エースストライクウィッチーズ 〜因果は交わり、新たなifへと〜 (writer)
しおりを挟む
狼と魔女の邂逅
ーこのフェンリアにガンランチャーを?ー
ーあぁ。来たるべき兵器を乗せるため、大型機なら どこまで耐えれるかテストしたい…ー
ーならば重さがネックだなー
ー機銃を替えよう。12.7mmガトリングにすれば…ー
ーテストは成功だ!このデータをエストバキアに持っていくよー
ー分かった。もうレサスは駄目だからな…ー
ーなぁフェンリア。お前は自分の誕生を呪うかもしれないが、いつかきっと報われる…僕はそう信じているんだ…ー
いくつもの記憶。自分が製作された背景や、製作中の技術者達の会話が走馬灯のように過ぎった。
レサスの保有するアーケロン工場要塞が燃え盛る中、俺は目覚めていた。
無機質な金属の冷たい身体が、今や熱で熱くなっていた。
誰かが歩み寄ってくる。俺が製作された時にやって来たテストパイロット兼技術者の男だ。
この男と一緒にいるのは楽しかった。俺は喋れないが、まるで俺がいるのを知ってるかのように話しかけてくれた。話題は尽きなかった。無論、製作された裏も話してくれた…
心底自分が製作されたのを呪った。今やアーケロン工場要塞は業火に焼き尽くされ、消え去ろうとしている。
早く逃げなければならないのに、この男は俺の元まで歩いてきた。
「…戦争が終わる。これが終われば、レサスはオーレリアの監視の元、戦後復興が行われるだろう…」
それでいい。俺のような物は無くていい。レサスのエース部隊のアレクト隊ですら、彼を落とせなかった。
「しかし…オーレリアのエースは強いな…グレイプニルもフェンリアも、レサスの誇るエース部隊も勝てなかった…」
オーレリアのエースとは、先程この基地内を破壊してきた機体だろう。レサスより『ネメシス』と呼ばれたエース。グリフィスの事だ。驚くべき操縦技術だった。狭い要塞内を飛び、俺達を破壊して周って脱出していった。
レサスがオーレリアを相手に勝ちそうになった時に現れた特異点。彼が現れてから瞬く間に制空権が奪取され始め、超兵器グレイプニルも撃墜された。
そしてオーレリアの首都までもを奪還された。そう彼1人が現れたお陰だった。
そして起死回生を狙って製作されていたのが、俺達だった。俺はその中でも特別で、エストバキアで製作計画の戦闘機に装備される予定の兵器をテストしていた。
最後に装備された兵器がそのまま搭載されている。
内蔵式150mmガンランチャー。榴弾や炸薬入り徹甲弾、そしてミサイルをそれぞれ2発ずつ搭載している。これらは回転弾倉によって装填されている。撃つ時に格納された砲身が出て来る為、光学迷彩に影響は無い。最も、これは後程技術の進化でレールガンに換装される予定らしい。
もう1つの兵器もあったが、それは今取り外されている。俺はガンランチャーが好きだがな。
「なぁフェンリア。自分を恨むな…来世はその力を…持たざる弱い人々に使え…」
技術者は動かなくなった。見ると血が溢れていた。
これで俺は1人になった。それでいい…
コックピットには2つのとある物が置かれている。1つは彼の護身用の古い拳銃。そしてもう1つは、彼がレサスを去る時、ある子供から貰った御守だった。
俺の中に置いて逝くなんて、お転婆な奴だ…
要塞が震えている。
基地にはショックカノンがあったはずだ。その燃料やフェンリアに搭載される予定だったミサイルに引火しつつあるのだろう。
1つ心残りなのは、弱い人々を…故郷の人々のために空を飛べなかった事だろう。
後の祭りだが、それだけが心残りだ。
業火に飲み込まれる寸前、コックピットの電源勝手に入った。システムの作動を文字に表す画面に、1つの言葉が浮かんでいた。
『さよなら』
特殊燃料に引火し、要塞内部が果てしない爆発が生まれた。
フェンリアはその爆発の中に消えて行った…
ひやりとした冷たい空気が身を包む。人の声も機械の音も、工具の音も聞こえない。警報機の音も聞こえない。
ただ静かだ。風を切る音と高高度の冷たさが彼を起こした。
「…ここは…どこだ…?」
覚醒しきれていない目で、辺りを見回す。
そこは要塞内部のコンクリートではなく、夜の大空だった。眼下に広がる地上と、夜空を覆う星空と青い月が印象的だ。
「綺麗だ…夜はこんなに美しいのか…」
1人呟く彼。だがそこで何かに気が付いた。
「ん?俺って今喋ったか?」
自分の手で自分の顔を触る。
目、鼻、口、耳…全て人間の顔になっていた。いや、人間の耳とは別に、狼の耳が側頭部から生えていた。
「…どうなってるんだ…俺は確かにアーケロン要塞で…」
これが来世と言うのだろうか?それとも技術者が言っていた転生なのか?彼は困惑したが、それと同時に2つの感情が芽生えていた。
受肉した喜びと、生きているという悲しみだ。生き残ってしまったと言うのが正しいだろう。
「…とにかくまずは武装だ…」
彼は武装をチェックし始めた。
中距離6AAM、長距離ASM、改良型HVAA、クラスター爆弾、150mmガンランチャー、ガトリング銃…そしてHPMとLSWM、光学迷彩も使えるようだ。
「妙だな…どれがどの武装なのかが判る…と言うか左手のこの複合銃がHPMとLSWMか…」
彼の左手の銃は、映画ターミ○ーターの冒頭のプラズマライフルを模したと思われる銃が握られている。
太い銃身はHPM、細い銃身は旧世代の戦艦カタパルトに模されており、1発の細長い巡航ミサイルのような物体が乗っている。これがLSWMなのだろう。
右手にはキャリコM950に、銃身をガトリング砲のように束ねた銃火器が握られている。
男性として転生したからか、ガッシリとした身体付きで、全身が特殊なアーマーで覆われている。
左右の腸骨辺りには、水平方向に可動する2次元ベクタードノズル付きのエンジンが備えられており、腰には下方90度前後までの排気偏向が可能な中央エンジンが備えられている。
両肩甲骨辺りには、あの150mmガンランチャーが取り付けられている。丁度腰の少し上辺りには、IEWSのポッドが取り付けられている。そして上半身の前面のアーマーにはミサイルを格納する箱が付けられている。
そして頭には、機首を模したアーマーが取り付けられており、それは顔を覆ったり出来る。
不思議な事に、エネルギー兵器や光学迷彩が普通に使用できるようだ。
「一体どうなってる?なぜエネルギー兵器や光学迷彩が使える?それにここはどこだ?」
彼は自身に記録されたオーレリアとレサスの地図を出した。だがその2ヶ国どころか、オーシア大陸すら無いのだ。
「こんな世界初めてだ…知らない世界に来てしまったのか…」
星空の中、彼は途方に暮れてしまった。
そんな彼の耳元に、何かの通信が入った。
「無線?こんな夜中なのにか?」
「こ…ら、501…隊バル……ルン!新型ネウ…イと交戦…!」
女性の声だ。無線の調子が悪いと言うより、何かの妨害を受けている様子だ。しかもかなり戦況もマズイようだ。
彼の行動は早かった。
「やれやれだ。お前は出撃する時、こんな気持ちだったのか?グリフィス…」
満点の星空。その一角を見つめた。
間違いない。あの機体のマーク。南十字星が輝いて見えた。
「彼女らを助ける事…そしてこの世界で戦う事で、助かる命があるとしたら…俺はその為に戦おう…」
無線は無かったが、本能で彼女らに無線が届く事を知っていた。
「こちらレサス空軍所属、特殊大型戦闘機フェンリア。援軍としてそちらに急行する!コフィンシステム及び光学迷彩作動!奇襲をかける!」
アーマーはフェンリアの意志に従い、頭を覆うとその姿を星空に融かした。
彼はエンジンのアフターバーナーを吹かすと、無線の飛んできた方向に向けて飛び去った。
姿は見えないが、アフターバーナーと、時折光学迷彩の青白い光が輪郭を作る。地上から空を見ていた者達は、この光景を口々に語り、噂は瞬く間に広がった。
『姿無き青い彗星が飛んでいた』と…
501統合戦闘航空団は死闘を繰り広げていた。
この世界はネウロイと呼ばれる謎の存在に攻撃され、あらゆる土地を奪われた。
人類はネウロイに対抗すべく、技術を結集して徹底抗戦の構えを見せた。その過程で生まれた切り札がストライクユニット。そしてそのユニットを装着して空を飛び、ネウロイを倒す少女らを、人類はストライクウィッチーズと呼んだ。
501統合戦闘航空団は、そのウィッチーズの精鋭の1つだ。これまでにガリアとロマーニャを解放したこの航空団が、今ネウロイの総攻撃の前に防戦一方だった。
「このっ!」
2丁のMG機関銃でネウロイを攻撃する撃墜王の1人、バルクホルンも苦戦を強いられていた。
「バルクホルンさん!大丈夫ですか!」
今回彼女の2番機として飛んでいる宮藤芳佳は、そのアシストっぷりを発揮し、時に盾としている。
「あぁなんとかな…くそっ、速い!」
「まさかネウロイが、ウォーロックの姿をコピーしているだなんて…」
「新型のストライクーユニットがあれば…」
501部隊の指揮官のミーナと、もう1人の撃墜王ハルトマンが合流する。
周囲には501のメンバーも2人1組でネウロイを攻撃するが、相手も2機1組で交代しながら攻撃してくる。
それにレシプロを基本としているストライカーユニットに対し、相手はジェットエンジンを着けたタイプ。武装面でも負けてると言った感じが否めない。
ミーナが言ったウォーロックとは、ガリアを解放する前にマロニー空軍大将がネウロイの技術を用いて作った戦闘兵器だ。
火力、速度、防御面でもウィッチを越えるとされたが、ウォーロックに搭載されたネウロイのコアが自我を持った結果、坂本美緒、宮藤、ペリーヌを襲い、扶桑海軍空母赤城を撃沈。
その後は隠していたストライカーユニットを装着した宮藤と交戦し途中でリネットの狙撃で海に墜落した。が、撃沈した赤城と融合してネウロイでもウォーロックでも何者でも無いものになった。
そして501部隊の奮戦にてウォーロックは消え去った。
が、ネウロイはこのウォーロックの存在をコピーし、目の上のたん瘤である501を潰しに来たのだ。
「切りが無いよ〜!」
「滅茶苦茶硬いし速い!」
「駄目だ…私の予測射撃が当たらない…!」
「ロケットが速度に追い付いてない…!」
「トレイルが効かない!」
「速すぎて…狙いが!」
それぞれが特技を生かして攻撃を加えるが、多勢に無勢。亜音速を越える速度で一撃離脱をしてくるウォーロックが全て12機。決定打に欠ける戦いに、もはや耐えるしか無い。
「どうするんだミーナ!?」
「あせらないでバルクホルン!全機後退しながら射撃して!」
「こ…らレ………空……属、フェ…リア」
「何だ?誰からの無線だ?」
シャーリーが銃を撃つ片手間にインカムを弄る。
「援…としてそ…らに急……する!」
「雑音が…クソっ!」
無線は全員に聞こえていた。だが雑音が酷くて何を言ってるのか分からない。
そしてバルクホルンはその雑音に気を取られてしまい、再度攻撃に移ろうとしたウォーロックに気が付かなかった。
「はっ!トゥルーデ!」
ハルトマンが気が付いたが、その距離は必中の距離。避けようが無い。
「しまっ…!?」
眼前が真っ赤に染まる。ウォーロックのレーザーは一撃でネウロイを消滅させる威力を誇る。
それが至近距離で放たれようとしている。
「バルクホルンさん!」
宮藤が手を伸ばすが、もはや間に合わない。
バルクホルンの脳内に走馬灯が浮かんだ。だが…
『FOX2!』
レーザーが放たれる寸前、ウォーロックの側面に2発の飛翔体が命中。レーザーは見当違いの方向に飛び去った。
そして何かがバルクホルンの前に立ちはだかる。それは手に持った銃をウォーロックに向け、コアのある部位を集中的に撃った。
圧倒的な連射速度を持ったその銃は、銃声を1つ綴りに奏で上げた。
銃弾はウォーロックのコアを撃ち抜き、無数の白い破片に変化させた。
「あっ…あぁ…」
「な、何が…」
気が動転したバルクホルンと宮藤の目の前でそれは姿を現した。
青白い輪郭がそれを作り出した。全身未知のアーマーに身を包んだ男性が目の前を飛んでいた。
「…君達。無事か?」
無線を入れたはいいが、最大速度で飛んだらあっという間に着いてしまった。
目に入った光景は、人型の兵器に攻撃される空を飛ぶ少女達だった。そして少女の1人が攻撃を受けそうになった。
秘匿すべきかと思ったが、手段を選んでる時間は無い。
「安全装置解除。FOX2!」
放たれた改良型HVAAは、ステルス性能を含んだミサイルだ。あの敵がミサイル接近を知らせる装置があったとしても、回避するには常に回避行動を取っておかなくてはならない。
ましてや静止したままの油断した状況。当たる事は必然だった。
ミサイルは側面に当たった。爆発の影響で敵のレーザーは逸れた。
「もらった!」
少女らと人型兵器の間に割り込み、12.7mmガトリングを叩き込む。
その弱点と思われる中央を砕いた。
人型兵器は爆散し、白い破片を撒き散らした。
「…君達。無事か?」
「あっ、あぁ…」
「もう少しで君はこの世から消えるところだった…間に合って良かったよ…」
「あの…あなたは…」
ひどく幼い少女が傍らに飛んでいる。中学生ぐらいだろうか…彼女らまでが戦争に駆り出される事に、フェンリアは心を痛めていた。
「それは後にしよう…下がって…無線封止解除!これより眼前の人型兵器の殲滅する!レサス空軍フェンリア、エンゲージ!」
もう少しでこの世から消える。
彼の言葉がバルクホルンの心に突き刺さった。
「ーデ!トゥルーデ!」
「はっ!あ、ハルトマンか…」
「大丈夫?」
「あぁ…平気だ…」
初めて生と死の間際に立った。
