5Sぷらす2 ルートB (しろすけ)
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分岐のきっかけはほんのわずかばかり風太郎より食堂に着いて単独で三玖に話しかけるってとこですかね


中野たちとのファーストコンタクトから3日

風太郎の方は家庭教師と自分の勉強の両立に苦労しているようだ

できるもんなら手助けしてやりたいが、初っ端でやらかしてしまったせいもあり当然のように避けられてる

といっても同じクラスの一花以外は見かける機会も少ないわけだが…

 

「……よう」

「……」

 

昼休みの食堂でヘッドホンが特徴的な中野家三女、三玖を見かけたので声をかける

本来ならスルーするとこだが、朝のやりとりもあってせめて風太郎が来るまでは場を繋いどきたい

そんな三玖のお盆にはサンドイッチと

 

「それって」

「抹茶ソーダ」

 

えぇ…それ挑戦しちゃうやついるのか

 

「いじわるするユーキには飲ませてあげない」

 

いやいらんし

この子はただでさえ無表情な上に前髪が顔半分隠してるから何考えてるかいまいち分からん

っと、それは置いといて

 

「朝の風太郎が出した問題なんで答えなかったの?」

 

単刀直入に聞きたいことを聞く

朝のやりとり、風太郎がテストの復習について聞いた時のことだ

確認のために出した歴史の問題を誰も回答しなかったんだが、後で風太郎に見せられた結果には三玖だけその問題を正解していた

風太郎はとっかかりのきっかけに三玖に理由を聞くと言っていたはずなんだが

あいつどこに

 

「下川さん!

 お昼一緒に食べませんか!」

 

この元気の有り余る声

 

「中野…」

「はい!中野の四葉です」

 

中野姉妹四女、四葉が笑顔で話しかけてきた

見れば何故か疲れた顔の風太郎と俺を見て一瞬表情を引き攣らせた一花

なるほど

こいつらにつかまってて遅れたのか

三日前のあれがあってよく俺にまで声をかけたな

 

「それで中野…三女

 さっきの」

「下川さんは恋愛は愚かなーなんて言いませんよね!?」

「うんうん

 なんたって彼女持ちだもんね」

 

三玖との会話を再開させようとしたら横槍が入った

ってか一花はそのての話題への好奇心は俺への敵意を上回るのか?

何事?と風太郎を見れば不機嫌そうな顔

……OK察した

前後の経緯は分からんが俺と合流する前に恋愛の話題になったと

そんで風太郎はいつもの持論、あれは学業から最もかけ離れた〜をぶちかましドン引かれたと

モテないやつの僻み全開に聞こえるから外で言うのはやめようなってあれほど…

 

「彼女はいない

 バイト先の先輩と歩いてたの見て誰かが勘違いしただけ」

「「えぇ〜」」

 

何を期待していた何を

つまらなそうに声を上げる一花と四葉に眩暈がしてくる

どうせいつもの噂話を聞きつけたか

ついでに今は彼女とか作る気ないがそこはいう必要ないだろ

 

「三玖はどう?

 好きな男子とかできた?」

「えっ」

 

不意に四葉から話を振られた三玖の表情がわずかばかり変わるが

 

「い、いないよ」

 

目を逸らして去って行ってしまった

 

「なんだ急に」

「あの表情

 姉妹の私にはわかります

 三玖は恋をしています」

 

四葉の言葉に風太郎は焦ったような顔に

どーせ勉強の妨げになる恋愛はまずいとか考えてるんだろうが

はぁ…

柄でないことをしようとした結果これか

あとは風太郎に任せちまおう

 

 

なんて問題を放り投げようとしたんだが

あんなことがあったその日の放課後

俺は一人屋上にいる

あの後、教室に戻ってみれば机の中から見慣れない紙が出てきた

それに書かれてた内容ってのが

 

『放課後に屋上に来て。

 ユーキに伝えたいことがある。

 どうしてもこの気持ちが抑えられないの。』

 

いやいやいや待て待て

なんで俺?

出会ってまだ4日だし何だったらあの子とまともに喋ったことあったっけ?

大体俺は誰かと付き合うとかそんな余裕ないし

かと言って無視すれば風太郎の方の印象も悪くしかねんし…

結局、どう受け答えするか決めきれないまま放課後を迎えてしまった

なんて一人これからの展開に頭を悩ませてたら扉の開く音

 

「ーっ!

 ビックリした

 そんなとこにいたんだ」

 

三玖が屋上に出てきたが、俺が扉のすぐ横で壁にもたれかかっているとは思ってなかった様子

しかし、こうして来たってことはタチの悪いイタズラっていう線は消えるらしい

かえってその方が楽かもしれんが

 

「……で

 何の用?」

「食堂で言えたら良かったんだけど」

 

あんだけ人がいる場で言えたらってことはまあ、そういう話ではなさそうだ

ひとまず安心

 

「誰にも聴かれたくなかったから」

 

しかしとなるとなんだ?

 

「ユーキ、あのね」

 

『三玖は恋をしてます』

 

昼休みの四葉の台詞がフラッシュバックしたがそれはないってさっき分かったはずでは!?

 

「ずっと言いたかったの

 ……す…

 …す」

 

待て待て待てマジか!?マジなのか!?

 

「陶晴賢」

 

…………はい?

