八幡とアクアリウムと彼女 (myo-n)
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前編

勢いで書きました。
どうぞ。


物欲センサーを知ってるだろうか。

ソシャゲのガチャが当たらない要因の一つと言われているアレだ。

良い物を当てようと思えば思う程、目当ての物は当たらない。

逆に目当てのものじゃなく違う物がポロッと出てくる事もある。

これを世間からはすり抜け、と呼ばれている。

 

俺が何を言いたいかと言うと、要するに……

 

「おめでとうございます!!一等賞のアクアリウムSOBUのペアチケットでーす!」

 

思わぬ幸運というのは身に余る物だという事だ。

 

---

 

「という訳だからこれやるわ」

 

テーブルの上にチケットを置く。

 

 

「お兄ちゃん雑な説明は小町的にポイント低いよ?」

 

「うるせぇ、とにかくこんな物俺にとったら無用の長物でしかないから受け取っとけ」

 

ボッチにペアチケットとか何それ何処の地獄?

 

「何かゴミを押し付けられてる気分になるんだけど…」

 

「何がゴミかなんて人それぞれの価値観によるだろ」

 

「うーん、それもそうだね。じゃあこれはありがた〜く貰いま……あ」

 

チケットを見つめて固まる小町。

 

「どうした?」

 

「お兄ちゃんこれペアチケットはペアチケットでも……カップル専用のだよ」

 

「おい嘘だろ」

 

本当だった。

何そのピンポイントな指定。

非リアに厳しすぎやしませんかね。

 

「流石にカップルに限定されちゃうと使えないなぁ……」

 

「そうだな…。親父とお袋はどうだ?」

 

「2人は昨日から温泉旅行中だよ」

 

「え、何それ聞いてないんだけど」

 

もう少し報連相を密にして欲しい。

というか家事とかどうすんだよ…….いや、小町ができるか。

 

「流石にお兄ちゃんと行くのは恥ずかしいし小町はパ〜ス」

 

「いや、俺は別に構わんが」

 

「うわぁ……」

 

おいやめろ、そんな目で見るんじゃない。

お兄ちゃん死にたくなっちゃうぞ。

 

「んんっ……じゃあ売るか」

 

「このチケット転売禁止だよ」

 

再びチケットを見れば、裏面に転売禁止と書かれてあった。

ぬかりなさすぎだろ。

 

「oh……なら勿体無いけど捨てるか」

 

「えぇ〜もったいないー。アクアリウムSOBUって今超絶人気で中々手に入らないんだよ!」

 

「ぐぬぬ……」

 

そう言われると何か物凄い損をする気分になる。

何か策は無いものか……

 

ユーガッタメール

 

「ん?何だ……?」

 

相手は……雪ノ下か。

 

【件名:一緒に行ってあげなくも無いわ】

 

本文:

小町さんから話は聞いたわ。

目が腐っている貴方には一緒に行く異性なんて誘拐か脅迫でもしないといないでしょう?

そこで、貴方が間違いを犯さない為に私が付き合ってあげるわ。

いい?これは部長命令よ。

 

「小町さーん……?」

 

「あっ、いっけなーい♪チケットの事お父さんにメールで送ろうとしたら間違って雪乃さん達に送っちゃったー(棒読み)」

 

「おいこら」

 

なんて爆弾を投下したんだ妹よ。

そんな事したら確実に気持ち悪い奴だと思われるだろうが。

 

「全くお前は……。ん、待てよ、雪ノ下達……?」

 

ユーガッタメール

ユーガッタメール

ユーガッタメール

ユーガッタメール

ユーガッタメール

 

「ヒッ」

 

携帯がけたたましく鳴る。

非常に怖いが恐る恐るメールボックスを開く。

 

【件名:やっはろー!】

 

本文:

ヒッキーやっはろー♪

小町ちゃんから聞いたんだけど、あのアクアリウムSOBUのチケット持ってるんだって!?

