この世界で私達は生きる (鉄血)
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第一話

三人の男性が街から離れた人気のない山頂の展望台でキャンピングカーでキャンプをしていた。一人はコンクリート製の手すりに座り、ナイフを手入れしながら双眼鏡で街を見ている男性に聞いた。

 

「どう?海斗?街の様子は?」

 

双眼鏡を持った男性に、コンクリート製の手すりに座った男性が聞いてくる。

そんな彼に対し、眼鏡を掛けた男性は肩を潜めながら口を開いた。

 

「昨日と変わってねえよ。そもそもこの街の生存者の殆どが都市部に逃げてる。この観光スポットしかない街にこうやっているのは俺達みたいなはぐれ物か、ゾンビ化した人間くらいだよ」

 

「だよねー・・・」

 

海斗の言葉に手すりに座った男性が、キャンピングカーのラジオをいじっている男性に言った。

 

「そーちゃん。そっちはどう?」

 

彼の呼びかけに、身長が他の二人より小さい男性が言う。

 

「やってる。でも何の意味もねえ。そもそもラジオやってんのか?」

 

そーちゃんと言われた男性は半部投げやりになり、こちらへ歩いてくる。

 

「海斗。生存者はいるか?」

 

「んー・・・確認してるけど、今の所は無し。相馬の予想が外れるほどにな」

 

「前に壊滅したアリーナの生存者が逃げ回っているとは思っていたんだが・・・全滅したか」

 

「そもそも、武器持ってないだろ?あそこの奴ら。それに生きてたとしても、俺達を殺しにくるしな」

 

海斗はそう言って、相馬に双眼鏡を渡す。

すると隣に座っている男性が言った。

 

「そーちゃん、俺達もどうする?食料はまだあるし、海も近くにある、山もあるから現地調達は出来るけど、男三人だと出来る事なんてたかが知れてるよ?」

 

そんな彼に相馬は双眼鏡を覗き込みながら口を開く。

 

「わぁーてるよ、零。たく、俺達もそろそろ此処から移動するか?」

 

街外れの展望台なので安全確保も出来るし、近くには店舗もあったので雨風や食料を確保する事ができた。もう、しばらくは此処にいても大丈夫なのだが・・・と思った矢先。

 

「──────ん?」

 

相馬が眉をひそめて、双眼鏡を見る。

三人の人影が走ってゾンビ達から逃げている。

それを見て、相馬が二人に言った。

 

「零、海斗」

 

「ん?」

 

「なに?」

 

二人はそれぞれ反応して相馬を見る。

そんな二人に、相馬が言った。

 

「生存者三人見つけた。場所は・・・鵜島の交差点だ。向かう方向は場所的にショッピングモールだろう」

 

相馬は口を一度閉じると、再び口を開いた。

 

「助けにいくぞ」

 

相馬の言葉に零と海斗は──────

 

「「りょーかい」」

 

笑って、武器を取った。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「はあ、はあ、はあ・・・っ!凛ちゃん!大丈夫!?」

 

白髪の少女が黒髪の少女にそう聞いてくる。

 

「大丈夫・・・っ!まだ、走れる!」

 

凛に対し、茶色の髪の少女が言う。

 

「無茶しないでよね!理央は大丈夫!?」

 

「私もまだ大丈夫だよ唯ちゃん!!」

 

三人で励ましあいながら、彼女達はゾンビの群れから逃げる。

 

「・・・はあ、はあ!しつこいわね!コイツ等!!」

 

凛が叫ぶ。

彼女は疲弊する身体に鞭を打ちながら、走り続ける。

 

「理央!この先にショッピングモールがある!そこに入るよ!」

 

「うん、分かった!唯ちゃん!!」

 

三人はショッピングモールの中へと入っていき、二階へと駆け上がった。

 

「はあ、はあ、はあ・・・やっと、一息・・・つける」

 

凛は、そう呟きその場に座り込む。

 

「この街もゾンビだらけ・・・何処に逃げればいいのよ・・・」

 

唯も精神的に辛くなっているのを見て、理央は呟く。

 

「唯ちゃん・・・」

 

理央は二人を心配しながら下の階を覗きこむ。

そこにはゾンビが大量に蠢いている。

ゾンビ達が階段を登るのに時間がかかるのが唯一の救いだ。

だが、それも時間の問題である。

いずれは上に上がってきて、追い詰められてしまうだろう。

そんなタイムリミットがある中で理央は周りを見渡した。

この広いショッピングモールには沢山の店舗が並んでいるが、周りには誰にもいない。

三人の荒い息が館内に響く中で、エスカレーターからゾンビ達が這い上がってきた。

 

