異世界転生殺し チートスレイヤー アナザーミッション(VSアナザーベストナイン) (3S曹長)
しおりを挟む

第一章 「神の間違い」殺し その1 「始まり」

 始まります。

 最初の方は原作(と言っても1話しかないけど)に沿って話を進めるのでつまらないかも知れません。臭い表現は私のせいではない。私は臭い表現が嫌いだ。

重ねてお願いしますが、元ネタが分かっても感想内で話し合うのに留めてください。元ネタと思われる作品に害を与えることはお止めください。よろしくお願いいたします。


 ここは、私達の住む世界とは異なる異世界。この世界は世界征服を企む魔王軍の侵攻を受けていた。そんな世界の敵である魔王軍に対するのは、異世界より転生してきた者、所謂「異世界転生者」を中心に結成されたギルド『神の反逆者』のメンバーであった。

 

 そんな世界のとある村から物語は始まる。

 

 村の外れの一角で、切り株に腰掛けながら一人の少年が新聞を読んでいる。新聞にはデカデカと「『神の反逆者』また魔神討伐!」と見出しが書かれている。

 

「すげーっ!転生者様がまた魔人を倒したって!」

 

 少年が感嘆の声をあげると、隣に立つ少女が半ば呆れたような声をかける。

 

「ほんと転生者の話ばっかりするよね、リュートは」

 

「俺は転生者様を尊敬しているんだよ、リディア。俺たちが平和に暮らせているのは転生者様たちが魔王軍と戦ってるおかげだぞ?」

 

 リュートと呼ばれた少年は、少女リディアに対して言葉を返す。

 

「あーっ!俺も王都に行って転生者様たちの力になりたいぜ!」

 

 そんな願望を口にするリュートにリディアは呆れながら言葉を返す。

 

「ムリムリ。リュートがよく言っているでしょ?その斬撃は鉄をバターのように斬り、その魔法は山をも穿つ。そんな転生者に比べたら村一番の剣術自慢ってくらいじゃ話にならないよ」

 

「ぐっ、痛い所を…」

 

リュートは図星をつかれたように言葉に詰まったが、「村一番の剣術自慢」という言葉は否定しなかった。

 

「だとしても何か出来ることはあると思うんだよ、荷物運びとか」

 

「男の子って変な憧れ持つよねー」

 

リディアは頬を赤らめながら言葉を続ける。

 

「私は転生者より、近くの幼なじみのほうが好きだけどね」

 

突然の告白。リュートは困惑半分、恥じらい半分で

 

「は、はあ!?どういう意味だよ!」

 

と声を荒げる。

 

 しかし、リディアは何かに気付いたように村の中央に目を向ける。

 

「ねえリュート。村の方、なんか赤くない?」

 

まさか村の方で大きな火事でもあったのか、そう感じたリュートは

 

「俺が見てくる、リディアはここで…」

 

 その先が続かなかった。リュートに衝撃が走ったからだ。

 衝撃。そう言う他になかった。他に分かることと言えばその衝撃が自分の首に走ったことくらい。

 リュートはバタンとその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 どの位時間が経っただろう。リュートはうっすらと意識を取り戻した。しかし体が動かない。言葉も口から出てこない。

 

「寝てたのか…?」

「村の外れでリディアと一緒にいたような…。」

「いったい何が起きて…?」

 

様々な考えが頭を巡る中、リュートの目に衝撃的な光景が入ってくる。

 

 中年の女性が裸で倒れている。その女性にリュートは見覚えがあった。村の鍛冶屋の奥さんだ。その奥さんがなぜ裸で…?そんな彼女の後でズボンを身につける最中の男。その男にもリュートは見覚えがあった。直接会ったことは一度もないものの、新聞の写真でその顔を何度も見たことがあった。

 ルイ=ジュクシスキー。通称「神の間違い」。あの赤い髪は彼に間違いなかった。ギルド「神の反逆者」のトップ九人で構成される「ベストナイン」の一人だった。しかし新聞ではいつもかっこいい表情をしている彼が、今はなぜか鼻の下を伸ばし、目がとろけているものすごくだらしのない表情をしていた。

 新聞で何度も見た彼が今ズボンを身につけようとしている。傍らには裸で倒れている鍛冶屋の奥さん。まさか彼は鍛冶屋の奥さんと行為を…?真相を確かめようにも体が動かない。

 

「そうか、これは夢だ」

 

 リュートがそんな逃避をする間に、ルイの後ろから声がする。

 

「おいルイ!いないと思ったらこんなとこでサボってんのカ!」

 

声がした方向に二人いる。男と女が一人ずつ。そのどちらもリュートは見たことがあった。その二人も「ベストナイン」だったからだ。

 男の方は、白のジャージに紺色のエプロンという、おおよそ戦う者とは思えない服装をして不服そうに口を尖らせた人物。名前はスパノ=ヤナティン。通称「ソルティングブレッド」。

 女の方は、ピンク一色の着物という、こちらも戦う者とは思えない服装。ショートカットの髪に黒い丸眼鏡。眼鏡の下でギラギラと目が輝いている。名前は立花亭座個泥(たちばなていざこでい)。通称「決めつけ講談師」。

 

「ルイさん、あいかわらずクズですね!」

 

女が大きな声を上げる。

 

「いやー、この村ではこの女が一番の当たりでしたね。いい感じにたるんだ肉がたまりません!」

 

ルイはそんな珍妙な言葉を二人にかける。

 

「あなたの好みなんて下らなさの頂点に達している話は誰も聞いてませんよ?」

 

やけに長い返事を早口でする立花亭。隣のスパノも

 

「けっ、始末は自分でしてほしいものだネ」

 

と、言葉を続ける。そんな二人に対してルイは

 

「いやー、この村若い子ばかりでろくな女がいなかったんですよ。最初に殺したこの女もほら。まだピチピチの十代ってところでしょ。寒気しかしないですよ。」

 

 彼の目線の先には、体から大量の血を流して女性が倒れていた。リディアだ。間違いなかった。リュートは何も信じたくなかった。

 

「起きたらたくさんリディアと話そう。だって俺はリディアのこと…」

 

リュートの意識は再び深い闇の中に落ちていった。

 

 

 




 話書くのって疲れますね。想像以上でした。毎日のようにネットに小説投稿する人はすごいのだと改めて思いました。

 あと、どんなタグ付けたらいいのかも分からん。

 感想、意見、間違いの指摘等あったらよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 「神の間違い」殺し その2 「ベストナイン登場」

 いよいよベストナインの登場だ!元ネタが分かるかな?
 原作と違い、ベストナイン全員がクズではありません。また、クズな敵キャラも愛着を持たれる魅力的なキャラクターになるよう頑張ります(某奇妙な冒険に登場するような敵キャラになったらいいなと思う次第)。




 王都。人々の王が住む城を始めとして、この世界の主要な建物がそろっている。

 この世界を救う「神の反逆者」のギルドもここにあった。

 

 「神の反逆者」は別の世界から転生してきた転生者を中心に結成されたギルドである。ギルドの中でもとりわけ強い九人の転生者は「ベストナイン」と呼ばれ、ギルドを統率している。ベストナインの下につく構成員は、そこまで強い力を持っていない転生者、転生者に憧れ転生者のしもべとなった者、腕に自信のある各地の強者、打倒魔王軍の目標を転生者とともに成し遂げようとする者等様々である。

 

 そんな「神の反逆者」ギルド内で今ベストナイン総出での会議が行われていた。

 

「よく集まってくれた。『神の反逆者』幹部、『ベストナイン』の皆」

 

爽やかな声を上げる青年。顔も「爽やかな好青年」をイメージする整った顔立ちをしており、黒の戦闘服を着ている。重たい鎧で構成されていないその戦闘服は身軽な戦闘が出来そうである。彼の名前はマウントール=フランス。ベストナインのリーダーで序列は1、「マウンティングウォリアー」の通称で呼ばれている。

 

 部屋には長い四角形の机。短い辺の片方にマウントールが座り、長い辺の両方に四人ずつ腰掛けている、机もテーブルクロスも燭台も、彼らが座る椅子も最高品質の物だ。

 マウントールから見て左側の四人が序列2~5、右側の四人が序列6~9。それぞれ序列の高い者がマウントールの近くに座っている。

 

 序列2の席に座っている男性は、薄いグレーの上下ジャンパーを身につけ、頭にクリーム色のヘルメットをしている。上のジャンパーには黄色の夜光反射帯が付いており、ヘルメットの正面には緑の十字。工事現場で働く作業員の作業着そのものだが、この世界にはそんな服装の作業員はいない。この異様な姿が転生者であることを十二分に示していた。

 名前は、アシバロン=ボーナス。通称「Mr.土方(どかた)」。

 

 序列3の席に座っている女性はとてつもなく大柄の女性。髪はショートカットで黄土色の上着に黒のタイトスカートを身につけ、両耳にコハク製の大きなイヤリングをしている。顔の化粧は濃く、唇も厚ぼったい

 名前は、アルミダ=ザラ。通称「Ms.ダブルマッカレル」。

 

 序列4の席に座っている男性は、痩躯で全身黒の服を着ている。マウントールも黒い服を着ているが彼の場合はかっこいい印象を与える黒の戦闘服であるのに対して、この男は黒ずくめで陰気な印象を与える服装である。髪も真っ黒の天然パーマで、毛量が多いので目が隠れてしまっている。時々見える彼の目は、まるでついさっき両親を殺されたかのような、絶望に染まった目をしていた。腰にも黒一色の剣を携えている。

 名前は米沢反死(よねざわはんし)。通称「バグズフェンサー」。

 

 序列5の席に座っている男性は、リュートの村に来ていた男、スパノ=ヤナティン。

 

 序列6の席に座っている男性は、いかにも転生者というような水色のマントと水色の戦闘服をきた中肉中背の男。特徴的なのはその表情だった。目が死んでいる。貯金箱の硬貨の投入口を思わせる精気の失われた瞳でどこか虚空を見つめているようだ。

 名前はギットス=コヨワテ。通称「無自覚勇者」。

 

 序列7の席に座っている女性は、リュートの村に来ていた女、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)

 

 序列8の席に座っている女性は、水色とピンクのストライプのキャミソールワンピースを着た少女。メンバーで間違いなく最年少であり、おそらく10~12歳程度。オレンジ色の髪をツインテールにしており、口に棒付きキャンディを咥えている。

 名前は御手洗幼子(みたらいようこ)、通称「ロリロリポップキャンディ」。

 

 残る序列9の席にルイ=ジュクシスキーが座っていた。先刻のだらしない顔ではなく、口元にうっすらとした笑みを浮かべた余裕そうな表情だった。

 

 マウントールは皆の顔を見た後言葉を続ける。

 

「改めて聞こう、『神の反逆者」の目的とは何だ?」

 

「ハーイ!」

 

マウントールの問いに御手洗が元気よく答える。

 

「知恵を持った魔族である魔人、その王である魔王の脅威に人類はさらされている。『神の反逆者』は魔王を倒し、この世界に平和をもたらすのだっ!」

 

「うん、その通りだ、幼子ちゃん」

 

御手洗の自信満々の答えにマウントールは言葉を返す。「正解」の判定をもらった御手洗はえっへんとばかりに胸を張る。

 そのやりとりを聞いたルイは「フフフ」と笑う。

 

「なによー、文句あんの?ルイ」

 

「笑っちゃうから止めてくださいよ」

 

不満げな御手洗の問いかけにルイが答える。

 

「チート能力で労せず最強。異世界の雑魚どもを軽々ぶち殺し、名誉、金、熟女、すべて手に入れる。それ以外転生者のすることがありますか?」

 

「クズですね!ルイさん!」

 

ルイの演説に立花亭が真っ先に反応する。

 

「私達が皆からどう思われているか知ってます?世界を守るヒーローですよ。そんな印象を崩すような個人個人のお楽しみはこっそりとやるべきなんです。それが空気を読むってことなんです。せっかく御手洗ちゃんが模範解答を言ったのにそれを馬鹿にして自らの勝手な行動理念を恥ずかしげも無くアピールしちゃうなんて、クズで空気読めない上に厚顔無恥(こうがんむち)ですね、ルイさんは。さっきの村での行動を見る限り、転生前はよっぽどモテなかったんですね!転生前の姿を見てみたいです、私!」

 

「黙れ」

 

立花亭の長々とした罵倒の言葉に先ほどまでの態度を崩し、机を叩いて怒りを露わにするルイ。

 

「文句があんなら…」

 

そう言いながら腰に携えた剣を抜く。

 

「永遠に黙らせてやろうか」

 

ルイは立花亭に殺意を向ける。空気が震える。

 

「La ferme. 」

 

空気が更に激しく震えたかと思うと次の瞬間水面のようにしんと静まりかえった。皆が声の方に顔を向ける。声を発したのはマウントールだった。

 

「あぁ、すまないね、ルイ。フランス語だったからよく分からなかったかな?『黙れ』と言ったんだ。君と同じように」

 

マウントールは続ける。

 

「最近の君の行動は目に余る。ここにいる皆が全員善人だと言うつもりは微塵もないが、君は自分の悪行を隠そうともしない。隠蔽がどれほど大変か分からないのか?そして仲間に剣を向ける愚行。いい度胸をしているじゃないか。」

 

ここで一呼吸置き、こう続けた。

 

「これ以上続けるようなら…殺すぞ」

 

 ルイ以上の殺気。その殺気は空気を振るわせることなく、空気はどこまでも静かだった。ルイは一瞬マウントールに殺意のこもった目を向けたがすぐに笑顔になり、

 

「じょーだんですよ、じょーだん。ヤダなーみんなマジになっちゃって。」

 

そう言うと部屋を出て行こうとする。

 

「どこへ行く?」

 

「もよおしてきちゃって。心配しなくても問題は起こしませんよ」

 

そう言い残し、ルイは部屋を出て行った。

 

「あいつは何だか勘違いをしているようだな。転生したからと言って努力がいらないということはない。俺は毎日欠かさず鍛えている」

 

ルイが出て行った後最初に口を開いたのはアシバロンだった。

 

「それにあたしは転生前からすでに名誉も金も男も手に入れちゃってるし」

 

アルミダが続けたが、それに対しアシバロンは

 

「どれも豚には必要の無いものだな」

 

と返した。アルミダは怒りの表情を隠さず

 

「ホント、あたしにそう言うなめた口きくヤツは()()()とあんただけよ、脳筋糞土方!」

 

「arrête」

 

序列2と3の喧嘩が始まろうとしたとき、止めに入るのはマウントールの役割だった。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?や…」

 

「『止めろ』と言ったんでしょ?何度も聞いたから覚えたわよ」

 

マウントールの言葉を遮りアルミダが言う。

 

「何度も聞いているならいい加減自重してもらいたいものだね。さぁ、そろそろ本題に入ろう。今年の『神の反逆者』(ひら)メンバーの冬の制服についてだが…」

 

 ベストナインの会議は八人で進んでいった。




 ベストナインの各メンバーは、ある共通点を持つ作品の最もイメージの強いキャラクターに様々な要素を加えて作られています。
 前述した各作品を私は読んでいません(原作リスペクト?)。他のパロディや元ネタとなる要素となった作品は読んでいます。

 とある業界の方々には「あなた方の出している広告はこんな負のイメージを持たれることもあるんだぞ」ということをお伝えしたいです。

 序列の設定はオリジナルです。この設定があると物語の書きやすさが全然違います。

 ベストナインのメンバー及び序列は私の中の「深井戸指数」という特別な指数で決定しています。基本的に深井戸指数が高いほど序列も上です。
 なのですが、作品を進める都合上、深井戸指数が余り高くない「マウンティングウォリアー」がトップになってしまいました。日本語、フランス語、中国語、英語、スワヒリ語の5カ国語を話せる人が相手だったらどうするんでしょうかね、あの作品の主人公は…。

あと「ソルティングブレッド」には、とある推理ゲームの一キャラクターの要素も含まれているのですが、感想欄に書く際は原作未プレイ勢に配慮した書き方をよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 「神の間違い」殺し その3 「復活」

 今回はほとんど原作通りの内容です。不本意だが魔女がベラベラ喋りまくるからこうなったんだ。仕方ないんだ。

 先の楽しみを削ぐような形になってしまいますが、無用なトラブルを防ぐために最初にお伝えします。
 魔女にはリュートをだます気はありません。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 え?原作ではどうかだったのかって?知らん、そんなことは俺の管轄外だ。

 また、私は「異世界転生を題材とした作品」や「なろう系小説」を馬鹿にするつもりでこの作品を書いていません。()()()()()()()()
 
 あしからず


 目覚めは突然だった。リュートは深い闇に葬られかけた意識を取り戻し、目を覚ました。

 

「ああ…良かった。やっぱり夢…」

 

言い終わる前に気付いてしまった。現実は残酷だった。当たり一面が血の海、焼け野原だった。リュートは「ヒィッ」と声を上げる。

 

「何なんだよ、これ…」

 

「おはよう、リュート」

 

 困惑するリュートは背後から声をかけられる。知らない声だった。振り向くと知らない女が立っていた。

 

「あの状態から目覚めるとは大した生命力だ」

 

「だっ誰だお前!?」

 

女に当然の疑問を投げかけるリュート。

 

「魔女。お前を助けた恩人だ。…と言っても傷を癒やしただけだがな。魔法で人を生き返らせることはできない」

 

女は答えた。「誰だ」という問いに対して「魔女」と答えるのはいかがなものかとも思うが、女の服装は魔女としか言いようのないものだった。髪は白髪だが、容姿は妖しい色気を漂わせる若い女性だった。20代とも思われるが、本当に魔女ならば実年齢など外見だけで分かるはずも無かった。

 そんなことよりもよほど重要な質問をリュートは投げかける。

 

「説明しろ!いったい何が起こったんだ!?」

 

「忘れたのか?転生者たちが村を焼き、村人を皆殺しにした。お前の幼なじみも含めてな」

 

魔女の返事は端的だった。

 では先ほど見たのは夢では無かったのだ。憧れだった転生者に村も幼なじみも奪われた。さらに転生者の一人ルイは鍛冶屋の奥さんと行為を…。あまりの絶望と嫌悪感にリュートはたまらず嘔吐する。

 

「奴らが憎いか?」

 

魔女が問いかける。

 

「ならば殺そう。」

 

魔女の驚きの提案にリュートは困惑する。

 

「こ、殺すって…」

 

「どうした?殺すほどは憎んでいないか?」

 

魔女の質問にリュートは答える。

 

「憎いよ、そりゃ憎いさ。だけど転生者を殺すなんて不可能だ。」

 

「どうして?」

 

「どうしてって…」

 

「お前が転生者の何を知っている?せいぜい英雄として脚色された姿くらいだろう?だが私は知っている。転生者たちの転生前の姿を。」

 

魔女は演説を始める。

 

「引きこもって現実逃避するゲーム廃人。能力も成果も無いのに不満を抱くのだけは達者な社畜。本当は誰よりも恋愛脳なのに二次元で己を慰める非モテ。笑えるほどにゴミ揃いだ。」

 

魔女の演説にはリュートの知らない単語が多すぎた。ゲーム廃人?社畜??恋愛脳???非モテ????ここではリントの言葉で話せ。

 

「な、なにを言ってるか分からない」

 

困惑するリュートを尻目に魔女の演説は続く。

 

「ゴミはゴミらしく社会の片隅でひっそり死ぬはずだった。だが、ゴミどもは人生最大の幸福に見舞われた。転生だ。転生者には固有のチート能力が与えられた。ゴミどもはこの力で楽々無双し、英雄になった。奴らは幸運だっただけ、そこに一切の努力や苦労は無い。すなわち…異世界転生者なんて連中はチート能力でイキってるだけの陰キャ野郎なんだよ」

 

もう何が何だかさっぱりだ。

 

「さっきから言っていることが意味不明だ!あs」

 

()()()()()。つまり、転生者も一皮むけばただの人、いやそれ以下ということだ。殺せるんだよ、なぁリュート。ワクワクしてこないか?」

 

 長々とした演説の果てに魔女はこう締めくくる。

 

「転生者を殺す(すべ)を教えてやるよ」

 

 

 

 

 

数分後

 

 

 リュートと魔女は村から少し離れた一軒の小屋の中にいた。村の狩人が山で狩りをするための武器の保管庫兼休息所だった。この小屋は村から離れていたので焼き払われず済んだのだ。

 

「ターゲットはルイ=ジュクシスキー、通称『神の間違い』」

 

魔女が言う。

 

「まず、転生者にはもれなく丈夫な肉体と凄まじい身体能力、さらに膨大な魔力が与えられる。個人差は一応あるが、少なくともこの世界の一般人は楽に超えている。加えて、個人個人が異なる特殊能力を持つ」

 

魔女の説明は続く。

 

「ヤツの特殊能力は『絶対懇願(アブソリュートオーダー)』。相手に触れている間にした命令を必ず実行させる力だ。ここから導き出される結論は…正面から挑めば100%返り討ちというわけだ」

 

確かにそうだ。例えばルイがすごい瞬発力でリュートを掴み、「自害せよ、リュート」と言うだけでジ・エンドなのだ。

 

「じゃあ駄目じゃないか」

 

呆れるリュートに魔女が答える。

 

「そこでお前の出番だ。ルイはお前が生きていると知らない。そこに付け入る隙がある。ルイを私の前に連れて来い」

 

「連れて来いって、どうやって?」

 

リュートの当然の疑問に魔女はこう答えた。

 

「方法は任せる。茶にでも誘えばどうだ?」

 

なんて無責任なことだろう。関西の男性アイドルユニットもびっくりだ。

 

「適当なこと言うなよ。第一もし連れて行けたとして何をするつもりなんだ?」

 

「私は魔女だと言っただろう?魔法を使うのさ」

 

 リュートには魔女の思惑が理解出来ないでいた。

 

 

 

 

 




 本当は原作全て終える予定だったんですが、長くなってしまったのでここまで。

 原作なぞるだけじゃ面白くないんで、所々にパロディやツッコミを、ぶち込んでやるぜ!
 ちなみに語り手は登場人物の誰かじゃないので、平気で元ネタありきのツッコミかまします(もちろんリュートにとっては意味不明)。元ネタを貶める意図は全く無いので、分かったらフフッと笑う程度に留めてください。

 魔女の演説書くの本当しんどい。よくこんなの商業誌に載せたな。まあでもヘイトタグ付いた作品書いている時点で、同じ穴のなんちゃらだな。

 「魔女がなんで転生者の能力や転生前の姿を知ってるのか」「なんで転生前が陰キャだと殺せるのか」「何で魔女自ら転生者を殺しに行かないのか」などなど様々な疑問がネット上で飛び交っています。正解はもはや原作者(もしかしたら関係者も)にしか分からないことですが、一応この作品内での答えはしっかり用意してあります。

 転生者には共通チートと固有チートを用意しました。前者はバトルに必要なもの、後者はキャラ分け及びストーリーを進めるためのものです。各ベストナインメンバーの元ネタに即したものからガチの強能力まで様々です。お楽しみください。

余談ですが、初めてのコメントをいただきました。ありがとうございます、本当に嬉しいです。楽しみにしてくれている人のためにもめげずに頑張りますので、皆々様よろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 「神の間違い」殺し その4 「対峙」

 なにジョジョ?ルイのキャラクターが熟女好きになったこと以外に変わり映えがなくって元ネタが分かりにくい?
 ジョジョ、それは原作でのルイの蛮行がやばすぎて元ネタが分かるレベルで書くとハーメルンの二次創作とは言え危ないし、かといって物語の着火剤となるキャラクターでもあるから彼の蛮行の内容を変更するのも厳しいからだよ。
 逆に考えるんだ。「最初にこんなの作ったヤツがやばすぎるんだ」と考えるんだ。



 ついに原作部分が全て終了します。


 リュートは街へと向かっていた。それも単なる街では無い。様々な酒場があり、遊戯施設があり、金を払えば美男美女と酒を飲みながら楽しく遊べる店もある。店によっては夜の営みまで…。そんな所謂(いわゆる)繁華街へと向かっていた。

 

「何者なんだあの女?転生者を殺すなんて、そんなこと出来るはずが無い」

 

心の中では魔女への疑いの気持ちが強かった。しかし、行動では魔女の提案に従っている。

 

「なのに…なんで俺はこんなところに来てるんだ?」

 

 リュートの行動は魔女に支配されているのではない。例え可能性が低くても自分が生きているならばルイをそのままには出来ない。そんな考えが心の奥底にあるためだった。しかし今は困惑の感情が強く、真意に気付けないでいた。

 

 しばらくしてリュートは一軒の店の前で足を止める。彼が足を止めたのは、露出度の高い服を着た可愛い女の子のダンスを見ながら女の子たちと酒が飲める店……がある繁華街の中央部から離れた区画にある店。少しマニアックな客層に向けた店。具体的に言うと熟女好きの男をターゲットにした店だった。その(たぐ)いの店では最高級の店ではあったが、熟女好きどころか、女の子と酒を飲む店にすら行ったことの無い彼にはそんなことは分からなかった。

 店に入るとボーイが「いらっしゃいませ」の挨拶とともに出迎えてくれた。リュートは頭をかきながら

 

「スミマセン、俺こういう所ははじめてで…」

 

というと、ボーイは笑顔でトレイを差し出す。どうやら「一見さんお断りの店」ではないらしい。

 

「武器になるものをお持ちでしたらこちらのトレイにお願いします。金庫で厳重に管理しますのでご安心を」

 

「あー、そういうものは持ってきてないです」

 

 実際、リュートは武器になるようなものは何も持ってきていない。

 彼のルイをおびき出す作戦は「お茶に誘う」という魔女の提案した通りのものだった。杜撰(ずさん)な策ではあったが、これ以外に方法が思いつかなかったのだ。それに魔女から教わった「ルイが無視できない必殺ワード」もある。武器を持ってこなかったのは、これからお茶に誘うルイに余計な危機感を与えないためだった。

 リュートは不安で飛び上がりそうな気持ちを抑えながら、店の奥に向かった。

 

 同時刻。ベストナインの一人、ルイ=ジュクシスキーはソファに座りながら店でパフォーマンスを見物していた。隣には店の嬢である女性もいた。年齢は五十は超えていそうだが、美しい老け方をした美熟女だった。

 

「いい()れ方をしているねえ。俺は君みたいな美しい女性が大好きなのさ」

 

そう言いながらルイは女性の腰回りをいやらしい手つきで触り始めた。

 

「こ、困ります転生者様。そういう店ではございませんので…」

 

女性が困惑しながら言うとルイは

 

「あーそうでしたか、これは失礼ハハハハ…」

 

笑ったと思った次の瞬間、ものすごい剣幕で女性の胸を掴みながらこういった。

 

「俺のモノを咥えて裸で奉仕しろ」

 

 この時、ルイは自分に与えられた特殊能力「絶対懇願(アブソリュートオーダー)」を発動していた。相手に触れている間自分の命令を必ず実行させる能力だ。

 

「なぁ、いいだろ?俺はどうしてもやりたいんだよ。お願いだからさあ」

 

 女性は逆らえなかった。周りの人達も転生者様を怒らせる訳にもいかず、黙って見ている他なかった。

 

 リュートが店で見たのは驚きの光景だった。裸の女性がルイの股間に口を付けている。ルイはパンツを下げた状態で

 

「転生者サイコーッ!!アッハハハハ!!」

 

と笑っている。この異常な光景にリュートは動揺を隠せない。

 

「あいつ何てことを…」

 

 次の瞬間、ルイはリュートの存在に気付いたらしく、ものすごいスピードでズボンをはき、リュートに蹴りを入れた。リュートは飛ばされたが、ぶつかった先にソファがあったことと、ルイがズボンを中途半端にはいていたために蹴りの威力が弱まったお陰で大した怪我をせずに済んだ。しかし衝撃で体が動かない。

 

「てめえ、村にいた奴だな。なぜ生きている?」

 

怖い顔でリュートに近づくルイ。しかし足を止めたときには笑顔に戻っていた。どう見ても作り物の笑顔だった。ルイはため息を吐きながら

 

「面倒くさいですねぇ。想定外の事態や謎なんて転生者には必要ありません。ストレスフリーにひたすら異世界を無双するものなのですよ。というわけで何故生きているのか教えてください。言わなきゃ殺します」

 

と質問する。ルイが「絶対懇願(アブソリュートオーダー)」を使わなかったのは、こんな虫けらに使う必要は無い、と考えたからである。リュートは言葉を返した。

 

「な…何で俺たちを殺したんだ!?誰一人悪いことはしていない!みんなで平和に暮らしていただけなのに!」

 

「質問を質問で返すなぁー!!疑問文には疑問文で答えろと教わっているのか?俺が『何故生きているのか』と聞いているんだ!お前の村などどうでもいい!」

 

ルイが怒鳴りつける。リュートは沈黙した。

 

「よく分かった。こいつは本当に俺たちの命や尊厳なんてないものと思っている。だったら…殺されるべきなのは俺じゃない、この男だ」

 

 先ほどまでリュートには躊躇いがあった。「本当に転生者を殺していいのか?」そんな迷いは吹っ飛んでしまった。

 覚悟を決めるリュートを沈黙しただけだと思っているルイは、リュートの首をつかんで持ち上げた。

 

「何て力だ…明らかに人間のそれじゃない、魔力で大幅に強化されたパワーだ」

 

リュートは思った。

 

「はぁ…、仕方ないですね。こんな虫けらにこの力を使わなければならないとは…感謝してくださいねぇ?」

 

ルイが笑う。「絶対懇願(アブソリュートオーダー)」が来る、とリュートは思った。今こそ魔女から教わったあの言葉だ。

 

「後悔するぞ陰キャ野郎」

 

「あ…?」

 

今度はルイが困惑した。リュートを掴む力が弱まる。

 

「聞こえませんでしたか?俺は転生前の貴方を知っている、と言ったんですよ」

 

「馬鹿な…」

 

ルイは思案する。

 

「そんなはずない。『ベストナイン』の連中にも話してないんだぞ?だが『陰キャ』…?そんな言葉はこちらの世界にはない」

 

冷や汗を流すルイの手はリュートから完全に離れていた。必殺ワードの効果は確かだった。

 

「お前、何者だ?」

 

リュートは言葉を返した。

 

「知りたいなら…俺とお茶でもしませんか?」




 オリジナル部分に入りたかったのに、原作終了部分までしか行けなかったじゃないか。

 こんなん面白い部分がルイのパロディ台詞しかないぞ?そこで滑ったら全滅だぞ?
 でもリュートがルイの質問に質問で返したシーンを初めて読んだときは、あの名言が頭にすぐ浮かびましたからね。書かざるを得なかった。

 これで終わると原作の後追いしただけなんで、それはちょっと許せないんで、この先出てくる設定を少しばらしちゃいます。
 ルイは「自分の転生前のことを『ベストナイン』にも話してない」って言ってましたが、ベストナインの序列1から3の方々は普通にメンバーに話しています。転生前の自分によっぽど自信があるようですね。

 次から完全オリジナル展開、お楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 「神の間違い」殺し その5 「ルイの最期」

 オリジナル展開キターー

 ついに来ました。オリジナル展開です。私の腕が試されます。
 初めての小説投稿なので矛盾点等有るかもしれませんが、その際はコメント欄で(出来れば優しく)指摘してください。

 また、この話から魔法が出てきます。原作だと魔法の発動に詠唱が必要なようですが、この話にはそれは有りません。魔法の名前を言うだけで発動する便利なシステムとなっております。
 理由は二つありまして、一つは詠唱中に他キャラクターが何をしているのかをいちいち考えなければならないからです。
 もう一つはかっこいい口上をたくさん思い浮かべるのが厳しいからです。適当に思いついたヤツにすると黒歴史になるし。そう考えると師匠はすごい。あんなにかっこいい口上を沢山作れるのは本当に尊敬します。皆はそんなすごい師匠を全くの別人物と同一人物に見せかけるような蛮行、してないよね?


 歓楽街の端の区画にある一軒の店。この店は熟女好きの男性にとって有名な店だった。

 そんな店から二人の人影が出てきた。一人はルイ=ジュクシスキー、この世界を魔人の危機から救うギルド「神の反逆者」の幹部「ベストナイン」のメンバーである。もう一人はリュート。彼はルイの前方を歩いている。

 

「それで、どこでお茶をする気なんだ?」

 

 ルイがリュートに尋ねる。無論本当にお茶をする気では無いことは彼にも分かっていた。女性がトイレに行く際「お花摘みに行ってきます」というのと同じだ。ルイはリュートの「お茶しませんか」という誘いを「俺がお前を殺す」の意味だと捉えていた。

 彼がそんな危険だと丸わかりの誘いに乗った理由は二つ。一つは彼には「転生者には想定外の事態や謎は必要ない」という考えがあった。そんな彼には「自分が殺したはずの人間がなぜ生きているのか」という謎を放っておくことが出来なかった。もう一つは、相手が例えどんな手段を使ってきたとしても、彼には勝つ自信があったからである。故に彼が誘いに乗ったのは「謎を確かめるため」、それだけだった。

 

「つい先日貴方が滅ぼした村の近くです」

 

 リュートが答える。

 

「そう、俺の故郷の村です」

 

 ルイは「やはりな」と思った。ヤツが俺を誘うならそこしかない、と思っていた。

 

「随分と遠くまで歩かせるんだな」

 

「ご不満ですか?」

 

「あぁ、不満さ」

 

 そういうと右腕を前に突き出す。魔法陣が手の前に現れる。「攻撃されるのか」とリュートは思ったが誤解だった。

 

「一瞬でそこまで行ってやる。『ワープゲート』!」

 

魔法陣が大きくなってルイの手を離れ、扉の形へと変わる。扉が開くと向こうには荒廃した村が広がっていた。ルイが移動魔法を使ったのは、長時間の移動を嫌ったのだけが理由ではない。リュートに時間稼ぎの意図があった場合にそれを潰すためでもあった。

 

「ほら、着いたぞ」

 

「さすがは転生者様ですね。では行きましょうか」

 

二人は扉を抜けた。

 

 

 

 

 

 着いた場所からリュートの言う目的地までは徒歩5分ほどの距離だった。歩いている途中に二人の間に会話は無かった。ルイには「自分の求める謎に対する答え」以外の言葉をリュートに求めていなかったし、リュートとしてはルイと会話をしたくない気持ち半分これからの作戦の成功への不安半分であった。

 

 目的地は村の外れにあった一軒の小屋だった。リュートが魔女と作戦を立てた小屋である。

 

「ここがお茶の場所か」

 

 ルイが尋ねる。小屋の中には誰もいない。ベッドが一台にタンスが一棹(ひとさお)、木箱が数箱。それだけだった。ルイは「どこかに武器が隠されているのだろう」と見当を付ける。

 

「そうですよ、ルイ=ジュクシスキーさん」

 

リュートが答える。そして続けて言葉を口にする。

 

「いいえ、知久(ちく) (るい)さん!!」

 

ルイは激しく動揺した。「知久類(ちくるい)」とは転生前の自分の名前だったからだ。

 

「貴様、何故その名をっ!?」

 

「貴方、いやお前は転生前から熟女好きだった!性欲の対象は全て四十代以上の女性ばかりだった!お前は自分の性癖を友達からも親からも理解されず、孤独な毎日を過ごしていた!!」

 

「だっっ、黙れえええええぇぇぇ!!!!」

 

ルイが絶叫する。リュートの首を掴みにかかる。腕にいつもの力が入らなかったような気がしたが、そんなことは気にしていられなかった。

 

「自害しろおおおおぉぉぉ!!」

 

ルイは叫んだ。しかし何も起きなかった。

 リュートが丸腰だったから自害出来なかったのでは無い。彼はベッドの中に愛用の剣を隠していた。もし「絶対懇願(アブソリュートオーダー)」が発動したならば、リュートはその剣で自害していただろう。しかしそうはならなかった。答えは簡単だった。「絶対懇願(アブソリュートオーダー)」は()()()()()()()()()

 

「なっ何故…!?」

 

 ルイが困惑している隙をリュートは見逃さなかった。店でやられたのと同じように、今度はリュートがルイの腹に蹴りをお見舞いした。今度はルイが吹き飛ぶ番だった。

 

「ぐっ…、痛い…どうして…」

 

 ルイの言葉は腹を蹴られたせいでほとんど言葉にならなかった。いくつもの疑問符がルイの頭に浮かぶ。「なぜ腕に力が入らない?」「なんで『絶対懇願(アブソリュートオーダー)』が発動しない?」「どうしてヤツの蹴りがこんなにも痛い?」これではまるで…

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しかし混乱しながらもルイの体は本能的に動いていた。このままではやられる。ルイが蹴り飛ばされたのは小屋の出口の方だった。出口をなんとか外へと()って進む。

 

「このまま逃げるか?いや、俺は転生者なのだ。こんな()()()()()()()()はこのままにしてはいけない!」

 

小屋から出たルイはそう考え、腰の剣に手を伸ばす。転生したときに神から与えられた剣だった。

 小屋からリュートが出てくる。右手には剣を手にしている。自分を殺すつもりなのだとルイは思い、なんとか立ち上がり叫ぶ。

 

「てめえええぇぇ!許さねえええぇぇぇ!」

 

「それはこっちの台詞(せりふ)だっ!!」

 

 二人の剣がぶつかる。次の瞬間、つばぜり合いが起こる間もなく、折れた。

 

 ()()()()()()()

 

 ルイは笑った。

 

「アッハハハハ!俺の勝ちだ!!」

 

 しかし、リュートは慌てなかった。折れた自分の剣を、笑っていて隙だらけのルイの腹に突き刺した。

 

「ぎゃあああああ!!痛てえええええええ!!」

 

折れていた剣だったために深くまでは刺さらなかったが、激しい痛みにルイは自分の剣を落としてしまう。リュートは自分の剣を捨て、ルイの落とした剣に持ち替える。

 リュートが剣を振る。ルイの右腕が飛んだ。

 

「は?えっ……うああああああああああああああああああ!!!!」

 

ルイには最初何が起こったか分からなかったがすぐに事態を認識する。自分の腕を失ったのだ。認識すると同時にものすごい痛みがルイを襲った。

 

「あああああああ……、はぁはぁはぁ……」

 

 ルイにはどうしていいのか分からなかった。ただ死にたくないとだけは強く思った。考えもせずに口から言葉が出た。

 

「たっ、たすけてくれえええ、ころさないでくれえええ!!」

 

 リュートの心にはそれまで、ルイへの怒りの他に作戦成功の安堵感があった。得体の知れない魔女の提案に乗り、ルイに勝ったという安堵感が。しかしルイの命乞いを聞き、リュートの心の中は激しい怒りで満ちあふれた。

 

「殺さないでくれだと?今まで沢山の人の命を踏みにじり、好き放題やってきたお前が殺さないでくれだと!?」

 

怒り以外の感情を失ったリュートが剣を振る。

 

「お前は殺さないとダメなんだよ!!!!」

 

 一閃。

 

 ルイの首が宙を舞った。

 

 ルイの首が地面に落ちた。胴体から吹き出た激しい量の血がリュートを濡らした。

 

 

 

 

 こうしてルイ=ジュクシスキー、通称「神の間違い」、本名「知久類(ちくるい)」はベストナイン最初の死者となった。




 どうでしたでしょうか。私の初めてのオリジナルストーリーは。
 本当ならルイ編を今回で終わらせて新章に進みたかったんですけど、もう一話続きます。「どうしてルイが転生者としての力を失ったのか」等の種明かしをしなければならないので。安心してください、ちゃんと次の話で書きます

 私としても早く新章に進みたいんですよ。だってここまでの流れって、ぶっちゃけ原作読んでた人なら想像ついてたでしょ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章 「神の間違い」殺し その6 「魔女の能力」

 第一章も今回で終了です。

 ここで、皆様にまた一つお願いが出来ました。この作品を他所の掲示板等で宣伝することは控えていただきたいのです。
 現在、コメント欄では賞賛の声が多く、大変嬉しく思っております。しかし、いくら配慮して書いているとは言え、他の作品のキャラクターを元ネタにして製作したキャラクターに悪事を働かせる内容であることに変わりはありません。
 チートスレイヤーの原作について議論されている掲示板では「他所のキャラに悪事を働かせること」自体を嫌悪する声もございます。そのような場所でこの作品のことを紹介されると、この作品も炎上する可能性があります。そうなった場合にはこの作品を削除せざるを得なくなります。
 この作品は「たまたま見つけた人が楽しめる隠れ家的レストラン」のような存在であるのが一番良いと私は考えています。そして合わなかった場合は黙って立ち去り、この物語のことを忘れてくれると幸いです。私はこの話の執筆でご飯を食べているわけではありません。
 
 長くなってしまいましたが、どうかよろしくお願いいたします(物語のあらすじ部分にも追記しました)。


 知久類(ちくるい)が熟女を好きになったのは8歳の頃だった。

 それまで彼は異性について意識したことは無かった。他の同年代の子供達と一緒に公園で遊ぶ普通の子供だった。

 ある日、公園に落ちている一冊の本を見つけた。彼は興味津々に本の中身を覗いた。中は熟女の写真でいっぱいだった。本は熟女好きの男性向けアダルト雑誌だったのだ。

 衝撃的だった。初めて見る母親以外の女性の裸体。母親の方がもっと綺麗な裸だったが、彼には何故かこっちの方が魅力的に感じた。その日から雑誌は彼の宝物になった。

 時が経つにつれ、彼はコンビニのアダルト雑誌コーナーで立ち読みをするようになった。

 彼が13歳の頃、教室で彼のことが噂になった。

 

「この間、あいつがコンビニでエロ本立ち読みしてるのを見たぜ」

 

「マジかよ」

 

「しかもただのエロ本じゃなくて熟女ばっかのやつだったぜ」

 

「はあ!?あいつ変態じゃね?」

 

 知久類(ちくるい)は驚いた。彼自身、熟女好きを恥じている訳ではなかったが、他の人が好きになる異性が若い女性ばかりだったので、自分の好みは隠していた。立ち読みをするときも近場では無く、なるべく遠くの場所を選んだ。しかし、中学生になり行動範囲が広がったのは彼だけでは無かったため、たまたま同級生に見つかってしまったのだ。

 その日から彼は変態扱いされ、いじめを受けるようになった。彼は学校に行こうとしなくなり、引きこもりになった。

 引きこもりになってから彼の熟女好きに拍車がかかり始めた。アダルト雑誌を買える年齢では無かったため、万引きをくり返した。二、三度見つかり、両親が呼び出された。その度にこっぴどく叱られた。

 同級生が高校生になっても彼は引きこもりを続けた。パソコンで熟女の女優が出演するエロ動画を見て過ごす日々。ある日彼は熟女の裸を生で見たいと思うようになり、銭湯の覗きを決行した。上手くいかず、見つかって警察署に連れて行かれた。

 

「どうしてだろう、何がいけないんだろう」

 

両親の叱責を受けながら彼は悩んだ。テレビでお笑い芸人が自分の熟女好きを打ち明け、人々の笑いを取っているのを見たことがあった。

 

「なぜ彼は受け入れられて、俺は受け入れられないのだろう」

 

 銭湯の件以降彼は家から出ることすらしなくなった。しかし、熟女の裸を生で見たいという彼の望みは日に日に強くなった。

 あるとき彼は思い至った。

 

「そうだ、母さんの裸を見ればいいんだ」

 

その日、彼は母親の風呂を覗いた。ドアを少し開けて見るという杜撰(ずさん)な方法だった。当然見つかった。母親は泣き出した。父親がすごい剣幕で彼に近づいた。

 

「お前なんぞ、俺の子じゃない!」

 

父親の手には包丁が握られていた。知久類(ちくるい)が人生で最後に思ったことは「俺の何がいけないんだろう」ということだった。

 

 目が覚めると知久類(ちくるい)は不思議な場所にいた。6畳の畳にちゃぶ台が一つ。彼の前にちゃぶ台をはさんで一人の老人が座っていた。白のチュニックを着ており、教科書で見た古代ギリシャの人間の格好にそっくりだった。昔は筋骨隆々だったのに年老いてしぼんでしまったかのようなガリガリの肉体だった。(あご)ひげと口ひげと髪の毛、いずれも白くてひょろひょろのものが生えていた。老人は言った。

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった」

 

老人は神だった。

 

 その後、知久類(ちくるい)は異世界転生のことを神から聞き、異世界に行くことを決めた。今度こそ、自分好みの熟女を好きにするために。

 

 

 

 

 

 ルイ=ジュクシスキーが最後に思い出したのは、彼の転生前の出来事では無く、異世界に行こうとする彼に神が言った警告だった。

 

「ちなみに転生後に死んでも、二度目の転生はないから気を付けるんじゃぞ~」

 

 

 

 

 終わった。復讐は終わった。

 (かたき)の無残な亡骸(なきがら)を見下ろしながら血まみれのリュートは座り込んだ。その時小屋から出てくる人影が一人。

 

「復讐は済んだようだな」

 

魔女だった。彼女はリュートに話しかける。

 

「どうだ?私の言ったとおり、上手くいっただろう?」

 

確かに言うとおりだった。リュートは小屋での魔女との会話を思い返した。

 

 

 

 

 

「適当なこと言うなよ。第一もし連れて行けたとして何をするつもりなんだ?」

 

「私は魔女だと言っただろう?魔法を使うのさ」

 

 リュートの質問に魔女が返す。リュートは再度質問する。

 

「魔法ってどんな魔法なんだよ?」

 

「いい質問だな。私が使う魔法は二つだ。一つは『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』、もう一つは『遠隔会話(テレパシー)』だ」

 

 魔女は説明を始める。

 

「簡単な方から説明しよう。『遠隔会話(テレパシー)』は任意の相手と、離れたまま口を開かず会話が出来る魔法だ。心の中で相手に伝えたいと思ったことが、そのまま相手の頭の中に流れてくる。物は試しだ、実際にやってみようじゃないか」

 

魔女はそういうと、「遠隔会話(テレパシー)」の魔法を唱える。

 

「どうだ?口を開かずとも、頭の中だけで私と会話が出来るだろう?」

 

「本当だ。すごい…」

 

この一連の会話は互いに口を開かず行っていた。魔女は「遠隔会話(テレパシー)」を解除した。

 

「ただし、『遠隔会話(テレパシー)』が使えるのは、私から半径2キロの間、分かりやすく言うならこの小屋から村の中央付近までだ」

 

 魔女は説明を続ける。

 

「もう一つの魔法、『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』は簡単に説明するなら、転生者が得たチート能力を全て使えなくする技だ。私から半径200メートルの間、分かりやすく言うなら小屋を出て少しの所まで、転生者のチート能力を全て打ち消す見えない空間が出来上がる」

 

「なるほど、だからお前の元に転生者を連れてくる必要があるわけか」

 

「そうだ。だがこの魔法には弱点がある。この魔法でチート能力を無効化するには、転生者の心が揺らいでいる必要がある」

 

「心が揺らぐ?」

 

「動揺、不安感、焦燥感などだ。簡単に言えば、平常心の転生者のチート能力は解除出来ない」

 

「じゃあどうするんだよ」

 

「さっきも言ったが、転生者の転生前はゴミみたいなものだ。そんな過去を、知らないはずのお前の口から言われたならば、相手は間違いなく動揺する。転生前の姿は転生者にとってトップシークレットだからな」

 

 魔女は説明を終え、リュートに作戦を伝える。

 

「作戦はこうだ。『遠隔会話(テレパシー)』を発動したまま、お前と私は一旦別れる。魔法の圏外になると声が聞こえなくなるが、圏内に入れば再び会話が出来る。お前がルイを誘っている間に私は『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』を発動しておく。近くまで連れてきたら私に伝えろ。そこでルイの過去について『遠隔会話(テレパシー)』でお前に伝える」

 

魔女が続ける。

 

「私は木箱の一つに隠れている。お前はルイが部屋を物色する前に奴の過去について語り始めろ。あとはお前の思うがままに…、いや待てよ」

 

「なんだよ」

 

「もしもお前の剣とルイの剣がぶつかったなら、お前の剣は必ず折れる。奴の剣は神からの特別製(ギフト)だからな」

 

「なんだそんなことか」

 

リュートが自信を持って言う。

 

「そうなれば相手は油断する。勝ちを確信した所に折れた剣を突き刺してやる」

 

その言葉を聞いて魔女は笑った。

 

「頼もしいな。お前が奴の剣を使う分には問題は無い。剣を奪って首をはねてやれ」

 

作戦会議は終了し、リュートはルイがいるであろう歓楽街へと向かった。

 

 

 

 

 

 全てが終わった今、リュートは魔女にお礼を言う。

 

「ありがとう。お前のお陰でルイをこの手で殺すことが出来た。これでリディアも…村の皆も少しは浮かばれるだろう」

 

リュートの目から涙がこぼれる。安堵の涙か、亡くなった者を(しの)んでの涙なのか、彼には分からなかった。そんな彼を見ながら魔女は笑って言葉を返す。

 

「おいおい、泣くのは勝手だが感謝するのはまだ早い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

リュートは唖然(あぜん)となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第一章 「神の間違い」殺し END

「ベストナイン」 残り8人




 スゲーッ爽やかな気分だぜ。自由度の高いゲームの最初にやらなきゃ行けないチュートリアルを終えた時のよーによぉ~~~ッ

 第一章終わりました。ルイの過去と前話の種明かしでした。

 ルイの過去については神との会話も入れたかったのですが、思ったより長くなってしまったので省略しました。転生する際に神とどのような会話をするのかについてはまた今度。  
 後、念のために言いますが、ルイの過去は私の体験談ではございません(笑)。昔から小説を読んできた賜物(たまもの)ですね、あの描写は。

 種明かしについては「なぁーんだ」「つまんね」等の声があるかと思います。
 仕方ないじゃ~ん。ネットでよく言われる「どうやって転生者を殺すんだよ」「なんで魔女の所に連れて行かなきゃならんのよ」「なんで転生者の前世が陰キャだったら転生者を殺せることになるんだよ」他多数の疑問に答えるにはこうするしかなかったんだもん。
 でも個人的に、平常心の転生者はチート能力を封じれない、という設定は上手く出来たと思います。察しの良い方なら、今回と同じ方法でベストナイン全員は倒せないことが分かるでしょうし、何より、「どうして転生前が陰キャだと転生者を殺せることになるのか」の疑問について答えが出せましたからね。
 え、まさか魔女の演説って()()()()()()()()なんてことはないですよねぇ?

 原作最大の問題児であるルイの始末も終わったし(え、最大の問題児は魔女だろって?)、ここからは私の自由に書ける範囲が更に広がります。物語ももっと面白くしていくつもりなので、皆様楽しみにしていてください!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その1 「死体発見」

 今回からようやく新章です。やっとオリジナルベストナインの()()が書けます。
 「活躍」と言うからには彼らは単なるやられ役ではないということです。主人公はあくまでリュートですが。

 オリジナルベストナインの活躍が本格的に始動するに当たって、再度注意喚起をします。この作品のベストナインは()()()()()()()()あくまで「()()()()()」です。
 原作のチートスレイヤーと同じです。キルトはキリトに二つ名も容姿も似てますが、キリト本人では無くオリキャラであることは間違いないのと同じです。
 当作品も同じです「あー、よく見かけるあのキャラがこの作品に転生したんだな」とは思わないでください。()()()()()()()()()()です。

 毎回毎回、前書きに長文で読者に対しての注意喚起を行うのは私としても大変心苦しいのですが、なにぶんデリケートな内容を扱う作品ですし、ハーメルンの二次創作では原作キャラそのものが転生する内容の作品も多いため、改めて説明しました。ご了承ください。

 それでは新章スタートです。


 物語はリュートがルイを殺した二日後に飛ぶ。

 

 王都にある「神の反逆者」のギルドの敷地内には大きなプールがある。「神の反逆者」のトップ九人で結成される「ベストナイン」の序列1、「マウンティングウォリアー」ことマウントール=フランスの命により設置されたものだった。

 朝、プールで一人の男が泳いでいた。マウントールだった。泳ぐ彼の体は「序列1」に相応しい引き締まった肉体美を有しており、泳ぎのフォームもプロの水泳選手さながらであった。そんな水泳中の彼に一人の紳士服を着た男が近づいてくる。彼はプールサイドで足を止め、大きな声を張り上げる。

 

「御遊戯中失礼します、マウントール様!」

 

彼はギルドの使用人だった。大声を出したのは水泳中のマウントールに確実に声を届けるためだった。声を耳にしたマウントールは泳ぎを止め、使用人の方に顔を向ける。

 

「やあ、君か。朝目覚めてからの水泳は気持ちいいぞ。身も心も引き締まるからね」

 

「それは結構なことで御座います。しかしながら申し上げます。そろそろ朝のミーティングの時間となります」

 

「おっとそうだったか。序列1の私が遅刻するわけにはいかないな。伝えてくれてありがとう」

 

マウントールはプールから上がり、更衣室へと向かった。

 

 ギルドでは毎朝、ベストナインのミーティングが行われる。内容は朝の挨拶と各自の活動報告、今日の活動の確認等であった。ギルド全体の朝礼に置き換わることもあったり、ベストナインのメンバーには自分勝手な者も多いため欠員がでることも少なくなかった。

 しかしこの日のミーティングには全員が出席していた。ルイを除いた全員が。以前の会議でルイが途中退席して以降、彼の姿を誰も見ていなかった。いくら彼が自分勝手な性格をしているとはいえ、これは異様なことだった。ミーティングの欠席者がいなかったのはこのためだった。

 

「Bonjour.(おはよう。)朝から皆よく集まってくれた。これより朝のミーティングを始める。議題はもちろん、ルイの安否についてだ。誰かこれまでに彼の姿を見ていないか?」

 

 マウントールが質問するが、誰も彼を見ていなかった。

 

「ならば彼の目撃情報は?」

 

重ねられた質問にも、誰も回答する者はいなかった。

 

「となるとやはり、最後の目撃情報は歓楽街の店での証言か…」

 

「勝手に抜け出しちまったんじゃ無いのカ?この前の件でヨ」

 

そう口を開くのは、ベストナインの序列5。通称「ソルティングブレッド」、スパノ=ヤナティン。

 

「ちょっと待ってくださいよ!それだと私が悪いみたいじゃないですか」

 

抗議の声を上げるのは序列7。通称「決めつけ講談師」、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)

 

「みたいも何もあんたが悪いんでしょ。あんな風に喧嘩売って。あたしみたいにクールに生きられないのかしら?」

 

発言をしたのは序列3。通称「Ms.ダブルマッカレル」、アルミダ=ザラ。

 

「豚がクールかどうかは置いておいて、奴が出て行ったときの様子…。ベストナインが嫌になって抜け出したとは思えん」

 

アルミダを軽く馬鹿にしながらも自分の見解を主張するのは序列2。通称「Mr.土方(どかた)」、アシバロン=ボーナス。

 

「とりあえず、今朝(けさ)から米沢(よねざわ)にルイの捜索を頼んでいる。すぐ見つかるだろう」

 

 マウントールが言った。この発言は皆を安心させるためだけでなく、アルミダとアシバロンの喧嘩を防ぐ目的もあったのだろう。

 マウントールの発言に出てきた序列4、通称「バグズフェンサー」の米沢反死(よねざわはんし)はさっきから一言も口を発していない。というのも彼は別の行動をしていたからである。彼の元に先程から()()()が飛来して来ていた。真っ黒な羽に棘が生えた6本の黒い足、長い黒の触覚という、コオロギともゴキブリともカミキリムシともつかない黒い虫。彼はさっきから、その飛来してくる虫を捕まえ、()()()()()のである。異様とも言えるその行動だが、他のメンバーに彼の行動を気味悪がる者はいなかった。

 

「彼の身に何かあったのでは?」

 

 抑揚の乏しい声で発言したのは、序列6。通称「無自覚勇者」、ギットス=コヨワテ。

 

「そっちのほうがありえないって~」

 

そう序列9、通称「ロリロリポップキャンディ」の御手洗幼子(みたらいようこ)が反発した直後のことだった。

 

「ぎゃああああああああああぁぁっ!!!!」

 

 悲鳴が上がり、皆が思わず顔を向ける。叫んだのは米沢反死(よねざわはんし)だった。

 

「どうした!?米沢!」

 

皆の思いをマウントールが代弁する。

 

「しっっしししししししし、しっしし…」

 

米沢の声は震えていた。

 

「しっ死んでるううぅぅ!!ルイが死んでるうぅっ!!」

 

米沢が叫ぶ。戦慄が走る。「そんな馬鹿な」と誰もが思う中で、マウントールは比較的冷静に質問する。

 

「場所はどこだ!?」

 

「まま前にルイが滅ぼした村ぁ!!スパノが言ってたとこぉ!!!」

 

「移動するぞ!スパノ、『ワープゲート』を開け!!」

 

マウントールの判断は迅速だった。スパノが「ワープゲート」を開き、八人は扉をくぐった。

 

 

 

 

 

 米沢の案内でたどり着いた場所には、胴と首が離れたルイの無残な死体があった。

 

「キャアアアアアアァァァァァ!!!!」

 

 御手洗と立花亭が悲鳴を上げる。

 

「どっどうなっているんだヨ!!」

 

「何でこんなことになってるの!!?」

 

スパノとアルミダも叫んだ。米沢は頭を抱えうずくまって震えている。マウントールとアシバロンも動揺を隠せない中、ギットスだけは何の反応も起こさずその場に立っていた。そして口を開く。

 

「これじゃまるで、俺たちの中に犯人がいるみたいじゃないか」

 

「はぁ!?あんた何とんでもないこと言ってるの?」

 

ギットスの発言にアルミダがつっかかる。

 

「俺の発言がとんでもないって…」

 

ギットスが再び口を開く。

 

「普通すぎるってことだよな?」

 

「あんたねぇぇ!!この非常事態に!!」

 

アルミダが怒号を上げた。

 

「大体、私達の中に犯人がいるならあんたが一番怪しいじゃない!何なのよその涼しい態度は!」

 

「俺の態度が涼しいって…。いつものことじゃないか」

 

「ムッキーーーーーー!!!」

 

アルミダの大噴火を尻目にアシバロンは立花亭に目を向ける。

 

「立花亭、お前はルイに対して妙につっかかっていたな?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!私がルイに辛辣なのはあいつがゲスヤローだからです!いくら別れる前にあいつに殺意を向けられたとしても殺したりなんてしませんって!!」

 

立花亭が疑惑を否定する叫びを上げると

 

「calmez-vous」

 

マウントールが落ち着いていながらも大きい声で場を沈めた。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?『落ち着いて』と言ったんだ。ギットス、どうして犯人が私達の中にいると思ったんだ?」

 

「ルイはベストナインのメンバーだ。あんなに強い彼を俺たち以外の誰かが殺したとは思えない」

 

マウントールの質問にギットスが答える。マウントールは言った。

 

「なるほどな。だが私は皆を疑ってはいない。ギットスの反応が乏しいのも立花亭がルイに辛辣だったのもいつものことだ。内部の犯行か、外部の犯行か…。確かめる方法がある。幼子ちゃん?」

 

「ふぇ?」

 

マウントールに声をかけられ、半泣きの状態だった御手洗が反応する。

 

「お前の特殊能力『キャンディマスター』の()()()()()で皆を調べてくれないか?」

 

「そっか!わたしの出番だね!」

 

御手洗は元気を取り戻し、立花亭に顔を近づける。

 

「タッチー、行くよ?」

 

立花亭も御手洗に顔を近づけた。すると御手洗は()()()()()()()()()()。続けてギットス、スパノの順に顔を舐めて、米沢の番。

 

「うぅ…、ヨネシー舐めるのいやだなぁ」

 

渋っていた御手洗だったが意を決して彼の顔を舐めた。そしてアルミダ、アシバロン、最後にマウントールの顔を舐めた。

 

「どうだった?」

 

マウントールが御手洗に尋ねる。

 

「うん!誰もルイを殺してなんかいないよ!」

 

御手洗は元気に答えて

 

「えっへへぇ、おじさん達良かったね!可愛い女の子に顔ペロペロしてもらって!」

 

と挑発的な声を出す。

 

「はっはぁ?何のことだヨ!?」

 

スパノは顔を赤くして明らかに動揺した。

 

「う、うむ…」

 

アシバロンも少し照れているのか顔を背けた。ギットスは無表情のまま一言。

 

「御手洗に舐められることの何が良いんだ?」

 

米沢は未だに恐怖が抜けきっていないようでガタガタと震えていてそれどころでは無さそうだった。マウントールは笑顔で

 

「あぁ、幼子ちゃんありがとう!君のお陰で皆の疑いが晴れたよ」

 

と返した。

 

「ちょっと待ちなさいってぇ。まだ幼子が嘘をついている可能性もあるでしょ?」

 

アルミダが舐められた箇所をハンカチでぬぐいながら言った。

 

「え~!ウソなんかついてないよ!!」

 

御手洗が大声で反発する。それに対してマウントールは言った。

 

「うーむ。そこまでして味方を疑って欲しくはないのだがな。ならばこうしよう、米沢」

 

「はっはい、何でしょう」

 

マウントールの呼びかけに米沢が反応する。

 

「しばらくの間、皆に()()ことは出来るか?」

 

「は、はい、出来ます…」

 

「ならばそうしてくれ」

 

「分かりました…」

 

 二人の会話を聞いていたアシバロンが尋ねる。

 

「ルイの死体はどうする?」

 

マウントールはしばらく考えた後

 

()()()()()()()。ベストナインから死人が出たことが知れ渡ると、世間に無用な混乱を招く。強い魔族の仕業かも知れないし、人間の仕業かもしれない。死体を調べる(すべ)が我々に無い以上、犯人が分かるまで、ルイの死は伏せておこう。それでどうだ?」

 

誰からも異論は出てこない。

 

「決まりだな。『ファイアストーム』!!」

 

マウントールがルイの死体に手のひらを向け、魔法を唱えると彼の手のひらに魔方陣が浮かぶ。一瞬にしてルイの死体を大きな火柱が包み込み、骨も残らず焼き尽くしてしまった。

 ルイの死体の焼失を見届けたアシバロンが口を開く。

 

「そろそろ良いかな?俺は現場に行かなくてはならないのでね」

 

そう言うと彼は「ワープゲート」を開き、立ち去っていった。アルミダも

 

「あーあ、よく考えたらルイの序列って9じゃない。あんなに騒いだのが馬鹿みたい」

 

と吐き捨て、「ワープゲート」を開いて去って行く。

 

「ほんと、あの二人っていつも冷たいですよね」

 

 立花亭のぼやきに残りのメンバーは頷いた。そしてこう思う。「ベストナインのメンバーであったルイが殺された。自分の身ももしかしたら危ないかも知れない。だがあの二人は自分の危険などこれっぽっちも考えていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が」

 否、自分の危険を感じていない人物は正確にはもう一人。マウントールもそうだった。彼の仲間思いは確かなものだったが、彼自身も自分の危険など一切考えてはいなかった。

 

「我々も戻ろう。このことはベストナイン以外には知られないように、分かったね?」

 

 マウントールは朝のミーティングの最後をこう締めくくった。




 長くなってしまった。ベストナインの描写を書きたくて仕方なかったからね。しょうがないね。
 
 ここで裏話を一つ。ベストナイン序列1「マウントール=フランス」の名前は、フランスの文豪「アナトール・フランス」からきています。
 あと、諸事情によりマウントールの通称を「マウンティングウォリアー」に変更しました。





次回予告および警告

 諸君、私はパロディが好きだ。そういう意味では私もチートスの原作者と一緒なのかもしれない。
 沢山新キャラ出ます。ほぼ全員パロディキャラです。しかもマイナー作品ではなく、あの()()()()()のパロディキャラです。オリジナリティもあるキャラを目指しますが、「こんなこと望んでなかった」という批判も覚悟してます。しかし私はパロディを許容出来る人に見て欲しいと前から書いてました。
 パロディ嫌いの皆さん、残念ですがさようなら。OKな人は引き続きこの作品をお楽しみください。
 次回、対ベストナイン組織登場。お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その2 「お仲間」

 なにジョジョ?自分の作品に他者の人気作品のキャラクターを使ったら大炎上した?
 ジョジョ、それは人気作品のキャラクターを敵キャラとして使うからだよ。

        、--‐冖'⌒ ̄ ̄`ー-、
     /⌒`         三ミヽー-ヘ,
   __,{ ;;,,             ミミ   i ´Z,
   ゝ   ''〃//,,,      ,,..`ミミ、_ノリ}j; f彡
  _)        〃///, ,;彡'rffッ、ィ彡'ノ从iノ彡
  >';;,,       ノ丿川j !川|;  :.`7ラ公 '>了
 _く彡川f゙ノ'ノノ ノ_ノノノイシノ| }.: '〈八ミ、、;.)
  ヽ.:.:.:.:.:.;=、彡/‐-ニ''_ー<、{_,ノ -一ヾ`~;.;.;)
  く .:.:.:.:.:!ハ.Yイ  ぇ'无テ,`ヽ}}}ィt于 `|ィ"~
   ):.:.:.:.:|.Y }: :!    `二´/' ; |丶ニ  ノノ    逆に考えるんだ
    ) :.: ト、リ: :!ヾ:、   丶 ; | ゙  イ:}
   { .:.: l {: : }  `    ,.__(__,}   /ノ   「味方キャラだったら炎上しない 」
    ヽ !  `'゙!       ,.,,.`三'゙、,_  /´
    ,/´{  ミ l    /゙,:-…-…、 ) |       と 考えるんだ
  ,r{   \ ミ  \   `' '≡≡' " ノ
__ノ  ヽ   \  ヽ\    彡  ,イ_ 
      \   \ ヽ 丶.     ノ!|ヽ`ヽ、
         \   \ヽ `……´/ |l ト、 `'ー-、__
            \  `'ー-、  // /:.:.}       `'ー、_
          `、\   /⌒ヽ  /!:.:.|
          `、 \ /ヽLf___ハ/  {
              ′ / ! ヽ


 時はリュートがルイを殺した後に戻る。

 

 

 

「おいおい、泣くのは勝手だが感謝するのはまだ早い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「え?」

 

 魔女の言葉にリュートは唖然(あぜん)となった。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!残り八人って…」

 

「当たり前だろう?九引く一は八だ」

 

「いやそうじゃなくて。残り八人全員殺す気なのか?」

 

「どうした、尻込みしたのか?」

 

「違う、全員殺すのはその…」

 

リュートは少し間を置く。

 

「俺はルイを殺した。皆の(かたき)は取れた。これ以上他のベストナインを殺す気なんて無い」

 

リュートは自分の考えを正直に言った。魔女は拳をあごに当て、軽く笑いながら言った。

 

「ふふふ、なるほどな。お前も彼らと同じことを言うのだな」

 

「?」

 

「ではあいつらはどうだ?お前も見ただろう?村が襲われたとき、来ていたベストナインはルイだけでは無かったはずだ」

 

 

 リュートはハッとする。そうだ、来ていたのはルイだけでは無い。「ソルティングブレッド」スパノ=ヤナティンと「決めつけ講談師」立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の姿もあった。二人も虐殺に関与していたなら許せない。しかしリュートが見たときの二人の発言は、どちらかと言えばルイを軽蔑していたような…?分からない。意識のあった時間が短すぎた。リュートは答えた。

 

「確かに見た。スパノ=ヤナティンと立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の姿を…。あいつらが虐殺に関与していたなら、俺はあいつらも許せない」

 

「関与はしていただろう?あいつらはルイを見ていた」

 

「それは分かってる!でも…」

 

リュートは素直に答えた。

 

「でも…それだけじゃ、殺す理由としては弱いと思う」

 

「なるほど、やつらの行動次第というわけか」

 

「でもお前の証言じゃ信用できない!」

 

 リュートは思い切って本心を言った。魔女は態度を崩さず

 

「どうして?」

 

と聞いただけだった。リュートは答える。

 

「お前はさっきから俺にベストナインを殺させようとしている!もしも俺がお前ならば、二人の実際の行動に関わらず『二人も虐殺をしていた』と答えるだろう」

 

「ほう…」

 

「大体どうして俺に殺させようとするんだ?あんな便利な魔法があるんだ、自分で殺しに行けば良いじゃないか。俺は今までお前が、ルイに全てを奪われた俺に同情して、力を貸してくれているんだと思っていた。でもそうじゃないみたいだ。お前は俺を『ベストナインを殺すための道具』にしようとしてるんじゃないのか?」

 

 リュートは先程から抱いていた疑問を魔女に対してぶつけた。彼女に向かってこんなことを言えばどうなるか分からない。覚悟が必要な言葉だった。魔女の反応はというと…

 

「フッフフフフ…アッハハハハハハハハ!!」

 

高らかに笑い声を上げた。そして一通り笑った後で言葉を返す。

 

「フフフ、なるほどなるほど、お前意外と賢いじゃないか…。正直見くびっていたよ。それにしてもお前、知りたいことだらけなのだな?」

 

「あ、当たり前だろう?俺はまだ、お前の正体も目的も知らないんだ」

 

「分かった分かった。お前の立場ならそうだろうな。だがお前の質問に答えるのは…」

 

「無理だって言いたいのか?」

 

 リュートは、魔女が自分の質問に答えるつもりはないのだと思っていた。しかし魔女はそれを否定する。

 

「そうじゃない。この場で答えることも可能だ。だが、今ここで私がお前の質問に答えたところで、お前は全てを信じてくれるのか?」

 

「そっそれは…」

 

リュートは言葉に詰まる。彼はさっき魔女を信用できないと言ったばかりなのだ。そんな彼を見ながら魔女は言う。

 

「場所を変えようじゃないか。お前のルイを(ほふ)った手柄と想定外の賢さに敬意を表して、そこでお前の疑問に答えてやろう」

 

 そう言って魔女は「ワープゲート」を唱える。現れた扉の向こうには荒廃した村が見えた。

 

「どこに行くつもりなんだ?」

 

「行けば分かる。言っておくがお前の村じゃないぞ」

 

魔女は扉に向かいながら言った。

 

 

 

 

 

 扉の向こうは、やはり荒廃した村だった。リュートは辺りを見回して、自分の村と似ていると思い、魔女に尋ねる。

 

「ここも、ルイが滅ぼした村なのか?」

 

「ご名答。滅ぼされたのは大分前だがな」

 

魔女は答えながら歩みを進める。そして、一件の家の跡地で足を止めた。家の外組みのレンガが二、三段残っているだけで壁や屋根などは何も残っていなかった。レンガに囲まれた土地の中央辺りに、壊れた木箱が固めて集められていた。

 

「さあリュート、この木箱をどかすのを手伝ってくれ」

 

 リュートと魔女は木箱をどけた。木箱の下には地下への扉があった。扉を開けると、地下への階段が闇へと伸びていた。

 

「さあ階段を降りようじゃないか。心配せずとも大丈夫だ。()()()()()()()()()

 

魔女が手招きをする。行くしかない。リュートは階段へと足を運んだ。

 リュートを先に行かせ、魔女は地下室の扉を閉めた。すると階段の地下への明かりが灯る。扉を開けているとき明かりが消える仕組みになっているようだ。

 

「リュート先に行っていてくれ」

 

「どうして?」

 

「扉を隠さなければならないからな」

 

そう言うと魔女は扉に手を向け、「ムーブ」の魔法を唱える。扉の向こうから、ズッズズズと音が聞こえた。魔法で木箱を動かしたのだ。リュートは階段を降りていった。

 人が一人通れるだけの幅しかない階段を降りていくと同じくらいの幅の廊下に続いていた。廊下は右手に二つ、左手に一つの、三つの部屋へと別れていた。

 

「左の部屋に入るんだ」

 

後からの魔女の声に従い、リュートは左手にある部屋のドアを開けた。

 

 

 

 

 

 ドアの向こうは広いリビングになっていた。ソファにカーペット、机、椅子、武器立てなど、一通りの家具が備わっている。もう一つ部屋が続いているようで、何かが焼ける音と良いにおいがする。キッチンのようだ。そして部屋には人が何人もおり、部屋に入ってきたリュートに一斉に目を向ける。

 

「誰だ!」

「何者だ!」

「どなた?」

 

一斉にリュートに問いかける。武器に手をかけている者もいた。

 

「えっえーと、俺は…」

 

「安心しろ、味方だよ」

 

リュートの背後から魔女の声がする。彼女は扉の近くのスイッチで廊下と階段の電気を消した。

 

「魔女、帰ったのか!」

 

 一人の男が言った。燃えるようなオレンジの髪にオレンジの瞳。オレンジのタンクトップ、白を基調にオレンジのラインが入ったズボンを穿き、ズボンの対となっているであろう上着を腰に巻いている。

 

「今回は随分と長かったじゃないか」

 

 別の男が言う。黒のタンクトップに黒のズボン、白の髪に顔の左目付近に太陽の絵が描かれていた。

 

「こ、この人達は?」

 

「言っただろう?お前の()()()だと」

 

リュートの質問に魔女が答える。

 リュートは人数を数える。彼と魔女を除いて部屋には七人。男が四人に女が二人。もう一人は全身に包帯が何重にも巻かれている状態でベッドに横たわっており、男女の区別が難しかった。髪型からして男性だろうか。

 

「あら~、お客さ~ん??」

 

キッチンから女性がもう一人出てきた。薄いピンクの髪にピンクの瞳、黒のミニワンピース、羽織っている上着の色は髪の毛よりも若干濃いピンク。魔女以上の巨乳で胸元には立派な谷間が出来ていた。これで八人。リュートと魔女を入れて十人が部屋の中にいた。

 

「さぁ、まず皆に紹介しよう。彼はリュート。ルイに村を滅ぼされ、私が助けた。唯一の生き残りだ」

 

 魔女が皆にリュートを紹介する。リュートも合わせて

 

「えっと、リュートです。よろしくお願いします」

 

と言う。それを受けて魔女が

 

「さあ、今度は皆が自己紹介してくれ」

 

と他の人にも自己紹介を促した。

 

「俺の名前はレースバーン。火属性魔法が得意だっ、よろしくな!」

 

オレンジ髪の男が最初に名乗った。見た目通りの熱い男だ。しかも火属性魔法が得意ときた。出来すぎじゃないかとリュートは思った。

 

「俺はジモーだっ、よろしくぅ!」

 

左目付近に太陽が描かれた男が続いた。レースバーンに負けないくらい熱い男…というよりはテンションが高いと言った方が良さそうだ。

 

「…ポセイドラだ」

 

ジモーの隣の男が言った。黒髪で目つきが悪かった。左半分がえんじ色、右半分が深緑色という特徴的な戦闘服を着ている。自己紹介に乗り気ではないのだろうか。座っている位置的に自分の順番だから名乗った、といった感じだ。

 

「もう、ポセイドラさん、感じ悪いですよ?あ、私はケイル、薬師(くすし)です」

 

白衣を羽織った女性がポセイドラをたしなめつつ自己紹介する。黒のセミロングの髪で瞳は濃い紫。白衣の下は紫のブラウスに同色の膝丈スカート。透き通るような声だった。胸は無いわけではないが、魔女やピンク髪の女性を見た後だと少し寂しい。逆に考えるんだ。「二人が大きすぎる」と考えるんだ。

 

「ラーシャだ。よろしく頼む」

 

茶髪のロングヘアーの女性が凜々しい声で自己紹介する。白と黒のストライプ模様の七分袖シャツに茶色の革製ベスト、膝丈のデニムズボンを穿いていた。胸はケイルより大きいが魔女よりは小さい。

 

「リンですわ。料理が得意です~。よろしくお願いしますわ、リュートくん」

 

ピンク髪の女性が続いた。特徴的な声(こちらの世界で言うアニメ声)だった。魅力的な谷間に目が行きそうになって、リュートは焦ってしまう。

 残りは二人。この中で一番大柄な白目の男と、包帯人間だ。

 

「む、ということは次は私か。ゴーギャンだ。よろしく頼む。今は明かりが消えてしまったようで君の顔がよく見えないが…」

 

「えっ」

 

大柄な男の自己紹介にリュートは困惑する。部屋の明かりはしっかり()いている。男は黒に近い紫色の戦闘服に黄土色の上着を羽織っている。

 

「もう、ゴーギャンさん。また白目になってますよ」

 

「おお、済まない。うっかりしていた。うむ、君の顔がよく見えるぞ」

 

ケイルの注意を受け、ゴーギャンの目が元に戻る。盲目では無かったようだ。瞳の色は黒だった。

 

「じゃあ最後はメルくんですわね~」

 

そう言いながらリンが包帯人間の近くに寄る。

 

「彼はメルクリオですわ。毒に侵されていてこんな姿になってしまっていますわ」

 

リンが言うと声が聞こえた。

 

「ア゛、アダラシイ…ナカマカ…」

 

「メルくん?大丈夫なんですの?」

 

「ア゛ア゛……。メルクリオダ…ヨ゛ロシク…タノム…」

 

「もうメルくんっ、無茶はいけませんわ!」

 

リンが心配そうな声をあげる。これまでの様子を見るに、メルクリオは男のようだ。

 

「さて、これで全員終わったな。リュート、もう薄々気付いていると思うが…」

 

 魔女が言う。

 

「彼らは皆、ベストナインに大切なものを奪われた人間だ」




 やってしまった…。どこまでパクってどこまでぼかすか難しいところですね。
 一人オリキャラも入れたし大丈夫なのか?まあ彼女も厳密には元ネタあるんだけど…分かったらすごいよ拍手しちゃうよ。
 何でパクリキャラなのかって?毒を食らわば皿までってやつですね。それにパクリキャラだらけの方がチートスっぽいじゃん。
 逆に「なんであのキャラのパクリがいないんだよ」ってお怒りの貴方へ。普通に物語に組み込むのが厳しかった。人相悪くて傷だらけで最初主人公と敵対する味方キャラなんて、自分の腕じゃ、途中で裏切るルートしか思いつかないよ!
 
 次回は説明回になります。バトル見たい人、ちょっと待っててね。原作が一話打ち切りだし、新キャラの紹介もしたいからね。

 リュートは復讐に駆られるキャラではないようです。この先彼がどう行動するのかお楽しみに。え、原作ではどうなのかって?知らん。そんなことは俺の管轄外だ。

 余談ですが、「火属性魔法」と打ち込もうとして変換したら「卑俗性魔法」と出てきました。どこの二代目なんですかね…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その3 「復讐相手」

 ふと原作者や作画担当がこの作品を見ているのかどうかが気になった。 
 仮に見ていたとしたらどんな感想を抱くのだろうか?「そうそう、そういう展開が描きたかったんだよ」と思うのだろうか?「リュートはそんなこと言わない!」と思うのだろうか?「リュートと魔女だけで戦う物語なんだよなぁ」と思うのだろうか?
 とりあえず「へったくせーなぁ。これだから素人は」という感想を抱くことに花京院と十神白夜の魂を賭けます。


 やっぱりそうか、とリュートは思った。魔女が「お仲間」と言うならば自分と同じ境遇を持っているのではないかと推測はしていた。

 そんなリュートを尻目に魔女が言う。

 

「そうだ、大事なことを言い忘れていた。ベストナインのルイだがな、ついさっきリュートが殺したところだ」

 

部屋にいる皆から激しいどよめきが起こった。まるで自分たちが退治するはずの化け物の保護をトップが認めたかのようなどよめきだった。

 

「特にレースバーン。お前に対しては済まなかったと思っているよ。ルイを殺すのはお前だったはずだからな」

 

魔女に名指しされたオレンジ髪の男、レースバーンは

 

「ルイを殺したいと思っていたのは確かだ。だが、ルイを殺したかったのはこれ以上奴の被害者を増やしたくないと考えていたからだ。奴が死んでこれ以上悲しい思いをする人が増えないなら、俺はそれでいい」

 

と明るく答えた。

 

「え、ということはレースバーンさんも家族を…」

 

「ああそうだ。ルイに家族も村も奪われた。残されたのは我が身とこの地下室だけだ」

 

リュートはハッとする。魔女はさっき「この村を滅ぼしたのはルイだ」と言っていた。レースバーンはこの村の生き残りなのだ。そう考えると強い罪悪感が出てきた。

 

「す、すみませんでした!あなたも俺と同じくらい奴を憎んでいるはずなのに…。俺は…あなたの(かたき)を奪ってしまった!」

 

リュートは深々と頭を下げて精一杯の謝罪の言葉を口にする。しかしレースバーンは笑顔で答える。

 

「いいんだよ。奴が死んだならそれでいい、その言葉に嘘は無いよ。それに、俺が君の立場だったら同じことをしただろう。君は俺のことを知らなかったみたいだし、君がルイの被害に遭ったのはつい最近なんじゃないか?」

 

「はい…そうです」

 

「ならば一刻も早く敵討ちをしたいと思うのは当然のことじゃないか!」

 

レースバーンの言葉はリュートの罪悪感を洗い流してくれるようだった。

 

「フフフ、お前ならそう言ってくれると思ったよ」

 

魔女が笑って言うと、ポセイドラが口を開く。

 

「しかし、随分と勝手な行動じゃないか?俺たちには散々、『ベストナイン』に手を出すのはもう少し先だ、と言っておきながら」

 

 そうだったのか、とリュートは思った。その言葉を聞いてふと考える。

 

「魔女がもっと早くに動いてレースバーンさんと一緒にルイを倒してくれていたなら、皆死ななくて済んだんじゃないか?」

 

そう考えると怒りが沸々とこみ上げてくる。思わず魔女をにらんでしまう。

 

「まあそう言うな、ポセイドラ。リュート、お前の言いたいこともよく分かる。だがな、今回のルイ殺しは私にとっても賭けだったのだぞ?」

 

魔女が二人を制すようにそう言った。

 

「賭けってどういうことだよ?」

 

「さっきも説明したがな、「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」は平常心の転生者には効かない。だからルイの過去を宣言することで奴の動揺を誘ったよな?だが、この作戦には一つ懸念材料があった。もしも、奴が転生者としての日々を本当の意味で満喫していたのならば、今更転生前のことを言われたとしても、どうでも良いことだと受け流すかもしれない。そうなれば今回の作戦は失敗に終わっていた。だがそれは杞憂(きゆう)だった。奴は自分の過去を捨て切れていなかった。やはり転生者はチートでイキっているだけのゴミ野郎だったということだ」

 

「つまりお前はこいつを実験体にしたということか?」

 

魔女の弁明を受けて、ポセイドラが問いかけた。

 

「ポセイドラ、女性をいじめて楽しいか?嫌われるぞ?」

 

魔女はごまかそうと考えたようだが、そうはいかないようだと観念したのか

 

「うーん、まあそういうことになるな。リュート、私はお前を作戦が成功するか確かめるための実験体にしたんだよ。ルイの序列は一番下だったし、レースバーンならああ言って納得すると踏んでな。ルイに村を滅ぼされたばかりのお前を使ったんだ。仕方なかったんだ。危ない賭けで彼らを失いたくはなかった。彼らはこう見えて戦闘のエキスパートなのだぞ?」

 

「なっ…」

 

リュートは言葉が出て来なかった。怒れば良いのか(あき)れれば良いのか分からなかった。

 

「安心しろ、リュート。お前はもう実験体では無い。立派に仲間だよ。さっきも言っただろう?『以外と賢いじゃないか』とな。私はお前を見くびっていたんだよ、頭脳面でも戦闘面でも。それに…」

 

魔女は一度言葉を切って目を若干そらした。そして

 

「一応、『済まなかった』と詫びを言おうじゃないか」

 

と言葉をつないだ。

 

「うおー!聞いたか皆、魔女が謝罪したぞ?こいつぁ相当レアだぜ!」

 

ジモーがはしゃいだ。リュートは本当は文句を言いたかったが、魔女が一応謝罪したこと(ジモー(いわ)くレア)と魔女が自分を認めたと言ったことを受けて、何も言わないことにした。ポセイドラも不満そうだったが、腕組みをしながら目を閉じてそれ以上は不満は言わなかった。

 

「それじゃあ、レースバーンさんとはここでお別れなんですの?」

 

 リンが寂しそうな声でレースバーンに尋ねた。

 

「いや、まだ俺の復讐相手が死んだだけに過ぎない。皆の復讐が済んでいないのに、自分は終わったからさようなら、なんて真似(まね)は俺には出来ないさ」

 

「じゃあ、まだここにいてくれるんですの?」

 

「もちろんだ!」

 

「良かったぁ~。レースバーンさんがいないと寂しくなっちゃいますものね」

 

レースバーンの返事を聞いて、リンは安堵したようだった。

 

「あの、皆さんに質問があるのですが…」

 

 リュートが口を開いた。

 

「答えづらいことだとは思うのですが…皆さんは誰が復讐相手なんですか?」

 

リュートがそう質問すると、場は一瞬静寂に包まれた。リュートは何か付け加えないといけない、と感じたようで

 

「あっすみません、こんなこと聞いてしまって。でも俺知っておきたいんです、倒すべき相手が誰なのかを。俺はついこの間まで転生者に憧れていました。いつか転生者の力になりたいと本気で思っていたんです。でも、ルイに全てを奪われて、分からなくなってしまいました。ベストナインには悪者しかいないのかどうなのか…」

 

と自分の気持ちを打ち明けた。それを受けて、ジモーが口を開く。

 

「別にいーんじゃねーのか、皆。それくらい教えてやっても。皆知ってるのにこれから仲間になるこいつだけ知らねぇってのも、おかしな話じゃねぇか」

 

「私も同感です」

 

とケイルが賛同する。

 

「私もかまわんが?」

 

「私もだ」

 

「わたしも~」

 

ゴーギャン、ラーシャ、リンも次々賛同し、残りはポセイドラだけだったが彼も

 

「…別に問題ない」

 

と皆の賛同を受けたのか返事をする。

 

「じゃあ、言い出しっぺの法則ってやつだな!俺から言おう!俺が倒す相手はただ一人、ベストナインの序列2、『Mr.土方(どかた)』ことアシバロン=ボーナスだっ!!」

 

復讐相手を告白するのに相応しくないテンションの高さでジモーが言う。

 

「私の相手は、ベストナインの序列3、『Ms.ダブルマッカレル』のアルミダ=ザラです。彼女に姉を奪われました」

 

ケイルが続ける。ジモーの後だったこともあるが、恨めしそうな低い声での告白は、普段の透き通るような声も合わさり、不気味さを感じさせた。

 

「私も同じだ。アルミダ=ザラに姉を奪われた」

 

ラーシャが続けた。二人の境遇は一緒のようだ。

 

「わたしっていうか、わたしとメルくんはね~。序列4の米沢反死(よねざわはんし)が相手なのですわ~。多分ね?」

 

リンの言葉にリュートは首をかしげる。なぜ自分の復讐相手がはっきりしないのだろう。

 

「あっ、ごめんね~変だったよね?復讐相手に『多分』なんて。う~んと、簡単に話すとね、襲われたのはメルくんの村なの。彼の村が襲われて、その直後にたまたまわたし、メルくんに会いに行くところでね、メルくんの村に着いたときにはもうメルくん以外皆死んでたの」

 

リンが説明を続ける。

 

「メルくんも毒に犯されていて意識がはっきりしてなくてね、誰か助けてくれる人を探していたところで魔女さんに会ってね、メルくんもなんとか喋れるようになるまで回復したの。それで見たんだって。村を襲ったのは黒い虫の集団だったんだけど、その中で米沢反死(よねざわはんし)が立っていたのを」

 

そこまで話したところで別の声が聞こえた。

 

「マ゛…マ゛チガイナ゛イ゛……。アレ゛ハ…ヨネザワ…ハン゛シダッダ!」

 

「もうメルくん!無理しちゃダメだって~」

 

リンは必死に主張しようとするメルクリオの身を心配する。

 

「俺は…ジーモと同じだ。アシバロンに親友を奪われた」

 

ポセイドラが静かに言った。

 

「私の大切な皆を奪ったのは…。ベストナインの序列5、スパノ=ヤナティンだ…」

 

最後にゴーギャンが答えた。

 リュートは次に自分が迎え撃つ相手が誰なのか、分かったような気がした。




 区切りが良いので今回はここまで。次回も説明回になります。

 19日は予定があるのでこれ以上投稿できない可能性が高いです。説明回を終えてストーリーを進めたいのは山々なんですが、申し訳ないです。これまでの話を見直すなり、考察を感想欄で話し合うなりして次回をお待ちください。

 ここで裏設定を一つ。
 転生者には名前と苗字がありますが、現地民は名前のみです。原作で「リュート=○○○」って名前だったらこの設定は無かったです。
 
 ここで、新キャラクター達の名前について、私から問題を出します。新キャラ達の中で、元ネタから連想して名前を決めたのは、レースバーン、ケイル、ポセイドラ、ジーモ、リンの五人です(他のメンバーはインスピレーションだけで色々なところから持ってきて決めました)。さて、どのように連想したでしょうか。下のヒントも参考にしつつ暇で暇でしょうがないときにでも考えてみてください。答えが分かったら感想欄で発表してみては?