優美子も行ったことあるからその時の話聞いたんだけどね〜そん時の話がもうとっても凄くてさ〜、あっ、もともと興味はあったんだけどね!アクアリウムSOBUの人気ショーの話を聞いたらもう凄い行きたくなっちゃってさ〜〜……………

 

「……」ピッ

 

由比ヶ浜からのメールは途中から脱線しまくって訳が分からなくなったので次に移ることにした。

大方話のタネにする為に俺を利用するつもりだろう。

流石ビッチ、抜け目ないな。

 

「さて次は……」

 

「あっ、小町も見たい〜!」

 

「言っとくけどお前のせいだからね?」

 

「あーあー、小町は何も聞こえませーん!」

 

白々しい妹にチョップを入れつつ、次のメールに移る。

 

【件名:アクアリウムSOBUの件について】

 

本文:

こんばんは比企谷くん、平塚静です。

風の噂ですが貴方が今人気のアクアリウムSOBUのペアチケットを持て余していると聞いたのでメッセージを送りました。

ヘタレの貴方の事でしょうから、きっと誰も誘えないのでしょう?

しかし安心してください、私は先生です。

生徒が困っていれば手を差し伸べるのが仕事です。

なので是非アクアリウムSOBUに行きましょう。

 

PS:スカートかズボンどちらが好みですか?返信待ってます。

 

PS:PS:あと余談ですが、比企谷君は年上でも大丈夫でしょうか?返信待ってます。

 

PS:PS:PS: 返 信 待 っ て ま す

 

「怖い怖い怖い」

 

途中まで言ってることは分かったのに呪いのレターになってるぞ、おい。

 

え、待って後ろ振り向いたら居るとかないよね、ね?

 

「……よし、いないな」

 

「何やってんのお兄ちゃん。次行こ次」

 

「お、おぉう」

 

気を取り直して次のメールを見る。

 

【件名:ひゃっはろ〜】

 

ピッ

 

この人のは恐ろしくて見るのをやめた。

大方からかいのメールだろう、多分。

というか何でこの人俺のメアド知ってんの。

 

ユーガッタメール

 

【件名:ちゃんと見ないとダメだよ?】

 

本文:-空白-

 

…………。

 

「小町……お兄ちゃんもう死ぬかもしれない」

 

「ドンマイ♪」

 

畜生、神も仏も小町もないじゃねぇか。

仕方ない……見るか。

 

【件名:ひゃっはろ〜】

 

本文:

雪乃ちゃんに聞いたんだけどアクアリウムSOBUのカップルチケットを持ってるんだって〜?

お姉さん常日頃から行きたいな〜って思ってたんだよね〜。

まぁ雪乃ちゃんと行ってもそれはそれでおもしろそうだけど。

とにかく返信よろしくね〜

 

PS:賢い君ならどっちを選べばいいかわかるよね?

 

「メールなのに圧が凄い……」

 

「お兄ちゃん強く生きてね♪」

 

小町がちょっとうざいので無視して次のメールを開く。

 

【件名:水族館】

 

本文:

川崎だ。

暇なら水族館いかないか?

けーちゃんがお前と一緒に遊びたいんだとさ。

 

「このメールは川なんとかさんのか」

 

今までのメールで一番短いかつ理由が分かりやすい。

 

「沙希さんか〜お兄ちゃんモテモテですなぁ。小町はちょっと寂しいぞ〜⭐︎」

 

「アホか。文面から見て妹の為だろ」

 

「はあぁぁぁぁ………ほんとごみぃちゃんだね」

 

「ひでぇ」

 

【件名:せ〜んぱいっ⭐︎】

本文:

こんばんは〜可愛い後輩ちゃんです(*´꒳`*)

いや〜この間大きな案件が終わったんで何かご褒美が欲しいんですよね(о´∀`о)。

というわけで先輩、アクアリウムSOBUに行きましょう?

優しい先輩はぁ……私を選んでくれますよね?(*'▽'*)

楽しみにしてますよ(๑˃̵ᴗ˂̵)

 

「あ、あざとい……」

 

何この見た事ない顔文字の数々。

普通の奴だったら勘違いしてる所だ。

 

「さて、これでメールは全てな訳だが……」

 

殆ど強制みたいなメールばっかりだったな。

 

「で、お兄ちゃん誰にするの?」

 

「…………妥当なのは川なんとかさんと一色辺りだな。ちゃんとした理由もあるし」

 

雪ノ下は行っても罵声され続ける展開しか見えない。

 

由比ヶ浜は話が脱線しすぎて何かよく分からん。

 

平塚先生は……うん、頑張れ。

 

雪ノ下さんのは…………ぜっっったい無しだ。何されるか分かったもんじゃない。

 

となると残るのは一色か川なんとかさんにかる。

 

「とりあえずだが……」

 

全員に少し考えさせて欲しいと一斉メールを送った。

 

