オリジナル初投稿になります。どうぞ、温かな目で見守ってください。
『──レイ君。私ね、遠く行っちゃうの』
『そうなんだ……。寂しくなっちゃうなぁ』
夕日が二人が居る病室を赤く照らす。泣きそうになりながら、私に別れを告げる女の子に私はそう返した。女の子は、私に抱き着いて離れたくないと駄々を捏ねるが、幼い私にはどうすることもできはしない。
『アキちゃん、泣かないでよ。私も泣きたくなっちゃうよ』
『だってぇ、レイ君と離れるのイヤなのぉ。折角お友だちになれたのに、離れたくないよぉ』
そう言って泣き付く女の子の頭を撫でた。出来るだけ優しく、不快にならないように頭を撫でる。
『アキちゃん、またいつか会えるよ。大丈夫だよ』
『イヤだよぉ。レイ君と離れたくないよぉ』
その時だったはずだ。私は、目の前で泣く、彼女に一つの約束をした覚えがある。かなりとんでもない約束をした覚えがある。
『アキちゃん。今はサヨナラしないと、アキちゃんが大変なんだよ。少し我慢しよ?』
『レイ君とサヨナラなんてしたくないのに……』
『……アキちゃん。今の私はまだ子供だから、出来ないけどさ。大人になったら出来ることが増えるでしょ? そうしたら、私がアキちゃんに会いに行くから。アキちゃんは、待っててよ。私が迎えに来るまでの少しの間、私を待っててよ』
『長いよぉ。そんなに待てないよぉ』
そう言って、私から離れようとしない彼女に私は約束した。それは、今でも覚えている。その約束は果たされるのか未だにわからないけど、その約束は私と遠くへ行ってしまう彼女とを繋ぐ糸になりうる約束。
『アキちゃんを私が幸せにするよ』
『ふぇ?』
『アキちゃんは、笑ってた方が可愛いから、私がアキちゃんが笑えるようにしてあげるよ。今はまだ出来ないけどさ。いつか、またアキちゃんと会えたら、大きくなった私がアキちゃんのことを幸せにするから、今はサヨナラしよ?』
『……本当?』
『本当だよ』
『……約束、してくれる?』
『うん』
『……レイ君、約束だからね。ちゃんと、僕を迎えに来てね』
その時、私の唇は彼女に奪われた。本人曰く、約束のチューらしい。
それから、私と彼女は別れた。彼女は自分の持病の療養の為に遠くの病院へ移送することになり、私は元々いた病院で療養した。
そんな出来事から八年。私は、高校二年生になる。彼女は、私と同年なので彼女も今年で高校二年生だろう。正直、会えるなら会いに行きたいが、何処で何をして居るのか知るすべがない私は会いに行くこともできない。
「はぁ。私は、いつになったら会いに行けるんだろうね……」
溜息しか出てこない。結局自分から約束しといて、その約束を果たせそうにない。
しかし、そんな文句を言う暇はない。一週間後には新学期が始まる。新学期の準備をしなくてはいけないのだ。
「……元気かな。アキちゃん」
ふと思い出す彼女のこと。いつか会えるなら会いたいものだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「秋葉ちゃん。今日も撮影ありがとうね」
「はい。……でも、これから控えてくださいね……」
「ああ、想い人の所に行くんだよね? カァー、青いねぇ」
腰まである長い銀髪に、綺麗な顔立ちをした水着美少女に、男性はそう言って笑う。
「はい。……ちょっと、待ってられなくなっちゃって……。ごめんなさい。忙しいときに、我が儘言っちゃって」
「いいんだよ。秋葉ちゃんの本業は学生だろう? 青春を楽しむためならいくらでも休みなよ。仕事のスケジュールとかも調整できるようにしておくから」
「あ、ありがとうございます」
「いいって、いいって。グラビア撮影の方は溜め撮りしてるし、雑誌撮影は緊急以外ならあまりいれないようにしてるからね。それに、秋葉ちゃんがグラビア撮影を一時休止したい理由もわかるしね」
秋葉は、話し相手の男性、プロデューサーに礼を言って着替えに行った。
「秋葉ちゃん。ちゃんと青春しなよ? 僕らはそれを出来る範囲で応援するから」
プロデューサーの男がそう言うと、隣に立っていた女性はウンウンと頷く。
秋葉はタクシーに乗って、帰っていった。引越しの準備があるのだ。秋葉はとある場所へ引越し、学校を転入することになっている。
「はい、もしもし。秋葉です」
『もしもし、秋葉ちゃん? 久しぶりね』
秋葉がポケットからスマホを取り出して電話に出ると、懐かしい声が聞こえた。
「は、はい。おばさん。お久しぶりです」
『ははは。久しぶりね。四年ぶりかしら』
「そうですね……おじさんとは、前に話をしたんですけど……本当に良いんですか? 私が行っちゃっても……」
『良いのよ。私達もあまり家に帰れてないから、寂しくはなくなるんじゃないかしら? まぁ、秋葉ちゃんがうちの家にいてくれるのは、ありがたいことよ。うちの息子、よろしくね?』
「っ! は、はい………あ、あの……末長くよろしくお願いしたいと言いますか、なんと言いますか……」
しどろもどろになる秋葉に、電話先の女性は笑う。
『秋葉ちゃん見たいな女の子に好かれるなんてねぇ。うちの息子も立派なものさ。高校に行きながら作家になった日には大丈夫か心配になったけど、秋葉ちゃんと一緒なら大丈夫そうだよ。こちらこそ、末長くお願いしたいわ。まぁ、無理なら悩殺しちゃいなさい。そろそろ切るわね。住所は送った場所だから、あって顔を会わせるといいわよ』
「はい!」
秋葉の返事に、電話先の女性は笑い、通話を切る。
秋葉は、スマホを抱きながら嬉しそうに目を閉じる。
「やっとで、……やっとで会えるんだ。レイ君と、やっとで…………」
秋葉の目尻に涙が溜まってくるが、その涙を秋葉は拭き取る。明日には会えるようになるのだ。明日には………。
秋葉は自分の荷物をまとめる。部屋の契約期間は今週中だ。要らないものはすべて売り、必要な物はキャリーバッグに積め、洋服下着類はダンボールに詰めた。部屋自体は、いつでも出ていけるように綺麗な状態だ。
敷布団を敷き、毛布にくるまって目を閉じる。今でも鮮明に覚えている大好きな彼の声や暖かさ。そして、彼との約束。自分を幸せにすると言った彼に会いたい。
「うぅ、楽しみすぎて寝れないよぉ。レイ君、僕のこと、覚えてくれてるといいなぁ」
秋葉の意識は段々と沈んでいき、眠りについた。
