鏖殺☆ステゴロエルフちゃん♡ (Tホシ)
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第一話
『迷宮都市オラリオ』
『ダンジョン』と呼ばれるモンスターが這い出てくる大穴を取り囲むように城壁が築かれた「世界の中心」とも呼ばれる有名な都市で数多くの種族と、千年以上前に天界から我々の住む下界に降りてきた神々が多く暮らしている。
その大穴から生まれ出るモンスターを倒し、その死骸の灰から採取出来る「魔石」やドロップアイテムを金に換金することで生計を立てる者たちを「冒険者」と呼ぶ。
ダンジョンには神々からの恩恵を受けたファミリアの冒険者しか入ることが出来ない。仮にファミリアに入れたとしてもダンジョンの上層では、迷宮の中でも特に弱いモンスターしか発生しないため、取れる魔石も小さいものばかりだ。なので、恩恵を受けたばかりの冒険者の収入はとても低いものとなっているため、適正階層より下に潜ったせいでダンジョンの洗礼を受け、最悪の場合死に至る者もあるのだ。
そんな一時も油断が出来ない迷宮内で『私』は・・・
「何処だここ?」
たった一人の仲間と逸れ、盛大に迷子になっていた。
いっけな〜い!地獄♡地獄♡
私、スーパーアルティメットハイパーキューティーデリシャスグレート筋肉モリモリマッチョエルフの『アレミア・ウアリス・ファーミスト』、ピッチピチの18歳!(身長193
今日は同じファミリアのベル・クラネルくんと一緒にダンジョンデート♡キャピ DE・MO☆たいへ〜ん!魔石採集の効率化の為にベルくんと分かれて行動してたら(デートノイミトハ…)黒塗りの牛さんと曲がり角でごっつんこ!こわぁい顔と大きな声で襲って来ちゃった!私、どーなっちゃうの〜⁉︎
次回、「アレミア、死す」さーて来週もサービス!サービス!
「いい加減鬱陶しいんだよクソ牛野郎が」
「ヴゥモォォォォォ⁉︎」
どうでもいいことを考えながらの追いかけっこにも飽きてきたので走っている途中でいきなり振り返り、ミノタウロスの顔面に渾身の右ストレートを叩き込む。
ミノタウロスは顔を醜く変形させながら地面に倒れる。私はミノタウロスに飛び乗り、馬乗り状態でさらに顔面に拳を連続でぶち込む。
「少しはッ、骨のあるヤツかとッ、思ったけどッ、雑魚雑魚の雑魚ジャンッ!経験値の足しにもならんわクソがッ!!」
「ヴゴッ⁉︎ガッ、グギャ!⁉︎ヴゥモォォォ‼︎⁉︎」
この雑魚クソ牛への文句を連ねながら徹底的に顔面を殴打する。クソ牛を殴るごとに返り血が戦闘服や顔に掛かる。汚ねぇなぁ・・・!
「フンッッ!」
「ヴモッ」ゴシャ
湿った音と無様な断末魔を迷宮内に響かせながらクソ牛の頭蓋がスイカ割りのスイカのように潰れ、頭のないミノタウロスの体が脱力し、灰に変わる。
灰の中を弄りお目当ての魔石を取り出す。ミノタウロスの魔石は上層で取れるゴブリンなどより大きく、色も少し澄んでいる(気がする)。
「ふー、ダンジョンのミノタウロスを倒すのは初めてだけど、なんとかなったな。経験値もそれなりに手に入れただろうし、魔石もゲットでいい事尽くめだな。つか、ここ何処だよ⁉︎ベルのヤツ何処いった⁉︎ はぁ、世話の焼ける団長様だぜ、まったくよぉ」
「あ、あのぉ・・・、ヒィ⁉︎」
クソ牛をぶん殴った感触に浸って、我らが偉大(笑)な団長様の心配をしていると私が走ってきた通路からひょっこりと茶髪のエルフの少女が現れる。どうやらクソ牛の返り血塗れの私の顔を見て怯えているようだ。
「あ、あの!ここにミノタウロスが来ませんでしたか⁉︎遠征帰りの途中でミノタウロスの群れと遭遇して逃がしてしまって!」
彼女の話を聞くに彼女のファミリアの遠征帰りにミノタウロスの群れに遭遇したがミノタウロスがソイツらの強さに恐れをなして逃げ出したらしい。道理でクソ雑魚だった訳だ。
「あー、アイツなら私が始末しといたけど・・・」
「ほ、本当ですか⁉︎他に怪我人などはいましたか⁉︎」
私が知る限り、他にミノタウロスに遭遇した冒険者はいないことを告げるとエルフの少女は「よ、よかったぁ」と疲れた顔をしながら安堵した。そりゃそうか。遠征と言えば短くても一か月は掛かるだろうし、彼女はギルドから遠征を任されるほどの大手ファミリアに所属しているのだろう。真面目そうだし気苦労が絶えないのかな?可哀想に。あっ、そういや
「なぁ、白髪で赤い目をした小柄なヒューマンの冒険者知らね?私の仲間なんだ」
「い、いえ見てません。もしかして!ミノタウロスに襲われて逸れたんですか⁉︎」
「いや、その前に迷宮内で分かれて探索してたんだわ。そんで、ミノタウロスと追いかけっこしてたら見たことないとこまで来ちまったって訳」
「そうなんですね、よかったら一緒に探しましょうか?ここまで話したら見捨てられませんし」
「お、本当か!助かるわぁ! んじゃ、さっそk『ほあああああああああああああああああ‼︎⁉︎』・・・あ?」
「い、今のって・・・!」
「あぁ、私の探し人の声にそっくりだ、悪いが手伝ってくれ」
「はい!急ぎましょう!こっちです!」
エルフの少女に後に続き、叫び声のした方へと駆け出す。彼女は私が思っていたより足が速かった。恐らくレベルは3か4にランクアップする手前ってところだろう。
などと考えながら、彼女に着いていくと金髪のヒューマンの少女と銀髪のウェアウルフの青年がいた。しかし、そこに探していた冒険者の姿はなく、モンスター一体分の灰の山と通路に点々と続く血の跡、呆然とする金髪少女と腹を抱えて下品に笑うウェアウルフしかいない。そこでエルフの少女が口を開く。
「アイズさん!ベートさん!ミノタウロスを仕留めたんですね!」
「あ、レフィーヤ・・・うん、今倒したよ」
「さすがアイズさん!あっ!アイズさん、この辺りで白髪の冒険者を見ませんでしたか⁉︎この方が探していて、先程聞こえた悲鳴が探している冒険者の声に似ていたみたいで、・・・アイズさん?」
「・・・・・・」ドンヨリ
「あ、あのぉ・・・?」
金髪少女『アイズ』は、エルフの少女『レフィーヤ』の問いに対し俯きながらドンヨリしている。レフィーヤはなんかオドオドしだしたし、相変わらずウェアウルフの青年『ベート』とやらは腹が捻れるんじゃないかと思うほど笑っている。
「あー、ちょっといいかい?白髪頭の冒険者を探してるんだが、知らねぇか?」
「あ、その子なら・・・」
「ギャハハ‼︎あのガキ!うちのお姫様に助けられて、牛野郎の血ぃ浴びて真っ赤なトマトになって逃げやがったぁ!ギャハハハハ⁉︎情けなさすぎて笑いが止まんねぇよ!!」
「ちょっとベートさん⁉︎」
ベートの笑い話によれば、ベルも私と同じミノタウロスに襲われたらしい。そこをアイズに助けられて、何故か逃げ出してしまったと。さっきの情け無い叫び声はその声か。あんだけ叫べるんならまだ元気だな。よかったよかった。
「・・・ごめんね。あの子は地上に続く道に走っていったから、多分大丈夫、だと思う」
「す、すみません!ベートさんが失礼なことをっ!本当にすみません!えっと、名前は・・・」
ベルは地上に続く道へ走っていったらしい。返り血塗れで?イカレてんのかアイツ?本当に、ほんっっっとうにっ!世話の焼ける団長だよ!
あ、そういえばまだレフィーヤにもアイズにも自己紹介してなかったな(ベートは・・・どうでもいいか!)
「あぁ、自己紹介がまだだったな同胞よ。私は、ヘスティア・ファミリア所属の『アレミア・ウアリス・ファーミスト』だ。よろしく頼むぜ」
この物語は私が私の仲間と共に仲良くバカ騒ぎしながらオラリオを引っ掻き回す物語ってヤツだ
多分ネ☆
リアルが忙しいので週一から週二程度の投稿になるかもしれません。
気軽にコメントくださると嬉しいです!
