を零す無限王。

一体全体何を話していたのか凄く気になるラミアだった。




オリ主の正体
世界が始まる以前に存在していた〝無〟そのもの。
あらゆる力が通用しない。
干渉されたものの全てを〝無〟にする(対象が消滅するわけではない)。

権能
〝無から有を生み出す〟恩恵
あらゆるものを無から生み出し与える側の恩恵。
しかし元々〝無〟であるが故に本物の贋作しか造れない。

箱庭に住まうもの達には純血の龍種と認識されており、容姿が少女なのは白夜叉の真似で、本来は性別すらない。


箱庭に存在する四人のブラフマンのうち、白夜叉しか原作でも明言されていないが、ブラフマン故に〝無〟を理解出来た設定。
第四の最強種、詩人達の唄は〝真実だったことになる〟。
ならば存在しなかったものを、あたかも存在していたかのように歴史を改変することも可能なのではという設定で、オリ主のこれまでの行為をオモシロオカシク綴って『ウロボロス』という架空の純血の龍種を造った。
元々彼らの目的は自称無限王を名乗っている名無しのオリ主を、自分達好みの存在に改変し手中に収めようとした大いなる計画だったらしい。


白夜叉の私室に入ってきたレティシアは、無限王の存在に気付いて最大限の警戒と怒りを向ける。彼女は無限王が〝ウロボロス〟の間者であり〝ノーネーム〟の敵だということを知っているからだ。しかしそれを白夜叉に演技だということをバラされて………

次回、吸血姫姉登場と虎の強化計画


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

吸血姫姉登場と美しき姉妹愛

書いていくうちに内容が変わってしまったのでサブタイも改変………某虎の強化計画は次話に持ち越しです。


白夜叉と無限王が障子に目を向ける。

するとその向こう側から、ラミアの愛おしい少女の声が聞こえた。

 

「―――白夜叉、入ってもいいか?」

 

「おお、いいぞ。ちょうどおんしに会わせたい奴もおるしの」

 

「私に?」

 

声の者は不思議に思いつつも、障子が開き、ラミアと同じ黄金の御髪と宝石(ルビー)のような瞳を持つ少女が姿を見せる。

 

『あ、姉上!』

 

「(落ち着けラミア)」

 

ラミアの興奮した声が脳内に響く。

そんな彼女に苦笑しながら諌める無限王。

ラミアに姉上と呼ばれた金髪の少女―――レティシアは、白夜叉の姿とその隣にいる金髪の少女の姿をした何某―――無限王を確認して、目を見開いて固まる。

そしてすぐにレティシアは警戒しながら怒りの形相で無限王を睨み付けた。

金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを取り出し、そこから長柄の槍を顕現させ、その先端を無限王に向けて吼える。

 

「き、貴様はあの時のッ!?」

 

「ああ。お前が〝ウロボロス〟に捕まっていた時に、面倒を見てやったことか?」

 

「―――ッ!!?貴様ッ!!」

 

レティシアは激昂と共に容赦なく無限王の胸に槍を突き立てる。

しかしその槍は無限王の胸を容易く貫いているというのに、

 

「(………ッ、なんだ、これは!?手応えが、まるでないだと!?)」

 

そう、肉を突き刺したような感触がないのだ。

これでは攻撃を躱されて空を切ったのと同じではないか。

脳内では、ラミアが悲鳴を上げていた。

 

『あ、姉上に刺された!?容赦なく妹を突き刺す姉とか恐ろしすぎますよ!?』

 

「(落ち着けラミア。刺されたところで痛みなどないだろう?そもそも正体を隠してきたのだから妹を刺したとすら思ってはおるまい)」

 

『―――はっ!?そ、そうですね。でも絵面は相当スプラッタなものですよ?』

 

『見た目は確かにそうだな』

 

何せラミアの胸に深々と槍が突き刺さっているのだからな。

とはいえ、血飛沫を上げてるような感じはないからそこまでスプラッタではないが。

そんなやり取りを知らないレティシアは、慌てて槍を引き抜き距離を取る。

抜き取る際も、やはり感触がない。

不気味過ぎる。

追撃を試みるか?

槍を構えたレティシアに、白夜叉が待ったをかける。

 

「まあ待てレティシアよ。おんしが憤る理由は分かるが、無限龍にその矛先を向けたところで意味ないぞ」

 

「は?」

 

「む?」

 

「だって其奴は〝ノーネーム〟の敵を演じる為だけに〝ウロボロス〟に所属しているみたいなものだからの」

 

「おい馬鹿やめろ、それは言わない約束だっただろう白夜?」

 

「はてさてどうだったかの?」

 

ニヤニヤと笑う白夜叉に、してやられたと頭を抱える無限王。

レティシアは目を瞬かせて白夜叉を見つめる。

 

「そ、それは本当なのか白夜叉?」

 

「うむ。じゃなかったら私がこやつに何もしないわけなかろう?」

 

「………!そ、それもそうか」

 

納得しながらも無限王を睨むことはやめないレティシア。

嫌われたものだな、と苦笑いを浮かべる無限王。

敵ではないと知ったところで、敵のコミュニティに所属している者に心を許す程抜かってはいないようだ。

むしろこの方がありがたい。

ラミアは〝ウロボロス〟の計画の一部として救い利用してレティシアを手懐けようとしているなどと(うそぶ)いて、『悪』を演じるのも悪くない。

密かに企む無限王。

その思考はラミアに丸分かりな為、呆れたように溜め息を吐いた。

レティシアは視線を無限王から白夜叉に移して、

 

「白夜叉にお願いがあるんだ」

 

「何かの?」

 

「箱庭に召喚されたという新しい人材について、知っていることがあるのならば是非教えてほしいのだが」

 

「おお、そのことか。勿論よいぞ」

 

白夜叉がレティシアに、外界から召喚された十六夜・飛鳥・耀の話をして彼らが〝ノーネーム〟に所属したことを教える。

しかし敢えて〝疑似創星図(アナザー・コスモロジー)〟や疑似神格の付与、〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟に耀がコウメイの娘であることなどは伏せて話した。

レティシアは驚愕の表情を見せていた。

 

「〝ノーネーム〟に神格保持者を倒した人間が所属した、だと?にわかに信じ難いが………白夜叉の話ならば信じざるを得ないな」

 

「私も黒ウサギから聞いた時は、そんな馬鹿な話あるかと思っておったのだが………実際に無限龍が童達の力を試したところ、逆廻十六夜という小僧は最早人間とは思えん膂力を見せておった」

 

「………無限王が直接力試しを?」

 

「ああ。私も彼らには興味があったからな、直々に相手をしてやった」

 

「そ、そうか」

 

無限王が興味を持つ人間ということは、相当な恩恵(ギフト)を持っているに違いない。

それほどまでに、彼女の興味の有る無しは激しかった。

興味の無い存在など、関わろうとすらしないらしい。

………私に関わってくるのは彼女の器の娘が私の大ファンだかららしい。

それ以外に、器の娘については教えてもらえていない。

私のことをファンと言っていたメイド長のカーラと妹のラミアを思い浮かべるが、それは有り得ないと否定する。

カーラは行方知れず、ラミアに至っては私のせいで怪物に堕ち、今も封印されているはず。

 

「……………、」

 

金糸雀達によってあの日の真実を知った時に見た光景を、ラミアの変わり果てたあの姿がフラッシュバックして悲痛な表情を見せるレティシア。

そんな彼女にラミアはいてもたってもいられず、

 

『無限王様、お願いがあります』

 

「(………ああ、レティシアを抱きしめてやりたいんだな?)」

 

『はい。あんな顔をする姉上は………見たくありませんので』

 

「(いいだろう。上手いこと誤魔化してやるから、ラミアが抱きしめてやるといい)」

 

『………!はい!ありがとうございます!』

 

無限王はフッと笑ってラミアの体から出て、不可視の存在となる。

元々〝無〟故に、これが本来の彼女だが。

そしてラミアに〝認識阻害〟を与えてラミアではない何某に誤認させる。

それを確認したラミアは、悲痛な表情のレティシアに歩み寄り、優しく抱きしめた。

 

「………え?」

 

驚いた表情で抱きしめてきた相手の顔を見るレティシア。

知らない顔、のはずなのに。

この抱擁には身に覚えしかない。

辛くて逃げ出したくなった私を彼女が―――愛おしい妹のラミアが優しく抱きしめ慰めてくれたあの日を思い出させる、そんな抱擁。

 

「………ラミア」

 

「(え!?)」

 

「お前がラミアだったらよかったなあ。でも違うんだろう?無限王」

 

「…………」

 

目の前の金髪の少女を、思わず自分の愛おしい妹のラミアと重ねてそんなことを呟くレティシア。

彼女の切なげな瞳に、ラミアは罪悪感に苛まれる。

そんな目で見つめられては、姉上を騙し続けてきた私が悪者みたいじゃないですか。

十六夜の言っていた言葉を思い出す。

『自分のことしか考えていない』、『自分の姉なら逃げないでしっかり向き合え』みたいな感じのことを。

それはまさに今ではないか?と、思い始める。

 

「………?無限王?」

 

「……………」

 

反応がない金髪の少女を不思議に思うレティシア。

ラミアは三分間たっぷり黙り込んだのち、

 

「………無限王様」

 

『なんだ?』

 

「〝認識阻害〟、解いてください」

 

『ほう?覚悟を決めたか、ラミア』

 

「はい。いい加減騙し続けるなんて、私にはできません」

 

『そうか。ふふ、いい仕事をしたな、あの少年は』

 

クックッと喉を鳴らして笑う無限王。

独り言を呟く金髪の少女に、不可解そうにレティシアが訊く。

 

「さっきから何を言ってるんだ?無限王は君だろう?」

 

「―――呼んだか?吸血姫の娘よ」

 

え?と見当違いの方から声をかけられてそちらに振り向くと、何もない場所から全身黒尽くめの龍角を持つ少女が姿を現した。

 

「………え?君が無限王、なのか?」

 

「む?ああ、そうか。この姿をお前にも見せてなかったか」

 

「あ、ああ。いやそれよりも!最強種を箱庭に召喚するには星の主権と器を必要とするケースが多いはずだ。その召喚の触媒である器から離れられるものなのか!?」

 

「そうだな。器の娘から離れただけであって、完全に干渉を断ち切ったわけではないぞ?それと私はそもそも、星の主権も必要なければ器もいらない、特異な存在だったりするんだが」

 

「は?」

 

この者は何を言ってるんだ?

無限王の実力からして、星の主権と器は必須レベルの存在のはずなのに。

況してや彼女は純血の龍種だぞ。

なのに本当はどちらも不要だと?

仮にそれが可能だとして、だとしたら何故、

 

「無限王が言ってることが本当なら、どうして器を必要としたんだ?不要ならわざわざそんな真似をしなくてもいいだろう?」

 

「ああ、そうだな。私と器の娘の関係についてはすぐに教えてやる。器の娘も、お前に正体を明かす決心がついたんでな」

 

「………!!」

 

「だがまあ、一つ忠告しておく」

 

「………忠告?」

 

「うむ。生半可な気持ちでは、今から明かされる真実を受け止めきれぬやもしれぬということをな」

 

え?とレティシアが声を漏らす。

無限王は白夜叉の真似をして柏手を打つ。

すると、レティシアは背後に懐かしい、そして愛おしい気配を感じ取った。

いや、そんな馬鹿な………こんなことは、絶対にあるはずがない!

レティシアは怖くて振り返れない。

そんな彼女を後ろから優しく抱きしめたラミアが一言、

 

「どうして振り向いてくれないんですか―――()()

 

「―――ッ!!!?」

 

姉上、と呼ばれてレティシアは全身を震わせた。

そう呼んでくれるのは唯一無二、彼女だけだ。

幼くはあるが、この声を私が聞き間違えるはずがない!

今、私の後ろで、私を優しく抱きしめてくれているのは紛れもない―――私の愛おしいたった一人の妹、ラミアだということを………!

それを理解したレティシアは、宝石のような紅い双眸から大粒の涙が溢れては零れ落ちる。

今にでも泣き出してしまいそうな感情を必死に堪える。

だがこれでは余計に、ラミアに向き直ることなんて出来ない。

ラミアは一向に自分を見てくれない姉に、寂しそうに言う。

 

「………今まで姉上を騙してきたから、私とは顔も合わせてくれないんですね」

 

「ち、違う!そうじゃないんだ!今の私はその………見るに耐えない顔になってるんだ。こんな顔、ラミアに見せられるわけないだろ………っ!」

 

涙と鼻水でグシャグシャな顔を見せては姉としての威厳にも関わるし、何よりも妹に幻滅されたくない。

そんなレティシアに、ラミアは小首を振って返す。

 

「私は気にしません。あの時のように、姉上は弱い自分をもっと曝け出したっていいんですから。私はそんな貴女も受け止めてみせます」

 

「………ラミア」

 

ラミアの心優しい言葉に、レティシアは思わず彼女に甘えそうになるが、ハッとして我に返る。

自分には、償いきれない罪があることを思い出して。

レティシアは涙と鼻水を拭って小首を横に振った。

 

「いいや、駄目だ!ラミアこそ、どうして私を責めないんだ!?私が魔王なんかに堕ちたせいで、コミュニティは壊滅し、詩人共の呪いをラミアが全て引き受け、怪物に堕ちた。そう、吸血鬼の一族を滅ぼしたのは他の誰でもない………この私なのだからっ!!」

 

血が出るほど強く両手を握り締めるレティシア。

私はラミア達を追い詰めた最低な愚王でしかない。

そんな私が、許されていいはずがない!

