ヤンデレ化するオペレーターを選択肢で回避してハーレムを作る (黒縫)
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アーミヤは愛されたい

こんにちは、はじめましての方は初めまして黒縫です。
ヤンデレストーリーを書きたくなったので書きました。
まぁ、推しをヤンデレ化させたいだけでしたがとりあえず初陣はCEOさんですよね。では、どうぞ。


ロドスアイランド a.m. 9:00 執務室にて

 

「なぁ、アーミヤ?」

 

「なんですか?ドクター?」

 

首を傾げ、とぼけたようにこちらを伺う彼女はこのロドスアイランドのCEO、アーミヤだ。見た目は幼いながらにも表向きは製薬会社として活動しており、裏では鉱石病の治療の研究、感染者の保護など人のために役に立とうと一生懸命な娘だ。

 

まぁ、それはさておき、さっきからずっと疑問を抱いていたことを私は口にする。

 

「なんで、私の膝上で書類を書いているんだ…?」

 

そう、なぜか知らないが私の膝上で書類作業をしている。彼女自身は背丈が低く、私の肩あたりに頭が来るぐらいだろう。だが、一つだけ難点がある。

 

それは彼女の耳だ。

 

ロバかウサギかわからないような長くて大きい耳はちょうど私の目の前で被って書類が見づらく捗らない。

 

いや、もっともアーミヤの長髪から柑橘系の良い匂いが香る。それが私の中の欲情を駆り立て、理性で保っているが時間の問題だろう。

そんなことを露知らずアーミヤは顔だけ振り向き

 

「何を言うのかと思ったら、そんなことですか。なんでってドクターは最近目覚めたばかりか記憶を失っているじゃないですか。これは、そう。そうです、ドクターのお手伝いですよ。」ニコッ

 

笑顔で答える。

 

なぜだろうか、目が濁っていてハイライトがないように見えるのは。

 

どうする…?ハッキリどいてもらうか、そのまま作業をして難を逃れるか…。

 

 

 

   ―――――――――――――――――――――

   ― 選択肢            ―

   ― A√ ハッキリ言う    ―

   ― B√ 受け流す         ―

   ―――――――――――――――――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

A√

 

しかし、ここはハッキリ言わないとな。とてもじゃないが持たない。

 

「んん…、とにかくここでは離れてくれないか…?少しやり辛いのだが…」

 

ガタン!!

 

ッ!?何だ!?アーミヤが急に怒った!?

突然机を叩き、立ち上がる。

音にビックリした私はイスの重心を後ろに傾け、倒れてしまう。唐突の出来事で尻もちをつき仰向けの状態になってしまった。

 

そこに覆いかぶさるようにアーミヤは、乗りかかる

 

「ねぇ、ドクター…?」

 

少し威圧的な雰囲気を醸し出しながらアーミヤは話しかけてくる。

 

「どうして…そんな悲しいこと言うんですか…?昔からこんな風にどこでも一緒だったじゃないですか…。」

 

声のトーンがどんどん下がっていく。それと同時に私のSAN値まで下がっていくように感じた。

 

「い、いや、だけど年頃の女性がそんなことをしてはいけないし…、それに私は昔のことなんて覚えていないn…ッ!?」

 

アーミヤは私の口元に指をだして、威圧的な視線を

覗かせる。

 

「………、ドクター…私の言ったことを否定するんですか…?許しませんよ…?」

 

冷や汗をかく、日頃CEOとして働いている彼女は戦闘では一流の実績を上げる。実際に指示する立場にいる私は彼女のアーツ操作、武術、色々な場面で見てきたから言える。

 

マズイ、アーミヤは怒るとやけに笑みを浮かべ、こちらの瞳を覗き込む癖がある。このままでは成すすべなく、殺られる。

 

「ご、ごめん!!!」

 

「今更謝っても許しませんよ…」

 

「何でもするからゆるしてくれッ!!!」

 

「何でも…?」

 

「あぁっ!!何でもする!!」

 

私はこの時の判断を後悔した。袋のネズミの如く詰みだった。

 

アーミヤは私のベルトをカチャカチャと片手で外しもう一つの手で私の首元の後ろに回すと

 

「じゃぁ…私と子供を作ってください」

 

「駄目だ!!それだk んんんんっ…!?」

 

急に口にキスをしてきた。

 

黙らせるためにするか!?普通!!

 

口内に舌を入れて、私の下の裏を這うように辞め回し歯の筋、舌通しを絡めたりとディープキスをする。ようやく離しても

 

「ぷはっ…やっぱり、美味しいですね…。もっとしてたいですがこちらは我慢できないようですから…、しましょうか?」

 

アーミヤは私の股にあるブツを人差し指でなぞりながら笑顔で話しかけてくる。勿論、元気な状態でテントを張っていた。

 

「やめてくれ…、頼む…本当にお願いだ…」

 

「嫌です。ドクター、私実は小さい頃から貴方と結ばれたかったんです。今までずっとあなたの鈍感な仕草や行動でどんだけ焦らされたと思ってるんですか…?これ以上の待ては…許容できません。」

 

そして、ズボンのチャックをあけ下着の間から出す。反りたち彼女の顔を隠すように大きく硬くなる。

 

「わぁ♡ドクター♡予想以上です!♡」

 

嬉しそうな声で話しかけて私のブツに釘付けの状態になっている。

 

「ドクター…好きです♡愛してください…♡」

 

すると、アーミヤは大きく口を開けそれを自らの口腔に入れてしゃぶる。

 

そこからの記憶はなく、理性と共に何かをなくした…。

 

 

   【 アーミヤは妊娠した! 】テレレレー

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

B√

 

「そうか…、ありがとう。この調子で早く終わらせよう」

 

「私はゆっくりでもいいんですよ?だって、ほら、こんなにあるんですから」

 

指差した先には机に山積みにされた書類。

 

見るだけでげんなりしそうだ。

 

「アーミヤ…、本当にこれを一日でしないといけないのか…?やっぱり半分にして…」

 

「ド ク ターぁ…?だめですよ?」

 

「はい…。」

 

こうしてこの後もアーミヤを膝に乗せたまま執務作業に戻ったのであった。

 

 

 

 

 

アーミヤ視点

 

ロドスアイランド p.m.9:00  執務室にて

 

先程ドクターが執務作業を終えた。疲れ切っていて『目を少し瞑る』といったまま寝てしまった。

 

「もう…ドクター?起きないと風引きますよ?」

 

少し強く肩を揺さぶるが反応がなく起きる気配もない。

 

「ドクター…。」

 

私はドクターの顔を見る。

幼いときから居るその人は、今とは違い昔は少し雰囲気や言葉遣いが違って格好良いなぁって恋慕を募ったが記憶のない今は私の事さえ忘れていた。

あのとき私は一瞬発狂してしまいそうなほど悲しみと苦しみで胸が締め付けられ心の端がドス黒く染まっていく感覚に陥っていた。

 

だけど、ドクターは相変わらず泣いていた私の涙をすくって『泣かないでくれ、私まで悲しくなるんだ』と慰めてくれた。

全身が暖かくなるような感覚、快感が走った。

あぁ…わたしのドクターは変わらず、優しくてカッコいいと思った。

 

そして今、愛しい貴方が目の前で無防備な姿を晒し寝ている。信頼からくるおかげなのか、それとも単に考えなしか、でもどちらでもいい。さっきまでの執務作業で疲れた体がドクターの寝顔だけで癒やされ吹っ飛ぶ。

 

「ねぇ…ドクター、私ドクターのことが好きなんですよ…。愛しいくらいに。」

 

返事はない。

 

「それと気づいてくれましたか…?私今日、新しい化粧水をつけてきたんですよ?ドクターが好きだっていう花の匂いと興奮を促す匂いも一緒に…。」

 

本当に鈍感だ、この人は。

 

「この…理性堅物ドクター。」

 

私は愚痴る。だって私だけじゃないですか。

一人興奮して貴方に抱かれたかったというのに。

ソコさえ濡れてずっと顔が真っ赤になっていたはずなのに、それさえ気づかないなんて。

 

私はドクターの背中に毛布を被せ、執務室から出る。

 

あぁ…今晩も一人慰めて、シャワーをして寝なきゃ。じゃないと心臓のバクバクする脈動で眠れない。

 

アーミヤは廊下を少し早いテンポで歩く。

 

「今度は絶対、私に振り向いてくださいねドクター…?」

 

ボソッと言葉に出した。それはすぐに聞こえなくなりあたりは足音しか聞こえなくなった。

 

 

その日の夜、女性の喘ぎ声が聞こえたそうな。

 




どうだったでしょうか?コメントやお気に入り登録してくださるとありがたいです。


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エクシアは依存したい

こんばんは黒縫です。多くのお気に入り登録とuaありがとうございます。励みになります。
今回はエクシア回です。本当はモスティマ回にするつもりでしたが、私の心にオーバーロードして来たので書いちゃいました。
次はモスティマ回に、できれば…なぁ?って思ってます。
では、本編どうぞ。


ペンギン急便 p.m.6:00

 

「あ、ドクター!」

 

「ん?」

 

私はペンギン急便に訪れていた。ここのボス、皇帝さんに用事があり荷物を持って受け渡したあとのことだった。

 

後ろから私を呼び止める声が聞こえる。

この明るくて懐いているような声音をするのは彼女しかいない。

 

「何だ?エクs…ッ?!」ドンッ

 

急に後ろから押し倒されて地面に強く体を打ち付ける。

 

「痛い…」

 

「アハハハ!ドクター、体幹が弱いよ〜。」

 

笑いながら私と体をピッタリと合わせてくるこの赤髪で輪っかと翼、サンクタ族の特徴を持つ彼女はイタズラ好きで楽観的な女性。

 

そう、エクシアだ。

 

「それにしてもどうしたの?ペンギン急便に来るなんて。何か打ち合わせ?」

 

「いいや、私情だよ。って、早くどいてくれないか?その…当たってるんだが…。」

 

彼女と私は今地面に仰向けになっていて上にエクシアがいる状態だが、ピタリと体を重ね合わせているせいで彼女の控えめかつ主張するところは主張しているふくよかな胸が私の胸板にあたっていた。

感触からすればボーイッシュな髪型をしているエクシアでも女性なんだと分かるほど柔らかい。

理性をガンガン削る音が聞こえる。

 

「えぇー?もうちょいこうしていたいんだけど…?」

 

「駄目だ、ここは通路だから誰かに見られるのは困る。特にテキサスには会いたくない…。」

 

ハイライトが消える。

 

「…………、ドクター、アタシと話してるときは他の女の話をしないでほしいなぁ…?ちょっと仲良いテキサスでも口にしないで私だけを見て。」

 

「すまない、以後気をつけるよ。」

 

危ない。エクシアもテキサス同様、依存性を有していたことを忘れていた。少し前までは有効的な関係だったはずだったのにある事件が起こってから印象が変わった。

機嫌がすこぶる悪くなったに違いない。このままでは暴力や性的搾取(経験済み)をされ、ロドスに帰ったら、他オペレーター達にヤラれる。

話題を変えねば。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――

 ― 選択肢             ―    

 ―                 ―

 ―  A√ アップルパイを食べる  ― 

 ―  B√ 離れるように言う    ―  

 ―                 ―

 ―――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

A√

 

「なぁ、エクシア?たまには手作りのアップルパイが食べたいんだが、退いてくれないとエクシアの部屋に行けないだろう?」

 

そう話しかけると目にハイライトが戻り、エクシアの顔に笑みが浮かぶ。

 

「アップルパイ食べたいの?!本当?!」

 

「あぁ、最近は食べれてなかったんだが今食べたいよ。」

 

するとエクシアは体から離れ、私に手を差し伸べ起き上がらせる。しかし手はそのまま掴んだまま

 

「じゃぁ、早く行こう!」

 

走る。急に走り出すものだから体は反応するのが遅く躓きそうだった。

 

「待て待て!?そんなに急がなくても逃げないから!」

 

詰んだ()

 

 

 

 

エクシア視点

 

ドクターがアタシの部屋に来てくれた!嬉しい嬉しい嬉しい!!いつも素っ気ない態度なのに、心配性で世話焼きで…。困っていたら常に助けてくれて。

本当に好き。

 

「ドクターぁ?」

 

「なんだい?」

 

「アップルパイなんだけど付け合せのお茶は、紅茶でいーい?」

 

「少し温度は下げていてくれれば大丈夫だよ。」

 

「はーい」

 

ドクターは猫舌だからね、以前一度お茶飲むときに熱すぎてチビチビ飲んでいた事あったなぁ…。

あのときは可愛くて部屋にある隠しカメラに保存したんだっけ。今日もう一度見よっと。

 

「よし!アップルパイ出来たよー!」

 

「それと、はい!紅茶。」

 

食べやすい大きさに切り分けてっと。

 

「どうぞ、召し上がれ」

 

「ありがとう、エクシア。頂くよ。」

 

フォークをもち、パイの真ん中付近だったところを刺し口に持っていく様子を私は頬杖をしながら見ている。

男性なのに小口でちょっとずつ食べる様子は小動物に似た愛くるしさがある。

 

「美味しいよ!変わらない味にホッとする。」

 

「どーいたしまして、ありがとうドクター。」

 

笑顔になるドクターは昔より、本当に変わった。

近寄りがたい程の威圧感を辺りに纏い、なおかつ、人を殺すことに自責の念で押し殺されそうな死んだ目をしていたあの頃の面影はない。

そういった点については今でも記憶を無くして良かったと思っている。

 

だけど、ロドスにいることでまた同じ道を辿るだろう。これからどんどん人が死ぬ。アタシも含めてね。

だから、この笑顔は守りたい。どんな手段をとっても愛しい人をこれ以上苦しめやしない。

 

「そういえば、ちょっと塩味を加えたのかな?ここの部分だけ甘さと塩味のバランスが違うね。勿論美味しいからいいのだけど。」

 

「ちょっと生地の混ぜ込みが甘かったのかな。塩が固まってたんだと思う。」

 

美味しい…?アタシの愛は…。瞬間、股が熱くなり、ネチッとした液状が溢れ出る感覚がある。心もバクバクと脈打つ。

 

次も食べてね♡分泌液入りアップルパイ。

できれば、私ごと食べてほしいな…♡

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

B√

 

「すまないが、離れてくれないか…?」

 

「………。」

 

「エクシアも良い年頃の女性なんだ、こう言うのはいけない。」

 

エクシアは張り付いた状態から上半身を上にあげて顔を下に俯かせる。

 

嫌な予感がする。周りの空気も重く絡みつくような錯覚を覚える。

 

「わかったよ」

 

「えっ?」

 

エクシアは顔を上げハイライトを消したまま私を起こそうと手を差し伸べた。

予想外のことが起こり、杞憂に終えて良かったと一安心している。

 

「ねぇ、ドクター?このあとどうするの?」

 

「このあと…?」

 

「うん、暇なら少し一緒に飲みに行かないかなって。ほら、龍門にある居酒屋さん。おつまみの種類が多いところ。」

 

あぁ、以前龍門の観光していたときに見つけたところか。あそこは居心地よくてまた行こうと思ってたんだっけ。

 

「わかった。このあとはオフだしな。一緒にまた観光するか。」

 

「オッケー、じゃ少し身支度整えてくるから待っててよ。」

 

「出口付近で待っておく。」

 

そうエクシアと一時離れペンギン急便の出口に行くのであった。

 

 

 

居酒屋さん p.m.8:00

 

ガヤガヤガヤガヤ

 

「少し人が多いね」

 

「そうだな。やはり立地が良いのと味が確かだからなぁ。とりあえず何にする?」

 

「先ずはビールでいいかなー」

 

「よし、じゃぁ、私もビールとポテサラを頼もう。すみませんー。」

 

定員さんを呼ぶ。

 

「はい、ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「とりあえず、ビール2つ、ポテサラ一つに小皿2つお願いします。」

 

「わかりました、少々お待ちください。」

 

 

 

〜2時間後〜

 

 

エクシア視点

 

ドクターはお酒に弱い。日頃はここまで酔払わず自制しているがドクターが席を外している隙に薬を入れた。遅効性の睡眠薬だ。微量だから2、3時間はかかる見通しだったので丁度いい。

 

「すみませんー、お会計お願いしまーす。」

 

さてこのあとはお楽しみだ。

 

 

 

 

 

ペンギン急便 p.m.11:00 エクシアの部屋にて

 

ドクターを抱え私の部屋に連れてくる。夜だったこともあり、すれ違いに知り合いに合わずに済んだことが幸いだった。

 

眠ってるドクターはやはり可愛らしい。

このあとすることを思うと頬が赤くなり、体は熱くなる。

 

私のベッドにドクターを仰向けに寝かせる。

少し乱暴気味においたが起きる気配はない。

ドクターの服をボタンから外し脱ぎ始める。

 

「ねぇ…ドクター?私知ってるんだよ?」

 

聞こえるはずのないドクターに話しかける。

なぜだろう、これからドクターをいただくせいか心の声が出てくる。

 

「ドクターがアタシに気がないことぐらい。」

 

脱ぎ終わり、パンツだけの状態にした。この中に愛しい人のアレが入っていると思うと心がキュンキュンする。だけどそれより――――

 

「だけど…、、、、…だけどさ、私を一番に見れなくたっていい…、からさッ!」

 

少し声が荒げる。

 

「私のことを愛してよ…。愛人でもなんでもいいからぁ…。」

 

気づかないうち涙が溢れ出てることに気付く。

 

「アハハ…やっぱり駄目だなぁ…。本音は心の奥にしまっていた筈なのに、言葉にするだけで辛くなるよ…」

 

アタシは自身が身に着けいる衣服を脱ぎ始める。

この際、既成事実を作ろう。

望まれない愛だっていい。独りよがりの愛だって、最低だって理解している。

けど、それより、貴方の証が欲しいんだよ。

知ってる…?あなたから貰った優しさは私にとって毒だったんだよ…?

 

「ドクター…好き。大好き。愛してる…。」

 

貴方は何も知らなくてもいいよ。

我が盟主(神様)も今日の事は目を瞑ってください。

ただ一度だけ、アタシにこの人の愛を授けください。

 

アタシは動かないドクターの口にキスをする。

少しアルコール臭くて、そしてしょっぱい味がした。

 

 

 

 

 

「ごめんね、ドクター…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

11ヶ月後、エクシアは出産した。そしてその産婦人科の入院棟に私はお祝いに来ている。

父親は誰かは知らないが、彼女が幸せならいいか。

 

 

「おめでとう、エクシア。」

 

 

「ありがとう、ドクター。」

 

 

 

 

そう言うと彼女は子供を持ちながら優しく微笑んだ。

 

 

 




どうでしたでしょうか。切ないですけど、一つだけわかることはエクシアは良い子ですよね。


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モスティマは独り占めしたい A√のみ

こんばんは、黒縫いです。感想とお気に入り登録ありがとうございます。今回はモスティマ回ですが、推しなのもあり、長すぎて2編に分けてお届けします。A√しかありません。




■■■■■ a.m.3:00 ■■■■にて

 

「〜♪」

 

廃墟に彼女の鼻歌が木霊する。

月光が彼女の蒼き髪を照らし反射する。

黒い翼と黒い輪は彼女をどこかミステリアスな雰囲気を醸し出し、魅惑的な存在へと映し出す。

 

「ドクターぁ…。」

 

手元の写真を見てつぶやく。二人で旅をしたときの写真。両手で目元近くにピースしているのが私で、その隣で無理やりピースしてぎこちない笑顔の彼は愛しくて狂おしい人だ。

 

「愛してる、今から会いに行くよ。」

 

写真の彼にキスをする。

瞬間、彼女はそこからはじめからいなかったように消えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロドスアイランド a.m.5:00 ドクターの寝室にて

 

「んんん…。」

 

胸元が苦しい。押さつけられている感覚と…暑い…?体が重くダルい。

変な違和感を感じ、目を開く。

 

「あ、ドクター起きたのかい?ご機嫌いかがかな。」

 

鼻同士が当たる距離に顔がある。

 

「ウワァッ!?!!」

 

驚きの声を出してしまう。だけど、すぐに気づく。

こんなイタズラと声の雰囲気、蒼く吸い込まれそうな綺麗な瞳。

 

「って、モスティマか」

 

「正解、どうだい?驚いた?」

 

「あぁ、寿命が縮んだかと思ったよ…。」

 

片腕を頭の額まで持っていき、ハァ…とため息をつく。

 

「で、どうした?…なんとなく予想はついてるが。」

 

モスティマと会うときは2パターンがある。

 

1つは、この夜更けの朝に彼女は現れる。

理由は単純だ。他の女に邪魔されず、ゆっくり話すことができ、堂々とイチャつく事ができるそうからだ。

 

2つ目は、気づくと彼女が目の前に瞬間移動したかのように現れる。本当に、0.1秒の間も感じさせず、気づくと隣に座ってたり、ハグしてきていたりと反応が遅れる。

 

 

「んーん、用事はないよ。ちょっと寂しくなってね。」

 

なに?いま…モスティマが寂しいと言ったのか…?

 

「どうした…?何かあったのか?」

 

「何もないよ。本当に寂しいだけ。」

 

「…熱あるんじゃないか?」

 

「もぉ…からかわないでくれるかな。私でも寂しさは感じるものだよ。」

 

本当だろうか。私とモスティマは長い付き合いで、旅をたまにするが懐くような仕草はしないし、むしろからかってくるぐらいだ。嘘をついてるようにきこえる。

 

ここは一つ芝居を打つべきか。

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――

 ― 選択肢               ―

 ―                   ―    

 ―  A√ 誘惑してからかう       ―

 ―  B√ やっぱりやめて話す      ―

 ――――――――――――――――――――――――――

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

A√

 

よし、日頃からかってくる報いだ。

軽くからかってやろう。

 

「そうか、じゃあ横に来るか?」

 

自分の布団の中を手で叩いて催促する。 

モスティマ自身にはこんな事を今までに一度もしたことない。だからだろうか、モスティマはキョトンとしたような顔をしてこちらを見ている。

 

ふっ…あのモスティマが感情を表している表情をしている。それだけで笑みがこぼれそうになるが、まだからかうことができるからな、我慢した。

 

 

「……、ドクター…?それって添い寝してもいいってことかな…?」

 

「あぁ、いいよ、今日だけ特別だ。ほら、気が変わらないうちに入るなら入れ。」

 

モスティマは考えている。

 

「やっぱりいいのか…?なら―――――――「いいや、お言葉に甘えて入らせてもらうよ。」えっ…?」

 

「どうしたんだい?そんな驚いた顔して?」

 

モスティマとはそこまで踏み込んだような話は一切ない。女性と添い寝するなんて一度もない上に、あのモスティマだ。誰に対しても平等に接し、広く浅い関係を保つことをモットーとしていた彼女はどこに行った…?

 

「けど、少し待っていてほしいな。私、寝るときは衣服は脱いで下着だけの状態がほとんどなんだ。

裸族ってまではいかないけど。」

 

「は?」

 

今なんて言った?

 

上に乗っていたモスティマはベッドから降りて部屋の隅で着ていた衣服を脱ぎ始める。

黒のジャケットパーカーをゆっくり近くのハンガーラックにかけ、薄着になった上半身のTシャツも脱ぎ、日頃意識して見ないせいか、彼女の女性らしい特徴をここで目の当たりにした。黒いブラジャーは彼女の黒の翼と輪を強調し、そして何より…デカイ…。女性オペレーターの中では、それなりにデカくハリのある胸は美乳と言って過言じゃないだろう。胸元の横側に一つだけ小さいホクロがあり、エロさも際立たせている。

カチャカチャと腰のベルトを外し、スボンを脱ぐ。

やはりブラと色を揃えているだけあって黒のパンティー。よく見ると、花柄が刺繍してある。

彼女の小ぶりのお尻は可愛らしく、のびている太ももは色白で、ただ細いだけではなく、少し肉付きがある。クビレのあるおヘソは、位置的に高いおかげか足が長く見え、一言でまとめると、エロくてやばいだった。

 

「あまり、見つめないでほしいな。」

 

「す、すまない!」

 

すぐに視線をそらす。最近、女性からのスキンシップが多いからといって慣れ始めてきたと思っていたら、やはり、駄目だ。モスティマのような美人でスタイルのいい女性の体を見るだけで興奮しないほうがおかしい。

 

 

 

モスティマ視点

 

ドクターが私の下着姿に顔を赤くしている。

私も異性に対してここまですることはなかったため恥ずかしさを感じていたわけだが…、それを超えるように、嬉しさと期待が心を高ぶらせた。

 

「じゃぁ…失礼するよ…?」

 

「あ、あぁ…」

 

ドクターの布団に入る。

ドクターの温もりと匂いが体全体を包み込んでいるようで幸せな気持ちになる。同時に興奮してきて胸がドクドクと脈打ち、股が分泌液で濡れる感覚があった。

 

 

「………。」

 

「…………。」

 

 

お互い沈黙してしまい気まずい雰囲気が流れる。

 

「な、なぁ…。モスティマ…?」

 

沈黙を破ったのはドクターだった。

 

「なんだい?」

 

何を話すんだろう…。

 

「………、実はさ。」

 

「うん。」

 

「前もあったんだが、モスティマが来た理由はまた旅に誘ってくるんじゃないかって思ってたんだ。」

 

ッ……。

 

「ただ寂しいだけで私のところに来ることなんて今までに一度もなかったし、」

 

…………。

 

「モスティマとはそんな関係になる程、親しくなれたのかと思ったら分からないんだ。疑いの心が勝ってしまう。」

 

「だから、教えてくれ。モスティマ。今日は何の用で来たんだ…?」

 

 

あぁ…、分かってしまうんだ。これまで誰にも私の顔を見てそこまで気付く人なんていなかったのに。

さすが、ドクター。だから好きなんだよ。私のことを見てくれるから。

 

「本当はさ…、ドクターの言ったとおりシラクーザにある逸話の伝承を見に旅に行こうって誘うつもりだったんだよ。」

 

「なら、なんでわざわざ寂しいなんて…」

 

私はいてもたっていられずドクターの胸元に顔を埋め、足を絡みつかせる。離れないように。離さないように。

 

「だって…だってッ!君はこの前エクシアやアーミヤから誘惑されて満更じゃない顔をして…、デートだって行ってたじゃないか!!」

 

「えっ…。」

 

心の声が溢れ出る。この際言おう。止めどない愛と共に。

 

「知ってるかい?!私がどれだけその様子を苦しんでみていたか!」

 

声が荒げる。

 

「まず、何でそのことを知ってるんだ…?」

 

「…、私の能力さ…時を止めて移動することなんて造作もないよ。」

 

「もしかして…そのときに覗いていたのか…?」

 

「………、言わなきゃわからないかな…?」

 

駄目。今、ドクターの顔なんて見れない。

上を見れば、この泣き顔を見られてしまう。

幻滅される。

 

「ねぇ…私、君のことが好きなんだよドクターぁ…。だから…だから…」

 

ドクターが息を呑む動きがくっついているせいかわかった。

 

「他の女になびかないでよ…。私以外にそんな優しい顔を向けないでよ…。」

 

あまりに子供のような身勝手なお願いをしているのは自覚している。けど、もう抑えれない。

いけないのはドクターなんだよ…?誰彼構わず優しくして。

 

「……、ごめん…。」

 

「期待には答えられない…」

 

ドクターが断った…。涙がもっと溢れ出てくる。

思わず手の力が強くなり、ドクターの寝間着を掴んでしまう。

 

嫌だ…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。私の想いを否定しないで。

君のことがこんなに、胸が痛むほど好きなのに、愛しているのに…。なんで…なんで…?

 

 

許さないよ。

 

 

君は私のモノ、誰にも奪わせないし触らせない。

君のその笑顔も真剣な表情も優しさだってたまに見せる幼げな仕草。その全ては私のモノなんだッ!

 

ドンッ!! 私はドクターの上に馬乗りする形で押し倒した。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

ドクター視点

 

 

モスティマが私を馬乗りしている。

普段見るあのからかうような大人びた顔ではなく、

涙でクシャクシャになり眉をひそめて強がっている様子に見えた。

 

「駄目だよ、許さない。君は誰にもあげない、私のモノなんだよ。」

 

モスティマが必死にそう言葉にする。

 

「あぁ…そうか、ドクター良い事を思いついたよ。」

 

そして急に笑顔になりいつもの余裕そうな顔を浮かべる。目元は赤くなっていた。

 

「君を連れてどこかに行けばいいんだよ、誰もいない秘境でもいいね。」

 

「そんなこと許されるわけ―――――」

 

「君や他の人が許すか許さないかじゃないんだよ、私の言うことだけ聞けばいいの」

 

モスティマは私の体を強く押さえつけ、耳元を口に含みしゃぶる。

途端、気持ちよさがこみ上げてくる。そしてすぐに耳の穴に舌をいれ愛おしそうに舐める彼女の恍惚とした顔が見えた。

 

「でも、行く前に君の事をいただくよ。」

 

糸引く舌の唾液が妖艶さを感じさせる。

 

「我慢してた分、私が満足するまで出してもらうからね?」

 

そう言うと私のブツを触りだしチャックをゆっくり引っ張り取り出す。

 

口に含んで舐める。舌の感触はザラザラとしており擦れる感覚のせいで出てきそうになるが、まだ駄目だよと根本を強く締め付けて出させようとしない。

 

「ふふっ」

 

笑みをこぼしながら舌で先端をチロチロとなめて出るよう促される。

 

「あぁ…っ…駄目だ、出るッ!!」

 

抵抗することなく、その大量の白い液体はモスティマの顔にかかった。それをモスティマは指で取り口に入れる。味を確かめるように目を閉じて口を動かしている姿を私は何もせず淡々と見ていた。

そして…飲み込んだと言わんばかりに彼女は口を開いて空っぽだと主張する。ケプッと可愛らしい音を出して。

 

その様子を見ていた私は、胸からこみ上げてくる興奮でアレが反り勃ってしまった。

 

元気なソレをモスティマは優しく掴み、自身の股下に持っていき、触れ合う。

 

 

「ドクター、いいかい…?君は私のモノ、私は君のモノ。これからは私のために生きてね?愛してるよ」

 

 

 

そう言い終えると同時に彼女は腰を下ろした。

 

 

 




だめだ、こんな文章だけじゃモスティマの良さとエロさは、伝えられない。あとコメント待ってます。できればモスティマの良さを一言ずつほしい。


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モスティマは独り占めしたい B√のみ

すぐに下ネタに走る。
コメントやお気に入り登録待ってます。


―――――――――――――――――――――――――――――

B√

 

やっぱりやめよう。寂しいのかは分からないが話し相手になるのは決まっている。それで寂しさが紛れるならそれはそれでいい。

 

「仕方ないな、さっき驚いたせいで目が覚めたし話し相手にでもなるよ。」

 

「ありがとう、ドクター。」

 

笑顔で答える彼女の目は光が灯っていなかった。

 

「そう言っても話題がないな。そうだ、いつぶりか忘れたけど、たまにはモスティマの旅の話を聞かせてほしい。好きなんだ、ワクワクする冒険譚は。」

 

もうあの旅から時間が経った。

旅に行って、野宿するときはよく焚き火前でインスタントコーヒーを飲みながらモスティマが今まで行ってきた地域伝承の逸話や冒険途中の珍しい話を寝る前に聞いていた。

 

思い出すと本当に懐かしい。

あの時の彼女は目をつぶり、子供を寝かしつける前のお話のように優しい声音で話す姿は、母親のような理想像だった。

 

「あぁ…、懐かしいね。久しぶりに誰かに話すよ。

どんな話がいいかな?『心臓がない感染者』に『時間の進みが逆方向の洞穴』『嵐が止んだときに聞こえる龍の声』や『死んだ者を連れて行く方舟の港』色々あるよ。」

 

「じゃぁ…『嵐が止んだときに聞こえる龍の声』をお願いするよ。少し待っててくれ、インスタントだがコーヒーを注いでこよう。…、本当にあの頃に戻った気分だ。」

 

「アハハ、そうだね。時間が許す限り話すよ。きっと君は気にいるよ。」

 

そして穏やかな顔をして目をつぶる彼女を見て思った。あぁ、私は彼女とこういった関係が気に入っているんだと。そして私もよく聞くために聴覚の神経を鋭くさせるため彼女同様目を瞑る。

 

彼女の声は私を睡魔に誘うほど優しかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

30分後 モスティマ視点

 

「―――――――は、彼にこう言った。あの龍の声を聞くと幸せを届けに来ると。」

 

「って…寝てるじゃないか。もう…ドクター?」

 

ドクターは椅子にもたれかかった状態から下を向くようにスゥ…スゥ…と寝息をかきながら寝ていた。

目が冷めたとか言ってたのに、少し残念だ。

 

ドクターの顔を見つめる。とても子供らしい。

普段見る硬い表情ではなく口を開けて寝ている。

 

「……、ドクター…?本当は寂しいとか言ってきたけど、実は少しだけ違うんだよ…」

 

分かってる上で聞いていない彼に話しかける。

 

「ねぇ?私の事どう思ってる?今の関係で満足してないのは私だけなのかな?」

 

そして願いを口にする。

 

「君を私のモノにしたい。」

 

勿論彼は起きないし聞かない。だけど、反応はある。はは…今の私にはこれで充分。

 

さて、辛気臭い雰囲気になるのもこれまででいいや。ドクターは起きないしどうしようかな。

 

「あぁー…そういえば忘れていたよ。」

 

回収しなきゃ見れないんだった。

そう思い出すと、ドクターのコンセントプラグを分解する。

 

「あった。撮れてるかな?」

 

盗聴器。ドクターの全てを知りたくていつも部屋に来たときに新しいやつと古いやつをこっそりと交換している。

 

『今日は―――――で』『くっ…あぁ…イクっ…』

 

しっかり撮れてるみたいだね…。ドクターの喘ぎを聴くと脳内麻薬が出るように頭がハイになる。

自然と手がキュンっと切ない部分にむかってしまう。

ドクターの自慰音声を聴き、目の前にいる寝ているドクターにバレないように自慰行為をするのが背徳感と高揚感でイケないことをしているようで興奮した。

 

「はぁッ…♡」

 

吐息が出る。ヒダ部分をなぞるように指で触る。

液体がローションのように行為を加速させる。

中指と薬指で中を刺激した。少し上向きにある箇所を触るともっと粘着質の液体が出てくる。

気持ちいい。頭がパチパチするような快楽が頭を蝕む。

 

「ドクターぁ♡…すき…♡んんっ…♡」

 

妄想と目の前の無防備なドクターの顔が頭の中を占めた。

皮を被った栗を剥き、硬くなったそれを摘む。

急激に今までの快楽の比にならない程、気持ちよさで頭がハジケた。

 

「あぁッ…!イ、イクッぅ♡ァァっ…♡」

 

途端、快楽物質が頭の中で溢れ出ると同時に下半身から勢いよく液体が飛び散る。

それがドクターのズボンにかかり、シミになる。

いつもは冷静になる頭だが、ドクターを汚してしまったという事実が興奮を促す。

 

「ふぅ…はぁ…」

 

息を整える。

 

「ドクター…?んっ…」

 

ドクター唇にキスをする。本当は舌を入れて愛し合いたいがそれだと気づかれるのでソフトキスだ。

 

「本当は意識がある状態ではしたいけどね。」

 

日が昇り、陽光がカーテンの隙間から洩れ出す。

 

「ちょっと汗ばんだし、シャワー借りるよ。」

 

そうドクターに向けて言い、私は、シャワールームに向かった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ドクター視点 

 

「んんぅ…」

 

周りが明るい、寝ぼけ目で明るい方向を見るとモスティマがカーテンを開けている。

 

「ドクター、おはよう。」

 

気づいたモスティマこちらを見ていつもの余裕そうな笑顔で話しかけてくる。

 

「おはよ…、う…モスティマ。」

 

起きるのは弱いので少し呂律が回っているか心配だが返答する。

アレ…?イスに座って寝ていたのか…?

腰が痛い。

 

「あっ…!」

 

モスティマの話を聞いているときに寝てしまったんだ。

 

「モスティマ、すまない、自分から話を振っといて寝てしまうとは。」

 

「もう…、ドクター本当は怒るべきなんだろうけど反省しているようだし許してあげるよ。」

 

「助かる…。」

 

するとモスティマがイタズラを思いついたかのようにからかうような顔をして、

 

「だけど、その代わりデートに行こうか」

 

「えっ…??」

 

なんでそうなるんだ?

 

「嫌かい?」

 

「嫌ではないけど…。」

 

「じゃあ決まりだ。今日休みだよね?どこに行こうか。」

 

淡々と話だけが進んでいく。

そのいつもどおりに風景に少し笑みが溢れる。

 

そういえば、黒だから見分け付きづらいがスボンにシミがついていた。なんだろうか?もしかして涎でも垂らしてしまったのだろうか。

 

「モスティマ、私は涎垂らして寝ていたか?シミがついてるんだが。」

 

「んー?分からないよ。私は寝ていた、からね」

 

そうモスティマが言う。

 

その時のモスティマは少し頬が赤くなったような、ならなかったような

 

 

 

 

 

その後、モスティマと一緒にデートを楽しんだ。

 




どうでしたでしょうか。次からは投票でキャラ選ぶようにしようかなと思います。5人程度だそうかな。アンケート欄に投票できるのでよろしくお願いします。投票期間は投稿日から3日、そこから執筆なので、まぁ、少しは遅くなりますが、ちょうどよいでしょう。ではまた。


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スズランは甘やかしたい(選択肢後のストーリ無し)

こんばんは黒縫です。投票結果スズランに決まりました。いやぁ…プラマニクスとバチバチに争ってて驚きました。
本題なのですが、今回のストーリー内では選択肢決定後のストーリーは未入力です。
何故と言いますと、ロリコンなので、案外長くなりそうなのです。スズランは正義だしね、長くなるのも仕方ない。(実際、選択肢登場までに結構尺稼いだ)楽しみにしてくださってる方には申し訳ありませんが、少しお時間ください。投稿から2日以内には再投稿させていただきます。では、どうぞ。


ロドスアイランド a.m.9:00 執務室にて

 

ドクター視点

 

「ドクターさん?」

 

「何…、かな…」

 

目の前にいた女の子は私を呼ぶ。何だろうか…今はそれどころではないのに…。

 

「どうしてそんなにやつれているのですか…?疲れたのですか…?」

 

「あぁ…大丈夫だよ…、心配しないで」

 

「そんなわけ無いですよ!休んでください!メッですよ!」

 

「あ…はは…」ドサッ

 

「ドクターさんッ!?」

 

景色が黒くなり目の前の光景が朧気になる。

最後に見えたのは忙しなく動く金の7つの尾っぽだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロドスアイランド a.m.11:30 医務室にて

 

「んっ…」

 

「ドクターさん…起きましたか?」

 

意識が目覚め、子供の声が聞こえた。そちらに顔を向ける。

そこにいたのはスズラン、本名はリサ。齢■■にして入社しその類稀なアーツ、卓越した操作を得意とし、その歳で誰にでも礼儀正しく仲良くなれる素質がある。

 

「あぁ…スズランか、助けを呼んでくれたのか…?ありがとうね。」

 

そう私は感謝を告げスズランの頭を撫でる。

いつも感謝するときにはコレをしている。

一度、その場の雰囲気で撫でてしまい、怒るのかと思いきや、むしろ喜んでお願いしてきた。

なので、私とスズランの感謝合図は『頭を撫でる。』ことなのだ。

 

彼女は今、撫でられて気持ちよさそうに目を細め口角が上がっている。撫でるとき彼女の狐耳はペタンと自分で下げ、たまに耳の付け根を触ると吐息を漏らしながら蕩けた顔を赤くする。可愛い…。

 

「ん…んんっ…どう…いたしましてぇ…」

 

撫ですぎると今度は離れなくなるので頃合いとして止める。瞬間、スズランは「あっ…」と満足してないのか残念そうな顔を一瞬浮かべ、すぐにいつもの顔に戻る。

 

「ど、ドクターさんは、どうして倒れるまで執務作業をしていたんですか…?」

 

急いで話題を変えるために彼女は話しかけてくる。

 

「いや…その…」

 

これを言ったら、ホントに駄目な大人代表みたいな印象になるな。夏休み明け直前に宿題をする子供みたいな理由と同等なんだし、恥ずかしいな。 

 

「…?」

 

「実は最近、休み過ぎたせいで書類が溜まってしまってね…。アーミヤから大目玉食らってしまったんだ。」

 

「アーミヤお姉さんが怒るほど休んじゃったんですね…、なんでそんなに休んだんですか?ドクターさんの仕事は早い方ですよね?」

 

「いやぁ…実は、モスティマと4日だけど旅をしたんだ。ケルシーには言ってたんだが、アーミヤには言ってなくて、帰ってきたときに怒られてしまってね。それで現状がコレなんだよ…。」

 

「……。」

 

雰囲気が一変、重くなる。淀むような空気、周囲が狐火で熱せられたように熱く苦しくなる。

よく見るとスズランは、下に俯き、よく顔が見えない。しかし、これだけはわかる。

スズランの機嫌がすこぶる悪くなった。

まるで、事情を知ったときのアーミヤ如く。

 

「……、それはいけませんよ?"他の女性"と遊びに行った挙げ句、仕事を放置して倒れるまで執務作業するのは…。」

 

スズランの目のハイライトが消えていることに気づく。あと何で言い方に少し違和感を感じた。

 

あぁ…いつものパターンなのね。もう私、流石に気づくよ…?これ以上墓穴を掘って最後に性的に食われる未来しか見えないもん。まぁ、スズランは子供だし性的なことされなくても嫌な予感だけはするんだよな。

さぁて…どうしようか…?

