光炎憧憬 (花見崎)
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神エレボス

「ん・・・」

 

 

目を開ければそこは知らない天井・・・ではあるけど

どこか懐かしさを感じる天井だった

 

 

寝起きでズキズキと痛む頭に手をやりながら片手を軸に上半身を起こす

 

 

「どこだろう…その前にどうしてここに…」

 

 

意識を手放す前の記憶を辿ろうとするも、モヤがかかったように思い出すことが出来ない

分からない…というよりは思い出せない。と言った方が正しいと思う

 

「やっと起きたか。」

 

 

上半身だけ起こして、ようやく覚醒した目で最初に見たのは銀髪の長い髪の女性だった

 

 

「えっと…助けていただき、ありがとうございます?」

 

 

「・・・別に私が助けたわけじゃない。アイツらが勝手にした事だ。」

 

 

どのようにして自分が運ばれてきたかはわかんないけど、ここにいてくれたってことは何かの形で彼女にもお世話になったことは確か

彼女自身にその意が無くたって感謝を伝えるのは当然だと思う

 

 

「それでも、僕が起きるまでここに居てくれたんですよね?」

 

 

「はぁ…勝手にしろ。詳しいことはあとから来るあいつらから聞け。」

 

 

そう言うと僕に背を向けて外に出ていってしまった

改めて自分が看護されている部屋を見回してみる

生活している様子はあるのに、余りにも綺麗すぎる様子だった

 

 

「(本当に家なんだろうかここは…)」

 

 

「よぉ、元気そうじゃねえか。」

 

 

「どこも怪我もなさそうだったしな。」

 

 

玄関のドアが開き、3人の男の人が入ってきた

口の周りまで髭を生やした老齢の男性と、赤髪の筋骨隆々な男性、黒髪と灰色の混じった男性がゾロゾロと入ってくる

 

 

「えーっと・・・貴方達は?」

 

 

「あーっ、そうか。まだその事に関しちゃ考えてなかったな。」

 

 

黒髪の男性が1歩前に出て頭を掻きながら口を開く

 

 

「お前、自分のこと話せるか?」

 

 

「えーっと・・・」

 

 

すーっと深く息を吸い込んで天を仰ぐ

目を瞑って今までの記憶を辿ろうとするものの、頭の中にモヤがかかったようでその先は思い出せない

 

 

「・・・」

 

 

言葉の代わりに首を横に振った

 

 

「そうか。」

 

 

彼はそれっきり言葉を発さず、考える素振りをみせる

 

 

「どうするつもりだ。」

 

 

次は赤髪の大男が口を開いた

 

 

「俺達には時間が無いと言ったはずだ。今更こいつの面倒を見るとか言うまいな。」

 

 

「はは、まさか。でも少しだけ興味が湧いたんだ。」

 

 

「おいまさか!」

 

 

「名も知らぬ少年よ。」

 

 

黒髪の男性は僕の目の前に立って手を差し伸べきた

 

 

「共に、悪へと身を堕とさないか?」

 

 

・・・

 

 

ベル・クラネル Lv?

 

力:???

耐久:???

器用:???

敏捷:???

魔力:???

--------

【魔法】

・▪️▪️▪️▪️▪️

 

【スキル】

・▪️▪️▪️▪️▪️

 

・▪️▪️▪️▪️▪️



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イアン

「正気か?お前。何処の子も知らんやつにこんなことを頼むなんぞ。」

 

 

「別に。あえて言うなら『神々の勘』ってやつかな。全知零能である(俺達)故の好奇心(ワクワク)って所かな。」

 

 

「わしはこれ以上は何も言うまい。」

 

 

「だが、力の方はどうする。まともな恩恵もなしに生き抜けるほどヤワじゃないぞあそこは。」

 

 

「えー、そこら辺は鍛えてくれよ。」

 

 

「俺もあいつもそんなものはお断りだ。満足して逝くだけの俺たちの死に様に率先して巻き込むほど安い覚悟はしていない。」

 

 

「・・・そうだったな。まぁそう本気にするな。それに、()()()()()は問題ないと予想はついてる。」

 

 

エレボスは改めて少年に目線を合わせる

 

 

「それで?どうだ、俺たちと『世界の踏み台』にならないか?」

 

 

口は笑っていてもその瞳は真剣そのものだった

 

 

「頷けばお前はすなわち悪に手を染める事を容認するわけだ。周りのヤツら全員が俺たちの敵となる。お前はそいつらを殺す覚悟で挑まなきゃならねぇ。その時、お前は冷酷に、残酷になれるか?」

 

 

「僕は・・・」

 

 

少年の腰掛けるベッドのシーツにシワが寄せていく

 

 

「僕はあなた達に着いていきます。」

 

 

広いとは言えない一室に3人のどよめきが広がる

 

 

「本当にいいんだな?お前はここからとてつもない『巨悪』に身を落とすことになる。そうなっても耐えられるのか?」

 

 

「僕には、その『巨悪』がなんなのかは分かりません。あなた達と過ごした時間もほんの数時間にすぎません。 ですが、何故かあなた達が言うほど『巨悪』だとは思えません。それだけです。」

 

 

「ハッ!ハハハハハ!!!」

 

 

「コホン。失礼、自分から言っといてあれだが予想外だったもんでな。そうか、そこまで言うなら受け入れようじゃないか。」

 

 

ザルドは諦めたように笑っている

 

 

「でもいいのかエレボス。アルフィアには伝えてないのであろう?」

 

 

「それは…まぁ、なんとかなるさ。ともかく。」

 

 

「えっと、アルフィア?さんでしたっけ。さっきまでこの部屋にいらっしゃった。」

 

 

「そうだ。アイツにも色々と思うことがあるんだ。あぁ見えても俺たちの中じゃ1番心配してたんだ、難しいやつだが気を悪くしないでやってくれ。」

 

 

『煩い』(ゴスペル)

 

 

アルフィアと呼ばれた女性の1発で黒髪の男性が殴り倒されていた

 

 

彼らの力関係が垣間見えた気がする

 

 

「あぁ、そういえば俺たちの紹介がまだだったな。俺はエレボス。

『神』・・と言っても伝わらねえよなぁ。まぁ、お前とは違う存在とでも捉えてもらえばいい。んで、こいつがゼウス。俺と同じ神さ。」

 

 

「・・・ザルドだ。俺は納得などしていないが拒む理由もない。足でまといだと考えた瞬間切り捨てる。それだけは注意しとけ。」

 

 

「は、はい!」

 

 

「・・・私もか?」

 

 

「お前だけしないってのも変だろう。」

 

 

「・・・アルフィアだ。言っておくが間違っても『おばさん』とだけは呼ぶなよ。」

 

 

それだけ言うと、アルフィアは黙ってしまった

 

 

「自己紹介も終わったことだ、友情祝いって訳じゃないが、脱いでくれないか。」

 

 

「え?」

 

 

「あー、なんだ。俺の趣味じゃねえよ。なんと言うかな、お前に力を授けるだけ。変な意味は無いからそう身構えなくていい。」

 

 

「は、はい。」

 

 

「あ、上だけでいいからな。そこで横になってくれ。」

 

 

「まだまだだな。」

 

 

「お前と比べるのは可哀想すぎないか?」

 

 

黒シャツから見える彼の筋肉は同年代の少年と比べても鍛えられているのは一目瞭然だった

先まで倒れて記憶喪失とは思えない肉付きは冒険者のソレ

 

 

彼に対する疑問は増えるばかりだった

 

 

背中に向けて一滴の血が落とされる

エレボスが羊皮紙に写し取り、しばらく眺める

 

 

「ある程度予想はしていたが・・・こう現物として突きつけられるとなぁ。」

 

 

「え、えーっと・・・」

 

 

「あぁ、悪い悪い。ちょっと写してくるから待っててくれ。ゼウス、来てくれないか?」

 

 

「あぁ。」

 

 

・・・・

 

 

「わしを呼んでどうした。」

 

 

「とりあえずこれを見てくれ。」

 

 

羊皮紙を1枚、広げる

そこにはこう書かれていた

 

-----------------------------------

 

 

ベル・クラネル Lv.7

 

力: B 756

耐久: B 780

器用: B 740

敏捷: A 820

魔力: C 680

幸運:E

耐異常:F

逃走:I

・・・・・

魔法

【ファイアボルト】

・速攻魔法

 

スキル

【▪️▪️一途】

・早熟する

・▪️▪️が続く限り効果持続

・▪️▪️の丈により効果上昇

 

【▪️▪️願望】

・▪️▪️▪️▪️▪️

 

闘牛本能(オックス・スレイヤー)

・猛牛系との戦闘時における、全能力の超高補正

 

 

-----------------------------------

 

 

「こっ、これは・・・」

 

 

「俺がこの少年を見かけた時、少しだけどピンと来るものがあった。『ありえない』と端から否定するのは簡単だが、こうして見せつけられる形で出されるとなぁ・・・」

 

 

「下界に同姓同名が存在する事はないことは無い。だが、ここまで一致するとなると、考えねばなるまい。『可能性』とやらを。」

 

 

「下界は神々以上にぶっ飛んでるとヘルメスから聞いてはいたが、こんなこともあるとはなぁ。」

 

 

「メーテリアにもう一人息子がいた話はない。信じたくはないが、エレボスの言葉を信じよう。」

 

 

「それで、これどこのファミリアだ?」

 

 

「うーむ、わしがオラリオにいた頃には見覚えがないエンブレムじゃからなぁ。」

 

 

「それよりも、だ。名前、どうする?このままじゃアルフィアが怒りそうで心配だぜ。」

 

 

「そうじゃな、ここはイアンとしとこうか。」

 

 

大神(ゼウス)らしいっちゃらしいな。」

 

 

「とにかく、色々と気になる点はあるけど全ては整った。あとは来るべき時まを待つだけ。」

 

 

・・・

 

 

「本当にいいのかアルフィア。」

 

 

「何かだ。」

 

 

「そっくりだろ?あの『子供』に。」

 

 

「抜かせ。妹の子は1人だけだ。今も1人私たちの分まで生きているあの子だけだ。この子とは全く違う。」

 

 

「それなら・・・いや、やめておこう。また殴られても面倒だ。」

 

 

「賢明だな。」



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オラリオ到着

「ここがオラリオ・・・」

 

 

エレボス様に連れられて、僕は舞台となるオラリオの前までやってきていた

ザルドさん達は別用で来るらしく、今は2人だけだった

 

 

「基本的には何しても構わない。この計画はまだ余裕がある。今のうちに土地勘を掴んどけ。問題は起こすなよ?あぁ、後()()には近づくなよ?」

 

 

そう言うと神様は1人走り去っていった

 

 

「いや!土地勘のない人を1人置いてくなよ!?」

 

 

置いてかれまいとエレボス様の後ろを着いていくこととなった

 

 

・・・

 

 

「結局見失っちゃうし・・・」

 

 

オラリオ内に入れたのはいいものの、結局見失ってしまった

神様というのはここまで自由奔放な方なのだろうか

とりあえず、拠点となる場所は聞いたし、散策と行きますか

 

 

「と言ったものの、どこがどこやら。」

 

 

外から見た以上にだだっ広いオラリオは内部は想像以上だった

まず目に入ってくるのは円盤状に作られたオラリオの中心部にそびえ立つ塔だけ

 

 

「一体何階建て何だろう・・・」

 

 

なんて、特に意味もない疑問を抱きながらも宛もなく彷徨くことにした

 

 

話には聞いてたけど『世界の中心』とだけあって、外の世界とは比べ物にならないくらい広いし家がいっぱい!

 

 

「とはいえ・・・どこから回ろうか。」

 

 

宛もなくさまよったところで、いたずらに時間が過ぎるだけだし・・・

人に聞こうにも、まばらで誰も彼もが急ぎ足

とても聞けるような状態ではなかった

 

 

「(目にやきつけよう、この先僕が壊そうとしているこの街の現状を)」

 

 

ドンッ

 

 

「あっ」

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

突如後ろから誰かとぶつかってしまった

振り返るとクマのぬいぐるみを持った少女が尻もちを着いていた

 

 

「おっと、ごめんよ。怪我はないかい?」

 

 

「うん!ぶつかってごめんなさい。」

 

 

「大丈夫!ぼっとしてた僕も悪いから。でも急ぎすぎちゃうと転んじゃうから気をつけてね?」

 

 

「はぁーい!」

 

 

勢いよく右手を振り上げ、返事をしたかと思えば、僕の言葉など何処吹く風か後方へ風のように過ぎていく

 

 

「すみませんウチの娘が!」

 

 

「大丈夫です。」

 

 

母親が見つめる先には、赤髪と金髪の女性二人と楽しそうに会話している少女の姿

 

 

「ついこの間襲撃事件があったでしょう?その時彼女たちに助けていただいたんです。」

 

 

「へぇー、それはそれは。」

 

 

数十メートル離れてても聞こえるほどには楽しそうに話している3人

エレボス様の言う『正義』とは彼女達を指しているのだろうか

 

 

楽しそうに笑って話す2人に相反し、真面目な表情はありつつもどこか楽しそうだった

 

 

「それでは、失礼します。」

 

 

母親は僕に一礼すると娘の方へと駆け寄っていく

 

 

この先、僕らはこの日常を壊すことになる

この胸の疼きもいずれは打ち消さなきゃいけない

 

 

それでも、僕は立ち止まってはならない

今更あちら側に着く選択肢は用意していない

 

 

「ちょっとそこの貴方!待ってくれる?」

 

 

目の前の光に背を向け、ぶらり旅でも続けようかと踵を返した時、後ろから声をかけられる

 

 

「そこの貴方よ貴方!黒シャツを来たそこの貴方!」

 

 

うん、やっぱ僕だよね・・・周りに人いないし

 

 

「えーっと・・・何でしょうか?」

 

 

「そう堅くならなくていいわ。いくら貴方が兎のように可愛く見えたからって取って食おうなんて考えてないわ!」

 

 

「・・・」

 

 

凄く、反応に困る

いや、わかるよ?彼女に悪意はないし、全力で和ませようとしてるのはわかる

けど!言葉選びってのがあるよね!?普通初対面の人にウサギみたいに可愛いなんて言う!?普通!

