新世界の海に陽炎、抜錨します! (yutarou)
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用語解説設定集

 この解説はあくまで筆者個人の主観と解釈によるもので公式のものではありません。
 正確な情報が知りたいのでしたら公式もしくはWikiをご覧下さい。



艦これ編

 

日本国

 深海棲艦との戦いにおいて人類国家の中心的役割を果たした国家。

 終戦後の世界のリーダー的立場につくと思われたが突如異世界に転移する。

 人口は1億2千万人。戦後ベビーブームの為乳幼児が多い。

 太平洋諸島の難民20万人を抱えている。

 

自衛隊

 深海棲艦との戦いで半減した。転移時点での自衛隊の人員は12万5千人。

 海上自衛隊の戦力は護衛艦23隻、潜水艦10隻、機雷戦艦艇11隻、哨戒艦艇3隻、その他輸送艦

 と補助艦艇を保有。

 護衛艦隊は2個のみ。現在再建中である。

 一部政治家が大和型戦艦を模した護衛艦を建造することを提案している。

 

日本海軍

 海上自衛隊とは異なる、艦娘を運用する組織。

 対深海棲艦戦において指揮権の独立を認められている。

 艦娘が好むように旧大日本帝国海軍の様式を踏襲している。

 

深海凄艦

 機能不全に陥った輪廻転生の輪から溢れ出した死者の記憶が艦船の形をとったモノ。

 通常攻撃では傷つけらず、艦娘の攻撃以外では倒せない。

 艦娘以外の何らかの方法で倒した場合、負の生命エネルギーをまき散らしてしまう。

 人間を滅ぼしつくした後は消滅する運命だったはずであるが、ラキシスのメッセージを受け取

 った首領個体が滅びの運命を拒否、当初の予測より強大になった。

 核兵器を使用した場合、爆発エネルギーを吸収し反射する。

 

艦娘

 深海棲艦をあの世に送り返すために生まれた存在。

 在りし日の艦船の魂を宿す戦乙女たちである。

 第二次大戦中の海軍艦艇とその乗組員の魂、艦霊を収めた艤装を装着し戦う。

 元々は普通の少女たちである。

 死者と生者の魂を並列することにより、疑似的に輪廻の輪を形成し死の記憶を浄化する。

 異世界のアンデットモンスターに対しては無敵を誇る。

 

第14駆逐隊

 旧帝国海軍では存在しなかったが、横須賀の提督が落ちこぼれの駆逐艦を集めて陽炎に押し付

 けできた駆逐隊。陽炎の頑張りで成長し各地で活躍した結果、奇跡の駆逐隊と呼ばれる。

 深海棲艦との最終決戦で敵本拠地に突入し、敵首領個体『深海凄妃』を討ち取る。

 

Karem(艦娘活動範囲拡張機構)

 見た目はローラーブレード、スクリューの回転を車輪に伝えることで艦娘が地上を走破する。

 元は艦娘に地上戦をやらせるため防衛副大臣が造らせた兵器。

 地球では艤装は地上で作動しないという問題をクリアできなかったが、新世界の水の魔石を

 装着することで、艤装を海上にいると誤認させることに成功してしまった。

 

新人類能力

 戦闘を通して一部の艦娘が目覚めた特殊能力。

 高度な空間把握能力、行動の先読み、特殊な脳波による思考の伝達などが挙げられる。

 陽抜設定では艦娘は元々人間なのでこういった能力に目覚めても不思議はない。

 つまり艦娘はガ〇ダム。筆者がそう判断した。

 曙「このダブスタクソ三流二次創作作家が!」

 筆者「ありがとう最高の誉め言葉だ」

 

合成食品

 深海棲艦の出現に伴い開発に成功した。餓死者は最小限に抑えられたが、美味しくなく満足

 感もないため人心が荒れて治安は悪化した。

 

鬼級 姫級

 深海棲艦の幹部あるいは指揮官的役割をする特別な個体。

 言葉の様なものを話し、一見意思疎通が可能なように見えるがそのほとんどは恨み言である。

 建造には艦娘適正のある人間か轟沈した艦娘から造る特別なコアが必要。

 倒すと極稀に艦娘が生還することがある。

 

 

 

 

ファイブスター物語編

 2013年に設定の大幅な変更があったためそれ以前の設定を旧設定、以降を新設定とします。

 

ファティマ

 新設定ではオートマティックフラワーズと呼ばれる。

 マッドサイエンティストのウラニウム・バランス博士により理論が提唱され、孫のリチウム・

 バランス博士が完成させた生体コンピュータ、騎士がGTMを操作するのを補助する。

 スーパーコンピュータをも凌駕する演算能力を持つ。電算機能は128ビットコンピュータのパ

 ルスの速さに匹敵し、毎秒36兆5000億回の予測演算を実行する。

 ダムゲートコントロールという精神操作を受け人類には逆らえない。

 パートナーには相性が存在し、自らが主と決めた相手とそうでない相手では組んだ時発揮する

 性能に数倍の開きがある。そのためファティマは自らの主を自分で決める。

 主の命令には絶対服従、性的奉仕もする。

 合成繊維に強度のアレルギー反応を示し、彼女らの為に天然繊維の衣服が復刻されている。

 (ジョーカー人は長い間合成繊維の衣服しか着ていないため天然繊維に対して偏見がある)

 

騎士(ウォーキャスター)

 炎の女皇帝ナインが創り出したエンハンスドヒューマン

 人類を遥かに上回る身体機能と生命力を誇る。とくに女皇帝直属の純血の騎士は凄まじい戦闘

 力を誇る。素手で宇宙戦艦を破壊することも可能。額にハイブレンコントロールの術式を刻ま

 れていて超帝国の皇族の意のままに動く。

 現在では普通の人との混血が進み力は低下している。それでも殴れば戦車の装甲を凹ますこと

 が出来る。また心臓を破壊されても数時間以内に処置すれば助かる。

 

天位

 ジョーカー星団で様々な分野で多大な功績を残した人に与えられる称号、地球でいうとノーベル

 賞的なもの。剣術の審査は現役の剣聖もしくはバキンラカン帝国の聖帝が行う。

 権威ある称号で授与者はうかつに前線に出ると集中的に狙われる。

 また天位持ちの騎士は相応しいと思った人物に譲ることも出来る。

 天位の上に小天位、強天位、泰天位(剣聖)という称号がある。

 

剣聖

 当代最強の剣技を持つ騎士に与えられる称号。一人を除き全員スバースの血族が占める。その

 例外の一人もスバースの姉の転生者だったりする。

 他の騎士とは隔絶した強さを誇り、一つ下の強天位騎士でさえ一太刀入れることすら難しい。

 

魔導師(バイター)

 騎士と同じく炎の女皇帝ナインが創り出したエンハンスドヒューマン

 騎士達を操る支配階級であったが現在では地位が低下している。

 

 ボルテッツ(旧設定ダイバー)

  攻撃魔法やバリアを発生させる。

 

 スコーパー(旧設定パラ)

  テレパシー 遠隔視 極めれば予知も。新設定では使用できるのは女性のみ 

        

 オペラ(旧設定ハイブレン)

  人間の思考中枢を制御して他人を操る能力。失われた能力

  バキンラカン帝国の聖帝がこの能力の残滓を持ち、騎士の力量を測る事が出来る。

 

 グレイン(旧設定ルシェミ)

  物質を変化させる能力 現在完全な形で使えるのはボスヤスフォートのみ

  この能力の残滓を持つものはGTMかファティマの製作者(ガーランド)になれる

 

バスター砲

 最悪の破壊兵器

 ジョーカー星団の戦艦には一応搭載しているが、使用すると星団中の国家から非難されるので

 使用しないのが暗黙の了解になっている。

 

ハーモイドエンジン(旧設定イレーザーエンジン)

 太陽風を取り込んで発電し、一部を戻して増幅することにより一度動かせば無限に稼働する

 外燃機関。ジョーカー宇宙以外では不調なことが多い。

 

GTM(ゴティック=メード)

 騎士が操縦する究極のロボット兵器。

 旧設定のモーターヘッドにあたる。相違点は手足の関節が一つ増えたこと、全高が14mから

 18mになったこと、ファティマ誕生以前から存在していたことなど。

 

ミラージュ騎士団(ミラージュナイツ)

 旧設定では東方第一等幻像軍団( First Easter Mirage Corps[1] 略称F.E.M.C.)

 新設定では炎戦幻影騎士団ツァラトウストラ・クリーグ・カンプフリッター・ミラージュ

 ( Zarathustra Krieg Kamplitter Mirage。略称Z.K.K.M.)

 天照帝が集めた星団史上最強の騎士団

 

 構成員は一国の剣指南役を務められるほどの剛の者ばかり。ただし実態を知らない者はお飾り

 の典礼用騎士団と侮っている。

 

 天照帝の全権代理人としてAKD全ての人と物を自由にできる。犯罪を犯しても罪に問うことは

 出来ない。星団の他国家を想定したものではなく、対異次元からの侵略者(ヴィーキュル)戦

 を想定している。左右二部隊に分かれるがそれとは別に天照帝に忠誠を誓うメンバーとラキシ

 スに忠誠を誓うメンバーが存在する。

 

 右翼大隊オレンジ・ライト(隊長はログナー)

 政治・外交・軍事など表向きの仕事を担う。メンバーは品格ある騎士で構成されている。

 天照帝に心からの忠誠を誓っていてAKDの王族貴族や他国の騎士団長の親戚などが名を連ねる。

 

 左翼大隊グリーン・レフト(隊長はサリオン)

 暗殺・破壊活動など裏の仕事を担う。メンバーは犯罪者や死刑囚など。一応サリオンの補佐役

 としてまともな騎士が二名在籍している。

 天照帝に対しては崇敬よりも恐怖により忠誠を誓っている。多くは幽閉されているが一部外出

 を許されているメンバーもいる。

 

典星舎

 天照家が長を務める星団最大の魔導士ギルド

 

セントリー

 ジョーカー宇宙の生命力を司る高位存在。

 旧設定ではドラゴンだった。新設定では大精霊か精霊王といった感じの存在。

 ライブ、ブリッツ、カラット、マグマ、パルサーの5種がいる。

 数百年周期で死と再生を繰り返す。幼生は弱い為人間に育てて貰う必要がある。その対価に命

 の水を貰える。

 成体になると人に見えなくなるが幼体は実体を持つ。ライブとパルサーの幼体はドラゴンに似

 ており、ブリッツの幼体は妖精ピクシーに似る。

 

命の水

 セントリーの幼生を育てる対価に貰える物。生者に使用すれば若返り、死者に振りかければた

 ちまち生き返る。通常二人分貰える。

 

詩女

 超帝国総帝ナインの記憶を受け継ぐとされる女性達。

 ハスハ連合国内で最も魔導力の高い女性が継承し、国家の代表を務める。

 歴代詩女の知識を借りる事かできる為、大国の政治家を掌で踊らせることも

 

血の召喚(マジェスティック・スタンド)

 命の水と己の生命を引き換えに高位存在を召喚する秘儀。

 

ヴィーキュル

 異次元からの侵略者。悪魔のような姿と六本の指を持つ。

 進化の袋小路に陥った哀れな生命体と言われ命の水もしくは世界創生式の解を求めてジョーカ

 ーに侵攻している。

 倒しても直前の時間から無事な体を引っ張ってきて再生するため実質的に倒すのが不可能。

 何度も体を破壊してこちらの世界に滞在するエネルギーを尽きさせ撤退させる以外ない。

 首領は女魔帝ゴルリ・ダルリハ、ラキシスとの対話により新たな道を探すことを決意。ラキシ

 スの旅に同行することになる。現在もラキシスの影に潜んでいる。

 また彼らの神であるバフォメート・ヴィクトリーはラキシスに恩義を感じており、全ての時間

 と場所で彼女を守ると誓っている。

 

ドウターチップ

 人間の生体情報と記憶を保存しその人物が殺害されても復活できる。使用するには胚の段階で

 仕込む必要がある。登場人物ではログナーがこれを使用されている。

 

モナーク・セイクレッド

 クラウン大銀河の中心、時の停止する空間に存在する聖典「全宇宙の全記録を書き記された書

 物」、「この世の全てを手中に収めた者が求めるであろう聖典」と言われている。

 実際は人間の誕生から死までの詳細を記憶した媒体の集合体。

 

 

大まかな歴史

 かなり端折った歴史です。永野先生ごめんなさい。

 

有史以前~モナーク紀

 全てが不明、ただしオリュンポス星系にこの時代の自己進化兵器が三体残っているらしい。

 ラキシスは彼らと共に謎の敵と戦い、友達になった。その後その三体はラキシスのお供として

 彼女の旅に同行する。普段はアクセサリーの中に封印されている。

 

アズデビュート紀

 モンソロン帝アズデビュートが治めていた時代。

 四つの太陽系を近くに集めジョーカー星団を形成した。

 人工知能に人類の管理を任せていたため、徐々に活力を失い滅亡した。

 アズデビュートは自らを数式生命(プログラム生命体)に変化させ世界創生式の解を得た。

 銀河一つ分の民の記憶を記録媒体に移し替え、時の止まった空間に保存する。

 

AD世紀

 超帝国ユニオが治めていた時代。

 人類を管理していた人工知能ユニオ2が次世代を作製したがそれはなんと生身の人間だった。

 その人間こそユニオ3ことナ・イ・ンである。

 

 超帝国がボォス星に入植、その影響で急激に環境破壊が進む。

 そのことに激怒したセントリーが超帝国の複数の主要都市を攻撃し消滅させる。セントリーと

 超帝国で戦争になりかけるも第一皇女ヤーン・ダッカス・カステポーは一人和平を唱える。

 恋人の超帝国剣聖アサラム・スキーンズと共に二人で帝国軍の前に立ちはだかった所でナイン

 が登場。セントリーに謝罪しナン大陸の一部を人類の国家が不可侵の地域とすることで合意し

 た。その地域は第一皇女の名をとってカステポーと呼ばれることとなった。

 

 女皇帝ナインが星団を旅立つ。超帝国分裂

 

 太陽王国にて眠りについていたスバースのハイブレンコントロールを解除しにナインが帰還

 スバース、グリース王国初代女王フォーカスライトに預けられる。ナイン再び星団を離れる。

 

 炎の女皇帝の記憶を受け継ぐと自称する詩女ラーン、ボォス星にハスハ連合を建国する。

 

 

星団歴

 超帝国が分裂し各国が国際法である星団法を定める。

 デルタベルン星のグリース王国に本物の光の神、天照帝降臨。

 ウラニウム・バランス博士、生体演算理論を提唱。

 

 ボスヤスフォート、天照家を襲撃するも返り討ちにあう。

 天照帝デルタベルン星を統一、AKD(天照王国連合)結成。

 

 2310年 リチウム・バランス博士、歴史上初の四体のファティマを完成させる。

 

 レント王国のルース王がファティマに相性があることを発見する。この後ファティマの主はフ

 ァティマ自身に選ばせる事になった。

 天照帝とクローム・バランシェが親友になる。お互い変わり者同士だからだろう。

 

 クローム公の最新作ラキシスとクローソー発表される。誰を主に選ぶか星団中が注目するが、

 ラキシスはGTM整備士の青年と駆け落ちし以後行方不明。

 クローソーはコーラス3世預かりとなる。

 

 ジュノー星の小国ハグーダが大国コーラス王朝に宣戦布告、大方の予想を覆しコーラスは苦戦

 ハグーダはフィルモアとハスハの支援を受けていた。

 3世に私的な恨みを持つフィルモア三銃士ラルゴがコーラス3世を奇襲し殺害する。

 戦いを嫌うクローソーであるがGTMエンドレスの願いを受け敵を討つ。コーラス王朝勝利。

 

 カステポー地方でフリーの騎士を襲う壊し屋が出没

 剣聖カイエンとヤーボ・ビートで会う。

 壊し屋の正体は新型GTMの実戦テストをしていたメヨーヨ朝廷であった。

 壊し屋、クバルカンの破烈の人形により退治さる。

 カイエンが孤児ミース・シルバーを救助。ミースはバランシェの養女となる。

 二代目黒騎士ロードス・ドラグーン、デコースに殺害される。

 

 セントリーの長ライブ転生、天照帝が一時的に神の力を失う。フロートテンプル大混乱。

 ライブの命の水と天照帝を巡ってシーブル国とAKDの間で武力衝突発生。

 命の水でボスヤスフォート復活。

 

 ボスヤスフォート、バッハトマ魔法帝国建国

 ブラックスリー、フロートテンプル襲撃、宣戦布告するも天照は無視。

 AKDの軍事力ランキング10位から11位に格下げ

 

 ヤーボ・ビート、ボスヤスフォートに殺害される。

 カイエン、ハスハ連合の総騎士団長に就任。

 バッハトマ魔法帝国、ハスハ連合に宣戦布告。魔導大戦勃発

 ボスヤスフォート、カイエンと詩女ムグミカを殺害。ナイン帰還

 

 魔導大戦終結、ボォス星は混乱した状態が続く。

 

 天照帝、星団統一を決意。

 ミラージュ騎士団、アドラー星に侵攻。16機のツァラトゥストラとデトネイターでアドラー

 星の全国家陥落。

 

 ミラージュ騎士団、ボォス星に侵攻。混乱が続く各国はむしろ歓迎する。

 

 天照帝、調査のためセントリーと全ミラージュ騎士団を連れスタント遊星を訪れる。

 ナインの旗艦シングが現れ超帝国GTMシュッツィエンとGTMツァラトゥストラが共に戦う。

 カラミティ星の地殻変動が激しくなり崩壊が早まる。

 

 AKD、カラミティ星の各国に傘下に入るよう勧告。各国は拒絶する。

 カラミティ星崩壊、マグナパレスは擱座しラキシスはカラミティ星に取り残される。

 ラキシス行方不明

 

 AKD、ジュノー星に侵攻、苦戦するも反AKDの旗手となっていたコーラス5世を討ち取る。

 エスト、戦いに疲れ果てダッカスと共に眠りにつく。

 AKD 全星団統一、天照帝は政治を影武者に放り投げフロートテンプルの奥に引きこもる。

 

 天照帝の影武者ユーパンドラ、恐怖政治を始める。

 この頃から強力な騎士や優秀な製作者が生まれにくくなり新たなGTMの生産が難しくなる。

 コーラス6世、抵抗組織を結成し星団中の人々に抵抗を呼び掛ける。

 ミラージュ騎士アラート・エックス、AKDを離反。

 コーラス6世、AKDを打倒し星団に平和が訪れる。コーラス6世ディジナ王女と結婚

 デルタベルン星、ライブのクエーサーフレームにより消滅

 GTM耐用年数を過ぎ次々と動かなくなる。ファティマいずこかに姿を消す。

 天照帝、次元航行船ウィルでラキシスを探す旅に出る。

 

 ボォス星、アドラー星寿命を迎える。人類が生き残っているのはジュノー星のみ

 

 ジュノー星の竜騎士モンド・ホータス、錬金術師ブラパ討伐の際、自身の石剣にエストの名前

 が浮き上がる。

 

 7777年 フォーチュン出現

 天照帝とラキシス結婚

 娘カレン誕生

 

 

地理と主要国

 

東太陽系

デルタベルン星

 天照が全土を収める惑星。歴史はカラミティ星と並んで深くどちらが人類発祥の地か論争が巻

 き起こっている。星団歴4100年セントリーライブのクエーサーフレームにより消滅。

 

AKD(天照王国連合)

 グリース王国を中心とした十か国からなる国家の連合体。天照帝に絶対の忠誠を誓っている。

 軍事力は意外にも低く時代によって序列9位から11位の間である。

 理由として国力のわりに軍の規模が小さいことと兵士の実戦経験が少ないことが挙げられる。

 またミラージュ騎士団のことをお飾りの典礼用騎士団だと侮る者も多い。

 実際は全星団を敵に回しても勝てるほどの軍事力を持つ。

 惑星を丸ごと一つ支配している為、AKD召喚という二次創作小説は物理的に書けない。

 

アドラー星

 東太陽系にあるもう一つの有人惑星 超帝国の遺産が眠っているらしい。

 後年ミラージュ騎士団十数人により制圧される。

 

 トラン連邦

 レント王国と周辺数か国が合併してできた国。序列8位 

 歴史的出来事からファティマ製作者の研究所が多く存在し、お披露目も盛んに行われる。商人

 上がりの変態領主に国をひっかき回されたが謎のGTM整備士とファティマにより成敗された。

 現大統領はレント王国の王族の末裔であるが実家とは疎遠だったりする。

 

 バキンラカン帝国

 超帝国の流れを汲む国家。序列7位

 元首である聖帝はオペラの能力の残滓を持ち、騎士の力量を測ることが出来る。

 天位の授与式などが行われ騎士の国と呼ばれる。

 初代剣聖スバースの娘の一人が嫁入りし以降の多く剣聖のルーツとなる。

 

西太陽系

ボォス星

 初期はカーマイン星と呼ばれる。

 比較的歴史の新しい移民星でかつてはカラミティ星の大国の植民地だった。

 

 ハスハ連合

 ボォス星にあるミノグシア大陸の十二の国からなるボォス星最大の大国。

 炎の女皇帝の記憶を受け継ぐとされる詩女という女性が代々治めている国家。

 三大騎士団の一つAP(エープ)騎士団を擁する。主力GTMはバーガ・ハリ(旧Aトール)

 近年は内政と外交の失敗により不安を抱えていた。

 序列3位であったがその地位をバッハトマ魔法帝国に奪われる。

 魔導大戦では各国に侵攻され、加盟国の分裂を招き大国としての地位から転落してしまう。

 

 バッハトマ魔法帝国

 ボスヤスフォートがシーブル国を乗っ取って建国した新興国。

 新興国のしがらみのなさを生かし、実力はあるのにコネがないなどの理由で大国に士官出来な

 かった様々な分野の人材を獲得できた。ただしまだまだ地力に欠けるという。

 ボスヤスフォートに政治信条はなく彼とっては世界を混乱させる為の道具に過ぎない。

 

 メヨーヨ朝廷

 請われれば如何なる戦場に参戦することから傭兵国家とあだ名される。別に王族が傭兵出身と

 いう訳ではない。国王はクラーケンベール=メヨーヨ、国家騎士団はメヨーヨ遊撃騎士団。ア

 イシャはド三流騎士団と言っていたが新型GTMの性能と、偶然出会ったエストに指導された事                                                                                                                                                                                                                                                              

 で大国とも互角に戦えることを証明した。

 カステポーで新型GTMホウライ(旧アシュラテンプル)の実戦テストを行っていたが、目撃者

 を全て消すという所業はセントリー=ブラウ・ブリッツの怒りを買った。

 静が自分達で決着をつけると言わなければ周辺国もろとも消滅していた可能性が高い。

 

 ウモス国

 序列9位、重工業が盛んな中堅国。パルスェットの主ミハエル=レスターの出身国。

 国家騎士団は青銅騎士団、主力GTMはヴォルドックスX-9、通称青騎士

 魔導大戦では宇宙海賊と手を組んで難民を拉致、資源採掘衛星で強制労働させている。

 

南太陽系

惑星ジュノー

 五つの有人惑星の中で最も若い星。人類が未だ未踏の土地も多い。

 気候は高温多湿で地球の中生代ジュラ紀に近い。

 

 コーラス王朝

 ジュノー星唯一の大国で序列4位。小国ばかりのジュノー星を他星の大国の干渉から守ってい

 る。どこかの皇国は爪の垢を煎じて飲むべき。

 この王家の長子は必ず騎士の力を持って生まれたりガーランドの才がないのにGTMを設計したり

 謎が多い。

 

 ハグーダ帝国

 フィルモアとハスハの口車に乗ってコーラスに戦争を仕掛けた小国。この国の女王はただ国を

 豊かにしたいだけだったが、この戦争の発端が一個人の私怨だったことは知る由もなかった。

 戦費で財政破綻した結果クーデターが発生、降伏のちコーラスに併合された。

 

北太陽系

惑星カラミティ・ゴーダース

 人類発祥の地と呼ばれ非常に古い歴史を持つ惑星。寒冷な気候

 星の寿命が近づいており将来的に人が住めなくなる事が予測されている。

 

 フィルモア帝国

 超帝国の流れを汲むドナウ帝国と太陽王国が合流して成立した。

 序列1位泣く子も黙る最強軍事国家。

 母星が住めなくなった時に備え、他星に植民地を確保しようと各地で陰謀を巡らせている。

 国家騎士団はノイエシルチス、主力GTMはホルダ31ユーレイ(旧サイレン)

 

 この国の女騎士は休憩中に乳丸出しで男性騎士と談笑している。オークが出てもくっころとか

 絶対に言わない。

 一ミリも慢心しないミリシアルが数千年発展を続けたらこんな国になるかもしれない。

 

 クバルカン法国

 序列2位の法と秩序を重んじる宗教国家。公用語は英語。

 旗騎は破烈の人形、主力GTMはその量産型ルッセンフリード。

 システム・カリギュラに技術供与を受けている。

 騎士団は男はルーン騎士団、女はローテ騎士団と男女分かれている。

 

 アティア王国

 ミラージュ騎士イマラ・ロウト・ジャジャスの出身国。

 

スタント遊星

 不規則な軌道で約1,500年周期に星団内に巡ってくるジョーカー星団5番目の太陽。

 

 システム・カリギュラ

 スタント遊星を調査しに行った超帝国の科学者と騎士の成れの果て。

 体をサイボーグ化した重合人間。ナインとは敵対した派閥の様だ。

 失われた超帝国の技術を持ち、彼らと契約すれば国家に対し執事の如く仕え発展させる。

 全ての知識を収集することを目的とし歴史の裏側で暗躍する。天照帝は最大の研究対象。

 

フォーチュン

 星団暦7777年に天照とラキシスが再会、結婚し2人の娘カレンが誕生するとされている惑星。

 全てのファティマがその悲しき運命から解放されると言われている。

 

太華宇宙

 ジョーカー宇宙のお隣さん。

 豹の様な動物から進化したタイカ人がジューヨー亜族とアンカー亜族に分かれ争っている。

 天照大御神は度々その争いに介入している。

 この宇宙の創造神と天照帝は友達。

 

日本国召喚編

 

魔帝四貴族

 ラヴァーナル魔法帝国の有力貴族。自らの得意分野の魔法であれば皇族に匹敵、あるいは凌駕

 する実力を持った四人の公爵。転移に取り残された光翼人を保護し、それぞれの方法で姿を消

 した。

 

蓮の庭園

 クワ・トイネ公国の国会議事堂が置かれている場所。神樹の力で守られている。

 リーン・ノウの森の飛び地で管理は公王家がしている。

 



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人物紹介

艦これ編

 

陽炎

 陽炎型駆逐艦のネームシップ。

 訓練生時代はどうしようもないくらいの落ちこぼれで、艦娘に成れたのを誰もが不思議に思っ

 た。訓練は裏切らないが信条で過酷な訓練を課せられると逆に燃える。

 頼まれると嫌とは言えない性格でいつも損な役割を担わされる。しかしその性格こそ彼女が周

 囲から好かれる理由なのである。

 踊りも歌もへたで料理はクラムチャウダー以外作れない。

 公式設定より胸囲が大きい。

 ギンバイ行為を文化として保存しようと活動している。

 

 セントリー『パルサーフローラ』の幼生、楊貴(やんぎ)を犬だと思って飼っている。

 幼少期は過酷な生活を送っていた。

 父親の浮気で両親は離婚、深海棲艦の出現で母親は職を失い双子の妹と共にヤマネコ島の施設

 に預けられる。島を武装勢力に襲われたところを謎の女性ナインに救われる。

 尊敬する彼女を真似てツインテールにしている。

 

 南方凄戦鬼との戦いで新人類能力に目覚める。

 艦霊とのシンクロ率を限界突破して完全融合し唯一の艦娘完全体となる。

 最終決戦において第14駆逐隊を率いて敵本拠地に突入、最深部にて深海凄妃を一騎打ちで仕

 留める。

 退役後はエロ本の編集者になろうと思っていた。

 転移後はラキシスをパートナーにし、マグナパレスを艤装融合する。

 

 

長月

 睦月型8番艦 佐世保鎮守府所属

 艦娘になるも同型の文月との差になやみネガティブになっていた。

 横須賀では霰を守ると言っておきながら実際は霰に守って貰っていた。

 射撃が下手だったが陽炎と特訓し物語終盤では精密狙撃を得意とするスナイパーと化した。

 何気ないしぐさから育ちの良さが見え隠れする。

 

 第14駆逐隊の次席教導艦、人呼んで緑のマグマ。

 実家は日本有数の名家。

 本作のパートナーはクーン、GTMデムザンバラを艤装融合する

 

皐月

 睦月型5番艦 佐世保鎮守府所属

 訓練成績が振るわなかったため一時期投げやりになっていた。しかし呉に努力家の艦娘(陽炎

 の事)がいることを知り、せめて筋力だけでもつけようよ筋トレマニアになった。

 やる気になったはいいが、周囲の予定を無視して筋トレばかりして迷惑をかけていた。

 自分に付き合って筋トレする陽炎に心を開いて以降は彼女の言う事を聞くようになる。

 陽炎とは同室で不知火と文通している、専ら内容は陽炎のこと。

 鎮守府内の軽トラックを勝手に運転して事故を起こし怒られた事がある。

 長月と共に「睦月型はね最高の艦なんだよ」が口癖。

 

 第14駆逐隊で可愛さ№1、人呼んで金のハリケーン。

 本作のパートナーはパルスェット、GTMマーク2を艤装融合する

 

 綾波型駆逐艦8番艦

 「陽炎、抜錨します」のヒロイン。人呼んでラブリーマイエンジェルぼのたん

 初陣で深海棲艦の奇襲に遭い部隊は全滅、心的外傷を負い実戦に出られなくなった。

 何もできなかった自分の無力さを呪い周囲に当り散らすようになってしまった。

 陽炎との殴り合いを経て自分を見つめなおし、演習中に現れた深海棲艦の大艦隊から仲間を守

 るため単身突撃する。ぼろぼろになりながらも自らのトラウマを克服した。

 憎まれ口を叩きつつも仲間を思う気持ちは駆逐隊の中でも随一。

 明石から泊地修理の手ほどきを受けたおかげで、洋上で応急修理が出来る。

 余談だが和服を着るときにはパンツは穿かない主義。

 

 サンマ漁をきっかけに釣りにハマり、艦娘釣り部を創設し部長になった。

 部員はヴェールヌイ、大潮、村雨。肝心の釣りの腕はヘボ。

 退役後は漁師になろうと思い漁船を購入した。

 改二改装では胸部装甲は変化なかったものの、臀部装甲の大幅な強化が見られた。また塗装に

 特殊な光沢のある塗料が使われていることが確認されいる。

 ツンデレのツン部分が大幅に減少し、提督に後ろを向かせて生着替えをするようになる。

 本作のパートナーはエスト、GTMダッカスを艤装融合する

 

 綾波型駆逐艦十番艦 我らが駆逐艦おっぱいビッグセブンの永久メンバー

 第14駆逐隊最強のパイ。推定バストは90-G

 

 曙と同じ初陣に参加したが、本人は恐怖でその場に蹲っていた為難を逃れることが出来た。

 しかしボロボロになるまで戦い続けた曙に対し後ろめたさを感じ、何とか彼女に償う事を考え

 る。しかしその態度が曙を更に苛つかせる事となる。

 曙とは本音をぶつけ合うことにより真の仲間となることが出来た。そして艦娘として、一人の

 人間として成長した彼女は駆逐隊で最初の改二改装を実現する。

 一見気弱そうに見えるが一度決めたことは決して諦めない強い心を持った艦娘。

 料理は第14駆逐隊の中では一番上手いがうっかりミスも多い。

 

 食べる事が好きで限定グラフィックでは持ちきれないほどの食べ物を抱えている。

 退役後は何でもいいから食べ物屋さんをやりたいと言っているが、周囲は絶対失敗すると思っ

 ている。 

 本作のパートナーは町(まち)、GTMナキメーカを艤装融合する。

 フィルモアGTMの特徴的なエンジン音はお気に召さないようだ。

 

 朝潮型駆逐艦9番艦

 進水日が後になったので霞の事は姉さんと呼んでいる。

「んちゃとは言いません」と言っておきながら改装時にしっかりと「んちゃ」と言っている。

 改二改装で大発動艇と内火艇を装備可能となり、陸上型深海棲艦に対し無類の強さを誇る。

 集積地棲姫を燃やすもの「メガネクラッシャーズ」の一員であり、本物の対地攻撃艦である。

 

 かつては人見知りが激しく自分の意見が言えないため、いつの間にか横須賀に転属させられて

 しまっていた。友達を作ることが出来ず長月にべったり付きまとわれても何も言えなかった。

 射撃の腕は天才的で夾叉せずとも命中させてしまう。そのため射撃訓練が途中で取りやめにな

 ったこともある。

 長月の事は当初迷惑していたが、彼女が陽炎に次いでリーダーシップを発揮するようになると

 本当の意味で信頼するようになり彼女がピンチの時は烈火の如く怒るようになった。

 

 用意周到で転属する際は事前に目的地の事を調べておき仲間に色々解説していた。

 攻城戦の歴史を調べるうちにプチ歴女になった。城マニアでもあり城跡などを見るとどう攻め

 るのか考えるのが止められない。

 退役後ふるさとの城跡で観光ガイドに就職しようと考えていた。

 本作のパートナーは静(しず)、GTMゲートシオン=マーク3=リッタージェット「破烈の人

 形」を艤装融合する。

 

不知火

 陽炎型2番艦

 神通から特に何も教える事がないと言わせた優等生。初対面での陽炎の印象はいけ好かない奴

 だったらしい。不知火の陽炎に対する第一印象は特に何もなかった。しかし誰よりも訓練を頑

 張る陽炎を見て彼女を尊敬するようになる。

 

 そしてその尊敬の念が愛情に変わって行くのは自然な流れであった。しかし陽炎は横須賀に転

 属となり二人は引き離される。とある作戦で横須賀に向かった不知火が目にしたのは、悪女曙

 によって変わり果てた陽炎の姿だった。

 陽抜とは引き裂かれた二人の少女が愛を取り戻す物語である。

 「これでいいか不知火?」「取り敢えずはこれでいいでしょう」

 

 陽炎を愛する余りどんなに離れていても陽炎の位置が何となく分かる。

 恋のライバルである曙とは実弾を一発混ぜた演習と殴り合いのけんかをしたことがある。

 本作のパートナーはパルテノ、デトネイター=ブリンガー=リョクタイを艤装融合する。

 

 朝潮型駆逐艦10番艦

 全ての提督の母となってくれる女性。通称かしゅみママ

 呉の古参艦娘で駆逐艦のまとめ役。陽炎に役目を譲って退役しようと思っていたが、陽炎が横

 須賀に転属になってしまい目論見が崩れた。

 何事にも頑張りすぎてしまう陽炎を常に心配している。過労で倒れた陽炎を馬鹿にした曙と殴

 り合いの喧嘩になったこともある。

 

 深海棲艦との最終決戦では大和が敵戦艦との砲撃戦に集中する為に連合艦隊旗艦を引き継ぐ。

 優れた指揮で敵の猛攻をしのぎ人類に勝利をもたらした。 

 

叢雲

 筆者の嫁

 

あきつ丸

 神州丸型揚陸艦

 元は陸の人間だったが賑やかしのつもりで艦娘適正検査を受けたら甲種判定を受けてしまい艦

 娘となった。ほとんど訓練を受けずに初航海でリンガ伯地に配属させられた。

 叢雲と海老塚提督の勧めでそのままリンガ伯地で訓練をしていた。

 海上での戦闘力は高くないが砂浜では鬼神のごとき強さを誇る。

 その後のリンガ伯地では新たに赴任した提督のもとで秘書艦を務めている。

 

 本作では大内田の姉という設定。弟によると「一言も声を発せず微動だにしなければ美人」だ

 ったらしい。艦娘になる前は俊足だったが低速艦の影響で足が遅くなってしまった。

 陸自時代は「灰の幽霊」の異名を持っていた凄腕自衛官だった。

 

神通

 川内型軽巡洋艦2番艦

 鬼の異名で知られる二水戦旗艦。実戦よりハードな訓練をすることで有名。

 常にその艦娘の限界の少し上の訓練を課しており、その見極めは絶妙。

 陽炎を自分の後継者にしようとしていたが彼女が予想を超えて成長してしまったので、残念だ

 が嬉しいと感じている。

 

 代わりに後輩の能代と矢矧を後継者にしようと画策する。「軽巡だし頑丈そうだから少し厳し

 くしてもいいよね」と制限解除した教育をしたら「過酷すぎて可哀想」と問題になった。

 その際秘書艦陽炎に「手心をください」と言われ艦娘になって初めて訓練カリキュラムを減ら

 した。この事は不可能を可能にした奇跡として後世に語り継ぐ陽炎伝説の一つとなった。

 本作のパートナーはスパルタ、GTMハイファ=ブリンガーを艤装融合する。

 

鳳翔

 鳳翔型航空母艦一番艦

 日本では初めての航空母艦の艦娘であり、艦載機の運用方法の確立に大いに貢献した。

 後輩の艦娘の癒しとなるため居酒屋鳳翔を開いている。艦これ世界では飲酒可能年齢は下がっ

 ていて駆逐艦などに飲酒の楽しさを教えるためにビールを配っている。

 居酒屋鳳翔ではギンバイ行為は暗黙の了解で禁止されており、それを知らない新人がそれをす

 ると戦艦や空母から袋叩きにあうらしい。

 現在は半分退役したようなものではあるが一度戦場に出ると一切の無駄がない動きで艦載機を

 繰り出し敵航空機を殲滅する。

 

 長く苦楽を共にした一ノ瀬提督とは互いに想い合う関係だが、赤城も一ノ瀬を好きだと知り思

 い悩む。あるときフランス人のビクトル氏から「三人一緒にナニしたら?」とアドバイスされ

 る。彼はぶっとばしたが赤城が賛成したので結婚した。

 転移後はマイハークの町に移住する。横須賀の店は一度お客に来て以降その味の虜になった一

 流料亭の元板前に譲り、居酒屋鳳翔もマイハークに移転した。その際横須賀の店を本店としよ

 うとしたが新店長の「鳳翔さんが居る店が本店です」と説得され横須賀は支店、マイハークが

 本店となった。

 

赤城

 赤城型航空母艦一番艦

 確実に艦娘適正を持って生まれるよう鳳翔の卵子を使って生み出されたデザイナーズチャイル

 ド。ただしその事実を本人は知らない。急速に成長させられたため実年齢も低い。

 当初は冷徹な戦闘マシーンの様な性格だったが仲間と一緒に食卓を囲むことの喜びを知って以

 降あっという間に明るい性格の食いしん坊になった。

 一ノ瀬提督とは長く共に戦い、彼が左遷させられると決まった時は何が何でもついていくと

 決めていた。

 

 転移後は異世界の食材を使ったフルコースの完成を目指している。

 現在肉料理のみ決まっている。

 赤城の異世界フルコース (料理人は鳳翔)

 前菜   未定

 ドリンク 未定

 スープ  未定

 肉料理  エジェイ平原の野生牛のリーダー「神の牛」の牛丼

 魚料理  未定

 メイン  未定

 デザート 未定

 

大和

 大和型戦艦一番艦。坊ノ岬の記憶を持ち軍上層部や政治家に不信感を抱いている。

 二水戦の駆逐艦を巻き添えにしたことを後悔していた。

 自分の存在がまた悲劇を繰り返すきっかけになるのではと恐れ、瑞鶴に自分を沈めてくれるよ

 う願った。土砂降りの雨の中瑞鶴に押し倒されて説得されたが意思は変わらなかった。

 一方で乗組員や第二艦隊司令部に対しては誇りを持っていて彼らをけなされるとキレる。

 自らが得た技術を錆びさせないために訓練は欠かしていなかった。戦争は嫌いだが砲撃は好き

 という面倒くさい性格の持ち主。

 比叡と榛名の必死の説得により戦う意思を取り戻した。

 

 

日本海軍の将校について

 原作では名前がありませんでしたが物語の進行に不便なので自分が付けました。

 

 総司令官 鶴屋ジン元帥

 「鶴翼の絆」の提督。元祖セクハラ提督 独身

 

 マイハーク出張所責任者 一ノ瀬アツシ少将

 「一航戦、出ます!」の提督。

 赤城と鳳翔の旦那 童顔

 

 南九州鎮守府 九十九カケル准将

 「瑞の空鳳の海」の提督。歴史上初めて艦娘とケッコンカッコカリをした提督。相手は瑞鳳

 最近第二婦人に加賀を迎えた。士官学校では陸上の長距離走の記録を更新した。

 

 海老塚タロウ退役大将

 「陽炎、抜錨します!」の登場人物、元リンガ伯地司令官

 大湊警備府の初代司令官で叢雲が初期艦。駆逐艦を愛でる会会長

 大日本帝国海軍から警察予備隊、海上自衛隊を経て艦娘の提督になる。

 

 横川マモル中将

 「陽炎、抜錨します!」の登場人物、横須賀鎮守府の提督。

 横須賀の借りパク王の異名を持ち、彼の下に艦娘を派遣するとなかなか帰ってこないことで有

 名。よく艦娘におさわりをして怒られているが、それは不安によるもの。触って生きている事

 を確かめたいらしい。

 

 ソックスフェチだが某潜水母艦のニーハイソックスを褒めたばかりに、現在三食が素麺かにゅ

 う麺の生活をしている。

 

 小暮シンイチ中将

 「陽炎、抜錨します」の登場人物、呉鎮守府の提督。

 軽巡娘とは話しやすいという事でよく秘書官にする。駆逐艦からは恐れられている。

 ストレスは酒で発散するタイプで一時期依存症寸前までいったらしい。

 

 葉隠四郎

 帝国陸軍瞬殺無音部隊隊長

 捕虜を使い非道な人体実験をしていた。戦後は実験データと引き換えに戦犯を免れる。

 アメリカに亡命中の船上から忽然と姿を消す。

 

オリジナル深海棲艦

 

深海凄妃

 深海棲艦の首領個体、全ての深海棲艦を生む女王でもある。

 人類に勝ってもいずれ滅びる宿命を拒否し地球を破壊してでも別の天体に進出する事を目論む。

 目的地はそこへ行けば全ての苦しみから解放されると言われる星フォーチュンである。

 

黒炎駆逐棲姫

 陽炎の双子の妹がコアにされたオリジナル深海棲艦。艦娘完全体となった陽炎を足止めする為

 だけに建造された。最大のパワーを発揮するため一切の制御を放棄した暴走兵器。陽炎に異常

 に執着する。

 陽炎以外の艦娘に遭遇する無視するか戦闘なるか分からないが、戦闘を始めるとその圧倒的パ

 ワーをもって戦艦だろうがなんだろうが粉砕し大破撤退させた。

 大和型戦艦でさえ何度も大破させられて、鎮守府は膨大な資源を浪費させられた。

 その後黒炎駆逐棲姫の存在が確認されると陽炎はそいつの押さえに専念することとなった。

 一切の命令を聞かず、不用意に命令しようものなら味方である深海棲艦であろうと破壊した。

 同じ陽炎型モチーフの駆逐水鬼や外南洋駆逐凄姫と同じく腰部がら腕が生えている。

 最終決戦の一つ前の戦いでは黒炎駆逐棲姫に東京湾内まで侵入を許し、お台場の目前で陽炎が

 撃沈した。

 

 

 

ファイブスター物語編 (参考資料 YouTube レトロ チャンネル様)

 

ラキシス

 クローム・バランシェ博士が創り出した44番目のファティマ。

 天照帝を好きになり永遠の時を生きる彼と添い遂げるためダブルイプシロンという超存在に改

 造してもらった。姉のアトロポス、妹のクローソーと共に運命の三女神と呼ばれる。

 意外に好戦的で夫の役に立たない奴は死んでいいと思っている。

 現在思うことあって別居中、様々な時間と宇宙をマグナパレスと共に放浪している。

 第二次大戦末期のベルリンに現れ、市民の脱出作戦に協力した。

 眠りについていたバルト海の海底から引き上げられ、日本に送られたところを転移に巻き込ま

 れた。

 

 この世界の観測者であり、すべての宇宙にメッセージを飛ばしたが、幼い陽炎や深海凄妃、ラ

 ヴァーナル皇帝まで受信してしまった。

 星団歴の終わりに出現するフォーチュンという星で天照帝と再会する予定だが、深海棲艦と魔

 法帝国がフォーチュンを狙っている。

 天照帝がいるにもかかわらず陽炎と契約して彼女に仕えているのは、ラキシスがクロームによ

 って全ての制限を外されているから出来たこと。

 

天照帝(アマテラスのミカド)

 ジョーカー宇宙の創造神にして光の神

 AKDグリース王国の女王、天照の命から処女受胎して生まれる。

 星団一の美貌と頭脳をもち、無限の長寿と有り余る財力、神々の秘技を使いデルタベルン星

 を中心とした連合国家AKD(アマテラス・キングダムス・ディメンス)を形成した。

 金が余って仕方がないので自らの宮殿(フロートテンプル)を島ごと空に浮かべてしまう。

 支配者として臣下や国民からは絶大な支持を集めるが、それは母の教えを忠実に守っただけ

 である。神であるため人の気持ちが理解できず、幼少期は言葉すら通じなかったという。通訳

 の為詩女のメルクール・リトラーを妻に迎えてたほど。

 数少ない友人にファティマ製作者のクローム・バランシェ博士がいる。彼の制作したファティ

 マ達の育成を手伝ううち、何故ファティマが人間の戦争に利用されなければならないのか疑問

 を持つようになる。その結果彼はファティマがなくても動くGTMを開発することを目標にする。

 ラキシスを二番目の妻に迎えたのは当初このGTM開発のためであった。

 魔導大戦後突如として世界の統一を決意、星団の全国家にAKDの傘下に入るよう要請する。

 ラキシスが行方不明になった後は影武者に統治を任せ宮殿の奥に引きこもってしまう。

 AKDがコーラス6世に倒された後は全ての責任を放り投げ次元航行船ザ・ウィルに乗ってラキシ

 スを探す旅に出る。

 フォーチュンにてラキシスと再会し和解する予定。 

 

レディオス・ソープ

 天照帝の幼名、後ろから読むとオルドナ・ポセイダルとなる。

 お忍びで外出する際に天照帝が若者に変身した姿。女性バージョンもある。エルデンリ〇グだ

 と女王マリカとラダゴンの関係に当たる。

 美少女と見まごうばかりの美貌を持つ。実際デコースには男と分かっいても言い寄られた。

 GTM開発者を目指す天才整備士という設定。『コーラス・ハグーダ戦』と『ベラ国の戦い』で

 はふらっと戦地に現れ故障したGTMを直しまくって味方を勝利に導いた。

 国家元首が国外を単独で放浪するのは危険かと思うだろうが安心して欲しい、万が一死んでも

 自動で生き返ります。

 

ナイン

 ファロスディー・カナーン超帝国ユニオの総帝(皇帝の上の地位という意味)

 炎の女皇帝の異名を持つ、かつての全人類の支配者。

 正体は人類を管理する超人工知能ユニオ2が創り出した人間でありユニオ3でもある。

 人工知能に管理されていたため当時の人類は活力を失い衰退していった。

 モンソロン帝時代にも同じように人類が滅びたことを知り、ナインはあえて暴君として振る舞

 い人々を迫害した。そして反抗することで人々が活力を取り戻したことを見届けると彼女は小

 数の手勢を率いて星団を離れていった。

 その後自らの記憶を継承した詩女というシステムを残したり、最後の純血の騎士だあるナッカ

 ンドラ=スバースのハイブレンコントロールを解除するために星団に一時帰還していた。

 魔導大戦にて詩女ムグミカと剣聖カイエンの命を対価にした血の召喚によってジョーカー星団

 に帰還する。それはボスヤスフォートを倒すためではなく神である天照帝と彼女を対面させる

 為である。

 

クローム・バランシェ

 星団史上最高のファティマ製作者にしてマッドサイエンティスト

 ファティマを最初に創ったリチウム博士の孫。

 彼の造るファティマはバランシェファティマと呼ばれ一体で戦局を左右する。

 ファティマ以外にも宇宙船やGTMの開発にも携わる万能の天才。

 ファティマこそ新たなる人類の可能性と信じていて、星団法はクソくらえと思っている。

 延命のため自分の脳をファティマの体に移植した。

 セントリーライブに預けられていた超帝国騎士の胚を受け取り、クーンを代理母としてこの世

 に生み出した。ただし彼にとってカイエンは研究対象でしかなかった。

 寿命が尽きかけた時、天照帝が神の力で延命しようとするのを止めさせる。宇宙船ウィルの設

 計図と天照帝の影武者ユーパンドラを残して静かに息を引き取った。

 

ボスヤスフォート

 超帝国の純血の魔導士を自称する謎の男。かつて典星舎のトップの座と王族の尊称ディスの名

 を求めて天照帝の母ミコトに挑むも天照帝の神の力によって返り討ちにされる。

 その後は精神体だけとなり魔導士の精神の片隅に寄生し復活の時を窺っていた。

 ディ・バローから命の水を横取りし復活する。シーブル国を乗っ取り序列3位のバッハトマ魔

 法帝国を一代で築き上げる。

 失われたブリッツェンバイターの力を含む四種全ての魔導を操る伝説の大魔導士。

 仲間二人とフロートテンプルを襲撃し、AKDに宣戦布告するも無視されてしまう。

 戦闘を目撃したハスハ連合のエース騎士ヤーボ・ビートを殺害するが、彼女の娘マグダルが自

 分と同じ純血の魔導士だと知ると各国を扇動、ハスハ連合に宣戦布告し魔導大戦が勃発する。

 天照やラキシスなら楽勝なのだが、彼らが手を下してしまうと運命が狂ってしまうらしい。

 高慢な人物かと思いきや、礼節も弁えた人物

 

 今作ではアニュンリール皇国によって復活転生させられたが脱走した。

 前世の様な殺伐と人生は歩みたくないと願い、何処か辺境でスローライフをするつもり。

 取り敢えず周辺で一番安定してそうなロウリア王国に身を寄せた。パ皇?あそこはダメ。

 

デコース・ワイズメル 

 自称「狂乱の貴公子」。カステポー地方出身、伝統や権威を毛嫌いし大騎士団や銘入りのファ

 ティマを嫌う。

 野試合でフィルモア三銃士のバーバリュース・Vをわざと見逃し生き恥をかかせる。これが原

 因で娘のクリスティンは学校で苛められることになる。

 変態領主の養子になり、アマテラスとラキシスの乗ったマグナパレスと戦って敗北するが運よ

 く生き残る。

 カステポーの町で素行を注意した黒騎士ロードス・ドラグーンを殺害する。

 その後エストが次世代の黒騎士として育成していたヨーン・バインツェルと遭遇、エストはヨ

 ーンを助命するためデコースを三代目黒騎士に指名する。黒騎士としては最もダッカスの性能

 を引き出したと言われる。

 ボスヤスフォートに見込まれてバッハトマの騎士団長に就任。フロートテンプル襲撃ではミラ

 ージュ騎士ヌーソードを討ち取り同じくミラージュ騎士のカイダに重傷を負わせる。

 そしてのちに剣聖となるマドラ・モイライと互角の戦いを繰り広げた。

 マドラに傷を負わせたことにより、彼女の人格の一つ『アマンダ・プロミネンス』に子供を作

 る相手と認識されてしまい、自宅を強襲される。その時で来た子供が後の剣聖ベルベット・ワ

 イズメルである。

 若いうちはナイフのように尖っていたが、責任のある立場に立ち多くの仲間を得たことで精神

 が安定し大騎士団の団長にふさわしい人物になった。

 

ビューティー・ペール

 典星舎と対立するユーコン財団の会長。シーブルのディ・バローを支援していた。

 バッハトマ副主宰としてボスヤスフォートを支える。アマテラスのほかにエイリアスの術を使

 える唯一の魔導師。自分と全く同じ姿と能力で独自に思考することのできる分身を複数創り出

 すことが出来る。

 ミラージュ最強の魔導師であるズームの実の母親。

 実は超帝国の反ナイン派の造った魔導サイボーグの生き残り。

 

 

クーン

 クローム=バランシェ公の第一作目のファティマ。

 公の手によって様々な実験的試みがなされている。

 超帝国騎士の胚を手に入れたバランシェ公は彼女を代理母としてカイエンを出産させた。

 そのことを知らないカイエンが彼女との子供を求めたのでクーンは精神崩壊を起こしかけてし

 まう。事実を知ったカイエンはバランシェ公を殺そうとするも天照帝に阻止される。

 以降カイエンは無軌道な行動をとるようになり剣聖でありながら賞金首になった。

 歴代マスターは5代剣聖デイモス=ハイアラキ、6代剣聖ダグラス=カイエン、天才科学者Dr

 ダイアモンド=ニュー

 ファティマが人類の戦争に利用される事に疑問を持ち人類に不信感を抱いている。

 今作のパートナーは長月

 

静(しず)

 序列2位、クバルカン法国の旗騎「ゲートシオン・マーク3・リッタージェット」通称「破裂

 の人形」の事実上の専任ファティマ。

 彼女に選ばれた人物がクバルカンの筆頭騎士団長になる。

 カステポー地方で暴れていた壊し屋を退治した功績でセントリー「ブラウ・ブリッツ」からセ

 ントリードロップを貰った。

 エストとは度々戦ったライバル。怒らせると怖いらしい。

 今作のパートナーは霰

 

町(まち)

 序列1位、泣く子も黙る最強軍事国家フィルモア帝国の名門騎士家、V(ビィ)一族に仕えた

 バランシェファティマ。過酷な運命に立ち向かうクリスティンを支えた。

 主の政治的立場を考えることが出来るがキャラ紹介イラストで丸出しになっている主の胸は何

 故か隠さない。

 今作のパートナーは潮

 

エスト

 世界4大ファティマ製作者の一人にしてクローム博士のライバル、モラード=カーバイトのデ

 ビュー作。

 名工ルミラン=クロスビンのダッカス・ザ・ブラックナイト(旧バッシュ・ザ・ブラックナイ

 ト)とシンクロすることによりそれまでのGTMの数倍の戦闘力を叩きだした。

 ダッカスは彼女にしか制御できないが彼女自身はほぼ全てのGTMを制御できる。

 ダッカスの操者は黒騎士と呼ばれ、星団最高の騎士の称号の一つであり彼女を巡って多くの騎

 士が血を流した。

 愛も情も乗り越えてただ「ダッカスの性能を引き出す」という使命を遂行する。その姿は同じ

 ファティマから見ても恐ろしいと評されるほど。

 単行本全巻に登場しているのはアイシャと彼女のみ。

 今作のパートナーは曙

 

パルスェット

 製作者が幼少期から手元に置いて育成する銘入りと違い、工場で大量生産されたファティマ、

 工場(ファクトリー)ファティマと呼ばれる。但しモラードの様な一流製作者が生産管理をし

 ていた期間に生まれたため、そこらの銘入りより性能が高い。

 マスターは元青銅騎士団幹部のミハエル=レスター。彼の死後、後にミラージュ騎士となるヨ

 ーン・バインツェルと出会い己の主と定める。一度は拒絶されるもアイシャの機転で無事パー

 トナーとなる。二人とも自分の名を正しく発音してくれないのが悩み。

 ちなみに彼女のファティマスーツの値段は日本円換算して15億円。

 

 今作のパートナーは皐月

 原作ではまだマーク2に乗っていないが、本機はミラージュ騎士の間で乗り回されているので

 いずれ乗ると思います。

 

ウリクル

 南太陽系ジュノー星で最大の大国コーラス王朝の国王コーラス3世のファティマ。

 製作者はモラード・カーバイト

 いたずら好きで、道案内するはずのコーラス3世を忍者のように後をつけてからかった。

 モラード邸滞在中着る服がなかったので女物の服(自分の)を着ていたコーラス3世に萌える

 コーラス=ハグーダ戦で負傷したコーラス3世をかばって戦死。

 ただし彼女の生涯で最も激しい戦闘は対エルメラ王妃戦であったことは間違いない。

 今作のパートナーは妙高

 

スパルタ

 モラード・カーバイト製作のファティマ。マスターはビョトン・コーララとヴィンズ・ヴィズ

 高層ビルから落下したところをヤーボに救助されたことがある。

 物騒な名前とは裏腹に温厚な性格。

 今作のパートナーは神通

 

バスクチュアル

 クローム・バランシェ博士の初期の作品。愛称はバシク。

 本人の希望によりGTMの開発専門に育成された。しかし何故か全ての感情を失ってしまう。

 これはバランシェ博士も意図したものではなく、かなり困惑したらしい。

 特定の主を定めずミラージュ騎士全てをマスターと呼ぶ。

 同じ性質のヴィッターシャッセという妹が居る。

 今作のパートナーは夕張。彼女と組んでジョーカーのトンデモ兵器を制作する。

 

パルテノ

 クローム・バランシェ公の二作目。外見はアフロアメリカンで黒髪のドレッドヘア。

 重度の薬物依存のラリラリラリ子さん。

 主のシャフトが無政府地帯カステポーに在る犯罪都市ザンダシティの市長であったとき、彼と

 共に最も『イっているコンビ』と言われあらゆる犯罪を極めたとされる。

 強力な戦闘力を追及した結果、精神的に極めて不安定になってしまった。故に薬物を大量投与

 してダムゲートコントロールを破壊しなければ生存できなかった。公式には廃棄処分済みとな

 っている。

 シャフトをボスヤスフォートに殺害されたことにより精神崩壊しかける。

 後年マドラとデコースの息子で11代剣聖ベルベット=ワイズメルのパートナーになり、デトネ

 イターを駆ってカラミティ星を砲撃、破壊する。

 医学に精通し、バランシェ公が延命用ボディに自身の脳を移し替える際に手術をしたのがクー

 ンとパルテノである。

 今作のパートナーは不知火

 

イマラ・ロウト・ジャジャス

 北太陽系カラミティ星の小国アティアの王女。宇宙の治安を守るイオタ騎士団の団長の息子と

 結婚し一男を儲ける。彼女自身も宇宙海賊退治で功績をあげ、ミラージュ騎士団にスカウトさ

 れる。AKD(天照帝に忠誠を誓う国家の連合体)宇宙軍司令長官を兼任している。

 その性格は極妻。

 スカートの裾を捲り上げ男の目がパンツに釘付けになっている隙に金的を蹴り上げる「母ちゃ

 んキック」の開発者。独身者の場合は「姉ちゃんキック」になる。

 捕虜にした海賊のタマ〇ンをことごとく蹴りつぶし宇宙の男達から恐れられている。

 彼女が編み出した「母ちゃんキック」はその後多くの女性騎士に受け継がれていく。

 

ヤーボ・ビート

 AP騎士団で最大最精鋭のスバース支隊において副長を務める女騎士。通称ハスハの毒蛇

 旅行先のカステポーでカイエンにナンパされ彼の子供を身ごもる。生まれたのは純血の魔導士

 と騎士であるマグダルとデプレであった。

 詩女ムグミカからは最大の信頼を寄せられ、直属騎士になりGTMカイゼリンを預けられた。

 運悪くボスヤスフォートの戦闘を目撃してしまい殺害されてしまう。

 実はマドラと粘膜をぬちょぬちょする関係だった。

 

ダグラス・カイエン

 6代目及び9代目剣聖

 ヤーンとスキーンズの息子。自然出産を望んだが不可能と知った彼らは胚をセントリー・ライ

 ブに預け星団を去った。バランシェはその胚を受け取りクーンを代理母としてこの世に生み出

 した。ファティマの特性と受け継ぎ老化が非常に遅い。

 自分がクーンから生まれた事を知りバランシェを殺そうとするも天照帝(正確には彼のエイリ

 アスのリンス)に阻まれる。それ以後無軌道な行動をするようになり賞金首になった。

 一時期封印されていて2度剣聖を襲名している。

 本来の性格はちゃらんぽらんで女癖が最悪レベルで悪い。子供ができないのをいいことに多数

 の女性と肉体関係を持つ。彼の偽名であるヒューア・V・ヒッター子爵のあだ名はカステポー

 の種馬貴族。天照帝にさえ人間の屑呼ばわりされる。

 ヤーボが妊娠した時は逃げ回っていたが、彼女が殺されるとハスハの騎士団長に就任しヤーボ

 の代わりにムグミカを守ると誓い、長き放蕩生活に終止符をうった。

 魔導大戦初頭のベイジ攻略戦でムグミカをかばって死亡。

 剣聖の設定が固まる前に登場したのでミハエルやアトロポスなどに何度か不覚を取っているが、

 読者からは未だ最強騎士と認識されている。

 

マグダル・ビート

 カイエンとヤーボの娘で時(とわ)の詩女と呼ばれる。

 超帝国の純血の魔導士で強大な魔導力グリントツヴィンゲンを持つ。

 本来ならば生まれないはずが弟のデプレとお互いに力を弱め合うことで無事に誕生した。

 両親の仇であるボスヤスフォートに挑むも経験の差により敗北、視力を失う。

 現在資源惑星カーマントーに難民と共にいる。

 

ムグミカ・ラオ・コレット

 マグダルの前の詩女。ハスハント王国国王の孫娘として生まれる。国王は彼女の権威を使って

 中央集権化を進めるが他の加盟国の反感を買ってしまう。そのことをボスヤスフォートに付け

 込まれハスハ連合は分裂してしまった。

 目が不自由でヤーボに自分の代わりに世界を見てきてほしいと頼んだ。

 モナーク・セイクレッドについて知っており、人間が思う人間らしい何者かに自分達のことを

 覚えていて欲しいと願い、モラード博士にファティマ、ザ・タワーの製作を依頼する。 

 

マドラ・モイライ

 カイエンの死後就任した第10代剣聖 

 5つの名前と3つの人格を持つ複雑な人物。

 

アイシャ・ルーマー

 天照王家の分家コーダンテ家の元王女。祖母は天照帝の母の妹で王位継承権第二位だった

 作者曰くストーリー上最強の騎士、味方のピンチに颯爽と登場する。

 国民の人気は高く、国会議員は彼女が議事堂に来ないと法案を通さないほど。

 御姿を拝見すると郷里の皆に自慢できるらしい。

 天照帝に一目ぼれし、彼の子以外生まないと公言したため宮廷内に混乱を招いた。その結果妹

 の人生を狂わせてしまったことを後悔している。

 カステポーの壊し屋に敗れたことでAKD構成国のルーマー王国女王に格下げされる。(敗因は

 整備不良のせい)王位継承権を失った後も国民の人気は高く、いまだAKD ナンバー2の地位を

 持ち続けている。

 きっぷのいい姉御肌の人物で全ての女騎士の憧れ、読者の人気投票では第一位。

 

メイザー・ブローズ

 一般人の家庭から極低確率で生まれた騎士。そういった場合往々にして嫉妬などの理由で迫害

 を受ける。彼も故郷で迫害されていたところを天照帝に救われた。

 ただし彼は天照帝に対し恩義よりも恐怖が勝っていた様だ。

 主力武器は鉄の爪、常に覆面をして素顔を隠していたが正体は褐色肌の少年。

 フロートテンプル襲撃事件ではキュベレイそっくりのアーマーを着て戦った。(キュベレイの

 デザインをしたのは永野護氏です)

 

エルメラ王妃

 コーラス三世の妻。初登場時は夫とウリクルとの三角関係に悩む儚くも芯の強い女性という印

 象だったが、次の登場時にまるでヤンキーの様な性格だったことが判明した。

 ラキシスに対し「男は追いかけさせるもの、数千万光年くらい逃げてしまえばいい」とアドバ

 イスした張本人。

 

ディジナ王女

 コーラス王朝マイスナー家の最後の生き残りだが彼女はそのことを知らない。

 赤い宝石のペンダントをくれたソープという人物が、自らの出生を知っていると思い探してい

 る。うんその人君の両親の仇だから。見た目は偶然にもウリクルにそっくり。

 恋人に言い負かされた時のあの捨て台詞はいくら何でも酷すぎると思う。

 

ナッカンドラ・スバース

 超帝国最後の女皇帝直属騎士にして星団史最初の剣聖。

 壮絶な人生を歩んだ可哀想な人。

 ハイブレンコントロールを解除された後は天照家開祖フォーカスライトに預けられた。

 後に典星舎幹部のサローン・バスコと結婚し二人の娘を授かる。

 ちなみに全てのファティマは彼の細胞を基に創られた。

 

サリオン・エミーテ・斑鳩王子

 天照王家の親王。祖母は天照のミコトの二人目の妹。

 両親の悪行を告発するも天照帝は沈黙、絶望した彼は両親と不正貴族を粛清し王家に反旗を翻

 す。その時の部下が今のグリーンレフトに所属している。クーデターは失敗し王族籍は剥奪さ

 れデモンズタワー幽閉された。

 ファティマが王妃になると聞きラキシスを追い出そうとするが背後のバフォメート・ヴィクト

 リーにビビって引き下がった。

 ブラックスリー襲撃の際、現場の指揮を執った功績をあげ王族籍を戻された。

 最近はアイシャの代理で国会に出席している。その時着ているドレスのセクシーさで法案の成

 立難度が変わる。

 

 

 

日本国召喚編

 

鉄壁のムルデカ

 皇国の支援を受ける前からロウリア王国海軍の指導をしていた海の漢。元海賊で亡ぼされた文

 明国の海軍軍人だったらしい。リーム王国の海賊狩りから仲間全て逃がし切ったことがある。

 精霊魔導士であり精霊と会話ができる。

 

ノーソン伯爵

 陸軍卿を務めていた名門貴族。騎士学校の成績は良いが人望はない。

 かつてエジェイ要塞司令であったとき要塞中のゴミ箱を捜索し、未使用の弓の弦が三束捨てて

 あったのを発見。兵士たちの気の緩みを正すと言って長時間の説教を始めたので現場の兵士た

 ちは閉口してしまった。兵士達からつるさん将軍と陰口を叩かれている。

 

ヤヴィン軍務卿

 クワ・トイネ公国の軍務卿

 地球の戦史を学ぶという名目で戦争を題材にした漫画やアニメを収集した。

 アニメを見ながら原作の小説を読み、オタク自衛隊員に教えてもらいながら短期間で日本語を

 マスターした。

 軍務省の第三戦史資料室には創作物の戦術教材が集められていて漫画喫茶と化している。

 また彼の妻は浮気監視と帰宅を促す目的で喫茶スペースで働いている。

 最近その妻が受け攻めがどうこう言うようになった。

 

大和後援会会長

 政財界に広く顔の利く人物。父親が大和の乗組員だったことから戦艦大和に思い入れがある。

 艦娘の大和の後援会を創設し会長となった。多額の寄付金を収めてくれるのは良いが色々と口

 出してくる厄介なお爺さん。

 日本復興の象徴とするため大和を模した護衛艦を建造する事を目論む。

 

バギィ

 デコースの前世での補佐役のそっくりさん。ベテランの傭兵

 

ミリアルド・ホ-ク

 ロウリア王国で盗賊山賊あがりの騎士団を束ねる男。正体は魔王軍の生き残りの魔族。

 ロデニウス大陸の監視をしている。



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第一部 カンムス・ブラッド
第一話 接触(クワトイネ視点)


 初めましてyutarouです。日本国召喚と艦これが好きだけのド素人です。

 どうか生暖かい目で見てください。

 2021/10/05 行間を開けて文字を揃えました。


 クワトイネ公国の竜騎士マールパティマはマイハーク沖北方を哨戒していた。

 

 この先の海には国家は存在しない。しかし、近年緊張が高まる隣国ロウリア王国の海軍が公国最

 

 大の経済都市であるマイハークを攻めてくることは十分に考えられていた。

 

 だからマールパティマは緊張感をもってこの任務に就いていた。

 

 

 水平線の先に船影らしきものが見えた。

 

「こちらマールパティマ、船影を確認、数は1」

 

 近づくにつれその船はとても大きいことに気づいた。180メートル以上の全長がある。

 

 その船もこちらに気づいたようだ。チカチカと光をはなった、一瞬攻撃かと思ったが何かの合図

 

 のようだ。

 

 バリスタなどが積んでないから軍船ではないようだ。帆を畳んでいるから敵意はないのだろう。

 

 彼はその船の周りの異常なモノに気付いた。

 

「ヒトが海面に立っている!?」

 

 その船の周囲にはヒト種の少女が6人、揺れる波の上をすべるように進んでいた。

 

 背中に背負子のようなものを背負い、手には金属の筒が出ている箱を持っている。

 

 そのうちの一人、橙色の髪の毛を頭の両側二つに束ねた少女が笑顔で手を振っていた。

 

 

「ここはクワトイネ公国の領海です。貴船の目的を教えてください。」

 

 船の甲板に降りると紺色の奇妙な服を着て眼鏡をかけた男が出て対応した。

 

「我々は日本国、ぜひとも貴国と国交を持ちたいと思っています。」

 

 マールパティマは魔力通信を使って海軍本部に連絡をした。

 

「未確認船の所属は日本、目的は外交交渉。外交官が乗っている。」

 

「了解、公都の港に誘導してくれ。」

 

「彼らは今日の夕方に着くといっている」

 

「は?」

 

 管制官が驚くのも無理もない、一般的な帆船では二日はかかる距離だからだ。

 

 

 公都クワトイネの北にある港には巨大な船、それも鉄製の、が停泊していた。

 

「まさか本当に夕方に着くとは、巨大なのに何と速い船だ。」

 

 たくさんの野次馬が岸壁に集まって見物している。

 

 幾人かは後ろから押され、海に転落してまった。

 

 落ちた人の救助を海面を滑って進む少女たちが手伝っていた。

 

「本当に海面にヒトが立っているぞ。」

 

「彼女らは兵士なのか?あのような若い少女を危険な目に合わせるとは、」

 

 鉄船の護衛をしていると思われるのはいずれも年端もいかない少女たちであった。

 

 しかもかなり可愛い。

 

 クワトイネ海軍の軍人たちは最初この国にいい印象を持たなかった。

 

 

「シーサーペントだ!」

 

 突如、巨大な海蛇が海中から飛び出し、水上にいた少女に襲い掛かった。

 

「危ない!」

 

 ドン!

 

 大きな音がしたと思ったら一撃でシーサーペントの頭が粉々に砕け散った。

 

「一撃でシーサーペントを倒す爆裂魔法だと?」

 

 シーサーペント討伐は文明国の海軍であっても多大な犠牲を払わなければいけない。

 

 それをたった一人、たった一発で成し遂げたのだ。

 

 人々が称賛の声を上げる中、新たな脅威が迫っていた。

 

 ソナーで周囲を警戒していた曙から通信が入る。

 

「陽炎、ソナーに感、まだいるわ」

 

「オッケー、数は?」

 

「さっきの海蛇よりも大きい物体が1」

 

「この世界にも潜水艦があるのかな?」

 

「それは分からないけど、この形はうーん、亀?」

 

「カメェ?」

 

 

 海底から巨大な生物が姿を現した。顔は獅子のようでありドラゴンのようでもある。

 

 体は巨大な亀の姿をしている。

 

「タラスクだ!」

 

「もう駄目だ、逃げろ!」

 

 タラスク、それは伝説で語られる恐ろしき邪龍である。

 

 神の加護を受けた勇者であっても苦戦は免れないSランクの魔物

 

 かつてとある悪の帝国に使役されこの世界の人々を恐怖のどん底に叩き込んだ怪物である。

 

 それに遭遇すれば万が一にも助かる見込みはない。

 

 もし沿岸の都市を襲われたら放棄するしかない。

 

 

「こいつは危険ね、第14駆逐隊、戦闘用意!」

 

 陽炎、霰、曙、潮、皐月、長月、6人の駆逐艦娘は勇敢にも邪龍に立ち向かう。

 

「まさか戦う気か?やめろ!逃げるんだ!」

 

 クワトイネ海軍の軍人が艦娘たちに向かって叫ぶ。

 

「大丈夫です、任せてください。それよりも民間人の避難を!」

 

 

 嚮導艦である陽炎は駆逐隊各員に指示を飛ばす。

 

「長月、皐月は民間船舶の護衛、目標を近づけさせないで」

 

「了解!」

 

「まっかせてよ」

 

「曙、潮は牽制射撃、頭を上げさせないで」

 

「楽勝よ、私を誰だと思っているの」

 

「分かりましたやってみます」

 

「霰は私と一緒に雷撃準備、左側からぶち込むわよ」

 

「了、解、、」

 

 第14駆逐隊は異世界での戦いを開始した。

 

 

「さあてやりますか、いっけー!」

 

 タラスクが口を開ける、なんらかの攻撃と思われる。

 

「させるか!」

 

 タラスクの頭部に砲撃が命中する。

 

 ギャウウン!

 

 シーサーペントと違い致命傷になっていない。が、鱗や角などがはじけ飛んだ。

 

 キッシャアー!

 

 タラスクは砲撃に耐え、口から高圧の水流を噴出した。

 

「きゃああ!」

 

 タラスクの水流は潮に命中した。潮の後ろにはクワトイネの民間船がおり、回避出来なかった。

 

 潮は水流に押され、尻もちをついた。転覆するかと思ったが立ち上がった。

 

「潮!大丈夫?被害報告して!」

 

 潮は体を見渡していった。

 

「大丈夫です。被害なし、濡れただけです」

 

 

「タラスクのアクアブレスを食らって無傷!?」

 

 この戦いを見ていたクワトイネ公国海軍のミドリ船長は驚愕した。

 

 タラスクのこの攻撃はクワトイネを含む文明圏外国で使われる木造軍船のみならず、文明圏内国

 

 の戦列艦を一撃で轟沈させる。

 

 この攻撃に耐えることが出来るのは、列強が最近開発に成功したと噂される装甲戦列艦だけであ

 

 ろう。

 

 それ以前に生身の人間がアクアブレスを食らえば死体も残らないはずだ。

 

「まさか彼女らは全員大魔導士級なのか?」

 

 大魔導士といえどたった一人でアクアブレスを防ぎきる防御結界を張るのは不可能に近い。

 

 ミドリ船長は訳が分からず混乱していた。

 

 そうこうしていると日本国使節団の男から魔力通信が入った。

 

「彼女らは大丈夫です。彼女らは人間でもあり艦艇でもあるのです。援護は不要です」

 

 なんだそれは訳が分からない。そう返事すると日本の男からこのように返ってきた。

 

「彼女らは艦娘、在りし日の戦船の魂を宿す、人類の守護者です!」

 

 

「よくも潮をやったわね、あの胸部の衝撃吸収装甲がなかったら危なかったわ」

 

「陽炎さんセクハラです」

 

 このご時世コンプライアンスに厳しくなったのだ。

 

「ごめん、晩御飯のおかず一個あげるから許して」

 

「許します」

 

 駆逐艦同士なのでおかず一個で済むがこれが提督もしくは某戦艦が相手だと砲雷撃戦に発展す

 

 るだろう。

 

 

 長月と皐月も砲撃を開始した。

 

 長月の砲撃は見事タラスクの口腔に命中し、太く鋭い牙が割れて砕けた。

 

 ギャアアアン!