宮藤が近くにいたが、今来た男がいなければ確かに死んでいた。
生きている事に…そして今はあの男に感謝しようと決めた。
「バルクホルンさん…」
「大丈夫だ宮藤。もう大丈夫だ」
「おい…あれ見ろよ…」
エイラが呆然とした表情で上空を指差す。
その方向には、既に2機のウォーロックが血祭りに上げられていた。
「ウォーロックが一瞬で喰われた…」
「速度も技量もウォーロックを超越してる…」
ペリーヌとミーナも呆然としている。
今までウィッチを圧倒していたウォーロックが、赤子の手を捻るように喰われる光景が信じられないのだ。
「バケモンかよアイツは…」
「いや、命の恩人だよ。彼は…」
シャーロットの化け物発言を消すように、バルクホルンの放った言葉によって、彼女に目線が集中した。
それにも気付かず、バルクホルンは助けてくれた男に熱い視線を向けていた。
「2機撃墜!」
弱点を狙ってそれぞれにHVAAを撃ち込むと、簡単に爆散した。
どうやら弱点以外を破壊すると回復するらしい。だがこれなら簡単にやれる。残り9機か…
人型兵器がバラバラに襲い来る。レーザーに機銃とをばら撒いて面で攻撃して来た。
「生温い…オーレリアのエース機はこの程度ではなかったぞ!」
フェンリアは闘気を漲らせ、マニューバで攻撃を尽く躱し逆襲にHVAAを正面から来る敵にヘッドオンを喰らわした。
偶然が起きる。ミサイルは人型兵器の翼に当たってバランスを崩し、背後の追っ手の2機の内1機にぶつかったのだ。
「馬鹿かコイツら…FOX3!」
クルビットの軌道を取り、背後でぶつかった2機ともう1機に6AAMを撃ち込んだ。
ミサイルは上下左右から団子状態になった人型兵器の塊に突っ込み、弱点どころか装甲諸共吹き飛ばした。
「3機撃墜!次はお前らだ!」
今度はこちらから仕掛ける。
人型兵器の上を取る。速度はマッハ2.4だ。
『クククッ…やっぱりだ。マッハの世界に慣れてないんだな…』
フェンリアはほくそ笑みながら、搭載された兵器の切り札の1つを用意した。
「ガンランチャーHE装填…急降下!」
風を切る音で人型兵器が2機気が付いた。だが愚かにも避けるより迎撃と言う形を取った。
「愚か者め!マッハに慣れてなければ避けるのが当たり前だ素人め!1番、2番!順次発射!」
両肩甲骨に衝撃が迸り、HE弾が放たれる。
人型兵器がレーザーを放ったが、フェンリアはその時背後へ飛び去っていた。
僅かに遅れて150mmHEが直撃した。
人型兵器、ウォーロックはたかが砲弾と舐めてたのだろう。しかしそれは8.6kgの炸薬を満載した強力な爆発物。しかも分類で言えばウィッチと同じ様な存在のフェンリアが放った砲弾だ。
150mmHEはウォーロックに直撃すると、旧世代の砲弾にも関わらずMBTすら只では済まない凶悪な破壊力を放出した。
夜なのにも関わらず2つの太陽が生まれ、ウォーロック2機が炎に飲み込まれた。
炎の中から現れたのは、ウォーロックの白い破片だった。
「おっと、逃すと思いか!」
勢いを殺さずそのまま反転し、サラッと逃げようとしていたウォーロックに向けて機銃を放つ。
飛行形態になったウォーロックはギリギリで致命傷を避けたが、エンジンに被弾してその速度を大幅に落としていた。
「お前には取っておきをプレゼントしてやる…HPM
、照射!」
左手の銃。その太い銃口からプラズマ状の火球が放たれた。
火球は意思を持った様にウォーロックの後を追い、その全身を取り込んだ。
ウォーロックは尚も逃れようと足掻くが、HPMから逃げるには最低でもマッハ1.5は必要だ。エンジンを壊されたウォーロックに逃げれる術は無かった。
燃料は無くとも、火球の温度上昇はウォーロックのコアを熱して破壊するには十分だった。
ウォーロックが光に包まれ、そして爆散した。
「…敵人型兵器殲滅を確認…グリフィスの直掩機より弱かったな…」
フェンリアは南十字星を見上げた。
「再戦が楽しみだよ…グリフィス…」
「…ウォーロック…全滅…」
ミーナの声のニュアンスが何時もより外れている。
何が起こったか?バルクホルンを失いそうになった時、突如現れた男が彼女を助け、ついでのようにウォーロックを殲滅した。
文面は簡単だ。報告書もそれだけでいい。だが信じてもらえるはずがない。
「芳佳ちゃん…」
「凄い…12機のウォーロックを1人で…」
「1機撃墜したかったな〜」
「ハルトマンはどこかズレてるよ?」
言いたい放題の彼女らの目の前に、月光を浴びつつ彼が降りてくる。
「確認してもいいか?怪我とかは無いな?」
「えぇ。何とか…あなたは?」
ミーナが代表して質問する。
「そう言えば詳しい内容は話してなかった…レサス空軍所属、特殊大型戦闘機フェンリアだ」
「フェン…リア…?なぁ、それ本当に本名か?」
「え〜っと君は…」
「私はシャーロット・E・イェーガーだ。で、本名は?」
「よろしく…本名はフェンリアだ。元々俺は戦闘機そのものだ」
「「「「「えぇぇぇぇ!!」」」」」
嘘を言っていないつもりだったが、彼女らには信じられないらしい。
フェンリア自身、どうしたものかと考えていたが、それより別の所に目が行きがちだった。
『コイツらなんでスカートとか履いてないんだ?パンツ丸見えとか俺は犯罪者じゃないかよ…』
しかも困った事に勘がいいのがいた。
「この人目のやり場に困ってる…私達がスカート履かないから…」
「本当かサーニャ?この変態め…」
「サーニャちゃんにエイラさん…」
「見られたく無かったら履けよ…つーか俺もこの世界の事知らないんだが…」
「ちょっと待て…あ、私はバルクホルンだ。まず助けてくれてありがとう。感謝する…それでだ。お前この世界で起こってる事を知らないのか?」
「逆に聞くが、お前らレサスって言うを国知ってるのか?」
そこまで話してようやく『あっ…』と言う顔を作っていく。鈍感か?
「どうやら俺がいた世界とこことは違うらしい…さっきの人型兵器もそうだが、少女が飛んで戦ってるのも見たことない」
「本当なのか?」
「嘘は付かない…そもそも嘘による黒い世界を見てしまったしな…」
「あの…私はリネットと言います。詳しい話をしてもらっても?」
「お願いします…あ、私は宮藤芳佳です」
「ふんっ。ペリーヌ・クロステルマンですわ。私も興味があります」
「ハルトマンだよ。よろしくね〜」
「私ルッキーニだよ!」
「…サーニャ…です…」
「エイラだ…後こっち見んな…」
「あはは…501統合戦闘航空団隊長のミーナです」
何か勝手に自己紹介してくれたな。ありがたい。
「皆よろしく。まず…」
フェンリアは一部を除いて話せる事を話した。
主にオーレリアとレサスの戦争についてだが、その過程で自分がどのように製作され、どういった経緯でここに来たのかを話した。
見返りに、ミーナはこの世界の戦争を話した。
「ウォーロック…あれはそういう兵器だったのか」
「えぇ。人類の敵、ネウロイを倒す為に作られた兵器…それが今やネウロイにコピーされて…」
「君達を襲ってた訳か…」
「バルクホルンを助けてくれてありがとう」
「いや…俺は痩せこけた良心を癒やしたいだけだった…それに当たり前の事だしな」
ミーナとフェンリアの会話を聞きながら、バルクホルンは『痩せこけた良心を癒やしたい』の言葉に心の中で頭を捻った。
『一体どういう事だ…何か隠してるのか…?』
「バルクホルンさん?」
「いや、何でもない…」
宮藤が気遣いに応えると、バルクホルンは疑念を振り払った。
『いつか知れるといいがな…何だか私と似てる気がする』
そうこうしてる内に、ミーナがとんでもない事を言い出した。
「もし身寄りが無ければ、私達の基地に来ませんか?」
「ちょっ!ミーナ!?何でこんな変態を!?」
「あのな…もういいや、否定すんのも面倒だ…」
どうもエイラと言う少女とは合わないらしい。俺をそんな目で見ないでくれ…あ、でもアレクト隊とかは喜びそうだな。止めるけど。
「なぁ。フェンリアはどう思ってんだ?」
「どう言う意味だ?シャーロット」
「そのまんまだ。私はお前の意思を尊重する」
「私もシャーリーと同じだね」
「困ってる人をほっとけないよ」
「そうだね芳佳ちゃん」
「ま、まぁ坂本少佐も誘うでしょうし、私も構いませんわ」
「私も賛成…」
「サーニャ!…全く…変な事すんなよ」
「私も別にいいよ。トゥルーデは?」
「…命の恩人をほっとく訳にはいかない…それに何となく私と似てる気がするしな…」
…最後、バルクホルンが何か言ったようだが聞こえなかった。一部は渋々な様子だが、ともかく迎え入れてくれるようだ。
だが彼は、俺にそんな資格があるとは思えなかった。
悩む彼を後押ししたのは、バルクホルンだった。
「辛気臭いぞ。皆がいいって言ってるだ。お前も軍人なら受け入れろ」
全くその通りだな…仕方ない。
「分かった…ならお言葉に甘えよう」
ここまで言われたら本当に仕方ない。いくつか残る問題もあるが、何とかなるだろ。
「分かりました。正式な指示があるまで、あなたは我々の監視下に置く形になりますが、よろしいですか?」
「構わない…後、敬語はいい。その方がしゃべりやすい」
「ふふっ…分かった。ストライクウィッチーズ。帰投します!」
「「「「「了解!」」」」」
俺はミーナ達の後ろを飛びながら、心の奥底の暗い闇を抱えていた。
そんな様子を、バルクホルンはどこか悲しげな表情で心配していた…
( 主)「ストパン一発目です。フェンリアは自分の初エスコンである、ジョイントアサルトでの愛機です。ついでにCFA-44の試作データを加えたと言う設定のフェンリアを作りました。
え?他の連中加えたらマズイって?ラスボスが強けりゃいいっしょ?陸も海加えるんだろ?って?MGSがあるじゃない。それにエスコンにはヤベェ艦とか艦隊とかいるだろ?つまりそう言うことだ」
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
懺悔、そして世界に…
声が聞こえる。幾多の人間が苦しむ声…
『止めろ…』
声は止まらない。苦しむ声は飢餓による物、暴力による物…様々だ。
『止めてくれ…』
念じても止まらない。苦しむ声は大きくなり、自分に降り掛かった。
『俺も望んでなかった…なぜ俺は作られた…?』
炎に包まれた。
ー熱い…熱い…あつい…アツイ…ー
ー苦しい…くるしい…クルシイ…ー
炎から伸びる何万もの手が彼を掴み、そして…
「止めろ!」
フェンリアは飛び起きた。
彼は肩で息をしていた。寝間着とシーツは汗で濡れ、今までずっと起きていた感覚だった。
昨日の戦闘の後、彼が来ていたアーマーは戦闘状態になると自然と身に纏う物のようで、着陸して安全装置を掛けると消えてしまった。
細かい詮索は明日にして寝ようという事になった。
確かに彼は寝た。時計を見ると朝の5時とまだ早いが、トータル6時間は寝ていた。
だがフェンリアは寝た気がしない。あり得ないぐらいの疲労が彼を襲っていた。
「あの夢…やはり俺は作られるべきじゃなかったか…」
何度も何度もフラッシュバックする、故郷レサス。その市民の声が頭から離れない。
「…クソっ!」
フェンリアは頭を強く振ると、寝間着とシーツを引っ剥がして洗濯カゴに入れておく。
汗を拭き、静かに着替えると廊下に出た。黒いトレンチコートに黒いズボン。フェンリアはそれが似合うと思っている。
他はまだ寝てるのだろう。今日は昼から雨が降る予定だ。それまでにやらなくてはならない事がある。
外に出ると、朝日がゆっくりと顔を出してきた。
朝日を背に、フェンリアは廃棄されていた大量のレンガを運んだ。フェンリアの自室の下に位置する場所に、それを置いた。
ついでに漆喰も持って来てある。
「さて、やるか…」
極力音を立てないようにして、まずはレンガを階段状に積み上げる。漆喰を塗りながら積み上げ、風通しの良い所に放置する。
そして次に縦50cm横100cm高さ40cmの壁を作る。前面に当たる所は開いたまま、コの字型で固めていった。
簡単なように見えるが、レンガを出来るだけ水平にしなくてはならなかった為に時間がかかった。
コの字型の壁を作り終えると、その上に残った漆喰を塗って上に階段を乗せる。簡易的だが立派な物が出来た。
フェンリアはその出来に満足し、小部屋の奥に御守を入れた。
「…花は後で持って来る…」
そう言い残してフェンリアは中に入って行った。
その様子を、3人の女性が執務室から見ていた。
1人はミーナ、もう1人はバルクホルン。そして最後の1人は…
「あれがフェンリアと言う者か…」
日本海軍の服装に身を纏った女性だ。鋭い眼光は、歴戦の猛者を思わせる。
元501ストライクウィッチーズのメンバー。坂本美緒だ。
「えぇ…私達が苦戦してた所を助けてくれた人よ」
「ウォーロック12機を数分で全滅…ミサイルと未知の武装を持ってると聞いたが」
「あぁ。私が助けられた…命の恩人だ…でも…」
「そうだな…どこか死を望んてそうだ…」
坂本の言葉で2人は口を噤む。昨夜バルクホルンが寝室に戻る直前に、ミーナと相談したのだ。『アイツは私と似ている。ちょっと気にかけた方がいいかも』と。
深夜寝静まった頃に坂本が到着し、ミーナが全てを報告した。そして朝になった後、ミーナがバルクホルンを呼び出して今に至る。
「理由を聞けたらいいが…表には出さんだろうな…」
「なぜだ…なぜあんな奴が苦しまねばならんのだ…」
「バルクホルン…」
バルクホルンが感情的になるのは珍しい事ではない。たがここまで他人を気にかけるのは、宮藤以来だ。
かつての自分と彼を重ね合わせ、そしてそれよりも酷い事を感じ取ってるのだろう。
「落ち着けバルクホルン…今私達に出来る事は、仲良くなる事しかない」