────そして翌日。
秋葉は、女性に教えられた住所に向かい、そこにある一軒家のインターフォンを押す。
そして、その一軒家の扉が開くと、懐かしく、見覚えがある男性がいた。
男性にしては少し長めの白髪に赤と金の眼。肌の色事態が存在えしないように、白く、体が全体的に色素が薄いことが見てとれる。細身で、バネのようにしなやかに動くであろう体をした青年。
昔とあまり変わらない、切れ長の眼が秋葉を見て、驚くように声を漏らす。秋葉は、恥ずかしそうに、「エヘヘ」と笑う。
「待てなくなっちゃって、僕から来ちゃった」
「……秋葉、なの?」
「うん、僕だよ。レイ君」
秋葉が会いたくてしょうがなかった想い人。綾辻零無は驚いていた。
「ま、まぁ、立ち話もなんだから中に入りなよ」
「う、うん。お邪魔、するね?」
そう言って、秋葉と零無は八年ぶりに再開を果たした。
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再開なんだけど………
インターフォンが押されて誰かが来たと思えば、高校に入ってから悠斗が見せてくるグラビア誌の被写体が玄関前に、キャリーバッグを持って立っていた。
しかし、そのグラビア誌の被写体、グラビアアイドルは個人的にすごく見覚えがある人物だ。日本人には珍しい天然の銀髪に、それと非対称な金色の眼。可愛いよりクールで大人びた印象を与える顔立ち。
そんなグラビアアイドルの名前は霧雨秋葉。私が八年前に再会を約束した友人。だが、八年前も前に別れて正直顔は靄かかってでしか思い出せず。正直、彼女が私の知る霧雨秋葉である確信が持てない。だが、それも一言で確信が持てた。
彼女は、恥ずかしそうに、「エヘヘ」と笑う。
「待てなくなっちゃって、僕から来ちゃった」
「……秋葉、なのか?」
「うん、僕だよ。レイ君」
霧雨秋葉は、私の知る霧雨秋葉のようだった。そもそも私をレイ君と呼ぶのはアキちゃん……秋葉だけだ。私の親は、レイナか、レイのどっちらかだ。私をレイ君とは呼ばない。
「ま、まぁ、立ち話もなんだから中に入りなよ」
「う、うん。お邪魔、するね?」
取り合えず秋葉を家の中に招き入れる。母さんや父さんは、基本海外にいるから家にはいない。家に居るのは、一匹の黒猫と私だけだ。
秋葉を家にあげてリビングにあるテーブルに座らせ、お茶を出す。そう言えば、もう時間的にはお昼頃だな……
「ちょっと待っててくれ」
「へ? あっ、はい」
一応秋葉にも食べるか聞いておいた方がいいかな?
「お腹すかないかい? よければ何かしら作るけど」
「い、いいよ。レイ君に悪いし……僕、あまりお腹すいてないから」
秋葉はそう言うが、お腹がなった。ベタだが、どうやら本当にあることではあるようだ。
「……体は正直みたいだけど、どうする?」
「…………………た、食べます」
「素直でよろしい。じゃあ、十分ぐらい待っててよ」
秋葉の顔が真っ赤だ。恥ずかしかったのかな? あまり気にしなければいいと思うけど、グラビアアイドルやってたら気になっちゃうモノなのかな? スタイル維持は大切だろうし。
ひとまず、すぐに作れる玉子炒飯を作って茶碗に盛り、あまった炒飯を大皿に盛り、二つの茶碗と一緒に置く。
「出来たよ。大皿に盛られてるやつから自分でよそって食べてね」
「う、うん」
秋葉は恐る恐る食べ、私はそれを見守る。正直、口に合わない。不味いの報告は受け付けている。食べれるといいなー、誰も料理を振る舞ったことないからあまり自信はないけど。
秋葉が炒飯を口にいれて咀嚼すると、一瞬体を震わせる。不味かったのかな? そう思ったが、炒飯を美味しそうにガツガツ食べ始めた。秋葉、どれだけお腹すいてたんだ? 思ったよりも食べるな。私も、秋葉に全部食べられる前に食べるか。
私も炒飯を食べ始めるが、少し秋葉の方を見る。美味しそうに食べてくれて何よりだ。私も炒飯を食べてみたが、思ったよりも上手く出来ていた。
残ることを想定して炒飯を作ったはずが、秋葉がきれいに平らげた。
「ご、ごちそうさま」
「美味しかったか?」
「うん!」
秋葉が笑いながら答える。表情から嘘は見えない。
「気に入ってくれたようで何よりだよ」
「う、うん。そうなんだけど……」
秋葉が言いづらそうに口ごもるが、なにかを決意したようで、立ち上がる。
「ま、まだお腹すいてるの! だから、その……」
「わかった。じゃあ、追加で何か作るから待っててよ」
「い、いいよ。なんか、レイ君に悪いし……」
「気にしないでよ。約束、私が迎えにいけなかったから、これぐらいはさせてくれ」
私はもう一度台所に立って冷蔵庫を漁って、追加で三品作る。秋葉はそれも美味しそうに食べて満足してくれた。秋葉は私が思うよりも大食いだった。
◇
「レイ君。本題なんだけど……僕をここに居候させてください!」
「別にいいよ」
「へ?」
僕は、レイ君に本題を切り出した。僕は今日、レイ君の家に居候するために来たのだ。説得は時間かかると思ってたし、レイ君も男の子だから僕の水着で妥協してもらえないかと思ったけど……意外とあっさり受け入れられた。
「いいの?」
「? 別にいいよ。母さんと父さんから連絡来てたから。秋葉ちゃんをウチに居候させるからってさ」
「いいの? 本当にいいの? 僕、女の子だからどうのこうのとかないの? ルールの取り決めとかも無いの?」
「ああ、そこはあるけど。男女がどうのこうのとかは今はなし。考えないものとする。まあ、ルールについては家事を手伝うのと、自分の良識、常識的に動くならいいよ」
へ? そんなんでいいの? 家事を手伝うのは居候の身としては当たり前だし、何か僕を縛るようなルールとかつけなくていいのかなぁ。
「僕を縛るようなルールとか作らなくていいの?」
「作る必要があるの? それに、私も秋葉も、自分の良識、常識に従う。それは、最低限のマナーさえ守ってくれるなら私はなにも縛らないよ」
「じゃあ、僕がレイ君を襲ったり。レイ君が僕を襲ったりしてもいいってこと?」
「なにその例え……まあ、秋葉の中にある良識を犯さない、そしてそれが常識の範囲内であるなら良いけど……」
あっ、一応その辺りは考えてくれてるわけか。なら、襲うのはダメでも、了承している状態でなら良いと?
