Fleet Admiral (Eitoku Inobe)
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軍人の子

遠い昔のさらに昔、遥彼方の銀河系で。

 

ある1人の者が生まれた。

 

彼…と評して良いのかそもそも人間なのかすら私にはなんとも言えない。

 

ただ生まれた影響で世界が少し変化してしまった。

 

本来在るべき未来とは違う結末を辿った世界がいつくか生まれてしまったのだ。

 

ある何人かの一族が、世界に分岐点をもたらしてしまった。

 

それが良いことなのか、将又最悪なのかは誰にも分からない。

 

ただ生まれてきた世界を誰かが見届け創り出すしかないのだ。

 

私が今までそうしてきたように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-誕生-

ゼファント・ヴァントと呼ばれるその少年が産声を上げたのは惑星ハンバリンであった。

 

母はフローネ・ヴァント、父はゼント・ヴァントである。

 

ヴァント家はこの地に代々住み着いた軍族で旧共和国で名を挙げた伝説の元帥“クイエム・ヴァント”が開祖となっている。

 

生前彼は遺言をのちの世代に託した。

 

一族は皆兵役に就くようにと。

 

その後ヴァントの一族は皆その遺言を守り続けてきた。

 

それこそ亡霊にでも取り憑かれたかのように。

 

この影響もあってかヴァント家からは御伽噺から現れたような将兵が幾人もいた。

 

尤も当人達がそれを由としていたかはともかく。

 

「フローネ元気な男の子だ!」

 

軍服姿のままゼントは喜んだ。

 

「ええ貴方に似てきっと賢くて勇敢な子に育ちますわ」

 

妻フローネは夫に笑みを向ける。

 

「私は恵まれているよ…いい妻にいい息子を持つなんて…だが」

 

ゼントは途端に哀愁を醸し出す表情となる。

 

きっとこの子にも先祖の遺言を守らせる事になる。

 

「家訓を守らせなくてはな…でもまずは生まれて来てくれた事に感謝だ!」

「ええ、貴方」

 

看護師や助産師ドロイドも2人の宝の子を祝福しているかのようだった。

 

「ありがとうフローネ」

 

「そんなことより貴方、早くこの子に名前を付けてあげないと」

 

「ああそうだな…」

 

ゼントは考え始める。

 

普段は戦略戦術を考えることで頭がいっぱいの彼だった為人の名前を考える事からはしばらく遠ざかっていた。

 

「ゼファント…なんてのはどうかな?」

 

「確かにいいわね!」

 

ゼントが子供を抱き抱え喜びを口にする。

 

「ああ!!おめでとうゼファント」

 

まだ彼らは知らない。

 

この赤子の未来を。

 

 

 

 

ハンバリンという惑星は面白い場所だ。

 

工業的な面も持ちつつ一部ではまだ自然が豊かである。

 

ヴァント家の邸宅はハンバリンの首都からだいぶ離れた場所に建てられており首都の工業都市とは無縁の豪邸だ。

 

ヴァント家は軍人である為時には任務の都合上家を離れることが多い。

 

まあ軍人という表記が正しいのかは疑問だが。

 

銀河共和国は遥か昔に大規模な軍備縮小改革を行い今や共和国には軍隊すら存在していない。

 

ただジュディシアル部門と呼ばれる司法部隊がいくつかの艦隊と地上師団を持っているに過ぎなかった。

 

だが軍隊が亡くなっても争いは絶えない。

 

ジュディシアルのジュディシアル・フォースが紛争解決に出向くなどしょっちゅうだ。

 

ゼントもフローネもそうしてよく家から離れていた。

 

その為家には執事やお雇いのメイドなどが家を管理していてくれた。

 

「お待ち下さいませゼファント様!」

 

執事の1人であるオルホール・スレイブが幼いヴァント家の跡取りを追う。

 

スレイブ家は代々ヴァント家に使える一族だった。

 

なんでも開祖クイエムの時代からスレイブの人間が彼を補佐していたらしい。

 

その為スレイブの名の者がヴァントの家の者の世話をしたり補佐をしたりするのはごく普通の光景だ。

 

「爺に見せたいものがあるから!早く早く!」

 

ゼファント少年は走りながらオルホールを手招きする。

 

オルホールはなんとか追いつき顔をあげる。

 

昔は彼も腕の立つ兵士であった為体力には自信があった。

 

「それで私めに見せたいものとはなんですかな?」

 

オルホールは男前の老け顔でゼファントに尋ねた。

 

「見てこの大きな木!綺麗な花が咲いているよ!」

 

「おやまぁこれは見事な…これをわざわざ私に?」

 

ゼファント少年は澄んだ瞳で彼を見つめた。

 

少年らしい瞳に幼いながらも純粋で優しい言葉がオルホールを包み込む。

 

「うん!!お父さんやお母さんやみんなとここでピクニックに行けたらなって!」

 

オルホールは優しく微笑む。

 

「それは楽しみですな、その時は爺が腕に寄りをかけてご馳走を作りましょうぞ」

 

「ほんと!?」

 

「ええ楽しみにしておいて下さい」

 

ゼファント少年の目の輝きはさらに強くなる。

 

オルホールもそんな純粋な少年の瞳の力で不思議と笑みが浮かび上がる。

 

するとオルホールがポケットに忍ばせておいたコムリンクが鳴り響く。

 

『オルホール、突然で悪いがゼファントを連れて戻って来てくれ』

 

「まさか…わかりました急いで戻ります」

 

『あぁ…それほど急がなくてもだな…』

 

ゼントは急かさぬよう言うが元々軍人であったオルホールにはわかるのだ。

 

なぜ2人を呼び出すのかを。

 

コムリンクを切り木の下で花々を眺めるゼファントにオルホールは近づいた。

 

「ゼファント様お屋敷に戻りましょう」

 

「なんで?」

 

「あなたのお父様から戻るよう言われました、お話ししたい事があるそうで」

 

 

 

2人が邸宅に戻るとすでに父ゼントが軍服に着替えていた。

 

紺色に近い青色の軍服に幾つかの勲章がぶら下がっている。

 

「ただいまお父さん」

 

元気いっぱいな息子の声を聞きゼントは途端に喜びを感じる。

 

「おかえりゼファント、丁度よかった父さんと母さんお前に話さなきゃ行けない事があるんだ」

 

「僕も!」

 

「そうかい、じゃあ部屋へおいで」

 

ゼントはゼファントを優しく撫でると彼を部屋に連れる。

 

オルホールもゆっくりと彼らに着いていく。

 

「ゼファント、よく聞くんだ」

 

部屋に入ったゼントは前触れもなく本題に移る。

 

オルホールが予見した通り彼らにはあまり時間が残されていない。

 

ゼファントも真剣な表情で父親を見つめる。

 

「父さんと母さんはまた仕事に行かなくちゃいけない。しかも今回の仕事はだいぶ長くなる」

 

「当分お家を留守にするけど大丈夫?」

 

2人とも彼を心配そうな表情で見つめる。

 

メイドや執事がいるからと言ってまだ幼い息子を家に独り残していくなは心苦しい。

 

オルホールも心中を察していてか何も言わない。

 

フローネとゼントの職業は軍人だ。

 

先ほども言った通り共和国に軍隊はないがジュディシアル・フォースという軍事部隊は存在する。

 

各地に艦隊も有しておりこのハンバリンもジュディシアル・フォースの防衛艦隊が駐留していた。

 

現在ゼントはハンバリン防衛艦隊の副司令官を務めており今回はインナー・リム内での内戦が激化した為ハンバリン艦隊も応援に駆けつける必要があった。

 

その為当分家を留守にしなくてはならないのだ。

 

「大丈夫だよ。僕がちゃんとこのお家もみんなも守るよ!」

 

3人の表情が一気に明るくなる。

 

ゼファント少年の逞しい一言に大の大人3人も勇気つけられた。

 

「お父さんとお母さんこそちゃんと帰ってくるよね?死んじゃったりしないよね?」

 

逆にゼファントの方が心配そうに2人を見つめる。

 

軍人ほど死が近い職業はない。

 

死ぬつもりはなくとも死は訪れる。

 

彼らはそう思っている。

 

だからこそゼファントにもなんとなくわかるのだろう。

 

ゼントとフローネは曖昧な表情をした。

 

「大丈夫さ、ちゃんと帰ってくるよ」

 

曖昧な笑みのままゼントはゼファントの頭を撫でた。

 

フローネも微笑みかける。

 

「すぐに帰ってくるからそれまで元気でいてね」

 

「うん」

 

2人は抱きしめ合う。

 

「それじゃあオルホール、この子を頼んだぞ」

 

執事のオルホールに彼を託す。

 

老執事は一瞬だけ温かい笑みをこぼすとすぐ表情を戻し主人に頷いた。

 

「お任せ下さい、それとウォルスを頼みましたよ」

 

「彼は優秀だ、私が気にかける必要もないさ」

 

ゼントは笑みをこぼす。

 

2人は握手し部屋を離れた。

 

 

 

邸宅の玄関で迎えのスピーダーに乗り込む2人を見送る。

 

スピーダーには護衛のジュディシアル・フォースの兵士が数十名並んでいた。

 

「じゃあ行ってくる」

 

ゼントとフローネはスピーダーに乗り込む。

 

オルホールは頭を下げ見送りゼファントは静かに手を振っていた。

 

ゼントとフローネも手を振り2人が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「本当に良いのだろうか…」

 

ゼントはスピーダーの中でふと漏らす。

 

彼の悩みは妻にすぐ分かった。

 

「だからと言って戦場にあの子を連れていくなんてもっての外だし…オルホールさんもいる事だし大丈夫よ」

 

フローネはそう諭す。

 

だがゼントはまだ納得していなかった。

 

腕を組み考え始める。

 

「ゼファントを見ると不思議と思い出す…彼を…私の弟を…」

 

ゼントの表情はどんどん深刻なものになる。

 

彼が弟の名前を出す時は常に悲しい過去が掘り起こされる。

 

ゼント自身が口にするのもなんだがヴァント家は全体的に戦術、戦略、武力といった軍事での才能に飛び抜けて優れている。

 

だが出来るのとやりたいのは違う。

 

何世代も続くヴァント家にはそう言った習慣や戦いに疲れて、絶えきれなくなった者達が何人かいた。

 

「時々思うのだ、家訓をこのままゼファントにも押し付けて良いものかと…」

 

フローネは彼を見つめる。

 

「あの子にはもっと自由な生活をさせた方がいいのではないか?」

 

「でもあの子はもう覚悟が決まっていると思うわ」

 

フローネはまっすぐ前を見る。

 

母だからこそわかるのかもしれない。

 

息子の覚悟や想いを。

 

「それにあの子はきっと貴方に似て責任感がある。きっと自分から軍隊に入ると言い出すはずだわ。私たちが止めてもね…」

 

ゼントはそれを聞くとどこか悲しくなる。

 

責任を背負うのは自分だけにしたかった。

 

でも自分にはそれほどの能力がない。

 

己の非力さはよく知っている。

 

 

 

ハンバリンの駐留艦隊が次々とハイパースペースに突入する。

 

また一隻、また一隻と銀河の彼方へと向かう。

 

ゼファントはじっとその光景を見つめていた。

 

別れは寂しいがまた戻ってくることを信じて彼はグッと感情を押し殺した。

 

涙は見せない。

 

まるでその光景を祝福するかのようにハンバリンの空は美しい星空へと変わった。

 

陽が落ち暗闇が訪れた。

 

小さく美しい星々はゼファントを魅了する。

 

いつか僕もこの星々を旅するのか。

 

「星を見ておいでですか」

 

オルホールが静かに後ろに立つ。

 

ゼファントは頷いた。

 

両親のいない彼を慰めるようにオルホールは微笑む。

 

「私はまだ若い頃あの星々を少しばかり旅して見て回りました。ここと同じように多くの人々が生きている」

 

オルホールは懐かしむように昔のことを語った。

 

まだ若く聡明だったあの時を。

 

「そこで学びました。私達…いやあなたのお父様とお母様の仕事の素晴らしさを。あの方達はいえゼファント様の一族は皆自らを犠牲に出来る精神を持っていることを」

 

「自分を…犠牲に?」

 

「はい、誰かの為に何かを成し得る力を貴方達は持っているのです。だからきっと大丈夫きっと御2人はゼファント様の元へ帰って来るでしょう」

 

ゼファントはまた星空を見た。

 

オルホールの言った事はよく分からなかったが彼は一つだけ学んだ。

 

信じることを。

 

信じ抜くことを。

 

 

 

「おーいゼリム!こっちこっち!」

 

「待ってよー!!」

 

少年達が1人の名前を呼ぶ。

 

紫色の髪色をした少年が必死に丘を登る。

 

「はぁ…はぁ…早いよ…」

 

その少年“ゼリム・アザフェル”は膝に手を当てながら息を荒げていた。

 

顔を上げると木の下に同い年だろうか男の子が1人本を読んでいる。

 

この辺では見ない子だ。

 

アザフェルはその子を見つめる。

 

生真面目な表情で本を読み大きな木を見つめている。

 

「やめとけよゼリム、あいつあの屋敷の子だぜ?」

 

「そうなの?」

 

サキヤンの少年が彼に忠告する。

 

他の少年達も皆頷いていた。

 

「あの屋敷は兵隊の家だ、下手にかかわる必要もないよ」

 

「行こうぜ」

 

少年達は新しい遊び場を求めて移動する。

 

しかしアザフェルだけはその場に留まった。

 

どうしてもあの少年と会話を交わしてみたくなった。

 

どんな子なのか。

 

どんなものが好きで本当はどう思っているのか。

 

子供ながらの好奇心が彼を突き動かした。

 

丘を下り彼に近づく。

 

木の下の少年は本に夢中でこちらの存在に気づいていなかったようだ。

 

「やあ」

 

「うわっ!!」

 

少年は思いっきり声を上げ驚いた。

 

初対面のため当然その少年は不思議そうな表情で彼を見回した。

 

「僕はゼリム、ゼリム・アザフェル。君は?」

 

少年は戸惑いながら名前を覚え自己紹介を返す。

 

「僕は…ゼファント…ゼファント・ヴァント…」

 

「よろしく!」

 

アザフェル少年は気軽に手を差し出す。

 

一方今まで軍の関係者や家族や家に仕える者達とだけしか話してこなかったゼファントは初めて会う他人に戸惑っていた。

 

彼は恐る恐る手を差し出す。

 

アザフェルがさらに手を差し伸べ2人の手が結ばれる。

 

「ゼファントは何をみているの?」

 

いきなりの呼び捨てにまたもや戸惑いつつも彼は説明する。

 

「うちにある戦史の本だよ…僕だっていつか軍人になるんだ…これくらい覚えないと」

 

「へ〜、そっちの本は?」

 

アザフェルが指を刺す。

 

そこにはまだ2冊ほど本が置かれていた。

 

「ボードゲームとかの本だよ…よく爺達とやるんだ…」

 

身じろぎしながら興味津々のアザフェルの問いに答える。

 

「じゃあ僕とやろうよ!」

 

「えぇ…いいけど…」

 

ゼファントは本を机代わりにしホログラムを起動する。

 

そこにはボードゲーム用のマス目と駒が置かれていた。

 

「じゃあ先行は君から」

 

ゼファントはアザフェルに先行を譲る。

 

これが2人の初めての出会いだった。

 

 

 

オルホールはそろそろお昼の支度が出来たことを外に出いているゼファントに伝えに来た。

 

年老いてもなお真っ直ぐな背筋と見事な姿勢は時折すれ違う女性達を魅了する。

 

とは言っても彼はヴァント家に全てを捧げている為いくらこの歳で女性が寄って集ろうとも微塵も興味なかった。

 

ただ彼にも職務があり義務があるだけだ。

 

足早に丘を登りいつも彼が本を読んでいるであろうあの木に向かった。

 

相変わらず美しいところだ。

 

「ゼファント様、お昼の支度が…ってん?」

 

オルホールは一旦立ち止まって様子を伺う。

 

そこには見慣れない男の子が1人ゼファントと共にボードゲームに熱中していた。

 

執事であるおるホールが不意に独り言を漏らす。

 

「まさかあのゼファント様に…」

 

遠目から見るだけでも2人の仲はいいも。

 

小さいが2人の会話も聞こえる。

 

「あぁいっつも惜しいところで負けるなぁ…」

 

アザフェルが足をぶらぶらさせながら勝敗に足して感想を述べる。

 

今の所3勝2敗くらいでゼファントに負けていた。

 

しかも全ての戦いはどちらかが一方的に相手を嬲るような戦いではなかった。

 

お互いに全力を尽くした死闘と言っていいものだ。

 

「アザフェルは勝ち方にこだわりすぎだよ。この手をこうすればまだ戦えるじゃないか」

 

ゼファントが駒を移動させる。

 

そんな彼にアザフェルは微笑を浮かべる。

 

「でもせっかくだから綺麗に勝ちたいだろ?それに君の戦い方はずるいんだよぉ、わざと隙を作って罠に陥れるなんて」

 

「そりゃあ君の駒の配置がうまいからこっちも迂闊な手を打てば負けてしまうからだろ」

 

ゼファントが遠回しに彼を褒める。

 

素直に受け取ったのかアザフェルは再び笑みを浮かばせる。

 

「ありがと」

 

2人は笑い出す。

 

もうすっかり親友の域だ。

 

「ゼファント様ー!」

 

遠くからオルホールが呼ぶ声が聞こえる。

 

ゼファントは素早く振り返り手を振った。

 

「おーい爺!」

 

オルホールは軽々と丘を登りゼファントの元へ向かう。

 

「お食事の時間です、この子は…」

 

「あっ紹介するよ、ゼリム・アザフェル、僕の…僕の友達さ!」

 

オルホールがにっこり笑う。

 

今度はその目線をアザフェルに向けた。

 

「私めはゼファント様のお守り役であるオルホール・スレイブでございます」

 

「こんにちわオルホールさん」

 

アザフェルがペコリと頭を下げる。

 

「実はゼファント様はこれからお食事でございます、次に会うのは明日ということで」

 

「わかりました!じゃあゼファントまた明日ここで」

 

ゼファントも強く頷き2人は手を振りながら別れた。

 

オルホールも最後まで優しい笑顔を忘れにずに彼を見送った。

 

この大樹の下。

 

ここが艦隊指揮官ゼリム・アザフェル提督の出立点となった。

 

 

 

-帰還-

それから数日の時が過ぎた。

 

ゼファントとアザフェルは毎日のように木の下でボードゲームに勤しみ互いに腕を磨いていた。

 

そんなある日ヴァント家に吉報が届く。

 

インナー・リムでの任務を終えハンバリンの駐留艦隊が帰還するらしいのだ。

 

それはつまり父と母の帰還を指していた。

 

その日が近づくにつれゼファントは落ち着きがなく家中の者にいつ帰ってくるかをしつこく聞いて回っていた。

 

ついにこの日が訪れた。

 

玄関の前でゼファントとオルホールは2人の帰りを待つ。

 

予定の時間より20分も前から玄関で待っている。

 

ついにその時が来た。

 

数台のスピーダーに守られて一台のスピーダーが邸宅に留まった。

 

ドアが開き2人が出てくる。

 

「父さん!母さん!」

 

ゼファントが勢い良く飛び出す。

 

2人は驚きながらも彼を抱き抱えた。

 

「ただいま、ゼファント」

 

「いい子にしてたか?」

 

「うん!!」

 

久しぶりの再会にオルホールもいつもより涙脆くなっていた。

 

 

 

ヴァント家の邸宅内は主人の帰還によりたちまち忙しさを増した。

 

従者達は皆いつも以上の仕事をこなし戦場から無事帰ってきた2人に精一杯の安らぎを提供した。

 

「いやぁ相変わらずオルホールが作る料理は美味いな。ほんと生きて帰ってきてよかったよ」

 

冗談を交えてオルホールの腕を褒める。

 

この家の執事であるオルホールは家事全般に関しては完璧の域を超えておりメイドや専門の料理人でも足元に及ばない。

 

そして彼には…

 

「お褒めの言葉恐縮ですゼント様、よかったですねゼファント様、お父様から美味しいと言われましたよ」

 

彼はゼファントの元に近づき彼を褒めた。

 

2人はにーっと笑いあった。

 

「まさかこの料理ゼファントが…?」

 

フローネは一旦手を止め彼を見つめた。

 

「ええ下拵えなどを手伝って頂きました。爺もとっても助かりましたぞ」

 

「どう美味しい?」

 

無垢でつぶらな瞳が両親を見つめる。

 

「うん、とっても美味しいよ」

 

「偉いわねちゃんとお手伝いできて」

 

ゼントもフローネも彼を褒める。

 

瞬間ゼファントは久しぶりに満面の笑みと照れ隠しのニヤケを見せた。

 

 

 

食事が終わりゼントとフローネはゼファントを連れ広い邸宅の中を散歩した。

 

久しぶりに親子で会話をした。

 

もちろん戦闘が落ち着いた時はホログラムで互いに無事を確認したがやはり会って話すのとでは訳が違う。

 

たわいもない会話だった。

 

どんな友達が出来ただとかオルホールに何を教わったのかだとか。

 

たが彼らにはとても貴重な時間だった。

 

特に明日死ぬかもしれない彼らにとっては。

 

だからこそ生きているうちに教えられる事は全て教えておきたかった。

 

「それでねぇ、そのアザフェルは」

 

「ハハハ、よほどあのゲームの好敵手を見つけたらしいな」

 

「あのゲーム大人でも相当難しいのにねぇ」

 

2人はゼファントとアザフェルの仲の良さを感じ取る。

 

それと同時に息子に友達が出来たという喜びも感じていた。

 

すると突然ゼファントが止まった。

 

彼はある一枚の肖像画をじっと見つめいていた。

 

父と同じ銀髪にヴァント家特有の青い瞳。

 

厳しい目つきとは裏腹に優しそうな微笑を浮かべた青年。

 

肖像画の彼は髪の毛を右に流しており左脇に帽子を抱え右手には旗のようなものを持っていた。

 

まさしく英雄といった感じがふさわしいがどこか哀愁を感じる絵だった。

 

「ねぇこの人だれ?」

 

ゼファントが指を刺す。

 

2人は見つめ合いゼントが話し出した。

 

「それはご先祖様の“クリエム・ヴァント”だ。とっても偉くて賢くて強い軍人さんだった」

 

旧共和国の軍服を着込みゼファントと同じ青く美しい瞳の色をしている。

 

ゼファントはその何かに惹かれるようにじっと見つめた。

 

そんな彼にゼントは再び付け足す。

 

「クリエムは私達にある家訓を残したんだ」

 

「どんな?」

 

ゼントは少し溜めてから彼に話した。

 

「私達が代々軍人になってみんなを守よう言い遺したんだ」

 

ゼファントはまだよく理解していなかったようだがゼントは続けた。

 

「ゼファント、お前もいつか軍人になるだろう…その時の為にしっかり覚悟を身につけておくんだぞ」

 

「うん父さん」

 

「いい子だ」

 

ゼファントの頭を撫でる。

 

だがこの時彼らは気づいていなかった。

 

屋敷を何者かに包囲されていたことを…

 

 

 

-プロローグ-

今日もミッド・リム中の共和国軍の統率と深海棲艦の残党の討伐に勤しんでいた。

 

特にその中核を担う駐留軍本部の慌ただしさはコルサントの共和国軍事作戦センターと比較しても差はなかった。

 

当然その責任者であるこの男も。

 

だが今日はこの男は外出しており代わりにその息子と乗艦の艦娘が彼の部屋に来ていた。

 

「お兄様?本当にこれでよろしいのですの?」

 

彼女は何故かその男のことを息子と呼んでいた。

 

別に悪い気はしないしなんて呼ばれようが構わないので放っておいたが。

 

「父さんはちゃっちゃと片付けといてくれってってたし早くやっちまおうよ」

 

タンスや戸棚のものを整理し始める。

 

部屋の主である男は趣味で茶器や茶などを集めており戸棚の中身は綺麗に整理されていた。

 

「全く父さん私物を気すぎじゃないのか?…確かにね」

 

彼は左肩に飛び乗ったシーカー・ドロイドとボソボソっと話をした。

 

彼の軍服は少し変わっている。

 

通常の軍服がコートのようになっている。

 

そしてズボンから上着まで白くところどころ黒いラインが引かれていた。

 

そして父親の私物を気にし過ぎているのも実の息子に言われるのだから真実なのだろう。

 

艦娘の方も苦笑いしていた。

 

「でここら辺が処理する…なにこれ?」

 

彼はいくつかの記録資料を手にする。

 

ペラペラと捲り中身を確認する。

 

「何かの記録資料でしょうか?」

 

彼女は近づき資料を覗き込む。

 

そこにはこう書いてあった。

 

()()()()1(),()0()0()0()()()()()”と。

 

 

つづく




あの普通にpixivにあるんでそっちを読んでいただければなと()
これは第二次銀河内戦の箸休め的に読んでくだせぇ


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襲撃

-覚悟-

 

夜。

 

恒星の輝きが一時的に隠れ辺りは真っ暗闇になる。

 

ハンバリンは工業都市であり都市区画は夜でも昼間のように明るかった。

 

だが基本夜になったら仕事を切り上げ家に帰るのが基本だ。

 

人々は昼間働いた金を遊興費や家族の為に使い1日をまた一つ終えるのだ。

 

都市部から遠く離れたヴァント家の邸宅でも同様で1日についた体の汚れを落とし寝静まろうとしていた。

 

がそれを許さぬ者達もいる。

 

邸宅を武装し顔をマスクで覆った男達が包囲している。

 

その部隊の隊長たる男はスイッチを押し持ち込んだ特殊なバトル・ドロイドを起動した。

 

少なくともこの手のドロイドは一般兵士並には戦える。

 

再び部隊長が合図を出す。

 

攻撃の合図だ。

 

 

 

 

その一報を聞いたのはゼファントを風呂に入れ今にも彼を寝かし付けようとする瞬間だった。

 

ゼントが異変に気付く。

 

「騒がしいな…」

 

カーテンを開き外を見る。

 

そこには異様な光景が広がっていた。

 

ゼントは悟る。

 

すぐさまカーテンを閉め妻と子を隠す。

 

「隠れろ、包囲されてる」

 

「えっ!?」

 

フローネが驚く。

 

ゼントの表情は平静を保ったままだが内心大焦りだ。

 

今更感が半端ないがコムリンクが鳴り出す。

 

『ヴァント中将、正体不明の敵勢力の奇襲です!ただいま警備隊を展開し応戦しておりますがすぐ突破されます!』

 

警備隊長は悲鳴に似た声をあげた。

 

コムリンクからは銃声や爆発の音が聞こえた。

 

相手はセンサーをすり抜けこの家に奇襲をかけられる手練れだ。

 

一般の警備隊では苦戦は強いられるだろう。

 

「自動防衛システムを起動し一旦後退、屋敷内で応戦しつつ非戦闘員を逃すんだ」

 

『了解!!』

 

通信を切ると部屋に従者を率いたオルホールがドアを蹴破り室内に入る。

 

「ゼント様!!」

 

「大丈夫だ、それより非戦闘員とゼファントを頼む、後武装の用意も」

 

オルホールが静かに頷き従者達を行動させた。

 

「ではゼファント様は地下に、ゼント様とフローネ様は?」

 

「当然人ん家を荒らす奴らがどんな目に遭うか教えてやるさ」

 

「かしこまりました…では」

 

オルホールがいつもとは違う表情になる。

 

「かつての“()()()()()()()()()()()()()”の技の数々を披露しましょう」

 

ゼントもオルホールと同じくニヤリと悪い笑みを浮かべる。

 

だがオルホールと違うのは額から冷や汗が出ているということだ。

 

あの“()()()()()”とあだ名されし男が再び剣を取流ということはゼントにとってこれ以上に恐ろしい事はなかった。

 

 

 

 

「一旦後退!!後退しろ!!」

 

警備兵達が小火器を用いて応戦しながら後退する。

 

だが彼らの持つブラスター・ピストルの威力では我々が身に付けているアーマーに傷一つ付かない。

 

一方こちらの隊員の持つブラスター・ライフルは高火力で敵兵に当てれば確実にダメージを与えられる。

 

部隊長が合図を出し隊員達が前進する。

 

がそう簡単にこの邸宅は陥落しない。

 

「グハァッ!!」

 

草地から突如ブラスター・タレットが展開され隊員が数名斃れる。

 

一定の間隔を空けて起動するブラスター・タレットは弾幕射撃のようにブラスター弾をばら撒く。

 

隊員達は草むらに隠れると邸宅全体が巨大な偏向シールドにより覆われる。

 

偏向シールドにブラスター・タレット。

 

強力な防壁が完成してしまった。

 

しかし隊員達は諦めない。

 

再び隊長は合図を出す。

 

意図を汲み取った一部の隊員達が一斉に爆弾のような物を投げる。

 

投擲された物質は周辺に青白いスパークを生み出しタレットをいくつか無力化する。

 

投げ込まれた[イオン・グレネード]の効力は絶大だ。

 

隊員やドロイドが一斉に前進する。

 

この手のシールドはブラスター弾や爆破の衝撃を100%カットするがある程度弾速の遅い物であれば簡単に通してしまう。

 

その為隊員達は最も簡単にシールドを突破し屋敷へと侵入した。

 

だが第二の防壁が展開される。

 

屋敷内の至る所からブラスター・ライフルの銃口が現れ侵入者を迎撃する。

 

何名かの隊員とドロイドは弾丸を喰らい息絶えたが物陰に隠れた隊員やドロイド達はブラスター弾を掻い潜り応戦し始めた。

 

しかし装備が整い練度が高いのは襲撃者達の方だ。

 

このままでは少なからず死傷者が増えるだろう。

 

たまたま一部のジュディシアル・フォース隊員この屋敷に報告と警護の為残っていた為それでようやくまともな戦いにはなっている。

 

だがゼントには必勝の切り札があった。

 

引き金を引く敵の2人の隊員の首が宙を舞った。

 

血飛沫を出して倒れ二度と動かなくなった。

 

周囲の隊員が怖気ずく。

 

まるで攻撃が見えなかった。

 

何かが光る瞬間すでに2人の首は切れていた。

 

「おやおやそこのドロイドも狙ったはずが外してしまった…老いたな、私も」

 

自嘲するかのように正面玄関から現れる男はもう一本の剣を抜き構える。

 

隊員達はブラスター・ライフルを構え直す。

 

すると隊長がその老人を見て目を見開く。

 

「貴様…まさか“ジュディシアル・コマンドー”のオルホールか…!」

 

百戦錬磨と部下達から謳われた隊長が彼を見て驚く。

 

冷静な隊長が一瞬にして焦り始めた。

 

オルホールはニヤリと笑い剣を向ける。

 

「だとしたらどうなんだ?言っておくがすでに主の庭を荒らしあの方々の心を騒がせたお前達は生きて帰さんぞ?」

 

隊長の動揺に流石の部下達も不安に襲われる。

 

だがドロイドはそんな事知ったことではない。

 

備え付けのブラスターを構え今にでも発砲しようとする。

 

「久々に始めるとしようか、まだ腕は落ちていないかな?」

 

 

 

 

ゼファントは地下へ向かって必死に走った。

 

地下にはシェルターと作戦室が広がっており地下から別の地区へ移動する事も出来る。

 

とは言えあのベットがある部屋から地下までは相当の距離があり流石にゼファント1人では心配だということで2人ほど護衛がついてくれた。

 

1人はジュディシアル・フォースのクイン・ドラーヴェ伍長。

そしてもう1人は警備隊員でハンバリン防衛軍の[マチョフ・ゴラードン]兵曹長だ。

 

2人ともブラスター・ライフルを構えゼファントを守るように走る。

 

「大丈夫ですからね坊ちゃん!」

 

「俺たちがしっかりお守りしますよ!!」

 

荒い息を整えながらゼファントは頷く。

 

しかし時々流れ弾が窓ガラスを突き破り屋敷内へ侵入してくる。

 

その度に2人はゼファントを守るよう覆い被さりブラスター・ライフルで応戦する。

 

「大丈夫ですかい?」

 

ドラーヴェ伍長は優しく声をかける。

 

「うん…」

 

ゼファントが立ち上がり窓の外を見るとたまたま戦闘の様子が見えた。

 

驚愕の光景も。

 

彼が見た光景は到底信じられないものだ。

 

爺がオルホールが2本の剣を器用に扱い敵兵を斬り裂く。

 

ブラスター弾を軽々と避けまた2人ほど斬り殺す。

 

これほどまでに一方的で容赦のない戦いはなかった。

 

また1人また1人とオルホールとブレードの餌食になっていく。

 

完全に敵は逃げ腰だ。

 

そして敵が怯んだ所を窓から一斉射撃で敵兵を殲滅する。

 

ゼファントは当然する余地もなかったがこれがゼントの考えた作戦であった。

 

オルホールの遊撃により敵が膠着もしくは怯み切った所を集中射撃で各個撃破する。

 

実際効果は絶大だった。

 

既に襲撃者のほとんどは首のない死体になるか腹に弾を食らった死体になり転がるかのどちらかだ。

 

ドロイドも集中砲火に耐えきれず爆散しスクラップに成り果てる。

 

「こりゃひとまずこっちの勝ちだな…」

 

ゴラードンが不意に漏らす。

 

だが襲撃者達にはまだ一つ手があった。

 

「おいなんだ!?3体ほどドロイドがクソ速え!!」

 

ゴラードン兵曹長が叫ぶ。

 

デストロイ・モードを起動した3体のバトル・ドロイドが高速でブラスターの弾幕を掻い潜る。

 

そのまま真っ直ぐ屋敷の正面玄関を突破すると階段を上り始めた。

 

「まずい…こっちに向かっている…」

 

『ゴラードン、ドラーヴェそっちに敵が向かっているぞ!!』

 

コムリンクからも危機を伝える声が聞こえる。

 

2人は頷きブラスター・ライフルを構える。

 

「坊っちゃんはできる限り逃げといてください」

 

「えっでも!」

 

「早く!!いつか合流しますよ」

 

ゼファントは迷った。

 

恐らくここで彼らを置き去りにすれば助かる可能性は低いだろう。

 

だがここで逃げなければ自分も死ぬ。

 

彼が考えるよりも早く敵のバトル・ドロイドは階段を踏み込み現れた。

 

2人は険しい表情を作り出し引き金を引く。

 

何発かの弾丸は当たり腕を吹っ飛ばしたがまだ完璧に機能停止には至っていない。

 

3体のドロイドは格闘戦でゴラードンの腹部を強打しドラーヴェを壁に叩きつけた。

 

2人の護衛はあっけなく敗れた。

 

そのまま3体はゼファントに狙いを定める。

 

このままでは死んでしまう。

 

ドラーヴェもゴラードンも殺されてしまう。

 

そんなのは嫌だ。

 

彼は自分の死よりも自分を守ってくれた2人の死を怖がった。

 

殺させはしない。

 

その瞬間彼の覚悟は決まった。

 

青い瞳に力強い光が灯された。

 

表情を変え右足で思いっきり地面を蹴る。

 

危機を察知したドロイドはブラスター弾を放つがこの距離では当たるはずもなかった。

 

そのまま気絶したドラーヴェのブラスター・ライフルを掴み重く硬い引き金を引く。

 

当然だ。

 

その一発は人すら殺せるのだから。

 

放たれた一発はドロイドの脳天を貫き完全に機能を停止させた。

 

が代わりに物凄い反動がゼファントを襲った。

 

肩に衝撃が走り今にでも吹っ飛ばされそうになる。

 

だが彼は男だ。

 

なんとか堪え冷静に次の狙いを定める。

 

残りの力を振り絞りドロイドを狙い撃つ。

 

後は1体のみ。

 

しかしその1体も救援に来たゼントや警備兵達により始末された。

 

兵達が周囲の安全を確認し2人の安否を確かめる。

 

「大丈夫だ、気絶してる」

 

「ゼファント!!」

 

ゼントとフローネはブラスター・ライフルを持つ我が子を抱きしめた。

 

2人とも涙を流している。

 

「よかった無事で…本当に…」

 

「すまなかった父さんが不甲斐ないばかりに…」

 

あまりに強く抱きしめられるのでゼファントはちょっと苦しそうだ。

 

でも彼は不思議と笑みをこぼした。

 

恐怖からくる涙ではなく優しい笑みを。

 

 

 

「さあ吐け、なぜこの家を襲った」

 

オルホールは2本のバイブロソードを隊長の首に当てた。

 

部下も他の隊長も皆斬殺されており最後に彼だけが生き残った。

 

あれほど鮮やかな奇襲だったというのにまさかの返り討ちだ。

 

絶望を通り越して笑いが込み上げてくる。

 

「知らんな…」

 

残りの力を振り絞りそう答える。

 

オルホールにまた怒りが走る。

 

「私は今怒っている別に目の一つ潰したってなんとも思わない」

 

「フンッ…そうかい」

 

隊長はどこか笑っていた。

 

さて終わりにするか。

 

俺の部隊もこれで店じまいだ。

 

「俺は何も知らないし何も知らされていないぜ…」

 

隊長は最後にそう答えた。

 

それ以上は何も答えなかった。

 

口に含ませていた毒を飲み込み一瞬のうちに自殺したのだ。

 

結局この襲撃は一晩もかからずに鎮圧された。

 

謎をいくつか残して。

 

 

 

-知られざる側面-

襲撃の夜が明け朝日が登った。

 

ゼント達の勝利を祝うかのように登る朝日は屋敷を照らした。

 

屋敷の周りにはハンバリンの警察や防衛軍、ジュディシアル・フォースが集まり事件を捜査していた。

 

しかしほとんどの襲撃者が死亡した為彼らの生きた証言は得られず捜査は難航すると予測されていた。

 

「中将、今後の事も考えて御子息は安全な所へ避難させた方が宜しいのではないでしょうか?」

 

部下の1人がゼントに提案する。

 

ゼントはそれも考えはしたが首を縦に振った。

 

「あの子が納得しないだろう。それにあの子は自分のことは自分で守れる力がある」

 

ジュディシアルの軍服にコートを着たゼントは数時間前まで戦闘が行われていた庭へと踏み込む。

 

まだ流血が草木に飛び散っており戦闘の激しさを想像させた。

 

「それと…この捜査に“ジェダイ”も参加すると…」

 

ゼントの表情がガラリと変わった。

 

怒りや苛立ちに満ち溢れた顔で部下に近寄る。

 

頭に血が登りめじらしく我を忘れる。

 

「絶対に家には入れないぞ!!あの宗教信者どもは関係ないはずだ!!」

 

「いっいえ!!これはジェダイ評議会からの命令だと…」

 

部下が怯えて縮こまる。

 

しかしゼントの怒りは収まらない。

 

「あの連中が戦闘に介入するだけでも虫唾が走るのになんで家にまで入れなきゃならないんだ!!あんな連中は絶対に家に入れん!!」

 

「しっしかし…」

 

「入れるとしたら私は腹を切る!!いいか絶対に入れんぞ!!」

 

事情を知らない警察やハンバリン防衛軍の一部の者は唖然とした表情で見つめていた。

 

だがいくらそな表情で見つめられてもゼントの怒りは収まらない。

 

ある1人を除いて。

 

「父さん…?」

 

玄関からゼファントの声が聞こえた。

 

寝起きでまだパジャマ姿のままだ。

 

怒鳴り散らす父を見て彼は心配そうな目で見ていた。

 

実の息子にこんな目で見られたら流石のゼントの怒りも一旦は収まる。

 

「ごめんなぁゼファント、起こしちゃった?」

 

「うんうん、大丈夫だよ」

 

「そうか、父さんは仕事に行ってくるよ朝食を食べて早くお友達と遊んできなさい」

 

「うん…」

 

ゼントは微笑み彼の頭を撫でた。

 

すぐ立ち上がると部下に命令してゼントは宇宙へと上がった。

 

しかし息子の心配な目は無くなることはなかった。

 

 

 

 

「おーいアザフェル!!」

 

木の下で待つアザフェルはゼファントの声を聞き満面の笑みを漏らした。

 

彼の邸宅が何者かによって襲撃されたニュースはアザフェルの耳にも届いている。

 

心配していつもより早くこの場所に来ていたがどうやら無事なようだ。

 

「ごめんごめん遅くなっちゃって」

 

「いいよ、それより君の家が…」

 

「ああ…うん、色々あったよ」

 

苦笑いで受け流すゼファントの表情を見てアザフェルは彼が本当に無事な事を確信した。

 

いつも通り彼らはボードゲームをしながら話をし出した。

 

普段はたわいもない話だったが今日ばかりは違った。

 

「僕今日知ったんだ」

 

なんの脈絡もなくゼファントが話し出す。

 

アザフェルはただ耳を傾けていた。

 

「知らない事が沢山あった…僕は家族や一緒に過ごしている人のことすら知らない事があった」

 

彼の脳裏には剣を振るうオルホールの姿と“ジェダイ”という単語を聞いて怒る父の姿があった。

 

今までこんな姿見せたことはなかった。

 

ずっと父はともかくオルホールに至っては普通の執事だと思っていた。

 

だが違った。

 

2人とも自分の知らない一面があった。

 

いやそれも違う。

 

2人はあえてそんな姿を自分の為に隠していてくれたのだ。

 

「でもみんな僕を守る為だった…」

 

ゼファントはじっと空を見つめる。

 

アザフェルも彼の言葉一つ一つに頷く。

 

「だから僕はそんなみんなを守りたい、僕は軍人になるよ」

 

それは家訓の影響もあったがゼファントが下した幼く固い決断であった。

 

「軍人になってみんなを守る」

 

「それじゃあ僕もついていくよ」

 

「えっ?」

 

アザフェルの意外な一言にゼファントは首を傾げた。

 

「僕だってみんなを守りたいんだ」

 

 

 

ハンバリン防衛艦隊。

 

拠点である軌道上の基地にゼントは向かった。

 

この基地にはハンバリン防衛軍やジュディシアル・フォースの隊員など様々な部隊が駐留している。

 

ハンバリンは共和国にとっても重要な星だ。

 

それ相応の防衛力がある。

 

ゼントは基地の自室に向かい扉を開けた。

 

「おっどうやらまだくたばってないようですね。閣下」

 

ひょうきんな態度の男がゼントに声を掛ける。

 

あまり機嫌の良くないゼントはうんざりするような顔をした。

 

「もっと気の利いた言葉くらいかけてくれんのか?ウォルス」

 

ウォルス・スレイブ中佐は悪い笑みを浮かべた。

 

スレイブ家は代々ヴァント家の副官として使えている一族だ。

 

その為“スレイブ”の名の者は複数いて必ずヴァント家に使えている。

 

オルホールだってそうだ。

 

彼も先代のヴァント家当主に使えており優秀だったそうだ。

 

彼ウォルスも優秀ではあるがどこか掴み所なく面白い人物だとゼントは知覚する。

 

「まあ事件の方は迷宮入りでしょうな、調べた所あの部隊は傭兵隊で恐らくクライアントとは大した接点もないでしょうし」

 

「だろうな…服毒自殺するあたり筋金入りだとは見えるが」

 

ゼントは椅子に座りコンソールをタップした。

 

モニターが浮き上がり仕事に掛かる。

 

「それでぶっ壊したドロイドの方は?」

 

「今技術部の連中が調査中ですよ、なんでもあのドロイド全く見た事がないとか」

 

「ほーん」

 

ゼントは背もたれに寄りかかり少し考える。

 

「まあ十中八九今までヴァント家に敗れてきた者の仕業でしょうな」

 

「それ、数が多くて敵わん」

 

1000年近く市民の為に戦い続けてきたヴァント家の敵は多い。

 

言ってしまえば四方八方敵だらけだ。

 

ついこないだだってインナー・リムのギャング艦隊を蹴散らしてきたのだ。

 

「それかジェダイだったりして」

 

ウォルスがおちょくる。

 

「あり得るなむしろその線が一番濃厚だ」

 

冗談と分かっていてもあえてゼントは本気で捉えた。

 

相変わらず面白い関係だ。

 

そこでウォルスはいいニュースを吹き込む。

 

「そういえばハンバリンの防衛軍は一旦解体されてジュディシアル・フォースに併合されるそうですよ」

 

ゼントの表情が変わる。

 

だが予測されていたことのようにすぐ平常通りになった。

 

「そうかやっぱりか。まあ共和国もハンバリンに影響力を出したいだろうしこの惑星の予算ではあの軍を維持するのは難しいからな」

 

ゼントは的確に状況を認識する。

 

ウォルス中佐はまだ続ける。

 

「艦隊も併合されるそうですし、言っときますけどその初代艦隊司令長官は閣下ですよ?」

 

「はぁやっぱりか…」

 

「そのまま提督に昇進だそうです、確かにここら辺でまともに艦隊を動かせるのなんて閣下だけですが」

 

彼は鼻で笑う。

 

実際ゼントの艦隊運用は素晴らしいものだ。

 

「まさかその艦隊司令長官は世襲制じゃないだろうな?」

 

「ええまあ」

 

ゼントの注目する点はそこだった。

 

「ならいい…ゼファントまでこんな所の指揮を取る必要はないからな、彼はもっと上をいける」

 

「たとえば?」

 

ウォルス中佐が尋ねる。

 

ゼントは数秒の間隔もなく答えた。

 

「クリエム・ヴァントと同じく元帥になれるだろう」

 

「元帥は難しいんじゃないですかね?特にこんな平穏な時代に元帥なんて必要ないですし」

 

ウォルス中佐は否定的な意見を述べる。

 

がゼントはまだ息子を信じていた。

 

「いやどうかな、あと数十年経てば平穏も怪しい…私の予見では少なからず大戦争が起きるはずだ、きっとゼファントならそこで武勲

を立て共和国を勝利に導けるはずだ」

 

ゼントの表情は輝いていた。

 

彼は一瞬のうちに未来を見通し息子の躍進を確信していた。

 

 

 

荒れた庭を手入れするのも執事の務めだ。

 

破片や気味を片付け花々を植え直す。

 

オルホールの表情はどこか優しくどこか悲しかった。

 

久しぶりに彼は剣を振るった。

 

もう剣を振るうことには罪悪感はない。

 

ただゼファントを守りきれなかった事、危機を与えてしまった事に対しては罪の意識を感じる。

 

ゼファントは何度も気にしないでとは言ったがやはり執事として己が許せない。

 

悔やんでも仕方ないと清算した時彼の子が聞こえた。

 

「爺ただいまー!」

 

ゼファントの声だ。

 

「お帰りなさいませゼファント様」

 

オルホールは立ち上がり頭を下げる。

 

ゼファントは少し立ち止まってからオルホールに想いをぶつけた。

 

「爺は僕たちのために戦ってくれたんだよね…」

 

その瞬間オルホールはハッとする。

 

まさか見られていたのか。

 

だからなんだという気持ちの方が大きかったが少なからず彼に自分の見せたくない一面を見られてしまった感触は拭いきれない。

 

嫌われたな。

 

当然だろう、あれだけの人を斬殺したのだから。

 

しかしゼファントから放たれた言葉は意外性を極めた。

 

「ありがとう、僕たちを守ってくれて」

 

いつも通りの笑みを向けオルホールに礼を述べる。

 

純粋だからこそその感謝の言葉は躊躇いもなく出てきた。

 

きっともう少し歳を取っていたら少し変わっていただろう。

 

オルホールは唖然としていたがすぐに気を取り戻し暖かい笑みをこぼす。

 

オルホールには笑顔が似合うとこの時ゼファントは思っていた。

 

「でも大丈夫、僕がいつかみんなを守る」

 

ゼファントは彼の目をしっかり見て言う。

 

「僕がいつか大人になってみんなを守るよ」

 

少年の決意は固かった。

 

一晩のうちに別人のように成長している。

 

長いい間彼のお守りをしていたオルホールにとっては涙が出そうになる程喜ばしかった。

 

「頼みましたよ…ゼファント様」

 

ゼファントがにっこり微笑む。

 

これが彼の出発点。

“ゼファント・ヴァント上級元帥”の出立点である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人はペラペラと記録書を捲りヴァント家の歴史を学び直す。

 

戦略やその当時の当主の様子などが事細かに記されてあった。

 

当然現当主の記録も。

 

「へぇ父さん昔そんな事があったんだ」

 

息子は記録書を読みながら声を上げる。

 

「ねえお兄様?いいんですの?こんなことして…お父様に怒られるんじゃ…」

 

「いいんだよ別に、だいだい息子が父の事ちょっとくらい知ってたって何の問題もないだろう?」

 

息子はそう彼女に言い聞かせるとまた記録書を読み出す。

 

「ええ16歳の時にアカデミーに入学して4年間軍学に励む…父さんの学生時代か」

 

「かなり早くに入学したんですね」

 

「まあ家は軍族だからね、私なんて15の頃にはもう戦場にいたし…」

 

彼は苦笑いを浮かべる。

 

彼女もそれ知っているのか同情するように苦笑いを浮かべていた。

 

「さてじゃあ読んでいこうか、父さんの昔を」

 

彼の息子“エルト・ヴァント”上級特佐ページをまた捲った。

 

艦娘の“スペクテイター”を連れて。

 

つづく




取り敢えず3話は置いておく(唐突)

そういやわしの誕生日ってフランス革命の頃らしいんすよ(唐突)


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ジュディシアル・アカデミーへ

-始まりの一歩-

 

惑星コルサント。

 

共和国の首都であり銀河系の中心地。

 

惑星全体が都市であり政府機関や様々な重要施設がこの惑星に敷き詰められている。

 

また文化の中心地でもあり1兆人以上の人口が日々生活していた。

 

惑星全体が都市と言われる通り高層ビルが並び惑星本来の地表はほとんど見えなかった。

 

「ゼファント様もうちょっと右に寄って下さいませ」

 

オルホールがホロカムを用いて写真を撮ろうとする。

 

まだ着慣れない士官候補生服を着たゼファントがニヤケを押さえながら言われた通り右に寄った。

 

ゼントもフローネも息子の晴れ舞台にニヤニヤしている。

 

「では撮りますよ!はい!」

 

こうして一枚の写真が撮られた。

 

恐らく親子で撮る写真はこれが最後ではないかと後にゼファントは考えていた。

 

この日はジュディシアル・アカデミーの入学式があった。

 

当然アカデミーの試験もあったが()()は余裕で突破した。

 

「おーいゼファント!」

 

向こうから聞き馴染みのある声が聞こえる。

 

紫の髪にオレンジの瞳を持つアザフェルが彼に声を掛けた。

 

「その制服似合ってるぜ」

 

「どうも、ゼント提督、フローネ少佐ご無沙汰しております!」

 

「そんな堅苦しくなくていいよアザフェル君。合格おめでとう」

 

「ええ彼のいう通り。私からも合格おめでとう」

 

2人は素直にアザフェルを褒めた。

 

アザフェルは照れ頭を掻く。

 

「そろそろ時間じゃないか?ほら君たちも送れないよう行きなされ」

 

「はい父さん」

 

「それでは提督、またいつか」

 

ゼファントは手を振りアザフェルは頭を下げて別れた。

 

2人はアカデミー内に向かってまっすぐ進む。

 

「それにしても随分広いな」

 

アザフェルがアカデミー内を見渡しながら率直な感想を述べる。

 

「まあ私達が名目上共和国の守り手になるんだ。これくらいなくちゃな」

 

「確かに、で大ホールはこっちだっけ?」

 

「ああ」

 

2人はいつも通りたわいもない話をしながら大ホールに向かった。

 

 

 

入学式の校長の演説は長く仰々しかった。

 

「諸君らは共和国を守る為に自らを賭してこの道を選んだ真の愛国者である!!口先だけで憂国を唱える愚かな理想主義者とは違う!!諸君らは祖国の為に自ら立った勇者達だ!!」

 

ジュディシアル・アカデミーの校長の熱弁は一部の愛国信者達の心を奮い立たせた。

 

しかし一部の者達には不快と冷笑の対象となっていた。

 

たかがジュディシアルに何が出来ようかと。

 

「校長閣下は相当の“愛国者”様のようだ」

 

「バカ言えただ思想が偏ってるだけだろ。そうまで言うならとっとと正規軍を作ってくれ」

 

「いっつも思うんだがどうしてそう突拍子もないこと言うんだ」

 

言葉だけの愛国心と平和主義はなんの役にも立たない。

 

この男はこれまで一体どれだけの事を成してきたのだろうか。

 

校長の言う祖国の為前線で戦ったり、そうでなくとも後方勤務に従事し何かを成し得たのか。

 

階級だけ見るに決して低くはないので何もせずと言う事はないだろうがそう考えると少し妙な気持ちになった。

 

「そんな諸君らはこの学び舎でさらなる高みを手にし真の救国主となるであろう!!」

 

ようやく偏見と傲慢の詰まったご高説が幕を閉じそうだ。

 

「では諸君らには惑星ハンバリンの英雄、“ゼント・ヴァント”提督から励ましの言葉を受けてもらう!!」

 

その瞬間ゼファントの表情が変わった。

 

危うく席から立ち上がりそうになった。

 

すると校長は壇上から立ち去り何やら当然のように彼らのよく知る人物が代わりに立った。

 

ゼファントの父親だ。

 

そういえばいつも付けていない勲章を無駄に付けているなと思ったがその為か。

 

マイクを調節しゼントは目を瞑る。

 

目を開けた瞬間が演説の始まりだ。

 

「私は特に話すことはないし先程の校長の言葉を否定する必要もないが…一つだけ言わせてもらおう」

 

ゼントの表情は鋭いものとなっていた。

 

あんな目つき今まで見たことがない。

 

息を溜め心を落ち着かせる。

 

「我々に思想は関係ない。ただ命令に従い、命に変えてでも市民の平穏と安全を守るのみだ。命を捨て市民の為に死ぬ覚悟をここで身につけろ!…以上だ」

 

ゼントの演説は簡潔を極めた。

 

あたりは静けさに襲われた。

 

歓喜の叫びも卑下の言葉も出ない。

 

ただ覚悟を突きつけられたのだ。

 

軍隊に入ることの意味と結果を。

 

だがあの彼はすでに覚悟が決まっていた。

 

ゼファント。

 

彼らの覚悟はとうの昔に決まっていた。

 

生まれた時からきっと。

 

 

 

その後彼らは幾つかのグループに分けられた。

 

なんの運命かは知らないがゼファントとアザフェルは同じグループでさらに同じ宿舎になった。

 

ここまで2人が共にいると逆に疑いがかけられる。

 

父さんがなんかしたんじゃないかと。

 

ある一角に候補生達が集められた。

 

「私がお前たちの教官の[シャック・ギーリス]中佐だ。先程ゼント提督の仰られた通り貴様らはこれから市民の盾となり剣となる為ここで鍛えられる!覚悟はいいか!」

 

「はい教官殿!!」

 

候補生達は背筋をたて声を上げた。

 

ギーリス教官は1人ずつ姿を見る。

 

「どうやら心構えだけは立派なようだな!それでは解散し自室に戻るように」

 

「サーイエッサー!!」

 

ギーリス教官が立ち去ると候補生達は一斉に胸を撫で下ろしほっと一息ついていた。

 

正しく物語から出て来たかのような丸刈りで強面の教官だった。

 

候補生達は数年学びを共にする仲間達に軽い自己紹介付きの挨拶を交わした。

 

「おーい!そこのお二人名前は?」

 

「ゼリム・アザフェル」

 

「ゼファント・ヴァントだ」

 

ゼファントが自分の名前を喋った瞬間候補生達に衝撃が走った。

 

ヴァントという名前はやはり衝撃的なのだろう。

 

すぐにゼファントに話を振り食いついた。

 

「君あのゼント・ヴァントの息子か!?」

 

「えぇ…まあ…僕の…いや私の父だが」

 

身じろぎしながら質問に答える。

 

基本屋敷のお坊ちゃんだった為あまり他の人と話した事がない。

 

しかし一つ質問に答えたことによって芋づる式に質問が飛び出してきた。

 

「マジかよ!ヤベェ!」

 

「君じゃあお父さんから何か教わったりしてんの!?」

 

「いや特には…でもよく先祖クイエムの戦術とかは読んだよ」

 

「やべぇ…」

 

「じゃあじゃあアカデミーの試験は…」

 

「えっと普通…だったかなぁ…でもハイパードライブの燃料から割り出せるジャンプアウトの地点のやつは難しかった」

 

わっと歓声が湧く。

 

ゼファントはこうして一躍人気者となった。

 

だが当の本人は困惑した表情だ。

 

アザフェルに助けを求めようとするがこの状況が面白いのか“お手上げ”と腑抜けた顔をしていた。

 

するとアザフェルにも話を聞きにくる者がいた。

 

「ねぇ君名前は?」

 

「えっ!?えっとゼリム・アザフェル…」

 

とてつもない美少女だ。

 

あのアザフェルが動揺している。

 

明るく聡明で何より美人だ。

 

よほどアザフェルの好みだったんだろう。

 

「き…君は…?」

 

恐る恐る彼女に聞く。

 

そんなアザフェルをゼファントは遠目からニヤニヤしながら眺めていた。

 

「私はリエス・ゼルナース、よろしくね!」

 

彼女は優しく微笑む。

 

その微笑みがますますアザフェルの心を掴む。

 

「よ…よろしく」

 

2人は握手をした。

 

ゼファントは絶え間なく質問してくる候補生達を押し出しながらアザフェル達に近づいた。

 

彼を軽く肘で突いた。

 

ゼファントは今までにないほどニヤニヤしている。

 

「なっなんだよ…」

 

彼のニヤケはまだ止まらない。

 

「君は?」

 

リエスがゼファントに名前を尋ねる。

 

「ゼファント・ヴァント」

 

「へぇそんな家に生まれて大変だったでしょうに」

 

「いやそうでもないよ。全然普通の家だったよまあ大変だったのなんて一回家がテロリストだかの襲撃にあった事くらいだな」

 

懐かしそうに数年前の出来事を口に出す。

 

このことを知っているのはアザフェルくらいだ。

 

「あん時心配して行ってみたら全然大丈夫だったよなお前」

 

仕返しとばかりにアザフェルもゼファントの脇腹を突く。

 

してやられたなとゼファントは思うが話を続ける。

 

「たかだかテロリストにやられるような家が艦隊司令官なんて務まらんさ」

 

「面白い人達ねあなたとアザフェル」

 

リエスが微笑を立て2人の関係を微笑む。

 

なぜだかわからないがアザフェルの方は照れていた。

 

「いやそんな…」

 

「お前が照れることじゃないだろ」

 

「それじゃあまたね」

 

リエスは知り合った候補生達と共に部屋を出た。

 

最後の最後まで照れっぱなしだったアザフェルをゼファントは叩いて現実世界に引き戻した。

 

「さっさと私達の宿舎に行こうぜ」

 

「あっああ…」

 

まだ質問したりない候補生達をなんとか撒き2人は宿舎についた。

 

扉のスイッチを押すとすでに同室の男が何かを見ていた。

 

「君は?私はゼファント、こいつはアザフェル」

 

2人の紹介を軽く済ませるとその男も立ち上がって自己紹介を始めた。

 

「僕は“フォンス・ゼネークト”、今日から同室だ」

 

ゼネークトは右手を差し出し握手を求めた。

 

ゼファントも快く了承し彼の手を握った。

 

そのままアザフェルもゼネークトの手を握り晴れて3人は同室の仲間となった。

 

「これからよろしく」

 

「こちらこそ」

 

彼らはまだ知らない。

 

3人の未来を。

 

あの栄光の歴史にその名を刻むことを。

 

-アカデミーでの日々-

彼らの勤勉と訓練の日々は続いた。

 

このジュディシアル・アカデミーのクラスは4年制で今のゼファント達は17歳。

 

後数ヶ月もすればゼファントは18歳になる。

 

アカデミーでの生活は厳しいものだがその分学ぶことの方が多い。

 

「このように比較的重要度の低い惑星や衛星に敵を引き付け包囲殲滅する事をコバーン=ヴィアーズ戦術といい大部隊を相手にする時重宝される」

 

眼鏡をかけた戦術講師のヴァス・ガコン少佐は未来ある候補生達にありとあらゆる戦術を叩き込む。

 

タブレットには壇上に映し出されている資料と同じ内容が転送され候補生達はそれを読みわかりやすいよう印をつける。

 

そこには戦術の考案者と実際の記録や戦術の展開方法が描かれている。

 

「罠に嵌めるまでは至難の技だが一度嵌ってしまった罠からは敵は簡単に逃げ出せない。また逆転も難しい」

 

壇上のモニターに敵を引き付け包囲するイメージ図が映し出される。

 

「その為確実に敵を殲滅する為には自然の周到な準備が必要だ。この戦術が確立されたデノン戦役においても地上代理指揮官と艦隊代理指揮官による巧な連携と準備による勝利が主な要因とされている」

 

代理指揮官の画像が転送される。

 

ゼファントは頷きながらフリースペースにこの戦術を流用した戦術プランを記載した。

 

講義の合間にもこうやって実際の戦闘を意識している。

 

ただ講義を聞くだけなら誰でも出来るはずだ。

 

しかし広義により得られた知識をどのように活かすかが重要だ。

 

ゼファントはそれを知覚し自分ができる範囲で得た知識を活かしている。

 

「大軍での激突は戦線の膠着と国家の疲弊の要因となる、いかに素早く敵に打撃を与え敵の主力を撃つ破るかが国家の安寧と市民の安全に繋がる、次に1,000年前の最終戦争で活躍したクエイム・ヴァントの艦隊戦術だ」

 

ゼファントは一瞬だけハッとした。

 

そして数秒だけ数人の視線がゼファントの方を向いた。

 

自分と同じ名前が上がれば多少は反応するだろう。

 

いくらそういう家系だと知られていても。

 

「対空防御と波状攻撃を主点に置いた戦術だ。戦艦と護衛艦を均等に配置し何枚かの層のように展開し、それによって波状攻撃を繰り出す」

 

大きなモニターに戦術をイメージしたシュミレーションが映し出される。

 

打撃力と敵への精神的な圧力は十分効果的に見えた。

 

しかしかなりの物量が必要であるし何より敵の一点突破には弱そうだ。

 

それを示すように少佐は付け加えた。

 

「しかしこの戦術も状況によって変化し弱点となりうる可能性がある。戦術の使い分けがやはり何より重要だろう」

 

 

 

 

彼らは優秀なジュディシアル士官になる為に訓練を積んでいる。

 

ただ戦術を学ぶだけでは優秀な士官にはなれないだろう。

 

その為ある程度の護身術やブラスターの撃ち方、サバイバル訓練などを受ける義務があった。

 

「射撃には正確な狙いと反射神経が重要になる、味方への誤射などもっての外だ!」

 

教官が動く的に狙いを付ける候補生達に基礎を再び吹き込む。

 

候補生達ブラスター・ライフルをしっかり構え自動で動く的にブラスター弾を撃ち込む。

 

最初に比べればマシになってきたが命中率はそこそこだ。

 

だが彼らは違う。

 

ゼファントとアザフェル、ゼネークト。

 

その正確な狙いは教官も感嘆の声を上げるほどだった。

 

「やるなゼネークト!」

 

「手柄は譲ってやるさ!」

 

2人は正確な狙いで次々と的を撃ち抜く。

 

30秒もすれば全員がほとんどの的を撃ち倒していた。

 

「よし交代!」

 

教官が交代の合図を出す。

 

今度はアザフェル達の出番だ。

 

ゼファントがそっと肩を叩きアザフェルにエールを送る。

 

アザフェルが1につくと隣には嫌味なコルプ・ヴァンガロ候補生がいた。

 

ヴァンガロ候補生はアザフェルに対して悪い笑みを浮かべた。

 

「今日は負けねぇぞ」

 

「勝負じゃないんだから」

 

アザフェルはそう宥める。

 

「撃ち方よーい」

教官が合図を出し全員がブラスター・ライフルを構える。

 

2人もしっかりと狙いを定める。

 

「撃て!」

ブラスターの銃声が一斉に鳴り響く。

 

アザフェルは次々と的を撃ち抜いて行った。

 

ヴァンガロ候補生もなかなかの腕前だがアザフェルには到底及ばない。

 

徐々に苛立ちを感じ始めた。

 

ヴァンガロ候補生は周囲を確認しついに卑怯に手を染める。

 

なんとアザフェルの射線上にブラスター弾を撃ち出したのだ。

 

これでは狙いが定まらない。

 

アザフェルは冷静に考えある行動に出た。

 

逆に手薄になったヴァンガロ候補生の的を狙い撃つ。

 

ドロイドが計測している為自動的にアザフェルの点数となるのだ。

 

意地の悪い性格が逆に仇となった。

 

「よし止め!」

 

銃声が止む。

 

ブラスター・ライフルを構え直しそれぞれその場で雑談を始める。

 

だが怒りを隠しきれないヴァンガロ候補生はアザフェルに近づき彼の胸ぐらを掴む。

 

「おいアザフェルてめぇ俺の獲物を!」

 

「しっかり狙わない奴が悪いんだろ?それに人の方へ向けてけてくるなんて危ないじゃないか」

 

正論を食らったヴァンガロ候補生はさらに怒りを爆発させる。

 

「この野郎!」

 

「止めなさいよ!」

 

どこからともなく止めに入る声が聞こえた。

 

思わずヴァンガロ候補生も掴む左腕を下ろした。

 

「リエス…」

 

彼女はこの数年間ですっかり同期のアイドルと化した。

 

「アザフェル、さっきの射撃すごかったわ!」

 

「そっそう?」

 

「ええ、いつか私にも教えて欲しいくらいだわ」

 

「いっいやぁそれほどでも…」

 

相変わらずアザフェルは変わらない。

 

すると暇そうにしていたゼファントがアザフェルの後ろにもたれ付く。

 

「教えてやれよアザフェル」

 

「ちょっお前…!」

 

「そうそう、お近づきになれるかもしれないだろ?」

 

ゼネークトも参加して彼をおちょくる。

 

最初の頃はこんな事をしない奴だったが徐々に信頼や友人関係がしっかりしてきたせいかしょっちゅう彼をからかうようになった。

 

2人とも悪い笑みを浮かべている。

 

だがリエスだけは頭にはてなマークを浮かべ首を傾げている。

 

「じゃあ考えて…おくよ」

 

「楽しみにしてるわね」

 

ゼファントとゼネークトは彼の方を軽く叩きリエスの取り巻きの女子達は応援するという意味も込めてくすくす笑われていた。

 

アザフェルはすっかり脱力しきっていた。

 

 

 

扉を叩く音が聞こえた。

 

「入りたまえ」

 

また候補生が資料でも届けにきてくれたのだろうとギーリス教官は考えた。

 

しかし扉を開けた人物は候補生ではなかった。

 

「ガコン少佐…どうしたのだね?」

 

席を立ち同じ教官であるガコン少佐を迎える。

 

何やら彼はギーリス教官に相談したいことがあるようだ。

 

「中佐もご存知でしょう?あの特筆した才能の持ち主…ゼファント候補生を」

 

ギーリス教官も表情が強張った。

 

ついに彼も同じ事を思うようになったか。

 

「彼がどうしたのだね?」

 

平常心を保ちガコン少佐に尋ねる。

 

「中佐、率直に伺います。彼は一体何者なのですか?」

 

「うむ率直すぎるな。彼はただ“一族が軍人の家”というだけで特に怪しい点は見られないぞ」

 

ギーリス教官は一蹴した。

 

だがガコン少佐は引き下がらない。

 

「そうではありません。彼があまりにも優秀すぎるのです…これを見てください」

 

ガコン少佐はタブレットを起動しゼファントの記録データを彼に見せる。

 

評価はぶっちぎりのトップで尚且つ追加項目にまで褒め称えられるようなことしか書いていなかった。

 

不気味なほどに。

 

ガコン少佐は画面をスライドし注目すべき点を挙げる。

 

「これは…」

 

ギーリス教官は思わず絶句する。

 

「はいこの戦術の数々…もしこの戦術が実行に移されればどれほどの戦果を挙げられるか…」

 

「予想はしていたがこれほどとは…」

 

ギーリス教官はまだ迷っていた。

 

話そうかどうか。

 

「疑いたくはありませんが父のゼント提督に身体を改造でもされたのでしょうか…?」

 

ガコン少佐の言葉は恐ろしいが拭いきれない面もあった。

 

サイボーグや戦闘用に改造された生命体というのはこの長い銀河史においていくつか存在していた。

 

流石にあり得ないだろうが。

 

「流石にゼント提督はそこまではしないであろう…むしろそんな機器を持っているとは思えん」

 

ギーリス教官はガコン少佐の考えを否定した。

 

それにこんな事をここで言うものではないと諭した。

 

「…ガコン少佐は“()()”について知っているか…?」

 

ギーリス教官はふと漏らす。

 

ガコン少佐は少し首を傾げていたがすぐに問いに答えた。

 

「親から子へ受け継がれる癖や能力などでしたでしょうか…?」

 

「だいたいはそうだ…彼らヴァント家の開祖はあのクイエム・ヴァント元帥だったな?」

 