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第二話
性別:女
年齢:18◼︎歳(一部塗り潰されている)
身長:193cm
体重:◼︎◼︎◼︎(塗り潰されている)
好物:肉全般・酒
容姿:Fate/Grand Orderに登場するサーヴァント『妖精騎士ガウェイン』をイメージしました。
服装:動きやすい軽装を好む。ダンジョン探索時は手首、脛、胸部にレザーアーマーを装着する。(エイナに説得され渋々)
性格:大雑把で細かいことはやらかしてから考えるタイプ
大体の生き物は頭を潰せば死ぬと思っている。
『ギルド』
迷宮都市の運営を任されており、ダンジョン生み出す利益(魔石、ドロップアイテムなど)を管理する組織だ。千年ほど前に最初に下界に降り、神の恩恵をもたらしたとされる男神ウラノスを長とするが本人はギルドの業務には基本関与せず、また、ギルドに所属している職員には恩恵を授けておらず、中立の立場を貫いている。冒険者間のトラブルなどには余程のことがない限り介入しない。また、ギルドの傘下にあるファミリアはギルドが発令するミッションには必ず従わなければならないと言う決まりがある。
だが、私はギルド職員にこそ恩恵が必要だと思う。いや、考えてみ?冒険者って私が言うのも何だけど、ほとんど荒くれ者じゃん?そんでもってそんな世紀末ヒャッハー集団予備軍と最も接する機会が多いのがギルド職員の受付嬢とか魔石換金所の人なんよ?受付嬢は皆美人さんだから(私ほどではないがな!)受付嬢の気を引こうと自分のしょうもない武勇伝(笑)を延々と話して受付嬢を口説いて迷惑かけたり、「魔石の換金額が少な過ぎんだろ!俺様をおちょくってんのか!?あ"ぁ!?」「俺が何年ここで働いてると思ってんだ⁉︎適正価格だわアホんダラ!文句あんのか!お"ぉん!?」と魔石の換金額について揉めている冒険者と職員の罵声が聞こえない日はない。このままじゃマジでいつか死人出るかもよ?どうにかしろよなぁ、ウラノスさんよぉ〜
迷宮内でレフィーヤ達と別れ、私は出口へ向かったという我がポンコツ団長を追いかける。後ろのほうから「・・・ファーミスト?どこかで聞いたことあるようなぁ・・・?」というレフィーヤの呟きが聞こえてきた。ウーン、タブンキノセイダヨー!ワターシハ、タダノイッパンエルフチャンデェース!
ダンジョンの中にはすでにベルの姿は無く、ダンジョンの外に出るとベルが残したミノタウロスの返り血が垂れたものがダンジョン前の広場にまで残っていた。あの馬鹿、相変わらず足だけは速ぇな。しかも血塗れのまま外に出たのかよ、何やってんだよ全く・・・
町の人間や冒険者に血塗れの小柄な冒険者が通らなかったか聞き込みをすると、どうやら北西のメインストリートへ走っていったらしい。北西のメインストリートは通称「冒険者通り」と呼ばれ、武器屋、酒場など冒険者がよく訪れる施設が点在している。もちろんそこには冒険者にとって最も重要な施設『ギルド』も存在する。ま、まさか血塗れの格好のままギルドに行ったんじゃねぇだろうなぁ、あのバカ兎ぃ・・・!ちょっとは周りの目も気にしろよ。
なんだかかんだブツブツ愚痴りながらギルドの方向へ向かう。その道中で確実にベルのものだと思われるコソコソ話が聞こえてきた。やっぱりベルはギルドに向かったようだ。ギルドより先にバベルのシャワー室に行けっての。つか、私を置いてくな。
また少し歩くと、ようやくギルドが見えてきた。どこか、神殿のような出立ちの施設からはダンジョン帰りと思われる冒険者が出入りしている。私もその流れに沿ってギルドの扉を潜る。ギルドの中をぐるっと見回すが、ベルの姿は確認出来なかった。トイレにでも行ってんのか?
「あ!アレミアさん!」
カウンターの奥から私の名を呼ぶ声が聞こえ、視線をそちらに向けると桃色髪の受付嬢『ミィシャ・フロット』が嬉しそうに手を振っていた。
「ダンジョン帰り?お疲れ様!相変わらず大きいねー」
「おう、今出てきたとこ。ミィシャも規則正しい健康的な生活してればこんぐらいあっと言う間だぜ」
ミィシャは私がオラリオに来た当初に担当アドバイザーになった受付嬢である。しかし、私がファミリアに入団した際に先に入団していたベルとは違うアドバイザーだった為、団長であるベルに合わせアドバイザーを代わってもらったのだ。だが今でもギルド内で会えば挨拶ぐらいするし、最近の近況を話していたりする。ほとんどがミィシャの信憑性の乏しい噂話だったり、仕事の愚痴なのだが。
「そうそう!今ね、アレミアさんのとこの団長くんが血塗れでギルドに来たの!スッゴイびっくりしちゃって、エイナなんかすごい声上げて書類をバサーって落としたんだよ!」
「はぁ・・・、やっぱりベルはここに来てんのか。今あのバカ兎どこいんの?個室?」
「うん。今エイナと個室でお話し中。ダンジョンで何があった聞いてるんじゃないかなぁ?あっ!アレミアさんは何か知らない⁉︎一緒にダンジョン行ってたんでしょ!?教えて!教えて!誰にも言わないからぁ!」
「お前の『誰にも言わない』が信用できないことはこの数週間でハッキリしてんだ。それに、多分近々分かるだろうからそれまで待っとけ。じゃあな、仕事頑張れよ〜」
「あぁ!逃げたー‼︎」
カウンターから離れ奥の個室に歩み出す。唯一閉まっている個室のドアをノックすれば、中から「はい、どうぞ」と女性の返事が聞こえた。そのままドアを開けて中に入る。案の定中には我らがバカ兎団長『ベル・クラネル』と私たちの担当アドバイザー『エイナ・チュール』がいた。
エイナはハーフエルフで顔も他のエルフと比べても負けないぐらい整っている。ギルドの受付嬢の中でも人気は上位であり、度々カウンターで冒険者に口説かれている姿を見ることがある。ここにもめちゃキュートなエルフちゃん(身長193
「
「おう、お疲れさん。あとさぁ、何回も言ってるけど『様』はいらないって。ここは里じゃねぇし、私もそんな呼ばれ方されるような人間でもねぇしよぉ」
「し、しかし!貴女様は貴きお方です!私のような半端者がそのような態度を取るなど、恐れ多くて・・・!」
「あー、なんかもういいや。ところでベル、お前ダンジョンでミノタウロスに襲われただろ。しかも、助けてくれた冒険者にお礼も言わずに、情け無い悲鳴上げてミノタウロスの血に塗れたままギルドまで来ただろお前」
「うぇ⁉︎な、なんで知ってるんですか、アレミアさん⁉︎」
あまりに低姿勢すぎるエイナをとりあえず放置し、ダンジョンからギルドまでにあった惨状を愚かな我が団長殿に丁寧に説明する。一緒に話を聞いていたエイナもベルと共に顔を赤くしたり青くしたりする。見てるだけなら中々に面白い状況だ。
「そうですか、遠征帰りのロキ・ファミリアが・・・。ダンジョンでは何が起こっても不思議ではありませんが、今回の件は前例がありませんので私からも上に報告をさせていただきます」
「おう、頼んだぜエイナ」
「・・・と言うか!アレミア様もミノタウロスに襲われたってどう言うことですか⁉︎」
「あぁ、ベルと手分けして探索してたらぶつかっちまってそのまま追いかけっこして、飽きたからボコボコにした」
「はぁ⁉︎素手で⁉︎何考えているんですか⁉︎ただでさえダンジョンは何が起こってもおかしくないんですから、せめて剣ぐらい持ってダンジョンに潜ってください!」
「しょうがねぇじゃん、剣はどこに引っさげても邪魔だし、ギルドで買った武器は私が『本気』で振るとすぐ壊れるしで素手で殴った方が速いんだよ」
「はぁ・・・、ベル君はお願いだからアレミア様の真似だけはしないでね。アレミア様が異常なだけだから・・・」
「は、はい、分かりました。・・・と、ところでエイナさん、そ、そのヴァレンシュタインさんの・・・」
なんか私まで説教され始めたんだが。仕舞いには目頭を押さえてベルにおかしな注意をしだした。オイオイ、コレじゃまるで私が常識はずれのイカレエルフちゃんみたいじゃねぇか。少なくとも私はお前らより長生きしてる分、物知りぞ?