 

 

「アリーゼ、彼が困っています。何より話が進まない。」

 

 

「はっ!私とことが滑るなんて!」

 

 

「アリーゼ・・・」

 

 

一体なんなんだろうこの凸凹コンビは

というよりは彼女の保護者・・・否、ストッパーなのか?

 

 

「そんなことより本題に入るわね!貴方、冒険者希望?」

 

 

「い、いえ違います。」

 

 

「そう、オラリオじゃ見かけない顔だからもしかしたらと思ったんだけどね。」

 

 

「あ、あのー。」

 

 

「何かしら?」

 

 

「どうしてそのような質問を?」

 

 

「今のオラリオを見ればわかるけど、今オラリオはすごく危険な状態よ。暗黒期と呼ばれる時代は昔からあったみたいだけど、その時から都市外から冒険者になりにここにやってくる子達は沢山いるわ。」

 

 

「ですが、今は状況が違う。ギルドとしても冒険者希望を拒むことはしなかった。とはいえどこのファミリアもほとんどが戦場に駆り出される現状を伝えた上でギルドへの案内も兼ねています。」

 

 

「いつ闇派閥(イヴィルス)達に襲われるか分からないもの。私たちが守らなくっちゃ!」

 

 

「ははは、優しいんですね。」

 

 

「ふふん!とーぜんよ!なんたって【アストレア・ファミリア】なのだから!」

 

 

「ははは・・・」

 

 

終始彼女のペースに流されてばかりな気がする・・・

 

 

「ところで、あそこにいるのアーディじゃない?」

 

 

「そうですね、彼女は憲兵です。別段あそこにいても変では無いですが・・・」

 

 

「ちょっとお取り込み中の様ね。」

 

 

アーディ?と呼ばれた彼女は荒っぽそうな男性と話していた

数秒後、彼女からひったくるようにして何かを貰って一目散にかけていった

 

 

「アーディ、今の男はどうされたのですか?」

 

 

「あ、見られちゃった?」

 

 

舌先をチョロっと出してイタズラがバレた子供のような顔をする彼女

 

 

「今の人ね、貧乏な神様からスリを働いちゃったんだ。」

 

 

「え?でも貴方さっきの人返しちゃってたわよね?」

 

 

「うん!私が赦して返しちゃった。あ、勿論お金は取り返したよ。」

 

 

「問題はそこではありません!貴方は都市の憲兵(ガネーシャ・#ファミリア)ではないのですか!」

 

 

分からないなりに話をまとめると、悪い事をした男の人を逃したことを彼女が咎めているって感じなのかな?

てことはアーディって子もまた彼女たちと似たような立場なのかな?

 

 

「確か・・・『飴と鞭』、だっけ?そんな言葉、あったよね?」

 

 

「それがどうしたのですか?」

 

 

他の憲兵(おねえちゃんたち)が『鞭』なら、私くらいは『飴』になってあげたいなってだけ。鞭ばっかりじゃ、みんな疲れちゃうよ。」

 

 

うーん、いいこと言ってるんだと思うけど・・・

というか、僕置いとかれてません!?

 

 

「それは・・・」

 

 

「はいはい!もう過ぎたことはこれっきりにしましょう!これ以上彼をおいてけぼりにするのも可哀想だわ!ちなみに私もアーディの意見に賛成するわ!」

 

 

「アリーゼ!?貴方まで!いえ、そうですね。まずは話をまとめましょう。」

 

 

「そういえば、名前を聞いてなかったわ!私としたことがついうっかりしてたわ。私はアリーゼ・ローヴェルよ!」

 

 

「リュー・リオンと名乗らせてもらっています。」

 

 

「そして私が品行方正で人懐こくてシャクティお姉ちゃんの妹でリオン達と同じLv.3のアーディ・ヴァルマだよ!」

 

 

「誰もそこまで聞いてませんよアーディ・・・」

 

 

「え?そうなの?」

 

 

なんというか、アリーゼさん並というか別方向で癖のある人が出てきた

オラリオに住む人はこうも一癖も二癖も強いひとばかりなのか?

 

 

「自己紹介が遅れました、イアンです。アリーゼさん達とはつい先程そこの道で知り合ったばかりです。」

 

 

「ふーん、そうなんだ。私はてっきりリオンにもついに春が来たんと思って喜んでたんだけどなぁ。」

 

 

「ア、アーディ!」

 

 

「.あはは、冗談は置いといて・・・イアン君だっけ?よろしくね!」

 

 

「は、はい!よろしくお願いします!」

 

 

・・・・

 

 

「どうだった?オラリオ観光は?」

 

 

「色々と思うことはありました。」

 

 

「ははっ、そうだな。あんな美女3人に囲まれるなんて滅多に経験できないもんな。」

 

 

「やはりエレボス様だったんですね、『所持金四四四ヴァリスの可哀想な神様』というのは。」

 

 

「え!?俺そんなこと言われてたの!?」

 

 

「はぁ・・・」

 

 

「んで?やっぱり気持ちは変わらないか?」

 

 

「くどいですよ。何を言われようと、何を見ようと、僕の意見は変わりません。僕はこのままです。」

 

 

「・・・そうか。作戦は前に言った通りだ。特に変更はない。」

 

 

「分かりました。」



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胎動

「団長!団長!大変っす!」

 

 

「どうしたんだい?ラウル。」

 

 

闇派閥(イヴィルス)と思われる総勢10名近くの死体が3箇所で発見されました!」

 

 

「それで?その功績者は見つかったのかい?」

 

 

「そ、それが誰も現場を見ておらず、どのファミリアも心当たりはないそうで・・・」

 

 

「へぇ、実に興味深いね。」

 

 

「仲間割れ・・・っすかね?」

 

 

「完全に否定するには情報が足りない。名乗り出てこない点から見ても『彼らの罠』という線は薄いと思っていい。報告ありがとう。下がっていいよ。」

 

 

「失礼しますっす。」

 

 

「フィン、何か気になるのか?」

 

 

「あぁ。少しだけ敵の真意が変わった。そんな気がしてね。」

 

 

「先日も似たようなことを言っておったろう。何か変わったのか?」

 

 

「奥底にある『意図』とやらは変化していない。これだけは言える。ただ、その意図に思いがけない()()がぶつかった。そんな所じゃないかな。」

 

 

「??」

 

 

「これはあくまで僕の想像の域を脱しない。それを大前提として聞いてくれ。」

 

 

「お前の『想像』ほど宛になるものは無い。違うか?」

 

 

「彼らにとって予想外であり、()()()()()()()()()()()()()》が起きたんだと思う。それも、僕たちにとって脅威足りうる存在のね。」

 

 

 

 

 

『大抗争』まで後5日

 

 

 

 

・・・・

 

 

「ありがとうお兄ちゃん!」

 

 

「次からは気をつけるんだよ。」

 

 

血が滲み出ていた膝に包帯を巻いて簡単な処置を施し、注意を促した後に走り去っていく少女に手を振る

『巨悪』に手を貸した上で誰かを助けるのは不思議だと問われればそれまで

単に放っておけなかった。それだけなのかもしれない

 

 

「あらあら、感心なことですねぇ。」

 

 

「・・・?えーっと貴方は確か【アストレア・ファミリア】の・・・」

 

 

振り替えればそこには他の人とは変わった服装を着た黒髪の女性

 

 

「わたくし達のことをご存知とはうれしゅうございますね。」

 

 

うわぁ絶対思ってないよこの人

『しゃこーじれい』ってこういう事だよ多分

 

 

「それで、何か用ですか?わざわざ褒めるためだけに来たわけでは無いでしょう?」

 

 

「いえ、そんな大したことではありませんわ。ただ・・・」

 

顔に張りつけた笑顔は1ミリも崩さない

こわいよこの人

邪神より怖いよこの人

 

 

「わたくしは貴方のような冒険者を見たことがございません故・・・一体どこからいらしたので?」

 

 

笑顔は崩さない、それでも奥底には拒否権はないと固い意思がみられる

やはりというか、この人()()()()()

 

 

「生憎と僕は外の『ファミリア』所属で。それもそこまで有名じゃないので話したところで貴方の真意に応えられるかどうか・・・」

 

 

「【アストレア・ファミリア(わたくしたち)】の知らない様なファミリアですか。興味深いですわね。」

 

 

こ、口角まで吊り上げてる!この人絶対楽しんでる

そ、そうだ!こういう時はこう応えろってエレボス様から教えてもらったんだっけ

 

 

「へ、【ヘスティア・ファミリア】です。」

 

 

「ほぉ・・・確かに存じ上げませんね。それでは、押し問答はここまでにしときますね〜。」

 

 

そう言って1人来た道を彼女は戻っていく

 

 

「今のところは敵ではないとだけ判断しときます〜。またお互いに生きてあえるといいですね〜。」

 

 

やはりというか、彼女が誰なのか、まともな情報は分からなかった

 

 

ただ、良くも悪くもいい付き合いはしないだろう

それだけは言えるのだった

 

 

・・・・

 

 

「一つだけよろしゅうございますか?アストレア様。」

 

 

【アストレア・ファミリア】本拠『星屑の庭』

巡回から帰ってきていたメンバーは、遅れて戻ってきた輝夜を見てひとまず安堵した

 

 

「ヘスティア様という神様をご存知でございますか?」

 

 

「ヘスティア?もちろん知ってるわ。『アテナ』、『アルテミス』に並んで3代処女神が1柱で、神格者としても天界(あちら)では有名なのよ?」

 

 

「ではその女神様が【ファミリア】を創ったという情報は?」

 

 

「ファミリア?そんなはずないわ。彼女が降臨したなんて話、聞いた事無いもの。」

 

 

「それは本当ですか?」

 

 

「えぇ。彼女の神友の『へファイトス』も『アルテミス』からも話は聞かないもの。」

 

 

「どうしたんだよ輝夜、何の話してるんだ?」

 

 

「その【ヘスティア】様でしたか?その女神様がどうかされたので?」

 

 

輝夜の周りに他の眷属も集まってくる

 

 

「いえ、ありもしない【ヘスティア・ファミリア】所属と騙る男子と出会った。それまでの話です。」

 

 

「確かに変ね、実在しないはずのファミリアの子供ね〜。」

 

 

「具体的にどんな特徴だったのですか?」

 

 

「そうですねぇ。一言で言ったら『アルミラージ』。ですかねぇ。」

 

 

「・・・ふざけているのですか輝夜。」

 

 

「あくまで見た目の話。白髪のヒューマン、わたくしにはどうにもきな臭くてたまりませんわ。」

 

 

「その子、もしかしたら私たちも会ってるかも・・・ねぇ?リオン。」

 

 

「白髪のヒューマンでしたら確かに先日お会いしました。名前は確か・・・イアンだったかと。」

 

 

「うーん、この情報量じゃ判断できないわね。明日、一応他の【ファミリア】にも伝達はしておくわ。それじゃ、みんな揃った事だし反省会始めましょう!」

 

 

・・・・

 

 

「どうしてこんなことに・・・」

 

 

ぼくはその夜、ふらふらとなんの気なく散歩をしていると1つの廃教会にたどり着いていた

全体的に廃れ、入口の扉は枠から外されよく取り壊されないものだと関心するほどだった

 

 

「おじゃましまーす・・・」

 

 

誰もいない

 

 

そんなことはわかり切ってはいるものの、言ってしまうのは仕方のない事なのだ

扉という役割も果たせていないような入口をくぐると、これまた所々外見からの期待も裏切らない有様だった

 

 

唯一期待はずれだったのはやけに()()()()()点だった

 

 

生活感は一切ない

まず間違いなくこの教会は無人のはず

それなのに、瓦礫やホコリがところどころあるだけ

 

 

まるで、()()()()()()()()()()()()()()()()()ためにわざと残してる様なものだ

なぜ、こんな手間をかける必要があるのかその答えはそこにあるのだろうか

 

 

などと思案しながら月光の差し込む奥の方に足を進めていく

 

 

「うわぁぁ!?人が倒れてる!?」

 

 

光の当たる床に、白い服で頭まで覆った人達に頭は覆わないものの、口周りを覆っている人達、それともう人グループ

オレンジと白の服を着てなぜか仮面を付けた人達

 

 

2人ほど違う服を着ているけど多分この仮面の集団達の仲間・・・だよね?

それと1人、知己がいることに気づいた

 

 

「誰だっ!」

 

 

「い、いえ!僕は決して怪しいものではなくて・・・」

 

 

1人、青い服を着たアーディさんとは別の女性が立ち上がる

 

 

「ならば何故ここにいる!」

 

 

「えっ、えーっと・・・偶然?」

 

 

「(闇派閥(イヴィルス)とは無関係なのか?それならば何故廃教会(このような場所)をわざわざ訪れる?奴らが取引場所として使うくらいだ。先の女といい、何故こうも人を惹きつける?)」

 

 

「そ、それじゃあ無事みたいですし僕はこれで・・・」

 

 

「待て!逃がすと思うのか!」

 

 

獲物を握る手が小さく震えている

よほど受けたダメージが大きかったのだろう

 

 

「応えろ、お前は何者だ?なぜここに来た?」

 

 

「・・・今はイアンとだけ言っておきます。」

 

 

「イアンだと?聞いたことがないな。」

 

 

「ははは、それは僕が()の人間だからでしょう。観光気分だったのにこの有様。僕だって無闇矢鱈に喧嘩ふっかけるほど馬鹿じゃないですし。 何より・・・」

 

 

彼女の方を向いたまま後方の扉へと後退する

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「逃がすかっ!」

 

 

「・・・手は出したくないと言ったのに。」

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴオオオオオン

 

 

 

 

 

 

静寂に包まれた夜の帳は、1人の手によって引き裂かれた

 

 

 

 



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汝は正義なりや?