 

「よし

 言えたスッキリ」

 

いや勝手にスッキリすんなや

何のことやらこっちはさっぱり分かってねぇぞ?

言った本人は無表情ながら満足気で、ヘッドホンを付けてスマホをいじりながら屋上を出ようしてる

 

「おい

 何のことか説明くらいしてくれていいんじゃないか?」

「っ!」

 

思ったよりどすの利いた声が出てしまった

それに驚いたのか三玖はスマホを落としてしまい

 

「武田菱…」

 

点灯したホーム画面には武田信玄の有名な風林火山の文字があり思わず口に出す

 

「見た?」

 

今度は逆に睨み返された

なんだ?何が地雷だったんだ?

 

「……だ…誰にも言わないで」

 

「戦国武将…好きなの」

 

……はい?

いや、わざわざあれをホーム画面にしてるならそういうことなのはわかる気がするが

そういえば、さっきの陶晴賢って厳島の戦いのだよな

まさか、朝の問題の答えを言いたかっただけなのか?

 

「一応…何でか聞いていい?」

 

今時、歴女なんて言葉があるくらいなのでそこまで変わった好みではないとは思うけど

三玖はおずおずといった様子だが口を開く

 

「きっかけは四葉から借りたゲーム

 野心溢れる武将たちに惹かれてたくさん本も読んだ」

 

「でもクラスのみんなが好きな人はイケメン俳優や美人なモデル」

 

「それに比べて私は髭のおじさん…

 変だよ」

 

なるほどね

この子は周りと違って変わってるなんて思われるのが怖いわけだ

しかし

 

「好きなこと隠し続けるってのはしんどくない?」

「それは…」

 

好きなものがあるなら堂々としてればいい

と、会って数日のやつに言われたとこでそうそう変われるようなもんでもないかもだが

 

「そういえば、風太郎この間の日本史のテスト満点だったとか言ってたな」

 

妙案

この子が存分に語り合える友達を用意しつつ、風太郎の家庭教師の授業を前向きに考えてくれるようお膳立てをしよう

 

「そ、そうなの?」

「ああ

 腐っても学年一位の頭の持ち主だし

 あいつの知識量ならお前とも語り合えると思うよ」

 

戦国武将に特化したマイナーなエピソードとか出されたらどうしようと一瞬思ったが風太郎なら大丈夫だろ

 

「だから、家庭教師の方も前向きに検討してみてくれない?」

「そう…だね

 うん

 そこまで言うなら、いいよ」

 

無表情は変わらないけどどこか楽しそうにそう言ってくれた

思わぬ形とはいえ風太郎のアシストが出来たようだ

あとはぜひ頑張ってもらいたい

 

「ユーキも」

「ん?」

「ユーキも、いっしょに勉強見てくれる?」

 

……ここで邪険にしたら元の木阿弥か

少し予想とは違った展開に内心頭を抱えるが

 

「時間が合えばね

 こっちも別のバイトがあるから」

「……そっか」

 

何故か残念そう

これはよろしくない

 

「風太郎ほどじゃないけど」

「え?」

「戦国武将の話、聞くだけなら相手するけど」

「いいの?」

 

予想より食いつきがいい

どうやら丸投げは無理っぽい

 

「ん

 そこまで詳しいわけじゃないからそこはごめんだけど」

「ううん

 色々話したい!」

 

その後、三玖の戦国武将語りに時間が許す限り付き合ってた

有名な武将の意外なエピソードからマイナーな逸話まで幅広く話してたが、普段の無表情からは想像できないほど表情がコロコロ変わるのは見てて微笑ましい

生返事ばっかなのに随分楽しそうに話をしてくれてたがそろそろ時間だ

学校からは出ないといけないし、俺もバイトがある

 

「……また話聞くから

 それに風太郎なら俺よりも詳しいし楽しめると思うよ?」

「うん…そっか」

 

残念そうだがこればっかはしゃあない

風太郎がこの子を満足させるくらい語り合ってくれると信じよう

 

「これ友好の証

 飲んでみて」

 

屋上を後にしようとしたところで三玖から差し出されるジュース缶

自販機で買ってたと思ったらこれか

しかも昼に見た抹茶ソーダ…

 

「鼻水なんて入ってないよ

 なんちゃって」

「それも戦国武将のエピソード?

 また教えてくれる?」

「うん

 これはね…」

 

そのまま学校から出て別れるまで話は続いた

無気力そうな子だと思ったけど夢中になれる物があるなら何よりだ

しかし、関わることなんてもうないと思ってたところでこれとは

残りの姉妹の説得は自分で何とかして欲しいもんだ

この場にいない幼馴染に内心文句をぶつけてみた

 

 

「おい!三玖から突然戦国武将のクイズ出されたと思ったら『頭いいって言ってたけどこんなもんなんだやっぱ教わることは無さそうバイバイ』なんて勝手に失望されたんだがお前何やった!?」

「いや、お前が何やった」

 

何故か逆に文句をつけられた

やたら説明的なのはいいとして、三玖の真似が不快すぎるのでやめてほしい

聞いてみれば家庭教師を受けてくれるよう話を持ちかけたところ、日本史の授業ならと食いついてくれたらしい

と、ここまでは良かったんだが日本史のテストも満点で戦国武将にも造詣が深い方だから三玖の知らない武将の話もしてやれるぜとマウント取ろうとした

結果返り討ちにあってあの台詞に至ると

 

「いやお前何やってんのさ」

「元はと言えばお前が余計なこと言ったせいだろ!?