そしてベルはなんか顔を赤らめながらモジモジしだした。ハッハ〜ン?さてはコイツアイズに一目惚れでもしたなぁ?コイツは弄りがいがありそうだぜ(ニチャ
エイナはベルに公開されている範囲内でアイズの情報をベルに話している。しかし、ベルが知りたかったのは趣味や好きな食べ物、アイズに特定の意中の男性が居るかどうかのようだ。
「流石にそこまで踏み入った話は聞いたことないし、職務に関係ないでしょ!」
「そうだぞ、ベル。恋愛相談ならこの恋多き乙女のアレミアちゃんにまっかせなさーい!」
「え?お、乙女・・・?」
「オイオイなんだその目はよぉ?なんか言いたいことあんのか?言ってみろやオォン?」
「いだだだだだっ!⁉︎ご、ごめんなさい⁉︎あ、頭割れちゃいますぅぅ⁉︎」
失礼な目線を注いできたベルの頭を両手で鷲掴みにする。ベルが悲鳴を上げるが私は締め付ける力を弱めない。ベルは鈍感というか女の感情に疎い部分がある。そこはしっかりと反省してもらいたい。そんな私たちのやり取りを見ていたエイナが溜息をついた。
「あのね、ベル君。何回も言うけど『冒険者は冒険してはいけない』。ダンジョンはいつイレギュラーに遭遇するか分からないから慎重にならなくちゃいけない。今回はヴァレンシュタイン氏が助けてくれたから良かったけど、毎回誰かが助けてくれる訳じゃないんだよ?」
「はい・・・気をつけます・・・」
「アレミア様も!せめてちゃんした防具を身につけてダンジョン探索をしてください!危なっかしすぎて見ていられません!」
「へいへーい、前向きに考えとくわ」
「はぁ、とにかく無茶だけは本当にしないでね。ほら、換金していくでしょ。私もついていくから」
エイナの言葉を皮切りに、個室を出て換金所に向かう。ベルが換金所の獣人のおっさんにポーチの中の魔石を渡す。鑑定を終えたおっさんが魔石の価値に応じた金と交換する。わずか1100ヴァリス、やはり上層ではこの程度しか稼げないよなぁ。出された金を見てベルは少し落ち込んでいるようだ。続いて私も魔石を換金する。ミノタウロスの魔石一つ、爪ほどの大きさの魔石と最早砂と言っても過言ではない魔石が幾つか、合計5010ヴァリス。中々の稼ぎではないだろうか。ほとんどミノタウロスの魔石が大部分を占めているがな。
「うわぁ、やっぱりアレミアさんすごいですね!僕よりいっぱい稼げてる。僕も頑張らないと!」
「お前も経験値稼げれば行ける階層増えっからその内、毎日こんぐらい稼げるようになると思うぞ。まぁ、堅実にやって行こうぜ。焦ってもいい事ねぇしな」
「そうだよ、ベル君。さっきも言ったけど、ヴァレンシュタイン氏はロキ・ファミリアで幹部も務める人だからベル君がお近付きになるのはかなり難しいと思う。でもね、強くなれば、もしかしたらだけど一緒に戦えることもあるかも知れないよ。それに、女性は強くて頼り甲斐のある男性に惹かれるから頑張って名を上げていけば振り向いてもらえるかもしれないよ?」
「・・・っ‼︎はい!頑張ります!エイナさん!大好きー‼︎」
「うぇっ⁉︎ちょっ!?ベル君⁉︎」
「ありがとー!‼︎」
換金後、私たちのホームに帰宅するためにギルドから出る。去り際、エイナから有難いアドバイスを頂いた我らが団長殿はとても嬉しそうにエイナに手を振りながら、大胆すぎる告白を大声量で行う。エイナは変な声を上げながらオロオロと狼狽えている。そんなエイナを私は肘で小突きながら、めっちゃ揶揄う。
「ヒューヒュー♪モテモテじゃーん!」
「もう!揶揄わないで下さい‼︎」
鏖殺☆ステゴロ(ハイ)エルフちゃん♡
ムネとケツとタッパのデカイ女
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第三話
ユルシテ
『ファミリア』
「神の眷族」とも呼ばれ、下界に降りてきた神々が己の神血を使い人間の体(主に背中)に
ちなみに、私が所属している『ヘスティア・ファミリア』は探索系ファミリアに分類されているが、最近結成された新参ファミリアである為、構成員は団長のベル・クラネルと副団長(暫定)の私しかいないファミリアである。主神であるヘスティアがバイトの合間に団員勧誘を行なっているようだが結果は芳しくないようだ。
ギルドでエイナと別れてから私たちはホームに帰るため、メインストリートを並んで歩いていた。
「なぁ、ベル?臨時収入も入ったことだし、なんかおかずになるもん買ってかね?ヘスティアはどうせ碌な飯なんて用意してる訳ねぇし」
「それはいいと思うけど、いいの?そのお金はアレミアさんのだし、申し訳ないっていうか・・・」
「気にすんじゃねぇよ。私たちは家族なんだろ?なら、別に遠慮する必要はないだろ?おっ!あの屋台のやつめっちゃ美味そうじゃね⁉︎」
メインストリートを歩きながら晩飯のおかずになりそうな食べ物を次々と買っていき、待ち切れない分はベルに押し付ける。こんだけ買えば仮に、ヘスティアが何も用意してなくても腹を満たすことが出来るだろう。
さらに進んだ先でメインストリートから逸れ、おかずが冷める前にホームに着くため裏路地を右に左に曲がりながら進む。そして裏路地から出た私たちの前に『ほぼ新築同然の教会』、私たちのホームが見えてきた。教会の扉を開けて中にいるであろう我らが主神様に声を掛ける。
「神様ー!ただいま帰りましたー‼︎」
「おーう、今帰ったぞぉ、ヘスティア」
「おっかえりー!ベル君!アレミア君!」
私たちのホームは外観こそ教会の形をしているが内装は少し大きめの一軒家といったものとなっている。少し前の話、ベルがヘスティア・ファミリア入団後、それに続く形で私もヘスティア・ファミリアに入団した。ベルとヘスティアに連れられてホームに向かったが、私はヘスティア・ファミリアのホームだと言うその建物を見て絶句した。それはパッと見教会だと分かるが、明らかに何年も適切な管理がされていないと分かるほどのオンボロ具合だった。ベルも初見でびっくりしたらしいが慣れてしまったらしい。中も案の定ボロボロでベルたちは教会の地下室の隠し部屋で生活してるようだ。ダメだ、コイツら・・・早くなんとかしないと・・・!と思った私はオラリオに来る前に貯めた金をノームの宝石にしたものを前金にゴブニュ・ファミリアに依頼し、ローンを組んでボロ教会を改築してもらった。その時のヘスティアの顔といったら、本気で神でも見るかのような瞳をしていた。曲がりなりにも神がそんなんでいいのか?とその時は思った。
「今日は随分と帰ってくるのが早かったね。なんかあったのかい?」
「じ、実はダンジョンでミノタウロスと遭遇して死にかけてしまって・・・」
「そんで、ギルドで担当アドバイザー様のありがた〜いお説教を聞いてたって訳よ」
「うぇぇぇえ⁉︎大丈夫なのかい⁉︎君たちに死なれたらボクはかなりショックだよ⁉︎アレミア君は・・・まぁ、殺しても死にそうにないから大丈夫か!」
「どういう意味だ駄女神コラ」
「いでででっ⁉︎頬を引っ張るんじゃにゃーい⁉︎」
私に頬を引っ張られているこの少女の名は『ヘスティア』。このファミリアの主神である。身長はベルより低く、艶のある長い黒髪を銀の小さな鐘がついたリボンで結い上げている。そして私と同じくらいの大きさの胸が少女のような外見とのギャップを生み出している。しかし、神とは言うがこの駄女神はベルが入団するまでは友神のホームで厄介になっていたが、あまりの自堕落ぶりにその友神からホームを追い出され、この元オンボロ教会に放り込まれ、強制的に屋台のバイトをやらされているらしい。この駄女神はベルに出会わなかったらマジで野垂れ死にしてたんじゃないだろうか。
「それなら、今日の稼ぎは期待できない感じかな?」
「いや、私が牛野郎をぶちのめしたから、その分稼ぎにゃなってるはずだ」
「僕はいつもより少なめですね。神様は?」
「ふっふっふーん!二人とも、これを見たまえ!ジャッジャーン!」
「そ、それは⁉︎」
「売り上げに貢献したってことで、大量のジャガ丸くんを貰ってきたんだ!皆でパーティーと洒落込もうじゃないか!二人共、今夜は寝かさないゼ☆」
「神様すごいです!」
ホームのリビングでお互いの今日の成果を報告していると、ヘスティアは山盛りのオラリオ名物『ジャガ丸くん』を出してきた。ヘスティアが持ってきたジャガ丸くんと私が買ってきた屋台の食べ物を食べながら話していると、ヘスティアがしみじみといった風につぶやいた。
「いやー、アレミア君が入団してから稼ぎも増えて、ウチのファミリアも余裕が出てきたよね〜。相変わらずウチのファミリアに入団してくれる子はいなかったけど・・・」