幸いこのチケットの有効期限はまだ先だから今すぐに決める必要はない。

 

「はぁ……」

 

どうしてこうなったんだ。



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中編-1

中々まとまらなかったので中編を分割しました。



「お兄ちゃーん朝だよ〜」

 

「んん……」

 

小町の声が聞こえる。

起きあがろうと布団を少し剥いでまた元に戻す。

 

「寒い……あと5分」

 

寒すぎて体が外に出たくないと訴えている。

だからとうてい布団からは逃げ出せそうもない。

仕方ないのでそのまま二度寝を決め込もうとした時、勢いよく布団が引っ剥がされた。

 

「も〜、朝だって言ってるでしょ?」

 

「とんでもない事をしてくれましたね小町さん」

 

人類は寒さには勝つ為に体をあの手この手で体を温める。

だから二度寝は正当化されても何の問題もない。

よって俺を寝させたまえ。

 

「むしろ献身的に起こしに来てて、小町的にポイント高めだよ?」

 

「はいはい、かわいいかわいい」

 

適当に頭を撫でておく。

やだ、今の八幡的にポイントたかーい。

 

「むぅ、全然感情がこもってない!」

 

「込めたら込めたでドン引きするだろ」

 

「まぁそうだけど」

 

「ほれ見ろ」

 

「とにかく、朝ごはんできてるから早く食べてね!」

 

「分かった」

 

顔を洗って、歯を磨く。

案外これだけでもかなり目が覚めるものだ。

あとは多少の寝癖を直しておくか……まぁ誰も気にしないと思うが。

 

リビングに行くと小町がもう出ようとしていた。

 

「今日学校で用事あるから先行くね!食器は洗っといて!」

 

「分かった。鍵は締めとくわ」

 

小町を玄関まで見送る為にマッ缶片手に着いていく。

そういえば最近毎日飲んでるな……ちょっと控えるか。

 

「あっ、そうだ!」

 

小町が何かを思い出した。

何だろう嫌な予感がする。

具体的にはチから始まる物が出てくる気がする。

 

「チケットの事ちゃんと決めないとだよ!」

 

「…………休んでいい?」

 

「駄目!じゃあ行ってきます!」

 

「いってら……」

 

ドアの鍵を閉める。

リビングに戻ってマッ缶の中身を一気に飲み干す。

 

「はぁ……行きたくねぇな」

 

テーブルに置いてあるのはアクアリウムSOBUのカップル限定ペアチケット。

 

偶然手に入って持て余していたら、現雪ノ下達に情報が広がり現在進行形てわ選択を迫られる状況になっている。

 

正直誰を選んでも碌な目に遭いそうにないので捨てたい。

何でこんな物が当たるのか……物欲センサーには仕事して欲しいものだ。

だから週明けの今日、物凄く、非常に、それはもう学校に行きづらいという訳である。

 

「休めるか電話かけてみるか」

 

『もしもしこちら総武高校の平塚です』

 

「……平塚先生かよ」

 

なんてこった。

これじゃあズル休みできないじゃないか。

クソッタレな神様め。

ダメ元でやってみるか……。

 

「ゴホゴホ……2年の比企谷です。今日は体調が悪『仮病だな』………すんませんした」

 

即バレしたんだけどエスパーかこの人は。

他の先生ならこれで休めるのに。

 

『全く……ズル休みは良くないぞ?』

 

「いや、でも出席日数足りてるんで別に1日くらい『1日くらいなんだ?』何でもないです、はい」

 

電話越しなのに圧が凄い。

今、受話器からゴゴゴゴゴって聞こえてきた。

うん、これは無理だな学校に行こう。

じゃないと命が危ない。

 

『ところで比企谷、アクアリウムSOBUのチケットの話なんだが』

 

「すんません、もう遅刻しそうなんで切りますね」

 

『おい、話はまだ』ピッ

 

「あっぶね」

 

今最も触れたくない話題だ。

というか、先生よ。俺なんかと行くよりもっと婚活に力入れた方がいいんじゃないでしょうか。

 

「さてと……行くか」

 

重い腰を上げて学校へと向かう。

そしていつも通り下駄箱で靴を変えていると何かが飛びついてきた。

 

「はちまーん!」

 

そう、天使(戸塚)だ。

屈託のない笑顔、溢れる可愛いオーラ、そして慈悲深い優しさ。

神は彼にニ物も三物も与えているに違いない。

 

「結婚しよう」

 

「えっ?」

 

「いや、何でもない。おはよう」

 

もういっその事戸塚を誘うか?