 俺だってそこまで武将に特別興味無いからな!」

 

良かれと思って三玖と話してみたというのにこれである

もう協力してやんねえぞゴラぁ

 

「ぐっ…!

 と、とにかくこのまま侮られっぱなしじゃ治らねえ

 勉強してリベンジだ!」

「そうか

 頑張れよ」

「これがお前の分だ」

「何でだよ」

 

怯んだと思ったら一瞬だけで厚かましくこれかい

何故か目の前に山のように積まれる歴史関係の本

俺まで勉強したところで意味なんてないだろうが

 

「意地でも俺が勉強教えてやる!!」

 

あっ…これ何言っても無駄なやつや

こうなった風太郎はマジで止まらない

はあ…わかったよやればいいんだろやれば

観念して本の山に手をつける

しかし、昨日少し話しただけだがあの子の知識量結構すごかったからこれは骨が折れそうだ

 

 

「何か用?

 ユーキ」

「……いや、用があるのは俺じゃないんだが」

 

数日経った放課後の西側昇降口

宣言の通り三玖にリベンジを果たすべく呼び出したらしいんだが、肝心の本人が不在ってどういうこと?

……しゃあない

来るまでは場を繋いでおこう

 

「なあ、この前のこと」

「……」

 

話しかけたらぷーいとそっぽ向かれた

すっかり元の通りの距離感に…

そりゃあ、風太郎の知識量を過信して結果的に騙すことになったのは悪かったが

はぁ…当初の予定とはズレるが俺から切り出すか

 

「戦国クイズ

 風太郎答えられなかったんでしょ?」

「それがなに?」

「リベンジ」

 

代行だけどな

そもそも無関係じゃんとかこの際考えない

流石にあの読書の時間を無駄にするのは虚しすぎるし

 

「…やだよ

 フータローより詳しくないって言ったのはユーキだよ?」

「男子三日会わざればってやつだよ

 それとも負けるの怖い?」

 

見え透いた挑発だが果たして

三玖は一瞬ムッとした顔になり

 

「武田信玄の風林火山

 その「風」の意味することとは?」

 

なんだ?やけに簡単な

 

「正解は「疾きこと風の如く」」

 

うん知ってる…って

三玖はそのまま手すりをつたって階段の下へ

そのまま走り去って行くが

……うん、めちゃくちゃ遅い

しかしまた逃げるか

どうにも、あいつ

というかあいつら色々と逃げ続けてるな

多分このままだと色々取り返しのつかないことになる予感もする

しゃあない…追うか

そう決意して角を曲がった三玖を追いかけ

 

「わお

 下川さん!」

 

やたらと柔らかいものにぶつかったと思ったら頭上から声

 

「中野…か?」

「はい!中野の四葉です!」

 

うん

頭の特徴的なリボンといい、このやりとりといい確かに四葉のもの

 

「それでは私はこれで〜」

 

にこやかに告げて四葉は去ろうとするが

 

「あ、あの下川さん?」

 

リボンを引っ掴む

絶妙に掴みやすいなこれ

 

「茶番に付き合う気はないんだけど?」

「ーっ!」

 

まさかあのダウナーな様子からこんな快活な喋り方まで出来るとは思わなかったけどこいつ三玖だろ

髪の長さとか服装とかどうにもならんから、こんなので騙せるのは風太郎くらいだろ

って!リボン切り離して逃げやがった!?

 

「小癪な」

 

とはいえやっぱり遅いのであっという間に追いついて並走

さすがにギョッとした顔になってる

 

「で、どうすれば話聞いてくれる?」

 

足ではどうやったって逃げきれないって分かったはずだが

 

「ぶ、武将しりとり」

 

うん?このタイミングで?

しかも走りながら?

 

「龍造寺隆信」

 

付き合うしかないか…

 

「ふもありだよな?

 福島正則」

 

「龍造寺正家」

 

「江戸重通」

 

「長曾我部元親」

 

「金森長近」

 

「かっ…河尻秀隆っ」

 

「片倉小十郎」

 

「上杉け…上杉…景勝」

 

「おっと残念

 津田信澄」

 

「三好…長慶…もうダメっ…」

 

「柴田勝家

 っと大丈夫?」

 

思ったより粘られたが限界が来たようだ

倒れ込みそうになる三玖の腕を取る

立ってるのもしんどそうだから近くの芝の上に座らせてやる

 

「ねぇ

 なんでそんなに必死なの…?」

 

けっこう限界だったのか倒れ込んでしまった

何で、か…たしかに俺がこうまでやる理由はないんだが

 

「暑い」

 

……いくら放課後で人目少ないとはいえこんなところでタイツ脱ぐなよ

飲み物でも買ってきてやるか

 

「ひゃっ」

「おっと、すまん」

 

買ってきたジュース、抹茶ソーダを頬に当ててやったら思ったよりオーバーなリアクション

頬を膨らませて睨まれたが気にせず隣に座り自分の分として買ったジュースを開ける

 

「それ…」

「ん?あぁ

 甘くないから意外とイケるねこれ」

 

俺の分も抹茶ソーダだったりする

甘ったるいジュースに比べたら幾分かは飲みやすい

それから少し沈黙

三玖の方もようやく息が整ってきたようだ

 

「風太郎さ」

「?」

「勉強できるからって他人見下しがちで陰険で攻撃的なやつだけど」

「そこまで言っちゃうんだ」

「あいつが努力してきた姿は見てきたんだ」

「あ…」

 

さっきの問いかけ

俺がここまでやる理由について思いついたまま言ってみる

 

「最初っから勉強できたわけじゃないんだぜ?