「でも…!」
「焦らないでバルクホルン。下手に手出しできない問題よ…彼の闇は深いわ…」
「…分かった…」
「(ここまでバルクホルンが気に掛けるとはな…)」
不承不承といった形で納得したバルクホルンに、顔には出さず坂本が面白そうな視線を向けていたのに気が付いたのは、彼女と長い間隣にいたミーナだけだった。
起床のラッパはそれから1時間後に鳴り響いた。
本来は朝食の時間だが、今回は着任式的な催しを行ってからになる。
と言っても全員誰が着任するか分かっているようだが…
講堂に集められた全員の目線は、既に前に立っていたミーナと坂本、そしてフェンリアに釘付けだった。
「皆集まったわね。改めて紹介します。本日から501航空団に所属する事が決定いたしました、フェンリアさんです」
「フェンリアだ。昨日話した通りの者だが、気軽に話し掛けてくれると嬉しい。今後ともよろしく頼む」
淡々と進む通過事例だが、フェンリアは途中からミーナの手元にある簡単な荷物に目が入った。
日常用品の物の上に拳銃がある。護身用だろうが間に合っている。
「…以上です。フェンリアさんは何かありますか?」
「質問ですが、その荷物の上に置かれた拳銃は護身用ですか?」
「そのつもりよ」
「あ〜…なら預かっててくれ。俺はいい」
「はっはっはっ!お前も宮藤みたいに拳銃は握らないのか?」
かなり豪胆な坂本の笑いにフェンリアも少し含んだ笑いを見せる。
「ははっ…いえ、自分にはこれがあるので…」
そう言ってトレンチコートに隠れた物を見せる。
右腰の辺りに剣が刺してある。鍔の形からレイピアを思わせたが、抜いてみるとそれは刃渡り65cm程度の直剣だった。しかも鍔から伸びる2つの筒状の物は、軍関係者なら一発で銃と見抜く物だった。
「これに加えて、左腰にはヴィクトル・コレーピストルがホルスターに仕舞ってある」
「ほぉ…フェンリアよ。その銃と剣を組み合わせた物は何だ?」
「レイテルパラッシュと呼ばれる物だ。騎士剣と独特な機構の銃を組み合わせた品物」
フェンリアも少々独特な武器だと思っているが、彼自身はロマン好きなのだ。寝る直前に気が付いて疑問に思っていたが、カッコいいから不問にした。
「へぇ、ちょっと見せてくれよ」
「壊すなよ?」
イェーガーが間近で見たくなったのか、その武器を見せると、坂本、宮藤、ペリーヌ、リネット、ルッキーニが顔を覗かせていた。
どうやら皆が気になるようだ。
「あの武器そんなに珍しいのか…」
「あははは…」
流石にミーナも苦笑いしている。弾は抜いてあるが壊されると困る。ちなみに左腰の拳銃は1発辺りの威力が弱いが、20連発の拳銃だ。整備も簡単だから重宝する。
「とにかくだ。護身用ならこれらでいいから、それはもしもの時に置いておいてくれ」
「了解しました、フェンリア」
「でもよく上層部が理解したよな〜」
昨日フェンリアを変態扱いしたエイラがそう呟く。
「まぁ…昨日の彼の戦果とか伝えたらね…」
フェンリアは横目で見ながら何となく分かった気がした。
彼女らの付けていたストライカーユニットは、レシプロ機のそのものだ。ウォーロックはどう見ても音速を超える速度で飛んでいた。
アーケロン要塞で技術者から聞いた噂話では、装甲を捨ててエンジンを最新の物に変えることでジェット戦闘機とやりあった化け物がいると聞いたことがある。
が、彼女らがそれ程の化け物では無いと思われる。
「(と言うかそんな化け物が何人もいてたまるか…いや向こうは化け物が逃げるか…)」
フェンリアの脳内には、感情の無いはずのネウロイが全速力で逃げ、それをスコアに代えようと追い掛け回す化け物共の姿が浮かんだ。
「ミーナ。何か無線連絡が来てるぞ」
「はぁ…またね…」
何やらトラブルがあったらしい。面倒くさそうに無線機の前に立つミーナ。フェンリアも嫌な予感を抱いていた。
「はぁ…ごめんねフェンリア…ちょっと来てくれない?」
「いいぞ。何かありそうだな」
「あっ、おい待て!私達も行くぞ!」
フェンリアとミーナが外に行こうとすると、バルクホルンらを戦闘にわちゃわちゃと付いてきた。
その途中でレイテルパラッシュを受け取ると、右腰の鞘に直した。
外に出ると1機の連絡機らしき機体が停まっていた。
そこには太ったデブの男が軍刀を杖代わりに立っている。勲章を胸からいくつもの垂らしているが、それらは底辺の勲章っぽかった。
何よりソイツの顔が気に食わなかった。ベルカ人っぽい見た目…この世界ではカールスラントといった国だったか…
「いやはや見た目は立派な基地ですな。ミーナ中佐」
「(開口一番それかよ…)」
「ようこそ、501航空団基地へ…何の用ですか?大佐」
「確かこの基地に期待の新人が来たと聞いたが?」
「自分の事ですかね?大佐殿」
どうやら自分に用があると考えたフェンリアは、ミーナの前に立つ。
「ほぉ、君が…実は君に新たな辞令書が来ているんだ」
ドンッと目の前に書類を突きつけてきた。見ると『フェンリア、501部隊から505部隊に異動を命ず』と書いてあった。
「何を言っている貴様!」
「坂本少佐…私は大佐だぞ?その口を閉ざしたまえ」
ククッと笑う大佐。恐らくここの基地に色々イチャモン付けて嫌がらせしてるのだろう。
ならば遊んでやるか…
「くっ…卑怯者め…」
「あ〜はいはい、そこまでだ宮藤」
「フェンリアさん!?」
「1つ質問いいかな大佐殿。これは正式な物なのですね?」
「そうだが?」
「ならあなたの上官に聞いても?」
ピクリと大佐のこめかみが動いた。わっかりやすいアホ野郎だなと心の中で呟きながらカマかけを続ける。
「どうしましたか?これが正式な物なら、あなたの上官からでしょ?聞いてもいいじゃないですか」
「私の上官は忙しい身でな…」
「確かに忙しいでしょうな…ですが上官の部屋には電話があるものですよ?交換手を挟んだとしても、辞令が正しいものかを確認する為なら、荒っぽくても答えると思いますが?」
ついでとばかりに爽やかなニッコリ笑顔を付け足しておく。こうすると怒りやすくなるのは知っていた。
「き…貴様ぁ!俺に楯突く気か!?」
「自分はあなたの上官に聞こうとしただけですよ?」
「このっ…!」
大佐が軍刀を抜こうとした。その瞬間、輸送機が着陸した。
出て来たのは2人。ウィッチと思われるミーナに似た女性。そしてもう1人は男性だが、カールスラントの軍服を着こなし、その服に取り付けられたたった2つの勲章が眩しい。砂漠で使用する砂塵ゴーグルが印象的だ。そして襟元の階級章は元帥だった。
大佐以外の全員が反射的に敬礼を送った。
「部下が失礼したようだな」
「失礼。自分が見るに、あなたは元帥のようですね…あなたがこの大佐の上司ですか?」
「自己紹介が遅れたな。私はエルンスト・ロンメル元帥だ。そしてこちらが…」
「私はエディタ・ノイマン大佐だ…そちらの大佐は、正確には元帥の部下ではない。元帥のお知り合いの方の部下だ」
ロンメル元帥…フェンリアはその高度なシステムを制御するためのコンピューターが備わっていた。それを駆使して、この世界のロンメルの情報を収集した。
結果フェンリアは、彼を信用に値する人物と見抜いた。
「こちらこそ申し遅れました。昨晩よりお世話になっております、フェンリアです」
「話は聞いているよ。この基地を救ってくれて感謝しているよ…さてカスパール大佐。やり過ぎたな…」
「ぐっ…」
カスパールと呼ばれた大佐は、明らかに動揺した様子で後退った。
「君の通信内容は全て聞かせてもらった…その命令書も自作…レープ将軍直々の頼みだ」
「カスパール大佐…あなたを拘束します!」
ノイマン大佐の命令の一言、それを合図に憲兵が出て来る。
「う、動くな!コイツらを撃ち殺すぞ!」
カスパールは銃を抜き、501航空団面々に向けた。だが引き金を引く事は無かった。その銃は金属音の後、宙を舞ったからだ。
「な、何だ…貴様…何をした…」
「…」
フェンリアの右手には、レイテルパラッシュが握られていた。刀の使い手である坂本の反応速度すら上回る速度で距離を詰め、銃を弾いたのだ。
止めと言わんばかりに無言でカスパールの腹に膝蹴りをお見舞いした。
「ぐはっ!」
「俺は…権力を盾にあらゆる物を欲しいままにするやつ…或いは他の者から搾取するやつとかは大嫌いなんだよ…カスパール大佐…」
フェンリアを支配していたのは激しい怒りだった。かつてレサスを支配していたナバロを思い出していたのか、フェンリアは無意識に左手に拳銃を握っていた。
「フェンリア君。その辺で構わないよ」
呪縛を解いたのはロンメルだ。瞬間に憑いた者が消えるように殺意が消えていた。
「後は任せてくれ」
「…了解。よろしくお願いします…」
先程とは打って変わって弱々しい雰囲気を出すフェンリアだったが、ロンメルは頷くとその背後にいるミーナ達に敬礼する。
ミーナらも慌てて敬礼を返し、ロンメルは憲兵に連れられたカスパールとノイマン大佐を連れて輸送機に乗って帰っていった。
フェンリアはそれを見送ると、黙って基地に戻っていった。
「フェンリア…」
「…凄まじい殺意だったな…」
バルクホルンの心配そうな声に被せるかのように、坂本が呟く。彼女らはまるで人を勝手に斬り殺す妖刀を近くに置いたかのような心境にあった。
「なぁ…こんな事を言うのも悪いと思うけど…アイツ基地にいて大丈夫なのか?」
「リベリアン!」
「ふ、2人とも待ってください!」
イェーガーの言葉にキレたバルクホルンが掴み掛かろうとするのを、宮藤が慌てて止める。
「宮藤の言う通りだ。喧嘩はよせ」
「しかし坂本少佐!」
「確かにイェーガーが言うのも正しいとは思う…だが我々はアイツの過去を知らない…知らずに好き勝手言うのはまた別だ…」
坂本の言葉が重く沈んでいく。
あれ程までの殺気を出す程の過去…彼女らには想像付かない物なのだ。
「…あっ、降ってきた…」
いつの間にか黒い雲が空を覆い、雨が降ってくる。
リーネの言葉を合図に、皆も基地へと帰って行った。
「雨止まないね。リーネちゃん」
「うん。外の気温も低いだろうね」
あれから時間が経ち、その日は夜になった。その間も雨は激しく降り続け、今日の訓練は中止になっていた。
「おや?今日の夜ご飯はシチューかい?」
「うわっ!フェ、フェンリアさん!?」
「驚かせてしまったね。悪い悪い」
いきなり現れたフェンリアに驚きを隠せないが、朝の出来事があるので、リーネはどう接すればいいか分からなかった。が、宮藤は普通に接すればいいかと会話を続けた。
「も〜止めてくださいよ〜」
「いや、本当に悪かったよ…ところでお願いをしても?」
「何ですか?」
「そのシチュー、完成する直前ならお椀に入れてくれないか?食べる目的じゃ無いんだが…」
「あ、分かりました。リーネちゃんお皿とスプーン取って」
「う、うん…」
リーネはお皿とスプーンを宮藤に渡した。
宮藤はシチューを盛ると、フェンリアに渡した。
「はいどうぞ。何に使うんですか?」
「ん?あぁちょっとね…出来れば聞かなかった事にしてくれるかな?」
「別に構いませんけど…」
「すまない…後ご飯の時間にまでは戻る予定だから大丈夫だよ」
そう言うとさっさと食堂から出ていってしまった。
「何だったんだろう…?」
それから続々と食堂に人がやって来る。何時も皆は食堂でご飯を一緒に食べるのだ。
「あれ〜?アイツはどこにいるんだ?」
エイラが食堂に入って来て放った第一声がそれだ。アイツとは無論フェンリアの事だ。
「フェンリアさんなら、先にシチューを持ってどこかに行きましたよ?」
「えぇ〜先にシチューでも食べてるんじゃないの〜?シャーリーは?」
「そう言えば見てないな…格納庫にいたけど来てないぞ?」
あーだこーだと言い合う中、たった1人彼を見たやつがいた。
「フェンリアなら私見たよ」
「ハルトマンさん?」
「何か雨降ってるのに外にいたけど…」
「外!?」
思いの外声を大にして叫んでしまった宮藤だが、本人はそれどころではない。手元の時計を確認してハルトマンに質問する。
「それってさっきですか!?」
「そうだけど…」
「本当にそうなら20分近く外にいる事になりますよ!?早く行かないと!」
20分も雨の降る外にいるのはおかしい。途中話に入って来ようとしたバルクホルンが我先にと食堂を飛び出た。
そのまま傘を開いて外に出る。
「どこで見たのですの?」
「廊下からだけど、確か向こうに…」
「向こう…ミーナ。もしかして…」
「えぇ、美緒。朝の時の…」
ハルトマンが指差す方向は、フェンリアがレンガで作ったお墓がある。
「本当にここに……おいっ!お前何してる!?」
バルクホルンの怒声が夜の闇の雨の中に響き渡る。いきなりの怒声に宮藤とリーネ、ペリーヌが肩を竦めた。
他もバルクホルンの元に走って追い付く。
彼女らが見たのは、傘を墓に差して自らは雨に打たれるフェンリアの姿だった。
20分間もこうしてたであろう冷え切った彼の息は、バルクホルン達が吐く息が白くなるのと対象的に、全く白くならなかった。
「あぁ…バルクホルンか…もうそんな時間か…」
「そんな時間じゃない!何して…る…」
バルクホルンの言葉が詰まる。傘で見えなかったが、レンガの墓の中にシチューが供えてあった。
「俺は生まれるべきじゃなかった…俺、俺達のせいで亡くなった民間人を弔いたかった…」
透き通るように綺麗な青い目は、悲しみに満ち溢れていた。その姿は恐らく誰よりも優しいのだろう。それ故に彼自身は自分が許せない。そんな雰囲気を纏わせていた。
「フェンリア…中で話してくれないか?私達に…」
フェンリアはゆっくりと頷いた。
中に戻ると、フェンリアは濡れたままぽつりぽつりと語り始めた。
