『三年間』から抜け出せない (ウマ娘愉悦部部員)
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『三年間』から抜け出せない
タグにもありますが、胸糞注意です。閲覧は自己責任でお願いします。苦手な方はブラウザバックしてください。
あと、少しだけ隠し要素が少しあります。興味のある方は探してみてください。
ジリリリリ! と目覚まし時計の音が鳴る。それを耳にした
「クソがッ! なんでだよ、
彼は汗で重くなった身体を振り払うように跳ね起き、苛立ったように片手で頭を掻き毟る。
「クソッ、どうして
スマホの画面に映る、
「クソッ! クソクソクソクソ、畜生ッ!」
ギリリと歯が欠けるほどの力で歯軋りして、彼はいまだにけたたましく鳴る目覚まし時計を
そして、
「どうせまた戻るんだろうな・・・・・・クソッタレ」
そう吐き捨てるように呟いて、ガラクタを放り投げた。
「ああ良いさ、やってやるよ・・・・・・どこの誰だか知らねぇが、テメェらが満足するまでな・・・・・・!」
彼は吠えるようにそう言うと、新品のトレーナー服へと
――――――――――――
走るために生まれてきたとされる少女達、ウマ娘。彼女達を支え、レースでの勝利へと導くのが、『トレーナー』の仕事だ。
運命だなんて大層な言い方かもしれないが、彼の脳内にはそれ以外のことに逃げようとして
「・・・・・・クソッタレ」
渋面を作った彼だったが、こんな調子ではウマ娘をスカウトしても断られてしまうだろう。頭を振って意識を切り替えると、負け戦に行く兵士のような心持ちで、トレセン学園の門へと向かう。
「新しいトレーナーさんですよね? ようこそ、トレセン学園へ」
「トキノ、じゃなかった、たづなさん」
門の前に立って、こちらを出迎える女性へと、彼は視線をやった。
駿川たづな。トレセン学園の理事長補佐であり、緑の制服が特徴的なその姿も、もう何度見たかわからない。まだ記憶の混濁が抜けきっていないのか、随分古い呼び方をしそうになってしまった。
「うふふ、初対面で名前呼びだなんて、大胆な方なんですね」
「ぁ・・・・・・すみません。駿川さん」
それでも尚、失敗してしまったが。しかし、これは仕方ないだろう。彼女との初対面は三年ぶりであり、彼はウマ娘を育成する中で、彼女を頼ることが多くあった。
ばつが悪そうにする彼に、たづなは再び微笑んで、校舎へと向かう。
「たづなで構いませんよ。なんだか、初めて会う気がしないので」
そう言って歩き出した彼女には、酷く泣きそうな彼の表情は見えなかった。
選別レースとは、トレーナー達のスカウトの場だ。彼らがウマ娘達の実力を見て声をかけ、彼女たちもまたトレーナーに選ばれるために全力で走る。
「はぁ・・・・・・」
ここまで案内してくれたたづなに悟られないようにため息を零した彼は、胡乱げな瞳でターフを走るウマ娘達を見る。
最初は、期待や興奮があった。二度目は不信感はあったものの、幸運だと喜んだ。三度目には恐怖を、四度目からは絶望を感じた。そんな彼に残ったのは、慢性的になって薄れた悲観と、再び彼女たちと顔を合わせなければならないという苦しみだ。
「あ、たづなさんだー!」
レースへと目を向けていた彼の耳に響いたのは、明るい声だ。隣のたづなが振り返るのに合わせて、彼もそちらを向く。
「あら、ハルウララさん。レースはどうでしたか?」
「楽しかった!」
天真爛漫な笑みでそう答えたのは、ハルウララ。桜色の髪に、小柄な体躯の彼女のことを、彼はよく覚えていた。