 

 堪らず海中に潜り、逃走を図るタラスク。

 

「逃がさないよ!」

 

 皐月はタラスクの潜った辺りに爆雷を多数投射した。

 

 すぐに大きな水柱が立ち周囲の人々は驚く。

 

 そして息も絶え絶えなタラスクが浮かび揚がってきた。

 

「止めよ!酸素魚雷一番二番発射!」

 

「魚雷、発射」

 

 陽炎と霰の放った4本の酸素魚雷はタラスクの左脇腹に突き刺さり大爆発した。

 

 その爆発は強固であったはずのタラスクの甲羅を粉々に粉砕し、その巨体を跡形もなく消し去っ

 

 た。

 

 

 陽炎が思い出したように呟いた。

 

「あ、あの亀食べられるのかどうか聞くの忘れた」

 

 ちなみに古の勇者タ・ロウとケンシーバによるとタラスクの肉の味は

 

「獣人の顎でも嚙み切れないほど固い。さらにオッスオラ亀という自己主張の強い臭いが鼻腔一杯

 

 に広がる」

 

「食べて後悔した魔物10選に入る」

 

 とのこと。

 

 

 ミドリ船長は恐れ慄いた。あの恐ろしいタラスクが跡形もなく消し飛んだのである。

 

 それほどの威力のある爆裂魔法はたとえ大魔導師が百人いても作れないだろう。

 

 もし、いま日本国がクワトイネ公国に襲い掛かったら確実に敗北する。

 

 ミドリは祖国が日本国とは絶対に敵対しないよう心の中で祈った。

 

 

 陽炎は引きつづきソナーで周囲を警戒していた曙にもう脅威となる存在はいないのか尋ねた。

 

「湾内の一角に不自然に大型魚が集まっている箇所があるわ」

 

「そう、後でクワトイネ側に報告しておきましょう」

 

 そんな会話をしていると陽炎は曙が何か後悔しているような表情をしていることに気づいた。

 

「釣り竿持ってくれば良かった、、」

 

 そののつぶやきを聞いた陽炎は思わず吹き出し、大声で笑った。

 

 曙は秋刀魚漁をきっかけに釣りにはまった。大潮や村雨、ベールヌイとともに釣り同好会を結

 

 成するほどに夢中になっていたのだ。

 

 

 

 隣国ロウリアと緊張が高まり、少しでも味方が欲しいクワトイネは日本という国が国交を求め

 

 てきたのでカナタ首相自ら会談することとした。

 

 日本国は外交官の田中ほか2人、そして護衛の少女が一人同行した。

 

「陽炎型駆逐艦一番艦、陽炎と申します。よろしくお願いします。」

 

「カゲローガタクチクカンイチバンカン・カゲロー?」

 

「陽炎でいいです。」

 

「あなたがタラスクを倒したのですか?」

 

「ご迷惑でしたでしょうか?」

 

「いえいえ、そんなことはありません。」

 

「よかったぁ。」

 

 安堵した陽炎の肩に小さな二頭身の人影が現れた。栗色の髪をした可愛らしい女の子だ。

 

「うわああああああああ!妖精だあー!!」

 

「えええ?!なんでファンタジー世界の人に驚かれるの?」

 

 

「異世界から国ごと転移してきた、ですと?」

 

 転移後周辺海域に哨戒機を飛ばし、この国を発見したため挨拶にきたという。

 

 合わせて無断で領空侵犯したことを謝罪された。

 

 哨戒騎が来たことすら察知できなかった軍部は顔を青くした。

 

「信じられないのも無理ありません。我々も元の世界でそのようなことを言い出す人間がいたら

 

 相手にしなかったでしょう。」

 

「ですが原因は不明ですが現実として起こってしまったのです。」

 

「ですので貴国に使節を派遣していただいて、その目でみて確かめていただきたいのです。」

 

 

「国ごと転移だと?信じられるものか、追い返してしまえ」

 

「ロウリアと戦争になるかもしれないのに更に敵を増やすおつもりですか?」

 

「日本は大型で高速の船を作る技術と強力な爆裂魔法を使う魔導士を持つ、味方にするべきだ。」

 

「彼らは礼儀正しい、信用してもいいと思う」

 

「妖精を連れているということは彼女らは悪人ではない。」

 

 

 反対意見が多数出たが最終的にカナタ首相は日本に使節団を派遣することを決めた。

 

「日本国は我が国に何を求めているのでしょうか。」

 

「まずは食糧、そして資源、特に石油です。」

 

「ほほほ、ならば貴国は運がいい、我が国は緑の神の祝福を受けた土地、特に手入れをしなくとも

 

 農産物が大量に採れるのです。」

 

 これには日本国側が色めき立った。さらに石油というものがどういうものか説明を聞くと、

 

「その石油というのは隣のクイラ王国の燃える水に似ていますね。」

 

「なんですと?」

 

「クイラ王国はその燃える水がそこかしこから噴き出し、農業に適した土地が少ないのです。」

 

「よろしければ国交開設の仲介しますが、」

 

「ぜひ、お願いします!」

 

 

 




 陽炎抜錨します。では妖精は登場していませんが拙作では登場させようと思います。

 艦娘と妖精の絡みは可愛い、と思うからです。

 ある時からから出てきた、ということにしてください。

 また、一航戦、鶴翼、瑞の空などほかのノベライズともクロスオーバーしたいと思います。

 タラスクの肉についての食レポは岡本健太郎氏の山賊ダイアリー、リアル漁師奮闘記(講談社)

 のミシシッピアカミミガメを食べたエピソードから引用しました。


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第二話 接触(日本視点)

starship様、しっぽたれ様、評価ありがとぅございます。

starship様、ぴょんすけうさぎ様、感想ありがとうございます。

お気に入り登録者の皆さまこれからもよろしくお願いします。


「ふう、今日も疲れた」

 

 内閣総理大臣武田は晩酌をしていた。

 

「第14駆逐隊の活躍で深海棲艦の首領を倒し、後は残党狩りのみになった。自衛隊を再建し、国

 

 防を任せる。そして艦娘たちは退役を進めて戦力を縮小する」

 

 長きに亘った深海棲艦との戦いに終わりが見えてきた今、日本政府の方針はそうだった。

 

「だというのに、防衛副大臣め」

 

 防衛副大臣は引き続き艦娘を国防戦力として使うことを提案してきた。理由はコストが安いと

 

 いうことだった。

 

「艦娘たちに対人戦などやらせられるか」

 

 艦娘は深海棲艦と戦うためにいるのだ、彼女らが対人戦をやりたがるわけがない。艦娘が対人

 

 戦をするのは相手が攻撃してきた時のみである。

 

 防衛副大臣は艦娘の家族を人質にとる、艦娘の体内に爆弾を仕掛けるなど方法を提案している。

 

 艦娘の人権を完全に無視している。彼は人は高い地位のある者、すなわち自分の命令に従うのは

 

 当然と考えていた。また愛国者を自称する彼は日本のためいつでも命を懸けるつもりだった。だ

 

 から艦娘が命がけの戦いをしてもそれが当然と思っていた。

 

 もっとも、彼は常に一番安全な場所にいて動くことはないのだが。

 

「あんな奴だったとは全く気付かなかった」

 

 ギリギリと歯ぎしりをしてくやしがる。副大臣に就任させたことを後悔していた。

 

 辞めさせたくとも彼のために立てた対抗馬が、直前になってスキャンダルが明るみになって失脚

 

 する、ということが何回かあった。内通者がいるのだ。

 

「あーあ、あいつ〇ぬか異世界に飛ばされでもしないかなー」

 

 

 突如空が真昼のように明るくなり同時に地面が揺れ始めた。

 

 武田総理は閣僚を集め、緊急会議を開いた。各方面からの報告を集めた結果、衛星の信号がロス

 

 トし、海外との通信が途絶したことが判明した。

 

「北西に飛ばした哨戒機の報告では朝鮮半島が見当たらないということです」

 

「また、水平線が以前より遠く見えるようになった、とのことです」

 

「以上のことから日本の国土が異世界または別の惑星に転移してしまった、と考えられます」

 

 文科相の報告を聞き、武田総理はうなる。

 

「そんなラノベみたいなことが起こるなんて」

 

「その証拠に空を見てください、月が二つあります」

 

「まじかー」

 

 

「ところで防衛副大臣はいないのか?」

 

 気になっていた人物が居ないので、防衛大臣に尋ねた。

 

「それが昨日突然、私的な海外旅行に出ていきました」

 

「駄目だろ、許可しちゃ」

 

「今思い返すとなぜ許可したのか思い出せないんです」

 

 会議室がほんの少しの間沈黙につつまれる。

 

「公安からも一つ報告があります」

 

「マークしていた工作員やスパイ、テロリストなどが転移現象の前に突然出国していました」

 

「転移現象を起こした何者かの意思なのではないのでしょうか。」

 

 総理はつぶやく、

 

「あいつは工作員と同じ扱いか」

 

 

 所変わって呉鎮守府

 

 本日の秘書艦秋霜はギンバイ犯を捕まえてご満悦であった。

 

「とうとう捕まえたぞ怪盗ミラージュ!不知火先輩、筆頭秘書艦を呼んできてください」

 

 目元のみを隠す蝶の羽の形をした仮面をかぶった犯人、おそらく駆逐艦が叫ぶ。

 

「まって、私は筆頭秘書艦の陽炎よ、ついさっき一瞬のスキをついて入れ替わらせられたの」

 

 とう、という掛け声のもと秋霜は犯人の脳天にチョップをかました。

 

「痛い!」

 

「前回も同じ手を使ったでしょう。今度は騙されないわよ!」

 

 

 その時空が真昼のように明るくなり、地面が揺れだした。そして空の光が流れる奔流ように強く

 

 輝いた。空が夜空に戻った時、その夜空は別の夜空だった。

 

 秋霜が慌てる。

 

「何が起こったの?」

 

 不知火が怪盗ミラージュの縄を解いた。

 

「緊急事態よ!鎮守府全員の安否確認して!」

 

 ミラージュの正体は呉鎮守府筆頭秘書艦、陽炎型駆逐艦ネームシップ、陽炎その人であった。

 

「えええ?!」

 

 秋霜が驚く、

 

「秋霜秘書艦、大本営に通信ができるか確認して、当直の艦隊は近海の哨戒。あと市街地に異常

 

 がないか誰か様子を見てきて、」

 

 テキパキと指示を飛ばす先輩、陽炎に秋霜が敬礼する。

 

「了解しました。ですが質問よろしいですか?」

 

「なあに?」

 

「なぜギンバイを続けているのですか?」

 

「ギンバイは海軍の伝統文化、その維持と継承のためよ。それに私を追いかけることによってあ

 

 なたたち新人の経験を積むことができるでしょう」

 

「付け加えるなら陽炎がギンバイしたものは自分が注文したもの、もしくは他のひとの名前を借

 

 りて頼んだものです」

 

 不知火が補足する。

 

「そのような深い考えがあったとは、秋霜、感激しました!」

 

「フフ、お礼なんていいのよ」

 

「で、本音は?」

 

「スリルが味わいたいのよぅ!」

 

「やっぱりか!」

 

 

 翌日陽炎は呉鎮守府の提督とともに東京の海軍本部にいた。

 

 全国の鎮守府、泊地など提督、高位の海軍関係者がすべて招集されたのである。そこで陽炎は旧

 

 知の艦娘と再会した。

 

「木曽さん!こちらにいらしてたのですね。地球に取り残されたのかと心配してました」

 

 木曾は神妙な顔をして答えた。

 

「陽炎、聞いてくれ。俺たち幌筵泊地の皆は転移の数日前なぜか基地の装備、備品その他持てる

 

 もの全て輸送艦に積み込んで内地に移動していたんだ。まるで夜逃げのようにな」

 

「それっていいんですか?」

 

「いや、駄目なはずだ、だが俺たちはその作業を何の疑問も持たず行っていた」

 

「まさか洗脳ですか?」

 

「ああ、それも日本全体、いや地球規模でかけられた洗脳かもしれない」

 

 その後陽炎はリンガ泊地所属のあきつ丸とも再会した。彼女もまた同じようなことを語った。

 

 後日、海軍総司令官が何時、何故書いたか思い出せない、全ての海外基地泊地からの撤収命令書

 

 が見つかったという。

 

 

 陽炎は提督と自分のための軽食を買いにカフェに入った。午前の会議は提督のみ、午後の会議に

 

 は秘書官も加わる。脳を使うので甘いモノがいいと思っていた。テレビで人気だと言っていたカ

 

 フェだ。

 

「思っていたよりずっと女子向けだわ」

 

 陽炎はこういったおんなのこ×2した場所は苦手だった。火力も雷装値もこういったところでは

 

 役に立たない。

 

 羅針盤の女子力判定ではボス前逸れである。

 

 カウンターで何を注文したらいいのか困っていると大きな荷物を抱えた何者かが近づいてきた。

 

 その人はつまずくと抱えていた荷物が崩れそうになった。

 

「危ない!」

 

 陽炎は咄嗟にその荷物を支えてあげた。

 

「ありがとうございます」

 

 可愛らしい声でお礼をするのは陽炎か今まで見たこともないような美少女だった。

 

「細い!顔ちっさい、整い過ぎて人形みたい!」

 

 その美少女はにっこり笑って陽炎に自己紹介した。陽炎にこの店のおすすめを教えた。

 

 陽炎は彼女の言う通りにおすすめの品を購入した。

 

「わたし、ラキシス宜しくね」

 

 

「一体どう責任を取るつもりだ!」

 

 海外の武官が日本の軍人に詰め寄る。

 

「ですから現在原因を調査中でして、、、」

 

「我々は故郷を喪失したのだぞ!」

 

 こんな所で日本人を責めても仕方が無いことは海外の武官達も分かってはいるのだが、何らか

 

 の成果を持ち帰らなければならなかった。

 

 ただ、少々しつこい抗議に日本側も切れた。

 

「今回の事態の原因、我々に一つ心当たりがあるのですよ。それはドイツさんが持ち込んだあの

 

 アーティファクトです」

 

 最も激しく抗議していたドイツ武官に視線が集中する。

 

「あの異なる宇宙から送り込まれた黄金のロボット、アレが誤作動でもしたのでは?」

 

「馬鹿な、アレは我々が何をどうしようとしても、動かすどころか内部の解析すらできなかった」

 

「以前に聞いた話ではあなた方はアレを解析して数々の超兵器を開発したと聞きましたが」

 

「白状すると我々が解析できたのは整備用の周辺機器と運搬用の機械だけだ」

 

「それだけで数々の超兵器をつくったのですか?」

 

 

 ドイツ武官が気まずそうに答えていると会議室のドアが開いてラキシスと焦った陽炎が入室し

 

 た。

 

「今回の一件とそのアーティファクトは関係ありません」

 

「誰だきみは!」

 

「先ほどから話題のロボットに乗ってこの宇宙にやってきた者です」

 

 その後ラキシスは自身の半生を語ったが壮大すぎて誰もついていけなかった。しかし彼女のかも

 

 す異様な凄味のために誰も文句が言えなかった。

 

 ドイツ武官達は涙ながらラキシスの話を聞いていた。彼女は大戦末期のベルリン市民を救った英

 

 雄であった。

 

 

「今回の転移現象は私の夫、天照大御神(日本国召喚の太陽神シャマシュとは別神、というか男)

 

 の仕業かと思いましたが、違うようです」

 

「それはなぜですか」

 

「夫の仕業ならここはジョーカー宇宙のはずです。ですがここは昨日まで皆さんがいたのと同じ宇

 

 宙です」

 

 それならば惑星間航行可能な宇宙船を建造すれば地球に帰れるということだ。その話を聞いてア

 

 メリカが提案してきた。

 

「我々アメリカは本国と連絡途絶したため自身と米国人居留地の自衛以外で武力を行使できない」

 

「今後は地球に帰還するため宇宙開発を任務とする。そのためにJAXAと協力したい」

 

「共同の研究成果として一部技術を提供する」

 

 そうして揉めに揉めていた会議は決着した。

 

 今後の方針は以下の通りになった。

 

 1,日本に駐留していた海外の軍隊は新世界では国防には直接関わらない。

 

 2,科学技術の研究で日本と協力する。

 

 3,海外の艦娘についてはこれまで通り各鎮守府に所属することとする。

 

 

 午後の会議は秘書艦も参加し、哨戒の結果が報告された。

 

 東に飛んだ哨戒機は燃料いっぱいまで飛び続けたがひたすら海が広がるばかりで陸地を発見でき

 

 なかった。

 

 北に飛んだ哨戒機は陸地を見つけたが、人の住んだ形跡が見当たらない荒野であった。(後にセ

 

 ニアと判明)

 

 西には島(後にガハラ神国と判明)を発見したが巨大な飛行生物(風竜のこと)が住み着いてい

 

 たので危険と判断し引き返した。

 

「そしてここからが本題です」

 

 南方に1000キロほど飛んだ所に大きな島あるいは小振りな大陸と呼べるような陸地があり、

 

 人が生活していたという。

 

 しかも広大な穀倉地帯が広がっており、食糧の輸入ができる可能性がある。

 

 

 現在の日本は戦争がほぼ終わったことでベビーブームが始まっていた。

 

 加えて深海棲艦の支配地域の難民も復興までの間、日本で生活する予定であった。大幅な人口増

 

 大が見込まれており、日本の人口は深海棲艦出現以前に戻りつつある。もしも今の時点で食糧の

 

 輸入が途絶えれば深刻な事態になることは確実だった。

 

「そう、コーラを飲んだらゲップが出るくらい確実なんですよ」

 

「真面目にやれ」

 

 深海棲艦に海上封鎖された当時、合成食糧を大量に生産し国内の餓死者は最少限に抑えられた

 

 が、合成食糧では心の空腹は満たせない。民衆の不満は蓄積し、治安は悪化した。

 

 

「そこで陽炎、君に頼みたい」

 

「ひゃ、ひゃい!」

 

 突然指名され陽炎は驚く。

 

「君は最も信頼する仲間を率いて外交官を護衛してもらいたい」

 

「私と、もしかして第14駆逐隊ですか?」

 

「そうだ、数々の奇跡を起こした第14駆逐隊ならこの一大事もなんとかしてくれると期待する」

 

「ぜ、全力を尽くします」

 

⦅また無茶ぶりされた!昔から何かある度に奇跡の駆逐隊とか言われてあちこちに派遣されて大変

 

 な目に遭わされた!戦争が終わったからのんびりできると思ったのに、神様の馬鹿ー!⦆

 

 この世界には神様が本当に実在するのだが、それを知った時には陽炎はこの心の叫びをすっかり

 

 忘れていた。

 

 そしてつい先ほど知り合ったのが宇宙は違うが運命の女神であった。

 

 

「陽炎さん、私も貴女の力になりたいのです」

 

 会議の終わり、ラキシスが陽炎にそう切り出した。

 

「どうか私の騎士になって下さい」

 

「え?あなたを守れということ?」

 

「違います私はファティマ、貴方の僕として使ってください」

 

⦅そりゃ力を貸してくれるなら有難いし、これから行くところは中世ヨーロッパみたいな国だから

 

 分かり易く騎士という身分を名乗った方がやりやすいかも。⦆

 

「ファティマは生体コンピューター、事務作業は得意です」

 

「ぜひ来てください。というか逃がさないわ」

 

 そのときドイツ側からどよめきが起こった。

 

「ラキシスさまのマスターに選ばれるだと?」

 

「ルーデルやヴィットマンでも駄目だったのに!」

 

「うろたえるな、ドイツ軍人はうろたえない!」

 

 

「わが主、これをお受け取りください」

 

 ラキシスはそう言って黄金のカギを差し出した。

 

「なにこれ、すごい嫌な予感がする」

 

「私のゴチックメード、マグナパレスの始動キーです」

 

「なんか凄いのが出た!」

 

 

 翌日、所変わって呉鎮守府

 

 ここにかつての第14駆逐隊のメンバーが集合していた。

 

「まったく、あんたって人はどっか行く度に新しい女の子引っ掛けてくるわね」

 

 綾波型駆逐艦曙が愚痴る。

 

「そんなことないとは言わせないわよ。リンガでは叢雲、幌筵泊地ではまるゆ、佐世保はー那智さ

 

 ん?前例が山盛りよ」

 

「疑問符付きが一つありますけど概ね同感です」

 

 駆逐艦らしくない装甲を持つ潮が賛同した。

 

「というかお前がいうか?」

 

 小さな武士という風格の駆逐艦長月が曙に突っ込む。

 

「まあ、僕らも陽炎に引っ掛けられたようなものだからね」

 

 元気溌剌という言葉がぴったりな駆逐艦皐月が準備運動しながら答える。

 

「でもまさか黄金色のロボットに乗って帰ってくるとは想像の外だわ」

 

 

「といか曙、貴様いつの間に正妻ポジションにいるんですか。そのセリフは私のセリフです。沈め

 

 ますよ」

 

 陽炎のストーカー型駆逐艦不知火が常日頃から悪い目つきをさらに悪くしてどすのきいた声で脅

 

 す。しかも後ろから腕を回し曙の首筋にナイフを押し付けている。

 

 曙は素早く肘打ちと蹴りを入れ逃れる。

 

「流石曙、敢えてナイフに首を押し付け、切れにくくして逃れるとは狂ってますね」

 

「いまマジで喉笛掻っ切る気だったわねこの変態ストーカー!」

 

 首筋からうっすらと血を流した曙が叫ぶ。

 

「沈め暗く寂しい水底に」

 

「消えろ水平線の彼方に」

 

 お互い主砲(実弾装填済み)を構え睨みあう二人の女。正妻の座を掛けた戦いが今また始まる。

 

「あんたたち遊んでないで、概要は聞いてるわね、急いで出航準備よ」

 

 始まらなかった。

 

「陽炎さん出航前に工廠に寄ってもいいですか」

 

 ラキシスが先ほどのやり取りを見てもなお平然としている。

 

「あ、いいけれど。動じないんだ」

 

 狂気(ファナティック)のラキシスの異名は伊達ではない。彼女にとってこういったやり取りは

 

 かつて日常茶飯事であった。

 

「やりおるな」

 

 ラキシスは第14駆逐隊の面々に一応認められたのだった。

 

 

「第14駆逐隊、これより外交使節団護衛任務に就きます。目的地は南方一千キロの未知の大陸」

 

 外交官を乗せるのはおおすみ型中型輸送艦が選ばれた。相手を威圧し過ぎず何かあった時対処で

 

 きるようにした。再建中の海上自衛隊の護衛艦はまだ少ないからという理由もある。

 

「だいじょうぶです!」

 

 雪風がこのように安全と太鼓判押してくれたためこのような編成となった。彼女の予言は科学的

 

 証拠に準ずると見なされるのだ。

 

 

 

「皆さん頑張ってくださいね、あの海の先にはきっと素敵な出会いと美味しい食べ物があります」

 

「赤城さん何故分かるのですか?」

 

「ふふっ異世界にきて特殊スキルに目覚めたのかしら?」

 

「あなたは以前からそうです」

 

 赤城と加賀が横須賀からわざわざ見送りに来た。周囲は皆知っている、この航海の成否が日本国

 

 と彼女らにとって死活問題だからだ。彼女らを飢えさせたら日本国は終わるだろう。

 

 

「大丈夫かしら」

 

 吹雪型駆逐艦叢雲が呟く。

 

「きっと大丈夫じゃよ」

 

 元リンガ泊地の老提督が南方の海を眺めながらいう。

 

 その眼には懐かしさがあり、その言葉には何故か確信が籠められていた。

 

「第14駆逐隊、抜錨します!」

 

 

_____________________________________________________________

 登場人物と用語についての簡単な補足

 

 ファイブスター物語(FSS)とは永野護氏が月刊ニュータイプで連載されている漫画です。

 

 5つの太陽系と5つの有人惑星、様々な国家とそこに暮らす人々と神様の御伽噺です。

 

 始めに年表が示されており、その中のエピソードを作者が漫画にする、というスタイルです。

 

 平成13年、作者が映画製作を期に漫画内の用語、設定を大きく改変しました。

 

 なので拙作では基本的に新設定を採用し、旧設定はカッコ内に旧何々と表示したいと思います。

 

 例:GTMマグナパレス(旧、MHナイトオブゴールド)

 

 ラキシス

 

 星団最高のファティマ製作者クローム・バランシェ公の44番目の作品。

 

 光の神アマテラスを好きになり「金色のGTMに乗って迎えに来て」とプロポーズする。

 

 永遠の孤独を生きるアマテラスと添い遂げるため父であるクローム博士に頼みファティマと女神

 

 二つの情報体を持つダブルイプシロンという存在に作り直される。アマテラス不在時のみ神の力

 

 を使えるらしい。本来の姿は藍色ロング

 

 成人後、アマテラスとともに変態領主をぶっ飛ばして彼に嫁入りする。

 

 ミラージュ騎士団左翼大隊が反乱を起こした際は左翼最強騎士シャフトと最強魔導士ズームを一

 

 蹴、首謀者サリオン王子をガンづけだけで屈服させる。

 

 魔導大戦に静観を決め込んだときは不機嫌になり大理石の柱を齧って宮殿の塔を倒壊させかける

 

 暴挙にでる。

 

(ここから未コミカライズ)アマテラスは突如として全星団を統一すると宣言しに侵略戦争をしか

 

 ける。しかしラキシスはマグナパレスとともにカラミティ星の爆発に巻き込まれて消息を絶つ。

 

 様々な時空や次元を放浪する中、1945年の地球に出現、第二次世界大戦のベルリン攻防戦にマ

 

 グナパレスと共に参加した。二つ名は「狂気のラキシス」(ファナティック・ラキシス)

 

 スペック…戦闘∞・制御∞・演算∞・耐久∞・精神∞・クリアランスOUT・タイプ∞

 

 

 ファティマ

 

 FSS世界で最強の兵器である人型ロボットゴチックメード(旧、モーターヘッド)の制御システ

 

 ム。人型の生体コンピューター。富岳を上回る演算速度を持つ。

 

 初代剣聖スバースの細胞から創られた。細身の美しい少女の姿をしている。少数だか男性型も

 

 いる。

 

 星団法によりその自由を制限されている。アシモフのロボット三原則すらない。

 

 人間に絶対服従するマインドコントロールを受けること義務化されている。

 

 ただし自分のマスターはファティマ自身が選ぶ。相性の良い騎士とそうでない騎士ではその発

 

 揮する性能が数倍の差がある。

 

 戦闘力は一般の騎士の70%ほどに制限されている。(ラキシスなどバランシェファティマは

 

 星団法を無視して騎士と同じくらい強い)

 

 超常の存在セントリー(旧、ドラゴン)は彼女らを妖精と呼ぶ。

 

 

 騎士

 

 身分や職業ではなく、超帝国ユニオにより創られた生物兵器。凄まじい筋力、反射神経、生命

 

 力を持つ。かつて純血の騎士は宇宙戦艦を素手で破壊する力を持っていた。現在では一般の人

 

 々との混血が進み弱体化している。

 

 

 

 

 

 

 

 




拙作ではGTMは戦闘はしません。強すぎるので。


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第三話 日本国を視察しよう

タイトルの陽炎の後に句点を入れ忘れていました。
原作者様、原作ファンの皆様ごめんなさい。
タグを追加しました。



 クワトイネ公国外務部外交官ヤゴウは日本視察団の一人に選ばれた。

 

 この世界は群雄割拠、新たな国が生まれたり滅んだりは日常茶飯事なので彼が新興国に視察に行

 

 くことは何度もあった。

 

 ただ、クワトイネ公国は文明圏外国家としては文化的に上位にいるので派遣先の国家は母国より

 

 も衛生的でなかったり、治安が悪かったりするので外交官が病気になったり犯罪に巻き込まれた

 

 りして死亡することも少なくない。

 

 なので新興国への使節団は外務部の業務のなかでは人気がない。

 

 ただ今回日本国への訪問は楽しみにしている。

 

 180メートルもの巨大な鉄船を建造する技術をもち、海邪竜タラスクを倒す魔導士を擁する軍隊

 

 を持つことから文明度は相当高い、と彼は見ている。

 

 しかもその魔導士は6人全員可愛い女の子だった。ヤゴウの好みは黒髪ロングで胸の大きな子で

 

 ある。エルフの女子はスレンダーな体型ばかりなのでおっぱいの大きな女性に惹かれるエルフ男

 

 子は多い。

 

 

 同じく日本国視察団に選ばれたハンキは憂鬱だった。彼は軍部からの出向で、日本国の軍事力を

 

 詳しく調査することを目的としていた。

 

 軍で鍛えた彼の肉体をもってしても長期の船旅はつらく苦しい。

 

 薄暗くじめじめした船室。塩辛く硬い保存食、ならまだましで蛆が湧いたビスケットを齧ること

 

 すらある。水は貴重なので使用が制限される、体を拭くこともできず病気になったりする。

 

 ハンキは陸軍軍人だが海軍軍人の精神力は凄いと思う。勿論陸軍も負けてないと思っている。

 

 日本国の軍隊はあの6人しか知らないがいったいどのようなものだろうか。ちなみにハンキは金

 

 髪で自分のことをボクと呼ぶ子が好みだ。

 

 

 日本国外務省からから日本国視察のスケジュール届いたので、使節団一行は公国外務局で説明さ

 

 れた。

 

「まず日本が用意した客船で出発、2日後福岡港に到着」

 

 使節団の頭に疑問府が浮かぶ、一千キロは2日で到着する距離ではない。

 

「初日は日本国の基本的法律、とくに道路交通法を学んで頂くことになります」

 

 なんでも日本国では外を勝手に動き回ると自動車というものに踏みつぶされるのだそうだ。

 

「その後シンカンセンという交通システムで日本国の実質的首都東京に向かいます」

 

 ここもおかしい、聞けば福岡と東京は一千キロ離れているのに朝でて昼に着くというではない

 

 か。日本国とクワトイネ公国との間で何らかの連絡ミスがあったに違いない。

 

 

「おはようございます!いい朝ですね!」

 

 視察当日、朝からハイテンションの田中外交官が挨拶した。

 

「使節団の皆さま本日は私が案内を務めさせていただきます。まずは短艇で沖合の船に乗船して

 

 頂きます。」

 

 沖を見ると巨大な船が見えた。マイハーク港は水深が浅いため使節団を乗せるための船が直接

 

 接岸できなかったので小さなボートで沖合の船まで行くという。

 

 そのボートが帆もオールもないのに恐ろしく速い。

 

 

 沖の船に乗り込むと絶世の美女としか形容しようがない女性が出迎えた。

 

「クワトイネ公国使節団の皆様初めまして、練習巡洋艦鹿島にようこそ、私は艦娘の鹿島です。

 

 艦長のようなものと思ってください。この度皆様を日本までお送りする大役を務めさせ頂くこ

 

 とになり、恐悦至極に御座います。うふふ」

 

 使節団の男どもは鹿島の美しさに魂を抜かれかけたがある疑問が浮かんだ。

 

「おっふ、あの失礼ですが艦名と貴女のお名前が同じなのですが貴国の風習か何かなのですか?」

 

「そのことについては後程我が国の軍の歴史と合わせて説明されると思います」

 

 この鹿島は軍艦でありながら外交の場になれるよう余裕のある設計となっている。

 

 鹿島の周囲を110メートル前後の鉄船が6隻護衛している。それぞれの甲板には陽炎たちがいて

 

 手を振っていた。

 

 

 船旅は快適そのものだった。

 

 艦内は光魔法のようなもので明るく照らされ、一定の温度が保たれている。

 

 蛇口という道具をひねればそのまま飲める水が出てくる。そのうえ温かいお湯まで出せる。

 

 食事は王宮の晩餐会で出されてもよいのではないかというほど美味であった。

 

 船旅をあれほど嫌がっていたハンキ殿は艦内のバーでカクテルなる酒を上機嫌で飲んでいる。

 

 

 

 二日後、鹿島は福岡港に到着した。

 

 そこで使節団一行は度肝を抜かれた。

 

 石の様に見えるが石ではない白い建材で出来た港。

 

 遠目に見えた天高くそびえる建築物。

 

 鉄で出来た巨大な橋。

 

 道路には馬が引いていないにもかかわらず快速で動く荷車。

 

 そして空を飛ぶワイバーンよりも大きく速い鉄竜。

 

 噂に聞いた神聖ミリシアル帝国のような、いやそれ以上の発展ぶりであった。

 

 

 初日はホテルの中でおもに交通ルールを教えられた。

 

 日本国では馬なし荷車は自動車と呼ばれ、国民のほとんどが所有しているという。多数ある自動

 

 車を効率的に動かすにはこういったルールが必要なのだと感心した。

 

 鹿島の艦内にもあった水道、照明、エアコンなど、便利な魔道具のようなものの使い方も教えて

 

 もらった。使節団の皆、是非ともこれらを輸入してもらいたいと思った。

 

 

 日本のことで驚くべきことが分かった。日本人は魔法が使えないのだ。

 

 たまたま交通事故に遭遇したヤゴウが被害者の女性に治癒魔法を掛けたら、田中氏や周りの日本

 

 人達が仰天した。日本人とって魔法とはおとぎ話や創作物の中だけの存在だったのだ。

 

 では艦娘たちは?彼女らからは確かに魔力を感じるのだが。そう疑問をぶつけると艦娘に使われ

 

 ている技術は彼らも良く分かってないそうなのだ。

 

 あと、艦娘は治癒魔法は使えないという。ならば治癒魔法はクワトイネ公国の有力な輸出品にな

 

 るのではないだろうか。

 

 

「日本国の軍隊を見学することは可能じゃろうか」

 

 ハンキは田中外交官に尋ねた。

 

「ちょうど鹿屋基地にて航空祭がありますのでそちらでしたらできると思います」

 

 

 鹿屋基地

 

 まずは現時点での主力戦闘機烈風一一型の飛行が披露された。時速695キロものスピードを誇

 

 り、機動力もまた素晴らしい。

 

「これではワイバーンどころか改良種でも歯が立たんぞ」

 

 烈風一一の性能に驚いていると新たなアナウンスがあった。

 

「それでは皆様、新設航空自衛隊の主力戦闘機F-15J改の登場です」

 

 次に出てきた戦闘機はなんと音速を超えて飛行できるのだ。そのあまりの性能にハンキとヤゴウ

 

 はあっけにとられた。烈風もすごいがF-15はいきなり技術が飛躍しすぎだろう。

 

 

 

「わが日本国には現在二つの軍隊にあたる組織があります。通常兵器を運用する自衛隊と艦娘が所

 

 属する日本海軍です」

 

「それを説明するためにまず我が国の歴史をご説明します」

 

 日本国の創世神話、仏教の伝来、遣唐使、貴族社会と武士の誕生、二度にわたる元寇、戦国時代

 

 安定した江戸時代、黒船と明治維新、二度の世界大戦がスライドという機械で説明された。

 

「あれは護衛していた軍艦ではないか?」

 

 映像の中に見覚えのある軍艦が出てきたのでハンキは不思議に思った。この映像は70年ほど前の

 

 ものだという。70年も同じ軍艦を使い続けているのはなぜだろうか。

 

「それは私たち艦娘がかつてあった軍艦の魂を宿した存在だからです」

 

 鹿島、そして陽炎たちはある人類の敵に対抗するため軍艦の魂を宿した兵器なのだそうだ。

 

 

 ハンキたちは信じられないといった表情をうかべたがひとまず続きを聞くことにした。

 

 第二次世界大戦の凄惨な戦いが映し出された。温厚だと思っていた日本人にもいざとなったら死

 

 を恐れず戦う一面があることを知った。

 

 広島長崎への原爆投下を見たときは古の魔法帝国のコア魔法ではないかと恐怖した。

 

 無条件降伏後、急速に復興する様子を見て日本人の底力を見た。そしてミリシアルもかくやとい

 

 うほど発展した大都市。二度目の大戦のあと地球の技術力は飛躍的に発展した。

 

 音速を超える戦闘機。150キロ離れた目標を正確に打ち抜く誘導弾。大空のさらに上、宇宙から

 

 地上を監視する人工衛星。

 

 神話にある古の魔法帝国に匹敵する兵器が登場し、日本国があった地球は魔境だったのだと理解

 

 した。

 

「このころ地球人類の文明は絶頂を迎えていたと言えます。しかしそれらはある物たちの登場によ

 

 って滅亡の危機を迎えます」

 

 ハンキたちにはこれ程の文明を滅ぼしかける存在など想像できなかった。

 

「これです」

 

 

 それは

 

 死と

 

 破壊と

 

 絶望だった。

 

「これが人類の敵、"深海棲艦"です。」

 

「それまでの兵器が全く通用しない敵によってかつてあった人類の戦力は壊滅、多くの人命が失わ

 

 れました」

 

「艦娘という深海棲艦に唯一対抗できる兵器の登場により人類はかろうじて命脈を保ったのです。

 

 彼女らの奮戦によって少しずつ海域を奪還していきました。そして先般、深海棲艦の女王個体を

 

 倒し長きに亘った戦争に勝利したのです」

 

 

 ハンキたちは震え上がったまま鹿島の説明を聞いていた。ロデニウス大陸に出没する魔物や近海

 

 にいる海魔とは比べ物にならない。魔力が伝わらない映像を通していても分かる格の違う存在、

 

 恐怖しかない。

 

 そしてそれらと戦うことを宿命づけられた艦娘たちの運命に涙か止まらなかった。

 

 

 新幹線という大蛇のような移動機械にのって東京に向かう。地上を走る乗り物がワイバーンより

 

 速い時速300キロで走行すると聞かされてももはや驚かなかった。日本なら何でもできるのでは

 

 ないかと思った。新幹線の中は快適そのもの高速で動いているのに全く振動がない。それという

 

 のも振動を抑える装置を組み込んでいるので中は全く揺れないし、開業以来脱線事故を起こして

 

 いないのだそうだ。

 

 

 東京は福岡以上の大都会だった。これ以上驚くことはない、と思っていた使節団は無理くり驚か

 

 された。地上634メートルの鉄塔。空中を走る高速道路。ガラス張りの高層ビル。ここは現実な

 

 のか?夢でも見ているのではないか。使節団の皆が頬を抓って確かめていた。

 

「ハンキ殿!抓るのは自分の頬にしてください!」

 

 

 東京に着いた使節団を内閣総理武田が出迎えた。

 

 そして東京の高級料亭で日本、クワトイネの国交開設に向けた協議が始まった。

 

「日本は食糧を求めています。必要としているのは年間5000万t、もちろん貴国一国のみで賄う

 

 つもりはありません」

 

「コーヒー豆などいくつか分からない品目は有りますが、賄えますよ5000万t」

 

「えええ?!」

 

 クワトイネは緑の神の祝福を受けた土地、種を植えれば特に何もしなくても作物が取れる。

 

 害虫や病気など全くつかず、一年に複数回収穫でき、あまつさえ成る実も多い。

 

 まさに農業チート、国全体が〇樹の村なのである。

 

「反則じゃないか」

 

 

「ですが問題もあります。私たちにはこれ程の量の物資を輸送する術がありません」

 

「であれば我々がインフラを輸出しましょう」

 

 日本国がクワトイネに鉄道の敷設、港湾施設の整備、発電所の建設などを請け負うことなった。

 

 クワトイネはこれまで余って家畜に食わせていた食料を輸出し国の発展させることができる。

 

 日本国は懸案だった食糧問題が一気に解決する。

 

 両国にとってこれ以上ない合意を得た。ただ一つを除いて、

 

「やはり武器の輸出はできませんか」

 

「申し訳ございません、新世界技術流出防止法により武器の輸出はできません」

 

 

 外交官田中の私的記録より、

 

 今日は日本国の歴史に残る会談であった。日本が抱えていた問題が一挙に解決できた。

 

 転移してすぐ農業チート国家クワトイネ公国と資源チート国家クイラ王国と国交を開設できたこ

 

 とは誠に幸運としか言いようがない。考え過ぎかもしれないが、まるで何者かの作意があるかの

 

 ようだ。このまま何事もなければ良いと思う。




日本国との通商で発展するクワトイネ公国、しかし隣国ロウリア王国が不穏な動きを見せる。そして意外な強敵がロウリアに味方していた。
次回 第四話 異世界転移して初めてのクエストで野生のラスボスと遭遇した件

拙作でも艦娘はアルペジオ方式の形態が在ります。
ただし、この形態で攻撃しても深海棲艦にはダメージを与えることが出来ません。なので艦娘たちはこの形態を輸送モードもしくは観艦式モードと呼んでます。
キリ番報酬でbarracuda MkⅡを貰いました。



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第四話 異世界転移して初めてのクエストで野生のラスボスと遭遇した件

 トトマルさま評価ありがとうございます。

 starshipさまアドバイスありがとうございます。少しは読みやすくなった
 
  でしょうか。
 
 前三話はおいおい直します。



 日本国との通商が始まって一か月、クワトイネ公国はかつてない発展を遂げていた。

 

 道路は石のような黒い物で固められ、馬車がスムーズに行き来できるようになった。

 

「日本国のアスファルト舗装技術は世界一ィィィ!敷けない道はなぁぁぁぁい!」

 

 と日本の技術者がハッスルしていた。

 

 港は水深が深く掘り下げられ日本製の大型タンカーが入港できるようになっていた。

 

 そして様々な日本製品、インフラが持ち込まれた。生水を飲んでもお腹を壊さない水道施設。

 

 簡単に火を起こせるガス。魔力通信より遠くまで情報を届けることが出来るラジオ。

 

 農作業の負担を軽くする農業機械。

 

「コンバインなる機械を見たときは思わず、今までの苦労は何だったんだ!と叫んでしまいま

 

 した」

 

 官僚の一人が恥ずかしそうに答えた。クワトイネ公国では作物に特に世話をしなくても実がな

 

 るが、収穫作業だけは人の手でしなければならない。クワトイネ農民に残った最後の重労働で

 

 あった。しかし村人総出で何日もかかっていた麦畑がたった一時間で収穫が終わり、脱穀され

 

 て丁寧に袋詰めされてでてきた。しかもご丁寧に麦わらも利用しやすいように束ねられていた。

 

「今に収穫してそのままパンになって出てくるようになるんじゃないか?」

 

「ハハハハハ」

 

 官僚たちと談笑しながらカナタにはひとつ疑問が浮かんだ。なぜ日本のコンバインはクワトイ

 

 ネで栽培されている小麦の寸法にピッタリなのだろうか?

 

 クワトイネの小麦は他国のものに比べ背が低く、茎が太くて丈夫なのだ。それ故に多くの実を

 

 つけても倒れないため、クワトイネの麦は他国の3倍以上の収穫があるのだ。ただし病気に弱い

 

 ので他国では栽培は難しい。この国のためにあるような小麦であった。

 

 この小麦は一万年前に太陽神の使者によってもたらされた、その名をノウリンジューゴー種と

 

 いう。

 

「まさか日本国は太陽神の使者の国と関わりがあるのか?」

 

 その問いに正解が与えられる日は来るのであろうか。

 

 

「彼らの多くの製品がクイラ王国の燃える水で動いているのだな」

 

 クイラ王国もまた日本と国交を結んだ。 クイラの使節団は日本へ行き、そこで相撲という格

 

 闘技にはまったり,酒の美味さに虜になったりした。

 

 ドワーフであるクイラ大使はある艦娘と飲み比べをして引き分けたそうだ。勝負は姉がぶち切

 

 れ無効試合になった。

 

 クイラ王国もまた大発展していた。それまで何も利用価値がない物と思っていた燃える水が大

 

 金に化けたのだ。王国関係者は笑いが止まらない。

 

「友邦の発展は我々も好ましいことだ」

 

 

「武器も売ってくれたら良かったのですが」

 

 隣国ロウリアの動きが本格的にきな臭くなってきた。

 

 ロウリアは人間至上主義を掲げ亜人(エルフドワーフ獣人などの蔑称)排斥を掲げている。

 

 もしもロウリアに敗北したら自国民は殺されるか奴隷にされるかどちらかだろう。

 

 ロウリアは近年大幅に軍備を増強しており、どこかの国が支援しているのではないか、と疑わ

 

 れていた。日本の優れた武器があればロウリアなど鎧袖一触だろう。

 

 

 日本の立場で言えば中世のような世界にいきなり近代兵器を持ち込んで良い結果になるはずが

 

 ない。必ず大きな戦争の火種になるだろう。それを防ぐために新世界技術流出防止法を定めた

 

 のだった。ただし、書店に売られている参考書に載っている程度の技術なら問題ないとされて

 

 いる。なので使節団の皆は大量の本を買ってきた。現在翻訳作業が進められているが日本人の

 

 発する言葉は自動でその土地の言葉に翻訳されるようなので思ったよりもスムーズに進んでい

 

 る。日本人に本を読んでもらってその言葉を書き留めれば良いのだ。

 

 武器の話に戻そう。武器の輸入を可能にする名目が見つかった。それは魔物の存在である。

 

 この世界の人々は旧世界よりも大型かつ凶暴で危険な野生動物の危険に晒されている。

 

 有害鳥獣の脅威から友好国の国民を守るため害獣退治用の猟銃の輸出が一部緩和された。

 

 これはクワトイネにとって非常にありがたいことだった。

 

 そしてこの抜け道を進言したのは日本海軍マイハーク出張所の一ノ瀬アツシ提督(一航戦出撃

 

 します、の提督)だった。艦娘を運用する組織を日本海軍と呼ぶ。これは艦の魂がこの呼び方

 

 

 を好むからである。

 

 一ノ瀬は最初期の提督の一人で初代横須賀鎮守府の司令官でもある。かなりの年齢であるはず

 

 なのだが若く見える。五十を超えているのだがどう見ても二十台後半にしかみえない。経験豊

 

 富で艦娘の運用方法の確立などで大きな功績をあげた。北方海域からの敵大艦隊の侵攻の際、

 

 撃退したもののいくつかの不手際が原因で大きな混乱を招いたとして横須賀鎮守府司令官を退

 

 任。その後は海外の小規模な基地の司令を歴任して日本と各国との連携を深めることに尽力し

 

 た。今なお名将と慕うものが多い。ちなみに鳳翔と赤城の旦那である。

 

 

 日本から一部の武器が輸入できたとはいえ使いこなすのは一朝一夕にはいかない。長い訓練期

 

 間が必要である。機械式船舶の操船は海軍出張所の中で教えている。

 

 一応名目上は操船技術を教える施設の中に出張所が間借りしていることになっている。

 

 軍人は艦娘が指導するということで多くの希望者が殺到したが、地獄のような厳しさらしい。

 

「神通さんが見たら甘すぎると怒られるレベルなんだけど」

 

 とはマイハーク出張所所属、陽炎の言葉である。比較対象がおかしい。

 

 

 また自動車の運転は出張所の隣に教習所を作り教えている。軍人、農民、貴族あらゆる階層の

 

 人々が教習を受けている。自動車運転免許を取得することはクワトイネ公国国民にとってステ

 

 イタスになるだろう。戦車や装甲車は輸出できないのでトラクターやオフロード車を改造する

 

 案がクワトイネ軍部に提出されている。日本からは故障しても責任は持てないので、車両を改

 

 造するのは自己責任でお願いすると言われている。

 

 戦闘機と呼ばれる鉄竜の配備はどんなに早く見積もっても二十年は掛かると言われている。

 

 基礎的な航空機の知識を学ぶだけで四苦八苦している状況である。

 

 しかしクワトイネの軍事力は着実に充実していっている。時間さえあればロウリアの侵略を跳

 

 ね返すことができるようになるだろう。 そう、時間さえあれば。

 

 

 

 クワトイネ公国西部国境の町ギム

 

 この町を守護する西武騎士団団長モイジは空を見上げていた。獣人であるモイジは視力が高い

 

 ので昼間でも星が見える。先ほどから何やら覚悟を決めた顔で北の空を見上げていた。

 

「やはり、消えませんか」

 

 部下の一人がモイジに話しかける。

 

「ああ、はっきりと見えているよ」

 

「残念です。日本の支援でギムの町の防衛力は確かに上がりました。ですがまだまだ時間が足り

 

 ません」

 

 

 クワトイネもギムの町を強化したくても中々出来ないのには訳があった。

 

 これまで敵に利用されるのを恐れて街道を整備してなかったため、大量の物資を輸送したり出

 

 来なかった。建設機械を入れたくても危険な国境の町なので、民間の日本人建設業者を入れる

 

 わけにはいかなかった。仕方なく小さなショベルカーの使い方を覚えた兵士が少しずつ壕を掘

 

 ったりしていた。クワトイネ公国の方針はギムの町の東にある城塞都市エジェイを最終防衛ラ

 

 インとし、その防衛に全力を尽くすつもりである。ギムの町は速やかに住民を避難させるよう

 

 に通達があった。

 

 

「日本の武器は強力だが使い方が難しいな」

 

 日本から猟銃が輸入され訓練を受けたが使えるようになった者は僅かしかいない。

 

「その点このコンパウンドボウというのは素晴らしい」

 

 兵士たちは銃よりも使い慣れた武器である弓を有難がった。

 

 

 モイジはもう一度北の空を見上げる。

 

 旗の形をした軍旗座の傍らに小さな星が光っていた。

 

 それはもうすぐ死を迎える者だけに見えるという凶星、死告星である。

 

 そして次に西の方角を見つめる。その視線の先には集結しつつあるロウリア軍陣地が見える。

 

 

 ロウリア王国首都 ジンハーク ハーク城

 

 この日大会議室はロウリア王国の首脳陣が全員集結していた。

 

「皆の者これまでの懸命な働き、大儀である。亜人をロデニウス大陸から駆逐することは先々代

 

 からの悲願である!その意志を継ぐため諸君らは必死で取り組んでくれた。礼を言う」

 

 国王自ら感謝の言葉を賜り、列席者は感激した。

 

「これよりクワトイネ公国侵攻について軍議をはじめる!」

 

 国王ハークロウリア34世の宣誓ののち軍議が始まった。

 

 既に概要は決まっていてこの会議は最終確認の意味合いが強い。

 

 首都防衛司令官パタジン将軍が計画を説明する。

 

「我が国は陸軍が南部諸侯軍を含めて40万、海軍が10万、総兵力50万を揃えました」

 

「クワトイネの総兵力は予備役も入れて僅か5万しかありません」

 

 この時点でクワトイネに勝ち目はないと分かる。

 

「まずは陸軍先陣5万にて国境の町ギムを強襲制圧します。食糧については現地調達します。そ

 

 して同時に海から軍船4400隻を公国最大の経済都市マイハークに差し向けます。この時点でク

 

 ワトイネ公国は落ちたも同然となります。クワトイネ公国からの食糧供給が無くなればクイラ

 

 王国は干上がります」

 

 ロウリアの勝利は確実といえよう。

 

 

「最近接触してきた日本国はどうなっている」

 

 国王は外交の責任者である宰相マオスに尋ねる。

 

「は、我が国と国交開設を求めて来ましたが、先にクワトイネ、クイラ両国と国交を結んでいた

 

 ため拒否しました」

 

「日本国の国力はどの程度なのだ?」

 

「我が国のワイバーンを見たとき、初めて見たと驚いていましたので航空戦力を持っていないと

 

 思われます。おそらくあのあたりにあった群島が寄り集まってできた蛮族の新興国でしょう」

 

「ならば恐れることはないな」

 

「日本国には亜人は住んでいないと言っていましたが先日の外交官の護衛の内に明らかな獣人混

 

 じりの武官がいました」

 

「なんと我が国に対し偽りを申したのか」

 

「はい、無礼でしたので叩き出しました」

 

「ふん、クワトイネとクイラを滅ぼしたら日本も滅ぼしてしまえ」

 

 この時の武官とは軽巡多摩のことである。日本はロウリアにも接触して国交を開設しようとし

 

 たが先にクワトイネと国交を結んでいたため拒絶された。再度外交官を派遣したとき、ロウリ

 

 アの亜人差別がどの程度のものなのか確認するため、猫っぽい仕草をする多摩を護衛として連

 

 れていった。その時対応した宰相は多摩と外交官達に汚い言葉を浴びせ、衛兵たちは槍を構え

 

 て彼らを追い帰した。結果としてクワトイネはなにも誇張していないことが分かった。

 

 提督から不快な目に合うかもしれない、と言われていた多摩はちょっとだけ傷ついたようだ。

 

 後日、報酬である間宮羊羹と猫用嗜好性おやつが約束よりも多く届いた。ただし、彼女の姉妹

 

 にはロウリアに対する悪感情が残ってしまった。

 

 ロウリアに滅亡のフラグが立ったようである。

 

「先々代からの悲願、亜人殲滅とロデニウス大陸統一が我が代にて叶うのだな!」

 

 現国王の祖父ハーク32世は致命的な短所はないが、これといった長所もない凡庸な王太子であ

 

 った。しかし彼の弟妹たちは優秀なものが多くいた。亜人の側室から生まれた彼の弟妹たちは

 

 個々の種族の特徴を受け継ぎ様々な分野で才能を発揮した。

 

 エルフの血を引いた王子は魔法に長け、獣人の王子は武勇に優れ、ドワーフの姫は職人をまと

 

 め上げた。

 

 彼らに王位を奪われることを恐れた32世は弟妹を暗殺し、その罪を別の弟妹に擦り付けた。

 

 陰謀家としての才能は有ったようだ。

 

 全ての王位継承者を殺害した後、ロウリア王国は内戦に突入し多くの国民が傷ついた。

 

 内戦終結後、亜人は国を乱す元凶であるという32世の言い分を多くの国民は信じたのだった。

 

 

「くくく、国王様、大願成就の暁には我々との約束をお忘れなく、くくく」

 

 黒いフードをかぶった男が気味の悪い笑い声を出しながらいう。

 

「わかっておるわ!」

 

 ハーク34世はこの男が大嫌いだった。しかしこの男は第三文明圏の列強パーパルディア皇国の

 

 使者である。服従ともとれる屈辱的な条件を飲み、皇国から援助を受けてようやく現在の軍事

 

 力を得た。

 

⦅くそ!馬鹿にしやがって、いつか力をつけてフィルアデス大陸にも攻め込んでやる⦆

 

 国王は知らないがロウリアに提供された武器は皇国ではかなり昔に旧式化した武器である。

 

 ロウリアではパーパルディアに勝てはしないだろう。

 

 その後いくつかの事柄を確認し会議は終了した。

 

 国王の機嫌も戻り戦勝を期して乾杯が行われた。

 

「国王様はようやく決断したようですね」

 

 薄暗い部屋のなかで神経質そうな男がほくそ笑む。

 

「亜人ども我らが一族が受けた屈辱、思い知るがいい」

 

 彼こそロウリアで最も過激な亜人排斥主義者、魔獣使いのアデムである。

 

 彼は亜人の殲滅に人生の全てを捧げていた。

 

「亜人どもは皆殺しだ」

 

 

 ロウリア王国筆頭宮廷魔導師ヤミレイは最近配下になった魔導士とその仲間の傭兵団を激励し

 

 にきた。

 

「ボスヤスフォート、其方の働き期待しておるぞ」

 

 首まで密着した黒いローブを着て唇に黒いルージュを引いた男が答える。

 

 その横には黒い軽装鎧を着た金髪おかっぱの剣士と黒いドレスを着た妙齢の女性が控えている

 

「はっ」

 

「手柄を上げれば貴様らをこの国の貴族として召し上げることも考えている。励め」

 

「必ずや期待に答えて見せます」

 

 ヤミレイが出て行ったあと三人は話し合った。

 

「アニュンリールとかいう連中にこの世界に転生させられ、ゆく当てのない我々は何としてもこ

 

 の戦争で手柄を立てる必要がある」

 

「幸いペールが作った分身のおかげでアニュンリールの連中は我らは既に死んでいると思ってい

 

 るだろう」

 

「大将、、」

 

「ボスヤスフォートさま、、、」

 

 残った二人、デコース=ワイズメルと、ビューティー=ペールが心配そうに声をかける。

 

 この三人を復活転生させたのは南方の文明圏外国家アニュンリール皇国だ。

 

 彼らは龍魔大戦当時の魔法を研究している過程で偶然見つけた異世界転生魔法を試しに使って

 

 みた。異界の凄腕騎士、あるいは魔導師と指定して呼び出したところこの三人の魂が引っ掛か

 

 ったのだ。

 

「この世界は全く不思議だ、魔法などというもの本当にある」

 

「そうですね」

 

 ボスヤんとペールがそういうとデコすけが突っ込んだ。

 

「いや、大将に会長、あんたらがいうなよ」

 

 精神エネルギーを使うグリント・ツヴィンゲン(旧ダイバーパワー)と魔素に働きかけるこの

 

 世界の魔法とは少し違う。アニュンリール公国の連中は彼らの力をよく理解していなかった。

 

 だから事故を起こしたと見せかけ逃げることに成功したのだった。

 

「この世界は国によって文明の技術力に差があり過ぎる。アニュンリールはあと少しで宇宙に進

 

 出できる程度の文明だったがこのロウリア王国は電気も内燃機関も持っていない」

 

「アマテラスのいない世界で戦乱を起こしても意味はない。このまま田舎に引きこもってスロー

 

 ライフを満喫しよう」

 

 この世界の神々を調べた結果、この世界で信仰されている太陽神はアマテラスとはなんの関り

 

 も持たない神だと分かった。仇敵のいない世界で暴れても仕方が無い。彼らは前世で出来なか

 

 った穏やかな生活を送ることを望んでいた。

 

 ヤベエ、日本国負けるかもしれない。

 

 

 

 マイハーク出張所の提督室に日本国大使を拝命した田中が訪れた。

 

「本日早朝、クワトイネ外務局のヤゴウ氏が至急の要件で大使館を訪れ、緊急会談が行われまし

 

 た」

 

 田中は挨拶もそこそこ本題を切り出した。それだけで重大事だと分かる。

 

「ロウリア王国の軍隊が国境付近に集結していることが判明しました」

 

 ロウリア軍の数は膨大でありクワトイネとクイラが連合しても侵攻を防ぐことは不可能である

 

 という。

 

「戦争が始まれば食糧の供給は出来なくなる、と通告されました」

 

 日本国憲法は深海棲艦出現以前と同じく、国家間紛争の解決に戦争という手段を使うことを禁

 

 止している。クワトイネとクイラに援軍を送ることは出来ない。

 

 現時点で食糧の供給を断たれたら国民に相当数の餓死者が出る可能性がある。

 

 日本国は憲法を拡大解釈して友好国を救うのか、それとも憲法を守って国民を飢え死にさせる

 

 のか、選択を迫られていた。

 

 田中はもし参戦するなら日本はどれだけの兵力を送れるのか提督に尋ねた。

 

「自衛隊は再建中です護衛艦の数は少なく本土防衛のための定数にも届いていません」

 

 陸上自衛隊もごく少人数しか送れないだろう。もし参戦するとなれば艦娘を派遣せざるをえな

 

 い。一ノ瀬はそれだけは避けたかった。

 

「艦娘たちに対人戦はさせたくありません」

 

 続く

________________________________________

ボスヤスフォート

 

 超帝國の遺産である純血の魔導師。かつて魔導ギルド、典星舎(旧ダイ バーズ・パラ・ギル

 

 ド)盟主の座を巡ってアマテラスの母ミコトに挑戦するが若きアマテラスの次元回廊の術の前

 

 に完敗を喫しミコトの慈悲でこの世で死亡する。

 

 その後、魔導師たちの精神の片隅に寄生し復活の機会を伺っていた。

 

 シーブル国の主宰ディ・バローの精神に潜みセントリーの「命の水」を奪い完全復活を果たす。

 

 西太陽系のボォス星に序列3位のバッハトマ魔法帝国を一代で築き上げる。空中宮殿フロートテ

 

 ンプルを襲撃しミラージュ騎士、魔導師(バイター)を次々と討ち取る。そして玉座の間で宣

 

 戦布告するがアマテラスはこれを無視する。

 

 別の戦いを目撃したハスハ連合のエース騎士ヤーボ・ビートを殺害するが、彼女の娘マグダル

 

 が自分と同じ純血の魔導師だと知ると各国を扇動しハスハ連合にも宣戦布告し魔導大戦が勃発す

 

 る。高慢な人物かと思いきや、礼節も弁えた人物

 

デコース・ワイズメル

 

 自称「狂乱の貴公子」。伝統や権威を毛嫌いし大騎士団や銘入りのファティマを嫌う。

 

 野試合でフィルモア帝国の騎士のバーバリュース・Vをわざと見逃し生き恥をかかせる。

 

 変態領主の養子になり、アマテラスとラキシスの乗ったマグナパレスと戦って敗北するが、運よ

 

 く生き残る。

 

 カステポーの町で素行を注意した二代目黒騎士ロードス・ドラグーンを殺害する。

 

 その後、エストが次世代の黒騎士として育成していたヨーン・バインツェルと遭遇、エストはヨ

 

 ーンを助命するためデコースを三代目黒騎士に指名する。

 

 ボスヤスフォートに見込まれてバッハトマの騎士団長に就任。

 

 フロートテンプル襲撃ではミラージュ騎士を多数討ち取り。のちに剣聖となるマドラ・モ

 

 イライと互角の戦いを繰り広げる。

 

 責任のある立場に立ち、多くの仲間を得たことで精神が安定し、大騎士団の団長にふさわしい人

 

 物になった。

 

 

ビューティー・ペール

 

 典星舎と対立するユーコン財団の会長。シーブルのディ・バローを支援していた

 

 バッハトマ副主宰としてボスヤスフォートを支える。アマテラスのほかにエイリアスの術を使

 

 える唯一の魔導師。ミラージュ最強の魔導師であるズームの実の母親。

 

 

 

 

 

 




艦これノベライズでは提督の名前は一人を除いてないのですが

話の都合上必要なので私が考えました。公式のものではありません。

ノウリンジューゴー種は緑の革命で有名な農林10号です。時期的にありかもと思いました。

原作でロウリアがなぜ亜人排斥主義になったのか言及がないため、自分なりに想像しました。

本格的バトルに突入する前に小エピソードを挟みます。

次回の陽炎さんは

カゲロウ帰国   海軍第一次統合整備計画   敷波覚醒

の三本です。ふがちゅちゅ


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第五話 提督、スクール水着になるかも?

元々の文章が読みにくいとレイアウトを変えても読みづらいことに気が付いた。

絶望した。

更新が遅くなり申し訳ありません。

書き溜めがあと一話しかありません。

今回はちょっとギャグに走りすぎてしまったかもしれません。

不快だと思ったらごめんなさい。



 陽炎は一時的に呉鎮守府に戻っていた。

 

 彼女は新設されるマイハーク出張所の秘書艦となることが内定しており、呉鎮守府の筆頭秘書艦

 

 を降りることになっていた。

 

 今日は引継ぎの手続、そして留守にしていた期間、何があったか報告を受けていた。

 

 報告しているのは川内型軽巡洋艦二番艦神通である。

 

 陽炎を鍛え上げた教官であり、その訓練は地獄の責めすら生温いと言われる。

 

 実際神通は駆逐艦娘の限界を熟知しており、本当に限界ギリギリまで訓練させるのである。

 

 その訓練を目の当たりにした航空自衛隊のある部隊の隊長は

 

「わが空挺団と同等の訓練をしているとは恐るべし、我々も負けていられないな。よし、帰ったら

 

 訓練を倍にしよう」

 

 と言った。それを聞いた神通は

 

「ではうちは4倍にしましょう」

 

 と言った。それを聞いた陽炎以下駆逐艦の悲鳴が空に響き渡った。

 

「皆さん嬉しいのですね、さらに8倍にしましょう」

 

 駆逐艦たちはもう何も言えなかった。涙などとうに涸れ果てた。

 

 そんなこともあり陽炎が幾多の死線を乗り越えられたのは彼女の訓練のおかげなのである。

 

 神通が自分を上位者として報告書を読み上げる。その状況に陽炎は表面上冷静に対応しているよ

 

 うに見える。しかし実は緊張しまくり心臓バクバクで今にも逃げ出しそうなのだ。なんとか平静

 

 を装っているのがやっとだった。

 

 それでも神通相手にこういった状況でまともに話すだけでも、二水戦所属の駆逐艦娘が見たら驚

 

 愕して目を見張るだろう。流石陽炎だと。

 

 一方の神通は自分の弟子の成長が嬉しくて仕方が無い。

 

 本来この報告は別の艦娘が行うはずだったが神通がお願いして代わってもらった。

 

 教え子の下で働くのは教官冥利に尽きると彼女は考えている。

 

 

 

「まず一つ、工廠内に建造したファティマファクトリーが稼働し,多くのファティマが開発されま

 

 した」

 

 クワトイネに出発する前、ラキシスは工廠の一角に怪しげな設備を作り上げた。

 

 大まかに説明すると人間が入れるくらい3つの大きなガラスの容器が3つ並んでいる。

 

 左右のガラス容器に材料を入れ、妖精たちがカーテンの裏でビスケットらしきものを齧る音を

 

 響かせながら何かを作業したりしなかったりする。

 

 そうすると中央のガラス容器の中に立ち会った艦娘と相性の良いファティマが妖精に転生し、

 

 現れるのだ。

 

 まずは第14駆逐隊のメンバーはそれぞれ

 

 曙、ファティマ、エスト

 

 潮、ファティマ、町

 

 長月、ファティマ、クーン

 

 皐月、ファティマ、パルスェット

 

 霰、ファティマ、静

 

 をパートナーとした。

 

 また軽巡洋艦夕張がファティマ、バスクチュアルを娶っている。

 

「私もファティマを娶ることが出来ました。紹介しましょう」

 

 神通の肩からショートヘアの妖精が現れた。

 

「彼女が私のパートナー、スパルタです」

 

 陽炎はたっぷり溜めて言った。

 

「これ以上ないってくらいお似合いですね」

 

 

 

「次に工廠でゴチックメード(GTM)の建造が可能になりました」

 

 ファティマを娶った艦娘が立ち会って建造すると某ジ〇ンのメカニズム宜しくGTMが建造で

 

 きるようになった。

 

 男性提督が子供のようにはしゃいでいたが幾つか問題があった。

 

 まずこれらのGTMはコピーであるため本来の性能の40%程度しかもってなかった。

 

 しかも一回戦闘しただけで壊れて修復不能になる。これは日本(というより妖精)の技術が

 

 ジョーカー星団のレベルに達していないからである。

 

 提督たちがこの一度しか使えない兵器をどう運用するのか悩んでいるとラキシスはこう言っ

 

 たのだ。

 

「近代化改修に使うのです」

 

 まさかの近代化改修餌だった。提督たちが慌てて詳細を聞くと、

 

「だって私たちが乗るところを造らなくちゃいけないでしょう」

 

「きみらファティマは何に乗るのかね?」

 

「それはもちろん艦娘の皆さまですよ」

 

 艦娘にGTMを近代化改修(艤装合成)することによりファティマコックピットを増設し、

 

 電装系も強化する。そうして初めてファティマが艦娘に搭載できるようになるのだ。

 

 

 

「陽炎さんが倒したシーサーペントですが、調査の結果食べられることが分かりました。味は高

 

 級地鶏に似て美味しいとのこと、さらに滋養強壮に優れていて精がつくと評判だそうです」

 

 提督の夜戦能力向上の効果を期待してケッコン済み艦娘からもっと欲しいと要望が出ている。

 

 シーサーペントは魔物に分類されてる。

 

 魔物とは体内に未知の元素、魔素を蓄積していてその肉を食べると体内に魔素が蓄積する。

 

 魔素が蓄積すると、魔力や身体能力が上昇する替わりに、頭痛や吐き気などの症状が現れる。

 

 更に進行すると首筋や耳に文様が現れる。最終的に臓器不全を起こして死に至る。

 

 これを変質魔素中毒症と呼ぶ。

 

 かつては死に至る病であったが現在では治療法が確立している。

 

 ただしこれはこの世界の住人達に限ったことであり、魔法が使えず、魔素を溜め込む体内臓器

 

 のない日本人はそもそもこの病気に罹らない。

 

 ただし艦娘が魔獣肉を食べた場合、魔素が体内に蓄積し、身体能力の強化などの現象が確認さ

 

 れた。

 

 また、体内に過剰にたまった魔素は艤装の煙突を通じて排出できることが分かった。

 

 魔獣肉を食べても艦娘には命の危険はない。

 

 強力な敵と遭遇した時に有効な手ではないかと提言されているのだが、一部の艦娘によると

 

「変質魔素中毒症の感覚は深海棲艦だった時の感覚に近い気がします。暴走する可能性は否定で

 

 きません。そして魔素を取り続けると深海棲艦に戻ってしまうかもしれません」

 

 と釘を刺されたため、魔獣肉の利用は慎重を期することとなった。

 

 また魔素と深海棲艦の繋がりについては今後の研究課題とされた。

 

 

 

「最後に一つ、近海を哨戒していた敷波さんが魔魚と称する巨大肉食魚に喰われかけました」

 

「なんですかそれ!」

 

 

 陽炎がクワトイネ公国を訪れていたその日、敷波、綾波、磯波、浦波はかつて太平洋と呼ばれ

 

 ていた海(現在はロデニウス沖)を哨戒していた。安全を確認しなければ民間船は航行できな

 

 い。漁師たちや海運業者たちは生活の危機であり、海産物の供給が止まったり、国内の物流が

 

 滞るなどしたら国の一大事である。

 

 浦波が未知の海を進みながら素直な感想を述べる。

 

「すごいですね、本当に水平線が遠くなっています」

 

 磯波が不安を隠しきれない様子で答える。

 

「異世界、もしくは違う惑星に来てしまったというのは本当だったのですね」

 

 歴戦の駆逐艦である綾波もこの事態には戸惑いを隠せない。

 

「これからどうなってしまうのでしょう」

 

 敷波はきっぱりと言い切る。

 

「難しいことは提督がなんとかしてくれるわ、私たちはやれることをやるだけよ」

 

 その言葉に3人はニヤニヤと笑った。

 

「もう、本当に敷波ちゃんは提督が大好きなんですね~」

 

「な!違うし!」

 

「そんなこと言っても提督のことを話してる時の敷波ちゃんの顔は恋する乙女の顔ですよ」

 

「もう!違うっ」

 

 ダン!

 

 敷波の足元から全長6メートルを超える魚が、鋭い牙を持った口を開けて迫ってきた。

 

「てばもう、あたしは提督のこと何とも思ってないんだからね!」

 

 敷波は巨大な魚をひらりと躱し、手に持った主砲で頭部を打ち抜いた。

 

 そして照れながら弁明する。

 

 これほど説得力のない言葉があろうか、いやない。と三人は思った。

 

「こういうところが敷波ちゃんの可愛いところなんですよねー」

 

「この強大なツンデレ(ちから)、学ばせて頂きます!」

 

「うふふ」

 

「あんたたち何なのその顔は!」

 

 

 

「どうするこの魚?新種だよね」

 

 地球でも艦娘が活動を始めた当初は鮫などに襲われることが度々あった。

 

 ただし艦娘には勝てないと理解されると襲われる頻度は激減した。

 

 鮫などは群れを作る種類が多くあり、仲間が返り討ちに遭うさまを見ると、もうその種類は

 

 艦娘を襲わなくなった。

 

 この惑星でも同じことが起こるのだろうか。

 

「持って帰って学者さんに調査してもらいましょう」

 

「食べられるのでしょうか?」

 

「見た目はあんまりおいしくなさそう。私が曳航するわ」

 

 敷波はそう言って魚の死体にロープを結ぼうとした。すると綾波が自分がやると言い出したので

 

 敷波は綾波に曳航ロープを渡した。その時、先ほどの魚とは比べ物にならないほど大きい魚が

 

 敷波を銜えて海中に引きずり込んだ。綾波たちは必死に敷波のロープを掴んだ。

 

「誰か助けて!」

 

 鎮守府に救援信号を打とうとしたとき海中から何者かが現れた。

 

「お困りのようでちね」

 

 鎮守府の古参潜水艦、ゴーヤこと伊58である。

 

「ゴーヤさん、と呼ぶでち!水上艦ども」

 

 さらに古参の伊19、新人の伊47と伊203が援軍にきた。

 

「イクたちもたまたま近くを哨戒してたのね」

 

「助けて、欲しいの?」

 

「伊203です。あだ名はフーミィーですこれ以外のあだ名はNGです」

 

「ありがとうございます!」

 

「このロープの先に敷波がいるでちね。これを手繰っていって敷波ところまで行くでち。

 

 そしたら敷波に怪魚の口を開けさせて魚雷をぶち込むでち」

 

 

 

 四人の潜水艦娘がロープを手繰って海中に潜ると、敷波を銜えた怪魚(後日クワトイネ政府関係

 

 者からこの世界で魔魚と呼ばれていることを知らされた。)が見えた。

 

「うわ、でっかい」

 

「しかもフーミィーと同じくらい速いです」

 

 この魔魚は地球の魚とは似ても似つかない。白と黒の体色をしていて鱗はない。

 

 細長い口ばしをもち口内には鋭い牙が生えている。体長は50メートルはあるだろう。

 

 頭部と思われる部分にはなぜか人の顔を簡略化した仮面のようなものがついている。

 

「これやばくない?」

 

 

 

 仲間が恐怖に支配される中、旗艦である伊58が檄を飛ばす。

 

「恐れるなでち!あんな魚、クソガキに比べれば大したことないでち!」

 

 クソガキこと新潜水棲姫は体こそ小さいがその高い雷撃能力によって何度も艦隊を道中撤退に追

 

 い込んだ難敵であり、海域に存在するだけで対処に数隻を割かねばならず、基地航空隊の一部隊

 

 をこいつ一隻のために編成することも考えねばならない。

 

 全員が重度のロリコンである提督達でさえこいつには萌えない。むしろ〇ね。

 

 

 

「でもこれは深海棲艦とは違うし、何があるか分からないです」

 

 新人の伊47と伊203はこの異常事態にすっかりおびえてしまった。

 

「恐れるなでち!機能美あふれる提督指定の水着を、スク水を信じるのでち!」

 

「えええ!」

 

「己の心の中のスク水と対話するのでち!」

 

「なんか変なこと言い出したんですけど?!」

 

「スク水は今着てるんですが?!」

 

 伊47と伊203は伊58の言っていることが理解できずさらに混乱する。

 

「まあまあゴーヤ、いきなりそんなこと言われても分からないのね」

 

 伊19が助け舟を出す。

 

「ゴーヤはね、今までの共に戦いをくぐり抜けた装備を信じろと言いたいのね」

 

「あ、はいわかりました」

 

「それにね、想像してみるのね。スク水を、そして、、」

 

 

 

 

「それを着た提督を」

 

 

リィィィィィィィィィィィィィン

 

 

 海中に歌うような声が響き渡った。

 

 水が振動する音ではない、魂そのものが震えるダイレクトヴォイス。

 

 歓喜のウタゴエ

 

「目覚めたのね」

 

「これぞ日本海軍潜水艦でち」

 

 

リィィィィィィィィィィィィィン

 

 

 伊47と伊203はともに額の一点からから光をあふれさせている。

 

 それは正の生命力の光である。

 

 負の生命エネルギーの塊である深海棲艦を打ち破るには正の生命エネルギーを

 

 ぶつけるしかない。

 

 正の生命エネルギーとは人を愛する気持ちから生まれる。

 

 好きなことを好きと素直に言える気持ちが力になるのだ。

 

 ちょっと変わった愛し方になってしまうのはご愛敬。

 

 

 

 一連のやり取りを無線で聞いていた敷波は体から力が抜けそうになるのを必死で

 

 抑えていた。

 

「何なのよあいつら~」

 

 敷波は上顎と下顎の間で踏ん張っていた。すんでのところで飲み込まれずにいた。

 

 顔面に激しい水の流れを感じ、不安が心を支配する。意識が朦朧となる。

 

 ⦅もう提督のところに帰れないのかな、、いやだよ会いたいよ、、⦆

 

 そのときどこからか声が聞こえた。

 

「敷波よ負けるな、提督の下に帰るのだろう」

 

「誰?どこから話しかけてるの?」

 

「私はお前の中のツンデレだ」

 

「、、、はあぁ?!!」

 

 気付くと敷波は光の中にいた。

 

 そして目の前には光るウニのようなものがいた。

 

「ツンデレだから針の集まり、ってか、うおおい!」

 

「よいツッコミだ、聞け敷波よ我は常にお前と共にある」

 

「なんかヤダ」

 

「恐れるな、愛する提督の下に帰るのだろう。イチャイチャするのだろう」

 

「なに言ってるの!しないわよ!」

 

「プ~クスクス、それでこそツンデレの戦士」

 

「なに笑ってるのよ!〇ろすわよ!」

 

「いいのか、ここで死んだらお前の愛しい提督は他の艦娘に獲られてしまうぞ」

 

「うっせ!」

 

「あまつさえあんな事やこんな事を、スク水や島風服を」

 

「うっせえ!うっせえわあああ!!!!!」

 

 

 

 敷波はツンデレ(ちから)を全開にして魔魚の口をこじ開けた。その口に潜水艦娘が魚雷を打ち込み

 

 魔魚は爆発四散した。

 

 

 

「敷波ちゃん、大丈夫ですか?」

 

 仰向けで海面に浮かび、ぐったりしている敷波を心配して綾波が顔を覗き込む。

 

「綾波、こんなときどういう顔をしたらいいのか分からないの」

 

「?笑えばいいと思いますよ」

 

「ははっ」

 

 敷波は乾いた笑いを浮かべた。

 

 

 

 敷波は自分の所属する鎮守府(呉ではない)に帰還した。

 

 桟橋には提督が待っていてすぐさま医務室に連れていかれた。

 

「敷波あーん」

 

 敷波は魔魚の牙で両手にけがをしていて包帯でぐるぐる巻きにされた。

 

 なので提督直々「ハイあーん」任務に従事している。

 

「提督そんなことしなくても食べられるから~」

 

「ダメ、ハイあーん」

 

「うう、あ、あーん」

 

 顔を真っ赤にしながら提督の匙からお粥を食べる敷波であった。

 

 そして陰から艤装されたロッカーから天井裏から綾波と浦波と磯波がのぞいていた。

 

 その様子は監視カメラで全方位から撮影されていた。

 

 

 

「というわけです。詳細は別途レポートにまとめ提出するとのことです」

 

 神通から報告を受けた陽炎は机の上に突っ伏していた。理由はいろいろだ。

 

「危険生物をどうにかしないと、至急海上護衛任務の計画を立てなくちゃならないわね」

 

「島国である日本は、海上輸送の安全は絶対に守られねばなりません」

 

「提督の頭頂部の毛根が死滅するわね」

 

「それが提督の仕事ですから」

 

 

 

「あと、敷波のハイあーんの様子はもっと詳細に報告させて、動画も添付させて提出する

 

 ように通達してください」

 

「分かりました」

 

 陽炎も大概鬼である。

 

 

 

 その後水龍と呼ばれる生物の協力を得たことで日本近海の海上輸送は安全を確保した。

 

 その後即位した新たなる水龍王の妃は元潜水艦娘だったという噂があったが真偽は定

 

 かではない。

 

 




 第14駆逐隊のファティマの説明文は後の話に載せます。

 魔魚のモデルはエヴァンゲリオンの第六使徒ガギエルです。

 魔帝によって改造された特別な魔魚です。

 俺、ツインテールになります。が大好きなんです。

 登場人物は出ませんが俺ツイネタは出していこうと思っています。

 次回からはマジバトルに突入にます。

 拙作では基本的に登場人物の生死は原作通りにする予定です。

 但しモイジ隊長には漢の死に様を見せて貰ってロウリアの連中をビビらせてやりる予定です。

 次回第六話「シャマシュ様が見てる」

 お楽しみに待っててね。



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第六話 シャマシュさまが見てる

 どうもお待たせしました。

 仕事で目を酷使したせいで眼精疲労で目が痛くなりました。

 作中の登場人物の呪いでしょか。 

 後、一回目のワクチン接種を受けてきました。



 ロウリア軍はこちらの警告を無視して攻撃を仕掛けてきた。

 

 ロウリア軍のワイバーンは第一次攻撃隊だけで70騎、

 

 対するクワトイネ軍のワイバーンは24騎。

 

 導力火炎弾の制圧射撃により半数が撃墜、残りは各個撃破され全滅した。

 

 ロウリア軍はその圧倒的物量にもの言わせギム守備隊を正面から圧殺しようとした。

 

 

「くそ!数が多い!」

 

 ギムの町を守護する西部騎士団団長モイジは毒づいた。

 

 ギムの町に押し寄せたロウリア王国軍の数は約3万、対するクワトイネ軍は3千5百のみ、

 

 圧倒的多数の敵に対し既に死ぬ覚悟の出来ているモイジ達は一人でも多くの敵を道連れにして

 

 やろうと奮戦していた。

 

 住民が安全な場所にまで退避する時間を何としても稼がなくてはならなかった。

 

 

 ロウリアの歩兵部隊のど真ん中に金属の筒が投げ込まれた。その物体から白い煙が噴き出す。

 

「げほ!げほ!げほ!げほほほほ!」

 

「ぎゃあ!目に沁みる!」

 

 その筒は日本の警察で使われている手榴弾型催涙ガス発生装置である。

 

 ロウリア兵が悶絶しているところに弓矢が降り注ぎ、部隊は総崩れとなった。

 

「なんだ!煙ぐらいで情けない、我慢して進め!」

 

 ロウリア軍の副将アデムは怒鳴りつけた。しかし部下たちは反論する。

 

「無理です、尋常じゃない目の痛みと咳で戦闘の継続どころではありません」

 

 アデムは部下を殴りつけた。

 

「五月蠅い、口答えするな!」

 

 すると大将のパンドールが諫めた。

 

「まあまあ、アデム君そうカッカせずに落ち着け。ここはワイバーンに支援させよう」

 

 空からワイバーンの火炎弾を打ち下ろし、焼き殺せばすぐに決着がつくだろう。

 

 

「モイジ隊長、敵のワイバーンです!」

 

 守備隊本陣の上空にワイバーンが12騎見えた。

 

「よし!防火布用意、火炎弾に備えよ!そしてスタングレネード発射準備」

 

 

 ロウリア軍のワイバーン12騎を率いる空戦指導教官メイオは任務成功を確信していた。

 

 ワイバーンはこの世界でほぼ唯一であり最強の航空戦力である。

 

 但し彼の母国パーパルディア皇国には改良種がおり、原種に比べ全ての性能で優っている。

 

 とは言っても、原種のワイバーンでも落とすことはそう簡単には出来ない。

 

 ワイバーンの硬い皮膚は普通の弓矢では通らない。大型の弩ならなんとかなるがそんなものは

 

 滅多に当たらない。

 

 先ほどの白い煙は厄介だが、ワイバーンは風の魔法が使えるので、万一使われても吹き飛ばせ

 

 るだろう。

 

「全騎、導力火炎弾発射準備!3,2,1,」

 

 火炎弾の発射カウントダウンをしていると部下から報告がはいった。

 

「隊長、敵陣から何か飛んできます」

 

 見ると白い煙の出る金属の筒と同じような物が勢いよく飛んできた。

 

「私が風魔法を使う、全騎そのまま、導力火炎弾発射!」

 

 11騎のワイバーンが導力火炎弾を発射し、自分は相棒に風を発生させるよう指示した。

 

 しかしその筒は煙ではなく強烈な閃光を発した。

 

 導力火炎弾発射のため急降下の姿勢であった部下たちは、皆バランスを崩し愛騎とともに真

 

 っ逆さまに落ちていった。

 

 

「目が!ああ目がああ!」

 

 水平飛行していたメイオは墜落しなかった。

 

 愛騎を暴れさせず、目が見えなくともバランスをとり、ゆっくりと降下していった。

 

 彼が優れた操竜技術を持っていることが分かる光景だった。

 

 だからこそ生かして帰すわけにはいかない。モイジは部下に指示した。

 

 パン!という音がして、メイオとその愛騎は頭を打ち抜かれて墜落していった。

 

⦅ああ、ごめんよジュリア、君が素敵だと言っていたあの家をプレゼント出来そうにない⦆

 

 メイオは今際の際、皇国に残してきた婚約者のことを思い出していた。

 

 彼女は皇都北区のはずれにある小さいが可愛らしい一戸建てを気に入って、いつかこんな家に

 

 住みたいと言っていた。

 

 しかしエリートである竜騎士でも皇都の一戸建ては中々手が出ない。

 

 だからこそ仕事は一切公にはならないが給金の良い、国家戦略局に出向したのだった。

 

 メイオはこの任務でお金を貯めてあの家を買い、ジュリアにプロポーズするつもりであった。

 

⦅ごめんよジュリア、この任務の報酬に加えてロデニウス人の奴隷を10人ばかり売り払えばあの

 

 家が買えただろうに、、⦆

 

 パーパルディア軍人たちには給金の他にロデニウス人(クワトイネとクイラだけではない)の

 

 奴隷が現物支給されることが国家戦略局から約束されていた。

 

 

 

「何たることだ!何をやっているんだ馬鹿者どもめ!」

 

 アデムは怒り心頭で剣を抜き、周囲の物を壊し始めた。

 

 ワイバーンが放った動力火炎弾はクワトイネの兵を焼き払うことは出来なかった。

 

 敵兵は銀色の不思議な布を引き出し、その下に隠れた。その銀色の布は火炎弾が直撃しても

 

 燃えることがなかった。

 

 ワイバーンをもってしても敵兵を殺せなかったためアデムの血管は切れる寸前の状態だった。

 

 

 モイジ達は日本の消防士が着ている服のことを知ると、その布を取り寄せた。最初はこれで

 

 マントを作ったが、ワイバーンの動力火炎弾は防ぎきれなかった。

 

 実験でマントを着せ、防御姿勢をとった木製人形は味方ワイバーンの動力火炎弾で燃えた。

 

 そこで敵ワイバーンが動力火炎弾を撃ってきたら退避用の穴に潜り、その上を防火布で覆うこ

 

 とで生存を図ることにした。

 

 周囲に燃え残こった火は消火器を使って消した。

 

 ワイバーンの吐く火は粘性があり消えにくいため専用の消火魔法があるのだが、習得難度が高

 

 く、消費魔力も多いという欠点がある。

 

 消火器は魔導師の魔力を温存できるので全軍に配備した方がよい、と上層部に提案してみた。

 

 

 ギム守備兵は敵ワイバーンの攻撃をやり過ごすだけでなく、12騎ものワイバーンを叩き落とす

 

 ことに成功した。

 

「この調子ならいけるか?」

 

 モイジ達の心にに希望の灯がともった。

 

 

 一方ロウリア王国軍副将アデムは冷静さを失っていた。

 

「おのれ、おのれ!こうなったら総攻撃だ!」

 

 ロウリア軍の指揮官の質は総じて低い。数に任せて力押し、これしか知らないのだ。

 

 パーパルディアから指導されているが優秀な指揮官は一朝一夕に育たない。

 

 ロウリア兵が真正面から無謀な突撃をする。

 

 有刺鉄線に絡んだところをコンパウンドボウで射殺される。

 

 塹壕に落ちたところをさらに落ちてきた味方に踏みつぶされる。

 

 クイラ王国産、火のついた燃える石を投げつけられる。

 

 などなど、ロウリア兵たちには様々な死が与えられた。

 

 それでも彼らは前進するしかなかった。後方には後退した兵を殺すための督戦隊が配置されて

 

 いたからだ。さらに副将であるアデムは逃亡兵の家族までも無残に殺すと噂されている。

 

 哀れな兵士たちは何も考えずただ前に進んでいた。

 

 

 ギムの防御陣をなんとか突破したロウリア兵たちは最後と見られる敵陣目掛け、丘を登ってい

 

 た。そして信じられない光景を目にした。

 

 丘の上から大量の水が流れてきたのだった。

 

「なぜだ!ここは丘の上だぞ!なぜこんなに大量の水があるのだ?」

 

 モイジ達は水道用のポンプを無理を言って丘の上に配置して貰いそこから大量の水を流した。

 

「くらえ、テイザーガン!」

 

「ぐあぁぁ!」

 

「電撃の魔道具だと?」

 

 水に濡れたロウリア兵の多くが感電、気絶し戦いは一時的に膠着した。

 

 

 ロウリア王国軍先遣隊に参加している傭兵デコース=ワイズメルは困惑していた。

 

 侵略相手のクワトイネ公国はロウリア王国と同じ文明レベルであると聞いていた。

 