レベル1、レースバーン…もう見ただけで分かる。超簡単。文字列見ただけで笑っちゃうレベル。ある共通点をもつキャラ3体のトリプルコンタクト融合。N(ネオスペーシアン) フレア・スカラベもびっくり。

レベル2、ケイル…発想はレースバーンと同じ。融合は無し。

レベル3、ポセイドラ…最近人気のとある作品を知っていれば楽勝。知らなきゃ分からないレベル。一応そのまんまじゃ別のキャラになっちゃうので少々変更。

レベル4、ジーモ…元ネタから3回くらい連想ゲームをはさんでようやく出てくる。作品自体は超有名。

レベルMAX、リン…おそらく絶対無理。マイナーな作品過ぎて見ている人がほとんどいないレベル。仮に見ていたとしても頭の片隅に残っているかいないかだと思う。一応のヒントを言うと、連想は元ネタの声優からスタート。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その4 「魔女の正体」

 このところ、暑いですね。暑くて頭が働きません。
 言い訳になってしまいますが、このせいで投稿頻度が落ちています。暑くて頭が働かず、夜も眠りにくくて朝は暑さで目が覚めて睡眠不足…という悪循環に陥ってます。オリジナル展開ですし、一人で執筆しているので、頭が働かないと作業が遅れてしまいます。もう少し涼しくならないかな、と思う今日この頃です。

 あと、魔女に関してなんですが、彼女は魔法を使う必要性が無い場合は魔法を使いたがりません。このことを言っておかないと、「何であのとき魔法使わなかったの」って疑問が出てくるやもしれないので、お伝えします。



「さあリュート、聞きたいことは全て聞けたかな?」

 

 魔女はいつもと同じ調子でリュートに尋ねる。

 

「忘れたふりをするなよ」

 

 忘れているならそのままにしておこう、という魔女の目論見(もくろみ)が透けて見えたようで、すこし怒ったような口調でリュートが答える。

 

「まだお前の正体も目的も何も分からないままだぞ。教えてくれ、お前の正体は何なんだ?何でベストナインを殺そうとしている?何故自分で殺しに行かない?」

 

リュートは魔女に対して今思っている疑問を全てぶつけた。

 

「やれやれ、忘れていなかったのか。だが約束したからな、教えてやろう。もちろん、彼らはその答えを知っている。私が嘘を言っているかどうかは、彼らの反応を見て判断すると良い」

 

 魔女は部屋にいる皆を見渡しながら言った。そしてリュートの質問に答え始めた。

 

「まず、私の正体についてだな。教えてやろう。私はね、()使()なんだよ」

 

 リュートは唖然とする。お前は何を言っているんだ、という言葉すら出てこない。だいたい、リュートに殺しを提案したことからして、天使のやることにしては残虐すぎる。自分をからかっているのだろうか、と本気で考えた。

 

「ふふふ、お前の困惑が伝わってくるよ、リュート。だが本当だ」

 

リュートは周りの様子を見渡す。リンとジモーがくすくす笑っているようだが、他の皆は特に変わった反応を見せていない。

 

「リュート、お前は私の言っている()使()と言う言葉を誤解しているな?お前が想像している天使は、翼があって、頭の上には輪があって、人々を幸せにする存在。そんな風にイメージしているのではないか?私の言う天使とはそういうものではない」

 

魔女は言った。

 

「私の言う()使()とは、()()()()()()()と言う意味だ。私は昔、この世界に転生者を送っている神の手助けをする存在だった」

 

リュートはまだ困惑したままだったが、不思議と魔女の発言を嘘だとは思えなくなっていた。

 

「天使と言っても、神の世話をする者や神の仕事の補助をする者、いろいろな役割がある。私の役割は、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』だった。不思議だよな、リュート。『そんな存在がいるならどうして人々を殺すような転生者がそのままになっているんだ』、そうは思わないか?」

 

確かに、とリュートは思う。

 

「答えは単純だよ。()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。『転生者によって殺される人はいるが、転生者が魔人を討伐することで、遙かに多くの人々が救われている。』そう自分を納得させて、転生者の悪行など知らんぷりだ」

 

魔女は自分の役割を更に詳しく解説する。

 

「転生者は魔人を殺すために、神の手でこの世界に転生される。私の役割は、転生者が『魔人の討伐』という目的をきちんと果たしているのかを観察する、と言う役割だった。確かに転生者は魔人討伐をしっかり行っている。だがそれよりも私が気になったのは、力を持ったことで増長し、悪事を働くようになった転生者の存在だった」

 

魔女は少し自嘲気味に続ける。

 

可笑(おか)しなことだがね、私がそんなことを気にしていたのは()()()()()なんだよ。『転生者が魔人討伐を行っているかどうか』を確認する存在がそれ以外のことを気にするなんてどうかしている、それが神の世界での普通の考え方なのさ」

 

魔女は少し悲しそうな顔をしたようだったが、それは一瞬のことで、すぐに元の表情に戻る。

 

「『いくら力を持って増長しているとは言え、ここまで悪事を働くのは変だ。』そう考えて私は転生者の転生前の情報を調べることにした。言っておくがこれも向こうでは()()()()()なんだよ。『転生者を選ぶために死者の情報を調べる』のは別の天使の役割だからね。調べた結果、悪事を働く転生者は全員が転生前から何かしらの社会不適合性、要するに『社会に溶け込めない何か』を持っていたことが分かった」

 

リュートは心の中で得心がいった。魔女が転生者の転生前に詳しかったのはこのためだったのだ。

 

「私は悪事を働いた転生者の情報をまとめ、神に進言した。『今の転生者には悪事を働く者が多すぎる。そういう転生者は全て排除して、しっかりと審査を行った上で転生者を選び直すべきだ』というような内容をね。最初は『こいつは何を言っているんだ』といった感じで笑われるだけだったが、しつこく進言を続ける私に神も堪忍袋の緒が切れたみたいでね。天使としての役割を剥奪され下界に追放されてしまった。これが私の正体だよ」

 

 魔女がリュートの一つ目の質問への回答を終えた。リュートにとっては、いきなり全てを信じ切れる答えでは無かったが、明確に変だと言える内容でも無かった。

 

「ここまで聞いたのなら、2つ目の『なぜ、ベストナインを殺そうとしているのか』という質問の答えも見えてくるのでは無いか?『調べた結果、ベストナインのメンバーにはクズが多すぎたから』、『神が動かないなら私が動くまでだと思ったから』、この二つが答えだな」

 

 魔女はリュートの二つ目の質問に答えた後でこう付け加えた。

 

「最も、彼らはベストナイン全員を殺す気は無いと言っているがな」

 

魔女は部屋にいる人間を見渡す。リュートも皆を見渡した。

 

「その通りだ。我々はそれぞれが、ベストナインの誰かに復讐心を持っているし、他のメンバーの復讐の成功を願っている。助けを必要とする者がいるならば、喜んで手伝うだろう。だが、『誰の復讐相手でもないベストナインのメンバー』も殺そうと考えている者は一人もいない!」

 

 レースバーンが宣言した。他の皆も笑顔や(うなず)きで同意する。ポセイドラはどちらもしなかったが、レースバーンに反対する様子も見せなかった。

 

「これだけ集まれば、せめて一人でも私に賛同してくれる人がいても良いのだがな…」

 

魔女のぼやきに対して、言葉を返したのはケイルだった。

 

「魔女さん?まだ分からないんですね。九人も集めたのに、自分に賛同する人が誰一人現れなかった理由が。私達は身勝手な転生者の手で大切な人を失いました。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と心から望むのです」

 

ケイルの言葉に魔女は苦笑するだけで、反論も納得もしなかった。

 

「まあ私の愚痴はこのくらいで良いだろう。次の話で分かると思うが、ここにいる全員が殺す気の無い人間は私にも殺せない。私に賛同しないからと、ここにいる全員を皆殺しにする、なんて残酷なことも私には出来ない。最も出来たところで私はそんなことはしないがね」

 

 リュートの三つ目の質問、「どうして自分で殺そうとしないのか」への答えが始まった。

 

「なぜ自分からベストナインを殺しにいかないのか。答えはこうだ。私はベストナイン、いや()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ」

 

リュートは続きを(うなが)した。

 

「さっき私は天使だと言ったな。天使には()()()()()()()()()()()()()()んだよ。例外はあるがな。『神が失敗だと認めた存在(モノ)』や『世界の(ルール)に反した例外(イレギュラー)』は天使による抹殺が許される。その抹殺を行う天使もいる。だが、その天使にも他の存在(モノ)を殺すことは許されていない」

 

「…それでも殺そうとしたらどうなるんだ?」

 

 リュートは気になった質問を魔女に投げかけた。

 

「天使が人間を殺そうとした場合、()()()()()。剣を手にして斬りかかろうとすれば腕が朽ちる。蹴り殺そうとすれば足が朽ちる。噛み殺そうとすれば首が朽ちる。もしも魔法で殺そうとすれば、体の内部から完全に朽ち果てる」

 

 リュートは魔女の答えを聞いて息を飲む。が、それと同時に一つの疑問が浮かぶ。

 

「ふふふ、今お前に浮かんだ疑問を当ててやろう。『転生者の能力を打ち消したのは問題ないのか』、そう思ったな?」

 

魔女の言葉にリュートは頷く。

 

「その程度は問題無い。私は転生者の能力を消したが、()()()()()()()()()()()()()()()()()からな。ルイの命を奪ったのはお前であって、私はそれを手助けしたに過ぎない。他人からの攻撃を防御することも問題ないし、軽く叩く程度ならそれも大丈夫だ」

 

そう言いながら、魔女はリュートの肩をポンポンと軽く叩いた。

 

「以上がお前からの質問の答えだ」

 

 全ての質問に答え終わった魔女にリュートは礼を言う。

 

「ありがとう、正直信じ切れない部分もあるけれど、特に変なところも無かったし、皆の反応を見ても、お前の言葉に偽りは無いって信じられるよ」

 

「ふふふ、そもそも私は今までお前を嘘で騙そうとしたことは一度も無いのだぞ?説明不足なところがあったのは否めないがね」

 

魔女が笑いながら言うと、ポセイドラが口を開く。

 

「それにしてもお前、魔女の正体を知らないままルイを殺したのか?よくこんな怪しい奴からの誘いに乗ったな」

 

「本人を前にして『怪しい奴』なんてよく言えるものだ。お前、やはり女性から嫌われやすいタイプだな?」

 

ポセイドラの言葉に魔女が答える。

 

「だが、それも不思議ではあるまい」

 

 口を開いたのはゴーギャンだった。

 

「魔女の言葉には、なぜか人を引きつける力があるからな」

 

ゴーギャンの言葉に皆は同意する。リュートにも心当たりがあった。最初は魔女のルイ殺しの提案に懐疑的な彼だったが、気がつくと体は自然と動いていたのだ。

 

「お前達を動かすために魔法を使って誘導したことは無いぞ?さてリュート、お前の疑問に答えてやったところで、私からもお前に言いたいことがある」

 

 魔女がリュートに視線を移す。

 

「何だよ?」

 

「体、洗った方が良いんじゃないか?さすがに血生臭いぞ」

 

リュートは自分の体を確認する。全身がルイの返り血だらけだった。

 

「よし、風呂場に案内してやろう!体を洗い終わったら他の場所も案内してあげよう」

 

レースバーンがリュートの案内を快く引き受けた。

 

 

 

 

 

五日後、歓楽街

 

 歓楽街中央部の一軒の店。女の子たちと酒を飲める店の中では最高クラスの一軒に、ベストナインの序列5、『ソルティングブレッド』のスパノ=ヤナティンはいた。

 女の子と楽しく酒を飲みながら、スパノは思いをはせる。

 

「ルイも馬鹿な奴ダ。いくら強さがあったところで、それを振りかざして女を屈服させて何が楽しいのサ?金さえあれば店の女はいくらでも俺にしっぽを振ル。この楽しさは力に溺れた奴には絶対に分かりっこないネ」

 

スパノはグラスを口に運んだ。

 

「大体、力に溺れるからあんな無様な死を遂げるんダ。誰の仕業か知らないがご愁傷様なことだネ」

 

「失礼します、スパノ様」

 

 店のボーイがスパノに声をかけた。

 

「…何だヨ」

 

「スパノ様に封書が届いております」

 

 スパノは封書を受け取る。差出人は不明で、中には一枚の紙。それを読んでスパノは冷や汗を流した。紙には大きな字でこう書かれていた。

 

「ノイワ村 夏のパン祭り 開催!!」




 説明回がようやく終わりました。長くなってしまいましたが最後に無理矢理次回への引きを入れました。説明回ではわかりやすくするために傍点が多くなりがちです。

 お気づきの方もいると思いますが、各話に題名を追加しました。本当は原作リスペクトで「○○殺し その△」で統一しようと思ったのですが、読者の注目を集めるため、及び「あれ、この場面ってどこの話だったっけ」となった場合に見つけやすくするために変更を加えました。変な原作リスペクトなんてするんじゃなかった(後悔)。
 あと、諸事情により第二話(ベストナイン登場)のギットス=コヨワテの外見の描写を一部変更しました。

 ここから先は魔女の設定創作の裏話です。興味の無い方は読まなくても問題ありません。
 よくネットで「原作者の分身」「原作者の恨み辛みを読者に伝える人形」などと言われる魔女ですが、私は原作を読んで「魔女は神の関係者だろうな」と当たりを付けました。原作が終わった今、その正体は謎のままですが、この作品を作るに当たって私は、「魔女が神の関係者だとするなら彼女の本来の役割は何なのだろう」「神の関係者ならばなぜ転生者はのうのうと生き延びているのだろう。そもそもなぜ神は動かないのだろう」等々想像を膨らませ、さらにネットでよく言われる「なぜ魔女は転生者を殺そうとするのか」「なんで魔女自ら殺しに行かないのか」と言った疑問に対する答えとなる設定を作り、今回語られたような設定になりました。
 「原作者の言いたいことを言うためだけの存在」と言われてネット上では嫌われがちな彼女ですが、この作品内では皆様の嫌悪感を払拭出来たらな、と思わないでも無い今日この頃です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その5 「パン祭り」

「強い力を持つ転生者が、わずかな身の危険を感じた際に危険な方にわざわざ向かうのは、自室で虫の羽音を聞いた際に殺そうと思って虫の姿を探すのと似ている。」

~転生者専門行動学 博士 ココマリン~


王都 「神の反逆者」ギルド

 

 夜、「神の反逆者」ギルドにあるベストナイン専用の食堂では、ベストナインのメンバーによる晩餐が行われていた。一日の活動を締めくくる意味のある毎夜の晩餐だったが、この日参加していたメンバーは七人だった。

 

「スパノさんは今日も歓楽街ですか?」

 

そう尋ねるのは、序列7の立花亭座個泥(たちばなていざこでい)

 

「そうだよ。まあ、この晩餐は強制参加じゃ無いんだから、皆も好きな場所で食べても構わないんだよ?」

 

答えたのは、序列1、マウントール=フランス。彼は晩餐中にワインを大量に飲んでいたが、全く酔った様子を見せていない。

 

「だってここのごはんが一番おいしーんだもーん!」

 

マリネを食べながら、序列9の御手洗幼子(みたらいようこ)が主張する。

 

「そういえば、あれから進展は無いのか、米沢?」

 

「うん…何も無いまま…」

 

序列6のギットス=コヨワテの質問に、序列4の米沢反死(よねざわはんし)が答える。

 

「ふん、あんな雑魚のことなんて忘れりゃ良いのよ!」

 

序列3、アルミダ=ザラが吐き捨てる。

 

「豚にしては珍しくまともな意見だな」

 

序列2、アシバロン=ボーナスのこの発言に対してアルミダが突っかからなかったのは、食堂に新たな料理が運ばれてきたからである。

 運ばれてきた料理は大皿いっぱいの唐揚げ。無論、単なる唐揚げではなく、ベストナインのために厳選された食材と腕利きの料理人の手で作られた、最上級の唐揚げだった。

 

「よっしゃー!唐揚げ来たーー!!」

 

アルミダが歓喜の叫びを上げる。

 

「唐揚げにはこれでしょ!!」

 

言うが早いか、アルミダはテーブルに置かれたレモン汁を手に取り、誰の許可も得ずに唐揚げに向けて大量にかけ始める。

 

「はぁ、これだから豚は困る」

 

ため息をつくアシバロン。

 

「唐揚げには()()()だろうが」

 

アシバロンもテーブルの上のかぼす汁を手に取って、唐揚げに向けて大量にかけ始める。

 

「もう!二人とも似たようなもんじゃん!唐揚げにはタルタルソースだってば!!」

 

御手洗も負けじと叫び、手元からタルタルソースが大量に入ったタッパーを取り出して中身をかけ始める。

 

「いい加減にして下さい皆さん!」

 

立花亭が憤慨する。

 

「なんで唐揚げに専用の塩が付いてくるのか知らないんですか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

立花亭が唐揚げに付いてきた塩をかけ始める。

 

立花亭が、()()()()()()()()()()()()()()()と気付いたのは、塩をかけ終えた後だった。

 

「もうタッチー、気をつけてよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()じゃん!」

 

御手洗が不満の声を上げる。

 

「す、スミマセン皆さん!!ついうっかり…」

 

立花亭が素直に謝罪する。

 

「立花亭、今回はそこまで重要な事象じゃ無いから水に流そう。だが、発言にはくれぐれも気をつけてくれよ?」

 

そうマウントールが場を取りなす。

 

「ま、いいんじゃない?()()()()()()()()()んだし」

 

アルミダが言う。

 

「うぅ…スミマセン…反省します…」

 

立花亭はしょんぼりとした様子で言った

 テーブルの上にはレモン汁、かぼす汁、タルタルソース、唐揚げ専用塩の4種類が大量にかかった「四重奏唐揚げ」の大皿。米沢は大皿から「四重奏唐揚げ」を取り、黙々と食べ始める。

 

「うまい!うまい!うまい!」

 

そう言いながらマウントールも「四重奏唐揚げ」をひょいぱくひょいぱくと口に次々と放り込む。

 

「結局唐揚げって…」

 

ギットスがぼそりと言う。

 

「本体の味はどうでも良いってことだよな?」

 

 

 

 

 

同時刻 歓楽街

 

 歓楽街の店にいたスパノの手には一枚の紙。紙には「ノイワ村 夏のパン祭り 開催!!」の題名とともに開催日時や場所、看板メニューが載っていた。看板メニューの中で特に目立っていたのは塩パン。だがスパノが気になっている箇所はそこでは無く、開催場所がノイワ村であることだった。

 スパノは塩パンが大好物だった。そのことは周知の事実で、「ソルティングブレッド」の二つ名もそこから来ていた。これまでも彼の元に直接塩パンの宣伝が来たことはあった。しかしそういうのは大抵、名の知れたパン職人の自信作か王都で開かれる大規模イベントだった。それが今回は、辺鄙(へんぴ)な村でのパンの直売会。しかも開催場所のノイワ村は、彼が()()()()()()()()()()()だった。

 怪しい、そう思わざるを得ない広告。自分を誘う罠なのではないかとスパノは考える。行くべきかどうか迷う彼の頭の中では、過去の苦い思い出が浮かび上がっていた。

 

 

 

 

 

 スパノ=ヤナティンの転生前、素矢野(すやの) 多賀瑠(たがる)はスーパーの店員だった。彼が働いていたのはそこまで大きくない町のスーパーマーケット。ある程度の人員に指示を出せる程度の立場、所謂中間管理職のような地位にいた。

 彼は「ありがとう」の言葉が好きでは無かった。むしろ嫌いなほうだった。そんな彼がスーパーで働いていたのは、学生時代にアルバイトを始め、手際が良いと評価されていたので、学生生活が終わってもそのままそこで働き続けていたからだった。

 彼の人望は薄く、同業者からは陰で悪口を言われているような存在だった。そんな彼にとって目の上のこぶだったのは、ベーカリー部門で働く一人の男性店員。魅力の無い顔をしたあいつがレジ係の可愛いあの娘と良い感じになっている、そのことが心底気にくわなかった。そんなあいつが今度、自分の作った新作パンの試食会を従業員一同の前で行うことになった。

 素矢野(すやの)多賀瑠(たがる)はパンが好きだった。自宅では手作りのパンを作って食べたりもしていた。一緒に食べてくれる相手は誰もいなかった。彼は自分のパン作りの経験を活かして、むかつくあいつに恥をかかせてやろうと考えた。

 あいつが帰った後、ベーカリー部門の厨房に忍び込んで、あいつが作って寝かせているパン生地と自宅で作ってきた「塩を大量に含んだパン生地」をすり替える。

 

「明日あいつは、しょっぱすぎるパンを皆に振るまい大恥をかくのだ」

 

 彼は一人ほくそ笑んだ。

 

 翌日、むかつくあいつがパンを振るまい、しょっぱすぎるパンに皆が不満を漏らした。そこまでは成功だった。だがあいつは自分のミスを認めなかった。

 

「そんな、ありえない!配分は何度も確認したんだから間違っているはずがない!誰かに悪戯されたんじゃ…」

 

 素矢野(すやの)多賀瑠(たがる)は冷や汗をかいた。だが、証拠が無い以上はあいつの妄想に過ぎない、と自分に言い聞かせた。しかしそうもいかなくなった。

 

「そうだ、監視カメラ!監視カメラを確認すれば誰かが悪戯したことが分かるはずだ!」

 

 あいつが叫んだのだ。なぜ自分がこんな訳の分からないミスをしたのか未だに分からない。まさか監視カメラの存在を失念していたとは。

 素矢野(すやの)多賀瑠(たがる)は逃げ出した。あいつは店長とカメラを確認しに行った。全部がばれた。皆にどう言い訳したら良いのかも分からなかった。

 

 とその時、裏口から出てきた商品配達の大型トラックが横から飛び出してきた。周りを見ればすぐ分かるような存在に、逃げるのに必死だった彼は気付けなかった。素矢野(すやの)多賀瑠(たがる)の生涯はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 スパノの脳裏に浮かぶ苦い記憶。だが、転生後はあんな訳の分からないミスは犯していない。今の自分に彼は絶対の自信を持っていた。

 パン祭りの開催は明日だった。どう考えても怪しいそのイベントにスパノは行くことを決めた。スパノはルイと同じように、自分にとって不可解な謎はそのままには出来ない、と考えていた。

 

「大丈夫サ。いざとなれば「致死塩分量(デスディーリングソルト)」があル。俺は無敵サ」

 

そう自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

五日前 とある荒廃した村にある地下室

 

「次のターゲットはスパノ=ヤナティン、通称『ソルティングブレッド』だ」

 

「私の出番か…」

 

 夕食後、魔女の宣言にゴーギャンが答える。

 

「計画は六日後だ。リュート、お前も参加すると良い」

 

「何で俺が?」

 

魔女の提案にリュートが尋ねる。

 

「正直に言おう、リュート。お前の村の人間を殺したのはルイ=ジュクシスキーとスパノ=ヤナティンの二人だ」

 

魔女が答えた。

 

「じゃあ、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)は殺しをしてなかったのか?」

 

「残念ながらそうだ、あいつはさっさと帰って行ったよ」

 

魔女が「残念ながら」と口にしたのがリュートは気になったが、あえてそこには触れなかった。

 

「それで、どのようにいくつもりだ?」

 

「ああ。六日後、ノイワ村でパンの直売会を開く。そこにスパノをおびき寄せる」

 

 ゴーギャンの質問に魔女が答える。

 

「なるほど!パン好きのスパノなら効果はありそうだな!」

 

レースバーンが声を上げる。

 

「ふふふ、パン祭りだから奴が来るんじゃ無いぞ。重要なのは開催地だ。ノイワ村は奴が初めて人殺しをした場所でもあり、ゴーギャンが託児所の皆を失った場所だ」

 

魔女が言った。ゴーギャンは一度静かに頷いた他には反応を示さない。

 

「紹介状は奴に直接渡す。いきなりの辺鄙(へんぴ)な村での直売会の誘い、しかも場所は自分が初めて人を殺した場所。奴は気が気じゃ無いはずだ。奴はこの不可解さを解消しようと現れるはずだ」

 

「だが、初めて人殺しをした場所を覚えているのか?」

 

「あいつはノイワ村でゴーギャンの託児所の子供や保育士の計23人を殺した。だがそれ以降、奴は大規模な殺戮(さつりく)を行っていない。一度に10人以上殺した事すら無いのだ。あの殺しは奴にとって何か特別な意味を持っているはずだ」

 

ラーシャの疑問に魔女が答える。

 

「必ず来る。なんせスパノは『自分を賢いと思い込んでいる大バカ野郎』だからな。監視カメラの存在を忘れるほどのだ」

 

魔女が笑いをこらえながら言うのを聞いて、リュートは自分の聞き慣れない単語の意味を尋ねる。

 

「監視カメラってなんだ?」

 

「なんて説明すれば良いんだろうな…。まぁ、分かりやすく言うなら『家に人がいるかの確認を忘れたまま泥棒をする』のと似たようなものだろう」

 

魔女の言葉を聞いて、確かに大馬鹿だ、とリュートは思う。

 

「村で直売会をやるんだ。当然、他の人も来るだろう。奴を普通の直売会だと油断させて誘い出し、奴に『あるもの』を食わせて動揺させる」

 

「パンはどうするんだ?」

 

魔女の作戦を聞いてポセイドラが尋ねる。

 

「そのための五日間だ。皆でパンを沢山作るぞ。売り上げは臨時収入だ」

 

魔女が答えた。

 

 

 

 

 

パン祭り当日 ノイワ村

 

 パン祭りは大盛況で村の人々がこぞってパンを買いに来た。皆は客の対応に追われていたが、魔女とリュートとゴーギャンは他の人間の前に姿を見せなかった。

 

 パン祭り開催までの間、リンの主導の下でパン作りが行われた。リンの料理の腕はそこらの人間の腕を遙かに凌駕するものだった。初めてリンの料理を食べたリュートは

 

「おいおいマジかよ…。俺が今まで食ってたリディアの弁当は何だったんだ…。()()()()()()?」

 

と思ってしまった。

 リュートは料理が出来なかった。皆がパンを作る間、レースバーンとポセイドラが剣の稽古に付き合ってくれた。肝心のゴーギャンは時折パン作りを手伝っていたが、その他の時間は来たる日に向けて、体と心の準備をしていた。

 

 そしてパン祭りも終盤に差し掛かった頃、目的の人物が現れた。

 

「ちょっと見てあの人、『ベストナイン』のスパノ=ヤナティンさんじゃない?」

「本当だ!なんであんな超有名人がこの村に?」

「あのパン屋さんってそんなにすごい人達なの?」

 

 周囲がざわついた。スパノは紙を持ってパン売り場に近づく。

 

「この宣伝を見てやってきたんだガ?」

 

「おいでませ~、ようこそお越し下さいましたわ。どうぞ、貴方様専用の食事席を用意しましたわ!」

 

 リンが元気よくスパノの接客を行う。次々と運ばれるパンにスパノは舌鼓を打つ。リンの料理の腕は、高級な料理ばかり食べているスパノも納得するほどのものだった。

 

「なかなか旨いじゃないカ。気に入ったヨ」

 

「ありがとうございます~。どうぞごゆるりとおくつろぎ下さいまし」

 

 リンが言う。

 

「パン祭り終了後、貴方様に私どものトップからご挨拶がありますので~」

 

 




「一話でいきなり告白してくる幼なじみに人権は無い!」

~スレイヤー リ○・イ○バース~





 
 「唐揚げに無断でレモンをかける」を題材に物語作るならこのくらいはしたいですよね。ギャグ入れて、パロディ入れて、なにやら意味深な描写も入れて。
 まさか、作品作って金もらっている人が「唐揚げに無断でレモンかけた人が皆から冷たい目で見られた」だけで終わるなんて、そんなことないですよねぇ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その6 「俺が俺であるために」

店員「この前調べたんですけど、『賭ケグルイ』の主人公の声優、早見沙織さんなんですよ」

五郎「うーん…蛇喰夢子と胡蝶しのぶで早見沙織がダブってしまった」


(上記のエピソードは原作及び当作品と本編には一切関係ございません。当作品のキャラクターは元ネタの本人では無いということを踏まえた上で、本編をお楽しみ下さい)


「力持ちのゴーギャン先生」

「うっかりさんなゴーギャン先生」

「優しいゴーギャン先生」

 

 一生懸命な後輩と優しい所長、そして何より自分を慕ってくれる子供達に囲まれた託児所で働く毎日は、ゴーギャンにとって幸せな毎日だった

 

 あの日が来るまでは。その日、ゴーギャンは非番で、家の中で昼寝をしていた。村の騒がしさに目を覚まし、彼は家の近くにいた男を捕まえ話を聞いた。

 「託児所にいた人間全員が謎の死を遂げた」という話を聞いたとき、ゴーギャンは話を受け入れることが出来なかった。他の人に聞いても話す内容は同じだった。彼は急いで託児所へ向かった。

 託児所では、所長含めた所員3名と児童20名の計23名が死んでいた。うっかり白目になって無残な現実を目に触れないようにすることが、このときの彼にはなぜか出来なかった。

 我が子の突然の死を悲しむ父や母、現場の立ち入りを制限する駐在所の人々、検死をする医者、そして野次馬達。人々の群れの中にうずくまり、彼は泣くことしか出来なかった。

 眠れない日々が続いた。ようやく眠って目が覚めても現実は変わらなかった。日が経ち、遠くから高名な医者が来たようだったが死因は分からないままだった。

 

 事件から十数日が過ぎた頃、ゴーギャンの家の中に突然「ワープゲート」が開いた。女が出てきたが「どうしていきなり入ってくるんだ」という当然の疑問すらゴーギャンは口に出来なかった。

 

「託児所での大量死…。未だに犯人が分からないようだな」

 

「…当然だ。死因も分からないままなのだ…」

 

 突然入ってくるなり、デリケートな話題に触れ始める女にゴーギャンは答える。

 

「ふふふ、当然だ。この世界に()()()()()()なんて知識は無いのだからな」

 

女は言った。そして、次の一言は彼にとって信じられない内容だった」

 

「単刀直入に言おう。犯人はベストナインの序列5、通称『ソルティングブレッド』のスパノ=ヤナティンだ」

 

「…馬鹿な」

 

ゴーギャンはつぶやく。確かに事件当日ベストナインのメンバーが近くで魔人の討伐を行っていたのは知っていた。しかし、彼の知っているスパノの能力は「魔族にとって毒となる物質を魔族の体内に生成して毒殺する」能力だった。

 

「本当だ。奴の能力は『魔族にとって毒となる物質を魔族の体内に生成する能力』ではない。『生物の体に必要な物質を毒に変換する能力』だ。それを使って託児所の人間を殺したのだ」

 

女の言葉は信じられない内容ではあったが、なぜか彼には嘘には思えなかった。

 

「奴が憎いか?()()()()()。私に付いてくれば、皆の敵を討たせてやる」

 

魔女を自称するその女の言葉に乗る以外、ゴーギャンにはやるべき事が見出せなかった。

 

 

 

 

 

 

「こちらになります~」

 

 パン祭り終了後、スパノはリンに導かれて、村の外れに設置された大きめの小屋の前に立っていた。リンが扉を開けると、中には白目をむいた大柄の男が立っていた。スパノは一瞬ヒヤリとする。

 

「も~う、ゴーギャンさん!白目になってますよぉ!」

 

「すまん…うっかりしていた」

 

リンの指摘にゴーギャンが答えた。スパノは困惑していた。

 

「もう!ゴーギャンさん、()()()()()()()()()ね?失礼しました、スパノ様、彼が貴方に食べさせたい自信作があるらしいので~。では、わたしはこの辺で~」

 

リンが小屋の扉を閉め、スパノはゴーギャンと二人きりになった。小屋の奥にはキッチンらしき設備に大きめの冷蔵庫があったが、他には何も無い、空きスペースの広い小屋だった。

 

「で、何だヨ?俺に食わせたいモノっテ?」

 

「これだ、食べてみてくれ」

 

ゴーギャンの手には皿に乗った塩パンが一つ。スパノはゴーギャンのぶっきらぼうな態度も気になったが塩パンの方に一層の興味を惹かれた。

 

「あれだけ美味しいパンを作ったヤツらダ。このパンも相当旨いに違いないヨ」

 

そう考え、スパノはパンを一口かじる。次の瞬間、彼はあまりのしょっぱさにパンを吐き出した。

 

「なんだこの塩パン!?めちゃくちゃしょっぺぇじゃね…」

 

スパノはハッとする。

 

「何ダ?何でこいつはこのことを知っていル?いや、()()()()()()以外考えられないヨ!」

 

スパノの思考が巡るその刹那、ゴーギャンのアームハンマーが彼に振り落とされようとしていた。スパノは慌てて両腕でガードする。腕と腕のぶつかりで生じた衝撃が空き家の空スペースに轟いた。

 

「すごい力だネ。驚いたヨ。お前、転生者カ?」

 

 攻撃を防御しながらスパノが尋ねる。

 

「いいや、違う…」

 

スパノの防御を崩そうと自身の腕に力を入れながらゴーギャンが答える。

 

「へぇ…そうか…ヨッ!」

 

スパノは腕を開いて攻撃をはじきつつ後ろに下がる。

 

「今日がお前の命日だ…スパノ=ヤナティン、いや素矢野(すやの)多賀瑠(たがる)!」

 

「お前…その名ヲ…」

 

 ゴーギャンの大声にスパノがつぶやく。

 

「お前はスーパー…で周りから避けられていた陰キャ…だったそうだな。自分にとっての邪魔者に恥をかかせようと……グッ……」

 

 それ以上ゴーギャンは言葉が出なかった。突然激しい頭痛と吐き気に襲われ、その場にうずくまる。

 

「ふぅ…一瞬ヒヤリとしたネ。『スーパー』、『陰キャ』…どれもこの世界には無い言葉ダ。何で転生者でも無いお前がそんなことを知っているのカ」

 

スパノがゴーギャンに詰め寄る。

 

「答えは簡単ダ。()()()()()()()()()()ナ!?俺の転生前を知っているのはマウントールとアシバロンだけダ!」

 

スパノは叫んだ。

 

 

 

 

 

 スパノは以前、二人に自分の過去を話したことがあった。マウントールは普通に聞いてくれたのだが、アシバロンには

 

「馬鹿じゃねぇの?悪事を行うときに監視カメラを考えない馬鹿は初めて見たぞ」

 

と嘲笑されてしまった。それ以降、スパノは自分の転生前のことを他人に話さなくなった。

 

 

 

 

 

「マウントールは味方殺しを何より嫌ウ。()()()()()()()()()()()()()ダ。だから俺に手をかけるならアシバロンしかいないのサ。お前はアシバロンの手下だナ?」

 

スパノは質問を重ねる。

 

「アシバロンは何を考えていル?ルイを殺したのもヤツなのカ?」

 

 ゴーギャンは声を振り絞った。

 

「なぜ…なぜ…託児所の…皆を…殺した……?」

 

「ほう、お前あの託児所の関係者カ」

 

スパノが答えた。

 

「なぜ殺したのか、理由は二つダ。一つ目は俺の能力の応用性を確かめるため、もう一つは感謝されながら生きる俺は俺じゃ無いからダ!」

 

「…感謝?」

 

 ゴーギャンは苦しみながら言った。

 

「お前に説明しても分からんだろうが教えてやル。お前が気持ちよく俺の質問に答えられるようにナ。あの日まで俺は魔人と戦う日々を送り、魔人に対してだけ能力を使っていタ。そうすると皆が俺に感謝してくるんだヨ。『ありがとうございます、これで魔人の脅威に怯えず暮らせます』ってナ!俺は他人に感謝されるのが嫌いなんダ!最初は我慢していたが、続くとだんだん『感謝される自分なんて本当の自分じゃ無い』って思えてくるようになるんだヨ!」

 

スパノは大声で続けた。

 

「そんなある日、魔人討伐の後その辺をうろついていたら、あの託児所から楽しそうな声が聞こえてきてネ。俺はふと自分の能力を人に向けて使ってみようと思って、託児所に向けて『致死塩分量(デスディーリングソルト)』を発動したんだヨ!そしたら楽しそうな声が苦しみの声に変わってきてネ。気持ちよかったヨ。俺は『他人から感謝される人間』なんかじゃなくて『他人を苦しめる人間』なんだって改めて実感したんだヨ!!だから、『なんで託児所の皆を殺したのか』って質問については、たまたまだったとしか言えないネ」

 

「なん…だ…と…?」

 

「それからも定期的に人を殺したヨ。他人に感謝された分だけネ。そうしないと俺は俺じゃ無くなってしまうからサ。まあ幸い、皆には俺の能力を『魔族にとって毒となる物質を魔族の体内に生成する能力』だと伝えていたからルイみたいに面倒な掃除を行わずに済んだし、ルイみたいな残虐な男でも無いから、一人二人殺せば数日分の感謝の言葉は我慢できたヨ。さあ、次はお前が俺の質問に答える番だゾ。」

 

 クックックとスパノが笑った。ゴーギャンは口を開かなかった。




 スパノ=ヤナティンの発音はプロレスラーのスペル・デルフィンと同じでお願いします。

 スパノ=ヤナティンはどうやら、質問に質問で返されたときはちゃんと答えてあげる人間みたいです。

 前話「パン祭り」にほんの少し加筆しました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その7 「監視カメラ」

 皆さん、原作のチートスレイヤーは読んでいますか?

 原作のチートスレイヤーに出てくるベストナインの中に、「ルーパー」って通り名のヤツがいますよね?
 あの「ルーパー」って通り名を見たときに私は、パピプリオのパートナーしか思い浮かびませんでした。
 そのせいで、「え?このキャラのどこにパピプリオ要素があるんだろう?」「パピプリオのどこになろう要素があるんだろう?」と数日間ずっと考えていました(実話)。

 他のベストナインの通り名が露骨過ぎたせいで、「ルーパー」だけずっと謎のままでしたね。

 同じ人います?私だけなのかなぁ?

 パピプリオ自体知らんわ、という人はググって下さい。何のキャラかすぐに分かります。
 ちなみにこの作品のキャラクターにパピプリオ要素は無いです。


 リュートはこの間、キッチンの陰にじっと隠れていた。スパノの能力を考えると、うかつにゴーギャンに加勢することは出来ない。彼は地下室での魔女の言葉を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「スパノ=ヤナティンの特殊能力、『致死塩分量(デスディーリングソルト)』は相手の塩分の致死量を自在に操る能力だ」

 

 地下室にて、魔女はリュートに説明を始めた。

 

「塩分っていうのは簡単に言うなら塩のことだ。人間が生きていくためには塩分が欠かせない。だがその塩分も摂り過ぎれば毒になる。人間の塩分の致死量は個人差があるが、大体体重1キロに対して0.5~5グラム…つまり自分の体重の2000分の1から200分の1程度だ」

 

 リュートには魔女の言っていることの半分以上が理解できなかった。

 

「ふーむ、難しかったか?もっと簡単に言おう。料理に塩が使われていることくらいは知っているな?お前が普段口にしている塩は、摂取しなければ人間は生きていけないが、摂り過ぎると逆に死んでしまうものだ。何事も適切な量が大事だと言うことだ」

 

この説明ならリュートにも理解できた。

 

「で、その塩だが、小さいスプーン一杯くらいの量なら食べても死なないだろう?ところがスパノに能力を使われるとそのくらいの量でも死ぬようになってしまうんだよ。で、塩っていうのは生きていくために必要なモノだから、常に体の中に()()()()()()が存在しているんだが、ヤツの能力はその『常に体の中にある量』ですら死に至るようにすることが出来てしまう、というわけだ」

 

魔女の噛み砕いた説明のお陰でリュートはスパノの能力の恐ろしさを理解することが出来た。

 

「そんなの…どうやって戦えば良いんだ?」

 

「速攻でヤツの心を揺さぶるか、見つかっていない状態で心を揺さぶるかだな。幸い私の『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』とは違ってヤツの能力は目視出来る敵にしか発動しない。私はこの前のように隠れて『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』を発動するから、そこにスパノを誘い込む。後はヤツの心を、能力を発動される前に揺さぶるんだ」

 

 ルイとは違い、目視されるだけで発動される能力。ルイのようにはいかないことがリュートにも理解できた。

 

「リュート、お前はゴーギャンがスパノを無力化出来なかった時の第二陣だ。スパノに見つからないように隠れていろ」

 

 魔女が言った。

 

 

 

 スパノはクックックという笑いを止めない。ゴーギャンもうずくまったまま声を発しない。

 

「言っとくが我慢はするべきでは無いゾ。俺の能力は尋問(じんもん)向きダ。我慢すればその分苦しむ時間も苦しみの強さも増すことになるヨ」

 

 スパノは完全に意識をゴーギャンに集中させている。今がチャンスだとリュートは思った。

 

「そこまでだ!素矢野多賀瑠(すやのたがる)!!」

 

 リュートは物陰に隠れたままそう叫んだ。

 

「な…まだいるのかヨ」

 

スパノが狼狽(うろた)える。

 

「お前は自分の嫌いなヤツを(おとし)めるために、パン生地に仕掛けをしたそうだな?でも監視カメラを忘れていて全部バレたんだって?()鹿()じゃねぇの!?監視カメラを気にするなんて万引きする小学生だってやっていることだ!お前は小学生以下の大馬鹿野郎だ!!」

 

「て、てめええええええぇぇぇェ!!」

 

リュートの罵倒にスパノが怒りの声を上げる。リュートの言葉にいくつも()()()()()()()()()()()()が混ざっていることにも彼は気付けないでいた。

 

「そいつを嫌いになった理由が可愛い女の子と仲良くしていたのが気に食わなかったかららしいな?さっきから聞いてれば、自分は『他人を苦しめる人間』だって言っていたじゃねぇか!?そんな陰キャが周りから好かれるわけないだろ!そんなことも分からないなんてお前はどこまで馬鹿なんだ!?」

 

「さっきから言わせておけバ!!どこダ!?出てこぉイ!!」

 

 スパノは十分に心を乱している。リュートは剣を構えて物陰から飛び出した。

 

「な…お前はあの村にいタ!」

 

 スパノが声を上げる。次の瞬間、リュートはその場に倒れこんだ。

 

「は、はは、『致死塩分量(デスディーリングソルト)』が間に合ったのカ。随分と驚かせてくれたナ」

 

スパノはリュートに近づく。リュートは苦しそうに口を開く。

 

「なぜ…俺の村の…人々を殺した?」

 

「はァ?なぜってお前、簡単なことだヨ。()()()()()()()()()()サ」

 

 

 

 

 

 リュートの村が滅びたあの日、ルイ=ジュクシスキー、スパノ=ヤナティン、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の三人は魔人討伐のためにリュートの村の近くまで遠征していた。

 

「終わりましたね、ルイさん、スパノさん」

 

「今回も楽なもんだったナ」

 

「楽すぎてつまらないですがね」

 

 魔人討伐が終わり、ギルドへと帰還しようとした時にルイが唐突に言った。

 

「二人は先に帰ってギルドに報告してきて下さい。俺はすこし()()()()()()()()()()()ので」

 

「?トイレくらいなら待っていてやるヨ」

 

「いいですって」

 

ルイはそう言って走り去ってしまった。

 しばらくしてもルイは戻ってこない。

 

「遅いネ」

 

「そうですね…って、ルイさんの言う『もよおす』って言葉通りの意味じゃ無いですよ、スパノさん!恐らくあいつは…」

 

 二人はルイを探しに行った。

 しばらくした後、少し遠くの方で大きな火柱が上がり、爆発音が聞こえてきた。

 

「ちっ、しまっタ。立花亭行くゾ」

 

「もうっ、しょうがないゲスヤローですね!ルイさんは!」

 

二人は爆発のあった方へ向かった。

 

 村の中はすでに死屍累々であった。燃える家屋(かおく)や横たわる屍の数々をかき分け、二人はルイを発見する。

 

「おいルイ!いないと思ったらこんなとこでサボってんのカ!」

 

「ルイさん、あいかわらずクズですね!」

 

「いやー、この村ではこの女が一番の当たりでしたね。いい感じにたるんだ肉がたまりません!」

 

「けっ、始末は自分でしてほしいものだネ」

 

 三人でこのような会話をしていた時、スパノはふと、ルイの近くに倒れている一人の少年の屍に目を向けた。体が一瞬動いたように見えたからだ。しばらく注視していたが、その後は動く気配が見えなかった。もし生きていたなら近くのルイが気付くはずだと考え、スパノは目線を外した。

 スパノと立花亭はルイのしている行為を見るのが嫌になり、彼から離れた。

 

「なんであの人はああいう非人道的行為をやめられないんですか!頭のネジが半分以上取れているんじゃ無いですか!?」

 

「まったくだネ」

 

 燃えさかる村の中を歩きながら愚痴をこぼす立花亭にスパノは同意の意を示す。

 

「あいつの暴挙を報告しなきゃいけないじゃないですか!マウントールさんにルイさんのこと報告すると、すごく嫌な顔するんですよ!」

 

 ここで、スパノはあることが気になり、立花亭に命令をする。

 

「おイ。お前は先に帰還して報告を済ませてこイ」

 

「え~!!スパノさんは?」

 

「俺は…あいつのお()りダ」

 

立花亭は文句を言いつつ「ワープゲート」でギルドに帰って行った。スパノはそれを見届け独りごちる。

 

「あいつは人殺しを嫌うからネ。こっから先は見せられないヨ」

 

 スパノは倒れている屍に触れながら息があるかを確認して歩く。マウントールの発言を思い出しての行動だった。

 

 

 

 

 

 その日、マウントールはベストナインの会合でこう発言をしていた。

 

「いいかい。私たち『神の反逆者』の使命は魔人を討伐し、人々を魔王の脅威から守ることだ。罪の無い人々の虐殺など言語道断だ!」

 

そう宣言した後、彼は少し声のトーンを下げてこう続けた。目線は誰か特定の人物達に集中させているようだった。

 

「ただし、仮にの話だが…もし()()()()()()()()()()()()()には、きれいさっぱり掃除してから帰ることだ。それが責任というモノだよ」

 

 

 

 

 

 ルイがそんなことを思い出しながら村の見回りを続けていると、倒れていた一人の男性が動いていた。スパノは男性のそばに近寄る。彼は頭から血を流していた。

 

「おい、生きているのカ?」

 

「あ…あなたは…スパノ…ヤナティンさんか?」

 

「そうだヨ」

 

「た…助けてくれ…、ルイ…ジュクシスキーさんが…突然……」

 

「あア。助けてやるとモ」

 

 そう言うとスパノは男性に『致死塩分量(デスディーリングソルト)』を発動した。男性の頭から大量の血が噴き出す。

 

「ぐ…ぐああああぁぁぁ……!」

 

男性は苦しみながら息絶えた。

 

「クックック、()()()()()()()()()()()()()()ネ。前世での教訓サ」

 

 

 

 

 

「な…なに…?」

 

リュートが苦しそうに言う。

 

「お前もアシバロンの手下だナ?未だに(はらわた)が煮えくりかえっているヨ。だが残念ながら、尋問相手は一人で十分でナ。相手の体重が重い方が能力の調整の幅が広がル。苦しんで死なないことに感謝するんだナ」

 

そう言いながらスパノは腰に差した剣を抜こうとした。

 

 次の瞬間、リュートは立ち上がり、スパノの足を素早く切りつける。スパノの体から左足が離れ、バランスを崩したスパノがその場に倒れる。

 

「な……ぎぃやあああああああああああああぁぁぁぁぁァ!!!!」

 

左足を失ったスパノがあまりの痛さに悲鳴を上げる。リュートは剣をさやに戻しながらスパノを見下す。

 

「やっぱりお前は馬鹿だな。俺の苦しんでる演技すら見抜けないなんて。今までもその能力で人を殺してきているなら、俺の苦しみ方がおかしいことくらい分かるはずだ。お前にとっては、自分の能力で苦しんで死んでいく人間なんてどうでも良かったんだ。あと、『監視カメラを潰す』とか言っておきながら結局俺っていう()()()()()を見逃しているじゃないか?前世から何も学んでいなかったんだな!」

 

 そしてリュートは傍らで起き上がる人影に言った。

 

「後は任せます、ゴーギャンさん」

 

 その言葉を聞き、ゴーギャンはスパノの胸元にまたがり、彼の首を掴んだ。

 

「これは…ルルの分!」

 

 バキィッ、という音を響かせながらゴーギャンの拳がスパノの左の頬に炸裂した。




 次で第二章は終了です。

 スパノの特殊能力「致死塩分量(デスディーリングソルト)」には元ネタがあります。割とがっつりパクってます。元ネタ知っている人ならすぐ分かるけど、元ネタ知らない人達は、今回の説明でどんな能力か分かったかなぁ?自分の説明力が試される気がします。

 仲間思いのツンデレ「食いしんぼう(ザ・グラタン)」ちゃん大好き。チートハーレム系主人公だったら嫁の一人にしたい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二章 「ソルティングブレッド」殺し その8 「転生者のルール」

 第二章の最終話です。

 風の噂で聞いたんだけど、スパノの元ネタって原作では許されてるってマジ?何で許す必要なんかあるんですか?(正論)


 気がつくと、素矢野多賀瑠(すやのたがる)は知らないところにいた。

 

「ここはどこダ?」

 

 辺りを見回す。彼は雲の上に浮かぶ6畳の畳の上にいた。畳の真ん中にはちゃぶ台が一つ。タンスが一棹、小さなテレビが一台。素矢野とちゃぶ台を挟んだ向かいに一人の老人が座っている。老人は古代ギリシャの人が着るような白いチュニックを着ていた。昔は筋骨隆々だったが今ではすっかりしぼんでしまったかのような、痩せた体。顔には白い髪、(あご)ひげ、口ひげがひょろひょろと生えていた。

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった」

 

「あン?お前何言ってんダ?お前誰なんダ?」

 

 突然口を開いた老人に対し、素矢野は疑問をぶつける。

 

「ワシか?ワシは神じゃ」

 

神を名乗る老人が答える。何か言おうと口を開いた素矢野を老人は制して言葉をつなげる。

 

「あ~、よいよい。何も言わんでも、お主の言いたいことは大体分かる。皆同じ事を言うのじゃ。じゃから思い出してみぃ。自分が思い出せる一番最近のことを」

 

 素矢野は振り返る。

 

「…そうダ。俺が走っているところに横からトラックが来テ…」

 

「そうじゃ。そのトラックでお前さんは死んだんじゃ」

 

 素矢野は呆然となる。自分は死んだ。だがあのままだと、スーパーの同僚に言い訳をしなければならない地獄が待っている。ならばいっそ死んだ方がいいのか。しかし俺はまだ死ぬつもりは…。そんなことを考えつつも、老人に対し自分が最も気になる疑問をぶつける。

 

「死んだんなら、なぜこんな所に呼んだんダ?あんたなんだロ?俺をココに呼んだのハ?」

 

「おぉ、お前さん、なかなか切り替えが早いのぉ」

 

「混乱してるだけダ」

 

「いや、良いのじゃよ。泣き出したり、ワシに文句を言ったりする輩も多いのでな。なかなか面倒なんじゃよ」

 

「いいかラ。お前が俺の質問に答える番だゾ」

 

「ふむ、その質問に答える前にまずは死んだ者がどうなるのかを話さねばならんな」

 

 神は素矢野にお茶を勧めつつ、説明を始めて行った。

 

「最初に答えを言うなら俗に言う『輪廻転生(りんねてんせい)』というヤツじゃな。別の者に生まれ変わるのじゃ。じゃがな、人間に生まれ変われるとは限らんぞ。別の生き物として生まれるかもしれん。更に言うと、世界というものはお前さんが生きていた世界以外にも沢山ある。俗に言う()()()というヤツじゃな。生まれ変わる先の世界も同じくどこになるか選ぶことは出来ん。つまり、どの世界のどんな生物に生まれ変わるか全く分からん。これが()()()()じゃ」

 

「ふーン。俺の知ってる輪廻転生とは違うんだナ」

 

「物事が間違って知られることはあるものじゃ。ちなみに輪廻転生では記憶を引き継げん」

 

 素矢野は神の説明を大人しく聞いていた。

 

「生きとし生ける命全てにこの輪廻転生は当てはまる。輪廻転生は自動で行われるんじゃが、別の転生方法もある。それが『転移転生(てんいてんせい)』じゃ。この転生方法は、神自らの手で一つの命を転生させる方法じゃ」

 

「俺はその方法で転生するって事カ?」

 

「話が早くて助かるのぉ。その通りじゃ。ほいでこの転移転生はな、神が転生先を決められるし、記憶も引き継げる。好きな能力を持たせることも出来るし、好きな容姿で成長した状態でのスタートも可能じゃ」

 

「便利じゃねえカ」

 

「そうじゃろう?じゃが全ての生命に適用することは不可能じゃ。こうして話している間にも、いくつもの世界でいくつもの命が失われておる。その命全てに手を加えることは神にも不可能なのじゃよ」

 

 素矢野は話を聞いて想像を膨らませる。自分の世界だけでも生命体の数は数え切れない。しかも同じような世界がいくつもあるのだ。気が遠くなる数だと思う。しかし、自分は他とは違う。自分は選ばれたのだ。そう考えると急に気分が良くなった。

 

「なるほど、俺は選ばれたんだナ」

 

「まあそうじゃのう。じゃが、転移転生されるということは、それなりに理由があるのじゃぞ。それにルールもある」

 

「何だヨ?」

 

「その説明をする前に、まずお前さんの転生先の世界がどんな世界か話さんとのう。まぁ安心せい。ちゃんと転生先は人間じゃよ」

 

 神は転生先の世界について説明を始める。元いた世界のように機械技術が発展しておらず法制度も整備されていないこと、その代わり魔法という元の世界には無い力があること等々…。

 

「それでこの世界は今、『人間』が生態系のトップに立っておるのじゃが、『魔族』と呼ばれる生物が知恵を付け『魔人』となり、生態系のトップの座を取って代わろうとしておる」

 

物騒な話になってきたと素矢野は思う。

 

「本来ならそれで良かったんじゃよ。お主の世界も昔は恐竜が支配しておったが、今は絶滅してその座に人間がおるじゃろう?それと同じじゃよ。じゃが、予定が変わっての。引き続き『人間』が支配する世界となることに決まったのじゃが、その時にはすでに『魔人』の進出が始まってしまっての」

 

「神が手を下せば良いんじゃねぇのカ?」

 

「ほっほっほ。勘違いしている者が多いんじゃが、神は余程(よほど)のことが無い限り、下の世界の命に手を下すことは出来んのじゃよ。んで、今回も無理というわけじゃ。そこで、お主のような死者を転生させ、魔人を討伐させるという方法をとることにしたのじゃよ。」

 

「ちょっと待てヨ。俺は戦った事なんテ…」

 

「そこも心配無用じゃ。転生した際には魔人と戦うのに困らないほどの身体能力と魔力を授けよう。素質のある者は更に強い力を持てるぞ。それに加え、一人一人に特別な能力も授ける。実際今もその世界で転生者が戦っておるが、そのほとんどは転生前に戦いなど経験しておらん。じゃが立派に戦えておるよ」

 

「ふーン。で、ルールってのハ?」

 

「そう、そこが重要じゃ。転生者の使命は『魔人の討伐』じゃ。ノルマは無いが、あまりにも討伐をサボるようならば死んでもらう」

 

「物騒だナ」

 

「じゃが、魔人の討伐さえやってくれるなら後は自由じゃ。サボり気味の者には警告も行う。いきなり殺したりはせんわい」

 

素矢野は少し安心する。

 

「そしてな、ここが一番重要なんじゃが、魔人の掃討が終了するまでに死んでしまった転生者は二度と転生出来ん。『輪廻転生』も『転移転生』も不可能、その命は完全に失われることになる。まぁ転移転生にもデメリットがあるということじゃな」

 

「はァ?死ぬ前に魔人の掃討とやらを終わらせなきゃいけねぇってことカ?」

 

「まぁそこも安心せい。魔人を掃討するまでは転生者は不老じゃ。それによほど油断して戦いに臨んだりせん限りは死んだりはせん」

 

 転生者同士で争いが起こった場合はその限りでは無い、という話を神はしなかった。

 

「まぁ、本来死んだ後自分がどうなるかなど皆分からん。輪廻転生では記憶は引き継げないしのぅ。そう考えれば今後の転生が可能か不可能かなど大した差ではないと言える。魔人を掃討し終えた後は、その世界で好きに生きて良い。魔人の掃討が完了すれば不老では無くなるが、死んだ後の輪廻転生が可能となる。さ、後はお主が選ぶのじゃ。『転移転生し魔人を討伐する道』か『他の命と同じように輪廻転生する道』か」

 

「…一つ聞きたいことがあル」

 

 自分の今後を選ぶに当たり、素矢野は神に一つ質問をする。

 

「なんじゃ?」

 

「転生者は魔人の討伐をサボってはいけなイ。決まりはこれだけカ?」

 

「そうじゃの。他の人間を何千人も殺したりせん限りは…」

 

「今の言葉を聞く限り、仮に一般人を殺してしまったとしても数人程度なら問題ないト?」

 

「うーむ。そんな風に受け取って欲しくはないんじゃが…まぁそうじゃな」

 

 神の最後の言葉は口ごもった様子だった。

 素矢野は転移転生の道を選んだ。

 

 

 

 

 

「これは、皆に好かれていたアレクサの分!」

 

 気がつくと、スパノはゴーギャンに殴られ続けていた事に気付く。どうやら気を失い、過去のことを思い出していたらしい。顔は醜く歪んでいて、もはや痛みも麻痺していた。

 ゴーギャンはずっと、スパノに殺された託児所の人間の名前を呼びながら、スパノを殴り続けていた。

 

「これは、皆に優しくしてくれていたアルノ所長の分!」

 

 メシッという音が響く。これで23人全員の名前が呼び終わった。ゴーギャンは背中の武器に手を伸ばす。棘の付いた鉄球と持ち手が金属の(くさり)でつながれている、所謂モーニングスターという武器だった。

 

「最後に…大切なものを失った私の悲しみと、これまでお前に殺された人々の無念…。全てをこの鉄球に乗せて、お前を討つ!」

 

 殺される、スパノはそう思った。死にたくない、と同時に強く思った。

 

「ほ…、ほれだけは勘弁ひてくれえええええぇぇぇェ!!」

 

「勘弁ならん!!!!」

 

 鉄球がスパノの顔を目がけて振り下ろされた。スパノはとっさに両腕で顔をかばうが無駄だった。両腕もろとも粉々に粉砕されるスパノの顔。飛び散る骨、血しぶき、肉、脳…。

 

 こうしてスパノ=ヤナティン、通称「ソルティングブレッド」、本名「素矢野多賀瑠(すやのたがる)」はベストナイン二人目の死者となった。

 

 

 

 

 

 復讐が終わり、ゴーギャンは呆然と立ち尽くしていた。そんな彼の背後から声がする。

 

「終わったようだな、お疲れ様」

 

 冷蔵庫内に隠れていた魔女が出てきた。

 

「あ、ゴーギャンさんお疲れ様でした」

 

リュートも魔女につられてゴーギャンに声をかける。

 

「ああ…。二人のお陰で、皆の(かたき)を討つことが出来た」

 

ゴーギャンが二人に感謝の言葉を言った。

 

「しかし危なかったな。リュートがいなければ、殺されていたのはお前だったぞ?」

 

 魔女の言葉を受け、ゴーギャンは先程から抱いていた疑問を口にする。

 

「なぜ…私は駄目だったのだ?」

 

「あぁ、それは簡単だよ。()()()さ」

 

魔女は答えた。

 

「お前は()()()()()()()()()を言う前に口が止まっていた。お前のような訥々(とつとつ)と語る方法じゃ駄目なのさ。リュートの罵倒を聞いていたか?流れるように、相手の心をえぐるような強い口調で罵倒していただろ?相手の心を乱すには言い方が重要なんだよ」

 

「そうだったのか…」

 

 ゴーギャンは納得する。自分には無理だな、とも思った。

 

「でも、そんなことはゴーギャンさんには無理だったと思います」

 

 ゴーギャンの思考を読み取ったかのようにリュートが言った。

 

「だって『()()()()()()()()()()』ですからね!」

 

リュートの言葉を聞いてゴーギャンは、おや、と思う。自分の過去を彼に話した覚えは無い。とすると今の言葉は魔女の指南だったのかもしれない。

 

「改めてお礼を言わせてくれ、リュート。君のお陰で皆の無念を晴らせた。本当にありがとう」

 

 ゴーギャンのお礼の言葉を聞き、リュートはこれから自分が進む道を決めた。

 

「この世界にはまだ、悪逆を働く転生者がいる。苦しんでいる人がいる。俺は暴虐な転生者を討ち、悲しむ人が生まれない世界を作りたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二章 「ソルティングブレッド」殺し END

「ベストナイン」 残り7人




 全てが自分のオリジナルで構成された第二章が終わりました。皆さん、いかがでしたでしょうか?

 第二章終了を記念してここからは、私がなぜこの物語を書こうと思ったのかを語りたいと思います。興味のある方だけご覧下さい。





 まず私は、原作者の名前を「チートスレイヤー」を知る前から知っていました。しかし、「賭ケグルイ」は未だに読んでおらず、別の作品で知りました。
 私には今すごくはまっている漫画があります。名前を挙げるのは避けますが、「神と人が13の代表を選出してタイマンバトルを行う漫画」です。その後追い漫画があるんですけど、その原作者が「チートスレイヤー」の原作者だったのです。その漫画の内容なんですけどまあひどいんですよ。設定も描写も元ネタで見たようなのばかりで、オリジナル設定は矛盾を起こしているかつまらないかのどちらかで、本当につまらないんですよ。その漫画でも当然「あの『賭ケグルイ』作者が描く超大作」みたいな宣伝がされていて、「ヒット作出した作者なのによくこんなつまんない漫画作れるな」と正直思っていました。
 そして「チートスレイヤー」をネットで知って読んで、またしても衝撃を受けました。無論悪い意味でです。くっさい告白を突然行う幼なじみ、ルイのやりすぎな悪行、魔女の原作者の気持ちを代弁しているとしか思えない長ったらしい演説、無意味な描写が多い物語の構成…。
 そして思ったのです「今まで物語なんて発表したこと無いけど、この人より面白い物語くらい自分でも作れるのでは?」と。これが第一の理由です。

 一方で、私には「チートスレイヤー」で気に入っている部分もあります。それは「他人の作品のキャラを思いっきりパクっていること」です。
 前から言っていますが私はパクリやパロディが大好きです(商業作品でやることの善悪は別ですが)。「ボボボーボ・ボーボボ」や「いぬまるだしっ」、「銀魂」も大好きです。中国のパクリ玩具を見てゲラゲラ笑っています。そんな私にとって「チートスレイヤー」の「他人の作品のキャラを思いっきりパクっている部分」だけはある意味お気に入りなんですよね。
 「チートスレイヤー」の二次創作を作るに当たっても「どこかで見たようなキャラばかり」であることを目指したのですが、人気作品のキャラクターのパクリを悪役にすると原作と同じく炎上して終わりだろう、とも考えました。
 そこで目を付けたのが「とある共通点を持つ作品」でした。その「共通点」のせいで、知名度はあるのに皆から煙たがられている作品群。「その作品の最も目立っているキャラを『悪役』として昇華することは出来ないか」と考えたのが第二の理由です。

 ですから私は感想欄で「原作より面白い」と言われたり、パロディ元の予想を当てられることが嬉しいのです。
 この作品の感想欄はアカウントの無い人でも書き込めます。どうぞ自由に思ったことを感想欄で書いてくれれば、と思います。「作品読みに来ただけなので、感想書く気は無い」という方はそれでも構いません。これからも私の作品を楽しんでくれれば満足です。

 長くなってしまいましたが、最後まで読んで下さった皆様ありがとうございました。
 作品の今後の展開をお楽しみください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その1 「テンスレ」

 新章、「Mr.土方」襲来、始まります。「殺し」ではなく「襲来」?どうなるのでしょうか。

 間違えている人がいるかもしれないのでお伝えします。当作品のベストナインの元ネタにはアニメ化作品はございません。人気アニメ作品ばかりが元ネタだった原作のベストナインとは大違いです。


 ベストナインの序列5であるスパノ=ヤナティン、通称「ソルティングブレッド」が死んだ日の晩。地下室では、リュートとゴーギャンの復讐成功と、パン祭りの大盛況を祝った祝賀会が行われた。祝賀会と言っても、内容の一つが「復讐の成功」であることと、復讐対象がまだ残っていることもあり、派手に行われたわけではなく、いつもより豪勢な夕飯を食べつつ皆で談笑する程度のものだった。

 

「とりあえず皆、今日はお疲れ様。皆の頑張りのお陰で二人の復讐は無事成功。(えさ)としての意味合いのあったパン祭りも大盛況で、収入もたっぷりだ。今夜はとりあえず疲れを癒やし、次の復讐に備えようではないか。ではいただくとしよう」

 

 魔女の言葉で夕食の時間が始まった。リュートは早速手元にあった芋料理に手を伸ばす。ここでの食事はいつもリンの手作りで、どの料理も文句の言い様がないほど美味しかった。

 

「ゴーギャン、リュート、皆の(かたき)が討てて良かったな!」

 

 ジモーの言葉をきっかけに皆が二人の成功を喜んだ。それを受けて、ゴーギャンが口を開く。

 

「ああ、皆ありがとう。皆の協力のお陰で私は今日、復讐を成し遂げられた。これで託児所の皆も浮かばれる。今度は皆が復讐を成し遂げる番だ。無事全ての復讐が済むまでは、私も皆と共に歩んでいこうと思う」

 

ゴーギャンの言葉の後、リュートも自分の思いを宣言する。

 

「俺も同じです。今日で俺は村の(かたき)だったルイとスパノを討つことが出来ました。でもこの世界にはまだ、何の罪も無い人間を殺して平気な顔をしている転生者がいます。俺はそんな極悪非道な転生者を討ち滅ぼし、これ以上俺のような悲しい思いをする人が現れないようにしたいんです。それが今の俺の夢です」

 

リュートの宣言を受け、あちこちから拍手や応援の声が聞こえた。

 

「良く言ったぞ、リュート!やっとらしくなってきたな」

 

「らしくなってきたって何ですか、レースバーンさん」

 

 照れくさそうな様子のリュートに、葡萄酒(ワイン)の入ったグラスを手に持った魔女が問いかける。

 

「リュート、本当に復讐は終わりで良いのか?まだ立花亭座個泥(たちばなていざこでい)が残っているんだぞ?」

 

「でも立花亭は村の人達を殺してないんだろ?」

 

「質問を質問で返すなよ。疑問文には疑問文で答えろと教わったのか?」

 

「じゃあ答えるよ。村の人達を殺してないなら立花亭を殺そうとは思っていない。ただ…」

 

リュートは今まで言葉に出さなかった思いを打ち明けた。

 

「もしも立花亭に会う機会があるなら質問したい。俺の村でどう行動してたのか、何でルイとスパノを止めなかったのかを」

 

「それで、返答次第では殺しもありか?」

 

「しつこいぞ魔女。向こうが殺してないなら俺は殺さない。まあ…他所(よそ)で虐殺をしているなら見過ごせないけど」

 

「ふーむ、それは残念だな。あいつが一般人を殺しているという情報は今の所無いからな」

 

魔女はわざとらしく、がっかりしている素振りを見せた。

 

「他人を殺しへと誘導する性格の悪さは相変わらずだな、魔女」

 

「本人に直接性格の悪さを指摘するとはな。嫌われるぞ、ポセイドラ」

 

 うんざりとした様子のポセイドラの発言を、魔女は飄々(ひょうひょう)とした様子で返す。

 

「だが、ポセイドラの言うことも(もっと)もだ。魔女はいつも、転生者を殺すように私達を誘導しようとする。はっきり言って気分の良いものでは無いな」

 

「ラーシャにまでそう言われてしまったか。これではポセイドラの発言を『女性に嫌われる』と返せなくなってしまったな。困ったものだ」

 

魔女はそう言ったが、本当に困っているようには見えなかった。

 これまでの魔女の会話を聞いて、リュートはふと浮かんだ疑問を口にする。

 

「そう言えば魔女。お前は他の皆からも魔女と呼ばれているんだな」

 

「そうだが?」

 

「お前、本当の名前は何なんだ?」

 

リュートの質問を聞き、魔女は笑い出した。

 

「フフフ…アッハハハハハ!お前、今更そんなことが気になったのか?」

 

「質問を質問で返すなよ」

 

「おっと、これは一本取られたな。じゃあ教えてやろう。私の本名はね…()()んだよ」

 

 魔女の答えにリュートは一瞬、どう返せば良いのか分からなかった。

 

「あ…ああ、『ナイン』って名前だったのか」

 

「おいおい、そんな『ベストナイン』を思い起こさせるような名前はやめてくれ。『私には本名など存在しない』と言ったんだよ」

 

「どういうことだ?」

 

「私の正体は『神に仕える役割を持った天使』だという話は以前したよな。神が従者を呼ぶときに名前を呼ぶ必要は無い。『君』『お前』『おい』みたいな呼びかけで十分なんだよ。だから天使に個別の名前なんて無い。この世界に追放されてからも私は自分を『魔女』と呼び、名前を持っていない。これは天使だったという矜持(きょうじ)を捨て切れていないからだな。だから私に名前なんて無い。これからも今まで通り『魔女』と呼んでくれたまえ」

 

「そうだったのか」

 

 魔女にも色々思うところがあるのだろう、とリュートは思った。

 

「神と言えば、今日で私達はベストナインのメンバーを二人殺した事になったわけだが、神はこれについて何とも思っていない、という認識で良いんだったな?」

 

 今度はラーシャが魔女に質問する。

 

「ああ、その認識で間違いないよ。ベストナインのメンバーもこれまで殺してきた転生者と何ら変わらない。神にとっては転生者の十人や二十人、死んでも構わないのさ。転生者はまだまだいるし、替えもいくらでも利くからね」

 

 葡萄酒(ワイン)を飲みながら魔女が答えた。

 

「あ、皆さん今まで転生者を殺したことあったんですか?」

 

 リュートが魔女の言葉を聞いて浮かんだ疑問を口にする。

 

「そうですね。リンさんとメルクリオさん以外は皆さん一人は殺しています。もちろん殺したのは、罪も無い人間を殺すような、人の道から外れた転生者だけですけど」

 

「自分の復讐相手を殺すときに備えて、とのことだ。魔女に能力を封印してもらって殺したこともあれば、大した能力を持っていない転生者なら魔女の補助なしで殺したこともある」

 

ケイルとポセイドラの言葉を聞いて、リュートは確認の意味も込めて尋ねた。

 

「やっぱりベストナインのメンバー以外にも人々を殺す転生者はいるんですね」

 

「そうですよ。もちろん、転生者全体から見ればほんの一握り程度の数ですけどね」

 

「俺たちのギルド名の『テンスレ』というのも『()生者()()イヤー』から来ているしな」

 

「て、『テンスレ』!?」

 

 ポセイドラの発言にリュートは口に含んでいたブドウジュースを吹き出しそうになる。

 「ギルド」とは、魔人を殺すことで王都から報酬を得て生活をする人間の集まりのことである。一番有名なギルドは転生者を中心に結成された「神の反逆者」だが、その他にも大小様々なギルドが存在した。魔女によって集められた彼らも普段は魔人を討伐して生活をしている。パン作りの集団では断じて無いのだ。

 リュートは皆が魔人討伐で生活していることは知っていたが、ギルド名を聞いたのは初めてだった。

 

「私の発案だよ~。大丈夫(だぁいじょぶ)だぁ、名前の意味に気付く奴なんていないさぁ。もし意味を聞かれたなら『()()()いやーくん』とでも答えるとい~」

 

酔った様子の魔女が言った。

 

「そ、そうだな…」

 

安直すぎじゃないか、という言葉をリュートは飲み込んだ。

 

「そんなことよりリュート、お前ブドウジュースなんて飲んでんのかぁ?葡萄酒(ワイン)を飲め、葡萄酒(ワイン)を!」

 

「お、俺の村では酒はもっと成長してからじゃないと飲めないんだよ!」

 

「い~だろ、お前の村はもう滅んだんだからさ~」

 

「デリカシーなさ過ぎだろ!!」

 

 悪酔いした魔女の(から)みにリュートは辟易(へきえき)する。

 

「相変わらず酔い方が酷いな」

 

「な~に言ってんだポセイドラぁ~。嫌われるぞ~」

 

「お前はそればかりだ」

 

ポセイドラも辟易した様子で言う。

 

「でもよ~リュート、酒飲めねぇと大人の仲間入り出来んぞ~」

 

「おい、ジモーまで!強要はモウヤメルンダ!」

 

魔女の絡みに酔ったジモーが参加し、レースバーンがそれを止める。

 地下室での祝賀会はこの調子で平和に進んでいった。

 

 

 

 

 

同時刻 「神の反逆者」ギルド

 

 王都にある「神の反逆者」ギルドの最上階の一室。ベストナインのリーダーであるマウントールは自室で本を読みながら葡萄酒(ワイン)を飲んでいた。転生前から続く至福の一時(ひととき)。彼は葡萄酒(ワイン)が大好きだった。どれだけ飲んでも酔うことは決して無かった。この先いくら転生しようとこの好物は変わらないだろう、と彼は思っていた。

 そんな彼の自室の窓から黒い()()のような何かが入ってきた。()()とも(すす)とも煙とも取れない黒い不定形のそれはマウントールの背後に集まった。そして人の形を(かたど)っていき、やがて一人の男となった。

 

「…何か進展があったんだね?」

 

 マウントールは男の方に振り向き言った。男はベストナインの序列4、米沢反死(よねざわはんし)だった。彼は震えながら言葉を口にする。

 

「し、ししししし、死んだ…。す、スパノが殺された…」

 




「いや、私の『チートスレイヤー』の特殊能力を教えようと思ってねぇ。どうせ君はすでにパクられてしまっているのだからね。『チートスレイヤー』の特殊能力…、それは…『チートスレイヤー』は『触れたもの』は『どんな物』でも…『パクリキャラ』に変えることが出来る。なんであろーと…。クク、たとえ他人の作品だろーと」

「『チートスレイヤー』はすでに『転生したらスライムだった件』に触っている」





 いや、ホントすんません。主人公は白猫プロジェクトでお世話になっております。
 ダサい?いやいや、「ベストナイン」と同じレベルにしたまでだが?

 それはそうと白猫プロジェクトくんさぁ、最近ジャンプ作品とのコラボ多すぎじゃないかい?ジャンプ作品とコラボするなら「家庭教師ヒットマンREBORN!」とコラボするんだよ、あくしろよ。ハハン。
 あ、ジョジョとはコラボしないで下さい。コラボキャラの(かたよ)りが絶対に(ひど)くなるんで。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その2 「報告」

 最初に、読者の皆さんに伝えたいこと、というかお詫びがあります。それは「ルイ=ジュクシスキーの元ネタ」についてです。 

 コメントの方に書いてしまったので、ここでルイ=ジュクシスキーの元ネタについてお話しします。

 ルイの元ネタなんですが、実はベストナインのメンバーで彼だけは特定の作品が元ネタになって無いんですよね。
 深井戸指数の話を第2話の後書きでしたと思うのですが、ルイ=ジュクシスキーは、原作のルイに「作者や作品に関わらず、私にとって深井戸指数が高い作品群の共通点」をぶち込んで出来たキャラなんです。なので、ルイの元ネタを強いて上げるなら「私の深井戸指数が高い作品群の共通点」が元ネタです。
 本当のことを申しますと、ルイ=ジュクシスキーは原作のルイ成分がキャラ全体の八割を占めています。なので、彼の行動は原作とほとんど同じなのです。

 じゃあなぜ、ルイ=ジュクシスキーに元ネタの作品があるかのような発言を今までしていたのかというと、読者の皆さんにベストナインの元ネタ予想を楽しんで欲しかったからです。

 結果的に読者の皆さんを(だま)す形になってしまったと思い、反省しております。申し訳ありませんでした。

 他のベストナインのメンバーには元ネタの作品がちゃんとあります。キャラの名前を見れば分かる人には分かると思います。しかし序列3のアルミダ=ザラだけは、キャラが元ネタとあまりに似すぎてしまったために、名前を極限までぼかしているので名前を見ただけでは分かりにくいと思います。外見や言動から想像して下さい。

 というわけで、本編スタートです。今回はベストナイン視点の物語です。


スパノ=ヤナティン死亡日の翌日 王都 「神の反逆者」ギルド

 

 この日の朝、ベストナイン全員に朝のミーティングへ必ず出席する(むね)の通達が届いた。各メンバーは朝の支度を済ませ、会議室へと向かった。

 

 会議室には序列1のマウントール=フランスと序列4の米沢反死(よねざわはんし)が誰よりも早く来ていた。

 いつも一番に会議室に来る序列2のアシバロン=ボーナスは、自分より早く人が来ていることを珍しく思ったが、二人の様子を見て大体の内容を察した。米沢は明らかに憔悴(しょうすい)していたし、マウントールの「Bonjour.」の挨拶をした時の顔も(こわ)ばっていた。アシバロンは自分の席に座り、誰がやられたのかを予想しながら他の者の到着を待った。

 その後は序列6のギットス=コヨワテ、序列7の立花亭座個泥(たちばなていざこでい)、序列8の御手洗幼子(みたらいようこ)が到着し、最後に序列3のアルミダ=ザラが文句を言いながら入室してきた。

 

「全くもう!朝くらい個人の自由にさせてほしいわね!」

 

「Je suis désolé.ああ、フランス語で『すまなかった』と言ったんだ、アルミダ。今日はどうしても来てもらう必要があったんだ。とりあえず座ってくれ」

 

マウントールのフランス語を交えながらの弁明がいつもより真剣だったので、アルミダはそれ以上は何も言わないで席に座った。

 アルミダが席に座ったのを確認し、改めてマウントールが挨拶をする。

 

「Bonjour.皆、朝から全員招集なんてして悪かったね」

 

「全員って…」

 

 ギットスが気怠(けだる)そうに口を開く。

 

「スパノがまだだよな?」

 

「馬鹿が。ギットス、お前まだ気付かないのか?」

 

アシバロンが呆れたように言う。

 

「マウントールの様子、全員招集の通達、スパノの欠席。答えは明白だと思うがね」

 

 アシバロンの言葉を聞き、ギットス以外の全員が状況を理解する。「ふーん」と言い楽しそうな顔をするアルミダ。「うそ…」と言ったきり絶句する立花亭。恐怖を顔ににじませる御手洗。

 

「とりあえず、リーダーである私から正式に発表するとね…。スパノ=ヤナティンが昨日殺された。監視をしていた米沢からの情報だ」

 

 御手洗と立花亭が悲鳴を上げる。「そういうことだったのか…」と表情を崩さす(ひと)()つギットス。憔悴(しょうすい)したままの米沢。アルミダとアシバロンは静かに笑っていた。ルイの死体発見時は、想定外の事態に困惑していた二人だったが、今はどこか楽しげな様子を隠そうともしない。

 

「皆それぞれ言いたいことはあると思う。だが死体の確認をする前に、スパノが殺されたときの状況をこの場で整理したい。現場に行った後では混乱するだろうからね」

 

マウントールは昨晩に米沢からの報告を受けた後、どのように話を進めるか(あらかじ)め予定を立てて朝のミーティングに(のぞ)んでいた。

 

「米沢、その時の状況を話せるかい?」

 

「だ、大丈夫」

 

 マウントールの要請を受け、米沢が昨日のスパノの様子を語り始める。ノイワ村で開催されたパンの直売イベントに向かったこと、直売会終了後に小屋へ連れて行かれたこと、小屋で待っていたゴーギャンという名の大男がスパノに因縁を持っていたらしいこと。

 

「そのゴーギャンってヤツがスパノの転生前について語り始めるんだ。『スーパー』とか『陰キャ』とかこの世界に無い単語を使ってた…。これって変だよね?」

 

「米沢の言うゴーギャンって男のことを知っている人はいないかい?情報が欲しいんだ。知っていたってだけで犯人扱いするような真似は私がさせないから、知っている人がいるなら正直に言って欲しい」

 

 しかし、マウントールの求める情報を持っている者は誰もいなかった。マウントールは米沢に先を(うなが)した。

 

「その後、スパノはゴーギャンを『致死塩分量(デスディーリングソルト)』で黙らせるんだ。スパノは言うんだ。『俺の過去はマウントールとアシバロンしか知らない。マウントールは味方殺しを嫌がるから犯人はアシバロンだ。お前はアシバロンの手下だろ』って」

 

「おいっ!!」

 

アシバロンが怒りの声を上げる。全員がアシバロンを見ていた。

 

「本当なんだあぁ!本当にそう言ってたんだあぁ!!」

 

「アシバロン、私はお前を疑っていない。だが確認のために聞かせて欲しい。本当に身に覚えは無いんだね?」

 

「当たり前だ!だいたいスパノから勝手に過去を語ってきたんだ。それで犯人扱いされたんじゃたまったもんじゃない!スパノめ、どこまでも勝手なヤツだ」

 

アシバロンは激怒した。その様子を受け、マウントールが続ける。

 

「スパノが自分の過去を私に話していたのも本当の話だ。だから疑われるなら私も疑われて当然なんだ。アシバロンだけを疑ってはいけない、いいね?米沢、続きをお願いできるかい?」

 

 米沢は頷き、続きを語り始める。

 

「そしたら、隠れていた別の男が急にスパノの過去について語り始めるんだ。『パン生地に仕掛けをした』とか『監視カメラを忘れて全部バレた』とか。そして『お前は小学生以下の馬鹿だ』って(ののし)り始めるしでもう意味が分からないんだ。この世界に無い単語ばかり言うんだもん」

 

「その男が言っていたことは、確かにスパノが語ってくれた過去の内容と同じだ。アシバロン、君に語っていた内容とも合致しているかい?」

 

「ああ、間違いないな」

 

マウントールの質問をアシバロンが肯定する。

 

「それで、そいつがスパノに姿を見せて、で倒れたから『致死塩分量(デスディーリングソルト)』が効いたと思ったんだ。けどそうじゃなかった!そいつは苦しんでる真似をしただけだった!そいつには『致死塩分量(デスディーリングソルト)』が()()()()()()()んだ!」

 

米沢が興奮したように叫ぶ。

 

「それで、そいつが()()()()でスパノの足を切断して、それでスパノはゴーギャンに滅茶滅茶に殴られて、抵抗も(ほとん)どしないまま殺されちゃった」

 

「ルイの剣!?」

 

 皆が困惑の声を上げる。

 

「私も米沢に確認したよ。確かにそいつが持っていたのはルイの剣だったそうだ。今思えば、ルイの死体の(そば)には剣が無かったな。うっかりしていたよ。ルイを殺したのも彼らで間違いないだろうね」

 

マウントールが悔しそうに言う。

 

「スパノが殺された後、もう一人隠れていた女が出てきた。その女は『魔女』って呼ばれていた。確かに服装は魔女そのものだったよ。ルイの剣を持ってた男は『リュート』って呼ばれていた。小屋にいたのはこの3人だけだったよ」

 

「念のために聞くけど、魔女やリュートについて何か知っている人はいないかい?」

 

再びのマウントールの質問だが、やはり知っている人はいなかった。

 

「スパノを殺した後の3人の会話はよく分からなかったよ。『何で私は駄目だったんだ』『言い方だ。相手の心を乱すには言い方が重要なんだ』って会話をして、それで終わりだったよ」

 

「米沢はここまでの様子を()()()()ために一旦戻ったんだ。だからそれ以降の彼らの足取りは掴めていない。今、米沢が捜索中だよ」

 

マウントールが米沢の報告をまとめた。それからは誰も口を開かなかった。皆、米沢からの報告に含まれる多くの謎に混乱している様子だった。

 マウントールが膠着状態(こうちゃくじょうたい)を打破すべく口を開く。

 

「米沢の報告における主な謎は三点だ。『彼らは何者なのか』『なぜスパノの過去を知っていたのか』『なぜスパノは抵抗出来ずに殺されたのか』。後は『相手の心を乱す』って発言も気になるね」

 

「自分の過去はキャバクラとかで話してたんじゃないの~?スパノンめっちゃキャバクラに通ってたし」

 

「それはあるかもしれないね。ただ、スパノは自分の過去を当てられて困惑していたらしいんだ。それに、彼の過去は結構恥ずかしい内容でね。少なくとも女性に好かれるために話す内容じゃ無い」

 

マウントールが御手洗の意見に対して反論をする。

 

「スパノは能力を封印されたんじゃない?何らかの魔法で」

 

「さすがだねアルミダ。私も同じ意見だよ。抵抗できなかったのは『能力が効かなかったから』じゃなくて『能力を封じられたから』だろうね」

 

マウントールがアルミダの意見に賛同する。

 

「だったら、私には()()()()じゃな~い!」

 

「自分さえ良ければそれでいいんですか?アルミダさんのそういう所、本当に最低ですね」

 

 立花亭の毒舌を受け、アルミダの顔に怒りの色が浮かぶ。しかし彼女の口調には、なぜかいつものキレがなかった。

 

「どうしたんだ立花亭?元気が無いじゃないか」

 

ギットスが尋ねる。

 

「いつもは誰よりもニブチンなのに何でこういうことだけ気がつくんですか。あんた一体どういうアンテナ張ってるんですか」

 

「だがギットスの言うとおりだ。何か心配事があるのかい?」

 

 マウントールの心配そうな声を聞き、立花亭は重そうに口を開く。

 

「いえ…、確定ではないんですが…、次に狙われるのは私なんじゃないか…と」

 

「どういうことかな?」

 

「数日前に、私とルイさんとスパノさんの三人で魔人討伐に行ったんです。その帰りに、ルイさんがいつもの暴走を…」

 

「その報告は覚えがあるよ。君が報告に来てくれたね」

 

「ルイさんがその村で殺されたのはそれからすぐでした。私には、あの日滅ぼされた村の人が関わっているように思えるんです。だからルイさんを殺してアイツの剣を手にいれ、次はスパノさんを殺して、その次は…」

 

 立花亭はその後の言葉を言わなかった。

 

「ビビってるんですかァ?」

 

 声を上げたのはアルミダだった。先程の仕返しとばかりに立花亭を挑発する。

 

「あっごめんなさいね~、わざわざこんなこと聞いちゃって。聞かなくても良かったわよね~。明らかにビビってるものね、『次に殺されるのは自分だ』って。あ~弱くてかわいちょ~!」

 

「Il n'est pas chez lui.」

 

マウントールの声で場が静まった。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?いい加減にしろ、と言ったんだ」

 

「チッ。分かったわよ」

 

アルミダはそれ以上の挑発をしなかった。

 

「とりあえずスパノの死体を見に行こう。私もまだ確認してないんだ」

 

 マウントールはノイワ村への「ワープゲート」を開いた。




 やっぱりベストナインの会話書くの楽しいですね。キャラが勝手に喋ってくれるってこういうことなんだな~と思います。
 まぁそのせいで長くなってしまって、一話で収まらなくなってしまったのですが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その3 「三者三様の厄介さ」

 投稿が遅くなってしまい、楽しみにして下さっている方には申し訳ないです。

 投稿が遅くなっている理由ですが、この所続いている暑さが原因です(社会じゃ通用しない言い訳)。
 なるべく矛盾が起きたり後で直しが入ったりしないよう、毎回丁寧に話を作っているのですが、暑いと集中力が失われ、進みが一気に遅くなります。朝は暑くて起きてしまうので夜更かし出来る時間も限られてしまいます。
 しかも暑さが収まる気配がないので本当に困り果てております。「めっちゃ寒い環境」なら上記の問題が起きず、ストーブの前で書けばOKなのに。

 私としても読者の飽きが来ないよう頑張って執筆しておりますので、よろしくお願いします。


 ここは一体どこなのだろう。分かることと言えば「人間が存在する世界ではないこと」くらい。謎の空間に存在する(やかた)の一部屋。

 部屋の中には老人が一人と白髪の美女が一人。

 美女が老人に話しかける。

 

「神様、本日の転生者の魔人討伐状況です」

 

「うむ、ご苦労」

 

 老人が美女から渡された資料を受け取り、目を通す。

 

「うむ、分かった。ご苦労じゃったな」

 

「…神様、失礼ながらお話ししたいことが」

 

「ハァ……。…何じゃ」

 

 美女が資料に目を通し終わった老人に声をかける。老人は話をするのが心底嫌だという風な反応をするが、美女は会話を押し進める。

 

「人々を殺している転生者の処分について…」

 

「またかの。もう何十回と聞いたぞ」

 

「まだ9回目です」

 

「正確な回数などどうでも良いわ」

 

 老人が怒りの声を上げる。声だけ聞けばさほど怒っているようには思えないが、それは老人が「神としての余裕」を持っているからであり、彼は確かに怒っていた。

 

「どうせ、『人を殺すような転生者は処刑すべき』、『これからはもっと慎重に転生者を選ぶべき』じゃろ?」

 

「その通りです」

 

「本当にしつこいのう」

 

 老人は(あき)れの感情を隠さない。

 

「以前に『次は無い』と警告したんじゃがの」

 

老人は静かながらもハッキリと言葉を口にした。

 

「神様が納得して行動に移して下さるのなら、私はそれで構わないのです!」

 

「お主の考えなどどうでも良い」

 

老人は美女の訴えをはねのける。

 

「前にも言ったはずじゃ。転生者を選ぶために最も重要なことは『すぐに決断してくれること』じゃと。自分が死んだことや転生のシステムに対する文句(クレーム)をワシに言ってくるような人間の相手は疲れるし、何よりも時間の無駄じゃ。転生者は魔人を討伐してくれるのなら、少しくらい性格が曲がっていても構わないのじゃ」

 

「ですが現に力を得て増長し、罪の無い人を平気で殺している転生者は存在します!もっと慎重に選定して下されば…」

 

「ワシとて転生前から人殺しを楽しんでいるような人間は選定しておらん!力を持った人間がどうなるかなど、力を持たせなければ分からんことじゃ」

 

「そんなことは…」

 

「黙れ」

 

老人が机を拳で叩いて怒りを(あら)わにする。

 

「転生者に殺される人間より転生者に命を救われる人間の方が遙かに多いのは事実。この事実が揺らがん限り、ワシの間違いでは断じてない!」

 

老人はきっぱりと自分の間違いを否定した。

 

「さ、お主はワシの警告を無視したんじゃ。覚悟は出来ているのじゃろうな」

 

「神様が考えを改めて下さるのなら、私はどんな目に遭おうと構いません」

 

「なぜワシが考えを改める前提で話をしておるのじゃ!お主の方がよほど増長しておるのではないか?」

 

老人が(あき)れ果てる。

 

「お主に罰を下す。お主を()()()()()()()。もう二度と、ここへは戻って来れん」

 

「なっ…!」

 

 美女が驚きの声を上げる。

 

「そんなに人間どもが心配なら下界に行けば良いのじゃ。ワシももうお主の顔を見なくて済む。万々歳じゃろう」

 

老人が納得したように言う。

 

「ワシからの最後の情けじゃ。下界へ落ちたお主は本来、『世界の(ルール)に反した例外(イレギュラー)』となる。ワシはいつでも天使を派遣してお主を殺せる。が、それだけはしないでおいてやろう。後は好き勝手に生きるが良い」

 

「お待ち下さいっ!私は…私はっ!!」

 

 

 

 

 

「……はっ!!」

 

 魔女が目を覚ました。彼女のいる場所は、地下室の女性陣の寝室。

 寝覚めの悪い朝だった。もう何度この夢を見ただろう。その回数は数えていなかった。

 

「おはようございます。大丈夫ですか?」

 

ケイルが魔女に声をかける。

 

「ああ…、おはようケイル。いつもの夢を見てしまってな…」

 

「また『下界追放』の夢ですか?お気の毒ですね。眠気覚ましのコーヒーはいかがですか?」

 

「ああ、ありがたく頂戴しよう」

 

 魔女は素直にケイルの厚意を受け取った。

 

 

 

 

 

 祝賀会の翌日。朝食後の地下室では「テンスレ」の今後について話し合うミーティングが行われた。

 

「さて、次のターゲットについてだがね…」

 

魔女が重たい口を開く。

 

「実はまだ決めかねているんだよ」

 

 リュートにとって意外な言葉が魔女の口から出てきた。彼は思わず魔女に尋ねた。

 

「どうしてだ?誰が相手だろうと今まで通り『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』で能力を封じれば良いんじゃないのか?」

 

「ハハハ、なるほどな。確かにお前ならば、今までの状況からそう思っても不思議ではないな。だが、現実はそう甘くないんだよ」

 

魔女がリュートの質問に答える。

 

「まずは状況を整理しようか。残りの復讐対象は、序列4の米沢反死(よねざわはんし)、序列3のアルミダ=ザラ、序列2のアシバロン=ボーナスの三人だ。この三人だが、なかなか厄介(やっかい)な相手だらけでね」

 

「どういうことだ?」

 

「その説明をする前に、なぜ神が転生者をこの世界に送るのかを理解する必要がある。少し長くなるぞ」

 

 魔女はリュートに、神が転生者を送る理由を説明した。

 

「というわけで、魔人討伐を行わない転生者は天使によって処刑される。だがすぐに殺されるわけでなく、事前に天使による警告が行われる。『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』はその際に逆上した転生者に返り討ちにされないための魔法だ。本来は何の制限もなく発動出来るのだが、私の場合は追放された際に制限がかかってな。転生者を気軽に無力化出来なくなってしまった」

 

魔女が自嘲気味に言った。

 

「さて、本題の復讐対象三人の()()()についてだ。まずはアルミダ=ザラだが、彼女の場合は彼女固有の特殊能力が厄介だ。彼女の特殊能力は『魔力変換機能(マジカルコンバーター)』と「魔力貯蔵庫(マジカルストレージ)』の二つ。この二つの能力(チート)であらゆる魔法を使いこなす、魔法のスペシャリストだ」

 

「まさか、『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』を打ち消す魔法を使う、とか?」

 