「ええ…ですが数千年近くその優秀な遺伝子が完璧に遺伝するなんてあり得まんせんよ…?」

 

ガコン少佐は疑問を口に述べる。

 

確かに完璧な形で能力が遺伝するなどほぼ不可能だ。

 

「それか“ジェダイ”のようなフォース感受者か」

 

「いえそれは…」

 

否定したいところだが親がゼント提督ならば頭ごなしに否定できない。

 

彼のジェダイ嫌いはジュディシアル・フォース内でもだいぶ知れ渡っている。

 

「ともかく私は一旦彼に声をかけてみる事にするよ」

 

 

 

ゼファントはギーリス教官に呼ばれジュディシアル・アカデミー内のカフェテラスへと連れられる。

 

まさか叱られるということはないはずだが一応のため警戒していた。

 

「私に何か用でしょうか教官殿」

 

「いや君とは少し話してみたくってな」

 

曖昧な表現が益々ゼファントの警戒心を強くする。

 

ただ声のトーンからして何か叱られるとかそう言ったことはないようだ。

 

ギーリス教官は話し始める。

 

「君は今の共和国をどう思う?」

 

珍しい政治的な話にゼファントはさらに警戒心のレベルを上げ答える。

 

叱られる事はなくともこう言った類の話は勝手な派閥に放り込まれたりとあまりよろしくない。

 

妙な偏見の目が自分に降りかかるのも嫌だった。

 

「ひとまず“統一国家”という枠組みの中だけなら現状はさほど悪くはないでしょう。ですが細かい点に目を向ければ決して良くはありません」

 

「ほうたとえば?」

 

ギーリス教官はさらに問い詰める。

 

ゼファントは少し考えてから話し始めた。

 

「各地にのさばる犯罪組織や海賊の討伐がまだ行き届いていない事でしょうか。アウター・リム内の共和国加盟率も少ないですし」

 

「ではそれらの対処法はどうしたらいいと思う?」

 

ギーリス教官は彼の真剣な眼差しを見つめる。

 

まるで何か試されているようだ。

 

「やはり各地へ武力介入できるだけの力を付けるしかないかと。今のジュディシアル・フォースでは全面戦争が勃発した時対処しきれません」

 

教官は頷く。

 

そこで彼はある一つの提案を彼に送る。

 

「ではいっその事共和国を解体してはどうだろうか?より強い国を…例えば“()()()()()()()”とか」

 

「その国家がある程度民衆から支持を得て今の共和国より生活水準が向上するならそれも良いでしょう。しかしその国家の誕生に()()()()()が流れるようではいけません」

 

「ほう、だが歴史は勝利者が作り出すとも言う。要は勝てば良いのではないか?どんな非道を犯そうとも100年は記憶の底だ」

 

ギーリス教官が口にしたその恐ろしくも一理ある考えはゼファント今後のゼファントに強く残った。

 

そう、勝てば勝利者の非人道的な行為は神隠しにあったかのように抹消され、逆に敗北者の非人道的行為は鬼の首を取ったかのように掲げられる。

 

歴史とはそういうものだ。

 

勝てば官軍負ければ賊軍。

 

それは揺るぎない事実だ。

 

しかしゼファントはそれを否定する。

 

「ですがその非道は受けた側は100年経とうとも1000年経とうとも忘れる事はありません。その非道が市民に向けられた者としたらいつかは返ってくるでしょう」

 

ゼファントはさらに続ける。

 

「だからこそ我々は民衆を守る軍隊にならなければならないのです」

 

その瞬間ギーリス教官にはゼファントの後ろ姿が光って見えた。

 

恐らく遺伝という発想はあながち間違いではないではなかった。

 

ただ能力や才能が受け継がれているのではない。

 

()()()()()”という強い意志なのだ。

 

代々ヴァント家にはその意思が受け継がれている。

 

ゼント提督も彼もそうだ。

 

ギーリス教官は昔ゼント提督と共に戦った。

 

彼は常にそこに住む人々の事を考え最小限の被害になるよう留めていた。

 

それも代々継がれてきた強い意志がそこにあったからだ。

 

恐らく彼の跡を継ぐ者達も必ずそういった意志も同時に受け継ぐのであろう。

 

ヴァント家は生まれ持った軍人の家系だ。

 

それもただ武門や力に優れているだけではない。

 

人々を守る真の軍人の家系なのだ。

 

誰よりも優れた何よりも強く何よりも悲しいその一族の末裔がこうして先祖達と同じ道を歩んでいた。

 

 

つづく




実を言うとですね、これ書いたのかれこれ6~7ヶ月前なのでキャラの名前とかほぼ覚えてないんすよ()

ただヴァス・ガコンだけは覚えてるんですよ(謎贔屓)


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卒業の日

最終試験

 

あれから数年が過ぎついにゼファント達は卒業の時期に差し迫っていた。

 

だがあのゼファントが卒業間際になって焦る筈もなくいつも通り過ごしていた。

 

しかしそうでない者が大半だ。

 

ここまで退学処分の烙印を押されなかったが最終試験で失点すればどんな僻地へ飛ばされるかわからない。

 

「最終試験ってどんなもんなんだろうな?」

 

アザフェルがオークストルシチューを口に含みながら話す。

 

アカデミーでの最終試験はその年によって変わる事が多い。

 

当然候補生達には見当も付かなかった。

 

「去年の先輩達は1人ずつ戦略シュミレーションをやらされたって言ってたけど」

 

ゼネークトはパンを齧りながら先輩達の話を持ち出す。

 

「今年も模擬戦だろうな。とりあえず戦術の見直しとかをしておいた方がいい」

 

「模擬戦かぁ…まさかとは思うけどお前達と戦うって事はないよな?」

 

「可能性はない事はないが」

 

ゼファントは取り敢えず答える。

 

実際ドロイドやコンピューターとの模擬戦よりも生身の人間と模擬戦を重ねた方が得るものもある。

 

むしろそちらの方が両者にとってより現実的で生々しい感覚を味わえるだろう。

 

「嘘だろ…僕の実力じゃゼネークトとは互角だしゼファントには勝てるかどうかも怪しいからなぁ」

 

「おっ待て、なんで俺がお前と互角なんだ」

 

あくまでお前には負けてないぞとゼネークトは念を押した。

 

「それに最終試験前からそんなこと言っててどうすんだよ。敵に勝てないからって戦場でも音を上げるのか?」

 

「まあそうだけれども…」

 

ゼファントに諭されアザフェルが言葉を失う。

 

これも強者の余裕というべきなのか。

 

「おやおやアザフェル様には俺たちのこと眼中にないってか」

 

突如後ろから声が聞こえる。

 

ヴァンガロだ。

 

あれから数年経った今でも彼の嫌味な物言いは変わらない。

 

ヴァンガロも決して完全な能無しなわけではない。

 

だがそれ以上に性格が悪く他者から嫌われる言動が目立つ。

 

何より自分の能力を分かっているのか他者を見下し自分に自惚れる傾向があった。

 

「いや…そんな事はないけども」

 

適当に返すアザフェルにヴァンガロはさらに続ける。

 

はっきり言って彼と付き合うのは面倒くさい。

 

それにゼファントはともかくアザフェルに対してヴァンガロは必要以上に強く当たった。

 

「模擬戦ってのはだいたい当たってるだろうな。覚えとけよアザフェル、必ずお前を倒す」

 

いつも通りヴァンガロはアザフェルを敵視した。

 

ゼファントとゼネークトはその光景を見慣れ過ぎて苦笑も浮かび上がらない。

 

「はいはい…全く卒業間際だってのになんだアイツは」

 

てくてくと去っていくヴァンガロの一行を見つめながらアザフェルはため息を吐いた。

 

その様子を見ながらゼファントは誰とも目を合わせず独り言のように呟いた。

 

「諦めるんだなアザフェル、人はそう簡単には変わらないさ」

 

 

 

 

数日後最終試験の内容が発表された。

 

彼らの予見した通り試験の内容は模擬戦であった。

 

しかし内容は想像を絶するものだった。

 

数名の候補生でチームを編成し艦隊を組み別チームと戦う。

 

つまり団体戦だ。

 

今までの最終試験はほとんどが個々での戦いだったが今年はどうも違うようだ。

 

そしてチームの振り分けと対戦の相手が発表された。

 

運が良いのかなんのか知らないが同室の3人は同じチームであった。

 

そして対戦相手は…

 

「嘘だろ…あのヴァンガロかよ」

 

「可哀そうにアザフェル、これでお前はさらにアイツの目の敵にされる」

 

「なんで僕だけ可哀そうなんだよ!ゼファントもゼネークトも一緒に戦うんだぞ!」

 

ゼネークトが彼の肩を優しく叩く。

 

そしてゼファントも彼の肩を叩いた。

 

ゼネークトは「俺は違う」と、ゼファントは「諦めろ」と表情で訴えていた。

 

アザフェルはなんともいえない表情だった。

 

「で僕たちは同じチームだが…」

 

「ええそう見たいね!」

 

「うわっ!リエス!?」

 

リエスが近づきいつも通り笑みを浮かべる。

 

ゼファントが前言った通り人は良い意味でも悪い意味でも簡単には変わらない。

 

それはヴァンガロの嫌味な部分もそうだしリエスのこう言った人柄の良さもそうだった。

 

変わることが何もいい事とは限らない。

 

「ほらよく見て私たち同じチームでしょ?」

 

「ちょっ当たって…」

 

照れ全く人の話を聞いていないアザフェルにリエスはさらに話をする。

 

「貴方達がいるなら私も負けはしないわね」

 

主にゼファントの方を見ながらリエスは余裕そうな表情を浮かべていた。

 

「言ってくれる…この編成だと私が戦術を考えることになるんだが…」

 

ゼファントが苦笑いした。

 

アザフェルもゼネークトも艦隊を率いる才能は十二分にあるが戦術を考えるレパートリーはゼファントの方が上だ。

 

また彼の人望や人物像から言っても十分指揮官としての才能がある。

 

後の2人もない訳ではないのだがゼファントと比べるとまだ成長途中といった感じだ。

 

となると必然的に全艦を率いるのも作戦を立案するのもゼファントとなる。

 

「大丈夫、貴方の指揮なら必ずみんなを勝利に導けるわ」

 

リエスが彼を落ち着かせる。

 

「そうかい、負けないように編成は考えておくよ」

 

「おーいアザフェルいくぞー?」

 

赤面し固まるアザフェルをゼネークトは引っ張る。

 

ようやく我に帰ったアザフェルはリエスに手を振りひとまず別れを告げた。

 

 

 

数日後振り分けられたチームはそれぞれ集まり作戦を話し合う機会が設けられた。

 

流石に作戦もミーティングもなしに候補生達に「艦隊を作って戦え!」などとは無理な話だ。

 

各チームがそれぞれ作戦を練り相手のチームを打ちまかそうと必死になっていた。

 

それはゼファント達のチームも一緒だった。

 

彼らは今ゼファントが考えた戦術を聞いていた。

 

「ってこの作戦は…」

 

するとリエスが思わず絶句する。

 

「ああ…無茶苦茶だ…」

 

アザフェルも苦笑を禁じ得ない。

 

「これ本当にやるつもりなのか…?何か悪いものでも食べたのか…?」

 

ゼネークトも半信半疑であった。

 

他の候補生達に至っては口を開けたまま動かない。

 

それだけゼファントの持って来た作戦が酷いものなのだ。

 

「だがこれが上手くいけばこちらの損害はほぼ0で敵艦隊を殲滅できる。シュミレーションで生み出される物体は基本的に実物と同様と捉えてもらって構わないそうだからな」

 

「それはそうだが…」

 

「敵はヴァンガロだ、少なくとも艦隊運用では優秀…ならばこの作戦が有効だと思うのだが」

 

候補生達は顔を見合わせる。

 

どうするかと隣の相手の顔色を伺っていた。

 

みんな判断しかねている。

 

するとアザフェルは少し目を瞑り顔を叩く。

 

決意の表だ。

 

「僕は賛成だ、少し突拍子もない方がいいじゃないか」

 

「確かに」

 

ゼネークトが笑声を立てる。

 

同室の2人の絆は相当硬いものだ。

 

「私も賛成するわ。確かにこれが一番効率的だと思う」

 

リエスも賛成し他の候補生達も頷きあう。

 

どうやら作戦は決まったようだ。

 

ならば後は微調整するまで。

 

候補生達は勝利を確信し次なる戦いに心を羽ばたかせていた。

 

 

 

 

初めての艦隊戦

艦隊戦というのはその艦隊の練度と指揮能力が求められてくる。

 

例えばいくら大軍であろうとも指揮官が無能であれば宝の持ち腐れだし、敗残兵の集まりであっても指揮官が優秀ならば強力な者になる。

 

また上官と部下の信頼も重要だ。

 

指揮官が優秀であっても部下達が上官を信じず全力を出さなければ勝てる戦も勝てなくなる。

 

繊細だが一度絆や練度が強固になった艦隊ほど恐ろしい。

 

大軍すら打ち破り挙げ句の果てには国家一つすら滅亡に追いやる事も可能だ。

 

逆に大敗してしまえば市民の不安感を煽り軍の弱体化の原因になってしまう。

 

そして勝利した者は英雄となり敗者は愚か者として1,000年に亘り愚行が語り継がれる。

 

今日の試験は彼らにそのような素質があるかが試されるのだ。

 

 

 

 

「それじゃあ各員頼んだぞ」

 

『おーけー』

 

『任せとけ』

 

アザフェルとゼネークトが不敵な笑みを浮かべた。

 

彼らには分艦隊を率いるという役が課せられている。

 

にもかかわらずその不敵な表情は変わらない。

 

この作戦は敵艦隊を殲滅するか先に降参させたものの勝ちとなる。

 

その為基本は真正面からの艦隊砲撃戦となり相当の激戦が予想されるだろう。

 

与えられる戦力は

 

アクラメイター級軽アサルト・シップ三隻。

 

CR70コルベット六隻。

 

カンセラー級スペース・クルーザー九隻。

 

スフィルナ級コルベット十二隻。

 

これをどう活かすかが重要だ。

 

すでに試験は始まっており多くの候補生が勝利を喜んだり敗北を受けて意気消沈している。

 

「それでリエス、例の部隊はどうだ?」

 

『ほぼほぼ成功よ。後は私達が例の場所に誘い込めばこっちの勝ちだわ』

 

ゼファントは顎を触りながら考える。

 

そしてついに命令を出した。

 

「よし全艦ポイントF-2に移行」

 

シュミレーション場のジュディシアル艦隊が進軍する。

 

慣れない手つきで同じ候補生達がブリッジを操作していた。

 

「ゼファント…ほんとにこんな作戦成功するのか?」

 

副官役のパエリア候補生が心配そうな表情で見つめてきた。

 

他の候補生達も大なり小なり同じ思いだろう。

 

しかしゼファントは優しい目つきで彼を宥めた。

 

「私が失敗したことあったか?」

 

「なかったが…今回ばかりは不安だ…」

 

「心配すんな、死にはしないよ」

 

その言葉にパエリアは苦笑し再び職務に戻る。

 

確かに死にはしないが艦に伝わる衝撃は本物に限りなく近い。

 

それに自分の今後が懸かってくるとなれば緊張もするだろう。

 

「正面に艦隊発見!識別番号確認…ヴァンガロ艦隊!!」

 

ゼファントとパエリアがブリッジを見る。

 

突撃隊形で進み続けるジュディシアルの艦隊があった。

 

候補生の報告通りヴァンガロの艦隊だ。

 

敵艦は既に主砲をこちらに向け攻撃体制に移っている。

 

どうやら戦闘が始まるようだ。

 

 

 

「そろそろゼファント艦隊とパエリア艦隊の衝突ですな」

 

メガネをあげガコン少佐がモニターを見つめドリンクに手をつけた。

 

暑くはないが少し緊張しており喉が渇いてしまったからだ。

 

教官一同の目線が皆モニターに集められる。

 

特にゼファントの戦いとなれば尚更だ。

 

この模擬戦で勝利すればゼファントは文句なしの主席卒業となる。

 

それと同時に尉官最高級の地位と共にジュディシアル・フォースの士官となるのだ。

 

「相手はヴァンガロ候補生か…とりあえず勝率はゼファントが70%と言ったところだろう」

 

ギーリス教官が冷静に状況を指摘する。

 

別にゼファントに肩入れしてるからの勝率ではない。

 

それほどあの化け物じみた候補生と一般の優秀な候補生では差が出るのだ。

 

実はゼファントは人ではなく戦術論を叩き込まれたサイボーグのが教官達の専らの噂だった。

 

尤も実際は“()()()()()”なのだが。

 

「ええ…ですがこの戦術」

 

ガコン少佐が困惑しながらタブレットを見せた。

 

「それはもはや戦術ではない、“奇術”だよ…だがあいつなら成功させるだろう」

 

ギーリス教官が苦笑を浮かべた。

 

ガコン少佐も思わずメガネを挙げギーリス教官に同情する。

 

他の教官達に至ってはこの作戦が成功するとは誰も思っていないらしい。

 

「というか良いんですかこんな作戦?ヴァンガロのことだから反則とか言い出しますよ?」

 

ガコン少佐がタブレットを見せながら危惧を訴える。

 

「規定に書いてないし良いだろう別に。それにそこまで頭が回らないヴァンガロが悪い…もっともこれは意地悪すぎるがな」

 

「全くですよ…」

 

ガコン少佐が溜息をつく。

 

「戦場では柔軟な発想力と対応力が必要になる。これが成功すればその点においてはゼファントは満点だ」

 

あえて理由をつけゼファントの肩を取り持った。

 

「さてゼファントはどの位の損耗率で終えられるかな」

 

ギーリス教官は再びモニターに目を向けた。

 

 

 

ヴァンガロの堪忍袋は徐々に限界を迎え始めた。

 

敵は何をしようとしているのかは知らないがスフィルナ級が六隻ほど少ない。

 

たかが小型コルベットの数が少ないのはどうでも良いが相手の数が少ないのにも関わらずこちらが劣勢だ。

 

しかも敵は旗艦や主力艦に見向きもせずコルベットや護衛艦ばかり狙う。

 

こちらは集中的に敵の旗艦を狙い早期の終結を狙っているのだが中々上手くいかなかった。

 

おかしいではないか。

 

ヴァンガロの口調も段々と荒々しいものになって行く。

 

「全火力を旗艦クルーザーに集中しろ!!」

 

「だがコルベットは…」

 

「良いから急げ!!連中の指揮系統さえ崩れれば此方にも勝機は…」

 

僚艦のCR70が一隻小破する。

 

これで艦種は問わず小破する艦は五隻目だ。

 

未だに敵は一隻も小破していない。

 

どんな戦法かは知らんがその事実がヴァンガロの自尊心を大きく傷つけた。

 

早く反撃し討ち滅ぼさなければ彼の気が済まない。

 

「ゼファントめ…とにかく全艦火力を上げるんだ!!」

 

シールドに回されるエネルギーが次々と主砲に回される。

 

攻撃力は大幅に上がったがその分防御力は下がった。

 

当然その影響を見逃すゼファントではなく敵のアクラメイター級から強力な一撃が放たれた。

 

敵艦の砲撃をもろに受け爆発は広がりついに耐えられなくなる艦が現れた。

 

「第三分艦隊スフィルナ級二隻撃沈!」

 

「第二分艦隊カンセラー級一隻撃沈!」

 

「我が本艦隊もカンセラー級二隻とCR70一隻撃沈!」

 

「バカな…」

 

あっという間に大打撃を受けてしまった。

 

当然主力艦が撃沈されていない為まだ巻き返しの機会はあるがそれでも痛手には変わりない。

 

「防御陣形を取ろう!今ならまだ間に合う!」

 

「馬鹿を言うな!!主力艦がたかがコルベットの盾となるなどおかしいではないか!!」

 

「だが損害が!!」

 

「まだ間に合う…指揮官のゼファントさえ討てば!!」

 

「敵艦隊艦載機を発艦!!」

 

2人の口論は通信役の候補生により遮られた。

 

敵は艦載機のV-10トレント・スターファイターを発艦させた。

 

「たかが艦載機など…此方の同様に艦載機を出して応戦を!!」

 

同様にV-10を発艦させるが一足遅かった。

 

先行した1機がイオン魚雷を発射し格納庫が開かなくなったのだ。

 

これにより三隻から発進するはずだったヴァンガロ艦隊の艦載機は2個中隊しか発艦できずスターファイター戦は劣勢を極めた。

 

性能差を数でカバーされ友軍中隊の損害が益々広がった。

 

「全艦で対空防御!」

 

「ダメだ!損耗艦が多すぎて対空網が薄すぎる!!」

 

ヴァンガロが舌打ちをする。

 

まさかクルーザーではなくコルベットや附属艦を狙っていたのはこのための布石とは。

 

破壊される遊軍艦を見つめながらヴァンガロは苦虫を噛み潰す。

 

「残った艦で迎撃を!!」

 

「七時の方向より敵艦隊!」

 

バカな。

 

敵は今正面にいるはずなのに。

 

まさか別働隊が。

 

いやたかだがスフィルナ級で何ができるものか。

 

あんな古ぼけたコルベットに出来る事などせいぜい対空防御くらいだ。

 

艦隊戦の雌雄を決する事など不可能なはずだ。

 

「…っ…!ですがこれは…」

 

ブリッジ士官役の候補生は絶句した。

 

ヴァンガロは早く答えろと怒鳴り散らす。

 

「敵艦隊小惑星を縦にしてまっすぐ向かってきます!!」

 

「何!?」

 

ヴァンガロがブリッジで驚いている頃ゼファントはいつも通りのポーカーフェイスで状況を見つめていた。

 

敵の魂胆が丸わかり過ぎてある種つまらなく感じていた。

 

旗艦や主力のクルーザーばかりにに砲火を集め指揮系統を乱そうとしている。

 

戦いの雌雄を決するのは主力クルーザーや大火力を持つ艦だとヴァンガロは思っているようだ。

 

昔はそういう時代もあったしもしかしたらこれからそういう時代が来るのだろう。

 

だが今は違う。

 

巨大なクルーザーであろうと戦術や兵器を組み合わせれば打ち破る事すら出来る。

 

自軍の戦力と同じくらいの敵艦隊だって同様だ。

 

少なくともそれがこのジュディシアル・アカデミーでゼファントが学んだ事だ。

 

そしてこの一手で全てが決まる。

 

そうすればほぼ確実に此方の勝ちだ。

 

だからこそ最後の一手を確実に決めなければ。

 

「ゼファント、いつでも行けるそうだ」

 

パエリアが報告する。

 

「よし攻撃開始」

 

六隻のスフィルナ級がエンジンを全開にし進撃した。

 

敵のアクラメイター級は必死に小惑星を攻撃するがこの時代の艦砲ではあれほど大型の小惑星を砕くことなど不可能だ。

 

最大船速で回避しようとするがそれはほぼ不可能だった。

 

ついには小惑星とアクラメイター級が衝突する。

 

艦の走行は剥げスパークと爆発を起こした。

 

ブリッジが抉られ押し潰される。

 

ペシャンコに拉たブリッジの残骸が艦体と衝突しさらに爆発を連鎖的に起こした。

 

小惑星を付けたスフィルナ級はそのまま進み次々と敵艦を巻き込み破壊していった。

 

あまりに一方的過ぎて同情の心すら湧いてくる。

 

「うわぁ…あんな風にはなりたくないね」

 

ゼファントが冗談まじりに言い放つ。

 

もし実際の戦場だったらあの艦にいる者達の絶望感は半端なものではないだろう。

 

どうしようもない敗北と死が間近に迫っているのだから。

 

「よく言うよ自分で考えついたくせに」

 

パエリアは突っ込みゼファントは微笑をこぼす。

 

その微笑はどこかこんな非道な事を思い付く自分を恨んでいるようだった。

 

そうこうしているとついにヴァンガロ艦隊の残存軍から降伏の申し出が出出た。

 

すぐに了承すると戦闘シュミレーションが停止しゼファントの勝利のまま幕を閉じる。

 

彼はホッと一息つく。

 

初めての艦隊戦はこうして勝利に終わったのだ。

 

 

 

「候補生ナンバーA-024ゼファント・ヴァント」

 

「はっ!」

 

彼の名前が呼ばれ一歩前に出る。

 

校長とギーリス教官が壇上に立っており微笑を浮かべていた。

 

今日は卒業式だ。

 

当然のようにゼントとフローネは来賓席に堂々と座っていた。

 

ゼファントには見えなかったがオルホールは端っこの席で一人涙を流していた。

 

「貴官の卒業をここに認め証書とジュディシアル・フォース“大尉”の称号を授けるものである」

 

候補生や来賓、保護者問わずあたりにざわめきが走った。

 

基本卒業しても得られる階級は中尉が最高のはずだ。

 

しかしゼファントは異例の大尉であった。

 

皆驚きを隠し得ないであろう。

 

静かに証書と階級章を受け取り頭を下げる。

 

軍人ゼファント・ヴァント大尉はこうして誕生したのであった。

 

と同時に彼を戦場へと呼ぶ声が遠くから聞こえ始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴァント特佐は記録書を読みながら時折笑いをこぼす。

 

特に面白い場面はないのだが父親の過去というのは意外に笑みが溢れるものだ。

 

「大尉ねぇ…全く私はアカデミーを一応まだ卒業できていないのに」

 

「良いじゃないですか、その分お兄様は経験を積まれているんですし」

 

スペクテイターがそう慰める。

 

「それに昇進のスピードはお兄様の方が早いですわ、19の時には既に少佐でいらしてましたし」

 

「まあそうだけれども…はあいいや次を読もう」

 

昇進話をされるとどうにも嬉しい気分にはなれない。

 

特に“()()()”を聞いてしまった後には。

 

それでも彼は進む他なかった。

 

それを証拠に再びページを捲る。

 

またヴァント家の歴史が若き次世代の当主に受け継がれるのだ。

 

 

 

つづく

 




こっちでも投稿なり〜


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革命の亡霊戦
前線へ


覇気なき戦士

卒業から1年経った。

 

ゼファントは取り敢えずガコン少佐の戦術研究課へと回された。

 

当人はどこに配属されても良かったのだがあまりにも優秀でしかも家柄もある為簡単には前線や地方に回せない。

 

その為アカデミー時代の伝でガコン少佐の配下に送られたのだ。

 

要は厄介払いという奴だ。

 

「少佐、頼まれていた資料お持ちしました」

 

ゼファントがタブレットを手渡す。

 

戦術研究課と呼ばれるだけあって彼らの仕事は戦術を研究し新たな戦闘に活かすことである。

 

また前線で戦っている部隊に的確な戦術アドバイスを行うのも彼らの仕事の一環であった。

 

基本はコルサントや地方の本部にいる事が多いのだが時折戦術アドバイスのため前線へ赴く事もある。

 

尤も彼らの持ち合わせるデータが役に立つかどうかは戦場次第だが。

 

暇なようにも見えて案外忙しいものなのだ、戦術研究課も。

 

「助かる…どうしてもコレリアン・ランの防衛戦の時の情報が足りなくてね」

 

ゼファントは彼にタブレットを手渡した。

 

ガコン少佐はメガネを上げタブレットを読み出す。

 

一瞬のうちに熱中してしまった為自分のデスクの周りをウロウロしていた。

 

「立ち読みせず席にお座りください」

 

「あぁすまん…なるほどルートさえ守っておけば状況が不利でも補給が行き届き物量で押し進められるか…」

 

椅子に座り再び資料を読み始める。

 

ガコン少佐は若くして少佐になったエリートだ。

 

彼の戦術分析とそれからなる的確な戦術はすでに幾度とない勝利を共和国に齎した。

 

彼は今年で29になる。

 

参謀や幕僚としての未来が既に決定されていた。

 

そして彼には同い年の妻が1人とまだ幼い息子が1人いた。

 

正しく模範的なジュディシアル士官だ。

 

「全くこんな所で資料ばっか見てるといつか奥さんに見放されちまいますよ?」

 

ゼファントが冗談まじりでガコン少佐を揶揄う。

 

ガコン少佐もあながち否定出来ないことから苦笑いを浮かべていた。

 

「やめてくれよ…そうだ君に一つ頼みたいことがあるんだ」

 

ゼファントは首を傾げる。

 

「君、結構前にコロニーズで革命…いや言葉を変えておこう。コロニーズで起きた反乱のこと知ってるよね?」

 

なるべく怒られたり失言がないようガコン少佐はあえて言葉を選んだ。

 

アーカニアン革命のことですね?確か父も当時ジュディシアル艦隊とハンバリン艦隊を率いて制圧に向かってたとか」

 

「うん、それ」

 

ガコン少佐が頷く。

 

アーカニアン革命

 

それは50BBY頃勃発した革命戦闘である。

 

急進的なアーカニアン自治領主に反発した革命家達がサイボーグの軍隊を設立し革命が始まったのだ。

 

結局は自治領主がジェダイ・オーダーとジュディシアル・フォースや各惑星の防衛軍に援軍を要請し鎮圧した。

 

そういえばその時もジェダイが居なければこの戦いはもっと早くに収束してたって父さん言ってたっけな。

 

懐かしい過去の記憶を一瞬のうちに掘り起こしゼファントは再びガコン少佐に尋ねる。

 

「その革命がどうかしたんですか?」

 

「あの時作られたサイボーグの軍隊…まだ生き残りがいたんだよ」

 

「まさか…ジェダイとジュディシアル・コマンドーが皆殺しにしたって聞きましたけど?」

 

「そう思うよねぇ…でも僅かに取り逃した者がいるらしい」

 

その御伽噺に似た話がどうやら今回ゼファントに託される任務と関係があるらしい。

 

「でそのサイボーグがなんですか?」

 

「逃げ出したサイボーグが今問題でね…どうやらその一体が現在ミッド・リムの犯罪グループの指揮を取っているらしい」

 

「それを討伐しに行けと」

 

ガコン少佐が静かに頷く。

 

ゼファントが軽くため息を吐いた。

 

「当然誰かの参謀として行くんですよね?」

 

「そう、現在戦闘中のセルネアン准将の機動艦隊に行ってもらう」

 

「ではゼファント・ヴァント大尉、命令を承りました」

 

ゼファントがわざとらしく敬礼する。

 

「ああ…頼んだよ」

 

ガコン少佐は一言残して彼に任務を託した。

 

数日後彼は初めての前線に向かうことになる。

 

ようやく彼の軍歴がここからスタートするのだ。

 

 

 

ゼファントが件のグリッツ・セルネアン准将の麾下艦隊に向かってから数週間が過ぎた。

 

数週間も彼の下で働いたせいかゼファントはは段々セルネアン准将の人柄や能力についてわかってきたような気がした。

 

「敵の船団の7割を撃破、如何なさりますか?」

 

ゼファントはセルネアン准将に尋ねる。

 

あくまで攻撃の決定権は指揮官にありゼファントの役目はアドバイスだ。

 

「捕縛だ、まあ無理をせぬ程度にな」

 

「…了解いたしました」

 

ゼファントが頷く。

 

見ての通りセルネアン准将の指揮能力や用兵はゼファントでも認めるほど優秀だ。

 

今もこちらの損耗率はほとんどなしに敵の船団を壊滅させた。

 

中にはかなり重武装の船もあった。

 

それに部下達からの信頼も高い。

 

多くのクルーがセルネアン准将の下で戦う事を光栄に思っている。

 

流石はジュディシアル内でも数少ない戦闘経験豊富な指揮官だ。

 

だがそんな准将にも一つ問題があった。

 

「突入部隊はアヴァック大尉のコマンドー隊を突入させますがよろしいですか?」

 

「ああ一向に構わん。すべて君に任せているからね」

 

どうでも良さそうな声でゼファントに一任した。

 

戦闘中もこんな声でよくホロテーブルに寄りかかったりしていた。

 

こんな返答をされてはゼファントも多少返に困った。

 

「はい…」

 

ゼファントは若干不満顔を浮かべた。

 

彼には戦う意志が少なく感じる。

 

ほとんどの事は部下に託し自分は部下から出されたものをそのまま行動に移していた。

 

セルネアン准将は自ら命令を出しても自ら戦術を考えたりはしないのだ。

 

しかも指揮に至っても細部は完全にゼファントに任せきりだ。

 

一応失敗時の責任などは全て准将が取ってくれているそうなのだがそれでも困る。

 

聞いていた話と全然違うとゼファントは思い始めた。

 

もっと戦意に溢れた豪傑の指揮官かと思っていた。

 

彼はどこか“()()()()()”。

 

まるで疲れ切った老人のようだ。

 

目も何処か空でキリッとした顔立ちに勇猛さを表す顎髭とはまるで縁がなさそうだった。

 

「では私は乗船部隊を指揮してまいります」

 

「あっ?ああ…」

 

ゼファントは旗艦パイオニアーのブリッジから離れようとした。

 

すると一人の男が声を掛ける。

 

「ゼファント大尉、私も行きます!」

 

「ルファン少尉…」

 

ルファン少尉は彼を連れ出した。

 

 

 

 

「アヴェック大尉!」

 

「おおルファン、それとゼファント大尉、どした?お前達もこれを着るか?」

 

ジュディシアル・コマンドーのアヴェック中尉は2人に声を掛ける。

 

ジュディシアル・コマンドーとはかの有名なセネト・コマンドーとはまた別の特殊部隊員であった。

 

セネト・コマンドーは通常のセネト・ガード同様議員や要人の護衛が任務だ。

 

一方ジュディシアル・コマンドーは名前の通りジュディシアル所属である。

 

主に海賊や犯罪組織を相手にするジュディシアル・フォースは敵が人質を取ったり重要な物資を運んでいたりする場合がある。

 

その場合分厚いアーマーを身に纏ったコマンドー隊員が敵船に乗船し人質や積荷を無事取り返す為白兵戦を仕掛けるのだ。

 

また敵を捕らえる時も同様彼らが駆り出される。

 

船内ではブラスターの弾丸が暴発したり人質を盾にされる可能性がある為主にバイブロソードやバイブロブレードを使用する事が多い。

 

さらにジュディシアル・コマンドーはある程度兵装の自由が認められている為改造されたブラスター・ライフルやバイブロアックスを使う兵士も存在した。

 

このアヴェック大尉のように。

 

「状況はどうです?」

 

「ああ第一分隊と第二分隊が船内の8割方制圧した、こりゃ俺の出番ねぇな」

 

アヴェック大尉はヘルメットをクルクル回していた。

 

「それで一応セルネアン准将の事をゼファント大尉にも話しておいた方が良いのではないかと…」

 

ルファン少尉はアヴェック大尉に目を向けた。

 

あの大尉も珍しく視線を落とし落ち込んだ声で答えた。

 

セルネアン准将の話と聞くと何か不安になることがあった。

 

「そうだな…」

 

ゼファントは更に疑問に思った。

 

何か昔あったのだろうか。

 

それが一体今のセルネアン准将となんの繋がりがあるのだろうか。

 

だが2人はそのことを話すのを辞めた。

 

「まっまあ色々あったんだよ、とにかく捕虜どもを運ぼうぜ!」

 

「あぁ…はいはい」

 

3人は捕らえた船に向かって歩き出した。

 

 

 

アウター・リムのある惑星。

 

ほとんどの惑星に共和国の息が掛かっておらず彼らの指導者は犯罪者の王であった。

 

そのうちの一つがブラック・サンと呼ばれる超巨大な犯罪組織だ。

 

各地に前哨部隊を持つブラック・サンは影響力が及ばぬ場所は無いとまで言われていた。

 

恐らくその規模はジェダイを有に超しているだろう。

 

当然今のジュディシアル・フォースも。

 

単純な戦力では共和国以上かもしれないというのが多くの者の見解であった。

 

「“アーガニル”殿これをご覧ください」

 

サイボーグ指揮官のアーガニルはブラック・サンに客将として招き入れられた。

 

アーガニルはアーカニアン革命において製造されたサイボーグの一体だ。

 

今ゼファントが追っているサイボーグの“1()()”が彼だ。

 

彼は革命において多くの同胞と共に自治領主達に立ち向かった。

 

しかしジュディシアル・フォースやジェダイの連合軍により革命は失敗した。

 

多くの同胞を失った。

 

生き残った同胞達共に彼はかの地域を離れた。

 

そのほとんどは傭兵など様々な仕事をこなしアーガニルは現在ブラック・サンの客将として一役を買っている。

 

「これは…なるほどセルネアンは既に息絶えたも同然と思っていたが…」

 

アーガニルがニヤリと笑う。

 

戦いへの喜びの笑みだ。

 

「今すぐ私の艦隊を出してくれ行き先は」

 

「ミッド・リム、セルネアン艦隊ですね?わかりました」

 

優秀な監視兼副官のワルフォイはすぐに艦隊を手配した。

 

かつての宿敵を打ち倒すために。

 

 

 

 

見物戦闘

「失礼します」

 

ガコン少佐が入室する。

 

綺麗なデスクの上には軍帽といくつかの勲章、そしてコンソールが置かれていた。

 

椅子に座ったジュディシアルの将校が振り向く。

 

「エヴァックス参謀、お呼びでしょうか?」

 

彼こそ戦術研究課を含めた様々なジュディシアルの指揮官であるカール・エヴァックス中将だ。

 

ガコン少佐の上官である彼は単刀直入に話を聞いた。

 

「でゼファント大尉は上手いことやっているかね?」

 

「はい、何分今のセルネアン准将とは相性バッチリですよ…色んな意味で」

 

ガコン少佐が苦笑を浮かべる。

 

だがすぐに苦笑はなくなり重いため息に変わった。

 

「だろうな…まあ今のセルネアンには例のサイボーグは討伐出来なくともゼファント大尉なら見込みはある」

 

「しかし本当に彼で大丈夫なのでしょうか?万が一白兵戦になった時…」

 

「あの艦隊にはコマンドー隊もいる、何とかなるだろう」

 

エヴァックス中将は指を組み答える。

 

数十年後現れる彼の子孫と同じくエヴァックス参謀は冷静そのものだ。

 

「問題は奴のバックには明らかにブラック・サンがいる事だ…」

 

「ええ…気をつけなければ」

 

「大戦争に繋がりかねん…」

 

「そうなった場合今のジュディシアル・フォースや他の保安軍には対処できるほどの力は…」

 

エヴァックス参謀は頷いた。

 

ブラック・サン単独ならともかくそれに乗じて共和国に敵対する惑星が現れてもおかしくない。

 

それが鼠算のように増え続ければ共和国が対抗するのはほぼ不可能だ。

 

正規の保安組織が犯罪者グループに怯えるなどおかしな話ではるがこれが現実だ。

 

この数千年間軍隊を持たず己を堕落させた共和国の姿なのだ。

 

そんな共和国を守る彼らが一番共和国の腐敗を痛感している。

 

誰も、自分達でさえも代わろうとしなかった罰なのだろうか。

 

腐敗の現状と己の無力さは彼らに大きくのしかかった。

 

自分たちでは変える事の出来ないこの国の弱さを彼らは感じ取っていた。

 

 

 

 

ハイパースペース。

 

それはこの銀河系を旅する上で最も必要なシステムや技術のうちの一つだ。

 

これがなければ星系から星系の移動すら難しいだろう。

 

数隻のフリゲート艦とコルベット艦がこの青白い空間を進む。

 

艦隊を指揮するアーガニルはワルフォイと共にサバックで時間を潰していた。

 

「ワルフォイ、例のやつちゃんと渡しといたか?」

 

「海賊の連中涙浮かべて『これで俺たちもアイツらに復讐できる』とか抜かしていましたよ」

 

ワルフォイが鼻で笑う。

 

確かにそんな光景他者から見たらお笑いだろう。

 

アーガニルも嘲笑いカードを切る。

 

「まあいい“余興”にはなるだろう、この退屈な時間も少しは紛れる」

 

サイボーグである彼はまだ身体の“繋ぎ目”の調子が悪いらしく時折腕を動かしたり掻きむしったりする。

 

アーガニル曰く「無性に神経回路を掻きたくなる」との事だった。

 

ワルフォイも最初は気味悪がって見ていたが今ではもう見慣れた光景だ。

 

彼はテーブルのスイッチを押しホログラムを出現させた。

 

「どうせなら生で見ましょう」

 

事前にハックした海賊船の一隻のカメラがこの艦と繋がる。

 

「そうだな、セルネアンのお手並み拝見と行こうか」

 

 

 

「友軍艦との通信、繋がりました!」

 

ブリッジの通信士官が大声で報告する。

 

ゼファントとセルネアン准将は振り返り士官に近づいた。

 

数時間ほど前この宙域で友軍が交戦中という報告のみ残して通信が途絶えたのだ。

 

ゼファントは何かの罠ではないかと危惧したがセルネアン准将は友軍を救出する為すぐさま出撃した。

 

そして今現在友軍艦隊と通信がつながったのだが…

 

『こちら第12機動部隊…我が艦隊は現在敵海賊船団と戦闘中…状況は極めて不利…救援を求む…』

 

機動部隊の生き残りから救援を求める声が聞こえた。

 

敵部隊と交戦し相当不利だというのだ。

 

途切れ途切れの通信は機動部隊の危機的状況を表していた。

 

「そちらの状況を詳しく教えろ」

 

『現在…旗艦が撃沈し残った艦にもかなりの被害が…』

 

「今すぐ救援に駆けつけるからな!もう少しの辛抱だ!」

 

セルネアン准将が機動部隊を元気付ける。

 

「第12機動部隊を確認!映像出します!!」

 

大モニターに戦闘中の第12機動部隊の映像が映し出される。

 

報告通り部隊は相当損耗しており壊滅寸前だ。

 

「全艦防御陣のまま敵船団に攻撃を!!」

 

「お待ちください」

 

冷静なゼファントが制止する。

 

彼はこの状況を見極めある一つのことを進言した。

 

あまり口に出したくはないがこれも仕事だ。

 

「これは罠かもしれません、友軍救助に駆けつけた我々を一挙に殲滅するという罠かも」

 

「だが目の前の味方をほっとくわけにはいかん!!もう誰も…私の目の前では…」

 

セルネアン准将が声を荒げ込み上げる何かを必死に抑え込む。

 

まるで何か思い出したくないものを思い出している感じだ。

 

部下達も目線を落とし心情を察している。

 

そこにある理由はわからないが仲間を助けたい気持ちはゼファントも一緒だ。

 

その願いを叶えるまでだ。

 

それが今ゼファントに与えられ仕事なのだから。

 

「ならばこちらのアクラメイター級を一隻送り機動部隊を救助しつつ敵船団を撃破しましょう」

 

「ゼファント大尉…!」

 

「私だって味方は見捨てたくはありませんよ」

 

心ならの本心が伝わったのかセルネアン准将は力強く頷いた。

 

 

 

海賊の団長はブリッジから新たな獲物を確認する。

 

抜け抜けとこちらの目論み通り動きよって。

 

眼前の憎き宿敵と同じくズタボロにしてやろう。

 

そんな性格の悪いセリフを心の中で吐きながらニヤリとベタついた笑みを浮かべた。

 

敵は目の前の味方に気を取られまだこちらには気づいていない。

 

ならば下さった戦術通りにするまで。

 

予見通り他の敵も一挙に殲滅できると聞いてはいたがまさか本当に来るとは。

 

彼らがくれた戦い方は本物だ。

 

「よし全艦攻撃開始!!」

 

フリゲートやコルベット、武装貨物船がエンジンを点火し小惑星帯から抜け出す。

 

ジリジリと距離を詰め遂に射程圏内まで辿り着いた。

 

敵はまだこちらに何もしてこない。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!!」

 

海賊船団が艦砲射撃を開始した。

 

赤いレーザーが星が瞬く宇宙を横断する。

 

それなりに正確な海賊の射撃はアクラメイター級に何発かレーザーを当てた。

 

しかし分厚い偏向シールドを突破する事は出来なかった。

 

何発も何発も重ねて攻撃を加えるが大したダメージにはならない。

 

だが不思議な事にジュディシアル艦隊の反撃は海賊船団でも耐えられる程の攻撃しかしなかった。

 

「一体どういうことだ…?まあいい、このまま敵艦隊に突っ込むぞ!!」

 

団長の出した命令通り比較的防御力と火力の高いフリゲートが前方に出てコルベット艦がそれを支援する。

 

完全に突撃隊形となった海賊船団は攻撃の手を緩めず前進する。

 

「ここまでやっても連中はこれだけしか反撃してこないのか?」

 

「そのようですな…」

 

操舵手が不思議そうな表情でジュディシアル艦隊を見つめた。

 

団長も同じ顔だ。

 

「…ともかく…このまま敵艦隊を分断する!!」

 

気を取り直し団長が命令を出す。

 

海賊船団はそのまま真っ直ぐジュディシアル艦隊に突撃した。

 

まだ一隻も撃破出来ていないがジュディシアル艦隊は二方向に分かれ始めた。

 

かなり不自然な形だが団長たちは何も気づいてはいない。

 

順調にジュディシアル艦隊は分断され見事に真っ二つになった。

 

「よっし!!各個撃破を!」

 

僚艦が突如爆発しコルベット艦が轟沈した。

 

大爆発に巻き込まれコルベット艦が破片ひとつ残らず破壊された。

 

撃沈する艦は左舷のコルベット艦だけではない。

 

右舷のフリゲートやコルベットも同様に爆発を起こし鉄屑に変わる。

 

「そんな…罠にはまっていたのか…」

 

団長が狼狽える頃には彼の乗艦であるフリゲートも被弾していた。

 

大きな振動が団長の乗艦を襲った。

 

もう抜け出せない。

 

「我が船団の損耗率が!!」

 

「防御し応戦を…ガウガァ!!」

 

ブリッジはアクラメイター級のレーザー砲により焼け落ちてしまった。

 

どこか人の形をしたブリッジの破片が宇宙空間に投げ出された。

 

 

 

「貴官の機能停止を確認しました」

 

士官が冷静に戦況を報告する。

 

四隻いたフリゲート艦はすでに大半が沈み行動不能になっていた。

 

「なるほど救援すると見せかけて敵艦隊を引き付け挟み撃ちにする戦法か」

 

セルネアン准将は鋭い観察眼で戦術を読み取った。

 

ゼファントは頷き戦術を説明する。

 

「敵がさほど優秀ではないので偽装や小細工を必要としないので楽でしたよ。アクラメイターを救援に出しておいたので妙な戦力の偏りもありませんでしたし」

 

「よくやってくれたゼファント大尉」

 

「准将こそ、私が指揮官であればあの機動部隊は見捨てていたかも知れません」

 

准将が微笑を溢す。

 

しかしそこに哀愁が含まれているように感じるのはゼファントの感受性が豊かなだけなのだろうか。

 

彼には見当もつかなかった。

 

 

 

アーガニルは全滅する海賊船団を見て高らかに笑った。

 

ドロイドに命じてグラスにワインを注がせ紅く色めくワインを回した。

 

彼は完全に人体の部分が多かったりする為飲み物や食べ物も食べられた。

 

「いやぁ見事だなぁ、まさか殲滅してしまうとは…」

 

「想定以上ですな…それに損害も低い…」

 

ワルフォイは少々困惑している。

 

額には冷や汗が垂れ下がっていた。

 

コルベットかクルーザーの一隻は道連れにするかと思ったがまさか敵に傷一つ与えられないとは。

 

アーガニルはワインで喉を潤すと彼を諭す。

 

「それはそうだ、セルネアンだってあの程度なら損耗率0で突破できる…そして」

 

アーガニルがニヤリと笑いホログラムを睨みつける。

 

「あの戦術は“()()()()()()()()()”…セルネアンよりもっと強力でもっと若い」

 

アーガニルは正確に戦術の立案者を予測し喜びで体がゾワゾワと湧き上がった。

 

ワイングラスを回し次なる戦いを想像し再び笑みを浮かべる。

 

「同胞よ私はつくづく思う…生きていて良かった…できればお前達も共にいて欲しかった」

 

アーガニルは亡き友や兄弟に語りかける。

 

彼は心底思った。

 

今は亡きサイボーグの彼らと共にあの艦隊と戦えたらどんなに幸せだっただろうか。

 

きっと凄まじい戦いになり最高の勝利を手にしていただろう。

 

「さあ始めよう、同胞の仇討ちと復讐戦を、そして“()()()()()”の始まりを!!」

 

アーガニルは目を輝かせていた。

 

ワルフォイも己の肩書きを忘れ共に笑声を立てる。

 

始まるのだ。

 

敗残兵の。

 

亡霊の。

 

生き残りの。

 

たった一人の。

 

忘れ形見の。

 

新たな革命が。

 

それはもう一つの世界の歴史に埋れた新たな革命であった。

 

つづく

 




やっと戦いだよ(ニンマリ)


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初対戦

銀河の裏

「それで君が現在の指揮官かね?」

 

セルネアン准将はモニターに映る若き士官に尋ねた。

 

『はい…前指揮官のタス中佐が戦死した為代わりに私が指揮を…“シェイツ・キーリング”中尉であります…』

 

苛烈な戦闘を示すかのようにキーリング中尉自身も負傷していた。

 

片目を追い隠すほどの包帯が巻かれ敬礼するだけで顔を顰めていた。

 

セルネアン准将とゼファントも同様に敬礼する。

 

「他の将校は…どうしたのだ?」

 

キーリング中尉は目線を落とした。

 

予想は半ばついてはいる。

 

すでに第12機動部隊の戦力は半分以下まで低下しており艦内も負傷者だらけだった。

 

ほとんど壊滅状態と言っても過言ではないだろう。

 

それでも聞かなければならなかった。

 

『ほとんどの将校は重傷で動けない状態です。その為に動ける中で最高階級の私が指揮を取っております』

 

死んではいないようではあるが重傷者が大勢いるのは間違いないようだ。

 

早めに手当てしなければ死んでしまう者もいるかも知れない。

 

「重傷者は今のうちにこちらの艦へ、多少はバクタ・タンクなどもありますから」

 

『助かります…全艦の指揮権をセルネアン准将に譲渡いたします。若輩の私より閣下が指揮を取るのが一番でしょう』

 

「わかった…貴官もゆっくり休みたまえ。よくやってくれた」

 

『ご好意に感謝します』

 

ホログラムが途切れた。

 

2人は現在の状況を整理する為戦術用のホログラムを起動した。

 

デフォルメされたセルネアン艦隊と新たに加わった第12機動部隊の艦が移されている。

 

「あの艦隊はゴザンティ級クルーザーとCR90コルベットで構成されていました」

 

三隻のCR90と六隻のゴザンティ級が映し出される。

 

しかしそのうちの何個が消えてしまった。

 

消してしまったと言うより状況を整理する為にゼファントが意図的に消したのだ。

 

本来は敵の攻撃を受けてやられてしまったのだが。

 

「すでに半数以上が撃沈しゴザンティ級一隻と中破したCR90が一隻、同様に小破したCR90が一隻のみです。もはや機動艦隊と呼べる代物ではありません」

 

生き残った三隻もほとんどが損傷しておりこれ以上の戦闘は不可能に近い。

 

艦内には重傷者がほとんどで残った乗組員とドロイド達が辛うじて自動操縦システムと一緒に動かしている状態だった。

 

「…旗艦クラスのCR90はどうだったのかね?」

 

セルネアン准将はホログラムを見つめながら少し重たい面持ちで彼に尋ねた。

 

この艦隊の中にいないと言うことが全てを物語っているが。

 

「部隊長のタス中佐が部下を脱出させた後たった一人で盾となり後退の時間を稼いだとか」

 

セルネアン准将が悲しみを堪える。

 

ゼファントも少し心苦しい気持ちになる。

 

中佐は指揮官として務めを果たし戦死された。

 

敵は何必ずと2人はどこか固く誓い合っていた。

 

「我が艦隊の損耗率はほぼないですが今後敵の攻撃がないとは言い切れません」

 

ブリッジの外には無傷のアクラメイター級が宇宙を進んでいる。

 

それでも主力艦隊クラスの攻撃を受ければどうなるか分からない。

 

幸い周辺には海賊しかいないとのことだが。

 

「早めに基地に立ち寄ったほうがいいな」

 

ゼファントが頷く。

 

「ですが一戦ほど交える事は考慮しておいたほうがいいでしょう」

 

「うむ…艦隊を防御陣に!第二種戦闘配置のまま攻撃を警戒せよ」

 

セルネアン准将の命令で艦隊が再編される。

 

各艦の乗組員達にも少しずつだが緊張が戻り始めた。

 

いつ敵が来てもおかしくないと。

 

だがこの様子を嘲笑うかのように密かに見つめている者がいた。

 

アーガニルとワルフォイだ。

 

連中はセルネアン准将との戦いを望んでいる。

 

2人が率いる艦隊はそう遠くない所まで来ていた。

 

 

 

 

 

 

 

惑星ハンバリンの駐留艦隊は現在ある任務の為一部の艦隊が同じくミッド・リムに来ていた。

 

アクラメイター級やドレッドノート級といった強力な艦をいくつも従え宇宙空間を悠々と航行している。

 

他にもジュディシアル・フォースの艦隊や周辺のミッド・リムの惑星防衛軍の艦船も垣間見えた。

 

今ミッド・リムの急速な治安悪化は元老院でも問題になっている。

 

まあ元老院では問題になるだけで大した議論は交わされていないが。

 

しかしジュディシアル・フォースや惑星防衛軍のような組織は黙っている訳にはいかない。

 

人々を守り治安を維持する義務がある。

 

治安を乱す者達を征伐する必要があった。

 

その為各地の艦隊がミッド・リムに集結しているのだ。

 

「全く…たまには家でゆっくり執務に励みたい所だな」

 

ハンバリン、ジュディシアル・フォース連合艦隊指揮官であるゼントはそう愚痴をこぼした。

 

副官のウォルス中佐は持ってきた飲み物を彼のデスクに置き微笑を浮かべる。

 

するとウォルス中佐はふと疑問を投げかけた。

 

「ですがなぜミッド・リムなんでしょうか?確かにアウター・リムに近い領域ですが…」

 

「さあな、大方アウター・リムから流れて来たんだろう。まあここが潰れても他の海賊退治にいかないいけないがな」

 

「ええ…女海賊カナも倒されたとはいえまだ海賊は多いですからね…ほんと厄介な連中ですよ」

 

愚痴を溢すウォルス中佐にゼントも賛同した。

 

彼らがいなければジュディシアル・フォースと防衛軍での勤務ももう少し楽だろうに。

 

ゼントがコップに手を付け少し考えた。

 

「ああ…だがかと言って放置しておけば辺境の保安軍や惑星防衛軍がかなり痛手を被るだろう。そうなる前に潰さなければならない」

 

「しかし海賊の襲撃は相当厄介ですよ?それでも仰る通りなのですが」

 

今まで何度も海賊と戦ってきたウォルス中佐だからこその発言だ。

 

狡賢く時に強力な彼らを討伐するのは中々に難しい。

 

後一歩のところで逃げられたりしたら溜まったものではない。

 

「連中の対処方法はもう地道な方法しかない、それでもあともう一押しだ」

 

ゼントが窓から艦隊を見つめる。

 

今のこの艦隊ではダメだと彼は思った。

 

まだまだ銀河系を守っていくには力不足だ。

 

アウター・リムに多少手を出せるか出せないか程度のこの戦力ではまだ足りない。

 

もっと力がなければ銀河の全てを守れない。

 

「ひとまず今はこの戦いに集中せねばな」

 

「ええ」

 

ゼントが話題を逸らした。

しかし彼の頭にはある一つの確信があった。

 

必ず共和国は我が一族の力で守り切ってみせると。

 

それが開祖クイエムから与えられた使命だとゼントは感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星コルサント。

 

この煌びやかな首都惑星にも当然闇はある。

 

何層も何層も重ねて造られたこの首都は下層に行けば行くほど犯罪者やお尋ね者の巣窟となっている。

 

これが闇だ。

 

光が大きければ大きいほど闇もまた深くなる。

 

そして銀河は闇だらけだ。

 

光が届かない影のところはどこにでもある。

 

この“アンダーワールド”のように。

 

「ミッド・リムは…遅かれ早かれ一掃されるだろう、その間に戦力を集めなければな」

 

ほぼギャングに近しいボスがブランデーを煽り邪悪な笑みを浮かべる。

 

「だがその間に艦隊が来る。そうすれば我々の戦いが始まる」

 

ボスは戦いの到来を喜んでいる気がした。

 

「その為には連中を、ジュディシアルを撹乱しなくては」

 

「共和国はしばらくの間弱ってもらわなければなりませんな」

 

他の幹部達も賛同する。

 

「その通り、さらに弱く怯えてもらわなければ我々もやり辛い」

 

ブランデーのコップを回す。

 

薄暗い部屋の中でもブランデーの煌めく黄金色だけは輝いている。

 

それがたまらなく不気味だ。

 

そしてボスが手招きする。

 

「撹乱は頼んだぞ“()()()()”」

 

彼女“フィーナ・リースレイ”は静かに頷く。

 

笑みひとつなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間を長い間旅するというのは精神的にも肉体的にも疲れるものだ。

 

永遠に続く同じ風景。

 

外を見ても船の中も全く代わり映えしない。

 

船が壊れぬよう整備を怠ってはならない為常に肉体労働も必要だ。

 

こんな状況では船よりも心が壊れてしまいそうだが。

 

宇宙旅行というのは一見楽しそうで実際は辛く苦しい。

 

しかも彼らの場合は旅行では味わえないいつ敵の襲撃が来るか分からないという不安感にも襲われることとなる。

 

本当に死と隣り合わせの職業だ。

 

しかし彼らはどんな状況で諦めず職務を全うする。

 

それが彼らの魂なのだ。

 

ジュディシアル・フォースという準軍事組織においてもその魂は健在であった。

 

「ゼファント大尉、ゴザンティ級の取り付け完了しました」

 

「ご苦労様、今のうちに休んでおくよう言ってくれ」

 

「はい、しかし…本当にいいのですか?」

 

技術班を率いる少尉が首を傾げながら言った。

 

「ひとまず被弾させなければ大丈夫、それに敵襲が来ない限りあれは使わないつもりなので」

 

「なるほど、わかりました」

 

技術少尉が敬礼しその場を後にした。

 

ゼファントはタブレットを操作し再び戦術を確認する。

 

すると技術少尉の代わりにルファン少尉が近づいてきた。

 

どこか心配そうな顔をしていた。

 

「大尉本当に赦しはもらってるんですか…?下手するとセルネアン准将はともかく他の将校に怒られますよ?」

 

ゼファントはルファン少尉の肩を優しく叩く。

 

「心配しないで、ちゃんと許可は取ってありますしその時はその時で適当な言い訳見繕いますよ」

 

「ほんと心配になりますよ…」

 

ルファン少尉はため息を吐く。

 

2人はブリッジに戻ったセルネアン准将に報告した。

 

「艦隊の再編成完了いたしました」

 

「うむ、戦闘に備え諸君らも休みたまえ」

 

セルネアン准将が部下の敬礼を解かせる。

 

すると艦内に警報が鳴り響いた。

 

敵か味方かは不明だが状況はゼファント達を休ませてはくれないようだ。

 

「ハイパースペースより艦影多数接近!」

 

独特な警報音が彼らの緊張を膨れ上がらせる。

 

赤いランプが点滅し艦内中の士官や兵士達が慌ただしく持ち場に向かった。

 

ブリッジの士官達も慌ただしく調査や作業を始める。

 

「全艦戦闘配置!密集隊形!!」

 

セルネアン准将が全部隊に命令を出出した。

 

それから数十秒も立たず静かな宇宙から数十隻の船が出現する。

 

現れた敵艦隊は一斉に砲撃をしレーザーが宇宙を舞う。

 

だが事前に展開されていた偏向シールドにより全弾が防がれ爆発の光は起こらなかった。

 

「反撃しつつ全速後退!ひとまず敵を撒きましょう」

 

「うむ、防御の装甲強化艦を前へ!コルベットやクルーザーで対空防御の穴を埋めろ!」

 

陣形が現在の防衛体制を主軸に編成され敵艦隊に反撃の砲火を浴びせ始めた。

 

すると敵艦から通信が繋がりモニターに顔が浮かび上がる。

 

士官の1人が「何者かにモニターをハッキングされました!」と報告していたがセルネアン准将の耳には届いていなかった。

 

『久しぶりだな、セルネアン』

 

セルネアン准将がハッとする。

 

まるで見てはいけないものを、見たくはないものを見てしまったように。

 

「お前が…お前が生きていたのか……?いやそんな筈は…」

 

モニターの男がニヤリと笑う。

 

だが男だとは声でしか判別出来ず見た目では到底性別や種族などは判別が付かなかった。

 

様々な生き物やドロイドのパーツが継ぎ接ぎに繋ぎ止められており一言で言えば醜い姿だった。

 

だがこの人物の姿を見て明らかにセルネアン准将は動揺している。

 

そんな彼にモニターの男は続ける。

 

『同胞達の為お前を討ち取りに来た…』

 

男の笑みは止まらない。

 

まるでこの時を待ち望んでいたかのようだ。

 

『そこのお前、名前はなんという?』

 

男がゼファントを指さす。

 

彼は臆さず答える。

 

「ゼファント・ヴァント大尉だ、代わりに名前くらいは教えてもらいたいものだな」

 

『いいだろうヴァントの子倅よ、私はアーガニル、アーカニアン革命で生まれし戦士だ』

 

「ほう、どうやら見つけたみたいだな」

 

ゼファント同じようにニヤリと笑う。

 

奴こそがガコン少佐の言っていた敵でミッド・リムの治安悪化の要因だ。

 

セルネアン准将はまだ硬直したようだがゼファントは代わりにアーガニルに吐き捨てる。

 

これはこちらからの遅い宣戦布告だ。

 

「逆にお前を共和国の刑務所に引き渡しといてやる。裁判を受けるのは楽しみに待っていろ」

 

『面白い、では始めようか』

 

それは戦いの合図でもありこの一連の事件の始まりでもあった。

 

 

 

撤退

 

ある一人の政治家が誕生しようとしていた。

 

いやすでに“()()()()()()”と言う方が相応しいだろう。

 

惑星ナブー。

 

この緑に溢れた美しい星に今銀河の歴史に名を残すある男が演説をしていた。

 

まだ我々の知る姿よりも若く聡明な彼の活力は凄まじい。

 

かの世界。

 

こことは違うもう一つの本当の世界では彼は“暗黒卿(シス)”であり皇帝であった。

 

だがこの世界にはそんな面影が一切ない。

 

彼はナブーを愛しこの銀河系を愛し変えたいと願った。

 

議員を目指したのもそのためだ。

 

この広く未だ悲しみが残る銀河系に少しでも手を伸ばしたいから。

 

彼はただの善人だった。

 

誰が彼をただの善人にせよと願ったのだろうか。

 

本当に誰かが願って生まれたものなのだろうか。

 

そんなことは誰も知らない。

 

ただカリスマのある善良な心を持った有能な政治家がナブーにいるだけであった。

 

「私が再びナブーの代表議員になれた事誇りに思います!必ずやナブーの為、全銀河の為に全力を尽くすつもりでいます!」

 

男が演説を終えると拍手が鳴り響く。

 

大切な市民一人一人が自分を応援してくれている。

 

彼はそれに応えたいと思った。

 

自分のこの議員という肩書きはここにいる一人一人の市民が己の意思で選んだものだ。

 

彼らの期待には応えなければならない。

 

「今この瞬間にも我々の故郷は、ミッド・リムは危険に晒され保安軍が命をかけて戦いに赴こうとしている!ならば私も戦う事を誓います!」

 

だが彼の主戦場は場所が違った。

 

すぐ命が危険になる場所ではないが実際の戦場よりも単純ではなかった。

 

「政界で!この民主主義の国で私は与えられた想いに応え願いを果たしていこうと思います!!」

 

彼-シーヴ・パルパティーン-は人々のために立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵は完全に逃げ腰でどこかへ後退しようとしています」

 

「追えるだけ追え、ひとまずは小手調というところだ」

 

アーガニルは報告を受けそう命令を出した。

 

旗艦クラスの重クルーザーを一隻、フリゲート六隻、コルベット十二隻の艦隊は着々と逃げるジュディシアル艦隊の距離を詰めていた。

 

他の小規模な海賊やギャングとは違いブラック・サン直属の艦隊である為火力も桁違いだ。

 

とはいえ軍艦のスペックで言えば向こうのほうが上だ。

 

数や奇襲で若干優位に立っていても犠牲を覚悟で戦況を切り崩そうと思えばすぐに出来る。

 

しかしどうしてなかなか。

 

見事に距離を取り与えられるダメージも少ない。

 

セルネアンにあのゼファントと名乗った青年の指揮は見事だ。

 

セルネアンのやり方ではない。

 

何度か戦った事のあるアーガニルにはよく分かっていた。

 

「コルベット艦を左右に展開させ敵を包囲せよ」

 

「承知しましたコルベットを両翼に展開しフリゲートで防御を固めよ」

 

ワルフォイが彼の命令に少し付け加えた。

 

「わかっているではないか、ここで逃すにしても敵の手の内を一つくらいは見ておきたいからな」

 

アーガニルが軽く微笑む。

 

それは敵を追い詰めているときの強者の余裕であった。

 

すると友軍艦から通信が繋がる。

 

『アーガニル殿何をされているか!このまま突撃し敵を殲滅するのが先決ではないか!』

 

「オッフス船団長、ここで手を誤れば打撃を負い今後の戦いが不利になってしまう」

 

アーガニルは落ち着いた口調で彼を宥める。

 

だがこの手のタイプには逆効果だ。

 

無論それを分かった上で言っているのだが。

 

『俺はどうも貴様が姿含めて気に入らん!!悪いが手柄は全て俺が頂く!』

 

「ならば頼んだぞ」

 

『ふん!!』

 

通信が途切れオッフスの船団が敵艦隊に向け突撃する。

 

あの様子では呼び戻しても戻ってきそうにない。

 

「いいのですか?アレは必ず打撃を負って帰ってきますよ?」

 

「いいんだよ、むしろアレは捨て駒だ。敵がどう対処するか拝見しようじゃないか」

 

ワルフォイも悟り苦笑を浮かべる。

 

無能者も無能者なりに使いようがある。

 

これがサイボーク指揮官の言った言葉だ。

 

彼は今まさにその言葉を実行しようとしている。

 

多少の冷酷さを持って。

 

 

 

 

 

「准将、損傷艦の収容完了しました!」

 

「うむ、ハイパースペースへの座標計算急げ、今は防御と逃げる事だけに集中せよ!」

 

士官達や艦のコンピューターが安全なハイパースペースルートを計算し始める。

 

計算がなければ超新星のど真ん中を突っ切って全滅してしまう可能性すらある。

 

時間をかけても計算の正確さを求める理由はここにあった。

 

「このまま逃してくれるとありがたいんですがね」

 

「だが相手はあのアーガニルだ、油断はできん」

 

セルネアン准将の言う通り次に入ってきた報告は一瞬のうちにブリッジを緊張に追い込んだ。

 

「敵艦一部突撃してきます!!」

 

「まさかこの機を狙って…」

 

ルファン少尉が一気に絶望に満ちた表情に変わる。

 

士官達も不安に襲われていた。

 

たまたまタイミングが重なっただけだが命のかかるこの戦場ではそのたまたまでさえ危機を思わせるスパイスが含まれていた。

 

「大丈夫」

 

ゼファントがその一言で士官達の顔を上げる。

 

セルネアン准将も静かに頷く。

 

半ば事情を知っているようだった。

 

「あの特務のゴザンティ級を使えば多少は時間が稼げます」

 

ゼファントはブリッジの窪みに降りて技術士官達に命令を出した。

 

「ゴザンティに例のプログラムを起動させろ。ドロイド操縦と悟られない工夫をしてあるから大丈夫だ」

 

「了解…!」

 

士官がコンソールを操作しゴザンティ級のプログラムを起動した。

 

その間にも敵艦は徐々にジュディシアル艦隊との距離を縮めている。

 

当然ブラスター砲も放たれており数発が“特務艦”として改修されたゴザンティ級に被弾する。

 

エンジンが爆散し徐々にゴザンティ級の速度が落ちていった。

 

「ゴザンティ級、加速度減少中!」

 

エンジンの青い光が徐々に失われ艦隊から離れていく。

 

センサーが何かを捉えた。

 

「敵艦のトラクター・ビームに捕まりました!!」

 

「もっと距離を詰めてから起爆しろ、できる限り近い方がダメージも与えられる」

 

士官を落ち着かせる。

 

敵のフリゲートとゴザンティ級はもう目と鼻の先だ。

 

周囲のコルベット艦も近付いてくる。

 

もう少し要人深くしていればこんな事に巻き込まれずに済んだだろうに。

 

「よし起爆しろ」

 

士官から渡されたスイッチをゼファントが押す。

 

システムが起動しゴザンティ級に信号が送られた。

 

彼らの最期の狼煙となる。

 

艦内に積められた大量のプロトン魚雷や震盪ミサイルが起爆され大爆発が起こった。

 

これほど大規模な爆発ならいくらシールドを展開しようとも無意味だ。

 