「お、お互いの了承があるなら、その……エッチなこととかも……」
「いっこうに構わないけど?」
「そ、そうなんだ……」
エッチなこととかもやる分にはなにも言う気はないと……。じゃあ、おばさんが行ったみたいに、レイ君を悩殺したりするのも別にやる分には構わないと……。
「れ、レイ君。そ、その……レイ君と一緒に寝たりするのは……」
「……私のその日の寝る時間によりけりじゃないかな。まあ、お昼寝とかの添い寝ぐらいだったらやってあげるけど」
「じゃ、じゃあ、僕がレイ君に添い寝するのは……」
「今のところ必要ないかな」
レイ君、寛容なのか何なのかもう分からないよ。僕をよほど信用してるのか、何なのかはわからないけど、僕を自由に動かしてくれるのは素直に嬉しい。
「レイ君。僕は、何処の部屋で寝泊まりすればいいのかな?」
「んー、私の部屋に寝なよ。母さん達の部屋は使わないように言われてるし、私の部屋を使いなよ」
「いいの! あっ、で、でも着替えとかは……」
「その辺はどちらかが部屋から出ていくなり、仕切りを設置するなりしたら見えないでしょ? それでも恥ずかしいなら脱衣所で着替えれば良いわけだし」
その辺は色々考えてるんだね。自分に覗かない自身があるのか、覗かれないと僕を信用してるのか。まあ、僕は覗かないけどね! 嘘です、レイ君の着替え覗きたい。
「でも、僕らも思春期の男女な訳だし、どっちかが発情してどちらかを襲わない可能性はゼロじゃないんだよ?」
「それを考えるなら、何で私の家に居候しに来たのさ。やもうえない事情は特にないし、強いてあげるなら私に会いに来た。でしょう? 会うだけでいいなら、この辺に引っ越してこればよかったんだよ。発情するしないは、生理現象の問題だからどうしようもないし、どう対策してもどちらかが傷を負う。なら、私はあえてそこを、自分にある良識と常識に任せることにしたんだよ」
言いたいことは、わからなくもないけどそれって、要はその人本人の匙加減ってこと?
「それって、それらの行動の責任は自分でとれってことだよね?」
「そうだよ」
レイ君はそう言って、お茶を飲む。落ち着いて見えるけど、僕のこと女の子として意識できないのかなぁ。それはそれで不満と言うか、なんと言うか……
「複雑だよぉ」
「……あえて聞くけど何が?」
「僕の心境。喜べばいいのか、悲しめばいいのか……」
「…………安心できないと思うけど、一応ね。言っておくよ。私は秋葉のことは女の子だと思ってるから、その辺は気を付けてほしいかな」
よし、悩殺が効く。でも、恥ずかしいからやりたくないなぁ。うう、グラビアよりは恥ずかしくないと思ってたのに……
「秋葉、まだなにか話したいこととかある? 無いなら、少し遊ばない?」
レイ君がそう言って、リビングのテレビ前に設置されたゲーム機を指差す。僕は、仕事が忙しくて持ってはいても、まだ遊べてないゲーム機だ。
「うん! 遊ぶ!」
「じゃあ、やろうか。二人で遊べるやつ」
それから僕はレイ君とゲームをして遊んだ。問題なんて、結局あとで考えておけばいい。変に心配したって意味がないんだからね。
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晩御飯なんだけど……
私は秋葉と再会して、一緒にゲームをしている。秋葉はゲーム事態があまりできないらしく、最初は操作に手こずっていた。でも、慣れるのも早く、今は二人で楽しんでいる。
「レイ君、次はどこで勝負するの?」
「秋葉が決めなよ。ん? ああ、ごめん、少し席外すね」
私は、スマホが鳴っているのに気がついて画面を確認すると、悠斗からだった。……取り合えず無視でいいか。ミュートにしてスマホをポケットにしまう。そしてしばらくすると、また誰かから電話がかかってきた。取り出して見てみると悠斗だ。
「レイ君、電話でなくていいの?」
「ああ、放っておいて大丈夫だよ」
残念だが、悠斗に構う気はない。今日は、あいつが好きなグラビア雑誌の発売日だ。どうせ、誰の水着姿がエロいだの、今回は誰々が掲載されていないだの、しょうもないことの電話だろう。正直、私はグラビア雑誌に興味がない。私は小説やら、脚本やらを書くので手一杯だ。それに、部屋には、まだ読めていないラノベと漫画が積まれている。微塵も興味のないグラビア誌のレビューを聞く気にはならない。しかし、不意に時計に眼が行く。時刻は六時半ぐらいだ。そう考えると、私と秋葉はかなりの時間一緒にゲームをしていたようだ。
「買い物行かなきゃね」
「そうなの? 僕も一緒に行きたいなぁ」
「別にいいけど……」
秋葉がノリノリなのは少し予想外だが、まあ、いいだろう。作るのも少し面倒だし、引っ越し祝いと言うことでファミレスにでも連れてこう。この時間なら、少しぐらい遠出しても大丈夫そうだ。
「秋葉、着替えて来るから、少し待ってて」
「うん。僕も着替えるから脱衣所使うよ」
「どうぞ」
私は二階に上がって自室に入り、着替える。一応、ちょっとした有名人なので変装はする。まあ、変装するとは言っても、顔をマスクで隠したり、目元に少し化粧をするだけだ。眼にはカラコンを入れて目の色を赤色に揃え、体の線を隠すような大きめのパーカーを着る。そして、下にはロングスカートをはいて、タイツもはいておく。そして、秋葉がいたから取れなかったウィッグを外し、地毛を外に出す。
ウィッグを外しても白髪であることに変わりはないのだが、髪型が変わる。ウィッグだと、ちょっと髪が長い程度だが、地毛は、背中ぐらいまであるし、それをウルフカットで段差をつけている。普段はその髪をヘアゴムで纏めてポニーテールにしてある。
ウィッグをつける理由は、変装のためだ。常日頃は本性として生きるため、少し髪が長い方が丁度いい。そして、裏では色々好きなように縛りなく動きたいため、見た目が中性的なことを利用し、女装して姿を隠す。これで、変装している。ちなみに、地毛で女装をするのは単純に私の趣味だ。
「……そう言えば、今日は自棄に大人しいけど、どうしたんだろう」
私は、ベットの下を覗き込むと、やはりと言うべきか、ぐてっとした金眼の黒猫、マシロがいた。この様子だと、夜は騒がしくなりそうだ。
マシロのお気に入りのカリカリを入れ物い容れると、マシロが目を覚まし容器に寄ってきた。
「おはよう、マシロ。カリカリ、容れといたから食べてね」
マシロはカリカリを食べ始めた。まあ、帰ったら足せばいいし少しの間は大丈夫だろう。