…どこから語ろうか悩むが…俺が製作されている時、ある戦争があった。オーレリアと呼ばれる国と、俺の祖国レサスとの間の戦争だ。戦争中期まで我が国は圧倒的軍事力と超兵器でオーレリアを壊滅させた。超兵器は俺じゃない。別のやつだ…ともかく相手は空軍基地1つの所まで追い詰めた。だがそこにエースがいた。ソイツは基地制圧に向かった爆撃隊を壊滅させ、そこから連戦連勝を重ねた。レサスには多種多様な特殊部隊や精鋭部隊がいた。超兵器もあった。だがアイツは…あの凶星は全てを打ち砕いた。僅か数ヶ月で、オーレリアの首都を奪還された…そしてあろう事か、製作された俺達フェンリアさえも撃墜された…それだけならいい。俺が懺悔する必要はない。そうならば死んだのは軍人。その覚悟を持った者達だからだ…レサスは軍事独裁国家だ。圧倒的軍事力も、超兵器も俺も…ナバロと呼ばれるやつが色々指揮したからだ…その資金はどこから調達したか分かるか?当時貧困に喘ぐ民衆から奪ったんだよ!オーレリアは何も悪くない!寧ろ内戦によって疲弊したレサスを助けようと援助していた!だがナバロはその金を奪い、全て軍事に充てた!この戦争の前に大陸戦争で活躍し、英雄と称されたナバロがそうした…そしてその金で俺は作られた…これは俺を作り、次世代試作機パイロットとして乗り込んで来たやつが色々話してくれた…俺は試作機故最終決戦には飛んでいない…だがフェンリアとして完成した5機全てが凶星に撃墜された…その後は要塞内部に侵入してきた凶星の攻撃で俺は飛べなくなり、要塞内に格納された特殊燃料で俺は吹き飛んだ…後は皆が知っての通り、昨日の夜に繋がる…せめて俺はレサスで死んだ民衆に食べさせてやりたかった…温かいご飯をな…
気が付けば雨は止み、月が顔を見せていた。
静かな闇に包まれた基地の中は、静寂に包まれていた。
フェンリアの壮絶な過去と死。ミーナ、坂本、バルクホルンは、なぜあれだけ死を望むのかがようやく分かった。
他もあまりの惨状に声が出せない。
沈黙を破ったのはフェンリアだった。
「…これが俺とレサスの過去だ。今は戦勝国となったオーレリアの元、復興が行われてる筈だ…」
「何て事を…ナバロっていう人はどこに…」
宮藤は元凶の男が捕まっていれば、亡くなった国民も浮かばれると思っていた。が、フェンリアはゆっくりと首を横に振った。
「確かに奴は失脚したが、行方は知れず…だ。どこに逃げたのかすらも分からない」
「そんな…酷い!」
「その酷い奴に俺は作られたんだ…なぜ俺は生きている…」
フェンリアの問いかけに、誰も答えることが出来なかった。1人を除いて…
「誰かの思いで生かされてる…そうじゃないのか?」
「バルクホルン…」
「私も故郷を守りきれず、妹も重傷にさせた…こんな弱い奴なんていらないとまで思ってた」
「…」
「だがある日、出撃して私が重傷を負った時に宮藤に治療され、ミーナに色々言われてな…その時の言葉が頭に残ってるのさ。『私達は家族だ』って。それと同時にある考えが浮かんだのさ」
訝しげに見つめてくるフェンリアに、バルクホルンは微笑みながら結論を付けた。
「『生きているのは、まだ役目があるからだ』…だから私はまだ死ねない。フェンリアにも何かあるんじゃないのか?」
フェンリアは狐につままれた気分だった。思い出したのだ。あの要塞内部で、死にゆく相棒の言葉を…
『来世はその力を…持たざる弱い人々に使え…』
「そうですよ。私もウィッチに入ったのは、皆を守りたいからです!」
「私も芳佳ちゃんと同じです!」
「わ、私もですわ」
「アタシは夢を追いたいからな」
「シャーリーとなら飛べるよ!」
「私はそうだな…サーニャと一緒に入れるしね」
「まだやるべき事がある…それだけ」
「私は…まだ故郷と世界を解放してないから」
「ふふっ♪ここにいる皆、それぞれの目的を持ってるのよ。フェンリア」
「そうだぞ。悩む事は無い」
「もう迷うな。私達で支えてやる」
フェンリアを取り囲んでいたのは、負の感情だった。怒り、憎しみ、悲しみ…
だが今は違う。希望や感謝などの温かい心を、フェンリアは初めて見たのだ。
「…皆優しいんだな…ありがとう。何か…吹っ切れたよ」
フェンリアは笑った。初めて普通に笑った。
「いい笑顔じゃないかフェンリア」
「きしし♪トゥルーデったら惚れちゃった?」
「な、ななな何を言ってるんだハルトマン!?///」
「ハハハッ!…はぁ、分かったよ。何かあれば頼らせてもらうよ。皆…ところで、腹が減ったな」
最後の一言が皆を笑いの渦に誘った。彼はようやく救われたのだ。
「ようやく司令部が見えて来たな」
「えぇ、そうですね」
カスパール大佐を、本国に待機していたレープ将軍に引き渡した後、ロンメルとノイマンが司令部に戻って来たのは夜だった。
「しかしあのフェンリア君は、どうも私と同じような感じがしたよ」
「前世の夢の話ですか?確かその話だと、将軍は…」
「ネウロイと言う化け物はおらず、人間と戦っていた。私は第7装甲師団を率いて、北アフリカで戦っていたさ」
「…もしかしたら、その時に私も会っていたかもしれませんね」
「そうだな」
他愛も無い話だ。だが着陸して輸送機から降りて来ると、伝令兵が焦った様子で駆け寄ってきた。
「将軍!大変です!」
「落ち着きたまえ。何かあったのかね?」
「それが…陸戦型ユニットを装備したウィッチが…」
「どういう事だ?」
「分からないんですよ。それもカールスラントのだけではないです。その内の1人は、『将軍なら会えば分かると』…」
ロンメルもノイマンも顔を見合わせて首を傾げる。とにかく向かう事にした。
格納庫に案内されると、確かに陸戦用ユニットが多数置かれている。多種多様だ。だがその内の2つには見覚えがあった。
「ティーガーIのユニット…!?」
「まさか…あれはまだ試作段階じゃ!?」
2人の前には、試作されていたティーガーIのユニットが2つも置かれている。しかも丁寧な整備から、実戦配備されているかのようだった。
さらに驚くべき事に、もっと巨大なユニットや見たこともないユニットが置かれていた。が、ロンメルのみはなぜか何のユニットか分かっていた。
「マウス、ティーガーⅡ、ヤークトティーガー、ヤークトパンター、パンター、Ⅳ号…これはポルシェティーガーか?こっちはJS-2、T-34-85、KV-2…M4、M4A1の76mm、ファイアフライ…P40、セモヴェンテM41、カルロヴェローチェ…これは確かフィンランドのBT-42。日本のチハ新旧に九五式軽戦車…」
「知ってるんですか?将軍…」
「前世の夢で見た戦車達だ…あっ、これは!」
圧倒的な数のユニットに目を奪われていたが、1つ彼でも忘れられない存在のユニットがあった。小さい車体に15sm榴弾砲を搭載した自走砲。北アフリカでたった1両のみ現地改造で作られた自走砲。
「…Ⅲ号重自走歩兵砲…」
「覚えていてくれたのですね…」
声のする方に、ロンメルは顔を向けた。
たくさんの少女が立っていた。服装もバラバラだったが、彼女らを代表に前に立った銀の長髪の少女は懐かしげに休めの姿勢を取っていた。
「ロンメル将軍。この世界の事は他の方に聞きました。我々も戦います!かつて私達に乗り込んでいた者の意思を継ぎ、未来を絶やさないために」
ロンメルは何も言わなかった。ただその代わりに敬礼を交わし、彼女らもそれに敬礼で返した。遥か未来からの戦友として…
「夜は流石に冷えるな」
「だが綺麗な夜空だろ?」
2人の男が砂漠の洞窟の外に立ち、焚き火で温めたコーヒーを飲み交わしながら夜空を見上げる。
片方は黒髪で、もう片方は金髪だ。だが両者から溢れるオーラは尋常じゃなかった。
「そっちの部下は4人と1人か」
「そうだ。そっちはお前だけか?」
「あぁ…なぜだか知らないが…」
「別人として転生してるのかもな」
「あり得なくもないな。だがかつて敵同士だったのが、今やよく分からん化け物相手に戦う戦友か…」
「人間同士の戦争よりマシだ。それに…お前と互いに技術を磨き合えるのは嬉しい」
明るい焚き火が彼らの腕を明るく照らす。
黒髪の男の腕のエンブレムは無限の字。金髪の男のエンブレムは、黄色を背景にあしらった金色の白鳥のマークが刻まれていた。
「あの基地を思い出す寒さだなここは…」
廃棄された銀世界に佇む空軍基地。その格納庫に4人の男の姿があった。
この辺りはネウロイの侵攻を受けて撤退した軍事施設。その上空には欠かさずネウロイの偵察タイプが居座っていた。
今その姿はなぜか無い。雪がちらつく基地格納庫で、4人は温かいコーヒーを飲んでいた。
「今となっては懐かしい…俺を操ってたパイロットは生きてるのだろうか…」
「俺のとこはISAFで戦ってるそうだ」
「自分は言わなくていいですよね?」
「とにかく、あの時の4人が再開出来たのを喜ぼう」
赤黒い髪の男、金髪の男、少年のような男、メガネをかけた知的な男の順で会話は続いた。
赤黒い髪の男が話し始める。
「…俺達がこの世界に来たのは、何でだろうな?」
「上にいた化け物を駆逐する為じゃないか?」
「この世界には、あの化け物がのさばっている様だ。ならもう我々の役目は決まってるな…他の連中もそうするだろう」
赤黒い髪の男と金髪の男の表情が変わる。好戦的で、なおかつ使命を魂に刻んだ狩人…
地獄の番犬のエンブレムを持った2人は、まだ見ぬエース達に思いを馳せていた。
高級感漂う執務室。多数の書物を収めた本棚と漂う紅茶の香りは、ここの主の心を安らかにした。
506統合戦闘航空団の本拠地、セダン基地の騒乱は落ち着いた物になった。重傷者が出た上に見計らったようやネウロイの襲撃には参ったが、突如現れた航空部隊によって全て片付いた。
コンコン…
静かな執務室にノックの音が響いた。
執務室の主であり、506統合戦闘航空団隊長のグリュンネ少佐は、音の主を引き入れた。
「どうぞ」
「失礼します」
入って来たのは、ここにやって来た航空部隊の内の1人だ。一応代表として色々してくれている。
長髪の美しい瑠璃色の髪の毛をした女性。だがその立ち姿や雰囲気は騎士を想起させる。
女性は明らかに年下と思われるグリュンネの前に立った。
「グリュンネ少佐。重傷者の黒田中尉の現状を報告しに来ました」
「ごほっ!そ、それで彼女は!?無事なのですか!?」
「落ち着いてください。こちら側の者に治癒が使える者がおりましたので、既に…山場を越えて、今は安静しています」
喰い付かんばかりの気迫を見せたグリュンネを冷静に押し留める辺り、相当な者だろう。立ち振る舞いは貴族のそれを思わせる。
「はぁ…良かった…」
「大切な部下なのですね」
「えぇ、とてもとても大切です…しかしあの爆発は…」
「私の知り合いが調べています」
「…陰謀という線は…」
「あり得ます。しかし、手出しする必要は無いでしょう」
陰謀。この506統合戦闘航空団は2つに分かれており、こちらはA部隊となっている。貴族中心の高潔な戦いぶりを見せるこの部隊は、比較的自由なB部隊とのいがみ合いが多く、問題視されていた。
だが新たに日本からやってきた新人。黒木がお互いの架け橋となりつつあり、互いの喧嘩はただの軽口の応酬となる程沈静化し、なおかつ共同戦線も張ることがあった。
しかしながらウィッチーズをよく思わない軍上層部の非難の標的にされることも多く、グリュンネはそれを疑ったのだ。
「あなた…今何と?」
「手出しする必要は無い…ですよ」
「それもあなたの古い友人とやらですか?インディゴ」
インディゴと呼ばれたら女性は、騎士らしい笑みを見せて堂々と言い張った。
「そうですね。手荒な連中ですが、今頃我々の敵を根絶やしに動いてるんじゃないですかね?」
「き、貴様らは何が目的なんだ!」
オーロラの輝く北欧のフィヨルド地帯。入り組んだ地形に紛れた基地は、ネウロイだとしても見つける事が難しい。
怒声を上げた男は、そんなフィヨルド地帯に建設された海軍基地の司令であり、裏で暗躍する者の1人だった。
そう。もう暗躍者は彼しかいなかったのだ。
彼の眼前には、6人の男と1人の女性が立っていた。
この時の基地周辺の猛吹雪が吹いており、ジェットストライカーを装着したウィッチーズさえも突破は不可能とされていた。
それでも一応の対空兵器を備え、艦隊には何時でも対応できるように待機させていた。
が、目の前の13人の男女は猛吹雪を物ともせず飛び回り、対空兵器と艦隊の弾幕をくぐり抜けて両者を殲滅した。
そして彼には分からなかったが、実はこの13人のみではなく、洋上を疾駆する者もいるのだ。それらは現在港湾を制圧しつつあった。
そうとは知らず、基地司令は虚勢を張る。
「も、目的は金か!?」
「ノーサー基地司令…あなたはやり過ぎました」
黒い蛇のエンブレムが描かれたパイロットスーツを着た男が前に出てから言う。
「情報工作に破壊工作、罪の擦り付け…物資の横取り…お陰で周辺のウィッチーズの被害が増えてるのにも関わらず、怪我の手当も出来ないのは貴様が原因か…」
手元にある資料を冷静に読みながらも、その声には僅かな怒りを滲ませている。
その傍らに別の男。枝を噛む赤い蛇のエンブレムの男が怒りの目を浮かべて睨みつける。
「やるならもっと穏便にやるべきだったな。それでも我々にはお見通しだがな」
だがそれよりも基地司令を恐怖の底に追いやったのは、後ろに控える漆黒の闇を纏った男性達と女性だ。
漆黒の騎士のエンブレムの異常さは尋常じゃなく、遠慮無しに突き刺してくる殺意の目線は今にも彼の心臓を止めてしまいそうだ。
「だから何なのだ!我々はウィッチーズなど必要無い!あんな小娘連中に」
「黙れ」