「それで?輝夜はどうしてその子が気になったのよ?それも、相手は男の子なんでしょ!?ついに輝夜にも春が訪れたのよね!」

 

 

アストレアへの報告と反省会を終え、いざ散会になるかと思った時、アリーゼによって引き止められる

 

 

「団長、わりぃーがそれだけは無いと思うぜ。」

 

 

「私もライラに同感だ。」

 

 

「あらあら〜?そんなにわたくしが男子に興味を持つのが珍しいですか?どこかの糞雑魚妖精(ポンコツ)と比べたら十分なほどには興味くらいは持ちますわ。」

 

 

「わ、私はポンコツなどではない!」

 

 

「それではお言葉ですが、異性どころか同性にさえ触れられない潔癖で高潔で下ネタなど無縁だとすまし顔のエルフ様に言われたくないと申し上げているだけですわ。」

 

 

「き、貴様ぁ・・・!」

 

 

「でもまぁ、団長の言ってることも確かだけどな。輝夜ってリオンとは違った意味で男と無縁そうだもんなぁ。」

 

 

「まぁ大半は女性だけのメンバーってのが大きいんだけどねー。」

 

 

「そうですね、そういった類の話はライラくらいでしょうし。」

 

 

「だから何度も言ってるだろ?『勇者』とはそういった関係じゃねぇって。」

 

 

「まぁいいじゃない!生きていれば誰にだって恋は訪れるわ!平等にね!それより私はその子の何処に惹かれたのか気になるわ!」

 

 

「相変わらず人の話を聞かない団長ですこと。そうですねぇ、強いてあげるとするなら、()()()()()()ですねぇ。」

 

 

「綺麗ってのは服装とか身だしなみとか?」

 

 

「「「・・・・」」」

 

 

「ジョーダンよジョーダン!」

 

 

「こんなアホは置いといて、続けてくれ。」

 

 

「穢れを知らないと言えばよろしいですかねぇ。『悪』を知らないそれこそ雪のような髪のような純白。オラリオ外でさえ『悪』に怯えるこの時代を本当に生きているのか直接聞きたくなるほどですわ。」

 

 

「悪を知らない?前向きに生きているとかそういう事じゃ無くて?」

 

 

「『悪』でも私たちのような『正義』でもありません。まるで世界の上っ面だけを歩いて生きてきたかのような真っ白さ。それこそ、ぶち壊して粉々に(現実を叩きつけて)しまいたくなるほど。」

 

 

「おーこっわ。着いていかなくて助かったわ。」

 

 

「それじゃ、これでお開きにしましょ!明日だってやることはあるんだから!それと輝夜はその子を見かけてもちょっかいかけちゃダメよ!まだ彼が味方なのか敵なのか分からないんだから。」

 

 

「あらあら〜、わたくしは最初から手を出すつもりはありませんでしたよ?」

 

 

「念の為よ念の為!それじゃおやすみ!」

 

 

・・・・

 

 

「我が主神、一つだけ至らぬ点がございます。」

 

 

「どうした?」

 

 

「いくつかの彼の蛮行によって彼の強さはよーく理解出来ました。ですが何故あのような未熟者を?」

 

 

「ほほぅ…あれを見た上でまだ未熟だと呼ぶか。何が気に食わない?」

 

 

「えぇ、えぇ。勿論身体的能力は理解しました。彼らに遅れを取らぬ十分すぎるほどの力でございましょう。ただ・・・」

 

 

ヴィトーはその顔を変えないまま一呼吸おいてまた喋り出す

 

 

「精神論は苦手なのですが、どうも彼と我々は対極・・・いや、ねじ切れた位置にいる。そんな存在に思えます。」

 

 

「つまり、あの少年には荷が重すぎると?」

 

 

「私の瞳でも理解できました。彼は本来我々とは敵対・・・いえ、そもそも関わることのなかった存在です。なぜ彼を迎えたのですか?」

 

 

「んー、人助けってとこだな。」

 

 

「自称『絶対悪』様の我が主神が慈善活動(いいこと)をなさるとは、明日は血の雨でも降るのでしょうかね。」

 

 

「ハハハッ、お前が言うと本当に降りそうだな。後は、そうだな。神として純粋な好奇心(ワクワク)かな。アイツを見た時から今回の戦争に巻き込んでみたくなった。それだけだ。」

 

 

「なぜ神様というのは子供に『酷』な事を強いられるのがこうも大好きなのでしょう?眷属こそ神の保護者なのではと、つくづく考えさせられますねぇ。」

 

 

「そう言ってくれるな。(俺たち)は娯楽に飢えてるんだ。」

 

 

「やれやれ・・・我々はあくまで神々の喉を潤す玩具に過ぎないわけですか。」

 

 

「そういう神もいるってだけの事だ。それこそ『膝枕されな()がらヨシヨ()シされたい()ランキング()堂々の一位()』辺りとかは例外だろうな。」

 

 

「・・・」

 

 

「そうだなぁ、俺よりも神友(ヘルメス)に比べたらまだ優しいと思うぜ?」

 

 

「そういう事にしときましょう。」

 

 

「あぁ、そういう事にしといてくれ。」

 

 

・・・・

 

 

オラリオが哭いている

慟哭は聞こえず、ただ悪意に満ちる民衆を嘆くかのようにこの日は灰色の雲におおわれていた

我こそ民衆の代弁者だと言わんばかりに涙のような大雨が降り続いている

 

 

英雄は堕ちた

 

 

オラリオはこれより闇に包まれる

希望は潰えて絶望が都市全体に渦巻くであろう

 

 

その時、人はどうなる、神は?ダンジョンは?

 

 

絶望に泣き、全てを放り投げ無力だと喚くのか?

それとも僅かな希望にかけ、全てをなげうってでも悪を払うため動くのか?

 

 

彼らが何を選びどう動こうと、得る結果はひとつだけ

 

 

我が問いに応えよオラリオ

 

 

一つだけ大きな課題を与えよう

 

 

その答えにたどり着いた時、またひとつ大きな歴史が動くであろう

 

 

なぁ、歴史の語り部(冒険者たち)よ、その目でしかと見届けよ

 

 

これから始まる『邪悪』を

 

 

冒険者は蹂躙される、より強大な力によって

貴様らが『巨正』をもって混沌を退けようと言うのなら

我らもまた『巨悪』をもって秩序を壊そう

 

 

 

 

 

 

-脆き者よ、汝らの名は『正義』なり

 

 

 

 

 

 



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闇派閥対策会議

「・・・」

 

 

「こんなタイミングで聞くタイミングじゃないんだけどな。」

 

 

あの日の夜、エレボス様から呼び出された

 

 

「なぁ、本当にいいのか?」

 

 

「誘ってきたのは貴方からでしょうに。」

 

 

「ザルド達にも言ったが、最終確認というやつだ。特にお前はあの二人と違って雪崩式に参加する形となった。しかも記憶喪失のお前をだ。神にも罪悪感はあるもんだ。」

 

 

「正直、僕が貴方達に拾っていただいた前の記憶は何も思い出せません。自分が何をやっていたのか。どこにいたのかも。もしかしたら『悪』に手を染めたことに後悔することがあるかもしれません。」

 

 

瞼を閉じれば、思い浮かぶはオラリオに住む人達の様子

悪の脅威に怯えながらも、日々を過ごしている人達

そんな彼らを守りながらも楽しく過ごす冒険者たち

 

 

これから僕達が壊そうとしている彼らの日常が流れ込んでくる

 

 

「でも、これだけは絶対の自信を持って言えます。」

 

 

「ほう?」

 

 

「彼らに着いてきたこと。それだけは胸を張ることは出来ます。」

 

 

「悪いな、お前らに罪を被せる形になってしまって。」

 

 

「誘ってきたのは神様でしょうに。」

 

 

「ククク、あぁそうだな。なぁに、俺も手を抜くことは無い。全力で立ち向かってくれ。」

 

 

「はい!」

 

 

・・・・

 

 

「今日まであった事件、及び伝達事項はこれくらいかな。誰か、他に共有しておきたい情報はあるかい?」

 

 

オラリオの各【ファミリア】代表が1つの部屋で席を囲んでいる

ギルドの最高権力者であるギルド長ロイマンを議長として定例の闇派閥(イヴィルス)対策会議が開かれていた

 

 

最初こそ【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】のいざこざで険悪な雰囲気だったものの、アリーゼの一言で収まっていた

 

 

「・・・我々も『倉庫』制圧の際、素性不明の女1人と男1人と遭遇した。両者共に魔道士、あるいは魔法剣士だと思われる。直接の被害はなかったものの、女の方は私を含めた総勢三十の団員が手玉に取られた。」

 

 

【フレイヤ・ファミリア】の報告を受けたシャクティが続けて報告に入った

 

 

「【ガネーシャ・ファミリア】を一人で?どこの所属の魔道士だ・・・」

 

 

「それで?もう1人の男の方は何かあるかい?」

 

 

「はっきり言って女以上に掴みづらい男だった。わざわざ我々の前に現れたと思えば、私と鉢合わせになった途端退こうとした。追いかけようとするも、こちらは一撃で鎮められてしまった。手負いだったとはいえ不覚だった。すまない。」

 

 

過去の強豪共(オシリス・ファミリア)の件もある。第一級冒険者並みの戦力を隠し持っていた可能性は捨てきれんのう。」

 

 

「・・・後者の2人はともかく、前者の戦士が闇派閥(イヴィルス)に与している可能性は高い。各派閥、独断行動は避けるようにしてくれ。」

 

 

「私からも1つ良いかしら。」

 

 

「何かな?」

 

 

「昨日、輝夜がイアンって子に会ったらしいの。」

 

 

「【イアン】?そういえば私と対峙した男もイアンと名乗っていた。」

 

 

「彼は自分を【ヘスティア・ファミリア】所属だと名乗っていたそうよ。」

 

 

「【ヘスティア・ファミリア】?聞いたことないファミリアだね。」

 

 

「えぇ。アストレア様に聞けば、ファミリア以前にまだ地上に降臨さえしてないそうよ。」

 

 

「それは本当かい?」

 

 

「えぇ。そのヘスティア様の神友であるへファイトス様に念の為もう一度確認したわ。でも、結果は変わらなかったわ。」

 

 

「とは言っても、わたくしたちの邪魔をしているわけでもなく、けが人の手当など、敵だと判断しきれる材料がなかったもので保留とさせていただいていましたが、『倉庫』襲撃の件もふまえると敵さんと思っておくべきかと思います。」

 

 

「そうか、ありがとう。皆彼らにも十分警戒するよう伝えておいてくれ。彼らに目立った動きが無いとはいえ、警戒するに越したことはない。くれぐれも1人でち向かう事のないように。」

 

 

フィンの一言で、その場全員が無言で頷く

 

 

「さて、最後になるが・・・『本題』に入る。【ヘルメス・ファミリア】の偵察によって、闇派閥(イヴィルス)の新たな拠点が見つかった。」

 

 

 

 

『大抗争』まで、あと3日

 

 

 

 

・・・・

 

 

「ギルドの内通者から報告が入った。敵の掃討作戦は・・・3日後。」

 

 

「ハハッ!でかしたぜ!あの(アパズレ)闇派閥(イヴィルス)の『信者』様々ってな〜。」

 

 

ダンジョンのとある一角、そこにオリヴァスとヴィトー、ヴァレッタが集まっていた

 

 

「敵の懐に潜り込ませてから何の報告もさせねえ、一度っきりの『密告』。5年前から仕込んでた甲斐あったぜ〜。」

 

 

「フフ、間者を放ってきながら今日まで連絡を絶っておくとは・・・普段は型破りそのものの癖に、随分と辛抱強い1面もお持ちですね。」

 

 

「ば〜か。ここぞって時に切るから『切り札』っつうんだよ。ましてや、フィンはもとより神々を出し抜くんだ、怪しい真似して目をつけられた時点で、嘘なんて見抜かれる。なら目につかねえほどコソコソさせるしかねぇだろ〜。」

 

 

「それよりも『顔無し』、てめえの主神はどこに行った?計画の発起人だろうが。」

 

 

「さてさて、あの方も御多分に漏れず神なので。今も一人でふらついてるのではないでしょうか?」

 

 

「ちッ、黒幕は黒幕らしくイスの上にふんぞり返ってやがれ。落ち着きがねぇ。まぁ、いい・・・」

 

 

ヴァレッタは奥に佇む3()()を見据える

 

 

「・・・っつぅーわけだ。『宴』は三日後。準備をしといてくれよ?『本当の切り札』さん方よぉ。」

 

 

「細かいことは関知せん。その時になったら呼べ。どうせこの身は戦場でしか役に立たん。・・・それまでは、腹を空かせておく。」

 

 

「フフフ、百を語らず一刀のみで存在を証明する戦餓鬼・・・恐ろしい御仁がいたものです。」

 

 

「てめえらがいねえと話になんねえからなぁ。あの出鱈目な猪野郎と、道化の連中をぶっ潰して ー」

 

 

五月蝿(うるさ)い。」

 

 

「は?」

 

 

「耳障りを通り越して汚泥そのものだ、貴様の声は。気分が悪い。吐き気がする。今すぐ口を閉じろ。」

 

 

「こ、この女ぁ・・・!」

 

 

「私は粛々と利用されてやる。ならば貴様等も、黙って利用されろ。」

 

 

「その辺にしておけ。我々は既に同志。目的は違えど、辿る過程を同じくする者なのだから。ついに、我が主神の念願叶う時・・・オラリオの崩壊はすぐそこだ。」

 

 

「すまん、少しだけいいか?」

 

 

「おいおい、随分と自由にやってくれてるじゃねえか神様よォ。」

 

 

「すまないすまない、ちょっとオラリオ観光に勤しんでたら帰れなくなっちゃって。」

 

 

「ある程度の作戦は伝達済みです。発起人である我が主神がどこで何をしようと問題はありません。」

 

 

「酷いなぁ、もっと主神である俺を敬ってもらっても良いんだぜ?」

 

 

「貴方が主神らしくあれるのであれば考えないこともありませんが。」

 

 

「そんなことはどうでもいい。わざわざ何をしに来たんだよ。おちょくりに来たわけでもねえんだろ?」

 

 

「あぁ、そうだな。ヴァレッタ、お前の担当箇所イアンと変わってくれないか?」

 