 

そう考えていたときスズランが急に私の体を抱きしめる。頭がちょうど私のおヘソ上に来ているだろうか。正直大人の女性に抱きつかれるなら動揺したのだが、中学一年生程度の体躯では興奮しないし興奮したでそれはもうロリコンだ。傍からみたら兄妹が抱きついてるようにしか見えない。

 

「………わ………も…」

 

「き……は…やす…く…………。」

 

「何…?」

 

彼女がボソボソと話すが聞き取れない。

もう一度聞き直すと彼女はこちらの目を見て、

 

「ドクターさんは今日一日休んで私に甘えてください!!」

 

潤んだ瞳を輝かせながら大きい声で言ってきた。

 

「は?」

 

素っ頓狂な声が出てしまった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

スズラン視点

 

ドクターさんはまるで、さも当たり前のように他の女性と浮気していたことを話す。

その顔は私の心の底で沸々と怒りのボルテージを上げるには十分過ぎるほど憎たらしかった。

 

だって…なんで私と会話しているのに他の女性の名前を出すんですか?どうしてそんなに嬉々として話すんですか?モスティマさんとの思い出がそんなに楽しかったんですか?ねぇ…、ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇネェ…?!!

ズルい、悔しい、憎い。彼女が羨ましい…。

 

頭の中で色んな感情が喧嘩している。

結果、誰にも取られたくない一心でドクターさんの体に抱きついた。彼の匂いは少し男性職員とは違い、柔軟剤と彼特有の甘い匂いがして頭の中を落ち着かせるような脳内麻薬がでている錯覚に陥る。

 

 

「ドクターさんは私のモノ…ドクターさんは私のモノ…。」

 

心を落ち着かせるために小さな声でつぶやく。そして深呼吸。

 

 

ドクターさんは私がいないと駄目なんですから…。

 

 

「ドクターさんは今日一日休んで私に甘えてください…」ボソッ

 

「何?」

 

聞き返すドクターさんに強くそして大きな声で言う。

 

「ドクターさんは今日一日休んで私に甘えてください!!」

 

「は?」

 

そうして、私とドクターさんの束の間の休日は始まった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロドスアイランド a.m.12:00 食堂にて

 

私とドクターさんは食堂に訪れていた。

起きた時間が昼時に近いこともあり、話しながら食堂に行って早めの昼食を取ろうかとドクターさんが提案してくれた。

本当は二人きりで食事をしたかったのですが、手料理を作れるほどお母さんに教えてもらったことはなく、やむなく食堂に行ってる途中です。

 

「ドクターさんは今日は何をいただくのですか?」

 

「そうだなぁ…、オムライスやハンバーガー、和食も捨てがたいなぁ。」

 

「ふふっ、そんなに食べられませんよ?ドクターさん。」

 

ドクターさんの好きな食べ物はオムライスだ。だけど、普段洋食ばかりではなく健康を気にして和食を取るようにしているらしい。子供らしいとこがあるのかよく苦いものは残す。

関心はしないけど、可愛らしくて許してしまう。

 

「んー…ん?」

 

ドクターさんは気づいたように声を出して指を指す。その先にあったのは食堂入り口前に置かれてる

オススメ看板表だった。

 

  ――――――――――――――――――――――

  ―  グム食堂with 海鮮組      ―

  ―                 ―

  ―  Choices A or B ?         ―

  ―                   ―     

  ―  A.  カップル限定メニュー     ―

  ―      (デザート付)       ―

  ―                    ―

  ―  B, ファミリー向けメニュー    ―

  ―      (デザート付)       ―

  ―                    ―

  ――――――――――――――――――――――

 

そこには明らかに限定的すぎるメニュー(選択肢)がある。

 

「何か気になるな。どんなメニューなんだ…?」

 

「ドクターさん…、気になるようでしたら頼みますか…?私付き合いますよ?」

 

「いいのか…?」

 

「はい。」

 

ですが、分かりますよね?ドクターさん。心が通じ合ってると分かってますよ。

 

 

少しお待ちください




あと、いつもよりはじめから重いスズランちゃんです。
流石にロリに性的描写させるのはコンプライアンス的にやばいので孕んだりヤッたりは無しです。
それでは、前書きにあった通りお待ちください。



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スズランは甘やかしたい(A√のみ)

ちょい時間がないのでB√待って。あと、アンケート投票結果は圧倒的な票を得たマドロックに決まりました。アンケート調査は変えたのでそちらも投票してくださると嬉しいです。


――――――――――――――――――――――――――――

 

A√ ドクター視点

 

「カップル限定メニューにしようかな。」

 

そう言うと近くにいるスズランは、嬉しそうな顔で

 

「じゃあ、早速行きましょう!」

 

と言い、私の袖口を掴み急がすように引っ張る。

うわぁ…子供ができたらこんな気持ちになるのかなぁ…。

 

思い耽りながらドアに入ると

 

「いらっしゃいませ〜!」

 

「らっしゃーせー」

 

エプロン姿のグムと…アンブリエルが居た。

えっ?アンブリエルって料理できるっけ?

 

「おっ、ドクターじゃん。どしたの?早めにお昼いただく感じ?」

 

「そうだよ、ってアンブリエルは料理できるのか?」

 

アンブリエルはドヤ顔をして少し膨らみのある胸を張り口角をあげて言う。

 

「えへへ、甘く見ちゃ困るよドクター。これでも人並みには出来るよ。」

 

ちょっとウザさはあるが普通にそこらへんの若者のような口調、その雰囲気反してミスはなく淡々とした性格は個人的に信頼できる存在だった。

 

「それで、なんにすんのー?」

 

「あぁ、実はカップル限定メニューってやつが気になってな、それ頂こうかな?」

 

瞬間、周りの音が一切消える。ガヤガヤとしていた騒々しい雰囲気が一変、重たい空気になってることに気づく。

 

「へ、へぇ〜…ちなみにこれ二人じゃないと頼めないやつなんだけど…わかってる?」

 

アンブリエルの顔が引きつっている。近くのグムも似たように目のハイライトをなくしながら。

 

「それって誰と一緒に食べるつもりなの…?」

 

グムがいつもの笑顔で話しかけてくるが笑ってるわけじゃないと理解できる。

私は少し萎縮しながら、答えた。

 

「隣にいるスズランとだよ。少し事情があって彼女と食堂に来たらそこの看板が気になってね、付き合ってもらってるんだ。」

 

「えへへ…」

 

隣のスズランは照れくさそうに笑ってる。

 

「ふぅーん…ま、いいよ。カップルメニューね。オーケー、グムさん、取り掛かろうか。特別なやつを作らないと…ね?」

 

「うん…」

 

また、音が騒々しく放たれる。キッチンに向かうグム、しかしアンブリエルは私の方に近づき耳元に顔を持ってきてボソッと言われた。

 

「今回はこの娘に譲るけど、アタシのことを蔑ろにしちゃ駄目だかんね…?」

 

香水にしてはくどくなく、柑橘系の良い匂いが鼻孔をくすぐり先程の言葉を行った後アンブリエルはテーブル席にいる客達(オペレーター)に気づかれないように頬にチュッとキスをする。

 

「しゃぁーやる気出てきたし、もうちょい頑張りますかー」

 

そして何事もなかったかのように踵を返しスタスタと歩く。彼女は途中止まって後ろを振り向き、ニッっと口角をあげ、人差し指をシィーと先程の行為を言わないでね、とジェスチャーする彼女の頬は赤く染まっていた。

 

彼女なりに攻めた行為だったらしく、そのことを恥ずかしがっているようで、つられて私も頬が赤くなったように感じた。

 

一方、その場の雰囲気に舌打ちをした人物はアンブリエルを睨みつけていた。

 

 

 

 

 

 

2時間後 ドクターの部屋にて

 

「さっきの料理美味しかったね。特にチーズリゾット入りカレードリアはハート型の耐熱カップに入ってて、ほっぺたが落ちそうだったよ」

 

「私は最後のラズベリーのデザートが好きでした。」

 

あのあと食事して、私が書斎兼私室として使ってるところでスズランと食後のティータイムとして話してあっていた。

 

「あ、お茶切れちゃいましたね。私が新しく作りますよ?」

 

スズランは急須の中を確認すると、提案してくる。

 

「いいのか?お言葉に甘えてお願いするよ。」

 

そういい、給湯室に行く彼女は足取りが少し重いように感じた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

スズラン視点

 

「ようやく、このときを待ってましたよドクターさん…。」

 

目の前にソファで寝ているドクターさんがいる。

先程飲んでいたお茶に睡眠薬を混ぜて飲ませたことは気づかれなくて良かった。

 

私は彼の衣服を脱ぎ始める。少し筋肉質の体は見るだけで体の奥からゾワゾワする興奮が襲う。

上半身を脱がし終え、私は彼の心臓の位置に耳を持っていき心音を聞いた。

トクントクンと静かだが力強く鼓動し続ける心臓は、物心つく以前から聞いていたパパの鼓動音と似ていて落ち着く。

 

「あぁ…。」

 

嬉しい。愛しているとまで言って過言ではないドクターさんを手に入れた。

私は嬉しさのあまり彼の首筋に軽く噛み付く。

所詮、子供が大人の真似事をするように私は世間で言うキスマークという所有物の証をその身につけたかった。

 

「あむ…ちゅ…、ぅぁ…むぅ…」

 

筋肉質の体のせいか少し噛んだぐらいでは傷跡にはならず、赤くなって蚊に刺された後みたいになっていた。

 

「ドクタぁーさん…」

 

身体が火照る。私はドクターさんの乳頭を口に含み舌の先端で遊ぶ。汗のせいか少ししょっぱい。

チロチロと舐めるとドクターさんの顔が少し動き、感じていることがわかった。

 

「えへへ…」

 

笑顔が綻ぶ。

 

「あぁ…忘れてました。施錠してない。」

 

すぐに違和感の原因がわかった。彼に手錠をしてないことに気づいた。監禁するために彼を施錠する。

彼を眠らせた計画の全容は監禁して私がいないとイケないまで依存させること。

 

ガチャと、椅子と彼の手に手錠をかけて動かなくした。これで起きても何もできないし抵抗もできないよね。

 

「…………、ドクターさん…。」

 

先程の食事のことを思い出す。

 

「許しませんよ…?アンブリエルさんと、私が居るのに…あんなにヘラヘラした顔を見せて…」

 

ドクターさんの体を覆い隠すように、彼の体の後ろに手を回し、彼の耳元で聞いてるはずのないと分かっていながら話しかける。

 

「私は、悲しかったんですよ…?」

 

「ですが、もう誰にも邪魔されません。ドクターさんの全ては私のモノ、誰にも譲りません。なので…今、貴方の愛を私にください…。」

 

心から願う。

 

戦場に行けば先程まで話していた年上の職員さんは蹂躙され、私と変わらない年の子は瓦礫の下敷きで骸になっている。志願してこのロドスに来たが、あのときの私は無垢だったと感じるほど、事態の重大さを軽く見ていた。

 

何が誰かを助けたいのだろう。何を思って同じ境遇の人達の役に立ちたかったのだろう。

思い上がるのも甚だしいと今は思う。

 

心が折れ、治る度に折られ、希望にも欺かれて。

涙した日は数え切れない。

けれど、ドクターさん。貴方は涙した私を心配してくれましたよね。

 

『スズランは良い子だよ、私が保証する。倒れても目を背けず、前を向こうと涙して立ち上がる君は、

誰よりも強く優しい子だよ…。』

 

そう言い私の頭を撫でてくれた貴方は、まるでパパのような優しさを向けてくれました。

 

どれだけあの言葉に救われたか。打ちのめされた私にもう一度立ち上がるチャンスをくれたあの日は今でも忘れません。ですが…、私はあなたに強く依存してしまったようです…。離れるのも今は怖いほど…。

 

なので、愛をください。愛してください。

私がドクターさんに依存すると同じ、貴方も私に依存してください…。

 

彼の唇を奪う。起きても逃げれないと自信があるのか行動が大胆になる。舌を入れたディープキス。

彼の味が口いっぱいに広がり、頭の中がパチパチした。あり得ないほどの幸福感が襲い、思わず失禁してしまうほど愛で満たされていく。

 

濡れてしまったズボンを脱がし、私自身も着衣していた衣服を脱ぐ。

すると、ドクターさんの局部付近が盛り上がっていることに気付いた。パンツで抑え込まれているそれは窮屈そうに、そして今にすぐにでも出てこようとしている。

私は女の本能なのでしょう、また失禁してしまったのではないかと思うくらい股が濡れていた。

おそるおそるそれを触ると反応し、少し驚く。

強く脈打ち主張するそれに釘付けだった。

 

嬉しいな。ついに愛し合えるんだ…。

 

そう思うと私は彼に対して上目遣いで話しかける。

多分、今、嬉しい過ぎて口角が上がり頬が真っ赤になっていると思います。

だけど、致す前に言わなきゃ。抑えきれない愛を言葉に。

 

 

 

 

「好きです…、ドクターさん。」

 

 

 

 

その日からオペレーター達はドクターの行方が分からなくなった。

 

 

 

 




ちなみに、後日談はR-18として別編として連載しようかなと思っています。(簡単に言えばこのストーリー内では連載しない)
あと後日談はBADENDの後の話なので基本キャラ崩壊していると思っていいです。もし、見たいけどR-18指定は嫌だなっていう方もいらっしゃると思いますので、コメントしてください。
考慮します。

スズラン編 B√はもう少しお待ちください。


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スズランは甘やかしたい(B√のみ ヤンデレ成分無し)

こんばんは黒縫です。やっとB√を投稿できます…。疲れた。
正直、スズラン編B√はヤンデレ成分ありません。
気づいたら甘々になってました。いや、本当は病ませたかったですよ?ですが、やっぱりたまにはね。普通のスズランもみたいわけで…、って言いわけですね、普通にネタが思いつきませんでした。すみません。まぁ、本編をどうぞ。


B√ ドクター視点

 

やはり、ここはファミリー向けメニューにしよう。

流石の私でも、このような幼い子に彼女役してもらうのは恥ずかしいし体裁が悪い。

 

「ファミリー向けメニューにしようかな。」

 

「…………。」

 

「ん?どうかしたのか?ッ…!?痛っ…!」

 

黙り込んだスズランがこちらを向いて小さい指で私の太腿あたりをつねってくる。少し怒ったらしい。

頬を膨らませて怒ってる様子は年相応に思う。

 

「ドクターさんの…ばか…。」ボソッ

 

「ごめん…、なんて言ったの…?」

 

スズランは不機嫌な様子を変えず手を引っ張り、

 

「何でもございませんッ!行きますよ!」

 

と食堂の扉を開けた。

 

「いらっしゃいませー」

 

「らっしゃいませ」

 

そこにいたのは、ここの料理長と言っても過言じゃないグムとジェイだった。

 

「お、大将じゃありませんか。なににいたしやしょうか。」

 

 

ジェイが近寄りオーダーをとる。気怠そうな格好とは違い、ジェイはよく働くし料理が得意。そして誰かが働いてると夜食を持って来てくれたりと気遣いができ、そのことを聞くと『こんぐらいのことしかできないのは理解してやして、もう癖なんすよ。』と謙虚さも見せるという良心さで他オペレーターから人気がある。

そんなジェイはよく、食堂で料理を手伝ってるので見慣れている風景だろう。

 

「あぁ、それなんだかファミリー向けメニューが気になってね。お願いできるかい?」

 

「わかりやした。ちなみにファミリー向けメニューといたして、そこのお嬢さんも同じメニューいいんでしょうか?」

 

ジェイはスズランに対しての目線を合わせるために膝を曲げて手に持ってるメモ帳を取り出す。

 

「はい、お願いします」

 

「よし、注文も聞けたんで俺が席まで案内しやす。どぞ。」

 

そう言いジェイは歩き出した。

 

 

 

 

30分後

 

料理は素晴らしかった。ジェイが得意としている海鮮類のフルコース。特にサーモンのカルパッチョなんて、龍門市街で料理店が多いが負けず劣らず。食材の良さを強調し、隠し包丁で切れ込みを入れているのか噛む前に口の中で溶ける錯覚を覚えた。

 

同じ席で食事しているスズランも先程の不機嫌な様子から料理を食べてるときは機嫌がすっかり元通りし、目を細めて美味しいと傍から見てもわかるぐらい満足しているようだった。

 

「ドクターさん!このガーリックシュリンプ美味しいですよ!」

 

目を輝かせているスズランを見ると、頬が緩む。

すると、ジェイが近寄ってきて、

 

「どうだったでしょうか?美味しくいただけてるのであれば俺も作った甲斐がありやす。」

 

「あぁ、ジェイの料理はやっぱり美味しいな。それとありがとう。とても楽しい雰囲気になったよ。」

 

「どういたしやして」

 

ジェイは耳元に近づき、

 

「まるで本当に親子みたいすね。微笑ましいです。」

 

と言い厨房に立ち去っていった。

 

確かに、私に大事な者ができたらこんな感じなのだろう。こんな風に食べさせあったり、食べたら感想を言い合って自分の皿の料理を子供のために差し出したり。束の間の幸せだと理解していたが、こんな幸せが続けばいいなと思った。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

3時間後  ロドス内図書館にて

 

スズラン視点

 

食事を済ませて食休みとして図書館に訪れていた。

ロドス内の図書館はとても広く、多くの蔵書だらけで全て読み切った人はいないらしい。

私の隣でドクターさんは数冊の本を積み上げて読んでいる。その顔は真剣なときもあったり涙目のときもあったりと、表情がコロコロ変わる。

 

ドクターさんに『どのような本を持ってきたんですか?』と読む前に聞いたのだが、『あはは…少し恥ずかしいから言えないかなぁ〜…』と言っていた。

まぁ、こちらが下から覗けばタイトルで分かります。タイトルは…『エーギルの狩人』…?正直予想できません。

 

「ふぅ…。」

 

私は本を読み終わりドクターさんの表情を観察する。私が物心ついたときはパパはよく本を見せてくれた。文字も読めなかったため、パパが話しをしている言葉を拙い口数で反復して言葉にしていた。その様子を見てパパとママは笑って見ていて私は馬鹿にされてると勘違いした。そのたびによくパパの膝下を手をグーにして叩いていた記憶がある。

それでも笑っていましたが。

 

ドクターさんの笑顔を見ていつも思う。

『あ、パパだ。』と。背格好はパパより低いしガタイも違います。ですが、なぜでしょう。

似ているのです。表情が豊かなのも、心配したとき走って駆けつけてくれる様子も。

 

何かも懐かしいのです。

隣にいるだけで落ち込んでいても元気になれます。

手を握るだけで心がポカポカして嬉しさがこみ上げてきます。今も貴方の様子を見ると口角が上がり、幸せを感じます。

 

なので、もう少しだけ。この時間が長く続きますように。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

ロドスアイランド p.m.6:00

 

ドクター視点  

 

本を読み終え、上を向いて目を瞑り休ませる。

すると近くでスゥ…スゥ…と寝息が聞こえた。

隣を見るとスズランが机に伏せて寝ている。

少し退屈だったのだろう。ちょっとだけ待たせたことに罪悪感を覚えたが彼女の無防備な寝顔を見ると自然と心が暖かくなった。

 

キョロキョロとあたりを見渡して、今からすることを誰にも見られないように確認し、スズランのほっぺたに人差し指で抑える。

プニッと柔らかい感触が指に伝わり、彼女の顔が少しだけ歪む。

 

「んんっ…」

 

「ふふ…」

 

私は可笑しいと少し笑ってしまった。

少し起こすのは悪いなと思い、彼女をお姫様だっこして図書館から出た。すれ違う職員の方から『可愛らしいですね、お子さんですか…?』とからかわれたりもしたが彼女の部屋の前に来た。

 

子供とはいえ女性の部屋に入るのは紳士としてどうかと思いスズランを起こそうとするが、私の腕の中が心地良いのか小さな手で私の服を無意識でつかみ、離れようとはしない。

 

「まぁ…親御さんから離れて幼いながらに一人で生活してるもんな…。」

 

自分で寂しさを紛らわせているのだろうが、無防備な今は顕著に甘えたい気持ちがあるのだろう。

それに気づいてしまうと無理に離すことが悪い気がしてしまった。

 

「仕方ない。」

 

私は再び歩き出す。

目的地は私の書斎、そこなら一緒にいられるし毛布があるから風邪を引く心配はない。

そういえば、ここに来る前にスズランのお父さんから『病気にかかったら許さない』と釘を刺されたことを思い出した。

 

「本当に…愛されているんだな。」

 

私は一人、記憶のないせいで人生で愛された記憶もない。だから羨ましく思う。

それを愚痴るように声に出したが、腕の中のスズランは気にも止めず笑みを浮かべながら寝ている。

その様子は愛おしかった。

 

 

 

 

あの後、スズランは起きて、寝ていたときの話をしたら顔を赤くしてポカポカと私の背中を叩く。

そして私を責めるように言葉を出した。

 

 

 

「もうッ…!ドクタぁーさん!!////」

 

 




どうでしたでしょうか。甘々で落ち着いたスズラン編もいいでしょ?そして次回はマドロック編です。楽しみにしていてください。あとは…、R-18の後日談(BADEND√)は執筆作業をすると、本編のコッチも遅れてしまうので考えてます。とりあえず、まずはマドロック編を書き切れればと思ってます。では、また会いましょう。

戦友募集してます。

Dr.黒縫#0882 Lv114
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マウンテン s3特化3 Lv.max
マドロック s3特化3 Lv.max
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サリア   s3特化3 Lv.max
スカジ   s3特化1 Lv.max


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マドロックは守りたい(選択肢のみ ストーリー分岐なし)

どうも黒縫です。マドロック編始まります。こんかいは遭難した状態の話で、結構攻めました。物足りなさはある…。
あとフレンド申請ありがとうございます。めっちゃ来ちゃ。
危機契約は最高25等級まで達成しました。ありがとうございます。
とりあえず、本編どぞ。


■■■■■にて ■■■■ ■■■■■

 

ドクター視点

 

「どうして…こうなった…。」

 

久しぶりだ。こんな風に天災に巻き込まれたのは。

モスティマと旅をしていたとき以来か…?

 

5時間前

 

■■■■■、私達はある異常気象を確認した。まるで、景観は全てが墨画のような自然を描きつつ、その世界は命を吹き込まれたように動き出していた。そこに実在するが淘汰されるべき世界。

私の感想はそれだった。

ロドスの浪人代表ことニェンはこう話す。

 

『また見栄っ張りのただの茶番だ。その内、現実から淘汰されるだろうが…、たくっ…年々と厄介さだけは増しやがって。ドクタぁー!関わんないほうが身のためだぞ!』

 

明らかにニェンは気づいている。この全容を。

ニェンは関わるなと、釘を指してきたが、そうはいかなくなった。近くの難民が未確認生物に襲われたらしい。このままでは命を落とす者が現れる。

なので、オペレーターを3人と私で派遣任務を受け持った。

 

マドロック、ブレイズ、スカジ。

本当はニェンを、連れて行きたかったがすこぶる機嫌を悪くし口さえ聞いてもらえなかった。

とにかく、時間に余裕があった三人を連れてきた。

スカジやブレイズ辺りを連れてこれて本当に良かったと思う。

ここ一帯は元より異常気候地帯。少なくとも慣れている二人がいるなら対処可能だと思ったが…

 

 

逸れてしまった。急な突風に大規模な砂嵐。

収まったと思いきや周りの風景は砂漠になっているが一部は湖があった。

 

そして今に至る。

太陽の日が湖に反射して幻想的な雰囲気を出しており、シエスタのビーチを思い出す。もしかして幻覚か…?

 

まぁ、あそこはヤシの木や建物があって観光都市だとわかっていたが、ここは廃墟となった建物が有象無象に崩れ建っている。くそ…、外気温が高くなってるせいか体の中の水分が汗となって垂れて落ちる。

頭が痛く、暑さで朦朧としている意識をつなぎとめるだけで精一杯だ。一歩も歩けそうにない。

日がさし照らす炎天下の砂漠に倒れているのだ。

このままだと脱水症状をおこし、死ぬ。

 

「………、あぁ…せめて……。」

 

叶うことは決して無い、道を踏み外した私がそれを願うこと自体、罪だろう。だけど、死ぬ最後ぐらいは許してほしい。

 

「………愛されだ…がっ…たなぁ…。」ボソッ

 

声が掠れて言葉が出る。

 

ふふっ…私ながら無様な死に方だなと心の中で笑い、意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

マドロック視点

 

 

「………愛されだ…がっ…たなぁ…。」

 

愛おしいドクターの声が聞こえる。いつもの声より掠れ、聞き取りづらいが聞き間違えることは絶対にない。彼の声だ。

 

私は声をした方角に走り出す。砂漠地帯のせいか足が持っていかれ、思ったように走るのに苦労するがそれでも構わない。なぜなら、あの声、今わの際のような言葉。それだけでドクターのピンチだとわかる。

 

見つけた。地面に伏したように倒れている。

 

動かない。

 

「ドクター!!」

 

近づきながら大声で反応を示すか声をかける。

 

動かない。

 

マズイ、一刻を争う自体だ。頸動脈を触る。動きはするが弱々しく感じるそれは、いつ止まるかわからない。汗が尋常なほどびっしょりと衣服についている。

 

「…脱水症状を起こしているのか……。」

 

私は戦闘に行く前に、常に水分補給が取れるよう水筒を用意している。フル装備した中は蒸し暑いから、脱水症状を抑える対処方法も対策している。

水筒を取り出し、それを口に含む。

 

そして私はドクターとキスをした。

 

意識がないなら強制的にだ。いつか聞いたことがある、意識がない状態で飲ませるのは溺れてしまい死んでしまうらしい。

だけど、今は緊急だ。一か八か賭けるしかない。

頼む…!意識を取り戻してくれ…!

 

口の中に入れた水をドクターの口に入れ込む。

するとドクターは意識を取り戻したかのように口に入ってきた水を吐き出した。

 

「ごほっ!!ごほっ…ごほっ…!」

 

「ドクター、私のことがわかるか?ここに水がある。飲めるか?」

 

ドクターに問いかけるが首を横に振り、『無理だ』と口パクをして知らせてくる。よく見ると腕が痙攣している。動かそうとしているようだが上がっていない。

 

「わかった、待て。」

 

また口に含み、ドクターにキスをする。

水を飲ませ、また口に含み、飲ませる。

繰り返す。淡々と。

 

「ん…、んん…、ぷはっ…」

 

ほんのりドクターの味がした。

 

「どうだ、少しは良くなったか?ドクター。」

 

ドクターは首を縦にふる。

 

「ドクター、ここに塩分補給用のタブレットがある、一粒飲んでほしい。少なくとも脱水症状には良い。」

 

私はポケットに入れているタブレットケースを取り出し塩分タブレットを選びドクターの口に入れる。

 

これで一通り大丈夫だが、ここは日が指して居続けるのはマズイ。幸い近くに廃墟がある。

せめてそこの日陰で休もう。

 

「ドクター、運ぶが危ないからあまり動かないで。」

 

ドクターをお姫様だっこする。軽い。

 

 

「大丈夫だ、ドクター。私がいる限り貴方を死なせはしない。」

 

ドクターは目をつぶり開くことはなかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

■■■■廃墟にて p.m.■■■■ 夜にて

 

ドクター視点

 

「…………、はぁっ…!!」

 

意識が戻る。頭痛はあるが、それでも手足の痺れはなくなり体は動く。

外を見ると暗くなっており、幻想的な湖は月を映して周りを少し明るく見せる。

 

「起きたのか…?ドクター」

 

パチパチと後ろで焚き火のような音が聞こえる。

それと同時にロドス内で過ごした仲間の声も。

振り向き、その声の主を確認した。

 

「マドロックか…?」

 

「あぁ、私だ。」

 

マドロックは、焚き火に枝を焚べながら私の顔を見て安心したかのように微笑む。まるで聖母のように。

 

「他の二人はどうしたんだ?!」

 

私は二人の存在がないことに気づき慌てて聞き出す。

だが、マドロック自身も知らないらしく首を横に振る。

 

「そうか…。」

 

「ドクター、多分あの二人なら大丈夫。一人ひとり食料はバックにいれて持ってたんだ。あと7日間は持つ。ヤワじゃ死なない。」

 

「だといいん…」

 

ふと、ロドスにいたときのブレイズを思い浮かべる。書類仕事をしていたら『ドクター君!プロレスごっこでもしない?!』といいながら首を絞めてくるときのことを。

スカジは…うん、なんでいつも会うと抱きつくのだろうか。胸があたってるときのことと、レユニオンの工作員を一閃しただけで複数人倒したときのことが頭の中で出てくる。

 

ゾッとして自分の息子が縮こまる感覚があった。

 

「あの二人なら……大丈夫だな。」

 

「だろう?それよりドクター、食事をしよう。」

 

あれ?まだ食べていないのだろうか?

 

「…どうして、先に食べなかったんだ?」

 

「なぜって…、それは…ドクターと一緒に食べたほうが楽しいからだが…?///」

 

少し恥ずかしそうに言う彼女は愛らしかった。

少し頬が赤い。

ロドスに来たときはそんな素振りを見せなかったのに。少しだけ笑みが溢れる。

 

「ふふっ…」

 

「なぜ笑っている…」ムッ…

 

少し不機嫌になるマドロックだったのだが、食事中は特に何もなくその日を終えた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

マドロック視点

 

ドクターが隣で寝付いた頃、私はドクターの顔を覗き見る。すやすやと寝息をたてながら口が少し空いて寝ている姿は子供みたいだ。

 

私は今日あったことを思い出す。

四人で任務に行き、はぐれ、ドクターを助け、今に至る…。

 

 

 

 

 

       『やった。』

 

 

 

 

 

心の中で、ガッツポーズをする勢いで今の状況を喜んだ。あの邪魔な二人が消えたのだ。

これで愛しのドクターを独り占めできる。

最近は、ふたりきりのときが訪れず現状がチャンスだと思った。

あと緊急だったがキスをしたのだ。それに私の唾液の混ざった水を直接口移しで。

私のモノが好きな人の体に入り一部になる。

そう考えると快感で、お腹付近にある子宮がキュンとし興奮した。

 

堪らず、分泌液が自分の下着に濡れてしまった感覚を覚える。

そっと、股下を触るがやはり濡れて液体が手に絡みつく。近くではドクターの匂い。興奮してどんどん溢れ出る分泌液。

 

自慰行為を知らず知らずのうちに始めてしまうのも無理もなかった。

人差し指と中指で、入り口まわりをなぞるようにヒダにあたるとヌチャと音を立ててしまう。

その音でドクターが、起きたらどうしよう。

起きて私を見たらどう思うんだろうか…。

そんな妄想が頭の中で繰り広げられていく。

 

「んっ…んぁ…、ぁっ…んん…。」

 

喘ぎ声が出る。必死に我慢するがかき回す度に声が大きくなってしまう。

片方の手は自分の花園に、もう片方は乳房に。

ドクターに揉んでもらってると妄想して乳輪をなぞりながら乳首を摘む。

すると電気が通ったような鋭い快楽が通り過ぎる。

 

 

これと同時に、花園の栗を摘んだらどうなるんだろうか…?

考えるだけでワクワクと興奮が襲い、しないという選択肢は消えて無くなる。

皮を剥き、剥き出しになったピンクの小さな突起を恐る恐る触る。

 

少し触れただけでパチパチと頭の中で花火が広がる。

 

「あっ…あっ…ぁん…♡、ん…♡。」

 

限界が来る。許容できないキャパシティを快楽は越えようとする。そして狙っていたかのように私は乳首と突起を強くつねった。

 

 

「ぁんッ♡!」

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■頭がブラックアウトした。同時にスプリンクラーのように広範囲に潮を吹いてしまう。

目の前がパチパチと薬物乱用をしたかのような快感と脱力感があった。下半身が勝手に痙攣する。同時に快感の余韻が股下を暖かくし、チョロチョロと失禁してしまう。

 

「……♡、……ん…♡あっ…♡んん…♡」

 

気持ちいい。ドクターがいることによる背徳感で余計に感じる。

頭がハジけたような快感。それだけが体全部を包む。到底、ドクターに見せれないような顔と姿をしている。蕩けて口から涎が一筋でている。

すぐに眠気が襲ってくる。

そろそろ眠らないと明日に響くかな。少し濡れた下着は着換え、

私は満足してその日は終えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

四日後

 

ドクター視点

 

私達はまだここに居続けている。

マドロックがむやみやたらに動くより、ここに留まって助けを呼んだほうがいいと提案した。

それを承諾した私は案の定待ったが、助けなど来る気配はない。むしろ逸れた二人が心配だ。

 

「なぁ…マドロック…?」

 

「なんだ?ドクター…?」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

―  選択肢                ―

―                     ―

―  A√ ここから離れて探しに行く      ―

―                     ―

―  B√ ここに留まり救助を待つ       ―

―                     ―

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

私はどうしたらいい…。

 

 

 




どうでしたでしょうか、マドロックは可愛いけど、文面だけ見ると高圧的なのよね。なのでマドロックフィルターをかけた状態で読んでくださいませ。あとは…そうだ。コメントありがとうございます。嬉しいコメントはモチベ上がります。まぁ、チョロいんで何でもいいのでくらさい。

アンケート次第で次回投稿する内容はR-18とさせていただきます。もろにS○Xシーンとか出す。生々しいかなってぐらいのやつは書ける…はず。ちなみに、どちらの√も…いいえ、ネタバレはいけませんね。楽しみにしていてください。

以上、雑談でした。色々とアンケート多く取るのでさんかしてください。お願いします。またね。


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ボツネタ マドロックは一緒にいたい(途中半端)

どうも黒縫いです。マドロックは守りたいを執筆作業中に出たボツネタです。アンケート調査を早急にしてほしいのでボツネタを入れました。
見なくてもいいのでアンケート調査お願いします。

あとこれは本編と関わりないです。


ロドスアイランド a.m.9:00 ガーデンテラスにて

 

ここはロドス内で唯一植物園として機能しており、ガーデニングしているのはポデンコやパフューマー、その他にも女性オペレーター達がよく管理してくれている。凄い所といえば、毎年恒例で花見を全職員、全オペレーターで行なっているところだろうか。桜の管理は難しいらしいが、そこを普通に行っている時点で凄い。

 

まぁ、雑談はおいといて。

 

「ドクター?どうしてそんな遠い目をしているんだ?」

 

「何でもないよ()」

 

マドロックが隣で横になってこちらを見つめている。ついでに足も絡ませてくるのだが……、今、想像した君たちは彼女の、あの整った顔立ちを思い浮かべているのだろう。

 

だが現実は違う、全身フル装備。あのトラウマ級のマドロック部隊で見せたヘラクレスオオカブトみたいな突起、全身防護服。一言で言えば、恐怖。

怖い。えっ…、このまま絞め殺されるのかな?

突起物が私の額に突き刺さって少し痛い。

マドロックはそれを気にも止めず、話しかけてくる。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

2時間前

 

私は久しぶりにガーデンテラスに訪れていた。植物園並の種類の多さ、記憶をなくした日から初めて見つけたときは驚きで数時間そこで眺めていたぐらいだ。

ちょくちょく来ていたのだが、最近激務に追われ来れなくなっていたのだから久しぶりの植物園はとても新鮮さがあった。

 

植物園内に一つ木製のベンチがある、そこで私は座り持参したお茶をカップにいれゆっくり飲む。

時間がゆっくり進むような感覚。

木々の隙間からの木漏れ日が余計そう感じさせた。

 

「あぁー…。」

 

だらっとベンチに体を持たれかけて力を抜く。

正直眠い。一気疲れが出てくる。このまま寝てしまおうか。

 

目を瞑る。意識が少しずつ途切れていく。

 

おやすみなさい…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マドロック視点

 

私は日課のガーデンテラスに訪れていた。ここは良質な土があり、その土の養分を吸い青々しく植物が生い茂っている。いつもクロージャさんからフル装備で出歩くなと怒られてしまうが、ここなら人気も少ない。管理人のオペレーターの方はいるが基本的にフル装備でいることを黙認してくれている。

 

 

 

ドクターに会いたいな。

 

 

 

 

出撃のたびに毎度同じように心配して、ケガしたら『一日休みなさい』と色んなオペレーターにも言っている。心配性なのだ、あの人は。

 

そして休んだとしても必ず週休2日で休ませてくれた。その分、影でドクター自身の仕事が増えて睡眠をあまり取れてないのは…知っている。

アーミヤから怒られながら、笑顔を絶やさず、誰かを気遣って、自分を追い詰めて。

それで、数日前だろうか。ドクターは一度倒れた。

ケルシー先生からは過労と聞いている。

その後、スズランと気分転換に休んだらしいが、心配だ。

 

そう、ドクターのことで頭がいっぱいになっているとき私がいつも座ってるベンチに先着がいた。

 

まぁ、珍しくはない。ポデンコ、スズラン、シャマレと幼い子らがピクニックに来ることが多い。

だけど、今回違うようだ。

 

男性…?

 

近寄ってみるとそこにいたのは、ドクターだった。

今まさに好きな人のことを考えて会えるなんて都合がいいなと思いつつ、呼ぶ。

 

「ドクター…?」

 

反応はない、よく見ると寝ているようだった。

頬をつつく。ぷにっと頬が歪み、ドクターは「んん…」と顔を反対側にそむける。

 

「ふふっ…可愛い。」

 

ドクターとお話がしたい。彼と話すだけで元気と勇気が湧くんだ。ただ先程思ったとおりドクターは私達のせいで疲れ果ててる。起こすのは悪い。

 

どうしようか…。

 

チラッと彼を見る。ベンチの大きさ的に彼の脇下で添い寝はできるスペースがある。

 

………!

 

思い立ったが吉日、私はすぐに彼の脇下に座り彼の胸を借りる状態でしがみつき仮眠を取る。

太陽の匂い。ドクターは男性なのに匂いは気にしているのだろうか、いつもくどくない良い匂いがする。

少し筋肉質の身体、抱きつくために回した手でお腹あたりを触ると割れた腹筋がある。

 

男らしいのだな。

 

自然と胸がときめくのがわかる。それと同様、心の中が穏やかな気持ちになり、眠たい。

 

少しだけこのままでいさせてほしい、ドクター…?

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

1時間40分後

 

ドンッ!!

 

ベンチが後ろに倒れる。重心が後ろにいっていたらしい。同時に二人に衝撃が走る。

 

「、…、痛ァ…。」

 

「ん…。」

 

「……?あれ…なんでここにマドロックがいるんだ…?」

 

私は痛みと眠たさで拙い言葉になってしまったが何故かフル装備のマドロックがいることに気付き、話しかける。近すぎて威圧感がある。

 

「すまない、起こすつもりはなかったんだ。先程ドクターを見かけたのでついでに私も寝かせてもらっていたのだ。」

 

そうなのか…、って普通異性の隣に寝るか…?!

 

 

 

そうして今に戻る。

 

 

どうしよう、どうしよう。足が絡みついて逃げられないし離れられない!

いや…ここは素直に言えば…なんとかなるんじゃないのか…?

 

 

「な、なぁ…マドロック?」

 

「どうした、ドクター?」

 

「その…なんだ。その甲冑のような防護服を脱いでくれないか…?少し怖いんだ。」

 

思っていたことを伝える。するとマドロックは

 

「わかった。しかし恥ずかしいので少し待ってほしい。」

 

と言い上半身を地面からおこし、防護服を脱ぎはじめる。脱ぎ始めると彼女の美しい整った顔がいかつい甲冑のような防護服から出てくる。

 

髪は白髪でサルカズの特徴の悪魔のような角。

汗ばんだのか髪が頬や額に張り付いている。

他の女性オペレーターより胸があり、タンクトップはバストアップにも貢献している。

綺麗なおへそ、しかしその近くは感染者特有のオリパシーの源石が腰からお腹近くまで出ている。

 

「……、これでどうだ…?」

 

少し恥ずかしそうに言う彼女は再び私の隣で足を絡め次は逃がすまいと私の背中に腕を回す。

抱きしめる力が強いのか彼女の胸に顔をうずくめる。

彼女の汗の臭い、彼女の匂いと混じって甘い匂いが鼻腔をくすぐる。よく見ると彼女のタンクトップの谷間が汗で染みている。

 

一言で言うならエロい。

見ているだけで興奮する。抱きついているせいか心臓の鼓動も聞こえた。マドロック自身も心臓の鼓動が早く感じるのは勘違いなのだろうか…?