そんな彼女の両拳を、ラミアがレティシアの真正面に回り込んで自分の手を重ねた。

 

「いいえ、姉上が悪いわけではありません。そもそもですよ、姉上は箱庭の秩序を守る為に尽力してきた方!そんな方が誇りも何もかもを捨てて、自ら進んで復讐の魔王になるはずがありませんもの!()()()()()()()()()姉上に『魔王になれ』と唆したんですから」

 

「………ラミア?まさかあの日の出来事を、」

 

「はい、知ってますとも。私にかけられた詩人達の呪いを〝封印〟し、自由をくださった無限王様が、話してくれましたから」

 

「え?それは本当かラミア!?」

 

「私の今の姿を見れば一目瞭然ですよ、姉上」

 

それもそうか、とレティシアはラミアをまじまじと見つめる。

真剣な眼差しで見つめられて、頬を紅潮させるラミア。

そんな彼女に、自分が見ろと言ったじゃないか、と苦笑するレティシア。

しかし、本当に怪物に堕ちた時の姿ではなく、幼くなってる点を除けば最後に言葉を交わした時の愛らしい我が妹がそこにいた。

そんな愛おしい妹を、私は気づいたら抱きしめていた。

唐突に抱きしめられて耳まで紅潮させたラミアが驚く。

 

「あ、姉上!?」

 

「………すまなかった」

 

「え?」

 

「すまなかった。妹に辛い思いをさせてしまった不甲斐ない姉で。許してくれ、とは言わない。だがせめて謝らせてほしい。本当に、すまなかった」

 

「………姉上」

 

弱々しく体を震わせるレティシア。

そんな彼女をラミアが優しく抱きしめ返して、

 

「―――許します。私は姉上の罪を許します。誰もが貴女を許さなくても、私は………私達は、貴女の味方です」

 

「………っ!?」

 

「だって姉上は―――詩人に唄われるような怪物ではありませんから」

 

「………ぁ、ぅ………っ!!」

 

その幾度となく繰り返された信頼の言葉。

それをこの状況で口にするなんて狡い。

そんな心優しい言葉を投げかけられては、今まで塞き止めてきた感情が再び押し寄せてくるに決まってる。

レティシアは、愛する妹の腕の中で子供のように泣いた。

ラミアは泣きじゃくる姉を胸に抱き、子供をあやすように彼女の頭を優しく撫でる。

そんな二人を温かい目で見守る白夜叉。

無限王は、これが姉妹愛というやつか、と興味深く眺めていた。

〝無〟であるが故に、彼女は本物の愛すら知らない無知なるもの。

模倣(まね)をしてきただけの、本物には決して成れない贋作(ニセモノ)

ラミアに手を貸している理由も、『善』になる為の計画の一部に過ぎない。

決してレティシアの為でも、ラミアの為でもなく、自分の為でしかないのだ。

ふと、無限王は白夜叉を見る。

彼女達のように、私も原初の星(マザー)との仲を深められるなら―――原初の星(マザー)の願いを共に目指して歩み寄れる、そんな存在になれるのだろうか?

無限王の求めるような視線に気づいて、白夜叉は苦笑する。

あとでたっぷり可愛がってやるから我慢せい。

それに、おんしにその気があるのならば、私は喜んでその手を取り、あの時のように共に歩もうではないか。

むしろその方が私としては大変嬉しい限りなんだがの。

………だがもし、私の悲願の邪魔をするならば、今度こそ容赦はしない。

〝無〟を殺すのは不可能でも、〝無〟を()()()〝無〟に還すことは可能なのだからな。




もしも吸血姫姉妹が再会出来たなら、という作者の一つの野望達成です。
黒ウサギ達の故郷も何とかして救えないかなと思っていたけど、如何せん相手は原作最強の魔王閣下。
それ以前に閣下VSオリ主戦やそれがきっかけで閣下に✕✕✕などの展開があるので残念ながら黒ウサギは原作兎ということで(すっとぼけ)
まあ、それでもオリ主は自分のことしか考えていない、自分の目的の為ならばなんでもやるヤバイ子なので、十六夜達には頑張ってもらわねば。
そんなオリ主を倒せるようなことを言っていた白夜叉。〝無〟を本来の〝無〟に還すとは一体………?


泣き疲れて眠ってしまったレティシアと、そんな姉を介抱する妹のラミア。そんな吸血姫姉妹を白夜叉に任せて無限王は一人、〝フォレス・ガロ〟へと向かい今にも逃げ出そうとしていたガルドと遭遇する。純血の龍種が自分の前に現れたことを知り愕然とするガルドは………

次回、虎の強化計画と決戦前夜


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虎の強化計画と決戦前夜

遂に10000文字突破………2000文字に戻れる気がしない


泣き疲れたレティシアは、愛する妹のラミアの膝の上に頭を乗せて眠りについた。

俗に言う膝枕である。

ラミアはそんな愛おしい姉のレティシアの頭を撫でながら、寝顔を堪能する。

そんなラミアを無限王がニヤニヤと見つめて一言、

 

「ほう?寝ている隙に姉に接吻するのか」

 

「へ!?」

 

「なんと!おんしらはそういう仲だったのか!」

 

「ち、違います!私と姉上はそういう関係では」

 

「だが満更でもないだろう?」

 

「はい!………ぁ」

 

脊髄反射で頷いてしまったラミアは、ダラダラと汗を掻く。

無限王と白夜叉は、ほほう?と、それは良いことを聞いたと、邪悪な笑みを浮かべる。

これはいいネタを手に入れた。

少年(童)達にこのネタを教えれば、さぞかし面白くなるに違いない。

良からぬことを企む二体の悪神と悪龍に、ラミアはなんともいえない恐怖を感じた。

だが、姉上を守る為ならば誰が相手だろうと返り討ちにしてみせる。

睨み返してくるラミアに、無限王はクックッと喉を鳴らして笑う。

 

「さて、ラミアをからかうのはこれくらいにして」

 

「へ?またからかわれてたんですか私!?」

 

「私はこれから行くところがあるんでな。白夜には二人の面倒を頼むぞ」

 

「って無視ですか!?」

 

「うむ、承ったぞ」

 

「白夜王様まで!?」

 

「「うるさい」」

 

「………はい、すみません」

 

理不尽に怒られてしょんぼりするラミア。

そんな彼女をニヤニヤと見つめる白夜叉と無限王。

なんというか、哀れな吸血姫である。

白夜叉はフッと真剣な表情になり、

 

「ところでおんしがこれから向かおうとしてるところは―――〝フォレス・ガロ〟かの?」

 

「………やはりお前にはバレてしまうか。ああ、そうだ。明日のギフトゲームをちょいとハードにしてやろうと思ってだな」

 

「おんし、本当にいい性格しとるの」

 

「褒めても何も出んよ」

 

「褒めとらんわ!まさかおんし、あの小娘らを殺す気か!?」

 

「はてさて、それはどうかな?」

 

意味深な笑みを浮かべる無限王に、白夜叉は嫌な予感しかしない。

〝フォレス・ガロ〟にこやつを行かせるわけにはいかん。

白夜叉が無限王を止めるべく動こうとしたその時―――パァンと無限王が柏手を打つ。

すると始めから彼女はそこにいなかったかのように忽然と姿を消した。

白夜叉は盛大に舌打ちする。

 

「瞬間移動………いや、〝フォレス・ガロ〟との距離を〝無〟にしたか」

 

干渉したものを〝無〟にする。

それは概念であっても例外はないようだ。

〝ウロボロス〟の本拠地から下層に移動した方法もこれだ。

だが白夜叉はすぐに追いつく手段がある。

それを使おうとして、

 

「―――っ!?」

 

空間跳躍が出来なかった。

それもそのはず、いつの間にか白夜叉に干渉していた無限王が、彼女の全てを〝無〟にしていたからだ。

本来は白夜叉には使わない手段なのだが、今回の企みは邪魔されたくないらしい。

星霊と神霊の力を全て〝無〟にされ非力な少女と化した彼女にはもう、無限王を止める事は出来ない。

白夜叉に出来ることはただ一つ、

 

「変な真似はするなよ、〝   〟」

 

そう願うことだけだった。

 

 

 

 

 

〝フォレス・ガロ〟本拠地。

明日行われるギフトゲームに勝ちの目を見出だせないガルドは、金品を荷に掻き込み逃げる準備をしていた。

相手は取るに足らない名無しの権兵衛〝ノーネーム〟のコミュニティのはずなのに、彼らが喚び出した人材の中にヤバイ奴がいた。

久遠飛鳥という人間の小娘だ。

あの女のギフトはおそらく、精神に干渉する類いのもの。

そんなのを相手に、勝利出来るようなギフトゲームをついぞや思いつかなかった。

結果としてゲームを放棄する選択を取ったガルドだったが、

 

「何処へ行く気だお前」

 

「―――ッ!!?」

 

音もなければ気配も感じさせず、突如としてガルドの前に現れた真っ黒い少女に心臓を飛び跳ねさせる。

なんだ、こいつは!?

出現方法も、何時からいたのかすら理解出来なかった。

だがガルドでもこれだけは理解出来た。

真っ黒い少女の頭に生えた二本の角。

これだけで彼女は自分よりも遥か格上の存在であることを。

その真っ黒い少女はガルドに言う。

 

「〝契約書類(ギアスロール)〟が作成された以上、ゲームからは逃れられんぞ」

 

「う、うるせえ!てかテメェは何者なんだよ!?俺に何の用があるってんだ!?」

 

ガルドの問いに、真っ黒い少女はふむ、と顎に手を当てて考える素振りを見せ、

 

「私が何者か、だと?強いて言うならば〝   (名無し)〟だな。何者でもない、名すら持たない〝   (ノーネーム)〟とでも言っておこう」

 

「は?」

 

ガルドは思わず耳を疑った。

明らかにヤバそうなこいつが名無しだと!?

その容姿は、その角は飾りとでも言うのか………!?

 

「そしてお前に用があるのは、〝ノーネーム〟繋がりであの小娘達に興味があってな。そんな彼女達と明日ギフトゲームをするのがお前達のコミュニティだからだな」

 

「何っ!?じゃあテメェは〝ノーネーム〟の」

 

「ああ。先に断っておくが私は〝ノーネーム〟の()()()()()()()?ただ興味があるだけに過ぎないだけさ」

 

「なっ、そんな話を俺が信じるとでも思ってんのか!?」

 

騙されねえぞ、俺に接触してきたこいつは〝ノーネーム〟繋がりってさっき言いやがったんだ。

なら奴らと無関係なはずがねえ!

警戒するガルドに、真っ黒い少女はやれやれと困ったような顔を見せ、

 

「私の言った〝ノーネーム〟繋がりの意味は、私が名無しだからという事だったんだが………どうやら誤解してるようだな」

 

「あ?………いや、え?そういう意味の〝ノーネーム〟かよ!?紛らわしい言い方すんな!」

 

怒るガルドに、真っ黒い少女はクックッと喉を鳴らして笑う。

こいつ………絶対わざと紛らわしい言い方したな!?

真っ黒い少女はフッと真剣な表情になり、

 

「お前に用があるのは本当だ。今のお前はあの小娘達にとっては取るに足らない相手と見下されているようだが」

 

「………チッ。だが否定出来ねえのが悔しい。たしかに今の俺じゃあのガキ共に手も足も出ねえよ」

 

プルプルと悔しさで拳を震わせるガルド。

そんな俺の拳に、真っ黒い少女が真っ白い小さな手を重ねて、

 

「このままではお前に勝ち目はない。だが―――私の計画に協力してくれるならば、私がお前に強力な恩恵(ギフト)を与えてやらんこともない」

 

「は?」

 

聞き間違えだろうか?

こいつ今さらっと恩恵を与えるとか言ってなかったか………!?