 

「あぁ?私じゃフィンとは張り合えねぇってのかよ?」

 

 

「そうじゃない。ただ、彼のバージンくらい華々しく飾ってやりたくてな。それに多分だが、フィンはそこには来ないぜ?」

 

 

「根拠は?」

 

 

「ただの勘さ。なに、その場所意外ならどこでも構わないさ。」

 

 

「けっ、癪だが今回は神様の勘とやらに賛同してやるよ。算段は変わんねえな?」

 

 

「あぁ。大いに暴れてくれて構わない。全ては3日後オラリオは絶望に堕ちる。」

 

 

「ヒャハハハハッ!待ってろよオラリオの冒険者共!もうすぐ血で真っ赤に染めてやるからなぁ!」



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神は静かに笑う

「・・・アーディ、踊る前にもう一つだけよろしいでしょうか。」

 

 

「どうしたの〜?」

 

 

「貴方も耳にしているでしょう。白髪の少年のことを。」

 

 

「うん。お姉ちゃんも襲われたって言ってた。」

 

 

「・・・!?そうですか。」

 

 

「私はその時気絶しちゃってたから絶対じゃないけど、イアン君と考えてる。」

 

 

「そうですか・・・」

 

 

「リオンは彼と戦うのは嫌?」

 

 

「嫌というわけではない。彼がどんな方であろうと、悪である限り倒す。それだけです。」

 

 

オレンジに染まる夕日はオラリオ全体をオレンジに染めあげ、2人を照らし出す

 

 

「そっかぁ・・・私もリオンと同じ。本当は彼と戦いたくなんてない。お姉ちゃんを襲ったのだって何かの手違いだって考えちゃう自分がいるの。」

 

 

闇派閥(イヴィルス)は時に極悪非道な手に撃って出る事もあります。彼の性格に限らず、敵である事は火を見るより明らかなのも分かっています。それでも・・・」

 

 

終始暗い顔の絶えないリューにアーディは笑顔を絶やさなかった

 

 

「会議の後も、私は彼に関する情報を集めていました。彼に対する印象を無理にでも変えたかったのか、それとも心のどこかで彼を庇っていたのかは自分でも分かりません、」

 

 

「うんうん。それでそれで?リオンなりの答えは出たの?」

 

 

リオンは黙って首を横に振った

 

 

「むしろ逆効果でした・・・彼と関わった人達から返ってきた言葉は全て彼を褒め称える言葉ばかり。それ以上は何もわからずじまいでした。」

 

 

「そっかぁ・・・」

 

 

「彼と関派閥の関係はまだ分かりません。ただ、彼の評判を聞く度に彼の全てを疑ってかかる私自身に嫌気がさします。」

 

 

「それは仕方ないよ。みんながみんな疑いだしちゃったら上手くやってけないもん。」

 

 

「彼の慈善活動さえ裏があるのではないかと疑ってしまう・・・」

 

 

「うん!やっぱりリオン、踊っちゃおう!今、ここで!」

 

 

夕日は全てを映し出す

道の真ん中で踊り始めた2人の笑顔も

彼らを見つめる人々の姿も

2人につられて踊り出す人々の姿も

 

 

そして、街に潜む悪意すらも

 

 

明日、開戦の火蓋が切って降ろされる

 

 

 

 

 

『大抗争』まであと1日

 

 

 

 

・・・・

 

 

【ガネーシャ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】が拠点前にて臨戦体制に着いていた

闇派閥が拠点していると考えられていた3箇所の内の1箇所

 

 

「団長、全員配置についた。」

 

 

「そう、わかったわ。敵には気付かれていない?」

 

 

「現状、そのような気配はない。・・・逆に静かすぎて、何かあると勘繰りたくなるほどだ。」

 

 

「そう・・・でも、行くしかないわ。今日、何としても闇派閥の拠点を落とす。」

 

 

「アーディ・・・」

 

 

「なに、リオン?」

 

 

「・・・いえ、勝ちましょう。」

 

 

時は来た、『正義』か『悪』か、勝つのは一方のみ

この時だけは気まぐれな女神も目を開いて注目することだろう

 

 

『正義』が勝とうが『悪』が勝とうが、間違いなくこの日は後にも先にも語り継がれるだろう

良くも悪くもここが歴史の転換点

 

 

どちらに大きく傾こうとも歴史は心無くただひたすら時を刻み続けるであろう

天界の神よ、オラリオ外の神よ、これから起こるは誰も語り継がぬ3人の『英雄譚』が1ページだ

 

 

「時間だ。」

 

 

「-突入。」

 

 

幕開けは非常に静かなものだった

【勇者】の一言を皮切りに3箇所の拠点で冒険者達が突入していく

 

 

 

 

『大抗争』、始動

 

 

 

 

一 時は来た 一

 

 

 

 

神は、静かに笑った

 

 

 

 

「・・・よく来ましたね。」

 

 

「やっぱり、闇派閥の仲間だったのね。」

 

 

「やっぱりも何も、僕は最初からあちら側でしたよ?」

 

 

「そうね。これ以上は話してても仕方ないわ。今からあなたを捕まえさせてもらうわ!」

 

 

 



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正義とは何か

「ぐあああああ!!!」

 

 

「施設を制圧するわ!ネーゼ、マリュー!イスカ達を連れて散って!私達本隊は奥まで行く!」

 

 

制圧作戦は不気味なまでに静かすぎた

闇派閥の悲鳴も、各所から聞こえてくる金属音も

彼らを制圧せんとする冒険者たちの掛け声も

まるで嵐の前の静けさだと言わんばかりにただただ静かに冒険者たちを迎え入れていた

 

 

「1人たりとも逃すな!全員無力化し、捕縛しろ!」

 

 

闇派閥は1人ずつ捕らえられていく

状況的にも闇派閥側が不利なのは目に見えているはずだった

押しているのはこちら側なのに目に見えない不安によって焦燥感だけが増していく

 

 

「通路奥!後は上!来んぞ!」

 

 

「任せて!」

 

 

「青二才、右をやれ。逆は私が仕留める。」

 

 

「言われなくとも!」

 

 

彼女達は極めて冷静だった

ある種の不安感を抱きながらも確実に制圧していく

 

 

「-【ルミノス・ウィンド】!」

 

 

リューが放った魔法によって次々に闇派閥が吹っ飛ばされていく

 

 

「魔導士でもねえのに相変わらず馬鹿げた砲撃!敵もあらかた吹っ飛ばしたし、こりゃ楽勝だぜ-と言いてえが。」

 

 

「あぁ、()()()()()()()()()()。」

 

 

「やはり罠をこさえているか。敵の拠点であるなら防衛手段の存在は然るべきではあるが・・・」

 

 

「だとしても作戦続行よ!相手も既に施設内の人員を大勢失ってる!このまま最後まで畳み掛けるわ!」

 

 

それでも彼女達は止まらない

例えその先に待つのが地獄だとしても彼女達に撤退という選択肢は存在しない

 

 

「・・・!道が開ける!最深部!」

 

 

長く続いていた道がの先に開けた広場に突入する

彼女たちを待ち受けていたのは闇派閥の幹部ではなく、彼女達と認識もあるイアンだった

 

 

「やぁ、いらっしゃい。」

 

 

彼女達の奇襲に驚きもせず、笑顔で向かい入れる白髪の少年

その笑顔に含みは無かった

ただ純粋に笑顔で歓迎しようとした上での笑顔であった

 

 

「貴方はやはり・・・」

 

 

「意味の無い押し問答は辞めましょう。どうせ【勇者】達にも知れ渡っているのでしょう。」

 

 

「・・・ひとつだけ聞かせて。」

 

 

臨戦態勢の中、様子見から入った両者に長い沈黙が生まれる

それはアリーゼによって破かれる

 

 

「貴方が私たちの敵ということは理解したわ。でも、一つだけ腑に落ちないことがあるわ。貴方はどうしてオラリオの人達を助けるような真似をしたの?」

 

 

アリーゼ達がイアンと初めて遭遇したあの日から、今日に至るまで

少なくともアリーゼ達が分かっている点での彼の行動は全て慈善活動と呼べるものだった

怪我している人あらば簡易的ではあれど駆け寄り手当を施し

腹がすいた子供あらば懐から分け与える

 

 

誰がどう見てもお人好しな素性のしれない良い人だった

それがどうして闇派閥と手を組んでいると思おうか

 

 

「・・・愚問ですね。」

 

 

彼は笑った

 

 

「僕が彼らを放っておけなかった。それだけです。何かおかしいですか?あなた達も似たようなことやっているでしょう?」

 

 

「・・・」

 

 

「それとも、『悪』は人助け(いいこと)をしちゃいけないとか言う理不尽を押し付けるわけじゃないでしょう?」

 

 

「分かってるの?あなたが助けていた人達をこれから貴方は傷つけることになるのよ?」

 

 

「先のことを考えてまでする人助けに()()なんてあるんですか?」

 

 

「・・・分かったわ。ありがとう。」

 

 

「それにしてもフィンさんはいませんね・・・本当にあの神の勘はよく当たる。それにしても大分お早いご到着なご様子で。まさに電光石火の早業ですね。」

 

 

妙に間隔の長い拍手とともに賞賛を送るイアン

 

 

「言葉と顔が一致してねーぞ。薄っぺらい芝居くらい隠しやがれ。・・・何を隠してやがる」

 

 

「そうですね・・・この後の展開でしょうか?」

 

 

「施設内は制圧した!兵士もほとんどを捉えている!大人しく投降しろ!」

 

 

「もうちょっと喋っていたいんだけどなぁ・・・もういいよ、君たち退散しちゃって。」

 

 

「で、ですがイアン様!ここで貴方様を失うわけにわ!それに我々にはまだ()()が!」

 

 

「やはりと言うべきか、伏兵がいましたか。」

 

 

「.しかも結構な数だよ!」

 

 

「安心してください、彼らは隅っこで見学してるだけですから。」

 

 

「随分と余裕そうだな。この数を相手に1人で相手にするつもり!?」

 

 

「もとよりそのつもりでした。生かさず殺さず遊んでやってくれ。これがあの神からの伝達でした。」

 

 

相変わらず浮かべ続けるその笑顔に少しだけ含みが生まれた

 

 

そんな気がした

 

 

「おやおや、随分と私達を舐め腐っておいでのご様子で。」

 

 

「気ぃ抜くなよ。やつは実力者だ。それも恐らくは幹部と同等。考えたくもねえが最悪それ以上だってあるんだからな。」

 

 

「えぇ、そうね。でも、やるしかないわ。」

 

 

「始めましょうか。結果はどうあれ、この戦いはあくまで序章に過ぎないことを遅かれ早かれ気付くでしょう。」

 

 

そう言って彼はロングナイフを取り出し構える

 

 

「へぇ、ちゃんと良い武器持ってんじゃん。」

 

 

「なんだかんだで気にいってるんです。この武器。」

 

 

一対多数による戦闘は言わずもがな有利なのは多数派だ

多勢に無勢という言葉があるように、数の暴力とは時に実力をもひっくり返せる要因になる

そこに駆け引きや単純な実力差、フィールド等々の原因によってその有利不利はいくらでも変えられる

まさに今がその状況だった

 

 

数で勝るといえど、考え無しに突っ込むのは愚策でしかない

正確な指揮下で動いてこそその力は十二分に発揮されるのだ

 

 

「ぐっ、決して油断はしたつもりはありませんがまさかここまで強いとは!」

 

 

「あまりにも戦い慣れすぎている。不利な対面は避けつつも確実にこちらの戦力だけを削ぎ落としている!」

 

 

彼を捉えるべく、時に2人、はたまた3人で絶え間なく攻撃を図るものの全ていなされ、1人また2人確実に戦線離脱(リタイア)させることで着実に戦力を削っていく

 

 

驚くべきはその精度、ロングナイフを器用に使い、向かってくる攻撃を逆に利用することで上手く捌いていく

 

 

「このままではジリ貧になる一方だ。何かほかに策は無いのですか!」

 

 

「喋ってい余裕があるならその高貴な頭をお使いになってその策とやらを捻ったらいかがです?」

 

 

こんな状況下でも口喧嘩の絶えない2人は相変わずと言うべきか

それとも焦りを隠すための行動なのか

 

 

「素晴らしい剣戟ですね!こんな状況でなければずっとこれからも受けていたいくらいです。」

 

 

「よく言うぜ、その全てをいなしながら素早く一撃加えてる時点で嫌味だっつぅの。」

 

 

「僕は褒めてるんですよ。純粋に。」

 

 

「けっ、そうかい。」

 

 

それでも上級冒険者になってくるとお互いに一撃が出ない近郊状態に陥ってくる

 

 

「・・・何を企んでやがる。」

 

 

「何がですか?」

 

 

「とぼけるんじゃねぇ。フィンほど確実性はねえが、嫌な予感がすんだ。」

 

 

「・・・そうですね。答えはYesとでも言っておきましょうか。」

 

 

「案外あっさりだな、もう少し粘ると思ってたんだがな。」

 

 

「ここで嘘をついても仕方ないでしょう。いずれにせよあなた方に何ができるとも思えませんし。それともうひとつ、あなた方はひとつ勘違いをしていらっしゃる。」

 

 

「どういう事だ!」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

彼はより一層不気味な笑顔を浮かべる

その時

 

 

 

 

ドゴォォォォォンッ!!!