仮に軍用艦であったとしても容易にシールドを破り艦には深刻なダメージが与えられるだろう。

 

さらに可燃材の代わりに入れられたライドニウム燃料に引火し爆発がさらに広がった。

 

コルベット艦やフリゲートが巻き込まれ次々と轟沈していく。

 

「ハイパースペースルートの座標計算完了!いつでも行けます!」

 

なんというタイミングの良さ。

 

詰まる事なくセルネアン准将は命令を出した。

 

「全艦はハイパースペースへ!」

 

爆発するゴザンティ級やコルベットを背にジュディシアル・フォースの全艦が宙域から脱出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オッフス船団長のフリゲートとコルベットを含めた三隻が撃沈、フリゲート一隻小破、コルベット一隻中破です」

 

ワルフォイが損害を単調に説明する。

 

損失で言えばかなりのもので受け入れ難いものであった。

 

オッフス戦団長はともかく三隻の船と破損した船の損失が受け入れ難いものだ。

 

にも関わらずアーガニルはその見事な撃退に思わず拍手を送った。

 

「いやぁ見事お見事、まさかあのクルーザーが爆弾だとは思わなかった」

 

「ええ、まるで特攻艦の影も有りませんでしたな」

 

見事な運用に2人は恐れ歓喜の笑みを浮かべる。

 

これほど優秀な敵がまだこの銀河にいたとは。

 

革命の道には常に強敵が立ち塞がる。

 

それでこそ無意味に死んでいった同胞達に顔向けできるということ。

 

“彼”もきっとそう思っているはずだ。

 

「さてと損傷艦を改修し連合艦隊(ゴミどもの寄せ集め)に合流するぞ」

 

ワルフォイが軽く頭を下げ艦隊が反転する。

 

相手はこの宙域のジュディシアル艦隊ほぼ全軍だ。

 

さてどんな戦いに…いや。

 

どんな“()()”になることやら。

 

彼の“命令(プロトコル)”が何度も呼びかける。

 

-自由を我らに-

 

そうだ。

 

自由の為に戦うのが私の使命だ。

 

血塗れの自由を掲げてやろうじゃないか。

 

聖戦で散った聖なる流血と愚かな反逆者の生き血で塗られたその自由の印を。

 

アーガニルの笑みには何処か哀れな何かが散りばめられていた。

 

 

 

 

 

 

艦隊は無事にハイパースペースに突入し順調にステーション基地へと退却の帰路についていた。

 

艦内では緊張が解け安堵した士官達がぐったりしている。

 

とは言えそうゆったりともしていられず殆どは通常通りの勤務に励んでいた。

 

一方のセルネアン准将もどこかへ行ってしまった。

 

ゼファントは報告とある事を今度こそ尋ねる為に彼を探した。

 

珍しく普段はいないパイオニアーの外壁近くで外を眺めていた。

 

「准将、報告です」

 

セルネアン准将が顔を上げる。

 

「我が艦隊は特務艦を除いて損害はなし、全艦無事です」

 

「それはよかった」

 

セルネアン准将は微笑みその場を離れようとした。

 

ゼファントが勇気を引き絞り声を上げる。

 

これを尋ねなければ何も始まらないと。

 

「あの敵と…いやあの“革命”で何があったんですか?」

 

准将の足が止まる。

 

「教えて頂かねば私は貴方を信頼できない。申し訳ないが貴方に命を預けられません」

 

ゼファントの鋭いその一言がセルネアン准将を突き刺す。

 

彼の覚悟が決まった。

 

遅かれ早かれ話ていたかもしれない物語だ。

 

話すには悲しすぎる小さな戦場の物語だが。

 

「そうか…なら話すとしようか…」

 

セルネアン准将が覚悟を決めしっかりとゼファントの目を見る。

 

彼と同じ目だ。

 

だがどこか疲れている表情だ。

 

だからこそセルネアン准将は彼に全てを任せられる。

 

話が始まった。

 

悲しきある一人の軍人の話が。

 

つづく

 




久しぶりのpixivからの移行っすね

とは言っても飽きててやってないだけなんですが()


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失ったもの

「そうか…なら話してしまうとしようか…私が無能者だと悟った日の事を…」

 

セルネアン准将の言葉はいつにもまして重たかった。

 

悲しみと後悔を含んだ彼の声は話を始める。

 

言葉の重たさと声に混じる感情がその場の空気を重くしていった。

 

「まだあの時の私は大佐だった…」

 

この言葉を皮切りに彼の過去が物語として繋がれる。

 

それはグリッツ・セルネアンの過去だ。

 

後悔と悲しみの過去であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十年ほど前セルネアンはまだジュディシアル・フォースの大佐であった。

 

彼は長い間共和国の為と命を賭して戦っておりその知名度は低くとも仲間内からは慕われ優秀な指揮官の一人だと記憶付けられていた。

 

また彼には弟がいた。

 

父親は軍人ではいのだが兄の跡を追って弟もジュディシアル・フォースに入隊した。

 

昔から仲の良い兄弟だった。

 

兄は兄としてのあるべき姿をと努力し、弟はそんな兄を尊敬し慕っていた。

 

彼の弟、“ハリス・セルネアン”は兄とは違い地上部門の将校であった。

 

されど彼の才能は兄グリッツが認め自らを超えると思うほどの程の指揮能力を有していた。

 

彼らは互いに切磋琢磨し軍役を積み重ねていった。

 

やがては二人ともゼント提督やエヴァックス参謀の様な高級将校達からも信頼を得ていった。

 

だが運命には容赦などない。

 

-アーカニアン革命-

 

彼らもまたコロニーズで発生したアーカニアン革命の鎮圧の命令を受けて出撃しようとしていた。

 

兄グリッツは艦隊を率い弟ハリスは地上部隊を率いて。

 

「兄さん!」

 

パイオニアーのドックで物資の積み込みを監督しているとハリスの声が聞こえた。

 

軍服から上はまるで変わることのない弟の姿だった。

 

「ハリス…お前の大隊はもういいのか?」

 

「準備万端、いつでも戦えるさ。革命軍も余裕で蹴散らせる」

 

若いハリスは笑みを返す。

 

彼はまだ20代だがすでに少佐。

 

優秀な大隊指揮官で兄のグリッツとは10歳近くの年が離れていた。

 

ハリスは自らの大隊を誇らしげに語っていた。

 

「コマンドー部隊だって配属されたし元より優秀な兵士ばかりだ。向かう所敵なしと言って良いほどだよ」

 

グリッツも微笑を浮かべ血気盛んな弟に忠告した。

 

「油断するなよ?革命側の兵力はサイボーグ兵士だと聞くからな」

 

あくまで噂話の域であったが現に敗残兵などの怪我の具合を見ても相手は相当強敵だ。

 

先に戦った自治領主艦隊も敵の優秀な指揮官の影響で大敗したと聞く。

 

相手は近年類を見ないほど強敵だ。

 

しかしハリスはそんな兄の心配をよそに勝利を確信していた。

 

「兄さんこそ流れ弾で消し飛ばされたりしないでくださいよ?」

 

「当たり前だ、パイオニアーはそう簡単に沈まん」

 

2人は苦笑をこぼす。

 

すると件のコマンドー隊隊長と部下のルファン准尉が2人近寄った。

 

「大佐、艦隊の最終点検完了しました」

 

「少佐、全大隊員グリッツ艦隊に収容完了」

 

2人は互いに部下の報告を聞き部下を下がらせる。

 

「さてじゃあ続きは勝利した後で」

 

「ああ、また後でな」

 

2人は互いに軽い敬礼と共に別れた。

 

これが最後の会話になるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

革命の鎮圧は彼らが考えていた以上に長期戦になった。

 

敵艦隊も巧な戦術で撤退しこれと言った打撃を与えられず地上戦ではサイボーグ兵の強さに圧倒されていた。

 

すでに自治領主の私兵軍二個大隊が壊滅しジュディシアル・フォースや惑星防衛軍の部隊も少なからず損害を被っていた。

 

『このままいたずらに攻勢を掛けても損害が増すばかりなのに…ジェダイの無能者どもはなぜそれが分からんか…!』

 

ホログラム越しでゼント中将が苛立つ。

 

実際度重なる戦闘の割には得られる戦果は少なくその代償は大きかった。

 

それでも効力を上げつつあるのはこちらが圧倒的な物量を誇っているからだろう。

 

サイボーグ兵の軍隊とはいえ数は少なく物量を全て捌き切れてはいない。

 

このまま損害に目を背けながら戦っても勝てるだろう。

 

それが上策かと言われたら苦笑を浮かべるしかないが。

 

「暗号通信によると今夜の再攻勢時にハリスの大隊が夜襲を掛けるとか。敵地上要塞は我々の本隊の攻撃を受けて戦力が一方に集中しています」

 

『彼ならうまくやるだろうが…問題は軌道上の艦隊だ、あれを潰さなければ』

 

「敵将アーガニルは優秀ですからね…要塞が陥落したとなれば容赦なく要塞を攻撃するでしょう。そうなったらハリスの大隊も本隊も危険だ」

 

ゼント中将が頷く。

 

艦隊指揮官のアーガニルはジュディシアル艦隊や他地域の連合艦隊を悉く退けている強敵だ。

 

自治領保安艦隊を殲滅した時に彼は通信回線を開き自らをアーガニルと名乗った。

 

それはジュディシアル・フォースと戦った時と同じだ。

 

だがグリッツはあの男と初めて対戦した時に「必ず貴様の船を地べたに叩き沈めてやる」と言い返した。

 

その時の戦闘は流石に旗艦撃破とはいかないまでもゼント艦隊とセルネアン大佐の機動部隊でようやく彼の艦隊を退けることが出来た。

 

「私が行きます。我がパイオニアーはアクラメイター級の中でも最新鋭で重火力です、敵の背後を突けば必ず行けます」

 

セルネアン大佐が考えた戦術がゼント中将の旗艦“グローリースコネクション”に転送される。

 

彼はしばらく戦術を読みセルネアン大佐に提案する。

 

『我が艦隊の付属機動部隊から二隻やろう。急いで向かっているが私達本隊は間に合いそうにない。すまんな』

 

「中将…!ありがとうございます」

 

『容易い御用だよ。それにジェダイどもの鼻を赤してやろうではないか』

 

ジェダイ嫌いの中将が子供じみた悪い笑みを浮かべる。

 

敬礼とともに通信が切れた。

 

「待ってろよハリス…」

 

地上で戦いに備えている弟の名を呼ぶ。

 

今思えばもっとこの時にハリスと連絡を取っておくべきだった。

 

もしそうしていれば運命は大きく変わっていただろうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイオニアーに引き連れられた二隻のアクラメイター級は多少荒っぽい方法だったが無事敵に悟られず敵の背後に着くことができた。

 

だが攻勢の合図は未だ出されてはいない。

 

地上部隊の再度攻勢時はこちらにも連絡があるはずだ。

 

「そろそろだな…」

 

「しかし友軍艦隊と地上部隊の反応がありませんね…どうしたのでしょうか?」

 

「まあ遅かれ早かれ来るだろう」

 

彼らは一抹の不安を抱えながら他の艦隊の到着を待った。

 

流石にたった三隻ではあれほどの艦隊には勝ち目はない。

 

しかし彼らに届いたのは艦隊ではなくある一報だった。

 

突然画像の荒いホログラムが浮き上がりグリッツに向けて叫んだ。

 

『セルネアン…今すぐ地上部隊を回収して撤退す…んだ…!』

 

ゼント中将だ。

 

電波が悪いのかホログラムは今にでも途切れそうだった。

 

『ジェダイが勝手…攻撃作戦を中断しやがった!今そっちに向かっている所…』

 

「そんな!どうして!」

 

『カルト連中…理由なん…知ったことか!とにかく地上部隊の…収を!』

 

「ですが軌道上に敵艦隊が!」

 

セルネアン大佐は悲痛な声をあげる。

 

すると通信士官の一人がグリッツに叫んだ。

 

「大佐、ハリス少佐の大隊が攻撃を実行しました!現在地上では戦闘中です!」

 

グリッツは青ざめた。

 

まずい。

 

全てが最悪の状況だ。

 

艦隊は容易に大隊を攻撃出来るし要塞内の敵は本隊の攻撃がないから全力を大隊の方へ向けられる。

 

『私の艦隊の到着を…て…引き付けている間に回収するんだ』

 

ゼント中将は冷静に提案する。

 

しかしそんな余裕はもうなかった。

 

「すでにハリスの大隊は攻撃を開始しています!しかも連中の通信妨害のせいで連絡が取れない!我々だって光学カメラでようやく視認できたのですよ!」

 

ゼント中将は彼の心中を察してはいたがどうすることもできない。

 

『とにかく我が艦隊が引き付け…間に地上部隊を回収しろ!!』

 

グリッツはブリッジから惑星の方を見つめた。

 

軌道上の敵艦隊の動きがそれを物語っている。

 

地上に部隊を降ろしている。

 

このままでは物量に押し潰されて全滅してしまう。

 

セルネアン大佐は覚悟を決めゼント中将に進言した。

 

「我々で軌道艦隊を撹乱している間に地上に支援を!そうすれば少なからず救出と奪還が叶います…!」

 

『それでは君た…危険だ!』

 

「もう時間がありません!中将、戦場で!」

 

『待つんだ大佐!』

 

通信を切りセルネアン大佐は三隻のアクラメイター級に命令を出した。

 

「全艦戦闘隊形!目標敵旗艦!!」

 

パイオニアーを筆頭とした三隻がエンジンに青白い炎を彩り敵艦隊へ向け発進した。

 

「射程距離でなくても構わん、撃ってこちらに注意を引くんだ!!」

 

アクラメイター級の重レーザー砲が次々と火を放つ。

 

放たれた砲弾はセルネアン大佐の予見通り密集した敵艦隊にはさほど狙いを付けなくても命中し数隻の敵艦のエンジンを潰した。

 

敵艦から放たれる爆炎はパイオニアーからでも確認済みだ。

 

「このまま進み撃ち続けろ!」

 

敵艦隊は密集隊形を解きつつ前衛の艦で応戦しようとしていたがその数分が仇となった。

 

密集隊形を解いたおかげで敵艦隊への突破を容易なものにしたセルネアン大佐は真っ直ぐ旗艦に直進した。

 

「見えました!敵旗艦です!!」

 

士官の報告とほぼ同時にグリッツは命令を出した。

 

「全火力を敵旗艦へ!!撃て!!」

 

重レーザー砲といくつかのプロトン魚雷が同時に放たれる。

 

反撃と言わんばかりに敵旗艦もレーザー砲と震盪ミサイルを放ち艦と艦との一騎打ちとなった。

 

両者の攻撃は互いにシールドを打ち破り打撃を与えた。

 

被弾したパイオニアーに揺れが起こる。

 

「左舷に被弾!被害状況は…まだ戦えます!」

 

「よし!どんどん撃ち続けろ!」

 

ゼント中将から渡された二隻のアクラメイター級も他のフリゲート艦やコルベット艦を次々と打ち破りパイオニアーと敵旗艦の一騎討ちを妨害させないようにした。

 

その甲斐あってか互いに敵は絞られ今までにないほど苛烈な戦いと化した。

 

向こうが当てればこちらも負けずと被弾させる。

 

爆発の閃光が二隻を取り巻く。

 

両艦ともあちこちから爆炎を上げていた。

 

敵旗艦のミサイルがエンジンに被弾し一時的にエンジンが一つ機能停止する。

 

ブリッジのライトが赤に変わり緊迫感を煽る警報が鳴り響いた。

 

「エンジンブロックに被弾!このままでは…」

 

部下の士官が不安そうな声をあげる。

 

「怯むな!!撃て!!」

 

危機的状況の中セルネアン大佐は怯まず敵艦を睨みつける。

 

あれが艦隊総司令官のアーガニルの船であることも重々承知だ。

 

だからこそ堕とさねばならない。

 

沈めなければならない。

 

弟の為にも。

 

願いが通じたのか将又パイオニアーの砲手が優秀なのか定かではないが重レーザー砲が敵のエンジンを吹き飛ばしプロトン魚雷や震盪ミサイルがレーザー砲の幾つかを破壊した。

 

さらに都合の良いことに敵艦に刺さっていた不発弾が余波で爆発を起こした。

 

それが決定打となりこの恐ろしい旗艦を大破まで追い込んだ。

 

「敵艦大破、エンジン出力が低下し惑星の重力に引かれています!」

 

「このまま戦闘を続行する!!敵艦隊を…」

 

「大佐!ハイパースペースより友軍艦隊です!ゼント中将のハンバリン連合艦隊です!」

 

セルネアン大佐がブリッジからハンバリン艦隊を確認する。

 

『大佐!今すぐ地上部隊を出す!もう少し辛抱して踏ん張ってくれ!』

 

「中将…!」

 

『頼んだぞ!!』

 

「はい!!」

 

旗艦の損失とハンバリン艦隊とセルネアン艦隊の挟み撃ちが決定打となり軌道上艦隊は壊滅。

 

地上に部隊が送られ地上でも勝利を得た。

 

艦隊総司令官と要塞に篭っていた地上部隊司令官の戦死は大きな打撃となり革命宇宙軍はその後の戦闘で連敗。

 

革命の失敗に直結する事となった。

 

しかしこの時期のセルネアン大佐に送られた報告は数々の勝利だけではなかった。

 

最大の悲劇が混じっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ……嘘だ!そんなはずは…」

 

ハリスの大隊の“()()()()()”であるコルグ大尉が涙を浮かべながら報告する。

 

他の部隊長達も皆苦渋の表情を作りある者は悔し涙を流していた。

 

「宣告申した通り…我が第三十二突撃大隊大隊長ハリス・セルネアン少佐は…敵基地攻撃時に…名誉の戦死をなされました…!」

 

その瞬間コルグ大尉の涙のダムが決壊する。

 

兄であるセルネアン大佐は未だにその事を受け入れられなかった。

 

「付近で戦闘していたこのベッツ少尉が少佐の麾下分隊が砲撃されたのを目撃したと…」

 

若き少尉が彼の前に出る。

 

ベッツ少尉も全身が傷だらけだ。

 

しかし彼は痛みと苦しさを堪えセルネアン大佐の前にたった。

 

「自分がこの目で確かに見ました…少佐殿は最期の最後まで自分達の為に命令を下さいました……!あの基地が陥落したのも少佐殿のおかげです…!」

 

ベッツ少尉も流石に涙までは堪えきれず涙を流し始めた。

 

勇猛果敢で知られたジュディシアル・コマンドーであるアヴェック中尉ですら目を瞑り涙を静かに垂らしている。

 

「大佐殿!少佐はハリス少佐の死は彼の方を守りきれなかった自分達にあります…!許しを乞うつもりは微塵もありません!ですがどうか…」

 

コルグ大尉が涙を流しながら彼に頭を下げた。

 

「よせ…お前達は何も悪くない…頭を上げてくれ…みんなよく戦った……お前達は悪くないんだ…悪いのは…」

 

守れたはずだった。

 

勝ったと思った。

 

だから慢心していた。

 

本当ならきっと手を打てたはずなのに。

 

爪が甘かったから。

 

だから悪いのは。

 

「悪いのは私だ」

 

この時セルネアン大佐は気づいていなかったが彼らと同様涙を流していた。

 

彼の頭の中は自責の念でいっぱいになった。

 

自分が早く助けにいかなかったから。

 

早いうちにハリスの部隊と連絡が取れないことが分かっていればもっと未来は変わっていたはずだ。

 

そんな事で頭がいっぱいになった。

 

 

 

 

 

 

 

革命の終結後セルネアンは准将となった。

 

また戦死したハリスは名誉を重んじられ二階級特進で大佐となった。

 

彼の大隊も当面の間はコルグ大尉が指揮官となった。

 

指揮官戦死とはいえハリスの大隊はあれだけの激戦であったのに犠牲が少なく大隊として存続を維持出来るものだった。

 

彼は最期に最終的な勝利に繋がる戦果と大隊を遺していった。

 

だがセルネアン准将の胸にはぽっかり痛みを伴う穴が空いたままだった。

 

何が准将か。

 

優秀な弟も救えない救い難い低脳が准将になって良いものか。

 

きっと自分はこれから何人もの弟と同じ存在を作っていく事となるだろう。

 

彼は准将という階級と周囲からの“革命戦争の英雄”という評価によりさらに自分を責めるようになった。

 

同時に如何なる時も弟が生きていたらということも考えるようになった。

 

元々両親が早いうちに亡くなってしまったセルネアン兄弟はずっと二人で支え合って生きていた。

 

もはや己の半身も同然なのだ。

 

それを失ってしまった悲しみと喪失感はセルネアン准将の心をじわじわと壊死させていくに十分であった。

 

次第に生きる気力も原動力も彼から消え失せた。

 

それから彼は夢を見るようになった。

 

弟ハリスが自分の目の前で笑みを浮かべている。

 

その度に彼は今までのことが夢であったように思い込み彼の元へ走った。

 

しかし夢はそれ以上夢を見せてはくれない。

 

彼が弟に近づこうとした瞬間一発の弾丸がハリスを消し飛ばす。

 

爆風によりセルネアン准将が吹き飛ばされあたりは一瞬にして戦禍の後となった。

 

セルネアン准将顔を上げると必ずハリスはその場から消えていた。

 

彼が立っていた跡には彼自身も彼の肉片すら残されていなかった。

 

あるのは絶叫とそれにより目覚めを引き起こす後味の悪さだった。

 

あれから何度もこのような夢を見るようになり次第にセルネアン准将はこう思うようになった。

 

-これは弟からの憎しみだ-

 

 

 

-自分は死んで低脳な兄が生きている事への怒りなのだ-

 

 

 

-そして自分と同じように戦場で死ねという思いだ-

 

徐々にその考えに全身を浸すようになったセルネアン准将は戦場に死を求めるようになった。

 

だがよくある無茶な突撃や特攻は全くと言って良いほどしなかった。

 

彼にはもう一つの思いがあったからだ。

 

弟のように戦場でこれ以上他者を死なせてはいけないと。

 

その為彼は人一倍人の死に敏感になった。

 

市と隣り合わせの職業なのに死が人一倍恐怖だった。

 

だから無茶でも仲間や市民なら助けようとするのだ。

 

結果2つの考えに挟まれたセルネアン准将の数年間はまさに生き地獄であった。

 

死にたいが死ねない。

 

自殺すらできない。

 

次第に彼の気力や鋭気はどこかへ消えていった。

 

こうしてかつての将来を有望されたジュディシアルの将校は今の姿へと変貌していった。

 

今日この日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今でも時折見るよ…もう相当昔の話なんだがね…」

 

外を見るセルネアン准将の表情はいつにも増して覇気がなかった。

 

ゼファントは心中を察し口を紡いだ。

 

「憐れむなら憐んでくれ…貶すなら貶してくれ。救い難い生半端な人間だということは私が一番よく知っている。だから何も守れず何も出来なかった」

 

自重気味に彼はそう口走った。

 

するとゼファントは彼に優しい口調で言った。

 

「私はまだ何か言える立場ではありませんが一つ。准将、前を向いてください」

 

セルネアン准将は突き刺さるようなまっすぐな彼の瞳を見た。

 

その若き熱意に満ちた瞳が訴えかける。

 

青い瞳だ。

 

そして青い炎が灯されていたような気がした。

 

「准将には戦死されたハリス大佐の分まで戦ってハリス大佐が見れなかった世界を生きる義務があると私は考えます」

 

「義務…か…」

 

「ええ、そうやって彼の分まで戦い続けることが少なからずハリス大佐へ報いる事ではないでしょうか。貴方が苦しんだって、死のうとしたって大佐はきっと喜ばないでしょう。むしろ大佐の想いと共に貴方が戦って生き抜いていけばきっとハリス大佐も喜ぶのではないでしょうか?」

 

ゼファントはいつにもなく真剣だ。

 

「こんな所で足踏みをしていればそれこそハリス大佐も悲しむでしょう。我々は常に前に進まなければなりません」

 

その一言はセルネアン准将に大きく突き刺さった。

 

確かにゼファントの言う通りなのかもしれないと彼は思い始めてきた。

 

「…少々言い過ぎました…すみません」

 

あえて謝るゼファントは最後にこう言い残す。

 

「ですが生きている人間が死んだ人間に出来る事は死んだ人間の為に戦い続けることだと私は思います」

 

彼は敬礼しその場を後にした。

 

残されたセルネアン准将は何か深く考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セルネアン艦隊は無事にジュディシアル艦隊が集結中のポイントにジャンプアウトする事が出来た。

 

彼らの眼前には数十隻以上のジュディシアル・フォースの艦が艦列を組んでいた。

 

中には移動型の衛星基地まで存在していた。

 

ブリッジの士官達は忙しなく艦隊に連絡を取りコードを送信している。

 

『こちら艦隊司令部α、パイオニアーは司令部αの第三ベイに着艦せよ』

 

衛星基地の一つがパイオニアーに着艦を促す。

 

「了解、それと我が艦隊には第十二機動部隊の負傷兵と損傷艦を積んでいる、直ちに手当てと修復してもらえないだろうか?」

 

『任せてくれパイオニアー、必ず助ける』

 

通信士官の言葉通りパイオニアーが着艦した後すぐに軍医と整備士達が艦に駆け込んだ。

 

代わりに総司令のセルネアン准将と副官のゼファント、ジュディシアル・コマンドーの隊長であるアヴェック大尉は作戦室に呼ばれた。

 

どうやら基地内の放送を聞く限り他の艦隊司令官も同様に呼ばれているようだ。

 

作戦会議が開かれるらしい。

 

3人が室内に入るとすでに何人かの将校が雑談を交わしていた。

 

「外の艦隊も見たが中々の数だな」

 

「ええ、各地域から相当の艦隊が集められているんですね」

 

そんな話をしているとゼファントにとってとても馴染みのある人物が話しかけてきた。

 

「ゼファント?お前ゼファントか!」

 

「父さん!」

 

それは見覚えのある実の父親だった。

 

親しみを込めて互いに軽くハグを交わした。

 

彼はハンバリン艦隊の一部を率いて参戦したのだ。

 

「お久しぶりです提督」

 

「セルネアン…そうかお前は彼の艦隊に配属されたんだな、でどうだセルネアン?息子はちゃんとやっているか?」

 

「はい、とても優秀で私も助かっています」

 

ゼントが微笑を浮かべる。

 

「そうか、まあ次の戦いはいい狩場となる。しっかりやれよゼファント」

 

「言われなくても全力を尽くしますよ」

 

2人は軽い敬礼で話を終えると全ての将校が集まったのか早々と会議が開かれた。

 

中央の大型ホログラムが起動しミッド・リムの地図が現れる。

 

「我々は活性化するミッド・リム内の犯罪勢力を一掃する為に今回遠征艦隊を結成されました。以下の戦術に従い犯罪勢力を一掃します」

 

ホログラムに彼らジュディシアル艦隊が映し出された。

 

「まず犯罪組織の主力を殲滅する軍集団A。次に残党の討伐及び治安維持を目的とする軍集団B。補給路の確保、犯罪組織のミッド・リム外への逃亡を阻止する軍集団Cに分けられます」

 

ホログラムでは分かりやすく艦隊の戦力が大まかに3つに分けられ説明通りそれぞれの任務に当たっている。

 

将校達は真剣に説明とホログラムを見つめた。

 

自分たちの命が掛かってくるなればこれくらいは当然だろうが。

 

「犯罪組織は連合を組み大規模な戦力で攻勢に出るでしょう。その為互いの連携が重要となってきます」

 

戦力的には明らかにジュディシアル艦隊の方が上だが一隻を数十隻で取り囲まれ殲滅されるような事が長引けばその優位も失われる。

 

以下に敵の連携を打ち破り各個撃破で潰していくかが重要だ。

 

「細部は各艦隊指揮官に任せますが大まかな指示は参謀部と戦術研究課から送られるものに協力従事していただきます」

 

その点については将校達からは文句は出なかった。

 

ゼントのような将校からすればジェダイの指揮下に入るよりよっぽどマシなのだろう。

 

最後に説明する将校が全員に通達する。

 

「この作戦は今後のミッド・リム内の平和に大きく残るでしょう。当然失敗は許されません」

 

その二言の重みは全員が重々承知していた。

 

失敗すればジュディシアルだけの問題ではなくなる。

 

「それでは各艦隊の検討を祈ります」

 

それは作戦会議の終了を意味していた。

 

将校はそれぞれ雑談に戻るか自分の艦隊に戻るか自由にしていた。

 

ゼファントは戦術を練る為にパイオニアーに戻った。

 

これが始まりだ。

 

ゼファント・ヴァントが歩む戦いの歴史への第一歩が今から始まるのだ。

 

宿命の相手を得て。

 

彼のも歯車が動き出す。

 

 

 

つづく




ようやくここまで移し替えたぞ…(文章をプラスして若干話を付け加えてるからこうなるんだよ)


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亡霊の覚醒

軍集団Aは補給を受ける為ある惑星の軌道上に待機していた。

 

作戦は今の所ほとんど成功していた。

 

海賊や犯罪組織の艦隊の連携はことごとく分断され逆にジュディシアル艦隊の強固な連携力で敵を撃滅した。

 

また補給路の確立や退路の完全なる封鎖によりジュディシアル・フォースは勢い付いていた。

 

しかし彼はどこか疑問に思っていた。

 

「敵艦隊はこれで3個艦隊が壊滅、にも関わらず未だ敵の戦術は変わっていません」

 

上官であり相手をよく知っているセルネアン准将静かに頷いた。

 

敵の総大将はアーガニルで間違い無いはずなのだがそれにしてはガサツな、愚策に近い戦術だった。

 

まるで諸将に作戦を放り投げているかのようなものだ。

 

「奴は何かを企んでいる…がいつ敵が出てくるか分からない以上職務を離れる訳にはいかんな」

 

「ですがある程度目標は知っておきたい所です…」

 

ゼファントが何かを考え込むような表情を浮かべる。

 

一つだけ確信はないものの考えが浮かんだ。

 

だがこれはあまりに綱渡りの戦いだ。

 

「その感じだと何か仮説は立っているようだな」

 

セルネアン准将が彼の心の内を大まかに読み取る。

 

ゼファントは苦笑を浮かべるとひとまずの仮説を彼に話した。

 

隠しておいたってなんの意味はない。

 

むしろアーガニルと戦った事のあるセルネアン准将に話して仮説を深める方が優先だ。

 

「もし奴が……今でも革命時に囚われているのだとしたら目標は…」

 

彼が全てを言い終える前にブリッジのモニターが起動し見覚えのある人物が三人映っている。

 

あまりに馴染みが深すぎる為ゼファントは半笑いを浮かべてしまった。

 

「少佐…それとアザフェルとゼネークト、なんで二人までいるんですか?」

 

ゼファントの声はどこか呆れに似た声だった。

 

『全く…いいか?お前が無茶苦茶な頼みをするから二人が今こうしているんだぞ?』

 

ため息をつきたいのはこちらだと言わんばかりにガコン少佐が目尻を押し疲れを取る。

 

相変わらず徹夜続きのようだ。

 

まあほぼ私のせいなのかもしれないが。

 

「それで何か分かったんですか?」

 

『君少しは躊躇いというものがな…まあいい、君が喉から手が出るほど欲しい情報なはずだ』

 

パイオニアーに転送されたその情報はあっという間にゼファントの表情をガラリと変えた。

 

彼はニヤケが止まらなくなり脳を高速で回転させ始めた。

 

モニター越しで若干ガコン少佐は引き気味だったが咳払いで空気を変え彼に伝えた。

 

『一応そっちにこの二人を送る、一応この情報が手に入ったのも二人のおかげだから感謝の一言くらい言っておけよ』

 

「はい少佐、それでは」

 

『ああ…すぐ戻ってこいよ。准将も御武運を』

 

ガコン少佐が准将に敬礼すると通信が途切れた。

 

それを確認したゼファントは微笑を浮かべ一言口にした。

 

「本当に頼れる人達だ」

 

優しい微笑みが傷つきそんな仲間達を多く失ったセルネアン准将の口角をわずかに上げる。

 

彼はゼファントに近づき先ほどから彼が喜んでいる情報について尋ねる。

 

「一体何が手に入ったのだね?」

 

「あぁ、これです。敵船を一隻鹵獲した時にアーガニルが連れて来た艦隊の動きが少しばかり分かったみたいなんですよ」

 

「で、そんなに喜ばしいのかね?」

 

「ええ、これによると近々その内の一隻が何やら物資を受取りに来るのだとか」

 

彼はタブレットをスライドしセルネアン准将に情報を見せる。

 

「そこで未だ意図が掴めないアーガニル艦隊を探る為こいつを“拿捕”します」

 

「さらっと言ったな…」

 

そんな若干の恐ろしさを感じるセルネアン准将は自身でも思考を巡らせ始めた。

 

彼をサポートするかのようにゼファントは彼自身の意見を口にする。

 

「船員はともかく航海記録などを得れれば少しはわかることがあるはずですから」

 

「うむ…」

 

唸るセルネアン准将にゼファントは作戦を提示する。

 

ハイパースペースから出てきた敵艦に奇襲を加えそのまま兵員を突入させ制圧するという流れだ。

 

敵艦は小さく人員も少ない為さほど時間は掛からないだろう。

 

「コマンドー部隊を投入して艦を制圧することはできないでしょうか?最も迅速に敵艦を拿捕できると思いますが」

 

「いけなくはないが…」

 

准将は唸り声を上げた。

 

ジュディシアル・コマンドーとはジュディシアル・フォースの中でも特に選りすぐりのエリート達だ。

 

そう簡単に動かせるものではない。

 

だがその疑念は一人の将校の声と共に消え去った。

 

「我々は全然かまいませんよ」

 

2人は振り向くとジュディシアル・コマンドーの隊長であるアヴェック大尉がすでにアーマーを纏い立っていた。

 

どんと来いと言わんばかりに。

 

そんな彼にセルネアン准将は心配を口にした。

 

「だが危険ではないかね?」

 

「危険が嫌ならそもそもジュディシアル・コマンドーになってませんよ。俺たちゃ全員戦死しようが自己責任ですからね」

 

自嘲気味にセルネアン准将の心配を吹き飛ばす。

 

彼はゼファントを見つめると何故かニヤリと笑った。

 

「代わりと言っちゃあなんですがゼファント大尉を借りてってもよろしいですかい?」

 

「えっ?」

 

ゼファントは首を傾げた。

 

そしてすぐに察しが付いた。

 

「ほら現場で的確な指示を出すのがいないと」

 

「確かに……わかった許可しよう。大尉、しばらくは任せたぞ」

 

セルネアン准将は少し考えすぐ了承を出した。

 

子供染みたアヴェック大尉の笑みがゼファントの表情を苦笑いに変えた。

 

ため息が出たままゼファントはアヴェック大尉に引っ張られていってしまった。

 

そんな中でゼファントはぼさっと呟く。

 

「はあ…こういうのを言い出しっぺの法則って言うんだっけか…」

 

「なんか違う気が…」

 

誰かにツッコミを入れられながら引っ張られていくゼファント。

 

彼の苦笑は虚しく人生初の白兵戦へと駆り出される事となったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースから一隻のコルベット艦が出現する。

 

アーガニルからある使いを頼まれたこの艦は足早に味方の犯罪組織艦隊へと向かった。

 

ブリッジでは操舵手や船長がコンソールを見つめている。

 

「時間はたっぷりとあるができる限り急ぐぞ、客将殿がお待ちだからな」

 

船長が部下達にいやらしい笑みを浮かべる。

 

ブリッジの者達もそれに釣られてニヤリと笑った。

 

皆もう少しで訪れる野望の達成を想像してその優越に浸っていた。

 

当然敵にバレぬよう最大限の警戒を行なっている。

 

「にしてもやけに静かな宇宙(うみ)だな…」

 

「この辺の宙域、衛星も惑星もありませんからね」

 

副長が一言付け加える。

 

船長がアームレストに肘をつき退屈そうな顔で外を眺めているとふと何かに気が付いた。

 

「おいあれはなんだ?」

 

副長や手の空いた乗組員が外を見るがまだ気づいていない。

 

船長は指を差し再び問う。

 

「あれだ、あれ、何か近づいてくるぞ」

 

指の先を見つめると点のような何かが大きくなる。

 

こちらに近づいて来ているのだ。

 

レーダー士官がモニターに目をやり確認する。

 

だがレーダーには何もなかった。

 

「レーダー…何も探知しておりません…」

 

「じゃあ前に見えているのは何だ?小惑星か?」

 

乗組員達が何度もレーダーを確認するがまだその正体を掴めずいにいた。

 

「レーダーに微弱な熱源を探知…」

 

「船…の残骸か?」

 

「回避しますか?」

 

「ああ…デブリなら何の問題もないが…一応な」

 

副長が頷き回避を命じる。

 

この時船長は一つの間違いを犯した。

 

ただ一言主砲のチャージと偏向シールドを展開するよう銘じておけばだいぶ変わっていただろう。

 

その間違いは肥大化し彼に降りかかる。

 

「回避行動完了しました」

 

「よし……いやダメだ…」

 

副長が不思議そうに彼に顔を向ける。

 

船長は席から身を乗り出しまなこをこれ以上にないほど大きく開け回避したはずので振りを覗き込む。

 

唖然としたまま船長はこう言い放った。

 

「あれはデブリではない…船だ」

 

「そんなまさか…」

 

副長が否定するよりも先に艦に大きな振動が響いた。

 

ブリッジも揺れが起こり船長も席から落ちそうになるのを堪えた。

 

乗組員達も歯を噛み締めながら必死に衝撃を堪える。

 

「状況報告及びシールド展開!」

 

乗組員の一人がコンソールを確認し報告する。

 

「右舷に被弾、原因は調査中!」

 

「いや先程のデブリだ!!あれが撃って来たのだ…!!」

 

「しかし熱源反応は…」

 

また振動が響き会話が遮られる。

 

展開しかけの偏向シールドでは簡単に破られてしまう。

 

「熱源確認!2つの熱源が急速に本艦へ向かってきます!」

 

「何!?」

 

副長は相当驚いていたが船長は苦渋の表情を作るだけでそれほど動揺していなかった。

 

「エアブロックの守りを固めろ…」

 

乗組員が船長の顔を見る。

 

乗組員は理解が及ばない表情で未だ命令を実行していなかった。

 

苛立った船長は怒声を浴びせ早くするよう叫んだ。

 

「急げ!!連中が来る……」

 

船長の急速な怒号が全員の行動を一段と素早くさせた。

 

副長は船長の顔を見つめた。

 

まるで何かに怯えている様だ。

 

「この戦法は間違いない…奴らが乗り込みに来る…」

 

「敵艦こちらにさらに突っ込んできます!」

 

「バカな!」

 

副長のあり得ないという表情よりも先に長細いブリッジを持つ敵艦がこちらに思いっきり体当たりを敢行する。

 

今までにないほどの振動が艦を襲い乗組員達を振り倒す。

 

「被害状況は…」

 

「遅かったか…!」

 

船長がアームレストを叩き悔しそうな表情を浮かべた。

 

その直後乗組員の一人が悲鳴の様な声で報告する。

 

「敵艦、エアブロックを突破!!」

 

「まさか我が艦を乗っ取りに…でも一体どこの部隊が…!?」

 

「来るぞ…“()()()()()()()()()()()()()”達が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

エアブロックが爆発し破片と煙が飛び散る。

 

この区画の防衛を命じられた兵達が爆発から目を瞑り自然に眼球を守る。

 

だがこの瞬間の資格の喪失が彼らの命の喪失に繋がった。

 

白い煙幕の中から謎の人影が現れ仲間の一人を斬殺する。

 

隣の兵士はブラスター・ピストルを構えるが彼も背後から現れた謎の人物によりナイフで喉を切られ絶命した。

 

他の兵士が煙幕に向かってブラスター・ライフルやブラスター・ピストルの引き金を引くがまるで効力がなさそうに思えた。

 

煙幕の中が何故か光った。

 

彼らがその光に気づく頃には皆脳天や急所にナイフが刺さり絶命していた。

 

「たく、もっと歯応えのある奴じゃねぇのか?」

 

煙幕から数名とても頑丈そうなアーマーを身に付けた男達が現れる。

 

片手には戦斧や剣を持ち盾やブラスター・ピストル、ナイフなどバリエーション豊かな装備を持っている。

 

ヘルメットは丁度T字を描くようにモニターが付いておりいつでも的確な状況判断が可能だ。

 

「第二分隊はこのまま各所を制圧、第三分隊はエンジンと他のエアブロックを潰せ」

 

「了解」

 

隊長の命令により屈強な戦士達が散らばる。

 

彼らこそがジュディシアル・コマンドー

 

オルホールやアヴェック大尉など銀河系でも相当優秀な兵士達がその任を担っている。

 

どの部隊よりも接近戦や白兵戦などの実戦に特化した部隊でありその戦闘力、戦力はジュディシアル・フォース最強と言われれるほどだ。

 

またその名に恥じず彼らが参戦する戦いの殆どは勝利で幕を閉じている。

 

今回その部隊がこのコルベットに牙を剥いたのだ。

 

「ドロイド、ハックを頼む」

 

アヴェック大尉の命令により軍用アストロメク・ドロイドが艦のコンソールにアクセスし始めた。

 

「こいつの護衛を頼む、得られた情報は全て艦隊へ転送しろ」

 

後から乗り込んだ通常のジュディシアル兵にアストロメクの面倒を見る様頼んだ。

 

部隊の隊長は快く頷き-ご武運を-とねぎらいの言葉を掛けてくれた。

 

「ああ、行くぞゼファント大尉!!」

 

「えっあっはい!」

 

数年ぶりに戦闘用のアーマーを着たゼファントの腕を掴む。

 

「前線で指示してくれる奴が必要だ!さあついてこい!」

 

「わかりましたよ…こんなことになるならもっと格闘訓練を受けておくべきだった…」

 

ゼファントが何かを愚痴っているがそんなことお構いなしにアヴェック大尉とその部下達は進んで行く。

 

ドアが開いた瞬間敵兵がブラスターを連射したが頑丈なアーマーを砕く事は出来ずアヴェック大尉のバイブロ=アックスの一振りにより全員が首を落とす。

 

その見事な腕に思わずゼファントも簡単の声をあげるほどだ。

 

物陰に隠れていた敵兵が悲鳴を上げ一目散に逃げようとするがゼファントが放った弾丸により2人とも斃れた。

 

「意外とやるな」

 

「これでも射撃訓練はトップだったんですかね」

 

笑みを返すとアヴェック大尉はバイブロ=アックスを掲げ隊員達に命令を出す。

 

「いいか、目標は敵のブリッジだ!!全員で突っ走れ!!」

 

コマンドー達が己の武器を掲げ声をあげる。

 

「行くぞ!!」

 

アヴェック大尉が先頭に立ち今にも閉まりかけそうなドアをこじ開ける。

 

その間に隊員達がドアを潜り抜け敵兵達を次々と斬殺する。

 

敵兵達も何とか応戦しようとするが彼らの頑丈さと素早さに敵わず次々と流血の絵画を壁に描き命を散らした。

 

扉を破ったアヴェック大尉が敵兵の脳天に戦斧を叩きつける。

 

二度と動くことのない敵兵ごと戦斧を振るいながらまた一人の敵兵を斬り刻む。

 

一人の隊員がバイブロソードで敵兵の顔面を刺しつつホルスターからブラスター・ピストルを抜く。

 

混乱する敵兵が気付く頃にはその兵の脳天は見事な穴が空いていた。

 

またある隊員がホルスターからナイフを取り出し応援に駆けつけた敵兵に投げつける。

 

見事に命中し敵兵は皆鎖の様にバタバタ倒れた。

 

そのジュディシアル・コマンドーは腕のアタッチメントからソードを取り出し敵の横っ腹に突き刺す。

 

そのまま息絶え絶えになった兵士が動かそうとするバトル・ドロイドに投げつけた。

 

「隊長と大尉は行ってください!」

 

隊員の一人が斬りかかりながら2人の道を開く。

 

「だが!」

 

「アストロメクの報告だとこのまま上がればすぐそこがブリッジです、早く!」

 

隊員達の想いを汲み取ったアヴェック大尉とゼファントは静かに頷き走り去る。

 

彼らは走っていた為気づいていなかったがその隊員が一言ー頼みましたよ隊長ーと彼らを送り出してくれていた。

 

2人は必死に走った。

 

道中敵兵の攻撃があったが2人にとってはそれは足止めにすらならなかった。

 

近ずく者は戦斧で血飛沫を飛ばしブラスターの弾丸を喰らう。

 

「ドロイドの報告によればあそこがブリッジの最後の扉です!」

 

「よし!俺が前に出る!後ろで援護を頼むぞ!」

 

静かに頷きゼファントはブラスター・ライフルを構える。

 

アヴェック大尉がブラスターの代わりに入れておいた爆弾を取り出し扉に投げつける。

 

時限式では無く衝撃を感知し爆発するタイプである為壁に触れた瞬間その爆弾は大爆発を起こした。

 

煙の中を2人は突っ切る。

 

破片が何のその、アヴェック大尉はブリッジに突っ込みブラスター・ピストルを構えようとする敵の腕を叩き落とした。

 

彼はそのまま一番真ん中の席に座っていた船長と思われる男を人質に取る。

 

「おい海賊のクソ野郎ども!こいつがぶち殺されたくなけりゃ降伏しな!」

 

バイブロ=アックスの刃先を船長であろう男の首元に向ける。

 

ゼファントもブラスター・ライフルを向け彼らを牽制した。

 

眼前に死が迫っているにも関わらず男はため息を吐き動じない。

 

「データ消去が間に合わなかったか…だが崇高なる我らの目的は間も無く始まる!!」

 

「船長!!」

 

船長はどこからとも無く取り出したブラスター・ピストルを自分の頭部に向けた。

 

アヴェック大尉が感づきそのブラスターを振り払おうとした時にはもう遅かった。

 

「客将殿に栄光を!!」

 

引き金が引かれ勇敢な船長の一生は幕を閉じた。

 

力を失いアヴェック大尉の腕の中に倒れ込む。

 

「しまった!!」

 

「船長の後に続け!」

 

副長である男の発言により全員がブラスター・ピストルを取り出し頭を撃ち抜いた。

 

あまりに一瞬の事だった為二人ではどうしようもなかった。

 

その宗教狂信者達の様な行動にアヴェック大尉ですら絶句し言葉が出なかった。

 

コルベット艦はジュディシアル・コマンドー達の活躍により友軍の死傷者を誰一人出さず幕を閉じた。

 

データもほとんどが健在であり航海記録や映像が山の様に残されていた。

 

ゼファントは技術班が来る一足先に探れるだけのデータを探っていた。

 

「船長の航海記録と日記か…」

 

アームレストについているタブレットを操作しつつ船長の日記をタップした。

 

ここ数日、数ヶ月間の日記を読む。

 

ほとんどたわいもない話だったがある1日にゼファントの推理を確定させることが書いてあった。

 

「これは。まさか!!」

 

その日の日記をより詳しく読み取る。

 

アヴェック大尉や他の兵士が声を掛けるが今のゼファントには届かない。

 

まるで何かに取り憑かれたかのように日記を読む。

 

「まずい…大尉、今すぐ艦隊に緊急連絡を!!」

 

「急にどうしたんだよ…できない事はないが…」

 

「なら早く!!」

 

あまりの形相にアヴェック大尉が軽く後退りした。

 

「わかったわかった…」

 

ホログラム回線を開きながらアヴェック大尉は何かをぶつぶつ呟いていた。

 

しかし今のゼファントには焦りしかなかった。

 

今彼はいや“共和国の首都(コルサント)”は最大の窮地に立たされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか気付くとはな…」

 

「ええ、ですが我らの罠に嵌った事は間違いありません」

 

旗艦のブリッジでアーガニルとワルフォイがモニターの映像を眺める。

 

ゼファントが鹵獲したコルベット艦は実はこの艦からいつでも監視映像を写せる様になっているのだ。

 

2人は今のゼファントの焦り様から彼が“()()()()()()”に気づいたを察知した。

 

最もあのコルベット艦自体がゼファントやセルネアン准将の艦隊を遠ざける為の罠なのだが。

 

その事にはまだ気づいていないようだ。

 

「もう止められんさ」

 

アーガニルがほくそ笑む。

 

「コルサントを急襲し元老院とそこに蔓延る権力者達を人質に取る…そして奴らにこう宣言させるのさ」

 

彼は人知れず計画を話し出す。

 

その壮大さにワルフォイや他の乗組員達は静かに頷きその重みを感じていた。

 

「革命家達の釈放とコロニーズ全域の開放を!我らの夢の続きを!兄弟達の悲願を果たす時だ!」

 

それは革命家達が創り上げた亡霊が求めた世界の確立だった。

 

彼はアーカニアだけで無くコロニーズ全体に自由を望んだのだ。

 

やがては生き残りの兄弟や同志達を集めより強力な共同国家を建設するのが彼の望みだった。

 

もう誰にも干渉させず誰の指図も受けない。

 

同志達に自由を齎せという彼の哀しきプロトコルが今もなお発令したままなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が造られた(うまれた)のはアーカニアン革命が勃発する少し前だった。

 

指揮官タイプとしてエイリアンや機械の体を集めて造られたアーガニルは誕生してから数日間戦術という戦術を全て叩き込まれた。

 

それと同時に革命家達の理想なんてものもラーニングされた。

 

この数日間が彼の今後を確定させた。

 

アーカニアを解放する自由の戦士。

 

それをまとめ上げ勝利に導くのがアーガニルだった。

 

だが彼は知らなかった。

 

革命家達は己の考えを貫き通す為に禁忌に手を出している事を。

 

正義なんてどこにもないことを。

 

数日が過ぎた後彼は他のサイボーグの仲間達と触れ合う機会が与えられた。

 

兄弟ともいうべきサイボーグ達との出会いはアーガニルに革命の成功をより一層強く願わせた。

 

互いに同じ想いを持ち笑い合う仲間達。

 

彼はこんな日々が革命成功後も続けばいいと思った。

 

兄弟達は皆それぞれ卓越した戦闘能力と素早い頭の回転で最強の軍隊の一員となった。

 

だが彼らにも統率者が必要だ。

 

彼らよりもより優れた判断力とカリスマ、そして用兵の実力が。

 

それら全てを備えたのがアーガニルだ。

 

アーガニルの造られた天才的な戦術能力は瞬く間にサイボーグ達の信頼を勝ち取った。

 

信頼の分だけ艦隊の結束力は高まる。

 

また地上部隊のサイボーグの兄弟達もも彼を信じ革命軍全体が彼を頼る様になった。

 

そしてついに革命の時が来た。

 

革命軍はアーカニアでも宇宙でも破竹の勢いで敵を打ち破りあっという間にアーカニアや周辺地域を支配した。

 

特にアーガニルの艦隊の戦果は凄まじく自治領主達の防衛艦隊を殲滅し未だに一隻の損害もないのだ。

 

自治領主の呼びかけに応じて周辺艦隊も駆け付けるが悉く敗れアーガニルの戦績に勝利の文字を増やすだけだった。

 

アーガニルもそれに付き従う兄弟達も皆革命の成功を確信していた。

 

だが共和国とジェダイの到来により事態は変わりつつあった。

 

もう一つの悲劇と共に。

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊の損耗率は今のところ大したものじゃないが…」

 

「ああ…だが仲間を失った…次は必ず奴らを葬るぞ」

 

副官格のサイボーグである“プリル”が頷いた。

 

共和国艦隊の巧な物量による波状攻撃とコルベット艦による機動戦によりアーガニルの艦隊は初めて宙域から撤退した。

 

その艦に彼らは数隻の友軍艦を失いまさかの撤退に意気消沈していた。

 

だがこの間にもアーガニルは次の戦術を練っていた。

 

一度の敗北は一度の大勝利で補い積み重ねればいい。

 

今回は負けたが次は大勝利だ。

 

完膚なきまでに叩きのめしてあの黒髪の髭面の将校の首を晒し上げてやる。

 

奴はこう言った。

 

「必ず貴様の船を地べたに叩き沈めてやる」と。

 

ならば言い返してやろう。

 

地に沈むのはお前の方だ、お前をいつか見下ろしてやる。

 

尤もまずは敵の艦隊司令官の方を先に潰さなければならないが。

 

機動部隊指揮官のような雑魚を相手にしても革命にはなんら意味はない。

 

「敵の総指揮官は?」

 

「あの艦隊はハンバリンのゼント・ヴァント中将の艦隊だな。艦隊指揮官としても相当優秀だ」

 

「データを集めてくれるか?」

 

「ああ」

 

彼はタブレットを手渡した。

 

この間にも自分の欲しい物を察知してくれていたようだ。

 

アーガニルはタブレットを弄りつつ新たな戦術を考えた。

 

(奴はベテランだ…だがベテランだからこそある程度の法則、規則性も見えてくる…)

 

するとふとある疑念が浮かんだ。

 

(待て…今敵は我々の艦隊を曲がりなりにも追い詰めている…ならこの好機を逃すのか?)

 

あまりに深入りし過ぎた考えだが的は遠からず得ているだろう。

 

消耗していてもここである程度の打撃を与えれば今後の艦隊戦を優位に進められる。

 

それに敵艦隊は革命軍の艦隊に比べて性能は格段にいい。

 

ならば奇襲攻撃なども成功しやすいのではないか。

 

その疑念が頭の中を覆い尽くした。

 

するとある報告が入る。

 

「地上の基地より緊急連絡!現在我々は敵部隊の奇襲攻撃を受けているとの事!」

 

「数は?」

 

「わかりません、ただ少なくとも大隊規模の模様!」

 

「前衛の艦を地上の援軍に回せ、我々は敵艦隊の奇襲に備えて待機だ!」

 

ブリッジが一様に慌ただしくなる。

 

疑念通り敵は来た。

 

それも既に地上に敵がいたとは。

 

足元が切り崩されれば艦隊も危うくなる。

 

それは何としても避けたい事だった。

 

だがこの時アーガニルはある程度勝利に確信があった。

 

周辺には友軍艦隊がいるし大隊規模なら送った増援を合わせて基地は防衛出来る。

 

勝利と敗北の確率は五分五分…いや6:4くらいだろう。

 

まだ十分巻き返せる。

 

「友軍艦隊に連絡し増援を請え、その間に我々は防衛陣を敷き直すぞ」

 

「ああ、艦隊再編!」

 

ゆっくりと艦隊が集まる。

 

代わりに命令を出すプリルを傍にアーガニルは再び戦術を練り始めた。

 

だがそのわずかな時間も彼には与えられなかった。

 

艦に振動が響き後方の友軍艦が爆発を起こしていた。

 

「状況報告!」

 

「敵艦がデブリの裏から急速に接近中!友軍艦数隻被弾!」

 

「シールドを展開しつつ反撃!敵前回頭は避けろ、縁を描く様にゆっくりと敵に回り込むんだ!」

 

艦の推力では一回転しているうちに集中砲火を受けて撃沈しかねない。

 

艦隊を円状に二分して回り込めば打撃を受けず包囲することが可能だ。

 

この時の彼は最善の回答を最悪の状況下で編み出していた。

 

「密集隊形を解け!敵の砲撃命中率をできる限り下げるんだ!!」

 

艦隊が徐々に疎らになっていく。

 

「まずは敵艦を潰せ!目標は三隻だ、冷静に押しつぶせば行ける!」

 

「一隻真っ直ぐこちらを目指して突っ込んできます!!」

 

「何!?」

 

敵艦の砲撃を受け艦が揺れ動く。

 

正規軍の使う重レーザー砲だけあって火力は中々のものだ。

 

当然ただやられるほど甘くはない。

 

「反撃しろ!全砲塔一斉射!!」

 

旗艦の砲塔が敵の大型艦に狙いを定める。

 

放たれた砲撃は最初のうちはシールドに阻まれたが徐々にそのシールドも打ち破られ打撃を与えられる様になった。

 

だがそれはこちらも同じだ。

 

敵に与える打撃の分こちらも被害を被っている。

 

まさに艦と艦との一騎打ちだった。

 

「敵のシステムに集中的に狙いをつけるんだ!」

 

命令通り放たれたミサイルが敵艦のエンジンを一つ潰す。

 

既に右舷の一部にも深刻なダメージを与えておりあと一押しで敵艦は戦闘不能だ。

 

「勝利は近い!撃ち続けろ!」

 

あと一押し、あと少しで我々の願いが想いが叶う。

 

真に自由が手に入るのだ。

 

だが不運なのかそれとも敵将の意志の強さなのかは分からないが苛烈さと命中度を増した敵艦の一撃が旗艦に重大な一撃を与えた。

 

「エンジンブロック2番、3番大破!」

 

彼は苦渋の表情を作るが悲劇はまだそれだけでは終わらない。

 

轟音と大爆発が艦を襲い今までにないほどの揺れを引き起こす。

 

「反応炉にダメージ!この艦は…この艦は間も無く重力に引かれ地上に墜落します!」

 

乗組員の一言がアーガニルの心にヒビを入れた。

 

間も無くこの船は沈むのだ。

 

そうすれば著しく艦隊の指揮率が下がるだろう。

 

それでは大打撃を被ってしまう。

 

軋む音と爆発の余波が艦を襲う。

 

さらに不運を呼ぶ報告が彼の聴覚システムに届く。

 

「ハイパースペースより敵艦隊!恐らくゼント中将の敵艦隊です!」

 

「馬鹿な…」

 

崩れ落ちるブリッジの中でアーガニルはハイパースペースから数隻の敵艦が現れるのを目撃した。

 

出現した敵艦隊はありったけの火力をぶつけてきた。

 

戦列に穴が開けられたこの状態では巻き返しは厳しいだろう。

 

敗北は決まってしまった。

 

「指揮官!!」

 

「総員退艦を…」

 

この時アーガニルらしくもないサイボーグらしくもない諦めの言葉が彼の脳裏に過った。

 

退艦してどうする。

 

艦隊の敗北と壊滅はもう決定したも同然だ。

 

ならば夢を見たまま死ねば幸せなのではないか。

 

もう我らには…

 

「いくぞ!!」

 

プリルは崩れ落ちる旗艦の中で彼の手を掴みブリッジを飛び出した。

 

既にあちこちから火の手が上がりスパークや小爆発が乗組員の命を奪う。

 

その光景を見ながらアーガニルは更に悲観的になるがプリルは諦めず彼の手を引っ張る。

 

「早く走って!!」

 

徐々にアーガニルも走り出し2人は艦の脱出ポッド区画に到着した。

 

他の乗組員たちはまだここに訪れていない。

 

「アーガニル、君は絶対に必要なんだ、革命を成功させるためにも」

 

「それはお前も同じだ、俺たち兄弟は誰一人も欠けることなど…」

 

プリルは静かに首を振った。

 

「君が生きていてくれないと誰が他の兄弟を指揮するんだよ、だからさ…頼んだよ」

 

「おい待てプリルそんなこと!!」

 

プリルは全身の力を込めてアーガニルをポッドの中に突き飛ばしスイッチを押した。

 

スイッチを押した瞬間素早く扉が閉まり脱出ポッドは放たれた。

 

だが彼には見えていた。

 

扉が閉まる瞬間プリルが迫り来る爆発の炎に巻き込まれた事を。

 

彼が最後の最後まで自分を信じて笑みを浮かべていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後脱出ポッドのハイパードライブはどこか適当な惑星へとジャンプした。

 

恐らく故障が原因だろうが結果的にアーガニルが革命軍に舞い戻る事はなかった。

 

彼は遠く離れた地で革命の失敗と革命家達の処刑もしくは逮捕を耳にした。

 

その瞬間アーガニルは深く絶望し生きる希望を失った。

 

サイボーグと言っても彼は半分有機生命体だ。

 

当然生きているしある程度の感情もある。

 

特殊タイプとして造られたアーガニルだから当然他のサイボーグよりもそれらはより濃く出ている。

 

彼はさまざまな惑星を流離った後アウター・リムのある惑星で一人己の生命を終わりにしようとしていた。

 

生きる理由も存在する理由も何もない。

 

いまだに自分の中にあるプロトコルはしつこく“()()”の文字を並べているがもうどうでもいい。

 

兄弟もいない。

 

何もかも終わったのだ。

 

銀河系から見捨てられ、何もかも。

 

彼が命を絶とうとした瞬間声が響いた。

 

「おやおや、名将アーガニル殿がこんな所で命を終わらせてしまうとは」

 

その嫌味に満ちた声は彼の手を止めた。

 

アーガニルの目つきは鋭くなり姿の見えぬ相手に対して叫ぶ。

 

「誰だ!!」

 

「おやおや失礼、名乗りを忘れていた…ブラック・サンという名に覚えはありますかね?」

 

彼はハッとした。

 

その悪名高い名に。

 

「我らと共に再びめざすつつもりはありませぬか?貴方の目的を」

 

「だがもう私に力は…」

 

「力は我らが支えましょう、代わりに我らは貴方の知略を借りたいのです」

 

それは最後のチャンスだった。

 

彼のプロトコルがうるさく叫ぶ。

 

革命を成し遂げよ”と。

 

気がつけば彼は再び艦隊を率い革命の真似事をしていた。

 

だがそれでもよかった。

 

もうアーガニルに遺されたものは復讐と革命の達成だけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄弟達よ…見ているか?ついに始まるぞ」

 

アーガニルは亡きサイボーグ達が彼を見つめている様だった。

 

革命の再興を願って。

 

所詮は建前、されど理由としては上々。

 

コルアントにはまだ仲間がいる。

 

救い出してやらねば。

 

共に協力し夢の続きを始めよう。

 

他なる場所からも同志は集まる。

 

だがその火蓋を切るのは我々だ。

 

いや私だ。

 

私の艦隊だ。

 

亡霊に指揮された黒き太陽(ブラック・サン)の艦隊だ。

 

「私は始めるぞ…再び始めるのだ」

 

アーガニルはニヤリと笑う。

 

ようやくなのだ、笑わずにいられるか。

 

「遂にだ…もう何年も待った…さあ行こう、あの眩しき星へ…忌まわしい連中の巣窟へ…!」

 

アーガニルは席を立ち腕を振るう。

 

それはいよいよの命令の合図だ。

 

共和国の小さな大きな危機の始まりだ。

 

「全艦ハイパースペースへ!!目標は共和国首都惑星コルサント!!これより第二次アーカニアン革命を開始する!!」

 

艦隊のエンジンが光り輝き全艦が宙域から消える。

 

それは亡霊達の最後のダンスの始まりだ。

 

夢の続きであり現代の英雄最初の戦いだった。

 

 

つづく

 




いや午前中ぶりですね()
俺はどんどんこっちにお見舞いしていくぞぉ!


