大日本帝国召喚1941:Re (久里浜燐)
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壱話 皇紀二六〇一年一二月一日

皇紀2601年(西暦1941年)12月1日。ちょうど日付が変わる瞬間に極東アジアは白昼がごとくに眩い光に包まれたのちに普段と何気ない日常に戻った。

変化したのは奇妙な現象で生まれた混乱。そして、列強と肩を並べるに至った一つの国家の消失であった。

 

大日本帝国。忽然と"地球"から姿を消した新興列強国の本土では、混乱と安寧が綯交ぜになっていた。

日中戦争の勃発に伴う国家総動員法の下、配給制を敷かれ始めていた生活物資にはあまり困らない一般市民は大きく変化がなかった。

しかし、政府首班や軍部──この国の船頭ともいえる、舵を取る存在である彼らは、大変に頭を悩ませていた。

 

支那や蘇聯、或いは米国といった仮想敵国が消えたことはつまり、陸海軍共に軍備の縮小を意味している。

しかし、幸か不幸か陸軍は軍備の少なからずを既に手放している。支那、朝鮮、満州へと送られた部隊は音信不通であるばかりか彼らが立っていたはずの大陸ごと消失していたのだから。

陸軍に比べたら海軍はまだ艦艇を選択する余地があるため幸運であった。

しかし、トラックを筆頭に外地にいた艦艇は乗員を失った状態で日本近海に漂流していたという状況もまた日本海軍上層部の頭を悩ませる存在であった。

しかし、陸海軍共に最も幸運だったのは、迫りくる対米戦に備えて編成された有力な部隊が未だに本土にいたことだった。

 

ここに至って大日本帝国政府は、日中戦争がはじまって以来続いている戦時体制をより強めた。

ソ連の手引きのもとに動いていた共産主義者や各国のスパイ、後ろ盾を失った連中の暴発を未然に防ぐために特高警察はより活動を広げ、また輸入の途絶えた石油や嗜好品の類の配給をより厳格なものとした。

そして、国内に残った海軍を軸として、大日本帝国、ひいては日本国民を延命するための作戦は速やかに立案された。

 

救国艦隊、などと呼ばれる特設艦隊は有り合わせの資源で動かせる機動力と燃費に優れた艦隊は、一等巡洋艦と軽空母が1隻ずつ、2個駆逐隊がそれの護衛につくという渾名とはかけ離れた規模のものであった。

尤も、弧状列島に住まう7千万の双肩がこの艦隊にかかっていることは言うまでもなく、朝鮮・満蒙の代替品となるべき穀物庫が必要であった。

近代国家の血液ともいえる石油はほぼ皆無であり、食料の生産能力も7千万を十分に養うだけを生み出せない列島に於いてその存在の欠落は痛い損失であった。

だからこそ、この艦隊派遣は速やかに行われた。

 

 

本来台湾島が存在していた海域では、救国艦隊が騒がしくなっていた。

艦隊に随伴していた軽空母《瑞鳳》九七式艦上攻撃機が発艦準備を着々と進めている。

無論、彼らに魚雷は懸架されていない。翼内のタンクを燃料で満たし本来の航続距離が十二分に発揮できる状態のまま、《瑞鳳》の甲板上を滑走する。

一機、また一機と飛び立った彼らは艦隊前方を扇状に偵察を始める。

 

数刻の後に入ってきた情報は、艦隊と大本営、日本帝国政府に衝撃を与えた。

瑞鳳3号、陸地の発見。

同機、要撃を受けるも速力差での離脱に成功。

瑞鳳4号、陸地の発見。

同機、地上に文明の形跡を発見。




久里浜です。
大日本帝国召喚1941:Re第壱話をお読みいただきありがとうございます。
スローペースの更新ですが最後までお付き合いいただければ幸いです。


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弐話 旧世界より

大日本帝国。極東に存在"していた"列強国がこの新世界に転移してから早4カ月が経とうとしていた。

しかし、大日本帝国を取り巻く環境は好転していた。

経済の伸び率は今までに無いほどであり、同盟国となったクワトイネ公国とクイラ王国から買い取った各種資源類は大日本帝国に大量生産・大量消費に触れさせる機会となるのであった。

また、大日本帝国は桑杭両国に科学技術やインフラ・ライフラインを売り渡すか資源とバーターで取引することで、域内の経済発展はより上向きに、そして三国の結びつきはより強固なものへと変貌していった。