 

ムクムクと私の息子が起き上がり臨戦状態になる。

彼女のちょうど女の子の部分にあたり押し付けるような形になってしまった。

マドロックはすぐにそれに気付き得意顔で言う。

 

「ドクター、私にその劣情をぶつけるか…?」

 

意外な回答が聞こえ驚くが、もうそれどころじゃない。私は素直に頷き願う。

 

「…、お前のせいだからな…、、」

 

そこからの理性はない。

 

 




↓アンケートおねがい。


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マドロックは守りたい(B√前編 R-18要素無し)

こんにちは黒縫です。久しぶりの投稿ですね。活動報告で事情を話させていただいたのですが本当です。見てない方は見てくださると助かります。

今回はA√よりB√の方を先に挙げさせていただきました。
それもB√の話なんですが前編後編と分けさせていただきました。理由は文の量が増えるのと、後編はしっかりR-18要素が入ってしまうので注意喚起みたいなところです。
とりあえず、本編をどうぞ。


辺り一面、火の海の如く熱気と放出している光によって体内から水分を強制的に抜き取られている感覚を覚える。

舌は乾き、喉には何も通らない。

水や食料を運んでも吐き出してしまう。

足は震え、立ち上がるのが困難に。

極度の脱水症状を引き起こしている。

分かっていた。あのマドロックの妖艶な笑みを見た日から呪いをかけられたように思考が溶けていくような抜ける感覚を。

 

【You made the wrong choice. No one is saved.】

 

私はまた選択を間違えてしまったようだ。

頭の中でノイズのように、微かにだが聞こえる。

 

「はっ…」

 

ついには幻聴まで聞こえたか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

マドロック視点

 

ドクターの痩せこけて憔悴した顔を見る。顔色は優れず、息をするのが苦しいようにハァハァ…と呼吸が一定ではない。目を見ても焦点があわなくなってきている。

身体を起き上がらせることはできず、今にも死にそうに。

唯一できることといえば、話すことだけだ。

声はガサガサと掠れているが聞き取れない程ではない。

 

「マドロック…ごめん"な"…」

 

彼は話すときに必ずといっていいほど謝るようになった。何に対しての贖罪か、そんなの検討がつくが認めたくはない。

なぜこうなったか。今思えばどうしてこうなってしまったか。後悔しかない。

 

「私こそ…あのときすぐに引き返しておけばあなたをこんな目に会わせず…に済んだのに…。なのに…私は…。」

 

辛い。彼を直視なんて出来ない。これから意識が消えてなくなることを認めたくなんてない。

そう思うと勝手に言葉がでてしまう。

勿論、彼に対して謝罪の言葉だ。

自分を責めずしてどう許される。

 

今まで愛してきた人を星の数のように無くしてきた。

私がマドロック小隊を率いていたとき、確かに皆は私を慕い、私も彼らのことを家族として振る舞ってきた。

望んだものが明日に繋がれるだけで良かったんだ。

しかし、現実は甘くない。

日の出を見ると数が減っていることなんて当たり前だった。

元を辿れば愛していた人間だったんだ。

それを環境は私達を絶望へと貶める。

 

今だって最愛の人を奪おうとしている。

許せない……。許せない…。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。

 

だけど、私は無力だ。環境に勝てるわけがない。

この小槌を振り回したところで天災などに勝てやしない。

その事実が行き場のない感情を騒ぎ立てる。

 

「あぁ"ぁ"…。」ポロポロ

 

視界が曇り見づらくなる。感情が涙となり彼のそばで落ちていく。

 

嫌だ…もう、私の大事なものを刈り取らないでくれ!!独りは嫌なんだ!!

 

涙を拭うために手で目を擦る。しかしそれでも溢れて拭えはしなかった。

 

「大丈夫だから。泣かないでくれよ…。マドロック。」

 

ドクターはそんな私に優しい声音で話しかけてくる。

 

「だが…もうあなただってわかっているのだろうッ…」

 

「うん…私はもうすぐ死んでなくなってしまう。この体はもぬけの殻となってしま"うのだろう。」

 

彼は十分理解していた。それが心の中にある疑問を吐き出させる。

 

何で…なんでッ…!

 

「なら…どうして…どうしてだッ!!私のことを責め立ててくれないんだ!私が間違えてしまったからあなたは取り返しのつかないほど弱ってしまったというのに!」

 

勢いでそのまま言葉遣いが激しくなる。

 

「私はまだドクター。あなたに愛してる…と伝えて切れずにいるのに…。私は最後の最後まで思いを告げることのできない臆病者だっただけなんだ!」

 

「………。」

 

「もう、私にはあなた以外大切なものはない…。

ロドスの仲間より、何よりも大事なんだ…。

だから、お願いしたい。死なないでく"れ…!私を独りにしないでくれ…。」ポロポロ

 

拙く、そして思いをそのままぶつけただけの聞くに足りないほど言葉が支離滅裂。

ただ、今の私にはそれほど切迫しており、心の余裕など無くなっていた。

 

まるで駄々をこね泣き叫ぶ子供のようにドクターに見えているだろう。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ドクター視点

 

古参オペレーターのように彼女とは長い付き合いもない。ましては一時期は敵だった。そのとき彼女の大事なものを壊してきた自負がある。

だから、彼女の選択で自分が死ぬような取り返しのつかない結果だとしても責め立てることなんてできるわけがない。

 

因果応報。何かしらを奪ってきた。奪い奪われ、その都度誰かの"大切"を切り捨てたのは誰だ。そんなやつがたとえ仲間から寝首をかかれても、仕方ないだろう。

直接的ではないが間接的に私は仲間にだって"死ね"と指揮をした。

そんな自分を『ろくな生き方はしない』とケルシーやエンカクからも釘を刺されてきたじゃないか。

それでも我を通したのはエゴだ。

薄情なエゴを胸に、生きてきた私の失態だ。

 

だから、マドロック。

 

「泣かな"い"でくれ"…。」

 

マドロックは反応するが目から溢れ出る涙は止まることはない。

泥岩の如き彼女は崩れかけている。

 

「なぁ…さっき"私のことを愛して"ると言ってくれたよな…、ありがと"う"。"最後の最後"だったけれど、愛されて死ぬのは心地の良いものだな…。」

 

「そんなことを言わないで…」

 

首を横にフルフルと動かしながら話を聞いてくれている。

 

そういえば体が寒くて仕方ない。先程まで暑かったまわりが急に温度がなくなったように。

 

 

彼女に抱きしめられれば熱を取り戻せるだろうか…。

 

「………、マドロック最後のお願いを"聞いてくれないか…?」

 

「…!言ってくれ…!何でもしてやる!」

 

「抱きしめてほ"しい」

 

それを聞いた彼女はすぐさま私の上半身を起こして力強く抱きしめてくれた。痛さを感じるほど強く、逃さないと言葉にしなくても分かるほど。

しかし熱は取り戻せない。ただ心は暖かく、それだけで十分だった。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

マドロック視点

 

彼から言われたとおり抱きしめる。

ダランと力が入っていないのだろう。刻一刻と魂が抜けていってるのがわかってしまった。

 

「…………。」ギュ

 

自然と力が強くなってしまう。彼の匂い、苦しそうな息遣い。弱い心音。そのすべてを感覚がわかるように。

 

………?

 

なんだろうか、下半身に膨らみを感じる。

へそ下を少し圧迫するような感覚が下半身から伝わってきた。それを確認すべく、下を覗くと。

 

ドクターのペニスが勃起していた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ドクター視点

 

彼女の匂いで私のペニスが怒張してしまった。

状況的に情けない限りだが、以前見聞で見たことがある。

人の死ぬ直前は生存本能や種の存続させるための本能が脳内で麻薬物質のように放出されるらしい。

私の命は残り少ない。それを体は悟って最後に自分の子孫を残そうと躍起している。

 

だが、私にはそんなことが出来るわけがない。

たとえ本能が訴えかけたとしてもマドロックにそんなことをするわけにはいかない。

 

知っているだろうか、感染者になってしまった人間との交わりでできた子供が悲惨な人生を送ることを。

鉱石病の研究でわかっている。感染者の血筋では遺伝して鉱石病患者となってしまうこと。その鉱石病患者は長くても30歳までしか生きられない短命な人生。

 

わかっていながら彼女にそれを要求するのか。

喜んで子を成してくれるだろうが、彼女はまたしても独りを味あわせることになる。そしてその生まれた子を私のエゴのせいで絶望へと貶める気か?

 

「ごめ"ん"、本能が種の存続のために無意識的に大きくなってしまった…。意識しないでほしい…。」

 

私は彼女の身体を引き離そうと手に力を込めたが、動かない。

そのことに、ショックを受けている間に私のことを抱きしめてくれている彼女から話しかけられる。

 

「ドクター頼みを聞いてくれないか…?最後の頼みだ…。」

 

「嫌だ。」

 

なんとなく分かるから。

 

「最後のお願いを聞いただろう…?自分だけ叶うなんて都合がいいと思わないか…?」

 

それはそうだ。耳が痛い話だが自分だけお願いが通じるなんて都合が良すぎる。しかし、私はそれを否定しなければいけない。

 

目の前のマドロックは覚悟を決めたように涙が止まっていた。そんな私の考えを知らないように彼女は願いを話しだす。

 

 

 

「私に…ドクターとの子供を作ってほしい」

 

 




どうでしたでしょうか?

一言で言えばBADENDです。主人公だからといって助かるような中途半端なことはしないとここで誓いましょう。
報われないからこその愛。これを美徳だと感じてしまうのは、まぁ違うのでしょうけれど。個人的にはマドロックはキャラ崩壊させても焦らせたり泣かせたかったです。
それがかなって嬉しい限りです。まぁ、実は3000文字の没シナリオが2作品分あるので苦労しましたが。

次はB√後編を今月中に出しますが、事情が事情なので遅れるかもしれませんね。

それと、あとは…感想と評価お願いします。案外モチベに関わるんですよね。してくれる方はありがたいです。
そろそろ人気が薄れてきたらやめようかなとも思ってしまうのでよろしくお願いします。


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マドロックは守りたい(B√後編 R-18)

こんばんは黒縫です。今月最後の投稿として出させていただきます。マドロック編B√後編はR-18要素を含んでおりますのでご注意ください。
9/13は日間ランキング29位に入ることもできました。ありがたいことこの上ないです。
では、本編をどうぞ。


覚悟を決めたように真剣な顔をして、彼女は話を切り出す。もう、涙は流れてはなかった。

 

「私に…ドクターとの子供を作ってほしい」

 

予想通りの台詞に私は息を呑む。

たとえ、今からどんなに頼みこまれても否定しなければならない。

私はその台詞は聞きたくなんてなかった。

 

「…………。駄目だ。それは許されないことぐらいマドロック、君だってわからないことじゃないだろう…。」

 

抱きしめられていた腕から力が抜かれ、私の体は重力に従うように地面にゆっくりと仰向けに倒れてしまう。

 

覗き込むように彼女の顔を見ると、酷く悲しそうな顔で俯いている。ここからでは彼女の辛そうな顔がよく見えてしまった。

泣き腫らしたあとの赤い瞼、眉をひそめて舌唇を噛むように。

 

「私達のエゴで産み落として絶望へと貶めるのか…?」

 

彼女が子供を作ることを諦めさせるために強く言う。はたしてこれで諦めさせることができるか、また私の命を消費するのが先か。

分からない。ただ、私達二人の間で勝手なエゴを突き通すと悲しむ者がいる。

 

それはマドロック…、君だって含まれているんだよ…。

生まれた子供は短命で、ふとした拍子で割れるガラス細工のような存在を育てていく。

その過程で子が亡くなってしまったとき君は必ず自分を責めるだろう。または鉱石病感染者の君の容態が悪化し亡くなってしまったら?

次は年端もいかない子供を独りにさせる気だろうか。

 

それだけは嫌だ。……、私には分かる。

記憶喪失だからこそ、味わった。

愛してくれた人を失うのが辛い。

そしてその愛してくれた人が記憶から消えてしまうというのは何よりも怖い。

独りは海のように楽しいことと安心感を底に呑み込んでしまう。

 

いまでもまた記憶と共に誰かを失うのではと思うと耐えきれなくなって蹲るときがあった。

身近にいるロスモンティスと対面して話しているときに、忘れたことも忘れた彼女を見ると自分もそうなるんじゃないかと不安と焦燥感で胃に穴が空いたときもあった。心は常に独り。

 

今も感覚が薄れてきていることだって、怖いのに。

それを自分の子供に経験させるのは駄目だ。

失うことの辛さを子供に教えるのは親の仕事じゃない。

 

 

「だから、駄目だ。私は…、君のことを愛していても体を触れ合わせることはしない。」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

マドロック視点

 

彼は私の願いを否定する。

実のところ、彼の言いたいことぐらい分かっている。

私のことを考慮した上だろう。

いつも彼はそうだった。

しかし、いまはそれが胸を締め付けて仕方ない。

刃物を突きつけられたような鋭さと痛みが襲う。

愛していると言葉にしてくれたから余計にだ。

 

なぜ、相思相愛なのに報われない?結ばれない?

 

「………、本当に駄目なのか…?」

 

もう一度確認を取る。

 

「あぁ、駄目だ。」

 

すぐに答えが返ってくる。

 

…………。

 

色々と考えた。色々と否定して、どうすればいいか迷った。もう、彼からの完全な拒絶からどうやったって私の願いを聞き届けてくれることはないだろう。

 

もう時間もない。

あとは彼の命が消えていくのを待つのみ。

仰向けになってる彼の手を握りしめて気を紛らわせる。冷たくて、力が入ってない手が現実を突きつけてくる。

 

これでいいんだ…。これで…。

 

 

 

……………………。

 

 

 

 

「無理だ…!」

 

俯いていた状態で声を荒げてしまった。しかし、その言葉は私の気持ちを抑えていた枷を壊す。

急な叫びにビックリしたのか彼は目を見開き、驚いていた。

 

「ドクター…!無理だ…!たとえエゴだろうと私はあなたの子がほしい…!」

 

それを聞いた彼は口を動かそうとするがその前に私は口づけをした。

こうすれば彼を強制的に黙らせることができる。

まぁ…理由は後付けで本当はしたいだけなのだが。

 

彼の口内に舌を入れて味わう。カサカサと乾ききっており、それを潤すためにスミからスミまで舌裏をなぞるように絡ませていく。

 

少し甘いような酸っぱい何とも言えない味。

 

息が吸えないからかどんどん苦しくなるが、その苦しさまで彼がいるから嬉しさに変わっていく。

ひたすら口内を蹂躙して離れる。

舌を抜いたとき彼の舌と私の舌で糸が引いていた。

 

「……はぁっ…!」

 

息が持たない彼は胸を上下させて肺に酸素を送ろうとしている。

身体は生きたいと呼吸をしているのに、救うための処置ができない。

 

「ドクター、私はあなたの意識が止まったときすぐに追いかける。一緒に死ねれば今感じてる喪失感と焦燥感、恐怖だって怖くない。」

 

そのことを聞いたドクターは苦しそうな顔と驚きの表情で染まった。

 

「子供の為だとか、感染者とか…。その余計なお世話の中には私の為だとかも入ってるだろう…?」

 

静かにドクターは私の見つめる。

 

「舐めすぎだ。いい加減にしてほしい。」

 

言いたいことを一方的に話す。また、喋ろうとするならキスでもして黙らせてやる。

色んなことが頭の中で巡り、このような状況になってしまったことに申し訳なさと後悔はあるけれど、これだけは話さないといけないと思った。

 

「私にはあなただけなんだ。それを分かっているのか…?自分だけ死んで丸く収まると思うのか?私はすぐにでも追いかける。代用なんて利かない。たとえ子供ができても私はあなたのことが一番なんだ…。」

 

ドクター、これは脅迫だ。

 

「もし、私のことを死なせたくないのなら子を成してほしい。そうすれば、私は嫌でも死ねなくなる。愛しい人からの授かりものだ。それを捨てることはできない。だから…、私の為だとか思うなら私のことを思ってほしい。」

 

ドクターの目が開かれた。その様子を見た私は彼の胸元に額を押し付けて続きを話す。誘導尋問のようにたった一つの選択肢を押し付けるが如く。

 

「感染者の子供が短命なら、治療するための未来を私が切り開けばいい。私が子供を独り残して消えてしまうなら、その分まで愛情を注げばいい。ロドスの皆を頼ってもあの人達は、嫌な顔一つせずに甲斐甲斐しく承ってくれる。ドクター、あなたも知ってるだろう…?」

 

嗚咽が聞こえた。

顔を上げて彼を見ると彼の目元から涙がでている。

 

「だから…、一人だけで思い詰めないでくれ…。あなたの周りはそんなに頼りないか…?粒だった希望を叶えることさえ諦めてしまうほど私はあなたを蝕む存在なのか…?」

 

彼の頬にポタッポタッと私の涙が落ちる。

彼が流す涙と私の涙が重なるほど溢れ出てくる。

そして、最後の最後、私はお願いを彼に言う。

 

「ドクター、私と子供を作ろう。あなたの不安をすべて私が包み込む。あなたの一抹の不安さえ残さない。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ドクター視点

 

彼女は私を奮い立たせる。死ぬ直前は心が病んでしまうのだな…。案外、私はAceやScoutのように潔く格好良くは死ねないらしい。彼女に背中を押されて今やっと覚悟ができた。心は独りではないことを教わる。

自然と涙を流していた。

 

「……、たとえ…それが望まぬ結果になろうと…?」

 

マドロックに質問をする。

言葉にする分には構わない。しかし、それを実行し叶えるとなると話は変わる。

彼女が言うには、それ(鉱石病解析)自体は大前提の話。

それが、もし、出来ずに終わったら…?

実際、私が人生を賭してやってきたが結果がこんなとこで野垂れ死にだ。私と同じ道を行くというのはそういうことだ。質問せずにはいられない。

 

マドロックは涙を流しながら、そのハイライトのない目で私を見据え

 

「あぁ、それが望まぬ結果になろうと必ず…悔恨さえ残さない。」

 

それを聞いて安心した。涙は止まる。

いつまでもこんな辛気臭い状態じゃ、彼女に未来を託すことはできないよな。

 

「ありがとう…、私も覚悟は決まった…。やろう、私の心臓が止まる前に。」

 

できるだけ、笑顔を見せた。勿論、見栄を張ってるだけだ。怖いなんて彼女に悟らせるわけにはいけない。

 

「我儘を聞いてくれてありがとう…ドクター」

 

そう言いながら彼女は私の首元を跡をつける。

数十秒彼女は首元でキスマークをつけて、満足したのか私の衣服を脱がし始めた。

脱がし終えると次に彼女は、自身の服を脱ぎ始める。

 

まずは上半身のタンクトップを脱ぐ。

下には黒のレースの入ったブラ。彼女の純白と言っても過言ではないほど色白で綺麗な肌を強調させる。

腕を後ろに回してホックを外す。肩の紐をスルリと肩から取り、その中につまっていたモノが見える。

大きくハリがある乳房はたっぷりと豊かさと柔らかさを湛えて、薄桃色の乳輪を頂点に挑発的にツンと前にせり出している。

しかし、それを彼女は恥ずかしそうに隠して

 

「あ、あまり見ないでほしい…///」

 

と片手で隠している。チラチラと見え隠れする乳輪。豊満な肉体美に、くびれた腰。お腹には鉱石が数か所見えるが、それ以上に彼女のキュッと引き締まりつつも魅惑的な肉付きを誇る形良いヒップに目が言ってしまう。

 

見ていてとても扇情的な気持ちになる。今すぐにでも彼女に触れ合いたいと洗脳させられている気がするのは彼女の魅力に陶酔しているからだった。

 

私が熱を持った視線を向けるため彼女は恥ずかしげに脱ぎ、終えた。

 

「じ、じゃあ…始めるぞ…。」ハムッ

 

血流の集まったペニスは硬く反り返り、それを彼女は片手で包み込み、顔にかかる白髪の綺麗な髪を耳にかけ、自身の口腔内に含む。

生暖かい体温と刺激的な感覚が下半身に伝わり、思わず吐息が出てしまう。

しかし、彼女はやめることなく悪戯をするに舌で尿道口をチロチロと刺激する。

口の奥へ入れるが彼女の口は小さいため必然的に全部は収まらない。

彼女は口いっぱいで息ができないのにも関わらず、私の肉棒を喉奥に入れ込む。

 

「うっ…おぇッ…」

 

いわゆるイラマチオ、私の為に無理して気持ちよくさせようとする健気さと慣れないからか少し歯が当たるところが、むしろ心がじんわりと満たされると同時に快感が脳内を襲う。

甘くて耐え難い刺激の中で、奥からどんどんせり上がってきた。

 

「げほっ…、そろそろ出そうだ…♡思いっきり出してくれ…♡口の中でな♡」

 

「いッ…クッぅ…!!」

 

そうマドロックは射精を促すように私に甘く囁いてくる。それを聞いた瞬間、我慢などできず、彼女の口腔で射精をしてしまった。

十数秒に渡る射精と愛しいように口元でそれを受け止める顔は背徳的で彼女を汚してるようで気持ちが良かった。

直後、行為が終わり射精したことによって脱力感と充足感が襲う。

 

しかし、すぐに私の肉棒はまた硬くバベルのように反り立ってしまった。

なぜか…?それは目の前の光景に欲情してしまったからだ。

目の前にいる彼女は口元に多くて溢れ出そうなほどの白い精液をこちらに見せてつけ口角を上げ笑っている。

そして、その精液を口の中で味わうように舌で転がし、口を閉じてモゴモゴとうがいをするようなしぐさ。

 

「んっ…♡くちゅ…♡はぁッ…♡んぐっ…♡ハァァっっ…♡」ゴクリ

 

じっくり口の中で確かめたあと満足したのか、それを飲み込んでいた。飲み込む際、喉元が動く様子を見え気持ちが高ぶる。

 

こんなときに体が自由に動けていればッ…!と彼女を押し倒して欲望通りに求めることができないことに悔しく思った。

 

それを見せていたマドロックはニヤッと、『分かってるから』とでも言いたげな顔をしてこちらを見ている。

 

「そんな、物欲しそうな顔を見せていたら襲ってしまいたくなる…ドクター♡」

 

彼女も先程のイラマチオのせいで興奮し、はぁ…♡はぁッ…♡と吐息を漏らしながら犬の発情のように遠いが目でも見えるほど彼女の股下は自身から出てくる愛液で濡れていた。

 

仰向けの状態の私に馬乗りするよう跨り、彼女と私の性器が当たる。

熱いほど準備万端な彼女のヴァギナは濡れて、少し押し付けるだけで入りそうなほど触れ合っていた。

 

マドロックは甘い声で

 

「ドクター♡好きだ♡」

 

と言葉にしたのを皮切りに私の肉棒を彼女の肉壺をに突き入れた。

 

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快楽のせいで瞬間、脳内と景色がブラックアウトする。言葉にならないほどの快感と感動は、今まで生きていた中でここまでの経験は初めてだった。

下手に動けば、あっという間に射精してしまいそうな膣穴の極上の感触。

かといって、私が動かずとも熱くぬめる膣壁は内観の表面をグニュグニュと撫で擦っており、私の我慢を快楽で蕩かそうと甘やかに攻め続けている。

 

そんなことを思っている側でマドロックは海老のように体を反らせ顔は天井を見上げて快感に打ち震えていた。

ヴァギナをみるとそこには破瓜したときに出てしまう血がついており、初めては私だと思うと彼女に対して愛おしさと独占欲が湧いてきた。

はやく彼女を味わいたい。早く彼女の顔を見るに耐えないほど蕩かしたいと心の底から欲が出てくる。

 

「はぁッ…♡はぁッ…♡はぁッ…♡!!」 

 

そして、そこからは自然と流れるようにお互いの体を求め合い貪った。

体の動かない私を馬乗りしているマドロックが腰を激しく打ち付けピストンをする。

釘を打つように強く、そして彼女が気持ちいいと満足するほど激しく。

動くたびに膣壁に擦られタコの触手のように一つ一つが動き出しているように感じた。熱く彼女の中をかき回すように肉棒の亀頭のカリはひたすらグチュグチュと膣壁をねちっこく掻いていたのであった。

 

パンッ…!パンッ…!というピストンするときに肌が強く触れて出る音だけが廃墟内で木霊している。

 

「好きだッ♡すき♡しゅき…♡あぁ"…♡」

 

その人間の理性あるセックスではなく獣のような交尾を十数分耐え忍び、射精しようと奥からせり上がってくる。言葉で会話はしない。

それを彼女はそれをいち早く気づき、膣、奥深くにある子宮口に押し当てる。急に当ててしまったため、勢いがついたまま子宮口にめりこんでしまうほど突き立ててしまい、彼女の口から日頃の様子では想像つかないほど野生的な吐息が漏れ出る。

 

「おっッ…♡」

 

そして子宮内に私は勢いよく射精した。

子宮口に0距離射撃。

ドクドクと始め出したときより長い時間の射精。

彼女を確実に孕ませると言わんばかりに押し当てた。

 

射精後、ようやく止まる。

そして、接合していた部分は外れ彼女は、そのまま後ろに倒れた。

見ると、汗ばんだ彼女の裸体と仰向けに息を整えようと肺が動き上下に動く乳房。

ヴァギナからは先程彼女を孕ませるために出した精液が溢れかえりドロっとでていた。

 

その様子を見た私は、優秀な種(雌)を屈服させた征服感と汚したことにより彼女を私のものにした独占欲で心の中は満たされていた。

 

そしてその満足感とともに私の一生は終えることとなった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

【You are dead.Please wait for another life.】

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――――――――――

マドロック視点

 

好き…好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き…!!

 

大好き…。愛してる…、アイシテル。

 

処理できないほどの脳内に快楽物質が流れ、気づいた頃には行為は終わっていた。

いつの間にか仰向けで天井を見上げていた。

下腹部に熱くて何かがあると違和感がある。

だが違和感を毛嫌いするはずなのにこれに関しては心からギュッ…と締め付けられる幸せが襲っている。これ以上の幸せは今までに味わったことがなかった。

はァ…はァ…と息を整えるために肺が上下に動く。

 

ふとドクターの方を見る。

彼は動かない。

 

彼の近寄り、手を握る。

目を開いたまま、彼は動かない。

 

キスをして驚かそうとする。

はじめから中身のない人形のように、彼は動かない。

 

彼の心臓に耳を当てる。

彼の鼓動は止まっていた。

 

体が一気にサァ…と血の気が引く感覚を覚えた。

 

分かっていたが事実を受け入れたくない。

目の前が曇って見えなくなる。

こすってもこすってもそれは治らない。

代わりに擦った手は濡れていた。

 

「あぁ"ぁ"…ぅう"…ぁぁ…」ポロポロ

 

私は泣いた。

彼の頬に涙が流れ落ちて、伝って落ちる。

瞬間、廃墟外でプロペラの空気をさく騒音が私の泣き声をかき消した。

 

このあとの記憶なんてない。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

数カ月後 ロドスアイランド医務室 

 

「あともう少ししたら出産する時期に入りますね」

 

と目の前の彼女は聴診器を片手に話す。

彼女はライン生命所属、そしてロドスの中で数少ない医療を任されている人物。見た目を一言で言うなら梟だ。オペレーターネーム通り静寂を好んでおり、よく元気のいい炎を操る少女と絡んでいる。

 

(バーベキュー少女はいないみたいだな)

 

そんな彼女は、私のお腹を心配して触診などしてもらっていた。

聴診器を外して、近くにある用紙にカリカリと何かを記入する。

 

そして、私の方に向き直り柔らかな笑みを浮かべながら私のお腹に手を当て

 

「ここまで大きく育つことは、感染者として奇跡です。殆どが流産や受精せず子供ができること自体、凄いことなのに…。きっとドクターが見守ってくれているのでしょう。」

 

そう話す彼女の目にハイライトがないのは分かっている。彼女もドクターのことが………。

 

いや、何も考えるな。そんなのここにいたロドスの仲間は皆彼のことを慕っていたんだ。

ただ、私が選ばれただけで彼女の立場は私もそうなる可能性だってあったんだ。

 

だから、何も考えるな。

 

「では、また次もおこしください。」

 

診断も終わって彼女は、退出を促す。

それに従って、医務室を出る。

自動ドアが閉まるその瞬間、小さくその言葉は聞こえた。

 

『本来なら私の子供なのに』と。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

ドクターの執務室前のロドスの通路にて

 

私はドクターの遺品が残った彼の執務室に行くのが日課になっている。しかし、その都度すれ違うオペレーターからは批難の目を向けられ、裏でコソコソと私に対して話していた。

 

『なんで…彼女なの…』

 

『私のドクターなのに』

 

『そのお腹の子供は、本来なら私の子供になるはずなのに…』

 

『ヤッて子供だけでも奪おうかしら…』

 

あの日を境にすべてが変わった。

信頼していたロドスのオペレーター達が私に嫌悪感を抱いて、話しても業務的な会話しか返してくれず。

日を追うごとに大きくなっていくお腹と彼女らの憎悪。

愛している人を奪われた嫉妬となぜ助けられなかったのかと責任を問う鋭い眼光は私の心を削っていった。

 

通路を抜けてドクターの執務室前に立つ。

自動ドアが開き中の様子がわかる。

そこには荒らされたように家具などは粉々、書類は地面に散らばっていた。壁紙はボロボロで剥がれそうな箇所がいくつかあった。

 

 

なぜこうなったかは、2ヶ月前。

アーミヤはドクターの後釜としてレユニオンの抗争のための指揮を任されるようになった。

しかし、彼女自身も多忙の身。すぐにボロが出るのは火を見るより明らかだった。

失敗と多くの犠牲、ロドスのオペレーター達はストライキを起こし、ドクターの執務室をアーミヤが使っていたためそのまま巻き込まれ、現状だ。

 

ドクターの意志を繋ぐ者とストライキをする者の派閥に分かれ、その時の暴動は収まったがアーミヤは心労と責任に耐えきれず体を壊し、今では精神も病んでドクターの幻覚を見て病室で独り会話している。

そんな様子ではついていく者も少なく今では多くのオペレーター達が辞めていった。殉職も然り、今では200人もいるのだろうか。

 

そんな場所で私はいつかの彼の執務作業姿を思い出して、心が折れないようにしているのだ。

 

「ドクター…」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロドスアイランド お手洗いにて

 

鏡の割れたお手洗いの洗面台に吐いてしまう。

つわりだろう。常に吐き気があり胃や胸のむかつきがとれない。

 

「お"ぇ…。んっ…ぶっ"ぇぇ…。」

 

嘔吐したソレを片付けるために蛇口をひねり水を出す。ついでに自分の顔を洗うために手に水をためてバシャッバシャッと洗う。

見上げたときに鏡に写った私は滴れた水と共に涙を流していた。

 

酷い顔をしており、少しクマができていた。

食事も上手く取れないせいかこけた頬。

限界に近い状態だった。

 

誰も頼れない環境で誰に寄りかかることもできない。

それがどれだけキツイことかあのときの私はわからなかった。

 

そして今涙を腕で拭いもう一度心に喝を入れるために言葉にする。

 

 

「守ってみせるから…ドクター…。」

 




どうでしたでしょうか。つわりマドロックすきぃ。ただの趣味で話をこじらせたなと少し後悔してます。8000文字超えだから、疲れた…。感想待ってます。またね。





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ニェンは駄弁りたい

ドクターの皆さん、こんにちは、黒縫です。
忙しすぎて投稿できてないのでマドロック編は待ってください。
今回は1'5周年記念としてハーフアニバーサリー限定話です。
イベント周回頑張ってくださいね。では、どうぞ。


「ん?ドクター?オメー、私の愚妹のイベントが開催されているから働いてないと思ってんのか?」

 

目の前にいるニェンは机に足を乗せ、私に話しかけてくる。

 

「開口一番にそんなメタイこと言うなよ、読者さんも困ってるでしょ。」

 

急な登場とともに悪気もなくメタイことを言う、すみません読者さん、本日はオフです。

イベント周回頑張ってください。

 

「おい、聞けよ、読者より私の話を聞け。なんだ?私より大事なのか?あ?」

 

少し機嫌が悪い、絡み方が酔っ払いのそれだ。

 

「話戻すぞ、じゃねぇと話が終わんねぇ…それでよ、あのラヴァに『ニェン、お前流石にだらけすぎるぞ、正式なオペレーターじゃないとしても多少は働いたらどうだ』と言われたんだ。」

 

ニェンははぁ…とため息をつきながら喋るが、正直ラヴァが言うのも無理ないと思う。

 

昨日はなにしてた…?

私は昨日のニェンの様子を思い浮かべる。

 

『おーい、ドクター飯食ったかー?』

 

『まだだけど?』

 

『なら、丁度いい。龍門市街で飯食いに行くぞ!ほら、早く準備しろ!』

 

『いや、今仕事ちゅ…わかった!わかったから!!そんなふうに掴まないでって!フード伸びるッ!!』

 

………。

 

『ニェン…これ辛い…。』

 

『当たり前だろ?人生には刺激が必要なんだ、食べてみりゃ慣れることだってある。残すんじゃないぞ』

 

『えぇぇ…』

 

『あと食事代、お前持ちな。財布忘れてきちまった。』

 

『はぁぁッ!?』

 

やばい、目の前のニェンを殴りたい。昨日の出来事ほとんど私がニェンのせいで酷い目にあっただけじゃんか。

 

「どうしたんだ、そんな睨みつけて。目が悪くなるぞ」

 

本当に悪気ない顔で言うから余計にムカつく。

 

「なんでもないよ…、で、働きたいの?」

 

「いんや、働きたいわけじゃねぇよ。ただよ、何かしないとな。一宿一飯の恩義と言うだろ?だから、ドクター何でもしてやる、言ってみろ。」

 

不敵な笑みを浮かべて、偉そうに腕を組んで言う。

 

「ちなみに、人に言えないことでもいいぞ。ほら、最近仕事でご無沙汰じゃねぇのか?この体でオメーを奉仕してもいいぞ?」

 

胸元をチラチラと見せてくる。

白い胸元は照明のおかげでよく見える。シミさえなく、初雪のように白いそれは、むしろ食事に関して不摂生な彼女とは想像できないほど美しかった。

 

「ちなみに今回は選択肢なんてもん、用意してねぇーぞ。常にあると思うなよ、読者さんよ。男なら黙って据え膳食わずして男じゃねぇよ。さっさと私を食いやがれってんだい。」

 

「だからメタイし、雰囲気ぶち壊すな!?」

 

「あ?私とお前の間に雰囲気なんているのか?雄と雌が交尾して終了だろ?ならこうでもしてほしいのか?」

 

そう言うと彼女は私のところまで来て、顔を掴み、キスをした。

 

んんんッッッッ!!??

 

口腔に舌を侵入し、細長い舌が私の喉奥まで届きそうな勢いで口の中を蹂躙する。

 

「んぷ…っちゅ…はむ…れろ…」

 

彼女の味は甘く、舌を絡ませてくる度に頭の中で彼女のことを強制的に意識させてくる。

 

そしてディープキスが終わると、

 

「口を開いてな」

 

舌同士を離して抜く。その瞬間、ニェンは自身の唾液を私の口に、幼い鳥が親鳥に餌をもらうように飲ませてくる。彼女の味、彼女の匂い。密接した状況だからか触れ合う箇所で普段女性のような特徴を見せない彼女の柔らかさまで分かってしまう。

 

「ふぅー…初めてしたが、コレはこれで乙なものよな。興奮を促す分には丁度いい。私まで胸の高まりが抑えきれなくなってしまうのは欠点だがな。」

 

「お、おいニェン…流石n…ッ!?」

 

ニェンは私の押し倒す。衝撃とともに驚きのせいで体を強く打ち付けてしまった。

ニェンは恍惚とした笑みで目を細くし、こちらを見下ろす。

 

「おい…ドクターここまでお膳立てしといてそれはないぞ…。せっかく理由づけてオメーに良い思いをさせてやろうとしてるのによ。」

 

ニェンは怒気を孕んだ口調で話し続ける。

 

「まず、私が誰にでも体を許すと思ってるのか?色々紛らわしいことしていると自覚しているが好きでもない下等生物にここまでするか?」

 

「………。」

 

「いいか?覚えとけ。私はお前と会った日から気に入ってんだ。少なくとも抱かれたいと思えるほどな。」

 

私はニェンの口を塞ぐ。

あぁ…女性にここまで言わせてしまうとは本当に私はヘタレ野郎だ。

 

「すまない…、これ以上は男としての尊厳に関わるよな。」

 

「おっ、ようやく乗ってくれたのか?ほら早くしろよ、読者も待ちくたびれてる。」

 

最後まで空気読めないやつだなと思いながら私はニェンの衣服の中に手を入れ、乳房を触る。

同時に乳首をつねったり引っ張り、乳輪のフチをなぞったりとニェンが喜ぶように触った。

 

「んっ…♡あ…♡ぁっ…♡たくっ♡初っ端、胸をしつこく弄りやがって♡」

 

ニェンは嬉しそうな顔で顔を赤く染め喘ぐ。

たまらなく彼女に対して湧き上がる感情が抱きしめろと急かす。

彼女は一瞬驚いた顔をするが不敵な笑みを浮かべ腕を後ろに回して強く抱きしめ返してくれた。

愛おしさが溢れ出る。

 

「ニェン、好きだ。」

 

行為をする前に最後の確認を取る。

 

「知ってるさ、私もだよ」

 

耳元で囁かれる言葉は甘く甘く甘美な響きだった。

 

 

 

 

 

 

「あ、放置している読者はもう帰っていいぞ。ここから先は私達の時間だ。」ニヤッ

 

 

 




嘘広告

「おい…ドクター…」

「どうしたんだ…ニェン…?」

ベットの上で彼女はドアの方を指差す。それも怯えた顔で。

「マズイことになったぞ」

視線をドアに向け、目を凝らす。誰かが立ってるように見えるが暗くて見えない。
しかし、私にはわかる。

あ、死んだ。と。

「ドクター…何故ニェンさんと致しているのですか…?」

アーミヤだ。怒気を孕んだ声で話す言葉は聞くだけで股下のソレが縮み上がる。

「明日からの勤務時間…13時間にしときますね…。」

ハイライトのない顔でドアを開け出ていく顔は阿修羅の如き雰囲気を纏っていた。

「あぁ…夢から覚めてくれ…」





お願い、死なないでドクター! あんたが今ここで倒れたら、ニェンさんやイベントの約束はどうなっちゃうの? ライフはまだ残ってる。これを耐えれば、アーミヤに勝てるんだから!

次回、「ドクター(過労)死す」。デュエルスタンバイ!




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シーは駄弁りたい

こんにちは黒縫です。今月最後の投稿って前回言ったがあれは嘘だ。すみません。
今回は少し話をするためにこの場を作りました。
あと私の誕生日ですのでそれも記念にね。
まぁ、それは後半話すので先に時間なくて構想練るのが少なかった駄文でもお読みください。ではどうぞ。


ロドスアイランド 通路の一角

 

ここの通路のある一角には、配置図にさえ描かれていない空間が存在する。

はじめから配置図に描く気がなかったから?

いいや、ここを設計するときにはそんな空間など存在してはない。そして今も存在してはいない。

 

存在すると存在しないの狭間。

 

不可侵の空間と行ってもいい。そしてそこには一人のクセ者が存在する。間違いなく彼女は存在する。

人との俗世を絶ち、ただ一つの『絵』で現世を否定する。しかし、紛れもなく現世を好んでいる。

陰と陽のように、白と黒。

二律背反しているが彼女らしい。

 

彼女は誰に聞いても変人だと答える。生まれ育ったときのことを知るニェンだって

 

『妹はな、変わり者さ。気難しい性格なんだ。ドクター、たまにでもいいから話の相手でもしてあげてくれねぇか?姉としちゃ、心配なんだよ。』

 

とまで彼女の立場を心配する。

 

まぁ、いい。そんなことは特にどうでもいいんだ。

長々と話したが、ニェンが私に言った通り彼女と話をしに来たんだ。単純にニェンから催促されたからとかそんな理由じゃない。

 

今から友人に会いにいくんだ。

彼女のために用意した手土産、お酒とアート美術雑誌は忘れてないか?

 

よし。

 

友人の家にチャイムを鳴らして遊びに上がるように、目の前の非現実的な扉のドアノブをひねってあがる。

そして、私はその空間の主にこう言う。

 

「お久しぶり、シー。」

 

扉を開けた先には大きな墨を垂らしたように黒い川と霞がかった山脈、そしてポツンと小さな舟があった。そこから水の波紋が広がり、その上で彼女は自前の筆で何かを描いていた。

 

そして、私のことに気づいたのかこちらの方に目線が合う。

 

「言ったでしょう、ノックしても返事がなければ入ってこないでって…。」

 

絶賛、彼女に嫌われていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

シーの幻覚の狭間

 

私は彼女の前で四つん這いで落ち込んでいた。

えっ…?だって入った瞬間、拒絶だよ?