私は、準備が終わったのでリビングに戻り、ソファに腰掛ける。ちなみに、腰掛けかたにも気を使って足を揃えて座るようにしている。
「お待たせ~。………あ、あの……どちら様で?」
脱衣所から出てきた秋葉の第一声はそれだった。気持ちはわからなくもないけど、そんなにオロオロしなくても……
「まあ、そうなるのが目的だからいいんだけどさ。さすがに私も傷付くよ?」
「へ? レイ君なの?」
「そうだよ」
疑うように私も見ても、私は変わらない。諦めてほしい。
「……レイ君、女装趣味なの?」
「まあ、それもあるけど変装だよ。私は私で有名人だからね。秋葉は変装しなくていいの?」
「レイ君ほど、ガッツリ変装しないよ。マスクと帽子である程度はどうにかなるし」
秋葉は、クリーム色のパーカーを着て、デニムのショートパンツに下からタイツをはいている。
「忘れ物とかない?」
「うん。財布とスマホぐらいかな。化粧は大丈夫だから」
「じゃあ、行こうか」
私は靴箱から黒のヒールサンダルを取り出してはき、秋葉は来るときにはいていたシューズをはいて家から出る。戸締まりの確認もしたし、玄関も鍵を閉めて確認した。戸締まりが終わって、秋葉と駅に向かった。
「秋葉、何が食べたい?」
「へ? 何で僕に聞くの?」
「ああ、秋葉が私のところに引っ越してきたわけだし、引っ越し祝い的な感じで外食でもしようかと思ってさ」
「で、でも奢られるのは悪いし……」
「安心しなよ。秋葉が思ってるよりも、私は収入あるから」
一応、電子マネーに五万ぐらい入ってるし、財布にも三万いれてあるから大丈夫だとは思うけど、万が一はATMでお金を卸せばいい。
「えっと、じゃ、じゃあお肉がたくさん食べたい」
「……肉類がたくさん食べれる場所か……焼肉でも良い? たぶん、食べ放題とか行った方が肉類は食べられるよ」
「うん……お願いします」
肉が好きなのが恥ずかしいのか、秋葉が俯く。個人的には、肉が好きであろうが何であろうが気にしない。正直に言えば、本当に好きなものを言ってくれて大助かりだ。
「秋葉、手だして」
手を私に差し出してきた秋葉の手を握ると、秋葉がビクリと反応した。
「手、離さないでよ? 迷子にしたくないから」
「う、うん」
秋葉の手を引いて駅まで歩く。家の近くの駅から電車に乗って十分の駅周辺に、よく行く顔馴染みの焼肉屋がある。
「秋葉、私の顔馴染みの焼肉屋に行くが、そこで良いか?」
「あ、うん。僕は何処でもいいよ」
「個室があるから、個室を予約するか? 個室じゃなくてもいいなら別にいいんだけど」
「あっ、でも、個室の方が楽かな。その……お忍びな訳だし」
「それもそうか」
顔馴染みの焼肉屋に電話を掛ける。三コールぐらいで、男の人の声が聞こえた。
『はい、こちら焼肉屋万丈でございます。ご用件をお願いします』
「もしもし? 個室の予約したいんですけど」
『はい、承りました。お名前を聞いてもよろしいですか?』
「綾辻零無」
『ああ、なんだ。綾辻先生か。珍しいな、個室の予約とは、同僚と一緒かい?』
「まあ、似たようなもんですよ。人数予約は二人、個室は……」
『いつもの場所だろ?』
「はい」
『わかった。じゃあ、ついたら店員に声かけてくれ』
私は通話を切った。秋葉は隣で少し残念そうだ。まあ、取り敢えず隣駅まで行かないと焼肉屋には着かない。電車賃も私が奢るとしようかな?
「秋葉。電車に乗っていこうか」
「う、うん」
秋葉を連れて駅まで行き、電車に乗り込んだ。
◇◆◇
レイ君が僕の手を握って、歩いている。僕はその隣を歩く。一緒に駅まで歩いて電車に乗って隣駅に降りて一緒に焼肉屋に向かう。
「レイ君。手握るの、久し振りだね……」
「そうね、八年ぶりね」
「あっ、口調も変えちゃうんだ……」
「当たり前でしょ? なんのための変装よ」
レイ君、元々声がそこまで低くないし、声質も女性よりだからあんまり違和感がない。僕としては少し悔しい。僕の立つ瀬がなくなっちゃうし……
「着いたわ。ここよ」
レイ君と僕の目的地である焼肉屋に着いたらしい。
中は熱かった。でも、焼けた肉のいい匂いがする。食欲が……っで、でもあまりがっついたら良い印象与えられないって、雑誌に書いてあったし……むぅぅぅ。
「秋葉。百面相するのは良いのだけど、行くわよ」
「う、うん」
レイ君、僕が大食いは嫌いかなぁ……でも、………むぅぅぅ。僕はどうすればぁぁ!
「……秋葉。別に、どんな秋葉でも私は引かないから大丈夫だよ」
「えっ、あっ……………うん」
レイ君、僕の考え読むの得意だよね……昔からけど。
「レイ君。レイ君は、よく食べる女の子ってどう思う?」
「いいことだと思うわ。食欲があるってことはいいことよ。体調も精神面もあんまり不安定じゃないってことだしね」
いいこと。か……じゃあ、大丈夫かなぁ。ああ、でも、食べる量が量だからやっぱり引かれそうだよ…………
僕は物凄く食べる。プロデューサーとかマネージャー、先輩とかにも引かれるぐらい食べる。まぁ、そのぶんスタイル維持の為に動いたりするけど。
「……肉付きのいい女の子は、無いよりは人気が出るかもしれないわね」
「そ、そっか。あのさ、参考までに聞くけど、レイ君は肉付きがいい女の子と、細身の女の子のどっちが好みなの?」
「さぁ、どっちでしょうね」
むぅ、はぐらかされた。まぁ、良いけどさ……でも、レイ君だから気にしないよね。まぁ、太ったら流石にマネージャーに怒られちゃうかもだけど。
レイ君に案内された個室は、畳間で真ん中にテーブルと焼き網が置かれている。そして、大量のお肉、釜で置かれたお米、野菜も……
「……こんなに頼んだ覚えが無いのですが……」
「……オーナーからの伝言でございます。〝常連へのサービスは商売の基本だろう? これからも御贔屓に〟。だ、そうです。こちらにある品はオーナーからのサービスですね」
「大盤振る舞いだことで」
「……お客様が知人をよくお連れするので、知らず知らずの内に店内に飾られるサインの方が多くなっておりまして。ネットで掲示板での評価が良く、お客様が増えていらっしゃいますから」
レイ君は、「なるほどね」と言って苦笑いを浮かべている。どうやら、このお店のオーナーは気前がいいのか、サービス精神が強いのか、どちらにしろオーナーの人徳とかでも人気があるのかもしれない。
……て言うかさ、レイ君、こんなに食べるの? レイ君も大食いなの?