戸塚レベルなら全然隠せるだろうし。

 

 クォレハ、ハチトツノニオイ!!?

 

……やっぱりやめておこう。

何か背筋が凍った。

 

その後戸塚と別れて教室に入る。

まだ予鈴まで時間がある。

なので喋っている由比ヶ浜に気づかれない様に荷物だけ置いて素早く屋上へ向かう。

 

ふっ、我ながら完璧なステルスだ。

 

「ふぅ……疲れた」

 

設置されてるベンチに腰をかける。

さて、誰と行くか考えないとな。

……微妙に日差しが暖けぇな。

 

……

 

「おい」

 

「ひゃい!」

 

うとうとしてる時に声をかけないでほしい、心臓に悪いから。

 

「予鈴、なってるよ」

 

声の主は川なんとかさんか。

妙に低い声だったから少しビビったぞ。

 

「……どうしてここにいるんだよ」

 

「私がここにいちゃだめなのか?」

 

「いや、別に駄目じゃないが……」

 

まぁ川なんとかさんもボッチだから、あのむさ苦しい教室から抜けて予鈴まで一人で過ごしたかったのだろう。

 

「ならいいさ。ほら、教室に戻るよ」

 

川なんとかさんに腕を掴まれて立たされる。

そう言えば予鈴鳴ってるんだった、少し急いで戻らないといけない。

 

「さんきゅ」

 

「あぁ」

 

「……あの、手離してくれません?」

 

何故かそのまま腕を掴まれている。

これじゃあ物理的にも精神的にも移動しづらい。

 

「………………」

 

おい、何故そんな悩む。

俺の腕なんか掴んでても良い事ないだろ。

 

「早くしてくれないか」

 

「……分かったよ」

 

腕が自由になると同時に本鈴が鳴る。

何故腕を離してくれなかったのか聞きたかったが、生憎と時間がなかった為慌てて教室へと向かった。

 

もちろん、平塚先生にこってり絞られましたとさ。

 

-昼休み-

 

決戦の時はやってきた。

チャイムと共に素早く支度を済ませ、ベストプレイスに向かう。

 

なるべく気配を消しつつ教室を出ようとしたら、誰かに肩を掴まれてしまった。

 

「ねぇヒッキー!お昼ご飯一緒に食べよ!」

 

一番捕まりたくない由比ヶ浜に捕まってしまった。

出口から一番近い席だからと油断したのが駄目だったか……。

 

いやまだだ、俺は何としてもぼっち飯を食べるんだ。

 

「断る」

 

「えぇ〜!何でなの?」

 

近い近い、距離感バグってますよガハマさん。

これだからビッチは困る。

まぁこれで勘違いする俺ではないが。

 

「ほら、アレがアレでアレな用事があるから」

 

「良かった〜!じゃあ行こっ♪」

 

「話聞いてた?」

 

「うん、ヒッキーがアレとか言うのは暇だって事でしょ?」

 

「どうしてそうなる」

 

強引すぎやしませんかねガハマさん。

名探偵真っ青な推理力だよ。

だが事実、予定がないから言い返せない。

 

「あたしと食べるの……いや?」

 

ガヤガヤ

 

クラスメイトの視線が徐々にこちらを向いてくる。

やばい、そんなに目をウルウルさせるな。

俺が泣かしたみたいになっちゃうだろ。

 

「はぁ……分かったよ」

 

「ほんと!?」

 

「あぁほんとだよ。ほら、行くぞ」

 

「えっ、ちょ、ヒッキー!?」

 

一刻も早くこの場を離れたいが為に由比ヶ浜の腕を掴んで屋上へ連れて行く。

 

「ほら、着いたぞ」

 

あんな空間で飯なんか食えるか。

あと少しでもいたら具現化した視線に貫かれる所だったぞ。

 

「あの、ヒッキー……」

 

「何だ?」

 

「手……」

 

由比ヶ浜が下ろした視線の先には俺の手に掴まれている腕。

 

「……っ、すまん」

 

一刻も早くその場を去りたくて腕を掴んだことを忘れていた。

 

「あ、謝らなくてもいいよ!ヒッキーの手、暖かかったし……」

 

それは遠回しに俺がゾンビじゃなかったとでも言っているのだろうか。

とうとう由比ヶ浜も雪ノ下並みの毒舌を覚えたのか……

 