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第二次アーカニアン革命/前編

 

 

「なんだって!?連中は真っ直ぐコルサントに向かう!?」

 

アヴェック大尉はハイパースペースを航行するスフィルナ級の中で大声を上げた。

 

ゼファントは静かに頷きコピーを取ったコルベット艦の船長の日記を映し出した。

 

「『われわれは遂に旅立つ、共和国に殴り込みコロニーズを我が物とするのだ』…連中本気です…」

 

「どうせ奴らの事だ、妙なハイパースペースのルートを通るに違いない…やられた!ミッド・リムにいる敵はもう全部囮か!」

 

アヴェック大尉は毒付く。

 

鹵獲した敵艦もミッド・リム内で暴れ回る犯罪組織も全てアーガニルが目的を果たす為の捨て駒なのだ。

 

それを聞くと若干敵側に同情しなくもないが今はそんな感傷めいた事を考えている場合ではない。

 

現在犯罪組織討伐の為ミッド・リムのジュディシアル・フォースは勿論の事主要な惑星の主力艦隊までこの地に派遣されている。

 

当然コルサントの危機だからとミッド・リムでの戦闘を中止して我先にとコルサントに向かいこの地を離れる訳にはいかない。

 

それでもコルサントには本国防衛艦隊は存在しているが相手がアーガニルなら自ずと退ける可能性がある。

 

しかも連中はコルサント全土を攻撃する必要はないのだ。

 

ただ元老院一点に集中攻撃すれば彼らは価値を得る事が出来る。

 

敵ながら良く出来た作戦だ。

 

極限まで敵戦力を減らしある一点だけに集中攻撃を加える。

 

共和国全体から見たらアーガニルの艦隊は少数だが薄くなった重要な一点に攻撃を加えられれば耐え切れないだろう。

 

そして当世最高の頭脳と言っても過言ではない指揮官がそれを率いるのだ。

 

共和国は今見えない所で最大の危機に直面している。

 

このままではまずい、もうまずいとしか言いようがない。

 

「ジュディシアル全艦隊には連絡を入れておきましたが…」

 

スフィルナ級艦長のパイス中尉が二人に報告する。

 

「間に合わないでしょうね…先に話しておいた准将の艦隊を除いて」

 

二人はゼファントの顔を見る。

 

アヴェック大尉は一瞬だけ若き大尉に戦慄した。

 

相手の行動を予測していたというのか。

 

しかもほぼ正確に。

 

大尉には彼が未来でも見えているのではないかと言う疑問に襲われた。

 

「急いで我々も向かいましょう。セルネアン准将が防戦してくれているのならきっと敵艦隊は今ポイントで足を止めているはずです」

 

ゼファントは軽くポイントを刺した。

 

「この危機を乗り切るには全員の力が必要だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースから数十隻以上の艦が出現する。

 

全てアーガニルがこの時の為に拵えたものだ。

 

見込みのありそうな海賊や犯罪組織のメンバーを引き抜きさらにブラック・サンから増援も頼んである。

 

彼も旗艦を大型クルーザーから専用の重クルーザーに乗り換えている。

 

「さて、もうコア・ワールドは目前だ…最後の休憩を取ろうじゃないか」

 

間も無く補給を頼んでおいた海賊団が来るはずだ。

 

最もこの場合補給と言えば言葉的には間違っているだろう。

 

なにせこれから“()()()()”を彼らに通達するのだから。

 

ジュディシアル艦隊の司令部への攻撃。

 

連中が勝とうが負けてしまおうがどうでもいい。

 

ただジュディシアル艦隊を足止めてくれればそれでいいのだ。

 

大いなる野望の為には多少の犠牲は必要だ。

 

自分の命を捧げたサイボーグの兄弟達のためにも。

 

それにあの様なゴミ溜めの者いくら死のうが大した影響はない。

 

むしろ輝かしい革命の為の犠牲となれるのだ、随分と過ぎる名誉な事だろう。

 

ゴミどもにはある意味不相応だ。

 

そんな意地の悪い事を考えていると乗組員がアーガニルに報告した。

 

「提督、ファース海賊団の船を確認しました」

 

「通信を繋げ…いや」

 

アーガニルはサイボーグである為視力も当然通常の生命体の倍は良い。

 

その為見えるのだ。

 

遠方に見える船の爆発が。

 

「贈り物ならもっとしっかり届けて欲しいなぁ…セルネアン!」

 

敵将の名前を述べた瞬間11時の方向から青いレーザーが飛んできた。

 

「後方に敵艦多数!識別コードは例のセルネアン艦隊です!」

 

レーダー士官がそう述べる。

 

「敵艦から通信が届いています、旗艦です」

 

「繋いでくれ」

 

通信士官がパネルをタッチしモニターに敵将の顔を映す。

 

アーガニルは気味の悪い笑みを漏らす。

 

『こちらジュディシアル・フォースセルネアン准将である』

 

あの武将顔の男が彼らに呼び掛ける。

 

『直ちに降伏されたし、さすれば正当な裁判がお前達を適切に対処する』

 

アーガニルは愛れてさらに笑みを深くする。

 

全く軍人とは面白いものだ。

 

そんなこと言っても意味などないと知っているだろうに。

 

それともこれも時間稼ぎの足止めなのだろうか。

 

だとしたら早くしなければ。

 

時間は待ってはくれない。

 

「正規軍特有のくだらない定期文ありがとう、だが意外に早かったな」

 

彼は率直な感想を述べる。

 

『悪いが優秀な参謀が事前にお前の企みを看破していた、これ以上血は流させはせん!』

 

アーガニルは珍しく驚いていた。

 

まさかあの時気づいたのではなく既に予想していたとは。

 

それにセルネアン艦隊の展開力の素早さ。

 

少なからずルートを絞っていたと言う事だ。

 

なんと優秀な奴か。

 

きっとあの薄紫の小僧だろう。

 

予想以上の優秀さだ。

 

「まあいいさ、ここでお前を蹴散らしてあの日阻まれた革命を続行する」

 

『仇討ちとは言わん…ただ、もうこれ以上誰も死なせない為に!』

 

「『お前を倒す』」

 

その時二人の指揮官の声が重なった。

 

と同時に両者の宣戦布告の合図でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやらセルネアン艦隊がアーガニルとか言うあいつと戦闘が始まったらしいぞ」

 

特殊回線で連絡を取っていたアヴェック大尉が2人に伝える。

 

ゼファントは少々不安そうな表情を取っていた。

 

「准将は勝てるのか…?」

 

「五分五分…いや実際勝率は4割でしょうね…戦力的にも今の准将でも」

 

その判断はあまりに的を得ていた。

 

報告によればアーガニル艦隊は以前より艦艇数が増え旗艦も大型の重クルーザーに変化したそうだ。

 

セルネアン艦隊もアクラメイター級が一隻追加され准将の船も多少改修されたがそれでも怪しい。

 

「尤も両者の勝利条件は簡単です。アーガニルはセルネアン准将の艦隊を振り切ればいい、セルネアン准将は友軍艦隊到着まで耐え抜けばいい。それにセルネアン准将の艦隊は最悪、敵艦隊になるべく損害を与えれば良いのです。あとはコルサントの防衛艦隊に任せる事も出来ますし」

 

「だがアーガニルはともかく准将の艦隊が長い間耐え抜けるのか…?」

 

アヴェック大尉が不安を口にする。

 

「わかりません…とにかく我々も向かわないと」

 

「ああ…」

 

決意を新たにした瞬間技術班の班長がブリッジに入ってきた。

 

素早く敬礼しゼファントの元へ駆け寄る。

 

「大尉、例のトラップがハイパースペースに突入しました。今の所順調そのものです」

 

班長はゼファントに耳打ちする。

 

「そうか…最悪あれが切り札になるかもしれん…頼んだぞ」

 

「了解」

 

班長は静かに頷きブリッジを後にした。

 

アヴェック大尉は会話の断片は聞こえたが全体は理解できなかった。

 

ゼファントはブリッジの外を見つめる。

 

永遠と続く青い空間を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦隊同士の激しい砲撃戦は一見すると暗闇の宇宙に光が瞬き美しくも見える。

 

しかしそれは遠くから客観的に見た場合の話でありより近くで主観的に見れば美しいと言い表す余裕すらない。

 

現を抜かしていれば味方がやられ敗北という奈落の底へ叩き落とされる事となる。

 

逆に相手を打ち負かせば勝利という名の美酒に酔いしれ栄光に縋る事が出来る。

 

もっともセルネアン准将もアーガニルもそんな物には1ミリの興味もないが。

 

彼らにとって必要なのは名誉や勝利ではない。

 

ただ目的を達成する事だけなのだ。

 

「“クローティスⅡ”、“アムリスⅣ”が被弾!!」

 

「ヴィルフィーズから緊急通信です!」

 

『准将!やはりもう我々の戦力では持たない!ここは一時撤退を!』

 

「何を言うか!!我々が退けば奴らはコルサントへ直行するぞ!!」

 

セルネアン准将がアクラメイター級の“ヴィルフィーズ”の艦長に叱りつける。

 

「もう少し耐えるのだ!時期に友軍艦隊が到着する!!コルベット艦で機動戦を仕掛けろ!!」

 

既に殆どの艦が損傷を受けているがセルネアン准将はそれを分かった上で命令を飛ばす。

 

敵艦隊を引き付け一隻でも多く仕留める。

 

コルサントが堕ちてしまえばもう未来はないのだ。

 

なんとしてもそれは避けなければならない。

 

「アクラメイター級はできる限り大型艦を潰して指揮系統を鈍らせるんだ!」

 

准将の命令の下アクラメイター級の主砲が火を吹く。

 

流石正規軍の主砲だけあって威力は抜群だ。

 

正確な砲撃が敵の大型クルーザーやフリゲート艦にダメージを与える。

 

コルベット艦が守りに入ろうとするがそのコルベット艦も砲撃の的となった。

 

「このまま相手の足を止めろ!今のうちに小型艦は敵艦に取り付け!!」

 

艦に振動が走るがセルネアン准将はブリッジに仁王立ちのまま命令を出す。

 

CR90コルベットやカンセラー級が大型艦に取りつく。

 

「砲撃は全てこちらで引き付けろ!できる限り敵艦に近距離砲撃を浴びせかけるんだ!」

 

重レーザー砲の弾幕の厚みは時とともに増加した。

 

しかし敵も黙ってやられる訳が無い。

 

アーガニルはある一手を繰り出そうとしていた。

 

「…敵艦隊に変化あり!旗艦クラスと思われる艦に高熱源反応!!」

 

レーダー士官は微弱ながら示される反応を報告した。

 

セルネアン准将は士官の方を見つつ敵の一手を読み取ろうとした。

 

考えられる策は一つであり、その一手はセルネアン准将の力ではどうしようもなかった。

 

「全艦回避行動!!」

 

コルベットやクルーザーが旋回したがすでに遅かった。

 

アーガニルが乗艦とするバトル・シップから放たれた高エネルギーレーザーは放たれたと同時に広範囲に広がり周囲の艦に被害を及ぼした。

 

衝撃は少なからず旗艦パイオニアーにも広がった。

 

「…っ“ファスラッシュⅧ”、“ゲルガーⅠ”に被弾!“ヴィクシーⅦ”、“アスクルⅡ”中破!!」

 

一瞬のうちに艦隊の1/3が被弾し損害を被ってしまった。

 

なんと恐ろしい船なのだろうか。

 

しかし挫けている暇はない。

 

ここで踏ん張らなくては銀河全体に影響をもたらしてしまう。

 

「戦術を変更する!我が艦で敵の拡散砲を封じ込める!敵艦と一騎討ちをするのだ!!」

 

セルネアン准将の命令は少なからず乗組員達に覚悟を迫った。

 

しかしほとんどの乗組員はアーカニアン革命からの仲間達だ。

 

もう覚悟などとうの昔に出来ている。

 

皆笑みを浮かべ命令を待った。

 

「すまない…本艦はこれより前方の旗艦クラス撃破を敢行する!!艦隊の指揮権は“アレイスター”に!」

 

乗組員達が再び持ち場に着く。

 

「進め!」

 

パイオニアーのエンジンがより強く光りどの艦よりも早く進み始める。

 

当然敵艦隊は進撃を阻もうとレーザー砲を連射し始める。

 

だが鋼鉄と化したこの艦の足を止められる者はもう誰もいない。

 

放たれる重レーザー砲が敵艦を貫きパイオニアーの進路を切り開く。

 

この艦のあの時(アーカニアン革命)から性能はアップしている。

 

「全ミサイル、魚雷を装填!前方旗艦に向け一斉射の用意!!」

 

ミサイル、魚雷が装填されいつでも発射出来る体制になる。

 

目の前に敵が迫っているのにも関わらず前方のバトル・シップは一歩も動かない。

 

「撃て!!」

 

命令と共に放たれたミサイルと魚雷が宇宙を彩る。

 

数十年の時を経て運命の対決が再び始まりを見せていた。

 

両者の想いをぶつけて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ…うみが綺麗だ。

 

手で触る砂浜の感触がこの上なく気持ちいい。

 

とても幻想的な場所だ。

 

うみを見つめれば水面に二隻の船が浮かんでいた。

 

うみに映る星と共に船は水面上を浮かんでいる。

 

一つは“()()()()()()”。

 

もう一つは“()()()”。

 

一人の青年が私の前に立っていた。

 

やはり青年も彼も私に姿はよく似ている。

 

繋がりというべきなのだろうか。

 

もう行くのか。

 

「時々また来るよ」

 

わかった。

 

「私が駆けるべき場所は宇宙(うみ)じゃない、宇宙(そら)だから」

 

ああ、その通りだとも。

 

彼がうみを征く者なら君はそらを駆ける者だ。

 

超えてみせろ、二人で。

 

この私を。

 

超えた時も私はここで待っている。

 

ずっとな。

 

つづく




ちょい休憩させてもろて…()


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第二次アーカニアン革命/後編

アーガニルはブリッジで笑みを浮かべた。

 

そうだ、やはり彼でなくては。

 

彼を倒し革命を成し遂げる事で全てが果たせる。

 

全ての蹴りがつき、ようやく全てが始まる。

 

そして奴の旗艦は再びあの時のようにアーガニルの前に立ち塞がった。

 

これが二度目の対決だ。

 

たった一隻で友軍艦を蹴散らし今もなおアーガニルに向かって直進する。

 

正しく一騎当千の強者だ。

 

ようやくやつにも武人としての誇りが戻ったか。

 

ならば真っ向から打ち当たり滅ぼすのみ。

 

これこそ真の仇討ちだろう。

 

「全砲門を前方敵艦隊へ!!両翼の艦はセルネアン以外の艦を屠れ」

 

指示を出し彼は椅子から立ち上がる。

 

彼の瞳は今までとは違う色で彩られていた。

 

喜びか、はたまた戦いと革命に魅入られた狂気か。

 

彼自身ですら理解が及ばないのだから誰も知る事はないだろう。

 

「敵艦、防衛戦を突破!間も無く我が艦と接触します!!」

 

やはり防ぐ事は出来ないか。

 

分かっていたが少し驚いた。

 

それもそうだろう、奴らとは気迫が違う。

 

練度も性能も違う。

 

「次に繰り出す手は実体弾による攻撃…エネルギーを偏向シールドと対空に回しつつ主砲をチャージしろ!!」

 

長い間セルネアンの戦術を読んできた彼には分かる。

 

ならばそれにあった攻撃を返すのみだ。

 

「敵艦、ミサイル、魚雷を発射」

 

「対空防御の後全手法を一斉射!!」

 

セルネアンの艦から大量のプロトン魚雷と震盪ミサイルが放たれる。

 

捨て技にしては派手にやるじゃないか。

 

しかし無意味だ。

 

放たれた砲弾は全て対空砲のレーザーや分厚い偏向シールドに阻まれ微粒子となって消え果てた。

 

次はアーガニルのターンだ。

 

爆煙から飛び出した800m以上はある大型重クルーザーの主砲が次々と放たれる。

 

アクラメイター級の偏向シールドと頑丈な装甲により阻まれるがしれでも相当の進藤が彼らを襲うだろう。

 

だがこんなの挨拶の一撃に過ぎない。

 

さあ見せてくれセルネアン、君がこの数十年の歳月を掛けて得た物を。

 

煙幕からセルネアンの艦は現れた。

 

偏向シールドが展開されているのにも関わらず奴はまっすぐ向かってくる。

 

両者のシールドが干渉し合い何かが擦れ合う音が聞こえる。

 

この距離ならば容易にシールドは貫通されてしまう。

 

それを見越してのことだろう。

 

敵艦は主砲を一斉に発射しアーガニルの旗艦にダメージを与えた。

 

爆発が起き艦に振動が走る。

 

「撃ち返せ!!下船部砲の用意急げ!!」

 

奴らの腕前なら上部の主砲で砲撃しても軽々避けられてしまうだろう。

 

ならば上船部の主砲で撃つと見せかけて下船部の砲で確実にダメージを与えるまでだ。

 

「撃て!!」

 

案の定敵艦は上船部の主砲の射角から離れ下船部の方へと退避した。

 

そこに数十発のレーザー砲が放たれる。

 

偏向シールド同士の干渉で一時的に薄くなった所をレーザー砲は食い破り艦に直撃した。

 

続けてミサイルが放たれさらに爆発が広がる。

 

セルネアンは反撃として再び主砲を放ち艦の下船部にもダメージを与えた。

 

奴はそのままエンジンを蒸し最大加速で一時的に退避した。

 

「逃がすな奴をトラクター・ビームで捕らえろ!!」

 

ワルフォイが的確に指令を出し艦に備わっている“トラクター・ビーム発生装置”が起動する。

 

さすがセルネアンが見込んだ副官だ。

 

敵も大型艦である為この程度のトラクター・ビームでは動きを封じるとまではいかない。

 

しかしに足は止まった、隙が生まれたのだ。

 

戦場で少しの隙は大きなチャンスとなる。

 

「全主砲を敵艦へ!!撃ち続けろ!!」

 

再び主砲が火を吹く。

 

セルネアンの艦も負けじと主砲を斉射する。

 

両者の対決は当分終わりそうになかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銀河のどこかで人の命が光と共に失われている頃、また別の惑星は大きな出会いが起ころうとしていた。

 

人が死する間に人が出会うとはなんと奇妙なことであろうか。

 

この広大な銀河である場所では命が誕生し、ある場所では命が失われ、ある場所では命と命が出会い、ある場所では命と命が殺し合っている。

 

奇妙にして奇跡、奇跡にして必然である。

 

惑星ヤーバナのある都市でそれは行われていた。

 

静かな出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一見すると目立つ物静かな衣服とローブを身に纏った男がヤーバナの街を歩く。

 

霧に覆われたこの惑星の肌寒さにはこれくらい分厚いローブの方が丁度いい。

 

男はそんなことを思いながら街を急足で歩いていた。

 

彼がこの地にやって来たのはある目的があった。

 

銀河は広くその分恵まれない子供も多い。

 

親を亡くしなんらかの理由で独りきりの子供だって大勢いる。

 

少なくともこの地にはそんな孤児達の面倒を見る良識はあった。

 

逆に言えばそんな孤児達を利用したり見捨てる場所だってあるのだ。

 

そしてこの男がこの地に呼ばれたのはそんな孤児達を集めた孤児院から連絡が入ったのだ。

 

元々この孤児院自体“()()()()()”の義援金を受けて成り立っている為何かあればすぐ情報は入るのだ。

 

曲がり角を曲がり大通りへと出た。

 

この近くにその孤児院はあったはずだ。

 

男は記憶の地図を手がかりにあたりを捜索した。

 

「ここか…」

 

霧が澄み渡る中男はお目当ての孤児院を見つけた。

 

「“ジェダイ・オーダー”の“サヴァント・メンター”です!お話しされた通り参りました」

 

彼は扉をノックし中に入った。

 

扉の先には誰もいなかったが部屋の奥から声が聞こえた。

 

彼が玄関で待っていると一人の女性が出てきた。

 

この孤児院の先生だろう。

 

「遠くから態々ありがとうございます」

 

「それで要件の子供は?」

 

「こちらです」

 

2人は無意味な小話はせずに本題へと移った。

 

孤児院の廊下を数メートルほど歩き曲がり角を1つ曲がった先にその部屋はあった。

 

院の女性が扉を開けサヴァントを案内した。

 

部屋の向こうには孤児院のシスターとなった女性に抱かれる幼い赤ん坊の姿があった。

 

「この子が話にあった」

 

「ええ、一週間ほど前この子が玄関に置かれていて」

 

「いつ頃でしたか?」

 

「朝方です、いつも外にジョギングに行く者がいるんですがたまたま」

 

「あたりに人はいませんでしたか?」

 

「ええ、本当に朝方だったので誰もいなかったそうです」

 

彼女の答えに嘘偽りは感じられなかった。

 

全て本当の答えだ。

 

サヴァントは静かに赤ん坊に近づいた。

 

見かけは生後間もない赤子だがまるで泣こうとせず静かに美しい銀に輝く瞳でこちらを見つめていた。

 

赤子に触れようとするとサヴァントは不意に何かを感じ取った。

 

この子には強い何かがある。

 

だが不思議な事に感じる何かはどこか虚無に近いような何かだった。

 

力はあるのにすごく軽く感じる。

 

サヴァントはその衝撃を隠し切れずにいた。

 

「やはりジェダイはお気付きになるんですね」

 

そう言って彼女は検査キットのようなものを取り出した。

 

これは生命体の身体に共存するミディ=クロリアンを測る検査キットだ。

 

ミディ=クロリアンの数値によってフォースの知覚能力も変化するのだ。

 

この子を調べたその数値はサヴァントを少しばかり驚かせた。

 

「これは…」

 

「ええ、かなり高い方です」

 

流石に2万以上と言った数値ではないがジェダイでもそれなりに高い方だ。

 

サヴァントはこの赤子の謎の出自とフォースの強さに益々惹かれて行った。

 

「きっといつかこの子もあなた方のようなジェダイになるでしょう、ですのでお引き取りをお願い出来ませんでしょうか?」

 

「ええ、この数値なら仕方ないでしょう。ちなみにこの子の名前は?」

 

彼女は戸惑い始めた。

 

「まだ名前はなくて…ジェダイの到着を待っていたので」

 

サヴァントは思考を巡らせる。

 

そうなると彼がつけてやるしかないからだ。

 

そこで彼は一つの名前を思い付いた。

 

「…“エイク”」

 

赤ん坊を抱える尼共々彼女はキョトンとした。

 

「…“エイク・イノーベル”…それがきっとこの子の名前です」

 

この赤ん坊に初めて名前が名付けられた。

 

苗字までどうしてこんなにスラスラ出てきたのか分からないがひとまずはいいだろう。

 

赤ん坊の名前はエイク・イノーベル。

 

我々がよく知る事となる人物がここに誕生したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偏向シールドが48%まで減少!このままでは…」

 

ルファン少尉が苦渋の声を上げる。

 

だがいくら被害が増そうと今のセルネアン准将の覚悟は揺るがなかった。

 

「全火力を敵ブリッジ、エンジンに集中しろ!!行動不能にする!!」

 

命令を出す瞬間でさえ艦をお揃う振動は止まらなかった。

 

次々と放たれるミサイルやレーザーの雨が敵艦に着弾する。

 

轟音と爆発が響くがそれでも敵の偏向シールドにほとんどが阻まれてダメージは少なかった。

 

周囲では友軍艦が必死の抵抗を見せてコルサントへの侵攻を阻止している。

 

「再び敵艦に殴り込みを掛ける!!敵の大型主砲に集中砲撃の用意!(トラクター・ビーム)を放て!!」

 

あの大型主砲は高火力のレーザーを周囲に拡散し艦隊全てに大打撃を与える恐るべき兵器だ。

 

仮にセルネアン艦隊が皆ここで無念のまま斃れてもせめて仲間の為あの砲だけは潰さなければならない。

 

それだけの覚悟と矜持が彼の中に甦ったのだ。

 

トラクター・ビームが敵艦を捕らえて引き寄せる。

 

先程のアーガニルと同じようにできる限り敵の動きを止めこちらに近づける事で狙いを正確にする為だ。

 

だが今のパイオニアーにそれ程の余力は残されておらずトラクター・ビームも効力は今ひとつだった。

 

それでもこのような状況下ではないよりはマシと言えよう。

 

敵艦に近づき一部船体が擦れ合う。

 

衝撃と軋む音が艦内に木霊した。

 

「全砲門撃て!!」

 

パイオニアーが再び砲火の轟音を立てる。

 

敵艦も同様に下船部砲で応戦しパイオニアーにダメージを与えた。

 

しかしダメージの大きさは敵艦の方が上だ。

 

シールドを打ち破り重レーザーの砲弾とミサイルや魚雷の実体弾が大型主砲を巻き込み爆炎を上げた。

 

「やったか!?」

 

期待と不安を込めたセルネアン准将の台詞は煙幕と化した爆煙から現れた物が答えとなった。

 

「まさか…」

 

彼の予期した通り敵の大型主砲は辛うじて原型を留めている。

 

少なくともダメージはあるようだが果たして…

 

「敵艦から高エネルギー反応探知!」

 

レーダー士官の報告がセルネアン准将の頼みの綱を切り落とした。

 

ダメージはあるが主砲は十分稼働可能と言う事だ。

 

だがそんなことでおちおち絶望などしていられない。

 

「偏向シールドを上面に展開!!最大船速で退避急げ!!」

 

操舵手や技術士官達の動きが急速に早くなる。

 

破れかかったシールドのあちこちが蘇り青白い光が筒状のエンジンから飛び出そうとする。

 

しかし一足遅かった。

 

その場を過ぎ去ろうとするパイオニアーをこの大型主砲は逃さなかった。

 

右舷側のデッキに主砲の全エネルギーが直撃した。

 

これほどのエネルギーではシールドも簡単に突破され消し飛んだ。

 

攻撃を遮る“盾”を失ったパイオニアーは無防備となった。

 

迸るエネルギーの塊が無慈悲にパイオニアーに食らいつく。

 

右舷側のデッキと砲塔群、エンジンの全てが大破し“()()()()()”。

 

当然ブリッジもタダでは済まない。

 

今までに無いほどの振動と大ダメージによる艦のトラブルが一気に彼らを襲った。

 

パネルや制御装置がスパークを散らし小爆発を起こした。

 

「…っ!!右舷に被弾!!損傷は…!」

 

そんな状況下でも乗組員達は諦めず状況報告を始める。

 

「ダメージコントロールを!!くっ!!」

 

「准将!!」

 

セルネアン准将が命令を出そうとした瞬間彼の周囲に火花と小爆発が起こり忽ち巻き込まれてしまった。

 

彼はそのまま意識を失い倒れ込んでしまった。

 

最後まで敵を睨みながら。

 

最後まで命令を下しながら。

 

深い深い深淵の記憶へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは…どこだろうか…

 

全てが白に覆われ場所すらわからない。

 

私はさっきまで何をしていたんだろうか…

 

記憶を辿っても何も出てこなかった。

 

セルネアンは立ち上がり辺りを見渡す。

 

本当に真っ白で何があるのかさえ掴めていない。

 

辺りを確かめる為にも少し歩いてみようか。

 

セルネアンは何故かフラつく体を押さえながら歩き始めた。

 

すると3歩歩いた所で彼の前に人影が映った。

 

忘れもしないあの人影が。

 

「ハリス!!」

 

声を上げ人影の下へ走る。

 

そこには彼が思い描いた通り死した弟ハリス・セルネアンがどこかを見つめていた。

 

流石に愛しなので抱きつくような真似はしないが大粒の涙をこぼしあり得ない再会を心の底から喜んだ。

 

「生きて…いたのか…?」

 

ハリスは何故かこちらを向かない。

 

だがなんとなく表情はセルネアンの声を聞いて微笑んでいるように思えた。

 

ハリスは彼の言葉に直接声はかけなかったが彼に向かって話し始めた。

 

「やっぱり兄さんはすごいよ、ここまで戦ってきた」

 

やはりセルネアンの方は向いてくれないらしい。

 

「あっああ…だがそれはお前も一緒だ、お前には私以上に才能がある」

 

弟を励ます。

 

するとハリスは何処か哀みを含んだ笑みを浮かべた。

 

「違うよ、兄さんには必ず立ち直って戦い続ける心があるんだ。誰にも打ち砕けない強い想いが」

 

「ハハ、何を言っているんだハリス?それはお前だって…」

 

ハリスは首を振った。

 

「僕は…もうダメだ、だから兄さんが…いや兄さんと“彼”が僕や僕達の代わりに最後まで戦って欲しいんだ」

 

この時初めてハリスはセルネアンに顔を向けた。

 

あの時から変わる事のない弟の顔にはやはり笑みが残されていた。

 

「みんなが、仲間が待っている、行ってくれ兄さん、最後まで戦って守り抜いてくれ」

 

「そうか…やっぱりお前は…」

 

その瞬間セルネアンは全てを思い出した。

 

きっとこれは夢か何かであろう。

 

しかしそんなひと時の夢に弟が現れたと言う事は何か意味があるセルネアンは感じた。

 

それこそフォースのお告げであろうか。

 

彼は自嘲気味に笑った。

 

「もうすぐ“彼”が来る、だから兄さん…頼んだよ」

 

哀愁と兄への期待が込められた最期の言葉はセルネアンによって受け止められた。

 

「ああ…任せろ…!」

 

ハリスは優しく微笑む。

 

「じゃあね、兄さん」

 

「ああ…」

 

「ありがとう兄さん、そして頼んだよ。“君”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…しょう……准将!!准将!!」

 

ルファン少尉の悲痛な呼び声と共にセルネアン准将は目を覚ました。

 

彼の周りには数名の士官と軍医が取り囲んでいた。

 

ルファン少尉のように何人かは頭から血を流し負傷していた。

 

それも当然だ、あれだけの被害を被ったのだから。

 

「よかった!!目を覚ました!!」

 

「あぁ…少尉…今は…」

 

痛む体をゆっくりと起こし彼は状況を聞いた。

 

だが親切なのか嫌らしい男なのか敵将は少尉の代わりに状況を教えてくれた。

 

『おやおや司令官閣下のお目覚めか』

 

何度か聞き馴染みのある声だった。

 

それもセルネアン准将にとっては苛立たしいあの声だ。

 

「アーガニル…!!」

 

サイボーグ指揮官はなおも健在だった。

 

『あいも変わらずお見事だセルネアン、まさか我が艦にこれだけの被害を与えあの大砲も長距離射撃を不可能にしてしまうとは』

 

敵の総大将は彼を褒め称えゆっくりと拍手を送った。

 

奴の背後には新たな副官がニヤニヤとこちらを見つめている。

 

アーガニルは席を立ちモニターに顔を近づけた。

 

『そんな君達にひとつ選択肢を与えよう、今ここで敗北を認め道を開ければお前達は皆見逃してやろう』

 

セルネアン准将を取り囲む士官達は皆このサイボーグを憎しみの目で見つめた。

 

『だがもしそれを断るなら…君達の見窄らしい敗残艦隊は皆ここで名誉の死を遂げてもらおう』

 

まさか最初の一言と立場が逆転するとは。

 

奴は直接こう言っている、降伏か死か。

 

選ばせているのだ。

 

『その判断は指揮官であるグリッツ・セルネアン、君が決めろ』

 

態とらしい。

 

これが奴なりの復讐なのか。

 

『部下を皆殺すかそれとも生かすかは君の自由だ、さあどうする?』

 

奴の目はこう訴えている。

 

-お前はもう終わりだ諦めろ-

 

しかしセルネアン准将は小さく笑い捨て眼前の敵大将にこう吐き捨てる。

 

「ふん!!答えはノー、そんな選択肢両方破棄だ!!」

 

アーガニルの表情が今までにないほど引きつり笑みを形作る。

 

『ハッハッハッハッハッハッハ!!やっぱり君はそう言うだろうと思った、では名残惜しいがお別れだ』

 

本当にアーガニルの表情には憐れみが映し出されていた。

 

宿敵の最期なのだから当然と言えばそうかもしれない。

 

「そうだな…お前が死に革命は失敗する!!」

 

『最期まで…不愉快で怒りを呼ぶ奴だな…全艦砲撃用意!!目標敵全艦隊!!』

 

士官達がハッとする。

 

周囲の艦はともかく現在のパイオニアーでは偏向シールドの展開は不可能だ。

 

このままでは確実に敵艦の砲撃をもろに喰らい轟沈まで追い込まれてしまう。

 

ここまでか…死が目前に迫り乗組員の中には諦めを浮かべる者すらいた。

 

やはりこの男は諦めていない。

 

セルネアン准将は最後の瞬間まで敵将を睨みつけていた。

 

『さようなら仇敵よ、あの世で我が兄弟に詫びるといい。憎たらしい悪魔め』

 

『提督!!ハイパースペースより二隻の艦影を探知!!』

 

その報告を最初に聞いたのは味方からではなく敵からであった。

 

まさに今セルネアン准将達が死の淵に立たされている瞬間彼は来たのだ。

 

「これは…ゼファント大尉のハンマーヘッドコルベットです!!」

 

士官の報告と共に宇宙空間から一隻のハンマーヘッドコルベットと敵艦が出現した。

 

彼だ。

 

彼が帰ってきたのだ。

 

ハリスの言う通りだ。

 

たった一隻で帰ってきた。

 

「ゼファント大尉!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイパースペースを抜け出てゼファントが最初に確認したのは敵艦隊と交戦し傷を負ったセルネアン准将の艦隊であった。

 

圧倒的な物量に押し潰されようとしている。

 

「敵艦多数感知!!」

 

「大尉、このまま我々が参戦してももう勝ち目は…」

 

パイス艦長が諦めに似た言葉を発する。

 

しかしゼファントは首を振った。

 

「いや戦線には突入せずハイパースペースを同じく出たあの“()()”を援護します」

 

アヴェック大尉とパイス艦長は唖然としていた。

 

「一体どういう…」

 

「あの艦には…」

 

「敵艦の砲撃来ます!!」

 

ゼファントが説明しようとした瞬間狙いが緩い砲撃がスフィルナ級を掠めた。

 

「シールド全開!とにかく大尉の命令通りあの艦を援護する!」

 

操舵手が命令に従い舵を切る。

 

アヴェック大尉とゼファントは一部陣形を変化させる敵艦隊を見つめた。

 

「一体どうするつもりだ?」

 

「あの敵艦…いや“()()()”をどれか適当な他の敵艦にぶつけるかして破壊します。要は私がいつもやるあれですよ」

 

「ああ…だが適当な艦じゃダメなんじゃないのか?」

 

「えっとそれは」

 

「大尉!大尉宛に敵旗艦より通信です!!」

 

「繋いでくれ」

 

またしても会話が遮られてしまった。

 

モニターには当然敵将アーガニルの顔が映った。

 

『やあゼファント・ヴァントくん、態々殺されに来るとはご苦労な事だ。安心して貴様も革命の生贄となるが良い。素晴らしい大義の為の犠牲だ』

 

威勢のいい言葉でアーガニルは彼を脅した。

 

だがそんな子供じみた脅しに屈するゼファントではない。

 

「そんなくだらないごっこ遊びの為には死ねないね。逆に私とジュディシアルの軍歴にお前の討伐を加えてやろう」

 

アーガニルはゼファントの皮肉を鼻で笑った。

 

若干苛立っているだろうか。

 

サイボーグ相手だと煽りが効いているか分からない。

 

『面白い、貴様の脆弱な艦如き一撃で苦しまずに葬ってやる』

 

「ご親切にどうも、こっちは残念ながらお前を最期まで苦しめながら殺すとしよう」

 

皮肉の罵り合戦の末通信は途切れた。

 

ゼファントにとっては動けないセルネアン准将の艦よりもこちらに注目を集める事で敵の攻撃を少しでもこちらに向けようと言う意図があったのだが他の乗組員からしてみればただの悪口の言い合いであった。

 

通信士官の下に近寄り彼に命令を出す。

 

「セルネアン准将に繋いでくれ」

 

士官は頷きキーボードを操作する。

 

先ほどまでアーガニルが映っていたモニターに今度は負傷した乗組員とセルネアン准将が映り込んだ。

 

『よく来てくれた…だが…』

 

それ以上の言葉はいいと彼は首を振った。

 

「そちらこそご無事でないとは言えよく戦い抜いてくれました。まだ行けますか?」

 

セルネアン准将は周囲の士官達に顔を見合わせた。

 

確認を取ると彼は静かに頷いた。

 

「残りのエネルギーを全て主砲とシールドに、残った魚雷とミサイルも装填してください」

 

『どうするつもりだね…?』

 

「間も無く私の特務艦が敵艦に衝突するか撃破されます。そしたらアーガニルの船の動きは止まりますので一気に撃ってください」

 

なんと恐ろしい奇術師であろうか。

 

時間があまりない為説明を所々カットし過ぎてセルネアン准将も理解は半分しか及ばなかったが大体は理解した。

 

要はチャンスが来た時に背後から撃てとの事だ。

 

短い間だが確かな信頼関係が出来上がっているからだろう。

 

ならば期待に応えるのみ。

 

『任せてくれ』

 

「頼みました。我が艦はこのまま特務艦を支援する!」

 

「了解!」

 

パイス艦長が乗組員に命令を出し始める。

 

「敵は必ず今日で負ける。今日で終わりが来る」

 

その一言はセルネアン艦隊の反撃の合図であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーガニルは行動不能となったセルネアンの艦に背をむけ小生意気なゼファントの乗り込む艦に火力を集中させた。

 

一部艦を反転させ同様に攻撃させているがあまりに距離が遠すぎる為いまいち攻撃が当たらない。

 

「敵艦に砲火を集中せよ、コルベットなら沈められる」

 

たかがコルベットと油断は出来ないがそれでもかの艦ができることは少ない。

 

友軍艦に命じ奴とセルネアン艦隊は確実に分断させている。

 

もはやどうにも出来まい。

 

「提督、同じくハイパースペースから出撃した友軍艦が一隻不可解な行動を取っています」

 

「一応針路を予想しろ、恐らくは」

 

「奴がゴザンティ級でしたように無人艦での特攻ですな?」

 

「流石だ、その可能性が大であろう。いや、ならば…」

 

アーガニルは思考を巡らせ最善の回答を導き出す。

 

「全火力を先行する友軍艦に向けろ、あの艦は我が旗艦を狙うはずだ」

 

「全火力を前方敵艦へ!」

 

ワルフォイが細かな伝達を始める。

 

奴が特務艦を利用した奇策が得意なのは重々承知だ。

 

ならばその奇策を打ち破り弱点を突くのみ。

 

奇術といえど所詮は奇妙なだけであって理論さえ固まれば常策で十分打ち破れる。

 

それだけの腕が彼にはある。

 

同じ方法に何度も引っかかるほど間抜けでもバカでもない。

 

「さて十八番を取られた若造がどんな行動に出るか」

 

「要注意ですな」

 

2人は悪い微笑を浮かべた。

 

しかしアーガニルはあまりに頭の回転が強化され高速化したせいかある一つの考えを失念していた。

 

その艦が“()()()()()()()()()”可能性に。

 

徐々に距離を詰める特務艦は次々と砲撃をもろに喰らい爆発の火の手をあちこちから上げた。

 

所詮は無人の艦。

 

人が操るように精密な操作は不可能だ。

 

ついに爆発が起こり特務艦は大破した。

 

「フッ」

 

アーガニルが鼻で笑い勝利を再び確信した時それは起こった。

 

突如艦内に警報音が鳴り響き全ての隔壁が閉ざされた。

 

ライトが赤に染まり危険な状態を表している。

 

「何事だ!状況を報告せよ!!」

 

ワルフォイが少し声を荒げる。

 

乗組員達は必死に原因を探った。

 

「これは…“()()()()()()”!!電子システムに感染するウイルスが我が艦に侵食!現在艦の制御システムの45%がコントロール不能!」

 

「バカな!?発生源はどこだ!!」

 

あのアーガニルが彼らの前では初めて動揺を見せた。

 

「囮艦の遠隔操作端末です…」

 

「まさか…!!」

 

アーガニルはその瞬間今までにないほどの屈辱と悔しさを味わった。

 

奴が放ったあの特務艦は特攻用などではない。

 

ウイルス展開用のブービートラップだったのだ。

 

恐らく艦を破壊するか一定以上の距離に侵入されるかでそのトラップは発動するのだろう。

 

遠隔操作の端末に侵入し忽ち恐ろしい速度で増殖をはじめ艦を蝕む。

 

しかもあり得ないほど高速で。

 

「艦のコントロール不能率59%!!」

 

「サブエンジン停止!!偏向シールド停止!!主砲も応答を停止しました!!」

 

「そんな…バカな…」

 

アーガニルは狼狽した。

 

そんなことがこの短時間にできるのか。

 

あり得ない。

 

奴は一体何者なのだ。

 

「提督!!」

 

再び悲鳴に満ち溢れた乗組員の声が聞こえる。

 

「セルネアンの旗艦からプロトン魚雷、ミサイル、レーザー砲が発射されました!!」

 

「回避を…」

 

いや無理だ。

 

艦の制御不能率は今現在60%以上を越しているだろう。

 

すでにエンジンは停止しシールドもないこの艦では防ぐことは出来ない。

 

振動と爆煙が彼らを静かに襲った。

 

アーガニルはその場から転げ落ち倒れ込んだ。

 

乗組員から報告が届く。

 

「全エンジン停止!!メイン反応炉にも被弾確認!!この艦は間も無く爆沈します!!」

 

それはこの艦の終わりを意味していた。

 

「あり得ん…こんなことが…」

 

「全員退艦の準備を!!アーガニル殿さあ早く!!」

 

ワルフォイと数名の乗組員が絶望するアーガニルを無理矢理にでも引っ張る。

 

瞬間彼らの旗艦はいくつかの破片と爆発に成り果てた。

 

夢と理想と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵旗艦の爆沈を確認!!」

 

「よし!!」

 

アヴェック大尉は脇目も憚らずガッツポーズを浮かべた。

 

ゼファントも内心ほっとした。

 

正直あれは賭けであった。

 

前々からあの手のウイルスは研究して来たとは言え成功する確証はどこにもなかったからだ。

 

だが無事に敵艦は崩壊した。

 

ひとまずは勝利だ。

 

「さて後は残存艦隊の片付け…いやその必要もないみたいですね」

 

レーダー士官のモニターを見てゼファントはそれを確証した。

 

彼らも来てくれたのだ。

 

次の瞬間ブリッジには全方位から出現するジュディシアル艦隊の姿があった。

 

大量のアクラメイター級やカンセラー級、CR90と言った顔ぶれが出現したのだ。

 

そして敵艦隊に向け次々と攻撃を開始する。

 

「友軍艦艇確認!!ヴァント艦隊、コバーン艦隊、アンティリーズ艦隊、キリアン艦隊です!!」

 

それはジュディシアル・フォースの中でもなのある艦隊だった。

 

優秀な彼らの射撃は恐ろしく正確だ。

 

敵艦は四方の攻撃に耐えきれず爆散していった。

 

「これで終わり…だな」

 

アヴェック大尉は噛み締めるようにそう言った。

 

「ええ…終わったんです…彼らの革命も、その夢も」

 

ゼファントも悲しくそう応えた。

 

2人は静かに敬礼した。

 

滅びゆく革命主の艦隊に向けて。

 

セルネアン准将も同じく敬礼した。

 

死した仇敵とその艦隊に向けて。

 

そしてようやく彼らの時計は進み始めるのだ。

 

あの時の革命から止まった時間がようやく。

 

たった一人の男の手によって。

 

多くの者の魂によって。

 

今を生きる者の時間が進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

惑星コルサント。

 

この地は相変わらず戦火とはまるで関係のない平和で発展に満ちた都市だ。

 

この地には当然彼らの本拠地もある。

 

今日はいい天気だ。

 

美しい太陽が彼らを祝うかのように照らす。

 

大ホールには大勢のジュディシアル・フォースの将校と政治家や高官たちが集まっていた。

 

優秀な軍人達を崇める為に。

 

2人の将校が拍手の喝采とともに壇上に上がる。

 

グリッツ・セルネアン准将もとい少将と。

 

「ゼファント・ヴァント」

 

「ハッ!」

 

敬礼と共に壇上の高官の前に立つこの青年ゼファント・ヴァント。

 

「貴官の功績は多くの銀河市民を危機から救い我が共和国を救済した英雄に相応しい。よって貴官にはジュディシアル英雄章を授け少佐に昇進する事とする。以後も全力を持って職務に励むように」

 

「ハッ!」

 

勲章と新しい階級章と共に彼は下がった。

 

再び拍手が湧き上がる。

 

今日は少将に昇進したセルネアン少将と少佐に昇進したゼファントの祝賀会の日だ。

 

 

つづく

 




この話もようやく移行完了である


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彼女はスパイ、私は軍人
束の間の平穏


ゼファントは珍しく緊張していた。

 

こういった式典は卒業式以来だし何より今回は規模が違う。

 

ほとんどの出席者が名の知れた共和国の高官だ。

 

そう考えると足が震える。

 

恥をかいたり失敗するつもりは毛頭ないのだがそれでも仕方あるまい。

 

経験不足というやつだろう。

 

だが長年軍役に身を投じたセルネアン准将改め少将は微動だにしない。

 

これこそ経験の差だ。

 

ならば上官に恥をかかせない為にも意地でも堂々とするしかないだろう。

 

とは言ってもこの手の式典は何期の聞く事を言ったりする訳でではないので楽と言えば楽だ。

 

実際の戦場と比べればの話だが。

 

「ゼファント少佐、セルネアン少将、お時間です」

 

2人は静かに立ち上がった。

 

セルネアン少将が優しく微笑みかける。

 

「では、参ろうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

式典が終わり一同は立食によるパーティーが開かれていた。

 

ゼファントもセルネアン少将も軍服姿のままでの参加となった。

 

多くの高官達が華やかなドレスや衣服を身に纏いグラスを片手に談笑を楽しんでいた。

 

とは言っても今日の主役は特にゼファントだ。

 

何せ主役に足る肩書きが全て揃っている。

 

ジュディシアル・フォースの若き士官で僅か二十歳で少佐に昇進、しかも彼はあのヴァント家の人物だ。

 

別名“軍人貴族”と呼ばれるほどの軍族一家だ。

 

当然持て囃されるし口を揃えてこう言うだろう。

 

-英雄クイエム・ヴァント元帥の再来だ-

 

実際その通りに物事は動き皆若き英雄を皆が持て囃した。

 

彼はグラスの飲料に手をつける事が出来ない程高官や美人達に囲まれ銃弾を連射するかのように言葉を浴びせかけられていた。

 

「いやぁ君のように若くして少佐とは。頭が下がるよ」

 

「いえ…私はその、義務を果たしたまでです」

 

「その歳でそこまでの意識を持っているとは…いやはや感心感心!」

 

若干酒臭い高年の政治家や官僚に囲まれゼファントはお世辞に近い褒め言葉を大量に受け取っていた。

 

褒められるのは嫌いじゃないがこうまで言われ続けるといささか反発心を覚える。

 

尤も彼を取り囲んでいるほとんどの政治家達は前線で戦った事のない者ばかりなのだが。

 

別に戦うことがいい事じゃないってのは重々承知している。

 

それでも感情面で若干割り切れなくなっていた。

 

「君はぜひ私の星系に配属になって欲しいものだ。君みたいな優秀な将校が守ってくれればもう安心だ」

 

「いや是非我が宙域に!きっとそこなら少佐もさらなる武勲を立てられるでしょう」

 

「どうせなら私の星の惑星防衛軍に加わりませんか?貴方なら少佐で…いや中佐、大佐の階級で引き抜きたい」

 

「いやその私はまだ若輩のみでそう言ったことは…」

 

「そう謙遜なさらずに…貴方の実に素晴らしい」

 

「是非とも深く言葉を交わしてみたいものですな。そう言えば家に年頃の娘がおりましてな、貴方のその秀麗なお顔と話を聞けば…」

 

疲れた。

 

死にそう。

 

顔の筋肉千切れそう。

 

それより前に理性が飛びそう。

 

率直な感想がゼファントの脳裏を埋め尽くした。

 

数ヶ月前までこの地で戦史資料の研究をしていた者とは思えないほどの変わりようだ。

 

無論昇進は素直に嬉しいしセルネアン少将や大勢の銀河市民を守れた事は自分の誇りだ。

 

だがそこまで褒め称える必要はないのではないかと彼は思った。

 

実際アーガニル艦隊を壊滅させたのはゼファントではなく四個艦隊の指揮官達であるしミッド・リムの犯罪者組織を一掃したのも彼の巧妙ではない。

 

これはたった一人の勝利ではなくみんなの勝利なのだ。

 

誰か一人欠けていては勝つ事は不可能だった。

 

そう思うゼファントだからこそどこか引っ掛かるところがあった。

 

「やあやあ皆様」

 

「エヴァックス中将…」

 

政治家達が道を開ける。

 

この方はゼファントも知っている、戦術研究課の創設者であるカール・エヴァックス中将だ。

 

実際ゼファントの上官でもある。

 

中将の背後には見慣れたメガネの優男ガコン少佐が控えていた。

 

よく考えればガコン少佐とゼファントは同じ少佐同士でもう部下と上官の関係ではないのだ。

 

年齢だけで言えば九歳以上年上であるのになんとも不思議な気分だ。

 

中将に配慮して政治家達が立ち去る。

 

「少佐良くやってくれた。君のおかげで優秀な将兵が多く死なずに済んだのだ」

 

エヴァックス中将は彼の肩を優しく叩く。

 

「ありがとうございます。ですがそれは私だけの功績ではありませんよ、その優秀な多くの将兵達が積み上げてくれたお陰です」

 

「謙遜しなくても良い、まあ君もあのような媚び諂いの日和見主義者達の相手は疲れたろう。少しは何か腹に入れておくといい」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

ゼファントはエヴァックス中将に丁寧に頭を下げた。

 

すると元上司のガコン少佐が嫌味のように彼の耳元でこう言った。

 

「中将を厄介払いに使うのはお前さんくらいだぞ」

 

思わずゼファントは苦笑を浮かべた。

 

嫌味を言われたら嫌味で返してやろう。

 

「そんなつもりありませんが確かに少佐じゃ役者不足ですからねぇ」

 

「何!?…言ってくれるじゃないか…まあ中将の言う通り体は大事にしておけよ」

 

「ええ」

 

ガコン少佐はそう言って立ち去った。

 

ようやくグラスの飲み物に手をつける事ができた。

 

ひとりになって考えてみると不思議なものだ。

 

ゼファントがやった事は間接的であるかも知れないが人殺しだ。

 

それなのに多くの人々から支持されるなんて。

 

こんな考えは今まで放棄してきたゼファントだが今日ばかりは如何してもそう言う気分だった。

 

ふと彼は思った。

 

懐かしいアカデミーでいつも一緒だったあいつらに会いたいなと。

 

「今俺たちに会いたいなぁなんて顔してただろ」

 

「うわっ!!」

 

驚きのまま彼は振り返った。

 

そこには見慣れすぎた軍服姿の3人がいた。

 

「よっゼファント少佐殿」

 

「アザフェル…それにゼネークトにリエス…如何してこんな所に」

 

「なんだぁ?俺達はパーティーにでちゃいけない決まりでもあるのか?」

 

ゼネークトがそう言って彼をおちょくった。

 

なんだか彼らと共にいると疲れが吹き飛ぶようだ。

 

「やめなさいよゼネークト、改めて昇進おめでとうゼファント」

 

「ああ、おめでとう」

 

「我らの出世柱!」

 

思わずゼファントは少し笑ってしまった。

 

多分今まで彼を取り囲んだ高官達から投げ掛けられたどの言葉よりも嬉しいものだ。

 

「しかし少佐とはな…」

 

「ほんと早いわね、やっぱりそう言う血筋?なのかしらね」

 

アザフェルの独り言にリエスが続いた。

 

全くここまで仲がいいのならアザフェルもとっとと告ればいいのに。

 

そんなくだらない事を思いながら彼らの言葉に答えた。

 

「血筋はともかく運が良かったのさ、たまたまそんな戦場があっただけで実際は実力なのかすらわからないよ」

 

「だが事実は事実だろ?もっと誇っていいって」

 

ゼネークトが励ましと共にかなり強めに彼の背中を叩いた。

 

結構強かった為ゼファントは少しよろけてしまった。

 

「そういやお前あのヴァンガロに相当恨まれてたぞ?」

 

「はっ?」

 

「いやお前がこんな早く昇進するからあいつブチギレてたって誰かが言ってたぜ?」

 

「はあ…くだらね、いいじゃないかあんな奴ほっとけば。ほっとくのが一番の攻撃だよ」

 

「確かに、一理あるわね」

 

「相変わらずお前は変わらないな」

 

「だな」

 

なぜか3人はそんなゼファントを見て小さく笑声を立て始めた。

 

アカデミーで何度も見た光景だ。

 

懐かしいあの日々。

 

久しぶりにあの頃に戻った気分だ。

 

その晩だけゼファントは少佐や英雄と言った肩書を脱ぎ捨てていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは三日目のパーティーの間に起きた。

 

疲労を感じながらも来客した人達と話をし終え少し休もうかと思ったその時だった。

 

「お疲れようだね」

 

深く優しい声が聞こえた。

 

振り返るとそこにはどこか見覚えのある議員がドリンクを2つ持ったまま立っていた。

 

確かナブーの元老院議員だったような…

 

記憶の中の人名録をもう少し探したかったが目の前の恐らく議員であろう方にまずは挨拶と敬礼を送った。

 

「ゼファント・ヴァント少佐です」

 

議員は優しく微笑みかける。

 

笑顔の似合う優しい男性だ。

 

優しい父親というイメージがぴったりに合う。

 

「敬礼はよしてくれ。私は“シーヴ・パルパティーン”、ナブーの元老院議員だ」

 

パルパティーン議員と名乗るその男は挨拶と共にドリンクを手渡してくれた。

 

「ありがとうございます」

 

一言礼を述べると早速そのドリンクを口に含み始めた。

 

ナブーの元老院議員か…通りで見覚えがあるわけだ。

 

ナブーはついこないだまで遠征に行っていたミッド・リムと更に辺境のアウター・リム・テリトリーの境目に位置する惑星だ。

 

度々彼の就任演説をゼファントはホロネットで耳にしていた。

 

「お疲れのようだね」

 

「あっいえ、とんでもない」

 

「ハハハ隠す必要はない。長い間ずっと共和国の為に戦ってくれたんだ、疲れくらいあるだろうに」

 

彼はそうゼファントを気遣った。

 

ゼファントはどこかこのパルパティーン議員が今までパーティーで出会った他の政治家達と違う気がした。

 

この方の眼は他の政治家達とはまるで別のいやもっと未来を見つめている気がした。

 

彼は一体何者なのだろうか…

 

「議員」

 

パルパティーン議員の秘書と思われる人物が彼に耳打ちをした。

 

仕事の話だろうか。

 

彼は静かに頷くとゼファントに再び声を掛けた。

 

「仕事の要件が入ってしまった、今度ゆっくり話そうではないか」

 

「はい、是非ともお願いしたいところです」

 

この時ゼファントはゼファントらしくなかった。

 

普通なら面倒くさいと心の片隅で思いながら偽笑を作り爽やかに「考えておきます」と言うだけである。

 

だがなぜか今回はパルパティーン議員の提案に了承し自分から行きたいと願い出たのだ。

 

「嬉しいものだ、では」

 

パルパティーン議員は優しくゼファントの両手を握りしめた。

 

暖かい優しい手だ。

 

「頑張ってくれたまえ」

 

「はい」

 

同じようにゼファントもその手を強く握った。

 

珍しいものだ。

 

あのゼファントがパーティーで初めて会った政治家にここまで心を開くとは。

 

しかも損得感情なしに。

 

一体彼をそこまでさせるパルパティーン議員とは何者なのだろうか。

 

今のゼファントにはそのような疑問を抱かせる余地はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間後ようやく彼らはパーティーの地獄から解放された。

 

とは言っても実際にパーティーが行われたのは式典の日も合わせて三日ほどだった。

 

残りの数日間は与えられた有給を使い久しぶりに故郷ハンバリンへ帰っていた。

 

知ってはいると思うが父や母、そしてオルホールや家の者達に昇進を報告しに行ったのだ。

 

久しぶりの実家はとても心が落ち着いた。

 

そして一週間がちょうど過ぎた頃ゼファントはコルサントのジュディシアル・フォース本部に出頭命令が下された。

 

しかし出頭命令を出したのは彼が所属する戦術研究課では無く“共和国情報部”であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人のジュディシアル・フォースの兵士に連れられ共和国情報部の本部に向かった。

 

共和国情報部。

 

共和国の情報収集や秘密工作を主な目的とする組織でありその実態は共和国内部でも謎に包まれていた。

 

実際彼らの迅速な行動が実行部隊であるジュディシアル・フォースに勝利をもたらしたことがあるのは言うまでも無い。

 

だがそんな重要機関が彼になんの用だろうか。

 

「こちらです」

 

兵士がブラスターを肩に吊る下げたままゼファントを案内した。

 

目の前には何かの検査機が設置されていた。

 

「申し訳ありませんがここで身分証明と身体スキャンをさせて頂きます」

 

ゼファントは頷きスキャナーの上に立った。

 

「監査官のレムスター大尉であります。検査に少しでも異常があれば例え少佐殿と言えど此処をお通しする訳には行きませんぞ」

 

屈強な大尉はゼファントの前に出た。

 

数日前まで同階級だったと考えるとどこか不思議な気分になる。

 

スキャナーが起動し身体を検査を始める。

 

既に身分証は無事ゼファントを表しすぐにスキャナーも同様の反応を示した。

 

「お手数をおかけしました少佐殿、さあどうぞ」

 

レムスター大尉が頑丈なブラスト・ドアを解除した。

 

兵士2名とゼファントはそのまま司令室まで真っ直ぐ進んだ。

 

数メートル進んだ先にその部屋は存在していた。

 

2名の兵士に守られ同じく頑丈なブラスト・ドアで守られていた。

 

「ゼファント少佐をお連れした、解除の要請を」

 

衛兵が静かに頷き扉のコンソールをタップする。

 

「閣下ゼファント少佐が到着しました、ドアの解除をお願い致します」

 

衛兵の呼びかけによりドアが解除された。

 

兵士に連れられゼファントは室内に入った。

 

立派な椅子に座り多くに資料を並べているこの男こそ共和国情報部の支部組織の支部長を任されている“デルフ・ドレイヴン”大佐だ。

 

ジュディシアル・フォースにも所属しているらしく彼と同じ青い軍服を着ていた。

 

ドレイヴン大佐はゼファントを確認すると椅子から立ち上がり彼を歓迎した。

 

「昇進おめでとう少佐、私はデルフ・ドレイヴン、情報部の将校だ」

 

「ありがとう…ございます、えぇ…ゼファント・ヴァント少佐です」

 

ゼファントは気まずい表情になりながらも挨拶をした。

 

本来なら「耳にタコが出来るほど聞きましたよそのセリフ」と皮肉混じりに行きたいところだがドレイヴン大佐とはそこまで親しい間柄ではないし何より上官だ。

 

いくら英雄とはいえ彼がそんな行動を取っては周りの者に示しが付かないであろう。

 

「本来なら君が命令を受ける立場はエヴァックス中将なのだがね、だが今回ばかりは特例だ」

 

ドレイヴン大佐はデスクの引き出しから何かのデータテープを取り出した。

 

「とは言っても君を下手に前線に送って死なせないようにする為だがな」

 

冗談と共にドレイヴン大佐はデータテープを軽く振った。

 

彼はそのまま近くのホロテーブルにデータテープを差し込んだ。

 

ホログラムが起動し惑星コルサントになる。

 

「君のおかげでコルサントが攻撃されるという最悪の事態は防げた。しかし我々情報部は連中がある別の犯罪組織と手を組んでいる情報を入手した」

 

ホロテーブルのコンソールをタップし次の場面へと移動させる。

 

「そして最悪な事にその犯罪組織はこのコルサントに構えている…地上で君が倒した革命軍と合流する予定だったらしい」

 

「となるとその犯罪組織は相当の規模ですね?」

 

「ああ、元老院を奇襲して尚且つ勝てる見込みのある連中だ、相当の戦力があるはずだ」

 

ゼファントの推察にドレイヴン大佐は賛同する。

 

またこれはキツい任務になりそうだ。

 

「我が情報部も全力でサポートする、その為君に一人の部下を授けよう」

 

「部下…ですか…?」

 

正直情報部員なんて得体の知れない者を部下につける日が来るとは思わなかった。

 

一体どんな人物なのだろうか。

 

期待と不安を抱えながら到着を待った。

 

「少尉!」

 

ドレイヴン大佐がその人物の階級の名を呼んだ。

 

するとブラスト・ドアが解除され一人の女性が入ってくる。

 

彼女は無表情のまま二人に敬礼した。

 

まるで感情がないみたいだ。

 

「紹介しよう…」

 

「“フィーナ・リースレイ”少尉です、ドレイヴン大佐の命令により少佐の配下となります」

 

物静かな彼女は挨拶をする時も無表情で微動だにしなかった。

 

「ゼファント・ヴァント少佐…です、よろしくお願いします」

 

同じく敬礼し彼女に合わせる。

 

一応ゼファントは彼女に微笑んだ。

 

フィーナ少尉は頬が赤くなったような気がしたが若いゼファントがそれに気づくはずないだろう。

 

「では二人とも頼んだぞ」

 

「はい大佐」

 

「それでは」

 

ゼファントが歩くと彼女はすぐ後ろについた。

 

慣れないなと思いつつもゼファントは表情を隠し部屋を退出した。

 

しかしこの時のゼファントはまだ知らない。

 

彼女の本当の秘密を…

 

新しい任務と“()()()()()”が彼を待っているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少佐か…父さんもやっぱりこの年頃に少佐だったんだね」

 

彼はなぜか微笑ましくなった。

 

ヴァント大佐が軍に入った頃からゼファントは中将で遠い存在だったからだ。

 

そんな彼も自分と同じ年頃に同じ階級にいたと思うと不思議な気分になる。

 

そんな思いに浸りつつもまたページを捲る。

 

彼と彼らの一族の歴史を。

 

 

つづく

 




こんなに連チャンで移植してるとなんかゲシュタルト崩壊してきますね()


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首都の闇

-コア・ワールド 惑星ハンバリン-

今日もコア・ワールド内のこの惑星は平和だ。

 

軌道上にはハンバリンの防衛艦隊がステーション内に駐留している。

 

知っての通りこの男もここに居た。

 

ハンバリン防衛艦隊とジュディシアル駐留艦隊の艦隊総司令官のゼント・ヴァント提督だ。

 

ミッド・リム出兵が大方終了し彼らも無事ハンバリンに帰還する事が出来た。

 

その道中ゼントだけはある一つの嬉しい報告を聞いたのだがそれはまた別の話だ。

 

彼はいつも通りステーションのオフィスで職務に勤しんでいた。

 

「当分ミッド・リムは安泰でしょう。我々の損害も予想を遥かに下回るものでしたし」

 

「アーガニルとかいう奴のおかげで敵の組織的行動は殆どなかったからな。しかし…」

 

ゼントは俯き考えた。

 

軍事の才能だけではなく全体を見通す才能が他の将校より長けていた彼はある一つの懸念を覚えた。

 

遠い未来起こるであろう可能性を。

 

「ミッド・リムの犯罪組織画一掃された後一つ懸念があるとすれば勢力を拡大しつつある企業グループだ」

 

「なるほど…利益に目が眩んだ“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”という事ですね?」

 

「その通りだ、今までは犯罪組織に自分達も攻撃される恐れがあった為進出は避けていたがそれが無くなれば」

 

「彼らの独壇場、やりたい放題と」

 

「その通りだ」

 

オルホールといいウォルスといいスレイブ家はなんと優秀な事か。

 

ゼントは人生で何度目か分からないほどそれを思い知らされてきた。

 

彼らの一族は開祖クイエム・ヴァントが元帥になる以前から献身的にサポートしてきてくれた。

 

今やそれぞれの分家に一人はスレイブ家の人物がいる状態だ。

 

やがては息子達にも彼らのような副官が着くのだろうか。

 

そうなればもはや敵なしだろう。

 

「だがそんな連中もゼファントがいれば安心だ」

 

彼は席を立ち図分の息子を誇らしげに語った。

 

ウォルス大佐は微笑を浮かべていた。

 

「相変わらずですね」

 

「自分の子すら信じられなくてどうするんだ?それに彼は…っ!」

 

ゼントは突如地面に座り込んだ。

 

胸の中心を押さえ込み苦しそうにしている。

 

「閣下!!」

 

ウォルス大佐は今までにない勢いで彼に駆け寄った。

 

ゼントは作り笑いを浮かべ彼の心配を解そうとした。

 

「大丈夫だ…古傷が痛んだだけだよ」

 

「最近多いですから気をつけてくださいね?」

 

最近のゼントは度々かつての戦傷が痛み倒れ込む事が多くなった。

 

歳のせいなのかは分からないが今の所軍務に支障は出なかった。

 

ゆっくり立ち上がり胸中の痛みを抑え込んだ。

 

長くないかもな…。

 

自重気味に笑い彼は再び席に戻った。

 

「今ゼファントは情報部の捜査に加わったんだっけな」

 

「はい、取り敢えずはまだそのように」

 

無用な心配をされたものだなとゼントは思った。

 

あの子が戦場で死ぬはずがない、むしろ早く功名を立てて欲しいと言った所だ。

 

だが…悔しいな、こんな事を思うなんて。

 

「あの子が元帥になるのを私は見届けられんかもしれんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-コア・ワールド 銀河共和国首都 惑星コルサント-

「少佐、聞いておいでですか?少佐?」

 

「ああ…聞いてる。聞いてますよ…」

 

ゼファントはソファーにも垂れ込み天井を眺めた。

 

フィーナ少尉からある程度の情報を聞いた。

 

しかしあまりに専門的な用語が多すぎて分からない。

 

それにまるで機械のような彼女のペースに終始巻かれっぱなしだ。

 

「つまりセルネアン少将がアーガニルを食い止めている間に元老院のオフィス・ビルで不審な人物が複数目撃されてハッキングされた形跡があった」

 

「なので元凶であるアーガニルを知っている少佐はこの捜査に協力する義務があります」

 

ゼファントはやれやれと言わんばかりに苦笑を浮かべた。

 

アーガニルを知っている…か。

 

実際彼をよく知っているのはセルネアン少将の方だしゼファントは通信越しで会話しかした事がない。

 

そんな自分に出来る事などあろうか。

 

「それで少佐、あなたはどうお考えですか?」

 

「えっ?」

 

ゼファントはキョトンとした。

 

「その犯罪組織です、再度元老院へ攻撃に出るとお思いですか?」

 

「ええ、これは単なる私の予測とそのアーガニルという奴から学んだ考えですが…」

 

ゼファントは目線を落とした。

 

彼はアーガニルという革命家から学んだ悲しくも恐ろしい予測を彼女に話した。

 

「彼らのような大望…志とでも言うのでしょうか…それを持った者達は絶対に諦めませんよ。仮に一度撃滅されてもね」

 

「なぜそう言い切れるのです?」

 

「それで挫ける程彼らの思想は脆くはないんですよ。逆に彼らと戦い彼らを敗北へと追いやれば追いやる程復讐心とその大望に薪をくべる事になります」

 

フィーナ少尉は静かに頷いていた。

 

それを確認するとゼファントは続けた。

 

「しかも厄介な事にそんな志とやらに共感する者は結構いる。それにハッキングは中々重要施設まで及んでいたんですよね?」

 

「ええ、コルサントの一部対空システムが沈黙していました。他にもジュディシアル・フォース一部施設にも」

 

ゼファントはまた考え始めた。

 

この2つすらハッキングできるという事は相当のプロだ。

 

そして発見が遅れたという事はカモフラージュなども完璧なのだろう。

 

もしかすると今回の組織の指導者も…

 

「敵はまた必ず来ます。ですがその時がチャンスとなるでしょう」

 

「それは…どういう意味ですか?」

 

「この広いコルサントを探すよりも彼らの方が出てきてくれた方がはるかに楽という事ですよ。少なくとも炙り出すチャンスはある」

 

この時すでにゼファントの中ではある程度の戦術が組み立てられていた。

 

相手の指導者がもし仮に“()()()()()()()()”ならば…。

 

「その時は連中が二度と立ち直れないように徹底的に殲滅する必要があります。誰かが生き残って何度でも甦るなら全て倒さなければ」

 

しかしこの時ゼファントの思考が一旦ストップした。

 

彼はどこから感じる“殺気”で集中力が途切れたからだ。

 

まるで何かが自分を狙っているようなそんな感覚はかなり長く続いた。

 

「少佐!!」

 

ふと通路の方から声が聞こえた。

 

「モスト中尉」

 

「戦術研究課のガコン少佐と連絡が取れました」

 

モスト中尉のおかげで殺気は消え去りむいそろ嬉しい報告が訪れた。

 

「ありがたい、では行きましょうか少尉」

 

「はい…少佐」

 

フィーナ少尉の目は何処か笑っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサントは発展の影響である一つの闇を抱えていた。

 

文字通り上へ上へと建物を重ねた影響で闇が生まれてしまった。

 

当たるはずの恒星の光が当たらず汚い排気ガスの混じった空気が人々の肺を汚すそんな暗い世界。

 

俗に言うアンダーワールドだ。

 

光も何も届かないこの地はギャングや犯罪者の格好の溜まり場となった。

 

その中に彼はいた。

 

ゼファントが予測し仮説を立てている彼が。

 

「“フェルシル”、“伝令”より報告が入っています」

 

サイボーグ“フェルシル”は煌めくブランデーの色を眺めながら顎で入室の許可を出した。

 

ギャングであるのにも関わらず礼儀正しいこの男は入室する時でさえ静かだった。

 

尤も煩いのが嫌いな彼だ、だからこそそばに置いていると言う一面もある。

 

「報告によれば彼…ゼファント・ヴァントは如何やら貴方の存在に感づきつつあるようだ」

 

フェルシルは鼻で笑った。

 

対して手掛かりもないのに私が“()()()()()()()()()()()()()()()()”ことに気付いたとは。

 

若く、恐ろしい奴だ。

 

さすがはアーガニルを打ち倒しただけの事はある。

 

()()()()()”富んでいるようだ。

 

「危険だな…“盟友”を殺した時点で生かす理由などないのだが」

 

表情には表さないが彼は革命を生き残った数少ない盟友であり兄弟の死に怒りと悲しみを覚えていた。

 

そして誓ったのだ、必ず復讐を遂げ革命の契りを成すと。

 

後半は彼に埋め込まれた命令プロトコルの影響だが。

 

「暗殺者なら数名送っても構わないかと」

 

「なら早目に奴とご対面したいのでな、首だけで良い、持って来させろ」

 

「お任せを」

 

彼のサポート役である“フォンフ”は頭を下げ静かに消えた。

 

再び彼一人になった。

 

静かでいい。

 

亡き者達を弔うには静かな方が心地よいのだ。

 

 

 

 

 

 

暗黒街を抜けて

 

ゼファント達はコルサントのレベル1313に来ていた。

 

コルサントはこのように数字で階層を分けておりレベル1313は惑星のコアから1313番目のレベルである。

 

逆に最も遠い最新のレベルは5127だ。

 

ゼファントとフィーナ少尉、モスト中尉と共にこの階層に来ていた。

 

「少佐、こんな所なんの意味があるんですか?」

 

モスト中尉は不機嫌そうに尋ねた。

 

ゼファントはそんな中尉を宥めるように微笑みかけた。

 

「犯罪組織は基本こういう所を根白にしていますから追撃する時地形を覚えておく必要があると思うんですよ」

 

「はぁ…」

 

「それにこういう所の方が犯罪組織の情報はよく手に入る」

 

「それは情報員であるこの小官とリースレイ少尉にお任せ下さい!なんせプロですからね」

 

ゼファントは苦笑を浮かべた。

 

頼もしいがあんまり口には出さないで欲しいなぁと思っている。

 

下手に会話を聞かれて情報部員である事を覚えられたら困る。

 

正直何されるか分からない。

 

しかし不思議なのはモスト中尉ではなくフィーナ少尉だ。

 

この年頃の女性ならこんな汚く薄暗い所は嫌っても良いはずなのだが。

 

住み慣れたかのように表情ひとつ変えない。

 

よほど中々の訓練を受けているのだろう。

 

「しかしなんというか人が少ないですな」

 

モスト中尉が少し疑問を覚えた。

 

言われてみれば確かに若干少ないような気もする。

 

いくらアンダー・ワールドに位置するとはいえ人気が無さすぎる。

 

まさか…な。

 

「…2人ともブラスターに手を付けておけよ」

 

フィーナ少尉はともかくモスト中尉の表情は一瞬のうちにして危機的なものに変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じくコルサント。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この地には共和国の全てが揃っている。

 

政治や行政、文化の中心地でありまたある宗教の中心地でもあった。

 

今日もジェダイ・テンプルの5本の塔は彼らの栄光を示すかのように聳え立っていた。

 

そんな聖堂たるこの地に1機のT-6シャトルが着陸した。

 

数名の若いジェダイ・ナイトがT-6に駆け寄った。

 

シャトルのハッチが開き赤ん坊を抱いたジェダイが一人帰還する。

 

サヴァントと“エイク”と名付けられた赤ん坊だ。

 

「起こさないように然るべき所へ頼む」

 

数名が頷きサヴァントの腕の中からエイクを預かった。

 

「評議会へ行ってくる、報告しないと」

 

「いや今わしがここで聞こう」

 

杖を付く音と共に見慣れた偉大なマスターは現れた。

 

背後には弟子であったジェダイ・マスターを連れていた。

 

「マスター“ヨーダ”!」

 

「ご苦労じゃったな」

 

「とんでもない」

 

800年以上生きたこのジェダイ・マスターにサヴァントは目線を合わせる。

 

彼の背後に控えていた“ドゥークー”は再会の言葉はひとまず起き本題に移った。

 

「それであの子はどうなんだ?」

 

「才能はずば抜けて高いです…あの数値滅多にお目にかかれませんよ」

 

「では彼こそが“選ばれし者”なのか?」

 

ドゥークーが懸念するのはそこだった。

 

しかしサヴァントは静かに首を振った。

 

「きっとあの子じゃないでしょう。選ばれし者はもっと別の子です」

 

ヨーダとドゥークーは俯き考え始めた。

 

「それに」

 

その一言で2人はサヴァントに目線を向けた。

 

彼はエイクと名付けたあの赤ん坊を眺めていた。

 

「あの子は特別じゃなくていい、私には分かるんですよ。あの子の生真面目な性格は絶対苦労するってね」

 

ヨーダとドゥークーは顔を見合わせた。

 

「当分あの子の面倒は他のジェダイが見ることになりますが、いいですね?」

 

「うむ、やがてはお主のパダワンにしたいものじゃがな」

 

「それはあの子の感じ方次第ですよ。それでは」

 

サヴァントは静かに一言礼を述べ一礼を交わすと2人を通り過ぎた。

 

どうしてサヴァントがあんなことを言ったか流石のグランド・マスターでもわからなかった。

 

しかしサヴァントとあの赤子の師弟が素晴らしいものになるという未来だけはなんとなく見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああクソッ!!」