「……流石に、私はこんなに食べないわよ」
「心読まないでよ」
レイ君、本当にエスパーなんじゃないの? 僕が分かりやすいだけ?
「秋葉が分かりやすいだけ」
「言った側から……もう」
拗ねちゃうぞ。あんまり心を読みすぎると拗ねちゃうぞ。だって、僕の気持ちだけレイ君に伝わって、レイ君の気持ちが僕に伝わらないなんて、不平等じゃないかぁ。
店員さんは個室から出ていって、僕とレイ君の二人きりになった。デートみたいで、ちょっとだけ恥ずかしい。
……レイ君、彼女さんいるのかなぁ。そもそも、僕との約束覚えてるのかなぁ。
「私が焼くから、好きなだけ食べなよ」
「え? ああ、うん」
「秋葉は生焼けが好き? それとも火がちゃんと通った方が好き?」
「……ちゃんと焼けた方が好きだけど……(て、手慣れてる……)」
レイ君の対応が手慣れてる。よく誰かと一緒に来て肉ばっか焼いてる人みたい。
「飲み物はどうする? 一応メニューに乗ってるのはこんな感じだけど」
「じゃあ、コーラで」
「わかった。他に何か欲しいものある? 一応サイドメニューもあるけど?」
「今はいいや」
「お米派? 野菜派? パン派? それとも単体?」
「僕はお米か野菜だよ。パンってなに? 焼肉だよね?」
本当に何でパンが置いてあるの? 焼いた肉をパンに乗っけて食べるの? 何で?
「オーナーの住んでた地元では、焼肉とか、バーベキューとかやったら、米か野菜かパンだったみたいでさ。パンに挟むなり、乗せるなりして食べるんだけど、これが以外とうまい」
「あっ、やっぱり乗っけるんだね。それと美味しいんだ」
「焼けたから食べな」と、レイ君は無遠慮に僕の取り皿に肉を入れていく。僕の皿に五枚、レイ君の皿に一枚……
「……レイ君。レイ君って少食?」
「? そんなことはないし、私も食べる方だよ。まあ、肉をあまり食べないってだけで」
そう言ったレイ君がお米の入った釜を持って、しゃもじで軽く混ぜる。僕に「食べる?」って、聞いてくるけど、僕は今野菜と食べてるから遠慮する。そう言えば、木村さんはお米派だったなぁ~。あっ、お肉美味しい。
レイ君どうやって食べるんだろう? 焼肉屋さんでの食べ方って、意外と個性が出る人いるから、面白いんだよね。
僕がレイ君を見ながら食べていると、レイ君はお米を食べ始めた。釜から直接。
「えっ、ちょっ。レイ君、何で釜から直接……お肉一枚で足りるの? 僕のからも何枚か貰う?」
「? いいよ。今焼いてるし、四人分なら一枚で全然行けるよ」
「は、はぁ」
レイ君がお肉一枚で、釜を一人で一つ食べ尽くした。お米が好きなのかな?
「レイ君はお米が好きなの?」
「? 米が嫌いな日本人っているのか?」
いないと思う。僕もお米好きだし。
それから、僕と二人で焼肉屋さんでお腹一杯食べてレイ君の家、僕の新居に帰った。
最近忙しいので、更新できない日が続くかもですが、ご理解ください
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就寝なんだけど………
「ただいま」
「お邪魔しま~す」
九時前ぐらいに僕とレイ君は家に戻ってきた。レイ君はお風呂に入るらしい。僕もお風呂には入りたいけど、家主側の人間であるレイ君に、先に入ってもらいたい。
「レイ君から先入ってよ。僕は、軽く荷ほどきしないといけないからさ」
「ああ、わかった。じゃあ、先に入るよ」
レイ君に連れられて部屋に行って、僕はレイ君が使っていないらしいクローゼットと、レイ君の洋服類を入れるのに使っているタンスの空きに洋服下着類を入れることになった。レイ君はタンスとベッド下に収納スペースを作ってるらしく、あまり服自体持っていないらしい。まあ、僕もあんまり持ってはいない。アイドルと言われればアイドルだけど、グラビアアイドルだから、あまりなくても困らない。水着は事務所にあるし、洋服は足りなくなったら買い足せばいい。着ない洋服は全部古着屋に売っちゃったしね。
レイ君はお風呂に入る準備をパッパと終わらせて下に降りていった。まあ、僕は荷ほどきする気もあまりないんだけど。
レイ君には悪いけど、僕は色々本気だからね。全力でレイ君を落としたい。僕だけのモノにしたい。だから──
僕はキャリーバックから水着を取り出して水着に着替える。僕が来ているのはモノクロのビキニだ。布地はわざと小さめのモノを選んだ。マイクロまではいかないけど、下にも横にもおっぱいが出るから、男の人はエロく感じるんだって、みっちゃんが言ってた。
「レイ君が襲ってきたらどうしよう……なんだろう。それはそれで嬉しいなぁ。よし」
ビキニの上に白の薄手の大きめシャツを着て、レイ君のお風呂場に突撃する。脱衣所の扉をゆっくり開けて、レイ君に気が付かれないようにそおっと……
「……やっぱり、来たか」
脱衣所の扉を開ければ、レイ君が溜息混じりに僕を見ていた。何故か海パンをはいている。
「お、お邪魔しました……」
「秋葉、待て」
待ちたくない。まさか、待ち伏せされてるとは思わなかった。
「秋葉、一緒に入りに来たんだろう? 秋葉が逃げてどうするんだ」
「い、いや。下心があるわけじゃっ。ほぇ?」
今なんと?
「えっと……レイ君。今なんて?」
「私と入りに来たんだろう? 別に水着でならいいよ」
「ほんと!」
「あ、うん」
レイ君が……レイ君が僕を誘っている! お家お風呂で混浴だよ! みっちゃんが「家のお風呂で一緒に入れるならヤれる」って、言ってたお家お風呂で混浴だよ!
