殺しても死なねーオペレーター (mog-san)
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モノローグ(前半)

イピカイエ―(挨拶)
はじめまして、皆さん。
拙い文章ですが、どうかよろしくお願いします。


みんなは『異世界転移』って信じるか?俺は信じてなかった。ってかまだ俺は小学校卒業して中1になりたてだったから、正確にはそんな単語はあまり聞いたことはなかった。

異世界転移って言っても2種類の方法がある。一つ目は死んでから他の世界に転生する王道パターン。なおその場合、たいてい神様が出てきて「すまんのぅ、間違えて殺しちゃった。てへぺろ☆」っと本人からしたらたまったもんじゃない爆弾発言をかます。ふざけんじゃねぇ、殺すぞ。

…オホン、話がそれかけたが、二つ目は生きたまま他の世界に転移するパターン。この場合だとよくあるファンタジー系ではお偉いさんの召喚魔法で本人の同意なくして勝手に連れてこられたり、もしくは神社とかに祀ってある古臭い像とかがふとした拍子に他の世界との境界線を曖昧にさせて、そこに(運悪く)いた人をいつの間にか転移させる、って言う参拝してた人に対する酷い仕打ちをかますなどなど色んな例が挙げられる。やっぱふざけんな、ぶち殺す。

…こんな話を俺がするって言うことは、頭のいい人には俺に何があったのか察せると思う。

 

実は俺も異世界転移しちゃったのだ。てへぺろ☆

 

なんて冗談風に言っているけどマジのマジである。方法としては、う~ん…、たぶん後者かな…。どうしてこんなことになったのか、俺にとってのある意味での始まりでもあるので少し詳細に記そう。

あれはなんて事の無い日だった。暖かくなり始めた春の穏やかな日だったよ。卒業式が終わって中学の入学式までの長い春休みの期間に、昔からの友人たちと近場の山へ遊びに登ってたら、見たこともない洞穴があってな、勢いとノリで根性試しをすることになったんだよ。順番に友人たちが一人ずつ洞穴に入っては戻ってきて、次はいよいよ俺の番か~。って感じになって入ったんよ。中は暗くてひんやりしてて、温かくなってきたとはいえまだ微かに寒さが残っている時期だったので薄地の上着を着てたんだけど、それを着込んでても寒いと感じてしまう程だった。洞穴は一本道だったのでとりあえず奥の行き止まりまでは来れたんだが、そこでちょっと変なことがあったんだ。と言うのも、戻る時には必ずその場所に印を残すようにってルールを皆で決めていたんだが、道中そして今いる行き止まりの所にも友人の残した印はなかった。そん時の俺は、アイツらびびって引き返しやがったなw。とあまり気にしなかったんだ。ルール通り、俺は印をしっかり残して印を残さなかったビビりな友人たちをからかってやろうと道を引き戻したんだ。

 

すると本当に不思議で、到底信じられないことが起こっていたのだ。

 

なんと洞穴を出た先には街が広がっていたのだ。山で草木が生い茂ってたはずの場所は見たこともない建物に早変わりしてて、狐にでも化かされたんじゃないかって冗談抜きで思ってしまった。

ビックリした点はそこだけじゃない。街があれば当然人も大勢いる。でもその人たちに違和感が感じてな、すぐにわかっちまったんだ。

本来耳がある場所に耳がなく、頭のてっぺんあたりに某テーマパークでよく売っているような動物の耳のカチューシャみたいなやつを皆が付けていたのだ。

ホントに何がどうなってるんだか中1の頭ではこの状況についていけなかったよ。俺だけ夢の国にでもついちまったのか?って思ってもおかしくはないと思う。

街の人(?)たちも俺が珍しいのかチラチラと見てくる。

数分間、棒立ち状態になっていた俺もさすがに考える頭が戻ってきたらしく、俺が担いでいたショルダーバックから荷物を取り出した。って言ってもあるのはライト代わりに使ってたガラパゴス携帯電話、携帯充電器、野口英世が二人と少しの小銭しか入っていないガマ口財布、残り半部くらいの炭酸の抜きかかっているジュースが入ったペットボトルにうまい棒とブラックサンダーが一本ずつ。

真っ先に取り出したのは、当然携帯電話だ。電話帳から先ほどまで遊んでいた友人たちの中の一人に電話をかけてみたのだ。が、

結局、どこにもつながらなかった。他の友人にも、親にも、自宅の電話にもだ。

しかも「おかけになった電話番号は現在使われておりません」ってさ。もうどうしろってんだ。

 

ここからはとんとん拍子で話を進めようか。

あの後、警官に無事保護され、一時的な保護施設に収容された。なぜか血液も採取されたが、あれがどう意味なのかは、当時の俺には知る由もなかった。

あとやはり一番苦労したのが言語だった。お互いに何を言っているのか分からなかったな。そのせいで警官の人とかに変な目で見られたからな。ってか、英語って万国共通じゃなかったんだな。クソッたれ。

そのあとはいろいろと面倒なことになったんだけど、そこら辺は重要ではないので割愛する。

いま重要なことはと言うと、

 

・アレからいろいろあったけどこの約20年、俺は元気である。

・なんだかんだあったけど今ではウルサス帝国、チェルノボーグは俺にとっての第二の故郷になった。

・ブサイクな俺にはもったいないくらいの美人と結婚して1児の父となった。

・大変で辛い目こともあったけど10年間警察官の職で働いて、今はとある事情でロドスのオペレーターへ転職した。

って感じかな。

 

おっと、そろそろページを跨ぎそうなので一旦ここで区切ろうかな。

後半は何を書こうか…。俺の職とか現状とかその他諸々についてかな?それが無難だろうな。




おまけ

【この人探しています!!】
鶴瀬 純(つるせ じゅん)
男性 12歳
身長 162cm
体重 55kgくらい
身だしなみ 黒い短髪、白シャツに緑色の薄手のアウタージャケット、青いジーンズ、灰色の運動シューズ
その他 裸眼

詳細
○○県××市の△△山で洞穴に入ったきり行方不明に
上記の服装、またこの顔を見たことがある人、些細なことでも構いません。以下の電話番号に連絡してください。よろしくお願いします。
○○県××市警察署~~~-~~~-~~~~
○○県××市消防署~~~-~~~-~~~~


短すぎるかな?後半へ続く。


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モノローグ(中編)

イピカイエ―(挨拶)
どうも、皆さん。
前回の続きです。後半めっちゃ量がありそうですね。
なので中編にします。
比重バランスが乱れる(ついでに宇宙の法則も)。


さて、続きだけどどこまで書いたんだっけか?

あ、そうだそうだ俺の職と現状とかだっけ?

職については、俺が警察官に就いて、その後ロドスのオペレーターに転職したってことは前回の最後に書いたよな。じゃあそこんところを少しだけ細かく書くか。

でもその前にウルサス帝国ってのがどんなところなのかを説明しなきゃいけないな。要所要所端折るつもりだけど、それでも長くなるから気を付けてくれな。

 

ウルサス帝国はいわば軍事国家だ。そのため規則や法律には厳しい国だと言えるだろう。また「平民と貴族」っと分けられており、むかし母ちゃんが読んでた「ベルばら」を思い出したよ。

そして特徴的なのはこれだけじゃない。この国に住んでいる人口の大多数を占めている民族「ウルサス族」だ。ウルサス族の人はみな身体的な特徴を有している。ぶっちゃけ言うとみんな怪力。子供たちも例外なくだ。なんだあれ、あの細腕のどこからあんな化け物じみたパワーがでるんだ?しかもあのプー○んみたいな耳と怪力も相まって実質クマじゃねーか!って叫んでしまいそうになった。てか心の中で叫んだ。

そして何よりもこの国はとある者たちを一切受け付けない。それどころか普通に迫害・差別をしている。それはこの世界では切っても切り離せない不治の病、「鉱石病」だ。

何でもこの世界にはかつて隕石が飛来し、そこからこの病気の原因である源石「オリジニウム」が発見されたらしい。その源石にはすごいエネルギーが内包してるらしく、そのエネルギーは街のありとあらゆる所の支えとなっているらしい。

でも、それが不治の病につながる原因らしいので使わなきゃいいじゃん。って俺も最初は思ってたんだけど、よくよく俺の元居た世界を思い返してみたら原子力を使って生活している俺(たち)もこの世界のことは言えないな。

まったく、どこの世界に行ってもやってることはほとんど同じ、ってか!良い皮肉だ、ちっくしょう。

それでその病にかかった人たちは等しく「感染者」と呼ばれ、ほとんどのところで忌み嫌われる存在だ。その中でも一番露骨に迫害しているのがこの国だ。感染者に対する迫害は酷いもので、これいつか大規模な暴動でも起こるんじゃねーのかってくらい。それこそフランス革命みたいな過激な感じで。

俺が保護施設に入れたのも血液検査でどうやら俺が「非感染者」って要因がデカい。これで俺が感染者だったら、12歳のときで野垂れ死にしてたわ。複雑な気持ちだがそこだけは感謝しなければいけない。

 

さて、12だった俺も施設での教養が無事終わった頃の俺は17,8くらいにはなっていた。

となると次は仕事を探すのが当たり前なのだが、4,5年は苦労してしまった。と言うのもやはり俺自身の経歴に一番の問題があったんだ。

だってどこで生まれて、どんな種族なのか、12歳までどこにいたのか、ましてや家族構成なども不明扱いなのだから、雇う側から見ればそりゃ非感染でも不審に思うわ。ましてやそれらが説明できないってのも辛いところだった。応募した自分のやりたいと思っていた就職先はことごとく落ち続けなかなか職に就けずに、安いボロアパートに、いくつも掛け持ちしたアルバイトとできる限りの節約で何とか生計を立てていた。

この時はどうしようかマジで悩んだぜ。一番入れる可能性があるのは毎年募集してる軍事警察の職くらい………。

 

ハイダメ。俺ここの人たちとは違ってフツーの人間だし、皆より絶対力ねーし、絶対足引っ張るだけだし。ハイオワタ。

 

考えるまでもなかったぜ、クソッたれ。仕事が決まらないことに焦ったけどどうしようもならないくだらない絶望感に頭を悩ませ、道の片隅でうなだれていると、

 

「どうしましたか?どこか体調でもわるいのですか?」

 

と女性に心配されて声を掛けられてしまった。見た目は同い年くらいでキレイな茶髪におっとりした口調と目。もう俺の言葉の辞書では見つからないくらいすんごい美人だった。

もう先に言っておくぞ。この人は俺の妻になる人だ。

名前はマイヤ・シェフトヴァ。

どうやら病人と間違われてしまったらしい。もちろん、俺は大丈夫と言ったのだが、彼女はどうも世話好きで好奇心が旺盛らしく、病人の誤解は解けたもののウルサス人ではない俺(見たことのない種族らしい)が珍しかったらしい。おっとりな性格からは想像できないくらいグイグイと話しかけてきた。

これがきっかけで、俺は彼女と時々会っては会話をするようになった。俺も話してて楽しかったと感じてて苦にはならなかったし。

本当にブサイクな俺にはもったいないくらいの女性だぜ。でもやったぜ。

 

ん?いつの間にかリア充話になってるって?まぁまぁ落ち着けって。これも俺にとっては必要な経緯なの。

 

まぁそんなわけで施設を出てから初めて話し相手ができたことによって、就職について色々なことを話せたよ。主に不安や悩みだったけど彼女はそれを全部聞いてくれて、

 

「大丈夫ですよ!きっといい仕事が見つかりますよ!どんな時でも胸を張って前向きになればいいこともありますよ!」

 

もうね、ここで俺は彼女に好惚れちまったんだぜ。だってそうだろう?美人さんから声かけてもらって、しかも悩みを聞いてくれたうえで応援してくれたんだぜ?たとえこの恋心が俺の勘違いだったとしてもそうなっても仕方ねぇよなぁ!?