 

モスト中尉は柄にもなく暴言を吐き捨てた。

 

流石にゼファントもそれを咎めようとはしなかった。

 

実際この状況下は最悪だ。

 

文句の一つや二つ出てくるだろう。

 

だが一応最高階級の者として同様に文句を吐き捨てる事はできなかった。

 

今彼らは正体不明の敵の襲撃を受けている。

 

確認されただけでもバトル・ドロイドが数体、それを指揮する者が数人いる。

 

皆ブラスター・ライフルを装備しこちらに向けて発砲してきた。

 

一方こちらはフィーナ少尉、ゼファント、モスト中尉と3人だけ。

 

しかも手持ちの武装はブラスター・ピストルだけだ。

 

敵の攻撃をなんとか振り切りアンダーワールド・ポータルの近くまで来たが敵に囲まれてしまった。

 

「少佐、これを!」

 

モスト中尉はこちらに小箱のようなものを投げた。

 

これはグラップリング・フックの入った小箱だ。

 

情報部は優秀だな。

 

どうやらフィーナ少尉も同様にグラップリング・フックを持っているようだ。

 

しかしゼファントは気づいた。

 

フックを取り出す彼女を一体のドロイドが狙っている事を。

 

「少尉!」

 

ゼファントはなりふり構わず飛び出し彼女を庇った。

 

なんとかブラスターの弾丸は彼女には届かなかったがゼファントの左腕を掠めてしまった。

 

「くっ!大丈夫ですか少尉…?」

 

「えっええ…ありがとう…ございます…」

 

彼女の無事を確認するとお返しとしてそのドロイドを撃ち抜いた。

 

「少佐大丈夫ですか!?」

 

モスト中尉の心配に対してゼファントは微笑で答えた。

 

「作戦を変えます、最上階で逃げるんじゃなくてここで連中を仕留める」

 

モスト中尉もフィーナ少尉も驚いていた。

 

この状況下でも尚反撃に出ようというのか。

 

「どうせなら情報が欲しい、中尉はジュディシアル機動隊に、少尉はアンダーワールドの」

 

「すでに」

 

彼女はコムリンクを手に持っていた。

 

モスト中尉の方を振り返ると彼も同様にジュディシアル・フォース地上部門の部隊に連絡を取っていた。

 

ゼファントはフィーナ少尉から貰った医療キットで腕の傷に応急処置を施しながら命令を出す。

 

「敵はまだ完全に包囲できた訳じゃない、後方がガラ空きです、だから後退しつつ時間を稼げば味方が来ます」

 

「でもこの先って…」

 

モスト中尉はブラスター・ピストルで応戦しながら尻込みした。

 

ゼファントは静かに頷く。

 

「ああポータルの穴に落ちる、だから稼げる時間はそれまでです」

 

「やるしかありませんね」

 

「ええ、でもジュディシアル部隊はともかく警官隊はすぐ来るでしょう」

 

モスト中尉は頭を抱えた。

 

「はぁ…やるしかありませんね…」

 

「はい、でも敵を捕らえれば真実に近づける」

 

その一言はモスト中尉に活力を与えた。

 

「ではいきましょうか!!」

 

彼らの反撃が始まった。

 

後退しつつ確実にドロイドの数を減らしていく。

 

数体のドロイドが倒れ暗殺部隊は同じく物陰に隠れた。

 

痛む腕を我慢しながらゼファントは引き金を放つ。

 

やはり命中度は先程より落ちているがそれでも棒立ち状態のドロイドなら一撃で仕留められる。

 

再び後退しまた的に打撃を与えた。

 

こうして少しずつ敵を引き付け戦力を削いでいく。

 

しかし未だドロイドしか叩けていないのがゼファントの不安の一つだった。

 

『少佐、間も無く保安部隊が到着します!それまでは耐えられますか?』

 

彼がポケットに入れていたコムリンクが突然鳴り響いた。

 

ずっとスイッチを入れっぱなしだったのだ。

 

「ああ急いでくれると助かります、それよりジュディシアルの機動部隊は?」

 

実を言うと重装備でより戦闘力の高いジュディシアル・フォース地上部隊の方が来て欲しかった。

 

『そちらの方が早く向かうかと、実は保安部隊は今トラブルに巻き込まれてて…』

 

そのオペレーターは少し戸惑い気味に答えた。

 

アンダー・ワールドの治安はあまり良くない事くらいゼファントも知っている。

 

学生時代ここで何回か悪党どもに絡まれたからだ。

 

「機動部隊はあとどれくらいで?」

 

ブラスターの弾丸を避けながらコムリンクに向かって尋ねる。

 

実際それほど彼らに余裕はない。

 

『2分…いや先行部隊はあと1分後です!』

 

「後の部隊は包囲網を展開するように伝令を、もうすぐ増援が来ます!それまで耐え抜いて!」

 

ゼファントは応戦する2人にそう声を掛けた。

 

フィーナ少尉はともかくモスト中尉はその報告を聞いて勢いずいた。

 

後少しで状況は一変する。

 

「少佐ぁ!!」

 

ゼファントの背後からブラスター・ライフルの発砲音と共に数名の兵士が駆け寄る。

 

対ブラスター用に設計された防弾アーマーを着込んだその兵士達こそがジュディシアル・フォースの地上部隊だった。

 

彼らの強力な火器と精密な射撃は殆どのドロイドを撃ち倒し敵を数名負傷させた。

 

「ご無事ですか!?」

 

「ええ…それよりも防衛線を展開して敵を引き付けて」

 

「それが…」

 

部隊の隊長とみえる“一等保安長”が俯いていた。

 

敵は仲間を抱え素早くアンダーワールドの暗闇に逃げ込んでしまった。

 

あまりに呆気ない撤退にゼファントはポカンとしていた。

 

「一体なぜ…」

 

「どうしますか少佐?」

 

一等保安長は上官であり最高階級の彼に尋ねた。

 

「我々の武装と物量を見て不利を悟って撤退した可能性もあります。後続部隊の到着と共に追撃を」

 

一等保安長と隊員達は静かに頷き戦いで疲れ負傷した3人を乗ってきたスピーダーに案内した。

 

 

 

 

 

「中々…だな」

 

モニターを眺めながら彼はそう口ずさんだ。

 

「ええ、指揮能力、戦術を組み立てる力においてはアーガニル様と同等以上でしょう」

 

フォンフは彼にブランデーを差し出すとそう述べた。

 

フェルシルは静かに受け取ったブランデーを回した。

 

まだ古傷が痛む。

 

頭にぶち込まれたクソッタレの弾丸のせいで彼の改造された脳にはダメージが残ったままだった。

 

頭を抑えゼファントの画像を睨みつける。

 

「革命は成功させなければならん」

 

ならばどうするか。

 

決まっている。

 

力で邪魔者はねじ伏せればいい。

 

あの時からそうしてきた。

 

我らは革命と戦いを成す為に造られたのだ。

 

幸いにも今の彼にはそれに手が届きそうな力が有る。

 

失った数少ない盟友達の為に。

 

理由は十分、あとは使命を果たすのみ。

 

今度は遠い銀河の端からではなく首都の中から革命の孤児たるもう一人のサイボーグがまた立ち上がるのだった。

 

残り少ない仲間を引き連れて。

 

そして一人の“()()()”をあの男につけて…。

 

つづく

 



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裏切りの影

-惑星コルサント ジュディシアル・フォース本部 医務室-

ゼファントはジュディシアル基地の医務室にいた。

 

先程の戦闘で掠った腕の傷跡をちゃんと治しておくためだ。

 

これから調査の調査にこれといった支障が出ないようにするために。

 

しかし問題は一つあった。

 

「いてっ!痛いって!」

 

「それは痛覚が通っている良い証拠です」

 

目の前でゼファントの手当てを行なっているこのヤケに嫌な外科医ドロイドだ。

 

“2-1A”と名乗るこの“2-1B外科医ドロイド”は必要以上に傷口にバクタに付けた綿を押し当てる。

 

当然染みて痛い、すごく痛い。

 

かなり力も強い気がした。

 

とにかく痛い。

 

「一応検査はしましたがただの擦り傷で身体に有害な物質などは投入されていません」

 

「そりゃ本当に“()()()”だけですからね、はぁ少し神経質になりすぎじゃないですか?」

 

タブレットに情報を打ち込む2-1Aが振り返った。

 

「当たり前です。貴方は共和国の英雄、下手な場所で死なれては困ります」

 

「逆に殺されそうだ…」

 

皮肉を言いつつシャツの袖を下ろしボタンを止めて、上着の制服を着直した。

 

いつか昇進してもし何かの艦長になった時にはこのドロイドを絶対連れて行ってやる。

 

前線でこき使ってやるとゼファントは柄にもないことを考えていた。

 

すると外から何やら大きな足音が聞こえる。

 

「少佐!」

 

ドアが開きタブレットを持ったフィーナ少尉が駆け込んできた。

 

その時ゼファントは気づいていなかったが彼の心情が思いっきり表情に出ていた。

 

ちょっと心配しすぎじゃないのか…?と。

 

たかがブラスターが掠ったくらいで死ぬようならそもそもジュディシアル・フォースになんぞ入っていない。

 

そりゃ治療は痛かったがある程度は覚悟の上だ。

 

これでも子供の頃ブラスターをぶっ放した事あるんだぞと心の中で思っていた。

 

思いっきり表情に出ていたが。

 

「あぁ…少尉、大丈夫ですから…それで襲撃現場は?」

 

彼女にそう述べると早速フィーナ少尉はタブレットを彼に見せた。

 

「銃弾や弾痕から推定して襲撃者が使用していたブラスターは“RG-4D”の改造品と思われます」

 

「あれは警察とかが持ってるブラスターのはずでは?何故あの連中が」

 

「ええ、でもその警察達が殺されて戦利品として持っていたとしたら」

 

ゼファントは納得した。

 

確かに相手はギャングでそういう趣味の悪い奴もいるだろう。

 

情報部と言えどやはり捜査の能力は一般であっても高い。

 

だがもしかしたら襲撃の痕すら残さない為にあえて警察のブラスターを渡したのかも知れない。

 

多くの推察を持っておくのは重要だ。

 

戦術や戦闘でも、恐らく捜査の面でも。

 

「我々が撃破したドロイドは?種別や機種とか」

 

タブレットをスライドしその情報を彼に提示する。

 

「それが…様々なドロイドを組み合わせた物で特定は難しそうです」

 

「そうですか…」

 

少し落胆した面持ちでゼファントは椅子にかけておいた軍用コートを着た。

 

コートも銃弾が掠った部分には穴が空いている。

 

2-1Aは最後「お大事に」と言ってくれたがそこまでの怪我じゃないだろという思いを募らせるばかりだった。

 

必要以上の心配をされると返って苛立たしいものなのか。

 

ドロイドや少尉の気持ちも汲み取れる分余計にそう思った。

 

「その…少佐」

 

フィーナ少尉がゼファントを引き止めた。

 

また今度はなんだろうか。

 

「私を庇ってお怪我をなされてしまったのですね…すいません」

 

彼女は静かに頭を下げた。

 

ゼファントはいつも通りの微笑で彼女に返した。

 

「部下を守るのは上官の役目ですし軽傷ですからそんなに心配しなくていいですよ」

 

「はぁ…それと」

 

彼女は一つ付け加えた。

 

「部下に対して敬語は控えて頂きたいのですが」

 

まさかの一言にゼファントは少し唖然としていた。

 

「その…他に示しがつきませんし妙な気分になるので」

 

「えっあっはい」

 

言われてみればセルネアン艦隊にいた頃から階級が下の相手でも不思議と敬語を使っていた。

 

早い段階から高職についていたせいだろうか。

 

不思議と階級は下でも年上という者が多かった為敬語が多くなっていたのだろう。

 

確かにそれは気を付けないとな…。

 

ゼファントがそう思うとまたドアが開き1人の士官が入ってきた。

 

彼にとっては見慣れた士官だ。

 

「大尉、あっいえ少佐、あの件でガコン少佐がお呼びです」

 

「分かりまし…わかった、少尉君は引き続き調査を頼む」

 

若干少尉に睨まれた気がする為ゼファントはあえて言葉を訂正した。

 

「少佐、私も同行を」

 

「いや少尉は調査の方を頼み…頼む。後でわかった事を報告して」

 

フィーナ少尉はまだ納得していない様子だったがゼファントは彼女に頼んだと念を押した。

 

ゼファントは少尉に全てを託してガコン少佐の下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

戦術研究課は相変わらずいつも通りであった。

 

戦史資料を漁り勝利の要因を解き明かしたりそれを基に新たな戦術を編み出す。

 

前線の兵士達からすれば簡単な仕事だ。

 

しかし彼だけは違った。

 

ヴァス・ガコン少佐は疲れ切った表情で青白いモニターを操作していた。

 

数十時間ほど前ようやく新たな戦術資料が完成し終わったと思ったら元部下のゼファントから

 

「アーカニアン革命の革命軍戦力や確認されている人員を全てまとめて置いて欲しい」

 

と来たのだ。

 

しかも至急、大急ぎで。

 

結果彼はほぼ丸一日飲まず食わずで休む事なく仕事に費やしたのだ。

 

「たく…ゼファントめ…あの革命戦の資料が多いのは知ってるだろうに…全部俺に丸投げしやがって…自分でやれっての。デスク仕事もあいつの方が上だろうに…」

 

「“()()()()()”なんですか?」

 

ガコン少佐がキーボードを打ちながら愚痴を言っているとドアが開き愚痴るべき相手が姿を表した。

 

今見ると少しばかり腹の立つ男だ。

 

自分でも若干不機嫌な顔になっていると自覚していた。

 

「はぁ…同じ階級になった途端無茶を送ってくるとはいい度胸だな、“()()()()()()()”」

 

ガコン少佐はため息と冗談を交えてこの状況を作り出した元凶をいじった。

 

「でも少佐なら出来ると思っていましたよ。ありがとうございます」

 

「まるで嬉しくない…全部の資料は出来てはいないが必要そうなのはもうある」

 

流石の仕事の早さだ。

 

若干のふらつきを抱えたまま彼はデータテープを近くのホロテーブルに差し込んだ。

 

ホログラムが映し出されいくつか項目別に分けられていた。

 

「取り敢えず欲しそうな情報から行くぞ」

 

テーブルを操作しオーラベッシュで書かれている“()()()()()()()()”の項目をタップした。

 

大量のファイルが一体一体の顔と共に添付された。

 

「取り敢えず知ってそうなアーガニルから行くぞ」

 

ゼファントは頷きガコン少佐はアーガニルの項目をタップした。

 

「正式な製造番号はTC-01、革命軍の宇宙艦隊を指揮し正規軍艦隊に勝利…その後ジュディシアル艦隊により討伐」

 

それでガコン少佐の報告は終わった。

 

「これで終わりですか?」

 

「ああ、“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”しそれに俺のアクセス出来る情報には限りがあるからな」

 

なら仕方ないか。

 

そう割り切るしかなかった。

 

この研究課に属していた時も度々こういうことがあったものだ。

 

情報面でも共和国の限界を知らしめられる。

 

「じゃあアーガニルの艦隊の乗組員や彼が防衛していた地上のサイボーグのデータを」

 

「わかった」

 

ホログラムとテーブルを操作しまずは彼の艦隊メンバーとされているサイボーグ達を映し出した。

 

姿形は分かっていてもそこに記載されている情報はとても少なかった。

 

「FC-223…FC-224…船長クラスから乗組員クラスまで含めてみんな死んでますね」

 

「一応はな、だが肝心のアーガニルだって昔はこの中の資料に埋もれていた。まさに甦ったって感じだな」

 

「でも奴が生き残れたのは奇跡に等しいです。アーガニル艦隊はこの時点で全滅していますし」

 

この広いコルサントの最上階から最下層に至るまでを生きてるかすら分からないサイボーグを探り出すのは無理だ。

 

そこでゼファントは少し思考を巡らせ今度は別の方向から探る事にした。

 

「……艦隊がダメなら地上部隊はどうでしょうか?同時刻にハリス“()()”が奇襲に打って出ています」

 

「なるほどな…出すぞ」

 

ガコン少佐は納得し地上部隊のファイルを開いた。

 

地上部隊も同じように多くのリストと少ない情報が載っていた。

 

むしろ姿形は実際に直接戦闘した為地上部隊の方が多く感じた。

 

ゼファントはその中で一番最初に現れたサイボーグに目が留まった。

 

「少佐、この人物をお願いします」

 

不思議に思いながらもガコン少佐は言われた人物の記録書を映し出した。

 

他のサイボーグと同様に顔と押収された資料が提示される。

 

「GC-09…仲間内では“フェルシル”と言われていたそうだ」

 

「フェルシル……」

 

それは忘却の彼方からコルサントの暗闇まで這いずり上がった者の名前。

 

それはもう一人の亡霊の名前であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…これじゃあ判る事は少なさそうですね…」

 

あたりの写真や状況を記録資料に残している上等保安士が溜息混じりに吐き捨てた。

 

破壊されたドロイドやブラスターの弾痕も全てわかる事が少ない。

 

用意が周到と言ったところだろうか。

 

「これは少佐も落胆するだろうな…」

 

モスト中尉がガッカリした表情でそう言った。

 

「保安長!」

 

モスト中尉は周辺を警備する警備隊長のミリッツ一等保安長を呼んだ。

 

「この件は情報部直轄だ。一般警察にはこれ以上関わらせるな」

 

ミリッツ一等保安長は静かに頷いた。

 

本当はこんな横暴な真似したくはないのだが任務が任務故仕方無い。

 

アカデミーにいた頃からそんな事腹を括っていた。

 

情報部なんて組織の中でも真っ黒に近しいものだ。

 

「少尉、私は情報部の方に戻るので少尉はゼファント少佐に」

 

「わかりました」

 

「頼む」

 

そういうとモスト中尉は数名の兵を引き連れてスピーダーの方へ戻った。

 

フィーナ少尉もそろそろ少佐の元へ戻ろうかと思った矢先彼女が持つ“()()()()()()()()()()”が鳴り始めた。

 

何かと思いつつ彼女はポケットからコムリンクを取り出した。

 

「少尉、どちらへ?」

 

近くにいた二等保安長が彼女にどこへ行くかを尋ねた。

 

「情報部から通信が、ここは任せた」

 

「はい少尉。お気をつけて」

 

二等保安長の敬礼に見送られフィーナ少尉は“裏の顔に変わった(元に戻った)”。

 

彼女は少し離れた所でコムリンクの回線を開いた。

 

少し低めの男の声が聞こえる。

 

「どうした?」

 

『いや…渡したい情報と物がある、この下の階層に来れるか?』

 

「ええ…今すぐに」

 

彼女はコムリンクのスイッチを切るとそのまま別のポータルを経由してもう一つ地下の階層に移った。

 

路地をそのまま少し歩いているとどこからか手招きされた。

 

(仲間)”と確信したフィーナはあたりを確認すると手招きをした相手の下へ近づいた。

 

「早かったじゃないか」

 

「ええ、だから早く戻らないと」

 

その“アベドネド”の男は小刻みに頷くと早速彼女にデータテープと何かのケースを渡した。

 

「これは何?」

 

「あのお方からだ、流す偽の情報と“暗殺器具”だ」

 

アベドネドの男は説明し彼女に注意した。

 

「こいつに含まれている毒は少し吸っただけで一瞬で死に至る。だからお前も気を付けろよ、間違って少しでも吸ったらお前が即死だ」

 

「忠告どうも、で誰を殺せばいいの?ドレイヴン大佐?セルネアン少将?それとも…」

 

「“ゼファント・ヴァント”…奴だ、お前の上官であり今あのお方が最も危険に思われている方だ」

 

分かり切っていた事だがフィーナは何故かこの時躊躇いを覚えた。

 

それがどうしてなのかは後でわかるが今は分からなかった。

 

今まで生きる為どんな相手だろうと殺して来たがなぜか今回だけは少し躊躇いを覚えた。

 

「奴に不意での襲撃は効かん、お前だって奴を殺せる隙がなかったんだろう?」

 

「えっ…ええ…そうよ…」

 

彼女は戸惑いながらも応えた。

 

男は一瞬不思議に思ったが優秀な彼女の言葉を信用した。

 

「とにかくあのお方は早急にゼファント・ヴァントがこの世から消えることを望んでおられる。頼んだぞ」

 

「ええ……私達には他に生きる道が無いのだから」

 

「そうだな…じゃあ任せたぞ」

 

そう言い残すとスタスタとアベドネドの男は去って行った。

 

長居する必要もないしむしろ長居していると危険だ。

 

フィーナは自らが言った言葉をもう一度噛み締めた。

 

彼女達の真実を。

 

恵まれない地下街に生まれた弱き子供達はずっと強い者に従うしか生きる道はなかった。

 

もう絶対に許されないと分かりきっていても他に生きる方法を知らなかった。

 

そして死ぬことも同時に出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-コルサント 元老院地区/別名連邦管区 元老院オフィス・ビル-

「議員、お待ちください」

 

元老院オフィス・ビルを複数人の秘書と共に歩くパルパティーン議員を誰かが呼び止めた。

 

濃い青色のマントとヘルメットを見に纏い右手には警備用のスパイクを持った集団は議員に尋ねた。

 

「市街地へ出向かれるおつもりですか?」

 

「無論だ、ヴァローラム氏と今日は重要な会議があるからな」

 

パルパティーン議員は真面目な表情で青き元老院の守り手“セネト・ガード”達に答えた。

 

コルサントの地下階層を軽視するヴァローラム氏に対して現在の危機敵状況の提示と対策を話し合う為だ。

 

それを聞いたセネト・ガードの隊長は提案した。

 

「それでしたら我々の護衛を、最近市街地は危険ですので…」

 

「だがなせっかく1対1で腹を割って話すのにこちらが護衛で威圧してはまずいのではないかね?」

 

「ですが共和国全保安部隊の決定です。それにヴァローラム行政官もセネトの護衛を付けております」

 

ガードの隊長はいっっこうに下がろうとしない。

 

このままでは平行線だ。

 

ならば妥協するしかあるまいとパルパティーン議員は渋々思った。

 

「…わかった2名だけ同行を願おう」

 

「ありがとうございます、インティール、ザックス、パルパティーン議員を護衛しろ」

 

「ハッ!!」

 

2人のセネト・ガードはパルパティーン議員のすぐ後ろについた。

 

議員は気にせずそのまま2人を引き連れて歩き出した。

 

すると先ほどインティールと呼ばれたセネト・ガードがこっそりパルパティーン議員に耳打ちした。

 

「なれないとは思いますが我慢してくだされ」

 

「そうするよ、それか“()()()()()()”どっちかだね」

 

冗談まじりにパルパティーン議員は返すとインティールは苦笑を浮かべた。

 

「そうなったら是非お世話になりたい所です。セネト・ガードじゃ扱いが悪いもんで」

 

「キツいことを言ってくれる。なかなか面白いな君」

 

「ええ、でも面白いだけじゃありませんからね。ちゃんと腕も立ちますよ」

 

パルパティーン議員は微笑を浮かべた。

 

思ったよりフランクなガードがついてくれた。

 

そして同じようにセネト・ガードの“インティール・エルゼドー”もヘルメットの奥で微笑を浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハリス・セルネアン大佐の大隊が奇襲を仕掛けた際基地の指揮を取っていた指揮官タイプであり戦闘終了後行方不明…」

 

「普通は死んだでしょうね、普通は」

 

完全に疑いの目となった今のゼファントには行方不明という単語だけで十分怪しかった。

 

そんなゼファントはまだガコン少佐に尋ねる。

 

「他のサイボーグの生死はどうなんですか?行方不明は他にもあるんでしょうか」

 

ずれ落ちるメガネを抑えながらガコン少佐は答えた。

 

「いや他はみんな“()()”や“()()”が見つかって死亡が確認された…まさかお前発見された遺体まで漁るつもりじゃないだろうな?」

 

「そこまではしませんよ、どうせ共和国の事だろうから残ってないだろうし…なら今の所一番怪しいのはこのフェルシルですね」

 

ゼファントは突っ立ってるガコン少佐を少し退けホロテーブルを操作した。

 

より詳しいフェルシルのデータを見る為だ。

 

テーブルを操作しながらゼファントは話し出す。

 

「巧妙なハッキングやアーガニルと連携、高度な部隊の編成に指揮能力の高さ…これらを鑑みてもアーガニルと何か関わりを持った地上指揮官のサイボーグだと思います」

 

「それでこいつと」

 

「ええ、知っとく分には問題ないですし」

 

ゼファントはそう言って資料のデータをコピーし始めた。

 

これだけ膨大な資料のコピーには時間が掛かる為ゼファントはアーガニルとフェルシルのファイルのみコピーした。

 

するとふと何かを思い出したガコン少佐がゼファントに揶揄うように言った。

 

「そういえばお前情報部のドレイヴン大佐から美人の部下をもらったそうじゃないか。どうして今日は連れてないんだ?」

 

「彼女には今捜査の方をして貰ってますよ」

 

ホログラムを眺めながらゼファントは冷たく返した。

 

「まさかあまりに綺麗どころだから俺に見せたくないのかぁ?なぁにもう妻も子供もいるし寝取ったりしないから安心しろ。私はそこまでオオカミじゃない」

 

悪い笑みを浮かべ冗談を交えるガコン少佐にゼファントは苦笑を浮かべていた。

 

冗談を言っているように見えるがその目は何処かこちらの理由を悟っているような気がした。

 

考えすぎかもしれないがこの人に本心は隠せないかと思いゼファントは全てを白状した。

 

「………実の所言えばまだ彼女を完全には信用していないんですよね…情報部員としてはとても優秀ですが」

 

「美人を信用しないとは罰当たりな奴だな。世の男どもが聞いたら泣いて殺しにくるぞ。で、何か理由があるのか?」

 

「ええ…実は…」

 

この時もゼファントは一瞬躊躇ったがやはり長い事世話になっているガコン少佐には隠せないと悟り喋った。

 

「なんというか…時々彼女から殺気を感じるんですよね…若干不審な動きも見られますし…」

 

ゼファントは優秀な彼女を疑ってしまう自分を責めつつも冷静に分析した。

 

数十時間前襲撃を受けた時もフィーナ少尉を狙う敵は少なく彼女もあまり熱心に応戦していなかった。

 

ただモスト中尉が熱心すぎて相対的に熱心に見えなかっただけかも知れないし実際に彼女を庇ってゼファントが負傷している事から単なる勘違いかも知れない。

 

しかし殺気の方は説明が付かなかった。

 

「じゃあ彼女が敵のスパイだとでも?」

 

「いえ、そこまでは…ただ妙に身構えてしまうんですよね。まあ単純に今までない女性のタイプだからかも知れませんが」

 

「そうか…まっ深くは気にしない事だ。それに上官が部下を信頼してやらねば部下は応えんぞ?」

 

珍しく少佐の意見に賛同した。

 

確かに自分が信用しないのではなく信頼してやらねば何も始まらない。

 

この時ゼファントは自分の“上官”としての未熟さに反省した。

 

「ですね、取り敢えずこの2人はもっと調べてみますよ」

 

「ああ、こっちも残りの資料を纏めたら送っとくよ」

 

ガコン少佐に軽く敬礼するとゼファントは部屋を退出した。

 

ゼファントは資料をじっと見つめながら戦術研究課の通路を歩いた。

 

当然考え事も含めて。

 

(フェルシル…アーガニルもそうだったようにより特化したサイボーグを相手にするのは相当手こずるだろうな…)

 

だが諦める訳にはいかない。

 

すでにこの時彼らをアンダー・ワールドから引き摺り出す策をいくつか編み出していた。

 

だが流石に考え事ばかりでは疲れてしまうのでぼーっと窓の外を眺めた。

 

下には候補生の制服を身に纏いブラスター・ライフルの射撃訓練をしている少年少女の姿があった。

 

戦術研究課とジュディシアル・アカデミーは複合施設であり通路を歩けば候補生達がいるなど珍しい事ではなかった。

 

何せ数年前まではゼファントもあの中にいたのだ。

 

そう考えるとついこないだあの時の仲間達とは会ったはずなのに感慨深くなってくる。

 

それに眼前の若者…と言っても数歳の違いしかないがそんな彼ら彼女らと共に戦う日が来ると思うと口角が上がる。

 

心の中でゼファントは若き戦士達に激励を送った。

 

いつしか肩を並べられる日を楽しみにして。

 

「さてと…早く合流しないとな」

 

「ゼファント少佐」

 

どこからか彼を呼ぶ声が聞こえた。

 

振り返るとゼファントと同じ青い制服を身につけ中佐の階級章を付けた青年が立っていた。

 

茶に近い黒髪でオールバック、何処か紳士的に見えて油断ならない雰囲気を醸し出している。

 

その声や姿は相手を自然と威圧し恐怖で支配するかのような効力があるかのように思えた。

 

「失礼ですが…貴方は?」

 

「“ウィルハフ・ターキン”中佐だ、君の活躍は聞いているよ少佐」

 

その男“ウィルハフ・ターキン”中佐は冷笑に似た笑みを浮かべゼファントに近づいた。

 

まるで何かの指導者となるべく生まれたかのような男だ。

 

ターキン中佐は全身から指導者たるオーラを放っていた。

 

ゼファントはそんなターキン中佐から握手を求められた為快く手を握った。

 

「えっと…ありがとうございます中佐…」

 

「君には世間話をしに来たわけではないのだよ。すまないが少し来てくれ」

 

「はぁ…」

 

そう言ってゼファントはターキン中佐に通路の角へ連れられた。

 

するとターキン中佐はこっそり彼に何かのデータテープを渡した。

 

「君がアーガニルを打ち破った数時間前、私の故郷である大セスウェナの領域でも不可解な船の移動が見られた」

 

ゼファントのセンサーはアーガニルという言葉に素早く反応した。

 

そこからゼファントの表情は一気に真剣になった。

 

「辺境の保安軍は調査はしたが結局見つかりはしなかったそうだ…だがこんな情報は掴んだ」

 

ターキン中佐の話に耳を傾けずにはいられなかった。

 

「様々な領域や宙域から集まった艦船は今もなおコルサントを目指していると」

 

「ではいずれ革命艦隊が奇襲に…」

 

中佐は静かに頷いた。

 

彼はゼファントにアドバイスをした。

 

「我が一族が手に入れた情報は君に預けるよ。敵の通信を傍受したものも入っている」

 

「そんなものどうやって…」

 

この国(共和国)が平和に溺れている間に私達は己の牙を研いできたのだよ。君の一族と同じようにね」

 

その一言は彼らの戦士としての血族を簡潔に表していた。

 

ターキン中佐はゼファントの肩を優しく叩くとまた一つアドバイスを付け加えた。

 

「その情報は是非“()()()”読んでくれ、まだ君は部下を信用するべきではないからな」

 

そういうとターキン中佐は軽く手を振り去って行った。

 

不思議で尚且つ全てのことにおいて的を得ている人だとゼファントは思った。

 

とにかくこの情報の真意確かめねば。

 

ゼファントはデータテープを握り締めその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少佐!」

 

フィーナ少尉は情報部のオフィス前で待つゼファントに声をかけた。

 

彼は相変わらずの微笑を浮かべて手を振った。

 

今のフィーナ少尉にとってはその微笑は毒でしかなかったが。

 

「お疲れ様、わかった事があったら明日頼む。私はひとまず官舎に戻らねば」

 

チャンスが失われると思ったフィーナ少尉は作り笑いを浮かべ彼に進言した。

 

「ではお送り致しますよ」

 

「それは嬉しいね。では早速行こうか」

 

ゼファントはコートをたなびかせながら彼女と共に歩き出した。

 

彼女はただゼファントの後を追うだけだった。

 

ゼファントは時々たわいもない会話を彼女に投げかけた。

 

「そしたらガコン少佐が『丸投げしやがって〜』とか愚痴っててさぁ」

 

愛らしい笑みを浮かべフィーナは彼の若干口に近い会話を聞いていた。

 

その中でじっとチャンスを待つ。

 

彼を“仕留める”ためのチャンスを。

 

情報部のオフィスからだいぶ離れ人混みも少ない場所に2人は出た。

 

チャンスは今しかない。

 

そう思って彼女はポケットから毒の入った武器を取り出す。

 

手の中に隠しいつでも使用できる状態にする。

 

そして覚悟を決め思いっきり武器を突き出したその時…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は突然しゃがみ込んだ。

 

突然だったため彼女は勢いに押され倒れ込みかけた。

 

そんな彼女をゼファントは優しく支える。

 

「大丈夫かい少尉?」

 

「えっ…ええ…すいません少佐…」

 

「いいんだよ、私も靴紐を直していたしね」

 

失敗の後悔とずるずると崩れゆく覚悟をフィーナ少尉は感じた。

 

しかしまだ次がある。

 

次成功すれば必ずあの方は勝つだろう。

 

そうすれば彼女はまた生き延びることが出来るだろう…。

 

何をしてでも生き延びねばならない。

 

「それじゃあ少尉、行こうか」

 

「ええ、少佐」

 

少尉の作り笑いには悲しき何かが混ざっていた。

 

ゼファントは再び会話を行うものの決して後ろを振り返ろうとはしなかった。

 

今振り返ってはきっとバレてしまうだろうから。

 

運命を、行うべき任務を悟ったその顔を。

 

そして2人はこれから様々な感情が入り混じった“最後の革命”へとその身を投じるのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ」

 

浜を去って行こうとする青年は男は引き止めた。

 

青年はちゃんと止まり男に尋ね返した。

 

「なんだい?私も私のいるべき場所に戻らないとけない」

 

「少し見ていかないか?ここでなら全てが分かる。生きているうちに真実に辿り着いた君…いや、君たちの特権だ」

 

青年は頭に疑問符を浮かべているようだった。

 

「何を見ていくんだ?」

 

「あれを見ろ」

 

男が指を刺した先、青年が乗ってきた“()()()”の姿が徐々に変わり始めた。

 

船がもう一隻増え美しい星空がシアターのスクリーンのように何かを映し始めた。

 

「これは?」

 

「伝説だよ、君の時代の。君も関わった伝説さ」

 

「あれは…っ!」

 

青年は早速釘付けになった。

 

「ここに来るといい」

 

男は手招きし青年を自分の隣に座らせた。

 

感じるはずのない砂の触感がこの時ばかりは何故か感じた。

 

「君達には感謝しても仕切れないよ。運命の歯車は」

 

彼によって開かれたのだから。

 

 

つづく




ジュディシアル・フォース万歳!ジュディシアル万歳!(こんにちわの意)
帝国万歳!帝国万歳!(お久しぶりですねの意)
惑星防衛軍最高!(また移行し終わりましたので見て行って下さいなの意)


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腐りゆく大地

 

-コア・ワールド 共和国首都惑星 コルサント 軌道上防衛艦隊駐留地点-

コルサントの軌道上。

 

銀河共和国は軍隊を持っていなくともジュディシアル・フォースやセネト・ガードのような治安部隊は例外である。

 

それに我が身我が星を守る為と独自に自衛の為の惑星防衛軍を設立したり元よりそう言った類の軍隊を保持している惑星政府もあった。

 

軌道上に位置する“コルサント本国防衛艦隊”もそのうちの一つだ。

 

枠組みとしてはコルサントの惑星防衛軍、惑星防衛艦隊であり彼らの艦隊は常に鉄の守りを敷きこの広大な首都惑星を守り続けて来た。

 

コルサント市民1兆人以上の命は彼らとコルサントの地上部隊、ジュディシアル・フォースなどに任されていると言っても過言ではない。

 

「サリマ提督、大セスウェナ領域の保安軍より報告が」

 

そんな防衛艦隊の司令官である“ヴィーズ・サリマ”提督は旗艦ガーディアンのブリッジで部下の報告を聞いていた。

 

「あそこの軍が何故私に…まあいい、ホロテーブルに出してくれ」

 

「はい」

 

2人はブリッジに備わっているホロテーブルに移動した。

 

士官はそのままテープデータを差し込みホログラムを起動した。

 

テープデータに添付されていた情報を二人は読み取る。

 

「これは………まさか!」

 

サリマ提督は送られて来た情報の意図を一瞬で見抜いた。

 

そして一気に戦慄の表情となった。

 

冷や汗が彼の額を冷たく流れる。

 

「確か今地上では大規模犯罪組織の捜査が行われているな?」

 

「はい、コルサント攻撃を画策する艦隊がいたらしいですからね。しかもその間に地上の対空システムや防衛システムがいくつか異常行動を起こしていたとか」

 

「この情報は地上の部隊やジュディシアル・フォースにも贈られているか?」

 

士官は頷いた。

 

「この情報はハンバリン、アナクセス、コルサント、クワットなどに送られています。当然ジュディシアルの幹部将校達にもです」

 

「……私は今すぐ地上に降りる。それとゼント提督や他の諸将に連絡を、これは大変なことだ」

 

サリマ提督は足早にブリッジを後にしようとした。

 

しかし何が何だか分からない察しの悪い士官は彼に尋ねた。

 

「お待ちください。どちらへ向かわれるのですか?」

 

説明する時間はなかったが要点だけ彼に放り投げた。

 

「ジュディシアル・フォースの本部に決まっている。後数日、数週間、数ヶ月もすればここは…」

 

そうここはああなる。

 

ああなってしまうのだ。

 

「ここは戦場になる。防ぐ為には今行動するしかない」

 

「戦場…」

 

その言葉の重みは理解していてもどうしてそうなるのかまだ士官には理解出来ていなかった。

 

「とにかく私はジュディシアル本部に行く。緊急時はミーケル中将を頼れ!それとヴァント中将も呼び出せ」

 

そう言い残し彼の副官が足早に背後に着くとと彼は今度こそブリッジを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊はいつ来るのだ?」

 

フェルシルはふと隣で茶を入れるフォンフに尋ねた。

 

「貴方様が旗を上げる頃に御座います」

 

「盟友は…そうか他にもういないのか」

 

「はい…残念ではありますが…」

 

フェルシルは“()()()()()”。

 

それは自然と流れる涙であった。

 

「フェルシル?どうかされましたか?」

 

フォンフは彼を心配して声をかけた。

 

「フォンフ…静かにしてくれ、今は弔いの時間だ」

 

「申し訳ありません…失礼いたします」

 

そう言ってフォンフは静かに部屋を後にした。

 

彼はあの革命のあの戦い以来身体に受けたダメージのせいで感情のコントロールが効かなくなる事が多々あった。

 

特に彼の意思に関係なく涙腺が崩壊し涙が流れる事が多い。

 

それはサイボーグとして戦士としての悲しき運命だろう。

 

だがフェルシルは逆にこの涙を亡き兄弟達を弔う聖なる涙だと思っていた。

 

例えそれが回路に撃ち込まれた弾丸のせいだとしても構わない。

 

彼らを想い弔う時間が少しでも必要だ。

 

それと同時に彼は強化された脳をフル回転で動かし策略を巡らせていた。

 

嘆くことは誰にでも出来る。

 

だが亡き者達の墓前に捧げ物をしなくてはならない。

 

革命の成功という捧げ物を散った仲間達に。

 

その為には今の我らでは力不足だ。

 

ならば力を蓄え相手を弱らせなくては。

 

最大の障害を全て取り除き革命の御旗を故郷とこの忌まわしい首都に掲げなくては。

 

すでに駒の配置は完了している。

 

最も使える駒は“()()()()()”に付けてある。

 

後は隊の編成をするだけだ。

 

涙を流しながら笑みを浮かべるフェルシルの顔は哀しく醜く歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼファントが情報部のオフィスに顔を出したのはいつもより一時間ほど遅れてだった。

 

基本的に遅刻はしないゼファントが今日に限って遅れるなど皆不思議がっていた。

 

また何かに襲われたのではないかと言う余計な心配まで出始めていた。

 

しかし一時間後彼は変わらずに顔を出した。

 

「少佐、今日はどうされたのですか?」

 

モスト中尉は心配を含めた表情でゼファントに尋ねた。

 

しかしゼファントは野暮用があったと言うばかりで一向に本当の事を言わなかった。

 

情報部員達も深く聞いても仕方ないのでこれ以上詮索はしなかった。

 

「それで、早速報告をしてくれ」

 

それでも2人はまだ納得していなかったが埒が明かないので報告を始めた。

 

「先日少尉から聞いたままです。襲撃者は完全に姿を消しました」

 

「コルサント保安部隊も捜索を続けていますが未だそれらしい人物は発見に至っておりません」

 

ゼファントにとっては予測の範疇だった。

 

そこで彼は別の方向から尋ねた。

 

「破壊されたドロイドや現場の証拠は何かあったか?」

 

「いえ、弾痕もより詳しく調査しましたがダメでした。ドロイドの方も同様です。連中思ったより機密性が高い」

 

「そうか…」

 

ゼファントは少し落ち込んだように見えた。

 

しかしすぐに顔を上げ再び頭を回転させ始めた。

 

「ここまで情報を残さないとなると考えられる事は2つだ」

 

「2つ?」

 

モスト中尉がすぐに聞き返した。

 

ゼファントは頷き端的に説明を始めた。

 

「1つは雇われた凄腕の暗殺者ですでに失敗しコルサントから逃亡したか。もう1つは調査中のコルサント保安部隊に裏切り者がいるか」

 

2人はハッとした。

 

前者の予想はともかく後者の予想は意外だったのだろう。

 

モスト中尉がすかさず反論する。

 

「有り得ませんよ。あの保安部隊に裏切り者がいるなんて…」

 

「裏切り者というより成り済ましている可能性も十分有り得る。それに情報部もジュディシアル部門も保安部隊の捜査には介入してないんでしょう?」

 

「ええ…確かに保安部隊の一部が反対して…いやまさか…」

 

まさか裏切り行為に悟られぬように反発しているのか。

 

ゼファントの一言でモスト中尉も徐々に反論の根拠を失い始めた。

 

「まだ確証がないので何とも言えませんが調べてみる価値はあります」

 

ゼファントは席を立ち隣の椅子に掛けておいたコートを手に取った。

 

フィーナ少尉とモスト中尉もゼファントに続いた。

 

「中尉と少尉は宇宙港の捜査を。味方まで疑ってるのは私だけで十分ですから」

 

「いえ、私は少佐に同行します」

 

フィーナ少尉は珍しく真っ向から反対した。

 

モスト中尉もそんな彼女を意外そうな目で見ていた。

 

「でも宇宙港の捜査は大変でしょうし…」

 

「仮に保安部隊に襲撃犯がいたとして少佐が一人では危険です、私が守りますので」

 

「いやでも…」

 

「そうですよ少佐、リースレイ少尉は優秀ですしきっと役に立ちますよ」

 

モスト中尉はそうフィーナ少尉をサポートした。

 

ゼファントはこれで反論する言葉を失った。

 

確かに単純な戦闘力は圧倒的にフィーナ少尉の方が強い。

 

ゼファント一人を守り蹴散らすのも全て朝飯前だろう。

 

さらにモスト中尉は続ける。

 

「私の方は手の空いている情報部員を何人か知ってるので人では心配しなくて結構です」

 

どうやら連れて行くのは確定のようだ。

 

なら仕方ない。

 

「…わかった、では少尉行きましょうか」

 

「はい、少佐」

 

彼女はいつも通りゼファントの後ろに付いた。

 

まだ彼女とは出会って数日しか経っていないが後ろに誰かがいるのは慣れてきた。

 

しかし流石のゼファントでも彼女の揺れ動く思考までは完全に探知出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドレイヴン大佐は自らの執務室の窓からコルサントの市街地を見つめていた。

 

本来ならただの大都市だが今のドレイヴン大佐からすればまた別のものに見えていた。

 

この惑星の大地は腐っている。

 

この惑星の地下は腐り朽ち果てている。

 

そしてこの国の指導者達も腐敗していた。

 

犯罪者や浮浪者に覆われたアンダー・ワールドはいつ崩壊が始まってもおかしくない。

 

いやすでに始まっているかも知れない。

 

むしろ一回崩壊しただろう。

 

かつてはコア・ワールド全体で人口爆発が起こりこのコルサントも、特に地下街は酷い有様だったらしい。

 

食料や仕事を求める浮浪者に近い者達が溢れかえりアンダーワールドでのデモや治安悪化が進行していた。

 

これらの問題は増えすぎた人口をアウター・リムに移民させる事で表向きには解決したらしいのだが実際はそうではない。

 

むしろ移民者と辛うじてアンダーワールドに留まった貧乏人達の怒りは二分され脅威は二つに増えてしまった。

 

しかも若干の空きが出来たアンダーワールドに居座ったあの連中は貧乏人の怒りなんかより余程の脅威だ。

 

今ゼファント少佐と部下達に追わせているあの大部隊はいつでもコルサントに、共和国元老院にその刃を突き立てられる。

 

そして受ける側の共和国はもう脆く、防ぐ我らの力はそこが知れている。

 

……今回ばかりは共和国もダメかもしれんな。

 

ドレイヴン大佐は自分らしくないなと思いつつも自嘲気味に笑みを浮かべた。

 

だがこのまま腐らせておく程楽観的には考えられない。

 

現実主義者たる彼は日和見主義者の元老院や政府とは根本が違かった。

 

尤もいち情報部士官のドレイヴン大佐がそこまで介入出来るかと言われれば無理な話だが…。

 

しかし宛は幾つかある。

 

そのうちの一つが来たようだ。

 

『大佐、ターキン中佐がお見えです』

 

「入りたまえ」

 

分厚いブラスト・ドアが開きドレイヴン大佐が期待する1人の男が入ってきた。

 

笑みを隠し平常の姿を見せる。

 

「ターキン、困るじゃないか勝手に情報を渡すなんて」

 

少しばかりのジョークと皮肉を込めターキン中佐の行動を挙げた。

 

すると中佐は彼特有の不思議な笑みを浮かべた。

 

「まさか気づいていたとは、さすがはドレイヴン大佐ですな」

 

「目は常に光らせておくものだ。君達のようにな」

 

2人は皮肉めいた笑みを浮かべた。

 

やはり彼は“()()()()()()()()()”だ。

 

私とは違う。

 

私達のような古い前世代の人間にはないものを彼らは持っている。

 

羨ましい限りだ。

 

「既に艦隊の方まで君は手を打っているそうじゃないか」

 

「ええ、古びた革命の因果を断ち切るいいチャンスですから。コルサントの方は?」

 

「知っての通りゼファント少佐と情報員を数名派遣している。時期に妙案を思いついてくれるだろう」

 

「ではひとつ尋ねたいことが」

 

「何だね?」

 

ドレイヴン大佐は質問を許した。

 

ターキン中佐は一つの疑問を隠す事なく尋ね始めた。

 

「なぜ彼に“()()”を付けたのですか?あれでは捜査以前にゼファント少佐が危険で」

 

「彼は君と同じでそんな柔い男ではない。その点は問題なしだ」

 

「ならば余計に気になる。何故“()()”である彼女を少佐に差し受けたのかが」

 

まさかそこまで読んでいるとは。

 

なら話しても良いかもしれない。

 

幸いターキン中佐は口が堅く誰かに話すことも口を割られることもないだろう。

 

それにゼファント少佐や他の者に漏らす事はないと考えられる。

 

「中佐、君は彼女…リースレイ少尉をどう思う」

 

ドレイヴン大佐は敢えて質問を質問で返した。

 

ターキン中佐は尻込みする事なくありのままを喋った。

 

「“()()”である以外は優秀でしょう。諜報能力、戦闘能力の両方を兼ね備えた正に期待の星だ」

 

「ではそんな彼女が“()()()”を持ったまま“()()”に変わったとしたら?」

 

ターキン中佐は珍しく口を開け納得を浮かべていた。

 

しかしすぐにその表情は陰謀詐術を企む笑みと変わった。

 

「なるほど…ですがうまくいくでしょうか?」

 

「高望みしすぎと言われればそれまでだが私はできると踏んでいる。ゼファント少佐にはそれだけの技能がある」

 

ドレイヴン大佐は椅子を動かし腰掛けた。

 

デスクに肘を立て指を組み始める。

 

彼が考え思い描いていることは至極非道な事だ。

 

だがそれが勝利へとつながるなら躊躇う必要はないだろう。

 

彼女には精神的に犠牲になってもらう。

 

「さて…二重情報員のリースレイ少尉が誕生するのを待とうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宇宙港の履歴を調査するモスト中尉はタブレットを眺めながら唸っていた。

 

今仲間と手分けをして調査しているが怪しい点は殆どない。

 

もしかしたら少佐の方が当たってたかもなと思いつつモスト中尉は命令を出した。

 

「次は貨物船の方充填で行くぞ、密航してるかも知れん」

 

彼と同じコートを纏った情報員達が頷く。

 

全員散開しそれぞれが仕事を始めた。

 

モスト中尉も再びタブレットで幾つかの船の監視映像を眺め始めた。

 

数秒後彼はある異変に気づいた。

 

そこで隣にいる同じく情報員の“キーリク”中尉を引っ張る。

 

「おいこれこの貨物船おかしくないか?」

 

「何が、特に変なものは積んで無いぞ?」

 

「そうじゃなくて床を見ろ、僅かに線が入ってる」

 

モスト中尉は指を差しキーリク中尉に示した。

 

「本当だ…それに荷物箱が二重構造になっている」

 

「何ぃ?これは…“ロイス”!」

 

中尉は持ち場を終わらせた“ロイス”少尉を呼んだ。

 

すると彼と共に作業をしていた宇宙港の警備官達も駆けつけた。

 

「この貨物船に突っ込むぞ、警備官達も来るんだ、それと少佐とオフィスに連絡を」

 

「はい」

 

ロイス少尉は返事と共に頷きコムリンクで連絡を取った。

 

キーリク中尉とモスト中尉に率いられる警備官達はそれぞれ銃器を手にし監視映像の貨物線へ向かった。

 

自然と彼らの足取りは早くなる。

 

それにその貨物船は意外と近くに停泊していた為すぐ辿り着けた。

 

「お前がこの船の所有者か?」

 

貨物を下ろす作業をする“グラン”の男は困惑しながらも「そうだ」と答えた。

 

「共和国情報部だ、この貨物船を調査させてもらう」

 

「調査?いや私は怪しいものは何も…」

 

「黙って従ってくれ、いくぞキーリク」

 

「ああ」

 

ブラスター・ピストルを突き付けグランの男を黙らせる。

 

2人の中尉は数名の警備官と共に貨物船の中へ入った。

 

一応に備えてブラスター類の火器を構える。

 

ちっぽけな貨物船は通路を入るとすぐ映像にあった貨物エリアに入った。

 

「これだ…さて簡単に開いてくれるかな」

 

モスト中尉はキーリク中尉と共に貨物船の床の底を外した。

 

すると中には同じ箱が大量に出てきた。

 

「取り出そう」

 

キーリク中尉と息を合わせ箱を持ち上げる。

 

2人掛でも結構重たい箱だ。

 

「中身はスパイスか何かでしょうか?」

 

警備官の一人が不思議そうに覗き込む。

 

「さあな、開ければわかる」

 

そう言ってモスト中尉は箱を開けた。

 

中身は想像していた物とは違かった。

 

「おいおい…これってもしかして…」

 

箱の中身はどっしりと詰め込まれた“武器(ブラスター・ライフル)”だった。

 

しかもどれも威力が高いものだ。

 

まさか隠された箱全ての中身がこれなのか…?

 

そんな不安がモスト中尉の中を過った。

 

しかしそんな不安は間も無く更なる最悪となった。

 

「ちゅっ中尉殿これを!!」

 

警備官が引き攣った声と共にモスト中尉達を呼んだ。

 

「どうしたって…これは…」

 

その光景を見たモスト中尉は思わず絶句した。

 

それだけに値する光景だからだ。

 

二重構造になっている箱の中身を取り出すとその下には大量の“爆弾が詰め込まれていた”。

 

見た所かなりの数だ。

 

「まさかこんな量の武器が密輸されてたのか…一体…」

 

しかしもう道は分かりきっていた。

 

全て尊い革命の為の貢物だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼファントとフィーナ少尉は既に捜査中のコルサント保安部隊員を掻き集めていた。

 

俗に警察官などとも呼ばれるアンダー・ワールドの隊員達は皆特殊な装備を身に付けており素顔は誰一人見えなかった。

 

「ゼファント少佐、現在捜査を行なっていた隊員は全て揃っております」

 

指揮官である警部補が敬礼と共に少佐の前に出た。

 

表情から察するに彼は早く捜査を始めたがっている。

 

「捜査中すまない警部補。だがこれは重大な事なんだ」

 

「いえお構いなく」

 

「ありがとう」

 

軽く言葉を述べるとゼファントはゆっくりと直立不動の警官達を眺めた。

 

彼らは一体そのマスクの下で何を考えているだろうか。

 

ジェダイでもないのだからゼファントには判らない。

 

しかし予測は出来る。

 

「私が今から話すのは“()()()”の話だ、だから水に流してくれても構わないだが命令には従って貰う」

 

若干の脅しではあるがそれでも構やしない。

 

これくらいしないと襲撃犯を燻り出す第一歩にはならないからだ。

 

「皆が追っている我々を襲撃した犯人だが…知っての通りまだ見つかってはいない」

 

警部補が頷く。

 

「だから私はある仮説を考えた、もしかしたら君達の中にその“()()()()()()()()()()”のではとね」

 

警部補の表情が驚きに変わった。

 

警官達の中にも思わず声を漏らしてしまった者もいた。

 

すかさず警部補が反論する。

 

「しかし少佐殿、私の部下達は裏切り行為をするような者は誰一人…」

 

「知っている、だから裏切りではなくすり替わりだと私は考えた。いつ…かは分からないがなんらかの方法を使い部下と犯人が入れ替わっていたとしたら」

 

「そんな事可能なのでしょうか…?」

 

「さあな、だがこれからわかるはずだ。全員装備を外してくれ」

 

動揺で警官達は命令を実行するのが遅くなっていた。

 

「これは命令だ、出来れば早くして欲しい」

 

その一言でフィーナ少尉がホルスターに手を掛ける。

 

ゼファントはそれはまだ早いと諭した。

 

ゆっくりゆっくりと彼らはヘルメットを外した。

 

初めて見る警官達の素顔だろう。

 

見るからに困惑していた。

 

彼らには申し訳ないがこれも必要な事だ。

 

すると中に不思議な連中が現れた。

 

「ほう…君達、何故“()()()()()()()”?」

 

ゼファントがヘルメット付けたままの警官達を問い詰める。

 

全員が一斉ヘルメットを外そうとしない3人の方を見た。

 

三人とも全く動かない。

 

「さっきも言った、これは命令なんだよ。それにできれば早くして欲しいとね」

 

悪い笑みを浮かべ3人を更に突き詰めるが効果はあまり見られない。

 

ジレを切らしたというか焦った警部補は3人に怒鳴り散らす。

 

「何をしておるのだ!!早く脱げ!!」

 

「警部補落ち着いて下さい。まさかそのヘルメット他の警官より重いのかな?」

 

警部補を落ち着かせゼファントはゆっくりと彼らに近づく。

 

3人の警官はまだ黙ったままだった。

 

「急かしていても一応の時間はある。いくらでも待とう」

 

笑みが広がるにつれ周囲の緊張が広がった。

 

だがゼファントは微動だにしない。

 

いつもの彼とはまるで違う感じだ。

 

「これ以上命令違反を犯すと逆に捕まえなきゃならん。なんなら私が取ってやろう…」

 

「…お前を殺す」

 

警官の一人が小声で喋った。

 

ゼファントは敢えて聞き返した。

 

「ヘルメットあると聞き辛いな…なんだって?」

 

「お前を殺させて貰うぞ!ゼファント・ヴァント!我らの為に死ね!!」

 

そう言ってその警官がなんとゼファントにブラスター・ピストルを向けようとした瞬間彼は動いた。

 

「ふぐぅッ!!」

 

潰れた声を出したのはゼファントではなく警官の方だった。

 

よく見ると彼がゼファントが横っ腹に食らわせた右手の裾から何か鋭利なものが飛び出していた。

 

「さすがはターキン家(辺境域の王)だ、くれる物も一味違う」

 

ニヤリと笑いゼファントは気絶した警官を立て代わりにした。

 

残りの2人は一斉にホルスターからピストルを抜き構えた。

 

その様子を眺めつつ一言言い放った。

 

「私を撃ってみろ。そうすれば仲間に当たってお前達は後ろの警官達に何されるかわからんぞ!」

 

ヘルメットを被り直した警官達やフィーナ少尉が彼らにブラスターを向けていた。

 

逃げ道はもはやないだろう。

 

「それにお前達の仲間はまだ死んではないさ。この武器は殺すようには出来てないからね」

 

「だから降伏しろと?断る!」

 

偽の警官…襲撃犯の一人は腕についたスイッチをいくつか押した。

 

すると建物の影からブラスター・ライフルを連射しながら迫り来る数体の“GUシリーズ・ガーディアン・ポリス・ドロイド”が現れた。

 

襲撃犯に操られたポリス・ドロイド達はかつての同僚たつ警官達に容赦なく猛威を振るう。

 

数名の警官が凶弾に倒れ負傷してしまった。

 

隙を見計った2人の襲撃犯は負傷した仲間を置いて警官を突き飛ばし逃げ出した。

 

ゼファントはすぐさま命令を出す。

 

「警部補達は負傷者を守りつつドロイドの掃討!少尉は左に逃げた奴を捕らえろ!私は残りをやる」

 

「了解!!」

 

2人は別れそれぞれ敵を追った。

 

ここで逃すものか。

 

ゼファントの目は執念に満ち溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パルパティーン議員は落胆していた。

 

危機感というものがまるでない。

 

数日前に会議を開いたヴァローラム氏や他の元老院議員、行政員全て現状を正しく認識していない。

 

今のコルサントは危機に晒されているのだ。

 

かなり大きな部隊が元老院を人質にし大義という名の暴力で市民を恐怖に陥れようとしている。

 

本来国家としては早急に対処すべきはずなのに彼らは皆目を背け油断しきっていた。

 

全員が口を揃えてこう言う。

 

「1,000年の間平和が保たれてきたのだ。それが崩れるなどあり得ない」と。

 

それは慢心だ。

 

1,000年平和だったとしても明日はどうだか分からない。

 

なんなら千年前は平和など存在しなかったのに。

 

そして明日はその平和が崩壊しているかも知れないのだ。

 

それをなんとしても防ぐ為に議員を含めた政府が対処しなくてはならなぬのに完全にその事を放棄している。

 

恐らくこのままでは元老院は墜ちる。

 

ジュディシアル・フォースやコルサント保安部隊に期待せざる負えないがそれが無理なら元老院、引いては“()()()()()()()()”はすぐそこだ。

 

己の喉もの付近まで刃が近づいていると言うのに目を閉じ耳を塞ぎきっているとは。

 

彼が初めて議員になった時から経験してきた事だがここまでになると絶望すら感じてしまう。

 

だがパルパティーン議員が違うのはそこにあった。

 

普通の議員ならばこの時点で全てを諦め自分自身をその堕落に委ねるであろう。

 

しかしパルパティーン議員は希望を捨てず己の肩書きから得たものを最大限活用している。

 

そのような行動が彼に魅力を与え大勢の支持を得るほどになっているのだと周りの者達は思っていた。

 

「議員お疲れでしょう、少しお休みになられては?」

 

秘書の一人が専用のフィスに座り職務に励むパルパティーン議員にそう進言した。

 

しかし議員は疲労を誤魔化し心配を和らげさせるかのように笑みを作った。

 

「いや大丈夫だ、それよりセネト・ガード隊に元老院地区周辺を入念に警備するよう伝えてくれ」

 

「わかりました」

 

秘書はそういうとオフィスを出た。

 

すると入れ替わるかのようにもう一人の秘書がオフィスに入ってきた。

 

「議員、ハンバリン艦隊のゼント・ヴァント提督が面会を求めております」

 

「面会?彼は艦隊と共にハンバリンにいるはずでは?」

 

パルパティーン議員は聞き返した。

 

「それが例の件で内密に召集が掛かっているらしく…」

 

「ターキンだな?やはり軍人として一生を終わらすには惜しい男だ」

 

秘書がその言葉に頷いた。

 

この時パルパティーン議員は一つの名案を思いついていた。

 

「悪いが面会は断ってくれたまえ、代わりに一つ提案を」

 

「はぁ……?」

 

「ゼント提督のご家族を食事に誘っておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て!」

 

ゼファントはブラスター・ピストルを撃ちながら襲撃犯を追う。

 

逃げる相手の早さは中々のものだがゼファントも負けてはいない。

 

それに先日のお返しと言ってはなんだが相手の足や腕にブラスターのかすり傷を与えてやった。

 

痛みと疲労による二重の辛さは襲撃犯の逃げる速度を確実に落とさせている。

 

奴の顔は見えないが相当苦しいだろう。

 

そこでゼファントは相手を追い詰めるのではなく確実にダメージを与える方にシフトチェンジした。

 

あえて足を止めブラスター・ピストルの狙いを正確にする。

 

これで失敗したら確実に逃げられてしまうだろう。

 

無論逃すつもりはないのだが。

 

彼が見つめる先には必死に走る襲撃犯の姿があった。

 

数日前は立場が逆だったのにこうなるとは些か皮肉を感じずにはいられない。

 

だがそんな事を気にしている余裕はない。

 

両腕でピストルを構え引き金を引く。

 

放たれた弾痕は真っ直ぐ目標を貫いた。

 

襲撃犯は足に強烈な一撃を喰らい大きく転けた。

 

痛みで何か声を出しているがそんな事ゼファントにはどうでも良い。

 

執念というべきか襲撃犯は足を撃たれ血を垂れ流してるにも関わらず地べたを這ってでも逃げようとしている。

 

厄介な事に襲撃犯は奪い取った警官の衣服を着ている為スタンモードの攻撃の威力が薄い。

 

それにブラスター・ピストルのスタンモードではたかが知れている。

 

なら殺傷能力の高い状態で確実にダメージを与えねば。

 

ゼファントは這いずる襲撃犯の左肩に無慈悲に一発弾丸を撃ち込んだ。

 

そうしてやつを無理矢理起こす。

 

「さてお前達のボスについて話してもらおうか?」

 

「フッ…無理な話だな…」

 

やはりそう簡単には口を割らんか。

 

自白剤を使う事もやむなしとゼファントが思ったその時何かがカチッとなる音がした。

 

まさか!