「その()()()だ。『オールマジックキャンセル』という魔法がある。()()()()()()の最上級魔法で、あらゆる補助魔法の効果を無効化する。回復魔法を含めた自分に有益な補助魔法まで効かなくなる、という弱点はあるがな」

 

最悪の予想が当たってしまった、とリュートは思う。

 

「本来、歴史に名を残すような強力な魔法使いしか使用出来ず、発動状態の維持にも膨大(ぼうだい)な魔力が()るのだが、アルミダは自分の能力(チート)でこの魔法を常に発動している状態にある。これがやっかいなのだ」

 

アルミダには『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効かない。リュートの予想が甘いものだったことを知る。

 

「次にアシバロンだが、彼の場合は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。彼の転生前は『能力も成果も無いのに不満を抱くのだけは達者な社畜』に分類されるんだが、彼は『自分の転生前の行動や考え方には何一つ間違いが無かった』と強く信じている。どれだけ他人が言い聞かせても無駄なのさ」

 

 我が生涯に一片の悔い無し、と言うやつだろうか。これではルイやスパノのように過去を言い当てても動揺させることが出来ない。

 

「じゃあ、戦っている間にアシバロンの心を揺るがせば…」

 

「そうするしかないな。だがヤツは強靱な心も持ち合わせている。憎たらしいことに()()()()だよ。そう簡単にはいかないだろうな」

 

 対処法はあるが厳しい。彼もまた、簡単には手を出せない相手だった。

 

「最後に米沢反死(よねざわはんし)だがね。彼の場合は()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

「は!?どういう意味だよ?」

 

「まぁそうなるよなー。俺もそう思ったし」

 

 困惑するリュートにジモーが横から口を挟む。

 

「リュート、お前の気持ちは分かるよ。だがね、私の調べた限り、彼の情報は()()()()()()()()()。私の調べ方が悪かったのではないぞ?彼以外のあらゆる転生者の『転生前』や『能力の詳細』を調べることが出来たが、彼の情報()()が調べても判明しなかった」

 

リュートは息を呑む。ひたすら不気味だ。米沢本人がいるわけでも無いのに冷や汗が出てきた。

 

「もう一つ、彼の場合は()()()()()()なんだよ。彼の襲った後の村は命が一つも残らない。私も長いこと生き残りを探したが、メルクリオ以外は見つけることが出来なかった」

 

「メルくんの場合は襲われ方も例外的だったのですわ」

 

 リンが補足を始める。

 

米沢反死(よねざわはんし)の村の襲い方は『大量の虫に襲わせる』方法で、このやり方では骨しか残りませんわ。でもメルくんの村の場合は、()()()()()()()()()()()()()()がいくつかありました。わたしが来たときにはメルくん以外全員駄目でしたけど」

 

リンが悲しそうに言う。全員が包帯だらけのメルクリオを見ている。当の本人は今は眠っているようだ。

 

「神にも聞いたんだが、何も教えてくれなくてね。前にも話したけど、私が『転生者が魔人討伐を行っているかどうか』以外のことを気にしているのは異常なことだったからね。米沢に関して分かっていることと言えば、虫を使役して戦うことくらいだ」

 

「で、でも『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効かないと決まったわけじゃ無いんだよな?」

 

「確かにそうだが、何をしてくるかも分からない相手に『今まで通りの方法で大丈夫だ』と高をくくって確実な勝利を得られると思うか?」

 

「…俺がルイをおびき寄せる時の作戦は『お茶にでも誘ったらどうだ』なんて杜撰(ずさん)なものだったくせに」

 

「ぷっ、何だよそのテキトーな作戦は!」

 

 ジモーが大笑いした。周りの何人かもつられて笑っている。

 

「言っただろう?あの時のお前は単なる実験体に過ぎなかったって」

 

魔女が、過去の恥ずかしい話を蒸し返された時のようにイラッとした様子で言った。

 

「とりあえず、しばらく作戦を考える。皆もその間は魔人討伐なり修行なりで自分の腕を磨いてくれ」

 

 魔女が話を締めくくる。

 

「場合によっては『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』無しでの戦闘もあり得るかもしれないからな」

 




 この物語は「チートスキルを持った転生者をチートスキルで無力化してボッコボコにしてやるぜウェーイ」という単純な話では無いということです。

 次回、新キャラ出します。

 以下、作者の愚痴です。読む価値無し。





 今月の「チースレ原作者の作品が載っている月刊漫画雑誌」を読みました。
 原作者の漫画ですが、あれは作画も駄目だと思う。下手なわけでは決して無いけど、殺し合いを描いて迫力が出る作画では決して無い。少女漫画描いていた方が合ってると思う。本家や山手線バージョンや戦国時代バージョンと比べると、バトルシーンの迫力の無さは一目瞭然だと思う。
 本家だけど、さっさと第6回戦を終わらせて欲しい。「あのキャラが生き残る」ことは絶対ないでしょ。第5回戦みたいな、本当の意味でどちらが勝つか分からない試合が読みたいです。あと、新キャラは良かった。でも最後の顔芸で先月からの新キャラが一気に小物臭くなったぞ、分かっとんのか?
 あと新連載。アレ何なんだよ。どこかで見たような設定の()()()()みたいな漫画でマジでしょうも無い。具体的に言ってあげよう。「バトルロワイヤル」「復讐教室」「ありふれた職業で世界最強」「盾の勇者の成り上がり」「生贄投票」これらの作品の()()()()を食べさせられた気分だ。チートスレイヤーとは違って露骨なパクリキャラは見られなかったけど、物語の流れが完全に上記の作品のミックスでしか無い。あと分かったことが一つあって、「異世界が舞台で主人公が第1話で復讐者になる」というストーリーを、面白い作品が作れない原作者が描こうとすると、チートスレイヤーとほぼ一緒の第1話になるってこと。チートスレイヤーはパクリキャラで笑わせてもらった分、個人的にはチートスよりも面白くなかった。
 先月の新連載のメイド漫画はものすごく面白かったのにドウシテ…ドウシテ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その4 「ウサギ娘」

(ピローン)
m○iji

『何を隠そう私は、多田野○人の筋肉です!」
※声/多田野○人の筋肉

材料屋のネズミ「何だこれはたまげたなぁ」


 翌日の朝、新聞には大きな文字で衝撃的な内容が報道されていた。

 

「訃報 「ベストナイン」メンバー ルイ、スパノ 魔人との戦いで戦死」

 

 見出しの通り、ギルド「神の反逆者」の最高幹部「ベストナイン」のメンバーであるルイ=ジュクシスキーとスパノ=ヤナティンが魔人との戦いで戦死したことを伝える内容だった。二人は日常的だった過剰な油断が原因となり魔人との戦いで命を落としたこと、二人を殺した魔人は他の転生者が仕留めたこと、火葬はすでに()り行われており後日告別式が王都で開かれること等が書かれていた。

 

「なるほど、奴らが決めた落としどころは『魔人との戦いでの戦死』というわけか。本当は誰にどのように殺されたかも分からないんだろうが、二人を行方不明のままにするわけにはいかないからな」

 

 魔女が新聞を読みながら言う。この世界にはパソコンはもちろんテレビも存在しておらず、人々が情報を得る主な手段は紙媒体である。記事の書かれた新聞は、「ベストナイン」を始めとした転生者の活躍を毎日のように報じることで購買層を急速に伸ばしている「サクワ新聞」で、リュートもよく読んでいた。

 

「今頃世間は大騒ぎだろうな」

 

 リュートは以前の自分を思い返しながら言う。毎日のようにサクワ新聞を読み、いつか転生者と一緒に魔人討伐をすることを夢見ていた自分。少し前のはずなのに、なぜだか遠い昔のように思われた。

 

「どうした?今になって自分のしたことの重大さに気付いたのか?」

 

魔女は新聞からリュートへと目線を移す。

 

「深刻に考えることはないさ。まだ転生者は沢山いるんだから二人くらい減っても問題ない、という感じで軽く考えた方が良いと思うぞ?これからのためにもな」

 

「…ああ、そうだな」

 

 リュートは魔女に賛同した。魔女の言う考え方が正しいのかはさておき、これから更に「ベストナイン」の数を減らすのだから尻込みしてはいられない。ならば、魔女の考え方が今の最善であるように彼には感じられた。

 

 

 

 

 

 「テンスレ」メンバーは普段魔人討伐でお金を稼いでいるが、魔人討伐には四人で向かうのが基本で、他のメンバーは修行をするなり買い物をするなり別行動を取っていた。

 メルクリオとリン、魔女の三人は魔人討伐に向かわない。動けないメルクリオは言わずもがな、リンは食事の準備や洗濯等の家事をしながらメルクリオの看病に付きっきりだった。魔女が魔人討伐に行かないのは、彼女には人間を殺すことが出来ないのと同じく魔人を殺すことも出来ないからである。彼女は主に人々を殺す転生者の情報を集めたり、これからの計画を練ったりしていた。

 

 この日、リュートは魔人討伐のために森へと出向いていた。一緒のメンバーはポセイドラ、ケイル、ラーシャの三人だった。リュートはこれまで、男性陣としか魔人討伐をしたことが無かったので、女性の戦闘要員二人と一緒なのはこの日が初めてだった。

 魔族は人間には無い独特の魔力を持ち、常に体から放出している。その魔族特有の魔力を探知する探知機が、魔人討伐のため、自己防衛のために売られていた。探知機に付いている針の向きと振れ幅で、魔人の大凡(おおよそ)の位置や勢力が分かるのだ。この探知機は魔力の高い人が持つと精度が上がる。今はケイルが探知機を持っていた。

 

「この先に魔族の反応がありますが、大分歩かなければなりませんね」

 

 ケイルが言う。

 

「そう言えば、リュートも剣使いだったな」

 

 ラーシャが歩きながら尋ねる。

 

「はい。結構腕には自信があったんですけど、レースバーンさんやポセイドラさんのほうが圧倒的に上手でした。二人の剣術指南を受けてるんですけど、俺なんかまだまだだったんだなって痛感しました」

 

リュートが答える。

 

「へぇ~。ポセイドラさん、リュートくんの剣術修行に付き合ってあげてるんですねぇ」

 

ケイルが意外そうな声を上げる。

 

「そうだ」

 

ポセイドラの答えは短かった。

 

「良いところもあるんじゃないですか」

 

ケイルが言う。素直に褒めているようにもからかっているようにも聞こえる。

 

「別に普通だ」

 

ポセイドラの答えはやはり短かった。照れ隠しでは無く、話すのが面倒だ、というニュアンスが感じ取れた。

 

「もう、やっぱり冷たいんですね」

 

ケイルが呆れたように言う。二人の会話を続けると空気が悪くなると判断したのか、ラーシャがリュートに話しかける。

 

「だがリュート、あの二人に見てもらっているのは心強いんじゃないのか?」

 

「はい!自分がより強くなってる実感が湧いてくるので心強いです」

 

「…こいつの腕は悪くない」

 

ポセイドラがボソリと短い言葉を口にした。

 

 四人が魔族の反応に向かって歩いていると、何か変な声が聞こえてきたようだった。耳を澄ませると、それは誰かのすすり泣く声だった。誰かが怪我をしているのだろうか。彼らは泣き声のする方へと歩を進めた。声は茂みの奥にある木の下の方から聞こえた。

 声のする方向まで十歩程近づいたその時、すすり泣きが大声に変わった。

 

「ひえええええぇぇぇん!!だ、誰ですかぁ!!?」

 

リュート以外の三人が反射的に身構える。しかしリュートは

 

「ま、待ってくれ!俺たちは泣き声がするから近づいたんだ!怪しい者じゃない!!」

 

と大声を上げた。

 

「ふ、ふええ?そうなんですかぁ?」

 

「ああ、決して危害は加えないよ」

 

そう言ってリュートは声の主に近づく。他の三人もリュートの後を追った。

 声の主は案の定、木の(ふもと)でうずくまって泣いていたようだ。その姿を見てリュート達は驚いた。声の主は()()()()()()の少女だった。年齢は十代半ばくらいだろうか。とても可愛い顔をしていた。リディアを上回る可愛さにリュートはドキッとしてしまう。

 

「俺はリュート。魔人討伐のために森に来ていたんだけど君の泣き声が聞こえて、ここに来たんだ」

 

 リュートは平静を装いながら自己紹介する。

 

「わ、わたしはバニーラ。バニーラ=チョコミクスですぅ」

 

バニーラと名乗る少女も名前を名乗った。

 

「気をつけて下さいね、リュートくん」

 

バニーラの名前を聞いたケイルがリュートに耳打ちする。

 

「この子は転生者ですよ」

 

 彼女がバニーラを転生者だと断言した理由は二つある。一つは彼女の名前に苗字があったことである。名前と苗字があるのは転生者の特徴だ。

 もう一つは彼女が()()だったからだ。この世界に人間と同レベルの知能を持つ種族は三種だけだ。人間、魔人、そして獣人である。しかし()()()()()()()()()()()()()()に限定すれば人間と魔人だけである。獣人は元はこの世界に存在しない種族、つまり転生者だけだった。

 

「大丈夫です」

 

リュートはケイルに小声で返す。他の二人も警戒を崩さない中で、リュートがバニーラに話しかける。

 

「どうして泣いていたんだ?良ければ話してくれないか?」

 

「ふ…ふえぇ…。わ、わたしも魔人討伐に仲間と一緒に来てたんですけどぉ、他の足音が聞こえて様子を見に行ったら、皆とはぐれちゃいましたあぁ…」

 

バニーラが泣きながら答える。

 

「その足音ってもしかして俺達のなんじゃないか?」

 

「そ、そうみたいですぅ…。びええええぇぇぇん!!心配(じんばい)じで(ぞん)じまじだぁぁ!!」

 

彼女はなおも泣き続ける。リュートは彼女を放っておけなくなった。

 

「も、もし良かったら一緒に仲間を探してあげようか?」

 

「ふ、ふえぇ?ほ、本当ですかぁ?」

 

「ああ、君が良いんなら」

 

「おい、大丈夫なのか?」

 

 二人の会話を聞いたポセイドラが思わずリュートに問いかける。

 

「多分大丈夫だと思います。彼女、何だか無害そうですし」

 

リュートは正直に自分の考えを伝える。

 

「ええ、私も大丈夫だと思いますよ」

 

ケイルも同意する。最も彼女の場合、「こんな間抜けそうな子が危ない転生者とは思えない」と思ってのことだったが。

 

「も、もしよろしいんでしたら、よ、よろしくお願いしますぅ!」

 

 バニーラが立ち上がってお辞儀する。その姿を見てリュートはまた驚いた。でかい。今まではしゃがんでいて分からなかったが、女性の身長にしては余りにも大きかった。人の身長を超えるほどでは無かったが、少なくともリュートは彼女以上に背の高い女性を見たことがなかった。中肉の高身長、へそから下の下半身と胸部と肘から先の腕が白い毛に(おお)われていて、それ以外は人間の皮膚。手は人間と同じ大きさの兎の手だった。胸は魔女以上の大きさだったが身長の高さ(ゆえ)に普通の大きさに思える。瞳の色は赤く、白いロングヘアーの上に長い白のウサ耳が生えている。

 

「あ、ああ。よろしくね」

 

 こうしてリュート達は、高身長ウサギ娘の仲間を見つけるために歩き出した。




 新キャラ登場回でした。本当は一話完結にしたかったんですけど無理でした。

 バニーラも転生者なので、元ネタはベストナインの元ネタと同じ特徴を持ちます。ただ、ベストナインの元ネタと比べると、深井戸指数はほぼ無いに等しいですね、個人的に。普通にほっこりする内容だからでしょうか。ただその分見かける頻度も圧倒的に少ない。ドウシテ…ドウシテ…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その5 「夢、叶えし者」

星1/地属性/獣族/攻 150/守2050
甘いものがとっても大好きな甘党うさぎ。
世界一甘いと言われる甘糖人参を探し求め、
今日も明日もニンジンをかじりたい。


 リュート達は、バニーラが来たという方向へ進んでいく。

 

「この方向ですと、途中で魔族の群れに突き当たってしまいそうですよ」

 

「だ、大丈夫ですぅ!わたしも戦えますから!皆さんの足は引っ張りません!」

 

 ケイルの警告にバニーラは自信満々に答える。「転生者だから戦闘は大丈夫だろう」という考えと「この子に戦闘なんて出来るんだろうか」という相反した考えが四人の頭によぎった。

 

「戦えるのか?」

 

ポセイドラが単刀直入に聞いてしまう。

 

「はい、バッチリ戦えますよ!わたしの『人参武器(キャロットウェポン)』でイチコロです!」

 

 聞き慣れない技名が彼女の口から出てきた。リュートはポセイドラに習って単刀直入に聞いてみることにした。

 

「バニーラさんって、転生者なんですか?」

 

「あ、はいそうです!わたしは転生者ですぅ」

 

彼女は素直に答えた。

 

「それより…、わたしのことは呼び捨てで構いません。それに、敬語も使わないで普通に話して欲しいなぁ、と。その…丁寧に話しかけられることに慣れていなくて…」

 

「慣れていない?」

 

「そうなんですぅ、転生前から丁寧語で話しかけられたことが無いので」

 

「それってどういう…」

 

「リュートくん?女の子のプライベートにズケズケ入っていっては駄目ですよ」

 

 ケイルがリュートを注意するとバニーラが首を振る。

 

「いえいえ、大丈夫ですぅ!わたしの過去を皆さんにお話ししようと思ってましたから!その…他に話すことも無いので…」

 

 そう言って彼女は自分の転生前について語り出す。

 

「わたし、転生前は普通のウサギだったんですぅ」

 

「だから、ウサギの獣人なのか」

 

「そうなんですぅ。獣人は皆、転生前は動物だったみたいですよ」

 

ポセイドラの反応に彼女は答えた。獣人の転生前は動物だった。この情報は誰も知らなかった。

 

「普通のウサギといっても…わたしはものすごく体が大きかったんですぅ」

 

 バニーラは回想を続ける。

 

「ペットショップで売られていたんですけど、体が大きいせいでなかなか飼い主が見つからなくて…」

 

「その『ペットショップ』っていうのは?」

 

聞いたことの無い単語についてリュートが尋ねる。

 

「はわわ、すみませぇん説明不足で…。わたしのいた世界では人間が飼育する動物を売るお店がありまして、それを『ペットショップ』って言うんですぅ」

 

バニーラが慌てて説明をする。

 

「ようやく飼い主が見つかっても『大きいのがこんなに不便だとは思わなかった』って言われて返されることもあって…。でも、三番目にわたしの飼い主になってくれた方は私にとても優しくしてくれました。その方に大切に飼われて、わたしはウサギとして幸せな一生を送ることが出来ました」

 

「いい話じゃないか」

 

 バニーラの話を聞いたラーシャが言う。リュートも同じ感想だった。

 

「それで、死んだと思ったらわたし、神様の元にお呼ばれされて。そこで『今度は別の世界で人間達のために頑張ってみないか』って誘われたんですぅ。確かにわたしは『大切にしてくれたご主人様に何か恩返しがしたい』ってずっと思ってたんですぅ。でもウサギのままじゃ人間の役に立てなくて…。でも、神様はわたしに人間の体をくれました。『その体で今度は人間達の助けになりなさい』って。この世界にご主人様はいませんけれど、同じ人間を助けることが出来るなら、わたしはそれで幸せなんですぅ」

 

 彼女の話を聞いてリュートは思わず感動してしまう。ご主人様が人間だとしても、彼女をペットショップに返したヤツも同じ人間だっただろう。それなのに、人間全体への恩返しをご主人様への恩返しだと考え、見ず知らずの世界の人間を助けようとするとは。とてもいい子だと思った。それと同時に「ルイやスパノとは大違いだ」とも。

 

「感動の話をしてくれたところで申し訳ないのですが…」

 

 感動的な気分に浸るリュートを、ケイルの言葉が現実に引き戻す。

 

「魔族の群れがこちらに近づいてきています。結構大きいですよ」

 

「はわわ、うっかりしてましたぁ!よく聞いたら足音が近くまでぇ!!」

 

 バニーラが慌て出す。確かに前方から敵群の影が見えてきた。

 

「とっくに気付かれているようだな」

 

「バニーラの言う方向も私たちの獲物も同じ方向だっただけだ。ちょうどいい」

 

ポセイドラとラーシャが武器を構える。ポセイドラの武器は黒に見えるほど濃い藍色(あいいろ)の刀、ラーシャの武器は純白のフルーレだった。

 

「リュートくん、バニーラさん、準備して下さいね」

 

ケイルも武器を取り出す。彼女の武器は(えだ)…では無く(つえ)。魔法使いの持つ杖だった。

 

「バニーラの武器って…?」

 

リュートがルイの剣を抜きながら尋ねる。

 

「わたしの武器はこれです!」

 

 そう言って彼女が取り出したのはニンジン…どこからどう見てもニンジンだった。オレンジのニンジンに緑の(くき)と葉っぱが付いている。掘り起こしたばかりのようなニンジンだった。

 

「に、ニンジンん!?」

 

「リュート、こいつは転生者だ。何か仕掛けがあるはずだ」

 

 困惑するリュートにポセイドラが言う。

 

「来ますよ!」

 

 ケイルの言葉通り魔族が目の前まで迫っていた。大きな犬ほどの魔族から人間の倍近くの巨体をした魔人まで。大小様々の魔族が10体はいた。

 

「皆、目を閉じろ!!」

 

ラーシャはそう叫んで魔法を発動する。

 

「『フラッシュ』!」

 

彼女のフルーレからまばゆい光が放たれる。強烈な目くらましの呪文だ。

 

「うわあああ!目が、目がああぁぁ!」

 

バニーラが悲鳴を上げる。リュートはギリギリで目を閉じることが出来たが、彼女は遅かったようだ。二人はラーシャがこんな手を使うとは知らなかった。

 

「全く…」

 

ポセイドラが呆れる。

 

「ラーシャさん、貴女(あなた)の戦い方を知らない人がいるのに、駄目じゃないですか」

 

ケイルがラーシャを注意する。

 

「す、すまん!いつもの癖で…」

 

ラーシャも素直に謝罪する。しかし彼女の目くらましは魔族達にも効果は絶大だった。のんきに話していられたのもこのためだ。

 

「皆さん、しばらくお願いします。バニーラさん、目を開けて(あお)()けになって下さい」

 

「ふ、ふえぇ?」

 

「心配しないで下さい。目くらましを直す目薬です」

 

 ケイルは小さな薬瓶を(ふところ)から取り出す。彼女は薬師(くすし)だ。目くらましを食らってしまった際の対処として持ち歩いていたのだ。

 

「すまない、この(つぐな)いはする!『ライトフェザー』!」

 

ラーシャがフルーレを振ると、光の羽が現れる。彼女がフルーレを魔族に向けると羽もそちらに飛んでいき、魔族の体を穿(うが)つ。

 

「これなら俺は『エンチャント』を使わなくとも良さそうだな」

 

 ポセイドラが(ひと)()つ。

 

「行くぞ、リュート。俺はデカブツを斬る」

 

言うが早いか、ポセイドラは巨体の魔人目がけてジャンプをし、剣を振りつつ着地する。次の瞬間、魔族の体は()()()()()()のようにバラバラになって崩れ落ちる。

 

「す、すごい…」

 

リュートも感心しながら、ラーシャと一緒に羽で重傷を負った魔族達を切り伏せていく。

 が、三人の目に新たな敵が映った。巨体の魔人を始めとする前衛の魔族を討ったことで、後の敵が見えるようになったのだ。ポセイドラが斬った魔人とは別の意味で巨体だった。背丈はヒトの大きさ程だが、丸い大きな球体の体をしている。ズシンズシンと大きな音をたてながらゆっくりと前進してくる。その背後にも魔族が十数体控えていた。

 

「皆さん!お待たせしましたぁ!!」

 

 リュートの背後から声が聞こえる。バニーラの声だった。

 

「皆さん、左右に散ってくださぁい!」

 

彼女の指示通り、三人は魔族の群れに道を空ける形で左右に退く。

 

「『人参武器(キャロットウェポン)』、(ウィップ)!!」

 

 バニーラの叫びと共に、ニンジンがどんどん小さくなっていく。それと同時に茎と葉が細く長く伸びていき、あっという間に、オレンジのニンジンが分銅となった緑の(むち)が完成する。

 バニーラは鞭を伸ばし、巨体の魔族の足に引っかける。彼女が鞭を持った手を引くと、巨体の魔族が前方に転んだ。

 

「『人参武器(キャロットウェポン)』、(ランス)!!」

 

彼女の指示でニンジンが形を変える。オレンジのニンジンの先が鋭くなり、茎がまっすぐ伸びて堅くなる。ニンジンが穂先となり、茎と葉が()となる(やり)が出来上がる。

 

「でええええい!!」

 

 バニーラは素早い動きで槍を動かし、魔人の巨体を幾度も(つらぬ)く。球体は穴だらけになり、グシャリと崩れ落ちる。

 

「では、残りは私が」

 

 バニーラの後方にいたケイルが杖を魔族に向けると、杖の先から黄色の液体が噴射される。彼女の杖は、杖に見せかけた()()()()だったのだ。

 

「『ウォーターボール』」

 

ケイルが呪文を唱えると球体の水の塊が現れる。杖に見せかけたスポイトは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。水の塊が先に噴射された黄色の液体を飲み込み、黄色の液体の塊になる。

 

「『エレメントウォーター』」

 

 ケイルが追加の呪文を唱えると、液体が動きを止めた。彼女が杖を指揮棒のように振ると液体もそれに合わせて動き、魔族の群れの上で動きを止めた。

 

「『エレメントウォーター』は自分の指定した液体を自在に操れるようになる魔法だ」

 

 あっけにとられるリュートにポセイドラが解説をする。

 

「降り注ぎなさい」

 

 ケイルがそう言って杖を振ると、液体の塊はザッと音を立てて魔族に降り注ぐ。魔族はうなり声を上げながら倒れ、動かなくなる。

 

「魔族にのみ効果のある毒です。皆さん、(とど)めをお願いします」

 

 リュート達は息のあった魔族に止めをさし、勝利を手にした。

 

「やった!勝ったよ、バニーラ!」

 

「えへへぇ、わたし、お役に立てましたかぁ?」

 

「もちろんだよ!バニーラの能力ってすごいなぁ」

 

リュートとバニーラがハイタッチして勝利を喜ぶ。

 その時、バニーラの耳に(かす)かに声が聞こえた。

 

「おーい、バニーラどこだぁ」

 

「あ!仲間が来ましたぁ!お~い!わたしはここですよぉ!!」

 

彼女は夢中で声の聞こえた方向に駆けていく。しばらく走って彼女は仲間を見つけた。

 

「あ、いた!おい心配したんだぞバニーラ!」

 

「えへへぇ、心配かけてすみません、皆さん」

 

「魔族の大きい反応があったんだけど大丈夫だったの?」

 

「はい、大丈夫でした!優しい皆さんが一緒に戦ってくれたので…」

 

 そう言ってバニーラが後ろを振り向くが、そこには誰もいなかった。

 

「あれ、あれれれれ?置いて来ちゃったみたいですぅ」

 

「バニーラ、誰かに助けてもらったの?」

 

「『神の反逆者』に所属する転生者なのに恥ずかしいぞ」

 

「えっへへえ、すみませぇん」

 

「どうしたの?なんだかご機嫌ね」

 

「え、そうですかぁ?」

 

バニーラは笑顔で言った。

 

「わたし、夢を叶えることが出来てるなぁって思っちゃいまして!」

 

 

 

 

 

 リュート達四人は、バニーラが駆けていった方とは逆方向に去って行く。

 

「本当に良かったんでしょうか?」

 

「むしろ追いかけていった方が問題だ。俺たちはルイとスパノを殺してるんだぞ。もしアイツの言う仲間が『神の反逆者』のメンバーだったらどうする?」

 

「そ、そうでした…」

 

ポセイドラの言葉にリュートは素直に納得する。

 

「でも、それならアイツに顔を見られた時点でアウトなんじゃないか?」

 

「…言われてみればそうだな」

 

今度はポセイドラがラーシャの言葉に納得する。

 

「でも、私は彼女が危険な子だとは思えません」

 

「お前がそんな風に言うとは。一体何があった?」

 

ケイルにポセイドラが尋ねる。

 

「あの子、私の目薬の処方を素直に受けてくれました。私達のことを少しでも敵視していたり、私達の事を(だま)そうと考えているなら、毒かも分からない目薬なんて嫌がったはずです。でも彼女はそれをしなかった。だから私は彼女のことを危険じゃ無いと思ったんです」

 

ケイルが答えた。

 

「俺もそう思います。最も、俺の場合は完全に勘なんですけど…」

 

リュートもケイルに賛同する。

 そんな中、リュートは頭の中で別のことを考えていた。

 

「今日、俺はバニーラって転生者と一緒に魔族の討伐をした。『いつか転生者と一緒に戦いたい』って夢を俺は今日叶えていたんだなぁ」




 新キャラのバニーラ=チョコミクス、いかがでしたでしょうか?

 私が今回この新キャラを出した理由は、「マジメに魔人討伐を頑張る良い転生者もいるんだ」ということを伝えたかったからです。皆さんも彼女のことは変に疑わず、温かい目で見てあげて下さい。

 こんなこと、原作者は絶対書かなかっただろうなぁ。あ、ごめん、決めつけちゃいけないよね。良い転生者を書くつもりもあったかもしれないよね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()をパクったキャラでさ。






 それから、「テンスレ」メンバーの一部の戦い方をご紹介しました。彼らの武器は、元ネタと同じ武器を使うキャラもいれば、違う武器を使うキャラもいます。

元ネタと同じ武器…ゴーギャン、ポセイドラ、ラーシャ
元ネタと違う武器…ケイル

 特にラーシャはオリジナル成分の多いキャラで、「元ネタと同じ武器を使う」という特徴は、貴重なパクリ要素です。その他のパクリ要素と言えば、「姉を殺した相手への復讐」の要素ですね。もう一つ付け加えると、彼女の元ネタは漫画のキャラじゃないです。
 他の「テンスレ」メンバーが()()()()()()()()()()のパクリキャラなのに、なぜラーシャというイレギュラーがいるのか。理由は主に3つです。
 一つ目は、()()()()のパクリキャラだけでメンバーを作ると、戦う女性キャラが少なくなってしまうからです。
 二つ目は、ケイルとは別ベクトルのクールビューティーが欲しいと思ったからです。実際にクールビューティーになれているかはさておき。
 三つ目は、「テンスレ」にはリュートと魔女が加わるわけで、それを踏まえて()()()()のパクリキャラだけでメンバーを作ると、二人の場違い感が強くなってしまうからです。
 以上の三つが理由なので、「ラーシャだけ()()()()のパクリキャラじゃないから彼女は裏切り者なのでは?」とか疑わなくて大丈夫です。ラーシャもちゃんと仲間です、安心して下さい。

 それよりも、「テンスレ」メンバーの大半の元ネタである「()()()()」が何なのか未だに分かってない人っているんかなぁ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その6 「エンチャントソード」

とーとつにボツ転生者 Vol.1

 始まりました、不定期開催企画「とーとつにボツ転生者」のコーナーです。このコーナーでは名前の通り、様々な理由でボツになってしまった転生者を発表するコーナーです。もちろん転生者には元ネタがあります。そして転生者の元ネタには「例の特徴」があります。それでは始めましょう。



名前:タンショ=スモッツ

通称:「謎解き天パ」

能力:謎解きに関係する能力

風貌(ふうぼう):黒の天然パーマで、ダッフルコートを着た男性

好物:ハチノス、きなこと黒蜜のかかったアイスクリーム

唐揚げには:韓国のり

ボツ理由:当初はベストナインのメンバーになるはずだったキャラ。しかし、謎解きに関係する能力が思いつかなかった(周りの事象を謎に変換するのか、謎解きをすると自分に有利な何かがあるのか)。そしてなにより、読者が納得できるクオリティの謎解きを作る能力が作者になかった。だからといって、「『やっぱりあった、監視カメラ!』『なんであんな所に監視カメラが…』」とか「みんなモーニングセットを頼んでいるのにあの人はサンドイッチを頼んでいる。あの人は怪しい」とか「『毒はワインに入っていたのではなく、ワイングラスに塗られていたんです!』『すてき!結婚して!』」だとか…便所のネズミのクソにも匹敵するくだらない謎解きで満足するのは、プライドが許さないのでボツになりました。

ジョースター卿から一言:逆に考えるんだ。自分がピンチの時にSOSの暗号を考えつくなんておかしい。アイツは犯人とグルだ、と考えるんだ。


 バニーラと出会った日の夜、リュート達は魔女にバニーラの話をした。魔女のことだからきっと辛辣な悪口が飛び出すのだろう、と考えていた彼らだが、意外にもそうでは無かった。

 

「ほう、獣人の転生者か」

 

「獣人は皆、転生前が獣だったというのは本当か?」

 

「ああ、その通りだよ。この世界に転生者として送られる獣は、ほとんどが『人間に飼われていた獣』なんだよ。人間に大切にされた獣は、人間に対する感謝の心を抱きやすい。しかし、獣のままでは満足に恩返しが出来ない。そんなフラストレーションを、魔人討伐による人類の救済という形で解消させるわけだ。私はね、『獣人の転生者』というシステムは結構気に入ってるんだよ」

 

「意外だな。魔女が転生者を気に入るとは」

 

「獣は人間よりも単純だ。転生後に増長して悪事に走りそうなヤツはすぐ分かるから選別されない。そして人間達への感謝を示そうと一生懸命になりやすい。魔人もしっかり討伐するし、コミュニケーション能力もバッチリだ。だけど、しっかり転生者としてやっていけそうな獣は少なくてね。どうしても数が少なくなってしまうんだよ」

 

 リュートは魔女の説明を聞いて、バニーラの人当たりが良い理由を理解した。

 

 

 

 

 

 翌日

 

 この日の魔人討伐はケイル、ラーシャ、ジモー、ゴーギャンの四人が行っていた。リュートは地下室の外でポセイドラとレースバーンと共に剣の修行をしていた。ルイによって滅ぼされた村には、修行に使える空き地がいくつもあった。魔女はここ数日、次の作戦を地下室で練っていた。

 リュートは村一番の剣術自慢ではあったが、他の「テンスレ」メンバーと比べると戦闘能力では劣っていた。パン祭りの準備期間中から、二人に剣術の修行に付き合ってもらっていたが、二人の剣術はリュートが見たことがないほど上手だった。やはり世界は広いのだ、と思わずにはいられないリュートだったが、彼の才能は二人も認めるほどだった。

 

「そろそろ、こいつにも『エンチャント』を教えても良いかもしれないな」

 

「ああ、そうだな!」

 

 昼食後、ポセイドラの提案にレースバーンが賛同する。

 

「えんちゃんと?」

 

「『エンチャントソード』、剣に魔法を乗せることで攻撃力を上乗せする技術だ」

 

レースバーンが説明をする。

 

「俺たちは今まで君に剣術だけを教えてきた。最初からある程度の技術はあったようだが、ここで修行を始めてから君の腕前は更に上達しているぞ!俺たちも驚いているほどだ。断言しよう、君には間違いなく才能がある!」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

レースバーンの熱い賛辞にリュートの口から感謝の言葉が出てくる。

 

「『エンチャントソード』を覚えることが出来たなら、君の強さはますます上がる!覚えて損は無い技だ」

 

「…でも俺、これまでも魔法の練習を何度かしたことあったんですけど、上手く使えたことが無くて…」

 

 魔法は剣術に比べて才能の有無が重要となる。極端な話、どんな人間だろうと剣を持って適当に振れば、相手を傷つけることは出来る。そこから修行をすることでどれだけ剣の技を磨くか、というのが剣術だ。一方、魔法とは体内の魔力を用途に分けて放出する技能だ。自分が思ったとおりの魔法を使うには才能が必要なのだ。知識や技量は日々の努力で身につけることが出来ても才能は身につかない。事実、魔法を全く使えずに魔人と戦っている人間もこの世界には沢山いる。

 リュートはルイに村が襲われるまでの間、いつか転生者と共に魔人討伐をすることを夢見て、戦いの基礎を習得しようとしていた。彼には剣術の飛び抜けた才能があり、独学で村一番の剣術自慢になり、ここ数日の修行で二人が驚くほどの上達ぶりを見せていた。

 一方、魔法に関しては自信がなかった。今は亡き幼なじみのリディアは魔法を多少使えていたので、彼女から教わっていたこともあるが、結局初級の攻撃呪文を使いこなすことすら出来ないままだった。

 

「よし、その程度ならば問題は無い!」

 

レースバーンが勢いよく断言するので、リュートは少々面食らった。

 

「リュート、俺たち二人も最初から剣術と魔法の両方が使えていた訳ではない!俺は火属性魔法が得意だったが、剣術はさほど得意ではなかった。ポセイドラは初めて会ったときから剣の腕前は達人級だったが、今ほど魔法は使えていなかった。俺たちは互いに互いを教えあい、『エンチャントソード』の修行をしていったのだ!」

 

 レースバーンは誇るような表情で言っているが、ポセイドラの表情はどこか不満げだった。恐らく、魔法が上手く使えなかった過去を暴露されたのが気に食わなかったのだろう。

 

「それにだ!何もしないで諦めてしまうのは、もったいなさ過ぎるではないか!『エンチャントソード』の技能は魔法を唱えることと完全に一緒というわけでは無い!もしかしたら出来るかもしれない、そう考えて修行をしてみることに何のデメリットがあるだろうか?出来たなら御の字、出来なければ仕方なかった、そう割り切って修行をするべきではないか!?」

 

 リュートはハッとした。確かに自分はまだ何もしていない状況で諦めていたのかもしれない。これから戦うベストナインのメンバーは「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」が効くかも分からない強敵だらけだ。新しい技術を習得しないまま戦うのは危険だ。

 

「すみませんでした、レースバーンさん。俺、やってみます!」

 

 リュートが「エンチャントソード」の修行を始めた理由は、レースバーンの言葉に心を動かされたこともそうだが、ポセイドラに恥をかかせてしまったことも理由の一つだった。

 

「よし、まずは俺の技を見せてやろう!俺の『エンチャントソード』はもちろん火属性!『エンチャントファイア』!」

 

 レースバーンが魔法を唱えると、彼の剣の刀身が炎に包まれる。

 

「『エンチャントソード』の習得に必要なのは想像力だ。火属性魔法の場合は、自分の剣の刀身が着火剤だと想像する。その着火剤に火が付けば当然炎が上がるだろう。火を付けるのは当然、自身の魔力だ」

 

 レースバーンの説明を聞き、リュートは剣を握る。剣が着火剤で出来ているものだと想像する。その想像を保ったまま自身に眠る魔力が炎に変わっていくのを想像、そしてその炎を剣に着火させる。

 

「『エンチャントファイア』!」

 

 …何も起きなかった。いや、正確には刀身が少し温かくなった。湯たんぽの代わりにはなりそうだ。怪我をしても責任は負えないが。

 

「うん、まぁ最初はこんなものだろう!『エンチャントウォーター』も試してみるか!ポセイドラ、お手本を見せてくれ」

 

「『エンチャントウォーター』」

 

 ポセイドラは早速魔法を唱える。刀身が水流に包まれた。(つば)から切っ先に向かって水が流れる。切っ先まで流れた水は魔法で鍔に戻ることで水流が永遠に続く仕組みだ。

 

「ポセイドラは今、水の流れをかなり遅くしている。本来は今の何百倍も水の流れを速くすることで殺傷力を上げる技だ」

 

確かに今の水流は目で追える早さだ。このままではただ刀に水がまとわりついているだけだ。

 

「流れの速い川は水の流れを見ることが出来るな?その水の流れを切り取って刀身にかぶせるイメージだ」

 

 リュートはポセイドラに言われたとおりのイメージを頭に浮かべる。そしてそのまま自身に眠る魔力が水に変わっていくのを想像、その水を刀身に流す。

 

「『エンチャントウォーター!』」

 

 …やはり何も起きない、いや、刀から水が(したた)った。

 

「まぁ最初はこんなもんだ。しょうがないしょうがない」

 

 ポセイドラがリュートを励ます。リュートとしては、「最初はやはりこんなものか」という気持ちと「これなら行けそうだ」という気持ちと「このまま上手くいかないで終わるのではないか」という気持ちの三つがまぜこぜになっていた。

 リュートは不安だけを押さえ込むために、レースバーンに尋ねる。

 

「ラーシャさんは光属性魔法を使ってましたよね?」

 

「ああ、確かに彼女は光属性魔法をフルーレの剣術に合わせて戦う。だが、光属性魔法は熱量を上げるほど明るさも上がってしまう。剣の威力を上げるほどの熱量の光属性魔法を『エンチャント』すると眩しさに目がくらむか目を閉じるか、どちらにせよ何も見えない状況で剣を振ることになってしまう」

 

「そ、そうなんですね…」

 

ラーシャの「フラッシュ」をまともに受けたバニーラはケイルの治療を受けるまで目が見えない状況になってしまった。あの明るさを剣に付与すれば、まともに戦えなくなるのは間違いない。

 

「そもそも、お前の得意属性は何だ?」

 

 ポセイドラが口を開く。

 

「え?」

 

「それを知るのが最初なんじゃないか?」

 

 リュートとレースバーンはしばらく言葉が出なかった。肝心なことを調べていなかったのだ。

 

「あっはははは!こいつはうっかりしていたな!いやいやゴーギャンじゃあるまいし…」

 

 レースバーンが高らかに笑う。

 

 そんな彼の背後に突然、「ワープゲート」が開く。

 「ワープゲート」から一人の男が出てくる。

 その男の放つ()の凄まじさに、三人は反射的にそちらを向く。冷や汗が吹き出す。

 

 薄いグレーの上下ジャンパーにクリーム色のヘルメット。上のジャンパーには黄色の反射帯、ヘルメットの正面には緑の十字。ベストナインの序列2、通称「Mr.土方」のアシバロン=ボーナスに間違いなかった。

 彼は辺りを見回し、口を開く。

 

「ここか?祭りの場所は…」




 今回の話を書いた中で気付いたことがあります。
 私は…()()()()()()()()()()()()です。
 この話の大まかな流れは前々から考えついていたのですが、修行シーンが上手く書けず、中盤ものすごく苦労しました。
 理由は明白ですね。私自身が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からです。受験くらいじゃないかな。部活とかも入ったことがありません。
 まさかこんな所で今までの生き方のしっぺ返しを食らうとは…トホホ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その7 「俺が行く」

 コメント欄に関して、一つお伝えしたいことがあります。

 私自身は皆様からいただいたコメントにGOODもBADも押したことは一度もありません。
 どんなに嬉しいコメントをいただいてもGOODは押していませんし、どんなに「このコメントはちょっと…」と思うことがあってもBADは押していません。

 理由としては、特に深い理由とは言えないかも知れませんが「コメントに返信出来る権利を持っているのは作者の自分だけなのだから、コメントに対しての反応は返信で行おう」と考えているからです。

 ですので、コメントにされているGOOD及びBAD評価は完全に第三者からの評価である、ということをご理解ください。

 最後になりますが、コメントを下さる皆様ありがとうございます。
 当作品のコメント欄は誰でもウェルカム(文字通り)。ログインしていない人も書き込みできます。感想、意見、間違いの指摘、元ネタの予想等、楽しみにしております。
 
 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よろしくお願いいたします。



スパノ死亡日の翌日

 

 マウントールの開いた「ワープゲート」をくぐり、ベストナインのメンバーはノイワ村へとやってきた。突然の英雄の凱旋(がいせん)に驚いた村の人達が次々と集まってくる。

 

「皆、いつも応援ありがとう!今回は我々にとって重要な任務があって来ているんだ。君たちに危険は無いから、我々が来たことは見なかったことにしてくれないか」

 

 マウントールはそう言いながら、人々を立ち去らせる。それでも立ち去らない人を追い払う役目は御手洗幼子(みたらいようこ)が引き受けた。

 

 米沢反死(よねざわはんし)の案内で一行は村の外れに建てられた小屋にたどり着く。

 

「突貫工事の小屋だな。少なくとも、長く使う目的で建てられたものではない」

 

小屋を見ながらアシバロン=ボーナスが言う。

 小屋を開けると、スパノの死体が頭(だった部分)を出入り口の方向に向けた状態で倒れていた。左足が切断され、頭と両腕が粉々に砕かれており、辺りに骨片や肉片が散らばっている。

 死体の惨状を見て、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)は吐き気を覚えてしゃがみ込む。アルミダ=ザラは腕で視線の先の死体を隠すようにして後ずさる。

 

「ルイよりも殺し方がひどいな」

 

そう言うギットス=コヨワテは顔色一つ変えない。

 

「ここまでひどい死体は()()()()でも一回か二回見たぐらいだ」

 

アシバロンが言う。米沢は死体を見ないようにして、足を震わせながら奥の冷蔵庫に向かう。

 

「その冷蔵庫がどうかしたのか?」

 

「こ、この冷蔵庫から魔女が出てきたんだ」

 

 アシバロンの質問に答えながら、彼は冷蔵庫の扉を開ける。そして「あっ」と声を上げた。

 

「どうしたんだい?」

 

「こ、この冷蔵庫、ハリボテだ…中に何も無いんだ」

 

米沢の言うとおり、冷蔵庫の中には何もなかった。冷蔵庫では無く()()()()()()()()だった。

 

「どうやらこの小屋自体がスパノを誘い込むために作られたようだな。キッチンの設備も最低限かつ安価品ばかりだ」

 

 小屋の中を見渡しながらアシバロンが言う。

 

「かわいそうにな…。こんな死は臨んでいなかっただろうに」

 

そう言いながらマウントールは死体をのぞき込む。

 

「どうしたのよマウントール、随分しんみりしてるじゃない?ルイの時はあんなにサバサバしてたのに」

 

「サバサバ?」

 

 アルミダの問いかけにマウントールが返す。

 

「サッバサバよぉ~。ルイの時は『かわいそうに』的なこと一言も言わなかったじゃないの」

 

アルミダはルイの死体を見つけたときのことを思い出しながら言う。

 

「それは単純に…()()()()()()()()()()()()()()()()()だよな?」

 

「随分ストレートに言うんだね。でもまあ、それが正解だね」

 

ギットスのストレートすぎる意見をマウントールがあっさりと認めたので、他の皆は少しあっけにとられてしまう。

 

「どうしてそんな反応をするんだい?皆本当は気付いていたんだろう?私がルイを嫌っていたことは。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マウントールの言う通り、彼がルイを嫌っていることはベストナイン全員が気付いていた。誰が相手でも優しく接する彼の、ルイに対する態度は明らかに異質だったからだ。

 

「もちろん知ってたわよ、そんなこと。品行方正(ひんこうほうせい)なアンタが他人を嫌っていたことをあまりにもあっさり認めるから面食らっただけよ」

 

アルミダが皆の思いを代弁する。

 

「あの…私、外に出ていたいんですけど…」

 

 しゃがみ込んでいた立花亭が震え声で主張する。

 

「私も出るわ。全くスパノも迷惑な男ね!弱いのは良いとして、死ぬなら綺麗に死んで欲しいもんだわ」

 

アルミダが立花亭に便乗し、さっさと外に出てしまう。立花亭も彼女に続く。

 

「どうする?これ以上ここにいて何か分かることってあるのか?」

 

 女性陣が出て行ったのを見て、ギットスが問いかける。

 

「そうだね、分かることと言えば…」

 

スパノの死体をしばらく観察していたマウントールが立ち上がりながら言う。

 

「スパノの剣も無くなっている、ということくらいか。他に何か分かったことはあるかい?」

 

問いかけに対して首を横に振る三人。

 

「そうか、ならばもう用は無いね。出よう。幼子ちゃんにもこのことを伝えねばならないしね」

 

 この言葉を受け、残っていたメンバーも小屋を後にした。

 小屋を出た一行に、御手洗が駆け寄ってきた。

 

「みんな~!()(ぱら)ってきたよ~!」

 

「ありがとう、幼子ちゃん。とりあえず判明したことを伝えるね」

 

マウントールは御手洗に、スパノの死体の状況や小屋の様子を伝える。

 

「今言ったけど、スパノの死体の状況はとてもむごたらしいんだ。それでも見に行ってみるかい?」

 

マウントールの問いかけに御手洗は首を激しく横に振る。

 

「それで、スパノの死体はどうするの?」

 

「それもだが、ルイとスパノの死を世間にどう知らせるのだ?」

 

下手人(げしゅにん)達はどうするんですか?」

 

 アルミダ、アシバロン、立花亭が次々とマウントールに質問をぶつける。だがマウントールは、それらの質問に関してもすでに考えてあったようだ。

 

「世間には、二人は魔族との戦いで戦死したと伝える。無用な混乱を防ぐためだ。そのためにもスパノの死体は、誰にも知られていない今ここで、小屋ごと焼き払ってしまおう。我々だけではこの小屋からこれ以上の何かを見つけることは出来ないだろう」

 

「二人を殺すほどの魔族がいる、という報道の方が混乱を招くと思うが?」

 

「そこは、二人は日頃の油断が(たた)って死んだ、ということにして、二人を殺した魔族もすでに討ち取ったと報道する。『ベストナイン』を殺して回っている人間がいる、という報道の方がマズいだろう?」

 

「なるほどな」

 

アシバロンの懸念を解消したマウントールは立花亭の質問に答える

 

「二人を殺した集団についての対応だが、米沢の発見報告が来てから考えよう。まだ彼らの目的も分からないままだ」

 

「そんな…」

 

彼の悠長な答えに立花亭が絶望したような声を出す。

 

「そんな声を出さないでくれよ。そもそも()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

 

「…えっ?」

 

唖然とする立花亭。

 

「なんだいその反応は?『ベストナイン』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だってことは前から何度も言っているだろう?日頃の行いはともかく、誰かに負けるような転生者では困るんだよ」

 

 マウントールは平然と言葉を口にする。しかし彼の言葉に明確に動揺しているのは立花亭だけだった。他のメンバーは彼の言葉に驚いた様子は見せていない。アシバロンとアルミダにいたっては、笑って同意をしていた。

 

「だからね、立花亭。君が、自分に襲いかかってくるかも分からない魔の手に怯えることは構わない。だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうなったら君は『ベストナイン』に相応しい転生者ではなかった、ということになる」

 

「そ…そそそ、そんな…」

 

立花亭が絞り出すような叫びを上げる。

 

「そんなことってありますか!?このままではメンバーが更に減らされるかも知れないんですよ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 場が静まり返る。マウントールは困ったように口を開く。

 

「やれやれ…()()()()()()()()()()()()、困ったな。だが自分で『日頃の行いはともかく』と言ったばかりだ。責められないね」

 

彼は頭をかきながら言葉を続ける。

 

「まあ()()()()()()()()()()()()()()()()()。何か手を打たなければ…」

 

「俺が行く」

 

 マウントールの言葉を遮り、アシバロンが言う。

 

「発見の報告が入り次第、俺がそいつらを潰しに行く。それでいいだろう」

 

 彼はそう言うと、唐突に立花亭の胸ぐらを掴む。誰も止めることが出来なかった。

 

「だから立花亭!早急に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!今すぐにだ!!」

 

 そう言って手を離す。立花亭は恐怖の色を隠せないまま叫ぶ。

 

「ひっ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んん!!」

 

「…よし、それでいい」

 

立花亭の言葉を聞き、アシバロンが納得したように言う。

 

「良いのか、アシバロン?君を失うことはこの世界の損失だ。我々としても君が死ぬようでは白旗を上げざるをえないね」

 

 マウントールの心配をアシバロンがはね除ける。

 

「心配無用だ、俺は死なん。魔人は歯ごたえが無いヤツばかりでしょうもない。男として闘志を呼び起こすような相手が現れるのを待っていたのだ」

 

彼はニヤリと笑った。

 

 

 

 

 

二日後の昼

 

 アシバロンは建設現場で昼食を食べていた。そんな彼の近くに黒い虫の大群が集まってくる。近くの人間が思わずその場を離れる中、アシバロンは身動(みじろ)ぎもしない。黒い虫が集まって徐々に人の形を成していき、一人の男が現れる。米沢反死(よねざわはんし)だった。

 

「あ、アシバロン、例の奴らが見つかった」

 

「分かった。食い終わり次第向かおう」

 

米沢の報告を聞き、アシバロンが言う。

 

「さて、骨のあるヤツなら良いのだが」




 この世界の冷蔵庫は、氷属性魔法の力を封じ込めることで食品を長持ちさせる、家具の一種です。見た目は皆さんの想像にお任せしますが、この世界の電化製品とは違う、というわけです。

 オリンピック野球日本代表の皆さん、金メダルおめでとうございます!
 これに関連して、この作品の裏話を一つ。
 原作から名前がそのまま使われている「ベストナイン」ですが、「ゴールデングラブ」という名前への変更も一時期考えていました。それでも「ベストナイン」という名前をそのまま使うことにしたのは、(ダサいかどうかは置いといて)メンバーの人数が組織名に使われている幹部集団の名前が好きだからですね。十刃(エスパーダ)とか(リアル)六弔花(ろくちょうか)とか飛び六方とか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その8 「過去紹介」

コッチヲミローハートアタック「シア」


 アシバロンは米沢が言う場所に「ワープゲート」を開く。そこは以前ルイが滅ぼした村であったために場所を知っていた。ベストナインのメンバーを二人も殺した相手がどんなものなのか、彼は若干の期待を抱きつつゲートをくぐる。

 

「ここか?祭りの場所は…」

 

 ゲートの先は荒廃した村の空き地。目の前には剣術修行の最中と見られる男が三人。オレンジ髪の男、左半分がえんじ色で右半分が深緑色という特徴的な服を着た黒髪の男、そしてもう一人は…

 

「あいつか…」

 

アシバロンは(ひと)()ちる。

 

「なっ…」

 

 リュート達の方は動揺を隠せない。緑の十字が付いたクリーム色のヘルメットに薄いグレーの上下ジャンパー、上着には黄色の夜光反射帯。ベストナインの序列2、アシバロン=ボーナスに間違いなかった。しかも彼はポセイドラの復讐相手でもある。

 高まる緊張感の中、レースバーンがポセイドラを片手で制止しつつ言う。

 

「これはこれは、『Mr.土方』アシバロン=ボーナス様。このような辺鄙(へんぴ)なところへ何用ですか?」

 

何も知らない人から見れば、この状況は単にアシバロンが荒廃した村に来ただけである。リュート達の討伐に来たとは限らない。牽制(けんせい)のつもりだった。

 

「やめとけ!やめとけ!貴様らだろう?ルイとスパノを殺したのは。こっちは確かな情報を元に足を運んでいるからな。しらばっくれても無駄だ」

 

アシバロンはこう答え、リュートに顔を向ける。

 

「お前がリュートだな?」

 

 リュートは息を呑む。ルイやスパノを殺したことも、自分のこともバレている。相手はどこまで知っているのか、困惑で真っ白になりそうな頭を必死で正気の状態に保つ。

 

「おい…」

 

「ああ、抵抗は無駄なようだな」

 

 ポセイドラとレースバーンが小声で言葉を交わす。相手がどこまで知っているのか分からない。無意味に情報を与えてしまう発言は避けたい。

 

「リュート、こいつが知っているのは恐らくお前だけだ。分かるな?」

 

ポセイドラの言葉を耳にし、リュートは考えを巡らせる。

 

「ポセイドラさんは今、殺意を抑えて俺に忠告したんだ。無闇に相手に情報は与えられない」

 

 三人の会話を聞き、アシバロンが口を開く。

 

「賢明だな。俺がある程度の情報を持っていることを知り、これ以上の余計な情報を与えないようにしているな?ならば、逆にこちらの情報を教えてやろうか」

 

そう言って彼は言葉を続ける。

 

「アシバロン=ボーナス。ギルド『神の反逆者』幹部『ベストナイン』の序列2。通り名は『Mr.土方』。もう一つの顔は建築業者『アシバロン建設』の(トップ)。特殊能力は『現場監督(ビルドエンペラー)』。自分の監督する建設現場にいる作業員を、自分の思い通りに強制的に働かせる能力。この能力を常に50人以上に対して発動している。この能力の維持に魔力のほとんどを使っているため、戦闘は肉弾戦で行う」

 

 唐突な敵の自己紹介に対し、三人は動かない。相手がわざと無防備な状態をさらしているのは明白だ。不用意な攻撃は危険すぎる。アシバロンが「言葉を介して発動する能力」を持っていないことは知っている。この自己紹介自体に危険性は無い。彼の能力も知っていた。むしろ今は相手の思惑を知りたかった。

 だが、相手の次の言葉には動揺せずにはいられなかった。

 

「転生前の本名は、『大和田(おおわだ) 一人(かずと)』。職業は建設現場の現場監督。死因は過労死、享年53歳」

 

リュートは動揺を隠せなくなった。彼がいきなり転生前の情報をバラし始めたのはなぜか。考えられる理由は一つだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。その牽制として、転生前のことを話しているのだ。

 

「どうしたリュート?随分と動揺しているじゃあないか。言っておくが、この程度の転生前の情報はすでにベストナインのメンバーには言ってあるぞ。なのにお前は動揺している。なぜか。『自分が相手の転生前の情報を握っていることを、相手は知らないと思い込んでいたから』だ。いや、こうも考えられるな。『向こうから転生前の情報を語られるとマズいから』かもしれんな」

 

リュートの動揺が激しくなる。相手は自分の様子を見て、更に情報を引き出そうとしている。平静を保とうにも、予想外の状況や相手の与えるプレッシャーが邪魔をする。そんな彼の様子を見たレースバーンが相手に言葉を返す。

 

「随分と親切だな!懇切丁寧(こんせつていねい)に自己紹介してくれるとは。目的は何だ!?」

 

「目的?彼の反応を見て情報を引き出すことだよ」

 

「そうか、ならば邪推だな。彼は単に『相手が急に転生前の情報を話し始めたことに驚いているだけ』だ。それに、俺が聞きたいのはそっちじゃない!何しにここに来たのか、を聞いているんだ」

 

「随分と必死だな。なるほど、俺の本来の目的か。言わずとも分かるんじゃないか?」

 

アシバロンはハッキリと言葉を口にする。

 

「『ベストナイン』を殺して回る不届き者を始末するためだ」

 

「そうか!ならば!こちらも簡単にやられるつもりは無い!!」

 

 レースバーンはそう言い放ち、右手を上空にかざす。手の平に大きな赤い魔法陣が浮かぶ。

 

「無駄話をしてくれて助かったぞ!お陰で大技を放つ準備は万端だ!『エンペラーファイアボール』!!」

 

魔法陣から巨大な火球(かきゅう)が現れる。家二軒をまとめて飲み込める大きさだ。初級の火属性呪文「ファイアボール」とは比べものにならない。レースバーンはその巨大な火球をアシバロンに投げつける。

 避ける隙が無かったのか、アシバロンは火球をモロに食らってしまう。巨大な火柱が上がり、アシバロンの姿は完全に飲み込まれた。

 

「いくら転生者でも無事では済まないだろう!…あっ!すまない!!」

 

隣にいる仲間の復讐相手に思わず手を出してしまった。レースバーンはポセイドラに勢いよく頭を下げる。

 

「構わない。このくらいではヤツは死なないだろう。それに、誰の復讐相手かなど関係なく()()()()()()()()()()()()()()()()()()。こちらのことを知りすぎだ」

 

()()()が怒らないか?」

 

「そんなことは言ってられない」

 

 二人は言葉を交わしつつも臨戦状態を解かない。いつ火柱から相手が出てくるか分からない。リュートも二人に習い、火柱に剣を向け体制を整える。

 案の定、火柱からアシバロンが出てくる。ゆっくりと歩きながら。驚くことに()()()()()()()

 

「ば、馬鹿なっ!いくら転生者でも無傷なんてあり得ない!」

 

「ふん、良い火力だな。確かに()()()()()()()()()()()()()()。だが相手が悪かったな」

 

 困惑するレースバーンに対し、アシバロンが言う。

 

「俺が転生時に神に願ったモノ。それは『建設作業で死なない体』だ。建設現場では材料の加工、溶接に火属性魔法を使う。(ゆえ)()()()()()()()()()()()()()()()()()()。元々火属性耐性の強い体で転生はしていたが、日頃の鍛錬で火属性耐性を更に上げている。他の属性ならともかく、火属性魔法は俺には通用しない!」

 

高らかに宣言するアシバロンに対し、今度はポセイドラが魔法を放つ。先程のレースバーンのように上空にかざした右手に、大きな青い魔法陣が浮かぶ。

 

「『エンペラースピニングウォーター』」

 

現れたのは巨大な渦潮。それを見たアシバロンは地を蹴り、左に跳ぶ。ポセイドラが投げた渦潮はアシバロンに当たらず、未だに燃え盛る火柱に直撃する。

 

「どこを狙っている」

 

そう言い放つアシバロンに対し、レースバーンが斬りかかる。

 

「『エンチャントファイア』!」

 

単なる剣では無い、火属性魔法が付与された剣。そんなレースバーンの剣をアシバロンはなんと()()()()()()()()()()()

 

「言ったはずだぞ。火属性魔法は俺には効かん。更に『建設現場で死なない体』を追求した俺の肉体は、そこらの刃物では傷が付かない。全て無駄だ」

 

睨むレースバーンに対しアシバロンが吐き捨てる。片手がふさがれているこの好機をリュートは逃さなかった。

 

「はあああああああ!!」

 

 アシバロンに斬りかかるリュート。アシバロンはリュートの剣は手で受け止めようとせず、剣を振り上げたリュートの腹を左足で蹴りつけた。彼のキックをモロに受けたリュートは大きく吹っ飛ばされ、地下室とは別の家の残骸に直撃する。

 

「その剣はルイのものだな?流石にソレは手で受け止められんな。だが、使い手が()()では宝の持ち腐れだな」

 

 強い衝撃で動けないリュートを(あざけ)るアシバロン。そんな彼に対して口を開く男が一人。

 

「さっき、『どこを狙っている』と言っていたな。答えは火柱だ。あんなのがあっては本領が発揮できないからな」

 

ポセイドラだった。彼は深い藍色の刀をアシバロンに向けて魔法を唱える。

 

「『エンチャントウォーター』!」




 アシバロンの特殊能力「現場監督(ビルドエンペラー)」は本当は「そのまんまの名前」にしようとしたのですが、流石に止めときました。出版社も作者も大物過ぎるわ。

 巨大な渦潮を放つ魔法「エンペラースピニングウォーター」は、本当は「エンペラー+渦潮の英語」にしようと思ったのですが、渦潮の英訳が聞いたことの無い単語だったので、分かりやすさを追求しました。ダサくなってしまったけど許して。やっぱり分かりやすさがナンバーワン!

 そう言えば、原作のルイが最初のカラーページで放っていた魔法も「ウィンドウォール」でしたね。やっぱり分かりやすさがナンバーワン!
 ところで、原作のルイの能力の一つに「詠唱無しで魔法を放てる能力」があったのに、どうして彼はカラーページで詠唱をして魔法を放っているんですか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その9 「ポセイドラの過去」

「フウウウウウウ~~~。わたしは…自分の作品がアニメ化されていたころ…犬塚惇平先生の『異世界食堂』ってありますよね…。あのアニメ…ネットで見た時ですね。あの『異世界食堂』がわたしの作品のアニメより上回っている『円盤の売り上げ枚数』…。()()…初めて見た時…。なんていうか…その…下品なんですが…フフ……

嫉妬

しちゃいましてね…。『異世界食堂』のヒロインをパクって敵キャラにして…自分のキャラクターに殺させようとしていました」

「オイ…『異世界食堂』ナンカヨリ『小林さんちのメイドラゴン』ヲ見ロッ!」

「コッチヲミローハートアタック、マジやばくね」


 ポセイドラが「エンチャントウォーター」を発動すると、彼の刀身が水流に包まれる。いや、水流なんてレベルでは無く、激流だ。リュートに見せた時の、水の流れが見える早さではなく、白い水しぶきが刀身を見えなくさせるほどの早さだった。

 

「あんな火柱が近くにあっては水が蒸発してしまう。だから消火が最優先だった。お前の命を刈るのは…この(やいば)だ」

 

 ポセイドラが刀をアシバロンに向けて宣言する。

 

「なるほど、超高速の水流で殺傷力を上げた刀か。」

 

 そう言ってアシバロンは、右手で(つか)んでいた剣ごとレースバーンを投げ捨てた。

 宙に放り出されたレースバーンは受け身を取って着地する。すぐにでも反撃しようかと考えたが、自分の剣では勝つビジョンが見えない。ポセイドラの戦いを観察し、勝機を見出すことにした。

 

「行くぞ!」

 

 ポセイドラがアシバロンに向かって突進する。リュートと違い、隙を最小限に抑えながらもすぐに刀を振ることの出来る姿勢だ。対するアシバロンは先程と同じくポセイドラの刀も手で受けようとする。

 だがアシバロンの手に刀が触れる寸前、アシバロンは後ろに跳躍し距離を置いた。跳ぶ寸前、バシィッと言う音が響く。自分の右手を見るアシバロン。手から血が流れていた。若干ではあったが、刀に流れる激流が彼の右手を削っていたのだ。

 

「ふむ…たかが水だと油断していたな。もう少しで右手を持って行かれるところだった。お見事お見事」

 

「逃がさん」

 

 ポセイドラはアシバロンを追撃する。アシバロンに向け刀を振るポセイドラ。アシバロンは彼の刀を、余裕を持った状態で(かわ)す。

 出来るならば、相手の攻撃を躱す際は、相手の攻撃に対してギリギリの所で躱すのが良い。相手に「あと少しで自分の攻撃が当たるところだった」と錯覚させ続けることで、相手の冷静さを欠くことが出来るからだ。しかし、今のアシバロンはそれをしない。先程ギリギリの所で相手の刀を躱した際にダメージを負ってしまったからだ。刀に流れる激流は、殺傷力を上げるだけでなく攻撃範囲を広めてもいた。

 刀を躱し続けるアシバロン。達人級の剣術を持つポセイドラの攻撃を躱し続けるのは、さすが序列2と言ったところだ。しかし彼自身にもポセイドラを止める手立てが今の所は無かった。油断は出来ない。彼は先程からこちらの様子をうかがっているレースバーンへの注意も忘れていなかった。

 

「なかなか頑張るじゃあないか」

 

「当たり前だ。俺はお前を殺すために腕を磨き続けてきた。お前だけは絶対に許さん!」

 

「ほう、俺が何かお前にしたことがあったかな?」

 

「俺にしたわけじゃ無い!お前に対して許せないのは俺の…」

 

 ポセイドラは普段絶対にしないような雄叫びを上げる。

 

「俺のダチの命を奪ったことだぁ!!」

 

 

 

 

 

 数年前まで、ポセイドラには幼なじみでありながら親友でもある存在がいた。名前はザビーノ。同じ村で育ち、互いに互いを鍛えてきた。成長した二人は村に並ぶ人間がいないほどの強者になっていた。ポセイドラは村一番の剣術自慢、ザビーノは村一番の格闘自慢だった。

 ポセイドラには夢があった。転生者にも劣らないギルドをザビーノと作りたい。そしてそのギルドのツートップとして、ザビーノと一緒に自分の名を世界中に広めたい。そんな夢を幼い頃から二人で共有してきた。

 

 ある日、ポセイドラはザビーノに大事な話があると呼び出された。

 

「なんだザビーノ、大事な話というのは」

 

「ポセイドラ。俺たちは今まで、二人で最強のギルドを作って、二人で転生者に負けないほど有名になって…。そんな夢を追いかけて強くなってきたよな?」

 

「ああ」

 

「…すまないっ!俺、お前に今まで言わなかった、『やりたいこと』があるんだ!」

 

 親友からの突然の告白にポセイドラは驚く。

 

「俺はもっともっと強くなりたい。そのためにこの村を出て、転生者の元で強くなりたいんだ!」

 

「ザビーノ…」

 

「ごめんな、裏切りでしかないよな、こんなの…」

 

 確かにポセイドラは、転生者は自分たちの超えるべき目標であって転生者の元で強くなるのは本末転倒だ、と考えてきた。

 しかし、親友の告白を聞いて心が揺らぐ。自分が勝手に抱いてきた考えで、親友の道を閉ざして良いのだろうか?そんなことはポセイドラには出来なかった。

 

「何を言うんだ。俺には俺の、お前にはお前の考えがあって当然だ。それにお前は『二人で転生者を超える』って夢を捨てたわけじゃないだろ?その夢を叶えるための、転生者の元での修行なんだよな?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「なら、お前の進む道を俺が邪魔する理由は無い。俺は一人で修行を積んで、お前に負けないほど強い男になってやる」

 

「ポセイドラ、ありがとう!」

 

 ザビーノは深々と頭を下げる。

 

「やめろザビーノ。それより、何か当てがあるのか?」

 

「ああ。『ベストナイン』の序列2、アシバロン=ボーナスの元で修行をする」

 

 ギルド「神の反逆者」には、転生者に憧れて入団する者も多い。しかしそういった人間は、同じ思いを抱いて入団した現地人や、力の足りない転生者と一緒に行動をすることになるのがほとんどだった。

 しかし、ザビーノの目論見(もくろみ)はそれではなかった。魔人討伐とは別の事業としてアシバロンが創設した「アシバロン建設」。今までに無かった建築設計と、アシバロンの転生者としての名声で、この世界の建築業界の頂点に位置していた。この「アシバロン建設」では、アシバロンが能力で操って働かせている魔人の他に、アシバロンの元で強くなることを夢見て志願してきた現地人も働いている。ザビーノもそれを望んでいたのだ。

 

「なあポセイドラ、お前も俺と一緒に行かないか?」

 

 ポセイドラを誘うザビーノ。しかしポセイドラはまだ「転生者と共に強くなるのは本末転倒だ」という考えを捨てきれないでいた。

 

「いや、俺は行かない。俺はお前をここで待っている。いつか必ず、強くなってここに戻ってこい!」

 

「ポセイドラ…。ありがとう!必ず戻ってくる!」

 

 こうしてザビーノは王都へと旅立った。

 

 時が過ぎて夏になった。連日猛暑が続いていた。一人で修行を積んでいたポセイドラは、ふとザビーノのことが心配になり、王都へ向かうことにした。道中幾度か魔族や魔人が襲ってきたが、彼の相手にはならなかった。

 王都に到着したポセイドラは町で情報収集をする。

 

「すまないが、『アシバロン建設』は今どこで作業をしているんだ?」

 

情報はすぐに手に入った。「アシバロン建設」はその知名度に反して、複数箇所での建設は行わない。今建設が行われている現場にザビーノも必ずいる、と考えポセイドラは現場へと向かった。この日も激しい暑さだった。

 建設現場は王都の中央区から少し離れた場所にあった。建物は半分ほど出来上がっており、作業区画の周りは気の柵で囲まれていた。

 柵の外側からザビーノを探すポセイドラ。材木を担いだ一人の男に目が行った。

 

「ザビーノに顔は似ているが、あいつはあんなにやつれていない」

 

最初はそう思っていたが、見れば見るほどザビーノに見えて仕方が無い。そうして注視していると、向こうからポセイドラに話しかけてきた。

 

「…ポセイドラ?どうしてここに?」

 

「ザビーノ?ザビーノなのか!?」

 

二人は柵を挟んで向かい合った。

 

「どうして王都に来てるんだ?」

 

「それよりもお前、どうしてそんなにやつれているんだ!?別人かと思ったぞ!」

 

「ハハ、そうか…。いやなに、ここでの作業はなかなか強烈でね。予想外だったよ。強くなるためとは言え、こんなに苦しい思いをするなんてね」

 

「ザビーノ、戻ってこい!そんな作業なんて止めて今すぐ俺と帰ろう!」

 

「ポセイドラ、それは出来ない。約束しただろう?強くなって戻ってくるって。転生者の元で強くなるんだ。こんなことで弱音は吐けない」

 

「ザビーノ…」

 

 言葉を失うポセイドラ。その時、ザビーノの後ろから声がする。

 

「おい、そこのお前!何をサボっている!?」

 

「おっといけない。そう言うわけだから、お前は村で俺の帰りを待っていてくれ」

 

ザビーノはポセイドラに背を向ける。

 

「そう言う約束だっただろ?ポセイドラ」

 

「……ああ」

 

 ポセイドラにはザビーノを無理矢理連れ戻すことが出来なかった。

 

 村に帰ったポセイドラだが、ザビーノのことを考えない日は無かった。

 

「あの建物の完成が終わったら、アイツも考えを改めるに違いない。その時もう一度アイツに会いに行こう」

 

そう考え、工事完成の予定日を聞き出しておいた彼だったが、日が経つにつれ我慢が出来なくなっていく。

 数日後、彼は再び王都へ向かった。人目に付かずにザビーノを連れ戻せるように夜に着くことにした。

 ポセイドラは工事現場にたどり着く。建物は予定よりも早く完成していた。ザビーノはもういないのだろうか。そう考える彼の耳に男の声が聞こえた。

 

「アシバロン様、今回の工事における死者は魔人が574体、現地人が38人です」

 

「ふむ、予期していたのとほぼ同じ数だな」

 

 不穏な会話を耳にし、声が聞こえたほうに駆け寄るポセイドラ。そこにはアシバロン=ボーナスと男が一人いた。

 

「おい、なんだお前は?関係者以外は立ち入り禁止だぞ!」

 

「ザビーノは…ザビーノはどこだ!?」

 

 アシバロンの隣にいた男に対し、大声で問いかけるポセイドラ。

 

「ザビーノ?ザビーノ…。ああ、アイツなら今回の工事の途中で死んだよ」

 

「なっ…!!」

 

 ポセイドラは激しい絶望感と喪失感に襲われ、しばらく何も考えられなくなる。

 

「おい、こいつは何なんだ?」

 

「どうやら、工事で死んだザビーノに会いに来たようですね。追い返します」

 

「いい。俺がやる」

 

アシバロンと男の会話もポセイドラには半分しか聞こえなかった。だが、一つだけ分かることがある。アシバロンは、自分のダチの命を奪った男だ。

 

「うおおおおおおおお!!!!」

 

 何も考えず、剣を振り上げアシバロンに襲いかかるポセイドラ。だが、そんな考えなしの攻撃にひるむ相手ではなかった。

 

「ふん!」

 

 アシバロンの蹴りによるカウンターは、ポセイドラを遙か遠くまで吹き飛ばす。強く地面に叩きつけられたポセイドラはそのまま意識を失った。

 

 目を覚ますとポセイドラはベッドの上にいた。目の前には知らない女が一人。

 

「気がついたか」

 

 魔女を名乗る女は混乱しているポセイドラに状況を説明する。そして彼女はアシバロンの本性を彼に伝える。

 

「アシバロンは『工事で無理矢理使役させているのは魔人だけだ』などと世間に言っているがそれは嘘だ。ヤツは自分の特殊能力『現場監督(ビルドエンペラー)』で魔人だけでなく、ヤツに憧れた人間をも無理矢理使役させ、工事を行っているのさ」

 

 ポセイドラは激しい怒りを覚えた。

 

「ヤツが憎いか?ならば殺そう。お前の友人の(かたき)を討てるように、私がしてやろう」

 

ポセイドラは魔女について行くことに決めた。そうするしか、ザビーノの敵を討てそうに無かった。




 ポセイドラの過去話で終わってしまった…。もっと進めるつもりだったのに。やっぱり誰のものだろうと、過去話は長くなってしまいますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その10 「万策尽きる」

とーとつにボツ転生者 Vol.2

 不定期開催企画「とーとつにボツ転生者」のコーナーです。「Vol.1」とあった通り、続けます。今回は双子です。



名前:ドラゴ=ワング、ドラゴ=ツーディ

通称:「ドラゴンツインズ」

能力:目を見た相手に催眠をかけて思い通りの行動を取らせる能力。魔力が高い相手ほど効果が上がる。二人で同時にかけると効果が上がる。

風貌(ふうぼう):イケメン男性の一卵性双生児。頭に竜の角が生えた竜人。ワングは赤い戦闘服で明るい茶髪、ツーディは青い戦闘服で暗い茶髪。

好物:どら焼き、リュウゼツランから作られた謎の白い液体

唐揚げには:チューブ入り唐辛子

ボツ理由:当初はベストナインのメンバーになるはずだったキャラ。しかし双子なので、二人で一人扱い(二人で一つの序列扱い)なのか、別扱い(一人ずつ別の序列が与えられている)なのかのどちらかになってしまう。前者は私個人として気に食わない(「ベストナイン」なのに十人いるっていうのが嫌。アーロニーロとか左近と右近みたいな同じ体に二人いるっていうのなら許せる)し、後者だと、9しか無い枠を圧迫してしまうのでボツになりました。ベストナイン以外の(ひら)転生者にするには、竜人ってキャラも能力も強すぎるのでこれも駄目。

ジョースター卿から一言:逆に考えるんだ。竜が相手なら氷属性で戦えばいいさ、と考えるんだ。
???「ちょいとでもおれにかなうとでも思ったか!()()()()ァ~~!」


「ほう、『俺のダチの命を奪ったこと』か…」

 

 ポセイドラの叫びを聞いたアシバロンが言う。

 

「俺のダチはお前の命じた過酷な労働が原因で死んだ!だから俺はアイツの(かたき)として、お前を討つ!」

 

「それは変だな。『アシバロン建設』で不当に働かせているのは魔人だけだ。『現場監督(ビルドエンペラー)』は魔人を殺すために与えられた能力だからな。人間を同じ扱いにしたりはしない」

 

「嘘をつくな。お前が建設現場で、魔人以外にも人間を何人も死なせていることは知っている!」

 

「ほう…、知っていたのか。だが、魔人と人間では扱いが違うのは本当だ。魔人には与えていない睡眠時間を、人間にはしっかり与えているし、最低限の食料しか与えていない魔人に比べれば、人間に与える食料はしっかり力を出せる量だ。だから人間の死者は魔人の一割にも満たない」

 

「そんな屁理屈は聞きたくない!俺は…ザビーノを殺したお前を絶対に許さない!!」

 

 ポセイドラの叫びを聞き、アシバロンは思案を始める。

 

「ザビーノ?どこかで聞いた名だ。……ああ、お前は()()()()()()()か!殺すつもりで蹴り飛ばしたのだが生きていたとはな。恐れ入ったよ、この世界の人間も意外と頑丈なのだな」

 

アシバロンは納得がいった様子で言う。そして、ポセイドラを挑発するかのようにこう付け加えた。

 

「食事も睡眠もしっかり与えてるというのに()()()()()()()()()()()ぁ~!てっきりこの世界の人間は体が弱いのかと、そう思っていたよ!」

 

「き、貴様あぁぁぁ!!」

 

 このようなやりとりをしている間も、ポセイドラは攻撃の手を緩めていない。しかし心は怒りや憎しみで満たされていながらも、剣の扱いは荒くなっていない。彼の刀の振り方には隙がほとんど無く、アシバロンも反撃が出来ないでいた。

 このままではキリが無い。だが、ポセイドラには()()()()()があった。彼はその一撃を放つタイミングを虎視眈々(こしたんたん)と狙っている。

 ひたすら刀を振るポセイドラ。それを避けるアシバロン。刀の切っ先の延長線上にアシバロンの左胸が重なる。ここだ。

 

「『ウォーターレーザー』!」

 

 ポセイドラの刀を包んでいた水が、刀から一直線に高速で放たれる。まるで激流のレーザービームだ。ポセイドラの狙いはこの魔法でアシバロンの急所を貫くことだった。

 が、アシバロンは()()()()()()()()()()()()()()()避けた。いや、正確には避けきれず左肩を上から一センチほど(えぐ)られた。しかし急所に当たることは避けた。

 そして、ポセイドラの刀を包んでいた水が無くなったこのタイミングを逃す彼ではなかった。渾身のカウンターキックをポセイドラにぶつける。

 

「ぐああぁ!!」

 

アシバロンの蹴りでポセイドラが吹っ飛ぶ。

 この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を狙っていた男が一人。レースバーンだ。彼はアシバロンの背後から、右肩と首の間を目がけて剣を振り落とす。熱で気付かれないよう、「エンチャント」はしていない。

 ゴッと音が鳴る。剣がアシバロンの肉体に当たる。

 だが、それ以上動かなかった。レースバーンの剣は、アシバロンの皮膚を切り裂くことには成功した。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「くっ!!」

 

 剣を動かそうと歯を食いしばるレースバーンの方を振り返りアシバロンが言う。

 

「狙いは悪くなかった。完全に食らったのがその証拠だ。だが何が足りなかったのだろうな?奇襲を狙うあまり剣を振る力を抑えてしまったのが原因か、はたまた単純に剣そのものの切れ味か」

 

「『エンチャントファイア』!!」

 

 アシバロンの言葉を無視して、レースバーンは己の剣に炎を流す。自分の剣は今わずかだがアシバロンの肉体に刺さっている。体の内側に炎が当たればダメージを与えられるのではないか。そう考えての魔法だった。

 そんな期待を裏切るかのようにアシバロンは身動(みじろ)ぎ一つしない。

 

「無駄だよ。火属性魔法の耐性を上げていると言っただろう?」

 

 そう言いつつ、アシバロンは背後の敵に向けて(ひじ)打ちを食らわせる。

 

「かはっ」

 

ダメージを受けうずくまるレースバーンをアシバロンは蹴り飛ばした。

 ポセイドラ、レースバーンそれぞれがアシバロンから離れた場所でダウンする。受けた蹴りのダメージは大きく、すぐには立て直せない。アシバロンは両肩から流れる血を確認しつつポセイドラのいる方に体を向ける。

 

「お前も狙いは悪くなかったぞ。『ウォーターレーザー』だったかな?()()()()()()当たっていたよ。だが運が悪かったな。俺の元いた世界には『ウォータージェット』と言う、高速の水流を利用した切断方法があってな。資材の切断なんかによく使ったよ。そしてその切断方法はこの世界の建設現場でも使われている。お前の刀の水流を見て、似たような攻撃をしてくるのではないかと踏んでいたのさ」

 

アシバロンは満足そうに言いながら、ポセイドラへ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 話はポセイドラが「ウォーターレーザー」を放つ少し前にさかのぼる。

 リュートは最初に受けたダメージから回復しつつあった。ポセイドラに加勢したかったが、二人の攻防に考え無しに突っ込んでいけば足を引っ張りかねない。機をうかがっているところに、声が聞こえた。

 

「どうしたリュート?修行にしては少々騒ぎすぎじゃないか?」

 

 魔女の声だった。戦いによる振動が地下室まで響いており、心配になって「遠隔会話(テレパシー)」で話しかけてきたのだ。

 

「魔女、大変なんだ、ベストナインのアシバロンが突然やってきて俺たちに襲いかかってきた!」

 

 リュートは魔女に返事をする。「遠隔会話(テレパシー)」による会話は外には聞こえない。

 

「何だと!?」

 

「俺たちがルイやスパノを殺したことがバレているんだ」

 

「そうか…。どうやら『ベストナイン(むこう)』を見くびっていたようだな。敵は一人か?」

 

聞かれたリュートは辺りを見渡す。

 

「多分アシバロンだけだ。少なくとも他の姿は見えない」

 

「そうか。だが厄介なことに変わりは無いな。よりにもよってアシバロンが来るとは…」

 

苦しそうに魔女が言う。ポセイドラが「ウォーターレーザー」を放ったが、アシバロンに(かわ)された。

 

「アイツは強い。このままじゃやられてしまう!魔女!俺にアイツの転生前のことを教えてくれ!」

 

リュートが魔女に訴えている間にポセイドラが蹴り飛ばされ、レースバーンが斬りかかる。

 

「し、しかし…」

 

「効果が出ないかもしれないことは分かっている!でもやるしか無いんだ!」

 

アシバロンにレースバーンが蹴り飛ばされた。

 

「…分かった。アイツが地下室近くまで来てからアイツの過去をバラすんだ、分かっているな」

 

「分かった、頼むぞ魔女」

 

アシバロンがポセイドラに向かって歩いて行く。ポセイドラのいる場所はちょうど地下室の上付近だ。

 

「そこまでだっ!大和田(おおわだ) 一人(かずと)!!」

 

 リュートが立ち上がって叫んだ。アシバロンは足を止め、リュートに顔を向ける。

 

「この世界でその名を呼ばれるとはな」

 

「お前は転生する前も建設現場の現場監督をしていたんだってな。そこでのお前は上に言われるがまま、厳しい日程で工事を進め、部下から相当恨まれていたんだってな!」

 

「…それで?」

 

「その上、『仕事がきつい』という部下の訴えに対しては『気合いが足りないからだ』と根性論でねじ伏せ、仕事を辞めていく部下達を見ながら『やはり若い奴は根性が無くて駄目だな』と毒づいていたんだって!?そんなの、お前に部下の面倒を見る能力が無かっただけだろっ!」

 

「……」

 

「お前はその気になれば、上に対して日程調整を進言することも出来る立場にいたはずだ。でもお前はそんなことはしなかった!それでいて部下が仕事を辞めていくのを本人の根性のせいにして、残った人間に負担をかけて…。本当は辞めていった人間にもやる気はあったんだ!部下を指揮する能力の無いお前なんかに、お前の望むような部下ができるわけがないだろ!!」

 

 リュートは流れるような口調でアシバロンを罵倒した。

 ルイやスパノの時はこの調子で相手が取り乱した。そうなれば、魔女の「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」が発動し、相手の能力を封じて形成逆転が出来る。

 しかし、リュートの罵倒を聞いたアシバロンは残念そうに首を振るだけだった。

 

「やれやれ…。どこでそんな話を聞いたのかは知らないが、お前も他の人間と同じことを言うんだな」

 

「えっ…?」

 

リュートは困惑する。ルイやスパノは怒りに駆られて心を乱したのに、アシバロンはそうはならかった。むしろ残念そうな反応をしているのはなぜなのか。

 

「お前の言ったようなことはな、他の人間からも言われたことがあるよ。(さと)すような口調だったがな。行きつけの焼き鳥屋の店主(オヤジ)、会社の重役に就いた中学の同級生達、皆同じことを言う。だがそれも仕方ないか。お前も含めて、()()()()()()()()()()()()()んだもんな。()()()()()()()()()()()()は」

 

困惑を続けるリュートに対してアシバロンは説明する。

 

「分からないだろうが少し教えてやる。人という生き物は他の動物とは違い、雨風をしのげる場所で生活できなければ生きていけない。そう退化してしまったからな。だが大抵の人間にはその場所を作る能力が無い。大抵の人間は()()()()()()()()()()()に住み着いて生きているんだ。自分で自分の食べ物を作っている人間は沢山いる。だが、自分で自分の住家(すみか)を作っている人間などほとんどいない!分かるか?『建物を建てるという行為』は『やらなきゃ生きていけないのにも関わらず、出来る人間がほとんどいない行為』なんだっ!!そんな『建物を作る』という行為を毎日行う俺の仕事がどれほど偉大で、どれほど素晴らしい事なのか!!」

 

 興奮した様子でここまで語ったアシバロンだったが、なおも困惑を続けるリュートを見て、普段の口調に戻った。

 

「まあ、どれだけ説明してもお前には分からんだろうな。()()()()()()()()()()()には、いや、俺以外の人間には誰一人分からない。そういう高みにある考え方なのだよ」

 

 リュートにはアシバロンの言っていることが理解できなかった。いや、正確には言いたいことは分かるが、何故ここまで興奮しているのか分からなかった。だが、もしかするとアイツの心中は穏やかでは無いのかもしれない。そう考えてリュートは剣を構え、アシバロンに突撃する。

 

「はあああああ!!」

 

先程とは違い、隙を極力作らない構え。しかしアシバロンは素早い身のこなしでリュートが剣を振る方向とは逆から背後に回り、背中に蹴りを入れる。自分で付けた勢いも加わって、リュートは勢いよく腹から地面に叩きつけられた。

 アシバロンには「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」が発動しなかったのである。




 アシバロンの元ネタについてお話しします。アシバロンの元ネタになったキャラには(あご)ひげが生えています。以上!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その11 「犠牲」

犠牲無き世界など ありはしない
気付かないのか
我々は
血の海に 灰を浮かべた地獄の名を
仮に世界と
呼んでいるのだ

(BLEACH 単行本第42巻より引用)

なお、「犠牲」本人は犠牲になってない模様。

「死んだら終わりだ!一巻の終わり!でも死ななきゃ、生きてさえいれば、たとえそれがどんな地獄であろうともそこに突破口は必ずあるっ!」

(あご)鼻尖りギャンブル中毒者~


 大和田(おおわだ)一人(かずと)はごく普通の家庭に一人っ子として生まれた。父はサラリーマン。母は専業主婦で、趣味は家庭菜園。家には大きな庭があり、様々な野菜を育て日々のご飯の材料にしていた。一時は稲作をしていたこともあった。

 彼が幼稚園児の時、最も好きな遊びは積み木遊びだった。積み木を城のように積み上げ、先生や友達から賞賛を得るのが何よりも嬉しかった。

 

 彼が小学三年生の頃、父が家族を遠くの山へキャンプに連れて行った。その日の天気予報は晴れのち曇り。実際にキャンプ場に着く少し前までは晴れていた。しかし山の天気は変わりやすい。テントの用意をしている時、急に空が暗くなり、大量の雨が降り出した。

 車に戻り、雨が止むのを待っていたが雨は一向に止まなかった。今から自宅に戻ると日付が変わってしまう。どこか宿泊できる場所を探す必要があった。しかし両親はこの辺りの宿泊施設については何も知らず、事前の調査もしていなかった。土砂降りの中、車を必死で走らせ宿泊施設を探す父。大和田少年にとって、今夜の自分がどうなるかも分からないまま、激しい雨の音を聞いている時間は何よりも怖ろしかった。

 午後十時過ぎにようやく宿泊施設を見つけた。古くさいビジネスホテルだったが、部屋に入ったときの安堵感を、彼は未だに忘れられない。雨風をしのいで一夜を明かせることがどれほど素晴らしいことなのか、身を持って知った出来事だった。

 

 小学生高学年の頃、大和田少年は「衣食住」という言葉を知る。人間の生活に必要な三項目を意味する言葉だ。彼は考えた。

 

「『衣』は簡単には作れない。服を作れる、とか言っている人間も既製品の布を使って作っている。本当の意味で一から自分の服を作っている人間なんてほとんどいない。だが服なんてなくても生きていくことは出来る。服を着なければいけない法律があるから皆服を着ているだけで、寒さをしのぐなら『住』があれば十分だ。『食』は確かに必要だ、食べなければ生きていけない。だが食料を作ることは誰でも出来る。実際に母は庭で俺たち家族の食べるものを作っている。それに比べて『住』はどうだろう。これが無ければ生きていくことは出来ない。なのに自分の家を自分で作れる人間なんてほとんどいない。そう考えると、人々が生きていくための『住』を作る人間こそが最も偉大なのだ」

 

彼が建築業を志した瞬間だった。

 

 大学生活を終えた彼は、とある建築企業に就職する。彼にとって仕事をしている時間が人生で最も楽しい時間だった。自分達の手で人々に必要な「住」が作られていく。このことが何よりも嬉しかった。「好きこそものの上手なれ」という(ことわざ)の通り、彼は仕事に必要なスキルをすぐに習得し、職場からも必要とされる人材になっていた。

 反面、彼にとって人生で最も苦しい時間が休日になった。彼の就職した企業は、休日はそれほど多い所では無かったが、それでも休日は確かにあった。建築をしたいのに出来ない、職場に行っても困惑されるだけ。そんな休日が辛かった。