 

なので、頑張って無事、軍事警察官になりました☆

 

いや恋のパワーってすげーな!筆記試験とか体力テスト、面接とかいろいろと辛かったけども、根性、気合その他諸々で頑張って乗り切ったぜ!!どーんなもんだい!!俺だってやりゃあできるんだぜぇ!!

そしてその反動のせいでウルサス軍事警察過去一の問題児になっちまったぜ。ガハハ(泣)

筆記試験の方は合格した奴らの中で上位あたりに食い込んだけど、体力テストは案の定の最下位(こっちも合格した奴らの中では)。やはり身体能力はこの世界の人のほうが全てにおいて高かったぜ。ちくせぅ。

そんなわけで彼女にも報告をしに行ったんだけど、そこで同時に俺は玉砕覚悟での告白をしようと思ってたんだ。やはり彼女のおかげで俺は無事職を見つけることができたからその感謝のついでって感じで。それに玉砕前提なので、彼女のことは好きだけどさっさとフラれて俺の勘違いの恋に黒星つけて仕事に専念しようと思ってたんだ。

いつも彼女と会う場所で、いざ当たって砕けろ告白―!!

―する前に、なんと彼女の方から告られた。…あれ???

なんでこんなブサイク顔な俺と?って感じでだったんだけど、彼女曰く、見たこともない種族で珍しいからって理由もあるけど俺には何か言葉に言い表せないような特別な雰囲気を持ってて、それが彼女にとってはとても心がポカポカして俺と会話する時間がとっても好きだったらしい。

う~ん…彼女、要所要所が独特な表現をするからよく分からないけど、とにかく、俺と会話を重ねていくうちに好きになったらしい。まったく、振られると思ってただけに嬉しい誤算だぜ。

父ちゃん、母ちゃん、俺やったよ。すっごい苦労したけど無事仕事にも就けたし、すっごい美人さんが彼女になってくれたよ。

そして、軍事警察に入ってからはいろいろ(主に運動・体力的な方で)苦労したけどとても面倒見が良くて尊敬できる先輩2人に恵まれたよ。

 

それから…って、気づいたらまたページが文字でいっぱいになちまった。すまないけど、ここらへんで一旦区切らせてもらうな。

ったく…状況を皆に理解させようと細かく書いちまうとすぐに埋まっちまうな。次で終わらせる。約束だ。




おまけ

「ご親切に心配してくれてどうもありがとうね。え~っと…すみません、お名前は?」
「あっ、ごめんなさい!名前まだでしたよね。私の名前はマイヤ。マイヤ・シェフトヴァ。よろしければ貴方の名前を教えてもらっても…?」
「いいですよ。俺の名前は―」

―ジュン。ジュン・リカクラーンだ。

ジュン・リカクラーン、恋愛が芽生えた23歳の春だった。


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モノローグ(後編)

イピカイエ―(挨拶)
モノローグはこれでおしまい。
やっと本編を書ける…。


さて、このページで俺の今まで起きた波乱万丈な人生の導入部分編を終わらすつもりだ。テキパキ行くか。

軍事警察での仕事はほとんどが訓練かパトロールの大まかな二つだった。訓練は暴徒を想定した模擬鎮圧作戦だったり、避難誘導だったりしたんだけど、まぁ俺はよくぴょーんって吹き飛ばされてたけどな。

<また、ジュンの野郎が吹き飛ばされたぞぉぉ!!!!

<またアイツかぁぁぁあああ!!!!!

<ジュン・リカクラァァァアアアン!!!!!!!!!!!

<なぁ、アイツこれで何度目だ?

<たぶんもう50回目じゃないか?知らんけど。

まだ43回目だこのマヌケェ…。

よく隊長にはたるんどると説教されたんだが、こっちだって口から心臓が出そうなくらい頑張っているんだよォ!!ただ俺の所にだけ毎度、軍事警察一ガタイが良い奴を突進させないでくれ。毎回一回転しながら吹き飛ばされるこっちの身にもなってくれだよ。

パトロールの方もこっちはこっちで大変だったよ。窃盗、傷害、わいせつ、薬物にガキんちょの喧嘩を仲裁その他諸々。毎日さまざまな事件や事故に朝から夜まで脚が棒になるくらい色んな所を回されたよ。しかも、事件となると毎回俺が駆り出される。なんで俺なのかって?隊長曰く、どうやら俺は誰よりも詳細な部分に気づけたり、誰もが考えつかなかった発想や視点を思いつく柔軟な考えを持っているらしいとのこと。まぁその点については昔からなぞなぞやクイズが好きで本やテレビ番組、雑学や知識をこれでもかってくらい見てたから、そう言われるのは嬉しいんだけど、だからと言ってせっかく寝てる所をたたき起こして現場見てこいっての、やめてくれ。俺は犬やロボットじゃねぇぞ、クソが。

まぁそれくらい俺は事件や犯罪に愛されてたってことだよ。ガハハ(泣)。てかこの頃から、よく事件に巻き込まれる体質が身に付いちまったのかもな。

…体質って身に付くものだっけ?(汗)

とまぁ上記のように、もはや仕事はしっちゃかめっちゃかのハチャメチャ気味になってたけど、それでも楽しかったと言える。

俺を可愛がってくれた先輩二人(ロバン先輩とヴァレリー先輩)には警察官としてのイロハや捜査のテクニックなどを教えてくれてホントお世話になった。特にロバン先輩の方は結婚式場とかの相談にもよく乗ってくれた。

と言うのも、ロバン先輩は既婚者で子持ちでもあった。よく娘の自慢(可憐)話に付き合わされていた。

 

さて、先ほどの話からも察する通り、なんと!俺も結婚式を挙げることになったぜ!!ワーワーパチパチー☆

 

マイヤと付き合って、そして警察官になってから約4年の年月が経って、お互いに無駄なものは極力買わない主義だったおかげもあり、すぐに資金も貯まったので結婚式を挙げることに。式場は質素なものだったけど、その代わりたくさんの同期や(もちろんマイヤの)知人や友人を招待をした。

俺を知っている隊長や同僚からは「まさかお前が同期の中で一番最初にに結婚するとは思わなかったよ!*ウルサスジェラシー*」なんて言われてもうた。

先輩たちからも祝言を貰い、ロバン先輩の娘さん(確か名前はゾーヤだっけ)からも小さい花束を貰った。これにはマイヤも喜んでた。

 

「ご結婚おめでとうございます!」

「まぁ~!ありがとうね。ゾーヤちゃん~!可愛い~!」

 

っとこんな風にデレデレしてたよ。

さらにその翌年に吉報で、なんと妻が妊娠したんだ!腹の中にいる子は女の子。しかも年内に無事出産。肌は少し濃い赤いピンク色の肌で産声もしっかりしていて、将来は元気な女の子になりそうだ。生まれてすぐだけど心の底から可愛いと思えた。

娘の名前はリーリヤ。リーリヤ・リカクラーン。

 

父ちゃん、母ちゃん、今も生きているかどうかわからないけど俺、父親になれたよ。でも孫の顔を見せることができないのは残念だけどな…。

 

そんなこんなで子育て組の仲間入りをした俺はこの頃が絶頂期だった。妻は専業主婦になり娘も何事もなく無事すくすくと成長してくれた。

一方の俺は相変わらず吹っ飛ばされる羽目に。警官職9年目くらいからパトロールでも吹っ飛ぶようになった。と言うのも、とある不良少女の喧嘩が増加したのと関係がある。その少女は喧嘩が強く、なんでもチェルノボーグ内の一部では「将軍(将軍の前に何かついてたけど忘れた)」って言われてるくらいらしい。男数人だろうとも全員を返り討ちにしてしまう程なのだ。ハハハ…クッソ痛ぇ…(泣)

でも、家に帰れば、妻と幼い娘が出迎えてくれる。これだけでも疲労がどうでもいいと思えるくらい吹っ飛んだ。なるほどこれが脳内麻薬か(多分違う)。

そんなわけで、俺がこの世界に来てからの人生の絶頂期のピークだった。

 

…あぁ、本当にこの幸せが続けばよかったのにな。くっそたれめ。

ここから俺の人生、いや厳密には俺の妻と娘の人生が転落することになった。

 

警官職10年目、娘も5歳になって来年は小学生、そしてなんてこともないとある日だった。その日はチェルノボーグ郊外で家族みんなで山でピクニックをしようと前々から予定していた。

しかし、当日になってタイミングが悪いことにチェルノボーグ内で複数の事故が起こってしまい、人手が足りないから俺に至急来てもらえないか、と緊急の呼び出しが来てしまった。俺は断ろうとしたんだが、妻と娘に私たちのことは気にせずに行ってきてと言われてしまった。

ここが運命のわかれ道だった。

俺は妻と娘に謝罪をして必ず埋め合わせをすると約束して、現場に向かった。

 

そして家族でピクニックするつもりだった山で土砂崩れが起こったのだ。

 

担当の事故を処理した俺は急いで病院へ飛んでいった。幸い妻は腕に、娘は脚に軽い擦り傷をした程度で、俺は本当に心の底から安堵した。

その日のうちに無事に退院した二人だったが、異変は2,3日後に発覚した。

 

二人とも、傷付近の肌が黒く変色していたんだ。

 

俺は…、俺はすぐに察せたよ。これはこの世界の皆が恐れる不治の病「鉱石病」だってことを。そしてそれが妻と娘を「感染者」にしたってことも。

事実が雷のように俺の頭に、脳に直撃して頭が真っ白になった。

妻もそれが何なのか、退院した次の日に察したらしい。

俺は土下座した。血がにじむほど頭を強くこすりつけてながら謝罪した。俺があの時ついていれば、あの時呼び出しを断っていれば…。妻と娘を置いてきてしまった後悔が、自分自身への怒りが無限に俺の身体を貫く。

でも、妻はそんな俺の頭を優しくなでながら、

 

「あなたのせいじゃないわ。自分を責めないで」

 

俺は泣いた。娘はよく状況を理解してないながらも妻と同じように俺の頭を撫でて「ぱぱ泣かないで」と言ってくれた。

それからは、俺はすぐさま行動したよ。ウルサス帝国は感染者を迫害する国だ。もしこのことがバレれば妻と娘は迫害される。

そんなことさせるか。クソッたれめが

俺はすぐさま鉱石病に関することを全て調べ、そしてとあるところ辿り着いた。

「ロドスアイランド」と言う製薬会社にな。

すぐさま、ロドスアイランドにコンタクトを取り、妻と娘が鉱石病にかかったこと。住んでいるところがウルサス帝国なのでいつバレて迫害を受けるかか分からないのですぐにでも助けてほしいこと。そして必要なら俺自身が身を粉々にしてでもそちらで働くことなどを綴った内容を送った。

送った数時間後に返事は来た。返信の内容は「了承」だった。

それから俺は家庭の事情を理由(もちろん嘘である)に軍事警察に辞表をだした。

お世話になった同僚たち、隊長、先輩たちからは「寂しくなるな」や「お前がいなくなったら次は誰が吹っ飛ぶ役になってしまうんだ」などなどだった。みんな、すまない…。

家も引き払い、隣人や友人との最後の言葉を交わし、俺たち家族は文字通りチェルノボーグを後にした。

その後にロドスの人と接触。バレないようにチェルノボーグ、ウルサス帝国からこっそり抜け出し、無事ロドスアイランドに入ることができた。

 

 

 

さて、妻と娘のために警官職を辞め、ロドスのオペレーターへと転職することになったが、ハッキリ言おう。

 

この転職は失敗した。

 

何でかって?ただでさえ軍事警官にいた時でも俺以外の奴は皆俺よりすごい奴ら揃いだった。それは説明したから分かるだろ?