「どのファミリアでも授かる『恩恵』は同じなんですけどね・・・」
「単純な理由だろ。都市外までその名が轟く有名ファミリアと、オラリオでも聞いたことない新参ファミリアじゃ、どちらがいいかなんて一目瞭然だ。あと、ヘスティアの外見が子供っぽいせいじゃね?」
「ぐっグハッ⁉︎」
「か、神様ー⁉︎」
私の鋭い正論攻撃がヘスティアのガラスのメンタルを貫く。 ヘスティア は めのまえ が まっくら に なってしまった!後ろに大きく反り返りヘスティアを慌てて支えるベル。このまま夫婦漫才でも始めそうな勢いだ。
「大丈夫ですよ神様!僕たちのファミリアは始まったばかりです!それにアレミアさんはすごく強いから、ヘスティア・ファミリアもすぐ有名になって入団希望者も沢山来るようになりますよ!」
「オイオイ、他人任せかよ団長様よぉ。まずはオメーが有名になんだよ。英雄になってハーレム作んだろ?頑張れよぉ?未来の英雄クン?」ニヤニヤ
「うぐぅ・・・⁉︎」
「ふふ、僕はこんないい子たちに会えて幸せ者だよ。さて!それじゃ未来の英雄たちのステイタスを更新しようか!」
「はいっ!」
「さぁて、どんくらい増えてっかな〜っと」
晩飯を食べ終えて3人で談笑した後、ヘスティアに促されヘスティアの自室に通された。このホームには私たち3人分の自室と2部屋の空き部屋兼物置きがある。改築の際に入団者が増えてもいいようにさらに部屋を増設してもらったのだ。今のところ生活必需品とヘスティアが持ってきた大量の本などで埋まってしまっている。ヘスティアには何度も何度も本の整理をしろと言っても生返事ばかりで未だに実行されていない。
「まずはベル君からだね。さぁさぁ、いつものように上着を脱いで寝っ転がってね」
「はい、わかりました」
上着を脱ぎ、ベットにうつ伏せで横になったベルにヘスティアは跨がり、ステイタスの更新の準備を始める。いや、跨がる前に準備をしとけよ。自分の眷族の上でわちゃわちゃすんな。
ヘスティアは自分の指に針を刺し、傷口から溢れた己の血をベルの背中に垂らす。ベルの背中に落ちたヘスティアの血はベルの背中の上で波紋を広げ、ベルの背中へと染み込んでいく。ヘスティアは血を垂らしたところを中心に指でゆっくりなぞっていく。
私たち冒険者の背中には神々から『ステイタス』が刻まれる。神々だけが扱うことの出来る『
「ベル君はさぁ、ダンジョンに夢を見過ぎなんだよ。あんな場所に清い出会いなんてある訳ないのにさぁ」
「そ、そんなぁ・・・」
「そうだぞ、ベル。ダンジョンなんて血生臭いとこにいく時点でそいつはヒューマンだろうがエルフだろうが皆イカレてんだよ。お前がお熱なアイズ・ヴァレンシュタインも二つ名の『剣姫』の他に冒険者から『戦姫』なんて呼ばれてるらしいぜ。やっぱ、あの女も何処かイカレてんだよ」
「はい!更新完了!そもそもロキのとこの子である時点で付き合うとか結婚するとか不可能だからね」
「え〜、でもぉ」
「そんな高嶺の花よりもっと身の回りを見てみなよ。きっと君に相応しい素敵な大人な女性がいるはずさ!」
「そう!このアレミアちゃんのような完璧美人のエルフとかな‼︎!」
「えっ?完・・・壁・・・?」
「なんだなんだその顔はぁ?私ほどの完璧美人はいねぇよなぁ?ヘスティア?ん?ん?」
「アッ、ハイ、ソウデスネ。アレミアクン」
ベルのステイタスの更新が終わり、側から見てもしょうもない会話をしながら皆でベルのステイタス表を覗き込む。基本アビリティは、数値0の『魔力』を除いて一通り上昇しているがその中でも『敏捷』の上がり方だけが異常だった。ベルも私と同じくミノタウロスに追いかけられたらしいが、それにしても普通では見られない上がり方だった。それにステイタスのスキル欄には何か消したような跡がある。ベルも気になったのかヘスティアに疑問を投げかける。
「あの、神様。このスキルのところ、何か消したような跡があるんですが・・・」
「あ、あぁ手元が狂ったのさ。いつも通り空欄だから安心していいよ」
「ですよね、ハハハ・・・」
「・・・ふぅん」
明らかにヘスティアは何か隠している。恐らく私とベルが気になったスキルについて本人や私に言えない何かがあるのだろう。あとでこっそりと聞いて見るとしよう。
「じゃ、次はアレミア君だね」
「あ、じゃあ僕はお茶を入れてリビングで待ってますね」
「うん、よろしくねベル君」
そう言ってベルはヘスティアの部屋から退室していった。私はベルと同じように上着を脱ぎ、ベットに体を沈める。
「うわぁ、相変わらず凄い身体だねぇ。君って本当にエルフなのかい?」
「100%混じりっ気なし純粋なエルフだぜ私は。他に何に見えんだよ」
「うーん、細身の高身長ドワーフ?」
「はっはっは〜、コロス」
「ヒェッ・・・」
ヘスティアを軽く脅しながらステイタスを更新してもらう。ベルには跨がるような形だったが私は身体がデカいため、跨がると言うより乗ると言うような体勢でのステイタス更新になる。大小様々な傷跡が残る背中をヘスティアの細い指がするすると這っていく。
「アレミア君にもベル君にも、色々迷惑かけるね。もし、僕が
「無いものねだりしたってしょうがねぇだろ。それを承知で
「っ!・・・うん!そうだね。アレミア君の言う通りだ!これからも僕たちのことよろしく頼むぜ、アレミア君!」
「へいへい、テキトーに頑張りますよっと」
「よし!更新終わり!これが新しいステイタスだよ」
私のステイタスの更新を終えたヘスティアからステイタスの写しを受け取る
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『アレミア・ウアリス・ファーミスト』
Lv.1
力:D 599→C 611
耐久:H 140→H 144
器用:I 92→I 95
敏捷:G 213→G 219
魔力:I 0
《魔法》
《スキル》
【痛覚遮断】
・任意発動
・スキル発動中、全ての痛覚を感じなくなる。
・スキル解除後、発動中に受けた全ての『痛み』を受ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやー、変わらずの脳筋具合でなんか安心しちゃうなぁ。それにしても、エルフなのに『魔力0』って珍しいよね」
「まぁ、こんなもんだろ。ところでヘスティア、ベルのステイタスでなんか隠してること、あんだろ?」
「ギクゥ⁉︎な、なんのことかなぁ〜?」ピュールリーラリー
「誤魔化すなよ。言ってみろって、ほらほらほら」
「うぅ、分かったよぉ。実はね・・・」
私のステイタスを確認後、私は先程気になったベルのステイタスを下手な口笛を吹いているヘスティアに聞いてみると、どうやらベルにレアスキルが発現したようだ。
【
・早熟する
・
・懸想の丈により効果向上。
「・・・おい、本当に神の力使ってねぇんだろうな?流石にこれは不正を疑われてもしょうがねぇぞ?」
「誓ってそんなことはしてないよ⁉︎チート、ダメ、ゼッタイ!」
「まぁ、これはベルには言えんわな。最悪、暇でアッパラパーな神どものおもちゃにされちまう」
「うん、神の前では子供たちの嘘は丸わかりだからね。悪いんだけど、このことはベル君には秘密にしてもらえるかい?」
「こればかりはヘスティアに全面的に賛成だ。任せとけよ」
「頼むぜ、アレミア君!さぁ、リビングでお茶にしようか!ベル君が待ってるぞう!」
この後、30分程お茶を飲みながらゆっくりし、お互いに就寝の体勢に入った。自室に入り、思いっきりベットに飛び込む。嫌な音を立てながらベットが軋む。寝返りをして天井を見上げながら、またベルのことで面倒事が増えたなと思いながら目を閉じ、意識を手放した。
熱中症には気をつけてくださいね。
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第四話
楽しみにしていた読者の皆様にご納得いただけるように、頑張って制作いたしました。どうぞ宜しくお願いします。
『アレミア・ウアリス・ファーミスト』の朝は早い。
農村育ちのベルもそれなりに早く起きてくるがそれよりも早く起床している。ファミリアの皆が起きてくる前に自室、リビング、キッチンなどを掃除し、朝の鍛錬を始める。鍛錬といっても今まで戦ってきた『強者』たちのリアルなイメージの幻影の作り出し、その幻影に殴りかかるだけなのだが。極東に泳いで渡り、道場破りをして回った際に会った小柄な老人、女だらけの国家系ファミリアに乗り込んだ時に互いを潰し合って遊んだアマゾネスの団長など、上げればキリがないが彼ら彼女らの幻影と毎朝戦う。勝つ時も多いがたまに負けることもある、その日は凄く機嫌が悪くなる。今日は相手(幻影)を叩きのめせた為、朝からルンルン気分だ。鍛錬を終え、そろそろベルが起きてくる時間になると、軽くシャワーを浴びてベルと共に朝食の用意をする。未だに惰眠を貪る我がファミリアの駄女神を叩き起こし、皆で食卓を囲む。ベルと私はダンジョンに潜る準備、ヘスティアは屋台のバイトの準備をし、ホームの教会を出る。