ガルドは我を忘れて叫ぶ。

 

「恩恵を与える、だと!?テメェ、本当に名無しなのかよ!?そんじょそこらの奴に出来る芸当じゃねえぞ!?」

 

「今は私のことはどうでもよかろう?重要なのはお前が私の話に伸るか反るかだ。どちらを選ぶのかはお前の自由だ、どうする?」

 

ガルドの問いを無視して選択を迫る真っ黒い少女。

こいつが何者かは知らないが、恩恵が手に入るなら貰わねえ手はねえ。

だが、

 

「あんたから恩恵を貰うことで、〝六百六十六の獣〟を裏切るようなことにはならねえか?」

 

「ほう?まさかとは思うがお前―――私の角が手に入るとか思ってはおるまいな?」

 

「………(ちげ)えのか?」

 

「お前に龍角を与えるのもたしかに面白そうではあるが、」

 

「は?龍角、だと!?」

 

「龍角を与えては、お前に協力した黒幕の正体が私だとバレてしまう。〝ノーネーム〟には頭の切れる少年がいるからな」

 

「俺の驚きはスルーかよ!?つか自分で黒幕言うかオイ!?」

 

「うるさい」

 

「………わ、(わり)ぃ」

 

何故俺は怒られたんだ?(すげ)え理不尽。

それは兎も角、協力者が龍種なのは間違いない。

あとはこいつが『亜龍』なのか『純血』なのか。

その違いだけで強さは段違い。

『純血』の場合は最悪、最強種の可能性も出てくるが、流石に俺に接触してきたこいつが最強種というのは考えづらいな。

そもそも、名無しのコミュニティに最強種が興味を持つこと自体有り得ねえ話だ。

ガルドが思考を張り巡らせていると、真っ黒い少女がガルドの額に真っ白い小さな指を押し当てて言う。

 

「お前に与えるのは疑似神格だ」

 

「は?」

 

「だがお前では疑似神格を付与したところで耐えられぬ」

 

「は?」

 

「故に出血大サービスで三分間、疑似神格に耐えられるようにしてやろう」

 

「は?」

 

「三分経てば、疑似神格の負荷に耐えきれずにお前の体は崩壊する」

 

「は?」

 

「は?しか言えなくなったかお前?」

 

「うるせえし違えよ!疑似神格を与えてくれるだけでなく、三分間も耐えられるようにしてくれるとかアンタは神様なのか!?」

 

ガルドが驚愕と歓喜の声を上げる。

疑似神格があればあのガキ共にも勝てる。

しかも三分間も猶予をくれるんだ、それだけあれば奴らとのギフトゲームは勝ったも同然。

しかし真っ黒い少女が不思議とばかりに小首を傾げて、

 

「私は神様ではないが?むしろ制限時間を与えたもののそれが過ぎればお前が死ぬ疑似神格という恐ろしい恩恵を与えようとしている死神だぞ?」

 

「そうだな。だが制限時間内に勝てばいいだけの話だろ?」

 

「ほう?勝てるのか?」

 

「ああ。今の俺じゃ無理でも神格級の恩恵を得られたなら、負ける気がしねえよ」

 

「そうか。つまり、私の計画に協力すると受け取っていいな?」

 

「ああ。このままじゃ勝ち目なんてねえからな。いいぜ、アンタの計画に乗ってやる」

 

ガルドは笑って頷く。

真っ黒い少女はフッと笑って、ガルドに疑似神格を与えた。

 

「疑似神格解放と言えば、疑似神格がお前に力を与える。それと同時に三分間疑似神格に耐えられ制限時間を過ぎると」

 

「俺は死ぬ、か」

 

「うむ。それと私というイレギュラーが干渉したのだからな。〝フォレス・ガロ〟のギフトゲーム参戦はお前だけにしろ」

 

「そうだな。疑似神格を得た俺ならそれくらいが丁度いいハンデだ。つか自分でイレギュラー言うかオイ!?」

 

「うるさい」

 

「そう言われると思ってたぜ!」

 

そう同じ手が通用するとは思うなよ!と叫ぶガルド。

真っ黒い少女はそれは残念だ、とわざとらしく肩を落とす。

それから真っ黒い少女は踵を返して、

 

「ああ、そうだ。もしお前が勝利した暁には」

 

「………暁には?」

 

ゴクリと生唾を飲み込むガルド。

真っ黒い少女はニヤリと笑い、ガルドに向き直って言った。

 

「疑似神格を無に還し、別の恩恵を与えてやろう。お前が望むものなら()()()()()?」

 

()()()()………だと!?」

 

ガルドの全身に衝撃が走った。

〝ノーネーム〟に勝つだけで、こいつからなんでも手に入るとか太っ腹過ぎねえか!?

なんでも手に入るってんなら貰うのは当然―――アンタに決まってる!

ガルドは獰猛な笑みと共に真っ黒い少女の手を取った。

 

「………なんだ?」

 

「なんだ?じゃねえよ。勝利の報酬はアンタを貰うんだよ」

 

「………………………ほう?」

 

キョトンとガルドを見つめ返していた真っ黒い少女が、凶悪な笑みで返す。

 

「私を貰い受けるときたか。ただの外道かと思いきや、とんだ強欲なる虎よな」

 

「なんでもって言われたら誰もがアンタを欲しがると思うがな。疑似神格を付与出来る人材を欲しがらないコミュニティはいねえだろ」

 

「………ふむ。それもそうか。とはいえ生憎私はギフトゲームへの参加資格はないお荷物だぞ?」

 

「ギフトゲームに参加出来なくても強力な恩恵を与えられるんなら手に入れねえ手はねえよ」

 

「………私には本物(オリジナル)を造ることも、創作物(オリジナル)を創ることも()()()()()()()―――贋作(レプリカ)しか造れなくてもか?」

 

「………どういう意味かはさっぱりだが、レプリカならなんでも造り放題とか普通にヤベェだろ!?」

 

「………ヤベェのか?」

 

「超ヤベェよ!つうわけで勝利の報酬はアンタで決まりだッ!」

 

はい決定ッ!!と歓喜の声で叫ぶガルド。

〝ノーネーム〟を倒したらこんな七桁(最下層)ともおさらばだ!

上手く行けば五桁(中層)どころか四桁(上層)入りも夢じゃねえ!

広がる明るい人生(未来)を妄想して嬉々とした笑みを浮かべるガルド。

やれやれと、肩を竦ませた真っ黒い少女が意地悪そうに言う。

 

「その夢は〝ノーネーム〟を倒せたらな?」

 

「分かってるさ。〝ノーネーム〟は叩き潰し、アンタを貰う。アンタこそ、やっぱり無しとか言わせねえからな?」

 

「まさか。私がそんな真似するものかよ。では、明日のギフトゲーム、楽しみにしてるぞ」

 

真っ黒い少女はそう言ったのち、パァンと柏手を打った。

すると最初からそこにいなかったかのように、少女の姿は跡形もなく消えていた。

 

「―――………は?」

 

素っ頓狂なガルドの声が、〝フォレス・ガロ〟の本拠地に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

「せいっ!!」

 

〝フォレス・ガロ〟との交渉を終えた無限王は、帰還と共に白夜叉の跳び蹴りが見舞われた。

非力な少女と化した彼女の蹴りなど通用するはずもなく―――というか〝無〟故にすり抜けた。

白夜叉は「チッ」と舌打ちして着地した。

 

「相変わらず手応えがまるでないのおんし。というかさっさと私への干渉を解け!」

 

「む?………ああ、すまないな」

 

パァンと柏手を打つ。

白夜叉への干渉を完全に断ち、彼女は消えていた霊格その他諸々を取り戻した。

白夜叉はそれを感じ取ると、星の殺意を向けながら無限王に問うた。

 

「しておんし。〝フォレス・ガロ〟に何をしてきたのか、嘘偽りなく教えろ」

 

「ん?ああ。疑似神格を与えてきただけだが?」

 

「は?疑似神格じゃと!?おんし、やはりあの小娘達を殺す気ではないか!」

 

「………ふん。疑似神格を付与する恩恵を持つ者がいながら、疑似神格を付与されてパワーアップした程度のガルド=ガスパーにも勝てぬのならば、あの少女達はその程度の存在だったということだけの話だよ」

 

「貴様ッ!!」

 

激昂と共に霊格を解放しようとした白夜叉だったが、ハッと我に返って押さえる。

私が暴れたところで店を壊すだけだ。

それにこやつにはあらゆる力は意味をなさん。

仮令(たとえ)この私が―――全盛期の頃の力を持っていたとしてもな。

無限王は肩を竦ませて、

 

「とはいえ彼女達に勝機がないわけでもないぞ?」

 

「何?」

 

「私との〝契約(ギアス)〟により、疑似神格を解放した状態で維持出来るのは三分間。それを超えればガルド=ガスパーは〝契約〟により死ぬ。簡単に言えば、三分間耐え凌げれば、彼女達の勝利ということだ」

 

「………それを〝フォレス・ガロ〟は受け入れたのか?」

 

「うむ。そもそもだ、私がアレに無償で力を貸すわけなかろう?」

 

「そ、そうだの。………ん?では久遠飛鳥というあの小娘に恩恵を与えたのは」

 

「みっちり修行と言う名の対価を用意してるぞ?耀にも〝生命の目録(ゲノム・ツリー)〟の詳細を教える対価がみっちり修行だからな」

 

「………そ、そうか」

 

恩恵を与えた方は兎も角、恩恵の効果を教えるだけで同じ対価を用意するとは酷い奴がいたものだの。

まさか、ガルド=ガスパーのパワーアップも〝みっちり修行〟の一貫か?

白夜叉がそんなことを思っていると、無限王が思い出したように呟く。

 

「ああ、そうだ。万が一、アレが勝った場合は―――私は〝フォレス・ガロ〟の所有物(モノ)になるらしい」

 

「は?」

 

「いやなに、勝利の報酬になんでもやる、って言ったら『アンタを貰う』とか言い出したからな。そうなったんだよ」

 

「………おんし、交渉が下手だの」

 

「………?」

 

私は下手なのか?と疑問符を頭上に浮かべながら小首を傾げる無限王。

やれやれ、と呆れたような顔をした白夜叉は、

 

「………むしろ私がおんしを貰い受けたいくらいだの」

 

「え?」

 

「私がおんしを貰い受けたらそうだの。まずはメイド服を着せて四六時中私と共にいてもらおうかの」

 

「いやちょっと待て」

 

「ん?」

 

「ん?じゃない。それじゃあ私の自由はどこにある?」

 

「そんなものあるわけないだろ。おんしの自由を縛りたいと思ってる神群は山程おる。それだけおんしを自由にさせたくないってことだからの」

 

「……………むぅ」

 

唇を尖らせて拗ねる無限王。

彼女にしてみれば自分探しをしているだけに過ぎないというのに。

それを縛られてはあの頃の―――箱庭の法則(ルール)の一部として存在していたあの時と大差ないではないか。

そんなつまらない存在には二度と戻りたくない。

折角原初の星(マザー)がくれた裏道を、自由を奪われてたまるものか。

そんな彼女の思考を読み取った白夜叉はニヤリと笑い、

 

「とか言いつつも、〝フォレス・ガロ〟におんし自身を賭けたのはどこのどいつかの?」

 

「……………、」

 

「小娘達が負けたらおんしの自由は奪われるのだぞ?」

 

「…………………………」

 

「ふふん。これに懲りたら自身を賭けるような愚かな真似をするのではないぞ?」

 

「う、うむ。気を付ける」

 

白夜叉に言い負かされて小さくなる無限王。

白夜叉はその勢いのままに、

 

「というわけで、〝ノーネーム〟が勝った場合は私がおんしを」

 

「貰われるわけにはいかぬわ!」

 

「………チッ」

 

白夜叉の作戦は失敗に終わった。

無限王は危うく勝敗関係なく自由を奪われかけて冷や汗を搔く。

………原初の星(マザー)所有物(モノ)になるのは吝かではないが、自由を奪われるのは断固拒否!

 

「………?そう言えばラミアが大人しいが」

 

「ああ。あやつも眠ってしまったからの。別室でレティシアと仲良く寝かせておいた」

 

「………ほう?つまり同じ布団で二人は寝ていると?」

 

「うむ。おまけに向い合わせでの?」

 

「流石は白夜、ラミアの扱いを心得ているな」

 

「ふふん。あやつが起きた時の反応が楽しみだの」

 

邪悪な笑みを浮かべる白夜叉と無限王。

案の定、早朝に目を覚ましたラミアが、レティシアの寝顔ドアップを視界に収めて可愛らしい悲鳴を上げたのは別の話である。

 

 

 

 

 

〝ノーネーム〟side

 

寝間着姿の黒ウサギ・飛鳥・耀の三人は、大広間で話し込んでいた十六夜とジンの下に訊ねていた。

 

「十六夜君。お風呂空いたから入っていいわよ」

 

「あいよ」

 

飛鳥の言葉に十六夜は応えて、大広間から大浴場へと向かおうとする。

黒ウサギはジンの真剣な表情を見て不思議に思い、

 

「ところで十六夜さん。ジン坊っちゃんと何を話していたんですか?」

 

「それは秘密。男同士の語らいってやつ?」

 

「………ボーイズトーク?」

 

「ま、そんなところだ。なあ?御チビ様?」

 

「え?あ、うん」

 

十六夜に話を振られて作り笑いをするジン。

首を傾げる黒ウサギ達女性陣。

ふと、自分の胸元にある木彫りに目がいき、耀はムスッとした。

 

「………結局、ウーちゃん〝生命の目録〟について教えてくれなかった」

 

「そ、そうね。だけど今日はもう夜も遅いし、明日以降に教えてくれるかもしれないわよ春日部さん」

 

「………それもそうだね。何せ明日のギフトゲームの相手は、私達に手も足も出なかった弱々な外道だもんね」

 

「さて、そいつはどうかな?」

 

十六夜が唐突に口を挟む。

それに飛鳥がムッとした顔で彼を睨み付け、

 

「あら?まさか私達があの外道に負けるとでも思ってるのかしら十六夜君?」

 

「いや、そうじゃねえよ。ただ、明日のギフトゲームは一筋縄ではいかないかもしれないって思っただけさ」

 

「………それってどういうこと?」

 

耀が聞き返すと、十六夜はフッと真剣な表情になり、

 

「これは俺の予想だが、明日のギフトゲーム―――無限王が何か仕掛けてくるかもしれないな」

 

「「「「え?」」」」

 

「お嬢様と春日部を〝みっちり修行〟するって言ってたからな。それをする為に手段を選ばないとしたら………あいつは俺達の敵すら利用するんじゃねえか?」

 

「ちょっと待って」

 

耀が待ったをかける。

十六夜はあん?と耀を見返し言葉を待つ。

耀は小首を傾げて、

 

「ウーちゃんは私達を裏切ったってこと?」

 

「裏切るもなにも、最初からあいつは俺達の仲間ですらないぜ春日部」

 