 彼は他の企業を調べた。休日が少なく労働時間の多い企業、所謂(いわゆる)ブラック企業を探した。悪い噂というのは広まるもので、彼の求める企業はすぐに見つかった。彼は初めて就職した企業を退職し、よりきつい労働条件の企業に就職した。

 ブラック企業での仕事が彼にとって何よりも幸せな時間だったのは言うまでも無かった。彼は自分をマゾヒストだとは思っていない。痛い思いをするのは嫌なので作業は慎重に行うし、注射も好きではない。彼の幸せな時間を幸せたらしめるものは、「建築業への狂信的な(ほこ)り」であった。しかしそんな時間も長くは続かない。ブラック企業というのは得てして人材不足に(おちい)りがちであり、企業自体の寿命が短かった。彼の勤めた企業は数年で倒産することがほとんどで、その度に彼は別の企業を探すことになった。

 彼が35歳の時に務めた企業が、彼の生涯を共にする企業となった。その企業は「建築に興味の無い人間でも名前は知っている大企業だが、その実態はブラック企業」と言える所だった。名の知れた企業は悪い噂が流れても倒産しにくい。企業名だけを見て就職する若者も多く、貧しい外国から来た労働者の受け入れも積極的に行っていたために人材不足にもなりにくかった。彼はその企業の現場監督を任されるまでに出世したが、それ以上の出世を望まなかった。これ以上出世を続ければ、現場から離れた仕事が多くなる。そんな仕事はしたくなかった。どんなにきつい仕事も文句を言わずにこなし、キャリアも長い彼は企業にとって無くてはならない存在になった。

 しかし彼の部下達は、仕事の苦しさを理由に次々と辞めていった。そんな若者の仕事に対する態度を彼は不満に思っていた。行きつけの焼き鳥屋の店主や時々顔を合わせる同級生に相談すると決まって「若者が君や職場に合わせるんじゃ無くて、君や職場が若者に合わせるべきだ」とアドバイスされた。このアドバイスが彼を一層不機嫌にさせた。

 これまでも建築業に対する誇りについて他人に話したことはあったが、完璧に理解した人間はいない。彼は「自分の持つ考えは他人には決して分からない崇高な領域に達した考えなのだ」という結論に達した。

 そんな彼も、四十代後半に入ってから職場での作業が体力的に辛くなってきた。それでも仕事を休むわけにはいかない。唯一「建築業の偉大さ」を知る自分が仕事を休むなど、建築業に対する裏切りでしか無い。そう自分を鼓舞して仕事を続けた。

 ついに限界が訪れた。猛暑の中、外での作業中に意識を失い、そのまま彼は帰らぬ人になってしまう。53歳の夏の出来事だった。

 

 気がつくと彼は見知らぬ場所にいた。目の前にいる神を名乗る老人から、転移転生(てんいてんせい)のことを聞かされる。彼は年甲斐も無く嬉しくなる。

 

「俺の考えは正しかったのだ。俺以外の人間が誰も知らないあの境地に一人辿(たど)り着いたからこそ、俺は神に選ばれたのだ」

 

 転移転生をするには、転生先の世界で魔人討伐をすることが絶対条件だ。彼は神に尋ねた。

 

「その魔人討伐とやらを行えば、俺はその世界でも建築業をやって構わないのだな?」

 

「もちろんじゃ。副業は自由じゃよ」

 

「なら俺はこの先もずっと転移転生をくり返して…」

 

「いや、それは無理じゃな。転移転生を行った者が次に行う転生は必ず輪廻転生(りんねてんせい)じゃ。そういう(ルール)でな」

 

そんなに上手くはいかないようだ。だが転移転生を選べば、向こうの世界でもう一度だけ建築業に人生を懸けることが出来る。何よりその世界には労働基準法が存在しない。彼に転移転生を選ばない理由は無かった。

 ところで、彼は自分の死に方については半分満足、半分不満に感じていた。建築作業中の過労死という死に方は、まさに建築に命を懸けた者の集大成と言える。その点は満足だった。一方で、自分の一生を(まっと)う出来ていないこの死に方は建築業に対する裏切りとも考えられる。その点は不満だった。

 彼は神に「向こうの世界でも建築業に人生を懸けることが出来る身体と能力」を願った。

 

 アシバロン=ボーナスとして転生して以降、彼は建築とは別の楽しみを見つけた。それは魔人との戦闘だった。前の人生では味わうことの出来なかった「戦闘」という楽しみを最初の内は楽しんでいた。

 だが建築作業に特化した彼の肉体を前に、敵と呼べるような魔人はいなかった。自分が戦闘を楽しめるレベルの強敵を、彼は欲するようになった。

 

 

 

 

 

「クソ…、やはりこいつには『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効かないのか…」

 

 アシバロンに蹴飛ばされたリュートは、地面に這いつくばりながら思った。魔女が「遠隔会話(テレパシー)」で話しかけてくる。

 

「どうだった!?リュート」

 

「駄目だ…。魔女の言った通り、アイツは自分の転生前に悔いが一切無いんだ…」

 

「やはり駄目だったか…。建設業に対しての狂信的な誇り、それがヤツの強さの根源だ」

 

「魔女、俺たちはどうしたら良い!?」

 

リュートが魔女に尋ねる。少しの思案の後魔女から返答が来る。

 

「今から他の二人にも『遠隔会話(テレパシー)』をつなぐ」

 

それから一秒ほどで、魔女から答えの続きが来る。

 

「レースバーン、ポセイドラ、聞こえるか?状況はリュートから全て聞いた。アイツには『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効いていない。このままでは全滅だ」

 

「ならどうすれば良い!?」

 

二人から同じことを聞かれた魔女は苦しげに答える。

 

「『ファイアウォール』でも『ウォーターウォール』でも構わない。ヤツの視界を(ふさ)いで逃げろ!逃走後に私に位置を伝えろ。『ワープゲート』で回収しに行く」

 

 無謀な作戦だ。炎と水の性質上、「ファイアウォール」が視界を塞ぐのに有効だが、相手は火属性魔法の耐性が高い。炎の壁など、ものともせずに突っ切ってくるだろう。しかし、他に作戦が無い。ルイをおびき出したときのようなテキトーな作戦では無く、現状打つ手がこれしか無いという苦しい状況での作戦だった。頭の切れるアシバロンの前に魔女が姿を見せる訳にもいかなかった。

 

 苦悩しながら立ち上がる三人に向かってアシバロンが口を開く。

 

「さて、誰から殺すべきか…。ルイの剣という危険物で戦う未熟な少年、激流の剣という危険物で戦う腕の良い男、炎の剣という危険性0の武器で戦う腕の良い男…」

 

三人を見渡した彼は決心したように言う。

 

「決めた。一番楽しめそうに無い炎の剣の男、お前から血祭りに上げてやる」

 

アシバロンはレースバーンに指を指す。

 

「レースバーンさんっ!」

 

「リュート!ポセイドラ!ヤツの指名は俺だ!俺がヤツの相手をする、だから…」

 

少し間を置いた後、レースバーンは二人に笑って言った。

 

「後のことは頼んだぞっ!!」

 

 レースバーンは「エンチャントファイア」を唱える。炎の剣でアシバロンを指しながら言う。

 

「アシバロン=ボーナス!楽しめないと言ったことを後悔させてやる!」

 

彼は炎の剣を構え、アシバロンに突っ込んでいく。構え自体は達人のそれだが、火属性魔法の耐性が高いアシバロン相手には無謀な突撃にしか見えない。

 

「やはりな、お前が一番つまらん」

 

 炎の剣が振り下ろされた瞬間、アシバロンは剣を右手だけで跳ね飛ばす。同時に左手でレースバーンの右肩を掴む。

 

「くっ!」

 

とてつもない力だ。レースバーンは抵抗するが拘束を抜け出せない。

 アシバロンは腰を落とし右手で正拳突きの構えをする。

 二人が叫んだのはほぼ同時だった。

 

「『スーパーファイアドーム」!!」

 

「『岩盤貫通拳』!!」

 

 二人の姿が大きな炎のドームに包まれる。

 

 その刹那、リュートとポセイドラは確かに目にした。

 アシバロンの右手が血しぶきを上げながら、レースバーンの体を貫通する瞬間を。




 私自身は建築業界に一切興味がありません。
 なので、業界の実態に合致しない部分もあるかと思います。もちろん、モデルになった企業もございません。全て空想を(もと)にしたフィクションです。

 「転移転生(てんいてんせい)」と「輪廻転生(りんねてんせい)」の違いは、第二章8話「転生者のルール」を読んでください。

ファイアウォール…自分の目の前に炎の壁を出す魔法
ファイアドーム…自分を中心に炎のドームを展開する魔法


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三章 「Mr.土方」襲来 その12 「その輝きは赤々と」

 この作品の連載が始まってから今日で一ヶ月が過ぎました。このことが何を意味するか、皆さんお分かりでしょうか?
 そう、()()()寿()()()()()()()()()。ここまで連載を続けて来られたこと、そしてこの記念日に第三章が終了すると言う節目を迎えること。何だか感慨深く感じます。これもいつも当作品を楽しみにしてくださっている読者の皆様のおかげです。ありがとうございます。

 今回は後書きにお知らせがあります。最後まで読んで下さると幸いです。


 レースバーンはとある村の鍛冶屋の一人っ子として生まれた。

 鍛冶屋は仕事に火属性魔法を使用する。そのため両親は火属性魔法が得意で、彼もまたその血を引いていた。

 幼いときから火属性魔法の扱いと鍛冶の方法を教わり、その両方を体得。初めて作った剣は彼の愛用する武器となった。レースバーンが鍛冶の技術を体得すると、父は鍛冶場をレースバーンに任せ、他の地の技術を会得するべく旅立っていった。

 そんな彼の平和な日常は突如終わりを迎える。彼の村に突然火の手が上がった。何事かと家から飛び出したところで、彼の背後に衝撃が走る。彼が気を失う直前に見た光景は、新聞で何度も目にした英雄ルイ=ジュクシスキーが自分の母に襲いかかるところだった。

 目を覚ますと、自分の生まれ育った村は焼き滅ぼされていた。(かたわ)らには裸の母の死体、そして謎の女性。魔女を名乗るその女性は、レースバーンに事の顛末を伝える。怒りと憎悪で満たされた彼は、ルイへの復讐のために魔女の仲間になった。

 レースバーンの家には広い地下室があった。昔、この地で戦争があり、先祖が自分の身を守るために用意したものだった。この地下室が魔女一行の拠点となった。

 ルイへの復讐を目標に日々を過ごすレースバーン。しかし、他の村がルイに滅ぼされたという情報を耳にしたとき、彼の心境に変化が起きる。

 

「自分は生まれ育った村のため、そして(はずかし)めを受けた母のためにルイへの復讐を目標としていた。だが、それでは駄目なのではないか?ルイに殺された名も知らぬ多くの人々のためにも、自分はヤツを討たなければならないのではないか?」

 

 時が経つにつれ、彼の目標は「自分の復讐」ではなく、「ルイに殺された人間全ての無念を晴すこと」へとシフトしていく。それと同時に、「自分自身がルイを殺すこと」へのこだわりも薄くなり、「ルイの死そのもの」が目標となっていく。

 そしてある日、魔女が連れてきた新たな仲間リュートの手によってルイが殺されたことを知る。「自分が復讐を果たしたかった」という気持ちが無かったわけでは無い。だがそれよりも、ルイが死んだことに対する満足感の方が大きかった。それと同時に「他の仲間の復讐が成功すること」が自分の新たな目標となった。

 

 

 

 

 

「レースバーンさんっ!!」

 

 リュートが叫んだ。レースバーンの魔法「スーパーファイアドーム」に彼自身とアシバロンが包まれていく。その刹那、アシバロンの拳がレースバーンの腹を貫くのを見た。

 

「そんなっ!レースバーンさんっ!!」

 

 リュートが再び叫ぶ。

 ポセイドラの判断は迅速だった。二人が炎に包まれたのを確認した彼は即座にリュートの側に駆け寄る。

 

「ポセイドラさんっ!レースバーンさんが…」

 

「黙って掴まれ!お前はアイツの覚悟を無駄にするのか!?」

 

 ポセイドラが苦しげな声で叫んだ。それ以降、二人は叫びたい気持ちを必死にこらえ、逃走を開始する。炎に包まれたアシバロンからは彼らの姿は見えない。逃げるチャンスは今しか無かった。

 リュートを左脇に抱えたポセイドラは右手に掴んだ刀の切っ先を斜め後方に向ける。

 

「『ウォーターレーザー』」

 

彼が逃走中に発した声はこれだけだった。刀の切っ先から激流が放たれる。その勢いで二人は上空へと飛び上がる。目標は村の東に広がる森だった。

 森の入口付近へと二人は落下する。落下途中にあった木で勢いが殺される。着地したポセイドラは「遠隔会話(テレパシー)」で魔女に自分の位置を伝える。

 

「魔女、東の森の入り口近くだ。()()()()()()()()

 

「分かった。()()()()()()()()()

 

 報告が終わった直後、二人の近くに「ワープゲート」が開き、魔女が出てきた。

 

「ポセイドラ!リュート!レースバーンは!?」

 

魔女の問いかけに対し、ポセイドラは何も言わず表情で答える。魔女は彼の言いたいことを察した。三人は「ワープゲート」をくぐり、二度とその場に帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 炎のドームの中、アシバロンは鼻で笑った。

 

「たわいもない。やはりこいつが一番つまらん。炎で俺の視界を塞いだつもりだろうが無駄だ。こんな炎はすぐに抜け出して、仲間にも後を追わせてやる」

 

彼はそう考え、自分の右腕をレースバーンから引き抜こうとする。

 しかし抜けなかった。アシバロンは不審に思い、右腕に目を向ける。

 レースバーンが両手に全身全霊の力を込め、アシバロンの右腕を掴んでいた。ものすごい力だ。

 

「おい、手を離せ。死にかけのお前に何が出来る」

 

「断る。この手は死んでも離さん…」

 

 レースバーンの顔を見てアシバロンは驚く。大量の血を口から流しながら必死の形相で自分の右腕を掴む(レースバーン)。そんな彼の見開いた瞳には闘志が赤々と燃えていた。その目からは、今彼を襲っているであろう死の苦しみや、死への恐怖心などは微塵も感じられなかった。

 

「ふふ、ふはははははっ!!面白いな貴様!死にかけていながら、闘志を一切絶やさないとは」

 

「当然だっ、二人の跡は…断じて追わせない!」

 

レースバーンの覚悟を目にして笑うアシバロン。彼は相手を殺すのが少しだけ惜しくなった。

 

「ははは、気に入ったぞ!その覚悟、その心の強さ!どうだ?俺の建設現場で働かないか?」

 

「何…?」

 

「勘違いするなよ。命乞いじゃあ無い。貴様の『強さ』を買ったのだ。お前ならば俺の建設現場でも()を上げること無く働くだろう。待遇も良くしてやる。どうだ?」

 

アシバロンの提案を聞き、レースバーンは口に笑みを浮かべる。

 そしてハッキリと言葉を口にした。

 

「断る」

 

「そう言うと思ったよ。残念だ」

 

アシバロンの口調からは残念さは微塵も感じられなかった。

 

「それに俺は言ったはずだぞ?『楽しめないと言ったことを後悔させてやる』と」

 

「ふはははははっ!!面白い!死にゆくお前に何が出来る!?」

 

再び笑うアシバロン。レースバーンは闘志を絶やさない。

 

「俺の()()()()()だ!お前にくれてやるっ!」

 

 レースバーンの体が赤く輝く。言葉の比喩では無い。確かに彼の体は赤い光を放っていた。

 

「ほう、()()()()()!!やめとけ!やめとけ!俺は死なん!!墓に入るための()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

「俺に墓など必要ない!この村も、俺の体も、全て消えて無くなるのだからっ!」

 

レースバーンの体の輝きが勢いを増す。目を開けていられないほどの輝きとなる。アシバロンは左腕を挙げ、空中の()()を掴み取る。

 

 レースバーンは最後の魔法を唱えた。

 

「『大爆発(ダイバーン)』!!!!」

 

 文字通りの大爆発が起こる。爆発は炎のドームを軽々ぶち壊し、地下室も含めたレースバーンの村を跡形も無く消し去り、近くの森をも焼き払った。

 

 

 

 

 

同時刻

 

 リュートは知らない森にいた。彼の側にはうなだれるポセイドラ、同じくうなだれた魔女、心配そうに三人を見つめるリン、キャスター付ベッドの上で身動(みじろ)ぎもしないメルクリオ。五人の他にも地下室から持ち出されたであろう「テンスレ」メンバーの私物が積まれていた。

 

 リュートは悔しかった。自分はアシバロンを相手に何も出来なかった。ルイやスパノの時とは大違いだった。我慢しようとしても涙が止まらなかった。そんな彼に目を向けるポセイドラ。

 唐突にポセイドラがリュートに刀を向ける。リュートが驚く間もなく、ポセイドラは魔法を唱える。

 

「『クイックウォーターレーザー』」

 

 ポセイドラの刀から水流が放たれる。「ウォーターレーザー」よりも細く速度の速い水流が、リュートの顔の横をかすめる。

 

「えっ…?な、何を…?」

 

驚きを隠せないリュート。魔女とリンも驚きを隠せない。

 そんな三人には何も言わず、ポセイドラがリュートの後ろに回る。しゃがんで何かを拾い上げる。

 拾い上げた()()を三人に見せるポセイドラ。彼の手の上には、真っ二つにされた黒い虫の死骸があった。元の大きさは親指の第一関節くらいだろうか。

 

「さっきから俺たちの側を飛んでいた。()()()()()()()()だ」

 

ポセイドラが三人に対して言う。

 リュートの胸に再び悔しさがこみ上げてくる。彼は拳から血が出るほど地面を強く叩いた。

 

 

 

 

 

 レースバーンの起こした大爆発は大きな火柱を上げた。火柱の跡には大きなクレーターが残った。そこに村があったことなど言われなければ気がつかないだろう。

 クレーターの中心に一人の男が立っていた。ベストナインの序列2、通称「Mr.土方」のアシバロン=ボーナスだった。ぼろぼろの服を身にまとい、彼は(ひと)()ちる。

 

「だから言っただろうが。俺は死なんとな」

 

 そんな彼はある違和感を覚える。彼は()()()()()()()()()()()。どこか懐かしい違和感。自らの体を右手で触って確かめる。

 彼は()()()()()()()()()。工事現場で死なない体を追求し、火属性魔法の耐性を極限まで高めたアシバロン。そんな彼の体は普通の「自爆魔法」では傷一つ付かない。「自爆魔法」もまた、火属性魔法の一種だからだ。そんな自分がやけどを負った。体の底から歓喜が沸き上がる。

 

「ふっ、ふはははははははははははは!!!!」

 

笑いが止まらなかった。

 

「俺が!()()()()()()()()()()()()!!『楽しめないと言ったことを後悔させてやる』という言葉、嘘ではなかったなぁ!!!!」

 

彼の笑い声は何時(いつ)までも止むことはなかった。

 

「面白かったぞ、レースバーン!!お前の名前は俺の心に刻み込んでやろう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三章「Mr.土方」襲来 END

「ベストナイン」 残り7人

「テンスレ」   残り9人




 第三章が終了しました。「善良な転生者の存在」や「ベストナインの強さ」。原作で描写されてなかった部分を書けた章になったと思いますが、皆さんいかがでしたでしょうか?

 さて、第三章が終わった、と言うことは皆さんお分かりですね?「アニメ化した際の1クール(約12話)分が終わった」ということです(知るかい)!

 これを記念して、ちょっとした企画を開始します。
 その名も「チートスアンアン アニメ化大作戦」!!
 この企画は名前の通り、チートスアンアンがアニメ化したらどうなるかを読者の皆様と一緒に考えていこう、という企画です。
 しかし、ハーメルンの注意書きに「感想欄では読者から意見を(つの)ってはいけない。読者から意見を募るのは活動報告欄でやってくれ(意訳)」と書いてありました。ですのでこの後書きでは「活動報告欄でこんな企画やるよ」という宣伝に(とど)めておきます。
 これを読んで興味を持った方、活動報告欄へ是非お越しください。お待ちしております。
 一応言っておきます。ネタ企画です。本気にしている方はいないと思いますが、「こいつ増長しているな?原作者と一緒やんけ」と思われるのもアレですので。

 そして次の話ですが、物語の続きではなく、ちょっと別のことをやりたいと思います。期待して待っていてください。

 最後になりますが、いつも読んでくださっている読者の皆様、本当にありがとうございます。これからも当作品をお楽しみください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特別企画その1 登場人物紹介

 前回で第三章が終了しました。
 キリが良いので、ここで「特別企画その1 登場人物紹介」と題して、当作品に登場するキャラクターの紹介編をやりたいと思います。
 ここを見るだけで、「チートスアンアン」のキャラクターの詳細が丸わかりというスンポーです。

 もちろん、現時点では詳細の分かっていないキャラもいますので、そこは「?」で伏せておきます。本編で判明次第、ここのキャラ紹介も更新されていきます。


主人公

 

リュート

 

 性別:男

 武器:ルイから奪った剣

 風貌(ふうぼう):オリーブ色の上着に白のズボン、髪の色は黒(要は原作と同じ)。

 戦闘スタイル:剣術

 キャラクター成分比率…原作100%(ただし原作が1話終了のために想像部分多し)

 

 転生者に憧れて修行を積み、村一番の剣術自慢となった少年。しかしある日、ルイ=ジュクシスキーの襲撃により、村と幼なじみのリディアを始めとする村の皆を失ってしまう。その後、魔女の提案に乗り、ルイへの復讐を果たす。以降は「罪のない人々を殺すような非道な転生者の討伐」を目標に「テンスレ」のメンバーになる。

 剣の才能は天才のソレだが、魔法の才能はイマイチ。

 

 

 

魔女

 

 性別:女

 武器:無し

 風貌(ふうぼう):白いロングヘアー、黒を基調にした「魔女」としか言いようのない恰好(かっこう)(要は原作と同じ)。

 戦闘スタイル:魔法(ただし、人間や魔族への攻撃が出来ないのでサポート役)

 キャラクター成分比率…原作100%(ただし原作が1話終了のために想像部分多し)

 

 

 転生者の悪行による被害者の元に現われ、復讐を提案する謎の美女。

 その正体は、下界へ追放された天使(神の補佐をする存在のこと)。本名は存在しない。

 もともとは神の元で「転生者が魔人討伐を行っているかを監視する役割」を担っていた天使。しかし転生者の悪行を放っておけず、神に進言をくり返したために下界に追放された。

 転生者に尋常ではない嫌悪感を抱いているが、自分では転生者を殺せない(第二章4話「魔女の正体」参照)ので、ことあるごとにテンスレメンバーを転生者を殺す方向に誘導しようとする。一方で、獣人の転生者は気に入っている。

 転生者の力を打ち消す「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」と、脳内で対象の人物と会話を行える「遠隔会話(テレパシー)」を使って、リュート達をサポートする。

 「テンスレ」の名前は彼女が発案者。

 酒癖が悪い。

 

 

 

ギルド「テンスレ」のメンバー

 

ポセイドラ

 

 性別:男

 武器:黒に見えるほど濃い藍色(あいいろ)の刀

 風貌(ふうぼう):黒髪で目つきが悪い。左半分がえんじ色で右半分が深緑色の戦闘服。

 戦闘スタイル:剣術と水属性魔法

 キャラクター成分比率…失ったな:天界最初の犠牲者:兵長:オリジナル=8:0.5:0.5:1

 

 リュートを上回る剣術の使い手。

 ぶっきらぼうで口数も少ないが、リュートの修行に付き合う等、以外と面倒見が良い。

 親友のザビーノを、アシバロンの過酷な労働のせいで失う。

 魔女からはよく「嫌われるぞ」といじられている。

 

 

 

レースバーン

 

 性別:男

 武器:初めて自分で作った剣

 風貌(ふうぼう):燃えるようなオレンジの髪にオレンジ色の瞳。上はオレンジのタンクトップ、下は白を基調にオレンジのラインが入ったズボン。ズボンと対になっているであろう上着を腰に巻いている。

 戦闘スタイル:剣術と火属性魔法

 キャラクター成分比率…400億の男:その他炎属性キャラ:オリジナル=6:3:1

 

 見た目通り熱血で、見た目通り火属性魔法が得意という、まさに見た目通りの男。リュートの修行に付き合ってくれた。

 テンスレメンバーのために、実家の地下室を使わせている。

 村の鍛冶屋の一人息子だったが、ルイの魔の手により、村と母親を失う。ルイへの復讐はリュートがしてしまったが、本人としては納得している。

 アシバロンとの戦いで、リュートとポセイドラを逃がして命を落とした。

 ちなみに「その他炎属性キャラ」には、煽り体制の無い男や熱血クソ野郎やクソウサギ等が含まれている。

 

 

 

ジモー

 

 性別:男

 武器:?

 風貌(ふうぼう):上は黒のタンクトップで下は黒のズボン。白髪。左目付近に太陽の絵が描かれている。

 戦闘スタイル:?

 キャラクター成分比率…?

 

 テンションの高い男。初対面のリュートにも気さくに接した。

 

 

 

ゴーギャン

 

 性別:男

 武器:モーニングスター

 風貌(ふうぼう):黒に近い紫色の戦闘服に黄土色の上着を羽織っている大男。瞳の色は黒。

 戦闘スタイル:?

 キャラクター成分比率…最強:生存率50%(うっかり):オリジナル=7:2:1

 

 穏やかな性格をした口数の少ない大男。うっかり屋で、よく白目になってしまったりする。

 元はノイワ村の託児所の職員だったが、スパノの手によって託児所の職員や子供を失ってしまう。

 リュートと共闘し、スパノへの復讐を果たす。以降は、他のメンバーの復讐達成を目標にテンスレに残った。

 

 

 

ケイル

 

 性別:女

 武器:杖としての役割も持つスポイト(見た目は杖そっくり)、自作の薬品

 風貌(ふうぼう):黒のセミロングヘアー、瞳は濃い紫色。上は白衣の下に紫のブラウス、下は紫の膝丈スカート。胸は無いわけでは無いが、他の女性キャラが巨乳率高めなので少し寂しい。

 戦闘スタイル:薬品を水属性魔法と合わせた戦い方。

 キャラクター成分比率…?

 

 薬師(くすし)の女性。誰に対しても敬語を使う常識人。

 アルミダの手により、姉を失う。

 

 

 

ラーシャ

 

 性別:女

 武器:純白のフルーレ

 風貌(ふうぼう):茶色のロングヘアー。上は白と黒のストライプ模様の七分袖シャツに茶色の革製ベスト、下は膝丈のデニムズボン。胸はケイル以上魔女未満。

 戦闘スタイル:剣術と光属性魔法

 キャラクター成分比率…白鳥:オリジナル=3:7

 

 凜々しい声のクールビューティー。しかし、自分の戦闘スタイルを知らない味方がいるのにも関わらず目つぶし魔法を放ってしまうなど、すこしおっちょこちょいな所もある。言いたいことはハッキリ言う性格。

 アルミダの手により、姉を失う。

 

 

 

リン

 

 性別:女

 武器:?

 風貌(ふうぼう):薄いピンクの髪にピンクの瞳。黒のミニワンピースにピンクの上着を羽織っている。魔女以上の巨乳。

 戦闘スタイル:?

 キャラクター成分比率…婿探し:お団子屋さん:その他おっとりキャラ:オリジナル=6:2:1:1

 

 アニメ声の巨乳ピンク。ギルドの家事&メルクリオの看病担当。料理の腕前がものすごく高い。メルクリオのことを「メルくん」と呼ぶ。

 大きな村の領主の長女として生まれるが、束縛を嫌って勝手な行動ばかりしていたために、(別荘三件付きで)勘当(かんどう)されてしまった過去を持つ。

 米沢に襲われたメルクリオを発見した。

 メルクリオの延命のために、彼から離れて行動することは無い。

 

 

 

メルクリオ

 

 性別:男

 武器:?

 風貌(ふうぼう):包帯を全身に巻かれているため不明。

 戦闘スタイル:?

 キャラクター成分比率…?

 

 米沢に村を襲われ、唯一生き残ったところをリンに発見される。重症で動くことが出来ず、話すのがやっと。

 米沢の「設置式無限複製魔法」によって、体内の毒素が永久に複製される状態になっている。現在はリンが定期的に回復魔法をかけていることで生きながらえている。

 

 

 

バニーラ=チョコミクス

 

 性別:女

 武器:ニンジン

 風貌(ふうぼう):女性としては非常に背が高い。へそから下の下半身と胸部と(ひじ)から先の腕が白い毛で(おお)われており、それ以外は人間の皮膚。手は人間と同じ大きさのウサギの手。胸は魔女以上の巨乳。白いロングヘアーの上に長い白のウサ耳が生えている。瞳の色は赤。

 能力:「人参武器(キャロットウェポン)」(ニンジンを様々な武器に変形させて戦う能力)

 キャラクター成分比率…元ネタ:様々な作品の泣き虫・ドジっ子キャラ:オリジナル=6:3:1

 

 ギルド「神の反逆者」に所属する(ひら)転生者だったが、とある出来事がきっかけで離反し、「テンスレ」に所属したウサギの獣人。

 泣き虫でドジっ子ではあるが、転生者らしく戦闘能力は高い。またウサギらしく聴力も高い。

 転生前は本物のウサギだった。生前に良くしてくれた飼い主へ恩返しをしたいと考えていた。その恩を「魔人討伐による人類救済」という形で返そうと、現在奮闘中。

 転生後の自分を初めて褒めてくれたリュートに対して、好意を抱いている。

 

 

 

ベストナイン

 

マウントール=フランス

 

 性別:男

 序列:1

 通称:マウンティングウォリアー

 武器:双剣「オーディナルスケール」「アリシゼーション」

 風貌(ふうぼう):「爽やかな好青年」がイメージ出来るような整った顔立ち。身軽な戦闘が出来そうな黒の戦闘服。

 能力:「畏怖(マウンティング)」(自分の「スゴい行為A」を見せた相手に、「大してスゴくもない行為B」もAと同じくらいスゴい行為だと錯覚させる能力)

 転生前の本名:?

 キャラクター成分比率…?

 

 この世界で最も有名なギルド「神の反逆者」の頂点に立つ男。

 時折フランス語を話し、「フランス語だったから分からなかったかな?」と言いつつ意味を説明する。

 見た目通りの好青年で、誰に対しても優しく接する品行方正な男。なのだが、表面上は仲間に一般人の殺しを禁止しながらも「もし何かやらかしたら綺麗に掃除する」ことを徹底させたり、殺された仲間に対して「弱いのがいけない」と言い放つ等、黒い部分が見える。

 転生者であることを差し引いても違和感が払拭(ふっしょく)されないほどの、とてつもない強さを持つ。魔女は「ヤツの強さには、何かトリックがあるとしか考えられない」と言っているが、詳細は不明。

 自身の特殊能力「畏怖(マウンティング)」を使って、自身の「フランス語を話せる」という何気(なにげ)ない行為を、上記の異常な強さと同じくらいスゴいことだと周囲の人間に錯覚させている。これによって、彼の思い通りにギルドの人間を操っていた。

 仲間殺しを嫌うが、同時にルイのことも嫌っている。ルイに対しては「殺すぞ」と言ったり、本来序列6相当なところを序列9にする等、辛辣さを隠そうともしない。

 葡萄酒(ワイン)を飲むのが好きで、いくら飲んでも決して酔わない。

 

 

 

アシバロン=ボーナス

 

 性別:男

 序列:2

 通称:Mr.土方(どかた)

 武器:素手

 風貌(ふうぼう):正面に緑色の十字が書かれたクリーム色のヘルメットをかぶり、薄いグレーの上下ジャンパーを着ている。上のジャンパーには黄色の夜光反射帯が付いている。

 能力:「現場監督(ビルドエンペラー)」(自分の指揮する建設現場で働く作業員を自分の思い通りに働かせる能力。「自分の指揮する建設現場」は同時に一カ所しか設定出来ない。この能力を常に50人以上に対して発動しており、維持のために魔力のほとんどを使ってしまっている。そのため、戦闘では魔法を使わず肉弾戦で戦う)

 転生前の本名:大和田(おおわだ) 一人(かずと)

 キャラクター成分比率…元ネタ:0の本当の意味での側近:上参:オリジナル=5:2:1:2

 

 ギルド「神の反逆者」を統率する幹部集団「ベストナイン」の序列2に位置する男。

 ポセイドラとジモーの復讐相手。

 転生前から建設業に対して狂信的な誇りを持っており、現在も「アシバロン建設」という建設業を立ち上げ、魔人討伐と二足のわらじを履いている。

 戦闘は肉弾戦で戦う。魔法を使わない代わりに戦闘スキルが非常に高く、頭の回転も速い「肉弾戦のスペシャリスト」。自身の強さに絶対的な自信を持つ一方で、男として闘志を燃やせる強敵との戦いを望んでいる。

 「建設現場で死なない体」を追求した彼の肉体は、火属性魔法の耐性が非常に高く、普通の刃物では傷が付かない。

 アルミダのことは「豚」と呼んで馬鹿にしている。

 ポセイドラの親友ザビーノや、レースバーンを殺した張本人。

 

 

 

アルミダ=ザラ

 

 性別:女

 序列:3

 通称:Ms.ダブルマッカレル

 武器:?

 風貌(ふうぼう):とてつもなく大柄の女性。ショートカットの黒髪。上は黄土色の上着、下は黒のタイトスカート。両耳にコハク製の大きなイヤリングをしており、化粧が濃く、唇も厚ぼったい。

 能力:「魔力変換機能(マジカルコンバーター)」(詳細不明)、「魔力貯蔵庫(マジカルストレージ)」(詳細不明)

 転生前の本名:二子鯖江(ふたこさばえ) 豊美(とよみ)

 キャラクター成分比率…元ネタ:0の本当の意味での側近のパートナー:一番イカついクソばばあ:オリジナル=8:0.5:0.5:1

 

 「ベストナイン」序列3に位置する女。

 ケイルとラーシャの復讐相手。

 「魔力変換機能(マジカルコンバーター)」、「魔力貯蔵庫(マジカルストレージ)」の二つの特殊能力により、あらゆる魔法を使いこなす「魔法のスペシャリスト」。アシバロン同様、自身の強さに絶対的な自信を持つ。

 自分勝手な性格で、仲間に対する侮辱を平気で言ったりする。かなり怒りっぽい。

 自身の転生前のことを武勇伝らしく語っている。

 戦闘で魔法を使わないアシバロンのことを「脳筋糞土方」と呼んで馬鹿にしている。

 

 

 

米沢反死(よねざわはんし)

 

 性別:男

 序列:4

 通称:バグズフェンサー

 武器:黒一色の剣?黒い虫?

 風貌(ふうぼう):陰気な印象を与える黒の戦闘服。髪は黒の天然パーマで、毛量が多いために目が隠れてしまっている。時々髪の間から見える目は絶望的な色に染まっている。

 能力:?(虫を操る?)

 転生前の本名:?

 キャラクター成分比率…?

 

 「ベストナイン」序列4に位置する男。

 メルクリオの復讐相手。

 臆病な言動が目立つ陰気な性格。黒い虫を操る能力を持っており、村を襲ったり、仲間を監視する等応用が利く。また黒い虫が集まって米沢本人になる等、謎が多い。

 魔女が彼の詳細を調べた際に情報が一切手に入らない等、とにかく謎の多い不気味な男。

 

 

 

スパノ=ヤナティン

 

 性別:男

 序列:5(旧)

 通称:ソルティングブレッド

 武器:剣

 風貌(ふうぼう):白のジャージに紺色のエプロン。

 能力:「致死塩分量(デスディーリングソルト)」(敵の塩分の致死量を操作する尋問や暗殺に長けた能力。目視可能な相手にしか効果がない)

 転生前の本名:素矢野(すやの) 多賀瑠(たがる)

 キャラクター成分比率…パン:塩:D:オリジナル=7:1:1:1

 

 「ベストナイン」序列5に位置する男。

 ゴーギャンの復讐相手。ルイがリュートの村を襲った際に現場に来ており、自身も村人を殺していた。

 他人から感謝されることが大嫌いで、魔人討伐を行うことで多くの人間から感謝の言葉をもらい、自分が自分で無くなるかのような錯覚に(おちい)っていた。ゴーギャンのいた託児所の人間を殺した際、苦しみの声を聞いて自分が「他人を苦しめる人間」であることを確信する。その後も自分が自分であることを確かめるために人間を殺していた。

 自分の能力を「魔族にとって毒となる物質を魔族の体内に生成する能力」だと偽って公表していた。

 悪事を行う際に監視カメラの存在を忘れる、ゴーギャンやリュートをアシバロンの手下だと思い込む、リュートの苦しんでいる演技を見抜けない等、自分のことを賢いと勘違いしている大馬鹿。

 ノイワ村でリュートに左足を切断され、ゴーギャンに撲殺される。

 

 

 

カセロジャ=クテンハーモン

 

 性別:男

 序列:5(新)

 通称:新入りのため、無し

 武器:?

 風貌(ふうぼう):標準的な体型で、一般的な男性より少しだけ身長が高め。上がグレーのパーカーで、下はジーンズズボン。茶髪。

 能力:「屍生魔人工場(ゾンビファクトリー)」(自分の爪から生成される毒を魔族の頭に注入することで、カセロジャの言うとおりにしか動かないゾンビにする能力。彼の命令ならば自殺も含めて何でも言うことを聞くようになるが、不可能な命令は聞かない。また、毒は魔族の頭に注入しなければならず、魔族以外には効果が無い)

 転生前の本名:?

 キャラクター成分比率…元ネタ:エメラルドゴキブリバチ:オリジナル=4:4:2

 

 スパノ=ヤナティン亡き後の序列5に入った、ベストナインの新入り。

 魔人をゾンビ化させて意のままに操れる、という珍しい能力を持ち、身体能力も転生者の中でもレベルが高い。ギットスと同程度の強さを持っている、とマウントールは評価している。

 転生者であることをダシにして、女性と淫らな行為をしようとするゲス野郎。また軽率な面もあり、初対面のケイルに不意を突かれて眠らされてしまったことがある。

 

 

 

ギットス=コヨワテ

 

 性別:男

 序列:6

 通称:無自覚勇者

 武器:?

 風貌(ふうぼう):水色のマントに水色の戦闘服。常に表情が死んでおり、貯金箱の投入口を思わせる精気を失った目をしている。

 能力:?

 転生前の本名:?

 キャラクター成分比率…?

 

 「ベストナイン」序列6に位置する男。

 仲間の死に一切反応しない、()頓狂(とんきょう)な発言を連発する等、認識能力や判断能力に何かしらの問題を抱えていそうな男。仲間からは心が死んでいると思われている。

 しかし、たまに的を射た発言をすることもあり、単なる馬鹿では無い模様。

 

 

 

立花亭座個泥(たちばなていざこでい)

 

 性別:女

 序列:7

 通称:決めつけ講談師

 武器:?

 風貌(ふうぼう):ショートカットの黒髪に黒の丸眼鏡。ピンク一色の着物。

 能力:「ラベリング」(自分が言ったラベリングを現実に反映する能力。能力の対象の存在を知る人間がいる場所で、大声で宣言することで発動する。万人に「それは違うよ!」と思われてしまう事象は基本的には反映されないが、世界に与える影響が微々たるものならば多少無理があっても反映される。どこまでが反映出来るのかは神さえも知らないので、色々と検証しながら確認しなければならない)

 転生前の本名:立花(たちばな) (てとりす)

 キャラクター成分比率…元ネタ:オリジナル=6:4

 

 「ベストナイン」序列7に位置する女。

 ルイがリュートの村を襲った際に現場にいたが、彼女は人を殺していない。仲間の人殺しを嫌っているが、ルイの虐殺については「彼はクズなので、私が言ってもしょうがない」と思ってそのままにしていた。

 仲間に対して毒舌で、不快な相手をよく長文で罵倒したりしている。

 彼女自身のメンタルはそこまで丈夫では無く、いつ自分が殺されるかも分からない状況では弱気になってしまう。

 転生前はアニメ好きな中学生で、様々なラベリング(レッテル貼り)のせいで精神を病んでしまって自殺した過去がある。周囲からのラベリングに対して黙り込んでしまった自分とは対局に位置する存在として、講談師に憧れていた。「自分から先に相手をラベリングしないと自分を守れない」と思うようになり、「ラベリング」の能力を授かった。

 御手洗が声優であることにいち早く気付き、友情を結ぶことになる。

 

 

 

御手洗幼子(みたらいようこ)

 

 性別:女

 序列:8

 通称:ロリロリポップキャンディ

 武器:自身の能力で操ったキャンディ

 風貌(ふうぼう):水色とピンクのストライプ柄のキャミソールワンピース。オレンジ色の髪をツインテールにしており、棒付きキャンディを口にくわえている。

 能力:「キャンディマスター」(自分がキャンディから連想する事象を能力として具現化することが出来る。御手洗は4つの能力を具現化させている。第1の能力は、自分が舐めたキャンディの形を質量を無視して自在に変えられる能力。第2の能力は、顔を舐めた相手の思考を読み取る能力。第3の能力は、キャンディを舐めることで体力と状態異常を回復出来る能力。第4の能力は、他人が舐めたキャンディを、舐めた本人の居場所を示すレーダーに変換する能力)

 転生前の本名:御手洗(みたらい) 祥子(しょうこ)

 キャラクター成分比率…?

 

 「ベストナイン」の序列8に位置する少女。

 見た目は10~12歳くらいで、ベストナイン最年少に見える。

 天真爛漫(てんしんらんまん)な性格をしているが、仲間の死体を見て悲鳴を上げたりする等、グロ耐性はそこまで無い模様。

 しかし、「テンスレ」が悪人の集団では無いことを見抜く等、人を見る目は鋭い。加えて、魔女とケイルのボディチェックを武器を隠した状態で通過する等、頭も切れる。

 転生前は声優で、芸名は「御手洗(みたらい) 洋子(ようこ)」。二十代の頃は売れっ子だったが、三十代に入ってからは仕事が激減した。36歳の時に、幼女キャラの役を演じて再び脚光を浴びるが、間もなく事故死してしまった。このことがきっかけで「自分に求められていたのは幼女を演じることだ」と考え、幼女の姿で転生した。しかし本人もこのことについて、心の中では「幼女に変な憧れを抱いていたからだ」と考えている。

 自分が声優であることに気付いてもらったことがきっかけで、立花亭と友情を結ぶ。

 ベストナインのメンバーのことをあだ名で呼んでいる。

  マウントール…リーダー

  アシバロン……バロン

  アルミダ………アルミン

  米沢反死(よねざわはんし)………ヨネシー

  スパノ…………スパノン

  ギットス………ギッチョン

  立花亭座個泥(たちばなていざこでい)…タッチー

  ルイ……………ルイルイ

 

 

 

ルイ=ジュクシスキー

 

 性別:男

 序列:9

 通称:神の間違い

 武器:剣

 風貌(ふうぼう):原作のルイの髪の色を赤くしたものだと思ってください。

 能力:「絶対懇願(アブソリュートオーダー)」(触れた相手に自分の命令を必ず実行させる能力)

 転生前の本名:知久(ちく) (るい)

 キャラクター成分比率…原作のルイ:嫌いな作品群の共通点:オリジナル=8:1:1

 

 「ベストナイン」の序列9に位置する男。本来ならば序列6相当の力を持つ。

 リュートとレースバーンの復讐相手。

 リュートの村を襲った張本人。転生時に得た能力に増長し、自分好みの熟女を好きにしたい、という身勝手な動機で悪逆の限りを尽くした。

 元々の通り名は「ライプハンター」だったが、立花亭の能力によって「神の間違い」が通り名になってしまう。

 転生前から熟女好きだったが、それが原因で人間関係に様々な支障を(きた)すことになった。転生後は自分の熟女好きを堂々と主張している。

 リュートの村の外れにある小屋で能力を封じられ、リュートに殺された。

 

 

 

その他の登場人物

 

リディア

 

 リュートの幼なじみの少女。転生者に憧れるリュートに半分呆れつつも、突然リュートに対して((くっさ)い)告白を行う。その後、村を襲ったルイに殺される。

 原作では殺害後にルイの手で(自主規制)されてしまうが、当作品のルイは熟女好きだったために殺されただけで済んだ。

 しかし当作品の作者が、「主人公と一緒に戦わない系幼なじみ」が大嫌いなため、死後に様々なところで侮辱(ぶじょく)されている。気になる人(そんな性格の悪い人おる?)は探してみよう。

 

 

 

 

 作品世界に転生者を送り込んでいる張本人(神だけど)。

 古代ギリシャの人が着ているような白いチュニックを身につけている老人。昔は筋骨隆々だったのがすっかりしぼんでしまったかのような肉体をしており、白くてヒョロヒョロした髪、顎ひげ、口ひげが生えている。

 転生候補者に転生の流れを説明し、今後の道を選択させる。その際には質問には答え、要望も出来る範囲で叶えている。

 転生候補者を「すぐ決断してくれること」を重視して選んでいるために、平気で悪逆を行う転生者が出てきてしまっている。しかしそのことに対しては「転生者に殺される人間より転生者に命を救われている人間の方が多い」として、見て見ぬふりをしている(一応、転生前から人殺しをするような人間は選んでいない)。

 

 

 

番外編

 

ジョースター卿

 

 「ジョジョの奇妙な冒険」第一部「ファントムブラッド」の主人公であるジョナサン・ジョースターの父親。イギリスで海上貿易の仕事をしている。

 リュートと魔女以外のキャラがパロディキャラばかりの当作品の中で、数少ない他作品のキャラクター本人。前書きを始めとした様々な場所によく出没しており、もはやその扱いは準レギュラー。

 通称「逆に考えただけで炎上打ち切り漫画の二次創作作品の準レギュラーにされた男」。

 ジョジョを知らない読者は「『逆に考えるんだ』ってスラングを残した人なんだな」くらいの認識で大丈夫です。




 初めての特別企画、いかがでしたでしょうか?
 要望、意見等ございましたら、お聞かせください。

 次回からは物語に戻ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その1 「後悔」

 新章「離反」スタートです。

 いつもと章の題名が違うって?そうなんです。いつもは章の題名が「(転生者の通り名)○○」なんですけど、この章では違います。何故かというと
???「ガァッデェム!!!!」
ドゥルルルルルデレレデレレデレレレレレデーン ドゥルルルルルデレレレレレデン!デン!デン!デン! ドゥルルルルル…

蝶野「俺は『チートスアンアン治安部隊』隊長の蝶野だ!まず始めに、新章スタートおめでとう。こんな新章スタートという晴れの日なのにも関わらず、俺は非常に怒っている!!なぜだか分かるか?この作品を読んでいる読者の中に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいる!!証拠をコピペしてきた!これだ!!」

9001
ななしのよっしん
2021/08/16(月) 21:14:47 ID: AVBDn+5w28
チースレの二次創作頑張って書いてる人がいるから見てやってくれないか
ベストナイン全部オリキャラに総取っ替えされてるけど

蝶野「これは、ニコニコ大百科の『異世界転生者殺し チートスレイヤー』の記事の掲示板に書かれたものだ!!言っておくが作者の自作自演じゃないぞ!作者以外の誰かの仕業だ!ここまで聞いてこう思っている読者もいるだろう。『別の作品のことを言ってるんじゃないの?』『注意書きを見てなかったんじゃないの?』と。だがソレは違う、こいつは確信犯だ!!その証拠も用意した。同じ掲示板に書き込まれたものだ!!」

8838
ななしのよっしん
2021/08/10(火) 06:29:33 ID: AVBDn+5w28
二次創作書いてる人がいるね
あまり宣伝してほしくないらしいけど

蝶野「IDを見て欲しい。どちらもIDは『AVBDn+5w28』、同一人物だ!!この作品の概要欄にも書いてあるだろう、『この作品を他所の掲示板で宣伝するのは止めて欲しい』とな。だがこいつはそれを無視した!!間違いなく確信犯だ!!ちなみにこの宣伝を見た別の人が書いた書き込みがこれだ!!」

9002
ななしのよっしん
2021/08/17(火) 01:32:30 ID: u+5kxLXoXO
色々とっかえて二次創作やるぐらいなら、最初から一次創作でやれよとしか

わざわざ「チートスの二次でやりました」ってのは、普通に書いても大した実力も話題性もないところを、予防線と売名のためにやってんじゃないかって感じがして嫌だ

9003
ななしのよっしん
2021/08/17(火) 01:39:08 ID: OCgG4wUCza
ベストナインをオリジナルに差し替えたチースレって、チースレのほぼ唯一と言える個性を消してるのだから、それはもうチースレの二次創作ではなく単なるチースレに似た内容の一次創作ではなかろうか?

蝶野「お前の宣伝のせいで、この作品を読んでない人間から罵倒されるハメになっちまっただろうが!!おい、ID: AVBDn+5w28!こっちに来い!!」
ガシッ
蝶野「なんでこんなことしたんだ!?大体なぁ、宣伝するなら普通は『これこれこういう所が特に面白いです』とかオススメの部分を書くのが人間のルールでは無いのか!?それに説明不足が原因で9003の人とか、この作品のベストナインを『純度100%のオリジナルキャラクター』だと勘違いしているじゃないか!!この作品にしろ原作にしろベストナインっていうのは『オリジナルキャラクターと言い張っているけどどう見てもパクリキャラ』って所が面白いんであって、そこはちゃんと伝えなきゃいけない重要な部分だろうが!!何?『こっちにも言い分がある』だって?」


9018
ななしのよっしん
2021/08/17(火) 15:00:01 ID: AVBDn+5w28
>>9015
だから直リンは控えたんだけだけどさ、最近このスレ作品そっちのけで作者への愚痴ばっかになってるから
もうちょっと作品そのものを語る流れにならんかって思ったんだよ

蝶野「完全に自分本位な理由じゃねえか!!どうなるかは分かっているな?()()()()()()だ。行くぞぉ!!」
バチィン!!!!


 リュートは後悔していた。アシバロンとの戦いで自分は相手に傷一つ付けることが出来なかった。

 理由は自分で分かっていた。「慢心」だった。独学で村一番の剣術自慢になり、村が滅ぼされ、魔女と出会った後はルイとスパノを相手に無傷で勝利。ポセイドラやレースバーンにも剣術の才能があると認められた。

 これまでの自分を振り返ると分かる。自分は今まで剣術の強さで挫折(ざせつ)したことが一度も無かった。ルイに村を滅ぼされた時は相手側の強襲だった。ルイを殺したときは魔女に能力を封じてもらっていた。自分の(かたき)であるルイにすら()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分のせいで優しい仲間(せんぱい)を失ってしまった。もっと本気で強くなろうとしていれば、と強く後悔した。

 

 魔女は後悔していた。ベストナインのことを完全に舐めていた。

 向こうはこちらの動向について何も知らないはずだ、と完全に決めかかってスパノ殺害後の日々を過ごしていた。アシバロンとアルミダと米沢のことを一筋縄ではいかない相手だ、と考えていたのは本当だ。しかしその一方で「転生者なんてチート能力(スキル)でイキっているだけのゴミ人間」だと考えてもいた。今もその考えは変わらないが、こう考えてしまったばかりに「相手は仲間が殺されたという予想外の事態に対して混乱し、何も行動を起こせていない」と決めつけてしまった。

 しかしこの決めつけがよくなかった。相手は何も考えられない木偶(でく)(ぼう)では無く、敵の様子を探っていたのだ。

 自分のせいで大切な仲間(こま)を失ってしまった。もっと敵の動きに対して考えを巡らせていれば、と強く後悔した。

 

 ポセイドラは後悔していた。自分の持つ100%の力を相手に対して出せていなかったと感じていた。

 突如現われた自分の(かたき)の姿。心に生じた強い動揺が「ようやくダチの敵を討つことが出来る」という歓喜の感情を塗りつぶしてしまった。リュートやレースバーンの前で動揺している様子を見られたくないと思ってしまった。そんな余計なことを考えていたから、目の前の敵に対して全身全霊をもって迎え撃つことが出来なかったのではないかと考えてしまう。自分はあの日から、アシバロンを倒すことを目標に修行を積んできた。悲願達成のチャンスを自分で棒に振っているようでは、何がしたいのか分からない。

 自分のせいで大事な仲間(ダチ)を失ってしまった。相手を倒すことだけ考えて戦っていれば、と強く後悔した。

 

 リュート達がいる場所は、地下室から遠く離れた場所にある、とある森。アシバロンの戦闘から脱出し、地下室の物資と共にここに逃げ延びていた。

 落ち込んでばかりではいられない。魔人討伐に向かった「テンスレ」のメンバーも回収し、今後の動きについて話し合わなければならない。動けないメルクリオの警護はリンとポセイドラに任せ、魔女とリュートはメンバーの回収に向かった。

 魔人討伐メンバーが向かった大凡(おおよそ)の位置は分かっている。そこまで「ワープゲート」で向かい、魔女の「遠隔会話(テレパシー)」で呼びかけながら探す方法をとった。単純な方法だが、今は目立つような行動は避けたい。

 「ワープゲート」を抜け、仲間の捜索を開始する二人。魔女がリュートに声をかける。

 

「済まなかったな。私の見通しが甘かったせいでお前達を危険にさらしてしまった」

 

明らかに落ち込んだトーンでの謝罪。しかしリュートも罪悪感に(さいな)まれており、彼女のいつもと違う雰囲気に気付けずにいた。

 

「俺の方こそ、ルイとスパノを簡単に殺せたことで転生者を舐めてしまっていた。もっと真剣に修行していればって、悔やんでも悔やみきれないよ」

 

 二人はそれ以上言葉を発さなかった。

 「遠隔会話(テレパシー)」の有効範囲は魔女から半径2キロメートル。簡単に見つけられる範囲ではない。まだ皆が地下室へと戻ってくる時間ではないが、早く見つけなければ仲間もリュート達も危険だ。二人は走り回った。

 運が良かった。二人は何とか仲間達を見つけることに成功した。説明は後回しにしてポセイドラ達の元へ戻る。道中で敵に見つかることもなかった。

 

 この日魔人討伐に向かったケイル、ラーシャ、ゴーギャン、ジモーの四人にはこの時の様子が忘れられなかった。突如頭に聞こえた魔女の声。普段の彼女からは想像もつかない鬼気迫った呼び声に、何か良くないことが起こったということは分かった。そして二人と合流し「ワープゲート」を抜けた先には、自分達が地下室に置いてきたはずの私物が積み上げられているではないか。

 四人はそこで、事の一部始終を聞いた。修行中の三人の元にいきなりアシバロンが現われたこと、三人で挑んでもほとんどダメージを負わせられなかったこと、レースバーンが(おとり)となったこと…。

 

「俺達は最後に、アシバロンがレースバーンの腹を貫いた姿を見た。もう助からないだろう…」

 

ポセイドラが絞り出すような声で報告する。

 

「レースバーンは『自爆魔法』を唱えてアシバロンに一矢報いたのかもしれない。だがどちらにせよ、火属性魔法の耐性が高いヤツを殺せたとは思えない。地下室の存在もすぐ分かるだろう。もうあそこには戻れない」

 

魔女も悔しそうに報告する。

 その後、リュート、魔女、ポセイドラの三人は自分が抱えている後悔を口にする。三人とも仲間(レースバーン)を失った責任は自分にあると考えていた。

 

 「そんなに自分を責めないで下さい。私達は近頃の復讐が上手く行きすぎていたせいで油断をしていました。敵への警戒を(おろそ)かにしていたのです。皆さんそうなのではありませんか?」

 

 ケイルの言葉にラーシャ、ゴーギャン、ジモーの全員が頷く。仲間との突然の別れを知り、彼らも相手(ベストナイン)のことを心のどこかで低く見ていたことを実感する。ルイとスパノを立て続けに殺したことで、大した相手ではないと錯覚してしまっていたのだ。だから己の後悔を口にする三人を非難する者は誰もいなかった。

 

「皆さん…。ありがとうございます」

 

「そう言ってくれて、少しは気持ちが落ち着いたよ」

 

「…すまない、皆」

 

皆の励ましで三人は幾分(いくぶん)か救われた気持ちになった。

 

「だがアシバロンめ、レースバーンまで殺しやがって!次は俺も一緒だ、ポセイドラ!アイツに目にもの見せてやろうぜ!」

 

 ジモーが右手の拳を左手で受けながら言う。

 

「ああ、次こそはヤツを斬る!」

 

ポセイドラも気を取り直し、再戦に向けて闘志を燃やす。

 少し気分が落ち着いたリュートは辺りを見渡す。見たこともない森、側には皆の私物で出来た山があった。

 

「それにしても…ここってどこなんですか?って言うか、いつこんなに多くの私物を運んだんですか?」

 

「ああ、この荷物はリンが運んだんだよ。お前からアシバロンの襲来を聞いた後、私が指示したんだ」

 

 地下室でリュートの報告を聞いた魔女は「地下室を捨てなければならないかもしれない」と考え、リンに脱出の準備を指示した。魔女は「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」発動のために動けない。物資の移動はリンが行った。

 

「ええ!?この荷物、全部リンさん一人で運んだんですか?」

 

「そうですよぉ~」

 

 驚愕するリュートにリンが答える。彼はこれまで、リンのことを家事要員だと思っていた。しかしこれだけの量を一人で運んだということは、彼女は自分が思っている以上にパワフルなのかもしれない。

 

「そんなに驚くことじゃあないぞ?私がリンに初めて会ったとき、こいつはメルクリオを肩に抱えながら助けを求めて走り回っていたんだからな」

 

「えぇ…そんなの初耳ですよ」

 

魔女の言葉を聞いてリュートはリンの新たな一面を知った。

 

「この森はわたしが選んだんですわ。以前から地下室が使えなくなったときはここに避難する計画でしたわ」

 

 残るリュートの疑問に答えたのもリンだった。

 

「どうしてこの森を?」

 

「この近くにわたしの実家の別荘があるんですわ~」

 

「べっべべべ、別荘!?」

 

「知らなかったのか?リンの父親は村の領主だ」

 

ポセイドラの情報でリュートはまたリンの新たな一面を知ることになった。

 

「とりあえず、移動を始めよう。皆、近くに黒い虫が飛んでないか警戒しろ」

 

「黒い虫?」

 

 魔女の警告にゴーギャンが聞き返す。

 

「俺たちが脱出するときにコイツが飛んでいた。俺が殺しておいた」

 

ポセイドラは(ふところ)から虫の死骸を取り出し、四人に見せた。

 

「これは多分、米沢反死(よねざわはんし)の虫だな」

 

魔女が補足する。

 

「ねぇ、ポセイドラさん?その虫、私に預けてくれませんか?」

 

ケイルがポセイドラに尋ねる。彼女の意図を知ったポセイドラは死骸を渡す。

 

「ありがとうございます。コレは()()()()()()()()()

 

ケイルは静かに笑った。




 蝶野の登場曲ってFFっぽいですね。

 以下、作者の愚痴です。読む価値無し。





9002
ななしのよっしん
2021/08/17(火) 01:32:30 ID: u+5kxLXoXO
色々とっかえて二次創作やるぐらいなら、最初から一次創作でやれよとしか

わざわざ「チートスの二次でやりました」ってのは、普通に書いても大した実力も話題性もないところを、予防線と売名のためにやってんじゃないかって感じがして嫌だ



 この書き込みに対して愚痴をこぼしたい。
 これ書き込んだ人ってこの作品読んでないですよね?「他所の掲示板で作品を宣伝しないで下さい」って書いている人が売名なんてするわけ無いじゃないですか。大した実力も話題性も無いのは事実ですよ?だって初めての作品投稿なんですから。でも「売名」って言った時点でこの作品読んでないのはバレバレですよ。
 「読んでない作品を非難する」この行為って、チートスレイヤーの原作者のやった行為と丸っきり一緒ですよね?
 「貴方のやっている行為って、貴方が毎日のようにここに批判を書き込んでいるチートスレイヤーの原作者のやっている行為と同じですよ」って誰か9002へのアンカ付で書き込む人いないかしら。そう二次創作の作者が言ってましたよって。
 なんかこれって、「これはウチのボスからのおごりだ!」って言いながら酒場で初めて会った相手の顔に酒をぶっかける行為と似てますね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その2 「アシバロンの功績」

疑惑のパクリ博覧会Vol.1

 当作品の原作「異世界転生者殺し チートスレイヤー」は敵組織「ベストナイン」のメンバーが、他者の人気作品のキャラクターのパクリだったことが炎上の大きな要因でした。
 しかし世の中には「チートス」以外にも「これあからさまにパクリだろ!」と言いたくなるモノが存在します。このコーナーでは、私の知っているパクリ疑惑を紹介するコーナーです。

 今回紹介する作品はコチラ!「魔法少女ピクシープリンセス」です!
 この作品は2014年8月から2015年11月まで配信されていたゲームアプリです。私はサービス終了後に知ったので、プレイはしていません。
 この作品を知らないという読者は、まず黙って「魔法少女ピクシープリンセス」で画像検索してみて下さい。これだけで「あれ?これって…」となる方も結構いるのではないでしょうか。ピンと来ない方はそのまま「スマイルプリキュア」で画像検索して下さい。

 そう、この作品、ビジュアルが思いっきり「スマイルプリキュア」なんです。配色が…、配色がガチでヤバすぎ!せめて、ピンクを赤にするとか、どれか一色を白に変えるとかさぁ。
 ちなみに「スマイルプリキュア」が放映されたのは2012年です。私自身プリキュアシリーズはほとんど見てないんですが(声優チェックだけはやってる)、このスマプリだけはちょっと見ました。個人的にキャラクターの魅力が強くて入りやすかったんですよ。

 よくやったなと思いますよ、正直。銀魂がプリキュアのパロディやって怒られたって話を聞いたことあるので、勇気あるなぁと思って笑っちゃいました。そしてよく一年続きましたねコレ…。

 一番ヤバいのが、「スマイルプリキュア」でキュアピース(黄色)を演じていた金元寿子さんを青色役で起用していることですね。金元さんはこのオファーが来たとき何を思ってたんだろう…。

 あと、女児向け作品であるプリキュアが普段しないような露出度の高い服を頻繁に着させていたのも「魔法少女ピクシープリンセス」のグッドポイントですね。


レースバーン死亡日の翌日 王都 「神の反逆者」ギルド

 

 この日の朝のミーティングには全員が出席していた。アシバロンからの報告があるからだった。

 アシバロンの肩の傷や火傷はすでに回復していた。昨日の内に回復魔法での治療が施されたからだ。しかし()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「Bonjour.皆、朝から集まってくれてありがとう。知っての通り、昨日アシバロンがルイとスパノを殺した集団と戦った。その時の様子を本人から直接報告してもらおうと思ってね」

 

 マウントールがミーティング開始の挨拶をする。

 

「そ、それでっ。下手人は殲滅出来たんですか!?」

 

「順を追って話す。落ち着け」

 

 (せき)を切ったように尋ねる立花亭をアシバロンが(いさ)める。

 

「それよりも、コイツを信用してホントに大丈夫なの~?スパノが言うには、この脳筋糞土方が犯人なんでしょ?」

 

「豚が…」

 

わざとらしくアシバロンの疑惑を蒸し返すアルミダ。当人は(いら)ついたようにアルミダを睨む。

 

「アルミダ、私自身がアシバロンを疑ってないからって、その件に対して何の対策もしないと思うかい?彼には虫が数匹同行している。そうだよね、米沢?」

 

 マウントールが米沢に問いかける。

 

「うん…、ちゃんとついて行ったよ。それで一通り見てきたんだけど…僕にはアシバロンが犯人には思えない」

 

「根拠はあるのぉ?」

 

「Persistant」

 

アルミダの追求に言葉を返したのはマウントールだった。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?しつこいな、と言ったんだアルミダ。順を追って話すから黙って聞いててくれ」

 

「チッ、分かったわよ」

 

 アルミダが黙ったのを見てアシバロンが語り始める。

 

「昨日の昼過ぎ、俺は米沢の報告を受け敵地に(おもむ)いた。そこにいた敵は、米沢の報告にあったリュートの他にレースバーンとポセイドラと呼ばれている男が二人、合計三人だ」

 

「魔女やゴーギャンは?」

 

「いなかったな。」

 

ギットスの質問にアシバロンが答える。

 

「三人と戦闘した感想だが、正直苦戦するような相手では無かったな。まぁ、レースバーンの得意戦術が火属性魔法だったことが大きかったか」

 

 彼の火属性魔法の耐性が高いことは皆が知っていた。

 

「ポセイドラの戦闘スタイルは水属性魔法と剣術。リュートは単なる剣術だがルイの剣を持っているため油断は出来んな。だが恐れることは無い。アイツの剣術は素人よりは上ってくらいだ。宝の持ち腐れだな」

 

「アシバロンさんの動体視力なら、プロの剣術も素人同然じゃないですか」

 

立花亭が(ひと)()ちる。逆に言えば、彼が非難の言葉を言わないポセイドラという男の剣術はどれほどのレベルなのか。彼女はあえてそれ以上考えなかった。

 

「これ以上楽しめないなと判断した俺は、一番楽しめないと思ったレースバーンを最初に殺す相手として指名した。今思えばこの判断が間違いだったな。ヤツの腹をぶち破ることに成功したんだが、その瞬間「ファイアドーム」を唱えられてな。ヤツに捕まっている間に他の二人を見失った。その後レースバーンは自爆し、辺り一面を吹き飛ばしてしまったよ。これが昨日の戦いの流れだ」

 

 アシバロンが語り終えた。彼の報告を要約するなら「倒した敵はレースバーン一人」ということになる。他の敵が自爆で吹き飛んでなければの話だが。

 

「あ~!ひょっとしてその顔の火傷ってその時のぉ?」

 

 御手洗がアシバロンの顔の火傷を指差して言った。

 

「そうだ」

 

「やっぱりね!変だと思ったんだもんっ、バロンが火傷だなんてさぁ」

 

「なんで治さないのよ?」

 

今度はアルミダが問いかける。アシバロンは顔の火傷を手でさすりつつ言う。

 

「ふん、豚に説明しても分からんだろう」

 

アルミダは怒りで顔を真っ赤にした。

 

「私には分かるよ。君に火傷を残すような相手だ。()鹿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだろう」

 

流石(さすが)はマウントールだ」

 

アシバロンの言葉は満足げだった。

 

「そ、そんなことよりもっ、アシバロンさんの話からすると他の敵は討ち取れていないってことですか!?」

 

「まぁ、そうだな。立花亭、()()()()()()()()()()()()()()()()な」

 

 アシバロンは最後の言葉をわざとらしく強調した。

 

「じゃあ、敵の現在の居場所は?」

 

()()知らん。米沢にでも聞け」

 

 皆の視線が米沢に集中する。

 

「さ、さっきも言ったけど、僕は昨日アシバロンに何匹かついて行った。今の所帰ってきたのは()()()()()()()()()()()()()だけだよ。敵の自爆から一匹だけ守ってくれたんだ。僕がアシバロンを怪しいと思わないのはコレが理由だよ。本当に敵と内通しているなら、わざわざ観測者を助けたりしないよ。そうでしょ、アルミダ?」

 

 レースバーンが自爆魔法を唱える直前、アシバロンは空中の()()を掴み取っていた。その()()こそ、米沢の言う帰ってきた虫だったのだ。

 米沢の見解には、アルミダも認めるしかなかった。

 

「じゃあ、他の虫は全部吹き飛んじゃったってことですか!?」

 

「うーん、多分そんなことは無いよ。僕ならアシバロンが見失った敵を追うよ。残りの二人が爆発で心中しちゃったなら話は違うけど、もし逃げたなら一匹は必ず追いかけるよ。絶対そうするよ!」

 

 米沢の口調は後半に行くほど強くなっていった。

 

「だとすると、また米沢の報告待ちってことになるね」

 

マウントールがまとめた。

 

「そ、そんなぁ…」

 

「そう言えば、ルイの剣はどうしたんだ?」

 

 今度はギットスが質問する。

 

「それもリュートが持ったままだ。今にして思えば、そっちの回収を優先するべきだったな」

 

アシバロンが開き直ったように平然と答える。

 

「アシバロン、敵を逃したのはまだしも、最低でも回収作業はして欲しかったね」

 

「む、そうか。済まなかったな」

 

 どうやらマウントールにまで責められるとは思ってなかったらしく、アシバロンは素直に謝罪をする。

 

「まあ、しなかったのなら仕方ない。どうしても必要ってわけでもないからね」

 

マウントールもまた、アシバロンの謝罪をあっさりと受け入れた。

 

「しっかし何だかね!全然なってないじゃない!剣は回収しない、敵は皆殺しに出来ないどころか見逃す始末。やっぱり脳筋のやる仕事はレベルが低いわね!」

 

 ここぞとばかりにアシバロンを責めるアルミダ。

 しかし、実際にそうなのだ。彼の功績と言えばレースバーン一人を討ち取ったことくらい。実際にはレースバーンは「テンスレ」の貴重なメンバーであり、本拠地を潰す活躍もしているのだが、ベストナイン側はまだ(テンスレ)の人数も拠点も把握してないのだ。そんな彼らからすれば、アシバロンの功績が物足りなく感じてもおかしくない。

 アシバロンもこのまま責められ続けるのは良くないと思ったらしく、彼なりの()()()を口にした。

 

()()()()の言うことは尤もかもしれんな。だがな、少なくとも()()()()()()()()()()はある程度分かったぞ」

 

「敵の手口?」

 

ギットスが聞き返す。

 

「スパノが死んだ日、『向こうはこちらの能力を封じているのではないか』という話になったな。何か分かりはしないかと俺は向こうに探りを入れたんだ。結果としてある程度向こうの手口が分かったというわけだ」

 

そう言ってアシバロンは説明を始める。

 

「まず、向こうはなぜかスパノの過去を知っていたな?あの『転生前の情報を言い当てる』という行為自体に秘密があるんじゃないかと睨んだ俺は、自己紹介がてら自分の転生前の情報を教えてやったんだよ。お前達にも話したことのある範囲でな。読みは当たったよ。()()()()()()()()()()()()()

 

彼の説明に皆が耳を傾ける。アルミダさえも、「敵の手口」という情報の魅力からか口を挟もうとしない。

 

「お前らに話した取るに足らない情報ですら動揺するんだ。ヤツらにとって『敵の転生前の情報を言い当てる』行為はそれ程重要だったと見える。それともう一つ。これは俺が三人をダウンさせた時のことだった。向こうにとってはピンチの状況だな。そんな状況でリュートが取った行動は『俺の転生前の情報を話すこと』だったよ。無論、俺から話した内容よりも詳しい情報だったがな。全く、どこで知ったのやら」

 

「ちょっと待ってくれ。今の言い方からして『向こうがどうやって転生前の情報を手に入れているのか』は分からなかったんだね?」

 

マウントールが問いかける。

 

「ああ、そこは分からなかったな。まあがっかりするなマウントール。()()()()()()()()()()()()()()も分かったぞ」

 

「私が気にしていた言葉?」

 

「お前は以前、『相手の心を乱す』って発言を気にしていたな?その答えが分かったんだよ。さっきの話に戻るが、俺はリュートの言っていたことについて意に介さなかった。ヤツの罵倒が無知から来ていると分かったからな。そしたらヤツは俺の様子に構わず斬りかかってきたよ。普通に返り討ちにしてやったときのヤツはどんな顔をしてたと思う?まさしく鳩が豆鉄砲を食ったような顔だったよ。『俺の転生前の情報を言い当てる』ことで俺の能力を封じたつもりだったのだろうな。だが、俺は向こうの魔法を無効化する手段を取っていない。ならどうして無効化できたか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

アシバロンは結論を言った。

 

「その条件こそ『相手の心を乱すこと』だろうな。ヤツらは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ」




 長くなってしまったので今回はここで終わり。ベストナインのミーティングは次回に続きます。

 「神の反逆者」ギルドにはもちろん医務室があります。大規模ギルドですからね。回復魔法の得意な人間が一日中スタンバイしています。アシバロンの治療もそこで行われましたが、本人の希望で顔の火傷を一部残した状態で治療しました。

 



 ちなみに私が一番好きなプリキュアはキュアピースです。金元寿子さんもこの時好きな女性声優さんになりました(聞いてない)。彼女の声が良いんですよね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その3 「試金石」

 皆さんにお詫びしなければならないことがあります。

 魔女の特殊能力「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」についてなんですが、第一章6話「魔女の能力」にて、「発動までに少し時間がかかる」という弱点を挙げたのですが、この弱点を無かったことにいたします。
 理由はなんとなく察することが出来ると思うのですが、この弱点がアシバロン戦での描写と矛盾してしまっているからです。それにこの弱点が無くても話を進めるのに支障が無いため、無かったことにいたします。

 このような改変は本来あってはならないことであり(仮に商業作品だったら絶対に許されない)、私としても反省しております。今後はこのような改変が起きないよう注意して作品作りをしていきたいと思いますので、何とぞよろしくお願いいたします。


転生前の情報を暴露して転生者の心を乱すことで能力を封じる。

 アシバロンの推理を聞き、ベストナイン全員が驚愕する。彼は昨日の戦いを通じてそこまで推測を進めていたのだ。

 

「どうだ?何か反論があるなら聞いておこうか」

 

 アシバロンが一同を見渡しながら言う。誰も反論する者はいなかった。その一方で質問をする者が一人。

 

「アシバロンの推測に変な箇所は見当たらないな。確かに、そんな能力があったとするなら厄介だよ。でもね、『転生者の能力を封じる』なんて魔法を使っているのは誰なんだい?そこが一番重要じゃないかな?」

 

 マウントールだった。彼の口調は何かを試しているようなものではなく、単純に「犯人が分かるなら聞いておきたい」という意図が感じられるものだった。

 

「残念だが、犯人を確定することは出来ないな。だが、ある程度の推測は可能じゃないか?なあ、米沢」

 

「え、へぇ!?ぼ、僕?」

 

 アシバロンに突然指名された米沢が驚きの声を上げる。

 

「お前はスパノが殺された時と昨日の俺の戦い、二回も相手の行動を観察しているんだ。お前なら犯人を絞り込めるんじゃないのか?」

 

アシバロンの言葉を受け、米沢は考え始める。自分が見た二回の戦い、その両方にいた敵は一人だけだ。どう考えても「彼」が怪しい。

 

「りゅ、リュートじゃないか!?」

 

米沢が興奮したように犯人を指摘する。

 

「リュート?それはあり得ないな。絶対にだ」

 

しかしアシバロンは米沢の推理をはねのけた。

 

「ど、どうして?リュートは二回とも戦いに参加しているんだよ?」

 

「リュートが能力を封じる手段を持っているなら、昨日俺が来た段階で即座に使っていなきゃおかしい。俺の強さなんぞ世界中の人間が知っている。それにポセイドラは俺に対して復讐心を抱いていた。俺の強さを警戒しないなんぞあり得んな」

 

「アンタを油断させるためじゃないの?最初は普通の戦いだと思わせといて、途中で能力を封じることでアンタを混乱させようとしたのよ」

 

 アルミダが反論する。

 

「ほう、豚にしては中々出来た反論じゃないか。だがそれもあり得んな」

 

怒りで顔を赤くするアルミダを尻目に、アシバロンは根拠を話す。

 

「もしそのつもりなら、魔法を発動する前にヤツが俺に攻撃するはずがない。全員が能力を封じる魔法を覚えているのでなければ、魔法を持っている人間が真っ先にやられる事態は何としても防がねばならない。だがな、昨日リュートは俺の過去を暴露する以前に一度襲いかかってきたぞ。結果的にそうはならなかったが、その時点で俺はリュートを返り討ちにして殺すことも出来た。ヤツが魔法を持っているならそんな状況になる行動は決して取らない。違うか?」

 

「そんなこと昨日その場にいた人間じゃなきゃ分かんないわよ!この脳筋糞土方!!」

 

アルミダは突っかかるが、彼の反論を否定することは出来なかった。

 

「じゃあ、誰が犯人なんだ?」

 

 ギットスが質問する。

 

「これは完全に勘なんだが、魔女なんじゃないかと俺は思うがな」

 

アシバロンが答える。

 

「根拠は?」

 

「完全に勘だと言っただろう?だがまぁ根拠に近いモノならある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。リュート、ゴーギャン、レースバーン、ポセイドラ。他の人間は個人の名前で呼ばれていたのにだ。怪しむのには十分な理由じゃないか」

 

 言われてみればそうだ。一人だけ俗称で呼ばれている魔女の存在はどう考えても怪しい。皆がそう思った。

 

「俺が戦った時に魔女の姿は見えなかったが、あそこには滅んだ村の残骸がいくつもあった。隠れる場所はあったはずだ。米沢の虫を一匹しか回収できなかったことも、向こうにとっては好都合だったな」

 

「ふん、随分偉そうに講釈を垂れるじゃない!大した戦果も挙げられなかったくせに!」

 

 アルミダが悔しまぎれに突っかかる。

 

「どうした?随分と突っかかってくるじゃあないか。何の成果も無いお前よりはましだと思うがねぇ、『二子鯖江(ふたこさばえ) 豊美(とよみ)』!」

 

 場が震撼(しんかん)する。二子鯖江(ふたこさばえ)豊美(とよみ)は、アルミダ=ザラの転生前の名前である。この名前自体は彼女が自分の転生前のことを武勇伝らしく語ることがあるのでベストナイン全員が知っている。

 しかし例え転生前の名前を知っていたとしても、転生者は転生後の名前で呼ぶのが基本だ。アシバロンがアルミダを転生前の名前で呼ぶのは、彼が最大級に彼女を挑発する時だけである。

 アルミダが怒りで、今日一番顔を赤くする。一触即発の状況だ。

 

「Arrête」

 

 マウントールから「止めろ」の声がかかる。序列2と3の喧嘩を止められる人間は彼しかいない。

 

「アルミダ、アシバロンが敵に痛手を負わせられなかったことは事実かもしれない。でもね、敵の手口が分かったのは大手柄(おおてがら)だよ。苦し紛れに突っかかるのは止めないか」

 

 マウントールに言われてしまっては、どうすることも出来ない。アルミダは沸き上がる怒りを拳に乗せ、机を叩いた。

 

「しかし、アシバロンの言うことが本当なら対策は簡単だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だね」

 

「簡単じゃ無いですよ」

 

 マウントールの発言を立花亭が否定する。

 

「少なくとも私は自分の過去をバラされて平常心でいられる自信は無いです。自分が出来ることを他人も出来ると思いこむなんて、随分と自己中心的じゃないですか」

 

そう言う立花亭の口調には覇気が感じられなかった。

 

「かわいちょーでちゅね~、立花亭ちゃ~ん。自分の過去を言われて平常心を保てないなんて雑魚でちゅね~」

 

 アルミダが立花亭を挑発する。どう考えても八つ当たりだ。

 

「言っておくが、ただ淡々と過去を言われるわけじゃない。相手はこちらの心を乱そうと、相当挑発した言い方をしてくるぞ。豚が耐えられるとは思えんな」

 

アシバロンが再度アルミダを馬鹿にする。

 

「ふ、ふん!どうせ『オールマジックキャンセル』を発動している私には通用しないわよ!」

 

「そうだな」

 

 アシバロンが吐き捨てるように同意した。

 

「わたしはどうだろうなあ?そんな恥ずかしい何かがあるんじゃ無いけど、あること無いこと言われたら乱しちゃうかも」

 

 御手洗が自信無さげに言う。

 

「俺は…どうなんだ?」

 

「お前が心を乱すなら見てみたいものだな」

 

 自問するギットスに対してアシバロンが言う。

 米沢はブルブル震えるだけで何も言わなかった。

 

「リーダーはどうなのぉ?自分の過去を暴露されて平気?」

 

「モチロンさぁ!」

 

 御手洗の問いかけにマウントールが答える。

 

「転生前に、誰かに言われて恥ずかしいことをした覚えはないよ。若いときは多少ヤンチャもしたけれど、まぁ若気(わかげ)(いた)りってヤツだね。責められるようなものじゃないよ」

 

彼は自信満々に答えた。

 結局その日のミーティングは「米沢の虫の帰還待ち」ということで締めくくられた。

 

 

 

 

 

一週間後 王都 「神の反逆者」ギルド

 

 アシバロンの報告から一週間が過ぎた。なのに虫は一匹も帰ってこない。この事態に対しての話し合いが、この日の朝のミーティング内容だった。

 

「どういうことなのよ?本当に帰ってきてないの?」

 

 アルミダが早々に米沢に問い詰める。

 

「本当だよ、全然帰ってこないんだ」

 

困り果てたように答える米沢。

 

「まだ()()()()()()()()可能性は?」

 

アシバロンが続けて尋ねる。

 

「未だに帰ってこない理由は二つしか考えられないよ。()()()()()()()()()かだよ。監禁されているならまだ監視は続いている状態だけど…」

 

「それなら、殺されている可能性の方が高そうだな」

 

結局アシバロンが結論づけた。

 

「どどど、どうするんですか、マウントールさんっ!?」

 

 必死な口調で立花亭が尋ねる。彼女はこの数日、いつ襲われるかも分からない恐怖に怯えながら過ごしていた。

 

「う~ん、戻ってこないなら仕方ないね。いっそ諦めようか?私はね、このままでも構わないとも思っているんだよ」

 

 マウントールの口調は、冗談とも本気とも取れなかった。

 

「あの下手人達はね、『神が私に与えた試金石』なんじゃないかと最近思うようになったんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()さ。結果、ルイとスパノは駄目だったけど、アシバロンはOK(ごうかく)だった。そして向こうの手口も判明した今、殺されるようでは不合格に間違いない。そう思うんだ」

 

「そ、そんなのって…」

 

「おっと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと言いたいのかい?無論、対策はするよ。米沢には引き続き、下手人達を捜索してもらう。これで十分だろう?下手人達の存在は他の人間に知られてはならないからね。これが私の答えだ」

 

 マウントールは立花亭の質問に答えた。

 

「そんなの…そんなんじゃ納得出来ません!」

 

立花亭が叫ぶ。彼女にしてみれば、彼の答えでは納得出来ない。身を削るような恐怖に耐える日々は一日でも早く終わらせたかった。

 

「一刻も早く、確実に下手人達を討つ手段を講じるべきです!皆さんも黙ってないで何か言って下さいよ!ベストナインの危機ですよこれは!早くヤツらを見つけないと…」

 

()くないなぁ、こういうのは…」

 

 彼女の必死の訴えを遮ったのはマウントールだった。彼は今まで向けたことが無いような(それこそ自分勝手な行動を取り続けるルイを見るときのような)、冷たい目で立花亭を見ていた。

 

「何だ、この(みにく)い姿は…。ベストナインの姿か?これが…。自分の強さに自信を持てず、敵の恐怖に怯え、他人に助けを求める醜さ。()()()

 

マウントールは矢継ぎ早に立花亭を責め立てる。立花亭は怯えた表情で彼を見つめる。他のメンバーも呆気(あっけ)にとられていた。マウントールがルイ以外のメンバーにここまで辛辣な態度を取るのは初めてだった。

 

立花亭座個泥(たちばなていざこでい)、何度言えば分かるんだい?ベストナインが誰かに殺されるようでは困るんだ。対策も判明した今、向こうに殺されるのでは本当に話にならない。君もベストナインのメンバーでありたいなら、もっと堂々としてくれなくては困る。分かるかい?」

 

「は…はい」

 

 彼女はそう答えるしか無かった。

 

「だから結論としては『これからも下手人達は米沢が捜索するがそれ以外の対策は行わない』、以上だよ。ああ、そうだ。くれぐれも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()()()()。分かったね」

 

マウントールはミーティングをこう締めくくった。

 

 

 

 

 

 しかし、この時誰が予測できただろう。下手人達の情報を得られず、向こうも行動を起こさない期間が、この後()()()()も続くということを。

 一つ言えることがあるならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()ということである。




 どうして「テンスレ」の動向が半年以上掴めないのか。理由は次回書きたいと思います。
 ここで、皆さんにお願いしたいことがあるのです。答えを聞いて「え?でもこうすれば良かったんじゃ?」と思うこともあると思うのですが、「しょせんは二次創作が初めての素人の思いつきだ」と温かい目で見て下さると幸いです。
 まだ物語が続く関係上、特に「米沢反死(よねざわはんし)の秘密」についてはまだ謎にしておきたい部分もございます。謎が解けたときに解消される疑問も多々あると思いますので、気長に待っていて欲しいのです。
 
 皆さんが楽しめる作品になるよう、これからも頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その4 「新拠点」

 前回、アルミダ=ザラの転生前の名前が判明しましたが、これに伴い人物紹介も修正しました。

 これからも新事実が判明次第、人物紹介を更新していきます。


 アシバロンから逃走した後、テンスレの皆と合流したリュートは新たな拠点となる「リンの実家の別荘」に向かっていた。

 

「でも知りませんでした。リンさんの家がお金持ちだったなんて…」

 

歩きながらリュートが言う。確かに彼女は「~ですわ」という話し方をしていたが、まさか本当に金持ちの令嬢だったとは思わなかった。

 

「まぁ確かにそうだったんですけど~、もう勘当(かんどう)されちゃったんですわ~」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「そこまで話すのか?」

 

「大丈夫ですわポセイドラさん、恥ずかしいとは思ってませんし~。まあだからといって(ほこ)って良いとも思ってませんけどね」

 

そう言いながら、リンは自分の実家との関係について話し始めた。

 

「わたしは結構大きい村の領主の長女でしたわ。弟が三人、妹が一人いましたわ。お金持ちだったのはホントなんですけど、それだけに家にいたときのわたしはとても縛られてました。生活の作法もみっちりしごかれましたし、馬術とか魔法とか、色々お稽古もさせられました。『将来どこに嫁に出しても恥ずかしくない女性に育てるのだ』なんてお父様達は躍起(やっき)になってましたわ」

 

リンは何てことのない思い出を語るかのように話す。

 

「わたしはそんな縛られた生活が嫌になって、反抗的な態度をとるようになりました。例えば本当なら使用人が作るはずの、わたしの食事を勝手に作ったり、遠くの村に勝手に出かけたり…色々ですわ。そしたらお父様、『以前趣味の狩りで使っていた別荘をくれてやるから家から出て行け』って私を追い出したんですぅ」

 

「そ、そうだったんですか…」

 

 リュートはどう反応したら良いのか分からず、同情したような曖昧な返しをした。ただ一つだけ彼は確信していた。彼女が料理を始めたのは正解だった。あんなにすごい料理の腕前が世に出ないなんて世界の損失だ。

 

「そんなに深刻に思わないでね?わたしは今の自由に行動できるわたしに満足しているのですわ」

 

リンは笑顔でそう言った。

 そんな話をしていると、目の前に目的の別荘が見えてきた。

 

「え、大きくないですか?」

 

森の中に(たたず)む白い別荘はリュートの想像以上に大きかった。豪邸というわけでは無かったが、五人程度なら余裕で住めそうだ(最も、こちらの人数は九人なのだが)。同じ狩りのために作られた建物でも、リュートがルイを殺したときの小屋とは比べものにならない。

 

「リンさんのお父さんとか、帰ってくるんじゃ無いんですか?」

 

「大丈夫ですわ~。『ここら辺の狩りにはもう飽きた』って言ってましたし、実際にここにお父様が来たのを見たことありませんし~」

 

リンの答えを聞き、新たな疑問が浮かんだリュートは今度は魔女に尋ねる。

 

「こんなすごい場所があるなら、なんで地下室なんかにいたんだ?」

 

「いやいや、単純に目立つじゃあないか」

 

魔女は「お前は何を言ってるんだ」とでも言いたげに答えた。

 

「こんな目立つような場所で大丈夫なのか?」

 

「リンが貰った別荘で一番小さいのがここなんだよ」

 

「えぇ…、他にも別荘あるんですか…?」

 

「はい~、ここを含めて三件ほど」

 

 リュートは呆れてしまった。「勘当した、なんて言いながら本当は滅茶苦茶過保護なんじゃないか?」と思ったが口にはしなかった

 

「それに対策はすでに考えてある。虫は大丈夫だな?」

 

魔女が皆に尋ねる。道中も全員、自分の周りを飛ぶ虫がいないか細心の注意を払っていた。結果として、怪しい動きをする虫はいなかった。

 

「大丈夫なようだな。隠れ家に入った後は、窓を閉め、カーテンを閉じろ。カーテンが無い窓は何か別の布を貼り付けるんだ。その後は、隠れ家の壁や天井に穴が空いてないか徹底的に調べろ。見つけたら即(ふさ)ぐんだ。()()()()()()()()()()な」

 

 魔女の指示を聞き、リュートは新たな隠れ家に入る。ドアの先には玄関と一体になった大広間。右手にはキッチン、左手には風呂場やトイレに続く扉と、二階と地下に続く階段があった。長い間使用されていないというのは本当だったようで、あちこちに(ほこり)が溜まっていた。

 

「穴を塞ぐ木の板や布は二階の物置にある。それから、地下室の通気口も塞ぐんだ。ただし、そこを塞ぐのは簡易的にな」

 

 以前から地下室が使えなくなった時のために視察をしていたようで、魔女はテキパキと皆に指示を下す。

 二回にはトイレの他に部屋が四つあり、一つが物置だった。リュートは物置から木の板を持ってきて地下室に降りる。地下室は敷地の半分ほどの広さをした四角い部屋だった。がらんどうで、石の壁に囲まれた殺風景な部屋だった。四方の壁に一つずつ通気口を見つけ、木の板で簡易的に塞ぐ。これで虫は入って来られない。

 その後は穴を見つける作業だ。一つでもミスがあれば全てが台無しだ。別荘自体はしっかり作られたものだったので、塞ぐべき穴はほとんど無かったのだが、そのことが逆に不安を駆り立て、余計に注意力を使うことになった。穴を塞いだ後は、快適に過ごすために家中の掃除が始まった。

 リュートとポセイドラがアシバロン戦で受けたダメージは、テンスレメンバーを探す前に魔女の回復魔法を受けていたため平気だった。しかし、あの激闘からの必死の捜索、新しい拠点の整備と続いてリュートはクタクタになった。

 夕食後、これからの活動について話し合いが行われた。と言っても、これまでに魔女が色々と思案していたらしく、その末に導き出された作戦を聞くというものだったが。

 

「さて、(ベストナイン)はルイやスパノを殺した犯人が私達であると知って強襲してきた。なぜ、ヤツらがそれを知り得たのか。それは米沢の能力によるものだったと見て間違いないだろう」

 

魔女が説明を始めた。

 

「新聞ではルイとスパノは魔族との戦いで死んだと報道された。ベストナインのメンバーがどこの誰とも分からない馬の骨に殺された、などという醜聞(しゅうぶん)が広まるのを避けたかったのだろうな。真実を知ってるのはベストナインのメンバーだけだろう。(ゆえ)に、下手人(げしゅにん)(さが)しもベストナインだけで済ませたはずだ。ベストナインの中で、ここまでの情報収集が出来るのは米沢だけだ」

 

魔女の推論を聞き、ポセイドラが口を開く。

 

「魔女、お前は米沢がこんな能力を持っていることを知っていたのか?」

 

「いや、そこまでは知らなかったよ。だが、他のメンバーにここまでの情報収集能力を持っているヤツはいない。加えてお前が殺したあの虫…。米沢の能力だと断言するには十分だろう?」

 

「なるほどな」

 

「そしてその黒い虫についてだがケイル、何か分かったんだな?」

 

「はい」

 

 ケイルは虫の死骸を手に入れてからこれまで、入念に死骸を調べていた。

 

「黒い虫は大部分の特徴が()()()()()()()()と合致していました」

 

「カナメクロムグリ?」

 

「草木や動物の死骸を食べる雑食性の害虫です。薬の材料にもなる()()()()()()()()と間違えやすい虫、ということで知っていました。最も、知らない虫だったとしても、図鑑で分かるまで調べるつもりでしたが」

 

ケイルが答える。

 

「ただ、普通のカナメクロムグリには無い特徴が二点ありました。一つは牙が異様に発達している点、もう一つは魔力袋(まりょくたい)が存在している点です。恐らく米沢が使役する際に使いやすいよう進化した個体なのでしょう」

 

 魔力袋(まりょくたい)とは、この世界で魔法を使う種族が必ず持つ、臓器の一種である。魔力は種族ごとに異なる部位(人間は肝臓)で生成され、魔力袋に蓄積される。ちなみに魔力袋は魔力が満ちている限り腐らない。魔族討伐を行う人間は、討伐した魔族の魔力袋を回収し、各地の役所に提出して金を得るのだ。魔族から進化した魔人は魔力袋も発達している。更に魔力の高い個体はその分魔力袋も大きい。

 

「それを踏まえてですが、()()が出来るのは一週間ほど必要です」

 

「なるほどな。つまり一週間の耐久戦というわけだ」

 

 ケイルの発言を受け、魔女は皆に向かって話し始める。

 

「米沢がどうやって情報を収集しているのか分からない。最悪なのは、()()()()()()()()()()()()()()()だ。この場合、虫は私達が逃亡した時点では生きていたのだから、この場所もすぐ分かってしまうだろう。(ゆえ)に、この先一週間は交代制で敵襲に備えなければいけない。修行はもちろん魔人討伐もその間はせず、拠点にこもりっぱなしだ。その間の買い出しは明日行う一回だけに留め、『ワープゲート』で近場に行くことになる」

 

魔女はまず、最悪のパターンとそれに(ともな)うこれから一週間の苦行について話す。そして辛い話の後は、希望が持てる話だ。

 

「そして米沢が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だが、この場合は向こうはまだこちらの居場所を把握できてない。そしてその場合は対策も出来る。敵の情報収集の方法を把握するためにも、これから一週間は籠城戦(ろうじょうせん)だ。覚悟の準備をしておけよ、いいな!」

 

 こうして、一週間の籠城戦が始まった。いつ来るかも分からない敵襲に備え続ける日々。常に武器を構えて戦闘の準備をしていなければならず、安眠すら許されない。カーテンを開けて外の様子を見ることすら出来ない苦しい日々だった。この間、ケイルと魔女は二階の一部屋に()もったまま、()()の制作をしていた。

 

 

 

 

 

 米沢が虫から情報を収集するためには、情報を持った虫が米沢の元へ帰還しなければならない。彼が以前行っていた「自らの元へ飛んできた虫を食べる行為」こそが、彼が情報収集を済ませるのに必要な行為だったのである。

 そしてこの縛りの存在がリュート達にとって有利に働くことになった。一週間後、米沢は彼らの位置を把握出来なくなるからだ。




 ()()とは何なのか、次回をお楽しみにっ!