……うん、それはないな。

だって、アホの子だし。

 

「そうか」

 

ベンチに腰をかける。

そして由比ヶ浜は当然のようにすぐ隣に座ってくる。

しかもぴったりと張り付く様に。

 

「おい、少し近くないか?」

 

「そ、そうかな?ほら、屋上って寒いし仕方ない事なんだよ!」

 

たしかに、それは一理ある。

ズボンを履いてる俺ですら肌寒いのにスカートの由比ヶ浜が寒くないわけがない。

 

ただ、この距離は駄目だ。

何かの拍子で勘違いしそうになってしまう。

そして振られるまである……いや、振られるのかよ。

 

「なら部室に行くか。暖房ついてるし」

 

鍵を借りに行くのは少々面倒だが、致し方あるまい。

そして、立ち上がろうとした。

 

「待って!」

 

「うおっ!?」

 

服を引っ張られて椅子に降ろされた。

地味に尻を打った、痛い。

 

「何のつもりだ?」

 

「あ、いやその……寒くないからご飯食べよ?」

 

「それならこんなに密着する必要ないだろ」

 

「うっ……うう」

 

おろおろされてもこっちが困るわ。

それに鼻水出てるし、ほんとは寒いのに何故我慢するんだよ。

 

「はぁ……取り敢えずこれ巻いとけ」

 

ブレザーのポケットに入れていたマフラーを渡す。

由比ヶ浜は驚きながらも、マフラーを巻いた。

ついでにティッシュも手渡す。

 

「ほら、鼻水出てんぞ」

 

「あ、ありがと……」

 

顔を赤らめる由比ヶ浜。

やっぱりこいつも痩せ我慢してただけで寒かったんだろう。

 

「よし、じゃあ部室行くか」

 

「えっ?」

 

「マフラーつけても足の方が寒いだろうが」

 

特に由比ヶ浜のスカートは短い。

夏と冬を間違えてませんかというぐらいには。

ほんと、ギャルって凄いな。

 

「そうだけど……そーだけどー!」

 

「異議は認めん」

 

由比ヶ浜相手に口論で負ける気はしない。

伊達に雪ノ下の相手はしていないからな。

 

「ぶーぶー!」

 

「行かないなら置いてくからな」

 

これ以上は付き合ってられない。

というか寒い、超寒い。

曇ってて日差しも出てないし余計寒い。

早く校内に戻らないと凍死しそうだ。

 

まったく誰だよ屋上に連れてきた奴……俺だわ。

 

「ちょっ、ヒッキー待ってよ〜!」

 

ちなみに屋内に入った瞬間、マフラーは返されましたとさ。

 

---

 

「……で、そこの腐り谷君が由比ヶ浜さんを強引に校内を引き連れ回したというわけね」

 

何だろう、合ってるのに合ってない言い方をするのをやめてもらいたい。

元々昼飯誘ってきたのは由比ヶ浜の方だし俺は無罪だ。

 

「……何でお前がいるんだよ」

 

「あら、私がいたら何か問題でも?」

 

「いやそういうわけじゃないが……」

 

どうりで奉仕部の鍵がなかったわけだ。

昼飯くらい自分のクラスで済ませろよ。

……人の事言えないけど。

 

「そう言えばゆきのんはお昼ご飯食べたの?」

 

ナイスだぞ由比ヶ浜。

出来れば昼休みいっぱいまで喋り続けてくれ。

 

「えぇ、私は既に済ませているわ」

 

「そっか〜。じゃあヒッキー、お昼ご飯食べよ!」

 

隣に椅子を持ってきて弁当を広げる由比ヶ浜。

俺もそれに釣られて小町特製のお弁当を広げる。

 

「すごーい!小町ちゃんほんと料理上手だよね〜!」

 

近い近い近い。

距離感バグってますよガハマさん。

そんなに弁当が気になりますかね。

小町の愛(八幡希望)しか詰まってないぞ。

 

「…………」イラッ

 

「当たり前だろ。小町が作った物なら例えダークマターでも上手いと言える自信がある」

 

「ヒッキー超シスコンじゃんキモイ!」

 

「キモイかどうかはアレだがシスコンは勲章みたいなものだろ」

 

「それを本気で勲章と考えているのなら今すぐ矯正施設に行った方が小町さんと貴方の為よ」

 

「そうか?むしろ兄弟愛は神聖な物だと思うが」

 

「あら、小町さんからすればそうではない可能性の方が高いと思うのだけれど」

 

そんな事はない。

たまにゴミを見る目で見られたり、翌日の晩飯がオールトマトになってたり、俺のせいで嫁にいけないとか言われるだけだ。

…………あれ、これって結構邪魔だと思われてないか?