ここまでがヘスティア・ファミリア(暫定)副団長『アレミア・ウアリス・ファーミスト』の朝のルーティーンである。
朝霧立ち込めるメインストリートを歩く私とベル。まだ時間的に早朝と呼べる時間だがメインストリートにはチラホラとダンジョンに向かう冒険者の姿や露店の準備を始める商人の姿が見える。夜と比べて朝は人通りも少なく、昨日通った道と本当に同じなのか疑ってしまう。
「ふぁ〜あ、クッソねみぃなぁオイ」
「ア、アレミアさん・・・!流石にエルフの女性がそんな言葉遣いはよろしくないんじゃ・・・」
「いいんだよ、別に。誰かに迷惑かけてる訳じゃねぇんだし・・・お?」
「そう、なのかなぁ?・・・ッ⁉︎」
ダンジョンに向かう道中、何処からか視線を感じた。ベルも気づいたのか周りをキョロキョロしている。おい、あまり目立つ行動をすんなよ、ほら、露店のオッサンが怪訝な表情でこっち見てんぞ。しかしこの視線、まるでこちらを品定めをされているような嫌な視線だ。だが、殺気を向けられるよりかはマシだな。
「ア、アレミアさん・・・、今のって・・・⁉︎」
「気づいてないフリしろ。こう言うのは無視すんのが一番だ」
「で、でもぉ・・・」
「あのぉ、すみません。冒険者さん?」
私たちが周りに気を向けていると背後から声をかけられた。まったく気配を感じなかったんだが、コイツ何者だ?とてもじゃないが、冒険者にゃ見えない。ベルも気づかなかったのか、驚きながら勢いよく振り返っている。私たちに話しかけてきたのは『町娘』と言う言葉が似合う薄鈍色の髪をしたウェイトレスの少女だった。恐らく近くの酒場の従業員だろう。いきなり女に話しかけられたからかベルはドギマギしている。本当に女への免疫がねぇなうちの団長くんは。するとウェイトレスの少女は、こちらに手のひらを見せてきた。
「これ、落としましたよ?」
「あれ?『魔石』?僕たち、昨日全部換金したよね、アレミアさん?」
「あぁ。だが、こんだけ小さいと換金のとき見落としてたのかもな。ありがとうよ、お嬢ちゃん」
「いえいえ〜、当然のことをしたまでですよ」
そう言って愛想のいい笑みを浮かべる少女。少し不思議な感じがするが、多分気のせいだろう。「朝早いんですね!」「えぇ、まぁ、ハハハ・・・」と二人が話しているのを聞いているとベルの腹から空腹を伝える情け無い音が聞こえてくる。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
キョトンとするウェイトレスの少女と赤面するベル。朝飯食ったばっかだろう・・・、もう腹減ってんのかよ。
「ふふっ、お腹が空いてらっしゃるんですか?」
「いやぁ、さっき食べてきたんですけどねぇ・・・」
「いくらなんでも早すぎだろお前。ステイタスが成長期なら肉体の方も成長期ってか?」
ベルが恥ずかしそうに俯いていると、少女は少し考える素振りを見せると彼女が働いていると思われる酒場にパタパタと入って、程なくして戻ってくると小さなバケットを持って出てきた。そして、そのバケットをベルに差し出してきた。
「よかったら、これどうぞ!」
「ええっ⁉︎そんな、悪いですよ!」
「いいんです。このままだと私の良心が傷ついちゃうので!その代わりに、今夜の夕食は是非、私がお世話になっているお店で召し上がってくださいね!」
「なかなかに強かな女だな、お嬢ちゃん・・・」
結構強引な店の売り込みだったが、ここオラリオでは普通なのだろうか?さすが『世界の中心』だぜ。この少女の話し方が上手いのか、先ほどまで遠慮がちだったベルが少しずつ打ち解けていく。
「じゃあ、今日の夜に伺わせてもらいますね。アレミアさんもそれでいいかな?」
「そうだな。たまには外食もいいかもしれんな、ヘスティアも誘ってくか」
「本当ですか!では、来店を心よりお待ちしておりますね!」
そう言うと少女はバケットをベルに手渡し、こちらを見送ってくる。しかし、私たちはまだ自己紹介をしてないことに気づき、ベルと共に少女に向かって言う。
「あ、そういや自己紹介がまだだったよな。私はアレミア・ウアリス・ファーミストってんだ」
「僕はベル・クラネルって言います。貴女の名前は?」
「私は『シル・フローヴァ』です。よろしくお願いしますね。ベルさん、アレミアさん」
シルと別れた後私たちはダンジョンに潜り、モンスター共を蹴散らしまくった。エイナの言う通りに浅い階層でゴブリンやコボルトを相手に戦った。ベルはまだモンスターとは言え命を奪うことに抵抗があるのかトドメを刺す瞬間に戸惑いが見られる。私はと言うと、この階層のモンスターは背丈が小さく、私の場合屈まなければ殴れないのでポケットに手を突っ込んでゴブリンやコボルトの蹴り殺している。そんな私の姿を見てベルは「わぁ!スゴイなぁ!」とよそ見をしてゴブリンから一発攻撃を喰らっていた。
バックパックがいっぱいになり、時計も夕刻を示していたので今日は探索を切り上げることにする。ギルドに寄って魔石やドロップアイテムを換金し、ホームへ戻る。ヘスティアもバイトが終わって帰ってきたようで、早速ベルと私のステイタスを更新してもらった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『ベル・クラネル』
Lv.1
力:I 82→H 120
耐久:I 13→I 42
器用:I 96→H 139
敏捷:H 172→G 225
魔力:I 0
《魔法》
【】
《スキル》
【】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「えっ」
「これはもう、スゴイを通り越して逆に気持ち悪ぃな」
「えぇ⁉︎」
やはりベルの『レアスキル』の影響か、ステイタスの伸びが著しいことになっている。これ、ベルに誤魔化し切れるのか怪しくなってきたぞ?そんなヘスティアは少し不機嫌そうだ。
「あの・・・神様?これ、書き間違いとかじゃ・・・」
「・・・君はボクが簡単な読み書きも出来ないと思ってるのかい?」
「い、いえ⁉︎そう言うことではなくてっ⁉︎」
まぁ、ベルが大好きなヘスティアのことだ、ベルの成長の一端が他所の女にあるのだから、本人にすれば堪ったもんじゃないのだろう。ベルがヘスティアに説明を求めるがヘスティアの機嫌はますます悪くなるばかりだ。
「あのー、な、なんでこんなに成長したのかなー、なんて・・・」
「・・・フンッ、知るもんかっ!」
ヘスティアはこちらに背を向けてクローゼットへ向かった。ヘスティアはクローゼットから出したコートを羽織り、部屋を出て行こうとする。
「おい、どこ行くんだよヘスティア」
「ボクはバイト先の打ち上げがあるから、それに行ってくるよ。君たちもたまには二人で羽を伸ばして、寂しく豪華な食事でもしてくればいいのさ!フンッ!」
そう言い残すとヘスティアはホームから出て行ってしまった。結局、ヘスティアを夕食に誘うことが出来ず、ヘスティアには散々な扱いをされたベルはかなりヘコんでいる。
「神様・・・誘えなかったね・・・はぁ、僕、また失礼なことしちゃったかなぁ・・・」
「あれはヘスティアが勝手に暴走しただけだからお前が気にすることじゃねぇよ。ステイタスについては・・・、私も分かんねぇ。それより、さっさとシルの店行こうぜ。腹減ったぜ」
「うん、そうだね。神様のことは残念だけど、シルさんを待たせる訳にはいかないよね」
とりあえず、ベルと私は今朝の酒場に向かうことにした。記憶を頼りにシルの勤務する店を探しているとベルが「あそこ、だよね?」とある方向を指差して言った。その酒場には『豊穣の女主人』と看板が店先に出ている。チラッと店内を覗くと冒険者と思われる者たちが店内にひしめき合い、客の注文を受けながら忙しそうに走り回っている店員の姿が見えた。どうやらかなり売れている店のようだ。これは当たりの店かもしれない。ベルはと言うと私に続いて店内を見て、店員が女ばかりな為か尻込みしている。こんなんでもハーレム志望なんだよなぁ、コイツ・・・。すると、店内からこちらに駆け寄ってくる人影があった。シルである。
「ベルさんっ、アレミアさんっ!」
「・・・こ、こんばんは。やってきました、シルさん」