当然だ。彼には彼女との三年間の記憶もある。一緒にトレーニングし、有馬記念で挫折し、それでもとURAファイナルズを優勝した、輝かしい思い出がある。
だからこそ、彼女の純粋さは、彼にはひたすら残酷だった。
「ウララ・・・・・・」
「えーっと、貴方は、トレーナーさん?」
まるで
そう、初対面なのだ、自分たちは。繰り返しているのは己だけで、共に歩んだ彼女たちにその記憶はない。
「・・・・・・あぁ。今年からトレーナーに就任したんだ。また会うことになるだろうから、よろしくな。
たづなさん、俺ちょっと飲み物飲んできます」
そう作り笑いを浮かべて、彼はその場を離れた。ハルウララは不思議そうな顔をしていたが、そちらを気遣う余裕は、彼にはなかった。
「クソ、あんまりだろ、こんなの・・・・・・!」
目尻に浮かんだ涙を拭いながら、彼は静かに慟哭する。
ハルウララを再び育成しようとは思わない。だって、彼女は違うのだ。彼が育成し、共に歩んだハルウララではなく、彼と出会う前のハルウララだ。そんな彼女と共に居ては、どうしても二人を重ねてしまう。そんな苦しみ、二度と御免だ。何より、ハルウララに対して失礼だろう。
「はぁ、クソッタレ・・・・・・」
レース場の外にある自動販売機で買った水を口に含みながら、彼はまた悪態を付いた。昔はコーヒーも好きだったし、紅茶も飲んでいたが、彼女たちのことを思い出してしまうから、避けている。
無味無臭の液体を喉に流し込んで、空を見上げる。
いつまでこんなことを続ければ良いのだろうか。どうしようもなく、そう思ってしまう。
色んなウマ娘達を育成した。レースに勝って共に喜び、URAファイナルズを優勝して歓喜に震え、ライバルに負けて奮起した。その過程でたづなや同僚である桐生院葵と仲を深めたこともあったし、担当ウマ娘と温泉に行ったこともあった。それらは間違いなく、大切な思い出だ。
けれど、それは自分だけの思い出なのだ。三年が過ぎれば、目標を達成できなければ、己が死ねば。勝手に時間は巻き戻り、再び
「いつになったら、終わるんだ・・・・・・」
彼の絶望は、憎たらしいくらいに眩しい晴天に消えた。
主人公
ループ系主人公。明るい性格で、ウマ娘を思いやる気持ちは人一倍強い。
初めはウマ娘を勝たせてあげられず、次こそはと意気込んだ。
その
一人でいると悪態をつくのが癖になっているが、根が真面目なので他人が居るときには汚い言葉を使わない。
アプリ版主人公。
補足
・こんな主人公君だけど、トレーナーとしては優秀だしウマ娘のことを大切に思っているので、育成する際には真摯に挑みます。流石主人公!
・ウマ娘側も、こんなトレーナーに最初は不安感を覚えるでしょうが、大丈夫! いずれ悲壮感漂う彼を支えたくなって、良いパートナーになれるよ! やったね!
・沢山の
・新キャラが実装される度に
因みに──
彼に『ハルウララで有馬記念優勝チャレンジ』をやらせた場合、優勝できたとしても、
・優勝できたのは今回のウララであって、思い出の中の彼女たちは負けたままであるという事実
・今回の一人のために、沢山のウララを犠牲にしてきたという罪悪感
・(脚質なども合ってないので)無理をさせてしまったという後悔
の三コンボで、底知れぬ絶望の闇に沈みます。次回以降、彼はウララの顔を見るだけで泣き出してしまうでしょう。思い出って素敵だね!
さて、これでも皆さんは育成を続けるんですか?
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ア オ ハ ル
アオハル杯、やってますか? 新しい育成は楽しいですね! おかげで彼の苦しみは増えましたよ!