でもここはそんなのが可愛く見えるくらい俺からしたら化け物の巣窟に等しかった。

ほとんどのオペレータは軍事警官の奴らよりもずっと強い。ああクソ、一目見た時点で分かっちまったよ。

となると、当然訓練もこちらのほうが圧倒的にハードだった。射撃はみんな俺よりもずっと長い射程距離から的を撃っちまうし、体力訓練も俺はすぐにへばっちまった。なので教官からは毎日居残りでしごかれるわ、俺がダメすぎて連帯も取れないので、皆からはもっと集中してしっかりしてほしいと注意をくらったわ。

…俺だって頑張ってるのにな。ハァ…疲れたよ。

娘と妻は感染のことを考慮しているのでなかなかに会える時間が取れない。取れたとしても1,2時間程度だろうし、俺は訓練でヘロヘロ、家族に癒されることもないまま食事を摂ってはベットへ行き、泥のように眠る毎日。

そんな地獄のような日々が毎日毎日のように過ぎ去ってはや1年、いやそろそろ2年になろうとしてるな。

でも良かったこともあるらしく、娘には同い年の友達がたくさんでき、妻も俺に負担させたくないと働き始め、その才能が、メキメキと頭角を現し、今ではロドスを支える職員になった。当然妻にも仕事仲間ができた。

……うん、嬉しい限りだな。

他にもいろいろなことがあったんだが、まぁそこは別の機会で話すか。

 

っというわけで、ちょっと駆け足気味になっちまったがこれが俺の波乱万丈な人生の導入部分編ってわけだ。

そして今俺は何をしているかって言うと―

 

「へぇ~、このビルが紅雀(ホンチュェ)タワーかぁ~。たっけぇ~ビルだな~オイ」

 

ジュン・リカクラーン(35歳)、龍門(ロンメン)の街にて紅雀タワーと言う高層ビルへ足を運んでいた。

それは雪が降らない12月24日(クリスマスイブ)の夜だった。




おまけ

マイヤ・リカクラーン
[右手首にて源石結晶の分布を確認 感染者に認定]
源石融合率1.5% 血液中源石密度0.18
メモ
発症してからの早期発見、早い段階で治療を開始したため拡散する様子なし。現状明らかな身体への影響は見られない。

リーリヤ・リカクラーン
[左足首にて源石結晶の分布を確認 感染者に認定]
源石融合率2.0% 血液中源石密度0.2%
メモ
発症してからの早期発見、早い段階で治療を開始したため拡散する様子なし。現状明らかな身体への影響は見られない。

ジュン・リカクラーン
[メディカルチェックの結果 非感染者に認定]
―閲覧禁止―
メモ
なし。


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中年オヤジはつま先を丸める 1-1

イピカイエ―(挨拶)
いよいよ本編開始です。
中年オヤジ、(勝手に)出動!


12月24日、それはこの世界にとっても特別な日である。

「クリスマス・イブ」

年の末のイベントの一つとして皆はこの日をそれぞれの方法で過ごす。

家族と過ごしたり、一人で過ごしたり、

静かに質素に過ごしり、ドンパチ派手にやって過ごしたり、

一日中起きていたり、逆に一日中寝て過ごしたり、

などなどである。

そしてそれはとある男も例外ではなかった。

 

「んん~~」

「…なぁ婆さん」

「うんん~~」

「…お~い婆さん」

「ん"ん"~~!!」

「おいバァサン。ウンコだしたきゃ他所でしてくれよ!ってか俺の占いはどうなんだよ~。もうこっちは5分も待ってるんだぞ、早く教えてくれよ~」

 

ここ「龍門」のとある街道の隅っこで水晶と睨めっこをしているよぼよぼのお婆さんと、それに付き合わされてるこの中年のオッサンこそが主人公であるジュン・リカクラーンである。

ジュンはロドスのオペレータである。オペレータは簡単に言えば戦闘員みたいなものであり、日々欠かさず訓練をしていた。

だが今日は有休休暇を申請していたため彼は非番である。

また、ジュンはとある用事で龍門を訪れていた。…のだが、賑わっている商店街の大通りにてこの婆さんにしつこく占いをしてみないか~、寄ってくれ~と誘われ、仕方なく寄ってみたのだが、そこで5分くらい足止めを喰らわされていた。

 

「そうせっかちになるもんじゃないよ、短気は損気じゃ」

「いや、こっちは用事があるんだよ。早く行かねぇと」

「わかったわかった……はぁ~視えてきたわい」

「やっとかよ。んで結果は?」

 

やっと彼の将来が見えた婆さんにジュンはやれやれと反応する。

結果は…

 

「結果は…あぁ~お前さん運勢が最悪じゃな。すっごいツイてない」

「だろうな。んで、どうツイてないんだ」

「ん~難しいの~。見えるのは今日お前さんが登ったり飛び降りたり登ったり飛び降りたりの繰り返しをするところじゃな」

「マジかよ…ってなんだそりゃ」

 

なんだよそれ、俺今日バンジージャンプでもするのかよ。とあり得ない占いの結果に呆れるジュン。婆さんの言葉はまだまだ続く。

 

「他にも立て籠もり、狭いところを通る、半裸になる、吹き飛ばされるってところが視えた。お前さん今日これから配管工事の点検の仕事でもやるのかい?」

「いやねーよ。つか配管工事もやってねーわ。あと最後のが不吉すぎるんだが」

「そうかい、でも心配するな。わしはこの道を究めてから9年になる。このごろは半分は当たるようになっておる」

「いや、それはそれとしてどーなんだよ」

 

半分当たるって婆さんそれ占い師として明言しちゃっていいのかよ。しかもその年で9年って…っというツッコミを飲み込んだジュンは時間が差し迫っているので席を立った。

 

「占いありがとよ、次からは公衆便所にでも店構えとけ。…っでいくらだ」

「まいど、一万じゃ。また来てな」

「もう二度と付き合うか」

 

と言いながら財布を取り出す彼。取り出す際にコートの内側からホルスター越しに黒い金属質な物がちらりと見えた。それが何なのか分かったのかさすがの婆さんも表情が変わるが…

 

「あぁ大丈夫。俺はここの近くに滞在している『ロドス・アイランド』のオペレータだ。これは悪さしてる奴にしか向けねーよ。コレを持ち歩くのは前職の分もあわせて11…いや12年はやってる。心配すんな、向ける相手は一度も間違えたことはない」

 

そう言いながら1万の龍門幣を渡す。無駄にできない時間を消費したので急ぐ彼に婆さんは引き止める。

 

「これはおまけだが、お前さんの運勢は私が占ってきた中で一番最悪じゃが、天に祈ればなんとかなる。それに今日はクリスマス・イブじゃ。お前さんでもクリスマスプレゼントは貰えるはずじゃ。心配するでない」

「……だといいけどねぇ」

 

そうして占い所を後にしたジュン。もちろん二度と来ないことを誓いながらだ。

時間が無かったので、TAXに乗ることにしたジュン。これまた運転手も変わった奴で、見た目は仕事服の白いシャツに帽子をかぶっているせいで余計に丸坊主が目立つフェリーンの青年で、陽気な雰囲気がダダ洩れなお調子者である。と前職の警官で腐るほど培ってきた人間観察を無意識にしてしまう。助手席に乗り目的地を教えて運転手がTAXIを走らせてからすぐに、案の定、運転手は彼に色んなことを聞いてきた。

 

「旦那さん、いったい紅雀(ホンチュエ)タワーに何しに行くんですかい?」

「あ?あぁ…ちょっと妻に会いにな」

「へぇ~、奥さん、仕事してるんですか~。ちなみにいつからで?」

「まぁ、1ヶ月くらいは経つな」

「なるほど~、ちなみに旦那さんはどこで働いて?」

「ロドスっていう製薬会社でな。…オペレータとして」

「おぉロドスですか!っとなるとさぞ奥さんと一緒に活躍してるんでしょうな~旦那さん」

「ふっ…そうでもねぇよ…」

 

自虐気味に笑いながらジュンは煙草を咥え火をつける。煙草は前々から吸っていた。もちろん妻や娘に害が及ばない仕事先とかでだ。だが、ロドスに入ってからは医者たちや他の人からも口うるさく注意されていた。消費する煙草の箱から最近は吸う回数が増えた気がしたな。

車内に煙と臭いが漂う中、運転手は気にせずこんなことを聞いてきた。

 

「旦那さん、具合悪いんですかい?それか腹でも空きすぎたんじゃないですかい?途中で何か食った方が良いんじゃないすか?」

「大丈夫だ。お前は気にせず運転しろ」

「もし腹が減ったら、先ほどの商店街の肉饅頭、後で食べてみてはいかがですかい?あそこは肉が美味しくてしかも分厚くて食べ応えがありますぜ」

「あぁ覚えておこうか」

「それで話は戻るんですが奥さんは仕事できる方で?」

「…あぁ、それもバリバリできる方だ。今はもう会社を支えている重要な職員に昇進してる。妻は本当にできた奴だよ」

「アハハハ!まるで旦那さん、奥さんを仕事に奪われたようなもんですなぁ」

「…黙ってろ、ってかお前なんでも言うよな。皮肉が良い塩梅で利いてるぜ」

「えへへ。すんません、TAXI走らせ始めたらついクセになっちまいして」

「…まぁ実のところは…いやなんでもない。娘が一人いるんだけどな、娘のためにも親のどっちかは傍にいた方が良いんだけどな…」

「それなら旦那さんが傍についたほうが良いんじゃないんですかい?奥さん重要な役員になったてことはそれなりの給金も貰っているだろうし?」

「…いや、それは無理だ。理由はいろいろあるが、俺は前は警察官をやっててな、悪者をとっちめるのが癖になっちまったんだ。…それに妻だけに金の負担を押し付けるわけにはいかないしな」

「とか何とか言っちゃって~、実のところ奥さんがコケるとまでは思ってないけど、まさかそこまで上手くいくとは思わなかった、とかじゃないんですか~?」

「…フフッ、お前ホントズバズバ何でも言うよな。しかもいい読みをしてやがるな」

「へへへ。ありがとうございまっせ。旦那さん」

「褒めてねーよ」

「折角のクリスマスですので歌でも流しましょうか。僕のお気に入りのクリスマスソングなんですよ~」

 

そう言いながらフェリーンの丸坊主青年は車についてるラジオのダイヤルを捻ると複数のエレキギター、ドラム、電子ピアノがスピーカから大音量で轟く。なんかさっぱりした塩ラーメン小盛り頼んだら、野菜・背油・ニンニクマシマシのどちゃくそ味濃いめの醤油豚骨ラーメンデカ盛りが出てきた感じだ。

少なくともジュンの想像してたクリスマスソングから母を求めて三千里するくらい程遠かった。

 

「…これがクリスマスソングか?他にないのか?」

「何言ってますか、旦那さん!これが今のクリスマスソングですよ!龍門じゃ流行ってますよ!」

「……マジか。ってかうるせぇ」

「~♪」

 

こんな会話が繰り広げられながらTAXIは夕日をバックに目的地の紅雀タワーへ着々と近づくのであった。




今回はおまけなし。


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中年オヤジはつま先を丸める 1-2

イピカイエ―(挨拶)
しばらくは下準備中です。


「皆さん、今年も無事に年を越せそうですね。これからも龍門の繁栄と安泰を願い、そしてこれからもロドスとの交流に!」

 

メリークリスマス&ハッピーニューイヤー!!