悲しい、泣きそうになるわ。

 

「まぁそういうのは置いといてさっさと飯食うか」

 

黙々と食べ始める。

うむ……相変わらず小町の料理は美味い。

胃袋掴まれるどころか握り潰されるまである。

今の八幡的にポイント高いな。

 

「……」ジーッ

 

「……」モグモグ

 

「……」ジトー

 

「……食べ辛いんだが」

 

「あら、自意識過剰にも限度があるわよ自意識谷君」

 

いや、ガン見しといてそれはないだろ……とは言えず、適当に返して黙って食べ進める。

 

「……」チラッ

 

「……」モグモグ

 

「……」チラッチラッ

 

「……だから、食べ辛いんだって」

 

「べっ、べべ別にヒッキーの事見てないし!目にゴミが入っただけだし!!」

 

由比ヶ浜よ、それは泣いてる時の言い訳だぞ。

全く……2人とも様子がおかしくて調子が狂う。

早く帰りたい、まだ昼休みだけど。

 

その後、気まずい空間で弁当を食べ終えると予鈴が鳴ったので足早に教室へと戻った。

 




ちなみにこの物語はマルチエンド式です。
乞うご期待。


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中編-2

今更だけど、性格おかしいとかこのキャラはこんな事言わない!とか思うのはいいけど心の中で秘めといてね。
私はただ書きたい物を書いてるだけだから。


煩わしい午後の授業がチャイムにより終了する。

 

「さて……帰るか」

 

奉仕部?

そんなものは知らん、今日は帰るのが吉だ。

家で積み上げられたゲームが待っている。

部活をサボってするゲームは極上なのだよ。

 

「せ〜んぱいっ♪」

 

「……一色か」

 

また面倒なのに捕まってしまった。

 

「ちょっと今日ですね〜生徒会の仕事が多くってぇ……先輩さえ良ければ手伝って欲しいんですよ〜(訳:手伝え)」

 

「え、いや……今日は家でアレでアレな用事があってだな」

 

「何か言いました?」

 

「いえ何でもありません」

 

いろはす怖ぇぇよ。

ゲームで良くある、はいしか選べない選択肢じゃねーか。

理不尽だ……。

 

「決まりですね!ほんと助かります〜♪」

 

「はいはい、あざといあざとい」

 

ほんと、この小悪魔は人を利用する事に長けすぎている。

 

「あっ、いろはちゃん!やっはろ〜♪」

 

「由依先輩こんにちは〜。今から先輩貰ってきますけどいいですよね?」

 

「うん、生徒会の仕事大変だもんね!ヒッキーでよかったら持ってって!」

 

俺はペットか何かですかね。

あー……働きたくない。

家でゴロゴロしたい。

 

「はぁ……一色を生徒会長にしたのは俺だからな。それくらいは責任取るわ」

 

「えっ、もしかして責任とか言って私に会いに来る口実をこじつけてあわよくばを狙ってるんですか。ごめんなさい重いし普通にストーカーですし先輩は先輩としか見れないので無理ですごめんなさい」

 

思い返せばこうして一色に突然振られるのは何回目だろう。

うん……考えたら負けなやつだな。

 

「いや違ぇから」

 

「ヒッキー……流石にストーカーは駄目だよ?」

 

「お前は話の文脈をもう一度思い出してこい」

 

「ひどい!ヒッキーのバカ!」

 

このアホの子はいつになったら賢くなるんだろう。

 

「ねぇ先輩、そろそろ行きましょうよ〜」

 

「おい、腕を引っ張るんじゃない」

 

散歩を嫌がる犬の気分が今ならよく分かる。

彼らも散歩という名の労働を強いられているのだ。

 

「でも、こうでもしないと来てくれませんよね?」

 

図星だから反論できない。

今日は家に帰ってゲームしたかった……

 

「パッとやって早く帰るぞ。という訳で由比ヶ浜、今日は部活休むわ」

 

「分かった、ゆきのんに伝えとくね!」

 

「さんきゅー」

 

「お願いします〜。ほら先輩、行きますよ!」

 

「っ」

 

やだこの子腕組んで来たんだけど。

不覚にもドキッとしてしまった。

並の奴なら勘違いして失恋するレベルだ。

平常心平常心……

 

「……だから引っ張るなって。こういうのは葉山とかにやれよな」

 

「勘違いしないでくださいね?これは今から仕事(地獄)を手伝ってくれるお礼なんですから♪」

 

何だろう、今物騒な言葉な見え隠れした気がするんだが。

……気のせいだよな?