「え?」

 

「あいつにとって俺達は、()()()()()()()()っていう程度でしかないだろうからな」

 

「………それってつまり?」

 

「あいつは俺達の敵でもなければ味方ですらないってことだよ。お嬢様はあいつから恩恵を受け取ってるだろ?なら敵にも何らかの恩恵を与えるアクションがあってもおかしくはないはずだ」

 

ハッとして指に嵌めている〝無限の指輪〟を見る飛鳥。

〝ノーネーム〟に恩恵を与えておいて、〝フォレス・ガロ〟には何も無しでは公平ではない。

そんな一方だけを強くするやり方を無限王は許容しない。

十六夜はそう彼女の行動を予想してみせた。

 

「まあ、俺みたく〝その方が面白そうだから〟っていうのもあるかもしれないがな」

 

「お、面白そうだからと私達を危険に晒そうとするなんて酷い龍がいたものね」

 

「うん。ウーちゃんは後でお仕置き決定」

 

「いえ、無限王様の実力を思い知ったのですから逆にお仕置きされると思いますデスヨ?」

 

「「黒ウサギは黙って」なさい!」

 

「何故ですか!?」

 

「「うるさいから」」

 

「理不尽にも程があります!」

 

黒ウサギがウガー!とウサ耳を逆立てて怒る。

隙あらば黒ウサギ弄りを忘れない問題児二人。

十六夜がケラケラと笑って見ていると、ジンが恐る恐る訊いてきた。

 

「い、十六夜さん。仮に無限王様がガルドに恩恵を与えるとして、どんなものか見当出来ますか?」

 

「まさか。流石にそこまでは―――いや、待てよ」

 

十六夜は急に考え込むと、成る程と意味深な笑みを浮かべ、

 

「………お嬢様か春日部の恩恵を与えてくるかもな」

 

「へ?」

 

「単純に強力な恩恵を与えるだけって可能性も捨てきれないが、お嬢様と春日部を〝みっちり修行〟するなら、お前らの恩恵の可能性が高い」

 

「………どうしてそうなるの?」

 

「お前らは自分の恩恵を使いこなせていないだろ?ならまず、敵を利用してお前らの恩恵がどういうものなのかを知ってもらう必要がある」

 

「あら?ではあの外道は私達が成長する為の踏み台のような感じなのかしら?」

 

「そうとも言う」

 

十六夜が言うと、飛鳥と耀は顔を見合わせて苦笑した。

アレは外道だが、無限王に踏み台としか見られていないのはほんの少し可哀想だと思った。

だがそれを聞いた黒ウサギが真剣な表情で言う。

 

「十六夜さんの予想通りならば、明日のギフトゲームは困難なものとなりますね。飛鳥さんと耀さんの恩恵は、間違いなく強力なのですから」

 

「………そうね。相手があの外道でも」

 

「ウーちゃんが手を貸してるなら、慎重に戦わないとだね」

 

「………無限王様。僕らは明日、ギフトゲームに勝てるのでしょうか」

 

「馬鹿ね、ジン君」

 

「うん。ジンは大馬鹿」

 

「はい?」

 

飛鳥と耀に馬鹿にされてムッとするジン。

しかしそんなジンに、飛鳥と耀は言う。

 

「勝てるのか、ではないわ」

 

「うん。弱気なのは駄目」

 

「え?」

 

「「絶対に勝つ」」

 

「………!!」

 

二人の迷いのない、力強い言葉にジンは驚く。

だが二人の言う通りだ。

最初から弱気になっていたら、勝てるゲームにも勝てなくなる。

ジンは両の頬を叩いて気合いを入れ直した。

一方、黒ウサギは興奮したようにウサ耳をピンと立てて、

 

「そ、それにしても十六夜さんの推察力には驚きですよ!」

 

「そうか?」

 

「はい!もしかしたら久しぶりに、無限王様の拗ねたお顔が見れるかもしれませんね!」

 

「へえ?それは是非とも拝んでみたいものだね」

 

普段は余裕な態度の無限王。

そんなあいつの余裕を崩せるのなら、幾らでもあいつの考えてることを見抜いてやるぜ。

 

「それにしてもだ。黒ウサギの言い方だとまるでかつてあいつを拗ねさせたことがあるみたいだな?」

 

「はいな。〝ノーネーム〟の前参謀だったお方で、無限王様の企みを見事看破してみせて、『貴女には〝主催者(ホスト)〟なんて向いてないわ』と言ったそうです。それに彼女はムスッとしていたそうですから」

 

「………へえ?そいつは面白いな。その前参謀様とやらは女か?」

 

「YES!ラミア様とは別のベクトルの金の美髪で、とても魅力的な方でした」

 

「………ふぅん?そいつは黒ウサギと仲が良かったのか?」

 

「仲がいいも何も、黒ウサギが幼い頃にコミュニティで保護してくれた大恩人でございます。無類の子供好きで、快活で、聡明で………黒ウサギの憧れの方でした」

 

「……………、」

 

十六夜が僅かに暗い顔を見せる。

黒ウサギが驚いたような顔をして、

 

「い、十六夜さん?」

 

「悪い。風呂入ってくる」

 

「へ?」

 

足早に大広間から出ていく十六夜の背を、不安そうに見る黒ウサギ。

十六夜は大浴場に向かいながら、黒ウサギの憧れの人物に心当たりがありすぎて舌打ちする。

………春日部の親父が〝ノーネーム〟の前頭首。

そして〝ノーネーム〟の前参謀は俺の予想が正しければ―――金糸雀。

なら、必然的にお嬢様にも〝ノーネーム〟の元メンバーが関わってる可能性が高い。

これはいよいよ以て、俺達の役目はコミュニティ再建とは別のものに思えてきたな。

〝ノーネーム〟の元メンバーが俺達に何をさせたいのかまではまるで見当つかねえが。

いやそんなことより、これは非常にまずいことになっちまった。

まさかあの金糸雀が、黒ウサギの憧れの人物だったとはな。

なら尚更知られるわけにはいかない。

金糸雀が俺のいた世界で、息を引き取ったその事実を。




ガルド=ガスパー強化。
疑似神格の獲得。
オリ主との〝契約〟により三分間疑似神格使用可だが、三分を超えれば死ぬ。
勝利の報酬はオリ主


〝フォレス・ガロ〟とのギフトゲームを行うために向かった〝ノーネーム〟一行は、上空に浮かぶ謎の黒い立方体を発見する。それを不思議そうに眺めていると、手を叩いたような音と共に黒い立方体の中へと跳ばされる。そしてそこには………獰猛な笑顔を浮かべたガルドが待ち構えていた。

次回、凶悪な虎からジンを死守せよ!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

凶悪な虎からジンを死守せよ!

オリジナル要素多めだから書くの大変でしたそして相変わらずの増えすぎた文字数………


翌日。

飛鳥・耀・ジン・黒ウサギ・十六夜・三毛猫の五人と一匹は、〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを訪れる道中、〝六本傷〟の旗が掲げられた昨日のカフェテラスで声をかけられる。

 

「あー!昨日のお客さん!もしや今から決闘ですか!?」

 

『お、鉤尻尾のねーちゃんか!そやそや今からお嬢達の討ち入りやで!』

 

ウェイトレスの猫娘が近寄ってきて、飛鳥達に一礼する。

 

「ボスからもエールを頼まれました!ウチのコミュニティも連中の悪行にはアッタマきてたところです!この2105380外門の自由区画・居住区画・舞台区画の全てでアイツらやりたい放題でしたもの!二度と不義理な真似が出来ないようにしてやってください!」

 

「ええ、そのつもりよ」

 

「おお!心強いお返事だ!」

 

飛鳥が苦笑しながらも強く頷いて応えて、満面の笑みで返す猫娘。

だがしかし、急に声を潜めて、

 

「実は皆さんにお話があります。〝フォレス・ガロ〟の連中、領地の舞台区画ではなく、何者かが用意した舞台でゲームを行うらしいんですよ」

 

「何者かが?」

 

「………用意した?」

 

「舞台でゲーム?」

 

飛鳥・耀・十六夜と鸚鵡返しの如く聞き返し、黒ウサギがハッと気付く。

 

「〝フォレス・ガロ〟が別の舞台を用意できるはずがありません!やはり彼らの背後に無限王様が!?」

 

「十六夜君の予想は見事に的中したわけね」

 

「ウーちゃん、お仕置き確定」

 

「へえ?無限王が一体どんな舞台を用意したのか超気になるな」

 

「……………!」

 

〝フォレス・ガロ〟の協力者が無限王の可能性が出てきて、それぞれ驚き、呆れ、怒り、喜び、緊張する。

猫娘は無限王?と聞いたことのない………いや、どこかで聞いたことのあるような名前に小首を傾げながらも続ける。

 

「しかも!傘下に置いているコミュニティや同士を全員ほっぽり出してですよ!」

 

「あら?あの外道、一人で私達に勝てると思ってるのかしら?」

 

「それほどに強力なギフトを与えられたってこと?」

 

「そいつは面白いな。三対一で勝てる気でいるのか」

 

「これは………益々もって、用心せねばならないかもしれませんね」

 

黒ウサギの言葉に、参加者の飛鳥・耀・ジンは頷く。

無限王が協力してるのは確定でいいだろう。

何せ、昨日の段階では飛鳥達に手も足も出なかったガルドが、三対一という不利な状況でギフトゲームに望むのだから。

 

「何のゲームかは知りませんが、兎に角気を付けてくださいね!」

 

猫娘の熱烈なエールを受けて、〝ノーネーム〟一行は〝フォレス・ガロ〟を目指す。

 

「あ、皆さん!見えてきました―――へっ!?」

 

黒ウサギが思わず素っ頓狂な声を上げる。

しかしその反応をするのは無理もない。

〝フォレス・ガロ〟の本拠地の上空に浮かぶ巨大な―――()()()()を見れば。

それを見た耀・飛鳥・十六夜が口を揃えて、

 

「………黒い箱?」

 

「………黒い箱ね」

 

「………黒い箱だな」

 

「感想が簡潔過ぎませんか御三人様!?」

 

「「「だって黒い箱(でしょう・だよね・だろ)?」」」

 

「黒い箱ですけども!もっと!他に!感想が!あるでしょう!?」

 

「「「うるさい」」」

 

ピシャリと言い放つ問題児三人。

理不尽なのですよぉおおおおお!!と内心で叫びながら項垂れる黒ウサギ。

ジンはそれを隣で見て苦笑する。

ケラケラと笑う十六夜は、スッと目を細めて上空に浮かぶ巨大な黒い立方体を眺める。

 

「中身が見えないな。これじゃあどうなってるのかも分かんねえぞ」

 

「物音一つしませんね。黒ウサギのウサ耳でも分からないとなると、おそらく我々はあの中へ招かれるのでしょう」

 

黒ウサギがそう言った瞬間―――パァンと手を叩くような音が聞こえて視界が暗転する。

 

「「「「「………ッ!??」」」」」

 

そしてすぐに、真っ黒い世界に―――さっきの巨大な黒い立方体の中に跳ばされたのだと理解する。

床、壁、天井全てが黒で出来た場所。

それと何故か、この中は真っ暗かと思いきや、全体が黒と認識出来るほど周囲を見渡せる程明るかった。

〝ノーネーム〟一行が不思議そうに周囲を見回していると、

 

「よォ、待ってたぜ」

 

その声にハッと振り返るとそこには、獰猛な笑顔で笑うガルドがいた。

昨日の彼と何の変わりも見られないが、自信に満ちた表情に警戒を強める飛鳥達。

そんな彼女達に、ガルドは肩を竦めて話し始めた。

 

「ギフトゲームを始める前に、この舞台について説明するが。とんでもねえ、この真っ黒い箱は真っ黒いレディが姿を変えたモノなんだとよ」

 

「「へ?」」

 

「あら?それってつまり」

 

「ここって、ウーちゃんの中?」

 

「へえ?無限王の腹ん中なのか。知らぬ間に俺達は龍神様に食べられてたのか」

 

「………ウーちゃん?いや、それよりも龍神様だと!?」

 

真っ黒い少女のことをウーちゃんと言う耀に対しても驚きだが、それよりも十六夜の龍神様発言にびっくらこいた。

〝ノーネーム〟と繋がりがあることへの怒りよりも、彼女の正体が龍神ということは、有り得ないと否定した最強種―――〝純血の龍種〟であることを知り、愕然とした感情に支配されたのだ。

何が名無しだ、超絶ヤバイ存在だったんじゃねえか!とガルドが内心で叫ぶ。

彼のあの反応を見る限り、ガルドは無限王の正体を知らなかったようだ。

黒ウサギが苦笑して、ハッと思い出したようにガルドに訊く。

 

「ところで〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパー。〝契約書類(ギアスロール)〟はどこにあるのですか?」

 

「あ?あァ、それならそこのレディが内容を確認してるぜ」

 

へ?と黒ウサギが目を丸くしてガルドが指を指す方に視線を向けると、飛鳥が〝契約書類〟を持ってそれを耀・十六夜・ジンが覗き込んでいた。

 

 

『ギフトゲーム名〝ディフェンスバトル〟

 

・プレイヤー一覧

 久遠 飛鳥

 春日部 耀

 

・プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター

 ジン=ラッセル

 

・勝利条件

ガルド=ガスパーの打倒又はホスト指定ゲームマスター【ジン=ラッセル】を三分間死守する。

 