「っ!上に逃げるよ!!」

 

理央がそう叫び三人は上の階へ上がっていく。

そんな三人の後ろからゾンビ達が追いかけてくる。

階段を使い、屋上へと向かう。そして三人が屋上の駐車場に到着した。

 

「「「・・・・っ!?」」」

 

屋上の駐車場に蠢くゾンビ達に三人は足を止めた。

 

「・・・囲まれた!」

 

「どうするのよ!?」

 

「・・・ど、どうしよう!?」

 

三人がそう言ったその時だった。

 

“ブー!!ブー!!”

 

「「「・・・・・!?」」」

 

突然の車のクラクションに三人が顔をクラクションがなった方向へ向ける。

そこには一台のキャンピングカーが爆走していた。

そのキャンピングカーが、屋上の駐車場に向かう道を通り、彼女達の前に止まった。

運転席には一人の男性が座っている。

その男性が理央達に視線を向けると、窓を開けて言った。

 

「さっさと乗れ!!」

 

男がそう言って、キャンピングカーの後ろの扉を開けた。

そこには二人の男性が手を差し出してきた。

 

「早く!早く!」

 

「さっきのクラクションで集まってくるから早く乗れ!!」

 

理央達はお互いの顔を見合わせ頷くと、キャンピングカーに乗り込んだ。

 

「そーちゃん!!出して!」

 

高身長の男性が運転手にそう叫ぶと、そーちゃんと言われた男性は車のアクセルを踏んだ。

激しいエンジン音と共に、車が急発進する。

ソンビが後ろを追ってくる中、眼鏡をかけた男性が布を付けた瓶を取り出すと、布に火をつけ、窓の外からゾンビ達に向かって瓶を投げつけた。

パリン!!と瓶が割れる音と共に、中に詰められていたアルコールがゾンビ達に一気に着火した。

 

「ヴオオオォォォォォ!!」

 

気味が悪い叫びが辺りに広がる。

炎上するゾンビ達は次々と倒れていった。

安堵する私達は椅子に座り込む。

眼鏡の男性は窓の外から身体を乗り出していたが、もう大丈夫だと思ったのか窓を閉めて椅子に座る。

と、目の前の長身の男性が私達に言った。

 

「危なかったね。大丈夫?」

 

「は、はい・・・」

 

理央はその男性にそう答えると、眼鏡の男性は私達に水が入ったペットボトルを差し出した。

 

「ほらよ。走ってきたから疲れてるだろ?飲みな」

 

そう言って眼鏡の男性は窓の外へ視線を向ける。

私達は出された水を警戒しつつも、その蓋を開けて水を飲み始めた。

 

「ぷはっ!!」

 

沢山の水を飲み、生き返る気分になる私達を見て、男性は微笑むと私達に言った。

 

「話は安全な所についてからしよう。それまでは休んでて」

 

彼はそう言うと、私は安心して瞼を閉じた。



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第ニ話

キャンピングカーが、蠢くゾンビと死体しかない道を進み続ける。

そんな中、車を運転している相馬が口を開いた。

 

「・・・寝たのか?」

 

静かになった後部席が気になったのか、そう聞いてくる相馬に零は言った。

 

「うん。ぐっすり寝てるよ。それほど追い詰められていたんだろうね」

 

「・・・そうか」

 

零の言葉を聞き、相馬は街外れの道を通る。

今から第一拠点に戻るとマズイと判断したのだろう。相馬がこの道を通るということはこの鵜島町から十キロ以上離れたリゾートホテルのさらに先にある、第二拠点の自然公園だろう。

あそこなら確かに人が来ることなどない。

しかもこの地獄のようなパンデミックが起こっているこの時代に誰も危険を犯してそこまでくる奴などいないだろう。

しかも、相馬が通っている道は国道ではなく、裏の道だ。木々が生い茂って空から見られないようにしているのも、山を越えた鳴神町の陸軍に見つからないようにする為だ。

車の中で女の子三人の寝息がこの空間に広がる。

そんな中、窓ガラス越しで周りを監視していた海斗が相馬に聞いた。

 

「なあ、相馬」

 

「なんだ?」

 

相馬は運転を続けながら返事をする。

 

「こいつ等何処から来たと思う?」

 