 しかし彼らが使用していた武器は明らかに数百年先のものであった。

 

 何らかの国が支援していることは明白であった。

 

⦅なぜ非殺傷兵器ばかり使う?支援国とクワトイネはどういう関係なんだ?⦆

 

 デコースは考えても分からなかった。

 

⦅どう思う?大将、そして会長⦆

 

 デコースの仲間のペールはその魔導力”スコーパー”でジンハークのボスヤスフォートとギム

 

 のデコースの会話を中継していた。

 

⦅分からん、情報が足りない⦆

 

 

 戦況を見かねたデコースは意見具申のため本陣を訪れたのだが、そこには顔を真っ赤にして今

 

 にもぶち切れそうな副将アデムがいた。

 

 これは良くない、撤退を進言したら即座に斬りかかっくるだろうと確信したデコースは、自分

 

 たちの傭兵団にも出番をくれと頼むことにした。

 

 そして話の分かる幕僚に自分たちが戦っている間に味方の撤退を支援するよう頼んだ。

 

「バッハトマ魔法傭兵団は真正面から突撃せよ。迂回することは許さん」

 

 アデムはデコース達の行動をこの様に制限した。

 

 デコース達が無残に殺される様を見て、戦況が上手くいってない鬱憤を晴らそうという意図

 

 である。

 

 

「デコース隊長、無茶ですって」

 

「そうです、やめてください」

 

 部下達が口々に引き留める。しかし彼は今自分が何とかしないといけない事がわかっていた。

 

「心配するなバギィ、ちょっと行って来るだけだ」

 

「隊長、、」

 

「それよりもベイジ戦を思い出さないか?」

 

「隊長、何度も言いますが私はそんな戦知りません。転生?前世の記憶?私は生粋のナハナート

 

 人のバギー・フーブです。前世の貴方の補佐役じゃありません」

 

「そっくりなんだけどな、見た目も声も性格も」

 

⦅もしかしてからかわれているんじゃないだろうな⦆

 

 デコースの目の前にいる四角い顔の男はベテランの傭兵であり傭兵団の隊長補佐である。

 

 文句を言いつつも仕事はきっちりやるタイプで、デコースは彼を信頼していた。

 

 前世の補佐役とあまりにもそっくりなので彼もまた転生者なのかと思ったら違うという。

 

 ちなみに前世で彼が信頼した他の三人の部下のそっくりさんも傭兵団にいる。

 

「まあいいや、俺が道を開く、後からついてこい」

 

 

 モイジは最終手段を使うかどうか悩んでいた。

 

 最終手段というのは燃える水を精製したもの、日本人がガソリンと呼んでいた油を撒いて火

 

 をつけるというものである。

 

 非常に危険なので本当にどうしようもなくなった時になるまで使わないよう言われている。

 

 突然モイジの後頭部の毛がざわつく。嫌な予感がする。

 

 すると真正面から物凄い速さで近づく影が見えた。

 

 まるで南方大陸に棲むデス・キャットの様な上位の豹型魔物を思わせるな動きだ。

 

「いかん!みんな奴を止めろ!」

 

 弓兵隊が一斉に矢を射かけるも全く当たらない。

 

 ならばと猟銃を構えるが、なんとその影が分身した。

 

「なんだと!奴は魔法剣士なのか1」

 

 もしもこの陣の中に入り込まれたらたった一人でも全滅させられるかもしれない、それほど

 

 危険な相手だ。

 

 残り少なくなってきた催涙弾とスタングレネードをありったけ使うことにした。

 

「行け!」

 

 しかしその影が剣を振るうと先から風の刃が飛び出し、スタングレネードをばらばらにした。

 

 催涙弾は煙が噴出する前に、空中でキャッチして遠くに投げ捨てた。

 

 どちらも人間技とは思えない。ヒト種より身体能力に優れた獣人でさえあんな動きは出来な

 

 い。

 

「全員、抜刀!」

 

 陣地内で銃を使ったら同士討ちになる、最後はやはり剣で勝負をつけるしかない。

 

 モイジは覚悟を決めた。

 

 日本から友好の証としてクワトイネ公国に贈られた日本刀を抜き放ち構えた。

 

「やあ、クワトイネ公国軍の諸君。初めまして僕ちんはバッハトマ魔法傭兵団、剣士頭デコース

 

 =ワイズメル、狂乱の貴公子デコースとは僕のことさ」

 

 黒い鎧を着た金髪おかっぱ頭の男が自己紹介した。

 

 敵陣に切り込んできたにも関わらず呑気に自己紹介をする余裕を見せたこの男に、激怒した部

 

 下が斬りかかる。

 

 その男はゆっくりとした動きで部下の剣を躱した。二人がすれ違うと部下の方が脇腹を切り裂

 

 かれ、地面に倒れこんだ。

 

 辛うじて部下は生きてはいるが戦闘は不可能だろう。

 

「うおお!」

 

 次々と部下たちが斬りかかるが、デコースは流れる様な動きでこれを躱し部下たちを昏倒させ

 

 ていく。いずれも急所は避けて戦闘できなくなるような箇所を斬られている。

 

 手加減されている。そのことが嫌でも理解させられた。

 

「化け物め!」

 

 

「ありゃりゃ、剣が壊れた」

 

 見るとデコースも持っている剣が根元から折れていた。

 

 デコースの剣の振りが余りにも凄すぎて剣が耐えられなかったのだ。

 

「ロウリア製の剣は質が悪すぎるぜ、こりゃあ。その点お前らはいい剣を持っているな」

 

「これは日本国から贈られた剣だ!貴様などにやらん!」

 

「ほう、貴公らを支援しているのは日本国というのか。」

 

 これが最初で最後のチャンスとばかりモイジは斬りかかった。

 

 デコースはゆっくりとした動きでこちらに近づく。

 

⦅こいつ、さっきまであんなに強かったのに、俺より遅い?なぜ?⦆

 

 デコースが折れた剣を振るうとモイジの脇腹が切り裂かれた。

 

⦅なぜだ?よけた筈なのに、、⦆

 

 よく見るとデコースは握った手の小指を立てていた。

 

⦅まさか小指で風の刃を?⦆

 

 モイジは薄れゆく意識で己の剣の師匠の言葉を思い出していた。

 

⦅モイジよ、もしお主が自分より動きが遅く見える敵に出会ったときは注意しろ⦆

 

⦅そいつはお主が絶対に勝てないほど強い敵である可能性がある。努々忘れるな⦆

 

「申し訳ありません師匠」

 

 モイジは最後に声を振り絞って謝罪した。

 

 

「隊長ォ!こうなったら最後の手段だ!あれに火を付けろ!道ずれにしてやる!」

 

 守備隊の副隊長がガソリンの缶を開けて火を付けようとした。

 

 副隊長は一瞬視界が黒くなったことを感じるた。そして気が付くとガソリン缶はボロボロに朽

 

 ちていた。

 

「助かったぜ大将」

 

 デコースがさっきまでいなかった男女二人に話しかける。その二人も黒い装いであった。

 

「間に合ったようだな」

 

 ボスヤスフォートはギムまでテレポートし、ガソリンを絶対零度で凍らせ崩壊させたのだった。

 

「勝ちましたね」

 

 西部騎士団は奮戦むなしく敗北し、バッハトマ傭兵団によって拘束、捕虜となった。

 

 

 デコースは困惑していた。彼はまず敵の本陣にあった通信機を探し出してきて調べた。

 

 ボスヤスフォートとペールはここにいるとまずいのでジンハークに戻った。

 

 前世のジョーカー星団で使われていた物ほどではないにしても、明らかにこの世界の標準より

 

 進んだ技術で造られた代物であった。

 

 もしかしたら衛星通信が可能かもしれない。

 

 つまりクワトイネ公国の支援国は人工衛星を打ち上げられるだけの科学力を持つ可能性が高

 

 い、ということになる。

 

 これは不味い、いくら我々三人がいても剣や弓、騎馬が主力のロウリア王国ではこのレベルの

 

 近代国家にはどう足掻いても勝てはしない。

 

 

「おい!何してる!」

 

 甲高い声で怒鳴りながら副将のアデムがやってきた。

 

「敵の通信機、あー魔信機の様なものです。それを調べてました」

 

「ふん、そんなもの調べて何になる」

 

 敵の通信手段は最優先で調べるべきものであるが、アデムにはそんなこと理解出来なかった。

 

「使えるのか?」

 

「一応できると思います」

 

 不思議なことに通信機で使われている文字はデルタベルン様式の文字に酷似していた。

 

 これならば使用できるだろう。

 

「ヒッヒッヒッ、そうか、ならばいいことを思いついたぞ」

 

 

 

 捕虜になったギム守備隊が目にしたのはロウリア軍に拘束された自分たちの家族だった。

 

 民間人が逃げる時間は稼げたと思っていた彼らにとってそれは信じがたい光景だった。

 

「どうして家族が逃げられていないか不思議か?教えてやろう。実は数日前から魔獣を使って

 

 ギム後方までトンネルを掘り、騎兵を100騎ほど送りこんだのだよ」

 

 騎兵に遮断されギムの民間人は退避出来なかったのだ。

 

「そ、そんな」

 

 モイジ達は絶望した。

 

 一方でデコースは怒っていた。

 

「おい!そんなことが出来たのなら、味方の死者を減らせただろう!」

 

 アデムはきょとんとした顔をしている。彼は本当に分からないという様子で答えた。

 

「はぁ?死者を減らす?なんだそれは、そんなことをして何になる」

 

 デコースが絶句する。

 

「戦争が起これば兵士が死ぬのは当たり前だろう」

 

 デコースはこのままロウリア王国に協力してもいいのか、疑問に思い出していた。

 

「お前、生意気だぞ。これから始まるお楽しみにはお前らは参加するな」

 

「最初からお断りだ、こっちには女子もいるのでな」

 

 四人のそっくりさんのひとりグィーラ=ハイドンは女性だった。

 

 

 ー日本海軍マイハーク出張所ー

 

 秘書艦の陽炎が困惑した顔で提督に報告してきた。

 

「提督、ギムの西部騎士団からお電話が入っているのですが、その」

 

「ギムと言えばロウリアとの国境で緊張が高まっている所だなどうした?何か変なことでも」

 

「いえ、ロウリアのアデムという方からお電話が入っています」

 

「何!」

 

 提督は急いで電話を取った。

 

「遅い!蛮族の分際でこの私を待たせるとは何事だ!人質を殺す!」

 

 電話口から甲高い男の怒声が響いたかと思うと、人間の断末魔の悲鳴が聞こえた。

 

 電話の先でただならぬことが起きていることが分かった。

 

 

「お前は誰だ、何故ここの番号を知っている?」

 

 提督は緊張して電話の相手に話しかけた。が、

 

「お前とは何だ!蛮族が!おい!もう一人殺せ!」

 

 もう一度人が殺される悲鳴が聞こえた。

 

 提督は唾を飲み込み慎重に言葉を選んで話しかけることにした。

 

「失礼しました。貴方様はどなたですか」

 

「さっき女に名乗ったろう、蛮族は頭が悪いな。ロウリア王国先遣隊副将のアデム様だ」

 

「アデム様、いったい何のご用件でしょうか」

 

「なに、先ほどギムを落としたのでな。貴様らの魔信機を見つけたので警告してやろうと思った

 

 のだよ」

 

 ギムが既に陥落していることに驚き、提督はモイジ達の安否を心配していた。

 

「警告ですか」

 

「そうだ、私は心が広いからな。日本国よ、クワトイネと断交しろ、そしてロウリアに服従する

 

 のだ」

 

 ギムを落としたアデムは調子に乗って本来権限のない外交交渉を勝手に行ったのだ。

 

「いう通りにすれば捕虜やギムの民間人を開放してくれるのですか?」

 

 提督が確認すると返ってきたのは嘲笑だった。

 

「馬鹿か貴様、捕虜も民間人もこれから皆殺しだ」

 

 提督は絶句した。想定した最悪中の最悪の事態である。

 

「アデム様、何とかお慈悲をいただけないでしょうか。捕虜に人道的な扱いをお願いします」

 

 提督は感情を押し殺し低姿勢で通話先の狂人と交渉する。

 

「ならば先ほどの女を殺せ、なら考えることだけはしてやる」

 

「そんなことは出来ません」

 

「ならこちらの人質を殺す」

 

 三人目の捕虜が殺される悲鳴が聞こえた。

 

 この相手はただ面白がって、我々を怖がらせるためにこの電話を掛けたのだと解った。

 

 最初から交渉もクソもなかったのだ。

 

 

「日本国よいいか、服従の条件はまず奴隷を毎年」

 

「もういい」

 

 アデムが日本に突きつける条件を述べている途中で提督が割り込む。

 

「あぁ?」

 

「もういいと言っている。そもそも武官である貴様に外交交渉をする権限などない。こん

 

 な所で会話する意味はない」

 

「なんだと!」

 

「そもそも貴様何がしたかったのだ?ただ我々を脅しつけたかっただけか?貴様それでも軍人か

 

 ?それともロウリア軍は貴様程度が標準なのか?」

 

 先ほどまで従順だった相手の豹変ぶりにアデムは顔を真っ赤にした。

 

「生意気な、おい!人質をもっと殺せ!」

 

 提督はもう動揺しなかった。覚悟を決めたのだ。

 

「どうせ殺すのだろう。馬鹿の一つ覚えのように同じことを繰り返しやがってど阿呆が」

 

「こ、この蛮族が」

 

 

「アデムとやら一つ我が国の諺を教えてやる」

 

「な、なんだ」

 

 相手の迫力が増したことを察知してアデムが鼻白む。

 

「我が国にはな、お天道様が見ている、と言う諺がある」

 

「それがどうした」

 

「貴様らの悪行はお天道様、こちらで言う太陽神様が見ていらっしゃる、ということだ!」

 

「今日、貴様らが行った悪行には必ず天罰が下る!」

 

「太陽神様がお出になるまでもない、貴様らは我々が報いを受けさせる!覚えておけ!」

 

 提督の叫びを聞いたモイジ達西部騎士団の目に、光が戻ったことに気づくロウリア兵はい

 

 なかった。

 

 

「モイジ殿生きているか?!聞こえるか?!」

 

 提督は自分たちの会話が周囲に聞こえているとみて、モイジが生きていることを願い、彼に呼

 

 びかけた。

 

「一ノ瀬提督!聞こえるぞ!」

 

 モイジは縛られてロウリア本陣に転がされていた。

 

「モイジ殿済まない。法で規制されているため、あなた達に限られた武器しか渡せなかった。

 

 もし正規の武器があればロウリアを撃退できたかもしれない」

 

 提督は周りのロウリア兵にも聞こえるように話す。

 

「気にするな、今回は時間がなかった。貴官のせいでも日本国のせいでもない」

 

「それに貴官が渡してくれた非殺傷兵器でも多くのロウリア兵を道連れに出来た!これは今まで

 

 の我々には出来なかったことだ感謝する」

 

 モイジは晴れ晴れとした顔で提督に礼を言った。

 

「非殺傷兵器とは暴徒を殺さず無力化するための物なのだがな」

 

 提督は苦笑しながら訂正する。

 

「はっはっは、日本国にすればロウリア軍などただの暴徒と同じだろう」

 

 自国の軍隊を嘲笑する二人に怒り、ロウリア兵がモイジを殴る。がしかしモイジは全く気にせ

 

 ず話続ける。

 

「一ノ瀬提督、ありがとう」

 

 提督もまるで普段の挨拶のように話しかける。

 

「モイジ殿も健勝で、また会いましょう」

 

「ああ、今度は酒でも飲みましょう」

 

「お元気で」

 

「提督もお元気で」

 

 

 

「ええい!私を無視して何を話している!殺せ!まずこいつの妻子を目の前で散々嬲ってから

 

 殺せえええ!」

 

 モイジの妻と娘は彼らが話している最中に舌を噛んで死んでいた。

 

 また、他の西部騎士団の家族の全員が何らかの方法で自ら命を絶っていた。

 

 アデムの企みは見事に外されてしまった。

 

 その後モイジ達西部騎士団の生き残りは壮絶な拷問を受ける。

 

 しかし彼らはうめき声一つ上げず、笑いながら死んでいった。

 

 その様子を見て、拷問をしていたはずのロウリア兵が逆に恐怖し、発狂する者さえいた。

 

 

 

「何が太陽神が見ているだ!それが何だ!太陽神の使者でも出てくるとでもいうのか!」

 

「我らは最強のロウリア軍だ!太陽神の使者など返り討ちにしてくれるわ!」  

 

 

 

 日本海軍マイハーク出張所の提督執務室では一ノ瀬提督が佇んでいた。

 

 彼の手は強く握り過ぎたため、血が滴り落ちていた。

 

「モイジ殿、貴方の仇は私が必ず討つ」

 

 一ノ瀬提督はその望みを叶えるため、解決すべき問題をどうやって解くのか、知恵を巡らせて

 

 いた。

 

 




 もしギム守備隊に異世界技術流出防止法に抵触しない限りの武器、その他民生品を与えたら、

 ギムの悲劇は回避出来るのか?と妄想したことが私が二次創作を書こうと思ったきっかけの

 一つです。

 今回はデコース=ワイズメルという異物によってひっかき回されてしまったかもしれません。

 ただ彼がいなくても非殺傷兵器などでは3万もの大軍は押し止めらかったのではないかと思いま

 す。戦争の歴史に詳しい人ならもっと違う展開をして、私などより面白い話を書けたのだろうと

 思います。

 ただ私には今回のこれが精一杯です。

 もしモイジ殿が生き残る展開を考えても私にはその後の彼の話を考えることが出来ません。

 ですのでモイジ殿には原作通りに亡くなって頂きました。

 亡くなる前に少しだけロウリア軍の肝を冷やすことが出来た。

 それは何の慰めにならないのかもしれません。

 ですがこれが私が猛将モイジに贈れる精一杯の贈り物なのです。


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第七話 聯合艦隊出撃セヨ!

 お待たせして本当に申し訳ございません。

 秋の艦これイベントが過去最悪級鬼畜難易度だったのがいけないのです。

 それにコロナワクチン接種が重なってしまい、ほんのちょっとずつしか執筆できなかったので

 す。しかも今回ではまだドンパチしてません。前置きばかりです。

 話の展開遅いタグをつけた方がいいかしら、瑞鶴?



 クワトイネ公国の政治部会に出席した閣僚たちの表情は沈鬱だった。

 

 国境の町ギムが陥落、住民のほとんどが虐殺されるという一大事が起こった。

 

 さらに諜報部からの情報は彼らの希望を粉微塵に粉砕するのに十分だった。

 

「総兵力50万だと!?」

 

 50万という数字はクワトイネ公国の予備兵力を合わせた数の10倍である。

 

「ワイバーンが500騎!?」

 

「軍船が4000隻以上!?」

 

 文明圏外国家としては大国、と言われるロウリア王国でもこの二つは一国では準備出来ない。

 

 未確認ながら世界で5つしかない列強の一つ、パーパルディア皇国が支援しているとの情報が

 

 ある。

 

 ロウリア王国は本気で我が国を獲りに来ている。我々にそれを防ぐ術はない。

 

 絶望が一同の心を支配した。

 

 

「クイラ王国は援軍を出してくれるのか」

 

「彼らも国を防衛する必要があります、それでも2千人を派遣してくれるそうです」

 

 人口の少ないクイラ王国には2千でも相当の無理をして集めたのだろう。

 

 クイラ王国の友誼に感謝しつつも数が少ないことに絶望していた。

 

 

「リーン・ノウの森のハイエルフに支援を求めることは出来ないのですか」

 

 列強国の大魔導師にも匹敵する魔力を持つハイエルフなら、ロウリア王国の侵略に対抗できる

 

 かもしれない。

 

「確かにハイエルフの魔力は高い、しかし彼らの数もやはり少ないのだ。50万という圧倒的数

 

 の暴力には対抗できん」

 

 立場上ハイエルフ達と付き合う機会の多いカナタが苦い顔で言う。

 

「付け加えるなら彼らの会議は途轍もなく長い。ハイエルフはその性格から同じ議題を何回も繰

 

 り返し議論していつまでたっても終わらん。会議が終わるころには戦争が終わっているよ」

 

 リーン・ノウの森に立て籠もればロウリア王国でも手が出せないのかもしれない。

 

 以前はそう考えられていた。しかし軍務卿は今日その考えを改めていた。

 

 ロウリアがこの手を採る可能性は低い、と前置きしながら恐ろしい未来を予測した。

 

「もしロウリアが我が国の国民を虐殺せずに敢えて逃がせば、難民となってリーン・ノウの森に

 

 押し寄せるでしょう。何十万という難民が集まれば如何に大地の神の森であっても、食糧が不

 

 足し飢餓状態になるでしょう。あとは離反工作を仕掛ければ我々はお仕舞いです」

 

 軍務卿は日本から戦術や戦争の歴史に関する書籍を取り寄せて学んでいた。

 

 そして難攻不落の要塞を落とす作戦にこの様なやり方があると知ったのだ。

 

 ちなみにその書籍とは「キン〇ダム」である。

 

 

 皆が絶望していたその時、外務卿が手を挙げた。

 

「政治部会が始まる直前に日本から通達が届きました」

 

 日本国ならロウリアの侵攻を跳ね返せるかもしれない。皆の心に希望が戻った。

 

「日本国はギムの町で発生した武装勢力による非人道的行為を到底容認できない。クワトイネ公

 

 国には徹底した武装勢力の取り締まりを要望する。また、クワトイネ公国からの要望があれば

 

 日本国は武装勢力排除に協力するため自衛隊と日本海軍を協力する用意がある」

 

 

「つまりどういうことだ?」

 

 議員の一人が疑問を浮かべるので外務部のヤゴウが説明する。

 

「日本国は国家間の紛争解決手段としての戦争を放棄しています」

 

「本来であれば我が国に援軍を送ることが出来ないのですが、ロウリアを国家と認めず武装勢力

 

 とすることで憲法を拡大解釈し、援軍を派遣することを可能としたようです」

 

「そのうえで我が国が求めれば援軍を送ると言っているのです」

 

「日本は近年人口が急増したため、クイラ王国と同じく我が国から食糧を輸入出来なくなると困

 

 るようです」

 

 

「直ちに日本国に対して武装勢力排除に対して協力を要請しろ!陸海空全ての領域の通過の許可

 

 と作戦中の食糧の無償提供を約束すると伝えるのだ!」

 

 カナタ首相の号令とともに出席者たちはそれぞれの役目を果たすため動き出した。

 

 

 日本海軍マイハーク出張所では提督がある人物とリモートで会議していた。

 

「つまりあの通信は出兵の理由にならない、ということですか」

 

「一ノ瀬中将が仰っていた通り、前線部隊の副将程度に外交交渉ををする権限は有りません」

 

 リモート会議の相手は日本海軍司令長官を務める鶴矢ジンである。

 

 彼は呉鎮守府の初代司令官であり一ノ瀬とは同期の提督である。

 

(鶴翼の絆、に登場した提督です)

 

 旅館を改装した鎮守府から艦娘たちを指揮し、ソロモン海でのヘンダーソン飛行場の攻略、

 

 ALMI作戦、西方諸国救援作戦など数々の功績を挙げた名将である。

 

 反面上層部と衝突することもしばしば有り、上層部からは睨まれている。ただし功績が多大な

 

 ため更迭はできず、かといって艦娘たちから引き離さないと軍閥を作る恐れがあった。そのた

 

 め仕方が無く海軍のトップに据えざるを得なかった。彼が司令長官に就いたのにはこのような

 

 背景があった。

 

 ちなみにセクハラ提督の走りとしても知られている。

 

「つまり僕のやったことは無駄だったということですか」

 

「そんなことは有りません。少なくともこの世界の倫理観の最低ラインの見積もりを大きく引き

 

 下げざるを得なくなりました」

 

 ギムの虐殺は日本人に衝撃を与え、日本人が持つ異世界人のイメージは大きく変えられた。

 

 最低限このくらいの倫理観は持っているだろう、という考えは甘いと突き付けられたのだ。

 

 クワトイネの人々が中世よりも成熟し、近代に近い文化の持ち主だったため他の国の人々もそ

 

 うだろうと考えてしまっていた。

 

「消極派、この世界に対し影響を及ぼすのは最小限にするべきと考える人達もクワトイネ、クイ

 

 ラ両国が亡べば日本は立ち行かなくなることくらいわかってますからね」

 

 クワトイネとクイラに好意を抱いている国民は多く、世論の派兵に対する反発は思っていたほ

 

 ど大きくはないようだ。

 

「やはりこの二国が日本にとって重要だと国民の皆様は分かってらっしゃるようです」

 

 

「もしあの通信を正式な外交交渉と認めたら一ノ瀬さんの責任問題になります」

 

「私はそれでも良かったのですが」

 

「貴方の悪い癖です。すぐ責任を取りたがる。艦娘たちが悲しみますよ」

 

「すいません」

 

「それに貴方には私の後に司令長官の椅子に座って頂かなくてはなりませんから」

 

「小官には司令長官の椅子は荷が重いです」

 

「いやいや、高価なだけあって座り心地はいいですよ。鳳翔の膝枕と交換しませんか?」

 

「絶対嫌です(即答)」

 

「くっ、私が貴方の立場だったらそう答える!」

 

 鳳翔のパートナーを巡って争った二人だが今でも仲のいい親友同士である。

 

 

 しかしこの二人にはある懸念があった、自衛隊の戦力不足である。

 

 海上自衛隊の艦艇はいまだ定数を満たしていない。

 

 海上保安庁に協力して貰い、やっと日本近海を哨戒できる数が揃う。

 

 可能性は低いが、パーパルディア皇国が介入してくる場合に備えて海上自衛隊は本土に控えて

 

 おかねばならない。

 

 陸戦の主体は本職である陸上自衛隊が担うことになっている。

 

 しかしロウリア王国の4千4百隻の軍船には艦娘の艦隊を当てなくてはならないだろう。

 

 二人の提督は艦娘たちに対人戦に駆り出さなくてはならなくなったことに、済まないという気

 

 持ちでいっぱいだった。

 

 鶴屋司令は苦虫を嚙み潰したような顔で言った。

 

「今回は人道支援の任務中に武装勢力に遭遇、自己防衛したという名目でいきます。過去のケー

 

 スに照らしてあの事件の例を引用します」

 

 一ノ瀬中将も忘れたかった苦い思い出を思い出してしまい、絞り出す様に言った。

 

「ヤマネコ島事件ですね」

 

 

「というわけで日本国政府はクワトイネ公国の武装勢力排除に協力するため陸上自衛隊と日本海

 

 軍を派遣することを決定しました」

 

 ニュースで発表され、国民の間で活発な議論が交わされた。

 

 とある新聞社では初老のベテラン記者と新人記者が話し合っていた。

 

「艦娘と人間の軍隊が戦うなんて前代未聞ではないですか?」

 

「そうでもない、深海棲艦との戦いが始まったばかりの混乱期には、艦娘と通常の軍隊の戦闘は

 

 何度か起こっているぞ」

 

「そうなんですか?」

 

 艦娘が登場した初めのころは、艦娘を持たない国が国力の均一化という名目で、何名か艦娘を

 

 譲れと要求していた。

 

 しかしいくら戦力が有っても足らないこのころ、ただでさえ不足している艦娘を運用する能力

 

 のない相手に渡すわけにはいかなかった。

 

「その国々は艦娘を解剖するだの、彼女らと自国の軍人と交配させて繁殖させるなどとか言って

 

 いたらしいぞ」

 

「なんて奴らだ!許せない!」

 

 新人は激しく憤った。ベテラン記者はため息をついて落ち着くよう言った。

 

「その要求を突っぱねたあと、我が国のヤマネコ島である事件が起こったんだ」

 

 

 日本国の西方にあるヤマネコ島に武装した集団が上陸し、島民を人質にある要求を日本国政府

 

 に突き付けた。

 

 艦娘を引き渡せ、さもなくば島民の生命は保証しない。

 

 艦娘を持たない国の支援を受けたテロリスト、もしくは正規軍人であったかもしれない。

 

 更には軍艦を出撃させ、深海棲艦との戦闘を終えて帰途に着いていた艦娘艦隊を襲撃した。

 

 艦娘と武装勢力、自衛隊そして深海棲艦の四つの勢力が入交り、事態は混迷を極めた。

 

 島民の救出作戦は成功したものの、結果として島民の半数が殺害されるという悲惨な結果に終

 

 わった。

 

 目的を達成出来なかった国々は、艦娘と日本国もろとも深海棲艦に核ミサイルを撃ち込んだ。

 

 しかし深海棲艦は核の爆発エネルギーを吸収し、ミサイルの発射方向に跳ね返した。

 

 武装勢力の支援国は壊滅し事件は一応の決着を迎えた。

 

 

 この事件を機に艦娘の身柄の保護を目的とした法律が整備され、艦娘の日常生活は監視され、

 

 行動は制限されることになった。艦娘がインターネットなどを使えないのは情報の流出を防ぐ

 

 目的とともに誘惑され出て行った先で誘拐などされないようにするためである。

 

(陽炎、抜錨します!では艦娘は連絡を取る手段が手紙に限定されていました)

 

 自衛隊には艦娘の身を守るための秘密の特殊部隊がいるという。

 

 最も妖精たちの目を盗んで艦娘を誘拐することは不可能ではある。小さく普通の人間には見え

 

 ない、しかも練度は旧大日本帝国軍なみを誇る。妖精こそ地球最強の軍隊であろう。

 

 

「では妖精がヤマネコ島事件を解決したのですか?」

 

「いや違う、妖精は事件にかかわってはいない」

 

「では艦娘と自衛隊が武装勢力を排除したのですか?」

 

「、、、それもあるが、とある協力者がいたんだ」

 

「協力者ですか?」

 

「ああ、なんでもドラゴンの尻尾の様なツインテールをした小柄な女性だそうだ」

 

「??!」

 

「その女性が人質となっていた島民を開放し、生き残りを先導して自衛隊の救出部隊の待つ場所

 

 まで無事に届けたそうだ。炎を自在に操っていたという話もある」

 

「まさか魔法少女ですか!?」

 

「少女というには威厳があり過ぎる、と救出された人達は証言しているな。まるで全人類を支配

 

 する超帝国の女皇帝の様だと言われている。何故か皆彼女の言うことに従ってしまうらしい」

 

「名前は分かっているのですか」

 

「ヘリオス=ナ・イ・ンというらしい」

 

「点が入るのですか?変な名前ですね」

 

 

 クワトイネ公国で最大の港湾都市であるマイハークの港では公国海軍第二艦隊の50隻の軍船が

 

 出撃準備を整えていた。クワトイネ公国が保有する軍船の約半数がここに集結していた。

 

 第二艦隊司令パンカーレはその様子を誇らしげに眺めていた。

 

 常日頃からみな厳しい訓練を潜り抜け、文明圏外国家としては最高に近い練度を持つと自負し

 

 ていた。

 

 しかし相手は4千4百隻、万に一つも勝ち目など在りはしない。しかし自分たちが逃げ出せばマ

 

 イハークの一般市民が、そして公国国民の全てがギム市民のように蹂躙されるだろう。

 

「一体どれだけの兵が生きて戻って来られるのだろうか」

 

 パンカーレは不安を感じていることを部下に見せないよう必死に抑え込んだ。

 

 

 海軍本部からの魔信伝文を携えた部下が走ってきた。 

 

 パンカーレの側近でもある第二艦隊所属の若手幹部ブルーアイが報告する。

 

「明日早朝、日本国からの援軍が到着します」

 

「うむ、して日本国は何隻よこしてくれるのかね?」

 

「は、聯合艦隊12隻、並びに補給艦2隻とその護衛艦4隻、計18隻です」

 

「何?たった18隻だと!彼らはやる気があるのか?」

 

「ええと、彼らの説明によれば戦闘に参加するのは聯合艦隊12隻のみ、補給艦隊は後方で弾薬等

 

 の補給と戦闘終了後の生存者救出を目的としており、戦闘には参加しないとのことです」

 

「生存者の救出だと!?奴らは戦いを舐めているのか?!」

 

 海戦に敗北すればその様なことは出来ない、日本国は勝つことを前提にしている。

 

 パンカーレにしてみれば日本国はロウリア王国海軍を舐め切っている。

 

 日本国の作戦は素人が立てたのではないかと本気で思ってしまっていた。

 

 

「海軍本部からの命令です。日本国が先行してロウリアに攻撃するため、観戦武官を一名、日本

 

 国の艦隊旗艦に搭乗させるように、とのことです」

 

「18隻しか来ないのに観戦武官だと、死ねと言っているのも同然ではないか」

 

 国交が結ばれたとはいえ、日本国の実力を知る公国民は少ない。

 

 せいぜい便利な魔道具の様な物を作れる国という認識である。

 

 軍事力について詳細を知る者は実際に日本国に行った極少数の外務官しか知らないだろう。

 

 パンカーレは彼らが訓練に使用す実習船を見学したことがあったが、良く分からない不思議な

 

 材質で造ってあったが、耐久性は公国の木造帆船と大差ないと思っていた。

 

 観戦武官を派遣すれば確実に死ぬ、大切な部下をむざむざ犬死させたくはなかった。

 

 

 

「私が行きます」

 

 ブルーアイが重々しく口を開いた。

 

「私は剣術では海軍主席で、生き残る可能性が最も高いのは私です。それにタラスクをいとも簡

 

 単に退治することが出来る艦娘のいる日本海軍なら何とかしてくれるかもしれません」

 

 ブルーアイは特に期待の若手だったため、パンカーレは身を引き裂かれる様な痛みに耐えなが

 

 ら命令を下した。

 

「そうか、すまぬが…頼んだ」

 

 

 翌日早朝、マイハークは蜂の巣をつついたような騒ぎに包まれていた。

 

 沖合には見たこともない巨大な船が何隻も集結していた。

 

「なんという大きさだ!まるで城を浮かべた様だ!」

 

 マイハークの住民達は日本国の商船であったり、海軍出張所の駆逐艦や軽巡洋艦を目にしたこ

 

 とは有ったが、大型の軍艦は見たことがなかった。

 

 赤城や加賀などはクワトイネ国内で実艦を展開したことは今までなかったりする。

 

 今回マイハークに派遣されたのは戦艦と正規空母を含む本格的な空母機動部隊であった。

 

 第一艦隊

 

 旗艦 駆逐艦    霞

 

    航空戦艦   伊勢 日向

 

    正規空母   赤城 加賀

 

    重巡洋艦   妙高

 

 第二艦隊

 

 旗艦 軽巡洋艦   球磨

 

    駆逐艦    神風 初風

 

    重雷装巡洋艦 大井 北上 木曾

 

 補給支援艦隊

 

 旗艦 補給艦    速吸

 

    補給艦    神威

 

    駆逐艦    暁 響 雷 電

 

 

「これは、なんという、、」

 

 パンカーレは開いた口が塞がらない状態だった。

 

「凄い、これならばロウリアを撃退できるかもしれない」

 

 ブルーアイは期待に胸を躍らせていた。

 

 

 

 港に比較的小型の(それでもクワトイネ海軍の軍船より大きい)船が近づいてきた。

 

 そしてその船から青みがかった髪を片側に纏めたつり目の少女が降りてきた。

 

「初めまして、聯合艦隊旗艦の駆逐艦霞です。観戦武官の方をお迎えに上がりました」

 

 十代初めくらいの少女がこの艦隊を率いるということに、パンカーレもブルーアイも一瞬思考

 

 停止状態に陥った。

 

 霞も彼らが何を唖然としているのか察して、憮然とした表情を浮かべた。

 

 その時一ノ瀬提督が艦娘たちを出迎えるためにやって来た。秘書官として陽炎も一緒だ。

 

「提督、なんであたしが旗艦なのか説明なさいよ!」

 

「それは前回の海戦に引き続いて旗艦を務めて貰おうと思ったからだよ」

 

「前回の戦って地球の、深海棲艦との最終決戦のこと?!あれは戦艦も空母の人たちも戦いに集

 

 中したいから私が代わりをやっただけよ!」

 

「そう、大和から旗艦を引き継いで見事な指揮を見せてくれた。今回の戦いも期待しているよ」

 

「よ!国連軍総旗艦、霞!可愛くて指揮もできる、凄いね!」

 

 陽炎が囃し立てる。霞は顔を真っ赤にして叫んだ。

 

「違うわよ、全然凄くないんだから!」

 

 

 

 周囲の軍人たちは霞が見かけによらず優れた指揮官だと知って驚いていた。

 

 一ノ瀬提督は周囲には聞こえないよう霞の耳元に小さな声で囁いた。

 

「もう一つの理由は君がファティマ・魔邪(マージャ)を娶ったからだよ」

 

「今回の海戦は日本にとって初のファティマの実戦投入になる、くれぐれも慎重に頼むよ」

 

「分かったわよ」

 

 霞のパートナーになった魔邪は彼女にとって大切な人になっていた。

 

 それはただ単に仕事を手伝ってくれるというだけでなく、いろいろな悩みを相談できる相手に

 

 なってくれる存在であった。

 

 普段はしっかり者なのに、自分と関わると途端にポンコツになるあの二人とは違っていた。

 

 もちろん自分をママ呼ばわりする提督(ヘンタイ)どもは論外である。

 

 魔邪は霞が初めて出会った大人の女性であった。

 

 

 秘書艦の陽炎が聯合艦隊構成員と第14駆逐隊の面々に説明していた。

 

「以上がヤマネコ島事件の概要になります。今回の作戦はこの事件のケースを基に対応すること

 

 になりますので覚えておいてください」

 

「へえー、昔はこんなことがあったんだね、僕の先々代が参加してるよ」

 

 皐月が先々代の苦労を想像しながらも明るく言った。

 

「でも陽炎妙に詳しいね。君が着任するずっと前の出来事だろう。誰かから聞いたのかい?」

 

 皐月は何気なく聞いたつもりだった。だか陽炎はいつになく厳しい表情をしていた。

 

「陽炎?どうした?」

 

「、、、何でもないわ」

 

 皐月はただ事ではない雰囲気を察して黙ってしまった。

 

「あの事件は良く知っているわ。あの時、あの場所にあたしがいたから」

 

 その言葉に提督が反応した。

 

「陽炎、君はあの当時ヤマネコ島にいたのか」

 

「はい、私がいた児童保護施設が武装勢力に襲撃され、山の中を逃げ回っていたところをナイン

 

 さんに助けられました」

 

「そうだったのか」

 

「ナインさんの雄姿は今も瞼に焼き付いてます。そうこの髪型もナインさんの不思議な髪形に近

 

 いからしているんです。どうなってセットしているのか分からないけどせめて近い形にしたか

 

 ったんです」

 

 提督が悔恨に耐えるの表情をしているのを見て陽炎は付け足す。

 

「あの時のヤマネコ島は地獄でした。でも同じくらいの地獄は艦娘になってから何度も経験しま

 

 したからから気にしないでください」

 

「フォローになってるのか、なってないのか良く分からないわよそれ」

 

 曙がぶっきらぼうに突っ込んだ。

 

 

 改めて艦娘たちを集めて一ノ瀬提督が訓示をする。

 

「すまん、我々の力不足で君たちを対人戦の投入するほかなかった」 

 

 冒頭から謝罪した一ノ瀬に艦娘を代表して赤城が答えた。

 

「顔を上げてください提督。貴方は自分の務めを果たそうとしただけです」

 

 一ノ瀬は顔を上げ、一同を見渡す。艦娘の誰一人として彼を非難する者はいない。

 

「ですから我々も戦います。仕事ですから」

 

「日本国の平和と国民の安全を守るのが私たち艦娘の仕事です」

 

「友好国を救うことが日本国の安全に繋がるなら私たちは友好国のために戦います」

 

 艦娘たちに迷いはなかった。

 

「ですから提督、命令を出してください」

 

 提督は肩に重い荷物が背負わされた感覚がした。かつて何度も感じたことだ。戦争が終わりも

 

 う感じなくてもよいと思っていたがそうはいかないらしい。

 

「聯合艦隊出撃。武装勢力からクワトイネ公国を防衛せよ。新たなる水平線に勝利を刻め!」

 

 

 




ヘリオス=ナ・イ・ン
 旧設定名ネードル=ナイン
 星団歴以前に全人類を統治した超帝国の第八代皇帝、通称炎の女皇帝。
 騎士、魔導師そしてバスター砲を創った人。
 ドウターチップという珪素結晶にすべての生体情報と記憶を保存することにより不老不死を実
 現した。(もしかしたら新設定で変わっているかも)
 スタント遊星を調査しに向かって行方不明になり超帝国は混乱し空中分解する。
 その後度々現れ自身の記憶を継承する詩女システムを残したり、星団に取り残された最後の純
 血の騎士スバースのハイブレンコントロールを解除したりしている。
 魔導大戦では詩女ムグミカの命を犠牲にした「血の召還」により復活した。
 ボスヤスフォートは自分の子孫とは認識していない。
 彼女の目的は人類の記憶を未来永劫伝え続けることである。しかしスタント遊星の次元の狭間
 で邂逅したモナークセイクレッドは彼女の理想とはかけ離れていたため衝撃を受けてしまう。
 人間らしい人間に人類の記憶を受け継いで貰いたい、というのが彼女と詩女の願いである。

 小説陽炎、抜錨します!では過酷な過去を持つと匂わされていた陽炎ですが、私なりに想像し
 
 てみました。

 期間が開いてしまい申し訳ありません。

 私頑張るから、見捨てないでー。
 


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第八話 鉄の風、木片の海(前編)

 どうもお久しぶりです。

 ファイブスター物語16巻拝見しました。

 ラキシスのアクセサリーにあんな強力なしもべが隠れていたなんてビックリです。

 艦これは秋刀魚漁が始まりましたね。でもまだイベント海域に行けてません。 

 この話を投稿したら突撃します。


「妙高姉さん!陽炎も!見て、凄いの見つけちゃった!」

 

 陽炎型駆逐艦の初風が何やら叫びながら走ってきた。手には何かを持っている。

 

「まあ、何を見つけたの?」

 

 妙高が微笑ましく見守る横で陽炎が口を尖らせて不満そうにしていた。

 

「初風ェ、あんたが姉さんと呼ぶのはこっちでしょ」

 

(お姉ちゃんと呼んで)と言いそうになったが某重巡の真似になってしまいそうだったので寸

 

 前で止めた。

 

「そんなことどうでもいいわ!見て!ツチノコ!ツチノコ捕まえた!」

 

 初風の手には胴がビール瓶ほどの太さの蛇が握られていた。

 

「まあ!凄いわ!」

 

 ロデニウス大陸を初めて訪れた二人は驚いていたが陽炎は冷静だった。

 

「初風、妙高さん、その蛇はロデニウス大陸ではありふれた蛇です」

 

「そうなの!?」

 

 その話を聞いていた赤城が付け加える。

 

「白身魚に似て美味しいですよ」

 

 ちなみに今日の糧食は鳳翔さん特製のり弁である。

 

 有明産のりとおかか、昆布の佃煮の乗ったご飯、おかずはきんぴらごぼうとちくわの磯部揚げ

 

 、そして白身フライである。追加で野菜スムージーが付く。

 

 

「本当に乗るのは我が艦でいいんですか?戦艦や空母の方が見応えがありますよ?」

 

 観戦武官であるブルーアイは旗艦である霞に乗りたいと言ってきた。

 

 戦艦であれば砲撃戦を、空母なら艦載機の発艦を見学できるのでそちらの方が価値があろうと

 

 思ったのだが、ブルーアイは霞に乗ることを強く希望した。

 

「かあさ、いえ失礼しました。霞殿、私は旗艦に乗ることを命令されているのです。それに個人

 

 としても貴女の指揮に興味がありますので貴殿の船に乗ることを希望します」

 

「今何を言いかけたコラ」

 

 こいつも提督どもと同類か、と霞は頭を抱えた。ふと後方を見ると陽炎ほか数名が爆笑しそう

 

 になるのを必死でこらえていた。

 

「霞ちゃんのママみは異世界でも通用するのね」

 

「陽炎!曙!皐月!ぶっ飛ばすわよ!って伊勢さんまで酷い(涙)」

 

 

 ブルーアイ=ベリーズはクワトイネ公国の上級騎士の家に生まれた。

 

 彼の母親は彼が物心つく前にはやり病で亡くなった。

 

 父親はブルーアイが母親を恋しいだろうと思い、幼年学校の授業見学会に何を血迷ったのか女

 

 装してきた。

 

 ブルーアイはぐれた。

 

 マイハーク一のワルと呼ばれ、陸鳥暴走団のヘッドになり殺し以外は全てやった。

 

 その後何やかやあって彼は更生した。

 

 父親の女装癖は彼に大きな心の傷となって残り、今でも女性との付き合いを苦手にしていた。

 

 しかし霞と出会い、彼女の提督に対する厳しくも優しさを秘めた接し方を目の当たりにして、

 

 彼は確信したのだ。

 

「彼女は私の母になってくれる女性だ」

 

 

 霞がぐぬぬと陽炎を睨みつけていると霞の船体から金色の毛並みの動物が降りてきた。

 

「あ、忘れていた。陽炎、あんたの飼い犬連れてきたわよ」

 

「楊貴(やんぎ)!なんでここに?」

 

「くぅーん(ご飯くれ)」

 

 旧世界、日本の生物をロデニウス大陸に持ち込むには厳しい審査をパスしなければならない。

 

「この子、自分で書類を書いていたわよ。まあ大分間違っていたから能代さんが直してたけど」

 

「そうなんだ今度お礼しなきゃ」

 

「魔邪がいうにはこの子セントリーっていう犬種らしいわ」

 

「へー、ボルゾイかアフガンハウンドかと思っていたけど違うのね」

 

「なんでも世界に5体しかいないらしいわ」

 

「貴方凄いのね楊貴、よーし良し!」

 

 陽炎はチョコレート飲料を飲んだ時のような笑顔で楊貴の頭を撫でまわした。

 

「ぷいぷい(角砂糖よりキャラメルがいい)」

 

 

 その光景を見ていたパンカーレとブルーアイは困惑していた。

 

「ブルーアイよあの生き物はどう見ても犬に見えんのだが」

 

「私もそう思います」

 

「もしかして、神龍の幼生か?」

 

「誰も見たことが有りませんが、あの気品は間違いないかと」

 

 

 ブルーアイは駆逐艦霞に乗り込み、艦隊は出航した。

 

「クワトイネ派遣聯合艦隊出撃せよ、羅針盤まわせー!」

 

 ブルーアイは疑問に思った。なぜ羅針盤を回すのだろうか。

 

「マスター、陽炎様からメールです。ここでは羅針盤は回さなくていいのよ。です」

 

 霞は顔を真っ赤にし目の端に薄っすら涙を浮かべた。

 

 その後新世界あるあるの一つとして、つい羅針盤を回してしまうというのが広まった。

 

 

「何という速さだ!」

 

 クワトイネ公国海軍の一般的な軍船よりはるかに速い。

 

 ブルーアイはあることに気が付いた。艦内に霞と自分以外の人影が見えないことに。

 

 何者か、それも大勢の気配がする、視線を感じる、しかし誰も見えない。

 

 クスクスと笑い声が聞こえ始め、ブルーアイは恐怖を感じた。

 

「こらー!観戦武官殿に失礼でしょ、姿を見せなさい!」

 

 霞がそう言うと物陰から二頭身の小人が顔を出した。

 

 そして段々大きくなり普通の人間になった。

 

「これが妖精ですか?!」

 

 妖精は普通の人間には普段見えない。艦娘の観艦式形態でもそれは変わらず、傍から見るとま

 

 るで幽霊船のように見えてしまうのであった。

 

 妖精からすれば初めて乗り込んできた人間が艦娘に良からぬことをしないよう警告する目的も

 

 あったりする。

 

 

 

「いい景色だ、美しい」

 

 ロウリア王国海軍の海将シャークンは配下の船団を眺めて独り言ちた。

 

 見渡す限り船ばかりで海面が見えない、そう評しても差し支えないだろう。

 

 軍船4千4百隻、兵士14万人の大軍勢はロデニウス大陸史上最大であろう。

 

 これなら文明国、いや列強国でさえ制圧できるかもしれない。

 

(いや、パーパルディア皇国には船を破壊できる砲艦なる超兵器があるという)

 

 列強国に挑むのはまだ時期尚早である、とシャークンは先ほどの自分の夢想を打ち消した。

 

 シャークンは自分の半生を振り返る。

 

 船乗りに憧れた少年時代。苦しい訓練に耐えた新兵時代。生死を共にした親友たち。

 

 様々な情景がシャークンの瞼の裏に浮かんでは消えた。

 

 在任中一度も笑わなかった上司が退役する際、満面の笑顔を見せながら後を頼むと言った。

 

 そのときに掴まれた肩の感触は生涯決して忘れないだろう。

 

「先輩方、見ていてください」

 

 祖国によるロデニウス大陸統一、それを成し遂げた名将として歴史に名を遺す。

 

 シャークンは未来の歴史家が自分をどう評価するのか想像して笑みを浮かべた。

 

 

 後ろでは部下たちがマイハークに到着したらどうするのか話していた。

 

「やっぱエルフだろ」

 

「いや、猫獣人がいい」

 

「犬獣人に決まっている」

 

「ドワーフの幼女もなかなからしいぞ」

 

「へー」

 

 各所でゲスい話が盛り上がっている。

 

「俺は人間だな」

 

「なんでだよ」

 

「故郷の母さんに孫の顔を見せてやりたいんだ」

 

 いい話っぽいがよく聞くと最低な会話である。

 

 もし艦娘たちが聞いていたら即攻撃されているだろう。

 

 

 パーパルディア皇国から援助を受け、6年間の長い時をかけ完成したこの大艦隊。

 

 これだけの大艦隊を防ぐ手立てはロデニウス大陸にはないと断言できる。

 

 この作戦が失敗することはない。なんの不安要素はないはずだ。

 

「ちっ、また切れた」

 

 先ほどから軍靴の紐が結んだ端から切れていく。

 

 この戦いが終わったら装備調達担当者を締め上げてやろうと思っている。

 

 差し当たりもやい紐で軍靴の上からぐるぐる巻きにして絞めていたがその紐まで切れ始めた。

 

 もやい紐という航海に大切な道具に不良品が混じっているのは問題だ。

 

 シャークンは全艦隊に装備品の確認を命じた。

 

 その結果特に不良品は見つからなかった。ただし一部の士官が自分と同じように靴紐が切れや

 

 すくなっている、という報告を上げてきた。

 

 

「不吉じゃ!不吉じゃあー!」

 

 先ほどから取り乱しているのはこの艦隊の航海士兼相談役である初老の漢。

 

 名をムルデカという。

 

 かつてはフィルアデス大陸沿岸を荒らしまわった海賊の棟梁である。

 

 滅亡した文明国の海軍士官だったという噂もあるが彼は何も語らない。

 

 文明国リーム王国の海賊狩りから仲間を全て逃がしきったことがあるという。

 

 その戦いぶりから鉄壁の異名を貰った漢である。

 

 ロウリア王国は彼を指導員として迎え、シャークンも彼から厳しい指導を受けた。

 

 普段の姿はまさに海の漢を体現したかのような人物であり尊敬していた。

 

 

 その彼が航海の安全を祈願するお守りを作っては吊るし、壊れる様子を見ては叫ぶ、というこ

 

 とを何度も繰り返している。

 

 正直作り方を間違えているのではないかと思うのだが、軍の重鎮である彼が狼狽していると部

 

 下たちが動揺するのでやめてほしい。

 

「ムルデカ殿、皆が見ているので落ち着いてください」

 

「シャークン海将、精霊が騒いでおる、このようなことは初めてじゃ!」

 

 精霊とは魔素の集合体が何らかの意思を持って動いている存在であるが、滅多なことでは人前

 

 に現れない。魔術の素養の低い人物ではそもそも見ることもできず、さらに会話をするだけで

 

 も高い魔力と適正を必要とする。

 

 ムルデカは数少ない精霊魔導師である。精霊を使役するまではいかないがそれでも第三文明圏

 

 では希少な魔導師である。

 

 精霊を使役することが出来る精霊魔導師は第一文明圏の文明国、そして第一位列強国神聖ミリ

 

 シアル帝国であっても数えるほどしかいない。

 

 

「ムルデカ殿、そこまで心配なら海の精霊に戦勝祈願の捧げものをしましょう」

 

 その儀式は籠に酒と食べ物を乗せて海に流し、精霊に祈るというものである。

 

 第三文明圏とその周辺に広く伝わる伝統的儀式である。

 

 シャークンも心の底では不安を感じていたので、艦隊で一番良い食事、すなわち自分用の酒と

 

 夕食分の食材を捧げることにした。

 

 正直あまり食欲がない。

 

「海の精霊よ、我らに勝利をもたらし給え」

 

 シャークンが供物の籠を海に流し、伝統に沿った祈りを捧げた。

 

 すると海面がほのかに光り、海水が女性の様な形を成して現れた。

 

 その手には供物の籠が握られている。

 

「おお!精霊様が顕現なさった」

 

「この戦、勝ったも同然だ!」

 

 乗組員が歓喜に沸き立つ中、精霊は持っていた籠をシャークンに返した。

 

(ゴメン、ムリ)

 

 そう言っている様な気がした。

 

 乗組員は皆沈黙した。

 

 

「不吉だ!」

 

 今度は艦隊内からも多くの声が上がってきた。

 

 さすがに先ほどの光景を見た多くの者が不安を感じていた。

 

「馬鹿者!この6年間何のために我々は厳しい訓練をしてきたと思っている!」

 

 シャークンが一喝すると多くの者が黙った。

 

 彼は魔信を通じて艦隊全体に呼びかける。

 

「ロデニウス大陸統一は我が国の悲願である。今更何の成果も上げずに戻ることなど出来ん我が

 

 国をただ数が多いだけの国と馬鹿にした奴らを見返してやれ」

 

「情報によればマイハークの艦隊はたった50隻。我らは4千4百隻ぞ、万が一にも負けることなど

 

 あり得ない。クワトイネ公国を落とし、我らはロデニウス大陸の歴史にその名を刻むのだ」

 

「最近クワトイネと国交を結んだ日本国という国が参戦するかもしれんが、所詮蛮族の国、同じ

 

 く叩き潰してやれ!」

 

 シャークンの熱のこもった説得で艦隊の士気は持ち直した。

 

「マイハークを占領すれば金も女も思いのままだ、好きなだけ奪い去っても良い!」

 

 シャークンは本来は略奪も強姦も好きではなかったが、兵たちの士気を保つには仕方が無いと

 

 思っている。

 

「ヒャッハー!さすが海将、話が分かるぜー!」

 

 世紀末な叫び声を上げながら男どもは心を一つにしたのだった。

 

 

 

 突如東の方角から奇妙な物体が大きな音を立てて飛んで来た。

 

「こちらは日本国海軍です。あなた達に警告します。この先はクワトイネ公国の領海です。直ち

 

 に回頭し引き返しなさい」

 

 それは聞いたことのない大音量でそう警告してきた。

 

「何だこれは生物なのか?人が乗っているのか、ということは新種の飛竜なのか?しかも女の声

 

 だと、訳が分からん」

 

 横腹に白地に赤い丸の国旗らしきものが描かれているのが見えた。

 

 それに弓を引いた者がいたが全く届かなかった。

 

 

 ロウリア王国に警告したのは航空戦艦日向所属のS-51J改であった。

 

 艦隊上空を旋回し何度も同じ警告を繰り返し、帰っていった。

 

 そして次に現れたのは重巡洋艦妙高であった。

 

 

 ロデニウス大陸では見たこともない巨大な船の出現にロウリア海軍は仰天した。

 

「直ちに回頭して引き返しなさい!さもなくば貴船団に対し発砲いたします」

 

 巨大船は先ほどとは別人の声で警告してきた。

 

 ただ兵どもは女が乗っていることに興奮していた。

 

「うひょー女だぜ」

 

「艶っぽくて好みだ」

 

「そうか?BBAぽくね?」

 

 一部どうしようもない病気持ちがいる様だ。

 

「はァ⤴」

 

 巨大船から発せられる声が明らかな怒気を含むようになった。

 

「女はな、12歳を超えたらババアなんだよ!」

 

 シャークンはそれは違うと思ったが何も言わなかった。

 

 

「犯罪者ですね。撃沈しましょう」

 

「妙高さん駄目です、先制攻撃は禁じられてます」

 

「汚物を消毒するだけですから別にいいのでは?ねえウリクル」

 

「駄目ですよ」

 

 ウリクル

 

 南太陽系ジュノー星で最大の大国コーラス王朝の国王コーラス3世のファティマ。

 

 製作者はモラード・カーバイト

 

 いたずら好きで、道案内するはずのコーラス3世を忍者のように後をつけてからかった。

 

 モラード邸滞在中着る服がなかったので女物の服(自分の)を着ていたコーラス3世に萌える

 

 コーラス=ハグーダ戦で負傷したコーラス3世をかばって戦死。

 

 ただし彼女の生涯で最も激しい戦闘は対エルメラ王妃戦であったことは間違いない。

 

 

 はっぽうとは何なのかシャークンには分からなかったがおそらく攻撃手段だと考えた、なので

 

 右舷艦隊に攻撃するよう命じた。

 

 命じられた船の船長は大きさに恐れを感じながらも一番槍を任されたことに奮い立った。

 

 先陣の船から多数の火矢が放たれた。

 

 しかし火矢は命中してもカンカンという音を立てて弾かれた。

 

 巨大船は向きを変え艦隊から距離を取った。

 

 帆を張っていないにも拘らずその船速は恐ろしく速い。

 

「ヒャッハー、逃げやがった」

 

 水夫たちは馬鹿にしているが、船長は冷や汗をかいている。

 

「火矢が刺さらなかった。まさか鉄で出来ているのか」

 

 

「海将殿、引くのだ」

 

 ムルデカが撤退を進言する。

 

「なにを馬鹿なことを、たった一隻に負けるとでもいうのですか」

 

 ムルデカは極めて真剣な表情でこう言った

 

「あれはこの世のものではない。あれは死者の船だ」

 

「どういうことですか」

 

「文字どおりの意味だあの船からは生者の気配が感じられぬ」

 

「幽霊船ということですか」

 

「そんな生易しいものではない!」

 

 

「攻撃を受けました。正当防衛により攻撃します」

 

 深海棲艦との戦いの前と後で日本国は憲法を改正していない。

 

 だからこそこんな面倒くさいことをしなくてはならないのだが、力を振るうことに躊躇しなく

 

 なれば行きつく先は目の前のロウリア王国と同じになってしまう。

 

 妙高は目を閉じ深呼吸をして命じた。

 

「主砲、撃ちかた始め!」

 

 日本海軍にとって異世界初の戦闘が開始された。

 

 

 巨大船から突き出ていた金属の筒から突如轟音と煙が吐き出された。

 

 すると先陣を務めていた船が木っ端みじんに砕け散った。

 

「敵の魔導兵器か?」

 

「あれはパーパルディア皇国の魔導砲なのか?いや違う射程が長すぎる。威力も高い」

 

 皇国の装備を知っているムルデカでさえ驚く。

 

 パーパルディア皇国で使われている最新の魔導砲でさえ射程は2キロである。

 

 巨大船は少なくとも5キロは離れて攻撃してきた。

 

 相手は列強以上の力を持っていることになる。

 

 

「これで恐れて撤退してくれれば良いのですが」

 

 妙高は淡い期待を口にした。

 

「その可能性は低いと思われます」

 

 ウリクルは冷静に否定した。

 

 

「どうやらあれだけの大規模魔導は連射できないようだな」

 

 巨大船からの二度目の攻撃がないのでシャークンはこの様に判断してしまった。

 

「竜騎士の支援を要請しろ!空との同時攻撃で一気にカタをつけるぞ」

 

 

 ロウリア王国 王都防衛騎士団 総司令部

 

「東方征伐海軍より魔信が入りました。現在、敵主力と交戦中。敵船は巨大で大出力の魔導兵器

 

 を搭載している。これにより我が方の軍船が一隻撃沈された。反撃のため航空支援を要請する

 

 、とのことです」

 

 王都防衛騎士団団長パタジンは獰猛な笑みを浮かべ、通信士に指示を出した。

 

「ほう、敵主力とな。戦力の逐次投入はすべきでない。ワイバーン250騎全て差し向けよ」

 

「王都を防衛するワイバーンが残り100騎のみとなりますが」

 

「充分だ、どうせ王都を襲撃する勢力など存在せん」

 

 出番を待ちわびていた竜騎士団は歓声を上げて出撃していった。

 

 

 

「マスター、時速約230キロの飛行物体が250以上こちらに向かってきます」

 

「こちら伊勢、対空レーダーに感、飛行物体が多数こちらに向かってくるよ」

 

 魔邪がレーダーより早く感知し報告する。

 

 ファティマは自身の戦闘服に搭載されているレーダーのみならず視覚、聴覚から得られた情報

 

 を瞬時に比較しそのずれを補正することにより現代艦艇を上回る索敵能力を持つ。

 

⦅凄いわねファティマって。これは公になったら騒ぎになる可能性が高いわ⦆

 

 霞はファティマの力に恐れを抱きつつも指示を出す。

 

「敵は諦めていないようね。艦隊前進、先行している妙高と合流します。陣形は輪形陣を採れ。

 

 空母並びに航空戦艦は艦載機を発艦させて迎撃せよ」

 

「一航戦赤城、了解しました。迎撃機を発艦させます」

 

 赤城は停泊したまま艦載機を発艦させた。18機の烈風改二、12機の烈風11型が飛び立つ。

 

「同じく加賀、了解しました」

 

 一方加賀は教本どおり風上に向かって加速し、20機の零戦53型を発艦させた。

 

「伊勢改二が異世界に来たわよー、なんちゃって」

 

 伊勢が軽口をたたきながら22機の瑞雲12型を発艦させた。

 

「瑞雲の素晴らしさを異世界の人々に見せてやろう。ここで戦果を挙げ、いずれ全ての国家に瑞

 

 雲を採用してもらうのだ!」

 

 日向師匠がとんでもない野望を口走らせながら24機の瑞雲改二を発艦させる。

 

 合計96機の戦闘機、戦闘爆撃機が空を舞う。

 

「誰も突っ込んでくれない」

 

 約一名悲しそうにしていた。

 

 

 ロウリア王国竜騎士団団長アグラメウスは大戦果を確信していた。

 

 シャークン海将は海軍だけでもクワトイネを撃滅できるのだろうが、ロウリア竜騎士団の力を

 

 合わせて見せることで周辺国にロウリア王国の軍事力を誇示する意図があるのだろう。

 

 ロデニウス大陸の歴史でこれ程のワイバーンを動員したことはない。

 

 この部隊ならば伝説の魔帝軍すら打ち破れるだろう。

 

 まして亜人の国クワトイネに我らを止めることなど出来るはずはない。

 

「隊長、前方になにかいます」

 

 視力の良い部下が何かを見つけた。その空を飛ぶ物体は翼を一切羽ばたかせずにあっという間

 

 に自軍に接近してきた。明らかにワイバーンより速い。

 

「まさか飛竜の一種なのか?そんな馬鹿な!」

 

 情報によれば近辺にクワトイネの飛行場はないはず。

 

「敵艦隊に竜母がいるのか?」

 

 

 敵の飛竜の様な物は鼻先に高速で回転する何かを付けている。ブーンという変わった咆哮を上

 

 げながら襲い掛かって来た。

 

「ロウリア竜騎士隊を舐めるな!」

 

「隊長!上です!」

 

 部下が悲鳴のような叫びをあげる。

 

 太陽の中から数騎の敵飛竜が現れ上空から下方に突き抜けていった。

 

 擦れ違う際ダダダという破裂音がして、味方のワイバーンと竜騎士が血しぶきを上げて落ちて

 

 いった。

 

「おのれ!」

 

 数騎が仲間の仇を討とうと敵の後を追いかける。しかし全く追いつけない。

 

 それどころか反転宙返りした敵騎に返り討ちにされてしまう。

 

「そんな馬鹿な!」

 

 速度、運動性、攻撃力全てにおいて我が方のワイバーンに優っている。

 

 こちらが優っているのは旋回性能ぐらいな物であろう。

 

「全隊、密集隊形をとれ、竜母を沈めるまで耐えろ」

 

 敵騎がいくら高性能とはいえ竜母を沈められればこちらの勝利となる。

 

 ロウリア竜騎士隊は密集隊形で突き進む。その数は100騎まで減っていた。

 

 

 水平線の彼方に小島が四つ見えた。それも島全体を砦に改造した軍事要塞であった。

 

 違う、波を立てて移動するそれは間違いなく船であった。

 

 200メートルをはるかに超えるその船は威容を称えていた。一体どこの国がこのような巨大

 

 船を建造したのか、アルデバランは恐怖を覚えた。

 

「皆の者、何としてもあの竜母を沈めるんだ!」

 

 その時編隊に纏わりついていた敵機が離れていった。

 

 なにを考えているのかと訝しむ間もなく敵竜母の内二隻とその護衛の中型船が火を噴いた。

 

 甲板上にある鉄の筒が轟音と大量の煙を噴出させた。

 

 その数秒後、竜騎士隊の生き残りは炎に包まれた。

 

 まるで火山の噴火のように焼けた石礫を広範囲にぶつけられ、竜騎士たちはのたうちまわり或

 

 いは即死して、焼け焦げ墜ちていった。

 

 

 

 敵ワイバーンは戦闘機隊の活躍で100機まで削られた。

 

 艦隊まで20キロに近づかれた段階で戦闘機は引き上げ対空砲にて殲滅することにした。

 

 伊勢、日向、妙高の主砲で三式弾改を撃ち、60騎を撃墜した。

 

 そして最後に駆逐艦と巡洋艦による対空射撃により殲滅することにした。

 

「新参者には負けられないのよ!」

 

 初風が猛然と主砲を打ち放った。妙高との間にライバルが出現し闘志を剥き出している。

 

「なんかちょっと私に似てるところが余計にムカつくのよ!」

 

 魔邪とウリクルはワイバーンの飛行進路を予測し照準を補正している。

 

 両ファティマにより補助された対空射撃は正確無比であり、ほとんど無駄玉を使わずにワイバ

 

 ーンを打ち落としていった。

 

 

 

「せめて奴らに一矢報いらねば」

 

 アルデバランは三式弾の破片が胸部に命中し重症を負っていた。即死こそ免れたものの遠から

 

 ず息絶えるであろう。相棒のワイバーンも体のあちこちに破片が食い込んでいる。もはや陸地

 

 にまで戻ることは出来ない。

 

 このまま何の戦果も挙げられずに死んだら後世の歴史家に無能と呼ばれてしまうだろう。

 

 何より死んだ部下たちに申し訳が立たない。

 

「せめて奴らの船一隻でも沈めなければ死んでも死に切れぬ」

 

 アルデバランの目の前に比較的小型の敵船、霞がいた。

 

「ロウリア竜騎士隊の意地を見せてやる」

 

 アルデバランは真っ逆さまに霞に落ちていった。体当たりするつもりである。

 

 

「敵ワイバーン真っ直ぐこちらに向かってきます」

 

 どうやら瀕死の重傷を負った竜騎士が破れかぶれで突っ込んできたと見える。

 

 敵には同情するが情けは無用である。長10㎝砲の砲弾が竜騎士とワイバーンを撃ち貫き、哀れ

 

 な一名と一匹を冥府へ送り届けた。

 

 ロウリア王国竜騎士隊250騎は部隊消失した。

 

「霞ちゃん大丈夫?」

 

 伊勢ほか僚艦が心配して通信してきた。

 

「一切被弾なしです。別方面でも心配有りません。覚悟完了済みですから」

 

「ばれていたか」

 

 巡洋艦以上のいわゆる大人艦たちは駆逐艦か対人戦をすることを可能な限り避けようとしてい

 

 た。今回の駆逐艦が少ない編成もそのためだ。

 

「それに私たちが艦娘になって何年たったと思っているんですか、中身はもうとっくに成人して

 

 ます」

 

「頭では分かっているんだけど感情が理解を拒んでて、駆逐艦はいつまでも子供らしくしててほ

 

 しいの」

 

「なに提督みたいなこと言ってるんですか」

 

「ゴメン」

 

 駆逐艦がもう成人しているって聞くと逆に興奮する提督も多いので気を付けてほしい。筆者

 

 もそうである。

 

 

 

 ロウリア王国艦隊は沈黙に包まれていた。

 

 ワイバーンはロデニウス大陸では最強の戦力である。

 

 その味方ワイバーンが敵の飛竜に手も足も出ない。まるで肉食魚に襲われる小魚の群れのよう

 

 に数を減らしていき、巨大船の爆裂魔法で叩き落されて全滅した。

 

 通常軍船がワイバーンを落とすとなれば多大な犠牲を払わなければならない。敵はそれをいと

 

 も簡単にやってのけた。

 

「我々は魔帝を相手に戦っているのか」

 

 シャークンは恐怖に打ち震えた。

 

「敵の攻撃が来るぞ!」

 

 ロウリア王国艦隊の絶望の宴は始まったばかりである。




 ちょっと長くなってしまったのでここで切ります。

 後編は早急に投稿します。

「ねえ魔邪、貴女の前のマスターのサリオン・エミーテ=斑鳩王子ってどんな人?」

 暗殺大好きな両親、人の心が分からない上司、部下の大半が元犯罪者。

 主君の嫁が超怖い。後ろに悪魔の神がいる。

 脇腹までスリットの入ったセクシードレスを着ていかないと法案を通さない国会議員

「苦労人でしたね」

「大体分かった」

「お嫁さんがまともな人で本当に良かったです」


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第九話 鉄の風、木片の海(後編)

 お待たせしました。

 サンマ漁イベントが始まりましたね。今年は漁成功率が高くて良かったです。

 初めての秋刀魚漁イベントでは自分は大漁旗をゲット出来ず涙を飲みました。

 本編の前に訂正を一つ、サリオン王子の姓ですが元服前がシナーテ=天照、元服後がエミーテ

 =斑鳩王子でした。謹んでお詫び申し上げます。



「敵の航空戦力の殲滅を確認しました」

 

 加賀戦闘機隊の隊長、岩本徹三は懸念が杞憂に終わったことに安堵していた。

 

「どうやら鳳翔さんレベルの敵はいなかったようだな」

 

「クワトイネの連中の言う通りあれは完全にイレギュラーでしたね」

 

「強すぎるだろあれは」

 

「もしいたら俺ら岩本隊全員で抑え込む手筈だったが、いなくてよかった」

 

 日本はロデニウス大陸の主力航空戦力であるワイバーンを研究するため、クワトイネ公国の空

 

 軍から一体のワイバーンを譲られた。

 

 その個体はベテラン冒険者30人が命がけで捕獲した野生ワイバーンであったが、公国の竜騎士

 

 は誰一人乗りこなすことが出来なかった。

 

 空軍の担当者は意地悪でその暴れワイバーンを引き合わせたのだが、一ノ瀬提督に同行した鳳

 

 翔を見たその暴れワイバーンはあっさりと彼女を乗せ空に飛びったった。

 

 普通竜騎士と言えども初めてのワイバーンで空を飛ぶのには数か月の慣らし期間が必要なのだ

 

 が、鳳翔は出会って2分で飛行して見せた。

 

 しかもその時は鞍を付けていなかった。その状態で様々なアクロバット飛行を披露したので、

 

 クワトイネ公国の空軍関係者は度肝を抜かれた。

 

 更には同行していた龍驤、瑞鳳などもその日の内にでワイバーンを乗りこなしてしまった。

 

 航空機を扱う空母娘ならばワイバーンを扱うことも出来るのは分かるのだが、意外だったのが

 

 秋月や島風、天津風などもワイバーンを乗りこなすことができた。どうも連装砲ちゃん達と同

 

 じ感覚で話が出来るようだ。

 

 

 その暴れワイバーンは通常のワイバーンより大柄で、全体的に白い体色に、わずかに光を反射

 

 して金色に見える鱗が混じっていた。

 

 その姿から鳳翔はゴールド号と名付けた。

 

 ゴールド号は一ノ瀬家の所有となり、毎日鳳翔さん特製ワイバーンフードを食べている。

 

 

 対ワイバーン戦闘訓練において、鳳翔さんとゴールド号が航空隊の対戦相手となった。

 

 結果的に航空隊が対ワイバーン戦のノウハウを積む前に鳳翔の操竜術が上達してしまい、96

 

 式艦戦や零戦21型の様な旧式の戦闘機では撃墜判定を取ることが出来なくなってしまった。

 

 鳳翔に回避に専念されると誰一人機銃弾を命中させることが出来ない。

 

 文字通りの可変翼を駆使した変幻自在の空中機動で相手を翻弄し、燃料弾薬切れを待って後ろ

 

 足による蹴りもしくは尻尾の攻撃で撃墜判定を取っていく。

 

 空戦を見学していたクワトイネの竜騎士からは

 

「こんな戦い方があるのか!」

 

 と驚かれてしまった。 

 

 動力火炎弾はためが長く、口を開ける際空気抵抗が大きくなり速度が落ちてしまうため鳳翔は

 

 使用しないことにしている。動力火炎弾に代わる攻撃魔法を編み出すなどと言っているが、そ

 

 うそう簡単に新魔法など創れはしない。周囲の人間は笑っていたが、のちに驚愕することにな

 

 るのだが、それは別の話。

 

 

「武装勢力に動きはありません」

 

「まだ撤退する気はないようね、仕方が無いわ、攻撃開始!」

 

「神風は対潜警戒、大型魔魚に注意して」

 

「了解!」

 

 艦娘にとってロウリアより敷波を襲った魔魚の方が脅威であると知ったらシャークンたちはど

 

 んな顔をするのだろう。

 

 

 

 日本国の船から破壊が解き放たれた。

 

 こちらのバリスタの射程をはるかに超える距離から軍船を一撃で破壊する攻撃が飛んでくる。

 

 ロウリア海軍の戦い方は昔ながらの敵船に乗り込んでの白兵戦だ。

 

 しかしこれでは近づくことが出来ない。

 

 しかも敵船はこちらよりもはるかに大きいのに圧倒的に船足が速い。

 

 つまりロウリア海軍には対抗する術が何もない。勝ち目はない。

 

「うわあ、死にたくねえ!」

 

「魔帝だ、魔帝が復活したんだ!」

 

「ママ!痛いよママ!」

 

 味方は大混乱に陥る。恐怖と痛みの余り幼児退行している兵もいる。

 

 敵艦隊から新たな鉄の飛竜が飛来し、何かの塊を落とす。それは甲板をぶち破った後大爆発し

 

 て軍船を跡形もなく消し去った。

 

 また鼻先と翼から光弾の様な物を打ち出した。それを食らった人は血しぶきを上げて倒れ、

 

 船は穴だらけになって沈んでいった。

 

 

 シャークンは決断を迫られていた。

 

 このまま戦っていても敵になんら損害を与えることは出来ない。撤退するしかない。

 

 しかし撤退すれば自分は軍法会議で処断され死刑となり、後世の歴史家から無能の指揮官と呼

 

 ばれるだろう。

 

 そしてロウリア王国海軍の名誉は地に落ちるだろう。

 

 祖国は周辺国から舐められ、ロウリア王国海軍は弱者の代名詞になってしまうかもしれない。

 

 そんなことは決して認めるわけにはいかなかった。しかし、

 

「撤退だ」

 

 シャークンは撤退を決めた。これ以上部下を死なせるわけにはいかなかった。

 

「わが旗艦が殿を務める、全軍撤退せよ」

 

 

「海将殿、貴公は生きよ」

 

 振り向くとムルデカが肩を掴んで言った。その顔は先ほどまでうろたえていた老人のそれでは

 

 なく、海の漢がそこにいた。

 

「伯父貴、来たぞ!」

 

 旗艦の横に小さいが快速の帆船が横付けした。ムルデカの配下の元海賊たちである。

 

「おお、カイラス、こっちこい」

 

 ムルデカは甥っ子で副頭目のカイラスを呼びつける。

 

「なんだ伯父貴、、ごふ!」

 

 ムルデカはカイラスを殴り倒し気絶された。

 

「海将殿、甥を頼み申す」

 

 ムルデカはカイラスをシャークンに託し配下の快速船に乗り込んだ。

 

「さあ、海賊の意地と誇りを奴らに見せてやろう」

 

「おお!」

 

「ムルデカ殿、すまぬ!」

 

「フハハハ!漢の最後は笑って送り出せ!」

 

「お頭、相手は魔帝軍かもしれませんぜ」

 

「むしろ魔帝と戦って死んだとあれば冥府にて父祖に自慢できるぞ!」

 

「ちげえねえや!」

 

 ムルデカと配下たちは笑いながら絶望的な敵に向かって突撃していった。

 

 

「敵小型帆船、こちらに突撃してきます」

 

「あーどうする、大井っち?」

 

 北上がだるそうに言う。

 

「北上さんの思う通りにしてください。あと私も自由にしてください」

 

「大井北上、真面目にやるクマ」

 

 第二艦隊の旗艦であり姉でもある球磨が注意する。

 

「でもさ、多摩姉をいじめた奴らだからぶっ飛ばしてやるつもりでいたけど、木造船じゃやる気

 

 でないよ」

 

「いいから撤退するまでやるクマ」

 

 北上のやる気が出ない理由はもう一つあった。酸素魚雷の使用を禁止されたからだ。

 

 酸素魚雷は高価であり、かつ今回の敵にはオーバーキルであった。

 

 そもそも喫水の浅い木造船に魚雷が命中するのかさえ疑問であった。なので今回の海戦には通

 

 常の魚雷のみ持ってきている。

 

 そもそも雷巡いる?なんで来たのおまいら?と言われそうだが、四姉妹が希望して半ば強引に

 

 ついてきたので文句は言えない。

 

「ぢゃ、魚雷発射しまーっす」

 

 北上は接近してきた小型帆船の一団に魚雷を発射した。

 

 信管の感度と軌道の深度を調節し少しずつ変えながら発射した。

 

 

 ムルデカ達は前方から白い線が伸びてきたのを見た。

 

 その線が自分たちの船の下を通り過ぎようとしたとき、バキバキと木材がへし折れる音が響い

 

 た、そして船が沈み始めた。

 

「何が起こった!」

 

「お頭、船底がズタボロでさあ!」

 

「なんだ、さっきのは兵器だったのか!」

 

 水中を進み船底を破壊する兵器など御伽噺でも聞いたことがない。

 

 魚雷は信管の感度を鈍くしたため、船底に触れても爆発せずそのまま直進した。

 

 ムルデカの船団は停止した。

 

 よく見ると自分たちの後方、別の軍船が大爆発を起こして消え去っていた。

 

「何という威力!我々は運がよかったのか」

 

 何としても撤退する時間を稼がなければならない。

 

「おのれ、こうなったらわしだけでも乗り込んでやる!」

 

 

 北上は沈みかけた船団から人が一人飛び出し、水面を駆けてやって来たのを見た。

 

 どうやら初老の男性の様だ。艦娘でもないのに水上を走っていることに驚いた。

 

「日本の皆様、お気をつけください。あれだけの長い距離の『海渡り』が出来るのは大魔導師級

 

 に違いありません」

 

 ブルーアイが無線を通して警告してきた。

 

 海渡りは緊急時に避難するため使う魔法であるが、通常短い距離しか歩けない。

 

「へえ、つまり異世界で最強レベルの魔導師ってことね」

 

「北上さん、何を考えているのかしら」

 

 霞が訝しむ。

 

「皆は手出し無用、こいつは私に任せてもらおうか!」

 

 

「うおおお!」

 

 ムルデカは海面を走った。なぜか魔導兵器は飛んでこなかったので前方の魔船に飛び乗ること

 

 が出来た。

 

 軍船にも拘らず船員が一人も見当たらない。戦場にも関わらず静謐な雰囲気が漂う。

 

「ここはなんじゃ?まるで神殿か何かの様じゃ」

 

「元気のいい爺さんだ、ようこそ我が艦へ歓迎するよ」

 

 甲板に光る円が浮かび揚がり、女が一人浮かび上がってきた。

 

 階段も扉もないのに甲板の板を透過してきたことを不思議に思う前にムルデカは戦慄した。

 

 既に命を捨てる覚悟を決め死人と化したムルデカであったが、血の気が引いていくのを感じて

 

 いた。

 

⦅只者が乗っているはずがないとは思っておったが、これは予想してなかったわい!⦆

 

 どこぞの農家の娘かなにかに見えるが、迸る覇気は天を覆いつくすほどであった。

 

 声を聴いただけでムルデカが今まで出会った猛者強者そして遭遇した高レベルの魔物が、幼児

 

 か小動物だったと思えるほどの隔絶した強さを秘めた存在であると確信できた。

 

⦅尻に氷柱を突っ込まれた気分じゃわい!⦆

 

 神の領域に片足を突っ込んでいる、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 

 船乗りの勘というやつである。

 

 今までも生き残るために役立ったそれを疑うなど考えられない。

 

 

「貴様ら、魔帝軍か?」

 

 これまでの行動から魔帝軍ではないと思ったが一応確認した。

 

「魔帝軍?なにそれ?」

 

 この世界の住人なら御伽噺で魔帝のことは知っているはずである。

 

「4か月前に違う世界から転移してきたからこっちのことはよく知らないんだよねー」

 

「転移国家じゃと!?」

 

 日本国との最初の会談の際、外交官は転移してきたことを伝えたがロウリア側は一切信じず、

 

 上層部に報告すらしなかった。なのでムルデカは知らなかった。

 

 甲板に白地に赤い丸の描かれた国旗が掲げてあった。

 

「まさか太陽神の使者たちとでもいうのか?」

 

 

「さて、爺さんそろそろ戦ろうぜ。名を名乗りな」

 

 北上が不敵に笑う。

 