今までそんなことなかったのに、確かに勝手に入ったのは悪いけどさ…。

私悲しい…。

 

「ほーら、ドクター。些細なことで落ち込むなんてメンタルがまた一段と弱くなったんじゃない?さっさと持ち直してくれないとこの部屋から追い出すわよ?」

 

そう喋る彼女は何もない場所に鼓楼のような小さな歴史を感じる建物を描き出す。描きながら私に目を向けさえせず、罵ってくる。

 

えっ…何か怒らせたのかな…。前回来たときは機嫌よくして帰らせてくれたのに。

 

「いや、めっちゃ辛辣じゃん。」

 

「あら?貴方、私との間仲でしょう。むしろ優しくしてるわよ。だって、私と長く会わない間に他の女にうつつを抜かしていたじゃない。」

 

「えぇぇ…、それが何で機嫌を損ねてんのさ。全く持って分からないんだけど…。」

 

「これだけ言っても分からないなんて本当、唐変木よね…」

 

なんで、ヤレヤレと言わんばかりの呆れ具合なの。

本当にわからない。

 

「とりあえず、ほら会話しに来たんでしょう?部屋ができたから、そこで話しましょう。持ってきたモノを頂きながらいつものように、ね。」

 

と、彼女はその建物の扉を開けながら後ろを振り向き私の顔を見て話しかけてくる。翡翠の目は私を捉え、その瞳は幻覚でできた偽物の陽光を反射して輝いている。私を虜にしようとしているのだろうか。

 

やっぱり、いつ見てもシーの目は綺麗だな。

 

そう思いながら、

 

「おう。今日は君が以前好きだって言っていたお酒も持ってきたんだ。一緒に呑もう。」

 

と私は返した。

目の前の彼女は流れるように扉を開けてその先に歩いていたが、横顔から僅かだが笑みがこぼれていた。

 

なんだ、別に嫌ってないんだな。

 

そう安堵した私は彼女の後を追いかけた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

シー視点

 

彼がいつもどおり、ノックせずに私の空間に入ってきた。

久しぶりの会合だ。突然のことで驚いたし動揺した。そして何より嬉しかった。

友人のように当たり前に、話しかけてくるやつなんて数少ない。私がそうするように無愛想で接しているせいでもあるが、彼にはそんなの効かない。

なんども突っぱねたが、私のほうが根負けしてしまうぐらいしつこかった。

ただ、何だかんだ絡んでくるこいつのことだけは気を許していた。

 

しかし、すぐに彼に対して怒りが湧く。

 

何で2ヶ月も私のことを放置していたの…?そんな仕事が忙しかったのかしら…。

どうせ、彼を好んでいる害虫共はたくさんいる。

それが私のところに訪れるのが遅くなった理由だろうか…。

 

…いつか…一掃してやろうかしら…。

 

 

……………………。

 

 

まぁ、いいわ。少し棘のある言い方をしたら落ち込んでるし、その可愛らしい顔を見れただけ許してあげましょう。

 

今は目の前で座って話してかけてくれている彼の話でも聞いて楽しみましょうか。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ドクター視点

 

私とシーは回転テーブルに手土産として持ってきた淡白な味付けの料理を並べてお酒を注ぎ、談笑しながら食事をしている。

 

勿論、彼女に合わせた味付けなので彼女の箸は止まらない。

モグモグと彼女が食べながら私が一方的に話して、それを相槌をうちながら微笑む。

先程の機嫌は良くなり、今は興に乗っているのか空いた片手で鯉の絵を宙で描き、幻想的な風景が広がる。あ、小自在いたんだ。

 

「そういえば、何で今日はここに来たのかしら?」

 

シーは食事している手を止めて、世間話を話すように何も気兼ねなくそう質問してきた。

そういえば、今日会いに来たのは普通に話に来ただけではなくもう一つ理由があったんだった。

 

「そうだった、実はさ。そろそろ私の誕生日なんだ。」

 

「ん?貴方記憶喪失なのに誕生日は覚えているのかしら。」

 

「いいや、記憶喪失前の資料で私の誕生日が書かれていてね。せっかくの行事だしお祝いしようとなってバースデーパーティーを開くことになったんだよ。」

 

彼女は、別に興味ないわと言う表情で

 

「へぇー。」

 

と言葉を出す。

 

そんなことだと分かってたいたが、仕方ない。

無理だと一か八かで誘いに来たが、断られるなと思い話を続ける。

 

「本当は誘いに来たんだけど、その様子じゃ興味ないよな。やっぱり、忘れてく「……いいわよ。別に。」

は?」

 

驚いた。自他ともに認めるほどの引きこもりを続けている彼女がここを離れて、ましてや人混みや顔見知りでも関わりを作ろうとしないのに。

 

「いいのか…?」

 

「だから、言ってるでしょ。別に出てもいいわよ。誕生日オメデトウ。」モグモグ

 

箸で目の前の刺し身を口に含み、咀嚼しながら棒読みで私の誕生日を祝ってくれてる。目線は下の皿に向けられていたが、出会った当初は会話ができる状態じゃなかったのに、今は祝われるほどの関係性を築けていたらしい。

それが、嬉しくて私は笑顔で喜んだ。

 

「そうだわ、一応誕生日祝いなんだし欲しいものはあるかしら?」

 

あの…他人の事など興味すら微塵もないシーが私のためにお祝いの品をくれる…?ここと同じで幻覚なのか…?もしかしたらシーに化けた小自在…!?

 

「シー、熱でもあるのか…?」

 

「何でそうなるのよ、貴方は私のことをどう思ってるのかしら」ハァ

 

「捻くれ才人」

 

「ジザイの餌にでもなりなさい。願い事はそれでいいわよね…?」

 

冷たい声音で眉をひそめゴミを見るような目で見てくる。

 

包み隠さず思ったことを言っただけなのに…()

 

とりあえず、すぐにケルシーとの喧嘩の際に身に着けた私のスキルと言ってもいい無敵の『土下座』を繰り広げたことによって難を逃れた。

効果時間は退場するまで継続。

私の勝ちだ。

 

「なんか今変なことを考えなかった…?」

 

ジト目でシーが睨んでくる。

 

「いいや、何も考えてないよ…。」ガブガブ

 

何で小自在は私の頭を噛んでくるのかな。

 

 

 

 

数時間後。

 

「そろそろ、戻るよ。久しぶりに話せて嬉しかった。」

 

「えぇ…分かったわ。バースデーパーティーには出席するからまたお会いしましょうね。」

 

「あぁ。」

 

シーは私に別れの言葉を言い、私は来たときの扉のドアノブに手をかける。

直後、世界は一変して現実に引き戻された。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

あれから数日後 誕生日会場にて

 

ドクター視点

 

今日は誕生日だ。資料内の情報だから当時の私が偽造していない限り合ってるはず。

 

目の前には様々な料理が取り置いてあり、目立つ場所には大きめのケーキが置いてある。一つだけではなく、人数が多いためその分複数作ってもらっていた。ガヤガヤと様々なオペレーター達が集い、仲の良いグループを作り喋っている。

 

すると、グムが私に近づき

 

「ドクター!お誕生日おめでとう〜!!腕によりをかけて作ったから食べてくれると嬉しいな!」

 

と目を細めて満面の笑顔で話しかけてくれる彼女。

その様子を見るだけで心がポカポカする。

そんな彼女の頭を右手で整えられた髪をボサボサにしないようにゆっくり髪の間をとかすように撫でる。

次は、身体にしがみついて頭を擦ってきた。

 

「グム、恥ずかしいよ。」

 

「もうちょっとだけこのままじゃだめ…?」

 

と上目遣いで言ってくるものだから断れず始まる直前までくっついてお話をしていた。

 

 

 

 

 

「それじゃあ、ドクター司会をお願いします。」

 

とアーミヤはマイクを渡して、ステージ上に案内する。壇上から見るオペレーター達は優しい顔をして祝福してくれる。シルバーアッシュとプラマニクスに関しては頭にコーンを乗せて手にはクラッカー。

後ろにドデカイ誕生日プレゼントのような箱があるのは違和感しかなくて、むしろ怖い。

なんで、そんなドヤ顔しているの。

 

「今日は集まってくれてありがとう。―――――――――。」

 

私は笑顔で皆に話しかける。静聴してくれてありがたい。いつも通り、皆が仲を深めてくれれば私の誕生日などどうでも良いのだが。

そんな心配は杞憂だった。

これから始まるパーティのため気の利いた事を最後に話そう。

 

「話は長くなったが、これから始まるパーティのためを楽しんでほしい。では、グラスを持って。」

 

皆が手元にジュースやお酒が入ったグラスを持ったことを確認して音頭をとる。

 

よし。

 

「では、かんぱぁ――――」

 

自分のグラスを上に掲げて言葉にしようと続ける。

しかし、次に出てきた言葉は私でさえ耳を疑う言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――【写意攻苦】」

 

 

 

 

 

そう言葉にした瞬間、目の前の会場内に小自在がたくさん現れた。あたり一面小自在とオペレーター達。数十匹いるであろうソレは、すぐさま近くのオペレーター達に襲い掛かる。

阿鼻叫喚の声。突如現れた小自在に反応できず多くの戦闘歴の短い奴は血を流して倒れていく。

 

「どうして…。」

 

グムはフライパンで小自在を投げ飛ばし、私の方に質問してくる。

それに対して、私は答える。

 

「どうしてって…私にも――――――」

 

どうしてこうなったんだ…?あの時なぜシーが戦闘中使う技を無意識に口に出していた…?

そして、なぜ小自在がここに大量発生している…?

 

 

分からない……、分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からないッ!!!

 

「分からない…ことはないでしょう?」ハッ…

 

勝手に口にする、無意識に…いいえ、これは私自身が思ったこと。

 

あぁ…そうだ、私は炎国の画家で巨匠。

ドクターのことを今宵なく愛している。

自分を画材にしてドクターに付き纏う蝿共を一掃するために、ドクターに化け自己催眠でこのパーティを台無しにしようとした…

 

私の名前はシー。彼以外を壊してやる。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

グム視点

 

周りは騒然としていたが、目の前のドクターを見て私は釘付けになった。

彼に、どうしてこんなことをしたのか問いただすために話したが彼自身もわからないような怯えた顔で言葉を出そうとしていた、はずだった。

 

急に彼は俯き、フラフラと後ろに。

そして、顔を上げたかと思いきや、その口角は上がりこちらを射殺すような目を見開いていた。

 

誰だ…!こんなの私が知ってるドクターじゃない…!

 

「あなたは…誰?!ドクターはどうしたの!!」

 

「誰だっていいじゃない…。私、今物凄く気分がいいの…。」

 

彼の顔がどんどん液状化して地面に落ちていく。

ゆっくりとドロドロに、衣服もすべて墨のような黒さの液状が落ちて足元には小さな水たまりができていた。

 

彼の額からは蒼角が飛び出し、髪は女性のような長さで腰まである。衣服は赤いネクタイと黒のジャケットを羽織、胸元は膨らみのある双丘が実っていた。

 

私はあまり関わりがないオペレーターの方は覚えていないことが多いが、彼女はロドス内でも異質な存在として噂されて知っていた。

 

「あなたは…、シー…さん…?なんで……、なんで!…ッ…ぁ…」ドンッ

 

私は頭の中で整理が追いつかないまま、彼女を、シーさんを問い詰める。

 

しかし、後ろから小自在が私の横腹を攻撃したせいか倒れてしまった。

霞む目は彼女の方を見る。

 

スタスタと歩いて、地面に撒き散らされたケーキを踏んづけて会場のドアに近づく様子がうつりこむ。

 

朦朧とする意識の中、

 

「私と彼以外は画の中の登場人物だから目障りなものはさっさと消えてなくなりなさい」

 

とだけ最後に聞こえた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

シー視点

 

うまくいったわ。これで、ドクターは私だけのモノになった。

誰にも邪魔されない、誰も私達に手も足も出ない。

これほど、愉快な気持ちは久しぶりだわ。

さっそく私とドクターの愛の巣に戻って愛し合いましょう。急にこんなことを話したら精神が壊れちゃうから、ゆっくり時間をかけて話して彼の心を折っていきましょう…。

 

そう考えながら彼が待つあの扉に急ぐ。

しかし、その道中、通路に一つの人影が見えた。

 

えぇ、わかっているわ…。

だって見慣れたアイツだもの。見間違えない。

腕を組んでそばには奇怪な武具が揃い構えてあった。近づくたび影が薄くなり、その姿が見える。

 

「よぉ…、愚妹ちゃんよ。」

 

「何…?愚姉貴?」

 

目の前の炎のように聳え立つ彼女は目のハイライトを消して、私を睨みながら話しかける。

 

「なんでこんなことをしたんだ?理由をお聞かせ願おうか」

 

ニェンは、怒っている。あたり一面…威圧感のせいか思い空気が流れていた。

しかし、私はそれに臆することなく、むしろ納得の言った表情で答える。

 

「わたしの邪魔になるようなゴミを処分しただけよ?何が悪いのかしら。」

 

「はぁぁ…、悪いって自覚あるんなら何で私の逆鱗に触れるのかね、愚妹ちゃんよ。もしかして、構ってほしいのか?私のことがそんなに好きなのか?ん?」

 

と煽ってくる。

 

「私が好きなのはドクターだけだわ。愛してる。」

 

そう煽りを無視して答える。するとニェンの眉はさらに険しくなり、彼女は作り笑いをした。

 

「はははッ!同感だ……。」

 

「…………。」

 

これ以上は時間の無駄だ。一刻も早く戻って彼に会いたいのに。

 

そこで私は、一触即発の空気に火蓋を落とすため合図が如く言葉にする。

 

 

 

「さっさと退け、愚姉ちゃん。」

 

 

 

「じゃぁ、私を倒せたらな。愚妹ちゃんよ。」

 

 

 




えっと、どうでしたか?まぁ、正直、感想欄に来ていたやつをパクっただけなんで、私的には面白い発想をつまんないものにしちゃったなと後悔してますね。

とりあえず、本題として感想ありがとうございます。
やっぱりある方がモチベ上がって書く意欲わきます。

それでなんですが、感想に前回の後編(r-18)のせいで対処されかねないので対応してくださいとの話が来ました。
しかし、活動報告でも話しましたが、少し手遅れで私自身決めかねれない状況ですのでpixivでアカウント作りそちらでも投稿しました。まぁ、避難用垢です。

ただ、個人的にはハーメルンの方を優先したいので差別化を図るため、pixivで投稿するのはルート選択ありの通常バージョンだけを上げることにしました。

そして、ハーメルン限定で『○○○は駄弁りたい』とのことで別編を制作し投稿することに決めました。別編はストーリーとは関係なく。
キャラ選択に関しても通常verと違い、感想で来るリクエストキャラを来た順で上げていこうと思います。
(例えば、前回はズィマーのリクエストが来たので次の駄弁りたいシリーズは『ズィマーは駄弁りたい』との題名で制作投稿します。)
通常と別編は同時制作なので通常を優先して執筆しますが、来たリクエストには答えていきますのでお待ちください。
以上で話したいことは終わりますね。

感想(キャラリクエスト)と評価よろしくおねがいします。

追記

『駄弁りたいシリーズ』は通常verとは違い選択肢はありません。キャラリクエストのみで構成し、来ない場合は駄弁りたいシリーズは投稿しませんしできません。ぜひ、皆様リクエストしてくださるとたすかります。




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ロスモンティスは駄弁りたい

こんにちは黒縫です。本当はマドロックかズィマーあげようとしましたがロスモンティス書きたくなっちゃった。

今回はヤンデレ…?なのかな。自分でも表現のなさで微妙です。
それと、通常√分岐の話はシーンに決定しました。
甘々にしてかくよ。
とりあえず、伝えたいことはあとがきに書きますのでまずはどうぞ。


半月に一度、ドクターはロドスアイランドに所属しているオペレーターや職員と面談をする機会が設けられる。

理由は単純、多くの種族,人種が集まる組織で指揮をするとなると始めからある程度の間柄を持たなければならない。

つまりはコミュニケーションをとり仲良くしてくれとのことだった。

これは、ロドスアイランドのCEOとして君臨しているアーミヤが独自の考えにて取り入れたらしい。

 

『ドクターは、ある一件から記憶喪失ですので、それでは指揮に滞りができます。なので、オペレーター方と面談してください。』

 

と実際言われたのだが、基本的に一週間あれば全オペレーター達と話す。むしろ、話しかけられることが多く、彼ら彼女らから好意を向けられているぐらい仲は良いと自負している。

 

はっきり言ってあってもなくても変わらないが、雑談しているだけでお金が発生するそうだ。

ありがたいことこの上ない。

 

まぁ、この話はおいといて。

 

私は今、面談室にてロスモンティスと対談しようとしていた。少し青みがかったような銀髪で、フェリーンの特徴でもある猫耳と尻尾。アーミヤのような重役が着る服装。小柄なため少しタボっとしている。

表情を作るのは苦手ではないらしいが感情の起伏はおとなしく、たまに見せる笑顔が素敵な女性では珍しいエリートオペレーターだ。

 

「ドクター?どうしたの?」スリスリ

 

彼女は、甘えた声で話しかけてくる。

 

「いいや、何でもないよ。ただ、今日も一段と甘えん坊だね。」ナデナデ

 

「にゃ…」スリスリ

 

ロスモンティスは面談前だというのに私のみぞおち付近で頭を擦りつけて甘えようとしている。

それは以前もされたことがあり、このときの対処法としては頭を撫でてあげて彼女が満足するまで待つ、それだけ。

ひたすら撫で続け、数分後。少し満足したように口角が上がっており、目元が柔らかい。

ようやく、話せる状態に落ち着いたので

 

「じゃあロスモンティス、面談しようか。」

 

「…うん。」

 

ロスモンティスは自身の椅子に座る。

少し大きいせいか足がプラプラしているようだが、本人が足を動かしてご機嫌だと動きで表しているので、そっとしておこう。

 

「最近、ロドス内で困ったり改善してほしいことはある?」

 

「ないよ。みんな、ロドスの人たちが困っていたら助けてくれるから、私は大丈夫。」

 

「よく仲良くしているオペレーターはいるのかな?」

 

「みんなとは仲良いよ…?その中でブレイズとグレースロートは一緒にショッピングにもいったよ。」

 

ロスモンティスはそのときのことを思い出しているのか目尻が優しく、自然と広角が上がっている。

彼女の耳もそれと感覚が繋がっているのかピクピクと動いている。

 

「ドクター…も、今度一緒にショッピングいきたいな。」

 

「本当かい?私もロスモンティスと一緒に行きたいよ。君が喜びそうな場所が龍門にあったからそこに連れて行こうかな。」

 

「にゃ。」

 

 

こうして、面談が始まり答えたことに対しまた質問して言葉のキャッチボールをする。

ロスモンティスは流暢に話をしてくれた。

クロージャがロドスアイランド近くに住処を作った猫に隠れて餌をあげているだとか、テンニンカがリーダーになったとき無い胸を張りながら、シルバーアッシュやヘラグに指示をして満足していたなど。

ロスモンティスが身近で起こったことを他愛もなく話してくれた。

 

「ケルシー先生はよく私に一口サイズのチョコをくれるんだ。それでお返しにアーミヤに手伝ってもらいながらチョコレートでケーキを作って――――――」

 

そうか…、私と似て記憶喪失なのに短いスパンでしてしまう。私より症状は重く辛いはず。しかし彼女は喜々として過去のことを話す。その姿は、まるで覚えていられることが嬉しいみたいに見えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロスモンティス視点

 

私はドクターから質問されたことを話し返す。

ドクターは笑顔で身の回りのことを聞いてくれる。

柔らかな微笑みは彼の人柄を表していて、私を覗き込む瞳は光で綺麗に輝く宝石のようだ。

 

私は、ドクターのことが好き。

なぜ好きになったのはわからない。

しかし、彼を見ていると胸が暖かくなる。

それだけでドクターへの想いが積み重なって愛として溢れ出るのは自然だった。

 

 

「そうなのか、私も―――――――――」

 

 

声が好き。私のことを安心させてくれるその声は、まるで太陽の光のように。

身振り手振りで教えてくれるその手が好き。

いつも甘えたら頭を撫でてくれて、その柔らかいのにゴツゴツした骨が出た手は父性を求めてしまうほど魅力的で。

 

彼と一緒にいたい。

 

近くにかけてある時計は、あと少しの時間しか面談できないよと告げてくる。

カチカチと時計の針は時間を進めていく。

 

もう少しだけ、あと少しだけドクターと一緒にいられるように甘えたらあなたは許してくれるのかな…?

 

きっと優しいドクターなら許してくれる。 

 

そういえば私以外の誰かと一緒にいる様子に心がモヤモヤと晴れない気持ちになったのはいつからだろう。

ブレイズがドクターに会話している最中スキンシップで抱きついたり肩に腕をのせて寄せたり。

アーミヤがドクターの隣で持たれかかりながらうたた寝しているときだって。

これがケルシー先生が言っていた『嫉妬』っていう感情なのかな。

 

けど、この『嫉妬』はドクターと一緒なら心地よくて。

好き…。大好き。抱きしめたい。

 

 

 

ドクター、あなたを―――――――――――――――………そういえば……ドクター…って…誰だっけ…?

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

ドクター視点

 

「そうだ。実はさ―――――」

 

ガタッ‼

 

ロスモンティスが勢いよく立ち上がり座っていた椅子がガタガタと彼女の後ろで倒れてしまう。

その様子に違和感を持った私はすぐに安否を確認した。

 

「大丈夫か…?ロスモンテi…」

 

「だ、だれ…?あれ…なんでわたしはここにいるの…!?」ガタガタ

 

目の前にいる彼女は酷く動揺し、体を小刻みに震えさせる。瞳は恐怖に染まっており、私以外にも面談室内をキョロキョロと目線を移動させていることから彼女は私に恐怖心を抱いているわけではなく、見知らぬ場所で、そして個室のような狭い場所にいるのが耐えきれないらしい。

 

私は急いで立ち上がって彼女を落ち着かせるべく、抱きしめた。

 

しかし、今思えばこれは悪手だった。

不安定な心を落ち着かせるのに、私のことが記憶にない時点で彼女から見れば私は不審者も同然。

そんなやつに抱きしめられて不快感しかなかったのだろう。

 

すぐに私の体を突っぱねて、自身の腕で体を抱きしめながらハァ…ハァ…っと息が荒くなっていた。

よく見ると彼女のアーツは精神と共に乱れていき暴走しようと面談室の家具や壁が小刻みに震えだしているではないか。

 

「大丈夫だからっ!!ゆっくり呼吸してくれ!」

 

ロスモンティスに先ず落ち着かせることを催促したが彼女は恐怖に身を任せ、叫んだ。

 

「あ…あぁ…っ…!!あぁ"あああ"あ''ッッ!!!!」

 

瞬間、彼女は青光するアーツを暴走させて意識を失って倒れ込む。目尻には涙をいっぱい抱え込んでいて目を閉じたときに溢れ出た。

そして、それと同時に建物は崩壊する。

私は無防備になった彼女を守るべく覆いかぶさって瓦礫が頭や体に直撃したとき意識を手放した。

 

 

 

 

次に意識が戻ったときは瓦礫の上でロスモンティスは空を見上げていたときだった。

その目には恐怖に滲んだものではなく、くぐもったような濁っていた。

こちらに気づいたらしく、彼女は駆け寄ってきて

 

「あなた…大丈夫…?痛くない…?」

 

ロスモンティスは先程起こったことを覚えていないかのように私に話しかけてくる。

 

「ロスモンティスこそ…怪我はしてないか…?」

 

「うん…、大丈夫…。それよりもあなたは大丈夫なの…?」

 

衣服には血だらけで腹部から異常な痛みが走る。

 

「あぁ"…っ……。」

 

「すぐに、医務室に運ぶからがんばってね。」

 

彼女は瓦礫の下敷きにいる私の上に乗っかかっている砕けたコンクリートブロックをアーツを使ってどかして、彼女の武器でもある大きなユニットを担架のようにその上に私を乗せた。 

彼女の頭上から見る彼女は、崩壊前の様子とは雰囲気から違う。

 

彼女は別人のように感じた。

 

 

意識は突然とだえる。

 

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ロドスアイランド  医務室にて

 

 

いつの間にか意識を失っていたらしい。

目を開けたときに映った景色は見覚えのある場所。

白を基調にした無機質な壁。体を上げると、最新の機械と透明な電子黒板に様々なカルテがみえる。

パソコン台に手術台、ここは医務室。

ロドス内で医療オペレーターが作業としてここで研究をおこなっている場所。

 

「こんにちは、ドクター。顔色から危険な病状がないと検知。腹部には穴が空いているため安静になさってくださいと報告。ご注意ください。」

 

すぐ横で聞こえた声は特徴的な話し方、透き通るような声音は彼女しかいない。

 

「あぁ、分かったよ…。フィリオプシス」

 

白髪でアフリカオオコノハズクのような耳と綺麗な橙色の瞳。腕にはライン生命のマークをつけている。

普段の彼女は眠っているか、その特徴的な機械のような話し方をするが時折冗談を交えるほどユニークな人材だ。

 

イッッ……。

 

動かそうとしたとき痛みが生じた。自分の体を見ると腕やお腹には包帯がグルグルと巻かれており、腕は骨折していたのか吊るされている。

 

いや、今はそんな事はどうでもいい。

知りたいことがあるんだ。

 

「なぁ、フィリオプシス。」

 

「はい、なんでしょう。」

 

「私を抱えてきていたロスモンティスはどうした…?」

 

フィリオプシスは、機械のようにフリーズした。

口を閉じてただひたすら一点を見ている彼女の瞳は無機質なビー玉のように、目の乾きすら感じていない。

 

数分経ったとき、彼女は口を開けて話す。

 

「……、ロスモンティスさんはドクターの事を認識、…否定。ドクターを用務員さんとおっしゃっていました。何があったかは分かりませんが記憶障害を発症。ここを出ていく際もなぜここに訪れたかを認識しておりませんでした。」

 

そうか。

 

「…………。」

 

「…フィリオプシスはスリープモードに移行。意識をシャットダウンします。」

 

「えっ…、えっっ…!?」

 

「では、おやすみなさい…グウ…zzzzz」

 

急に目を閉じて2秒もたたずにフィリオプシスは寝た。会話の途中だっため、驚きとまだ聞きたいことを聞けなくて残念な気持ちでいっぱいだった。

 

だが、幸せそうに…、いや、無表情だな。これは。

それでも、彼女を起こすのは気が引けたのでそっとしておいた。もしかしたらロスモンティスに対して折り合いがつけていないことに気づいて察してくれたのであろう。 

 

 

すやすやと寝息が聞こえてくる。

そして、医務室の窓からはロドス内の風景と青くて雲一つすらない晴天。陽光は眩しく入ってきた。

 

特に何もすることがない、いや、何もできないためその風景をみながらロスモンティスのことを思う。

 

彼女と似た境遇が私の心に仲間意識を勝手に植え付けていた。

しかし、それはとんだ勘違いで蓋を開ければすべてを飲みこんでしまうブラックホールのように記憶さえ飲み込まれた彼女に、私は激しく虚無感を覚える。

 

病状は和らぐか悪化するかの二択。

それが悪化して、たまたまこんなことが起きてしまっただけ。誰も悪くない、私も彼女も。

そう自分の心に折り合いをつけるため頭の中で反復したが

 

「……ロスモンティス。」

 

と心の端ではそれを否定しようと彼女の名前が無意識に出てしまった。

そして、同情心で彼女をどこかで同じだと思っていたことが今となっては罪悪感を生み出した。

 

「ごめんな。」

 

誰に謝るわけでもなく、私は自身の心を潰さぬために、守るために償いの言葉を吐くのだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロスモンティス視点

 

えっ…と、私はこれからどこに行かないと行けないんだっけ…。

 

頭が靄がかかったようにうまく思考が定まらない。

ただひたすら通路を歩き回っている。

いつかは目的の場所につくと信じて歩みを止めない。

 

確か…、いや、思い出せない。体は自然と動くのに…。

 

パトン

 

背後から何かが落ちた音が聞こえた。後ろを振り向く。すると、先程まで通った道に一冊の手帳があった。花柄を基調とした手帳にすぐそばには勿忘草の栞。

手帳には私の名前が拙い字とともに書いてあった。

つまり、これは私が落としたのだろうとわかり、拾い上げる。

落ちた拍子で手帳が開かれていてビッシリと上から下まで色の違うペンで書いたのか彩られていた。

私は気になってしまい手帳内をみてしまう。

 

 

色々と書いてある。アーミヤやケルシー先生のことも。

 

 

ページをめくる。だんだんと頭の中でボヤケていた感覚が消えていった。

鮮明に過去の記憶が頭の中で溢れ出る。

そして文章を書くためのページ最後に

 

『黒のフードをかぶった男の人がドクター。いつも撫でてくれて甘えたくなる、私の好きな人。』

 

と書いてある。

 

 

瞬間、心の中でジンワリと胸が暖かくなった。

頬が上気して熱くなる。恥ずかしさとなんとも言えないじれったい気持ちが心の中でかき混ぜられたような不思議な感覚。

 

「にゃ…///」

 

無意識に声が出てしまった。

 

ページをめくる、日課の予定表欄が出た。

○月 1、2、3、4―――――――と日にちが並んでブレイズとショッピングやテンニンカとお食事など書いてあった。

 

そして10/2、今日の予定表欄に『ドクターとお話』と書いてある。幸い場所も記入されており、私は先程までの歩いてきた道を引き返して目的の場所まで走り出す。

息が切れてハァ…ハァ…と肺は呼吸しようと荒くなるがそれでも関係ない。

 

『ドクター』に興味を惹かれてた。

『ドクター』という言葉でさえ気持ちが高ぶって愛しいと何故か思ってしまう。

 

私はその存在に会うために、確かめるためにその場所へ向かい足を止めない。

 

「待っててね。『ドクター』」

 

口にしたその言葉は虚空に消えていったが、私の心の想いは徐々に増えていった。

 

 




いかがでしたでしょうか。
ほんとうは、愛を忘れてもまた愛に執着するって言うやつしたかったのだけれど、私には文才はないのでごめんね。

次の投稿順は、マドロックA√→ズィマーは駄弁りたい→シーンA√です。もしかしたら今回みたいに急に変なの作るかもしれないけど。
章わけしたので、投稿されたのにアレ?ないな?っなったら日にち見て確認してください。

駄弁りたいシリーズ、リクエスト募集!
感想欄にキャラ名を言ってくだされば順番ごとで書きます。

※通常√分岐はアンケート調査
駄弁りたいシリーズは感想欄にてキャラ募集。

評価と感想おねがいします。最近感想見てニマニマして頑張ってるので。ではまた。


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マドロックは守りたい(A√前編)

こんちには、黒縫です。少し長くなりそうだったのでA√も前編後編分けさせてください。

章管理だるい!!!!!!!やめます!!!!



快晴の空、地面は陽光で輝き反射している。

あの決断(選択肢)から数十時間後、私とマドロックは西南の方角を目指しつつ、道中にあった水辺で水筒に水くみをしていた。

 

あのとき、マドロックは反対していたがその反対を言いくるめた。今では二人で向かっているが少しムスっとしている。

会話は普段通りしているが少しだけ不満を感じている様子だ。

 

あぁー…怒ってるのかな…。

 

「マドロック、大丈夫か?」

 

「……?何に対してなんだ…?」

 

本人はわかっていないような様子を装っているが、さっきビクってしていたよね?

 

「反対を押し切ってまで、あの廃墟を離れたこと。」

 

「…………。」

 

少しだけ眉をひそめた彼女は、また不満そうな顔をしている。

 

「………、そっちじゃない…。」ボソッ

 

「…ん?なにか言ったかな?」

 

正直、聞こえたが知らないふりをした。

それ以上深堀しても彼女の機嫌を損ねるか、ややこしくなって気まずくなるのがオチだろう。

話題を変えよう。

 

「なぁ、マドロック。西南の方角を目指して行ってるんだがロドス自体の方角はわからない。多分、確率的に見知らぬ町や土地に行き着くことが多いと思う。」

 

「あぁ…。」

 

マドロックは静かに私の話を聞いてくれて相槌を打つ。多分、これから話す内容は察しているのだろう。

 

「ブレイズやスカジ達は、もう諦めよう。少なくとも今は自分の命だけを優先しよう。だから、マドロック、君も私もお互いの命が危うくなったときには見捨ててくれ。」

 

「………。」コクッ

 

渋々頷いてくれているように見える。

 

「よし!じゃあ、また歩き出そう。水は十分か?」

 

「そうだな…、大体2、3日は持つ程度はある。」

 

満タンの給水筒を見せてくる彼女はまだ、頬の乾燥具合は酷くない。

これなら、生命活動に支障はないだろう。

鉱石病(オリパシー)研究で人体の構造や性質上の知識は頭の中にある。なので、人の表面上で健康的か見分けることだって可能だ。

マドロックの頬の乾燥は、遭難時以前より良くはないが、活動するのに危険だというところまではない。

マドロックが私を脱水症状から助けてくれたように、私も何かあった際、いざというとき助けれる手立ては考えておきたい。

 

―――――――――これ以上は無くさない為に。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

歩き始めて2時間後

 

 

真上にあった日は私達が日除けとして使っていたカバンを覗き見るように傾き陽光は差し込む。

依然として気温は下がらず、サウナのような暑さはあるものの乾燥した熱風。乾燥を防ぐように体からは脂汗が、特に額から流れ出てくる。

空気に接している肌からではなく、内側から水分を搾り取られる錯覚を覚えた。

 

暑さに気持ちが沈んでいるときに、側から砂漠の砂をかき分けるような地面を擦る音がこちらに近寄っていることを知る。

 

ガサッ…グッ…サザッ…!!

 

徐々に大きくなっていく音に、私は俯いていた顔を前方を確認するために上げる。

 

その瞬間私は、絶句する。

 

先程まで聞こえていたその音の正体とは、集団で行動するタイリクオオカミ。しかし、文献で見た姿ではない。推定だ。

なぜなら、タイリクオオカミにあるはずのない額に角。そして足が数本多い。歯も鋭く、犬歯が収まりきれていない。口元から私達を食い殺す気なのか涎が溢れて止まることを知らない。

 

 

観察すると体の所々に鉱石病患者にも見られた鉱石が腹部や首元に現れている。

考えるに鉱石病となったタイリクオオカミが繁栄した際に代々、その病を引き継いだ先天的な疾患による奇形種。鉱石病になっただけでこうなる事は先ずないため、徐々に蝕まわれていったのであろう。

 

そんな考察をしているときに、後ろから着いてきていたマドロックが、

 

「ドクター、その場から離れろッ!私の後ろに回れ…!!」

 

と大きな声を上げて片手に鎚が握りしめられており、彼女の表情は眉間にシワを寄せ、敵意が宿った目をしていた。

 

「大丈夫だ…。絶対にドクター、貴方だけは助ける。隙をつくるから、その瞬間を見計らって逃げてくれ。」

 

「マドロック…?!何を言って…!っ…!」

 

目の前の奇形種は12匹。2対12の戦況では分が悪い。

ましては、戦闘訓練など無い素人が一人。

せいぜい1~2匹程度倒せるか…、いや一匹仕留めるだけで苦労するはず。

そうなればマドロックに負担がかかる。

明らかに死ぬか生きるが重傷を負うことになる。

なのに、彼女は一人で解決しようと私のことを逃がすため自身より後方に行かせようとしていた。

 

 

……、舐めんなよ…。

 

 

心の中でそう呟く。

圧倒的な人数で勝ち誇っているような顔している犬コロ共も、無力だと決めつけ数時間前の誓った約束を破って私のことを助けようとして逃げれたはずのマドロックに腹が立つ。

 

「ふっ…ざけんな!」ザッ

 

頭に血が上り口調が荒くなる。

それに驚いたのかマドロックは後方にいた私を見るために振り返る。

瞬間、隙を作った彼女に一番前にいた狼は襲い掛かった。その場から彼女めがけて跳躍し乗りがかかろうとしていた。

 

私は、マドロックの側に行くまで全力疾走しつつカバンに以前Wから『もしものときにでも使いなさい。せいぜい死なないようにね。』と借りていたサバイバルナイフを引き抜いて、飛びかかろうとしていた狼の腹部に突きたてた。

 

 

キャインッ!!!

 

 

と大きな断末魔をあげる狼はその溜め込んでいた血を広大な砂漠にあたり一面、撒き散らしながらサバイバルナイフが刺さった状態でもがき苦しんでいる。

しかし、もがくことで突き刺さったナイフは皮を裂き臓器を傷つけながら深く深くにはいる。

 

ついには痙攣してゆっくりとその動きを止め、二度と動くことはなくなっていた。

 

「なにが…大丈夫だ…!!?約束さえ破ってまで私を助けようなんて舐めんな!!……なら、この際約束なんてどうだっていい!言うよ!!私は!君一人が犠牲になってまで生き延びたいわけじゃないんだよ!」

 

死骸からナイフを抜いて滴る血を空中できって飛ばす。

そして、彼女の方に目線をおくる。

 

「私は非力だけれど、それでも自分に降りかかる火の粉程度は始末できる。マドロックはマドロックだけのことを考えてくれればいいんだから、自己犠牲の精神を押し付けないでくれ。だって」

 

それを聞いている彼女は申し訳なさそうに目を伏せている。

 

そりゃぁ…きつく言ったからね。

でも後悔はない。マドロックの守ろうとした気持ちを踏みにじってまで否定しなければならない。

だって、

 

「私はマドロックと一緒にロドスに帰りたい」

 

から。

 

その言葉を聞いた彼女は顔を上げて目を見開いてこちらを見ている。少し瞳が潤っていて目元が光で反射しているのは見間違いだろうか。

いや、今はそんなことを考えてる暇はない。

周りを囲む犬コロは警戒しながら今か今かとその鋭い牙で襲いかかろうと躍起している。

 

あぁ、貧乏籤だ。強がったのはいいもののさっきみたいに油断しているところに刺せるほど相手は甘くない。

 

だけど――――勝って二人で戻るんだ。

 

「マドロック、いくぞ!」バッ

 

「……ッ…、……あぁッ!!」

 

一斉に動く。奇形種も、同時に。

勝機は限りなく少なくて打開できる考えだって、今もこう走り出しているときだって考えてる。

勝てる見込みなんてすくない。

犬はその噛めば何でも引きちぎりそうな強靭な顎を開きながら突進してきた。

 

「うおオォぉ"ぉ"ぁぁ"ッッ!!!」

 

頭の中がハイになりながら雄叫びをあげる。

そのとき近くでザッザッザッと足音が聞こえるが私は気に求めなかった。

しかし、その足音とチェンソーのエンジン音は懐かしく聞き覚えのある音だった。

 

 

 

「いいね!ドクター!さいっこうッッにッッ!!ハイッってやつだよ!!」ヴォンヴォン

 

 

直後飛びかかってきた犬は激しく血を撒き散らしながら目の前で切断されて、禍々しくも無機質なその大きな得物が私の視界をふせぐ。顔には先程までなかった生暖かい血がついてしまった。

しかし、それに気を止めず、その声の正体に釘付けになった。

 

「戦うなら私も頭数に入れといてよね、ドクター。」ニッ

 

笑顔で片手にはその図体に似合わないチェンソーを持ちながらこちらにダブルピースをしてくるそいつは

 

「ブレイズッ!?」

 

「うん、私はブレイズ…。ロドスのオペレーターだよ。」

 

ブレイズはすぐに体を私に近づけて周りに警戒するために身構える。

だが、私は驚きとブレイズ自身の異様な熱で思考が定まらない。 

 

彼女は、普段来ている服を破れたのか上半身は胸元以外ビリビリに破れかけている。

 

何で此処にいるのか…いや、ブレイズの破れている服装はなんだ…!?熱を帯びていて、このままだと彼女のキャパオーバーに達するんじゃないのか…?!

