「「「なんでお前は女っぽいのに男なんだ!」」」と変態三人衆に言われるレヴィアタンの血を引く少年の、余計な要素が無駄に入ったD×Dのお話 (グレン×グレン)
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プロローグ


……ダメだ。思いついたら止まらないからガス抜きを兼ねて出そう!







そんなこんなで思いついたら我慢できないからまたやってしまったシリーズ。








……頑張って完結したいとは思ってるんだからね!


 

???SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 

 大いなる力には、大いなる責任が伴う。

 

 とあるアメコミの言葉だが、俺はこれを至言と思っている。

 

 暴力。権力。財力。魅力。それ以外にもあらゆる力がつけられるものは、振るう量が多ければ多いほど、自分が思っているところ以外にも量に見合った影響が出てくることだ。

 

 これについては少し考えれば分かるだろう。

 

 例えば風呂に入っているとき、湯船に腕をつけたまま勢いよく振えばどうなるか。

 

 腕が動くだけでなく、大きな波ができる。それどころかそれは飛び散るし、それが顔にかかることも避けられない。

 

 ただ腕を勢いよく振うだけでこうなのだ。それが複数人規模、組織規模、街規模、国家規模と桁が増えれば、その影響もまたとんでもないことになる。

 

 自分が思ったところにだけ力の影響が出るなどということは、本来ありえないことだといってもいい。そして一人の知性体如きの思考力で、それを完全に予測することなど普通はできない。

 

 にも拘らず、それを理解しない連中は数多い。

 

 未熟な子供であったとしても、それが大怪我や自殺を引き起こすことはある。まして大人になれば震える力は大きくなるのに、思い付きや短慮で大量の力を動かすことで数人どころか数百人規模で悪影響が出てくることも珍しくない。

 

 そしてそれだけの力を動かしたからといって、それが自分にとって望み通りの結果になるというわけでもないし、そもそもいい方向に動くとも限らない。

 

 できることとすべきこととしたいことは、本来全く別のことだ。したいことがあるからってそれができるかどうかは別問題であり、できるからといってしていいとも限らない。

 

 だからこそ、人はまず何をすべきかを考えて動くか。そして動いた結果に向き合う覚悟があるかが重要なのだ。

 

 願いや目的があるのなら、その為に何をすべきかを考えるべき。それを理解できなければ、それはただの破壊と悲劇を生むだけでしかない。

 

 ……俺はそれを、二年と少し前に思い知った。

 

 俺は両親及び父方の祖父母と一緒に暮らしていた一人っ子だ。

 

 父は教師、母はカウンセラー、イタリア出身の祖父は軍学校で教官を務めており、熱烈な恋愛と逃避行を行った祖母は、生活費稼ぎで日本語塾で働いていた経験がある。

 

 そんな家族構成なおかげか、俺は子供の頃から勉強ができるということに価値があることと、それに真面目に向き合うことの価値を叩き込まれた。

 

 もとから真面目な気質だったのだろう。相乗効果で俺は心身共に健やかに成長。更に元軍人の祖父は悪意を向ける者には合法的に容赦がなく、日本で住んでる時に法律の違いで困っていた経験から日本の法律にそこそこ詳しかったし、すごんだ時の殺気はまさに人を殺せる目で放たれる。

 

 結果としてトラブルの経験はそこそこあるが、しかししっかり乗り越えた。その上で上には上がいることもきちんと理解していたし、それに腐らず真っすぐやるべきことに向き合う精神性も持ち合わせていたが、それでもやっぱり未熟なところもあった。

 

 人生に転機があるとしたら、その始まりは三年と少し前。

 

 中学二年生の春休みに、たまたま懸賞で当たった客船での旅行に家族で向かった時の事だ。

 

 ……信じられないことに、移動中に旅客機が墜落して客船に激突。ほぼ全員が死亡するという大事故に巻き込まれた。

 

 調子ぶっこいた阿呆がハイジャックした結果であり、また濃霧が立ち込めていたことで捜索が難航。事故が事故故に客船も旅客機も即座に沈没したこともあり、生存者は双方合わせて十名にも満たないと言われている。

 

 当時ある事情で詳細が明かされてない為知られてないが、俺はその数少ない生存者だ。

 

 家族を一気に失い自分も死にかけたからか、四か月後に救命いかだで漂流していたところを発見された俺は、その間の記憶が全くない。ついでに言うと同時期に発見されたのが他二人ほどいたらしいけど、その二人も同様とかいう話を聞いたことがある。

 

 その結果、母方の祖父母に引き取られて山の中の田舎に移ることになった。

 

 幸い、きゃしゃな体のくせして基礎体力はかなりあったので、農作業に従事するのもいいかと思ってはいたが、此処でさらなる事件に巻き込まれる。

 

 ……話外れるが、この世界には悪魔や天使、果ては妖怪やら吸血鬼、そして神までもが実在しているといって信じるだろうか?

 

 非常に質が悪いことに、歴史に記されている手合いは殆ど存在しているかかつては存在していたという状態であり、世界の裏側で冷戦状態だ。

 

 そして、俺は最悪の形でその裏側に接触してしまう。

 

 妖怪を主体とする暴徒と言ってもいい勢力が、半ば遊びで狩りをする感覚で集落を襲ったんだ。

 

 その際、俺は聖書の神が人に与えた神器(セイクリッド・ギア)という異能が発現。全力で村を守りたいと思い、がむしゃらに立ち向かった。

 

 だが、此処で俺は最悪の失敗をしてしまう。

 

 ……これは後に分かったことだが、俺の母方の家系には悪魔、それもとんでもない大物の血が流れていた。

 

 四大魔王が一角、レヴィアタン。

 

 悪魔の王族の血が流れていた俺は、神器の影響か反動かは知らないが、その血すら覚醒。結果として大規模の地滑りを引き起こしてしまった。

 

 その頃には既に妖怪達によって集落の人達は皆殺しにされていたも同然だった。

 

 だからといって、俺が村を壊滅させれる力を無造作に振るったことに違いはない。

 

 俺は感銘を受けていた言葉を、心から戒めることを決めた。

 

 強大な力は、浅慮で振るえば結果として大きな被害を生む。それはすべき時にのみ振うべきことだ。

 

 そう生きるべきだと確信した俺は、そもそも王族があほすぎて追放することになっていた悪魔側に引き取られる時、本当に必要な時でもなければレヴィアタンの血を引いていることを明かさないことを決めた。

 

 どうも対立派閥が知るとややこしいことになりかねないと判断されたらしく、比較的話の通じる側と協議した魔王を襲名した人に保護を受ける形で、俺は人間世界で過ごしている。

 

 今はその妹を保護観察者とする形で、彼女が通っている学園の高等部に通っている。

 

 

 

 

 

 

 

 これは、駒王学園高等部二年生。魔王レヴィアタンの血を引く少年。

 

 俺、一志・(レヴィアタン)・モンタギューの物語……何だが。

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら、本当にTPOをわきまえてエロ本を見ろ。持ち込むにしても堂々と教室で見るな。じゃ、シュレッダーに持っていくから」

 

「「「やめてくれぇえええええええええ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……何の因果か、俺は高等部に入ってから「変態の飼い主」扱いされる羽目になってしまっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「畜生がぁ! 折角彼女ができたから、そのお祝いにと盛大に羽目を外したかっただけなのに!!」

 

「むしろ彼女ができたならエロ本を遠ざけろ。この年頃の子だと潔癖な奴だって多いんだから……な……」

 

 そのうちの一人である、兵藤一誠の涙ながらの声にそうツッコミを入れてから、俺は思考を停止させた。

 

 見れば、同類(変態仲間)のマツダと元浜以外の、教室にいる人達全員が沈黙している。

 

 そして五秒後。

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『ぇえええええええええええええええ!?』』』』』』』』』』

 

 

 俺達、大絶叫




 これまで長続きしてきた作品には「オリジナルの魔王末裔」を基本として出していましたが、オリレヴィアタンではまだだったので、リベンジもかねて主人公にしてみました。

 レヴィアタンなのに男ですが、女装したら絶対わからない系列。ただしギャスパーとは違いかわいいよりきれい系列です。


 ガス抜きも兼ねているのでいったん失速するかもしれませんが、いろいろとかきたいことをガス抜きすることも兼ねているので、できれば感想もくれると嬉しいです。


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プロローグ2

 ちょっと考えましたが、プロローグで必要最小限の真っ先に出す話を見せる方が掴みがいいと思ったので、プロローグの内に入れさせてもらいます。


 唐突だが、「あ、こいつ彼女できないなぁ」と思っているやつに彼女ができたら混乱しないだろうか?

 

 俺はしている。大絶賛している。具体的には、その事実を知ってから頭が真っ白になっていた所為で、そこから自分が何をしたのかさっぱり分からない時間が一日ぐらいあることに気づいたぐらいにはしている。

 

 彼女ができた男の名は、兵藤一誠。俺が高校生になってからできた友達で、同時に変態だ。

 

 どれぐらい変態かというと、あいつがこの高校に入った理由は元女子高だからといえば分かるだろう。

 

 共学になってから日が浅いため、いまだ女子の比率が多いのがこの駒王学園高等部。あいつは悪友の松田や元浜と共に、猛勉強で偏差値を一気に10以上上げて合格したとかなんだとか。

 

 ……浅はかと思った俺は悪くないよな?

 

 女子の数が多かろうと、女子だって彼氏にする男を選ぶ権利ぐらいはある。もてたいなら女子の中に入るだけでなく、女子が寄ってくる男になる努力が必要だろう。

 

 そういう意味では、あいつらはあまりに最悪だった。

 

 煩悩が強すぎるあまり、やれ女子の着替えを覗くはやれ教室で堂々とエロ本を出すわと、年頃の女子どころか普通の学生でも嫌いそうなことを全力全開。俺が面倒を見るようになってからはだいぶ比率は減ったが、今どきの高校生がやっていいことではないと思う。

 

 女の敵に女が寄ってくるとでも思っているのだろうか? お前らがまずするべきことは自制するか去勢薬を呑むことだと思う。

 

 まあ、女子も女子で集団でモップやら木刀やらバットやら持って袋叩きしてるから、集団リンチでお相子どころか差し引きマイナスな気もするけど。棚に上げて警察に通報したらきちんとそのあたりをどっちが下にしても発言するつもりだが、女子が集団リンチをせずに覗かれた時に警察を呼ぶだけなら、過去に遡らない限りは俺は弁護しないと決めている。

 

 恐ろしいことに、これでもだいぶましになっている。覗きを週に一度はやってしまうあいつらが、俺がそれなりに頑張った結果……月に一度あるかないかにまで減らせたのだ! ……十分多いけど俺は頑張ったと思う。

 

 この為に、引き出そうと思えばかなり引き出せるけど何もしてないのに下ろしたくない、魔王の末裔であることから入ってきた金を珍しく使った。ぶっちゃけ両親の遺産で十分食べていけるし、ちょっとしたバイトもしているので初めて使った気がする。

 

 そうやって一生懸命頑張った結果、飼い主扱いされている……が、それだけの価値はあるとは思っている。

 

 あいつらは、そこさえ除けばむしろ好漢ぞろいだ。特にイッセーは熱血漢なところもあるし、エロが絡まなければ誠実でもある。……ほんと、あいつら自制という概念を覚えれば絶対彼女できるだろう。

 

 そして自制を覚えてないイッセーに彼女ができるなど信じられない。正直今でも夢でも見てるんじゃないかと思っている。

 

 味はあるが、深くかみしめる必要がある。乗り越えればいい所を見つけることは簡単だが、乗り越えなければならないのがハードルではなくガントリークレーンとかそういった類だ。

 

 そんな奴が、別の高校に通っているらしい女子に告白された?

 

 ……いやほんとマジでどうなってんだおい。

 

「なあ、一志? 俺、今度の週末にデートなんだ。……どうすればいいと思う?」

 

「俺も彼女いない歴が年齢だからな? 相談する相手が間違ってるからな?」

 

 相談されても正直困るぞ。

 

 松田と元浜は未だに血涙を流す勢いで怨念を呟いている。悪い奴じゃないんだが、エロと女が絡むと本当にどうしようもない奴らだなオイ。

 

 他のクラスメイトで相談相手になりそうなのは女子生徒で唯一変態会話にもついていける―というか俺よりついていけてる―桐生ぐらいだ。だが奴は愉快犯気質でからかってくるので、失敗する方向に誘導してくる可能性があると踏んだんだろう。

 

 だから俺に相談したってわけで、ならちょっと真剣に考えてやるか。

 

「………まあ、とりあえずだ。こういうのは変に気をてらうと逆効果になるって相場が決まってる。何事も素人は奇策や独創的に走るより、基本に忠実が一番だろ」

 

 と、俺はその辺をしっかり考える。

 

 実際素人が奇策に走っても、よほどの天才でもない限り失敗するからな。これは間違ってないだろう。

 

 後は………うん。

 

 これは言っておいた方がいいな。

 

「有頂天になって調子に乗ってるかもしれないから言っておくが、一番重要なのは「相手を喜ばせる」ことを忘れないことだ」

 

「もちろん! 夕麻ちゃんが喜んでくれるように頑張るぜ!」

 

 拳を握り締めて宣言するイッセーに、俺はちょっとほっとする。

 

 彼女ができたテンションで、変な暴走をするかもしれない万が一を考えて言ってみたが、必要はなかったな。

 

「ならいい。人生歴が独身歴の俺が言うことじゃないが、愛は真心で恋は下心って言葉を聞いたことがあるからな。お前に告白してくれた、その夕麻って子が喜んでくれるような自分を目指しとけ」

 

 ああ、きっとそうだと思う。

 

 誰かを愛するってことは、誰かの幸せを願うってことだ。

 

 だったら、まずそれができる自分を目指すべきだろう。

 

 ……と、いうわけで。

 

「いい機会だからTPOをわきまえない変態行動はやめろ。人前でエロ本を出して騒がず、そして覗きをすっぱりやめろ」

 

「え? 覗きは別腹だろ?」

 

 あ、これはすぐにフラれるな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあり、そして週末の昼頃。

 

 俺は一応一人暮らしだ。新築の1Kマンション。風呂・トイレ別で洗面所あり。

 

 安アパートでも構わない俺と、秘匿しているとはいえ魔王血族に相応の待遇にしたい上側の意向を考慮した結果、こんな感じになった。

 

 部屋には質素な家具ばかりだが、ある理由でテレビやDVDデッキだけは非常に高価なものを持ち込んでいる。

 

 俺はそこで昼飯を食べると、ふと窓から空を見る。

 

 おそらくそろそろデートを始めている頃だろう。イッセーは大丈夫だろうか。

 

 俺は、左右のパーツが欠けたロケットに視線を移しながら、ちょっと不安な気持ちになった。

 

 ……あいつ、スケベ極まりないからなぁ。デート中に他の女に目移りしてアウトってなりそうだ。

 

 いや、本気でなりそうだな。

 

 真剣に不安になっていると、スマートフォンが鳴ったのに気づく。

 

 画面を見ると、そこにはうちの高等部の三年生であり、俺の保護観察者でもあるリアス・グレモリー部長の文字が映っていた。

 

「……はい。どうしました?」

 

『ごめんなさい。ちょっと立て込んだ用事が出てきたから、貴方に手伝ってほしいことがあるの』

 

 これは厄介ごとだな。

 

 基本的にリアス部長は、なんというか自分のことを自分でやりたがる性格だ。

 

 悪魔において筆頭格の貴族である、元七十二柱の一つ、グレモリー家の本家に生まれたことが一つ。そして兄であるサーゼクスさんは魔王ルシファーを襲名している為、彼女が本家の次期当主であることも一つ。そして兄が凄過ぎる上に兄妹仲も良い事が重なって、自分にできることをしないで兄や本家の名を傷つけるのを嫌っているのも一つ。

 

 そして悪魔は対価を貰って願いを叶える何でも屋的なことをしつつ、担当地区で悪魔社会から逃げ出したはぐれ悪魔の討伐なども行っている。そして部長はこの駒王町の担当でもある。

 

 俺は一応立場としては、リアス部長の食客だ。結果として何かあった時は俺も動くことになるんだが、たぶんそれだろう。

 

『大公アガレスからはぐれ悪魔討伐の要請が届いたわ。質の悪いことに犯罪組織と繋がっているみたいで、警察と連携することにもなっているの』

 

「なるほど。で、俺は何をすれば?」

 

『……どうも勘づかれたみたいで急がないといけないんだけど、別行動している厄介なグループがいるの。……祐斗をつけるから、そちらお願いしていいかしら?』

 

 なるほど。

 

 そういう輩もいるだろうとは知っていたけど、犯罪組織とつるんでるってのは面倒だな。

 

 おそらく別行動しているやつの中にも、はぐれ悪魔がいる可能性もあるな。味を占めた犯罪組織が探して集めるって可能性は十分にある。

 

 

 

 

 

 

 さて、ここは動くとしますか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は出張ってきたわけなんだが―

 

「はっ! 悪魔の一人にビビってられるか! 野郎ども、やっちまえぇ!」

 

 そう吠える男の後ろから、ガシャンガシャンとでかい足音が響く響く。

 

 げんなりする俺の視界に、そしてそいつが姿を現した。

 

『はっ! 悪魔のガキの一人、GF(ギガンティック・フレーム)と兄貴がいりゃぁどうとでもなるってなぁ! でしょう?』

 

「全くだな。……さて、死んでもらおうか?」

 

 ……全高6m近い人型ロボットと、その肩に乗っている日本刀を持った一人の男。

 

 あ、これ質の悪いパターンだ。

 

「祐斗、はぐれ悪魔の方はどれぐらいかかる?」

 

『あと五分ほど待ってくれるかい? どうも距離を取って挑むタイプで、少し手こずっているんだ』

 

 なるほど、つまり俺が頑張れと。

 

 ため息をつきながら、俺は軽く右手を振うと神器(セイクリッド・ギア)を具現化する。

 

 そして左手を前に向けると、同時に魔力で構成される一対の蛇を絡みつかせる。

 

 ああ、まったく―

 

「―面倒なことしてるんじゃねえよ、まったく!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは五年ほど前。世界に大きな衝撃を与える出来事があった。

 

 地球全体がオーロラに包まれるという訳の分からない出来事が起きたその時、世界各地で三つの新たな存在が現れた。

 

 一つは、同時タイミングで世界中で拾ったり発掘することができるようになった、謎の装備群。通称、魔装具(まそうぐ)

 

 一つは、それと同時に突如行方不明になったロメールとかいう科学者が、ネット上に基礎設計図、さらに世界中の土木工事や建設を行う企業に現物を送り込んだ、全長6m前後の人型ロボット、GF(ギガンティック・フレーム)

 

 そして最後の一つは、「他者を見下し迫害する悪徳は人間の本能であり、十人十色を認めて誰もに人権を認める善意こそが間違いである」などという思想を掲げるディメンタール教団が、そのための力として世界に広めた異能力、心顕術(しんけんじゅつ)

 

 そのどれもがピンキリこそあれど、下位の異形を打倒することが十分できるほどの脅威であり、必然的に世界の秩序は大いに悪化。国家権力がフルに動いて対応に乗り出したおかげで状況はある程度収まったが、ディメンタール教団と国連加盟国家との争いは、対テロ戦争ならぬ対テロ大戦とまで呼ばれるようになっている。

 

 そんなものが出張ってくるのならば、当然だが異形の俺達も相応に手こずることになるだろう。

 

 ………だが、不幸中の幸いなことに俺は異形として下位ではないのである。




 まずはオリジナル要素の説明というか、その機会を作るまでの走りを入れました。

 次の話でその例を見せて、そこからディアボロス編になるといった感じです。


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プロローグ3

と、なんとかプロローグはこれで最終話です。


 

抜装(ばっそう)!」

 

 GF(ギガンティック・フレーム)の型に乗っていた男が、一本の得物を取り出すとそう吠える。

 

 その瞬間、もういかにも「俺悪役です」と言わんばかりの鎧が装着された。

 

 そして即座に飛び降りると切りかかる。

 

 俺は素早く横に飛んで避けるが、その結果として俺の後ろにあった鉄骨が両断された。

 

 これが、魔装具の力と言ってもいい。

 

 獲物の性能は半端な神器を超え、更に神域装飾と呼称される全身鎧を付けた形態になれば、その身体能力は100mを五秒未満で走り切れるレベルになる。

 

 だから当然だが、俺は本気で迎撃態勢を取ろうとし―

 

『もらったぁ!』

 

 ―GFの攻撃を回避する為、反撃のチャンスを失った。

 

 その辺にあったコンテナを投げつけてきたので、それを回避。同時に左腕に展開した蛇から、魔力の砲撃を放つ。

 

 身長に狙いをつけ、外れても大して被害が出ないように調整した射撃。それが当たって、GFは思いっきり倒れた。

 

 そう、倒れただ。壊れたじゃない。

 

 しかも即座に飛び起きると、今度はその辺にあった軽トラックを掴み、飛び掛かって叩きつけてくる。

 

 それを回避しながら、俺は真剣に舌打ちする。

 

 GFの基本機能は、異形社会ですら見過ごすことができない厄介な特性を持っている。

 

 一つは機械との同調。これにより各種機能をダイレクトに受け取り、短期間で習熟し、陸戦兵器という視界がふさがれやすい兵器体系でありながら、全方位を警戒することができる。

 

 更に厄介なことに、この同調機能はもう一つの特性を高める結果にも繋がってしまう。

 

 単刀直入に言おう。GFは搭乗者の気を増幅して駆動や戦闘に応用する。

 

 異形の専門家曰く、体を鍛えに鍛えると生命エネルギーを可視化する域にまで高めることができる。それによる攻撃力防御力の強化はもちろんのこと、使いこなせば遠距離攻撃すら出せるとか。

 

 どこのジャンプ漫画かと思ったが、実際GFはその増幅と運用を機械的に行うのだ。むしろそれを効率的になそうとした結果、人型になったと推測されている。

 

 基本的にそのオーラを効率的に武装として転用するオーラウェポンがなければ、GFは攻撃方面では応用が足りない。だがその馬力と機動力を合わせれば、その辺の乗用車で十分生身の奴を殺しうる。

 

 だから俺は少しそっちに気を取られ―

 

「んじゃ、これで終わりだ」

 

 ―肩に痛みが走った。

 

 ……しまった。長ドス型の得物で気づくべきだったな。

 

 魔装具には色々な種類がある。種類が違えば数も違えば効果も違う。そして種別も大別されている。

 

 同種が少なくとも数百は発見されているが、性能は低い汎式装具。数こそ比較的少ないが、性能は段違いに上な将式装具。

 

 同型が見つから一品ものと思われ、他の魔装具を登録し、保有者が死亡するといった条件を満たすと手元に転送する、王式装具。

 

 極めて数が少なく必ず特殊能力を持ち合わせ、下手な神器を圧倒するだけのポテンシャルを秘めた、天式装具。

 

 そしてその中である意味一番危険視されているのが、侠式装具。

 

 性能は種類ごとに点でばらばらで、天式装具に匹敵する者もあれば、汎式装具の下位といったものもある。

 

 だが、侠式装具の厄介な点は「王式装具に登録しない限り、使い手の死亡や心が折れると、使い手に相応しい者の手元に勝手に転移する」という点にある。

 

 大抵の侠式装具は、力を思う存分振るって楽しみたい危険人物に渡ることが多く、数が極めて少ない王式装具に事前登録しなければ確保することもろくにできない。結果として日本は侠式装具を数多く集めた犯罪組織にテロられて、憲法九条が改正されて大規模組織の悪意ある攻撃に対する報復が合憲となった。

 

 そしてこの侠式装具は長ドス型の武賊刀(ぶぞくとう) 侠将(きょうしょう)

 

 全身鎧の神域装飾を展開すると、両腕にスリーブガンとクローが格納されている特殊性が特徴だ。

 

 気づくの遅れたぁ。やらかしたぁ。

 

 致命傷からは程遠い異形の体に感謝しながら、一短距離を取って、被害が比較的出にくい安全な方向に向けて大火力をぶっ放そうと思い―

 

 

 

 

 

 

 

 なんか急に、体から力が抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「残念だったな。俺は心顕術(しんけんじゅつ)も使えるんだよ」

 

 そううそぶいた男は、スキットルを取り出すとそれを一気にあおる。

 

 はっきり言って不味い。そもそもこれは飲み物ではない。

 

 入っているのは微量の麻痺毒を薄めた液体。三年前から少しずつ分量増やして体を慣らし、ようやく必要な量を呑めるようになった。

 

 心顕術とは、文字通り「心」を「顕」現する「術」である。

 

 使用者の心の在り方が元となる、「最難にして最善」の生態型。使用者が決めた生き様を順守することで沿った力を成す、「最優にして最悪」の宣誓型。使用者と相対するものとの間に生まれる一瞬の精神的繋がりすら利用する「最強にして最狂」の承諾型。

 

 そして男が成したのは、「最優にして最悪」の宣誓型だった。

 

 この形式は、自らが生涯の縛りを決めることで、その縛りに則った能力を得られるというもの。言葉にすれば単純だが、それを成すのは簡単なことではない。

 

 そも心顕術とは、どの種別においてもちょっとした拘り程度の心を具現化させることは断じてできない。

 

 例えば生態型ならば、文字通り自分という存在の生態はこうであるという、無意識を通り越して本能レベルの強固な精神性を持たなければ、どれだけ努力しても発現することは不可能。いわゆるRTSDで至る場合、日常生活が困難なレベルの重篤な症状が必須となる。

 

 承諾型は生態型に比べれば難易度は低いが、それでも簡単に設定することなど到底不可能。能力のある程度の修正ならば習熟すれば可能ではあるが、これであって「術者の人生の根幹や大前提と言えるだけの拘りや信念」が中核に必須。そこから派生するため、意図的に自由に設計した能力を用意できるものではない。

 

 そして宣誓型が「最優にして最悪」と呼ばれるのは、その性質にある。

 

 生涯の縛りを入れることで、それに類する形での能力を具現化する。これはすなわち「力を会得すれば、その後の人生全てにおいて縛りを順守しなければならない」という代償が存在することに他ならない。

 縛りの難易度を下げれば能力は当然弱まる。そして難易度を下げるにしても、人生に支障が出かねないレベルでなければそもそも発現不可能。そして意図的に縛りを変えることで能力に自由度を持たせられるということは、欲しい能力を得るにはそもそもそれに見合った縛りを生涯受け入れねばならないということである。

 

 縛りそのものを成すことができなくなれば、放棄の度合いに応じて最低でも内臓破裂級の代償を払う、強大な返し風が存在する。

 

 そして、男が成した縛りは「毎日一定量の麻痺毒を摂取する」という物。

 

 数年かけて麻痺毒に体を慣らしてからとはいえ、毎日必ず毒物を摂取するというのは相応の縛りと言える。そしてそれゆえに、彼は「攻撃全てに麻痺毒が塗られた状態にする」という能力を会得した。

 

 代償もそれなりにある。麻痺毒の選定を誤ったことで、若干ではあるが味覚障害が生まれてしまった。

 

 だが、それでも男はそれを必要経費として背負うことを決めた。

 

「悪いな。裏社会(この世界)でこれからのし上がるには、魔装具(こいつ)だけじゃ足りねえって思ってたんでよ」

 

 そう嘯きながら、男はとどめを刺すべく武賊刀を振り上げ―

 

『なぁ!? なにが―』

 

 ―舎弟が乗り込んでいたGFが、いきなり盛大に爆発した。

 

「なんだとぉ!?」

 

 とっさに振り返った男の目に、爆発四散するGFの姿が見える。

 

 そして一瞬、視界の隅に何かが動いた。

 

 慌てて視線を動かして周囲を探すが、しかし何かが見つからない。

 

 伏兵がいたのかと思うが、それにしても何が起きたのかがわからない。

 

 そうして周囲を確認する男は、そこでふとあることに気が付いた。

 

 倒れている少年が持っていたはずの、大剣の姿が見えていない。

 

 組織が雇っていた悪魔が言うには、この世には神器(セイクリッド・ギア)という異能力が存在するらしい。だからあの大剣も、その類だと思っていた。

 

 だからこそ、今になって気付く。

 

 大剣を具現化するという、そういった能力だとばかり思っていた。だがもし、()()()()()()()()()()()()()()

 

 それに気づいた時、後ろから迫りくるそれに気づいた男は、間違いなく優秀だった。

 

 振り返りながら魔装具を構えれば、まさに炎を切り裂いて飛んでくる、先ほどの大剣が見えていた。

 

「う……ぉおおおおおおおおお!!!」

 

 思わず絶叫をあげながら、男はそれを受け止める。

 

 そして咄嗟に地面に叩き付け、足で踏みつけて動かないようにするのもまた、優秀ゆえに優れた判断だった。

 

 弾き返した程度では足りない。先ほど舎弟を倒してから今になって仕掛けてくる辺り、おそらく隙を伺っていたのだろう。そしてつまり、隙を伺う時間が出せるほど継続運用できる、ということでもある。

 

 この神器の能力は、自由に操ることができる大剣の操作能力。手に持って使用していたのは、捜査にも限度があることを踏まえ、普段は肉体との併用で大剣の域を超えた繊細な剣劇を行い、本来の飛翔攻撃を伏せ札にする為でもあるのだろう。

 

 ならば、大剣の動きを封じることは必須。そしてその間に、意識が残っているだろう少年を殺さねばならない。

 

 そう即座に判断し、仕込み銃と爪を展開しながら少年の方を振り向いた男の視界に、蛇が絡みついた一本の腕が突き付けられた。

 

「………なあ、一つ頼みがあるんだけどよ?」

 

「五秒以内かつ二十文字以内でな」

 

 時間稼ぎは許さない。

 

 その、既に殺す覚悟を決めた言葉に、男はすぐに二十文字にまとめた。

 

「冥土の土産に動ける理由を知りたい」

 

 しっかり二十文字で済ませた質問に、少年は少しだけ苦笑して、もう片方の腕を見せる。

 

 そこには、同じように蛇がまとわりついていた。

 

「俺は蛇の形で魔力を使う悪魔の家系でな。それを利用した魔力製強化外骨格ってところだ。Dマリオネットって名付けてる」

 

「そっか、ありがとよ」

 

 そう、思わぬ子供らしさが漏れたネーミングに苦笑し、男の人生は頭部の消滅と共に終焉を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ふぅ。慣れてしまってはいるけど、やっぱりいい気分にはならないな。

 

 人間-いや俺はもう悪魔だけど―生きていれば少なからず生き物を殺すものだ。

 

 まして殺し合いになっているところで、半端な躊躇やためらいはこっちが死ぬだけ。それこそ心顕術として具現化できる余地があるレベルの決意と、それを成す為の力量や技術を取得する努力がなければ、自分どころか味方も殺すだろう。

 

 それに、俺は初めての実戦で結構な人数を殺している。相手が悪党だったからといって、だから生き物扱いもしないっていうのは間違っているだろう。

 

 だからまあ、決して手が止まるというわけではない。だけど同時に、すっぱり割り切れるタイプでもない。

 

 こういうことができない当たり、俺は戦士としては傑物の精神性はなさそうだなぁ……と、思ったり思わなかったりするな。

 

 とはいえ、今回は神器と魔力運用のおかげで命拾いだった。それだけの接戦でもあったから、比較的気にする余裕がなかったのは運がいいのか悪いのか。

 

 ……最後の表情、たぶん「意外と子供っぽい」だったんだろうなぁ。俺もそう思うが、なんというかロマンを感じてしまっている。ちょっとひねった運用方法には技名をつけてしまうのは悪い癖なんだろうか?

 

 いや、技名をつけているからこそ、それが更に運用しやすくなるはずだ。魔力の運用はイメージだから、技名をつけるってのはイメージの補強に役立つしな。

 

 まあ、それも神器で隙を作らなければまずかったわけだが。

 

 俺の持つ大乱剣舞(バスター・ダンシング)は、自由に操れる大剣を具現化する神器だ。熟練の使い手は同時に複数本使用できるとも言われている。

 

 まあ、自由といっても限度はあるけどな。だから普段は手にもって、操作と自分の体の併用で、でかさのわりに取り回しがよすぎる武装として使っている。

 

 とはいえ、今回はちょっと危ない所だった。

 

 力を振るうつもりがないから、鍛えることは最小限にするべきだと思っていたが、考え直すか。力があるのに使い方を鍛えず、それで自分や大切なものを失うなんて、それこそするべきではない失態だからな。

 

 そう考えてから、俺は連絡をすることを忘れていた。

 

 いかんいかん。報連相はこういうことをしている時はすべきこと筆頭だ。もしかしたら祐斗に増援が必要かもしれないし、きちんと連絡しておかなければ。

 

「……祐斗、こっちは終わったがそっちはどうだ?」

 

『早かったね、一志君。こっちも終わったけど、ちょっと別件で報告するべきことがあるんだ』

 

 別件?

 

 一体なんだ?

 

「別件っていうと?」

 

『つい先ほど、強い契約を求める力が来たことで、興味を惹かれた部長が転移に応じられたんだ。……どうも堕天使側が危険と判断して殺された神器保有者みたいで、部長は逆にそこに興味を惹かれて眷属になされたんだ』

 

「あ~……。そりゃもうご愁傷さまというほかないな」

 

 俺は額に手を当てると、天を仰いだ。

 

 堕天使及びその傘下の集まりである神の子を見張る者(グリゴリ)は、聖書の神が人に与える力である神器(セイクリッド・ギア)を研究している部門だ。

 

 その過程で神器を制御できないと判断した人間が、暴走して被害を生み出す前に始末するということもしている。

 

 これに関しては、ぶっちゃけ俺達が止めることはまずない。そもそもこちらに敵対する行動ではないし、大前提として暴走されると間違いなく被害が大きくなることから、どの勢力も堕天使がするべき仕事と認識している。少なくとも、この国では政府や異能者集団である五大宗家も認めている行為だ。

 

 強大な力が制御できずに振りまかれれば、どれだけの被害が生まれるかなど考えるだけで恐ろしい。神器研究の最先端に到達している神の子を見張る者が判断し、聖書の教えを信仰する教会や天使達すら妨害しないだけのことでもある。無理に何とかしようとして失敗した時の被害や、そこにリソースを割り振ったがゆえに逆に他の暴走を抑制できない可能性を踏まえれば、思うところはあるが安易にやめろと言えない必要悪だ。

 

 とはいえ、殺される側としては堪ったものでもないだろう。神ももう少し手心を加えてほしいものだが、堕天使の行動を黙認している節があることから何かしらの理由があるのかもしれない。

 

 なので、堕天使がその為に動いていると考えられる時はこちらから動くことはできない。迂闊に動いて結果として暴走を引き起こせば、それによって悪魔側も堕天使側も人間側も甚大な被害が生まれるかもしれないからな。

 

 だからまあ、むしろ今回は盛大に幸運な部類だろう。

 

 俺はそう思うと、今度顔合わせをする時にそいつに何か奢ろうとも思う。

 

「……で、そいつの名前は? 食客の俺も顔合わせをするだろうから、一応知っておきたいんだが」

 

 そういうと、何故か祐斗は少し沈黙していた。

 

 え、なに? 何か訳あり?

 

『その人は、僕たちと同じ駒王学園高等部二年の男子生徒だよ。どうも堕天使は彼に接触して調べていたみたいなんだけど、デートという形でしていたみたいなんだ』

 

「……趣味が悪いなその堕天使。業務の必要性はともかくとして、個人の性格としては下劣な部類………ん?」

 

 俺は心底からその堕天使に嫌悪感を抱きながら、なんか強い違和感を覚える。

 

 堕天使がなんでそんなことをしたのかは分からないが、それでももうちょっとやり方があったんじゃないかと思う。少なくとも、相応の理由がなければ俺は個人的にそのやり方を肯定することはできないだろう。

 

 ちょっと本気で同情してきたし、これは愚痴ぐらいは聞いてやるべきだが、今はそこじゃない。

 

 今日? デート? それも二年生?

 

 冷汗がだらだら流れてきたのは、悪くないと思いたい。

 

「………ちなみに、名前は?」

 

『………兵藤、一誠』

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁあああああああああああああああ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず絶叫した俺は悪くないと思いたい。

 

 




 とりあえず、必要最小限のオリ要素の説明会も兼ねた、戦闘シーンでした。



 タグにもすでに書いていますが、オリ能力である心顕術は、Light系バトル作品をイメージしたものになっております。具体的に言うと、今回出した宣誓型は黒白のアヴェスターの戒律を参考にしています。説明文で気づいたかもしれませんが、承諾型は戦真館シリーズの協力強制がモチーフ。生態型は今後必ず出しますが、ちょっとずれて星辰光的なイメージで出していきたいと思っております。
 原作キャラの魔改造にも使う予定で、いくつか種類を作っているのはその一環でもあります。もちろんオリキャラにも出していきますぜ?

 そして武器が主体でガチモードになると鎧が具現化される魔装具は、結構色々な作品の要素もぶち込んでおります。
 こちらも量産型を雑魚的の装備にしつつ、それ以降の上位種は原作キャラの強化にも使っていくつもりです。主人公である一志は確定で、原作の味方陣営側にも装着者を出していきたいところ。

 そしてロボット系列のGFですが、イメージとしてはフルメタル・パニックのAS、それもラムダドライバ関連から着想をえました。
 あれの実態は「人間がナノレベルで持ってる念動力の増幅」だという話を聞いたので、そこから着想を得て「搭乗者の闘気を増幅して運用する」という、誰でもサイラオーグキットみたいな兵器体系です。

 この複数のオリ特性を出したのにも、根幹の発想の一つの理由があります。最もこの辺は終盤になるまで明かせない可能性が大きいですが。毛色が違いすぎるのが数種類あるのは、ある意味その辺の説得力をつけるための必須作業です。






 そしてプロローグはこれで終わり、次から……とりあえず最小限の設定資料集を出してから、旧校舎のディアボロス編になると思います!