 むしろ苦手だったはずなのに、それこそ死に物ぐるいで満点取れるようになったんだ」

 

「だからさ

 お前たちも頑張ってみない?

 始めないといつまで経っても何も変わらない」

 

こいつらが転校してきた理由が成績不審なのは何となく察してる

あんな風にいつまでも逃げてたらまた繰り返すだけだろうし、そんなのは見てて気分がいいもんじゃない

 

「フータローはすごいんだね

 でも私はダメだよ」

 

「五人の中で私が一番落ちこぼれだから」

 

こいつが好きなことを堂々と言えない理由はこれか

自分が好きなものに自信がない訳じゃなく、自分に自信がないのか

 

「風太郎のテストは一番上だった筈だけど」

「うん

 でもなんとなくわかるんだよ

 私程度にできること、他の四人にもできるに決まってる」

 

「五つ子だもん」

 

諦めたような寂しい笑み

しかし、そうか

あいつに押し付けられたテストの結果を取り出す

うん、やっぱり

 

「ユーキ?」

「三女にできることは他の四人にもできる、だったよな?」

「う、うん」

「なるほどたしかに

 じゃあ逆に他の四人にできることはお前にもできるってことじゃない?」

 

テストの結果を三玖に見えるよう広げる

風太郎の言ってた通り五人で100点のテスト

そしてその回答が

 

「正解した問題が一問も被ってない」

 

そういうことだ

五つ子でスタートは全く同じだった、とまではいかないだろうが

俺はこいつらにだって100点満点をとれる潜在能力があると信じてる

そう告げてやれば

 

「何それ屁理屈」

 

顔を背けられてしまった

だが声色に棘はない

 

「本当に…

「五つ子」を過信しすぎ」

 

 

「だから何回言えばわかるんだ…」

 

翌日の放課後の図書館

自習コーナーに風太郎の不機嫌そうな声が響く

 

「ライスはLじゃなくてR!

 お前シラミ食うのか!」

「あわわわ」

 

怒鳴られた四葉はあたふたと課題の間違いを直していく

結局、あいつ昨日の放課後何してたと聞いてみたら先生に雑用を押し付けられた四葉を手伝ってたとか

うん立派だね

でもお陰で俺がいらん苦労する羽目になったんだよね

という訳なので風太郎の頭には特大のたんこぶ

強くやりすぎたかなーと思ったけど知らん

ついでに三玖がどうするつもりなのかも知らんと言ってやったら少し落ち込んでた

これに懲りたらちゃんと初志はぶらさないでもらいたい

 

「四葉…なんで怒られてんのにニコニコしてんだ?」

「えへへ

 家庭教師の日でもないのに上杉さんが宿題を見てくれるのがうれしくって」

 

そういうもんか

協力的な子は貴重だから風太郎はもっと優しくしてやろうな

 

「……他の四人は?」

「声はかけたんですが…」

 

バイトまで暇だろとまたも連行された俺も席についてるわけだが、生徒は四葉一人で風太郎がマンツーマン

マジで帰っていい?

 

「残りの四人もお前くらい物分かりがいいと助かるんだが」

「あはは…

 あ、でも

 残りの四人じゃなくて三人ですよ」

 

ん?

 

「ね?三玖」

 

言われて振り返れば三玖の姿

風太郎と顔を合わすのは気まずいのか少し俯きがち

 

「来てくれたのか」

 

風太郎の方は嬉しそうに声をかけるが、三玖はそんな風太郎の脇をすり抜け窓際の本棚へ

何冊か本を引っ張り出して内容でなくて貸し出しカードを見てる?

あの辺は風太郎と俺がここ数日読み漁ってた日本史コーナーだったが

 

「ユーキのせいで考えちゃった

 ほんのちょっとだけ

 私も変われるんじゃないかって」

 

「だから…」

 

「責任取ってよね」

 

そう言って柔らかく微笑む

影のないこの子の表情を初めて見た気がするな

しかし、やる気になってくれたはいいが俺が責任取るの?

 

「まあ、できる範囲でな」

 

我ながらぶっきらぼうな返し

どんな心境の変化があったかは知らんが、やる気になってくれた以上無下にはできんだろ

やれるだけのことはやってやるさ

 

「責任って…お前昨日何を痛ってええ!?」

 

よからぬ勘違いをした幼馴染はデコを抑えて悶絶してる

事態をややこしくしたのは申し訳ないが巻き込まれたのはこっちなのでこれくらいの腹いせ甘んじて受けろや

しかしまぁ…これから一体どうなることやら

 

ピコーン

 

「み、三玖もしかして…

 この前隠してた三玖の好きな人って下川さんじゃ…」

「ないない」




オリ主は甘いもの以外は大体食べられる
これをきっかけに少し抹茶系に傾いていきます


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そういやこの話書いてなかったわ
ということで追加


「なんだこれ!センサー反応しろ!