 

「おいお前今まさか!!」

 

「察しがいいじゃないか…あの方にこれ以上ご迷惑をかけるわけには…グハァ!!」

 

襲撃犯は全てを言い終える事なく吐血した。

 

そして奴は一矢報いるかのように吐血した血をゼファントの頬を掠らせた。

 

襲撃班はもう二度と動くことは無くなった。

 

これで貴重な手がかりを一つ失ってしまった。

 

「はぁ…血なんて付けやがって…そんなに死に急ぐ必要もないだろうに…警部補、そっちは?」

 

ため息を吐くとゼファントはコムリンクを開いた。

 

『ドロイドは掃討しました。多少軽症者を出しただけで無事です』

 

「それはよかったです、それで襲撃犯の方は?」

 

『捕らえております。しかし毒の入った器具を口内に所持していました。幸いギリギリで防ぐことができましたが』

 

「ああ…私はやられたよ。すまないこっちはダメだ」

 

『そちらに応援を送りました。間も無く着くかと』

 

「助かります」

 

そう言うとゼファントはコムリンクのスイッチを切った。

 

彼は見えるはずのない空を見つめていた。

 

いくら軍人で人を殺す職業にいるとは言え自分のせいで誰かが死ぬのは罪悪感がある。

 

しかも判断を誤らなければ救えたかも知れないのだ。

 

この時自分の非力さと愚かさにひどく憤りを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィーナ少尉の動きは速かった。

 

すでに敵を組み伏せ銃口を脳天に叩き付けている。

 

相手は完全に降伏のポーズを取っていた。

 

「まさか降伏するとは…呆れるわ」

 

「これは降伏ではない同志よ…あの男を殺すチャンスだ」

 

瞬間フィーナの目が鋭くなった。

 

こいつまさか私の正体を…。

 

冷静さを欠かず表情をそのままの状態で問い詰める。

 

「どういう事?」

 

「決まっているよ、君が俺を連行したと見せかけて俺があいつをブラスターで殺す。そうすればあの方からの使命を達せられる」

 

なるほど命欲しさに降伏したわけではないようだ。

 

だからこそフィーナは冷徹な目で彼に言い放つ。

 

「確かにいい案ね…私があなたを始末しなければ」

 

襲撃犯の表情は変わった。

 

唖然としすぐ絶望に変わった。

 

「何を言っているんだ…?俺を始末…?ハハ、冗談は…」

 

彼女は冷徹にブラスターを額に押し付けた。

 

絶望の表情はさらに広がる。

 

「やめてくれ!俺も君もあの方に忠誠を誓った仲間じゃないか!!」

 

「ええ、でもね襲撃に失敗して正体すらバレたあなたはもう“()()()()”なのよ」

 

「やめろ!!俺にはまだチャンスが!!」

 

「ごめんなさい。今度は失敗しないと良いわね」

 

銃声と共に同志と名乗った襲撃犯は鮮血を噴き出し地面に斃れた。

 

頬に付いた血を乱暴に拭う。

 

彼女は冷たかった。

 

いや何もなかった。

 

殺す事に躊躇いは無くそこに生まれる感情は何もないのだ。

 

それは幼い頃から死を何度も目にし死と隣り合わせに生きてきた結果だ。

 

生きるためには他人の生き血を唆る他ない。

 

彼女はブラスター・ピストルをホルスターに仕舞いコムリンクを取り出した。

 

ーまただー

 

私に対して何も思わないはずなのに誰かを殺す度違和感を覚えた。

 

理由は分からなかったが何故か頭を抱えた。

 

痛みに似た何かを感じる。

 

しかし彼女はそれらを全て振り捨てた。

 

この時のフィーナ・リースレイはまだ何も知らなかった。

 

本当の自分を。

 

彼女は自分すら殺している事を。

 

つづく




ナチ帝国でもこの話でもしょっちゅう出てくるコルサント本国防衛艦隊ですがこれは決してEitoku Inobeがコルサント本国防衛艦隊が好きと言う事ではありません。
むしろ何故か毎回出て来るんですよね。
不思議っすね()


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出会いの前触れ

ハイパースペースから数隻のアクラメイター級やコルベット、フリゲートの艦隊が出現する。

 

速度を維持したまま彼らの前方にいるコルサント本郷防衛艦隊と接触しようとしていた。

 

艦隊の指揮官である“トーリア”准将がブリッジから全てを眺める。

 

同じように別の場所からも友軍の艦隊がハイパースペースからジャンプアウトしている。

 

中には惑星防衛軍の惑星防衛艦隊も存在していた。

 

するとピットの中でコンソールと向き合っていた技術士官の1人が彼に声を掛けた。

 

「閣下、サリマ提督より暗号通信です」

 

「なんだと?解読を頼む」

 

准将はなぜ暗号通信なのか疑問に思いながらも部下に解読するよう言った。

 

トーリア准将も自らブリッジの窪み、ピットの中へ入り士官の下に寄った。

 

技術士官は頷き専門のソフトや自身の技術を用い解読を始めた。

 

味方同士で使われる暗号の解読はさほど難しくはない。

 

アカデミーでもちゃんと習う程だ。

 

恐らくこれも30秒も掛からず解読されるだろう。

 

士官はそんな准将の期待を裏切らずすぐに暗号を解読した。

 

「解読完了しました、これは…ジュディシアル最高司令部からの作戦提示です」

 

「作戦だと…?」

 

「はい、各艦に転送しますか?」

 

「ああ頼む」

 

「了解」

 

技術士官がコンソールをタップしデータの転送の準備を始める。

 

トーリア准将は作戦内容を確認しようとピットを抜け出て近くのホロテーブルに向かった。

 

すでに艦隊の幕僚達が先に読み取りを始めている。

 

案外速読能力が高い幕僚達は既に作戦の内容を大まかに把握しつつあった。

 

「どんな内容だ?」

 

准将は軽く内容を聞く。

 

すると幕僚達が口を揃えてこう言った。

 

「閣下…作戦立案者の…ターキンとは何者なのですか…?」

 

表情はどこか恐怖を覚えていた。

 

トーリア准将は自分の記憶を確かめこの男を思い起こす。

 

「確かエリアドゥの辺境域保安軍から来た者だったな。我々を苦しめた海賊を討伐したのも彼だったはずだ」

 

海賊カナの討伐は辺境域保安軍の少尉だったターキン中佐の功績が大きかったはずだ。

 

我々ジュディシアルの船を六隻近く破壊され挙句手を出せぬ場所に逃げられてたところを彼が討伐してくれた。

 

彼は正しくジュディシアル・フォースの恩人というべき存在かもしれない。

 

幕僚達はそれに納得した様子で小さく小刻みに頷いていた。

 

「通りで…この作戦は恐ろしい…」

 

「一体どんな作戦なのだ?」

 

トーリア准将は幕僚達に尋ねた。

 

幕僚の一人がホロテーブルを操作し作戦内容を巻き戻す。

 

内容は簡潔に説明するとこうだ。

 

敵がハイパースペースより前に手前のイクストラー辺りで待ち伏せする。

 

そして散布されたコンピューターウイルスの攻撃で敵をハイパースペースより引き摺り出す。

 

最後の手として四方からの艦隊による攻撃で敵を殲滅する。

 

戦闘を想定し編まれた戦術は徹底的な殲滅戦で完全にこちらが一方的に敵を殲滅するようなものだ。

 

下手すれば捕虜すら取る間もないだろう。

 

またコルサントに出現した場合の戦術もこの作戦の中には入っていた。

 

それもまた防衛を行いつつコルサントでの市民生活に支障をきたさない程度に完全に敵を撃滅するものだ。

 

准将はこの作戦内容を一瞥すると幕僚達の気持ちがわかった気がした。

 

「彼は…彼に容赦はない…躊躇いがないのだ…」

 

アーリア准将は後退りと同時に謎の昂揚を覚えた。

 

「さて我が艦隊はどう動くか…いやどう動かされるか…我々はもはや“駒”だ…ターキン中佐の…」

 

准将は恐怖を覚えながら自嘲気味に笑みを浮かべ艦隊の運用方法をまとめ始めた。

 

アーリア准将が予測したようにそう遠くない未来彼もまたターキン中佐の心強い“()()1()()”となるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサントの夜景は美しい。

 

銀河の何処を向いても比べられないほどの大都市の夜景だ。

 

夜の暗闇など存在すらしない。

 

むしろ床に着くには少し騒がしすぎるくらいだ。

 

この惑星から灯が消える事など未来永劫なく思える。

 

空中の道には大量のスピーダーが行き来をしどこもかしこも人だらけだ。

 

特に首都の中でも最も重要な地区である“元老院地区(Senate District)”(立法地区、連邦管区やコルサントのコア、コア広場などとも呼ばれる)は夜であろうと人だかりが絶えない。

 

そんな中に1台のスピーダーが到着する。

 

ドアが開きコートを着た一人の青年が軍帽を深く被り現れた。

 

青いジュディシアルの制服を着たゼファントだ。

 

「またのご利用をお待ちしております」

 

操縦士のドロイドがドロイド特有の音声で応えた。

 

ゼファントは軽く手を振ると急ぎ足で目的の場所へ向かった。

 

元老院地区の最上層に彼の目的の場所はあったのだ。

 

階段を登るとそこには懐かしい2人の姿があった。

 

「思ったより早かったじゃないか、お疲れさんゼファント」

 

「仕事、頑張ってるのね」

 

「父さん、母さん」

 

ゼファントの両親であるゼントとフローネであった。

 

互いに微笑み合い言葉を投げかける。

 

流石にいい歳なので抱き合って再会を喜んだりはしなかったが。

 

だがとても嬉しかった。

 

「まさかコルサントにいるとはね。ハンバリンの艦隊の方はどうしたの?」

 

「精鋭を連れて後は副司令のランフェフ親子に任せてきたよ。コルサントのレギンス達にも少し用があったのでね」

 

「父さん、あなたにずっと会いたがってたのよ?」

 

「それをいうなら母さんもそうじゃないか」

 

2人はまた笑い合った。

 

久しぶりの家族との時間だ。

 

死が隣り合わせの軍人という職業においてこの時間は何よりも貴重に思えた。

 

しかも家族全員が軍人なら尚更だ。

 

「さて行こうか」

 

3人は目の前の“ザ・ピナクル”という高級レストランに入っていた。

 

3人が入ると早速受付の男が現れた。

 

「何名様でしょうか?」

 

「やあヴァント提督」

 

奥の席の方から声が聞こえた。

 

ゼファントにとっては二度目に聞いたことのある声だった。

 

その男は席を立ち3人の下まで来た。

 

「さっき行った後からくる客だよ。ちょうど3人だ」

 

「畏まりました。どうぞあちらの席へ」

 

「えっと…お久しぶりですパルパティーン議員」

 

ゼファントは畏まりながらシーヴ・パルパティーン議員に頭を下げ挨拶をした。

 

すると議員は人の良さそうな笑みを浮かべながらゼファントの頭を上げさせた。

 

「そう固くならずに。さあおいで」

 

受付の男に案内され4人は席についた。

 

いいグラスに綺麗な水を入れられメニューを渡された。

 

「今晩は私の奢りだ。好きな物を選びたまえ」

 

そうパルパティーン議員はゼファント達に言った。

 

「議員の奢りですか?お気遣いをさせて申し訳ありません」

 

「いいのだよゼファント君、誘ったのは私だ」

 

グラスの水を一口飲むとパルパティーン議員は彼に遠慮しないよう言った。

 

恐縮縮こまるゼファントにゼントが話しかける。

 

「議員の言う通りだ。ここはありがたくご馳走になろうじゃないか」

 

この様子を見るからしてゼントとパルパティーン議員は親しい間柄のようだ。

 

少しばかり安心した。

 

これで2人の仲が険悪だったら一体どんな顔して食事すればいいのか検討もつかない。

 

「さて頼むものは決めたかね?君」

 

パルパティーン議員は近くの店員を手招きした。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

全員の視線からするにゼファントから頼んでいいと言う事だろう。

 

最年少なのにも関わらず気を遣われてばかりで頭が下がる思いだ。

 

「じゃあアイソリアン・ガーデン・ローフを一つ、飲み物はクリフ・ドゥエラーで食後にはカシウス・ティーを」

 

「中々目利きが利くな。私はヌーナのステーキを飲み物はナブー産のワインを」

 

「我々はフリッツル・フライとフライド・エンドリアン・ティップ=イップを2つ、私はアンドーアン・ワインで妻はソーダで頼む」

 

「畏まりました。お飲み物は先にお持ちしてよろしいでしょうか?」

 

「構わんよ」

 

「畏まりました。ごゆっくりどうぞ」

 

店員はそう言うと頭を下げ去って行った。

 

店員がいなくなると早速ゼファントの話題になった。

 

「ゼファント君、君はコルサントの潜むテロ組織の摘発に成果をあげているようだね。ありがたい事だ」

 

「いえ、私の力量不足で議員方にはご迷惑をお掛けしてばかりで申し訳なく思います」

 

「君が謝る事はない。むしろ謝らねばらなんのは私たちの方だ」

 

神妙な面持ちでパルパティーン議員はグラスに手をつけた。

 

数回クルクル回すと彼に実情を話した。

 

「本来は声を大にしなくともある程度議題にされるべきなのだ…このコルサントの問題は特に。しかし元老院議員や行政官、官僚達は皆目を背けている」

 

その目はどこか悲しく何かを憂いているようだった。

 

「厄介事が嫌なのは気持ちは分かる。だが我々は厄介事を対処する義務があるのだ」

 

議員は再び続ける。

 

「私は幾度となく議員達と会談の席を設けて対策に取り込むべきだと訴えたよ。しかしやはりダメだ」

 

「はあ…政治的な事は学のない私ではよく分かりませんが確かにそれはいけませんね」

 

「その通りだよ、君の言っている事は正しい。君達のような命を張っている者にも、銀河市民にも示しがつかんよ」

 

「ですが議員、貴方は十分努力なさってるじゃないですか」

 

母フローネは議員に言葉をかけた。

 

パルパティーン議員はその言葉で若干笑みを取り戻した。

 

「ありがとうフローネ大佐、しかしまだまだやる事がある。まあその為にも息抜きは必要だがね。おっとあまり食事にするべき話ではなかった、なすまない」

 

笑みを浮かべ場を和ませた。

 

ゼファントは作り笑いで誤魔化したが内心そのような実情があったとは知らなかった。

 

戦いにより共和国を守ろうと考えてきたゼファントにとっては今の共和国内部に目を向ける余裕がなかったからだ。

 

外なる敵は見ていても内なる危険は分からない事が多い。

 

すると別の店員がパルパティーン議員達の飲み物を持ってきた。

 

「お待たせ致しました。ナブー原産のワインとクリフ・ドゥエラー、アンドーアン・ワイン、ソーダでございます」

 

美しい赤色のワインがグラスに注がれる。

 

またゼファントの前にも夕焼けのような綺麗なオレンジ色をしたドリンクが置かれた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

店員が軽く頭を下げた。

 

パルパティーン議員はグラスを持ち上げた。

 

「まだ職務が残っているのだがね。お先に一杯やらせていただくよ」

 

「ハハ、私は後は寝るだけなのでもっと飲ませて頂きますよ」

 

ゼントは冗談まじりに言った。

 

「そうしてくれ、ゼファント君はいくつだったかな?」

 

「二十歳は超えました。でもまだ職務が残っているのでアルコールは控えさせてもらいますよ」

 

「それはすまなかった。本当にお疲れ様と言いたいよ」

 

「いえいえ」

 

ゼファントが微笑と共に軽く首を振る。

 

議員はそのままワインに口を付けた。

 

「中々いい味だ、長い事コルサントにいると故郷の味が恋しくなるよ」

 

「ナブーはいい惑星ですからね。妻と何度も訪れましたよ、()()色々とね」

 

ゼントはそうナブー出身の議員に話した。

 

そういえば新婚旅行の写真がなんとなくナブーの首都“シード”に似ていたなとゼファントは回想した。

 

パルパティーン議員は故郷の話で少し嬉しそうにしていた。

 

愛着心があるのだろう。

 

「君達夫婦にはナブーはだいぶ助けられたよ。無論ゼファント君にもね、君には我々の方面のミッド・リム中が助けられた」

 

「ありがとうございます、とても名誉と誇りに思っていますよ」

 

「もっと誇っても良いのだよ?実際大勢の人の生活がこれから良くなるだろう。海賊がまたやって来るにしても君達は一時でも平和を作ってくれた」

 

議員は真紅のワインを回しながら彼に言った。

 

フローネもゼントも小さく頷いている。

 

「またナブーに行きたいものです。仕事ではなくね」

 

「是非と言いたい所だが艦隊司令長官は激務だろう。きっと遠くなるだろうな」

 

「残念です、ただ最近は不届き者が減ったお陰で仕事もだいぶ楽になりましたよ」

 

実際ここ最近の艦隊出動数は減っていた。

 

ミッド・リムの二の舞になるのを避けて消極的になっているのだろう。

 

ただ完璧に不穏の火が消えたわけではなかった。

 

「しかし話を聞けばまだ革命艦隊を称した犯罪組織が残っていると聞く。また忙しくなるだろう。頼んだぞ」

 

「ええ…地上の方はゼファントに任せておきますよ」

 

「全力を尽くします」

 

「ああ、期待しているよ」

 

4人の不思議な夕食はまだ続いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方コルサントのアンダーワールドでは。

 

いくつかある階層のうち比較的上階に近い方の階層に彼は来ていた。

 

ボロくなった灰色のローブを纏い先程のゼファントと同じように急ぎ足で歩く者がいた。

 

人目を気にし何処かをキョロキョロしている。

 

そしてその者は目的地のヌードル店を見つけた。

 

店は小さくお世辞にも綺麗とは言えない。

 

しかし賑わっており皆ヌードルを美味そうに啜っていた。

 

彼はあえて外の席に座った。

 

そこに密会したい男がいるからだ。

 

「ご注文は?」

 

何処か疲れてそうな“クリーヴァー”の店員がこの者に注文の内容を尋ねた。

 

「骨スープのジィーロ・ヌードル、具材多めで」

 

「かしこまりぃ」

 

そう言うとクリーヴァーの男はとぼとぼ店の中に入った。

 

「お前またあの山盛りヌードル食べるのかよ」

 

隣に座っている“デュロス”の男は呆れた口調で声をかけた。

 

「うるさいなぁ…あれが一番量があって美味いんだよ…で情報はなんかあったか?“シーヴィ”」

 

青い肌に赤い目を持ったデュロスの男“シーヴィ”はニヤリと笑った。

 

「当たり前よ、まっそっちのが来たらで良いぜ、サヴァント」

 

フードを下ろしジェダイ・ナイトのサヴァント・メンターは顔を見せた。

 

2人の親交は中々に深い。

 

かなり幼い時に2人は出会ったのだ。

 

サヴァントが教えを受けた放任主義のマスターの影響だろうが。

 

あまり聞かない方がいい事情のせいでコルサントのアンダーワールドに引っ越してきたシーヴィは彼の家の周りをよく彷徨いていたサヴァントと知り合いそこから交流が続いた。

 

以前より会う機会は減ったが今でもこうしてヌードルを共に啜る中だ。

 

サヴァントの隣でシーヴィはヌードルをずるずる啜った。

 

わざとらしくこちらを見つめてくる。

 

おかげで余計に腹が減った。

 

「相変わらず。ヌードル屋出会うのな」

 

「ここがいちばん悟られにくい。オーダーや敵からもな」

 

「まさかジェダイ・オーダーが入るとは思わなかったぜ。まあここのヌードルは美味いしな」

 

そう言うとまたヌードルの麺を啜り出した。

 

「お待たせしやした、ジィーロ・ヌードルです。熱くなってるんで気をつけてくださいね」

 

サヴァントの前にクリーヴァーの店員はヌードルを置いた。

 

大量の野菜や肉が山盛りになっているのこのヌードルは見るだけで腹がいっぱいになる。

 

近くのフォークを手に取るとサヴァントは早速このバケモノに手をつけ出した。

 

ヌードルを啜り野菜や肉を食欲を唆る音と共に食べる。

 

実はサヴァントの密かな楽しみとなっていた。

 

「あいっ変わらず美味そうに食うなぁ、とりあえず半分食い終わってからまで待ってやる」

 

スープを一飲みするとシーヴィは美味しそうにヌードルを食べるサヴァントを眺めた。

 

ジェダイだってのにこんな所でこんな山盛りのヌードルを食ってて良いのかと疑問にすら思う。

 

ただ一つ言えるのは先程ヌードルを完食し終えたシーヴィでさえ食欲を唆られると言う事だ。

 

とにかく美味しそうに幸せそうに食べている。

 

しょれで?しょの情報ってのは?(それで?その情報ってのは?)

 

ヌードルを啜りながらシーヴィに尋ねた。

 

やっと本題に入れる。

 

野菜の咀嚼音と共にシーヴィは話し始めた。

 

「ああ…マズイぜ…連中いつでも準備万端だ」

 

一瞬だけヌードルを啜る音が止まった。

 

目線で合図を出し続けるように促す。

 

シーヴィはその様子を確認すると目線を彼に合わせず淡々と話し始めた。

 

「密輸業者やなんやらを通じてもうあっという間に重火器類を連中は手に入れてやがる、数もドロイドで補うらしい」

 

「それはジュディシアルの方でも発見があった。とは言え気づくのが遅かったか…」

 

彼の話にサヴァントは自分たちの情報も付け加えた。

 

すぐ食事に戻ったが彼の思考はヌードルを味わう事よりもシーヴィの話から状況を推察する方に切り替わっていた。

 

「それに連中と手を組んだ艦隊がもう近付いて来てるらしい」

 

「後どのくらいで来る?」

 

サヴァントはスープを飲み尋ねた。

 

「驚くなよ…少なくとも一ヶ月はかからないそうだ」

 

「…早いな、“()()”だとしても相当早い」

 

「だろうな、既に部隊の編成と訓練は殆ど終えてるらしい」

 

「加えて戦闘用のドロイドか、他に気になることは言っていなかったか?」

 

サヴァントは彼が欲しそうな情報以外にもシーヴィ自身が気になった事を尋ねた。

 

シーヴィの気になる事はかなりの確率で大勢の者が見落としがちな何かだ。

 

再び具材を噛み締めヌードルを唆りながら聞いた。

 

「そうだなぁ…俺としちゃあジュディシアルや共和国の情報が結構流れてる事とかかな」

 

「なぜそう思うんだ?」

 

サヴァントは冷静で美しい緑色の瞳で彼の話の疑問点を聞いた。

 

「やたらめったら将校の名前を知ってるって事さ。有名人はともかく一部隊の下士官まで知ってやがる」

 

「なるほどな…確かに妙だ」

 

半分以上が無くなったヌードルの具材をぼーっと眺めながら思考を巡らせた。

 

さらにシーヴィは付け加える。

 

「後は…ある特定の人物に対してやたら執着してる所だな、一応軍で少佐ってまあまあの階級だろう?」

 

「ああ、少佐クラスなら確かにまあまあ…ではある」

 

「だがよ妙な事にその少佐殿を確実にぶち殺そうとしてるらしいんだ。もっと狙うなら提督、将軍あたりだと思うのにな」

 

笑い飛ばしながらシーヴィは不思議そうに思っていた。

 

彼は軍に関して特に何も知らない為これ以上は分からなかった。

 

しかしサヴァントはある一点が気になっていた。

 

少佐で彼らと関わりのありそうな人物。

 

特に目の敵にされるような人物をサヴァントはどこかで聞いていた。

 

つい先日彼らと同じ革命艦隊を打ち破り少佐へ昇進した若手の将校を。

 

「その少佐、名前はなんと言うんだ?」

 

シーヴィは記憶を振り絞りながら名前を思い出した。

 

「確か…ゼファント何とかだった気がする…わりいそれ以外は思い出せん」

 

「いや十分だ、ありがとう」

 

そう言うとサヴァントはラストスパートのようにヌードルを食べ始めた。

 

具材を口に放り込みヌードルを吸い込む。

 

まるでブラックホールのようだ。

 

啜る音、咀嚼音が人の食欲を刺激する。

 

音楽を奏でるかのようにその音は流れていた。

 

気が付けば山のような具材が載ったヌードルはスープのみとなっていた。

 

流石のシーヴィも少し引き気味だ。

 

「やっぱその量ペロリなのな…俺ちゃんちょっと引くぜ…」

 

「ああ、倍あったらもう少し時間が掛かったかもだがな」

 

近くのコップに入れられた水を口直しに飲もうとしたその時サヴァントは何かに気づいた。

 

研ぎ澄まされたフォースの感覚がサヴァントに訴えかける。

 

「…シーヴィ、どうやら明日からは夜道に気をつけなきゃならんようだ」

 

「あっ?急に何を…ああなるほどね…」

 

言葉の裏を読み取ったシーヴィはゆっくりと席を立った。

 

それを守るかのようにサヴァントも同じく席を立つ。

 

「当分個々のヌードル屋にも来れないねぇ…美味いから定期的に来たいんだけどさ…」

 

「連中を倒せばまた来れるさ、おい店員!」

 

サヴァントは少し大きな声で店の中にいる店員を呼んだ。

 

「へーい」

 

気の抜けた声のグリーヴァーがまた現れた。

 

「会計を、これだけあれば足りるだろう」

 

そう言って一枚の紙幣をグリーヴァーの手に置いた。

 

「あっ少し多いっすね、今店から釣り持ってきまぁす」

 

「いや釣りはいい、少し貰っといてくれ」

 

そう言うと2人は緊張した面持ちで店を出た。

 

しかし相手は店の外に出た瞬間行動を始めた。

 

赤い光弾が1発サヴァント達を貫こうとする。

 

すでに察知していたサヴァントは己の愛刀である“ライトセーバー”を抜き弾丸を綺麗に弾いた。

 

弾かれた弾丸は2人を狙った者の命を逆に奪った。

 

人が倒れる音がしサヴァントはそのままライトセーバーを、シーヴィはブラスター・ピストルを構えた。

 

「夜道に襲撃とは少しは賢いようじゃないか!」

 

ブラスター・ライフルを構える音と共に暗い路地や物陰から数名出てくる。

 

かなりいい装備をしている。

 

闇討ち部隊にしては用意周到だ。

 

「さて、食後の運動と行こうか…騎士(knight)としての実力発揮させてもらう!」

 

サヴァントが構える彼の瞳と同じ緑色の光剣は暗いコルサントの道を照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この中に一人…私達を裏切った者がいる」

 

重苦しい空気の中革命の指導者フェルシルが切り出した。

 

一気に緊張が走る。

 

裏切り者。

 

それはつまりこの指導者を革命を潰そうと少しでも企んだ者がいると言うことだ。

 

しかもそれが自分達の中にいる。

 

革命に従順になるよう“()()”された彼らにとってはこれほど悍ましい事はなかった。

 

フェルシルは表情を変えず呼び出された部隊の周りを徘徊する。

 

「さて…誰が同志を裏切った?誰が大儀に泥を塗ろうとした?」

 

声量は変わらずとも確かに恐怖はそこにあった。

 

数人が恐怖に圧迫され後退りする。

 

しかしフェルシルはそんな彼らを疑ったりはしなかった。

 

なぜならすでに裏切り者を知っているのだから。

 

「どう償いを果たしてくれようか、隊長、君ならどうする?」

 

「ハッ!自分なら醜態を全て晒し処刑される事を望みます」

 

「よろしい、さすがは信用のおける同志だ。ではもう一度問おう、誰が裏切った?」

 

当然答えるはずなかった。

 

フェルシルは鼻で笑う。

 

なら性格は悪いがやるしかあるまい。

 

「なあどうすればいいと思う?PNK-114!!」

 

声量が上がり鋭い眼光が彼の思考を読むかのように刺さる。

 

突然番号を呼ばれたPNK-114はあまりにも突然過ぎた事の衝撃によりふらっとしてしまった。

 

そんな彼にフェルシルは続け様に言う。

 

「なあどうする?君の意見も聞いたいんだ」

 

「わっ…私は…」

 

「どうした?なぜ泣く必要がある?私と違いお前は()()なはずだ…議題が逸れたな」

 

ゆっくり威圧的にフェルシルはPNK-114に近づく。

 

そして苛立ちと猟奇的な感情を含めた狂気の笑みを浮かべた。

 

「早く言ってくれよ…焦らされるのは嫌いだ」

 

「私も…隊長と…同じ…考えです…」

 

「よしなら早速実践して見せてくれ」

 

手招きと共にフェルシルはPNK-114を前の方に突き飛ばした。

 

少し転げPNK-114は足を痛める。

 

だがフェルシルはそんなこと気にすらしない。

 

「さっきも言った通り焦らされるのは好きではない。急いでくれ」

 

なんという恐ろしさか。

 

PNK-114は震え涙が出ていた。

 

「わっ私は…自分が助かる為に…情報を…売りました…」

 

「なぜ助かりたかった?いや…まず“()()()”とはなんだ?」

 

「そっとそれは…」

 

「教えてくれよ、これから来みたいな“()()”が二度と湧かないようにする為にね」

 

狂気の笑みとは裏腹に周りの元同志達はPNK-114の引き攣った表情を見ても微動だにしなかった。

 

「死にたくなかった…戦うのはいやなんだ!!助けてください!!」

 

PNK-114は感情が全て壊れ崩れ落ち叫んだ。

 

しかしそんな命乞いすら気にしなかった。

 

「そうか…言ってくれてありがとう、君も…名誉ある革命の“()()”となるだろう」

 

「えっ…?」

 

首が飛び血飛沫が壁を彩った。

 

恐らくPNK-114の願いは叶ったのだろう。

 

PNK-114は結局戦う事なく一生を終えた。

 

今日は死ぬ瞬間まで消える事はなかったが。

 

彼の背後にいた分厚いアーマーを着た処刑人がフェルシルに跪く。

 

「さて…害虫は消えた…同志諸君も今日の日のことを忘れないで欲しい、薄汚い裏切り者の末路を…な」

 

音を立て残りの忠実な同志達は敬礼と共に退出するフェルシルを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サヴァントとシーヴィは走っていた。

 

追手を掻い潜りながらブラスターの弾丸を弾きながら2人は逃げていた。

 

「クソッ!!なんでバレたんだよ!!」

 

シーヴィの苛立ちはサヴァント以上だった。

 

「落ち着け、とにかくうちのまで逃げる!」

 

忍耐力の強いサヴァントは苛立つシーヴィを宥めつつ打開策を考えた。

 

敵は少ないが精鋭で武装も強力だ。

 

一方こちらにはライトセーバーくらいしかまともな武器がない。

 

シーヴィもブラスター・ピストルをもってはいるがガスの材質が悪い為威力は薄い。

 

実際シーヴィが放つ弾丸は敵のアーマーすら貫通出来ていなかった。

 

「こんなんならもっといいブラスターを買うべきだったな!護身用品に金をケチりすぎた!飛んだ失敗だよ全く!」

 

「喧嘩を黙らせるにはこれくらいでいいんだよ…怪我もすぐ治せるし相手も死なないし…ああもう相手がわるいぜちきしょう…このクソッタレ…!」

 

シーヴィは自分の武器に少し落胆し口調が荒くなっていた。

 

ブラスターの威力は使用するガスにより変化する。

 

より良いガスを使用すればそれだけ効果力の兵器に仕上がる。

 

逆に言えば質の悪いガスを用いれば兵器はあまり強力ではなくなる。

 

シーヴィのブラスターは後者に当てはまった。

 

「生き残れたら私が半分まけてやる!ちゃんとついてこいよ!?」

 

「ああ、連中の弾かお前が弾き飛ばした弾にぶち当たらなければの話だがな!」

 

「誰が当てるかよ!」

 

皮肉を笑みで受け流しながら同様に弾丸も弾き飛ばす。

 

中々動きの良い敵はかなり精度の良い弾かれたブラスターでさえ避けた。

 

「たく!はいさいなら!!」

 

シーヴィは思いっきりてきにブラスター・ピストルを投げつけた。

 

ダメージを与えられないなら持ってても逃げる邪魔だし物理的な攻撃の方がダメージを与えやすい。

 

実際ぶつけたピストルの影響で敵を一人遅れさせた。

 

だが残りの敵はよろけた仲間を無視して攻撃を続行する。

 

焼け石に水だ。

 

「どうするんだサヴァント?やっぱフォースの力的な何かでなんとか…」

 

「お前が危険だ、とにかくポータルまで急ぐぞ!」

 

「つまり俺がいなけりゃいけるんだな?」

 

「急に何を言い出すんだ!お前も私も生き抜く方法を考えろ!!」

 

「だからその方法が一つ浮かんだのよ!」

 

サヴァントの足が止まりかけた。

 

「とにかく敵を少し巻こう!!あそこのガスパイプを吹っ飛ばせ!」

 

「ああ!!」

 

サヴァントは集中し“()()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

ガスが吹き荒れ煙幕と化す。

 

連中流石にガスマスクや暗視ゴーグルまでは装備していなかったので全員の足が止まった。

 

2人はその隙になんとか距離を巻いた。

 

逃げるのではなく“()()”に出る為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼファントやパルパティーン議員達は既にメインディッシュを食べ切り食後のデザートを頬張っていた。

 

やはりロザルで採れた新鮮な“ジョーガン・フルーツ”を用いたケーキは最高だ。

 

フルーツの瑞々しさ、ケーキの程よい甘さは軍人であるゼファントの舌をも唸らせる。

 

逆に軍人という職業のせいで食事には“()()()”よりも“()()()()()”に偏りがちな為余計に美味しく感じる。

 

ここ最近など飲料用のレーションか固形のレーションばっかりだった。

 

こんな豪勢な食事を楽しんだのは一体何ヶ月ぶりだろうか。

 

特にケーキ類などは後で情報員の仲間達に土産物として買って帰ろうなどと心に決めていた。

 

そして良い香りが鼻に透き通るこのカシウス・ティーもケーキにぴったりだ。

 

ゼファントは昔から家柄のせいか茶というものが好きだった。

 

心が落ち着くしいい匂いはするし味もまたいい。

 

それにあのティータイムの緩やかな時間がとても彼は好きだ。

 

やはり職業柄そんな茶を嗜むという機会は少なくなったがいつか時間を作って以前のように茶を飲もうと同じく思っていた。

 

「どれも素晴らしい料理ばかりで大満足です。今日は本当にお誘いしていただきありがとうございます」

 

「ん?いやいや気にしなくて良いのだよ。明日から再び訪れる職務にもめげず頑張ってくれたまえ」

 

食事がより一層楽しく感じられたのはやはり共に食事をした者達のおかげなのだろうか。

 

親しい家族やこの素晴らしい方と摂る食事は楽しかった。

 

世間話などが多かったがそれでも十分笑みや活気に溢れ新たな考えも浮かんだ。

 

何故かこのシーヴ・パルパティーンという男といると安心感を覚える。

 

思慮の深さといい不思議な方だ。

 

「さてそろそろお開きの時間としようかな」

 

まだ夕暮れだったコルサントは完全に夜となっていた。

 

「ですな、それでは議員、お先に」

 

「うむ、気をつけて帰りたまえ」

 

「ゼファントも、しっかりやれよ」

 

「体に気をつけてね」

 

「ああ、母さんと父さんも」

 

両親は共にニコリと笑いレストランを後にした。

 

残った議員とゼファントはゆっくりと席を立った。

 

会計を済ませるとそのまま2人はレストランを後にした。

 

「スピーダーまでお送りましますよ」

 

ゼファントが議員を思いそう進言した。

 

ご馳走になったのだからこれくらいは礼儀だ。

 

「ではスピーダーまで話をしようとするか」

 

「はい」

 

2人はゆっくりと歩き出した。

 

先程の通り最初に切り出したのはパルパティーン議員だった。

 

「君はまだ軍一筋で生きていたから知らない事も多いだろう…今の共和国を」

 

「はい…」

 

これは事実だ。

 

パルパティーン議員に言われるあでは元老院や政府の腐敗があそこまで酷いとは知りもしなかった。

 

議員は続ける。

 

「君には真っ直ぐ己の道を突き進んで欲しい。それが共和国引いては銀河全体に恩恵をもたらすと言える」

 

「私にそこまでの力量がありましょうか?」

 

「あるさ」

 

パルパティーン議員はすぐに応えた。

 

「君はあの“クイエム・ヴァントの子孫(英雄の子孫)”だからね」

 

久しぶりにその単語を聞いた。

 

父や家の者から期待を込められて持ち出された人物の名。

 

一部の者は知っている伝説の共和国軍元帥の名だ。

 

議員もその名前を持ち出しゼファントを激励した。

 

「ではな、今は自分の正しいと信じた事をやるのだよ」

 

手を振りパルパティーン議員は迎えのスピーダーに乗り込んだ。

 

ゼファントは去りゆくスピーダーを敬礼で見送った。

 

別れの時まで不思議な方だった。

 

しかしそれとは別にある決心もついていた。

 

今は自分の正しいと信じた事を。

 

もう腹は決まっている。

 

骨は折れそうだし多少荒っぽくはなるが、だがやるしかあるまい。

 

それが敵を倒す近道でありまた“()()()()()”方法でもあった。

 

フィーナ・リースレイを“()()()()()”決心をこの時のゼファントは心に決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラスター・ライフルを構えながらサヴァント達の暗殺を任されているフェルシルの手の者達は足音を立てず進んでいた。

 

煙幕やパイプの攻撃で距離を離されてしまったがそう遠くへ入っていないはずだ。

 

それにアンダーワールド・ポータルまでの距離は遠くそう簡単には近づけない。

 

とは言っても相手はジェダイだ。

 

ジェダイの恐ろしい戦いの噂は何度も聞いた事がある。

 

ライトセーバーと不思議な力を用いなす術もなく相手を蹂躙する殺戮者。

 

嘘か本当かはわからないが用心するに越した事はない。

 

それにこれ以上の情報流出は革命の為にも防がなくてはならないのだ。

 

「ドロイドを出せ、プローブだ」

 

リーダーが命令を出し部下が“DRK-1ダーク・アイ・プローブ・ドロイド”を呼び出す。

 

本来1メートルもないこのプローブ・ドロイドだが彼らが改造に改造を重ねた結果肥大化しブラスター砲すら装備している。

 

防御力も増し数発食らわせないと破壊できないほどの強度を誇っていた。

 

そんなドロイド達が浮遊し周辺を捜索する。

 

「見つけ次第攻撃しても構わん、早急に始末しろ」

 

プローブ・ドロイド達に第一の命令を出すとリーダーと部下達もターゲットの捜索を始めた。

 

彼らが暗い路地を通り過ぎたその時それは起きた。

 

放たれたプローブ・ドロイドが一体小爆発を起こし残骸となれ果てた姿を彼らの前に曝け出した。

 

まだ破損箇所からスパークが飛び散っている。

 

まるで何かに“()()()()()”ようだ。

 

緊張が走り全員がブラスター・ライフルの引き金に指を据える。

 

コツコツと足音が聞こえ暗い路地の先から何かが近づいて来た。

 

「ドロイド、今すぐ来い!一気に肩を付ける!!」

 

プローブ・ドロイドに招集かけるとリーダーは顔に垂れる汗を拭った。

 

全員がしっかりとブラスター・ライフルを構えいつでも引き金を引けるようにしていた。

 

誰かが息を呑んだ瞬間戦いの金は鳴らされた。

 

暗闇の先に1本緑の光が出現する。

 

ライトセーバー、ジェダイの武器で多くの伝説を生み出して来た物だ。

 

そして今回は戦いの合図でもある。

 

「撃て!!」

 

リーダーの命令と共にブラスター・ライフルの発砲音が街中に響く。

 

しかし全ての弾丸は見事な剣捌きにより弾かれ数発の弾丸がリーダーの横で構えていた部下達に直撃した。

 

正面に火力を集中していても意味はない。

 

「全員散開!!全方面から攻撃を叩き込め!!」

 

弾かれるブラスター弾を避けながら駆けつけたプローブ・ドロイドや戦える部下達が別れた。

 

いくらジェダイといえど四方からの攻撃を全て捌き切れるはずがない。

 

リーダーはそう踏んでいた。

 

しかしそれは過ちであった。

 

散開を確認したターゲットと共にいたジェダイは助走を付け中央突破を図ろうとする。

 

チャンスと見たのか狙いを定め全員が一斉に引き金を引く。

 

しかしそれは偽装だ。

 

注目が正面に向いたのを感じ取ったサヴァントは左側にスライドし最も近くを浮遊していたプローブ・ドロイドを切り裂く。

 

そのままステップを踏むかのように弾丸を避け1人セーバーで斬り裂く。

 

残りを逃す筈もなくまた1人の敵を斬り味方を支援するかのように行動していたプローブ・ドロイドを真っ二つにした。

 

背後を狙おうとするプローブ・ドロイドもまた悲惨な運命を辿った。

 

振り返ったサヴァントにより横に斬られ小爆発を起こす。

 

爆発の中から瞬発的に飛び出したサヴァントによりまた最初の目標である中央で迎え撃っていた2人の敵が命を散らした。

 

ブラスター弾を弾きながら集中力を研ぎ澄ます。

 

フォースは呼び掛ければ反応してくれる。

 

すると2人の背後にいたプローブ・ドロイドがへこみ始める。

 

ドロイドの意志とは関係なく仲間のプローブ・ドロイドと衝突し行動不能なまでに破壊された。

 

もう残りはリーダーと部下の2人、プローブ・ドロイドが数体のみとなっていた。

 

連中は諦めず抵抗を試みる。

 

だがそれを許すサヴァントでもなかった。

 

ライトーセーバーを投げブーメランのように操る。

 

そのままリーダーの腕を切り落とし残りの2人もトドメを刺した。

 

フォースの力でライトセーバーを手に取りわずかな抵抗を見せるプローブ・ドロイドを全て破壊した。

 

切り落とされた腕を押さえ痛みの嗚咽を出すリーダーにサヴァントは剣先を向ける。

 

「観念するんだな…」

 

「くっ…拷問にかけられるくらいなら…同志達に栄光を…!!」

 

そう言うともう一本の腕で何かのスイッチを押した。

 

サヴァントはしまったと思いつつも一気にその場を離れた。

 

直後爆発が起き敵のリーダーは塵一つ残らなかった。

 

「くっ…恐ろしい相手だな…」

 

煙を掻き分けながらリーダーの死体であろう煤に近づく。

 

もう何も残されていなかった。

 

「よっ!よっこらしょっと!」

 

ガタガタと後ろの通気口から音がしスキンヘッドにも見えるデュロスが落っこちてきた。

 

尻餅をついたのか決して可愛らしくはない尻をさすっていた。

 

「いてて…どうだぁ?」

 

「なんとか倒したけど…やられたよ」

 

シーヴィはため息を吐きながら青いこぶのような頭を掻いた。

 

「良いと思ったんだけどなぁ…やって来た敵を返り討ちにして1人くらいとっ捕まえようって作戦」

 

「お前は悪くないさ。私の力不足と…敵を甘く見ていた」

 

腕を切り落とされてもなお忠義を突き通すとはいくらジェダイであっても気づけない。

 

これからこんな敵と対峙するのかと思うとサヴァントも引き締まる思いだった。

 

「しゃあねえよ、とりま帰ろうぜ」

 

命の危険が過ぎ去ったせいかシーヴィはどこか上機嫌だった。

 

でもサヴァントはそうはいかない。

 

彼にはジェダイの騎士として共和国を守る使命があるからだ。

 

それが単なる偽善であっても構わない。

 

救える命は救いたいからだ。

 

そこで彼は1人の男に会う事を決めていた。

 

「なあシーヴィ」

 

「ん?」

 

「確かに“ゼファント”という男だったな?連中が血眼になって探しているのは」

 

「ああ…なんか用でもあるのか?そいつに」

 

「あるさ…これからな」

 

サヴァントは力強く頷いた。

 

ただ不安要素もある。

 

彼の一族、特に彼の父親に位置する人物はジェダイ・オーダー内でも有名な大のジェダイ嫌いだ。

 

それは仕方がないとは思うがそんなジェダイ嫌いが息子に憑っていないよう願わずにはいられなかった。

 

だが不安よりも希望めいた機体の方が大きかった。

 

「会いに行くさ、“ゼファント・ヴァント”に」

 

それは新たな出会いの一端であり軍人とジェダイという時代を先取りした異色の友情を結ぶ2人の最初の出来事だった。

 

 

 

 

つづく





サヴァント「こちらが 濃厚アンダーワールドイオピー無双さんの

濃厚無双ヌードル 海苔トッピングです

うっひょ~~~~~~!

着席時 コップに水垢が付いていたのを見て
フォース・プッシュを出したら 店主さんからの誠意で
イオピーの肉をサービスしてもらいました
俺の力次第でこの店潰す事だってできるんだぞって事で

いただきま~~~~す!

まずはスープから
コラ~!
これでもかって位ドロドロの濃厚スープの中には
ジオノージアンが入っており 怒りのあまり
卓上調味料を全部倒してしまいました~!
すっかり店側も立場を弁え 誠意のバンサステーキ丼を貰った所で
お次に 圧倒的存在感の極太麺を

啜る~!



殺すぞ~!

ワシワシとした食感の麺の中には、ウーキーの毛が入っており
さすがのサヴァントも 厨房に入って行ってしまいました~!
ちなみに、店主さんが土下座している様子は ぜひジェダイ・オーダーのチャンネルをご覧ください」





マイン「お父さん、あれは何?」
ジーク「私達には救えぬものだよ」


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結ばれる絆

「チッ!大丈夫か!!」

 

ブラスター・ライフルを撃ちながら隣で弾丸を弾く“ジェダイ”に声を掛ける。

 

男は不敵に笑みを浮かべ応えた。

 

「ああ!ちょっと痛むがこのまま一気に行こう!!」

 

「ジェダイがみんな君みたいだったら父さんも少しは変わってたろうにな!」

 

ふと皮肉まじりに彼に投げかけた。

 

こんな戦闘状況だからこそ笑いは重要なのだ。

 

男もフォースの力を使い敵を蹴散らすと皮肉で返した。

 

「全員がこうじゃないさ!でも私は君と出会えてよかった」

 

「だな、一気に行こうか“サヴァント”!!」

 

「ああ!“ゼファント”!!」

 

ゼファント・ヴァントとサヴァント・メンター。

 

異色のコンビであり親友の2人は互いに武器を構え始めての共同任務に勤しんでいた。

 

 

 

 

 

ことの発端は数時間くらい前だった。

 

以前唯一捕らえた襲撃犯を尋問しようとした矢先呼び出しが掛かったのだ。

 

普通なら情報部のドレイヴン大佐や戦術研究課のエヴァックス中将と思うだろう。

 

だが今日ばかりは違った。

 

なんと“()()()()()()()()()”からだった。

 

ゼファントはまさかの事態にかなり戸惑った。

 

彼自身ジェダイはあまり好きではない。

 

父であるゼントが口を開けばジェダイの悪口や不満を言っていた為ゼファントにもそんな思いがこびり付いていた。

 

幼い頃からのある種の刷り込みは強烈で今でもこのザマだ。

 

会った事がなくとも良い印象は抱いておらず、それが偏見であると分かっていても直す事は難しかった。

 

ただ上層部からの命令でもある為内心何を思っていようと行かざる負えなかった。

 

そこで尋問はその手の道のプロでもあるモスト中尉に任せてフィーナ少尉とゼファント2人で向かった。

 

今2人は呼び出し場所のジュディシアル統合本部のエレベーター内にいた。

 

ゼファントが積極的に話題を持ち出す為以前より2人の会話は活発になっていた。

 

途切れ途切れになりそうな会話を彼が頑張って繋いでいるのだ。

 

そのせいか最近はフィーナ少尉もよく応えて笑ってくれるようになっていた。

 

「なるほどな…そういえば少尉、少し良いかな?」

 

「なんでしょうか」

 

ゼファントは若干の緊張を覚えながらも彼女に言った。

 

「君ともっと話がしたい。今度どこか食事にでもいかないか?」

 

予測した通りフィーナ少尉は突然の誘いに戸惑っていた。

 

世間一般的に見たら告白に近いのだろうか。

 

箱入り息子ゼファントにはそう言った感覚は全くなかったが。

 

しかし微妙な空気感を悟ったゼファントはすぐに言葉を付け加えて変更する。

 

柔軟さが彼をただの朴念仁でなくしているのだろう。

 

「あぁ…普通に情報部の事をもっと知りたい……どうかな?」

 

「そうですか…いいですよ。それで、いつにします?」

 

しっかり事情を話すとフィーナ少尉は案外すんなりと受け入れてくれた。

 

やっぱり“()()()()()()”なのだろう。

 

覚悟の上で行かねばならないとゼファントは表情に出さない苦笑と共に思った。

 

「そうだな…君の都合に合わせてくれて構わないよ」

 

「分かりました。ドレイヴン大佐に伺いを立ててきますよ」

 

「君を借りるにはドレイヴン大佐の了承がいるのか?」

 

「フフ、まあそんな所です」

 

するとエレベーターのドアが開いた。

 

そろそろジェダイとやらに初対面だ。

 

「さてと…行くか…」

 

ゼファントは襟元を触り緊張を隠した。

 

しかし隣の副官には見透かされてたようだ。

 

「少佐、まさか緊張されているんですか?」

 

なんで分かったんだと思いつつもゼファントは答えた。

 

彼が彼女を見透かしているように彼も彼女に見透かされているのだろうか。

 

「うん……ジェダイなんて今までずっと悪い噂しか聞いてこなかったからね。多少身構えても…」

 

「君が噂のゼファント・ヴァント少佐か!!」

 

ゼファントが話しているとベージュ色の衣服を纏った男が駆け寄ってくる。

 

多分この人がジェダイであろう。

 

格好がジュディシアルの将校とはまるで違うしかと言って他の一般人や政府関係者とも違っていた。

 

しかしこのジェダイは勢いが強い。

 

ゼファントも勢いに押されジェダイの男と握手してしまった。

 

流石に距離が近い。

 

ジェダイとはみんなこんな感じなのだろうか。

 

「えぇ…はい、そうですが何か…?」

 

「おっと失敬、自己紹介を忘れていたね。私はサヴァント・メンター、ジェダイ・ナイトだ」

 

人の良さそうなジェダイ、サヴァントはもう一度正式に握手を求めた。

 

流石に断る訳にもいかないのでゼファントはもう一度握手をした。

 

手を握る力も振る力も案外強い。

 

「あぁどうも、どうも」

 

「会えて嬉しいよ。そちらの方は?」

 

ゼファントに握手をしながらサヴァントは彼の背後に控えているフィーナ少尉を見つめた。

 

「フィーナ・リースレイ少尉です」

 

「君…えっと少佐、彼女はどこの所属?」

 

「情報部ですよ。今はもう一人の情報員と共に私に割り当てられていますが」

 

意外な質問をしてくるサヴァントにゼファントは戸惑った。

 

「情報部…ね、少尉、君の生まれは?」

 

「このコルサントですが。何か?」

 

彼女の雰囲気や話す言葉から何かを“()()()()()”サヴァントはフィーナ少尉に問い詰めた。

 

少尉も何も“()()()”答える。

 

流石に気まずいのかゼファントが2人の間に割って入った。

 

「まあ世間話は後にして、早速本題に移りましょうか」

 

「あっああそうだな、あちらの席で話そう」

 

 

 

 

 

 

 

ゼファントは近くを彷徨いていた下士官に“カフ”を全員分用意するように頼んだ。

 

本当は茶が飲みたいところだが一人優雅にティータイムを楽しんでいる場合ではないだろう。

 

カフが届くまで3人はちょっとした談笑をしていた。

 

「確かに君のお父さんのゼント提督はジェダイ嫌いで有名だよ、ハハハ」

 

「そこまで有名だったとは知りませんでしたよ。家でも外でもあんまり変わってないと言うことなんでしょうが」

 

「当然軍人としても有名だよ。だからこそジェダイ嫌いも一緒に広まってくのさ」

 

「有名になるってのは考えものですね」

 

苦笑と共にゼファントはソファーに寄り掛かった。

 

有名になるのは考えものか。

 

今の自分がよく言えたものだ。

 

「君だってもう十分有名人じゃないか」

 

「そうでしたな。全く革命革命大変ですよ…休む暇もありゃしない」

 

「確かに」

 

サヴァントはそんな有名人の皮肉に思わず笑声を立てた。

 

そうこうしていると先程の下士官が3人分のカフを持ってきてくれた。

 

ゼファントはカフを一口含むとサヴァントに尋ねた。

 

「でマスター・サヴァント、私には何の用ですか?」

 

サヴァントも同じくカフを口にすると話を始めた。

 

「実はここ(コルサント)の5124階層に少し妙な所があってね…調べてみたんだ」

 

「妙な所…?」

 

ゼファントはすぐに食い付いた。

 

このコルサントで異変が起こるといえば大抵例の革命組織が裏で糸を引いている。

 

不良の喧嘩も別の犯罪組織の小さな小競り合いも全てだ。

 

些細な異変でも今のゼファントには重要に感じられた。

 

しかしアンダーワールドより上の階層はほとんど異常やおかしな出来事は見られなかったはずだ。

 

なぜ気づけたのかそこは少し疑問だった。

 

「ジュディシアルから少し特殊部隊を借りて調査してたんだ。すると結果は」

 

「結果はどうだったんですか?」

 

ジェダイの一声で特殊部隊が動かせる事に些かの不満を覚えつつもゼファントはすぐ尋ねた。

 

共和国では当然の事、だがどこか不満を覚える。

 

サヴァントはコップをコースターに置くと少し合間を作り話し始めた。

 

「敵の前哨基地があった。小さいが脅威は十分だ」

 

「なるほど、アンダーワールドより上の見張りとして、いざ革命を起こす時すぐに部隊を展開する為ですね?」

 

「恐らくな、ジュディシアル統合本部もジェダイ評議会も早急に鎮圧する事を望んでいる」

 

「で、その陣頭指揮を私が取れと?」

 

「ああ、恐らく君は私たち以上に敵を知っているからな。きっとそのうち命令が届く」

 

「なら仕方ありませんね。使用できる部隊は?」

 

無駄な己の感情は捨てすぐに戦術を構築する。

 

まずは兵力が知りたい。

 

敵はともかく自軍の兵力くらいは知っていてもいいだろう。

 

「突入はさっき言った特殊部隊のユニットが1つ、ジュディシアル1個小隊、包囲部隊として1個中隊程だ」

 

「思ったより多いですね。特殊部隊を除いた人数で言えば180人程度か」

 

基本的何事に対しても消極的な行動しかしない共和国の対応としてはかなり大盤振る舞いだ。

 

最悪放置すらあり得るのに。

 

でも使える兵力が多いのはありがたい事だ。

 

それに今回はジェダイもいる。

 

父ゼントも知っての通りジェダイは嫌いだが彼らの戦闘能力だけは素直に認めていた。

 

前線の分隊長や特殊歩兵としてのジェダイは一級品だ。

 

それが本来の彼らの職務とはかけ離れていると知っていてもそう評価せざる終えない。

 

「アジトの内部構造はすでに掴んでいる。多分タレットやブラスター砲で守られているだろう」

 

サヴァントはポケットからホロプロジェクターを取り出して起動した。

 

流石に連中も一から基地を作ることは叶わないようで借家を改造して小さな前哨基地にしたようだ。

 

その為側から見れば完全に偽造されただのアパートにしか見えない。

 

前哨基地と言うよりは秘密基地や隠れ家、アジトと言った方が近いだろうか。

 

奇襲をかけると言えどコルサント内で爆弾や重火器を使いまくる訳にはいかない為中々厳しいものになるだろう。

 

それでも最良の選択をゼファントは探していた。

 

「二方向からの同時攻撃…まず突入小隊を正面に配置し特殊部隊を逆方向から向かわせる。これなら敵は否が応でも兵力を削がざる追えなくなります」

 

「なるほど、では戦力の集中投入が予想される正面には私が出向こう」

 

「本来ならそうするべきでしょう。ですがあえて裏門の突入部隊に回って頂きたい」

 

ジェダイであるサヴァントも流石にこの時は首を傾げた。

 

ゼファントは微笑を浮かべ説明する。

 

「確かにジェダイの耐久力は凄まじいですが…戦闘力もだ、むしろ特殊部隊とジェダイという最強の剣を用いてなるべく早く制圧したい」

 

出来ればホロテーブルを使い丁寧に説明したい所だがそんな事は今出来ないのでゼファントは身振り手振りを交えて説明を重ねた。

 

「逆に小隊の耐久力は“囮”として考えればいくらでも何とかなります。彼らの為にも貴方は特殊部隊を率いて早めに制圧して欲しいんですよ」

 

「確かに。制圧が早くなるほど小隊の負担は減るからな…わかった、そっちに回ろう」

 

サヴァントはカフを飲み終えソファーから立ち上がった。

 

ソファーに掛けていた彼のローブを手に取り上から羽織る。

 

「もう行かれるんですか?」

 

ゼファントはコップを片付けようとするサヴァントに声を掛けた。

 

「ああ、ジェダイも中々多忙でね、別のミーティングの時に会おう、“()()()()()()()”」

 

「ええ、“()()”」

 

どうやらこちらの意図は伝わったようだ。

 

彼がジェダイであって珍しく良かったと思う。

 

思考をどうやって読み取るかは知らないが知らずとも目標を達成できればそれで良い。

 

さて、今回はどう立ち回ろうか。

 

普段と変わらぬ目つきではあるのもののゼファントは既に今後の対局を見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「そうかそうか、あいつらは気づいたか」

 

ホログラムに文章が打ち込まれる。

 

「ジェダイ…また厄介なピースがくっ付いたな、早めに始末しよう」

 

再びオーラベッシュで文章が打ち込まれた。

 

…彼女にはもっと大役を引き受けてもらわねばな。

 

「暗殺命令はそのまま、奴があそこで死ぬならそれでも構わん。お前にはもう一つの命令を送る」

 

感が鋭い。

 

長年このゴミ溜めで生き抜いて来た者の直感は恐ろしいものだ。

 

「追って指示は出す、ひとまずはこれで」

 

ホログラムが消えフェルシルは専用の部屋から出た。

 

通路で小さくも響く足音を響かせ自室に戻る。

 

結局彼が心を休める事の出来る場所は自分が独りだけの場所だった。

 

静かに鋼鉄製のドアが開き彼が室内に入ると閉まる。

 

ふと以前のサイボーグの盟友達と撮った写真が目に留まった。

 

フェルシルは飾ってある写真を手に取った。

 

写真というには随分と無機質な、証明証のようなものだが。

 

もう遠い昔の事なのに何故かはわからないがつい昨日のような感触だった。

 

「ようやくだ…ようやくみんなの願いが想いが届く…」

 

彼は写真に向かって話しかけた。

 

応えるはずもないのだが不思議とフェルシルにはかつての盟友達が聞いてくれるような気がした。

 

「その為には敵を排除しなければな…」

 

憎き仇であるジュディシアルや共和国、そしてジェダイ。

 

それらの出鼻を挫きあの時なし得なかった革命をフェルシルは遺志を引き継ぎ遂げるのだ。

 

もう彼の両隣には誰もいないが…。

 

それでも為さねば、遂げねば意味がないのだ。

 

散っていった盟友達の命の意味が創られた意味がなくなってしまう。

 

その為に彼はどんな者も犠牲に捧げるつもりだった。

 

「銀河は…革命は…私が変える!!」

 

その確固たる意志は誰にも曲げる事は出来なかった。

 

そしてフェルシルの頬に涙の線はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦が決行されたのはあれから12日後の夜だった。

 

やはりこの手の作戦は夜襲に限るだろう。

 

それに今までさんざん夜間に奇襲を受けたのだからそのお返しだ。

 

全部隊が集結し突入の準備を開始したのはかれこれ1時間半後だった。

 

「少佐、突撃小隊の配置完了いたしました!」

 

中隊長の“ドラック”大尉が彼に敬礼し報告した。

 

ゼファントは仮の司令テントに備えられた椅子から立ち上がり命令を出した。

 

今の彼はジュディシアル歩兵と同じアーマーやヘルメットを被っている。

 

「30分後突撃用意、“ハウンド”は?」

 

「すでに準備完了です、今マスター・サヴァント待機しておられます」

 

「わかった…頼んだぞ大尉」

 

「はい少佐!」

 

ドラック大尉は丁寧に敬礼をし早速部隊に命令を出した。

 

ゼファントはスタスタと歩きテントの外でタブレットを操作するフィーナ少尉に言った。

 

「少尉、少し便所と各部隊に各部隊の状況を見てくる、いざと言う時は大尉の命令に従え」

 

「分かりました少佐、お気をつけて」

 

「なぁにすぐ戻ってくる、ただの便所がてらの散歩だ、コムリンクも持ってるしな」

 

ゼファントは軽く敬礼で返すと司令テントから離れていった。

 

その後彼はあえて“()()”し部隊が封鎖線張っている場所とはま反対の方向に向かった。

 

人の目がないのを確認するとゼファントは走り出した。

 

数分もたたないうちにゼファントは目的の場所へと着いた。

 

「ふぅ、来たぞ夜の猟犬ナイト・ハウンドども」

 

すると何かが動く音がした。

 

恐ろしいほどのカモフラージュ技術だなとゼファントは感心した。

 

「遅いっすよ、少佐」

 

すると一人が近くのゴミ袋の塊から出てきた。

 

彼らはジュディシアル・フォースの特殊部隊の一つ“ナイト・ハウンド”隊だ。

 

司法の軍事部隊であろうと特殊部隊はいくつか持っている。

 

現にこのナイト・ハウンド隊やジュディシアル・コマンドーのようなユニットがそうだ。

 

彼らは銀河中のどの軍隊よりも優秀であり最精鋭だ。

 

実戦も多く経験しているし何度も戦果を挙げている。

 

アウター・リムやミッド・リムの新設された惑星防衛軍の軍事教導などにもよく出向いていたりする。

 

「マスター・サヴァントはどうした?」

 

「お呼びですよ、マスター・サヴァント」

 

サヴァントも同じくもの置き場から姿を表した。

 

あまり潜入に慣れていないサヴァントはかなり大変そうだ。

 

「やっと来てくれたか、後少しで吐いていたところだ」

 

来るなり早々サヴァントは冗談で周りの緊張を解した。

 

「私もちょっと長引きましてね、隊長私のブラスターを」

 

「ちゃんと持ってますよ、ほいと」

 

「ありがとう」

 

サヴァントはナイト・ハウンド隊の“ペリアス”大尉からブラスター・ライフルを受け取った。

 

彼らが扱う“DC-12Xブラスター・ライフル”は共和国の中でも最新型のブラスター・ライフルだ。

 

このブラスター・ライフルは初めて使う。

 

「さてぼちぼち始めましょうか」

 

「だとさ」

 

ペリアス大尉はハンドサインを出しながら隠れている部下達に命令を出した。

 

すると瞬く間に全員があちこちから飛び出し集結した。

 

「もう一度任務の内容を説明する、我々の目標は敵施設の制圧のみである」

 

「その為には敵は容赦なく射殺してもらって構わない、危険を冒してまで敵を捕らえようなどとは考えなくていい」

 

ゼファントは1つ付け加えた。

 

ペリアス大尉は隊員達を鼓舞する。

 

「至極簡単な任務だな!全員抜かるなよ!」

 

静かに隊員達は敬礼し隊長であるペリアス大尉の期待に応える準備をした。

 

ゼファントはそんな戦士達を静かに見守ると早速任務を開始した。

 

「ではマスター・サヴァント頼んだぞ」

 

「ああ、少し離れてろよ」

 

サヴァントは周りの隊員達を遠ざけ集中力を高めた。

 

フォースに呼びかけ己の力を発揮する。

 

すると彼の目の前にあるマンホールが浮き上がり“道”が作られた。

 

「やっぱりジェダイってのはすごいな」

 

だから恐ろしくもあるのだが。

 

サヴァントは静かにマンホールを置くと力を解いた。

 

「よし、行こう」

 

ナイト・ハウンドの隊員達が一人ずつマンホールの下に入っていく。

 

いよいよコルサントを舞台にした最後の革命の前哨戦が今始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

敵前哨基地の表口には数十名以上のジュディシアル・フォースの兵士、別名“ジュディシアル・トルーパー”が構えていた。

 

トルーパーなどと大層な名前を貰ってはいるもののその装備はコア・ワールドやリム内の惑星防衛軍歩兵の装備が少し強化された程度だ。

 

アーマーにヘルメット、ゴーグル。

 

隊長クラスは肩アーマーなどがあったが他の歩兵は基本こんな感じだ。

 

それでも貧弱なブラスター・ライフルなら防げるし強力なブラスター・ライフルの攻撃を喰らったとしても衛生兵がいればほぼ93%助かる。

 

武装は惑星防衛軍が使うA-280ブラスター・ライフルやジュディシアル専門のDC-11、DC-12などだ。

 

トルーパー達は息を潜め時計を見つめる。

 

突入まであと数分、数秒時間があった。

 

短いはずなのだが緊張も相待ってか1秒1秒がとても長く感じられた。

 

彼らが額に垂れる汗を拭い武器のちょっとした点検をしていると時間は瞬く間に過ぎた。

 

ついぞ突入の時間だ。

 

ジュディシアル・トルーパーの隊長がブラスター・ライフルを構え合図を出す。

 

部下の1人が専用の器具を使いドアをこじ開けた。

 

「突入!!」

 

隊長の大きな声を出した命令はこの戦いの始まりを意味していた。

 

まず最初に侵入したのは重装備のトルーパーと盾を持ったトルーパーだった。

 

ゴーグルにヘルメット、アーマーという一見簡素な装備を身に付けたジュディシアル・トルーパー達はブラスターを向け周囲を経過した。

 

ここは敵地だ。

 

油断などすればあっという間に命を落としてしまう。

 

「前進!」

 

隊長の命令によりゆっくりゆっくりとトルーパー達が内部に進んでいく。

 

すると予想された通り上階に進む階段とそのまま直進する通路に分かれた。

 

「どうします隊長?」

 

「予定通り二手に分かれよう、二等保安長!下は頼んだぞ」

 

「はい隊長!お気をつけて!」

 

「そっちもな二等保安長!!」

 

互いに励まし合いつつ2人は隊を率いてそれぞれの方向に向かった。

 

盾を持ったジュディシアル・トルーパー達が先行し階段を駆け上がると早速敵のお出迎えが来た。

 

ブラスター・タレットやドロイド、通常の歩兵が一斉に弾丸の嵐を浴びせかけて来た。

 

瞬時に盾で防ぎ味方の損害を無くす。

 

「防壁分隊はそのまま押さえ続けろ、我々で支援する!」

 

盾部隊の背後から隙間を通して隊長達が敵にブラスターの弾丸をお見舞いする。

 

盾を持ったトルーパーが防御に専念しつつ後方の彼らが支援し敵の数を減らしていく。

 

こうする事によってより確実な勝利が手に入るのだ。

 

それに彼らの小隊はあくまで囮だ。

 

敵の注意を引き付け特殊部隊とジェダイの突入を待つ。

 

「三班!イオングレネードを!!」

 

バックから筒状の物体を取り出し敵の近くまで転がす。

 

数秒経つとその物体は眩いスパークを放ちドロイドやブラスター・タレットの行動を停止させた。

 

敵の戦力が一気に削がれた。

 

盾部隊が凸隊形を取り残りの敵兵を全て倒した。

 

これで最初の敵部隊は粗方片付いた。

 

「前進!敵の罠や隠し扉に気を付けろよ!!」

 

隊員達に注意を促しつつ隊長自身も己に言い聞かせた。

 

まだこの戦い始まったばかりなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

地下の使用されなくなった下水道を特殊部隊の一行は通っていた。

 

本来は裏口から突入する予定であったが“()()()()()()()()()”。

 

今裏口にはもう一つの囮部隊が突入しており今頃敵も予測のうちの二方向からの同時攻撃となっているはずだ。

 

しかし連中の誤算はここにある。

 

精鋭の部隊が下からも攻撃されるのだ。

 

それも迅速に、打撃的にだ。

 

「後どのくらい進めばいい?」

 

「100mあるかないかくらいです、すぐ着きますよ」

 

隊員達はそのまま駆け足を崩さずに進んだ。

 

そしてペリアス大尉の言った通り敵基地のすぐ真下に上がれるポイントまで辿り着いた。

 

だがそこには彼らが予期していない物があった。

 

「連中もここを裏口として使っているとは…」

 

「だろうとは思ったがかなり造るのが早いな」

 

ゼファントは目の前に聳え立つ螺旋階段を眺めた。

 

連中もここを進撃する時用の隠し通路として使用するつもりだったらしい。

 

元々この大型の下水管は地下鉄を建造しようとして放棄されたものの名残だ。

 

それをさらに下水処理に流用しようとして失敗し今に至る。

 

さらには解体も難しいらしい。

 

おかげで悪党どもの格好の裏口となってしまった。

 

しっかりと管理しておけばいいものの杜撰なこの区画の行政担当者達はこの下水管を放って置きその結果今のザマだ。

 

行政職員はみんなクビにしたいくらいだがそうも出来ない。

 

コルサントはこう言う面が多々ある為首都惑星であっても悪党や犯罪者の溜まり場になり易いのだ。

 

「どうする?この階段登ってくか?」

 

「まだ完全に完成したわけではありませんし行きましょう」

 

ゼファントが恐れる事なく階段を登り始める。

 

サヴァントやペリアス大尉も後に続いた。

 

階段を数十段登ると目の前には特に何の改造もされていないドアが備え付けられていた。

 

全員が階段付近に集まると一旦立ち止まった。

 

「どうする?吹っ飛ばすかこじ開けるか。幸いブラスト・ドアじゃないからブラスターでも十分吹っ飛ばせる」

 

ゼファントはDC-12Xをドアに近づけた。

 

しかしペリアス大尉は首を振りその可能性を打ち消した。

 

「もっと静かに行こう、全員突入の準備を」

 

サヴァントがフッと前に立ち先程のように腕を前に翳した。

 

フォースの力を使いドアをゆっくりと静かに開ける。

 

10秒も経たずにドアは開きナイト・ハウンド隊はすんなりと内部に入れた。

 

「クリア、敵は見られません」

 

「警戒怠るな、このまま司令区画へ突入する」

 

敵地に入った特殊部隊の面々は表情が変わった。

 

しかしゼファントはあえて飄々とした態度を貫いた。

 

「ジェダイってのは色々と便利なもんですね。1人欲しいくらいだ」

 

「フッ、どうせなら今後も君について行こうか?」

 

「遠慮しておきますよ。父さんから何言われるか分からないから」

 

2人は苦笑いでその場を和ませた。

 

ゼファントはだんだんジェダイについて見直し始めてきた。

 

無論全員が全員サヴァントのような人が良いわけではない事くらい分かっている。

 

しかし彼の辺縁のレンズは彼によって取り払われ始めた。

 

「少佐、前方約10m付近に敵警備兵」

 

先んじて進んでいた隊員がゼファントに報告する。

 

「状態は?1人か?2人か?」

 

「1人です、周囲にドロイドなし、不意打ちで行けます」

 

「命令、確実に仕留めろ」

 

「イエッサー」

 

1人の隊員が足音一つ立てずゆっくりと警備兵に近づく。

 

どうやら全然気づいていないようだ。

 

凄まじい隠密術だ。

 

その隊員と警備兵の距離はもう数十センチもなかった。

 

刹那、警備兵の首の骨は一瞬にして折られ声一つあげず絶命した。

 

隊員は警備兵の死体を近くに置くと仲間たちにOKサインを出した。

 

残りの隊員達も静かにそして素早く移動する。

 

ゼファントは若干足音がしていたがそれでも十分静かだった。

 

「周辺クリア、偵察のドロイドを出しますか?」

 

「やめておく、まだ残しておきたい」

 

技術兵の隊員が頷きコントローラーをバッグにしまった。

 

「よし進もう」

 

ペリアス大尉の命令で全員が再び進み出す。

 

しかしサヴァントだけは何故か歩みがゆっくりだった。

 

それに気づいたゼファントは彼に声をかける。

 

「マスター・サヴァント、体調でも悪いのですか?」

 

「いや…ちょっと嫌な予感がしてな…気をつけて進もう」

 

「はあ…わかりました」

 

ゼファントはもしもに備えてヘルメットのゴーグルを目に被せた。

 

一行はゆっくり着実に進んで行く。

 

しかし異変は起きた。

 

「爆弾に気を付けろよ…少しでもダメージは…なんだ!?」

 

ペリアス大尉が味方に警告する前に事態は一変した。

 

突如警報が鳴り響く。

 

「状況報告!!いや一旦退避!!」

 

ペリアス大尉は素早く判断し部下達と共に後退した。

 

「まさか…ここの一角を丸ごと吹っ飛ばす気じゃ…」

 

ゼファントの読みを聞いたサヴァントは瞬間的に味方を全員押し出した。

 

体が勝手に吹っ飛ばされ少し痛みを感じる。

 

しかし重要なのはそこではない。

 

「マスター・サヴァント!!」

 

サヴァントは味方を助ける為わざと吹っ飛ばしたのだ。

 

それが分からないゼファントではない。

 

そして彼の読みではもう間も無くサヴァントのいる区画は吹っ飛ばされる。

 

実際すでに隔壁が閉まりそうだった。

 

ゼファントはブラスターを持ち必死に走る。

 

そんなゼファントの気づいたジェダイは即座に大声を出す。

 

「少佐!!来るな!!」

 

そんな頼み事は聞けるはずもない。

 

彼は少しでも目の前の誰かを助けなければいけないと思った。

 

放っておけば彼は爆風に巻き込まれて死ぬだろう。

 

だが今ならまだ一緒に戻れるかもしれない。

 

彼はジェダイだとはいえ死んでほしくはない。

 

まだ一緒にいるのは僅かな間だが彼はいい人だ。

 

無謀にも近い勇気と使命感と必死さがゼファントを走らせる。

 

隔壁の合間を抜けサヴァントの下に辿り着いた。

 

しかし隔壁の封鎖と同時に周囲の爆弾が作動し2人は爆発に巻き込まれてしまった。

 

「少佐!!サヴァント殿!!」

 

ペリアス大尉の叫び声も隔壁の向こうまでは届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サヴァントは物心ついた頃からジェダイ聖堂にいた。

 

マスターに連れられ様々な修行をこなし日々を過ごしていた。

 

マスターは少しジェダイの中では異端的な人でそんなマスターに育てられたサヴァントもまた、同世代の他のジェダイ・イニシエイト達と仲良く出来なかった。

 

だからこそ彼の居場所はジェダイ聖堂のアーカイブでありそこに保管されている多くの記録や本であった。

 

別に1人は寂しくない。

 

周りのイニシエイト達だって悪くは思っていなかったはずだ。

 

ただ馴染めず居場所がアーカイブだっただけの事だ。

 

そんなある日サヴァントは聖堂のアーカイブである1冊の本と出会った。

 

中身はかつて大戦で活躍した先輩のジェダイ達の伝記だった。

 

特に好きだったのはシスとの最後の戦いである新シス戦争期のものだ。

 

たくましいジェダイの戦士“ホス”卿や彼が率いる勇敢な戦士達。

 

カリスマのある“キール・チャーニー”。

 

ハイカラなハーフで、おとぎ話から飛びだしたような木製の戦艦に乗った“ファーファラ”卿。

 

皆々英雄であり過去の栄光を象徴するものだった。

 

その後共和国を立て直し戦死したジェダイ達の慰霊碑を建てたターサス・ヴァローラム最高議長も嫌いではなかったが当時はまだ政治が良く分からなかったから評価はイマイチだった。

 