 

紅雀(ホンチュェ)タワーの30階。ここは大広間になっており、今は豪勢なパーティー会場となっていた。

優雅な音楽をバックにたくさんの人々の和気あいあいとした会話が弾んでいる中、一人の女性はせっせと束となった書類らしきものを運んでいた。

彼女はマイヤ・リカクラーン。ジュン・リカクラーンの妻である。

マイヤは他の皆がパーティーを楽しんでいる中で仕事をしていた。と言ってもそんな大変なものでもなく単に書類をコピーするだけの仕事だった。

 

「ふぅ~、あとはこの書類を纏めて、コピーするだけね」

 

マイヤはロドスの職員として紅雀タワーで仕事をしていた。と言うのもロドスと龍門は以前にとある作戦で(めっちゃ砕いて分かりやすく言えば)協力関係になり、それ以降はある程度の交流関係が続いてる状態なのだが、その交流関係を維持するためにマイヤがその交流メンバーとして一役買ったのだ。日頃からお世話になっているロドスに恩を返したい、そして何より、自分と娘のために身を粉々にして働いてる夫の負担を少しでも軽くするためにと彼女なりの恩返しと献身だった。

結果はうまくいき、今日までのロドスと龍門の交友関係は他の国に比べて良い状態を保っている。その功績でもちろんメンバーの一人であるマイヤも、より重要な職員へとめでたく昇格することになった。

このパーティーもロドスと龍門の交流会の一環であり、他のロドスの職員もいる。その人たちは一足先にパーティーに参加しているが。普段はのほほんとした陽気さと人柄の良さ、そしてちょっとした天然な性格で職員やオペレータたちを和ませている彼女は、仕事に関してはしっかりと真面目に取り組むので、ロドスからも龍門の関係者たちからも好評で慕われているのである。

 

「やぁ、マイヤ!まだ仕事かい?」

 

そんな真面目に仕事をこなしている彼女の背後から、髭を生やしながらもイケメンですらっとした体型の長身男性が声をかけてきた。

 

「こんばんは、タウウェンさん。いえ、もうこれらの書類をコピーしたら終わりなので大丈夫ですよ」

「いやぁ~真面目なのは君の美徳の一つでもあるけど今日はクリスマスイブだよ。たまには仕事を忘れてパーティーに参加しようぜ!あとパーティの後、二人でどう?」

「ごめんなさいタウウェンさん。もちろんパーティーには出ますけど、その後には家族と一緒に過ごすつもりなんです」

「あら残念だね」

「だって今日はクリスマスイブで明日はクリスマスですもん。靴下、トナカイに乗ったサンタさん、シチューに七面鳥、ケーキそしてクリスマスプレゼント、そんな幸福な聖夜を家族みんなで楽しみにしてるので」

「あ~僕としては高価な赤ワインに、高級チーズ、真っ赤に燃える暖炉の炎、そんな聖夜を二人で楽しみたいね~」

「ふふふっ、それも楽しそうですね。来年は夫とやってみようかしら?」

 

イケメン色男のお誘いを持ち前の天然で躱すマイヤ。実は前からもこんなお誘いがあったのだがことごとく断っているのだ。もちろんタウウェンは彼女が子持ちの既婚者だと知っている。もう皆さんには分かるだろうが、コイツは寝取ろうとしているのだ。まさか人妻だと知りながらそれでも手をだそうとする色男だとは彼女も知る由もない。

残っている仕事を終わらすため途中で彼と別れて彼女の仕事部屋に戻ると、置いてあったコピー機に書類をセットする。コピー機が書類を読み取りするために少し時間が掛かるので、彼女はその間にとあるところに携帯電話を掛けた。

数秒待つと、携帯のスピーカーからは大人の女性の声が聞こえてくる。

 

「もしもし、グラム先生ですか?はい、マイヤです。いえこちらこそ、いつも娘のリーリヤがお世話になって助かっています。リーリヤはいますか?はい、お願いします」

数秒間無音になった後、さっきの大人の女性の声とは違って今度は可愛らしい少女の声がする。

「はい、わたし『りーりや・りかくらーん』です」

「ハーイ、可愛いリーリ♪ママですよ。今日もグラム先生の言ううことをしっかり聞いてお利口にしていましたか?」

「うん!今日はクリスマスイブだから友達みんなでツリーの飾りつけをしたよ!すっごいキラキラしてるよ!ママにも見せてあげたいの!」

「まぁ!それは帰ったら見るのがとても楽しみだわ♪パパにもリーリの作ったツリーを見せてあげたかな?今日はパパもお仕事休みだから―」

「ううん、まだ。パパはいま買い物に行ってるの(・・・・・・・・・・・)

「あらそうなの…?わかったわ。ママももう少ししたら帰ってくるからね。そうしたら明日はパパも一緒に家族でパーティーをしましょうね」

「うん!あっそうだ!グムお姉ちゃんやゾーヤお姉ちゃんたちも誘っていい?」

「えぇもちろんよ!あっ、あと今プレゼントを探してもありませんよ。リーリが今日もお利口に過ごして寝たら、朝にはきっとツリーの下にプレゼントが置いてありますよ」

「うんわかった!ママ待ってるね!」

「じゃあお休み、可愛いリーリ♪」

「おやすみなさい!」

 

ガチャリと電話が切れる音がする。マイヤが通話を終わらせたころには書類のコピーは終わっていた。

 

~~~~~~~~~

 

「へぇ~、このビルが紅雀タワーかぁ~。たっけぇ~ビルだな~オイ」

 

その頃、ジュンを乗せたTAXIも目的地である紅雀タワーに到着し、たった今降りたところだった。それは先ほどまで青年が気に入ってたクリスマスソングと名乗った爆音ロックを聞かされ続ける地獄からやっと解放されたとも言う。耳がいてぇ。

 

「そうですよ~。なんたってこのビルは30階以上もあるんですよ。こんなビルを建てられるのは間違いなく金持ちの証ですぜ」

「ふぅ~ん…贅沢だねぇ~」

「そういえば、奥さんに会ったらどうするんです?そのままパーティーに参加するんですかい?」

「う~ん…どうだろうな~。久しぶりで妻にどういう風に声を掛ければいいのやら…」

「そんな弱気になってどうするんですかい、旦那さん!せっかく1ヶ月ぶりに奥さんに会うんでしょう?なら思いっきり抱きしめてからの『アイ・ラブ・ユー』これで決まりですよ」

「……」

「あっ、もし緊張してるならいい方法がありますよ。ふわふわな絨毯の上で靴と靴下を脱いで、足の指、つま先を丸めるんですよ」

「…つま先を丸めるだぁ?」

「えぇ、じつは自分も落ち着かない時とかにはそうしているんですよ。そうすると絨毯のふわふわな感触が足をやさしく包み込みこんでくれてリラックスするんですよねぇ~。ぜひやってみるといいですよ!効果は自分が保証しますよ!」

「…あぁうん、いつか試してみるよ」

 

ジュンはフェリーンの丸坊主青年のアドバイスを適当に聞き流しながら、お目当ての紅雀タワーを見上げる。流石30階以上ある高層ビルなだけあって、正直首が痛くなりそうなくらいだ。

 

「あっそうだ、え~と…。お前さん名前は?」

「オーガスタです」

「オーガスタ、悪いけど待つことってできるか?もしかしたら俺すぐに戻ってくるかもしれねぇから」

「もちろんできまっせ。地下駐車場に車止めておくんで、そこに来てください。もし、時間が掛かるようでしたら…これ、自分の電話番号なので掛けてくださいな。上手くいくといいですな」

「ご親切にどうも、オーガスタ。助かるよ」

「へへへ、感謝の気持ちはチップでどうぞ、旦那さん♪ではまた後で!」

 

ジュンに電話番号が記載された名刺を渡したオーガスタは、そう言って彼を残してTAXIを走らせ、紅雀タワー専用の地下駐車場に向かった。

 

「にしてもやっぱりたっけぇな~、タマがヒュンしそうだなぁ」

 

再度、紅雀タワーを見上げるジュン。こんな高いビルはチェルノボーグにもあまりなかったし、何より元いた世界の都市を思い出す。狭い土地なので横に長い建物はほとんどなく、縦に長い建物がひしめき合っているとある街のことを。

色んな意味で昔の思い出に浸っていたがふと、商店街で占ってもらった婆さんの言葉を思い出す。

"お前さんが登ったり飛び降りたり登ったり飛び降りたり―"、と。

 

「…ふっ、まっさかぁ~」

ジュンは小さく笑い、あの時言われた言葉を一蹴する。

「こんなビルの屋上からバンジージャンプってか。馬鹿馬鹿しい、そんなことやるのは贅沢な趣味をお持ちの金持ちかホントのバカだけだろ」

 

ジュンは紅雀タワーの中へと入っていった。




おまけ

ジュンの容姿
・身長は180cmくらいはある
・警官職・オペレータ職なため筋肉はついているが、どこかくたびれてる様な雰囲気がある。
・顔はお世辞にも美顔とはいえない。のっぺりしていて少し垂れ目にたらこ唇、てかロドスのほとんどの人が男女ともに顔面偏差値が高すぎるんよ。やはり世の中顔面偏差値。
・若干クルクルっとしたクセ毛の黒髪だが最近は白髪だったり抜け毛だったりと頭皮の毛を心配している。

マイヤの容姿
・身長は160cm後半。
・すらっとした体型で筋肉もついてように見えるが、見た目で侮るなかれ、細腕からは想像できないくらいの怪力を有している。力はジュンよりもある。
あとジュン曰く「着やせするタイプで脱いだらすんごい」
・青い瞳の美人顔ながらにのほほんとした陽気さと立ち振る舞いとピコピコっとした熊の耳が愛らしい。さすがアークナイツの世界の住人。さすがウルサス人。
・落ち着いたストレートの茶髪ロングヘアーに白のメッシュが混じっている。

リーリヤの容姿
・身長120cmくらい
・まだ7歳なのでまだまだそれ相応のすらっとした少女の体型。これからの成長に期待。多分マイヤみたいになるだろう。
・愛くるしい天使のような童顔、眼は茶色が混じった黒。これはジュンゆずりである。マイヤ同様ピコピコっとした熊の耳が愛らしい。さすがウルサス人。
・ジュン同様若干クセがある茶髪ボブヘアー。黒いメッシュが混じっている。


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中年オヤジはつま先を丸める 1-3

イピカイエ―(挨拶)
今回は短めです。


自動ドアを潜り、エントランスに入ったジュン。エントランスは音ひとつ無いほど物静かだった。しかし、ヒト気がまったくないわけではなく。

 

「こんばんは。どうかされましたか?今日は会社自体がお休みなので、ご予約した案件はなかったと思いますが…」

 

受付カウンターから出迎えてくれたのはリーベリの男性。キッチリとした清楚なスーツで人が来ずに手持無沙汰になっているとはいえ仕事をしていることは感心する。

 

「ロドスから来ました、ジュンなのですが…あの、今日ここでクリスマスパーティーがあると妻のマイヤ・リカクラーンから聞いたので…。妻にちょっと用があって来たのですが…予約してた方が良かったですか?」

「マイヤさんの…。なるほど、大丈夫ですよ。このタッチパネルで名姓検索すればどこの階に仕事部屋があるのか分かりますよ。その階に本人が基本おりますので」

 

目の前にあるタッチパネルに促され、ジュンは受付の男性の指示に従って指で操作する。

姓名、リカクラーン…RekoKran…R…R

Rを見つけたので押して検索するが、検索結果は―

 

「あれ?ないな…?」

 

―該当する氏名の中に彼女の名前が見つからなかったのだ。

 

「もしかしたら、奥様は旧姓のほうで登録してあるかもしれません」

「…旧姓?」

 

そんな馬鹿な…。受付の言葉に半ば疑いながらもう一回検索する。

マイヤの旧姓は…シェフトヴァ…Sheftova…S…S

Sを見つけて、もう一回検索結果が表示される。すると

 

Sheftova・Mayya

 

「…あった…。…でもなんで旧姓に…」

 

今度は見つけることには成功したもののジュンはあまり喜べなかった。いつの間にか彼女の姓が旧姓に戻っていたのだ。彼女のことだからたぶん何か理由があるのだろうとは思うのだが…。

心の中にモヤモヤ感が生まれるのを感じながらも、マイヤの名前を押す。

すると、マイヤの仕事部屋が表示される。階は―、

 

「30階か」

「30階はパーティー会場になっています。今日はもうその階の人たちだけしかいないですから。高速エレベータをお使いください。すぐに着きますので騒ぎ声が聞こえくると思いますよ」

「…あぁ、どうも…」

「ぜひ楽しんできてください」

 

気分が落ち込み気味になったジュンは比例して少し重くなった足取りでエレベータへと向かった。

 

「……」

 

エレベータを待っている間、ジュンはちらっとカメラと警備員の配置を見た後、1階に到着したエレベータに乗った。

 