・敗北条件

降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・ホスト側・特殊ルール

プレイヤー側勝利条件《【ジン=ラッセル】を三分間死守する》が達成した場合、〝契約(ギアス)〟により、ガルド=ガスパーは()()()()

 

宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。

〝フォレス・ガロ〟印』

 

 

読み終わって、飛鳥・耀・ジン・黒ウサギが青ざめた。

十六夜は無言でガルドを見据える。

このギフトゲームは、ガルドが不利すぎる。

プレイヤー側はどちらか一方の条件を満たせればクリアになるのに対し。

ガルドは三分以内に決着をつけねばならないのだ。

しかも三分経過で〝契約〟による強制死亡が定められている。

よくこんな不利な条件が組み込まれたゲームを行おうなどと思ったものだ。

しかし、そんな気遣いを吹き飛ばすような言葉をガルドが言った。

 

「お前らが気にすることじゃねえよ。それにこっちは勝利報酬が真っ黒いレディ………龍神様だからな!悪いがこのゲーム、俺は負けるわけにはいかねェよ」

 

「なんですって!?」

 

「ウーちゃんが報酬?何それ、ズルい」

 

「へえ?無限王が報酬か。そりゃこんなヤバイゲーム開催する覚悟も出来るってわけか」

 

「そういうことだ。お前らは俺を倒す気持ちで挑まねェと、死ぬぜ?」

 

「「「―――っ!!?」」」

 

ガルドの死刑宣告に、飛鳥・耀・ジンの三人は気を引き締める。

やはりガルドは謎に自信に満ち溢れている。

最大限の警戒を以て、ギフトゲームに望むことにした。

 

 

 

 

 

互いに距離を取って睨み合う飛鳥達。

飛鳥と耀は、ジンを背に守る形で臨戦態勢に入ると、

 

『―――あーあー、てすてすてす。皆さんおはこんにちばんはー、ウロボロスのウーちゃんだよー』

 

え?と間の抜けた声を漏らす飛鳥達三人。

ガルドもは?と素っ頓狂な声を漏らす。

だがそんな彼らを無視してウーちゃんが言葉を紡いだ。

 

『―――時にガルド君。ウーちゃんが君に与えた恩恵(ギフト)なんだけどね。どうやら手違いで与える恩恵を間違えてしまったらしいのだ。いやー、ウーちゃんとしたことがやらかしちゃったー、てへっ!』

 

茶目っ気たっぷりなウーちゃんの口調と声音に、その場にいた誰もがポカンと口を開けて天井を見上げる。

あれ?あの子あんなキャラだったっけ?

ガルドはハッと我に返ると、怒りで全身を震わせて叫ぶ。

 

「ちょっと待てやゴラァ!」

 

『ん?』

 

「ん?じゃねえよ!俺がアンタから貰った恩恵は疑似神格なんだろ!?それが手違いで別の恩恵ってことはまさか」

 

『ああ、その点は心配しなくてもいいよガルド君。手違いで与えてしまった恩恵の方が圧倒的に強力だからねー』

 

「あ?」

 

『君が〝インフィニティ解放〟と口にした瞬間、ギフトゲームは開始されるよー。ということで、皆さん頑張ってねー』

 

その言葉を最後に、ウーちゃんは黙り込んだ。

飛鳥達三人とガルドがインフィニティ?と首を傾げる中、黒ウサギと十六夜はインフィニティの意味を理解して全身から嫌な汗を吹き出していた。

インフィニティ―――()()

文字通りの効果を齎す恩恵だとしたら、飛鳥達に勝ち目がないのは明白だ。

ガルドの力が限り無いものになったというのならば。

そのガルドは、インフィニティとやらがどういうものなのかさっぱりだった。

だが疑似神格よりも圧倒的に強力なものということは、本来手に入る力が更に強くなったということだ。

喜ばしいことではあるが、インフィニティがどういうものなのかを知る必要がある。

よく分からねェが、取り敢えずあの龍神様が言っていた通りにしてみるか。

 

「………〝インフィニティ解放〟!」

 

ガルドがそう言うと、彼の全身を真っ黒い何かが包み込んだ。

なんだ、こいつは?

よく分からねェが、身体中に凄まじい力が漲ってきやがる。

ガルドは試しに踏み込んでみると―――()()()()()()という馬鹿馬鹿しい速度を叩き出して、耀に肉薄していた。

 

「え?」

 

「は?」

 

いきなり眼前にまで迫ってきていたガルドに目を見開く耀。

出せるはずのない速度を叩き出したガルドもギョッと目を剥く。

そのままの速度を維持したまま、拳を耀の体に叩き込む。

 

「―――――ぁ、」

 

ガルドの一撃とは思えぬ、デタラメな力で殴り飛ばされた耀は第三宇宙速度を遥かに凌駕した速度で黒い壁に叩きつけられた。

 

「………か、はっ!?」

 

強烈な一撃に、耀は意識が飛びそうになる。

しかし人間が喰らえば消し飛びそうなものをもらったというのに、彼女の五体は一切の損傷も負っていなかった。

あるのは〝死ぬほど痛い〟という感情くらいか。

………?これは、何?

 

「か、春日部さん!?」

 

地に倒れ伏す耀に駆け寄ろうとした飛鳥だが、ハッと我に返ってその場に留まる。

ここを離れたら、ジン君がやられる。

ジンが倒されれば〝ノーネーム〟の敗北が決定してしまう。

飛鳥はジンの盾になるようにガルドに立ちはだかる。

そのガルドは、デタラメな力を手に入れたことを確認して歓喜の笑みを浮かべていた。

疑似神格じゃないことに不安を感じていたが、とんでもねえ。

〝インフィニティ〟とかいう恩恵は十二分ヤバイ代物だと理解した。

後はこいつをモノに出来るか否かだ。

折角だ、すぐに終わらせる前に―――あのガキにもやり返しとくか!

次の標的を飛鳥に定めたガルドは、凶悪な笑みを浮かべて彼女を視線の先に捉えた。

 

「………っ!!」

 

飛鳥は狙いが自分と理解すると、ポケットに忍ばせていた〝無限の指輪〟を取り出して指に嵌める。

そして盾をイメージして無から生み出し、飛鳥は叫ぶ。

 

()()()()()()()()()()!」

 

大した硬さも無かった盾は、飛鳥の〝威光〟によって極大化され、第三宇宙速度で突進してきたガルドの一撃を受け止めてみせた。

 

「何!?」

 

「やった!」

 

だが、盾は役目を終えたように粉々に砕け散ってしまった。

 

「え!?」

 

「ハッ、脅かしやがって!」

 

驚く飛鳥に、ガルドが笑って鋭い爪を奔らせ、彼女の左肩を掠めた。

 

「―――痛っ!?」

 

「オラァ!もう一発食らいなァ!」

 

更に鋭い爪を奔らせようとして、

 

「こ、このッ!()()()()()()()!」

 

飛鳥は〝無限の指輪〟で風を無から生み出し、〝威光〟により極大化された風は神風となってガルドに襲いかかる。

だがその神風はガルドに直撃したものの、上体を僅かに反らさせた程度で霧散してしまった。

 

「なっ!?」

 

「なんだァ?もう終いかァ?」

 

驚愕の声を上げる飛鳥を、凶悪な笑みを浮かべたガルドが追撃する。

 

「く、ぅ………!」

 

右腕、左脚、右脇腹を鋭い爪が掠めて激痛に苦悶の声を漏らす飛鳥。

一撃で仕留めに来ずじわじわといたぶってくるガルド。

………趣味が悪いわね………けどこのままじゃいけない!

飛鳥はガルドから一旦距離を取るべく、〝無限の指輪〟で水を無から生み出すが、

 

「させるかよ!」

 

飛鳥が次の手を打つ前にガルドが右腕を伸ばす。

 

「きゃっ!?」

 

短い悲鳴を上げる飛鳥。

彼女の華奢な体をガルドが右手で鷲掴み、引き寄せた。

凶悪な笑みで飛鳥を見つめるガルド。

 

「ハハッ、捕まえたぜレディ」

 

「く、こ、この―――」

 

飛鳥が無から生み出した水で何かをしようとしたが―――ミシミシ。

 

「あ、がっ………!?」

 

「おっと、大人しくしねェと握り潰すぜ?」

 

飛鳥の体を鷲掴む手に軽く力を込めて笑うガルド。

骨が軋み、あまりの激痛に堪らず声を上げる飛鳥。

そんな彼女を見て、満足そうに笑うガルド。

昨日までは手も足も出せなかったこいつらを追い詰めている、この事実が堪らく嬉しいのだろう。

さて、こいつをどうするか。

このまま一気に握り潰して殺すか?それともゆっくり絞めて殺すか?

そんなことを考えていたガルドは、背後に気配を感じて振り向いた。

そこには、怒りの形相で睨み付けていた耀がいた。

 

「飛鳥を、離せッ!!」

 

「あァ?」

 

耀の要求を無視して、ガルドは飛鳥をゆっくり絞めて殺すことにした。

ミシミシ、ミシミシ。

 

「くぁあああああああああ―――――ッ!!?」

 

先程の比ではない痛みに絶叫する飛鳥。

 

「飛鳥ッ!?こ、このッ!!」

 

耀が飛鳥を握り潰そうとするガルドの右手を掴み、引き剥がそうとするがびくともしない。

こうしてる間にもガルドが飛鳥をゆっくりと絞めていく―――ミシミシ、メキメキ。

 

「――――――――――ッ!?!?」

 

言葉にならない絶叫を上げる飛鳥。

このままでは飛鳥が死んでしまう………!

だが耀の力では出鱈目に強化されたガルドの手から救える手段がない。

何か、飛鳥を助け出す手はないか………!?

 

「邪魔だッ!!」

 

「え?きゃっ!?」

 

羽虫を払うような仕草でガルドが左腕を振るい、耀の体は呆気なく吹き飛んで壁に激突し、床に落下する。

 

「ぐ、うっ………!?」

 

床に倒れ伏す耀。

圧倒的な力の差。

為す術無しの絶望的な状況の中、耀は悔しくて悔しくて涙を流す。

泣いてる場合じゃない。

早く飛鳥を、友達を助け出さないといけないというのに。

………私はなんて弱いんだろう。

友達一人、助けられる力すらないなんて。

………だけど私は、友達を………飛鳥を失いたくない!

私はどうなってもいい!

目の前の友達を救えないなら死んだ方がマシだッ!

だから、お願い………私に貴女の力を貸してッ!!

 

 

『―――いいよ』

 

 

………え?

 

 

『―――自らを犠牲にしてまで力を得たい想い………その願い、私が叶えてあげる』

 

 

………本当に?

 

 

『―――その代わり、死ぬほど辛い思いをすることになるけど………それでも私の力を求める?』

 

 

……………うん。だから、力を貸して!

 

 

『―――ふふ、では契約成立だね。存分に私の力を使うといい』

 

 

………うん、ありがとう。使わせてもらうね―――ウーちゃん。

 

 

 

 

 

ウーちゃんとの契約成立後、耀は立ち上がった。

内心で〝インフィニティ解放〟と呟く。

すると、私の全身を真っ黒い何かが包み込んだ。

全身にウーちゃんの力を感じる。

凄まじい力が私の全身を駆け巡っているのが分かる。

これならもう、負ける気はしない。

耀はガルドを睨み付けると、踏み込み一瞬で肉薄した。

 

「何ッ!?」

 

驚くガルドを、耀は蹴り抜く。

正確には飛鳥を握り潰そうとするガルドの右手………ではなく右腕を。

 

「ギッ!?」

 

その一撃にガルドは堪らず捕らえていた飛鳥を手離してしまった。

宙に放り出された飛鳥を、耀が抱き止めて着地する。

 

「………かすか、べ………さん?」

 

「ごめん、飛鳥。もう大丈夫だよ。あとは私に任せて」

 

飛鳥に優しく語りかけながらジンの下へ歩み寄ると、

 

「ジン、飛鳥をお願い」

 

「え?は、はい」

 

「私がガルドを押さえる」

 

耀はそう言ってジン達に背を向けると、ガルドの下へ向かう。

ガルドは急激な変化を見せた耀を睨み付けて言った。

 

「テメェ、その力………龍神様のものか?」

 

「そうだよ。私は友達の―――ウーちゃんの力を貸してもらった。お前から飛鳥達を守るために」

 

「ハッ、そうかよ。だがテメェ如きに、龍神様の力を使いこなせるのかァ?」

 

「………その言葉、そっくりそのまま返すよ」

 

ガルドと耀は睨み合い、その視線の先で激しい火花を散らす。

床を踏み込み、第三宇宙速度という馬鹿げた速さを叩き出して互いを肉薄し合い、激突した。

ギフトゲームが開始されて1分も経っていない。

この戦いは、残り2分以上ガルドを耀が押さえ込めねば勝ち目はない。

何故なら、ウーちゃんから〝インフィニティ〟を与えられたガルドに対抗出来るのは、〝インフィニティ〟を借りた耀だけなのだから。

 

 

 

 

 