「……何か、勘違いしてるようだから言っておくけど、手は出さないからね?」
「うんうん。わかってるよ。レイ君も僕と同じお年頃だもんね~」
手は出さないって言っても、男の人は一度興奮したら止まらないって、みっちゃんが言ってた。それに、僕は知ってるもん。レイ君の好みが、僕みたいな女の子だって。身長がちょっと高めのおっぱいがおっきい、肉付きの良い子が好みなのは、叔母さんが教えてくれたし、肌が白くて、銀髪が好きなのも知ってるもん。まるっきり、好みが僕なんだもん。
レイ君と一緒にお風呂場に入る。それで、ちょうど良いからと言うことで、僕にシャンプーとリンス、ボディーソープを教えてくれた。
「シャンプー、リンス、ボディーソープは一括して使えるのがあるから、それを使っても良いけどどうする?」
「それにするよ。そ、れ、と、レイ君。背中、僕が流してあげよっか?」
もちろん、僕の体で。恥ずかしいけど。
「その前に、頭洗わなきゃダメでしょ」
「うん。頭も洗ってあげるね」
ムース状の泡をレイ君の頭に塗りつけて、頭皮を洗う。レイ君は背中ぐらいまでの長い髪の毛がある。洗ってて楽しい。
「痒いところとかある?」
「ないよ。っ!」
レイ君、どうしたんだろう。たまに、ビクッてしてるけど……痛いのかなぁ。
「レイ君、痛くない?」
「いや、気持ちいいよ」
「なんか顔赤いけど、僕で欲情しちゃった?」
「そんなことないっ」
うん。やっぱり、ビクッてした。なんでだろう? もしかして……
「もしかしてさ……耳、弱いの?」
「っ!」
「ああ、ごめんごめん。逃げないでよぉ」
レイ君の耳元で囁いただけなのに、レイ君。顔真っ赤にしちゃってるよ。可愛いなぁ、もう。そっかぁ、耳が弱いのかぁ。
「よ、弱くない……たぶん」
「へぇ~、そうなんだぁ? じゃあ、耳に僕がイタズラしても、感じないよね?」
「……そもそもイタズラするなよ」
「僕が悪かったから。ホラ、ちゃんと座ってよ。髪の毛洗えないじゃん」
レイ君は渋々座ってくれた。素直じゃないなぁ。感じちゃうなら、そう言えばいいのに。まぁ、これ以上攻めて嫌われるのは嫌だから、やらないけど。
レイの髪の毛洗って、背中を流して、僕は自分で頭と体を洗った。
◇◆◇
秋葉と風呂に入って、私は結構焦っていた。先に秋葉が出ていって、私は浴槽の縁に腰掛ける。
「……どうするんだよ、これ」
秋葉に体を現れる際に、背中であの大きな胸を感じてしまった。少し重量があって、柔らかかった。まあ、それが原因で起ってしまったわけだ……どことは言わないが。
「八年も会わないだけで、あんなに変わるのか……」
色気もなにもない時代から、八年経って彼処までの美少女になった昔馴染み。意識しないわけがない。しかも、体つきがエロい。胸は大きいし、お腹も括れて、臀部も少しふっくらしている。ほどよく肉がついてて抱き心地とかよさそう。
耳が弱いのは自分でも初知りだったし、それを知ってイタズラが成功した子供みたいな笑みも可愛かった。優斗が秋葉を推すのが納得できるぐらい。
シャワーの蛇口を捻って冷水を出して頭から被る。少し頭を冷やせ、私。秋葉は昔から私にイタズラをして、笑っていたじゃないか。たぶん、今回はそれの延長線だ。他意はないのかもしれない。
しばらく、冷水を浴びて、私も風呂を出た。秋葉は、リビングのソファーに座って、ドライヤーで頭を乾かしている。
「レイ君。遅かったね」
「ああ、一応、もう一度体洗っとこうと思ってな」
秋葉は、「へぇ~」と疑うことなく信じてくれた。内心ホッとしていると、秋葉が私に笑顔を向ける。
「レイ君。一緒にゲームしよ?」
「今何時だと思ってるのさ」
「? 夜の九時ぐらい?」
「良い子は寝る時間だよ?」
「僕、悪い子だから寝ないもん。レイ君も、どうせまだ寝ないでしょ? 一緒にゲームしよーよ。ね?」
あざとい。
秋葉がコントローラーで口元を隠して、「だめ?」とやって来る。あざとい。まあ、別に、私も普通に起きてる時間だから良いけどさ……
「はぁ。いいよ」
「やったぁ! ねぇねぇ、なにする? レーシングゲーム? 格ゲー? それとも、RPG?」
「RPGはどっちかが出来ないじゃん」
「いいの、いいの。一緒にあれこれ言いながらゲームするのも楽しいの!」
秋葉は、選択肢を出したもののRPGゲームがやりたいらしく、ソフトを入れて起動した。まったく、しょうがないか。やろう。どうせ、やること当分無いし、明日も学校は休みだし、眠たくなったら部屋に連れていって寝かせればいいだろうしな。
秋葉がプレイし始めたのは、私が以前やり込んで周回も終わらせた王道RPGだ。
「プレイヤー名かぁ……どうしようかなぁ……レイ君は、いつもどんな名前にしてプレイするの?」
「デェフォルト」
「え~、面白味がないなぁ。もっと、こう。なんか名前を捻ってさぁ」
〝デェフォルト〟って、名前に捻りがない? まあ、捻りがないのは当たり前なんだけど。でも、名前を〝デェフォルト〟にする人って、中々いないとは思う。
「秋葉、勘違いしてるところ悪いけどさ。プレイヤー名をデェフォルトにするんであって、デェフォルト名をつける訳じゃないんだよ?」
「……もうちょっと、マシな名前着けてあげようよ」
「一時的な付き合いしかないキャラクターに、名前を考えるほど私は暇じゃないんだよ」
まあ、これでも小説家、ラノベ作家だし? 場面演出とかしやすいように名前とかも、ちゃんと考えてつけますけども。ゲームは、既にプログラムが組まれていた上で、どんな名前になっても決まったストーリーを歩むことになる。
そんなキャラクター達に、わざわざ凝った名前はつけない。まあ、そんなこと言ったら秋葉は怒りそうだけど。
「へぇ~。まぁ、いいや。じゃあ、僕が勝手につけるね」
秋葉がコントローラーを操作しながら文字を入力する。このRPGは、キャラメイクも可能だ。そして出来上がったキャラが……
「じゃーん。この子は、綾辻秋奈で~す。レイ君と、僕の間に生まれた女の子だよ!」
「……私の名前と秋葉の名前を足したと……」
「名字は、僕とレイ君が結婚したら。レイ君の名字を名乗るようになるじゃん? だから、綾辻」
「……私が霧雨を名乗るようになる可能性は?」
「無いかな? だって、レイ君長男じゃん」
まあ、そうなんだけどさ。今の世の中は長男が婿入りすることもある。私が、秋葉の名字を名乗らない確証はない。
「てか、勝手に結婚させるなよ」
「いいじゃん。たかだかゲームなんだしさ」
秋葉はそう笑って、ストーリーを進め始めた。
◇
だいたい三時間ぐらいゲームに付き合うと、秋葉が左手の人差し指を口に軽く咥えて舐めた。少しずつ、指を舐める時間が長くなっていく。
「……秋葉、そろそろ寝ようか」
「むぅ、まだ起きるぅ」
「眠たいんだろう? 無理して起きるな」
秋葉は、頑張って起きている。昔からの癖は治っていないようだ。
秋葉は、眠くなってくると、左手の人差し指を軽く咥えて舐め始める。そして、だんだんと舐める時間が長くなっていく。子供みたいな癖で愛らしい。
「まだレイ君と一緒に遊ぶのぉ!」
「……明日でも、遊べるから。もう寝よう?」
「んー!」
秋葉が仰向けになって両手を広げる……抱き抱えてほしいのか?