~~~~~~

 

「隊長、パトロール隊α、パトロール巡回終わりました。酒に酔った者同士のトラブルが2件ありましたが2件とも無事解決。その他の異常はなしです」

「わかった。次のパトロール隊に15分後に巡回ができるように準備しておくことを連絡しておいてくれ。お前たちは1時間休憩しろ」

「了解しました、隊長。失礼します」

 

隊長と呼ばれた龍のような角の生えた女性に敬礼をして部屋を後にする警備隊員たち。それを見送った女性は椅子の背もたれに体を預ける。

 

「やはり今日はいざこざが多発してるようですね。これで合わせて13件ですね」

「…クリスマスを何かの祭り(バカ騒ぎ)と勘違いしている連中がどうにも多いな」

「この調子だと明日はもっと多くなりそうですね」

「はぁ…」

 

パトロールおよび先ほどのいざこざの件の事後報告書をまとめている鬼のような角が生えている長身の女性が、自身なりに分析し明日の予測を言ううと、隊長はため息をつく。

 

「聖なる夜の日なんだから今日はくらいは静かにしてほしいものだな…」

「静寂な龍門なんて絶対に想像がつかないですけどね」

「…それもそうか」

 

隊長の願いも長身の部下にうまい返しをされて、ついつい納得してしまう。

夜の龍門は無数の光とチンピラたちの騒ぎと化する街だ。理想的なクリスマスとは一番疎遠なところかもしれない。

 

「話は変わるんですけど、ロドスから聞いた例のテロリスト(・・・・・・・)の件なのですが…」

「あぁ、その件か」

 

長身の部下が話題を切り出したのはテロリストの話。と言うのもここ半年前からとあるテロリストが世界の所々で名を上げているからである。

そのテロリストの名は『N・O・K(NoOneKnow)(ノック)』と名乗っている。

テロリスト曰く、各国の政治的・経済的に対する不満を理由に見せしめとして人質に対して制裁、粛清をして、人質を解放するための要求はほとんど無茶苦茶なものばかりで、良くても1~2割、最悪の場合3分の2の人質が犠牲となる。

すでに、NOKによる被害はウルサスやカジミエージュ、クルビア、イベリアなどその他の国でも出ている。

少数規模なテロリストであるものの、その犯行の手口、連携は精錬されたものであり、いつも足取りも掴めぬまま逃げられてしまう。

脅威はいま世界中から恐れられているあの「レユニオン・ムーブメント」ほどではないものの、とても危険で厄介な集団には間違いない。

幸い、龍門やその大本となる炎国には魔の手が掛かってないものの、それももはや時間の問題だろう。

龍門もこのテロリストの行動には警戒をするものの、情報がほとんどなく、色んな国からさまざまな種族があつまるロドスからの情報を共有してもらっているのが現状だ。

 

「他国でも被害が出ているとロドスから聞いている…。龍門にも被害が出る前に早いところ手を打たなければな」

「しかし…難民、無登録感染者にレユニオン対策、そして今日明日はクリスマスの影響でいざこざの多発、それと今後に向けてのテロリスト対策…正直、今日明日の警備はかなり厳しいものです。動ける警備隊員にも限りがあります」

「今日明日の分の警備にはロドスにも協力はしてもらっているが…それでも手が足らなくなるな。だからクリスマスは苦手なんだ」

 

角の生えた隊長と部下は今日と明日、そしていつ来るか分からない敵に頭を悩ますのだった。

もう、その連中(・・・・)が龍門の中に侵入しているとも知らずに。




今回はおまけは無し。


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中年オヤジはつま先を丸める 1-4

イピカイエ―(挨拶)
今回は書く時間が掛かってしまった分長めです。
キャラの心情を書くのは少し手間取ります。


ポーン♪という音と共にジュンの乗っていたエレベータの扉が開く。

到着したエレベータの先に広がっていたのは、広い豪華なパーティー会場とぱっと見でも30人くらいの、もしくはそれ以上の人がいた。男性はほとんどスーツ、女性はドレスやチャイナ服などTPOにあった服装であった。

それに対して、ジュンの格好はどうだろうか。冬用コートの下は緑と白のチェックの厚手シャツ、下もビジネス用などのスーツパンツではなくボテッとしたベージュ色のワークパンツ。どう見ても私服だ。場所にもよるが少なくともこの場の雰囲気には合わない格好だった。

そんな服装が場違いなオッサンは気にも留めずに妻を探しにパーティー会場の人混みに入っていく。

 

「メリークリスマス、シャンパンをどうぞ」

「あぁ、ありがと」

 

従業員からシャンパン(…なのかコレ?何かすっごい赤いぞコレ)を貰い、こくりと一口飲む。

 

「……」

 

渋い顔をしてすぐに他の従業員にシャンパンを返す。残念、どうやら彼の口に合わなかったようだった。

その後も辺りをキョロキョロ見渡すが、人混みが思いのほかすごいせいでぶつかってしまう。

 

「あぁどうも失礼」

「いいえこちらこそ」

時には、

「やぁ~!メリークリスマスー!」

ちゅっ❤

「!?」

 

酔っぱらった男性に頬をチュウをされてしまった。これが龍門式のメリクリってか。たまんねぇなこりゃあ(汗)。

※ジュンはノーマルです。

こりゃあ妻を探すのになかなか骨が折れそうだ。そうだ、酔ってなさそうな人に聞いてみよう。できればお偉いさんとかに聞いた方が手っ取り早いだろうな。

そう考えたジュンはさっそくめぼしい人を探す。

そのとき、

 

―ねぇ、あの人って…―

―えっ…うわ、なんであの人がいるんだよ…―

―あの人ってマイヤさんの旦那さんだよね…―

―なんでここに来てるのかしら?―

―おい、あんまりあの人を見るなって。言いがかりつけて嫌がらせするらしいぞ―

―噂では他のオペレーターと喧嘩沙汰になったって話らしい。しかも自分のミスなのに開き直るとかなんとかって話らしい―

―えっ、何それ酷くない?―

―他にも食事に難癖つけてわざと手を付けずに残すらしいぞ。それでグムちゃんを泣かせたらしいぞ―

―何それ、最低じゃない…!―

―なんでマイヤさんはあの人と結婚したのか、そこだけは本当に理解できない―

―マイヤさんも可哀そうだよね…。きっと男を見る目がなかったんだわ―

 

「……」

 

人々の色んな騒音の中、こんな会話が聞こえてきた。ヒソヒソと小声で話しているので騒音に搔き消されるはずなのだが、ジュンには澄んだように聞こえる。

悪いけど聞こえてるんだよなぁ。っと内心で吐き捨て、ジュンは聞こえないフリをしてめぼしい人を探す。

すると、少し段差を上がった場所にお偉いっぽい人を見つけたので、声をかけてみる。

 

「あの、すみません」

「おや、何かね?」

「ちょっと人を探してて…えっと、マ―」

「マイヤ・シェフトヴァ、ですかな?」

「っ!えぇ…」

「それでは貴方がジュン・リカクラーンだね。リー・チュンイです。マイヤ君から君の話は聞いてるよ」

「どうも。妻のマイヤがいつもお世話になっております」

「いやいや、むしろお世話になっているのはこちらの方だ。マイヤ君はとても優秀だよ。龍門も喉から手が出そうなくらい欲しい人材だよ」

「妻も楽しそうにやりがいのある仕事だといつも聞いてます。ありがとうございます。それにしてもこのビルは素晴らしいですね。室内に池があるなんて見たことがありませんよ」

「ははは、そう言われるととても嬉しいよ。でもまだこのビルは未完成でね、上の階がまだ工事中なんですがね、完成すればもっと素晴らしくなるよ」

「それは楽しみですね。是非とも見てみたい」

「ええ是非!あ、マイヤ君ならまだ仕事中だけど、そんな大した仕事じゃないからすぐに戻ってくると思うから、彼女のオフィスで待ってるといい。案内するよ」

リーチュンイは彼を案内し始める。後をついてくジュンは礼と謝罪を言う。

「ありがとうございます。それとすみません、突然押しかけてしまって」

「いえいえ、構いませんよ。さぁここが彼女のオフィスです」

 

先ほどのパーティー会場からすぐ近くの部屋に案内された。扉には『M・SHEFTOVA』と書かれている。

リー・チュンイの後に続いて部屋に入ると、そこにはマイヤではなく、髭の生えたイケメンが何かをやっていた。

 

「タウウェン?こんなところで何をしているんだ?」

「あっ、いや、ちょっとここの電話を使っていたんです。…ズズッ、ここの電話が一番電波がつながりやすいので…ズッ」

 

いや、厳密には何かを吸っていた(・・・・・・・・)

そしてタウウェンは慌てて腕で机を拭いた。

おいおい、元警官・現製薬会社に所属している者としては見過ごせないところを見ちまったんだが。

ジュンはその男が何をしていたのか、一瞬で見抜いた。リーは何事もなかったように話を進める。

 

「こちら、ジュン・リカクラーン氏だよ。マイヤ君のご主人でロドスのオペレータだ。タウウェンはロドス交流担当兼龍門開発部門担当です」

「ズッ…どうも、お噂はかねがね聞いてます」

鼻をすすりながらタウウェンは手を差し出す。ジュンも彼の手を取り握手をする。

「どうも。……まだ付いてるぞ(・・・・・・・)

「!」

 