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設定資料集
設定資料集 世界観


といった感じで、世界観の設定を組み込んでおきます。







2021年七月七日 初投稿


世界観

 

 

 

 原作ハイスクールD×Dから、大きな変化が確認されたのは旧校舎のディアボロスが始まる頃から五年前。

 

 突如地球上全てでオーロラが観測される異常事態をきっかけに発見されるようになった魔装具(まそうぐ)

 

 科学者ロメールが世界中に基礎設計図と現物を拡散させたことで、対魔装具も考慮されて流通するようになった人型ロボットGF(ギガンティック・フレーム)

 

 同時期に大規模活動を開始した邪教というべき集団であるディメンタール教団が広めた異能、心顕術(しんけんじゅつ)

 

 これらにより人間世界全体の武力と犯罪発生率が増大化しており、流通を止められなかったこともあり異形側の警戒も進んでいる。

 

 

魔装具(まそうぐ)

 

 五年ほど前から世界中で流通される謎の武装群。手持ち装備型の魔道具と言えるものであり、保有者の身体能力を向上させるだけでなく、神域装飾という鎧を纏うことで更なる力を発揮。

 

 いくつかの種類があるが、保有者の戦闘能力は圧倒的であることが特徴で、平均的に中級悪魔クラスの戦闘能力を保有者に与えるという厄介な性質を持つ。また一部の魔装具は封印を試みようとすると勝手に転移するという特性を持ち、その大半である侠式装具は力を振るう願望を持つ者のところに転移する特性を持つ物もある為、社会制度に大きな悪影響が発生。これが原因で大規模テロが発生したこともあり、日本国では憲法九条が改正され「悪意をぶつける者に対する正当な報復は認められるべきである」という条文が加えられたことで報復を前提とする武装が合憲となるほどの影響を与えている。

 

 基本的に同型が大量に出回っている物は多いほど性能が低くなる傾向はあるが、複数存在する代物でも神や魔王クラスを警戒させるレベルの物もある為、決して油断できる代物ではない。

 

〇汎式装具

 同型がけた違いに多く、転移能力を持たない魔装具の総称。

 数が非常に多いのが特徴であり、正規国家が保有する魔装具の九割以上がこれである。確認されているだけでも十万近い数が確認されており、保有者の戦闘能力は中級悪魔クラスにまで高められる。

 

〇将式装具

 同型こそ存在するが、汎式装具とはけた違いに少なく、また性能が段違いに上の魔装具の総称。

 この領域になると高位の神器どころか禁手級の力を秘めていることも多い。

 特殊能力を保有していることも多く、基本性能が上級悪魔クラスから最上級クラスに匹敵するのが特徴。

 

〇王式装具

 基本的に同型が存在しない、特殊な魔装具。総合性能は将式装具と同等だが、基本的に神域装飾の性能が防御特化かつ豪華絢爛。更に魔装具を一定数登録する機能を持ち、登録されたそれらの保有者が死亡したり心が折れると手元に転送する機能を持つ。

 これにより侠式装具を転移されることなく確保する機能を持つが、そもそも登録するまでが困難という致命的な問題点を持つ。それゆえにこれは保有者の参加に属する汎式や将式を奪取することが困難になるという問題点にしかならず、世界の軍備強化を推進させる要因にしかならないのが現状。

 

〇侠式装具

 転移機能を保有している魔装具の総称。性能は汎式装具に毛が生えた程度の物から、将式装具の中でも最上位クラスの物まで大きくバラつきがあるが、転移機能を保有している為取り締まりが極めて困難であることが最大の特徴。

 少なく見積もっても数万単位で世界に流通しており、世界の治安悪化と軍備増強に大きな影響を与えている最大の要因。

 

 ☆武賊刀(ぶぞくとう) 侠将(きょうしょう)

 少し強めの侠式装具。いわゆる長ドスといった外見を持つ。

 神域装飾展開時には、スリーブガンとクローが内蔵されているのが特徴。

 

〇天式装具

 他を上回る力を秘めた、間違いなく最強の魔装具。

 必ず特殊能力を保有しており、その性能は間違いなく規格外。最低でも準神滅具級の力を秘めているのが特徴であり、保有者が一人いるだけで一刻を作り出すこともできる戦略級の魔装具である。

 

 

GF(ギガンティック・フレーム)

 

 人間世界の国家で急激に広まっている、全高5m強の人型機動兵器。開発者のロメール博士が行方不明になる前日に設計図を世界中に公開し、更に現物を数多くの建設業者や工事業者に提供。その危険性を異形側が察知するより早く人間社会において価値が認められたという来歴を持つ。

 「人と機械の同調による強大化」がその構成の肝であり、その特性上人型を根幹としなければ費用対効果が全く合わないという特性を持つ。反面人型が期間フレームであるならかなり冗長性を発揮しており、禍の団では疑似的な四脚型や、武装の懸架ユニット兼用のサブアームが接続されたモデルが開発されている。

 

 機械側と同調することで搭乗者自身を強化しつつ、更に機体を大幅に強化することが可能。より具体的に言うならば、GFとは「闘気を動力源の出力で上昇させる」ことが根幹。

 

☆キュークロ

 世界中に設計図と現物が贈られることになったGF。必然的に世界で最も多く使用されているGF。

 基本的にフレームとカバーが施されているだけの代物だが、フレームそのものの頑丈さに馬力、そして整備性や信頼性といった魔改造の余地に優れていることが特徴。結果として国連加盟国もディメンタール教団も、ごく一部を除いてテクニカルのようにこの機種を改造したものを戦闘に用いている。

 何より基本形であり搭乗者との同調と増幅した生命エネルギーの運用理念は整っており、例え劣化型のコピー品であっても、距離を取られづらい市外戦といった運用次第なら、戦車数台を破壊することは可能。

 

★キュークロ・A

 キュークロの設計図を基に、生産性と整備性の底上げを引き上げに強度や出力を落としたモデル。

 工事現場で利便性を盛大に発揮したキュークロの流通は止められないが、そのままだとテロに使用されやすくなりすぎると判断した結果、世界的に流通させている民生仕様。軍隊が動けばどうとでもなるように弱体化させており、送り届けられたキュークロを差し出せば数台貰えるようにする荒業で、何とかテロでGFが使用された際の危険性を推させることに成功している。

 

心顕術(しんけんじゅつ)

 

 ディメンタール教団が広めた、心の形を具現化する異能群。

 いくつかの種類に分かれており、それぞれが一長一短の特殊性を保有することが特徴。ただし使いこなせば下手な神器より凶悪であることが多い為、異形社会でも大いに警戒されている。

 

〇生態型

 心顕術において「最難にして最善」とされる種別。

 「自分はこういう存在である」という本能レベルの在り方を、当人の自己認識と絡み合う形で具現化する物であり、常態的な異能力を発現する。

 その性質上、承諾型のように成立が困難な発動条件を必要とせず、宣誓型のように条件崩壊による返し風も発生しない。そして生態と言ってもいい在り方ゆえに呼吸と同じ感覚で使用でき、また出力そのものも安定して高い。これが「最難にして最善」の由来である。

 

 

〇宣誓型

 心顕術において「最優にして最悪」とされる種別。

 「自分はこの生き方を成す」という宣言の元に作り出す術であり、その後縛りを常に課す代わりにその縛りに合わせる形で異能力を作り出すことができる。

 出力は他二つに劣る代わりが、縛りをきつくすることで理論上はそれ以上の力を発揮する余地も存在。反面縛りを破棄すると縛りの重さに応じた反動が生まれ、かなり低級な物でも後遺症が残るほどのデメリットがネック。最も簡単に習得できる代わりに最も大きな代償を背負うことが「最優にして最悪」の呼ばれることとなる。

 

 

〇承諾型

 心顕術において「最強にして最狂」とされる種別。

 他者との関与が必須となる特殊な心顕術であり、相互間での一種の同意を繋がりとすることで、その共感に由来する形で異能が発生する。

 要は相互間の認識が成立することで発動可能になる術であり、それを成立させることがまず困難である代わりに、瞬間的出力では複数人による直列故に最も大きい。それゆえに「最強にして最狂」と称されている。

 

 



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設定資料集 暫定味方編

 とりあえず、主人公である一志関連のまとめページにする予定ですが、現段階では出せる量が少ないので、一時的なまとめモードにさせてもらいます。






 2021年七月七日 初投稿

 2021年七月十七日 追記


 

主人公

 

◇一志・(レヴィアタン)・モンタギュー

 

『プロフィール』

 身長:168cm

 体重:62kg

 趣味:漫画・ライトノベル観賞。外食(出前含む)

 特技:サバイバルに有効な技術全般。

 好きな物:勧善懲悪かつハッピーエンドの作品。文明的な生活や食事

 苦手な物:無責任な無法者。一度全裸になる過程が必須の公衆施設

 座右の銘:大いなる力には大いなる責任が伴う

 

『来歴』

 本作主人公。先祖返りの形で悪魔レヴィアタンの血を覚醒させた、イタリア系クォーターでもある十七歳の少年。十三歳の頃に同居していた家族全員を失う事故で数か月漂流しており、その後引き取った祖父母の村が、異形の犯罪組織に襲われて壊滅し、そこで力を覚醒させるなどハードな人生経験を積んでいる。

 

 悪魔側に発見されてからも魔王血族として活動する気がなく、また現魔王政権側も旧魔王血族にいきなり出てこられると余計な考えを起こす者が多いことから、サーゼクス・ルシファーや一部大王派の判断もあり、リアス・グレモリーの食客として詳細をぼかして生活。贅沢をする性分でもない当人と「王族に相応の生活を」と考える者達との間で折衝した結果、ワンルームのデザイナーズマンションで一人暮らし。

 

『人物』

 

 宝塚の男役の格好をすれば絶対に女性だと納得されるほどの女性的な風貌を持っているが、その為公共施設での男子更衣室に入るのをほぼ確実に止められる。

 

 原作主人公である兵藤一誠達と友誼を結んでおり、あの手この手で変態行動の抑制を行っていることから「変態共の飼い主」という認識が共通だったりする。

 

 同居していた家族が軒並み教育職の経験があり当人の気質と合致した結果、基本的に年齢不相応に成熟した精神性を保有。波乱万丈な半生もあり、責任感が強く社会規範を重視し、必要悪にも配慮して力の責任を考慮しながら成すべきことを考える性格となっている。

 

 遍く状況において「成すべきことの中からできることを」を主体とする思考回路であり、根幹的にはドライかつ現実主義でロジカルな対応を主体として行動。その上で他者の感情にもできるだけ配慮しており、理性で握るべき手綱を感情に握らせない手法を基本とする。我慢比べは無理せずギブアップするため比較的弱いが、チキンレースは絶妙に安全と危険のギリギリのラインに堅実に止めに行く勝率の高いタイプ。

 

『能力』

 

 レヴィアタンの血族の特性と、生まれ持った神器の併用で戦闘を行う。

 

 年齢不相応に成熟した精神の反動から、少し手の込んだ魔力運用に技名を付けたがる癖がある。

 

 ▽Dマリオネット

 魔力運用の応用技。蛇型の魔力を全身に張り巡らせることによって、魔力運用で体を操作する。

 麻痺毒などを受けた場合を想定した技である。

 

 ▽Dジャマハダル

 魔力運用の応用技。蛇型の魔力を腕に纏わせ、そこからブレードを生成する技。比較的リーチを変えれることから、大乱剣舞を手に持ってない時のフェイルセーフティ以外にも応用が利く。

 

☆神器 大乱剣舞(バスター・ダンシング)

 一志が保有する神器。大剣を複数具現化し、それを自在に操作することができる神器。

 大剣そのものは非常に頑丈かつ重量があるといった程度だが、重要なのはその自在操作。質量故に限度はあるが手に持つことなく操作することが可能。手持ちで使用すれば自身の膂力や技術との併用で、細身の片手剣のような戦闘すら可能とする。

 現段階では一度に一つしか具現化できない為、基本として手持ち剣としての運用が限界。ただしどうあがいても成長することが確実な担い手である為、将来性は十分に存在する。



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設定資料集 ディメンタール教団編

ディメンタール教団

 

 本編開始の五年ほど前に突如結成された、いわゆる邪教集団。

 

 「人には悪意があり、他者を嫌悪し、蹂躙していい奴を蹂躙することに快感を感じる者。その在り方を無理やり押しとどめることは心を痛めつける行為であり、人はもっと自由であるべき」を教義とする集団。薬物を利用して心身を蹂躙した被差別対象を作ることで、彼らを公然と迫害できることにより人を集めている。また心顕術の技術を地球で広めている元であり、更に魔装具とGFの保有数も多いことから合衆国ですら迂闊に手が出せないテロ組織となっている。

 

 そしてその実態は、異形組織にすら介入できるだけの規模を持つ大規模組織。魔装具を人間世界・異形社会問わず危険因子に提供できるだけの保有数を持ち。GF開発者のロメール博士は当初からメンバーであるなど、世界情勢の変化に大きく関わっている。

 

保有技術

 

〇運用魔装具

 

●汎式装具

 

屍隷槌(しれいつい) 群奴(ぐんど)

 FWCが量産している汎式装具。いわゆる金棒を使用する。

 

●侠式装具

 

開門銃(かいもんじゅう) 砲鍵(ほうけん)

 ディメンタール教団の優秀なエージェントに与えられる、侠式装具。小型拳銃型だが、神域装飾を展開すると重心が伸びると共にグリップ下部に近接戦闘用にスタンハンマーが展開される。

 着弾箇所に小型の形成炸薬弾クラスの収束された衝撃を叩き込む拳銃。神域装飾展開時は先進国の対戦車兵器級になる。

 特殊能力は、事前に指定した転送区画に繋がるゲートを作る特殊弾丸の発射能力。転移ゲートの設置場所や転移の仕方などを調整できる為、逃亡から増援、偵察など多岐に亘る運用を可能とする。

 

所属人員

 

 

〇研究部門

 GFを中心とする各種技術開発を担当する部門。

 

◇ロメール・コモツス

『詳細』

 ディメンタール教団の研究部門統括者であり、GF研究開発の第一人者である、C×Dの人間。

 教団に属していながらGFを世界的に流通させた人物でもある。これに関しては資金的にも資材的にも教団が協力している為、背信行為とはみなされていない。

 開発側や統率側の視点に立つ人物だが、搭乗者や現場指揮官に整備側の視点を「よりよいGFの開発」や「どうすれば動くか」の為とはいえ、きちんと反映し視察も行う、ホワイト対応を行うブラック上司。

 

〇営業部門

 構成人員の獲得や、魔装具・GFの流通による世界情勢の悪化促進、そして異形側の取り込みを担当する。

 

 ◇落果 奉作(らっか ほうさく)

『詳細』

 ディメンタール教団の営業部門日本支部に属する二十代後半の男性。

 レイナーレ達と接触し、彼女達が確保しているアーシアに消耗が激しくなる手術において切開箇所の即時回復をさせる代わりに魔装具を提供。その後の取引を媒介とすることで、新たな堕天使側とのパイプ作成を目論んでいた男。

 スカートめくりという行為を神聖視しているタイプの変態であり、その変態ぶりはおっぱいに変換すれば一誠に匹敵する領域。その変態っぷりはバチカン市国全体で同時多発スカートめくりを行ったことを「善行」と断言するほど。

『能力』

 習得が非常に困難な生態型心顕術を習得し、更にそれを核とする独自の固有技を編み出したことから、組織内での評価は開門銃 砲鍵を与えられるほどに高い。

 

 ☆奥義 祝福風路(メクル・メイク)

 奉作が習得した、スカートをめくる為の超奥義。

 能力はスカートが捲れる程度の大気流操作を可能とする、心顕術の基点を「効果範囲のスカートの下」に設置する能力。ちなみに消耗が絶大に激しいのであまり行わないが、半径5km内のあらゆるスカートの下に自動設置することも可能。

 ……完全に作る側の余談だが、ルビの由来はめまいを意味する「めくるめく」という言葉に掛ける形で「めくる」と「メイク」をかけた造語。乳語翻訳(パイリンガル)に類する技なので、これを思いつくのが奉作関連の設定で一番大変だったと断言できる。

 

『心顕術』

 ☆祝祭都市の生誕祭、奇跡の夜明(パラダイムシフト・デイブレイク)

 スカートめくりを目撃したことで生まれた、その奇跡に対する強い感謝こそが人生の根幹と断言するがゆえに習得した、生態型の心顕術。

 能力は突風生成。自身を基点に大気の流れを操ることができる、分かり易い心顕術。

 突風がぶつかる対象を己にすることで飛行することも可能。その気になれば音速超過の突風すら生成可能であり、有象無象を薙ぎ払うことに長けた対軍勢戦闘向けだが、彼にとってそんな力は余技に過ぎない。

 その力の強さは、純粋なまでのスカートが捲れることを偉大な奇跡と思っているが故。この力の本質を突き詰めるが為に、彼は独自に祝福風路を編み出すだけの信念を持っているのだから。



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旧校舎のディアボロス編
第一話 王道が始まる夜(前編)


 評価形式を10と0だけコメント必須のものに変えました。

 0評価を受けるのはまあ仕方ないとしても、なんで0つけるほど悪いのかがわからないとそのあたりを次に生かすこともそもそも合わない人をひきつけないための方法もわからないので。








 それはそれとして、ディアボロス編のスタートです。


 ………約一週間、体調不良という名目で休んでしまった。

 

 かなり真剣に悩んだが、少し休むという学生としてはするのがまずいことをしたのには事情がある。

 

 まず一つ。俺の保護観察者でもあるリアス・グレモリーが、転生させたイッセーに対する当面の方針にもある。

 

 具体的に言うと、リアス部長は当面の間イッセーに悪魔になったことを伝えないことにした。

 

 理由は「まず悪魔になった変化を体感させた方がいい」とのこと。実際、イッセーは悪魔の実在とかも知らなかったわけだし、しかも転生直前の殺された記憶もあいまいになっている節があるからな。堕天使側も記憶処置はしているだろうし。

 

 いきなり連発で衝撃的な出来事を連発されるのもあれだ。ならちょっと、インターバルを置く必要はあるだろう。一理はあるし納得した。

 

 で、そこに対して俺が適当にごまかすのが困難だと思ったのが休んだ理由の一つだ。

 

 人間関係で嘘や隠し事は必要な時はあるが、それでもいきなりこれだけの規模をやるってのは難しい。俺も心の準備が必要だから、急病を理由に休ませてもらった。

 

 松田や元浜には事情を隠す必要があるだろうしな。そこも踏まえると、心の準備が欲しかった。

 

 そしてもう一つは、ちょっと鍛え直す必要を感じたからだ。

 

 今までは、力を振るう責任とそこからくる影響を考えて、積極的に訓練をしていたわけではない。鍛錬を積んでないわけではないが、リアス部長やその眷属達ほどに乗り気だったわけではなかった。

 

 だけど、力持つ者はその力に対して責任がある。むしろ責任に対していい加減でいるわけにはいかない。

 

 迂闊に使うことで大きな反動が来ることを恐れるのも一つの案だが、ちょっとにげな雰囲気があったと思い直した。少なくとも、今後友人な同じようなトラブルに巻き込まれるかもしれない以上、そこに対して抑止力や対応班になれる程度の実力は必要だろう。

 

 ……やり口はともかく、堕天使がイッセーを暗殺したことまでは責めない。いい気分になるわけがないが、ことさら非難するべきじゃない。

 

 何せ、イッセーは転生悪魔になる際のコストが絶大だった。

 

 かつての対戦で旧四大魔王と多くの悪魔を失った悪魔側は、他種族を悪魔に転生させるという手法でそれに対応している。

 

 チェスの駒を模した十五個五種類の悪魔の駒(イーヴィル・ピース)。チェスの駒と同様の価値判断がされるそれで、イッセーは兵士(ポーン)の駒を八個も使った。

 

 転生させる時にリソースが余ることはあっても、兵士八駒分の価値を使うことは異例といってもいい。はっきり言って異常といってもいい事態だ。

 

 ……最悪、神器の中でも究極と言われるオンリーワン、十三種ある神滅具(ロンギヌス)を持っている可能性も視野に入れるべきだ。

 

 戦闘特化型、それも極限の領域である禁手に至れば山の一つぐらいは小必殺技で消し飛ばせることも可能だろう。そんな物を制御する力がないと判断されれば、言ってはなんだが暴走する前に暗殺という結論が出るのも仕方がない所はある。

 

 悪魔になったことである程度は制御できるようになるだろうが、悪魔の駒にも限度がある。数においても質においてもだ。

 

 いざという時、抑え役に回る力も必要だろう。

 

 ……自分が伸ばせる強さを碌に伸ばさなかったことが原因で、大事な関係を失うのは御免被る。

 

 だから、ちょっと鍛え直す為に悪魔の本来の生活圏である、冥界に行って特訓をしてきていた。

 

 冥界は地球と同規模の範囲を持ち、しかし海がない代わりに陸地が非常にでかく、とどめに人口が圧倒的に少ない。

 

 ガチで魔王血族の力を練習しても、比較的被害は少ないと判断したわけだ。

 

 ……まあ、自然環境はともかく動物の被害はありそうだが。できる限り気を使ったが、まあ鶏も牛も豚も食べている身として、そこは一線を引いておこう。

 

 と、いうわけで。

 

 短時間とはいえ一生懸命「何をするべきか」を考え、俺は一週間休んで心の整理と力の獲得を行うべきだと考えたわけだ。

 

 そして、それにしたって限度はあると考えているから、俺は一週間という区切りをつけた。

 

 今日がその、最終日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………頑張って修行した。

 

 特に最大出力の上昇と、それを暴発させないための制御能力の強化に終始していた。

 

 その結果、ちょっとした山をごっそり吹き飛ばしたりした。ちなみに魔王パワーで修復することは可能らしい。魔王襲名した人たちすごい。

 

 そして同時に、近接戦闘の技術も磨いている。

 

 理由は単純だ。魔力を放っての戦闘の場合、強敵との戦いになったらこの山を吹き飛ばす大火力攻撃を連発する必要になりかねないからだ。

 

 そして今は、その辺りの最終調整の真っただ中といってもいい。

 

「………腕が、上がったのか、ちょっと分からないですっと!」

 

「大丈夫だよ。これでもギアを上げてるから。一週間でこれなら十分な成長だって」

 

 そう言いながら俺と組手をして完全にさばいているのは、グレモリー本家の衛兵を務めている将田(しょうだ)逢花(おうか)さん。

 

 お互いにちょっと縁があって、グレモリー家に関与する人の中では毎日顔を合わせているリアス部長やその眷属以上に親しい付き合いだ。

 

 しかし、結局そのあと一時間続けたけど、結局一発も当てられなかった。

 

「……いつもながら凄腕ですよね。武芸十八般を地で行ってるとは知ってましたが、まだまだ技術じゃ追いつけそうにないです」

 

「それはそうだよ。これでも物心ついてから第二次成長期までずっと叩き込まれてきたからね。自主練はそのあとも続けてたから、一週間でそうそう追いつかれたら立つ瀬がないよ」

 

 そう返されては反論の余地がない。

 

 逢花さんは元々武家から発祥した武術道場の生まれで、結構な種類の武術を習得している。

 

 リアス部長の眷属である祐斗の師匠でありサーゼクスさんの眷属に、かの新選組である沖田総司がいる。

 

 その沖田総司が腕をなまらせない程度の鍛錬をする時の相手ができるぐらいに剣術もできる。それでも徒手空拳の打撃戦よりは劣っているというから、確かにその通りだ。

 

 手加減されているだろうとはいえ、騎士の駒で転生した悪魔の中では最強と言われている彼の練習相手になれるだけの剣術の持ち主。更にそれより得意とする体術を一週間で追いつこうなんて、流石に失礼極まりなかったな。

 

「すいません。今のは未熟者が言うべきでない言葉でした」

 

 真面目に反省するが、逢花さんはむしろ苦笑していた。

 

「いいよいいよ。むしろ未熟だからこそそう言いたくなるものだしね」

 

「……まだ伸びしろがあるという意味に受け取るべきですよね?」

 

 もしかしてちょっといらってきてたか?

 

 やっぱり真剣に反省しよう。

 

 ちょっと焦りすぎだな。いくら強くなろうと思ったからって、そういうのは鍛錬をきちんと積んだり色々な研究をしたり、もしくは何かしらのブレイクスルーが必要だ。

 

 たった一週間の鍛え直しで、できることなんてごく僅かだ。一気に成長できるなんて、考えるべきじゃなかったな。

 

 俺は真剣に反省していると、逢花さんは苦笑しながら俺の頬に手を置いてこっちを見た。

 

「こら。真面目なのは基本美徳だけど、君は真面目過ぎて欠点になってるよ?」

 

 そういう彼女は、笑っている風に見えてこっちを真剣に心配しているようだった。

 

「君は、何があっても「ならどうすべきか」を考える癖があるね。でもまだ若いんだから、ちょっとぐらい迷走してもいいと思うよ?」

 

「……それは、どうかと思いますけど」

 

 迷走なんて、基本的にマイナスにしかならないと思うけどな。

 

 俺はそう思うが、逢花さんは笑みを消して心配の色だけをこっちに見せていた。

 

 どうやら、今の発言は本気で言っているらしい。

 

「若い時の失敗は買ってでもしろっていうよ? 年を取ると失敗しても取り返しがつかなくなる時が多いんだから、今のうちに取り返しがつく範囲で失敗慣れした方がいいと思うけど?」

 

 まあ、確かにそういう言葉はよく聞く。

 

 実際、失敗の経験を積まずに成長すると、大きな失敗をした時に立ち直れなくなるだろう。いわゆるガラスのエリートとか、純粋培養とか言われる奴だ。

 

 ただ、だからといって最初から失敗してもいいという考えはすべきでないとは思うんだよなぁ。

 

「……買ってでもするべき失敗があるとするなら、それは失敗しないよう真剣に考慮して努力した末にするものだと思います。失敗してもいいと思ってする失敗なんて、対して価値もないし堕落に繋がるんじゃないでしょうか?」

 

「……そこを突かれると耳が痛いね。ただ、失敗しないことに拘ると、返って失敗した時に大きくなりすぎることってあると思うよ?」

 

 そう返されると、確かに分からないでもない。

 

「失敗を経験したくないあまり、成功の余地がほぼないのに積み上げすぎる可能性でしょうか? 確かに失敗した時に積み上げたものが多すぎると、落ちた衝撃も大きくなりますね」

 

「そういうことだよ。時折冷静に振り返って、見切りをつけて素直に白状して怒られるってのもありさ」

 

 そう言う逢花さんの目は、どこか遠くを見つめているようだった。

 

「受ける怪我が取り返しのつく範囲内に上手く失敗するのも一つの道さ。上手く敗けることは勝つことより大事だって」

 

 ……いわゆるコラテラルダメージって奴か。

 

 まあ確かに、言われてみるとそこは重要だな。

 

 特に今回、俺はイッセーに「お前があの場で殺されるのは、ある意味で仕方がないことだ」というべきなんだ。

 

 リアス部長の眷属になって生き残り、かつ神器が暴走する可能性も抑えられた……なんてのは、間違いなく奇跡のつるべ打ちみたいな幸運なんだ。

 

 もし同様のケースが駒王町で再び起こったとして、リアス部長に「だから眷属にしてください」なんていうわけにはいかないだろう。

 

 転生悪魔は慈善事業じゃない。基本的に駒の追加補充は駒同士の交換で未使用の者を得るという裏技的なものでないと不可能だ。更に悪魔の人生は永遠に近く、外的要因などがない限りは一万年以上生きることもできる。

 

 一瞬の同情で適当に転生させていい物ではない以上、心を鬼にして逆に死なせることも必要なことではある。

 

 そういうことを言うべきである以上、イッセーのショックを最小限に減らしつつも、変な誤魔化しでゼロにしていいわけではないんだよなぁ。

 

 ………ああ、その辺はちょっと考えてなかったな。

 

「深く考えておくよ。ありがとう、逢花さん」

 

「うんうん。大事なのは期待を裏切らないことだけど、裏切りたくないあまり無理をして、限界を超えて台無しになったらそれこそ裏切りだからね。無理が来たと思ったら素直に言うことも大事だよ?」

 

 そういう逢花さんは、ふと空を見上げて、小さく呟いた。

 

「私は名声を得た。何故なら、私を信じてくれた人を決して裏切らなかったからだ……ってね」

 

 それは、逢花さんが座右の銘にしている言葉。

 

 かのアメリカ合衆国大統領、エイブラハム・リンカーンの言葉らしい。

 

 それを言う時の彼女は、どこか寂しそうに見えたのは気の所為なのだろうか?

 

 ……とはいえ、今回は心にしておこう。

 

 どうあがいても無傷の着陸はできないから、軟着陸を目指すとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、思ってたんだが―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うぉおおおおお! おっぱい!」」」

 

 テンション爆上がりで叫ぶ三人を見ていると、なんか肩を落としたくなる。

 

 いや、一瞬いつも通りと思ったけど、イッセーはちょっと戸惑っている感じだった。

 

 ……以前、俺が「変態三人組の抑制」といったのを覚えているだろうか?

 

 気のいいやつらではあるが性欲に限定すれば犯罪者そのものであることを制御できないのは多方面がかわいそうだと思い、これでもそれなりに手を回していた。前にも言ったが、魔王血族に由来する金を珍しく使ったりしている。

 

 結果として、止めることはできなかったが減らすことはできるようになった。週に何度もから、月に一度あるかないかというのは莫大な成果だとは思う。

 

 そしてその秘訣が、目の前のこれだ。

 

『うふふ。ほらぁ、坊や。こっちにお・い・で♪』

 

「「うっひょぉおおおおおおおお!!!」」

 

 大手会社の重役が使うような、ホームシアター一歩手前のテレビとDVDデッキ。更にアラウンドスピーカーなどの高級映像機器類セットだ。

 

 流石に冥界のではなく人間界のだが、いっそのこと金を使わせたい側に配慮して遠慮なく高いのを探して購入している。特にテンションが高くなった三人が何かやらかしてぶつけたり倒したりすることを考慮して、いわゆる信頼性を重視したが、それ以外の性能も間違いなく金持ちが使うレベルでまとめている。

 

 二番目に高いデスクトップパソコンでも、長く使うものだからとハイスペックPCにして二十万円足らず。

 

 幸い、家賃が安いとはいえデザイナーズマンションなので、防音設備も万全だ。なので普通に大音量でエロビデオを流している。

 

 これはこれで一応違法だが、自己責任の範疇内で収まるからとりあえず容認している。……ガチで人に迷惑かける犯罪を抑える為の必要悪は覚悟するべきだろうと判断したからだ。

 

 ……だがしかし、俺はふと首を捻る。

 

 間違いなく大画面に映っているエロい女性は、美人だしスタイルもいいと思う。

 

 特に今回、「彼女ができたという妄想がガチの領域になった」ということになってしまったイッセーの慰安も兼ねているので、イッセーの好みのタイプ。しかもかなり厳選した特別仕様だ。

 

 なのになんでか、俺はあんまりのめりこめない。

 

 男色家ではないと自負している。普通に女の子の裸に興味はある。童貞のまま死ぬのは流石にちょっと嫌だなぁとは思っている。

 

 だが、何故かこういうので冷静に判断できてしまう。

 

 ……割と本気で首を傾げるんだが。確かに根が真面目な気質で真面目に優秀な教育を受けていたから、その辺りの自制心は強いとは思うぞ?

 

 でも普通、これぐらいの美女のエロい映像を見たらなんかあるだろうに?

 

 ……一度真剣にカウンセリングを受けた方がいいだろうか? 一応遭難からの生還時には受けているんだが、冥界はその辺りが未発達なところがあるから集落壊滅の時になんか壊れたか?

 

 そう思いながら、俺は晩飯の準備をする。

 

 といってもまあ、俺が直接料理をするわけじゃない。いや、家庭科の授業も受けているし最低限自炊はできるけど。

 

 なんというか、遭難中の吹き飛んだ記憶で食生活が普通に考えて悲惨だからなんだろうけど……丁寧な料理がかなり好きだ。

 

 ファーストフードが嫌いなわけじゃない。ただちゃんとした食事を健康に配慮して食べていたこともあってか、基本的に栄養バランスは気にしている。味に拘りすぎて体を壊して食事が楽しめなくなったら論外だしな。

 

 だけどそれ以上に、作る過程で手間暇がかかる類の料理が好きだ。単純に美味しいとか、健康にいいとかいうのを超えて、複雑な手順を踏んでいる料理に味や栄養とは別の部分で感動してしまう。

 

 なので自炊はできるけど、どうしても外食や店屋物を頼んでしまう。材料それぞれに別々の下ごしらえをするとか、ぶっちゃけ自分で毎日やるのは面倒に思えてしまうから、休日にたまにやるぐらいだ。

 

 でもまあ、今回俺が出前を注文したわけでもない。

 

「……こういうところがあるから、ばっさり切り捨てる気にもならないんだよなぁ」

 

 そう苦笑しながらレンジで温めるのは、今回第二の目的でもある「俺の回復祝い」であいつらが持ち寄ってくれた晩飯だ。

 

 買ってきたものだが、材料をどっかで工業的に準備していくようなタイプの店ではない。店内の厨房で材料を下ごしらえするところから作られた、グラタンパイやシチューパイをわざわざ買ってきて持ってきてくれた。

 

 ……俺がそういうのが好きなのを分かっているからこその気遣いだろう。流石に代金は四人で割るが、それでも態々駅前に寄ってきてくれる当たり、こいつらは本当に気のいいやつらだ。

 

 そう苦笑しながらレンジからあったまった料理を取り出していると、何故か顔色が悪いイッセーが、部屋から出てきた。

 

「どうしたイッセー? 何があった?」

 

「悪い一志、どうも調子が悪いみたいだから、今日もう帰るわ」

 

 ………こいつがエロビデオを見て調子がよくならない?

 

 これはマジの病気じゃないだろうか? ちょっと心配だな。

 

「大丈夫か? ガチめなら医者を呼ぶから、とりあえずベッドで寝といた方-」

 

「あ、大丈夫大丈夫。お前も病み上がりなんだから、そこまで気を使うなって。あとで相談乗ってくれるって話だったけど、明日ってことで勘弁してくれ」

 

 朝学校でイッセーに言った件だな。

 

 ……そろそろ事情を話してもいいということになってたから、俺の一存で話すことになっていた。

 

 なので今日の夜にでも、先に松田や元浜を帰らせてから話すつもりだったんだが、これは無理か。

 

「分かった。何ならタクシー代とか貸すけど、大丈夫か?」

 

「大丈夫だって。調子が悪いけど気分が悪いとか体が痛いってわけじゃないから」

 

 なら仕方ないな。

 

 体調が悪いのなら、無理をさせるべきではない。ちゃんと返して休ませるべきだ。

 

 ああ、仕方がない……な。明日にするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―って。

 

「んなわけないだろ!」




 少しずつですがキャラも出していきますが、この作品は原作の敵キャラの魔改造も組み込むためのいろいろと仕込みをしています。

 ……意味は、分かるな?


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第二話 王道が始まる夜(後編)

 と、いうわけで後半です!


 

 

 

 

 

「んなわけないだろ!」

 

「なんだ!? どうした!?」

 

 思わず叫んでしまい、元浜にガチでビビられてしまった。

 

 松田がトイレに行ったので、ドアが開いたりしたことでイッセーが帰った時のことをふと思い出したんだろう。そこで俺はうっかりしていたことに気が付いた。

 

 あれは体調が悪いんじゃない。むしろ調子が良すぎて困惑してたんだ。

 

 あいつは悪魔になってたんだ。だから体調の変化も色々とある。

 

 例えば夜目が利くとか身体能力の強化とか、そういった変化がいくらでもある。

 

 あいつが調子が悪いのは、精神的な物なんだろう。その変化に戸惑って違和感を覚えているんだ。

 

 まずはそこを感じさせてから教えるって話だったのに、そこを失念するとはあまりにうっかりを……っ!

 

「悪い、ちょっとイッセーに言うことがあったのを思い出した。合鍵置いとくから遅くなるようなら鍵を閉めて新聞受けにでも入れておいてくれ!!」

 

「え、え、何が!?」

 

「ふぃ~。すっきりしたわらば!?」

 

 元浜を半ば無視して松田を轢きながら、俺は部屋を飛び出してイッセーを追いかける。

 

 即座にスマホを操作してイッセーに連絡もする。

 

『……一志か!? そ、そっか警察……』

 

「どうしたイッセー!? 今からそっちに向かうが、家についたか!?」

 

 なんか調子が別の意味でおかしいが、何かあったのか?

 

『な、なんか変なおっさんに追われてるんだよ!? はぐれとか、主は誰だとか……』

 

 誰だ!? 上級悪魔の勢力圏内で悪魔を狩ろうとかいう阿呆は!?

 

 普通に考えて十中八九で主かその眷属なんだから、即戦闘勃発だぞ!?

 

 質が悪いことに、イッセーはこちら側の事情を碌に把握してない。だからきっと、「主は誰だ?」から「言えないということははぐれか」ってなった感じだ。

 

「今すぐスピーカーをオンにしろ! あと今どこだ!?」

 

『駅前の公園だ。あとスピーカーを……あ』

 

 まずい。これは見つかったパターンだ。

 

 駅前の公園なら方向は分かる。

 

 くそ……間に合えよ!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まさにその頃、兵藤一誠は腹部に鋭い一撃をもらっていた。

 

 その槍は堕天使が振るう光力で構成された槍。

 

 悪魔に転生した彼にとって、光力は明確な天敵である。

 

 常人が喰らっても確実に致命傷。それを未だ死んでいないのは、彼が悪魔になって強化されたことによる不幸中の幸い。そして堕天使が低級であることに由来する者にもよる。

 

「ふむ。電話をしていたところから見て、警察にでも相談するつもりだったのかね。残念だが、()()の争いに警察が介入することはまずないのだよ」

 

 そう告げ、堕天使は光の槍を再び作ると殺意を込めて投げつけようとする。

 

 その瞬間、紅が舞い降りた。

 

 放たれる光を黒い力が、文字通り消滅させる。

 

「悪いわね。その子を殺させるわけにはいかないわ」

 

「……紅の髪。ほぉ、グレモリーがこの地を担当する悪魔だったのか」

 

 紅の長髪を持つ少女が、堕天使を鋭く睨みつける。

 

 ―彼女こそが、この駒王町を担当する上級悪魔。

 

 今の悪魔の筆頭である貴族、元七十二柱が一つ、現ルシファーを輩出したグレモリー家。

 

 その次期当主、リアス・グレモリーである。

 

「全く。反応からはぐれかと思ったらお前の飼い犬か。うっかり刈り取ってしまうところだったぞ?」

 

「ごめんなさい。烏が仕事をした後で見出したものだから、少し悪魔であることを教えるのに時間を置きたかったのよ」

 

 その返答に、堕天使は少しだけ目を細めた。

 

「なるほど、あの方の仕事の後をかすめ取ったのか。蝙蝠からハイエナに鞍替えしたのかね?」

 

「後始末が雑なおかげでね。烏らしいと言っておこうかしら?」

 

 そう皮肉を言い合い、そして静かに睨み合う。

 

「……それで? 下級堕天使程度がグレモリーと本気で争うつもり?」

 

「ふむ。確かにグレモリーの者と相対するのは、本来なら私程度ではどうしようもない……が」

 

 その不敵な言葉と共に、男は一本の得物を取り出した。

 

 その一本の短刀に見える得物を見て、リアスは表情に緊張感を見せる。

 

「……魔装具っ。なるほど、悪魔の縄張りで仕事もせずにうろついているだけのことはあるのね?」

 

「ああ。これは実に素晴らしい力だよ……抜装(ばっそう)

 

 その言葉に応じるように、リアスは魔力を放つ。

 

 リアス・グレモリーはまごうことなき才覚を持った悪魔である。

 

 グレモリー家だけでなく、大王バアルの血すら引く彼女は、その力をサラブレッドとして保有している。

 

 大王バアルの消滅の魔力は、対象を文字通り消滅させる絶大な力。ただでさえ強大な魔力が更に殺傷に特化しており、例え成人した上級悪魔であっても、並大抵の輩なら一対一で十分勝てるだろう。

 

 だが、その堕天使はその一撃を受け止め、あろうことは薙ぎ払った。

 

 それを成すのは保有する魔装具。

 

 柄が伸びることによって槍となった魔装具。その神域装飾を身に纏い、堕天使はにやりと笑う。

 

「……我が名はドーナシーク。王式装具を持ち至高の堕天使となられるレイナーレ様の一の(しもべ)なり」

 

 そう得意げに語るドーナシークは、装飾越しに殺意の籠った視線をリアスに向ける。

 

「いい機会だ。このまま帰ってもいいが、もう少しさや当てをしてみるのも一興―」

 

「―悪いが、さっさと帰るべきだと思うぞ?」

 

 その言葉を断ち切るように、リアス・グレモリーと兵藤一誠を守るかのように大剣が舞い降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合ってないが間に合ったか!

 

 即座に上から急降下しつつ、大乱剣舞を一本具現化して投擲。

 

 部長とイッセーに対して壁になるように落とすことで牽制しつつ、魔力の蛇を両手に纏い、高出力の魔力の刃を展開する。

 

「Dジャマハダル!」

 

 新技を展開して切りかかるが、敵の堕天使はそれを武装と光の槍で受け止めた。

 

 なるほど。異形が装備するとこれだけ厄介になるということか。

 

 確か、あれにつけられたコードは―

 

「将式装具、貫岩槍(かんがんそう) 穿岩(せんがん)……っ」

 

「その通り、それ単体でも上級悪魔に刃を届かせる得物だ。堕天使が持てばどうなるかは……分かるな?」

 

 得意げに笑いながら、奴は俺を強引に引き離すと距離を取った。

 

 貫岩槍 穿岩。

 

 文字通り、誰が使っても突き出せば岩すら穿つ槍。更に柄の部分を伸縮させることで、間合いと携帯性を両立させている、割と面倒なタイプの魔装具か。

 

 全く、面倒な奴が出てきたな。

 

「……私の領地であまり派手なことをしないでもらえるかしら? ……悪趣味な仕事をしているだけでも正直不快なの」

 

 部長がそう言い放つが、確かにその通りだ。

 

 なんたって、イッセーを殺すのは仕方がないがやり方が最悪すぎる。

 

 話に聞いただけの部長ですら眉を顰めるようなやり方だ。身内の俺も本気で苛立たしくなる。

 

 だが、此処で迂闊に大事にするべきでは、ない。

 

 俺がやるべきことは、可能な限り大事にしない形で終わらせることだ。

 

「これ以上戦えば間違いなく、後で上からお互い言われることになるだろう。このまま帰るっていうなら、追いはしない」

 

 衝動はある。だけど、やるべきことを取り違えたりしない。

 

 やるべき方向性を見極め、そこからできることを選別し、そしてその中から最もやりたい形を選ぶ。

 

 責務を果たし、可能を行い、その上で私情を通す。それを、忘れはしない。

 

 力を振るうということは、そこに責任が生じるものだ。それをわきまえるべきなら、こんな街中で大規模頂上バトルを行うのは避けるべきだ。

 

「……とのことよ。このまま帰るなら私も彼の意を汲むわ」

 

 イッセーの身内である俺が抑えているからこそ、部長も抑えることを選んでくれている。

 

 主とはいえ、直接顔を合わせているわけではないからな。そこは、付き合いのある俺の顔を立ててくれているんだろう。

 

 内心で感謝して、後で形にすることも決めながら俺は反応を窺う。

 

「……確かに。遊びにかまけてレイナーレ様に迷惑をかけるわけにはいかんか。最も、その飼い犬が暴走されるとこちらにも迷惑なのでな」

 

 そう言いながら、堕天使は翼を広げて空に浮かぶ。

 

「しっかり躾け飼いならすといい。それができぬというのなら、貴様達はこのドーナシークが滅ぼしてくれようぞ!」

 

 そう言い捨て、堕天使ドーナシークは飛び去って行った。

 

 ……色々ムカつく言い草だが、戦争中の相手ならその程度は当然だ。いちいち怒るべきじゃない。

 

 俺はため息一つで切り替える。部長もその辺りをすぐに割り切っていたのか、イッセーを抱き寄せると苦笑した。

 

「私はこの子を家に送るついでに治療するわ。事情はまだ説明できてないみたいだし、明日部活でしましょう?」

 

「そうですね。俺も松田や元浜のところに戻ることにします」

 

 正直イッセーが心配だが、部長が動くならまあ大丈夫だろう。

 

 既に魔力を注ぎ込むことで、応急処置はできている。あとはこのまま数時間も命に別状はなくなるだろう。

 

 ……全く。俺もまだまだ詰めが甘いというか未熟というか。

 

「……はぁ。成すべきことを見誤ってこれとか、イッセーにどう謝ったらいいのか」

 

 一週間とはいえ鍛え直しておきながら、何をやっているんだろう、俺は。

 

 ふと空を見上げると、既に綺麗な星空が浮かんでいる。

 

 微妙に恨めしくなり、思わず俺は眉をしかめた。

 




 ……そういえば、懐かしきケイオスワールドでは主人公を(後で転生したけど)殺すという快挙を成し遂げさせたんだよなぁ、ドーナシーク。

 レイナーレ達も魔改造する予定だけど、いっそのこと一志とタイマンで決戦させるってのもありかな?