闇の中の男性。その隊長の声は底冷えする狂気を秘めていた。
思わず黙った基地司令を畳み掛ける。
「貴様が成してきた事。それは断じて許されるべき行為では無い。地獄に落ちて貰おう」
「悪魔め…」
「俺達にとっては褒め言葉だなブービー。じゃあ後頼んだ。グラーバクとオヴニル」
もう1人の闇が合図を出した。グラーバクとオヴニルと言われた2人の蛇は、抜き手を見せぬ早さで拳銃を引き抜いて基地司令目掛けて発砲する。
人体に銃弾がめり込み、心臓を貫く。基地司令は倒れ、動かなくなった。
「はい、これで最後だ…本当にいいのか?ブービー。俺達がお前らと一緒にいて」
「お互いあの化け物を見てるなら、手を組むべきだろ。グラーバク」
かつての敵同士が手を取り合い、共に戦う強さを知るブービーと言われた男は、グラーバクからの確認を肯定した。
彼らの戦力は海軍戦力も含まれるが、これはまた語られていく事だろう…
海の上の空を3つの影がデルタ編隊で飛んでいる。肩甲骨辺りのブロック状の物は、フェンリアのガンランチャーに似ているが、そうではなかった。そのブロック状の
砲身は無く、代わりに何やら筒のような物が並んでいる。このブロック状の物は腹筋辺りのアーマーにも装着されている。また、2丁拳銃のような物を両手に持っていた。
「ミサイルが無い代わりに2種類使えるのはいいな。機銃はどうだ?」
デルタ編隊の先頭を飛ぶ男性が背後の2人に尋ねる。
「一応切り替えは出来るらしい。全く不思議だ」
「俺もそうだな。しかし魔術師の奴と飛ぶのは気に食わない」
3人とも同じ機体のようだ。しかし3人の内1人が元敵らしく、2番機として飛ぶ男性からは白い目で見られていた。
「そう言うなよ。彼は恐らく珍しい、この世界の誰かさんの転生者…そうだな?」
「えぇ…彼女に会えればいいんですが」
「安心しろよ。俺達は吉鳥だからな!」
この3人はそんな会話をしながら飛んでいく。その方向には、501統合戦闘航空団の基地があった。
アンドラ。ここはガリアやカールスラントの難民の通り道。いわゆる人類の要所である。
そんな要所の近くの上空に、一風変わったネウロイの巣が出現した。
世界にはこの翌日に発信された情報は、『純白の雲を纏ったネウロイの巣』であった。
ネウロイの巣とだけあって、アンドラはパニックになったが、不思議とネウロイはやって来なかった。しかも信じられない事に、アンドラに攻め入ろうとしたネウロイが何者かに攻撃されて散って行くのを見たと言う者が現れたのだ。
曰く、ウィッチの姿をしたネウロイが現れて蹴散らしたと。
だがネウロイである事に変わりなく、招集されたウィッチ達が攻撃をしかけた。
だが…
「ちょっと大丈夫!?」
「なんでこうなってるの…」
アンドラの要所を守り抜き、世界から『アンドラの魔女』と呼ばれている2人、イリスとマリアが駆け寄っていった先には、招集されたウィッチ達が地面に座っていた。
しかし不思議と外傷は無く、ストライカーユニットのみがボロボロになっていた。
だが2人が疑問に思ったのはそこだけでは無い。
目の前のウィッチ全員が震えて座っているのだ。寒いとかでは無い。その表情からは何か恐ろしい物を見たのか今にも泣きそうな顔だった。
「何があったの?」
イリスの問いかけに、恐らく隊長らしきウィッチが答えた。
「あれは…あれはウィッチでもネウロイでも無い…」
「何ですかそれ…」
「追ってくる…何処までも何処までも!撃墜出来るはずなのに…なのに追ってくる!」
「追ってくる…何が?」
「黒いパイロットスーツを来た高齢の男…それと4人の男が…嫌だ…飛びたくない…」
完全な恐慌状態に陥ってしまった。イリスもこうなればお手上げだ。だが猛者揃いのウィッチが空を飛びたくないと言うのは異常だ。
一体何があったのだろうか。
「イリス!あれ!」
マリアが何かを見つけたようだ。
遥か青い空に9つの飛行機雲。その内8つが急降下してきた。
「ちょ、こっちに来る!?」
凄まじい速度で降りてくる物体に、思わずぶつかると2人は思ったが、飛行機雲の主達は地面すれすれで急停止した。
男性6人と女性2人で、見たことないストライカーユニットとアーマーに身を包んだ集団だった。
「あ、あの…皆さんは一体…」
「あぁ。俺達はオーシアっていう国から来た者だが…まぁ知らなくていい。それよりも君達と…後この惨状は?」
隊長らしき男性が説明する。
イリスもマリアもオーシアという国を知らなかったが、今は置いておき、自分達の自己紹介と出来事を話した。
「…と言うことです。本当に何があったのかさっぱりで…」
「いや、ありがとう。大体分かったし、ウィッチ達に恐怖を植え付けたのが誰かも分かった」
「本当ですか!?」
「その主と話をしてくる」
言うやいなやその男性はストライカーユニットの炎を焚いて青空に消えて行った。
「早い…」
「あなたがマリアさんね?この娘達が装着しているユニットの整備って出来る?」
「えっ、あ、出来ます!」
「手伝って。私も直すのを手伝うわ」
「クイーン。俺達は何をすればいい?」
「この娘達を運んであげて」
「ワーオ!任せてくれ」
「でもこの娘達の原隊復帰は無理かもしれないな…」
イリスもマリアも、色々ありすぎて現状を把握しきれなかった。だが飛んでいった男のアーマーに、狼と3本の爪痕のエンブレムがある事には気が付いていた。
「あの…えっと…その…」
アフリカの夜の砂漠。稲垣真美は困っていた。
一時帰国の後、アフリカへの帰路の最中に出会った男性との関係性に全員から質問攻めにあっていた。
「おいマミ!あの男は誰なんだ!?このマルセイユに聞かせてくれ!」
「だからt」
「どんな出合いでした?」
「ま、マイルズ少佐!?」
「真美も女の子ね〜♪」
「ケイさんも!?」
「マミさんも運命の人と出合ったんですね!」
「本当ね♪」
「シャーロットさんにフレデリカさん!?だ、誰か助けて〜!」
…とまぁメチャクチャだ。
確かに洋上でネウロイと遭遇。単機でやり合ってる最中にオープンチャンネル無線で『助けが必要なら手を貸すぞ。お嬢さん』の呼び掛けから乱入してきた男性に救われた。
だが世界中を見渡しても、恐らく彼女の見た彼の戦闘は文字通り『身を削る』物だ。事実戦闘を終えた時の彼の消耗ぶりは尋常では無く、船の甲板に降りた時には倒れかけていたのだ。
真美はそんな彼を介抱してただけなのだが、全てが終わって膝枕をさせていた所をたまたま近くを飛んでいた加東圭子(以下、『ケイ』とする)に発見されて写真を撮られた。真美が到着した頃には写真はばら撒かれ、今に至る。
なおその騒動の元凶の男性は…
「あなたがパットン将軍ですか。元いた世界でもあなたは有名でした。お会い出来て光栄です!」
「おぉ!儂の事を知っているのか!儂にもファンがいたとは恥ずかしいな!」
「またまたご冗談を!色紙にサインを貰っても?」
「構わないぞ!そうだな…君も元はパイロットか何かで、この世界にウィッチの1人として転生したのだろ?見返りに君のサインか何か貰えないかな?」
「お安い御用ですよ!」
パットンと勝手に会話をしており、サイン交換会を行おうとしていた。
「だ、誰か〜!ご先祖様〜!お助けくださ〜い!」
真美の情けない悲鳴が響いた所、サイン交換会も終わったようだ。
「パットン将軍のサイン…大切なコレクションにさせて頂きます」
「君のサインはサソリ座かな?カッコいいじゃないか!そうだ。後今後はいつも通りで構わないぞ?その方が接しやすそうだ」
「そうですか…俺もその方が楽だし別にいいか」
「ほぉ、リベリオンかぶれか!気に入った!ハッハッハッ!」
「いやぁ仲良くやっていけるか不安でしたが…楽しくやっていけそうでホッとしました!」
「そう言えば貴様の名前は何だ?」
「そうですね…アンタレスとお呼びを。では俺は命を助けてくれた恩人の所に行って来ます」
自分の元を離れ、命の恩人を助けに行く男性を見送りながら、パットンは彼がくれた色紙の隅に、自分が吸っていた葉巻の火口を押し付けた。
「これで儂の名前を書いた事になったな!しかしサイン交換会も楽しいものだ!アンタレスか…砂漠にピッタリだな」
「本当にこっちにいるんですか?隊長」
「あぁいる。確実にな…」
こちらも夜の内にさっさと目的の場所に行こうとしてるようだが、片方の速力はどうしても遅くなる為に、到着時刻は翌日になりそうだった。
「第501統合戦闘航空団基地…そこにフェンリアがいる…」
「何にせよ今は味方だが…望むなら相手してやるさ…」
「暑いところだったとしても我慢してくださいよ?」
「分かってるさ…」
大型航空機のユニットを装備した1人と、フェンリアとは異なる先鋭的なフォルムの装備は、速度と機動力を容易に想像させた。
「全く…あなたには色々無茶させられますね」
「付いてきたお前が言うな」
夜が更けてきた。水平線の向こうから明るい太陽が見える。
だが夜の空はまだ明けていない。薄っすらと星々が形成されたままだ。その中でも1つの星座が彼らの目に止まった。
「この世界でも見れるか…」
「そうですね…夜明けのあの星座も美しいです…行きましょう。グリフィス」
「そうだな。クラックス」
フェンリアの仇敵。南十字を咥える鷲のエンブレム。
フェンリアとグリフィスの邂逅は近い…
この世界に集いしエース達。彼らの転生は、この世界にさらなる混沌を呼び起こしたのだ。
『宛、501統合戦闘航空団へ。不落の対空要塞、インドラ基地消滅セリ。敵ハ新型ネウロイ1機。ロンドンへ向カウ。敵速度、マサニ彗星ノ如シ』
( 主)「やれやれ…次回に戦闘が始まります。初敵はジェットストライカーでも撃墜が難しいですね。なのでフェンリアには無茶してもらいます」
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
因果と未来、運命が交わる時
夜の内に雨は止み、カラリとした太陽の陽射しが基地に差し込み始めた。
フェンリアはその時間帯に起きて着替え、外に出ていた。
「うん。いい朝じゃないか」
昨日心の中を打ち明けたからか、彼はゆっくりと寝る事が出来た為、晴々とした気持ちで起きる事が出来た。
今のヨーロッパの気候は昼間が暑い。だが朝は涼しく過ごしやすいのだ。
フェンリアは軽く身体を伸ばしてからお目当ての場所に走って向かう。運動がてらとは言え、パワージャケットに25kgの鉛を入れて走るその体力は気狂いだろう。
「はぁはぁ…アイツを超えるためにはまだ足りない…」
額に流れる汗を拭い、パワージャケットを取り去ると、今度は太い枝が生えた木に登って枝に足を掛ける。
そのまま太腿と脹脛で枝を挟み込んで、コウモリのようにぶら下がった。
「持ってきて良かったな小説。暇だから読める」
ぶら下がったままフェンリアは小説を開く。内容は架空戦記だ。
「ふ〜む。海洋の邪神か…人類にでもどうにか出来るか…どうして俺の世界にいる化け物が脳内に浮かぶのだろうか?」
小説は邪神の復活を阻止しようと、人類が手を結んで戦うと言った内容だ。だがフィクションの世界の話とは言え、どうしても彼の脳内にはこんなの→『(´∞`)』やあんな→『(メ゚Д゚)』のが暴れる未来しか見えなかった。
自然と唸ってたからだろうか?目の前に2人の女性が立っていることに気が付かなった。
「…フェンリアよ。何を唸っている?」
「フェンリアさん?」
「美緒と芳佳か。いや、架空戦記小説を読んでいたんだが、俺の元いた世界の連中が暴れまわる未来しか見えなくて困ってたんだ」
「私としては、何故お前は逆さまでいるのか分からないんだが…」
「あぁ、これか?戦闘機動を取ると、頭に血が登って酸素が身体全体を巡らずにブラックアウトしたりするだろ?それを防ぐ為に身体を馴れさせているんだ」
フェンリアは腕組みしながら答える。大分前から気になってた事だが、実際にしてみると中々大変だ。
美緒は元エースのウィッチだったからか、その訓練法に「ほぉ」と頷いている。芳佳は分かってはいなさそうだ。恐らくそれ程キツイGを体験した事が無いからだろう。
「装備や機体そのものの質、普通の訓練をやってもアイツには勝てん…もっと何かをしなくては…」
「フェンリアさんのライバルって、そんなに強いんですか?」
「昨日話しただろ?あの敵エースが俺のライバルだ」
「一度会ってみたいな…出来れば飛びたいが…」
美緒らの話によると、ウィッチとして飛べるのは20歳までのようだ。年齢が上がるに連れて魔法力とやらが減少し、そして飛べなくなる…
フェンリアは元が戦闘機だから死ぬまで飛べるようだが、技術として模倣されたら美緒は飛べるだろうと考えていた。
無論デメリットの事も頭に入れておかなくてはならない。
「…どうしたフェンリア。そんな難しい顔をして」
「…何でもない。そろそろ降りるよ」
フェンリアは腹筋を使って起き上がり、両手で枝を掴んでから足を引き抜き、ゆっくりと下に降りた。
頭に登っていた血が全て足元に下がり、目の前がクラッとしたが、すぐに体勢を立て直した。
その時だった。
『非常呼集非常呼集!ウィッチーズ全員会議室へ集合して!』
ミーナの声が大音量で基地全域に発信された。近所に民家があれば苦情待った無しだ。
だがそれだけの事をするという事は、本当に緊急なのだろう。フェンリア、美緒、芳佳は走って会議室に向かった。
全員集めた会議室。皆の目線が集まる中、ミーナは一先ず何も隠さずに事実を伝える事にした。
「皆さん落ち着いて聞いてください。先程カールスラント解放軍総司令部より無線が入りました。対空インドラ要塞が、たった1機の新型ネウロイによって消滅しました」
一気に会議室が騒がしくなった。