しかしそんな勇敢な英雄達よりもサヴァントが心惹かれたのは別の人間だった。

 

その男は己がフォース使いである事を隠し直向きに共和国の為に大勢を率いて戦った。

 

気づけば彼の艦隊と彼の軍集団は共和国最強となりシスの軍勢を次々と打ち破った。

 

しかも彼にはたくましさやカリスマ、ハイカラでユーモアに満ちた所全てを兼ね備えていたが彼はあえて英雄になろうとしなかった。

 

英雄ではあったが“()()()()()()()”にはではなかった。

 

サヴァントは不思議に思いずっと答えを探っていたがどの本にも答えはなかった。

 

彼がやがて成長しナイトへ昇格する頃には視野も広がりその男のもう一つの姿が現れ始めた。

 

()()”であり共和国軍の英雄。

 

やはりあの男はジェダイの英雄ではなく民衆の、“()()()()()()”だった。

 

何故なのか。

 

何故己の持つ力を否定したのだろうか。

 

何故ジェダイではなかったのか。

 

その子は何か“()()”があったのではないのか。

 

サヴァントはずっと気になっていた。

 

そしてもう一つ真実を知った。

 

彼の子孫はまだ“()()()()()”事を。

 

そして今もここに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………サヴァント!!サヴァント!!」

 

ゆっくりと閉じられていた瞼をサヴァントは開けた。

 

頭や身体のあちこちが痛み少ししんどいがまだ立てる。

 

目線の先には心配そうに見つめるゼファントがいた。

 

彼の怪我をしてはいるが既に手当てを施されていた。

 

「よかった…一応バクタを塗って包帯を巻いておきましたが、動きすぎないでくださいね?」

 

「…えっと少佐……今の状況は……」

 

頭を打ったせいか殆ど覚えていない。

 

ゼファントはポケットに仕舞うと説明した。

 

「あそこの区画が一気に吹っ飛んで我々は巻き込まれたんですが貴方が爆風をフォースで吹っ飛ばしてくれたおかげで最悪の事態は防げましたよ」

 

「それで床が崩れ落ちてこのザマか…ハハ…」

 

「連中の使用する爆薬が少量でよかった。後少し量が多かったら2人とも下敷きだった」

 

「それはどうも…なんで少佐は態々助けに来たんだ?」

 

瓦礫の下からブラスター・ライフルを引っ張り出すとゼファントは振り返った。

 

「癖というか…目の前で誰かが死ぬ、誰かが殺されるのは衝動的に動いてしまうんですよ……人を殺す職業に就いてる癖にね」

 

ゼファントは「非情になれないって軍人としてはかなりの欠点だと思うんですがね」と自重気味に笑いブラスターを点検した。

 

ふとサヴァントは眠っていた時の事を思い出す。

 

そういば“()”も伝記にはそう書かれていたっけな。

 

やはりゼファントはあの者の子孫であるのだ。

 

サヴァントが憧れたあの英雄の。

 

「そうかい…さてこれからどうする?少佐殿」

 

「司令区画を落としましょう。特殊部隊の面々は無事でしょうからそのまま行かせます」

 

「我々は?」

 

「この高さならケーブルを使って登れます。二手に分かれて奇襲しましょう」

 

こんな状況下でも諦めずまだ勝利を得る事をゼファントは考えていた。

 

サヴァントも思わず高揚し震える。

 

痛む身体を抑えサヴァントは立ち上がった。

 

戦い、共に勝利を得る為に。

 

しかしよろけてまた座り込んでしまった。

 

やはりまだダメージを完全に回復しておらずそれ以上に大きい。

 

「もう少し座っていてください、治したとはいえまだ痛むでしょうし」

 

「いや大丈夫だ…あとこの際だから言わせてもらうがマスターとか敬語はやめてくれ。もっと気楽にいきたい」

 

冗談まじりにサヴァントは彼に忠告した。

 

ゼファントは少しポカンとしていたがすぐに察し苦笑を零した。

 

そういえば同じような事彼女にも言われたなとほんの少しばかり思いながら。

 

「それは失敬、ではサヴァント反撃開始と行こうか」

 

ゼファントは自分の右腕を差し出した。

 

サヴァントはじっと見つめ彼の右腕を掴んだ。

 

「ああ!行こうか!!」

 

サヴァントは立ち上がり再び戦意を固めた。

 

『……さ……少佐…少佐!!』

 

突如コムリンクが鳴り響いた。

 

ゼファントはスイッチをオンにし通信を始めた。

 

「隊長か?こっちは…無事だ」

 

『今すぐ救援に向かいます!!後少し耐えててくださいね!!』

 

ペリアス大尉は励ますように言ったがゼファントは首を振った。

 

「いや隊長、君は部隊を率いて今すぐ司令区画を攻撃しろ、私達もすぐに行く」

 

『ですが…』

 

「行くんだ!!」

 

ゼファントは多少強めの口調でペリアス大尉に言った。

 

「ナイト・ハウンド隊はこのまま進み、我々は別方向から進む。二方向から司令区画を叩く」

 

『…わかりました…!ご武運を!!』

 

祈りを込めてコムリンクは切れた。

 

ゼファントもポケットに混むリンクを仕舞うとブラスターをもう一度持ち直した。

 

「さて、恐らくこの上がさっきいた場所でしょうからケーブルで登ろう、私に掴まって」

 

「いやあの上からいかん」

 

「えっ?まさか高いの怖いとかそういう…」

 

ゼファントは半分冗談半分本気で口を抑え軽口を叩いた。

 

サヴァントも苦笑と共に否定する。

 

「いや違う違う、別の方向から進むんだろ?ならこっちに何かある気がするんだ」

 

サヴァントはライトセーバーで方向を指した。

 

瓦礫の山の向こうにはまだ道が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今頃応戦中の同志達はどうなったと思う?」

 

この基地を守る兵士の1人が隣にいる仲間に尋ねた。

 

「さあな、ただ時間は稼げてるからそろそろ撤退のはずだ」

 

「お前達!こっちへ来い」

 

この周辺の警備主任の伍長が二人を手招きした。

 

二人は多少不思議に思いつつも命令通り集まった。

 

伍長はタブレットの資料を読み始めた。

 

「上からの通達でここをブラスト・ドアで封鎖しろとの事だ」

 

「もうですか?」

 

「そうだ、出来る限り急げ」

 

2人は小さく頷き先ほど話を振った方の兵士がとぼとぼとドアの前に戻った。

 

このブラスト・ドアも最近設置したものだ。

 

それを丸ごと捨てて夜逃げみたく出ていくなんて少し勿体無いなと彼は思っていた。

 

ドア近くの端末に専用のコードを入力する。

 

そしてレバーを引き完全にドアを閉めた。

 

このブラスト・ドアは旧式の為態々コードやレバーなどをいじる必要があるのだ。

 

「施錠、完了しました」

 

兵士が振り返り2人の下に歩き始めると伍長と仲間の表情は突然引き攣り始めた。

 

不思議に思い2人に尋ねた。

 

「どうかしましたか?伍長?」

 

しかし伍長は後ろを指差し諤々震えるだけであった。

 

「うっ後ろを見ろ…早くこっちへ来い…」

 

なぜ震えているのかがイマイチ解らない。

 

首を傾げ言われた通りに後ろを振り返ってみた。

 

するとその兵士もブラスター・ライフルを構え震えと共に後退りした。

 

ドアに“()()()”が突き出ていたのだ。

 

それも縁を描くように移動し分厚い破れるはずの無いブラスト・ドアを溶解していく。

 

「うっ…撃てッ!!」

 

伍長の命令よりも先に彼ら3人は倒れた。

 

溶かされたブラスト・ドアの破片が恐ろしいスピードで彼らに衝突したのだ。

 

死にはしなくとも大ダメージだろう。

 

何かがぶつかる音と倒れる音に気付いた2人の兵士が通路の影から顔を出す。

 

しかし2人も青い光弾の犠牲となってしまった。

 

ブラスト・ドアの周りから噴き出る白い煙の中から2人は出てきた。

 

ゼファント・ヴァントとサヴァント・メンターは武器を構え進んできたのだ。

 

「まさかあの通路の向こうにも同じような扉があったとは」

 

「ええ、驚きだ。でもお陰で態々ケーブルを使わなくて済んだ」

 

2人はちょっとした会話を挟むとすぐ走り出した。

 

敵兵士はもう5名近くも倒れている。

 

すぐ他の敵が仲間を呼び近くを封鎖するだろう。

 

そうなる前に突破しなければ。

 

早速彼らにはドロイドやタレット、敵兵が立ちはだかった。

 

「邪魔だ!」

 

フォースの力でドロイドとタレットを粉砕する。

 

しかし命を持つ敵兵は少し倒れるだけで完全には再起不能になっていなかった。

 

まだ力が足りていない。

 

そこでゼファントは立ち上がり応戦してくる相手を優先的に銃撃した。

 

これほどまでに近距離ならば外す心配すらない。

 

「その曲がり角を右に!この区画の構造も本来のルートと同じはずだ!」

 

サヴァントは頷きゼファントよりも早く走った。

 

彼が前に出て敵を打ち破りゼファントがその支援をする。

 

これがゼファントの考えたセオリーだ。

 

ジェダイの力を信じそして尚且つ己の力量で相手を助ける。

 

()()()()()()()()()()()()”ではあるが恐らくこの時代においては珍しかった。

 

互いを信頼し互いの力量を持って敵を制す。

 

望ましい関係性だ。

 

「はぁあ!!」

 

サヴァントが軽く飛び上がり数秒だけ宙に浮く。

 

全身のエネルギーを剣に込めて彼の眼の前に立つドロイドの胴を斬り落とした。

 

火花を散らし倒れ込むドロイドを横目に柄を両手で握りしめ次の目標に刃を振るう。

 

また1体のドロイドが斃れブラスターで応戦する敵兵もセーバーに弾かれた弾丸を頭に受け即死した。

 

サヴァントは一旦防御に徹した。

 

呼吸を整え再び攻勢に出るためだ。

 

光剣を振るい次々と弾丸を打ち返す。

 

ゼファントはそんな彼の状態を察し今度はDC-12Xの引き金を引き確実に敵の戦力を削いでいく。

 

たった2人相手に革命気取りのテロリスト達は多くの損害を出していた。

 

「また一気に行くぞ!」

 

「了解!!」

 

ゼファントは腰に付いている“N-14バラディウム=コア・ライト・デトネーター”を敵に投げつけた。

 

床に転がってから数秒後爆発を引き起こし敵が何人か巻き込まれた。

 

また爆発が原因となり引き起こされた煙幕の効果は大きくドロイドはともかく有機生命体達の視覚をほぼ完璧に奪った。

 

ここに大きな隙が生まれる。

 

煙の中を突っ切るかのように緑色のライトセーバーが敵を貫く。

 

ドロイドが一気に2体破壊されそれに気づいた敵兵数名があっという間に斬殺された。

 

それに気づいた残りの敵兵がブラスター・ライフルを構えるがすぐさまブラスターの的となった。

 

ゼファントの射撃が敵兵を撃ち倒したのだ。

 

2人は駆け足で前へと進むががまたしても敵の群れが襲いかかって来た。

 

しかも今度はブラスター・タレットまで用意されている。

 

「チッ!大丈夫か!!」

 

ブラスター・ライフルを撃ちながら隣で弾丸を弾くサヴァントに声を掛ける。

 

サヴァントは不敵に笑みを浮かべ応えた。

 

「ああ!ちょっと痛むがこのまま一気に行こう!!」

 

「ジェダイがみんな君みたいだったら父さんも少しは変わってたろうにな!」

 

ふと皮肉まじりに彼に投げかけた。

 

こんな戦闘状況だからこそ笑いは重要なのだ。

 

男もフォースの力を使い敵を蹴散らすと皮肉で返した。

 

「全員がこうじゃないさ!でも私は君と出会えてよかった」

 

「だな、一気に行こうかサヴァント!!」

 

「ああ!ゼファント!!」

 

2人の進撃はもう誰にも止められなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方戦闘に参加中のジュディシアル部隊全員が目指す司令室では既に小規模だが混乱が起き始めていた。

 

突如来襲した敵の部隊を押さえ込む事が出来ないのだ。

 

しかも突然の奇襲の為対応が後手に回ってしまった。

 

「一体何処から…まさかあの地下通路を使われたのか…?」

 

「いやそしたら必ずあの区画の爆発に巻き込まれてダメージを負うはず…いや死ぬはずだ!それに衛兵も大量に配置していた!何故ここまで辿り着けたのだ…」

 

様々な異常が重なり彼らは冷静さを欠いていた。

 

本来なら悠々と脱出できるはずがジュディシアル・フォースなどにここまで追い詰められていた。

 

「敵部隊、九番通路を突破」

 

ドロイドの冷たい機械的な声が指揮官達の肝をさらに冷やした。

 

あっという間にもうすぐ近くまで迫って来ているではないか!

 

このままでは皆捕らえられ革命の計画自体が危うくなる。

 

彼らはもう自決する考えすら浮かんでいた。

 

しかし次に彼らの脳裏に浮かんだのは絶望という言葉だった。

 

ドアが打ち破られモニター越しに見えたジュディシアル・フォースの部隊が司令室内になだれ込んでくる。

 

次々とドロイドや警備兵を撃ち殺し戦力を潰す。

 

「これでチェックメイトだ」

 

部隊の隊長ペリアス大尉は冷酷に彼らに銃口を向ける。

 

しかしペリアス大尉に気を取られてほとんどの幹部達がナイト・ハウンド隊に捕らえられてしまった。

 

だがこれはチャンスだ。

 

落ち延び態勢を立て直せばまだチャンスはある。

 

そう見込んだこの施設の指揮官は急いで別のドアの方向へ走った。

 

しかし指揮官がドアの前に立つよりも早く何故かドアは開いた。

 

瞬間指揮官の足が止まる。

 

眼の前には負傷しつつも五体満足で立ちはだかるジェダイの男とジュディシアル・フォースの兵士が立っていた。

 

指揮官の表情が引き攣る。

 

それと同時に彼はジェダイのフォース・プッシュに圧され反対側の壁に強く打ち付けられてしまった。

 

「口の中に毒を含んでいるかもしれない、注意してくれ」

 

ゼファントは隊員達に忠告した。

 

「全ドロイドや防衛システムを停止して降伏勧告を出します」

 

「頼む一等保安士、隊長!」

 

「少佐!マスター・サヴァント!ご無事で何よりです」

 

ペリアス大尉とゼファント、サヴァントは再会の握手を交わし生き延びた事を喜んだ。

 

すでに高い技術力を持つナイト・ハウンド隊の隊員達がこの施設のコントロールを始めている。

 

もう勝利は確定したようなものだ。

 

「残りの隊員を率いて両出口の防衛を」

 

「お任せください。ハウル、リーター、付いてこい」

 

ペリアス大尉が司令室の出口の守りを固める。

 

ゼファントも段々肩の力が抜け始めていた。

 

少し椅子に座りたい気分だ。

 

「これも君の予測通りなのか?」

 

ふと隣に佇むサヴァントは尋ねた。

 

ゼファントはどうせジェダイに書く仕事しても無駄と知っている為素直に答えた。

 

「ああ、多少のアクシデントはあったけど」

 

「ではあの少尉は最初から騙すつもりだったのか?」

 

「騙す……確かに騙してはいるが彼女なら最初からそうすると信じていたからね」

 

「物は言いようだな」

 

苦笑まじりにサヴァントは皮肉った。

 

ゼファントも同様に己の非動さに呆れ返る。

 

副官を信じそんななの女を利用したのだ。

 

「早く帰らないと彼女も不思議がるんじゃないか?」

 

「いや、どうせここにいる事も彼女にはお見通しですよ」

 

またもや苦笑が浮かび上がる。

 

「でも…いつか彼女も…」

 

ゼファントの決心は固くサヴァントも内心気付いていた。

 

そうでなければこんな質問を送らない。

 

「救い出しますよ、私の大切な“()()”ですからね」

 

この“()()”という言葉はいずれ別の一文字に変わるのだがそれはまだ少し遠い先の話。

 

この革命戦もすでに終わりへと近づいていた。

 

既に勝利者が定められたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし君はやはり1人なんだね」

 

青年は私にそう語りかけた。

 

私は寂しく微笑みを浮かべる。

 

青年は心境を察してしまったのかすこし気まずい表情を浮かべていた。

 

「別に悪口じゃない。でもやっぱり何処か“()()()()”でさ」

 

ああ、本当にこの少年に見透かされているな。

 

確かに寂しい。

 

ここは私しかいない。

 

孤独だ。

 

孤独でない時など限られている。

 

人が来る事など辿()()()()()時か()()()()()だけだ。

 

ここへ来る者などいない。

 

耐えられないわけではないが寂しい。

 

愛した者も親友も戦いを常に共にした者も誰も来ない。

 

だがそれが私の本来の運命なのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

「いつかは自由になるんだろう?」

 

どうだろうな。

 

無理かもしれない。

 

「まあ気長に行こうじゃないか。我々の寿命は人より遥かに長くそれ故に孤独、そうだろう?」

 

その通りだ。

 

我々は死んでも死にきれない。

 

悲しいのか望ましいのか。

 

ほら、次の場面が見えるぞ。

 

「らしいね」

 

砂浜に佇む2人の青年は青暗い夜空に掛かる景色を見上げた。

 

 

 

 

 

つづく



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彼女の秘密

我が家は常に軍族軍族また軍族。

戦う組織に勤めて戦う組織で一生を終えることもある。

父も祖父も兄弟も皆戦いの場へと赴き我が命を賭けて誰かの為にと戦った。

当然死んだ者もいるだろう。

生きて寿命を迎える者もいる。

最期は皆自由だ。

しかし人生は、自分の生涯はそうではない。

決められてしまっている。

他の血縁者と同じように。

俺は軍に行き軍で与えられた生の大半を終える。

そこに決定権も自由も何もない。

一生をこの碌でもない国のために捧げるに等しい。

そして自らの一生はその為だけに準備される。

生まれた瞬間からずっとだ。

子供の頃から俺は戦う事と覚悟や使命とやらを教えられた。

父にも母にも他の兄弟にもだ。

俺はそうやって悶々と日々を過ごしていた。

何か重いものを背負わされ何かに縛られたように。

その時は思わなかったが今なら言える。

辛かった。

辛いという感情すら分からなかった。

ただ当たり前だからやるしかないとずっと言い聞かせていた。

だが本当はやはり苦しく辛かった。

屋敷の窓から見える青い空の景色も俺には鎖に閉ざされ雲掛かって見えた。

あの先に行っても何処に行っても俺の使命は、一生は決して俺を離さない。

自由なんてなかった。

あるのは先祖から受け継がれる使命を果たすことのみだ。

ある日俺は既にハンバリン防衛軍の大尉だった兄に尋ねた。

先に使命として軍に入っていた兄だ、何か見出せたのかもしれない。

もしかしたら自分もそんな氏名に何かを見出せるんじゃないかと。

「苦しくないのか」と。

すると兄はこう答えた。

「苦しくなんてないさ。僕はただ使命を全うしてるだけだ、与えられた物に対する使命を」

そして兄はこう言った。

「お前にもいつか分かるさ。いつかな」

分からなかった。

結局自分の見出せるものは何もなく苦しみも変わらなかった。

鎖は歳を取る度に大きくなっている気がした。

当たり前だ、年齢を重ねれば重ねるほど使命を果たす時が来る。

そして期待通り…かは分からないがアカデミーを卒業し軍…ジュディシアルに入った。

ほぼ軍隊みたいなもんだろう。

与えられた使命を果たす時が始まった。

閉鎖的な場所で理由もなくただ先祖の使命を習慣的な義務として果たす。

重荷は更に降り掛かり鎖は更に太く重たくなった。

地獄だった。

各地で勤務を重ね俺は少しばかり雲の切れ間から外を見れた気がした。

その隙間から見れえた世界だけでも十分自由を感じた。

軍でも家でもない場所、俺はそこになんの関わりもない。

何を持っていても絶対に行けない場所だった。

自由があり使命も何もない場所。

ずっと求めていたものがそこにはあった。

それでもその場所に向かうことは許されない。

使命がある。

果たすべきものがある。

ただ渇望し見つめる事しか出来なかった。

幸い俺はどうやら軍人としてかなり優秀な方らしく当時の人手不足も相まってすぐに提督まで昇進出来た。

だからなんだと言うのだ。

何も嬉しくない。

誇らしくもなく逆に重荷が増やされるだけだった。

そして遂にその日は来た。

ある時俺はジュディシアルの一個艦隊を率いてとある敵を征伐していた。

なんとか損害なしで敵は倒せた。

民間人の犠牲も少なく最良の勝利だったと言える。

だがあの時こう言われた。

「人殺し」と。

まだ小さな子供に「親を返せ」と言われた。

その子供が敵の子なのかそれともただの民間人だったのかはもう分からない。

だが間違いなく奪ってしまったのだ。

この手で。

なら俺は今まで何をしてきた。

そもそも使命とはなんだ。

他人を殺して何の使命となるのだ。

子の親を奪い一体何がある。

使命とはなんだ。

なんの為に生まれて来たんだ。

生きている意味など、使命を果たす意味など何処にある。

やがて俺には何かが見えた。

光る扉のような何かが。

まるでその先に答えがあるような気がして。

俺は入ってしまった。

その扉の先に。



これは当時の記録で最年少で提督となったとあるヴァント家の1人のたわいもない小話である。


ゼファントは珍しく青いジュディシアル・フォースの軍服を着込んではいなかった。

 

灰色のコートに身を包み珍しくおしゃれをしていた。

 

普段は基本あるか分からない休みの日も軍服のままで過ごす事が多い。

 

何せ楽だし下手に考えなくていいある種の合理性からだった。

 

そして彼は父ゼントにプレゼントされた“ダローリアン合金”で作られた腕時計を見つめた。

 

呼んだ側が早く行くのは礼儀として当然だが少し早すぎたかなとも思っている。

 

待ち合わせに選んだ“ディプロマット・ホテル”前は今日も大勢の観光客で栄えていた。

 

まだ午前中だというのに多くの観光客がホテルの周辺を彷徨いている。

 

むしろこの辺の地区は朝だろうが昼だろうが夜だろうがまるで変わらない、ずっと大勢の人で賑わっている。

 

逆に眠れなくなるほどだ。

 

それはそうと今日はいい天気だ。

 

大量のスピーダーや聳え立つ高層ビルによって多少遮られてはいるがそれすら通り越す程の太陽の光が照らされている。

 

そのせいか今日は多くの人が外に出ている気がする。

 

まあ気分的な感触なのだろうが。

 

「少佐!少佐ー!」

 

聴き慣れた美しい声が左の方から聞こえてくる。

 

ゼファントは振り返りベンチから腰を上げた。

 

誘った相手は知っての通りフィーナ・リースレイ少尉だった。

 

彼女も同じく青い軍服ではなくちゃんとした私服を着ていた。

 

そしてこれを説明するにあたってはゼファントの語彙力や今までの女性との経験不足でそれは不可能であった。

 

何せ今まで触れ合った女性といえば母フローネ、家のメイド、アカデミーでの友人くらいだ。

 

まず母親の私服なんてどれも当てにならないしメイドなんて四六時中同じ服装だ。

 

なんなら母も軍服姿の方が印象に深く残っている。

 

またアカデミーの友人たちも同様で私服を見る姿などほぼ皆無であった。

 

完全に機会がない訳ではないが彼は服装といったものにあまり頓着がないのでよく見てこなかった。

 

とにかく軍人になる事と友人を大切にする事がメインであまり恋愛面でも強くはない。

 

他人のそれこれは分かるが彼自身に向けられるそう言った好意はよく分からなかった。

 

こんな形でも顔が良く人が良く能力があるのでモテるのだからずるいものだ。

 

結果ゼファントには女性に対する、特に服装に対する経験値が圧倒的に不足しており故に感想もなかなか出て来なかった。

 

「えっと…似合ってる…と思う…よ?」

 

あまりに辿々しすぎる。

 

戦術や戦闘の若き天才がこんなにも女性に疎いと知ったら民衆は、彼を尊敬し始めた人達はどんな目で見ることやら。

 

少なくともアカデミーの親友達は「なんだいつものことか」で済ますだろうが。

 

ただ目の前の少尉はその事について薄々気づいていたらしく苦笑を漏らした。

 

「全く…たまには私のわがままにも付き合ってもらいますからね?」

 

「えっ?ああいいとも。誘ったのは私だしね、でどこの行きたい?」

 

「まずは…」

 

側から見たら2人は完全にカップルだ。

 

しかし一部の内側の者からすればそうではない。

 

片方は相手を“()()()()”、片方はそんな彼女を“()()()()”にいたのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻のジェダイ聖堂。

 

ついこないだ敵前哨基地襲撃の功労者であるサヴァントはようやく退院していた。

 

傷をバクタや包帯で治したとはいえ重症には変わりなくすぐ病院に搬送された。

 

完全に崩落した瓦礫に埋もれ重傷を負いながらも戦ったらそうなる。

 

しかし強靭なジェダイ・ナイトの肉体としっかりとした設備の医療技術で数週間もかからず退院したのだ。

 

「はぁ……今頃ゼファントはうまくやってるかなぁ…」

 

別の場所である種の戦いをしているゼファントの事を思いサヴァントは何故か苦笑を漏らした。

 

なんとなくある面では不器用そうな人間だ。

 

久しぶりのジェダイ聖堂は居心地がいい。

 

彼はようやく自由に歩ける足で聖堂内のアーカイブを目指していた。

 

ドアが開き懐かしい場所に足を踏み入れる。

 

何千何万以上、銀河一とも誇れる程の資料が残されているこの場所こそ“ジェダイ・アーカイブ”だ。

 

幼い頃何度も通い詰めあの伝記を読んだ思い出の場所。

 

むしろ第二の我が家といったところだ。

 

最近は任務などが重なり訪れる回数は減っていたがそれでも思入れは変わっていない。

 

「えっと、革命戦時の資料は」

 

「アーカニアン革命の事ですか?」

 

ふと後ろから声が聞こえた。

 

サヴァントが振り返ると懐かしい姿がそこにあった。

 

「マスター・ヌー!お久しぶりです」

 

サヴァントは一礼する。

 

優しそうなジェダイ・マスターでこのアーカイブの主任司書である“ジョカスタ・ヌー”は微笑んだ。

 

昔からアーカイブに通っていたサヴァントにとっては馴染みの人物だ。

 

「お久しぶり、それでアーカニアン革命の資料をお探しですか?」

 

「ええ、おっしゃる通りです。ちょっと色々ありましてね」

 

サヴァントは笑って誤魔化した。

 

もしこれがジェダイとは関係のないゼファントの指示だと知ったらいい顔はされないだろうから。

 

軍人とは嫌われるのも込みで仕事なのだとゼファントは言っていたっけな。

 

ジュディシアルとジェダイは深い繋がりがあるがそれでもどこかジェダイの方が立場的に上というのは否めない。

 

それがある種共和国の軍事の伝統なのだろう。

 

何万年も前から軍事はジェダイが司る事が多かった。

 

「それならちょうどこの通りの一番端にあります。なんならマスター・ウィンドゥにも聞いてみては?」

 

「えっ何故です?」

 

「彼は確かアーカニアン革命に参戦していました。何か知っているはずですよ」

 

サヴァントは顎を撫でた。

 

確かに当事者に聞いてみるのはいい案かもしれないが今はやめておく事にした。

 

ひとまず主観的なものではなく客観的な情報の資料が欲しい。

 

「ありがとうございます。でもまずは資料から」

 

「わかりました、何か困った事があったならいつでも呼んでくださいね」

 

「わかりました」

 

サヴァントはまた一礼すると早速資料の方を探し始めた。

 

言われた通り確かにアーカニアン革命時の資料は通りの端にあった。

 

早速そのうちの一つを取り出す。

 

「さて…革命時のサイボーグリストと……」

 

サヴァントは早速手に取った資料を読み始めた。

 

(ゼファントは言っていた…怪しいのは生死不明の地上指揮官だと…)

 

サヴァントはゼファントの言葉を振り返り資料を読み取る。

 

そのほとんどが死亡と記録がつけられているがたった一つだけ“()()”と書かれているものがあった。

 

その名は“G()C()-()0()9()”…“()()()()()”。

 

やはりゼファントの読みは正しかったのかもしれない。

 

奴はまだ生きていてこのコルサントのどこかに潜んでいるのだ。

 

コルサントの暗闇だらけの大地に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やはり生き物に高い知能がある以上よっぽどの事がない限り衣服は纏うものだ。

 

いつしかそれは必需品から娯楽へと変わっていく。

 

娯楽はまたいつしか芸術や伝統へと受け継がれゆくのだ。

 

そして今ゼファントはそんな娯楽に付き合っていた。

 

「私服なんて私は数着しか持っていないからな…というか着る機会がない。後よく分からない」

 

独り言のようにゼファントは苦笑を浮かべた。

 

彼は今試着室の前の壁に寄りかかっていた。

 

「絶対覗かないでくださいね少佐」

 

室内からそんな声が聞こえた。

 

ゼファントもため息混じりにまた苦笑を浮かべて応える。

 

「当たり前だろぉ?こんな所でセクハラまがいなことしてなんの意味が…」

 

「できましたよ!」

 

カーテンが開きさっき選んだ服を着たフィーナ少尉が出てくる。

 

とても似合ってる。

 

いつもの制服姿とは違いとても愛らしく美しさが出ている。

 

しかしゼファントにはそれを表現する語彙力はなかった。

 

「どうですか…?」

 

「いいと思うよ、うんいいと思う」

 

「もうさっきから同じ感想ばっかり…」

 

「ごめんごめん、でも似合ってるよ」

 

「もう…フフ」

 

2人とも苦笑を浮かべ笑い合っていた。

 

たわいもない会話だったが一時の幸せを感じた。

 

一瞬だけこんな時間がもっと続けばいいのになと思ったがすぐに改める。

 

こんな時間を守る為に行動しているのだ。

 

まやかしではなく本当の意味でこんな時間を過ごして貰えるように。

 

「ありがとう…ございます」

 

フィーナ少尉は珍しく照れていた。

 

「そんな照れることないだろう?」

 

下手に照れられると誉めた本人も恥ずかしくなる。

 

2人は苦笑を浮かべあっていた。

 

「いえ、あまり私服を褒められた事なかったもので」

 

「全く…どれ私が払ってやろう」

 

「いえそんな!」

 

ゼファントは徐に財布を取り出し始めた。

 

階級の差もあってかフィーナ少尉は遠慮した。

 

「だから言っただろ?私が誘ったんだからこれくらい礼儀だって」

 

「…お気遣い感謝します…でも」

 

そこで一旦言葉は区切られた。

 

ゼファントは頭にハテナマークを浮かべた様な表情になる。

 

「いや…やっぱりなんでもありません」

 

ゼファントはあえて言葉にせず微笑で応える。

 

やはり“()()()()()()”のか。

 

ならまだ彼女はやり直せる。

 

人間が本来持っているものは善性なのか悪性なのか。

 

それは分からない。

 

が、今の彼女は間違いなく善性を残している。

 

そしてどこかで過ちを認めているなら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コルサントの街を歩いているともう昼時になってしまった。

 

2人は近くのレストランで一旦食事を取る事にした。

 

この周辺のレストランは基本ハズレはないだろう。

 

アンダーワールドとかならともかくだが。

 

ゼファントはこの店の名物の料理を頼みフィーナ少尉はサンドイッチやサラダなどを頼んだ。

 

「やっぱりこう言う料理を食べちゃうと軍用レーションの生活には戻り辛くなるな。まあ、文句も言ってられないが」

 

日々の生活を皮肉りながらゼファントはこの料理を褒めた。

 

「確かに、そうですね」

 

少尉も微笑を浮かべている。

 

そこでゼファントは独り言のように彼女に言い放った。

 

「少尉もだいぶ感情豊かになって来たよね」

 

「えっ?」

 

少尉の手がそこで止まった。

 

恐らく同時に思考も停止したのだろう。

 

ゼファントはあえてそのまま続ける。

 

「最初にドレイヴン大佐の前で会った時は本当に無表情でどうなるかと思ったよ、ハハハ」

 

「そうでしたね…情報員はみんなこんな感じでは?」

 

「確かに、でも少なくとも私は今の少尉の方がいいと思うよ」

 

彼女を諭すように静かに微笑んだ。

 

この時ばかりは本当に優しい、聖人のような微笑みだ。

 

どこか人を惹き付けるような微粒子も含まれているような気がする。

 

「そうで…しょうか…」

 

「ああ、君は笑顔の方が似合ってるよ」

 

この時何故かはわからないがフィーナ少尉の“()()”が大きく揺らいだ。

 

始末する対象であるのにも関わらず彼女は躊躇いをいつも以上に覚える。

 

それが運命なのかはたまた理由があったのかはこの時の彼女には理解できなかった。

 

ただ“()()()”のような、恐怖や震えを感じる躊躇いがあった。

 

「少し用を足してくるよ、失礼」

 

ゼファントは席を立ち便所の方へ向かった。

 

そしてこの時彼女には大きなチャンスが訪れた。

 

「お待たせしました、ジョーガン・ティーです」

 

「そちらの席に」

 

彼女の手の向きから察し店員は静かにジョーガン・ティーをゼファント側のテーブルに置いた。

 

「ごゆっくりどうぞ」

 

定員は何も知らず去っていく。

 

暗殺用の毒を食後に到来する茶に含ませればゼファントは確実に死ぬ。

 

多少疑われるにしても任務は成功だ。

 

フィーナが使う毒は確実に殺せる上に突然の心臓発作による死と見分けがつかなくなる。

 

疑われても確証は掴めない。

 

しかも今ゼファントはいないのでこのジョーガン・ティーに毒を仕込むなど子供でも出来る。

 

そしてその毒は今フィーナの隠しポケットに入っている。

 

ジョーガン・ティーは余裕で彼女の手の届く距離内にある。

 

いつでも仕込める。

 

いつでも殺せる。

 

いつでも任務を終わらせられる。

 

いつでも…。

 

しかしいつでも殺せる手がこの時は動かなかった。

 

何故か彼女の手は動かなかった。

 

今まで命令を無視した事などあり得なかった。

 

それから彼女はしばらく動けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店を出た後2人はまたコルサントのオフィス街を散策していた。

 

特に予定もないがないならこれから適当に組み合わせれば良い。

 

まだ互いの利害は一致していないのだから。

 

近く売店で買った飲み物を飲みながら2人は歩いていた。

 

すると少尉が持っていたコムリンク付きのホロプロジェクターの着信音が鳴った。

 

「すいません少佐、情報部から」

 

「そうかい、私もまたトイレに行ってくるよ。飲みすぎたかな…」

 

「じゃああのビルの前で」

 

フィーナは指を差しゼファントも頷き了承した。

 

「わかった」

 

2人は一旦離れた。

 

フィーナは周囲を何回か見渡すと路地の方へ早歩きで向かった。

 

あまり人に聞かれたくないからだ。

 

彼女はまた人目が少ないことを確認するとホロプロジェクターを起動した。

 

「急になんです?」

 

『君に今すぐの任務を与える』

 

この時彼女は少し不思議に思っていた。

 

いつもなら指導者であるフェルシル本人が命令を直接出すのだが今回は副官格のフォンフからだった。

 

『ゼファント・ヴァントが我が主の正体に近づきつつある』

 

「ええ、実際もう…」

 

『そしてもう一つ、彼は我々の“()()”全てに気付いている恐れがある』

 

フィーナはその言葉に驚愕しある一面では納得していた。

 

情報の少ないこの段階で全ての元老院攻撃拠点や本拠点に気付けるなど不可能だ。

 

サヴァントも確かに前哨基地に気付いていたがあれは特殊な勘だ。

 

特殊能力などないはずのゼファントが気付けるなどやはり不可能である。

 

納得というのは彼の秀でた才能とまだ若いのにも関わらず経験や判断力が豊富だ。

 

そして彼は常に真実を“()()()()()”。

 

聞いた話によるとアーガニルの旗艦を機能停止にした時も周囲の士官達は誰も気付かなかったそうだ。

 

工作を行った兵でさえ一体何に使われるかすら最後まで知らなかったらしい。

 

彼はいつも矛盾した一面を持っている。

 

全てを曝け出しているようで仲間にすら何も見せていない。

 

誰かを確実に信頼しているがその上で誰にも重要な真実は伝えず最後の瞬間まで隠している。

 

やがては誰からも信頼されなくなりそうだがそこを彼は彼自身の性格やその独特の接し方でカバーしている。

 

真っ白な人間に見えてその実態は真っ黒。

 

無害に見えて一番の強敵。

 

そして本当にそんな彼を理解出来る者など誰だっていないのだ。

 

「私への任務は?」

 

フィーナはすぐに本題へ入った。

 

不用意なことは考えない方が任務に支障が出ない。

 

『暗殺は一旦中断し真意を確かめろ、恐らく奴の家にあるはずだ』

 

「わかりました、すぐ実行します」

 

『確か今奴と共にいるんだったな、悟られないよう頼むぞ』

 

フィーナは静かに頷き通信は切れた。

 

彼女はまた人目を気にしてから路地を出た。

 

まだゼファントは来ていない。

 

待ち合わせ伸びる前に立つと彼女は心と任務内容を整理した。

 

ひとまずゼファントを手にかける事は当分先になる。

 

それが良い事なのかはともかく心の底ではなぜか安堵を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃サヴァントは資料をしっかりと読む為テーブルの方に移動していた。

 

若干大量の資料を真横に置いたせいで変な目で見られていたが。

 

しかし今の彼にはどうでもいい事だった。

 

とにかく重要なのは知る事と彼に伝える事だ。

 

それが何よりもこの一連の事件を解決する上で大切だ。

 

「フェルシル…革命軍のサイボーグ連隊を率い前線の衛星の基地を制圧…」

 

ここまではゼファントから聞いた話と同様だ。

 

問題はここからだった。

 

「その後ハリス・セルネアン少佐率いる大隊の奇襲を受け軌道上艦隊と時を同じく壊滅」

 

次の場面に移行するとそこにはとんでもない事が書かれていた。

 

「しかしサイボーグ軍をコントロールするメインコンピュータにはまだ“()()”の表記がなされていなかった…」

 

一瞬凍りつく。

 

死んでいなかった。

 

間違いなく確実に奴は生きている。

 

サヴァントは更に読み進めていった。

 

「同様にいくつかのサイボーグも同じ表記がなされていなかったがジェダイの鎮圧隊は機器の故障などを理由に捜索はしなかった……」

 

おいおい嘘だろ。

 

サヴァントはこの時ほんの少しだけ当時の鎮圧に出向いたジェダイ達に怒りを覚えた。

 

もし彼らがあの場でもしもを考えてそのサイボーグを捜索していれば今こんな事にはならなかったはずだ。

 

今頃こんなところでこんなことしなくていいしあんな大怪我を負わなくても良かった。

 

彼は大きなため息を吐いた。

 

しかしもはやどうしようもないのでそのまま文章を読んだ。

 

「また戦場にフェルシルと思われる肉片が散らばっていた事から死亡と断定した…サイボーグなんだから体の一部無くなってそりゃ平気だろ…まあ普通の人間もそうだが…」

 

皮肉と共にサヴァントは再びため息を吐いた。

 

恐らく敵の指揮官は十中八九フェルシルだろう。

 

しかし相手がわかったなら後はやる事は分かっている。

 

彼の特性を調べ戦術や戦いの数々を纏める。

 

それがゼファントに頼まれた事だ。

 

後一仕事とサヴァントは自分に喝を入れた。

 

後少し、この戦いの鍵を手に入れるまで後少しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に家来るのか…?まあ家って言っても帰る事は殆どないが…」

 

ゼファントは一応断りを入れた。

 

突然フィーナ少尉が彼の家に行きたいと言い出したのだ。

 

あまりに唐突だった為流石のゼファントでも困惑気味だった。

 

「良いんですよ、それにもっと情報部員としても話をしたいですし」

 

「そうか…なら何かご馳走するよ。一応料理の一つや二つくらいは作れる」

 

ゼファントは微笑みと共に彼女に進言した。

 

「ありがとうございます、お言葉に甘えて頂きますね」

 

自然と2人の口角は上がった。

 

しかし両者ともなんとなく感じ取っていた。

 

そこに哀愁が含まれてる事を…。

 

ゼファントが借りているジュディシアル・フォースの官舎は案外近かった。

 

地下鉄に乗り二駅も通り越せばすぐ近くの駅に辿り着けた。

 

この官舎は他にも多くの将兵やその家族が住んでいて静かではあったが暖かみを感じられた。

 

2人の家路までの会話はそっけなかったりしたがそれでも着々と信頼のようなものが見え始めていた。

 

否定したいだろうがこれは客観的な事実だった。

 

ゼファントは家の玄関の前に立つとコートのポケットにしまった家のキーを取り出した。

 

「お邪魔しますね」

 

フィーナ少尉は静かに家の中に入った。

 

ゼファントは一旦荷物を秋のある部屋に置いておくと早速台所の方へ向かった。

 

少尉は何かを“()()”ようにキョロキョロしていた。

 

「出来るまで適当にくつろいでおいてくれ、トイレとかはあっちにある」

 

ゼファントは指を差し方向を教えてくれた。

 

「じゃあ少し借りますね」

 

「おうさ、もしかしたら結構時間掛かるかもだから」

 

少尉は一礼するとリビングを出てトイレの方へ向かった。

 

しかし本当の目的地はそこではない。

 

彼女が探るのは彼の寝室か、書斎だ。

 

恐らく目的の情報はそのどちらかに隠されているのだろう。

 

トイレの隣にあるゼファントの書斎に忍び込んだ。

 

この家は小さく一階建てである為探す範囲が狭くて助かる。

 

彼女は密かに持ち歩いていた手袋を着け静かに奥へ奥へと進んでいく。

 

まだ彼が住んで1年とちょっとな為本棚はほとんど埋まっておらず机の上もかなり綺麗だった。

 

フィーナはゆっくりとまずは机の上から調べ始める。

 

タブレットや端末、重要時に直接サインする為のペンしかなかったが彼女はとにかく隈無く探した。

 

だがやはり机の上にはなかった。

 

元々期待はしていなかった為すぐに諦め今度は机の中を調べ始めた。

 

殆どの引き出しが鍵付きのものだったがゼファントはそう言ったものに一切手を付けていなかった。

 

その為驚くほど探索は素早く終わった。

 

中身は殆ど関係のない悪く言って仕舞えばガラクタばかりであった。

 

「どこにもない…じゃあやっぱりまだ掴んでいないという事…?」

 

そう言いながらフィーナは一箇所だけこの机に違和感を覚えた。

 

一つ引き出しが開かない。

 

いくら力を入れても開かないという事はもしかしたこの引き出しの中に…。

 

若干の期待を膨らませながら引き出しに触れようとした時。

 

「その引き出しには何も入ってないよ」

 

声と共にフィーナは思わず座り込み彼女が忍び込んできたドアの方を絶望の眼差しと共に見つめていた。

 

遂に見つかってしまった。

 

彼は変わらない表情のままドアの前に立っていた。

 

何一つ変わらずまるで知っていたかのように。

 

そうか…やっぱりこの人は…。

 

絶望感と謎の納得がこの時のフィーナの心に襲いかかった。

 

「言ったじゃないか。君は笑顔の方が似合うって、ね?少尉」

 

ゼファントは全てを知ろうとし知った上でも彼女を受け入れるつもりだった。

 

それが上に立つ者の務めであるからだ。

 

父や祖父や先祖達がきっとそうして来たように。

 

 

 

 

 

つづく



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秘密は過去から

デノン戦役
ナブー危機の数百年前に勃発した戦い。
指揮官戦死の為宇宙地上両軍とも代理指揮官の下での戦闘であった。
地上指揮官のヴィアーズ大佐が立案した包囲殲滅戦により大勝。
戦役後の数十年近くデノンを狙う者はいなかった。
その後包囲殲滅戦はコバーン=ヴィアーズ戦術と呼ばれる。
またこの戦いで当時ジュディシアル・フォースの大佐であったヴァント家のエリアス・ヴァントが現地に駐留しデノン家と呼ばれるヴァント家の分家を作り上げる。


「…ここで殺しますか?それとも情報部やジュディシアルの保安部門に引き渡して尋問するつもりですか?」

 

「まさか、大切な部下にそんなことする訳ないさ」

 

覚悟を決めたフィーナであったがまるで変わらないゼファントにより最も簡単に挫かれてしまった。

 

彼の真意は誰にもわからない。

 

するとゼファントは彼女に手を伸ばした。

 

優しく救世主のように。

 

「でも話して欲しい事はある」

 

「簡単に口を割るとでも?それよりも死を選びますよ、貴方も知っての通り。そうやって教えられてきた」

 

「そう言う話は…今は求めてない。それに別に話したくなければそれでいい」

 

さっきから彼の意図が読めない。

 

元々読み辛かったが今はもっとだ。

 

そしてゼファントが求めるものは彼の口から直接放たれた。

 

「君の昔を、過去知りたい。どうしてそうなったかを。本当は嫌なんだろう?心の奥底では絶対にそう思っている」

 

「そんなわけ……そんなわけないでしょう!私は革命の為に共和国を……切り崩して…貴方を……」

 

殺さなければならない。

 

フィーナは全てを言い切れなかった。

 

再び理性とは別に勝手に流れる涙を抑えきれず言葉が途切れてしまった。

 

何故だかは分からない、それはフィーナ自身ですら分からない。

 

しかしその理由をゼファントは若干わかってきたような気がする。

 

彼女は確か以前コルサント生まれだと言っていた。

 

しかしどこの階層に生まれたかまでは言っていない。

 

そこに理由はあるのだ。

 

本当は優しく善意に溢れているはずの彼女がこうなってしまった原因が。

 

「私は確かに軍人でしかない、カウンセラーでもないし持てる権限も限られてる、救える保証なんてどこにもない。それでも出来る事はあるはずだ。だから話してくれないか少尉。今までの事を」

 

本当に分からない人だ。

 

彼は優しすぎる。

 

なのになんで優しさとは反対に近い職業をやっているのか。

 

いやそれもきっと家のせいなのだろう。

 

私と同じ、結局は同じ。

 

変えられない、誰も何も。

 

それはきっと不条理であり不幸だ。

 

フィーナはそれを発した。

 

彼女達の不条理を。

 

「わかりました…話します。生きる地獄を…私達が革命なんかに縋らなきゃいけない理由を…全部」

 

彼女は涙を拭うとゆっくり立ち上がった。

 

とっくの昔にフィーナは死ぬつもりだったがせめてこの事だけは彼に伝えておきたかった。

 

何度も見た首都の暗闇で彼女達がどんな生活を送っていたのかを。

 

どれだけ多くの命を見捨てたのかを。

 

全てを教えてこの世を去るつもりでいた。

 

不条理の世に生きる意味なんてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が生まれたのはゼファントとちょうど同じ年だった。

 

だがゼファントはハンバリンの軍隊貴族に、フィーナはコルサントの薄汚れた地下階層(アンダーワールド)にだった。

 

あそこはゼファントが何度も訪れたように碌でもないところだ。

 

コルサントの最上階の発展具合や煌びやかな文化的な街とは違いアンダーワールドは光など当たらず空気も汚染され汚かった。

 

そんな暗黒街だからこそ犯罪者やギャングファミリーの格好の棲家であり治安などあってないようなものだ。

 

当然弱者はそんな犯罪者達に虐げられ助けを求めようにもこの暗黒街まで手を伸ばそうとする者は誰一人としていなかった。

 

むしろ興味本位で除いた瞬間傷を負わされる事だってある。

 

それが誰であろうと。

 

だからこそ首都であるのにも関わらず中央政府や行政機関は彼女達を見捨てたのだ。

 

弱者をいちいち救済するよりも首都の更なる発展に力を入れたほうがいいと考えたのだろう。

 

とうの昔に腐りもはやどうする事も出来ない場所に手を加えるよりまだ発展の希望や可能性がある場所に全てを注ぎ込む。

 

そうして発展してきたのだ。

 

仮にアンダーワールド救済を掲げた人物がいたとしてもそれは大方次の選挙で勝つ為の人気取りといった所だ。

 

結果彼女達はずっと救われる事はなかった。

 

上の階層の者達からは汚らしいものを見る目で“()()”と嘲られさらに下の階層に行けば命そのものが危険だった。

 

そんな場所で彼女は産まれ過ごしてきたのだ。

 

幼い頃のフィーナは父親と母親、そして小さな弟とこの地で暮らしていた。

 

生活は楽ではないが少なくとも幸せではあった。

 

だが悲劇は起きた。

 

これは彼女がまだ7歳の頃だった。

 

7歳の少女が受けるにしては惨すぎる悲劇が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フィーナ、夕ご飯出来たわよ!」

 

母親に呼ばれたフィーナと幼い弟は近所の友人達と別れ古いオンボロのアパートに戻った。

 

同じようなアパートだらけで一見見分けが付かなくなるが長い間ここに住んでいた為すぐに自分達の家が分かる。

 

2人がドアの前に立つと勝手に開き2人を迎えた。

 

「ただいま!」

 

「おかえり、そろそろパパも帰ってくるから早めに手洗っちゃいなさい」

 

「はーい!行こう“シュレイン”」

 

弟の名前はシュレイン・リースレイ。

 

この頃から彼女はかなりの美少女であり弟のシュレインもかなり整った顔立ちの男の子だった。

 

「うんお姉ちゃん!」

 

2人は洗面台の方へと走っていった。

 

彼女達が手を洗っていると父が帰ってきた。

 

「ただいま」

 

「おかえりパパ!お疲れ様!」

 

「おかえり!」

 

「ただいま2人とも」

 

父親はゆっくり腰を下ろすと2人の頭を撫でた。

 

フィーナの父親はコルサントのアンダーワールドで建築業の仕事についていた。

 

ほとんど肉体労働でその過酷さに比べては給料はお世辞にもいいとは言えないがこれ以上の職につく事が出来なかった。

 

だがメリットもあった。

 

少なくともある程度の賃金にはありつけるし仕事中だけだがコルサントの上階に上がる事が出来る。

 

それに仕事は少しでも欲しい。

 

少しでも金を稼ぎ家族の生活を、ひいては子供達にもっといい生活をさせる為に彼は働いていた。

 

「おかえり、ちょうどご飯出来たから」

 

「そいつはタイミング良かった。もう腹減って死にそうだよハッハッハ」

 

「ほんと、お疲れ様」

 

「お疲れ様パパ!」

 

母親に続いてフィーナも父にまた言葉を掛けた。

 

父は何も言わずただ疲れた顔に満面の笑みを浮かべるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕食のシチューの鍋が空になりリースレイ家は全員食休みに入っていた。

 

母が夫であるフィーナの父親にカフを差し出す。

 

「またアンダーワールド内でテロか…ここら辺も危なくなってきたな…」

 

最近はアンダーワールド内での爆破テロやブラスター乱射事件、誘拐事件などが立て続けに起こっていた。

 

一応共和国も警官やポリス・ドロイドを動員するなどポーズは取っていた。

 

「政府は何か手を打ってくれるのかしら…」

 

母親は不安そうに呟く。

 

父親はホロネットニュースを切るとカフを入れたマグカップを一飲みした。

 

「期待はできないけどな……せめてこの子達だけでも…」

 

父親が読み聞かせをするフィーナと弟のシュレインを見つめながらそんな事を考えていた。

 

母親も否定はしようとしていたが完璧には否定できない。

 

このアンダーワールドはそういう所だ。

 

それを覚悟で…と言っては語弊が生じるがここにしか居場所がないので彼らは住んでいる。

 

しかし子供達だけはなんとしても助けたかった。

 

すると家の裏の方から大きな音がした。

 

少し神経質になっていた2人はまさかと思い慌てて裏口から飛び出す。

 

数百メートル離れた同じアパートの一角が炎上していた。

 

「火事…?」

 

「違う…きっと……!」

 

「ちょっとあなた!!」

 

父親は一瞬で察知し妻の制止も聞かず部屋の中に入った。

 

すぐにリビングの2人の元へ向かった。

 

「2人とも今すぐ荷物をまとめるんだ」

 

「どうしたのパパ?」

 

「早く!ここも危なくなる…」

 

珍しく父の表情は険しかった。

 

僅かな時しか経っていないのに汗がダラダラ流れている。

 

すぐ後にやってきた母親も同じように焦りと緊迫感を帯びた表情を浮かべていた。

 

この時の彼女はまだよくわからなかったがすぐにわかるようになった。

 

それは外の騒ぎを目にすればすぐに分かった。

 

7歳の子供でも分かるほどの異常な事態が巻き起こっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

古いリュックに自分の好きなおもちゃや大切な物を詰め込むとフィーナは弟の手を掴み両親の下へ走った。

 

両親も荷物をまとめたらしくいつでも家を捨てられる形となっていた。

 

「フィーナ、シュレイン、こっち」

 

父は小さな2人を手招きし呼び寄せた。

 

突然言われたせいでシュレインはまだとても幼くよく分かっていなかったがフィーナはかなりの不安に襲われた。

 

「家を出たらすぐ走るんだ。そしたら地下通路を通って避難所まで行くんだ、きっと大丈夫…大丈夫だからな…!」

 

「フィーナ、あなたならシュレインを守れるわね?」

 

「うん…ママ」

 

不安を押し殺し母の言葉に頷く。

 

そして弟の小さな手をぎゅっと握りしめた。

 

「シュレインもお姉ちゃんと私たちの言う事ちゃんと聞くのよ、わかった?」

 

「うん…」

 

少年は小さな声と共に頷いた。

 

すると外を除く父親が何かに気づき急いで家族のもとに走った。

 

「伏せろ!!」

 

瞬間家の中に大量のブラスター弾が放たれ窓ガラスや電球、備品を幾つか割った。

 

初めて聞く銃声と一瞬のうちにものが破壊される光景が幼いフィーナの心を襲う。

 

そして次に聞くのは嗚咽だった。

 

「ウグゥッ!!アァ!!」

 

父親が左肩を押さえ唸っていたのだ。

 

電球が割れ灯のない状態だがよく見ると父親の左肩からは血が垂れ出ている。

 

そして垂れた血が彼の寝そべる床に行ってきずず静かに垂れていた。

 

さっき家族を庇って撃たれたのだ。

 

「パパ!!パパ!!」

 

「あなた!!大丈夫!?しっかりして!!」

 

「パパ…パパ……!」

 

フィーナと母親は彼の側に駆け寄りシュレインは涙を流し始めた。

 

「大丈夫…だ……早く…行こう……」

 

父親は無理矢理体を起こし心配させないよう笑みを作った。

 

仕方なく母親とフィーナも荷物を持ち走り始めた。

 

幼い弟シュレインをしっかり引っ張って。

 

玄関から飛び出し荷物を持って走り始めるとそこには地獄のような光景が広がっていた。

 

炎が家々を襲い容赦なく人々を巻き込む。

 

爆発が起こり建物が崩壊する。

 

そんな中両手に銃器を持ちただひたすらに何かを唱えるかのように引き金を引く白ずくめの男達。

 

幼い中でも彼女は覚えている。

 

彼らが唱えていた言葉の一つ一つを。

 

「暗黒の力が我らを救う!!我らは暗黒の為に!!暗黒面の為に聖戦を!!」

 

意味はまるでわからなかった。

 

しかし何かに取り憑かれたかのようにずっと同じ言葉を繰り返す彼らに自然と恐怖を覚えた。

 

放たれる弾丸や灼熱の業火も同様に。

 

全てが恐怖に感じた。

 

普段過ごしているこの街も、何もかもが。

 

文字通り崩れている。

 

「“()()()()()()()”の為に!!」

 

また意味のわからない言葉と共に今度は爆弾が投げ込まれた。

 

辺り一帯が全て吹き飛ぶ。

 

直撃ではなかったが爆風の余波でフィーナはつまづいてしまった。

 

「シュレイン大丈夫!?」

 

すぐに手を繋いでいたシュレインに声をかけた。

 

完全に足を突き姉よりも深く躓いていたようだが怪我はなさそうだ。

 

それよりも重傷を負っていたのは負傷した父を引っ張りフィーナ達の後ろを歩いていた両親だった。

 

「パパ!!ママ!!」

 

「う…だい…じょう…ぶ…」

 

「貴方!?しっかりして!!貴方!!」

 

母親は一生懸命に夫の体を揺らしフィーナもシュレイン父親の元へ駆け寄った。

 

彼はもう作り笑いを浮かべる余裕すらなかった。

 

「…子供達を連れて…行くんだ…俺も後から…ついて…」

 

父親は先程の衝撃と銃撃の痛みで意識が飛びそうになっていた。

 

突然そんな事言う父親のせいでフィーナも涙を流し始めた。

 

「やぁだ!!パパも一緒に逃げるの!!」

 

「後から行くっていっただろ…?早く逃げ…ないと…」

 

「でも貴方が!」

 

「早く…!!…きっと着いていく…」

 

あまりの気迫と覚悟に押された母親は小さく頷くと黙ってフィーナとシュレインを連れ走り始めた。

 

振り返ると父が必ず笑顔を浮かべていた為もうこれ以上立ち止まり振り返る事はなかった。

 

だから気付けなかった。

 

父は既に意識が無くなり息も途絶え始めていた事を。

 

最期に一言だけ「生きていてくれ」と呟いて事切れた事を。

 

彼女達はとにかく走った。

 

振り返らずきっとみんなで逃げ切れると希望を信じて。

 

しかしそんな一筋の小さな希望の光にもすぐさま暗雲が立ち込めてきた。

 

瓦礫が道路に散乱し永久に光が届かない筈の地下街を業火の光で照らし肌にジリジリと痛みを与えていた。

 

そして再び悲劇は起こった。

 

焼け落ちた建物の一部が崩落する。

 

こんな事は周囲を見渡せばよくある事だったがこの場合は悲劇の要因となった。

 

「フィーナ!!シュレイン!!」

 

突然母親がフィーナとシュレインを突き飛ばした。

 

訳も分からず2人は大きく転び少し顔を擦りむいた。

 

すぐにフィーナは突き飛ばした母親の方を振り返った。

 

「ママ!!」

 

彼女の目の前で母親は灼熱の炎に纏われた瓦礫に埋もれてしまった。

 

あれだけの質量と熱量だ、どうなるかは余裕で想像が付く。

 

最期に悲しげな笑みを浮かべて母親は瓦礫の中へ消えて行った。

 

「ママ!!ママ!!」

 

引き裂けそうな大声を挙げ瓦礫の山に近づこうとするが再び建物の崩落が始まり完全に道が塞がれてしまった。

 

後ろで母親の喪失を絶望の表情で見ていたシュレインを見てフィーナは立ち上がった。

 

母親は目の前で消え父親は到底現れそうにない。

 

だがまだ自分も弟も生きている、なら生き延びねばならない。

 

溢れ出る涙を一生懸命拭いながらゆっくりシュレインに近づく。

 

「行くよ!シュレイン!」

 

幼い小さな手を彼女はさらに小さい弟に差し伸べた。

 

彼女が実母を失った悲しみをなぜ耐えられたかはわからないが少なくともこの時までは彼女は明確に生き延びようとしていた。

 

シュレインも虚な目のまま姉の手を取り立ち上がった。

 

走って生きなければならない。

 

フィーナはとにかく走った。

 

瓦礫を避け、走る気力すら潰えたシュレインを引っ張りながら走った。

 

まだ4歳のシュレインは7歳のフィーナにとってはかなり重かった。

 

そしてシュレインの虚な絶望と悲しみに満ちた表情を見るたびに胸が苦しくなり涙が止まらなくなる。

 

「後少しだからね!!」

 

「ん…!」

 

小さな頷きと返事を認識したフィーナはそのまま弟を連れて走った。

 

彼女の言う通り父親が言った地下通路まで後少しだ。

 

両親を短い間に失い死が迫っている状況でも彼女は走り続けた。

 

運命はそんな彼女を嘲笑うかのように次々と不幸を浴びせかけた。

 

地下通路の入り口が見え始め後少しと言った矢先まず一つ目の不幸が訪れた。

 

突然近くの建物が爆発したのだ。

 

不発弾かそれとも何かが引火し爆発したのかは分からないがただ2人が再び余波で吹き飛び怪我をしたと言う結果だけが残った。

 

直接食らったわけではないので重傷まではいかないが膝を擦りむき血が出ていた。

 

「うぅ…シュレイ…危ない!!」

 

大きく飛ばされたシュレインと離れ離れになってしまったフィーナ達の前に大きな“()”が出来た。

 

辛うじて原型を留めていた建物が完全に崩壊し大きな壁を形成した。

 

とても高く積もれてしまった為まだ小さかったフィーナでは登ったり飛び越えたりする事が出来なかった。

 

「シュレイン!?シュレイン!!」

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」

 

互いの名前を姉弟叫びあった。

 

無事なようだがそれでも隔絶された事には変わりなかった。

 

どうにかしてシュレインを連れ出さなければと考え始めていた矢先次の不幸が訪れた。

 

シュレインのいる方から聞いた事のない男達の声が聞こえた。

 

「おいあそこに子供がいるぞ!」

 

「ああ……あの歳ならちょうど良さそうだ…おい動くな!」

 

何かが構えられた音と共にフィーナはなんとなく察した。

 

きっとシュレインを殺そうとしている。

 

「ぁぁ…お姉ちゃん助けて!!お姉ちゃん!!」

 

「シュレイン!!」

 

必死に助けを呼ぶ声がフィーナの体を動かす。

 

「まさか向こうに誰かいるのか…?」

 

「構わん、まず一人連れ去るぞ!」

 

足音が次第に大きくなる。

 

「うぅ…お姉ちゃん…」

 

姉を呼び続けながらシュレインは壁の近くに頭を抱え蹲った。

 

どうにかして助けなければ…。

 

己がどうなろうと弟を助けたい。

 

しかし幼さと目の前の物理的な壁はそれを阻んだ。

 

「子供を捕らえろ、絶対傷つけるなよ。中々見込みがありそうだ」

 

「わかってる、おら!」

 

「やだ!!離して!!助けて!!お姉ちゃん!!」

 

泣き叫ぶ声が更に大きくなる。

 

多分どちらかの男に軽く持ち上げられたのだろう。

 

4歳の小さな男児を持ち上げるなど多少腕力が備わっていれば造作もない事だ。

 

「シュレイン!!シュレイン!!」

 

姉の絶叫はなんの役にも立たなかった。

 

しかしそれでも弟は信じて叫び続ける。

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」

 

そんなシュレインを快く思わないのか男達は何かを話し始めた。

 

「少しうるさいな…どうする?」

 

「スタンは幼すぎて使えない、あれを使おう」

 

「ああ、どうせこの後も使うだろうしな」

 

意味はよく分からなかったがとにかくシュレインに何かしようとしている事は確かだった。

 

「シュレイン!!お願いやめて!!弟を返して!!」

 

「幼いな…向こうのやつも連れて行くか?」

 

「いやまずは一人確実に欲しい、我が卿(My lord)の為にも」

 

壁の向こうで男は頷くとじたばた暴れるシュレインに注射器のようなものを刺した。

 

中の透明な液体が全て入れられた瞬間暴れまわり大声を挙げていたシュレインの動きがぴたりと止まった。

 

あまりに一瞬でシュレインの反応が止まった為フィーナは察してしまった。

 

再び涙が溢れる。

 

また家族を失ってしまった。

 

何も出来なかった。

 

足音が遠くへと過ぎていく。

 

「あぁ…ぁぁ…あぁ…」

 

どうする事も出来なかった。

 

もう何もする事が出来なかった。

 

ただ何もかも壊された。

 

全てが奪われた。

 

生活も、家も、家族も何もかも。

 

壊され奪われてしまった。

 

彼女の人生はここで一旦全てが崩壊した。

 

一度目の崩壊であり全てが一瞬のうちに奪われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから一晩経った。

 

テロはひとまず出動したコルサント保安部隊とジュディシアル・フォースなどの一部部隊により鎮圧された。

 

彼女達が住んでいた団地のほとんどは全焼するか崩壊し焼け跡だけが残った。

 

結局使者行方不明者合わせて数百人以上が犠牲になったと言われている。

 

だがコルサント数兆人以上に比べれば“()()()”数百人程度で大した事ない事件として処理された。

 

しかもアンダーワールドという事もあってか多くのコルサント市民がこの事件を気にする事は少なかった。

 

これが実情だ。

 

いくら人が悲劇的に死のうが統計的な数字として処理され小さな事件として記憶の片隅に、いや記憶すら残らない。

 

自分たちに実害が無ければみんな無関係で済ませてしまう。

 

それが今の共和国だ。

 

いや、今()続く銀河共和国の姿だ。

 

そしてそれは政府や行政にも市民にも最悪の形で伝染していた。

 

腐敗の伝染病が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィーナはなんとか生き延びていた。

 

弟がどうなったかは分からないが彼女だけは生き延びていた。

 

あの後自分がどうやって地下通路を移動し近くの避難所まで逃げたかは彼女自身も覚えていない。

 

ただ今の彼女には負の感情しか残されていなかった。

 

周りを見渡しても知らない人ばかりだ。

 

親しい友人や知人などは何処にも見当たらない。

 

みんな死んでしまったのだろうか。

 

何せ一番被害が大きかった場所にみんな住んでいたのだ、助かる可能性は低い。

 

フィーナの両親にように。

 

「おーい食料の配給が始まるらしいぞ!」

 

誰かが軽く大声をあげ全員に告げた。

 

もう朝方でそろそろ腹が減ってきた頃合いで、避難民達は皆立ち上がりぞろぞろと歩き始めた。

 

フィーナはとても食事が喉に通る気分ではなかったが流れに身を任せていついて行った。

 

避難所を出ると数十メートル歩いた先に仮のテントと役人やコルサントの保安部隊員が数名避難民達を待っていた。

 

1人の役人が前に出て避難民に説明を始めた。

 

「今から食料配給と同時に個人の確認を行います!特定された方から食料をお受け取り下さい」

 

そう言うと保安部隊員が集まり避難民達を列に並ばせた。

 

言われた通り食料を配るついでに誰が生きているか誰が死んでいるか行方不明なのかを確認するつもりだ。

 

殆どの人が名前を言い顔を認証されるとすぐOKが出され食料を受け取っていた。

 

数分後ついにフィーナの番になった。

 

「名前をどうぞ」

 

役人がタブレット片手にフィーナをチラ見した。

 

このタブレットにこの区画のほぼ全ての戸籍などが登録されている。

 

しどろもどろになりながら小さな声でフィーナは答えた。

 

「フィーナ・リースレイ…」

 

役人がタブレットに名前を打ち込み始めた。

 

これでひとまず助かる。

 

そう思っていた彼女は想像も出来ない事を言われた。

 

「リースレイ…?そんな名前は()()()()()()、他の家族はどうした?」

 

「パパも…ママも…」

 

あの2人の事を考えると自然と涙が出て来た。

 

泣きじゃくりもう答える事は出来ない。

 

しかし役人はその涙に全く同情を示さなかった。

 

「記録がない。そしてない者には食料は渡せん。保安員!」

 

無慈悲に切り出すと役人は避難民達を警戒していた保安部隊員を呼んだ。

 

全く表情が分からない保安隊員達はフィーナを取り囲んだ。

 

「不正入植者の可能性がある、連行せよ」

 

「わかりました」

 

強引に幼い彼女の腕を掴み保安部隊員達は彼女を引っ張った。

 

「やめて!離して!」

 

「いいから、来るんだ」

 

フィーナは保安部隊員達に腕を掴まれどこかへ連れて行かれた。

 

力が強くフィーナの幼く弱った体では反撃出来ない。

 

後から分かった事なのだがフィーナの両親は貨物船に隠れて密航して来た者でそのせいか一部の記録に記載されていなかったらしい。

 

加えて幼子1人でボロボロの身なりともなるともう孤児や乞食にしか見えないだろう。

 

向こうにも様々な理由があった。

 

しかしそれ以上に共和国側の方が無慈悲であった。

 

彼女が連れて行かれる最中ふとテント裏に控えていた役人達の小話が聞こえてきた。

 

「はぁあ…爆破テロか、全く俺達が勤めてる時以外にやって欲しいよ」

 

「おかげで数万人規模の食料配給と避難確保をしなければなりませんからね…どうしましょうこれから…」

 

「知るかよ、どうせやるならもっと派手に大勢死んでくれればこんな事せずに済んだのになぁたく…」

 

「そうなったら遺体回収で酷い目見ますよ」

 

「そっちも酷いもんだな、ハハ」

 

彼らに取ってはブラックジョーク的なたわいもない会話だったのだろう。

 

だが当事者であり会話を聞いたフィーナは正気ではいられなかった。

 

もっと大勢死んでくれれば、とてもじゃないがそんな事言える状況ではない。

 

地獄だった。

 

苦しくて怖くて張り裂けそうな悲しみばかりだった。

 

何度も泣き叫んだしとても熱かった。

 

もっと、もっと苦しめというのか。

 