耀とガルドが激しく衝突し合い、残り2分の頃。

観戦者の十六夜と、観戦兼審判者の黒ウサギは息を呑んで見守っていた。

出鱈目な力を得た二人と、出鱈目な速度で衝突し合っているというのに、周囲に何も影響を及ぼしていない不可解な空間。

ウーちゃんの中ということらしいが、彼女が周囲に影響を及ばさぬよう全て吸収しているというのか。

観戦者達とボロボロの飛鳥やそんな彼女を介抱しているジンに影響が無いのなら、耀も彼らの事は気にせず全力でガルドを止めることが出来るということだ。

十六夜は、無限王の意図を考えていた。

最初はガルド(ヤツ)だけに力を与えてお嬢様達を試すものかと思ったが、そうではなかったな。

まず、ガルド(ヤツ)を出鱈目に強くすることで、勝ち目のない状況を作った。

そんな状況の中でお嬢様達がどこまでやれるかを試し、追い詰められ絶望の淵に立たされたなら―――元々春日部に与えていた力を解放する………ってところか。

これから分かることは、無限王が俺達のコミュニティを壊滅させようとしているわけではない。

もし壊滅させる目的があるなら、ガルド(ヤツ)にだけ力を与えて蹂躙させればいいだけだしな。

ガルド(ヤツ)は、お嬢様と春日部の力を測る為の実験台。

予め春日部にも力を与えていたのがその証明になる。

このギフトゲームは最初からお嬢様と春日部を試すものであり、ガルド(ヤツ)はただ利用されただけってことか。

まあ、元々ガルド(ヤツ)ではお嬢様達の敵にすらならなかったらしいから、そんな相手を少しの間だけでも圧倒出来たんだし気分は悪くねえだろ。

そんな俺の隣で、黒ウサギが安堵の溜め息を吐いた。

 

「そ、それにしても先程はヒヤヒヤしたのですよ」

 

「あん?」

 

「飛鳥さんがあのまま殺されてしまうのではないかと………もし耀さんが飛鳥さんを助けるのが少しでも遅れていたら、黒ウサギがガルドを止めに行ってました」

 

「審判のお前がそれやったら〝ノーネーム〟側がルール違反で敗北決定なんだが?」

 

「そ、それでも!殺されそうになっている同士を見捨てることなんて、黒ウサギには出来ませんもん!」

 

「そうかい。もしそうなってたら俺がお前を止めてたかもな」

 

俺の言葉に、黒ウサギは驚愕し、そして激怒した。

 

「な!?ど、どうしてですか!?十六夜さんはあのまま飛鳥さんが殺されていても何とも思わないのですか!?」

 

「そうじゃねえよ。相手は命を賭してゲームに望んでんだ。そんなゲームに参加者じゃない俺達が手を出していいわけがない。それにこのゲームには殺害禁止とかないだろ?」

 

「そ、それは………!で、ですが」

 

「ですがも糞もあるか。私情でルールを破って同士を助けようとするお前に、公平がモットーの審判を務める資格があるのか?」

 

「―――――っ、」

 

「それに無限王が俺達を死なせるようなことはしねえよ。もしその気があるなら―――ファーストコンタクトの時点で皆殺しにされてただろうからな」

 

そうだ、あいつは俺達をいつでも殺せる………そんなヤバイヤツだ。

ファーストコンタクトの時に殺しに来なかったし、何よりも俺達に興味があるらしいからな。

早々に殺されることはないだろう。

黒ウサギもハッとして気が付き、納得したようだ。

 

「い、十六夜さんの言い分は分かりました。たしかに無限王様の性格を考えれば、殺し合わせるような真似はしません」

 

「へえ?じゃああの虎男が負ければ死ぬようにしたのにも、他に理由があるのか?」

 

「はいな。おそらく、ガルドが幼い子供の、罪無き者の命をたくさん奪ったからでしょう。無限王様はそういった者達の命を弄ぶ輩には容赦がないそうですからね」

 

「そいつはおっかいな。じゃあ何か?あの虎男は勝っても負けても死ぬってか?」

 

「お、おそらくガルドはどう足掻いても〝死〟は確定でしょう。無限王様に目を付けられた時点で詰んでいたのです」

 

「そうか。なら合掌くらいはしとくか」

 

「そ、そうでございますね」

 

俺と黒ウサギは静かに手を合わせて虎男に合掌した。

丁度残り時間1分を切ったところだった。

 

 

 

 

 

残り時間1分の頃。

気絶している飛鳥を介抱していたジンは、ガルドと激闘を繰り広げている耀を見守っていた。

まあ、僕なんかの動体視力じゃ全く見えませんけど!

耀さんに任されたことを、飛鳥さんを守らないと!

あ、いや、僕がやられたら〝ノーネーム〟の敗北になっちゃうから庇ったりしたら飛鳥さんに怒られるかな………。

でも、飛鳥さんは命懸けで僕を守ってくれた人だ。

これ以上、飛鳥さんに負担はかけられない。

自分の身は自分で守りつつ、飛鳥さんを守らなければ!

そんな僕に、気を失っていた飛鳥さんが目を開けた。

 

「………ジン君?」

 

「あ、飛鳥さん!?よ、よかった!」

 

「………あれ?いつの間にか気絶してたのね、私」

 

「あ、あれだけ血を流してましたからね………無理もありません」

 

そう、飛鳥さんの出血は酷いものだった。

出血だけじゃない、おそらく身体中の骨にもヒビが入っているかもしれない。

あれ以上絞められていたら………と思うとゾッとした。

重症だったはずの飛鳥さんは、今は完全に回復していた。

あれは一体何だったのだろう?

突然、飛鳥さんの全身を真っ黒い何かが包み込んで、暫くしたらそれは消えて―――飛鳥さんの怪我が完治していた。

無限王様の仕業なのだろうか?

聞くに、ここは無限王様の中だと。

ならばこの舞台は、参加者と主催者がギフトゲーム中は死なないように、死にかけた者は治癒されるような能力が備わっているというのか?

飛鳥さんは、完治している自分の状態に驚いて勢いよく立ち上がった。

 

「え!?何で!?あの外道にやられて身体中が痛かったはずなのに!?」

 

「ぼ、僕にも分かりません。ですがおそらく無限王様の仕業だと思います。何せこの舞台は、無限王様の中ですから」

 

「あら、それっていいのかしら?無限王さんは参加者を治癒する行為などして」

 

「そ、それも僕には分かりません。ですがおそらく、ガルドも死にかけたら治癒されるかもしれませんね………無限王様はどちらか一方を贔屓するようなことはしませんし」

 

「そうね。春日部さんがあの外道と渡り合えてるのを見ればそのことが分かるわね」

 

最初は蹂躙されかけたのだけれど、と飛鳥さんが皮肉を言う。

そんな彼女に、僕は苦笑する。

丁度残り30秒を切ったところだった。

 

 

 

 

 

残り時間30秒の頃。

上空を駆る黒い流星が二つ、激しい衝突を繰り返していた。

耀とガルドだ。

互いにウーちゃんの〝インフィニティ〟により、出鱈目な力を手にし、幾千幾万もの攻防を繰り広げていた。

互いに第三宇宙速度という馬鹿げた速さでぶつかり合っていたが、いよいよ残り時間が30秒を切ってガルドに焦りが生まれる。

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!このままじゃ俺はジンの野郎をぶちのめして勝利するなんざ出来ねェぞ!?

龍神様は簡単には勝てないようにあのガキにも同じものを与えてやがった………!

しかもあのガキ!どういうわけか今の俺と互角に渡り合えてやがる!

 

残り時間20秒。

 

どうするどうするどうするどうするどうする!?

時間は俺を待ってやくれねェ!

無理矢理にでもこのガキを振りきらねェと勝機はねェ………!

こんなところで、俺は死にたくねェんだよ!

 

残り時間10秒。

 

クソクソクソクソクソッ!

死にたくねェ死にたくねェ死にたくねェ死にたくねェ死にたくねェッ!!

俺は………ッ!

俺の野望を………ッ!!

諦められるかぁあああああッ!!!

 

残り時間5秒。

 

ガルドの絶対に負けられない執念が、耀よりも速く動く力を引き出した。

 

「しまっ………!?」

 

耀が必死に追いかけるが、ガルドに追い付けない。

勝った、とガルドは笑みを浮かべて標的(ジン)に突貫するが、

 

「な、にィッ!?」

 

残り時間4秒。

 

ジンを守るように連なる無数の壁。

飛鳥が〝無限の指輪〟から土を無から生み出し、それを〝威光〟で極大化させて強硬な壁を造っていた。

数にして10枚。

ガルドは第三宇宙速度を遥かに凌駕した速さを維持したまま、壁に突っ込む。

 

残り時間3秒。

 

飛鳥が造り出した強硬な10枚の壁は、それでもガルドの強固な意思を止めること敵わず、全て粉砕されてしまった。

 

残り時間2秒。

 

飛鳥は自分の体を盾にしてジンを守る。

ガルドは彼女ごと背後にいるジンを貫こうとした。

ジンは、飛鳥の背中に抱き着き、揃って前に倒れ込む。

 

「きゃっ!?」

 

ガルドの鋭い爪は、ジンの服を掠める。

僅かに彼の体に当たらなかった。

どうやら体に当てなければガルドの勝ちにはならないようだ。

 

残り時間1秒。

 

ジン達のすぐ後ろに着地したガルドは、最後の悪足掻きでジンの背に向けて鋭い爪を振り下ろそうとするが、眼前に現れた耀の蹴りが軌道を逸らし空を切る。

そして耀の追撃の拳が、ガルドの鳩尾に突き刺さり後方に吹き飛ばされた。

 

残り時間0秒。

けたたましいブザー音のようなものがウーちゃんの中に響き渡る。

ギフトゲーム終了の合図だろう。

黒ウサギが勝利宣言をする。

 

『勝者、〝ノーネーム〟!!』

 

勝利を掴み取った耀、飛鳥、ジンは喜びを分かち合う。

そんな様子を、壁に凭れ掛かって眺めていたガルドは、己の敗北を知る。

 

………あァ、俺は………負けたのか………。

だが、俺は不思議な気分だ………負けたのに、俺は今、満たされている。

………そうか、これが………ズルをしないで正々堂々、闘った証なのか。

……………ッ、俺は、なんてことしちまってたんだ………ッ。

 

不意に甦る、過去の過ちの数々。

 

そうだ、俺は………あんな醜いやり方をしていたんだな………ッ。

………あァ、成る程な………あの龍神様は、俺にこの事を気付かせる為に、この舞台と力をくれたのかァ………

 

『―――ふふ、ようやく理解したようだね』

 

………ッ!?

 

『どうだった?私の用意した舞台(ゲーム)は?楽しかった?』

 

……………そうだなァ、このゲームは………楽しかったぜ。

 

『それはよかった。さて、君はもう眠る時間だよ』

 

……………そう、か………俺は、死ぬんだったな。

 

『うん。君は何人もの無辜の命を感情一つで奪ってしまった大罪人。彼らの〝これから〟を奪った大悪党。だから私はお前を絶対に許しはしない』

 

……………ッ、

 

『―――だけど、そうだね。約束通り、君は私の計画に協力してくれた者。餞別をくれてあげる』

 

………これから死ぬ俺にかァ?

 

『ふふ。だけどこれは大親友の白夜ちゃんすら知らない極秘だよ?まあそれは私の―――本当の正体なんだけどね』

 

……………は?

 

『あー、やっぱり君、私が龍神様だと思ってるでしょ?答えはNOだよ』

 

……………じゃあ、あんたは何者なんだ?

 

『ふふ、心して聞くといいガルド君!私の正体は〝■■■〟。君に与えた〝インフィニティ〟は〝■■を■■する能力〟だよー。分かったかな?』

 

………!?そうかッ!それが俺があんたから―――〝■■■〟様から与えられてた力の正体だったのか………ッ!

 

『様呼ばわりは擽ったいからやめてよ。まあ、そういうことだから―――おやすみ、いいゆめを』

 

………あァ、おやすみ―――

 

それを最期に、ガルド=ガスパーは眠るように息を引き取り絶命した。

今頃彼は、いい〝ゆめ〟を見ていることだろう。

その〝ゆめ〟から覚めることは永遠にないが。

ウーちゃん改め〝■■■〟は楽しそうに笑い、そして呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふ、次は君の番だよ。私を失望させないでね―――()()()()()()()()君♪』




なんかガルドがメインみたいになったけど、まあいいか

オリ主のキャラが崩壊?いいえ、あれが彼女の素です

オリ主は相変わらず正体隠すのが好きらしい

〝■■■〟
〝■■を■■する能力〟
十六夜の本当の姓を知っている………?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

〝ゆめ〟と〝あくむ〟と可能性

サブタイトル良いの思いつかなんだ。
自己解釈要素あり。


〝サウザンドアイズ〟―――白夜叉の私室。

無限王から観戦許可を貰った白夜叉は、ギフトゲーム〝ディフェンスバトル〟の一部始終を空間に開いた〝孔〟から見て唖然としていた。

何だ………アレは?

理解不能、といった調子だった。

〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパー。

あれに与えた恩恵(ギフト)は疑似神格ではなかったのか?