 

「なぁ!ブレイズ、その熱はどうしたんだ!?このままだと自身の神経が焼ききれて死ぬぞ!」

 

「あぁー、これはまぁ追々後で話すからさ。手持ちに水とかないかな!クールダウンしないとちょっと不味いかも。」 

 

 

私はすぐにカバンに汲んでいた水を彼女に渡す。

すると、彼女は蓋を口で器用に開けなかの水を頭から勢いよく被った。

バシャバシャと彼女の艷やかで綺麗な髪の間を水が抜けていき額からは頬、口近くまで滴り落ちる。

体は濡れているが、すぐに蒸気のなって空中に消え乾く。ジュゥ…と蒸発する音が聞こえてきたことにより彼女が抱えている熱がどれだけのものだったのかを想像するに容易かった。

 

「はぁぁ…、あとちょっとは持ちそうだね。じゃあ、片っ端から倒そうか。」

 

「ま、待ってくれ。スカジはどうしたんだ…。」

 

「ん?スカジなら、もうほら、後ろでマドロックの助太刀に来てるよ。」クイックイッ

 

後ろを親指で指している。私は首だけを動かしチラッと見ると、後ろでは閃光のように鋭く異次元の速さで多くの首を跳ね飛ばしているバウンティハンターがそこに居た。緩急をつけた足捌きと下段からの一閃はまるで舞踊のように美しく見えた。

私の視線に気がついたのか、スカジは私を見て

 

「深海の舞をお見せしましょう、ドクター。」

 

とだけ言葉にし、すぐさままた近くの犬の首を飛ばしていた。犬はマズいと思ったのか仲間呼ぶための遠吠えをする。

このままではもっと多くの奇形種が来てしまう。

だけれど、何故かこの二人が来たことで恐怖や焦りは消えていた。

 

隣から肩を軽い衝撃がくる。ブレイズが

 

「ほら!早くしないとスカジに獲物全部取られちゃうでしょ!私達も行かなきゃ!!」

 

そう私に対して喋るとブレイズはすぐさま犬に向かって走り出してその自慢のチェンソーで真っ二つにする。彼女は高揚しているのか

 

「私が振り撒く血で、大盛り上がり間違いなし!」

 

とだけ叫んで周りの犬を蹂躙していくのであった。

 

 

 

 

 




続きます。
投稿は来週のどこかで。

追記 やはり投稿からお気に入り登録者数が減ったのでメンタルブレイクされました。しばらく、投稿しません。_(┐「ε:)_

感想と評価をお待ちしております。ではまた。

『駄弁りたいシリーズ』のキャラリクエスト募集中。
感想欄にてキャラ名を言ってくだされば順番ごとに書かせていただきます。
(短編、分岐なしのストーリー構成です)


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マドロックは守りたい(A√後編)完結

黒縫です。マドロック編完結です。
マドロックに関してはもう救われる未来が見えないんですよね。
なので、静かにお別れをです。


私は瞬きをする。 

 

1でスカジの剣が奇形種の体毛が生えている身体に食い込み、そのまま極東にある豆腐のようにいとも容易く真っ二つになる。

それに気づかないのか斬られた胴と泣き別れ状態の犬の叫び声が地面に広がった直後でも聞こえてくる。

 

2はブレイズのチェンソーが轟音と彼女の熱を巻き込みながら奇形種の脳天に触れる。触れたそばから皮膚をその刺々しい刃先に絡んで骨ごとグシャと音を出す。

そのまま一直線、内臓と体の表面が裏返りそうな目も当てられないほどの死骸が完成していた。

 

3になるころにはマドロックの手に持った鎚が奇形種の胴体を捉え振りかざす。空中で飛躍し攻撃を仕掛けた犬はまだ幸運で、一発で脳震盪を起こしているのか地面に倒れたときには痙攣し数秒後に動きが止まる。

しかし、彼女が犬に対して地面ごと鎚を振りかぶったとき、大きな粉塵音が周りを響かせる。

地面と鎚の間にいた犬は潰され骨も抵抗なく触れている部分が見事陥没していた。

 

 

 

それが3回、瞬きをした間の話。

私は奇形種の相手することさえなく、その地獄の拷問のような悲惨な光景を見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

後のことは容易に想像つくように、一言で『蹂躙』という言葉が似合うほど広大な砂漠に死骸の山が出来ていた。

隣で立ち尽くす返り血でその身を真っ赤に染めたブレイズは、まるでスポットライトを浴びるスターのように妖しい雰囲気を身にまとっている。

 

「あはは、楽しい一時だったね。」バシャバシャ

 

戦闘狂のブレイズは私達の飲水をまた頭から被り血を流している。まだ熱が籠もっているのかシューシューと彼女に触れた水は蒸気となっている。

 

「先走りすぎよ。ドクター、彼女は2日もこの状態で戦闘していたのよ。私ですらドン引きしてしまうほど。」

 

バウンティハンターとして怪異的な生き物を始末することは慣れている様子のスカジは返り血は少なく、軽く手のひらに水を出して顔を洗っていた。

 

「2日もか?…今までどこにいたんだ…?」

 

私はスカジが喋ったことに疑問を感じて問いかける。

ブレイズがゆっくりと口を開いてはなしてくれた。

 

「実はね――――――――――――――」

 

 

彼女が話したことはこうだ。

あのときの天災により遭難してしまったスカジとブレイズ達もまた広大な砂漠に居たらしくそこからはロドスに戻るために、バウンティハンター時代のスカジが以前通ったことのある土地だったため、土地勘を働かせ歩き進めていたという。

 

目的のロドスには到着することはでき、私とマドロックの捜索のために部隊を作り、今もここ以外でドローンを駆使しながら私を探しているとのこと。

しかし、何故ブレイズ達は一足先に私達の居場所に気づき発見できたのかという疑問が残る。

それをまた問いかけると

 

「「愛の力」」

 

と二人が意味不明なことを言ったので隣にいたマドロックから私はどつかれた。

 

痛い…、何で叩くの…。

 

「なんて冗談で、スカジが君たちの居そうな場所をピックアップしたんだよ。ここには砂漠なのに湖があったでしょ?少なくとも生存率が高い場所から探せば君達が流れ着いてると読んでいたんだ。」

 

「なるほど…。」 

 

 

「そうと決めたらブレイズは単独行動したのよ。私は発案者だったから彼女についてきたのだけれど、それまでの道中に、この土地特有の生体がいたの。」

 

この土地特有ってことは鉱石病感染体だろうか。

普通の個体種より身体能力が異常に段違いの奇形種。

 

「ここの砂漠には一部地域に鉱石が粉末状になって霧散している場所があるのよ。そこを通った生き物は例外なく鉱石病となる。」

 

私は納得した。確かに自発的に鉱石のある場所に行こうとする生物はいない。しかし、大気中に鉱石病が空気感染するとしたら?それは避けようがない。

 

「道中、私とブレイズはその奇形種と2日間戦い続けたわ。」

 

「私は早くドクターに会いたい一心で戦っていたんだけどね。ちょっと邪魔が多くてさ。久しぶりに頑張ったんだよ。」

 

そう気恥ずかしいことを淡々と語るブレイズの瞳にハイライトは灯っておらず、覗けば引き込まれそうなほど錯覚してしまいそうだった。

私はそれを気づかないふりをして会話を続ける。

 

「ありがとうね、助かったよ。」

 

「んー、私としては感謝は言葉だけじゃなくて行動で表して欲しいんだけどな〜。ね?」チラッ

 

ブレイズは依然として、その瞳で私を見る。体を私の胸元に押し付けてフェリーン族特有の耳が顔に当たるほど近づいてソワソワとしている。

私は、彼女のしてほしいことがわかってしまったのでその髪を優しく指を通しながら撫でる。

すると

 

「ぅぁ…///」

 

と普段出さない艶っぽい声を目を細めながら言ってくるものだから私は恥ずかしさと労うためだと自制心を強くして必死に撫でる手を止めないようにした。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

マドロック視点

 

目の前でドクターがブレイズに労いのために頭を撫でている。恍惚とした表情をしているブレイズのよそで、スカジは恨みがましく眉をひそめている。

多分、私も彼女と同様に酷い顔をしているだろう。

 

だって、今、物凄く怒りがこみ上げてきているのだから。

 

彼女を撫でているドクターを見ると奪われた喪失感と満更でもなさそうな表情に憤り、早く私のもとに手に入れなきゃと焦燥感が心で混濁している。

嫉妬心だと自身でもわかっているのだが、それを自分で止めることなんてできない。

ふと、ブレイズがこちらを見て勝ち誇ったような顔を浮かべた。ふっ…と鼻で笑うように私達を嘲るように。

正直、目の前にいるブレイズの首を絞めてやりたいぐらい憎らしく、何より羨ましかった。

 

なぜって…そこは…、私の場所なんだから。

 

でもドクターが見ているところじゃ何もできない。

身内喧嘩をしたとなるとドクターは悲しむだろう。

常にオペレーターの皆のことを考えているぐらいだ、サリアとサイレンスが喧嘩しているときだってあの炎の少女と一緒にオロオロして喧嘩を止めに行っていたことだって知ってる。

仲の悪いチェンとスワイヤーを取り持っているホシグマの負担を減らすためにできるだけドクターが当たって砕けてる場面を何度も見てきたことか。

 

優しいドクターを失望させたくない、それは隣にいたスカジも同じで、それを分かって意図的に煽るブレイズはほくそ笑んでいる。

 

私はただ、その様子を恨みが増しく見ていることしかできなかった。

気づいた頃には上空からヘリのプロペラ音が風圧とともに私達の耳元を煩く響かせていた。

 

『ドクター!ご無事ですか!?』

 

ロドスのCEOはその長い耳と体をドアを乗り出しながら彼のみを案じている。

 

その後のことは目を瞑り、開いたときには懐かしい場所へと帰り着いていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ブレイズ視点

 

「ぅぁ…///」

 

ドクターの大きくゴツゴツとした手が私の頭に触れる。彼の撫で方は手櫛のように指の腹の部分で髪を解くように優しく撫でる。

温かくて硬いのかと思いきや柔らかくて触れているだけで心の奥底でポカポカと全身が戦闘中の発火作用より熱くなった。

少し体に力が抜けて彼に持たれかかり触れてる面だけジンワリと汗ばんで股下も湿っているのかキュンキュンする。

お酒より血に酔ってしまうこの私が、彼に酔ってしまっているようだ。

けれど、この感覚は嫌ではなくむしろ気持ちが良い。蕩けてしまうほど意識が段々酩酊状態のボヤケていくように。

だが、そんな状態もすぐに収まった。

なぜか?それは隣から殺意を持った視線で見てくる下賤な奴らに不快感を抱いたから。

 

あぁ…、そういえば…。

 

ふと近くの殺意丸出しの2つの気配に意識を向ける。眉をひそめてこちらを睨むドクターの鬱陶しい蝿のような存在。

彼女達は私が今されている行為に羨望の目で見てきて滑稽に思えた。

 

「ふっ…」

 

と彼女らに優越感に浸っていたところを邪魔された仕返しとして煽るように鼻で笑う。

また一段と眉をひそめて片手には各自得物を強く握りしめてその手のひらから血管が浮かんでいた。

私は手も出せない彼女らを尻目に彼の胸元で頬ずりをする。

これは私がフェリーンとしてのせいなのか分からないけど無性に撫でられている際、彼の温度に触れたくなった。あとマーキング。

私だけのもの、それを他のメス共から差別化するために私の匂いをつける。

 

よし…、これでしばらくは他のメスに牽制できるね。

 

幸せな時間が数分程度たったとき、天空からプロペラが空気を裂く音が聞こえた。

見てみるとロドスの子猫ちゃんが『ドクター!ご無事ですか!?』と私のモノに心配の言葉を投げかけながらその半身を乗り出してヘリが着陸するために操縦者に誘導している。

アーミヤがドクターの方を見たとき私もチラッと横目で見たと思うんだけど、一瞬ハイライトが聞こえたのは瞳にうつった光の反射のせいだったのか。

 

やっぱり、ドクターの周りには敵が多くて困るね…。

 

と私は救助されるまでの間、彼にしがみついていた。勿論、彼女達に取られないために。

 

でも…例えアーミヤでも負けないから…ね?

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ロドスアイランド 帰還から数日後

 

ドクター視点

 

あの日、帰還できた夜にケルシーから説教を食らった。まぁ、ロドスの幹部である自分が任務中に死にかけているんだ。顔が立たないんだろう。

それを察して口にしたら、もっと怒られてそれを知ったアーミヤも涙しながら怒っていたのは何故だろうか…。

 

その後も色んなオペレーター達に心配して涙を流していた仲間も、無言で横腹を殴ってくる子もいた。

ケオベに関しては上半身にしがみつかれて2時間ずっと離れなかったのは苦労した。

ヴァルカンが迎えに来て剥がそうとしたけど

 

「おいら、ドクターとお仕事するもん!」

 

とイヤイヤ期の子供みたいにただこねていたなぁ…。ラヴァが持ってきた蜂蜜クッキーにつられて帰ったのは良かったけど。

 

案外自分が思っている以上に大事に思われていたらしい。毎日のようにオペレーター達が私の休憩時間に顔を出してお茶会を開いたりラップはミルフィーユやエクシアはアップルパイ、テキサスはチョコレート菓子を持ってきて食べさせてくれる。

 

「ドクター?少しお時間あるかしら?」

 

先程、パフューマーが観葉植物を持ってきてくれて少し会話した後持ち場に帰っていった。

今日は秘書もつけずオープンな状態にしていたので一人になったのが久しぶりに感じた。

 

ふと、物音さえしない執務室に忙しくて追い返す暇もなかった、あの壮絶な数日を思い返す。

死にかけたあのとき、マドロックを叱責したとき。

恐怖で足がすくみそうになったとき。

 

今はそんなことを感じさせるものは一切ない。

 

そんな何もない日々が心を溶かすように、安心感でいっぱいになる。

たまらず、目が熱くなって涙がこぼれていた。

 

「うっ"…あ"ぁぁ…」

 

嗚咽が執務室に木霊する。

大人としては情けないが、本当に助かって良かった。ひたすら、無事なことに感謝した。

マドロック、ブレイズ、スカジ。

大事なモノを失わずに済んだ。

失うことに慣れなくてよかった。

 

二人を諦めたときのことを今だに後悔はしている。

すまないって思う。

あのときの私には最善はそれで、生き残るためには、心労を減らすにはそうするしかなかった。

 

そんな罪悪感が心を蝕む。けれど、今この気持ちを投げ捨てることはできない。

優柔不断な私への罰として甘んじて受け止めるしかないのだから。

 

その後も私は泣き続けた、気持ちが落ち着くまで。

他のオペレーター達が来るそのときまで。

 

何よりその罪悪感を薄れさせるために。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

マドロック視点

 

私はドクターの執務室前で彼の嗚咽声を聞いた。

扉の奥から彼の悲痛に満ちた声が私の心を抉っている。帰還してドクターとは病室の関係で会うことはなかった。

ここ数日は他のオペレーターが常に居たから、今一人になったことをチャンスだと思って訪れたのにこんな状態では入れやしない。

いや、入ろうとは出来ないだろう。

彼の声が私の足を止めた。

生きていることに安堵している彼に、泣かせた原因を作ってしまったのは私だと思ったからだ。

 

私は、あの壮絶な数日間のうちに他のオペレーターに邪魔されたくない一心で彼に選択を迫った。

もし、それがなかったなら?

もし、その後の結末が酷いものだったなら?

考えても私は自身を攻めるしかない。

 

あのときの私はどうかしていた。

彼を非力だと勝手に決めつけて、自己犠牲の精神でドクターに返せない借りを作らせようとしていたんだ。

彼が思い悩んでいたときのことを思い出す。

あの混濁した瞳、額からは汗と苦しいのか胸を自分で締め付けて顔色は暗かった。

 

あぁ…。

 

そのとき、わかってしまった。

私の無自覚が彼の辛さになってしまっていたことに。

 

気づいていた頃には、彼の執務室の扉の前から離れて、コツコツと足音が廊下に響き渡る。

疚しさを引きずる力が足を進ませて彼から遠くへ行こうとする。

その行動を止める気もなかった。

 

『自己犠牲の精神を押し付けないでくれ。』

 

あのときの言葉が頭の中で蘇る。

 

もう、彼は私が守るべき存在ではない。

間違っても守るなんて思うな。

これ以上、彼の価値を私の中で下げるな。

 

でも…それでも…。

 

私は瞳からポロポロと涙が溢れ出て、それを拭うために目を擦る。

 

  

 

私は『ドクターを守りたかった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数カ月後

 

その後、マドロックの所在はわからない。

彼女の行方がわからなくなったその日の執務室近くの廊下には大粒の雫が所々落ちていたらしい。

今になっては彼女のことを触れるオペレーターもいなくなった。

私は一人、執務作業が終わった後。

トランシーバーを繋げて、そこに向けて言葉を投げかける。

 

このトランシーバーは彼女と遭難した際にバックに入れていたものだ。

まぁ…、使っているところなんて見たことないんだが。

しかし、試せずに入れなかった。

 

なぜ?それは最近、ロドスがレユニオンと敵対したとき部隊の助太刀に、サルカズの特徴の角と大きな鎚を握りしめていた人影が確認できたらしい。

 

間違いなく彼女は生きている。側にいる。

 

それが私の希望として毎日、このトランシーバーで話しかけている原動力になっている。無線音が響き。

 

 

『応答してくれ。』

 

『今君は何をしているの?何処に居るの?』

 

『君はまだ覚えているかい?』

 

『君に想うのも裏切られるのも私は大丈夫さ』

 

『だから、帰っておいで。』

 

『帰る場所は此処にあるから』

 

『………………。』

 

『応答してくれよ……、頼む。』

 

『もうこんな虚しい気持ちからお別れをさせてくれよ』

 

『「―――――――――――――――――」』

 

『…!………あぁ………。』

 

『私も、そちら側に行くよ。』

 

 




どうでしたか?最後に応答した相手は誰だったのか、どんなことを言われたのか。それはご想像におまかせします。

次回からのことは活動報告で話していますのでそちらを。 
ちなみにシーン編が、少し重たくなりそうなんですやよね。
あとレンズとドクターだけの場面が多くて肝心のシーンが無言でドクターに甘えてるみたいな、そんな感じ。まぁ、楽しみにしてて。

ここからは雑談です。

アークナイツの他の二次創作を最近見始め、やっぱり私のような心情とか描写を大事にしたいってセリフより多く入れちゃうのは珍しくて自信なくします。
そちらが人気あったり文字数は少ないと思うけどわかりやすかったり。どうも凹みますね。やはり文才はない。
まぁ、そこは作者お得意の自嘲癖が出たよと流してください。

話は戻しますがその二次創作でもドクターが悪役の二次創作にどうも心が痛くて読めないんですよね。面白いんだとは思うんだけど、そこは私も書いてみよう~って軽く執筆して萎えちゃいますね。今度、心が持つときには書いてみようと思います。

駄弁りたいシリーズのキャラリクエスト募集中。

あと評価ありがとうございます。なんか、評価貰うときって相手の初めてをもらったときの嬉しさがある。

感想や評価待っています。励みになります。


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シーンは焦がれたい プロローグ

こんばんは、黒縫です。
すみません、アンケート調査を取りたいのとシーン編を作るにあたって目標立てをしようかなと思いましたのでこれを投稿しました。
シーン編完結までにUA50000、お気に入り登録300 評価10を獲得 あとお話できる読者さん2人獲得!!

そろそろイベント始まるのでイベ周回の合間にかければと思っています。個人的にはコミュニティがほしいので…、お話できる人がほしいな…。

まぁ、頑張ってみます。プロローグですので短いですがどうぞ。



『シーンお嬢様は常に独りでした。』

 

私の目の前でそう語る彼女の側付き機械『レンズ』は流暢にそして言葉に重みを乗せながら話す。

無機質な声は透き通るような女性の声、シーンの声と波長が同じなのか、もし彼女が饒舌に話せたとしたらこうなるだろう。

 

だから目の前で話すそのレンズが彼女と重なるのは私だけなのだろうかは…、まぁこの際どうでもいいな。

 

彼女が独りとは…?レンズの言葉が頭の中で反復され最悪の結果を思いつく。

 

『いえ、ドクター様が思い描くより酷い環境ではありません。ご家族には愛されており、その華奢な身を預けれる存在はいたのです。』

 

でも今は…。

 

『はい、ここロドスに預けられた今は連絡さえ来ておりません。サルゴンの内部事情で仕方ないとシーンお嬢様も割り切っておられます。私がこれ以上言及することは許可されておりませんので話せませんが。』

 

…………。

 

言葉がでない。

 

『ここでいう独りとはシーンお嬢様を取り囲んでいたご友人関係なのです。私が認識している分は酷いと感じるものでした。』

 

何かあったのか…?

 

『シーンお嬢様が話すことが苦手なのはご存知ですね?』

 

あぁ…。

 

『その会話ができないということをシーンお嬢様を毛嫌いしていた人達が異質な存在と感じ始めたようで、いつの間にかシーンお嬢様の周りから人が消え嘲笑の声が聞こえてくるまでになったのです。』

 

レンズのフレームが私の顔を反射して映し出す。

無機質なその機械に感情はあるのだろうか、はたして今の私のように酷い顔をしているのだろうか。

 

『しかし、それでもシーンお嬢様は折れることはありませんでした。心が強かった、いえむしろご学友に関心がなかったのです。お嬢様の全ては【撮影】という景色を時間をその一コマに収めることに収束しておりました。』

 

それならなぜ、今その話を私に対して教えてくれるんだ…?

 

そうだ、別に彼女自身が幸せで、当時、対処できなくても今があるのならシーン自身も割りきっているのでは…。

 

『そうです、ここからが本題なのです。その【撮影】に全てを賭けてきたお嬢様が最近、ドクター様のことが気になっているご様子で。』

 

私のことが?

 

『はい、側にいる身としてシーンお嬢様の変化にはいち早く気づけます。話は戻りますが、その興味を持つことに悪いとは言えません、しかしドクター様がシーンお嬢様を拒絶した場合、心が枯れ枝のように折れてしまうかもしれないのです。』

 

いや…でもさっきは『心が強かった』って。

 

『それは、シーンお嬢様の興味がないものに対しての扱いの差です。関心のない方々の誹謗中傷など興味に値しなかっただけですよ。ですが、意中のドクター様に嫌われたとしたら…、今までそういったことがなかったシーンお嬢様にはとても耐えられないと思います。』

 

少し心の端でチクリと痛む。

[当時対処できなくても今があるのなら]先程考えていたこの言葉が、私の程度の低さを表していて恥ずかしく思った。

 

じゃぁ、何だ…?対処できないからと状況に甘んじたことが、学友らにイジメを受けていたことが、感情の脆さを引き起こす原因となっていたと?

そしてそれをそのままで良いと軽く見ていた、私は…最低だ。

 

…どうすれば…。

 

『なので、レンズからのお願いです!どうかシーンお嬢様のお願い事はできるだけ叶えてくださいませんか?全部とは言いません。ただ、甘やかしてあげてほしいのです。今までそんなことができなかったお嬢様に、せめてここロドスが心の拠り所になるように…。』

 

……………。

 

『駄目ですか…?』

 

いいや、いいよ。それが私の仕事だから。

任せてよ。

 

 

 

 

これが、シーンの側付き兼機械ロボット『レンズ』とのサシでの会話。

至って、主人にお使いしている健気な願いだと承諾したが、私は事態を軽く見ていたらしい。

 

とてもじゃないが、棘のない花ほど危険である。

見えている危険に近づこうとするヤツなんていないだろう?

潜在的に、今か今かと狙い済ませてテリトリーに入ったとき寝首を欠くような息を潜めている奴が恐ろしいのである。

 

「……ド……クタぁ……、すき…………。」

 

しかし、今じゃそう思うのも遅い。

目の前にいる壊れたシーンを見て思う。

彼女はストロボのように儚く一瞬の光だったと。

 

 

 

 

 

 

 

 

物語は加速する。

 

 




どうでしたか?ズィマー短編を書かなきゃカンガルーかゴリラかわからない読者さんに申し訳立たないのですね、頑張らないと。
あとシーン編は重いです。マドロック編みたいに長くならないようにしたいですけれど。

キャラリクエスト募集中です。

↓のアンケート調査をお願いします。


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プラチナは駄弁りたい

UA40000越えありがとうございます。
今回は、悲しいですがプラチナの声が変わったことというので急遽作りました。クオリティについては言わないでください。
話したいこともありますので、あとがきも見てください。

ではどうぞ。


『あぁ、ヘマをした。』

 

最初に頭の中で浮かんだ言葉はそれだった。

喉をかっきられて、首元からドロドロと滴り落ちていく感覚がある。

スローモーションの視界の中で最後の足掻きを見せた飛行敵部隊の一員の顔が合った。

その表情はザマァみろと言わんばかりに口角の端を上げていやらしく笑う。

 

しかし、そいつも私の仲間から食らった銃弾に背中を貫かれ、今じゃ同時に倒れこもうとしている。

一矢報いたと思っている敵もやられてやんの。

ははは、ザマァみろ…。

私は心の中で毒づく。

ふと視界の端で動いているのに気づき見てみる。

その後ろでは心配する顔をした仲間と愛おしい人が奥から走り近寄ってきてるじゃないか。

 

ドクター…?駄目だよ……、…。

まだ、敵の掃討は終わっていないんだから…。

ただのカジミエーシュのアサシン程度に心配しちゃ……。

 

意識が少しずつ薄れていっているのか、思考が定まらない。視界もぼやける。

このまま、後ろに倒れ込み電線で仕切られ、廃墟と化したビル上が灰色に曇った天を囲む、あの景色を見ながらこの命は召されるのだろうか。

じゃあ、私は地獄行きだろうな。

 

しかし、怖さなんてない。

あのカジミエーシュ無冑盟のプラチナとしての人生が地獄だったと再認する。

むしろ、ロドスにいたあの日々が私にとっての天国…とは言いすぎか。

でも少なくともあの人がいて、私がいて、そして周りに鬱陶しいけど馬鹿騒ぎできる仲間がいただけマシだと思える。

 

…………。あぁ。

 

最後に見た景色は、泣きながら私の手を握るドクターの悲しそうな顔。その手には彼の温もりも感じ取れないほど冷え切っている。

泣きそうな仲間。

死を実感する。怒号を上げて医療班を向かわせるよう指示するドクター。

 

死…、死?死ぬ?死んじゃう…?死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死、死……。

 

頬が濡れている。駄目だ。駄目だよ。

私はここまで、彼に何もこの胸の中の想いも口に出していないのにッ…!

 

 

 

 

『死…に…たくないッ…!!』

 

 

 

 

 

そこでプッツリと意識の糸が途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドクター視点

 

声が千切れそうなほど泣き叫ぶ。

目の前には喉を欠き切られて口から血を出しているプラチナがいる。

目のハイライトは消えかかり、時間はあまりないと彼女の容態でわかる。わかってしまう。

 

「おいッ!!医療班はまだか!?クソッ…!!プラチナの手が冷たくなっていってる……。」

 

強く彼女の手を掴んで握りしめて

 

「死ぬな、死なないでくれ…!!これ以上、私から奪うのか…!?ふざけんな!!たのむ…、頼むよ!!誰か助けてくれ!!助けてください…!!」

 

懇願する。もうこれぐらいしか私ができることなんて無かった。出血多量、布で止血しているがあまりに流れすぎている。

彼女の綺麗なシルクで出来てそうな髪は、紅く血染めされていた。

 

あぁ…ぁ…消える、消えてしまう。

 

彼女は口パクで何かを私に伝えようと、辛そうに眉をひそめながら。

しかし、私に伝わらない。

最後に満足した表情で微笑みながら彼女は目を閉じた。

 

瞬間、喪失感と彼女の最後の気持ちを知ることができなかった罪悪感が襲う。

自分の不甲斐なさを憎んだ。どうしようもない虚無感が心を巣食う。

 

「ぁぁ……、うぁ…あぁ"!!」

 

手には彼女の血がついてるがそんな事気にも止めず、私は目元から溢れ出る涙を止めるために目を手で覆う。

……いや…、そうじゃないのだろう。

この現実に目を逸らしたいという無意識的な考えがそうさせた。

 

 

もう…嫌だ、何も考えたくない。

このままだと自責の念で押しつぶされそうだ。

視界も涙でくぐもる。

 

 

「おい、ドクター。そう悲観するのなら邪魔だからどいてほしい。彼女を助けたくないのか?」

 

「は?…ぁ」

 

声の主を確認するために背後を見る。そこにはマスクをはめ、ゴム手袋をつけているケルシーが居た。

まるで彼女の死に興味がないよう、見下ろしている。

ただ淡々と幾度となく死を見てきたように、慣れているのか…?

 

いや、そんな疑問なんて今はどうでもいい。

プラチナが助かる…?!

それに越した今考える望みなんてここには無い。

 

「それは…本当なのか!?頼む。助けてくれ!!」

 

ケルシーは携えていた医療バックを漁りながら注射器に何やら薬液を準備している。

 

「君の頼みだから、私はそれに応えよう。しかし、今彼女が死んでいたほうが良かったと思うかもしれない。現実は甘くないんだ。そして君も彼女を生き延びさせた責任を一生償ってくれ。何故なら今からすることは誰も幸せにならないような事なのだから。」

 

彼女は動きを止めることなく、彼女の遺体に施す。

至るところの傷口を塞ぎ首元も縫合している。

アーツを使用しているからなのか周りは薄光しており神秘的に見える。実際私はその光景に目を奪われたのだから。

止まっているはずの心拍も、ケルシーは心臓マッサージ…とは言い難いな。肋骨のボキボキと折れる音が静寂な場所に響かせる。

しかし、駄目らしく溜息をつきながら心臓近くを触れていた手にアーツを込めだし電極のように彼女の身体を刺激した。

 

「よし…、とりあえずの応急処置は終えた。あとは急いでロドスに戻って血液の補充だな。それで、ドクター。」

 

「ありがとう…。」

 

安堵した私は目の前のケルシーに感謝をした。

ひたすら良かったと思ったが、ケルシーは怪訝そうな顔つきで私に問いただす。少し苛立ちを隠せていないのかいつもの口調より荒々しい。

 

「感謝の言葉なんていらない。そんなの後後々幾らと言える。私が言いたいのは、君は今から彼女の為にその身をやつさなければならないことだ。これは悪魔の取引と一緒なんだぞ?彼女を助ける代わりに君の一生をくれなんて馬鹿げた話だ。いいか、この原因は君の指揮によるミス、そして君は彼女を救いたいと願った報いだと思い給え。」

 

彼女の棘ある言葉に私は一瞬、心を抉られた感覚を覚える。

彼女が何を思ってそう話したのかは知らない。

幹部である私がただの兵士一人に冷静な対応できてないことに苛立ちを覚えているのか。

また、死に直結する指揮を間違えたことに責任感の無さを感じ取ったのか、わからない。

私がプラチナの死を悟ったときの様子が脳裏に浮かぶ。

 

ほんっとに…無様だったんだな。

 

私は彼女との会話を頭の中で反復しながらロドスへ帰還したのであった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

プラチナ視点

 

目を覚ましたときには、医務室のある一角だった。

この目新しさのない面白みのない、うぇ…、薬品の匂いがする…。

そうか、ロドスに生還出来たんだなぁ…。

気付いた途端私は安堵した。

最後の間際に願った想いが案外、カミサマってやつには届くらしい。

 

「目が冷めたようだな」

 

隣から女性の声が聞こえる。

このどことなく硬苦しさを持つ声音は…ケルシー。

皆さん、カミサマってやつじゃなくて悪魔に救われたようです。

 

『たすけてくれてありがとう』

 

体を起き上がらせて、感謝の意を伝えるために言葉に出す。私がケルシーに対して苦手意識を持っていたところで彼女が助けてくれたわけだから感謝しないわけにはいかない。

しかし、その一言は伝えることができなかった。

 

「………ッ………、ァ………ツ…、………」

 

声が出せない。口は動くのに喉あたりから詰まったようにかすれて、苦しくて出せない。

その様子を見ていたケルシーは、あぁ、と声を出そうとしているのを察したのか説明する。

 

「プラチナは声を出そうとしていたのか。それならやめたほうがいい。貴女はもう声は出せない。何故なら声帯が破られていて回復の見込みがなかった。それとまだ傷が治ってないんだ、声を出そうとするなら血を吐く可能性がある。やめとけ。」

 

『????』

 

『は?』

 

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

『声が一生出せない…?』

 

「驚いているところすまないが、事実だ。その責任はこれから来るドクターにでも取ってもらえ。

私は別室に行く。何かあったら呼んでほしい。」

 

頭の整理がつかない状態で私は病室に一人にされた。

 

放心状態から数分。私はどうもこれから一生、声を出せずに過ごさなければならないらしい。

そう、一生。

ドクターと会話して楽しんでいたあの頃は一生戻らない。

あのヘマをした戦闘で一生分の後悔を背負わなければならないらしい。

 

「〜〜〜〜〜〜ッ!!!」ドスン

 

声にならない言葉で腕いっぱいに病床を叩きつける。文字通り声にならなかったのだが。

手はさほど痛くなかった、しかし私はロドスに来て久しぶりに涙した。

心が締め付けられている。

普段なら戦闘での損失は自己責任と割り切れるだが、今回は違う。

思っていたよりショックが強かった。

矢で貫かれたように。

ポロポロと声が出せないため、嗚咽となって静寂な空間に木霊する。

 

これから、どうする…?休養期間が終われば戦闘に参加はできる。つまりロドスに所属しながら今までの生活はできるだろう。しかし、今は弓を握る気持ちにはなれない。心はすでに折られているし、会話ができない今となってはロドスから離れて天涯孤独の身では生きていてはいけない。

 

『死にたい。』

 

ふと、思った言葉。それが無意識に出てきたことは実際に思っていることなんだろうか。

ただ、その言葉を考えてしまった事実にまた泣いた。死ぬ直前にはあれ程生きたいと願っていたあの時とこれからの人生の徒労感に私は押しつぶされたらしい。

 

今までそんなこと思わなかったのに…。

いつの間にか、鬱にもなっているのかもしれない。

泣いてないとやっていけない。

 

『死にたくてどうしようもないなんて世話ないな…。』

 

私はこのままだといけないと思い、病床の上でくるまって寝た。頭までかぶって何もこの視界に入れないように。

コンコンと部屋ノックとドクターの声が聞こえたが、聞こえなかったことにした。

 

今は誰とも会いたくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

数カ月後

 

 

 

で。あの後、色んなことがあった。

 

何から話そうか…?

 

そうだ、まずはドクターが私に対して責任を取ると言って、籍を入れたことだ。

彼も私の事に負い目を感じていたらしく、これからは隣で支えてくれるそう。

何か、申し訳なさと嬉しさが心で渦巻いているがそこは無くしていけるようにこれから一緒にいればいい。

鬱は消えた、しかしその分ドクターに依存してしまっている。自覚しているだけ私はズルいのだろう。

籍を入れていてもドクターを狙う女性は少なくはない。ある意味、牽制となっている。

 

ただ話したいことがあったら筆談となってしまうため、声が出せていたときのように物足りなさを感じてしまう。そこは彼の手のひらに指で文字を書いて伝える手法を用いているがこれは単純に私が彼の手を触りたいだけ。

 

………、惚気話は流石にここまでにしとこう。私も恥ずかしくなってきた。

 

ま、まぁ、次は対人戦闘にトラウマを感じるようになって体力も落ちたためカジミエーシュ時代に面識があったグラベルにしごかれたこと。

いや、普通に許さない。病人にあんな蹴りを食らわせるか…?後々見たら赤く腫れていたし。

復帰祝いに白と黒のマフラーをくれた。

喉元の傷は痕として残ってしまったため、それを考慮した上でプレゼントしてくれたらしい。

……、…それに関しては有り難かったかけれど…。

 

 

とまぁ、何だかんだ数カ月の間に心の中で割り切れた。ごめんね、これを見ている読者さん。前半と後半の惚気で温度差が酷い気がするけれど。

 

 

声を失った代わりに私は、欲しいもの全て手に入れた。生きる術は依存することでバランスをとっているけれど、もう彼なしでは生きてはいけないだろう。

失った直後の私は悲観的で何もかもに嫌気を指して、たまにドクターに当たったけれど泣いてる私の頭を撫でて宥めてくれたりもした。

 

「なぁ、プラチナひっつくと暑いよ…」

 

今、彼の膝下にのしかかっている私に離れるように言ってくるがそんなのは知らない。

私は彼の膝に『しーらない』と指で文字を書いて返答する。

すると彼は

 

「はぁぁ…、執務の邪魔にならないのならいいけど」

 

と諦めた表情で言う。

 

『いえーい、してやったり。』

 

私は表情に出さずに心の中でドヤる。

 

これからもこんな日々が続けばいい。

今はそれしか考えられない。幸せ。

ただただ、彼の隣にいることが幸せ。

 

「それより、ケルシーがプラチナのこと呼んでいたみたいだけれど大丈夫なのか…?今日は午後から検診だろ?」

 

『あ…。』

 

まずい、ケルシー先生にどやされる…。

 

私は一刻も争う気持ちでドクターの執務作業を手伝って終わらせ、彼女のいる医療棟にむかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ケルシーの医務室にて

 

「遅かったな。待ちくたびれたぞ。」

 

ケルシーは依然としてカルテでビッシリと貼られている電子黒板に目を通しながら、手元にあるタブレット端末で操作しながらチラリと横目で私が来たことに反応する。

そして、代用のタブレット端末を私に渡してきた。

検診中はコミュニケーションを取るためにボイス変換アプリで話す。

おかげで以前苦手な機械操作を流暢に行うことができる。

 

「"ありがとう。ケルシー先生。"」

 

機械の無機質な音声。今では慣れた。

 

「早速だけれど、本題に入るぞ。朗報だ。」

 

何だろうか?いつものように喉あたりを触診したりするのではないのか?

ニヤッと笑っているケルシーがこれほど不気味に見えるのは何故だろう。

 

「"朗報ってなに?"」

 

私は疑問を解消するべく彼女に対して問いかける。

 

「実はな、プラチナの声が取り戻せるかもしれない。」

 

その言葉が出た瞬間隣にいたドクターは驚きの表情で立ち上がった。

すぐに、座り直して心を落ち着かせている様子だが私も驚きを隠せなかった。

 

「それは本当なのか…?彼女の声は戻ると?」

 

「あぁ、本当だ。先日、疑似声帯という機械をライン生命のマゼランとメイヤーが制作した。彼女らもプラチナのことに思うところがあったらしくてな。

休憩の合間にコツコツ制作していたらしい。」

 

私はその事実に、心の底から温かなものがせり上がってくる感覚があった。

嬉しいと感謝…、色んな気持ちが私を乱す。

マゼランやメイヤーとは業務的なことしか会話したことがなかったのに。なぜこんな事をしてくれたのだろう。

 

「"……何でこんなにまで私の事をみんな助けてくれるの?"」

 

素直に思ったことを話す。今まで他人との代わりなんて深く入らないようにしていたのに。

彼女らにこう優しくされる覚えはないのに。

 

「"私は彼女達に何もしてない、何もしてあげれることなんて…ないのに。"」ポロポロ

 

目元が熱くなる。どうも泣き虫になったらしい。

目から涙が溢れてしまう。

 

「そうだな。君が言うのならそうなのだろう。でもプラチナが今影響されているようにマゼラン達にも影響しているんだ。それとな、二人からの伝言も預かっている。」

 

………………。

 

「『諦めたって泣かないでください』だそうだ。」

 

あぁ…ァァ”ぁ……ッ…

 

「誰かが影で泣いているのを見過ごせないのがロドスだ。彼女達に後で礼でも言ってくれ。」

 

前が涙で見づらくなるが、ケルシーから伝えられた会話は耳に入ってくる。

 

「で、どうする?アレルギー反応の可能性だってある。つけたところで使用できないときもあるだろう。それでも手術するか…?」

 

「"する…。させてほしい。"」

 

私は即決した。彼女達が言うように泣いている場合ではない。可能性があるのならそれに縋りたい。

 

「わかった。なら、準備が整い次第期日を告げる。それまで待っていてほしい。あぁ…、そうだ。声は今までのようにはならないかもしれない。しかし近く寄せることはできる。けれど、いいか?」

 

「"あぁ…"」

 

私はうなずいた。

彼は新しい声を許容してくれるのだろうか。

不安が心の中で膨れ上がるが、もう一度隣のドクターとあの頃のように楽しく会話できるのならそれでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手術後

 

 

私は喉を触る。

 

「あ、あ。」

 

声を確認する。どうやら成功したらしい。

声は少し高く変化している。

 

この私をドクターは許容してくれるのだろうか。

私のことを愛してくれるのだろうか。

いずれにしてもあの人次第。

 

私は不安になる。

目の前にいる彼は近づいて、何を言ってくるのだろう。嫌われたくないな。

 

「どう…かな…?」

 

彼は私の新しい声を聞いて、彼は泣いた。

急に泣くものだから、先程までの不安ごとが霧散する。驚きでいっぱいだ。

目を手で隠すドクターは、すぐにこちらをまっすぐ見て

 

「あぁ…、素敵な声だよ。」

 

とだけ言って抱きしめてくれた。

触れ合っている部分が温もりで暖かい。

ジーンとして、離したくない。

 

そうだ。

私はこれを一つの区切りにしよう。

生まれ変わった私は、ドクターにこう告げる。

 

 

「これからもよろしくね。ドクター。」

 

 

 

 




どうでしたか?
はっきりつまらないものを書いてしまいました。

休載致します。ありがとうございました。
詳しくは活動報告にて述べております。




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ズィマーは駄弁りたい

久しぶりです。クソザコナメクジ野郎です…()
今回は1万文字超えです。
長いね。モチベは今皆無です。
イベントも補助スカジとケルシー来てくれて安心しました。
148連ほどひいたけれど…()
休載していたのは単に自分の話がつまらなく感じてしまったという腑抜けた理由なのです。今もその考えが変わることありませんが、読者の方が読んで面白いと思ってくだされれば感無量です。
では、どうぞ。


穴を掘っている。

今はもう話さない学友の為に。

背中に強迫観念という銃を突きつけられて。

アタシは穴を掘っている。

 

目からは枯れたと思っていた涙が自暴自棄に突き立てて掘り変えられた泥土にこぼれ落ち色濃くした。

18回目の諦めの涙はここでも止まることを知らない。

 

「……ッ…、ぐぅッ…。ァァ"…ふぅッ…。」ポロポロ

 

全くくだらねぇといつもの強がるアタシは、このときばかりは現れない。

いや…、声を押し殺しているのは自尊心を傷つけまいと無意識的にやっているのだろう。

 

「クソっ…クソッ!クソッ!!クソッ!!!」ガツンガツン

 

掘り返すときに大きな石がスコップの邪魔をして、金属音があたりに響かせる。

変わらない現状に焦燥感を抱いていた、それがどんどん思ったとおりにいかない悔しさが膨れ上がってきていて、この邪魔をする石に八つ当たりをしてしまう。

 

「くッ…そぉ…」ポロポロ

 

自分の無力感に嫌気が指す。

何が、どうしてこうなった。

レユニオンのせいか?それとも環境のせいか?