あっちこっちから飛び交ってくる情報を整理すると、インドラ要塞は要所に設置されており、ネウロイの進行を幾度と無く弾き返した対空要塞だったらしい。
要塞がどんなに強固でも、確かに新型なら陥落するとフェンリア自身も考えていたが、消滅までは行かないだろう。
ならば考えられるのは、地下何十mにある厚さ300mm以上のコンクリ装甲で覆われた弾薬庫を爆弾で破壊するか、1発の威力が強力な爆弾を投下したかなのだろう。
「新型ネウロイの情報は、何かの戦闘機のようであり超高速で飛行するようです。曰くそれは彗星だったと連絡です」
「ミーナ中佐。その機体の特徴ってあるのか?」
エイラの質問に、ミーナは困惑したような表情を浮かべて話した。
「戦闘機の形を取っており、ミサイルや爆弾で攻撃してきたと…数少ない生存者によると、4発の大型ジェットエンジンを後部に纏めて装備していたらしいわ」
ガタンッと席を立つ音が響く。皆が驚いてそちらを見ると、音の主であるフェンリアが「馬鹿な」と言った顔でミーナを見つめていた。
「フェンリアさんどうされました?」
「そのネウロイの写真はあるのか?」
「ありますよ。今から映しすね」
会議室の大型スクリーンがシュルシュルと降りてきた。映写機に光が灯ると部屋の電気が落とされ、スクリーンに写真が映された。
それは確かに戦闘機の様だった。黒いその機体の機首には小さな翼が見える。カナード翼。つまり震電と同じエンテ型の形を取ったそれは、後部に行けば行くほど太くなっている。機体中央には左右に広がる巨大な翼は、それ自体がミサイルでは無い事を示している。
何より目を引くのは後部の巨大な4発エンジンだ。ミーナや美緒らが見た事の無い程巨大なエンジンは、間違いなく軽く音速を超える事を想像させた。
「何だよこれは…」
シャーロットが呻く様な声で、異様な姿のネウロイを見つめていた。
それに答えたのはフェンリアだ。
「フレガータ…大型攻撃機だ…」
苦虫を噛み潰した様な顔になったフェンリアに再び視線が集中する。ミーナは無言で「続けて」と促した。
「…俺のいた世界の試作攻撃機だ。元は低高度からその速度と装甲に物を言わせて防衛ラインを突破、地上目標を根絶やしにするのが目的だ。コイツの特徴はハイドラエンジンと名付けられたエンジンだ。これによりフレガータは燃料無視で飛べばマッハ4以上を叩き出す」
「マッハ4だって!?第一宇宙速度だぞ!?」
第一宇宙速度。すなわち本気を出せば大気圏を余裕で突破可能な速度だ。
異次元の速度換算に、フェンリア以外の全員が衝撃を隠し切れない。
フェンリアは続けた。
「それに装甲もミサイル1、2発程度では墜ちない程硬い。火力も20mmバルカン砲を固定装備とし、多種多様な爆弾も積める」
一通り驚いた表情の一同を見た後、ミーナの目を見て最重要項目を伝えた。
「…要塞がどの程度の大きさなのか知らんが、そこそこ広めの要塞を消滅させるならうってつけの兵器が幾つかある。その内の1つが貧者の核兵器と言われた燃料気化爆弾、もしくは核兵器並みの破壊力を秘める全ての戦争の母と呼ばれているMOABだ」
「し、質問なんですけど、その兵器は一体…」
ペリーヌが震えながら手を挙げる。
比較対象に核兵器が挙げられるなど前代未聞だったからだ。
「燃料気化爆弾は燃料を気化させて爆発させる爆弾だ。原理とかは置いておいて、その範囲は大型航空基地を2発で消し去る。MOABに至っては都市が消えるぞ」
フェンリアの言葉は各々の脳内に響き、もし都市部に落とされたならと考えてしまった。
ウィッチーズの防空ラインを簡単に突破し、両者が都市に落とされたならば…住民の遺体さえ発見できず、例え遺体を見つけたとしても破片になってるであろう。
都市部は言わずもがなだ。
「フェンリア!対抗策はあるのか!?」
カールスラントの惨劇を体験したバルクホルンが立ち上がって噛み付くように対抗策を尋ねる。
ミーナも勿論、ハルトマンも何時もの眠たそうな顔から撃墜王の顔に変貌していた。芳佳達も同様だ。
「…1つ、有るには有る。相手の標的が判るならば何とかなるかもしれない」
「目標はこの基地です。既に一直線にこちらへ来てます」
「よし。なら作戦を伝えようか…」
フェンリアは立ち上がってスクリーンを仕舞うスイッチを押し、背後にある黒板の下に線を引き、「海」と書く。
「まず配置だ。オススメするのは2人1組のチームを組み、なるべく広範囲に分散して待機する」
チョークで小さな円を2つ描き、それを少し大きな円で囲む絵を分散させて配置した。
「理由はフレガータの速度だ。余りにも速いから一撃離脱戦法をしてくる可能性が高い。だから1チームが突破されても、他のチームでリカバリーしてダメージを与えていく」
「成程…お前はどうするんだ?フェンリア」
「俺は単独行動だ」
フェンリアは黒板の上部に1つの円を描いた。
「俺はフレガータより高い位置で光学迷彩を展開して待機。奴が来たら急降下してエンジンを破壊する。あわよくば撃墜する。俺にしか出来ない役割だ」
フレガータの進行を示す矢印に上の円から伸びる矢印が接触する。
確かに合理的だが、シャーロットはかつて素早い敵と戦った経験からある質問をした。
「フェンリア。お前はそのGに耐えられるのか?」
質問にフェンリアとシャーロット以外が「あっ」とした。
いくら音速飛行に馴れていたとしても、その重力は計り知れない。シャーロットはそれを危惧したのだ。
「分からない」
「分からないって、お前な!」
「俺も未知数だ。一応耐える訓練はしているが、そのGに耐えられるか分からん。最善は尽くすさ…もし反対するなら他の案を」
この言葉にはシャーロットも黙ってしまった。
確かに危険だが、これ以外に有効な方法はと問われると有る訳がなかった。
フェンリアは無言で背を向けた。
「…俺は腹を括るさ。早く準備したほうがいいぞ。ヤツの速度を考えたらもう1時間も無い」
「…分かりました」
「ミーナ!?」
「バルホルン。もう議論の余地は無い。この基地をやられればお終いになる」
「坂本少佐まで…!?」
「話はここまでよ。けれど皆に条件を課すわ」
「条件…?」
「皆無事に帰ってくる事。これが出来なければ、ネウロイを撃墜出来ても失敗と見なす…フェンリアもこの事を留意するように」
ミーナも今まで通り行かせたなら無茶をする事は経験で知っていた。
フェンリアも苦笑を漏らしながらそれに答えた。
「分かりました。必ずや成功させて見せますよ」
数分後、フェンリアの姿は大空にあった。光学迷彩を作動させて姿は見えない。
フェンリアはVTOL機能を持っている。それを利用して飛行機雲を出さずに大空にいた。
彼の脳内では、出撃する前のバルクホルンの言葉が蘇っていた。
『無茶はするなよ…』
「アイツ、噂で心配してる奴にはうるさいって話だが、本当のようだな…」
何度も繰り返した武器チェックをもう一度繰り返す。
そして彼方から放たれる轟音を耳にした。
「来たか…」
遥か彼方に赤く光る何かが急接近してくる。恐ろしいスピードだ。ジェット機馴れしているフェンリアさえも、そのスピードに目を見張った。
だがその目は確実にネウロイの細部を捉えていた。
「(MOABではないな。なら燃料気化爆弾だな…っと、そう話してる暇も無さそうだ…)」
フレガータは全く気付いていない。
光学迷彩を解除した時には、フェンリアは既に降下していた。太陽を背にし、アフターバーナーをフルスロットルのまま予想交差地点に向けダイブする。
だが予想通りにフェンリアには恐ろしい加速Gがかかり、ブラックアウトすれすれになっていた。
「かはっ…!これはキツイなっ…!だがっ!」
ネウロイが特有の鳴き声を挙げる。どうやらようやく気が付いたようだ。だがフェンリアはこの時既に全ての兵装のロックを解除していた。
「ようフレガータ!ここで墜ちろ!FOX3!FOX2!」
6AAMと改良型HVAAの2連射、合計8発のミサイルがフレガータを襲った。だが今回はロックもままならずに発射したため無誘導だ。後は運、祈るだけだ
「機銃斉射!当たれぇぇぇぇ!」
機銃も乱射する。
彼の必死の祈りが通じた。6AAMは当たらなかったが、この攻撃がフレガータの回避を強制的に促した。そこにHVAAの1発が飛来。至近距離で爆発した。HVAAにはステルス性は勿論、周囲にも被害が及ぶように炸裂弾頭にしてあった。その破片がエアインテークに入り、エンジンに予想以上のダメージを与えた。そこに機銃が乱射され、機体にもそれなりの被害が与えられた。
結果、フレガータの速度は鈍足と言えるまでに落ち、吸気口のダメージから低空飛行を強要されたのだ。
高度を落としていくフレガータを見て、フェンリアは鼻で笑いながらインカムに耳を傾けた。
この時耳に流れてくる内容に軽く目眩を覚えたが、フェンリアは仕方なく現状を伝えるべく空きを伺った。しかし彼が何故目眩を覚えたか、少し遡ってみよう。
まだ彼方だが爆発音が聞こえた。
バルクホルンは両手に握る銃をより強く握る。
「トゥルーデ。力が入り過ぎだよ〜?」
「作戦が始まったんだハルトマン。お前も用意しておけ」
『でもバルクホルンさんって、何だかフェンリアさんの事気に入ってますよね?やっぱり心配ですか?』
無線に割り込んできた芳佳の言葉…と言うより今までの会話は作戦空域にいる全員に聞こえている。ともかく、芳佳の言葉が全員の耳に入った後、バルクホルンは瞬時に真っ赤になった。
「み、みみみみ宮藤!?///何を言ってる!?///」
『あれ?私変な事言いましたっけ?』
「わ、私はだな…///アイツを心配してるだけで好いてなどいないぞ…///」
『そこまで言ってませんけど…えっ?まさか…』
「『『『『『えっ…』』』』」
「…あっ…//////」
良くも悪くもバルクホルンは正直な奴だった。カールスラント軍人の美学的思想を身に着けた真っ直ぐな正確だったが、ここでは普通に裏目に出た。芳佳の素のボケをかまして引っ掛かってしまったバルクホルンはさらに赤くなった。
『あら、そうだったのトゥルーデ?』
『バルクホルン少佐、応援してますわ♪』
『アッハッハッハッ!お固いバルクホルンも乙女だな♪』
『ひゅ〜ひゅ〜♪』
『ミーナ中佐が歌ってサーニャがピアノを弾けば完璧だな♪』
『式のとき頑張る』
『私達も料理頑張らないとね♪芳佳ちゃん♪』
『そうだね♪』
『あっはっはっはっ!いいじゃないかバルクホルン。私からも何か用意しておこう』
「だ〜ってさ♪」
「お、お前らもうすぐ敵が来るんだぞっ!!//////」
無意識に自覚していた甘酸っぱい想いが早々にバレた上に告白もしてないのに結婚させようとするメンバーに怒鳴り返す。なおフェンリアは最初の芳佳のセリフ辺りから聞いていた。
『聞こえるか?応答してくれ』
フェンリアの声がインカムから聞こえた。
「フェ、フェンリア?///何も聞いてなかったよな?///」
『はて?何の話だ?』
「いやいやいや!///何でもない!///」
実は聞いていたと今言えば収集がつかなくなるので、フェンリアはとぼける事にした。
『まぁいいか。敵ネウロイがそちらに向かっている。速度は鈍足、機体にもダメージが入ってる。俺は体勢を立て直すから後は頼んだぞ』
「ふぅ…よし分かった。任せてくれ」
『交信、アウト!』
電波が途切れる。フェンリアの声はもう聞こえてこない。その代わりに耳障りなエンジン音が聞こえてきた。
「来るぞ!ハルトマン!」
「あいよ!」
赤く光る影が接近してきた。速度はまだ速いが、音速飛行は出来なくなっていた。感覚ではウォーロックより少し遅い程度だ。
「遅い!キールに向かう途中に出会ったヤツのほうが強かったぞ!」
「ここで墜ちてもらうよ!」
2人の持つMG機関銃がフレガータの機体を抉っていく。だがそれを見越しての装甲だ。フレガータはそのまま飛び去っていく。
「追うぞ!」
「ほいほ〜い!」
2人もフルスロットルで追い掛ける。
フレガータは何とか逃げ切れたと思っていたと思っていたのだろう。その上空からの視線に全く気付いていなかった。
「リーネちゃん!今!」
「撃ちます!」
「サーニャ!今だ!」
「うん!」
リーネは視力の良さ、サーニャは電波を使う。それぞれの良さを活かし、リーネと宮藤はかなりの高度から狙い、サーニャとエイラは雲に紛れて奇襲を仕掛けた。
完璧な不意打ちとなったこの攻撃は、フレガータの翼を吹き飛ばした。
フレガータは悲鳴を上げる。それでも飛び続けるフレガータに2つの洗礼が浴びせられた。
「行けっ!ルッキーニ!!」
「ばっひゅ〜〜ん!!」
シャーロットとルッキーニの能力を合わせた合体技が炸裂した。この時フレガータにとっては最悪の状況が生まれた。
この合体技は途端に取った回避行動が原因で避けられてしまったが、半分の主翼を壊されたフレガータはその衝撃波に耐えれるだけのパワーが無かったのだ。故に完全に安定感を失い、クルクルとバレルロールを繰り返した。
その瞬間を狙ってバルクホルンとハルトマンが下方向から機銃を乱射。ウェポンベイが破壊され、中の爆弾が丸見えになってしまった。
それを知ってか知らずか、ミーナのアシストの元、ペリーヌの攻撃が炸裂した。
「今よ!ペリーヌさん!」
「はい!トネール!!」
もはやそこに最速の凶鳥の面影はなく、息切れのグンカンドリとなったフレガータに電撃が走った。その電撃の直撃先は、ウェポンベイ内にあった基地攻撃用燃料気化爆弾だ。
普通の電撃なら爆発しないが、魔法によって放たれた対ネウロイ専用の電撃は違う。燃料を気化させ、爆弾の外装を吹き飛ばした。そこに彼自身のアフターバーナーの火が引火した。
カッ!ドォォォォォンッ!