 

 

 

「お待たせしました。ここからが本番です。」

 

 

長い長い7日間の戦争の火蓋が切って落とされる

 

 

 



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最近、同じような夢を見る

顔は暗くて見えない、声も名前も知らない誰かが僕に向かって知らない名前をち呼びかけてくる夢

 

 

『ベル君!』

 

 

『ベル殿!』

 

 

『ベル様!』

 

 

『ベル!』

 

 

『ベル様。』

 

 

『ベル。』

 

 

名前も顔も、声も知らないはずなのにどこか懐かしさを感じていた

瞼を閉じていても、耳を塞いでも流れてくるその声にどこか懐かしさを感じていた

 

 

『君たちは誰?』

 

 

『おいおい、僕たちを忘れたのかい?しょ〜がない子だね君は〜。』

 

 

『仕方ありませんよ--様。これは夢の中ですから。』

 

 

『しれっとメタいことを言うな・・・』

 

 

『貴方はいずれ私達のことを思い出すことでしょう。それは貴方にとって最も苦痛でありそしてくぐり抜けるべき試験です。これだけは覚えておいてください。』

 

 

『そ、それであなた達は一体?』

 

 

『大丈夫です。ベル様はいずれ知ることになります。』

 

 

『あぁ、そうだな。俺たちのことはまだ知らなくていい。』

 

 

『そうですね、もう()()ですし。』

 

 

気づけば周囲の人達は足元から消えていく

 

 

『最後だ、後悔のないようにな!』

 

 

「・・・」

 

 

僕を囲っていた人達が完全に消失すると僕の意識は現実に引き戻される

見覚えもないし誰ひとりとして僕の名前を呼んではくれなかった

ただ1人、見覚えのある人がいた

僕たちがこれから相手にしようとしている冒険者のエルフの人

 

 

「起きたか。」

 

 

「アルフィアさん?」

 

 

「他に何に見える。」

 

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 

「謝るくらいならその雑音を消すことだ・・・と言いたいが少し付き合えるか?」

 

 

「はっはい。」

 

 

「そう緊張するな。別に今すぐ物言わぬ塵芥に変えようと言ってるわけじゃない。」

 

 

灰色の髪で黒いドレスを身にまとった女性

それがアルフィアさんだった

黒いドレスに身を包んでいてる

 

 

「ゼウス様から聴きました。倒れていた僕を介抱していただいたのはアルフィアさんだと。」

 

 

「・・・あの好々爺め。余計なことを。」

 

 

「応えてもらわなくても構いません。ここから先は僕のわがままにすぎません。雑音だと切り捨ててしまっても構いません。これは僕の独り言ですから。」

 

 

彼女から返答はない

無言の肯定と解釈して僕は続けていく

 

 

「あの日、僕がアルフィアさんと初めて出会った時。何故かどこかで会ったようなそんな気がしたんです。」

 

 

ポツ、ポツとゆっくりと言葉をこぼしていく

誰に語るでもない、口の中に溢れ出る言葉をぽつりぽつりと落としていく

そんな感覚だった

 

 

「エレボス様から全てを聞いたあの時、彼の案に乗ることの意味を理解できないわけじゃ無かった。それでも、着いていかない選択肢はありませんでした。」

 

 

「後悔してないか?」

 

 

「いいえ。以前の僕とオラリオに何らかの因果があろうと僕はあなた達と手を取ったことを胸は張れなくたって後悔だけはしません。」

 

 

「本来ならば親として先の長いお前の芽を潰す様な愚行を止めるべきなのだろうが・・・何故だろうな、私はお前と共に戦うことを何よりも望んでしまっている。そんな私をお前は嗤うか?」

 

 

「いいえ、まさか。初めて邂逅を果たしたあの時、僕は貴方に懐かしさを感じました。昔どこかで会ったのではなく僕はあなたの優しさを、温もりを僕は知っている。」

 

 

「・・・ヘマはするなよ。」

 

 

「はいっ!」

 

 

アルフィアさんには言わなかったけどもうひとつ、僕は夢を見た

たくさんの人達に囲まれる夢とは全く違う

旅人のような格好をした男性に連れられてどこかのお墓を訪れる夢

 

 

他のお墓から離されていてかつみずぼらしいお墓が三基

明らかに他のお墓とは扱いが雑だと分かる

そんなお墓に目の前の男性は用があるのだという

 

 

『・・・他の子達と一緒にしたら、絶対に怒るからなぁ。』

 

 

彼は『誰が』とは言わなかった

それは今を生きる()()なのか、それとも共に眠る()()なのかはたまたここに眠る()()なのか

 

 

『・・・ベル君、オレは今日、君に出会えて『運命』を感じてる。だからじゃないが、この二輪の花、君が手向けてくれないかい?』

 

 

そう言うと彼は僕に花束を手渡してきた

彼もまた僕のことを『ベル』と呼んでいたけど何故か自然と受け入れていた

 

 

『名前も顔も知らない相手で、君には困った話だと思うけど・・・どうか、頼むよ。祈ってあげてくれ。』

 

 

『・・・わかりました。』

 

 

何一つ理解なんて追いついていない

なぜこんな夢を見たのか

なぜ僕なのか

このお墓に埋葬されている人は一体どんな人なのか

それでも、僕は自然とその言葉に従っていた

 

 

『ありがとう。オレの我儘に付き合ってくれて。』

 

 

『別にいいんですけど・・・それで、この最後の1つは?』

 

 

『あぁ、アストレアがいなくなった今、オレくらいしか花を手向けにこない、残念で嫌われ者の神でね。』

 

 

『そ、そこまで・・・』

 

 

『そもそも神相手だから、こんな墓を用意してやる意味も義理もないんだが・・・下界にいる間は、せめてこうして感謝くらいしてやろうと思ってね。』

 

 

『大切な方だったんですか?』

 

 

『いーや?どうしようも無いヤツだったよ。カッコつけで、独りよがりで。

・・・それでも、神友だったんだ。』

 

 

『さて、オレはここから野暮用があるから、行くよ。』

 

 

そう行って彼は1人飄々と立ち去っていった

彼がなんなのか、僕には分からない

ただ、どこかエレボス様と似たような匂いがした

それだけだった

 

 

・・・・

 

 

そうして僕はここに立っている

怪我をした住人たちを助けたのも心からの『善意』から出たものだった

 

 

「さぁ、来なさいオラリオよ!僕を倒したい、否、世界を救いたいというのならばその力見せてみろ!」

 

 

彼らのために動けるのならばこの命賭してでもその神威に答えて見せよう

かつて人々の絶望のために立ち向かった『大英雄』のように

彼女達の礎と僕はなろう

 

 

 

 

 

「ファイアボルトォォォォォ!!!」

 

 

 

 

さぁ抗って見せろ冒険者

真の絶望とはここからだ

 

 

 



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邪悪開演

「なんだ今の爆発は!?」

 

 

「たっ!大変です!突然の爆発によって死傷者多数!あちこちで火の手が上がり!街も半壊状態で!」

 

 

「あんたら一体何をした!」

 

 

「至極単純なことです。町中に()()()()起爆装置を発動させたまでのこと。それよりいいんですか?『合図』は出ました。もう止まりませんよ?」

 

 

「何を言ってやが・・・まさかてめぇら!?」

 

 

「えぇ、まだ続きますよ?」

 

 

オラリオが火の海に呑み込まれていく

民衆は逃げ惑い、悲鳴によって空気は満たされていく

 

 

「外の状況はどうなっている!フィンたちは!民衆は無事か!?」

 

 

「ほ、報告します!オラリオ全体の各箇所で爆発が起き!町中火の海で、家屋は半壊状態!民衆はパニック状態に陥り、更には闇派閥に襲撃され火の海と化しており!」

 

 

「爆発だと!?やはり奴らの目的は爆弾。前回の襲撃の時に使われなかったのもこのためか!」

 

 

「手のあいたものから早急に制圧に当たれ!民衆の避難誘導も怠るな!」

 

 

「「はっ!!」」

 

 

「アリーゼ、ここは任せていいか!」

 

 

「えぇ、分かったわ。ここは私たちに任せて!」

 

 

「行くぞ、アーディ。」

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよお姉ちゃん!そ、それじゃみんなまたね!」

 

 

鎮圧に向かった【ガネーシャ・ファミリア】と【アストレア・ファミリア】に別れていく

アーディはこの場を離れることに一瞬躊躇したものの、シャクティの後を追っていく

 

 

「あら、追わないの?」

 

 

「追わせる気も無いでしょう?」

 

 

「そうね。私たちの仕事は貴方をここから先へ進ませないこと。あなたをここで逃してしまえばその先の惨状は目に見えているもの。」

 

 

「・・・続けましょうか。」

 

 

この時、初めてイアンは攻撃態勢に移っていた

【アストレア・ファミリア】含める猛攻を全ていなしてきた受け身一方の彼が初めて先手を打った時だった

 

 

「構えろ、なにか来るぞ・・・っ!」

 

 

彼自身の実力は未知数

圧倒的な実力差と獲物のロングナイフ

それだけが彼女たちが持っている情報(カード)だった

 

 

「何をする気なの・・・」

 

 

ロングナイフを手前に構え、右手だけを引いた構えで止まっている

誰が見ても彼が何かを企んでいることは明らかだった

それでも、その意図は彼女たちにはまだ理解できなかった

 

 

彼女らには魔法を撃とうとしていることはすぐに思いついた

それでも、どこか引っかかる点があった

 

 

魔法は『詠唱』無しには発動できない

『超短文詠唱』や『速攻魔法』でさえその例にはもれない

詠唱(こえ)無くして魔法は撃てない

 

 

だらこそイアンの真の目的は他にあると踏んでいた

迎撃に備え全員が息を飲み気を引き締める

 

 

 

 

 

 

ほんの、一瞬の出来事だった

 

 

 

 

 

外でうるさいほど鳴り響いていた爆発音が鳴り止み

 

 

 

 

 

静まり返った広場

 

 

 

 

 

鼓動ひとつさえうるさく聞こえるほどの静寂

 

 

 

 

偶然か必然か、生まれた静寂ひとつ

 

 

 

 

 

ゴォォォン、ゴォォォン

 

 

 

 

 

今まで外の雑音に消されていた大鐘楼の音が閉ざされた広場の中を誇示するように響き渡る

 

 

「ちっ!リオン!」

 

 

「分かっている!」

 

 

輝夜の声に反応したリューが魔法を詠唱し始める

その声に応える形でイアンに襲撃をかける

 

 

「【今は遠き森の空。】【無窮の夜天に鏤む無限の星々ー】」

 

 

詠唱を始める

目的はひとつ、イアンの妨害

とはいえ、魔法ではあまりにも遅い

だからこそ、魔法は1手に過ぎなかった

 

 

「行くぞ!」

 

 

残ったメンバーが近接を仕掛けていく

それでもイアンが動じることは無かった

接近により距離を縮めていく

その間2m(メドル)、彼に動きは見られない

そのまま打ち崩せる

 

 

 

 

はずだった

 

 

 

 

 

光を帯びた右腕が突き出される

一番に気づいたアリーゼが回避行動に移る

 

 

「危ないっ!皆避けてっ!」

 

 

「ファイアボルトォォォォォ!!!」

 

 

突き出された右手から稲妻の様な爆炎が放たれる

ギリギリで回避行動に移したアリーゼの真横を通過していき壁で爆発

爆風によって炎は広がっていく

 

 

「なんつー威力してやがる!」

 

 

「しかも詠唱無しだァ!?バケモンかこいつは!?」

 

 

爆風に煽られ、吹き飛ばされた彼女らも徐々に態勢を建て直していく

 

 

闇派閥(イヴィルス)はまだこんな化け物じみたやつを隠していたってのかよ!」

 

 

「さぁ立てよ冒険者・・・宴はまだ始まったばかりだぞ。」

 

 

・・・

 

 

「避難は迅速におこなえ!戦えないものや怪我をしたものは全員中央広場(セントラルパーク)に集めろ!」

 

 

【アストレア・ファミリア】と離れ、外の鎮圧へ動いた【ガネーシャ・ファミリア】は死兵に苦戦しながらも避難誘導に動いていた

本陣がしかれた『都市中央』へ集めることで犠牲者を1人でも減らしていく

それが唯一彼女らに残された択だった

 

 

それでも麻痺しかけていた指揮系統も回復してきたその時だった

 

 

「ほ、報告します!第一、第二、第四、第六区画で敵勢と衝突!」

 

 

「町中で起こる絶え間ない爆発・・・まさかヤツらの狙いは都市全域だとでも言うのか!?」

 

 

もとより険しい顔をしていたシャクティの顔からみるみる青ざめていく

最初こそ各ファミリアによって襲撃した拠点に備えられた『罠』だとばかり思っていた

敵の拠点だ、罠の一つや二つくらいあっても不思議ではない

だからこそ余計()()()に気づくのが遅れてしまった

 

 

タネはすぐそこにばらまかれていたと言うのに

 

 

「落ち着きなさい。冒険者の動揺は守るべき者達にも伝播する。」

 

 

そんな彼らの近くに女神アストレアが1人、声をかけていく

 

 

「貴方達はどうか、ここで力なきもの達のための盾に。ー私の名をもって星の加護を与えます。どうか、耐えて。」

 

 

女神の言葉に削がれかけていた戦意が再びよみがえってくる

 

 

「すまない神アストレア。不甲斐ない所を見せてしまった。」

 

 

「仕方ないわ。こんな状況ですもの。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

・・・

 

 

「・・・・まだ立つか冒険者。」

 

 

「当たり前じゃない・・・っ、私がここで折れたらここから先の被害が甚大なものになるのは分かりきてる!」

 

 

「もういい立つな名も知らぬ冒険者。せめてもの慈悲だ、このまま死んだ振りをしたまま無様に見過ごすというのなら、その辺の仲間と共に殺さないでやる。」

 

 

もう既に意識の残っていた【アストレア・ファミリア】はアリーゼただ1人だった

壁は崩れかけ、地面は抉られ天井からは夜空が覗いていた

 

 

「まだよ!正義の剣と翼に誓って貴方を見逃すわけにはいかない!」

 

 

剣を杖代わりにしてフラフラと立ち上がるアリーゼ

圧倒的実力差も尚立ち上がろうとするのは彼女の信念故だろうか

 

 

「まだ夢を見る青いお前に教えてやる。『正義』なんぞ人の業が勝手に生み出した反吐の出るような『空想』だ。『正義』も『悪』も、どっちも人が人を貶め、自己を正当化するだけの『道具』でしかない。『正義』は『悪』であり『悪』とは『正義』なのだ。」

 

 

「そんなことは無い!」

 

 

「あくまでも自己を貫き通すと言うのならその力を持ってかかってこい。昔から利己の押しつけ合いの果ては戦闘だと決まっている。全て圧倒的な力で押し潰す。」

 