「元海賊サンパ二ラデオン頭目、現ロウリア王国海軍相談役、鉄壁のムルデカ参る!」

 

 ムルデカは覚悟を決め身体強化魔法を全開にかけた。

 

「日本海軍横須賀鎮守府所属、重雷装巡洋艦北上さあ」

 

 北上は艤装を装着していない、しかし生身の人間に負ける艦娘ではない。

 

「日本国には貴様の様な化け物ばかりなのか?」

 

「そうでもないさ、なんせ私は最強だから」

 

 最強と聞いてムルデカは奮い立った。

 

 老いたとはいえ男子、最強という言葉に憧れないわけはない。

 

 相手は日本国最強の戦士、相手にとって不足なし、漢の本懐ここに極まれり。

 

 魔力が全身に満ち、老いてなお衰えなかった筋肉を更に巨大化した。

 

「いいねぇ痺れるね」

 

 軽巡洋艦は基本的に筋肉好きである。北上もはち切れそうな筋肉に見入っていた。

 

「うおおお!」

 

 服がはじけ飛び、ふんどし一丁になる。

 

「やぁってやるぜ!」

 

 口調も若いころに戻ったらしい。ムルデカが突撃する。

 

「来な!」

 

 北上も駆けだした。

 

 

「なにがやぁってやるだ!この変態爺!」

 

 ふんどし一丁とセリフを勘違いした大井に横合いから思いっきり蹴り飛ばされて、ムルデカは

 

 海面に三度飛び跳ねて沈んだ。

 

 大井は艤装を装着した艦娘形態になっていた。

 

「北上さん!大丈夫ですか?」

 

 大井が北上の方を向くと彼女の顔がアップで映った。

 

「大井っち割り込んじゃ駄目だよ、危ないよ」

 

「へぶ!」

 

 北上の拳が大井の顔面にめり込んだ。そのままボディを殴り体を浮かせる。頭突きでさらに上

 

 空に高く放り投げる。

 

 滞空している間に北上は観艦式形態を解除し艦娘形態に移行した。

 

「40門の酸素、じゃない魚雷だけど全基持ってきな」

 

 北上は半円形を描くように航行しながら落下地点に魚雷を発射した。

 

「いやーん北上さんたら強引なんだから♡。でも嫌いじゃない、嫌いじゃないわ♡」

 

 大事なことなので二度言いながら落下した大井に魚雷が命中する。

 

「これがあたしの、あたしたちの艦隊の切り札さ!」

 

 巨大な水柱がそびえ立つ。

 

「これは大井の業界でもお仕置きです~ごふっ」

 

 大井は大破した。

 

 

「あれは途中で止められたんじゃねえか」

 

 木曾が球磨に疑問をぶつけた。

 

「いい薬クマ」

 

 やはり勝負に水を差されて怒っていたようだ。

 

「でもあれで大井姉さんが反省するか?」

 

 球磨は渋い顔をして言った。

 

「絶対無理クマ、馬鹿は死ななきゃ治らないクマ」

 

「七回転生しても直らないと思うぞ」

 

 

「ワシはあれを食らうところだったのか」

 

 ムルデカはいま海に浸かっている幸運を嚙み締めた。

 

 最も北上は魚雷を人に使うつもりはなかったはずだ。

 

 

 

 シャークンは一部始終を見ていなかったのでムルデカが死んだと思っていた。

 

「ムルデカ殿の犠牲を無駄にするな、全艦撤退せよ!」

 

 その時旗艦に砲弾が直撃し、船体が真っ二つに折れて沈没した。

 

 シャークンとカイラスは救助に来た駆逐艦雷に救助された。

 

 ギムの町で陸軍が虐殺を行ったので自分たちも報復にあうかと思ったが、拷問も私刑もしない

 

 と言われたので安堵した。

 

 その後彼は日本国に学ぶことを決意する。

 

 

「武装勢力が撤退を開始しました」

 

「よし、攻撃止め」

 

 霞は戦闘を停止させ、物思いに耽る。

 

⦅ファティマがここまで強力な兵器だったとは。今後の軍事バランスが崩壊するわね⦆

 

 これまではもし仮に艦娘が反乱を起こしても護衛艦のミサイル攻撃にて撃破できると考えられ

 

 ていた。深海棲艦には自衛隊の兵器は全く効かないが、艦娘には効果は多少低くなるものの効

 

 くのである。

 

 しかしファティマを搭載した艦娘ならば護衛艦それもイージス艦とすら戦える。

 

 自衛隊、艦娘、深海棲艦の三者で三すくみが成り立っていたのだが、深海棲艦は敗北、艦娘は

 

 退役が決まり、今後国の守りは自衛隊が担うことが決まっていた。

 

 しかし突如日本国が異世界に転移、更にファティマが登場したことによりその未来が完全に崩

 

 壊した。今後どのような事態になるか全く予測が出来ない。

 

「どこのどいつが日本を召喚したのか知らないけれど最高のタイミングだったわ!」

 

 そう最高のタイミングだったのである。艦娘は今だ退役しておらず、数年待てば護衛艦の建造

 

 が完了する。ラキシスも日本に居た。

 

 日本国を召喚したものが何者であるかは分からないが、戦力としては最も充実していたタイミ

 

 ングを狙ってやったとしか思えなかった。

 

 霞が奥歯を噛み締めていると加賀から通信が入った。

 

「霞さん、先ほどの北上さんの言動についてなのですが」

 

 規律に厳しい加賀には看過できない事があったのだろう。

 

「最強は赤城さんです」

 

 霞は考えるのを止めた。

 

 

 ブルーアイの報告書より

 

 日本海軍はワイバーン250騎を全騎撃墜。

 

 及びロウリア王国海軍4400隻のうち約1400隻を撃沈。

 

 日本国の被害は火矢により重巡妙高の塗装が一部剥げたこと、そして友軍の誤射により雷巡大

 

 井が大破したことのみ。

 

 大井が進路を間違わなければ、ほぼ無傷で決着していたと予測される。

 

 日本海軍、そして艦娘の戦力はロウリア王国海軍を圧倒的に上回る。

 

 そして霞母さんの天才的指揮により一切の死角はない。まさに完璧である。

 

 以下霞の素晴らしさを称える文が続くので省略。

 

 

 クワトイネ公国最大の経済都市マイハークは救われた。

 

 この日を記念して公国の祝日、母の日が制定された。

 

 後に日クワ両国の友好を祝して日本から全高148メートルの慈愛の聖母像(企画=大淀、制作

 

 指揮=足柄、資金提供=提督一同)が贈られた。

 

 科学と魔法が融合したその像は夏になると水着に変化する。

 

 つり目にサイドテールの聖母像はマイハーク市のシンボルとなった。

 

 後年、世界有数の経済都市そして美食の都となるマイハークの市民は、この時の恩を忘れずい

 

 つまでもこの像を愛し続けた。

 

 毎年母の日には市民が集まり、太鼓を鳴らして聖母像のモデルとなった駆逐艦を称える祭りが

 

 催されることとなった。

 

 ちなみに同様の像がムーの都市マイカル、新生レイフォルの首都カスミリア、イルネティアの

 

 港町ドイバ、そして日本の横須賀市にも建造されることとなる。

 

        (青葉出版、究極!内閣総理大臣、霞ちゃん伝説~導かれしクズ司令官より)

 

 

 

 少し時をさかのぼって聯合艦隊が出撃した後のマイハーク。

 

 日本が借りた駐屯地でマイハークの陽炎たちは悩んでいた。

 

「やはり駄目ですか」

 

「ハイ、マグナパレスニセントウハムリデス」

 

 カタカナで整備の結果を告げるのは軽巡夕張のパートナー、バスクチュアルである。

 

 

 バスクチュアル

 

 クローム・バランシェ博士の初期の作品。愛称はバシク。

 

 本人の希望によりGTMの開発専門に育成された。しかし何故か全ての感情を失ってしまう。

 

 これはバランシェ博士も意図したものではなく、かなり困惑したらしい。

 

 特定の主を定めずミラージュ騎士全てをマスターと呼ぶ。

 

 同じ性質のヴィッターシャッセという妹が居る。

 

 

 辛うじて歩かせる事は出来るものの、剣状武器ガットブロウを振るったりバスターランチャー

 

 をぶっぱなしたりすることは出来なかった。

 

 広域都市破壊兵器は使えるが弾が生産できない。

 

「仕方がないデスねマグナパレス、あなたは陽炎ちゃんの艤装に隠れてなさい」

 

 なんとジョーカー星団最強のGTMを近代化改修餌にしようと言うのだ。

 

「待って下さい、お母さま!」

 

 案の定反対の声が上がる、がこの場の誰も知らない人の声であった。

 

 ここはごく限られた関係者しか立ち入りを許されない場所である。

 

 声のする方向を見ると大きな帽子を被り、肩はとがっているのに腰回りがハイレグという珍妙

 

 奇天烈なスーツを着た女性がいつの間にか居た。

 

 その顔はラキシスに似て彼女をボーイッシュにした感じである。

 

「あら、カレン。久しぶりね」

 

「誰?」

 

「私が未来に産むことになる娘デス」

 

「はあ?!」

 

 

「要するにセワシ君みたいなもん?」

 

「大体合あってる」

 

「ただ手に負えないくらい我儘な娘なんですよ」

 

 極めて危険な人物であると分かり周囲のものが緊張に包まれる。

 

「母さま、250億年間再会の希望にしたマグナパレスをどこの馬の骨とも分からない小娘の機

 

 械に融合させるなんてお止めください」

 

 カレンはマグナパレスに思い入れがあるようだ。

 

「大丈夫、機会を見て分離できるようにするから」

 

「そういう問題ではありません!お母さまはお父様と再会したくないのですか?」

 

 するとラキシスは赤い宝石の付いたイヤリングを見せた。それを見たカレンが狼狽える。

 

「それはセントリードロップのイヤリング」

 

「そうです。天照の帝のペンダントの宝石と元々一つだったこの石は共鳴しています」

 

「もし離れ離れになったときはその音を頼りに再会しようとペアであつらえたのデス」

 

 なんだか夫婦のいい話のように一同は聞いていた。

 

「天照の帝は自分のペンダントをコーラスのディジナ王女に贈ったそうですね」

 

「うわぁ最低」

 

 それを聞いていた女性陣から猛烈なブーイングが起こった。

 

「なのでしばらく帝とは距離を置こうと思います。一億年と二千万年は最低でも」

 

「うぐぐ、でもお父様が意味不明なことをするのはいつものことじゃないですか!」

 

「いつもなのかよ!」

 

 ぐぬぬと唸っていたカレンが陽炎に憤怒の表情を向ける。

 

「この人妻を誘惑する毒婦め!四人までなら同時にオッケーって顔をしてるわ!」

 

 カレンの敵意が陽炎に向かった。どこのダークシュナイダーだ。

 

「陽炎さんはそんな人じゃありません!」

 

 潮がカレンの声を遮る。

 

「陽炎さんは五人までならオッケーです!」

 

 まさかの追い打ち、ダークシュナイダー越えである。

 

「そうだそうだ」

 

 他の第14駆逐隊のメンバーも同意する。

 

「ちょっと、私はあんたたちと粘膜をぬちゃぬちゃする関係になったことはないわよ!」

 

 するとその場にいた全員がえっ、という顔をした。

 

 楊貴まで食事の手を止めて驚いた表情を浮かべていた。

 

「何なのよコレ」

 

 

「ええい、ごちゃごちゃと騒いでも誤魔化されないわ、毒婦め成敗してくれる!」

 

「カレン!」

 

「安心してくださいお母さま、殺しはしません。殺す代わりに埼玉県民にしてあげます!」

 

 人には決して出来ない発想、吐き気を催す邪悪、これが神族なのか。

 

「そんな、筆者yutarouと同じ埼玉県民に変えるなんて、なんて恐ろしい」

 

「ふふふ、モーターヘッドをゴチックメードに変えることに比べれば容易いこと」

 

「くらえ!」

 

 カレンのクロスした腕から光線が迸る。

 

「きゃー!」

 

 陽炎に埼玉県民ビームが命中する。

 

「あれ?」

 

 陽炎はなにも変わらず立っていた。

 

「もう一度!」

 

 二回目のビームを浴びても陽炎に変化はない。

 

「何故?なぜなの?」

 

 カレンの疑問にラキシスが答える。

 

「陽炎ちゃんには神の力では干渉できないのよ」

 

「彼女は一個の完結した宇宙を内包している艦娘完全体なのよ」

 

 カレンの表情は某天空の神の様だった。

 

「なになに艦娘完全体って」

 

 陽炎の疑問には誰も答えない。

 

「ちくしょー」

 

 カレンが殴り掛かる。陽炎はカウンターを食らわせる。

 

「ぶったね、父様にもぶたれたないのに!」

 

「あのヒトは娘を殴れないデショ」

 

 ラキシスがカレンに突っ込む。一方で陽炎は大げさに手を広げて後ろを向いた。

 

「殴って悪いか、殴られたことのない人間が立派な人間になれるか!」

 

 そう言ってカレンをもう一発殴る。

 

「二度もぶった!」

 

 何故か二人の表情は満足そうだ。

 

 その時ピロリーンというフリー音源の音が鳴った。

 

「任務達成しました。ネジ二個と間宮と伊良湖を手に入れました。」

 

 スピーカーから大淀の声でそのようなアナウンスがあった。

 

「休憩しましょう。カレンさんも一緒に間宮に行きましょう」

 

 陽炎が第14駆逐隊とカレンを間宮に誘う。

 

「カレンさんじゃなくてカレンと呼んでよ」

 

「分かったわカレン」

 

「あなた達初対面よね、なんで仲良しなの?」

 

 ラキシスが疑問に思う。どうやら二人とも一目見たときから友達になれると思ったようだ。

 

 その後陽炎たちとカレンは仲良くお茶をした。

 

 今後もし地球の品が必要になった時は、カレンの能力で持ってきてくれるという約束を取り付

 

 けた。

 

 マグナパレスは陽炎の艤装に吸収されたが艤装が金色になることはなかった。

 

 




 ムルデカの元ネタは異世界転生騒動記10巻に出てくる同名の人物です。

 鳳翔さんの操竜術は「クロスボーンガンダム=鋼鉄の七人」の敵役、影のカリストをイメージ

 してください。

 陽炎と第14駆逐隊メンバーに肉体関係は有りません。

 艦娘完全体は私のオリジナル設定ですロウリア編完結後に説明する話を書きます。


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第十話 異形の少年は救世を望む

 艦娘は艦、だが人型なのだよこれがな!

 とアクセル隊長も言ってます。(言ってない)

 大変お待たせしまして申し訳ありません。会議シーンが難しかった。

 今回は暴力的な表現が多めになっています。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

 秋イベ後段作戦は無事甲勲章を手に入れることが出来ました。

 装甲破砕ギミックを解いている途中でボスに行ったら、クリアしてしまいました。

 最悪難度イベントの次に最ヌルイベントが来るなんて落差が酷い。


 第十話 異形の少年は救世を望む

 

「なぜ一騎も帰ってこないのだ?」

 

 王都防衛騎士団団長パタジンの問いかけに答える部下はいない。

 

 華々しい戦果を挙げて帰って来るはずの竜騎士団は、敵飛竜との戦闘に入るという魔信を最後

 

 に、日が暮れても一騎たりとも帰還しなかった。

 

 竜騎士たちの悲鳴と絶叫のみが魔信器から聞こえ、最後には応答が無くなった。

 

 250騎という数はパーパルディア皇国から支援を受け6年の歳月を懸けてやっと揃えた航空戦

 

 力の半数に当たる。

 

 ロデニウス大陸の歴史上、これだけの航空戦力を動かしたことはない。

 

 絶対に負けるはずがない戦力だったはずだ。しかし現実には全滅、それも帰還騎0と言う完全

 

 敗北である可能性が高い。

 

 クワトイネには一体どの様な存在が味方に付いたのだろうか。

 

 差し当たり王都の防衛力を高めるために先遣隊からワイバーン50騎を戻すよう通達した。

 

 

 パーパルディア皇国の観戦武官ヴァルハルは自室の隅でガタガタ震えていた。

 

 彼は国家戦略局が秘密裏に支援したロウリアがどの様な戦いをするか見届けるために艦隊の一

 

 隻に乗り込んでいた。

 

 古臭い艦隊ではあるが4千4百隻も集まったらどうなるのか個人的興味もあった、しかし結果は

 

 見るも無残な惨敗であった。

 

 生き残った幸運を神に感謝しつつヴァルハルは戦いを振り返る。

 

 我が国の魔導砲よりも射程が長い砲を持ち、ロウリアの軍船を滅多打ちにしていた。 

 

 敵が使役していた羽ばたかない飛竜、あれは列強第二位のムーが開発したと言われる飛行機械

 

 ではないだろうか。実物を見たことがなく噂でしか聞いたことがないが、もしそうだとしたら

 

 大変なことになる。

 

 日本国なる国はムーの支援を受けている可能性がある。もしこの国と祖国が戦争をしたら列強

 

 たるパーパルディア皇国でさえも危ないかもしれない。

 

 彼は魔信を通じて見たままを上司に報告した。

 

 

 所変わってクワトイネ公国

 

「千人以下の精鋭部隊を編成して毎回拠点を変え敵を襲撃し、戦術的勝利を積み重ねることでロ

 

 ウリア王ハーク34世を戦場に引きずり出しそこで討つ。それしかありません!」

 

 国家の一大事を協議する蓮の庭園で、ヤヴィン軍務卿はクワトイネ公国が戦争に勝利できる唯

 

 一の方程式を首脳陣に提案した。

 

「もしロウリア軍が他の都市でもギムの様に虐殺を行ったらどうするのだ?」

 

「住民には表向きロウリアに逆らわないよう通達しておけばギムの様なことはそうそう起こらな

 

 いと思います。しかしどうしても起こってしまったら見捨てるしかありません」

 

 ヤヴィンが苦渋に満ちた表情で断言する。

 

「そんな!国民を見捨てるなど出来ません!」

 

 カナタ首相が叫ぶ。しかしヤヴィンは非情な現実を突きつける。

 

「もはや我々には何も犠牲を出さずに大切な者を守ることが出来ないのですよ」

 

 出席者は皆自分達の無力さに悔し涙を流していた。

 

 

「日本はロウリア海軍を止められたのだろうか」

 

 陸だけでなく海からも侵攻されればこの国は墜ちる。だからこそ日本国には絶対に勝ってもら

 

 いたかった。あるいは少しでも戦力を減らしてほしかった。

 

「難しいでしょう。日本国が保有する軍船はおよそ300隻、たいしてロウリアは4千4百隻です。

 

 日本国の軍船の方が性能が高いとは言え相当の被害が出ていると思われます」

 

「そうか、、」

 

 カナタは艦娘たちの顔を思い描く。彼女らともう二度と会えないかもしれないと思い、胸が締

 

 め付けられる痛みを感じた。

 

 その時海軍卿が庭園に入場した。今回は海戦の結果が判明したら即時に報告するよう言われて

 

 いる。

 

「ロデニウス沖海戦の結果をお伝えします」

 

 出席者の表情が厳しくなる。皆緊張していた。

 

「して、どうなった?」

 

 海軍卿は一同を見渡していった。

 

「日本国の、大勝利です!」

 

 出席者から驚きの歓声が上がった。庭園内が喜びと安堵の空気に包まれる中、カナタは気にな

 

 ることを尋ねた。

 

「そうかそれは良かった。だが日本国にはどれほどの被害が出たのだ?」

 

「それが味方の誤射で一隻が大破した以外に損害がなかったと言っています」

 

「それはどういうことなのだ?」

 

「ロウリアからの攻撃では損害らしい損害はなく、一方的に叩きのめしたそうです」

 

 予想もしなかった結果を聞いて出席者全員の目が点になる。

 

 海戦の詳細は観戦武官の帰還を待ってから諸侯に発表することになった。

 

 一介の武官を政治部会に参考人招致することは異例であるが、実際に海戦を見た者にしか説明

 

 することが出来ないであろうと判断された。

 

 

「では何かね、日本国はロウリアの竜騎士250騎を全て撃墜し、さらに軍船1400隻を撃沈した。

 

 それでいて日本国の損害は中型の軍船である巡洋艦が一隻が大破したのみ、それは味方の誤射

 

 で敵の攻撃による損害はなし、戦死者も負傷者もゼロ。こんな現実離れした報告を信じろとい

 

 うのかね?」

 

 外務卿リンスイが不機嫌そうな口調で観戦武官を務めたブルーアイに質問する。

 

「火矢を受けた妙高殿の船体に塗装が一部剥げた損害があります」

 

「そんなものは損害の内に入らんだろう」

 

 リンスイの冷静な指摘にブルーアイは困った顔をする。

 

 何かしら損害を書かなくてはならないと思って報告書に記載したが、書いている最中にこれは

 

 突っ込まれるだろうなと思っていたが予想通り突っ込まれてしまった。

 

 しかしどう報告書を書いたら良かったのか分からない。

 

「君が嘘を吐いているとは思ってないが非現実的過ぎて信じられんのだよ」

 

 リンスイは頭を抱えて嘆いたが、その他の出席者も同じ気持ちだった。

 

 報告を聞く前は巧みな戦術が上手くはまり奇跡的な勝利を収めたと予想していた。

 

 しかし実際は圧倒的な技術力による兵器の性能差をもって正面から叩き潰したのであった。

 

 もし日本国が自国に牙を剥いたらどうなるのか想像したくない。

 

「もし日本海軍と我が国の海軍が戦ったらどうなるかね」

 

 空気の読めない諸侯が要らぬことを聞いた。

 

「、、、10分と持たないでしょう」

 

 その言葉を聞いて議事堂内がどよめきと怒号に包まれる。

 

 恐怖の悲鳴を上げる者、怒る者、パニックを起こす者、出席者たちは様々な反応を示した。

 

 その中で日本国へ行ったことのあるヤゴウとハンキはブルーアイが嘘を言っていることを見抜

 

 いていた。

 

 ロデニウス沖大海戦は日本国にとっては威力偵察に過ぎない。

 

 ロデニウス大陸の国家がどの様な武器を持ちどの様に戦うのか分からなかったので様子見に終

 

 始してた。

 

 もし日本国が本気でその全火力を叩きつけたら百隻程度に過ぎないクワトイネ公国海軍は10秒

 

 にも満たない短時間で消滅するだろう。

 

 ふと見るとブルーアイにとある老貴族が詰め寄っていた。

 

「貴様それでも公国軍人か、恥を知れ!」

 

 その貴族はノーソン伯爵といい、陸軍卿を務めていた。

 

 名門の生まれで騎士学校(士官学校にあたるもの)の成績も良かったのだが、如何せん人望が

 

 なかった。

 

 かつてエジェイ要塞司令であったとき要塞中のゴミ箱を捜索し、未使用の弓の弦が三束捨てて

 

 あったのを発見。兵士たちの気の緩みを正すと言って長時間の説教を始めたので現場の兵士た

 

 ちは閉口してしまった。その後兵士達からつるさん将軍と陰口を叩かれている。

 

 詰め寄られたブルーアイに対してヤヴィンが助け舟を出す。

 

「まあまあノーソン前陸軍卿、およそ千四百隻が二時間余りの戦闘(実際はもっと短い)で撃沈

 

 されたのですから約百隻のわが国の艦隊では十分以下で全滅するというのは計算上不思議では

 

 ありません」

 

「そういうことを言っているのではない!私は必勝の信念が揺らぐことを危惧しているのだ!」

 

 ノーソンが口唾を飛ばして反論するが、現役時代散々兵士の士気を失うことを繰り返したのは

 

 誰だ、とヤヴィンと周囲の軍人は思っていた。

 

「必勝の信念など相手も持っていますよ、誰だって勝ちたいのですから」

 

 ヤヴィンがにやりと笑って皮肉で返した。ノーソンは怒りで震えている。

 

「貴様、軍人魂を何だと、、、」

 

 両者が睨みあうなか、外務卿が発言した。

 

「皆さま静粛に、日本国からタイダル平野の貸借の要望がありました」

 

 エジェイ要塞から5キロの所にあるタイダル平野はクワトイネ公国には珍しく作物の生えない

 

 不毛の地である。日本国はこの地に駐屯地と飛行場を建設したいと要望していた。

 

「許可します。食糧などの物資はこちらで提供します。また戦争期間中は日本国に公国内の無制

 

 限自由通行を許可します」

 

 カナタ首相は即決で許可を出した。この措置にノーソンと幾人かの出席者が反発する。

 

 しかし決定は変わらない。

 

「首相!我が国の主権はどうなるのです」

 

「ロウリアの戦力は昨年の大東洋諸国会議の参加国全てを合わせたそれよりも多いのです。そん

 

 な敵に対して我が国一国でどうしようというのですか」

 

 ノーソンは歯ぎしりして悔しがった。

 

 そういえば自分が軍務卿に就くことに反対したのはこ奴らであったと思い出した。

 

 国家を私物化する奸賊を排除しなければならない。

 

 ノーソンは反日勢力をまとめ行動を起こすことを決断した。

 

 

 そのころクワトイネ・クイラ国境地帯ではクイラ王国の援軍が立ち往生していた。

 

「日本の技術者を呼ばなくては我々では修理できません。」

 

 この援軍にはクイラ王国の新兵器、鉄甲車が編成されていた。

 

 鉄甲車は日本の装甲車を模倣しようと4WDやオフロード車などに鉄板を張り付けたものであ

 

 る。 当初は鉄板を張り付け過ぎ、重くて動けなくなったりした。なので鉄板を薄くし、間に

 

 魔獣の皮を挟むなどの工夫をして防御力と軽量化を同時に実現することができた。

 

 魔獣の皮を加えたことより疑似的な複合装甲の様な効果を得ることが出来たため、本家の装甲

 

 車には敵わないが意外に防御力が高い。

 

 その性能はクイラ王国の上層部も満足のいくもので、王国は満を持して援軍の中枢戦力として

 

 送り出した。しかし異世界の悪路は技術者の想定を超えていた。

 

 国境付近が想像以上の悪路であったため足回りが故障しクイラ人では修理不能となってしまっ

 

 た。研究のため何度か分解したことも故障の原因の一つである。

 

「むう、しかし今は戦時だ。危険だから日本のメーカーは技師を派遣してくれないだろう」

 

「ではここに置いていきますか?」

 

「それはいかん、鉄甲車は我が国の機密だ、誰かに見つかって調べられたら一大事だ」

 

「ではどうすれば」

 

 ヒト族の指揮官と技術者が議論していると獣人の兵士が言った。

 

「持っていけばいいじゃないですか。このくらいなら獣人が6人程で持てますよ」

 

「あ、そうか獣人は力持ちだからこれくらい持って行けたな」

 

 指揮官と技術者は少し恥ずかしかったが問題が解決して安堵した。

 

「ではマイハークまで持っていけばそこに日本の技術者がいるから見てもらおう」

 

「了解しました。」

 

 その後故障した鉄甲車をもって移動を再開した。

 

「そういえば我らがご先祖さまが太陽神の鉄竜を持ち上げたときは太陽神の使者の方々は仰天し

 

 たらしいですね」

 

 かつて魔王と太陽神の使者が戦った際、彼らの使役する鉄の地竜が怪我をして動けなくなった

 

 事があった、その時獣人族数名が素手で持ち上げ移動させたという。

 

 その時使者たちは大層驚いたという。

 

「日本国の皆さんも驚くだろうか」

 

「ははは、違いない」

 

 その時一人の若手兵士が何かを思いついた。

 

「そうだいいことを思いついた、皆さん聞いてください」

 

 

 そのときの兵士の思い付きから生まれたのが人力戦車である。

 

 ロウリア戦役が終結してから1年後、クイラ王国の開発部から国産戦車第一号が完成したと発

 

 表され披露目された。 

 

 その見た目はかつて自衛隊で運用された61式戦車によく似ていて円形の砲塔が可愛らしい。

 

 始動したと思ったら突然車高が高くなり下から16本の足が生えてきた。そしてその足が小刻

 

 みに動いて走り出した。

 

 獣人族の怪力を頼んだ文字通りの力技で動き出した人力戦車は演習場を縦横無尽に動き回り、

 

 大砲をぶっ放して暴れまわった。

 

 その様子を見ていた日本国の来賓たちは一人残らず椅子からずり落ちた。

 

「異世界に来たことを今日ほど実感したことはない」

 

「多分一生涯夢に見る」

 

「ネタ兵器でわが紅茶帝国が負けるわけにはいかないソーフィ!」

 

 列席者はこのような感想を漏らした。

 

 その場で日本から地雷なる兵器の存在を知らされ即不採用が決定したのだが、その後の戦争で

 

 この人力戦車の目撃情報が相次いだ。

 

 いわくパーパルディア皇国のリンドブルムを蹴散らしただの、グラバルカス帝国軍から民間人

 

 を守っただの戦場伝説がまことしやかに噂された。

 

 クイラ王国はこの件に関して沈黙を守っている。

 

 

 

 場面代わってロウリア王国の謁見の間

 

「此度の海戦なぜ負けたのだ」

 

 予想外の大敗北にロウリア王ハーク34世は王都防衛騎士団団長パタジンを呼び出した。

 

「申し訳ありません、生き残りから海戦の様子を聞いても荒唐無稽な内容の証言ばかり出て来ま

 

 して真偽を確かめるのに時間がかかっております。原因がはっきりするまで海軍による進出は

 

 控えるように致します」

 

「何も分からぬというのか」

 

「一つ確かなのは開戦前に軍靴などの装備品に不良品が含まれていたと報告がありました」

 

「それだ!敗戦の原因はそれに違いない!ならば装備調達担当者を打ち首にせよ!」

 

「ははっ!」

 

 哀れ敗戦の責任を負わせる格好の生贄になった装備調達担当者はロデニウス沖海戦の最後の戦

 

 死者となった。

 

 

 

 日本国のマスコミはロデニウス沖海戦の勝利を報じたがさして大きな関心を呼ばなかった。

 

 それよりも陽炎が第14駆逐隊メンバーと百合関係にないと発言したことが衝撃をもって受け

 

 止められた。

 

 この発言を受けて百合同人業界は今後の活動方針を大きく転換するか、それとも今まで通り突

 

 き進むのか決断を迫られた。

 

「ふふふ、やはり”かげ×ぬい”こそ至高」

 

「黙れ!”かげ×ぼの”は滅びぬ!何度でも甦る!」

 

「”あら×なが”は変わらないよね、ね?」

 

「”かげ×むら”はどうなる?どうする?」

 

 日本はこの時はまだ危機感を持っていなかった。

 

 

 

 ヴァルハルの報告を受けたパーパルディア皇国の国家戦略局は日本国という謎の国家について

 

 協議していた。

 

「なんだこの報告は!我が皇国よりも射程が長い魔導砲にムーの飛行機械、挙句の果て空飛ぶワ

 

 イバーンを正確に打ち落とす魔導兵器だと、観戦武官はふざけているのか!?」

 

「ヴァルハルは真面目なだけが取り柄でしたが、蛮地での赴任が長く精神に異常をきたしている

 

 のかもしれません。今度交代させてやりましょう」

 

 国家戦略局の課長は観戦武官ヴァルハルの報告を世迷言と切って捨てた。

 

「しかしこの海域に国などあったか?」

 

「この海域は航海の難所でして碌な調査もされていませんでした。おそらく群島の蛮族が集まっ

 

 てできた新興国家でしょう」

 

「原始的な軍船とはいえたった十二隻相手に千四百隻も撃沈されるとはな。特にこの細長い魔導

 

 砲の様な兵器でワイバーンを打ち落とした、という報告は余りにも現実離れしていないか?」

 

 魔導砲は命中率が悪い。だからこそ多数の砲を積んだ戦列艦というものがあり、それを空を飛

 

 ぶ目標を狙って命中させるなど出来るわけがない。

 

 

「軍船の破壊状況から見て魔導砲と造れるくらいの技術力はあるようだが、ロウリアが負けるこ

 

 とはあるまいな?万一負けることになったら援助した金が回収できなくなってしまうぞ」

 

「ロウリアは人材の質は悪いですがとにかく数だけはいます。質が物を言う海戦ならともかく、

 

 陸戦なら負けることはないでしょう」

 

「ならよいがな」

 

 

「ムーの支援を受けている可能性はないのでしょうか」

 

「ないな、第二文明圏からここまで二万キロも離れている。第三文明圏に介入するくらいなら大

 

 陸の再統一を図るはずだ」

 

「それに最近第八帝国とかいう新興国家が第二文明圏全ての国に宣戦布告したとかいう話だ。そ

 

 の対応に手いっぱいで第三文明圏に手を出す可能性は低いだろう」

 

 その言葉に会議室内の人々が失笑する。列強国二つを含む国家群に文明圏外国が戦争を吹っか

 

 けるなど無謀に過ぎる。

 

「念のためシオスとアルタラスにあるムーの飛行場でここ数年なにか大きな動きがあったかどう

 

 か確認しておけ」

 

 この二か国にはムーが専用の飛行場を建設している。(飛行機械の飛行場ではワイバーンは爪

 

 が引っ掛かって離着陸に適さない) おそらく我が皇国をけん制するために誘致したのだろう

 

 が、いつかそれは甘い考えであると思い知るだろう。

 

 第三文明圏にムーがその手を伸ばすとするなら必ずこの飛行場で動きがあるはずだ。課長はこ

 

 の二か所の監視を強化することを指示した。 

 

「最悪日本国がムーの傀儡国家で飛行機械が提供されていても旧式機か性能を低くした機体だろ

 

 う。最新鋭機でなければワイバーンロードで対抗できる。心配いらない」

 

 ムーの最新の飛行機械マリンはワイバーンロード相手に航空優勢が取れるほど強力な機械であ

 

 るが、そんなものを外国に提供するわけはなく、旧式機ならばワイバーンロードの方が優勢が

 

 取れるのである。

 

「了解しました」

 

 国家戦略局は現地の派遣員に日本国について情報を集めるよう命令を出して会議を終了した。

 

 

 

 エジェイ要塞の西25キロの地点をエルフの集団が移動していた。

 

 周囲には肉が非常に美味な野生牛が草をはみのどかな雰囲気であるが彼らは必死であった。

 

 彼らはギムの町とエジェイ要塞の間にあるエルフの村から逃げてきた疎開集団である。

 

 その数約二百人。

 

 村の若者が町に買い出しに行った際に買ってきた、ラジオという魔道具の様な物は魔力通信器

 

 よりも手軽に使えるという。若者はそれから流れるアイドルという歌い手の歌に魅了されて買

 

 ってきたらしい。

 

 村に帰ってラジオを起動してみるとギムが陥落し住民が虐殺されたというではないか。しかも

 

 自分たちの村が避難命令区域に入っていた。普段外界との交流が少ないため気が付かなかった

 

 のである。

 

 夜のうちに急いで荷物をまとめ出発したがあと少しでクワトイネ公国軍の基地に着く。

 

 そこまで行けば安全であるが、今進んでいるこの場所は遮蔽物が少なく見つかりやすい。

 

 ある少年が妹の手を引いて歩いていた。その名はパルン。

 

 病気で母を亡くし父親と妹の三人暮らしであったがロウリアとの緊張が高まった頃、父親は軍

 

 に予備役召集された。

 

 ある朝父親が出ていく際言った言葉が胸に刺さった。

 

「パルン、アーシャを頼んだぞ。お兄ちゃんなんだからな」

 

 パルンは妹アーシャを絶対に守ると心に誓った。

 

 進む速度はなかなか上がらず焦るパルンであったが、ついに恐れていた事態が起こる。

 

 集団の後方で警戒していた村の若者がロウリアの騎馬隊を発見したのだ。

 

 

 

 ロウリア王国ホーク騎士団所属、第15騎馬隊隊長”赤目のショーヴは不機嫌だった。

 

 なぜならギムの町で彼はほとんど楽しめなかったからである。

 

 獣人の夫婦とその娘を嬲って殺そうと思っていた。殺さないでくれと哀願していたが構わず

 

 まず母親を殺した。しかしその後油断していた彼の手を父親が思いっきり嚙みついた。

 

 もちろんすぐさま父親を殺したがショーヴの指は千切れかかるほどの大けがを負っていた。

 

 軍の治癒魔法の使い手に治してもらおうとしたが、玉ねぎ頭の副将が戦闘で負った怪我ではな

 

 いから金を取ると言い出した。

 

 その治療代は完全に治癒させるとこの戦の儲けが全て吹っ飛ぶ額であった。

 

 仕方が無くとりあえず指を切断せずに済むくらいに治癒をとどめて置いて残りは自然に治るの

 

 を待つことにした。

 

 ケチな副将は闇討ちしてやろうかとも思ったがどうも勘が鋭いのでやめた。

 

 そして最後に残った娘はまだ殺していない。

 

 この手の怪我が治ったら生まれてきたことを後悔するような拷問を考え付く限りのやってやる

 

 つもりである。娘の父親には亜人の分際で人間様に嚙みついたことを、あの世で後悔するよう

 

 にしてやろうと思っている。

 

 そして今も娘を馬の背に括り付けてている。本陣に置いて誰かに盗まれるわけにはいかない。

 

 また溜まった時に処理するのに好都合であったので常に連れまわしている。

 

 部下にも好評である。

 

 

「獲物発見。野郎ども突撃だ殺しまくれ!」

 

「ヒャッハー!」

 

「正規騎士の掛け声がヒャッハーって、ロウリアってどんな国だよ!」

 

 エルフの若者の誰かが叫ぶ。筆者が日本国召喚第一巻を読んだ感想はこれと同じだった。

 

 ロウリア王国は領土を拡大する際山賊や盗賊などから腕に覚えのある連中を取り込み、爵位を

 

 与え貴族とした。

 

 ロウリア王国東部諸侯団所属ホーク騎士団もまた山賊から成りあがった騎士団である。

 

「男は殺して魔獣の餌にしてやれ!女は犯してから魔獣の餌だ!」

 

「隊長、お話があります!」

 

 ショーヴの山賊時代からの副官が真剣な様子で声をかけてきた。

 

「なんだ?」

 

「エルフの美少年は殺さずに私に下さい。興味があります」

 

「え?」

 

 ショーヴは一瞬真顔になった。副官がそっちの趣味を持っていたとは今まで気付かなかった。

 

 こんな時どう返したらいいのか判断が出来ない。ホーク団長ならどう答えるだろうか?

 

 ショーヴはホーク団長の言葉を思い出す。

 

「ホーク騎士団心得!」

 

「エンジョイ、アンドエキサイティング!」

 

「男か女か言ってたら人生損しちゃうぜ!」

 

「ヒィヤッハー!」

 

 

 奇声を上げながら迫りくる騎馬隊を見てパルンは恐怖した。

 

 何を言っているのか分からないが自分たちを殺そうとしていることは分かる。

 

 一体自分たちが西の国の人たちに何をしたというのだろうか。

 

 父さんが言うには公国は千年以上他国に戦争を仕掛けていない。

 

 なぜ彼らは僕たちを殺そうとするのか分からない。

 

 この世の理不尽に泣きたくなる。しかし妹だけは絶対に守らなくてはならない。

 

「アーシャ!必ず守ってやるからな」

 

 パルンは母の話してくれた御伽噺を思い出していた。

 

 

 遠い昔北の大陸に魔王が現れた。

 

 多数の強力な魔物を率いてフィルアデス大陸の人々を襲い多くの国と集落を滅ぼした。

 

 ヒト族、エルフ、ドワーフ、獣人たちはお互いの軋轢を一時棚上げし、多種族連合を結成しお

 

 互いの長所を生かして対抗しようとした。

 

 しかし魔王軍の力は強大で多種族連合は敗退を重ねた。

 

 ただしエルフはその高い魔力を持つことから脅威となると判断され、魔王軍はエルフを根絶や

 

 しにするため神森に攻撃を仕掛けた。

 

 エルフの神(緑の神)は我が子同然の種族を守るため自らの創造主でもある太陽神に祈り、助

 

 けを求めた。太陽神は緑の神の要請に答え自らの使者をこの世界に遣わした。

 

 その代償として緑の神は自分の名前を失ったという。

 

 

 太陽神の使者たちは鋼鉄の魔船に乗って現れ、空飛ぶ神の船や鋼鉄の地竜を操り魔王軍を蹴散

 

 らした。魔物の大群は雷鳴の様な轟きと共に大地を焼く魔導をもって消滅させた。

 

 神武の超鋼をまといし太陽の神兵は徒手空拳でもって魔物を肉片に変えた。

 

 魔王はその力に慄き、まともに戦おうとはせず逃げの一手で北の大陸に撤退した。

 

 フィルアデス大陸を開放した使者と多種族連合は北の大陸との結節点に世界の扉と呼ぶ城壁を

 

 築き魔王軍を封じ込めた。

 

 太陽神の使者たちが帰るとき人々は金銀財宝を渡そうとしたが彼らは決して受け取らず、鋼鉄

 

 の魔船に乗って帰っていった。

 

 神の森の奥には故障した空飛ぶ神の船が一隻残されたという。その船は今では失われた古代魔

 

 法である時空遅延式保管魔法によって大切に保管されている。

 

 

 

(お母さんは本当にあった話だっていってた。神様、緑の神様、太陽神様、自分はどうなっても

 

 構いません。自分の命ならあげますのでどうか妹の命だけは助けてください!)

 

 パルンは必死になって祈るが何も起こらない。

 

「ヒャッハー!ぼやぼやしてっと殺しちまうぞ!」

 

「空を見ろ!あの星が輝いてるぜ!」

 

 ロウリア兵の声が聞こえるようになり村人の中にはあきらめてへたり込む者も出てきた。

 

 パルンは自分の体を盾にしてアーシャを抱え込み叫んだ。

 

「神様ァ!助けてェェェ!」

 

 その時エルフの村人の周囲を強烈な光が照らした。

 

 

「救世を望むのはお前か、異界異形の少年よ」

 

 バタバタという音が響く中、その声はパルンの耳に届いた。

 

「神様、僕の命を捧げます。ロウリアの魔の手から救ってください」

 

「勇気ある少年よ貴様の願い聞き届けた」

 

「神様が太陽神の使者たちを遣わせてくれたくれたんだ!」

 

 パルンは目に涙をいっぱいにして歓喜した。

 

 

「陽炎さん、、」

 

 ラキシスがジト目で見てくる。

 

「あはは、やっぱりカッコいいセリフだったから私も言いたくなっちゃった」

 

 先ほどのセリフは西太陽系ボォス星に伝わる御伽噺の中にあるセリフである。

 

 悪魔に攻められたある国の王女を助けた異界の神のセリフで、天照の帝もカッコいいからいつ

 

 か言ってみたいと言っていたセリフであった。

 

 

 ショーヴは困惑していた。空に黒くて細長い箱の様な物体が浮かんでいる。

 

 その中の中央の空飛ぶ箱から紐が釣り下がっていてそれに人が逆さまにぶら下がっている。

 

 その人間から目を閉じていても眩しいくらいの光が発せられ部隊は足を止めた。

 

 ショーヴは馬がバランスを崩し転倒しそうになったので自分から馬を降りて転倒を避けた。

 

 その後は空飛ぶ箱から光と炸裂音がする度大地が爆ぜて仲間が吹き飛び死んでいく。

 

 山賊時代から苦楽を共にした仲間が虫の様に殺されていく。

 

 空の上にある敵に攻撃する手段はこちらにはない。

 

 ショーヴは退却しようと馬の背を見るとあるものが目に入った。

 

 

「攻撃中止!拘束された民間人を発見しました!」

 

 ラキシスの報告に陽炎は奥歯を噛み締めた。最悪だ。

 

 陸自のヘリ”AH=1Sコブラ”からぶら下がって探照灯を照射していた陽炎は照射を止め牽

 

 引索から足を外した。

 

「陽炎さん、なにをしているんですか。危険です」

 

 ラキシスがその行動の真意をただす。

 

「そう危険だからあたしが行くの。一番危険な海域に最初に突っ込むのが駆逐艦の役割なのよ」

 

 これこそ駆逐艦魂というやつなのだ。ラキシスが絶句しているのが分かった。

 

「KAREM(艦娘活動範囲拡張機構=Kanmusu Activity range expansion mechanism)起動」

 

 艦娘が地上でもその力を発揮できるようにする新たな装備”KAREM”を起動した。

 

 艦娘大地に立つ。

 

 

 KAREMは前の防衛副大臣が自身と関係の深い軍需企業にひそかに研究させていた装備である。

 

 艦娘を地上でも戦力化することにより彼は日本が世界を征服することも可能と考えた。

 

 もしそんなことが出来れば疲弊した世界の他の国に比べ多くの艦娘を保有する日本は優位に立

 

 てるであろう。そんなことが出来ればの話であるが。

 

 艤装のスクリューの回転をローラーブレードの車輪に伝えるこの装備は結局、地上に居る時は

 

 艤装が動かないという問題を解決できなかった。

 

 失敗作として倉庫の奥に放り込んであったこの装備であるが、異世界に転移してある物と出会

 

 って一気に実用可能となった。

 

 それは魔石である。

 

 水属性の魔石は常に水の魔力を放出している。その水の魔石を艤装に装着させることにより、

 

 いつでもどこでも艦娘が海に居ると艤装に認識させることに成功した、してしまった。

 

 これにより海の上では無敵の力を持つ艦娘が地上でもその力を振るえるのである。

 

 

 

 赤目のショーヴは歓喜していた。先ほどから空飛ぶ箱からの攻撃がない。

 

 アレを使役しているのはきっとどこかの騎士団だろう。それも相当の甘ちゃんの騎士たちに違

 

 いない。そういった連中は人質を取れば攻撃してこなくなる。うまくすれば逃げられる、ショ

 

 ーヴの心に希望が芽生えた。

 

「おうこら、この人質が目に入らねえか、攻撃を止めて地上に降りてこい!」

 

 ショーヴは人質の獣人の娘を左腕で抱え右手で短剣を娘の喉に押し当てている。

 

 左手はこの娘の父親に噛みつかれた傷があるが何とか抱え上げるくらいはできる。

 

 そうこうしているうちに箱の一つから、ぶら下がっていた人影が落ちてきた。

 

 その人影は金属が擦りあうような音を立てて、馬よりも速いスピードで近づいてきた。

 

「待て、そこで止まれ!」

 

 ショーヴが慌てて制止する。

 

「あんたたち!その子を放しなさい!」

 

 近づいてきたその人物はなんと15歳くらいのヒト族の娘であった。

 

 物凄い大きな声で人質の解放を叫んだ。

 

 眉間にしわを寄せ、怒りの目をしていなかったら惚れてしまうくらい可愛い。

 

「くくく、いいぜ嬢ちゃんが俺たちの相手をしてくれるならな}

 

 ショーヴが下品な目で陽炎の体を舐めまわすように見つめる。

 

「あたしが行けばその娘さんは解放するのね」

 

「ああ、俺はな、仲間は知らんがな」

 

 ショーヴは解放するが他の仲間がまた拾っていくつもりであった。

 

 

「く、こいつ」

 

 陽炎は人質の様子をみる。人質の娘は気を失っている。

 

 明らかに凌辱された痕跡、そして切傷や火傷などの拷問を受けたらしい跡もある。

 

「さあ、さっさと仲間を引かせろ。人質がどうなってもいいのか」

 

 陽炎とショーヴが睨みあう。

 

「誰か本隊に連絡しろ」

 

「お頭、じゃなかった隊長、我が隊に支給された魔力通信器は二器、隊長と副隊長が持っていま

 

 したが副隊長はさっきの攻撃で死にました。魔力通信器も跡形もなく壊されました。残ってい

 

 るのは今隊長が持っているものだけです。魔力通信の魔法が使える者は我が隊に居ません」

 

「隊の内情を敵の前でべらべらしゃべるんじゃねえよ。俺は手がふさがっているから誰か俺の耳

 

 から魔力通信器を取って本体に連絡しろ」

 

 不味いこのままでは逃げられる。陽炎が焦る。

 

 

「陽炎さん」

 

「なあにラキシス?止めても無駄よ」

 

「止めませんよ。もし必要なら私も剣を取って戦いますから」

 

 陽炎は驚いた。

 

 一見か弱そうな少女なラキシスが自分から戦うと言い出すは思っていなかった。

 

「私結構強いんです。並の天位騎士くらいなら余裕で勝てます」

 

「天位?」

 

「天位というのはジョーカー星団で様々な分野で多大な功績を残した人に与えられる称号です」

 

「天位騎士の審査は現役の剣聖かもしくは騎士の力量を量ることが出来るバキンラカン帝国の聖

 

 帝が審査します。地球でいうと剣術のノーベル賞といったところです」

 

 かなり高い権威ある称号の様だ。そしてその剣士を彼女は一蹴できるというのだ。

 

「頼もしいわ」

 

 陽炎はラキシスの本来の性格がかなり好戦的であると察した。

 

(この子カマトトぶっていたけどとんでもない難物だわ)

 

 その性格は村雨や荒潮に近いのではないだろうか。

 

「ラキシス、今度から私のことは陽炎と呼んでね」

 

「はい、陽炎」

 

 

 

「さあ空飛ぶ箱を引かせろ、そして嬢ちゃんは俺たちと来るんだ」

 

「俺たちで可愛がってやるぜ」

 

「この獣人の娘の負担を減らしてやろうとは思わないのか?可哀想だろ」

 

 ホーク騎士団の生き残りの面々が口々に勝手なこという。陽炎は我慢していたが最後のショー

 

 ヴの言葉にキレた。

 

「まあこの亜人は用が済んだら殺すんだけどな!」

 

 

 フィィィィィィィィィィィィィィィィン!!

 

 陽炎の怒りに答え新型艦本式缶と改良型タービンが唸りを上げる。

 

 マグナパレスを吸収してから陽炎の缶とタービンは軽快な駆動音を上げるようになっていた。

 

 それはさながら金管楽器の様だった。

 

 

「な、なんだ?これは!」

 

「不味いですぜお頭、こいつ魔導師ですぜ」

 

「なんて魔力だ!これは魔導師じゃなくて大魔導師ですよ」

 

 自分たちは絶対に怒らせてはいけない相手を怒らせた。彼らはそのことにやっと気が付いた。

 

 目の前の魔導師が発する振動で地面が揺れる。

 

 

 少女は消え入りそうな意識の中で父の最後の言葉を思い出していた。

 

 逃げろ、と。

 

 父は私だけでも逃がそうと残虐なロウリア兵の隊長に噛みついたがすぐ殺されてしまった。

 

 父が殺されるところを見て私は足がすくんで動けなくなった。

 

 せっかく父が命を懸けてくれたのに何も出来なかった。

 

 父さんごめんなさいと心の中で謝る。

 

 もう一度父の声が聞こえたような気がした。

 

 逃げろ、と。

 

 

「うあああ!」

 

 突然人質の娘が暴れだした。ショーヴは必死に抑え込もうとする。

 

「こら暴れるなって、痛ってえ!」

 

 左手の傷が広がり激痛がした。そして人質を放してしまった。

 

 

「貰ったわ!」

 

 人質が地面に倒れこむ前に陽炎がKAREMを全力駆動して前進、少女を抱きかかえた。

 

 

「あんたたちよくも今まで好き勝手絶頂やってくれたわね!」

 

 陽炎は少女をお姫様抱っこしながら怒りを爆発させた。

 

 ショーヴは全てが終わったことを察し、顔面を蒼白させた。

 

「イマラ・ロウト・ジャジャス直伝、必殺姉ちゃんキック!」

 

 陽炎は片足を振り上げ、ショーヴの足と足の間を蹴り上げた。

 

(馬鹿め俺はこんなこともあろうかと中古で買った神聖ミリシアル帝国騎士のファウルカップ

 

 を装備している。混ミスリル製でどんなハンマーでぶっ叩いても壊れなかった優れものだ。金

 

 的なんて無駄無駄、ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!)

 

 ミスリル製のファウルカップは卵の殻のように砕け散り、ショーヴの男性としての人生は終焉

 

 を迎えた。平原に名状しがたい悲鳴が響き渡る。

 

 その場にいたロウリア騎馬隊、自衛官、エルフの男衆は全員血の気が引いて体の芯が縮みあが

 

 るのを感じた。

 

「女を舐めんじゃないわよ!」

 

 

 イマラ・ロウト・ジャジャスは北太陽系カラミティ星の小国アティアに王女として生まれた。

 

 宇宙の治安を守るイオタ騎士団の団長の息子と結婚し一男を儲ける。

 

 彼女自身も宇宙海賊退治で功績をあげ、ミラージュ騎士団にスカウトされる。

 

 またAKD(天照帝に忠誠を誓う国家の連合体)宇宙軍司令長官を兼任している。

 

 その性格は極妻。

 

 捕虜にした海賊のタマ〇ンをことごとく蹴りつぶし宇宙の男達全員から恐れられている。

 

「ギムで好き勝手にやったロウリアのクソ野郎どもは全員同じ悲鳴を上げさせてやるわ」

 

「ひい逃げろ!」

 

 騎馬隊の生き残りは脱兎のごとく逃げだした。しかし陽炎たちは許さない。

 

「ラキシスお願い」

 

 ラキシスは陽炎の後頭部に増設されたファティマシェルから出て人間大になった。

 

 そして魔法で質量のある分身”ミラー”を作りあげた。

 

 さらに光の光輪をひとり12枚、二人で24枚作りだし騎馬隊に投げつけた。

 

 ダブルヘキサグラム、剣聖級の剣士のみ使える剣技である。

 

 光の光輪は人間を易々と両断し殺傷した。

 

「(うわ、凄い)この子をお願い」

 

「分かりました」

 

 分身体のラキシスは人質の少女を抱え自衛隊の元に向かう。

 

「さて、行きますか」

 

 陽炎は艤装から7.7ミリ対空機銃を顕現し構えた。

 

 KAREMを走らせ突撃する。

 

 機銃を乱射しながら平原を疾走しロウリア兵を次々と討ち取っていく。

 

「全ての艦娘にはね、近接格闘武器が常設されているのよ」

 

 万能斧、それは海で働く人間にとってあらゆる扉を開けるマスターキーである。

 

 そして艦娘が振るえばあらゆる敵を打ち倒す最強の武器となる。

 

 陽炎は擦れ違いざまに万能斧でロウリア兵の首を跳ね飛ばしていった。

 

「とどめよ、12.7㎝連装砲C型改二、撃ち方始め!」

 

 駆逐艦の主砲が火を噴き第15騎馬隊の生き残り全てをあの世に送った。

 

 

 エルフの疎開集団は困惑していた。

 

 自分たちを殺そうとしていたロウリア兵を撃退した謎の集団が味方かどうか確信が持てなかっ

 

 たためだ。もしも彼らが自分達にも牙を剥いたら今度こそ自分達は終わりである。

 

 そうこうしているうちに先ほど物より大きく胴の太い空飛ぶ箱が飛んで来た。

 

 それが発生させる強烈な風に村人達は怯えるがそれは平原に舞い降りた。

 

 やがてはその扉が開き、緑と茶のまだら模様の服を着た男達と真っ黒い服をきたやたら顔の白

 

 くて胸の大きい女が現れた。

 

 どう見ても蛮族と女アンデットにしか見えない。

 

「お怪我のある方はおられませんか」

 

 ヒトが出せる大きさの声を遥かに超えた大音量でそう言われたが、かえって村人たちの恐怖は

 

 高まった。働けぬ者なら殺してしまおうと判断されるかもしれない。

 

 そのうちロウリア兵を駆逐したあの女大魔導師が戻って来た。

 

 村人たちの恐怖は頂点に達した。

 

 その中で恐れを知らない子供のパルンが前に進んでいった。

 

「あなた達は太陽神の使者様ですか?」

 

 

 

 あきつ丸と自衛官達は困惑していた。救助対象者たちは怯え切って避難してくれない。

 

 そんな中一人の子供が近づいてきた。どうやら日本の国旗が太陽であるから勘違いしているよ

 

 うだ。嘘も方便と思い陽炎に話を合わせる様に頼んだ。

 

「そうよあなた達を助けるように言われてきたのよ」

 

 陽炎がうなずいて答えると村人たちがどよめく。

 

「太陽神のお使いだと」

 

「確かに船に太陽の紋章が描かれている」

 

「兵士たちの服にも太陽の紋章があるぞ」

 

「空飛ぶ神の船に大地を焼く魔導、それにあの方はもしや太陽神の神兵!?」

 

「太陽神の神兵は全身を鎧で覆っているのではなかったか?」

 

「いや一万年も前の神話だから所々違っているのやもしれん」

 

「やはりこの方々は太陽神の使者様に違いない!」

 

 村人達は一斉に平伏した。

 

 

 しまったと思う艦娘と自衛隊だがもう遅い。

 

 彼らをヘリに載せようとしたが恐れ多いと言って乗ってくれなかった。

 

 そして最初に声をかけてきたエルフの少年が陽炎の前にやってきた。

 

「僕はパルンと言います、妹を助けてくれてありがとう御座います」

 

 なぜかパルンの顔は真っ赤に上気していた。

 

「当然のことをしたまでよ」

 

 陽炎がやさしく微笑む。するとパルンはとんでもないことを言い出した。

 

「約束どおり僕の全てを捧げます。どうぞ僕を食べてください」

 

 そう言ってパルンは服を脱ぎだした。

 

「ちょ、なにやってるのー?!」

 

 陽炎が仰天し絶叫する。

 

「約束ですからあの、痛くしないでくださいね」

 

 全裸のエルフの少年が上目づかいでそう言ってきた。

 

 どこからどう見ても事案発生にしか見えない。

 

「もしもし憲兵本部?憲兵を二個大隊重装で、大至急お願いします」

 

 あきつ丸が憲兵の派遣要請をしている。その目には軽蔑の色が見える。

 

「ちょ、違う」

 

「見損ないましたよ陽炎殿、この異常性欲!変質者!提督!」

 

「ひどい!」

 

 

「あの、やっぱり思いっきり痛くしてください!」

 

 陽炎はいたいけなエルフの少年に歪んだ性癖を植え付けてしまったようだ。

 

「いいかげんにしてバカおにい!」

 

 幼いアーシャが妹キックを兄にかました。

 

 彼女だけが状況を正しく理解していた。そのあとアーシャの説得で村人の誤解を解き、無事輸

 

 送ヘリに載せ安全な場所まで送り届けることが出来た。

 

 陽炎はアーシャに泣いて感謝したのだった。

 




 烈海王は異世界転生でも一向にかまわん!が面白い。ゴブリンヌンチャクなんて最高過ぎる。

 ノーソンの元ネタはもちろん銀英伝です。

 ドーソン大将って戦後どうなったんでしょう、出番がないので分かりません。

 神武の超鋼をまとう神兵は覚悟のススメとエクゾスカル零が元ネタです。

 勅命により葉隠瞬殺無音部隊から隊長の息子他数名が派遣されたという設定でお願いします。

 パルンは性的な意味で食べてと言ったわけではありません。

 服を脱いだのは食べるのに邪魔だと思ったからです、きっと。

 この作品では提督を変態や変質者などを表す単語としても使います。

 なぜなら艦隊これくしょんというゲームをやりこんでる人間は大体変態だからです。

 (↑偏見)


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第十一話 エジェイの休日

 スティッキィー=フィンガーズ!

 八幡丸こと雲鷹ちゃんが実装されましたね。

 ココラング磯波といい神鷹といい最近のしばふ艦は目つきが色っぽい。

 彼女らはきっとプラスチックスタイルが似合うと思うんですよ。

 マイラスの正体が白ブチャラティだったとは海のリハクをもってしても見抜けなかったわ!


 ホーク騎士団第15騎馬隊隊長ショーヴは重傷であったものの生きて捕虜となった。

 

 彼はクワトイネ公国に引き渡されたのち取り調べを受けた。

 

 その結果、山賊時代に公国内において強盗殺人、人身売買などの犯罪行為を行っていたことが

 

 明らかとなり、戦後の裁判で死刑判決を下された。

 

 

 

 ロウリア王国先遣隊から分離した東部諸侯軍は偵察に出した第15騎馬隊が戻らない理由につい

 

 て協議していた。

 

 機動力に優れた騎兵が誰一人戻らないなどよほどのことがあったに違いない。

 

「一瞬でしたが極めて強大な魔力が検出されました」

 

 それはパーパルディア皇国製の魔力検出器の測定上限を上回り検出不能な値であった。

 

「推定ではありますが魔力値100万以上と思われます」

 

 東部諸侯軍司令部は戦慄する。

 

 ロウリア王国筆頭魔導師であるヤミレイですら約8000である。

 

 百万という数字は古龍などの伝説級の存在でもなければ在り得ない数字である。

 

「まさかリーン=ノウの森のハイエルフが出てきたのか、この段階で?」

 

 クワトイネ公国で高い魔力を持つ存在といえば彼らしかいない。

 

 ハイエルフが集団で大規模魔法を使えば瞬間的に百万という魔力が検出する可能性がある。

 

「ハイエルフは自分達自身に危機が及ばない限り参戦してこないはずではなかったのか?」

 

「司令部の予想が外れたということか」

 

 ハイエルフが出てきた以上この後の侵攻は慎重に行うべきと一同は考えていた。

 

 東部諸侯軍の指揮官であるジューンフィルア伯爵は騎士道精神あふれる実直な男である。

 

 捕虜の虐待や民間人の虐殺などの行為を忌み嫌い決して行わなかった。

 

 また気の強い妻が怖いので戦場で女性を手籠めにすることもしなかった。

 

 クワトイネ公国と国境を接し幾度となく矛を交えてきた彼の一族は、そういった行為を行うと

 

 地元民から余計な恨みを買いその後の支配が難しくなることを経験で知っていた。

 

 恨みを抱いた住民は再び戦が始まればサボタージュを起こしたり情報を敵国に流したりする。

 

 最悪用を足すため部隊から離れた兵士をさらって嬲り殺しにすることもある。

 

 

「日本国の仕業という可能性は有りませんか」

 

 幕僚の一人が発言した。

 

「日本国?なんだそれは」

 

 ジューンフィルアは知らなかった。

 

「四か月ほど前クワトイネ、クイラ両国と国交を結んだ新興国です」

 

「ワイバーンを持たない蛮国と聞いていますが」

 

 魔導師のワッシューナが辛うじて知っていた。

 

「ロデニウス大陸で活動している冒険者から情報を集めた結果、当初の想定よりも発展している

 

 可能性があります」

 

「なんだと?」

 

「彼らはクワトイネから大量の食糧を輸入しその対価にインフラと様々な魔道具を輸出している

 

 ということです。マイハークの港は整備され大型船が出入り可能になり、道は繋ぎ目のない石

 

 畳の様な物で舗装されてとても歩きやすいそうです。また日本国製の魔道具は非常に便利なの

 

 だそうです」

 

「しかも海上の戦闘に特化した女魔導師を多く抱えていて、公都の港に現れた邪竜タラスクをい

 

 とも簡単に撃破したそうです」

 

「なんとあのタラスクを!?」

 

 それを聞いたワッシューナはわなわなと震えた

 

「まさかあの噂は本当のことなのか?」

 

「何か知っているのかワッシューナ」

 

 ワッシューナの様子がおかしいのでジューンフィルアは心配になって聞いた。

 

 ワッシューナは自らの弟子をロデニウス大陸各地の魔導師ギルドに送り込み、ギルドの掲示板

 

 に張り出されるニュースを確認させていた。

 

 その中に決して見過ごせないニュースがあった。

 

「マイハークへ侵攻していた我が国の海軍4千4百隻が日本国の海軍12隻に敗退したそうです」

 

 ロデニウス沖海戦での大敗は戦意の低下を考慮して極一部の高級幹部を除いて非公開にするこ

 

 とが決まっていた。そして東部諸侯軍には知らされていなかった。

 

「さらに海軍を支援するため出撃したワイバーン250騎も、彼らが使役する羽ばたかない飛竜

 

 と空飛ぶ標的を正確に打ち落とす魔導兵器によって、損害を与えることなく全滅させられたそ

 

 うです」

 

「まてまて、今戦に動員された我が海軍はそれだけでも公国を征服できる規模だったはずだ」

 

「たとえ相手が列強パーパルディア皇国であってもその包囲網を食い破り皇国本土に上陸するこ

 

 とも可能と言われていたのだぞ」

 

「ワイバーン250騎が何もできず全滅?そんなこと有り得ない」

 

 会議は紛糾する。

 

「欺瞞情報に決まっている」

 

「しかし先日先遣隊のワイバーン50騎を王都に戻すよう命令されました。これはどう説明する

 

 のですか」

 

 海軍敗北の噂は本当なのか、日本軍は強いのかそれともハイエルフが出てきたのか、判断する

 

 時間が欲しい。この先には騎馬隊を連絡する暇も与えず全滅させた敵がいる。

 

 ジューンフィルアは慎重に事を進めたいと考えていたが、彼の望みを粉々に打ち砕く命令書が

 

 届いた。

 

「東部諸侯軍はエジェイ要塞の西側3キロの位置に陣を構築し、同要塞に対し威力偵察を実施せ

 

 よ。本隊の合流をもってエジェイ攻略戦を開始する」

 

 そこには先遣隊主将の名が記されていたが実際に発行したのは副将アデムである。

 

 威力偵察を行えという命令なので成果を報告しなくてはならない。

 

 内容が悪ければ司令官から外され死亡率の高い突撃隊などに回されるだろう。

 

 しかしエジェイはクワトイネが絶対防衛線として定めその総力を挙げて築き上げた城塞都市で

 

 ある。ギムの町とは比較にならないほど防衛力が高い。

 

 東部諸侯軍は精強とは言え2万、数が足りない。

 

 中途半端な攻撃を仕掛けて反撃に遭えば自分達は壊滅するだろう。

 

 ジューンフィルアとしてはアデムの命令には異議を唱えたかったが、彼の命令に逆らうと自身

 

 だけでなく家族まで原因不明の死を遂げるという噂がある。

 

 そしてそれは事実であった。

 

 これまで表立って(表沙汰にできない)功績を上げてなかったアデムだが、ギムの戦の功績で

 

 男爵に叙爵されることが内定していた。

 

 アデム配下の魔獣使い達は下に見られていた自分達の仲間から貴族になる者が出ることを喜ん

 

 だ。しかし当のアデム本人は亜人が殺せればいいと頓着しなかった。

 

 ちなみに与えられる家名はコエメーダ男爵という。

 

 ギムを落とした副将アデムの権限は拡張され、東部諸侯軍に対し進軍を急ぐように命令が下さ

 

 れた。ジューンフィルアは痛む胃の辺りを抑えながら東に兵を進めることを決定した。

 

 

「それにしても何故ホークは会議に出席しないのだ」

 

「不要だ、あ奴がいない方が活発な議論ができる」

 

 何故ならホークは東部諸侯軍を監視するために送り込まれた人物だからだ。

 

 送り込んだのはもちろん副将アデムである。

 

 その後会議の結果を彼に伝えるためワッシューナがホーク騎士団のテントを訪れた。

 

 テントの幕を捲るとすえた臭いがした。

 

 中を覗くと裸のホーク団長が全裸の女性を抱きかかえていた。女性はぐったりしている。

 

 ワッシューナは獣の様なホークの顔を見て恐怖を憶えた。

 

「ホーク団長、何してる」

 

「なにってナニさ、見てわかんだろ」

 

 床には他に2名の女か転がっている。

 

「ギムの住民か?」

 

「こいつらはビーズルの娼婦さ、ギムの女はもう使えなくなっちまったよ」

 

 彼女らはロウリアの工業地帯ビーズルから帯同してきた商人の連れてきた女たちである。

 

「我が国の国民ではないか」

 

「だから無茶はしないさそれより何だ」

 

「我が隊の方針が決まった、これよりエジェイに向かう」

 

「了解」

 

 ワッシューナは用件だけ伝えそそくさとテントを去る。

 

 ホークは中肉中背で傭兵としてはそれ程体格の良い方ではないが、人並外れた怪力を持つ。

 

 王が初め犯罪者上りの騎士団を任せようと思っていた男とホークが勝負した事があった。

 

 一瞬で、団長予定の男は城の塔の先端に突き刺さっていた。

 

 ワッシューナはホークが魔族が人間に化けているのではないかと想像し恐れた。

 

 

 第14駆逐隊はあきつ丸が運転する陸自の輸送車に同乗しエジェイ要塞に向かっていた。

 

 その車内は笑い声に包まれている。

 

「小官は陽炎殿を信じておりましたよ」

 

「嘘つけ!」

 

 前日の戦闘後、救助された幼いエルフの少年が陽炎の目の前で服を脱ぎだすという珍事があっ

 

 た。どうも誤解があったらしく、その少年は神の生贄になるつもりだったらしい。しかし傍か

 

 らみたら陽炎がいたいけな美少年に悪戯しようとしているようにしか見えなかったのである。

 

 もし誤解が解けていなかったら今頃陽炎はよくて営倉行き、最悪解体され除隊もあり得た。

 

 陽炎はこれまでも深海棲艦との戦い以外に様々トラブルに巻き込まれてきた。

 

 今回はその中でも最悪のものに匹敵するだろう。

 

「ぷっ、あはははは!」

 

 皐月と曙はまだ笑っている。

 

「いつまで笑っているのよ!」

 

 

「陽炎、横須賀鎮守府から通信です」

 

「横須賀から?何かしら」

 

 陽炎はラキシスから通信器を受け取った。

 

「もしもし陽炎ちゃんお姉ちゃんですよ」

 

 陽炎に向かってお姉ちゃんと自称するのは横須賀の重巡愛宕である。

 

(陽抜の愛宕は自分のことをお姉ちゃんと呼ばせようとする困ったさんです)

 

「どうしました、横須賀で何かありましたか」

 

「そうじゃないのだけど、なにか嫌な予感と言うか胸騒ぎがして」

 

 愛宕の胸が騒ぐのなら大災害だろうな、と陽炎はどうでもいいことを思った。

 

「陽炎ちゃん、エルフの美少年に変なことしてない?」

 

 ゴンッ!

 

 陽炎は輸送車の窓ガラスに頭をぶつけた。

 

「陽炎ちゃんまさか本当に?」

 

「してません!」

 

「なんだか一生に何度もないチャンスを逃した気がしてたけれど、羨ましい!」

 

「人の話を聞いてください!」

 

 その後陽炎は何もしてないという言葉を二十回以上繰り返してやっと愛宕をなだめ、通信を切

 

 ることが出来た。

 

 

「陽炎、高雄さんから通信です」

 

「もしもし陽炎さん、ちょっと嫌な予感と言うか胸騒ぎがして」

 

「ブルータスお前もか」

 

 内容は愛宕と同じだった。

 

 

「陸奥さんと香取さんからも通信が入っていますが、私から返信しておきます」

 

「ありがとうラキシス」

 

 ラキシスは出来る秘書である。

 

 

「お疲れですね陽炎さん」

 

 疲労困憊の陽炎を見て潮が心配する。

 

「なんなのよ、みんな変なカンが鋭すぎるでしょ」

 

「皆深海棲艦との激闘を乗り越えてきたからな、カンが鋭くもなるさ」

 

 我関せずと静かにしていた長月がそう評した。

 

「欲望に忠実なだけだと思う」

 

 霰が長月の言葉に返した。

 

「心配しなくても私たち第14駆逐隊の皆は陽炎さんはそんなことをしないと信じてます」

 

 潮が代表してそう陽炎を励まし、他のメンバーも頷く。

 

「あんた達どうせ『陽炎の好みは美少年じゃなくて美少女だよね』って言うつもりでしょう!」

 

「ばれた!」

 

「陽炎こそカン良すぎ!」

 

 大騒ぎする彼女らの様子を見てあきつ丸が一言。

 

「第14駆逐隊のの皆様は何時も仲良しでありますな」

 

 その一言を聞いた陸上自衛隊第七師団団長、大内田和樹は疑問に思った。

 

「あれは仲がいいのと言えるのか?」

 

 あきつ丸は呆れてため息を吐く。

 

「相変わらず貴様は女子の気持ちが分からん奴だ、そんなだから何時まで経っても恋人が出来ん

 

 のだ」

 

「余計なお世話だ」

 

 するとさっきまで騒いでいた第14駆逐隊の面々が一斉にこっちを向いた。

 

「ねえねえ、二人はどういう関係なの?もしかして恋人?」

 

「違うであります」

 

「世界が滅びてこいつと二人きりになったとしても恋人になることは有りません」

 

 大内田はきっぱりと否定した。

 

「いやん、ここまで断言するとかえって怪しいんですけど」

 

 陽炎たちは女子っぽいに歓声を上げた。

 

「小官とこいつは姉弟なので」

 

「なーんだ、つまんない」

 

 陽炎はシートに倒れこんで不貞腐れた。

 

「少女漫画だったら禁じ手だよそれは」

 

「いつの時代のことを言っているんですか」

 

 しかし大内田の副官の顔は青ざめていた。

 

「師団長の姉ってあの伝説の自衛官”灰の幽霊”?死んだはずじゃ」

 

 

 そうこうしている内に石の城壁が見えてきた。

 

 到着すると霰がエジェイ要塞について説明し始めた。

 

「ここがエジェイ要塞、正式名称は城塞都市エジェイ。国境から公都への侵攻ルートを食い止め

 

 るために公国が造り上げた要衝。ここが落とされると首都まで遮るものが無くて危険」

 

「ワイバーン50騎、騎兵3千、弓兵7千、歩兵2万。総兵力約3万人のクワトイネ公国西部方

 

 面師団主力が駐屯中」

 

「城壁は高さ25メートル。ワイバーンは対空戦闘の訓練を施されていて防空も万全。

 

 城内には泉があって水には困らない。食糧も長期間籠城できるだけ備蓄されている」

 

「クワトイネ公国の大多数の人はこの要塞の防衛力には絶対の自信を持っている。

 

 要塞司令官はノウ将軍、ノーソン伯爵家嫡男、父親は前陸軍卿。プライドは高い」

 

 

 以前から霰は出向する基地や泊地を事前に調べ、仲間に教えていた。

 

 改二改装を経て大発を装備出来るようになると日々強力になる陸上型深海棲艦との戦いの最前

 

 線にその身を投じた。

 

「霰が敵将だったらやる気のない夜襲を繰り返して守備兵の疲労を誘う」

 

 そして霰は過去の攻城戦の歴史などを調べ始めた。

 

 霰はプチ歴女と化し城跡などを見ると攻略法を考えずにはいられなくなっていた。

 

 

「霰、どこで調べたの」

 

「ヤヴィンさん、軍務卿の人。いろんな漫画を教えてあげたら代わりに教えてもらった」

 

「それ他の人には話さないでね」

 

 軍務卿ヤヴィンは地球の戦史を学ぶという名目で戦争を題材にした小説、漫画、アニメそして

 

 ゲームを収集していた。軍務省内には戦史資料室が3つあり、第一はこの世界の戦史資料。第

 

 二は地球の実際に遭った戦争の資料と戦術教本が収められている。

 

 そして第三資料室には創作物の戦術教材が集められている。

 

 その実態は漫画喫茶となっている。大量の漫画が集められ、様々なアニメが見られる。

 

 ヤヴィンはアニメを見ながら原作の小説を読み、アニメ好きの自衛隊員に教えてもらいながら

 

 短期間で日本語をマスターした。

 

 また彼の妻は喫茶スペースで働いている。目的は浮気していないか監視することと、注意しな

 

 いとそこに入り浸って家に帰ってこないからである。

 

 

「このエジェイには問題がある」

 

「ここの司令官は日本が嫌いだから日本のインフラ工事が一切されてない」

 

「つまりここには電気とガスと水道がない」

 

 ある意味で大問題である。第14駆逐隊の皆は沈黙に包まれた。

 

 一応彼女らも軍人である。過酷な条件下でのサバイバル訓練を受けている。

 

 であるが、あるのにあえてない状況に身を置くのは無意味なことではないだろうか。

 

 一応彼女らも乙女なのである。

 

「一応ってなに、ソレいらないよね」

 

 失礼しました。

 

「大内田さん、私たちも陸自とご一緒して宜しいでしょうか」

 

「了解いたしました」

 

 

 エジェイ要塞司令官ノウは自信に満ち溢れていた。

 

「この城塞都市エジェイは、、、」

 

 霰がもう言っているのでカット。

 

「ノウ将軍、日本国の方が来られました」

 

 ノウは日本国が気に喰わなかった。海戦ではたった12隻で4千4百隻を撃退したというが、

 

 そんなことは出来るわけがない。いくら何でも脚色しすぎであろう。

 

 日本国の援軍はたった6千、数がものをいう陸戦では戦局を左右するような戦果は挙げられな

 

 いだろう。大体日本国の人口1億2千万人からすると6千という数は少なすぎる。日本国には

 

 やる気がないと感じられる。

 

 そもそも自国に外国の軍隊が居ること自体が気に喰わない。

 

「よし、通せ」

 

 要塞司令執務室に汚いまだら模様の服を着た男二人と若い娘二人が入って来た。

 

「日本国陸上自衛隊、第七師団長の大内田です」

 

「日本海軍、第二艦隊第二水雷戦隊所属、第14駆逐隊嚮導、陽炎です」

 

 男達の服装はノウの気品ある宝石で飾られた服と違い粗野で野蛮であった。

 

 こんな蛮族が着るような服を着た男が将軍とはノウは信じられなかった。

 

 そしてこの小娘が噂に聞く艦娘とやらか、とノウは思った。

 

「ようこそ日本国の皆様、私はクワトイネ公国西部方面師団将軍ノウといいます。この度の援軍

 

 に感謝します。」

 

 まずは社交辞令から入った。

 

「御覧の通りこのエジェイは難攻不落。いかなる大軍をもってしてもこれを抜くことは不可能で

 

 しょう。我が国の誇りにかけてロウリアは我々だけで退けます。なのであなた方は基地から出

 

 る来なく後方支援をしていただきたい」

 

 ノウの側近達が彼に合わせて笑い声をあげる。

 

「自衛隊の皆様はどうぞ安心して我らの後ろに隠れていてください、前世界のように」

 

 大内田の眉が小さく動く。

 

「それはどういった意味でしょうか」

 

「聞くところによると前世界であなた方の軍隊は海魔と舟幽霊(シーゴースト)の大量発生によ

 

 って壊滅し、その後は艦娘なる女子供を前線に出して戦わせたというらしいではないですか」

 

 大内田と副官の顔が強張る。ノウの側近たちはクスクスと小さな笑い声を上げる。

 

「そのような軟弱、いえ失礼した実戦経験の少ない者たちをいきなり前線に出すわけにはいきま

 

 せん。どうぞ女の背に隠れていたように次は我々の背に隠れていると良い」

 

 ノウは高らかに笑った。

 

「どうせ政府に言われて体裁を整えるためだけに来たのだろう。臆病者は何もせず引っ込んでい

 

 ればいい」

 

 ここまで言い切ってノウは不審に思った。事前の打ち合わせではここで側近たちが一斉に笑っ

 

 て挑発する手筈であった。しかし先ほどからしゃべっているのは自分だけだ。

 

 横を見ると側近たちは顔面蒼白、もしくは大量の脂汗を搔いているかのどちらかであった。

 

「おい、貴様らどうした。顔色が良くないぞ」

 

 正面を見ると陽炎と名乗った小娘がこちらを睨んでいた。

 

「何だ小娘、目つきが悪いぞ」

 

「あー!いけません!」

 

 突然ノウの副官が口を塞いだ。

 

「何をする!」

 

 副官が切羽詰まった様子でノウの顔を覗き込んだ。

 

「将軍、分からないのですか?」

 

 ノウには実戦経験がなかった。高位貴族の嫡男として生まれ、父親から徹底的に甘やかされて

 

 育った。戦場に出ても安全な後方の陣地で実家の護衛に囲まれていた。

 

 剣術は習ったが道場剣術で実際に人を斬ったことはなかった。

 

 頭自体は良いので管理運営能力はあった。彼の能力は後方支援に向いているのだろう。

 

 だから目の前に激怒した魔竜がいて、茜色の二つの尻尾を振り乱し、今まさにブレスを吐く寸

 

 前であることに気付きはしなかった。

 

 陽炎の放つ強烈な殺気に側近たちは威圧されていた。

 

「失礼しました。将軍の鼻毛が出ていたのでつい」

 

 副官が言い訳をしてその場を取り繕った。

 

 侮辱された大内田ではあったが、陽炎が自分達以上に怒っていたので冷静になった。

 

「前世界については致し方ない理由があったとご理解ください」

 

 その上でこのエジェイに連絡員を置くことに了解を得た。

 

 

「お前たち、いったい何のつもりだ!」

 

 ノウが側近達を叱責する。

 

 後半はノウの副官と大内田とで話し合い、ノウは参加させてもらえなかった。

 

「将軍の安全のためです」

 

「何だと!」

 

「それよりもトイレに行ってきてもいいですか、ついでに下も着替えたいので」

 

 側近の全員が頷いていた。

 

 

 要塞司令部の建物の前で第14駆逐隊の面々が待っていた。

 

 異常を感じ取ったのか代表して長月が尋ねる。

 

「陽炎どうした、殺気が出ていたぞ。何があった」

 

「ここの司令官に日本の男は臆病者だと言われたわ」

 

「は?」×5

 

 他の五人も怒りを露にする。空気が震え、地面が揺れる。

 

 入口を守っていた衛兵は失禁して気絶した。

 

「女の背に隠れる軟弱者とかミミズ野郎だとか玉無しだとか」

 

「陽炎殿、後の二つは言われてませんでしたが」

 

 あきつ丸が突っ込むが六人は聞く耳持たない。

 

「どうする?ここ潰す?ねえ潰す?」

 

 何時もは朗らかな皐月が物騒なことをいう。

 

「まって、あたし達ならそれは簡単だけどそれをやっても日本男児の汚名返上にならないわ」

 

 かつて提督達は女子を戦場に送り出すこと、自分達は何も出来ない事に深く苦悩していた。

 

 その傷に軽々しく触れたノウ将軍を決して許さない、と陽炎達は心に誓ったのだった。

 

 第14駆逐隊は円陣を組んでなにやら相談していた。

 

 それを見ていた大内田と副官は物凄く嫌な予感がした。

 

「よし、それで行こう」

 

 話がまとまった様だ。陽炎達が大内田に向き合う。

 

「このエジェイに置く連絡員ですが、我々第14駆逐隊に任せてもらえないでしょうか」

 

「え?」

 

「大丈夫です、日桑友好のため異文化交流をしてお互いの理解を深めようと思います。ここの人

 

 たちには髪の毛一本ほどの傷もつけません」

 

「それは当たり前のことなのですが、本当に大丈夫なのですか?」

 

「93式酸素魚雷に誓って大丈夫です」

 

 魚雷は命中率が低いということで有名ではなかったか、大内田は訝しんだ。

 

「榛名は大丈夫です」

 

 榛名さんなら大丈夫だろうが、あいにくここにはいない。

 

「いいだろう浜風のおっぱいも賭けよう」

 

 ここにいない浜風のおっぱいが無断でベットされた。さすがに勝手すぎるかもしれない。

 

「龍驤さんのおっぱいも揉んでいいぞ」

 

 無理だ!