〝インフィニティ〟という聞いたことのない恩恵。

いやそも、〝インフィニティ〟―――〝無限〟を権能として使用することはできないはず。

理由は簡単だ、〝無限〟を与えた者は誰であろうと〝全能領域(第三桁)〟級の力を得てしまうからだ。

身も蓋もない事を言ってしまえば、〝最下層(第七桁)〟の者ですら〝全能領域〟級の力を得られるということになる。

まあ尤も―――〝無限〟の霊格に自身の肉体が耐えられればの話だがの。

流石に〝全権領域(第二桁)〟は幾ら〝無限〟の霊格を手にしても、〝全能の逆説(オムニポテント・パラドックス)〟によって霊格が封印されるから無理だの。

〝全権領域〟に至るには、全ての権能をその身に収めるか。

私のような、生まれた時から存在する宇宙真理(ブラフマン)そのものか。

〝全権領域〟の者で、原初の星(わたし)と同世代の世界龍(あやつ)、そして〝サウザンドアイズ〟の旗印にもなっておる、私を天と地に解体した創世と終末の双女神のあやつら二人の四人は特に別格の存在だの。

それは兎も角。

無限王(あやつ)は〝無限〟を与えたのではなく、別の恩恵を与えているのは間違いないだろう。

〝インフィニティ解放〟の合図も、無限王(あやつ)がガルドに元々与えていた『何か』を解放する為のものか。

その『何か』については、全く心当たりがない。

だがあの身体能力は―――あの小僧もとい逆廻十六夜が無限王(あやつ)と力試しをしている際に見せたものと酷似している。

そしてその力をガルドだけでなく、あの小娘もとい春日部耀も使っていた。

無限王(あやつ)から力を借りた、とか言っていたがまさか昨日の段階で与えていたというのか?

もう一つ、無限王(あやつ)が造ったあの恩恵………〝無限の指輪(エターナル・リング)〟だったか。

あれは〝純血の龍種〟のデフォルト機能の一部である〝無から有を生み出す能力〟らしいが、これも恐らく別の恩恵だろう。

そも、そんな恩恵は造れないはずだ。

造れてしまっては、最強種の力の一部を誰もが振るえてしまうチート恩恵になってしまうからの。

………無限龍よ、おんしは一体何者なんだ?

白夜叉は真剣な表情で、黒い立方体から元の姿に戻っていた無限王を〝孔〟から覗き見る。

 

「無限王様は一体全体彼らに何をしたんですかね?あの戦いはどう考えても最下層のものではありませんよ!」

 

「そうだな、ラミア。だが私達では無限王の力を測ることはできないぞ」

 

「それは十二分理解していますよ、姉上。今でも、私にかけられた詩人達の呪いをどうやって封印しているのか見当もつきませんし」

 

「………?それはどういう意味なんだ?」

 

「そうですね。無限王様は『ラミアちゃんはどうしたい?』って聞いてきたので、私は『元の姿に戻りたい』って答えました」

 

「………ふむ。それでどうなったんだ?」

 

「はい。そしたら私の全身を眩い光が包み込んで、その輝きに思わず目を閉じたのですが………次に目を開けた時には、私の望んだ通りに―――〝元の姿〟に戻っていました!」

 

「なっ………!?」

 

まるで魔法みたいな出来事を語ったラミアに、愕然とするレティシア。

詩人の力に干渉することは〝全能領域〟の者であっても容易ではない。

それを容易く行えるということは無限王は―――

 

「あ、でも無限王様はこう仰っていました。『これはラミアちゃんが望んだ〝ゆめ〟がかつて見ていた〝あくむ〟を上書きしてるんだよ。でもそれが解けてしまったら君は再び〝あくむ〟を見ることになる。だから気を付けてね』と。どういう意味なんでしょうね?」

 

「………そうだな。私にもさっぱりだ」

 

〝ゆめ〟とか〝あくむ〟とかは恐らく別の意味を表しているのだろうが、敢えて他の言い方をしてるのは、無限王は意図的に何かを隠しているのかもしれない。

〝ゆめ〟はラミアの望んだ〝元の姿に戻る〟ことで。

〝あくむ〟は〝詩人達の呪いをかけられたラミア〟を指すはず。

そして〝ゆめ〟と〝あくむ〟は対極に位置した表現と取れる。

………ラミアの望んだ通りになった?

望み通りの結果が齎される恩恵。

そんなものがこの箱庭に存在していいのか?

仮にあったとして、そんなものを使用していいのか?

………いや、そんなことは私にとってはどうでもいい。

彼女の干渉がなければ、こうして最愛の妹に、ラミアとの再会を果たすことも出来なかったのだから。

三年前に、金糸雀達が箱庭を追放されたことを無限王の口から知らされた時は、この世の終わりかと思い絶望した。

詩人の力に対抗するには、同じ詩人の協力が必要だった。

その力を持つ金糸雀を失って、ラミアを取り戻すことなど不可能、二度と叶わないものだと諦めていた。

だが違った。

二百年前に既に、無限王の手によってラミアは救い出されていたのだからな。

それから今日まで、ずっと見守ってくれていたのだから気恥ずかしい。

恐らく私が〝ペルセウス〟に買い取られてからも、無限王の力でラミアに………ッ。

………そ、そういえばラミアは私のファンとか言ってたな昔。

…………………………、。

い、いや、実の妹が実の姉である私にそんなス、スト………ストーカー行為を働くわけない………よな?

ふと私の腕の中に収まるラミアを見つめる。

ラミアが私の視線に気づいて小首を傾げた。

 

「姉上?どうかしましたか?」

 

「………いや、なんでもない」

 

「???」

 

い、言えるわけない!

わ、私に〝ストーカー行為してないか?〟なんて!

よ、よし!この件は保留にしとこう!うん、そうしよう!

私はラミアの頭を優しく撫でながら思考を放棄した。

 

「………本当に仲が良いの、あやつら」

 

仲睦まじい吸血鬼姉妹を横目で見て、彼女達に聞こえないくらい小さな声で呟く白夜叉。

そして会話の内容に聞き耳を立てていた白夜叉は考え込む。

無限王(あやつ)がラミアを救った方法が、〝ゆめ〟を〝あくむ〟に上書きした、とな?

対象の〝ゆめ〟を叶え齎す恩恵。

………うむ、分からん!

そんな出鱈目な恩恵、聞いたことも見たこともないわい。

だが………この出鱈目な恩恵もまた万能ではないように思えるの。

それは、〝ゆめ〟が解けてしまうという点だ。

………もしや無限王(あやつ)が正体を隠していることと関係しているのか?

正体を知られるか、能力を知られるか。

その二つのどちらか、或いは両方看破されることで無限王(あやつ)は力を失い〝ゆめ〟が解けるということか?

だとするならば、やはり無限王(あやつ)の正体を突き止めねばならんの。

この推測が正しければ、私のこの行為はレティシアとラミアの仲を裂くことになる。

再びレティシアを地獄に突き落とすような結果になるだろう。

だがもし、無限王(あやつ)が箱庭の脅威になる可能性があるのならば、早めに対処せねばならない。

もう二度と、あのような愚行を繰り返さない為にも。

私はこの箱庭の都市(世界)が大好きだ。

故にこそ、この箱庭の都市(世界)を守る為ならば手段は選ばない。

仮令(たとえ)その選択が、外界を見捨てるようなことであってもな。

 

 

 

 

 

〝フォレス・ガロ〟―――本拠地。

ギフトゲーム〝ディフェンスバトル〟を終えると、参加者の飛鳥・耀・ジンと観戦者の十六夜、観戦兼審判者の黒ウサギは黒い立方体の中から地上へと跳ばされた。

そして黒い立方体だったものは形を変えて、真っ黒い少女もとい無限王の姿となり、飛鳥達の下へ降り立って、

 

「やあ君達。ゲームクリアおめでとう!」

 

「おめでとう、ではないわよ無限王さん!?」

 

「ん?」

 

「ん?でもないよ、ウーちゃん!」

 

「………?」

 

「小首を傾げてとぼけるのもなしだぜ、無限王サマ?」

 

「……………」

 

「黙りも許さないのですよ、無限王様!」

 

「さ、流石に僕も先程のギフトゲームには文句を言いたいです!」

 

女性陣+ジンの怒りの籠ったような目と、ニヤニヤするものの目が笑ってない十六夜が無限王に視線を向ける。

無限王は何故自分が責められるのか分からないといった調子で小首を傾げた。

 

「………私の用意したゲーム、そんなにつまらなかったの?」

 

「つまらなかったわけではないわ。だけれど貴女、あの外道を強くし過ぎよ!そのせいで死にかけたじゃない!」

 

「私も、あの外道に力一杯ぶん殴られて死ぬ程痛かった」

 

「僕も、あの時飛鳥さん達が死んでしまうのではないかと気が気じゃありませんでしたよ!」

 

「あー、うん。たしかにガルド君を強くし過ぎた件で君達の命を脅かしてしまったことには謝るよー」

 

謝る気ゼロである。

無限王のその態度に、飛鳥達三人は蟀谷に青筋を立てる。

しかし無限王はスッと目を細めて言った。

 

「だけどさ君達。何処の傘下のコミュニティに喧嘩を売ったのか、覚えてる?」

 

「………?外道の背後にいる魔王のこと?」

 

「そう。その魔王は箱庭上層の〝全能領域〟に席を置く強力な存在だよー………さっきの私が強くし過ぎたガルド君とは比べ物にならないくらい遥かに、ね?」

 

「「「―――――っ!!?」」」

 

その話を聞いて、飛鳥達三人は戦慄した。

さっきの外道より更に………?

そのことを知っては勝てる気がしない。

飛鳥達のその反応に、無限王は意地悪く笑い続ける。

 

「そんな魔王の傘下に喧嘩を売ったんだし、〝全能領域〟を相手に勝てる気満々なんだなあーと思ってね、ガルド君を思い切って強くしてみたけど………あの程度にすらやられてたから吃驚(びっくり)したよー。いやー、無知って怖いね!」

 

「「「……………、」」」

 

図星を突かれて言い返せない飛鳥達。

言い方が一々癇に触るが。

すると意外な人物が無限王を睨み付け、

 

「さっきの虎男の力があの程度だと?」

 

「ん?どうして君が怒るのかな十六夜君?」

 

「ハッ、何とぼけてやがるんだよ。あの虎男の力―――俺並みにしたのはすぐに見抜けてんだよ」

 

「え?」

 

十六夜の言葉に驚く黒ウサギ。

たしかに十六夜さんの身体能力に匹敵するとは思っていましたが、そういうことだったのですか!?

無限王は「ふうん?」と満足気に笑って二度三度と頷いた。

 

「マーベラス、大正解だよ十六夜君。やっぱり君は聡いねー。そうだよ、ガルド君の力は十六夜君級にして耀ちゃん達を試したんだよー」

 

「よ、耀ちゃん………?」

 

無限王にちゃん付けされて困惑する耀。

そんな耀ちゃんをスルーして無限王が続ける。

 

「最初は飛鳥ちゃんの力、〝疑似神格〟級にしようかなーと思ったけど………鋭い十六夜君に読まれるだろうと思って変更したんだ。魔王の力がどれくらいかを経験してもらうのも兼ねてるけどね」

 

「俺も最初はそうくると踏んでたぜ。流石に俺並みにするとは思わなかったが」

 

「本当にぃ?」

 

「あん?」

 

「君なら〝みっちり〟の意味を理解して更に裏の手を使ってくると予想してたんじゃないの?」

 

無限王がニヤニヤと笑いながら十六夜を見つめる。

十六夜は観念したように肩を竦めて苦笑し、

 

「………まあ、俺並みにしてくることも予想はしていたさ。だが春日部という無限王の友達が参加者にいるから、流石にこれはないかもしれないと切り捨てたんだよ」

 

「へえ?流石は()()()()()()()()()君だねー、お優しいことで」

 

「―――ッ!?テメェ、何でその事を知って!?」

 

「え?本当にそうなの!?それは意外だなー」

 

「………あ?」

 

「ん?どうしたの、十六夜君?」

 

「………いや、なんでもねえよ」

 

「………ふうん?まあ、いいや」

 

無限王は意味深な笑みを浮かべて十六夜から離れた。

十六夜は、不可解とばかりに無限王を睨み付ける。

本当に知らないなら、〝面倒味の良い〟って言うはずだが、〝年長者〟まで言ったんだ、間違いなく無限王(こいつ)は俺の事を知ってる。

………まさか、金糸雀の死も………?

そう思った瞬間―――

 

 

『―――そんなに警戒しなくても大丈夫だよ十六夜君♪君が黒ウサちゃんに隠している事をバラすような真似はしないからさ♪』

 

 

……………っ!?

 

 

『アハハ、驚いてるね十六夜君。どうして私の声が、君の脳内に直接響いているのか意味不明でしょ?』

 

 

当たり前だクソッタレ!てかいきなり脳内に直接話しかけてくるなよ流石の俺でも吃驚したぞコラ。

 

 

『ごめんごめん、そう怒らないでよ十六夜君。黒ウサちゃんのウサ耳は超高性能だからこういう方法を取るしかなかったんだよ』

 

 

………まあいい。んで、金糸雀の死もアンタは知ってたんだな。

 

 

『勿論!十六夜君はカナちゃん達の希望であり―――私にとっても君はキボウなのだよー十六夜君だけに』

 

 

くだらねえオヤジギャグかますなクソトカゲ。俺が金糸雀やアンタの希望?そいつはどういう意味だ?

 

 

『フッフッフッ、それはまだ秘密なのだよ。時が来たらちゃんと教えてあげるから、今は私が用意する試練を乗り越えつつ箱庭の世界を堪能したまえ!』

 

 

ふうん?後で教えてくれるならいいや。アンタに言われるまでもなく俺は俺で箱庭ライフを堪能するつもりだからよ。てか試練を用意するとか言ってよかったのか?

 

 

『うん、問題ないよー。言わなくても君にバレるだろうから先にバラしておいただけだからね』

 

 

それもそうだな。俺はアンタと俺の関係性や―――アンタの()()()()も暴かねえとだしな。

 

 

『…………………………え?』

 

 

あん?何呆けてんだよ?