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第三話 一志「腐界の闇の方がイッセー達よりよっぽど澱んでないか?」

 そんなわけで、堕天使側と軽い鞘当が終わった翌日のこととなります。


 

 次の日が来てしまった。

 

 帰ってからまだいた松田と元浜を適当に誤魔化し、片づけをしてからシャワーで済ませてひと眠り。

 

 そして朝になり、朝食も軽くチーズトーストとオレンジジュースで済ませ、ちょっと気が進まないがこれ以上休むべきではないから、素直に準備をして登校している。

 

 ……異形は全体的に、人間界よりもノリが軽い。

 

 だから部長もたぶんだが、起きたイッセーに対して事情説明は最低限に済ませているだろう。本命は放課後に部室でするつもりだ。

 

 駒王学園高等部、オカルト研究部。

 

 リアス・グレモリー部長が納めるこの部活は、リアス・グレモリー眷属の隠れ蓑となっている。

 

 そもそも駒王学園が悪魔の息がかかっていることもあり、生徒会長(ちゃんと選挙に不正せずに勝った)を務める支取蒼奈(しとりそうな)こと、魔王レヴィアタンを輩出したシトリー家本家次期当主のソーナ・シトリー先輩といったメンツから許可を得て、駒王学園の旧校舎を丸々使わせてもらっている部活だ。

 

 優秀かつ美形な部員を主体としており、俺も幽霊部員だが在籍。夜の悪魔稼業の本部としても使用しつつ、こうして学園生活を過ごしている。

 

 リアス部長と学園の二大お姉様として尊敬の念を浴びる大和撫子。転生悪魔で最も駒価値の高い女王(クイーン)を担当する。三年生の姫島朱乃(ひめじま あけの)

 

 二年生のイケメン王子であり、学園内の女子人気を一人で半分以上集める男の嫉妬の的。騎士(ナイト)の駒を与えられた木場祐斗(きば ゆうと)

 

 一年生のマスコット。小さな体で大食漢な、戦車(ルーク)の駒を授かった、塔城小猫(とうじょう こねこ)

 

 あと名義は一年生だが、諸事情あって封印されている僧侶(ビショップ)一人を加えた四人が、リアス部長に使える眷属だ。

 

 此処にイッセーが兵士の駒を八つ全部使って参入したわけだが、さてさてどうなることやら。

 

 一応、先任メンバーは誰もが訳ありかつ優秀な才能を持った者達だ。事実上の食客でもある俺も踏まえて、部長は優秀な人を見つける才能に満ち溢れ、可愛がり慈しみ救い上げているから、常に慕われている人徳を武器としている。これで上級悪魔としての能力も高いんだから始末に負えないだろう。

 

 兵士の駒八つのイッセーもポテンシャルは高いだろうが、それを制御できずに暗殺すべきと判断されているからな。ちょっと不安があるけど上手くすれば化けるといった感じだ。

 

 もっとも、いきなり殺されて人間じゃなくなったなんて展開なんだ。流石にアイツも動揺しているだろう。

 

 ……悪魔の実情を知れば、割とすぐに乗り気になりそうだがそこまでは教えてないだろうしな。

 

 その辺りを不安に覚えながら、俺は校門をくぐり下駄箱に向かい―

 

「あばばばばばばば!? は、離せぇえええええええ!」

 

「許さん、ぶっ殺す!」

 

「ここでとどめを刺す! 絶対刺す!」

 

 ……何故か、松田と元浜に締め上げられているイッセーを見つけた。

 

「……何やってんだ、お前ら」

 

 なんか、考えていたのがバカらしくなってきそうだ。

 

「生乳を、生乳首を見た抜け駆けをした、この裏切り者を制裁しているんだ!」

 

「止めるなよ、一志! 俺達はこいつを制裁しないといけないんだ!!」

 

「し、嫉妬……みっとも、ない……ガクッ」

 

 平常運転でありがとうよ。

 

 とりあえず、放課後になるまでこのまま放っておこう。

 

 多分裸で魔力を灌いだんだろうけど、部長って内側に入れた相手に裸を見られることに抵抗が薄いからな。

 

 年頃の男がいて傍でシャワーを浴びることも平気でするし、異形の貞操観は人間のそれとはずれている気がする。

 

 うん、いつも通りのイッセーというか、納得物の回復具合だな、これ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、放課後になってからイッセーを連れていくことにする。

 

「イッセー。昨日のことで話があるから、今日ちょっと付き合ってくれ」

 

「え? でも俺、今日の放課後は用事があるんだけど」

 

 そうイッセーが返答する中、女子の一部が何故か黄色い視線を向けてくる。

 

 ……沼に沈んだ貴腐人が多くないか? それとも、これが人間界の女子の普通なのか?

 

 男がレズで興奮できる奴が多いように、ゲイに興奮できる女子が多いのはまあ理解できるが、即座にこの反応する当たり、イッセー達と同レベルで変態ではないだろうか。

 

 俺がそう思いながら続けようとした時だ。

 

「やあ、兵藤君に一志君。ちょっといいかな?」

 

 二年生だから比較的呼びやすいと判断したんだろう。木場が教室に入って来ながら、俺達を呼びかける。

 

「祐斗か。ちょうど俺もその話をしていたんだ。イッセー、昨日の話は部長やこいつも関係者だから、お前の用事と重なってると思うぞ?」

 

「え、マジで? ……イケメンと?」

 

 ……イッセー、嫉妬の炎を向けるな。

 

 祐斗がモテるのとお前がモテないのは、全く別の問題だ。頑張って覗きをやめてから出直してこい。

 

 そして教室内の女子共。さっきから「3P!?」だの「誰が挟まるの!?」だの聞こえてくるんだが?

 

 これは、一応言っておくべきか。

 

「お前ら、ベクトルが違うだけでそれはイッセー達(こいつら)と同様の変態的迷惑行為だぞ?」

 

 こういえば流石に止まるだろう。

 

 俺は、その確信があった。

 

「……兵藤! 今度水着を着た写真をあげるから、木場きゅうやモンタギューさんと掛け算させて!」

 

『『『『『『『『『躊躇がない!?』』』』』』』』』

 

 教室中の男子の叫びが一つになったよ。

 

 ……女子達に「更衣室の壁に半裸のイッセー達の写真を張るから、その向こう側で覗かせる」という取引を持ち掛けてみたら、結構いい返事が貰えるんじゃないかと、俺は真剣に提案したくなった。

 

 貴腐人って、凄いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「上級悪魔のハーレム王に、俺はなる!」

 

 渾身の叫びで決意を語るイッセーに、俺は正直乾いた笑いが出てきた。

 

 基本的に、悪魔というものは貴族社会であると同時に実力社会でもある。

 

 これは異形社会全体が、結構な割合で社会的地位と実力が比例する傾向にあるからだろう。爵位を持つ上級悪魔は、下級の平民とは比較にならない圧倒的戦闘能力があるからだ。

 

 同時に悪魔社会は血統的な価値観も強いが、それでも上級直属の悪魔である眷属悪魔なら、成果をあげれば昇格試験を受ける権利がもらえることがある。

 

 実際にそれで貴族と同じ上級悪魔になった転生悪魔は少なからずいる。実際には血の純度もあって軽視する者もいるが、実力的には並大抵の上級悪魔を圧倒する最上級に昇格した者もいる。

 

 そして昇格の資格を得る方法も、現時点ではいくつもある。

 

 一つは、上級悪魔の眷属として、人間界での契約活動で成果を上げること。これは契約相手の社会的地位が影響する為、担当する地域で可能性が大幅に左右される運ゲーに近い。

 

 一つは、実際の戦闘で武勲を上げること。これは文字通り命の危険が伴うし、現状の異形は冷戦に近いにらみ合いだ。小競り合いがある程度では中々大物と戦う機会はないし、平和主義である現魔王の方々では自分から戦争を仕掛けることもない。昇格に値する成果を上げるにはそれに見合った命の危険があることも踏まえると、リスクが高い。

 

 最もポピュラーなのは、レーティングゲームで成果を上げることだ。

 レーティングゲームは、チェスの駒を模した悪魔の駒で転生する眷属の自慢から始まった、いわばチーム制の武術教義というべきものだ。「アメフトはスポーツではなく格闘技である」とかいう話を聞いたことがあるし、それが一番近いのだろうか。

 制限時間やフィールドをその都度変更し、時には特殊ルールを踏まえて行う競技試合。元々は実践訓練も兼ねていたからこそ、色々な条件を強いられる戦いを想定しての特殊ルールだった。しかし今ではゲーム性を重視した特殊ルールも数多く、実戦とは似て異なる物になっている。

 大半の昇格した転生悪魔は、これで活躍したことが要因という、かなりポピュラーな物だろう。

 

 異形社会全体にその傾向があるが、悪魔は地位が高いと何足もの草鞋を履くことが求められる。普通の眷属悪魔ですら、契約活動を行い、有事には主の配下として実践を行い、主が率いるレーティングゲームのチームメンバーとなる。上級悪魔ともなれば、契約活動では管理職になり、与えられた領地の管理も行い、場合によっては政治にも関与する。場合によっては芸能人や会社経営もやるのだから、多芸が尊ばれる風潮があるだろう。

 

 まあそんな悪魔社会、階級社会であることもあって、上級悪魔には相応の利権というものがある。

 

 最上級悪魔になると欲する領地を貰えることもあるし、上級になれば主のように悪魔の駒を与えられ、自分自身がレーティングゲームの王として眷属を率いることもできる。

 

 そして必ずしもというわけでは断じてないが、上級悪魔ともなればハーレムや逆ハーレムを作ることもできる。

 ……一夫一妻で済ませている者もいる。そもそも結婚に興味がないの者もいる。だがハーレムを作った者も確かにいる。

 その事実を知った瞬間、イッセーはすべての戸惑いをぶん投げたというわけだ。

 

 分かり易い。行けると思ったけど此処までとは。

 

「イッセー。一応言っておくけど、悪魔の駒ができた直後から転生して、それでも下級悪魔のままの奴が何人もいるぐらいには過酷な道だからな?」

 

 俺は一応釘を刺すけど、イッセーは真っ直ぐな目で拳を握り締めて俺を見る。

 

「でも、できる可能性はあるんだろ?」

 

「まあ、このまま日本で一生人間として過ごすよりは、合法的なうえに白い目で見られることもないだろうな」

 

「だったらやるさ! 可能性があるなら、全力でそれをつかみ取るだけだ!」

 

 ……な、なるほど。

 

 まあ、若い時はちょっとぐらい無茶をするべきだろう。異形社会ならイッセーの変態性もちょっとは受け入れられやすいだろうし、可能性は増えたな。

 

 見えた可能性に向かって全力疾走。これは俺みたいなやつだとしようとも思わない、無謀と言ってもいいだろう。

 

 だけどまあ、この程度なら否定する気もない。

 

 俺にはないこの強い熱。責任を重視するからこそ、俺はここまで熱意を込めてのめりこめない。

 

 そんな俺にない物を、俺に無いからと全否定するような奴にはなりたくないし、ならないべきだろう。

 

「ま、頑張ってみればいいんじゃないか?」

 

「応とも! っていうか、一志は俺の先輩になるのか? えっと……缶ジュース買ってきた方がいい?」

 

 なんでそうなる。お前は俺の舎弟か何かか?

 

 ちょっと苦笑していると、同じく苦笑している祐斗がイッセーの肩に手を置いた。

 

「イッセー君。一志君は特殊な事例で駒こそ持ってないけど、れっきとした貴族の血を引いた人だよ? 非公式だけど上級悪魔で登録されているからね?」

 

「………え、マジ?」

 

 二度見してきたので、俺は肩をすくめながら頷いた。

 

「正直持て余しているから気にするな。知っている奴も少ないし、今のところそんな権力を振るう責任を背負う気もないんでな」

 

 本心からそう言うと、イッセーはちょっと首を捻った。

 

「そうなのか? でも、部長は本家っていうえらいだろうとこの出身なんだろ? そんな人が保護観察者ってことは相当えらいとこの出身なんじゃないか?」

 

 まあ確かにそうなんだが……そうだな。

 

 イッセーには言っておくか。

 

 俺は部長に目で合図をしてから、あっさり告げることにする。

 

「えらいどころか旧王族の血だ。四大魔王は聞いているだろうが、初代レヴィアタンの血統が混じった先祖返りなんだよ」

 

「……………マジで!? っていうか、そんな奴の保護観察者をするって部長凄いな!?」

 

「ええ。自慢じゃないけど、現ルシファーは私の兄だもの」

 

 更に爆弾発言が部長から飛び出して、イッセーは面食らって言葉も出てきていない。

 

「うふふ。悪魔の数が激減したのは既に説明されていますが、実はその時、初代四大魔王は戦死成されているのです」

 

「……そのあと、血族が迷走して内乱が起きたので、リアス部長のお兄様達最強の悪魔四人が、四大魔王を襲名しました」

 

 そのまま口をパクパクするイッセーに、朱乃さんと小猫が更に追加情報。

 

 ………なんかちょっと不安になったから、俺は前もってはっきり言っておく。

 

「一応言っておくが、悪魔であることを知ったのは二年とちょっと前ぐらいでな。悪魔としての意識も薄いから、王族としての責務を背負う気はない。あと上役でも危険視する奴もいそうだってことで、それなりに裕福な生活を強いられながら生きているってわけだ」

 

 俺はそう言うと、心底からため息をついた。

 

「大いなる力には大いなる責任っていうだろ? 力を振るえばいやでも影響は出てくるんだ。王族の末裔なんて権力、振るった時の責任が重すぎる」

 

 俺が悪魔の駒を持たず、王族として知らしめられることを辞退したのはそれが理由だ。

 

 力を振るうには責務を背負うべきであり、それがなく振われる力とは、おおむね悪行と言ってもいいだろう。

 

 降ってわいた王族としての責任なんて、身寄りがいなくなった天涯孤独の男には重すぎる。責任を負わねばならない大きすぎる力何て、世界の行く末を本気で良くしようという奴か、国家規模世界規模の野心を持つ奴でなければ背負う気にならないだろう。

 

 俺は世界の行く末何て左右させる責任とかに興味がない。いずれ「魔王血族が背負わなければなければいけない事態」が来るなら、よりよい適格者が何人も出てくるまでは背負うべきだとは思う。ただし現状、魔王血族が今の悪魔社会に出てくれば余計な混乱を招くだけだ。

 

「俺は成すべき責任を果たす為の努力はするが、すべき理由のないことをして責任を負う気はない。今のデザイナーズマンション生活レベルの厚遇でも十分すぎるから、追加の権力には興味がないんだ。……もっと金使ってもいいんですよという名の「魔王血族にもっと厚遇させてください」アピールが来るのが悩みなぐらいだぞ? いや、ほんとそういう意味だとありがとう」

 

「え、なんでお礼……ってあのすっごい映像機器はそれか!」

 

 察しが早くて助かるぞー。

 

「……いっそ、万が一にでも意味もなく表舞台に立たされそうになった時はお前の眷属にしてくれないか? 魔王血族と高位神器の合わせ技で駒価値七でな。……リアス部長の空いた駒だと転生できないんだ」

 

「えぇ~……。そりゃマジでヤバいなら考えるけどさぁ、そうじゃない時に駒全部可愛い女のことで埋めたいぜ、俺」

 

 ………真剣に考えて答えてくれているな。そういうところだぞ、イッセー。

 

「ま、そこはジョークだから安心しろ。……お前の部下とか、今まで以上に尻拭いをするのはできれば避けたい」

 

「酷いなこの友人!」

 

 そう思うなら、覗きは完全に断ち切ろうな?

 

 ま、この調子なら纏まりそうで、よかったよかった。

 

 ……その時、ふと例のドーナシークとかいう堕天使のことを思い出した。

 

 どうもレイナーレってのが件の夕麻って奴なんだろうが、だとするとちょっと気になる。

 

 いくら堕天使が危険だと判断した神器使いを暗殺することを各勢力が容認しているとはいえ、用事が終わったのにずっと残っているなんてことがあるか?

 

 仮にも敵地に態々残る。何かがありそうな気がしないでもない。

 

 いや、駄目だな。考えすぎな気もする。

 

 あまり深く考えすぎると、生きていることが楽しめないだろう。敵勢力の使いっ走りが何を考えて行動しているかなんて、一々考え切れるわけがない。

 

 一応進言するべきだが、食客が独断で深入りするべきことでもない。

 

 少なくとも、もう一波乱でもなければ動く方が駄目だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ……万が一、万が一ひと悶着があるのなら、その時は探ってみるとするか




 この作品において、一志はその顔つき体つきのせいで貴腐に目をつけられているでしょう。

 ……「プリンス×ビースト」に「×マドンナ」が付きそうだな。やばい思いついたけどマジであり得そうな流れだ。さわりだけでも出さないと原作のリスペクトが足りない気がする!?


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第四話 リゼヴィム「……いま、すっごく最高なことを聞き逃した気がする!」

 今回は原作からあまり変化はない話です。




 後個人的に好きな作品のアニメ感想を、活動報告でやっています。

「現実主義勇者の王国再建記」というアニメですが、まあ興味があるなら見ていただけると嬉しいです。


 そんなとある日の昼休み。

 

 俺はイッセーから「悪魔稼業での話がしたい」と言われたので、校舎裏で昼飯を食べながら話を聞いていた。

 

 悪魔でリアス・グレモリー眷属の管轄地がここだ。俺はあくまで食客といったところで、部長はあくまで保護観察者だ。

 

 なので、悪魔稼業には参加していない。有事において人員が必要な時に駆り出される程度だ。

 

 だからまあ、俺が悪魔稼業でアドバイスできることはまずないんだが―

 

「………楽しんでくれたって書かれてたのは嬉しいけど、仕事はできなかったんだよなぁ」

 

「……色々な意味で間が悪かったな。まあ、そういうこともあるだろう」

 

 俺はそういうほかない。

 

 イッセーの初仕事は、小猫あてに二つ同時に入ってしまった以来の片方だ。

 

 しかしここで問題が三連発。

 

 一つ。イッセーの魔力が低すぎて、転移すらできない。

 

 転生悪魔でこれは異例と言ってもいい。むしろ小さい子供より少ないとか、ちょっと可哀想すぎて涙が出てきそうだ。

 

 悪魔にとって魔力はアドバンテージ。それが低すぎるってのは、転生悪魔にとって中々あれだろう。前途多難だ。

 

 ちなみに俺は多すぎるぐらいだ。ぶっちゃけ、制御能力では劣るが総量では部長より多い。最も威力を推させること重視しているから、ガチの魔力戦闘に持ち込まれれば勝率は二割あるかないか程度だろう。神器込みの全力ガチバトルなら五分五分を狙えるか?

 

 一つ。依頼人の依頼が「コスプレしてお姫様抱っこ(注:依頼人がされる側で、中年男性)」だったので即座に破綻した。

 

 これは仕方ない。事前に把握できなかったことが落ち度だから、依頼人にとっても不幸なことだ。

 

 ちなみに自転車で向かったので、最初は信じて貰えなかったらしい。むしろショックでマジ泣きしてしまったイッセーを、お茶を出しながら慰めていたとのことだ。

 

 ……いい人ではあるんだろう。イッセー自身もそうだが、問題児だが根っこは善性ってのがいるんだよなぁ。

 

 で、最後。

 

 依頼人が次善という形で提出した案が、ことごとく「結果を味わう前に死ぬ」という悲惨なものだったので、願いを叶えることが不可能だった。

 

 「人は平等ではない」が悪魔の契約における基本原則。必然的に、当人の魂や素質などで契約の対価を測るシステムも用意している。

 

 まあ、個人の能力や性格に違いがあるんだから、全く持って全てが平等ってのは逆に不公平だろう。

 

 だが「金が視界に入った時点で即死」「美女が視界に入った時点で即死」は同情する。せめて認識させてやれよ。

 

 残酷だなぁ、悪魔の世界。

 

 その結果、少年漫画であるドラグ・ソボール談義で盛り上がって終了。アンケートは「楽しかった」「また来てほしい」ではあるが、すべき仕事を諸事情あるとはいえ未達成で失敗してしまったのだ。気にしない方が問題だろう。

 

「まあ、人間最初っから大成功するなんてそうそうない。むしろ失敗が無条件で容認されるなんて、若手の新米が持つ特権みたいなものだ。気にしてはいいが過剰に凹む必要はないさ」

 

 俺はそう言いながら、イッセーの肩をポンポンと叩く。

 

「少なくとも、お前はお前にできる範囲で一生懸命頑張ったんだろう? 今回は流石にお前以外の要素も色々悪かったんだから、むしろ失敗の経験を積めたと思っておけ」

 

「失敗の経験って、積んでいい物なのか?」

 

「挫折に慣れずに成長すると、いつか失敗したとき立ち直れなくなるってのはよくある話だろう? 失敗は無条件で肯定されるべきじゃないが、成功する為に一生懸命頑張った末の失敗は、買ってでもする価値があるべきだと思うぞ?」

 

 なり立てでかつ初仕事なんだ。その上で一生懸命頑張った上で、楽しんでは貰えたなら価値はある失敗だろう。

 

 ああ、これは仕方ないさ。

 

「まぁ、事前に講習を受けているのに失敗ってのは、あまり連発できないから気をつけろよ?」

 

「………講習? ぶっつけ本番だったけど?」

 

 え、そうなの?

 

「それは失敗するなって方が無理じゃないか?」

 

「いや、堕天使に殺されそうになるよりはきつくないからって……」

 

 ……部長、それは根性論に頼りすぎです。

 

 困難っていうのは精神的な物だけでなく、肉体的な物や技術的なものもあるんですけど。

 

 ……悪魔のノリなんだろうか。俺、魔王の血統をかざせる自信もなくなってきたぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、イッセーは再び落ち込んでいた。

 

 というより、憔悴していた。

 

「魔法少女の格好をした、世紀末覇王な人って現実にいるんだなぁ」

 

「……なんだその、漫画でもないと会えないだろう癖の強いキャラは」

 

 ちなみに、封印されている部長の眷属も女装趣味だが、こっちはこっちで漫画にしかいなそうな「こんな可愛い子が、女の子のはずがない」を体現した子だ。

 

 うん。あんなのがいるなら世紀末覇王(そんなの)もいるか。(こんなの)もいるし。

 

「で、依頼そのものもできなかったのか。……まさかと思うが魔法少女にしてくださいとか言ってないだろうな?」

 

「……ビンゴ」

 

 マジか。

 

「それは仕方ない。魔法は確かに存在するが、なり立てのイッセーでは教えるどころか使うこともできないだろうしな。というか、お前のセンスだと異世界に行ってくれとか言いそうだな」

 

 ちょっと冗談めかして言ってみたら、イッセーは遠い目を明後日の方向に向けた。

 

「………行ったけど無理だったってさ」

 

「待てイッセー。それちょっと聞き逃せない」

 

 異世界と言っても色々あるが、大抵はアースガルドとかオリュンポスとか言った神々の領域だ。しかも只人が迷い込まないように処置はされている。そもそも移動する際に経由する世界の狭間は相応の能力や手段がないと生きることすら困難な空間だぞ。

 

 え、逝ったの……いや行ったの?

 

 俺はちょっと考えると、しかし今問い質すのをやめることにした。

 

 もしガチの異世界なら、確か学者がある可能性を審議している程度の段階の代物だ。もしそういう研究をしている裏の学者に知られたら、その人が大変なことになりそうだ。

 

 後で部長に相談しよう。悪魔は魔法使いと契約する者らしいから、運が良ければ紹介する代わりに話が聞けるかもしれない。

 

 まあ、そうなると大ごとになるからちょっと待つべきだな。イッセーが当事者に絡むから、最低限マナーとかを勉強してからの方がいいだろう。

 

「……ゴホン。で、結局どんな風に楽しんだんだ?」

 

「ああ、そのミルたんって人のおすすめ魔法少女アニメの1シーズンを夜明けまで見てたんだ。なんつーか、ガチで燃えるアニメだったぜ?」

 

 よし、誤魔化せた。

 

 後一応アニメも見ておこう。今後を考えると、ある程度話が合わせられる程度の知識はあった方がいいだろうしな。

 

 ただ、もしどこかの神話勢力の縄張りとかだった場合、悪魔側とそこでちょっと人も目置きそうではある。

 

 もし未発見だとすると、別の意味で大騒ぎになりそうではある。

 

 ………慎重に、それこそ数か月ぐらいゆっくりと外堀から埋めるべき案件だよなぁ、コレ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日の夕暮れ時。部室でイッセーが説教されていた。

 

 まあ、部長が言うべきことを言っているだけではあるが。

 

 俺達は悪魔だ。そして堕天使もいる。そして他の神話体系の神々も存在している。

 

 なら当然だが、聖書に記されし聖四文字の神とそれに仕える天使達も実在している。

 

 同じ神話体系といえるだけのことはあり、三大勢力は睨み合いの状態だ。四大魔王が死んだ大きな激戦でどこもダメージを追っているが、既に数百年前ということもあり、小競り合いは普通に起きている。

 

 そんなわけで、イッセーという悪魔を教会のガチな奴が見掛ければ殺し合いになりかねない。

 

 何せ、神が作り上げた神器を持った奴が悪魔に転生しているからな。見方によっては神に対する冒涜というほかない。

 

 そんな聖職者であるシスターを、寄りにもよって教会に案内したらしい。

 

 ……よくその場で問題にならなかったな。教会に悪魔が近づくことすら、不要にやると察知されると聞いたんだが。

 

 事情を知っている立ち位置の者がいなかったのか? もしくは「悪魔でありながら信徒に善行をするとは見事」とか言った感じで、特別に見逃されたのか?

 

 俺は首を傾げるが、その間も部長はイッセーに説教している。

 

 ま、この手の説教が激しいのは、それだけ心配しているからだ。

 

 ただ怒るだけなら長いのは問題だが、本当に危険でありどうなるかについても教えているからまあいいだろう。そういう「なんで危ないか」「ならどうすればいいか」を説教に組み込むのは、実態的にも精神的にも有効だしな。

 

 しかし……。

 

「この駒王町に信徒側の拠点があったのか? 俺は聞いたことないぞ?」

 

「そうだね。かつては教会があったとは聞いているけど、今この町に信徒側の拠点はなかったはずだよ」

 

 俺は首を傾げるし、木場も怪訝な表情だ。

 

 仮にもガチの教会があるのなら、きちんと登録されているだろう。そういう部署がどっかにあったはずだ。

 

 そんなのが管轄区にあるのなら、上層部だって連絡ぐらいはすると思うんだが。

 

 ……ちょっと後で確認した方がいいだろうか?

 

 俺がそう思った時、朱乃さんが神妙な顔で入ってきた。

 

「部長、大公から連絡が来ました」

 

「あら、今月は頻度が多いわね」

 

 と、部長も説教を終えたところで、しかし真剣な表情を浮かべる。

 

 まあ、答えはまず間違いなく予想できる。

 

 厄介ごとだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 大公からはぐれ悪魔討伐の要請が来たことで、俺も含めてグレモリー眷属が動くことになった。

 

 イッセーは今回は見学だが、まあこれは仕方がない。

 

 神器の能力もよく分かってないし、イッセーは喧嘩の経験すらろくにないんだ。

 

 いきなり戦えって方が普通は無理だ。まずはゆっくり戦闘の空気を感じさせるにとどめておくべきだろう。

 

 というか、リアス・グレモリー眷属はプロとしてレーティングゲームでデビューしていない若手悪魔として考える場合、最高峰に到達していると言ってもいい質を誇っている。

 

 戦車である小猫は、その小柄な体に見合わぬ怪力を耐久力で、はぐれ悪魔を殴り飛ばす。

 

 騎士である祐斗は、高い機動力で敵の視界にすら止まらず切り刻む。

 

 そして―

 

「うふふふ。久しぶりにぞくぞくしますわぁ」

 

 ドSという(カルマ)をもつ朱乃さんによって、はぐれ悪魔は雷撃地獄を味わっていた。

 

 ………イッセーが震えて部長に抱き着いているけど、そこはスルーしよう。

 

 俺も相手が敵であることからすぐに言うべきことではないと思ったが、そろそろいいだろうと思ったので、朱乃さんに声をかける。

 

「その辺にしてください朱乃さん。いくら人間界にも冥界にも迷惑をかけている下衆とはいえ、加虐には限度があります」

 

「あらあら。一志くんはそういうことをは厳しいですわねぇ」

 

 ちょっと残念そうにしていたけど、朱乃さんは素直に引いてくれた。

 

 俺はどうも、加虐という行為が好きじゃない。

 

 そりゃ嫌いな相手に容赦できるほど人間はきっちり割り切れるわけじゃないだろうが、仮にも法を持っている存在なら、自分を基本縛るべきだ。

 

 相手が悪人なら何をしてもいいという考えは、戒めるべき思想だろう。

 

 だからまあ、多少は空気を読む。その上ですぎるようなら物申す。この辺りの塩梅を取っている。

 

 まあもっとも―

 

「貴様ぁあああああああああっ!」

 

 ―こういうことをするからこそ、このはぐれ悪魔はこんなことをしているんだが。

 

 俺はため息をつきながら、朱乃さん狙いの魔力を神器で弾き飛ばす。

 

 同時に、その炸裂が目くらましになったことを利用して、即座に蛇を構成して魔力の射撃で撃ち据える。

 

「がぁあああああ!?」

 

「―加虐はあまりよくないが、価値の無い容赦もすべきでないだろ? 世の中油断は禁物だ」

 

 自分でも冷めていると断言できる目で見てから、俺は警戒だけはしつつ部長に声をかける。

 

「部長。示しとしては貴女がとどめを刺すのが一番かと」

 

「そうね。懲りてなさそうだから手早く済ませましょう」

 

 そして、部長はまっすぐに手を向け魔力を込める。

 

「私の眷属に不意打ちをするとは、滅っされるに値すると知りなさい」

 

 そして、跡形もなくはぐれ悪魔は消滅した。

 

 犯罪を犯す奴は、基本的に二種類だろう。

 

 単純に馬鹿か、勉強ができる馬鹿か。

 

 現代社会において、法律を守るということは基本的に得だ。それが分からず法律を平然と破る奴は、少なくとも馬鹿の側面があるというほかない。知らなかっただけっていうケースもあるが、無知も馬鹿の定義に入れるかどうかは議論を生みそうだから控える。

 

 転生悪魔と言っても主の性格で待遇は変わるが、だからといって脱走して人食いって時点で論外だろう。加えて言えば、仮にも眷属を何人も率いてきた上級悪魔相手に、はぐれ悪魔が一人で勝てる方がまずおかしい。

 

 まったく。すべきことを放棄してしたいことだけするって奴は、馬鹿なことをしているとしか言いようがない。

 

 もちろんできることとできないことはあるが、考える時間があるのならちょっと考えればわかりそうなことをするからな。まあ、はぐれ悪魔になる奴の大半は増長して暴走する奴だから、考えないっていうのは普通にあり得る気もするが。

 

 内心でため息をついていると、何故かイッセーが肩を落としていた。

 

 ……そういえば、あいつは自分の駒価値が八駒分あること知ってるんだろうか?

 




 どっかの作品の感想でも出てたけど、リゼヴィムがミルたんのこの情報を知れば、絶対にやる気スイッチが入って禍の団が大幅強化されていたことでしょう。ミラクル!!







 一志の戦闘における基本スタンスは「必要悪としてすべきこと」といった感じですね。

 容赦はしないが加虐もしない。それが一志の戦闘における基本行動。必要ならば容赦なく嵌め殺しも挑発もするが、わざと時間をかけていたぶるぐらいなら、スパッと殺すかさっさと拘束するかのどっちかをするタイプです。

 自分の価値観が絶対などとは思ってないし、何より他者と価値観が違うことは当たり前だと尊重することもできるため、ある程度はドSも容認。そもそも超えてはならない一線を踏み越えすぎているとも思っているため、敵が何かしてくるようなら容赦なく叩きのめす。ただしそれはそれとして「すべきでないことをすることを良しとしない」。これが一志の行動理念。








 ちょっと気分転換とかでサーヴァント風のステータスを作ったりもしてました。その過程で「この章が終わった時点での、重要度の高いオリキャラで最適なクラスのサーヴァント風ステータス」を出そうかと思ったのですが、そこでふと気づいてしまいました。

 ……一志のステータス。出したらもうネタバレ意外になりゃしない。

 設計コンセプト上出すほかないが、この段階で出すとド級のネタバレが過ぎるところがあるので、一志のサーヴァント風ステータスは結構後にならないと出せそうにないと気付いてしまいました。

 そこから連鎖的に「別の原作を用いた彼のたとえ」を考慮した結果、これまたネタバレが過ぎることばかり浮かぶ浮かぶ。







 ネタバレにならないぎりぎりのラインでのたとえは、一つ。

―――こいつ、絶対に人理修復を成し遂げられない。


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第五話 急変の夜

 ……アンケート機能にはちょっとした問題点があって、ある程度話を進めてからでないと後々面倒くさいことになるから使用を避けておきたい今日この頃。

 しかしそれはそれとして、一気に一日単位の読者数がガクンと落ちてちょっとショック。最初の掴みがいつまでも続くなんて思わなかったけど、ついに最多でも百数十台になってしまった。

 それでも、今までの作品での平均的な読者の数では多い方なのが、自分が二次側索者として三流だという証拠ではあるので精進したいです。


 

 次の日、俺は部活を休んでちょっと調べ物をすることにした。

 

 念には念を入れるべきだと思ったので、部長に許可を取ったうえでちょっと調べ物をしている。

 

 そして分かったことだが、イッセーが連れて行った教会は既に潰れている。

 

 十年ぐらい前に、教会は駒王町から撤退している。だから、あの教会は正式なキリスト教会の施設として機能しているわけではない。

 

 まあ、機能していたら上が部長には伝えているだろうからそれはそうだろう。納得すると共に納得できない部分も出る。

 

 なら、そのシスターはなんでそんなところに派遣されたのか。

 

 可能性があるとするなら、裏の事情も知っている異形側の人員だろう。内密の任務でリアス部長達グレモリー眷属を調査するといったところ。その一時的なアジトとして活動しているといったところか。

 

 だが普通、そんな人員が悪魔に道案内を頼むか?

 

 これはちょっと無視するべきことではないな。だがどうしたものか。

 

 迂闊に接近するのが危険だというのは俺でも分かる。ならドローンでも買ってカメラを使って偵察すれば、電子系の中継を辿られたとしても最初から別の場所でやって逃走することで誤魔化しようはある。

 

 だがこちらも、ドローンの扱いに慣れないでそこまでできるのかという問題点がある。

 

 変な動きをして警戒されると面倒だしな。特にこんな行動をする場合、「なんかこっちばかり覗いている」と思われるべきではない。「馬鹿が適当にのぞき見を行っていて、たまたま見られた」と思われるようにするべきだ。

 

 そんなレベルの操作技術を獲得するには、相当の時間がかかるだろう。

 

 まず間違いなく、教会の連中が事を起こすなら間に合わせるのは困難だ。俺が教会の連中なら、こういった手法を長期間やるのはリスクが高いと判断する。

 

 なので、それができる可能性があるかどうかのテストの為に、ドローンを買って練習してみた。

 

 結論として、「俺個人が習得するのはまず無理」だと確信した。

 

 となると次に試みるべきは二つ。一つは「ドローンの操作に長ける人から教えを受けたらできるか」と、「俺以外にドローンの操作を即座に習得できるグレモリー眷属がいるか試す」の二つだ。

 

 この地の管理をするグレモリー眷属がするべきことで、下手に人を直接巻き込むと彼らに被害が及びかねない。だからこの二つが優先的な探るべき手法となる。

 

 この二つでもダメならば、シトリー眷属にいないか探すか、さっさと上役に相談してできる悪魔を派遣してもらうになるだろう。時間をかけすぎると教会側が動くだろうから、時間がかかるようなら「強引に突入する」も視野に入れるべきだ。

 

 というわけで、俺は部長達に相談する為に連絡を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―とんでもない情報が出てきて、それどころではなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッセー! 大丈夫か!?」

 

 急いで部室に駆け込むと、イッセーが少し痛みを堪えながらだが、片手あげて笑みを見せてきた。

 

「ああ、部長達のおかげで大丈夫だった。……ああ、()は大丈夫」

 

 ただまあ、痛みを堪えているだけでない、何かの陰りが見えた上にこの言い草だ。

 

 俺はすぐに「犠牲者がいる可能性」思い至った。

 

「部長。イッセーははぐれ悪魔祓いに襲われたんですよね? 契約者が殺されたとみていいですか?」

 

 俺が速やかに効くべきことを聞くと、部長は静かに頷いた。

 

「私は家を精査したわけではないけれど、確実に一人は殺されているわ。……かなり惨い状態でね」

 

 なるほど。それははぐれで間違いないな。

 

 三大勢力において、人間との関係はなかなか密接な繋がりだ。

 

 悪魔は人間と契約を交わすことを基本的な稼業としている。

 

 そして神を信仰する人間の中には、加護によって光力を使う武装を使って悪魔を滅ぼす悪魔祓い(エクソシスト)を戦力として保有する。

 

 表向きには悪魔祓いは悪魔を追い払うだけなんだが、戦闘員としての悪魔祓いはガチで神の配下として悪魔を殺す存在だ。

 

 まあ、神話伝承の類も殆どが「実際に起きたことをもとにした伝承」でしかない。その辺りを丸のみにしていると足元を掬われると言ってもいい。

 

 そして、そんな悪魔祓いは責務として悪魔を倒す存在であり、やりがいを感じることはあっても趣味や娯楽のようになる者ではない。

 

 だが人とは善悪双方を持ち合わせている者。必然的に、中には悪魔を殺すことに快感を感じ、あろうことかそれを似通った姿を持つ人間にすら向けれる者がいる。

 

 そういう奴らは追放どころか処分もありえるのだが、脱走に成功した連中は堕天使側の戦力として子飼いになることが多い。

 

 そういった連中をはぐれ悪魔祓いと呼ぶ。

 

 ……あのドーナシークのことといい、これは例の教会、堕天使の現地拠点として利用されていると考えるべきか。

 

「どうします? あくまで偶然のエンカウントなら、報復に拘るべきではありません。おそらく例の教会がアジトなんでしょうが……どうします?」

 

「思うところはあるけれど、迂闊に戦争を再開させる気はないわ。当面は手出し無用と告げているわ」

 

 そう返答が来るが、何故かイッセーが肩を震わせる。

 

 確かイッセーは、シスターをその教会に送り届けていたな。

 

 それを気にしているのか?

 

 直接イッセーに聞くと、今の雰囲気から言って傷口に塩を刷り込むことになるだろう。

 

 なので、まずは他のメンバーに聞くべきだ。

 

 既に先を見据えて話を進めている部長と朱乃さん、あと歯を食いしばり拳も握りしめているイッセーからも離れて、ちょっと祐斗と小猫を手で招くと話を聞くことにした。

 

「……正直聞くが、そのシスターがイッセー相手に演技をしていた可能性は? 普通に考えれば隠す方向に行くはずだが」

 

「そうでもなさそうなんだよ。そのシスター……アーシアって子も連れてこられていたけど、そのはぐれ悪魔祓いの凶行を知らされてなかったみたいでね。僕らが来た時には揉めていたのか、殴られていたみたいだ」

 

「……多分ですが、かなり善良な性格のようでした」

 

 ………これは、ちょっとまずいか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーは、あれで強情な時は頑として聞かない時がある。

 

 なんというか、試合には弱いが喧嘩に強いタイプといえばいいのだろうか?