因果はある。でも一番肝心だったのは、

 

「……アタシのせいだな。」

 

自覚しているだけ尚、こんな死者を出し続けたアタシは質が悪いのだろう。

イースチナは私にカリスマ性があるとトップに推薦したが、蓋を開けて結果を見れば一目瞭然だった。

戦場にカリスマ性はいらない。

生き死にの世界にはカリスマ性など無謀にしかならない。

臆病さと自己顕示欲があるやつが願いを叶える。

その盤上の戦いが、このウルサス学友自治団の戦場だというのに。

 

穴を堀り終えた私はレジャーシートでぐるぐる巻きにしたかつて仲間だった学友を地中に埋める。

何が悲しくてアタシは泣くのだろう。

死んで弔った仲間が悲しいからか?

いいや、そんな善良じみた心はない。

常に単独行動をしてきたアタシにはない。

命は平等、機会は不平等。

命を任されたアタシは、死んだ彼らに押しつぶされそうとしているだけだ。

今だって彼らのアタシを恨み憎しみの声が頭の中で木霊している。

 

『なんで…反旗を翻した貴女が死なず、私は痣だらけで冷たくなっているの…?』

 

すまない。

 

『俺の腕は知らないか…?死んでも切り落とされた片腕は無くなって辛いんだ。』

 

…すまない。

 

『飢えて死ぬ前に肉を削いで食べてしまった。どうしたらいい…?冬将軍。もう脚は白い骨が見えて立てそうにないんだ。』

 

……ッ…すまない…。

 

幻覚幻聴が私の心を擦り減らす。

命の火花が散ってしまうほど、擦れきってあとはポッキリと折れてしまいそうだ。

 

あといつまで続くのだろう。

いつ、自分は自分に押し殺されるのだろう。

 

『お前も、トップにしたイースチナも同罪だ。なんで生きながら得れる?もう私はこんなに腐りきったというのに。他の奴らも君らの転落を心待ちにしているんだ。』

 

うるっせぇ…。分かってんだよ。

自分がどれほどの罪を犯して、その矛先が関係のない奴らにまで及んだか知らないわけじゃねぇ。

けど、決心できる度胸は私にはない。

自決する勇気は、もう…、ない。

 

『じゃぁ…手伝ってやろう。』

 

穴の中から這い上がってくる腐った同胞は私の足を掴んで到底信じられないほどの力で引っ張る。

私は尻もちをついてしまい、ズルズルと自分が掘った穴に吸い込まれる。

どこか嘲笑っている同胞が何故だろう、羨ましく思う。

 

このまま自分の手で自分の死に場所は確保したんだ。死んだほうが楽だろう。きっと、私の周りは救われる。少なくとも救われる。

 

もう…いいか。最後に曇り空を見れてよかった。

ずっと…下ばっかりを見てきたせいで見上げる機会なんてなかったから。

 

抵抗なく、スローモーションのように下界の地獄というところに連れされるのを待つ。

ふと…思う。いや思わずにはいられなかった。

 

死ねば救われるだろうか…?

死ねば苦労は報われるだろうか…?

報われて当然だと思っているのだろうか…。

 

これまでの辛酸を舐める日々が心に引っかかる。

おもわせてしまう。

 

 

あぁ…、死にたくねぇ…。私も救われてぇんだ。

 

 

「ッ……!!離せッ!!!あぁ"ッ!!」

 

そこからは脚に力を込めて振り解いた。

生きながら得なければ、手にすることもに無くなるところだった。

 

穴から離れる。距離をとった。

気付けば手には斧が握られており、黒光する。

いつの間にか衣服に血が飛び散っており、斧からは血が垂れていた。

 

視線を先程の穴に向けると、ぐちゃぐちゃに半壊した頭が脳汁を撒き散らしながら死体が横たわっている。

動く気配がない。確実に死んでいる。

何故だ?何で死んでいるんだ?いやもとから死に体だったが。

 

疑問を抱いていると死んでいるはずのそいつは、頭は動かず体も動かず、口だけ動かしながら話しかけてくる。

 

『酷いじゃないか…、私を斧で滅多打ちにして殺すなんて。』

 

は?今なんて言った?私がしたのか?

 

『まぁ、でもこれでハッキリしましたか。

貴女は所詮後悔して償っても変わらない。本質は暴力的で自身の罪を自覚しない。』

 

駄目だ。聞くな。耳をかすな。煽られても怒るな。

核心をつかれたからって自分を責めるな。

 

『ザマァねぇな、ズィマー。』

 

それでも私の気持ちを揺るがすには十分だった。

自己嫌悪と破壊衝動が心を蝕む。

目の前の害悪に今まで、あのウルサス学生自治団事件からの償いの積み立てをここで全てかなぐり捨てて、"殺してやりたい"と頭の中で憎悪した。

 

はっ…、結局性根は変わんねぇだな…。

 

けど、この怒りは還元されない。

もうすでに見るも無残な状態に斧を振り落とそうがどうしようもない。怒りのやり場を探す私自身にも苛立ちがこみ上げる。

 

もう苛立ちだけが私を、静かに自制心を駆り立てる。

 

「…ちくしょう。」

 

壊れていたのは私の方だったのか。

そのまま私は自身の首元に得物を切りつけ、刃を食い込ませた。そこから視界はブラックアウトする。

痛みすら感じない。

けど、意識だけある。

最後に願う。救われないなら希望なんて見出さないから。

 

 

早く死なせてくれよ…。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

共同寝室 a.m.4:00 ベットの上にて

 

 

「はぁあッ!!」ガバッ

 

ロドスの無機質な壁が目の前、視界いっぱいにあらわれる。いや、実際はベットの上なので色々と家具が見えたが今はその無機質な壁が心を満たすには適していた。首元を確認するように右手が首に触れる。

 

「チッ…あー…ぁ、ッ!!」ドンッ

 

さっきの意味わかんねぇ感覚が夢だったと認識したとき私は左手で壁を叩く。ドンッと音が響いてしまったが、苛立ちのせいでどうしようもなく目が冴えてしまった。

 

何だって、あんな野郎に煽られて睡眠妨害を受けなきゃいけねぇんだっての。

 

心の中で愚痴った。

張り裂けそうに胸は上下して、心臓が飛び出そうだ。頭の中では夢だと割りきろうとしているが体はどうも生死を漂ったあの日々を思い出したようで吐きそうだ。手も震えている。

 

このままじゃ駄目だ。

 

背中の汗がベッタリとして気持ちが悪い。ベットのシーツだって湿って寝れないだろう。

横長方型の時計を見る。

 

『A.M.4:00』

 

もう少しで太陽が昇る。このまま、起きていようか。どうせ、明日は特に出撃や訓練もない。

することといえばアイツの執務作業を手伝う程度だ。

よし、決めた。起きていよう。

それにしても背中の汗のせいで寝間着を体に張り付いて気持ちがわりぃな。

 

私は、窓を開けて夜風に触れようとしたが同室にいるやつのことも考えて自室から出ることにした。

 

寝間着と言っても他から見たら下着姿に近いため、軽く上から下の太ももまで被ることのできるパーカーを羽織り外に出る。

自動のドアが開くと、外から内側に急に空気が入ってくる。冷え込んでいて、体の火照りを冷ますには持ってこいの気温だった。

 

とりあえず、あの広場の自販機前で休憩しよう。

 

そう決めた私は外光で薄暗くなった通路を歩き始める。こうも大所帯だと通路を歩くと一人や二人すれ違うものだがこの時間は誰もいなくて、まるで私だけしかいない世界にいるみたいで興奮した。

たった一人の廊下でつぶやく。

 

「――――――――――。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

広場の自販機前 a.m.4:05

 

 

ドクター視点

 

私はこんな時間までアーミヤから渡されていた仕事を残業手当なくこなしていた。

 

ロドスはブラック企業だったんですね…転職したい。

 

とだけ、決心できないチキン野郎な私は一人愚痴りながら憩いの場である広場の自販機前にある腰掛け椅子に座って先程買ったあったかいコーヒーを開ける。

どうも最近、冷え込むらしい。

呼吸するたびに白い息が出てしまうのは、むしろ乙なのだろう。

シルバーアッシュが言っていたカランドも息を出すと白い結晶ができるほど空気が冷たく、その日の夜には吹雪も止み満点の星空が見えるという話を思い出した。

いづれは旧友としてカランドにある別荘に招待しようと彼は顔面偏差値高めのイケメンスマイルで言ってきた。

 

「まぁ…、私は冷え性だからそこまで寒いのは無理なんだろうけどね。」

 

そうだ、プラマニクスも最近抱きついてくるようになってきて…、この話を知られたらきっと縛っても連れて行くんだろうな。

 

あまり過度なスキンシップを取るようになってきているから距離を取らないと。踏み込んだ関係なんて私は重たすぎて息苦しいだけだ。

 

いつの間にか缶コーヒーは軽くなって振っても重みを感じない。

そろそろ、眠るか?あと2時間ちょっとで起床時間だけど。

 

そうこう考えていると背後から声が聞こえた。

 

「よぉ…、ドクター。…なんで起きてんだ?」

 

聞き覚えのある声にノリで私は問いかけてきた言葉をそのまま返してしまう。

 

「君もなんでこんな早い時間起きてんのさ、ズィマー…って!?なんて格好してんの!?」

 

後ろを振り向けば普段のパンプな服装とは違い、長めのパーカー一つを羽織っているだけで、下半身は艷やかな生足が見えてハッキリ言って目に毒だ。

 

「何でこんなカッコしてるかってか?そりゃ、こんな時間だしアンタや他の連中に会うとか思わねぇーだろ。」ポス

 

私の横隣に腰掛ける彼女はこちらに顔を合わせた。

 

「そ、そりゃそうだけどさ。あんまりそういった格好は控えてくれ。」

 

「あん?なんだ?…あぁ〜…、そういうことか。もしかして私のカッコに欲情でもしてんのか?ハハッ、きッしょくわりぃー。」アハハ

 

笑いながら私のことをイジってからかう。

くそぉ…童貞野郎に人権はないのか。

 

しかし彼女の笑顔は何処か雲がかったような、無理矢理作り笑顔をしているような変な違和感を感じてしまう。

心配してしまうのは何故だろう。頬っておけない。

 

「からかわないでくれ…。そうだ。寒いだろ?何か買ってあげるよ。何が良い?」

 

私は立ち上がり目の前の自販機前で彼女に何がいいか聞く。これでも金は腐るほどあるし、男性は女性のポケットマネー…って言ったら誰かに非難されそうだな。とりあえず、女性にお金を使わせるのだけは気持ち的に嫌だったため奢る。

 

「おっ、奢ってくれんのか?そうだな。ドクターはさっき何を飲んでたんだ?アタシはそれでいい。特に嫌いなもんは無いからな。」

 

「わかった。じゃぁ…はい。」ガコン

 

自販機のボタンを押すと先程飲んでいたコーヒーの缶が排出口に出てくる。私はそれを取り出して彼女めがけて投げる。

彼女は投げた缶を

 

「ありがとよ。アチッ…!」パシッ

 

片手で器用に受け取る。しかし熱かったのか空中にあげて手が缶の温度に慣れるまで同じ動作をしていた。

 

「ッ…。んっ…。」カシュ

 

彼女はやっと持てるようになったのかフタを開けて飲見始める。その様子を見ながら先程いた場所に座りなおす。

 

にしても…なんでこんな時間に起きてんのかな?

私みたいに残業ではなさそうだし…。ましてはニェンのような耐久桃鉄とかやらなさそうだしな。

 

私はあの変人ニートのことを思い返しながら一人脳内で考える。

 

『おいおい、いくらなんでも知らない所で馬鹿にされるんは私といえど答えるんだぞ?』ハァ…

 

脳内に干渉すんな。普通に怖いわ。

変な天からの声が来たからここで閉話休題。

 

とりあえず、ズィマーの件。

普段の彼女はその見た目の性格とは違い、案外ルーズだ。寝起きも悪いらしい。

よく起きた後に挨拶すると目つきが悪くイライラしてるのか眉をひそめ、酷いときはどついてくる。

それでも軽い感じの肩パンなのでマシだ。

よくイースチナが保護者のように謝ってきている。

彼女がズィマーを起こすらしいがイースチナには逆らえないのか、寝起き直後の私に対する対応とは違うのだ。

 

まぁ…、ここまで長々話したが私は危惧している。『もし、彼女がつい先程起床したというのなら何で普段の苛ついた様子ではなく、ここまで弱々しく辛そうな顔をしているのか』という疑問に対してだ。戦闘や私生活、常に好戦的で自信家で…。

そんな彼女本人は気づいていないのか、声のトーンが低い。

途中、唇がキュッ…と噛んで言いたいを言えていないのか、もしくは言おうとしているのに体がそれを拒むのか。どちらでも変わらないが、どうしても心配してしまう。

 

私は我慢できず、聞いた。

 

「なぁ…?ズィマー。大丈夫か?」

 

「………、何に対していってんのか分かんねーな。」

 

頑なに彼女は言わない。とぼけようとしているのは分かってしまう。演技が下手だな。

しかし、ここでハッキリした。

いつも『なに言ってんだオマエ』と言って殴る蹴るをいれる普段の余裕そうな表情は無い。

つまり、彼女の気持ちを落とすほどのことが私が知らぬ間にあったという事だ。

そして、それを隠そうとしていることも分かった。

 

…………、いつもの私ならここは食い下がらずしつこく聞くはずだろう。

じゃないと話にならないから。会話にならない。

けれど、今の私にはどうもそれを躊躇ってしまうほどの彼女の雰囲気に押されてしまった。

 

本当に『触れただけでも壊れそう』サスペンス映画やドラマに出てくる想い人を失った被害者に使われる比喩表現を私は今日まで理解できなかった。

しかし、今なら理解できる。

いや、まさにそうなのだ。

言葉通り。

彼女は今にも壊れそうだ。

君の瞳の深さを覗き見て狼狽えた。

許してくれ。

今まで見てきた患者に似たような面影を重ねてしまう。

その後の患者がどうなったのかは想像お任せする。

決して良くはならなかったとだけは付け加えておこう。

 

だから私は

 

「いや、やっぱり何でもないさ。早く部屋に戻って体を冷やさないようにな。あと数十分で夜明けだ。」

 

その耐えきれない空気に押しつぶされそうになるのを恐れ、日和る。

そして、その場から逃げた。

早歩きで離れようと扉が開く終わる前に出ていこうとする。後ろからは何か声が聞こえたが…ただの幻聴だろう。

 

私はそっと耳を閉じていた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

数日後

 

 

私はあの夜明けの彼女との会話から逃げたことを今になって後悔している。

もっと話していればよかった。

もっと気にかけておけばよかった。

あの後、イースチナから毎夜ズィマーは悪夢から目覚めてトイレで昨晩食べた夕食を吐いて泣いていると聞かされていたというのに、私は何もしなかった。

悪夢の原因だってウルサス学友自治団事件から三回忌の日が近づいてきたからだと教えられたのに。

 

後悔は募るだけだ。

それもベットの上で、押さえつけられている今の状態ではもう遅いけれど。

 

「なぁ…ドクター。」ギュ…

 

私とベットを挟んだ上に彼女は跨って頬を触りこちらを覗いている。

服は薄いハーフパンツとスポーツブラだけでお腹は引き締まった腹筋が見えていた。

 

「いつも思うんだ。あの日、あの時から私はやり直しが聞かない失敗をしてしまった人は救われてはいけないのかと。」

 

瞼が下げてどこか遠くを見る目は、私の知っているズィマーではない。

彼女はどんな逆境でも目を見開いて先を見ようと進むのに。

沈んだ船のように淀んだ底で停滞している。

 

「ドクターはどう思う。私のせいで死んだ奴らは私が救われたら浮かばれなくなるか…?私が幸せになったらあの人らは不幸せになってしまうのか…。嘘偽りなく答えてくれ。もう駄目なんだ。頭の中で彼らの声が大きくなって寝ても冷めても自責の念で潰されそうなんだ。」

 

目の端から涙が流れていく彼女は壊れていた。

見ないふりばかりし続けた過去(彼女)が私を早仕立てる。

どうしようもない罪悪感。

彼女を犠牲にして保ち続けた心を今、私は彼女に還元しなくてはならない。

 

「わかった。」

 

私はこれから彼女を傷つけなければならない。

それは愛だ。独りよがりのマスターベーション如き。醜悪な愛。

 

「私はーーーーーーーーーー」

 

ごめんな。私は君を救えないよ。

だから聞いてくれ。言い訳を。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ズィマー視点

 

『君のせいだ。』

『信じなきゃ良かった。』

『あとは君だけだよ。死んでないの。』

『はみ出し物の私らを見捨てるのかい?』

『役立たず。』

『勝手に先走りやがって。』

『俺らの生き様を否定すんなよ。』

『お前の理想も偶像だったな。』

『ザマァみろ。』

『ゴミ屑。』

『冬将軍も結局はあたって砕け散ったな。』

『日も刺さない三畳半で死んだ私の骨は拾ってくれ。』

『僕らは揶揄した。』

『イジメでまた死にたくなった。』

『お前のせいで私は足を切り離した。』

『体を売って仲間から慰み者になって食べ物を分けてもらったのがどれほど惨めだったか。』

『飢えた腹が痛くてどれほど死にたくなったか。』

『自己中。』

『もう嫌だ。』

『死にたい。』

 

夢以外にアタシは日中、幻聴に苛まれた。

日に日に強くなってきて、明日。

あの事件の三回忌目になるに連れ、あたしの体が重くなってきて作業中、ついに倒れた。

気が狂う。

こうも意識ごと消えなければ夢の中で鮮明に私を責める声は止まず今か今かと地獄の門前で手招きをしている。

心はすり減る一方で、何となくこの幻聴の原因だって分かった。

本当にくだらねぇ。

この声の正体が、死んでいった彼らではなく。

自分が心の端で『許されてはいけない』と思い込んでいた幻想だと理解するには遅かった。

私は私を許していないだけ。

そりゃぁ…自戒の念でもないとロドスにいるだけで幸せに押しつぶされそうになるわけだ。

 

「だからって…」

 

失くした何かの埋め合わせを自己犠牲で補おうなんて。

 

「ばっかじゃねぇかよ…」

 

そこからの意識は朧気だ。

頭の中ではモヤがかかったようにクリアではない。

けれど、この脚が向かおうとした場所は考えなくても出てくる。

 

ドクターの寝室に行こう。

話がしたい。

アイツの声が聞きたい。

聞かなくちゃ。

ぬくもりを感じたい。

その匂いで頭の中を埋め尽くさないと死にそうだ。

 

 

ガタン ポス

 

 

アイツが寝ている。その上で跨り彼の首元に顔を近づけた。鼻腔をくすぐるコイツのシャンプーの匂いだろうか。

いつも近寄ると香るドクターの匂いでアタシは胸が引き締まる感覚と下半身がムズムズした感覚で体はブルッと震えた。

 

「なぁ…ドクター。」ギュ…

 

いつの間にか目を見開いたドクターに問いかける。

 

「いつも思うんだ。あの日、あの時から私はやり直しが聞かない失敗をしてしまった人は救われてはいけないのかと。」

 

救われたい。救われていいか?

 

「ドクターはどう思う。私のせいで死んだ奴らは私が救われたら浮かばれなくなるか…?私が幸せになったらあの人らは不幸せになってしまうのか…。嘘偽りなく答えてくれ。もう駄目なんだ。頭の中で彼らの声が大きくなって寝ても冷めても自責の念で潰されそうなんだ。」

 

なぁ…、どう思う。

 

彼は神妙な顔をして意を決したような覚悟を込めた瞳でアタシの心を覗き見るような錯覚を覚える。

そして彼は口を開き、言葉を紡ぐ。

 

「私は…誰かを傷つけたのなら救われてはいけないと思う。」

 

その言葉は私の願いを否定する。

しかし、どこかあぁ…と納得してしまう部分もありショックは受けなかった。

けれど直接的に『救われるな。』と言われるのは心の底で苦しいような辛い、どうしようもない気持ちが渦巻いてしまうのはわからないわけじゃないだろう?

 

「誰もが救われたかったし、常に上を向こうと耐えてきたのは容易に想像できる。だからこそ、救われたいって苦しみから逃げるのは君が言うとおり浮かばれない。」

 

彼の一言一言がアタシの心を突き刺す。

ボロボロで耐えきれない。いや耐えれてない。

目からは涙が流れ落ちて彼の頬に落ちていっている。

その様子にドクターは唇を噛み締め、話を続ける。

 

「…それが自分が犯してしまった事なら尚更、自戒の念で押し殺そうと心は蝕われるだろう。」ガシッ

 

ドクターはアタシの肩を掴み体を起こす。

その際、跨っていたため上半身が傾き後に倒れ込みそうになったが抱きかかえて腕が後ろに回り込みドクターの温もりが体いっぱいに感じる。

人肌があったかい。

アタシは驚きが上回って困惑した。

 

「だけど報われてはいいんだよ。どうしようもなくて救われ難い私達だけれど…、道外れた私達でも幸せになるよう報われてもいいんだ。」

 

「……………。」

 

「だって…、さんざん今まで君は死んでいった彼らに償おうと向き合ってきたじゃないか…。イースチナから聞いてる。その身を正しいと信じた道に窶してきて死んでいった者たちを忘れないように君は彼らの墓碑に花を積んで、頭を下げ続けたらしいね。」

 

まったく…イースチナはお喋りだ。

けど、何故だろう。

怒る気はしない。

 

「いいんだよ。それで。大丈夫。私が保証する。君は頑張ってるんだ。だからといって帰ってくるものは何もないけれど。それでも、君は君を許していいぐらい罪は償っている。」

 

その言葉でまた涙を流した。

どうも、誰かから許されたかったらしい。

許されていいと承認してほしかったらしい。

もう、アタシ自身は自分を許せれるほどの寛容さなんて持ち合わせていなかった。

だからこそ、彼の言葉に救われた。

 

駄目だな、あたしはこれから生き続けた最後の日まで背負った罪を抱えていかないといけないのに。

救われたって感じてしまうなんて…とんだ、茶番劇だ。

 

 

 

 

ドクター視点

 

私は言いたいことを全て話した。

私自身も人殺しと罵られ、誰かの命日に苦しんでしまうことだってある。

けれど、その苦しみも糧にして前に向かわなければならない。

 

「そっか…、ありがとな…。」

 

泣きあとを隠すように目を擦る彼女は少しだけ顔色がいい。

 

にしても…

 

「その…すまん…。熱くなってしまったときに勝手に体を抱きしめて…。女性相手に失礼なことをしたと自覚している。だから…だから…、ごめん!!離れてくれ!少し、いや素面じゃ今この状況は恥ずかしいよ!?」バタバタ

 

普通に恥ずかしい。

頬が熱くなって、とてもじゃないがズィマー本人を見ることができない。

ただでさえ薄着で扇情的なのに、はだけている。

さっき勢いづけて抱きしめたせいでスポブラがまくり上がっていた。

つまりだ、そのスポブラの中で隠れていた手に収まる程度の大きさだが私の理性をガンガン削るぐらいの威力を持っている双丘が『こんばんわ。』と顔を出している。

 

綺麗なピンクなんですね…(理性0)

 

「うっ…わ。」プルプル

 

ズィマーもこれに関してはワナワナと恥ずかしくて赤頬している。

人って本当に取り乱すと何も声が出せないって分かるもんですね。今実感してます。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!///」ガシッ

 

彼女は目つきがキッと鋭くなり、手を掲げている。

男勝りのズィマーが女の子らしい表情をするなんてこれが最初で最後だろう。勿論私の命も最初で最後。

えぇ…殴られるのは慣れてますのでどうぞ。

思う存分、殴ってください。10対0で私が悪いです。

 

私は殴られる覚悟で目をつむりその瞬間が訪れるのを待っていた。しかし、なぜか私の両手首に違和感を感じて、次の瞬間柔らかな感触が手のひらを襲う。

 

目を見開くと彼女は自身の胸に私の両手首を握りしめ掴ませそうようと押し付けているのではないか。

 

は?え?ぇぇ…?ん…?あぁ…?!!!??

 

頭の中はワニワニパニックよりパニックしていたとだけ話しておこう。

 

ズィマーは頬を赤らめているがニヤッと不敵な笑みを浮かべて

 

「あ、あたしが許容すればこんなもん。恥ずかしくねぇーよ。オマエなら…別にそんな関係になっても…、って何でもねぇ!!つまりだっ!!据え膳食わずは…男の恥じゃ…ねー…のかよ?///」

 

「頭でもバグったのか??!!」

 

すかさずツッコミを入れる。

いや、ヤバい。手のひらのある箇所にコリッとした小さいが硬い何かがある。

そう、ナニかなのだ。

 

どうしよう!?ズィマーも困惑して血迷って柄にもないことを口走ってるし、、

 

収集つかなくなる!!

 

そんなことを考えていたところ扉がノックされ、開く音が部屋で響く。そこから聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「あの…、夜分にすみません。ドクター…?ズィマーを見ていませんか…?気づいたときにはどこにもい…なく…て…。」

 

「あ。」

 

「あ。」

 

「はぁ?」

 

ガッツリ目が合い3人は同時に声を出した。

佇んでいるイースチナの瞳にはハイライトが消えている。

イタズラがバレた子供のような反応のズィマーは泣き出した。

 

しかし考えてみてほしい。この状況で私の上で跨り胸を触られて泣いてるズィマーを。

傍から見たらヤバい光景だろう。

ハッキリ言って強姦未遂のようだ。

 

その日の夜はイースチナの怒鳴り声でロドス内は一時期騒然とした。

『なんだ?!』『どうしたんだ盟友よ!』『何があったの!?』

色んな心配の声がロドス内で駆け巡ったが騒々しい中で唯一シルバーアッシュに関してはカメラを持って嬉々とした表情で私の寝間着姿を撮っていった思い出だけが残っている。

その後事情を知ったオペレーター達は収まったが、一週間は皆の目のハイライトが点滅する速度が早くて苦労した。

ズィマーとは今も何もなく、むしろ会うたびにどつかれるが楽しく過ごしている。

 

 

どうも締まらない物語だがズィマーとのトラウマを乗り越える話はここで終わることとしよう。

 

「正直に言え。アタシが昇進し続けたら、オマエの座、ぶん取ってやることもできるか?……はあ?冗談?悪いけど、冗談じゃねえぞ。」ニカッ

 

 

 

 

 

 

 

 




どうでしたか?


忌まわしき過去に告ぐ絶縁の詩。
行かねばならぬ。何はなくとも。



感想と評価お待ちしております。
書きたくなかったら書きますね。
ではまた。


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ロサは駄弁りたくない 前編

お久しぶりです。少し就活に時間をかけてしまいました。結果は良い報告ができるようになりましたが、すみません。それでも一ヶ月ぐらい空けちゃったなというのは申し訳ないです。

今回はリクエストのロサ編です。ただ次回がドロドロしてるので今回は別キャラのヤンデレ具合を見せてフラットにしました。

後書きに話しておきたいこともあるのでそちらも読んでくださると嬉しいです。

あとなんで投稿したら登録者消えちゃうの?心当たり多すぎてへこむ()

ま、そんなことより。

では、本編をどうぞ。


ロドスアイランド 執務室にて a.m.11:30

 

「ドクターに報告!巡回完了!異状なし!」ニカッ

 

彼女は扉をガタッと勢いよく開けて笑顔で敬礼をし、こちらに報告をしてきた。

扉の半分より背丈の小さくこちらから見るとこじんまりとしているがフェイスシールドのような日差しを防げない、多分雨よけ用のキャップのみの帽子からクランタ種族特有の獣耳がピコピコと自己主張している。

 

ボーイッシュかと思いきや、その陽光が当たれば反射して艷やかさと美しさを強調する銀髪は後ろに纏められてポニーテールになっている。

銀色の瞳、彼女の体格には一回り大きめのジャケット、それに誇りである警官勲章と腕章。

 

そう彼女はグラニ。ロドスでは警備担当として任務に準じているがその類まれなる身体能力の高さ、鉱石病の圧倒的耐性から戦火でも味方を守るために先陣を切って行動をする勇敢な戦士だ。

 

「お勤めご苦労さま、怪しい人とか大丈夫だったかな?」

 

「んーんー、今日は怪しい人はいなかったし。むしろ平和すぎてあたしの出番はなかったよ。会うたび子供達は遊ぼうって誘ってきて本当あたしはお姉さんだっていうのにさー。よいっしょ。」ポスッ

 

子供達から同年代と見間違えられていることに不満を垂らすが実際グラニの顔からは不満そうな表情ではない。

彼女も子供達と良好な関係で特にトラブルもなかったためか平和な日常に安堵している。

 

……、にしても…。

 

「ねぇ、グラニさんや。どうして私の膝下に座って胸元を背もたれとして使っているのかな。」

 

グラニは喋りながら当然かのように私の膝下に座っていた。このときは被っていた帽子を脱いで彼女のポニーテールが見えている。少し汗ばんだのか、うなじが見えるが普段の言動から想像つかない色気を纏っている。

あと女性特有の甘くて少しヘアスプレーの柑橘系の匂いが漂ってくる。それがヤバい。

もしこれを嗅いで何も思わないなんて男じゃないだろう。情欲を掻き立てる。ハッキリ言って目の毒だ。

 

「いいじゃん、ドクター。減るもんじゃないし。むしろ労いの意味も含めてナデナデしてもいいんじゃないかなぁ〜?」

 

身長差が激しいため、たとえ膝下に座っても顔の位置は私の目線より低いのだが返ってそれが上目遣いをする形になってしまう。しかし上目遣いといってもニヤニヤと煽るような目つき。

舐められてる。

 

少し前まではこんなふうに甘えることしなかったのだが最近の私と他オペレーター達の関係が親密になってきたことに『ズルいよ!なんで私もしてくれないの?!』と執務室を突撃してきたことに始まった。

 

「あれ?グラニは頭撫でられるのは子供っぽいからやめてとか前言ってなかったかなぁ?もうオトナの女性だししなくていいんじゃない?」

 

とりあえずメスガキになってしまったグラニの願いをあげ足を取るように却下する。

 

むやみやたらにスキンシップをとって痛い目はよくあってきたからね。控えなくちゃ。

まぁ、グラニは撫でなくても駄々をこねるような子じゃないし大丈夫だろう。

 

そう考えているとグラニの銀色の瞳からハイライトが消えた。シュン…と周りの温度差が急激に変わり笑みも消えて無表情でこちらを覗き見てくる。

 

あ、あれ…?もしかしてグラニさんもそういう感じですか…?

 

こちらに向き直りハグをしてきた。そのときに控えめだが柔らかいその感触は言うまでもないアレだがそんなことより抱き着く締め付けがとても強く軽くミシッっと骨の音が聞こえそうだ。

彼女の顔は私の耳元横にあり、囁くように話しかけてくる。

 

「ねぇ、なんでそんな上げ足を取るようなことを言うのかな。オトナの女性だって甘えたいときだってあるし、ドクターは釣った魚に餌を上げないタイプなのかな…?」ボソッ

 

ハァッ…と吐息が聞こえる距離で怒気を含んだ声は私の軽薄な発言を取り消すには容易かった。

 

「……ッ…!ごめん、ほらいつも警備してくれてありがとうね、よしよし〜。」ナデナデ

 

「そうそう、これでいいんだよ〜。」ムフー

 

素早く彼女の首後ろから頭に手をおいて髪を梳くように撫でる。サラサラとしていて絡まることはない。獣耳はモフモフした毛先でこそばゆかった。

ようやく撫でられたとグラニは満足げな表情で顎を肩に置いて笑みをうかべる。

 

マジか、グラニもそういう気質を持っていたなんて…()

 

まだ信頼してくれて好意を持っているとは思っていたがアーミヤやスカジのような重量があるなんて思わなかった。

 

重量ってどっちの意味なのかしら…?

 

「なんでうちのロドスの女性の殆どが脳内に干渉できるのかな?!」

 

スカジの声が頭の中で響く。いやエコーもかかってるのはなんで!?

 

今サメとカジキとカラオケ中なの。ドクターもくる?

 

あら、ドクターですわね……ウフフ……。

 

もはやプライベートとか皆無だな脳内干渉。また今度行こうね。今は無理だから。

 

わかったわ。また今度行きましょう?

 

はいはい。

 

勝手な脳内干渉のせいで話が脱線した。まったく……。もしかして誰かが勝手にそういった装置でも製作したのか…?ライン生命に聞いてみるか。

いや、もしかしたらどこぞのニートと化したニェンなのかもしれい。

ひとまず閑話休題。

 

「ドクター急に叫びだしたけど大丈夫?」

 

グラニは身体を離して心配したように首を傾げる。

まぁ急に意味不明なことを叫びだしたらそりゃ不安になるよな…。

 

「大丈夫じゃないけど、まぁ何ともないよ。」

 

「そうなの?ならいいんだけ…ど…。」グゥ…

 

その瞬間執務室にグラニのお腹の音が響き渡った。

時計を見ると時刻はお昼時。

目の前の彼女は「ぅぁ…///」と顔を赤くしているが確かに私もお腹が圧迫されたような感覚がある。

お腹と背中がくっつくという表現では、いささか『お腹減りすぎて死にそう』とか誇大表現になってしまうが、実際のところお腹が減っているのだろう。

 

「グラニもお腹が減ったのか…?よければ一緒に食堂に行かないか…?私もお腹が減ってるみたいだしさ。ほらご飯おごるよ?」

 

私はすかさず彼女がお腹を鳴ったのを別の話題に変えて共感しつつご飯を奢るとメリットを提示する。

こんなときだけ女の子扱いが上手くなっていくのはどうだろうか…。財布と毎回反省会が開かれるがこれで殴られないだけマシだと思う。

 

「……、うん…///さっきのは誰にも言わないでよ…?///」

 

「わかったから、さぁ早くそこから退いてくれないか?食堂に行けないから。」

 

「わ、わかったよ。」

 

そう私とグラニの執務室の会話は終わる。

勿論その後食堂に向かうまでの通路で隣を歩く彼女と喋るのだが、さほどこのストーリーには関係がない。ネタにもならないし他愛のない話で読者が聞くにはつまらないだろう。

 

………、いや実のところは覚えていないだけ。長ったらしくなってすまないが本当に次の出来事でその日の記憶が霞むぐらい私は食堂でのきっかけに気づけてよかったと後々思った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロドスアイランド 食堂にて p.m.12:24

 

グラニ視点

 

あたしはドクターと食堂の扉前に立て掛けてあるメニュー看板を見ていた。

『オススメ』と白チョークで書かれていて、その隣にはグムの似顔絵とマッターホルン?の角が書いてあった。

はっきり言ってメニュー表よりそっちが気になる。

 

「ドクターは何にするの?私はこの季節限定三種チーズのサンドイッチにするけど。」

 

ドクターに視線を向けた。彼は真剣な表情で「ん〜…。」とうなりながら考えている。

そういえばドクター、少し太っちゃったかもって言ってたっけ。

見た限り筋肉質なんだけどなぁ。オペレーターのようにムキムキではないんだけど腹筋は割れてるし。

シデロカが秘書のときに無理やり筋トレさせられてるんだっけ?

…今度執務室にカメラ設置しておこうかな…。

汗だくのドクターも…いいなぁ…。グヘヘ

 

そうこう考えていたら隣のドクターはようやく決めたらしく

 

「おーい、グラニそろそろ入ろう。私はオムライスにした。」

 

オムライスが好物だもんね。彼らしいな。

 

「いいね!そうだ、私が頼んだサンドイッチ一口あげるからオムライスも一口頂戴?あたしも少しだけオムライス食べたいな。」

 

「わかったよ、じゃあ早く頼んで席を確保しないとね。」

 

「うん!」

 

そのときにオムライスと一緒に彼の間接キスを味わえるとあたしは考えて提案したが、恥ずかしさで味がしなくなったことを後悔したのは少し経った後だった。

 

 

 

 

食堂内にて

 

「あれ?ドクターもお昼〜?おいらも一緒に食べたいな〜!」 

 

食堂の扉を開けるとお昼ご飯を食べに来たオペレーター達がガヤガヤと賑わう。

ケオベが身体に抱き着いて無邪気に擦り寄ってきた。

遠く離れたところでは

 

『やぁ!テキサス!一緒に食事でもどうかい?』ガバッ

 

『おい離れろ、くっつくな!エクシア、引き離すのを手伝ってくれッ!!』

 

『面白いからパスで。』ニヤリ

 

とペンギン急便が騒がしくしていたり…、あ、ラップが殴られた。

まぁ、騒々しいロドスだが案外みんながのびのびと休憩を取れていると思うと悪くはない。

 

「ねぇ〜、ドクター!聞いてるの?!お〜い!」パタパタ

 

「あぁ、無視してごめんよ。ケーちゃんもいいなら一緒に食べようか!」

 

私はケオベが呼びかけていることに気付く。

心配したような表情だったので謝罪と食事の申し出に賛同する。するとパァァとプレゼントを貰った子供のように口角を上げて八重歯が見えるぐらい口を開く。

 

これがロドスの癒やし枠か…()眩しい笑みで浄化されそうだ…()

 

まぁケーちゃんが可愛いのは当たり前なので置いといて、勝手に隣にいるグラニの許可を得ずケオべを誘ったのは先程知った嫉妬深さで機嫌悪くしていることだろう。

 

隣を見るのが怖い。けれど私はゆっくりと横目で確認しながら彼女の顔色をうかがう。

こういうときに限ってフェイスシールドのようなキャップ帽のせいで陰って見づらい…。

いや陰っているのはハイライトもかって!バカヤロウ…ハハハ…(棒読み)

 

一人、脳内ツッコミが繰り広げられる。ただ虚無感で胃が痛くなった。いやこれはグラニに対するプレッシャーだろう。

食事前なのにお腹痛くなってきちゃったなぁ。……、はぁ…。

 

自然とため息がでてしまう。

覚悟を決めてグラニに声をかける。

相変わらず顔は直接見れないが。

 

「なぁグラニさんや、ケーちゃんも一緒に食事とってもいいかな…?駄目なr「いいよ?」えっ…?」

 

すんなりとグラニからのYesサインに私は驚きで彼女に向き直る。見ると『何?ドクター?そんなおかしなこと言ってる?』とばかりに怪訝そうな顔をしていた。

 

えぇぇ…?さっきの執務室の嫉妬深さはどこに消えたのだろう。以前エクシアと食事したときは他の人誘って横腹を殴られたが、アレはヤンデレ気質な彼女達だけであってグラニは違うのだろうか…?