とりあえず、秋葉を抱き上げる。思ったよりは軽い。胸とか尻とか太股とかに脂肪が着くから、もう少し重たいと思ったけど、そうでもなかった。
「二階までつれていけばいいのか?」
「んっ、わかってるじゃん」
お姫様抱っこで秋葉を抱き上げて、私の部屋まで連れていく。
扉を開けて中に入り、ベッドに秋葉を寝かせる。私は床に敷布団を敷いて寝るつもりだ。が……
「……秋葉、離してくれないと眠れないんだけど」
「やぁ、レイ君も一緒寝るの。添い寝して?」
ええぇ……マジですかい。
「してよ、添い寝。いいって言ったじゃん」
「……」
「してくれないな、僕がレイ君にするもん」
逃がしてくれそうにない。まあ、放っておけば勝手に寝そうだけど、八年振りに再開した昔馴染みを簡単に拒絶し、自分が守れなかった約束を待てずにわざわざ来た秋葉を邪険には出来ないわけで……私には退路がない。
「……まあ、いいよ」
「やったぁ。レイ君、大好き」
「っ……そう」
秋葉の横に寝かされて、抱き付かれた。脚を私の腰に回して密着してくる。秋葉の匂いがする。昔から知っている、不思議と落ち着く匂い。
「レイ君。僕のこと……好き?」
「……嫌いではないよ」
「むぅ、嫌いかどうかなんて聞いてないよぉ」
秋葉は、若干寝惚けているみたいだ。ちょっと、ボーッてしている。
「レイ君。僕はね、レイ君のこと大好きなの。いっぱいお喋りしたいし、いっぱい触れたいし、触れてほしい。レイ君は、僕のこと好き?」
「……大好きだよ。嫌いなわけがないだろう?」
私がそう答えると、にへらっと笑って私を見る。そして──
─────ちゅっ
「……レイ君。僕、絶対にレイ君から離れないから、ね?」
「あ、ああ、うん」
秋葉が私の唇から離れて、私を眺めてくる。かわいい、思わず抱きしめるぐらいに。
「……レイ君。おやすみのちゅう、して?」
私も、秋葉の唇に唇を押し当てる。すぐに離れるが、秋葉はすごく嬉しそうだ。
「……幸せだぁ……本当は、もっとちゅうしたいけど、我慢するから……今度は、レイ君からちゅうしてね?」
秋葉はそう言って眠った。
……私のちょっと、熱っぽくなった顔をどうしろと言うんだろうか? ましろを読んでみたけど、ましろは出てこない。絶賛人見知りしているみたいだ。
それから、私は眠気が耐えられなくなるまで起き続けて眠った。
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5話
目が覚めた。朝? 僕が目を開けると、目の前には、世界で最も会いたい大好きなの男の子、レイ君の寝顔があった。
なんで、レイ君がここに……っ!
少し忘れていた記憶が蘇る。たしか、昨日レイ君と再開して……一緒にゲームして……ご飯食べに行ってからまたゲームして……そして……ああ!
そうだ。昨日、レイ君にちゅうしたんだ。それで……レイ君に好きって伝えて、レイ君も好きって言ってくれたんだ……じゃあ、両想いってことだよね……なら、レイ君にしても良いよね?
レイ君の顔、綺麗。ちゅう、したら起きてくれるかな?
────ちゅっ
「………ん? 秋葉?」
「おはよ、レイ君」
起きた。レイ君。ちゅう、したら起きたよ……甘えてもいい、かな?
「……レイ君」
「……なに?」
「ちょっと……甘えてもいい?」
「……私が対応できる範囲で」
対応できる範囲。たぶん、僕が無茶言っても、レイ君は拒絶しない。だからと言って無茶をお願いする気もない。僕は……ただ、レイ君を肌で感じたい。もっと傍で、レイ君を感じたい。
ただレイ君に抱き付いた。優しい、僕が大好きな人に抱き付いた。本当は、服もブラも取って素肌でレイ君を沢山感じたい。でも、そうすると、レイ君が困っちゃうから。今は我慢する。レイ君の匂いがする……レイ君が暖かい。もうちょっと眠っていたい……
「まだ眠たいのか?」
「うん……」
「……もう少しなら寝てもいいかもな。私も予定ないから」
「……良いの?」
「ああ、まだいいよ」
レイ君は甘やかし上手だ。僕、ダメにされちゃうかもしれない。眠たい……眠っちゃおう。レイ君も良いって言ってるし……………もうちょっとだけ、お休みなさい。
◇◆◇
秋葉と寝直して起きたのは午後一時だ。起きた理由は、ましろが私を起こそうと布団を踏み、少し寝苦しくなったからだ。
「ねこぉ~」
「にゃ~ん」
「にゃんにゃん」
「にゃぁ?」
秋葉はましろと謎の会話をしている。どうやら、猫は好きなようだ。昨日は人見知りして出てこなかったが、今日は出てきている。
私はキャットフードを餌皿に居れて、ましろはそれを食べ始めた。
「秋葉、私達もご飯にしようか」
「うん、わかった。今日は、僕も手伝うよ」
「それは、ありがとう」
私は、秋葉と一階に降りて料理を始める。秋葉がかなり食べることは、昨日わかったから今日は多目に作ろう。
「一緒にお料理かぁ~、レイ君とやってみたかったんだよね」
「そうなんだ。てかさ、秋葉は料理する時間とかあったの? グラビアもあるし、テレビもよく出てたらしいじゃん」
「へ? レイ君、僕がグラビアやってるの知ってたの?」
「……友達がグラビア誌読むのが好きだからね。あと、同期が」
「へ、へぇ~。レイ君はさ。僕の水着とか、興味あるの?」
「あるかないか所か、昨日見たし……」
秋葉と風呂に入った時に、生で水着は見た。私も男だし、興味がないわけではないけど、私は秋葉からの見返りが欲しくて居候を許可した訳じゃない。今ここで興味があるって言えば、秋葉は水着を直ぐにでも見せようとするかもしれないけど、私はそれを望んでいる訳じゃない。
「そっか……まぁ、良いけど」
秋葉から、なんかがっかりしたような声が聞こえたけど気にしない。
「……レイ君。僕ね、レイ君と一緒にこれからも仲良くしたいんだ」
「それは私もだよ。秋葉は、私の初めて出来た友達だしね」