役人は調子良さげに更に会話を続けた。

 

「で、避難民達はどうします?死者数はともかく市街地の被害が酷すぎて家に帰すなんて到底不可能ですが」

 

「まあ復興作業と適当な重労働に割り当てておけばいいだろう。というかそれくらいしか役に立たん。犯人もクソだが役に立たねぇここの連中もクソだな」

 

「全くですよ。身元不明者や不法入国者は?」

 

「適当な鉱業惑星に振りわてちまえばいいだろう。どうせ生きてたって死んでたって大して変わらん連中だ。いっそその辺の宙域にでも捨てちまえばいい」

 

「ですねぇ、後始末が大変そうだ…」

 

「ああ、こんな下民どもの尻拭いは今後まっぴらごめんだ」

 

唖然とするしかない。

 

冷たすぎる。

 

彼女は保安部隊員に連行された直後隙を見て逃げ出した。

 

このままでは殺されてしまうかもしれない。

 

その事がたまらなく怖かった。

 

フィーナにとってこの時の出来事はただ理不尽でしかなく信じられる者が消えてしまった瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた一年が経った。

 

彼女は誰の助けもない中一年を過ごした。

 

いや過ごさざる終えなかった。

 

拘束され逃げてきたフィーナが今更共和国に助けを求める事など出来る訳もなかった。

 

それに助けてもらいたくもなかったし共和国だって彼女を助けてはくれなかっただろう。

 

フィーナは独学で色々な技術を身に付けた。

 

スリ、上手な無銭飲食のやり方、どこで寝泊まりすれば怪しまれずに済むか。

 

随分と痩せこけ汚らしい格好にはなったが生きる意志と技術が彼女を一日、また一日と生かし続けていた。

 

人の話をよく聞き様々な状況や状態を判断し以下に怪しまれないか最善の方法を取る。

 

皮肉にもこの過酷な一年がフィーナのスパイとしての能力を開花させてしまった。

 

過酷な状況だからこそ人の能力は最大限悪い方向へ活かされるのだろう。

 

その代償として彼女は人らしい感情を失っていったが…。

 

むしろ獣じみた何かがこの頃のフィーナにはあった。

 

そんな彼女に唯一残っていた人らしさと言えば死や痛みに対する恐怖心やふと思い出す度に痛む悲しい心の傷痕だった。

 

この日もそうだった。

 

盗んだ金でちょうどボロく、小汚いアンダーワールドのレストランで食事をとっている時だった。

 

静かな店に3人ほど黒いコートとハットを深く被りターバンか何かで顔を隠した男達が恰好に似合わず物静かに入ってきた。

 

一瞬だけ1人の男の素顔がフィーナには見えた。

 

右目の部分だけだったがその目はまるで“()()”のようだった。

 

金属の塊が右目の部分にくっ付いていて一部分だけ青く光っていた。

 

義眼なのだろうか。

 

目の錯覚かそれともそういう趣味なのかと彼女はそれ以上深く詮索しなかった。

 

男達の元にこの店のウェイトレス・ドロイドが現れ注文を尋ねた。

 

義眼と思われる目を持つ男が代表して答え始める。

 

「この2人に酒と手頃な料理を、私…いや俺は必要ない」

 

掠れたような声で曖昧な注文をすると男はウェイトレス・ドロイドを下がらせ男達は話を始めた。

 

彼女はこの一年間で否が応でも鍛えられた聴力でよく聞き取った。

 

しかしあまりに難しい単語ばかりだった為理解までは出来なかった。

 

それに次に起こる出来事の方が衝撃的だった。

 

「おいこの()()()()!てんめぇ俺の身内とシマに手ェ出しやがって!」

 

鬼の形相でドアを蹴破り店に入ってきた小太りのエイリアンはいきなりピストルを男に向けた。

 

フィーナもそのエイリアンは知っていた。

 

この辺では有名な犯罪シンジゲートのボスだ。

 

政府や治安部隊の手の届かないこのアンダーワールドで代わりに犯罪者が手を伸ばしているなどもう当たり前だ。

 

外の世界のアウター・リムなどの犯罪者に比べれば随分と小物だがアンダーワールドの弱者達にとっての危険度は十分だった。

 

「コイツ…!」

 

立ち上がりコートの懐から何かを手に取ろうとする男を義眼と思われる男は止めた。

 

男は懐に手を当てたまま渋々座り直す。

 

代わりにその男が席から立ち上がり前に出た。

 

「俺はお前の様な豚小屋で威張るしか脳のないクソ野郎から多くの者を()()()やっているんだ」

 

「んだとこのボケが!!舐めやがって!!」

 

ブラスター・ピストルを振り回しより激昂するエイリアンを挑発するかの様に義眼の男は更に言葉を浴びせた。

 

「お前のそのチンケな武器でやり合うなら店の外でやろう。この店は“()()()()()”だし迷惑を…掛けたくない」

 

ため息まじり男はエイリアンを見つめた。

 

完全に舐められ下に見られている。

 

侮辱を受け続けたエイリアンの怒りはもう頂点すらとうに越していた。

 

「このクソッタレがぁ!!」

 

ピストルの引き金を引く前に男は既に動いていた。

 

コートの袖から出た鋭い光が一瞬のうちにピストルに掛けられていた指を切り落とした。

 

引き金を握っていた人差し指以外の全ての指が一瞬で切り落とされたのだ。

 

血と指が床に落ちあまりの痛みでエイリアンは絶叫しフィーナの方まで転がって行った。

 

「ほら帰りな、命くらいは助けてやる。指四本の義手ならまだ十分安く済むぞ」

 

「ガァァァァァ!!クソッ!!クソッ!!クソォ!!この俺を舐めんじゃねぇぞ!!俺はギャングの王だ!!王なんだ!!」

 

エイリアンは突然近くにいた弱そうなフィーナを指の落とされた方の腕で掴み彼女の喉にナイフを構えた。

 

もう動かせる指が一本しかない為手ではなく腕全体でフィーナを取り押さえている。

 

ナイフを持つ手は震えもうそのエリアンは半狂乱状態だった。

 

「おいガキ!動くんじゃねぇぞ!!妙な事やったらぶち殺す!!」

 

フィーナは冷たい感情を失ったような眼のまま一旦エイリアンの言う事を聞いた。

 

コートを着た男たちは全員立ち上がりゆっくりとエイリアンを取り囲んだ。

 

もうこいつに退路はない。

 

店の者達もご信用のブラスター・ピストルを持ちながら集まっていた。

 

エイリアンはナイフを男達に突き付けながら叫ぶ。

 

「お前はお尋ね者だ!!問題を起こしたりガキを殺したりすればすぐ見つかって反逆罪で死刑だぜ!!ハッハッハ!」

 

「だから少女を人質に取ったのか」

 

「まあそんなところだな!さあ大人しく死ぬか俺に服従しやがれ!!今ならこの指もちょっぴりだけ許してやる!」

 

フィーナは隙を伺った。

 

その間に別の男が義眼の男に耳打ちしていた。

 

先程とは違いこの距離なら十分聞こえる。

 

フィーナは心を落ち着かせ聞き耳を立てていた。

 

「あのガキは確か孤児です。死んでも片付けるのは楽だ」

 

驚いた事にその男はフィーナの事を知っていた。

 

いつ知られたのだろうか、フィーナは謎に思っていた。

 

だがすぐに気を取り直し今必要な事をやる。

 

「そうか、まあそんな必要もなくなるだろうがな」

 

「おいテメェら!!さっきから何こそこそしてんだよ!!このガキの愛らしい首が吹っ飛んでもいいってのかァ!?」

 

再びナイフを牽制する為にコートの男たちの方へ向ける。

 

これでフィーナと彼女の喉を掻き切る為のナイフには十分な距離が出来上がった。

 

その瞬間をフィーナは掴んだ。

 

エイリアンの股間に全力をこめて肘打ちを食らわせたのだ。

 

あれは相当痛いだろう。

 

実際再びエイリアンは悶え始めた。

 

「ウグガァ!!このクソガキッ…!」

 

腕の力がすっぽり抜けてフィーナはすぐに離れる事が出来た。

 

男達の間を潜り抜け安全な地点まで身を隠す。

 

人質もなくなりもうなんの憂も無くなった。

 

指を一瞬のうちに切り落とした男が再び目にも止まらぬ早さで今度はエイリアンの腕を両方掻っ切り脳天にブラスターの弾丸を撃ち込んだ。

 

あんなに騒いでいたエイリアンも死ぬ時は静かだった。

 

「“()()”の邪魔をするな、このクズが」

 

ブラスター・ピストルを仕舞うと男はゆっくりと振り返った。

 

静かに彼女の方へ近づいて行く。

 

フィーナは警戒し少し身構えた。

 

男は静かにターバンを外し彼女に素顔を見せた。

 

捲られたターバンの先には継ぎ接ぎの顔が現れた。

 

機械やエイリアン、人間ノ様々な部分が一緒に繋ぎ止められている。

 

秀麗な顔立ちだが機械や人ではない部分の繋ぎ目のせいか妙に嫌悪感を覚えた。

 

これがサイボーグか。

 

絵本や物語の中でしかフィーナはその存在を知らなかった。

 

サイボーグの男は手を彼女に差し伸べる。

 

「勇敢な少女よ、君は1人か?どうして独りになった?」

 

外見に似合わない声で男は静かに尋ねた。

 

答えた所で何も変わらないと思いフィーナは端的に話した。

 

「親が殺されて…弟が誰かに連れ去られて…もう誰も…」

 

「それは辛いだろう。私も盟友と誓った兄弟たちを多く失った…気持ちはよくわかる」

 

同情するかのようにサイボーグの男は彼女の言葉に頷いた。

 

「そして全てを失った君はこの星から銀河から世界から見放された…不条理な話だ」

 

「だから…だから何だっていうんだ!」

 

フィーナは久々に叫んだ。

 

今まで隠した怒りを。

 

「俺も同じだ…目的を果たせず見放された、俺と共に名誉の聖戦へと加わらないか?」

 

「フェルシル!」

 

男-フェルシル-は仲間から咎められた。

 

だが彼は首を振りそれを振り払った。

 

「この少女はまだ幼すぎる、それにゴミ溜めから這い出た奴が同志にになれるはず…」

 

「幼いからこそ拒絶が少なく全てを受け入れる。ゴミ溜めから這い出た境遇だからこそ真に力を持っている。故に強い同志となるのだ」

 

フェルシルは仲間の否定的な言葉全てに持論をぶつけた。

 

そして再び彼女に手を差し出した。

 

「共に聖戦へと参加し己の境遇を覆そう。我らを一方的に見放した悪魔に正義の鉄槌を下そう」

 

そしてフェルシルはわざとらしく一言付け加える。

 

「まあ断るのであれば生かしてはおけんがな」

 

冗談半分だったのか本気だったのかわからないがフィーはある種ここで決心がついた。

 

まだ8歳の少女だ。

 

言葉の裏を読む事も、後先の利益を考える事もまだ出来ない。

 

故に今を生きるしか他に道はなかった。

 

死の恐怖は、痛みは誰よりも理解しているのだから…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実とは言葉や理想通りではない。

 

それはこのフェルシルが創設し始めた新革命軍でも同様だった。

 

フィーナや仲間達は毎日毎日身の毛もよだつような訓練を受けさせられていた。

 

ありとあらゆる人の殺し方、できる限り被害を負わせる自決の仕方、重火器から暗器まで様々な武器の使い方。

 

それだけではなく指揮官や一般的な教養、また共和国などに潜入する為に必要な知識の教育。

 

更にはより従順な同志にする為の洗脳教育。

 

幼い子供達は世界を知らないので自分たちが辛い、非人道的な事をされているという事にさえ気づかない。

 

もう彼女達の殆どはフェルシル達の思惑通り従順な“()()”となっていた。

 

最初は普通の少年少女達のような幼さを残す子供達も皆口を開ければ「戦いが待ち遠しい」、「亡き同志達の為に」などしか発しなくなっていた。

 

そんな仲間達にフィーナは“()()()”を覚えていた。

 

皆機械のような、どこか冷たい感触。

 

口から放たれる言葉も顔に滲み出る笑みもどこかに気色の悪さを感じる。

 

それもそのはず、彼女は今までこれと言った洗脳を施されていなかった。

 

革命に対しなんら反抗的な態度はないし命令にも従順で何より誰よりも強かった。

 

戦闘能力は勿論の事、生きるという意志、暗殺能力が誰よりも強く先任の同志達が教える事は特になかった。

 

おかげで彼女は四年経ったこの時までも正気を保っていられた。

 

だがそんな日々すらも暗雲が立ち込めてきた。

 

彼女に二度目の崩壊が訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ彼女が十二歳くらいの頃の話だ。

 

いつも通り日々の訓練を終え飲み物を飲んでいる時だった。

 

「リースレイはすごいよね、訓練でいつも手柄を上げて」

 

「うん…生きるためだもの…」

 

仲間の“リーセ”が彼女に話しかけた。

 

あまり他の仲間達と話したりすることは少ないが彼女だけは別だった。

 

何故か安心出来る存在だったのだ。

 

他の仲間達とは違いまだ暖かさを感じる嘘偽りのない何かがある。

 

「あっエディット、さっきすりむいてたけど大丈夫?」

 

普段無口の“エディット”は少し口籠るとスタスタ歩いて行ってしまった。

 

リーセは少しムッとしながらもそんな彼女を目線で見送った。

 

「私たちもいこ、疲れたし」

 

「うん」

 

2人が歩き出そうとすると誰かがフィーナの名前を呼んだ。

 

彼女は振り返った。

 

「同志ジョーゼ…」

 

「リースレイ、少し来い」

 

無表情でまるで何かに取り憑かれているような眼をしたジョーゼと呼ばれる男はフィーナ1人だけを呼んだ。

 

彼女は心配そうな表情を浮かべたがリーセが笑顔で「行って来なよ」と見送ってくれた。

 

ジョーゼの後ろに着くと彼は何も言わずに歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女はそのままフェルシルや彼の副官のフォンフ、幹部の同志が数名がいる部屋に連れられた。

 

部屋の中は相変わらず暗く威圧感があった。

 

「よく来た幼き同志よ」

 

幹部の1人が形式的な挨拶を交わした。

 

もう1人がまたお世辞に似た発言する。

 

「君達の努力はいずれ聖戦の勝利へと結ばれるだろう、しかし」

 

その幹部は一つ付け加えた。

 

それが彼女の呼ばれた本題だった。

 

「君達の中に“()()()()()()()”ようだな」

 

「まさかそんな事は…」

 

彼女は否定しようとしたが遮られた。

 

別の幹部が本題を口にする。

 

「既に目星はついている。そこで優秀なお前にはある任務を頼みたい、極秘の任務だ」

 

「人物の正体を探れと?」

 

「いや違う」

 

フィーナの推察はすぐに否定された。

 

「お前への任務は“()()()()()()()”だ、必ず始末するのだ」

 

一瞬フィーナは凍り付いた。

 

彼女に与えられた任務は仲間を殺す事。

 

いくら不気味な仲間達だとしても殺すのは流石に躊躇いが生まれる。

 

今まで生きる為とはいえ彼女が人を殺した事は一度だってないのだ。

 

そんなフィーナの思慮を無視し幹部達は更に付け加える。

 

「我々はお前を“()()”している、お前なら必ず我らの為、同志達の為にやってくれるだろう」

 

「必要な武器はこちらで用意した、追加で欲しいものがあれば言って欲しい」

 

「実行は3日後の夜間、裏切り者は必ず指定された場所に現れる」

 

「忠義を誓い奴を仕留めろ、どんな犠牲を払っても構わん」

 

「聖戦を冒涜する者を断じて許すな」

 

「これは殺人ではない、“()()”だ」

 

「我々の同志たる君が間違いを“()()”のだ」

 

「頼んだぞ、同志リースレイよ」

 

幹部達から雪崩のように言葉の嵐を浴びせかけられた。

 

その一言一言が彼女に大きく刺さる。

 

そして最後に、中央の席に座るフェルシルが静かにこう呟いた。

 

「試練を乗り越えろ、リースレイ」

 

彼女は悟った。

 

自分は試されている。

 

もししくじれば(あした)はない。

 

忘れていた死の瞬間が再び甦った。

 

「わかりました…」

 

了承の言葉はとても小さく短かった。

 

それでも幹部達は安堵の表情を浮かべていた。

 

「そうか、任せたぞ同志よ」

 

こうして彼女はまた少しずつ冷酷に崩壊へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リーセはフィーナの異変に気づいていた。

 

幹部に呼ばれたあたりからどうも様子がおかしい。

 

「リースレイどうしたの?手が止まっているよ?」

 

スープを飲む手が止まっている彼女にリーセは呼びかけた。

 

するとフィーナは何か怖いものでも見たかのように青ざめ更に手が止まってしまった。

 

「なんでも…ない…」

 

リーセはなんでもない訳ないだろうと思った。

 

数時間前のフィーナと比べて明らかにおかしい。

 

普段から無口だったり無愛想だったりだが今はいつも以上に変だ。

 

ずっと黙って俯いている。

 

「本当にどうしたの?顔色が悪いよ?」

 

「なんでも…ないから…」

 

そういうと彼女はまだスープやパンがかなり残ってるにも関わらずトレイを持ち上げて片付けてしまった。

 

絶対におかしい。

 

リーセは急いで食べ終えると彼女の跡をつけた。

 

追いつけないかと思っていたが意外とすんなり彼女の居場所がわかった。

 

本来この時間は消えているはずのトイレの電気がついていたのだ。

 

リーセはそっとトイレの中を覗き込む。

 

やはりフィーナはそこに居た。

 

水道の近くで何か呟いていた。

 

「3日後…3日後に…うっ」

 

その言葉の先に嫌悪感を覚えたのかフィーナは吐きそうになった。

 

何度も咳き込み顔色ももっと悪くなっていた。

 

これ以上はまずいと思ったリーセはなりふり構わず物陰から飛び出した。

 

「大丈夫!?」

 

彼女の背中を優しく撫でた。

 

フィーナはまだ咳き込んでいて彼女に目も当てられない状態だった。

 

「だい…じょう…ぶ…」

 

なんとか言葉を返したが帰って心配を煽るだけだった。

 

「大丈夫なわけないよ!さっき何があったの!?何かあったんでしょ?」

 

少し声を荒げリーセは尋ねるがフィーナは何にもないと首を振るうだけだった。

 

「別に心配しなくたって…」

 

「心配するよ!だって“()()”なんだもん!」

 

もはや懐かしさすら感じるその言葉のせいか普段あまり人と目を合わせないフィーナがこの時リーセの目を見た。

 

昔失った一番大切なものだ。

 

「家族…?」

 

「だって同志は家族でしょ?これからもずっとあたし達は一緒に暮らして一緒に生きていくんだもん」

 

「でもママもパパも…」

 

「あたしだってそうだよ、昔ねギャングにお母さんもお父さんも殺されて…あたしだけフェルシルに助けられた…」

 

仲間の身の上話なんて初めて聞いた気がする。

 

もっと話せばよかった、もっと話しかけておけばよかったと思った。

 

「あなただってそうなんでしょ?だから安心してみんなを頼ってよ!」

 

「ごめん…」

 

「あなたは1人じゃないから…」

 

彼女は静かにハグされた。

 

数年ぶりに心の底からの愛を彼女は感じた。

 

そして時はすぐに流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンダーワールドの夜は一層暗黒が増していた。

 

元々当らない恒星の光も夜は僅かな粒子ほどの光すら照らされず唯一の光といえば見窄らしい街灯や怪しげな店の灯りだけだった。

 

路上には飲んだくれのエイリアンや家のないホームレス、浮浪者が座り込み虚な目をしている。

 

薄汚れたバーでは大声と共に酒の匂いが充満し酔いが回った客達は一部喧嘩が始まっていた。

 

本来取り締まるコルサント保安部隊は人手不足の為かここまで人員が回されていなかった。

 

逆に彼女達にとっては好都合だ。

 

そんな暗い夜道をフィーナは1人進んでいた。

 

この暗く秩序もない暗黒街において少女が1人で歩く事は思っている以上に危険だ。

 

しかし誰1人として彼女を襲ったり殺そうとするような真似をする奴はいない。

 

もうこの周辺一帯は彼らの支配地だからだ。

 

誰もフェルシルと革命軍に逆らおうとする者はいない。

 

保安隊や共和国よりもフェルシル達の方がこの周辺一帯での影響力は強い程だ。

 

「目的地はこの先の路地裏…裏切り者はこの地点から脱走しようと…」

 

まだ仲間を殺す事に抵抗があった。

 

それでも生きる為に支えてくれる本当の仲間達の為に報いる為には腹を括るしかない。

 

幹部達に与えられたブラスターに手を添えながら彼女は慎重に近づいた。

 

後数十メートルの距離だ。

 

静かに物音すら立てずゆっくりと進む。

 

緊張と不安感で心臓の鼓動が早くなる。

 

短い距離のはずがこの時の彼女には恐ろしく長く感じた。

 

ついに数メートル前後の距離まで近づいて来た。

 

ホルスターからピストルを引き抜きより慎重に近づく。

 

ピストルを両手で持ち構える。

 

路地裏まで後僅かだ。

 

覚悟を決めて一気に飛び込む。

 

「裏切り者め!覚悟し……っ…!」

 

ブラスター・ピストルの銃口の先には彼女と同じくらいの身長の少女が怯えていた。

 

見覚えどころの話ではない。

 

今日も共に訓練をしていた。

 

普段は無口だが彼女も同じ仲間だ。

 

「エディット…」

 

普段からフィーナ以上に感情を見せないエディットがこの時今まで一度も見た事ないような怯えの表情を映し出していた。

 

彼女が現れた事と手に持っているピストルに相当驚いていた。

 

「なんで…どうして…」

 

「あなたこそ…なんで裏切りなんかを…」

 

「来ないで!!」

 

エディットの悲痛な声はフィーナを文字通り遠ざけた。

 

恐怖のせいかエディットの頬には涙が溢れ始めた。

 

それに圧迫されフィーナもブラスターを持つ両手が徐々に下がり落ちていた。

 

「私は……私は…死にたくない…」

 

フィーナよりもエディットの方が震えている。

 

そんなエディットにフィーナは強めに言葉を投げた。

 

「死にたくないって…じゃあなんで裏切りなんかを!」

 

「あなたにはわからないのよ!優秀でフェルシルのお気に入りのあなたには!」

 

本来の目的も忘れて言い争いが始まってしまった。

 

「家族を殺されて…!私だけが連れ去られずっと訓練されて育て上げられてきた…しかも…」

 

引き攣りそうな声で彼女は叫んだ。

 

フィーナは黙って聞く事しか出来なかった。

 

「訓練に耐え切れなかった仲間達はみんなあいつフェルシルに殺された!あいつは聖戦の指導者なんかじゃない…ただの人殺しの機械(サイボーグ)だ!!」

 

「そんな事…」

 

「ゼルは薬を飲まされて殺され、ジェイケルは体を改造されて耐え切れず、フェーレはブラスターを突きつけられ殺された!!」

 

「どうしてそんな事を……」

 

「見たのよ……全部…私の親があいつに殺された時みたいにみんなも……次は誰?誰が死ぬの?私は嫌だ…」

 

単純な感情だったがそれでも必死で逃げようとする理由には十分だ。

 

だがこの組織の恐ろしさを一方で知っているフィーナはエディットに叫ぶ。

 

「でもここから逃げたって……逃げたって未来はない!」

 

未来はない。

 

それはフェルシルに初めて会った時から感じずっと思っていた事だった。

 

しかしどうする事も出来ない。

 

未来のない場所よりも最悪の未来がある方がまだマシだ。

 

そうやって生きるしかなかった。

 

しかしエディットは彼女に吐き捨てた。

 

「私にはある…だからもう関わらないで…追ってこないで」

 

その根拠がどこにあるかはわからなかったが路地の向こうに走ろうとした為再びピストルを向けた。

 

どんな理由であろうとどんな事情があろうと自分が生きる為にもやらなければならない。

 

その音に気づいたエディットも振り返りポケットからナイフのようなものを取り出した。

 

一瞬ビクッとしたがこの暗さと威力ではピストルの方が上だ。

 

エディットはナイフを彼女の方向へ向ける。

 

「来ないでって言ってるでしょ!もう放っておいて!」

 

「私が…他の仲間達が生きる為にも!」

 

「やめて!!」

 

フィーナの背後から声が聞こえた。

 

これも聴き慣れた優しい声だ。

 

二人は思わず振り返る。

 

「リーセ……?」

 

その真剣な眼差しは遠くからでもはっきりと分かった。

 

2人の方向へリーせは走ってきた。

 

フィーナを通りすぎエディットの前に出た。

 

「やめて!仲間同士で殺し合うなんていけない事だよ!」

 

「どうして…」

 

「フィーナが急にいなくなって心配で探したんだよ。どうしてこんなことするの!?」

 

ピストルを構える手が震える。

 

このままではエディットではなくリーセの方を先に撃ち抜いてしまう。

 

それは嫌だ。

 

彼女は殺したくない。

 

「どいて…裏切り者を…任務をこなせない…!」

 

「来ないで!!くるなら…もう…」

 

「二人ともやめてよ!」

 

リーセは仲間だと思っている2人を説得しようとする。

 

それが無駄だったとしてもだ。

 

「仲間を殺す任務なんてないよ!エディットも裏切りなんて嘘でしょ?」

 

2人は口を閉ざした。

 

それが答えだ。

 

だがリーセはそんな事まだ信じられなかった。

 

隙を見計らってエディットは逃走しようとしていた。

 

だがフィーナがブラスター・ピストルを構え直しそれを阻止する。

 

「フィーナ!」

 

「どいて!私はそいつを…」

 

しかしその度その度にリーセが邪魔をする。

 

そして悲劇は起きた。

 

「痛っ!」

 

痛みを感じたリーセは頬を押さえた。

 

手には少し血が垂れている。

 

暗闇で何かが鋭く光った。

 

その光は鋭くフィーナの頬掠め傷つけた。

 

多分エディットがナイフを投げたのであろう。

 

隙を見計らったエディットが走り出した。

 

「ダメ!逃がさない!!」

 

フィーナは急いで照準を合わせ引き金を引いた。

 

とても重かったがそこに躊躇いはなかった。

 

だがその一瞬に悲劇が生まれた。

 

「ダメ!!」

 

リーセの悲痛な叫びと共に弾丸の前に彼女が飛び出した。

 

このままでは絶対に彼女の心臓を貫いてしまう。

 

なんとかしようとフィーナが飛び出した時にはもう遅かった。

 

今でも彼女の脳裏に焼き付いている光景だ。

 

銃弾は容赦無く胸の中心を貫きエネルギーはそのまま逃げるエディットの肩に直撃した。

 

口から血を吹き出しリーセは倒れた。

 

「リーセ!!」

 

彼女の名前を呼び近くまで駆け寄った。

 

傷口からは暗闇でも見ればわかる程の血が溢れている。

 

フィーナの瞳からは自然と涙が溢れていた。

 

撃たれた衝撃で立ち上がれないエディットはゆっくりと這いずり出した。

 

「くっ…!!」

 

格好の的となったエディットは憎しみを込めてピストルの引き金を引いた。

 

何発もの弾丸がエディットに致命傷を負わせ息の根を止めた。

 

これでフィーナは与えられた初めての任務を成し遂げた。

 

腕に抱える代償と共に。

 

「リーセ…リーセ…?」

 

涙を流すフィーナをリーセは弱々しい手で撫でた。

 

痛みはないのだろう。

 

彼女は穏やかな顔をしていた。

 

息の荒いリーセはか弱い声で最期の言葉として家族のように思っているフィーナに告げる。

 

「フィーナ…あなたは…生きて…」

 

「ダメ…じゃああなたも生きてよ!!」

 

リーセの腕を掴み必死に訴えた。

 

「生きて…きっとあなたには…また家族が……」

 

そこからリーセは二度と彼女に話をする事はなかった。

 

フィーナの両手をすり抜け二度と動かなくなったリーセの手は無慈悲に地面へ滑り落ちた。

 

「嘘…そんな…」

 

嗚咽に似た叫びと涙が絞り出される。

 

彼女の悲痛な叫び声は暗黒街の暗闇に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからまた数年が経った。

 

彼女は何度も働きが認められスパイとして共和国のアカデミーへ送り込まれた。

 

丁度良い年齢という事もあったのだろう。

 

だが以前と比べて彼女はより人らしさを失っていた。

 

目から光は消え他人を殺す事にもうなんの躊躇いも無くなっていた。

 

()()()”という意味や死の恐怖すら曖昧になっていた彼女はフェルシルや幹部が望む“()()()()()()()()”と化していた。

 

一方で彼女は共和国のアカデミーにも完璧に溶け込んでいた。

 

時にはそのまま共和国側に裏切ってしまおうかとも考えた。

 

しかしそんなことしたらすぐに“()()”されるし何より彼女は共和国が嫌いだった。

 

父と母を失い弟を連れ去られた後一番最初に彼女を見放したのはこの国だ。

 

常に見下しあのテロの時でさえ「もっと死んでくれればよかった」と言った人でなしどもの国だ。

 

居場所なんてないしいたくもない。

 

故にただのスパイとしてあり続けた。

 

彼女は心も身体もいずれ死にゆく運命を辿るはずだった。

 

そう、既にバレていたのだ。

 

彼女達を直接教えていたドレイヴン大佐によって。

 

大佐は他に口外する事はなかったがいずれ何かの役に立ってもらおうと黙り続けながらも確実に知っていた。

 

彼女がどこの組織に属しているかまでは分からないがスパイである事には気づいていた。

 

だからこそフィーナはどの道死にゆく運命であったのだ。

 

だが変わってしまった。

 

彼を目にするまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フィーナがアカデミーに通って三年目の頃彼女は運命的な出会いを果たした。

 

ちょうど情報部の士官候補生としてジュディシアル・アカデミーへ通っていた頃だった。

 

「リースレイ候補生、少し」

 

当時直接教えを受けていたドレイヴン大佐が彼女を手招きした。

 

「これを戦術研究課のエヴァックス中将に届けて欲しい、任せたぞ」

 

「はい大佐」

 

タブレットを受け取るとフィーナは無愛想に歩いていった。

 

ドレイヴン大佐も慣れた手つきで「頼んだ」と声を掛け執務室に戻った。

 

こういう場面で彼女は密かに情報を抜き取ったりするのだが今回はしなかった。

 

戦術研究課へ向かう為には途中軍事部門のアカデミーを通り過ぎなければならない。

 

当然その手の部門の候補生達も大勢いる。

 

目の前に別部門の候補生達が数人通り過ぎた。

 

みんな楽しそうな表情を浮かべ話していた。

 

今は同じ仲間ではあるがやがて彼らを裏切り対峙しなければならない。

 

彼らはともても仲が良さそうだった。

 

無論羨ましいとは思わなない。

 

だが反面昔の悲しい記憶を引き起こし彼女は咳き込んだ。

 

最近は度々このような咳がよくあった。

 

どれも家族といた時の事や革命軍で訓練を受けていた時の事を思い出した時に出る。

 

単なる気の弱さだとフィーナは割り切り気持ちを抑えていた。

 

すると誰かに声を掛けられた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ええ…ゲホッ…大丈夫…」

 

声を掛けてきた男性と思われる人物はフィーナの背中をさすってくれた。

 

「ありがとうございます…」

 

フィーナは一気に立ち上がろうとしたが途中でよろけてしまった。

 

しかしその男は彼女を優しく支えてくれた。

 

「気をつけてくださいね?」

 

「ええ…すいません」

 

顔を上げると同い年と思われる薄紫色の髪をした青年が彼女を支えていた。

 

優しそうな表情だがその水色の瞳の奥底には人知れぬ“()()()”があった。

 

フィーナはふと彼に名前を尋ねた。

 

どんな気持ちであったかは分からない。

 

ただ生まれて初めてと言えるほど興味が湧いた。

 

「えっと…貴方は…」

 

「私?あっ私は…」

 

彼は何故か戸惑っていた。

 

確かに突然名前を聞かれればそうなるのは無理はない。

 

しかしとぼけているのか素でこんな感じなのかは分からないがとにかく不思議な人だった。

 

「私はゼファント・ヴァント、ジュディシアル・アカデミーの候補生です。それじゃあ教官に呼ばれているので…」

 

「おーいゼファント!早く来いよ!」

 

別の候補生服を着た友人か何かの2人に呼ばれゼファントと名乗る青年は振り返った。

 

「早く行かねぇと少佐に置いてかれちまうぞー!」

 

「待ってくれ!今行くから!それじゃあ、急いでるので。あっほんと気をつけて下さいね?お大事に」

 

「あの…」

 

フィーナは彼に声を掛けた。

 

しかし彼の意識は完全に友人の方へ向いていた。

 

「それじゃあ!待たせたー!」

 

「ああ、待ったぞ」

 

「早く行こうぜ、今日はガコン少佐の愚痴を聞く会だ」

 

「うーん…なら急がなくても…」

 

フィーナも名も聞かずゼファントと名乗った青年は友人達と共に去っていってしまった。

 

今までに会った事のないタイプだ。

 

触れ合ったのはほんの僅かな時間であったが彼の優しさや人の良さが垣間見えた。

 

気づけばぼーっとしどこか頬も赤かった。

 

ゼファントはこの後の事もあって忘れていたがこれがフィーナとの、2人の初めての出会いだった。

 

言うなれば一目惚れというやつかもしれない。

 

ゼファントもフィーナも双方理解していなかったが。

 

しかし運命はさらに動き始める。

 

止まっていた彼女の歯車が良い方向へと動き出すのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから二年近く経った矢先ついにその日が訪れた。

 

フェルシルが作り上げた地下革命軍と生き残ったアーガニルが生み出した革命艦隊。

 

この両軍が一挙にコルサントに攻め寄りかつて成し遂げられなかったアーカニアン革命を再び成功させる日が来たのだ。

 

それに先立ってフィーナはコルサントの防衛機能を麻痺させる為に暗躍していた。

 

他の共和国内に潜伏している同志も工作に成功し後は主力艦隊が来るのを待つのみとなっていた。

 

誰しもが「いよいよだ」と期待と闘志を昂らせ高揚していた。

 

しかしそれらは全て無駄骨に終わった。

 

コルサントに到達する事なくアーガニル艦隊が“()()”したのだ。

 

ミッド・リムでジュディシアル・フォースの艦隊に阻まれ後一歩の所で異常事態が発生し包囲され全滅。

 

敵の司令官を1人も討ち取る事なく静かに全滅したのだ。

 

その衝撃的なニュースはフィーナ達だけに留まらず幹部やフェルシルまでもが驚いた。

 

「有り得ない」とフェルシルは愕然とし当分その事実を信じようとしなかった。

 

衝撃と悲壮感は革命軍のほぼ全ての同志達に広がっていった。

 

更に衝撃的だったのはアーガニル艦隊敗北のきっかけを作ったのは若干二十歳の若き士官だと言うのだ。

 

ある者はその男を憎み、ある者はその男を如何に打ち倒すかを考えた。

 

そしてその士官の名前が公にされた時一番驚いたのはフィーナだった。

 

その士官の名は“()()()()()()()()()()”。

 

あのアカデミーでほんの少しだけだが出会った青年。

 

薄紫色の髪に青い瞳。

 

ある瞬間、フィーナはふと思った。

 

もしかしたらと。

 

もしかしたら、もしかしたら彼が変えてくれるんじゃないかと。

 

ゼファント・ヴァントが何かを変えてくれるんじゃないかと思い始めた。

 

その思いは本当に瞬きにも満たない程の一瞬であった。

 

しかしその僅かな希望はフィーナに残り続けていた。

 

彼女も知らない場所でずっと。

 

そして消える事はなく育ち続け大きく膨れ上がっていた。

 

もしかしたら何かを変えてくれる、もしかしたら終わらせてくれるんじゃないかと。

 

自分の命も、この手の届かない闇も全部。

 

ドレイヴン大佐を通してゼファントの部下になった時もそうだ。

 

その気持ちが徐々に彼女を抑制していた。

 

そして運命は今へと彼らを連れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知ってますよ、だからって許される訳じゃない。スパイ行為も殺しも…」

 

「確かに許されないかもしれないな…」

 

ゼファントは否定せず彼女の涙を拭った。

 

その暖かさにフィーナは涙を浮かべながら微笑んだ。

 

フィーナは悟ったように話し始めた。

 

「もう終わりにして欲しい。どうせなら貴方の手で殺して下さい」

 

もうこの罪は消える事はない、失われた時間も帰ってはこない。

 

ならば終わりにして欲しかった。

 

終わりにして彼らを、革命軍を倒し連鎖を断ち切って欲しい。

 

限界に達していた彼女から寂しく悲しい笑みが浮かんでいた。

 

ゼファントは悲愴な表情を浮かべ慈悲深いように彼女の気持ちと言葉を一言一句聞き逃さず聞き取った。

 

その上で彼はこう言った。

 

「…でも、生きている人間は死んでしまった者の分まで生きなきゃいけない義務があるんじゃないか?」

 

今までにない真剣な眼差しがフィーナを見つめる。

 

初めて見せるゼファントの本気であり心からの本心だった。

 

彼は言葉を並べ彼女の過去や罪、今の彼女自身を包み込むかのように話した。

 

「君には罪が確かにあるのかもしれない…だから生きて償わなきゃいけないんだ。それに君の家族は君が死ぬ事を望んだのか?」

 

フィーナは死を受け入れようとした笑みから解き放たれた。

 

何か忘れていたものを思い出したかのようだった。

 

そうだ、その通りだ。

 

ずっと忘れていた。

 

母が身を呈して助けてくれた事を。

 

リーセの言葉を。

 

彼女の「生きて」という最期の言葉を。

 

両親もリーセも彼女に生きていて欲しかった。

 

消えゆく生命の中でそう願い続けた。

 

その事から目を背け罪ばかり見つめて危うく死を選ぶ所だった。

 

それこそ最大の罪だ。

 

「嫌でも君は生きなきゃいけない、何があっても。私も…多分そうなんだろうな…」

 

「少佐…?」

 

「私の両腕はもう血に塗れている。君の仲間を沢山殺した…直接手はかけてなくとも殺したのは私だ」

 

疽列葉今までゼファントが誰にも見せたことのない弱味だった。

 

何気なく任務を遂行してきた彼だがやはり心の奥底ではやりきれない部分があった。

 

ヴァント家という家の()()()と自身の能力のお陰でここまでやってきた。

 

それでも彼は1人のまだ若い人間だ。

 

だが、生きなければならない。

 

望まれ続けている限りは。

 

「だから私もどんな手を使っても生きて償う…それがせめてもの手向けだ」

 

「でも裏切ってもどうせ未来なんて…」

 

もう一度落としていた目線を彼女の方へ向けた。

 

青く美しい瞳からは真っ直ぐな気持ちと彼の持てる最大限の

 

「君の未来は君しか作れない、君が望めばきっと未来は来るはずだ。私が出来る事はそんな未来をただ守り続ける事だ。守ってみせるよ、絶対に」

 

ゼファントは照れ臭そうに手を差し伸べた。

 

特に意味はなかったがフィーナにとってはそれは“()()()()”に思えた。

 

「でも私は貴方をずっと…裏切って…」

 

「裏切られたくらいで私はへこたれないよ。君は私の大切な部下だ、絶対に見捨てやしないさ」

 

部下…か。

 

やっぱり彼にはそう見えているのだろう。

 

でも初めて純粋に差し伸べられた手をフィーナは掴んだ。

 

ずっと彼女自身気付いていなかったもの、彼が“()()”を与えてくれた。

 

フェルシルやその配下を全て倒し今の自分を変えてくれるのではないかと。

 

彼なら何十年も縛り上げられたこの鎖を解き放ってくれるのではないか。

 

事実ゼファントの到来により運命は大きく変わった。

 

しかし本当に変わったのは彼女自身だ。

 

自分を戦士として育て上げた組織に争う力を持たせる程彼女は強くなった。

 

それがゼファントのせいなのかは分からない。

 

「君はもう1人じゃないよ、フィーナ」

 

ゼファントは涙を流すフィーナに抱きつかれた。

 

こうしてフィーナ・リースレイはゼファントの信頼する副官となった。

 

涙と過去の罪を共に背負って。

 

やっぱり変えてくれる人だった。

 

守ってくれる人だった。

 

彼は約束した、「君の思い描いた未来を守って見せる」と。

 

私は、私が思い描く未来はただ一つ。

 

そう、それはー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今頃少佐はどうなっているか…まあ検討も付くまい」

 

ジュディシアル・フォースの本部でターキン中佐は苦笑気味に笑みを浮かべた。

 

その様子を見つめていた部下の1人である司法将校(Judicial Officer)ヘルハンス・ヴァリンヘルト中尉は不思議そうな表情で彼に尋ねた。

 

「どうしました?ターキン中佐」

 

ヴァリンヘルト中尉の声に気付きターキン中佐は振り返った。

 

「いやなんでもない。さて、行こうか中尉」

 

「はい、全隊上手くやれよ」

 

ヴァリンヘルト中尉は通信機に手を当てながら後ろに控える武装した憲兵隊の歩兵達に目を向けた。

 

アーマーとヘルメットを身につけスタン・モードのブラスター・ライフルを手に持っている。

 

一方のターキン中佐とヴァリンヘルト中尉はブラスター・ピストル一丁と逮捕状だけしか持っていなかった。

 

一行は歩き始める。

 

十数名のジュディシアル・フォースの憲兵達は彼に無言で続き中佐と中尉も不敵な笑みを浮かべ進んだ。

 

()()に引っかかっているだろうな?」

 

ターキン中佐と一行はジュディシアル・フォースの憲兵隊本部の情報室の前で立ち止まり中佐はそうヴァリンヘルト中尉に尋ねた。

 

中尉は小さく頷き答えた。

 

「ええ、とりあえずジュディシアル内にいる()()()()は全員集まってますよ」

 

「結構だ中尉、ではネズミ退治と行こうか」

 

ターキン中佐はハンドサインを出し憲兵達の隊長は指示を受け取り頷いた。

 

武装した憲兵達が強制的に情報室のドアを開けブラスター・ライフルを構えて一斉に室内に突入した。

 

中にいる何人かのジュディシアル・フォースの士官や下士官達は慌てたように憲兵達を見つめ引き攣った顔で冷や汗を流していた。

 

ターキン中佐とヴァリンヘルト中尉がゆっくりと威圧感を与えながら情報室に入る。

 

ヴァリンヘルト中尉の方は他の憲兵達と同じようにブラスター・ピストルを彼らに突きつけていた。

 

「どんな弁明をしようが、もう無駄だぞ。お前達の事は既に掴んでいる」

 

ターキン中佐の言葉により彼らの表情は更に深刻なものとなった。

 

もはや逃げ場がないそう悟った1人の男は引き攣った表情のままホルスターからブラスター・ピストルを引き抜きターキン中佐に向けて発砲しようとした。

 

憲兵達に一瞬緊張が走り直後銃声が聞こえた。

 

バタリと床に倒れる音が聞こえ彼らは更に顔を強張らせ目線を向けた。

 

その目線の先には素早くホルスターからブラスター・ピストルを引き抜き撃ったターキン中佐がいた。

 

先程と変わらない表情のまま彼はブラスター・ピストルをしっかりと握りしめている。

 

ターキン中佐はそのまま憲兵達に命令を出した。

 

「撃て、スタンさせ拘束しろ」

 

憲兵達は命令を受け取り無言の表情のままブラスター・ライフルの引き金を引いた。

 

何発かの青い白いリング状の弾丸が放たれ怯えて震える彼らに直撃した。

 

避ける事すら出来ずリング状の弾丸を喰らった彼らはバタバタと倒れ気絶してしまった。

 

憲兵達は倒れた場所に近寄り1人づつ腕を掴み引き摺り始めた。

 

『中尉、こちら作戦に成功しました』

 

「了解、こっちも成功だ。他はどうだ」

 

ヴァリンヘルト中尉は通信機越しの下士官に尋ねた。

 

『ほぼ全隊が成功です』

 

「よし、全員護送車に連れ込み拘束しろ。誰にも悟られるなよ」

 

『了解!』

 

下士官との通信を切りヴァリンヘルト中尉は直立不動のターキン中佐の下へ寄った。

 

「これで、共和国内に潜むスパイは全員逮捕しましたね」

 

中尉のその問いにターキン中佐は「ああ」と相槌を打ち更に続けた。

 

「連中への反撃の狼煙は既にゼファント少佐が成し遂げた。後は続くのみ、変わり蓑の用意は?」

 

「既に万端です。敵の所在地はともかくこちらの動向を恐らく敵は気づかないでしょう」

 

ヴァリンヘルト中尉の報告にターキン中佐は満足げに頷いた。

 

しかし、中尉の言葉は若干の間違いがあるな。

 

彼は「共和国に潜むスパイは()()逮捕しましたね」と言った。

 

それは間違いだ。

 

スパイが全員捕まったわけではない。

 

後1人、後1人残っている。

 

まあそれも彼次第なのだが。

 

「この戦い、終わりは近いぞ中尉。我らの勝利は目前にある」

 

全ての膿を排除し共和国はもはや万全だ。

 

戦意を込めた笑み浮かべながらターキン中佐はすぐにでも訪れようとする戦いを待ち望んでいた。

 

 

 

つづく

 

 



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前夜

この日もう何十回も行われている対フェルシルとアンダーワールドの地下革命軍への会議が開かれていた。

 

今までは敵地の捜索や戦闘訓練、意見交換などだったが今回は少し違った。

 

より確信に迫っていた。

 

「少佐、君がどんな技術を駆使したかはもはや聞くまい。だが結果は聞かせてもらおう、敵はどこにいる?」

 

ドレイヴン大佐はゼファントに問い詰めた。

 

やはり大佐はそういう事か。

 

だがそれもまたもはや聞く事ではなかった。

 

ゼファントは普段通りの立ち振る舞いで全員に話し始めた。

 

「連中の本拠地はコルサントの2526階層の旧工業地帯と宿舎の一帯です。放棄された工場もあるのでそこで武器の生産なども行なっているのでしょう」

 

ホロテーブルが起動し偵察ドロイドなどが撮影した映像を映し出す。

 

確かに同じ服装の人物やならず者や軽犯罪者にしては重武装過ぎる者達が工場や宿舎から何度も出入りしている。

 

「他の駐留地も数十箇所以上が発見されました。規模は小さいですが」

 

「発見された宇宙艦隊も間も無くコア・ワールドに突入する。こちらも猶予はない」

 

ターキン中佐はそう付け加えた。

 

敵の攻勢はもうすぐなのだろう。

 

ならば悠長にしている暇はない、逆にこちらが攻勢を掛けるのだ。

 

「既に憲兵隊の活躍により共和国内のスパイは全て拘束が完了した。敵を騙し討ちにするのも今なら可能だろう」

 

ターキン中佐の報告はその事実を知っている一部の将校を除きその場の全員を驚かせた。

 

まさに電光石火の早技と言った感じでターキン中佐の手腕の高さを語る事なく示していた。

 

それを聞きゼファントは全員に意見を提案した。

 

「ならば素早く敵を殲滅しましょう。恐らくもう敵は準備を全て整えている。こちらが優位とはいえ時間はそうありません」

 

「その意見に関しては同感だ、宇宙艦隊は想定宙域への移動を始めている」

 

ドレイヴン大佐がゼファントの意見に賛同した。

 

ターキン中佐もその通りだと頷き他の将校も納得した表情だった。

 

続けてドレイヴン大佐が軽く説明した。

 

「指揮官は君の父上ゼント提督、補佐幕僚としてターキン中佐だ」

 

今回参加する艦隊は大小合わせて四個艦隊、主力艦の総数二十四隻。

 

敵は寄せ集めのジャンク艦隊であるしアーガニルのような優秀な指揮官の話も聞かない為不安は少ない。

 

それに味方の艦隊指揮官はゼファントの父とターキン中佐だ。

 

贔屓目なしに見ても優秀であるし全く問題はないだろう。

 

しかし問題は地上の方だ。

 

ゼファントが全員に危惧を進言した。

 

「現在コルサントに駐留しているジュディシアル・フォースの戦力ではギリギリ足りません」

 

「そうかね?敵地を攻撃するには全戦力を使っても余りあるほどだが」

 

地上部門の“ボイトス”中佐は疑問を投げかけた。

 

彼は突撃連隊の指揮官で各地の惑星防衛軍の指導も行っていた。

 

「ですがもし仮に逃亡され広いコルサントの地でテロ行為を起こされたらこの兵員では防ぎきれません」

 

「少佐の意見は尤もです。かと言ってこれ以上戦力を要求する事はできません」

 

同じく地上部門の上級大尉“ハースト・ロモディ”はゼファントに賛同しつつも実情を話した。

 

彼は元々ジュディシアルではなく惑星防衛軍の方に所属していた。

 

そして彼は地域の反乱軍討伐で名を挙げ親しかったターキンの誘いもあって彼はジュディシアルへ移籍したのだ。

 

ジュディシアルへ移籍した直後の惑星ナー・ジャッタの鎮圧戦でも武功を挙げ彼は地上部門上級大尉の地位を獲得していた。

 

「周辺域の惑星防衛軍を借りるとしても精々アルサカンかフォーロスト、アナクセスの艦船部隊が限度です。それ以上の場所から兵力を運搬すれば敵に悟られる」

 

ロモディ上級大尉の言う通り他の場所から戦力を搬入すれば恐らく敵に察知される。

 

拘束出来たのは共和国に潜む連中だけで一般の場所はまだ不明瞭だ。

 

それでもこの話はあくまで敵が自暴自棄になりテロ行為を起こした時に限る。

 

現状のコルサントに駐留するジュディシアル・フォース地上部門なら十分制圧と殲滅は可能だった。

 

しかしもしもの事がある。

 

「当てといえばコルサントの保安部隊とせいぜいセネトの護衛隊です」

 

特殊部隊のペリアス大尉は2つ名を挙げた。

 

保安部隊もセネト・ガードもそれぞれ最精鋭なら戦いについてこれるだろう。

 

最悪対テロの為の市街地封鎖にさえ協力して貰えばいい。

 

「後はジェダイですね」

 

「彼らはまだ信用に値しない、手を借りるのも出来る限り最小限だ」

 

ジェダイをあまり信用しないターキン中佐は忠告した。

 

コア・ワールドやコロニーズ、インナー・リムのような領域とは違いアウター・リムで戦い抜いたターキン中佐としては当然の考えだった。

 

ただゼファントには1人頼みの綱があった。

 

「なら1人だけ、以前共に戦ったジェダイ・ナイトのサヴァントを呼びましょう」

 

「保安部隊の特殊部隊のものならば役には立つだろう、後はセネトだな…」

 

ドレイヴン大佐は唸るようにセネト・ガードの事を考えた。

 

「警備隊ですがセネト・コマンドーのユニットはとても役に立つでしょう、いればの話ですが」

 

ロモディ上級大尉は頭を触りながらため息をついた。

 

元老院の護衛専門のセネトが前線に出てくることなど基本あり得ない。

 

「元老院議員の誰か1人でも説得出来ればいいんですがね…」

 

「なら説得するしかあるまいな、ゼファント少佐」

 

ドレイヴン大佐は悪い笑みを浮かべゼファントの方を見つめた。

 

まさか家族ぐるみであの議員と絡んでいることを知っていたとは。

 

さすがは情報部の将校だ。

 

「わかりました…パルパティーン議員に頼んでみましょう」

 

「不可能だったらまた考えよう、何はともあれ我々はついに攻勢の機会を手に入れたのだ」

 

将校達がその言葉を噛み締める。

 

わずか数週間、数ヶ月程度だったがそこまでの道のりは長かった。

 

だがこれで全てが終わる。

 

「では各自準備もあるだろう、今日はこれで解散だ」

 

ドレイヴン大佐はそう言って会議を締め括った。

 

各々雑談などを交わし始めたがゼファントは挨拶をするとフィーナ少尉と共にすぐ立ち去った。

 

「シーヴ・パルパティーン議員ですか…どんな方なんです?」

 

「元老院議員にしても人としても素晴らしいお方だ、会えばわかる。きっといい返答を下さるさ」

 

安心したのかフィーナは微笑を浮かべた。

 

やはりあの事があってからフィーナは変わった。

 

表面上は変わってなくとも明らかに信頼を寄せてくれた。

 

ならばその信頼に応える時は今だ。

 

今までにないほど自信に満ちた笑みがゼファントを包んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「セネト・コマンドーの部隊を使用したいか…」

 

彼の後ろに佇む2人のセネト・ガードが顔を見合わせた。

 

ゼファントは頭を下げ頼み込んだ。

 

「確実に敵を倒す為にも後少しばかり兵力が必要なのです。お恥ずかしい事にコルサントに駐留しているジュディシアルの兵力は最悪の事態を想定した場合少し足らず…」

 

「いやいいんだ、掛け合ってみよう」

 

パルパティーン議員はあっさりと快く了承してくれた。

 

「本当ですか?」

 

「ああ勿論だ、むしろコルサントの危険なら元老院も今回ばかりは無視は出来んだろう」

 

「ええ、全くです」

 

2人は苦笑を浮かべた。

 

フィーナは少し困惑し愛想笑いを浮かべていた。

 

すると何故だかパルパティーン議員のセネト・ガードが彼に耳打ちをした。

 

「ほうほうなるほど、確かに志願兵ならより元老院の承認を得やすいだろう」

 

「自分らはこれでもセネト・コマンドーの一員です。是非志願の許可を」

 

2人のセネト・ガードはそう進言した。

 

ゼファントは出されたカフ(本当は茶の方が良かった)を飲みながら熱心な人もいるもんだなと思った。

 

セネトの優秀さや忠誠心の高さはゼファントも知っている。

 

だからこそ余計に本職とは全く関係のない事で殉死してしまうのは返って不名誉なのではないかと一瞬思った。

 

あの場では期待されこうしてやって来たゼファントだが正直承諾されるとは思っても見なかった。

 

コルサントのジュディシアル・フォースの戦力では足りないというのは事実だ。

 

しかしそれはあくまで“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()”という仮定の話で承諾され難いという懸念が強くあった。

 

可能性に振り回されていては何も出来ないではないか。

 

そう言われたら元も子もない。

 

「是非頼むぞ、より多くの市民を守る為にな」

 

「ありがとうございます議員」

 

「本当にいいんですか議員?それにえっと…」

 

「インティール・エルゼドー、セネト・ガードの上級衛兵です」

 

1人のセネト・ガードが挨拶をした。

 

「本当に宜しいんですか?最悪戦死の可能性も」

 

「死ぬのが怖くてセネトが務まるもんですか。それに私だって元は防衛軍の出、それなりの働きはさせてもらいますよ」

 

ヘルメット越しからも分かる勇猛さがゼファントの申し訳なさを消し飛ばした。

 

パルパティーン議員も静かに頷く。

 

「君なら必ず成功させるだろう、もっと自信を持ちたまえ」

 

「ええ、少佐(Major)の采配期待してますよ」

 

若干階級が間違ってるような気がするが問題ない。

 

今までの彼と同じようにゼファントには必ず仲間がいてくれた。

 

1人だったら絶対にここまで辿り着けなかっただろう。

 

心の中で感謝を述べると彼は宣言した。

 

「ならセネト・コマンドー達は必ず全員生かして議員方の下へお返ししますよ」

 

「随分と大きく出ましたね、なら私達の命、全て預けましたよ」

 

「頼んだぞ、ゼファント、インティール」

 

戦う2人の勇気に溢れた眼を見ながらパルパティーン議員は静かにエールを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方本拠地で最後の準備を推し進めるフェルシルの革命軍は静かだった。

 

訓練も装備も万全で跡は数日で来る艦隊を待つばかり。

 

士気も高くむしろ浮き足立って的に悟られる方を危惧した結果だ。

 

元々廃棄された工場という事もあってか彼らの本拠地は亡霊の屋敷のような君の悪い静けさが醸し出されていた。

 

実際革命軍の亡霊である為間違いではないのだが。

 

ともかく彼らは静かにただ時を待った。

 

そして遂にその時が来た。

 

残された艦隊はここまで接近し共和国内のスパイ達からも次々と情報が届いた。

 

共和国とジュディシアル・フォースは現在再び治安が悪化したミッド・リムの再平定の為再び艦隊を派遣するそうだ。

 

別の場所にいる少数の同志達もジュディシアル・フォースの動きを伝えてくれている。

 

コルサントの艦隊も既に出立した。

 

今この首都の戦力は空だ。

 

聖戦を実行するのは今しかない。

 

彼の事も合わせて。

 

「いよいよですね、辛抱強く待った甲斐がありました」

 

「ああ、なんとか間に合った…少なくとも“寿()()”までにはな」

 

「本当にもうダメなのでしょうか?」

 

「間違いない、日に日に感じるよ…ゆっくりと身体から何かが抜け出ていく感触が」

 

フォンフは肩を落としながらもどうしても必要な真実を尋ねた。

 

「ではあなたの肉体も」

 

「器はすでに用意してあるがこの身体は死ぬ。ついでに言えば半身の意識も消えるだろう」

 

不安な表情になるフォンフを宥めるようフェルシルは言った。

 

「心配するな、“()()”は必ず遺す、そうさ…」

 

言葉に詰まりフェルシルは天井を眺める。

 

でなければ我々が生まれ死んでいった意味がない。

 

アーガニルも他の仲間達も“()”も皆遺志を託し死んでいった。

 

生まれた目的と盟友達の為虚空の中フェルシルは再び誓った。

 

「必ず革命を成し遂げて見せる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

議員の承諾を受けた次の日ゼファントは懐かしい面々に遭遇した。

 

それはフィーナとジュディシアル・フォースの本部前を歩いている頃だった。

 

「随分悟られずに行ってますね」

 

「ああ、一応言っとくけどチクるなよ?」

 

フィーナはゼファントのそんな悪いジョークに少しムッとしてかなり強めに肘打ちをした。

 

「いてっ!ちょっとした冗談だって…」

 

「全く…私に見えてるのは…貴方だけなんですから…」

 

「えっ…?」

 

「なんでもないです。早く行きましょう」

 

なんかサラッと聞こえた気がしたがゼファントは気にせず歩いて行った。

 

すると遠くから愉快な2人の声が聞こえた。

 

「おっあれはゼファント少佐殿じゃないか!」

 

振り返るとそこにはまるで変わらない数ヶ月くらい前に再会した同室の2人がいた。

 

何故こんなところで出会うんだというくらいタイミングが良さすぎる。

 

フィーナも2人の声を何処か知っているようだった。

 

「ようおふたりさん…どうしてここに?」

 

アザフェルとゼネークトはニコニコして答えた。

 

「俺たちは一応コルベット艦の艦長として艦隊戦に参加するんだぜ?」

 

「一応上級中尉として卒業だからな。お前は地上の指揮担当だろ?」

 

ゼネークトがそう吹っ掛ける。

 

2人とも信任ながらコルベット艦の艦長としてよく警備任務で成果を上げているらしい。

 

扱いに困り戦術研究課に放り投げられたゼファントとは大違いだ。

 

まああそこで過ごした数年は本当に色々役に立ったが。

 

親友達にばったり出会ってしまった恥ずかしさと嬉しさを隠しながら頷いた。

 

「しかし艦長か…いいよな私なんて階級だけあってなんの長でもないんだし」

 

「そう嘆くなよ“()()殿()”、どうせすぐご立派な艦が送られてくるだろ」

 

「そうそう、それにお隣に美人を侍らせてるし」

 

アザフェルは冗談まじりにいじった。

 

それに同調するようにゼネークトも揶揄う。

 

しかも何を思ったのかフィーナはあえて腕を組み始めた。

 

なんか笑顔が怖い。

 

「あのなぁ…彼女は部下だ」

 

「あっそうなの?」

 

「フィーナ・リースレイ少尉です」

 

ポカンとする2人にフィーナは敬礼した。

 

上級中尉は一応上官に値する。

 

そう言った理由もかねてだった。

 

「あっえっとゼリム・アザフェルとこっちはフォンス・ゼネークト」

 

「よろしく…」

 

2人は照れ臭そうに自己紹介をした。

 

お返しと言わんばかりにゼファントは同郷の親友を揶揄い始めた。

 

「そんな事言うお前こそ。進展はあったのかな?」

 

「うっ…その…」

 

「実はさぁ、リエスがアナクセスの駐屯地に配属になっちゃってさあ」

 

「えっマジ?」

 

「しかもちょうど“()()()”がいる所なんだよ」

 

「アイツ?」

 

イマイチピンと来なかったゼファントは首を傾げた。

 

「ヴァンガロだよ、こないだアイツも昇進してさちょうど上級大尉なんだよね。しかもリエスと同じ部署」

 

あまりの不運さにゼファントはリエスに同情しつつ苦笑いを浮かべていた。

 

寝取られ…違う「僕が最初に好きだったのに〜」なんて展開にはならないだろうがちょっと不幸だ。

 

「まあそのなんとかなるだろ。ヴァンガロなんて女に興味ないだろうしさ」

 

「そうそう、あるのはこの首席様をぶっ倒してやろうって気概と嫉妬心と自尊心だけだ」

 

「いやまあそうなんだが…なんか嫌な予感がして…」

 

「たく…数日経てば戦場だってのにこの有様だぜ?ゼファントからもなんとか言ってやってくれ」

 

苦笑を浮かべるゼネークトの頼みを受けてゼファントは軽く慰めた。

 

「ならヴァンガロより昇進して見返してやろうや」

 

「それって職権濫用なんじゃ…」

 

「アザフェルつまんない事言うなよ。とにかく目の前の少佐殿にデカい口叩けるくらいにはなっとこうぜ」

 

相変わらずゼネークトはゼファントの揶揄い方がうまい。

 

アザフェルも顔を上げ苦笑を浮かべていた。

 

「そうなる日が来るといいな。なあアザフェル、ゼネークト」

 

2人は急に真面目なトーンになったゼファントの方を見た。

 

彼は笑みを浮かべてはいるがどこか悲しそうだった。

 

「分かってるとは思うが死ぬなよ」

 

「フッなんだそんな事か、どうしたんだ?急に改まって」

 

「急に辛気臭い事言うなよ。お前こそ流れ弾食らって死んだりするんじゃないぞ?」

 

やっぱりこの2人は大丈夫そうだ。

 

確かに人の事言ってる場合ではないな。

 

「分かってるさ、じゃあな…また会おう」

 

「ああ!」

 

「またな」

 

2人は別れの挨拶を交わすと本部の中へ入っていった。

 

ゼファントはそんな2人を最後まで目で見送っていた。

 

フィーナはそんなゼファントに一言かける。

 

「仲がよろしいんですね」

 

「まあ“()()”だからね」

 

 

照れ臭そうに笑みを浮かべていたが確かに2人の事を大切に想う気持ちがあった。

 

アザフェルは幼少期からずっと共に過ごし1人だった自分に初めて出来た友達だ。

 

ゼネークトもアカデミーで苦楽を共にし様々な事を分かち合った大親友だ。

 

2人とも大切でだからこそ信頼出来る。

 

自然とフィーナも微笑ましくなった。

 

様々な想いが交差するこの戦いも遂に終幕へと運ばれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では各員状況説明を」

 

たった1人会議室にいるドレレイヴン大佐はホログラムで参加する将校達の表情を見ながら言った。

 

数名はもう戦闘用の服やアーマーに着替えている。

 

まず最初に口を開いたのはゼファントの父のゼント・ヴァント提督だった。

 

『艦隊は間も無く出立する。コルサント防衛艦隊もトーリア准将の艦隊も万全だ』

 

『ハイパースペースから出現した敵艦隊を三方向から包囲し殲滅します。再びハイパースペースに入られるようコンピュータウイルスも完成しています』

 

作戦を立案した補佐幕僚のターキン中佐は説明した。

 

これほど用意周到の作戦なら大打撃どころか全滅させる事も可能だろう。

 

続いてコルサントの方だ。

 

ゼファントが説明を開始する。

 

『艦隊の戦闘開始前に敵地に配備した爆弾を一斉に起動し打撃を与えた後、全兵力を持って攻撃を開始します』

 

『私とロモディ大尉の中隊が先行し、第二陣としてボイトス中佐の突撃連隊とセネト・コマンドー隊が一気に拠点を攻撃する』

 

軽装ではあるが戦闘用の服に着替えたサヴァントがゼファントに続いて説明した。

 

『全体の指揮は私が取る。敵本拠点を包囲しつつ砲撃や機甲戦力を投入し確実に殲滅する』

 

そう言ったのは“ブランヴェイ”将軍。

 

ジュディシアル・フォースでも数少ない将軍の地位にある人物だ。

 

ベテランであり彼の指揮能力は高くあの“スターク・ハイパースペース紛争”にも参戦していたと噂される程だった。

 

『こちらも兵士達の指揮は万全です』

 

『セネト・コマンドー隊も同様、いつでも戦える』

 

ロモディ上級大尉とセネト・コマンドーの志願兵達の隊長であるキャプテン・“ザイン”が兵士達の状態を説明した。

 

どの部隊も士気は高く戦いたがっている。

 

本来隅に置かれてばかりのジュディシアル・フォースの活躍の場だからだろか。

 

皆必要以上に高揚している。

 

戦いを宣言するかのようにドレイヴン大佐は言葉を放った。

 

「では各員、頼んだぞ」

 

将校達は頷き次々とホログラムが切れた。

 

やがて会議室にはドレイヴン大佐以外残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閣下、全艦座標セット完了です」

 

副官ウォルスはゼントの後ろに着き報告した。

 

彼の隣にはターキン中佐もいる。

 

報告を最後まで聞くとゼントは振り向かず指示を出した。

 

「全艦ハイパースペースへ!」

 

首都惑星の軌道上から次々と軍艦が姿を消した。

 

これが最後に出撃する共和国艦隊だ。

 

後の艦隊は既に座標地点で敵部隊を待ち侘びている。

 

その中にはアザフェルとゼネークトのコルベット艦の姿もあった。

 

若き2人の艦長は軽く笑みを浮かべながらブリッジで外を眺めていた。

 

いよいよ始まるのだ。

 

革命戦最後の艦隊戦が。

 

 

 

 

 

 

ホログラム回線を切るとゼファントは足早に指揮用の簡易テントに向かった。

 

テントの中には数十名の兵士達が状況を耐えず報告していた。

 

「ナイト・ハウンド隊からの報告。フェーズ1終了、設置は完了です」

 

「ナイト・ハウンド隊を指定場所に待機、ロモディ大尉とサヴァント司令官の出番だ」

 

無駄のない指示を出すブランヴェイ将軍は厳しい眼差しでモニターの敵地を眺めた。

 

ゼファントはフィーナとモスト中尉と共にテントの中ヘ入った。

 

「少佐、艦隊の方は?」

 

「無事全艦出立しました。十分も掛からずに戦場予定地へ到達するでしょう」

 

「そうか、ではこちらも予定通り行動するとしよう」

 

「はい将軍」

 

老練な顔つきのブランヴェイ将軍は先程から表情一つ変えない。

 

「これで全てが…」

 

「ああ!この戦いもようやく終わる」

 

フィーナの意見に同調してモスト中尉が力強く言った。

 

長いようで短かったがこれで終わりだ。

 

通信士官の1人が興奮気味にブランヴェイ将軍へ報告する。

 

「ロモディ隊位置につきました、将軍ご命令を」

 

「ボイトスの突撃連隊の準備がまだだ、少し落ち着け」

 

部下の興奮を抑え冷静に確実に勝利する為の命令をブランヴェイ将軍は打ち出す。

 

地上部門と言えどブランヴェイ将軍の指揮にはゼファントも見習う所があった。

 

いずれ自分もこのような指揮官になるのだろうかとゼファントはふと思う。

 

だがそんな未来を妄想している場合ではない。

 

あと数分もすれば作戦は開始される。

 

「連中の通信網は既に封鎖済みです」

 

「閉じ込めたという訳だな。この地下に」

 

ゼファントは頷いた。

 

すると別の兵士から報告が入る。

 

「将軍、ボイトス中佐の突撃連隊からです」

 

通信機が作動しボイトス中佐の声が聞こえ始めた。

 

『少し遅れました将軍、我が第十八突撃連隊用意完了です』

 

「時間通りだ中佐、そのまま待機してくれ」

 

『了解です!』

 

更に別の士官達が次々と報告する。

 

「各地上部隊、敵地の包囲及び突撃準備完了」

 

「砲撃中隊も準備完了です」

 

ブランヴェイ将軍は頷き命令を出す。

 

戦いの堰を切る重要な一言だ。

 

「作戦開始、起爆しろ」

 

遂に始まった。

 

始まってしまった。

 

テント内も一気に忙しさを増し鋭い緊張が一瞬テント内を突き通った。

 

数十秒後目の前に映る工場や元宿舎の一部が爆発の光に包まれた。

 

作戦の、戦いの始まりだ。

 

影の歴史の一区切りであるこの戦いが遂に始まったのだ。

 

 

 

 

つづく

 

 



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