 

「いいから早く離れろ。誰かに見られたら誤解されるだろ」

 

「私は誤解されてもいいんですよ……?」

 

「ん、何か言ったか?」

 

「何でもありません!先輩は隙あらばいなくなるのでこれは仕方ないんです。さ、行きましょう!」

 

腕に籠る力が強い……どうやら余程一色に信用されてないようだ。

 

そして腕は組んだまま、満面の笑みの一色に引き連れられて生徒会室へと向かう事になった。

道中に何人か見られたので死ぬほど恥ずかしかったのは言うまでもない。

 

---

 

「たでーま……」

 

「おっかえり〜。ってどしたのお兄ちゃん」

 

「何でもない……シャワー浴びてくるわ」

 

「ついでにお風呂も洗っといて〜」

 

「へいへい……」

 

まさかこんなに疲れるとは思わなかった。

思い出すだけで嫌になる書類の山。

終わったのが完全下校の1時間後とか……学生なのに社畜かよ。

もちろん、残業代は無い。

むしろ一色に駅まで送らされたまである。

 

「あーーーー生き返る……」

 

風呂から上がってマッ缶を飲む。

甘さが五臓六腑に染み渡る……

 

「冗談は目だけにしてよね〜。はい、晩御飯」

 

今日のメニューはハンバーグか。

 

「……」モグモグ

 

「……どう?美味しい?」

 

「世界一美味しい」

 

「ちなみに今回、隠し味に新しい物を加えました〜!さて、何でしょうか!」

 

「小町の愛情」

 

「ぶっぶ〜、それは既に入ってるよ!あ、今の小町的にポイント高い!」

 

「はいはい、高い高い」ナデナデ

 

「むぅ……お兄ちゃん適当な返事はポイント低いよ?」

 

「チーズとチリソースだろ?」

 

「せーかいっ!何で分かったの!?」

 

「いつも小町の料理を食べてるからな、これくらいの隠し味くらい余裕で分かるぞ。今の八幡的にポイントたかーい」ナデナデ

 

「えへへ〜♪」ニパッ

 

うちの妹はいつからこんなに可愛くなったんだろう……デフォルトだったな。

 

ピリリリリリ

 

「お兄ちゃん携帯鳴ってるよ〜」

 

おかしい……俺の連絡先を知っているのは小町と両親、あと一色ぐらいしかいない。

 

一色は先程仕事をあらかた終わらせたから連絡してくる事はないとして……両親も電話をかけてくることはまずない。

そして小町は目の前にいる……ということは。

 

「間違い電話だな」

 

「でもこの番号、陽乃さんのだよ」

 

「マジか」

 

だから何であの人俺の連絡先を知ってるの?

教えたつもりはないのに……

 

とにかく……ここは出た方が吉だな。

もし出なかったら後でどうなるか分かったもんじゃない。

 

ピッ

 

「はいもしもしどなたでしょうか」

 

『比企谷君ひゃっはろ〜♪元気してる?』

 

「つい先程までまだ元気でした。ご飯食べてるんで後でかけ直してください」

 

『んー、いや♡』

 

うぜぇ……

やっぱりこの人は苦手だ。

 

「はぁ……で、用件は何ですか」

 

『やだなぁ、アクアリウムSOBUの件だよ〜』

 

「そう言えばそんな事もありましたね。まぁでもあれは」

 

『捨てるつもり……でしょ?』

 

「……よく分かりましたね」

 

やっぱりこの人は苦手だ。

 

『比企谷君なら普通にしそうだからね〜。女の勘ってやつよ』

 

この人の場合そんな生易しいものではないと思うんだがそれは言わないでおこう。

 

「別にいいじゃないですか。元々、偶然当たった物ですし、使う相手がいないなら宝の持ち腐れですから」

 

『本当にそう思ってるの?』

 

雪ノ下さんの声色が変わった。

いつもの茶化すような口調から、真面目で冷たい口調へと。

 

「……何が言いたいんですか」

 