そう返されると、彼は慌てて鼻を拭く。

本当だったら現行犯逮捕ものだが、俺はもう警官じゃないし、ここは龍門だ。リー・チュンイが見逃しているってことは合法かはたまた許容してるんだろうな。

そう考え、ジュンはタウウェンの行為を深く追求しなかった。そんなことよりも、っといった感じで一通り部屋や仕事机を見渡す。マイヤは整理整頓ができる性格なので、机の上には何枚か書類が置いてあるものの、散らかってはいない。質素ながらもちゃんと整理されている部屋だった。

他にも何個か写真立てが置いてある。家族写真、娘とのツーショット写真、職場仲間との集合写真などなど、これも埃ひとつ被らずに綺麗に置かれてある。

 

「何か食事や飲み物でもお持ちしましょうか?シャンパンとかどうです?」

「あぁいえ、お構いなく…。ホント、素晴らしい職場と環境だ。ここなら妻も集中して仕事に励むことができますね」

「アハハハっ!そりゃあもちろん!龍門とロドスの協力関係をより良くしてくれた立役者ですもんね!」

「あぁ、その通りだ。彼女がいる限りは来年も良い関係が続けそうだよ」

「…そうですか」

 

二人が彼女を褒めちぎっていると、後ろから、

 

「…えっ?アナタ…?」

 

まるで豆鉄砲でも喰らった鳩のような驚きの声。そしてジュンにとっては一番聞きなれている女性の声だった。

 

「…やぁ、マイヤ」

「え?アナタなの?ど、どうしてここに?」

天然気質なマイヤもさすがにこれにはビックリしている様子だ。

「とっても親切なサンタさんに連れてこられたんだ(笑)」

そう言うと、サンタさん(リー・チュンイ)が笑い出す。

「いやぁ、実はプレゼント袋に紛れ込んでしまったらしくてな。マイヤ君宛だったから届けに来たんだ」

「ははは、うまいな~リーさん」

「もう!都合のいい人たち!」

 

マイヤは少し頬を膨らませ、ムッとした表情でジュンに近づいていくる。

そして、

 

「…ジュン、会いたかったわ」

「ああ、俺もだ」

ギュッとハグをしてきた。もちろんジュンも彼女をハグする。数秒間して、ハグを解いて少し離れる。

「リーリを怒らないでくれな。あの子には口裏を合わせてもらっただけだから」

「わかったわ。でもそれだと今日リーリが…」

「リーリは今日はみんなでお泊り会をするって言ってたからな。先生たちもいるし、友達もたくさんいる。だから今日は大丈夫だ」

「そう…?それならよかった」

「…あいかわらず仕事の方はうまくいってる感じだな。リーさんから少しだけ話は聞いたぞ」

「えぇ。でもそれもこれもロドスや龍門の皆さんがいてこそ、できたことだからよ」

「オイオイ、そんなに謙遜しなさんなって!あっそうだ。マイヤ、旦那さんには見せたのかい?…腕時計」

「……」

 

ニッコリしながらタウウェンが横やりを入れてくる。しかも、わざわざジュンが知らないことをだ。

コイツ…、内心イラっとするが、マイヤに迷惑をかけるわけにはいけない。ここは我慢我慢。

 

「?いいえ、まだですよ。あとで夫に見せますね」

「いいじゃないか!別に~。今回一番頑張ってくれたので、それの記念品として贈ったんですよね。…とてもお高い奴をね」

「……あとで拝見させてもらいますね」

 

このヤク中野郎めがァ!!ブッ殺してやろうかァ!?

 

……落ち着け、落ち着け…。にっこりにっこり…っと、ジュンは自重して内なる自分を抑える。そうだ、たかが腕時計だ。慌てることはないんだ。

でももうこのヤク中野郎とは一緒の部屋ににいたくないので、ジュンは話題を変える。

 

「アァー汗カイタナー。マイヤ―、ドコカ顔ヲ洗エル場所ナイカナー?」

「?えぇ。リーさん、2つとなりにある部屋を使ってもいいでしょうか?」

「あぁ、もちろん。リカクラーンさんもどうぞごゆっくりお寛ぎください」

「はい、何から何までありがとうございます。では…」

 

案内するためオフィスを後にするマイヤ、彼女の後に続くジュン、リー・チュンイも部屋を出てパーティーに戻る。そして、取り残されたタウウェンは、

 

「…フンッ」

気に食わない様子で鼻を鳴らす。

「あの男がマイヤの夫?あんなブサイクがか?冗談よせよ」

ちょうど今さっき吸ったモノが効いてきたのか、調子がどんどん上がっていく。

「俺の方が顏はイケてるし、金もあるんだ。あんなダサい奴なんかよりもずっとな!俺の方がマイヤを幸せにすることができるのに!」

 

なんであんな奴がっ!!気持ちが高ぶっているタウウェンはとあるモノが目に付く。

 

「なにニヤニヤしてんだよ!えぇ!?」

 

それはマイヤとジュンとリーリヤが映っている家族写真。いくつかある写真立ての中でも一番大きい。

その写真の中に、ジュンがいることがとっても気に食わない。

タウウェンはジュンのことが心底嫌いだ。いくらマイヤを口説こうとしても彼女の口からはいつも彼の名前がでてくる。

彼女の隣にふさわしいのはこの俺様だ!俺様の方が彼女を愛してるんだ!俺様の方が彼女を幸せにできるんだ!俺様の方が―!

 

バンッ!

 

彼は腹いせに家族写真立てを倒したのだった。




おまけ

現時点でのジュンのクセ

・やたら監視カメラと人の配置を確認する。
・悪い噂や小言がやけにはっきりと聞こえてしまう。

どちらも前職で身に付いたクセですね。


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中年オヤジはつま先を丸める 1-5

イピカイエ―(挨拶)
1-○もあとこれ含めて2話くらいですかね。



日もだいぶ落ち、あと1時間足らずで夜を迎える龍門の街。ビルや店、車、電灯に光が付き始める。

その中、一台の大型トラックと一台のスポーツカーが紅雀(ホンチュェ)タワーへと向かっていた。

クリスマスイブの惨劇は刻一刻と迫っていた。

 

~~~~~~

 

「タウウェンさんのことはあまり気にしないでね。あの人、最近取引の仕事が連続しててね、少し疲れてるの」

「…そうか。それにしても彼、随分とマイヤに熱心だったような気がするが、狙ってるんじゃないか?」

「フフッ、そんなことないわ。だって私、アナタの妻よ?タウウェンさんもそれは分かっているはずよ」

「だといいが…」

 

ここは30階の、一番端にある仮眠室。とは言ってもそこらの仮眠室とは違い、何から何まで上品質で、トイレ、洗面台もとても豪華な装飾がしてある。

ジュンはマイヤに連れられて、今ちょうど顔を洗っている最中だった。

冬用のコートを脱いで、やっと一息つける空間でジュンとマイヤは1ヶ月ぶりにたわいもない世間話をしていた。ここでなら感染云々での時間制限もないので好きなだけ、妻とゆったり過ごせる。妻も流石に1ヶ月間も夫に会えなかったのか、会話の話題が尽きることがない。もちろん、明日の家族でのクリスマスの段取りもだ。

 

「―っていう感じなのだけど…。あと、グムちゃんやゾーヤちゃんたちも誘おうかと思っているのだけれど、どうかしら…?アナタが構わないなら誘おうかと思っているのだけれど」

「ゾーヤたちをか?……あぁ、別に構わないさ。日頃からリーリと仲良くしてもらっているからな」

「ありがとう!これは久しぶりにグムちゃんに負けないくらいに腕を振るわなきゃね!アナタも楽しみにしててね!」

「あぁ…わかったよ」

 

これからの予定に楽しそうにワクワクしているマイヤ。しかし、ジュンは彼女とは反対にどこか顔が暗い。

そしてジュンは意を決してこんなことを聞いてみた。

 

「なぁ…、マイヤ」

「うん?どうしたの?」

「実は下の受付でな…。お前の名前を検索したんだが…」

一度、一息を入れて、つかの間の静寂を切って言い出す。

「お前の姓がな、『シェフトヴァ』になっていたんだが、どういうことなんだ?」

「?…あぁ!それね。実は―」

一瞬?を頭に思い浮かべるマイヤだが、ポンと手をたたいて思い出したように言い出す。

「実はね、タウウェンさんに言われたのよ。ここでは旧姓で名乗る方が良いって」

「…は?タウウェンが?」

「私もリカクラーン(今の姓)で名乗った方が良いかなとは言ったのだけれど、龍門では仕事は旧姓で名乗るのが普通なんだって。私も初耳でビックリしたわ」

「それで、シェフトヴァって名乗ってるのか?」

「うん。あ、一応皆さんには紹介時に夫がいますよー。って言ってるから、皆さんは承知してると思うけど……アナタ?どうしたの?」

「……うん、大丈夫、なんでもない」

 

マイヤについては…うん、いつもの天然さが発揮して、わざとではないことは薄々わかっていた。どうやら、これが俺に対する当てつけだって言うことも彼女は察していないし、どういう意味なのかもわかってはいない。よかったとジュンは安堵する。

しかし、問題はタウウェン(あの野郎)だ…!無知だとはいえ妻をそそのかしたことは絶対に許さねぇ…!後でまた会ったら、一言言わなければな。いや、いっそ二度と舐めたことができないようにだな―

 

「アナタ?」

 

妻の声でハッとする。いかんいかん、最近は独り言が多くなってきたな。

リラックスして顔を上げると、妻が心配した顔をしていた。どうしたんだ?

 

「アナタ…最近大丈夫?なんか前見た時よりも痩せているように見えるけど…」

「…」

「声もなんだか元気がないように見えて…もしかしてどこか具合でも―」

「大丈夫だ」

マイヤの心配を遮って一蹴する。

「じつは前々から太ってきてな、ダイエットを勧められたんだけどな。勧められたダイエット方法がすっごい効果でな!痩せて見えるのもそれが理由だ」

「そう…?」

 

マイヤはジュンの体、顔を見つめる。体は見えづらいが、前は来ていた服もピッタリで服のしわやぶかぶか感がなく、サイズがあっている感じだったけど、今着ている服はところどころだぼっとしている。

とくにマイヤが心配しているのは顔だ。髭は剃っていて清潔感は保っているのだが、眼の下には隈ができており、頬もなんだか痩せこけて、前はふっくらした顔が、今では見る影もなく細く見える。

ハッキリ言って健康状態とは言えないことは医者ではないマイヤでも見てわかった。

 

「でもやっぱり、お医者さんに―」

 

がちゃり!

部屋のドアが大きい音と共に突然開き、二人ともビックリする。入って来たのは…、

 

「や~ん❤」

「「……」」

「おぉっと!…ど、どうも失礼…」

 

どうやら盛った男女だった。マイヤはドアの方を見た瞬間に顔を逸らす。少し顔が赤くなっており、熊の耳も落ち着きがないのかピコピコと動いている。

一方のジュンは、心底冷めた目で盛った男女が部屋から出ていくのを見送る。

変な空気になってしまった。

 

「…その、あまりやりすぎには注意してね。その姿はリーリも心配するから…」

「…あぁ分かってるよ。でも明日のために痩せてたきたらな…!」

「「……」」

 

あのバカップルども、どうするんだこの空気。

 

~~~~~~

 

一方で、紅雀タワー付近では地下駐車場へと入っていく大型トラック、そしてトラックと別れたスポーツカーは紅雀タワーの(さきほどジュンが降りたところの)駐車場で停まった。