 

「くっ・・・!」

 

 

残った力をふりしぼり、イアンに剣を振りかざすも

力のこもらない剣戟は全て彼にいなされる

 

 

「魔法の直撃は痛かろう。せめてもの慈悲をもって楽に死なせてあげましょう。」

 

 

「(ごめんなさい皆・・・アストレア様・・・私、先に向こうで待ってるわね)」

 

 

ズシャアアッ

 

 

ロングナイフによる一撃

この一手によりアリーゼの意識は完全に絶たれた

 

 

再び静まり返った戦場

その中を1人の男が悠然と歩いていく

 

 

「神時代はもう時期終わりを告げる。他ならぬ僕たちの手によって。」

 

 

カツッカツッと、男の足音のみが無機質な広場に響き渡る

炎によって照らされる彼の顔に表情など無かった

 

 

「故に果てろ、冒険者。」

 

 

誰に言うでもない言葉がむなしく霞と消えていった

 

 

 

 

 



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絶対悪

「・・・なぁアルフィア。」

 

 

「なんだザルドこんな時に。聞くに絶えない雑音なら今すぐその雑音を漏らす口を永遠に開かないようにするぞ。」

 

 

「ははっ、それは勘弁してくれ。」

 

 

「ならば要件とはなんだ。イアンも既に動いている。我々の仕事ももうすぐだ。」

 

 

「そのイアンについてだ。」

 

 

「ほう?」

 

 

「お前も気づいているとは思うがあのイアンとかいう青年。もしかしたら・・・」

 

 

「それ以上は言うなザルド。それを認めてしまえば我々がこれから行うことの意味が半分なくなってしまう。」

 

 

「あぁ、そうだな。」

 

 

「奴が誰であろうと我々のやることは変わらない。」

 

 

・・・

 

 

「報告!都市南西方面の味方がっ、冒険者が全滅しました!!」

 

 

オラリオ本陣中央広場

バベルを死守するために敷かれたこの場所でフィンとロキに一報が伝えられた

 

 

「ー!!全滅!?全ての冒険者が!?」

 

 

「は、はい!撤退した者もいるようですが・・・今、南西区画に立っている冒険者はいません!」

 

 

「ロ、ロキ!団長!リ、リヴェリアさんとガレスさんが・・・敗北したと、報せが・・・」

 

 

「なんやと!?二人は無事なんか!」

 

 

「【万能者(ペルセウス)】がお二人を回収したそうですが・・・重傷で、すぐに再起は不可能だと・・・!そ、それと【アストレア・ファミリア】が全滅したと【象神の杖(アンクーシャ)】から報告が!今は【ディアンケヒト・ファミリア】で治療を受けていますが、予断は許さない状況だそうで!」

 

 

「なんやて!?あの女神のとこの娘らが全滅した!?」

 

 

単独(ソロ)ならともかく、彼女たちが闇派閥(イヴィルス)にそう簡単に全滅されるとは思わない。敵の情報は!」

 

 

「灰の髪の魔導士、妙齢の女!超短文詠唱を駆使し、桁違いな攻撃はおろか、魔法による砲撃も効かないそうです!もう1人の方は白髪で齢20にも満たない少年だそうで!ロングナイフを使っている模様!」

 

 

「【ガネーシャ・ファミリア】は『狼煙』の直後に避難誘導に動いとった。その甲斐あって東方面地区は無事や。彼女らは責められんなぁ。」

 

 

「(灰髪の魔導士、更に魔法の『無効化』・・・アルフィアか!男神(ゼウス)のザルドだけでなく、女神(ヘラ)のアルフィアまで!だけどもう1人の少年は誰だ?少なくともそのような冒険者はいなかったはずだ。とはいえ【アストレア・ファミリア】の彼女達が全滅したと出来るほどの能力。最悪Lv.7が3人とみた方が良さそうだ。)」

 

 

「【猛者】達の敗北を受け、各【ファミリア】の士気が下がっています!南方を中心に、敵の蹂躙を押し返せません!」

 

 

「だ、団長!せめて援軍を!リヴェリアさん達のもとへ・・・!」

 

 

「駄目だ!僕達は中央広場を、『バベル』を死守する!この戦いの中で、敵の狙いは間違いなく・・・!防衛戦より以南は放棄!残存勢力は都市中央に集結するよう号令を出せ!北の第一級冒険者達(フレイヤ・ファミリア)とも連携を取る!」

 

 

・・・

 

 

都市を焼オラリオ全土に響き渡る地響きとともに神の送還を示す光の柱が出現する

それが意味することはただ1つ

 

 

 

 

 

ふたーつ。

 

 

 

 

 

 

「馬鹿な・・・!!」

 

 

 

 

 

 

みーっつ。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・うそ。」

 

 

 

 

 

 

よーっつ。

 

 

 

 

 

 

 

オラリオ各所で連続して神の送還が行われていく

それが示すは冒険者達の無力化

『恩恵』のない冒険者など無力な一般人と何ら変わらない

 

 

つまりここから起こるは闇派閥による一方的な大虐殺

 

 

「助けてくれぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

五つ。

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハハハハハハッ!ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 

「本当に、ゴミみたいに冒険者が殺せるじゃねぇーか!」

 

 

「最っ高だぜぇ、神様ぁ!!てめぇがやっぱり、最凶だァァ!!」

 

 

惨劇(ショー)の『本番』だぜ、オラリオォオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 

 

 

むーっつ。

 

 

 

 

 

 

「【ベレヌス・ファミリア】主神、送還!」

 

 

「【ゼーロス・ファミリア】全滅!!」

 

 

「送還・・・全滅・・・?『神の恩恵』を失った冒険者が、闇派閥に狙われて・・・!?」

 

 

「止まりません・・・止まらない!!【ファミリア】の殺戮が!?」

 

 

「ば、馬鹿なァァァ!?」

 

 

 

 

 

 

ななーっつ。

 

 

 

 

 

「・・・破壊!蹂躙!殺戮!!いいですねぇ、実にいい!なんて鮮やかな血の宴!まるで童心に返ったかのよう!」

 

 

「壮観だな。」

 

 

「あぁ、景色だけは。だが目を閉じればー神もやはり雑音だ。」

 

 

 

 

 

 

 

八つ、九つ・・・十

 

 

 

 

 

 

 

『生贄』は終わった。

さぁ、行こうー

 

 

 

 

 

 

 

「君は空から見ていてくれよ、『正義』の潰えこの混沌に染められたオラリオで起こる『全て』を。」

 

 

 

 

 

 

 

「今日までの闇派閥の襲撃は、神々の『居場所』を把握するため。無差別と見せかけ、都市全域で事件を起こし、神送還の地点を全て洗い出していた・・・!」

 

 

「聞け、オラリオ。」

 

 

「聞け、創設神(ウラノス)。時代が名乗りし暗黒の名のもと、下界の希望を摘みに来た。」

 

 

「『約定』は待たず。『誓い』は果たされず。この人地が結びし神時代の契約は、我が一存で握り潰す。」

 

 

「全ては神さえ見通せぬ最高の『未知』- 純然たる混沌を導くがため。」

 

 

「傲慢?- 結構。」

 

 

「暴悪?- 結構。」

 

 

「諸君らの憎悪と怨嗟、大いに結構。それこそ邪悪にとっての至福。大いに怒り、大いに泣き、大いに我が惨禍を受け入れろ。」

 

 

「我が名はエレボス。原初の幽冥にして、地下世界の神なり!」

 

 

「冒険者は蹂躙された!より強大な力によって!」

 

 

「神々は多くが還った!耳障りな雑音となって!」

 

 

「【英雄(希望)】は潰えた!より強大な『悪』によって!」

 

 

「貴様等が『巨正』をもって混沌を退けようというのなら!我等もまた『巨悪』をもって秩序を壊す!」

 

 

「告げてやろう。今の貴様らに相応しき言葉を。」

 

 

「脆きものよ、汝の名は『正義』なり。」

 

 

 

 

 

 

 

滅べ、オラリオ。

 

 

 

 

 

 

 

-我等こそが『絶対悪』!!

 

 

 

 

 

 

その日、オラリオは最も長い夜を迎えた

 

 

 

 

 

破壊と慟哭、恐怖と絶望

街は燃え、血が流れ、数々の星が散った

 

 

 

 

 

後に『死の七日間』と呼ばれる、オラリオ最大の悪夢の始まり

 

 

 

 

 

都市に深過ぎる傷を与えた絶対悪は、笑みを残し、去っていった

 

 

 

 

 

立ちつくす子供達と神々に背を向け、遊戯を楽しむように

あるいは、とっておきの『終焉』をもたらすために

 

 

 

 

 

 

その日、オラリオは最も長い夜を迎え

そして昏い朝を迎えた

 

 

 

 



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敗戦の夜明け

オラリオの長く感じられた夜が明けた

 

 

どんな状況であろうと等しく世界に朝日は昇る

暗い顔も、惨憺たる現状さえ朝陽は分け隔てなく照らしつける

 

 

オラリオは見るに堪えない状況が広がっていた

家屋は大半が瓦礫の山と化している

あれほどまでに闇を照らしていた業火も今では見る影もない

 

 

朝霧が立ち込める明朝、夜戦の疲れも癒えきれぬまま救出に追われていた

 

 

「急げぇ!まだ助けられていない者がいる!!」

 

 

「魔導士の派遣を・・・!誰かっ、誰かいないのですかぁ!」

 

 

【ガネーシャ・ファミリア】や【ヘルメス・ファミリア】、本陣を守る冒険者を除き、動ける者の中は例外なくオラリオ中を動き回っていた

 

 

神の送還、強大すぎる力に押しつぶされ

いつ襲われるやもしれぬ恐怖感と寝る間も与えられぬ疲労感

いつ壊れてもおかしくない緊迫感に包まれていた

 

 

治療師(ヒーラー)は昨夜の襲撃の負傷者に追われ、回復して回る事も難しい

回復魔法が使えるリューもいない現状、救えない命が増えていくだけだった

 

 

人手不足と襲い来る疲労感と戦い続け、積み重なる救えなかった悲壮感に浸る時間も貰えずに次へ次へと足を動かしていく

 

 

「負傷者はここへ!」

 

 

「医療物資はこちらに!」

 

 

ないものねだりをしても仕方がない空いた穴が勝手に塞がることも無い

誰かが土をかけて埋めない限り、その穴はそこにあり続ける

 

 

「ううっ・・・ぁぁぁぁ・・・」

 

 

力を振り絞って出した呻き声さえも蚊の羽音の如く消え失せていく

目に見えずとも耳に残る消えゆく命の灯火に冒険者達の精神は確実にすり減っていく

 

 

闇派閥による奇襲に始まった昨日の抗争

 

 

【アストレア・ファミリア】の全滅から始まり、圧倒的強者(アルフィアトザルド)の襲撃、更には【都市最強(オッタル)】の敗北、神の送還

事実上の敗戦となった夜明け、更には死にゆく命を目の前にして抱える不安は募るばかりだった

 

 

・・・

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院の一室、そこに【アストレア・ファミリア】全員が床に着いていた

 

 

【ガネーシャ・ファミリア】と分かれ、イアンを足止めするために残った【アストレア・ファミリア】はもれなくイアンたった1人に壊滅させられた

後からシャクティ達が駆けつけた時には全員が虫の息だったという

 

 

火傷に打撲痕、骨折等々、一命を取り留めた事さえ奇跡とまで言わしめたほどだ

中でも団長のアリーゼは凶刃に倒れたことも含め、誰よりも重体だった

 

 

・・・

 

 

「だ、団長っ、ロキ!敵の襲撃っす!」

 

 

「来おったな!フィンの読み通り、散発的な『嫌がらせ』!場所は!?」

 

 

「都市の北東、『工業区』っす!中央広場に入りきらない、街の人のキャンプが襲われて・・・!」

 

 

「フィン、儂が行く。動かせる戦力も碌にないじゃろう。」

 

 

「いや、『工業区』なら問題ない。既にリヴェリアを向かわせてある。」

 

 

「なにっ?しかし、あやつも傷が癒えきっておらんだろう。打たれ弱いエルフには酷ではないか?」

 

 

「それも、問題ない。まぁある意味、普通に戦うより『面倒』を押し付けているかもしれないが。」

 

 

そんな話をしていた最中、先の報告とは別の団員が慌ただしく入ってくる

 

 

「だ、団長!『工業区』とは別の東地区にて敵襲!て、敵は【静寂(アルフィア)】ただ1人!付近の警護を担当していた【ファミリア】及び冒険者が対応しているものの一方的で押し返されるのも時間の問題かと!」

 

 

「アルフィアの襲撃してきたんすか!?」

 

 

「・・・どうも腑に落ちないなぁ。」

 

 

「儂も同感じゃな。ザルドもアルフィアももう1人の少年・・・イアンだっけ?彼らは闇派閥(イヴィルス)にとっていわば切札(ジョーカー)じゃ。存在こそチラつかせることは何度かあったが、実際使ったのは昨夜の『大舞台』の1度きり。そう簡単に切れる様なものじゃない筈じゃ。」

 

 

「しっ、しかし!『工業区』襲撃が陽動作戦でありこちらが本命という可能性も!」

 

 

「その可能性は切っていい。こちらが本命と言うならアルフィアの単騎だけで済ませる理由がない。温存してきた【切札】を切るまでしたんだ、より確率を上げない理由がない。」

 

 

「とはいえ、これ以上奴の思い通りに暴れられるのも癪じゃ。どれ、儂が出向いてやろう。あの打たれ弱いエルフが動いていて儂が動かないと後で小言を言われかねないしのぉ。」

 

 

「でもガレス・・・否、どうせ止めても無駄なんだろう?」

 

 

「ふっ、言ってくれるのぉ小生意気な小人族(パルゥ厶)め。」

 

 

そう小言を残してガレスは1人部屋を出ていった

 

 

「どーも気持ち悪いなぁ・・・特に得体の知れないイアンとかいう少年がなぁ。」

 

 