 

 試合とか決闘は、勝利条件がはっきりしているから、それを上手くクリアーすればスマートに決着がつく。必要な能力もはっきりしているからな。

 

 ただ喧嘩とかいうのは、意地と意地のぶつかり合いだ。だから負けを認めず無理にでも立ち上がってまた挑むということがあり、結果的に相手が根負けするというパターンがある。

 

 だから喧嘩の方が試合より強いなんて言うつもりは欠片もない。本当に強い奴はルールを守ってしっかり勝つだろう。ルール無用ってのも一種のルールととして受け止めれば、試合に強いタイプも「どんな卑怯な手段やだまし討ちもしてくるかもしれない」と弁えれば喧嘩でも普通に強いだろうしな。自らを縛ったうえでそれでもなお強さを見せつけれる者が強いのか、どんな手段を使ってでも最後に必ず勝つ奴が強いのかは、半ば趣味の問題だ。

 

 ただし、この場合の喧嘩に強いとは裏返せば、「自分の我儘を取り下げない」という風にも受け取れるわけだ。

 

 だから正論とかをそもそも受け入れないし、無理にでも勝とうとして倒れないから大怪我することも多い。しかも場合によっては他人を盛大に巻き込むこともあるわけだ。

 

 イッセーはエロが絡まない限り良識も十分にあるが、善性ゆえに情熱的な要素と絡み合って、ドライになれないところがある。

 

 アーシアってシスターが、残虐なことを良しとしないのに残虐というか外道なことを認める連中に囲われている現状を良しとは思わないだろう。今回は「二度あっただけ」だから抑えがきいているが、これで真面目に友人にでもなっていれば、絶対に助けようとするはずだ。

 

 最悪の場合、「はぐれ悪魔にしていいんで行ってきます!」になりかねなかったわけだ。それはそれで部長の責任問題になるし部長自身そんなことを良しとしないが、この手のタイプは自分の他者評価を意識しないことも多いから、尚更止まらない。

 

 そもそも正論で衝動を完全制御できるなら、まごうことなく悪行である覗きなんぞしない。

 

 いうなれば物語の主人公。英雄とか勇者様に向いているタイプだが、現実にいると困ったところも多いわけだ。

 

 非日常に適応できる人種というのは、結構な割合で日常に適応できないところがある物。そういう意味では、英雄を目指す者はその時点で英雄失格というのも一理ある。

 

 実際に英雄が英雄になることを目指さなかったかというのは、その英雄一人一人が何を考えているかを完全に理解することだから、確認しようがないだろう。だが、現実において英雄になる為にマジで行動するってことは平和からかけ離れたことをすることだからな。

 

 平和な世界に生きているからすれば、態々英雄を目指すというのは「平和が壊れることを望む」といっているようなものだ。そりゃそういうレッテルを張りたくなるというのも、ある意味で正論だろう。

 

 そしてこの場合、イッセーはまさに堕天使とグレモリー眷属のガチバトルを引き起こしかねないわけだ。

 

 ………最悪の場合は両手両足の骨を折るべき。だが、避けれるなら避けるべきことだし、個人的にもそれは嫌だ。

 

 俺はこの状況からなりえるだろう可能性を、プラスよりもマイナスよりも考えたうえで、考える。

 

 すべきことの中でできることを探し、そこからしたいことを選ぶ。

 

 そしてその結果、一つの結論が出た。

 

「祐斗に小猫。悪いんだが、一つ頼みがある」

 

 俺は決意を固め、行動を決定する。

 

「明日ちょっと探りを入れるから、その辺りのフォローをお願いしていいか?」

 

 可能な限りイッセーが納得できる形で、何かしらの決着がつけられる多めの可能性を探す。

 

 見つからないか、あっても危険度が高いようなら、イッセーの両手両足の骨を折る覚悟を決めよう。

 

 だが、そうしなくてもいい状況に持っていけるのなら。

 

 ……可能な限り可能性を探すぐらいは、やってのけないとな。

 




 成すべきと思ったことからできることを探し、そこからやりたいことを見出す男、一志・L・モンタギュー。

 あまり意識してやっているわけではありませんが、自分はD×D二次創作で主人公を「イッセーと対を成せる」ように書いていることが多々あります。

 基本的にバトル状態においては青系のカラーリングになるような装備を付けることが多いですし、レーティングゲームの区分でいうテクニックタイプにすることが多い。あと基本的に多芸になりえるように戦闘系統を設定することが多いですね。

 そして一志の場合、彼は基本的に「理性の人」です。

 彼は理性の人であり、「常にできることを十全にこなす」ことを得意とするタイプ。そういう点では、どちらかというと感情の人であり「いざという時に十全以上のことを成し遂げる」タイプのイッセーとは反対の側に立っているといってもいい男です。

 イッセーは間違いなく喧嘩に強いタイプです。一志はどちらかというと試合に強いタイプで、喧嘩においては「やばくなる前に骨を折る」ことを選択できるタイプ。Light作品で「日常生活で培った倫理観のブレーキ」とかいった話がありましたが、イッセーは土壇場で必要な時に感情で飛ばした上で意外と的確に制御するタイプだと思っており、一志はブレーキ操作を常に理性で制御しきるので、必要だと判断したら一切踏まないことが常態でこなせるタイプ。

 ……不良的なあれで区分けするなら、チキンレースをほぼ確実にギリギリのラインで止まれるのが一志。本当に負けられない時の度胸試しで他を引き離すのがイッセーと考えています。

 そして一志の最大の持ち味は「自分は理性による制御がかなり得意である」と認識している点です。
 そうでなければ「我慢するのが当たり前」な覗き行為を繰り返すイッセーと仲良くなれませんし、その上で冷静にイッセーが自分と逆方向側のタイプだと理解し、それに合わせて必要な融通をしっかり利かせています。

 必然、イッセーのことをよくわかっているから「万が一の時は止まらない」を考慮して、此処から動くわけです。

 最悪の場合は両手両足の骨を振るとすでに決意を決めながら、できる限りイッセーとリアスの双方が納得できる落としどころを探しに行く男。

 そんな「理性が強いが、感情が強い側に理解も示せる」男というのが、一志というキャラ造形となっております。


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第六話 奇縁のコウサク

 カタカナなのには理由があります。誤変換ではないのでご注意を。


 その日、駒王町では慌ただしい者達が何人もいた。

 

 全体でいえば三十人ぐらいだろうか。外国の者も含めた神父の服を着た男が、明らかに不穏な雰囲気で誰かを探していた。

 

 本来ならすぐに気づかれるだろうが、彼らは気配を認識されづらくする術を持っていた。そうでもなければ、単一民族国家のこの国で神父の格好をした者達が何人もうろついているなどという事態がここまで隠されているわけがない。

 

 そして、その三十人の中には女性もいた。

 

 そしてそのうちの一人は、小走りで街中を駆け、誰かを探しているふりをしながら、どこかの路地裏に滑り込む。

 

 そして軽くため息をつくと、襟に仕込んだ小型通信機を起動させた。

 

「……定時連絡。対象は本日夜間に神器を摘出される予定でしたが、事情を知らずに脱走を敢行。前夜に彼女を連れて外出した、シグルド機関のフリード・セルゼンの行動が下劣な物だと思われ、それが理由ではないかと思われます」

 

 そう告げる女性は、そこで何故か沈黙すると、小さくため息をついた。

 

「……そういえば、アンヌと話す予定だったのを忘れていました。アーシア・アルジェントの捜索はお願いします」

 

「……もうちょっと話してほしかったのだけれど。そんな符丁を入れなくてもよかったのよ?」

 

 そんな言葉と共に、一本の剣が女性の首元に近づけられた。

 

 堕天使の部下に見つけられたのかと思ったが、どうやら違うらしい。

 

 少なくとも、自分が知っている限りでは彼女達にこんな声の者はいなかった。

 

 やけに聞き覚えのある声な気がするが、思い当たる節がない。

 

「こんなところで、なんではぐれ悪魔祓いが活動しているのかしら? いくら教会がいないからって、はぐれ悪魔祓いが集団で、しかも悪魔と殺し合うわけもないのにいるのはおかしくない?」

 

「……悪魔に亡命するつもりの堕天使、って可能性はあるんじゃない?」

 

 そう茶化すが、しかし苦笑が聞こえてくる。

 

「ないわね。レイナーレの思想は堕天使優遇の差別主義者。そのくせ総督を神聖視し、更に上昇志向が強い困ったちゃんよ?」

 

 ―その返しに、女性は内心で状況を推測する。

 

 レイナーレの部下ではない。その上、レイナーレより堕天使の内情を知っているかのような口ぶりだった。

 

 そして、そこから可能性を想定しつつ、警戒するべき可能性も考慮する。

 

「……正規の教会から来たのかと思ったけれど、もしかして(からす)の方が好みなの?」

 

「どうかしら? まあ、蝙蝠の縄張りを荒らしてまで、(はと)(からす)の代理戦争をする必要はないと思うわよ?」

 

 そう言いながら、後ろの声も上を向いた気配を察知する。

 

 そして、女性もまた上を見る。

 

「……なんだ、気づいてたのか」

 

 その言葉と共に、建物の屋根から一人の少年が飛び降りる。

 

 二人を結ぶ直線状には降りず、しかし距離が等辺になるように着地。

 

 同時に、三人は即座に動いた。

 

 女性は十字架を模したナックルダスターと、光の弾丸を放つ拳銃を。

 

 少年は巨大な大剣と魔力の蛇を。

 

 そして、後ろを取っていた少女は銃剣のついた小銃と、聖なるオーラを放つ剣を。

 

 それぞれがそれぞれに警戒の得物を突きつけ、そしてそれぞれの姿を見て―

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「……すいません。どこかで会ったことあります?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―「会ったことがある」という妙な確信だけを感じた、見知らぬ他人に首を傾げながら素直な疑問が出てきてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜。

 

 アーシア・アルジェントは発見され、堕天使レイナーレの計画は最終段階を迎えることとなった。

 

 彼女の目的は単純明快。アーシア・アルジェントが持つ神器を取り出し、自分に移植することだ。

 

 神器は人の魂を深く結びついている為、取り出せばほぼ確実に死に至る。堕天使側はその技術を確立させているが、それでも無差別にやることはなかった。

 

 だが、レイナーレはそれを行い、そして自分に移植しようとしている。

 

 その理由は、アーシアが持つ神器の持つ価値にある。

 

 神器、聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)。その力は強力な回復の力を持つことだが、そう言った回復系神器の中でも、特に秀でた固有の特性を持つ。

 

 それは回復対象を選ばないということ。

 

 本来、治癒の力は神の祝福に由来する者に作用する。その為祝福を捨てた堕天使や、悪魔のような種族に治癒の力は効かない。それを可能とするのは、本当にごく一部の稀少な薬や異能だけだ。

 

 故に、重傷を負ったイッセーを治療するのにリアスはあれでも手間をかけた。直接肌を重ね合わせたうえで一晩魔力を注ぎ込んだのは、それだけする必要があったからだ。

 

 だが、聖母の微笑はそんな手間を必要としない。アーシア自身の素質もあるし、体力の消耗は回復しない。しかしリアスが一晩懸けた治療と同様の効果を、一分も掛からずに成し遂げられる余地がある。

 

 それを堕天使であり自分に組み込むことで、彼女は自分の地位を高めようとしているのだ。

 

 ドーナシーク達はそれに協力する代わりに、恩恵を会得するという取引をかわしている。更にその後の発言力を磐石なものとする為、偶々接触できた商人から、相応の装備すら確保していた。

 

 だが、一つだけイレギュラーが発生してしまった。

 

 レイナーレがアーシアを見つけた時、アーシアのそばには兵藤一誠がいたのだ。

 

 レイナーレ自身が殺した男が、寄りにもよって薄汚い悪魔に転生することで生きながらえている。まして、堕天使の危機で殺す必要があるだけの危険な神器を持っていると判断された男がだ。

 

 不幸中の幸いは、彼が持っていた神器は龍の手(トゥワイス・クリティカル)という「所有者の力を二倍する」といった程度の物だったことだ。

 

 どうやら彼は、神器を使う素質があまりにも低かったらしい。ものによっては潜在能力は高いが、本来なら危険と判断されるほど強力ではない。ましてやただの人間やなり立ての転生悪魔では、二倍になったところで自分達が危険になることはまずないのだ。

 

 なのであっさりと一蹴することができ、更に彼を助けようとするアーシアに「兵藤一誠を見逃す代わりに戻る」という条件を結ぶことができた。

 

 いくらなんでも直接殺し合いを仕掛けるわけでないのなら、この地の上級悪魔も見逃してやった下僕の命を危険にさらすような真似はしないだろう。

 

 ……と思っていたら、兵藤一誠と上級悪魔の下僕二人が、儀式の真っ最中に襲撃を仕掛けてきた。

 

 念には念を入れ、余計な捜索活動を引き起こす理由になったフリード・セルゼンを警備につけていたが、どうやら逃げたらしい。

 

「まったく。罰として魔装具を取り上げたのは失敗だったかしら」

 

 そうため息をつきながらも、レイナーレは余裕の表情を崩さない。

 

 何故ならば、今の自分達が負けるどおりなどどこにもないのだから。

 

 事実、突入してきた兵藤一誠たちは完全に食い止められている。

 

「レイナーレ様ぁ、ウチらも魔装具使っていいっすか?」

 

「落ち着けミッテルト。外の警戒をしているドーナシーク達が戻ってきてからにするべきだ。……その方が楽しいだろう?」

 

 既に堕天使であるミッテルトとカラワーナも、この日の為に購入した魔装具を装着している。

 

 そしてその視線の先、兵藤一誠達は三十人を超える数の、魔装具を装着したはぐれ悪魔祓いたちに囲まれていた。

 

「くそ! どけよてめえ……ぐはっ!」

 

「兵藤君! く、この程度のはぐれ悪魔祓い如きに後れを取るなんてね」

 

「……これが、魔装具の力……っ」

 

 三人の転生悪魔を追い込むのは単純なまでに装備の差である。

 

 汎式装具、陸兵剣(りくへいけん) 一打(かずうち)

 

 最も数が多い汎式奏具である両刃の片手剣。タングステンに匹敵する強度を誇り、しかし神域装飾をつけなければ片手剣としても軽量で、神域装飾を展開すれば能力の向上に伴いタングステンを超える比重を発揮する。

 

 叩き付けるタイプの片手剣に相応しいこの魔装具は、最も数が多いがゆえに性能もさほど高くない。しかし剣術の素人であっても、装甲車の装甲や戦車の履帯を切り裂く程度のことはできる。

 

 それが、仮にも対悪魔の戦闘訓練を積んだはぐれ悪魔祓いが着用している。その上で十倍以上の数があれば、負けるどおりがまず存在しなかった。

 

「アッハハハハハッ! 薄汚い悪魔のクソガキが三匹程度で、私が偉大な堕天使になる邪魔ができると本気で思ってたの? 馬鹿ねぇ、そのままそこで、アーシアから神器が抜き取られるところを見ていなさい!」

 

 絶対的な優勢を確信しているが故の、悪辣を一切隠さないレイナーレの隣で、十字架に磔にされたアーシアが、十字架ごと強い光に包まれる。

 

「アーシア……アーシアぁあああああ!」

 

 そして、イッセーは絶望すら感じて絶叫し―

 

「は、はい! イッセーさん、大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『『『『『『『『『『………あれ?』』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 むしろイッセーを心配する余裕がある……を通り越し、特に苦痛すら感じてないようなアーシアの声に、誰もが呆気に取られて振り向いた。

 

 悪魔側も堕天使側も、戦闘をしているということすら忘れてぽかんとしてしまう。

 

「あ、アーシア? 貴女、なんともないの?」

 

 全く状況が分かっていないレイナーレは、思わず心配しているようにすら思える声色になって訪ねてしまう。

 

 何故自分に視線が集まっているのかわかってない様子のアーシアは、きょとんとしながら首を傾げた。

 

「あ、はい。さっきまでは感電したみたいな感じになってましたけど、今はなんていうか……マッサージみたいな刺激になってます」

 

「はぁ!?」

 

「ま、まさか故障か!?」

 

 ミッテルトとカラワーナが狼狽するのも仕方がない。

 

 このままいけばアーシアは死ぬはずだったのに、むしろマッサージでは健康を歩進してしまう。

 

 訳の分からない本末転倒な事態に、堕天使側は一気に呆気に取られている。むしろ悪魔側で事情にもある程度は詳しい、祐斗と小猫もぽかんとしていた。

 

 そんな中、知識が足りないがゆえに一蹴回って動揺が少ない、そして大事な時に大事なことを忘れない男である一誠だけが、その好機を理解した。

 

 命がけの突撃になるだろう。だが、知った事ではない。

 

 もとより自分はアーシアを助けに来たのだ。その為に命を懸けると決めている。

 

 この、誰もが呆気に取られて我を忘れているチャンスを逃せば、今度こそアーシアを助けることはできなくなる。それぐらいは、自分がバカだと自覚していても分かっていた。

 

 だから、一誠は一歩を踏み出し、真っ直ぐ視線をアーシアに向ける。

 

「アーシア、今行く―」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、そこが最適な位置取りだ」

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、突如飛来した大剣が、アーシアを拘束する十字架を根元から切り裂いた。

 

「なっ!?」

 

 狼狽する堕天使が反応するより早く、大剣はそのまま十字架を押し出すように一誠たちの方向に飛んでいく。

 

「え、あ、きゃぁ!?」

 

『『『『『『『『『『うわぁあああああ!?』』』』』』』』』

 

 勢いよく宙を飛び、しかし支えらえているわけではないので十字架ごとアーシアは落ちる。

 

 割と高さがあり、かつ十字架は固く重い。直撃したら痛いじゃすまないだろう。当たり所によっては下級悪魔やはぐれ悪魔祓いでは命も危うい。

 

 故に慌ててはぐれ悪魔祓い達に祐斗と小猫は落下地点から離れるが、一誠だけは動かない。

 

 彼は自分が十字架にぶつかったらどうなるかより、このままアーシアが堕ちたら怪我をすることだけを考える。

 

「うぉおおおおおおお! 男は度胸ぅううううううっぶへ!?」

 

 そして受け止めて、しかし重さに耐えかねてそのまま倒れた。

 

「兵藤君!?」

 

「兵藤先輩……っ」

 

 我に返った祐斗と小猫が慌てて駆け寄る中、一誠は強引に起き上がると、籠手でアーシアを拘束する高速具を強引に破壊する。

 

 そして混乱しているアーシアに怪我がないことを確認すると、感極まって勢い良く抱きしめる。

 

「……アーシア! 無事で、よかった」

 

「え、あ、はぅ……」

 

 思わず顔を真っ赤にしているアーシアだが、しかし状況は此処で再び動き出す。

 

「何が何だか分からないけれど、その子を渡すわけにはいかないのよ、抜装!」

 

 我に返ったレイナーレは、切り札を即座に展開する。

 

 左腕に手甲を装着すると同時に、それを起動。その瞬間、翼の意匠が施された黒い鎧が、レイナーレを包み込んだ。

 

 その力は、はぐれ悪魔祓い達が装備している物を遥かに超える。間違いなくこの場で最強の装備と言えるだろう。

 

「この反応、王式装具か!」

 

 それを迎撃するように、祐斗は剣を構えて迎撃の体制に入る。

 

 が、その上を飛び越えるように放たれた光の弾丸と大剣が、レイナーレを押しとどめた。

 

「いや、これでゲームセットだ」

 

「ふぅ、いい感じに時間が稼げたわ」

 

「あとは私の仕事なんだけれど」

 

 その言葉ととも、二人の女を連れて現れた少年の姿を見て、一誠は大声を上げる。

 

「一志、お前……何時の間にそんな綺麗なお姉さんと知り合いになってんだ、ずるいぞこの野郎!?」

 

「そこじゃないだろ!?」

 

 ツーカーの勢いでツッコミを入れ、一志・L・モンタギューがそこに現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――やれやれ、これはちょっと想定外ですねぇ。もう一人の上級悪魔を警戒してしまったのが失敗ですか」

 




 さて、レイナーレにとって想定外の非常事態が起きましたが、しかしまだまだ状況な二転三転しますよぉ?


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第七話 風の大変態

 イッセーSide

 

 俺は、なんかいきなり現れた友達に本気で怒っていた。

 

 なんでだ、なんで、なんでだよ!?

 

「人が真剣に命がけで頑張ってんのに、なんでお前は綺麗なお姉さんを左右に侍らせてんだ! 畜生、これが偉い人と一般人の差なのか!?」

 

「おいイッセー、色々と突っ込みたいけどそこは言うな。あと事情は今から説明するから」

 

 一志がそういうけど、どういう状況なんだよ。

 

 ってそうだ。一志がレヴィアタンの末裔なのは、悪魔側も殆どの人には知らされてないんだったっけ。口がちょっと滑ってたな。

 

 いやそうじゃない。っていうか何が何だか。

 

 なんで綺麗なお姉さんを侍らしてるんだよ。

 

 一志の左手側にいるのは、ちょっとウェーブが入った黒いロングの髪のお姉さん。年はリアス部長よりちょっと上ってところか?

 

 右手にライフルっぽい武器を持ってるけど、さっきの攻撃は左手に持った銃からだ。フリードやはぐれ悪魔祓いの連中が持ってるのと同じっぽい。

 

 右手側にいるのは、セミロングの明るい茶髪のお姉さん。こっちは大学を出たぐらいの感じで、大人の雰囲気が強かった。

 

 ……血涙が出てきそうだ、エロビデオにもあまり熱心に見なかったのは、そ・う・い・う・ことなのかぁ……!

 

「一応言っておくが、この二人とは今日の昼に会ったばかりだ。……初めて会った気が何故かしないんだけどなぁ」

 

「そうよね」

 

「そうね」

 

 なんで三人揃ってうんうん頷いているんだ!

 

 おのれぇ! モテない男になんて酷い光景を見せてくるんだ、女顔のくせに! 女装したら絶対ばれない奴のくせに!

 

 って頬が痛い!?

 

「……むぅ」

 

 アーシアちゃん、なんで頬をつねるの?

 

 頬を膨らませているところは可愛いけど、俺何かした?

 

「……罪な男だね、兵藤君も」

 

「……女の敵でそれはダメダメすぎです」

 

 あれ? 木場も小猫ちゃんも何言ってるの?

 

 今俺何かしたか?

 

 俺は首を傾げるけど、ふと気づいたら堕天使側の雰囲気が最悪だ。

 

 な、なんだ? 俺やアーシアじゃなくて、茶髪のお姉さんを睨みつけてる。

 

「ふ……ざけるなぁ! 特に、そこのお前ぇ!」

 

 レイナーレが一気にブチギレて絶叫した。

 

 あ、やっぱりあのお姉さんに一番ブチギレてやがる。

 

 何がどうなってんだよ、おい。

 

 俺が呆気に取られていると、レイナーレと付き従ってる堕天使もなんかブチ切れて吠えてきた。

 

「なんで敵を連れてきてるっスか! っていうか、隣の奴は堕天使(ウチら)側の格好じゃねえっすかぁ!?」

 

「どういうことだ!? ことが終わるまでは上層部に内密にすると指示していたはずだぞ!!」

 

 ……え?

 

 俺が首を傾げていると、木場ははたと手を打った。

 

 な、何か気付いたのかイケメン!

 

「木場、どういうことなんだ?」

 

「……落ち着いて考えれば気付くべきだったよ。いくら神の子を見張る者(グリゴリ)とはいえ、この行動を上層部が許可している可能性は低かったね」

 

 ごめんイケメン! 言ってる意味が分からない。

 

 俺容赦なく殺されたよ? 言っちゃ悪いけど、アーシアを殺さないように容赦することとかあるのか?

 

 なんかよく分からずに首を傾げていると、ウェーブのお姉さんがぽりぽりと頬を掻いた。

 

「あ~……言い難いのだけれど、堕天使が神器保有者を殺したり抜き出したりするのは、別に趣味でもなければ世界征服とを目論んでいるわけでもないわ。組織的には「使いこなせずに暴走して被害が出る可能性が大きい」とか「人間社会に見える形で悪行などを行っている」からこその対処でしかないのよ。神器の抜出しも問題の無い人間からは組織的には(おこな)ってないわ。だから、ちょっと言い難いのだけれど……」

 

 なんか凄く言い難そうに説明していると、セミロングの人が苦笑しながら、俺の方を向いた。

 

「……つまり堕天使のその手の行動は、日本国政府からも了承されてるってこと。私達教会としても、基本的に仕方がないこととして黙認する方向で動いてるわ」

 

 まじかよ。部長も仕方ないとか運が悪かったとか言ってるけど、日本も赦してるの!?

 

 うっそぉ。じゃあ俺が殺されるのって、総理大臣とかが許してるのかよ。ちょっとショック。

 

 ……待てよ?

 

 確かアーシアは神器を使って何人も人を治していることから、聖女と言われていた時もあったはずだ。

 

 ってことは神器を使いこなしているわけだ。俺みたいに暴走の危険性とかもない。

 

 って、おい。

 

 俺はジト目をレイナーレ達に向けた。

 

 だって、今の言葉から考えると答えは一つだ。

 

「アーシアから神器を抜き取る理由なんてないだろ。一体なんで―」

 

「言葉にすれば簡単だわ。彼女達の行動は完璧な独断で暴走なの。既に上層部からは拘束もしくは討伐の指示が下されているわ。だから手伝ってもいいし、いやだっていうなら決着がつくまで待ってもいいのだけれど」

 

 俺にそう言いながら、黒髪のお姉さんは持ってた長い方の銃を、レイナーレに向けた。

 

「中級堕天使レイナーレ。要警戒対象の魔装具を大量に秘匿保持及び神器保有者の秘匿保有、更に必要性のない形で神器を抜き取り移植しようとした行動すべてを背信行為として総督は判断しているわ。素直にバクに付けば、命だけは守ってあげるわよ」

 

「そ、そんな……っ」

 

 レイナーレが膝をついて、他の奴らも唖然としている。

 

 な、なんか状況が追い付いてないんだけど、凄いことになってるな、オイ。

 

 俺が呆気に取られてると、更に今度はセミロングのお姉さんが、手に持ってる武器をレイナーレに突きつけた。

 

「ごめんなさい、レイナーレ。私は教会暗部組織「プルガトリオ機関」のジュリエット部隊に所属してるの。こっちがが保護し損ねたアーシア・アルジェントの保護が本命だったんだけど、まさかここまで大ごとになるなんてね」

 

 きょ、教会の人なのか。っていうか暗部ってマジでいるんだなぁ。

 

 いや、そうじゃなくて!

 

「追放したのは教会じゃねえのかよ! それを今更何て、どういうことだ!」

 

 俺はちょっと本気で、教会にはムカついてる。

 

 アーシアを殺そうとしたレイナーレもそうだけど、アーシアを追放した教会にはそれ以上にムカついてる。

 

 なんで、優しいだけのアーシアを追放何て……っ

 

 俺が本気で睨みつけてると、そのお姉さんは真っ直ぐに俺を見つけてはっきりと言った。

 

「言っておくけど、追放そのものは妥当よ。正義を司る神に使える聖女が、悪を司る悪魔を癒してしまった。一般的な信徒や修道士たちでも処罰は必須だし、何より聖女が悪魔を癒すなんて教会の秩序すら大いに乱す行為に厳罰は必須」

 

 そのお姉さんは、アーシアを真っ直ぐ見つめていた。

 

「人に厳しくすることなく無条件に施しを与えることは、甘さであって優しさじゃない。異形側(私たち)はそういう世界に生きているという自覚をすることね」

 

「……っ」

 

 アーシアが息を呑むけど、お姉さんはそれを見ないでレイナーレを真っ直ぐ睨み付ける。

 

「まあそういうわけで、既に彼らを経由する形で、悪魔側や堕天使側にも話はついているわ。既に外周部は教会側(私達の部隊)堕天使側(彼女達の部隊)が包囲しているから」

 

「逃げ場は完全に塞いでいるの。……覚悟なさい」

 

 な、なんかすっごいことになってきた。

 

 ってちょっと待って。悪魔側にもっていってたな。

 

 部長と朱乃さんは、俺がアーシアを助けに行くって言った時、連絡が来たと思ったら俺にアドバイスをしてそのまま出て行った。

 

 木場が説明してくれたから、行ってもいいという意味になったのは分かってる。でもまさか―

 

「お前が連絡してたのか?」

 

 一志に聞くと、一志は軽く肩をすくめながら頷いた。

 

「お前って、こういう時止める側だと思ったんだけど」

 

「お前は止めても行くだろうからな。友人の両手両足をへし折って止めるのは心が痛むから、どこにでも掲げられる仕掛ける大義名分がないか念の為探ってたんだよ」

 

 俺はそう答えられて、なんか目頭が熱くなった。

 

 一志は基本的にドライというか、何て言うかこういうことにマジレスするタイプなところがあるからさ。

 

 きっといたら止めると思ったし、さっき言ってたことも嘘じゃない。……関節の外し方を調べているのを知った時は、流石に覗きを自制する心が強くなったし。頑張って抑えないと本当に外されると確信したよ。

 

 そりゃぁ、情がないわけじゃない。ないけど、人を救う為に悪行に手を出す奴じゃないってことだけは分かってた。

 

 それが、こんなことまでしてくれるのかよ?

 

「ごめんな一志。俺は、お前は犯罪を犯したらたとえ恋人でも即通報するかもしれないって思ってた」

 

「イッセーよく聞け。俺たちの年齢(十八未満)でエロ本を買ったりエロビデオを見るのはそもそも犯罪だ。ちょっとした違法行為を状況次第で見逃す融通が利かないなら、そもそも自分の家でエロビデオの上映会を開かせないからな?」

 

 半目で言われた!

 

「……何をさせてるんですか、先輩」

 

「兵藤君、感覚がマヒしてないかな?」

 

「……うぅ~。イッセーさんは変態さんなんですか?」

 

 小猫ちゃんや木場やアーシアの視線が突き刺さる!

 

「……エッチなのはほどほどにしないと、人生を踏み外しかねないからね?」

 

「……世の中には限度があるから、適度な発散方法で落ち着くべきよ?」

 

 お姉さん達にも言われた。

 

 むしろなんか同情的というか、視線の鋭さは薄いのがなんていうかもにょる。

 

「あら、まだ終わってなかったようね」

 

「うふふ。(わたくし)達の分があって良かったですわ」

 

 そんなことを持ってたら、部長と朱乃さんまで来てくれた!

 

「部長、いらしていたんですね」

 

「……お手間をかけてすいません」

 

 木場と小猫ちゃんがかしこまるけど、部長は微笑を向けてくれた。

 

「大丈夫よ。むしろイッセーを守りながら、よく頑張ってくれたわ」

 

 そう二人を労ってから、部長はレイナーレに鋭い視線を向ける。

 

「ごきげんよう、中級堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー。グレモリー公爵家の次期当主よ」

 

「寄りにもよって、グレモリー本家の娘ですって!?」

 

「ええ、今日限りの縁だけれど、よろしくね」

 

 驚くレイナーレににっこり微笑むけど、すっごい怖いです。

 

 っていうか、レイナーレもすっごい驚いてるな。確かに部長のお兄さんって魔王様らしいけど、やっぱりそれが理由なんだろうか。

 

 俺はちょっと気になったんで、近くの小猫ちゃんにちょっと耳打ちする。

 

レイナーレ(あいつ)が部長に驚いてるのは、やっぱり部長のお兄さんが魔王様になったから?」

 

「それだけじゃないです。そもそも部長のご実家は、日本でいうなら織田信長に仕えていた時の秀吉と勝家とかの立場ですから」

 

 思った以上に家がすごすぎた。

 

 グレモリーの本家ってすげえ!

 

 俺が面食らって部長を二度見すると、部長はにっこり微笑んでくれた。

 

 レイナーレに向けた絶対零度の微笑みとは違う、あったかい笑顔だ。癒されるぅ。

 

「イッセーさん? どうしてそんな顔してるんですか?」

 

 痛い痛い。何故頬を引っ張るのアーシアちゃん?

 

 俺がちょっと痛い思いをしていると、部長は一志の隣にいるお姉さん達に振り向いた。

 

「そちらの黒髪のほうが玉鋼 冴姫派(たまはがね さきは)さんで、茶髪の方が八款 亞里亞(はちかん ありあ)さんね? 一志がお世話になったし、おかげでイッセーに嫌われなくて済んだわ。ありがとう」

 

 ほうほう。黒髪の堕天使側のお姉さんが冴姫派っていう人で、レイナーレ達をスパイしていた方が亞里亞っていうのか。なるほどなぁ

 

「お構いなく。身内の暴走に付き合わせた以上、むしろこちらが謝る側だわ」

 

「こっちも似たようなものだから、かしこまらなくても大丈夫よ」

 

 そう答えるのを聞くと、その二人と一緒に部長はレイナーレをにらみつける。

 

「さて。奇しくもあなたをどうにかすることは三大勢力の総意のようね。……外の奴らも彼女達の仲間が相手をしているでしょうし、これで終わりじゃないかしら?」

 

「な……あ……そん、な……」

 

 よし! なんかいつの間にか、完全な包囲網ができてるって感じみたいだな。

 

 できれば俺も一発ぶん殴りたいけど、そんな余裕もない状態じゃないか、これ?

 

 なら、もうこれで決着―

 

 

 

 

 

 

 

 

「いえ、そういうわけにはいきませんね」

 

 

 

 

 

 

 

 ―その時、レイナーレの隣に人が立っていた。

 

 どこから現れた!? っていうか、格好から見ても堕天使やはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)でもないだろ?

 

 部長たちどころか、冴姫派や亞里亞も驚いて―

 

「おっと、まずはこれをしなければ」

 

 ―スカートが(めく)れた。

 

 気づいた時には、この場にいたスカートをはいている人達の内、しゃがんでいるアーシア以外の全員のスカートが捲れていた。

 

 なんだこの展開。天国か!

 

「イッセーさん? 鼻血がいっぱい出てますよ、大丈夫ですか?」

 

 ああ、大丈夫だよアーシア。これはむしろ、最高だから。

 

「こ、この状況でそっちに視線が向くんだね……」

 

「慣れろ祐斗。イッセーはこういう奴だ」

 

 木場も一志もうるせえよ!

 

 で、でも確かに、今はそんな場合じゃなかった。

 

 っていうかここ、屋内で地下だぞ?

 

 なんでこんなところで、しかも全員のスカートが捲れるなんてことが起こるんだよ。

 

 あと、男が凄く涙を流していた。

 

「ああ、あまねくすべての人々の祝福を齎せました。教義的に問題はありますが、これだけは決して譲れません」

 

 こいつがやったのか。

 

 どうやってやったのか凄く聞きたい。

 

 俺達がいろんな意味で戸惑っていると、隣にいたレイナーレが我に返って振り返った。

 

「……な、なんでここにあんたがいるのよ!」

 

「それはもちろん、アフターサービスです」

 

 あ、アフターサービス?

 

 俺が戸惑っていると、後ろで動きがあった。

 

「……冗談でしょ!?」

 

「そ、そんな……っ!」

 

「……どうやらまずいことになっているんだな。何があった?」

 

 亞里亞と冴姫派が慌てて声を上げて、一志がそれに気づいて内容を尋ねる。

 

 それに二人が答えるよりも早く、男が口を開いた。

 

「新技術のテストを兼ねたアフターサービスです。本当はもっと早くこれたのですが、少し懸念事項があったのでそちらに気を取られてしまいましたが、こちらが新たに提供できる商品から、魔装具とGF(ギガンティック・フレーム)を小規模ですが送らせていただきました」

 

 じょ、冗談だろ!?

 

「てめえ、いったい誰なんだよ!」

 

 なんかもう色々聞きたい頃があるけど、とりあえず真っ先に名前とか立場とか聞きたい!

 

 俺がそんな気持ちを込めて怒鳴ると、男は不敵な笑みを浮かべながら、一丁の拳銃を取り出す。

 

 それを胸に掲げながら、そいつは自分の名前を聞く。

 

 これから先、俺が手にした力が理由で、何度も本気で殺し合うことになる男の名前。

 

「そちらのレイナーレさんに、部下用の魔装具をお売りいたしました。裏社会の武器商人をしている落果 奉作(らっか ほうさく)と申します」

 

 そう、この男は。

 

「この世で最も女性が美しい姿である、スカートが捲れる瞬間を世に広めることを特技としております。以後お見知りおきを」

 

 変態だった!

 




 ちなみに冴姫派はリアスよりの口調で、亞里亞は今どきの一般的な二十代女子の口調をイメージしています。結構ぎりぎりで決めたので、時々間違えるかもしれないけど頑張ります。







 そしてついにタグのように変態を呼び出すことができました。オリジナルネームド変態、落果奉作。

 こいつはいうならば「イッセー級の変態(スカートめくり属性)」です。イッセーがおっぱいで進化を遂げるなら、奉作はスカートめくりで進化を遂げる存在です。

 あとこいつの懸念事項は説明する機会がなさそうなので言っておくと、ディオドラの警戒です。チャンスがないか狙っているディオドラを「リアス・グレモリーが増援を要請したのかもしれない」と注意を払っていたことで出遅れました。


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第八話 変態のくせに能力があるのか、変態だからこそ能力があるのか。そんな哲学に陥りそうな話。

 前回の感想で勘違いがありましたが、奉作はアーシア追放の裏事情は全く知りません。

 単純にちょっとした理由で警戒していたらリアス以外の上級悪魔の気配を察知したので、にらみを利かせて介入されないようにしていただけです。






 それはそれとして変態と変態が巡り合う展開。D×Dにおいて極まった変態とは必然的に他でも優秀な連中が多いものです。当然奉作も優秀です。


 一志Side

 

 

 

 

 

 

 うん、とりあえず突っ込みたいところがいくつもある。

 

「今このタイミングで趣味を語るのは、やるべきことでも何でもないと思うんだが」

 

 たぶん誰もが突っ込みたいところを言うべきだろう。

 

 他にも色々と聞きたいところはあるが、たぶんこの所為で誰もそういう気になれないだろうし。

 

 それにまあ、話の内容から考えてでかい組織が裏についていると考えるべきだ。生かして捕らえられるかどうか分からないから、取り出せる情報は取り出しておこう。

 

 プロファイリングの役に立つから、趣味も可能なら聞いておくべきだしな。

 

 俺がこっそりスマートフォンを操作して、フリック操作で文字入力ができるように準備をしながら次の言葉を考えていると、奉作はため息をつきながら首を横に振った。

 

「趣味とは失礼な。強いて言うならば信仰と言っていただきたい」

 

「教会の人がいるのに何言ってんの!?」

 

 イッセーが盛大にツッコミを入れる気持ちはよく分かる。

 

 お前が言うなというツッコミを入れるべきではある。だがそんな気がなくなるぐらい、どう考えてもおかしな思考回路でしかない。

 

 スカートめくりを信仰するな。何もかもおかしい。

 

 敵も味方も半目を向けてるが、奉作は意にも介さない。

 

「いいですか? 女性のスカートが生命を生かす根幹足る大気によって、その最も美しく隠された領域を見せるその瞬間がスカートめくりです。それこそが女性の最も美しい姿であり、女性が受け取れる最大の幸福でしょう?」

 

 何もかも分からないことを言わないでほしい。

 

 いや、俺だって性欲はあるから、女性のスカートの内側に性的興奮を覚えることには理解はあるぞ?

 

 だけどそこまで言うな。

 

「何よりその瞬間を見ることができるのは、老若男女問わぬ究極の喜びでしょう? それを体現する能力を会得し、そして機会があれば多くの者達にその祝福と喜びを広めることは善行でしょう。普段悪徳をやっているのですから、それぐらいは褒めていただきたい」

 

『『『『『『『『『何言ってんのお前!?』』』』』』』』

 

 もうほぼ全員が絶叫したよ。

 

「……まさかスカートめくりをするために禁手に至ったんじゃないでしょうね? さすがに信徒としてそれは許せないわよ?」

 

 亞里亞がそう言うと、奉作は首を横に振った。

 

「いえいえ。私は神器保有者ですが、残念なことにそんな風に使える物ではなかったもので。これは心顕術とその応用です」

 

 そして返答が又明後日の方向にぶっ飛びやがった。

 

 今心顕術って言ったな。そんなことにピンポイントで使える心顕術があるとか最悪なんだが。

 

「具体的に聞くが、何をどうすれば心顕術でスカートめくりができる?」

 

 今後似たようなことがもし起きたことの為に、念の為質問してみる。

 

「いえいえ。私の生態型心顕術は祝祭都市の生誕祭、奇跡の夜明(パラダイムシフト・デイブレイク)といい、自分を基点とした突風生成能力です。その気になればそれだけで大型車両すら宙に飛ばせますが、残念なことにスカートをめくるのに最も最適な気流を同時多発的に編み出すことは不可能でした。残念です」

 

 心顕術に限界があってよかった。

 

 いや待て。心顕術の中でも生態型は「自分という存在に対する自己認識」が根幹にあったはず。しかも潜在意識レベルの認識が核となるから、狙って能力を作る余地がない。

 

 それでスカートめくりに最適な異能を発現するとかどうかしてる。

 

 しかもそんな力でスカートをめくりに不備があるなんて文句たれるな。意識が高いのかただの我儘なのかどっちだ?