しかし、二国の発展どころか存在そのものを許容しない勢力が、二国と共にロデニウス大陸に存在していた。

 

東京府東京市に存在する大本営、日本陸海軍の頭脳ともいえること建物の中では白熱した議論が繰り広げられていた。

ロデニウス大陸のロウリア王国が友邦クワトイネに対し宣戦布告。

これに伴い日本・クイラは同盟に基づき参戦することを決定。

しかし、同じ大陸にあり陸路で繋がっているクイラ王国とは違い、大日本帝国は大洋を跨いでの戦力展開を求められる。

幸いにして不穏な動きを見せるロウリア王国に対抗するために一部の日本陸海軍は前乗りしクワトイネ・クイラ両国の軍を日本式に塗り替えている最中であった。

そこで大本営は彼らを先鋒としてロウリア軍に打撃を与えつつ輸送に充てる時間を確保することとした。

 

 

新世界に転移して以降、日本陸軍は転移で零れ落ちた部隊を補うかのように自動車化が進められ、量より質を重視するようになっていた。

無論、それはロデニウス大陸に展開している部隊も例外ではなく、本土で増産が進められているが未だに数が少ない重機類も配属された工兵を組み込む師団も存在していた。

彼らは国境からおよそ20キロ後方のギムの街を拠点とし、クワトイネ軍の近代化にあたっていたために彼らが日本軍の先鋒としてロウリア軍の正面に出ることとなった。

 

ギム郊外に設立され、駐屯地の併設されているギム飛行場。ここはクワトイネのワイバーンと日本軍の航空隊がともに活用しているこの世界でも希少な飛行場であった。

そのギム飛行場から明朝、未だに眠るワイバーンとそれらの御者の目を覚ますような轟音が響き渡る。

ワイバーンによる先制攻撃を警戒し、クワトイネに派遣された一式戦闘機部隊が滑走路から次々に飛び立つ。

改良され雑音の少なくなった無電通信を用い、従来よりも遥かに手早く空中で編隊を組んだ彼らはその翼を国境まで向ける。

 

一式戦闘機のパイロットが空中に黒点を見つけると、無電でそれを列機に知らせる。

実用に問題ないレベルのノイズ越しに聞こえる無電越しに連携を取りつつ、彼らは増速する。

クワトイネ軍のワイバーンを用いて編み出した、対ワイバーン用の空戦戦術。

速度の優位を生かしての一撃離脱。12.7粍の機関砲は当たるだけでワイバーンもその騎兵も葬り去るだけの威力を保有していた。

 

日本軍が制空権を奪取すると、遅れて攻撃隊が参加する。

万が一に備えた護衛の一式戦と主力の九九式双発軽爆撃機とクワトイネのワイバーン隊。

既に制空権を奪われ、対空攻撃に十分な装備を持たないロウリア軍は爆撃と導力火炎弾、機銃掃射をまともに受ける。

 

ここで活躍したのが、日本海軍が保有し一時的に陸軍に貸し出された二式飛行艇の通信強化型、あるいは早期警戒型と呼ばれるタイプの機体であった。

はるばる日本本土から飛来し、洋上で飛行艇母艦からの補給を受けたのちに飛来したこの機は攻撃隊と共に、攻撃隊の後方高空から戦場を俯瞰するような前線司令部として活用されていた。

高度な通信/魔信機を搭載しギム郊外の空域の管制を行いつつ、また敵地上軍の配置を把握し攻撃隊を差し向けるといった地上での処理を受けた本機が空中での指揮所となる。

この実戦では後に同様な機体を建造するときのノウハウが蓄積されていったのであった。

 

さて、ここでロウリア軍は撤退を決断するが、すでにそれは困難なものとなっている。

特に目立つ高級将校は火炎放射と機銃掃射の標的となりやすかったので指示系統が寸断されていたために、軍隊としてまともに機能しなくなっていたためである。

それでも少数が撤退に成功し、初戦の敗退と日本の脅威をロウリアに持ち帰ることには成功した。

ロウリア軍は侵攻部隊の過半を失い、初戦を終えることとなった。

 

 

帰路、洋上で飛行艇母艦との合流を果たすべく北方に機首を向けた二式早期警戒飛行艇は機首電探に反応したものをギム飛行場に通報すると、そこから飛び立った一〇〇式司偵が一つの情報を持ち帰った。