「おう、飯食いにきたわ」
シルは私たちを店内へ招き入れ、店内中に聞こえるように「お客様二名入りまーす!」と声を張り上げた。この店はこんな目立つことすんのかよ。やっぱハズレか?シルの後に続いて店内を進む。ベルはビクビクしながら体を縮こませている。しっかりしろよ、未来の英雄くんよぉ。こっちが恥ずかしいわ。そしてシルは私たちをカウンター席に案内した。さて、何食おうかとメニューに目を向けていると、カウンターから乗り出してきたドワーフの女将と思しき女性が話しかけてきた。
「アンタらがシルのお客さんかい?冒険者のくせに可愛らしい顔してるじゃないか!そっちのエルフはいいガタイしてるね!本当にエルフかい?ヒューマンとドワーフのハーフって言われた方がまだ信じられるよ!ハッハッハ!」
「悪いが、私は純度100%のハイパー可愛いエルフちゃんだぜ、女将さんよぉ」
「なんだい、エルフのくせになかなか面白いじゃないか!それに、何でもアタシ達が悲鳴を上げるほどの大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理出すから、じゃんじゃん金を落としていきなよ!」
そんな言葉に驚愕したベルはバッとシルの方を向くと、シルは「・・・えへへ」と誤魔化そうとしている。この女、本当に抜け目がないヤツだ。
「その、ミア母さんに沢山振る舞ってあげてって言ったら、尾鰭がついてしまって・・・」
「絶対に故意じゃないですか⁉︎僕たち、大食いなんて出来ませんよ⁉︎ただでさえうちのファミリアは貧乏なんですから!」
「頑張ってくださいね!私のお給金のために!」
「ちゃっかりしてんなぁ、お前」
そんな会話を繰り広げながら二人でメニューを手に取り、料理の内容を見る。ほぉ、結構美味そうな料理の数々か並んでいる。値段も見てみると、かなり高額な値段設定となっている。まぁ、素材に拘っているようだし、これぐらいは普通なのだろう。ベルは値段を見て、目玉が飛び出すんじゃないかと言うぐらいに目を見開いている、田舎育ちのベルには刺激が強すぎたようだ。
「ア、アレミアさん・・・!この値段は、大丈夫なのかなぁ?足りる?」
「大丈夫だ、ベル。念のため多めに金持ってきてるから、好きなの頼め」
「は、はぃ・・・、あ、ありがとうございます・・・」
私はハンバーグと魚料理と酒を、ベルはパスタだけを頼んだ。別に遠慮しなくてもいいのに。料理はすぐに私たちの元に運ばれてきた。早速料理を口に運ぶ。おぉ!香りで分かっていたがすごく美味い‼︎ベルも美味そうにパスタを頬張っている。そこに、シルがエプロンを揺らしながらやってきてベルの隣に座った。仕事はどうすんだよ。
「お二人とも、楽しんでいますか?」
「・・・圧倒されてます」
「飯は美味いな。うん、当たりの店だって思ったわ」
ベルとシルが仲良くお話をしている中、私は料理を口に運びながら、店内を、特に店員を観察する。よく観察すると、あることに気づいた。店員の動きが良すぎるのだ、恐らくカタギの人間ではないだろう。特に強いと思うのはヒューマンのウェイトレスと黒髪のキャットピープルのウェイトレスと薄緑の髪のエルフだ。恐らくこの三人のレベルは4ぐらいだろう。少し殺気を飛ばしてみると面白いぐらい反応している。負けじと三人も殺気を飛ばしてくる。
「アレミアさん?どうかしました?」
「あ?あぁ、この店、かなり気に入ったなぁ、と思ってよ。結構楽しめそうだ」
「本当ですか!それは良かったです!今後ともご贔屓にお願いしますね!」
そんな会話をしていると入り口の方から茶髪のキャットピープルが「ご予約のお客様ニャー!」と声を張り上げる。私とベルが振り向くと入り口から色々な種族の集団が入ってきた。見ただけで只者ではないと私の直感が告げる。その集団の中にいくつか見知った顔があった。ベルも気づいたのかその方向を向いたまま停止している。ベルが見つめているのは、『アイズ・ヴァレンシュタイン』。『ロキ・ファミリア』の幹部だ(エイナから色々聞いた)。周りの客がコソコソとロキ・ファミリアのことを噂している。
「あれ?ベルさーん?どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「あー、別に気にしなくてもいいぞ、シル。ただの発作だ」
「は、はぁ・・・?」
こんな状況でも、ベルはロキ・ファミリアから、いや、アイズ・ヴァレンシュタインから目と耳が離せないらしい。私もハンバーグを頬張りながら、一団の会話に耳を傾ける。
「よっしゃあ!ダンジョン遠征ごくろうさん皆!今日は宴や!飲めぇ!飲めぇ‼︎」
一人の人物・・・いや、恐らく神物が音頭を取り、ファミリアの者たちが騒ぎ出した。ジョッキをぶつけ合い、料理や酒を豪快に口に放り込んでいく。ファミリアの、恐らく団長と首脳陣と思われる人物は見た感じかなり強そうだ。他のヤツらも皆、レベルが高いようだ。しかし、あの緑髪のエルフ・・・いや、ハイエルフか?どっかで見たことある気がすんだけど・・・あ、あいつか。
「おい、アイズ!お前、あの話してやれよ!」
「・・・あの話?」
しばらく考えに耽っているとダンジョンで大笑いをしていたベートとか言った獣人の青年がアイズに話を振った。
「あれだって!帰る途中で逃げ出してったミノタウロス共!最後の一匹をお前が始末した時に居ただろ!あのトマト野郎!」
ベルの動きが完全に停止した。ベートが言っているのは確実にベルのことだ。酒の勢いのせいか、ベートの口は止まらない。
「ミノタウロスって襲いかかってきたのを返り討ちにしたら、すぐ集団で逃げ出してったやつ?」
「それだよ、それ!奇跡みてぇにどんどん上っていきやがって、こっちは帰りの途中で疲れてたってのによぉ!」
なるほど、あの時はベルが迷子で焦っていた為、レフィーヤから詳しく概要を聞かなかったので何があったのか分からなかったがそんなことがあったのか。ベルはいまだに固まったままだ。
「それでよ、ククッ、いたんだよ!いかにも駆け出しって言うようなひょろひょろのガキと馬鹿みたいにデカいエルフが!」
やっぱり、私たちじゃねぇか。あ、ベルがプルプル震えて来やがった。シルもベルの様子を見て只事ではないと気づいたようだ。
「ふーん?その冒険者どうなったん?たすかったんか?」
「アイズが間一髪ってとこで牛野郎を細切れにしたんだよ!そんで、あのガキ・・・っ、くっせー牛の血浴びて、真っ赤なトマト野郎になっちまったんだよ!クククッ、アイズ、あれ、狙ってやったんだよな⁉︎頼むから、そう言ってくれっ!」
「うわぁ・・・」
「・・・そんなことないです」
ベートは目に涙を溜めながら笑いを堪えている。他のメンバーは失笑したり、ベートと同じく笑いを堪えているようだ。一人が死にそうだったというのにこの態度はなんなんだろうか。
「しかもだぜ?ぶくくっ!うちのお姫様、助けたあのガキににげられてやんの!」
「くっ・・・!」
「あははは!そりゃ傑作やぁ!冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!」
「ふ、ふふっ!ご、ごめんなさい、アイズっ!流石に我慢できないっ!」
「・・・」
なんか、ムカついてきたわ。このファミリアの連中はみんなこんなんなのかよ?ベルは俯いてしまってここからではその表情は伺い知らない、
「しかしまぁ、久々にあんな情けねぇヤツを見ちまって胸糞悪くなったなぉ。ああいうヤツがいるから
俺達の品位が下がるって言うかよぉ・・・」
「そのうるさい口を閉じろ、ベート。逃したのは我々の不手際だ。その冒険者に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」
「おーおー、流石、誇り高いこって。だがよ、ゴミをゴミって言って何が悪いんだ?あ?」
「やめぇ、ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」
何人かのまともなメンバーが止めに入るがベートの口は止まらない。
「アイズはどう思うよ?あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってんだぜ?」
「・・・あの状況じゃ、しょうがなかったと、思います」
「チッ・・・じゃあ質問を変えるぜ、あのガキと俺、ツガイにするならどっちだ?」
「・・・ベート、キミ、酔ってるのかい?」
「うるせぇ!ほら、選べよ。お前はどっちの雄を選ぶんだ?」
なんか話が明後日の方向に進んでいる気がするんだが、あの変態なに考えたんだ?