 

「なので、悪魔の魔力運用を参考に、この思いをばねとして半自動制御型で上昇気流をそれぞれのスカートに最適な出力で放つ、心顕術を改変する技を編み出しました。《b》祝福風路(メクル・メイク)《b》と名付けました」

 

 なぜそんなことのためにベストを尽くしたんだ。

 

 もう何を言うべきかも分からないが、奉作は残念そうにしながらも誇らしげな表情だった。

 

「残念ながら消耗は激しいので、あまり乱発はできません。ですが二時間ぐったりとする程度いいのなら、半径5kmは自動判別で行えます。大仕事を終えた時などに行っておりますが、貞淑という靄で祝福を見ない者達に見せれたことは、我が人生最大の善行だと胸を張って言えます」

 

「バチカンで起きたあの謎現象はあなたの仕業!?」

 

 亞里亞がとんでもない事件の情報を送ってきたが、それはともかく気にしない。

 

 そろそろ冷静になろう。奉作は変態すぎて俺がプロファイリングできる相手じゃない。これは物理的に鎮圧することに終始するべきだ。

 

 俺がするべきことを再選別する頃には、奉作は肩をすくめながら銃を構える。

 

「ちなみに、先ほどのは冥途の土産というものです。……抜装!」

 

 その瞬間、銃が大型化して全身に鎧が展開される。

 

 そして奉作は、何故か後ろに銃を向けると一発撃った。

 

 なぜ何もない方向に撃ったのか。それを素早く時間をかけずに考える。

 

 何故俺達に撃たなかったのか。

 

 普通に考えれば意味不明だが、理由があるとするなら答えは一つ。あれは攻撃ではない。

 

 では何の意味があるのか。そのヒントはないのか考える。

 

 奴が持っているのは間違いなく魔装具。そして魔装具には、将式装具以上の代物には特殊能力を持つ類がまれにある。

 

 では、特殊能力があるなら何かを考える。

 

 こちらを攻撃するものではないだろう。なら何があるか。

 

 ……五秒で、最悪のケースを思いついた。

 

「まずい、部長含めて全員攻撃してください! あれはおそらく、召喚の類です!」

 

 間違っていたら間違っていたらだ。なにより危険なのは、当たっていた場合にどれだけの敵が来るかわからないということ。

 

 そして、俺の声に反応するかのように奉作から殺気が漏れる。

 

「正解ですが、遅かったですね」

 

 その言葉共に、合計で三十を超える影が姿を現す。

 

 三十前後の、巨大な金棒を持った魔装具と思われる鎧の戦士。

 

 そしてその後ろから現れる、両腕が手ではなく武装ユニットになり、更に全身に武装が取り付けられた、異形のGF。

 

「魔装具の方が屍隷槌(しれいつい) 群奴(ぐんど)、GFの方がキョーシンと名付けられております。異形側の技術を流用して開発した新商品でして、実は実戦テストを行いたいところだったのですよ」

 

 そう告げる奉作は、同時に引き金に力を込めた。

 

「では、死んでもらいましょう」

 

 銃声が鳴り響き、そして絶大な魔力が放たれた銃弾を消滅させる。

 

「……私の可愛いイッセーがここまで頑張ったのだもの。ここで終わらせるとでも思っているのかしら?」

 

 部長、キレてるな。

 

「私の可愛い眷属達! ここまで来て、誰一人でも死ぬことは許さないわ。勝つわよ!」

 

「「「はい、部長」」」

 

 付き合いが長いだけあって、すぐに反応する祐斗達。

 

 その反応に満足げに頷きながら、部長は絶大な魔力の塊を生成し、奉作に放つ。

 

 それを射撃で撃ち落としながら、奉作は軽く肩をすくめた。

 

「無謀というか勇敢というか。ですが、戦闘の風でスカートが捲れるのもまた一興でしょうか―」

 

「―変態は兵藤先輩で十分です」

 

「確かに、これはちょっといただけないね」

 

 その言葉を遮るように左右から迫った祐斗と小猫の攻撃を回避し、更に奉作は上に銃撃を放つ。

 

 それが雷とぶつかって爆発するなか、朱乃さんはドSのオーラを浮かべて微笑んでいる。

 

「あらあら。素直にしびれてほしいのですけれど?」

 

「そうはいきません。スカートがめくられるところはもっと見たいですし、いずれこの力をもってして地球全土のスカートをめくりたいので」

 

「その理想は叶わないわ。ここで滅びなさい!」

 

 部長も攻撃に参加するが、想像以上に奉作はできるようだ。

 

 流石にこれは、厄介だな。

 

 それに反応するように、はぐれ悪魔祓いや増援の魔装具部隊やGFが動き出す。

 

 ついでに言うと、我に返った堕天使二人も殺意を燃やしてこちらを睨み付けている。

 

 さて、どうしたものか。

 

「……確か堕天使がつけてるのは、将式装具一歩手前の汎式装具、空挺刃(くうていじん) 打十(だとう)だったはずだわ。やれないことはないけれど、流石に他に力は避けないのよね」

 

「だったら任せて。私はGFとかの方が慣れてるから」

 

 そう言いながら、冴姫派と亞里亞が前に出る。

 

 そして同時に、どこからともなくGFに匹敵するサイズの鋼の鎧騎士が姿を現した。

 

 というより、数が多い。合計八体はいるぞ。

 

 ……冴姫派も二度見しているところを見る限り、これは亞里亞の方が出したのか。

 

「これなら大丈夫そうね。一志は自分の友達を守っていて頂戴」

 

「どちらにしても、見逃さない人が良そうだからね……っ!」

 

 そしてこっちも激戦スタート。

 

 まあ、順当にいけば俺が出張る相手は決まってるか。

 

「さて、じゃあ俺の相手はお前のようだな。……死ぬ覚悟は持ってもらうぞ、中級堕天使レイナーレ」

 

 俺は鋭い目で、神域装飾を纏いながら祭壇から降りていたレイナーレを睨み付ける。

 

「やってくれたわね、糞餓鬼ども。殺してやる、殺してやる……っ」

 

「こっちの台詞だ。イッセーを殺したことそのものは問わないが、やり口の下劣さには腹が立っているんだ。投降するというなら容赦はするが、しないのなら遠慮なく首をはねてやりたいぐらいにはな」

 

 レイナーレが光の槍を展開するのと同じタイミングで、俺は俺で大乱剣舞を呼び戻す。

 

 そして睨み合いから戦闘の体制に移り駆け―

 

「……待てよ、一志。レイナーレも」

 

 ―一歩、俺より前に踏み出したイッセーがいた。

 

「……男の純情を汚されたり、訳も分からず殺されたり、挙句の果てに友達まで殺されそうになってんだぞ? ……俺がこの手で殴らなきゃ気が済まないんだよ………レイナーレぇえええええええ!!」

 

 ………これは止まらないな。

 

 俺は大乱剣舞をもう一振り展開すると、それでアーシアの前に壁になるように置いておく。

 

「危ないからそこの陰に隠れてるといい。外は返って危なそうだしな」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「……一志もやるのか? アーシアを守っていてほしいんだけど」

 

 イッセーはそう言うが、それは了承するべきでないことなんでな。

 

「なり立てて戦闘訓練も受けてないド素人を、魔装具纏った中級堕天使とぶつけられるか。俺と共闘する形で対応するのが、譲れるぎりぎりのラインだ」

 

 できれば下がっていてほしいぐらいなんだから、そこは了承してもらうからな。

 

「無理だと思ったら、両手両足の関節を砕いて後ろに投げるからな?」

 

「……お前は本当にやるから怖いよ!」

 

「分かってるなら無理はするなよ?」

 

 俺達はそう言い合うと、真っ直ぐにレイナーレを睨み付ける。

 

「殺してやる……、こうなったらあんた達を徹底的に殺してやるわよ、糞餓鬼どもぉおおおおお!」

 

 全力で放たれる光の槍を弾き飛ばし、俺達は戦闘を開始した。

 




 基本的に敵勢力が中心に運用することになるだろうGF関連ですが、三大勢力にはシーグヴァイラがいるので三大勢力合同型GFとか真剣に開発するべきだよなぁと思っている今日この頃です。







 初の生態型心顕術がこんなのですいません。できる限り早い段階で三種類の心顕術を全部出したかったので、こういった形になりました。

 奉作の心顕術はあくまで突風生成能力。ですがそれを己の変態性で可変させる技を作り上げることで、奴はバチカンで同時多発スカートめくりを引き起こした、D×D作品でネームドを張るにふさわしい変態です。いうなれば原作ホーリー編でイッセーが「洋服崩壊を籠手でブーストすることで絶霧製結界装置を破壊」に近い事態となります。









 ………あれ、この作品のホーリー編でアイディアのインスパイアもとになる展開ができそうだぞ? どうしよう?


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第九話 赤き龍帝の産声

 そんな感じで、ディアボロス編のバトル回となります。

 一話で全部終わらせられるバトル編とか、自分の作品だとめったにない展開ですな。どうも日常描写より、戦闘描写の方が筆が進むタイプで……。


 

和地Side

 

 

 

 

 

 

 振るわれる攻撃に対し、俺は大乱剣舞を利用して迎撃する。

 

 一言で言おう、厄介な敵だ。

 

 末端とはいえ仮にも部隊を率いているだけあって、レイナーレは決して無能ではない。管理職にただの無能を配置しない、堕天使側の能力の高さにちょっと困ったものだ。

 

 まあ、余計なことをしたから処罰確定になる当たり、根本的には無能な働き者ということか。

 

 そして問題は、レイナーレが高位の魔装具を保有しているということ。

 

 特殊能力こそ保有してないようだが、王式魔装具は魔装具として間違いなく高い部類。基本性能は高水準だ。

 

 結果として、今のレイナーレは悪魔換算でも割と高い。俺の感覚的な判断だが、上級悪魔の中の上といったところか。

 

 これが聖母の微笑を獲得すれば、確かに回復という付加価値に自衛能力も合わさり、能力的な評価は高くなるだろう。

 

 最も、そんなことをする奴に能力があるのは逆に面倒なことだ。討伐すら考慮に入れた判断を上層部が下したのは的確でしかない。仕事できるな神の子を見張る者(グリゴリ)も。

 

 こっちも大剣を使って弾き飛ばしつつ、隙を見て魔力砲撃で反撃しているが決定打にならない。

 

 屋内戦闘だから威力を絞る必要があるのは事実だが、それを抜きにしても今のレイナーレは強敵だ。

 

 ……強い敵ってのは精神面でも強いとかいうけど、あれは創作物だけの世界だということがよく分かる。少なくとも戦闘能力の高さというものは、異形社会(俺達の業界)はメンタルと比例しないということか。

 

 どれだけ諦めない心で立ち上がろうと、首を切り落とされればそれで終わるしな。所詮メンタルはOSと同様で、精神が肉体の限界を超えるわけがない。

 

 変にテンションを上げない。内心の怒りを制御の主軸にしない。自分が英雄や主人公だと驕り高ぶらない。

 

 目の前の敵を舐めてかかれば死ぬと思え。周囲の横やりがないと思い込めば死ぬと思え。突然のアクシデントで足を取られれば死ぬと思え。

 

 成すべきことをできる範囲。それを突き詰めても死ぬ時は死ぬ。必ず自分が乗り越えられる敵しか目の前に出てくると思うな。神と敵対する俺達悪魔は、天から試練を乗り越えられる範囲内にするサポート何て受けないと考えろ。

 

 この戦いで死ぬかもしれない。ならせめて、できる限りの成すべきことを成してから死ね。

 

 窮地において、死のリスクを踏まえ、感情でアクセルを踏みつつ理性のブレーキを適宜掛けることを忘れない。その執念を持ってレイナーレとの戦闘を連続する。

 

「……うわぁ!?」

 

「ハッ! 腐ったクソガキが私に傷つけられると思ってるんじゃないわよ!」

 

「イッセー、下がれ!」

 

 レイナーレの加速する攻撃速度に、イッセーが対応しきれずに手傷を負う。

 

 俺はそれをカバーしつつ、あくまで距離を開ける為だけの力加減でイッセーを蹴り飛ばした。

 

 できれば、本人が乗り気な雪辱戦を果たさせたいところだった。それぐらいのフラストレーションは溜まっているだろうし、不完全燃焼で終わるよりはいい結果になるとは思っている。

 

 だがやはり駄目だ。これ以上の戦闘にイッセーは耐えられない。見逃さず安全を確保するべきだ。

 

 友人として、アーシア・アルジェントの気持ちを踏まえ、そして何より戦術的な勝利を踏まえ。

 

 俺は心を鬼にすると、全力で殺しに行くべく攻防の速度を上げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、畜生。神様……」

 

『Boost』

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 放たれる砲撃は明らかに絶大な火力だった。

 

 落果奉作が送り出したGF、キョーシンは間違いなく難敵である。

 

 本来、人機同調を基本とするGFは、同時に運用できる動作に限界がある。

 

 肉体の操作のように体を動かすことは問題ない。だが固定武装といった人の体にない機能には限界が存在する。

 

 しかし、キョーシンは遠慮なく各種武装を放っていた。

 

 全身に搭載した自動装填型の滑空砲から砲弾を放ち、更に両手から闘気を凝縮して砲撃を放つ。

 

 群奴も、性能では一打に劣って入るが十分な脅威だ。

 

 必然的にこれに相対する者は苦戦を強いられるはずなのだ。

 

 一で上回られている上、最低でも生身のはぐれ悪魔祓いの平均値はあるだろう戦力による包囲攻撃。

 

 しかし、それを上回る力が八款亞里亞にはあった。

 

「ああもう! 一だけは多いったありゃしない!」

 

 そうぼやきながら、亞里亞は敵のGFと間合いを詰めると、真っ向から組み付いた。

 

 本来サイズ差からありえないその奇跡を成すは、彼女自身が宿す神の奇跡。

 

 彼女は今、全高が7メートルほどある鋼の巨人に乗り込んで戦闘を行っている。

 

 既にキョーシンを一機撃破し、もう一機を押し込む体制だった。

 

 更に周囲の群奴の群れも、5m前後の鋼の巨人が八体がかりでそれを蹂躙。文字通り圧倒という領域に到達している。

 

 今回の任務、十人以上で構成される部隊から彼女が一人だけ潜入していた理由は、大きく分けて二つある。

 

 一つは、彼女はある理由で堕天使側に対する潜入が最も気付かれにくいこと。潜入となれば人数を絞る必要があることから、当然「ばれない可能性」を考慮するのは当然だった。

 

 そしてもう一つは単純明快。彼女が一人敵陣で正体に気づかれても、生き残る可能性が非常に高いことだ。

 

 単純戦闘能力の高さとばれにくさの両立を、最も高い水準で達成している。これ以上に最適な理由は存在しない。

 

 故に、この圧倒は必然以外の何物でもない。

 

「まったく! なんか妙にあった気がする初対面ってだけでも気になるのに、それが二人で悪魔と神の子を見張る者(グリゴリ)とか、後で調べるのも困難じゃない!」

 

 内部にいることで気づかれにくいのを良い事に、亞里亞は盛大に愚痴をこぼしながら戦闘をしていた。

 

「……も~! 私の人生ってなんでこう、足元を掬われそうなことが人生左右するレベルで起きるかなー!」

 

 それを成してなお余裕な程度には、彼女は卓越した力を持っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……神様が悪魔を助けるわけねえか。なら、魔王様だよな」

 

『Boost』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同時に、同様のレベルで圧倒していたのが玉鋼冴姫派である。

 

堕天使二人が保有するのは、空挺刃(くうていじん) 打十(だとう)

 

 グレイブ型の魔装具であるこれは、性能が将式装具に次ぐレベルで高い、高性能な汎式装具。空挺部隊といった精鋭部隊の基本装備として開発されたのではないかと思われる代物だった。

 

 必然的にその能力も高く、油断できるわけがないのだが―

 

「……まずは一人!」

 

「が……っは」

 

 堕天使の一人を撃ち抜き、わずかに残心を加えつつも、冴姫派は意識を他の敵に集中していた。

 

「カラワーナ! なんなんッスか、お前ぇ!!」

 

 同僚を殺されたことで、堕天使ミットルテは激高して攻撃を開始する。

 

 あと少しで、上司のレイナーレが堕天使で大きな発言力を得たうえでそのおこぼれに与れると思ったら、あっという間に状況がひっくり返された。

 

 特に堕天使側から来たというこの女、この女だけは生かしておけないのだ。

 

 間違いなく、神器摘出装置の細工に一枚噛んでいる。でなければ、神の子をも張る者の技術の粋が集まったこの摘出装置をピンポイントで死なないようにいじくるなどできるわけがない。

 

 故に激高したミットルテは、必然的に間違いを犯していた。

 

 何故、魔装具と堕天使の二つが重なったカラワーナを一撃で殺せたのか。

 

 何故、外で激戦ができる規模の部隊で来ているのに、彼女だけが此処に来ているのか。

 

 全ては「想定されているレイナーレ達の戦力全てを相手にしても、戦えるだけの実力を彼女が持っていると判断された」ことに由来することを、ミットルテは一切想定しなかった。

 

 必然的帰結として、冴姫派は攻撃を素早く躱し、瞬時に反撃の斬撃でミットルテを縦に両断する。

 

「……私如きにあっさりやられてるようなのが、至高の堕天使の直属とは、愚かというほかない行動ね」

 

 そう吐き捨てると、静かに残心を取りつつ周囲を警戒する。

 

「さてと。援護するべきだと思うけれど、いがみ合う三大勢力で連携が取れるかとも思えないのよね」

 

 

 

 

 

 

 

「なんでもいい、なんでもいいから……」

 

『Boost』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落果奉作という男は、組織において相応の力量があるメンバーと判断されている。

 

 生態型の心顕術を習得し、更にそれを発展させた技を持つ。そもそもこれができる者は非常に稀少と言ってもいい。

 

 己の生態その物を深層意識レベルで定義している。それが絶対条件故に、生態型の心顕術は安定性という点において他の追随を許さない。

 

 「最難にして最善」は伊達はない。習得することそのものが最も難しが故に、生態型心顕術は高い出力と使い易さに、と低いデメリットと発動条件を併せ持っているのだ。

 

 だからこそ、将式装具クラスの侠式装具を与えられている。彼が簡単に死んでしまうことは損失だと、判断されているからこそだ。

 

「中々、やってくれますね……!」

 

 その彼が、リアス・グレモリーとその眷属に苦戦を強いられているのは、ひとえに彼女達が強いからだ。

 

「祐斗君、風を抑え込みますよ!」

 

「分かっています、朱乃さん!」

 

 女王(クイーン)騎士(ナイト)がその力を持って、突風に干渉して効果を抑え込んでいることが特に厄介だが、同時に単純な力も厄介だった。

 

「小猫、前衛は任せるわ!」

 

「もちろんです、部長……っ」

 

 (キング)とそれを補佐する戦車(ルーク)もまた、連携でこちらを追い込んでいる。

 

 本来、奉作が身に纏っている開門銃(かいもんじゅう) 砲鍵(ほうけん)は、下位の上級悪魔なら十分打倒の余地がある魔装具だ。

 

 通常時でも小型の形成炸薬弾に匹敵する殺傷性能の弾丸を放ち、神域装飾を纏った時には先進国の戦車砲級に威力が高まる。まして拳銃感覚で撃てるがゆえに、連射速度込みなら戦車一個中隊に迫る火力を発揮できる。

 

 例え上級悪魔であっても、下位の者が相手なら十分勝てる。そこに心顕術が加わってこれだ。

 

「なるほど、流石は現ルシファーの妹。あの方々に並び立てる素質は、十分にあるということですか……っ」

 

 故に、彼は判断を決めるほかなかった。

 

「レイナーレ殿には感謝しているのですよ。魔装具の対価とはいえ、こちらが用意した難易度と負担の高い手術をアーシア・アルジェントを利用して補佐したおかげで、傷口を縫合することも手術痕もなく十人近い方々の処置を終えることができた。彼らから得る感謝の感情や今後の援助を考えれば、本当に私の権限内でのアフターサービスは安いぐらいなのです」

 

「やはりね。完全新規のGFを個人で開発できるとは思ってなかったわ」

 

「異形に喧嘩を売れる大組織。そんなのがいるなんて……」

 

 リアス・グレモリーとその戦車が瞠目するのも無理はない。

 

 特にしゃべっても問題ない程度のことでも、それだけの重みがあるのだから。

 

 これで更なる真実を伝えれば、こんなものでは済まないだろう。それこそ神話体系の一つや二つではらちが明かないだろう規模の勢力がいるなど、思ってもいないはずだ。

 

 だが、それを明かすのはまだ少し早い。

 

 故にそろそろ行動に移るべきと考え―

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの糞野郎をぶっ飛ばす力を、俺にくれぇえええええ!」

 

『Exolosion!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのすべての意識を奪い取るだけの、力が目覚める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 な、なんだ、あの力は。

 

「なに、なによ、それは……っ」

 

 レイナーレが動揺しているが、それは仕方がないだろう。

 

 俺もさすがに驚いている。それだけの力が、イッセーの左腕から湧き上がっている。

 

 すぐに冷静になるが、同時に俺はこうも思う。

 

 ここは、イッセーに花を持たせるべきだろう。

 

 こいつが被害者の一人で、もう一人の被害者のことを本心から友達だと思っている。だからこそ、今まで見たことが無いぐらい怒っている。

 

 どうにかできるのなら、イッセーがどうにかするべきことだ。それを踏まえれば、隙をついて俺が殺すなんて幕引きはしてはならないだろう。

 

「ありえない、そんな力を、龍の手(トゥワイス・クリティカル)が出せるわけがない!」

 

 明らかに自分を超える力を見て、レイナーレは完全に半狂乱になっていた。

 

「なんなのよ、あんたはぁああああ!」

 

 その本能で放たれた光の槍を、俺はあえて見過ごす。

 

 止める必要も庇う必要もない。

 

 何故なら、あの程度で今のイッセーを殺せるわけがない。

 

「知るかよ、俺は馬鹿なんだ」

 

 当然のように、イッセーはそれを軽く腕を振るうだけで粉砕する。

 

 そして、今まで見たことが無い本気の憤怒を目に浮かべ、イッセーはレイナーレを睨みつける。

 

「それでも、お前を野放しにできないってことは分かるんだよ」

 

「……ひぃ!」

 

 気圧され怯え、レイナーレは飛び立とうとする。

 

 勝てないと判断して逃げるというのは間違ってない判断だが、しかし遅すぎる。

 

 当然、俺がしっかり伸ばしていた魔力の蛇が、奴の両足を捕らえて飛び立たせない。

 

「な……ぁ!?」

 

 パニック状態になって蛇を切り飛ばすことも忘れたレイナーレを睨みながら、イッセーは俺に片手をあげる。

 

「サンキューな、一志。相変わらず抜け目がないっていうか容赦がないっていうか」

 

「ついでに言えば情けもない。勢いよくやってやれば、それで片がつくさ」

 

 そう言い合いながら、片手でハイタッチを交わし、俺はイッセーを見送りつつレイナーレに残酷な真実を伝えてやる。

 

 精神を更にねじ伏せる加虐はないが、こいつの勘違いを証拠込みで教えてやるぐらいはしてもいいだろう。リアス・グレモリーの兵士(ポーン)がとんでもないことを伝えれば、神の子を見張る者(冴姫派)バチカンと天界(亞里亞)に牽制できるしな。

 

「レイナーレ、お前の目は節穴というか機器類が不良品だな。……流石に兵士換算八駒分の人間なんて、持ってる神器が龍の手でとどまるわけがないからな」

 

 俺がそう言うと、既に決着をつけていた冴姫派も亞里亞も面食らっていた。

 

「……冗談でしょ、準神滅具保有者だって五から六ぐらいのはずよ?」

 

 冴姫派は特にそう言ってたが、だとすると可能性は合計十三。

 

神滅具(ロンギヌス)、それも龍の手と勘違いされるような形状なんて、亜種発現でもないなら一つだけ……っ」

 

 亞里亞の言葉が答え以外の何物でもない。

 

 そう、極めれば神や魔王すら殺しうるとされる、一種に付き一つしか確認されない最強の神器。

 

 十三種の神器の究極、神滅具(ロンギヌス)

 

 そして、俺が知識で知っている限り龍の手と勘違いされるのは一つだけ。

 

 籠手の形で具現化し、龍の魂が封印された神器。それも龍は龍でも神すら超える、三大勢力が一時共闘するだけの脅威だった二天龍の一角。

 

 十秒ごとに力を倍増させ、更に使い慣れればその力を譲渡することができる、その名は―

 

「……そう、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。龍に対応するルシファーを輩出したグレモリー()に、赤き天龍が来るなんてね」

 

 そう苦笑する部長の言葉がきっかけになったのか、ついにイッセーはレイナーレの前に来る。

 

「この、至高の堕天使になる、私が―」

 

「至高? アーシアを苦しめたお前は―」

 

 レイナーレの言葉を遮り、イッセーは籠手に包まれた拳を握り締め、そして力を解放する。

 

「―ただの最低野郎だ! ぶっ飛べ、糞堕天使がぁあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤いその一撃は、驕り高ぶった堕天使を一撃で吹き飛ばした。

 




 ちなみに難易度換算でいうのなら。

 堕天使二人<有象無象全部<レイナーレ<奉作といった感じの難易度です。


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第十話 終わりと始まりは表裏一体。

 そんな感じで、ディアボロス編の最終話です。


イッセーSide

 

 

 

 

 

 

 

 なんだろうな、この感覚は。

 

 粉々に吹き飛んで、光の粒子になって消えていくレイナーレを見て、俺はなんか複雑な気分だった。

 

 スッキリしたようで、なんかもやもやする。

 

 ああ、騙されたからとは言っても初恋だったもんなぁ。初めて告白されたんだもんなぁ。

 

「グッバイ、俺の初恋」

 

 涙が浮かぶぜ、チクショー。

 

「……レイナーレ様……な、なんだこの状況は!?」

 

 その時、なんか後ろから声が聞こえてきた。

 

 みんなが振り返れば、そこには俺を襲った男の堕天使がいた。

 

 ボロボロだけど、外の連中から逃げてきたのか!?

 

「……そういえば、奴とも因縁があったな。どうする?」

 

「え、あれ? 何時の間に……あれ?」

 

 あ、一志が何時の間にか、アーシアを抱えて俺の隣来てた。

 

 あのままだとアーシアが人質になりそうなところにいたけど、何時の間に。抜け目がないにもほどがあるだろ。

 

 俺の友人は怖いぐらいにしっかりしてるな、おい。

 

 まあそれはともかく、アーシアには指一本触れさせねえよ。

 

 俺も拳を構えてそいつを睨むと、そいつの肩に手が置かれた。

 

「……申し訳ありません、敵が予想以上に強くあなた以外の堕天使を討ち取られてしまいました。こちらとしても残念です」

 

 あ! 奉作の野郎、いつの間に!?

 

 っていうか、生き残っているはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)の連中まで集めてやがる。

 

 あ、部長と冴姫派が呆気に取られてる。

 

「「……何時の間に!?」」

 

「これでも数が少ない魔装具を与えられておりますので、これぐらいはできます」

 

 そう言いながら、奉作は後ろに一発ぶっ放してからはぐれ悪魔祓いを蹴り飛ばした。

 

「実利的にも残念です。ことが成された暁には、神の子を見張る者技術を取引するだけでなく、今後も表ざたにばれてはいけない手術を隠す為の処置をしてもらう予定だったというのに。……ですが、最低限の礼儀として生き残りだけは助けることにいたしましょう」

 

「……ああなるほど。手術後の体力の消耗や残る傷跡をショートカットすることにも使えるのか。それなら癌の切除や移植手術にも使えるな」

 

 感心しながら苦々し気になってる一志に頷いて、奉作は一礼した。

 

「いずれこの借りは返すことにします。ドーナシーク殿、事情は後で説明しますので、復讐する気ならばここは逃げてくださいませ」

 

 そう言われて、ドーナシークは奥歯を噛み締めながら俺達を睨み付ける。

 

「……この恨み、必ず晴らしてくれるぞ、グレモリーども………っ」

 

 そして一気に飛び下がって、そのまま姿を消していった。

 

 ………逃げられた。

 

「………堕天使側や教会の協力もあったのに、私達だけっていうのは酷くないかしら?」

 

「「……そう言われても」」

 

 亞里亞とか冴姫派とか言われてたお姉さん達がそう言うけど、俺達からすると「俺達だけ?」になるしなぁ。

 

 そう思ってると、なんかあいつらが消えていたところに紙が一枚落ちてた。

 

 なんだこれ?

 

 気になって拾ってみると、なんか書いてある。

 

 どれどれ―

 

―ちなみに、シーキョンと群奴には情報抹消用に自爆装置が組み込まれています。私達が消えてから二分ぐらいで爆発するので、お気をつけて♪

 

 へ~。悪の組織っぽい仕組みだな。

 

 ……

 

「逃げろぉおおおおお! それ爆発するらしいぞぉおおおおお!?」

 

 俺は慌ててアーシアを抱え上げながら絶叫した。

 

 みんな、大慌て。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 か、かろうじて間に合った。

 

「……盛大に爆発したな。しかもすっげえ燃えてる」

 

 爆発に巻き込まれて崩落し、そしてナパームの影響で燃え盛る建物。

 

 アーシアを抱えて走ったイッセーの、遠い目と共に放たれる疲れがにじみ出る声がやけに響いた。

 

 さて、残された謎はかなりあるし、この後もすることは結構ある。

 

 流石に警察とか消防署に通報されてるだろう事態だし、奉作の所属組織とかがさっぱり分からない。今後の後始末とか後処理とかが大変だろ、これ。

 

 だけど、まあ。

 

「とりあえず、ひと段落だな」

 

「ああ。ありがとな、一志」

 

 俺がイッセーの肩に手を置けば、イッセーも頷いてほっとする。

 

 ああ、レイナーレも討ち取ったことだし、討ち取っても問題ない状態にもなった。

 

 そういう意味では問題がなくなったな。

 

「……イッセーに一志もごめんなさい。まだ一つ、絶対に解決するべき問題が残っているわ」

 

「「え?」」

 

 部長がため息をつきながら、何があったのかさっぱり分からないようなことを言ってくる。

 

 思わずイッセーと一緒に首を傾げたが、さてどういう問題が残っているのか。

 

「あの、イッセーさん達はまだ何かしなくてはいけないんですか?」

 

 そう、アーシア・アルジェントが心配そうに首を傾げた。

 

 ………あ。

 

 俺は心から納得した。一番大事なことに気が付いた。

 

「その通り。悪いけど、アーシア・アルジェントをどうするかについてだけは決着しないと帰れないわ」

 

 亞里亞がそう言うと、真っ直ぐにアーシアを見て頭を下げる。

 

「まずは謝罪を。事情が事情だから追放は詫びないけど、そのあとプルガトリオ機関(我々)が保護できなかったことが原因で、こんなややこしい事態に巻き込んでしまったことには責任があるわ。……ごめんなさい」

 

「え、いえ、気にしないでください! 助けていただいてむしろお礼を言いたいぐらいですから!」

 

 恐縮するアーシアだが、まあ実際、責任がないわけではないからなぁ。

 

「……俺が聞いた話だと、教義的グレーゾーンが主体の組織だから枢機卿にも嫌っている連中がいるんだったな。確か現場を担当する大司教が反対派で、情報を秘匿していたとか」

 

 ここに来るまでの聞いた話を、俺は補足説明として告げる。

 

 本来、アーシア・アルジェントはプルガトリオ機関が保護するのが基本的な形らしい。

 

 知らぬとはいえ、聖女が利敵行為をしたのだから追放も処罰としてはさほど異例ではない。だが悪意があったわけではないし、これだけの素質を持つ者を無視することもあれだとプルガトリオ機関は判断する組織……というか、彼女が持つ聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を持っているメンバーは、一世紀に数人は在籍しているらしい。

 

 しかし教義的グレーゾーンの部隊ということもあり、教会内部でも立場に関わらず嫌っているもは多い。その為今回のような漏らしがあり、察知した時には堕天使側が確保。しかし上層部に情報が言ってないことを察知して、念の為に警戒していた部隊から潜入要因として亞里亞が派遣されたとのことだ。

 

「……念の為言っておくけれど、レイナーレ(アレ)みたいな連中がばかりが堕天使の基本ではないのよ? 既に上層部も、稀少な神器ということもあって相応の待遇を保証してくれているわ」

 

 と、冴姫派もフォローも兼ねて勧誘も行っている。

 

 実際、レイナーレ達が仕事が終わったのにグレモリー次期当主の管轄地にまだいることを怪しんだことで、近くにいた冴姫派の部隊に調査が命じられたそうだ。

 

 そして近くを調べていたところ、捜索を命じられたのを良い事に連絡を入れた亞里亞を発見。同時に俺も二人を見つけ様子見をしていたというわけだな。

 

 で、そこに今度は部長が前に出る。

 

「ふふ。教会の暗部に行くのも堕天使の元につくのも自由だけれど、ここで私はあなたをスカウトするわ」

 

 ……ややこしい事態になってきたな、おい。

 

 俺が半目になっていると、部長はポケットから悪魔の駒を一つ取り出した。

 

「私としても、貴女の神器は貴重だから眷属にしたいと思っているの。私は眷属を大切にするから、待遇についてはこれぐらいわね」

 

 そう言って更に一枚の契約書を取り出すと、裏を見せる。

 

 ちらりと覗き込んだ亞里亞と冴姫派が面食らった。

 

 だろうなぁ。部長は金持ちだし、眷属の福利厚生はちゃんとするし。

 

「……ぐぅ。これでは教会側(私達)のアドバンテージは「一応教会側にいられる」程度しかない! これが、欲を司る悪魔の力……っ。ですが、信徒としての意識が残っているなら、厳しいかもしれませんが悪魔に身をやつさない自己に厳しい心を持った方がいいと思う!」

 

 盛大に亞里亞がダメージを喰らっている。まあ、暗部組織は金はかけられているだろうが立場的には嫌われ者だろうしな。

 

「ま、負けられないわ! 今なら総督達も責任を感じているから、仮面〇イダーみたいに改造施術でパワーアップできるわ! そうすれば、貴方は聖女を超えて超聖女になれるチャンスが……あるのだけど、どう?」

 

 冴姫派は無理に押し通そうとしなくていいと思う。というかそれ、デメリットじゃないか?

 

 なんだろう。亞里亞は押されているようで負けじと押して、冴姫派は押し返しているようで押されているというかなんというか。

 

 さて、アーシアはどう判断するのか。

 

 見るからに戸惑っていたが、アーシアはふとイッセーの方を向いた。

 

「あの、イッセーさんはどうするんですか?」

 

 その瞬間、亞里亞も冴姫派も苦笑しながら諦めの表情を浮かべていた。

 

 部長も俺も、これは勝ちが決まったと目と目で通じ合う。

 

 そして一人、イッセーだけが意味も分からずぽかんとしていた。

 

「お、俺? 俺は部長の眷属だから、普通に悪魔としてやってくぜ?」

 

 全く、そういうことを聞いているんじゃないんだろうけどな。

 

 モテたいとか言っているくせに、盛大に鈍感なことを言ってくる奴がいたもんだ。

 

「……私は、イッセーさんと一緒にいたいです」

 

 ほら、この恋する乙女の発言にすら、きょとんとしているし。

 

「……決まりのようね。なら、一つだけ言っておこうかしら」

 

 そう苦笑しながら、冴姫派は屈みこんでアーシアに目線を合わせると、真っ直ぐに目を合わせる。

 

「……その気持ちの行く先がどうなったとしても、やけを起こして投げ捨ててはいけないわ。例え悲しい結果になっても、それを背負って前を踏み出しなさい」

 

「え? は、はい」

 

 よく分かってなさそうなアーシアの返答に、冴姫派はぽんと肩に手を置いてから、そのまま離れる。

 

 そして亞里亞も、アーシアの方に真っ直ぐ目を向けていた。

 

「アーシア。私もその想いは尊いものだと思うわ。それが汚されるかもと思ったら、例え聞かれた側がショックを受けると思っても、必ず助けを求めなさい」

 

「……はい。よく分かりませんが、覚えておきます」

 

 その答えに、亞里亞も冴姫派も微笑んだ。

 

「……じゃあ、私達は撤収するべきでしょうね。縁がないことを祈っているわ、リアス・グレモリー」

 

「次に会う時は敵同士ね。その時は、容赦なく倒しますので」

 

 そう告げ、亞里亞も冴姫派も自分達の部隊がいる方向に歩き出す。

 

 本当なら、このまま見送るべきだと思う。

 

 だが俺は、声をかけるべきだとふと思った。

 

 理由は分からない。ただ、何となく二人の間に朝焼けが見えたような気がする。

 

 そして、その幻覚を見ると、そうすべきだと心から思った。

 

「……二人とも!」

 

 声をまずかけて、すぐに何を言うべきかを考える。

 

 会ったばかりで、何も知らない。

 

 それなのに、どこかで会ったと思う。

 

 そんな二人がいてくれたからこそ、今日俺達はこの結末を迎えることができた。

 

 だから、きっと―

 

「……ありがとう! 俺は、二人のことを今度こそ忘れない!」

 

 ―そう、自然に出た言葉が答え何だろう。

 

「自分でもよく分からないけど、何故か凄く嬉しいかな」

 

 そう、不思議に思いながらの亞里亞の華やいだ笑顔。

 

 そして苦笑交じりの、だけど同じような冴姫派の笑顔が目にまぶしかった。

 

「そうね。私もなんでか忘れたくないと思っているの。……できれば、戦いになることなく出会うことがあればいいと思うわね」

 

 そう言って、冴姫派は先に暗闇に消えていく。

 

「それじゃあ、運が良ければ、お茶でもね」

 

 そう告げ、亞里亞もまた闇に消える。

 

 本当に、なんでいうべきかと思ったのか自分でも分からない。

 

 言いたいではない。言うべきだと心から思ったから出た言葉だ。

 

 本来敵同士なんだから、どれだけ言いたくても言うべきではないんだ。三大勢力の争いは千年以上続いているから、今の小康状態でも油断できない。

 

 何より、敵に回れば俺は容赦なく切るだろう。心が痛むがそれはそれ。成すべきことを成さずに済ませられる性分じゃない。

 

 それでも、だとしても。

 

 二人とこうして会えたことが、俺はとても嬉しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだ、これが真の嫉妬の炎なのか?」

 

「……イッセーさん、どうしたんですか? すごい怖い顔ですよ?」

 

「あら、イッセーってば信徒や堕天使の部下に色目を使うの? ふふ、自分に正直なのね」

 

 

 

 

 

 

 

 後ろの外野の言うことは気にしない。絶対にしない!

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 奉作に連れられ、ドーナシークたちは謎の施設にまでたどり着いた。

 

 ここに来るまで、転移の回数は五回を超える。またそのすべてが、多少の移動を経由するという念の入れようだった。

 

 これでは一流の異形組織であろうと完璧にトレースすることは不可能だろう。

 

 だからこそ、ドーナシークは戦慄する。

 

 この施設は明らかに優れた技術力が使用されている。

 

 単純な科学技術だけではなく、神秘的な技術も多用されていることがドーナシークにも分かる。いや、分かるからこそ分からない。

 

 この施設に使用されている技術は、先進国の一般的な領域を遥かに超えた科学技術が使用されている。同時に神秘的な技術も、神の子を見張る者の最先端技術に匹敵する物が使われている。

 

 だからこそ、ドーナシークは戦慄する。

 

 人間達では価値を見逃すような、しかし偉業にとって価値のある物品を見つけることで自分達の地位を上げようと、偶々侵入した裏社会のマーケット。

 

 ドーナシークが運良く見つけることができた穿岩(せんがん)のような掘り出し物を探している時に、自分達が堕天使であると分かった上で接触してきたこの男。

 

 そのおかげで多数の魔装具を獲得できたのは僥倖だが、まさかこれほどまでの施設を保有する組織に属しているとは思っていなかった。

 

 ……今更ながらに寒気を感じ、ドーナシークは前を行く奉作に尋ねることを抑えられなかった。

 

「貴様達は何者だ? サタナエルさまが出奔する際に、異形や異能のはぐれものを集めていた可能性があると聞いたことがあるがそれか? それとも、他の神話の者なのか?」

 

 可能性があるとするならそのどちらかだろう。

 

 むしろそれ以外考えられなかったドーナシークだが、奉作は首を横に振る。

 

「いえ、私達はどこの神話勢力の配下でもありません。そしてサタナエル殿の影響を受けた者達による、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)を錦の御旗にした禍の団(カオス・ブリゲート)と名乗る予定の組織でもありません。もちろん、人間の国家が後ろ盾についているわけでもありません」

 

 さらりと出てきたとんでもない情報に、ドーナシークたちは戦慄する。

 

 無限の龍神、またの名をオーフィス。

 

 この世界において聖書の神は愚か、あまねく神話体系のどの強者でも単独では敵わない、二柱の龍神。黙示録の龍(アポカリュプス・ドラゴン)であるグレートレッドと並び立つ、規格外の極み。

 

 その一角が頂点に立つ組織ができていることにも驚いたが、問題はそこではない。

 

 どの神話体系に属するわけでもない。人間の国家が後ろ盾についているわけでもない。まして龍神が率いるような謎の組織でもない。

 

 なら、彼らはいったい何なのか。

 

「おやおや。誰かと思えば営業部門の……奉作くんだったかな?」

 

 その疑問を言葉にするより先に、そんな声が影の向こうから聞こえてくる。

 

 陰に隠れているが、おそらく人間の男で初老といったところか。年の割にしっかりとした体を持ち、白衣に身を包んでいることが分かる。

 

「こらこれは、開発部門の統括者がこんなところまで来るとは。現場の視点ばかりだと、統括者の視点とは合わないのでは?」

 

「そうでもない。現場の視点や感覚を知るからこそ、統括する側は「どうすれば動くか」を知ることもできるからね。なによりよりよりGF(ギガンティック・フレーム)の開発には、生産側・運用側・操縦側の視点は必要だとも。……シーキョンを使ったそうだが、どうだったかね?」

 

「性能は運用目的と要求仕様は満たしています。準神滅具保有者や魔王の妹が率いる眷属が相手なので成果はあまりといったところですが、足止めや露払いを基本運用とする人海戦術用としては十分な成果かと」

 

 そう語り合う二人だったが、すぐに我に返るとドーナシーク達に向き直った。

 

「っと失礼。まずは彼らの案内と挨拶を済ませないと」

 

「それはすまなかった。では、とりあえず私が挨拶をするべきかな?」

 

 奉作に続きながら、男は影から姿を現す。

 

 その姿を見て、何人かのはぐれ悪魔祓いが息を呑んだ。

 

 あまり目立つ特徴のない、初老の男性だ。誰が見ても科学者のそれだと分かる程度だが、いったい誰なのだろうか。

 

 そう思ったドーナシーク達も、次の言葉には目を見開くほかない。

 

「……ろ、ロメール・コモツス。GFを世に広めた、ロメール博士だって?」

 

 その言葉に、誰もがすぐに驚愕する。

 

 下級悪魔クラスでは、一対一だと敗北しかねない強大な兵器。

 

 生命エネルギーを同調と外部動力により増幅させる、いわば仙術の科学的際現に片足を突っ込んでいる、超技術。それがGF(ギガンティック・フレーム)である。

 

 それを開発し、現実の人型機動兵器という誰もが躊躇しそうなものを一気に流通させた謎の人物。

 

 どうやって世界各地の建設業者などに無償提供できるだけの資材と資金を確保し、誰にも気づかれることなく製造していたのかは謎だった。

 

 それが、何故こんなところにいる。

 

 其の疑問符を誰もが浮かべる中。ロメールは大仰に手を広げる。

 

「ようこそ、堕天使とはぐれ悪魔祓いの諸君! ここは我々ディメンタール教団の、営業部門が保有する拠点の一つだよ」

 

 更に混乱が助長された。

 

 ディメンタール教団といえば、世界各地で大量の信者を獲得している邪教集団。

 

 他者を蹂躙する悪意を肯定し、被差別対象を拉致して迫害する危険思想の組織。自ら発表した心顕術だけでなく、GFや魔装具を積極的に投入することで国連加盟国と渡り合う、異形の視点から見ても異常というほかない組織である。

 

 それが堕天使に魔装具を売りつけ、あろうことはGFすら用いてグレモリー次期当主との戦闘を行う。

 

 もはや狼狽というほかない状況のドーナシーク達を見て、ロメールは更に微笑んだ。

 

「さて、いい機会だから君達も悪徳を成そうじゃないか。退廃を齎す過剰な善意を駆逐する為にね」

 

 それはまさに、悪魔以上に悪意に満ちた囁きだった。

 




 ディメンタール教団はがっつり関わる敵勢力です。ここまではうすうす予想できていたことでしょう。

 しかし、GFを開発したロメール博士が最初からメンバーだったり、禍の団とは異なる形で出てくる敵対勢力だとは思ってなかったと思います。思ってたらちょっとびっくりです。

 禍の団は禍の団で強化しますが、それに喧嘩を売れる勢いでディメンタール教団が暴れることになるでしょう。禍の団との戦いは、かなり長い間三つ巴になると思うのでご了承くださいな。









 そして次からは、戦闘校舎のフェニックス編になります。

 自分が各作品で、フェニックス編をしっかり書いているのはかなり少ないです。

 なにせこの戦いは上級悪魔同士のお家騒動といってもいいので、他の勢力をからませることができない。そして原作をきちんと立てる非アンチ筆頭の自分としては「イッセーを活躍させる」と「オリ主も相応に動かす」の両立が必須。必然的に、禍の団を介入させやすいライオンハート編とは異なり、ぶっちゃけやりにくい所でもあります。インフレの加速も足りてないので、ここまで含めると今後の展開とかで苦労するところもあってね。

 ですがこの作品は、相応に練った結果いろんな勢力の魔改造が比較的簡単にできるようになっておりますので、その心配は無用。
 ライザーたちもしっかり魔改造できる下地が整っているので、まあ何とかできると思っております!