誰よりも彼女を警戒しているのは海斗だった。

彼は仲間意識が高い人間だ。他の地区から来たであろうこの三人に対して自分達に危害を加えないかを警戒している。

そんな彼の質問に相馬は答えた。

 

「まず俺が言える答えだが・・・まずこの辺りの奴じゃない」

 

白髪の少女達が着ていた学校の制服を思い出し、そう答える。

 

「まず、今このパンデミックが起こっているこの時代で、学校に通える奴なんてそう多くはない。この時点でこの辺りの奴じゃないって事が分かる」

 

あのパンデミックから、はや一年ちょっと経つ今でも復旧の目処は立っていない。

なぜなら?あの周りにいるゾンビが原因だ。

こいつ等の体液を取り込んだりしてしまうと、同類になってしまうこのウィルス。

そのゾンビ達を始末しようとして軍隊が動くも、数の暴力で負け、今となっては他国も鎖国に近い状態だ。

そんな中で、学校に行けるような場所となると────

 

「五大防衛都市の住民・・・だろうな」

 

「ハァ!?」

 

「嘘でしょ!?」

 

相馬の仮説に二人は驚愕の声を上げる。

五大防衛都市。

それは、日本に住む人類の最後の砦。東京を筆頭に函館、名古屋、大阪、那覇の五つの都市が上げられる。

そこには巨大な壁で仕切られており、外部の人間が入って来れないように仕切られている。

外で暮らしている彼らにとってはどうでもいい事だったが、そこから来た奴だと話は違ってくる。

 

「ちょっ、ちょっと待てよ!!五大防衛都市!?なんで今の日本で一番安全な場所から人が出てくるんだよ!?普通あり得ないだろ!?」

 

海斗が普段は見せない、焦りの声を上げている。だが、相馬は慌てることなく言葉を続けた。

 

「それがあり得ない話じゃないんだよ。今から大体二週間前に何があったか、覚えてるか?」

 

「二週間前・・・?確か、その頃からラジオが使えなく・・・」

 

「それだよ」

 

零のつぶやきに相馬は正解だと答えた。

 

「今でも、ラジオが使えない理由は恐らく・・・名古屋の防衛都市がかなりの被害を受けたからだろうな」

 

「「・・・・っ!」」

 

今まで聞いていたラジオの発信源は名古屋防衛都市からだ。

それが今の今まで通信が途絶えている。ということは考えられるのは一つだ。

 

「名古屋防衛都市がゾンビに襲われて、彼女らはそれの生き残り・・・?」

 

「あくまでも予測だ。本当かどうかは、彼女達に聞いてみなけりゃ分からん」

 

相馬はそう答えて、運転を続ける。

と、そんな中──────

 

「う・・・うん・・・?」

 

白髪の女の子が目を覚ます。

寝ぼけた目をパチクリとさせ、零達を見つめていた。

そんな中で、相馬が口を開く。

 

「おはよう。よく眠れたか?悪いが目的地まで後少しだ。待っていてくれ」

 

「は、はい・・・わかりました・・・」

 

白髪の女の子はそう答えてちょこんと座る。

そんな中で──────

 

「いやいやいや!?おかしいでしょ!?普通は取り乱すでしょ!?なんでそんな冷静なの!?」

 

零の発言はごもっともである。だが、白髪の女の子は零に言った。

 

「運転手の方・・・悪い人じゃないと思ったので・・・」

 

「この子詐欺師にあったら騙されるタイプだ・・・」

 

零は彼女を見て、そうつぶやく。

くりくりした丸い瞳が零達を見つめる中、黒髪の少女が目を覚ました。

 

「理央?うるさいわよ・・・って・・・」

 

「「あ」」

 

零と海斗は黒髪の少女と目が合う。

そして──────

 

「きゃああああああ!?この変態!?」

 

「は!?へぶぅ!?」

 

近くにいた海斗が引っ叩かれた。

ばしーんと痛い音が響く。

そんな中で、相馬が車を止めた。

 

「おーい、到着したぞーって、何やってんだお前ら?」

 

顔を赤くする黒髪の少女に、床に倒れ伏せる海斗。椅子の真ん中できちんと座る白髪の少女に爆睡している少女と、慌てる零。そんな愉快な様子を見て、相馬が一言。

 

「騒ぐなら、彼奴等にバレねえ程度で騒いでくれよ?」

 

相馬は一人、そう呟いた。



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