 くそぉぉ…

 あの五人だけでなくお前も俺を邪魔するのか」

 

中野たちのマンションのエントランス

ガラスドアにへばりつき呪詛の言葉を吐く幼馴染

今時オートロックも知らんのかこの男は

ところで…

 

「無理っぽいならもう帰っていい?」

「あ"あ"!?

 こんなとこで諦められるか!」

 

気合い充分なのはいいが何故俺まで

土曜の昼間

休日だというのに風太郎に連れられ一週間ぶりの中野たちのマンションへ

たしかに今日は夜までバイト無いが、何故俺のシフトを把握している?

 

「なあ

 いい加減、俺まで行かないといけない理由くらい教えてくれない?」

 

道中何度も聞いてみたがなんでか教えてくれない

理由も言わないならさっさと帰れば良かった気がするが、そこでコイツを見捨てられないあたり俺も大概甘い…

 

「あのー30階の中野さんの家庭教師をしてる上杉と申します

 そこのドア壊れてますよ?」

 

とうとう監視カメラに話しかけ始めた

さすがにこれ以上は哀れなのでそろそろ説明をしてやろうと思ってたところで

 

「何やってるの?」

 

ヘッドホンが特徴的な少女、三玖が声をかけてきた

手にビニール袋を持ってるあたり買い物にでも出ていたらしい

 

「今時オートロックも知らないんだ」

 

三玖がインターホンを操作して扉が開く

小さく舌打ちしたら風太郎に睨まれた

 

(お前、さては知ってたな!?)

(なんのことやら)

 

相変わらずこんなとこだけは以心伝心である

 

「ユーキも来てくれたんだ

 ……よかった」

 

んん??

 

「お、おう

 言った通りコイツも手伝ってくれるから」

 

お前、俺をダシに使ったな!?

 

「なあ、中野

 俺は…」

「……」

「…………三玖」

「なに?ユーキ」

 

ぷーいとそっぽを向かれたが呼び方を訂正したら反応してくれた

何故かあれ以来、苗字や三女呼びだとこの通り反応してくれない

出会って間もない女子名前呼び捨てとか普通は抵抗あるはずなんだが…

 

「お前

 名前で呼ぶくらいで恥ずかしがってんなよ」

 

うるせーノーデリカシー

別に恥ずかしい訳じゃねーわ

 

 

「おはようございまーす」

 

結局なし崩しで、中野たちの部屋へ

リビングには他の姉妹の姿もある

 

「準備万端ですっ」

 

やる気十分の四葉

 

「私も、まあ見てよっかな」

 

勉強するかはともかく興味自体はあるような一花

 

「私はここで自習してるだけなので勘違いしないでください」

 

一瞬、こちらを見て何か言いたげになった五月

 

「約束どおり日本史教えてね」

 

四葉ほどではないがやる気はある様子の三玖

各々差はあれど、思ったより協力的に見える

さっき三玖に隠れて

『頼む!お前がいないと勉強しないとか言い出しかねん!助けてくれ!』

と、割と必死そうだったが杞憂じゃないか?

まあ、なんにせよ雰囲気は悪くなさそうだし心配は…

 

「あ

 なーに?懲りずにまた来たの?」

 

そういえば、一人見当たらなかったな

最後の一人、二乃が階上からこちらを見下ろしている

 

「先週みたいに途中で寝ちゃわなきゃいいけど」

 

ほほう?

 

「貴様

 反省してないな?」

「ひっ!」

 

我ながらかなり不機嫌そうな声が出た

軽く悲鳴をあげる二乃

他の姉妹もカタカタと震えはじめた

 

「な、なんで

 あんたもいんのよ!?」

 

うん、まったくだ

それに関してはむしろ俺が聞きたい

が、それは置いといて

この間のアレではまだ足りなかったと

それなら俺にも考えはあるんだが

 

「落ち着け優希!

 俺は別に気にしてない!」

 

俺の肩に手を置いて風太郎が言う

そうは言うが、わざわざ妨害を宣言してくるような奴を放置しておけるとでも?

 

「に、二乃もどうだ?

 一緒に…」

「っ!」

 

風太郎が声をかけたが、言い切る前に二乃は部屋に引っ込んだ

排除しようとした相手に庇われたらそりゃ居心地悪いよな

 

「し、下川君

 ごめんなさい、二乃が」

「だから、謝る相手は俺じゃないだろ」

 

まあ、この場で勝手にキレてる俺に謝る気持ちは分からんでもないが

渋々と言った様子だが五月は風太郎に謝る

コイツらも打ち解けるまでは時間かかりそうだ…

 

「ほら

 勉強するんだろ?

 さっさと始めよう」

「そ、そうですね!

 早速……!」

 

ん?四葉?

変な空気にしてしまった責任感じて俺から切り出してみて、四葉が乗ってくれたと思ったんだが

着信でもあったのかスマホの画面を見て固まってしまっている

 

「上杉さん!下川さん!すみません!