 あ、ディメンタール教団の設定も同時投稿しているはずなので、そちらも見ていただけると嬉しいです!

 ついでに一志の設定もちょっと追記しておりますので、そちらもできれば一読くださいませ!


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戦闘校舎のフェニックス編
第一話  欠点があることと惚れる理由があることは別問題。


 銀魂風の題名で始まる、フェニックス編第一話。

 もっとも、今回は序幕程度でしかありませんが。


 一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 今俺は、夢を見ているようだ。

 

 映像は見えるが、体の自由がきかない。

 

 勝手に動く体を制御できない。同時に何もかもがぼんやりとしていて、意識を集中することもできない。

 

 だからこれは夢だと思うが、その光景がよく分からない。

 

 たぶんだが、船にいるんだろう。それも客船とかフェリーの類であり、その外側にある廊下を歩いている。

 

 物珍しげな雰囲気で視界が動いているが、同時になんとなく観察もしている。救命用のボートや筏をちょくちょく観察しているが、好奇心もあるが緊急時の確認だろう。

 

 視界から判断して、たぶん十代前半のころだろう。こんな時から成すべきことばかり考えていたのかと思うと、俺は普通の子供からずれているなぁとなんとなく思う。

 

 そして思うと同時にふと気になった。

 

 ……これはもしかして、過去の記憶を思い出しているのだろうか。

 

 夢とは荒唐無稽なものが出てきたり、内心の願望が投影されたりするなど言われている。その中には過去の思い出をベースにした、再現VTRじみた物もあったはずだ。

 

 これはそういうことなんだろう。となると、覚えがないのに出てくるなら、可能性は一つだ。

 

 俺のぶっ飛んだ記憶。中学二年の春休み。そして四か月の間漂流していたという、俺が人生で最初に死にかけた、大事故。

 

 ハイジャックの結果墜落した旅客機が客船に激突し、十人足らずを除いて全員が死亡もしくは行方不明になった大惨事。

 

 これは、その記憶が元になっているのだろう。

 

 俺がそんな風にぼんやりを思っていると、ふと視界に何かが映り、すぐに俺の視界が二度見する。

 

 あっという間に大きくなっていくのは、間違いなく旅客機のそれだ。しかもこの調子だと、横っ腹からど真ん中にぶつかるだろう。

 

 短時間ですぐに沈没したのも頷ける。やけにリアルなのも、俺が本当に見た光景が元になっている映像だからだろう。

 

 そして俺の体はすぐに動く。

 

 ただ遠くに離れようとするのではない。不幸中の幸いか、俺がいる場所に旅客機は激突しない。

 

 何を一瞬で考えたのかはすぐに分かる。

 

 親に伝える余裕はない。このまま船にいては沈没に巻き込まれる。そして家族のことを考えれば、それこそ俺もまとめて沈没に巻き込まれる。

 

 幸運だったのは、俺の近くに救命イカダがあったことだ。

 

 咄嗟にそのカバーを叩き壊し、海に投げ込むと急いで俺も飛び降りる。

 

 成すべきことをできる範囲で、俺はまさにそれを成し遂げた。

 

 そして俺が祖父から教わった緊急時の飛び込み方をかろうじて成して海に飛び込む瞬間、あまりにも大きな音が鳴り響いた。

 

 海面に飛び込み、何とか海面に上がった俺の視界は、海水の影響もあってぼやけが酷い。

 

 だが無意識に振り返れば、そこでは爆風で貨物室の荷物などを飛び散らせた旅客機がぶつかったことで、横向きに倒れながら、更に真ん中から割れそうになっている客船の姿があった。

 

 流石に唖然としながらも、しかし視線の隅で膨らむ救命イカダを見つけると、すぐにそちらに苦労しながら泳いでいく。

 

 ……俺は本当にやるべきことをしっかりするタイプだったらしい。

 

 最初から救命イカダに備え付けの機器の確認をしていたのだろう。そういえばオールとか多少の水と食料、イカダに入ってきた水をすくうあかくみという道具などが入っていることを覚えている。

 

 救命イカダに這い上がった俺は、すぐにオールを取り出すと、船から離れようとする。

 

 大きな物体が沈み込むと、その影響で更に周囲の物を沈めるような動きを水面はする。それを理解しているからこその行動だろう。

 

 既に視界がぼやけているのは、海水と夢の影響だけではない。

 

 家族は助けられない。そうしようとすれば間違いなく自分まで犠牲になる。これはそういう事態だ。

 

 分かっているからすべきことをする。今誰かを助けに船に戻っていく余裕はない。倒れこんだ勢いで半ば一回転した船は、破損個所から海水を取り込んで一気に沈もうとしている。

 

 できるだけ距離を取らないと俺まで巻き込まれるかもしれない。だからこそ、俺がするべきことは離れることだ。

 

 分かっているから涙が浮かぶ。分かっているからそれでも動く。

 

 ……何だろうな。客観的に見て頭がぶっ飛んでないだろうか。

 

 そう思いながら、俺は過去の俺の行動の再現をその視点で眺め―

 

「……そのまま捕まってなさい! でないと本当に死んでしまうわ!」

 

「でも……でも、こんなところでこんなことになって、こんなのじゃ……死ぬ……」

 

 ―その声を聞けたのは、本当に偶然だったのだろう。

 

 冷静な俯瞰視点の俺ならともかく、正真正銘人生初の窮地にいる当時の俺が、そんなものを聞く余裕があるとは思えない。

 

 そして、俺はそこで成すべきことをできる範囲でした。

 

 すなわち、助けられる余地がある人間を助ける為にギリギリの綱渡りをするという、ただの凡人であっても限定的な状態ならするだろう、真っ当な反応で―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん、映画でこうなったらブーイングが確定だな」

 

 俺は目を覚まして、そんなずれた感想を呟いた。

 

 ベッドから起き上がると、まずキッチンに向かう。

 

 口を一回ゆすいでから、牛乳をコップに入れて、それを呑みながらカーテンを開きに向かう。

 

 水分を取りつつタンパク質や脂質も取れるので、最近は朝起きたら一杯の牛乳を飲むことにした。ビタミンを取った方がいいと思ったのでフルーツ牛乳も考えたが、どうも調べてみるとあまりビタミンは豊富でないから、ドライフルーツ入りのシリアルバーをベッドわきに常備している。

 

 そして朝の光を浴びながら、俺はあの夢を思い返す。

 

「記憶が蘇りかけているのか。だけど、このタイミングだとあれが関わってそうだな」

 

 シリアルバーを牛乳で流し込みつつ、俺は夢を整理する。

 

 夢という形であんな光景を見たのは初めてだ。やけにリアルであったことといい、おそらく過去の記憶が蘇りかけているのだろう。それが混ざり合ったのがあの夢だと考えるべきだ。

 

 ただ、タイミング的にどうしてもレイナーレ達との一件が関わってそうに思える。

 

 時間経過で人間の心の傷も少しは癒えるから、偶々の可能性は確かにある。

 

 ただ、どうしてもあんな機会があったからか、関連付けて考えそうになってしまう俺がいる。

 

 ……もし、だとするなら―

 

「――あの場にいた誰かが、あの事故に関わっているのか?」

 

 ―そういうことになるとしか、思えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺もちょっと意識を変えたこともあり、生活習慣を少し変えることにしている。

 

 朝起きて牛乳とシリアルバーを取るのもその一環だ。本格的な朝食はまだ後だが、寝起きが一番水分と栄養が枯渇している時間帯なのだから、とりあえずまず栄養を補給する。

 

 それで脳をしゃっきりさせながら、新聞やニュースサイトで情勢を確認。

 

 近年はニュースより民間の映像配信サイトの方に重点を置く若い人が多いらしいが、法的な拘束力がない上にネットの掲示板を主体としてそうなああいうのを無条件で信用するのもあれだろう。テレビや新聞を信用できない層がいるのは事実だが、だからネット掲示板などを全面信用するのもあれだ。

 

 だからそれらに合わせて海外のニュースサイト、それも公式で新聞などを発行している類の有料のそれも確認。三つを流し目で見ながら、気になった事件などに関しては、大使館のサイトやそれが関わっているだろう会社といった当事者側のサイトを確認することで、信用できそうな情報を認識する。

 

 腹がこねるまでそれをしたら、腕立て腹筋背筋スクワットを50回5セット。その後汗をシャワーで流して、本格的な朝食を開始する。

 

 食事は娯楽だから好きな物だけ食べるのではなく、栄養補給だけを考えて味気ない物を食べるのでもない。栄養バランスに配慮しつつ好みの味付けの朝食を食べ、身だしなみを整えたうえで、今日の授業でやる科目の教科書を、数ページほど流し読みして簡易的な予習を行う。

 

 こういった生活習慣の見直しをする理由は、単純明快。

 

 ……今後、イッセーは部長の眷属として色々と動くだろう。だから、俺は友人としてそれの補佐ぐらいはできるようになりたいし、すべきだと思っている。

 

 更に今回の兼で痛感したが、このリアス部長の管轄地に入ってくる無粋な輩は、今後とも多いことが予想できる。まして悪魔の長い人生なら、ガチの戦争を経験することも多いはずだろう。

 

 それに備え、少しずつだが生活の形を実戦に備えた者に切り替えるべきだ。同時に、実戦に備えるために日常の生活を削りきらないように戒めるべきだ。

 

 その辺りの塩梅を測りながらの生活を、俺はしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はい! では結論はどうなの、諸君?」

 

「なんでだ、なんでだ、なんでだ、なんでだ……」

 

「駄目よ、あの変態にあんな純真無垢な子を近づけるなんて、やっぱり闇討ち……」

 

「……おのれぇ、イケメン王子の木場とも最近つるんでるし、こうなったらホモの噂を流して……」

 

「……そうよ、どうせ女子に迷惑をかけてるんだし、薔薇に包まれた夢を見せて癒しにするぐらいしても許されるわ……」

 

「っしゃぁ! とりあえずイッセーの阿呆をぶっ飛ばすぞ!」

 

「応ともよ! 俺達の嫉妬の炎で焼き尽くしてやる!!」

 

「やめろ阿呆(あほう)共」

 

 とりあえず、松田と元浜は後ろからドロップキックで黙らせた。

 

 冗談抜きで何をやっているんだこいつらは。いや、分かってるけど。

 

 俺の強襲にガチの警戒を見せている、クラスの男女複数名。

 

 理由は単純。

 

 いまだに月に一度覗きをしかねない、学園の変態筆頭格であるイッセーこと兵藤一誠。

 

 そして転校生であり可憐な天然金髪の外国人美少女であるアーシア・アルジェントが、イッセーにぞっこんだという点である。

 

 凄まじい勢いで人気を獲得しつつ、男子生徒からの告白は申し訳層にしながらもしっかりと断るその在り方。そしてイッセーと仲が良いを通り越し、はたから見てても好意を寄せていることが丸分かり。とどめに知らぬはイッセーばかりなり。

 

 殺意の領域に近づいていることは気づいてたが、まさか本格的な襲撃を警戒するべき領域だとは思わなかった。

 

 まあ、イッセーは変態で迷惑をかけまくっている性犯罪者だ。集団リンチという犯罪で報復されているからあえて警察に通報するという、死体蹴り+大量の女子もしょっ引かれる駒王学園の大損害はしていないが、即通報という展開になったのなら俺は止めない。

 

 だからまあ、そんな男に可憐な美少女が惚れ込んでいるというのは思うところはあるだろう。そこは理解できる。

 

 だからって限度はあるだろう。

 

「あのなあ。相手がどれだけ悪辣であっても、こっちがそれ以上の悪辣で潰していい理由にはならないぞ? 毎度毎度思っているんだが、集団リンチは下手をすれば覗き以上に悪質な犯罪行為だって分かってるか? お前らはどっちかがどっちかを訴えたらその時点で道連れに引きずり込まれて退学どこか除籍処分を喰らう側だって理解しろ」

 

 俺はそう前置きをしてから、とりあえず「これはもうとどめを刺しておいた方がいいんじゃないだろうか?」と判断する。

 

 下手に半端な対応をして、変に長続きするのもあれだ。ここはあえて残酷なことを告げるべきだろう。

 

「……全員、よく聞け」

 

『『『『『『『『『……な、なに?』』』』』』』』』

 

 俺は真っ直ぐに全員を見渡して、はっきりと告げる。

 

「細かい内容はプライベートにも関わるから言えないが、アーシアは人生の選択肢において、駒王町(ここ)にとどまることなく別の場所に行く選択肢も2つほどあった。どちらにおいても色々あって、相応の待遇は約束されているし、良い方は悪いが彼女の来歴的に此処に行くのはある種の最悪の選択と言ってもいい」

 

 実際その通りだ。

 

 追放されたとはいえずっとクリスチャンだったアーシアが、悪魔に転生するというのは文字通りの苦行だろう。祈っただけでも頭痛が襲い掛かるし、十字架や聖水、聖書からも距離をとる必要がある。

 

 暗部とはいえ教会に属せるのは、そういう点においては最適解だ。堕天使側に行くにしても、少なくともいくつものデメリットはなかっただろう。

 

 だが―

 

「アーシアはイッセーが此処にいるから駒王町(ここ)に住むことを選んだ。そしてリアス・グレモリー先輩の助力があったとはいえ、彼女は「花嫁修業」としてイッセーの家に住んでいる」

 

 ―それを踏まえてイッセーを、彼女は選んだのだ。

 

 その意味をしっかり踏まえさせてから、俺ははっきりと告げる。

 

「……意味は、分かるな?」

 

 分かってないのはイッセーだけだが、その重みはしっかり告げておくべきだろう。

 

 その俺の言葉を聞いて、ほぼ全員が崩れ落ちた。

 

 まあ、ここまで聞いて変な嫌がらせをアーシアを思ってする奴はいないだろう。いたらそっちの方が問題だ。

 

 ……一応アーシアに謝っておくべきかもな。とっくの昔にばれているとはいえ恋心をつまびらかにしたわけだし。そもそも上手くぼかしたつもりだが、プライベートにちょっと踏み込む説明までしたし。

 

 俺がそう思っていると、唯一崩れ落ちてない女子が俺の肩に肘を載せてきた。

 

「あんたも中々苦労してるわねー。もうちょっと気楽に生きれるんじゃないの?」

 

「性分だ。……第一、気楽に生きさせたいなら煽らないでくれ、桐生」

 

 俺はこの決起集会で幹事役をやっていた桐生に、ジト目を向ける。

 

 この桐生、悪い奴どころかイッセー達変態3人衆とエロ会話に入れる業の者だが、人をからかって可愛がるところがある。

 

 いじめにならないようにギリギリの範囲は見極めているようだが、この手の被害感情はされる側の感覚なんだから、もうちょっと抑えてほしい。

 

 実際アーシアの恋心がガチなことに気づいている節もあるし、変な知識を教えて炊き付けている節がある。

 

「日本慣れしてないのをいいことに、変な知識をわざと曲解させるなよ? イッセーはイッセーで鈍感ぶちかましてる上にあれだから、下手するとこじれかねないだろ?」

 

「ん~、大丈夫じゃない? 兵藤って意外とその辺ヘタレだし」

 

 否定はできないが、だからと言ってなぁ。

 

 俺がもうちょっと詰め寄るべきかと思っていたら、桐生は先に俺を覗き込むように目を見てくる。

 

「そういえばさ、あんたなら真相が分かってそうな噂を聞いたんだけど、聞いていい?」

 

「何がだよ。それよりイッセーとアーシアの仲を変に引っ掻き回すのは―」

 

「そこにも関わりそうなことよ。兵藤もアーシアも、あんたも在籍してるオカルト研究部にいるんでしょ?」

 

 ……マジな話か。

 

 どうも桐生はマジなのかふざけてるのか読みにくい。

 

 ただ、マジな話なら聞くだけ聞いておくべきだな。

 

「なんだ? 俺だって何もかも分かってるわけじゃないぞ?」

 

「いえ、最近グレモリー先輩が憂い顔になってるって話を聞いたのよ。それも近くで恋バナがされてる時に酷くなるって」

 

 ………そういえば、時々考え込んでいる時があったな。

 

 とはいえ、ちょっと考える程度では思い当たる節はないな。

 

「……単純に、アーシアに当てられて恋愛に意識を向けたとかじゃないか? そもオカルト研究部員、俺も含めて全員純血保ってるどころか恋愛経験すらろくにない奴しかいないし」

 

「そうなの? 引く手あまたな気もするけど?」

 

 桐生が首を傾げるのも当然だが、しかしそうなんだ。

 

「ああ、部長はいいとこのお嬢様だから許嫁とかいるけど、「大学卒業までに彼氏ができたら無し」って感じになってるから、高校三年生()から気にするほどでもないしな。祐斗も特に彼女がいたなんて話は聞いたことが無いぞ?」

 

 実際そうだから、何かあるとは思えないんだが―

 

「木場きゅんは未だフリー!? つまり、私達にも初めての女になれるチャンス!?」

 

「リアス先輩もやっぱフリーか! いや、許嫁はいるけどキャンセル可能なら、俺達の誰かが行けるのか!?」

 

『『『『『『『『『ぃいいいやっほぉおおっっ!!!』』』』』』』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

「失言、だった……っ」

 

「お~、別方面で大騒ぎ。ちょっと面白くなってきたかも?」

 

 桐生、お前もうちょっと楽しんでるのを隠せ。

 




 さて、そんな感じで備えやフォローに回っている一志ですが、まさにこの章はその婚約者がらみで問題が起きる話でもあります。

 とりあえずひねる方向性は決定していますが、そこから少しずつ詰めながらやっていこうと思いますです、はい。


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第二話 貴族の仕来りは平民には面倒くさい者である。

 題名に困った時は、銀魂風にするのが一番楽ですな。


 一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、夜中に電話がかかってきた。

 

 こんな時期に電話なんて、変な奴か緊急事態かの二択しかない。

 

 なので呼び出し表示を見れば、そこには「兵藤一誠」の文字があった。

 

 両方か。そう思った俺は悪くないだろう。

 

 イッセーは常識も良識もあるが、エロが絡むとぶっ飛ぶ変な奴だ。だからこんな時期に電話を掛けるとなれば、それは何かしらの非常事態とかそういったことだろう。

 

 一秒でそう判断すると、俺は外に出る準備をしながら電話に出る。

 

「―どうしたイッセー? 何があった?」

 

『―なあ一志、いきなり裸の部長に迫られてメイドさんが止めに入ったんだけど、これ夢かな?』

 

 ……切るべきかとも思ったが、とりあえず衝動に呑まれないようにしよう。

 

「……まずは深呼吸だ。そして順序だてて説明してくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 で、聞いた話だが訳が分からん。

 

 夜にベッドで横になっていたら、いきなり部長が裸で馬乗りになって「抱いて」とか言ってきたらしい。

 

 なんでも「最適解は一志だろうけれど、祐斗にしろ一志にしろこういうことを受け入れてくれるような子じゃない」とのことだ。最適解としか言いようがないが、なんでそんなトチ狂ったことを?

 

 そしてイッセーがパニック状態のうちに、今度は銀髪でナイスバディなメイドさんが現れて、部長が諦めて転移していったといった感じらしい。

 

 はっきり言ってさっぱり分からないが、とりあえず分かることだけを一つずついうことに使用。

 

「まずその銀髪のメイドさんだが、たぶんグレイフィア・ルキフグスって人だと思う」

 

『そんな名前なんだ。で、なんでメイドさんなんだ?』

 

「なんでも何もマジのメイドだ。ちなみに現ルシファーの女王(クイーン)でもあり、最強の女王(クイーン)とも称されている。……今のグレモリー眷属が総力を挙げても一蹴されるような猛者、冗談抜きで魔王級の戦闘能力を持った傑物と思え」

 

 そう告げて起きながら、俺は状況が分からず首を捻る。

 

 いくら破棄の条件すら付いているとはいえ……いや、むしろついているからこそそんなことをする理由が分からない。

 

 確か期限は「大学部を卒業するまで」だったはずだ。仮にも名門貴族の筆頭格ともあろう者が、後ろ指を刺されかねないような反古をするとも思えない……いや違うな。

 

 そうでもなければ、部長がそこまで暴挙じみた暴走をするとも思えない。

 

 悪魔という種族故に、どうしても人間の平均と比べるとずれた価値観を持っているが、異形というものは人間と精神構造が違う異次元のずれがあるわけではない。

 

 根本的に異文化コミュニケーションレベルでとどまっているようなものだ。外国人との付き合いと同じで、その辺りを理解して尊重する姿勢を見せていればそこまで酷いことにはならない。

 

 まして部長は学園生活を問題なくこなせている。見せてもいいと思った相手にはかなり裸族よりだが、貞操観念は人間目線で破綻しているわけでもない。

 

 ……なんというか、嫌な予感がするな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 日付が変わっていたのでその日の朝。俺達は一旦部室に向かっていた。

 

 イッセーに対して事情説明もきちんとすると言っていたようなので、部長の口から話を聞く方が早いだろう。

 

「……でさぁ、部長って何か悩みでもあるのかな?」

 

「どうだろうね。とはいえ、部長は次期公爵という貴族の中でも最高位だから、それなりにしがらみだってある。その辺りが絡んでいるのかもしれないね」

 

「そうなんですか。部長さんも大変なんですね」

 

「……そうなんです」

 

 と、すっかり打ち解けたイッセー達は移動しながらそう話している。

 

 まあ、部長の婚約関係は、眷属と言えどあまり知られてないのだろう。

 

 俺も確信がない以上、言いふらさない程度の良識はある。俺以外に知っているのは、オカ研に限定すれば朱乃さんぐらいだろう。

 

 俺が知っているのは今後を一応見据えて「もし俺が王族であることを公にしたら、権利と引き換えに結婚関連とかしがらみも背負うんでしょうねぇ」と世間話をした結果、盛大に愚痴を聞かされたからだ。

 

 曰く「彼は私を「グレモリーの」リアスとして愛すのだろう」と前置きし、「グレモリーの名は誇りだけど縛りでもあり、誰もがグレモリー家のリアスという前提で見てくる」と語り、「悪魔グレモリーを知らない人間界は、私をリアス個人として見てくれるかけがえのない物」と告げ、「リアス個人として見て愛してくれる人と一緒になりたいのが、小さな夢」と言っていた。

 

 ……まあ、我儘と言われれば仕方がないことだろう。

 

 だが政略結婚はそうであるからこそ、家同士の繋がりをより良くする為にも双方が納得はするべきだ。それすらなくなれば関係は不仲になり、そんな中で生まれる子供にとっても悪影響だろう。

 

 だからこそ、できる限りの要望を叶えるというのは必要だ。どうもグレモリー側にしろフェニックス側にしろ、政略結婚における双方の根回しが足りてない印象がある。この辺りも異文化ゆえにずれといった感じか。

 

 とはいえ、俺はそういう責任と責務に理解があるからな。部長のことは嫌いじゃないが、恋愛対象として見ているかとなるとそれも違う。

 

 ……あまりに無体な展開になるようなら、俺が立候補するという最終手段もありか。相手の性格にもよるが、俺は政略結婚でならガス抜きも含めて愛人を許容することには理解があると自負している。

 

 同時にこんな方法が最悪を回避する程度でしかないがな。俺もレヴィアタンの責務をこんなことで背負えるかというと自信が無いから、できれば他の落としどころが必要だろう。

 

 ……まあ、これは「部長が約束を反故にされて結婚を強引に進められている」という前提での話だ。そうでないなら、杞憂以外の何物でもない。

 

 そう思ったその瞬間、一歩踏み込んた時の強大な力を察知した。

 

「……僕が、こんなところまで察知できないなんてね」

 

 祐斗も痛感したのか冷汗を流している。

 

 おいおい、これはどう考えてもややこしい展開になってるだろ。

 

 ため息をつきながら、俺は気配が漏れ出ている部室の前に立つ。

 

 他のメンバーはちょっと緊張しているようだが、俺はとりあえずノックをする。

 

「……お前、根性あるな」

 

「食客の俺はともかく、眷属のお前らは躊躇するわけにもいかないだろ。やるべきことなら俺はやるさ」

 

 入るべきではあるからな、まあいきなりドアを開けたことがきっかけになって戦闘とかは嫌だから、ワンクッション置いたが。

 

「……入っていいわ」

 

 その返答が聞こえたので、俺は一歩下がると眷属達の方に視線を向ける。

 

「食客が率いる形だとまずい展開かもしれない。……祐斗、カバーはするからお前が先頭で入ってくれ」

 

 一応のメンツを考慮しつつ、万が一ガチバトルが即勃発してもいいように、俺は必要最小限の魔力を纏ってカバーに入れる程度の力を全身に入れる。

 

 この場の眷属に限れば、今は祐斗が一番強い。立ち位置的にも年長者かつ転生悪魔としての経験も長めなので、選択肢としては有効だろう。

 

「相変わらず、そつがない判断だね。……失礼します」

 

 そして、木場に続く形で部室に入った俺達は、三人の人を見つける。

 

 うち二人は当然の如く、リアス部長と朱乃さん。そしてイッセーとの電話で予測していたが、グレイフィアさんだ。

 

「……ご無沙汰してますグレイフィアさん。最も、昨夜は色々と立て込んでいたようですが」

 

「お久しゅうございます、一志様。兵藤様から伺っているようですが、他の皆様方にも説明をするべきでしょうか?」

 

 俺の挨拶に一礼を返しながら、グレイフィアさんは相変わらずできる人なだけあって反応である程度察してくれたようだ。

 

 最も推測しかできてないから、事情を教えてくれる分にはありがたい。

 

 とはいえ、その前に部長が手でそれを制すと俺達を見る。

 

「私が話すべき事柄よね。そうね、まず端的に言うと―」

 

 その瞬間、魔方陣が室内に展開される。

 

 属性としては転移のそれだ。加えて同時に炎まで撒き散らせているが、驚くことの周囲を燃やしたりはしない。ちょっと暑いだけであり、断じて熱いとは思わない。

 

 魔方陣の紋章とこの特性から判断して、これは本当に厄介なことになっているな。

 

 そんな炎から現れるように、転移されたのは一人の男。

 

「ふぅ。久しぶりだが、やはり人間界の空気は好かんな」

 

 そう答える、ホスト風の男を見て、俺は俺の推測が当たっていることを半ば悟ってしまった。

 

「会いに来たぜ、愛しのリアス」

 

「よしてライザー。嬉しくないわ」

 

 そんな風に言い寄る男と、冷たく突き放す部長。

 

 俺はそれを見てため息をつきたいのを我慢して、即座に裏拳を突っかかりかけたイッセーに叩きつけた。

 

「はぶぁっ! って一志! 部長に近づく悪い虫を振り払うのも眷属の務めだろ!?」

 

「俺は食客だし彼は悪い虫でもない。というより、お前の立場(下級眷属悪魔)が手を出したら、問答無用で殺されかねない人だから。抑えろ」

 

 俺はそう宥めながら、ため息交じりに説明を続ける。

 

 いやほんと、うるさい奴が出てくるから可能な限り避けるべきだからな、こういうのは。

 

 ただでさえ赤龍帝だから、将来的に悪目立ちすることになるんだ。余計な悪評は経たせるべきではない。

 

 なので、イッセーがこっちに意識を向けている間に話を勧めよう。

 

「イッセー、あちらは元七十二柱の一つであるフェニックスの本家。その三男であるライザー・フェニックス氏だ」

 

 俺がそう言うと、察して警戒している祐斗達に変わり、グレイフィアさんが静かに頷いた。

 

「そしてリアス様の婚約者であります。眷属ならば失礼の内容にしてくださいませ」

 

 その言葉に、事情を理解したイッセーとアーシアはぽかんとして―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「えぇえええええええええ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そうなるよなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、流石はリアスの女王(クイーン)なだけある。入れてくれたお茶も上手いものだ」

 

「痛み入りますわ」

 

 100%営業スマイルかつ冷たい空気を纏わせた朱乃さんが、ライザーの本心っぽい褒め言葉にそう答える。

 

 事情が分かり切ってないイッセーとアーシア以外の眷属は、既にライザー氏を警戒している。

 

 というかライザー氏は、部長と同じソファで隣に座り、軽々しく肩を抱いている。部長が振り払っても一切気にせず再開する始末だ。

 

 一触即発とまではいわないが、空気はかなりピリピリとしている。

 

 食客の俺は一応座っているが、場合によっては止めに入った方がよさそうだ。

 

 特にイッセー辺りは切れて突っかかりそうだな。純日本人だから、こういった階級制度に慣れがないだろうし。

 

「……うへへ」

 

「イッセーさん? よだれが垂れてますよ?」

 

 ……おっぱいを見て妄想し、アーシアに心配されているうちは大丈夫か。

 

 まあ、そろそろ話を勧めた方がよさそうだろう。

 

「……さて、誰かが話を進めるべきだと思うので、あえて俺が言わせてもらいましょう」

 

 紅茶を一口飲んでから、俺はあえてカップをコースターに勢いよく乗せる。

 

 その音で注目を集めながら、俺はグレイフィアさんに鋭い視線を向けた。

 

「どういうことですか? 俺は部長から、「大学を卒業するまでに彼氏を作れなかったら」婚約することになっていると伺っていますが?」

 

 そう、そこだ。

 

 仮にも現公爵がそれを認めて起きながら、何故まだ高校生の部長に暫定婚約者がいい寄りに来ているというのだ。

 

 いや、もはやこれは―

 

「既に婚約の準備をごり押ししていると、そういう風に受け取ってよろしいのですね?」

 

「……旦那様やフェニックス卿はそのおつもりです」

 

 なるほど、ねぇ。

 

「おい、一志・L・モンタギュー。お前が上級悪魔の血を先祖返りさせたことで食客となっていることは知っているが、食客止まりのお前が貴族同士の契約に口出しするのか? というか俺は無視か?」

 

 ライザー氏はそう言うが、別にそういうわけではない。

 

 俺がレヴィアタンの血を引いていることまでは隠されているので、個の対応は何も間違ってない。何の実績もないことを踏まえればむしろそうであるべきだ。

 

 だから、俺は努めて冷静に対応する。

 

「まずはグレモリー家の方針を確認したかっただけです。最も仮に公爵が、娘と交わした約束すら反古にするというのは失望物ですがね」

 

 全く。公爵、それも人間の数百倍は生きれる悪魔が数年も待てないとは情けない気がする。

 

 俺より数百年は生きているだろうに。もう少し長い目で見れないものだろうか。

 

 なので正直毒が籠っているが、ライザー氏は鼻で笑った。

 

「まあそういう話は前にも聞いている。だが、悪魔の御家事情はそれをむざむざ許せるようなゆとりがないことも知っているだろう?」

 

 ライザー氏はそう言いながら、ため息を吐き捨てる。

 

 まあ、その辺りの事情は分かっているとも。

 

 そも悪魔の駒(イーヴィル・ピース)による転生制度ができたのは、悪魔全体の数が絶滅を心配するほど激減しているからだ。

 

 まして率いる貴族は半数以上の家が文字通り断絶。悪魔の出生率の低さもあり、この辺りの問題は未だ完全解決を見ていないのは知っている。

 

「先の大戦で純血の悪魔は減り、くだらない小競り合いで跡取りを失って新たにお家断絶することだってある。貴族として生まれそう生きる以上、背負うべき責任というものがあるだろう」

 

 そこは正論だと思っているので、あえて反論はしない。

 

 なので、そのまま発言を無言で促した。

 

「悪魔の世界に新しい風を取り入れる必要はある。だが人間からの転生悪魔に幅を利かせすぎるのも、貴族の純血を途絶えさせるわけにもいかないと思わないか?」

 

「まあ、そこに理解はありますけどね」

 

 その辺に責任関連については、むしろ人より背負いこむタイプなのが俺だ。

 

 底をつかれると反論しづらい所はある。

 

 ただし、此処で抑え込まれると流石にまずい。

 

「……まあ、貴族といて権利を持っている以上、部長が責任を果たすのは当然の義務です。まして貴族ともあれば、その跡取りとなる実子に相応の血を取り入れたいというのは分かります。ええ、俺はそこまで否定はしません」

 

「一志!?」

 

 部長が狼狽するが、俺はあえて続ける。

 

「と言っても、恋愛を望んでいる人に政略を重視した結婚をさせるのです。相応の遊びぐらいは許されるべきでしょう? そこに関しては、そちらも理解できるのではないですか?」

 

 俺が切り返すと、今度はライザー氏が沈黙する。

 

 この切り替えしは有効だろう。ライザー氏にそれを非難する権利はない。

 

 今回の事態、本来成すべきは「発言を反古にして推し進める婚姻を、元の状態に戻すこと」だろう。しかし次点として「せめてリアス・グレモリーが「ただのリアス」として恋愛できる状態の維持」を滑り込ませたい。最悪の場合は「グレモリーの名を捨て、ただのリアスとして野に下る」もあるが、これは部長の性格から言って取らないだろう。

 

「大王バアルの本家は側室制度を取っているのでしょう? 本家次期当主の跡取に純血を求めることは理解しておりますが、恋愛を楽しむ自由を別途で確保する程度の権利、公爵の娘ともなれば許しもいいのでは?」

 

 俺はそう言って視線を向けるが―

 

「一志? 怒るわよ?」

 

 ―頬を消滅の魔力がかすめてしまった。

 

 ……いかん、意図が伝わってない。むしろ意図そのものが不満だったか?

 

「別にハーレムを認めないわけじゃないし、ライザーのそういうことが嫌なわけでもないわ。でも私がライザーと結婚したくないのは、全く別の理由だと知っているでしょう!」

 

「いや、時間がなかったとはいえ説明足らずなのは謝ります。しかし、保険や次善だけでも用意してやりたいという気遣いなんで、ちょっと落ち着いていただけないでしょう……か?」

 

 俺の弁明に、部長も意図を理解したのか額に手を当てて頭痛をこらえている。

 

 まあ現実問題。この言い分や御家問題を踏まえれば、恋愛結婚であったとしても純血の悪魔であることは求められそうだからなぁ。

 

 純血の契約相手としての夫を迎え入れ、恋愛そのものは愛人でとどめるのがラインとしてギリギリだろう。

 

 ……まあ、部長以外の継承権保有者は本家にいるから、そこまで気にすることもないだろうがな。

 

「いくら日は相手側にあるとはいえ、お家がらみでややこしいことは理解しているでしょう? その辺の保険の獲得は重要だと思うのですが」

 

「……いい加減にしてくれないか?」

 

 今度はライザー氏の我慢の限界が来てしまったのか。

 

 ライザー氏は炎を纏い、火の粉を巻き上げながら俺達を睨み付ける。

 

「俺もフェニックスの看板を背負ってきているんでな。ここにきているのは、君の下僕全てを焼き尽くしてでも冥界に連れ帰る為だと、分かってると思ったんだけどな」

 

 また物騒なことを。

 

 まあ、「人は平等ではない」を基本原則とし、実際対価においても個人で計測機器で結果が異なることが当たり前の悪魔社会。加えて下級から最上級までの階級差があり、もとからの貴族はそれとは別の特権を持つ悪魔社会で、誰もが平等の権利というのは理解されがたいか。

 

 まあ人間界でも「怠惰で無能な悪人」と「勤勉で有能な聖人」を平等に扱うのはどうかという意見はあるだろう。あくまで現時点の最適解として平等になっているだけであり、時代が進めばそういうことも新たに起きるかもしれないな。

 

 それはともかく―

 

「あまり我儘ばかり言えると思うなよ、リアス。貴族であるということには、相応の責任というものがあると体に教え込まないといけないのか……?」

 

 これは流石にまずいだろ!

 




 まあ、今回はあまりオリジナル要素を入れれない話でしたね。

 ただ、次の次ぐらいからちょっと変化球を入れる予定です。


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三話 レーティングゲーム

 ……FGO6章の展開に軽くドン引き。

 邪悪とか腐ってるとか言われている状況ですが、個人的に一番納得いく意見としては「社会性がない」「享楽的で刹那的に生きている連中」だったかなぁと。

 そういう人間であっても個人としては善良という手合いはるし、実際そういう「個人としては善良」な人もいっぱいいることを実体験として知っています。そもそも六章でもそういう者たちを登場させていると個人的には感じている。
 それに作品の主人公としては案外探せば近いタイプはいっぱいいそうではある。というより、そこから社会性を身に着けるタイプは、むしろ少年漫画とかでいっぱい出てきている印象がある。

 善とか悪とかそういう以前に、こういう人種がほとんどの世界があれば、そりゃああいう風になるというほかない。




 ちなみに連続投稿がいったん止まったのはそれとは別件です。

 単純に火曜日の仕事がきつかったのと、ちょっと別件で寄り道したら込みまくって数時間待つことになって、精神的にも時間的にも余裕がなかっただけであります。マジでゴメンm(__)m


 一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 ライザー氏は、公爵本家の婚約者に選ばれるだけの素質は持っている。

 

 間違いなく今の部長より強い。本気で暴れられると、流石に犠牲無しで済ませるのが面倒な奴ではある。

 

 だからまぁ―

 

「そっちがそう来るなら、俺も流石に動かないといけないんですが、分かっていますか?」

 

 ―こちらも大乱剣舞を構えて牽制をかけるほかない。

 

 イッセー達グレモリー眷属も、気圧されながらも戦意をみなぎらせている。これは流石に譲れないといったところだ。

 

 包囲してタコ殴りにして負傷をアーシアで回復されれば、ライザー氏だけなら勝てるか?