 ごめん、やっぱ楽しみにしないで。多分ご都合アイテムでがっかりするから。

 あと次回は話が進みます。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その5 「安全地帯」

明日は全国の書店で当職の新連載が掲載される月刊雑誌の発売日。自らの作品がアニメ化及び実写化し、二作目の大ヒットを目指す当職は調子に乗ってる転生者を制裁する漫画を描いた。当職は鬱憤(うっぷん)()らしも兼ねて自分の作品より売れている作品の人気キャラを利用して漫画を描くことにした。

他作品のパロディは初めてだったので限度がわからず大炎上、漫画を見たネット民から冷ややかな目で見られてしまった。
冷ややかな視線に無名作家時代を思い出す。「自分は大ヒット作品の原作者だ、こいつらのような陰キャや社畜とは違う」とそう思いこみ、嫌な気分をかき消した。


 リュート達が新拠点で籠城を始めて一週間が過ぎた。敵の襲撃を警戒し、神経をすり減らす日々。リュートが体験した中で最も辛く、長い一週間だった。

 しかし結果として、敵襲は無かった。

 

 籠城開始から一週間が経った日の昼、二階から魔女とケイルが降りてくる。ケイルは大きな壺を持っていた。

 

「待たせたな!」

 

「お待たせしました、ようやく完成しましたよ」

 

 どうやら新拠点に来てから()もりきりで作っていた物が完成したようだ。

 

「間に合ったな」

 

「これで籠城も終わりか」

 

「長かった…」

 

皆が安堵の声を出す。リュート以外のメンバーも気力を消耗していたようだ。

 

「どうだったリュート、一週間の籠城は?」

 

「辛いです…」

 

「だがそんな日々ももう終わりだ。さあ、地下室へと行こうか」

 

 魔女に連れられ、リュート達は地下室へと降りていった。

 

 地下室に着いたケイルは皆に壺を見せる。中には何かの液体が入っているらしかった。

 

「これが一週間かけて完成させた薬です。簡単に言うなら()()()ですね」

 

「殺虫剤?」

 

「カナメクロムグリは元々、作物を食べてしまう害虫です。ですから殺虫剤はあったんです。こちらはそれを更に強力に、かつ人体には無害なように改良したものです」

 

「米沢の虫には魔力袋(まりょくたい)があったのだろう?殺虫剤なんかが通じるのか?」

 

ラーシャが尋ねる。

 

「そう、問題はそこでした。そこを解決するためにこの殺虫剤には()()()()()()()()()()()効果を配合しました」

 

ケイルが説明を始めた。

 

「捕まえた虫の魔力袋を魔女さんと調べた結果、この虫の持つ魔力では大した防御壁を作ることは出来ないという結論が出ました。人間が両手で勢いよく虫を潰したならば、防御壁ごと叩き潰せるほどの弱い壁しか作れません」

 

そう言いながら彼女は両手で虫を叩き潰す仕草をする。パチンッという音が地下室に響いた。

 

「しかしその程度の防御壁でも殺虫剤を防ぐことは可能です。通常の殺虫剤の噴射には破壊力はありませんから」

 

確かに、ポセイドラの「ウォーターレーザー」ほどの威力で噴射するならともかく、普通に殺虫剤を吹きかける行為自体にはなんら破壊力は存在しない。

 

「そこで、この殺虫剤に魔力で出来た壁を溶かす効果を追加したのです。人間が発動した魔法壁を溶かすことは厳しいですが、虫の魔法壁なら破壊できます。例え、虫が全魔力を使用して作った防御壁であろうと破壊可能です」

 

ケイルは自信満々に言ったが、ここで魔女が補足をする。

 

「簡単そうに言っているが、この効果を薬液に付与するのが中々大変でな。ケイルの薬学知識と私の魔法の知識を合わせ、実現させることが出来たのだ。しかも『魔力で出来た壁』と一口に言っても、属性ごとに様々な壁がある。米沢の使う虫がどんな魔法を使うか分からない以上、無属性も含めたあらゆる防御魔法を崩せるようにしなければならない。だから時間がかかったのさ」

 

 リュートは納得する。二人もこの一週間、自分達とは違う方法で頑張っていたのだ。

 

「で、その殺虫剤をどうするつもりだ?携帯して虫を見つけ次第噴射するのか?」

 

 ポセイドラが尋ねる。

 

「ふふふ。その方法では、周囲を警戒して神経をすり減らす現状から改善しないじゃないか。まあ、口で説明するより見た方が早いだろう」

 

そう言って魔女は地上へ続く階段の前に立ち、右手を前に突き出す。ケイルが魔女の側に壺を置く。

 

刮目(かつもく)したまえよ。『エンチャントミストトラップ』!」

 

 魔女が魔法を唱えると、彼女の右手に魔法陣が現われる。魔法陣は長方形に形を変えて大きくなり、階段前を塞ぐような形で留まる。ちょうど階段前にドアを設置したような状態だ。そして魔法陣は壺の中の液体を半分ほど吸い上げる。魔法陣が消えると、その場所に(きり)のカーテンが現われた。もしもこの世界にプロジェクションマッピングが存在したならば、この霧に画像を写せるだろう。

 

「殺虫剤の(ミスト)で出来た扉の完成だ。言わなくても分かると思うが、この扉は人間は通過出来るが、虫は通過出来ない。通り抜けた瞬間ごりん終、だな」

 

 魔女の説明を受け、ケイルが霧のカーテンを行き来してみせる。他の皆も試してみて、人体に影響が無いことを確認する。

 

「この魔法は私が解かない限り半永久的に存在する。もちろん維持に魔力は必要だが、大した魔力じゃ無い」

 

魔女は涼しい顔で説明する。天井から地面まで降りきった小さな水滴は魔法で天井へと戻る。ポセイドラの「エンチャントウォーター」と同じく永久に続く仕組みだ。

 

「こんな便利な魔法は聞いたことが無いな」

 

 霧のカーテンを眺めながらラーシャが言う。他の者も聞いたことが無かった。

 

「当然だろう。()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()。防御には使えないし、毒を噴射するならケイルがやるみたいに直接浴びせた方が早い。誰も使わなくなった結果忘れられた魔法さ。さあ、同じ魔法(トラップ)を通気口にも設置しよう」

 

魔女はそう言って通気口を開けるように指示する。木の板を外した通気口に「エンチャントミストトラップ」を設置する。

 

「さあ、これで米沢(ヤツ)の虫はこの地下室に入ることも出ることも出来なくなった。これからは()()()()()()()()()()()()

 

 これが魔女の作戦だったのか、と皆が思う。魔女は詳しく説明する。

 

「スパノの死後数日でアシバロンが来たことから分かると思うが、前回(ベストナイン)はこちらの存在を確認してすぐ襲ってきた。ルイとスパノの死を世間に『魔族との戦いでの戦死』として広めた以上、下手人は一刻も早く葬らねばならないからな。だがこの一週間、敵襲は無かった。敵はこちらの居場所を把握出来ていない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見て間違いない。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というわけだ」

 

この一週間は、米沢の情報収集の手段を見極めるための期間でもあったのだ。

 

「虫はこの地下室から出られない。この地下室から外出し、帰る際もこの地下室に戻ってくれば、例え虫に尾行されたとしても問題は無い、というわけだ。ただし、これからは買い出しにしろ魔族討伐にしろ、ここからも王都からも離れた場所に行かなければならない。行く場所を毎日変える必要もあるな」

 

 難しい条件に聞こえるが、この世界は広い。「ワープゲート」の存在が移動を楽にしているだけで、魔女の言った条件を満たす地域は沢山ある。

 

「外出先をこう限定しておけば、例え虫に見つかっても、その場所の近くを捜索されて拠点が見つかる心配は無い。虫が私達を見つけて本体の元へ戻ったとしても、その頃には私達もここへ帰還している。尾行してこの地下室まで追ってきたが最後、脱出不可能よッ!万が一、私達の外出時に一緒に脱出できたとしても、この地下室がどこにあるかなんて分かるはずも無い」

 

 魔女の作戦は以上だった。「ワープゲート」は発動した人間が場所を認知出来ていないと開けない。地下室では外の情報を得られない以上、虫が帰還出来ても相手に分かることは「敵が地下室を拠点にしている」ということだけで、肝心の地下室がどこにあるのかが分からない。彼女がこの地下室を安全地帯に選んだ理由はこれだったのだ。

 作戦を聞いて納得しかけたリュートだが、一つの懸念(けねん)が浮かぶ。

 

「虫が本体に帰還した頃には俺達も帰還してるから場所がバレない、って言うけど、俺達を見つけた虫が『ワープゲート』で本体の元に戻ったらどうするんだ?」

 

彼の懸念を聞き、魔女は感心したように答える。

 

「さすがはリュートだな。説明を聞いただけでは簡単に納得しない。だが、まだまだだね」

 

少しムッとするリュートを尻目に魔女は彼の懸念を解消する。

 

「さっきケイルが言っただろう。虫の持つ魔力袋では大した魔法は使えない。『ワープゲート』も当然使えない。仮に私達の捕まえた虫より大きな魔力袋を持つ個体がいたとしても、虫の体内に収められる大きさである以上、発動は不可能だ」

 

納得したリュートに向かって魔女は言葉を続ける。

 

「ただな、リュート。これからは以前のようにこの近くで修行をするのは厳禁だ。強くなりたくば、遠方での魔人討伐で鍛えるのだな」

 

 皆の頑張りを無駄には出来ない。リュートは了承した。

 

 

 

 

 

 魔女の作戦は見事に成功。ベストナインは半年以上にわたり、リュート達の動向を把握出来なかった。

 リュート達は外出する際、地下室から「ワープゲート」を開いて、拠点からも王都からも離れた場所に行く。その場所も毎日変更し、同じ場所が直近で続くことが無いように心掛けた。殺虫剤のカーテンも見事に機能していた。毎晩彼らは地下室の様子を確認していたが、地下室で虫の死骸を二度発見したことがあった。死骸を発見した日に行った地域は避けるようにし、回収した死骸はケイルの手に渡った。

 リュート達はこの間、魔人討伐を通して力を上げていった。これ以上仲間を失いたくは無い。皆の気持ちは一緒だった。

 

 

 

 

 

 そんな期間が続いたある日、リュートはポセイドラ、ケイル、ゴーギャンと共に魔人討伐に行っていた。魔族の群れを探して歩き回る一行。そんな彼らの耳に、いつかどこかで聞いたようなすすり泣きが聞こえてきた。いや、正確にはゴーギャンにとっては初耳だったが。

 

「ん?」

 

「もしかしてこの声って…」

 

「バニーラさん、ですよね?」

 

ポセイドラ、リュート、ケイルが確認をし合う。

 

 「ベストナイン」と「テンスレ」、両者の膠着状態(こうちゃくじょうたい)が崩れたのはこの日だった。

 




 なんか今回の話は、細かいパロディを各所にポツポツと入れた話になりましたね。





「ワープゲート」…自分が行ったことのある地点にワープする扉を生成する魔法。行きたい場所がどこにあるか、ある程度の位置を把握していなければならない。魔法を使える人間にとっては、とりあえず覚えておきたい中級魔法。大体、日商簿記二級くらいの取得難易度。ちなみにベストナインのメンバーは様々な地域に凱旋(がいせん)する都合上、行ける範囲も広い。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その6 「再会」

 ベストナインの序列6、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の元ネタが分からない人のために、彼女のキャラクター作成時の裏話を紹介します。

始めて立花亭座個泥の元ネタを見た私「なんだこの女?一人で滅茶苦茶しゃべるじゃん。講談師か何か?」

チートスアンアン作成時の私「う~ん、この女を元ネタにしたキャラの設定どうしようかな?いっそのこと第一印象そのままに講談師キャラにするか!」

立花亭座個泥、完成

 上記のようないきさつで完成したキャラなので、「講談師の作品なんてあったっけ?」「着物着ているから元ネタは落語家キャラなんじゃ?」とか考えているとたどり着けません。歴史キャラでもないです。元ネタ作品の舞台は現代です

 ちなみに、立花亭座個泥の元ネタについての私の感想なんですが、ハッキリ言って嫌いです。でも例の大コマ決め台詞は()()()()()()を思い出してしまってフフッとなります(分かる人どんだけいるんだよ)。


 聞こえてきたすすり泣きの声。間違いない、リュート達が以前出会ったウサギの獣人の転生者、バニーラ=チョコミクスの声だ。また迷子にでもなっているのだろうか。

 だが以前のように軽率に声をかけることは出来ない。ベストナインが自分たちを探しているのだ。

 

「どうしましょう?」

 

「俺達を捕まえるための罠かもしれない」

 

「でも私達の居場所は掴めてないはずですよ?」

 

「しらみつぶしにバニーラを向かわせているとか」

 

「そんな砂漠でネズミの指輪を探すような作戦をとるでしょうか?」

 

 バニーラと以前会ったことがあるリュート、ポセイドラ、ケイルの三人が話し合っていると後ろから声が聞こえる。

 

「ちょっと待ってくれ、三人で一体何を話し合っているんだ?」

 

ゴーギャンだ。四人の中で彼だけバニーラと会っていない。

 

「今聞こえているすすり泣きの声なんですけど、以前地下室で話したバニーラって獣人の転生者の声なんです」

 

「そう言えば、以前そんな話をしていたな…」

 

「で、また泣いているようなので話しかけるべきか、それとも向こう(ベストナイン)が俺達を探している以上、危険なことは避けるべきか…」

 

リュートがゴーギャンに説明をしていると、ケイルが何か思いついたように口を開く。

 

「でも、バニーラさんは耳がとても良かったはずです。彼女の泣き声が聞こえる位置にいる私達の話し声なんて、彼女にはとっくに聞こえているはずでは?」

 

「でも泣き声が止みませんよ?」

 

「おびき寄せるために泣き続けているのか、それとも泣くのに必死で気付かないのか…」

 

 少し思案した後、ポセイドラが提案する。

 

「こちらの声がバレている可能性がある以上、真相を確かめた方が良いだろう。それに、相手がバニーラということは、逆にこちらが情報を得るチャンスだ」

 

「…と言いますと?」

 

「逆にバニーラから情報を聞き出す。アイツなら、こちらの質問にホイホイ答えるだろう」

 

「罠だったらどうします?」

 

「他に誰かが潜んでいるならもう俺達の近くにいてもおかしくない。だが、アシバロンと戦った時のような殺気は感じない。強敵がいるとは考えにくい」

 

「…じゃあ、俺が先に彼女に接触します。皆さんは隠れて俺とバニーラの様子を(うかが)ってください」

 

 申し出たのはリュートだった。

 

「分かりました。気をつけて下さいね?」

 

こうしてリュート以外の三人は物陰に隠れ、リュートだけがバニーラに近く。

 彼がバニーラに十歩ほど近づいたときのことだった。辺りに大声が響く。

 

「ひええええええん!!だ、誰ですかぁ!?」

 

「うわっ!!お、落ち着いてバニーラ!俺だよ!覚えてないか!?」

 

 一瞬心臓が飛び上がる思いがしたが、以前も同じやりとりをした記憶がある。リュートは両手を大きく振ってバニーラに呼びかける。

 

「ふ、ふえぇ!?そ、その声、リュートさんですか?」

 

「そうだよ、俺だよ、リュートだよ!」

 

そう言いながらお互いの顔が確認出来る位置まで近づいたリュート。どうやらバニーラの近くに罠は無さそうだ。

 

「う、ううう…良かったでずぅ…。知ってる人に会えまじだぁ」

 

「また迷子になっちゃったのかい?」

 

「うう、そうなんでず…」

 

 泣き声をあげるバニーラを慰めるリュート。二人の会話を物陰から見ていた三人が話し合う。

 

「どう思います?」

 

「アイツがリュートに気付いた時の様子は、泣くのに夢中で俺達に気付いていなかったようにしか見えなかったな」

 

「演技の可能性は?」

 

「アイツにそんな器用なことが出来るとは思えん」

 

「ふふふ…、同感です」

 

 リュートはここで一つ、バニーラにカマをかけてみる。

 

「バニーラ、()()()()()()?」

 

「な、何言っでるんでずがぁ?迷子なんだから一人でずよぉ!からかわないで下さい!」

 

「あはは…ごめんごめん」

 

 彼はバニーラが本当に迷子なのだと確信した。うっかり者の彼女なら、近くに仲間がいる場合は「いえ、他に○人います」とか答えるはずだ。返事の必死さからしても、彼女が演技をしているとは思えない。

 隠れていた三人も同じ結論に至ったようで、物陰から出てきて二人に近く。

 

「どうしたリュート?」

 

「あら、ひょっとしてバニーラさん?」

 

出来るだけわざとらしくならないように声をかけるポセイドラとケイル。ゴーギャンは何と声をかけて良いのか分からず、目を泳がせていた。

 

「ああっ、皆さん。どうやら彼女、また迷子になってしまったみたいで」

 

ゴーギャンの様子を見て危なっかしいなと思いながら、リュートも三人が初めてバニーラに気付いた(てい)で声をかける。

 

「うう…、知っている人がこんなに来てくれるなんて心強いですぅ」

 

バニーラが安堵した様子で言う。

 

「それよりも気になっていたんだが、俺達と会った日のことは誰かに話したのか?」

 

 ポセイドラがバニーラに尋ねる。唐突すぎるし、直球過ぎる。もう少し段取りを話し合っておくべきだったとケイルは後悔した。

 

「あ、えーと…。あの日一緒にいた仲間に、皆さんに助けて貰ったことを話したら、『転生者が誰かに助けて貰ったなんて恥ずかしいから他には言うな』って釘を刺されまして…。なので他の人には言ってません」

 

バニーラもバニーラだ。ポセイドラの怪しすぎる質問に一切怪しむこと無く答えた。

 この様子を見てある程度のことなら怪しまれないと踏んだのか、ケイルも気になっていたことを尋ねる。

 

「そう言えば、バニーラさんってどこのギルド所属なんですか?」

 

「はい、『神の反逆者』所属です…一応…」

 

彼女の答えを聞いた四人の背筋が凍る。可能性は高いと思っていたが、本当に「神の反逆者」所属だった。

 動揺した四人の様子を少し変だと思ったのか、バニーラが付け加える。

 

「え、えへへぇ…、おかしいですよね?こんなにマヌケなわたしが、名高い『神の反逆者』所属ぅ、だなんて…」

 

どうやら四人の心境を勘違いしたらしい。

 

「あっ!いやいや、そんなことは思ってないよ!?」

 

リュートが慌てて否定する。

 その一方で、ポセイドラは心の中で別のことを考えていた。

 

「やはりバニーラは『神の反逆者』だったのか。だったら()()()()()()()()()()()。何かしらの手を打たなくては…」

 

 そんなポセイドラの思惑を知ってか知らずかケイルが再びバニーラに尋ねる。

 

「今日はどなたといらしたんですか?」

 

「はい、今日は『決めつけ講談師』様と一緒に!」

 

 馬鹿みたいな返事だと思ってはいけない。この世界では「決めつけ講談師」という通り名で通っているのだから、普通の返事なのだ。「アホの坂田師匠」みたいなものである。

 閑話休題(かんわきゅうだい)、バニーラの返事を聞き、リュートに衝撃が走る。立花亭座個泥(たちばなていざこでい)、通称「決めつけ講談師」はリュートがルイに村を襲われた時に、ルイと一緒にいた姿を目撃したベストナインのメンバーだ。彼女は村の人間を殺していないと魔女が言っていた。リュートはそんな立花亭を殺すつもりは無い。だが、なぜルイの蛮行を黙認していたのか、その答えはずっと知りたいと思っていた。

 

「『決めつけ講談師』様の居場所に心当たりはあるの?」

 

 はやる気持ちを抑えてリュートが尋ねる。

 

「はい、ゾボロ村跡地で待ってると思います。そこから討伐に出発したので」

 

 なんと言うことだろう。リュート達はゾボロ村を知っている。世間では魔族の侵攻で滅ぼされたことになっているが、実際はルイによって滅ぼされた村だと魔女から聞いたことがあるからだ。今いる位置からは、寄り道をしない限り一本道だ。

 リュートの意図に最初に気付いたのはケイルだった。彼女は尋ねる。

 

「他に同行者は?転生者は何人ですか?」

 

「えっと、パーティは私も含めて六人で、転生者は『決めつけ講談師』様と私だけですぅ…。はあ…、怒ってるだろうなぁ『決めつけ講談師』様。自分以外で唯一の転生者のわたしが迷子なんて…」

 

 リュートにはバニーラの落ち込みを気にしている余裕がもう無かった。バニーラ以外の転生者が立花亭だけならなんとかなるかもしれない。普通の戦士に負けるつもりは無かった。

 

「もし良かったら、俺がゾボロ村まで連れて行ってあげるよ!一緒に行こう!」

 

「ふえ?いいんですかぁ?」

 

「おい、リュート…」

 

 急いでリュートを止めようとするポセイドラ。そんな彼をケイルが止めた。

 

「おい、邪魔するなケイル!」

 

「気持ちは分かります。でもここは彼に任せてみませんか?」

 

「そんなこと…」

 

「大丈夫です」

 

ポセイドラはケイルの顔を見た。顔は笑顔なのに、目が半開きだ。彼女のこの特徴的な笑顔は、何か考えがある時の顔だ。

 そんなやりとりをしていた二人にリュートは頭を下げて頼み込む。

 

「お願いします!俺に行かせてください!」

 

ケイルはリュートに優しく問いかける。

 

「本当に大丈夫ですか?」

 

「はい、俺に行かせてください!」

 

「分かりました。では、こちらの小瓶を持っていってください」

 

彼女が手渡したのは、赤い液体が半分ほど入った小瓶だった。それを見てポセイドラも彼女の意図を察する。諦めたようにリュートに声をかける。

 

「しょうが無い、行ってこい」

 

「ケイルさん、ポセイドラさん、ありがとうございます!」

 

二人に礼を言うリュート。そんな彼に声をかける人物が一人。

 

「やはり『決めつけ講談師』の所に行くのか……。いつ出発する?私も同行する」

 

「ゴーギャンさん」

 

声の主の方に振り返るリュート。

 

「いつ出発するって…今すぐに決まってるじゃないですか。それにまた白目になってますよ」

 

「お、そうだな。うっかりしていた」

 

「あ、あのう…そちらの方は?」

 

 バニーラが不安そうにゴーギャンを指して尋ねる。

 

「あ、ああ。この人はその…うっかり屋さんで、よく白目になっちゃったりするんだよ」

 

「ゴーギャンだ。よろしくたのむ」

 

自己紹介しちゃったよ。

 

「ゴーギャンさんですね。バニーラ=チョコミクスですぅ。バニーラって呼んでください」

 

バニーラも何も怪しまずに名乗り返す。どうやらゴーギャンの名前は知らないようだ。

 

「ゴーギャンさん、バニーラについて行くのは俺一人で大丈夫です。皆さんは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「む、そうか。分かった」

 

 三人にはリュートの言った意味が理解できた。拠点に戻って魔女にこのことを伝えて欲しい、何か問題があるようなら自分を連れ戻しに来て欲しい、という意味だった。

 別れ際、ケイルはリュートに(ささや)いた。

 

「それじゃあ、二人きりの散歩がんばって下さいね」

 

「ええ!?そ…そんなつもりじゃあ…」

 

 ドキリとするリュート。しかしもしかすると、彼女は暗に「二人きりの間に情報を色々引き出してくれ」と言っているのかもしれない。何だか、そんな風にしか思えなくなってきた。

 ケイルの囁きはバニーラの耳にも届いていたようで、彼女は顔を真っ赤にする。どうやら彼女には()()()()しか理解できていないようだった。




 人気の高かったバニーラ再登場回です。彼女は元から一発キャラでは無く、再登場させる予定のキャラでした。

 作中で「砂漠でネズミの指輪を探すような…」という表現がありますが、元ネタはもちろん「砂漠でアリのコンタクトレンズを探すような」という、よくある例え話です。
 作中世界にコンタクトレンズが存在するとは思えないので、表現を変えました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その7 「二人きり」

とーとつにボツ転生者 Vol.3

 この企画は止まらねぇからよぉ…。



名前:ディズミー=サワヨマスリ

通称:「究極雨男」

能力:自分の周りの天気を強制的に雨にする能力。雨の場合は強制的に晴れにする。

風貌(ふうぼう):三十代ほどの男性。白のワイシャツに黒のズボン。

転生前:転生前は娘一人を持つ父親だった。娘と妻との外出の時に限って必ず大雨になってしまう雨男。我が子を遊びに連れて行けないことを嫌った妻から、離婚を言い渡されてしまう。突然家族を失った孤独に耐えきれず、雨男という自分の特性を(うら)みながら自殺した。

唐揚げには:ブルーハワイ

ボツ理由:当初はベストナインのメンバーになるはずだったキャラ。ボツ理由は単純に、元ネタの知名度。私自身3、4回くらいしか見たこと無い。能力はすごいのに、悲しいなぁ…。

ジョースター卿から一言:逆に考えるんだ。天候が雨ならかみなりが必ず当たる、と考えるんだ。
????「かかったなアホが!稲妻(サンダー)十字(クロス)空烈刃(スプリットアタック)!」
ジョースター卿「いや、そのかみなり(サンダー)は当たらないね。絶対にだ」


 ポセイドラ、ケイル、ゴーギャンの三人がリュートとバニーラを見送る。ゾボロ村跡地へと向かって行った二人の姿が見えなくなる前に、ケイルがスポイト杖を取り出す。杖をリュートに向けて、小声で魔法を唱える。

 

「エレメントウォーター・リトルフェアリー」

 

杖の先が赤く光ったのを確認して、ケイルが言う。

 

「さて、私は二人を尾行しますので」

 

彼女は最初からリュートを一人にするつもりは無かったのだ。そんな彼女に声がかかる。

 

「やはり尾行か……。いつ出発する?私も同行する」

 

「ゴーギャンさん」

 

声の主の方に振り返るケイル。

 

「…このやり取り前回もやりましたよ?いつ出発するって、今すぐに決まってるじゃないですか」

 

「む、そうか。うっかりしていた」

 

「ゴーギャンさんはリュート君が言っていたように拠点に戻ってください。『ワープゲート』は私が開きますから」

 

 聴覚が鋭いバニーラを尾行するのに、うっかり屋のゴーギャンがいては気付かれてしまうかもしれない。そんな本音は言わずにやんわりと断るケイル。そんな彼女に再び声がかかる。

 

「俺は行くぞ」

 

「ポセイドラさん」

 

声の主はポセイドラだった。

 

「何ですか?そんなに私と二人きりになりたいんですか?」

 

「ふざけるな。敵の転生者が本当に立花亭だけだとは限らないんだぞ。戦力は多い方が良い」

 

「なるほど、言われてみればそうですね」

 

ケイルはクスリと笑う。

 

「では同行してもらえますか?」

 

「そうしろ。それにバニーラをあのまま帰すわけにはいかない」

 

「もう、発言が不穏ですよ?ポセイドラさん」

 

「そういうことなら私も同行しよう」

 

ゴーギャンが割って入る。

 

「いやゴーギャン、お前は魔女への報告を頼む。『偶然迷子のバニーラと出会った。彼女は立花亭と一緒に魔人討伐に来たようで、リュートが彼女を連れて立花亭がいるゾボロ村跡地へ向かった。ポセイドラとケイルが尾行している。問題があるならポセイドラ達に追いついて伝えるように』と伝えてくれ」

 

ポセイドラもまた、ケイルと同じことを考えてゴーギャンの申し出を断った。

 

「む、そうか。承知した」

 

 あっさりと納得したゴーギャンは、ケイルの開いた「ワープゲート」で地下室に帰っていった。

 ゴーギャンの帰還を確認したケイルは杖を軽く持つ。先が赤く光った杖の向きが、クイックイッと変わる。彼女が動かしているのでは無く、杖が自然に動いているのだ。

 

「それじゃあ、二人きりの尾行を始めましょうか」 

 

 

 

 

 

 リュートは緊張していた。油断してはいけない。敵がいつ来るかも分からないし、立花亭から自分の聞きたいことを聞き出すための段取りも考えねばならない。しかし、そうは言っても隣にいるバニーラはとても可愛い。リディアとは月とすっぽんだ。もちろん、バニーラが月である。今夜は月が綺麗ですね。

 いや、そんな浮かれている場合では無い。付き合っているわけでもあるまいし、そもそも今は真っ昼間だ。とりあえず、何かしら情報を引き出せるような会話をしなくてはいけない。

 

「ね、ねえバニーラ。『神の反逆者』ってどんな所?」

 

「ふえ?どんな所と聞かれましても…」

 

「いや、居心地が良いとか、皆が優しいとか…」

 

「あぁ、そういうことですか!。居心地は良いですし、皆さん優しいですよぉ。私をいじめる人もいませんし。体は大きいしこんなにドジなのに…」

 

「そ、そんなこと無いよ!前の魔人達との戦いでのバニーラ、本当にすごかったよ?もっと自分に自信を持ってよ」

 

情報を引き出さなければいけないのに、つい励ましの言葉を返してしまうリュート。

 

「あ、ありがとうございますぅ。リュートさんって優しいんですねぇ」

 

バニーラにそう言われると、ついつい表情が緩んでデレーっとしまう。いかん…いかん!危ない危ない危ない…。

 

「ああ、でも皆さんが私に優しいのは、私が転生者だからかもしれないですぅ」

 

「いや、俺はそんなことは…」

 

「ああいえ、リュートさんのことでは無くて『神の反逆者』の皆さんのことででしてね」

 

 本来、情報収集の話に本筋を戻すのはリュートの役割のはずなのに、意図せずバニーラが戻した形になる。

 

「『神の反逆者』は転生者を中心に結成されたギルドなので、転生者の立場がとても強いんですぅ。でも、強いと評判の転生者と一緒に戦いたいって加入する人も沢山いて…。そういう人は転生者と一緒のパーティで魔人討伐に行くときも、大抵は転生者の命令を実行する係になるんですぅ。まあ、わたしのようなヘッポコ転生者の場合は立場が逆転したりなんかしちゃったりも…えへへ」

 

バニーラはまた自虐を始める。

 

「でも中には、部下を道具のように扱ったり、捨て駒としか思ってない方もいらっしゃるみたいで…。わたしはとてもじゃないですが、そんなことはしたいと思いませんけど…」

 

いきなり不穏な話になった。やはり、人の命をなんとも思っていない転生者はベストナイン以外にもいるらしい。

 

「うわあ!わたしったら何て失礼なことをっ!わ…忘れて下さい!ってよく考えたらわたしが他の人をどう扱うかなんて話していることも失礼では?うわわっ、ダブルで失礼ですぅ!!」

 

「あ、ああうん、分かった分かった、バニーラの言ったことは忘れるから」

 

ここまで慌てられた方が逆に忘れにくいと感じるリュートだったが、彼自身もバニーラとの会話を平常心で行えるようになったらしく、次の質問に移る。

 

「じゃあ、ベストナインの皆ってどんな人?」

 

「え?ベストナインの皆様ですか?わたしが語るのもおこがましいくらい強い、歴戦の勇士達ですぅ。個人の特殊能力も本当に強くて、わたしの『ニンジンを武器に変える能力』とは別次元ですぅ」

 

「いやいやそんなこと無いって!バニーラとても強かったよ!」

 

「そうですかぁ?リュートさんって本当に優しいですぅ」

 

これではさっきの繰り返しだ。リュートは必死に話を本筋に戻す。

 

「で、でもそんなに強いベストナインのメンバーが二人も死んじゃうなんてね。話を聞いたときには信じられなかったよ」

 

「はい、わたしも信じられませんでした。『神の間違い』様と『ソルティングブレッド』様がまさか魔人討伐中にお亡くなりになるなんて…」

 

 バニーラの口調からして、彼女は本当にルイとスパノが魔人討伐中に死んだのだと思っているらしい。

 リュートは思い切って、核心に近づいた質問をする。

 

「やっぱりバニーラも、二人が魔人討伐で死んだと思ってるんだね?」

 

「えぇ?どういう意味ですかぁ?ギルドの朝礼でそう言われましたし、新聞にもそう書かれてましたし…」

 

「ああ、うん。もちろんそれが真相だと思うよ。でも最近行った村で、こんな噂話を耳にしたんだ。『あんなに強いベストナインが魔人相手に死ぬなんて考えられない。誰かに殺されたのを隠してるんじゃないか』って」

 

バニーラに眠っている猜疑心(さいぎしん)を起こしかねない、随分と思い切った発言だった。リュートはこの質問で、バニーラのような「神の反逆者」所属の(ひら)転生者がルイとスパノの死についてどう思っているのかを知るつもりだった。

 

「ええ?そんな噂があるんですかぁ?でも、あのお二人を殺せるなんて…う~ん」

 

しばらく考えた後でバニーラは口を開く。

 

「…やっぱり、あのお二人を殺せる人間なんて、ベストナインのメンバーだとしか考えられません。でも、そんなこと()()()()()()()()し…、やっぱり単なる噂なんじゃないでしょうか」

 

 自分の隣にいる人物こそが二人を殺した犯人だということは全く考えていないバニーラ。そんなことよりも彼女のある発言が気になり、リュートは言葉を返す。

 

「ちょっと待って!ベストナインのメンバーが二人を殺すのは絶対にあり得ないって、どうして?」

 

「ああ、それはですね。ベストナインのリーダーであり、『神の反逆者』のトップでもある『マウンティングウォリアー』様が、ベストナインのメンバー同士での殺し合いを固く禁じているからですぅ。傷を負わせただけでもあの方から厳しい罰を下されるのだとか。もちろん他のメンバーを殺したりなんてしたら、その人自身が『マウンティングウォリアー』様に殺されちゃいますよぉ」

 

「『マウンティングウォリアー』…、マウントール様が他のメンバーを殺すのは良いんだ?」

 

「はい、と言ってもあの方がメンバーを殺すのは仲間殺しの時だけですぅ。あの方自身、味方同士での殺し合いを本当に嫌っておりまして…。それに、皆に対してあんなに優しい『マウンティングウォリアー』様が人殺しなんて、やったことがあると聞いたこともありませんし、やるとも考えられません」

 

「バニーラはマウントール様に会ったことあるの?」

 

「朝礼の時にお話しになっているのを見たことがあるだけで、直接話をしたことはありませんけどねぇ」

 

 一連の会話でリュートは「神の反逆者」の内情を色々知ることが出来たと思った。そして、ルイやスパノを殺した犯人が自分たちであることはベストナイン以外は知らないのだということも分かった。

 一方で、リュートはこう考え始める。

 

「いつかバニーラにも、ルイとスパノを殺した犯人が俺達だということを教えなきゃいけないのだろうか。その時バニーラは俺のことをどう思うのだろうか?」

 

 考えただけでも気分がずっしりと重くなった。そしてその「いつか」が目の前まで迫っていることを、この時の彼はまだ知らなかった。




 一応言っておきますが、ポセイドラとケイルは恋人じゃないです。単に仲間というだけです。元ネタと一緒ですね。

 ベストナインのメンバーを、通り名で呼ぶか個人名で呼ぶかは個人の自由です。バニーラは通り名派です。ただし彼らは作中世界の英雄なので、悪口等は軽々しく言えませんが。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その8 「レッテル貼り」

 先日、「チートスレイヤー」の原作者が「賭ケグルイ」以外で現在連載中の漫画が掲載されている、某月刊漫画雑誌を買ってきました。感想については、後書きに書きますので、気になる方だけどうぞ。

 それで本題なんですが、原作者の漫画の本家に当たる作品、具体的には、神と人類が13の代表者を選出して戦うあの漫画ですね。その漫画が第一回人気投票を開催しました。
 宣言します。私はフレックちゃんに投票します!

 もう一度言います。フレックちゃんに投票します。
 皆さんもよろしければ、はがきに「フレック(25)」と書いて、彼女に清き一票をよろしくお願いします。

 まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですけどね!(厳しくね?)



 ゾボロ村跡地を目指すリュートとバニーラ。目的地までの道のりの半分以上は来ただろうか。

 リュートはバニーラとの会話を楽しみながら、この先で待ち受けているであろう立花亭座個泥(たちばなていざこでい)に対し、どう接触するかを脳内でシミュレーションする。今回は戦闘が目的では無いが、相手はベストナインのメンバーだ。対策無しに臨むのは危険すぎる。彼はとりあえず()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にした。

 

「ねえバニーラ。一つお願いがあるんだけど」

 

「はい、何でしょう?」

 

「『決めつけ講談師』様の前では俺のことは()()()()と呼んでくれないかな」

 

 リュートがこんな意味不明なお願いをしたのには理由がある。彼は数ヶ月前の魔女との会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

数ヶ月前 

 

「リュート、お前は立花亭座個泥(たちばなていざこでい)との接触を望んでいたな?」

 

「…そうだけど、何だよ?」

 

 魔女の問いかけに対し、いぶかしげに答えるリュート。また立花亭を殺すように話を持っていくつもりなのかと思っていた。

 

「それなら、お前はヤツの能力を熟知しておくべきじゃないのか?」

 

「あ、そうだった」

 

 うっかりしていた。肝心の立花亭の能力についてリュートは知らないままだった。

 

「忘れていたな?まあいい。立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の能力『ラベリング』について教えよう」

 

「『ラベリング』?ラベルを貼ることが何か強いのか?」

 

リュートが尋ねる。

 

「…もしかしてお前、『ラベリング』を単に『ラベルを貼る行為』としてしか認識してないのか?」

 

「もしかしても何も、それ以外の意味なんて無いだろ」

 

「なるほど、そこからか。まあいい。『ラベリング』という言葉のもう一つの意味から説明しよう」

 

魔女はまず、言葉の意味の説明から始めた。

 

「例えば、お前の目の前に瓶に入ったリンゴジュースがあったとしよう。だがその瓶には『オレンジジュース』のラベルが貼られていたとする。お前は瓶の中身をコップに注いで飲むとき『見た目はリンゴジュースみたいだけど、オレンジジュースって書いてあるならオレンジジュースなんだろう』と考えて、中身がオレンジジュースだと思い込んで飲むんじゃないか?実際は見た目通りのリンゴジュースなのにも関わらずだ」

 

リュートは頷いた。

 

「貼られたレッテルを見た人は、その正体が何であろうと、ラベルに書いていることを信用する。ラベルを貼ると言う行為は重要な行為なんだ。じゃあこの行為を人に対して行ったらどうなる?『○○は馬鹿だ』と言った具合にだ。対象の人間をよく知らない人ならば、『○○は馬鹿だ』という言葉を信用して、そいつのことを馬鹿なのだと思って接触するだろう。相手が本当は頭が良かったとしてもだ。これが『ラベリング』のもう一つの意味だ」

 

 特定の対象の特徴を決めつけて伝えることで、それを聞いた相手の対象に対する認識を固定化させる行為、それがラベリング。

 

「あれ、この行為ってどこかで見たような…」

 

リュートはそんな考えを振り払った。今は立花亭の能力を知るのが先だ。

 

「ここまで聞けばなんとなく想像が付くんじゃないか?立花亭の能力は、『自分が行った()()()()()を現実に反映する能力』だ」

 

「自分の発言を能力発動のトリガーにするってことか?」

 

「その通りだ。例えばそうだな…。ピエール、という名前の戦士がいたとしよう」

 

「誰だよ」

 

「あくまでも例えだ。気にするな!」

 

「あ、ああ…」

 

「ピエールは魔族数匹相手に普通に戦える人間だ。ところがだ。立花亭座個泥(たちばなていざこでい)が彼の前で一言こう言う。『ピエールさん雑魚ですね!』とな。するとたちまち、ピエールは()()()()()()()()()()()()()()()。魔族一匹にすら太刀打ち出来ないほどのな」

 

「なっ…」

 

 リュートは凍り付く。自分の言ったことを現実に反映する能力だなんて、とてつもなく強力だ。ルイやスパノの能力が可愛く感じるほどだ。

 

「じゃあもし『ピエールさんお前はもう死んでいる』とか言った場合は、本当にピエールが死ぬってことか?」

 

「いや、そうはならない。『ラベリング』にも限界があるのだ。さっきのジュースの例で言うなら、ブドウジュースの入った瓶に『オレンジジュース』のラベルが貼ってあっても、お前は中身をオレンジジュースだとは思わないだろう?」

 

リュートは頷いた。オレンジジュースだと勘違いするには色が違いすぎる。

 

「それと同じだ。万人が『それは違うよ!』と言えるような事象は反映されない。更に言うとだな、()()()()()()()()()()()()()()()。そうでなければ、『魔族を絶滅させる能力』の転生者を一人送りつけるだけで良いじゃないか。即死能力は()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

 神でも与えられない能力がある。この事実は初耳だった。

 

「それ以外にも例えば「ピエールは男じゃ無くて女だ』とか『ピエールはスプーン一杯分の塩で死ぬ』とかも無理だ。後者なんてまんまスパノの能力だろう?でも『いやいやそんなわけないでしょ』と皆が思ってしまうことは反映されない。相手の弱体化でもそうだ。マウントールやアシバロンのような、万人が強者だと確信している人物に『雑魚ですね!』と言っても通用しない」

 

 強力なのは確かだが、なんとも面倒な能力だ。だとするなら、どこまでの範囲が有効なのかが重要だ。リュートが尋ねると魔女が渋い顔をする。

 

「それなんだがな…。ハッキリと『どこまでが有効範囲だ』と言うことは、私はもとより能力を与えた神にすら不可能だ。色々試して確かめるほか無い。影響の少ないことなら、万人が納得しがたい事象でも反映出来たりするしな。例えばルイ=ジュクシスキーの通り名だが、元々は『ライプハンター』だっただろう?」

 

 リュートは言われて気付く。確かにルイの元々の通り名は「ライプハンター」だった。それがいつの間にか「神の間違い」で浸透していた。

 

「『神の間違い』という通り名は、立花亭がルイと喧嘩をした際に変更されたものだ。ヤツは公衆の面前でこう言ったんだよ。『あなたが転生したこと自体が神の間違いでしょう』とな。通り名が変わることが世界に与える影響など微々たるものだ。だから反映されたのだろうな」

 

まさか立花亭が通り名の変更に関与していたとは。

 

「それからハッキリとした制約がもう一つ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()して初めて反映される。ピエールという人物について知っている人が一人もいないのに『ピエールさん雑魚ですね』と言っても反映されない。無論、独り言でも反映されない」

 

 以上が立花亭の能力の全貌(ぜんぼう)だった。この事実を(もと)に対策を練る必要がある。

 リュートが辿り着いた答えは、()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

 

 

 

「ふえ、ぴ、ピエール…さん、ですか?」

 

 リュートの突然の申し出に対して、困惑しながら聞き返すバニーラ。

 

「そう。『決めつけ講談師』様の前では、俺の名前をそう紹介して、そう呼んで欲しい」

 

「そ、それは構いませんけどぉ…。でもどうして?」

 

そう疑問に思うのは当然だろう。もちろんリュートも予測していた。

 

「いや、俺もベストナインの皆さんには憧れててさ。なんか本当の名前で呼ばれるのが恥ずかしくて…。もし『リュートさん、この(たび)はバニーラがお世話になりました』なんて言われた日には気絶しちゃうかもしれない」

 

「ええ!?き、気絶されるのは困りますぅ」

 

「でしょ?だから俺のことはピエールと呼んで欲しいんだ」

 

「分かりましたぁ。そうしますぅ」

 

バニーラに納得させるという第一関門は突破だ。

 とその時、バニーラの長いウサ耳がピクッと動いた。

 

「あれ?」

 

「どうしたの、バニーラ?」

 

「今、誰かがわたしのことを呼んでいたような…?」

 

二人はしばらくその場でじっとしていた。が、どちらの耳にも何も聞こえて来なかった。

 

「空耳だったんじゃないの?」

 

「そうかもしれませんね。すみませんピエールさん」

 

「あ、ああ…。うん?」

 

「あ、今から呼んでおかないと忘れてしまいそうで…。えへへ」

 

 ならば仕方がない。リュートはしばらくの間ピエールと呼ばれるようになった。

 

 

 

 

 

数十分後 ゾボロ村跡地

 

 ベストナインの序列7、通称「決めつけ講談師」の立花亭座個泥(たちばなていざこでい)は心配していた。一緒に魔人討伐に来た転生者のバニーラ=チョコミクスが、しばらく目を離した隙にいなくなってしまった。ドジな彼女のことだから、迷子になっているのだろうとは思う。だからこそ、出発地点のゾボロ村跡地まで引き返し、一緒に来ていた四人を四方に散らして彼女の捜索をさせているのだ。

 だがそれから随分と時間が経っているのに、いつまで経っても彼女は戻ってこない。

 

「魔族に見つかって殺されてしまったのだろうか?…まさかルイさん達を殺した犯人に!?」

 

 最悪の想像を彼女は必死で振り払う。ルイとスパノを殺した犯人については、あれから半年以上進展が無い。居所が分からないのは不安だが、逆に言えば以降の被害も無いままなのだ。アシバロンの報告を受けた日にマウントールを怒らせるほど錯乱(さくらん)していた彼女も、今では大分落ち着いてきていた。

 その時だった。向こうからバニーラの特徴的なウサ耳が見えてきていた。

 

「良かった。無事だったんですね。…おや?」

 

彼女の知らない男性がバニーラの隣にいるようだった。




 ピエールの元ネタ知っている人いるのか…?
 いや、いいんだ。例えマイナーなネタだったとしても、立花亭の回では絶対このネタを使おうと決めていたんだ。悔いは無い。例え元ネタを知らなくても、普通に読めるようにはなってるはずだし大丈夫大丈夫。


 以下、作者の愚痴です。読む価値無し。





 前書きで書いたとおり、某月刊漫画雑誌の感想を書きます。
 原作者の漫画ですが、今回は登場人物の過去話でしたね。回想の最後の方、急展開すぎるし説明不足だしでついて行けなかった!大ゴマ使ってかっこいいシーンやるのは最終ページだけでも大丈夫だから、過去回想はもっと丁寧に描写して、どうぞ。
 本家だけど、アイツって科学者だったんですねぇ!人類代表には戦闘のイメージが無い偉人が三人ほどいるから、その内の誰かと戦うんだろうなぁ。片一方がめっちゃ押している展開についてはいつも通りなんで気にしてないです。次回は押されていた方が押し返すから。で最終的に両者が均等に大ダメージ負ったところで接戦描いてフィニッシュと。そうでしょう?
 あと、雑誌全体についての文句なんだけど、今月号は「大切な人を殺されたので犯人に復讐する」展開の漫画が多すぎ!私が読んだ作品だけでも三作品もあるんだけど(原作者の漫画、本家の外伝、先月連載開始した例の()()()())!ただでさえ重い内容なんだから、雑誌内で展開の重複が起きないように調整出来ないんですかねぇ!?それでいて、箸休め的な内容の犬の漫画が最終回とかもうね…。
 あ、メイド喫茶の漫画は相変わらず良い感じでしたよ!この調子でアニメ化しちゃおう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その9 「凡ミス」

 スマイルプリキュアのカードが無性に欲しくなって、プリキュアウエハースを17個ほど買いました。
 スマプリ以外のプリキュア見てないのに、他のシリーズのカードばかり出てきます…。

 可愛い二次元女の子キャラは好きなんですけど、プリキュアを見ると「あれ、こうした方が楽なんじゃないの?」とか、幼女向けアニメに対して大人げない意見を言いたくなってしまうので、見てないです。

 でも声優チェックだけはしてます。今作の敵キャラの声優、何で高垣彩陽さんなのだ?悠木碧さんと水樹奈々さんはプリキュアだったのに…。


 リュートの目の前にゾボロ村跡地が見えてくる。村の入口から広がる広場(だった場所)に一人の女性が立っている。ピンク色の着物に丸眼鏡。ベストナインの序列7、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)に間違いなかった。

 リュートは深く深呼吸をする。もう後戻りは出来ない。()()づいたわけでは無いが、なるべく穏便に済ませたいとは願っていた。結局、ポセイドラ達からの中止の知らせも無かった。魔女は自分の行動を認めているのだろうか。

 

「バニーラさん!心配していたんですよ!」

 

 こちらの姿を認めた立花亭が大声で叫ぶ。

 

「ああっ!『決めつけ講談師』様!心配かけて申し訳ございませんでしたぁ!!」

 

バニーラも立花亭の姿を見つけた途端、大声で叫びながら駆けだした。リュートも慌てて後を追いかける。

 二人と一人が対面する。リュートが立花亭をここまで至近距離で見たのは初めてだった。自分よりも身長が低く、服装も戦闘に向いているとは言い難いが、これでもベストナインの一人だ。油断は当然出来ない。

 

「どこまで行っていたんですか!?単独行動は慎むようにとあれほど言ったはずです!」

 

「はい!はい!申し訳ございません!」

 

怒る立花亭に対し、ひたすら頭を下げて謝罪するバニーラ。立花亭は少々説教を行った後、リュートの方に顔を向ける。

 

「こちらの方は?」

 

 リュートは心の中で深く安堵の息を吐いた。ルイの襲撃時、彼女も自分を見ているはずなのだ。あの時は死体同然に動かなかったとは言え、顔を覚えていることもあるのではないかと危惧していた。しかし当然と言えば当然だが、死体の顔など一々覚えているものでは無いらしく、初対面に対する接し方をしてきた。

 

「あ、この方がここまで送ってくれたんです。()()()()()()と言いますぅ」

 

 バニーラも間違えること無く、「ピエール」という偽名でリュートを紹介する。ここからが勝負だ。

 

「初めまして、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)様。紹介に預かりました、ピエールと申します。この度はこちらのバニーラ様が道に迷っていたように見受けられたものですから、貴女のもとまで道中を案内させていただきました」

 

リュートは敬語を使いつつ、立花亭にお辞儀をする。

 

「わざわざスミマセンでしたね、ピエールさん」

 

 そう答える立花亭はリュートのお辞儀に応える形で、お辞儀を返した。

 

 

 

 

 

時は少々(さかのぼ)る。

 

 ポセイドラとケイルの二人きりの尾行には、リュートとバニーラのような楽しげな雰囲気が一切感じられなかった。

 聴覚の鋭いバニーラを尾行するために会話が出来ない、と言うのも一つの理由だが、仮にバニーラの聴覚が人並みであったとしても、雑談をしながらの尾行など、ポセイドラはしないだろう。彼にとってケイルは同じ(こころざし)を持つ仲間でしかない。彼女のピンチを救ったり、復讐の手伝い等はするだろうが、不必要な雑談をするような間柄(あいだがら)でもないので、無駄な会話はしようと思わない。ケイルにもそれは分かっていた。

 そんな二人の後ろから、(かす)かに声が聞こえた。

 

「バニーラ様ー!いたら返事をしてくださーい!」

 

二人が聞いたことの無い男性の声。ポセイドラがケイルに小声で話しかける。

 

「おい、聞こえたか?」

 

「はい、バニーラさんのお仲間でしょうか?」

 

「バニーラにも聞こえたに違いない。どうする?」

 

「私はリュート君を立花亭に会わせたいです」

 

「なら急ぐべきだな」

 

 言うが早いか、ポセイドラは声が聞こえた方向に、足音を極力出さないように注意しつつ駆け出した。

 

「どこですか…うわっ!何者だあんっ…」

 

「声を出すな」

 

目の前に知らない男が現われ、驚きの声をあげようとしたバニーラの仲間。ポセイドラは持ち前の剣術で、素早く男を黙らせた。

 

「安心しろ、峰打(みねう)ちだ」

 

「その『安心しろ、峰打ちだ』っていう言葉って誰に聞かせるために発する言葉なんでしょうね?峰打ちした相手は気絶してて聞こえていないハズなのに…。私、気になります!」

 

 ポセイドラは声がした方を振り向く。ケイルがそこに立っていた。

 

「おい!尾行はどうした?」

 

「心配しないで下さい」

 

そう言いながら彼女は杖を見せる。先が赤く光った杖が、クイックイッと独りでに動いていた。

 

「バニーラさんの仲間がどのような方なのか、見ておきたくて」

 

「どうも何も、普通の人間だ。アイツが言っていた、転生者じゃない四人の内の一人だろう。手応えが無さ過ぎだ」

 

「そうですね、普通の方のようです。恐らく立花亭の命令でバニーラさんを探していたのでしょう」

 

 気絶した男のことを簡単に調べながらケイルが言う。

 

「何もないなら行くぞ」

 

「はい」

 

 二人はリュートを尾行出来る位置へと戻っていった。

 

 二人の尾行も終盤に差し掛かった頃、ポセイドラが小声でつぶやく。

 

「魔女やゴーギャンは…とうとう来なかったな」

 

「そうですね」

 

ポセイドラの脳内に、急に()()()()()が浮かび上がってきた。

 

「ゴーギャンは本当に、魔女に正しく伝言したのか?」

 

「私に聞かれましても…」

 

一度浮かんだ心配事はみるみる膨れ上がっていく。ポセイドラは決心したように言った。

 

「心配だ、一度戻る。ケイル、『ワープゲート』を開いてくれ」

 

「えぇ?もうすぐ終点ですよ?」

 

「だからこそだ。リュートが敵と対面したら、もう後戻り出来ない」

 

「もう、さっきあんなにかっこよく同行を申し出てくれたのに。勝手なんですから…」

 

 文句を言いながらもケイルは「ワープゲート」を開く。それをくぐってポセイドラは地下室へと向かっていった。

 こうして、二人を最後まで尾行していた人物はケイル一人だけになった。

 

 

 

 

 

 立花亭は「ピエール」と名乗った男の姿を見た。特に怪しい点があるようには見えない。なのに何かが引っかかる。一体何が引っかかるのだろうか。特に怪しい点なんて無いのに。特に怪しい点なんて…。

 そんな風に考えていた彼女は、何気なく相手の腰を見る。

 瞬間、時が止まったように感じた。一気に冷や汗が噴き出す感覚がするのに、実際には冷や汗すら噴き出さなかった。()()()()()()()()()()()()()()()

 それでも、彼女は反射的に叫んでいた。

 

()()()()()()、雑魚ですね!」

 

 彼女は動揺する相手の顔に平手打ちを食らわす。「ピエール」と名乗ったはずの相手が吹き飛んだ。

 

 リュートには何が起こったのか分からなかった。バニーラも自分も確かに、リュートの名前を「ピエール」だと伝えた。立花亭もそれを信じたらしく「わざわざスミマセンでしたね、ピエールさん」と言っていた。これで、もし争いになったとしても向こうは「ピエールさん、雑魚ですね!」と言ってくるので自分は弱体化しない。作戦は上手く行っていたはずだ。

 そのはずが、次の瞬間にはもう自分の名前がバレていた。「リュートさん、雑魚ですね!」の言葉を聞いた瞬間、自分の体から力が無くなっていく感覚をリュートは味わっていた。立花亭の能力「ラベリング」が発動したのだ。彼女の平手打ちを受けて吹っ飛んだリュートは、地面に倒れ伏す。

 バニーラが叫んだ。

 

「なっ!何をするですかァーッ!『決めつけ講談師』様!リュートさんにいきなり…」

 

やってしまった。

 

「バニーラこそ何をするだァーッ!」

 

「ひえええぇぇ!!す、すびばせぇ~ん!!」

 

 否、バニーラが間違う前から、立花亭はリュートの名前を見破っていた。彼女を責めるのはお門違いだろう。だがこれで、立花亭もリュートが本名であることを確信した。

 うつぶせに倒れるリュートの背中を立花亭が右足で踏みつける。

 

「ぐあぁ!」

 

 立花亭はそこまで重くない。リュートにとって飛び起きることは容易なはずだが、今の彼にはそれすら出来ない。立花亭の能力で()()()()()()()()()()()()からだ。

 リュートを押さえつけている立花亭もなぜだか息が荒い。(おぼ)れかけていた人間が陸地に救助されたかのようだ。

 浅く早い呼吸を止められない。過呼吸になりそうだ。冷や汗は今、止めどなく噴き出していた。そんな状況にありながら、立花亭は何とか言葉を口にする。

 

「ず、随分と策士じゃないですか、リュートさん…。偽名を私に教えるなんて」

 

 ゼェゼェ、ハァハァという激しい息に混じって聞こえる立花亭の言葉。リュートはまだ、自分の名前がどうしてバレたのか分からなかった。

 

「ど…どうしてだ…?なぜ…俺の名前が…?」

 

そんな疑問を口に出しつつ、彼の目線は何気なく、自分の腰に向いていた。瞬間、心臓が止まるかと思った。アシバロンの言葉が急に脳内を駆けめぐる。

 

「その剣はルイのものだな?流石にソレは手で受け止められんな」

 

 そうだ、(ベストナイン)は自分がルイの剣を持っていることを知っていたのだ。にも関わらず、自分はルイの剣を腰に差したまま堂々と立花亭の前に姿を見せたのだ。致命的なミスだ。普段ならばこんな(ぼん)ミスはしないだろう。だが、立花亭と会って話がしたいという先走りの気持ちが、このミスを誘発させたのだろう。

 

「この剣は…ルイさんのものですよねぇ?馬鹿じゃないですかぁ…?」

 

 立花亭は答え合わせのように言葉を発しながら、リュートの腰からルイの剣を取り上げる。

 

「あなたをどうしましょうか…?とりあえず、その腕と足は邪魔ですね…」

 

荒い呼吸に混じった立花亭の声が聞こえる。なのにリュートの体は動かない。

 絶体絶命のピンチの中、ふいに叫び声が聞こえた。

 

「『人参武器(キャロットウェポン)』、(ランス)!」

 

 声のした方向に顔を向けるリュート。なんとバニーラが、上の立場にいるはずの立花亭(にんげん)に槍を向けていた。

 

「リュートさんから離れて下さい…、『決めつけ講談師』様…」




 主人公に都合の良いなろう系作品の敵キャラがやりそうな(ぼん)ミスをする、主人公のリュート君さあ…。
 でも、自分のやりたいことをやろうと必死になってたら、普段の自分じゃやらないミスを犯していたなんて経験、皆さんありませんか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その10 「バニーラVS立花亭」

「恐怖というものには鮮度があります」

~zeroキャスター~

 確かにそうだろう。恐怖という感情は初めて感じた瞬間から時間が経つにつれ、弱くなっていくものだ。
 だが、最も恐怖が強くなる瞬間とは、その恐怖を初めて感じた瞬間よりも、恐怖が薄れて安全だと思い込んだタイミングで再び同じ恐怖が襲いかかった瞬間では無かろうか?


 アシバロンの報告を聞いて、立花亭は心底がっかりした。彼ほど強い男ならば、敵の殲滅(せんめつ)は余裕だと思っていたからだ。しかし彼の戦績は、火属性魔法を使う男一人を倒した、という期待外れなものだった。いつもは不快感しか無いアルミダのアシバロンに対する罵倒も、この時ばかりは気持ちよく感じた。

 だがアシバロンは悪びれない。彼は敵の手口を見出したことを得意げに語り始めた。報告を聞いたマウントールは、「自分の過去をバラされても動揺しない」という対策を、さも簡単なことのように口にした。立花亭には自分の転生前をバラされて平常心でいられる自信は無かった。

 もしも自分が下手人達と戦闘になったならば、ルイやスパノと同じように殺されてしまうだろう。この恐怖は、残ったベストナインの大半には分かるまい。心が死んでいるギットス。自身の強さに絶対的な自信を持つアルミダ、アシバロン、マウントール。米沢は恐怖心を抱いているらしいが、彼は皆に恐怖を訴えたりはしないだろう。

 一週間後のミーティングで、虫が帰ってこないという話になったときも、マウントールの対応は悠長なものだった。自分が言わねば自分が殺される、そう考えて抗議をした。

 しかし、結果は彼を怒らせただけだった。更に、周りに助けを求めてはならないと釘を刺されてしまった。

 自分は死ぬしか無いのだろうか。そんな絶望的な気分に押しつぶされそうになりながら自室へ戻った立花亭。そのとき自室の扉をノックする音が聞こえた。

 

「タッチー?わたしだけど開けてくれない?」

 

 自分をタッチーと呼ぶ人は、御手洗幼子(みたらいようこ)しかいない。ドアを開け、御手洗を招き入れた。

 

「タッチー大丈夫?ずっと(おび)えたまんまだけど…」

 

「…正直、大丈夫じゃ無いです。私は自分の過去を言われて平気な自信はありません」

 

「わたしも抗議するべきだったかな?」

 

「恐らく、御手洗ちゃんまで怒られてお終いだったでしょう」

 

「そうか…辛いよね?()()()()?」

 

 立花亭はハッとする。自分が落ち込んでばかりいたために、()()を心配させてしまうとは。マウントールを怒らせたことより、こっちの方がよっぽど恥ずかしかった。

 

「忘れないで下さいね?私は何があっても、立花さんの味方ですから」

 

 いつもと違う口調で自分を(なぐさ)める御手洗。彼女は今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。名誉なことのハズなのに、とても恥ずかしかった。

 

「まぁ、と言っても今のベストナインで最下位のわたしが言っても安心感ゼロかなぁ?」

 

 いつもの口調に戻って、エヘヘと笑う御手洗。彼女を見ていると元気が湧いてきた。

 

「そ…そんなこと無いですよぉ」

 

立花亭も泣きながら笑っていた。

 

 それから半年以上経ったが、下手人に関しての進展は何も無かった。新しい情報はゼロ、代わりにこちらの新たな被害もゼロだった。時が経つにつれ、立花亭の恐怖は薄れていく。

 向こうはどうして行動を起こさないのだろうか?仲間の自爆で全員吹き飛んだのか、アシバロンの襲撃で心が折れたのか。もしかすると向こうの目的はルイとスパノだけだったのだろうか?ならば何故二人は狙われたのだろう。ルイは非常に分かりやすい。彼は様々な村で虐殺をしていたからだ。じゃあどうしてスパノまで?彼も殺人をしていたのだろうか。あの日、自分を先に帰したのも、彼自身の蛮行を隠すため?

 様々な疑問が毎日のように浮かんだ。だが考えても考えても結論は出てこない。その内、考えることすらしなくなった。結論が出ないと分かっている疑問について頭を悩ませるのは無駄だ。もしも答えが分かる日が来るのならばその時は…。

 それ以上は考えたくなかった。

 

 そうして恐怖心がほとんど消えたある日、立花亭に再び同じ恐怖が襲いかかった。自分が率いていたパーティの一人であるバニーラが連れてきた男が、自身の恐怖の根源だった。彼の腰にあったルイの剣を見たときには気を失いそうになった。「ラベリング」を発動させたのは反射的な行動だった。

 恐怖の根源リュートを無力化し、地面に叩きつけた立花亭。なのに一向に恐怖が消えない。ずっと恐れていた存在が、今自分の命を狙っている。無力化した程度では安心出来ない。スパノの時は「致死塩分量(デスディーリングソルト)」にかかったふりをしていた男だ。殺さなければ安心出来ない。

 だが別の恐怖が彼女を襲う。ここでリュートを殺せば、彼の仲間に狙われるのではないか?そうなれば自分は殺されてしまう。一体どうすれば?

 その時、ルイの剣が視界に入った。立花亭は思いつく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうすれば、尋問も処刑もベストナインの管轄(かんかつ)で行われる。自身の危険もグッと減る。

 ならば次にやるべきことは抵抗の可能性を絶つことだ。ルイの剣を奪い、リュートの手足を切り落とそうとしたその時、予想外の相手から妨害を受けることになった。

 

 

 

 

 

「リュートさんから離れて下さい…、『決めつけ講談師』様…」

 

 バニーラが立花亭に武器を向けていた。バニーラ自身、どうして自分がこんな行動を起こしたのか半分理解できなかった。一つ分かっていることは、自分に優しくしてくれたリュートを傷つけるのは例えベストナインであろうと許せない、という気持ちだった。

 

「バニーラさん…、私に逆らうのですか?」

 

 苦虫を噛み潰したような表情で、彼女を睨む立花亭。怖い、今すぐ武器を置いて謝りたい。そう感じながらも彼女は武器を捨てられなかった。

 一方の立花亭にも焦燥感が襲っていた。今すぐリュートを無力化しなければならない。だがこの男はバニーラの恩人なのだ。だからこそ、バニーラも自分に逆らってまで抵抗しているのだ。今の自分の心境に相応しくない、冷静な分析が彼女の頭で行われた。バニーラを納得させなければならない。だがリュートがルイとスパノを殺した人間だとは言えない。二人の死が人間の仕業であることはベストナインの機密事項だ。ならばどう言えば?この先の考えが浮かばない。

 

「どうしてリュートさんを傷つけようとするんですかぁ!?」

 

バニーラからの問いかけに対し、立花亭は(なか)()(まか)せで答える。

 

「こ、この男は魔族と繋がりを持っている疑いのある重要人物ですっ!マウントールから見つけ次第捕縛するよう指示が出ています。今すぐ武器を捨てなさい!そうすれば今回の不祥事は不問にします!」

 

 立花亭の叫びを聞いてバニーラは武器を下ろしてしまう。自分はとんでもないことをしているのではないか?そんな疑問が頭の中で膨らむ。転生前のご主人様への恩をこの世界の人類を救う形で返そうとしている自分。立花亭は人類を救う英雄だ。そんな彼女がリュートを悪人だと断言する。彼女の必死さからは、嘘を言っているとは思えない。彼女の邪魔をしてはいけないんだ。そう考えるバニーラの手が武器を離しかける。

 

「バニーラはすごいよ!」

 

 瞬間、バニーラの脳内にリュートの言葉がこだました。彼の言葉が彼女の疑問を一気に消し去る。彼女は再び槍を立花亭に向ける。

 

「それでもっ!リュートさんはわたしを『すごい』と褒めてくれました!この世界でいろんな人に優しくしてもらいましたが、わたしのことを褒めてくれたのはリュートさんが初めてでした!リュートさんを傷つけるのだけは!絶対に許せません!!」

 

「バニーラ…」

 

リュートが苦しげに(うめ)く。意を決したバニーラが、立花亭に向かっていく。

 

「この、愚か者があああぁぁ!!」

 

 立花亭もバニーラに向かおうとする。だがその瞬間、彼女の足が止まる。右足をリュートから放してはいけない。そうすればヤツは起き上がり、自分を後ろから斬りつけるだろう。そんな警告が頭に響く。ルイの剣は彼女が持っているのだから、リュートが彼女を斬りつける手段は無い。だがそんなことは彼女には分からない。

 バニーラの槍がせまる。立花亭は相手を(ろく)に見もせずに剣を振る。刃が槍の柄に当たる。ルイの剣はバニーラの槍をたやすく二つに分断した。

 分断された槍を見たバニーラは、自分が持っている柄だけの部分を捨ててジャンプする。宙を舞っている穂先の付いた方の槍を持って叫ぶ。

 

「『人参武器(キャロットウェポン)』、大剣(クレイモア)!」

 

 槍が形を変えて、剣身がオレンジで持ち手が緑のクレイモアになる。

 再び武器を立花亭に振るバニーラ。立花亭も今度は相手の剣身に向けて、己の剣をぶつける。一瞬のつばぜり合いを経て、ルイの剣がクレイモアの剣身をガリガリ斬り開いていく。数秒と持たず、クレイモアの剣身は真っ二つになった。

 

「駄目だバニーラ!!その剣は普通の剣じゃ無い!」

 

 リュートの言葉を耳にし、バニーラはまたしても叫ぶ。

 

「『人参武器(キャロットウェポン)』、鎖付き鉄球(モーニングスター)!」

 

彼女の持つクレイモアが、緑の鎖にオレンジの鉄球が付いたモーニングスターに姿を変える。しかしゴーギャンのものに比べて鉄球の大きさが四分の一程しか無い。クレイモアを分断されたせいで、ニンジンが小さくなっているのだ。

 それでもバニーラは諦めない。鉄球を立花亭に投げつける。立花亭もルイの剣で応戦する。刃が鎖を断ち切ろうとする。

 瞬間、バニーラが腕を引き、鎖の分断を(かわ)す。鉄球は軌道を変え、剣の(つば)に向かっていく。

 ガンッと音がして鉄球がぶつかる。痺れるような衝撃を手に受けた立花亭は剣を手放してしまう。

 

「しまった!」

 

 宙を舞った剣が地面に突き刺さる。早く取りにいかなければ、と思いながらも右足は根が生えたようにリュートから動かない。

 そんな立花亭を尻目にバニーラは駆けだし、地面に刺さったルイの剣を引き抜いた。

 流れは一気に立花亭に不利になった。




 どうでもいいんですが、初めてFateシリーズを知ったとき、どうして剣士(セイバー)や弓士(アーチャー)に混じってアナウンサー(キャスター)がいるんだろう、と思ってました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その11 「詰問」

 この前、母親にタンショ=スモッツ(ボツ転生者その1、第三章6話「エンチャントソード」の前書き参照)の元ネタ作品を勧められました。
 母は私がこの作品を書いていることを知りません。こんな偶然もあるんだなと思いました。

 そしてこの機に、母親がこの作品のベストナインの元ネタをどれだけ知っているか調査してみました。
 結果、アルミダ=ザラの元ネタしか知らないと言われました。アシバロンとかスパノとか私の方には滅茶苦茶出てくるので絶対知っているだろうと思っていたのに、知らないと言われました。
 元ネタの出現率には個人差があるんですね。


 立花亭が手放したルイの剣をバニーラが奪取した。形勢はバニーラに有利となる。

 立花亭は焦っていた。一刻も早くリュートを無力化したい。しかしバニーラが邪魔をしてくる。本来ならば楽勝のハズなのに、リュートから足を離せないせいで押されている。

 否、リュートは彼女の「ラベリング」で弱体化しているので、足を離してもすぐに捕まえられる。しかし、今の彼女にはソレが出来ない。足を離せばリュートに返り討ちにされてしまう、という恐怖が(ぬぐ)えないからだ。

 焦りは正常な思考を困難にする。立花亭はどうすれば現在の危機を逃れられるのかを必死で考える。本来ならば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずなのに。

 

「『決めつけ講談師』様、早くリュートさんから離れて下さい…」

 

両手に武器を持ったバニーラが催促してくる。立花亭が()()()()()()()()()()()()()()を思いついたのは、その数秒後だった。どうしてこんな簡単なことに気付けなかったのか。彼女は苦笑しながら口を開く。

 

「分かりました…、彼から離れましょう。ですから貴女も武器を下ろしてください」

 

そして次の言葉を大声で口にする。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 その瞬間、バニーラは立花亭に向けていた武器を下ろしてしまう。「ラベリング」が発動し、バニーラが立花亭に反逆することが心情的に不可能になってしまったのだ。「リュートを助けたい」という強い気持ちで再び立ち上がろうとしても、「自分が立花亭に逆らってはいけない」という更に強い気持ちが湧いてきて行動に移せないのだ。

 一方で、立花亭も一つミスをしたことに気付く。バニーラは現在、自分から離れた場所にいる。ルイの剣を取り返そうにも、リュートを踏みながらでは手が届かない。だがその問題に関しても特に問題は無い。()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「さあバニーラさん。その剣を私に返して下さい」

 

「っ!」

 

 バニーラの足が、立花亭に向かってゆっくり歩き始めようとする。

 

「だっ、ダメですぅ!この剣を渡したら…リュートさんが、リュートさんがっ!!」

 

心の中で必死に抵抗するバニーラ。しかし足は一歩ずつ立花亭に進んでいく。それでも今の自分が諦めたら、あんなに優しくしてくれたリュートを傷つけてしまう。そんなことは絶対にしたくない。その一心でなおも抵抗を続ける。

 立花亭にとってもバニーラがなかなか剣を渡そうとしないのは想定外だった。一体どれだけ抵抗すれば、ここまで命令の実行に時間がかかるのか。ダメ押しにもう一度命令してみる。

 

「何をしてるんですか!早く私に剣を…」

 

「やめろぉ!!」

 

 立花亭の命令を(さえぎ)ったのは、彼女が踏みつけているリュートだった。

 

立花亭座個泥(たちばなていざこでい)!どうして、村の皆を見殺しにしたんだ!」

 

立花亭に踏みつけられながら、リュートは自分が抱いていた疑問について必死で問いかける。

 

「な、何を…。私が貴方の村の…?」

 

「俺の村にいた皆はルイ=ジュクシスキーに殺された!お前はヤツと一緒にいたはずだ!どうして、どうして皆を見殺しにしたんだ!!」

 

「っ!!」

 

 立花亭は凍り付く。スパノの死体を確認した日に皆の前で、ルイが滅ぼした村の生き残りが二人を殺したのではないか、という自分の推測を口にした。その推測は当たっていたのだ。

 

「やはり貴方はあの時の…、ルイさんが滅ぼした村の生き残りだったんですね!?」

 

「質問を質問で返すなあーっ!!」

 

「くっ!」

 

 不思議な光景だった。現在の状況は立花亭が圧倒的に優勢なのに、当人はリュートの剣幕に押されている。彼女の弱った精神が、リュートのことを必要以上に驚異的な存在として認識しているのだ。

 

「仕方…無いじゃないですか…」

 

 立花亭は苦しそうに口を開く。

 

「仕方ないじゃないですかっ!!ルイさんは元々人を殺すことを何とも思っていないクズだったんですから!私が止めたところで聞くわけ無いじゃないですか!!」

 

「そうか…そうだったんだな…」

 

 立花亭の叫びを聞いたリュートが言葉を返す。

 

「ルイは人殺しを止めない人間だからしょうが無いと!だから自分が止めても意味が無いと!そう決めつけて!そう()()()()()()()!!行動にすら移そうとしなかったんだな!!」

 

「それの何がいけないんですかっ!?ルイさんの通り名を変えてしまった日に、私はマウントールさんに注意を受けたんです!『今後ルイに危害を加えてはならない』と!」

 

「マウントールは虐殺の阻止さえも許さない男なのか?」

 

「くっ…」

 

 事実、マウントールはベストナインの虐殺を黙認している状態だ。彼が味方殺しを禁じている以上、虐殺の阻止さえ許さない可能性はある。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。マウントールはルイを毛嫌いしている。ルイの虐殺の阻止ならば、マウントールは不問にしたに違いない。そう考えたからこそ、立花亭は言葉に詰まったのだ。

 

「私が…私がラベリングをするのは()()()()()()()()()()!先に決めつけなければ…、先に決めつけなければ被害を受けるのは私なんですから!自分を守るためにラベリングすることの何が行けないんですか!?」

 

「でも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「!!!!」

 

 リュートの必死な叫びは、彼女に何らかの精神的ダメージを与えようと発せられたモノではない。彼はただ、村が滅ぼされてから今日までの間、ずっと立花亭にぶつけたくて仕方なかった本音をぶつけただけに過ぎない。

 しかし彼のその叫びが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。立花亭がルイのことを「クズだから止めても仕方ない」とラベリングして放っておかなければ人々は助かったかもしれない。そんな彼の本音は彼女に大きな衝撃をもたらした。

 それもそのはず、彼女は転生前に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「あ…ああ…」

 

 立花亭の口から声が漏れ始める。

 

「ああああ…ああああああああああああ!!うああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

言葉にならない声が口から漏れる。耐えきれなくなり、その場にしゃがみ込んでしまう。

 その時、村の入口から女性の声が聞こえた。

 

「『決めつけ講談師』様ぁ!!一体どうなさったのですか!?」

 

声の主は、立花亭やバニーラと一緒に魔人討伐に出かけた四人の内の一人だ。立花亭からバニーラを探すよう命を受け、しばらく探索していたが見つからなかったので一度戻ってきたのだ。

 彼女が見たのは異様な光景だった。バニーラが武器を手にして立花亭に向かってきている。立花亭は見たことの無い男性を踏みつけながら、なにやら叫びを上げている。何が起こっているのかサッパリ分からないが、立花亭がピンチなことだけは分かった。自身の武器である槍を構えてリュート達に突進する。

 

「『決めつけ講談師』様!今助けに行きます!!」

 

「そうはさせませんよ?」

 

 別の女性の声がした。声の主が門の近くの茂みから姿を現す。

 

「な、何者だ!?」

 

茂みから出てきた女性はケイルだった。彼女は問いかけを無視して、右手に持った杖を掲げる。リュートのいる方向と槍を持った女性のいる方向を結ぶ線を描くように杖を振った。

 すると、リュートの(ふところ)から()()()()が現われた。小さな羽を持った生き物のような不思議な形をしている。()()()()は槍を持った女性に向かって一直線に向かってくる。女性は持っている槍でソレを突き刺そうとするが、ヒラリヒラリと(かわ)されてしまう。()()()()は女性の顔に直撃した。

 バシャッと音を立て、液体と化した()()()()が女性の顔を濡らす。

 

「なっ!何を…する…だァ……」

 

女性はその場にバタリと倒れてしまった。

 ケイルはリュートに向かって歩いていく。

 

「聞きたいことは聞けましたか?」

 

「ああっ、ケ…」

 

ケイルの名前を呼ぼうとしたのを必死に抑えるリュート。立花亭に彼女の名を知られるわけにはいかない。

 

「な…誰ですかっ?」

 

立花亭の問いかけにケイルが答える。

 

「秘密です。貴女に名前を知られては困りますから」

 

「くっ…」

 

「俺を…、追ってきてたんですか?」

 

「当然じゃないですか。リュート君が捕まったら大ピンチですから」

 

ニッコリと笑いながら答えるケイル。

 その時、ケイルの背後に「ワープゲート」が開く。男性と女性が一人ずつ出てくる。

 

「あ、あああ…」

 

立花亭が声を震わせる。女性の姿は()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 次の瞬間、リュートの体に力が戻った。同時にバニーラも、自身を強制的に動かそうとする理不尽な力から解放された。

 

「間に合ったな」

 

 男の方、もといポセイドラが言った。女の方、もとい魔女がリュートを見下ろしながら言う。

 

「いつまでそうしている?もう立てるだろう。それともお前は、そうやって女性に踏まれるのが好きなのか?」

 

「そ、そんなわけ無いだろっ!」

 

 リュートは魔女の言葉に反発するかのように立ち上がる。立花亭の足は簡単にはねのけられた。

 

「あああ…はあああぁぁぁ…」

 

 立花亭は力なくその場にへたれこむ。その様子を見たケイルが一言。

 

「そこまでですよ、立花(たちばな) (てとりす)さん」

 

 もはや立花亭座個泥(たちばなていざこでい)からは抵抗する力も気力も失われていた。




Q.何でマウントールはルイを嫌っているのに立花亭に対して「ルイに危害を加えてはならない」と命令したんだ?