受付の人は監視に移った大型トラックをみて不審に思ったが、ガラス越しに移った、スポーツカーから降りた二人の人間に意識が向いたのだった。

 

~~~~~~

 

先程のバカップルのせいで変な空気にはなってしまったが、ジュンが再度切り出す。

 

「…マイヤ」

「は、はい…」

「ここに来た理由なんだけど…、じつはお前に大切な話が―」

すこし、しどろもどろになりながら返事をする、まだ顔が赤い妻。

ジュンは落ち着いて、妻に会いにここに来た、本来の目的の話(・・・・・・・)を話し出そうとする。

が―、

 

コンコンコン。

「「!」」

 

ドアのノック音で話が遮られる。ジュンはマイヤに、ドアをノックした人に入る許可を目で伝える。マイヤもそれを読み取り、どうぞ。と声をかける。

 

「失礼します。あっ、すみません。お話の最中に…」

「どぅも~、気にしないでください。マイヤに何か用で?」

ドアを開けてきた女性に対し、ジュンは先ほどとは180度違う態度で挨拶をする。

「えぇ、マイヤさん、リー社長がパーティーの締めにスピーチを一言を、とのことです」

「えぇ、わかったわ。でも…」

マイヤがジュンを見る。大切な話だと言うので、先に切り出した彼の方を優先させたいのだろう。だがジュンは気にしない様子で、

「いいよ、気にしないで行ってきな」

「……わかったわ。じゃあ行ってくるね。ごめんねアナタ、すぐに戻ってくるね」

「おう!行ってらっしゃい」

 

マイヤがジュンに一言謝罪をして部屋を後にする。女性の方も彼に一礼してドアを閉める。

ぽつんと一人残ったジュンはため息を吐き、洗面台の大きな鏡に写った自分を見る。

うん、酷い顔だ。ただでさえブサイクな顏が隈と痩せこけた頬も相まってさらに酷く、まるで死人か死神の顔のようだ。

 

「この馬鹿が…」

写った自分に対して吐き捨てる。

「何ヘタレてるんだ、えぇ?今日はキッチリ話すって言っただろうが」

ベッドに置いたショルダーバッグに目線を向けて、もう一度ため息をする。

「…もう、これしか方法はねぇし、時間もねぇんだ(・・・・・・・・・・・・・・)。覚悟決めろってんだ………あ、そうだ」

 

ふと何かを思いついた彼は、とあることをやるために洋風トイレの便座(蓋されたままの状態)に座り、

 

「―よいしょっと」

靴と靴下を脱いで裸足になった。




今回のおまけは無し
次回、いよいよ奴らの登場、です。


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中年オヤジはつま先を丸める 1-6

イピカイエ―(挨拶)
さぁ、いよいよ悪党どもの登場です。




「そんでさ~ALIVE・UNTILE・SUNSETの曲、ヘビメタだけどあれはなかなかに良くてさ~。あっ、でも、EMPERORも王道なラップも外せなくてね~。最近はD.D.D.もSNSで人気になってるからな~。いや~、音楽はやはり偉大だね!!」

 

陽気な声とともに紅雀タワーのエントランスホールに入ってきたのは二人の男女だ。

一人は角の特徴からサルカズの長身ロン毛男性。

もう一人はヴァルポ(狐)の小柄な女性。

 

「ホット、君も音楽聞いてみなよ!いやぁ~最近の音楽ってファッションに遅れをとらないくらいレパートリーが増えててすっごいからね!」

「……」

 

二人組は受付の方に近づいてくる。受付の男性も一足先に来た(ジュン)のように対応しようとする。

 

「あの―」

「ねぇ、受け付けの君はどう思うかい?音楽は何が好きかな?」

 

その直後に、

 

パシュッー

「ぅ―」

 

長身男性がコートの懐から取り出したモノ(・・)から、小さく何かが素早く空を切るような音がし、それと同時に受付の男性の眉間に穴が開き、力なく椅子の背もたれにうなだれた。

 

「あらら~♪死ぬほど疲れちゃってたかー♪えいっ!」

 

童顔女性は机を軽々と飛び越え、もう二度と起きることはない受付の男性を軽く蹴っ飛ばす。そして、懐から無線を取り出し、何かの合図を送る。

その間に長身ロン毛男はエレベータがある方へ静かな足取りで向かう。エレベーター付近には一人の警備員しかいない。

長身男性は円筒ものを取り出し…、

 

「うん?」

 

警備の男性はコロコロと転がってきた円筒に目線が行き―

瞬間、焼けるような強烈な一閃に目をやられ、

 

パシュッパシュッパシュッ―

「うがッ―」

 

警備の男性の体に数か所の穴が開いたのだった。

 

~~~~~~

 

【こちらヤブリ、OKよ~♪】

 

無線から聞こえてきた合図を受け取った男性は、大型トラックの荷台の扉を開ける。

すると荷台の中から出てきたのは、さまざまな種族の人間。それぞれ大きなバックを背負ったり、大きな箱を乗せた荷台をひいたりしながら、その多種族の集団は地下駐車場を後にし、数組に分かれてそれぞれのエレベータに乗り込んだ。

 

~~~~~~

 

「ふっふふ~ん~♪」

 

ヴァルポの女性は受付のすぐそばにあった管理室に入り、管理室に設置されている地下駐車場や監視カメラを制御しているパソコンを慣れた手付きで操作し、地下駐車場の防火シャッター全てを下した。

そして、

 

「機械は~♪ふぅん!ふぅん!壊すのが~、とっても~♪快ッ!感ッ!!」

 

陽気な歌とは裏腹に操作していたパソコンのコードを乱暴に引っこ抜き、さらにでかい箱のような制御装置に強力な蹴りをかます。その威力はバチバチと火花が出るくらいだ、もうその制御装置は作動することはないだろう。

そのタイミングで先ほどのエレベータの一つからから数人が出てくる。

その中の一人が冷たくなった受付の男性の服を手際よくあさり、玄関扉の開閉カードと着ていた上着を取った。

 

~~~~~~

 

「ここを左に…次を右に…、そしてここをまっすぐに…ハハハッ、図面通りだ」

 

地下にて残った眼鏡をかけたサルカズの男性は事前に調べたのか、内部の通路をすいすいと進み、とある場所にたどり着く。

そこは会社内の全ての電話やルーターに使われている電線コードが纏められている大きな箱が設置されている。箱からは数本の電線コードが入ったパイプが天井に伸びている。

さっそくサルカズの眼鏡男は作業に取り掛かるために、箱の中身を空けるためにバッグから小さい電動丸鋸を取り出し、蓋をこじ開ける。

 

~~~~~~

 

「ん~…」

 

30階の豪華な仮眠室のトイレに座り、絨毯の上で裸足になっている男は先ほどの連中の一人―ではなくて、ジュンである。

ジュンの足の指は何度も絨毯の上で閉じたり開いたりしていた。

なんだか、絨毯のモコモコ感も相まって、なんかくすぐったい。

 

「プフッ、あのボウズめ…クフッ、ククッ」

 

TAXIの、フェリーンの丸坊主の青年(オーガスタ)に言われたとおりのリラックス法を試していた真っ最中なのである。

なお、結果はジュンがクスクス笑うくらいだった。

 

「ククッ、『つま先を丸める』ねぇ~」

 

ブツブツつぶやきながらジュンは皮製の折り畳み式カードケースをポケットから取り出す。財布とは違って、こっちには身分証や写真が入っており、どこに行っても肌身離さず持ち歩いている物だ。

さきほど貰った名刺を取り出すためにカードケースを開く、挟んだだけなので取り出すのも容易だった。

 

「………」

 

それでもジュンはカードケースを仕舞わずにとある小さい写真を見る。

それは彼の娘、リーリヤの写真であった。娘に面会できるとはいえ、時間も機会もほとんどない彼にとって、この写真はその代わりと言っても過言ではなかった。

写真は防水加工されており、水に漬かっても大丈夫なようにされている。

写真の娘は元気いっぱいでニカッとした表情で幸せに満ち溢れており、ジュンはそれを愛おしそうに眺める。

少し眺めた後、ジュンは別の紙を取り出す。こちらは半分に折りたたまれており、開くと、クレヨンで子供が描いたような3人の男女の絵が描かれていた。

家族の絵だ。マイヤ、リーリヤそしてジュンの並びで、3人が手をつないで満面の笑顔な絵だった。そしてその上にはウルサス語でこう書かれていた。

 

"いつまでもずっと一緒!!"

 

「"ずっと一緒"か……」

 

ジュンは微笑んだように見ていたが、だんだんその笑みに暗さが混じっていった。

 

「ごめんなリーリ、俺はこれからお前との約束を破る(・・・・・・・・・)最低野郎になっちまうな…」

 

ジュンはそれらの写真をカードケースにしまい、壁についてた電話にもらった名刺に書かれていた電話番号を入力した。

反応はすぐに来た。

 

「もしもし、オーガスタか?」

「やぁ旦那さん!待ちくたびれましたよ!」

 

もちろん電話に出たのはオーガスタ本人だった。相変わらず音楽の爆音ですごいことになっている。

 

「そりゃあ悪かったな、そっちは今どこ?」

「もう地下駐車場にいますよ。それで奥さんとはどうなりましたかい?」

「う~ん、そうだなぁ…『出だしはまずまず』って、ところだな…」

 

~~~~~~

 

「…ここは…繋いで…そしてこのコードは切って…」

 

同時刻にて、地下ではサルカズの眼鏡男は慎重に電線コードを持ってきた装置に繋げてたり切っていたりした。

と、そこに、

 

「♪~、やぁ兄弟、まだかかってるのか?」

 

先程、受付の男性と警備員に風穴をあけた、『ホット』と呼ばれたサルカズの長身ロン毛男がヘルメットを装着、手にはこれまたチェーンソーを持っていた。

 

「待て、まだだ―」

ギュルルルルルrrrrrr―

眼鏡男の制止を待たずに、長身ロン毛男がチェーンソーを起動させる。眼鏡男は慌てる。

「おいよせ!!まだだって言っているだろう!?おい待てよ!待ってたら!!」

眼鏡男の再度の制止でも長身男は耳を貸さずに、チェーンソーで鉄パイプを切り始める。

「ちぃ!!」

眼鏡男は盛大な舌打ちをしながら作業を慌てて再開させる。

1本目、2本目のパイプが切れる中、残りのコードをペンチで切り、装置のコードに繋げる。

3本目、4本目、最後のコードを慌てて切り、繋げようとし、

最後の5本目のパイプが切れる前に、最後のコードも終わらせ、間一髪なんとか全ての作業が完了したのだった。

 

「…ふぅ…」

 

眼鏡男はほっと一息ついた後に長身ロン毛男を睨んだ。ロン毛男はニッコリと笑顔で返してその場を後にした。

 

~~~~~~

 

ポーン♪

 

30階のパーティー会場でそんな音と共にエレベータの扉が開く。その中にいたのは―

 

それぞれ銃を手にした連中だった。

 

~~~~~~

 

「オーガスタ?おーい、オーガスタ?」

 

オーガスタと話していた最中に突然無音になった。いきなり無音になったのでジュンは受話器に何回か呼びかけ向こうの返事を待った。

一方のオーガスタも、

 

「旦那さん?もしもし?」

 

プー…プー…

いきなり途絶えた電話に彼も驚くのだった。

 

「……」

 

ジュンは突然切れた電話に怪訝の表情を浮かべた。おかしい。ふつう、電話が切れたならツーとかプーとかの待機音がなるはずなのだが、それすらも一切聞こえない。

停電か?いや、明かりや電気はついてる。少なくともブレーカーが落ちたわけではない。

ジュンはもう一度電話番号を打とうとしたとき―

 

ズガガガガガガggggggg―!!!!