『言葉の通りだよ。私と雪乃ちゃん以外にも色んな人に誘われてるでしょ?だけど君はその選択を避けようとしている。何でか分かる?」

 

「……さぁ、単純に行く意味がないからですかね」

 

『君さ、薄々気づいてるでしょ。彼女達の好意に』

 

「……」

 

『沈黙は肯定と取るよ』

 

「……ほんと、嫌な性格してますね」

 

『まぁね』

 

思い当たる節がないと言えば嘘になる。

現に、今日は色んな奴の挙動がおかしかったしな。

 

ただ、単にアクアリウムSOBUに行きたいだけなんじゃないかと思う自分がいるのも確かだ。

 

「仮にあいつらが俺に好意を抱いてるとして、俺には選ぶなんて事できませんよ」

 

『出来ないんじゃなくて、したくないだけでしょ』

 

「……そうとも言いますね。でも別にいいじゃないですか、俺は今のこの状況が気に入っているので」

 

『それは逃げの言い訳だよ。折角皆んな頑張ってるのに気持ちを踏みにじるような事はしちゃダメ』

 

この人は、本当に痛いところを突いてくる。

もしあいつらの気持ちを聞いたら、今のこのバランスは崩れ落ちるだろう。

だから、選びたくないんだ。

 

でもそれをさせては貰えないらしい。

 

「はぁ……分かりました。今週中には結論を出します」

 

『今すぐじゃないんだ〜。予想通りのヘタレっぷりだね♪あ、やっぱりお姉さんと行きたい?』

 

「それはないです」

 

『相変わらず比企谷君は冷たいねぇ。まぁいいや、用件はそれだけだから。じゃね』

 

ブツッ

 

「あの人にはいつになっても敵う気がしない……」

 

「何だったのお兄ちゃん?」

 

「聞き耳立ててたから大体分かるだろ」

 

「それはそうだけど、お兄ちゃんの口から聞きたいんだよ」

 

全くこの妹はどれだけ兄の事情に首を突っ込むのだろう……

だが嫌な気はしない。

 

小町は今、俺の事を真剣に考えて言っている。

この目は、そういう目だ。

 

「…………例のチケットの件だよ。雪ノ下達に誘いをかけられているが、雪ノ下さんが言うには俺に好意を持っているらしい。いや……違う…本当は、お、俺は……」

 

心が、痛い。

言葉が出ない。

改めて言葉にしてしまうと、何もかもが崩れてしまう気がして。

 

「お兄ちゃん、ゆっくりでもいいから。小町は待つよ」

 

小町が優しく背中をさすってくれる。

あぁ……妹に介抱されるなんて兄失格だな。

俺も、覚悟を決めないと。

 

深呼吸をして小町と向き合う。

 

「もう大丈夫、さんきゅな」

 

「うん」

 

「話の続きだが……俺はなんとなく気づいていたんだ。ただ、誰かを選んだら何もかもが壊れてしまう気がしてしまう。それなら誰も選ばないのが今できうる限りの最善じゃないのかって思ってしまってな」

 

「……」

 

暫く無言状態が続くと、小町にデコピンされた。

 

「っ」

 

「お兄ちゃんはね、優しすぎるんだよ。だから今回はさ、深く考えずにお兄ちゃんが一番好きな人とデートに行けばいいじゃん。別にお兄ちゃんが誰か選んだからって何も壊れたりはしないし、そんなに脆い物じゃないよ……絶対」

 

「小町……」

 

「でも、もし本当にそうなったとしたら私だけはお兄ちゃんの拠り所であり続けるからね。……今の小町的にポイント高い?」

 

「……あぁ、ポイント高いぞ」ナデナデ

 

「うん……応援してるからね」

 

「おう……アドバイスありがとうな」

 

「お兄ちゃんは小町がいないとダメダメなんだから、いつでも頼ってね。じゃあ時間も時間だし、そろそろ寝るね」

 

時計を見ると既に22時を回っていた。

受験シーズンの時なのにこんな相談に乗ってもらって……本当に小町には頭が上がらない。

 

「おやすみ」

 

マッ缶を冷蔵庫から取り出し、1人になった空間で飲む。

 

「俺が、一番好きな人か……」

 

余計な思考を止める。

リスクリターンなんて今は考えない。

純粋に今会いたい奴を思い浮かべる。

 

「……やっぱ、あいつだよな」

 

そして、俺は携帯を開いた────




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