恐ろしい程の熱と閃光が放たれた。だが全員が離れた位置で、なおかつシールドを張っていたため無事だった。
「…ネウロイの反応。消滅…」
「楽に始末出来たのはフェンリアのお陰か…」
ポツリと呟いたエイラの言葉が、プロペラ音しかしない空に響いた。
だがその声は、先程とは打って変わって繊細なジェットの音にかき消された。
「撃墜出来たか…焼き鳥一丁上りってやつだな」
「フェンリア!無事か?」
「あぁ、何の問題もない。急降下時はブラックアウト仕掛けたがな」
「ブラックアウトって…私でもならなかったけど?」
「それ程強力な機動を無意識に避けてるだけだよシャーリー」
改めてフェンリアのいた世界が、化け物揃いの空にいたと考えると恐怖しか無い一同だが、とにかくあのネウロイを撃破出来た事を上層部に伝えなければならなかった。
「さ、皆帰還しますよ」
「「「「「了解!」」」」」
基地に進路を取るフェンリア達。
フェンリアも、ましては彼女らも油断していた訳では無かった。だが気付くのが遅かった。
彼方から耳障りな咆哮と共に、赤いビームが何本も飛んできた。
「あっ!危ないバルクホルン!」
「はっ?」
急に背中を押されて困惑したバルクホルンだったが、フェンリアの左腕のアーマーが赤い光に包まれ、彼が苦悶の表情を露わにした瞬間全てを把握した。
「ちぃっ!」
「フェンリア!」
「ネウロイ…あっ、シャーリー!あれ!」
「ハンブルクでハルトマンを撃墜したタイプか?どこか違うが…」
ビームの飛来した方向より6機のネウロイが向かってくる。それは確かにハンブルク上空でバルクホルンとハルトマン、シャーロットを翻弄したタイプのネウロイに似ていた。
だが今回は完璧な戦闘機の形を纏い、編隊飛行をしながら飛んできた。明らかに何かが違う。
「攻撃開始!」
ミーナの命令を受け、全員が広範囲に渡って弾幕射撃を行う。
ネウロイはそれを軽々と避ける。その機体のエンジンは、四角形のカバーに覆われた戦闘機だった。
「S-32だと!?まさか…!」
「どうしたんだ?」
「アレクト隊…なのか…?」
6機のネウロイの内1機の尾翼が太陽に照らされた。そこには薄っすらとだが、悪魔が翼を広げて何かを持っているエンブレムが見えた。そこに文字が彼の目を引いた。
『Alect』
周囲がスローモーションで過ぎ去っていく。フェンリアの目線は、エンブレムとコックピットを行き来した。
エンブレムは何度見ても悪魔にAlectの文字が刻まれている。コックピットにはコアらしき輝きが見えた。フェンリアにとって、その輝きは嘲笑してるように思えた。
「…ふざけるな!アレクト隊!攻撃を止めろ!」
声が届くはずないと思っていたフェンリアだったが、不思議とネウロイは空中に静止したまま攻撃をピタリと止めた。それどころか通信し始めたのだ。
『ソノ機体ノ面影…見タコトガアル…フェンリアカ』
「やはりアレクト隊か…1つ聞こう。何故ネウロイになった?」
『何故カ?カ…ソレハ望ンダ物ガ違ウカラダ』
ネウロイと交信と言う前代未聞の事態に、501部隊員は固唾を飲んで見守る。アレクト隊が出した答えは、フェンリアに理解できない物だった。
『我々ハ支配スル「力」ヲ望ンダ。全テヲ飲ミ込ミ、己ノ物トスルノダ』
「何だと?ネウロイがこの世界にした所業を知ってるはずだ」
『ソレガ我々ガ望ンダ物ダ。世界ヲ我々ノ手中ニ収メル…一部違ウ考エノ仲間モイルガナ』
「その元で…一般市民をどうするつもりだ!」
『弱肉強食…弱キ者ハ殺ス』
「それは虐殺だ!我々レサスが忌々しい主導者の元で行った事と同じ非道に満ちた行為!俺はその過ちを背負い、一生をかけて全てを精算するつもりだ!」
『愚カナ考エダナ。ソコノ小娘達ヲ潰ス前ニ、貴様カラ地獄ニ墜トシテヤル』
「それはこっちのセリフだ!悪魔に魂を売ったその罪、ここで払って貰うぞ!」
予備動作も無しにフェンリアはHVAAを放つ。
だがレサス最強と謳われたアレクト隊に生易しい攻撃は通用しない。瞬時に上昇してフレア無しで回避した。
「逃がすか…!エンゲージ!」
フェンリアも6機の動きに追従する。そこからは激しいドッグファイトの始まりだった。
「なんつー動きだ…」
「ダメです!速すぎて照準が…!」
「…動きが不規則だし、速すぎて予想出来ない…」
「フェンリア…お前…」
「大丈夫…フェンリアの方が強いよ」
残された501部隊も援護しようと銃を構えたが、ジェット戦闘機同士の異次元な戦いに付いて行けてなかった。バルクホルンとハルトマンのみがギリギリその速度に追従出来ていた。それでも当てられるかと聞かれたら、彼女らは首を横に振るだろう。
「このっ!墜ちろ!」
『マダマダダ。練度ヲ技術デ覆ソウトシテルノガ丸見エダ!FOX2!』
空の戦いも激化していく。
アレクト隊長機のみが会話出来るようで、他の機体は無言で攻撃してくる。しかしどの機体もかなりの腕だ。2機1組の攻撃でフェンリアを攻め立てる。
S-32とフェンリアを比べると、性能差は圧倒的にフェンリア有利だ。だがアレクト隊は腕で性能差を埋めてくる。それでもフェンリアは冷静だった。
「グリフィスと比べればこんなもの!FOX2!」
透明化からのコブラ機動でミサイルを避けつつ背後を取り、HVAAを放つ。
バンッという音ともにミサイルが機体後方で爆発した。
『チッ…当テラレタカ』
「諦めて墜ちて貰うぞ!」
『最低デモオ前ヲ殺ス…彼女ラヲ見殺シにデキルカナ!?アレクト6!501ヲ襲エ!』
少し離れた位置を飛んでいた6番機が急激に高度を落とす。その先には501部隊がいた。
「ッ…!クソっ!」
フェンリアもそれに追従するが、それは他のアレクト隊がフリーに行動できる事になる。
『オ別レダフェンリア。仲間モスグニ送ッテヤル。FOX3!』
フェンリアが放つ白色のミサイルではなく、真っ黒で時折赤く光るミサイルがアレクト隊の残存機より放たれた。フェンリアのバザーにアラートが表示される。
「知った事か!俺を救ってくれた奴らを死なせやしない!」
バルクホルン達もターゲットにされた事を知り、フェンリアを釣り出すための人質にされた事を察した。
「くそっ!私達は人質か!」
「総員退避!」
ミーナが素早く指示を出すも、その周囲を鳥籠の様にビームが囲んだ。
「うわっとっとっとっ!危ねっ!」
「シャーリーさん!」
「逃げ場がありませんわ!」
「くっ、ダメだ!私達を逃さないつもりだ!」
恐怖に震えるサーニャを抱きしめながら、エイラが顔をしかめる。
誰もが自分に不甲斐なさを感じた時、青い光が彼女らを照らした。ウィッチーズなら間違いようも無い、青いシールドだ。
「ハルトマン!?」
「こんな事されて…黙っていられると思う!?」
「ハルトマン…!」
フェンリアもハルトマンが展開するシールドを見て臍を噛む。フェンリアもハルトマンが世界指折りのトップエースである事を知っている。バルクホルンが話してくれたのだ。そんな彼女自身がエサになる事を認めないが為の行動なのだろうと、フェンリアは察したのだ。
『邪魔ヲスルナ小娘』
背後からビームが放たれる。それはフェンリアを追い越し、容赦無くハルトマンのシールドを削り取ろうと襲いかかる。
「あぁっ!クソっ!」
フェンリアも残りの体力を度返しに6番機を追う。諦める訳にはいかない。
「くっ…!うぅっ!」
ハルトマンも最大出力でシールドを維持するが、強力なビームの嵐の前に屈する手前だ。
それでも諦めない。
お互い祈る前に最善を尽くす。それは実った。
『後少しでも遅れてたらアウトだったな。FOX2!』
ハルトマンにもフェンリアにも、そしてアレクト隊にも予想外な事が起こった。
第三者の乱入は冗談の様な物だった。
横から飛来した4発のミサイルはハルトマンとアレクト6番機の間で炸裂した。しかも有ろう事か、それらは爆炎ではなくシールドを展開したのだ。
フェンリアを追うアレクト隊が放ったビームの全てが防がれていく。
6番機はぶつかるまいとスレスレで避けようとした。
『FOX3!』
再び飛来したミサイル2発は、旋回に移った瞬間の6番機コックピットに直撃。爆炎と共に白い破片にしてのけた。
『誰ダ!何者ダ!?』
アレクト隊は上空で体勢を立て直す為に追撃を諦めた。フェンリアの体力は限界に近かったが、それでもミサイルの進来方向を見た。501もアレクト隊も見る。
先鋭的なシルエットのアーマーを装備した男だ。背後には円盤を右腕に付けた男もいた。
「っ!?お前はっ!?」
「あの時以来か…恐らく目が合ったよな」
『貴様…マサカ…』
「久し振りだなアレクト隊…少し前からお前達の無線をハックして聞いていたが…どうやらお前達は変わってないな」
『黙レ!貴様コソ何故ココニ!?』
「お前達のような存在から人々を守る。その為なら俺は何度でも蘇る…グリフィス1、エンゲージ!!」
「クラックスよりグリフィス1へ!敵味方識別コードを共有します!敵戦闘機隊を撃墜してください!」
オーレリアの星、レサスの凶星。1つの基地から全てを奪還したエース。グリフィス1だ。
アレクト隊もフェンリアと501を無視してグリフィスを追い掛ける。そのスキにフェンリアはバルクホルン達と合流した。
「ケガは無いか?」
「私達よりお前だろ!左腕が…!」
フェンリアの左腕のアーマーは真っ黒で、動かす度に脂汗が滲み出てきている。
「まだ右腕がある…とにかく皆無事で何よりだ…」
「…すまない。私達が力不足で」
「バルクホルン…いや、トゥルーデ。お前達は強い。俺が保証する」
「フェンリア…」
「見て!あの人を!」
ルッキーニの声だ。視線を上げると同時に2つの爆発が生まれた。
『2機撃墜。これで残りは3機だな』
「サラッとエースを2機…ドッグファイトで喰ったのか…」
「何て鋭い機動…しかも速い」
「あのアーマー…噂で聞いたXFA-27か」
「凄い…」
「敵も焦ってる…総員構えて!」
鋭い機動でグリフィスはアレクト隊の2機を喰う。残存機も攻撃するが、グリフィスは木の葉の様に避ける。
『コウナレバ!』
再びビームを501に向けて放つ。しかしそれより先にグリフィスの放ったミサイル4発がビームの前で炸裂。シールドが4つ生まれてビームは阻まれた。
『俺の能力だ。ミサイルを炸裂させてシールドを形成できる。イージスと名付けるか』
この時アレクト隊は不幸にも自らの放ったビームで、フェンリア達の行動が見れなくなった。そこへ不用意に2番機が接近してしまったのだ。
「攻撃開始!!」
ミーナの命令が飛ぶ。
その瞬間、501全員とフェンリアの機銃攻撃が殺到した。いくら避けるにしても接近しすぎた上に、恐ろしく正確な攻撃だった。
尾翼から機体、主翼と粉々にされていき、最後にコックピットを撃ち抜かれて爆散した。
『負けてられないな。FOX3!』
グリフィスが2発のミサイルを放つ。
ミサイルはQAAM。激しい機動で逃げようと、アレクト隊2番機は足掻くが無駄だった。機体後部に1発命中し、推進力が無くなった所に2発目がコックピットを抉り取った。
『クソッ!』
残された1番機が逃げる。しかしその後方から機銃が撃ち込まれてエンジンが損傷。速度が落ちてしまった。
『何故ダ!俺達ハ勝ッテイタハズダ!』
『運が悪かっただけだアレクト。お前の友人からの贈り物だ。受け取っとけよ』
忌々しいネメシスの声だ。だがそれより近付いてくる耳障りな音にアレクトは目を剥いだ。
バチバチと音を立てて近付くのは、フェンリアから放たれたHPMだった。逃げようにも逃げる足が潰されている。足掻いても無駄だった。
マイクロ波に包まれる。恐ろしい勢いで彼の身体が焼かれていく。
『クソォォォォォォッ!』
彼の絶叫は白い爆発と共に消えていった。
「クラックスより皆さんへ、敵部隊の全滅を確認…ふぅ、間に合って良かったです」
「ありがとうございます。何とお礼を言えばいいか…」
「いえ!我々は義務を果たしただけです。ね?隊長?」
グリフィスは無言だ。その代わり俺を睨むような視線を向けてくる。
「…よぉネメシス。命拾いしたぜ」
「お前がこの世界にいるのが驚きだな」
火花が散るとはこの事を言うのだろう。お互いの目線が交差し、一触即発の空気が漂う。
可哀想にその空気に慣れていない芳佳、リーネ、ルッキーニなどなどは身体を震わせて固まっていた。
真剣で切り合うような沈黙を破ったのはグリフィスだった。
「…先程の活躍は見ていた。その行動、称賛に値すると俺は思う」
「それは嬉しいね。ともかく間に合ってくれて助かった。お陰で大切な仲間達も無事だ」
「こちらとしては、遅参の件をお許しを…だな」
「謝る必要はない。俺達は生きている。そうだろ?ミーナ」
「…ふふっ。そうね…501部隊、ここに作戦成功を宣言します。帰投せよ!」
「「「「「了解!!」」」」」
緊張の呪縛から解かれ、皆に笑顔が戻った。
「グリフィスよ。教えてくれ。お前が守りたかったのはこれなのか?俺にも守れるのか?」
フェンリアは純粋な問いをグリフィスにぶつけた。
「お前次第だ。守りたくば信じろ」
「そうか…所で俺にはまだお前に聞きたいことがある。今日の寝床とかはどうする?」
「決まってないな。正式に決まるまで厄介になっても?」
「俺の部屋に来るといいさ」
「そうか…久し振りに語り合おう。戦友よ」
「ところでだ。ウィッチーズとやらは目のやり場に困るな」
「そう言うなよ。ウッカリと自分の秘めた想いを口にして皆にバレる奴もいるんたぞ?」
「ちょっ!////フェンリア!?////」
実はあの会話を聞いてたと暴露されたバルクホルンの顔が真っ赤になる。その様子を遠巻きながら、501メンバーは笑顔で見つめていた。
「ここはどこだ?」
「俺が知る訳無いだろ?」
アフリカの砂漠。そこで2人の男が立っていた。
片方は黒髪で短髪、軍用プロテクトアーマーに身を包み、もう片方は金髪の長髪、茶色のコートの下は裸と言うスタイルだ。
お互いの共通点は、鷲の様に鋭い目と鍛えられた身体だ。
彼らの近くには奇妙な生き物の様な物が鎮座している。金属製の化け物と言えばまだいいだろう。だが明らかにそれは二足歩行を行うロボットだ。
「この暑さにさっきから見かける砂漠の生物…アフリカか…」
「しかも北の方だな。しかしあの黒いのは何だったんだ?」
コートの男が忌々しそうに顔をしかめる。
黒いと言うのはネウロイの事だ。この2人は前世の因縁から、出合い頭歩くロボットから降りて殴り合いをしていた所にネウロイに襲撃された。