 

 そう思った時、ライザー氏は更に魔方陣を展開する。

 

 そこから現れる翼の形をした片手剣を見て、俺は真剣にヤバいと理解した。

 

「こちらも遠慮なく伏せ札を使ってもいいんだぞ? コイツの初実戦相手には、十分な相手だとは思うがな……?」

 

「魔装具ですって!? まさか貴方が持っているなんて……っ」

 

 部長も焦るのは当然だ。

 

 ただでさえ格上の悪魔が、更に魔装具まで持っているというのは鬼に金棒以外の何物でもない。

 

 やばいな、これは流石に想定外だぞ。

 

「なめんな! 例え上級悪魔だろうが魔装具だろうが、俺達の部長をお前なんかに渡すかよ!」

 

 イッセーは気圧されることなく睨みつけているが、それは流石に蛮勇だぞ。

 

 どうする? この位置取りだと不意を突いて神域装飾展開を阻止するのも―

 

 

 

 

 

 

「お二人とも?」

 

 

 

 

 

 

 ―その瞬間、間にグレイフィアさんが割って入った。

 

 特に戦闘態勢に入っているわけでもない。自然体といっていい動き。

 

 だがそれだけで、俺は首根っこを掴まれたと錯覚した。

 

 部長もライザー氏も気圧される中、呆れ半分の鋭い視線をグレイフィアさんは放つ。

 

「流石にこれ以上は看過できません。戦闘をするというのでしたら、サーゼクス様の名誉にかけて私が鎮圧します」

 

 ああ、そうだった。

 

 魔装具込みのライザー氏なら俺達を圧殺できるだろう。

 

 だが生身のグレイフィアさんは俺達と魔装具込みのライザー氏を同時に相手して圧倒することができる。

 

「……最強の女王と称される貴女にそんなことを言われたら、流石に俺も怖いよ」

 

 落ち着いてくれてありがとう。いや本当にありがとう。

 

 俺は内心で感謝しながら、今後の展開を考える。

 

 しかしそれよりは早く、グレイフィアさんはため息をついた。

 

「正直、両家の方々もここまでは予想できております。その為、最終手段でレーティングゲームをすることで決着をつけてはいかがかとのことです」

 

 レーティングゲーム。悪魔の駒を保有する上級悪魔が、それによって転生させた眷属を率いて行う教義。

 

 チーム制の武術教義と言っていいそれは、成人した上級悪魔の多くが基本的に参加している。

 

 また成人してなくても、家同士の諍いの決着として、中世ヨーロッパの貴族の決闘のように使われることも多いと聞く。

 

 安全対策はばっちりなされているから、死亡事故はそれこそスポーツ競技のそれを見てもかなり低い部類だろう。少なくとも、いわゆるエクストリームスポーツよりは低い。

 

 だからまあ、納得の対応ではあるんだが……。

 

「そういうこと。……どこまで私の人生をいじる気なのかしら……っ!」

 

 部長が苛立つのも当然だろう。

 

 ライザー氏は現役のレーティングプレイヤーであり、同時に眷属をコンプリートしていることまでは俺も知っている。

 

 対して部長はまだプロデビューをしておらず、何より持っている駒も余りが多い。あと一人は特殊な事情で使えない。

 

 加えて人数に換算すれば、16対6だ。倍以上の数に包囲されるというのはそれだけで脅威だろう。

 

 冗談抜きで圧倒的不利な戦闘だ。これは負ける以外のことを考えられてないやり口だといってもいい。

 

 ―それが貴族のすることか。

 

「……俺としては好都合だが、流石に可哀想な気もするな。……この程度の眷属で、俺の眷属全員を相手にするのは、なぁ?」

 

「んだとこの野郎!」

 

 あからさまにため息までついてきたので、イッセーがかなりお冠だ。

 

 止めるべきかとも思ったが、ライザー氏は対して怒らず逆に得意げだった。

 

「なら見せてやろう。俺の自慢の眷属達をなぁ!」

 

 そして指を鳴らすと同時に、魔方陣が展開される。

 

 再び炎がまき散らされながら、現れる十五人の眷属達。

 

 そして彼女達には、一つの共通点がある。

 

 ……そう、全員女。それも美少女もしくは美女の類だ。

 

 一応弁護しておくと、ここまで徹頭徹尾というわけではないが、上級悪魔の中にはハーレムを作っている者はさほど珍しくない。

 

 まあ、眷属全員でハーレムを作っているのは少数派だとは思うが。

 

 とはいえ、部長が問題視しているところはそこではない。なのでまあ、そこはあまり気にするところでもない。だがしかし。

 

「夢は、叶うんだ……叶うんだね」

 

 イッセー。状況を忘れないでほしいんだが。

 

 正直ライザー側は軽く引いているというほかない。そしてそこに異論は全くない。

 

 感涙の涙を滝のように流している、睨み合う状態にならないとおかしい訳の分からない男。

 

 普通に考えて気持ち悪いだろう。だからお前は持てないんだ。もう少し煩悩を制御した方がいいと思うというか、もうちょっと制御できないのかマジで。

 

「なあ、リアス。君の兵士(ポーン)、俺の下僕達を見て号泣してるんだが」

 

 ライザー氏が思わず真顔で聞くのも仕方がないだろう。これは悪くない。

 

 部長も思わず額に手を当てている。

 

「あの子の夢はハーレムなの。貴女の下僕悪魔を見て、悪魔になれば実現可能だと実感して感動してるんだわ」

 

 本当にドン引きだよ。

 

「きもーい」

 

「ライザー様、あの人気持ち悪いでーす」

 

 ライザー氏の眷属からも評価がこれだよ。

 

 まあ、空気読めと言いたくなる。

 

「申し訳ない。これでも一年前に比べると破格に理性で煩悩を制御できるようになっているんだ。頑張ったんだ」

 

 俺はとりあえず弁護を兼ねて謝罪するが、やっぱり説得力は足りてないな。

 

「……お疲れ様です」

 

 ありがとう小猫。慰めが身に染みる。

 

「まあ待てお前達。上級悪魔を下級悪魔が羨望の目で見るのは当然のことだ。まして俺の在り方に憧れたというのなら、見せつけてやろうじゃないか」

 

 と、そこでライザー氏がなぜか動いた。

 

 そしておもむろに眷属の一人とキス。しかもしっかりイッセーに視線を向けている。

 

 ……流石に意地が悪いぞ。

 

 しかも今度は、他の眷属とディープキスだ。

 

 そこ意地が悪いにもほどがあるな。

 

「とりあえずイッセー、ステイ」

 

 俺はとりあえず、突っかかろうとしたイッセーの後頭部にチョップを叩き込んでおく。

 

「痛っ! 止めるなよ一志、あの焼き鳥野郎、マジでムカつく真似しやがってんだぞ!?」

 

 ここで場外乱闘はややこしいことになるだろうから避けるべきだ。

 

 何より―

 

「態々初見の相手に切り札を見せてどうする。お前ならやり方次第で王式装具程度なら粉砕できるんだから、態々ここで余計な警戒心を見せるべきじゃない」

 

 ―その方が、部長達にとって有利になるだろうからな。

 

 もちろん、ある程度の情報は小出しにしておくのも忘れない。

 

 警戒するべきだがどう警戒するか分からない相手。そういう手札を持っているのは、心理的に有利になるだろう。

 

 実際、今の俺の発言でライザー氏とその眷属は警戒している。

 

「……そんな下賤な下級悪魔くんに、俺が負けると思ってるのか?」

 

「そこまでは言いません。ですが条件さえ満たせば、あなた以外は一撃で倒せる手段を持っているとだけ、言っておきましょう」

 

 鋭いライザー氏の視線が突き刺さるが、俺は気にすることなくそう誤魔化す。

 

 嘘は言っていないが真実は隠す。これで心理的にマウントが取れるといいんだがな。

 

 眷属側からも視線が向けられているが、気にすることはない。

 

 視線だけならどうでもいい。どんな目で見られようと、俺は成すべきことをできる範囲でなすだけだ。

 

「……面白いことを言ってくれるな。何ならお前も出るか? 今のままじゃぁハンデが強すぎて余計な横やりが入りそうだしな」

 

「こちらはもとよりそのつもりです」

 

 真っ直ぐに、俺はライザー氏と視線をぶつけ合う。

 

「ちょっと一志、いきなり何を―」

 

 部長が止めようとしてくるが、俺はあえてここは無視して続けるべきだと判断する。

 

「仮にも貴族が娘との約束を反故にした挙句、こんな出来レースじみた真似をまるで譲歩したかのように見せる悪辣な手法には思うところがありますので。貴方を叩きのめすついでに、思惑を吹き飛ばすべきだと思っていますからね」

 

「言ってくれるな、混じり物のガキが……っ」

 

 一触即発だが、こちら側からは手を出す気はない。

 

 この手の事態で先に手を出すのはややこしいことの引き金だからな。

 

 それに、叩きのめすなら公式に叩きのめせる機会を生かした方がいいに決まっている。

 

 それに、これは通せる可能性は十分にあるはずだ。

 

「不可能ではないでしょう? ライザー氏も乗り気なうえ、リアス部長は眷属の一人を出したくても出せないんだ。俺なら駒価値的にも()の代役には十分なはずです。なにより、俺からのお願いならジオティクスさんも了承してくれるのでは?」

 

 実際問題、これは通す余地は十分にある。

 

 魔王血族が、出したくでも出せないハンデの埋め合わせとして参加したいと言っているのだ。加えて相手のライザー氏もそのつもりである。

 

「……確かに、旦那様も一志様が彼の代理として参加することを要望するのであれば、ライザー様も認めている以上お許しになるでしょう」

 

「それはいい。さっきから馬鹿にされているようで苛立たしかったんでな。まとめて躾けてやるとしよう」

 

 よし、グレイフィアさんとライザー氏から言質は取った。念の為にこっそり録音しているから、万が一の時は盛大に公表してやればいい。

 

「では、決まりということで―」

 

「―ふざけないで!」

 

 俺の台詞を遮り、部長の声が響き渡った。

 

 おいおい、此処で部長が待ったをかけますか。

 

「私が私の都合で行うレーティングゲームよ。下僕達だけならともかく、食客とはいえ眷属でない子を巻き込むつもりはないわ。それが私なりのグレモリーとしての責務よ!」

 

 ………しまったぁ。そういう方向で責任感を発揮するかぁ。

 

 まあ、自分の我儘にあまり人を巻き込みたくないというのは分かる。むしろ美徳と言ってもいいとは思う。

 

 だけど、これは流石にまずいだろ。

 

「部長、これはそういう問題ではありません。はっきり言ってどう考えても圧倒的に不利な展開なんですよ?」

 

「それとこれとは別の問題だわ。私の我儘は私の責任の範疇でどうにかするべきことよ。それが、グレモリー次期当主としての責任というものだわ」

 

 ……これは、説得は難しいか。

 

 祐斗達も止める様子はないし、イッセーに至っては感銘すら受けている。

 

 俺も食客であって眷属ではない以上、これではごり押しはできないか。

 

「……ならこうしよう。十日ほど時間を空けてやるから、その間に牙を研ぐといい。その上で、一志(そいつ)や例の僧侶(ビショップ)が関与できない以上、俺は魔装具を使わずに相手を使用」

 

 俺が歯噛みしている隙に、ライザー氏はそう言った。

 

「私にハンデをくれるというの?」

 

「感情だけで勝てるほど、レーティングゲームは甘くない。どれだけ力や才能や技量があっても、初陣では力を発揮できずに敗れる奴だって何人もいる」

 

 部長の苛立ちの視線を真っ向から受け止めながら、ライザー氏は真っ直ぐに言い返す。

 

 そこにはレーティングゲームを既に何度も経験している者が持つ、重みのある説得力が込められていた。

 

「態々戦力の補充を断ったんだ。せめて今ある戦力を鍛え上げる程度の努力はするんだな。その程度できないようでは、レーティングゲームで勝ち上がることなど夢でしかない」

 

 その真っ直ぐな言葉に、部長も気圧されたのか沈黙し……静かに頷いた。

 

「その情けが負けに繋がっても、後悔しないで頂戴」

 

「ぜひとも食らいついてほしいものだな」

 

 そう告げ、ライザー氏は転移の魔方陣を展開する。

 

 そして帰るその直前、イッセー達を見渡してはっきりと告げた。

 

「精々無様を晒さないようにするんだな。……お前達の一撃はリアスの一撃だと覚えておけ」

 

 ―――なるほどな。

 

 確かに、ジオティクスさんが部長の婚約者として見繕ったわけだ。

 

 ただの嫌な貴族というわけではないし、女好きなだけでもない。部長自身が「「グレモリーのリアス」としては愛す」と認めるだけのことはある。

 

 部長、勝てるのか………?

 




 まさかライザーが魔改造されるとは思ってなかった人たち、挙手







 あと、レーティングゲームに参加することが無い一志ですが、リアスってなんだかんだで責任感はあるし誇り高い所もあるから、たとえ勝算が下がって


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第四話 不穏の前兆

 さて、リアス達のレーティングゲームに参加できなくなった一志。

 ちょっとその視点でのオリジナルの話です


 

 一志SIDE

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことがあってから、三日が過ぎた。

 

 今、部長達は駒王町にいない。

 

 というのも、今グレモリー眷属はライザー氏とのレーティングゲームに向けて山籠もりをしているからだ。

 

 どうも部長は形から入るところがある。あと、殺し合いの難易度の高さを他の物事にも組み込みたがる癖がある。

 

 何事もそれに適した能力を持っているかは重要だ。その辺り、俺が言うことでもないけど部長はまだ若いということなんだろうか。

 

 ……いや、あの人のノリというか傾向というべきところだし、百年経っても変わらないかもしれないな。

 

 まあそれはいいだろう。そこは今どうでもいいことだ。

 

 俺としても口惜しいが、部長が俺の協力を断った以上俺の出る幕はない。

 

 責任感が強いのは結構だし、できずに負けたとすればそれはそれで従うだろう。リアス部長はなんだかんだでそういう人だと分かっている。

 

 分かっているが、なんというか少し不安だ。

 

 部長の兄君であるサーゼクスさんは、戦争で敵対した女性と婚約し、冥界でも屈指のラブロマンスとして激や映画の題材となっている人物だ。そして驚異的なシスコンでもある。

 

 あのサーゼクスさんが、こういう展開に物申さないとは思えない。魔王の立場からある程度は抑えているだろうが、仕込みの一つぐらいは入れている可能性がある。

 

 不安だ。真剣に不安だ。

 

 俺はそう思いながら、コーヒーを一口飲んで心を落ち着ける。

 

 なんというか手持無沙汰だったので、俺は喫茶店でちょっと手の込んだ料理を食べに来ていた。

 

 やはり手の込んでいると感じられるものは、単純な味や好みとは別のところで俺に響く。味よし栄養よしでもあるからこそ、尚更いい。

 

 このハヤシライス本当に美味しいし、週一ぐらいで食べに行ってみようか。

 

 ……なんというか、たまには遠出をしてみるものだ。

 

 二駅分ぐらいの距離だから、ちょっとランニングする程度で十分いける。他のメニューにも手間暇かけるレベルの物もあるし、真剣に考えてみよう。

 

「ご馳走様。お勘定をお願いします」

 

「ありがとうございました。では、1200円いただきます」

 

 この味で1200円なら十分安い。適正価格なのか不安になるぐらいだが、もうちょっと利益が高くなりそうなメニューも同時に頼むべきかもしれないな。

 

「……おーい、卵が切れたから買ってきてくれないか?」

 

「あ、じゃあ私が行ってきます!」

 

 俺がお題を払っていると、バイトらしき子が店長にお使いを頼まれていた。

 

 そのまま通用口から出ていくのをちらりと見ながら、俺はお題を払い終えて退店する。

 

 そのまま少しぶらりと歩きながら、しゃれた菓子店を見つけたので、部長達が特訓から帰ってきたときに何か送ろうと思って、ちょっと物色。

 

 そして菓子を買ったので、電車を使って帰ろうかと駅に向かったとき、ちらりと人が見えた。

 

「……あの、子供が血を流して倒れてたんだけど、携帯の電池が切れちまってるんだ、代わりに呼んでくれないか!?」

 

「えぇ!? ちょ、ど、どこですか!?」

 

 ……さっきのバイトの子が、そんな風に目立たない若者に言われて走って行っている。

 

 だが、俺はその若者を見てぎょっとなった。

 

 これはちょっとまずいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どこにいるんですか? 血を流してるならすぐに通報しないと―」

 

 そう辺りを見渡す女性に対して、男は即座に動く。

 

 久しぶりに見た美味しそうな女を見て、彼は実験台として使うことを決めていた。

 

 故に躊躇することなく姿を戻し、相手が気付く前に爪を突き出し―

 

「―そういうのはよしてくれ」

 

 ―その爪が、割って入った大剣に防がれる。

 

「なん―」

 

 だというよりも早く、更に側頭部に蹴りが叩き込まれる。

 

 それで揺らいだその瞬間に、蹴りを叩き込んだ男は女性を横抱きにしてこちらから距離を取った。

 

 不愉快だ。不愉快だ。不愉快だ。

 

 他種族如きが、自分達の狩りの邪魔をするかっ

 

「ぶち殺してやるぜ、ガキィ……っ!」

 

「……此方の台詞だ。部長や会長の管轄区外だが、だからと言って人間を相手に趣味の狩りをするなよ、下衆が」

 

 そんな真っ向から敵意を返してくることも気に入らない。

 

 自分達は最も自由であり、本来誰にも縛られない存在なのだ。

 

 人間の姿において人間の法を守ってやってくださっていることを感謝するべきであろうに、寄りにもよって狩りの邪魔をするなど許さない。

 

「てめえも食い殺してやるよぉ、餓鬼ぃいいいいいいい!!!」

 

 その怒りを全力で籠め、男は爪を振り下ろす。

 

 素早く回避されるが、そのすぐ後ろにあった乗用車を軽く切り裂くことはできた。

 

 今の自分の体は、縛りを受け入れたことでより強くなっている。だから負けない、自由に狩れる。

 

 だからこそ、恐れおののいているだろうその男をあざ笑う為にゆっくりと振り返り―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅すぎるな、お前」

 

 何故かゆっくりと隙だらけで振り返るその存在に、俺は魔力の弾丸を一発叩き込んだ。

 

 全力からは程遠い、俺に意識を向けさせる為の挑発の一撃だ。

 

 そして思いっきり怒りで震えているそいつに警戒だけは残しながら。俺はバイトのお姉さんに声を投げかける。

 

「そこに隠れていれば、すぐには気づかれません。少し待っていれば人が来ますから、動かないでください」

 

「え、あの、貴方は―」

 

 問いに答えてる余裕はない。今優先するべきは彼女からあの男を引き離すことだ。

 

 素早くけん制の一撃を何発の叩き込みながら、俺は男を引き付けるように走り出す。

 

 一応簡易的な結界を張っているから、バイトのお姉さんは大丈夫だろう。

 

 というより―

 

「そういうわけなので、すいませんが事情が分かる人を送るように、最寄りの警察署に連絡をお願いします」

 

『わかった。増援は必要かね?』

 

「とりあえずは大丈夫かと。とはいえ話をしている余裕はないので、位置情報だけ確認をお願いします」

 

 俺だけ動いて何とかしても余計な混乱が生まれるから、なんとかできる人に連絡するべきであることは言うまでもない。

 

 なので部長経由で一応連絡だけはできる、駒王町側の人間に連絡して、現地の警察署の事情を把握している人物を動かしてもらうように繋げている。

 

 とはいえ、流石にこれは面倒と言うほかないな。

 

 何より厄介なのは、奴が人間社会に対して何の配慮もしていないことだ。

 

 躊躇なく異形の姿で動き回っている。何とか人気のない所を移動しているが、見られた時の誤魔化しをどうすればいいのかが問題だ。

 

 ……全く、迷惑極まりないだろう。

 

「―少しは恥じたらどうだ、ドラゴン!」

 

 振り返って一撃を放つ。

 

 それを腕の一振りで薙ぎ払い、その龍はこちらを睨み付ける。

 

「……はぁ~? ()たちが人間なんかになんで配慮しなきゃらなねぇんだよ、バッカじゃねえの?」

 

 そう返すドラゴンは、おそらく朱炎龍(クリムゾン・ドラゴン)のようだが、体の一部を包む発光している刻印が気になる。

 

 最初に攻撃を入れた時などは、もう少し光量が強かった気がするんだが、考察は今するべきことじゃないな。

 

 何より、ここまで狼藉が酷いのは流石にまずい。

 

「それをされると悪魔側(こちら)にとっても迷惑だし、どの勢力もいい顔をしないだろう。……くだらない我儘で自分の首を絞めるのが趣味か?」

 

「は~? 神だの悪魔だの下等生物が、龍を上から目線でどうにかしようってのがむかつくんだよ。……それに、もうそんなことを気にしなくてもいいからよぉ?」

 

 ……馬鹿なのか?

 

 その龍にしたって、二天龍は神器に封印され、五大龍王も引退や封印を受けているはずだ。

 

 いくら龍が強大な存在だからって、こいつ程度の低レベルな奴が何を言うのやら。

 

 何より、この無責任ぶりには個人的に不快感も出てくる。

 

 自分が好きに動いた結果、どうなるかということを何も考えていない。無法者というほかない奴だ。

 

 こいつは、野放しにしていい輩ではない。

 

 ここで、潰す。

 




 さて、ここでオリジナル戦闘です。


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第五話 運命の恋物語、開幕

 はい、ちょっとしたオリジナルバトルがスタートです!


 一志Side

 

 振るわれる爪を回避し、そして即座に反撃を叩きこもうとして、それより早く来る追撃を回避する。

 

「ひゃはははは! 獲物風情が調子乗るんじゃねぇええええ!」

 

 そう吠える龍は、明確にポテンシャルが高い。

 

 まず間違いなく上級悪魔クラス。それも中堅どころには到達しているだろう。

 

 正直解せない。

 

 最初の攻防で察せられるのは、こいつはそんなに大した奴じゃないということだ。

 

 龍なだけあって、中級悪魔クラスは余裕であっただろう。だが同時にその程度でしかない。

 

 はっきり言って、魔装具込みのレイナーレの方が数段上だ。それが、今は互角に渡り合えるレベルにまで強化されている。

 

 振るわれる攻撃をいなしながら、俺はそこが懸念だった……が、すぐに気づいた。

 

 見れば、奴の刻印は小さくなり、光も弱くなっている。

 

 これはあれだな。そういう能力なのかブースターなのか。

 

 この光の消耗具合なら、時間稼ぎをすれば十分勝てる。

 

「クソガキがぁ! いつまで逃げれるか見ものだぜぇええええ!」

 

 そしてこの調子に乗りすぎた対応。馬鹿なんじゃなかろうか。

 

 自分が持久戦で勝てると自惚れているところといい、行動があまりにもずさんなところといい、はっきり言って阿呆としか言いようがない。

 

 だが警戒するべきところはある。

 

 具体的に言えば、奴が気になるところを言ってきたことだ。

 

―もうそんなことを気にしなくてもいいからよぉ?

 

 この発言が気にかかる。

 

 いくら何でもこいつ程度の輩が、ここまで阿呆なことをして人間世界に害をなしてただで済むわけがない。

 

 日本にだって五大宗家という異能集団が存在する。それはそれとして日本の首脳陣が悪魔と契約することで、対応可能な戦力を送る可能性もある。現地の妖怪や八百万の神々が動く可能性もなくはない。

 

 全てにおいて悪手だろう。流石にコイツ自身、自分が神や魔王に喧嘩を売れる手合いであるなどという自覚はないはずだ。

 

 となれば、奴の後ろに何かがある。

 

 神や魔王と戦争を行えるだけの後ろ盾が、こいつにはあると考えるべきなんだろう。

 

 ……幸い電話は繋いでいる。声が遺されることは十分あり得るだろう。

 

「……俺に万が一があった時は、この会話を冥界政府()にお伝えください」

 

 そう呟いたうえで、俺は声を張り上げる。

 

「……神や魔王すら恐れぬ龍よ! お前達はいったい何者だ!」

 

 この馬鹿なら、口が滑って少しぐらい情報を出してくる可能性は少なからずあるだろう。まあなくても時間を稼ぎさえすれば、こいつのガス欠は十分狙える。そうでないならその時成すべきことを考えればいい。

 

 そこまで踏まえ、俺は防御態勢を取りながら答えを待つ。

 

「いいぜぇ! 冥途の土産に教えてやらぁ!」

 

 ―いう可能性はあるとは思っていたが、こうも気持ちよく言おうとするとは思わなかった。

 

 嬉しい誤算だ。これはかなり情報を確保できる。

 

 さあ語れ。すぐ語れ、俺も記憶するが電話越しにも聞こえるように、大きな声で語ってくれ。

 

 俺は一字一句記憶するべきと判断し、奴の口が開くことを待ち―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでにしなさい、このおバカ」

 

「へぶぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 ―突如舞い降りた少女の踵が、龍の口を強引に塞いで地面に叩き付けた。

 

 状況は分からないが、奴の増援というよりかは、余計なことを言わせない為の迎えと取るべき。次点で敵の敵といったところか。

 

 こちらに敵意や殺意を向けてないことから、すぐに攻撃を仕掛けてくる可能性は引く。なら周囲にさらなる増援が来ないかどうか、そちらの警戒にも意識を割く。

 

 大剣を盾にしつつ様子を伺うと、少女はため息をつきながら踵をぐりぐりと奴の上あごに押し込んだ。

 

「マジやめてくれない? 私はあんた達のことは嫌いじゃないけど、こんなところでぺらぺらぺらぺら内情しゃべらないでよね。たまたま近くに来てたからよかったものの、これでウチが潰れるようなことになったら殺してるところよ?」

 

 そうため息をつきながら、少女は今度は俺を見る。

 

 ………俺は息を呑み、彼女は少しだけ目を見開いた。

 

 縁は無い。会ったことは無い。こんな顔は記憶になく、亞里亞や冴姫派のような「どこかで会った」ような気持ちすら浮かばない。

 

 だが、その一瞬で俺は一つだけ分かった。

 

 直感した。

 

 確信した。

 

 悟ったと言っても過言ではない。

 

「………君は一体、誰だ?」

 

「……そうね。貴方には何故か名前を言いたいわ。なら教えてあげる」

 

 その苦笑交じりの微笑みを、俺は一生忘れないと、万年生きれる悪魔の若輩者にも拘らず、何故か強く思ってしまう。

 

「ジュリア・C・コロンブス。コロンブスの意思を継ぎたいと願う女。ジュリエットって呼んで頂戴?」

 

 その名前を、生涯記憶すると、先のことなど分からないのにそう決意した。

 

「貴方の名前は? すごく聞きたいのよ」

 

「……一志・L・モンタギューだ」

 

 それを聞いてほしいと、覚えてほしいと、俺の魂が叫んでいた。

 

 そして俺の返答を聞いて、少女は頬を赤らめながらはにかんだ。

 

「そう、ならロミオと呼ぶわ。ええ、そう呼びたくてたまらない」

 

 俺はこの時、何を成すべきかを考えるのが数秒遅れた。

 

 そしてその隙をついて、ジュリエットは龍を抱えると瞬時に跳躍する。

 

「縁があったらまた会いましょう! そして―」

 

 そう、これは俺と彼女の物語の始まり。

 

 

 

 

 

 

 

「私とあなたで殺し合いましょう! 嫌だと言っても殺しに行くわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ―血塗られたお互いが恋願う、鮮血の恋物語(ラブストーリー)のプロローグだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……不覚でした。本当に不覚でした。本気で土下座案件です」

 

「そういう問題じゃないわよ? というより、貴方が一目惚れなんて概念を経験するとは思ってなかったわ」

 

「部長に同感です。……一志、お前って一目惚れなんてするキャラだったか?」

 

 リアス部長とイッセーにそう言われると、実際俺も同感だから頷くしかない。

 

 よもや俺が一目惚れをするとは。

 

 一目惚れってつまり、外見だけで判断するか直感オンリーで判断するかだからな。俺みたいなタイプはそれなりに知り合ったりして判断する男だと思うから、どう考えてもキャラと合わない。

 

 自分でも不思議なぐらい彼女に目を奪われて、部長達が帰ってくるまで三十回はふとあの笑顔を思い出したぐらいだ。

 

「……何がどうしてこうなったのか、本気で疑問符だ。人間にしろ悪魔にしろ、生物は曖昧な存在だということか」

 

 本気で俺も首を捻る。

 

「いや、これが恋愛感情なのかというのはそれはそれで疑問ですけどね? 何より前提条件として、俺は恋愛経験が無いからこれが一目惚れなのかもそれこそ不思議なんですけどね?」

 

「っていうか、そのジュリアってお前のことを「ロミオ」って呼んだうえで「ジュリエット」って呼んで欲しがったんだろ? ……縁起が悪いぞ」

 

 イッセーがそうげんなりするが、まあこれは仕方がない所もあるだろう。

 

 ロミオとジュリエットなんて、この国でも子供すら知ってるだろう悲恋だ。

 

 対立する二つの家に生まれた男性と女性が、対立に巻き込まれ情報のすれ違いを起こし、二人とも死んでしまうという悲劇の物語。その主人公ともいえるカップルだ。

 

 態々それになぞらえるなんて、中二病かメンヘラ化、とにかく問題のある少女なんだろうな。

 

「そして刻印の力を借りて強化される朱炎龍ねぇ? どういう原理かは分からないけれど、五大宗家や高天原も警戒しているようだわ」

 

 部長はそちらの方も気にしているが、これは当たり前だ。

 

 いくら龍が種族として最強格であろうと、個人であの程度の龍が神や魔王を警戒しないわけにはいかない。

 

 それなのにあんなことを言った以上、何かしでかす可能性は間違いなく大きいって奴だ。

 

「今後を踏まえると要警戒ね。既に魔王様にも連絡が言っているはずだけれど、後であなたからの視点の資料を提出した方がいいと思うわよ」

 

「了解です。あとでレポートを作らせてもらいます」

 

 そう返すと、俺は何故かイッセーがじとりと見ていることに気が付いた。

 

「……一志、その助けたお姉さんとは、そのあと何かあったのか?」

 

「残念ながら期待外れだ。事情が事情だから記憶処置は施しているし、当面は刺激したくないからあの喫茶店にも行けないんでな」

 

 全く持って困ったものだ。

 

「……個人的にあそこの喫茶店のメニューは今後も食べたかったんだがな。あの龍は機会があれば今度こそ捕縛して突き出したいところだ」

 

 俺がそうぼやくと、イッセーとリアス部長はちょっと半目だった。

 

 そっち?……とかそういう感じの視線なのは分かるが性分だ。

 

 会ったばかりの女性とラブロマンスとかは柄ではない。

 

 だからこそ、ジュリエット……ジュリア・C・コロンブスのことは俺にとってかなりのイレギュラーだ。

 

 ある意味で、冴姫派や亞里亞と同格以上の展開と言ってもいいだろう。俺の人生、ここ数か月で一気に急変しすぎではなかろうか?

 

 まあ、それは今どうでもいい。

 

「俺の恋愛より部長の婚約問題です。今日のレーティングゲーム、勝算はあるんですか?」

 

 そう、そこが重要だ。

 

 十日間の特訓で、どこまで高められているかの問題だ。

 

 特に重要なのは、伏せ札と言えるアーシアの回復能力と、同じく伏せ札となっているイッセーの赤龍帝の籠手だ。

 

 悪魔すら治療できる回復能力と、極めれば魔王すら殺せる絶大な力。

 

 運用次第で状況をひっくり返すジョーカーになりえる。そこは間違いないんだがな。

 

「……基本的に、アーシアは部長につけることになってる。一番重要なのは(キング)の部長だしな。俺達は状況次第で合流して回復ってことになるかな」

 

「イッセーに関してはだいぶ仕上がったわ。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)も倍加を溜めて叩きつければ、ライザーにすら届くはずよ」

 

 イッセーと部長の言葉を聞いて、勝機は確保できたことを理解した。

 

 ライザー側は圧倒的有利であることから、受けに回った方向性になるだろう。また自身の不死と眷属の数の多さから、レーティングゲームにおいては駒をあえて撃破させて後の有利をとる戦法をとることが多い。

 

 必要な時は誰かを切り捨てることもできなければ、大きな集団の長は務まらない。私的にそういう戦法を好かない者は多いだろうが、一つの立派な戦略ではある。

 

 なりふり構えないところのある実戦ならともかく、たかがゲームでそこまで酷い事をしたくないという者はいるだろう。

 

 まず死なないゲームならまあ仕方がないが、本当に死ぬ実戦で仲間を見捨てられないという者もいるだろう。

 

 どちらであってもそんな勝ち方は御免だという者もいるだろう。

 

 そして、俺のようにどちらであってすべき時はする者もいるだろう。

 

 その上で、見捨てる選択をとることで心が痛むかどうかも別問題。

 

 ……思考がずれたな。今はライザー氏とリアス部長のレーティングゲームのことを考えるべきだ。

 

 といっても、俺はどうあがいても関与できない身だ。ここからは黙って見守ることしかできない。

 

「……部長、試合の内容は観戦させてもらいます。その上で、ご武運を」

 

「ええ、ありがとう。その応援に恥じない戦いをして見せるわ」

 

 その笑顔が、曇らないことを心から願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試合内容は、善戦という言葉を遥かに超えた戦いだったといえるだろう。

 

 ライザー氏の眷属は、女王のユーベルーナと僧侶のレイヴェルを除いて全員が全滅。レイヴェル嬢はライザー氏の妹君で、レーティングゲームには基本参加しないスタンスだから殆ど全滅と言ってもいい。

 

 また、イッセーの編み出した洋服崩壊(ドレス・ブレイク)には頭痛を覚えるほかない。

 

 イッセーの皆無に近い魔力量で、あそこまで効果的な破壊力を発揮させるとは煩悩おそるべし。奉作の編み出した祝福風路(メクル・メイク)に感銘でもうけたのかあのバカは。

 

 そしてイッセーが赤龍帝の籠手の新たな力を会得したのも、大きな貢献だろう。心の影響を受ける神器ゆえの奇跡だろうが、最初から分かっていればもっとやりようはあっただろう。

 

 ……だが、結果だけを語るのならば単純だ。

 

 リアス・グレモリーは敗北した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Other Side

 

 

 

 

 

 

 

「あら、意外と善戦してたのね」

 

 記録映像を見ながら、ジュリア・C・コロンブスはそう感想を告げた。

 

 とある伝手から入手した、恋しいロミオを食客として迎え入れているリアス・グレモリーが婚約をかけて婚約者のライザー・フェニックスと行ったレーティングゲーム。

 

 気になったので伝手を利用して記録映像を見ていたが、中々興味深い戦いだった。

 

 圧倒的な数的不利に、切り札と言える回復役と赤龍帝(ロンギヌス)は、実戦経験も訓練も不足している。ことゲームにおいては連戦連勝で、機体のルーキーとされているライザー・フェニックスを相手にするには、圧倒的に不利だと言ってもいい。

 

 しかしライザーの眷属は殆どが撃破されたのだ。十分すぎる脅威と言ってもいい。

 

「……おっと。愛しのジュリアじゃないか。こんなところで何してるんだ?」

 

 その声に、ジュリアは肩をすくめながら振り向いた。

 

「ユウビじゃない。ちょっと興味があった映像を手に入れたから、こうして休憩ついでに見てたのよ」

 

 そう答えながらタブレットを見せると、ユウビと呼ばれた青年は、興味深げに映像を除く。

 

「お、憤怒が送ったとかいうレーティングゲームの映像か? 現ルシファーの妹が、あの赤龍帝を眷属にしたとかいう?」

 

「そういうこと。実は一目惚れで初恋を経験したんだけど、その恋しいロミオがリアス・グレモリーの食客なのよ」

 

 そうさらりと告げ、ジュリアは皮肉気な笑みを浮かべながらユウビを見る。

 

「妬いたかしら?」

 

「ま、ちょっと羨むぐらいはするぜ? つっても、別にそこまででもねえ」

 

 そう返すユウビは、不敵な笑みを持ってジュリアに嗤う。

 

「むしろ俺がお前を墜とせば、俺はお前の愛を踏みにじれるんだ。愛を踏みにじる者として、むしろ燃える展開かもしれねえなぁ」

 

「そういうと思った。できないことをいうもんじゃないけど、そういう自分のやりたいことに忠実な男は好きよ?」

 

 そう平然と返しながら、同時に自嘲をジュリアは浮かべる。

 

 ああ、確かにユウビは好きなのだが、だからこそ嫌味にしかならないだろう。

 

「……でも、だからこそ好き止まりなんてことになるんでしょうね。だって―」

 

 

 

 

 

 

 

 

―したいことだけする女だからこそ、成すべきことを成し遂げる男に恋をする。そんなバカみたいな死に方(生き方)が大好きなんだから。

 

 

 

 

 

 

 そう呟き、二人は将来の敵の戦いを見る。

 

 全ての神話勢力を敵に回す存在。名を禍の団(カオス・ブリゲート)

 

 そこを借りのねぐらとする、二人の大いなる罪を持つ者が、闇に蠢き機会を待つ。

 

 彼らが動き出すまで、後数か月というほかない。




 といってもちょっとだけでしたがね!

 ぶっちゃけアンケート機能をできれば使いたいので、できるだけ早く禍の団の存在を出したかったのがこの幕間じみた話の理由です。

 そして登場したジュリア・C・コロンブス。

 ある意味で一志・L・モンタギューと対を成す存在である、恋願いし殺し合いを果たす間柄。この作品は結構Light作品の影響を受けてますが、シルヴァリオサーガにいれば極晃星をお互いに描く間柄。ある意味で英雄と神星のような星の到達をぶちかます関係性です。

 まあそれはともかく、レーティングゲームは順当に敗北。次からイッセー達が反撃をかましますが………。

 ぶっちゃけ、すごく面倒くさい奴が面倒くささを盛大に発揮する下位でもあります、ハイ。


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第六話 大波乱の婚約パーティ(前半)

 前後編でぶちかますお話です。

 具体的には、一志が意外とぶっ飛んでますよというお話になると思います。今回はあくまで導入編。


 

一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

 個人的な私情を言わせてもらえば、今回の婚約には反対だ。

 

 婚約においても貴族は相応の責任を伴いわけであり、まして次期当主であることを選ぶのなら、それに見合った旦那を用意するのは当然の責任だ。部長自身が次期当主として生きているつもりである以上、そこに対する責任を放棄する方が問題だ。

 

 これを持って貴族を否定する者もいるが、俺は貴族であることを選ぶのならその対価は支払うべきだと思っている。なのでそれで強引な結婚を否定する奴がいるのなら、当然婚約させられる側に「貴族という権利」の放棄も求めなければならない。つまり部長が放棄する気がない以上、一方的に貴族側を責めるのは筋違いだ。

 

 とはいえ、そもそも部長は婚約において条件を取り付けていたのだ。それを反故にしたのはあちらである以上、今回の一件においては非はあちら側にある。少なくとも、その条件をクリアできなかった時にするべきだった。

 

 理由はいくら推測はできる。

 

 今のグレモリーとフェニックスの本家当主は、初代魔王すら戦死したかの大戦の経験者だ。その大戦で滅びた者達を何人も見ている以上、子孫繁栄はあとに残すことに強い強迫観念を持っている可能性はある。少なくとも、無意識レベルでそこに重点を置いていることだろう。

 

 加えて貴族とは血にも気を使うべきところではある。できることなら見合った血統の純血悪魔を婿に迎えてほしいと思うのは人情だろう。人間社会だって、社会的に偉い立場の両親ならそれなりに社会的立ち位置が高い者であってほしいと願うだろうし、一般家庭でも娘がヤクザや無職と結婚したいと言ったら反対意見を出したくなるのは当たり前だ。

 

 更に赤龍帝を眷属に迎え入れたというのもあれだ。神滅具保有者を眷属にするなんて前代未聞。更に赤龍帝は大体の場合、対となる白龍皇とガチバトルすることで有名らしい。別の意味で将来を不安視するのは親心だろう。

 

 ……だからと言って、今回のやり口は強引すぎる。

 

 親の心子知らずとは言うが、どうあがいてもリアス部長がこの婚姻に納得できるとは思えない。そうなると子供が生まれた場合、親の複雑な感情を受けて悪影響が出てこないとも限らない。

 

 どんな環境で育とうとまともな奴はいるだろう。だがそういう奴は褒められ賞賛されるべき存在であることを忘れてはならない。心身の成長に環境は大きな要素であり、それが劣悪な環境でまともに育つのが当然と考えるのは、まともに育った傑物にとっても失礼な話だ。

 

 部長本人にしても、最低限条件を引き出していたのに反故にされたのだ。その上出来レースをまるで妥協点のように押し付けるフットインザドアだったかドアインザフェイスだかいったはずの手法。娘との約束を反古にしておいてこれは無い。

 

 ……だがしかし。リアス部長が勝負に乗った上で負けたことは事実なのだ。

 

 はっきり言えば、少しでも好条件を引き出す余地はある。突っぱねることも不可能ではない。負けた時に備えた譲歩を引き出すことは間違いなく可能だった。

 

 ライザー氏とリアス部長の眷属関連の差は大きい以上、周囲の貴族からやっかみが入る可能性を考慮すれば、何人かの助っ人は狙えたはずだ。最低でも一人は押し込めたと俺は確信している。

 

 それを利用すれば突っぱねることも不可能ではない。大々的に現グレモリーであるジオティクス卿が「娘との約束を反故にした」とメディアで訴えれば、ゴシップ大好きな輩は食いつくだろうし、メンツの問題で取り下げる余地はある。まあこれは部長の名にも傷が大いにつきかねない手法だから、できるにしてもやらないことは止めない。

 

 そしてライザー氏がハーレムを作っている以上、愛人を作ることを認めさせることも可能だった。貴族として血筋に配慮した夫をとることは仕方ないが、私的な「リアス個人として愛す男性」を愛人として囲うぐらいの次善策は滑り込めたかもしれない。

 

 それらをすべて蹴った上で、部長は負けたのだ。

 

 ならばそれに従うべきことだろう。少なくとも、その上でまだ反対するのならば通すべき筋がいくつも存在している。

 

 とはいえ、あのシスコンかつロミオとジュリエットをハッピーエンドにしたサーゼクスさんのことだ。魔王の立場ゆえに表立って反対を出すのは難しいが、思うところは壮絶にあることだろう。

 

 だが部長は次期公爵でありサーゼクスさんは魔王なのだ。

 

 法を守らせる立場が横紙破りをすることは、あまねく意味で問題だと言ってもいい。その辺りをきちんと弁えているのならよし。

 

 もし、そうでないというのなら―

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを思い、準備をしてから向かったのは部長とライザー氏の婚約発表パーティだ。

 

 今はそのつもりはないとはいえ、今後俺がレヴィアタンの名を公にする可能性はあるだろう。万年生きる悪魔なら、極小の可能性を当てる可能性は人間の倍では聞かないからな。

 

 なので、どこか「何かする」期待を持っている祐斗達からは離れ、俺は人に気づかれないような位置でパーティ会場の雰囲気などを観察していた。

 

 あまりジオティクスさんやサーゼクスさんといった穏健派の人達しか貴族を見てないからな。ちょうどいいから監察して、今後の糧にするべきだ。

 

 とはいえ時間が経つと腹も減るしのども乾く。

 

 そろそろ何か食べる物とかを取ってきた方がいいかと思ったその時、俺の目の前に軽食が盛られた皿が差し出された。

 

 視線を向けると、そこには亜麻色の髪をした十代後半ぐらいの少女がいた。

 

 ……最も、悪魔は姿かたちを変えれるから、そこまで徹底して気にするようなものでもない。特に女性となると若い姿を好んで取ることが多いからな。

 

 それにまあ、俺はレヴィアタンの血統であることを名乗ってないから、あくまで部長の食客である悪魔の先祖返りだ。

 

 上級悪魔の血筋であることは明かしてあるから致命的にはならないだろうが、貴族社会において混血や先祖返りはあまりいい顔をされない類と考えるべき。素直にへりくだるとしよう。

 

「……その、よろしいのでしょうか?」

 

「構いません。ふと目が留まれば、楽しめてないどころが、とるものも取らずに気配を消しているのを見つけてしまいましたので、お節介を焼いてしまっただけですから」

 

 そう言いながら微笑む上級悪魔と思しき方に、俺は一礼をしてからその皿を受け取る。と、少し食べてみる。

 

 ……流石は貴族、それも元七十二柱本家の婚約記念パーティ。美味いし下ごしらえも丁寧な手の掛けられた食事だ。

 

 ちょっと夢中になって味わってしまいたいが、今まずするべきことはそれではない。

 

「ありがとうございます。知らずに無作法をするとリアス様に迷惑をかけてしまいますので、場の雰囲気などを観察するつもりだったんです。だからまだ食事には手を付けてなかったので」

 

「いえいえ。貴族社会は慣れていない方には大変でしょうし、その判断は間違っていませんわ。それに……」

 

 ふと、その悪魔はこちらに対して不敵な笑みを浮かべた。

 

 見透かされていると、そう直感した俺は悪くないだろう。

 

「……貴族達の態度などを見ることで、今後対応する時の指標にする抜け目のなさは、確かにこの世界で成功する為には有利な能力だと思いますよ」

 

 見抜かれているということか。

 

 どうやら、こちらの悪魔はただ者ではないらしい。

 

 とはいえ迂闊に「経験豊富なんですね」とかいえば、外見通りの年齢だとすると失礼になるだろう。逆に外見通りの年齢でないとすると、若いのに凄いですねぇとか言ったら大問題だ。

 

 つまりいうべき返答は一つだ。

 

「やはり貴族様の目を誤魔化すのは大変ですね。悪魔の外見から年齢を悟る能力もない、無才な若輩者には厳しい壁がありそうです」

 

「……ああ、もしかして気遣わせてしまいました? それは申し訳ありませんでした」

 

 と、俺の返答で俺が一瞬悩んだ内容に感づいたらしい。相手が口元に手を当てて目を少し見開いている。

 

 ……無礼に当たらないでほしいと切に願う。本気で願う。

 

 そう思っていると、その悪魔は貴族らしい優雅な一例を返した。

 

「初めまして。私はリアスさんとは初等学校での学友でしたグレティーア・バアルです。バアル分家の一つを預かる、ヘルゼント・バアルの妹です」

 

「そうでしたか。私は一志・L・モンタギューといいまして、リアス様とは一学年下で、彼女の食客として学んでいる、先祖返りの悪魔です」

 

 幸い良い感じな対応になっていたようだ。

 

 どうやら、変に怒っているわけではなさそうだな。

 

「ふふふ。それでは悪魔社会にはまだ不慣れでしょうし、苦労なさっているところも多そうですね。リアスさんは眷属の方も連れてきていると思うのですが、ご一緒ではないのですか?」

 

「いえ、ちょっと懸念事項があったのと、あまり目立たない形でこういった貴族の空気を観察したかったので」

 

 俺が素直にそう言うと、グレーティアさんはクスリと笑っていた。

 

 だが、すぐに凄い真顔になった。

 

「……勤勉な方なのですね。良いことです。悪魔や神には悪戯好きな方も多いので、ただの子供と油断していたら実はお偉い様でした……ということがまれにありますので」

 

 ああ、なるほど。

 

 あまりの真顔っぷりに、俺はよく理解できた。

 

「やられたんですね、何度も」

 

「おかげで丁寧語が完全にしみついてしまいまして、子供や臣下にまで徹底するのはどうかと臣下からも言われてはいるのですけどね」

 

 そう苦笑するグレティーアさんだが、俺はちょっと気になった。

 

「臣下と言われてましたが、眷属からは言われないのですか? リアス様と同年代なら、一人二人は眷属にしている者と思われますが」

 

 その年頃ならプロデビューも近づいている頃だあろう。そろそろ眷属を集めていてもおかしくないはずだ。

 

 よしんば眷属に不満があったとしても、トレードという方法だってある。とりあえず最低限の人数は確保した方がいいかと思うんだが。

 

 その疑問に、グレティーアさんは微笑で返す。

 

「……一応臣下として眷属候補はたくさんいますよ? プロになった時に彼らから見繕うつもりです」

 

「へぇ、珍しいですね。その年で臣下が何人もおられるとは意外です」

 

 今現在、悪魔社会で貴族の側近とは眷属が主体だ。

 

 臣下もいるにはいるが、そういう形になっているとは正直意外だった。

 

 何か理由があるのだろうが、流石にそこまで聞くのは失礼か。

 

 とはいえ、どうやって話を逸らすか。

 

 よし、こうしよう。

 

「そういえば、リアス様は日本文化を好んでいるようですが、グレティーアさんは人間界の文化で興味があったりしますか? 自分も人間界に住んでいるので、お礼もかねて調達の手伝いぐらいは致しますが」

 

 幸い共通の知り合いがいるのだから、そこから話を逸らそう。

 

 そう、だから食いついてくれるとありがたいのだが―

 

「……であれば、ぜひ欲しいものがあります! 冥界から通販で入手するのは困難なものがあるのです! リアスさんに頼むのもあれなものだったので!!」

 

 ―食いつきすぎだ。

 

 正直ちょっと怖かった。目が血走りかけているから。

 

 俺は少し引くが、自分から聞いたことなので限界まで隠して即座に話を続けることにした。

 

「というと? 自分が入手できる範囲内だといいのですが―」

 

「限定発売版のアキバ☆レーシング(セカンド)というゲームです! どうしても発売日に予定がつかないので、御一人様一つ限定の現場売り限定が買えないんです!」

 

 ……凄いのが来たな。

 

「ゲーム、お好きなんですね?」

 

「はい! 特にアキバ☆レーシングはマシンのカスタマイズ機能が豊富なので、縛りやすいんです!」

 

 縛りプレイが基本なのか。

 

 なんだろう、上級悪魔って人間基準だと傲慢な血統主義か変人に二極化されてるんじゃなかろうか―

 

 

 

 

 

 

 

 

「部長の処女は、俺のもんだぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―ああ、嫌な予感が当たったらしい。

 

 イッセーの声が鳴り響いて、俺は即座に意識を切り替える。

 

 ここからの展開が、もし予想通りになるとするのなら。

 

 俺がすべきことはたった一つだ。

 




 新キャラクターであるグレティーア。これは今後の展開を考慮すると、どうしても必要になるキャラを設計させていただきました。

 そして次の話でややこしいことをしでかす一志が見られます。

 結果的なところも含めて、イッセーとは対を成す要素の多い主人公である一志。その癖の強さっぷりをついに本格的に明かせるので、ちょっとドキドキでちょっとワクワクです!