「やっと・・・・・・やっと終わった・・・・・・」
そう言いながら、
長かった。本当に長かったと彼は薄れた記憶を思い返す。ずっと抜け出せない『三年間』に囚われ続け、ひたすらにウマ娘の育成に励んだ日々だった。しかし、それも今日できっと終わりだ。トレセン学園に存在する全てのウマ娘を担当にして、URAファイナルズを戦い抜いたのだ。たった一人、同僚である桐生院葵の担当ウマ娘であるハッピーミークにはスカウトする機会すら訪れなかったが、彼女の育成をしなければならないとしても、後三年間だ。
「これでようやく、終われる──」
布団の感触すら感じなくなってきた頭で、彼はぼんやりと思う。ようやく死ねる、と。
長かったのだ。本当に長い時間を過ごしてきた。自殺しても事故にあっても
トレーナーとして優秀であった彼は、ウマ娘一人一人に真摯に向き合い、己の持てる全てを注ぎ込み、途中で狂うことすら出来ず、数え切れないほどの『三年間』を走り抜けてきた。今こうして自我が残っていることが、彼は不思議でならなかった。
しかし、そんな日々もようやく終わりが見えてきた。達成感や充足感とはほど遠い、死ぬことへの安堵という生物として異端な感情を抱えながら、彼は泥のような眠りについた。
――――――――――――
『全生徒、全トレーナーに告ぐッ! 本日より、アオハル杯を復活ッ!』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
放送から聞こえる秋川やよいの言葉の意味が、彼には理解できなかった。
アオハル杯。その単語は記憶にある。以前トレセン学園で行われていたチームレースのことだ。最低五人でチームを組み、短距離から長距離、ダートの五つの条件でレースを競い勝ち星の多いチームの勝利となる──今は廃れて失われていたレース。
それを? 復活する?
「どう、いう・・・・・・」
意味がわからなかった。これまでの『三年間』に、こんな出来事はなかった。まるで
『集まったチームメンバーと一致団結ッ! 切磋琢磨ッ! そして青春謳歌ッ!
諸君らの更なる成長に期待しっ! ここにアオハル杯の復活を決めたっ!』
ふざけるな。余計なことしやがって。尊敬する理事長へ向けた怨嗟の言葉が、胸の中を渦巻く。
最悪だった。まだ理事長は何か話している様子だったが、それすら意識に入らない。だが、最後の言葉だけが耳に纏わり付いた。
『諸君らの活躍、期待しているッ!』
「・・・・・・ッ!」
思わずトレセン学園の外壁を殴ろうとした彼だったが、ぐっと堪える。トレーナーが暴力を振るうだなんてあり得ない。代わりにそのまま右手を壁に押しつける。歯を砕かんばかりに噛み締め、拳は白くなるほどに握りしめられ、爪の食い込んだ肌からは血が垂れていた。
「あ、あの・・・・・・大丈夫ですか?」
「顔がまっしろだよ? わ、血も出てる!」
声の方向へと振り返ると、ライスシャワーとハルウララだった。二人の仲が良いことは、よく覚えていた。二人で歩いていたのだろう、優しい彼女達は、こちらを気遣ってくれたらしい。
「いや、大丈夫だ。ちょっとフラついてしまっただけだから」
精一杯の作り笑いでそう告げる。自分のせいで二人が気を病むのは、どうしても避けたかった。
「あ、あの、ごめんなさい・・・・・・ライスが近くに居たせいで、
申し訳なさそうにライスシャワーが謝る。そうだ、
「君のせいだなんてことは無いよ。俺が昨日夜更かししちゃったからだ。
それじゃ、保健室で絆創膏貰ってくるから。トレーニング頑張って」
そう口早に言って、彼は校舎裏を後にする。
トレーナーさん。ライスシャワーは自分のことをそう呼んだ。自分は
「クソッ、まだ俺に苦しめっていうのか。みっともなく足掻けっていうのか・・・・・・!」
誰の姿もない通路を、彼は悲しみや憎しみ、怒りや嫌悪の混ざった表情で歩く。およそ彼の年齢からは想像できない、複雑な表情だった。
「ようやく、ようやく終われると思ったのに・・・・・・」
彼はそう呟いて崩れ落ちると、喉元まで迫り上がってきた酸味を、床にぶちまけた。
主人公
ループから抜け出せると思ったぁ? 残念、
なんならイベント時空とか未消化なので、これでも終われなかった可能性はあった。
漫画『シンデレラグレイ』によれば、トレセン学園所属のウマ娘は二千弱──さて、何通りの組み合わせがあるでしょうか? 胸が踊りますね!
因みに、今後書く予定がないのでここに書いておきますが──
彼が
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