 困ってる人をほっといてはおけません!!」

「は!?」

 

なんでもバスケ部のメンバーが骨折してしまいこのままでは試合に出れないとのこと

風太郎が止める間も無く四葉は部屋を出て行ってしまう

 

「あの子断れない性格だから」

 

だろうね

こいつらが転校してきて一週間ほどだが先生やらの頼み事で走り回ってる姿を何度も見かけている

お人好しなのも考えものだな

 

「それ、ユーキ君が言っちゃうんだ」

 

ナチュラルに思考読むなや

そういう一花も何故か苦笑いをしながら外出の支度

 

「い、一花?

 お前までどうしたんだ」

「ごめーん

 二時からバイトなの忘れてて」

 

すまなさそうに言いながらそそくさと部屋を後にしてしまった

 

「よーしお前ら集まれー

 授業を始めるぞー」

「現実見て

 もう私と五月しかいない」

 

生気の消えた目になった風太郎に流石の三玖も同情してるようだ

そんな三玖のスマホにも着信

画面を見た三玖はさっき買ってきたビニール袋を手に階段を上がっていく

 

「み、三玖?」

「大丈夫

 すぐ戻るから」

 

風太郎が心配そうな声をあげたが三玖は制止する

そのまま二階、姉妹それぞれの個室のうち階段から二番目の扉の前へ

 

「何よ?

 あんたが間違えて飲んだ私のジュース早く買ってきてよ」

「もう買ってきた」

 

二乃の部屋だったか

というか、着信が二乃からってことはまさかさっきの四葉たちへのもコイツの仕業か?

五月にも着信はあったみたいだが、何やら思案した挙句残ってくれたのは助かったな

 

「え?え?

 あーいう冴えない顔の男が好みだったの?」

 

階上の口論は続いてたようだ

何気に酷いこと言われてるな

 

「二乃はメンクイだから」

 

三玖も地味に酷い

というか何の話をしている何の

 

「……なあ、勉強始まんないなら帰っていい?」

「ちょっ!待っ…!」

「ダ、ダメ!」

 

いい加減この状況に耐えられなくなったので半分冗談で切り出したら意外にも三玖が口論を切り上げてまで遮ってきた

 

「ちゃ、ちゃんとするから」

「わかった

 わかったから」

 

ここまでの反応されるとは正直思わなかったので困惑してる

二乃の方は敵意剥き出しで俺の方睨んでくるし

しかし、二乃のあの態度はつまりそういうことか

そうなると俺としては二乃の気持ちもなんとなく理解できてしまうわけで…

やれやれ

風太郎が五人全員から信頼を得るのは思ってた以上に険しい道のりみたいだ

 

 

「もうこんな時間か

 今日はこれくらいだな」

 

風太郎が告げて三玖と五月も肩の力を抜く

あれから、ようやく家庭教師の授業を始めたわけだが

三玖も五月もなんで俺の方に質問してくるのさ

なにかと勉強の質問を俺にしてくる三玖をなんとか風太郎の方に誘導するのには苦労した…

三玖はなんだかんだ興味のある日本史中心だったのでどうにかなったが、五月に関しては

 

『友達に勉強を見てもらっているだけですので』

 

の一点張りで取り付く島もなかった

風太郎、わざわざ俺が教えるなら自分が教えたも同然、なんていらん挑発はやめてくれ…

 

で、二乃の方は時折部屋から顔を出してはこちらを恨めしそうに見ていたわけだが

こっちが視線を送るとすぐ慌てて引っ込んでいく

別に睨んでるわけではないんだが…

 

「先が思いやられるな」

「全くだ

 特に二乃

 あいつとわかり合える日が来るとは思えん」

 

風太郎も流石に二乃が特別に悪意を持ってるのには気づいてるみたいだな

 

「ちゃんと誠実に向き合えばわかってくれるよ」

 

意外にも三玖がそんなことを言ってくる

 

「誠実にって…

 どうすりゃいいんだよ」

 

風太郎も面食らってはいるようだがそう聞き返す

 

「私に言われてもわかんない」

 

「それを考えるのがフータローとユーキの仕事でしょ」

 

誠実に向き合う、ね

…………って

 

「三玖

 俺は家庭教師の仕事引き受けてるわけじゃ」

「そ、そうだな!

 お前たちから信頼されるように頑張るぜ!」

 

風太郎…お前勢いで巻き込もうとしてる?

流石にこれ以上は勘弁してほしいんだが

ただ、三玖の方は何故か俺の方を期待してるような目で見てくるわけで…

これは今後も巻き込まれるのを覚悟しないといけないらしい

 

 

「……財布忘れた」

「はあ?

 お前にしては珍しいな」

 

お前が急に押しかけてきて引っ張ってくるから咄嗟に財布鞄に突っ込んだんだよ

で、勉強道具取り出した時に一緒に出してそのままか

振り返れば既に自動ドアは閉まっている

げんなりとした気分でインターホンを操作する

頼むから二乃は出ないでほしいが

 

「忘れ物?

 シャワー浴びてるから勝手に取ってっていいよ」

「もう少し危機感持ってくれ…」

 

信頼されているととるべきか、男として見られていないととるべきか

ともあれ自動ドアが開いたので再びマンションの中へ

 

「ついていくか?」

「すぐだから先帰ってろ」

 

どうせマンション出たら俺はバイト先直行だし、お守りが必要なわけもない

風太郎と別れて一人再び中野たちの部屋へ

 

で、一応チャイムを鳴らしたが返事はなく、言われた通り鍵は開いていたので室内へ

リビングに入ってみれば

 

「ーーっ!