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第七話 大波乱の婚約パーティ(後編)

 はい、イッセーが乱入してからの話になります。

 非常に面倒くさい男の非常に面倒くさい所がこれでもかと出てくる部分です。


 

 イッセーSide

 

 

 

 

 

 

「さて、転生悪魔くん。君が勝った時は何か願いがあるかね?」

 

 部長のお兄さん、サーゼクス様がそう言ってきた。

 

 ……俺が起きたのは数時間前。そしたらグレイフィアさんが、この人の言葉と共にここに来るための魔方陣を用意してくれた。

 

―リアスを助けたいのならこれを使うといい

 

 そんな言葉を言ってくれたんだから、何かしてくれると思ったけど、この人は「婚約パーティの余興」という形で、俺とライザーの血統を用意してくれた。

 

「サーゼクス様! いくら何でも下級悪魔ごときに報酬など!」

 

「下級とはいえ悪魔ではある。なにより私が呼んだのだから、褒美を取らすのは当然だよ」

 

 サーゼクス様は貴族に対してそう返して、俺に向き直った。

 

「なんでも言ってみたまえ、爵位でも金でも限度はあるが用意しよう」

 

 ―ありがとうございます。

 

 木場も小猫ちゃんも朱乃さんも、俺がライザーの前に立ちはだかるまで手伝ってくれた。

 

 そしてサーゼクス様がこうしておぜん立てを整えてくれた。

 

 実はちょっとだけ嫌な予感があったけど、この調子なら大丈夫なんだろう。

 

 だから、俺が言うことはただ一つだ。

 

「俺がかったら、リアス部長を返してもらいます」

 

「いいだろう。君が勝ったらリアスの婚約を白紙に戻そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「異議あり!」」

 

 

 

 

 

 

 

 そんな声が、大きく響き渡った。

 

 それも、別々の方向から響き渡った。

 

「……む? 聞きなれない声だが、私と同じ意見を言ったのはだれかね?」

 

 そういったのは、亜麻色の髪の二十代ぐらいの男性だった。

 

 あ、なんかサーゼクス様がちょっと警戒心を見せている。

 

「ヘルゼント・バアル殿」

 

「おお、バアルが誇る最上級悪魔にしてレーティングゲームの十一位……っ」

 

「個人としてならディハウザー・ベリアル達トップ3にも並ぶという彼なら、きっと……」

 

 なんかすごい人っぽいけど、だけど問題はそこじゃない。

 

 おいおいおい。まさかまさかまさか。

 

「あの、お兄様。こちらの方です、が……」

 

 そう言って、どうもヘルゼントとかいう人の妹っぽい、よく似た亜麻色の髪のお姉さんのが、隣にいる人を示した。

 

「……もう一度言います。その決闘、異議しかありません!」

 

 俺もよく知る、女装したら女にしか見えない学友、一志・L・モンタギュー。

 

 ああ、俺はもう言うほかない。

 

 渾身の憤りを、一気に解放する。

 

「……なんで一志をまず説得してないんですか! 絶対こういう時に異議申したてるやつなんですけど、サーゼクスさまぁああああああ!」

 

『『『『『『『『『『そっちぃいいいいいいい!?』』』』』』』』』』

 

 なんか大絶叫だけど、俺から言ったらそういうしかない。

 

 だって俺は此処に来るまでずっとそれが気になってた。

 

 あの一志が、一志がだよ?

 

 事前に説得されてないのに、こんな展開に文句付けないわけないじゃない!

 

「あの、一志くん? リアスの婚約には反対じゃなかったかな、君は」

 

「ええ。リアス様の婚約そのものには反対です。仮にも現公爵ともあろうものが娘との約束を反古にした挙句、圧倒的不利なレーティングゲームの勝敗で決めるだなんて真似を妥協のように語り、不利を埋めるハンデを何一つ用意しようとしない。はっきり申し上げれば、これは現公爵閣下の資質を問いただすべき事態でもあると思っております」

 

 サーゼクス様に真っ向からそう言い切ってから、一志は鋭い目をサーゼクス様に向けた。

 

「しかしそれをリアス様が自ら呑んで敗けた以上、イッセーがそう答えることを前提の上で決闘の機会を与えた貴方の魔王としての資質もまた、問いただすべき事態であるといわせてもらいます」

 

 ……ああ、面倒なことになってきた。

 

 俺がなんていうかあきらめてると、周りがすっごくざわついている。

 

「ぐ、グレモリー卿は愚か魔王様の資質を問うなどと、食客風情が許されることだと思っているのか!!」

 

 すでに魔力を放ちそうな勢いで、お偉いさんっぽい人が言うけど、その心配はないです。

 

 絶対こうなることもわかってる。あいつはそういう奴だ。

 

 だから、今から言うことも予想できてる。

 

「とりあえず最後まで待っていただきたい。その上で俺の命を罰則として奪うべきことだと思うのであれば―」

 

 そう言いながら、一志は懐から取り出したある物を、そのお偉いさんに握らせる。

 

 それを見たお偉いさんが目を見開いて一志を二度見するのを待ってから、一志は真顔で頷いた。

 

「どうぞその刃で俺の心臓を貫いてください。ニコチンを大量に塗っているので、まず間違いなく確実に殺せます」

 

 ……べっとりとしたものが塗られた、短剣だった。

 

 周りがなんていうか恐れおののいている感じになっていると、一志はそれに気づいて首を傾げた。

 

 そしてふと何かに気づいたけど、絶対勘違いしてる。

 

「ああ、ニコチンは直接血流に入ると少量で致死量に達するのですよ。万が一を考慮したダメ押しとして抽出して縫っておきました」

 

「そうじゃねえよ!」

 

 思わず俺がツッコンだよ。

 

「そこじゃなくて、なんで部長の食客が婚約の妨害の方を死ぬ気で邪魔してるんだって話してるんだよ!」

 

「は? 何言ってるんだお前?」

 

 多分いうと思ったけど、やっぱり言ったよ。

 

 俺もげんなりしていると、一志は軽くため息をついてから、やれやれと首を横に振る。

 

「仮にも貴族が自ら挑んだ決闘で敗北した結果なんだ。全滅寸前までに追いつめられたとはいえライザー氏はリアス様が自ら同意した決闘に勝って婚約の権利を掴んだんだぞ? 横から上がしなくてもいい一対一の決闘(タイマン)なんて明らかに条件がイッセー側に傾いている者を押し付けたうえ、勝ってもメリットがないのに負けたら婚約が破棄なんて、それこそ問題だろう」

 

 言いたいことは分かるけど、それをお前が言うか。

 

 ライザーに対して毒がある力の入った言葉だったけど、全面的にライザーの肩を持ってやがる。さっきからリアス部長寄りの意見を言っている上でこれだから、みんなとっても戸惑っている。

 

 お偉いさんに聞こえるように言ってるからか、部長のことをリアス様と言い換えている辺り、冷静に言ってるから質が悪い。

 

 ―頭どうかしてるんじゃないだろうか?

 

 そんな視線が思いっきり突き刺さってるけど、一志は平然としている。

 

「そんな横紙破り、王であっても……いや、民に法を守らせる王だからこそしてはいけないだろう。あまねくものが論外だ。俺は最悪の場合、伝家の宝刀を抜いてでも糾弾する覚悟を決めている」

 

 その言葉に、サーゼクス様達何人かが息を呑んだ。

 

 あ、つまりそんな人達が一志のレヴィアタン(正体)に気づいてるってわけか。

 

 そりゃ息を呑むよなぁ。

 

 サーゼクス様は魔王だからそれなりに動けるけど、それを糾弾する奴が本来の王様の子孫なんだから。

 

 というより。

 

「お前、最初(ハナ)からサーゼクス様が俺を送り込んでくるって読んで、止める為の準備も万端だったな?」

 

「当たってほしくなかったがな。お前のことだからなんだかんだで勝ちの目もあるんだろうしな。仮にも部長自らストレートに飲んだ決闘での結果を、圧倒的にお前側に傾けた決闘でひっくり返すような真似、止めることが俺達()のすべきことだ」

 

 だよなー。

 

 なんていうか、一志って「すべき」ことにうるさい所があるからなぁ。

 

 例えリアス部長の為であっても、それをすべきじゃないと判断したら絶対しない。やろうとする奴がいたら絶対止める。

 

 俺が警察に捕まってないのも「集団私刑という犯罪行為で報復されている男を、相手側の犯罪を罰しない形で罰するべきでない」ってところからみたいだし。純粋に女子達が警察に通報したら止めないつもりだって、前にはっきり言ってたし。前科込みで訴えたら女子の前科も通報する気満々らしいけど。

 

 というか、サーゼクス様にはむしろ最初から考えてて欲しかった。

 

「すいませんサーゼクス様。こいつは真っ先に説得してから呼んで欲しかったです」

 

「……いや、彼はリアスの婚約に反対側だと思ってたから、正直驚いている」

 

 見ると、リアス部長も朱乃さん達も面食らってる。

 

 あれ? もしかして一志について一番分かってるのって、俺?

 

「あの、一志はこういうのには病的にうるさい奴ですよ? コイツが認めるとするなら、それこそあの時のレーティングゲーム以上に難易度が高くないと不味い気がするんですけど」

 

 それはそれで不味いけど、俺もそこまで覚悟はしてた。

 

 だから、まあそこはいいんだけど……。

 

「さてどうしたものか。一応心情として部長側の俺が提案すると、実はイッセー(こちら)側有利だと邪推されそうだしな……」

 

 ほら、絶対にあの時のレーティングゲームより難易度高くしたがってるし。

 

「……なら、こちらから提案するべきだろうね」

 

 と、そこでさっき一志と被って異議を立てた人が声を上げた。

 

 確か、ヘルゼントさんだったっけ?

 

「サーゼクス様。例の食客君が私の言いたいことをそれ以上に言ってくれましたので、そこは申し上げません。ですが言っていることは筋が通っていますし、彼が伝家の宝刀を抜くと流石にややこしいことになります。ここは私がレフィリーとして、決闘の内容を定めたいのですが、よろしいですか?」

 

「………むぅ。確かにそうでもしないと(宝刀を)抜かれそうだ。まずは聞こう」

 

 あ、サーゼクスさんもそこは納得したみたいだ。

 

 まあ、一志の目はマジだしな。ここで推したら絶対に抜く。

 

 で、どうなる?

 

「まず一つ。決闘の内容はレーティングゲーム。しかしライザー殿達は魔装具を含めたすべてのハンデを解除した、正真正銘の本気で挑んでもらいます」

 

 まあ、そうなるよなぁ。

 

「そして二つ。当事者でありリアス嬢と挑んだそこの兵士(ポーン)君以外の眷属は不参加です」

 

 えぇ!? 朱乃さん達の参加禁止!?

 

「当然のペナルティです。この様子では事前に仕込んでいる可能性がある以上、そう言った策は通じないようにしなくては。まああまりに不利すぎるのもあれですから、参加に名乗りを上げる者がいるのなら出てくれても構わないが―」

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

 あの、一志ちょっと待て。

 

 凄い嫌な予感が―

 

「こちらが負けた時はペナルティとして、リアス様以外の全員の首をはねていただきたい。あ、処刑用の獲物は既に取り寄せております」

 

 ―斧を取り出しながら凄いこと言ってきたよ。

 

 全員ドン引きしてるけど、たぶんもっとドン引きすると思う。

 

「……あのねぇ一志。流石にそれは酷過ぎるわよ?」

 

「リアス嬢の言うとおりだ。そんなペナルティで参加する者がいるとは―」

 

「部長もヘルゼントさん?……も違います。一志は自分が参加する気でこんなこと言ってます。本気で「負けたら俺の首もはねてくれ」って言ってるんです、この馬鹿」

 

 勘違いしてるっぽい部長とヘルゼントさんにそう言うと、全員が一志を二度見した。

 

 うん、気持ちは分かる。

 

 唯一分かってない一志は、首を傾げている。

 

「はい? 既に決闘で決まりここまで進んだ婚約を反故にしようというのです。自分の首ぐらい懸けるべきでしょう。勝ったらライザー氏の名誉は地に落ちるのですから、貴族の生涯の名誉の対価として、それぐらい懸けるべきというのは、貴族社会としては当然の意見では?」

 

 本気で言ってるから怖い。目が純粋だから怖い。

 

 俺以外の全員が一志から一歩引いているから、その辺についてははっきり言える。

 

「一志、普通は自分の首をはね飛ばす前提の勝負を自分から要望しないと思う」

 

「そうか? 世の中には必要悪やグレーゾーンは容認すべきだが、これはそうじゃないだろう? それでもするなら相応の対価を払うべきだ」

 

 真っ直ぐな目で言ってくるから怖い。

 

 うん、でも本気だと思ってたよ俺は。

 

 こいつ、やるべきことはできる範囲で断行する代わりに、やるべきでないと思ったことは絶対しないからな。

 

 そういう意味だと、たぶん俺と一志は正反対だ。一志もそこは分かってるから、基本的に合わせてくれてる方だ。

 

 ただ一度突き進むと本当に突き進むからヤバい。俺もアーシアを助ける為ならはぐれになる覚悟を決めたけど、正直あそこに一志がいたら、俺の手足をへし折ってでも止めるとかすると思ってたからな。

 

 真っ直ぐな曇りない目でこういうこと言ってるから、殆ど全員がドン引きしている。

 

「……流石にそれは無理がある。君が出るというのなら尚更だ」

 

「お言葉ですがヘルゼント……殿。このような横紙破りの前例を認めれば、諸々の条件や状況を考慮せずに同じようなことをする愚者が出かねません。ペナルティは死罪に匹敵する重きものにするべきでは?」

 

 ヘルゼントさんの説得に真っ向から反論してるよ。

 

 うん、ヘルゼントさんも少し引いてる。頬が引きつってる。

 

「……自分の命が消えるような条件を、しつこく食い下がって通そうとする男は初めて見たよ。怖くないのかい?」

 

「この年で死ぬのは怖いですが、それとこれとは別でしょう? なすべき筋を通すことなく、通りを踏みにじるような真似はすべきでないはずです」

 

 真っ向からそう言い切る一志に、ヘルゼントさんは苦笑いを浮かべている。

 

 ですよねー。

 

 いやほんと、本気の本気で言ってるから困ったものだ。

 

 こいつ絶対なんか言ってくるって思ってたよ。サーゼクス様が話を通してることを期待してたよ。残念だよいろんな意味で。

 

「とりあえず我慢してくれ。後でペナルティは考えるが、流石に首をはねるわけにはいかないのでね」

 

「……残念です。では最後に」

 

 ―まだあるのか。しかも残念なのか。

 

 そんなみんなの心の声が聞こえる中、一志は手の平をライザーの奴に向けた。

 

「―ライザー氏に対する褒賞を、前金と勝利後に一つずつ差し上げてください。……そもそも彼は親側が提示した条件を呑んで挑んで勝った勝利者ですから、今のデメリットしかない状況で勝負をさせるなど論外でしょう。詫びは通すべきです」

 

「……なるほど。まあ確かにそれは言うとおりだ」

 

 サーゼクス様はそう納得すると、ライザーの方に向き直った。

 

「とのことだ。君としては何か欲しいものがあるかね?」

 

「そうですね。いきなり言われても少し困りますが―」

 

 ライザーはそう言って考え込むと。

 

「……貴女の女王(クイーン)に膝枕してほしいというのはありですか?」

 

 そんな、衝撃的な展開をぶちかましやがった。

 

 あ、あのグレイフィアさんの膝枕だと!?

 

 あの素敵なスタイルの素敵な美人さんの膝枕だと!?

 

 こいつは、本当にどこまで―

 

「なんて羨ましいことを!? くそぉ、部長の婚約を阻止しなきゃいけないから、要望したくてもできないのが憎い!!」

 

 俺は心の底から崩れ落ちた。

 

「………それはすごく嫌だなぁ。だが気持ちはわかるよ、わかるとも」

 

 サーゼクス様もすごく複雑な表情をしながらうんうんうなづいてる。

 

「……まあ、興味が全くないとは言わないが」

 

「……性欲がないわけじゃないから、まあ馬鹿にはしませんが……」

 

 ヘルゼントさんと一志がすっごく微妙な顔をしてる。

 

 でも二人とも理解は示してくれている。

 

 まあそうだろ。そりゃどう考えてもうらやましくなるべきことだろ、これは。

 

 ―あと後ろから部長の視線がすごく怖いけど、そこは耐えろ俺!

 

 

 

 

 

 




 さて、自分は自作品の主人公において「イッセーとは別の意味で癖が強い」傾向で作ることが多いです。理念とかに「こういう理念を貫けたら」という要素を入れることもありますが、根幹的に「こういう風にはいきたくない」といった感じなキャラ造形にすることが多いですね。

 サイコパス適正高くデアラの折紙と通じ合いそうなレベルでイッセー大好きなケイオスワールドの兵夜然り。シルヴァリオサーガの光狂いに影響を受けまくった英雄狂いであるロンギヌス・イレギュラーズのヒロイ然り。若さゆえの過ちを盛大に後悔した結果、数年間面倒くさい自己否定の塊になっている、元E×Eの井草然り。

 そして一志の面倒くさいコンセプトは「病的なまでの責務及び道理の徹底思想」とでもいうべきところです。

 かなり出せたのでネタバレ的なことを書きまくると―

 サーヴァント風属性:秩序・悪

 型月世界観適職:抑止の守護者

 準神祖級メンタル(十七歳) 

 正しいときに正しいことを正しくやりきるトンチキ野郎。

 圧倒的大赦適性

 ロウ属性の化身

 人間が感情を持つ生き物であり、その制御度合いがまちまちであることをきちんと理解はしています。だからこそ非常時でもない限りは鷹揚な対応もできますし、基本的に「他者の感情に配慮した方が合理的」といった思考でもあるので、よほどのことが無い限りは味方の心情を踏みにじるようなことは致しません。

 ただしよほどのことだと判断したなら、意図的に冷や水を放水車でぶっかけるようなことを躊躇なくする男でもあります。

 イッセーを生態レベルでセクハラな男だと形容するなら、一志はそもそも地金がロジハラ気質とでもいうべきでしょう。私的な感情で不快感を持っていようと、通すべき筋が通されていることに対しては、感情の手綱を理性でしっかりと握って冷静に対応する男です。そして本分の通り、たとえ相手が友誼を結んだ相手だろうと恩のある国家元首であろうと、できれば使いたくない伝家の宝刀を抜く覚悟を即座に決めて異を唱える人物です。

 最も筋と理屈がきちんと通っているのなら、逆に個人的に不快な程度で他者を押さえつけることを一切しない人物ではあります。よほどのことが無い限りは、他者の感情に配慮してある程度融通も利かせられるので、サーゼクスやリアスは運がいいのか悪いのか、一志の子の面倒くさい側面を知らずに済みました。






 一応この辺の伏線はできる限り張っております。

 プロローグのモノローグを見返せば、この一志の面倒な特性もある程度は納得できるだろうと思うように最初から考えて書いております。ディアボロス編においても、やり口に不快感を抱いてもイッセーが殺されたことそのものは流しています。アーシアがらみの一件においても、レイナーレ達相手に殴り込みができる余地を探してはいましたが、できないならイッセーの両手両足をへし折る気で行動していたのもその一環です。

 フェニックス編冒頭の夢もその一環です。十代前半で突拍子もない非常時で、家族がそれに巻き込まれることも理解しながら、一志は家族を「まず助からないし助けようとすれば自分が死ぬ」と即座に判断、その上でパニックを起こすことなくできる範囲の最適解を即座に考えて実行しました。
 断言してもいいですが、命がけの事態を経験せず、それを踏まえた過酷な訓練を積んだわけでもない、十代前半の少年ができることではないと思っております。というより、できていいことでもないと思っています。
 それを彼は即座にしっかりと成し遂げたからこそ、当然の結果として生存をつかみ取りました。助けようがない家族を見捨てるという判断を取り、周囲の状況を即座に判断して、生存確率を高めつつ可能な限り最小限の時間で、自力で考えられる範囲で成すべきことを成せる範囲で、時間的ロスを可能な限り削って行動したからこその生存です。
 かけてもいいです。こんなことは普通、十代前半のまっとうに家族愛のある少年ができることではありません。

 そして常々一志視点でこだわって入れていた描写ですが、一志は基本的に「成すべきか否か」を思考の重点として設計するように書いております。

 こんな感じで、できうる限りで一志の異常性に説得力を持たせられる伏線を詰め込んだ、これまでの部分。納得していただけるとちょっと嬉しいです。





 ちなみに以前書いた、FGOにおける人理修復が不可能というのは、こんな彼の性格上、「より確実性の高い次善策」があれば、人理修復そのものよりそちらにこそまずリソースを割くべきと考えるからです。第五特異点でも大統王側に拠った立ち位置を取るでしょうし、第六特異点の獅子王は確立まで王手だったので、台無しにしてまで人理修復に全掛けするなんて選びません。


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第八話 決戦直前

 かなり筆が遅くなってしまいましたが、とりあえず一つ投稿させていただきます!


 

 

一志Side

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ではとりあえず、勝利条件ということで了承しよう。流石にその恩賞は前金だけでは了承できないからね」

 

「まあそうでしょう。だが勝つ為のモチベーションが上がってきました……絶対勝つ」

 

 サーゼクス様とライザー氏との間で納得いったようで、これで漸く本番か。

 

「では、彼らに協力するつもりの者は名乗りを上げた前。……負けても死ななくていいから安心してくれ」

 

「……仕方がありません。まあ俺が自分から引責自害すればいいだけの話ですね。自害用の短刀を買っていてよかった」

 

 ヘルゼント・バアルという人がそう言うが、俺はため息交じりで保険として買っていた短刀を見てため息をつくしかない。

 

 できれば使いたくないから、何としても勝つしかないな。

 

「イッセー、勝つぞ。俺もこの年で死にたくはない」

 

「だったら敗けても自分から死ぬなよ。死ななくていいって言ってるじゃねえか」

 

 イッセーはそう言い返してくるが、そういうわけにはいかないだろう。

 

「これだけの横紙破りに関わるんだ。他者が責任を負わせないなら、自ら責任を負うべきだろう? 行動には影響が伴う以上、当然責任が己に返ってくるべきことだ」

 

 俺はそう反論すると、パーティ用のスーツの上着を脱いで、動きやすいように下のズボンに切り込みを入れる。

 

 もったいない気もするがまあいいだろう。黙っていても金が入ってくるが、金は使わないと回らない。ついでに言うと、俺があまりに金を使わないと気を使って金を使えなくて苦労する者も出てきそうだ。

 

 こういう時ぐらい使うとしよう。

 

 というか、リアス部長もこっちに来たけどなんというか複雑な表情をしている。

 

「……一志にしろイッセーにしろ、本当に戦うつもり?」

 

 その表情は、俺達が戦うことに反対なんだろう。

 

 特にイッセーに対して痛ましい表情を浮かべている。

 

「イッセー。私はあなたにもう傷ついてほしくないわ。それにもしこの戦いに勝っても、また似たような話が来る可能性は―」

 

「その時は何度でも戦います」

 

 部長の言葉を遮り、イッセーはハッキリとそう言った。

 

「また来るっていうなら右腕でも差し出します。それでも駄目なら足だって差し出します。俺は部長が大好きですし、部長を泣かせてまで結婚なんて死んでも赦しません」

 

「イッセー。部長が言ってるのはそういうことじゃないからな」

 

 俺はその辺を指摘するべきだと判断して、はっきり言っておく。

 

「お前は自分が苦労をしょい込めば部長が泣かないと思っているんだろうが、むしろお前が傷つけば傷つくほど部長は悲しむぞ? 自己犠牲が必要な時は確かにあるが、あのレーティングゲームの流れから言っても、お前は部長の涙を無意味にしていると言ってもいいって、分かってるか?」

 

 実際問題、部長が負けたのはイッセーが殺されかかったことによる投了(リザイン)だ。

 

 そのイッセーが逆にこんな大問題を起こして処罰されるようなことになれば、部長のそれはくたびれもうけだろう。

 

 空気が読めてないかもしれないが、これははっきりというべきだ。

 

「誰かの為に頑張るのはいい。だけど自分が傷つくことで苦しむ奴がいることは考えるべきだ。そこを踏まえないのはただの独りよがりだぞ」

 

「……いや、お前こそ目的や手段がこんがらがってないか?」

 

 失礼な。

 

「私情を言えば部長のこの婚約には反対だ。だが私情はどこまで言っても私情であって、大義でも正義でもないだろう? 少なくとも冥界の法に則った行動に異を唱えるんだから、当然そこには背負うべき責任がある。負けたら俺は絶対に腹を切る。これはこの場にいる者達全員の前で告げた以上、誰が邪魔をしようと必ず切る」

 

 よく聞こえるように透き通った大きめの声で、俺は俺の意見を明言する。

 

 言い出しっぺには言い出しっぺの責任というものがある。

 

 既に成立した婚約に異を唱えるんだ。それぐらいの腹はくくるべきだろう。

 

 だから、俺が最後に言うべきことは一つ。

 

「……俺を死なせたくないなら、お前に勝ち以外の選択肢はないと思え」

 

「……負ける気は最初っからないけど、すごい脅し来たな」

 

「ただの事実確認だが?」

 

 なんで脅迫してると思った?

 

 俺は首を傾げるが、何故かリアス部長まで軽くドン引きしてる。

 

 なんというか心外だな。

 

「……病的に筋を通したがる子ね。ここまでこじれた事態に巻き込まれたことが無いから、気づかなかったわ」

 

「そうなんですか。俺はそういうことしそうだから、サーゼクス様がもう話を通してるものだとばかり思ってました」

 

 リアス部長とイッセーがそれぞれため息をついてきた。

 

 ふむ、まあ自分でも融通が利かない堅物側の意見だとは思っているが。

 

 悪魔社会――というか異形社会――は文化的にその辺りがフリーダムである場合が多いからな。ちょっとそりが合わないかもしれないな。

 

 とはいえ、ここまでため息をつかれるのは流石に不本意だ。

 

「これでも自分が固いのは自覚しているので、他者の信条にはそれなりに配慮しているんですよ? でなければイッセーの覗きを通報すると共に女子共の集団私刑(リンチ)も警察に告げてます」

 

 本当に、これでも自粛してるし気も使っているんだからな?

 

「イッセー達の性欲の強さが常人の非じゃないことや、衝動的な女性陣の怒りに配慮しているからこそ、その辺りを抑えているわけです。これでも融通を利かせていることぐらいは理解してほしいのですが」

 

「……自決する気をなくしてくれたのなら信じてあげるわ」

 

 え~。

 

 部長のその言い分には困ったものだ。

 

「……諦めるべきかぁ」

 

「負けたら絶対自決するのかよ。お前って本っ当にいざという時融通が利かないよな」

 

 ため息をついたらイッセーにまで言われたよ。

 

 まあ確かにお堅い性分だとは思うが、それぐらいの覚悟を見せて実行するぐらいでちょうどいいと思うんだが。

 

 貴族社会でこれだけのことをするのなら、それだけの覚悟は必須だろうに。

 

 仕方なく不満を抑えていると、部長が困り顔で周囲を見渡した。

 

 どうやら情報交換とか作戦会議もされないように、ヘルゼント殿の配下が祐斗達を監視しているらしい。こちらに近づけさせないように気を張っている。

 

 詳しくは知らないが、五年前から急激に成長した最上級悪魔で、レーティングゲームでの活躍ぶりは現魔王とも渡り合えると言われているほどだ。

 

 一部を除いた眷属の質がトップ3にこそ劣っているが、個人としてならそれに匹敵する人物ともいわれている。

 

 立ち位置としては大王派で、基本的に純血統の歴史ある上級悪魔を尊ぶ人物ではある。同時に他種族からの転生悪魔を「迎え入れたのなら相応の待遇にするべき」と告げており、別勢力との争いで主を失った彼らの保護を唱え実行している好漢でもあると、冥界のニュース紙で読んだことがある。

 

 年の離れた妹がいるとは聞いていたが、グレティーアさんがそうだとは知らなかった。

 

 とはいえ、だ。

 

「まあ事実上は三人でやらないといけませんからね。この様子だと名乗りを上げる人がいなさそうですし」

 

「「誰の所為だと!?」」

 

 はもって言わなくても自覚してるから。

 

 難易度を揚げた者として成しえる範囲で責任は取るとも。

 

「とにかく俺が眷属を可能な限り押さえるから、その間にイッセーは部長と一緒にライザーを何とかしろ。勝てる算段はあるんだろう?」

 

「確かにあるけど! この圧倒的難易度で勝てる算段までは立ててねえよ! っていうかお前一人で十五人も抑えられるわけないだろ!?」

 

 イッセーのツッコミは正論だが、俺にだって考えぐらいはある。

 

 一応レーティングゲームの映像とかで、相手の実力とかも推測は経てている。

 

 イメージトレーニングで可能な限り、対応する為の練習もした。

 

「……魔装具無しでなら二分は稼げる」

 

「……ぶっちゃけ十秒も稼いでくれれば十分だから、行けるのか?」

 

 イッセーの返答にこそ目を見張るって。

 

 部長も流石に面食らっている。周囲の悪魔達も、聞こえている者は耳を疑っているほどだ。

 

「……十秒? それだけでいいの?」

 

「はい。っていうか十秒以内に決着をつけないと逆に負けるって感じです」

 

 部長にそう説明するイッセーには、変な気負いもやけっぱちになっている雰囲気もない。

 

 これで名門校である駒王学園高等部に一発入学するだけの学力はあるからな。算段は確かにあるんだろう。

 

 なら、そこは良しとしよう。

 

「部長はイッセーの援護をお願いします。とにかく眷属の方は可能な限りこっちで抑え込みますので―」

 

 俺が作戦をそういう方向で詰めようとした時だった。

 

「―なら、私達にも聞かせていただきませんか?」

 

 その言葉に振り向くと、そこには思わぬ組み合わせの人達が。

 

「……なんでこのタイミングでこの二人?」

 

 何故かグレーティアさんと逢花さんが揃って俺達の傍に来ていた。どういうことだ?

 

 なんでこの二人が揃って俺達の前に? というか、逢花さんはなんでこんなところに?

 

「あら、グレーティアじゃない。それにあなたは……衛兵の逢花だったわね」

 

 リアス部長もそれに気づいたが、逢花さんは苦笑いをしていた。

 

「その、サーゼクス様が色々と動いていた時に、一志君がパーティに参加することもあって、その辺りで保険として呼ばれてまして」

 

 ああ、俺がイッセーに素直に協力すると踏まえてたから、いざという時の俺のフォロー役として抜擢されたということか。

 

 逢花さんは俺と同じタイミングでグレモリーのお世話になっているからな。グレモリー家でリアス部長の次に俺と親しいと言ってもいい。

 

 まあ、まさか俺がここまでハードルを上げるとは思ってなかったのか、苦笑いの方向が俺に思いっきり向いているのが残念だが。

 

「一志くんは真面目ですから、行動をしてからなら納得なんですけどね。それでもちょっと引くというかなんといいますか……」

 

 俺はちらりと視線を逸らすことにした。

 

 この状況、反論しても絶対に味方がいない確信がある。

 

 まあそれはそれとして、何故に逢花さんとグレティーアさんが一緒に連れだってくる形になっているんだ?

 

「それはともかく、久しぶりねグレティーア。逢花とは仲が良かったの?」

 

「そういうわけではありませんが。兄と同じように臣下を集めておりますので。逢花さんにもお誘いをかけたのですが、丁重にお断りされてしまったもので」

 

「その節は申し訳ありません。あの時はグレモリーのお誘いを受けることを決めてましたので」

 

 なるほど。納得の繋がりだ。

 

 ヘルゼント・バアル殿と同じように、主を失った転生悪魔を臣下として面倒見ているのなら、そういうこともあるのだろう。

 

 しかしまあ、断っていたのか。

 

「良かったんですか? 今の流れだとライザー氏との再レーティングゲームで俺達側に付くと受け取れますけど?」

 

 そこがちょっと気になる。

 

 自分で言うことじゃないが、間違いなくハードな状況だ。

 

 下手に関わると中々ややこしいことになると思うのだが、いいのか?

 

「いいの? あなた達は私の眷属でない以上、こんなことに付き合う必要もないのだけれど」

 

 リアス部長が遠回しに確認すると、二人とも苦笑しながら頷いた。

 

「リアスさんの夢は以前に伺っておりますから。少々我儘だとは思いますが、今回の両家のやり方はそれ以上に強引だとは思っておりましたので。……友人の夢に少しばかり助力をさせてください」

 

 そう静かに微笑みながら頷くグレティーアさんに続けるように、逢花さんも静かに頷いた。

 

「……婚約関係の不本意なしがらみは、同じ女として思うところはありますので。家柄の恩恵に伴う対価はあるものですが、それにしたって通し方はあると思ってますので」

 

 なるほど、な。

 

 なるほど、これで俺達は五名ということになるな。

 

 二人も協力者が出てくるのは嬉しい誤算だ。はっきり言って部長以外は俺とイッセーだけというのを前提として考えていたので、これは本当にありがたい。

 

「……余計なお手数をおかけしてすいません。その分の責任は可能な限り背負いますので、その辺りはご安心を―」

 

 俺がそう言おうとすると、いきなり頬を挟まれる。

 

 挟んだのは逢花さんだ。

 

 真っ直ぐに俺の目を見つめ、真剣な表情で俺に向き直った逢花さんは、年長者としての真剣な思いが誰にでも分かった。

 

「君は筋を通しすぎだよ。食客には食客の責任はあるけど、それは貴族とは別の形だし、何よりまだ子供なんだから」

 

 そう告げる言葉は、俺を本心から心配しているのが感じられる言葉だった。

 

「……君は真面目過ぎるし、何よりしっかりやりすぎる。経験を積んだ老練な人物でもできない域を、自然体で出来てしまう傑物だ」

 

 その言葉に、俺はすぐに返答できなかった。

 

 というより、意識していない観点からの私的なので、返す言葉をすぐには用意できないというべきだ。

 

 そんな俺の対応も、しっかりやりすぎているのかもしれないな。

 

「他者に配慮して自重も割と出来てるけど、君の領域に到達できるのは、老年の悪魔でも一握りだと思う。正直、嫉妬もするし畏怖もしてるよ」

 

 どこか寂しげなその表情に、リアス部長やイッセー、グレティーアさんも息を呑んでいた。

 

「……すいません。考えてもない方向からの言葉なので、すぐに答えを用意できないです」

 

「そういうところも、だよ」

 

 そう言いながら軽く俺の額を小突き、その上で微笑んだ。

 

「でも、それが凄く羨ましいし憧れる。だからこそ、私は首を賭けてでも協力する」

 

 ………ん?

 

 俺はちょっとイッセー達の方向に視線を向けるが、こっちもちょっと面食らっている。

 

 一緒に来ていたグレティーアさんも面食らってるということは、これは独断か。

 

 いやちょっと待っていただきたい。

 

「君が腹を切るというなら私も切る。リアス様の味方である以上に、一志君の味方をしたいんだ、私は」

 

「………イッセー。なんとしても敵の眷属は抑えるから必ず勝ってくれ。俺が止めるべきことでは断じてないから」

 

「……お前は本当にめんどくさいな。いや、もちろん死んでも勝つけど」

 

「お前もそういうところだからな?」

 

「お前には負けるって」

 

 微妙に言い合いになったが、ちょっと視線をぶつけ合うとお互いに苦笑した。

 

「まあ、勝てばいいわけだな、勝てば」

 

「おっしゃ! じゃ、部長の為に今度こそ勝利します!」

 

 勝てば問題ないからな。幸いイッセーも勝算があってきているのなら、此処はポジティブシンキングで行こう。

 

 俺達が拳を突き合わせていると、リアス部長は額に手を当ててため息をついていた。

 

「……なんていうか、頭痛と胃痛が同時にやってきているわね」

 

「お疲れ様です、リアスさん。……では、それを笑い話にする為にも何としても勝ちましょう」

 

 リアス部長を慰めたうえで、グレティーアさんが笑みを消した真剣な表情を俺達に向けた。

 

「向こうがどういう腹積もりで挑むかは知りませんが。私達からすれば敗ける選択肢が存在しない戦いです。文字通り死力を尽くす覚悟で挑みましょう」

 

 ……笑みが完全に消えて真剣極まりない。

 

 なるほど。これが本気モードと言ったところか。

 

 ああ、全くだ。

 

 俺はふと思いつき、これは勝つ為にもすべきことだと考えて、右手を前に突き出した。

 

「士気高揚と意思統一も兼ねて、こういうをやってみるべきだと思うんですが……どうですかね?」

 

 ちょっと戸惑う部長とグレティーアさんだが、すぐに意図を察したイッセーと逢花さんが、俺の手の上に手を乗せる。

 

「いいじゃねえか。案外そういうノリいいよな、お前」

 

「ふふ。こういうルーティーンって、意外と士気に関わるからね。……ほら、リアス様もグレティーア様も、人間の若者のノリですけど」

 

 それを見て、部長もグレティーアさんもクスリと笑うと手を乗せる。

 

 そして一応筆頭であり部長が、俺達を見渡してまっすぐに見つめる。

 

「……色々と複雑な事情だけれど、これで勝ったのなら誰にも文句は言わせないわ。……力を借りるわ。そして、勝つわよ!」

 

「……打倒ライザー・フェニックス! ファイト、オー!」

 

 リアス部長に続け、最年長の逢花さんが声を張り上げた。

 

 それに合わせ、俺達は声を張り合わせる。

 

「「「「オーッ!!」」」」

 

 ……さて、難易度を張り上げた分、気合を入れ直すべきだしな。

 

 死力を尽くして、勝利をつかませてもらうとするか。

 




 と、こんな感じでライザー戦直前の展開です。

 面倒くさい阿呆の性で難易度が爆上がりですが、難易度を爆上がりさせた責任は取るつもりな男なので、此処からも二転三転します。

 多分次の話で、意外な展開になって驚くのではないでしょうか……?


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