2人は持っていた携行対空ミサイルスティンガーや軽機関銃で次々来るネウロイを叩き落とし、既に15機ずつの戦果を挙げていた。
「とにかく、人のいる所に向かいたいものだな…」
「そこで続きをするか?兄弟よ」
「懐かしい言葉だな…そうだなそうしよう」
かつて自らに搭乗してきた男達の姿をコピーした2人。彼らが向かう場所は、奇しくもこれから最大の戦場と化す北アフリカだった。
紅海の海の中、変わった音が響いている。何かを叩く様なコーンと言う音だ。
軍人でこの音を聞くのは、もう数少ないだろう。唯一その音を聞くのは海軍関係者。しかも潜水艦クルーぐらいだろう。
音を発する主は男で、海軍の服装に身を包んでいる。不思議とその服は濡れていなかった。
大型戦略潜水艦として建造された彼の武装は、それに相応しい装備を身に着けていた。
「…やはりそうだ。下から変な音が聞こえる…」
耳元から手を離して自分の足元を見つめる。海の底が見えるはず無いが、彼の目には赤く輝く黒い物体が蠢いているのを捉えていた。
「傍受無線と資料から、あれはネウロイか…水が苦手と聞いたが、克服しつつあるということか…」
自分の武装をチェックする。
右手の艦首に似た艤装には8連装魚雷発射管。左手には独特な銃が握られている。2段に分けられた台のそれぞれの上に、丸い砲塔が2つ付いている。格納式の速射砲だ。
その他にも左肩甲骨から小さなランチャー型の箱が横6列縦3列一固めにした物が付いていたり、右肩甲骨には大型のランチャーが備えられたりとしている。
「俺の後継もいるらしいが、いつか会えるだろうか?」
彼はそう呟いた。
静かな海は彼の独り言を飲み込んだ。だが彼の願いはすぐに叶う事になるのだった…
( 主)「はい、アレクト隊にはくたばってもらいました。だってグリフィス出したいもんね。仕方無いね♂とにかくさっさとアフリカで暴れさせたい…」
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
狼煙
「痛てててててっ!トゥルーデ!落ち着けぇ!止めろぉ!」
「うるさい!///何であの会話を聞いてるんだ!?///」
「現状報告に無線開いたらそうなったんだ!不可抗力だ!」
帰ってからフェンリアとバルクホルンはこの様子だ。バルクホルンは恥ずかしかったのだろうが、フェンリアに非は無いのではと思いつつ、グリフィスは面白そうに眺めていた。
「あの2人は仲がいいんですね」
アーマーを格納し、整備の為にもう一度脱いだ状態で再出現させていたクラックスが、フェンリアとバルクホルンの漫才を眺めている。
「そうだな。仲いいなら何も言うことは無い。取り敢えず心配事が1つ減った訳だ」
心無しかグリフィスもホッとした様子を見せている。
そこへミーナがやって来る。
「改めまして、私はこの501統合戦闘航空団の隊長をしているミーナです」
「失礼。オーレリア空軍空中管制機、クラックスです」
「オーレリア空軍所属、グリフィス1だ。グリフィスと呼んでくれ…そこで夫婦漫才繰り広げてる夫役とやりやった事がある」
「ネメシス!まだ結婚とかしてねぇだろ!」
「初対面なのに既婚者設定作るなお前!」
「息ぴったりですね。式場の予約は任せてください」
「「誰かそこの2人を黙らせろ!」」
もはやフェンリアとバルクホルンの乗せ方を把握したグリフィスとクラックスに、ミーナは苦笑いしている。他も目を輝かせたり口笛を吹いたりしている。
「おふざけはこの辺で済ませるか…フェンリア。お前にとってもこの基地…いや、ウィッチーズだったか。ともかくこれから重要な事を話す」
「何だ改まって…」
「薄々気になってるんだろ?俺達が来た事で、この世界に影響があるんじゃないかって」
フェンリアは黙る。確かにさっきはフレガータとアレクト隊がネウロイ化して攻撃してきた。
「長話になる。椅子のあるとこで話そう」
「分かりました。こっちに集まって」
ミーナの案内の元、全員が会議室に集合した。グリフィス、クラックスの2人は壇上に上がって視線が集まるのを待った。
視線が集まると、言い出しっぺのグリフィスが口を開いた。
「…まず事実を話そう。我々の他に同様の存在が世界各地に来ている」
「なっ…フェンリアやグリフィスみたいのがまだ来てんのか…」
「そうだシャーロット。クラックス。説明を」
「了解です。我々の他に確認されてる存在は多数です。中には我々が認知していない…おそらく別世界の存在がいます」
予め降ろされたスクリーンに青い世界地図が表示され、緑ピンが刺されていく。
フェンリアも思わず呟いた。
「あちこちにいるな…」
「スオムスの海軍基地司令が殺されています。こちらが傍受した無線によると、猛吹雪の中を自在に飛行して対空設備を壊して回った航空隊がいたとあります」
「スオムス海軍基地司令…噂では暗部と繋がっていて、ウィッチーズの妨害をしているとあったけど…」
「同様な暗殺事例は多数あります。酷いところだと爆発しないミサイルが撃ち込まれてやられたケースも…」
「刃付けたあのミサイルか…」
フェンリアも兵器に心当たりがあるのか、目を遠くして会話に交じる。
一見普通の報告に見えるが、ここからが本題だった。
「ま、これだけなら良かったんだがな…」
「何かあるのか?」
「我々はここに来る途中、ネウロイの攻撃に晒されました。しかも本体は遠距離にいます」
地図がズームされ、それはおそらく数時間も前のグリフィスとクラックスの位置を示してるとされた。
「周囲に敵影無し。だが攻撃のみが飛んでくる…その兵器は超長距離からの空間制圧兵器によるものと判断した」
「…待てグリフィス。あれはお前らの手によって潰された筈だ」
「確かに潰した…だがこの世界にネウロイとして蘇ったなら?」
「その兵器って何だ?そんなに広範囲を制圧することが出来るのか?」
「君はエイラだったか。君の能力は資料によると、予知だったな。君が予知した所で逃げられない兵器とだけ言っておこう」
「私でもか?」
「もしくは、お前が逃げれても他が危ないってやつだ」
フェンリアが言葉を紡ぐ。それを合図に世界地図は小さく表示され、代わりに何か巨大な写真が表示された。
夕日に照らされたその巨大な物体は、半分透明でもう半分が黒い色をした航空機だった。周囲を戦闘機が飛んでいるが、その大きさの違いから空母よりも遥かに巨大である事が分かる。
「な、何これ!?」
「でっけぇ…」
「コイツは…」
「やっぱりコイツか…」
「グリフィスさん。この機体は…」
「レサスが開発した超兵器、グレイプニルだ」
「映像、映します」
クラックスがリモコンを操作して2つある動画の内1つを再生する。多数の航空機が空を舞い、爆撃機らしき影が撃墜されていく映像。おそらくコックピットからの映像だろうが、最後に異変が起こる。
『高速で何かが当空域に侵入してきます!』
『何だ!?』
次の瞬間、至近に何かが飛来して炸裂した。
青白い閃光と共に衝撃波が機体を襲った瞬間に映像が途絶えた。
「…2本目行きます」
2つ目の映像が再生される。
『妙だな…レサス軍がいないぞ?』
『このまま慎重に進もう』
戦車からの映像だ。ビルに囲まれた夕日の中を進んでいる。順調そうに見えたが、音声に電気が走る耳障りな音が聞こえてきた。
『おい。この音は何だ?』
『あっ!上を見ろ!』
カメラが上を向く。空間が歪み、黒い壁が現れた。グリフィスがグレイプニルと呼んだ超大型航空機だ。
『グレイプニルだ!』
『目標グレイプニル!撃て撃て!』
戦車の機銃、対戦車ロケット、対空車両からの一斉攻撃を機体に受けるが、ダメージがあるようには見えなかった。
必死な戦車隊を嘲笑うかのように、グレイプニルの機体中央に青白い光が貯められていく。
『見ろ!何をする気だ?』
映像の撮影者らしき腕が、光を指差した。
「!?逃げろ!」
エイラが顔面蒼白になって注意を促した。無論全てが終わった後の映像なため無駄ではあった。だが分かっていても彼女はそう叫ばずにはいられなかった。
『まさか…マズイ!』
未来の注意喚起に気が付いた訳ではないだろうが、撮影者は咄嗟にカメラを近くの地下鉄駅入り口に投げ込んだ。
カメラは撮影者の方を見て撮影を続けていた。
爆音と衝撃波が戦車隊を襲った。戦車が爆発すると共に宙を舞い、人影が燃えて四散する。
映像はそこで途絶えた。
「…」
凄惨たる映像を見せつけられた彼女らは無言になるしか無かった。
「…今のがグレイプニルの兵器の威力を示す唯一の映像だ」
「あ…あぁ…」
「すまないエイラ。注意喚起をしておくべきだったな」
誰もがショックを受けたが、1番そのダメージが大きかったのはエイラだろう。グリフィスとフェンリアの言った意味が身に沁みて分かったからだろう。
「えっと…1本目はSWBMと呼ばれる長距離ミサイルです。2本目がショックカノンの映像ですね」
「こんな映像を見せてすまなかった…だが我々がここに来る途中、SWBMによる攻撃を受けたのは確かだ」
再びスクリーンには地図が表示された。緑ピンはほとんど消え、1つの場所を刺していた。
「残ったピンは我々が攻撃を受けた場所だ。飛距離などを換算すると、攻撃地点はここだ」
グリフィスがレーザーポインターを取り出して一点を指す。その場所にバルクホルンとハルトマン、ミーナが勢いよく立ち上がった。
「待て!ベルリンだと!?」
「ネウロイの巣、ヴォルフがある私達の故郷…」
「本当ですか!?」
「本当だ。しかももうすぐここに知らせは来るだろうが、衝撃の事実がある」
「それは一体なんですか?」
リネットが恐る恐る質問する。
「…このネウロイの巣は移動している」
「何だって!?」
「奴ら…ネウロイの目的は人類を確実に追い詰めること。要所を落とせればそれでいい」
「位置的にアフリカ方面へ向かっているそうです」
「アフリカ…スエズ運河か!」
シャーリーも立ち上がる。
北アフリカは人類の存亡が掛かっている激戦区の1つだ。スエズ運河はヨーロッパに物資を送る唯一のショートカットだ。
そこを制圧されてはヨーロッパ全土は一気に風前の灯火となってしまう。
「そうか…ならヴォルフの目標はこのスエズだろう。それだけ重要な地点ならそこに巣が来ても違和感が無い」
「それとだ…ここの基地に新型ネウロイが来たって報告が入ってないか?」
「えぇ、来てますけど…」
何を当たり前な事をとミーナは首を傾げたが、グリフィスとクラックスの顔には『やっぱり』と浮かんでいた。
「俺達宛にもその命令が来ている。501統合戦闘航空団基地にフレガータが向かっているとな」
「送り主は誰だ?」
「送り主どころかどこから命令が飛ばされているのかさえ不明だった。今回も同様なら、世界に散らばっているエースが全員集合することになる」
静かになった会議室。誰かの生唾を飲む音が酷く大きく響いた。
フェンリアが沈黙を破った。
「『現状最強のネウロイの巣と多数の新型ネウロイ』対『ヨーロッパ各地に点在するウィッチーズとエース』か…空が狭くなるな。人類には空が必要だ。平穏を乱すネウロイにはご退場願おう」
『ベルリンに居座るネウロイの巣の移動を確認。目標北アフリカスエズ運河。ここを制圧されれば人類に明日無し』
どこからか送られたその情報は世界を駆け巡った。
「来たか…」
「位置的に我々が近いな。準備ができ次第向かうぞ。イエロー」
「爆速で飛ばしても間に合わないな。相棒」
「途中で補給してから再度行くぞ」
「スエズ運河をネウロイに渡すわけにはいきません。506統合戦闘航空団A、B両部隊も行きます。皆さんもお願いします」
「了解しました。ベルカの真髄を見せて差し上げましょう」
「将軍。本気で行かれるのですか?」
「人類の生命線を失う訳には行かない。預かってる全戦力を率いて向かうぞ」
「では、あの娘達も?」
「心苦しいが連れて行く。新生第7装甲師団の結成を宣言する」
「分かりました。すぐに準備します」
「パットンの親父。やはり出撃命令を?」
「そうだ。戦力が整い次第出す。連中に目に物を見せてやる」
「存分に暴れてやろっと」
「この命令に従った方がいいのか?タリズマン」
「人類に後が無いらしい。それだけ重要な地点なのだろう。死守するために向かう」
「了解した」
「進路変更!目標、スエズ!」
「お仕事完了と思ったら、次は最強とされるネウロイの巣が相手なのか?」
「そうだ。ここにいる全員で叩き潰す」
「おいらはブービーについていくぜ!他はどうする?」
「隊長についていくわ」
「僕も同じく」
「俺もだ」
「分かった。俺達も協力する…最強のネウロイの巣か…空戦で確かめるぞ」
「兄弟。俺達も向かうか」
「そうしよう。ところでお前達はどうするんだ?」
「おぉ、俺達も向かう予定だぜ」
「誰だろうが手加減はしない!」
「ミスせずにするさ」
「フッ…行くぞ。そこに赤サソリもいるだろうしな」
「…らしいけどどうするの?私はそこの大馬鹿野郎についていくけど?」
「全員でついていくさ。そこの爺さんらは?」
「他のエースと会えるなら飛ぼう。楽しみだ」
「そうか。で、イリスとマリアはどうする?」
「マリアは私が運ぶわ。一緒に向かう」
「人類の生命線を絶たせやしないわ!」
「…通達出来たな…」
彼の声がは誰にも聞こえない。誰かいたとしても聞こえるはずがない。
ここは地表から500km離れた地点だ。流星やオーロラを見下ろし、スペースシャトルが活動する熱圏と呼ばれる所と言えば分かる者もいるのでは無かろうか?
ともあれ、そんな所に酸素は無い。無いのにも関わらずこの男はその空間に存在している。
しかもフェンリアらのアーマーでさえ未知な物なのに、男のアーマーはさらに意味が分からない。水色と白を基調とした流線型のアーマー。ADFX-01のエンジンを2発を一纏めにした複合エンジン。それだけならいいのだが、形状からするとシャトルと同じ構造の戦闘機だ。
左手には長大な日本刀が握られ、右手にはアメリカ軍のレーザーライフルが握られていた。
「この世界が私を望んでくれる世界なのかは知らんが、下にいる連中がどの程度か見極めさせてもらおう」
どこか悲しげな目をした月白の長髪の男は笑みを見せて見下ろす。刻一刻と迫りつつある決戦に心を踊らせながら…
( 主)「さ〜て、やりたい放題するか」
目次 感想へのリンク しおりを挟む