A.マウントールはベストナインのリーダーなので、勝手にルイの通り名を変えてしまった立花亭に対して何の注意もしない、というのは他のメンバーの手前良くないと考えたからです。加えて彼女に対し、自分の能力を使う際には周りの影響を考えなければダメだ、ということも伝えたかったからです。事実この事件以降、立花亭は「ラベリング」の発動に関して一層注意をするようになりました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その12 「ラベリングの呪い」

 この小説の通算UA数が一万を突破しました!
 「異世界転生者殺し チートスレイヤー」という、ハーメルンのランキング上位にある小説の元ネタと比べると、決して人気があるとは言えない元ネタで始めたこの作品ですが、皆さんの支えもあってここまで来ることが出来ました。本当にありがとうございます。
 この先も物語がより楽しくなるよう奮闘して執筆して参りますので、よろしくお願いします。


 立花(たちばな) (てとりす)はとある一般家庭の長女として生まれた。父は普通のサラリーマン、母は専業主婦というごく一般的な家庭だったが、両親は極度のゲームマニアだった。社会生活に支障を(きた)すほどでは無かったが、二人の間に生まれた長女に(てとりす)と名付け、一つ下の弟には光宙(ぴかちゅう)と名付けてしまうほどにはゲームに毒されていた。

 小学三年生の頃、彼女はいじめを受けるようになった。

 

「あいつの名前、(てとりす)って変じゃねぇ?」

 

「変なの~」

 

「や~い、変人!」

 

 立花(たちばな)(てとりす)が人生で最初に苦痛を受けたラベリングは、「変な名前の人間はいじめても良い」という内容だった。弟の光宙(ぴかちゅう)は逆にクラスの人気者になっていた。

 

「俺はピカチュウだぞ!強いんだぞ!食らえボルテッカー!!」

 

変な名前なのは弟も一緒なのに、どうして自分だけいじめられるのか。(てとりす)は強い理不尽さを感じていた。

 いじめは次第にエスカレートしていき、彼女のいじめを止めるように先生が指導するための臨時ホームルームが開かれたほどだった。

 

「いいですか!もし彼女の名前を変だと感じたとしても、ソレを理由に人をいじめて良い訳ではありません!いえ、そもそも他の人をいじめるという行い自体が、人として最悪な行いです。上履きを隠される、机の中にかびたパンを入れられる、そういったことが自分に起きたとしたらどう思いますか?嫌な気持ちになるでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。当たり前のことです!」

 

小学三年生という純粋さがまだある時期だったこともあり、このホームルームを契機にして彼女への名前を理由にしたいじめは無くなった。

 

 その後、彼女は平穏な日々を過ごして中学校に入学した。中学校の学年メンバーが小学校時代とほとんど変わらなかったこともあり、名前を理由にしたいじめが再発することもなかった。

 しかし彼女はこの中学生活で再び理不尽なラベリングを受けることになる。

 彼女にはイチゴちゃん、ユキちゃんという小学校からの親友が二人いた。三人で大好きなアニメの話をしたりして、いつも一緒だった。彼女たちがいつも三人で行動していることは学年の皆が知っていた。

 そんな平穏な日常が続いていた中学一年の七月のある日、ユキちゃんが学校の階段で足を滑らせ、転げ落ちてしまう。命に別状は無かったが頸椎(けいつい)を損傷し、長期間の入院生活を余儀なくされた。その翌日に、今度はイチゴちゃんが下校途中で車にはねられる事故に遭った。こちらは全身の骨を折る重症を負い、長期入院をすることになった。

 親友二人がいなくなり、教室で孤立してしまった(てとりす)。彼女が孤立した原因は、親友以外の人とはあまり仲良くしていなかったから、というのも理由の一つだったが、それよりもっと大きな理由があった。

 

「イチゴとユキが怪我したとき、テトリスも一緒だったらしいよ?」

 

「マジ?アイツ死神なんじゃないの?」

 

「立花さんとは関わらないようにしようよ。私達も不幸になりたくないし」

 

 立花(たちばな)(てとりす)が人生で二番目に苦痛を受けたラベリングは、「彼女の側にいると不幸に見舞われるから近寄らない方が良い」という内容だった。

 彼女がこんな理不尽なラベリングを受けた背景には、二つの事実があった。一つは二人の事故現場に彼女がいたことだ。しかしこれに関しては、いつも三人で行動していたのだから当然と言えば当然である。もう一つは、同じ時期に弟の光宙(ぴかちゅう)も怪我をしていたことだ。だがこれに関しても、怪我をした理由は彼が友達と殴り合いの喧嘩をしたからである。怪我と言っても顔が()れた程度のモノであり、喧嘩相手も同じような怪我をしていた。にもかかわらず「(てとりす)の弟が怪我をした」という情報だけが知れ渡り、結果として彼女が周りに不幸をばらまく存在として扱われるようになったのだ。

 孤独な環境にいきなり落とされた(てとりす)。状況を良くしようと周りに働きかけることも出来ず、学校に行くことさえ嫌になっていった。

 そんな彼女に追い打ちをかけるかの如く、第三のラベリングが襲いかかった。その日日直だった彼女は日誌を書いていたために皆より遅くに下校することになった。階段を降りる途中で、クラスの男子数人が話し合っている声が聞こえた。下の踊り場にたむろして、中学生男子特有のいやらしい会話をしていた。

 

「タツ、この中でお前だけ彼女いねぇだろ?」

 

「うるせぇな!ほっとけよ!」

 

「そんなお前に良いこと教えてやるよ!お前が立花を(なぐさ)めてやるんだよ!」

 

「は?何でそんなことしなきゃならねぇんだよ?」

 

「アイツが今、周りに不幸をばらまく存在だって言われて孤立してるのは知ってんだろ?」

 

「そりゃあ、まぁ」

 

「そんな今のアイツをお前が慰めて見ろよ!コロッと落ちるぜぇ!」

 

「一人きりでいたところを救ってくれた白馬の王子様ってな!」

 

「それだけじゃないね。孤独から救って貰ったアイツは簡単に股を開くぜ!」

 

「なんせアイツにはタツしかいない状況だもんな!そりゃあ開きますわ!」

 

「マジでか!じゃあ明日辺りにでも試してみっかな~」

 

 (てとりす)は大きなショックを受けた。涙が止まらなかった。泣きながら走って階段を降りた。彼女の姿を見た男子連中が気まずそうにしていたのにも気付かなかった。

 立花(たちばな)(てとりす)が人生で三番目に苦痛を受けたラベリングは、「孤立したアイツを慰めれば簡単に落ちて簡単に股を開く」という内容だった。

 

 その日を境に彼女は不登校になり、部屋から出ることすらしなくなった。辛い現実から逃げるように、好きなアニメのかっこいい男性キャラと脳内恋愛をしていたが、心に空いた穴は塞がらない。どうして自分だけがこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。自分と同じくゲームから名付けられた弟は学校生活を楽しく送っているのに。どうして自分だけいじめられるのか。どうして怪我をしなかった自分が不幸をばらまく存在にならなければいけないのか。どうして自分が男子達に(なぐさ)み者のように言われなければならないのか。全ては他人の勝手な「ラベリング」のせいだった。

 彼女は幼い頃に見た子供向け番組にレギュラー出演していた講談師を思い出していた。

 

「あの人のように自分がもっと口が達者ならばこんなことにはならなかったのだろうか?」

 

そう思いながら彼女は部屋に引きこもっている間、色々な講談師の動画を見た。流れるような口調で話を進める講談師。周りのラベリングに対して抵抗もせず、黙り込んでいた自分とは大違いだ。

 そんな暮らしをしながら月日は流れ、彼女は生きること自体が馬鹿馬鹿しくなっていった。

 

「中学の最初は、仲良しの皆と大好きなアニメの話をしていたのに、今は講談師の動画もアニメも一人ぼっちで見てるなんて…。何やってんだろ、私」

 

 とうとう自分と同学年の皆が中学を卒業する日になった。彼女はこの日まで一度も学校に行かなかった。イチゴちゃんもユキちゃんも今は退院して卒業式に参加しているのだろう。

 

「今度の人生では自分からラベリングしてやる。自分で他人の存在意義を決めるんだ」

 

皆が卒業証書を受け取っているだろう時間を見計らい、彼女も()()()()()()()卒業することにした。

 

 神から転移転生の話を聞いた立花(たちばな)(てとりす)は、まるで自分が見ていたアニメの世界のようだと心を躍らせた。神に望みを尋ねられたときに願ったことは当然「自分が他人をラベリング出来ること」だった。彼女は自分が好きな三人の講談師、架電(かでん) 座椅子(ざいす)古紺(ここん) 個子人(ここじん)杯刷亭(はいずりてい) 泥土(でいど)の三人から一文字ずつ取って「立花亭座個泥(たちばなていざこでい)」と名乗ることにした。

 

 

 

 

 

「立花亭を殺す気は無いんだな?リュート」

 

 魔女がリュートに尋ねる。

 

「ああ。それが、俺が立花亭との会話を通して下した決断だ」

 

リュートはハッキリと答えた。

 

「立花亭を完全に許せたわけじゃ無い。でも、彼女の言い分には何だか影があるような感じだった。自分じゃどうしようも無い何かに必死で抵抗しているような感じだった。少なくとも、他人が苦しむ姿を見るのが大好きでたまらない、って感じじゃ無かったよ。だから俺は、彼女を殺そうとは思わない」

 

「そうか」

 

魔女はリュートの意見に異議を唱えることはしなかった。

 

「…怒っているか?」

 

 リュートは思い切って魔女に尋ねてみる。

 

「怒ってなどいないさ。お前なら立花亭を殺さないと言うだろうと思っていたからね」

 

「そうじゃない。新しい拠点に移ってから今まで、(ベストナイン)に見つからずに過ごせていたのに、俺の自分勝手な判断で平穏を崩してしまったことだ」

 

 立花亭座個泥(たちばなていざこでい)は一切の抵抗をせず、ロープに縛られた状態だ。最も抵抗しようにも魔女の「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」で能力を封じられている今の状態ではどうしようも無いが。そして彼女はテンスレの拠点に生きたまま監禁することになった。この行為が、テンスレとベストナインの争いの火蓋(ひぶた)を再び切ることになるのは明白だった。

 

「なんだ、そのことか」

 

 魔女は若干明るい口調でリュートに言う。

 

「怒ってなんかいないさ。むしろ感謝しているんだよ」

 

「え?」

 

「新拠点に移ってから今日まで続いていた膠着(こうちゃく)状態をお前が解いてくれたのだからな。本当はもっと早く行動に移したかったのだが、アシバロンの襲撃を受けたせいで、いささか慎重になりすぎてしまってな。何か良いきっかけは無いだろうかと頭を抱えていたんだよ」

 

 そう告白して魔女は言った。

 

「さあ、他の仲間が来ない内にさっさと引き上げよう。バニーラ=チョコミクス、お前にも当然来て貰うからな」

 

「ふえええ!?」

 

 バニーラが驚きの声を上げる。

 

「当然だろう。お前も当事者なんだからな」

 

ポセイドラがぶっきらぼうに言う。

 

「で、でもわたし…」

 

「心配要らないよバニーラ。君にひどいことは絶対しない。俺が約束するよ」

 

「あ、リュートさんがそう言ってくれるなら…」

 

 こうしてバニーラもリュートに手を引かれながら、ケイルの開いた「ワープゲート」をくぐっていった。




 よくキラキラネーム反対派の意見で、「キラキラネームにされた子がいじめられる可能性があるからダメ」って意見を耳にしますが、これって暗に「いじめられる人間に原因があるからいじめは起きるんだ」と言っているのに他ならないのではないでしょうか。私は「いじめはいじめる方が100%悪い」のだと思います。

 そんな私の考えも含まれた、立花亭の過去回想でした。これくらいの作者の考えを物語に内包するのは大丈夫ですよね?「異世界転生モノは総じてクソだ」って主張を自分の作品に内包した人もいるようですし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その13 「離反者」

 投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
 前回話が切りの良いところで終わり、この後どうやってバニーラを納得させるか、整合性のある話を考えるのに時間がかかってしまいました。
 そしていざ話を書こうとした9月8日の昼ご飯に食べた、セブンイレブンの蒙古タンメンの冷凍麺。ものすごく辛くて、頑張って完食した後、お腹を壊しました。
 辛いモノは大好きで、食べるのは自信があったんだけどなぁ…。皆さんも食べる際は気をつけて下さい。


 ケイルが開いた「ワープゲート」をくぐり、部外者二人を連れて拠点へと帰還したリュート達。

 部外者の一人目、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)は二階の一部屋に監禁されることになった。彼女はもはや抵抗を一切しないほど憔悴(しょうすい)しきった様子だった。手足を厳重にロープで縛られ、口には猿轡(さるぐつわ)をされた状態で監禁されている。彼女の特殊能力「ラベリング」は、彼女の発言が発動のトリガーになるので、口をふさぐ処置は非常に重要だ。それに加え、拠点では常に魔女が「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」を発動させている。有効範囲は魔女から半径200メートル。拠点の別荘内にいる限りは範囲内だ。

 もう一人の部外者であるバニーラ=チョコミクスは、最初に女性陣による厳重なボディチェックを受けたが、その後はお客様に近い扱いを受けた。温かい紅茶とリン特製のぶどうパンを口にするバニーラ。先程の戦いでの緊張感が、まるで嘘だったかのように心がほぐれていった。

 

「このぶどうパン、すごくおいしぃですぅ~」

 

「うふふ、そう言っていただけて嬉しいですわぁ~」

 

 お互いに笑顔で会話するバニーラとリン。初対面だったが、早くも打ち解けたようだ。

 パンを食べるバニーラを見ながら、リュートが礼を言う。

 

「ありがとう、バニーラ。君が助けてくれなかったら、俺は手足を失っていたよ」

 

「とんでもないですぅ。リュートさんが無事で良かったですぅ」

 

バニーラが笑顔で返す。

 

「ふふふ、手足を切り落とされたくらいなら、私の魔法でくっつけてやったが?」

 

 バニーラの隣に座っている魔女が口を挟む。

 

「くっつけば良いってもんじゃ無いだろ…」

 

リュートは呆れたように返しつつ、バニーラとの会話を続ける。

 

「でも本当に助かったよ。よく俺を助けてくれたね?立花亭はバニーラにとって雲の上の存在だろ?」

 

「それはそうなんですけど…。でも、リュートさんが傷付くのはどうしても嫌だったんです!それで気がついたら、体が勝手に動いちゃってました。エヘヘ」

 

「ありがとう、そんなに大切に思ってくれてたなんて、何だか嬉しいな」

 

リュートの言葉を聞いて、顔を真っ赤にするバニーラ。話題を変えたい一心で、自分が最も気になっている質問をぶつける。

 

「それで、ここってどこなんですかぁ?」

 

「良い質問だな」

 

返したのは魔女だった。

 

「実に良い質問だ。このままどこまでもラブコメシーンが続くんじゃ無いかとヒヤヒヤしていたよ。で、ここがどこかという質問だが、残念だが答えるわけにはいかない。そして、君を帰すわけにもいかない」

 

「えっ、ええええぇぇ!?」

 

「おい魔女!言い方が怪しすぎるだろ!?ここは俺達の拠点だよ、バニーラ」

 

リュートがバニーラに答えた。

 

「え、ええと…。それは何となく分かってたんですが…。あの、私を帰せないって…?」

 

バニーラの言葉に、リュートは残念そうに首を振りながら返す。

 

「残念だけど、それは事実だ。バニーラが『神の反逆者』所属である以上は、どうしても…」

 

「そんなぁ…」

 

「でも安心して!悪いようにはしないって言ったでしょ?約束は守るから!」

 

必死で訴えるリュートの様子を見て、バニーラは自分を無理矢理納得させようとする。

 

「で、でもどうして私が『神の反逆者』所属であることが関係してるんですかぁ?」

 

「それは…、言って良いのか?」

 

 リュートは魔女を見ながら尋ねる。

 

「逆に聞くが、言わないでバニーラを納得させられるのか?」

 

質問を質問で返すなあーっ!と返したかったリュートだが、魔女の発言を許可の意味だと捉えて、バニーラに自分達が何者なのかを説明することにした。

 バニーラにとってリュートの説明は信じられない内容ばかりだった。自分の上司でもあり憧れの存在でもあるベストナインのメンバーが罪の無い人々に対して殺戮(さつりく)を行っていたこと、リュートがルイに村を滅ぼされていたこと、そしてリュートの所属するギルド「テンスレ」がベストナインへの復讐を目的とした集団であること…。

 

「そんなの信じられないですよぅ!!」

 

 バニーラは思わず叫んでしまう。あんなに優しかったリュートが言っていることは、自分にとって信じられないことばかりだ。もしかして自分を騙そうとしているのでは無いのだろうか。そんな嫌な発想が浮かんでしまう。

 

「バニーラ…」

 

 対するリュートも、困惑するバニーラをどうやって納得させれば良いのか分からなかった。彼女は過去の自分だ。リディアがまだ生きていた頃の、転生者と一緒に魔人討伐をすることを夢見ていた頃の自分と同じだ。あの時の自分に「ルイは人殺しだ」と伝えても絶対に信じないだろう。尊敬する人をけなされたと怒ってもおかしくない。わしを信じて、と言い続けて納得させられる内容でないことは分かっていた。それに加えて、彼女に提示できるような証拠も無いのだ。

 どうすればバニーラを納得させることが出来るだろうか。リュートは助け欲しさにか、知らず知らずの内に魔女へと顔を向けてしまっていた。

 

「ふふふ、かっこいい王子様を演じ続けるのも限界か?」

 

「…からかうなよ」

 

 笑いながら自分をからかってくる魔女に対し、不満げに言葉を返すリュート。しかし彼女に助けを求めてしまったことも事実だ。何だか自分が情けなくなってくる。

 

「安心しろリュート。バニーラを納得させる策も考慮済みだ。そのためにも…」

 

 魔女はバニーラに提案する。

 

「ひとまず立花亭に会いに行こうではないか、バニーラ」

 

「ふぇ?」

 

「リュートが言っていることが信じられないのだろう?自分が納得出来る何かが欲しいのだろう?」

 

「それはそうですけど…」

 

 バニーラはどこか不満げだ。

 

「私の発案に乗るのは不安か?私達が立花亭に対して、ベストナインが人殺しをしていたことを認めるように脅しているとでも思っているのか?心配無用だ。バニーラは立花亭に対して一言、()()()()()()()()()()()()()でいい」

 

バニーラには魔女の思惑がさっぱり分からなかったが、納得出来る証拠が欲しいのは事実だ。

 三人は立花亭が監禁されている二階の部屋へと向かった。

 

 立花亭が監禁されている部屋の扉の前で、魔女が念を押すようにバニーラに話しかける。 

 

「いいか?立花亭に何を言われても、最初に私が言ったとおりの質問をするんだぞ」

 

そう言いながら部屋の扉を開ける。

 立花亭が監禁されている部屋では、ケイルとポセイドラが番をしていた。立花亭は手足を縛られた状態で壁に寄りかかっている。抵抗も一切していなかった。

 

「ケイル、猿轡(さるぐつわ)を外してくれ。彼女が話をしたいそうだ」

 

魔女の言葉を聞いて、ケイルが立花亭の口にしてあった猿轡を外す。

 バニーラの姿を認めた立花亭は、恨みの籠もった目で相手をにらみつける。

 

「バニーラ…さん…」

 

バニーラは勇気を振り絞って、魔女に言われた通りの質問を投げかけた。

 

「『決めつけ講談師』様、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「そんなことを…わざわざ聞きに来たのですか?」

 

 立花亭は声を荒げなかった。

 

「質問を質問で返さないで下さい」

 

「…随分と偉そうじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょう?」

 

「…え?」

 

「なぜとぼけるんですか?裏切りの理由は魔女から聞きましたよ」

 

「…そんな…こと…、わたしは聞いてません…」

 

「は?」

 

 呆然とするバニーラと、困惑する立花亭。

 魔女は面白そうに立花亭に話しかける。

 

「さっきお前に、バニーラはお前が仲間の殺人を黙認していたことを知っている、と伝えたな?()()()()()

 

「なっ!?」

 

言葉を返せない立花亭の姿がよっぽどおかしかったらしく、魔女は高らかに笑い声を上げる。そんな彼女の様子を見たリュートは言葉を失う。彼女は「バニーラにベストナインのメンバーが人殺しをしていたことを信じさせる」ことと「自身の嗜虐心(しぎゃくしん)を満たす」ことを同時に達成するための布石を(あらかじ)め打っていたのだ。油断ならない相手だと改めて感じた。

 

「魔女さん、余り大きな声で笑わないで下さい。外に聞こえます」

 

「おっと、ソレはマズいな」

 

 ケイルに注意された魔女は笑うのを止めた。

 

「リュート、バニーラと一緒に下に戻っていろ。私はここに残る。()()()()()()()()()()()()()()

 

魔女に言われたリュートはバニーラの方を見る。衝撃的な事実を知って体の震えが止まらないバニーラを見て、このままではいけないと思った彼は魔女の指示に従うことにした。

 

 下に戻ったリュートはバニーラに紅茶を飲ませた。しばらくして、彼女も落ち着いた様子になった。

 

「大丈夫?バニーラ」

 

「はい…、心配させちゃったみたいですみません」

 

「いいんだよ、誰だって驚くさ」

 

バニーラを落ち着かせようと、穏やかに話しかけるリュート。そんな彼の声を聞くと、バニーラはとても安心できた。

 

「一つ聞いても良いですか?」

 

「何かな」

 

「どうして()()()()()()()んですか?」

 

「え?」

 

 リュートにはバニーラの質問が理解できなかった。

 

「リュートさん達は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよね?」

 

「ち、違う違う!そんなことは全然考えてないよ!」

 

「そうなんですか?てっきりわたしをベストナインの動きを知るためのスパイにしたかったのかと…」

 

「そんなこと、これっぽっちも考えてないよ!俺がバニーラにあったのはたまたまだよ。最初に会った日も、今日も偶然君に会ったんだ」

 

「そうだったんですか」

 

「そうだよ。だから、バニーラを巻き込んじゃったのは本当に申し訳ないと思っているんだ。本当は立花亭と二人で会話をするつもりだったんだけど…」

 

 リュートは必死で訴えかけた。彼は嘘をついたつもりは無かった。本当にバニーラを巻き込んだことは申し訳なく思っていた。だからといって、彼女を帰すわけにもいかない。どう詫びればいいのか分からなかった。

 バニーラにもそんな彼の気持ちは伝わっていた。

 

「そんなに謝らないで下さい。私は落ち込んでなんかいませんよ、むしろ今、とても幸せなんです」

 

「幸せ?」

 

「リュートさんにまた会えたこと、リュートさんに褒めてもらえたこと、リュートさんを助けられたこと、どれもとても嬉しかった。わたしは今日一日、とてもハッピーでした」

 

「バニーラ…」

 

「わたしは…、わたしはリュートさんの力になりたいんですっ!『神の反逆者』所属のわたしじゃダメ…ですか?」

 

「そんなことないよ!」

 

 リュートは嬉しそうに右手を差し出す。

 

「バニーラが味方だなんてすごく心強いよ!これからもよろしくね!」

 

「はい、よろしくですぅ!」

 

バニーラも右手を差し出し、二人は固く握手を交わした。




 前回の話についてコメント欄で、「転生後の名前って自分で決められるの?」という質問が出てきました。
 この質問に対する回答はすでにコメント欄の返信で行ったのですが、その件に関係してここでは、転生者が転生する際に神とどの様な流れで会話するのかについて、解説いたします。
 
 まず、神は以下のような流れで転生者と会話を行います。

1.転移転生と転生後の世界の様子、転生者のルールについて説明する。

2.転移転生するか尋ねる。

3.どんな特殊能力がいいか尋ねる。

4.容姿や服装、戦闘スタイルの要望を尋ねる。

5.その他の要望を尋ねる。

6.異世界へGO!

こんな感じです。
 転生後の名前を決めたいときには5の段階で自分の要望を言うと叶えてくれます。何も言わないと神に勝手に名前を決められてしまいます。
 神は「転生後の名前は何が良いか?」とは尋ねてきません。理由としては、神が「名前なんて魔人討伐に関係ない」と考えて軽視しているからです。「転生後も名前は変わらないでしょ」とか勘違いしていると、神に名前を決められるハメになります。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。漢字の名前の人は、転生後の名前を自分で決めた人です。あと、ルイも自分で名前を決めました。
 他にはアシバロンが「建築作業で傷つかない体が欲しい」と願い、火属性魔法の耐性が高い肉体で転生しましたが、これも5の段階で自分の意見を言ったからです。
 3、4、5の段階で「何でも良い」と答えた場合、神が勝手に決めます。スパノは3の段階で「どうでもいいヨ」と答えたという裏設定があります。

 転生する際の神との会話の流れについては、カレー屋での注文の流れを思い浮かべると分かりやすいのではないでしょうか。

1.いらっしゃいませの挨拶、メニューを配る。

2.メニューを尋ねる。

3.ライスの量を尋ねる。

4.ルーの辛さを尋ねる。

5.トッピングを尋ねる。

6.注文完了!

 じゃあ、どうして神との会話の流れについて作品中で詳しく語らなかったのかというと、「本編の流れに余り関係の無い神との会話について、あまりダラダラやっててもしょうが無いな」と判断したからです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その14 「呪縛」

 その手は人を殴るためでなく人と手を(つな)ぐため
 その口は人を差別するのでなく人と愛を語るため

 そして魔女の魔法「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」で
 劣等転生者ベストナインを殲滅(せんめつ)


 バニーラはリュートに確認の意味を込めて質問する。

 

「リュートさん、やっぱり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 リュートは少し驚いた。今までのバニーラはベストナインのメンバーを呼ぶ際には「通り名+様」で呼んでいたはずだが、今の発言では「名前+さん」で呼んでいた。彼女なりにリュート達に味方する覚悟を示したのだろうか。まだ呼び捨てで呼ぶわけにはいかないようだが、彼女が転生前は人に飼われていたウサギだったことを考えれば、それは仕方の無いことだった。

 

「そうだよ。ルイは俺が、スパノはゴーギャンさんが殺したんだ」

 

 リュートは素直に認めた。「いつかバニーラに、自分達がルイとスパノを殺したことを話さなければならないのだろうか」と先程思い悩んでいたが、まさか今日がその()()()になるとは思わなかった。

 だが、先程のように重たい気分にはならなかった。今のバニーラになら何でも話せるような気がした。

 

「やっぱりそうだったんですね」

 

「その…やっぱり幻滅したかい?」

 

「いいえ!とんでもないですぅ!その…リュートさんは…ルイさんに自分の村を滅ぼされたんでしたよね?」

 

 バニーラがおずおずと尋ねる。リュートのトラウマをえぐる可能性のある質問だとは理解していた。

 

「うん、そうだよ」

 

「だったら!その…ルイさんを殺したのは…当然だと思いますぅ!」

 

先程まで尊敬した相手を殺されても仕方ない人だと認めることが、どれほど勇気の()る発言なのかをリュートは理解していた。だから彼は

 

「そうか、ありがとう」

 

と一言返すだけに留めた。

 と、その時だった。

 

「殺せええええぇぇぇ!!」

 

二階から悲鳴が聞こえた。立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の悲鳴だ。まさか、魔女達が凄惨(せいさん)な拷問でも行っているのだろうか。リュートとしては、そこまでして情報を吐き出させようとは思っていなかった。そして何より、今のバニーラに立花亭の悲鳴は聞かせたくなかった。

 彼は慌てて階段を駆け上がる。バニーラと台所にいたはずのリンも後を付いてきた。立花亭が監禁されている部屋を勢いよく開ける。

 

「おい!何やってんだ!?」

 

リュートは立花亭を見たが、彼女に特に変わった様子は無かった。

 

「おいおい、私は何もしてないぞ」

 

魔女が答えた。怪しい、信用できない。

 

「私達は何もしてませんよ」

 

ケイルが答えた。彼女が言うならそうなのかもしれない。

 

「俺達は何もしていない」

 

ポセイドラが答えた。ようやくリュートも三人が立花亭に対してひどい仕打ちをしていたのでは無いと確信出来た。

 

「リュート…さん、ですね」

 

 立花亭がリュートを睨む。彼女の目からは、彼に対しての憎しみの感情と、彼に対する謝罪の念とが、ごちゃ混ぜになって感じられた。彼は今まで人からそんな風に見られたことは無かった。

 

「貴方がルイさんとスパノさんを殺したんですね?村を滅ぼされた仕返しに…」

 

立花亭の質問にリュートは素直に答えた。

 

「ああ、そうだ」

 

本当はスパノを殺したのはゴーギャンなのだが、ここは素直に認める。

 

「そして最後の一人である私を殺して、仕返し完了。そういうことでしょう?さあ、早く私を殺して下さい」

 

「お前は俺の村の人を殺してないだろ。お前を殺す気は無い」

 

「でも私は二人の虐殺を黙認していました。貴方にとっては同じ復讐相手のハズです。早く殺して下さい!」

 

「だからそこまでする気は無いって!なんで二人を放っておいたのか、それだけ聞けたならもう俺は良いんだ!」

 

「嘘だッッ!!!貴方は私を責めたじゃないですか!私に憎しみを抱いている証拠です!早く!殺して下さい!!」

 

立花亭の言葉のボルテージが上がっていく。

 

「そりゃあ、あの時はお前に対して文句の一つでも言いたくなったさ!だからって、お前を殺したいほど憎んでいる訳じゃ無いっ!!」

 

「私がっ!!今までどれだけっ!貴方に殺される恐怖に苦しめられたと思ってるんですか!!殺すのでしょう!?私を殺すのでしょう!?もう十分苦しみましたっ!!早く!ひと思いに殺して下さいっ!!!!」

 

「だから…」

 

「殺せええええええぇぇぇぇ!!!!」

 

 立花亭は声の限り叫んだ。彼女の叫びが部屋全体を振るわせる。

 

「殺せええええぇぇぇ!!!!殺っ…!!」

 

「うるさいですね……」

 

 ケイルが後ろから立花亭に猿轡(さるぐつわ)を噛ませた。

 

「……!!…………!!!!」

 

立花亭は必死で叫ぼうとするが、猿轡をされた状態では一切声にはならない。見張りのケイルを置いて、全員一階に戻ることにした。

 

 リンが四人分の紅茶を持ってくる。バニーラは今日だけで何杯紅茶を飲んだだろう。正直もういっぱいなのだが、立花亭の迫真の叫びを聞いたせいで心が異常に高ぶってしまった。結局紅茶を飲んで、気分を落ち着かせることにした。

 

「私達は普通に彼女から情報を引き出そうとしただけだよ。まだ拷問なんてしていない。ヤツは『何も言いたくない。マウントールを裏切るのは絶対に嫌だ』と言うんでな。しつこく尋ねてみたら、さっきお前にやったようにテンション上げていって、最終的に『殺せ』と叫ぶようになったんだ。まったく、悲劇の王女様気取りさ」

 

 魔女がうんざりした様子でリュートに説明をする。魔女が「まだ拷問なんてしていない」と言ったのを彼は聞き逃さなかったが、追求は避けた。ポセイドラもうんざりした様子だ。

 

「そんなに殺されたいなら、舌でも噛んで自殺しろって話さ。まあ、猿轡をされていてはそれも出来ないだろうがね」

 

 魔女は本当にうんざりしているんだろうか。それとも実は上機嫌ではないのだろうか。魔女と行動するようになって長い期間が経ったが、リュートは未だに彼女の心情を図れないことが多い。

 だが自分の気持ちは分かる。バニーラにはなるべく魔女のこういう側面を見せたくなかった。何とか話題を変えようと、リュートは魔女に話しかける。

 

「魔女、それからポセイドラさん。一つ良いかな?」

 

「何だね?」

 

「バニーラが俺達に協力してくれるそうなんだ」

 

彼にとって魔女とポセイドラは、この事実を最も伝えたくない二人だった。他の者なら温かく迎え入れてくれそうだが、二人に関しては文句を言ってくるビジョンしか思い浮かばない。

 

「本当か?それは心強い!」

 

 しかし魔女は、彼の予想に反して嬉しそうな反応を示した。そういえば彼女は獣人の転生者は気に入っているのだった。先程までの立花亭への悪態のせいで忘れていた。

 

「いやあ嬉しいよ。と言っても、リュートに協力したい一心なのだろう?バニーラ」

 

バニーラは顔を赤くして下を向いてしまう。

 

「まあ何でも良いさ。これからよろしく頼むよ、バニーラ」

 

魔女が右手を差し出す。

 

「は、はい!よろしくお願いしますぅ」

 

先程リュートとしたように、バニーラは魔女とも握手を交わした。

 

「大丈夫なのか?」

 

 一方のポセイドラは反対こそしなかったが、一言魔女に問いかける。

 

「獣人の転生者は人間に対して素直なヤツが多い。例え人間を騙そうとしても、下手をすることの方が多いしな。バニーラの様子を見てみろ。コイツが私達を騙してベストナインに情報を流そうと企んでいるように見えるか?」

 

ポセイドラはバニーラをしばらく見つめて言う。

 

「……見えないな。悪かった」

 

「よろしくお願いします、ポセイドラさん」

 

今度はバニーラからポセイドラに手を差し出した。彼女は今日三度目の握手を交わした。

 

「立花亭の捕獲に加えて、バニーラが加入か。これで、私達の対ベストナイン状況も向上したわけだ」

 

「あれ、ちょっと待って下さい?皆さんもしかして、マウントール様にも戦いを挑むつもりですか?」

 

 魔女の発言を受け、バニーラが尋ねる。

 

「まあ、ベストナインのメンバーを殺す以上、そうなるな」

 

「うわ…それだけは無理ですぅ!」

 

バニーラが急に尻込みし始める。

 

「マウントール様に逆らうなんて、絶対に無理ですぅ!ああ…やっぱり協力するの止めようかな…」

 

「おい!話が違うぞ!」

 

 ポセイドラが思わず立ち上がる。リュートもバニーラの急な心変わりを異常に感じていた。

 唯一、魔女だけは態度を崩さない。

 

「ほう…。これはひょっとして、()()()()()かな?」

 

「おい魔女!何をする気だ!?」

 

「そう不安がるなリュート。バニーラ、私達はマウントール様には逆らわないよ。だから安心して紅茶を飲んでくれないか」

 

魔女の言葉を受け、バニーラは紅茶を飲む。リュートには魔女の思惑がサッパリわからない。だが一つ言えるのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

「どうだ、落ち着いたか?」

 

「ふぅ…。はい、落ち着きましたぁ…」

 

 魔女の言葉を受け、バニーラが答える。

 

「それなら良かった。ところで、バニーラはマウントールと会って会話したことがあるのかい?」

 

「直接は無いんですけど、朝礼であの方のスピーチを聞いたことなら何回もありますぅ」

 

「そうか、彼は何かフランス語を話していなかったかい?」

 

「はい!あの方の癖ですから」

 

「バニーラは彼がフランス語を話せることをすごいと思うかい?」

 

「えっ?そ…それは当然ですぅ。わたしのご主人様も話せませんでしたし…」

 

「本当にそうかい?」

 

 魔女は次の問いかけに一段と力を込めた。

 

「落ち着いて考えてみたまえ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。このことが本当にすごいのか?」

 

「ふぇ…?あ、あれれ……?」

 

バニーラは頭を抑えて悩み始める。

 

「は、はれれ?わたしはいったい……うごごご!!」

 

「バニーラ!」

 

「リュート、落ち着いてバニーラを見守ってあげるんだ」

 

 魔女の言葉を聞き、心配そうにバニーラを見つめるリュート。

 しばらくすると、バニーラはあっけらかんとした様子で口を開いた。

 

「もしかしたら、わたしは必要以上にマウントールさんのことを恐れていたのかもしれないですぅ」

 

「そうかい?」

 

「はい!もう大丈夫ですぅ、お騒がせして申し訳ありませんでした!改めて、わたしも皆様の仲間に入れて下さい!」

 

「ああ、よろしく頼むよバニーラ」

 

 満足げに言う魔女に対してリュートは尋ねる。

 

「おい魔女、何が起こったんだ!?」

 

「何てことはないさ」

 

魔女は平然と答えた。

 

「バニーラはマウントールの能力による呪縛にかかっていたのさ。私はその呪縛を解いただけだよ」




 次回は久しぶりにベストナイン視点です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その15 「『転生殺しの箱』との相性」

 前回の後書きに「次回はベストナイン視点です」と書いてしまったのですが、テンスレ視点でまだ説明していない部分があったので、今回はその補足になります。少し短いですが、ご了承下さい。


 立花亭座個泥(たちばなていざこでい)の捕獲及び監禁に成功したテンスレ一行だったが、彼女からの情報の引き出しに苦戦していた。

 監禁当日は結局何も話そうとはしなかった立花亭。尋問は翌日にも行われたが、やはり彼女の口から出たのは「マウントールを裏切りたくない」「早く殺せ」といった内容だけだった。

 立花亭の今後の扱いをどうするか、魔女を中心として話し合いが行われた。

 

「全く参ったモノだな…。立花亭(ヤツ)め、一向に口を割ろうとしない」

 

 魔女が辟易(へきえき)とした様子で言う。

 

「アイツもマウントールの能力を受けているんじゃないか?バニーラと同じように解除してやれば済む話だろ」

 

リュートが口を開く。

 

「当然だ。ヤツもマウントールの能力を受けているのは間違いない。だがな、解除してやるのは無理だ」

 

「どういうことだよ」

 

「マウントールの能力を解除してやるには、相手が比較的冷静な状態でなければならない。今の立花亭は錯乱状態だ。一方、私の『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』は冷静な状態の相手には発動しない。ヤツを今捕獲できているのは『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が効いているからなんだぞ?ヤツを平常心にするわけにはいかない」

 

 リュートは魔女が悩んでいる理由を理解した。これまでの経験から彼自身十分に理解していたはずの「転生殺しの箱(デリートチートゾーン)」の発動条件が、立花亭から情報を引き出すという目標達成の妨害をしているのだ。転生者の心を乱さなければ能力を封じることが出来ない。しかし、心が乱れている状態ではマウントールの能力を解除出来ない。加えてまともに情報を引き出すことすら難しい。

 

「この制約があるせいで、私の鎮静剤(ちんせいざい)も使えませんしね」

 

ケイルが付け加えた。

 

「そういえば、ケイルさんは薬師(くすし)さんでしたよね?」

 

「そうですよ」

 

 バニーラの質問にケイルが答える。

 

「リュートさんに渡していた赤い液体も薬なんですかぁ?」

 

「はい、あの赤い液体は即効性の睡眠薬ですね」

 

「良かったぁ。ずっとアレが毒だったんじゃないかと心配していたんですぅ」

 

バニーラが胸をなで下ろす。赤い液体が顔にかかった自分の仲間が倒れたのを目にしてから、彼女はずっと液体の正体を気にしていたのだ。

 

「当然です、私は薬師ですから。人の(えき)になるものが薬、人の害になるものが毒です」

 

ケイルは誇りを持って答える。

 

「あ、あの時飛んでいった赤いのって、やっぱり俺に渡してくれた瓶に入っていた薬だったんですね」

 

リュートはあの時立花亭に踏みつけられていたこともあって、今になって気付いたようだ。

 

「はい。私の魔法『エレメントウォーター・リトルフェアリー』です」

 

「何ですそれ?」

 

「ふふ、見せた方が早いですね」

 

そう言ってケイルはリュートに渡したのと同じ瓶を懐から取り出し、右手にスポイト杖を持って魔法を唱える。

 

「『エレメントウォーター・リトルフェアリー』」

 

すると、瓶に半分ほど入っていた液体が妖精のような姿に形を変える。()()()()と表現するのがぴったりな形だ。しかしリュートの世界にはクリオネは存在しないので、彼は「小さい妖精みたいだ」と思った。

 ケイルが杖を振ると、妖精の形をした赤い液体は瓶の栓を押し開け、空中をヒラヒラと舞った。

 

「液体を妖精の形にして使役することが可能になる魔法です。杖の向きと連動しているので、遠くからリュート君達を尾行することも出来ます」

 

「だから、尾行されていることに気付かなかったんですねぇ」

 

 バニーラが納得したように言う。ケイルはこの魔法を使って、バニーラの聴覚が効かない遠距離からの尾行を可能にしていたのだ。

 

「じゃあ睡眠薬を持たせたのは、ピンチになったときに俺を守るために?」

 

リュートが尋ねる。

 

「それもありますが、リュート君が私達の制止を聞かなかった際に無理矢理連れて帰ることも出来る、というのも理由の一つでしたね」

 

「あ、ああ…。なるほど。あはは…」

 

 リュートは苦笑いする他無かった。やはりあの時の自分は、立花亭に会いたい一心で危うい状態に見られていたのだ。確かに、仮に魔女がリュートを止めるようケイル達に指示をしていたとしても、その制止を聞かなかった可能性もあったかもしれない。

 

「それにしても魔女、お前はどうしてこうなると予測出来なかった?」

 

話を本題に戻す意味も含めて、ポセイドラが尋ねる。

 

「人のミスを指摘して楽しいかポセイドラ?嫌われるぞ」

 

魔女が言葉を返す。

 

「いや、ポセイドラの言うとおりだ。魔女ならこうなることは予測できたハズだ」

 

ラーシャは魔女が逃げようとしているのを逃さなかった。

 

「ミスだと言っただろう?正直もう少し話が通じると思っていたのだがな…。やっぱり転生者はゴミクズ、はっきり分かんだね」

 

魔女は苦笑しながら答えた。

 

「ふざけるな」

 

ポセイドラがイラッとした様子で言うと、魔女はマジメなトーンで話を続ける。

 

「正直に言おう。立花亭がマウントールの能力を受けていることは予測できていた。だがそれだけなら、話を聞き出せたはずだ。問題なのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。ルイとスパノが先に死んだことがよっぽど応えていたらしい。ヤツは今までずっと、我々に目を付けられることを恐れていたのだ。その恐怖が現実となった今、恐怖に耐えきれなくなり、早く殺して欲しいとだけ強く願っているみたいだな」

 

「このまま情報が得られない場合はどうなるのだ?」

 

ゴーギャンが尋ねる。

 

「人が平常心を失っていられる時間には限りがある。所謂『()れ』というヤツだな。そうなれば能力を封じられなくなる。問題はその慣れがいつ来るかだ。ヤツがまともに話せるようになった時には、もうすでに慣れてしまっている状態かもしれない」

 

 魔女は一息ついて、次の言葉を口にした。

 

「こうなれば、多少痛い目にあわせて聞き出さねばならないかもしれないな」

 

 つまりは本格的な拷問ということである。だが、闇雲に拷問するだけでは余計に口を固くする結果になるかもしれない。

 そうでなくとも魔女を除いたテンスレメンバーは元々、誰の復讐相手でもない転生者を無闇に傷つけることを嫌う人間ばかりだ。肝心の魔女は人間を傷つけることが出来ないので、拷問を行うのは魔女以外ということになる。(ゆえ)にどこまでの拷問を良しとするのかについて議論が起こるのは避けられなかった。ケイルは相手が死なぬ程度の拷問ならば構わないと主張するのに対し、ポセイドラはほどほどの流血で留めて置くべきだと主張した。リュートやリンはそもそも拷問自体に反対する始末だ。

 結局一日かけて議論を続けることになってしまった。そして同じ一日の間に、ベストナイン側はすでに行動に移り始めていたのだった。




 またまた投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。

 理由としては、土曜日に一回目のワクチンを接種したからです。一回目はそこまで副作用が重くならないと聞いていたのですが、バッチリ副作用が出て投稿が不可能な状態でした。

 一回目でこれだけ悪くなるってことは、二回目は死ぬかも分からんね…。もし私が死んだらこの小説も投稿されなくなるので悪しからず。

 ケイルの得意魔法「エレメントウォーター」にはいくつかの種類があるようです。その中には彼女の切り札となる魔法も…?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その16 「必死の捜索」

アデク「頼む!ポケモンと人を切り離す……それだけはしないでくれっ!!」

上弦の壱「何だ、この(みにく)い姿は…。リーグチャンピオンの姿か?これが…。いわタイプもしくはほのおタイプで半壊する欠陥パーティでチャンピオンを名乗ったあげく主人公以外のキャラに敗北し、エンディング後も悪びれること無くチャンピオンを続け、続編BW2のチャンピオンズトーナメントでは他のチャンピオンが自分の元々の手持ちをアレンジしたパーティで参加する中一人だけ四天王(ぶか)の切り札をレンタルしたパーティで参加する醜さ。生き恥」

太眉巡査長「ポケモンと人との繋がりを守るために懇願(こんがん)するのは恥ずかしいことじゃない!チャンピオンなのに弱いことが…恥ずかしいんだぞ!」


王都 「神の反逆者」ギルド

 

 立花亭座個泥(たちばなていざこでい)が失踪したという知らせは、事件当日にマウントールの耳に入ることになった。立花亭と共に魔人討伐をしていたメンバーから至急の連絡が届いたからだ。彼はその日の夜にベストナイン全員を招集して、緊急会議を開くことにした。

 アシバロン、アルミダ、米沢、ギットス、御手洗の五人の着席を確認したマウントールが口火を切る。

 

「Bonsoir.皆、急な呼び出しで悪かったね」

 

 彼の挨拶を聞いた御手洗が青ざめる。

 

「い、嫌だなぁリーダーったら~。タッチーが来てないじゃん!」

 

彼女は何が起こったのかを半ば理解していたのだろう。マウントールもそれが分かっていたらしく、あえて彼女の発言を無視して本題に入る。

 

「早速本題に入ろう。立花亭が失踪した。今日、彼女と共に魔人討伐に出かけた『神の反逆者』構成員からの情報だ」

 

この発表にショックを受けた様子を見せたのは、米沢と御手洗だけだった。御手洗は恐る恐る口を開く。

 

「…ねえ、本当なの?」

 

「残念だが本当だよ、幼子ちゃん。帰ってきた四人全員が同じ報告をしている。この内二人は立花亭を連れ去ったと見られる人物からの襲撃を受けている」

 

「そんな…」

 

「その犯人って、ルイとスパノを殺したのと同じ犯人だよな?」

 

ギットスが皆が思っているだろう質問を投げかける。

 

「そうだと考えて間違いないよ。襲われた二人の内の一人は、半分えんじ色で半分深緑色の服を着た男にやられたそうだ」

 

「ポセイドラだな」

 

アシバロンが呟く。彼は一度リュート達と対峙している。

 

「よく生きてたな」

 

「そうだね。二人とも命に別状は無いらしい。ポセイドラにやられた方は峰打ちで気絶させられたらしく、もう一人は何らかの方法で眠らされていたようだ」

 

「殺せば良かったものを」

 

「私も同感だ。思うに、連中は転生者以外の人間に手を懸けるつもりは無いらしい。その証拠に、立花亭に同行していたバニーラ=チョコミクスという転生者も行方不明になっている」

 

「誰だ?ソイツは」

 

「ウチの正式な構成員だよ。特に目立った功績があるわけでも無いから、名前だけ聞いて分からなくても不思議じゃ無いね。背の高いウサギの獣人なんだけど…」

 

 この特徴を聞き、全員がバニーラの姿を思い出す。ウサギの獣人自体数が少ない上に、女性とは思えない高身長のバニーラは、名前を知らずとも見た目だけで記憶に残るタイプだった。

 正確には、御手洗だけはバニーラの名前を聞いただけで彼女の姿を思い出していた。以前一緒に魔人討伐に行ったことがあるからだ。ドジで泣き虫な彼女を幼女の御手洗が世話をする絵面が可笑(おか)しいと、同行者が笑っていたのを覚えていた。

 

「バニーラちゃんはどうなったの!?」

 

心配する対象が増え、思わず早口になってしまう御手洗。

 

「幼子ちゃんはバニーラを知っていたんだね?さっきも言ったけど、彼女も行方不明だ」

 

「死んだんじゃないの~☆」

 

 こんな発言をする人物は、アルミダしかいない。彼女は二人の心配を一切していないらしい。

 

「そう考えるのは別に変じゃないけど、付近に二人の死体は無かった。『ワープゲート』で連れ去られた可能性が高いと考えられるね。殺すつもりなら、ルイとスパノのようにその場で殺すはずだ」

 

マウントールが反論をする。

 

「で、どうするんだ?」

 

「探すよ!」

 

 ギットスの質問に答えたのはマウントールでは無く、御手洗だった。

 

「わたしだけでもタッチーを探すよ!皆が探さないって言ってもわたしは探す!止めてもムダだよリーダー」

 

彼女はマウントールに真剣な眼差しを向けながら、力強い声で宣言した。彼女はマウントールが、立花亭が気に入らないという理由で捜索に反対するつもりなのだと考えていた。

 

「探すのは構わないよ、幼子ちゃん」

 

しかし彼は予想に反し、あっさりと了承する。

 

「私としてもね、ベストナインにこうもボコボコと穴が空くのは困るんだよ。今になってようやく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ばかりなのに」

 

 ギルド「神の反逆者」ではこの半年間、ルイとスパノの後釜探しがマウントールを中心に行われていた。「ベストナインのメンバー募集」の報せを聞き、我こそはと名乗りを上げる転生者は沢山いた。しかし二人があっさりと殺されてしまった現状を(かんが)みると、「普通の転生者よりは強いレベル」では話にならない。マウントールは「アシバロンやアルミダと同レベル」を目安に後釜探しをしていた。だが結局この半年間では二人に並ぶレベルの転生者は見つからず、最近一人「ギットスと同レベルで珍しい能力持ち」の転生者を一人採用する決心をしたのだ。その直後の失踪報告だった。

 

「でもね幼子ちゃん、今回はスパノの時みたいに米沢の虫は付いていない。一からの捜索になるんだよ」

 

「それでもわたしは探すよ」

 

 御手洗の意志は揺るがなかった。

 

「…だそうだ。皆良いね?」

 

マウントールが全員の顔を見渡す。

 

「好きにしろ。俺は建設で忙しいんでな」

 

「勝手にすれば~?私はやらないし」

 

 アシバロンとアルミダは予想通りの反応。

 

「米沢、君も捜索をするんだ。良いね?」

 

「うん…」

 

マウントールの要請に従う米沢。

 

「俺は…、手伝うべきなのか?」

 

「ありがとうギッチョン。でも大丈夫。わたし一人で平気だから」

 

一人首をかしげるギットスに対し、明るく断りの返事をする御手洗。

 こうして緊急会議はお開きになった。

 

 一人、一人とメンバーが会議室を出て行き、残ったのはマウントールと御手洗だけになった。二人だけになったのを確認して御手洗が口を開く。

 

「ありがとう、リーダー」

 

「いや当然のことだよ。最近弱音を吐くことが多かった立花亭だったけど、彼女をベストナインのメンバーにしたのは私だしね」

 

「それもあるけど…。皆の前では黙っててくれたんでしょ?()()()()()()を」

 

「まあね。幼子ちゃんが『キャンディマスター』第四の能力を隠したがっているのは知っていたからね」

 

御手洗に対するマウントールの口調は、普段と変わらない穏やかなものだった。

 

「うん、だってばっちいんだもん」

 

「ははは、確かにね。でもね、捜索の時は米沢の虫も付いていってもらうよ」

 

「え~?」

 

「当然だろう。大丈夫、米沢には『御手洗の捜索方法は気にしてはいけない。ただ彼女について行くことだけ集中するように』と伝えておくよ」

 

そこまで言ったマウントールの口調が、急に真剣なものに変わる。

 

「最後にこれだけは覚えていて欲しい。これ以上欠員が増えるのはごめんだよ」

 

「大丈夫、わたしも覚悟を決めたから。どんなことを言われても動揺しない、例え嘘まみれで汚い言葉で侮辱されても絶対心を乱さないって」

 

 対する御手洗の口調も、普段の彼女とは違って真剣そのものだった。

 

「なら大丈夫だ。最長でも二日経ったらここに戻って私に報告するように、良いね」

 

 

 

 

 

翌日

 

 御手洗は捜索を早朝から開始した。彼女の頭上には、米沢の虫が十匹ほど飛んでいる。

 右手には、一本の棒付きキャンディ。直径三センチほどのピンク色一色のキャンディだが、よく見ると赤い点が一つポツンと付いている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、御手洗が自室の部屋に大事にしまっていた代物だった。

 御手洗は「ワープゲート」を使い、色々な地方に飛んでいく。別の場所に行く度にキャンディ上の赤い点の大きさが変わった。「ワープゲート」は発動者の知っている場所にしか行くことが出来ない。何回も移動を試し、最も点が大きかった地点から捜索を開始する。彼女は点の向きに従って歩いて行く。途中、障害物等で遠回りをすることになると、点の位置が徐々にずれていく。彼女はキャンディを一切動かしていない。そして道を進むにつれ、点の大きさが目に見えない速度で、しかし確実に大きくなっていった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 途中、御手洗の前に魔族の群れが現われた。三体の魔人を含め計十体以上は確実にいる。魔族の探知機を持っていかなかったことが裏目に出た。

 

「ねぇ、わたし急いでるんだけど。そこどいてくんない?」

 

人間の言葉は魔人には通用しない。逆も又しかりだ。魔人は人間に判別不可能な鳴き声で仲間と連携をとりつつ、御手洗に襲いかかる。

 

「って言っても聞かないよね」

 

 そう言って御手洗は、レーダー代わりのキャンディを(ふところ)にしまい、口に(くわ)えていた棒付きキャンディを取り出す。しゃぶられていたキャンディは彼女の唾液でキラキラ輝いていた。

 

「『キャンディマスター』第1の能力」

 

次の瞬間、棒付きキャンディの形が急速に変化する。元の質量を無視して、何十本もの太い針に形を変え、魔族の群れをズタズタに貫いていく。結果、魔族の群れは御手洗の前に十秒と持たず全滅した。

 

「あ~あ、もう舐められないじゃんコレ」

 

 そう言う彼女の手に握られたキャンディの形は元に戻っていた。武器として使ったせいで魔族の血に塗れてしまったキャンディを捨て、バックから取り出した新品を咥えた。

 

 どれだけ歩いただろうか。すでに日は落ち、辺りは真っ暗になってしまった。大分レーダーの点は大きくなった。目的地まではあと一日もかからないだろう。だが一旦戻って明日出直すという考えは最初から無かった。一刻も早く立花亭を見つけなければ、彼女の命が危ない。そう考えると、眠る時間すら惜しかった。大人の足ならもう到着できていたかもしれない。彼女は初めて()()()姿()()()()()()()()()()()()()

 

「もう少しだから、待っててね()()()()

 

 御手洗は右手にレーダー代わりのキャンディ、左手に「ライト」の魔法で明かり代わりにしたキャンディを持って夜通し歩いた。

 

 御手洗が目的地に到着したのは翌日の朝だった。白くて大きな家が目の前にある。右手のキャンディは最初の様子と比べると、ピンクと赤の割合が逆転している。ここに立花亭がいるのは間違いなかった。彼女は大きな声で叫んだ。

 

「ねぇ!タッチーは無事なの!?いるなら返事してよっ!!」

 

 正面突破、それが彼女の狙いだった。




 本当はベストナインは初期メンバーで通すつもりだったんですが、やっぱり新しいキャラを投入しないとマンネリになっちゃうからね。それに「()()()()()()」とも思ったし…。

 どうでも良いことなんですが、「神と人間が13の代表を選出してタイマンバトルする漫画」の人気投票の締め切りが13日で終了してしまいました。()()()()()()()()()()のにっ!!皆さんも締め切りにはご注意を…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その17 「お願い」

可愛い(おとこ)()は女の子として()でたい派アデク「ジゼル・ジュエルの声優を蒼井翔太にする……それだけはしないでくれっ!!」


 御手洗幼子(みたらいようこ)がテンスレの拠点前で大声を上げる数分前、魔女は「遠隔会話(テレパシー)」で、メンバー全員に声をかけた。

 

「皆、落ち着いて聞いて欲しい。ベストナインの御手洗幼子がここに近づいてきている」

 

「なっ、なんでそんなことが分かるんだ!?」

 

「膨大な魔力を持ち、なおかつ魔力の使い方に精通している人間は、同じく膨大な魔力を持つ存在が近くに来た際に、感覚で察知出来る。この小柄な体格は御手洗幼子で間違いない」

 

「敵は一人か?」

 

「そこまでは分からない。だが膨大な魔力を持つ相手は御手洗だけだ。アシバロンがいるなら別だが…」

 

「アシバロンだと!?」

 

「ヤツは自分の魔力のほとんどを工事現場に()いているせいで、体内には常人以下の魔力しか残っていない。ヤツがいた場合は感知できない」

 

「どうするんだ?」

 

「ジモーとラーシャは立花亭を見張れ。ヤツにこのことは伝えるな。リンはメルクリオと一緒に隠れていろ。私はケイルと別の場所で隠れて『遠隔会話(テレパシー)』で戦闘班と交信する」

 

「残りが戦闘班というわけか」

 

 魔女がこの組み合わせにしたのには理由がある。立花亭の見張りにジモーとラーシャを選んだのは、この中で向こうに顔が割れている可能性が低かったからだ。逆に、リュートとポセイドラは顔が割れている。ゴーギャンもスパノ殺害の実行犯であるため、顔が割れている可能性が高いと判断した。最後にバニーラを戦闘班に選んだ理由は二つある。一つはリュートと一緒に行動させることを彼女が望むだろうこと、もう一つはバニーラが敵として出てくることで相手の動揺を誘えると判断したからだ。

 皆が配置についたその時、御手洗の大声が聞こえた。

 

「ねぇ!タッチーは無事なの!?いるなら返事してよっ!!」

 

 魔女は「遠隔会話(テレパシー)」で指示を出す。

 

「チッ、立花亭に知られてしまったかもしれないが仕方ない。リュート、ケイル、手はず通り頼む」

 

 魔女の支持を受け、ケイルは野球ボールほどの大きさのカプセルを空中に放り投げ、魔法を唱える。

 

「『スーパーウォーターボール』」

 

大きな水の塊が現われ、カプセルを飲み込む。カプセルが溶け、中に入っていた()()が水に溶け出す。

 

「『スピリットウォーター』」

 

 ケイルの二つ目の魔法が発動すると同時に、リュートが素早く正面玄関の扉を開く。

 次の瞬間、ケイルの操る液体が勢いよく扉から外に放出される。ケイルの「スピリットウォーター」で敵軍に先制攻撃する作戦だった。

 しかし、実際の相手は御手洗幼子一人だけ。彼女は屋敷の扉から突然現われた液体に対し、自分を守るキャンディの小さなドームを作って防御した。

 

「危なかったな~。でも、奇襲は想定内だよ」

 

そう言う御手洗だったが、実際はどこかで(あせ)っていたのだろう。一つ重大なミスを犯してしまった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。結果、虫は液体をモロに食らってしまう。

 ケイルが投げたカプセルは水溶性で、中には「例の殺虫剤の濃縮液」が入っていた。魔女が警戒を最も向けていた相手は御手洗では無く、()()()()()()()()()だったのだ。これにより、御手洗に付いていた虫は全滅してしまう。

 御手洗がキャンディドームで防御している間に、リュート、ポセイドラ、ゴーギャン、バニーラの四人が彼女を取り囲む。

 

「敵は御手洗だけだ。他の姿は見当たらない」

 

 ポセイドラの連絡を聞いた魔女は四人に忠告をする。

 

「相手が一人だと油断するな。御手洗の能力『キャンディマスター』はヤツが舐めたキャンディの形を自在に変化させる能力だ。顔を舐められてもいけない。ヤツは顔を舐めた相手の思考を読み取ることが出来る。おまけにヤツにはケイルの睡眠薬も通用しない」

 

 ベストナインの序列8、御手洗幼子(みたらいようこ)の特殊能力「キャンディマスター」を一言で表すなら、「自分がキャンディから連想する事象を能力として具現化する」能力である。彼女は現在、()()()()()を具現化させている。

 第1の能力は「自分が舐めたキャンディの形を質量を無視して変えられる能力」で、これは菓子職人の手によって自在に形が変えられていくキャンディから連想した能力だ。御手洗の操るキャンディは変形させているときは柔らかいが、形が定まった後は瞬時に鋼鉄のような固さになる。

 第2の能力は「人の頭をキャンディに見立てて、舐めただけで相手の思考を読み取る能力」で、これはキャンディが舐めただけでその味が何か分かるお菓子であることから連想した能力だ。

 第3の能力は「キャンディを舐めることで、体力の回復及び睡眠等の状態異常の回復を行う能力」で、これはキャンディを舐めてリフレッシュしていた転生前の自分の経験から連想した能力だ。立花亭の探索を睡眠なしで完遂出来たのはこの能力のお陰でもある。

 魔女の忠告はこの3つの能力に関する内容だった。

 

「リュート、出来るならば御手洗から()()()()()()()()()()()のかを聞き出しておいてくれ。今から御手洗の過去について伝える」

 

 魔女は第4の能力については知らなかったらしい。彼女はリュートに御手洗の転生前の情報を伝える。

 

「…それだけか?」

 

 魔女の話を聞き終わったリュートが尋ねた。

 

生憎(あいにく)、ヤツにはルイやスパノみたいな社会不適合要素は無いのでな…」

 

 そこまで魔女が伝えたとき、キャンディのドームが解かれ、御手洗が姿を現した。

 

「あ、やっば~。ヨネシーの虫見殺しにしちゃった…」

 

彼女は自分の足下に転がった虫の死体を一瞥(いちべつ)した後、自分を取り囲む四人に目を向ける。

 

「初めまして!わたしは御手洗幼子(みたらいようこ)、よろしくって…あれあれあれぇ?」

 

彼女はバニーラに目を向ける。

 

「ふ~ん、バニーラちゃんそっちに付いたんだぁ…」

 

 バニーラは気まずさを抑えきれず、相手から目をそらしてしまう。御手洗はその一瞬の隙を逃さなかった。

 

「ペロッ」

 

一瞬のうちにバニーラに近づき、顔を舐めたのだ。

 

「は、早い!」

 

 リュートは驚いた。幼女の姿をしているが、彼女も立派なベストナインのメンバーなのだ。身体能力は常人を遙かに上回っている。

 

「ふ~ん、なるほどね」

 

 バニーラの顔を舐めた御手洗は言う。

 

「『あんなに優しかった御手洗さんが、人殺しを黙認していたなんて信じられない』…か。そうか、知っちゃったんだね」

 

「ふええ…」

 

自分の考えを読まれ、困惑を隠せないバニーラ。対する御手洗の口調は、なぜか優しげだった。

 

「バニーラちゃんの考えは分かるよ…。私も自分で変だと思ってるんだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。でもね、バニーラちゃんには分からないかも知れないけど、見て見ぬふりをしなきゃって感じになるんだよね。だって同じベストナインの仲間なんだもん。集団に飲まれてるって言うのかな…」

 

「ふぇ?ソレってもしかして…」

 

バニーラが()()に気付いた。

 御手洗は次にリュートに目を向ける。彼は顔を舐められないよう、細心の注意を払う。しかし彼女が注意を向けていたのは顔ではなく、腰の剣だった。

 

「それ、ルイルイの剣だね?じゃああなたがリュートなんだね」

 

 御手洗の言葉を聞いたリュートは「早く相手を無力化しなければ」という焦燥感に駆られる。はやる心を抑えようとする彼の顔を眺め、御手洗はクスッと笑う。

 

「もうっ、そんな顔されたら舐めなくても考えが読めちゃうよっ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、でしょ?」

 

「なっ!」

 

リュートが動揺する。否、彼だけで無くポセイドラとゴーギャンも動揺した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。間違いなく()()の仕業だ。

 

「アシバロンから聞いたのか?」

 

尋ねたのはポセイドラだった。

 

「そうだよ。バロンがリュートの行動から推理した内容だったんだけど…、その様子を見るとビンゴだねぇ?」

 

御手洗がいたずらっぽく言う。彼女は動揺を続けるリュートに言った。

 

「で、どうやって私の過去について罵倒するの?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()かな?『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』なあんて、説教こいちゃったり?」

 

リュートは再び動揺した。()()()()()()()()()。アシバロンの時と一緒だ。この所、ベストナイン相手にはしてやられてばかりだ。自分が情けなくなる。

 

「アハッ、コレもビンゴだねっ。ザ~コザ~コ」

 

 リュートを小馬鹿にする御手洗だったが、彼女はすぐに真剣な表情になり、マジメな口調で言った。

 

「ねぇ、私は戦う気なんて無いんだよ。タッチー、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)に会わせて!」

 

 そう言って彼女は、持っていたキャンディを捨てて両手を高く上げる。

 

「会わせてくれたなら、後はそっちの好きにして良いから。タッチーに会わせて。お願い」

 

 御手洗の真剣な口調と突然の降伏の仕草を見て、リュートは自分の取るべき行動を見失ってしまった。




 アデク本当に嫌い。チャンピオンが弱いって罪深すぎるでしょ。
 よくネットで「Nがレシゼク(伝説)使ってきたから負けるのは仕方ない」って擁護されてるけど、それはシロナやダンデみたいなバランス取れた強い手持ちだったら言える話であって、あんなお粗末パーティじゃ「負けるのは仕方ないよね。だって弱いんだもん」って感想しか出てこないわ。

 あ、でもジジきゅんの声優は女性にして下さい。そこは本当によろしく頼むよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その18 「御手洗幼子と立花亭座個泥」

 今回の話では御手洗幼子(みたらいようこ)の過去が語られます。しかし、皆さんに一つ注意していただきたいことがございます。

 私は活動報告(「チートスアンアン アニメ化大作戦」その1 声優を決めよう!)にて、「御手洗幼子の声優は水橋かおりさんが良い」と発言しましたが、今回の話を書くに当たって()()()()()()鹿()()()()()()()()()()()()()()()
 私が活動報告で上記のような発言をした理由については、「水橋さんなら幼女の声(例:「リリカルなのは」シリーズの高町ヴィヴィオ)と大人っぽい声(例:「まどかマギカ」シリーズの巴マミ)を上手く演じ分けてくれるだろうな」と思ったからです。
 なので、今回の話は水橋かおりさんを馬鹿にする・嘲笑(ちょうしょう)する・(けな)す等の意図で書いたものではありません。御手洗幼子の過去については、私がこの物語を書き始めた段階ですでに決定されていたものです。

 長くなってしまいましたが、以上のことを了承の上、本編をお楽しみください。


 御手洗(みたらい) 祥子(しょうこ)は、幼い頃からアニメが好きだった。声優という職業を知って自分の将来の夢に決めたのは、彼女が10歳の頃であった。

 

 彼女は専門学校を卒業し、18歳で「女子生徒B」役でデビューを果たした。最初は本名で活動を行っていたが、活動開始から二年目に名前の付いた役を初めて貰ったことをきっかけに、芸名を名乗ることにした。名前は「御手洗(みたらい) 洋子(ようこ)」。本名から「し」の字を取っただけだったが、彼女的にはコレで良かった。「し」の字を取った理由は単純に、「し」の字は「死」を連想させるからという、ありがちな理由だった。

 年月を経るごとに貰える役の重要度も上がり、知名度も上がっていった。喉を仕事道具とする彼女は、のど(あめ)を肌身離さず持ち歩き()めていた。最初は単に喉をケアするための道具にしか見ていなかったが、徐々に(キャンディ)そのものにハマっていった。気付けば彼女がキャンディマニアであることは、声優オタクの間でも有名になっていった

 彼女が初めて主役を演じたのは26歳の時。「明光院(みょうこういん)様、見てますよ!」の明光院(みょうこういん)飛鳥(あすか)役だった。そこから(しばら)くは安泰な時期が続いた。幼い少女から大人の女性まで、様々なキャラクターに命を吹き込んでいった。

 

 しかし三十を過ぎた頃から、貰える役の数が急に減り始めた。声優界隈(かいわい)は入れ替わりが激しい。もちろん三十を過ぎても役が減るどころかむしろ増える人もいる。しかし逆もまたしかりで、御手洗の場合は後者だったのだ。

 更には、「声優に求められるものが増えた」ことも向かい風になった。御手洗が主役を演じていた頃、声優は演技が重要視されていた。しかし彼女が三十を過ぎた頃から声優に求められるものにビジュアルが加わった。それに伴い、声優を専門に取り扱う雑誌が増え、声優の顔が表に出ることも多くなった。

 新たに売れ始めた新人は皆、アイドルのような可愛い容姿をした娘ばかりだった。重要な役を貰った時には、可愛い新人達に混じって撮影された写真が雑誌に載った。彼女自身は決してブスでは無く、可も無く不可も無い顔立ちであったが、可愛い娘と一緒の写真ではその見え方も変わってくる。

 

「『魔法少女ノーノノ』の声優の中で一人場違いがおるな(笑)」

 

「許してやってくれ。彼女が売れてた時期は顔とか問題じゃ無かったんや」

 

そんな声が、ネットの掲示板等に書かれるようになり、御手洗はひどく落ち込んだ。

 

「私の何がいけなかったんだろう?昔はネットで声のことを褒めてくれる人がたくさんいたのに…。いつからこうなっちゃったんだろう」

 

そんな悩みを抱える彼女に追い打ちをかけるように貰える役の数は減っていき、「一話限りのゲストキャラ」や「名前が知られている女性声優は片っ端から使っていくタイプのスマホゲームのキャラ」を演じることが(ほとん)どになっていった。

 

 そんな彼女にちょっとした転機が訪れたのは、36歳の頃。「金剛小学校おえかきぶ」というアニメの主役級キャラ「三間瀬(みませ)ひよこ」役に抜擢(ばってき)されたのだ。与えられたキャラの年齢は10歳。主人公の兄を「オジサン」呼ばわりして馬鹿にする、生意気な少女という設定だった。

 久しぶりの大役に、演技にも力が入った。キャンディの消費も倍以上に増えた。アニメは制作陣の予想を上回るヒット作となった。

 

「御手洗洋子の幼女役良かったよな」

 

「ニワカ乙。彼女はもともと幼女役うまかったから」

 

「ウワサ通りいいメスガキ感だ!ついていこう!」

 

 ネット上では、御手洗の演技を再評価する声も多く見られた。

 

「そうか。私に求められていたのは幼女役だったのかぁ」

 

 彼女にとっての進むべき道が見え始めてきたところで、悲劇は突然起こった。

 その日は、アニメグッズ専門店で「金剛小学校おえかきぶ」の声優イベントが行われる予定だった。時間より早く駅に到着し、いつものようにキャンディを口に入れながら会場までの道を歩いていた。突然、悲鳴が聞こえた。

 トラックが歩道を暴走していたのだ。どうしてこんな所を走っているのか、なぜ自分が目の前にいるのにスピードを落とさないのか、それらの疑問を彼女が知る機会は与えられなかった。

 御手洗(みたらい)洋子(ようこ)、本名御手洗(みたらい)祥子(しょうこ)は36歳の若さで事故死を遂げた。

 

 気がつくと御手洗は知らない場所にいた。目の前にいる神を名乗る老人から、転移転生のことを聞いて彼女は驚いた。

 

「魔法を使って戦うアニメみたいな異世界が本当にあったなんて!」

 

彼女はノリノリで転移転生の道を選んだ。自身の特殊能力は「大好きなキャンディにちなんだ能力」を希望した。更には好きな容姿への変更も可能と言うことで、「三間瀬(みませ)ひよこ」ソックリの幼女の姿を希望し、名前も芸名をモジった「御手洗(みたらい) 幼子(ようこ)」を名乗ることにした。

 

 御手洗幼子(みたらいようこ)は転生後、魔人討伐に(いそ)しんだ。信じられないほど体が軽い。どんな戦闘もお手の物だった。どうやら他の転生者と比べても強い個体として転生していたようで、その強さが世界最大規模のギルド「神の反逆者」のトップであるマウントールに評価され、最高幹部の一員を担うことになった。

 一方で彼女にとって意外だったのは、自分が声優だったことを知っている人物に転生後(ほとん)ど会えなかったことだ。確かに国民的アニメの重要キャラを演じていた訳では無かったが、それでも自分は結構有名人だと思っていた。ところが実際はそうじゃなかったらしい。所詮自分はアニメ好きにとっての有名人でしか無かったのだ。

 過去の自分は忘れて新たな人生を生きることにしようと決心しかけていたある日、マウントールが新たな幹部をスカウトしてきた。立花亭座個泥(たちばなていざこでい)を名乗るその女性が、初対面のミーティング終了後に話しかけてきた。

 

「すみません、声優の御手洗洋子さん…ですよね?」

 

「えっ、分かっちゃったの?」

 

「はい、私アニメが好きだったんです。いやあ、大好きでしたよ!『魔法少女ノーノノ』のペリドットちゃん」

 

「うわあ、よく知っているね!」

 

「はい!あのツンデレ具合が最高でした」

 

「ちょっとノーノノ!勝手に突っ走らないでよ、危ないじゃない!はぁ!?べ、別にアンタを心配していたんじゃないわよ!」

 

「ぐわっ!最高です!痺れましたぁ!!」

 

 御手洗が転生後に初めて出会った自分のファンは、同じ「ベストナイン」のメンバーとなった立花亭であった。二人はお互いの転生前の事情を知りながらも、この世界では前世での自分を捨て、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)御手洗幼子(みたらいようこ)として接することに決めた。声優とファンという関係性は二人だけの間で共有される、二人だけの秘密だった。

 

 しかし御手洗には一つ気がかりなことが生まれた。それは立花亭の持つ、ある種の危うさだった。彼女は普段他人に対して攻撃的な態度を取りがちだが、それが弱い自分を守るために取っている行動であることが御手洗には分かったのだ。御手洗はそんな彼女を放っておけなくなった。

 ある日、御手洗は一つの思いつきを試すことにした。

 

「ねぇ、タッチー。この棒付きキャンディ舐めてよ」

 

「うん。いいけど…」

 

「…はい、そこまで!舐めてるキャンディ渡して」

 

「ええ!?汚いよう」

 

「良いから良いから」

 

 御手洗は立花亭から舐めかけのキャンディをもらい、「ワープゲート」を開いて遠くへ行く。いくつかの場所を巡って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が分かった。

 

「ねぇ、何をしたかったの?」

 

帰ってきた御手洗に立花亭が尋ねる。

 

「わたしの第4の能力が生まれたんだよ。このキャンディがあればタッチーがどこにいるか一目瞭然なの!」

 

 この思いつきは御手洗の転生前のとある思い出が(もと)になっていた。その日の楽屋は複数人で使う大部屋だった。彼女が楽屋に入ると、机の上に()()()()()()()()()()()()()()()()が置かれていた。

 

「うわ、汚い。誰よこんな所に自分の舐めたキャンディ置いた人!」

 

彼女のキャンディ好きを知っている誰かのイタズラなのか、もしくは単なる嫌がらせなのかは結局分からず終いだったが、その時彼女は確かにこう思ったのだ。

 

「このキャンディが誰のものなのか、分かる方法があればなぁ」

 

 この思い出によって誕生した第4の能力。そしてこの能力で生まれた立花亭専用レーダーは、御手洗の個室に大切に保管されることになった。しかし、他人の舐めたキャンディを保管している事が人に知られるのは恥ずかしかったので、この能力について知っている人間は、御手洗と立花亭、そしてマウントールの三人に限られていた。

 

「コレさえあれば私がどこにいても、立花さんをいつでも守りにいけるから…」




 言っておきますが、御手洗のモデルになった女性声優はいません。アシバロンの時と一緒です。「こんな人もおるやろなぁ」くらいの気持ちで書きました。

 御手洗の過去回想が長くなってしまい、これだけで一話使う形になってしまいました。最近どうしても長々となってしまってダメだなぁ、と思っています。ですが、この第四章もそろそろ終わりに近づいています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その19 「また離反者」

 第四章も今回を入れてあと2話で終了出来そうです。

 書くことも思いつかないので、ここで皆様に一つお伝えしようと思います。
 私はこの作品(チートスアンアン)を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思っています。
 さっきまでと言っていること違うじゃない、と思う人もいるかも知れませんが、私が遠慮して欲しいと言っていたのは「他所の掲示板で宣伝すること」です。この二つには大きな違いがあります。

 ハーメルンは二次創作の盛んな小説投稿サイトです。つまりこのハーメルンに来ている人は「誰かの作品のキャラを、他人が勝手に作品に利用することにある程度の耐性がある人」だと思っております(もちろん全員がそうではないでしょうが)。
 一方、他所の掲示板はそういったことに耐性がない人も利用しているハズで、そういった人にこの作品が知られるとマズいかな、と思った次第です。

 以上の理由から、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です(やる人がいるかどうかは置いといて)。

 ただ、私が作品を執筆し始めてから今日までの間に、私以外の人間が投稿する「チートスレイヤー」の二次創作も現われてきました。喜ばしいことだと思います。同時に、「『チートスレイヤー』の二次創作を執筆すること自体は、特に非難されるような行動では無いのかな」とも思うようになってきました。どうなんでしょうかね。


 突然降伏の仕草をとり始めた御手洗に対し、リュートは次に自分が取るべき行動を見失ってしまう。

 その一方で誰よりも先に行動に移した人物が一人いた。ポセイドラだった。彼は素早く御手洗に接近し、刀を相手の首目がけて振るう。

 ガッと音がする。彼の刀は首に当たる前に、突然現われたキャンディの壁に遮られた。キャンディは御手洗の着ているキャミソールワンピースのポケットから伸びている。

 

「ひどいなぁ。武器を捨てた女の子に攻撃するの?」

 

「武器を捨てたのはそっちの勝手だ」

 

「確かにそうだけど~」

 

 ポセイドラは御手洗を殺そうとは思っていなかった。殺すつもりならば「エンチャントウォーター」を唱えている。彼は単に峰打ちで気絶させるつもりだったのだ。御手洗を守るキャンディが反撃を狙って形を変える前に、ポセイドラはリュートの近くまで退却した。

 

「ポセイドラさん!?」

 

リュートは困惑したような声で彼の名を呼んだ。

 パシィッ、と突然鋭い音が鳴った。一瞬何が起こったのか分からなくなるリュート。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

「ポセイドラさん…?」

 

味方から手を上げられたのは初めての経験だった。困惑するリュートに対してポセイドラは一言だけ返した。

 

「しっかりしろ」

 

 その声は怒る訳でも呆れる訳でも無く、ただただ()()()()()()()()()()調()だった。その声を聞いたリュートは、()()()()()()()()()()()()()()()ような気分になった。

 

 そんなやりとりをしている間にも攻防は続いていた。今度はゴーギャンが武器であるモーニングスターを御手洗に投げつける。彼もまた御手洗を殺すのではなく、鎖で相手を拘束することが狙いだった。御手洗は自身を拘束せんとする鎖を、真上に跳躍することで避ける。

 そんな彼女よりも更に高い跳躍をする人物が一人。ウサギの獣人バニーラだ。

 

「ううぅっ、御手洗さんお許しください!『人参武器(キャロットウェポン)』、(ウィップ)!」

 

ニンジンの鞭が御手洗に襲いかかる。だが彼女は焦ること無く、ポケットから取り出した棒付きキャンディを舐め、形を変えさせる。キャンディは剣のような形を取り、簡単に鞭を切断してしまった。

 

「あ、あれれぇ!?」

 

「バニーラちゃん、わたしとバニーラちゃんで何が違うのか教えてあげるよ」

 

御手洗が言う。

 

()()()()()だよ。バニーラちゃん今、私に攻撃するの躊躇したでしょ。わたしは違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 御手洗は心の中で思った。

 

「平和にいけると思ったんだけどな。こうなったら仕方ない。誰かを人質にして強硬手段に出るしかないね」

 

 彼女は即座に行動に移した。

 

「ごめんね、バニーラちゃん」

 

彼女の持つ棒付きキャンディが、数多の触手となってバニーラに襲いかかる。

 

「うわわわわっ!!」

 

触手にバニーラが捕まる…瞬間、彼女に近づく一人の人影。その人物が剣を振ると、バサバサと触手が地面に落ちた。

 

「はわわ…、りゅ、リュートさん…」

 

 バニーラに迫り来る触手を切り落としたのはリュートだった。

 

「もう大丈夫だよ、バニーラ」

 

そう言った彼の目には先程までの迷いが一切無かった。ただ目の前の敵に立ち向かう、その固い意志だけが宿っていた。

 

「あれれ、素敵な王子様をゲットしたんだねバニーラちゃん」

 

 御手洗の言葉を聞いて、顔を真っ赤にするバニーラ。しかしリュートは動じない。

 

御手洗幼子(みたらいようこ)、もうムダだ。俺はもう君の言葉に動揺なんてしない!」

 

「ありゃりゃ、ダメかぁ」

 

リュートに剣を向けられ、困ったような声を出す御手洗。

 と、その時。背後から大きな声が聞こえた。

 

「そこまでだ!」

 

 声の主が近づいてくる。その正体は、屋敷に隠れていたはずの魔女だった。

 

「なっ、なぜ出てきた!?」

 

ポセイドラが困惑した声を出す。

 

「どうしても何も、向こうから言ってきたじゃないか。『自分はどうしてくれても構わない。立花亭に会わせてくれればそれでいい』とな」

 

「そんな言葉を信じるのか!?」

 

「そうだな、普通なら信じられない所だ。だが今の我々は()()()()()()()()()()()()。この事実がある以上、向こうも変な行動には出られない。御手洗にとって立花亭は、誰にも代え難い大切な人間なのだからな」

 

「知らん。そんなことは俺の管轄外(かんかつがい)だ」

 

「ああそうか。このことはリュートにしか教えて無かったな。ならばお前が知らないのも無理は無いなポセイドラ」

 

 そんな会話をする彼女を御手洗はじっと見つめる。魔女としか言えない恰好(かっこう)をした白髪の女性。米沢が言っていた「魔女」に間違いなかった。

 

「あなたが魔女さんだね?」

 

「そうか、もう私の存在もバレてしまっていたのか…」

 

御手洗の問いかけに魔女が答える。ある程度予想はしていたが、出来れば外れていて欲しかった。

 

「あなたが転生者の能力を封じているって本当?」

 

「残念だが、今のお前に質問する権利は無い。だが逆にお前は私達の質問に答えねばならない。()()()()()()()()()()()な」

 

魔女が冷淡に言い放つ。だが、御手洗は引かなかった。

 

「じゃあこれだけは聞かせて。タッチーは生きているの?」

 

「ふふふ、その質問にだけは答えてやろう。立花亭は生きている。お前が我々の命令に従うなら、会わせてやる。お互いに生きた状態でな」

 

「そっかぁ…、良かった」

 

御手洗は何かの呪縛から解き放たれたかのようにその場にしゃがみ込んだ。

 魔女は相手のそんな様子には構わず質問をぶつける。

 

「どうして私達と強引に戦おうとしなかった?」

 

「それはね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

御手洗はマジメな口調で続ける。

 

「ルイルイとスパノンはその場で殺したよね?でもタッチーはその場で殺さなかった。他の人がどう思ってたのかは知んないけど、わたしはこう思ったよ。『向こうは殺す相手を選んでる』って。じゃあ何でタッチーだけ殺さないんだろうって考えたとき、バロンの言葉を思い出したんだ。ポセイドラが自分に復讐心を抱いてるって。じゃあタッチーが殺されないのは当然だなって思った。あの子は現地人の恨みを買うようなことはしないもん」

 

彼女は自分の考えを正直に話す。

 

「もちろん、別の予想も無かったわけじゃ無いよ?例えば『女性は痛めつけてから殺したい変態さんの集まり』とかね。でもここに来て、バニーラちゃんの考えを読み取って確信出来た。あなた達は良い人の集まりなんだって。だったら、タッチーと会わせてくれるならわたしはどうなってもいいって思えた。それに…」

 

そこまで言って彼女はリュートに目を向ける。

 

「ルイルイの剣を持っている君がリュートだって分かった。そして君の顔を見て思ったんだ。君は悪いことなんて出来ない人だって。直感だけどね。でもその考えは間違って無かった。あんなにかっこよくバニーラちゃんを守れていたんだもん」

 

 普段なら恥ずかしさを隠せないだろうリュートだったが、彼はまだ緊張を解かなかった。

 御手洗の答えを聞いて、魔女が口を開く。

 

「なるほど、お前の考えは理解した。だが私達は『お前が良い人間なのか』について確信を得ることは出来ないのでな。とりあえず、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ええっ!?」

 

リュートが真剣モードでいられるのはここまでが限界だった。

 

「なんだ、やっぱり変態さんの集まりだったんだね」

 

「たわけ。お前が服の中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は知っている。実際にそれを使ってポセイドラの攻撃を防いだだろう。相手の反撃の手段を奪うのは当然だ。そして、女性のボディチェックは女性が行うのが当然だ。ケイル!こっちへ来い!」

 

「はーい」

 

 魔女の要請を受け、ケイルも屋敷から出て行く。

 

「というわけで、男性陣は帰った帰った。バニーラ、お前も屋敷へ戻れ。御手洗の懐柔(かいじゅう)を受けるかも分からんからな」

 

「わ、分かりましたぁ」

 

 こうしてケイルと魔女が御手洗のボディチェックを行い、戦闘班は屋敷へ一旦退却する。その道中、リュートがポセイドラの側に駆け寄る。

 

「ポセイドラさん!」

 

「リュート…」

 

ポセイドラは気まずく感じた。情報の共有を(おこた)った魔女にも問題があるとは言え、勝手な判断で御手洗と戦闘を始め、尚且つリュートに手を上げてしまった。

 

「リュート、すまな…」

 

「ありがとうございました。ポセイドラさん!」

 

「……ん?」

 

「今までの俺はどこかで戦いに集中出来てなかったみたいで、相手の言動に惑わされて、結果的に足を引っ張ってしまって…。でもポセイドラさんのお陰で戦いに集中するよう意識を変えることが出来ました。ありがとうございました」

 

「そ、そうか…。だが今後は自分自身で戦いに集中するようにならなければな」

 

「はい!」

 

結果オーライだとポセイドラは思った。

 

 

 

 

 

数分後

 

 魔女とケイルが御手洗を連れて屋敷へ戻ってきた。御手洗は手足を縛られており、着ている服も魔女の用意した別の服になっている。

 御手洗は立花亭の監禁されている部屋に連れて来られた。二人の再会はこの部屋で行われる。魔女は既にテンスレメンバーに指示をしていた。リンとメルクリオは待機を続行。ジモーとラーシャは隣の部屋で待機。残りは再会に立ち会うというフォーメーションだ。万が一、御手洗が変な行動を取った場合は、隣の部屋にいる二人が奇襲をかける作戦だ。

 ドアが開かれ、御手洗の目に立花亭の姿が映る。

 

「タッチー!!」

 

同時に立花亭の猿轡(さるぐつわ)も外された。

 

「御手洗…ちゃん…?」

 

ぐったりした様子で相手の名を呼ぶ。相当精神が参っているらしい。

 

「大丈夫?酷いことされてない!?」

 

「大丈夫です。それよりどうしてここに…?」

 

「そんなの…」

 

御手洗の口調が変わった。

 

「そんなの、貴女が心配だからに決まっているじゃないですか、立花さん」

 

「御手洗さん…」

 

「貴女が無事で、本当に良かった…」

 

 心から安堵する御手洗。同時に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。彼女は心の中で思った。

 

「大分厳重なチェックだったけど、()()()()()()()()()()はバレずに済んだみたいだね」

 

とっておきの隠し場所とは、彼女の奥歯が生えている歯茎(はぐき)(ほお)の間だった。そこに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 彼女は自身の舐めたキャンディを()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだ。彼女がこの手を初めて試したのは、つい昨日。敵陣に潜入するに当たって武器を隠し持つことが出来れば、と考えて思いついた方法だった。これはマウントールも魔女も知らない、御手洗だけが知る究極の奥の手だった。

 御手洗は立花亭に問いかける。

 

「ねえタッチー、『神の反逆者』に帰りたいと思う?」

 

立花亭が肯定した場合、即座に彼女を連れてここを脱出するつもりだった。

 

「私は…、もうあそこへは()()()()()()()()()

 

 しかし、立花亭の返事は否定だった。声に覇気は感じられなかったが、それでも彼女の言葉には強い意志が感じ取れた。

 

「私は今まで、ルイさんやスパノさん、アルミダさんによる人々の虐殺を見て見ぬふりをして生きてきました。そんな私があそこに戻って、再び人々の英雄として見られて良いはずがありません。私は心の底から後悔しています。だからもうあそこには戻りたくありません」

 

「…そっか」

 

 立花亭の返事を聞いた御手洗には、その言葉が誰かに言わされたものでは無くて彼女の本心なのだと理解出来た。仲間の蛮行を放っておく。ベストナイン全員が何気なく行っていたその行為に、立花亭の精神が耐えられなくなっていたのだ。

 御手洗も迷わず言った。

 

「タッチーがそう言うなら…わたしもここに残るね」

 

 御手洗は手足を縛られた状態で何とか立花亭の側に()()う。

 

「もうあなたを一人にはさせないから。私がずっと側にいるから…」




 次回で第四章が終えられると思います。またちょっとした企画を考えているのでお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四章 離反 その20 「マウントールの能力」

 長かった第四章も今回で終了です。
 思ったよりも長くなってしまいました。章が進むごとに一つの章に使う話数も長くなってしまっていて、外から見ればもう少し削れる部分もあるんだろうな、とか思うのですが、こればかりは編集者もいない素人の投稿ってことでしょうが無いのかなとも思います。

 もう「離反」が誰のことを指すのか分かったと思いますが、まだこの章でやり残したことがあるので、ソレを消化してから次の章に進むことになります。

 本編で伝え忘れていた設定を一つお伝えいたします。御手洗幼子(みたらいようこ)の「キャンディマスター」第1の能力は、自身から一メートル以内にあるキャンディの形を自由に変えられます(自身が一度舐めたキャンディという条件がありますが)。キャンディに直接触れていなくても大丈夫です。


「さて、感動の再会は済んだかな?約束だ、下で色々と話してもらおうか」

 

 魔女が御手洗に言う。

 

「うん。そうだね、約束だからね」

 

御手洗もすんなりと認めた。

 

「ちょっと待っててね、タッチー。またすぐに会えると思うから」

 

「…うん」

 

御手洗はポセイドラによって立たされ、立花亭の口には再び猿轡(さるぐつわ)がされた。

 部屋に残される立花亭以外の全員が扉を出ていこうとする中、バニーラが魔女に小声で耳打ちする。

 

「魔女さん、御手洗さんは恐らくマウントールさんの能力を受けています」

 

バニーラは先の御手洗との会話で、このことを察していた。

 

「そうだろうな」

 

当然だと言いたげに魔女が答える。

 

「そ…その、治してはいただけませんか?私と同じように…」

 

バニーラが遠慮がちに言う。魔女との生活を初めてまだ日の浅い彼女だが、相手が転生者を嫌っているだろうことは察していた。

 

「何を言っている?」

 

「や、やっぱりそうですよねぇ…」

 

「治すに決まっているだろう。そうでなければヤツの返答を信用することすら出来ないじゃないか」

 

 バニーラが胸をなで下ろす。

 一方で御手洗は、魔女がバニーラに意識を集中させているチャンスを逃さなかった。全員が自分から目を離した隙を見計らい、口の中に隠していた溶けかけのキャンディを()()()()()()。キャンディを、糸を構成する繊維(せんい)よりも細く変形させて自分の体の上を滑らせ、床板と床板の隙間に隠したのだ。非常時の武器を残しておくためだった。

 

 下に着いた一行は広間の机を囲んで座った。立花亭の見張りを担当しているジモーとラーシャ以外の全員が揃っていた。机の上に人数分のティーカップ。リンがその全てに紅茶を注ぐ。

 

「さあ御手洗幼子(みたらいようこ)。カップを選びたまえよ。残りのカップは私達がいただく。毒が入っていない証拠になるだろう?」

 

魔女が御手洗に紅茶を勧める。御手洗は言われた通りカップを選んで手にし、残りのメンバーが他のカップを手に取る。リュート達が紅茶を飲み始めたのを見て、御手洗も紅茶を口にする。

 

「どうだ、美味しいだろう?彼女はお茶を()れるのも得意でな」

 

魔女に視線を向けられたリンが一礼するのを見て、御手洗も言葉を返す。

 

「うん、美味しいよ。お茶菓子が欲しくなっちゃうな。例えばキャンディとか」

 

「ふふふ、中々冗談が上手いじゃあないか」

 

魔女は笑って言葉を続けた。

 

「さて、最初の質問だ。お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「最初にする質問がソレ?」

 

「質問を質問で返すな。そっちに質問する権利は無いと言ったはずだ」

 

魔女の言葉を受け、御手洗は自身の感想を正直に言う。

 

「フツーにすごいと思うよ。少なくともわたしには無理だし」

 

「本当にそう思うか?」

 

「本当だよっ」

 

少しムッとした様子で答える御手洗。しかし魔女は一歩も引かない。

 

「冷静になって考えてみろ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「え、そ、それは…。あ、あれれ…??」

 

 頭を抱えだした御手洗を見てリュートは思う。

 

「まただ。バニーラの時と同じだ。マウントールは二人に何をしたんだ?魔女は一体何をしたんだ?」

 

彼がそんな疑問に頭を悩ませている間も、御手洗の苦悩は続いていた。

 

「確かに…。この世界でフランス語を話せるのってそんなにすごいの?どうしてこんなにリーダーを尊敬していたの?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

数分の苦悩を経て、御手洗が汗にまみれた顔を上げた。

 

「さあ、もう一度紅茶を飲みたまえ。そのお茶にはリラックス効果がある」

 

魔女に勧められるまま紅茶を飲む御手洗。そして彼女は口を開いた。

 

「そっか…。わたし達はリーダーに、マウントールに何かされていたんだね?」

 

「その通りだ。さあ、治療完了だ」

 

 得意げに言った魔女に対し、リュートが尋ねる。

 

「なあ、バニーラの時もそうだったが、お前は何をしたんだ?」

 

「何って決まっているだろう?マウントールの能力を解いたんだ」

 

「その能力とはなんなんだ?」

 

今度はポセイドラが尋ねた。

 

「そうだな。マウントールの能力『畏怖(マウンティング)』を一言で表すなら、『自身の行動のスゴさを共鳴させ増幅させる能力』だ」

 

「まるで意味がわからんぞ!」

 

「え?わたしの聞いてた能力と違う!」

 

ポセイドラと御手洗が同時に声を上げる。

 

「ちゃんと説明してやる。まず、マウントールは()()()()()()()()()()()()()()()。ヤツの本当の能力は、自身の『スゴい行為A』を相手に見せることで『大してスゴくも無い行為B』をAと同じくらいスゴい行為として錯覚させる能力だ」

 

噛み砕いて説明したつもりだったが、どうやらケイル以外の人間にはピンと来ていないらしい。

 

「やはり分かりやすい例が必要だな。例えば、私は転生者を無力化出来る魔法を使えるだけで無く、あらゆる魔法に精通している。これはスゴいことだろう?」

 

自分で言うなよ、と突っ込みたくなる気持ちを抑えて(うなず)く一同。分かりやすく説明しようとしている彼女の邪魔をしてはならない。それに、確かにスゴいことであるのは間違いない。

 

「これが『スゴい行為A』だ。一方、私は葡萄酒(ワイン)をたくさん飲むことが出来る。この行為はそこまでスゴいとは言えないだろう?これが『大してスゴくも無い行為B』だ。」

 

葡萄酒(ワイン)()まれるの間違いだろ、というツッコミも我慢して頷く。

 

「『畏怖(マウンティング)』を使われると、『葡萄酒(ワイン)をたくさん飲める』という大してスゴくも無い行為が『あらゆる魔法に精通している』のと同じくらいスゴい行為に感じてしまう。そういう能力なのだ」

 

「すっご~い…のか?その能力」

 

 リュートが率直な感想を述べる。

 

「どんな能力も大切なのは活用方法だ。この能力の厄介な点は、かかってしまっていることに自分では気付けない点だ。能力を解くには、第三者から「ソレって本当にスゴイことなの?」と聞かれるしかない。それも単に興味本位で聞かれた程度ではダメだ。第三者が『スゴイと思っているのは絶対に変だ』と確信した状態で論理的に矛盾点を指摘してくれなくては解けない。」

 

確かにバニーラも御手洗も、魔女に尋ねられてすぐの状態では「マウントールがフランス語を話せるのはすごい」と、何の疑問も抱かず認めていた。その上で魔女が引き下がらず、論理的に矛盾点を指摘したことで解けたのだ。

 

「加えて能力の解除を受ける人間も、冷静な判断が出来る状態じゃ無いと意味が無い。神経が衰弱している立花亭に能力の解除が出来ないのはコレが原因だ」

 

「そっかぁ、わたしに紅茶を飲ませたのもソレが理由なんだね」

 

御手洗は魔女が「紅茶にリラックス効果がある」と言っていたことを覚えていた。

 

「ご名答。このように解除するのは色々面倒だが、対策は容易だ。『マウントールの行為はA以外は大してスゴくもない行為ばかりだ』と意識するだけで良い」

 

「確かに簡単だが…、マウントールの『スゴい行為A』とは何なのだ?」

 

 ゴーギャンが尋ねる。

 

「そこが肝だ。ヤツの『スゴい行為』とは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

魔女は完結に答えた。

 

「正直ヤツにとって自身の特殊能力なんてオマケみたいなものだ。ヤツが自身の強さを振りかざせば、どんな相手も黙らざるを得ない。それ程ヤツは強い。単純に強すぎるのだ」

 

 魔女に言われずとも、そんなことは皆知っていた。世界最大のギルド「神の反逆者」の頂点に立つ男マウントール。その強さを知らない者なんてこの世界にはいない。

 

「そんなことは知ってるって?それでもヤツの強さは異常だ。()()()()()()()()()()()()()()()。そしてヤツはこの『異常なまでの強さ』を『畏怖(マウンティング)』のトリガーにした。これがどれ程恐ろしい行為か分かるか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ。これによってヤツは自身の強さを振りかざすこと無く、自分に逆らう人間がいない環境を築いたのだ」

 

リュートもようやくマウントールの特殊能力『畏怖(マウンティング)』のスゴさを認識できた。

 

「確かに…、『私の圧倒的な強さこそ、私の特殊能力さ』ってリーダー…マウントールが言ってた」

 

御手洗が体を震わせながら言う。

 

「そうだ、ヤツは自身の強さを特殊能力として世間に伝えている」

 

「その…『特殊能力と言われても違和感を抱けないほどの素の強さ』にも、何かトリックがあるのか?」

 

「それがね、()()()()()んだ。少なくとも何かトリックがあるのは間違いない。それ程ヤツの強さは異常だ。だが今まで散々調べても、そのトリックが分からなかった」

 

「なっ…」

 

リュートは言葉を失った。以前「米沢の正体が分からない」と知ったときと同じような、底知れない恐怖を感じた。

 

「変だと思ったんだ…」

 

御手洗が言う。

 

「仲間が虐殺を繰り返しているのを誰も止めないこと、自分が止めようとも思わなかったこと…。転生前なら絶対見て見ぬフリなんて出来ないのに。これも、マウントールの仕業だったんだね」

 

「そうだ。虐殺をしている(やから)は自分の自由意志で犯行を繰り返しているがな」

 

「どういうことだ?お前は自分の判断で、ルイやスパノの虐殺を見逃していたのでは無かったのか?仲間だからという理由で」

 

ポセイドラが尋ねる。

 

「だから~、そう思うようにマウントールが仕向けたってことだよっ。マウントールはベストナインのメンバーに三つの決まりを課していたの。一つ、他メンバーの殺害を禁ず。二つ、他メンバーの自由の侵害を禁ず。三つ、自身の能力は正直にマウントールに伝えること」

 

「その通りだ。ヤツはこの決まりによって強力な転生者を集めたのだ。ベストナインに入りさえすればどんなことをしても許される、という魅力を餌にしてな」

 

魔女はそう言って御手洗に目を向ける。

 

「だが、お前にかかっていた能力はもう解けた。洗いざらい吐いてもらうぞ」

 

「いいよ。私の知っていることなら何でも教えたげる」

 

御手洗は軽蔑したように言葉を続ける。

 

「わたしももう、マウントールに愛想(あいそ)が尽きちゃったから」

 

 

 

 

 

数時間後

 

 御手洗への尋問を終了させた魔女が言う。

 

「コレで全部か?」

 

「そうだよ。全部正直に話したよ」

 

御手洗が答える。様子を全て見ていたケイルが魔女に尋ねる。

 

「信用できるのでしょうか?」

 

「信用できるとも言えるし、そうでないとも言える。どう見るかだ」

 

「え~?これ以上どうしろってのさぁ~?……あっ!」

 

 御手洗が何か思いついた様子を見せる。

 

「じゃあさじゃあさ、とっておきの情報教えてあげる!ベストナインのメンバー以外知らない極秘情報だよ?」

 

「言ってみろ」

 

「あのね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!どんな人なのかは分かんないけど…」

 

「何…だと……」

 

 魔女が動揺したように言う。彼女の顔からは冷や汗が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章 離反 END

「ベストナイン」 残り5人(?)

「テンスレ」   残り12人(?)