 

「それ存在しないものを手に掴む極意を会得してないと揉めないやつ」

 

 大地を斬り、海を斬り、そしてすべてを斬る。そういった類の極意であった。

 

 

「和樹よ、慎重も度が過ぎると好機を逃すぞ。そんなだからいつも貴様は好きになった子に告白

 

 できずに自然消滅するのだ。貴様の様な奴は婚期に焦ったアラサー女に度胸付けで逆ナンされ

 

 る事態でも起こらないと恋人ができまい」

 

「姉貴こそ好きな男子を校舎裏に呼び出したら果し合いと勘違いされて土下座されたことがあっ

 

 たろう。その後警察を呼ばれて大変だったんだぞ」

 

「貴様!それを言うな!」

 

 姉弟喧嘩が始まり、大内田は追いかける姉から全速力で逃げていった。

 

 あきつ丸は速度が遅い。彼女は艦娘になる前よりも走るのが遅くなってしまっていた。

 

「じゃ、了解を得たということで」

 

 エジェイに残る観測員は陽炎以下第14駆逐隊6名とあきつ丸、そして陸上自衛隊員43名が

 

 選出された。

 

 

 ノウは悩んでいた。エジェイ要塞の5キロ先にロウリア兵約2万が陣を張ったのだ。

 

 数が少ないので先遣隊であることは明白である。本隊の到着を待って総攻撃を仕掛ける思惑で

 

 あろう。合流前に殲滅したいがこちらから手を出して自軍の戦力を消耗するわけにはいかな

 

 い。どうするか迷っていると夜間に城壁に近づいて大声で騒ぐということを繰り返した。

 

 毎晩のように敵兵が大声で騒いだり襲撃するフリをするので、要塞の守備兵は寝不足で疲労が

 

 蓄積されていった。戦意も下がってきているようだ。

 

 ノウは遅い朝食を食べながら今後の作戦について考える。

 

 メニューは干した魚と芋のスープ、内陸部のエジェイでは貴重な海産物を使った高級士官用の

 

 献立である。調理したのは公都の有名レストランからスカウトしたシェフである。

 

「ところで妻と娘はどうした」

 

「お二人とも日本の自衛隊の所です。風呂が気に入ったと」

 

「なんだと!」

 

 観測員として要塞内に残った自衛隊はこちらが用意した宿舎を断り、広場にテントを張って寝

 

 泊まりしていた。中を検分する際あの小娘(陽炎のこと)が女性が暮らす空間なのだから、調

 

 べるのは女騎士がするようにと要求してきた。

 

 仕方が無く言う通りにすると中から女騎士の悲鳴が聞こえてきた。

 

 慌てて中に入ると悲鳴に聞こえたのは実は歓声で、彼女らは温かいお湯の出る洗面所に歓喜し

 

 ていた。さらに風呂があることに驚いていた。

 

 クワトイネは文明圏外国の中では比較的上位ではあるがまだまだ風呂自体が少ない。

 

 大量の水と薪を用意する必要があり財力のある大貴族でもなければ所有していない。

 

 日本国は贅沢品である風呂をあろうことかテントの中に作ってしまったのだ。

 

 一体どの様な魔法を使ったのか想像もつかない。

 

 

 

「筋トレすれば万事解決!」

 

「体力つければ全部解決!」

 

「汗を流せ!」

 

 練兵場では金髪の艦娘、皐月が先頭に立ってランニングしていた。

 

 艦娘と自衛隊員がトレーニングしていると言うので、そこに公国の精鋭騎士を合流させその体

 

 力を見せつけることで優位に立とうという作戦だ。

 

 海魔に負けるような軍隊なのだからその兵士の体力など大したことないだろうと思っていた。

 

 しかし我が公国の騎士はついていくのにやっとという感じである。

 

 というかさっきから何周走っているのか分からない。それでも自衛隊員たちは平然と走ってい

 

 るし、先頭を行くのはあの生意気な艦娘どもである。

 

「情けないぞ、それでも栄光ある公国騎士か!」

 

「しかし将軍やつら全員化け物じみた体力の持ち主です」

 

「泣き言をいうな!根性が足りん!」

 

 騎士たちは半泣きで走り続けた。

 

 

「次行くよー、

 

「筋トレすれば万事解決!」

 

「体力つければ全部解決!」

 

「汗と一緒に弱い自分を流してしまえ!」

 

 そしてさらに筋トレが延々と続き大半の騎士たちが潰れた。

 

 ノウは配下の騎士たちの不甲斐なさに激怒した。

 

 陽抜の皐月はかつて自分の弱さに全てを諦めかけていたが、ある時呉に努力家の駆逐艦がいると

 

 聞き、取り敢えず体力をつけようと考え四六時中筋トレをしていたのである。

 

 

 朝練後の休憩時間に陽炎から提案があった。

 

「魔法を覚えるの?」

 

 曙が怪訝そうに聞く。

 

「そうよ、まずは私たちの活動に有効な魔法から習得しようと思うの」

 

 そう言うと陽炎は持っていたカップを上下逆さまにひっくり返した。

 

 中に水が入っていたカップからは何も落ちてこない。

 

「驚いた?これが水操作(ウォーターコントロール)よ」

 

「凄いけどこれが一体何の役に立つの?」

 

「この世界の船乗りは浸水したとき、この魔法で水を排出するのよ」

 

 さらに極めれば浸水を止めるも出来るという。

 

「思った以上に私たちに関係する魔法じゃない!」

 

 第14駆逐隊は水操作の魔法を覚えることを決めた。

 

 

 ノウは仕事帰りに市街地にある行きつけの酒場に寄った。

 

 ここは高級士官専用の酒場で、ノウがいるのは要塞司令官のみが利用できる貴賓室である。

 

 この部屋を作らせたのは彼の父親であるノーソン伯爵であり、この店の主人は父親の愛人で

 

 あった女性だ。

 

 ノウは両脇にこの店のナンバー1とナンバー2を侍らせ酒を飲んでいた。

 

 今日の酒は初めて飲んだ物でとても美味く、彼は上機嫌であった。

 

「ねえ将軍、わたし欲しいものがあるの」

 

「なんだ言ってみろ、なんでも(機密費で)買ってやるぞ」

 

「私日本の化粧品が欲しいの」

 

「私はシャンプーとリンス、それで洗うと髪の毛が美しくなるの」

 

「ねえ将軍のお力でなんとかできないかしら」

 

 ノウは渋面を作った。さっきまで美味かった酒が何故が酷く苦い。

 

「駄目だ、日本国の製品なんぞこの国に必要ない!」

 

「でも今将軍の飲んでいるお酒は日本のお酒ですよ」

 

 ノウは酒が気管に入ってむせてしまった。そしてその日はそのまま何もせず帰った。

 

 

 次の日、エジェイ市の市長と商工会の代表が会談を申し入れてきた。

 

 市長は日本のインフラ整備を受け入れるよう陳情してきた。

 

「エジェイは軍事拠点である。他国の業者を入れるわけにはいかん」

 

「しかしこのままではエジェイは公国の発展から取り残されてしまいます」

 

「海軍が日本国を全面的に受け入れたマイハークは目覚ましい勢いで発展しています」

 

「ここは公国でも最重要拠点だぞ、機密が漏れでもしたらどうする」

 

 すると横からノウ将軍の秘書が発言してきた。

 

「お言葉ながら将軍、日本国は我が国より技術力ではるか上をいっており、列強に匹敵すると言

 

 われています。漏れて困る機密など在りはしません」

 

 おかしい、昨日まで自分に忠実だった秘書兼愛人が反抗してきた。

 

「日本国と協力することは国の方針です。各地の軍事拠点のインフラ整備はその地の司令官の監

 

 督のもと行われます。工事の許可証には首相と軍務卿のサインが既にあります。後は司令官の

 

 サインだけです、早くサインしてください」

 

「駄目なものは駄目だ!」

 

 ノウは席を蹴って立ち上がり部屋から出て行った。

 

 残った者達は扉を見つめてため息を吐いた。

 

 

 そのころ第14駆逐隊は魔法を練習していた。

 

 陽炎はカップの中に指を突っ込み呪文を唱えながらゆっくりと指を引き抜く。

 

 すると陽炎の指にはカップの形に固定された水があった。

 

「やったわ!成功よ!」

 

 と喜んだ瞬間、陽炎の指の水塊ははじけ飛んだ。

 

「きゃっ、濡れてしまいました」

 

 潮が盛大に水を浴びてしまい、制服からブラが透けて見える。

 

「ごめんね、でも宿命だから」

 

 潮は陽炎の謎の言動に疑問符を浮かべた。

 

 彼女らを指導していた魔術師は驚いた。

 

 前日に魔法の修行を始めた者が成功できることではないからだ。

 

 

 次の日のノウの朝食はパンとハムそしてワインであった。

 

 料理人は屋敷には居らず書置きにはこう書かれていた。

 

「日本国が料理を教えてくれるので行ってきます」

 

 ノウは無言でぱさぱさのパンを食んだ。

 

 

 自衛隊のキャンプでは異文化交流の一環として前世界の料理を提供していた。

 

 今日のメニューはクラムチャウダーだ。

 

 料理を提供しながら曙は疑問を呈する。

 

「なんで陽炎はクラムチャウダーだけ美味く作れるのかしらね」

 

 陽炎の料理の腕は壊滅的であった。

 

 一応食べられるのが、ただ栄養補給するためだけのものでしかない代物だった。

 

 その陽炎が唯一料理と呼べるレベルで作ることが出来るのがクラムチャウダーであった。

 

「公式設定だからじゃない?」

 

「身も蓋もないわね」

 

 

「あらノウ将軍、いらっしゃいませ」

 

 昼食の時間になっても料理人が帰ってこないのでノウは自衛隊のキャンプにやって来た。

 

 ここで飯を食べて文句の一つでも言ってやろうと思っていた。

 

 しかし出てきた食事はノウの想像を超えていた。

 

「干してない生の貝だと?腐りやすい食材ではないか!」

 

「大丈夫ですよ日本には様々な食品保存技術がありまして、こういった痛みやすい食材も風味を

 

 損なわず長期保存が可能なんです」

 

 ノウは衝撃を受けた。それこそクワトイネ公国に最も必要な技術ではないか。

 

 もしかして日本国と敵対するのは得策ではないのではと思ってしまった。

 

 驚愕したままスープをすする。牛の乳を使った少しとろみのあるスープに海産物と野菜から出

 

 たうま味が合わさり得も言われぬ美味を奏でている。

 

「美味いな」

 

 ノウはそう言ってクラムチャウダーを全て平らげ帰っていった。

 

 

 第14駆逐隊の魔法修業は順調だった。

 

「見てみて、ボク潮!」

 

 皐月が胸を張ってそんなことを言う、彼女の胸には二つの巨大な塊が付いていた。

 

「大きさ、形、潮と寸分たがわないわ」

 

 皐月は水操作の魔法で潮のおっぱいと同じ大きさの水塊を胸につけていた。

 

「いつも見せつけられているからね、再現は簡単さ。でもかなり重いよ」

 

 長月も真似して巨乳化した。

 

「潮もよくこんなの付けていられるな」

 

 もはや朝潮型とは言えない胸をした霰は感慨深げに呟く。

 

「一度言ってみたかった、あー肩こるわー」

 

 第七駆逐隊で最も胸が平たかった曙は嬉しさから目の端に涙を浮かべている。

 

「あたしも言いたい、あー肩こるわー」

 

 ある一つの女性の夢が叶った瞬間だった。

 

「皆さん、おふざけはほどほどにしてください。さもないとこちらにも考えがあります」

 

 そう言うと潮は水操作の魔法で女性の裸の胸像を創り上げた。

 

「これは陽炎の胸!?」

 

 陽抜の陽炎は公式設定より明らかにおっぱいが大きい、それを完全再現した像であった。

 

「これを人目の付くところに飾ります」

 

 第14駆逐隊の面々の水パッドが一斉に破裂した。

 

「止めてください」

 

 全員土下座した。

 

 第14駆逐隊の中でおっぱいについて最も知っているのは潮である。

 

 恐るべきも知っている。攻めるべきも知っているのである。

 

 その様子を見ていた魔術師は遠い目をしていた。

 

 魔力操作が抜群に上手い先輩が酒の席でよくやっていた遊びであった。

 

 自分にはまだそこまでの技術はない。

 

 

 夜になって料理人が帰って来た。

 

 叱責しようとしたが、逆に日本の調理家電について熱く語ってきた。

 

 家電製品と呼ばれる日本の魔道具があれば作れる料理の幅が広がる。だからインフラ整備をし

 

 てエジェイでも家電が使えるようにしてください、と頼まれた。

 

 ノウは迷い始めていたが一族の長である父親は反日の方針を示している。

 

 だから難しいと伝えたら、料理人はそうですかと言って退職願を出した。

 

 この戦闘が終わったら即座に都市を出てマイハークに行くそうだ。

 

 そして親戚友人に頭を下げて金を借り、自分の店を開くと決めたのだという。

 

 

 ノウが自室で残業していると黒い服の男が入って来た。ノーソン伯爵家お抱えの影である。

 

「伯爵様の密書をお届けに上がりました」

 

 父の指令書を届けに来たようだ。

 

「ここに来るまでに誰かに見つかっていないだろうな」

 

「申し訳ありません、途中でおかしな娘達に見つけられてしまいました」

 

「なんだと!」

 

 この者は伯爵家でも一番の手練れであり、それが易々と見つかったことに驚いた。

 

 おかしな娘と言うのは艦娘のことだろう。

 

「副官殿に伯爵家の者と保証され開放していただきました。ですがその密書だけは見られないよ

 

 う死守しました」

 

 この影は咄嗟に密書を入れた筒を尻の穴に隠して難を逃れたらしい。

 

 ノウはそれを聞いて顔をしかめた。

 

 気を取り直して父からの密書を読む、親日勢力の切り崩しはうまくいっていないようだ。

 

 何としても自国の戦力のみでロウリアを打ち倒し公国の威光を見せつけろ。

 

 父はそのように言ってきた。

 

 ノウはそれが困難であることを予感してた。

 

 

 ロウリア東部諸侯軍はエジェイ要塞から西に5キロの地点に本陣を構えた。

 

 命令書には3キロの地点に陣を構えよとあったが、なんだか嫌な予感がしたのでこの場所に変

 

 えた。この程度なら現場指揮官の判断で変更が許されるだろう。

 

 何故かエジェイからの攻撃はなかった。

 

 約300名の騎兵を選抜し交代で夜間威嚇を行った。

 

 その他の兵は十分な睡眠を取れて元気である。

 

 ギムで奪った食糧は大量にある。流石のクワトイネ産で実に美味い。

 

 エジェイの守備兵は疲労が溜まっているようで動きが鈍くなっていると報告が上がっている。

 

 この調子なら先遣隊司令部の命令は遂行できるだろう。

 

 ジューンフィルアは胸を撫で下ろした。

 

 

 そのころホーク騎士団の陣地で問題が起こっていた。

 

「彼女らをどこにやったのですか!」

 

 ビーズルの商人が所属の娼婦が何時まで経っても帰ってこないのでホークを問い詰めていた。

 

「知らねえな」

 

 ホークはこれまでも相手をした娼婦が怪我をしたり、心を病んだりする事件を起こしている。

 

「そもそもあなたが客だと分かっていたら断ってましたよ」

 

 ホーク王様の覚えが良いので事件を起こしても不問にされている。

 

 なのでロウリアの娼婦はホーク騎士団の客を取らない。

 

 娼婦らは別人の名前で呼び出され、いつの間にかホーク騎士団の陣地に移動させられたのだ。

 

 商人は自らの沽券にかけてこの男を訴えることに決めた。

 

「我が商会は宰相様や首都防衛騎士団長とも面会することができるのですぞ、この戦いが終わっ

 

 たら必ずあなたを訴えます」

 

 ホークはつまらなそう聞いていたが、砥石を問いだして自らの剣の手入れを始めた。

 

「では失礼します!」

 

 商人は怒ってテントを出ようと後ろを向いた。

 

 ごっと音がして商人の後頭部に砥石がめり込んだ。

 

「あーあ、手が滑った」

 

 商人は即死していた。

 

「あの三人と違って不味そうだか、もう直ぐ戦だし、喰っちまうか」

 

 団長のテントからは骨を嚙み砕く音が聞こえっていた。

 

 ホークは何時も骨付き肉の骨まで食べていたので不審に思う団員はいなかった。

 

 その後その商人まで帰らなかったので、東部諸侯軍に帯同していた他の商人達は怖がって陣地

 

 を引き払って後方へ下がってしまった。

 

 

 陽炎達は自らが作った水球の上で昼寝をしていた。

 

 それは程よい弾力で歴戦の戦士を堕落させるのに十分であった。

 

 第14駆逐隊は完全にオフの日モード、だらけ切っていた。

 

 先ほどから潮の胸部装甲が揺れる様を男どもがチラ見している。

 

 かがんでパンツを覗こうとした愚か者には妖精たちが探照灯を浴びせていた。

 

 しかし指導役の魔術師は戦慄していた。

 

 眠っていて意識のない状態でも魔法を維持出来るようになる。

 

 それはその分野の魔法を極めた証である。

 

 魔術師は彼女らを天才だと思った。しかしそれは思い違いである。

 

 彼女らに才能はない。むしろ落ちこぼればかり集まった6人である。

 

 己の弱さを見つめ泣いて、周囲を見返してやろうとひたすら訓練に訓練を重ねた。

 

 そして日本海軍でも一目置かれる駆逐隊に成長したのだ。

 

 任務か訓練で彼女らは毎日海に出ていた。

 

 日々の積み重ねがあったからこそ短期間で水魔法を習得することが出来たのだ。

 

「流石は陽炎殿、小官はまだまだでありますな」

 

 あきつ丸は眠っていても魔法を維持することはまだ出来なかった。

 

 彼女は水球のクッションに座って土魔法で作った石の球をお手玉している。

 

 魔術師は彼女にも戦慄していた。水と土、二種類の魔法を同時に使っているのだ。

 

 

 

 ロウリア軍が現れてから7日、ノウは悩んでいた。

 

 連日の夜襲で守備兵たちは眠れず、疲労がピーク達していた。

 

 騎士達は自衛隊の訓練に付き合わせたことが原因で兵士以上に疲弊し使い物にならない。

 

 ワイバーンは夜間に飛ぶことは出来ない。

 

 八方塞がりの状況で自衛隊から連絡が入る。

 

「ギムの西方5キロに居るのはロウリア兵で相違ないか。そうなら支援攻撃を行っても良いか。

 

 また攻撃にクワトイネ兵が巻き込まれないよう、周囲2キロに友軍がいないか確認したい」

 

 ノウは一瞬、光明を見た気がした、しかし努めて強気な姿勢で言った。

 

「そうか陣地から出るなと言っているのに、奴らも手柄が欲しいのだな。仕方が無い許可すると

 

 伝えよ」

 

 

 晴天の空の下、ジューンフィルアは深呼吸した。空気が美味い。

 

 本隊が到着すれば圧倒的兵力でエジェイを陥落できるだろう。

 

 そう思っていた、奇妙な空飛ぶ箱が現れるまでは。

 

 空飛ぶ箱は空気を叩く音を立てながら野営地上空を旋回し紙を撒いて帰っていった。

 

 その紙は真っ白で見たこともないほど上質な紙であった。

 

 そこに書かれていたのは以上のことである。

 

「2時間以内に陣地を撤収し、退却せよ。さもなくば攻撃する。日本国自衛隊」

 

「ついに出てきたか日本国」

 

「日本国について追加の情報はないのか?」

 

 正体不明の不気味な敵である、少しでもいい情報が欲しい。

 

「密偵からの報告です、日本国は過去海魔とシーゴーストの大量発生により軍が壊滅したそうで

 

 す。現在定数の半分程度しか揃っていないらしいです」

 

 東部諸侯軍に希望が生まれた。

 

「ということは日本の陸軍は大した事はないということか?」

 

「はい」

 

「情報源は?」

 

「ノーソンです。各地で日本国の軍隊を酷評しているそうです」

 

 ジューンフィルアはほくそ笑んだ。あのつるさん将軍には随分勝ち星を稼がせてもらった。

 

「奴は名将だ、ただし我が方のな」

 

 東部諸侯軍は戦闘準備を開始した。

 

 字を読める兵士は警告を挑発と受け取り、士気は高揚していた。

 

「さあ、日本国に我らの力を見せてやろうではないか、っと靴紐が切れた」

 

 ジューンフィルアは軍靴の紐を交換するよう従卒に命じた。

 

 

 

「あきつ丸殿からの情報では敵の野営地に出入りしていた民間人は撤収したそうです」

 

 あきつ丸は配下の陸軍妖精をロウリア軍野営地に潜入させ、中の情報を収集していた。

 

 結果、人質になっているクワトイネ国民はいないと判明した。

 

 ただしロウリア王国の商人らしき民間人が野営地内で商売をしていることが分かった。

 

 民間人を戦闘に巻き込むわけにいかない。まかり間違って死傷することになったら自衛隊の存

 

 亡にかかわる。何があったかは分らないが離れてくれて良かった。

 

「敵は撤退をしたか?」

 

 師団長の大内田は部下に問う。

 

「いえ、それどこらか隊列を組み、戦闘準備を整えつつあります」

 

「戦意ありか、付近に友軍はいないと確認は取れているか」

 

「ノウ将軍に確認したところ友軍は存在しないと明言されています」

 

 大内田は目をつぶり祈りを捧げた。

 

「そうか、発砲を許可する」

 

「斉射用ォー意ッー、撃てッ!」 

 

 多連装ロケットシステムがロケット弾を発射し、155㎜自走榴弾砲が砲撃を開始した。

 

 

 2万の兵士が整然と並ぶ。東部諸侯軍が精鋭である証である。

 

 日本国が例え想定以上に強くても決して敗北することはないだろう。

 

 その時ジューンフィルアの頭が冴える。

 

 水面に水滴が一滴落ち、波紋がすうーっと広がり、植物の種が割れて光が煌めく。

 

 そんなイメージが脳内に広がっていく。

 

 敵はまだいないにも拘らず確かな死の予感がする。

 

 彼の背中が冷や汗をかいて冷たくなっていくのを感じた。

 

 突如隊列の真ん中で大爆発が起こり、土煙が上がる。

 

 遅れて轟音が響き渡る。

 

「何が起こった!」

 

 ジューンフィルアは叫ぶが誰も答える者はいない。

 

 この場に状況を理解できる者など一人もいない。

 

 爆発は土とそこにいた人間だったものを天高く放り上げ、土と肉片に変えて降り注ぐ。

 

 続いてバラバラという奇妙な音とともに空に黒い花が咲いた。

 

 その黒い花が咲くたびに兵士がバタバタと倒れる。

 

 黒い花は東部諸侯軍の隊列の上空に広く咲き乱れその下の兵をなぎ倒していく。

 

 大きな爆発と黒い花の小さな爆発が戦場に吹き荒れ、兵士達は逃げまどい死んでいく。

 

 

「こんな馬鹿な!」

 

 ジューンフィルアは絶望していた。

 

 今まで共に戦ってきた戦友、歴戦の熟練兵、優秀な幕僚たち、家族ぐるみで付き合いのあった

 

 上級騎士、戦場の習いを教えてくれた先輩。

 

 全てが虚しくなるほど、泣きたくなるほどあっさり死ぬ。

 

 ジューンフィルアは心の中で謝罪する、警告通り引いておけばよかった。

 

 不確かな情報に踊らされ出陣を決めた自分が悪い。

 

「おのれノーソン!図ったなあ!」

 

 そして彼は天に向かって叫ぶ。

 

「戦の神よ、虫けらのように殺されるのが我らの運命だというのか!」

 

 直後彼は押されたような衝撃を受けて浮遊感を味わう。

 

 自分の手足がバラバラになって飛んでいく光景を見て、彼の意識は途絶えた。

 

 

「俺はこれを知ってるぞ!」

 

 ホーク騎士団団長ホークは驚いて叫んだ。

 

「団長なにを知ってるんでるか?」

 

 団員が何のことか尋ねる。

 

「一万年前と同じだ!太陽神の使者のカンポウ!誰が奴らを再び召喚したんだ!」

 

「それはどういう事なんですか!」

 

 ホークは問いに答えず仲間に襲い掛かる。

 

「お前ら、俺の盾になれ!」

 

 口から触手を出して騎士団員を絡めとり一纏めにする。

 

「これだけじゃ足りん、穴を掘って隠れなくては!」

 

 ホークは手から鋭い爪を生やし、急いで地面を掘った。

 

 

 

 ノウは絶句していた。

 

 日本国が支援攻撃をすると言うので城壁の上から観戦しようとした。

 

 6千ではある程度の損害は与えられても反撃で大損害が出るであろうと予測を立てた。

 

 そして日本国が窮地に陥ったら救援に駆け付けられるよう部隊を編成、兵士を城内に控えさせ

 

 ていた。 

 

 しかし今目の前に広がる光景はノウの想像を絶していた。

 

 敵陣で火山の噴火が起こったように爆発し煙が噴出する。

 

 しかし正確無比に敵陣で爆発しているので自然現象ではないと分かる。

 

「まさかこれは日本国の攻撃なのですか」

 

 参謀が恐怖で顔を引きつらせながら推論を口にする。

 

 しかし自衛隊は陣地から出てもいない。

 

「自衛隊がいるのは我らの5キロ後方だぞ、ロウリア軍まで5キロなのだから合計10キロ、こ

 

 のような長距離を攻撃する手段など在るわけない!」

 

 息もつかせず次々と爆発しロウリア兵もろとも地面を掘り返す。

 

 隊列の整ったさまから敵兵は余程練度の高い精鋭であっただろう。

 

 しかしその精鋭は逃げまどい死んでいった。

 

 己の人生を賭け鍛え上げた武技を発揮することなく一方的に殺される。

 

 そこには華やかな騎士道などなく只々効率的に処刑される哀れな敵の姿があった。

 

「魔導師殿、これは爆裂魔法なのか」

 

 ノウは横に居た魔導部隊の隊長に質問する。

 

 しかしその魔導師はノウの質問に答えずカタカタと震えていた。

 

「何という威力の爆裂魔法だ!何という魔力投射量だ、これ程の魔力は大魔導師が6千人いても

 

 不可能だ!まるで神竜のブレスとしか思えない!」

 

 この世界の魔法使いは序列があり、見習いの魔法学生から魔法助士、魔法士、魔術師、大魔術

 

 師、魔導師、大魔導師と順に高位となる。

 

 魔導師となれば国の要職に就くほどの達人であり、大魔導師に至っては一国に数人しかいない。

 

 自衛隊の攻撃はその大魔導師が6千人いても作り出せないほどの威力があった。

 

「魔導師殿、この攻撃には魔力が感じられません!」

 

 魔導部隊の部下の一人が信じられない報告をする。

 

 ノウも魔力を探知しようとするが、報告通り魔力を感じられない。

 

「だとすればこれは一体何なのだ!」

 

 

 その時後ろから艦娘の陽炎が近づいてきた。

 

「どう日本国自衛隊の戦闘は、参考になったかな?」

 

 海魔に負ける弱少の軍隊だとは誰が言ったのか。

 

 これ程の力を持った軍隊を壊滅させるなど、どれ程強力な魔物だったのだ。

 

 そしてその魔物を駆逐したという目の前の人物は一体、、

 

「あーお礼なんていいのよ~」

 

 ノウは恐怖の悲鳴を上げて気絶した。

 

 

「あ、あれ?」

 

 陽炎は困惑した。

 

 自衛隊の力を見せるため艦娘である自分達は今回の戦いに参加しないことにした。

 

 エジェイ要塞にこもって異文化交流だけをしていたはずだ。

 

 なのに目の前の男は確かに自分を見て気絶した。

 

「解せぬ、だわ。なんなのもう」

 

 何をどう勘違いしたらこうなるのか全く分からない。

 

 するとあきつ丸が現れ、壁によりかかってこう言った。

 

「さすが陽炎殿ですな」

 

 

 エジェイ要塞攻防戦は軍人のみならず一般市民も目撃した。

 

 彼らは城壁の外に出てただ唖然とその様子を眺めていた。

 

 そしてその人々の口から日本国の恐ろしさが伝えられたのだった。

 

 ノウ将軍はその後、一か月間自室に引きこもった。

 

 そして軍上層部に転属願をだして後方勤務部に異動した。

 

 その後新しい職場で精力的に勤務した結果、公国軍は補給に困ることはなかった。

 

 ノウの功績は高く評価され退役時に名誉元帥の地位が与えられた。

 

 

 




 皐月「筋肉は全てを解決する」

 神通「その通りです」

 鹿島「筋肉をつければエロキャラ扱いされなくなりますか?」

 皐月「、、、」

 神通「、、、」

 アウナス「宿命からは逃れられぬぞ」

 前回の万能斧は怪獣自衛隊が元ネタです。

 今回の水操作の魔法は理想のヒモ生活からの引用です。

 himajin409様、誤字報告ありがとう御座いました。


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第十二話 ホーク騎士団の最後

 眉毛がねえー!ギ〇ン?ルディアスはギレ〇だったの!?

 衝撃の事実、パーパルディア皇国はジ〇ン公国だった!

 Red Octber様からヤヴィン軍務卿の名前の使用許可を頂きました。すみませんアニオタにしち

 ゃいました。え?その前にみのろう大先生に謝れ?はい、申し訳ございませんでした。

 筆者はアズレンをプレイしてません。KANSENの知識はこのサイトが主な情報ソースです。

 戦争はフィクションの中だけでいいと思います。

 現実の戦争が一日も早く終わることを願っています。


「龍驤もうやめて!」

 

「早くその魔法を解除するんだ!」

 

 鎮守府に新二航戦、飛鷹と隼鷹の叫びがこだまする。

 

「まだや、まだいける」

 

 そう言う龍驤の唇から血が滴り落ちる。

 

「無理しないで、これ以上やったら轟沈してしまうわ!」

 

 飛鷹が悲痛な叫びを上げる。

 

「何故そこまでするのさ」

 

 隼鷹が問いかける。

 

「夢はなくならないんや!」

 

 今の龍驤は巨乳であった。

 

 意味不明なことを言っていると思ったかもしれないが、龍驤の胸には水操作の魔法で作った偽

 

 巨乳が付いていた。

 

 しかし貧乳属性を極めたと言われる龍驤は、相反する属性である巨乳のシルエットを得た段階

 

 で体の崩壊を起こし始めていた。

 

 飛行甲板はひび割れ、ツインテールには枝毛が発生し始めている。

 

 全身に意識を保っているのが信じられないほどの痛みが走る。

 

 それでも龍驤は魔法を維持し続ける。

 

「龍驤お前やっぱり気にしてたんだな」

 

 普段は貧乳を気にする素振りなど一切見せなかった龍驤であったが、やはり気にしていたのだ

 

(実は龍驤には貧乳を気にするセリフはゲーム内で一切ありません)

 

「まだや、もう少しだけうちを巨乳でいさせてくれや」

 

 飛鷹は涙ながらに訴える。

 

「龍驤、あなたはばかよ」

 

 龍驤は大破した。入渠したものの通常の戦闘で負った損傷よりも修復が遅かった。

 

 高速修復材の使用許可を求めたが、理由が馬鹿らしいというので許可は下りなかった。

 

 

「指揮官様~生まれ変わった大鳳をみてください~」

 

 別の鎮守府では水操作で巨乳になった大鳳が存在しない人物の名を呼びながら徘徊していた。

 

「こっちは別世界の人格が混ざってる!」

 

 鎮守府の人間は息を潜め隠れていた。

 

 その時何者かが立ち塞がる。

 

「私の愛しい提督に何する気かしら?」

 

 艦これ初の本格的ヤンデレ艦娘、刃鯨もとい迅鯨である。

 

 闇と闇の闘気がぶつかり合い渦巻いて台風の様に見えた。

 

 数時間後その鎮守府は更地になった。

 

 怪物二頭の戦いは「ZINGEI外伝、頂上決戦!最狂VS最凶」として長きに亘って語り継がれた。

 

 鎮守府所属の艦娘たちは隣に建設してあった予備の鎮守府に移った。

 

 そのため艦隊運用に支障はなかったがよくある話なので割愛する。

 

 

 

 南九州の鎮守府では九十九カケル提督(瑞の海、鳳の空の提督です)が嫁艦の瑞鳳と仲良く昼

 

 食を取っていた。

 

「なんか魔法で巨乳を作るのが流行っているんだって」

 

「瑞鳳はそのままでいいよ」

 

「でも提督はおっきな胸が好きでしょ、加賀さんとか愛宕さんのよく見てるし」

 

 九十九提督はしどろもどろにになって弁明する。

 

「それは、男の本能というやつだから仕方が無いというか、俺は瑞鳳が一番だから」

 

「分かってます、意地悪してゴメンね」

 

 この鎮守府こそ爆発しろ。

 

 

 前回第14駆逐隊の面々が昼寝している間、彼女らのパートナーになったファティマ達が顔合

 

 わせをしていた。

 

「大体知っている顔ですが改めて宜しくお願い致します」

 

 代表してラキシスが挨拶する。彼女が他のファティマをこの世界に召喚したのだ。

 

 

「現在長月サマニ仕エテオリマス”クーン”デス。ヨロシク」

 

 星団史上最高のファティマ製作者(ガーランド)と称えられたクローム=バランシェ公の一作目。

 

 公の手によって様々な実験的試みがなされている。

 

 超帝国騎士の胚を手に入れたクローム公は彼女を代理母としてカイエンを出産させた。

 

 そのことを知らないカイエンが彼女との子供を求めたのでクーンは精神崩壊を起こしかけてしま

 

 う。事実を知ったカイエンはバランシェ公を殺そうとするも天照帝に阻止される。

 

 以降カイエンは無軌道な行動をとるようになり剣聖でありながら賞金首になってしまった。

 

 歴代マスターは四代剣聖デイモス=ハイアラキ、五代剣聖ダグラス=カイエン、天才科学者Dr

 

 ダイアモンド=ニュー

 

 

「霰様に仕えております、静でございます」

 

 序列2位、クバルカン法国の旗騎「ゲートシオン・マーク3・リッタージェット」通称「破裂

 

 の人形」の事実上の専任ファティマ。

 

 彼女に選ばれた人物がクバルカンの筆頭騎士団長になる。

 

 カステポー地方で暴れていた壊し屋を退治した功績でセントリー「ブラウ・ブリッツ」からセ

 

 ントリードロップを貰った。

 

 エストとは度々戦ったライバル。

 

 

「潮様にお仕えしております、町で御座います」

 

 序列1位、泣く子も黙る最強軍事国家フィルモア帝国。

 

 その名門騎士家、V(ビィ)一族に仕えたバランシェファティマ。

 

 過酷な運命に立ち向かうクリスティンを支えた。

 

 主の政治的立場を考えることが出来る。

 

 但しキャラ紹介イラストで丸出しになっている主の胸は何故か隠さない。

 

 

「モラードファティマ、エストです。現在曙様にお仕えしております」

 

 世界4大ファティマ製作者の一人にしてクローム博士のライバル、モラード=カーバイトのデ

 

 ビュー作。名工ルミラン=クロスビンのダッカス・ザ・ブラックナイト(旧バッシュ・ザ・ブ

 

 ラックナイト)とシンクロすることによりそれまでのGTMの数倍の戦闘力を叩きだした。

 

 ダッカスは彼女にしか制御できないが彼女自身はほぼ全てのGTMを制御できる。

 

 ダッカスの操者は黒騎士と呼ばれ、星団最高の騎士の称号の一つである。

 

 そのため彼女を巡って多くの騎士がその血を流した。

 

 愛も情も乗り越えてただ「ダッカスの性能を引き出す」という使命を遂行する。

 

 その姿は同じファティマから見ても恐ろしいと評されるほど。

 

 単行本全巻に登場しているのはアイシャと彼女のみ。

 

 

「なんだか場違いの様な気がするのですが、パルスェットといいます。皐月様にお仕えしており

 

 ます」

 

 製作者が幼少期から手元に置いて育成する銘入りと違い、工場で大量生産されたファティマ、

 

 工場(ファクトリー)ファティマと呼ばれる。

 

 但しモラードの様な一流製作者が生産管理をしていた期間に生まれたため、そこらの銘入りよ

 

 り性能が高い。

 

 マスターは元青銅騎士団幹部のミハエル=レスター。彼の死後、後にミラージュ騎士となるヨ

 

 ーン・バインツェルと出会い己の主と定める。一度は拒絶されるもアイシャの機転で無事パー

 

 トナーとなる。二人とも自分の名を正しく発音してくれないのが悩み。

 

 

 

「ラキシス、ナゼワタシタチヲ呼ビ出シタノカ」

 

 自己紹介が終わった後、一同を代表してクーンがラキシスを問い詰める。

 

 違う宇宙から魂を呼び出し、妖精の体にDLさせるという荒業を使ってまで何をさせようとい

 

 うのか。

 

「それにはまず前世界、地球についてお話する必要があります」

 

 ラキシスは地球の歴史を説明した。

 

「科学力は低くとも、戦乱の多さではジョーカー星団に優るとも劣らない歴史ですね」

 

「コノ宇宙デモ愚カナ人間ノ争イニ関ワルトイウノカ?」

 

 クーンはファティマが人間の戦争に酷使されることに疑問を抱いていた。

 

「そうではありません。ただ陽炎に手を貸してやって欲しいのです」

 

 ラキシスは姉を根気強く説得した。そして暫く様子を見るとの答えを引き出した。

 

 

 その後日本国の話題になった。

 

「原宿や新宿がありますね」

 

「同じスイーツや服が売られています」

 

「何故でしょう」

 

「この宇宙の創造神とアマテラス様は友達ですから、どちらかが真似したのではないですか?」

 

 何気ないことのように言うラキシス。

 

 彼女、あるいは我が妹はとんでもない相手に嫁に行ったのだ、と一同は思った。

 

「沖縄もあります。名物の島豆腐も作られてますね」

 

「ヒュートランとレレイスホトが来たら揉めそうですね」

 

 ヒュートランは中期バランシェファティマで最高傑作と呼ばれたファティマであったが、ある

 

 致命的な欠点を抱えている。その原因を作ったのがレレイスホトである。

 

 ヒュートランは自己鍛錬プログラムというものを入れられており、常に自己の能力を高めるよ

 

 う行動する。そして彼女は弱い騎士をパートナーにして強い相手と戦うという選択をした。

 

 

 

「この深海棲艦というの何でしょう」

 

「悲しみの記憶を運ぶ船、と言われています」

 

 人は生まれ変わるとき生前の記憶をまっさらにしてから輪廻の環に戻す。

 

 しかし地球では人が死に過ぎた。

 

 処理しきれない記憶は溢れ、輪廻転生システムは機能不全に陥った。

 

 溢れた悲しい記憶が形を成したもの、それが深海棲艦である。

 

 深海棲艦に通常兵器は効果がない。

 

 実は地球にも怪異と戦う退魔師などが僅かながら存在したのだ。

 

 開戦当初は彼らが深海棲艦と戦ったが、彼らの持つ武器も効果が薄かった。

 

 妖怪変化や異界の魔王、外宇宙の邪神を打ち破った神具が、深海棲艦相手にはかすり傷程度し

 

 か与えられなかったのだ。

 

 

 深海棲艦に唯一対抗できる兵器が艦娘である。

 

 適性のある人間の女性が在りし日の戦船の魂を宿すことにより、少女は艦娘となる。

 

 艦娘は生者と死者を並列させる事により疑似的に輪廻転生の環を再現している。

 

 艦娘に倒されることで深海棲艦の記憶を浄化し、魂を輪廻の環に戻す。

 

 だからこそ深海棲艦は艦娘に倒されなければならない。

 

 もしも艦娘以外の存在に倒されたなら、もっと悪いモノを呼び寄せてしまう。

 

 艦娘の力を人類にもたらした妖精の代表者はそう警告した。

 

 

「もし深海棲艦が勝利したらどうなっていたのでしょう」

 

「深海棲艦はその星の知的生命体を滅ぼした後、長い時間をかけて少しずつ数を減らしていき、

 

 最終的に滅ぶでしょう。そして数万年かけて新たな知的生命が進化するのを待つことになり

 

 ます。ということが当初の計画でした」

 

「計画ですか?」

 

「深海棲艦の女王個体、深海棲妃は滅びの運命を回避しようとしました。そして創造主である地

 

 球の神の思惑を超えて行動を始めたのデス」

 

「深海棲妃はある場所に行こうとしました」

 

「それはどこですか?」

 

「フォーチュンです」

 

「!」

 

「深海棲妃は私のメッセージを受信したのデス」

 

 ラキシスはモラード博士と会った時、この世界が物語であること、自らが監視者であることを

 

 明かした。そして55億年後に現れるフォーチュンという星でファティマ達は苦しみがら解放さ

 

 れることを予言した。

 

 その予言の詩は全宇宙全次元を超え様々な存在に届いた。

 

 異界の悪魔ヴィーキュルの女魔帝ゴリリダルリハ、タイカ宇宙の混沌の神ルシファ・センタイ

 

 マーはラキシスのメッセージを受信し彼女に興味を持って接触してきた。

 

 そしてそのメッセージは天の川銀河の地球に居た深海棲妃そして艦娘になる前の陽炎にも届い

 

 ていた。陽炎は幼い頃どこからか聞こえてきた詩を深海棲艦が知っていたことを不思議に思っ

 

 ていた。

 

「フォーチュンが現れるのはジョーカー宇宙ですよ」

 

「深海棲妃は地球を破壊し、そのエネルギーを使ってジョーカー星団に転移しようとしていたの

 

 デス」

 

「艦娘の皆様があれほどの苦戦を強いられたのはもしかしたら私の所為かもしれないのデス」

 

 

 陽炎が飼育している犬、楊貴がおやつを求めて近づいてきた。

 

「最後に一つ、何故ここにパローラがいるのですか?」

 

 楊貴の本当の名前をセントリー・パローラという。

 

 セントリーを分かり易く説明すると精霊の王、大精霊といった存在に近い。

 

 ライブ、ブリッツ、パローラ、マグマ、カラットの5体が存在する。

 

 パローラは火を司る大精霊と思ってほしい。

 

(筆者私見です。FSSファンの皆様には厳密には違うと仰る方もいるかもしれません)

 

「宇宙の生命力を司るセントリーの一体が違う宇宙に居たら大変じゃないんですか?」

 

「大丈夫です、この子は分体で本体はちゃんとジョーカーにいます」

 

「ただ本体49,分体51くらいの比率ですけど」

 

 

「ところで命の水はどうなったのですか?」

 

 セントリーは数百年周期で死と再生を繰り返す。

 

 幼体は弱いので人間に育てて貰う必要がある。その対価に貰えるのが命の水である。

 

 生者が使えばたちまち若返り、死者に使えば生き返らせることが出来る。

 

 異界の悪魔ヴィーキュルは命の水を手に入れれば進化の袋小路から脱して新たな段階に進むこ

 

 とが出来ると信じ、幾度となくジョーカー星団を襲っていた。

 

「貰える命の水は二人分、陽炎の記憶によると神社で遊んでいたときにどうしても小瓶の中身が

 

 欲しいという人がいたのであげたそうです」

 

「うわ、価値を知らないって恐ろしい」

 

「何処かで悪用されてないですか?」

 

 各人が心配するなかラキシスはある物に言及する。

 

「皆さん、高速修復材をご存知かしら?」

 

 高速修復材とは損傷した艦娘を一瞬で修復する謎の液体である。

 

「その人は地球の神です。命の水は高速修復材の源泉に使われたようです」

 

 もしかしたら艦娘の根幹に関わる部分に命の水が使われているのかもしれない。

 

「あと一人分は分かりません。いつの間にかなくなっていた、と言っていました」

 

 ラキシスは楊貴に菓子を与えながら呟いた。

 

「ねえ楊貴、あの方は今どこにいるのですか?」

 

 楊貴の反応は目を細めただけだった。

 

 

 その後もファティマ達のお茶会は続き世間話に花が咲いた。

 

 例えば間宮さんのスイーツは美味しいが、際限なく食べさせられるので苦手だとか。

 

 ファティマの標準体型はやせ型である。あばら骨も腰骨も浮いているのが普通なのであるが、

 

 間宮さんから見ると欠食児童にしか見えないらしく、太らせようと大量に食べさせる。遠慮し

 

 たパルスェットは椅子に縛り付けられて料理を口に無理やり詰め込められたのだった。

 

 

 

 

 所変わってエジェイの西方

 

 ロウリア王国の竜騎士ムーラ=ジチタはエジェイの5キロ手前地点を目指して飛行していた。

 

 彼に与えられた任務は東部諸侯軍が連絡途絶した原因を探ることである。

 

 冷たい空気が顔の皮膚に刺さる。このところ寝不足気味の彼にとって心地いい刺激であった。

 

 ギム攻略戦後、ロウリア竜騎士隊は戦後処理に追われていた。

 

 ギムでは当初ほとんど損害を出さずに勝利できるという予測が立てられていた。

 

 しかし実際には7千人を超える戦死者を出した。

 

 竜騎士にも14人の戦死者が出た。しかもその一人は協力国(明らかにされていないが多分パー

 

 パルディア皇国)から派遣された空戦技教官であった。

 

 彼は母国の高位軍人の親族であったらしく、残った協力国の軍人たちは彼の死を正直に報告す

 

 るか、それとも隠蔽するかで議論していた。

 

 クワトイネ兵が使っていた兵器の一つに火を噴く魔杖の様な物があった。これを見た協力国の

 

 軍人たちは血相を変えて全て自分達が回収すると言い出した。ムーラは戦場跡を歩き回って魔

 

 杖がないか探し回り、部品の欠片まで回収した。

 

 金になると思い持ち去ろうとした傭兵がいたが、協力国の軍人たちは剣を抜いて威嚇し魔杖を

 

 没収した。

 

 そのほかにもムーラ達は書類仕事などに追われ、ギム町では略奪や住民の虐殺をする時間はな

 

 かった。

 

 もっともムーラは最愛の妻がいるので亜人の女を凌辱するなど初めから考えていなかった。

 

 

「こちら竜騎11号、まもなく目標地点に到着する」

 

「了解、成功を期待する」

 

 前方の平野には細い煙が上がっていて、肉が焦げたような匂いが立ち込てめていた。

 

「こ、これは!」

 

 そこは辺り一面土をえぐり取った様な跡があちこちにあった。

 

 まるで地面が裏返された様になっていて、元は人だったらしい物体が散乱している。

 

「ギム本陣応答せよ、こちら竜騎11号!味方は全滅している!」

 

「!こちらギム本陣、それは本当か?」

 

「現場には人と馬の一部とみられる物体が散乱し、地面は裏返されたようになっている。大規模

 

 な爆裂魔法を使用された模様」

 

「着陸して詳細を確認せよ」

 

「了解」

 

 

「なんてことだ」

 

 地面に降りたムーラが目にしたのは原型を留めぬほど破壊された人と馬の死体であった。

 

 辺りは肉と鉄の焦げた臭い匂いが充満し、血の匂いと混ざって吐き気を催す匂いがする。

 

 落ちていた鎧の破片を拾い上げてみると、ロウリア王国軍で使用されているものだった。

 

 戦場で見つかるのはロウリア王国軍の装備品のみ、クワトイネ兵やそのほかの国の物は見

 

 当たらない。

 

「全滅?しかも敵兵の死体がない?」

 

 味方は一方的に敗北したとでもいうのか?

 

「まさか古の魔法帝国が復活したとでも言うのか!?」

 

 

 かつてこの世界にラヴァーナル魔法帝国という国家が存在した。

 

 人類を遥かに超える魔力を有する人類の上位種、光翼人で構成される帝国であった。

 

 この世界の人々は畏怖を込めて彼らを魔帝と呼んだ。

 

 膨大な魔力を持ってこの星の全生物の頂点に君臨し、己以外の全人類を家畜として扱った。

 

 その支配は苛烈を極め、種族の存亡をかけた戦いが何度も繰り返された。

 

 しかし魔帝の隔絶した兵器の前に数多の種族が滅び去った。

 

 彼らの増上慢は頂点に達し遂に神に弓を引いた。

 

 怒った神々は魔法帝国のあったラティストア大陸に星を落とす奇跡を起こす。

 

 星の落下を防げぬことを悟った魔帝はラティストア大陸を遥か未来に転移させた。

 

「我らが再び帰還するとき世界は我らにひれ伏す。そして我らは全てを手に入れる」

 

「全銀河の知識が収められたモナークセイクレッド、新たな進化の鍵となる命の水、全ての願い

 

 が叶う星フォーチュン、最も優れた生物である我ら光翼人にこそふさわしい」

 

 そう書かれた不壊の石板をのこして

 

 その後大陸の端に残っていた少数の光翼人を数で圧倒、一部を捕え地下の牢獄に幽閉しその

 

 技術を吸収したのが現在の第一位列強、神聖ミリシアル帝国である。

 

 

「それとも魔帝四貴族の仕業なのか?」

 

 一方で辺境に散っていた光翼人はミリシアルから逃れるため4人の有力貴族を頼った。

 

 地の公爵 魔戦士公アラケス

 

 水の公爵 魔海公フォルネウス

 

 風の公爵 魔竜公ビューネイ

 

 火の公爵 魔炎公アウナス

 

 彼ら四人は魔帝四貴族と呼ばれた。

 

 四人はそれぞれ己の得意な属性の魔法であれば魔法帝国の皇帝家に匹敵、あるいは上回る実力

 

 を持っていたため皇帝から危険視され魔帝本国から遠く離された領地に封じられていた。

 

 ミリシアル帝国も彼らを討つため大部隊を派遣したが悉く返り討ちにされた。

 

 その後四貴族は神の追撃を恐れ独自の転移魔法を使い異界に逃れた。

 

 ただし完全にこの世界と切れたわけではなく、動乱の度その裏に四貴族の陰謀が蠢いていると

 

 まことしやかに噂されている。

 

 

「グワッグワッ!」

 

 ムーラが先に進もうとしたとき相棒が警戒音を出した。

 

 前方の地面が盛り上がり何かが這い出してきた。

 

「ぷはー!やったぜ生き残ったぜ」

 

 地面の下から出てきた全裸の男はホ-ク騎士団団長ホークであった。

 

「ギム本陣、生存者を発見、ホ-ク騎士団団長ホーク卿を発見しました」

 

「了解、彼を連れて帰投しろ」

 

 

 ムーラはホークに近づこうとした、しかし相棒が袖を噛んで引き留める。

 

「どうした相棒、何を警戒している。あの人は味方だぞ」

 

「グルルル」

 

 相棒のワイバーンは何故かホークを怖がり喉から警戒音を出している。

 

 その時ホークがくしゃみをした。今は初冬で全裸でいたのだからしかたがない。

 

「へーくっしょい!まぞく」

 

 そのくしゃみを聞いてムーラは父から聞いた話を思い出した。

 

『くしゃみの瞬間、精神は無防備になる。もし魔物や魔族が人間に化けていたらその時正体をば

 

 らしてしまうのだ』

 

 ホークはムーラの表情が変わったことに気付いた。

 

「お前、知っているな。変身魔法の欠点、くしゃみの瞬間に正体をばらしてしまうことを」

 

 

「何故王国軍に魔族が紛れ込んでいる?」

 

「教えてやろう。俺は一万年前の魔王軍の生き残り、魔王軍総参謀長マラストラス様よりロデニ

 

 ウス大陸の監視を命ぜられた魔族だ」

 

 一万年前の戦いで魔王軍は太陽神の使者に敗れ残党は北のグラメウス大陸に逃れた。

 

 魔王が復活するまでの間太陽神の使者が再び召喚されることがないようロデニウス大陸を監視

 

 する役目を負った魔族の一人がホークである。

 

 

「二代前の王が亜人殲滅などと言い出しただろう。利用させてもらおうと思ったのさ」

 

「利用だと?」

 

「そうさ下等種族同士の争いなら太陽神の使者は召喚されないと思ったのによう!」

 

 人間同士が争うなら太陽神の使者は召喚されず、神森を焼き払うことが出来る。

 

 そこまで成功しなくても戦力を削ることが出来る、と魔王軍残党は目論んでいた。

 

 しかし予測は外れ太陽神の使者は召喚されてしまった。

 

「日本が太陽神の使者!?」

 

「そうだ思い出した、一万年前奴らは確かに二ホン、ダイニホンテイコクと名乗っていた。太陽

 

 神の末裔が収める国だ!」

 

 ホークも一万年前のことを鮮明に思い出していた。

 

「そんな、王国は魔王軍に利用されていたのか、そして太陽神の使者を敵に回してしまった」

 

 ムーラは絶望した。

 

 

 ホークにはもう一つ課せられた任務があった。それは微弱であるが魔王様と同じ魔導波を放出

 

 している人物アデムの監視である。しかしこの事態に至ったからにはもはやアデムに生き残る

 

 道は残されてはいないだろう。なぜなら太陽神の使者を怒らせた張本人は他ならぬアデム本人

 

 なのだから。

 

「さて俺はグラメウス大陸に帰らなくてはいけない。太陽神の使者のことを報告しなくてはなら

 

 ないからな」

 

 ホークが近づいてくる。

 

「来るな!」

 

 ムーラは短剣を構える。

 

「だが単独で海を越えるのは俺でも骨だ、だからお前のワイバーンを貸してくれ」

 

「断る!」

 

 ロデニウス大陸からグラメウス大陸まで飛んだらどう考えても魔力切れを起こして途中で海に

 

 墜落し死んでしまう。

 

「いいだろ、俺たち同じロウリア王国軍人なんだから」

 

 ホークは一瞬で近づきムーラの首を掴んで吊るし上げた。

 

 相棒がムーラを助けるため噛みつこうとするが、ホークに鼻先を掴まれ悲鳴を上げる。

 

「ギャアア!」

 

 ワイバーンが人間の握力で悲鳴を上げるなどあり得ない。

 

 やはりホークは人ではなかったのだ。

 

 その時一歳になる娘が持たせてくれたお守りが剥落し、ホークの股間に落ちる。

 

「熱っち!」

 

 魔なる者に特効がある聖銀の少片で作られたお守りが魔族の皮膚を焼く。

 

 男のシンボルに線香花火の火の玉が落ちたような痛みが走りホークは手を放した。

 

 助かったと思った矢先、ムーラは体が巨大な何かに挟まれたような衝撃を受けた。

 

「しゃらくさい!」

 

 ホークの体が巨大化し、一つ目の雪男を思わせる姿になった。頭部にはホークの上半身が引き

 

 続き乗っている。魔族の全力戦闘形態フルフォースフォームだ。

 

 ムーラは巨大化したホークの腕に捕まえられた。

 

「ぶっ殺す」

 

 股間から触手が飛び出てうねうね動く。

 

「ひいいぃ、いやぁー」

 

 ムーラは恐怖の余り少女の様な悲鳴を上げてしまった。

 

「おっさんが変な声上げるなよ。俺はそっちの趣味はないぜ」

 

 ホークはなぜ自分はこんなことをしているのだろうか、と客観視してしまった。

 

「なんで短髪で褐色の女傭兵隊長じゃないんだ?」

 

 

「ケーーーン!」

 

 相棒が大きく警戒音を出した。広範囲に届くそれは味方を呼び寄せると同時に敵に気付かれる

 

 恐れもあった。しかしそのリスクを負ってでも助けを求めたのであった。

 

「頼む、誰か助けてくれ!」

 

 すると東の空から白い影が飛んで来た。

 

「白いワイバーン?味方じゃない」

 

 ロウリア王国の竜騎士に白いワイバーンはいない。クワトイネにも居るという話は聞いたこと

 

 がない。

 

「まさか変異種の野生採取個体?」

 

 自然界に極まれに存在するワイバーンの変異種、飼いならすことが出来れば国力を大きく増大

 

 させることが出来る。しかし野生採取個体は飼育が難しく、繁殖は更に困難である。

 

 成功した例はこの世界の歴史上片手で数えるほどしかない。

 

 ムーラは知らなかったがこの時他の偵察ワイバーンはこの白いワイバーンとその騎士によって

 

 全員撃墜もしくは捕縛されていた。

 

 

「動力火炎弾なんて撃ったら人質を巻き込むぞ!」

 

 ホークはムーラを掴んだ手を突き出して白いワイバーンを牽制する。

 

 その時白いワイバーンの口が小さく光った。

 

「ぎゃ!」

 

 赤い線が煌めき、ホークの腕の線がなぞった部分を焼き焦がす。

 

 ひかりは連続して煌めき何度も同じ場所を焼く、そしてホークの腕が切断された。

 

「まさか動力火炎を細くして打ち出しているのか!?」

 

 この様な攻撃方法をするワイバーンは聞いたことがない。

 

 ムーラは驚愕したが、ひとまず相棒の手綱を引き距離を取った。

 

 謎の白いワイバーンは何か物を二つ落とした。

 

 回転して着地したのはまだ若い少女の様だった。

 

 通常ワイバーンは60kgまでしか運べない。

 

 しかし白いワイバーンは少女二人で約100kg運んでいた、どうやら輸送能力も高いらしい。

 

 二人の少女が名乗りを上げる。

 

「人呼んでソロモンの悪夢、白露型駆逐艦四番艦”夕立”参上するっぽい!」

 

 金髪赤目でマフラーをした少女が元気よく名乗りを上げる。頭に獣の耳の様な形が見える。

 

 獣人の娘の様だ。

 

「同じくソロモンの鬼神、綾波型駆逐艦一番艦、”綾波”戦場海域に到着しました」

 

 長い黒髪を片側に纏めた小柄な少女が奥ゆかしくもしっかりと名乗り上げる。

 

 こちらも身のこなしから獣人の血が入っているのかもしれない。

 

 

 深海棲艦が選ぶ絶対に出会いたくない艦娘。戦艦、空母、雷巡を抑えて堂々の一位と二位。

 

 夕立と綾波は不動のツートップである。

 

 遭遇した時点で死を覚悟すると言われるこの二隻であったが、新世界にはそのことを知る者は

 

 いない。

 

「おお、旨そうな女子、、ん?」

 

 ホークが彼女らに襲い掛かろうと一歩踏み出した瞬間、ある幻影を見た。

 

 巨象と蟻

 

 二人の少女と自分の実力差が理性ではなく本能で理解できた。

 

 

 二人の姿が掻き消えホークが慌てる間もなく腹部に衝撃が走った。

 

 重騎士の戦槌を受けてもびくともしないフルフォースフォームの腹筋が衝撃を防ぎきれず内臓

 

 までダメージを通してしまった。

 

 金髪の少女夕立がボディに拳を叩きこんだのだった。

 

「あ、がが、ぐう」

 

「おじさん口が臭いっぽい」

 

 女の子に言われて傷つくセリフかと思ったらそうではない。

 

「人間を食べたね、人肉の臭いがプンプンするっぽい」

 

 夕立はその優れた嗅覚でどちらが悪か瞬時に判断したのだった。

 

 

 ホークは苦悶の表情を浮かべ前かがみになって悶える。

 

 目の前に黒髪の少女のうなじが見えた。齧りつきたいと思った瞬間、目の前に火花が散った。

 

 綾波の裏拳が顔面に炸裂したのだ。

 

 更に綾波はロー、ミドルそしてハイキックと連続して蹴り上げた。ホークの巨体が宙に浮く。

 

 さらにアッパーカットでホークの巨体を天高く舞い上げる。

 

「たああー!」

 

 裂帛の気合というには可愛らしい掛け声と共に、落下してきたホークの巨体を殴りつけた。

 

 ホークの巨体が50メートルは吹っ飛ばされた。

 

「ぽーい!」

 

 倒れたホークに夕立が狼の様にジャンプし肉薄追撃する。

 

 指先が淡い光を灯したかと思うと手を思いきり振り切った。

 

 艦娘の防御フィールドを指先に集中して放つ技ストライクレーザークローだ。防御フィールド

 

 が無くなってしまうため危険極まりないが、夕立にとってはそのスリルさえ楽しいらしい。

 

 ズバ!

 

 ホークには袈裟懸けに切り傷を付けられ青い血が流れだしている。

 

「そんな馬鹿な、俺たち魔族の皮膚は並の剣では傷一つつけられないはず!」

 

 ムーラは信じられないと言った表情でただ見ていることしか出来なかった。

 

 しかし夕立と綾波は更に驚愕の一言を放つ。

 

「思っていたよりしぶといっぽい。艤装がないと威力が出ないっぽい」

 

「やっぱり艤装を持ってくるべきでしたね」

 

 これで全力ではないのかとムーラは驚愕する。

 

 白いワイバーン、鳳翔のゴールド号の本来の任務は夕立と綾波をタイダル平原の駐屯地に送り

 

 届けることであった。

 

 ゴ-ルド号は通常のワイバーンより多くの荷物を運べるが流石に艤装を付けた艦娘は重すぎて

 

 運べなかった。そのため艤装は陸路で送っていた。

 

 二人は制服のみ着用していた。それにより得られる艦娘力は微々たるものであるが、彼女らは

 

 魔族と渡り合っていた。

 

 かつて地球で最も危険な海域、地獄のソロモン海を乗り越えてきた二人にとってロデニウス大

 

 陸の戦場など昼間のコンビニに行くようなものだろう。

 

 

「ねえあれは何っぽい?」

 

 夕立と名乗った少女がホークを指さして問いかける。どうやら魔族を知らないらしい。

 

「あれは魔族と言って人類の敵だ」

 

「へー」

 

「それよりお兄さんロウリア軍の人だよね」

 

「そうだが、それより君らはどこの国の者だ」

 

 ホークもまた彼女らの正体が知りたかった。

 

「お前らは一体何なんだ?!一万年前にはいなかったぞ!」

 

 ムーラが確認を求めると黒髪サイドテールのほうが頭を下げた。

 

「失礼しました。私は日本国海軍のクワトイネ救援艦隊所属、艦娘の綾波、あちらは夕立です」

 

 初めて出会った日本国の軍人がこんな可愛い少女であったことは驚きだった。

 

 ただし分からない単語が一つあった。

 

「艦娘とは?」

 

 夕立と綾波は艦娘について説明した。

 

 ホークもその説明を聞き入っていた。

 

 

 

 

「はあ!?太陽神の魔船を擬人化美少女化しただとう!?日本人は何を考えてやがる!」

 

 一万年前魔王軍を潰走させた太陽神の魔船が可愛らしい姿で目の前にいる、そんな説明は受け

 

 入れがたかった。ホークは怒りに震えた。

 

 ムーラは唖然として呟いた。

 

「日本人は未来に生きているな~」

 

「畜生!畜生!畜生!」

 

 ホークは地団太を踏んだ。魔王軍の生き残りとして絶対に受け入れられない事実を突きつけら

 

 れ、怒りで血管がぶち切れそうだった。

 

「ぶっ殺す!」

 

 怒り心頭のホークに対し夕立と綾波が背中合わせになって構える。

 

 ムーラはもしかしたら逃げられるかもと思い相棒に飛び乗った。

 

 相棒は小柄だが垂直離陸することができる。ギム本陣に戻って上層部に戦争を止めるよう訴え

 

 る、そう決心した。

 

 しかし白いワイバーンが戻ってきてムーラの横に並んだ。ロデニウス大陸共通のハンドサイン

 

 で誘導に従うように指示された。自分より技量の高い竜騎士であると分かったムーラは諦める

 

 しかなかった。

 

 その時東の彼方から土煙が見えた。

 

「こらー!何やってんの!」

 

 陽炎が艤装をつけてやって来た。

 

「陽炎さん」

 

「げえ!夕立、そして綾波!」

 

 陽炎は二人を見て顔をしかめた。

 

「何ですか撤退中に関羽に出会った曹操的な反応をするなんて」

 

「おんなじ様なものでしょうあんたらは!」

 

 ふと見ると夕立が落ち込んでいた。

 

「最近妹たちにもそういう反応をされるっぽい」

 

 近頃白露型後期の海風型の妹たちの態度がよそよそしいのだった。

 

 最も夕立の戦いを目にすればそうなっても仕方が無いのである。

 

 

「俺を無視するな!」

 

 ホークが怒りのパンチを打ち下ろす。しかし3人はひらりと躱す。

 

「俺はこの一万年の間沢山の人間を食って力をつけた!もうあの頃の様な若造じゃねえ!」

 

「今まで何人の人間を食べたっぽい?」

 

「てめえは今まで食ったパンの枚数を覚えているのかよぉ?」

 

 

 陽炎のハートが怒りに震えて燃える。

 

「新戦法を試してみるわ!」

 

 陽炎は距離を取ると呪文を詠唱し始めた。

 

「水よ集まれ、そして我が意に沿う形をとれ、ウォーターコントロール!」

 

 地面から地下水が噴き出し水の柱を作り出す。

 

 水の柱は蛇のようにうねりホークを取り囲み下半身が水に沈む。

 

「なんだ!?」

 

 敵を拘束したいのなら低い魔力消費量でもっと強力に拘束できる魔法は多種ある。

 

 実際ホークの上半身は動ける。わざわざ大量の水を使う必要はないはずだ。

 

 見ると水が空にアーチを引き、空中回廊を造り上げていた。

 

「KAREM(艦娘活動範囲拡張機構)解除!」

 

 陽炎は艦娘が地上でも活動できる装置をわざわざ解除した。

 

 そして自ら作った水の空中回廊に飛び乗った。

 

『水圧調整良し、いける!』

 

 艦娘は何故か元々の艦が航行出来ない浅瀬では航行出来ない。

 

 そこは魔法で水圧を調整し、直径約2メートルの空中回廊を航行可能にしたのだった。

 

「駆逐艦陽炎、出撃!砲雷撃戦用意!」

 

 陽炎が白波を立てて突き進む。

 

 ホークは恐怖を感じ魔法で迎撃する。

 

「来るな!ヘルファイア!」

 

 直径80cm程の火球が形成され陽炎に向かって投射された。

 

「主砲発射!迎撃するわ」

 

 連装砲が火を噴きヘルファイアを霧消させる。

 

 外れた弾の着弾を見てホークは恐怖する。

 

「これはカンポウ!やっぱりあれは太陽神の魔船なのか!」

 

 

「93式酸素魚雷一番発射!続けて二番発射!」

 

 陽炎の魚雷発射管から計二発の魚雷が水の空中回廊に投下された。

 

『いけるか?』

 

 魚雷はデリケートな兵器であり直進するか不安であったが、航跡を立てずに問題なく水中を進

 

 んでいた。

 

 ホークは陽炎が放った物体が何であるかは知らなかったが、強力な武器であると確信していた。

 

 何故ならわざわざあれを使うために水の空中回廊を造ったのだから。

 

「うわああ!来るな、来るなぁ!」

 

 ホークは逃げようと足を動かす、しかし水に邪魔されて動けない。

 

 酸素魚雷が近づく。

 

「ひいいぃ」

 

「じかーん!」

 

 ホークの腹部に酸素魚雷が命中する。大爆発が起こりホークの巨体は跡形もなく吹き飛んだ。

 

 

「凄いっぽい?どうやってやるっぽい?」

 

 夕立がきらきらした目で質問する。

 

「地上戦でも魚雷を使えるようにするとは、私もすごいと思いますけど手間がかかるだけでは

 

 ないですか」

 

 綾波は一歩ひいた目線でそう評した。たしかに無駄が多い。

 

「酸素魚雷は日本駆逐艦の魂なのよ!」

 

「おー」

 

 夕立と綾波は揃って拍手した。

 

 

 ムーラは捕虜になった。私刑や拷問の類はしないと言われたが不安は隠しきれない。

 

 しかし故郷で待つ妻と娘のためにも、何としてもこの戦争を止めようと決心していた。

 

 一方ギム本陣ではムーラが魔導通信をオンにし続けていたため、一連の会話が聞こえていた。

 

 もたらされた情報の多さそして重大さに魔導通信士官が困惑していた。

 

 一つ、ロウリアは魔王軍残党に利用されていること。

 

 二つ、日本国の正体は太陽神の使者であること。

 

 三つ、艦娘という強力な戦力がいること。

 

 どれも上層部に報告しなければならない重大な情報だ。

 

 しかしどうやって説明したらよいのかわからない。それ以前に自分が理解できていない。

 

 そして彼は最もありふれた選択をした。

 

「聞かなかったことにしよう~」

 

 それは最悪の選択になった。




 なんかなのはAsっぽくなってしまった。うーん。

 もうお判りでしょうが、ホーク改変の元ネタはベルセルクのワイアルドです。

 三浦建太郎先生のご冥福をお祈り申し上げます。

 魔帝四貴族は原作より早く光翼人を登場させることは出来ないかなと考え、ロマサガ3の四魔

 貴族から設定をパクりました。CMの曲がかっこよすぎます。

 収束動力熱線砲の元ネタはうしおととらの黒炎後期型の技『穿』です。

 くしゃみのネタは魔法陣グルグルからです。

 艦娘の防御フィールドを直接ぶつける戦法は鶴翼の絆にあります。技名はゾイドからです。

 水の空中回廊を艦娘が航行できるかどうかは水圧をいじっただけで可能になるか確信を持てな

 いのですが、後は魔法で解決したということでお願いします。


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第十三話 レクイエムinギム

 "ムー異世界の歩き方"という本を見たよ。へー、ムーにもストーンヘンジやモアイ像やピ
 ラミッドがあるんだー、って地球の歩き方のミステリースポット特集じゃん。
 お待たせして申し訳ありません。もっと早く書けるようにならねば。 


 ロウリア王国先遣隊の通信士官はヘッドホン型の受信機を外し、どうにかしてこの場所を離れ

 る方法を探していた。先ほどの会話は半分も理解できなかったが自国が戦争に勝てないことは

 理解していた。視線を感じて振り返ると副将のアデムがこちらをじっと見ていた。

 背筋が凍る感覚を味わっているとアデムが口を開いた。

「私はこれから王都に増援を要請しに行く、通信士官の誰か一人同行しろ」

 アデムの子飼いの部下には魔信に通じた者が居なかった。

「それならこの私を連れてってください!」

 

 クワトイネ公国の国会議事堂に当たる蓮の庭園は、緑の神の加護が地脈を伝わってこの地に現

 れた神森の飛び地にある。

 闇の属性の存在は決して入ることは出来ない。また中で攻撃魔法や状態異常魔法、あるいは盗

 聴魔法を使おうとすれば直ちに庭園の中心にある神樹が反応し異常を知らせてくれる。

 会議は古代ギリシャを思わせる野外に開かれた建造物の中で行われるが、セキュリティーは万

 全なのである。

 

 大会議場に国中から大勢の貴族たちが集まっていた。

 彼らの関心は勿論城塞都市エジェイで行われた戦闘の結果である。

 もし同市が陥落した場合ロウリアは公都まで侵攻ルートを確保した状態となり、公国は絶望的

 な戦いを強いられることになる。なので必然的に高い関心を持たれていた。

 政治部会の開催まで後数分。

 

 中央貴族のガリアス=ナウシは東に領地を持つ貴族リーゼ=ミルカンに話しかけられていた。

「ナウシ殿、戦況は何か聞いておられませんかしら?国の存亡がかかっている戦いだけに、わた

 くし気になって仕方が無いのですわ。軍に太いパイプをお持ちのナウシ殿であれば的確に把握

 しているのではありませんか?」

「ミルカン様、軍の公式発表を待たれる方がよろしいかと、その方が確実な報告だと思います」

「というと?」

「私の耳に入って来る情報はどれも現実離れしていまして、情報を統合するとどうやら勝った様

 なのですが、軍の幹部ですら混乱しているのです」

「相当な激闘と被害があったのでしょうね」

「いえ被害の大きさに混乱しているのではなく、戦況が余りにも奇跡的というか」

「ほお?圧倒的多数の敵軍を前に奇抜な作戦と幸運が重なって大戦果を挙げた、とか?」

「運が良かったと言えるものではないのです。こちらの被害が」

 

 ナウシがどう説明したらよいのか頭を悩ませ始めたが、ミルカンは質問を続ける。

「日本軍も強さが未知数ですわ。日本国を視察した方々は言葉では言い表せ無い程強いと言って

 おります。一方でノーソン伯爵一派は日本軍は弱いと言っております。どちらが正しいのでし

 ょう」

「やはりその目で日本国を見てきた人たちを信用するべきでしょう」

「ほう、やはり日本軍は強いのですか」

「そこは確実かと。私が集めた情報を独自に分析した結果、日本軍の強さは列強パーパルディア

 皇国に匹敵、一部は上回るとの結論に達しました」

「まさか世界に5か国しかない列強の一つパーパルディア皇国に日本国は勝てるのですか?!」

「いえ、日本軍は数が少ないので、流石にパーパルディア皇国には勝てないでしょう」

「そうですか、最近の皇国は横暴さに歯止めが掛かっていないですから、我が国の防波堤になっ

 てくれると助かるのですが」

 第三文明圏の内外の各国にとって近年の皇国の振る舞いは最重要課題であった。

 今回のロウリアの侵攻も裏で皇国が糸を引いているともっぱらの噂である。

 

「そういえば今日はノーソン伯爵はいらしてないようですわ」

「本日の政治部会の案内状には体調の悪い方、特に心臓の疾患のある方はご遠慮ください、とあ

 りました。恐らくそれが欠席の理由でしょう」

「あらら、まるですぐにでも隠居して欲しいかのようなお顔ですわね」

「そ、そのようなことは思っていません」

「おほほ」

 

 予定時間に15分遅れて各軍部の幹部が入場した。

 陸軍の幹部が壇上に上がり、額の汗を拭きながら戦況報告を始める。

「お待たせしましたこれよりエジェイ西方で行われた戦闘について報告いたします」

「ご存知の通り、数日前、城塞都市エジェイの西方5キロ地点にロウリア王国軍約二万が現れ、野

 営地を築きました。その数から先遣隊と思われます。」

 

「この部隊から毎夜約三百人の騎兵が出撃し、城壁に近づいて大声で叫ぶといった威力偵察を仕

 掛けてきました。これが原因で守備兵が精神的に疲労し始めます。そして本日早朝、日本国か

 ら支援攻撃の許可を求められ、司令官ノウ将軍が許可しました」

 いよいよ話の核心に迫ってきているらしく幹部は額の汗をぬぐった。

 

「日本国はヘリコプターと呼ばれる飛行機械を使い、ロウリア王国先遣隊に対し『二時間以内に

 撤退せよ』と警告しました」

 その言葉を聞いて議場がざわつく。

「相手は我が国の民を虐殺した極悪非道の兵であるぞ!警告などすれば相手は迎撃態勢を整えて

 しまうだろう!」

「何故日本国は敵を利する行為をするのだ!」

 議場にヤジが飛び交う、幹部はこうなることを予測していた。

「お静かに、質問の時間は最後になっております。今は続きをお聞きください」

 

「二時間半を過ぎてもロウリア軍は撤退する気配がなくそれどころか、隊列を整え戦闘準備を始

 めました」

 それみたことかと幾人かが呟く声が聞こえた。

「その後少し信じられないような内容になっております。これは軍関係者だけでなく現地の一般

 人も目撃しているらしく、要塞守備兵に何度も確認いたしました」

 不審なくらい何度も念を押した後、幹部は一呼吸おいてゆっくり口を開いた。

 

「猛烈な爆裂魔法の投射と思われる日本軍の攻撃により、十分もしないうちに約二万の敵兵は全

 滅しました。生存者ゼロ、完全な部隊消失です」

 

「え?」

 野次を飛ばしていた議員たちは予想外のことに言葉を失った。

「現地の報告には以下の通りの報告が上がっています」

『広範囲が瞬く間に爆発しロウリア王国兵はなすすべなく殲滅された』

『その威力は仮に日本兵六千人が全員大魔導師であったとしても作り出せない程の魔力が必要だ

 ったはずあるが、一切の魔力が検出できなかった』

『日本人に死傷者はなし」

『エジェイ要塞に死者負傷者なし、装備品に損耗なし』

 出席者は全員絶句していた。

 

 議員の一人が躊躇いがちに聞いた。

「日本軍はどのような攻撃を行ったのか?」

 議員たちは聞きたいような聞きたくないような気持になった。

「それについては資料映像があります。日本国側の同意も得ています」

「あるのか」

「30分間のトイレ休憩の後お見せします」

「いや今見せてほしいのだが」

「駄目です必ずトイレに行って来てください」

 議員たちは謎の迫力に気圧されながらも不承不承トイレを済ませた。

 

 休憩から帰ると会議場には白い布が張られていた。

 そしてその前で軍務卿ヤヴィンが日本製の機械を準備していた。

 軍のトップ自らが準備作業をしていたことに議員は驚いていたが、日本製の映像装置、プロジ

 ェクターの扱いに一番慣れていたのが彼だったのである。

 何故ならそれらを私物化して毎日アニメを見ていたからである。 

「お見せする前に体調の悪い方はおられませんか?」

「いないぞ」

「万一の場合に備えて日本国からAEDを輸入しましたのでご安心を」

 AED(自動体外式除細動器)とは心臓が止まってしまった人を生き返らせる装置らしい。

「いいかげんしつこいぞ!早く見せろ!」

「それではお見せします。これは日本国陸上自衛隊の富士総合火力演習を映した映像です」

 

 白い布の上にはこの世のものとは思えない映像が映し出されていた。

 爆炎、爆発、轟音、

 地を這う鉄の竜、

 規律の取れた兵士。

 鉄竜の角から次々と高威力の爆裂魔法が投射され無人の荒野を掘り返していった。

 もしもそこに人がいたらと想像し、軍幹部の言っていたことが嘘ではないと理解した。

 そして自国民を虐殺した極悪非道のロウリア王国兵でさえ哀れに思った。

 

「次は海上自衛隊のイージス艦の解説動画です」

 日本の護衛艦の脅威の性能が明らかにされた。

 

「最後は航空自衛隊の航空祭の映像です」

 音速を超えて飛ぶ鉄竜に敵うものなどこの世界にいないだろう。

 

 ミルカンが叫ぶ。

「もうやめて!ナウシ殿のライフはゼロよ!」

 ナウシはショックで痙攣していた。

 日本軍は強いと予想していたがまさかここまでとは想定していなかった。

 

「これではまるで古の魔法帝国ではないか!」

 誰かが叫ぶと直ちにヤヴィンが訂正の発言する。

「魔帝を構成する光翼人は他種族を差別に迫害しましたが、日本人は平和を愛する民族です」

「自分達に危害を及ぼさなければ、決して彼らから攻撃はしないのです」

「軍隊の強さについては両者とも不明な点は多々ありますが、互角であると考えられます」

 クワトイネの貴族たちは日本国が味方であることに心の底から安堵した。

 

「しかしこれ程強力な軍隊が敗北したというのは信じられんのだが」

「そうだ日本の軍隊は海魔と船幽霊によって壊滅させられたそうではないか」

「深海棲艦についてはこの世界に近似した存在がないので、海魔あるいは舟幽霊に似た者と説明

 しました。ただその強さは桁違いです」

「これが資料映像です」

 

 海の上に青白い顔をして黒い服を着た女性が立っていた。その女性は船をひっくり返したよう

 な盾を両手に持っていて、その目からは青白いオーラが炎の様に噴き出している。

 それは戦艦ル級といった。

 イージス護衛艦から発射された誘導魔光弾に酷似する兵器、対艦誘導弾がル級に命中する。

 しかし水面に映る影を叩いたかのように効果がない。

 

 護衛艦から文明国の魔導砲より強力な大砲が発射される。20km以上離れた距離から放たれた

 砲弾は正確にル級の頭部に命中する。しかしこれも効かない。この世界の文明国が使う戦列艦

 であれば一発で轟沈させることの出来る砲弾が何の被害も与えられない。

 ル級の盾から砲弾が打ち出される。海面に巨大な水柱が林立する。

 

 護衛艦の様に百発百中とはいかないが着弾点は少しずつ護衛艦に近くなる。

 そしてとうとう命中弾がきた。護衛艦は対空誘導弾を撃ち弾丸を迎撃した。

 空を飛ぶ小さな目標に攻撃を当てるという神業を見せた。

 しかしその弾丸を破壊することは出来ず護衛艦は撃沈された。

 