 悪りぃ…」

 

ソファーに座り髪をドライヤーで乾かしている姿を確認して慌てて廊下に戻る

この間の放課後の時といい男が近くにいるってのにどういう羞恥心をして…

 

いや、ちょっと待て

下で三玖と話してからここまで何分かかった?

いくらなんでもシャワーを浴びるには早すぎる

それに髪の長さが三玖よりあったような

つまり…

 

「誰?三玖?

 お風呂入るんじゃなかった?

 空いたけど」

 

よりによって二乃かよ

さっき誠実に向き合えばなんて言ってた矢先にこれだ

いや、風太郎がこの局面に遭遇しなかっただけマシなんだが

 

「お昼にいじわるしたことまだ根に持ってんの?」

 

「あれは勢いで…

 悪いとは思ってるわよ」

 

姉妹相手だとこんだけ素直に謝れるんだなこいつも

…って気配近づいてきてる!?

 

「……何とか言いなさいよ」

 

言えるか!

どうやら廊下の手前では止まってくれたみたいだが

 

「全部あいつらのせいだ」

 

ん?

 

「パパに命令されたからって好き勝手うちに入ってきて…」

 

「私たち五人の家にあいつらの入る余地なんてないんだから」

 

……まあこういうことなんだろうな

正直その気持ちはよくわかってしまうわけで

かといって、風太郎の事情もあるので引き下がるわけにもいかんし

 

「ねえ聞いてんの?」

「っ!?」

 

気づけば目の前に二乃の顔

めちゃくちゃ近くに顔を寄せてきている

何だこいつ?ここまで近づいてて気づかないか普通?

そのまま目を細めて

 

「〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

声にならない悲鳴がマンションに響き渡るのであった

 

 

「静粛に」

 

リビングに一花のどこか楽しそうな声

何故か裁判所の風景を幻視した

まあ実際は床に正座させられてるだけなんだが

 

「裁判長」

「はい

 原告の二乃くん」

 

「この男は一度マンションから出たと見せかけて私のお風呂上がりを待っていました

 悪質極まりない犯行に我々はこいつの今後の出入り禁止を要求します」

 

当然のように経緯を勘違いされてる…

結果として風呂上がりを見てしまったのは悪かったが弁明くらいしてもいいんだろうか

 

「たいへんけしからんですなあ」

 

相変わらず一花は楽しそうだが…

 

「中野

 俺は財布を取りに来ただけで…」

 

ぷーんとそっぽを向かれる

 

「……裁判長」

「ふむふむ」

 

言い直したらニッコリ笑顔でこっちを向く

被告の立場の俺が言えたことじゃないがいつまでこの茶番に付き合わんといかんのだ

 

「異議あり」

 

ここまで沈黙していた三玖が手を挙げる

 

「ユーキは悪人顔してるけどこれは無罪」

 

手厳しい

が、顔に関しては自覚はしてるので反論できん

っていうか庇ってくれてる?

 

「私がインターホンで通した

 録音もある

 これは不幸な事故」

 

冷静なのがいてくれて助かる

何故か後ろで五月もホッとしてるように見えたが

 

「あんた、まだそいつの味方でいる気…?」

 

二乃はそれでも納得いってないようで

 

「そんな口実信用できるわけないでしょ」

「実際に財布はテーブルに置きっぱなしだった」

 

二乃の言葉に三玖が反論して睨み合いに

なんだが妙な雰囲気になってきたな…

 

「裁判長〜

 三玖は被告への個人的感情で庇ってま〜す」

「ち、違…」

 

三玖が二乃の言葉に顔を赤くして反論する

そしてそのまま始まる口論

当事者なのに置いてけぼりを食らってるんだが

 

「い、今は私たちが争ってる場合じゃ…」

「五月は黙ってて」

「あんたはどっちの味方なのよ」

 

仲裁に入ろうとした末っ子は返り討ちに遭い長女に泣きつく羽目に

 

「うーん

 三玖はそう言うけどねー

 なんせユーキ君だからねー」

 

おっと…

一花のやつは意味ありげな笑みでそんなことを言う

これはもしかしなくても初日のアレのことを思い出してるんだろうか

 

「一花

 やっぱあんたは話がわかるわ!

 そうよ!この根暗は廊下で待ち伏せまでしてだんだから!」

 

……いい加減言われたい放題にも程があるのでそろそろこっちも発言していいだろうか

 

「確かに風呂上がりの次女とリビングで鉢合わせたよ」

「っ!ユーキ?」

「ほら見なさいよ!」

 

自白とも取れる俺の発言に三玖の顔が強ばり、二乃は鬼の首を取ったようにさらに圧を増す

 

「ただ一瞬だけですぐ廊下に引っ込んだよ」

「はあ?」

「聞こえてなかったかもだが一応謝りもした」

 

二乃が割り込んできそうだがこの際言うことは言ってしまいたいので

 

「お前、俺のこと三玖と勘違いして話しかけてきただろ?」

 

「俺もどう答えようと考えてたらお前が目の前まで来たわけ」

 

とりあえず事実をそのまま言ったが果たして

 

「……じゃあ、二乃が勝手にユーキの前に出てきたってこと?」

「はあ!?