ロウリア海軍出港。4000隻超のジャンクに近しい船舶を確認。

その無電はギムと市ヶ谷へと早急に届けられた。




久里浜です。
2話です。
書き溜めはあまり多くないけど吐き出していきます。


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参話 ロウリア沖海戦

4000隻を超す軍艦を擁するロウリア艦隊。

日本・クワトイネ・クイラの三国で構成された統合艦隊に比べればはるかに数は上回るが、質はそれらに大きく劣る。

蒸気タービンの心臓と鋼鉄の鎧で構成された近代的な軍艦と、帆とオールを用いた歴史上の存在に近い戦列艦。

数世代どころではない程に隔絶した技術力であるが、それでも尚物量というものは無視できない。

そのため、日本軍はロウリア艦隊の洋上での殲滅を画策し、成すための戦力をクワトイネ王国の複数の"日本化された"港湾に集めることとなった。

対ロウリア艦隊殲滅作戦の主力として選ばれたうちの片方は、世界最強──それも、前世界で──の機動力と打撃力を備えた、機動部隊。

旗艦赤城以下正規空母6隻を根幹とし、金剛型戦艦で構成された速力・打撃力ともに申し分のないこの機動部隊はクワトイネ・クイラ近海での練度向上に励んでいた。

 

その艦隊の一角に、十六条旭日旗──大日本帝国海軍旗ではない旗を掲げる艦艇が少なからず存在していた。

特型駆逐艦や5500トン級軽巡洋艦に掲げられた旗はクワトイネとクイラの海軍旗であった。

日本人の教官をわずかに載せながら、両国の軍人が操る艦隊は大日本帝国の艦隊の一部として機能している。

日本海軍の教官に徹底的にしごかれたクワトイネ・クイラの水兵たちは、最低限ではあるものの彼女らの御者としては十分の技量を有していた。

 

そして、その統合機動部隊(三国連合機動部隊でないのは既存の連合艦隊との混同を防ぐため)とはまた別の海域に、もう一つの矛ともいえる艦隊がいた。

その中心には、前世界ではビッグ・セブンと呼称された長門型2隻が随行して尚、彼女らを巡洋艦に思わせてしまうサイズの巨艦。

3本の砲身を束ねた主砲を艦上に3基備え、これまでの戦艦とは違い艦の中央部に艦上構造物を密集させた超戦艦。

大和型戦艦のネームシップ、《大和》は国民に広く存在を知られても尚その詳細は知らされていない箱入り娘は、統合機動部隊とはまた別の艦隊の中心にいる。

長門型と大和を擁するその艦隊は、『大和打撃群』の呼称が充てられていた。

 

二つの大艦隊はロデニウス大陸近海を戦闘待機状態で遊弋しており、またロウリア艦隊発見の報は彼らの戦闘意欲を奮い立たせた。

統合機動部隊の6空母はさかんに攻撃隊を発艦させ、大和打撃群は長門型の速力に合わせながらも徐々に艦隊決戦の舞台へと接近する。

二陣営の海軍力が正面からぶつかるその時は、刻一刻と迫っていた。

 

最初に見つけたのは、編隊を先導していた瑞鶴の偵察型二式艦爆であった。

上空警戒にあたっているワイバーンを見つけると偵察型二式艦爆は増速しつつ高度を上げ、艦隊の所在と細やかな──それでも4000隻であるから、精度は高くないが──布陣を打電し、さっさと踵を返す。

高度・速度共に劣っているワイバーン騎兵は高速での侵入と離脱を行った二式艦爆に追いすがることなく、それを見逃すしかなかった。

そして、臍を噛むワイバーン騎兵を、横から殴りつける存在がこの空域に現れる。

零式艦上戦闘機。1200馬力のエンジンと20ミリの機関砲を誇る日本海軍の主力戦闘機がワイバーン騎兵によって構築された(日本から見たらとても脆弱な)防空網をずたずたに食い破る。

クワトイネのワイバーン兵や本土から持ってきた(クワトイネ・クイラに譲る予定の)九三式練習機を敵役として徹底的に叩き込んだ対ワイバーン用の戦術も、熟練である一航戦二航戦だけではなく、彼らと比較して(それでも尚前世界では上位に入ってくる腕前を持つ)未熟である五航戦のパイロットまでもが活用して圧倒的優位の状況を生み出している。