 空母ヲ級はクラゲの化け物の被り物を被り、マントと杖を持った美しい女性だった。

 この世界の女魔導師に見える姿をしているが人ではない。

 三角形に人の歯が生えた艦載機なる航空戦力を駆使して自衛隊の超音速戦闘機を苦しめていた。

 自衛隊の戦闘機の方が速さ、武器の性能ともに優れている。しかし対空誘導弾もバルカン砲も

 深海棲艦の艦載機には通じない。そのうち多数の深海艦載機に囲まれ空中衝突した。

 爆発の後、自衛隊機だけが墜落し、深海艦載機は飛行を続けていた。

 

 のどかな地方都市の海岸沿いの道路に戦車が並んでいた。

 海自と空自が撃破された自衛隊は本土に深海棲艦の接近を許してしまう。

 残った陸自は決死の覚悟で国民の盾になるつもりであった。

 戦艦ル級が海岸に近づく。戦車が一斉に砲撃を開始するも相手に損害を与えられない。

 戦艦ル級の砲撃が轟き、戦車がおもちゃの様に吹き飛ばされる。

 

 陸自を蹴散らしたのち大きな腹を抱えた輸送艦ワ級が砂浜に乗り上げる。

 ワ級の腹が開き、中から名状しがたき何かが出てきたところで映像は一時切れた。

 そして映像が再び移った時、都市は破壊し尽くされていた。

 

 理不尽な、ただ理不尽な戦闘であった。

 議員達は言葉を失う。ミルカンが呟く。

「日本国の皆様は我々の想像も出来ない苦難を乗り越えてきたのですね」

 

「では艦娘の方達の戦いも見ていただきます」

 ヤヴィンは艦娘と深海棲艦の戦いの映像を流した。

 深海棲艦の艦隊は戦艦ル級を旗艦に空母ヲ級、重巡1,軽巡1,駆逐艦2の編成である。

 そして艦娘の艦隊もまた戦艦1,正規空母1、重巡1,軽巡1,駆逐艦2、同じ編成であった。

 

 空母娘の放った矢が飛行機械に変化し深海艦載機と空戦を繰り広げる。

 深海艦載機と互角以上に渡り合い航空優勢を獲得した。

 超音速戦闘機と比べれば遅いがワイバーンの二倍以上の速度が出ているらしい。

 

 戦艦娘の大砲が轟音を上げ、砲弾が大気を震わせて空を切り裂く。

 この世界の海魔によく似た深海棲艦の駆逐艦に命中し、一撃で撃沈させた。

 深海棲艦の戦艦ル級も大砲を撃ち返した。重巡の艦娘に命中し中破させた。

 重巡娘の制服は破れ艤装も破壊された。しかし闘志は失っていない、残った砲で攻撃する。

 男どもは艦娘のあられもない姿を見て一瞬喜んだが、すぐに気まずそうに眼をそらした。

 

 艦娘のダメージはある程度まで制服と艤装が肩代わりしてくれる。そのため艦娘は余程のこと

 例えば艤装が大破しても、それ以上戦闘を継続しなければ死亡轟沈しない。

 この事は多くの犠牲の結果の上に解ったことである。

 

 駆逐艦娘が戦艦ル級に砲撃する、しかし小口径砲では装甲に阻まれダメージを与えられない。

 ル級の砲撃が駆逐艦娘のすぐそばに着弾する。駆逐艦よりも大きな水柱が立つ。

 もし戦艦の砲撃が命中すれば駆逐艦はただでは済まないだろう。

 しかし駆逐艦娘は恐怖心などないかのように砲撃を続ける。

 

「あれ?深海棲艦の大きさが先程と違うような?」

 議員達が気付いた通り、深海棲艦は戦う相手によって大きさを変える。

 現代艦艇と戦う場合は体長数十メートルから数百メートル、艦娘と戦う場合は人間大の1メー

 トルから2メートルの間(艤装は含まない)になる。ただし例外となる事例も多く報告されて

 いる。

 

 艦娘の飛行機械と深海艦載機の戦いは艦娘側が勝利した。

 空母ヲ級は上空から襲ってきた99艦爆の爆撃を避けた、しかし海面すれすれを飛んできた

 流星改の魚雷を食らい横転、沈没した。

 魚雷とは魚の様に水中を進み、敵船の船底に穴をあけ沈没させる兵器であるという。

 

 日没を迎えても決着はつかず、夜戦にもつれ込む。

 軽巡娘が探照灯を照射する。敵旗艦であるル級の姿がはっきりと見える。

 探照灯をつけるということは敵艦からも見えるようになるということだ。

 軽巡娘は集中砲火を受け、たちまち大破させられた。

 

 駆逐艦娘が必殺の魚雷を叩きこむため戦艦ル級に迫る。

 ル級が気付き、副砲を乱射する。戦艦の副砲すら駆逐艦にとっては脅威である。

 しかし駆逐艦娘は逃げない、接触するかの様な近距離まで肉薄し魚雷を放つ。

 ル級の足元から巨大な水柱が立ち、金属が軋む音と悲鳴が上がった。

 戦艦ル級は海底に沈んでゆく。その表情はどこか安堵していたかのようだった。

 

 戦いは艦娘の勝利に終わり、議員達は歓声を上げた。ナウシは呟く。

「艦娘のなんと勇敢なことよ」

 クワトイネの人々は日本国との同盟をより強固にしていくことで一致した。

 

 ロウリア王国軍占領下のギム

「さて、アデム君が増援を連れてくるまで持ちこたえなければな」

 先ほどの軍議では戦闘意欲旺盛な副将アデムが珍しく慎重論を唱えてきた。

 司令官のパンドールは事態の深刻さを重く受け止め、王都へ増援を求めることに賛成した。

 使者はアデムが自ら立候補し認められた。上層部を説得するには一兵卒の伝令では不足である

 と考えられためである。

 パンドールは本陣を出ると空を眺める。今やロデニウス大陸最強の国家となったロウリア王国

 の力の象徴であるワイバーンの編隊が飛行していた。

 

「現在37騎が警戒飛行を続けています」

 先遣隊に残されたワイバーンは残り74騎、その半数が交代で警戒飛行を続けているという。

「37騎もか、多くないか?」

「いえ、東部諸侯軍は全滅した可能性が決して低くないのです」

 参謀は最大限の警戒を続けること進言するのでパンドールは不安な気持ちになる。しかし力強

 いワイバーンの飛行する姿を見ていると、何者にも敗けることはないという気持ちが湧いてく

 る。たとえ伝説の魔帝の進軍すら跳ね返すことが出来るだろう。

 

 パンドールは従卒を呼ぶ。

「はちみつ水をくれないか」

 この男は常にはちみつ水を飲んでいるので周囲の人間はうんざりしている。

 そんなことにはまったく気づかずパンドールはご満悦だ。

「甘いものを飲むと落ち着くなあ」

 

「東の空に飛行するものあり!数およそ70!」

 上空の警戒騎から敵飛竜の襲来を告げる連絡がはいる。

「敵の飛竜は羽ばたいていません!」

 未知の飛行騎獣なのだろうか、しかし最強の生物はワイバーンである。数が少なくても勝てるだ

 ろう。

「残りのワイバーンも上げろ!」

 

 敵の編隊から18騎が先行した、空戦仕様と思われる。

「馬鹿め、各個撃破してしまえ」

 37騎が一斉に動力火炎弾を放つ。規模は小さくなったがギム戦でも見せた面制圧攻撃である。

 炎の壁が敵に迫る。

 その時、敵飛竜は急上昇し炎の壁の遥か上を飛び越した。

 戦いを見ていた協力国の空戦指導員が叫ぶ。

 

「何という上昇能力だ!ワイバーンを超えている!」

 敵飛竜はワイバーンより優れている?そんなことはあり得ない。

 何故ならワイバーンは最強だから。

 

 敵飛竜は上空から降下し味方ワイバーンに襲い掛かる。位置エネルギーを速度に変え凄まじい

 スピードで味方ワイバーンと擦れ違う。その際ダダダという何かが破裂する音がする。

 パンドールは信じられない光景を見た。

 ワイバーンと竜騎士が穴だらけになり、血しぶきを上げて墜落していく。

 

 敵飛竜は光る礫の様なものを連続して飛ばし、竜騎士を墜していく。

 最強の生物であるはずのワイバーンの死体が次々に落ちてくる。

 撃墜されるのは味方騎ばかりである。

「ば、馬鹿なぁ!」

 

 ワイバーンの動力火炎弾はかすりもしない。軽々と躱して光る礫に撃たれてしまう。

 敵の速度は500キロを超えているらしくワイバーンは全く追いつけない。

 敵飛竜がワイバーンの頭上で宙返りをする。

「舐めやがって!」

 こちらの速度が遅すぎるためそうやって距離を調節したいるのだ。

「化け物だ、勝てるわけない」

 敵の行動に怒る者もいるが大半の者は敵の強さに恐怖する。

 37騎の味方ワイバーンは全て撃墜された。

 

 一式戦 隼Ⅱ型64戦隊がワイバーンを蹴散らした後、爆装一式戦 隼Ⅲ型改(65戦隊)が敵飛行

 場を爆撃する。ワイバーンはすぐには離陸できないので残りのワイバーンは未だ地上にいる。

 離陸体勢に入っていたワイバーンは飛び立つ前に肉片に変えられた。

 

 敵の空戦能力を奪った後、一式陸攻二個小隊36機がギムの町を爆撃する。

 事前に妖精の偵察隊を送り込み、ロウリア兵がどこにいるのか調査済みである。

 一式陸攻はそれぞれ北と南の市街地を爆撃する。

 ロウリア兵は空き家に勝手に住み着いていたが、一式陸攻から投下された60キロ爆弾は建物ご

 とロウリア兵を吹き飛ばし焼き殺す。

 ギムの町を破壊することは日本国との協議の結果、クワトイネ公国も了承している。

 

 町の西側には民間人の商人が見られたため、攻撃の対象外となっている。

 また一部逃げ道を残しておかないと敵が死兵と化す恐れもある。

 

「こ、こんなことはあり得ない、、、」

 パンドールは震える手でカップを口に近づけてはちみつ水を飲もうとした。

「飲んでる場合ですか!」

 部下達が大声を出す。上官に怒鳴るほど彼らは切羽詰まっていた。

 

 左右が炎の壁で挟まれている光景を見せられ、平静を保てなくなった。

 その時一人の伝令が報告を持ってきた。

「報告します!東から鉄の獣に乗ったクワトイネ兵が迫ってきています!」

「なんだと!」

 

 

 心身耗弱状態のノウ将軍に代わり西部方面軍臨時司令官に就任したハンキ将軍はクワトイネ・

 クイラ連合軍を率いてギム東側陣地に攻勢をかけていた。

 彼は日本国から輸入した軍用車両ハイラックスに乗って指揮している。

 ハイラックスはトヨタ自動車が販売している軍用トラックである。

 

 このトラックは耐久性があり整備も簡単である。なにせ解体工事用の鉄球を食らっても簡単な

 修理で走れるようになるのである。

 そのため旧世界では中東アフリカの武装勢力から途上国さらにロシア、ウクライナ、そしてア

 メリカといった様々な国の軍隊で採用されている。

 クイラ王国ではライセンス契約がなされ王国内で建設中の自動車工場で生産される計画だ。

 その名は『クイラックス』となる予定である。

 

 ハイラックスの後ろには百台のトラクターが荷台をけん引してやってきた。

 クワトイネ兵とクイラの援軍が木製の荷台から降りてくる。

 また、二十台のトラクターは大きな車輪がついた大きな鉄の塊をけん引している。

 

 これは日本の書物を基にクイラの鍛冶師が制作した、ナポレオン時代に使用された12ポンド

 グリボーバル野砲によく似た大砲である。重量880 kg 銃身長229 cm 要員数 砲手15名、

 馬6頭 砲弾118.1 mm 口径121.3 mm

 日本の技術者はいきなりこれを造れるとはすごいと賞賛していた。

 日本国が二か国と国交を結んでまだ四か月、何故これが造れたのかというと、実はこれらは日

 本国内で日本の設備を使い、二国の留学生が制作したものである。

 

 一応の名目は異世界の文化交流が目的であり、異なる二つの世界の技術を披露しあう事が出来

 た。留学生が作った大砲は母国の人たちが日本を知るための資料として二国に送られた。

 武器輸出を禁止する法律の穴をついた形だ。

 また日本側には魔法を付与した剣などを造る所を見せてもらい、出来たものは研究資料として

 日本の研究機関に贈られた。

 

 クワトイネ砲兵部隊は12ポンド砲に弾を装填しロウリアの陣地に向かって砲撃する。

 逆茂木で作られた柵を木っ端みじんに粉砕しその奥にいる長弓兵を討ち取る。

 ロウリアの長弓兵は遥か射程外から高威力の攻撃を撃ち込まれ、なすすべもなく壊滅した。

 

「司令、指示をお願いします!」

 悲痛な叫びを上げながら先遣隊の幕僚達がパンドール将軍に詰め寄る。しかし、

「これは夢だ、夢に違いない。アハハ!ロウリア王国万歳!」

 パンドールは目の前の現実から逃げ出していた。幕僚達は絶望した。

 

「逃げよう」

 誰かがそう言うと幕僚達は攻撃を受けていない西側に向かって走り出した。

 その内一人が猛烈に嫌な予感がして東の方を振り返る。

「おい、あれはなんだ?」

 振り向くと東の空に光輝く翼を開いた何かが飛んでいた。

 

 ドッッッカーーーーン!!

 キィィィィン!!

 ズゴオオオオ!!

 

 まるで空が破裂したかのような音が響き渡った。

 ギム本陣の上空をなにか途轍もないものが通り過ぎる。それだけで誰も立っていられない程強

 い突風が起こり、司令部の全員が転倒した。

 その何かは旋回して本陣の上空に戻ってきた。

 

 体が割れて腕と足のようなものが出てくる。

 頭の部分にある金属板が溶けて別の形に変わっていく。

 最後に兜を被った騎士のように見える頭が出てきた。

 それは白銀の鎧をまとった巨大な騎士のようであった。

「人型兵器?」

 

 古の魔法帝国の伝説にのみ語られる伝説の兵器が眼前に現れた。

 いや、目の前のこれは伝説で語られた人型陸戦兵器よりも更に強そうだ。

 もしかしたら魔法帝国以上の文明から送り込まれた兵器なのかもしれない。

 それはそんな想像を駆り立てる。

 人型兵器は足から突風を吹き出しながら本陣の西側、ロウリア司令部の幕僚達が逃げようとした

 道をふさぐ。

 

「、、、、、」

 司令部の幕僚達は全員声も出ない。

 絶望も驚愕も限界を遥かに超えすぎ、思考が完全停止していた。

 

 突如人型兵器が光を発し、次の瞬間跡形もなく消え去った。

「え?」

 困惑する司令部の幕僚達、彼らの前に黒い帽子を被った小さな女の子が進み出た。

「え、、、と、、、んちゃ」

 沈黙が辺りを包んだ。

「霰さま、んちゃとは言わないのではなかったのですか?」

 静の突っ込みが入る。

「緊張したから、、」 そして飛行場は深海艦載機の空爆によって破壊された。

 

「幻覚魔法か!」

「脅かしやがって!ぶっ殺してやる!」

 司令部の幕僚達は霰のマーク3「破裂の人形」を幻覚だと思い込んで激怒し襲い掛かった。

「え?違う、、よいしょ」

 霰は懐から何かを取り出すと目の前に置いた。

 小さな船の模型のようなそれは地面に置くと大きくなり幕僚達の前を塞いだ。

「これは揚陸艇?!」

 協力国の将兵が自国の艦艇とよく似た物が現れたので驚く。

 

 そして揚陸艇、すなわち大発動艇の中から人影が飛び出す。

 その中で緑の髪をした少女が怒髪天を指す勢いで幕僚達を殴り倒す。

「霰は私が守る!」

 睦月型駆逐艦の長月だ。

 

 かつて自分に自信のなかった彼女は霰を守ると称して常に一緒に行動していたが、その実霰に

 守って貰っていた。陽炎が第14駆逐隊を結成してからは長月も訓練を重ね、霰と肩を並べる

 のに相応しい実力を得た。そして二人は本当の百合カップル親友になったのだ。

 

「長月張り切ってるなー。好きな女の子の前ではしゃぐ小学生男子か」

 釣り目の少女、曙が呆れたように呟く。

「中々ないですからね、霰さがピンチになるとき」

 胸が豊かな少女、潮が同意した。二人の言葉を聞いて長月が振り返る。

「そこ!うるさい!」

 さらに金髪の少女、夕立と黒髪の綾波が大発動艇から降りてきた。

 

 大発を使用して艦娘を運ぶ試みは、地球における深海棲艦との戦いで試された。

 しかし艦娘を乗せた大発を装備した艦娘を配置した艦隊は羅針盤が荒ぶり目的地に到着出来な

 かった。そして通信が切断されるいわゆる「猫った」状態となり強制撤退させらる事態が続出

 した。しかし新世界では問題なく運用できるようだ。

 

 また一般人をこの方法で運ぼうとすると、拡大縮小の際気を失ってしまう。

 数日間の入院が必要になるケースもあり、体験者はもう二度と経験したくないと言っている。

 

「貴様ら何者だ!日本国の兵か」

「その通り!故あってクワトイネに加勢する!おとなしく縛につけ!」

「貴方達はこの町の人々を虐殺した容疑が係っています。なので捕虜になっていただきます。

 抵抗しなければ悪いようには致しません」

 

 奥の方からきらびやかな宝石を付けた軍服の集団が進み出た。

「われらは列強パーパルディア皇国の軍人だ!蛮族が生意気な」

「皇国に逆らってただで済むと思うな!」

 そう言うと指揮官らしき男はズボンを下ろして〇器を露出した。

「跪いて俺のモノを咥えろ。そうすれば許す事を考えてやってもよ、、ぐふぇ!」

 夕立が男のモノにダイレクトアタックをかました。

 玉砕とは正にこのことである。

「名付けて、キッ〇ワキック!」

 全国の〇川さん申し訳ございません。

 

「隊長ォ!おのれ!」

 皇国の軍人は方陣を組みマスケット銃を構えた。

 綾波はそれを脅威と感じた。

 現代の銃であれば銃口の向き、相手の構え、目線や呼吸を読むことで弾道を予測できる。

 だから簡単に避けられるのだが、マスケットはそうもいかない。

 なにせ弾がまっすぐ飛ばないのだ。予測出来ないので躱すのは却って難しい。

 

 皇国の軍人Aは皇国に逆らう愚かな蛮族を射殺しようとマスケットを構えた。

 しかし照星の先にその蛮族の姿はなかった。

『見失った?』

 その時背後から断末魔の声が聞こえた。

 振り返ると小隊長の首が皮一枚を残して切断されぶら下がっていた。

 次は横から悲鳴が聞こえる。

 横を向くと小隊で一番射撃の上手い先輩が血を吹いて倒れていくのを見た。

 

 また別の方向から次々に悲鳴が聞こえ、そのたびに仲間が倒れていく。

『いったいこれはどういうことだ!まるで暗闇の中で戦っているようだ!』

 焦るA、しかしとうとう蛮族の姿をとらえる。長い黒髪の少女が前にいる。

「見つけたぞ、仲間の仇だ!」

 マスケットを構え、引き金に指を掛けたとき、少女のオデコが目の前に映し出された。

 彼が見つけたのではない、自分が次の標的にされたのだと認識する暇もなく、Aの意識は永遠

 に途切れた。

 

 ロウリアの将兵は見た。皇国の精鋭兵が二人の少女になすすべなく蹂躙されるのを。

 あれは戦闘などと呼べる代物ではなかった、まるで獅子が兎を蹴散らしているかのような一方

 的な殺戮劇であった。

 

「銃は抜く、構える、打つの三拍子かかるっぽい、でも夕立はゼロ拍子っぽい!」

 発射されてから避けるのが難しいなら、そもそも撃たせなければ良いのだ。

 綾波と夕立は人間の視線を熟知している。こちらに避けるだろうと予測した方向と逆向きに動

 くことで、敵からはあたかも消えたように見えるのだ。

 相手を混乱させ懐に飛び込む事で、銃器を装備した兵士さえ二人の敵ではないのだ。

 そして同じことは陽炎達、他の艦娘にも出来るのである。

 

「ダメだ!逃げろ!」

 皇国兵がやられたのを見て、ロウリア兵達は再び西の方角に逃げ出した。

「霰!そいつらを逃がさないで!」

 霰は頷くと彼女の艤装が拡大し、GTM化した。

 破裂の人形は片膝をついて駐機体勢をとっている。

 しかし稼働させているハーモイドエンジンの振動はすさまじく、訓練された兵士であっても立

 っていることは出来ない。

 

「この揺れは幻覚じゃない?あれは本物なのか?」

 兵士達がその場にへたり込む中、平然と歩き続ける者がいる。

「すごく揺れますね、まるで嵐の海みたいです」

「まあ、私ら艦娘にかかれば、このくらいの揺れはなんてことないがな」

 普段から揺れる海で訓練している艦娘、特に小型で波の影響をもろに受ける駆逐艦は普段から

 荒波に慣れているので、揺れる地面であっても歩き続けることが出来る。

 駆逐艦娘達はロウリア兵の幹部達を拘束していった。

 

「しっかし五月蠅いわね!このロボット!」

 曙が破裂の人形のエンジン音のあまりの五月蠅さに切れた。

 

 可変型ゴチックメード『マーク3リッタージェット』はその大出力エンジンが出す轟音が、空

 が破裂したかのような音と評されることから『破裂の人形』の異名を持つ。

 この機体はホルダ71ユーレイ、バーガ・ハリと共に、ジョーカー星団の3大GTMの一つと呼ば

 れ、最強のGTMの一角と認識されていた。非常に操縦の難しい機体でもある。

 

「俺達はどうなる?」

「クワトイネ公国に引き渡します。あなた方士官はギム市民の虐殺を主導した容疑で取り調べを

 受けたのち、公国の法律で裁かれることになります」

 ロウリア兵達の顔が絶望に染まる。

「そ、それだけはやめてくれ!嬲り殺しにされてしまう!」

 

「自業自得だな」

 その時長月の通信機から聞き覚えのある男の声が聞こえた。

「お前はあの時の日本の軍人!」

 一ノ瀬アツシ提督がマイハーク出張所から通信を繋いだ。どうしても言っておかなければなら

 ないことがあった。

「もし捕虜になった時、こうなるのが嫌なのなら、何故ギムの一般市民を虐殺した?」

「やったらやり返される、当然だろう。そんな当たり前の事にも気付けなかったのか?」

「頭の中がお花畑にでもなっていたのか?」

 ロウリア兵達は悔しそうに歯ぎしりする。

 

「俺達は上官の命令に従ってやっただけだ!」

 ロウリア兵が反論という名の責任転嫁をし始めた。

「そうだ悪いのはアデムの野郎だ!」

 多くの兵が口々にアデムを批判する。

「その台詞は法廷で言うんだな、それでもクワトイネの国民が許すとは思えんが」

 

「この世界ではこれが当たり前なのかもしれない。だがお前たちがどうなったかを知って、この

 世界の人々の意識が変わることを願っているよ」

 

「ところで噂のアデムはどこにいる?」

「奴は増援を呼びに王都に向かった」

「運だけはいい奴だな。まあいい、王都を落とせば捕縛できるだろう」

「な!」

 ロウリア兵達は日本が王都ジンハークまでも落とすつもりであることを知って戦慄した。

 そしてそれが決して不可能ではないことを理解して絶望した。

「我々はなんて国を敵に回してしまったのだ」

 

 

 その頃アデムに同行した通信士官は、後ろのギムの町で爆音が響き、煙が立ち上ってい

 るのを目撃した。

「ああアデム様、ギムの本陣が危険です」

 それを見てアデムは冷めた目で見返す。彼は不自然に落ち着いていた。

「我々は王都ではなく北の港に向かう」

 

「まさか国を裏切るのですか!?」

「こうなっては亜人共を根絶させることは不可能だ、早急にあの方に連絡しなければならん」

 アデムにとって国などどうでも良く、亜人殲滅という目標が達成できれば良いのだ。

 ロウリアという国は居心地が良かったが、滅亡が不可避ならば仕方がない。

 国家として弱いのが悪いのだ。命を懸けてまで守る義理は彼にはなかった。

 

「あの方とは?」

「パーパルディア皇国のある人物だ」

 列強国であるパーパルディア皇国の力ならば如何に敵が強くても打ち破れるだろう。

 上手くいけば自分の安全が保障されるかもしれない。

 通信士官もまた国よりも自分の命が大切だった。

 

 ギム東側陣地に八九式中戦車、通称チイたんが停まっている。

 その上に金髪の少女が座っていた。

「無事に終わったみたいだよ」

 皐月は万一の事態に備えて後方に待機していた。彼女の艤装に融合したマーク2は破裂の人形と

 同一人物に設計された可変型GTMである。不測の事態に素早く対応できると期待され、この配置

 となった。

 

「ただ現場主導者と目されていた副将アデムの確保には失敗したみたい」

 皐月は本陣奇襲の結果をハンキ将軍に報告する。

「あの攻撃で戦死したのか?」

「偶々増援を呼びに王都に発ったところだったらしいよ」

「くそ!悪運の強いやつめ」

 本命の人物の確保に失敗したと聞きハンキも残念そうだ。

 

「ハンキさん捕虜の扱いなんだけど、提督から言われていることがあるんだ」

「ああ分かっている、決して拷問の様なことはしないと約束しよう。たとえ彼らが我が国の民を

 虐殺した犯人であっても」

 軍務卿ヤヴィンを始とした軍人達は祖国を近代国家とするため、地球の国際法を学び、取り入

 れることとした。まずは捕虜の虐待を止めることを全軍に厳命した。

 ただし彼らの所業は戦後の裁判で厳しく追及されるであろう。

「そう、良かった!」

 皐月は笑顔で答えた。

 

 無線で奇襲部隊と連絡する。

 ロウリアの司令官は精神崩壊を起こし、笑いながら何も入っていないカップから飲み物を飲も

 うとしているらしい。

 その他の将兵もうな垂れていたり、ブツブツと何かを喋っていたりと憔悴しているらしい。

 

「陽炎の自分で決着を付けたがっていたのに、さぞ無念だったろう」

「まさかあんな事が起こるなんて想像してませんでした」

「陽炎、あんたの意思は私たちが引き継いだわ」

 長月と潮、曙が口々に語る。ハンキは陽炎に何があったのか心配になった。

「呉に呼び出されただけ」

 霰が真相を明かす。

 

「呼ばれたのはパートナーのラキシスさんだけでしょう」

「たしかラキシスのお姉さんて言う人が何言ってるか分からないから通訳に呼ばれたっぽい」

 綾波と夕立はいぶかしんだ。

 

 ファティマ召喚で新たにやってきたラキシスの姉パルテノは英語のスラングらしき言葉を連発

 していたが、アイオワに何を言っているのか内容を聞こうとしたところ、顔を真っ赤にして

「OH!NO!」

 と叫んで走り去っていってしまった。

 

「別に陽炎さんは残っても良かったのでは?」

「ほんとそうっぽい!」

 

「それはあんたらが陽炎にしつこく演習を強要したからでしょう!」

 陽炎がいないのは綾波夕立との演習を嫌ったからだけであった。

 ラキシスは呉鎮守府に、陽炎はロデニウス派遣艦隊本隊を迎えに公都に向かった。

「ところで本隊の旗艦は誰?」

「霧島さん」

「勝ったな」

「ああ」

 




 肩が痛いです、これが四十肩どこか懐かしく聞こえる響き、、。
 とうとう実装しました大和改二!
 まさかの高速戦艦化、米電探積めばグレードアトラスターぽい。
 もう一つの大和改二重は何でもできる万能戦艦という感じです。
 これで勝つる!
 今回の綾波と夕立の格闘技はISUTOSHI先生の漫画「愛気」が元ネタです。


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第十四話 王国の反撃

 お待たせして申し訳ございません。
 それにしても狭霧の水着エロいな、あれだけ白が似合うのは白米とナミさんと狭霧だけだな。



 時間はギム戦前に遡る。

 ロウリアの竜騎士ムーラはエジェイの飛行場に誘導され着陸させられた。

 相棒の足環を確認していたクワトイネ兵から声を掛けられる。

「あー、ムーラ・ジチタさんか?あんたの飛竜は個人所有なのか?」

 ムーラはその通りだと返答した。

 貴族の娘である妻と結婚するためムーラは必死に勉強し竜騎士となった。

 ムーラの相棒マッキン号は妻の父親から、結婚と竜騎士試験合格祝いに贈られたものだ。

 

「となると接収するわけにはいきませんね。戦争が終わったら返還します」

 この世界にはワイバーンを使役する冒険者や傭兵がいる。敵対国家が所有するワイバーンであ

 れば鹵獲しても構わないが、こういった人々のワイバーンは返還することが慣例である。

 ただしムーラの様に正規兵で個人所有している場合は国毎に対応が異なる。

 

「問答無用で分捕ってしまえばいいじゃないですか」

 先ほど対応した兵士の部下が意見する。

「そもそもなんでロウリア野郎に痛い目を見せるのもだめなんですか?」

 この兵士は捕虜虐待を禁止されたことに不満を持っていた。

「だめだ公国は日本国を見習って近代国家に変わらなければならないんだ」

「ちっ、亡命者が」

 兵士は捨て台詞を吐いて他の仕事に行ってしまった。クワトイネ公国にもモラルの低い兵士は

 いるのである。

 

「それよりも此処の責任者と話をさせてくれ。王国と公国双方に関わることなんだ!」

 ムーラはこの戦争の裏に魔王軍残党が関わっていることを知った。

 何としてもこの戦争を止めねばならない。

「そんなこと無理に決まっているでしょう」

 先程とは別の兵がムーラの要望を否定する。

「分かりました、確約は出来ませんが上申してみます」

 上司は願いを聞いてくれた。ムーラは何故この兵士は自分に甘いのか不思議に思った。

「ジチタ商会の船旅は快適でしたからね」

 

 ムーラの実家はロウリア王国で海運会社を経営している中規模の商会である。

 ムーラの祖父はハーク32世が始めた亜人排斥運動が本気であることを知り、亜人の商会員を

 国外に脱出させた。その際国には国外の支店を乗っ取られたと報告している。

 そして亜人の友人知人にロウリアを脱出すること勧めるとともに自らの商会の船に彼らを密航

 させ国外に逃がした。

 ジチタ商会を通じてロウリアの亜人迫害を逃れた人々の数は数百人を上回る。

 ムーラの目の前の兵士もその一人であった。

 

 ムーラが何らかの情報を持っていることは司令部に伝わった。

 しかし後にムーラの情報が公国の上層部に届いた時、事態は急転していたのである。

 

 ムーラの相棒マッキン号(雄)は鳳翔の元に預けられことになった。

 敵国に預けるよりは安心できるということでムーラも同意した。

 鳳翔の愛騎ゴールド号(雌)もマッキン号のことが気に入ったらしい。

「飛び方に無駄がなくきれい。あと尻の形がいい」

 通訳の連装砲ちゃんを通じてそうコメントしていた。

 戦後マッキン号が竜体重を落として帰ってきたことにムーラは心配したが、鳳翔から特製ワイ

 バーンフードを大量に贈られると共に、相棒がパパになったことを知らされた。

 

 

 

 綾波と夕立を連れて城塞都市エジェイに戻った陽炎の目の前に広がっていた光景は異様、その

 一言に尽きる。

 3人の目の前には鎧に身を包んだ騎士達が仰向けで寝っ転がっていた。

 よく見ると全員獣人であった。

 

 彼らはクワトイネ公国が誇る精鋭騎兵部隊、西部第一騎兵隊である。

 馬の扱いにたけた獣人によって構成され、他国からも一目置かれている。

 その中でも屈強な虎獣人、騎兵隊隊長タイガギルがこちらを向いた。

「ゴロにゃ~~~~~ん」

 大物ベテラン声優の様ないい声で虎面のおっさんが猫なで声をだす。

 陽炎のSAN値は激減した。

 

「何してんの」

「おお、そこのお二人、正に獣人の王いや女王に相応しきお方!」

 獣人達は綾波と夕立を自分たちの女王として祭り上げる気でいた。

 

「あのうこの二人は獣人ではないので、ないよね?」

 陽炎が否定しようとして改めて二人に確認した。

「私たちを何だと思ってるんですか」

 

 艦娘の中には動物らしき口調やしぐさをする者が居る。

 受け狙いかキャラ付けが目的なのか、それとも艦娘の本能なのだろうか。

 陽炎は二人の素体が人間ではなく犬か猫ではないかと疑念を持っていた。

 あと夕雲型は全員サキュバスじゃないかと思う。

 

「そういう陽炎は元男なんじゃないんですか」

「違うわよ!」

「5本ぐらい生えてそうっぽい」

「あたしゃマレーオオスッポンか!」

 マレーオオスッポンペニスには交尾の際抜けないよう5本の突起が生えており、それを見た爬

 虫類学者高田栄一氏は子供の手の様だといった。

 参考文献 高田栄一の爬虫類ウォッチング

 

 

「お二人が獣人ではないとはご冗談を、立ち上る獣臭は隠せませんぞ」

 そのとき二人の目から冷たく輝く炎が燃え上がる。

 獣の眼光がその場にいる全員の魂魄を射抜く。だれも指一本動かせなかった。

「その口を閉じろ。どうしても開きたければ貴様の顎の骨、この夕立が外すぞ、確実にな」

 夕立がいつもの口調を止めてジ〇ンの少佐っぽい話し方をしている。

 

「お鼻の具合がよろしくないようですわね、鼻の奥にある物を掻き出して差し上げましょうか」

 それは脳味噌と言われる物ではないだろうか。

「女性に対し体臭の話をするのは如何かと」

「は、はひ」

 タイガギル以下獣人兵は生まれたての子猫の様に震えた。

 

「夕立は揚げたてのドーナツの匂いがするって提督さんが言ってたっぽい!」

 夕立の言葉に綾波が赤面する。

「はわわ夕立さんなんてことをー」

「綾波はふかし芋の匂いがするっぽい?」

「違います!」

 

 

 曙と潮が陽炎を迎えに門の前にやってきた、そして綾波がいることに気づいた。

「げ、綾波姉、なんでいるのよ」

 曙は思わず声に出してしまった。潮の顔が引きつっている。

「ぷークスクス、綾波も妹に"げ″と言われてるっぽい」

 

「むう、私は長女ですから、妹の躾をする義務があるんです!」

「うちの長女は一年の大半を芋を食べて過ごしてるっぽい」

 夕立の姉である白露は11月から3月まで焼芋を食べている限定?グラで過ごし、もはやそち

 らが通常グラではないかとも言われている。

 

「そちらはそちらです。曙に潮、後で話があります」

「あ、あたしは鳳翔さんの手伝いがあるから!」

 曙は逃げ出した。一言も話してない潮も、なんで私までと半泣きで退散した。

 

 

 

 

 騒いでいると見知った人物がやってきた。最初の訪日使節団の一員であったハンキ氏だ。

「ハンキさんどうしてここに?」

「ノウ将軍が心の病だということで私が司令官代理として赴任したんだ。ああ軍に復帰して今は

 少将だ」

 

 ハンキは訪日の後、マイハークの自動車教習所に通い免許をとった。

 そしてクワトイネ公国初の機械化部隊の指揮官に就任したのだった。

 現時点では軍用トラックと改造トラクターのみの部隊であるが、ゆくゆくは戦車を配備する予

 定である。

 

 ちなみに改二で戦車を搭載が出来るようになった皐月は、普通自動車免許を取ろうとしたが任

 務が忙しく一年以上かかってしまった。大特はまだ取得していない。

 戦車は妖精が操縦するので問題はないのだが本人は免許が欲しいらしい。 

 

 陽炎は背筋を伸ばして敬礼をした。

「そうでしたか、失礼しました!」

「はは、そうかしこまらんでも良いよ」

「いえ!将官たる方に対して失礼は出来ません!」

 基本的に陽炎は真面目なのだ。

 

「ところでこの二人も艦娘なのですかな」

 ハンキは後ろの二人について聞いた。

「実家が芋農家っぽい方が綾波、語尾があざとい方が夕立です」

 中々に酷い紹介である。綾波と夕立が抗議するか陽炎は無視する。

「この二人は駆逐艦ではずっと最強の座を守り通している猛者です。私より強いですよ」

 周囲がどよめく。

 

「そんなことないっぽい、陽炎の方が強いっぽい」

 夕立は陽炎の言葉を否定する。

「演習では8割あんた達が勝ってるでしょ」

 陽炎と二人は何度も演習で戦っているが、陽炎が勝利したことは少ない。

 改二になってからも、多少勝利のチャンスが増えたかも?という程度であろう。

 

「あと最近は後輩の長波や風雲にも負け越してるし」

 後輩であり陽炎が指導した夕雲型は実戦を経験してからはめきめきと実力をつけ、改二を実装

 した後は陽炎を演習で倒す者達が現れ始めた。

 長波や風雲はその代表でもある。陽炎は嬉しくもあり、悔しくもあった。

 

「確かに演習では勝ち越してます、ですが実戦では分かりません」

「陽炎より戦果を上げろというならできるっぽい。でももし日本が二つに割れたとして、陽炎と

 敵対する陣営につくのは御免っぽい」

「本当の命の取り合いになったら、陽炎さんに勝てるイメージが湧きません」

 

「ちょ、何言ってるのよ!」

 周囲の人間達は陽炎に恐れの視線を向けていることに気づき、陽炎は頭を抱えた。

 

「ならなんであたしと演習したがるのよ」

「陽炎との演習が一番実戦に近いっぽい」

「一歩間違えば大怪我、最悪死亡するという緊張感が有りますから訓練が一番身に付くのです」

 ただ訓練メニューを消化するだけになっては、何事も上達しない。

 さらなる高みを目指す二人にとって陽炎は最高の訓練相手なのである。

 

「だから演習するっぽい!」

「演習しましょう!」

 ずずいと陽炎に迫る綾波と夕立、陽炎はたまらず助けを求めるが、第14駆逐隊のメンバーは

 いない。

「ラキシス助けて!」

「ちょ、ファティマシェルを叩かないでくださいよ!」

 

 ラキシスが人間大になって艤装の外に出てきた。

 その時、綾波と夕立は一瞬で後方に40m以上飛び後ずさった。

「誰っぽい!」

 夕立は両手を地につけて今にも飛掛ろうとする姿勢を見せる。

 綾波は限界まで姿勢を低くし、ラキシスを睨みつける。

 二人の様子を見てラキシスが嗤う。

「私の手刀の射程を一瞬で見抜きますか、流石ですネ」

 

 ラキシスに対し二人は最大級の警戒を見せる。

 四人はエジェイ要塞の外に移動した。

「どうしますか、今なら止められますヨ」

「そんな馬鹿なこと致しません、貴女のような強者との戦いは望むところです」

 綾波は歓喜の表情で答える。

「ガルルルル‼」

 一方の夕立は既に人語を忘れている。

 

「貴方達は強いですけれどファティマ無しでは勝てませんよ?」

「そんなことやってみなければ分かりませんよ!」

「ガァルルルルーーーー‼」

 綾波と夕立はラキシスに飛掛って行った。

 

 その戦いを目撃した人々は後に声を揃えてこう語った。

「あれは神々の戦いだった」

 

 一時間後演習の舞台となった荒野に立っていたのは藍色の髪をした女性ただ一人であった。

「まさかコンサバモードで対処しきれないとは、、、」

 藍色の髪はラキシスの運命の女神としての真の姿である。

 綾波と夕立が意外にも健闘したため彼女はその真の姿を開放せざるを得なかったのである。

「凄いわねラキシス!流石私のパートナー!」

 開始早々ダウンした陽炎が、地面に頭を突き刺したままラキシスを褒めた。

 

 綾波と夕立がクレーターから這い出てきて一言、

「うーんもう一戦、、」

 これは陽炎が二人を避けるのも仕方がない、そう思うラキシスであった。

 

 

 演習を終わらせ、エジェイの自衛隊テント内でギム奪還作戦に関する会議が行われた。

 出席者は陽炎と長月、鳳翔とあきつ丸、大内田と副官、ハンキとノウの副官ソミー。

 そしてクイラ王国からユーリア・バシュチェンコが参加した。

 

 バシュチェンコはクイラで最も精強な騎兵隊を率いる騎兵隊長である。

 その名を聞いたロウリア兵が震えあがるほどの勇名を挙げていた。

 その彼女が新設の自動車部隊の隊長を務めることにハンキとソミーは驚く。

 

「会議の前にこれをお渡しします」

 鳳翔が持ってきたのは6種12個のブローチであった。

 陽炎達はロデニウス大陸で活動する際に身分を証明するため冒険者登録をしていた。

 赤城と加賀も大陸の魔獣を狩って食べるため冒険者登録をしている。

 

 この世界の冒険者は己の実力を示すために自らが仕留めた魔獣、もしくは採取した希少素材

 で作られた宝飾品を身に付ける。

 このブローチは第1駆逐隊が初めてクワトイネ公国に訪れた際に遭遇した邪竜タラスクの甲羅

 で作られている。

 

 また各人のパートナーに縁のある図柄かデザインされている。

 陽炎とラキシスは紅の十字架、曙とエストはオレンジの三つ巴、潮と町はフィルモア帝国の国

 章、霰と静は踊る人形、長月とクーンは銀のS十字、そして皐月とパルスウェットはルミナス

 学園の校章である。

 ファティマにはこういったアクセサリーを折々に贈ると精神的に安定するのである。

 

 これらはロデニウス冒険者ギルドを通じて職人に作ってもらった。

 職人いわくタラスクではなくキングタラスクだと言う。

 長く時を経たタラスクが変異したのがキングタラスクである。

 

 かつてパーパルディア皇国の初代皇帝がガハラ神国の力を借りて討伐したと伝えられている。

 キングタラスクの甲羅で作られた盾は皇帝即位の儀式で用いられる三種の国宝の一つである。

 

 陽炎達は酸素魚雷で粉微塵に吹き飛ばしてしまい、わずかに残った破片で作ったのがこのブロ

 ーチである。ブローチぐらいしか作れなかったというのが真相でもある。

 もしキングタラスクの素材が残っていたら孫の代まで遊んで暮らせる金が手に入っただろう、

 と職人が嘆いていたのは陽炎達には秘密にされている。

 ハンキはもしこのブローチをつけて皇国に行ったら問題になるんじゃないか?と思った。

 

 

 

 クイラ王国の援軍は遅れるという連絡があったが、予想よりも早く到着した。

 彼らは故障した鉄甲車を人力で運搬しつつマイハークを目指したが、とある人物と遭遇した。

「壊れた機械の声が聞こえるわ!」

 ピンクの髪を振り乱し現れたのは工作艦の艦娘、明石であった。

 

 異様な雰囲気と血走った目が恐怖を感じさせたが、ひとまず鉄甲車を見せることにした。

 決して断ったら何されるか分からなくて怖かったからではない。

「ふむふむ、なるほど、ほうほう、この子はここが壊れているんですね」

 

 明石は鉄甲車を手の甲で軽く叩きながら何かを呟くと、輸送車から自動車部品を持ってきた。

 それぞれが各車の交換部品らしい。

 触っていただけじゃないか、という言葉に明石はこう答えた。

「触って音を聞けば分かるじゃないですか」

 

「鉄板の間に挟んでいるのは爬虫類系の皮、接着に蜘蛛の糸を使っているんですね、面白い工夫

 ですね」

 クイラの技術者は驚いた、まさにその通りであったからである。

 鉄甲車の装甲板はサンドリザードの皮をブラックスパイダーの糸で巻いたものを挟んでいた。

 明石は装甲板を開けて見ることもせず言い当ててみせた。

 

「それじゃ修理開始しますね」

 明石が明るい声でそう宣言すると、足を上げ地面を踏み鳴らした。

 そうすると鉄甲車はちょうど明石の目の高さまで浮き上がった。

 明石が両手を振ると鉄甲車が打ち上げ花火の様にバラバラに分解される。

 明石はその中に手を入れ部品を取り出し、交換する。

 地面に落ちた時、鉄甲車は完璧な状態で組みあがっていた。

 

 クイラの人たちが唖然とする中、明石は鉄甲車を次々に修理していった。

 歪みを直す必要がある部品はハンマーと背中の艤装を駆使し、鉄甲車が空中にある間に電光石

 火のごとく直していった。

 

「ふう、やっぱり修理したての機械の匂いと音は良いですね。いい気分転換になりました!」

 明石にとって一連の作業は気分転換であった。

 普段艦娘の艤装を修理している明石にとって違う機械を修理することは日ごろのストレスを発

 散する良い機会であった。

 

 仕事のストレスは仕事で発散する、ワ-カホリックの向こう側に渡った者がそこにいた。

「おまけでカーナビも付けときました!」

 衛星もないのにそんなもの付けてどうするというのか、ちょっと抜けてる明石だった。

 

 以上がクイラの援軍が間に合った経緯である。

「あれがジャパンクオリティなのか」

 バシュチェンコが自分たちの目指す頂の高さ嘆息すると、陽炎が一言釘を刺す。

「どうかあれを参考にするのは止めてください、あれは我が国でも行き過ぎで異常です」

 そういう陽炎も他人の事は言えないのではなかろうか。

 

 

 あきつ丸はタイダル平原で建設中の飛行場の進捗について報告した。

「衛星で思い出しましたが、ギム攻撃は航空自衛隊ではなく海軍基地航空隊が行うことになりま

 した。これは衛星のない現時点では自衛隊機では精密爆撃が難しく、また技術的に大きな差の

 ある相手にはジェット機による攻撃は効率が悪いと判断されたためです」

 

 ベトナム戦争ではジェット機がその力を十分に発揮できなかったことを参考にし、対ロウリア

 戦は旧式のレシプロ機が主体の基地航空隊が担うことになった。

 ただし建設中のタイダル空港はジェット機が運用可能な、軍民両用の空港として整備されるこ

 とが決定している。

 

 その他幾つかの報告と打ち合わせの後、ギム奪還作戦の会議は終了した。

 

 

 

 多国籍の会議が終わった後、日本国だけの会議が始まった。

 鳳翔がエジェイに来たのは極秘命令書を届けるためであった。

「呉鎮守府から至急ラキシスさんを戻して欲しいと言ってきています」

「現在作戦中ですが?穏やかではないですね」

 

 今まさに戦争中であるのに前線から指揮官の補佐役を引き抜くとは余程のことが起こったのか

 もしれない。

「不知火さんにパルテノという方がパートナーになったようです」

「不知火に?どんな人?」

 陽炎はラキシスに聞く。しかしラキシスの反応は以下の通り。

「...............(無言)」

 

「いや、マジどんな人よ」

 他ならぬ妹のパートナーについて陽炎は聞き流すことは出来なかった。

 ファティマのことを人と呼ぶ陽炎にほっこりしながら同時にラキシスは冷や汗をかいた。

 慎重に言葉を選んでパルテノ姉さまを説明した。

「バランシェファティマいちロックな生き様をしている方です」

 

 パルテノはクローム・バランシェ公が手掛けた二番目の作品である。外見はアフロアメリカン

 で黒髪のドレッドヘア。重度の薬物依存のラリラリラリ子さん。

 

 主のシャフトが無政府地帯カステポーに在る犯罪都市ザンダシティの市長であったとき、彼と

 共に『最もイっているコンビ』と言われた。あらゆる犯罪を極めたとされる。

 

 強力な戦闘力を追及した結果、精神的に極めて不安定になってしまった。故に薬物を大量投与

 してダムゲートコントロールを破壊しなければ生存できなかった。公式には廃棄処分済みとな

 っている。

 シャフトをボスヤスフォートに殺害されたことにより、精神崩壊しかける。治療後は天照帝の

 命により封印された。

 

 後年マドラとデコースの息子で11代剣聖ベルベット=ワイズメルのパートナーになり、デトネ

 イターを駆ってカラミティ星を砲撃、破壊する。

 

 一方で医学に精通し、バランシェ公が延命用ボディに自身の脳を移し替える際に手術をしたの

 がクーンとパルテノである。

 

 余談だがFSSで何言ってるのか分からないキャラランキングは

 5位ヒュートラン 4位パルテノ 3位キュキィ 2位天照帝 1位ラキシス である。

 (キュキィはミラージュ騎士で初代ザンダシティ市長の娘)

 

 

「それでもラキシスを戻したがる理由としては薄いわ。他に何かあったのかしら」

「多分パルテノ姉さまの愛機が建造されたのでしょう。あれは大きいですから」

「それはどんななの」

「ツァラツストラ・グローサー・デトネイター(旧ヤクト・ミラージュ)です」

 

 通常のGTMの三倍、50m以上ある全長に加えて120mを超える大砲を二門、肩に装備してい

 る。総全長は150m、こんなものが建造されたらまず隠し切れない、周囲から丸見えになり

 鎮守府は大騒ぎになるであろう。

 

 ならばさっさと艤装融合させてしまえばいいだろうと思うが問題が起きた。

 戦艦娘は男の子よりも大口径砲に惹かれる。

 巨大なバスター砲を見た戦艦の艦娘達がどうにかして自分に乗せられないか、画策していて収

 拾がつかないという。

 

 ラキシスの頭上に光の粒子が飛び散る。

「バシク姉さまに確認しましたら予想通りでした」

 ラキシスは軍の回線を無断で使用し呉のバスクチュアルと連絡を取って事実を確認した。

 そのことを知った陽炎は狼狽する。

「ばれなきゃいいんデス」

 

 というよりも日本のセキュリティ技術の水準が低すぎて気付く事は絶対に在り得ない。

 ジョーカー星団の電子技術ですらファティマには容易に支配できる。

 ジョーカーに比べれば知的生命体の水準にすら達していない日本、特に政府公官庁への侵入な

 ど鍵の掛かっていないドアを開けるより容易い。

 

「陽炎、私は呉に戻ろうと思います」

 陽炎はどうするか迷ったが、クワトイネの公都で待つという案に乗った。

 移動手段はどうするのか、自衛隊の航空機を借りることを考えたが、またしてもラキシスがア

 イデアを出した。

「パルサーに乗っていきましょう」

「パルサーって何?」

「パルサー・フローラ、楊貴(やんぎ)のことですヨ」

 

 金のセントリー『パルサー・フローラ』は別名パローラとも言い、楊貴(やんぎ)は幼体の名である。

 空を飛ぶことが出来、音速は出せないがそれに近い速度が出る。結界を張れるので安全性も確

 保できている。

 楊貴(やんぎ)はまだ子供だから無理と視線で訴えるが、ラキシスはもう亜成体くらいでしょと言って却

 下する。

 

楊貴(やんぎ)、貴方すごい犬なのね!」

 陽炎は喜ぶが、そばで聞いていて限界を迎えた者が一人いる。

「それって絶対犬じゃないだろ!」

 長月が吠える。

「犬には羽が生えてないし、字も書けない、野生動物が獲物を献上したりしないぞ!」

 

「普通の犬はそんなことないんだ、他の犬飼ったことないから知らなかったわ。長月は犬を飼っ

 たことがあるの?」

 だから犬じゃないと言いつつ長月は質問に答える。

「実家で父さまがドーベルマンを50頭くらい」

「それ警備用よね、流石元お嬢様」

 長月はこれまでも、しぐさの端々に育ちの良さを滲ませていた。

 

「話を逸らすな!陽炎、お前どこでそれを見つけた!」

 陽炎は昔を振り返る。

「ヤマネコ島の海岸にあった祠の中で寝てたのよ。私はメンチカツにしようと思ったんだけど、

 妹がいい毛皮が取れるからもう少し育てようって」

「食うつもりだったんかーい!」

 

 横で聞いていた大内田が気になることを質問した。

「陽炎さんには妹がいたのですか?」

「ええ、事情があってヤマネコ島事件の後は別々になってしまいましたけれど」

 陽炎は何故か複雑な表情を浮かべた。

 長月と鳳翔、あきつ丸の顔面は蒼白だった。

 

「もういい!直接こいつ(楊貴(やんぎ))に聞いた方が早い!」

 長月は楊貴に詰め寄って睨みつけた。

「お前は一体なんだ!何の目的があって陽炎に近づいた!」

 楊貴(やんぎ)は口の両端をつまみアッカンベーをした。

 

「どっへぇ~!!」

 セントリーの口の中は爬虫類に似て思ったよりもグロテスクであった。爬虫類が苦手な長月は

 悲鳴を上げのけ反った。

 その隙に楊貴(やんぎ)は陽炎とラキシスを乗せて空に飛び立つ、光の粒子を散らしながら飛ぶその姿は

 生物というよりもジェット機に似ていた。

 

「長月、教導はまかせたわよ~」

 飛び去りながら陽炎が後任に長月を選ぶ。陽炎のいない間の指揮は長月に任された。

 

 

 

 楊貴は一旦クワトイネ公都の中央広場に降り立ち、そこで陽炎を下ろした。

 目撃した公国民はひれ伏しお祈りを捧げていたが、ラキシスと楊貴は全く意に介さず呉に向け

 て再度飛び去ったので陽炎は途方に暮れた。

 とりあえず軍務省で霧島率いる本隊を待つことにし、ひれ伏す人々の群れの間を抜き足差し足

 で抜けていった。 

 

 

 

 ラキシスと楊貴はロデニウスー沖縄間を時速約千キロで飛行していた。

「なぜ正体を明かさないんデスか?」

 楊貴は無言であった。

「もしかして恥ずかしいんデスか?全人類の上に君臨した貴女が?」

「最もかつては恐れられるか崇拝されるかどちらかでしたからネ。あそこまで純粋に憧れられる

 のは初めてなのは?ならば今更名乗り出るのも恥ずかしいデスよねえ」

 どこからか高音の女性の声が響く。

「貴様と世間話する気はない、野暮用は早めに終わらせる。3秒後にテレポートするぞ」

「あらあら、せっかちですね」

 一人と一匹の姿は掻き消え、広島県の呉鎮守府に転移した。

 

 呉鎮守府の工廠前広場で3人の艦娘が言い争っていた。

「両舷にバスター砲を配置し、その後方を重巡が支える。これでどうだ!」

 大和型戦艦二番艦、武蔵がどこぞの〇ルトラザウルス・ザ・デストロイヤーの様な改装案を口に

 する。

「この間の大和型二隻を連結して積む案はどうなったのかも?」

 明石の代理で呉鎮守府の工廠を任されている飛空艇母艦、秋津洲が疑問を呈する。

 

「どちらがトリガーを握るのかで揉めると思うので、二人で話し合って廃案にしました」

 大和型一番艦、大和が答える。(この大和は鶴翼の絆の大和です)

「やっぱり?そんな気がしたかも~」

 

「姉上がどうしても自分が打ちたいっていうのだ!」

「人聞きの悪いこと言わないでください。ちゃんと曜日替わりで交代しようと言ったじゃありま

 せんか」

「月水金日が姉上で火木土が私だろう、一日少ないじゃないか!」

「大和はお姉ちゃんだからです!」

 史上最強戦艦姉妹の低次元の争いが繰り広げられる。

 

「やっぱ、あたしじゃ無理かも~」

 秋津洲が涙する。だか意見をはっきり言えるだけでも立派だろう。

「そもそもハーモイドエンジンはこの世界では使えないからバスター砲も動かせないかも~」

 武蔵と大和は反論する。

「動くようになったらすぐにでも運用できるよう今から研究を始めなくては!」

「そうです!二つの問題のうち一つが未解決だからと言って、もう一つを放置していいという理

 由にはなりません!」

 

 使用可能か、それ以前にバスター砲は向こうの世界では国際法上使用禁止されてる危険な兵器

 、要するに核兵器に相当する兵器なのだ。

 もし使用したら国際社会から非難され孤立する、そんなもの装備してどうしようというのか。

 

 

「しょうもないデスね。打撃系では修理に資材が掛かるので関節技で制圧しましょう。大和はわ

 らわに任せろ?はいじゃあ武蔵は私が」

 隠れて話を聞いていたラキシスと楊貴は、茂みから飛び出し大和たちに襲い掛かった。

 

 武蔵はアキレス腱固めを掛けられ、タップするも聞き入れられず、痛みで気絶するまで技を掛

 けられた。大和は毛針を目に刺されたあとフロントネックロックを掛けられ失神した。

 制圧の様子を見ていた軽巡、長良はこう述べたという。

「戦艦は駆逐軽巡に比べて体が硬いのよね~」

 

 

 

 

 ロウリア王国王都ジンハークは緩やかな丘の上に作られ、頂上には王の住まうハーク城がそび

 え立つ。外周にはそれぞれ20m、25m、30m、の三重の城壁で囲まれている。

 王国民はその防御力に絶対の自信を持っている。

 たとえ文明圏内国の強大な軍隊が攻めてきたとしてもその攻撃に耐えきり、準備を整えて圧倒

 的な数で反撃する事が出来る、そう信じられている。

 

 ハーク城では軍事会議が開かれようとしていた。

「それでは会議を開催します。パタジン将軍、現況説明をお願いします」

「会議に集まっていただき感謝いたす。クワトイネ侵攻作戦の現状を説明する・・・」

 日本国召喚第一巻の実質的主人公パタジン将軍は戦争開始前とは打って変わって疲れ果てた表

 情を浮かべている。普段の彼を知る者は一様に心配した。

 

「初戦でギムの町の占領に成功した。被害は7千と想定より多かったが概ね成功と言える。敵の

 目が陸に向いている間に海から軍船4千4百隻、兵力14万の主力艦隊を経済都市マイハーク

 に差し向けた」

 そう、ここまでは良かった。

 

「この時点で日本国がクワトイネ公国に味方し参戦を表明した。我が国を国家とは認めず武装勢

 力と位置づけている様だ」

「無礼な、、、」

 敗戦続きで気が滅入っているのに、まるで挑発されている様で、皆は歯を食いしばり屈辱に耐

 えた。

 

「主力艦隊がマイハークに向かう途中で日本海軍の軍船12隻と衝突、千4百隻が撃沈され、支援

 に向かった竜騎士250騎も全滅した。日本海軍は軍船1隻が大破したがこれは友軍の誤射であり

 わが方の戦果ではない」

 軍幹部達はパタジンがこの場で正式発表したことに愕然とした。

 かつて定かでない戦闘結果報告を聞いて「そんな馬鹿な事があるか」と真に受けていなかった

 が、事実であることを国が認めたのだった。

 

「同海戦に参加した将兵たちは士気を阻喪し、使い物になりそうもないと報告を受けている」

 敵の軍船を一隻でも沈めていたら勝機もあったろうが、自分達では損害を与えられず、一方的

 に撃沈させられたのでは、何をしても無駄ということではないか。

 この戦いはロデニウス大陸史に大敗北として記録されるだろう。

 

「城塞都市エジェイ攻略のため出撃した先遣隊2万は、陣の展開が完了した直後に魔力通信が途

 絶えた。現場には猛烈な爆裂魔法を投射した跡が残っていて、先遣隊は全滅したと思われる。

 ギムに残っていた本隊も日本、クワトイネ、クイラ三国の攻撃により、僅かな生き残りを除い

 て実質的に消滅した」

 会議場は重苦しい空気に包まれる。

 

「パタジン将軍、日本軍はどの様な武器を使用しているのでしょうか?」

 軍幹部が尋ねる。

「海戦では羽ばたかない飛竜や火山弾を広範囲にまき散らす魔法、飛行する目標を正確に打ち貫

 く魔道兵器などが使用されたと記録にある」

 

「羽ばたかない飛竜にはワイバーンが全く歯が立たなかったとある、これは本当なのか?」

「火山弾の魔法を地上で使われたら、酷いことになるぞ」

「飛行する目標を正確に狙い打つことなど出来るはずがない!」

 軍関係者達は議論を続ける。

 

「クワトイネの一部の民達は日本国の事を太陽神の使者の再来だと噂しています。そのため公国

 内の士気は高くなっています」

 日本軍=太陽神の使者という噂は、一ノ瀬提督が国際世論を味方につけようと、意図的に流し

 たプロパガンダである。

 実は真実だったのだが、この時は知らなかった。

 しかも知り合いがその太陽神の使者の一人だと知った時は、知っていたなら言ってくれよとそ

 の人物に文句を言ったのだった。

 

「何が太陽神の使者だ!使者達はヒト種であったはず、ならば我々の味方だろう!」

 王国民の一般的な歴史認識はこうである。

「それが先遣隊副将のアデムがギムの太陽神の神殿を破壊し、巫女を凌辱して殺害したうえ太陽

 神を汚す言葉を吐いたそうです」

 実はこれは実際に行われたことである。出席者からはなんてことしてくれたんだ、と嘆く声が

 聞こえた。

 

 王都北港の港湾管理者が報告をする。

「そのアデムなのですが、王都北の港で見たと報告がありました」

 別人かと思われたが、多数の魔獣をつれ、それらを輸送船に乗せて出港していたことから、本

 人である可能性が高い。

 司令部では特別作戦など命じていないことは分かっている。

「あの野郎、脱走しやがった、、」

 つまりはそういう事なのだ。

 パタジンは怒りに震えた。いつか再会したらその首をねじ切ってやると心に決めた。

 

 会議は続く。

「確証は取れていないのだが、ギムの戦いにおいて空飛ぶ船の様な物が、まるで空が破裂したか

 のような爆音を立てて飛来したのち、白銀の鎧を着た巨人に変形したという証言もある」

 日本に見逃された民間人と、僅かに逃げ延びた軍人がそう証言している。

 

「パタジン将軍、貴公はふざけているのかね?」

 筆頭魔導師ヤミレイが5秒後に激怒しそうな表情を浮かべる。

「それは可変人型兵器かね?それは古の魔法帝国がインフィドラグーンの神龍に対抗するために

 開発していたとっておきの決戦兵器ですぞ」

 ヤミレイ氏は文明圏外の魔導師であるが、歴史の知識は優秀で文明国の学者にも引けを取らな

 い。

「しかし出力と耐久性の両立が難しく、結局開発は間に合わず、魔帝はコア魔法の使用に踏み切

 ったと言われているのですぞ」

「そんな魔帝ですら持っていないものが存在する訳ないでしょう」

 ヤミレイは学者としてそのような荒唐無稽な話の存在を許せなかった。

 パタジンは素直に謝罪した。

 しかしパタジンはある可能性に気づく。

 

「まさか日本国は古の魔法帝国なのでは?」

 パタジンは真っ青になるが、三大将軍の一人ミミネルは否定する。

「魔帝ならば他国と国交を持とうとはいたしません、また伝承では魔帝が現れるとき、昼間は夜

 の様に闇に包まれると伝説にあります。そのような現象は起こっていません」

 

「7か月前に海の方で真夜中が一瞬昼間の様に明るくなったという現象は観測されましたが、魔

 帝とのは不明です」 

 7か月前の出来事は日本国がこの世界に転移した時に見られた現象である。

 日本国=魔帝を半ば信じていたパタジンは赤面しながらも、一方で安心した。

 この話は一旦中断する事になった。

 

 

 パタジンは真っ黒なフードを被った気持ち悪い男に遠慮がちに話しかける。

「パーパルディア皇国の使者殿、貴国の支援があれば助かるのだが」

 世界で五か国しかない列強国たるパーパルディア皇国の軍隊であれば、日本国など敵ではない

 だろう。しかし男は馬鹿にしたように答える。

 

「我が国はこれまでどれだけの支援をしたと思う、これで勝てないような弱い連中は友好国とし

 て我が国には必要ない」

「ぐぬっ」

 使者の余りの無礼な態度に一同は歯ぎしりする。国と国との間でなされるようなやり取りでは

 ないが、両者の国力の差はそれが許されるほど開いている。

 

 その時ヤミレイが使者に問いかけた。

「ならば勝利した実績があれば支援して頂けるのですかな?」

 局地戦でも勝利すれば支援を続けるのかと、ヤミレイは使者に聞いている。

「まあ、勝てれば、考えてやっても良いが」

 ヤミレイは作戦書を取り出した。

 

「蓮の庭園襲撃、及びカナタ首相暗殺計画!?」

 その計画とは魔導師と魔法剣士からなる小数精鋭部隊を“転移魔法”によって敵国首都に送り

 込み、クワトイネ首脳陣を殺害、動揺しているうちに戦力を立て直すという作戦である。

 

 日本国はクワトイネの要請に従って動いているので、クワトイネが混乱していれば満足に動け

 ないと予想される。

 更にクワトイネの某貴族は既に懐柔済みであり、彼らに反乱を起こさせることでさらなる混乱

 呼ぶことが可能である。

 日本国とクワトイネが混乱しているうちにパーパルディア皇国の援軍の到着を待つ、というの

 が今作戦の目的である。

 

「転移魔法だと!」

「古代に失われし超魔法が使える者がおるのか!?」

 会議場は騒然となる。

「はい、我が配下のバッハトマ魔法傭兵団の主宰、ボスヤスフォートが会得しております。お呼

 びしてよろしいか?」

 パタジンは困惑しながら頷く。

 議場の中心に三つの光の人影が浮かび上がり、黒ずくめの三人が現れた。

 

「バッハトマ魔法傭兵団主宰ボスヤスフォート、行動隊長デコース=ワイズメル、副主宰ビュ

 ーティー=ペール、参上しました」

「まさか本当に転移魔法が使えるのか?」

 

「はい、一度行ったところ、もしくは見える範囲であれば自由に行き来出来ます」

 非常に有用な魔法である反面、反逆されたら非常に危険である。パタジン達はボスヤスフォー

 トを恐れた。

「人質として副主宰のペールを置いておきます。ご安心ください」

 

「ボスヤスフォートよ、この作戦が成功したら貴様にロウリア貴族の地位と領地を与えよう」

「は、必ずや成功させて見せましょう」

 そう言うとボスヤスフォートとデコースの体が光の粒子となり消え去った。

 二名はさっそくクワトイネの公都に転移した。

 

 クワトイネ公国に侵入していた工作員の目の前に、突如として黒ずくめの二人が現る。

 事前に通達はあったため、工作員は驚いて一歩下がる程度の狼狽で済んだ。

 この工作員は座標固定のための魔道具を持ち、二人を蓮の庭園に案内する役割を任されていた。

「任務ご苦労」

 

 遅れても一つの人影が現れる。

 まるでマジシャンの助手のような黒いドレスに身を包んだビューティー=ペールである。

「君は何番目だ?」

「五号でございます、ボスヤスフォート様」

 

 ビューティー=ペールの能力であるエイリアスはただの分身ではない。

 それぞれが自我を持ち、独自に思考し行動することが出来る。

 たとえ一体が倒されたとしても、別の惑星という余程の遠距離でなければ、敵の情報を他の個体

 に伝達できる。またペール自身、最強クラスの魔導師である。

 オリジナルである一号は国王の側に付いている。万一王国が裏切れば直ちに処置できる。

 それよりも何か嫌な予感がして五号の彼女は付いてきた。

 

「フロートテンプル襲撃を思い出すな」

 ボスヤスフォートの言葉にデコースは感じている不安を吐露する。

「前回のようにスルーされたらどうする?」

 三人は沈黙する。

 前世で天照帝の空中宮殿を襲撃し、ミラージュ騎士他を多数を殺害し、さらに玉座の間に侵入す

 るという事件を起こしたが、国家の威信などどうでもいいと考える天照帝は

『ふーん天晴れ、天晴れ~』(意訳)

 というコメントを残し無視した。

 

「大丈夫だ!あんな変人は二人もいない、今度こそ大丈夫だ!」

 このことは三人にとってちょっとしたトラウマだった。

 

 

 クワトイネ公都北の港町を三人の女性が周囲を見物しながら歩いていた。

「なんだかテーマパークみたいな町ね」

 白と赤の巫女のような服を着て眼鏡を掛けた戦艦の艦娘、霧島が呟く。

 中世ファンタジーを題材にした遊園地の様な所だと思った。

「ワクワクするな!霧島」

 赤と青のド派手な髪で、体に密着したスーツを着た戦艦の艦娘サウスダコタが笑顔で答える。

「遊びで来たんじゃないのよ」

 銀髪を持ち、ノースリーブのスーツを着た戦艦の艦娘ワシントンがたしなめる。

「いいじゃねえか、私と霧島に敵う奴なんかいねえよ」

「私を外したわね!」

「マイティには別の任務がある、それは私らの飯を作る任務だ!」

「何よそれ!」

 ワシントンの方が日常の生活力が高く、料理も三人の中で一番上手い。

 霧島もワシントンが料理を作ってくれると助かると思っていた。

「ふざけてないで行くわよ、これからこの国の首相と面会するんだから」

「はーい」×2

 三人の艦娘は蓮の庭園に向かった。

 

 クワトイネ救援艦隊本隊の編成

 旗艦 戦艦 霧島

 随伴 戦艦 サウスダコタ ワシントン

    重巡洋艦 摩耶 鳥海

    軽巡洋艦 天龍 龍田

    駆逐艦  暁 天津風 

         綾波 夕立(先行して参戦)

 




 ユーリア・バシュチェンコの元ネタはFSSに登場する戦車部隊の教導官ユーリー・バシュチェン
 コ大尉です。原作では男性です。
「湿地にて救出を待っておられるのは我らが光皇そのひとである。戦車隊、いやAKD軍人として
 その戦い陛下にお見せしろ!」
 このセリフが好きです。


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第十五話 蓮の庭園襲撃事件

 恥の多い人生を歩んできました。
 carbuncleさん誤字報告ありがとうございます。それにしても5話、三か所も誤字があってひど
 いな。全然気付かなかった自分の迂闊さ加減に絶望!恥ずかCー!

 今度の艦これイベントはなんなんですかね、初手から提督の心を折ってきます。
 ギミックの解除条件が厳しい!
 一階のボス部屋の鍵を持っている固定敵がボスの3倍のHPを持っている、なんてほかのゲーム
 ではあるのしょうか。


 神樹が悪意を持つものの存在を感知し、ざわざわと木の葉を揺らす。

 公国の歴史でも初めての事態に庭園内の全ての人間が動揺する。

 クワトイネ公国庭園護衛騎士は正門前に現れた黒ずくめの男女三人組に対して、警告を発する

 と共に剣を抜いて構えた。

 

 次の瞬間、閃光が走り光の弾丸が騎士達の隊長に命中した。

 隊長の胴体は蒸発して消え去り、あとには頭と手足が転がっていた。

 驚愕する騎士達を強烈な光が包む。

 光が収まった後、庭園護衛騎士は一人残らず消え去っていた。

 

 ボスヤスフォートが放ったプラズマ弾は庭園護衛騎士全員を遺体すら残さず消滅させた。

 

 ボスヤスフォートから見てクワトイネ公国の軍人の動きは鈍い、そう感じていた。

 やはりAKD宮殿警護兵と比べると見劣りすると思ったが、比べる者ではないと思い直す。

「この奇妙な木が邪魔して遠見が上手くいかない、カナタ首相の正確な位置が分からん」

 神樹がスコーパー(旧パラ)の能力を妨害していた。

「だが問題ない、手筈通り三人分かれて行動するぞ」

 正門前にデコースを残し、ボスヤスフォートとペールは蓮の庭園内に侵入した。

 

 異常を察知し二人の艦娘が正門前に現れた。

「どけどけ!天龍様のお通りだ!」

 眼帯をしたやたら乳のデカい艦娘が大剣を振りかざし、デコースに切りかかる。

 

 デコースは双剣で斬撃を受け止めると一歩後ろに下がった。

 抵抗が無くなり天龍が前につんのめる。姿勢を崩した所にデコースが天龍の膝を蹴った。

 みしっと膝の骨にひびが入る音が響く。

 そして無防備になった天龍の脇腹に剣を突き立てようとする。

 

「天龍ちゃん、危ない!」

 天龍の妹、龍田が槍を振るい、デコースを追い払う。

 しかし天龍の脇腹は切り裂かれていた。致命傷ではないものの、激しく動けば内臓が飛び出て

 しまうかもしれない。

 

「そんな!確かに避けたのに!」

 龍田が悲痛な声を上げる。

「こいつ、小指から何か飛ばしやがる、気を付けろ!」

 

「なんだか妙な連中が出てきたな、蹴った感触が微妙に人間じゃないぞ」

 デコースは記憶の中から近い者を探す、システムカリギュラの重合人間がより近いと感じた。

 システムカリギュラはスタント遊星を調査しに行った超帝国の科学者、騎士達の成れの果てで

 ある。体をサイボーグ化し、数千年に亘って国家の裏で暗躍していた。

 

「もしかしてお前らサイボーグか何かか?」

「!!?」

 天龍龍田は驚愕する、この世界の人間にその言葉を知っている者はいないと思っていた。

 

「サイボーグではなさそうだが、言葉は知っている様だな」

「貴方は一体何者なの?」

 デコースはニタニタと薄ら笑いを浮かべておどけて見せた。

「知りたいなら~、ボクちんを倒してみなよ~」

 龍田のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

『こいつ龍田の嫌いなタイプだ』

 天龍は妹が怒りで冷静さを失っていることを危惧した。

「龍田、挑発に乗るな。多分こいつは俺ら二人より強い」

 一当たりして天龍は気づいた、二人がかりでも目の前の敵には敵わないことに。

 

 

 クワトイネ公国の魔導師達は彼らの詰め所を正確に襲ってきた謎の敵に苦戦していた。

 黒いドレスを着た妙齢の女魔導師であるが、彼らが全く知らない魔法を使ってきた。

 敵が放つ閃光魔法はこちらの魔法障壁をやすやすと貫通し、体に命中すればその部分には

 大穴が開いて絶命する。

 公国で最高の才能を持つ魔導師を集めた、庭園付き魔導師団は仲間の敵討ちに燃える。

 

「くらえ、ファイアーボール‼」

 何故かただ立っていた女魔導師に火球は命中した。

「やった!ざまあみろ!」

 歓喜に沸く魔導師団、次の瞬間彼らの視界は強烈な光に包まれた。

 敵がいた場所が爆発し、魔導師達を吹き飛ばす。

「自爆しただと!?」

 運よく最後尾にいたため、壁に叩きつけられただけで済んだ魔導師は爆心地を見て驚く。

 そこにはあの女魔導師が何事もなく立っていた。

「一体何をされたんだ、、」

 唯一の生き残りは気絶した。

 

「クソ!何が起こった!!」

 頭にアンテナを付けた艦娘が二人、小柄な艦娘を二人従えて詰め所に突入した。

 ショートカットの方の艦娘、重巡洋艦の摩耶が25ミリ対空機銃を顕現して構える。

「暁と天津風は生存者の救助と避難誘導をお願い!」

 ロングヘアで眼鏡を掛けた方の艦娘、鳥海は駆逐艦娘に指示を出す。

 

「一人前のレディとして助けるわ!」

 黒い帽子を被った小柄な駆逐艦娘、暁が元気よく答える。

「任せておいて!」

 一見真面目そうに見えるが、薄っすら透けている大胆な服を着た艦娘、天津風は生存者を抱え

 て脱出路へと急いだ。

 

『この娘達が噂の日本国の艦娘とかいう魔導師ね、凄い恰好だわ。でも機関銃をどこから出した

 のかしら?』

 事前のブリーフィングで日本国が高い技術力を持っている可能性があることが示唆された。

 しかし摩耶が持っている機関銃がレトロであるので、ペールは違和感を感じた。

 あと二人のへそ出しミニスカート姿を見て引いていた。

 

「おう、そこのおばさん!こんな事してただで帰れると思うなよ!」

 ペールの見た目は30前半くらいである。

「口の利き方がなってないようですわね、教育してあげますわ!」

 

 ペールが放ったプラズマ弾は、腕を構えてガードした摩耶の砲塔に命中し破壊した。

「んな!なんて威力だ」

 砲塔の装甲は貫通され砲撃は不可能となった。

 鳥海が焦る。

「これほどの威力の魔法はデータにありません!」

 ロウリアの魔法使いの魔法の威力は野球のボールもしくは火炎瓶程度とされていたが、重巡洋

 艦の最も厚い装甲を打ち抜くほどの威力があることに驚く。

 

 ペールもまた攻撃の威力が低くなったことに驚いていた。

『今のは何?バリアじゃない、威力が減衰した?まさか概念兵装?!』

 概念兵装とは物理法則を無視し、ある特定の攻撃を無効、反射もしくは吸収化する防御兵装の

 事であり、人類では持ちえない武器である。

 人類以上の存在が関わっているかもしれない可能性にペールは気を引き締める。

 

 摩耶が25ミリ対空機関銃を撃つ。

 ペールは地上から僅かに浮遊し滑るように回避する。

 鳥海が万能斧を構え飛掛った。

「いやああ!!」

 裂帛の気合を込めて切り下す。

『避けない?』

 ペールは鳥海の斬撃を回避行動を取らず、見つめたまま何もしない。

 その表情は微かに笑っていた。摩耶が叫ぶ。

「まずい!」

 斬撃がペールの肉体を切り裂く、その感触は確かに人体と変わらなかった。

 しかし次の瞬間、ペールの体は光の粒子となり弾け飛んだ。

 

 大爆発が起こり、部屋はさらに破壊された。

 危険を察知した摩耶は素早く鳥海と己の体の位置を入れ替え、妹をかばった。

「摩耶!」

 鳥海の悲痛な叫びがこだまする。

「鳥海、気を抜くな!」

 

 二人の目の前にペールが急接近してきた。

 鳥海は反射的に切り払った。

 またしてもペールの体は大爆発を起こした。

「摩耶、貴女また!」

 摩耶は先ほど同じく鳥海の前に立ちふさがり爆発の衝撃を一身に受けた。

 摩耶の制服はボロボロに破け、中破の判定を受けていた。

 

「どうやらその服や身に着けている機械がダメージを肩代わりしているようね」

 ペールは摩耶の損傷具合を観察し、艦娘の秘密を推察していた。

 鳥海は敵の余裕ぶりに戦慄した。

「鳥海、落ち着け。」

「摩耶、無理しないで」

「いいから聞け、あいつは斬られる寸前に何らかの方法で自身と爆発するダミーを入れ替えてい

 る。それには僅かだがタイムラグがあるはずだ、それを見極めろ、お前ならできる!」

 鳥海は目の端に滲んだ涙を拭って答える。

「ええ、やりましょう」

 

「美しい姉妹愛ね、なら私も全力でお答えするわ」

 周囲の空気が揺らぎ、3体のペールが現れる。

「我が魔導の奥義、エイリアスを見破ることが出来るかしら?」

 

 摩耶と鳥海は腕の連装砲を打ち鳴らす、そして叫んだ。

「お前、アタシ達を怒らせちまったようだなぁ!」

「摩耶、やるわよ!」

 この危険な敵を他の場所に行かせてはならない。二人は覚悟を決めた。

 

 

 

 クワトイネ公国の首相カナタは避難経路を足早に歩きながら艦娘達の事を思っていた。

 今回初めて会った戦艦という艦種の艦娘は、数ある艦娘の中でも最強の火力と最高の堅牢さを

 併せ持つ艦娘なのだという。

 そのような艦娘が三人もいるならば、侵入者がどんなに強かろうと敵ではないだろう。

 きっとすぐ後ろから追いついてくるだろうと予想していた。

 

 しかし胸騒ぎがする。何かとても良くない事が起きる気がしてならない。

 今日は何という日だろう。日本国から提案された「ロウリア王国王都襲撃とハーク=ロウリア

 34世捕縛作戦」の打ち合わせをしている最中にこちらが襲われるとは。

 クワトイネ公国の為にも、日本国の為にもカナタは死ぬ訳にはいかない。

 カナタは非常口へと急いだ。

 

 

 

 金剛型戦艦4番艦、霧島は突如現れた黒ずくめの男の前に立ちふさがった。

 彼女の背後には二人の女性が倒れている。

 戦艦サウスダコタと同じく戦艦ワシントンだ。

 二人とも目と耳から出血し、危険な状態だ。特にサウスダコタはピクリとも動かない。

 提督が万が一のためと持たせてくれた、応急修理女神と応急修理要員がなかったら、今頃轟沈

 していた。一体何があったのか、霧島は戦いの推移を思い出す。

 

 

 

 カナタ首相を避難させた後、霧島達は議事堂に残って敵を迎え撃った。

 そこに光沢のある黒いローブで全身を隠した男が現れた。

「初めましてお嬢さん方、私はボスヤスフォートという。現在はバッハトマ魔法傭兵団を主宰し

 ている」

 自己紹介の後放たれた白い閃光を受け、霧島達三隻は全艦一撃で大破させられた。

 

 床が凍り付いていたことから、絶対零度の冷気をぶつけられたと推測した。

「この野郎!」

 服も艤装もボロボロの状態でサウスダコタが殴り掛かる。

 しかし床の敷物が触手に変化してサウスダコタを拘束した。

「おろかな」

 ボスヤスフォートの額からプラズマ弾が発射されサウスダコタの胸を貫いた。

 

 その時サウスダコタの応急修理要員ダメコンが発動し傷を塞ぐ。

 彼女は一命をとりとめた。ただし大破状態であることは変わらない。

 

「何だ今の回復は!?もしかして命の水!?」

 ボスヤスフォートは驚愕する。前世の世界と関りを持つものの存在を察知し慎重になる。

 

 

 ボスヤスフォートの指先から電撃の様なものが発生し、サウスダコタ目掛けて投射される。

「危ないわ!」

 ワシントンがサウスダコタを庇う。

 電撃様のものはワシントンに直撃し彼女の体は痙攣した。

 

「馬鹿野郎!マイティなんで庇った!」

「あんたに馬鹿って言われちゃおしまいね」

 ワシントンは気を失い倒れこむ、その時彼女の胸にプラズマ弾が命中した。

「甘いな」

 ボスヤスフォートはさらに追撃する。

「マイティー!」

 サウスダコタの悲鳴がこだまする。

 

「この、この!」

 霧島が副砲を打ち牽制するも、ボスヤスフォートのローブは広がって盾の様に変形、15セン

 チ副砲弾はローブに阻まれ防がれた。

「こいつ、反応速度が速すぎる!まるでゾーンに入った雪風か時雨よ!」

 霧島がボスヤスフォートに狙いを定めても即座に回避か防御姿勢を取られ攻撃を命中させるこ

 とが出来なかった。

 