 こいつの言うことなんか信じられるわけないでしょ!?」

 

まあ、二乃の反応は当然だよな

逆の立場なら確実に信用しない

 

「どうあれ」

 

だが勝手に落とし所は決めさせてもらおう

 

「お前に嫌な思いさせたのは事実だろ

 すまなかった

 出入り禁止ならそれで構わないよ」

 

もともと俺がここに来たのは成り行きだったし

チラッととはいえ二乃の裸を見てしまったのは事実なわけで

バスタオルは巻いてたが

こんなことを招いたとして風太郎の家庭教師に影響が出てしまうかもしれんな

 

「何勝手に話終わらそうと…」

「ダメ!」

 

勝手に話を進めた俺が気に食わなそうだった二乃だが三玖が声をあげたことに固まる

 

「もともと鍵を開けたのは私だし、ユーキはちゃんと謝った

 そこまでする必要ない」

 

昼間の勉強前といい突然こんな感じになるのは一体なんなんだ

そこまでして庇ってもらわんでも…

 

「そ、そうですよ

 下川君も反省してますし」

 

五月まで助け舟を出してくれる

しかし、二乃の方はやっぱり納得がいってないわけで

 

「アンタたちはコイツの味方をするってわけ!」

 

俺の方を指差して吠える

うん

俺としても被害者である二乃が納得しない限り終わりじゃない認識はあるんだが

 

「まあ、そうカッカしないで」

 

一花の方は普段通りというか、一歩引いた目線というか

 

「私たち昔は仲良し五姉妹だったじゃん」

 

そう何気なく発したであろう一花の言葉に二乃の表情が曇る

 

「昔はって…

 私は…」

 

他の姉妹には聞こえなさそうな声で呟いたと思ったら駆け出してリビングを出る

そのまま扉が閉まる音まで聞こえたので部屋を飛び出してしまったようだ

 

「いいの?」

「……ほっとけばいいよ」

 

三玖はいつもの無表情でそう返してくる

飛び出していった二乃のあの表情

正直こんな事態を招いた元凶としては俺が何言っても無駄だろうし

これ以上の過度な干渉はよろしくなさそうだな

 

 

「あ」

 

言ってるそばからこれである

三玖たちに騒ぎを起こした件を改めて謝り、マンションを出たところで座り込んでいる二乃に遭遇してしまった

 

その二乃は俺が出てきたのを確認しするや立ち上がりオートロックの自動ドアを潜ろうとして

無常にも閉まるドアの前でガックリと肩を落とす

 

「チッ…

 使えないわね」

 

おおかた鍵も持たずに出てきて、他の姉妹に開けてもらうのもバツが悪いってとこだろうな

 

「何見てんのよ

 あんたの顔なんてもう見たくもないわ」

「ん

 悪かったな」

 

さっき考えた通りこれ以上の干渉は良くないか

そのうちこいつも折れて…

 

「はぁ…」

 

どうも膝を抱えて座り込む姿に後ろ髪を引かれて立ち止まる

 

「な、何よ

 まだ何かあるわけ?」

 

振り返れば警戒したように身構える二乃

口には出してないが前言撤回だな

 

「もう少し素直になったら?」

「はあ?

 意味わかんないですけど」

 

敵意を隠そうともしない二乃

だがこの敵意は

 

「姉妹のこと心配してんでしょ?」

「っ!」

 

図星みたいだな

結局、こいつの俺たちへ向ける敵意は姉妹への愛情の裏返しなんだろう

異分子としてずかずか入り込まれてきたらそりゃあ不安にもなる

多分だが、こいつが一番姉妹思いなんだろう

 

「羨ましいな」

「は?」

 

思わず口をついて出た言葉はしっかりと聞こえてしまったらしい

今更誤魔化すのも難しいか…

 

「そういう相手がいるってのは正直羨ましいよ」

 

「まあ、後悔だけはしないようにしな

 あの時あんなこと言わなきゃ良かっただとか、後になってそう考えるのは結構しんどいぜ?」

 

我ながらどの口が言うんだと内心自嘲

だがまあ、認めたくはないがどうもこいつの姿がどこかの甘ったれに被ってしまうわけで

 

「あんた…それって…」

「二乃」

 

二乃が何かを言いかけた時、マンションから出てきた三玖にそれは遮られた

 

「いつまでそこにいるの

 早くおいで」

 

そう言われた二乃はそれ以上何も言わない

 

「じゃあな」

「うん

 ユーキ、また今度ね」

 

俺と三玖とのやりとりにも割り込んでくる様子はない

そこまで深刻に捉えてくれなくてもよかったんだがな

その場から離れ、少しして後ろを振り返れば、なんだかんだ並んでマンションの中へ戻っていく二乃と三玖

 

しかし、これは今後も風太郎は苦労するんだろうな

ま、俺が関わる機会はもう無いだろうし

これも経験ということで頑張ってもらうとしよう

 

無い…よな?

 

一抹の不安を覚えたが気のせいだと信じたい

 




追加はあっちの連載終わってからだと言ったな
あれはうs(ry

オリ主の正座耐性は高め


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