「私は・・・そんなこと言うベートさんとだけはごめんです」
「無様だな」
「黙れババァ!じゃあ何か?お前はあのガキの好意を全て受け入れるってのか?そんなはずねぇよなぁ!自分より弱い雑魚野郎にお前の隣に立つ資格なんてねぇ、他ならないお前が認めねぇ!」
「・・・っ」
そしてベートが決定的なトドメをベルに刺す。
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインにゃ釣り合わねぇ」
その瞬間、ベルは弾かれたように席を立とうとする。そんなベルを私は肩をつかんで引き留める。ベルは今にも決壊してしまいそうな顔でこちらを見ている。
「ア・・・アレミア、さんっ、ぼ、僕・・・っ!」
「分かってる。これ、持ってけ」
そう言って私は先日、エイナから言われて渋々買った短刀をベルに渡す。カバンの中に放り込んでおいて良かったぜ。
「・・・ありがとう」
「おう、行ってこい。あとは任せろ」
そう言ってベルは走って店を飛び出していった。一部始終を見ていたシルは急いで「ベルさん⁉︎」といいベルを追いかけるが間に合わなかったようだ。周りの客やロキ・ファミリアの連中は「食い逃げか?」と少し騒いだが、直ぐに興味が失せたのかまた食事に戻っている。
「はぁ、まったく。世話のかかる団長だぜ・・・」
独り言を呟きながらグラスに残った酒を一気に煽る。すると、ロキ・ファミリアのいるテーブルの方から二人の女性が歩いてきた。一人は先程、彼らの話題にも上がったアイズ・ヴァレンシュタイン。そして、もう一人。そちらはアイズよりかはよく知った顔だった。
「お久しぶりです、
「おう、久しぶりだなぁ、リヴェリア」
中途半端で本当にごめんなさい!
一部文章を修正しました。
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第五話
夏の匂いが残る風が吹く森に大樹の根元で本を読む一人のエルフの少女がいた。幼いながらに将来を期待される端正な顔立ちをしている。鳥のさえずりと風が木々を揺らす音だけが聞こえる中、少女が本のページをめくる無機質な音が周囲に小さく広がる。エルフの少女はエルフの中でも特に容姿が優れている、王族の『ハイエルフ』であった。近づいてくる者は、自分の権力欲しさに媚びを売ってくる者、また、ハイエルフにお近づきになったと周囲に自慢するために近づいてくる者ばかりであった。しかも、最近はやたらと見合いの話が挙がって来ているのだ。まだ十にも満たない、子供と呼べる自分に自分より遥かに年上の男から縁談が来るのだ、少女からすれば、自分の親とほぼ同じ歳の婚約者など冗談ではない。今日も縁談のことで両親と喧嘩してしまった。両親は「この縁談は家のためでもあり、お前のためでもあるんだよ」と言っていたが、本当は両親側の意見だけで政略結婚を進めていることを知っていた。そのことも両親に怒鳴り散らし、部屋から本を持ち出し飛び出していったのだ。ページをめくるたびに瞳から涙が溢れてくる。本を読んでいる時だけは辛く苦しい現実から目を背けることが出来る。少女は生まれてから里から出たことがない。そもそも、両親が里から出すことを嫌がっていたからだ。故に、少女にとって本だけが自分と外の世界を繋げることが出来るただ一つの方法だった。しかし、今はページをめくる指が震えて涙のせいで文字が歪み、まるで「お前と私たちでは住んでいる世界が違うのだ」とこちらを嘲笑っているかのように思えた。そう思うと、更に胸が苦しくなり、頭がぼぅ、となり、何も考えられなくなってくる。今まで我慢していた声が整った小さな口を歪めながら漏れ出してくる。ここには自分を助けてくれる人はいない、家族すら味方かどうか怪しい。本を側に投げ出し、膝を抱えて声を抑えながら泣き始めた。「誰か、助けて・・・」と思いながら。
その時
「何泣いてんだ、お前?」
自分が腰掛けている大樹の上から、自分と同じか少し年上ぐらいの女の声が聞こえた。自分しかこの場に居ないと思っていた少女は、大きくビクリと体を揺らして勢いよく上を見上げると、そこには・・・
体に大蛇を巻きつけ、その大蛇に頭から齧り付いているエルフの少女が片手で大樹の枝にぶら下がっていた。
「うぎゃああああああああああああああ!⁉︎」
「うるせぇ」ビシッ
「ガッ⁉︎」
これが人生で初めてデコピンを喰らったハイエルフの少女 『リヴェリア・リヨス・アルーヴ』と本日の昼食である大蛇を喰らっていたハイエルフの少女『アレミア・ウアリス・ファーミスト』の出会いであった。
のちにリヴェリアは、己の弟子と娘同然に育ててきた金髪の少女にこう語ったという。
「あの時森に行かなければ、姉様と出会っていなければ・・・今、私はオラリオにはいなかっただろう。姉様・・・アレミア姉様には、本当に感謝の言葉しかないよ」
時は現在に戻る
「お久しぶりです、アレミア姉様」
「おう、久しぶりだなぁ、リヴェリア」
ベルが酒場から飛び出していった後、ロキ・ファミリアのテーブルから二人の人物が私の座っているカウンター席に近づいてきた。一人はロキ・ファミリア幹部、レベル5の【剣姫】、『アイズ・ヴァレンシュタイン』。もう一人は同ファミリアの副団長、レベル6の【
「アイズとレフィーヤ・・・、ファミリアの者から報告を受けた時は信じられませんでしたが、本当にオラリオに来ていたとは驚きましたよ」
「・・・リヴェリア、知り合いなの?」
「あぁ、前に話しただろう?私の『恩人』だ」
リヴェリアは隣にいるアイズに柔らかな笑みを浮かべながらそう語る。『恩人』とか・・・そんな大したことした覚えはないんだがなぁ
「よせよ、リヴェリア。こっちが恥ずかしくなる。それにしても、随分と背が伸びたなぁ、最後に会ったのが結構前だしそりゃ当然か!」
「えぇ、正直貴女はオラリオには興味がないと思っていたので、私がオラリオにいる限りもう会えないものと思っていました」
「まぁ、暇潰しがてら適当に金でも稼ごうかと思ってよぉ。あと、興味が湧いたヤツがいてな、そいつを手助けしたくなった」
リヴェリアと話し込んでいると、アイズが「あの・・・」とこちらを伺っていた。リヴェリアも「あぁ、すまない」とアイズの背中を押して私の前へ誘導する。
「あの・・・この前は、私たちのせいで、本当にごめんなさい・・・」
「私からも謝罪させて頂きたい。本当に申し訳ありませんでした」
アイズに続いてリヴェリアも頭を下げ私に謝罪する。先日のミノタウロスが五階層まで昇ってきたことに対する謝罪だろう。こちらの様子を伺っていたロキ・ファミリアの連中がアイズ達が見知らぬエルフに頭を下げている瞬間を目にするとかなり驚いていた(エルフは特に)。
「ありゃ事故なんだろ?それにダンジョンじゃ何が起こっても自己責任だ。お前らには何の非もねぇ。それに、私はそれなりに楽しかったしな」
「はい、そのこともあるのですが・・・」
「・・・さっきの、あの子のこと・・・」
あの子?あぁ、ベルか。アイズ達も先程のプチ騒動を見ていたのだろう。まぁ、自分のファミリアの連中が馬鹿にしていた冒険者がこの場にいるとは思わなかったのだろう。
「本当に申し訳ありません、アレミア姉様。私がもう少し・・・いえ、初めからあの駄狼の口にチキンでも詰めておけば、このような・・・!本当に情けないっ」
「まぁそうだよなぁ。大手のファミリアがこんなことやってたんじゃ、それこそ『冒険者の恥晒し』だろうなぁ〜?」
店内へ響くように少し大きめで大袈裟な声を上げる。私の声を聞いたロキ・ファミリアの比較的まともそうな連中は反省しているのかテーブルへ視線を落としている。だが、ほとんどの者は私を恨みがましい視線を向けている。しかし、私の発言に反論出来ないのか黙ったままこちらを睨んでいる。おぉ、怖っ。カウンターに肘をつきながら魚料理に舌鼓を打っていると、額に青筋を浮かべた狼人のベートがこちらに肩を怒らせながら詰め寄ってきた。
「おい!弱小ファミリアの分際で俺たちに意見しようってのか、あぁ⁉︎」
「やめろ、ベート!何度言えば分かる⁉︎」
「うるせぇんだよババァ!こんな雑魚に言われてばかりでいられる訳ねぇだろうが!」
リヴェリアの制止も聞かずにズカズカと近づいてくる。顔を真っ赤にして、相当ご立腹な様子だ。
「図体がでかいだけのデクの棒が‼︎俺達に楯突くんじゃねぇ!」
「へぇ、ミノタウロスもろくに倒せないくせに、よくそんな威張れるな。どんだけ面の皮厚いんだよ、お前のファミリアは全員こんなんなのか」
「あぁ⁉︎てめぇ、喧嘩売ってんのか⁉︎俺が誰か知っててやってんのか!」
「知らんなぁ〜?お前みたいに他のやつ貶して女誘う軟弱者の冒険者なんざ」