 ボスヤスフォートはもう一度電撃様のものを放ち、サウスダコタの頭部を直撃した。

 サウスダコタは目と耳から出血し、死んだように動かない。

「脳神経を破壊した。もう動けまい」

「な!」

 

 ボスヤスフォートのがローブが伸長し霧島を襲う。

 先ほどまで布だったものが刃の形をとり、霧島の皮膚を切り裂く。

「これ布じゃない!?液体金属?」

 このローブはボスヤスフォートが前世で着ていたものをこちらの世界の技術で再現したもので

 ある。

 グレイン(旧ルシェミ)と呼ばれる、物体を組成して物質の構造を変える能力を常に使用して

 いなければならないが、満足いく出来栄えである。

 

 ローブの腕部分が巻き付き、大きな鈎爪に変形する。

 さらに手の甲にはブレードが創られる。

 これはボスヤスフォートのかつての部下ユーゴー・マウザー教授の技を真似た物である。

 マウザー教授はシステムカリギュラの重鎮であり、優れた科学者であると同時に優れた騎士で

 もあった。

 ボスヤスフォートは彼を技術顧問として招聘し、自らのローブと同じもの与えたが、彼は二三

 の仕事をした後、あっさりと裏切ってしまった。

 しかもよりによって行き先がミラージュ騎士団である。

 失敗も敗北も気にしない、面白いかどうかがすべてというのがマウザー教授のモットーだが、

 流石に勘弁してくれと思った。

 この技を作った理由は実用半分、その時の恨みが半分である。

 

「とどめだ」

 ブレードが霧島の胸を貫く、確実に心臓を停止させた。

 

 その時霧島が装備していた応急修理女神が作動、ケガも艤装の損傷も回復した。

 胸からブレードが抜けていく、霧島はその腕を両手で掴んだ。

「またして何だ!?この超回復は、くっ離せ!」

 

 しかし霧島はボスヤスフォートの腕を掴んで離さない。全力で腕を締め上げる。

 パン!と音がしてボスヤスフォートの腕の肉が弾けた。

 霧島は戦艦の握力で血管内の血液を圧迫、挟み潰したのだった。

 

「ぐう!毎度これだ!」

 ボスヤスフォートは前世で戦うたびにどちらかの腕をケガしていたことを思い出す。

 そして顔面を思い切り殴りつけられた。

 ボスヤスフォートは後ずさる。光沢のある黒い布で覆われた素顔が明らかになった。

 

「流石、と言っておこうか。我はディス・フィフツェン・ボスヤスフォート。私と戦って生き延

 びられたら騎士(シバレース)の称号をやろう」

 霧島はダメコンを使ってまで打ち込んだ攻撃がほとんど効いていないことに歯ぎしりした。

 これでは二人を安全な場所にまで運べない。

 

 ドカーン‼

 その時壁が爆発崩壊し、人影が現れた。

「あたしの三時のおやつを台無しした奴はどいつだ!」

 

 調理室の前で料理が作られるのを楽しみに眺めていた陽炎は、戦闘の余波による揺れで完成し

 た今日のおやつの豆大福が潰れるところを目の当たりにし、怒髪天をつく勢いでこの場に急

 したのであった。

 

「ってワシントンさんにサウスダコタさん!?大破している!?」

 しかもかなり危険な状態だ。大破後に追撃を受けたらしい。

 陽炎は目の前の黒ずくめの男を睨みつける。

「鬼級、姫級でも上位、最終海域ボスクラスかな?南方凄戦鬼の倍は強いわこれ」

 

 艦娘とブラックスリーの戦いは佳境を迎える。

 

 




 天気病が辛み~。
 全く起き上がれなくなっていた以前よりは、いくらかましになっていますが台風が近づくと
 辛いです。
 待たせたうえ短くてごめんなさい。これから体調を戻していきます。


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第十六話 D敗北

 皆様遅くなってしまい申し訳ございません。
 今回の話は筆者の独自解釈が大量に含まれております。
 日本国召喚、艦これ、FSS、三作品のファンの皆様のイメージと大きく異なるかもしれません。
 いちファンが変な妄想を垂れ流しているだけだと、どうか広い心でお許し下さい

 艦これで睦月型5隻と軽巡パースのキャラデザを担当された草田草太さんが亡くなられました。
 御冥福をお祈り申し上げます。


 陽炎は目を閉じる。艤装の機構に魔力が流れていくイメージを心に描く。

 ボイラーが湯を沸かして蒸気を発生させる。蒸気がタービンを回す。ギアが回転しスクリュー

 が回る。そして自身の体と艤装の間に力が循環している事を想像する。

 想像が現実になったように力強く艤装が稼働する。

 フィィィィン‼

 艤装が金属の擦れる甲高い音を出して疾走を始めた。

「さあて、行くわよ!」

 陽炎はKAREM(艦娘行動範囲拡張機構)を全力稼働させボスヤスフォートに突っ込んでいく。

 

「は、速い!」

 霧島は陽炎の速度に驚く。

 陽炎達第14駆逐隊は四か月前マイハーク出張所に配属が決まった時から毎日KAREMの使い方

 を訓練していた。海上とはまた違った機動の習熟度は霧島のはるか上である。

 

 ボスヤスフォートの肩がビクッと震え、驚いたように見えた。

「何故その機械からあの忌まわしい音が聞こえるのだ!」

 新しく現れた少女の背中の機械から天照帝のチューニングしたGTMのエンジン音がする。

 ボスヤスフォートは恐怖を感じプラズマ弾を連射する。

 

 陽炎は万能斧の側面で切り払った。

 夕張とバスクチュアルによってダイヤモンドクリスタル鏡面加工された万能斧は、正面から受

 けなければプラズマ弾を弾く事が出来るようになっていた。

「打ち方用意、てぇ!」

 12.7cm連装砲を打つ、しかし液体金属のローブは盾に変形し砲弾を弾いた。

 

 陽炎は肉薄し万能斧を打ち下ろす。

 ボスヤスフォートは腕のブレードではじく。

 陽炎が前かがみの姿勢をとると、背中の魚雷発射管が跳ね上がった。

「魚雷一番発射!」

 四連装のうち一つの発射管から魚雷が滑り落ちる。

 陽炎は落ちてきた魚雷の後部を足先で引っ掛け、ボスヤスフォートのあご目がけ振り上げた。

 

 ボスヤスフォートはのけ反って躱す。

 

 がら空きになった胴体目掛け、陽炎は至近距離から12.7cm連装砲を放った。

 

 ボスヤスフォートは両手に結界を張って防ぐ。

 

「もう!なんて奴!このコンボも防ぐのかしら!この四か月、不知火から白い目で見られながら

 考えて、練習したのに!」

 陽炎は一旦離れて悔しがる。

 

「そうかねお嬢さん」

 蹴り上げた魚雷が落下してきた。

 ボスヤスフォートはカーペットが変化した触手で掴み外に放り投げる。

 議事堂の外で魚雷は爆発した。

「会話で上空の魚雷から気を逸らそうとするのはなかなか抜け目ない、がまだ甘いな」

 

「ちぇー」

「君は確かに先の三名より素早い、だか悲しいことに非力だ。私には勝てないよ」

「でしょうね」

 ボスヤスフォートは冷静さを取り戻していた。よく考えればランドセル程度の大きさにハーモ

 イドエンジンが収まるわけがなく、あのエンジン音はやはり偶然なのだろうと結論づけた。

 

「陽炎!来たわよ!」

 駆逐艦、天津風と暁は陽炎から無線で大至急来てほしいと言われ、カナタ首相を妖精に任せて

 駆けつけた。

「なにあれ?」

 暁がボスヤスフォートを一目見て青ざめる。

「絶対ヤバい奴じゃない、、」

 天津風も敵の危険度を皮膚の感覚で感じ取った。

「あんた達はサウスダコタさんとワシントンさんを曳航して脱出して!」

「分かったわ、陽炎も気を付けてね!」

 二人は大破した戦艦娘を担いで撤退していった。

「サウスダコタさん返事をして!」

「ああ、なんて酷い状態なのかしら」

 

 霧島は曳航されていく二人を見送ってほんの少し安心した。

 霧島は自らの主砲、35.6cm連装砲改に砲弾を装填する。

 先ほどまでは負傷した二人が横たわっていたので、大きな反動が起こる主砲は使えなかった。

 しかしこれで遠慮なく主砲をぶっ放せる。 

 霧島の胸に訪れた感情で最も大きいものは怒りでも後悔でもなく喜びであった。

 敵に対する怒りはある、自分の無力さにも、だか自身の最大の力を振るえることの喜びはそれ

 らに勝っていた。

 それは戦艦娘としての本能であった。

 

「陽炎、援護して!」

「了解しました!」

 陽炎は再度突撃していく。

 床が触手化し陽炎に絡みつこうとする。陽炎は回転しながらジャンプして躱す。

「とっておきよ!見てなさい!」

 陽炎の臀部に追加された白いハート形の装備が跳ね上がる。

 

「システム・ブローズ起動!」

 その装備はAMX-004キュベレイの背面スカートパーツに酷似しているように見える。

 桃色をした内側に空いた穴から何かが飛び出てきた。

「ロウト!いっけー!!」

 漏斗の形をした飛行物体が弧を描いて飛び立つ。

 周囲を旋回すると陽炎の脳波の命令に従い散開していった。

 まず邪魔な触手を焼き払う。

 

「ミラージュ騎士のブローズが使った兵器ではないか!」

 メイザー・ブローズはブラックスリー・フロートテンプル襲撃事件の際、ボスヤスフォートが

 玉座の間で戦ったミラージュ騎士である。

 ボスヤスフォートの攻撃で負傷するも、この兵器で仲間を援護した。

 普段は覆面をしていて、正体は褐色肌の少年騎士である。

 

 陽炎が素早く連続でサイドステップをする。海上ではできなかった動きである。

 陽炎の姿が激しくぶれて三人に見えた。

 三人の陽炎は三方向から斬りかかった。

 

分身攻撃(パラレル・アタック)!?」

 ジョーカー星団の騎士が使う剣技の一つに酷似していることに驚く。

「だが!見えるぞ!」

 ボスヤスフォートは本体は左からくることを見破っていた。

 

 しかし陽炎は右側にはロウトを展開し、両側面がら同時攻撃を掛けた。

 

 それも読んでいたボスヤスフォートはローブを二枚の盾に変化させ左右に配置した。

 陽炎の攻撃は左右とも盾で防がれた。

 左右からの衝撃を受け止めたボスヤスフォートはもう一人の艦娘が砲を向けているのに気づく。

「やはり貴様はおとりか!」

 

「主砲、仰角零度、斉射!」

 霧島の35.6cm連装砲改が火を噴く。

 轟音と衝撃が辺りを包んだ。

 

 

 

「そんな馬鹿な!」

 爆煙が晴れるとボスヤスフォートは健在だった。

 前面に半透明の防御障壁が5枚展開しており、一枚目の障壁に砲弾がめり込んでいた。

 やがてひび割れが広がっていき、障壁は割れた。

 

「どうしたそれが君らの切り札か?古典的な火薬式の大砲にしては威力はあったが、一枚を砕く

 のが限界か。マグダルは四枚まとめてぶち抜いたのだがな」

 戦艦の砲撃をもってしても一枚の障壁を突破するのがやっとであった。

 

 カイエンとヤーボの娘マグダルはハスハ連合国内で最も魔導力の高い女子が就く『詩女』とい

 う役職を継承していた。その力はボスヤスフォートをして化け物と云わしめるほどであった。

 ちなみにマグダルはナインの曾孫にあたる。

 

「この装備では倒せないの?」

 霧島の心に絶望が広がる。

 

 

 

 蓮の庭園正面玄関では天龍と龍田の戦いが続いていた。

 二人の体には無数の切り傷が刻まれている。特に天龍の負傷は大きい。

 右足は折れ、腹部は押さえていないと傷口が開いてしまう有様であった。

 

「お上品でお行儀のいい剣術でボクちんは斬れないよ~ん」

 デコース・ワイズメルはおどけて二人に言い放つ。

 彼は無傷だった。

 

「お上品て言われたのはお前が初めてだよ。(クソ、こいつ型がない、それに剣が重い!)」

 二人の剣術は軍に入ってから身に着けたものだ。

 無頼を気取っていてもその基礎はしっかりとした正統派の剣術である。

 

 一方でデコースが生まれ育ったカステポー地方は、星団中から犯罪者とお尋ね者が集まる治安

 は最悪の無政府地帯であった。そこで生き抜いてきたデコースの剣術は完全自己流である。

 彼の剣は変幻自在、ストラト・ブレード(七音剣)と呼ばれる。

 

 多数の足音がする。クワトイネ公国の近衛騎士団が天龍達を助けるためにやってきた。

「日本の方々を救うのだ!近衛隊かかれ!」

「馬鹿止めろ!お前らじゃ敵わねえ!」

 デコースは彼らをほとんど見ずに剣を振るう。

 一振りで二人以上を斬り殺している。

 公国では最強と言われた近衛騎士でさえデコースには全くかなわず斬り倒される。

 

「やめなさい!」

 龍田が槍を振るう。

 

 デコースは後ろに回り込み背後から斬りかかる。

 龍田の艤装から妖精が現れ、機銃と三八式歩兵銃で攻撃した。

 

 デコースは驚いて後退する。

「な、なんだそりゃ!」

 妖精たちの奇襲もデコースを傷つけることは出来なかった。

 その後も何度か切り結んだが、龍田の傷が増えただけであった。

 

 

 

 摩耶と鳥海もまた苦戦していた。

 四人のペールの内一人に万能斧を叩きこむことに成功したが、成功するまでに二人は多数のプ

 ラズマ弾と爆発を受け、鳥海が中破判定、鳥海をかばっていた摩耶に至っては大破判定の損害

 を受けていた。

 

「よくも2号をやってくれたわね、エイリアスを創るのに多大なコストと時間が掛かるって言う

 のに!」

 

「クッソ、こいつら強いうえに連携も完璧かよ!」

「摩耶、もう無理しないで」

 エイリアスの一人を倒されて怒り心頭のペールによって二人の損傷は増えていった。

 

 

 

 霧島が奥歯を噛みしめる音が響く。

「撤退します」

 霧島が悔しそうに宣言する。

 

「殿は、陽炎、貴女に任せます」

「はい!了解しました!」

 陽炎は満面の笑顔で答えた。仲間を逃がすため時間を稼ぐのは駆逐艦の仕事だ。

 主力艦を生かすため犠牲になるのは駆逐艦にとって誉れであった。

 だから泣きはしない、不平を言うなんて以ての外、笑って答えるのだ。

 

「帰ったら間宮でも鳳翔さんのところでも何でも奢ります」

「光栄であります!」

「また会いましょう」

「霧島さんもお元気で!」

 

 霧島は向こうを向いた。肩が少し震えている。

 本当は自分が残りたかった。

 しかし旗艦たる自分は何としても情報を持ち帰らなくてはならない。

 そしてもう一つ認めざるを得ない事実が一つあった。

 自分では時間稼ぎすらできない。ここであの男を足止めできるのは陽炎だけだということだ。

 

「おや、逃げるのかね?」

 ボスヤスフォートが挑発する。

「ええ、今の装備では殺しきれませんから」

 霧島は怒りに燃える目を向ける。

「次は根切りよ、なで斬りにしてやるわ」

 その目を見たボスヤスフォートは背筋に冷たいものが伝わるのを感じた。

 霧島はチャフのアルミ箔を舞い散らして後退していった。

 

 この戦いの結果は味方の損害は大破がサウスダコタ、ワシントン、摩耶、天龍

 中破は鳥海、龍田

 無傷な艦は霧島(応急修理女神使用)、暁、天津風である。

 

 一方で敵に与えた損害は撃破がエイリアスペール1名。

 小破がボスヤスフォートとなる。

 

 勝敗判定は敗北D、惨敗と言っていい。

 

 

 

 ボスヤスフォートの直感は、ここで霧島を逃がしてはまずいと警告していた。

 追いかけて殺すべきと考え、一歩を踏み出した。

 その前に陽炎が立ちふさがる。

 ボスヤスフォートは陽炎をまじまじと観察する。そして胸元のブローチを発見した。

 そのブローチには紅の十字架が描かれていた。

 

「ミミミミミミミミミミ、ミラージュ騎士だと!」

 ボスヤスフォートは今までの傲岸不遜さが嘘のようにうろたえた。

 

「おのれ、何処までも何処までも追いかけてくる忌々しい奴らよ!シャフトも、ポエシェ・ノー

 ミンも、ビョトン・コーララ、リィ・エックス、ベスター・オービット!そしてF・U・ログナ

 ーとダグラス・カイエン!みんな我が殺してやった!貴様も殺して、今、ここで全ての因縁を

 断ち切ってくれる!!」

 ボスヤスフォートの左右に光の渦が出来る。デコースとペールがテレポートで呼び出された。

 

「大将どうした、俺らを呼ぶなんて」

「何かありましたか?」

「二人とも、奴の胸元のブローチを見ろ」

「ミ、ミラージュ!?」

「そうだ、我らが宿敵、天照の忠実な犬どもだ」

 

「なあにあんた達、もしかしてラキシスの知り合いなの?」

「ラキシス?貴様ラキシス姫付きのミラージュ騎士か!」

 

「異世界転生しても邪魔しにきおって、しつこい奴らだ。今世では平穏に暮らしたい。どこか田

 舎でスローライフがしたい、そんなささやかな夢もかなわんのか!」

 

 その言葉を聞いて陽炎は激怒した。

「なら何故ギムの市民を虐殺したの!何の罪もない人たちを殺しておいてスローライフがしたい

 ですって?ふざけないで!」

 

「国を一つにまとめるのには亜人差別が必要だったのだ」

「殺される人達にとって国の事情は関係ないわ、はいそうですか、仕方がないですねとでもいう

 と思ったの?!」

「子供が口をはさむな!」

「子供だと言えば相手が黙ると思わないで!」

 陽炎はボスヤスフォートを指さし言い放つ。

 

「大人の事情でこの戦争を始めたと言うのなら、子供の感情で終わらせてやるわ!」

 

「一つ言っておく、私は平和を愛している。しかし平和になると愚かな民衆はすぐにそのありが

 たみを忘れる。だから平和の大切さを忘れないためにも常に戦争をし続ける必要があるのだ」

 

「最っ低の発想ね!」

 

 

 

「畜生、めんどくさい奴かよ」

 デコースは毒づいた、敵は明らかに死兵だ。ここで死ぬことに全く躊躇していない。

 こんなのに手を出したら大怪我では済まない、正直逃げたいがこの世界では捨て駒にできる配

 下がいない。

 デコースが床を滑るように移動し、陽炎に迫る。

 

 陽炎はデコースの足のつま先目掛け、踏みつける。床は大きく凹んだ。

 デコースは陽炎の踏みつけを避けた。しかしデコースの剣は踏み込みが足らず躱された。

『あぶねえ、こいつ俺のストラトブレードの肝がすり足だと知っている?』

 ストラトブレードを初見で見破った者はいない。予備知識がなければそれは絶対に不可能だ。

 

 その後も何度か剣と斧を交わす。

 陽炎は連装砲の砲塔を盾替わりに使い、デコースの剣をさばいていった。

 砲塔は艦艇の最も装甲が厚い部分である。もちろんまともに受ければ切り裂かれてしまうが、

 陽炎は巧みに斬撃を逸らしていた。

 また陽炎は執拗にデコースの足の親指を狙ってストンピングを繰り返した。

 ドスン、ドスンと少女とは思えない音が議事堂に響く。

 

 戦いを通してデコースは陽炎も自分と同じく過酷な幼少期を生きた人間だと確信する。

 彼女の戦い方は対人間ではなく対獣、大型肉食獣に対抗する戦いであると推察した。

 実際に彼女の戦い方は深海棲艦との近接格闘戦を想定したものである。

 

 カステポー地方は郊外に行くと羽毛恐竜やクーガーなどの肉食獣が生息し、不用意に出歩けば

 それらの餌食にされる。街中ではゴロツキと、郊外では肉食獣と戦った幼少期をデコースは思

 い出していた。

「面白れえなあ、お前!」

 

 

 ペールは自らの作戦の成功を確信していた。

 目に見える範囲の三体はすべてダミー、本物のエイリアスは光学迷彩をかけて隠れていた。

 陽炎が隙を見せたら一斉にプラズマ弾を撃ち込むつもりであった。

「3号、前、気を付けて!」

 5号が叫ぶ。前を見ると漏斗型移動砲台がこちらに銃口を向けていた。

「嘘、ばれてるの?」

 移動砲台から粒子砲が発射されペール達は必死に逃げ惑う。

「なんで居場所がばれているのよ!」

 

 二人が引きつけている間ボスヤスフォートの最強魔法の準備が整った。

「喰らえ、絶対零度だ、躱せまい!」

「大将まて!」

 デコースは足の下に奇妙な振動を感じて警告する。

 

 陽炎は戦闘中も詠唱していた水操作の魔法を発動する。

「ウォーターコントロール=ケージ!」

 ひそかに床下に水を大量に集め、それを噴き出させた。

 

 水は球体となりボスヤスフォートを包み込む。

 絶対零度の解除が間に合わなければ術者自身が粉微塵になっていただろう。

 

「爆雷投下、投下かな?いいや投下で」

 陽炎は水球に爆雷を投げ入れた。

「まずい!」

 爆雷が爆発すれば水球の中の人は大ダメージを負うだろう。

 ボスヤスフォートは短距離テレポートを行い脱出した。

 

「でえりゃぁぁぁ!」

 背後から叫び声が聞こえる。

 後ろを振り向くと陽炎が裂帛の咆哮を上げながら万能斧を振るっていた。

「馬鹿な、あり得ん!」

 ローブを最大限に固め防御姿勢をとる。

 金属のぶつかり合う音が響き、ボスヤスフォートは吹っ飛ばされる。

 

「何故、転移した位置に先回りしているの?!」

 ペールが悲鳴を上げる。

「まさか、そんなこと出来るわけがない」

 デコースが恐ろしい予測に震える、可能性があるとすればたった一つ。

「貴様、見えているな。(とき)を!」

 陽炎は未来が予知できる、それしかない。

「化け物め!」

 




 ちょっとボスヤスフォートに殺害されたミラージュ騎士の説明します。
 シャフト       パルテノの主、左翼部隊最強
 ポエシェ・ノーミン  槍術使い モデルはクラウス・ノミ
 ビョトン・コーララ  スパルタの主 ヒゲ
 リィ・エックス    女性騎士 GTM開発担当 天照分家の当主  
 ベスター・オービット サリオンの忠臣
 F・U・ログナー    右翼部隊司令 足首フェチ ドウターチップにより蘇生
 ダグラス・カイエン  元ミラージュ騎士No1で総隊長 モデルはアラン・プロイスト
 後年、戦闘して生還しただけで立派と言われるミラージュをこれ程大勢殺害したのは後にも先
 にも彼だけのはずです。

 システム・ブローズについても説明します。
 脳波誘導兵器を使用するには新人類能力が必要です。
 新人類能力は素体となった少女が元々持っていた能力と推察されます。
 熾烈な深海棲艦との戦いの中で、新たな人類の能力に目覚めたと思われます。
 『陽炎、抜錨します』2巻において陽炎はこの力を開花させました。
 陽炎の新人類能力はLv9、一年戦争後半の〇ムロ・レイと同等です。

 その他の艦娘の新人類能力レベルは
 Lv9 陽炎、雪風、時雨
 Lv8 初霜 舞風
 Lv7 叢雲 初春 子日
 Lv6 朝霜
 能力なし  霞 夕立など

 すいません好き勝手絶頂しました。


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第十七話 超帝国の炎の女皇帝

長い期間が開いてしまい申し訳ございません。
設定集を作るのに思っていたより時間が掛かってしまいました。キャラクターが多い!
後いくつかの設定を勘違いしていた部分があったのでストーリーを修正していました。(ドウタ
ーチップなどです)
話が分かりにくいという指摘有難うございました。返す言葉もございません。


「ふごごご!」

 呉鎮守府の工廠に豚の鳴き声によく似た鼻音が響く。

 大和型戦艦の二人が鎖で縛られ宙吊りにされており、鼻にはフックが掛けてある。

「もう許してくれ!こんなところを清霜に見られたら死んでしまう!」

 戦艦武蔵が泣いて許しを請う。

「大和にこんなことをしてただで済むと思っているのですか!」

 戦艦大和はまだ反抗的であった。

 

「はい、アップ~」

 ラキシスは鎖を引っ張る。すると大和と武蔵の鼻にかかったフックが上に引っ張られた。

「イタタタタ!」

「止めてええ」

 二人の悲鳴を聞いて全身漆黒の女が歓声を上げる。

「HAHAHAHAHA!」

 彼女こそ今生の不知火のパートナー、パルテノである。

「HipデBadダゼ!ダンケェ!」

 それからしばらく、ぺちんぺちんと二人の尻をリズミカルに叩く音が辺りに響いた。

 

 その時海防艦達が周辺海域の哨戒から帰ってきた。

「何何?」

「あ、大和さんと武蔵さん何してんの?」

「お鼻が変」

 大和と武蔵は絶望に打ちひしがれる。

「あああああ(泣)」

「終わったァァァーーー」

 

「二人とも何したの?ポーラさんみたくお酒飲み過ぎたの?」

 イタリア重巡娘のポーラはお酒が大好きだがいつも飲み過ぎて周囲に迷惑をかけている。

 その度に姉のザラが謝っているが、ザラの忍耐が限界を超えるとこのように吊り下げて尻を叩

 く光景が見られる。

「ポーラと同じ扱いなのかー(涙)」

「この屈辱、坊ノ岬以来です!」

 大和型戦艦二人は自らの威信を取り戻すため努力することを誓った。

 

 

 

 

 呉鎮守府の提督執務室

 司令官の小暮シンイチは近頃の体調がとても良い。

 転移直後は膨大な仕事が持ち込まれ、職員一同過労死を覚悟していたが今は平穏そのものだ。

 今では定時で帰宅できるようになり、健康状態は万全である。

 

 仕事の総量は減ってはいない、むしろ増えている。

 にもかかわらず健康的な勤務が出来るのは処理能力が上がったからだ、それも劇的に。

 秘書官席の横の机に座る小柄な少女がスーパーコンピューターよりも演算能力が高いなどと誰

 が想像しよう。

 

「スパルタ様、お茶をお持ちしました」

 従卒がショートカットの少女に茶を差し出す。

「あの、提督様に先に出してくれませんか?」

 スパルタが遠慮がちに言う。提督は手を振ってこれでよいと許可した。

 

 職員の中には仕事を失うのではないかと不安になる者も多くいた。

 しかしその後適度に働いて丁度定時に終わる量の仕事が各自に配されるようになり、不満は言

 われなくなった。

 そうヒトを遥かに超える存在が鎮守府を掌握したことを察したのだ。

 諦めの境地で人知を超えた強者の庇護のもと甘い蜜に浸るかの様な生活を享受することに躊躇

 う者はいなかった。

 

 提督は今までを振り返る。かつては重圧から逃げる為に飲んでいた酒も味を楽しむ余裕が出来

 た。料理との組み合わせを考えるのも楽しい。

 そうだ今度彼女を誘ってあの店に行こう。

 そしてカッコカリではない本物の婚約指輪を大淀に渡すのだ。

 、、、、

 

「という風に、いつになったらなるんだ?提督よ」

「勝手に私を名乗ってモノローグを捏造しないでくれたまえ」

 先ほどから独白を続けていたのは重雷装巡洋艦の木曽だ。

 転移前は幌筵泊地所属の艦娘でキス島攻略作戦において第14駆逐隊と行動を共にした。

 軽巡娘の中では古参の方である。

 

 現在執務室には司令官たる小暮と秘書官の神通、神通のパートナーであるスパルタ、そして客

 として木曽、用もないのに執務室で休憩しているのが由良、ゴトランド、デ・ロイテルの三隻

 計7名がいる。

 

「大淀だってあんたの事は嫌ってないんだ。彼女は押しに弱いから強く出れば簡単に陥ちるぞ」

「仕事とプライベートは一緒にしない」

 小暮提督はかつて大淀の能力に惚れ込み、熱心に口説いて横須賀から引き抜いた。

 それが原因で横須賀の提督とは犬猿の仲である。

「プライベートではどう思っているんだよ」

 小暮はそっぽを向いた。

「他の奴に盗られていいのか?」

 

「横須賀の借りパク野郎のことか?あいつは恋愛関係ではそう言う事はしないと思うのだが」

 横須賀鎮守府の提督とは犬猿の仲であるが、それ故に解ることもある。

 横須賀の提督に大淀に対する恋愛感情はないと確信してしる。

 その話を聞いて室内の女性陣が微笑を浮かべている。

 

「いや、あの人ではなくて俺が言っているのは明石のことだぞ」

 明石と大淀は当初艦娘適正が分かっていたものの肝心の艤装のコア部分が未発見であったため

 長い間裏方として働いていた。そのため二人は非常に仲が良い。

「女同志だぞ」

 小暮の額に汗が滲む。

「有りだろ?」

 小暮は否定できなかった。

 取り敢えず危機感を持たせることが出来て木曽は満足した。

 

『実際の話、我々軽巡娘としては小暮殿と大淀には早く結論を出してほしいのだがな』

 話しやすいからという理由で小暮提督は良く軽巡を秘書官にする。彼は知らないが軽巡娘の間

 で彼は人気なのだ。最近になって海外軽巡を中心に彼の幼馴染は誰かと、裏で暗闘が繰り広げ

 られていて一部流血沙汰も起こっている。

 

『あの三馬鹿どもも大人しくなればいいのだが』

 三馬鹿とは由良、ゴトランド、デ・ロイテルの三隻のことである。特に由良は改二になって妙

 な方向に積極的になってしまった。どうしてああなったのか誰も分からない。

 木曽はため息をついた。いざとなったらまた神通に鉄拳制裁をしてもらおうと思っている。

 取り敢えず殴る、軽巡娘にとって暴力こそ最良の解決法なのである。

 

 話の途中、ゴトランドがお酒のつまみに故郷のニシンの缶詰を勧めてきたので由良が殴り、デ

 ・ロイテルがそれに巻き込まれて流血、最終的に三人とも神通に部屋から叩きだされるという

 珍事があったが、特筆すべきことはないので割愛させていただく。

 

 

 

「それよりも今日呼んだのは別の件でだ」

 小暮提督は話題を変えようと机の上に資料を置いた。

「ヤマネコ島事件についてだ。君はあの事件に参加していたらしいな」

 そう、小暮提督は今ヤマネコ島事件について調べている。

「ああ、あの事件か、確かに俺は島民の救出作戦に参加していたよ。自衛隊が島民を救出し、俺

 達はその護衛をする手筈だった。まさか陽炎があの場にいたとはな、驚いたぜ」

 

 その時執務室のドアが開いた。室内に入ってきた人物は駆逐艦不知火である。

「陽炎の話題ですね、同席してもよろしいでしょうか」

 何故か話の内容を理解している彼女は、提督が許可が出す前に部屋に入ってきてソファーに座

 った。絶対にここを動かないという鋼の意思を感じる。

 小暮はため息をついた。どうもこの所提督の権威が蔑ろにされている気がしてならない。

 

「この年ですと陽炎の年齢は10歳ですね」

 不知火はスケッチブックを取り出しページをめくった。

 そこには子供の落書きが掛かれていた。横から覗き込んだ木曽が聞く。

「これもしかして陽炎か?」

 辛うじて頭に橙色のツインテールがあることが分かる。

「はい、各年齢の陽炎を私が想像して書きました。それにしても陽炎が昔の写真を持っていなか

 ったのは武装勢力の所為だったんですね、許せません」

 不知火は憤慨している。それよりも木曽は気になることがあった。

『何故身体部分が肌色一色なんだ?』

 それは聞いてはいけない予感がした。

 

 不知火は自らが描いたスケッチブックを眺めたあと目を瞑る。

「いけませんよ陽炎、お風呂から上がったら体を拭かなくては風邪をひいてしまいます。ああ裸

 で部屋を駆け回ってはいけません」

 不知火は口の端から涎を垂らして想像の世界へと飛び立っていった。

「不知火お前大井姉さんに似てきたな」

「えっアレに?」

 不知火は愕然としているが一同は何故そうなると心の中でツッコミを入れた。

 

「人の姉をアレと呼ぶな」

「アレをアレと呼ぶ以外にどう呼べと?」

 木曽は内心納得してしまった。

「まるゆのパートナーになったヒュートランって奴も姉貴と同類だったし最近増えすぎだろ」

 

 話の前に提督は不知火に言っておく事があった。

「それよりも不知火、大和たちのお仕置きは程々にするようパルテノに言っておけ。あの爺さん

 に知られると厄介なことになるからな」

 艦娘である大和にはあるファンがいる。その人物は政財界に広く影響力を持つ老人で、父親が

 戦艦大和の乗組員であったことから大和に並々ならぬ思い入れがあった。

 そんな彼が大和が美しくも凛々しい艦娘となり、その46センチ砲で深海棲艦を薙ぎ払って活

 躍したと知ったらどうなるだろうか。

 扱いづらい後援者の誕生である。

 

「大和さんにいつも沢山差し入れをしている方ですね」

 駆逐艦は大和からおすそ分けを頂いているので老人に対して好意的である。

「多額の寄付をしてくれるのは有難いのだが、余り軍の方針に口を出さないでほしいな」

 小暮提督が深い溜息をつく。

 

 老人は大和の予備艤装(大型建造で出た二隻目の艤装)を改造し、重防御の護衛艦を造ろうと

 政府を通じ提案して来た。日本復興の象徴とする為だ。

 深海棲艦或いはそれに類する化け物との戦闘を想定すると確かに従来の護衛艦では防御力が脆

 弱すぎるという欠点があった。

 だからといって艦娘の艤装(実艦形態)を改造するのにどれだけ予算が掛かるのか、機関を換

 装するだけでも相当の費用が掛かる。維持費も従来よりも増加すると試算されており、いっそ

 のこと新造した方が良いのではないかという意見が多数である。

 それでも自らの夢を叶えるべく広い人脈を生かして各界に根回しをしているらしい。

 

「音楽祭では光る棒を持って踊っていましたね」

「えっ何それマジかよ」

 不知火の言葉に木曽が驚愕する。

 ある年の音楽祭で大和がアイドルソングを歌ったとき、その老人はサイリウムを両手に見事な

 オタ芸を披露していた。その体のキレは古参の那珂ちゃんファンから見ても見事というほかな

 く音楽祭の後彼らと意気投合していた。

 対照的に老人の側近連中は顔面蒼白であった。その後老人の経営する企業の株価は一時下がっ

 たが、やがて上昇し以前よりも高値を付けた。頭の固い古参を排除し新たに才能のある若手を

 迎え入れたそうだ。

 

「何だよそれすげえ見てえ」

「当時はスマホを持ち歩けなかったので動画の類は残ってません」

 戦時中は情報漏洩を恐れ艦娘がそういった端末を所持することは許されなかった、なのであの

 見事なオタ芸は各艦の思い出の中だけにある。

 木曽は悔しがった。その様子を見て小暮提督が黒い笑みを浮かべる。

「大和にまたアイドルソングを歌ってもらえばあの爺さんはやってくれると思うぞ」

「マジか!次の音楽祭はそれにしようぜ」

 木曽は次回呉鎮守府の音楽祭を心待ちにした。何なら手伝ってもいい。

 

 

 

「そろそろ本題に入ったらどうデスか?」

 いつの間にかラキシスと楊貴が入ってきてそう言った。小暮は赤面する。

「と、とにかくヤマネコ島事件の概要を説明する」

 

 ヤマネコ島事件概要

 西暦2013年9月

 深海棲艦の存在が公に認められ同時に艦娘の存在もまた公開される。

 艦娘を保有していない国が艦娘の譲渡あるいは共有を持ちかけるも日本国はこれを拒否。

 

 西暦2015年5月

 所属不明の武装勢力がヤマネコ島に上陸、島民を人質に艦娘の身柄を要求。

 この時点で島民に多数の死傷者が出ている。

 同勢力と思われる武装船団が帰投中の艦隊に攻撃を加える。

 

 武装船団が人質を盾に艦娘に無抵抗で投降するよう要求。

 海上自衛隊と友軍艦隊到着。島民の救出作戦開始。

「俺が参加したのはここだな」

 木曽が当時を振り返る。混沌として解決の糸口が見えない状況であったが、ある事が起こり一

 気に解決へと動いた。

 

 ヤマネコ島に魔法使いナイン出現。島内の武装勢力を火の魔法で一掃。

 武装船に乗り込み人質を救出。空を飛んでいたという証言在り。

 

 武装勢力の協力国が核ミサイルを発射

 深海棲艦の空母ヲ級が爆発のエネルギーを吸収、

 協力国首都の上空で突如核爆発が発生し首都壊滅、爆発現象を転移させたものと推測

 

 ナインが巨大ロボットを召喚、深海棲艦を瀕死に追い込みとどめは艦娘に投げる。

 未確認の新型深海棲艦と戦闘中、強い光に包まれて両者行方不明。

 

「何なんだこれは!訳が分からん!」

 小暮は頭を抱える。内容を知っていてもこの報告書を読むと毎回このセリフが出る。

 魔法使いに巨大ロボット、謎の深海棲艦と出来の悪い二次創作小説でも読んでいる気分だ。

 混乱する提督の横で陽炎のペットの楊貴がもみじ饅頭を食べていた。

 

 木曽は犠牲者の数を読み上げる。

「島民の犠牲者は人口の約半数、武装勢力はまるで狩りでもするかのように殺害していた様だ」

 武装勢力は既に壊滅しているが改めて彼らに怒りが湧く。

 

「ん?避難途中の船内で一名亡くなっているな、小さい女の子じゃないか」

 小暮が帰還船内で亡くなった犠牲者がいたことに気づく。

「ああ、その子は憶えているよ、ここまで歩いてこれたのが信じられないくらいの重傷でな、救

 命処置の甲斐なく亡くなったよ。妹が取り縋って泣いていたのが居たたまれなかった」

「そうか、えーとその子の名は○○○○ちゃんか、、」

 

 その時不知火がその目を目いっぱい見開いた。そして叫ぶ。

「そんな事は在り得ません‼!」

「何だ!何事だ!」

「その名前は陽炎の本名です‼」

「な‼」

 

「つまりあれか?我々は陽炎と妹さんを取り違えていたという事か?」

 戦時中の混乱で戸籍が間違っている、ということが最も高い可能性として考えられる。

「それも在り得ないんです」

「何故だ説明したまえ」

 

「陽炎の実の妹はこの事件後深海棲艦の攻撃によって亡くなっているんです」

「何故断言できるのだ」

「黒炎駆逐棲姫です。妹も艦娘適正をもっていて彼女は死後鬼姫級のコアにされたんです」

 

 深海棲艦のコア部分には人間の魂が使われている。さらに深海棲艦の幹部たる鬼姫級の建造に

 は特別なコアを必要とする。即ち轟沈した艦娘か艦娘適正をもった女性の魂である。

 しばしば深海棲艦が地上を攻撃するがこの目的はその特別な人間の魂を採取するためという説

 がある。陽炎の妹はこの攻撃で命を落としたらしい。

 

 小暮提督と木曽が凍り付く。

 黒炎駆逐棲姫、その名を聞いて恐怖しない提督も艦娘もいない。それほどの化け物であった。

 艦霊とのシンクロ率を限界突破し艦娘完全体となった陽炎を足止めする、その為だけに建造さ

 れた。それは最大のパワーを発揮するため一切の制御を放棄した暴走兵器であった。

 

 陽炎に異常に執着する性格を持っていたがそれはコアにされた実の妹の本能でった。

 陽炎以外の艦娘に遭遇する無視するか戦闘になるかは分からない。

 しかし戦闘を始めるとその圧倒的パワーをもって戦艦娘だろうがなんだろうが粉砕し大破撤退

 させた。あの大和型戦艦でさえ何度も何度も大破させられて、鎮守府は修理の為膨大な資源を

 浪費させられた。

 

 そしてその牙は味方である深海棲艦にも向けられた。一切の命令を聞かず、不用意に命令しよ

 うものなら相手が海域ボスであろうと破壊した。

 その後黒炎駆逐棲姫の存在が確認されると陽炎はそいつの押さえに専念することとなった。

 

 最終決戦の一つ前の戦いでは黒炎駆逐棲姫の東京湾内侵入を許し、お台場の目前で陽炎がよう

 やく撃沈した。

 

「だから陽炎もその妹もヤマネコ島事件では死んでいるはずがないんです」

 室内は沈黙に包まれる。

「ではこれは一体何だというのだ」

 小暮は絞り出すように唸る。

 

 

 

「すまぬのう、あの時はまだ体が馴染んでなくて一時的に仮死状態になってもうたのじゃ」

 室内に聞いたことのない女性の声が響く。声の出どころを探すとそれは楊貴であった。

「喋った!?」

 

 楊貴の体が発光する、そして爆発し執務室は炎に包まれた。

 しかし提督や艦娘達には火傷一つない。それどころか書類なども燃えていない。

 幻影だったのかと思ったら部屋の隅で黒い害虫が燃えて死んでいた。害虫についた火は別の物

 に燃え移ることもない。対象識別型の範囲攻撃である。

 

 そして楊貴は小柄な美少女に変身した。

「そこのお前、魔法使いナインの容姿を読み上げろ」

 威厳あふれる美少女が提督に命令する。

 

「ああ、身長は140半ば、上等なシルクの、袖が半透明のチャイナ服を着て足にはナイロンの

 ストッキング、切れ長の目、一回転した根元を束ねないツインテールをしている」

 目の前にいるのはまさにその通りの少女だった。

「貴方はまさか」

「その通りわらわこそ噂のナ・イ・ンじゃ。超帝国ユニオが総帝である。炎の女皇帝と呼べ」

 

「ひとつ訂正するとわらわは魔法使いではない、魔法使いを創った者じゃ」

 そう彼女こそエンハンスドヒューマンである騎士(ウォーキャスター)と魔導士(バイター)

 を創造した者である。執務室にいた全員は驚愕に言葉もなかった。

 

 というわけではなかった。

 、、、、、

 

 

「あまり驚いてないな」

 ナインは少しだけ不満そうに言った。

「まあね楊貴は頭良かったしいつか喋るんじゃないかなあと思ってた」

 呉鎮守府の皆はいつか楊貴が喋るのではないかと何となく予想していた。

「むう」

 隣でラキシスがにやにやしていた。

 

 ナインは少し引っ張りすぎたか、と後悔しながらも話を続けた。

「あの時陽炎は武装勢力に撃たれ瀕死の重傷を負っていた」

 その言葉を聞いて不知火が殺気を迸らせるがナインは平然と気にしている。

 

 ラキシスが以前から疑問に思っていたことを訊いた。

「では命の水を使って彼女を甦生したのですか?」

「違う。陽炎は自分以外、施設の皆の甦生を望んだ」

 陽炎は同じく殺された保護施設の友達や先生を助ける事を望んだのだった。

 自分よりも他者を優先する彼女の性格はこのころからすでにあった。

 

「でも命の水はあと一人分しかなかったのでしょう?」

「ああ施設の全員分などあるはずがない」

「ではどうしたのですか?」

 

「陽炎は自分より皆を生き返らせてくれと言って聞かんかった。そうこうするうちに出血で意識

 が朦朧として来てな、会話も難しくなってきた。何としても彼女を死なせたくなかったから何

 でもいいから願いを言えと言ったのじゃ」

 

 陽炎は命の水による復活を拒否した。そして命の水は自ら生きようとする意志の無い者を生き

 返らせる事は無い。ならば陽炎は一体どのようにして甦生したのか。

 

「周りの大人は常々今の世が悪いと言っておった。だから陽炎はそれを変えたいといった」

 

「彼女は救世を、そしてそれを実行する力を望んだ」

 

「彼女の血と命の水を生贄に血の召喚(マジェスティック・スタンド)を起こしわらわはこの宇

 宙にやってきたのだ」

 

「陽炎の命を生贄にしたですって!!」

 不知火がこれまでの人生で最大の怒りを表した。

 今にもナインに飛掛ろうという不知火の肩を神通が押さえる。

「やめなさい不知火さん、貴女ではこの方には一触れも出来ません」

「でも!」

 

「この場でナインさんに勝てるとしたらラキシスさんだけです」

 一同が顔を向けるとラキシスは平然と茶を飲んでいた。

「瀬戸内一帯が焦土と化してもいいなら手伝いマスヨ」

 さらっととんでもないことを言うが、もしナインとラキシスが戦えばそうなるだろう。

「とにかく話を最後まで聞きなさい」

 神通の説得に不知火は大人しくなった。

 

「その時までわらわはセントリーパルサーの意識の片隅に居たに過ぎん。本体は超帝国旗艦シン

 グの中におった。それがあの時地球にやって来たのじゃ」

 魔導大戦ではパルサーの命の水を依り代に復活した関係でナインとパルサーは縁が深い。

 事件前まではパルサーを通して陽炎と接していたが、血の召喚により彼女の本体はこの宇宙に

 転移した。

 

「これが我が真の姿じゃ」

 そう言うとナインの体が強く光り、紅色のクリスタルが現れた。

 ナインは人間の遺伝情報、記憶その他の全ての情報をケイ素結晶体に保存している。もしも肉

 体が滅びても保存した情報から新たな肉体を再構築することが出来る。彼女は完全なる不老不

 死を実現したのである。

「最も今目の前にあるのは立体映像で本物ではない。本物は陽炎と共にある」

 

「先ほどわらわは魔導士を創ったといったな、その他にも騎士やバスター砲も創ったのはわらわ

 よ。だがそれらはもう創れぬ」

「それはどういうことですか」

 

「わらわはそれらの記憶を消去し空いた領域に死にかけた陽炎の生体情報を保存した。それでも

 足らず我が情報の一部に陽炎の情報を上書きするしかなかった」

 本来の目的とは異なる使い方をしたせいで今後もし陽炎が死亡したとしても、復活することは

 出来ない可能性が高い。

 

「今や我は陽炎と一心同体、彼女と共に生き彼女と共に死するさだめよ」

 かつて全人類の支配者であった女皇帝がたった一人の少女を助けるため、一度手にした永遠の

 命を放棄したのだ。

 ナインは恰も英雄譚を高らかに謳い上げる吟遊詩人の様だった。

 その詩は彼女が気高き精神を持つ英雄と信じる陽炎のサーガである。

 

 不知火は立ち上がり頭を下げた。

「先ほどは失礼しました。そして陽炎を助けてくださってありがとう御座います」

 何事にもきっちりして置かなければ気が済まないのが彼女の性格だ。

「気にするな。わらわもそうしたいと思ってしたことだからの」

 

「でも!」

 不知火は拳を握り怒りに震えた。ラキシスとナインは身構える。

「陽炎と一心同体だなんて羨ましい‼」

 不知火は新品のソファーの牛革をむしり取って悔しがった。提督が心で泣いた。

「そっちの方デスカ」

 ラキシスとナインは呆れた。

 

 なぜ陽炎をそこまでして助けたのかと思ったのかと聞くと、ナインはこう答えた。

「目が離せないのじゃよ。彼女は止めなければ何処までも頑張り続けるからの。それにな」

 

「彼女が死の淵に立たされている瞬間、わらわのスコーパー(遠隔視、念話などの能力)が彼女

 の未来を捉えたのじゃ」

 スコーパーを極めた者は未来さえ予言することが可能である。

 

「陽炎がいなければ人類は深海棲艦に滅ぼされていたぞ」

 この場にいた地球人はその言葉を疑っていなかった。

 陽炎はその戦果のみならず、彼女に励まされ新たな一歩を踏み出した人々が数多く居る。

 陽炎がいなかったらそれらの人々はいつまでも停滞したままだったかもしれない。

 彼女こそ人類にとっての勝利の女神だった。

 

「それだけではないぞ、これはラキシスにも関係するのじゃが」

 

「フォーチュンが滅ぼされる、かもしれん」

 

「フォーチュンとは?」

 小暮が元地球人を代表して質問する。

「私たちファティマが帰る場所、希望の星です」

 良く解らないがとにかく大事な場所だという事は分かった。

 

「やはりそうでしたか」

 ラキシスもまたその可能性を危惧していた。今はまだ確定した未来ではないが、フォーチュン

 に魔の手が迫ってきている予感があった。

「最悪の未来を回避する鍵が陽炎なのですね」

 ナインは頷いた。

「さすが陽炎」

 不知火は得意げに胸を張った。そのとき

 

「!?」

 不知火とナインが一斉に窓の外、南の方角を向く。

「陽炎が危ない!」×2

 二人は同時に叫ぶ。

「わらわは陽炎と一心同体じゃから判るがなんでお主が分かるのじゃ?」

 ナインはいぶかしむ。

「愛ゆえに」

 不知火は確信を込めてそう言う。周囲はドン引きだ。

 

「マグナパレス!応答しなさい、何が起こっているの?」

 ラキシスは陽炎の艤装の中に潜んでいるGTMマグナパレスに通信を入れる。

 そして陽炎が現在戦っている相手の情報が送られてきた。

「うそ、何でこの男がいるの?」

 ラキシスでさえ全く予想もしていなかった男がそこに居た。

「ボスヤスフォート、、、デコース・ワイズメルにビューティー・ペールまで、、、」

 

 この上なく危険な相手だった。

「ナイン!現場にテレポートできますか?」

「無理じゃ、現場はこの世界の神の強い加護を持つ土地にある。スコーパーの力が乱されるぞ」

 テレポートで直接戦場に乗り付けるのは今回は無理であった。

 不知火が手を挙げる。

「私も行きます、デトネイターなら一つ飛びでしょう」

 それが一番早く着くかもしれない。

「では行きましょう!」

 

 席を立つ三人にスパルタが声を掛けた。

「あの、くれぐれもお気を付けください。あとパルテノさんをよろしくお願いします」

 実はスパルタもパルテノも最初の主をボスヤスフォートに殺されているのだ。

 特にパルテノの悲しみは大きかった。仇を前に暴走するかもしれない。

「ええ、気を付けて行ってくるわ」

 三人は執務室を飛び出す。

 鎮守府の敷地に緑色の巨大な異形のロボットが出現し、轟音と猛烈な風を立てて天高く飛翔

 ていった。

 

 本作における艦娘の予備艤装の設定について説明します。

 

 建造をすると既に存在する艦娘の艤装が複数出来る事があります。

 艦霊は一つです。同じ名前の艦娘が複数同時に存在することはありません。

 千歳と千代田は水上機母艦のままの艤装と空母に改造した艤装の二つを所持しており、任務

 によって使い分けます。その際艦霊を移し替えます。レベルは艤装依存です。

 

 艦娘の艤装を護衛艦に改造する方法

 艦娘が予備の艤装をつけた状態でドック(通常の艦船建造用)に行きます。

 輸送モードに移行し艦艇を顕現します。

 艦霊と艤装のリンクを切り、艦艇から離れます。艦娘はこの後燃料と鋼材を補給します。

 残った艦艇を改造します。艤装は元には戻りません。

 

 妄想にお付き合いいただき有難うございます。

 



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第十八話 砕け散るまで戦え

 君は、薩摩藩!
 もしも召喚世界の魔法学校にも組み分けがあったら、
 レッタル→グリフィンドール 
 リアージュ→ハップルパフ
 メテオス→レイブンクロー
 ワールマン→スリザリン
 でしょうか。
 
 もし艦娘がホグワーツに入学したら9割がサツマハンでしょう。残りの一割は?
 カマク・ラァです。

 対処法がないという理由で後方彼氏ヌ級はない。これは今回限りとしないならチェスト、コロ
 ンバンガラ(隠語で刺し違えてでも〇すという意味)する。


 陽炎は妖精たちに指示する。

『不要物と可燃物を投棄する。少しでも軽くするわよ』

 陽炎は最後の突撃をする覚悟を決めた。そのあと妖精が質問してきた。

 

『秘蔵のヘルブック(エロ本)も捨てるんですか?』

 陽炎はかつてご禁制の品であるヌードグラビアのある週刊誌を買ってきて寮に持ち込んだこと

 がある。

 その本は仲間内で評判となり駆逐艦のみならず戦艦の様な大型艦にさえ回し読みされた。

 当時は女が女の裸を見て何が楽しいのか不思議に思ったが、それ以来陽炎は外に出るたびエロ

 本をせがまれるのであった。

 そして今では艦娘一のエロ本ソムリエと呼ばれるまでに成長したのだった。

 

『捨てなさい!(涙)』

 陽炎は涙を流した。

 

『間宮羊羹がありましたがどうなさいますか?』

 陽炎は少し考えた後こう答えた。

『時間を作るから皆で分けて食べなさい』

 

 陽炎は考える。敵を引きつけ撤退の時間を稼ぐという最低限の目的は果たしたものの、可能な

 らば敵に損害を与えておきたい。だがそれは非常に難しいと言わざるを得ない。

 まず敵が硬い。液体金属のローブとバリア、戦艦の砲撃すら跳ね返す二種類の防御手段を備え

 ている。一つでも駆逐艦たる自分では突破が難しい。

 可能性があるのは水球で包んで魚雷を当てる方法であるが、先ほど短距離テレポートで逃げら

 れてしまった。逃がさない方法は考えても見つからない。

 陽炎は何とか反撃の糸口を見つける為時間を稼ごうとした。

 

 

 ブラックスリーの三人はたった一人の少女に足止めされていた。

 敵は明らかに自分達より弱いはずだった。素早さはあるがバリアを破れるほどの攻撃力は持っ

 ていない。しかしこちらの行動を先読みし、脳波誘導式移動砲台を飛ばしてくるので苦戦して

 いた。

 本来の任務はクワトイネ公国の首脳陣の殺害であり、すぐにでも追いかけて行きたい。

 しかしながらこの危険な相手は3人で確実に仕留めなくてはならない。放置すれば一人でロウ

 リア王国軍を滅ぼしかねない。

 

 そして不用意に近づけば命に係わる深手を負うことは間違いないと確信している。

 恐ろしいことにこちらの攻撃の前に回避運動を開始していて、攻撃と同時にカウンターが飛ん

 でくるのだ。

 なので三人は敵の装備の破壊と体力の消耗を狙っていた。

 三人で一人を取り囲み少しずつ武器と装甲を削っていった。特に移動砲台は念入りに潰し今ま

 でに17基を撃墜した。

 

 しかし敵に疲労の色は見えない。

 未来予知は精神力を激しく消耗する、そもそも戦闘しながら使うものでは無い。

 しかしながら敵の動きに疲労した様子が見られない。

 まさか自分より格上の敵とばかり戦っていた訳ではないだろう。そのような戦いをしていたら

 命がいくつあっても足りないはずだ。

 

 

「ねえどうしたらいいと思う?」

 敵がいきなり話しかけてきた。それも自分の倒し方をである。

「敵に直接聞くな」

 前世でイカレた人物にはたくさん出会ったがそれに勝るとも劣らぬイカレっぷりである。

「だって今まで話が通じない相手とばかり戦っていたから~お話しましょうよ」

 少女の目に狂気が見える。三人は恐怖の感情が芽生える。

 

「自爆したらどうかね?」

 ボスヤスフォートは投げやりに答える、いっその事そうしてくれると助かる。

「やっぱそれしかないか~」

 

「出来んのかい!」

「出来るわよ、でもただ自爆しただけじゃあなたには防がれるでしょうから、やっぱり穴を開け

 てそこに爆発力を集中させなければならないわね」

 少女が目の前で自分の殺す方を言葉に出して考えている、かなり怖い。

 

「なぜそこまで戦う、所詮は他国の事だろう」

 ボスヤスフォートが質問する。陽炎は少し考えてから答えた。

「日本国にとってクワトイネ公国が居ないと困るからかな、やっぱり転移してから最初に友好国

 になってくれた国を見捨てるわけにはいかないわ」

 

「日本国が転移国家だと?」

 一介の傭兵には聞かされていなかった。しかし周辺国と比べて突出して高い科学力を持つ国が

 突如として現れたことを説明できる。

 

 ボスヤスフォートは頭を下げる。

「ギムの町の事は済まなかった、この国の差別意識がここまで深刻とは思わなかったのだ」

 突然の謝罪に陽炎は怪訝な顔をする。そしてこの三人は元々ロウリアの国民ではないことに気

 づいた。

「どうだろう手を引いてくれれば日本国を攻める事はしないし、亜人にも生き残る道を残すよう

 上層部を説得すると約束しよう」

 

 この戦争で手柄を立てれば爵位を貰える約束になっている。まだ下級貴族だろうが戦功を挙げ

 た実績を活用すれば王に亜人排斥を止めるよう進言出来るかもしれない。

 アデムの様な過激な思想の持主は実力で排除しても構わない。

 それでも耳を貸さないようであれば王でも排除することを厭わない。

 この戦いを経て三人は日本という国に対して親近感すら覚えていた。

 

 ボスヤスフォートが真剣な目で陽炎の方を見ると陽炎は口を動かし何かを咀嚼していた。

「お前何を食べてる?」

 陽炎は恥ずかしそうに口元に手をやり答えた。

「間宮さんっていう凄い菓子職人の作った限定間宮羊羹」

 妖精たちは陽炎が話している間に間宮羊羹を切り分け、最後の甘味を楽しんでいた。

 陽炎も妖精が小さく切って渡してくれた羊羹を食べていた。

 

 ボスヤスフォートの額に青筋がたつ。そう言う意味で聞いたのではない。

「初めてですよ、この私をここまでコケにしてくれたお馬鹿さんは」

 実際は天照帝やナインなど超大物には無視されているのだが、それらは彼の中でカウントされ

 ていない。ボスヤスフォートは拳を握って突き出す。

「絶対に許さんぞ虫けら!じわじわと嬲り殺しにしてくれるわ!」

 悪の帝王は激怒した。

 こうしてブラックスリーと日本国の和解は不可能となった。

 

「さっきの話、私は一兵卒だから本当は何も言えないのだけれど、日本国が吞むのは無理だと思

 うわ。ロウリアが全ての軍事行動を停止することが最低条件よ」

 陽炎は先ほどの話を切って捨てる。

「残念だよ」

 ボスヤスフォートは一瞬でも弱気になっていた自分を恥じた。

 

 口の中の羊羹を飲み込み陽炎は啖呵を切る。

「さあさ、駆逐艦陽炎の生涯最後の突撃、目に焼き付けて逝きなさい!」

 陽炎の艤装から液体が噴き出す。臭いから重油だとわかる。

 さらに不要な部分のオイルもまた捨てられた。床は先ほどの水操作の魔法で薄く水が張ってい

 たがその上に油が浮くようになった。

 陽炎の体から何かが落ちる。見るとそれは弾が切れた機銃や損傷した装甲板などであった。

 デコースは相手がこれから最後の勝負に出ると確信した。

 

 陽炎は発射管から魚雷を引き抜くと天高く放り投げる。そして対空機銃で打ち抜いた。

 魚雷が爆発し火の粉が舞い散る。そして周囲に広がった油に引火した。

 同時に紙吹雪が舞い散り燃え上がる。

 視界が炎に包まれた。

 

 爆炎を切り裂いて陽炎がデコースの眼前に迫る。

 てっきり大将首を狙ってくるものと思い一瞬おどろいたが、斧の一撃を受け止める。

 幻影ではない確かに質量を感じる一撃を受け止めると違和感に気づいた。

 姿が鏡に映したように反転しているのだ。

「ミラーだと!?」

 

 ミラー、それは剣聖カイエンが編み出した剣技の中でも最も習得が困難なものの一つである。

 本体と質量を持った分身が二方向から同時に攻撃する。

 騎士(ウォーキャスター)魔導士(バイター)、二つの力を高いレベルで持ち合わせていないと習得できず、カイエンの

 師であるデイモス・ハイアラキでさえ習得を諦めた。

 

 騎士(ウォーキャスター)魔導士(バイター)、希少な二つの血を受け継いだ者はツヴァイと呼ばれるが、彼らは精神に

 異常をきたしている者が多い。

 例えばAKDのクー・ファン・シーマ王子は王族でありながら数多くの人間を殺害したため死

 刑となった。(実は生きていてミラージュ騎士団の左翼大隊にバイアというコードネームで在

 籍している)

 結局習得したのはカイエンの他サリオンやマキシなど極小数であった。

 ちなみにラキシスが使えたのはクローム公がカイエンの技のデータを彼の承諾なしにインプッ

 トしたためである。 

 

 デコースはミラー陽炎の腕を切り落とす。斬られたその腕は水になった。

 実はこれは水の分身で造った”なんちゃってミラー”である。

「クソ、おどかしやがって」

 デコースは水分身の頭部を縦に真っ二つに割った。すると片目に水が集中、高圧が掛かって噴

 出された。

「うお!あぶねえ!空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギーアイズ)かよ!」

 高水圧のカッターはデコースの首筋をかすめて消えていった。

「畜生!厄介な奴だ、大将があぶねえ」

 

 陽炎の本体はやはりボスヤスフォート目がけ突撃していた。

 ボスヤスフォートはマントの先を槍状に変え前方に突き出す。

 陽炎はジャンプしてそれに乗る。そしてそのまま滑るように肉薄する。

「金属といえど液体ならば、艦娘が乗れない道理はないわ!」

 余談だが後にこの話を聞いた仲間は口々に「それはない」と言ったという。

 

 ボスヤスフォートは急いで防御障壁を張る。敵は小口径の砲しかもっていなかったのでスピー

 ドを優先し薄い障壁を一枚だけ展開した。

 

 陽炎が12.7センチ連装砲を発射し砲弾が障壁にめり込む。

「せいやあ!」

 陽炎はその砲弾の尻を拳で殴りつけた。砲弾は壁の向こう側へ突き抜けていった。

 障壁が粉々に割れる。陽炎は床に降り、ボスヤスフォートに手の届く距離まで近づいた。

 

「貰ったわ!」

 陽炎はボスヤスフォートの胸に掌を当てる。

「ウォーターコントロー」

 その時陽炎の胸に閃光が走った。

 

「ボスヤスフォート様!御無事ですか?!」

 ペールのプラズマ弾が陽炎の胸を打ち抜いた。

 

 陽炎は心臓を打ち抜かれたがすぐに死んだわけではない。人間も動物も心臓を破壊されてもし

 ばらく動き続ける。陽炎は自身の体を構成する水分にスイッチが入ったら決められた動きをす

 るようプログラムしていた。

「二水戦の駆逐艦が心臓をやられたくらいで止まるものか!」

 陽炎は血を吐きながら叫ぶ。

 

「万物の根源たる水よ、我が意望むままに振るまえ、その対価として我が魔力を払う!」

 

「震えよ血液!ウォーターコントロール!」

 ズドン!という重低音がしてボスヤスフォートの腹部の血液が振動する。

 

「げはぁ!」

 ボスヤスフォートは胃液をまき散らしながらのたうち回った。

 その姿はまるで中国拳法の発剄を喰らったようである。

 

 陽炎は過去に台湾へ行ったことのある姉妹艦、雪風から太極拳の双按を教えてもらった事があ

 る。その時は出来なかったのだが今回ぶっつけ本番で成功させた。今回のこれは足りない技術

 を水操作の魔法で補った魔法式発剄と言える。

 

「こいつ分かっててやったな!」

 そう、陽炎は心臓を撃たれると知っていてわざとあの状況に持って行ったのだ。

 相手が勝ったと思って油断した僅かな一瞬の隙をつくため敢えて死地に飛び込んだ。

 

「肉を切らせて骨を断つ?否。骨を断たせて肉を切る?否!」

 陽炎は消え入るような小さな声で呟いた。

 

「命取らせて、装甲破砕、だわ」

 彼女は必ず仲間がこの強敵を倒してくれると信じていた。

 かつて人類を救った女傑は二本の足で立ったまま絶命した。

 

「心臓が止まったくらいで安心できるか!二度と蘇らぬよう首を落として確実に止めを刺す!」

 死体を斬るのは騎士道精神に反する、などと知ったことではなかった。

 デコースは剣を振るい陽炎の頸椎を両断した。

 

 切断したはずの陽炎の首はまだ胴体に乗っていた。

 デコースが不思議な感触に訝しんでいると陽炎の目の端から炎が噴き出した。

 その炎は白でもなく、赤、黄、青のどれでもない。

 それは黒、輝く暗黒というべき色であった。

 

 

 

 避難していたカナタ首相は何かの気配を感じて後ろを振り返った。

 すると議事堂が爆発し炎に包まれるのが見えた。

 彼の背筋に冷たいものが走る。とても嫌な予感がする。

「何が起きている!?」

 彼は地面の下から巨大な力が沸き上がってくるのを感じた。

 

 その時合流した衛士の一人が別の方向を指差して叫んだ。

「首相、見てください!神樹が」

 見ると蓮の庭園の中心に生えている神樹が光を発していた。

 

 地面が揺れる。そしてどこからか声が響く。

 

 《空間神に導かれし者よ、これ以上我が子らを殺める事はさせん》

 

 蓮の庭園は光に包まれた。

 

 

 

 クワ・トイネ公国公都近郊にある山に住む木こりのヨーサック(41歳)は明日の天気

 を読むために空を見上げると、そこには見たこともない物体が見えた。

 

「ありゃなんだべか?」

 空の彼方から火を噴いて落下してくる塊が見えた。

「まさかお伽噺にある神が魔帝の大陸に落とされた星だべか?」

 

 ヨーサックが凝視するとそれの形が分かるようになった。

「違うあれは星じゃねえべ、人?いやあれはまるで悪魔だべさ!」

 緑色をした巨大な悪魔がクワ・トイネ公国の公都にもの凄い速度で落下していった。

「この世の終わりだべ!」

 

 ミラージュGTMデトネイター・ブリンガー・リョクタイは呉を飛び立つと測定不能の出力に

 ものを言わせ急上昇、成層圏を突破した。

 そして宇宙空間から公都に向かって真っ逆さまに急降下した。

 

 

 

「陽炎と一心同体という事は私と彼女が愛を交換する際に間に挟まるということですか?」

 デトネイターのコックピットで不知火はナインに疑問をぶつけた。

 二人の純愛に不純物が混ざるのは看過できなかった。

 

 ナインは非常食のスルメをかじりながら答えた。この機体は操縦席が広くとってあり、長期間

 生活できるよう様々な必要物資が貯蔵されている。

「愛の交換てなんじゃ、陽炎はわらわの娘も同然、不埒な真似は許さんぞ」

 

「眠ってる陽炎を介抱しようとしたら急に猛烈な睡魔に襲ってきて、自分も寝てしまったことが

 何度かありましたが、まさかあなたの仕業だったのじゃないでしょうね?」

「睡眠薬をかがせていかがわしいことをしようとするからじゃ」

「あれはアロマです」

「嘘をつけい!」

 

 不知火とナインが口論するその横でパルテノが笑っていた。

「HAHAHA!新シイますたーモ、ホド良クくれいじーダゼ!」

 

『ナインさんの娘という事は陽炎はもしかして』

 ラキシスはある可能性について考えていた。

 そのときデトネイターから警告が告げられた。

「コノママ着地スルト、下ノ街ニ甚大ナ被害ガ出デルケド、イイノ?」

 

「ア」

「あ」

「構いません」

「構わん、行け」

「そんなダメですぅ~」

 デトネイターは制動の為エア・バスターを最大出力で作動させた。

 豪風が公都に吹き荒れる。

 

 

 

 

 光に包まれた蓮の庭園に何者かの声が響く。

 

 

 

 

《太陽神の戦士らよ、まだ死すべき時ではない》

 

 

 

 

《わが神力を持って安全な地へと飛ばす》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《何だ?》

 

 

 

 

 

 

 

《お前はなんだ?》

 

 

 

 

 

 

 

《お前の様なものは召喚()んでいない》

 

 

 

 

 

 

 

 

《異物は排除する》

 

 



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第十九話 インタシティ

 前回からタグにガールズラブを追加したのですが実は疑問に思っております。
 果たして本作はガールズラブなのでしょうか?
 絶対違うと思う。

 深雪ちゃんがゴリラになってもうた。
 最大で火力100越えだなんて重巡なみですよ。
 艦これが十週年ですって奥さん、おめでたいわねー。
 こち亀ぐらい続けてくださると嬉しいです。

 期間が開いてしまい申し訳ございませんでした。
 前回の話はもう忘れていると思うので、簡単な粗筋を用意しました。


前回までの粗筋

 蓮の庭園を襲撃したブラックスリーは偶々居合わせた霧島組を圧倒、撤退に追い込む。

 陽炎は殿を務め、脳波誘導式浮遊砲台と水操作の魔法を駆使し三人を足止めする。

 戦いの中でボスヤスフォートは陽炎の精神性に恐怖を感じたのだった。

 陽炎は遂にボスヤスフォートの内臓に深刻なダメージを負わせる。しかし心臓を打ち抜かれ、

 さらに首を切断されてしまう。その時光が周囲を包んだ。

 

ここから本編

 

 霧島組壊滅、日本国敗れる!

 

 カナタ首相、行方不明!

 

 駆逐艦陽炎、未帰還!

 

 その報は日本国とクワトイネ公国、クイラ王国の三国を駆け巡った。

 日本国政府も国民も正直なところロウリア王国を侮っていた。元寇レベルの敵など弾切れを起

 こさない限りどうやっても勝てると高を括っていた。

 それが対深海棲艦戦において常に最前線で戦い続けた精鋭部隊である霧島組が大損害を受け、

 敗走したという報せに最初は誰もが耳を疑った。

 

 そして駆逐艦陽炎が未帰還と伝えられた。

 過去いかなる絶望的な状況からでも逆転勝利をもたらしてきた奇跡の駆逐艦の喪失は、人々に

 パニックを起こさせるのに十分であった。

 

 そして国会では敵が転移魔法を使用した事が問題となった。

 日本国も公国と同じくいつ国会議事堂に敵を送り込まれるか分からない。なので審議への出席

 を拒否する議員が多発した。これにより国会は機能停止したも同然の状態となった。

 

 

 クワトイネ公国では行政府である蓮の庭園が火災と暴風により建物が半壊もしくは全壊した。

 公都では原因不明の暴風によって多くの家屋が吹き飛ばされた。幸運にも死者は出なかったも

 のの、多くの住民は野外へと投げ出された。

 幸い近くにいた日本海軍所属の駆逐艦娘とその乗組員妖精により迅速な救助活動が行われたた

 め被害は最小限に収まっている。

 しかしクワ・トイネ公国の首相であるカナタは生存の連絡もなく遺体も発見されていない。

 

 生き残った議員は北の港にあったため難を逃れた海軍本部庁舎に臨時政府を置き、今後の対

 応を検討している。

 しかしこの事件の混乱を収めきる事は出来ず、それを見た反日派が動きだした。

 消滅寸前だった反日派は復活しここぞとばかりに責め立てる。

 

「フハハハハそれ見た事か、だからあのような胡散臭い連中を信用してはいかんと言っていたの

 だ」

 反日派の旗頭であるノーソン伯爵は調子に乗って持論を展開する。

「カナタ首相も行方不明であります」

 ノーソンの側近が公国の現状を報告する。

「このような国難だからこそ知識と経験を備えた人物に首相を任せるべきではないかね?」

「その人物とは?」

「わしに決まっておる」

 ノーソンは自分が優秀であると信じて疑わなかった。

 

 

 公都の片隅で二人の少女が正座をさせられている。

 二人の前に仁王立ちした栗毛の少女が怒りの声を上げる。

「なんてことをしてくれたんですか!」

 二人の少女は土下座する。

「すみませんでした」

「つい、ノリで、、」

「ちょうどジョ〇ョの名台詞を言える機会がきたと思って」

 ラキシスは呆れた。

 

「もう少しで死人が出るところだったんですよ!特にナインさんは何万年も生きていて、責任の

 ある立場にいた人なんですから、自重してください!この事はヤーンさんに報告させて頂きま

 すからね!」

 娘の名前が出てナインは慌てた。

「ちょ、娘に連絡するのは勘弁してくりゃれ」

「ダメです!ヤーンさんとラーンさんにも説教してもらいます!」

 ラーンとは超帝国の第二皇女で初代の詩女、詩女原母ラーンと呼ばれる。ちなみにこの二人に

 父親はいない、二人ともナインのクローンである。

「ちょ、ま、あの二人交代で延々と説教し続けるのじゃが!?」

 

「ところで陽炎は無事なんですか?」

「、、、死んではおらん、と思う。ただ何処にいるのかは分からぬ。最後に神の力が顕現してお

 った、もしかしたら神界に連れていかれたのかもしれん」

「神界はまずいですね」

 ラキシスはしばらく悩んだ後、話題を変えた。

 

「公都再建の費用を出してもらいますからね」

「一国の首都の再建費用を個人でどうやってださせるのじゃ?」

「体で払ってもらいます」

「まさかわらわにエロ同人みたいなことをする気かや?原作者様が黙っていないぞえ!」

 

「違います、ちょっと楊貴に戻ってください。人格はそのままで。」

 ナインはセントリーの体に変身した。

「ケモナーか?業が深いのう」

 

 ラキシスはその頭に手を置き、その頭部に生えた新鮮な毛を掴んでぶち抜いた。

「げはっ!」

 ナインが悲鳴を上げ、ラキシスは笑みを浮かべる。

「貴女のうろこは一枚五百万円、抜け落ちた角は一本二千万円したそうですね」

 

 パルサーフローラの旧設定であるフェザードラゴンの鱗や角は宝飾品として高値で取引されて

 いた。それ故に星団の共通通貨フェザーはフェザードラゴンにちなんでつけられた。

「それ旧設定だから!新設定ではどうなってる分からないから!」

 

「でも通貨のフェザーは残ってますし、幼生の毛ならきっと高く売れるでしょう」

「ひどい!鬼!悪魔!大淀!」

「さあ!どんどん稼ぎなさい!」

 ラキシスは楊貴の毛を次次々とむしっていった。

「ふふふ、まるで生きた金鉱山みたいデスね」

「いやあ!助けてボー〇ボ!」

「毛狩りした後に張り付けるラーメンは選ばせてあげますよ!」

「塩にしてくりゃれ、アーーー!」

 

 ラキシスの所業に不知火はドン引きしていた。そして自分にも同じような罰が課せられるので

 はないかと恐怖した。

「不知火さんは長月さんと合流、パルテノ姉さまとクーン姉さまを連れて今すぐ日本に戻ってく

 ださいね」

 不知火は何度も頷きその場を後にした。帰りはデトネイターは出さず、タイダル飛行場から一

 式陸攻に乗って帰って行った。

 

 ロウリア戦後、不知火には姉妹艦の秋雲のところでアシスタントの労役が課せられたが、余り

 に不器用で絵心がなかったので早々に戦力外通告を受けた。

 そして次にドーナッツの穴を開ける仕事を課せられたが、穴の位置が中心からずれたドーナッ

 ツを大量にこしらえこちらもクビになった。

「こう兎死して走狗煮らる、か」

 不知火は退役後にどんな仕事をすればよいのか分からなくなり、しばらく落ち込んだ。

 しかし陽炎のヒモになればいいとの考えに至り元気を取り戻した。

 

 ラキシスにはもう一つ気がかりなことがあった。

 デトネイターで大気圏外を飛行していた際、人工衛星らしきものを発見したのだ。

 現在元在日米軍を中心とした新宇宙開発公団が衛星打ち上げを進めているが、実際に打ち上

 げるのはまだ先の事である。

 現時点でこの星に日本の衛星はない。いずれ謎の衛星の調査をする必要があった。

 

 

 

 シキナミン医療鎮守府、ここは日本海軍関係者専用の医療施設である。

 情報管理の関係で一般の病院には見せられない艦娘と提督専門の病院である。

 また戦傷を負った艦娘がリハビリをする施設も併設してある。

 艦娘達はここで適度な訓練と演習などを行い、日常生活を送りながら軍に復帰するか、それと

 も退役するかを決めるのである。

 

 海軍提督の職業病としては薄毛や痔などの他に、提督のみ罹る独特の病気が存在する。

 当初この施設はその奇病の一つ、シキナミン欠乏症の治療方法を探るため設立された。

 新鮮な綾波型駆逐艦二番艦、敷波からのみ摂取できる特別な栄養素シキナミンが不足すること

 でこの病気は発症する。

 

 その治療には敷波を秘書艦にしてつっつき、ボイスを定期的聞く他ない。この治療法が発見さ

 れるまで数多くの提督がこの病にり患した。この鎮守府には重度のシキナミン欠乏症の提督が

 入院している。

 

 またシキナミン欠乏症の類似種でオキナミン欠乏症、キシナミン欠乏症、イソナミン欠乏症な

 どが発見されたが、ここの優秀な医学者たちによって現在は治療法が確立している。

 しかし日本国、いや旧世界最高の医学者達をもってしても治療が不可能な病が存在する。

 

 それは黒潮病、人類史上最強最悪の伝染病である。

 一度このウイルスに感染したら最早手の施しようがない。黒潮のボイスを聞かせても、「もっ

 ともっと」と黒潮分を要求され短時間で廃人となる。

 特に二度目の改装時に発する「はわぁ~」ボイスの破壊力は抜群である。

 この病の対抗手段は感染地の焼却と患者の隔離しかない。

 

 もしも貴方がこの病に感染の疑いのある者を発見したら落ち着いて保健所に連絡してほしい。

 大切なのは決してパニックを起こさずに、冷静な行動を心掛けること、、

「ウッ、クロシオ」

 

 

 

 ワシントンとサウスダコタの手術は夜通し行われた。

 緊急手術を終え疲れ切った医師に、霧島は二人の経過を尋ねた。

「命に別状はありません。ですが、、」

 医師は言いよどむ。やはり艦娘として再び戦場に出ることは出来ないのだろうか。

「二度と日常生活には戻れないでしょう」

 予想よりも悪い結果に愕然とする。

 二人は一生ベッドの上で過ごすことになる、と医師は言っているのだ。

「まるで脳内で爆発が起きたようで脳の一部が破壊されています。現代医学でも手の施しよう

 がありません」

 

 

「やあ来たわね」

 ベッドの上で首だけ起こしてワシントンが挨拶する。とりあえず元気そうで霧島は安心した。

「加減はどうかしらワシ子、それとサダ子は?」

 ワシ子はワシントンの、サダ子とはサウスダコタの愛称である。

 ワシントンは視線で隣を指し示す。霧島は隣のベッドのカーテンをめくった。

 

 そこにはサウスダコタが目を開けて横たわっていた。

「サダ子!元気かしら?」

 外見からは大丈夫そうに見え、霧島は一安心した。

 霧島は大きな声でサウスダコタに話しかける、しかし彼女は返答しない。

「サダ子?どうしたの聞こえてる?それとも怒ってるの?」

 霧島はサウスダコタの様子がおかしいことに気づいた。

 声を掛けても肩に触れても彼女は反応しない。

 

「感覚神経が焼き切れているそうよ。外からの刺激が脳に伝わってないんだって」

 隣からワシントンがサウスダコタの病状を説明した。

「感覚器官は正常だけど外の映像は見えないし、音も聞こえない、触っても気づかないそうよ」

 それではいまサウスダコタは真っ暗闇の底にいるようなものではないか。

 

「まあ私は首から下が動かせないだけであいつよりかはましだけど」

 霧島ははっとしてワシントンの方を見た。

「私のせいで?」

 

「見損なわないで」

 そこには赤いメッシュが入った金髪とオデコがキュートな少女が居た。

 彼女はサウスダコタ級戦艦3番艦、マサチューセッツだ。

「姉さんも先輩もこうなることは覚悟の上で戦場に出ていました。貴女の責任ではありません」

 マサチューセッツは霧島を見つめながらそう言い切った。

 

 霧島はきつく手を握りしめた。どうしても言っておかなければならない事があるからだ。

「あの場の旗艦は私でした。だから全責任は私霧島にあります」

「そう、勝手にすれば」

 

 そのときサウスダコタの頭が左右に揺れ始めた。

「サダ子!何をしているの?」

 霧島は彼女の手を握って問いかける、しかし彼女に反応はない。

 

「モールス?」

 サウスダコタの振り方がモールス信号になっていることに霧島は気づいた。

「キ、リ、シ、マ、キリシマ、ココニイルヨ」

 

 霧島の目に涙が溢れる。

 彼女はサウスダコタの手を握ったまま泣き出した。

 彼女が大泣きするのは幼少期に両親にもう会えないことを知った時以来である。

 サウスダコタを除く全員がすすり泣いていた。

 

 しばらく泣き続けた後、霧島は立ち上がり病室を去って行った。

 病室内は沈黙に包まれた。

 

 

 

 突然大きな音が病室内に響き渡る。

「呼ばれて飛び出てドンガラガマッシャーン、ギニャー!パルテノだぱーん、今後ともヨロよろ

 よろぴー」

 全くもって場違いな人物が闖入した。

 

「ねえ、ブレン・クラッカーない?日本にあるドラッグって弱すぎてアタシらに効かないのよ」

 室内の人たちはあっけにとられて何も言えない。

 そこに黒髪長身で気高いという表現がぴったりのファティマが現れた。クーンである。

 

「パルテノ、貴女はせっかく健康な体になったのだからもう薬物はやめなさい。それにブレン・

 クラッカーは貴女の仇が造っていたものでしょう」

「そうでした、テヘペロ」

 パルテノの傍若無人な振る舞いに病室の中の人たちが怒り覚え始めたその時、パルテノが言う。

「あと二人来たら手術を始めるわ。あいつにやられた人を治す、それがあたしの復讐よ」

 

 

 

 霧島は廊下に巫女服を着た艦娘が立っていたことに気が付いた。

「榛名」

 廊下には金剛型戦艦3番艦、榛名がいた。

「提督と仲間と今までの全てに感謝を込めて」

 榛名は手を合わせて一礼したのち、全ての格闘家が見惚れるであろう完璧なフォームで正拳突

 きを放った。

 スパァーーーン‼

 霧島はそれを手に受ける。空気を切り裂く鋭い音が響き渡る。

 

「何するのよ!」

 霧島が怒るが榛名は意味が分からないと首を傾げる。

「殴って欲しいのだと思ってたのですが」

「全力パンチじゃない!いくら私でも死ぬわ!それよりも『私を殴れ』と言われてから殴りな

 さいよ!」

「そうでした、うっかりしてました」

「うっかりで必殺パンチを放つな!」

 

「初めてあった時を思い出しました」

「そういえば初対面の時もいきなり私を殴ったわね!」

「だって、ずっとお話したかったのに貴女は泣いてばかりなんですもの」

「そんな理由で殴るな!」

 

 姉妹が和気あいあいと思い出話に花を咲かせる後ろで、榛名の拳圧の余波に吹っ飛ばされたマ

 サチューセッツが昏倒していた。

「太平洋の戦い、怖い、、」

 

 

 

「それでこれからどうするのですか」

「もちろんボスヤスフォートの首を取りに行くわ、ついでにジンハークも取る」

 霧島は当たり前のことのように言い放ち、榛名もそれを当然の事と受け止める。

「しかし今のままでは勝てません。ファティマが必要です」

 

 ボスヤスフォートは上位の鬼姫級深海棲艦と比較しても、勝るとも劣らぬ強敵だ。

 霧島も霧島組の構成員達も勝てなかった。唯一善戦出来たのが陽炎であった。

 霧島は先日までファティマに対してうさん臭い印象をもっていた。

 

 しかし彼女らを得てゴチックメードと融合した艦娘の強さをその目で見て、考えを180度転換

 した。(この時霧島は陽炎がラキシスと別行動をしていたことは知らない)

 ボスヤスフォートに勝つためには自分もファティマを娶る必要があると確信した。

 

 

 

 霧島と榛名は瀬戸内海を進み、ファティマ召喚装置のある呉鎮守府に到着した。

 工廠には数人の艦娘がたむろしている。

「神様、仏様、お願いします!アナンダ君を出してください!」

 

 そこに居たのは重巡艦娘の高雄と愛宕、そして練習巡洋艦娘の香取、そして戦艦娘の陸奥であ

 る。彼女らはかつて大型建造を回していた提督のように工廠で必死に祈っていた。

「神様!今回は伊良湖の最中を用意しました。何卒宜しくお願い致します!」

 ファティマ召喚には甘味を用意すると成功率か上がるという噂があった。

 愛宕はガラス管の中に甘味を入れ、装置を作動させた。

 

 ちなみにアナンダ君というのはファティマには珍しい男性型である

 メヨーヨの戦闘僧侶イラー・ザ・ビショップのパートナーであり、カステポーの壊し屋として

 新型GTMホウライをテストしていた。

 見た目の年齢は十代前半で、薄紫の髪の毛、ボーイスカウトに似た制服を着ている。

 要するにそういった嗜好の人間にとってドストライクの見た目をしているのだ。

 

「うあー!またハズレのエトラムルだ!お金返しなさいよ!」

 エトラムルファティマとは非人間型の生体演算装置であり、ガリュー・エトラムル博士によっ

 て開発された。某PCエンジンのシューティングゲームに出てくるボス敵の様な見た目をして

 いる。パートナーを選ばない代わりに性能は人間型に劣る。

「運営に訴えてやるわ!」

 資材を使い果たした四隻はひとしきり怒った後、消沈して帰って行った。

 

「私たちも何か甘味をもって来れば良かったかしら」

 彼女らの様子を見ていた霧島が不安そうにつぶやく。

 

「データ分析の結果そうおっしゃると思って用意してあります」

 後ろから鳥海が現れ鹿児島銘菓かるかんを差し出した。

 さらに摩耶に天龍、龍田そして綾波と夕立もまた現れた。

「あなたたち、何故ここに?」

 

「水臭いぜあねご、仇討つんだろ、俺達もつれてけよ」

「次こそはあのにやけ面に一発入れてやるぜ!」

「天龍ちゃんを苛めたやつ、フフフ」

「次の出撃はぜひとも綾波に護衛をさせてください!」

「覚めるような悪い夢を見せてあげるっぽい!」

 高速修復材で回復した彼女らは意気軒高であった。霧島は頼もしい組員達に胸が熱くなる。

 

 霧島はお供え物をガラス管に入れて祈りを捧げる。

 ファティマ召喚装置が光を放ち中央のガラス管から少女が現れた。どうやら成功の様だ。

 可憐ではあるが取り立てて特徴のない普通の少女が挨拶する。

 

「えーと私はハルぺルと申します、特に凄い能力のないありふれた普通の工場ファティマです。

 今後ともよろしくお願いいたします」

 周囲の人間は霧島ならば凄いファティマを召喚するのではないかと期待していたが、この挨拶

 を聞いて落胆していた。

 しかし当の霧島はハルぺルの手を取って喜んだ。

「ありがとう!よく来てくれたわ!」

 

「聞いて、我が国の友好国が大変なの!隣国の軍事大国に攻め込まれて国境の街では虐殺まで起

 こっている。このままではその国の民は殺されるか奴隷にされるか二つに一つなの」

 

「私はこの二か国を救いたい!突然異世界から転移してきた私たちを温かく迎えてくれたあの人

 達を守りたい!どうか力を貸して!私と一緒に戦って欲しいの!」

 霧島は復讐よりもクワトイネ公国とクイラ王国を守ることを第一に考えていた。

 

 ハルぺルは肩を震わせ泣いていた。

「運命の神様、機械の神様。生まれ変わっても再び、真の騎士様に仕えることが出来る幸運を与

 えて下さったことに感謝します」

 

「霧島様改めて挨拶します。私の名前はインタシティ、リチウム・バランス博士によってこの世

 に生み出された最古のファティマ四姉妹4ファッティスの四女でございます」

 

 その言葉を聞いて摩耶が怒鳴る。

「おい!なんでさっきは違う名前を名乗った!」

 ハルぺルもといインタシティは胸に手を当て説明する。

 

「その理由を説明致します。私を含めた最初期のファティマには後のファティマに施されている

 不老処置がされておりません。私の寿命が残り少なくなった時、星団法委員会で保存が決定さ

 れました。しかし私は博物館で骨董品の様に展示されるのは嫌でした」

 

 後のファティマには環状DNAを用いたテロメアの減少を阻止する処置がされており寿命という

 ものがない。しかしインタシティとその姉妹には寿命があった。

 

「私はこの命尽きるまで騎士様と共にありたかったのです。私の我が儘をクローム・バランシェ

 博士は聞き届けて下さり、ハルぺルという名前と工場ファティマの身分を与えてくれました。

 そのおかげで私は命続く限りファティマの本分を全うできたのです」

 

 彼女が二つの名前を持っているのにはこういった理由があった。彼女は己の命より使命を大切

 にしたのだった。

 

「そんな訳があったのね理解したわ。改めましてインタシティ、よろしくお願いするわ」

 霧島は手を差し出しインタシティと握手した。

 

 

「私のスペックは先ほど申し上げた通り、後のファティマと比較して少し劣る数値です。ですが

 常に騎士と共に有り続けた687年間、蓄積した戦闘経験は必ずお役に立てると思います」

「687年!?」

 

 人間ではありえない戦歴の長さに霧島達は驚く。

「凄えな軍歴687年の超古参兵かよ」

 摩耶が唸る。そのほかの組員も圧倒された。

 

 新世界暦39年、猛将(ガール)古参兵(ガール)邂逅(ミーツ)したのだった。

 後年、敵対国を恐怖で振るえ上がらせた最強最悪のコンビはこうして誕生したのだった。

 

 その後構成員はファティマ召喚装置を使用し、各々がパートナーと娶った。

 摩耶 スパリチューダ バランシェファティマ、予測演算戦闘にて星団最強

 鳥海 ビルド     エストの妹、指揮統率能力に優れる。

 天龍 エイジア    電子攪乱戦が得意

 龍田 ポーラ     電子攪乱戦が得意、酒は飲まない。

 綾波 ビューリー   シルバー・バランシェ作、対多数戦闘のプロ

 夕立 コンコード   宇宙で最も困難な育児を成し遂げた

 何故か全員ハスハ連合に縁のあるファティマ達ばかりであった。

 

 更に艤装融合させるGTMを建造する事となった。

 GTM建造はパートナーのファティマが搭乗したGTMが出てくる可能性が高い。インタシティが

 生涯に搭乗したGTMは数多い。

「どの子が出てくるのでしょうか、ホウザイロシリーズの三機のうちのだれかかしら、それとも

 バーガ・ハリEBSかしら?」

 ホウザイロは星団で最初にファティマを搭載したGTMであり、三機とも初代剣聖スバースが搭乗

 した。バーガ・ハリEBSはハスハ連合教導騎士団エンブリヨ隊で使用されたGTMである。

 

 

 霧島とインタシティが大型建造を回すと建造時間は8時間と表示された。

 工廠を管理する秋津洲が過去のデータを参照した。

「今までに8時間と出たのは不知火とパルテノのデトネイター・ブリンガー、妙高とウリクルの

 エンドレスの二例しかないかも」

 なにかとんでもないGTMを引く予感がする。

 

「時間がないから高速建造材を使ってちょうだい」

 霧島の指示で建造ドック内でバーナーが焚かれる。たちまち建造が終了した。

 工廠から出てきたロボットにそこに居た全員が目を奪われる。

 

「なんて美しいロボットかしら」

 工廠から世にも美しいロボットが現れた。

 

 無色透明の装甲を施され、高い帽子を被った女性を思わせるシルエットをしたゴチックメード

 その名はディー・カイゼリン

 

 フィルモア帝国からハスハ連合に不戦の証として送られた元皇帝騎であり、超帝国の主力騎シ

 ュッツィエンのエンジンを積んだ超高出力の機体である。

 余りにもエンジン出力が高すぎるので、頭部と機体後方から余剰エネルギーをプラズマ炎に変

 えて放出しなくてはならないほどである。

 二代剣聖デューク・ビザンチンとインタシティが駆り、ハスハ統一戦争を戦った機体である。

 

「やっぱりこの子でしたか、なんだかそんな気がしていました」

 インタシティは懐かしそうにカイゼリンを見つめていた。

 

 その他の霧島組のGTMは以下の通り。

 摩耶&スパリチューダ バーガ・ハリESSQ

 鳥海&ビルド     バーガ・ハリ・BS-R”ハブ”

 天龍&エイジア    バーガ・ハリESSQ

 龍田&ポーラ     バーガ・ハリESSQ

 綾波&ビューリー   バーガ・ハリKK

 夕立&コンコード   ????