 ということで、第四章終了です。最後の残り人数はお互いに「?」が付く形になりました(「ベストナイン」は今後新メンバーが加わるため、「テンスレ」は立花亭と御手洗が完全に味方になった状態とは言えないため)。
 第五章は、新キャラ登場から始まる予定です。お楽しみに。

 ということで、「新章突入前のちょっとした企画」を発表します。明日、話の更新をする代わりに、()()()()()()を投稿する予定です。コレが「ちょっとした企画」ですっ。

「はぁ?つまんな」

という声もあるかも知れませんが、スミマセン。
 ですがこの読み切りも「異世界転生者殺し チートスレイヤー」絡みの作品です。本当は前書きの茶番にする予定だったのですが、思ったより壮大になってしまったので、短編として投稿することにしました。
 いつもと全く違う内容になるので(ていうか例に漏れず大分痛い内容になっている可能性があるので)、好き嫌いが分かれるかと思いますが、興味を持たれた方は読んでみて下さい。
 一応言っておくと、この読み切りの内容は当作品(チートスアンアン)の内容とは一切関係が無いことをご理解ください。
 投稿は明日の12:30を予定しています(時間がずれる可能性アリ)。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その1 「なぜか素直に」

 長かった第四章が終わり、第五章の開幕です。

 章題ですが、従来の「(通り名)○○」のスタンスに戻そうかと思ったのですが、止めました。第二章までは10話以内に終わっていたので、誰を殺すか最初に判明していても良かったのですが、第三章以降、一つの章にかかる話数が多くなってしまったために「章題で結末分かってるのにダラダラやられてもつまんない」と読者に思われてしまうな、と感じたのです。
 こんなどうでもいい話を最初にしつつ、新章開幕です。


 御手洗幼子(みたらいようこ)監禁後、リュートの所属ギルド「テンスレ」では新体制が組まれた。御手洗と立花亭の監視を一日中行う必要性が出てきたからだ。もちろん、日々の収入源である魔人討伐も行わねばならない。

 現在、テンスレの正式メンバーは10名。この中でメルクリオは動けず、リンは彼の介護と家事という特別な役割を持っている。魔女はこの世界の生物を殺すことが出来ない。この制約をクリアしつつ仕事を分担した結果、以下のような体制が組まれることになった。

 日中に魔人討伐に行く者が3名、日中の監視役が2名、夜間の監視役が2名である。監視役は魔女も行えるため、1名余りが出るが、その人は休暇ということになる。ただし休暇に当たった人間は、拠点への襲撃時に戦力になるため拠点内で休暇を取ることになる。夜間の監視役は交代後に睡眠時間が設けられた。

 

 新体制1日目、つまり御手洗確保の翌日。リュートは日中の監視役を魔女と行うことになった。夜間の監視役だったポセイドラとジモーの二人と交代をし、監禁部屋に入る。

 御手洗と立花亭は、手足を縛られ口に猿轡(さるぐつわ)をされた状態だ。口を封じられた状態では魔法を唱えることが出来ない。だが御手洗の心は正常なので、正確に言うと彼女は見た目だけ無力化している状態だ。油断は出来ない。

 

「さあ、リュート。今日の監視は単なる監視じゃないぞ。再び立花亭からの聞き込みを行う」

 

 部屋に入るなり、魔女が切り出した。

 

「どういうことだ?立花亭は情報を吐き出そうとしなかったんだろ?」

 

「それは御手洗がいなかったときの話だ。二人でいる今なら、口を割る可能性がある」

 

魔女がそう言ったとき、後ろから声が聞こえた。

 

「何やら楽しそうなことやろうとしてんな?」

 

振り返ると、そこにジモーが立っていた。

 

「俺も混ぜろよ」

 

「ジモーさん、眠くないんですか?」

 

「いや、ねみーよ?でも魔女のことだ。御手洗監禁なんて大きなイベントがあった翌日に黙ってるわきゃね~な、と思って聞き耳立ててたらビンゴだったもんでな。眠気をこらえて参加するってスンポ~よ」

 

「ほう、殊勝なことだな。夜間に引き続き日中の監視役まで請け負ってくるとは」

 

魔女の言葉に対し、ジモーは首を激しく横に振る。

 

「勘弁してくれ。イベントが終わったら寝るさ。それに聞き込みに一々口挟んだりはしねーからよ。御手洗からの聞き込みの時、俺はここにいて聞き逃してたんだぜ?こんくらい良いだろ?」

 

「好きにしろ」

 

魔女はそう言って立花亭の猿轡だけを取る。彼女の話した内容が御手洗と同じならば、情報の信憑性(しんぴょうせい)はぐっと高まる。そのため御手洗の猿轡はあえて外さなかった。

 

「おはよう、立花亭座個泥(たちばなていざこでい)。聞いてた通りだ、しっかり答えてくれたまえ」

 

「またですか…」

 

立花亭の声には相変わらず覇気は感じられなかったが、御手洗が隣にいる安心感からか落ち着きをある程度取り戻していた。以前のように大声を出す心配は無さそうだ。

 

「そうだ。言っておくが、御手洗は全て話してくれたぞ?無駄な抵抗は諦めることだ」

 

 魔女の言葉を聞き、リュートの頭にある疑問が浮かぶ。

 

「あれ?立花亭はまだマウントールの能力にかかったままのハズだ。だから情報を吐こうとしなかったんだよな?今から解くのか?」

 

そんな彼の考えの裏をかくように、立花亭が答えた。

 

「分かりました…。御手洗ちゃんが話したなら、私も素直に話します」

 

「あれ?」

 

リュートは意外に思ったが、あえて口にはしなかった。

 

「最初の質問だ。ベストナインは私達のことについてどれだけ知っている?」

 

「私達は…、ベストナインはあなた方の拠点も人数も把握できていません。アシバロンさんの戦闘終了後、半年以上捜索を行いましたがここを見つけることは出来ませんでした」

 

「どうやって探した?」

 

「米沢さんの虫を使った捜索しか行っていません。マウントールさんはあなた方を『ベストナインの強さを試す試金石』だと思っています。あなた方と戦い、生きて帰れた者がベストナインに相応しい、と」

 

「なるほど、ヤツらしい考え方だ」

 

試金石の件以外は、すでに御手洗から聞いた情報だった。

 

「把握している人間は5人。リュート、魔女、ゴーギャン、ポセイドラ、レースバーンです。レースバーンに関しては、アシバロンさんが死亡を確認しています」

 

この内容も御手洗の話と同じだ。レースバーンの死亡が確かになったことで、リュートは心の傷が再び開いたような気持ちに(おちい)った。

 

「更に、あなた方の『転生者を無力化する方法』も見当が付いています。『転生者の心を乱すこと』が無力化の条件で、その条件を達成するために『転生者の転生前の情報を暴露する』という方法を取っている、と」

 

「それを見抜いたのは?」

 

「アシバロンさんです。彼は以前の戦いからここまで推理を重ねていました」

 

 リュートは改めて空恐ろしい気持ちになる。アシバロンはあの短いやり取りで自分達の無力化の方法について、ここまで的中させていたのだ。

 

「他に私達の手段で分かっていることは?」

 

「転生者を無力化出来る原理については、『そういう魔法を使っている』と推察しました。誰がその魔法を使っているのかについては、アシバロンさんが『魔女が怪しい』と言ってましたが確証は得ていません。『転生前の情報を得た手段』については何も分かってません」

 

「アシバロンが私を怪しんだ理由は?」

 

「直感だそうです。一応根拠としては『一人だけ俗称で呼ばれているのは怪しい』と言ってました」

 

「なるほどな。やれやれ、こんなことなら名前を呼んでもらう方法を取るべきだったな」

 

 魔女は呆れたように言うが、この情報も御手洗の言っていたことと同じだ。立花亭の言っていることはほとんど御手洗の情報と一致している。

 魔女はジモーの方を振り返って言う。

 

「おい、夜中に二人が話し合うようなマネはさせてないな」

 

「ああ、猿轡のおかげで一言も発してないし、筆談とかジェスチャーとかそういう手段を取ってないかも見張ってたぜ。まあ、そいつらしか知らない意思疎通方法があったりしたらお手上げだがな」

 

「ふふふ、そんなのは無いと信じたいね」

 

つまり、御手洗と立花亭の言っていることは信憑性が高いということだ。

 ちなみに「遠隔会話(テレパシー)」は元々、天使が転生者に神託を行う際に使用する魔法なので、使えるのは魔女だけである。

 

「質問を変えようか。御手洗はどうやってここを割り出したと思う?」

 

 魔女の質問を聞いた立花亭は一度、御手洗の方に顔を向けたが、御手洗が軽く頷いたのを見て正直に答える。

 

「御手洗ちゃんの第4の能力を使ったんだと思います。私の舐めたキャンディが、私の位置を示すレーダーとなる能力です。彼女は、この能力について他人に知られることを嫌っているので、知っている人間はほとんどいないと思います」

 

実際には第4の能力についても、すでに御手洗から聞き込み済みだ。彼女は、人に知られたくないと思っていたこの能力についても、正直に話していたのだ。

 

「ここまで話したんだから、わたしのこと信用してくれても良くない?」

 

その際、御手洗はこのように言っていたが、結局魔女の猜疑心(さいぎしん)を無くすには至らなかった。

 

「なるほどな。では、ベストナインに新メンバーが加入するという話は?」

 

「…え?なんですかソレ?」

 

 ここまでスラスラと答えていた立花亭が初めて違う反応を示す。

 

「とぼけているのか?それとも本当に知らないのか?」

 

「本当に知りません!そんなの初耳です!」

 

「どういうことだ?嘘だったのか?」

 

魔女は急いで御手洗の猿轡を外して問い詰める。

 

「タッチーが知らないのは無理ないよ。だってタッチーがいなくなった後の会議でマウントールから初めて聞いたことだもん。極秘の情報だって言ったでしょ?」

 

御手洗のケロリとした答えを聞き、魔女は歯噛(はが)みする。

 

「くそ…、一番知りたかった情報の信憑性が補強されないとはな。人生上手く行かないものだ…」

 

 

 

 

 

同時刻 とある森

 

 男は高揚感を隠し切れなかった。最近ずっとこんな感じだ。ここまで上手く人生が行ったことは今まで無かった。絶好調だ。

 今まで何も上手く行かず、何も成し遂げたことの無い人生を送っていた。しかし、新たな人生を歩み出してから状況は一変した。己の強さを誰もが認める。誰もが自分を持ち上げる。こんなことがあって良いのだろうか。

 こんな自分が縛られる必要なんてあるはずが無い。そう考えた彼は、パーティを勝手に抜け出し単独行動を取る。スキップしながら森の中を突き進む。深い考えなど持ち合わせてはいなかった。

 すると、近くで女性の声が聞こえた。

 

「思っていたより数が多いですね…!」

 

自分の強さを見せつけ女性をメロメロにする大チャンスだ。そんな下手くそな妄想みたいな状況が()()では容易に起こせる。彼は美人を期待して声のする方向へ向かった。

 思った通り、女性が魔族の群れに襲われている。彼は女性と魔族の間に颯爽(さっそう)と飛び出す。

 

「危なかったな。もう大丈夫だ」

 

「どちら様ですか!?危ないのはそちらですよ」

 

そんな女性の言葉は耳に入っていないようで、男は言った。

 

「俺が来ればもう安心だ」

 

 言うが早いか、男は一体の魔族の頭目がけてジャンプをする。そして素早い動きで()()()()()()()()()()()()()()()()()()。指を頭から抜いて再び跳躍。目にも止まらぬ早技で、次々と魔族の頭に指を突き刺す。

 全ての魔族に処置を終え、男は女性の前に颯爽と駆け戻る。

 

「終わったぜ」

 

「いや、全然殺せてませんけど?」

 

女性の言うとおり、魔族はまだ動いている。このままでは襲われてしまう。

 しかし男は魔族に対して呼びかけた。

 

「静まれ!これ以上許可無く人を襲うことは、この俺が許さん!!」

 

 魔族に人間の言葉は通じない。仮に通じたとして、この男の命令を聞く道理なんてあるはずもない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「終わったと言っただろ?」

 

「はい…そのようですね…」

 

呆然とする女性に対し、男は言葉を続ける。

 

「自己紹介がまだだったな?俺の名前はカセロジャ=クテンハーモン。転生者だ」




 この謎の転生者と女性は何者なのかっ!?次回をお楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その2 「糞野郎」

 昨日の23時頃から急にUA数(簡単に言うと閲覧した人数)が増えたのが不可解です…。たまたまなのか、それともどこかでこの作品が紹介されたのか。何か知っている人がいたら、教えてくれると嬉しいです。 

 感想欄で以前、「マウントールの能力の作者的テーマは『チートスレイヤーの原点回帰』です」と言ったことがあるのですが、その件について詳しくお伝えします。
 原作の「チートスレイヤー」は、「異世界転生の話ってこういうところがクソだよね!」という原作者の主張モリモリな話でした。その内容は、「異世界転生の主人公は元々は無能なのにチート能力与えられてイキっている奴ばかりだ」という(風に取れる)内容でしたが、マウントールの能力はあえて、「作者である私が異世界転生の話に対してクソだと思う部分』」を能力にしました。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と前置きして話しますが、俗に言う「主人公がイキっている」異世界転生の話には「いや、登場人物が口を揃えて『スゴい』って言ってるけど、主人公のやってることってそこまでスゴいことじゃ無くね?」と思うような内容がよく見られ(るような気がし)ます。

 例:「毒はワインに入っていたのではなく、国王のグラスに塗られていたんです」という便所のネズミのクソにも匹敵するくだらない推理を披露した主人公に対し、周りの人間が「すごい」と賞賛し、姫が惚れる

 こういう描写が散見されるために「なろうアンチ」が現われたり、「チートスレイヤー」が生まれたりするのかなとも思います。で、こういう描写のある作品の主人公って大抵の場合戦闘がめっちゃ強いんですよね。
 戦闘が強いっていうのは(その理由が何であれ)周りから「スゴい」って言われるのは当然でしょう。でもだからと言って、その主人公のあらゆる行動に対して「スゴい」って言うのはおかしいだろ!
 そんな私の考えを能力として落とし込んだのが、マウントールの特殊能力「畏怖(マウンティング)」なのです。そう言う意味で彼の能力を「チートスレイヤーの原点回帰」と表現したのです。


 ケイルは困っていた。魔人討伐中に突然現われた男が、自分たちの獲物を全て横取りしてしまった。しかもその男はどうやら、自分たちのことを助けたつもりのようだ。「敵の数が多い」という自分の率直な感想をどこかで耳にし、ピンチに(おちい)っているのだと思い込んで助けに来たらしい。正直、ピンチな場面では無かったのだが。

 男は身長がポセイドラと同じくらいの標準体型。一般的な男性より少し背が高いだろうか。上がグレーのパーカーで、下はジーンズズボン。髪の色は茶髪で、容姿はイケメンの部類だろう。だが、転生者ということを踏まえて考えると普通の顔立ちだ。転生者は美男美女が多い。

 男は魔族の群れを即座に手懐(てなず)けてみせた。普通そんなことはあり得ないが、これも男が転生者だと考えれば不思議では無い。自身の特殊能力を使ったのだろう。

 さて、この男への対応をどうするべきか。争いは避けたい。手柄は全て持って行かれてしまうのだろうか。それとも少しは分けてくれるのか。

 

「何があったんですかぁ?」

 

「いきなり魔族が黙り込んだんだが?」

 

 ケイルの元にバニーラとラーシャが駆け寄ってくる。この三人が本日の魔人討伐担当だった。リュートに惚れているバニーラだが、仲間になった以上は他のメンバーとも連携を取ってくれなくては困る。そう言う意味を込めた今回のパーティだったが、バニーラはまるでずっと前から仲間だったかのように、しっかりと連携を取ってくれた。。多少ドジであることは否定できないが、魔女が獣人の転生者を絶賛していた理由が分かった気がした。

 

「ああ、こちらの方が助けて下さったんです。どうやら転生者らしいのですが…」

 

「やあ、初めまして。俺の名前はカセロジャ=クテンハーモン。転生者だ」

 

ケイルが紹介した男、カセロジャが自己紹介する。

 

「あ、助けて下さってありがとうございますぅ。バニーラ=チョコミクスですぅ」

 

バニーラがお礼を言うと、カセロジャは顔をしかめる。

 

「あれ、君…どっかで見たような?」

 

「ふぇ?そうですか?」

 

「う~ん、まあいっか。二人の名前は?」

 

カセロジャがラーシャとケイルを見る。

 

「あ、ええと…。初対面の方に名前を教えるのはちょっと…」

 

「私も同じだ。というか、そもそもお前の助けなんて要らなかったぞ」

 

名乗ることを拒否した二人の様子を見て、バニーラは自分の失敗に気付く。「テンスレ」はベストナインへの復讐を目標としているのだ。そこに所属する以上は、軽率に自己紹介するのは避けなければならない。

 

「ふん、随分恥ずかしがり屋なんだな」

 

「すみません。後、彼女はああ言いましたが、助けて下さったことは感謝いたします」

 

ケイルが大人の対応をする。

 

「気にすんなよ。それよりこの森は危険だ。女性三人で抜け出すことは厳しいだろ?俺が出口まで守ってやるよ」

 

「は、はあ…」

 

想像よりもよっぽど厄介なことになりそうだ、とケイルは思った。

 

 カセロジャは歓喜していた。助けた女性の同行者は全員女で、合計三人。しかも全員が美女だった。やはり今の自分は何をやっても上手く行く。自分の強さを見て、三人はもうメロメロだろう。あのつっけんどんな女も所謂ツンデレというのに違いない。もう勝負に出て問題ないだろう。

 

「気にすんな。俺に取っちゃ魔人なんてザコ同然さ。ただ、助けるには一つ条件がある」 

 

「何でしょう?」

 

「抱かせろ」

 

「とっととくたばれ糞野郎」

 

 丁寧な口調をしていた女が、笑顔を崩さないまま暴言を吐いた。生意気な女だ、とカセロジャは思う。さっき自分の強さは見せつけてやったはずだ。

 

「男の転生者っていつもそうですね。女性の現地人をなんだと思ってるんですか?」

 

丁寧語の女を見て、バニーラとかいうウサギ女が震えている。仲間じゃ無かったのか、とカセロジャは疑問に感じながらも言葉を返す。

 

「他に何が出来るんだよ?お前に」

 

「そうですね…、貴方を今この場で黙らせることなら出来ますが?」

 

彼は思わず笑ってしまった。

 

「ハハハ!丁寧口調だから油断していたが、お前が一番生意気だな!面白い!やれるもんならやって見ろよ」

 

 彼の言葉を受け、相手は杖を取り出す。

 

「ほう、睡眠魔法か?そんなんで…」

 

「プシュッ」

 

杖の先から赤い液体がいきなり飛び出し、彼の顔に命中した。余りにも想定外だった。

 

「ぐわぁ!!目が、目があああぁぁ!!てめえ何をするだ……、ウボァー」

 

 カセロジャはその場に倒れ伏してしまった。

 

 相手がしっかり眠りについたことを確認し、ケイルが言う。

 

「ふう。久し振りにイライラしてますね、私…」

 

「ふええ…ケイルさん怖かったですぅ…」

 

バニーラが怯えた声を出す。

 

「ふん、ケイルを怒らせるからこうなるんだ。自業自得だ」

 

ラーシャはそう吐き捨て、大人しくその場に座り込んでいる魔族の群れを見る。

 

「それより、どうなってるんだコレは?」

 

「知りません。コイツの特殊能力なんでしょう」

 

ケイルが言葉を返す。彼女が人をコイツ呼ばわりするなんてよっぽど怒っている証拠だ。ラーシャは呆れかえる。

 

「で、この魔族はどうする?」

 

「当然皆殺しです。魔力袋も全て私達が持ち帰ります。コイツの取り分なんてありません」

 

ケイルの言葉通り、大人しくなったせいでまるで歯ごたえの無い魔族を皆殺しにする三人。多少ストレスも発散できたのか、ケイルが魔族の死体を見て言う。

 

「一番小さい死体はそのまま持ち帰りましょう。研究材料になりますから」

 

この中で一番小さい個体は大型犬ほどの大きさだ。人間三人ほどの大きさがある魔人の魔力袋を取り出しつつラーシャは思った。

 

「魔族の大きさは様々だ。なのにカセロジャはあの短時間で、魔族全員の頭をピンポイントで貫いたのか…。軽率さはともかく、体裁きは転生者としても相当なレベルだな」

 

 魔力袋を全て取りだし、研究材料となる死体はバニーラが抱える。ケイルは道端でグッスリ眠っているカセロジャに一言声をかけた。

 

「それでは私達はこれで。眠っている間に他の魔族に食い殺され無いよう、お気を付けて」

 

恐ろしい口調だった。

 

 

 

 

 

同時刻 「テンスレ」拠点の監禁室

 

 魔女による立花亭への聞き込みが終了した。

 

「ふむ、まあこのくらいで良いだろう。良く吐いてくれたな」

 

魔女はそう言っていたが、どうも不満が隠せないようだ。だがこれ以上はどうしようも無いと判断したらしく、立花亭に猿轡(さるぐつわ)を取り付けようとする。

 

「ちょっと待って下さい。最後に一つ、リュートさんに聞きたいことが…」

 

立花亭が唐突に言う。魔女はリュートが頷いたのを確認し、猿轡をすぐにでも付けられるポジションを取る。

 

「良いだろう。素直に答えた褒美だ。だが変な真似をしたら、この猿轡は二度と外されないと思え」

 

魔女はそう言って立花亭に言葉を(うなが)した。

 

「ありがとうございます。リュートさんにお聞きします。なぜ私を殺さないんですか?」

 

「なぜって…」

 

「大丈夫です。前のように『殺せ』とは言いません。でも、貴方にとっては私もルイさんと同じ復讐対象のハズです。ルイさんを殺したのにどうして私は殺そうとしないのか、その理由をちゃんと知りたいんです」

 

彼女の言い分を聞いてリュートは答える。

 

「ルイを殺したのは、俺の村を滅ぼした張本人だからだ。スパノの殺しを手伝ったのは、俺の村の人間を殺したからだ。でもお前は俺の村の人間を殺してないんだろ?」

 

「確かに私は一人も殺していません。でも、虐殺を見て見ぬフリをしていました」

 

立花亭が答える。リュートは立花亭本人から、自身の村の人間を殺していないのかの確認をしたことが無かった。本人からの答えを聞けただけでも良かった、と彼は思った。

 

「確かに、お前を許せたかと聞かれたら俺は『そうだ』とは言えないと思う。でも、人殺しをしてない人間を殺すことは俺には出来ない。それが答えだ」

 

「そうですか」

 

立花亭はそう言って、最後に一言付け加えた。

 

「答えてくれてありがとうございます。そして、ごめんなさい。貴方の村の人々を見殺しにしてしまって…。私は今、とても後悔しています。悔やんでも悔やみきれません…」

 

この言葉を聞き、魔女は彼女に猿轡を取り付けた。

 

「なるほどな…」

 

魔女は何かを納得したように頷いた。

 

 

 

 

 

数時間後 どこかの森

 

 カセロジャの耳に女性の声が聞こえる。深い水の底から引き上げられるような感覚だ。

 

「カセロジャ様ぁ!カセロジャ=クテンハーモンさまぁ!!どこですか~!?」

 

「う、うんむぅ…」

 

カセロジャはゆっくりと身を起こす。どうやら眠ってしまっていたらしい。

 

「俺は…眠っていたのか?あの女…、間違いない、あの女の仕業だ」

 

(はらわた)が煮えくりかえる思いだった。何もかも上手く行っていた流れを止められた気がしたからだ。

 

「カセロジャ=クテンハーモン様~!!返事をして下さい!!」

 

再び女性の声が聞こえた。彼と一緒に魔人討伐に向かった、現地人の女性だ。

 

「俺はここだ!!」

 

カセロジャは叫びを返す。しばらくして声の主が駆けつけた。

 

「やっと見つけました…。いきなりいなくなって心配したんですよ?ご無事で何よりでした…」

 

女性は荒く息を吐きながら言った。

 

「当たり前だ…。俺が無事じゃ無いわけねぇだろうが…」

 

 突然、カセロジャは声の限り叫んだ。

 

「この俺がっ!!誰かにやられるなんざ!!あるわけねぇだろうがぁ!!!!」

 

「カ、カセロジャ様!?も、申し訳ございませんっ!!」

 

女性が土下座する。自分がカセロジャを怒らせてしまったと思ったからだ。

 

「はぁ、はぁ…、神経がいらだつ…」

 

カセロジャは女性に目を向ける。

 

「神経がいらだつと、陰茎がいらだつ。女、俺に奉仕しろ!」

 

「は、はい!」

 

命令に従う女を見下し、彼は叫んだ。

 

「転生者サイコーッ!!アッハハハハハ」




 というわけで、新キャラのカセロジャ=クテンハーモン登場回でした。パロディたっぷりで、個人的にも大満足です。元ネタはもちろんお分かりですね?

 本来彼は、「とーとつにボツ転生者」のコーナーで紹介して終わりの予定にするはずでした。しかし最近のネットの様子を見て、これはもう新キャラにするしか無いと思い、能力等を新たにブラッシュアップして新キャラに落とし込みました。
 一番悩んだのが名前です。最初は「パラドス=ブゥン」という名前だったのですが、元ネタから離れすぎていると思い、「カセロハ=モンジャクッテン」という名前に変更し、最終的に「カセロジャ=クテンハーモン」になりました。とっても良い名前になったと大満足です。

 彼の元ネタがネットのあちこちを荒らしているのは大問題だと思います。元凶は「CC」という一組織です。
 そして最近、「CC」のコマーシャルに進ノ介が出ていることを知りました。
 見損なったぞ!進ノ介ェ!!(ベルト並感)
 俺が今一番許せねえのは、ネットの…、ネットの風紀を乱したことだぁ!!
 シンゴウアックスをぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その3 「分からなかったこと」

「原作者のモチベーションは、()()()()()()()()()()()()()。次は『CC』だ……。『ネットでたくさん宣伝すれば、とりあえず売れる』などと思い上がった考えは…正さねばならんからな…。一つ一つ、順番に順番に、このヴァニラ・アイスの暗黒空間にバラまいてやる」


 夜間の監視役は夕食の時間に日中の監視役と交代する。この日の当番はバニーラとポセイドラだった。バニーラは魔人討伐から帰宅してすぐ仮眠を取り、夜の仕事に備える。ポセイドラが二日連続なのは、夜起きていることが得意だと言う理由でこの仕事を積極的に引き受けたからだ。

 夕食後、魔女は皆の前で話を始めた。

 

「日中、立花亭への聞き込みを再び行ってな。ヤツはしっかりと情報を吐いてくれたよ」

 

「どういうことだ?この前までは話すのを嫌がっていたのに…」

 

「御手洗が側にいるから、だとよ」

 

ラーシャの疑問に対し、その場にいたジモーが答える。彼は自分で言った通り聞き込み終了後に就寝し、夕食直前に起きてきた。

 

「だとしてもだ。ヤツもマウントールの『畏怖(マウンティング)』にかかっていたはずだ」

 

「あ、それは俺も気になってました。素直に答える立花亭を見て、変だと思ったんです」

 

ラーシャの再度の疑問にリュートも便乗する。

 

「何か魔法でも使ったのぉ?」

 

「いいやリン、ソレは違う」

 

魔女が答える。

 

「まず勘違いしてはいけないのは、マウントールの能力は『自分のスゴさに対する相手の感覚を(ゆが)める能力』であって、『自分に対する服従を強制する能力』では無いということだ。バニーラ達が『マウントールには逆らえない』と口々に言っていたのは、『スゴいことを日常的に行っている彼には逆らえない』というごく一般的な感情が芽生えていたからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()が芽生えれば、裏切っても変では無い」

 

そこまで言って魔女はリュートに目を向ける。

 

「立花亭にその『強い感情』を生じさせたのはお前だ、リュート」

 

「俺が?」

 

「そうだ。お前との出会いが、お前の質問が、ヤツの奥底に眠っていた強い罪悪感を目覚めさせたのだ。猿轡(さるぐつわ)を付ける前のヤツの言葉で確信したよ。そうなると、だ。ヤツにマウントールの能力を話すべきでは無いな」

 

「どうして?」

 

「ヤツは今、仲間の蛮行を黙認していた罪悪感で心を乱してる状態だ。『畏怖(マウンティング)』がそもそもの原因だと知れば、ヤツが平常心を取り戻すことになりかねない。自分の責任だと思い込んでもらっていた方が都合が良いのさ」

 

「あまり気乗りはしないが…」

 

 ゴーギャンが(ひと)()ちる。他のメンバーも進んで賛成している様子には見えない。

 

「仕方が無いだろう?拠点(ここ)に能力を封じてない転生者を二人も監禁する気か?話を戻そう。今日の聞き込みで分かったことだ」

 

 魔女が本題に入る。

 

「ヤツへの聞き込みで判明したのは、昨日の御手洗が言っていた情報は正しい可能性が高い、ということだ。立花亭が吐いた情報は御手洗の情報と(ほとん)ど合致していた。二人の間で何か意思疎通が行われていた様子は無かった。そうだな?ジモー」

 

「ああ、それは間違いないぜ。俺の証言だけで不満なら後でポセイドラにでも聞くんだな」

 

ジモーが自信満々で答える。

 

「一方で不満点も二つあった。一つは御手洗の言っていたベストナインの新入りについてだ。この情報は立花亭が私達に監禁された後に話されていたことだったらしく、ヤツは知らなかった。嘘か本当か。どちらにせよ面倒なことには変わりないな。嘘なら、他の情報も怪しくなる。本当だとしても、新入りへの対策は困難になるかもしれない」

 

「どうして?天使だった頃に転生者の能力と過去は調べていたハズでは?」

 

「私が天使の役職を追放されてから、もう数年が経っている。その後に転生された人間なら、私は情報を持っていない」

 

「ああ、そうか」

 

「仮に私が天使だった頃にいた人物だとしても、転生者全員の過去について調べた訳じゃ無い。私が転生前について調べたのは、人々を虐殺するような外道だけだ。そもそも転生者を無力化する方法が向こうにバレている以上、今までの手は通じないと思った方が良い」

 

「そう言えば…」

 

 ラーシャが何かを思い出したように話し出す。

 

「新入りなのかは定かじゃないが、気になる男が一人いるな」

 

「もしかして、あのゲスですか?」

 

ケイルが反応する。いつもお(しと)やかな彼女が「ゲス」という言葉を使ったのを聞いて、周りがギョッとする。

 ラーシャは魔人討伐中に出会った転生者カセロジャ=クテンハーモンとの一部始終について皆に話した。

 

「軽率でゲスなのは確かだが、あの素早い身のこなし…。転生者にしても相当レベルが高い。ヤツがベストナインの新入りだったとしてもおかしくは無い」

 

ラーシャの話を聞いて魔女が苦しそうに言う。

 

「カセロジャ=クテンハーモンか…。()()()()()()()()()()()()()な。仮にその男が新入りならば能力の詳細すら分からん。厄介だな」

 

「能力については、ケイルが持ち帰ったあの死体から何か分かるんじゃ無いか?」

 

ラーシャがケイルに尋ねる。

 

「明日にでも分析を開始しましょう。最もあのゲスが新入りじゃなければ調べる意味も無いでしょうが、念のためです」

 

 ケイルの言葉を聞いたジモーが口を開く。

 

「しっかしケイルがここまで()()()()()とはな。こりゃ相当なゲスだぜぇ?」

 

「ああ、だがあそこまでブチ切れたケイルも中々見れるものでは無いな」

 

「何か言いましたぁ?」

 

ラーシャの返答に対し、ケイルが恐ろしげな口調で尋ねる。

 

「お前がそこまでキレるなんて珍しい、って言ったんだ。聞こえなかったのか?」

 

ラーシャは一切動じず言葉を返した。ケイルに対して喧嘩を売る意図や挑発する意図が彼女にあったわけでは無いらしい。単にケイルが「何か言ったか」を尋ねたので答えただけのようだ。そのことはリュートにも口調から伝わったが、多少面食らってしまう。そこは「いや何でも無い」と返すのが、人間のルールでは無いのか。

 

「とにかく、そういうことなら分析はよろしく頼むぞケイル。さて、もう一つの不満点だが…」

 

 魔女が話を戻した。

 

米沢反死(よねざわはんし)についてだ。知っての通り、ヤツについては分からないことが多い。能力の詳細も、転生前の情報もだ。仲間だった二人なら何か知っているのではないかと色々探りを入れたのだが、進展は無かったよ」

 

彼女の残念そうな声を聞き、ゴーギャンが尋ねる。

 

「仲間ならば能力くらいは知っているだろう?そうでなければ連携すら取れないハズだ」

 

「ん、ああ…、言い方が悪かったな。正確に言うなら、『能力の詳細は分かったが、不可解な点が多すぎる』ということだ」

 

魔女はそう言った上で説明を始める。

 

「ヤツの能力が、虫を使役する能力だということは知っている。だがそれでは説明出来ない点が現段階でも二つある。一つは情報収集能力だ。案の定、我々の情報を集めていたのは米沢だった。虫を使って我々を監視し、その虫が米沢の元に帰ることで初めて情報が得られるという仕組みだ。このことは二人も認めていた。問題なのは()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「情報の正確さ?」

 

「米沢が虫を介して得る情報は正確すぎる。戦闘の様子はおろか、私達の容姿や会話の内容すらも正確に持ち帰ったそうだ。まるで米沢自身がその場にいたみたいじゃないか。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「虫の改造能力も同時に授かったのでは?普通は存在しない魔力袋も持っていましたし」

 

ケイルが尋ねる。

 

「その可能性は高いな。それにしてもヤツが虫から情報を得る方法は不気味だぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()米沢に伝わるらしい。どういうことだ?何故食べる必要がある?虫を使役出来る以上、虫とコミュニケーションを取れるのは何もおかしくない。でも食べる必要はないじゃないか」

 

「そんなことを俺達に言われても…」

 

「『そんなことを俺達に言われても』何だ?言ってみろリュート」

 

「いや何でもない」

 

お前が言うんかい。

 

「まあいい。もう一つの謎は、『米沢が自身の肉体を無数の虫に変換出来ること』だ」

 

 魔女は興奮を抑えるために、目の前の紅茶を一口飲んだ。

 

「ヤツは自身の肉体を無数の虫に変えることで、高速で移動したり狭い隙間から進入したり出来る。肉体を変換させた虫の群れが再び集まることで、米沢の姿に戻れるというわけだ。この能力は私も知っていたし、二人もこの能力については認めていた。だが、()()()()()()()()()()()()()

 

「どこがだ?虫を使役する能力と虫を改造する能力に加えて、自分の体を虫の群れに変換する能力も授かったってことで良いんじゃ…?」

 

「ソレは無理だ」

 

リュートの意見を魔女はバッサリと否定する。

 

「以前話したことがあったかな?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。例えば『相手を即死させる能力』は不可能だ。そんなことが出来るなら転生者をこんなにボンボン送る必要は無い。また、『死んだ生き物を蘇生させる能力』も不可能だ。死者蘇生は神の特権だからな」

 

確かに以前そんな話を聞いたことがある、とリュートは頷いた。

 

「他にも色々不可能はあるが、『一つの命を複数の命に変換する能力』も不可能だ。そもそも『全身を違う物質に変換し、その上で自身の思考などは失われずに好きなときに元通り』だなんて、それだけでも大分無理がある。出来ても体の一部分、全身を変換するなら元通りになる保証は無い、そんな所が関の山だ」

 

魔女の言うことが本当なら、確かに米沢の能力は色々とおかしい。

 

「でもそんなこと、以前天使だった魔女にしか分からないじゃないか」

 

「そうだ。だからこそ立花亭も御手洗も、米沢の能力について不信感を持たなかったのだ。だが『元・天使』の私が断言する。米沢の能力は普通じゃ無い。二人の情報でもう少しその辺の謎が解けるかと思ったのだが、結局何も分からず終いというわけさ」

 

魔女は残念そうに言って、再び紅茶を口にするのだった。




「後、『原作は面白いから読んでみろ』とか『エロゲーは面白かったから』とかいう(やから)も暗黒空間にばらまいてやる。どこが面白かったのか具体的に言わない人間は、サクラだったりステマ要員だったりする可能性が高いからな…」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その4 「設置式無限複製魔法」

 今回は後書きで月末恒例の、「『チートスレイヤー』の原作者が現在連載している漫画が載っている某月刊漫画雑誌」のレビューをしたいと思います。
 正直、今この作品を読んで下さっている方の内、何人がこの感想コーナーを読んでいるか分かりません。でも、それがたとえ0人だったとしてもこのコーナーは続けるつもりです。理由としてはやはり、私が初めて目を通した原作者の漫画だからですね(「賭ケグルイ」は読んだことありません)。「チートスレイヤー」の二次創作を書かせて貰っている身として、読んでいる原作者の漫画はしっかり感想を書くべきだろうと思い、続けていくつもりです。
 他の連載作品の感想も書くのは、同じ雑誌で連載されている漫画と比べることも大事だと思うからです。
 
 というわけで、以下に私が毎月レビューしている漫画の通称と簡単なあらすじを書いておきます。興味の無い方は本編へとお進みください。

通称「原作者の漫画」………悪魔の女王に召喚された歴史上の女傑が、己の欲を武器にして戦い最後の一人を決める漫画。「チートスレイヤー」の原作者が原作を担当している。現在私が唯一読んでいる原作者の漫画。下の通称「本家」の後追い漫画。勝手にパクった「チートスレイヤー」とは違い、双方ズブズブの関係(お互いの公式ツイッターで宣伝しあったりしている)。なお、面白さは「本家」の足下にも及ばない。でも「煮こごり」よりはマシ。

通称「本家」…………………人類の存亡を巡って、神と人類がそれぞれ13の代表を選出し、タイマンバトルを繰り広げる漫画。この雑誌の稼ぎ頭であり、私が今最もハマっている漫画の一つ。最近アニメ化し、2クール目の制作も決定した。恐らく読者の中にも読んでいる方がいると思われる。お気に入りの作品であるが故に、文句の言いたい部分も出てくる。

通称「煮こごり」……………豚扱いされて酷いいじめを受けていた主人公が、異世界でクラスメイトへの復讐を決行する漫画。私がこの雑誌で読んでいる漫画の中で一番(ひど)い出来の漫画。不快感、整合性の無さ、話の唐突さ、説明不足、どれを取ってもトップクラス。「煮こごり」の由来は、話の内容が色々な作品の煮こごりのようであることから。「チートスレイヤー」とは違って露骨なパクリでも無いので笑うことすら出来ない。「原作者の漫画」よりも下の存在がある、という証明の為にレビューします。

通称「メイド喫茶の漫画」…メイド喫茶の男性スタッフとして働くことになった男子大学生の主人公が、個性的なメイド達と触れ合いながら仕事を行う内容のコメディ漫画。私がこの雑誌で読んでいる漫画の中で一番面白いと感じている漫画。「WORKING!!」や「ニーチェ先生」が好きな人は絶対ハマルと思う。個人的にオススメな作品。文句があまり出ないために、レビューもあっさり終わりがち。悲しいなぁ…。


「そう言えば、この機会に聞いておきたいんだけど…」

 

 リュートが口を開く。

 

「メルクリオさんが今、包帯だらけで動くことも出来ないほどの重症なのは、米沢反死(よねざわはんし)の仕業なんだよな?」

 

「そうだよ。なぁリン?」

 

「はい~。と言っても、米沢の姿を見たのはメル君だけで、わたしは見てないんですけれどもぉ」

 

魔女に話を振られたリンが答える。

 

「どうして彼のダメージは回復しないんだ?魔女の回復魔法は瀕死の俺を回復させるほどの力を持っているのに…」

 

 リュートは全ての始まりとなった()()()を思い出す。あの日、自分は確かにルイに首を折られて瀕死の状態だったが、魔女はそんな自分を完治させたのだ。彼女は「死んだ人間を回復させることは出来ない」とは言っていたが、メルクリオはまだ死んでない。

 リュートに尋ねられた魔女が答える。

 

「無論、彼にも回復魔法をかけたさ。普通ならば、例えどんな毒に侵されていようが、瀕死の重傷だろうが、私の回復魔法を使えば万全の状態にまで回復する。()()()()()な」

 

「つまりメルクリオさんが侵されている毒は普通じゃ無いと?」

 

「その通りだ。彼の状態を正確に言うならば、『毒に侵されている』のでは無く『ある設置式魔法にかけられている』状態なのだ」

 

「設置式魔法?」

 

「特定の場所に設置することで、その場で効果を発揮し続ける魔法の総称だ。地下室に殺虫剤のカーテンを仕込んだときに使った『エンチャントミストトラップ』も設置式魔法だ」

 

確かにあの時仕込んだ殺虫剤のカーテンは、今もまだ効果を発揮し続けている。

 

「一度仕込めば半永久的に効果を発揮する一方、扱いが非常に難しい。魔法に精通した人間でも、扱える者はごくわずかだ。それで、だ。メルクリオには『設置式無限複製魔法』がかけられている」

 

再びリュートの知らない単語が出てきた。

 

「そう難しい顔をするな。知らなくて当然だ。『設置式無限複製魔法』は設置式魔法の中でもトップクラスに扱いが難しく、なおかつ扱える範囲も狭いという、クセが非常(ひじょ~)に強い魔法だ。おまけに存在自体が非常に危険な魔法でもある。忘れ去られても無理は無い。まぁ、元天使である私ならば扱えるがな」

 

 そう言って魔女は、机の上の瓶から角砂糖を一つ取り出す。彼女は角砂糖を机に置き、スプーンでガンガン音を立てながら砕いていく。元の1/10程の大きさの破片を残し、他は全て自身の紅茶に溶かしてしまった。

 

「百聞は一見にしかず。実際に見せてやろう。この角砂糖の破片をよく見ておけよ?『デュプリケート』」

 

魔女の手から魔法陣が放たれ、角砂糖の破片に吸い込まれる。すると、1つの破片が2つに分裂したではないか。そして大して時間をおかず、2個の破片が4個に、4個の破片が8個に増えていく。

 

「これが『設置式無限複製魔法』だ。魔法の対象となった物が無限に複製される」

 

そんな説明の間に、破片の数は64個にまで増えていた。

 

「そろそろ危険だな。『デュプリケート・オフ』」

 

魔女の魔法を受け、増殖が止まった。

 

「私が魔法を止めなければ、あのままどんどん複製が繰り返され、部屋中砂糖まみれになっていたぞ。危険といったのはこういうことだ」

 

 机の上に広がる角砂糖の破片を見て、リュートは息を呑む。こんな魔法が普通に使われていたならば、世界はいつ滅んでもおかしくないだろう。

 

「こんなの危険すぎるだろ!いい加減にしろ!」

 

「その通りだ。そして危険な分、扱いが難しく範囲も狭い。世界が簡単に滅びないようにするために、(ルール)はあるのさ」

 

そう言って魔女は、瓶から角砂糖をもう一つ取り出す。

 

「この魔法はごく小さい物にしか適用出来ない。この角砂糖ですら『設置式無限複製魔法』の対象にするには大きすぎる。角砂糖を砕いたのは、危険だからと言うのも理由の一つだが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()からだ」

 

「小さい物にしか適用出来ない上に、扱いが難しい設置式魔法の中でも特に難しい魔法ってことか」

 

「その通り。クッソめんどくさい魔法だろう?使う人間がいないのも当然だろう?」

 

「そうだな…」

 

 リュートは頷きながら、破片を数個手に取る。

 

「普通に食べられるぞ。複製された物も、持っている性質はオリジナルと全く一緒だ。だからって、もう砂糖を買わなくても大丈夫だとか思うなよ?性質が同じということは、古さも一緒ということだ。続けていたら、そのうち腹を下すぞ」

 

魔女はそんなことを言いながら、破片を拾って紅茶に溶かしていく。リンとラーシャも魔女に習う。二人は甘めの紅茶が好みだった。

 

「それで、米沢はこの『設置式無限複製魔法』をメルクリオさんに発動したと?」

 

 リュートはそう尋ねながら、破片を口に運ぶ。魔女の言うとおり、普通の砂糖だった。

 

「正確には米沢が『設置式無限複製魔法』の対象にしたのは、()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

「ど、毒素!?」

 

「彼の体内では毒素が無限に複製されている。いくら回復魔法で毒素を取り除いても、取り除く間に毒素は複製される。結果として、毒に侵された状態からは治らないというわけだ。私がメルクリオと初めて会った時、彼はすでに生きているのが不思議なくらい毒に侵された状態だった。リュートの時と同じ最上級の回復魔法をかけても毒は取り除けなかった。感染してすぐだったならば、毒を完全に消滅させることも出来ただろうがな…」

 

そう言って魔女はメルクリオを見る。彼は包帯だらけの状態で、ベットの上で眠っていた。

 

「彼は今、定期的にリンが回復魔法をかけて延命している状態だ。リンが彼から離れられないのはこのためだ。しかし、毒素に『設置式無限複製魔法』を仕掛けたというのも妙な話だ…。ヤツはどうやって、目に見えないほど小さな物を対象にしたというのだ…?」

 

魔女が疑問を口にする。もちろん、この場にいる誰かが解決出来る訳でも無い。

 リュートはそんな答えの出ない疑問よりももっと重要な質問をする。

 

「どうやったら治せるんだ?」

 

リュートの質問に魔女が答える。

 

「『設置式無限複製魔法』が解除される方法は3つしか無い。一つ、使用者が解除する。二つ、使用者が死ぬ。三つ、複製対象が全て消え去る。例えば、メルクリオの体を骨も残さず焼き払うとかな」

 

「おいっ!!」

 

リュートが怒りの声を上げる。他の者も魔女を睨みつけた。

 

「あくまで例えばの話だ。メルクリオを死なせるつもりは無い。私が言いたいのは『メルクリオを治すのならば、米沢を殺す以外に無い』ということだ」

 

「えっ?それじゃあ、メルクリオさんは自分の復讐を果たせないってことか…?」

 

「残念だがそういうことだ。こればかりはどうしようも無い」

 

魔女の言葉をリンが引き継ぐ。

 

「もちろん、メル君もそのことは理解してますよ。メル君は皆と同じように復讐が果たせないことを残念がっていたけれど、諦めるしかないねって。死んだらおしまいだもんねって。そう納得するしか無かったんですわ…」

 

彼女は悲しげな目でメルクリオの顔を見つめていた。

 

「メルクリオの体を侵している毒の解析(かいせき)は、ケイルが既に済ませている。米沢への復讐はお前達がやるんだ。『自分の復讐相手じゃ無い転生者は殺したくない』とか言うんじゃ無いぞ?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「無論だ」

 

答えたのはラーシャだった。

 

「私達が米沢反死(よねざわはんし)を殺す。メルクリオの分も含めてだ。彼は仲間だ。絶対に死なせたりはしない!」

 

彼女の言葉を受け、周りの皆が頷く。リュートも改めて、「バグズフェンサー」殺しを心に誓った。

 

「皆さん、ありがとうございますわ…」

 

 リンの目からは一筋の涙がこぼれていた。

 

 

 

 

 

同時刻 「神の反逆者」ギルド

 

 ギルド最上階の一室、マウントールの自室の開け放たれた窓から大量の虫が部屋に入り込む。虫の群れが集まって米沢反死(よねざわはんし)の姿になる。

 

「ごめんなさい、マウントール……。御手洗ちゃんを…見失っちゃった…」

 

米沢が泣きそうな声で、自室で本を読んでいたマウントールに話しかける。自責の念と、マウントールからの罰への恐怖で、彼の心は押しつぶされそうになっていた。

 

「そうか…。いや、そんな泣きそうな声を出すんじゃあない。確かに見失ったのは良くないことだが、向こうも既に()()()()()()()()()()()()()()()。でなければ見失うなんてあり得ない。まさか、お前がわざと彼女の監視を外した、なんてこともないだろう?」

 

米沢は激しく首を横に振る。

 

「じゃあやっぱり、向こうに何らかの対策をされているんだ。彼女の道のりは途中まで分かっているんだろう?」

 

「うん、途中までなら…」

 

 御手洗には最初、十匹ほどの虫が付いていた。しかし、拠点到達時には半分ほどに数が減っていた。もう半分は既に米沢の元に帰っていたのだ。虫が定期的に御手洗から離れて米沢の元に帰ることで、彼女の位置を大まかに把握するという、名付けて「ヘンゼルとグレーテル作戦」を実行したのである。

 その時、不意に部屋の扉がノックされた。

 

「失礼します、マウントール様」

 

「おお、丁度良かった。入ってくれ」

 

部屋に入ってきたギルドの使用人に、マウントールは封書を手渡す。

 

「これを至急、カセロジャ君の部屋に届けてくれ」

 

「かしこまりました」

 

封書を受け取った使用人は、一礼をして部屋を出て行った。

 米沢はマウントールに尋ねる。

 

「カセロジャって誰?」

 

「以前話した()()()()()()()()()()さ」

 

マウントールは口元に軽く笑みを浮かべる。

 

「新入り投入に良い機会じゃないか。ま、詳しい紹介は明日ってことで」




 というわけで、カセロジャ=クテンハーモンはベストナインの新入りでした。知ってたって?まぁそうでしょうね…。

 (ルール)というのは、この作品世界で覆せない(ことわり)のことです。そのまんまです。「死人をその場で蘇らせることは出来ない」とか「転移転生の次は必ず輪廻転生」とか…。

 以下、作者の愚痴です。読む価値無し。





 はい、というわけで前書きで書いたとおり、某漫画雑誌のレビューをします。
 今月号は「原作者の漫画」が表紙でした。大人気御礼とか(うた)われてましたけど、ネット上に好評の声が見えないんですがどうなってるんですかね?

 今月の「原作者の漫画」を語るには、「本家」との比較は避けて通れません。なぜなら、両作品とも今月号で試合の決着が付いたからです。同じ節目を迎えた二つの作品を見比べて確信しました。「原作者の漫画」が抱える()()()()()()()()()()()です。間違いないです。
 もちろん、作品自体もしょうもないんですが、この漫画は作画担当が駄目です。言っておきますが、絵自体は普通に上手なんですよ。問題なのは作画担当が「女の子が傷だらけになっている絵を描きたくない病」に侵されていることです。
 両作品ともに、試合の決着がつく瞬間はどっちが負けてもおかしくない、と言う状況でした。で、実際に「本家」の方は欠損描写があったり脇腹を貫かれてたりと、ちゃんと満身創痍の状態になっているんですよ。一方で「原作者の漫画」は作画担当が前述の病気にかかっているせいで、「双方ボロボロだから、もう決着がつく」と観戦していた悪魔の女王が言っていた割には、お互いかすり傷みたいな描写でした。
 「死ぬまで殺し合う、という設定ならちゃんと傷だらけでボロボロだと描写しろよ!」って話です。今回の話にも原作者の落ち度があったんでしょうが、それが探せないくらい作画担当の酷さが際立ってました。悪いこと言わないから、こんな漫画の作画担当は辞退して、少女漫画雑誌でラブコメ描いていた方が良いと思う。

 対する「本家」はですね、本当に圧倒されました。勝負の結果は予想通りだったんですが、それでも()()()だけでここまで()()()()()()とは。やっぱり売れている漫画にはそれだけの理由があるんだな、と思いました。ネタバレのため詳しくは言えませんが、感動しました。
 でも、負けた方が使っていた新しい武器は普通にダサいと思う。

 「煮こごり」ですが、さっきボロクソに言った「原作者の漫画」が可愛く見えるくらい酷かった。読んだ後に頭抱えたくらい酷かった。中盤以降がガチで酷い。
 中盤以降の流れを簡単に説明すると、「敵の前に主人公が登場→主人公に敵が攻撃→主人公の仕掛けた罠が発動し敵をはめる→次々と罠にはまった敵が無力化される→さぁ処刑の時間だ」という流れなんだけど、問題だらけでした。
 まず、敵の能力が「舌を伸ばして攻撃する能力」なんだけど、その能力で主人公に攻撃を仕掛けた次のコマで、()()()()()()()()()()()()()。で、次の罠にかかった瞬間の大ゴマでは伸びている、と。「大ゴマ以外も気を抜かないでしっかり描けよ!」って話ですよ。
 主人公の仕掛けた罠も本当に酷い。簡単に説明すると、「敵が踏んでいるカーペットに仕掛けたロープが引っ張られることで、カーペットがめくれて敵の足を取る」罠でした。で、ロープはカーペットの角に結ばれているんですけど、罠が発動したコマ以前のコマで、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んですよ。見えない仕掛けになってたとかでもないんです。()()()()()()()()()()()()()()()()()()んです。それ以前に、このロープの罠について普通に考えたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんですよね。
 多分「いや、この作品は主人公がクラスメイトに復讐する部分が重要なんであって、その前の敵を無力化する場面は前座みたいなもので重要じゃ無いからw」とか作者は考えてるんでしょうけど、そんな甘ったれた考えで商業作品を作るなと言いたい。
 あと最後に一つ。「ミスミソウ」をパクるな。パクるんなら「チートスレイヤー」みたいに堂々とやれ。

 「メイド喫茶の漫画」は相変わらず面白かったです。主人公がバイトするきっかけとなった人物でもある「主人公の友人の妹」(名前だけは以前から登場)が初登場するんですけど、しっかりキャラが立っていました。主人公の「自分でもハッキリしない恋心」についてもしっかり描写できてましたね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その5 「マウントールの戦い」

言うはずが無いだろうそんなことを、俺の家族が!!俺の家族を侮辱…これ本当に言わへんのかな?いや言うかも知れへんわ。キレるの止めとくわ、確信が無いわぁ。言うかどうか分からへんから。


 王都にある「神の反逆者」ギルドの宿舎にカセロジャ=クテンハーモンが帰ってきた。「神の反逆者」所属の転生者である彼は、繁華街で()()()()()()()を満喫し、深夜になって帰宅してきたのだ。

 「神の反逆者」に所属する転生者には宿舎の一室が与えられる。新米の転生者に与えられる部屋でも転生前の世界の一般的なマンションの部屋より広く、一人暮らしをするには困らない。しかし普通の転生者よりも強く、より多くの魔人を討伐しているカセロジャの住む部屋は、その普通部屋の何倍も広かった。無論、稼いだ金でマイホームを別に購入し、家族を作って暮らしている転生者も多いが、彼にとってはこの宿舎の部屋で十分だった。

 体はもう()()()()()()()()()、部屋に帰れば寝るだけだ。そう考えて自室の扉を開けたカセロジャは、郵便受けに封書が入っているのに気付いた。

 

「いよっしゃあああああああああああああ!!!!」

 

 中身を確認した彼は絶叫した。封書はカセロジャをベストナインとして正式に任命する旨の通達だった。深夜に隣の部屋に聞こえるような大声を出し、近くの住人に嫌悪感を抱かれても問題ない。この部屋とは今夜でオサラバなのだから。ベストナインにはギルド本部内にある専用の個室が与えられる。個室は最高級ホテルのロイヤルルームに匹敵する豪華さで、数人の使用人まで付いてくるのだ。

 封書には他に、ベストナインの任命式が明日行われるという通達も書かれていた。

 

 

 

 

 

翌日

 

 朝の身支度を終えたカセロジャは、封書に記された集合場所の会議室へと向かった。ベストナインが普段使用する会議室では無い一般の会議室だったが、そんな小さなことは気にならなかった。正装の必要も無く、普段通りの装いで気楽に来て欲しい、とのことだった。

 指定された会議室の扉を開いた彼を待ち受けていたのは、床一面に広まる魔法陣だった。普段置かれているはずの机や椅子は取り除かれており、部屋の中は魔法陣と5名の転生者以外は何も無い状態だった。5名の転生者とはもちろん、現職のベストナインのメンバーである。序列1のマウントール=フランス、序列2のアシバロン=ボーナス、序列3のアルミダ=ザラ、序列4の米沢反死(よねざわはんし)、そして序列6のギットス=コヨワテ。

 

「ようこそ、カセロジャ=クテンハーモン。それじゃあ早速任命式を始めようか」

 

マウントールはそう言って、魔法を唱える。

 

「『ワープゲート』」

 

足下の魔法陣が輝きを増す。次の瞬間、6名の転生者はどこかに飛ばされ、部屋の中には魔法陣だけが残された。

 

 

 

 

 

 気付くとカセロジャは、見たことも無い場所に飛ばされていた。屋外であることは間違いない。しかし王都では晴れていたはずの天気が、ここでは真っ黒な雲に覆われていた。他のベストナインも共に飛ばされている。彼はマウントールに尋ねた。

 

「あの、任命式を行うんでしたよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「なぜいきなりワープを?というか『ワープゲート』にしては、何かおかしかったですよね?」

 

 通常「ワープゲート」は、浮かび上がった魔法陣が扉の形を成し、それをくぐることで目的地へと到達出来る魔法のはずである。しかし今回の場合、マウントールの魔法を受け、魔法陣の上にいた人間が一斉にワープしたようだった。

 

「ああ、あの魔法陣は『エンチャントワープゲート』って設置式魔法でね。魔法陣の上にいる人間を同時に、同じ場所に飛ばせる便利な魔法さ。一方通行だから帰りは普通の『ワープゲート』を使わなきゃいけないけどね」

 

「そうなんですか」

 

「それからね、敬語を使う必要は無いんだよ?君はもう私達と同じ、『ベストナイン』の同胞なのだからね」

 

「え?マジで?」

 

カセロジャは他のメンバーを見渡すが、誰も反論する者はいなかった。

 

「あ~。ほんじゃあ、もう普通に喋りますわ」

 

「順応が早いね。良いことだよ。じゃあ、ここがどこなのか教えようか。ここはね、アポビス地区にある魔族の集落付近さ」

 

「アポビス地区ぅ!?」

 

 アポビス地区とは、もう何年も前に魔族に占拠された土地である。住んでいた人間は全て魔人によって駆逐され、現在は大量の魔族が生息する危険地域となっていた。

 

「…なるほど。話が見えてきたぜ。ベストナインに入るための最後の試練ってとこか」

 

「違う違う。君の強さはすでに調査済みさ。任命式の最初のプログラムとして、君に私の戦いを直接見せてあげようと思ってね。ほら、よく会社の説明会とかで社員が仕事の技術を披露したりするだろう?それと同じでベストナインになる君に、私の戦いを生で見せてあげようって訳さ」

 

「マウントールさんの戦いを生で!?」

 

「さん付けはいらないよ。私をさん付けで呼ぶベストナインのメンバーはいないから」

 

「あ、ああ…そうなんだな、マウントール」

 

「やっぱり順応が早いね。では行こうか」

 

 魔族の集落は、人間の村があった場所に作られていた。元の村は相当大きな部類だったらしく、広さもかなりのものだ。生息している魔族の数は、1000を優に超えるだろう。普段魔族の群れが10~30匹程度のパーティで行動していることを考えれば、どれだけ多くの魔族がいるのか分かる。

 

「さて、君たちは一切手出しをしなくて構わないよ。私一人で十分だから」

 

 そう言ってマウントールは、自分の武器である双剣を腰から抜いた。

 

「おお、これが噂に聞くマウントールの双剣か…」

 

カセロジャの口から言葉が漏れた。マウントールの双剣「オーディナルスケール」と「アリシゼーション」は一般的な双剣よりも一回り大きく、彼の服装と同じ黒の刀身をしていた。

 

「では最初に敵をおびき寄せるとしようか。『ファイアボール』」

 

「おいおい、マジか…」

 

マウントールの出した「ファイアボール」は規格外の大きさをしていた。普通の「ファイアボール」の大きさがバレーボール程度なのに対して、彼の場合は人間程の大きさがあった。

 マウントールはその大きな火の玉を、魔族の集落に投げつける。大きな音を立てて火柱が上がり、驚いた魔族が一斉に目の前に現われた。

 

「もう一度言うけど、カセロジャは何もしなくて良いから」

 

 その言葉がカセロジャの耳に届いた時にはもう、マウントールの姿は先程までの場所には無かった。驚いて彼の姿を探そうとする間に、目の前の魔族は全て斬殺されていた。

 

「えっ、ええっ!?早…」

 

「おおい!!私はここだ!『ファイアボール』!」

 

声がする方向に顔を向けると、マウントールが村の高台の上に立っていた。彼は魔族を挑発しながら「ファイアボール」を連発する。

 あちこちで火柱が上がり、魔族が次々と出てくる。中には戦闘態勢を済ませた様子の者もいる。戦いなれた個体なのだろう。マウントールは高台から飛び降りると、素早い動きで魔族を次々に斬首していく。反撃を受けることは一切無かった。魔族の放つ魔法は全て(かわ)され、次の魔法を放つ間もなく、その魔族はマウントールの手にかかっていた。

 

「す、すげぇ…」

 

カセロジャは唖然としていた。戦闘開始から5分も経たない間に、200を超える魔族が殺されている。中には魔人もたくさん含まれていたが、マウントールにとって魔族か魔人かの違いなど、利き手の違い程度でしか無いらしい。

 不意にカセロジャは殺気を感じた。数匹の魔人がカセロジャ達に奇襲を仕掛けてきたのだ。向こうも馬鹿じゃ無いらしい。マウントール以外の人間の姿を確認し、戦闘要員では無いと判断して奇襲してきたのだ。最も、その判断自体が間違いだったのだが。

 

「あぁ、やはり一人じゃ無理だったか?」

 

カセロジャは心の中で呟き、奇襲部隊に立ち向かう。ズブッと音を立てて己の人差し指を魔人の頭に突き立てた。そして次の相手へ…、と思ったときにはもう奇襲部隊は全滅していた。

 

「手出しは必要ないって言っただろう」

 

「なっ…」

 

マウントールがいつの間にか(かたわ)らに立っていた。彼はさっきから、一体どれ程の早さで移動しているというのか。

 

「一応、君の獲物は()()()()()()()()

 

マウントールはそう言って姿を消した。次の獲物に向かっていたのだ。

 カセロジャは、ベストナインのメンバーが誰一人その場から動いていなかったことに気付く。彼らには、マウントールが「手出しをしなくて良い」と言ったからには本当に手出しをする必要が無いことが分かっていたのだ。

 

 数分後、マウントールの戦いが終わった。新手が出てくる気配も無い。

 

「全滅…じゃないよな?」

 

カセロジャがつぶやく。ここが魔族の集落である以上、隠れて脅威が去るのを待っている個体もいるだろう。

 

「全滅させる必要は無い。アイツはお前に自分の戦いを見せたかっただけなんだからな」

 

「C’est vrai.」

 

アシバロンの言葉に応えるように、マウントールがカセロジャの目の前に降り立った。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?『その通り』と言ったんだ」

 

「は、はぁ…」

 

カセロジャは言葉が出なかった。瞬殺。この言葉がこれほど相応(ふさわ)しいと思ったことは無い。一切の反撃を許さず、仲間に手出しすらさせず、マウントールは700を超える魔族の死体を築き上げたのだ。

 

「どうだったかな?私の戦いは」

 

「いやぁ、何て言うか…スゴいっスね…、ソレしか言葉が見つからないって言いますか…」

 

「敬語はいいって」

 

「ああ、そうだった。スマン」

 

「順応が早いね。とりあえず…」

 

 マウントールがカセロジャに右手を差し出す。

 

「Je suis content de te rencontrer.」

 

「ええと…」

 

カセロジャにはフランス語が分からなかったが、とりあえず握手の意図は伝わったので、自分も右手を出して握手を交わした。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?『これからもよろしくね』って言ったんだ。正確には『初めまして、よろしく』って意味だけどね」

 

「へ、へぇ…」

 

 彼には敵わないな、と感じるカセロジャだった。




Q.マウントールの双剣の名前について話が…

A.
  ノ从从从从ヽ
 (⌒/゙゙゙゙゙゙\⌒)
 ノイ _  _|ヽ
 彡|ヽ・〉〈・ノ|ミ
 彡|  ▼  |ミ
 彡ヽ _人_ / ミ
`/ヾヽ `⌒′/ ツ\
| ヾ ゙゙゙゙゙゙ ツ |
| | ヾ从从ツ | |
| `――――――⌒)
(\________)
(⌒       ノ
  ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄T
お前それジョジョのスタンドの名前にも同じ事言えんの?

コレガ…「原作リスペクト」…ダ!!
ツイデニ、「チートスアンアン」ガ商業作品ニ到達スルコトモ決シテナイ!コレハ「レクイエム」トハ全ク関係ナイ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その6 「カセロジャの能力」

チートスアンマンチョコ
シール一枚入り 全24種類(シークレット2種)

No.01 リュート                 
No.02 魔女
No.03 ポセイドラ
No.04 レースバーン
No.05 ケイル
No.06 ゴーギャン
No.07 ラーシャ
No.08 ジモー
No.09 メルクリオ
No.10 リン
No.11 マウントール=フランス
No.12 アシバロン=ボーナス
No.13 アルミダ=ザラ
No.14 米沢反死(よねざわはんし)
No.15 スパノ=ヤナティン
No.16 ギットス=コヨワテ
No.17 立花亭座個泥(たちばなていざこでい)
No.18 御手洗幼子(みたらいようこ)
No.19 ルイ=ジュクシスキー
No.20 バニーラ=チョコミクス
No.21 カセロジャ=クテンハーモン
No.22 神
No.23 シークレットその1
No.24 シークレットその2





なにジョジョ?一箱買ってもコンプリート出来ない?
ジョジョ、それは無理矢理コンプしようとするからだよ
逆に考えるんだ
「こんなの絶対ワゴン行きさ」
と考えるんだ
   ____
  _/    ミー、
 / ノノ ノ _ミミ ノ))
`ノ  (( (((rrィニ彡ノ)
(彡ノノノ_ノノノ  ((ソ)
( へノィ赱>ヾソ赱>レノ
| (6ソミ  ̄ノ | ̄ ソ
ヽ|ヒミヽ  r_〉 |
 ∧ l <ッ~~~ッ>/
_/| \\  三テ /
 ヽ \ヽ__/L
  \ \__/|\_
   \ /_>、ハ
    V| V|




 ベストナイン一行はアポビス地区から王都のギルドへと戻ってきた。

 

「さあ、これからカセロジャの任命式をしていくわけだが…」

 

マウントールが口火を切る。場所はいつものベストナイン専用会議室。ここでカセロジャ=クテンハーモンの任命式を本格的に行っていくつもりだった。

 

「ストップ!聞きたいことがあるんだけど」

 

しかしアルミダがそれを遮った。

 

「ふん、やはり豚は段取りを守れないらしい」

 

「いやいや、アレが気にならないわけないじゃない!」

 

そう言ってアルミダは部屋にいた()()()()を指す。

 

「カセロジャ!なんでアンタ、()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 アルミダが指していたのは魔人だった。カセロジャが、先程の戦闘で自身が仕留めた魔人を連れてきていたのである。否、正確には「仕留めた」とは言えないだろう。その魔人は()()()()()()()()()()()

 

「いや、コイツを連れてきた方が俺の能力を説明しやすいんで。大丈夫っすよ?ココで暴れることは絶対無いんで」

 

「そっ、そもそもアンタの能力って一体何なのよ!?」

 

「silence」

 

 マウントールがアルミダを制した。

 

「フランス語だったから分からなかったかな?『静かに』と言ったんだ。彼の能力についてはちゃんと今回説明する。さてカセロジャ、君をベストナインに任命する前に、君にいくつか約束を守ることを宣言して欲しい。今から言う約束事を守れないのならば、君を任命するわけにはいかない」

 

「な、何でしょう?」

 

マウントールの真剣な口調を聞いて、カセロジャは姿勢を正す。

 

「まず一つ目、他のベストナインを殺してはならない。正確には、傷つけることさえNGだ。口喧嘩程度なら私もとやかく言わないが…」

 

マウントールはアシバロンとアルミダをチラッと見て話を続ける。

 

「互いを傷つけ合うような争いは禁止する。無論、毒を盛ったりして殺すことも絶対してはならない。万が一、他のベストナインを殺した場合は…」

 

マウントールは一度言葉を句切り、次の言葉をハッキリと口にした。

 

()()()()()()()()()()()()、そのつもりでいるように」

 

「わ、分かりました。約束します」

 

マウントールの「(すご)み」のある言葉に、カセロジャが気圧(けお)される。

 

「まあ、もし他のメンバーの行動でどうしても我慢できないことがあるなら、その時は私に相談してくれ。次に二つ目だ」

 

 マウントールの口調はいつもの親しみやすいものに戻っていた。

 

「ベストナインのメンバーになることの一番の魅力、それは『自由度の大幅な拡大』だ。ベストナインになれば大抵の行いは許されるようになる。例えば、アシバロンは自身の建設業を営んでいるし、私は報道に口を出したりしている。君もベストナインになったからには、やりたいことがあったりするんじゃないのかな?」

 

カセロジャは頷いた。彼はベストナインの立場を利用して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

「そこで二つ目の約束、他のメンバーの自由を害してはならない。例えそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

マウントールは最後の言葉のトーンを低くして言った。カセロジャは約束を守る宣言をした。

 

「よろしい。その代わり君の自由も侵害されないからね。そして3つ目、自分の特殊能力については正直に話すこと。これは信頼の証だよ。ベストナインのメンバーにとって最も大切なことは、無論『戦闘能力の高さ』だが、だからと言って信頼が無くてもいい訳では無い。分かるね?」

 

「はい」

 

カセロジャは肯定する。

 

「もし周りにどうしてもバレたくない何かがあるのならば、その時も私に相談してくれ」

 

「分かりました。でも、そういうのは特に無いなぁ」

 

カセロジャが答えた。

 

「じゃあ()()()()()()()()()()、ここで君の能力を発表してもらうよ。気にしているメンバーもいるみたいだからね」

 

 マウントールはアルミダを再度チラ見した後、言葉を続ける。

 

「それじゃあ最後、()()()()()()だ。最近、私達ベストナインは()()()()()()()()()()()()()()。その問題に対応するために最近作った、と言うより作らざるを得なかった約束なんだが…」

 

彼は少々もったいぶった言い方をした。

 

「ま、端的に言うと、『ベストナインの間で機密事項となった出来事について外で話すことを固く禁ずる』ということだ。企業秘密みたいなものかな、分かるだろう?」

 

「は、はい…」

 

マウントールがまたしても真剣な口調をするので、カセロジャの表情も硬くなる。

 

「どんなに親しい人間だったとしても話してはいけない。酒に酔ってつい、なんて言い訳も通用しない。機密事項について話すのは、ベストナインの会合の時だけだ。もしも誰かに話した場合は…」

 

マウントールはハッキリと言った。

 

「やっぱり()()()()()()()()()()()()()()()()から、覚悟してくれ」

 

この言葉はカセロジャだけでなく、他のメンバーに向けての警告でもあった。

 

「わ、分かりました。断じて言いません」

 

カセロジャは最後の約束も守ることを宣言した。

 

「よし、約束事は以上だ。ふう、堅苦しくなってしまったな。でも内容上、どうしてもね。なに、心配はいらないよ。世界征服や大量殺戮の計画をしている訳じゃないんだから。ハッハッハ」

 

マウントールは口調を再び戻して笑った。

 

「は、はい」

 

「笑い所だよ?それに丁寧語もいらないからね」

 

「ああそうだった」

 

「じゃあ、私が長く話したから今度は君が話す番だね。君の能力を発表してくれ」

 

 マウントールはリラックスした様子で、聞く側に回った。

 

「じゃあ、俺の能力を説明しようか」

 

カセロジャも敬語を捨てて話し始める。

 

「まず、この中に()()()()()()()()()()()って種類の(はち)を知っている人って…い、いるかな?」

 

沈黙。

 

「あ~、いないとなると話が面倒くさいんだけど…」

 

「そう言えば聞いたことがある」

 

そう言ったのは米沢反死(よねざわはんし)だった。

 

「知っているのか米沢!?」

 

「う、うんアシバロン。たしか転生前の、元の世界のナントカって所に生息する蜂で…」

 

「情報量0」

 

米沢はアルミダの横槍を無視して話す。

 

「その蜂はゴキブリを使って子孫を増やすんだ。まずその蜂はゴキブリに自分の針を刺して毒を注入する。するとゴキブリは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。そして蜂はゴキブリを巣穴まで連れて行き、体内に卵を産み付ける。卵から(かえ)った幼虫はゴキブリを食べて育つんだ。だったよね?カセロジャ」

 

「ああ、それそれ。合ってる合ってる」

 

カセロジャが頷いた。

 

「体は生きているのに思考は完全に蜂の思うがまま。このことからエメラルドゴキブリバチは()()()()()()()()()()()()()って呼ばれてるんだ」

 

「よく知っていたな、そんなこと」

 

 アシバロンが珍しく感心した様子で、米沢に言葉をかける。米沢も嬉しそうな口調で答えた。

 

「む、昔読んでた漫画に出てたんだ。題名は思い出せないんだけど…」

 

「ああ、そこまでの情報はいらん。漫画など読まないからな」

 

「と、とにかく助かったよ米沢。だいぶ説明が楽になった」

 

 カセロジャはそう言って説明を続けた。

 

「俺の能力はエメラルドゴキブリバチと似たようなモンで、『毒を流し込んだ魔族の思考を完全に奪い、俺の言う通りにしか動かないゾンビにする能力』だ。名前は『屍生魔人工場(ゾンビファクトリー)』」

 

彼は右手の人差し指の爪を皆に見せつける。爪が鋭く伸びたかと思うと、段々黒く変色していく。完全に黒になったかと思うと、爪から黒い液体が(したた)り落ちた。

 

「こうして、自分の爪から毒を流し込むことで能力が発動する仕組みなわけだ。弱点としては、頭に流し込まないとゾンビ化出来ないことかな。最初は相手を半殺しにしてから毒を注入してたんだけど、今は相手が全快の状態でも頭を狙って毒を流し込めるようになった」

 

そう言ってカセロジャは、例のゾンビ化した魔人の横に立つ。

 

「試してみよう。三回回って土下座しろ」

 

魔族は彼の言う通り、その場で三回回って土下座した。

 

「何か試してみたいこととかある人?」

 

カセロジャが尋ねると、意外なことにギットスが答えた。

 

「バク宙は?」

 

「バク宙かぁ…。コイツに出来るかな?()()()()()()()()()()()()()()()()ってのも欠点なんだよな」

 

そう言うカセロジャだったが、彼がバク宙を命令すると魔人は綺麗にバク宙して見せた。元々奇襲部隊だったので、運動神経は良かったのだろう。

 

「もっと複雑なことも出来るぞ。例えば、『皆の昼飯を厨房から運んでこい』とか…」

 

その命令に従って会議室を出ようとした魔人を、彼は慌てて止めた。

 

「オイオイオイオイ、やらんでいいのよ!知らない人が見たら混乱招くだろうが!馬鹿が」

 

彼はそう吐き捨て、他の人のリクエストも聞く。皆のリクエストを魔人に一通りやらせ終えた彼は、(ふところ)からナイフを取り出し、魔族に手渡す。

 

「最後に、こんな残酷なことだってできるんだぞって事で…『そのナイフで首切って自殺しろ』」

 

魔人は彼の命令に従い、自らの命を絶った。

 この様子を見たアルミダが口を開く。

 

「怖いわねぇ~。その能力を使えば私も思い通りってこと?止めて!乱暴する気でしょ?」

 

「するわけねぇだろ。勝手に舞い上がってんじゃねぇよ」

 

こうしてカセロジャは初めてアルミダを怒らせた。

 

「そもそも俺の毒は魔族にしか効かないし。でもその代わり、どんな命令だろうと聞かせることが出来る。これが俺の能力『屍生魔人工場(ゾンビファクトリー)』」

 

 ドヤ顔をするカセロジャに対し、マウントールは拍手をする。

 

「どうだ皆。面白い能力だろう。彼をスカウトしたのはこの能力と基礎戦闘力の高さからだよ。ところで…」

 

彼は床に横たわる魔人の死体を見て言った。

 

「今度からこの会議室を汚すようなことは避けて貰いたいね、カセロジャ=クテンハーモン」




 もともとボツ転生者だったカセロジャのボツ理由は「作中世界では死者の生き返りが無い以上、ゾンビも存在しないから」でした。彼の能力をどうするか。悩む私に声が聞こえてきました。

「なに3S?ゾンビが存在しないから能力が作れない?3S、それは無理矢理生き返らせようとするからだよ。逆に考えるんだ。『生きたままゾンビ化させればいいさ』と考えるんだ。ボクみたいにね~」

「ありがとう。でもスパノの能力の時に君の仲間から能力をパクった以上、カセロジャでもパクったら読者から呆れられちゃうよ」

「え~?そんじゃあ知~らない。バイバイ!」

「ええ…」

 私がカセロジャの能力を思いついたのはそれから1分ほど後のことでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その7 「ベストナインとは」

 皆さんにお知らせがあります。土曜日に私はワクチンの二回目を接種します。なので、土~月は更新が行われないものだと思っていて下さい。
 以前もお話ししましたが、一回目のワクチン接種の副作用で37.5度の熱が出て、ダウンしていた私です。一回目で副作用が出る人は(少なくとも私の周りでは)あまりいないみたいで、二回目は更にひどい副作用が出るそうです。
 仮に私が死んだ場合、今後の更新は行われません。このアカウントのことは他人には知らせていないので、お知らせも行われません。
 もし更新が行われなくなった場合は、「アイツ死にやがったかw『チートスレイヤー』なんてクソ作品の二次創作なんて書いてるからこうなるんだwざまぁねぇわw」とでも思っていて下さい。


 カセロジャ=クテンハーモンのベストナイン任命式は順調に進み、終盤へと差し掛かった。

 

「さて、それじゃあカセロジャの序列を決めようか」

 

「えっ?」

 

マウントールの発言にカセロジャが驚きの声を上げる。

 

「どうかしたかな?」

 

「いや、今この場に『決めつけ講談師』と『ロリロリポップキャンディ』がいない状態で俺の序列なんて決めていいんか、と思って…」

 

「ああ、それなら気にすることはないよ」

 

マウントールは笑って答えた。

 

「君は既にギットスと同程度の強さを持っていることが判明している。だから君の序列は6、もしくは空席の5になることが決まっているのさ」

 

「そうだったのか」

 

カセロジャが納得する。

 

「そうだ。いい機会だから、どうしてベストナインに序列が存在するのかも説明しておくか」

 

 そう言ってマウントールは語り出した。

 

「そもそもベストナインは、『神の反逆者』ギルドの最高幹部という位置付けだ。だからベストナインのメンバーは序列に関わらず、ギルド内での立場は同じだ。序列2だから序列9より偉いとかでは無いんだよ。まぁ例外として、序列1の私はギルドの最高位に立つ人間だから、他のベストナインよりも偉い立場にいることになるんだけどね」

 

「なるほど」

 

カセロジャもこのことは知っていたが、ここは頷いておく。

 

「君に『敬語は必要ない』と言ったのもこのためさ。なら何故ベストナインに序列が存在するのか。それはね、ベストナインになった後も研鑽(けんさん)を積むことを忘れて欲しくないからだよ」

 

「なるほど」

 

このことはカセロジャも知らなかった。

 

「困るんだよ。『ベストナインである自分は誰よりも偉いんだ』って考えて強くなることを放棄する人がいるとね。そうじゃない。ベストナインだからこそ、誰よりも強くなくてはいけない。序列があると、皆が研鑽を積むことを忘れなくなる。序列の低い者は更に上の序列を目指す、序列の高い者は低い者に追い越されぬよう努力する。そういう構図が出来上がるんだ」

 

 実際には、彼の言う構図が成り立っていたのは序列4以下においてのことで、序列1から3は既に定着してしまっていた。理由はマウントール、アシバロン、アルミダの三人が桁外れに強く、追い越せる者がいないからだ。アシバロンがアルミダよりも序列が上なのは、彼がこの世界の建築技術の発展に貢献していることが評価されているからである。アルミダとしては不満でしかないが、彼女に何か魔人討伐の他に自慢出来るような功績が無い以上、序列3を泣く泣く認める他無かったのである。

 閑話休題、こうしてカセロジャの序列決めが始まった。

 

「さて、カセロジャを6にしてギットスを5に繰り上げるか、それともカセロジャを空席の5に入れるか。カセロジャ、君はどっちがいいかな?」

 

「え?そりゃあまぁ、出来るなら序列が高い方が良いんだが…」

 

マウントールの質問にカセロジャが答えた。

 

「なるほど。ギットス、これは君の序列にも関わる問題だ。新入りの彼が空席の5に入ってもいいかな?それともやっぱり不満かな?」

 

「俺はどっちでもいいけど。そもそも序列って…そんなに重要か?」

 

「相変わらず、プライドのかけらも無い男だ」

 

ギットスの回答に対し、アシバロンが呆れたように言う。

 

「いいじゃないかアシバロン。ベストナインに相応しい力を持っているなら、ギットスがどう思おうと自由さ。それじゃあカセロジャの序列は5に決定だ。他の序列は変更無し、ということだね」

 

 満足そうに言うマウントールだったが、彼は次の言葉を今日一番の真剣な口調で口にした。

 

「それじゃあ、これが最後だ。カセロジャ=クテンハーモン。君はベストナインとして、ギルドの、いや世界中の人間の憧れの存在として、自身の強さを(もっ)て魔人討伐に(はげ)むことを(ちか)えるかな?」

 

「そりゃぁもち…」

 

「おっと、簡単に決めないでくれ」

 

カセロジャの言葉を彼は遮った。

 

「断っておくけどね、ベストナインはサークルじゃ無いんだ。お遊びの集まりじゃあ無いんだよ。ギルドのメンバーの誰が抜けようが、私としては構わない。だがベストナインはそうはいかない。ベストナインに一度入った以上は、抜けることは許されない。アルバイトじゃ無いんだからね。引退とか勇退とかも無い。スポーツ選手でも無いんだ。ベストナインは死ぬまでベストナインだ。『ベストナインを抜ける自由だけは存在しない』と言ってもいい。いいかい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

マウントールの真剣な口調を耳にし、カセロジャはゴクリと(つば)を飲む。

 

「どんな理由があろうと、だ。それでも君はベストナインとなることを誓うかい?」

 

 彼は決して威圧はしなかった。自身の放つプレッシャーに負けて相手に誓いをされては後々困るからだ。最後の選択は、あくまで相手の自由意志に任せた。

 カセロジャは息を大きく吸って、答えをハッキリと口にした。

 

「誓う。俺はベストナインの序列5、カセロジャ=クテンハーモンだ!」

 

「そうか。ではこれからよろしく頼むよ、カセロジャ=クテンハーモン」

 

 マウントールはニコリと笑って右手を差し出す。カセロジャも右手を差し出し、二人は握手を交わした。

 

「さて、それじゃあ任命式はこれで終了だね。それじゃあこの書類全てに目を通して、明日中に提出すること」

 

 マウントールはカセロジャに書類の束を手渡した。

 

「うげ、この世界でもこういうのあるのかよ…」

 

「何事も口約束だけじゃ成立しないのさ」

 

「はぁ。ええと、今ここで書けと?」

 

「ノンノン、自室で書いてくれて大丈夫だよ。ああそうだ、新しい部屋を紹介しなくてはね」

 

 マウントールは使用人を呼び、カセロジャを新しい自室へと案内するよう命じた。

 

 カセロジャが会議室を立ち去ったのを確認し、マウントールは深く息を吐いた。

 

「ふう。とりあえずこれで、新しいベストナインの誕生だな」

 

「そのようだな」

 

アシバロンがそう答えた以外は、誰も口を開かなかった。

 

「なんだい、誰も『お疲れ様』の一言もくれないのかい?これでも結構疲れるもんだよ?」

 

「あ、ああ、ごめんなさい。お疲れ様、マウントール」

 

 米沢が慌てて(ねぎら)いの言葉をかけたが、他の者は続こうともしない。

 

「ふん、この程度で疲れててどうする」

 

「ベストナインは強さが全て、なんでしょ?」

 

アシバロンとアルミダにいたっては、軽口を叩く始末だ。

 

「やれやれ。まあ、しょうが無いね。もう私に労いの言葉をくれるようなメンバーもいないわけだ」

 

 マウントールはそう言って、空席の序列7と8の椅子を見た。

 

「御手洗も結局ダメだったわけだな?」

 

アシバロンが尋ねる。

 

「そうだね。もう三日以上ギルド(ここ)に戻ってきていない。長くても二日以内には一度顔を見せるように伝えていたし、米沢も彼女を見失ったと言うから、捕まったと考えていいだろう。最悪、殺されているかもしれないね」

 

「知らん、そんなことは俺の管轄外だ」

 

「冷たいね、アシバロン。まぁ、もう仲間を心配するようなメンバーも残っていないわけだな」

 

 マウントールが再び息を吐いた。

 

「で、どうするつもりだ?」

 

 アシバロンがマウントールに尋ねる。

 

「もちろん、カセロジャには本当のことを伝えるよ」

 

「そういうことじゃない。二人の捜索をどうするのか、という話だ」

 

「え?正気かい?アシバロン」

 

マウントールが意外そうな声を上げる。

 

「勘弁してくれよ。これでようやく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。今日から新生ベストナインってことで心機一転、頑張る方向で良いんじゃないかな?」

 

「ふざけるな!」

 

 アシバロンの突然の怒号に対し、ギットス以外の全員が驚きの表情を浮かべる。

 

「…まさか、アシバロンがそんなに女性陣を大切に思っていたなんてね。それならアルミダのことを豚呼ばわりすることも止めたらどうだい?」

 

「そういうことじゃない。()()()()()()()()()()ということだ」

 

呆れた様子のマウントールに対し、アシバロンは真剣な態度を崩さない。

 

「お前は立花亭や御手洗のことを、勝手に辞めたアルバイトか何かだと思っているのか?『ベストナインはアルバイトじゃ無い』と先程言ったのは、お前だろうが」

 

「アシバロン…」

 

「二人の現状も分からないままで、世間にどう伝えるつもりだ?死んだと報道するのか?その後アイツらが出てきたらどうするんだ。行方不明扱いか?短期間ならそれで誤魔化せるかもしれないが、お前のことだ。そのまま()()()()()()()終わらせるつもりだろう。世間はそれじゃあ納得しない。ベストナインは世界中から尊敬される存在なんだろう?メンバー二人の消息も明らかに出来ない組織のどこに威厳があると言うんだ!」

 

アシバロンの言葉をマウントールは真剣に聞いていた。やがて彼は姿勢を正して、真剣な口調でアシバロンに答えた。

 

「そうだな。私が間違っていたよ。立花亭と御手洗の二人が消息不明なままでは世間に申し訳が立たない。すまなかった、アシバロン」

 

「何てことは無い」

 

マウントールの真剣な謝罪を聞き、アシバロンの口調もいつもの調子に戻った。

 

「君には頭が上がらない。私が間違った道を行こうとしたときにはいつも君が正してくれる。私が死んだら、ギルドのトップは君だな」

 

「下らん。有りもしない例え話をしてる暇があるなら、作戦でも考えていろ」

 

「…僕が探すよ」

 

 唐突に口を開いたのは米沢だった。

 

「前にも同じような発言を聞いたな。そもそもお前は今まで散々探して成果が無い状態だろうが」

 

呆れるアシバロンに対し、米沢は真剣な口調で言葉を返す。

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()。今までの、通常業務をしながらの捜索じゃ無くてね。だからマウントール、しばらく僕に魔人討伐業務の休止を許可して欲しいんだ」

 

米沢の要請に対して、マウントールが答えた。

 

「よし、許可しよう。その代わり、どんな情報でも良いから持ち帰るんだぞ」

 

「ありがとう、マウントール」

 

 米沢がそう言うと、彼の体は黒い虫の大群へと姿を変え、方々に散っていった。




 ベストナインの序列について、少し裏設定をお伝えします。
 ベストナインのメンバーが自らの序列を上げるには二つの方法があります

1、下の序列のメンバーの実力及び功績が上の序列のメンバーより確かに上であると、マウントールから認められる。

2、上の序列のメンバーの合意の上で決闘を行い、下の序列のメンバーが勝てば序列が入れ替わる。上の序列のメンバーが勝てばそのまま。

 2の方法を取る場合、まずマウントールにその要望を申告する必要があります。その上で彼の立ち会いの下で決闘が行われます。この時だけは、メンバー同士の傷つけあいが許可されますが、相手を殺すのは厳禁です。
 この物語の初期メンバーの中で、序列入れ替えの決闘が行われたのは一回だけです。序列5のスパノ=ヤナティンが序列4の米沢反死(よねざわはんし)に決闘を申し込みました。この際、米沢は珍しく激怒し、()()()()()()()()()()()()()()()()
 なお、序列9のルイ=ジュクシスキーも何度か序列入れ替えを申請しましたが、彼を嫌っているマウントールは認めませんでした。やがてルイは「ベストナインでいれるならばそれで良い」と考えるようになり、行動を起こさなくなりました。こうしたマウントールの冷たい態度がルイの蛮行のを苛烈な物にさせたのではないか、とアシバロンや御手洗は考えているようです。





 それでは皆さん、百年後(ひゃくねんご)まで御機嫌(ごきげん)よう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その8 「魔女の次の手」

副作用「死ねい!3S曹長!!」

3S曹長「くっ!死ねるかよ!私は死なないっ!!話しの続きを待ってくれている読者のためにも!!」

副作用「知るか!死ねい!3S曹長!!(2度目)」

ドン!!