 

 

『あ、いや………私、なんかボロでも出したかなー………って思って』

 

 

………ああ、そういうことか。アンタがウロボロスじゃないってことは気づいてたぜ。金糸雀と違ってアンタは俺と箱庭内で知り合っただけの関係なのに、どうして俺の事を知ってたんだ?答えは簡単だ、俺とアンタは何かしらの繋がりがあるからじゃねえか?全知に〝正体不明(コード・アンノウン)〟と判定された俺に直接干渉出来るのも、つまりはそういうことなんだろ?

 

 

『………ふふふ、成る程ねえ。これは完全に私の失態だなー………あーあ、失敗失敗。その通りだよ十六夜君。私と君は繋がっているんだよ、物的干渉以外を無効化出来る能力を持つ君に直接干渉出来るのも、つまりはそういうこと』

 

 

へえ?物的干渉以外を無効化か。それってつまり物質的な効果を齎す恩恵以外は効かないってことだろ?ならどうしてアンタの―――()()()な効果のはずの恩恵が俺に通用してるんだ?

 

 

『………それは―――』

 

 

「―――十六夜さん?無限王様と見つめ合ったまま黙りしてどうなさいました?」

 

 

今良いとこなんだよ、邪魔すんな駄ウサギ。

 

 

「まさか十六夜―――ウーちゃんのこと好きなの?」

 

 

んなわけあるか。どういう思考回路してんだ春日部。

 

 

「十六夜君って小さい子が好みだったのね。面倒味の良い年長者………成る程、そういうこと」

 

 

何納得してんだよお嬢様。何勝手に幼女好き(ロリコン)にしようとしてんだコラ。

 

 

「えー?残念ながら十六夜君は私のタイプではないかなー」

 

 

そしてお前も乗ってんじゃねえよクソトカゲ。つか俺の方が願い下げだ、 全然好みの〝こ〟の字も入ってねえわ。

 

 

「いや、なに。俺にも超素敵プランを用意してくれねえかなーて思ってな」

 

無限王(あっち)が話をはぐらかしてきたから、俺も変な誤解が確信に変わらねえように誤魔化しとかねえとな。いや、誤魔化すも何も、春日部達の思ってるような内容は一切話してないけどな。

 

「超素敵プラン?」

 

「あー、十六夜君にも強力な敵を用意しろってことだよね?」

 

「ああ。春日部やお嬢様だけ狡いぜ。俺並みか、贅沢言えば俺以上の敵と戦ってみたい」

 

「んー、十六夜君は人間離れした出鱈目な身体能力と強力な恩恵を持ってるからなー。〝神域級(第四桁)〟以上じゃないと君を苦戦させる相手はいないかなー」

 

四桁?つまり俺を楽しませられる相手は白夜叉並みってことか?

すると、俺を見ながら黒ウサギが驚きの声を上げる。

 

「〝神域級〟って、箱庭上層じゃないですか!?十六夜さんってば人間なのにその領域でございますか!?」

 

「そうだねー。下層じゃまず、十六夜君は敵なしかなー。中層クラスなら手応えのある相手はいるかもだけど………苦戦させる相手はいないかなー」

 

「あら、やっぱり十六夜君は別格なのね。私や春日部さんでは足元にも及ばないわ」

 

「ウーちゃんから力を借りないと十六夜並みになれない私も、そうだよね」

 

「んー、飛鳥ちゃんは自分の力を理解したばっかだから伸ばさないと強くはなれないよ。耀ちゃんに至っては、孝明君から譲り受けた力の詳細を教えてないからねー。君達はこれから強くなっていく方なだけだよ」

 

無限王の言葉に、複雑な表情を見せるお嬢様と春日部。

そうだな。お嬢様はそもそも自分の力を誤解してたわけだし、伸び代はまだまだある。春日部の場合は自分の手にした力すら把握出来てないんだからな。こいつらが何れは俺に匹敵する可能性だって0ではないわけだ。

 

「―――ああ、そうだ。耀ちゃん」

 

「なに?」

 

「〝ゆめ〟から覚める時間だよ」

 

「………え?」

 

唐突に無限王が春日部にそう言うと、パチンと指を鳴らし―――

 

「―――――ぁ、」

 

糸が切れた操り人形の如く、春日部は急に倒れ込んだ。

なんだ?何が起きた?無限王は、春日部に何をしやがったんだ?

悲鳴を上げて黒ウサギ達が春日部に近寄ろうとするが、春日部自身がそれを右手で制す。

 

「………ウーちゃん?私に、何を………したの?」

 

「何もしてないよ。ただ、君に見せていた〝ゆめ〟を解いただけかな」

 

何かしてんじゃねえか。見せていた〝ゆめ〟を解いた?それはつまり、春日部が俺並みの力を手にした虎男に勝てる力を手にした自分自身―――その正体こそが無限王の見せていた〝ゆめ〟ってとこか?

 

「どうし、て………?」

 

「たしかに耀ちゃんは私を求めてくれたけど、私の力は簡単には手に入らない上に―――実現不可能に近しいものだからね。本来振るえるはずのない力を使った、その代償をこれから君に支払ってもらうだけだよ」

 

「だい、しょう………?」

 

「そう。耀ちゃんには〝あくむ〟を見てもらうんだよ」

 

「あく、む………?」

 

「うん。しばらくの間ね、耀ちゃんは恩恵を失う。それが君の〝あくむ〟だよ」

 

「―――――っ!?」

 

春日部はその意味を理解して、全身を震わせた。

恩恵を失う、だと?それが無限王の力を使った者の代償だっていうのか?〝ゆめ〟が実現不可能なことを可能にし、〝あくむ〟は手に入れた可能性をも否定し現実を見させるものだっていうのか?

なら今の春日部は、力を手にする以前の春日部ってことか?だが今の春日部はまるで―――両足で立つことすら出来ない病弱な子供じゃねえか?

そんな弱々しい春日部に寄り添い、無限王が優しく抱きしめて耳元で囁いた。

 

「大丈夫だよ。この〝あくむ〟はずっと続くわけではないから。明日になったら、この〝あくむ〟から覚めるからね」

 

「………本当に?」

 

「本当だよ」

 

「本当の本当に?」

 

「本当の本当だよ」

 

「本当の本当の本当に?」

 

「本当の本当の本当だよ」

 

「………分かった。今日のところは、この〝あくむ〟を受け入れるよ」

 

「ふふふ、いい子いい子」

 

春日部の頭を優しく撫でる無限王。

子供扱いされてやや不機嫌そうな顔をする春日部だが、頬を赤らめてるから満更でもなさそうだ。

無限王の力を使うと代償を払う必要があるのか。まあでも、簡単に強力な恩恵を手に入れられたらそれはそれで面白味もねえからな。

 

「ちょっといいかしら、無限王さん」

 

「んー?何かな飛鳥ちゃん?」

 

「あ、貴女にちゃん付けは抵抗があるのだけど………まあ、それは置いておいて。私も貴女から恩恵を受け取ってるのだから、〝あくむ〟を見ないといけないのかしら?」

 

真剣な表情で無限王に訊ねるお嬢様。

成る程な。たしかにお嬢様も無限王から恩恵を貰っていた。春日部のような〝あくむ〟を見せられる対象になりそうだが―――

 

「んー、飛鳥ちゃんの場合はギリギリセーフかなー」

 

「え?」

 

「耀ちゃんの時とは違って、飛鳥ちゃんには〝ゆめ〟を見せてるわけではないからね。可能性を与えてるだけだよ」

 

「………可能性?」

 

「そう、可能性。私の与えたその指輪だけじゃ、戦いにすらならないのが証拠だよ。〝ゆめ〟なら飛鳥ちゃんも単独で十六夜君に匹敵する力を振るえるようになってるからね」

 

「………そう」

 

へえ?お嬢様の場合はギリギリセーフなのか。まあでも、お嬢様の恩恵なしでは使い物にならない力だしな、あの指輪。

………さて、今のうちに無限王の力を把握しておくか。

一、対象に〝ゆめ〟を見させる能力。

二、対象に〝あくむ〟を見させる能力。

三、対象に可能性を与える能力。

〝ゆめ〟は対象が望んだ力を与え、〝あくむ〟は対象が望まない力を与える。そしてどちらでもないあくまでも可能性止まりの力を与える、と。

………〝ゆめ〟と〝あくむ〟は相反した能力だな。この力を言い換えるなら―――理想と現実。ふうん?この能力が無限王の正体を暴く鍵になると嬉しいが………これがどうして俺と繋がりがあるのかは分かんねえな。

理想と現実。〝正体不明〟の恩恵。俺と無限王。………これじゃあまだ核心には至れそうにないな。まだまだ情報を集めねえとな。

 

「あーそうそう。飛鳥ちゃん」

 

「何かしら?」

 

「耀ちゃんの面倒を見るの、お願いね」

 

「へ?」

 

「君は耀ちゃんの、最初の友達なんだからそれくらいはしてあげるよね?私が面倒見てあげたいけど、残念ながら〝ノーネーム〟の一員ではないからさ」

 

「……………」

 

春日部がお嬢様を見つめてる。

対するお嬢様は、頬を掻いて照れくさそうにしてる。

すると黒ウサギが自信満々に主張してきた。

 

「耀さんの面倒はこの黒ウサギに」

 

「やだ。飛鳥がいい」

 

即答。黒ウサギはガクリと膝を突いて項垂れた。

容赦ねえな春日部。

 

「だ、だけど私って非力じゃない?十六夜君なら」

 

「………。十六夜は………なんか危険そうだからやだ」

 

「なんか危険そうってどういう意味だコラ」

 

「あはは、そのままの意味じゃない十六夜君?」

 

そのままの意味って、まさか俺が春日部を襲うとかそんなこと思ってんじゃねえだろうな?

 

『その通りだッ!!』

 

その通りだ、じゃねえよクソトカゲ。俺にそんな趣味はねえよ。もう少し大きくなってから出直して来やがれ。何がとは言わねえが。

 

『十六夜君のへーんたーい♪』

 

………よし、このクソトカゲはスルーしようそうしよう。

 

『あはは、冷たいなー十六夜君は。まあ、別にいいけど』

 

……………。

 

「………わ、分かったわ。そこまで言うのなら、私なんかでよければ春日部さんの面倒を見てあげようじゃない………っ!」

 

「うん。よろしくね、飛鳥」

 

そう言って春日部は両手をお嬢様に差し出す。

お嬢様はそれが何を意味してるのか理解出来ないのか困惑している。

 

「『私、立てないから抱っこして!一生のお願い!』って春日部がおねだりしてるぜお嬢様」

 

「へ?そ、そうなの春日部さん?」

 

お嬢様が訊ねると、春日部は顔を赤らめたまま黙って小さく頷いた。

お嬢様は頬を赤らめると、春日部の前に歩み寄る。

 

「わ、私の力では抱っこは厳しいわ。お、おんぶでいいかしら?」

 

「………うん」

 

春日部が頷くと、お嬢様は春日部をおんぶした。

 

「飛鳥」

 

「何かしら?」

 

「重くない?」

 

「平気よ。春日部さん、ちゃんとご飯食べてる?」

 

「食べてるよ」

 

「そう。それならいいわ」

 

お嬢様が春日部をおんぶし、二人はそんな会話をしていた。

 

ふうん?成る程ねえ。そういうことか。

 

『何がそういうことかなの十六夜君?』

 

いやなに、これがアンタの作戦なんだなあと思っただけだぜ?

 

『あはは、なんのことかな?』

 

惚けるなよ。単独で魔王に立ち向かえる力を持たないお嬢様と春日部の二人の仲を良くするために、わざと春日部の恩恵を封じただろ。

 

『………へえ。面白い解釈だね。それだと私の力を代償なしで使えるってことになるけど?』

 

いいや、流石に代償なしはねえだろ。それらを込みで、仕組んだんじゃねえのか?今回のギフトゲーム。みっちり特訓はフェイクで、二人の仲を深めさせるのが本命………違うか?

 

『ふふふ、まあそういうことにしといてあげるよ。……………まったく、君は本当に聡くて困る』

 

あん?なんか言ったか?

 

『ううん、なんでもないよー』

 

………まあいいや。

 

「さあて、私はラミアちゃんと合流するかな。まったねー」

 

「え?」

 

「うん、またね、ウーちゃん」

 

無限王は手を振ると、パチンと指を鳴らして姿を消した。

あのクソトカゲ、都合が悪くなったから逃げやがったな?ということはつまり、俺の予想は的中したってことでいいんだな?この調子でアンタの化けの皮も剥いでやるから覚悟しとけよ。

 

それから俺達は〝フォレス・ガロ〟が奪った名前と旗印の返還を行い、御チビ様の名前を売って〝ノーネーム〟に戻っていった。




白夜叉→世界(ほし)そのもの
世界龍→世界(うちゅう)が存在するのに必要なエネルギー
双女神→世界(せかい)を構成する片割れ同士

〝ゆめ〟と〝あくむ〟は対極。

〝ゆめ〟の代償は〝あくむ〟。
耀ちゃん一時的に恩恵を失う(もとい封印される)。
可能性止まりはギリギリセーフらしい。
耀ちゃんと飛鳥ちゃんの仲深め計画(百合ではない)。
無限王と十六夜の関係性とは?

次回は吸血姫姉妹の訪問と招かれざる客


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。