 

 バーガ・ハリは軍事力第三位のハスハ連合の主力GTMである。世界三大GTMに数えられ、多く

 のバリエーションを持つ。重装甲で高い耐久性を誇る傑作GTMである。

 旧設定ではA・トールと呼ばれ、エルガイムのアトールを再デザインした見た目であった。

 新設定ではデザインが大きく変更され女性的なシルエットをしている。

 

 バーガ・ハリESSQは処刑部隊であるスクリティ隊仕様で強力なジャマーを装備している。

 バーガ・ハリ・BS-R”ハブ”は連合最大最強であるスバース支隊に配備された、駆逐GTMのカス

 タム騎である。機体色は真紅。

 バーガ・ハリKKはベラ国に駐留するツラック支隊の仕様騎、地方でも運用しやすいよう一部の装

 備が簡略化されている。

 

 反撃の準備は着々と整っていった。

 

 

 マイハーク日本海軍出張所では所長の一ノ瀬提督とクワトイネ公国外務省日本国担当ヤゴウ・

 チャープルが会談していた。ヤゴウには護衛の魔導師が同行している。

 今回の会合は日本国側から打診されたものである。

「先の襲撃における主犯格の大魔導師、ボスヤスフォートを殺せないとはどういうことですか?

 説明をお願いします」

 

 ヤゴウは一ノ瀬からの申し入れに耳を疑い真意を聞き出そうとした。彼は日本側が日和ったの

 ではないかと考えた。

「文字通り意味です、ボスヤスフォートは殺せません。信頼できる筋から情報によると彼は殺し

 ても生き返るからです」

 ヤゴウは仰天した、まさか自国の敵がそれ程の化け物とは想像していなかった。

 

「彼は死ぬと思念体のみになり別の魔導師の精神に寄生するそうです。そうして宿主に魔力と知

 恵を与えてその国の中で出世させ、国を動かせる地位にまで押し上げます。そうして死者甦生

 できるアイテムを探索するよう誘導し、入手したら横から掠め取るのです」

 何という遠大な計画だろうか。

 

「問題は宿主に力を与えるという部分です。この世界では魔力の高い者ほど高い地位を得るのだ

 と聞いております」

 ヤゴウは頷く、国内で最も魔法に長けた人物が相談役として政治に助言する立場を得る、とい

 うのはこの世界の大多数の国家では常識である。

 

「もしもボスヤスフォートが死んでこの世界で力のある国の大魔導師に寄生されたら大変なこと

 になります」

 もしまかり間違ってこの世界の第一列強国、神聖ミリシアル帝国の大魔導師に寄生されたらど

 うなるか、その人物が出世して宰相になったらどうなるだろう。

 

「日本国に対して敵視政策を取られたら、この世界で孤立無援になってしまいます」

 日本国にとってただ戦争に敗北する以上に悪い結果をもたらすだろう。

 

「ですのでボスヤスフォートは殺せないのです」

 ヤゴウは頭を抱えた、今回の戦争は勝っても負けても悪い結果しかもたらさない。

 

「どうすればいんですか」

「半殺しにして永久に幽閉するしかありません」

 ヤゴウは一ノ瀬提督もまた艦娘達と同類なのだと思った。

「プランAとしてはカーボンナノファイバーで固めたあと液体窒素で冷凍する計画です。ただこ

 れでも不安が残ります」

 ボスヤスフォートにまだ隠された力があるかもしれないからだ。

 

「そこでご相談があります。なにか効果が期待できる魔法をご存じないでしょうか?」

 日本国はまだ戦う意思を失っていなかった。

 当然だ、かつての深海棲艦との戦いでは今の事態などピンチの内に入らない。

 悪名高き「竹の輝き」そして「ドーバー海峡沖海戦」の鬼畜さに比べれば今回はまあまあ難し

 い程度だろう。

 

 ヤゴウは知っている魔法で良いものがないか考え始めた。その時ヤゴウに付き添っていた公国

 の魔導士が手を挙げた。

「私であれば効果があると期待できる魔法を使う事が出来ます」

 一ノ瀬は喜んだがヤゴウは困惑した。

 

「もしかして貴方は戦場に同行するつもりですか?」

「ええ、そうしなければいけないでしょう」

 一ノ瀬は魔導士の手を取って感謝の意を表す。

「協力に感謝します!日本国は貴国の協力に永遠の感謝を忘れないでしょう」

 この場でヤゴウだけが頭を抱えていた。

「計画を変更しなくては」

 

 

 

 

 ここは神の住まう神界と現世の境界にある世界。

 主に神の使い達が仕事をする場所である。

 そこで働く者たちは困惑していた。突然上司たる太陽神と緑の神がやってきて、途轍もない危

 険物を持ち込んだからだ。

「ワンダフル女神(ゴッデス)ア~イ、千里眼モォゥド」

 太陽神が口をすぼめて突き出すと眼球が飛び出て伸びる。

「はうわ!ブラックホールの底まで見渡せるこのワンダフル女神(ゴッデス)ア~イ、千里眼モォゥドでもこの

 者の正体が見えぬ!」

 太陽神の視線の先には磔にされた陽炎がいた。

 




 お待たせして本当に申し訳ございません。

 シキナミン欠乏症と黒潮病についてはおーぷん民の間にのみ語られる病気です。
 実際に存在する病気ではないのでご安心ください。

 病気を題材に冗談をいうのは不謹慎かもしれませんが、現在病気で苦しんでいる人を笑いもの
 にする意図で行ったものでは御座いません。
 もし不快に思った方がおられましたら深く謝罪させていただきます。
 


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第二十話 肝練りの宴 カレーの支度

 パルスエットが永遠の眠りに就きました。果たして彼女の幸せだったのでしょうか?
 私は現時点ではノーだと思います。
 その人の一生が幸せだったと言えるのは、残された人達のその後の振る舞いに係っている、と
 言えるのではないのでしょうか。
 ヨーンしっかりしろ!俺はお前の事別に好きでも何でもないけど、お前が立ち上がらないと、
 彼女が悲しむんだよぉ!

前回のあらすじ
 ボスヤスフォートとの戦いで再起不能の傷を負ったサウスダコタとワシントン。
 二人の様子に涙した霧島は決意を新たにするのであった。
 彼女の下に百戦錬磨の超級ファティマ、インタシティが仲間となる。


 呉鎮守府の食堂に霧島組とそのパートナーとなったファティマが集まり、出撃前の腹ごしらえ

 をしていた。メニューはカレーである。

 食事の前に榛名は電探を最大出力にして周囲を探り、霧島は人が隠れそうな所を虱潰しに捜索

 していた。そして今日の食事当番は誰かを念入りに何度も確認する。

 

 新入り達が何をしているのか尋ねると、ある二隻の艦娘がいないかどうか探しているらしい。

 その内の一隻は彼女らの姉であるとのこと。

 どうしてそこまで執拗に探すのか、どうやら酷いトラウマがあるらしい。

 

 金剛型戦艦二番艦、比叡とその相棒の陽炎型駆逐艦、磯風は料理に余計なアレンジを加えて台

 無しにする天災もとい天才だそうだ。

 その不味さは粗食に馴れた軍人ですら逃げ出すほどである。

 その二隻はどうやらは特別任務で現在ここにいないらしい。

 

 いざ実食となっても、まずルーを少量手の甲に乗せ皮膚に異常がないか確認する。

 そしてようやく口に運んだ。

 ゆっくり咀嚼し飲み込んで百を数え、問題がないことが分かってからカレーを食べ始めた。

 

 余りにも慎重すぎるので新入り達が比叡カレーの味がどうだったのか質問する。

 するとこのような回答が返ってきた。

「一度食べてみるといい、飛ぶぜ、悪い意味で」

 

 後日、ライスの方に工夫がされており、金剛三姉妹以下多くの人間が地獄を見た。

 

 

 

 食堂の一角で大きな音が鳴った。

「ハスハが滅んだってどういうことですか!」

 見るとインタシティがスパリチューダの頭をアイアンクローで吊り下げ絶叫していた。

 

「イタタタ!滅んでません!大半の加盟国が離脱して、聖宮ラーンとその周辺の地域しか国土が

 残らなくて、もう二度と大国としての権勢を振るえなくなりましたけど、自治権を有してます

 から滅んでません!って痛いったぁーーーい‼」

 

 ※聖宮ラーンは超帝国の遺跡が残るハスハの古都である。詩女は本来ここで執務を行う。

 

 スパリチューダは釈明するがインタシティの怒りは収まらない。

「それは滅んだと同義じゃないですか!」

 インタシティは手に更なる力を込める。

「スパリチューダ!あなたがついていながら何たる体たらく!私は貴女にハスハの未来を託した

 のに!」

 

 スパリチューダはインタシティが生涯で最後に戦った相手である。

 インタシティの最後の主ワンダン・ハレーは不調になった彼女を心配し、軍を脱走してまで彼

 女を四大ファティマ製作者のモラードに診せようとした。

 

 二人を追ってきたのがスパリチューダの主、ロータス・バルンガ率いる処刑部隊スクリティ隊

 である。ちなみに隊員のゲンジャとベクターのパートナーがエイジアとポーラである。

 

 スパリチューダは星団最強の演算能力を生かして予測演算戦闘を挑むも、膨大な戦闘経験を持

 つインタシティに逆に行動を予測され、逃げられてしまう。

 しかし限界がきたインタシティはそこで気を失った。

 

 その時、戦闘を止めたのがヤーボと剣聖スバースの子孫であるミッション・ルースだった。

 ヤーボが乗ってきた旗騎カイゼリンを見たスクリティ隊は戦闘を停止した。

 

 そしてインタシティは多くの人に見守られながら687年の生涯を閉じたのだった。

 

 

 インタシティはハスハ連合のその後を聞いたのだが、まさか自身が死んだすぐ後に、死に際に

 多くの人を引き合わせてくれた恩人であるヤーボ・ビートが殺害され、その犯人に宣戦布告さ

 れるとは想像していなかった。

 

 そして軍事力序列三位のハスハ連合が解体され小国になり果てるなど悪夢でしかなかった。

 

「一体貴女は何をしてたんですか!」

 インタシティは怒りを込めてスパリチューダを締め上げる。

「バルンガ様が参謀長に出世されて以降、ずっとデスクワークしてました!」

 

 ロータス・バルンガは汚れ仕事をしていたこととその悪人顔から長く誤解されていた。

 しかしヤーボの子マグダルとデプレが懐いたことによりその誤解は解け、高潔な騎士道精神を

 もつ人物であると知られるようになった。

 そして参謀長の地位を得、連合議会議長になった元スバース隊支隊長ギラに代わり全軍を統率

 することになる。

 

「バルンガ様はその顔に似合わず高潔な精神を持つ立派な騎士です。そのくらいの地位にあって

 当然です」

「そうですよ、あの顔で凄くいい人なんですよ」

 スパリチューダは昔の主を褒められてうれしそうだ。

 

「だとしてもGTMに乗れなくてもやれる事は在るでしょうが!」

 インタシティは再び掌に力を込めた。

「戦艦で敵陣に特攻でもしなさいな!」

 パートナーが負傷するなどして出番がないファティマは戦艦など艦艇の制御などをしている。

「ひどい!」

 

 

 その後もインタシティは魔導大戦の状況を知りたがった。

「ギーレルは?あの国は何か企んでませんでしたか?」

 ギーレル・ハスハ王国はミノグシア大陸の覇権を巡ってハスハント王国と最後まで争った国で

 ある。インタシティは剣聖ビザンチンと共にGTMカイゼリンを駆ってこの国と戦った。

 

「会戦当初ジャスタカーク公国に攻められて被害が出ましたが、難民支援の名目でクバルカン法

 国が支援を申し出ました。国境付近の土地を一部失いましたが、国は安定しています」

 ジャスタカーク公国はギーレルと土地の帰属問題を抱えていたカラミティ星の国家である。

 

「それは事前に三ヵ国間で取り決めがあったのではないですか?」

 インタシティは三ヵ国の八百長試合でなかったのかと思った。

「良く解りましたね、正解です」

 

 軍事力序列二位のクバルカン法国は普段は領土的野心を表に出さないが、この戦争では移民先

 を確保する千載一遇の機会であったため、難民支援を名目にギーレルを支援しつつこの地域を

 実質的に属国としてしまった。

 

 魔導大戦後ジャスタカークは一時期領有していた土地を再度獲得した。

 ギーレルは憎きハスハントから独立を果たしたがクバルカンへの借金で首が回らなくなり事実

 上の属国となった。

「あの風見鶏はいつもそうなんです(怒)!」

 

 

「フィルモア帝国は?同盟国として救援に掛け付けてくれたのでしょう?」

 ハスハ連合はかつて序列一位のフィルモア帝国と同盟を結び、各地で陰謀を巡らせていた。

「ナカカラに居座ってしまいました」

 ナカカラ王国はミノグシア大陸中央部にある大国である。

「中央部を取られているじゃないですか!」

 

 ナカカラは元々フィルモア帝国(正確には前身のドナウ帝国)の植民地であったが、ハスハ独

 立の際に放棄した土地である。

 初代詩女と初代皇帝が共に旅をして友情を結んだ舞台となった土地であり、フィルモア帝国に

 対して親近感を持つ国民が多い。

 フィルモア帝国はナカカラを守るという口実の下この地に居座り実効支配した。

 

 これはカラミティ星が居住不可能になった後の移民先を確保する狙いがある。

 国民の多くはその時が来たら武力で土地を奪えば良いと楽観視していたが、時の皇帝ダイ・グ

 ・フィルモアはそれでは現地民の恨みを買いってしまい、後々まで国民はテロに怯えることに

 なると考えた。

 彼は戦争という状況を利用しつつ可能な限りナカカラ国民の同意を得、時間を掛けて帝国民と

 ナカカラの民を同化しようとしたのだった。

 

 

 

「インタシティ様ってそんな性格でしたっけ?」

 先ほどからファティマらしくなく荒ぶる彼女を見て周囲のファティマ達はいぶかしむ。

「マスターに合わせることもファティマの嗜み(たしなみ)です!」

「そうなんですかぁ?!」

 

 そうなのだ。主の趣味に付き合いゴスロリ服を着るのも、要所要所でちょっと勘違いしたモデ

 ルポーズを決めるのも、下着姿でヒッチハイク(星団法違反)をするのも、ファティマの嗜み(たしなみ)

 である。

 

 あまつさえ全身の匂いを嗅いだ後、その匂いが染みついた服しか着ないと言われたなら、自分

 が主の服を一度着てから渡すのがファティマの嗜み(たしなみ)

 

 マスターに合わせどんな望みも叶える、それがファティマにとっての全てなのである。

 

「最初のファティマである私が言うんです。間違いありません!」

「エエエエエ!」

 ファティマの所属もまた軍隊である、だから超体育会系の論理がまかり通っていた。

 

 

「この短時間で霧島の姉御の性格を把握するとは、すげえなインタシティ様」

 摩耶と天龍が賞賛する。すでに彼女を様づけで呼んでいる。

「流石軍歴687年」

 霧島組の艦娘たちは頷いて同意する。

 

「あなた達、それどういう意味ですか?」

 霧島が摩耶と天龍の背後に立つ。

「何でも有りませんって、ぎゃー!」

 霧島は二人の頭を掴み握りしめる。

「あがががが!」

「そういうところっすよぉー!」

 

 

 ようやく解放されたスパリチューダが頭をさすりながら言う。

「とにかく、ミノグシア同盟はその後も続きますから安心してください」

「ミノグシア同盟てなんですか?」

 聞いたことのない国名なので詳細を尋ねる。

「ハスハ連合から離脱した国を除いた連合体の名称です」

「やっぱり滅んでるじゃないですか!」

 インタシティは再びスパリチューダの頭をアイアンクローで締め上げる。

「いやあぁぁぁぁ!」

 インタシティの叫びとスパリチューダの悲鳴が食堂にこだまする。

 

 

「そんな、そんな事ってないですわー!」

 インタシティは悲しみの余りその場にうずくまって泣き出してしまった。

 

 

 その時彼女の視界が暗くなり目の前に三人の男が現れた。

 

「ハルぺル、いやインタシティ、泣いていては駄目だ」

 一人は赤毛のおかっぱ頭の若い男、AP騎士ワンダン・ハレー。

 

「その通り、永遠に続く国家はなくハスハの歴史もまたしかり、しかしお前はまだ使える主がお

 り、守るべき国と民がいる」

 もう一人はヒゲが立派な和装の老人、二代剣聖デューク・ビザンチン。

 

「、、、、、」

 無言を貫く神経質そうな男は初代剣聖ナッカンドラ・スバース。

 彼が送った過酷な人生を象徴するかのように、前髪前線の後退した額が目立つ。

 

「爺ちゃんなんか言えよ」

 ビザンチンが祖父であるスバースに一言を促す。

 

「この額はハイブレンコントロールの術式の跡で、決して若くして禿げたのではない」

 スバースが誰かに向かって言い訳する。

「爺ちゃん、そういうことじゃなくってよう」

 ビザンチンが口下手な祖父の扱いに苦慮する。

 

「おい後輩、なんとかしろ」

「ひい!私なんかが剣聖様に恐れ多い!」

 大隊長どまりだったハレーは歴史に名を残す剣聖二人に委縮する。

 

「カレー美味そうだな」

 唐突にスバースが前後に関係のないことを呟く。

 

「、、、そうだな飯食って元気出せインタシティ」

「そうですね!カレーを食べましょう!」

 ビザンチンとハレーは何かを諦めたようにそれに乗る。

 

「爺ちゃんのせいでグダグダじゃないか!」

「いきなりトリを任せるなよ。咄嗟にいいセリフなんて思いつかん」

 実は泣いている女性に対して何を言っていいのか分からなかったのだ。

「すみません、フォロー出来なくて」

 ハレーは先輩二人に謝った。

「気にすんな仕方ない」

 

 そして三人の男の幻影は消えていった。

 

「ふふ、あの人たちは何しに来たんでしょうか」

 インタシティは少しだけ元気が出た気がした。

 

 

「ニッポンを〇ンドに、しーてしまうっぽい!」

 夕立がカレー発祥の国を賛美する歌を歌いながらカレーをおかわりした。

「もう夕立ちゃんたら、不謹慎ですよ」

 

「いいじゃねえか、でも昔の人が聞いたらどう思うのかな」

「あの陸軍参謀とか大騒ぎするんじゃね」

「笑い事じゃねえって、あとあの野郎の事は思い出させんな」

 艦娘達は受け継いだ過去の記憶を思い出しながら談笑していた。

 

 

「我、豁然大悟(かつぜんたいご)せり」

 床に突っ伏していたインタシティが起き上がる。そして何かを決心した。

「日本を、ハスハに、しーてしまえー」

 後にこの日本国転覆の企みはラキシスとナインの計画と合流し、巨大な一つの陰謀と成るので

 あった。

 

「それはそれとしてボスヤスフォートは許さない」

 また一人復讐の鬼が誕生したのだった。

 

 

 

「そう言えばベラ国はどうなったのですか?あの国は小国で駐留していた戦力も少なかったはず

 です」

 ベラ国はハスハ連合加盟国の一つでミノグシア大陸の北に位置する小国である。

 駐留していたツラック支隊はAP騎士団で最少の24機。(最大のスバース隊は270騎を超える)

 これにベラ国所属のベラ騎士団が加わるが、大軍に攻められたらひとたまりもないだろう。

 そしてこの国はワンダン・ハレーの故郷でもある。

 

「ベラ国についてはご安心ください。我が主の活躍により枢軸国の侵攻を跳ね除けることに成功

 しました」

 そう言ったのは今世では綾波のパートナーになったビューリーである。

 ビューリーのかつての主はツラック支隊の支隊長ナルミ・アイデルマという。

 

 魔導大戦の会戦当初ベラ国は補給が途絶え孤立。

 ツラック隊は稼働する機体が6機まで減少し、その6機もいつ故障するか分からないという状態

 だった。

 軍隊では全滅判定を大きく超える惨状であっても、ここで自分達が撤退したらベラ国は枢軸の

 手に落ちる。

 そうなれば人々の心は連合からますます離れることが分かっていた。

 だからこそ彼女は動くGTMがある限り戦い続けると覚悟を完了したのだった。

 

 絶望的な状況の中でも彼女は冗談を飛ばしながら懸命に戦い続けた。

 諦めない彼女の姿勢が多くの人の共感を呼び覚まし、多くの協力者が現れた。

 その中には謎の天才GTM整備士ソープ(天照帝)、その妻ファナ(ラキシス)などがおり、彼

 らの働きと助言が部隊を立て直した。

 

 インタシティが死んだあと意気消沈して騎士を引退していたハレーもナルミの咤激励を受けて

 騎士に復帰する。新たにパートナーとなったのはビルドであった。

 

 そして四か国の連合軍(GTM279機)が来襲した時も、ツラック隊とベラ騎士団は69騎と圧倒

 的少数ながら臆することなく迎え撃った。

 彼らの姿に心を動かされ各地から続々と援軍が到着し、かつての敵国コーラス王朝さえ味方と

 なる。最終的にミラージュ騎士が参戦しベラ国は勝利したのだった。

 

 そしてコーラスの支援を受けてベラ国は安定を取り戻した。

 

「ハレー様、本当に良かったです」

 インタシティは涙を流して喜んだ。

 

「ミース様も立派です、小学生でありながら一人前のファティマ製作者になるなんて」

 ミース・シルバー・バランシェは天才クローム・バランシェの跡を継いだ女性である。

 

 実はバランシェ家とは何の血のつながりもなく、カイエンに拾われて養子となった。

 後に製作者(ガーランド)の才能があることが分かり、博士の出した数式を解いたことで正式に家督

 を継ぐことになった。

 当時は修行の為モラードの所に弟子入りしておりインタシティの臨終に立ち会った。

 

「あの、母様は大戦時には成人してましたよ」

「え?ミース様が成人?、、え、え?」

 ミースの特性の一つとして初対面時の年齢で印象が固定される事が挙げられる。

 小学生時にあった人物は彼女がいつまで経っても小学生だと思ってしまうのだ。

 

「あとお子様もいます」

 ミースはカイエンを想うが余り研究所に保存してあった彼の精子を使って無断で子供を作って

 しまった。その子が第11代剣聖にして歴代最強と謳われたマキシマム・カイエンである。

 

 ちなみに前述したファティマの匂いが染みついた服しか着ない騎士とは彼の事である。

 一応補足するが、異常行動をしたのは子供時代だけで、大人になってからは清廉潔白な騎士と

 たらしい。

 

「ちょっとなんて言っているのか良く解りません」

 

「インタシティ様~」

 ビューリーは母の呪いとも言える特性を嘆いた。

 

「どうしたのビルド?」

 ビルドは今の主である鳥海の影に隠れた。

「実は、、、」

 ビルドがハレーをマスターと見染めたのはインタシティの死の直後である。

 もっともビルドはインタシティの事を気にして中々そのことを明かせなかった。

(ファティマは既にパートナーがいる騎士は新たな主と認識しないようになっている)

 

「ああ、それは『あの人との褥は温かかったか?』と聞かれる状況ね」

 もし人間であればそう言われるかもしれない。 

 本来ファティマはその様なことは考えないのだが、新たに妖精に転生した彼女らは前世より感

 情を露わにする傾向があるため油断できない。

「なんだか怖いです」

 

 ビルドがインタシティと普通に話せるようになるには少し時間が掛かるかとおもわれたが、ビ

 ルド自身が少々脳筋の素養(筆者私見ですが、彼女は最後は力業で解決する傾向があるように

 思えます。)があったため、思ったより短期間で普通に話せるようになった。

 

 

 

 カレーも食べ終わったころ実験軽巡、夕張とそのファティマ、バスクチュアルがやって来た。

「霧島さん!艤装の改装が完了しました」

 夕張は霧島から対ボスヤスフォート戦用の装備の開発と艤装の改造を依頼されていた。

「ばっちりご注文通りに仕上げてきました!」

 何故たった一日で装備が開発出来たのかというと、実は前々から隠れて造っていた装備を流用

 したからだ。

 

 対ボ戦用特殊兵装一式

 ウエポンバインダー              2

 ワイヤークロー                2

 Sマイン                    4

 電磁バリア発生装置              1

 ウィングスラスター              1

 試作型艦娘行動範囲拡張機構(大型艦用)    1

 

「これであの男に勝てるのね」

「はい、ですが申し訳ございません。時間がなくて特殊兵装は霧島さんの分しか用意できません

 でした」

 つまりボスヤスフォートと戦えるのは霧島だけという事だ。

 

 またデコースとペールと戦う際は新たな兵器はないということでもある。

「分かってるよ、霧島さんのタイマンを邪魔する気はねえさ」

 

「今度こそあのへらへら笑ってる面を渋面に変えてやるよ」

「分裂女も一人残らず退治して見せるぜ」

 霧島組の組員は雪辱戦に向けて闘志を燃やしていた。

 

 

 外に出て艤装のチェックをしているとマサチューセッツがやって来た。

 何故か松葉杖を突き片足を引きずっている。その他にも怪我をしている様だ。

「どこでそんな怪我をしたんですか?」

 榛名が尋ねるとあんたがそれを聞くんじゃないわよと怒られた。

 

「二人からこれを渡してくれって頼まれたわ」

 そう言うとマサチューセッツは何かを投げた。

 手に取るとそれは二つのメリケンサックだった。

 

「これで私たちの代わりにアイツをぶっとばしてくれってさ」

 それは三人が揃いで作った姉妹の証のメリケンサックであった。

 霧島はそれを両手にはめる。二人の力が流れ込んでいく様な感じがした。

「ありがとう」

 

「でも婚約指輪代わりに作るにしては色気がなさすぎよ」

「ちょ、これはそんな物じゃないわよ!」

 マサチューセッツは笑いながら帰って行った。

 

 

 

 

 

 ここは神界の手前、宗教によっては天使或いは天女と呼ばれる神の御使いの領域。

 この場の御使いには羽がないので天女と呼ぶのが正解であろう。

 ブラックスリーとの戦いで傷ついた陽炎は太陽神によってここに連れ去られた。

 彼女は今、丘の上で磔にされている。

 この世界の太陽神と緑の神は陽炎を処刑する道具を借りるため、創造神の元に行っている。

 

 領域の一角にテーブルが用意され、天女の長の前で茶を飲んでいる若い男が居た。

 絶世の美女揃いの天女たちでさえ気遅れしそうな美形でありながら、伸びきったタンクトップ

 と油で汚れたニッカボッカという粗末な服を着ている。

 

 天女の長が若者に礼を言う。

「この度は面倒をお掛けしまして申し訳ございません」

 彼女らの上司が持ち込んだ危険物、陽炎は暴走寸前の状態であった。

 それをこの若者は応急で修理してくれたのだ。

 

「構いません、古い友人を訪ねる途中で懐かしい物を見つけたので見物しに来ただけの事。修理

 はそのついでです。お礼は要りません、面白い物も見れましたしね」

 

 長は遠慮しながら尋ねる

「我々はどうしたらいいのでしょうか」

「逃げたほうがいいと思います」

 若者はきっぱりと言い放った。天女達は恐怖に慄く。

 

「僕でも彼女に殺されると痛いし、復活に時間が掛かると思うから逃げるよ」

 戦ってはくれないのかと尋ねるとこれ以上干渉できないと言われた。

「という訳で君も戻った方がいいよ」

 若者は振り返って陽炎の足元に屈んでいる人物に声を掛けた。

 

 

 

「すうぅぅぅぅーーーーーー」

 その人物は陽炎のスカートの中に頭を突っ込み息を吸い続けている。

 先ほどからずっと息を吐いた様子がない。

 まごう事なき変態である。

 変態は若者に声を掛けられてようやく股の間から頭を抜いた。

「ぷはー、爽やかな高原の息吹を感じるよ♡」

 

 爽やかどころか地獄の底の瘴気を思わせる悍ましい行動をしていた変態は、見た目は十代の女

 の子の姿をしていた。

 黒と白の髪をツインテールにしていて毛先から負の生命エネルギーが狐火の様に灯っている。

 腰からはあらゆる障害を粉砕するであろう第二の腕が生えていた。

 そして右目の端から黒く輝く炎が噴き出している。

 その名を黒炎駆逐棲姫。陽炎の実の妹が深海棲艦化した化け物である。そして変態である。

 

 おそらく弱体化しており万全の状態の百分の一以下の力しかもっていないだろう。

 しかしここにいる天女、戦闘要員を含めた誰もかなわない。

 勝てるとしたら客人である若者であろう。

 しかしこの方は異宇宙の創造神にして光の神、天照大御神である。

 そのような遥か高位の存在の考えを変える事など不可能だ。

 

 

「私が何をしていたのか知りたいのですか?」

 黒炎駆逐棲鬼は最高位の神に対して物怖じせずに話しかける。

「いえ、全く知りたくないです」

「いいでしょう、そこまでいうのならお教えしましょう」

「言ってねえよ、神の話聞けよ」

 怖いもの知らずここに極まれり

「私はお姉ちゃんのかいた汗の匂いで敵の強さを計ることが出来るのです!」

 変態だ!

「言うなつっとろうが。」

 

「それに君は髪留めのリボンの中に居たろう。だったら戦闘が見えていたはず」

 陽炎のリボンの片方は妹の形見である。黒炎駆逐棲鬼はちゃっかりその中に潜んでいた。

 つまり汗の匂いを嗅ぐ必要性などなかったという事だ。

 彼女の行為は純粋なる変態行為であることが明らかとなった。

「お姉ちゃんが意識が無くなって動けないなんてめったにないから」

 もう一度言う、こいつはド変態だ。

 

 天女達は先ほどまでスケスケの衣を着ていたが、戦闘用の甲冑に変化させ臨戦態勢をとった。

「天女達よ、恐れるな、たとえ敵わずともこの変態から神域を守るのだ!」

 天女達は戦う覚悟を決める。

 

 

 天女長が叫ぶ。

「お前の目的は何なんだ!」

 

「私の目的はお姉ちゃんの幸せですよ」

 

「何だと?」

 

「お姉ちゃんが人畜無害な男性と結婚し幸せな家庭を作って穏やかに暮らしていくことが私のた

 った一つの願いです」

 意外にもこの変態は姉が男と結婚するのを容認しているらしい。

 

 

「でもお姉ちゃんは深海棲艦の女王を倒してしまった。もしお姉ちゃんが恨みを残して死ぬこと

 があれば新たな深海の女王として黄泉返るでしょう」

 陽炎はかつて深海棲艦の首領個体を討伐した。そして同時に重い宿命を背負っていた。

 

「負の感情にとらわれ暴走しても同じことが起きます。だからこそいつもは私ともう一人でお姉

 ちゃんを抑え込んでいたのですけれど」

 もう一人とはナインのことである。黒炎駆逐棲鬼は溜息をついた。

 

「あの時は私一人でしたから、暴走を防ぐのが精いっぱいだったのですよ」

 あの時ナインは大和型姉妹の喧嘩の仲裁のため呉にいた。

 だから彼女は姉のピンチに手が出せなかった。

 まったくあの世界三大無用の長物どもはろくなことをしない。

 

 

 

 天照大御神は少し考えこんで言った。

「もし陽炎さんが深海棲艦化したら、東方第一幻像駆逐シン姫とでも名づけましょうか」

「長くないですか?」

 天照はかつて親友のクロ-ム博士に、お前に任せるとやたら長くて言いにくい名前ばかり名付

 ける、と言われた事がある。

「むう」

 

 

「お姉ちゃんが男と結婚するのはいいんだ」

「私はストーカーとかテカ尻とは違うんです。一緒にしないでください」

 ストーカーとテカ尻とは不知火と曙の事を指すのだが正直違いが分からない。

 

「お姉ちゃんが結婚して子供を産んで、私はお姉ちゃんの息子に生まれ変わるのが夢です」

 艦娘とは輪廻転生の代行システム(拙作の設定です)なので狙って転生することは可能なのだ。

 そのために黒炎駆逐棲鬼は陽炎に張り付いていた。

 

 

 天女の一人が気づく。

「男の子限定なんだ」

「ええ」

「、、、、、」

「、、何をする気だ」

 

 ニタァー

 

 黒炎駆逐棲鬼は口を耳まで裂いて笑った。

 悍ましい笑顔であった。

「ひぃぃぃ!」

 天女達は恐怖で悲鳴を上げる。

 

「あ、三時からピアノのレッスンがあるんだった。もう行かなくっちゃ」

 天女長は突然そんなことを言い出して出口の方へ駆けて行った。

 余りの恐怖に逃げることを選択した様だ。

 

「あ、私もエレクトーンのレッスンがあったんだ」

「じゃあ私は、ブブセラで」

「それレッスンいる?」

 その他の天女も色々な理由をつけて逃げて行った。

 神の領域には天照大御神と黒炎駆逐棲鬼、そして陽炎の三人?だけが残った。

 

 

「そろそろこの世界の太陽神が帰ってくるぞ」

 天照が神の力を使い服を豪奢な振袖に変化させる。

「勿体無いから小さい子らに持って帰ってやろう」

 そしてテーブルに残っていた茶菓子を紙に包んで持ち帰る。

 

 黒炎駆逐棲鬼も渋々戻ることにした。その前に天照大御神の前に進み出る。

「お姉ちゃんの傷を治してくれて有難う御座います!」

 ぺこり、と頭を下げて元の住処に帰って行った。

 

「お姉ちゃんが絡まなければいい子なのかもしれないな」

 珠に傷が大きすぎて致命傷になっているだけで、根はいい子だったのだろう。

 珠が粉々に砕け散っているのは一旦置いておく。

 

「そこ違う、ええいパンツに指を掛けるな」

 違った、未練がましく股間のにおいを嗅いでからリボンの中に帰って行った。

「は、脇の素晴らしさも堪能しておくんだった!一生の不覚!」

「はよ戻らんかい」

 

 

 




 投稿が遅くなってしまって申し訳御座いません。
 今年の暑さが異常すぎて参っています。
 次の話は決戦前夜のロウリアのお話です、次の次の話でジンハーク決戦をやります。


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第二十一話 肝練りの宴 ロウリアの始末

 前回から期間が開いてしまい申し訳御座いません。
 仕事でミスをしてしまい、首になりかけてました。


これまでの粗筋

 異世界初の友邦を救援する為自衛隊と艦娘を派遣した日本国。

 ロデニウス沖海戦で勝利し、ギム奪還にも成功する。

 

 しかし異世界から転生した魔導師ボスヤスフォートとその一味により蓮の庭園は炎上、霧島艦

 隊も大打撃を受ける。

 殿を務めた陽炎は見事その役目を果たす。

 

 しかし彼女は異物として神界へと連れ去られてしまう。

 一方霧島はファティマ・インタシティと出会いパートナーとする。

 ボスヤスフォートが祖国ハスハを滅ぼした張本人だと知ったインタシティは復讐の女神と化

 したのだった。

 

 

 

 此処はロウリア王国王城。

 大広間では先日の作戦成功を祝ってパーティーが開かれていた。

 

 開戦前の予想では圧倒的大戦力によって鎧袖一触に勝利するはずであった。

 しかし蓋を開けてみれば勝ったのは初戦だけ。

 ノーマークだった日本国が参戦した後は海戦でも陸戦でも敗北が続き、占領したギムも奪還さ

 れてしまった。

 

 敗北の事実は高級幹部を除いて秘密とされたが、完全には隠すことは出来ずにいた。

 特に王都の竜騎士の家族からは、夫や息子が一向に帰ってこないと心配する声が日に日に大き

 くなっていた。

 苦戦しているという噂が徐々に王都に広がっていき、その結果王国に対する不信感が日に日に

 高まっていた。

 

 しかし蓮の庭園を奇襲し、カナタ首相を討つことに成功した。

 実際にはその死を確認したわけではないが公国も行方不明と発表しているので、殺害に成功し

 たということにした。

 

 今回の勝利で日本国とクワ=トイネ公国の動きを止めることに成功したと言えるだろう。

 後はパーパルディア皇国の増援が到着すれば勝利を手にすることが出来る。

 

 王国の反撃が始まる、そのことを知らしめるため国王ハーク・ロウリア34世は大々的に戦勝パ

 ーティーを開催する事にしたのだった。

 

 

「さあ!我が国の英雄の登場だ!皆の者拍手で迎えられよ!」

 パーティーの司会はパタジン=アッカーダマン将軍自ら行っていた。

 

 宰相マオス=バーミキュライト侯爵と大魔導師ヤミレイ=フヨードル卿も控えている。

 文武そして魔導それぞれの分野で王国を支える三重鎮が勢ぞろいした。

 

 大魔導師ボスヤスフォートと魔法剣士デコース・ワイズメルが大広間に入場する。

 

 二人の後には黒いドレスを着た女性が一人続いていた。傭兵団の副主宰ビューティー・ペール

 である。彼女は周囲からボスヤスフォートの妻だと認識されている。

 

 パタジンは一瞬だけボスヤスフォートにすまなそうな視線を送る。

 

 ボスヤスフォートは片腕に大怪我を負い、包帯で巻いて固定している。

 また腹部に浸透剄を喰らい固形物はおろか水も飲めないほど内臓にダメージを負っていた。

 

 外見では分からないが相当苦しいはずである。なのにそんな素振りを見せない彼にパタジンは

 尊敬の念を贈っていた。

 

 王には負傷した彼らを休ませるべきと進言した。

 しかし王は国威発揚のため祝勝会は必ず行う、と言ってパタジンの意見を却下した。 

 

 

 

「勝利の立役者ボスヤスフォートの言葉を聞くがよい」

 パタジンの案内の元、ボスヤスフォートは拡声の魔道具の前に立つ。

 

「皆様、今回私たちは敵に対し勝利を挙げることができました。これも皆様の支援のお陰であり

 ます。この場を借りて厚く御礼申し上げます」

 勝者とは思えない謙虚さに王国の人々は賞賛する者と侮る者、二者に分かれた。

 

「王国の国民が一致団結していれば勝利は確実である、と私は確信しております。皆様これから

 も王国に対し、自分が出来る事を最大限なしていってくださることをお願い申し上げます」

 

「しかしながら敵も必死の抵抗をしてくるが予想されます。我が国は亜人根絶を国是としており

 ますれば彼らも窮鼠と化し、我らに思いもよらぬ痛手を与えるやもしれません」

 

「我らはこの先あらゆる事態に備え、あらゆる選択肢を揃えて行かなくてはならない、と愚考し

 ます」

 

 出席者は息をのんだ。

 クワ=トイネ公国と講和する可能性を残せ、と遠まわしに進言したのだ。

 全員の意識が大王に向く。

 

 

 

 ボスヤスフォートは下がり、ハーク=ロウリア34世が拡声の魔道具を掴む。

「ボスヤスフォートの言や良し」

 

「我が国はこの先どのような困難が待ち受けようとも、何としてでも先々代の遺志である亜人撲

 滅を成し遂げねばならぬ!」

 

「一丸となってロデニウス大陸から忌まわしき亜人共を駆逐するのだ!」

 

 会場は歓声に包まれる。

 ハーク34世は進言をきっぱりと否定した。

 

 王国の方針が変わらなかったことに安堵する者が多かった。

 この会場には亜人奴隷の売買で利益を上げている者、領地にて亜人奴隷を使役している者が多

 く居る。

 もし亜人排斥政策を止めてしまったなら、この国は経営が成り立たなくなってしまうかもしれ

 ない所まで行きついていた。

 

「我らは立ち止まるわけにはいかぬのだ」

 会場に歓声が響く中、ハーク34世は小さく呟いた。

 

 

 ハーク34世は言葉を続ける。

「先の戦の功労者である貴様には、褒美を与えなけれならぬな」

 

 大王は先ほどの進言を罰するするつもりはなかった。

 この三人が他国を行ってしまうことを危惧していた者は一応安堵した。

 

「貴様の希望は爵位と領地であったな」

 ボスヤスフォートは片膝をついて跪いた。

「有難き幸せに御座います」

 

「さてどこをくれてやろうか」

 貴族たちは彼らがどこの領地を賜るのか真剣な面持ちで見守った。

 今後の権力争いの勢力図が大きく変わるかもしれないため、先ほどの話題より真剣に耳を傾け

 ている。

 

 その時、ロウリア王国筆頭魔導師のヤミレイが進み出た。 

「恐れながら陛下、後継者不在の貴族家に養子に入るのはいかがでしょう」

 

「ふむ、それがよかろう。して候補となる家はあるのか?」

 

「ちょうどフヨードル侯爵家が優秀な魔導師を後継者に、と望んでおります」

 貴族たちはその家名を聞いてどよめく。

 ハーク34世は笑いだした。

 

「確かに代々筆頭魔導師を輩出してきた家であるから彼奴に相応しかろう。フヨードル侯爵現当

 主ヤミレイよ、貴様の望みをロウリア王国国王たる我が許そう」

 

「ははー、有難き幸せ!」

 

「え?」

 

 ボスヤスフォートは困惑した。元々辺境の小さな領地を貰えればよいと考えていたので。

 王国の政権中枢に近い大貴族家に入るなど想定していなかった。

 

 ヤミレイにはかつて一人息子が居た。自分よりも魔法の才に恵まれた自慢の息子だった。

 彼はある時戦場で父をかばって重傷を負ってしまった。

 ヤミレイは手を尽くして息子を治療しようとしたがその甲斐なく、傷が悪化し亡くなった。

 

 その後ヤミレイは多くの孤児院を建設し、身寄りのない子どもを預かって育成してる。

 その中で魔法の素養のある者は彼自身が魔法を手ほどきする。

 王国の魔導士には彼の経営する孤児院出身者が多く在籍していた。

 

「ボスヤスフォートよ、これからは父と呼んでくれぬか?」

 

「私は実の父の顔も知りません。そのような者を侯爵家の跡取りになどして宜しいのですか?」

 

「構わぬ、ロウリア王国は実力のある者を重用することで発展してきたのだ」

 

 王国が実力主義なのはやむを得ない理由がある。

 ロウリア王国はロデニウス大陸から亜人を駆逐することを国是とした。

 財産を持つ者は全て没収のうえ国外追放、持たざる者は奴隷に落とした。

 

 さらに純血主義を打ち出し、十代に遡って先祖に亜人のいない事を証明できない者は公職から

 追放した。

 その結果、技能を持った多くの人間が国外へと流出し、軍人、官僚、職人などあらゆる分野で

 人材が不足してしまった。

 

 王国にとって誤算だったのが、亜人達と親交のあったヒト種まで国外へ出て行ってしまったこ

 とである。

 職人たちの横のつながりを甘く見た結果、物づくりの現場で技術者が不足し国の技術力は大き

 く低下した。

 

 その結果、ヒト種であれば前歴を不問、実力さえあれば良いという方針を取らざるを得ない状

 況になってしまった。

 

 

 亜人は得意分野ではヒト種が敵わない高い能力を持つ。

 亜人排斥政策を打ち出すと、亜人に冷や飯を食わされていたヒト種が王国に集まってきた。

 

 結果としてヒト種に限って言えばそれなりに良い人材は確保できた。

 また王家はヒト種の国民からは絶大な支持を得ている。

 

 それでもロウリア王国は周辺国に比べて技術力は高くない。

 結局人口が多いだけで技術力が低い、という印象は払拭出来なかった。

 

 

 ボスヤスフォートとヤミレイ、二人の手をとってハーク34世が宣言する。

「王国を支える新たなる柱の誕生だ!皆の者祝うがよい!」 

 会場は拍手に包まれた。

 

 

「やはり上手くいかなかったか」

 これまでのやり取りを見てデコースが溜息をつく。

「前世で私たちは戦争を長引かせることは得意でしたけど、止めさせるのはしたことがなかった

 ですわ」

 ペールもわが身を振り返ってこめかみを抑えている。

「敵の苦労が今になって分かったぜ」

 

 

 続いてデコースの叙勲式が行われた。

 デコースが跪いて王国製の剣を34世に渡す。

 

「私デコース・ワイズメルはロウリア王国に忠誠を誓います」

 34世は剣を抜いてデコースの肩に当て宣誓する。

 

「デコース・ワイズメルよ、汝の剣を受け取ろう」

「恐悦至極に御座います」

 

 

「デコース・ワイズメルよ、貴公の徒名である黒騎士、その名を正式に名乗る事を許す」

 

「貴公に『黒騎士』の称号を与える。バッハトマ魔法傭兵団はバッハトマ黒騎士団と改名、正式

 に我が国の騎士団と認める。」

 

 さらに東征軍を再編したうちの五千人の兵を任されることになった。

 その上で引き続きボスヤスフォートの指揮下でいることを許可されている。

 王国が彼らを重視するが故の好待遇であった。

 

「有難き幸せ(ここまでされたら途中でトンズラできないな)」

 

 出来れば日本国との戦争は避けたかった。

 最低でも近代以上の技術力を持つかもしれない国家と中世レベルの兵を率いて戦うなど無理ゲ

 ーにも程がある。

 

 そして艦娘とかいう謎の存在が気にかかる。

 あれらが仮にエンハンスドヒューマンの類だったとして、製造するのに最低でもジョーカー国

 家レベル、最悪超帝国並みの科学力が必要だ。

 

 しかし艦娘が持っていた武器は火薬式の大砲とレトロな機関銃であった。

 

 またギムを空爆した航空機は何故かレシプロ機だった。

 

 生き残りにジェット機とレシプロ機のイラストを描いて見せたら、レシプロ機の方を指し示し

 たので間違いない。

 何故わざわざレシプロ機を使ったのだろうか?

 

 このちぐはぐさが日本国の技術レベルを判らなくしていた。

 ブラックスリーは日本国についてもっと調査が必要だと意見が一致していた。

 

 

 デコースは王から剣を受け取ろうと顔を上げたが、慌てて下を向く。

 

「なんでこのおじさん裸にバスローブなんだ!?」

 大王様の王太子とお稲荷さんが見えそうだ。

 

 この王様は服に毒針を仕込まれ暗殺されそうになったことがあるのだろうか?

 その体験がトラウマになって服が着れなくなったの違いない。

 

 そんなことを考えていたら叙勲式は終わっていた。

 

 デコースは晩餐会の料理にあるものを見つけた。

 

 黄豆の搾り汁をにがりで固めたものを油で揚げ、袋状にした物に米を詰めた料理があった。

 イナリズシという太陽神の使者が伝えたロデニウスの名物料理であるらしい。

 

「嫌がらせか!」

 あれは通過儀礼のようなものだったのだろうか?

 デコースは考えがまとめられず困惑したままであった。

 

 

 よく見るとペールがイナリズシを頬張っていた。

「良く食えるな、それ」(小声)

「美味しいわよ?」

 

「そうじゃない、あの王様の恰好を見て良く食えるな、と言ってるんだ」(小声)

 

「王様の恰好?特に変な所は感じないわね。私から言わせればもっと上級者を目指せるかも」

「何言ってんの!?」(大声)

 

「今度ボスヤスフォート様の名前で服を献上してみるわ」

「オイオイ問題を起こすなよ」

 

 前世でペールに指導されたダニスカ神聖連合とヨーグン連邦の騎士達がおしゃれ上級者であっ

 たことと、彼女の5号ボディ自身がかなりセンシティブな恰好をしていたことを思い出しデコ

 ースは不安になった。

 

「お姉さんに任せなさい」

「不安しかねえよ」

 デコースの野生の勘が危険信号をキャッチした。

 

 結論から言うと、あとで大問題になった。

 しかしこの後それどころではなくなったため、結果として放置せざるを得なかった。

 

 

 デコースは喉を潤そうと酒を運んでいたメイドに声を掛ける。

「おい、一杯くれ」

 

「ひえー!かしこまりました!」

 背の高い短髪のメイドは慌てながら大声でこたえた。

「声でけえな、おうありがとよ」

 

 デコースはそのメイドの身のこなしから戦える人間だと見抜く。

「お前さん騎士か何かか?」

 

「違います!私はただの料理人志望のメイドです!」

 

 そのメイドは慌ててあたふたしている。

 敵国の間者の可能性を考えたが、こんな嘘のつけない者に務まるわけないと考え直した。

 

「疑って悪かったな、お前さん名前は?」

 

「王城調理人の親戚でヒエイと申します。いつか晩餐会に出せるくらいの料理が作りたいです!」

 

「そうか頑張れよ」

 

 

 ペールはとあるメイドの服装が気になって声を掛けた。

「あなた左右で靴下の長さが違うけど、それはファッションなの?」

 

「そうだ、わが友ヤマトと仲間達の友情の証なのだ」

 釣り目で黒髪ロングのメイドが答える。

 

「ふーん、変わっているわね。あ、スイーツは何処かしら、案内してくださる?」

 

「ふ、このイソカゼに任せておけ」

 ペールはパーティーの料理を堪能した。

 

 

 酒を飲んで一息ついたデコースは小さな声で呟く。

「トモエ、いるか?」

 

「はい、御前に」

 不意にデコースの前にメイドが現れた。

 彼女は東洋人的な平たい顔つきの女性であった。

 

「うーーーん」

 年齢は30台半ばに見える。その年でメイド服はきついだろうとデコースは思った。

 メイド服は足が大きく出ている。彼女の膝を見ると若い子とは違う事が分かる。

 

「何か?」

 トモエと呼ばれた女がジト目で睨んでくる。

 デコースは話題を変えた。

 

「ジンハーク城に敵の間者は潜入してないだろうな?」

 

「ご安心を、配下の者が監視しております」

 

「お前も耳と尻尾を出して見つからないよう気を付けろよ」

 

「ご心配ないコン。私はプロですコン」

 

 トモエ・センコーケは諜報と破壊工作を得意とする斥候である。

 元は神聖ミリシアル帝国の貴族の娘であったらしいが、何故か家を出奔し冒険者となった。

 正体は幻惑系の魔法を得意とする狐の獣人である。

 

 

「それよりも仕事がある、別動隊を招集する」

 

「彼らはロウリア王国に入れないのでは?」

 

 別動隊とはバッハトマ魔法傭兵団の団員の内、とある事情で王国に入国できない者をまとめた

 部隊である。デコースは彼らを近隣諸国に待機させていた。

 

「四の五の言ってられん、手が足りなさすぎる」

 

「実はケサギとカエシから、明日の日没前にはジンハークに到着すると連絡がありました」

 ケサギとカエシの二人は傭兵団の中でも副将格の武人である。

 デコースは自身の補佐役であるバギィと並んで信頼を寄せている。

 

「何?どういう訳だ?」

 

 

「フ・リエとル・ゾラの二人から何やら嫌な予感がする、直ぐに援軍に迎えと予言があったそう

 です。彼女らもこちらに向かっているらしいです」

 

 デコースは歓喜した。

 フ・リエとル・ゾラの二人が居れば勝算はかなり高くなる。

 

 前世でボスヤスフォートの護衛をしていた魔導師と同じ名前を持つ、こちらの世界の凄腕魔導

 師、二人が居れば仮に艦娘があと五十人、いや百人いたとしても勝てるだろう。

 

 なにせ戦闘力だけならばボスヤスフォートと同格かそれ以上なのだから。

 

 しかしデコースは考え直した。

 

「つまり奴らの手が必要な事態になる、ということだな?」

 

「私は占いに詳しくないので分かりません」

 

「ほかに何か言ってなかったか?」

 

「占いの文言はこうだったそうです。『ジン=ハークの都が炎に包まれる時、我は帰還する』」

 

 何者が戻ってくるのか、不吉な内容にデコースの心は不安に包まれた。

 

 

 

 パーティーも後半へと移り、ボスヤスフォートは疲労が激しいという事で退席となった。

 会場では貴族が酒と料理を楽しみながら談笑している。

 

 パタジンは会場の端の席で目的の人物を見つけた。

 相変わらず黒いフードを被ったパーパルディア皇国の使者である。

 

「という訳で追加の支援をお頼み申しますぞ、パーパルディア皇国の使者殿♡」

 パタジンは人生最大のドヤ顔で使者に話しかける。

 

 使者はフードを目深に被っているにも関わらず悔しがっているのが分かる。

 

「ぐぬぬ、分かっておるわ!我らはこれで失礼する!本国への報告書を書かなくてはいけない

 からな!」

 

 使者は踵を返してパーティー会場を出て行ってしまった。

「今から報告書を書くとなると、増援が来るのは早くて半年か一年後か」

 

 

 それまでどうにか軍を立て直しクワトイネ公国と日本国の攻撃を凌がねばならない。

 

 そして勝利した後は、皇国には速やかに出て行ってもらう必要がある。

 

 軒先貸して母屋を盗られることにならないためにも、王国軍自ら戦功を立てねばならない。

 パタジンは使命の重さを再確認し、決意を新たにするのだった。

 

 そのためにはまず日本国の強さを再確認する必要がある。

 

 早急にあの三人から話を聞く機会を作らなくてはならない。

 パタジンは従卒に、デコースを休憩室に呼ぶように命じた。

 

 

 

 皇国の使者は彼らに与えられた宿舎に戻った。

 ジンハーク城離宮、ここはパーパルディア皇国国家戦略局にあてがわれた宿泊施設である。

 本来は他国の王族が利用するためのもので、列強とはいえ役人ごときが使用するべきではない

 はずである。

 

 しかも彼らは正式な使者ではない、本国には無断でここにいるのだ。

 なのに彼らは当然の様にここを利用し、王国の誰も文句を言わない。

 この世界で列強国と文明圏外国の差は余りにも大きい。

 

 パーティーを抜け出したフードの男は離宮に戻ると会議室に直行した。

 そこには部下たちが集まっており真剣に話し合っていた。

 普段であれば使用人や娼婦のお姉さんなどが大勢いるのだが、今日に限っては関係者しかいな

 い。

 

 ナンバー2の男が出迎える。

「お帰りなさいませ、係長どの」

 フードの男は国家戦略局の係長の役職にあった。

 

「うむ、分析の結果はでたか?」

 出迎えた係長補佐は技術畑の出身である。

 

 

「はい、ギムの戦場で鹵獲した日本国のマスケットでありますが、驚くべき事が分かりました」

 国家戦略局の最大の関心事は、クワ=トイネ公国が使用したマスケット銃がどこで生産された

 ものなのかという事である。

 

「このマスケットは皇国で生産されたものではありません」

 係長は胸をなでおろす。

 彼は母国のどこぞの機関が自分達と同じようにクワ=トイネ公国を支援しているのではないか

 と考えていた。

 最悪の予想が外れて安心した彼であったが、続く部下の報告に仰天する。

 

「ムー製で間違いありません」

 

 ムーはこの世界で第二位の列強国である。彼らの母国パーパルディア皇国よりも国力が上であ

 り、戦争になったら皇国は敗北すると言われている。

 

「ムーは永世中立のはず、第三文明圏の圏外国家に武器を供与するはずがない」

 

 

「証拠はこのマスケットに使われている弾丸です」

 係長補佐はテーブルに証拠の品を置く。

 それはギムで回収した未使用の弾丸だった。

 球形をしている皇国のマスケットとは異なり、先のとがった椎の実の形をしている。

 

「これには『火薬』が使われています」

 

 火薬とは科学立国であるムーのみが使用する薬品である。

 

 かつてムーは魔法の技術力が低く、他民族に国土を切り取られていた。

 しかし科学の力を発展させることにより侵略者を押し戻すことに成功したのだった。

 

 ムー反撃の重要な発明の一つが火薬である。

 

 魔石を含有していないにも関わらず粉末魔石と同じ現象を引き起こす、魔法を基礎とするこの

 世界の人々にとって異質で不気味な物質である。

 

 

「しかもこれに使われているのは煙の多い初期タイプではなく、煙が少なく威力の大きい最新の

 タイプです」

 

「弾丸も鉛の表面を銅で覆っております。これはムーの最新の弾丸と同じです。銃の構造も簡略

 化されておりますが最新の技術が使われていると思われます」

 

 係長はある可能性に気付いた。

「まさか日本国というのは隠れ蓑で、実はムーが裏で動いているのか?」

 

 

 ムーは日本国という架空国家を名乗ってクワ=トイネを支援しているということか?

 

 何故列強第二位のムーが遠く離れた第三文明圏の圏外国家を支援するのだろうか。

 

「まさかムーが本格的に領土奪還に動くのか?」

 

 ムーはかつて大陸全てを支配していたが異民族の流入によりおよそ半分の領土を失った。

 

 その後科学の力を得て異民族を駆逐しようとしたが、科学を危険視した神聖ミリシアル帝国を

 始めとする第一文明圏の主要国は秘密裡にレイフォルを支援した。

 

 文明国に毛が生えた程度のレイフォルが最下位とはいえ列強に名を連ねているのは、神聖ミリ

 シアル帝国が後押ししているからである。

 

 

 もしムーがレイフォルに戦争を仕掛けた場合、神聖ミリシアル帝国が参戦することになってい

 る。そうなればムーは東西から挟み撃ちになるだろう。

 

 しかし第三文明圏でムーの支援を受けた国家が誕生し、騒乱を起こしたならばどうなるか。

 神聖ミリシアル帝国は背後を気にして大規模な援軍を送れなくなるのではないか。

 

 

 考えてみればこのロデニウス大陸はムーの傀儡国家を建設するのに最適ではないのか?

 

 クイラ王国が産出する燃える水は機械兵器の燃料に、ロウリア王国は多くの人口を抱えて兵士

 の供給源となる。その兵士を食わせる食料はクワ=トイネ公国が作り出すことが出来る。

 

 考えれば考えるほどロデニウス大陸はムーにとって都合が良い。

 

 

 もしやパガンダ王国を滅ぼした第八帝国も艤装したムー軍だったのではなかろうか?

 

「これは世界大戦の予兆なのか?」

 

 係長の推論を聞いて部下たちの騒然としている。

 

「これはもはや我らのみで判断できる域を超えている!直ちに本国に連絡を、イノス局長の判断

 を仰ぐのだ!」

 

 

「万一の時は我らにお任せあれ」

 奥の部屋から七色の鎧を着た騎士達が現れた。

「おお、そなたらはブーレイ傭兵騎士団、来てくれたか!」

 

 ブーレイ傭兵騎士団は主に第三文明圏で活動する傭兵団である。

 その正体は謎に包まれているが、実はパーパルディア皇国の軍人である。

 

 彼らの任務は皇国にとって都合のいい開戦理由を作ることである。

 過去には油断した皇国の竜騎士を襲撃して殺害し、皇国が開戦する口実を作った。

 

「我ら『あのお方』の命により参上しました」

 赤い鎧を着たリーダーが皇国式の敬礼をした。

 

「おお、それは心強い」

 国家戦略局は精力的に職務を再開した。

 

 日本国はムーの創作で実際には存在しない。

 係長の推論は後に皇国関係者の中で共有された。

 そして皇国の敗戦が不可避となるまで、多くの皇国民がそれを信じたのだった。

 

 

 

 ここはジンハークでも人気の酒場『竜の巣』

 王都でも人気のこの酒場は氷でキンキンに冷やした麦酒が名物である。

 冬の間に降った雪を固め氷を作り、氷室に保管しておいて一年中冷やした酒が飲める。

 

 勝利を記念して王都の臣民には麦酒とつまみ一品が下賜されることになり、王都の酒場ではど

 こも賑わいを見せていた。

 しかしこの店に限っては物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 店のとある席に客の視線が集中している。

 その席に座っているのは二人の若い男、一人は耳が長く、もう一人は丸い耳で髪の毛が鋭く尖

 っている。

 

 彼らはエルフとヤマアラシの獣人であった。

 この国では排斥される亜人が何故堂々と酒を飲んでいるのか?

 

 それは彼らがこの世界で最大最強の第一位列強、神聖ミリシアル帝国の人間だからである。

 

 その証拠に二人はミリシアル人の特徴であるパピヨンマスクをし、エルフはジャケットに堂々

 と神聖ミリシアル帝国情報部と記している。

 

 本来国の情報部は正体を明かして行動しないのだが、この世界では神聖ミリシアル帝国は列強

 第一位であり他の国とは隔絶した力を持つ。

 だからこそこの国の情報部員は所属を堂々と明かして活動している。

 

 もう一人の獣人は第一文明圏の冒険者らしくミリシエント大陸にしか生息しないクリムゾンフ

 ォックスの足の剥製を身に付けている。

 

 クリムゾンフォックスはミリシエント大陸南部の山奥にしか生息しない希少な魔物であり、そ

 の毛皮は王侯貴族に大変人気である。

 しかし警戒心が強くその上強力な幻惑魔法と火炎魔法を使う。

 クリムゾンフォックスを狩るにはA級以上の冒険者に依頼することが必要、と言われている。

 

 

 周囲は衛兵が取り囲んで周りの客に睨みを聞かせている。

 最初は通報を受け亜人を取り押さえるために出動した彼らだが、犯人がミリシアル人だと知る

 と一転して他の客が二人に因縁をつけないよう監視し始めた。

 

「隊長、あいつら本当にミリシアル人なんでしょうか?」

 新人の衛兵が上司のベテラン兵に確認する。

 

「間違いない、あのパピヨンマスクは間違いなくミリシアル人特有の物だ」

 ベテラン兵は自信を持って断言する。

 

「偽物の可能性は?」

「ない。他国人ならあんな恥ずかしい仮面を長時間被ってなどいられないはずだ」

 せめてもの抵抗に、文明圏外国人がさりげなくミリシアル人をディスる。

 

「なるほど、でもいったいなぜミリシアル人がこの国に何の用なのでしょうか?」

 

 

 エルフ男性、ライドルカ・オリファントは酒を飲みながら明日の予定を確認する。

「明日の朝にこの国の外務部に行って意見書を提出するぞ」

 

 ライドルカが持っているのはロウリアに提出するミリシアル外務省の意見書である。

 戦争によるクワ=トイネ公国内の遺跡の破壊を懸念する、という内容である。

 

「遺跡を破壊をするなと言って、この国は戦争を止めるのか?」

 

 ハリネズミの獣人でありA級冒険者でもあるヴィンス・ウィズが疑問をぶつける。

 彼は恩義のある獣人から頼まれロウリア王国に圧力を掛けられる方法を探していた。

 その獣人も遠い親族から頼まれていたのであった。

 

 ロウリアから脱出した亜人達は細い伝手を辿って神聖ミリシアル帝国を頼った。

 ミリシアルからロウリアに圧力を加えてもらえるよう懇願したのだった。

 

 ライドルカとヴィンスは同郷でありヴィンスの父親とライドルカは幼馴染であった。

 

「それは分からん、しかしこれが精一杯だったよ」

 

 

 列強であるミリシアルが、たかが文明圏外国の争いに首を突っ込むなどあってはならない。

 そういった意見がありロウリアを直接に批判することは出来なかった。

 

 そこで考え出された口実が遺跡の保全である。

 

 ライドルカは大学で魔王と太陽神の使者の歴史を研究しており、第三文明圏には何度も訪れて

 いる。

 

 ロデニウス大陸で確認されている古の魔法帝国の遺跡は多くない。

 代わりに太陽神の使者の遺跡が多く見つかっている。

 

 もしクワ=トイネにあるのが魔帝の遺跡であったら表と裏両方の力で介入出来ただろう。

 しかしミリシアルにとって太陽神の遺跡は、魔帝の遺跡より優先度が下である。

 

 それでも魔帝の先兵である魔王に抵抗した勇敢な祖先たち。

 彼らの遺跡は保存されるべきであると上層部を説得した。

 

 最終的にライドルカの上司アルネウスが皇帝ミリシアル8世の許可を得て、意見書の作成にこ

 ぎ着けのであった。

 

「しかし間に合ってよかった」

 

「ああクワ=トイネ公国の戦力ではロウリア王国の大戦力に抵抗できず、短期間で敗北すると分

 析されていたからな」

 

 二人は文書の作成に時間が掛かったため、提出するころには戦争が終わってしまうのではない

 かと危惧していた。

 しかしクワ=トイネ公国に手を貸す国家が現れたことで事態は一変した。

 

「日本国か、また訳の分からない国が出てきたな」

 

「噂によると科学文明の国らしい」

 ヴィンスが集めた情報によると日本国は高い技術力をもち、羽ばたかない飛竜と黒い煙を出す

 船を使う。

 クワ=トイネから食料を、クイラからは燃える水を輸入し、対価としてインフラの整備をして

 いる。

 日本国のお陰で二か国は急速に発展している。

 相手が文明圏外国でも対等に取引している。

 某皇国のように奴隷の提出や領土の割譲を要求していない。

 

 数年前に海魔と舟幽霊の大量発生で大きな被害を受けた。

 艦娘と呼ばれる水系の女魔導師がいる。

 転移国家である。

 

「科学文明に転移国家だと?もしかしてムーが裏で糸を引いているんじゃあるまいな」

 

 ライドルカはそれらの情報からムーの関与を想像した。

 この世界で科学立国はムーとムーに影響をうけたマギカライヒ共同体ぐらいなもの。

 第三文明圏でムーの影響力が増すのはミリシアルにとって都合が悪い。

 

「そういえばクイラ王国にムーの石油精製会社があったな、たしかスピードワゴン石油という名

 前だったと思う」

 

 スピードワゴン石油はムーのスラム出身の青年ロバート・スピードワゴンによって設立された

 石油会社である。

 クイラの良質かつ大量の石油を目当てに設立されたが、本国まで二万キロという距離はいかん

 ともしがたく、多くの投資は集まらなかった。

 それでもアルタラスとシオスの空港、そして第三文明圏各国のムー大使館で使用する石油の需

 要があり、それらを細々と精製している。

 

「日本国についても調べる必要があるな」

 ライドルカとヴィンスは飲みながら会話を続けた。

 

 

 

 現時点での各国の戦力

 

 ロウリア王国

 陸軍 総指揮 パタジン=アッカーダマン将軍 70000人

 海軍 海将 ベーコン=ホエイル 100000人 軍船3000隻

 空軍 原種ワイバーン竜騎士 150騎

 魔導士隊 筆頭大魔導師 ヤミレイ=フヨードル 100人

 

 諸侯軍 380000人

 

 バッハトマ黒騎士団 

  指揮官 ディス=ボスヤスフォート

  魔導部隊隊長補佐 ビューティー=ペール 5人

  行動隊長 デコース=ワイズメル

  隊長補佐 バギィ・フーブ

  中隊長  ハイドン ゴーン マルティン

  斥候部隊 トモエ=センコーケ 

  一般兵 350人

 

 バッハトマ魔法傭兵団別動隊

  副将 雲龍のケサギ 疾風のカエシ

  客分 シグダ・フ・リエ ホーリン・ル・ゾラ

  一般兵 150人

 

 パーパルディア皇国

  国家戦略局

  ブーレイ傭兵騎士団 7人

 

 

 

 クワ=トイネ公国

  カナタ首相 行方不明

  城塞都市エジェイ 司令代理 ガマイシ=ハンキ将軍

  クワ=トイネ公国海軍 100隻

 

 クイラ王国

  援軍 ユーリア・バシュチェンコ 2000人 鉄甲車

 

 日本国

  マイハーク出張所 一ノ瀬アツシ提督

   秘書艦 鳳翔

   所属艦娘 赤城 三日月

   

   第14駆逐隊 駆逐艦5隻

 

   霧島艦隊 戦艦1 重巡2 軽巡2 駆逐艦4

 

   ロデニウス沖派遣艦隊  

   正規空母2 航空戦艦2 重巡1 軽巡1 重雷装巡洋艦3 駆逐艦3

 

   補給艦隊 補給艦2 駆逐艦4

 

   揚陸艦1 工作艦1 ワイバーン野生採取個体 1尾 

   ファティマ 16体

 

  陸上自衛隊第七師団 6000人

 

 陽炎の協力者

  ラキシスと愉快な仲間達

   自己進化機械兵器3

   ヴィーキュルの女魔帝1

   神 1柱

   ラキシスの娘カレンとその夫

 

  超帝国ユニオ 第9代総帝 ネードル=ナ・イ・ン

   セントリー パルサー・フローラ

   超帝国総旗艦『(シング)

   ヘリオス剣聖騎士団 7名

   焔星緋帝騎士団 純血の騎士 数百人 GTMシュッツィエン

 

 

 中立勢力

 神聖ミリシアル帝国

  情報部部員と護衛の冒険者 各1名

 

 この世界の神族

  太陽神

  緑の神

  

 

 

 舞台は変わって神界の入り口、神のしもべ達が働く神域に移る。

 

 この世界の創造神の元から帰ってきた太陽神の手には長柄の武器が握られていた。

「ふっふっふっ、天地創造の神器、アメノヌボコを借りてきたぞ!」

 太陽神は矛を掲げ自慢する。

「お姉さま凄いです!」

 

 二柱の神は神域に誰もいない事に気づいた。

「なんで誰もいないの?」

 

 神域には天女たちが一人もいなかった。

 またテラスではテーブルと椅子が用意され、誰かがお茶を飲んだ形跡があった。

 

「お姉さま、来客用の高いクッキーが減っています」

 緑の神が何者かに出されたであろうクッキーの缶を持ってきた。

 別の世界線の日本の菓子屋から取り寄せた高級クッキーである。

 

 しかもわざわざ新しい缶を開けたようだ。

 どうやら高位の神がいたらしい。

「誰が来た?何があった?」

 

「分かりません。ボリボリ」

 緑の神は古い缶に残ったクッキーを食べている。

「食べてる場合か!」

 

 

「まあいい、早くこの異物を始末しよう」

 太陽神は磔にされた陽炎に向かい、神器アメノヌボコを構える。

 

「ツインテールか」

 

 ツインテールは神々にとって特別な髪型である。

 何故かは分からぬが最初の宇宙を創った全宇宙全次元創造神がこの髪型を好んでいる

 と言われている。

 

 太陽神はそれが気にくわない。

 全宇宙全次元創造神は別にツインテールを強制していない。

 神の髪型は自由であり、太陽神はストレートである。

 

 それでもごくまれにツインテールの者が恩寵を受けている事例を知っている。

 だからこそ太陽神は目の前の異物を排除する事に喜びを感じていた。

 

「くだらぬ髪型だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プッツン

 

 その時何かが切れた音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい」

 

 

 

 

 

 

「あんた」

 

 

 

 

 

 

「いま」

 

 

 

 

 

 

「なんつった」

 

 

 

 




後書き
 拙作のパタジン将軍は一人で一個旅団に相当する戦闘力を持っています。
 ボスヤスフォートが親の顔を知らないというのは私の解釈です。
 原作では超帝国第六代総帝に似ている気がしますが明言されてません。

 クリムゾンフォックスは「魔道具師ダリヤはうつむかない」に登場する魔物です。
 同作は以前から読んでいた作品なのでアニメ化が決定して嬉しいです。

 また拙作で多用している水操作の魔法の引用もと、「理想のヒモ生活」もアニメ化決定おめ
 でとうございます。

 一般通過提督様、いつも感想有難うございます。
 返信を書く機会を逸したのでここに書かせていただきます。
 インタシティの企みには穴があります。
 それは国家の代表者たる詩女になれる女性が居ないことです。
 この世界に超帝国総帝ナインの記憶を受け継いだ者がいるはずないですよね、ね?


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