3S曹長「グフッ!?」

ジゼル「3S!!?」

3S曹長「ハァ…、すまなかったなァ。約束守れなくってよ…!」

剛「お前絶対死なねェって…!!!言ったじゃねェかよォ3S曹長ゥ~!!!」

ジョースター卿「必ず生きて次の話を投稿すると言っていたじゃあないか!読者との約束も守れないなんてそれでも紳士かね!?」

3S曹長「ジジきゅん…!!!剛…!!!そしてジョースター卿…、今日までこんなどうしようもねェ私を、鬼の血を引くこの作品を…!!」
3S曹長「愛してくれて………ありがとう!!!」

アデク「でもお前のことを愛してくれている人間なんて現実にいないじゃん」

3S曹長「っ!…クソザコチャンピオンの…分際で……」

ガクッ


3日後

 

 朝に魔人討伐へと向かったはずのジモーが、昼頃に慌てた様子で拠点へと戻ってきた。

 

「どうしたジモー?何かあったのか!?」

 

この日の拠点警備係(平たく言うなら休み)だったゴーギャンが声をかける。

 

「魔女は今日、昼間の見張りだったな!?」

 

「そうだが…」

 

「頼む、ゴーギャン!魔女と至急代ってくれ!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

「何と!」

 

「以前ラーシャが言ってた、カセロジャ=クテンハーモンってヤツがそうだった!新聞に記事が載ったんだ!」

 

ジモーの手にはサクワ新聞が握られていた。事情を知ったゴーギャンは大急ぎで魔女と役割を交代する。

 魔女はジモーから新聞を受け取ると、記事の全文にじっくりと目を通した。

 記事の内容は、カセロジャがベストナインの序列5として正式に任命されたこと、カセロジャのこれまでの主な功績、本人や他のメンバーへのインタビュー、(おおやけ)の前で行われる任命式が明日開かれること、これで全部だった。

 

「ふむ、新聞からの情報では十分とは言えないな」

 

「何ですとぉ!?」

 

新聞から目を離した魔女の発言に対し、驚きの声を上げるジモー。

 

「無論、新入りが(くだん)のカセロジャだと分かったのは大きい。だが私達にとって重要な、能力の詳細や転生前の情報については載ってない。ハッキリ言って、ヤツの序列や功績などどうでもいいことだ」

 

確かにそうだ、と納得しながらジモーが言葉を返す。

 

「他の魔人討伐メンバーが今、町で聞き込みをしている。つっても、王都から離れた町だからあんまし期待出来ねぇけどな」

 

王都はベストナインの本拠地だ。アシバロン襲来後、テンスレのメンバーは誰一人王都に足を踏み入れていない。

 

「…今日の夜、作戦会議を行う。夜間の監視役以外は全員集合だ。」

 

魔女はしばらく思案した後、こう結論付けた。

 

 その日の晩、夕食後に緊急の作戦会議が開かれた。夜間の監視役であるリュートとゴーギャン以外の全員が揃っていた。

 

「さて、今日の新聞にベストナインの新入りがカセロジャ=クテンハーモンであることが発表された。以前も言ったが、私はこの男については何も知らない。聞き込みでも大きな成果は得られなかった。そうだな?」

 

聞き込みを行っていたラーシャとバニーラが頷いた。

 

「つまり私達にとっては、()()()()()()()()()()()()()()というわけだ。ケイル、あれから何か分かったことはあるか?」

 

話を振られたケイルが答える。

 

「あの事件からまだ日が浅いので、分かっていることは少ないです。ただ、カセロジャの手にかかった魔族の脳内からは普段の魔人の脳内に見られない物質が検出された、ということは判明しました。今はその物質について調査を進めている状況です」

 

「ケイル、その物質がヤツの能力に関わる物だとするならば、成分の分析などはあまり意味を成さない。神がヤツ専用に与えた物質だからな。その物質の働きを調べることに時間を費やした方が良いだろう」

 

魔女はケイルにアドバイスをし、話を続ける。

 

「さて、こちらもウカウカしてはいられない。次の行動に移らなくてはな。というわけで、次のターゲットは米沢反死(よねざわはんし)だ」

 

彼女がアッサリと次のターゲットを発表したので、驚いたメンバーも少なくなかった。

 

「米沢は分からないことが多いから危険だ、と以前言ってなかったか?」

 

ポセイドラが尋ねる。

 

「確かに以前はそう言った。だが今は状況が違う。立花亭と御手洗を捕獲して情報を得たことで、私は米沢をターゲットに決めたのだ」

 

魔女が説明を始める。

 

「一つは、『ヤツの監視を潰すことが最重要事項だ』と考えたからだ。二人の情報から、ベストナインにとっての情報源が米沢だけであることが判明した。ヤツ一人が情報の担い手ならば、早めに潰すに越したことは無い。もう一つ、『二人の情報からは私の知りたい情報がほとんど得られなかった』ことも大きい。以前は、『米沢に関しては分からないことが多いから、ターゲットにするならばもっと情報を得てからだ』と考えていた。だが、二人の元ベストナインという、超ビッグな情報源を(もっ)てしてもヤツの情報は得られなかった。(ゆえ)に私は『これ以上頑張っても米沢の情報を得ることは不可能だ』と判断した。ならば後はもう戦うしか無いだろう?」

 

彼女の言葉を聞き、皆が納得する。「分からないから後回し」だった以前とは違い、「分からないからこそ早めに叩く」時期に突入したということだ。

 

「それに、向こうもメンバー二人の消息が分からないのはマズいと思ったらしい。米沢の監視の厳しさは以前よりもさらに増しているぞ。その証拠に一昨日(おととい)、殺虫剤のカーテン付近で虫の死骸を見つけたな?」

 

 最近のことだったので、このことは皆覚えていた。

 

「そしてついさっき、地下室でこんな物を見つけたぞ」

 

そう言って魔女は(ふところ)から何かを取り出した。それは()()()()()()()

 

「立花亭と御手洗を監禁し始めたことを考えれば、偶然とは考えられまい。地下室から出入りを続けている限り拠点の位置はバレないだろうが、米沢を消すなら早いほうが良い」

 

魔女の言う「米沢を殺すべき3つの理由」を聞いて、皆が彼女の意見に賛同した。

 

「作戦は決めてあるのか?」

 

 ラーシャが魔女に尋ねる。

 

「無論だ。名付けて『人質交渉作戦』だ」

 

「…要するに、立花亭と御手洗を(おとり)に使うというわけか」

 

「正解だ、ラーシャ。作戦は、以前の拠点跡地で行う」

 

魔女の言葉を聞いたポセイドラが苦い顔をする。以前の拠点跡地ということはつまり「レースバーンの没地(ぼつち)」であり、「ポセイドラがアシバロンに苦汁を飲まされた場所」でもあるからだ。

 

「どうしてまた、そんな縁起の良くない場所で?」

 

ポセイドラの聞きたかったことを、ケイルが代わりに尋ねる形となった。

 

「あの後、あそこに行った者はいるか?あそこはな、レースバーンの自爆魔法で辺り一面吹き飛んでいたんだよ。つまり、()()()()()()()()()()()()()ということだ。あそこを囲う形で結界魔法を張れば、万が一の取りこぼしも起きない」

 

確かに、米沢の虫を取りこぼさない為には「何も無い更地(さらち)」を戦地に選ぶのが良い。更に言えば、「以前負けを喫した場所をあえて選ぶ」という意味でも敵の意表を突けるかもしれない。そう考えると、魔女の指摘した場所がピッタリなようにポセイドラにも思えてきた。

 

「まず、敵のギルドに封書を送る。スパノの時と一緒だ。文面は『立花亭と御手洗を返してやっても良い。返して欲しくば、指定の日時と場所に米沢反死(よねざわはんし)一人で来ること。もし別の人間が来た場合は、二人の命は無い』だ」

 

 以前のパン祭りと比べて文面が物騒だ。だがそんなことよりも気になる点をケイルが指摘する。

 

「そんな命令にマウントールが大人しく従いますか?普通に二人を見捨てるのでは?」

 

「可能性は0では無いが、かなり低いだろうな。なぜならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」

 

魔女が反論する。

 

「マウントールからしてみれば、すでにルイとスパノを失っている状態で、大して間を置かない内にベストナインを更に二人も失うことは避けたいだろう。もしそうなれば、世間の信用失墜は避けられないからな。二人が行方不明な今の状況も、ヤツにとってはかなりマズいはずだ」

 

彼女の言葉を聞き、ケイルも納得する。

 

「拠点跡地全域を囲うように、事前に結界魔法を張っておく。立花亭と御手洗は十字架に縛り付けておき、戦闘要員全員が周囲に待機。私は十字架の下の台座に隠れて『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』を発動しておく」

 

「でも今まで通り『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』が発動する保証は無いんだろ?」

 

ジモーが口を挟む。

 

「その通りだ。ハッキリ言って、この先がどうなるかは私にも未知数だ。私達全員が死ぬ未来もあるかもしれない」

 

 魔女は最悪の予想をハッキリと口にした。

 

「だが予想を立てれば立てるほど、負ける可能性は減っていく。私も馬鹿じゃ無い。分からないなりに米沢の能力についてはある程度予想をしておいた。だが、私一人では不十分だ。皆の力が必要だ。皆で意見を出し合い、勝利を確実にするのだ」

 

彼女が明確に周りを頼る言葉を口にしたのは初めてだった。だがそれを(こば)む者は誰もいない。勝ち難い敵を相手にする時こそ、結束が試されるのだ。皆が口々に賛同の意を示した。

 次の瞬間、拠点が大きく揺れた。

 

「何だ!?地震かぁ!?」

 

ジモーが大声を上げたが、そうでは無かった。

パリーンと大きな音がして窓ガラスが割れ、大きな魔族の手が伸びてきた。

 

「俺が出る。誰か『ワープゲート』を頼む」

 

ポセイドラの要請を聞き、ラーシャが一緒に地下室へと向かう。

 間を置かず、外でポセイドラの『エンチャントウォーター』の魔法を唱える声が聞こえ、魔族の断末魔が聞こえた。

 地下室から戻ってきたポセイドラが伝えた。

 

「ただのはぐれ魔族だ。餌場(えさば)を見つけて寄ってきたらしいな」

 

報告を聞いた皆が胸をなで下ろす。

 

「すぐに窓を塞がねばな。虫が入ってくるかもしれん」

 

 魔女が迅速に指示を出した。




 というわけで、残念ですが死ねませんでした。
 引き続き私の連載作品「異世界転生殺し チートスレイヤー アナザーミッション(VSアナザーベストナイン)」をお楽しみください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その9 「1と5、2と4」

マン・イン・ザ・ミラー、「異世界転生者殺し チートスレイヤー」が外に出ることを許可しろォーッ。だが!不快な要素は許可しないィーッ。人を不快にさせる恐れのあるコマが出ることは許可しないィーッ!!


 カセロジャはマウントールから渡された書類への署名を期日内に全て終わらせてきた。

 彼から書類を渡されたマウントールはその場で全て目を通し、彼に声をかける。

 

「うん、全て問題なかったよ。これで書類上でも正式に、君はベストナインのメンバーとなったわけだ」

 

「まぁ、全部署名だけだったんで、終わらせることが出来たって感じだけどな…」

 

カセロジャが気怠そうに答えた。

 

「それじゃあ今晩早速、ベストナインの会合に参加して貰うよ。結構重要な議題だからね」

 

「なんすか?私、気になります!」

 

「まあまあ、全員揃ってからだよ」

 

マウントールは微笑みながら答えた。

 

 その日の夜、いつもの会議室にベストナインが集結した。空席だった序列5の席にカセロジャが座り、序列1から6までの席が全て埋まる。

 

「Bonsoir.さて、早速米沢の報告を聞きたいところだが、新しく仲間になったカセロジャを置いてきぼりにしないよう、今の我々(ベストナイン)の状況を彼に伝えようと思う。さてカセロジャ、今の状況を見て何かおかしな所があることに気がつくかな?」

 

マウントールに問いかけられたカセロジャが答える。

 

「えっと、序列7の立花亭座個泥(たちばなていざこでい)と序列8の御手洗幼子(みたらいようこ)がいないってこと…か?」

 

「Vous avez raison.正解だ、カセロジャ。単刀直入に言うとだね、彼女たちは現在行方不明だ。もしかしたら殺されているかもしれない」

 

「はぁ!?」

 

カセロジャが驚きの声を上げる。

 

「驚くのも当然だろうが、これは真実だ。そして、二人が行方不明だという話も含めて、これから話す内容は全てベストナインの機密事項だ。後は…言わなくても分かるね?」

 

「他の人に話したらアンタに殺される。そういう内容の話って事だな?」

 

カセロジャの額から冷や汗が流れ落ちる。

 

「その通りだ。では話そう。半年ほど前、魔人との戦闘でルイ=ジュクシスキーとスパノ=ヤナティンが殉職したという話、あれは真実では無い。二人は何者かに殺された、というのが事の真相さ」

 

「は?」

 

 普通の人ならば、「あんなに強い二人が誰かに殺されるなんてあり得ない!」と言う所だろう。しかし、二人に並ぶ強さを持っているカセロジャはそのような反応をしない。彼の抱いた感想は、「俺と同じくらい強い転生者の仕業なのだろう」だった。

 

「その『何者か』って転生者だよな?他のギルドのカチコミか!?」

 

「そこまでハッキリとしたことは分からないが、アシバロンが戦った感想としては、相手は転生者とは考えにくい、だったよね?」

 

「ああ、ヤツらは俺との戦いで特殊能力を一切使わなかったからな。まさか全員が非戦闘能力ということもあるまい」

 

アシバロンの答えを聞き、カセロジャは更に混乱する。

 

「はぁ!?何の能力も持たない現地人がベストナインを二人も殺したと?ってか、アシバロンはそいつらと戦ったことあんの!?」

 

「ああ、すまないカセロジャ。順を追って話そう」

 

そう言ってマウントールはこれまでの流れを説明し始める。ルイの死から始まり、スパノの死、アシバロンの戦闘、転生者の能力封じの仕組みとその対策、そして立花亭と御手洗の失踪…。

 

「以上が、これまでの流れだ。判明していることをまとめた資料を後で渡すから目を通しておくように。もちろんその資料も他人に見られてはいけないよ」

 

そう言ってマウントールは、状況を整理し始める。

 

「とりあえず立花亭と御手洗については現状、生死不明の状態だ。ルイとスパノのように死体が見つかってないからね。世間の混乱を防ぐためにも、一刻も早く二人を見つけ無ければならない。ということで本題だ。米沢、成果はどうかな?」

 

 話を振られた米沢が口を開く。

 

「えっと、とりあえず魔人討伐中のリュートを見つけたんだ。後は()()()()()と、初めて見る女性が一人…」

 

「ン!?睡眠薬?」

 

話を遮ったカセロジャの声を聞き、マウントールが補足する。

 

「ああ、やっぱりダメだな私は。初参加の人間がいるっていうのに話を急ぎすぎる。カセロジャのためにも下手人集団、通称『魔女の集団』のメンバーについて話しておこう」

 

なんだか物騒な集団だ、と「魔女の集団」という単語を聞いたカセロジャは思う。

 

「詳細はこの後渡す資料を読んで貰うとして、簡単な特徴だけ紹介しよう。まずは仲間から『魔女』という名前で呼ばれている女性だ。彼女がリーダー格だと思われる」

 

「だから『魔女の集団』ってことか」

 

「その通り。二人目はリュート。ルイの剣を奪って武器にしている少年だ。彼はこれまでの主立った事件全てに関与した疑いがある。三人目はゴーギャン。スパノ殺しの真犯人だ。四人目はポセイドラ。水属性魔法を使う剣の達人で、アシバロンと戦闘を行っている。そして五人目は名称不明の通称『睡眠薬の女』だ。彼女は立花亭誘拐事件の実行犯だった」

 

「ウァググ…!!」

 

 突然、カセロジャが奇妙な声を上げ、歯を食いしばる。顔がみるみる青くなる、かと思えば急に顔が真っ赤になった。

 

「どうしたんだ?カセロジャ」

 

「え!?い、いやあ何でも無いっすよ。ハハハ…」

 

ギットスの質問に対し、苦しそうな笑顔で答えるカセロジャ。

 

「何でも無い、ということは無いだろう?」

 

しかしマウントールが待ったの声をかける。

 

「う、ううう…」

 

 彼の目を見たカセロジャは、(しら)を切ることは出来ないと判断したらしい。大人しく口を割り始めた。

 

「俺は会ったんだ…その女と。時間はベストナイン採用の通知が来た日の昼。つまり俺はその時、まだベストナインに本当になれるとは思ってなかったんだ!!」

 

「慌てるんじゃ無い。そんなことで私は怒ったりしない」

 

「は…、ええとその日、俺は魔族と戦ってた女性三人を助けたんだ。一人はバニーラって名前のウサギの獣人で…」

 

「おい!ちょっと待て!」

 

話を遮ったのはアシバロンだった。

 

「バニーラが?『睡眠薬の女』と一緒に戦っていたのか!?」

 

「え?ああ、そうだが…」

 

「バニーラと『睡眠薬の女』は味方同士だったってことかい?」

 

マウントールが尋ねる。

 

「ああ、間違いない。二人とも味方だったよ」

 

答えを聞いたアシバロンがマウントールに問いかける。

 

「裏切ったと…、そういうことか?」

 

「可能性は高いね。洗脳、という線も無いわけじゃ無いが…」

 

 二人の会話を聞いたカセロジャはようやく、バニーラが「神の反逆者」所属の転生者だった事を思い出した。彼女に会ったときに、初めて会った気がしなかったのはこのためだったのだ。

 しばらくの沈黙の後、マウントールが口を開く。

 

「彼女の性格を考えれば、()()()()()()()()()()という読みで良いだろうね。まあ、あの程度の転生者はいくらでもいる。どうでもいいことだ。それよりカセロジャの話の続きだ」

 

続きを促され、カセロジャは口を開く。

 

「残り二人は名前を教えようとしなかった。一人は白いフルーレを武器にしていて、もう一人は水属性魔法で戦っていたんだ。恐らくソイツが()()()()()だと思う」

 

「バニーラがギルドに何も告げずいなくなった後、その女と一緒に戦っていたなら間違いないだろう。ただね、君はバニーラが事件に関与していることを今まで知らなかったんだろう?知ってたならもっと早く報告に来るはずだ」

 

「そ、それは…」

 

「言うんだ。何があったんだ?」

 

マウントールに言われ、彼は渋々と口を割り始める。

 

「その後、()()()()()と口論になって…。で、大したこと無い相手だと油断してしまって…なんていうか……その…赤っ恥なんですが…フフ……()()()()()()()()()()()………。睡眠薬を不意に顔面に浴びせられて、ほとんどその場で熟睡さ…」

 

最後の方はもう、投げやりな言い方だった。ため息を吐くマウントールとアシバロン。「馬鹿じゃないの」と(あざけ)るアルミダ。米沢とギットスは何も反応を示さなかった。

 

「ハァ、まあ君が眠らされた件については許そう。強さが重要なベストナインのメンバーとしては失態だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()からね。それより聞きたいのは、フルーレの女の事だ。何か外見の特徴とかは覚えているかい?」

 

 マウントールの質問にカセロジャが答える。

 

「そんな目立った特徴は無かったが…、茶髪のロングヘアーだったなぁ。白と黒のストライプシャツに革のベストを羽織っていた。下はデニムズボンで…そんなところかな」

 

「同じだ…!」

 

米沢が不意に声を上げた。

 

「同じ?」

 

「同じなんだよ!今日初めて見た女と外見が一致してる!」

 

興奮した様子で答える米沢に対し、アシバロンが尋ねる。

 

「つまりカセロジャが襲われた日のパーティから、バニーラとリュートが入れ替わった状態だったってことだな?」

 

「そうだね。場所はポルポル地区で、今はそこを重点的に探して…」

 

「馬鹿がっ!」

 

「え…ええっ!?」

 

アシバロンから唐突に罵倒を受け、米沢は戸惑いの声を上げる。

 

「だからお前はいつまで経っても敵の拠点を見つけられないんだ!いいか?ヤツらにしてみれば、こちらに拠点が見つかったら終わりなんだぞ?ベストナイン総出で襲われるとも分からないのだからな。それにヤツらは既にお前の虫に気付いているんだ。でなければ、御手洗を見失うことなどあり得ん!違うか?」

 

「ち、違わない…」

 

「そんなヤツらが、素直に拠点付近で魔人討伐などするものか!!拠点とは離れた場所で討伐を行っているハズだ。外で活動する際は、拠点内で『ワープゲート』を発動して遠方に出かける。ついでに言えば、王都からも離れた場所を選んでいるだろうな。それならば、例え外出中にお前の虫に見つかっても平気というわけだ」

 

「で、でもアイツらには一匹尾行させて…」

 

「拠点には既に虫の対策がされていて、尾行されても問題ない状態になっているのだ。お前はヤツらに踊らされているんだ!!」

 

「じゃ、じゃあ…」

 

米沢が泣き声を上げる。

 

「じゃあ僕はどうすれば良かったんですかっ!!」

 

「どうすれば良かったのかを考えるな!これからどうするべきかを考えるんだ!」

 

アシバロンが一喝する。

 

「いいか?お前がこれから探すべき場所はヤツらを見つけたポルポル地区じゃあ無い。()()()()()()()()()()()()()()()()だ!御手洗は恐らくヤツらの拠点の近くに踏み行ったんだ。だから消息が分からなくなったんだ。探すならそこだ」

 

「うぅっ、うっ、うっ」

 

 すすり泣く米沢に対し、マウントールも声をかける。

 

「米沢、アシバロンの言っていることは正しいと私も思う。御手洗との約束もあるから詳しいことは言えないが、彼女は向こうの拠点がどこにあるのか、何となく察せられたのだと私は思う。彼女が敵拠点の近くに行ったのだという見立ては外れてないだろう」

 

 こうして米沢は、捜索方法の変更を余儀なくされることとなった。

 

 最後にひとつ言っておく。「運は収束」する。




 どうでもいいんですが最近、イルーゾォ(スタンド「マン・イン・ザ・ミラー」)×零余子(下弦の肆)というカップリングを思いつきました。
 何でこんなのを思いついたのか本人にも分からず、特に共通点も見られないカップリングですが、どうしてだか相性ピッタリな二人に感じられます。「是非、自分の二次創作で使いたい!」という方がいらっしゃいましたら勝手に使って、どうぞ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その10 「不運」

エンポリオです……

ヴァターシの名前はエンポリオです


 最近のリュート達は運が良かった。

 「神の反逆者」ギルドメンバーの中で唯一友好的な関係を築いていたバニーラと再会した日が偶然、彼女が立花亭と一緒に魔人討伐に出かけた日だった。その日にたまたま迷子になっていた彼女と偶然再会し、結果として立花亭を監禁することに成功した。そして立花亭を監禁出来たお陰で、御手洗をも手中に収めることに成功したのだ。

 しかし「運は収束」する。彼らはこの幸運の埋め合わせを、()()()()()()()()()しなければならない。

 

 米沢はアシバロンの指示を受け、翌日からの捜索を「御手洗を見失った場所」付近に重点を置いて行うようにした。結果、米沢は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだった。これがリュート達にとっての第一の不運であった。

 その日の夜にベストナインの会合が開かれ、米沢が捜索の結果を皆に伝えた。

 

「ついに見つけたよ、『魔女の集団』の拠点を。アシバロンの言ってた通り、御手洗ちゃんを見失った場所の近くを探していたら見つけたんだ」

 

「だから言っただろう。ポルポル地区ではなく、御手洗を見失った場所の近くを探せと」

 

 アシバロンが仏頂面で言葉を返す。

 

「どうしたんだ、アシバロン?ようやく敵の拠点が見つかったというのに、随分不満そうじゃあないか」

 

マウントールが尋ねると、アシバロンは不満そうな顔を彼に向ける。

 

「お前がもう少し真剣にヤツらの拠点を探そうとしていれば、『()()()()敵の拠点が見つかった』などという言い方をするほど手こずる必要も無かっただろうな」

 

「なるほど、そういう不満かい。その点についてはまあ、私の判断ミスだっただろうね」

 

平然とマウントールが返す。彼がこういった返し方をするだろう事は分かっていたので、アシバロンもそれ以上何も言わなかった。

 

「ってことは、『睡眠薬の女』の姿を見たってことか?」

 

 カセロジャが興奮した様子で米沢に尋ねる。

 

「ううん、ヤツらは建物の外に出てこないんだ。窓にもカーテンがされていて、中の様子は分からなかったよ」

 

米沢が首を横に振りつつ答える。

 

「おや?今の言い方だと君は建物の中には入ってないって事かい?」

 

「う、うん…。アシバロンが『拠点は既に虫が入っても平気な状態になっているのだろう』って言ってたから、中に入るのは危険かと思って…」

 

「は?じゃあお前はどうしてそこが敵の拠点だと分かったんだ?」

 

カセロジャが尋ねる。

 

「ぼ、僕の虫の触角は普通の虫と違って、生き物が発する魔力を捕えることが出来るんだ。まあ、長い間一緒にいる人間じゃないと誰の魔力なのかは分からないけど…」

 

「と言うことは、その建物が敵の拠点だと分かったのは、その中に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言うわけだね?」

 

 米沢の言葉を聞いたマウントールが、期待を込めた口調で尋ねる。

 

「そ、そうなんだ!重要なのはそこなんだよマウントール!その中から御手洗ちゃんの魔力を感じ取れたんだ!彼女はまだ生きていたんだよ!!」

 

米沢がまたしても興奮した様子で返したが、安堵の声を上げる者は誰もいなかった。

 

「とすると、立花亭の魔力は感じ取れなかったと?」

 

「え?あ、うん…」

 

「ということは、立花亭は殺されてしまったか…」

 

「おいマウントール、そう考えるのは早計だ。敵は転生者の能力を封じることが出来るんだぞ?立花亭は能力を封じられた状態なのかもしれない」

 

「立花亭の能力は封じて、幼子ちゃんの能力は封じてないって事かい?」

 

アシバロンの指摘を受け、マウントールが疑問を返す。

 

「立花亭の心は乱せたが、御手洗の心は乱せなかったと考えれば辻褄(つじつま)は合う」

 

「なるほどねぇ。ああ見えて幼子ちゃんは結構(したた)かな()だからね」

 

納得した様子のマウントールに対し、アルミダが不満そうな声を上げる。

 

「どちらにせよ、中に入らなきゃ何も分からないってことじゃない!さっさと入っちゃいなさいよ!」

 

 しかし彼女の不満をマウントールは冷静に受け止める。

 

「アルミダ、気持ちは分かる。だが焦って、敵に見つかればアウトだ。何か良い案は無いだろうか?」

 

「あ、あの…」

 

「人が住んでいる家ならば一カ所、外へと繋がってなければおかしい箇所がある」

 

「どこだい?アシバロン」

 

「台所の通気口だ。そこは必ず外と繋がっているはずだ。でなければ料理中、煙たくて(かな)わんからな」

 

「でもそんなこと、敵も気付いているんじゃないの?」

 

「ほう、豚にしては中々の指摘だ」

 

「ムッキー!!」

 

「ねえ、聞いてよ!!」

 

 勝手に話を進める上位三人に対し、米沢が大声を上げる。

 

「おっとごめんよ、米沢。何か言いたいことがあるのかい?」

 

「その…、中に入る方法なんだけど、良い方法があるんだ。この方法なら、敵に怪しまれる事も無いはずだよ」

 

「本当にそんな上手い方法があるのか?」

 

アシバロンが懐疑的な反応を示す。

 

「そのためにはカセロジャ、お前の力が必要なんだよ」

 

「え?俺?」

 

唐突に米沢の使命を受けたカセロジャが戸惑いの声をあげる。

 

「お前の従えている魔族の中に、魔力が少なくてパワーのある個体はいるかい?」

 

「ああ、いるけど?()()()の中にそれくらいは…」

 

 ベストナインのメンバーとなったカセロジャは、マウントールに一つ要望を出していた。それは、彼の従えた魔族をストックしておける家畜小屋だった。大きな個体の魔族を入れるためには、かなり大きめの家畜小屋でなければならないのだが、マウントールは彼の任命式にあわせて「魔族庫」をしっかりと用意しておいたのである。とは言っても魔族を入れる用途の小屋である以上、民衆の不満を(つの)らせないために王都から離れた場所に用意することにはなってしまった。

 閑話休題、カセロジャの答えを聞いた米沢は嬉しそうに作戦を発表した。

 

「だったら話は早い!ソイツに拠点を襲わせるんだ。とは言っても建物を破壊するようなことは避けるんだぞ。中に御手洗ちゃんがいるんだから。魔族には建物を()すらせて、窓をパンチで破壊させる程度に留めておく。後は敵が外の魔族に気を取られている隙に虫を破壊した窓から侵入させる。どうかな…皆?」

 

米沢が皆の意見を募る。案の定、アシバロンが口を開いた。

 

「悪くないだろう。確かにその作戦ならば、相手は単なる魔族の襲撃としか思わないかもしれない。だが万全を期すならば、魔族が窓を壊すのと同時に虫を侵入させる方が良い。向こうはカセロジャの能力も知っているハズだからな」

 

他に反論を述べる者はいなかった。

 こうして、米沢発案の敵拠点侵入作戦はすぐさま実行されることになった。

 

 カセロジャは米沢の指定した場所に「ワープゲート」を開く。場所は敵拠点から大分離れた場所だった。

 

「なあ、大丈夫なのかよ?ここからだとお前の言ってた拠点から大分遠いぜ?」

 

カセロジャが米沢に尋ねる。

 

「うるさいんだよ。お前は黙って僕の指示に従っていれば良いんだ」

 

米沢はうっとうしそうに言葉を返した。

 

「なあお前、会合の時と口調が違わねえか?」

 

 カセロジャがそう尋ねると、米沢は彼を睨みつけた。

 

「良い機会だ。一つ教えてやる。マウントールは『ベストナインのメンバーは自分を除いて皆平等だ』と言っていたな?だがそれは間違いだ。立場だけを考えるならそうかもしれないが、実際には(くつがえ)せない力の差ってモンがあるんだ」

 

「あ、ああ…」

 

今までの米沢からは想像もつかない彼の口調を聞いて、カセロジャは言葉を失った。

 

「僕よりも上の三人はバケモンだ。あの三人に敵う人間なんて考えられない。でもな、これだけは言っておくぞ。あの三人のバケモンを除けば、()()()()()()()()()()()。前の序列5だったスパノはその辺を分かってなくて、僕に『序列入れ替えの決闘』を申し込んで来やがった。あの時はむかついてなぁ、()()()()()()()()()よ!」

 

「っ……!」

 

「分かったらツベコベ言ってないで、とっとと僕の指示通り魔族を動かせ!そうしないと進入できないだろうがっ!」

 

「ちっ!わーったよ」

 

「何だ、その態度は?」

 

「お前の言いたいことは分かったよ。でもな、立場が平等と言われてる以上はお前にヘーコラする気は俺には無いね。それとも何か?マウントールに逆らって、ここで一発やり合うか?」

 

「…ちっ!」

 

 米沢が引き下がったのを見て、カセロジャは魔族に指示を下す。彼の命を受け、魔族はリュート達の拠点へと侵攻を開始する。魔族の腕には米沢の虫が二匹張り付いていた。

 拠点に到着した魔族は、指示通りに拠点の窓を破壊する。二匹の虫は、魔女達が魔族に気を取られている隙を見計らって中に潜入し、物陰に隠れた。

 それから時を置いて、米沢の元に一匹の虫が帰ってきた。潜入した二匹とは別の、魔族を監視するために(つか)わせた虫だった。

 

「作戦は成功だ。魔族は殺されちゃったけどね」

 

虫を食べた米沢がカセロジャに伝えた。

 

「良かったんじゃないの?自慢の作戦が成功できたようで」

 

「お前、帰って皆に報告してこい。襲撃は僕一人で十分だ」

 

「お前一人で大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

自信満々に言う米沢を見て、カセロジャは一人でギルドへと戻っていった。

 

 ところで、米沢は拠点を捜索するに当たって全ての虫を「御手洗を見失った場所付近」に向かわせた訳では無かった。彼はこれまで通りの捜索も、小規模ながら続けていたのだ。

 そしてこの日の昼、その小規模な捜索隊の内の一匹が、魔人討伐中のテンスレメンバーを見つけていたのだ。その虫は尾行を行い、地下室の殺虫剤カーテンの餌食になってしまった。しかしこのことが結果として、「米沢はまだこちらの場所に気付いていない」と魔女達を錯覚させる事になったのだった。これがリュート達にとっての第二の不運であった。

 

 こうして米沢の虫は怪しまれる事無く、テンスレの拠点への侵入に成功したのだった。




 米沢がオドオドしているのは、自分より上の人間(マウントール、アシバロン、アルミダ)がいる時だけのようです。

 なかなかバトルにならねーな、とヤキモキしている皆様。もう少しで戦いますのでご安心下さい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その11 「潜入」

とーとつにボツ転生者 Vol.4

 不定期開催企画「とーとつにボツ転生者」のコーナーです。第五章に入ってからは初ですね。



名前:ブルーエ=ナノカナー

通称:「ブルーボディ」

能力:自身の肉体を水と同化させる能力。池や海などの水が溜まった場所に自身の肉体を同化させ、潜伏することが出来る。肉体を水に変化させることで、風呂場の浴槽などに隠れ潜むことも可能。また、この能力のお陰で水属性魔法は一切通じない。しかし、この能力のせいで体を洗うことが出来ないため、体がものすごく臭くなってしまっている。

風貌(ふうぼう):茶髪のロングヘアーで、オリーブ色の上着を着た女性。能力の副作用で、全身の肌が青く変色してしまっている。顔が大きい。

転生前:幼稚園の先生だったが、プール授業の際に足をつって溺死。「二度と水に溺れたくない」という願いからこの能力を授かった。職業病なのか、「それってもしかして○○?」「ふーん、じゃあ△△は□□なのかな?」といった感じの幼児に問いかけるような口調で、他人のプライバシーを詮索しようとする悪癖がある。

好物:ブルーベリー、プラム

唐揚げには:ブルーベリージャム

ボツ理由:カセロジャと一緒に登場させるか少しだけ迷ったキャラ。しかし、魔女が「全身を全く違う物質に変化させて、好きなときに元通りになる能力は無理がある」と発言していたためボツになった。そしてなにより、元ネタの知名度がそこまで無さそうだったので諦めた。元ネタの知名度が低いからボツ、というのは割とよくある。

アデクから一言:ガムを噛むことを非難する……それだけはしないでくれっ!!


 ギルドへと戻ったカセロジャは、米沢が一人で残ることを希望した(むね)を皆に伝えた。

 

「そうか。まぁ、米沢がそう言ったなら彼に任せて大丈夫なんじゃないかな?」

 

報告を聞いたマウントールの言葉を聞き、カセロジャは不満げな声を漏らす。

 

「本当に大丈夫なのか?米沢一人で…」

 

「心配かい?」

 

「いや、別にそんなんじゃ…」

 

「カセロジャ、米沢は頼りなさそうに見えるかもしれないが、彼は強いよ?アシバロンとアルミダを『神の傑作』と評価するなら、米沢は『神の怪作』と言った所かな。私も多くの転生者を目にしてきたが、米沢と同じような転生者には一人として出会ったことが無い」

 

「どういうことだ?」

 

「んっと…、これ以上は『秘密を守る』と彼と約束した以上、話せないな。とりあえず彼なら大丈夫だと私は思う、ということさ」

 

「むむむ…」

 

しかしカセロジャは不満げな様子を崩さなかった。

 

「まだ、不満があるのかい?」

 

「まあ…」

 

「さては『睡眠薬の女』のことかい?」

 

 図星をつかれたカセロジャは、胸の内を率直に打ち明ける。

 

「そうだよ。アイツには屈辱を味わわされたからな…。今度こそ徹底的に()()()()()()()()()と思ってたんだよなぁ」

 

「そうかそうか。なら、もしも米沢が失敗するようなことがあった場合》》は君に任せようじゃないか」

 

 カセロジャはマウントールの妥協案を飲むしかなかった。

 

 

 

 

 

 米沢は悩んでいた。彼の悩みとは潜入のことでは無く、今のベストナインのメンバーのことだった。現状、ベストナインの女性メンバーはアルミダ一人だけである。彼にはこのことが耐えられなかった。自分の属する組織の紅一点が()()()()()だなんて我慢できない。歯に衣着せぬ物言いをしてくる立花亭や、幼女の御手洗を恋愛対象として見たことは無かったが、二人がベストナインのオアシスだったことが、いなくなってようやく分かった。

 彼が二人の捜索に力を入れ始めたのも、今回の任務を一人で買ったことも、このことが原因だった。絶対に二人を取り戻してみせる、と彼は強く心に誓った。

 とは言っても油断は出来ない。一度見つかればお終いなのだ。特に()()()()()()()()()()()()()()。拠点発見時に、彼女の膨大な魔力を触覚で感じ取った。あんなに膨大な魔力を持つ人間がいることに彼は驚愕した。恐らく彼女は魔力感知が可能なはずだ。()()()姿()()()()()()()()()()()。だが、虫の微々たる魔力を感知することは出来ないだろう。

 今はこの場で虫の帰還を待つしかなかった。

 

 テンスレの拠点へ侵入した二匹の虫は、すぐさま近くの物陰に隠れた。外の魔族を倒したポセイドラが戻り、魔女が窓の修復を指示した。

 慌ただしく行動を開始する「魔女の集団」。二匹の虫は物陰に隠れつつ、敵の人数の把握に努めた。魔女、ポセイドラ、バニーラ、「睡眠薬の女」、「フルーレの女」…。ここまでは事前に把握していた人物だ。リュートとゴーギャンは別行動だろうか。そして虫達(かれら)の知らない人間が三人いた。一人は左目に太陽が描かれた男。彼は窓の修復に(いそ)しんでいた。そしてピンク髪の女が、包帯だらけで寝ている人間の側に付き添っている。あの包帯人間は生きているのだろうか。

 

「ジモー、修復は終わったか?」

 

「ああ、バッチリだぜ」

 

 魔女が「太陽の男」に問いかける。ジモー、というのがこの男の名前のようだ。

 

「バニーラ、ラーシャ、監禁部屋の様子を見てきてくれ」

 

「はい!」

 

「分かった」

 

 魔女の支持を受けたバニーラと「フルーレの女」が階段を上っていく。ラーシャ、というのが「フルーレの女」の本名らしい。それにしてもバニーラは何の違和感も無く皆と馴染んでいた。どうやら彼女は脅されて仲間になったのでは無く、()()()()()()()()()()

 

「二階は問題ない。立花亭と御手洗も驚きはしていたが、特に変わった様子はなかったそうだ」

 

「なら良かった。さて、作戦会議に戻ろうか」

 

二階から戻ってきたラーシャが報告をする。立花亭も御手洗も生きているらしい。

 早く二人の様子を確かめねばならない。虫達(かれら)は二手に分かれて行動を開始する。一匹が一階の様子を探り、もう一匹が二階に向かうことにした。

 

 この先は一階担当の虫を「虫1」、二階担当の虫を「虫2」と表記する。

 

 「虫2」は敵に見つからないよう二階へと向かう。飛べばすぐなのだが、明るい部屋で飛ぶ姿は目立つ上、羽音が聞かれる危険も大きい。疑われることの無いよう、徒歩で向かうことになった。

 御手洗の魔力をたどって監禁部屋へと向かう「虫2」。立花亭の魔力を感じられないのは、やはり彼女が能力を封じられているからなのだろうか。そんなことを考えながら進んでいると、手前の部屋から何やら異様なモノを感じた。原因は分からないが何か危険なモノがあるのだと、生物的な危機察知能力で感じ取った。原因を探りたいがここで死ぬわけにはいかない。「虫2」は監禁部屋へと急いだ。

 監禁部屋の扉の隙間から様子を覗く「虫2」。リュート、ゴーギャン、立花亭、御手洗の四人が見える。立花亭と御手洗は拘束されているみたいだが、このままではよく分からない。扉の隙間をくぐり抜け、中に入るしか無さそうだ。リュートとゴーギャンの視線が扉と反対方向に向いた隙を突いて、「虫2」は中へと潜入した。

 (はや)きことゴキブリの(ごと)く。カサカサと早足で近くの物陰へと隠れる「虫2」。

 

「む?」

 

突然ゴーギャンが声を上げた。

 

「どうしたんですか?ゴーギャンさん」

 

リュートが彼に尋ねる。

 

「今、かすかに物音がしたような…」

 

「本当ですか?俺には聞こえませんでしたけど…」

 

「むぅ、気のせいかもしれない」

 

「念のため調べてみましょうか」

 

二人は付近の捜索を始めた。「虫2」は近くにあったズタ袋の中に逃げ込んだ。

 

「…やはり気のせいだったようだ。すまない」

 

「いえいえ、気付いたことがあったら遠慮無く言ってください。そのための見張り役なんですから」

 

二人の捜索は数分ほどで終了した。ほっと胸をなで下ろす「虫2」。虫なのに。見つかるかもしれない恐怖で心臓が口からまろび出そうだった。虫なのに。

 「虫2」は改めて立花亭と御手洗の様子を確認する。二人は確かに生きているようだ。特に暴行などは受けていないらしいが、口には猿轡(さるぐつわ)がされている。

 御手洗が「ムームー」と何か言いたげに声を上げた。

 

「どうした?トイレか?」

 

ゴーギャンの問いかけに頷く御手洗。

 

「今の時間ならば皆起きているだろう。ケイルか誰かにトイレに付いて行ってもらおう」

 

そう言って彼は御手洗を連れて部屋の外へ出て行った。一連の様子を見て、御手洗には元気があることが分かった。

 一方の立花亭からはまるで精気が感じられない。能力封じの影響か、それともレイプか何か酷いことでもされたのだろうか。御手洗達が戻ってくるまで、彼女は身動(みじろ)ぎ一つしなかった。

 

 一階の様子を見ていた「虫1」は恐ろしい情報を耳にした。「魔女の集団」が米沢反死(よねざわはんし)を次の標的に定めていたのだ。自分に脅威が迫っていることを知り、「虫1」は身震いする。しかし幸運なことに、肝心の作戦内容は筒抜けだ。「虫1」はこのまま黙って作戦会議を盗聴することにした。

 魔女が皆に意見を(つの)る。魔女達は米沢について詳しいことを知らないようだった。様々な意見が飛び交ったが100%正しい答えが出てくることは(つい)ぞなかった。

 「虫1」はこのことに安堵する一方で、「睡眠薬の女」もといケイルへの警戒を強めた。どうやら彼女は殺虫剤を作った張本人らしい。尾行した虫が一匹も帰還しなかった理由がこれで分かった。さらに彼女の意見は的中とまで行かずとも、惜しいところまでは行っていたのだ。

 膨大な魔力を持つ魔女、米沢の天敵たり得るケイル。この二人を最重要危険人物として「虫1」は見定めた。

 肝心の米沢襲撃作戦が実行されるまで、まだ日があることも分かった。「虫1」は二階の「虫2」と合流することにした。

 

 合流した二匹は情報を共有し、一方が米沢の元へ帰参することにした。二匹は一階にある大きな棚の裏へと向かう。そして口の鋭い牙で壁に穴を開け、外との出入り口を作った。ここならば、この重たい棚を動かさない限りは見つからない。

 

 帰還した虫から情報を得た米沢は恐怖に身を震わせた。とうとう敵は自分を標的にしたのだ。だが肝心の作戦内容は知っている。ヤツらの作戦の裏をかけば…。いや、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。アシバロンならそう言うだろう。

 

「ギギギギギ…、奇襲しか無いな…」

 

彼の口から耳障りな声が漏れた。

 彼は数匹の虫を偵察用に残し、王都へと戻ることにした。

 

 王都へと戻った彼はマウントールの自室に向かった。情報を一通り伝え終えた彼はマウントールに進言する。

 

「これ以上好きにはさせない…。ヤツらの拠点を奇襲する」

 

「一人で大丈夫かい?」

 

「魔女…」

 

「うん?」

 

「魔女、魔女魔女魔女!アイツの存在は危険なんだ!アイツの魔力量は人間じゃ無い!正直に言うよ、マウントールよりもアイツの魔力量は多いんだ!」

 

「何だって!?」

 

米沢の言葉を聞いて、マウントールは珍しく平静を崩した。だがそれも一瞬のことで、彼はすぐにいつもの調子で言葉を返した。

 

「もしそれが本当なら、彼女とは一度直接お会いしたいね」

 

「ダメだよマウントール。魔力感知で気付かれてしまう」

 

「それもそうだな。じゃあせめてアシバロンを…」

 

「ギギギ…これ以上アイツに良い想いをさせたくない…」

 

「ははは、なるほどね」

 

「ギギギ…必ず、必ず二人を連れ帰る…。ヤツらも始末するっ!」

 

「ああ、期待してるよ?米沢」

 

マウントールは米沢の要求を認めることにした。

 

 その後米沢は虫を()わる()わる派遣し、「魔女の集団」の行動ローテーションを把握した。

 彼の狙いは「ケイルが魔人討伐に行き、魔女が夜勤明けの日中」だった。

 彼の望んだ日が来たのは、三日後のことだった。




 隠す必要も無いのでバラしちゃいますが、「虫2」が危険を感じた部屋はケイルの研究部屋です。そこには殺虫剤の材料や原液、その他諸々の危険物があるので「虫2」は危険を感じた訳です。
 ちなみにこの危機察知は能力が関係しているわけではありません。「虫の知らせ」というヤツです。虫だけに。虫なので人間よりもこういったことに対する勘が鋭くても不思議じゃないと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その12 「米沢の結界魔法」

 皆さん、「特別企画その1 登場人物紹介」はどの位目を通しておりますでしょうか?一回見ただけでその後は見ていないという人も、ちょくちょく目を通しているという人もいると思います。
 実は物語でキャラクターに関する新しい事実が発覚する度に、登場人物紹介の内容を更新しております。

 というわけで皆さんにお知らせがあります。この後物語が進むにつれ、死ぬキャラクターも出てきますが、これ以降登場人物紹介のコーナーで「○○に殺された」「○○が原因で死んだ」と記載することは止めておきます。
 理由としては、この物語を知って間もない人が「どのキャラクターが死ぬのかのネタバレ」を食らってしまうことを避けるためです。話数別UA数(閲覧数みたいなモノ)を見て貰えれば分かると思うのですが、「特別企画その1 登場人物紹介」に当たる27話のUA数がダントツで高いです。これは当作品を知って間もない人で、まず先にここから目を通している人が結構多いことも原因の一つだと考えられます。
 このことについては全然構わないのですが、そういう人達に「キャラクターの死」という最大級のネタバレを浴びせるのはマズいだろう、と考えた訳です。

 一応、「特別企画その1 登場人物紹介」は第三章終了後の企画だったので、それまでに死んでしまったキャラクターについては記載しているのですが、第五章(第四章で死んだキャラは0人)以降は記載しないよ、ということです。

 「キャラクターの死」以外に関する内容は今後も追記して参ります(そのための登場人物紹介のコーナーですし)ので、よろしくお願いいたします。


 魔人討伐担当は午前中に地下室から「ワープゲート」を使って出発する。日中の監視役は朝食後、前の晩からの監視役と任務を交代する。夜の監視役は交代後就寝する(朝食を摂るかはその人次第)。休日に当たっている人は、一日を拠点内で休む。リンは家事を行いながらメルクリオの看病をする。

 テンスレメンバーの一日の動きについて、米沢は虫の監視を通して把握していた。

 

 その日の魔人討伐担当はケイル、ラーシャ、ジモーの三人で、日中の監視役はリュートとバニーラの担当だった。前の晩から監視役をしていたのは魔女とポセイドラ。残りのゴーギャンはその日が休日に当たっていた。米沢が狙っていた「ケイルが魔人討伐に行き、魔女が夜勤明けの日」が来たのだ。

 

 彼は虫を通して慎重にタイミングを見計らう。朝食後、リュートとバニーラが魔女とポセイドラの二人と監視役を交代する。監視役から解放された二人は軽く食事を摂ってから寝るらしい。

 二人の食事中にケイル、ラーシャ、ジモーの三人が地下室へ向かった。地下室の中は殺虫剤のカーテンが邪魔をして監視できないが、時間が経っても戻ってこないことから三人が魔人討伐に出かけたのは間違いないだろう。

 ゴーギャンは休日中、拠点内で筋トレを行っていた。

 食事を終えた魔女とポセイドラが二階へ上がる。二階には部屋が四つある。監禁部屋、物置、危険を感じる部屋、そして最後の一つが夜間の監視役が睡眠をする部屋である。普段就寝に使う部屋は男部屋、女部屋共に一階に有る。夜間の監視役が二階の部屋で就寝するのは、日中立花亭と御手洗に何か異常があった場合に対応出来るようにするためらしい。「ご苦労なことだ」と米沢は鼻で笑った。

 この就寝部屋は物置の隣にある。物置は人の出入りが少ないので、虫の絶好の隠れ場になっていた。二部屋の間には既に、虫の通り道が開かれていた。一匹の虫が就寝部屋の様子を探る。魔女とポセイドラは寝床に入るとすぐ眠りについてしまった。時間が経っても起きる気配は無い。虫は二人の顔に近寄り、完全に寝入ったことを確認する。

 現時点で拠点内には九人。監禁部屋にリュート、バニーラ、立花亭、御手洗の四人。魔女とポセイドラは就寝中。リンは一階でメルクリオの看病をしている。ゴーギャンも一階で筋トレ中だ。

 危険人物の一人であるケイルは今、拠点内にいない。

 

「チャンスだ…これがチャンスだ!」

 

 米沢はすぐさま行動に移った。拠点内に十数匹の虫を送り込み、その内の八匹を魔女とポセイドラが就寝中の部屋に侵入させた。寝込みを襲うつもりは無い。彼は膨大な魔力を持つ魔女に最大限の警戒を払っていたからだ。八匹の虫は部屋の(かど)にそれぞれ陣取った。

 

「魔女が拠点内から出ることが無いっていうのは面倒だったが、それならば部屋に封じ込めてしまえば良い!『エンペラーマジックキャンセル・バグズゾーン』!!」

 

 米沢が魔法を唱えた。

 

 「ブオンッ!!」という音が拠点内に鳴り響く。中にいた全員が異変を察知した。

 

「どうした?」

 

「何が起こった!?」

 

就寝中の魔女とポセイドラが飛び起きる。辺りを見回すと、自分たちが黄色に光り輝く壁に囲まれていることに気付いた。

 

「これは…?」

 

「やられたよ、ポセイドラ…。これは()()()()()!!」

 

魔女が悔しそうに声を上げる。

 

「結界魔法だと!?一体いつの間に…」

 

「どうやら私達は大分前から敵の侵入を許してしまっていたらしい。結界の角をよく見てみろ」

 

光っているせいで見にくいが、どうやら部屋の角にいる虫が結界を張っているらしい。

 

「虫ごときの結界など!」

 

 ポセイドラは刀を手に取る。

 

「『エンチャントウォーター』!!」

 

得意の水流剣で虫に斬りかかるポセイドラ。すると、彼の刀を覆っていた水が消えてしまった。

 

「何!?」

 

「止めとけ、ポセイドラ。この結界は私を(とら)えておくためのものだぞ。魔法対策など十二分に行われているだろう」

 

「お前の魔法でどうにかならないのか?」

 

「ならないことは無いだろう。だがこの結界を破壊できるほどの魔法を放てば、拠点が吹き飛ぶだろうな」

 

「おい、どういうことなんだ!?どうして虫ごときが、そこまで強力な結界を張れるんだ!?」

 

「落ち着けポセイドラ。こういう時こそ落ち着くことが大切だ」

 

 一瞬腹を立てたポセイドラだが、相手の顔にも冷や汗が流れていることに気が付いた。落ち着き払っているように見える魔女だが、内心は穏やかで無いことが(うかが)えた。こんな時に自分だけ慌てて一体何の得があるだろう。彼は心を落ち着かせた。

 

「それでいい。で、何故虫がここまで強力な結界を張れるのかと言う質問だが、恐らく本体が近くにいるからだろう」

 

米沢反死(よねざわはんし)が近くに?」

 

「そうだ。恐らくこの屋敷には他にも虫がいるハズだ。その虫が中継役になり、本体から結界役の虫へと魔力が供給されているのだ」

 

 魔女の予測は当たっていた。実際に米沢本体から結界役の虫の間には、間隔を開けすぎない程度に他の虫がいた。この虫が電化製品のコードと同じような役割を果たし、本体から結界へと魔力を流していたのだ。

 

「ならばリュート達がその虫を殺してくれれば…」

 

「無理だな。米沢が近くにいる以上、虫の補充など(いく)らでも出来るはずだ。無論、殺し続けていれば限界も来るだろうが、敵もそうはさせないだろう。恐らく米沢本体は、リュート達と戦闘を行うはずだ」

 

「外の状況は分からないのか?」

 

「私から発せられる魔力が結界で遮られているせいで、『遠隔会話(テレパシー)』も魔力感知も使えない。外の様子が分からないな。つまり…」

 

少し言い(よど)んだ魔女だったが、言葉をハッキリと口にした。

 

「『転生殺しの箱(デリートチートゾーン)』も破られた。立花亭が自由になってしまっている」

 

「何だとっ!」

 

「幸い、ヤツの心は半分死んだような状態だ。ヤツが自身の力を使おうとしなければ、解除に気付かれる事も無いが…」

 

 魔女の顔からは冷や汗がまだ流れていた。

 

 一方、監禁部屋にいた四人にも何か異変が起こったことが伝わった。

 

「はわわ…、今の音は何でしょうか!?リュートさん!?」

 

「分からない…!とりあえずこの場から離れるのは危険だ!もう少し様子を見よう」

 

そう提案したリュートだったが、異常事態であることが明白な状態で何もせずに黙っていることは流石に出来なかったらしい。数分経たずにバニーラにこう告げた。

 

「俺は外の様子を見てくる!バニーラは二人を見張って…」

 

 その時、監禁部屋の扉が勢いよく開かれ、ゴーギャンが飛び出してきた。

 

「何かあったのか!?」

 

「ゴーギャンさん!無事でしたか!?」

 

「ああ。リンとメルクリオも無事だ。監禁部屋で何かあったのかと思ったのだが…」

 

「こっちも特に異常はありません。どういうことでしょう?」

 

「分からん…」

 

 悩んでいる二人にバニーラが声をかける。

 

「あのう…、さっきの音はこの部屋の近くで聞こえた気が…」

 

「だとしたら、魔女とポセイドラがいる寝室か?」

 

「俺が行きます!」

 

 そう言ってリュートは部屋を飛び出し、寝室の扉を開いた。

 扉の先は黄色い壁に覆われており、リュートは戸惑いの声を上げる。

 

「な…何だよ、コレ!?」

 

すると壁の向こうからポセイドラの声が聞こえた。

 

「おい!今扉を開けたヤツ!誰だ!?」

 

「俺です、ポセイドラさん!リュートです!!無事ですか!?」

 

「リュートか!こちらは無事…と言って良いのか?」

 

すると魔女の声も壁の向こうから聞こえてきた。

 

「私達は無事だよ!だがこの部屋全体が結界魔法で囲まれてしまって脱出不可能よッ!」

 

「結界魔法?何をしたんだ、魔女!?」

 

「私じゃ無い!米沢反死(よねざわはんし)の仕業だ!私達は既にヤツの侵入を許してしまっていたんだ!!」

 

 その時、タイミングを見計らったかのように外から声が聞こえた。

 

「リュート!ゴーギャン!バニーラ!中にいるのは分かっている!大人しく外に出てこい!!」

 

「…どうやらお呼びのようだぞ、リュート」

 

「そんな!どうすればこの結界を!?」

 

「私達のことは心配するな。お前達は米沢の相手をしに行くんだ」

 

「でも…」

 

「魔女がそう言ってるんだ。それにお前が米沢を倒せば結界も消える。俺達に構わず行け!!」

 

 ポセイドラの声を聞いて、リュートは覚悟を決めた。

 

「分かりました!行ってきます!!」

 

そう言って彼は監禁部屋の扉を開ける。

 

「ゴーギャンさん、犯人は米沢反死(よねざわはんし)です。ヤツが俺達を呼んでます」

 

「分かった、行こう!」

 

「は、はい!」

 

しかしリュートはバニーラを制して言った。

 

「全員がここを離れるわけにはいかない。バニーラは立花亭と御手洗を見ていてくれ」

 

「で、でも…」

 

「俺達なら大丈夫だ。信じて待っていてくれ」

 

 戸惑うバニーラだったが、リュートの強い眼差しを見て、自身のやるべきことを理解した。

 

「分かりました!ここは任せて下さいっ!!」

 

「頼んだぞ、バニーラ」

 

「はい、二人ともお気を付けて…!」

 

 バニーラの声を背に受け、リュートとゴーギャンは一階へと向かう。下ではリンが心配そうな顔で二人を出迎えた。

 

「リュート君!ゴーギャンさん!」

 

「私達のことは心配するな。外で米沢が待っている。メルクリオのことを頼むぞ!」

 

「…はい、お気を付けて!」

 

ゴーギャンの言葉を聞いたリンは一切の戸惑いを見せなかった。彼女も彼女なりの覚悟を決めていたのだ。

 

 屋敷の扉を開く二人。目の前に続く広場に敵はいた。

 

「随分待たせてくれたね…」

 

米沢(よねざわ)…、反死(はんし)…?」

 

リュートとゴーギャンを待ち構えていたのは、()()()()()だった。




 次回、ようやく戦闘に入ります。お待たせして申し訳ありませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その13 「1VS1、1VS1」

 ようやく戦闘パートに入ることが出来ました。解説パートが長くなりすぎてしまったなぁ、と反省しております。
 世の中には、()()()()()()()()退()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()もあるというのに…。「人の振り見て我が振り直せ」というヤツでしょうか。


 リュートとゴーギャンは屋敷の前で待ち構えていた米沢反死(よねざわはんし)の姿を見て驚愕した。

 

「バニーラも呼んだはずだけど?」

「拠点に置いてきたみたいだな?」

 

 米沢が問いかける。()()()()()()。リュート達が驚いた理由は米沢反死(よねざわはんし)()()()()()()だ。姿は瓜二つ。違いは一切見当たらない。

 

「どうした?」

「拠点に置いてきたのかと聞いたんだけど?」

 

 二人の米沢の再度の質問に対し、リュートが口を開く。

 

「ふ、不服か?バニーラには別の役目があって…」

 

「立花亭と御手洗ちゃんの監視だろう?」

「知っているよ」

 

二人の米沢がリュートの言葉を遮った。

 ゴーギャンが困惑した様子で尋ねる。

 

「どういうことだ?米沢反死(よねざわはんし)は双子だったのか?」

 

「そんなわけ無いじゃん」

 

答えたのは米沢だった。

 

「僕が二人いるのは僕の能力の仕業さ」

「それ以上教えるつもりは無いけどね」

「そっちが二人いるんだから当然だろう?」

「2VS1で有利に戦えるとでも思っていたのか?」

 

彼らの回答を受け、リュートがゴーギャンに話しかける。

 

「落ち着いてください、ゴーギャンさん。この前の作戦会議でケイルさんが言っていたことを思い出して下さい。『米沢は姿の変更がある程度可能なのだろう』と推測してましたよね」

 

ゴーギャンは一昨日(おととい)の晩に行われた作戦会議を思い出す。確かにケイルはそのような意見を言っていた。根拠として彼女は、「虫の大群が集まって米沢の姿になる」という米沢の謎の能力を挙げていた。

 

「そう言えばそうだったな。うっかり忘れていたよ」

 

「こんな姿を見れば驚くのは当然です。でももう慣れたぞ!米沢反死(よねざわはんし)!」

 

リュートの叫びを聞き、米沢は言葉を返す。

 

「ふん、虚勢はそこまでにしておけよ」

「行くぞ」

 

二人の米沢が腰の刀を抜く。

 

「「黒刀『黒虫』」」

 

 彼らが抜いた刀は(さや)(つか)も刀身も黒一色の不気味な刀だった。

 瞬間、米沢の(ふところ)から大量の黒い虫が飛び出し、リュートとゴーギャンに襲いかかってくる。

 二人も各々(おのおの)の武器を構え、襲い来る虫を撃退する。しかし虫たちもただ突っ込んでくるのでは無く、二人の攻撃を(かわ)しつつ襲いかかってくる。黒く染色された突風のように襲いかかる虫の大群。しかもそれだけでは無い。米沢反死(よねざわはんし)自身も、虫の大群に紛れて黒刀を二人に振りかざしてくる。

 しばらくすると敵の猛攻が止んだ。二人はどうにか切り抜けたが、気付いた時にはもう、二人の間にかなりの距離があった。

 

「俺とゴーギャンさんを引き離すことが目的だったのか」

 

リュートが目の前の米沢に問いかける。

 

「そうだよ。コンビで相手されると面倒だからね」

 

米沢は口元に笑みを浮かべながら答える。

 

 ゴーギャンの側にも、もう一人の米沢が待ち構えていた。

 

「ギギギ…分断に成功したぞ!お前はここで終わりだ」

 

「簡単に言ってくれるな。私はここで死ぬつもりは無い」

 

「言ってろ。黒刀『黒虫』の(さび)にしてやる」

 

黒刀を構えた米沢と鎖付き鉄球(モーニングスター)を構えたゴーギャン。二人の戦いの火蓋が切られた。

 

 一方のリュートも剣を構える。米沢は黒刀の切っ先をリュートに向けた。

 

「黒虫一式『blue berry』」

 

瞬間、黒刀の切っ先から黒い塊が銃弾のように発射された。剣から飛び道具が放たれるという不意打ちを、リュートはギリギリで躱す。

 

「危なかった…」

 

「一発躱したくらいで余裕ぶるなよ!」

 

二発、三発と黒い塊が次々に発射される。襲い来る弾丸をリュートは躱し続ける。躱しきれない弾丸は剣で切り裂いた。二つに切り裂かれた弾丸が地面に転がり落ちる。ソレを目にしたリュートが言う。

 

「やっぱり、飛ばしていたのは()だったか」

 

弾丸に見えていた飛び道具は、もはや見慣れた黒虫(カナメノクロムグリ)だった。泣き別れにされた黒虫の死骸が地面に転がっていた。

 

「虫だから安全だと思うか?当たれば体に穴が空くことには変わらないんだぞ?黒虫一式『blue berry』…」

 

 米沢はそう言うと、黒刀での突きを連発する。

 

「収穫祭!!」

 

突きの一回毎に黒虫が一匹射出される。黒い弾丸の群れがリュートに襲いかかる。

 

「はああああああ!!」

 

 リュートはあえて、黒の大群に突撃する。剣を素早く、かつ正確に振り、自分の体を貫こうとする弾丸だけを切り捨てた。

 

「ギギ、向かってくるのかぁ!?」

 

米沢は慌てて黒刀を構える。黒の群れを突っ切ったリュートが剣を米沢に向けて振った。

 意外にもリュートの剣は、米沢の黒刀「黒虫」を容易(たやす)く切断した。切断された刀身が地面に転がり落ちる。リュートが最初にルイと戦った時、自分の剣を真っ二つにされた経験があったが、その時の方がまだ拮抗する瞬間があっただろう。

 しかしリュートは余計なことを考えず、そのまま米沢を切り裂かんとする。だが相手も簡単に斬らせてはくれない。身を後ろに退いてリュートの攻撃を躱した。

 

「ギギギ…それはルイの剣だな…」

 

 米沢は刀身が半分になった黒刀を眺めつつ言った。

 

「そうだ。だが今は俺の剣だ」

 

「別に責める訳じゃ無いさ。ルイを殺したことも、スパノを殺したことも。だけど…」

 

米沢は大声で叫んだ。

 

「僕を殺そうだなんて、そんなこと許せるかよ!!黒虫四式『天使』!!」

 

 彼が技名を叫ぶと、斬られたはずの黒刀の刀身はあっと言う間に元通りになった。

 

「許せないのは俺も同じだ!!」

 

リュートもひるまず叫びを返す。再び剣を米沢に向けて振った。

 

「黒虫一式『blue berry』-収穫祭-!!」

 

米沢は後ろに下がりつつ、弾丸を連発する。ソレを切り捨てながら向かってくるリュートに対し、こう問いかけた。

 

「『許せない』だと?お前が恨んでいるのはルイとスパノのハズだ。それともアレか?()()()()()()()()()()()()()()()()か?」

 

「お前っ!知っていたのか!?」

 

「知っていた、というより最近知ったって感じだよ。お前の拠点に侵入したとき、死にかけが一人いたのが気になってね。ソイツに近づいてみたら驚いたよ。僕の魔力が感知出来たからね。あの死にかけは僕の『設置式無限複製魔法』にかかっているな?」

 

「それだけじゃない!!」

 

リュートは怒りの形相で言葉を返す。

 

「メルクリオさんの村の人を皆殺しにしたのはお前だろ!?罪も無い人々を殺すような転生者を生かしておけるか!!」

 

リュートの怒号を受けた米沢は顔を不快そうに歪ませた。

 

「ギギギ…、お前、僕のことをルイやスパノみたいなしょうも無いクズと一緒にしているのか!?ふざけるなよっ!!」

 

米沢が怒りをぶちまけた。

 

「僕の『殺し』を!ルイやスパノの『殺し』と一緒にするなああぁ!!」

 

「そんな事知るかっ!!」

 

 米沢に追いついたリュートが再び剣を振る。米沢も黒刀で対抗しようとするが、このままでは先程の焼き回しだ。そんな愚行を米沢はしない。刀がぶつかる直前、彼は技名を叫ぶ。

 

「黒虫二式『カッコウ』!」

 

 黒刀の刀が垂直に折れ、リュートの剣を躱す形になる。しかしそれだけでは終わらない。カクッカクッと刀身が折れ続け、リュートの剣を巻き込もうとする。つばぜり合いを避け、リュートの剣を黒刀の刀身を変形させることで奪い取る。これが米沢の策だった。

 だが彼のそんな作戦は失敗に終わった。リュートの剣に巻き付こうとした刀身がスパスパと切れていくのだ。これではいくら巻き取ろうとしても巻き取りきれない。

 

「チッ、やっぱりダメか。黒虫四式『天使』」

 

米沢は潔く諦め、繰り返されるリュートの攻撃を躱すフェイズに移行した。

 

「ちょこまかと…!」

 

「大人しく斬られる馬鹿がいるかよ?それに…」

 

黒刀の切っ先を地面に向ける。

 

「お前の攻撃を躱し続けるつもりも無い!黒虫三式『ヘビ花火』!!」

 

すると黒刀の刀身が伸び始め、地面に突き刺さった。刀身の伸びは収まらず、米沢の体を後方へと一気に押しのけた。ビロビロに伸びた黒い刀身は、正しくヘビ花火のようだった。

 

「ギギギ…作戦変更だ。この伸びる刀身でお前を直接切り刻むっ!」

 

 後方へ退いた米沢が体制を立て直す。伸びた刀身も元へと戻った。

 

「もうやめにしませんか」

 

突然、リュートが口を開いた。

 

「もうやめろよ、そうやってその黒刀を()()()()()()()

 

「は?」

 

米沢が言葉に詰まる。

 

「気付かないはずがないだろうその程度のことを、この俺が!!()()()()()()()()()()!!そうやって刀身を伸ばしたり曲げたり復活させたり、そんなこと出来るハズが無い!そういう能力だ、なんて嘘も通用しないぞ。お前の能力は虫を操る能力なんだからな!」

 

「ギギギ…」

 

「刀身が自由自在な理由、それはその黒刀の正体が虫の大群だからだ!技名を一々叫ぶのも、刀の正体がバレることを防ぐため!そうだろう」

 

「ギギギギギ…、ギギ、くっくくくく…」

 

 米沢は唐突に笑い始めた。

 

「くくくくくっ、ははははは!!こんなトリックを見破ったくらいで得意顔か?笑わせるなよ!」

 

「何!?」

 

「それにさっきのお前の発言…。()()()()()()()。その程度なら…」

 

 その時、リュートの耳に羽音が聞こえてきた。後ろを振り返ると、大量の黒い虫が向かってきているのが見えた。

 

「どっちみちお前は死ぬ運命!黒虫三式『ヘビ花火』!!」

 

米沢が再び等身を伸ばす。

 

「その虫の大群は、さっきお前が()()()()()()()()!弾になった虫がそのままどこまでも飛んでいくと思ったか?生きている虫は再び僕の方へ戻ってくる!!虫の大群と伸びる刀身!二つを相手に生き残ることが出来るかな!?」




リュートVS米沢反死(よねざわはんし)
ゴーギャンVS米沢反死《よねざわはんし》

開戦ッ!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その14 「虫の剣士」

エクシーズ・効果モンスター
ランク4/闇属性/悪魔族/攻1900/守 0
レベル4モンスター×2
このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、
レベル5以上のモンスターの特殊召喚を無効にし破壊する。


 リュートの背後から黒虫の大群が押し寄せてくる。しかし背後ばかり気にすることも出来ない。正面からはリュートを串刺しにせんと、米沢が伸ばした黒刀の刀身が伸びてきてきた。

 横に飛んで避けることも一瞬考えたが、虫の群れと伸びる刀の二つを相手に避け続けることは厳しいと判断し、止めにした。

 リュートはあえてその場から動かない。決して諦めたわけでは無い。だが手にしている剣だけで両方を相手取ることも難しい。彼は()()()()()()(ふところ)から取り出した。

意外!それは霧吹きッ!

 

「はあっ!」

 

 リュートは剣を右手、霧吹きを左手に持った。彼は近づいてくる黒刀の刀身に霧吹きを向け、液体を噴射する。液体が刀身に命中すると、当たった部分がボロボロと崩れ落ちた。リュートはその場面を見ていない。彼の視線はすでに虫の大群へと向いていた。素早い剣さばきで襲い来る虫を次々と切り捨てる。

 

「ギギギ…!お前、その霧吹きはァ…!!」

 

 米沢は黒刀を一度元の長さに戻した。虫の群れもリュートを襲うのを止め、米沢の元へ撤収していく。元に戻った黒刀は()()()()()()()()()()()()

 

「やっぱり俺の言ったとおりだな!その黒刀は刀なんかじゃない!黒虫が集まって擬態したものだ!」

 

リュートは先程まで自分が立っていた場所を確認する。黒い虫の死骸が一列に並んで地面に落ちていた。彼はその場所を指差して言う。

 

「この不自然に並んだ死骸がその証拠だ。この死骸は霧がかかった部分の刀身に()けていた黒虫だ。教えるまでも無いけれど、この霧吹きの中身は()()()だよ!お前が相手だと分かって、拠点から持ってきたんだ。それに今お前が持っている黒刀!刀身が崩れ落ちたハズなのにその形跡が全く無い!当然だよな、その黒刀は虫の塊なんだから!」

 

 そう、リュートの予想は正しかったのだ。米沢の武器である黒刀「黒虫」の正体は、()()()()()だった。刀身の長さや形が自由自在なのも、失った刀身がすぐ元通りになるのもそれが理由だ。彼は世間では「虫を操る剣士」として知られている。だが、それは間違いだ。米沢の武器は最初から()()()なのだから。

 リュートは米沢の戦闘スタイルの正体を見抜いていた。だが、米沢が先程安堵(あんど)したのは強がりでは無かった。先のリュートの発言、その中の「些細(ささい)な間違い」が彼を安堵させたのだ。「相手は真の意味で自分の特殊能力を知ってはいないのだ」と。

 

「ギギギギギ…。褒めてあげるよリュート…。その通りだ。僕の黒刀は虫の集まりさ」

 

米沢の言葉を受け、黒刀「黒虫」が散っていく。黒い破片が宙を舞う。その一つ一つは確かに黒虫(カナメノクロムグリ)だった。

 

「だけどそれが分かったから何だ?そんな霧吹きだけで僕に勝った気か!?調子に乗るんじゃ…無いぞォ!!」

 

 米沢は再び大量の黒虫を展開し、リュートへ突撃させる。彼の手にはいつの間にか黒刀が握られており、技名も唱えず刀身を相手へと伸ばした。

 リュートは霧吹きを、自身へ向かってくる刀身へと向ける。しかし刀身は霧吹きの射程距離限界まで伸びたところで、虫の群れへと急に姿を変えた。相手に正体がバレた以上、いつまでも刀のフリをする必要も無い。正体を現した黒虫の群れを突っ切るかのように、別の虫で形成された刀身がリュートに向かって一直線に伸びてくる。

 

「何がしたいんだっ!?」

 

そう言って殺虫剤を噴射するリュート。霧は刀身へ命中し、虫の死骸がボロボロと崩れ落ちる。しかし「最初に刀身のフリをしていた虫の群れ」は霧を避けるようにしてリュートに襲いかかる。米沢は伸びる刀身を「霧吹きの(おとり)」にしたのだ。結果、リュートは四方から虫に囲まれることになる。

 

「くぅっ!!」

 

 リュートは次々と襲いかかる虫の群れを時には(かわ)し、時には剣で切り伏せ、時には霧吹きで対応しつつ立ち回る。米沢も黒刀をグニャグニャ伸ばしつつ、リュートへと攻撃を仕掛ける。だが彼の本当の狙いは別にあった。黒刀と虫を駆使して(リュート)の注意を十分に引きつける。

 

「今だ!」

 

 彼の()()がリュートへと襲いかかった。

 

 

 

 

 

 時は少し(さかのぼ)る。

 米沢の結界に捕らわれたポセイドラが、同じく囚われの身となっている魔女に問いかける。

 

「魔女、この結界は何という魔法なんだ?」

 

しばらくの沈黙の後、魔女が答える。

 

「分からない…。この結界は米沢のオリジナルだな」

 

「分からないだと!?」

 

「落ち着けと言っただろう」

 

魔女の言葉を受け、ポセイドラは口を(つぐ)む。

 

「私もふざけている訳じゃ無い。結界魔法の生成というのは、衣類の生成と似たようなものだ。使用する繊維の種類によって衣類の伸縮性や通気性、防寒機能が変化するのと同じように、結界魔法も使用する魔力次第で効果をいくらでもアレンジできる。私は今、この結界を観察して効果を見極めているのだ。その上で、現段階で分かっていることをお前に教える」

 

魔女はポセイドラの方に顔を向ける。

 

「この結界は分かりやすく言うなら、『超優秀な魔法耐性の結界』と『優秀な物理耐性の結界』の組み合わせで作られている。つまり、魔法耐性の方が物理耐性よりも優れているのだ。外からも内側からも魔法で破壊するのは不可能に近い(まあ、私が全力を出せば不可能じゃ無いんだが)。かと言って魔法無しの力押しで破壊するのもそれはそれで大変、というわけだ」

 

ポセイドラは黙って魔女の説明に耳をかたむける。

 

「逆に言うならばこの結界、攻撃機能は全く備わっていない。生成次第では、結界の壁から魔法が放たれて内部を攻撃出来るようにしたりも出来るのだが、この結界にそう言った機能は備わっていないということだ。今分かるのはこれだけだ。解析を待たれよ」

 

 そう言って魔女は結界へと目線を向けた。ポセイドラも彼女に習い、結界の観察を始める。

 

「やめとけ!やめとけ!お前はそれほど魔法に詳しいわけでも無いだろう?今言ったことは、魔法に精通し尽くした私の解析で判明したことなんだぞ。ケイルならともかく、お前が解析に努めようとした所で気力の無駄遣いだ」

 

 魔女の忠告を聞いたポセイドラが不満げに言葉を返す。

 

「なら俺はどうすれば良い?」

 

「精神統一でもしておけ。結界を突破した後、すぐにでも反撃に移れるようにな」

 

普段なら言い返していたであろうポセイドラだが、今の状況で魔女が冗談を言うハズが無いことは分かっていた。素直に魔女の指示に従い、来たるべき時に備えるようにした。

 

「しかし何だな…。この魔力配置の精密さは見事だな。ムカツク転生者の作ったモノだが、これは褒めざるを得ない…。()()()()()()()()()な…。一体どうやってこんな結界を仕込んだんだ?」

 

 結界を眺める魔女が誰に対して言うのでも無く、こう(ひと)()ちた。それを聞いたポセイドラが魔女に対し言葉を投げかける。

 

「魔女、俺はお前のような知識があるわけじゃない。転生者に関する知識も、魔法の知識も無い。だが、これだけは言わせて欲しい」

 

「…何だね?」

 

魔女が気乗りしないように言葉を返す。

 

「お前は米沢に関してことあるごとに『分からない』『謎だ』『どうやったんだ』と言っているな?だが俺が思うに、お前の抱えるそれらの謎はある一つの事柄から発生しているモノなんじゃないのか?」

 

「何が言いたい?」

 

「別に馬鹿にしたい訳じゃ無い。お前は必要以上に難しく考え、多くの謎を背負っているんじゃないか?そんな風に思っただけだ」

 

「複雑に考えすぎ…か。根拠は?」

 

魔女に問われたポセイドラはキッパリと言い放った。

 

「そんなものはない。ただの勘だ」

 

「プフッ!ただの勘か!」

 

軽く笑う魔女だったが、真剣な口調で次のように言葉を返した。

 

「だがまあ、マジメなアドバイスとして心に留めておこうじゃないか」

 

そう言って彼女は結界の観察へと注意を向け直すのだった。

 

 

 

 

 

 アシバロンの強襲を受けてから半年以上、リュートはただ漫然と過ごしていたのでは無い。彼は日々の魔人討伐で己を鍛え、戦闘能力を上げていた。

 彼の周囲には大量の虫。ブワブワと不快な羽音が耳にこだましていた。そんな中、彼はある違和感を覚える。耳朶(じだ)に反響する羽音の中に、固まって聞こえる羽音があった。周囲を囲む虫たちは、霧吹きの餌食にならぬようにばらけて飛び交っている。()()()()()()()()()()()()()()()

 この妙な羽音はどこから聞こえるのか。

 リュートはそれが後ろから聞こえているのだと察知すると、羽音から避けるようにして反射的に身を(ひね)った。瞬間、()()()()()が彼の脇腹を切り裂いた。これは今米沢が操っている黒刀の刀身では無い。最初のぶつかり合いでリュートが米沢の黒刀を分断した際、地面に落ちた刀身。それが今になって意志を宿した生き物のように、リュートの背後から襲いかかってきたのだ。否、「ように」では無い。この刀身もまた、虫の集合体に相違ないのだから。

 米沢の狙いは、リュートが周囲の虫と自分の操る黒刀に気を取られている隙に、この刀身で背後から奇襲する作戦だった。結果として彼のタイミングは完全に間違っていたとは言えないだろう。もしもアシバロン襲撃以前のリュートが相手だったならば、刀身は見事に目的を遂げていたはずだ。

 しかし、今の成長したリュートに致命傷を与えることは出来なかった。刀身は彼の脇腹を切り裂きはしたが、内臓等の致命的な部分を傷つけるには至らなかったのだ。

 そんな今の状況を見て、()()()()()()()()()()

 

「ははははは!!()()()()()!?今からお前も、あの死にかけと同じようにしてやる!!」

 

「何!?」

 

 困惑するリュートを尻目に、米沢は技名を叫んだ。

 

「勝った!黒虫九式『感染(かんせん)』!!」




 今回の前書きは、米沢反死(よねざわはんし)のモチーフの一つになったエクシーズモンスターの効果テキストです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五章 外道死すべし その15 「注射とカプセル」

 今回は後書きに月末恒例行事である「チートスレイヤー原作者の漫画が連載されている某月刊漫画雑誌レビュー」を行います。
 私は今、この作品を読んでいる皆さんにお伝えしたいことがあります。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 どれくらい酷いかというと、今月号の話を読めば今まで「原作者の漫画」を読んだことが無い人でも「チートスの原作者って本当に『賭ケグルイ』以外に面白い作品を作れないんだなぁ」と分かるくらい、ですね。
 ここを読んで「そんなに言われるとどれだけ酷いか気になるなぁ。読んでみよっかな」と思った人のために、今月の「原作者の漫画」のストーリーをザックリお伝えします。
 「物語の主人公が殺し合いトーナメントの第一回戦の第二試合に出場し、敵を殺して勝利した後」という内容です。もうストーリーは第一回戦の第二試合が終わっているんです。にも関わらず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もう二戦終わっているのにですよ?この二つの「強さの指数」も本当に酷い。最初に出てきたヤツは「めっちゃダサい」し、二つ目は「細々していて分かりにくい」指数でした。で、今月号の話はこの二つの説明と三回戦に出てくるキャラクターを軽く紹介して終わりました。
 気になる人は読んでみても良いですが、責任は取りません。「本家」「煮こごり」「メイド喫茶の漫画」のレビューは後書きで行います。
 それでは本編をお楽しみください。


 傷を負ったリュートを見て勝利を確信した米沢が技名を唱える。

 

「黒虫九式『感染(かんせん)』!」

 

 次の瞬間、リュートがその場にしゃがみ込む。

 

「ギギギギギ…!どうだ苦しいか!?だがな、僕を殺そうだなんて野蛮な(やから)を長生きさせるほど僕は甘くない!!」

 

米沢の指揮を受け、虫の大群が一気に(リュート)になだれ込む。リュートの姿が見えなくなるほど大量の虫が、彼の体を(おお)い尽くした。

 

「終わりだ、もう動けないだろう?このまま虫に食い殺させても良いんだが、危険はさっさと取り除きたい。まだゴーギャンもバニーラもいるしね…」

 

そう言って米沢は自慢の黒刀を手に、リュートに向かって歩み寄る。

 

「一思いに斬殺してやる。苦しんで死なないことを喜びなぁ!!」

 

彼は一目散に駆けだした。

 例え話をするが、もしも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。しかし実際には先に殺されたのはルイだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。リュートを斬り殺さんと駆け出す米沢。標的まで後数歩の所で、突如彼の脳内に「虫の知らせ」が飛び込んでくる。

 

「待て!!それ以上近づくな!!()()()()()()()()()()!!」

 

 身の危険を察知した米沢は突如ブレーキをかけ、後ろへ飛び退いた。直後、リュートを包み込む虫の群れから煙がボフッと舞い上がった。煙の中から人影が立ち上がり、ボロボロと大量の虫が死骸となって崩れ落ちる。煙の中の人影は自身を覆う煙を払うかのように、持っていた剣を横に振る。

 

「なんだ、上手く逃げたみたいだな?」

 

 煙の中からリュートが現われた。

 

「せっかく、こんな傷だらけになるくらい引き寄せたって言うのに!」

 

言葉通り、彼の体は虫に噛まれて傷だらけになっていた。だがどう見ても米沢が勝利を確信出来るような状態では無い。リュートは依然、戦闘可能な状態だ。

 

「ギギギギギギギギ…、リュートぉ!!」

 

「でも残念なのはお前も同じか?ご自慢の『設置式無限複製魔法』が効かなくてな!」

 

「どうして…」

 

「どうして?お前が言ったんじゃないか、『あの死にかけと同じにしてやる』ってな。黒虫九式って言うのはメルクリオさんにかけた『設置式無限複製魔法』だ!そうだろう!?」

 

「そんなことはどうだって良い!」

 

米沢が叫ぶ。

 

「どうして僕の毒が効かない!?それに何だ、さっきの煙は!?僕のデータに無いぞ!」

 

「知らなくて当然だ。この武器は()()()()()使()()()()()()()()

 

 リュートはこれまでのケイルとの会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 ケイルが初めてテンスレのメンバー全員に()()()()を行ったのは、立花亭を監禁する数ヶ月前のことだった。膠着期間中もテンスレ拠点の地下室からは虫が数回発見されていたが、その三匹目の発見から数日後、ケイルはある「抗体」を完成させていたのである。

 その時は「今後の予防」としか聞いていなかったリュートだったが、メルクリオの復讐代行を皆で誓ったあの日にケイルから抗体の説明を受けたのだ。

 

米沢反死(よねざわはんし)と戦うのでしたら、皆さんに行った予防接種が効果を発揮するでしょうね」

 

「あ、もしかしてあの時の注射って米沢の毒に対する…?」

 

「そのもしかして、です。あの注射はカナメノクロムグリが持つ毒素を完全に無効化する抗体なんです」

 

 カナメノクロムグリは、この世界にする生息する雑食性の害虫である。農作物や動物の死骸などを好んで食べるが、小さなネズミを生きたまま集団で食い殺すこともある。その際カナメノクロムグリは体内の毒素を獲物に噛みつくことで注入し、弱らせてから集団で襲いかかる。「小さなネズミを弱らせるほどの毒素」ということは、人体を死に至らしめるほどの殺傷力は有していない。噛まれてもせいぜい、湿疹(しっしん)()れが起こる程度だ。

 しかし米沢が使役する虫となれば話は別だ。毒性の強化と「設置式無限複製魔法」により、例え人間であっても相手を死に至らしめることが出来るのである。

 

「ですから、この抗体を完成させるには米沢が使役する虫のサンプルが必要だったのです。数日前入手した虫の死骸で、ようやく十分な効果を持つものが完成しました」

 

ケイルが説明をした。

 

「あれ、じゃあどうしてメルクリオさんはまだ毒状態に?」

 

「おいおいリュート、ケイルが作ったのはあくまで『抗体』であって『治療薬』じゃあ無いんだぞ」

 

魔女が呆れたように言う。

 

「まあこの注射も正確には薬みたいなモノなんですが…。専門的なことはともかく、あの予防注射を受けた皆さんは米沢の毒を無効化する体になっています。毒が効かない以上、相手の『設置式無限複製魔法』も意味を成しません。ですが既に毒に侵されているメルクリオ君には効果が無いんです…」

 

ケイルは残念そうに首を振った。

 

「だが、ケイルのお陰で私達が安心して戦えるのは事実だ。戦って毒に侵されるようでは目も当てられないからな」

 

ラーシャが言った。

 

「そうでした。ついでに皆さんにアレも渡しておきましょうか。少し待っていてください」

 

 そう言ってケイルは二階の研究室へと向かう。数分後、彼女から皆にテニスボール大のカプセルが手渡された。

 

「何これぇ」

 

「こうやって使うんです。えいっ」

 

ケイルが床にカプセルを叩きつける。まるで忍者が身を隠すときに使う煙玉のように、大量の煙が発生した。

 

「これは殺虫剤が霧状に発生するカプセルです。地面に叩きつける等、衝撃を与えることでカプセルが割れ、中の殺虫剤が一斉に気化します。虫に囲まれたときに活躍するでしょう」

 

ケイルが説明を行う。

 

「すごい!コレさえあれば…」

 

「ですが周囲の虫を殺せるだけの殺虫剤を気化させるには、これよりカプセルを小さくすることは出来ませんでした。大量に隠し持つことは出来ませんので、使い所にはお気を付けを」

 

そう彼女は付け加えた。

 

 

 

 

 

 毒を受けたはずのリュートがピンピンしているのを見て、米沢はギギギと不快な音を口から漏らす。

 

「もうお前も分かっているだろう?殺虫剤だよ。本当は近づいたお前ごと巻き込むつもりだったんだが…、これじゃあ噛まれ損だな」

 

「苦しんだフリはお前の得意技だろうがっ!」

 

 リュートは以前、スパノとの戦いでも苦しんだ演技を披露し、相手に致命傷を与えることに成功していた。米沢はその様子を見ていたからこそ、無抵抗なリュートに危機感を覚えたのだった。

 

「ギギギギギ…、なんてことだ…。一発当てれば勝てると思っていたのに…。これじゃあ()()()()だ!!」

 

 悔しそうな様子を隠そうともしない米沢。彼の言葉を耳にし、リュートはある違和感を覚えた。

 

「ギギギギギ…、急いで皆に知らせねば!!」

 

 この言葉を最後に、米沢は自身の体を大量の虫へと変化させた。虫の大群は一斉にゴーギャンの方へ飛んでいく。

 

「待て!逃げる気か!?」

 

リュートも慌てて後を追う。

 

「ヤツは転生者だ。魔力は大量にあるハズなのに、どうして一発のミスであんなに焦っているんだ?」

 

虫の後を追いながら、彼は先程浮かんだ違和感を整理していた。

 

 

 

 

 

同時刻

 

「ふむ…、これは悩み所だな…」

 

 結界の観察を行っていた魔女が、結界から目を離して声を漏らした。

 

「おい、一人で悩むな。何があったんだ?」

 

一緒に囚われの身となっているポセイドラが説明を要求する。

 

「ああ、すまなかったなポセイドラ。さっき私が『この結界の魔力配置は素晴らしい』と言っていたことを覚えているな?」

 

「ああ。だが俺には全然分からん!」

 

「分からなくても良い。重要なのはこの結界がとても精密な魔力配置で出来ていることと、それによって最低限の魔力でここまで強力な結界を張れていることだ」

 

魔女は次の言葉を強調した。

 

「だがそうは言っても、ここまで強力な結界を張るということは並大抵の魔力では不可能だ。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。アシバロンのように最低限の魔力しか残っていない、ということも無いだろうがな」

 

「米沢はベストナインなんだぞ?」

 

「だとしてもだ。私が本気を出さねば壊せないような結界を作るのは相当な量の魔力が必要だ」

 

ポセイドラは魔女がそういうなら、ということで納得する。

 

「つまり、今リュート達と戦っている米沢は全力を出せない状態なのか?」

 

「そうだ。だが仮に、私達がこの結界を破ったとしよう。すると結界の生成に使われていた魔力は、中継役の虫を通って一気に米沢本体に戻ってしまう。つまり、この結界がある限り米沢は全力を出せないが、結界を壊せば米沢は全力で戦える状態になるというわけだ」

 

「くっ!」

 

真実を知ったポセイドラは苦しそうな顔をする。

 

「結界を壊すにしろ、今残っているメンバーでメルクリオのいる拠点(ここ)を守りつつ、本気の米沢を相手にするのは厳しいだろうな」

 

「確かに…悩み所だ…」

 

 しかし、魔女は軽く笑った。怪訝(けげん)そうなポセイドラに対し、彼女は結界を構成している虫をチラ見して言った。

 

「米沢の虫がいると判明して半年以上か…。長かったな、ポセイドラ」

 

この言葉を聞いたポセイドラはハッとなる。虫が近くにいる今、こちらの持つ手札を大っぴらに口にすることは出来ない。だが彼は魔女の言いたいことを察することが出来た。




 今更言うことでも無いんですが、カナメノクロムグリは実在する虫じゃ無いですよ。その証拠にGoogleで「カナメノクロムグリ」と検索すると当作品が一番最初に出てきます。そしてなんと米沢反死(よねざわはんし)の元ネタの一部も出てきます。狙ったわけではないのでビックリしました。

 以下、作者の愚痴です。読む価値無し。





 月末恒例企画「原作者の漫画が連載されている某月刊漫画雑誌レビュー」のお時間です。
 今月号は「本家」が表紙(二ヶ月に一回くらいのペースで「本家」が表紙になる)で、新連載が二つでした。

 「原作者の漫画」についての不満は前書きに書いたので割愛します。ただ先月のレビュー(第五章第4話)で私は「『原作者の漫画』が抱える最大の問題点は作画担当です。間違いないです」と言いました。撤回します。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今月号の話に作画担当の非は感じられませんでした(まあ戦ってないので当たり前なんですが)。先月は作画担当が漫画を駄目にしていて、今月は原作者が漫画を駄目にしているって、この漫画は一体何なんでしょうね…?

 「本家」は今月号も良かったです。内容を話すとネタバレになってしまうので書けません。ただ一つ文句を言わせて貰うとするならば、せっかく二話同時掲載するなら第七回戦開始までは辿り着いて欲しかった。

 いつもボロクソに言う「煮こごり」ですが、今月号は特に悪い印象はありませんでした(面白いとは言っていない)。今月号の話が復讐パートなのは予測できてたし、ラスボスっぽいキャラの存在も発覚しましたからね。「煮こごり」が悪く感じられないほど「原作者の漫画」が酷かったのか、あるいは先月号が酷すぎた反動か…。でも先々月号は「原作者の漫画」も「煮こごり」も酷く感じたのでたまたまでしょうね。

 「メイド喫茶の漫画」は毎回面白いんですが、今月号は特に良かったです。見ているこっちが照れちゃうような、主人公の甘酸っぱい恋心の描写が絶妙でした。物語の方向性も何となく示唆されましたしね。ただ出来れば二人が結ばれて終わりにするのでは無く、付き合った後も連載が続いて欲しいですね(某恋愛頭脳戦みたいな感じで)。まあまず二人がいつ付き合い始めるのかも分からない状況なんですが…。

 一応、新連載二作も目を通しました。
 一作目は「北斗の拳」のアミバが異世界転生する話でした(マジですよ)。あまり面白いとは言えなかったのですが、作者の「北斗の拳」への愛は伝わりました。
 二作目は歴史上の様々な英雄が異世界で国取り合戦を繰り広げる話で、所謂「国取り合戦版『本家』」といった内容ですね(神は出てこないようですが)。話は面白かった(「煮こごり」は見習って、どうぞ)んですが、やっぱりこの手の話は偉人のチョイスに文句を言いたくなりますね(これは「本家」でも変わらない)。何だよ、真田幸村って。それならまだ武田信玄(「掘り出しもんだヮ」じゃ無いぞ)か伊達政宗の方が納得出来るわ。

 最後に、この月刊漫画雑誌に言いたい。
 「北斗の拳」と歴史上の偉人に頼るの、もうやめにしませんか。
 あなたは連載陣の内容を被らせて一体なにがしたいのか。
 「本家」の二匹目のどじょう狙いが本当に上手く行くと思っているのか。
 漫画の内容を被らせることで自分は幸せにならないとあなたは知っているはずだ。
 私がもしあなたに会えたなら、目の前のあなたは優しい微笑みを湛える方かもしれない。
 だからあなたにお願いします。
 もうやめにしませんか。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。