「【ゼウス・ファミリア】にも【ヘラ・ファミリア】にもあのような少年は居なかった。唯一対峙した【アストレア・ファミリア】も危篤状態。無い袖は振れぬと言っても、情報無しじゃ対策のしようも無い。」

 

 

・・・

 

 

「なんじゃぁ?誰もおらんぞ。」

 

 

「アルフィアが襲撃してきたと聞いて最低限の戦力をかき集めてまで来てみたはいいが、肝心のアルフィアがおらんではないか。」

 

 

「怪我人は早急に魔導士の元で治療してもらえ!重傷の者は近くの治療院へ運べ!動けない者から優先的にだ!!」

 

 

空振りに終わりいつまでも拍子抜けている場合ではない

共に連れてきた冒険者に指示をしながらガレスは怪我人の処置をこなしていく

 

 

「単なる神の気まぐれか、はたまたフィンの予想通りか・・・」

 

 

怪我人から流れた血の匂いだけがこの空間を包んでいた

 

 

「アルフィアの襲撃と聞いて駆けつけてみれば・・・何だこの有様は。」

 

 

「おぉリヴェリア、もう終わったのか?『工業区』の方は。」

 

 

「あぁ、不本意ではあるがアイズのおかげで予想より大分早く片が付いた。その後にアルフィアの襲撃と聞いて駆けつけてみれば肝心の本人が居ないではないか。」

 

 

「儂も報告を聞いた直後に駆けつけたらのじゃが・・・この通りアルフィアの影も形もない有様じゃった。」

 

 

「・・・どうも胸騒ぎがする。」

 

 

「なんじゃ、お主もか。」

 

 

「アルフィアを使ってまで起こした襲撃がここまで呆気なく終わるはずがない。なにか裏があるように思えてくる。」

 

 

「全くじゃのぉ・・・奥歯にものが挟まったようなそんな感じがしてならんわい。」

 

 

「気は引けるが怪我の軽い冒険者から話を聞く必要が出てくるか・・・」

 

 

「後手に動いてる気がしてならんが、動かないわけにもいかんじゃろ。」

 

 

 

 

 



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金髪少女

「何故ここに子供が?」

 

 

「・・・誰?・・・1人?」

 

 

特に理由なんか無かった

ただ1人、意味もなく散策していた

 

 

昨夜一方的な蹂躙を行った闇派閥の拠点だったこの場所

火は消えた、元より綺麗などとは言えぬ廃墟同然だったが今では酷い有様である

 

 

そんな場所を歩いていると一人の金髪の少女と出会った

いつ闇派閥に襲われるかもしれないこの時にこんな幼い少女を1人にするなんて

親の顔が見て見たいものだ

 

 

「こんな所に一人でいると危ないぞ〜?」

 

 

「大丈夫・・・それにお兄さんも・・・一人。」

 

 

「ぼ、僕は、そのー・・・道に迷ってしまったんだ!ここすっごく広くってねー!ははっ!出口はこっちかな〜?」

 

 

我ながら酷いまでの苦しい言い訳たまと思う

 

 

「・・・出口はあっち。」

 

 

そんな僕に彼女はなんの疑いもなく剣先で出口を教えてくれた

 

 

「・・・君は僕を疑わないのかい?こんな場所に一人でいるんだ。怪しいとは思わないのかい?」

 

 

「覆面・・・してない・・・から?」

 

 

「判断基準そこぉ!?」

 

 

思ってるよりこの子は天然なのかもしれない・・・

にしても闇派閥の判断基準が覆面て・・・

 

 

「それにお兄さん、悪い人じゃない・・・多分?」

 

 

「そこは断言できないのね・・・」

 

 

「・・・その眼、懐かしい感じ・・・」

 

 

わ、わからん

この子の思考が全くわからん

ただ、変に敵対されていないだけラッキーだと思う

生憎と僕にいたいけな少女を嬲るような趣味は持ち合わせていない

 

 

「アイズ、どこだ!一人で何をやっている!」

 

 

「あ。」

 

 

奥の方から目の前の少女を呼ぶ声がする

かけてくる足音とともに緑髪のエルフがやってきた

母親・・・という訳では無いだろう

保護者?

 

 

「勝手に飛びなすなと言っただろう!何も分かっていないではないか、馬鹿者!」

 

 

エルフの人は僕には目もくれず、アイズと読んでいた少女を叱りつける

 

 

「ひぐぅ!?」

 

 

「(あっ、可愛い…)」

 

 

不覚にもゲンコツに悶える少女が可愛く思えてしまった

決して僕にそういった趣味はない!決して!

 

 

「うちのアイズがすまなかったな。」

 

 

「い、いえ!別に何かされたわけでもありませんから・・・」

 

 

「そ、それなら構わんのだが・・・」

 

 

「その子、アイズ・・・さんでしたっけ。大切にしてあげてください。」

 

 

「あ、あぁ。それは勿論だが。」

 

 

「そ、それじゃあ僕はこれで・・・」

 

 

僕はそそくさとその場を逃げるように立ち去る

 

 

「アイズ、彼と話したのか?」

 

 

「うん。」

 

 

「何を話していた?」

 

 

「うーん・・・世間話?」

 

 

「どこでそんな言葉覚えた・・・」

 

 

「ロキが言ってた。」

 

 

「はぁ・・・帰るぞアイズ。まずはその泥を落とすことからだ。」

 

 

・・・

 

 

「やぁアストレア。今日も関心じゃないか。」

 

 

「ヘルメス・・・」

 

 

怪我人の簡易的な治療施設と休憩所を兼ねた仮説キャンプでアストレア様は冒険者や一般人に励ましの言葉や軽い雑談を交わしていた

 

 

「あの娘達がやってきたことを続けないと、あの娘達が繋いできた正義が無駄になっちゃう。そんな気がしたの。」

 

 

「言いたいことはわかった。だが、それでも君もたまには休んだらどうだい?昨夜の事があってから一睡も出来ていないんじゃないか?」

 

 

「そうね。でもあの娘達が頑張っているのに私だけ何もしないのはね・・・」

 

 

「彼女たちだって疲弊しきった自分の主神様なんて見たくないと思うぜ?」

 

 

そんな2柱の元に一人の冒険者が駆け寄ってくる

 

 

「あ、アストレア様!【狡鼠(スライル)】達が回復したとの報告が!」

 

 

「分かったわ、教えてくれてありがとうね。」

 

 

「失礼します!」

 

 

・・・

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院にある一室、そこに【アストレア・ファミリア】の団員はその一室で

 

 

「すまねぇアストレア様、このようなザマで・・・」

 

 

「良いのよ、まずはみんなが無事生きていてくれるだけで嬉しいわ。」

 

 

「無事か・・・と言われると微妙だけどな。」

 

 

「アリーゼが奴の攻撃をだいぶ食らっちまったらしくてな。アタシらの中でも1番酷かったらしい。」

 

 

「とはいえさすがは団長サマ。明日か明後日には回復するそうです。」

 

 

「君達には色々と聞きたい事がある・・・けど、今はぐっすり体を休めてくれ。」

 

 

「大体は察しが付いてるさ。どうせアイツの事だろ?」

 

 

「それじゃあ俺はここでおいとまさせて貰うぜ。後はファミリア内でゆっくりしてくれて構わないぜ。」

 

 

 



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最後の英雄

活動報告の方もよろしくです


オラリオに再び夜が訪れた

どんなに疲弊が溜まっていようとも、夜は等しく訪れる

人々の生の証でもある灯りによって対に当たる瓦礫の山がより照らされるのは皮肉とでも呼ぶべきか

 

 

そんな街の景色を眼下に僕はオラリオの城壁の上で佇んでいた

 

 

「随分と綺麗な月夜じゃないか。」

 

 

「男神に言われてもキュンとはしません・・・」

 

 

「ははっ、これは手厳しいなぁ。まぁ俺には『そういった趣味(ショタコン)』は持ち合わせてないんだ。」

 

 

「えっ?神様ってみんなそんなもんだと・・・」

 

 

「有象無象な(俺達)を一括りにしてたら世界は見えないぜ?」

 

 

「な、なんか説得力が違う・・・」

 

 

「それで?お前の用事とやらは済んだのか?」

 

 

「えぇ、彼女達の無事を確かめられただけで十分です。」

 

 

「おいおい、あそこまで痛めつけたのはお前自身じゃないか。それとも【加虐趣向(サディズム)】とでも呼ぶのか?」

 

 

「気に入った子を付け回して虐める神様よりは正常だと思います・・・多分」

 

 

「おいおい、悲しいなぁ。俺にも俺なりの考えがあるんだが。」

 

 

「そういうことにしておきます。それに、僕は彼女達の生存確認さえ取れればそれで良かったので。」

 

 

「それで?なにか思い出したのか?」

 

 

「はい。本当に。思い出したい記憶も、そうでない記憶も・・・」

 

 

ここに来る前の記憶を改めて思い出すとここにいる意味がわかってきた気がする

もう二度と、同じ結果を辿らせてはならない

降りかかる『厄災』を払えるだけの力を

もうすぐ果てる命ならば未来を変えるため捧げるべきだ

そのために僕はここにいるのだと改めて思っていた

 

 

「イアン、お前はオラリオをどう思ってる?」

 

 

「愛していますよ。これでも.... 」

 

 

またひとつ、凄惨な夜の膜が下りていく

 

 

「なに、精一杯仕事は果たしますよ『最期の英雄』として・・・ね。」

 

 

・・・

 

-----------------------------------

 

 

ベル・クラネル Lv.7

 

力: B 756

耐久: B 780

器用: B 740

敏捷: A 820

魔力: C 680

幸運:E

耐異常:F

逃走:I

・・・・・

《魔法》

【ファイアボルト】

・速攻魔法。

 

【デウス・アーゲ】

詠唱式:【古の英雄よ、我が力となれ。古の大神よ我が声に応えよ。友よ、声を挙げろ。犠牲(代償)はここに払われた。嗚呼、我が好敵手(とも)よ。宿命の名の元に、共に語り合おう。】

 

・範囲魔法・雷属性

 

《スキル》

懸想英雄(アルゴノゥプレ)

・一定期間中、懸想する英雄の模倣

 

英雄願望(アルゴノゥト)

・能動的行動に対するチャージ実行権。

 

闘牛本能(オックス・スレイヤー)

・猛牛系との戦闘時における、全能力の超高補正

 

最期の英雄(エピメテウス)

・犠牲を払う度に全能力の高補正

・払うモノの懸想の丈により効果向上

 

-----------------------------------

 

 

改めてこのステータスで改めて自分の過去が確信的なものに変わっていく

『夢』だったならばどれほどまで良かっただろうか

 

 

更新は出来ないために能力は一切変化していない

それでも、前回のステイタス開示時点で化けていた箇所が完全に明瞭になっていた

 

 

「僕たちが辿ってきた道だけは辿らせる訳には行かない。例えどんなに茨の道だとしても僕は喜んで礎になります。」

 

 

「・・・いや、そうだな。これ以上詮索するのはよそう。俺から誘っておいてこれ以上深く聞くのはナンセンスだ。」

 

 

「『勝者は常に敗者の中にいる。』これは、祖父の言葉でした。僕は、彼らの強さを信じてる。例えそれが一方的な押しつけになってしまっても。」

 

 

「お前があっち側に付くという選択肢は無かったのか?」

 

 

「【アストレア・ファミリア】に手を出した。それに、僕がオラリオ(ここ)には居続けてはいけない。元より()()()()()()()()()()だから。」

 

 

「・・・そうか。」

 

 

「それじゃあ今日も暴れてきます。」

 

 

そう言って僕はエレボス様に背を向けてその場を後にした

 

 

 

 



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親子

「オラリオの後進どもが、俺達を喰らって、『黒き終末』を乗り越えることを望む。」

 

 

「この世に『希望』をもたらすために。妹の子が、戦わずに済む世界にするために。」

 

 

オラリオの『未来』を望み、『絶対悪』に身を堕とした2人が望んだその先が訪れることは決してなかった。

『黒き終末』はオラリオを滅ぼした。

彼らの願い虚しく父親と母親の血に導かれ、オラリオを訪れた二人の子供(ベル・クラネル)もまた『黒き終末』に破れその命を散らすこととなる。

 

 

更にはその結果(ベル・クラネル)は今、ザルド達と共にオラリオに絶望をもたらし、『踏み台』となることを決めた。

『名前も顔も知らない相手から物騒な愛情』を押し付けられた子供が親に過去を遡ってまで愛情に報いる。これほど難儀なものは無い。

 

 

「なぁ、神友(ヘルメス)。お前ならこんな状況でも楽しんじゃうんだろうな。」

 

 

『これぞ下界の神秘じゃないか!』なんて、笑いながらもこの状況を楽しむんだろうか。

もし、アルフィア達にこの真実を伝えてしまえばあいつらはどんな表情をするだろう。

英雄達(アイツら)を黒い泥で穢し、罪人の烙印を押し付けた俺がこんな事を思うのは身勝手だと思う。ただ、()としてこれだけは言っておきたいことがある。

 

 

「1度でもいいから義母(はは)息子()として語らないのか?」

 

 

そう思うのはやっぱり()としてのわがまま(エゴ)なんだろうか。アルフィアが言うにはあの子は自分の両親の顔も、義母である彼女の顔さえも知らない。

正確には本人であって本人じゃ無い。それでも、死に別れた肉親が目の前にいるんだぜ?少しくらい喜んだって良いじゃねえか。わんわん泣きわめいたって良いじゃねえか。それが親と子ってもんだろ?