 

「ケーちゃんも一緒に席見つけようか!ほら、ドクターも急いでー!席埋まっちゃうよー!」

 

意外にも不機嫌にならず、むしろケオべと手を組みながら空いている席を探しに行っている。

よそから見たら仲睦まじい関係だろう。

けど私は経験上グラニの行動パターンが掴めずにいた。不思議に感じる。

するとグラニがちっとも近づこうとしなかった私を連れにトコトコと近づいてきた。

あぁ、マズイ。最近考え込みすぎて注意されることだらけだな。申し訳ない。

 

『ごめん』と一度謝罪の言葉を述べようと口を動かしたとき、グラニはその低い身長で腕を私の後ろに回してグッと強制的にかがみこませるような形にしてきた。

自然と足は床につき、彼女と同じ目線の高さになる。

瞬間グラニは私の顔横で、耳元で囁く。

 

「今回はケーちゃんだから許すけど…、あたしがいるのに他の女の人誘ったらーーーーーー怒るからね…?」

 

その言葉を聞いたとき私は心の底からブルッと震えるような彼女の恐ろしさを思い知った。

さっきまでの様子は、ケオべだから許されていた。

ケオベは私に対して好意的だが、それはファミリーのような愛であって異性としての愛があるかと言われると疑わしい。

だから、先程の言葉でわかった。

グラニはケオベのことを恋敵と認識していない。

むしろ、グラニを都合のいい恋の手助け仲間とでも思っているのだろう。

ケオべを利用をすることで恋敵達に敵じゃないアピールをしてチャンスがくるのを目を光らせて待っている。

 

「……、わかったよ…。以後気をつける。」ボソッ

 

「うん!じゃあ、ドクターこんなことしといて悪いけど他の人の目もあるから早く立ち上がって。ケーちゃんがそこの席取ってるから行こうよ!あ、あと!」

 

先程までの威圧的な雰囲気は抜け早く立つように促す。確かに他オペレーター達から見たら何かあったのかと心配を煽るような状況に見えるかもしれない。

私は急いで立ち何事もなかったように彼女についていく。しかし何かを伝え忘れていたのか、グラニは再度静止してこちらに振り向き口を動かす。

スローモーションに感じるほど空気はまたしてもゆっくりと流れていくように周りの喧噪よりハッキリと聞こえた。

 

「………無視したら妬いちゃうからね…?」

 

ハイライトを消し、少し微笑みながら発言した彼女に私は一生女性には敵わないと思った。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロドスアイランド 食堂 食事後

 

3人で一つのテーブルに座り食事をして15分後、私は頼んでいたオムライスを食べ終えていた。

隣にグラニ、私の前にケオベがまだ食事をしている。

途中、皆で各々頼んでいた食べ物を食べさせ合うなどをしていたが何故かグラニだけが恥ずかしそうに頬を紅潮させていた。

案外ウブなんだな。

まぁ、女性と男性の一口が違うわけで食事のペースが他の二人より早くなり完食して後は食器を元の場所に返すだけなのだが。

流石に早めに返してしまうと二人が『急いで食べないと』と思い喉をつまらせてしまうかもしれない。

それは気が引けるので私は彼女の食べている様子を見ていた。

 

ケオベは食事を頼むとき、まだ読み書きを習っている最中なのでメニュー表を読み、頼むのが苦手だ。

彼女の保護者のような立ち位置にいるヴァルカンはそれを知っている。なので忙しくて世話ができないときに一人で食堂に行かせる場合いつも代わりに頼んでいるケオベの好物をメモ用紙に書いて『コレとこの硬貨をグムに渡せばご飯が出てくるから』と言っているらしい。

ちなみに目の前で黙々と骨つき肉に食いついているがその隣には申し訳程度のサラダが置いてある。

 

何だかんだヴァルカンもケオベが健康でいてもらいたいらしく、こっそりと野菜を付け合わせにするように書いてあった。

 

……親子みたいだなぁ。面倒見も良いお母さんみたいだ。

 

ふと私は記憶にない母親の像をヴァルカンに当てはめ感情に浸る。記憶が戻れば思い出すのだろうか?大切な人も。

 

だといいな…。

 

そんなたらればを考えるうちに二人も皿には残り僅かになっている。

これなら食器を片付けても大丈夫だろう。

 

「そろそろ食器片付けてくるよ。二人ともも食べ終えたら食堂前に集合しよう。先にいってるから。」

 

「「わかった!(よ)」」

 

了承を得て私は席を立ち少し離れた置き場に歩いていく。

他のオペレーターも食事を済ませていたり食事時から少し時間も過ぎてか食器を返すために少し列ができていた。

ちょっとの待ち時間、私は周りを眺める。

暇があれば色々と観察してしまう私の悪癖だ。

こればっかりは無意識にやってしまうから改善しようがない。

 

そう私は食堂を見渡した。

そこで私は気になることを発見する。

ある席で一人、食事をしている女性がいる。

いや別にボッチだとかそんな馬鹿にするようなことではなくてその彼女の腕が両手とも手首を包帯で巻かれていたことに疑問を抱いただけだ。

 

よく見ると彼女は私と面識ある人物だった。

彼女は『ロサ』。始めはある有名な凄惨な事件の関係者として療養のために職員としてサポートする仕事をしていたが、あるきっかけで狙撃オペレーターとして転向した。

そこで本来携えていた才覚を発揮し一躍買ってくれている。

普段から会話したり、たまに食事や買い物に付き合うなどフレンドリーな関係だ。

 

しかし、ここ最近私はロサを出撃させて怪我を負ったという報告を聞いていない。

いつも頑張ろうとする姿に私は彼女に感心を覚えるが。ただ今はそんな姿もどこか淡い寂寥感を覚えた。

目元はよく眠れていないのか薄くクマができている。

 

何かあったのだろうか…?

 

私はどこか胸騒ぎがした。

ただ確信もなく、私が想像することが事実と確かめる立場ではない。

どうしようか迷っているうちに、後ろから声をかけられていた。

 

「ドクター何してるの?早く戻って執務作業しないと終わらないよ?」

 

とグラニが言ってくる。

私はモヤモヤとした気持ちを抱えながら食堂を後にした。

思えば、このときでも一早く彼女に声をかけるべきだったと後悔はするのだが気付けたきっかけになったことは不幸中の幸いだったと今は感謝している。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロサ視点

 

目の前の光景を私は何度嘘だと思い込もうとしたのでしょう。ここは見慣れた風景、ウルサス学友自治団、学園の屋上。封鎖された校門やグラウンドに放り出された机。

そこに差し込む夜明けどきの日の出から全てが包み込まれそうな膨大の光。

それは彼らの鋭く悦に入り瞳の奥をギラギラと輝かせた。 

 

勿論、その光景を見ていた私にもオッドアイが彼らを見据えて酷く輝かせていたでしょう。

私はそれを見るのも見せるのも嫌いだった。

恐怖に過ぎなかった。

人の目が怖い。

 

夜明けが来なければ、今日を平穏に過ごせるのに。

自分らの正義を振りかざして庶民派を下す。

それを罪悪感もなく、ただただ積み木で遊ぶ子供みたいに息絶えた遺体を使ってナニをしていたときには同じ人とは思えず個室トイレで吐いてしまいました。

 

その彼らを同じ視点で間近で見てきて、指導してきて。何が間違いだったのだろう。

もう私には倫理観も無くなって、今じゃ彼ら同様目元にはクマもでき悪逆非道な行為に笑みを浮かべるようになって…。

 

 

 

 

『もう限界です。』

 

 

 

 

 

誰か…、誰か助け…ッ…。

 

その言葉が祈る前に噤んでしまう。

 

私に誰かに助けを乞う資格はあるのだろうか…?

他人を蹴落としてきた私には『自分だけ助かる』ことが許されるのだろうか。

 

…………、いやきっと…ないんでしょうね…。

 

今までの行いの全てを天秤にかけたところで諦観の境地に至りどうしようもなさに涙が溢れる。

生まれ変わりたい。これが逃げだとしても。

 

私は飛び降りるために屋上端に近づいて手をかける。

屋上の危険を表す白ラインが私の人生を明確に区分しているように感じた。

自責の念が自戒へと進ませる原動力。

命を絶つのなんて簡単だって飛び降りる際に感じた浮遊感に思った。

 

 

 

 

         『グシャリ』

 

 

 

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「………ッ…!ハァッ…!…」

 

息が激しく肺が酸素を多く吸込もうと動かす。

チカチカと暗闇に慣れようと目は光を認知する。

身体がジメっと汗ばんで着ていたシャツが濡れて心臓はバクバクと音を出しながら動いていた。

夢だったのかと就寝前の何も変わらないベット上で確認するが私は安堵ともに何故死ねなかったのかと強迫観念に押しつぶされそうになってしまう。

 

またしても息苦しさと先程の夢の彼らの顔が脳裏に焼き付いて離れない。

死にたい…、死のう。死なないと苦しくて辛い。

頭の中でグルグルとネガティブな考えが溢れ出る。

 

とにかく今あるこの苦しみから開放されたいと私は近場にある机からカッターナイフを取り出す。

 

「きょうは…治りかけの左で…。」ボソッ

 

左手首の包帯を乱暴に引き剥がし、その赤黒く爛れ切り傷だらけの手首を持っていたカッターナイフで押し当てる。

俗に言うリストカットだが、世間で認知されているリストカットとはまた違う。

本当のリストカットは、手首の肉を抉りながら傷をつける。

 

私は少しずつ血管から遠く離れたところを削ぐように斬りつけた。

痛みで意識が寝起きの状態よりはっきりとして脳が止めるように電気信号を送るが手は止まらない。

 

痛い…痛い…痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い?…痛い……?気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい気持ちいい!!

 

頭がアドレナリンを出して痛みを和らげようと脳内麻薬を出し続ける。痛みが快感に変わるこの瞬間が依存してしまい、この状態になるまでやめる事をしない。何故かはじめに感じていた苦しみは消えてなくなっている。

 

気づけば手首は真新しい切り傷と血塗れのカッターナイフ、削いだ肉片がベット上で張り付いている。

血が溢れ出てその光景を数分間、じっと見つめていた。面白くもなければ何がしたいかもわからない。

ただ、見つめていると安心した。

 

意識が戻ると涙する。

何をやっているのだろうと後悔がきて、次に死ねなかったとまた涙した。

血管を無意識に外してリストカットをしているのはきっと本能は生きたがっている証拠だと認識したためだった。

 

こんな私は生きてていいのかしら…?

 

ふと疑問が頭の中で出るが、そんな簡単なことさえも今じゃ処理しきれず答えが見つからない。

 

私は机の引き出しから一枚の写真を取り出して眺める。

 

『ドクターとの写真』

 

私と彼の写真。初めての出撃で頬に汚れをつけて困った様子で帰ってきた私を笑いながら、本人もその場の土を頬に塗り『これで一緒だね』と笑顔にさせようとしてきたときの思い出の写真。

 

彼を見ると心があたたまる。

もう彼なしでは生きていけない。

ドクターはズルい人。

ただでさえ折れた心に優しくされたら寄りかかるしかできない。

これはもう、依存しているのだろう。

 

 

でも、私にはこれしかないのだから。

 

 

 

 

 

「たす…けて…、…どくたー…」ポロポロ

 

 

 

 




ロサの印より
一本のペーパーナイフ。
彼女は厳かにあなたに差し出したが、あなたにはその理由がわからない。

どうでしたか?次回は後編を投稿します。

では、時間もないので簡単に用件を言います。
前日、運営から警告が来ましてR-18タグをつけてしました。
3度目の注意喚起ですので大分ヤバいです。
あちゃーぁって頭抱えました。
もしかしたらがあるので避難用にpixivでも投稿してます。
最悪消えたらそっちを見てください。

詳しくは、ってまぁ謝罪や何故こうなったかの経緯は活動報告にて書いてありますのでそちらを見てください。
(※読者必読 と書いております。)

それではまた。


感想や評価お待ちしております。
モチベーションアップに関わります。


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Mudrock if√"A true end 総集 (再up)

こんにちは黒縫です。
R-18タグを運営につけられてから少し登録者減ったので吹っ切れました。
なんで、投稿したら減るんだろうね。投稿する意味なくねって昨日めっちゃ凹みました。
そんな話はおいといて、以前一度一週間限定で投稿したマドロックのA√後の話を投稿します。簡単に言えばif√です。

本当は出したくないって前回駄々こねて消したんですが、もうどうでもいっかな。


加筆

凹んだので当分出さん。めっちゃメンタルブレイクされる。



面白くない話をしましょう。

喜劇ではありません。ただの自己満足に過ぎない彼女の事後のはなし。

 

えぇ、急なことで何を言っているのかわからない?

まぁ、読者の方の話なんてどうでも良いのです。

これは彼女だけが望んだ、彼女だけの物語。

私が勝手ながら幕引きをさせていただくことになりました。

少しばかりお付き合いください。

 

では、終章『マドロックは守りたい』

 

否、『マドロックは明日へ向きたい』

 

もしもの世界線。

誰にも望まれなくとも彼女は明日へ方舟を進ませる。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

not A√” True end

 

ドクター視点

 

私はあの無線から聞こえた言葉を頭の中で反復する。

 

『…、…カズデルにて待っている…。』

 

あの声を数カ月前に聞いて以来、行方不明となったマドロックの声だと確信していた。

聞き間違えるはずがない。

彼女と離れ離れになった後、私は心にポッカリと穴が空いたように楽しみだったオペレーター達との会話や食事が虚無感で面白みが無くなっていた。

 

先日、それについてアンジェに言われた。

 

「ね、ねぇ…ドクター…、楽しい…?今…すごく…辛そうな顔をしているよ…大丈夫…?」

 

せっかく気分転換にアンジェから誘ってもらった観光なのに心が晴れなかった。

観光スポットに向かう途中に見えた、砂漠地帯。

今にも崩れそうな遺跡、太陽の光を反射させて幻想的な湖。

どれもあのときを思い出させる材料となり、胸を締め付けるほど悲しい気持ちが溢れ出てくる。

 

しかし、そんなことも今日までだ。

 

日課となりつつあったトランシーバーから、応答があった。私はそこに行くためにロドスの皆には内緒で出ていく。

 

なぜか?それは…カズデルは今はなきサルカズ族が国家として作ろうとした場所。

今は荒廃した街が手つかずの状態で放置してある。

そこには居場所を失った者、ヴィクトリアとの紛争時に奇跡的に逃れた者、犯罪組織のブローカー。

様々な事情を抱えた厄介者達が集い、一つの集落となった。

 

良く言えば自由の街、悪く言えば無法地帯。

ルールや規律など無く、死ねば亡骸もそのまま。

殺されれば金目のもの全てをかっさられる。

勿論、人体も貴重で価値あるものだ。

発見時にどうなっているか、想像したくもない。

だから、その危険な場にかの有名なロドスアイランドの幹部が丸腰で護衛もつけず行くなんて止められるに決まっている。

 

背負えるバックにトランシーバーと数日間の食料、

地図に方位磁針、あとはWからのサバイバルナイフ。

 

結局…返せなくなったな。彼女に申し訳ない。

 

バックはパンパンになり私の心とは真逆で、まるで希望と彼女に対する願いが詰め込まれていたように感じた。

 

バックを背負って執務室の電気を消す。

扉が開いたとき私の机に光が差し込んだ。

差し込んだ先には一つの茶封筒。

『退職願』と書いていた。

 

 

もうここには戻らない。決別のときだ。

 

 

「今までありがとうございました。」

 

 

感謝の言葉を静かで薄暗い執務室向けて言う。

勿論、それに反応してくれる人なんていない。

今は消灯の時間。ただ、部屋に響いただけですぐに静寂と化した。

 

 

 

 

 

 

 

歩いて十数分後。ロドスアイランドの入り口に誰かが立っている。

フェリーンの耳に尻尾。こんな肌寒いのに薄着のタンクトップなのは平熱が常に高くて熱を放出させるために衣服を普段から着込まない彼女しかいまい。

 

「ねぇ、ドクター。どこに行くつもりなのかな。」

 

「…マドロックを探しに行くんだよ。ブレイズ。」

 

「……、当たり前だけど…行かせないよ…?」

 

その通路を塞ぐように立ち往生している。

奥の月夜が彼女を照らすが、瞳には光なんて灯っていない。鋭く、そして周りの暗さに同化してしまうほど黒い。

手元には愛機のチェンソーを持たず腰にも何もない。手ぶらで、私と相対している。

 

私が刃物を使って強行突破するとは考えなかったのか?いや、それを含めた上で徒手で抑え込もうとしているのだろう。だって、今彼女はレスリングの選手のように体をかがみ、タックルするように構えているのだから。

 

私はバックに手を突っ込み、ナイフの柄の部分を握りしめて

 

「私は今、ナイフを持っている。それを取り出して君を斬りつけることだって…可能だ。少なくても君を傷つけることはできる。それでも立ち向かってくるのかな…?」

 

ブレイズに牽制のために話す。

それを聞いた彼女はゆっくり口を開き、

 

「…ドクターがナイフを使って私を傷つけることなんてできないよ…。優しいあなたは、絶対…に傷つけることはできない。」

 

「そんなことッ…!君にわかるわけッ…!」バッ

 

私はナイフを片手にバックから出して構えた。

 

「じゃぁ、なんで手がそんなに震えてるのかな…?」

 

指摘された手を見るとプルプルと震えて、握りしめているはずなのにナイフが定まらない。

 

「……くッ…!!クソっ…!クソッ!!」ガンガン

 

震えている手首に、もう片手で殴り鎮めようとするが駄目だ。持っている限り、体が拒否るように離そうとする。

 

 

 

もしこれで彼女の顔に傷つけたら、一生痕になって後悔するよ…?

 

刺しどころが悪くて死んでしまったら…?

 

他のオペレーター達が悲しむよ…?

 

あんなに食事や仕事を共にしたのに殺しちゃうのかい…?

 

 

頭の中で誰かもわからない奴から意見する声が聞こえる。

いや、これは私だ。

心の底では彼女を傷つけることが嫌だと思っている。それが、相対してから気付くなんて本当に…

 

「………ッ……、…ズルいよ…」

 

使い物にならないナイフは甲高い音をたてながら地面に転がる。

 

「ごめんね、こうなることは分かっていたからさ。ドクター、お詫びは今度するから大人しくロドスの皆と一緒に幸せになろうよ。あの娘は、彼女自身が選んだ道だから仕方ないけどドクターがいなくなったら悲しむ子はたくさんいるんだよ?」

 

淡々と彼女は話す。

 

「たとえ、ここから逃げおおせても私は諦めないし、他のオペレーターがすぐに追いかける。皆、あなたが全てなんだよ…。こんな残酷で悲惨で救いようがない世界の一部に、優しく溶かすように接してくれる貴方を気にならないやつなんかいないよ。」

 

ジリジリと距離を詰めてくる。

 

「だから、大人しく私に捕まってね。ドクター。」

 

瞬間、彼女は助走もつけずに20m離れていた距離をトップスピードでタックルしてくる。

風は彼女を捉えることなく、切り裂いて一直線に詰めていく。

回避することは不可能。あと2m。

捕まればマドロックにあうことも叶わないばかりか、このことが皆に知れ渡って軟禁状態になることもあるだろう。

 

あぁ…、詰んだ…。彼女に敵うわけがなかったのだ。諦めろ…、どうせ、彼女もわたしのことなんて…、、、

 

 

……………………………。

 

 

「………っ…!あき…らめれる…わけないだろ!!!」

 

 

私は彼女のもとに行かなければならない。

 

「そんなので捕まるぐらいなら、レユニオンの方がまだ骨あったさッ!!」ダッ

 

彼女が近づくギリギリのところで通路の壁に蹴りを入れて宙に浮く。空振った彼女の腕は目標を捉えられず空かした。

 

よしっ…!ぬけた!!

 

このまま奥の通路に走る算段を地面に足をつける前に考えたが、その足は地面につくことはなかった。

 

「私がどうしてエリートオペレーターと呼ばれているか、ドクターでもわからなかったみたいだね――――――――――。」

 

ブレイズは宙に逃げた体の反対側の私をすぐに体制を立て直して、浮いていた足を足首をガシッと掴み地面に叩き落とした。

すかさず、地面にうつ伏せで叩き落とした私を腰に身体を乗せて手足が出せないように後ろに掴まれて拘束される。

 

「どんな獲物でも必ず仕留める。これがあの可愛いCEOさんを納得づけた最大の根拠だよ…。」ニカッ

 

見下ろす彼女は捕まえたことによる喜びでその口角は上がる。だが普段と違って不気味で背筋が凍ってしまうほど、恐ろしく覚えた。

 

「じゃぁ、今すぐ私達の愛の巣に戻ろうね、ドクター。勿論…逃げた罰はこの身体に教え込むから…。」

 

 

 

 

身体を激しく動かす。

しかし、彼女の腕が余計に強くなり締め付けられるだけだ。逃げれる隙は生まれない。

拘束してから10分。これを何度も繰り返していた。

ブレイズの顔が私の耳元近くまできて吐息が聞こえる。

彼女はというと暴れて逃げ出そうとしている様子に始めは怒っているような表情だったものが、徐々に今は言うことを聞かない子供と接しているときみたいに呆れた顔で拘束している。

 

「ねぇ〜ドクター、そろそろ諦めてよ〜…。逃げれないし私に敵わないのは実際に捕まってみて分かったでしょ…?諦めが良いのが貴方の美点でもあるんだから、さっさと諦めて帰ろうよ〜。」

 

首を締め付けられている。空気を吸うのに精一杯なため声がうまく出せず彼女の問いかけに反応できない。

 

「……ぐぅ…ぁ"ぁ"……ぃ…や、…だ…。」グググ

 

「…、はぁ…あっそ…。少し痛い目見てもらうけどいいよね。」ガシッ

 

ブレイズはそう口にすると体制を変えて、足と腕で器用に関節技を決めていく。ギシギシと関節や骨が軋むような音が所々聞こえる。

しかし、そんな軋む音は私の叫び声でかき消される。断末魔のような痛みに耐えるために大声を出して意識を保とうと体が無意識のうちにしている。

 

「うぐっ…あぁぁぁァァァあ"あ"!!」バタバタ

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!!!!

 

「さーん。」

 

カウントダウンをしているが意識が締められている腕にいってしまう。

 

「にぃー。」

 

だんだんと締め付けが強くなっていく。

嘘だろ…、腕を折ろうとしてるのか…!?

察した私は足をジタバタと暴れて逃げようとするが痛みのせいで力が入らず、暴れる気力がだんだんとなくなってきていた。

 

「いーち…、ドクターごめんね?」

 

あ、腕を折られる。

 

カウントダウンのせいで恐怖心が心をゆっくりと撫でていく。もう何かなんだか考えられない。

一種の催眠術のように、思考が安定しない。

もう駄目だ、心も同時に彼女におられる。

今見ている景色もスローモーションのように折られるその時まで視界だけが輪郭をクッキリと作り出す。

 

ッ……やめろ……、…やめてくれッ!!

 

「…ぜー…ろ…ッ!?」バッ

 

瞬間、ブレイズは今まで拘束していた身体を離して私から距離を取る。

締め付けられていた腕は一瞬のうちに痛みがひくがそれは脳内でアドレナリンが出ているせいだろう。

動かそうと神経が信号をおくるが上手く動かない。

 

それにしても、なぜ私の拘束をといたんだ…?

 

疑問がすぐに出てくる。

先程までの思考では冴えた答えが出てこない。

 

じゃぁ――――――――――――――――

 

「私のドクターに何をしているのかしら?」

 

私の背後から聞き覚えのある声が聞こえる。

しかし、普段の冷静でまるで海が凪いだときのように言葉に抑揚がない彼女の声とは違う。

明らかに怒気を含んだ声をしており、後ろを振り向かずとも威圧感を感じる。

 

私はゆっくりとその声の主を確かめた。

そこには眉をひそめて片手には彼女の得物である長身の剣が握られており、先程ブレイズが避けたことは彼女が剣先を振って攻撃したと察することができた。

 

「スカジっ…!!」

 

「何で…私の邪魔をするのかな。貴女も私と同類だと思っていたんだけど?」

 

ブレイズは相対する彼女を見据えて睨みを利かしながら問う。

彼女はスカジに似た何かを感じていたらしく、止められるとは思っていなかったらしい。むしろ、ここに居ることに驚いているようだ。

 

スカジは一度目を閉じて、深呼吸をする。

会話する気になったので怒りを抑えこもうということだろう。その深呼吸が終わったときに彼女は口にする。

 

「ブレイズ、貴女と同類?それはありえないわよ。

私はロドスに彼を繋ぎ止めようとするかもしれないけれど、傷つけ苦痛による支配はしないわ。」

 

彼女は不敵な笑みをこぼしながら喋っていた。

ブレイズに嘲笑を込めて、話を続ける。

 

「エリートオペレーターとして貴女は、その品格を乏してドクターに危害を加えようとしたことはアーミヤも看過できないはずだわ。彼の叫び声であと10分程度でここにオペレーター達が確認しに来る。

それでも言い逃れはできるのかしら?」

 

スカジはブレイズに剣先を向けて、コツコツと私の背後から庇うようにブレイズと私の間で牽制をとった。

 

その様子を見たブレイズは、今一度怒りを感じているのか眉をひそめて、何か口にしようとしたが止まり、考え、ゆっくりと言葉を紡いでいく。

 

「………、スカジ。なぜこの状態になったのは分かっているの?」

 

「いいえ…わからないわ。けれど彼に危害を加えるのは許さない。」

 

彼女の様子にチクリと心が痛んだ。

 

「ドクターは『退職願』を机に提出し、もうここには戻らないつもりだけれど、それでも彼を助けるのかな?」 

 

私に人差し指で指して事情を話す。

 

「は…?」

 

スカジはブレイズの言葉に反応示す。あまりに衝撃的だったのか剣を握りに締めている手が震えていた。

 

どういう心情なのか、私はスカジのテンガロンハットで彼女の表情が組み取れない。

彼女は事実に傷ついたのか、それともこの場から離れようとした私に怒りを抱いているのか。

私にはわからない、分かるわけもない。

 

そうこう考えているうちに彼女が握っている剣先が勢いよくこちらの眉間近くまで来た。

あと数センチで彼女の剣が触れて鋭く手入れされた得物は私の皮膚なんか切り裂く動作など入れずとも怪我を追わせることが可能だろう。

 

こちらを見るスカジの瞳にはハイライトが消えて、その美しい緋色の眼光は、蛇に睨まれたように私の体を膠着させた。

 

「3分…いいえ、1分でいいわ。少し彼に問いたいことがあるの。時間を頂戴。」

 

彼女は私に顔を向けながらブレイズに話す。ブレイズとは言うと心底どうでもいいような顔をしていたが

 

「いいよ。1分ね。」

 

と承諾した。

 

 

私はこれから何を聞かれるのか、緊張で動悸が激しくなる。そんな様子に気にも止めずスカジは私にいくつか質問をしていった。

 

「…………、なんで…ロドスから離れるのかしら…。」

 

よく見ると彼女の唇が少し震えているように見えた。何となくだが私がすることを察しているらしく、事実確認をしているといったところだろうか。

 

「マドロックに会うため…。」

 

「私はこんなに貴方を愛しているのに…、貴女は彼女を選ぶのかしら…?」

 

彼女は剣の柄を強く握りしめている。

戦場では天下無双の強さを誇っていたスカジであったが問いかける今の姿は崩れそうなほど脆くつらそうな顔をしていた。

 

だけど、私は答えなくては。私はマドロックのことを愛してしまったのだから。

 

「……ごめん…、私は彼女に恋してしまったんだ。たとえどんなに無償の愛を積まれようとその気持ちが変わることはない…。」

 

彼女を突き放してしまうという罪悪感と申し訳なさで口から言葉が上手く出ない。精一杯の否定。

彼女の表情が歪む。泣きそうなのだろうか、顔に触れそうな近さにあった剣先は降ろされ、俯いている。

 

しばし沈黙がこの渡り通路を静寂と化していた。

 

「分かったわ。」

 

彼女の一言が響く。

身体は前を向いており、ブレイズを見ている。

ブレイズはスカジに

 

「もう時間はいいのかな?」

 

と確認をとった。

 

「えぇ…、何も変わることはなかったわ…。」

 

「じゃあ…ドクターを引き止める手伝いをしてくれないかな。そこの彼を拘束してくれると助かるんだけど「誰も手伝うとか言っていないのだけど」はぁ?」

 

ブレイズが喋っている途中で割って彼女は否定する。そこに誰かの言葉を言われようと頑固たる決意と覚悟が含まれていた。

そして今一度その長身の剣を構えて彼女に相対する。

 

「スカジ、先程までの話を聞いていた?彼はもう二度と私達のモノにはならない。帰ってこないかもしれない。あの楽しい日々は金輪際ないかもしれない。それをわかった上で言ってるの?それがどの裏切りより酷いかわかってる?」

 

「ごちゃごちゃ煩いわ。私は…、彼のことを愛してる。彼がすること、やること、望みはすべて叶えてあげたい。私が彼を好きになったように彼が別の彼女を好きなったのは自然なことだわ…。誰も他人の好意を否定することは許されない。」

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

スカジ視点

 

目の前の烈火の如く炎のように荒々しく彼女は口調を変える。いつもの楽観的な雰囲気とは違い、目は座り真剣な表情で。

まるで、自身にはない異物を見るような目で。

ブレイズは口にする。

 

「貴女が選ばれなくても?他人にその好意を、譲ることだとしても?…私は嫌だね。そんな軽薄な愛は消えてなくなればいい。彼の中で私は一番になりたい。ロドスにいればそんな願いは叶わないかもしれないけれど出しぬくチャンスは生まれる。ドクターに好きになってもらえる…チャンスは…ある…。」

 

そう…自信がないのね。

そうなるか、自信がないのか口調が弱々しくなる。しかし、そんな様子を馬鹿にはできなかった。

なぜなら、私もそうだから。

 

どんなにドクターのためだと自身の恋心を抑えても取り繕うと、割り切れない。

素直に言えれば私を選んでほしい。私を愛してほしい。今まで独りの私の隣で微笑んでほしい。

それだけの望みを叶えてくれてもいいでしょう?

 

チラッと後ろのドクターを見る。

彼の目はブレイズの気持ちを聞いて、申し訳ないような顔で俯いていた。

 

私の気持ちを打ち明けたときもそうだったわね…。

何だかんだ面倒見のいい彼は、私達のことをほっとけないのだろう。

なら、なおさら

 

「ドクター、目を背けないで。」

 

声をかける。せめて、彼が私達を捨てたあとでも、彼女の気持ちに向き合ったと後悔しないように。

 

ドクターは顔を上げて、私の方を見た。

あぁ…その輝く瞳が恋しい。

 

「彼女を見てあげて、せめてあなたの口から言うのよ。貴女は彼女を傷つける義務があるわ。貴方が私の気持ちを否定したように。傷つけたように。それから目を逸らして逃げようなんて私も許さない。」

 

強く言い聞かせる。

ほら、そんな優しい貴方だからこの言葉に辛そうな反応をして向き合おうと顔を上げる。

その様子に安堵した。

 

私が焦がれたあの時の彼でいたことに。

 

彼は腰を上げて一つ一つ歩みを進ませる。

一つ、また一つと私の後ろから前に出てきてブレイズの近くによる。

その度にブレイズの顔が歪んで現実を受け止められないような悲痛そうな顔をしている。

彼女もこれから言われることに察しがついているらしい。

後退ろうとするが、その前にドクターが手を伸ばせば触れそうなほど近くまで来て立っていた。

 

これから彼女は傷つく、どんな人でも当たり前のような出来事で。

 

「ブレイズ、私は君のことを受け入れられない。」

 

あの時のことを考えると恋敵にザマァみろと思えれれば私の今の気持ちは幾らか軽くなったはず。しかし、そんなことは微塵も思うことができなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ブレイズ視点

 

「ブレイズ、私は君のことを受け入れられない。」

 

その一言で胸が締め付けられる。

目尻が熱くなって、涙袋から受け止められないほどの涙が出てくる。受け止められない。

現実も。彼の言葉も。

 

「うぁぁ"…わ…たしは"…、、、…、ッ……ぁぁ"…!」

 

言葉が紡ぐことはない。

私は貴方のことを死ぬほど愛しているというのに。

死んでも愛しているのに。

憎い…?憎い。

彼が…?私が。

恥ずかしい。ハズカシイ。

 

 

支離滅裂、言葉が頭の中でも紡がない。

こんな気持ちになるなんて初めてだった。

仲間が死んだとき以来?違う。

こんな気持ち味わいたくなかった。

潤んで視界が涙のせいでボヤケていくが、彼の目には後悔なんてなく決意に満ちている。

だから、決定的に否定された。

否定されたと決定した。

 

奥のスカジは同情しているのか、自分と重ねているのか涙を流している。

 

あぁ…鉄仮面のような貴女でも泣くのね…。

 

「ごめん、もうそろそろ他のオペレーター達がここに来る。私は行くよ。」

 

彼は私の脇を通っていく。最後に見ることになるだろう彼は迷いなど吹っ切れた様子で、そんな彼に話しかける勇気なんて、振られたときに気力ごとなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

彼がここから、ロドスから出ていったとき。

スカジが私の近くまで寄ってきた。

彼女は

 

「帰りましょう…。」

 

とだけ短く話しかけてくる。

私はどうしようもない虚無感に抗うために彼女に質問した。

 

「……貴女も泣くのね…?」

 

そう彼女の涙を指摘した。

ちょっとしたイジワルな気持ちだった。

彼女は今気づいたと言わんばかりに手で涙が落ちていく通りの頬を触って、濡れた感触に気を持っていかれていた。

そして、その事実を知った彼女は私に対して

 

「いいえ、泣いてないわ。」

 

とだけ強がった。

 

 

 

 

 

 

 

数日後 カズデル 荒廃した路地裏

 

ドクター視点

 

ロドスから去って、数日たった。

所持金でタクシーを使いながら、ここまでやってきたがここに行こうなんてやつはいない。

途中下車してここまで歩いてやってきた。

タクシーのおじさんからは

 

「物好きな方だね。けれど、そんな手薄な状態でそこを目指しているということは事情があるのでしょう。せめてこれをどうぞ、ご乗車してくださったお礼…、いいや、割り合わないですね。やはりただのお節介です。」

 

と拳銃を一丁もらった。

 

足は痛いし、フラフラで、服装は汚れてボロボロだ。

 

マドロックが待ち合わせ場所として指定したところにつく。歩くたびに端ではホームレスの集団が路上や廃墟化した建物に住み着いていた。

街灯なんてない、建物はヒビが入り崩れていたりゴミ収集用のボックスにネズミや小動物がたかっている。

日差しがささないそこは、とても人が生活できるような場所ではなかった。

勿論、そこには誰もいない。

彼女に嘘をつかれたのだろう。

悲しい気持ちが溢れ残念だと割りきろうとする心が一瞬にして胸いっぱいにした。

 

無意識にバックのトランシーバーを掴む。

耳元に当て、トランシーバーを起動して彼女に。

今はどこにいるかわからないマドロックに向けて心の内を大人気なく口にする。

 

『すまない、君には会えなかったらしい』

 

『会いたいよ…、最近まともに食事すら喉を通らないんだ。』

 

『ぁ…あ、そうだ、ロドスから抜けたんだ。私はもう何処にもいけない気がして。』

 

『いや…そんなの言い訳か…。』

 

『叶えたいことができたんだ。けれど、それが一つ増えるたびに諦めなければいけないことがまた一つ増えて…。』

 

『案外、私は欲深いらしい。』

 

トランシーバーのやり取り…、いや、独り言をやめた。虚しくなる。

これからどうしようか。もう居場所は捨てた。

人望も捨てた。残ったのはこのカバンと多少数カ月程度は生きていくことができる所持金。

持ち物なんてどうでもいいか。

 

今あるのは燃え尽き症候群のようなどうしようもない感傷。

しかし、失ったものが多かったほど何にでもなれる気がしてきた。

私は今一度、歩みを止めるべからずその路地裏から離れる。

後ろを振り向いて踵を返して、俯きつつだが確実に私はその足を前に進める。

 

「そこは上を向いて歩くべきだ。上を向いてさえいれば見えてない希望だって…、星の数ほどあるのだから。」

 

私は正面から懐かしい声を聞いた。

大きな片手に鎚を携えていて、そこには旧約聖書の詩編「For evil men will be cut off」が刻まれている。間違いない。見間違えるはずがない。

顔を上げてその会いたかった彼女の顔を見て確認する。

赤い瞳と白髪のロングヘアに黒い双角。

彼女はほら、そうだろと言わんばかりの表情で、柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「…上を向けばあっただろう?」

 

私はその問いかけに答える。

 

「あぁ…、案外近くにあったよ。」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

これにて彼、彼女の物語の幕は閉じます。

ん…?いえ、物語の幕は閉じられても人生に幕を閉じたわけではありません。

わたくしが選択肢を提示したところで、それは可能性でしかないのです。

A√やB√の彼女も、もしかしたらC√の彼女だっているのかもしれません。

しかし、そのBADENDのような結末だとて人生は恒久的に続きます。

 

このnot A√true endの先に見る話では不幸で心を病んでしまうときだってあるでしょう。

ここだけの話、B√の彼女は不幸続きの人生で決して楽な生き方ではなかった。

しかし、最愛の人との子供が生まれたときには涙を流すほど喜び死ぬ間際まで楽しく過ごす未来だってあるのです。

 

幸せなんて心の持ち用です。

不幸に押しつぶされられなければ、いつだってhappyendになれるように。

幸せに潰されるなんてないように。

不幸に押しつぶされることなんてないのです。

 

前を向けず自己嫌悪で苛まれるあなたへ。

常にあなたの隣に幸せは眠っているはず。

恒久的な欠落を愛してこその幸福。

こんな幸せは持っていて当たり前なのですから。

 

 

では、話を終えましょうか。

聞き飽きた頃だと思いますので。

私の考えたストーリーでは、BADENDなんてありません。happyendなんてものもありません。

どちらも過程にすぎず、一つの物語なのです。

 

 

なので、どちらも暖かい目で見てくださると助かります。

コンテンツとしては欠陥だらけの物語ですが、何処か幸せを予感させる物語を作っていければと思います。

 

 

 




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シーンは焦がれたい (√選択)

こんばんは、ぬいです。
昨日一度投稿したのに、なんか納得行かなくて消しちゃいました。

まぁ、ごめんね。
ロサ待ってね、ストーリーどうするかど忘れした。
あとこれ、前座なので特にストーリー期待しないで。


'21 12/17 14:21:06 【_01】

 

ドクター視点

 

『カメラのフィルムには何が映ると思いますか?!』

 

目の前でシーンの側付きロボット『レンズ』はこちらに近づいて来ながら楽しげな声音で問いかけてきた。

暇なときはシーンより私とレンズだけの会話になる傾向がある。

口下手なシーンより活発なレンズと話し込んでしまうことは日常茶飯事だった。

 

まぁ、そのせいかシーンは今ソファに座っている私の膝を枕にして眠っている。暖房は入っているがさすがに何か掛けないとマズいと思い、普段着ているフード付きロングコートを毛布代わりに使った。

この距離でもスヤスヤと呼吸音も聞こえる。

 

「…ん?撮った情景じゃないのか…?」

 

少しだけ声のトーンを下げ起こさないように意識しながら会話を続ける。

ハッキリ言って何故レンズがこんな質問をしてくるか意図がわからない。

 

『違いますよ、ドクターさん!50%正解で不正解です!』

 

「それでも半分はあっているのね…。」

 

何だそれ。

 

『ふふふ〜ん!ヒントがほしいですか?!』

 

レンズは器用にも車輪を使い回転してピタッと、まるで人に指を指すように動きを止める。

 

情景じゃないならなんだ?

 

「少しだけ待ってくれ…。んん…?…」

 

目線を眠っているシーンの方に向けて考えこむ。

 

彼女のカメラは実在する像と像を結んで虚像を作り出す。

その虚像は何立方mの現実世界さえたった平方cmのフィルムに収めてしまう。

そこに流れていた雰囲気さえ感じさせる撮影技術は、まさに神業と言って過言じゃない。

少なくとも今まで見てきた写真何万枚より彼女が撮った一枚の価値が圧倒的に高い。

それ故に、平凡な回答ではなく少し捻った考えだと予想できる。

いや…考え過ぎなようにも思えるけど。

 

………………。

 

「あぁ―――――。」

 

レンズのフレームが反射で光る。まるで答えを当ててくれるだろうと期待する子供の瞳のように。

ワクワクして目を輝かす子供のそれと一緒だ。

 

「―――ごめん。…わかんないや。答え教えてよ。」

 

『ドクターさんでもお手上げですか〜?!私の勝ちですね!どうしましょう〜!言ってもいいんですかー?!』

 

嬉しそうにまた動き回るレンズ。

寝返りを打って向きを変えるシーン。

そして頭を抱える私。

 

何を持って勝利なんだよ…?

傍から見たらわけわからない光景だろうな。

私自身も何でこんなことをしているのか分かってないし…。まぁ、今更か。

 

レンズは再び止まる。

私の方にカメラのレンズを合わせて彼女からパシャリとフラッシュとともにシャッター音が切られた。

そして少しだけ間が空いて、レンズはまた喋りだす。次は元気そうな声音ではなく、落ち着いた雰囲気で。

 

 

『愛ですよ。』

 

 

 

唐突な喋りだしと抽象的な回答に頭の中ではてなマークを一つ、ポンッと浮かんでしまった。

愛?撮影に対する愛か?それとも写像に対しての?

明確な回答ではない故に疑問で頭の中が一杯になる。

 

「愛って何に対しての?写像か、それとも撮影そのものに…?レンズ、流石にそれだけじゃ分かんないよ。」

 

正直に話した。

面倒くさくて、思考をやめたわけじゃない。

けれど、ハッキリ言って抽象的な表現で話すやつに論理的な考えを述べても答えが合うわけないだろう。

1+1=2なら誰でもわかるけど、1+1=田んぼの田とか考えの範疇から、まず除外するだろ?