 

彼の耳に飛び込んできたのはけたたましい銃声音だった。




おまけ

オーガスタ
フェリーンの丸坊主の青年。TAXI運転手。結構勘が良くて、ジュンからは良い読みを持っていると言われた反面、ズバズバとなんでも言ってしまう。でも気前は良いのでフツーにいい奴。
最近は爆音奏でる音楽にハマっている。うるせー。

タウウェン
見た目は髭を生やしたフェリーンイケメン、仕事ができてルックスもそれなりにいいので皆からはエースとして尊敬されている、が、裏の性格は他人の人妻を狙い、その夫に嫌味をさらっと言うクズのうえ、ストレスが溜まっているとはいえヤクを吸ってるどうしようもないクソ野郎。
ジュンは彼の裏の性格を出会った際に一瞬で見抜いた。

リー・チュンイ
紅雀タワーの社長。リーベリでダンディな雰囲気をもつ。気前が良くジョークもうまい。ホントに良い人。しかし、タウウェンのヤクの件については、仕事のストレスが原因だろうと仕方なく目をつむっている。

あれ?ここまでアークナイツ本編のキャラたちがあまり登場してない…?
ま、大丈夫ですかね☆

さぁ、いよいよ「中年オヤジがいなければ難易度ベリーイージーだった人質立てこもりテロ事件」がはっじまりますよ~♪


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予想外のクリスマスイブ 2-1

イピカイエ―(挨拶)
テロリストVS中年オヤジの始まりである。


「!?」

 

外から銃声と悲鳴が聞こえたジュンは、急いで外していたホルスターから銃を取り出し、様子を伺うため扉を少し開ける。

 

―いやあぁぁあああああ!?!?

―オラオラァ!さっさと歩けぇ!

―撃たれたくなかったら、とっとと歩くんだ!

―い、命だけは!?

―うるせぇ!ホラいけ!!

―きゃあああああああ!!??

 

見えたものは怒号と悲鳴、銃声が相まってまさしく阿鼻叫喚の景色だった。銃を持った集団に丸腰の人々は反撃の選択は当然なく,パーティー会場の広間へと無理やり連れていかれる。

当然、その人々の中には…、

 

「オラ歩けぇ!!殺されてぇかァ!!」

「や、やめて、きゃぁ!」

(マイヤ…!)

 

当然、スピーチしに会場へ行っていたマイヤもそこにいた。彼女もまた武装した連中たちに無理やり広間へ連れていかれる。

ジュンはチラッと廊下の奥を見る。正面奥には非常階段の扉が見える。そこまでいけば一応何とかなるかもしれない……、

が、銃を持った大柄な男が一人こちらに近づいてくる。

 

 

銃を持った男は、片っ端から部屋を開けては中にいる人たちを追い出し、広間へ行くように脅している。

他の仲間たちも部屋を見て回る中、まだ見ていない部屋は、奥の部屋だけ。

大柄の男は銃を構えつつ、奥の部屋へと足を運ぼうと―

 

「きゃあああああああああ!!!???」

「!」

 

突然の悲鳴にそちらの方を見る。

そこは丁度通りかかっていた部屋で、中では盛っていた男女が引きずり出されようとしていた。どちらも服が脱ぎ掛けで慌てふためく様は、見ていて滑稽だった。

 

「ひいぃぃい!?こ、殺さないでくれえええ!!?」

「きゃあああああ!?きゃああああああ!???」

「てめぇらも早く出ろ!もたもたしてねェで早くでろってんだ!撃つぞォ!!」

「へへへwぎゃーぎゃーうるせぇー野郎らだぜw」

「まったくだぜ、赤ちゃんかってんだ。ぶははははw」

 

ゲラゲラと男たちは笑いながら最後の奥の部屋の前に立つ。

ガンッと扉を足で蹴って開けるとそこには―

 

「ここには誰もいないみたいだな」

「よく探せよ隠れてるかもしれねぇからな」

「じゃあここはお前に任すわ」

「おいそんなぁ~、めんどくせぇぜ」

 

部屋の中には誰もいなかった(・・・・・・・)

 

 

「―ハッ、ハッ、ハッ―!」

 

危なかった…!寸でのところで連中たちの目線と意識が別の所に向いたので、その隙にジュンは部屋を脱出し、非常階段へ入ることができた。裸足だったおかげで走る時に音が立たなかったのも要因だ。

ジュンは急いで階段を駆け上る。一階上がって31階のドアを開けた。

 

「!」

 

しかしすぐに、そっとドアを閉めた。なぜか?ちょうど目の前で敵が何かを運んでいた真っ最中だったからだ。運んでいた最中だったのか、幸いにも連中は彼には気づいてない様子だった。

ジュンはすぐに上の階へと上がった。

 

~~~~~~

 

未だに銃声と悲鳴がやまない30階のパーティー会場では広間の中央に人々が一か所に集まられていた。

 

「み、みんな、お、落ち着いて…だ、大丈夫だ…!落ち着くんだ…!」

「……」

 

タウウェンは皆を落ち着かせようとするが、本人も恐怖と混乱で言葉がしどろもどろになっている。

マイヤは突然の襲撃に不安に駆られているが他の人みたいに悲鳴などを上げたり混乱してる様子はなく、辺りを見回している。

その隣にいるリー・チュンイは険しい顔をしてパーティー会場を襲撃した連中たちを睨んでいた。

 

~~~~~~

 

32階についたジュンは銃を構えながら辺りを警戒する。リーさんの言っていた通りこのフロアはどうやら工事中らしく、そこら中に仮組に使われているであろう鉄骨や作業機材が置いてあったり、段ボールや木箱などが積まれていた。

人の気配はないものの、ジュンは警戒を緩めずに作業机に近寄り、置いてあった有線電話の受話器を手に取るが…、

 

「くそっ!この電話もか…!!」

 

受話器からは待機音が一切ならなかった。つまりこの電話も使えない。

本当なら自分の携帯電話を使って今すぐにでもこの異常事態を知らせたかったのだが…

 

「携帯はバックの中だ…!ちくしょう!!この馬鹿が!なんで逃げるときに持っていかなかったんだ…!?」

 

彼の携帯電話はバックの中。そのバックも30階の部屋に置きっぱなしだった。ジュンは自身に文句を言うが…、

突然の銃声、悲鳴と混乱、そして敵が迫っていた中で一瞬しかなかった逃げるチャンス。時間がない中で彼の頭からバックの存在が抜け落ちても仕方なかった。

戻ることもできないし、過ぎてしまったことはもうどうしようもない。それよりも、

 

「ハァ…、ハァ…!アイツら…いったい何なんだ…!」

 

息を整え、頭を整理させ、落ち着かせる。

ここでまず大切なのは状況を把握することだ。襲撃した奴らの人数、武装そして目的。それから今紅雀タワーで起きているこの非常事態をどうやって外に伝えるかだ。

連絡する方法も道具もない以上は連絡もできないし、敵の情報が不明な現状では連絡できても駆けつけてくれた人たちや人質たちが危なくなるだけだ。

 

「くそぉ…どうする…」

 

ジュンは窓をちらりと見る。日は完全に落ち、すでに夜になっていた。それに対して龍門の街は光で明かるくなっていた。

そこでジュンはあるところに目がいく。

 

「…ん?」

 

ちょうど隣のビルのとある一室が光っていたのだが、よく目を凝らすと人が受話器を手に何やら会話をしていた。しかも一向に受話器を離す様子はない。

 

(隣のビルは電話が使えるのか?するとこのビルだけの電話線が切られたか…)

「くそっ…考えても仕方ねぇ…。上の階も見るしかねぇか」

 

今できることをしなければ。ジュンはまた非常階段を使って上の階へ上ることにした。

 

~~~~~~~

 

一方の30階では武装した連中らによって人々が広間に集められていた。いまだに混乱と悲鳴が蔓延している中で―

 

「諸君、殺されたくなければ静かにしたまえ」

 

一人の、唯一紳士服を着たループスの男が声を上げる。すると、やっと悲鳴などが無くなり静かになる。

 

「よろしい。聞き分けの良い人は嫌いじゃない」

ループスの男は手に持っていた何かの本を見ながら続けて言葉を発する。

「我らは『NOK』。世界中のあらゆる貪欲で肥大化した国家に神のもとに制裁を下している義勇軍であり有志同盟だ。そして、炎国の中の一都市である龍門の貪欲さ、やり方には非常に目に余るものであり、許しがたいものだ。よって今回、我々は神のもとで有罪の審判が下った龍門に制裁を下しに来た」

 

彼の言葉に皆がざわざわとどよめく。『NOK』、この言葉をいま知らない人々はいない。今現在、あらゆる国で制裁と言う名の悪行を轟かしている少数精鋭のテロリスト集団。まさか自分たちが今日、NOKの人質になるだろうとは思いもよらなかった。

 

「―そして龍門と交流関係であるロドス・アイランド。お前たちのやっていることは何も解決方法も見出してないにもかかわらず、悪戯に感染者たちに希望を持たせ、そして無駄死にさせる。お前たちのやっている行為はとても質が悪く、この上ない非道でイカれた軍事製薬会社だ。龍門に続いてお前たちも神のもと、後に制裁を下す」

「なんだと―!」

「死にたくなければ、静かにしろ」

「くっ…!」

 

これには一部(ロドス)の人たちが反感の声を上げようとしたが、銃を突きつけられ、なくなく黙った。当然ロドスの職員であるマイヤも彼の言葉には怒りを覚える。

 

「さて、この紅雀タワーの責任者はどこにいる?」

 

その言葉に、リーは名乗り出ようとする。

ギュッ―

しかし、マイヤに袖を掴まれる。

「…絶対に…動かないでください」

絶対に名乗り出てはダメ―。

そんなことをすればリーがどんな目に遭うか、最悪…

 

「ふむ…じゃぁこういえばいいか。『リー・チュンイ・ホンチュェ』。紅雀タワーの社長。龍門でもその人柄と実力ゆえに皆から信頼と好意を寄せらている、実に絵にかいたような誠実な人間じゃないか―」

 

その間にもリーの経歴と実績を喋りながらコツコツと人質の中を歩き回るループスの男はジロリと一人一人の男の顔を見る。大抵の男たちは顔を逸らして自分ではないと示す。

 

「…ふむふむ、名乗り出ないのか。なら仕方ない。では―」

『!!』

そう言いながら手を上げると、銃を持った連中たちが人質たちに向けて銃を向けた。これから自分たちの身に起こることに、人質たちの顔は恐怖で青くなる。

「さっそく、ここにいる者たちには制裁を下そうではないか―」

「待て!!」

 

静寂を切り裂くその声、マイヤは悔しそうに目を瞑る。ループスの男はその声を発した男を見る。

 

「私が…リー・チュンイだ」

「そうか、貴方がリー・チュンイでしたか」

嘘だ。このループスの男は最初っからリーのことを知っていた。知っててわざと知らないフリをしていた。炙り出すために。

「お目にかかれて光栄だ。ホット、連れてけ。お前たちは全員から携帯電話などの通信機器を取り上げるんだ」

 

その言葉と共にリーは武装集団に連れていかれたのだった。




今回のおまけは無し。


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