秋葉とは仲良くしたい。友達としても、秋葉が望むなら別の関係でも。……秋葉と私は再会を約束したし、なんなら私は秋葉を幸せにすると約束した。だから、私は秋葉を大切にしたい。
私達は、調理を再開した。野菜を切ったり肉を炒めたり、味噌汁を作ったりする。
「レイ君。僕らってさ、端から見たら付き合ってるように見えるのかな?」
「何で?」
「だって、お互いに名前呼びだし。一緒の家に住んでるし。距離感近いし」
「……私がここまで近いのは秋葉だからだと言っておくよ」
「それって、褒めてる?」
「ああ、褒めてるよ」
私は友達が少ない。私の友達と言われれば、悠斗と同期二人、イラストレーターだ。ネットに入ったりすればかなりいるが、リアルで基本よくいるのはこの人達だけだ。
秋葉は、私の初めて出来た友達だ。そして、私が初めて大切にしたいと思った親友だ。幼い頃から常に一緒にいたから、私は八年ぶりの再会でもここまで気軽に話せる。
「……レイ君、ご飯食べ終わった後、時間ある?」
「あるよ」
「ちょっと、近くのデパートとか行かない? 買いたいものがあるんだ。それに、レイ君とお出掛けしたいし」
「別にいいけど、何買うの?」
「好きな作家さんの新刊、今日発売だからさ。買いたいな~って」
「そうか」
秋葉、小説読むんだ……
「私の部屋の棚にある小説、ラノベが殆どだけどさ、好きなように読みなよ」
「いいの? ありがと」
秋葉と料理を終えて食卓に並べた。そして、一緒にご飯を食べて出掛ける準備をする。今日は女装しない。が、ウィッグは着けよう。
秋葉はあまり服を持ってきてないらしいけど、着こなしがお洒落だ。似合っていて、可愛い。
「あれ? レイ君、女装しないの?」
「行き慣れてる場所に行くから、別にいいかなってさ。それに、秋葉が軟派されないように、牽制しないといけないからね」
「う、うん。ありがと……」
あのデパート、品揃えは良いけど、娯楽施設が近いから軟派してくる輩が多いい。
「ここから、電車で二駅だけどいい?」
「全然、僕は文句ないよ。うん」
「そうか、じゃあ行くよ」
財布、スマホ、鍵、よし。ちゃんと持ってる。家の鍵を閉めて、駅に向かい、電車に乗ってデパートに向かう。時間的な問題で人はあまりいない。満員は嫌いだから、私としてはありがたい。
「ねぇ、レイ君。手、繋いでいい? 僕のこと、守ってくれるんでしょ?」
「構わないよ。別に手を繋ぐぐらい」
「じゃあ、この繋ぎ方は?」
私の握った手の握り方を変えてお互いの掌に指を絡めた握り方……俗に言う恋人繋ぎだ。それも、腕を絡ませながら……
「レイ君♪」
「……なに?」
「僕のこと、ちゃんと守ってね?」
「……ちゃんと守るよ。私の大切な人だからね」
それから、静かに電車の中を過ごし、デパートに向かって買い物をして回る。
◇
私は現在、お手洗い前のベンチに座って、秋葉を待っている。買った服に着替えたいらしい。
振動し出したスマホを見ると、悠斗から電話だった。
「なんのようだ?」
『お前、取った瞬間になんのようだ?はねぇだろよ』
少し、チャラチャラしたしゃべり方が電話越しに伝わってくる。
『聞いてくれよぉ』
「レイ君、お待たせ」
「ああ、切るぞ」
電話を切った。相手は悠斗だ。別に適当に扱っても誰からも文句は言われない。
「? レイ君、誰かと電話中だった?」
「ああ、でも気にしなくていい」
スマホがまた振動し出し、画面を確認すると悠斗だ。
「レイ君、電話出なよ」
「……少し失礼するよ。もしもし、用件と要点だけ言え」
『酷くね! ブツ切っといて、かけ直したらこれは酷くね!』
「用件を言え、切るぞ?」
『グラビア誌のレビューなんだけどよぉ』
「……………………………………………切る」
やはりとも言える内容だったので、容赦なく切る。スマホがまた振動をしだしたが、即座に拒否した。
「レイ君? どうしたの?」
「何でもないよ。学ばない馬鹿に、学ぶように機会を与えただけだよ」
悠斗、いい加減学べ。私はグラビア誌を読まないし興味がないんだ。
それからも秋葉と服を見て回ったり、本屋に行ったりして、フードコートで軽食を食べている。
「レイ君、スマホ振動しっぱなしだけどいいの?」
「……アイツ、懲りないな。ごめん、席をはずす」
私はスマホを取り出して、着信履歴を見ると悠斗で埋まっていた。そのなかで、一通だけ、別の人物が紛れている。
「……もしもし、メリー? どうした?」
『やほ~、零無。いや~、声が聞きたくなってさぁ。電話しても取らないじゃん』
「……今、出掛けているもので」
『あっ、そうなの? ごめんね。じゃあ、用事だけ話すよ』
私に電話をして来ていたのはメアリーのペンネームで作家をしている同期で、ご飯行ったり、一緒にゲームしたりをしている友人だ。
『明日暇? 暇なら、久しぶりに配信しようよ。ボクのファンが、零無とコラボしないの?って、言ってるんだ~』
「私は構わないけど……なんの配信するの?」
『ゲームでも、ゲリラで歌枠でも、どっちでもいいよ。それとも、なにもせずに雑談する?』
「雑談だとありがたいかな」
『おけ~、じゃあ、明日の十五時にそっち連絡するね~』
そう言って、通話が切られた。私の作家同期、メアリー。自由人だ。私はそれから直ぐに秋葉の元に戻った。軟派はされていなくてよかったが、少し拗ねられた。
「女の子と電話ぁ」
「ただの同期だよ。さて、別のところ回るか?」
秋葉は頷いて、私の手を引く。向かっている方向にはゲームセンターがある。
「プリクラ、一緒に撮ってよ」
「別にいいけど……」
何故か一緒にプリクラ撮らされて、家に帰った。帰ってからも少し不機嫌だったが、一緒に料理してたら機嫌を直していた。
…………色々つまってきたけど……大丈夫かな? 私………
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