「・・・っ!てめぇっ!」
私の煽りに我慢の限界がきたのかベートは私の顔面に向かって拳を振るってくる。リヴェリアやアイズ、ロキ・ファミリアの冒険者たちは大きく目を見開き、リヴェリアはベートを止めようと動き出した。しかし、私はベートの拳を額スレスレで受け止めてそのまま腕を捻り上げ、床に押し付けるような形で力を込める。
「ぐっ、クソッ!離しやがれ!」
「おいおいおい、元気がいいな。だがな、ここは酒場だぞ?飯を食って酒を飲むとこだぞ?喧嘩したいなら他所でやれや。そんな事も分かんねぇのか大手の冒険者ってのはよぉ」
更にベートを潰すように腕へ力を込めていく。余裕がなくなってきたのか、ベートの顔から汗が吹き出している。リヴェリアは「はあ、だから言ったのだがな・・・」と額の押さえながら呟いた。ファミリアの連中は先程とは違う意味で驚きの表情を見せている。私が勝つとは思わなかったんだろうなぁ。そんな事を思っているとテーブルの方から小柄な冒険者が歩み寄ってきた。
「すまない、ベートを離してもらえるかな?そちらもこれ以上騒ぎを大きくしたくないのでは?」
「ん?おぉ、話が分かりそうなヤツがきたな。そっちのファミリアの団長か」
「あぁ。お察しの通り、僕はロキ・ファミリアの団長、『フィン・ディムナ』だ。君がリヴェリアの恩人かい?話はリヴェリアから聞いているよ」
フィンの紹介を聞きながらベートを押さえ付けている腕を離す。ベートは息を切らしながらこちらを睨んでいる。
「うちの団員が無礼を働いてしまってすまなかった。先日のダンジョンの件も含めて謝罪させてほしい」
「私はそこまで被害に遭ってないから別に必要ないぜ」
「しかし、君の団員を傷つけてしまったのは事実だ。彼にも正式に謝罪させてほしいんだ」
そう言ってフィンは私に頭を下げた。テーブルの方から「団長⁉︎」と驚愕の声が上がる。
「ファミリアの長が簡単に頭なんか下げんなよ。ダンジョンの件は事故だし、そこの狼人の罵りもある程度は的を射ているからな」
「だが、僕たちにもメンツってものがある。どうか、ここは僕の顔を立てては貰えないだろうか」
なかなか引き下がらないフィン。結構、強情だなぁコイツ・・・。
「まぁ、ここでの話はやめようぜ。騒ぎが大きくなっちまったし、私はうちの団長を回収してから帰るわ。女将さーん、お勘定!」
「ん?アレミア姉様が団長ではないのですか?」
リヴェリアが心底不思議そうに聞いてくる。まぁ、初見じゃ私が団長だと思っちまうわな。
「いや?さっきの走っていったヤツ・・・、ベルが団長だぜ。ベルの方がファミリアに入団したのが早かったからな。最近できたファミリアだから、私とベルの二人だけなんだよ。色んなファミリア回って全部ダメで、ようやく入団できたんだよなぁ」
懐かし〜と思っているとリヴェリアが震え出した。え?どした、リヴェリア?
「・・・アレミア姉様。もしかして、ロキ・ファミリアのホームにもいらしてましたか?」
「あぁ。オラリオに着いて初日で入団試験を受けに行ったけど、門前払い喰らったわ。『貴様のような汚らしい格好の者など、我がロキ・ファミリアに相応しくない!」とか言われてな」
「・・・その者の特徴を詳しく教えて頂けますか?こちらで厳しく『指導』いたしますので・・・!」
うっわ、エルフがしちゃいけない顔してるぅ〜。ほら、溢れ出た怒気で周りの奴ら縮み上がってるぞ。なんか「私がその場に居れば、今頃アレミア姉様と同じファミリアだったのに・・・っ!」とかなり悔しそうな顔をしている。心なしかフィンが少し引いている気がする。昔はこんな感じじゃなかったのになぁ・・・。
「うちは基本的に余程のことがない限り、誰でも入団試験を受けさせる決まりなんだけどね。本当にすまない」
「別にいいよ。最終的に今のファミリアでも満足してるしな!それじゃ、そろそろ行くわ。お互いに暇な時に昔話でもしようぜ、リヴェリア」
そう言って私は昔のようにリヴェリアの頭を少し乱暴に撫でてやる。リヴェリアの顔が恥ずかしさのせいか耳まで赤くなっていく。おっと、テーブルの方からちまちまと殺気のような視線が飛んでくる。早々に退散するとしよう。女将さんにお代を払い、店を出ようとする。
「あぁ、言い忘れてた。ロキ・ファミリア諸君、いつまでもその玉座に胡座をかいていられると思わないことだな。うちの団長は必ず強くなる。テメェらがぐうたらしてる隙に追い抜かされねぇようになぁ。じゃあな」
そう捨て台詞を残し『豊穣の女主人』を後にする。しかし、向かう先は私たちのホームではなくダンジョンである。ベルは馬鹿にされても他人のせいにせず、自分のせいだと思うタイプだ。きっとあの馬鹿団長は少しでも現在より強くなろうとダンジョンへ向かうだろう。そう見越して私はベルに短刀を預けたのだ。メインストリートを進んでいると少し雨が降ってきた。バベルの前まで来たところで雨足が強くなってきた。ダンジョンへ侵入し、ベルの姿を探す。しかし、三階層まで探してもベルの姿は見えない。更に下へ潜り、五階層にも居なかった。オイオイ、こりゃエイナに叱られるぞ。そして、六階層。そこでようやくベルの姿を発見した。己の血かモンスターの血か判別がつかないほどに血に塗れ、私が持たせた短刀と自前のナイフでモンスターへ切りかかっているが、やはり安物だったせいか刃がボロボロになっている。ベルは私が来たことに気づかぬまま、一心不乱に武器を振り回している。この調子ならもう少し様子を見ていてもいいかもしれない。そう思い、しばらくベルの戦いを静観することに決めた。初めて戦うモンスター『ウォーシャドウ』にもビビらず向かって行っている。どれくらい眺めていたか分からないが、そんな中ベルのナイフが折れた。だが、ベルは倒したウォーシャドウのドロップアイテムの爪を拾い上げ、モンスターに構えている。ほぉ、よく考えたな。しばらくベルの戦いを眺めているとモンスターの流れが止まった。そして、ベルも相当疲れているのか、膝をついて倒れそうになる。咄嗟にベルの元に駆け寄り抱きとめる。ここでやっとベルは私の存在に気づいたようだ。
「うっ・・・アレ、ミアさん?・・・なん、で、ここに・・・?」
「迎えに来たんだよバカ野郎。ほら、おぶってやるから」
ベルの肩を抱き、そのままベルを背負う。ダンジョンの帰り道で襲って来たモンスター共を蹴り殺しながら歩く。
「ごめん、なさい・・・アレミアさん、僕のせいで、アレミアさんまで馬鹿にされて・・・」
「いいんだよ、あんなの。私は気にしてねぇから」
その会話が終わる頃にはダンジョンの出口まで着いており、日が昇っている。かなり長い時間ダンジョンに潜っていたようだ。あー、ヘスティア、めっちゃ心配してんだろうなぁ。
ベルを背負い直して、私たちのホームへと足を進める。それにしてもコイツ軽いなぁ、オイ。ちゃんと飯食ってんのか?メインストリートを逸れて裏路地を進むとようやくホームが見えてきた。玄関先を見ているとヘスティアが段差に腰掛けているのが見えた。
「おーい、ヘスティア!今帰ったぜー。ついでにベルも」
「わー!アレミア君!ベル君!一体どこに行ってたんだい⁉︎と、言うか!ベル君のその怪我はなんなんだい⁉︎」
「ちょっと・・・ダンジョンに、潜って、ました・・・すいません」
「うぇぇ⁉︎一晩中かい⁉︎何を考えているんだ君たちは⁉︎なぜ、そんな無茶したんだい⁉︎」
ベルのボロボロの姿を見てヘスティアは顔を青くしてあたふたしている。
「まぁ、色々あってな。あまり聞かないでやってくれ」
「・・・すいません、神様・・・」
「・・・はぁ、わかったよ。今は聞かないでおくよ。ほら、早くホームに入りな。風邪をひいてしまうからね」
ヘスティアは私たちの心情を察してか何も聞かないでくれた。ベルを部屋まで運び、ベッドに寝かせる。
「とりあえず!明日はよく休むこと!これは絶対だからね、ベル君!」
「はい、ごめんなさい、神様、アレミアさん」
ベッド寝かせた途端にベルは眠そうに瞳が閉じていく。
「神様、アレミアさん・・・」
「ん?なんだい、ベル君」
「・・・」
眠る寸前、ベルはうわ言のように呟いた。次の言葉を私とヘスティアは静かに待った。
「・・・僕、強くなりたいです」
その言葉の後、ベルは糸が切れたように眠りついた。その顔だけ見れば、年相応の少年の顔つきをした寝顔だ。ヘスティアはベルの寝顔を眺めながら、微笑んだ。
「・・・うん、みんなで強くなろう」
こうして、私のちょっと長い一日が終わり、新たな『今日』が始まった。
後半駆け足気味でしたかね?
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