それと一緒だ。

 

『"ドクターさんは愛しいって心が高ぶったときに抱きしめたりとかしますか…?"』

 

「……うん。それはある。」

 

意図がわからない。

 

『"それと一緒…ですよ。どうしようもないほど張り裂けそうな愛…。これ以上もないほど心が満たされていく瞬間、それが写像に…雰囲気に、色づいていくんです。"』

 

そう言いながらレンズは先程撮ったらしい一枚の写真を渡してくれた。

そこにはシーンに向けて穏やかな笑みをしていた私と目を瞑り安心しきって少し口を開け前髪が上がった彼女が一枚の写真に収められている。

 

あぁ…。

 

何となくレンズが抽象的な表現をした理由がわかった。

確かにそこにあるのは愛がある。シーンに対して父性だろうけど彼女を守りたいと思う親愛が。

言い例えづらいものが確かに写真の中で表させていた。

 

『"これをシーンお嬢様は私と一緒に各地飛び回ってひたすらフィルムに収めていったんです。ですが…レンズは思うのです。"』

 

段々と彼女らしからぬトーンが低い声で話す。

その様子は真剣そのもので、そんなレンズのことを茶化して話をやめさせることなんてできなかった。

何となく言いたいことだって分かるんだ。

だから、私は次の言葉を聞くのをためらってしまう。

その真実はいま私の膝元で穏やかに寝ている彼女に必要なのだろうか…?

 

『"もしかして孤独に生きてきた反動でシーンお嬢様は無意識にカメラ越しから見える愛を探し続けているんじゃないかって。愛を求めているんじゃないかって…。"』

 

「…………………。」

 

『ドクターさん、私が以前お願いしたのを覚えていますか…?』

 

「あぁ…。ちゃんと一言一句頭の中に入ってるよ。」

 

その私の回答にレンズは少しだけ喜んだ。

無意識だろう、『…あぁ、良かった…。』と口から出ている。

それと私のみ間違えかもしれけれどシーンの口角が少しだけ上がったように…感じただけだ。

それ以上のことは何もない。

 

『でしたら!シーンお嬢様をお願いしますね!』

 

レンズは声のトーンを上げ、元気いっぱいに言う。しかし胸元で何かが引っかかったような違和感を覚えた。

 

『レンズは…シーンお嬢様が幸せになってくだされればそれ以上望むことはありません。隣にいるのが私じゃなくても。』

 

私は、レンズの今わの際のような発言に素直に頷けなかった。

単純にどうすればよかったのかわからなかったこともある。

けれど、一番は『私がレンズの代わりになるのか』という疑問だった。

 

誰も誰かの代わりにはなれない。

たとえ特別で替えがたい人でも誰かの特別になるのは難しい。

それをレンズに話そうとしたが、言い淀んでしまった。

 

多分理解した上で私に頼み込んでいるんだ。

だから、何も言えなかった。

じゃないとレンズの決断をなかったことにしてしまう気がしたから。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

シーン視点 

 

'21 12/20 18:30 :50 【_02】

 

『作戦を開始するぞ。』

 

耳元のイヤホンマイクからドクターの声が頭の中で反響する。

いつもの声とは裏腹にどこか不安を感じさせた。

 

『シーンお嬢様!頑張りましょう!!えいえいおー!です!』

 

「…う…ん。えい…えい、おー…!…」スクッ

 

隣のレンズがいつものように元気いっぱいな声で私はドクターから指示された場所に向かう為腰を上げる。

 

体に力を入れるけど私は力がないから…ね。

 

ゆっくり進む。

たまに休憩しながら。

 

わ…ぁ…こんなに高いところ…登らないといけないのかな…ぁ…?

 

「レ…ンズすこ…し…だけ、ちからを…かして…?」

 

『分かりました!お気をつけください!』

 

レンズが壁を登る土台になってくれている。

それでも少しだけ登るのがキツイ。

私は他のオペレーターの方のように大きくない腕に力を込めてようやく体の上半身を壁の上に持ってこれた。

 

「んっ…、むぅ…。」グッ

 

やっ…と周り…が見渡せる…位置…についたよ。

 

ちょっとした体の動きだけで息が荒くなる。

肺が酸素を取り入れようとするけど、それ以上にそこから見えた景色に息を呑んだ。

 

 

夕時なのか赤くオレンジ色に輝いた太陽が日没していく。

その夕焼けはオペレーター達をスポットライトのように照らしてレユニオンの歩兵を自身の得物で切り裂いていく。

そしてその返り血でまた自分自身を赤く染めていた。

 

今まで眺めてきた場の空気感とそれを取り囲んだ心から沸き立つような情景に、無意識にカメラを取り出して一枚の写真に収める。

 

戦場だって、人の生き死にだって分かって…る。

理不尽な死、恐怖の坩堝、疫病の泰然。

今、敵の臓物が空中に飛び出している。

傍から見たら酷い光景。

けど、それよりも…

 

「…、き…れい…。」

 

ここから眺め見るその全てに意味があるように感じた。

命の尊さと儚さをこのカメラに収められたと思うと少しだけ嬉しく口元が緩む感覚がある。

 

『シーン、到着地点には着いたか?そろそろレンズを東南の位置に配置して偵察を行ってほしい。敵に遭遇した場合、報告と足止め。できれば殲滅を頼む。』

 

「わかっ…た。」

 

またイヤホンマイクからドクターの声が聞こえ指示をもらう。

 

そう…、まだ作戦ちゅ…う。

気を抜いちゃ…だめ…だ…よね…?

 

「…レンズ…?おねがい。」

 

私はレンズの方に目線を向けて合図する。

ここまで来たらあとは簡単だ…ねぇ…。

合図を受けたレンズは

 

『お任せください!疑似レンズを東南の高台に設置。偵察を開始いたします!』

 

元気よく返事するとレンズと似たロボットが東南の高台に向かう。

アレもレンズ。ただし私の隣にいるレンズとは違い疑似的な物で本体に比べると性能は若干劣る。

その疑似レンズと視覚を共有して本体が敵を発見時写真を撮って報告をする。

 

「んっ。だいじょうぶだねぇ…。」

 

風が強く吹いて髪をなびかせるが、特に変わることはない。

このまま何事もなく作戦終了まで待っていればいいのかな。

 

『シーンお嬢様!レジャーシートを持ってきましたので座って休んでください!あとはレンズ達にお任せ下されば大丈夫ですよ!』

 

レンズがその場にレジャーシートを敷いて座るように促してくる。

 

そう…だね。すこしつかれちゃったかも。

 

「ありがとう…ね、レンズ。」

 

レンズの硬い合板を触る。撫でるような仕草だけどこの場合は撫でている感じがしない。

私はゆっくりと座り、少しだけレンズの機体にもたれかかった。

 

このまま何もおきないようにと願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

ドクター視点

 

レユニオンの抗争開始から2時間。

終盤戦となり結果はこちらの優勢、あと少しでレユニオン部隊を殲滅できる。

あとは残等狩りだけなのだが主力の前線メンバーは下げた。

なぜならこちらの消耗も激しく数名が負傷。

重傷者は幸いいないのだが無理をさせるのはいけない。

医療オペレーター達が応急処置とアーツで修復を試みている。

残りは負傷が少なく再出動が可能なオペレーターに任せていた。

 

「……ようやく…、これで終わる。」ハァ…

 

勝利を目前に、私は心から安堵した。

幾度となくレユニオンとの抗争は繰り広げられる。

何度も経験し、何度も戦地に仲間を送ってきた。

けれど人の生き死にを左右する指揮は、余裕を無くし心を削る。

 

私は近くの背もたれ付きの椅子に座り、胸ポケットに入れていた煙草とライターを取り出す。

ワルファリンからきつく『そんなもん、ろくな死に方しないぞ!肺真っ黒けっけじゃ!』と怒られたのだが、こんな心臓に悪い仕事じゃストレスがたまるからなぁ…。

作戦終了時しか吸わないから許してくれ。

死に急いでる?そうかもな。

 

そんな頭の中で煩い医療班の注意をガン無視して煙草に火をつけて吸い込む。

はじめは煙たくてむせてたのに今じゃ味の区別がつくぐらい慣れてきた。

頭の中がスッキリして少しだけハイになる感じ。

次第と気分が良くなる。

 

しかし、束の間の安息も次の瞬間消えてなくなった。

 

『ドクターさん!!』

 

リラックスしていたところにレンズの声が耳元で響く。

大きな声だったためかキーンと耳鳴りが聞こえた。

しかし、それよりも急なレンズの慌てた声に嫌な予感を覚える。

 

「どうした?!」

 

『シーンお嬢様から150m前方に上級術師隊長が現れました!今疑似レンズが食い止めていますが急がないとシーンお嬢様に危険です!どなたかオペレーターの方を向かわせてください!!』

 

瞬間、血の気が引くような感覚があった。

黒ローブを着たヤツと今までに戦ったことはある。しかし、現状太刀打ちできるオペレーターはいない。

何度も相対して、何度も手こずった。

数人がかりでの勝利は、ハッキリ言って割に合わないほどの損傷を負って収めたものだ。

そんなやつの相手をシーンだけで太刀打ちできるわけがない。

そこに一人追加したところで勝てる見込みは少ない。

 

どうする…?あと数分程度で負傷したオペレーターを向かわせることは可能だ。

しかし、それだと間に合わない。

何より負傷済みの仲間を向かわせるだけ無駄だ。

余計に事態を悪化させる。

近場にいるオペレーターを向かわせるか…?

 

「…ッ……、分かった!けれど、勝たなくていい!向かわせたオペレーターと隙をつくって逃げてくれッ!それまでレンズは身を呈して足止めをすること!頼んだ!」

 

私はとにかくシーンの安全のため、指示をする。

 

『わかりました!お願いしますね!ドクターさん!』

 

返答が返ってくるが不安は拭えきれない。

レンズ達だけでの勝ち筋なんて考えつかない。

だから、私はすぐに耳元につけていたイヤホンマイクで彼女を呼び出す。

 

「すまん、急用だ。時間が惜しいから端的に言うぞ。その場から東北に500m、シーンがいる。ただ、上級術師隊長と交戦していると思うから手助けしてくれ。倒さなくてもいい。隙を見て、シーンを逃してあげてほしい。」

 

『――――――――――――。』

 

「あぁ、分かったよ。今度埋め合わせでご飯奢るよ。だから、頼んだ。」

 

『――――――――。』ザザッ

 

通信が途切れる。やっぱり、あの飄々とした雰囲気と直接的に好意を伝えて茶化してくる意地悪な彼女は苦手だ。

しかし、一人でも場の戦況を変えるだけの戦闘技術と生存率。

現状シーンを助けるのに適役は彼女しかいないだろう。

 

私はこれ以上何も出来ないことを察して、近くの椅子に座って祈る。

 

無事に皆がロドスに帰ってきてくれと。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

レンズ視点

 

シーンお嬢様を守る。

ただそんな単純なことなのに、どうしてこんなにも難しいのだろう?

 

そう考えながら二体目の疑似レンズは、目の前にいる黒のローブを纏った奴のアーツに貫かれて爆ぜた。

爆発音と周りの木々が燃え移った際に出た灰が合板につく。

 

『シーンお嬢様!下がってください!時間は稼ぎますからッ!』

 

新たに疑似レンズを起動する。計5機。

内2機は破損。残り3機でせめてシーンお嬢様だけでも逃したい。

後ろにいるお嬢様は怯えた表情で、へたりこんで戦える状態ではない。

 

『貴方は戦意喪失した敵でも、殺るんですか…?』

 

目の前の上級術師隊長に問いかける。

口元は見えないけれど、彼の声は酷く冷淡で威圧的だった。

 

「たとえ戦意喪失した敵でも首を刈らねば、いつか自身の首を刈られる世だ。情けは自分を追い詰める。戦場では当たり前だろうが。」

 

そして奴は喋りながら自身の腕を前に構え、黒のアーツを溜める。どこかロドスのCEO様に似ていると感じたのは多分、勘違いだろう。

 

「……ッ…だ…めっ!!」ガシッ

 

シーンお嬢様は本体である私を掴んだ。

その力は弱々しかったけれど『離さない』という意思が私の動きを止めた。

見ると泣きそうな瞳、その奥にどうしようもないほどの絶望。

このまま戦えばレンズ達は全機破壊され、もうシーンお嬢様のもとには帰れないだろう。

 

 

私は私のすべてを掛けてシーンお嬢様を守りたい。

たとえやられても時間を稼いでやると意気込んだ。

それをお嬢様は分かっている。

 

『すみません、シーンお嬢様。お願いです。離してください…。こうしている間にも疑似レンズの車軸を撃たれ、あと一手で残り2機になってしまいます…。』

 

私は伝える。

何故か締め付けられるような気持ちがあった。

ロボットにも心はあるのですね…。

これじゃ、シーンお嬢様の心はもっと辛くて苦しいのでしょうか…?

 

そう考えながらお嬢様の手を振り解く。

スルリと抵抗なく解けた。

けどお嬢様は顔を左右に動かしながら、「…まって…!」と声を震わして懇願している。

 

あと少し待てば他のオペレーター方が助けに来てくれる。

私じゃなくてもいい、最期までお嬢様の側にいるのは。

 

『お嬢様!大丈夫です!ゼッタイに戻ってきますから!ゼッタイのゼッタイです!約束しましょう?!逃げ切れたら、またいつか!一緒に撮影するためにどこかに行きましょう!』

 

『絶対』なんて無いと知って約束した。

その誓いが私とシーンお嬢様の愛や友情に遠く及ばないとしても。

 

「―――――――――ッ!!!」

 

後ろから聞こえる声はミュートして聞こえないようにした。

 

前方、50m標準。敵一体。疑似レンズと接続。

 

『パーノーラーマーッ!!!!』バッ

 

疑似レンズとともに眩い光線を放つ。

2000ルクスのフラッシュを瞬間的に焚いた。

閃光弾のようなものだ。

ストロボはいざというときに敵の失明を狙い、その隙に攻撃するための物で連発してはできない。

 

「うっ…ぐ…」

 

突然のことに敵は怯んで後退りする。目も見えてないのかあらぬ方向にアーツを飛ばしている。

ふらついて、立っていられないのか膝をつく。

 

チャンスだ。

 

私はそう思い、素早く拘束するため車軸を加速させて体当たりを試みる。

 

 

が、しかしそんな都合よくはならなかった。

 

 

 

 

瞬間、アーツが私の合板に突き刺さる。

レーザービームのように、早く狙いも正確に。

フレームはヒビが入った。

屈折したレンズ越しに見える敵を見て驚く。

二重に見えるがそれでもはっきりと映る。

 

黒ローブは彼の目を覆って、閃光を防いでいた。

怯んだのは演技だったらしい。

奴はあざ笑っていた。

 

あぁ…すみませんドクターさん。後はお願いします。

シーンお嬢様…、今までありがとうございました…。

 

スローモーションのような走馬灯。

目の前がブラックアウトするには、長すぎて。

楽しかった日々のメモリーが流れていく。

あと数秒で消える前に最後、私は願う。

 

 

 

消えたく…ない、ですね…。やっぱりシーンお嬢様の隣は私でいたかったです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シーン視点

 

 

頭が…いた…い。涙もとまらない…。

 

本機であるレンズが破壊されたためか疑似レンズも、停止。

わたしは独りになってしまった。

 

失ったものが大きすぎて、目元が熱くなり嗚咽とともに俯き泣き出しまう。

どんなときでも側にいた家族を失った反動は激しくて、今にでも吐きそうな感覚に襲われる。

 

「レ…ンズ…、ぅ…わぁ…ッ…。」ポロポロ

 

私を置いていったレンズに話しかけても帰ってこない。もう二度と。帰ってこない。

 

レンズの破損した部品を寄せ集め、無意識に守るように身体を丸める。

もう、事態は遅く取り返しがつかないというのに。

嘆いている。そんな状況でも関わらずザッザッザッと足音が近づいてくる。

あと数mのところで聞こえなくなり、代わりに黒ローブから冷めた声が聞こえた。

 

「最後の最後まで煩わしい機械だったな。ロボット如きが勝てるわけ無いだろう?まぁ…そんなことはどうでもいいんだ。あんたを殺れば失った仲間のケジメも取れる。」チッ

 

上がっていく脈拍。滴った脂汗。

キィィィィィッッとアーツが頭上で収束していく音が響く。

空気が裂かれるような突風。

 

「怨むなよ。時代が悪かったんだ。…じゃぁな。」

 

もうだめ…。

 

そう死を悟った。死にたくはない。

けど、生きる目的もない。

苦しんで死ぬより一瞬で消えたほうが楽だ。

……………。なんで…。

ぁぁ…っ…、こんなにもなみだがあふれるの…?

 

 

いやだなぁ…。やだよぉ…。レン…ズ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さんがそんな顔をしちゃだめよ?」ニコッ

 

 

 

 

 

どこか聞き覚えのある声が聞こえた。

まるで、始めからそこにいたように何事をないように。

両手には見た目が灘に近くナイフとして扱うサクス。

それは血塗られていて彼女の頬にも返り血がついていた。

 

「ぅぅ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ッッッッッ!!!!」

 

突然、目の前から叫び声と黒赤い血が滴り落ちてきた。

わたしは顔を上げて確認する。

 

「……えっ……。」

 

驚きのあまり声が出てしまう。

しかし、それは仕方ないはず。

だって黒ローブの左腕は切断され、倒れ込んでいるじゃないか。

痛みで蹲って叫んでいる。

 

「死角からの攻撃ならカジミエーシュの騎士にとって得意だってのに…、ドクターたらあたしの力を信じてないのかしら?酷いわよね。」

 

綺麗な褐色肌の脚を曲げて、身体を私の近くでかがみこむ。

そして腰に彼女の得物であるサクスを装着して、空いた手を差し伸べてきた。

 

「大丈夫かしら?ドクターから何かあったら逃げろって言われたけど、捕虜にすればあの人は喜んでくださるでしょ?怪我はない?ないなら早く立ってあたし達の居場所に帰りましょ?」サッ

 

「…、ぁ…。」

 

私は一瞬戸惑った。

圧倒的な存在と実力に。

作戦では顔を合わせるけれど、喋ったりするのは初めてでどうしたらいいか迷ってしまった。

すると彼女は何となく察したようで「ぁぁ…」と言うと話し始めた。

 

「一応、話すのはハジメましてよね。なら自己紹介でもしたほうがいいのかしら…?あたしはカジミエーシュの騎士のグラベルよ。よろしくね。」

 

「よ…ろしく…?」

 

そうわたしとグラベルさんの初めての会合はレンズを失った直後のことだった。

 

 

 

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーー

   ー 選択         ー

   ー            ー

   ー A√  逃げる    ー

ー            ー

   ー B√  戦う    ー

   ー            ー         

   ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 




現場裏

ドクター「グラベルって、上級術師隊長倒すほど強かったっけ?」

グラベル「んー?愛よ?(昇進2Lv70)」

ドクター「アッハイ」


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シーンは焦がれたい A√前編

遅めのあけおめことよろ!
黒縫いです。
年明けましたね。今年は最後の年ですから思う存分、頑張ろうかな。
それと、アークナイツ2周年おめでとうございます。



わたしはグラベルさんが差し伸べてくれた手を取ろうと手を動かす。

しかし、

 

「って、やっぱりそんな簡単には行かないわよね〜。」ドンッ

 

急に腹部を蹴飛ばされる。思いっきり強く飛ばされ、蹴られた瞬間「ぅッ…。」と声が出てしまった。

そのまま元場所から数mは飛ばされただろうか。

ズザザッと着地した部分から擦れる音が聞こえた。

 

なんで、けられたの…?

 

と疑問で身体は動きをやめてしまう。

けれど、向けた視線の先で即座に何故そうしたのか理由がわかった。

地面がえぐれている。

先程までのいた場所に地面が草木の根ごと抉られ、集めていたレンズの部品たちが舞う。

グラベルさんの方に視線をやると、

 

「ごめんね?けど、仕方ないことだから許して。今度ご飯でも奢るから。あとちょっとばかし状況が悪くなっちゃったからドクターの言うとおり逃げるわよ。」チラッ

 

そう言いながら仕舞っていたサクスを両手に構え、警戒している。

目線で先程まで蹲っていた敵を見るよう促してきた。

身体を起こしてローブを見ると、血走った眼でこちらを睨み、無くなった腕とは片方の手でアーツを込めながら撃とうとしている。

 

「マズイわよね。やっぱり、生け捕りじゃなくてそのまま首飛ばせばよかったかも。不意打ちだから勝機があったってのにワンマンじゃ流石に分が悪いわ。」

 

グラベルさんが少しだけ苦そうな顔をした。

 

「クソっクソっクソクソクソクソッッ!!アァッ!!痛えぇ"ぇッッ!!こんッのクソアマよくもやってくれたなッ!これは高くつくぞ!!絶対に殺ってやる!」

 

逆上しきった敵は完全に殺意が近づかなくとも分かってしまう。

吠える声は何処から出ているのだろうと思うほど大きく、先程までの冷酷な印象とは打って変わった。

 

恐い。わたしははっきりそう思ってしまう。

狂気に染まった敵の威圧的な文言が胸を締め付ける。

しかしグラベルさんはそんなのに怯まず、

 

「あんなにこの娘を痛ぶっているときは冷静沈着な感じだったけど、やられたら余裕がないわね。格好悪すぎるんじゃない?」ウフフ

 

「五月蝿ぇ!!ただじゃ殺ってやらねぇよ。嬲ってやるから、さっさとかかってこいッ!!」バッ

 

「うん。…じゃぁ――――そうするわねッ!!」ザッ

 

グラベルさんは、戦闘開始の合図のよう真っ直ぐ敵に近づくため走り出す。 

チェーン付きのサクスを片方握り締め、もう片方を勢いよく斬りかかるために振り回す。

サクスで奴を袈裟斬りしようとしているのだろう。

接近戦を試みるようだ。

 

「まぁ、接近戦なら俺のアーツを被弾する可能性が限りなく減らせるからな。近くで爆じけちまったら俺だって撃つのにリスキーだもんなッッ!!」ジャキ

 

そう近づいたグラベルさんの顔を、隠し持っていたサバイバルナイフを片手に、斬りつけようと狙う。

けれど、腰まわりに手を入れ探していた様子を、横目で見ていた彼女は、足の軸を回して身体をそらして躱す。

そのまま勢いよく振ったせいか懐ががら空きになった。

 

「ふッ―――――――」スッ

 

その隙を逃さず、サクスで首を狩るように差し込んだ。

たった数秒の出来事は死を諭すかのように淡麗な技術。

 

ただ…、奴には一手足りなかった。

 

「うおっ!!?く、ぉラッッッ!!」バッ

 

驚きながらも身体を後ろに反らし、地面に手をつけると勢いよく脚を振り上げ、バク転の要領でグラベルさんの肩を蹴り上げた。 

スバ抜けた身体能力に精密動作性。

軽々しく行った蹴りは、もはや達人レベル。

これには私から見て、近接戦闘に優れたグラベルさんであっても回避できずモロに受けてしまった。

 

「ぐぅっッっ!!」バッ

 

食らってしまったグラベルさんは、一度立て直そうと距離を置くが上級術師隊長は、ナイフを投げ捨て空いた手にアーツを込める。

 

「よけてっ…!」

 

瞬間、アーツの術攻撃が彼女を目掛けて撃ち放たれた。

グラベルさんは間一髪躱すが、2,3発間もなく放たれる。

速すぎる攻撃を避けるにはワンテンポ遅く、彼女は苦い顔をしながら地面を大きく蹴り上げて石や砂利を空中に舞い上がらせた。

 

その中でも大きな石をサクスで打ち返してアーツと被弾させる。当たった際に衝撃と爆破。

硝煙が巻き上がって敵を撹乱させる。

 

近くにいたわたしも煙の中で何も見えなくなった。

 

「ゴホッゴホッ!!」

 

咳き込んでいると、ふとお腹周りに抑え込まれている感覚を覚える。

見えづらい視界の中、隣を見ると額から血を流したグラベルさんの横顔が見えた。

 

「"今のうちに逃げるわよ…?なに?アイツ?術師は基本根暗で近接に弱いくせに、あの攻撃さえ躱してカウンター入れてくるとかついていけないわ…!"」

 

頬をムッとさせた不機嫌なグラベルさんに抱えられながら、その場近くの茂みに急いで逃げ込み、後にする。

 

「ぐぅッ…。」ザッザッザツ

 

「ど…うしたの…?」

 

ふとグラベルさんが顔をしかめ、苦しそうな呻き声を出したので、心配になり声をかける。

走っている速さが少し落ちたと感じた。

けれど、彼女は何もなかったようにいつものニコッとした笑顔で

 

「何もないわよ?…大丈夫だから。もう少ししたらドクターのいる拠点につくわ。そこなら医療班もいる、あと馬鹿力の仲間もいることだし、あたし達の勝ちよ。」

 

と不安を拭うような声をかけてくれた。

その笑顔が、柔らかな笑みの中に暖かな温もりを感じさせてくれたのは分かった。

しかし、心の中はそうもいかない。

 

たった一つの家族の絆を失った喪失感と助けてくれたグラベルさんの額の怪我と肩の打撲、体を張ってまで助けてくれた申し訳なさが心を締め付ける。

 

これもすべて自分の実力不足だと感じさせる。

 

腹底から押し上げられた圧迫感。

涙を堪えるために顎を強く奥歯を噛み締めた。

今にも泣き出してしまいそう。

いや…もう気づかないうちに泣いていた。

 

「…ごめん…なさい…。」ポロポロ

 

ただただ、こんなことに巻き込んでしまった。

不甲斐なさに少しずつ心を蝕んでいく。

 

「……、泣いちゃだめよ…?たとえ…、失っても歩みを止めてはいけないのだから。」

 

彼女の腕の中、わたしは包まれた温もりを感じながら拠点に帰り着く。

 

その後、黒ローブの敵は発見されず、どうなったのかは分からない。

ついた瞬間、あれよあれよとグラベルさんとは離れ感謝も言えずじまいだった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

拠点にて 

 

グラベル視点

 

「ありがとう、グラベル…。仲間を失わずに済んだよ…。」スッ

 

隣からドクターの声が聞こえたかと思うと、コップに入れられた温かいスープを渡すようにかざしてきた。

 

「ありがと、ドクター。嬉しいわ。」

 

今日の編成でグムがいたから、多分あの子が作ったのよね。

飲みながら考え耽る。

 

 

シーンと別れた後、医療班のススーロから『こんなに無茶して…もっと自分を大事にしてよっ…!』と叱られながら応急処置として包帯を色んなところに巻かれる。

 

どうもその場に居ると、医療班の人達から軽い説教を食らってしまうのでテント外れに逃げてきたところ、ドクターから差し入れられた。

そして今に至る。

 

イヤわよね…。体痛いってのに『自業自得っ!!』って口揃えて皆が言うもの。

…楽な仕事じゃないわね。

 

そう考え込んでいると、ふとドクターから話しかけてきた。

 

「なぁ…グラベル。こんな状態で言うのも何だが、怪我は大丈夫か…?無理をしたんだろ?その様子だと。」

 

ドクターは心配そうな表情の奥で、どこか自責の念を感じているのか申し訳なさそうにしている。

 

もう…、あなたが気にすることじゃないのに。

けど正直なことを言わないと、もっと抱え込んじゃうかもね。

 

「うーん…、ふふふ…。ススーロから言われちゃったわ。ちゃんとした診断じゃないけど全治三ヶ月は軽いって。特に逃げるときに受けちゃった脚は骨が出ているからしばらくは杖つきながらじゃないと生活できないって。」

 

「…………。ごめん……。」

 

もっと顔が暗くなり、俯く。

 

「責めてるわけじゃないのよ…?けど、やっぱり…デートの約束は無理かもしれないわ…。」

 

そう、別に責めてるわけじゃないのよ。

咄嗟に下した仲間を送る判断は正しいわ。

むしろ脚を撃たれたのはあたしの落ち度だ。

だから、自分のせいだと思ってしまうの。

あたしは貴方に尽くすためにロドスへ訪れたっていうのに。

数カ月のことだとしても、貴方にしてあげれることがない。

存在意義がないの。

 

あたしが駄目だったばかりに、ドクターを苦しめている。

その事実が受け入れ難くて。

 

「…いや、…絶対に約束は果たすよ。約束は約束だ。男に二言はない。それに…、君が辛そうな顔をしているのに断れるほど、そこまで軽薄じゃないよ。」

 

っ……。ふふふ…。

えぇ…分かっていたわ。貴方はそういう人だったわね…。

けど、辛い顔をしているのはあたしだけじゃなくて貴方もよ?

 

あたしは身体を彼の方に向き直り、目線を合わせて笑顔を作った。

 

「……優しいのね?」ニコッ

 

それを聞いた彼は少し苦い顔をして、すぐに困ったように眉を下げ返事をする。

 

「あぁ…、これぐらいしかしてやれないんだ。こんなの十八番みたいなもんだよ。」

 

「自虐ネタはあたし以外にはモテないわよ?」

 

「君にモテるならコレも悪くないもんだな。」ハハハ

 

冗談混じりに話してくれる彼に、少しだけ気持ちが楽になる。

こんなにも落ち着けるのは彼のおかげだ。

だから…好きになったのよね…、あたしは。

けど、今ここで彼の声が必要なのはあたしじゃない。

 

「そんな冗談をあたしに言うより、あの子のこと元に行ってあげてよ。今、あの子に必要なのは貴方なのよ?」

 

「わかってるよ。けど、グラベルは…。」

 

もう大丈夫よ。だから行って。寂しくなる前に。

 

「なら、あたしはこれで我慢するから。早く行ってあげて。じゃないとデートしてあげないわよ?」チュ

 

あたしはドクターの頬にキスをした。

外の空気で頬は冷たくて、それが唇を通じて感じる。

こんなにも胸は温かいというのに。

 

彼は突然のことで驚きながらも頬を紅潮させた。

 

ふふふ、やっぱり貴方は暗い顔より、そっちの顔のほうが似合っているわよ?

 

「……、…ありがとう。埋め合わせはちゃんとするから。」

 

ドクターは立ち上がり、決心したような目つきで感謝の言葉を述べて走り出す。

どんどん離れていく彼の背中を見ていると少しだけ寂しく感じた。

 

「はいは〜い。」ブンブン

 

作り笑顔と腕を振って、彼を見送る。

少しだけ、ほんの少しだけ。

脚を貫かれて、これから数カ月あたしの存在意義が無くなってしまうと感じていた不安感が紛れる。

傍から見たら、ただそれだけのことかもしれないけれど救われた気がした。

 

「こちらこそ、ありがとうね。ドクター。」ボソッ

 

片手に持っていたスープを一口啜った。

しかし、その頃にはもうとっくにぬるくなっていて、何故かしょっぱく感じた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

ドクター視点

 

グラベルと別れたあと、私はシーンを探しに医療班のテントに訪れる。

しかし、他のオペレーターに聞いても彼女は擦り傷程度だったので、すぐに治療は済ませ、どこかフラフラとした状態のまま消えたらしい。

 

「どこに行ったんだ…?」キョロキョロ

 

彼女の足は、はっきり言って遅い。

もとから動きに鈍いのもあるが、それを補うためのレンズが付きっきりだった。

しかし、いつも隣で甲斐甲斐しく世話を焼いていたレンズはもういない。

 

作戦終了時、それに気づいた私が問いかけると静かに彼女は泣き始めた。

ぽつりぽつりとかすれた声で、涙ぐみながら話す。彼女特有のマイペースさは何処にも無く、別人のように感じた。

 

誰にもより添えず、これからは独り彼女は生きなければいけない。

それが何よりも辛いことか、記憶喪失を経験した私なら分かる。

悲しみの容量は端末機器のように沢山あるわけがない、機械のような鋼じゃないんだ。

鋼のメンタルじゃない、裸のメンタル。

君はレンズのように強くはない。

だからこそ、今ここで彼女を独りにしては駄目だと思った。

 

「頼むから、出てきてくれ…!」ザッザッ

 

拠点周り全てを走って駆け出す。

聞いて回るが、誰も見てないと口を揃えて言う。

まるで、はじめからそこに居なかったように。

彼女がどこにもいないなんて思わない。

思いたくない。

 

「っ…。……ここは…。」ハァハァ

 

いつの間にか開けた森林内の盆地に来ていた。

先程までオペレーター達が戦闘をしていた場所。

勿論、そこらじゅうに敵や味方が流した血は悲惨さを物語っていた。

湿ってはおらず、もう乾ききっている。

こんもりと盛り上がった土に一輪の花をお供えてあった。

 

ロドスは死んだ人を弔う意味で死に場所を掘り、そこに埋めるようにする。

毎度、意味のないことだとしても無理を言ってオペレーターにはお願いしてる。

都合のいいことだってわかっている。

元凶は私だ。

…私の采配で死んでいった人達だ。

 

「感傷なんかに浸るな…。死んだ人は死んだだけなんだ。」

 

良からぬことが脳裏によぎる。

そうだ、死んだ人は戻らない。

ここで彼らは死ななきゃいけなかったんだ。

殺らなきゃ殺られている。

今更、自責の念に押しつぶされるのは遅すぎるんだ。

なによりも虫が良すぎるだろ?

考えるな。

今はシーンのことだろう?

目的を忘れるな。

 

けれど…やっぱり。

 

 

 

「それで割り切れるほど大人じゃないんだよ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だよなァ。どの面下げて死人に顔合わせなんてしてんだ?尚更、俺が割り切らせねぇよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

背後で声が聞こえた。

 

私は突然のことで驚きを隠せず、後ろを確認しようと振りむこうとするが

 

「動くなよ。じゃなくても今、頭であるテメェのことなんて憎たらしくて仕方ねぇんだ。」

 

と言われピタッと止まった。

いや、体が膠着しただけだ。

心臓がバクバクと鼓動する。

汗が溢れて、手にも気持ちが悪いけれど握りしめた。

 

 

「誰だ…。」

 

本当はわかっている。

一般人なんてこんなところには絶対にいるわけがない。

それに、報告を聞いたから予想なんて簡単にできる。

 

 

「うなもん、あの褐色の女から聞いただろ?俺の腕を切り落としたアイツだよ。いや、そんなことどうでもいいか。」

 

奴はもったいぶるように話しかけてくる。

しかし、その声は威圧的で背中からは殺気を感じた。

 

 

 

「ひとまず、話をしようぜ。例えば…、お前の死に場所とかさ。」

 

 

 

 

 





次回ロサ編出すから、許してくれ。


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ロサは駄弁りたくない 中編


まずはごめんなさい。

あれから色んなことが変わりました。

価値観だって、人が死ぬことだってもう仕方ない程度には。

話し言葉も変わったので、文も変化があって些末なものになったでしょう。


でもそれでも。



ロサが作戦中に倒れた。

彼女の得物であるハープーン(捕鯨砲)を片手に、狙った敵に攻撃を仕掛けた瞬間の出来事。

戦禍の中心で、プツンと切れたマリオネットのように崩れ落ちる。

 

『…は…ぁ…、えっ…?』

 

突然のことで場が一瞬、理解するため静かになった。

 

『ッ…!!クルース!!!ロサを頼むッ!!』

 

ダメだと、唐突でクリアになった脳に危険信号が送り込まれる。

 

そのときにはもう、考えるより先に言葉が出ていた。

 

動きを止めていたクルースも我に返ったように即座に行動に移す。

 

『はいはーい!!』バッ

 

すぐに身元を保護した。

しかし、その後の診療でワルファリンから思いがけない一言を告げられる。

 

『ロサをオペレーターとして扱うのはやめたほうがいい…。もう…、身体はボロボロ。これ以上の作戦には、本人が抵抗してもやめさせるべきだ。』パサッ

 

『……、えっ…?!』

 

そう言われながら、渡された数枚の写真を見て私は驚いた。

 

信じられないものを見たとき、人は息を呑む。

小説内の表現技法だとばかり思っていたが、彼女の裸体を写したであろう、その写真は扇情的な気分には一切ならず、むしろ同情すら覚えてしまった。

 

『…もとから彼女は心が弱いのだろうな。過去の経験から精神疾患でも患っていたのにも関わらず、限界点を超えたとしても、押し殺していたのだな。入所時の診断した女性らしい肉つきさえ見る影もない。』

 

どこか申し訳なさそうに俯き、隣でスゥスゥと寝息を立てているロサのコケた頬を触りながら喋る。

風邪を引いた娘を看病している母親のような慈愛のこもった視線は、どこか悲しそう見えた。

 

 

一枚目の写真には彼女の裸体。

勿論、乳房や局部は隠してある。

普段は、異性に女性の患者の裸を意地でも見せないワルファリンだが、事態が重く自身の判断では収まらないと感じたのだろう。

私だって研究者として人体の研究にも精通している。それを信頼しての行動だとわかった。

いや…今、そんな信頼なんてものはどうでもいい。

その写真のロサの身体は一般女性より痩せ細っていた。

 

特に肋付近は骨がくっきりと浮かんでおり、豊満な乳房と下はやせ細った肉付きすらないアンバランスな身体に違和感を持つ。

これでは服の上から決して見分けがつかない。

 

『栄養さえ取れていなかったんだ…。』

 

以前、食堂で見た彼女の皿は減っていなかった。

あのときの違和感はこれだ。

摂食障害を患わっていたなんて。

気づいてやれなかった不甲斐なさに嫌気が指した。

 

 

 

 

二枚目を見る。パサッ

 

 

 

 

二枚目の写真には、大きな傷口で腫れ上がった腕。

リストカットをした跡。

酷いと思ったのは、ところどころにあった傷口が深く抉れていたこと。

手首にあった傷は浅い。

もしかしたら、できた傷口を2度抉ったのかもしれない。

憶測にしか過ぎないが、それが両手首から肘関節までの腕にビッシリと彫られていたこと。

それほどストレスを抱え込んでいたのだろう。

 

『う…ぁッ…ぁ』ポロポロ

 

はじめから白髪だった故に、白髪ができても分からず。

厚着の服装で傷さえ周りに分からせず。

目に隈を作っても化粧で隠し。

いつの間にか自ら心に蓋をして。

 

 

 

 

ずっとこれまでも独りで。

これからも独りを望まなければいけないような環境にさせてしまったのだろうか。

 

 

『なぁ、ドクター。本当に何をしていたのだろうな…?妾達は。感染者救済…?そう奮闘していた妾たちは近くで助けてほしいのに、「助けて」が言えないやつさえ蔑ろにしてしまった。』

 

心が痛い。

真実が私の心に抉る。

目を背けるために。

少しでもこの事実から目を背け責任逃れをするために。

 

 

 

『痛い』

 

 

 

被害者でもないくせに勝手ながら胸を痛める、醜悪な感情だ。

 

だが、これでもロサの痛みには何千分の1さえならないだろう。

 

 

『ほんとうに…、なんて笑い話なんだ。これが道化と言わず何というのだろうか…。』

 

 

ワルファリンはこちらを見定め、続ける。

その瞳には、迷いがない。決意に満ちた瞳で話す。

あぁ、わかってるよ…。君が言わなくたって今私も同じ気持ちだ。

私だって必死だったのだから。

 

『ドクター、妾からの頼みじゃが聞いてくれぬか?』

 

私はただただ頷く。

その厳かな雰囲気と彼女からのただ少ない頼みを断るのは気が引けた。

 

 

その様子を見たワルファリンは少しだけ口角を上げ、まるで安心したと言っているように感じる。

 

『ロサのその後は任せる。だが…、彼女にとって最善であると思う行動をしてくれると嬉しい。』

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロサ視点

 

気がつけば、白無垢の病床で目を覚ます。

久しぶりに長いこと寝ていたかもしれない。

天井近くの壁に、時計がかけられ、針は一時を指し示している。

太陽はもう水平線に消え、代わりに月が顔をだしていた。

 

ふと、記憶の途切れた断片を辿る。

 

あれ、…。私はまだ戦闘中なのに、どうしてこんなところにいるのかしら?他の皆は?大丈夫なの…?

 

無意識にハープーンを握る手を動かすが、空をさくだけ。

 

ふと、嫌な予感がよぎる。

 

いや…いやっ…!早く戻らなくちゃ…!私がいなくなったせいで、誰かが怪我していたのならっ…!

 

…耐えきれないっ!!

 

鉛のように重く鈍くなった身体を必死に起き上がらせようとした。

ガッ…ドン…

しかし、なぜか身体自体が動かない。

よく見るとベッド端から端に、この上で固定されているベルトがついていた。

身動き取れない身体に徐々に焦りと不安感が募っていく。

 

「だっ、誰かいないのっ…?だれか、だれか…?!」ワッッ

 

声を張り上げる。

 

しかし、虚しくも私の声は病室のなかを木霊するだけで、誰の耳にも届かない。

 

 

 

「い…いやッ…!ぃ…やぁ…!!」ポロポロ

 

 

 

 

 

 

     『ひとりはこわい』

 

 

 

 

 

 

ジタバタと身体を無造作に動かしても、動くどころか縛り付けられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たえられない

なんで、わたくしはこんなにだめなの?

のぞんだことひとつさえかなわないなんて。

ちぇるのぼーぐ?ぐむ?いーすちな?

 

……、ずぃまー…?

 

 

 

ぜんぶわたくしのせいだ。

 

 

 

 

心から

 

 

 

 

 

もう…なにものぞまないから、たすけて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナターリア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は君の涙の理由さえ知らない。



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