徹底的に訓練で扱かれたまったストレスやフラストレーションをぶつける標的に選ばれたのが、ロウリア王国のワイバーン騎兵であった。

 

ロウリア艦隊の指揮官、シャークンはある程度聡明な男であった。

数日前から幾度となく高速で領空侵犯をする鉄竜、一〇〇式司令偵察機を敵と判断しワイバーンにあたる航空兵力を敵、得体も知れないニホンが保有しているという思考に至り、東征艦隊のエア・カバーに充てていたのだから。

惜しむらくは、ワイバーンを上回る速力と火力、防御力を備えて対ワイバーン用の空戦機動を叩き込まれた日本海軍の航空戦力をぶつけられたことだろう。

判断こそ間違っていなかったが、そもそも手も足も出ない相手であったのだ。

 

零式艦戦がロウリア艦隊上空の制空権を確保すると、二式艦爆《彗星》は渾名に恥じない急降下で250キログラムの爆弾を投下していく。

対空火器の少ない木造船用に信管を過敏に設定されており、それらは爆ぜるべき艦上や或いは舷側近くの海面で爆ぜてロウリア艦隊の戦力を確実に奪う。

また、制空権を奪い取った零式艦戦や爆弾を投下しても尚戦意の残ってる血の気の多い二式艦爆も機銃掃射にてロウリア艦を攻撃し、ロウリア艦隊の隻数はがくりと落ち込む。

そして、ようやく日本軍機が踵を返し統合機動部隊の空襲が終わったロウリア艦隊であったが、散々なものであった。

艦隊前縁にいた船は軒並み沈められるか爆ぜて跡形もなくなっているかのどちらかで、海に投げ出されて船の残骸につかまって浮いていられるものはまだ幸運であった。

 

指揮官シャークンが撤退か進撃かの選択を覚まられ、思慮している最中であった。

ロウリア艦隊の真横から日本海軍の二本目の矛が突き刺さる。

軽空母龍驤・祥鳳・瑞鳳の艦載戦闘機が直掩をしながら、空母を中心に据えた輪形陣から空母を切り離し打撃力の高い単縦陣へと切り替えた大和打撃群は、その有効射程に入ると8基16門の41cm砲と3基9門の46cm砲が一斉に砲声をとどろかせた。

遠雷のような轟音と、超音速で飛翔する砲弾。そして、最初から一斉に放たれた25発の砲弾は空中で爆ぜた。

試製焼霰弾。対空射撃用に開発されたこの砲弾は、役割を変えて柔目標に対しての必中範囲の極めて大きい攻撃を役割として、《大和》《長門》《陸奥》から放たれていた。

ロウリア艦隊の頭上で炸裂し、弾子を艦に降り注がせる。

3000度にもなる焼夷弾子は木造船を着火させるのに十分であった。

煌々と燃え盛るロウリアの船団は、無事な後方の船から我先にと戦線を離脱、残ったのは海面に浮かぶ友軍を救わんと懸命に努力するシーマンシップ溢れた者たちか、或いは彼らに救われる漂流者のみであった。

 

ロウリア艦のマストには降伏旗が掲げられ、それを確認したクワトイネ海軍の巡洋艦《エジェイ》(旧日本海軍重巡洋艦《古鷹》)艦橋のクワトイネ艦隊司令が確認する。

ここに、ロデニウス沖海戦は終結した。

ロウリア海軍は投入した戦力のうち55%ほどを失い、今戦争で大規模な海上作戦を行うことが困難となる。

また、艦隊指揮官のシャークンも捕虜になり、残余艦隊撤退の指揮を執ったホエイルが新しく指揮官の座に就くこととなった。

以降、ホエイルの指揮するロウリア海軍は艦隊保全主義に走り、この戦争で再び日の目が当たることはなかった。

 

 

日桑杭の三国はロウリア艦隊指揮官シャークン以下多数のロウリア海兵を捕虜として確保することに成功した。

彼らはギム郊外に建てられた捕虜収容所へと送られ、そこで日本との技術力を思い知らされることとなる。

 

 

さて、日桑杭三国同盟は次の作戦を奇襲的なものとするために目標を定めることとした。

王都強襲。三国同盟は一気に終戦へと舵を切ることとしたのだった。




久里浜です。
活動報告にもありますがデータが消えたので今まで以上に執筆速度が遅くなります。

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