 

 

「恨むぜ、ゼウス。」

 

 

・・・

 

 

「この程度か?冒険者。」

 

 

「たっ、助けてくれぇぇ!!」

 

 

必死で逃げ惑う冒険者の背中を斬りつける。

ピクリとも動かなくなった屍の上をただ淡々と進み続ける。

何を目的とするでも無い。ただ無心に立ちはだかる冒険者たちを片っ端から斬り伏せていく。『本番』までの『嫌がらせ』。

 

もうウダウダと浅ましく過去を振り返るのはもうやめた。今、僕はオラリオの敵で、悪なのだと。そう心に言い聞かせる。

どんな不条理に押しつぶされようともカッコ悪くも意地汚くも何度でも這い上がってきたオラリオの冒険者(彼ら)ならちゃんと乗り越えて貰えるって信じてる。

単なる押し付けだと人は言うかもしれない。それでも、お義母さん達を見てきた今なら思うんだ。これは押しつけではなく()()のだと。

 

 

『勝者は常に敗者の中に存在する。』

 

 

大切な人に教えてもらった言葉のひとつ。

敗けるのはつらくって、悔しくて、苦しいことだけど、それでも人は前を向いて歩き続きられる。僕が夢見たオラリオなら絶対。僕らが成し遂げられなかった三大クエスト(悲願)だって成し遂げてくれるはず。

 

 

「見せてみろ!お前達の『正義』を!」

 

 

・・・

 

 

「現在、人手が圧倒的に足りない。負傷者の看護、亡骸の処理、及び市民の対応は、全てギルドの職員や有志の者に任せる。我々は対戦闘- 闇派閥の迎撃に全力を傾注する!戦える者はみな、群衆の盾となれ!」

 

 

「「はっ!」」

 

 

オラリオは人手不足に追われていた

昼夜問わず行われる闇派閥の襲撃により増え続ける負傷者や死者

減り続ける人員にオラリオはギルド職員さえ駆り出されていく

 

 

『恩恵』の受けていない戦闘慣れしていない人達は裏方に回されていく

闇派閥と戦える冒険者は軒並み迎撃に回っている。

 

 

「先に言っておく!敵に情けをかけるな!敵は自爆行為に躊躇がない!捕縛は不可能と判断した場合、速やかに撃破に移れ!決して奴らに隙を与えるな!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「よし、行け!」

 

 

表面上では指示を出して団長として振舞っているシャクティは内心負い目

動かなければ死傷者が増えていたとはいえ、自分達が離れた結果【アストレア・ファミリア】壊滅にまで陥った。

悲観に暮れている時間はない。そんなことは理解できていても心のどこかでは捨てきれていなかった。

 

 

「お姉ちゃん・・・」

 

 

そんな姉をアーディは心配しつつも声をかけないでいた

否、かけられなかったという方が正しいか。

【ガネーシャ・ファミリア】団長である以上、指揮において冷静に対処する必要が出てくる

 

 

「うわぁぁぁ!!!」

 

 

「敵襲だぁぁ!!!」

 

 

「慌てるな!『自爆装置』に気をつけて捕縛しろ!」

 

 

「しかし!て、敵はイアンです!」

 

 

「ちぃっ!今すぐ態勢を立て直す!Lvの低い者は他の地区の対応に回れ!」

 

 

「「「はっ!!」」」

 

 

低い戦力をぶつけた所で足止めにさえならないことはみえていた。それほどまでにイアン1人に対する戦力が大きすぎた。イアンにせよ、他の襲撃にしろ、無視することは出来ない。そらならばとLv1かLv2の団員は他の地区に回すことで被害の拡大を収めようとした。

 

 

だが、彼女たちはひとつ見落としていた

 

 

彼の()()

 

 

「ファイアボルト!」

 

 

先まで目の前にたっていたはずのイアンが一瞬にして消失し、直後背後から光とともに彼が現れ、魔法を放つ。

 

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

 

 

魔法は見事後方部隊に直撃。散ろうとしていた部隊もろとも魔法を食らってしまう。

 

 

「やらせない!」

 

 

追い打ちと言わんばかりにロングナイフを振りかざす彼の懐にシャクティが潜り込んではじき返す

 

 

「お前らは急げ!間に合わなくなる前に!」

 

 

「「「・・・はい!!」」」

 

 

1度は動揺したものの、直ぐに建て直した1つの部隊が離れていく

 

 

「お前達の好き勝手になどさせるものか。貴様はここで倒す!」

 

 

お互いが距離を取り合った状態から睨み合いが続く。単純な殴り合いでもイアンに分がある。それでもシャクティは1歩も引きはしない。

【ガネーシャ・ファミリア】団長ゆえの誇りか。それとも民衆を守るための生き様か。無謀とも取れるような戦闘は突然やってくる。

 

 

「足掻いて見せろ冒険者ぁぁぁ!!」

 

 

 



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焦燥

「オラリオの崩壊は今や必至。なのに何故そうまでして抗う?」

 

 

街中で始まった【ガネーシャ・ファミリア】とイアンの決闘(デュエル)はまさに一方的なものだった。

【ガネーシャ・ファミリア】はほとんどが地に伏しており、1部は物言わぬ骸にまでなっていた。

【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】には及ばずとも決して弱くはない。それでも歯が立たないほどに彼は規格外だった。

今や立っているのはイアンただ1人。対峙しているシャクティは立っていることすら出来なかった。

 

 

「・・・当然だ。我々にはっ・・・義務があるっ!」

 

 

"ここで負ければ被害は甚大"

 

 

その一心だけがシャクティの原動力として突き動かしていた。

 

 

「義務ねぇ・・・」

 

 

息さえ絶え絶えなシャクティとは異なり、イアンは息一つ切らずに立ちはだかる 。

 

 

「そんなもの誰が決めた?誰が求めた?お前たちが助けた結果がこのザマだ。違うか?」

 

 

「いいや・・・我々は我々の意思でここに立っている。だからこそ我々は【群衆の主(ガネーシャ)】の眷属だ!」

 

 

幾度も幾度も打ちのめされようがシャクティは立ち上がる。民衆を守る彼女なりの意地なのか、それとも冒険者として悪に屈してはならない意思なのか。

 

 

「まだ抗うというのか?」

 

 

「・・・当然だ。」

 

 

「ならば無様にでも立ち上がって見せろ。『正義』だろうと『悪』だろうと、『足』はそのためにある。」

 

 

「これ以上、犠牲を出して出させるものか!」

 

 

笑い続ける膝に手を付きながら、槍を支えに立ち上がり、イアンに渾身の一撃を食らわせるために距離を詰めていく。

 

 

「悪くは無い・・・だが一つだけ忘れていることがある。」

 

 

ろくな回避行動にも移さず、イアンは彼女に左手を向ける。

 

 

「・・・っ!?」

 

 

彼の行動に気づいたシャクティが咄嗟に動こうとするも時すでに遅し。

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

左手から放たれた爆炎はシャクティに直撃する。

疲弊しきった体で、一撃に賭けていたシャクティに打てる手だては無かった。

 

 

「ぐぅぅぅっ!!」

 

 

「最期だ、冒険者。」

 

 

ビクともしないシャクティにトドメを刺そうと魔法を構える。直後。

 

 

「ちぃっ!【ファイアボルト】!」

 

 

イアンは1歩後ずさり、あらぬ方へ魔法を飛ばしてしまう。

 

 

「逃げられたか・・・まぁいい。」

 

 

すぐさま振り返るもそこに彼女の体は無かった。大体の状況を察したらイアンは後追いもせず、また1人夜の街の中を歩いていく。

 

「・・・ん?」

 

 

微かな足跡。確かな殺意。こちらに近づく()()()に気づいたイアンが振り向いた時だった。

 

 

グサッ

 

 

「はははっ!ざまーないです!どーです見ましたか!リリは!リリだってやる時はやれるんです!」

 

 

外套(フード)に身を包んだ小人族(パルゥム)。彼に一撃を与えたのはその小さな小さな(殺意)だった。

 

 

「・・・リリ?」

 

 

この場で流れるのは赤い血と、無色な一筋の涙だった。

 

 

・・・

 

 

「ふざけるのもいい加減にしてください!」

 

 

「ちょ、ちょっともうちょっと静かに・・・」

 

 

「これが大声を出さないでいられますか!ふざけるもいい加減になさってください!」

 

 

「で、でもこっちだって緊急事態なんだ。分かってくれないか?」

 

 

【ディアンケト・ファミリア】の治療院。その中でアミッドに宛てがわれた一室で、ヘルメスに怒鳴っていた。

 

 

「最低でも半月は経過観察が必要な彼女を1週間で。という時点で無茶だと言うのにそれを3日だなんて貴方は彼女たちに死ねと言うのですか!」

 

 

「・・・分かってる。」

 

 

「あなたは何も分かってません!【勇者(ブレイバー)】でも【猛者(おうじゃ)】もみな等しく人間なんです!これ以上の無茶はいよいよ彼女達の生命に関わってきます!」

 

 

ヘルメスからの言伝はこうだった。

 

 

『動ける人だけでいい。【アストレア・ファミリア】の中から数人。戦闘を許可して欲しい。』

 

 

だった。この言葉に彼女達の担当だったアミッドは怒りに震えた。

 

 

初めて彼女たちが運び込まれてきた時、目を背けたくなるほどの現状だった。火傷に打撲痕、切傷等々。齢12の彼女にさえその悲惨さは容易に想像に着いた。

それでも、治療師(ヒーラー)として力を尽くしてなんとか安定状態まで来れた。それなのに突然こんな神の提案は受け入れられるものではなかった。

 

 

「オラリオが危険な状態なのはある程度耳にはしています。ですが、まだ完治していない患者を死地に送り出すことは私が許しません!」

 

 

「そこをなんとか!【ガネーシャ・ファミリア】の主戦力がやられたから手薄になって結構厳しい状態だ!【ロキ・ファミリア】は中央広場(セントラルパーク)本陣を守らなきゃいけない。【フレイヤ・ファミリア】も動いてはいるけど民衆が加わるとどうしても鈍くなってしまう!だから【アストレア・ファミリア】の力が必要なんだ!」

 

 

【ガネーシャ・ファミリア】が倒れたことはアミッドももちろん知っていた。その結果全体の士気が下がり始めたのもどこか肌で感じとっていた。

 

 

「っ・・・分かりました。で!す!が!まずは彼女達の意思確認からです。彼女達が動くと仰るのであれば私達からも全力でサポートします。」

 

 

「あぁ、俺だって無理矢理はゴメンだぜ。」

 

 

・・・

 

 

「失礼します。」

 

 

【アストレア・ファミリア】に宛てがわれた病室にアミッドとヘルメスが入ってくる。

 

 

「どうしたんだよアミッド。ヘルメス様までご一緒で。」

 

 

「ヘルメス様から大事なお話があるそうです。」

 

 

「なんでございましょう?柄にもなく改まって。」

 

 

「・・・君たちにも話は届いてるかもしれないが昨夜、シャクティ達がやられた。」

 

 

ヘルメスのこの言葉に起きていた【アストレア・ファミリア】数名がバツが悪そうに俯く。

 

 

闇派閥(イヴィルス)の襲撃によって大打撃を被った俺達は今深刻な人手不足に陥っている。俺たちのファミリアも総手で頑張ってもらっているけー」

 

 

「いいぜ、神様。」

 

 

前置きよろしく長々と講釈たれようとするヘルメスの言葉をライラが遮った。

 

 

「え?」

 

 

「あたしはあんた《達》の提案に乗ってやるって言ってんだ。どうせ、もう一度この体を引きずってでも力を貸してほしいっつんだろ?アタシは大丈夫つってんだ。それくらい読み取れ。」

 

 

「ワタクシも賛成しますわ。しばらく寝たきりだと体がなまってしまいそうで・・・なにより、やられっぱなしは嫌いなものでして。」

 

 

「ライラ達が出るってのにここでのんびりしてられないよ!私も行く!」

 

 

「団長に助けられたこの体、どうせなら団長の代わりに使わないとね。」

 

 

比較的怪我の軽く、話を耳にしていた5人が、明日から復帰することに決まった。

 

 

「・・・仕方ありません。私から話をつけておきます。但し!無茶だけはしないでください。それと、1日1回はここを訪れること。守れない場合は縛り付けてでも引き戻しますから。」

 

 

・・・

 

 

張り詰められていた糸は簡単に切れてしまう。闇派閥(イヴィルス)の連日連夜の襲撃に耐えながらも限界まで張り詰められていた緊張の糸は【ガネーシャ・ファミリア】の一報によって簡単に切れてしまった。

 

 

「おい待て!これ以上進むんじゃない!」

 

 

オラリオの民衆の一部が、ついに痺れを切らして城門から外へと出てしまったのだ。

人材不足によって、城壁の見張りが不足していたことが原因でもあった。警告虚しく飛び出して行った民衆は一瞬のうちに構えていた闇派閥(イヴィルス)の砲撃に逢い、倒れた。1人残らず全滅だった。

 

 

冒険者も呼び止めようにも下手をすれば自分もやられかねないと引き戻すことも出来ず、ただ呆然と目を背けることしか出来なかった。

 

 

この事件もあってか、オラリオの張り詰めていた緊張感は少しだけ緩んだような気がした。皮肉にも、同じ民衆の無謀な行動が起こした結末によって、黙らされたのだ。

 

 



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ちっぽけな勇気(リリルカ・アーデ)

「・・・??」

 

 

確かに刺された感覚はあった。完全に気を抜いていた。気を持ち直して視線を移すとそこには外套(フード)を被った小人族(パルゥム)が1人。

 

 

「・・・リリ?」

 

 

最後に見た記憶とはかけ離れてはいるものの、忘れるわけがなかった。【ヘスティア・ファミリア】の中でもヘスティア様を抜かせば1番長い付き合いで、参謀的存在。忘れもしないかつての仲間(リリ)だった。

リリから暗黒期のことについて何回か聞いてたし、どこかで生きているんじゃないかって思ってたけどまさかこんな形で出逢うとは思いたくなかった。

 

 

「ハッ、ハハ!やってやりましたよ!リリだぅてやれば出来るんです!」

 

 

何となくだけどリリの心境が分かった気がする。彼女は死にたがっているんだって。僕は本来辿るべき歴史(正史)を知らない。リリが当時、どんな思いで過ごしてきたのか。それを理解することは出来ないと思う。

 

 

だから、ぼくの行動は決まっていた。

 

 

「・・・手はそれだけか?」

 

 

あくまで僕らは無関係。殺し合う敵同士でも無い。手を取り合う味方でもない。()()()()()()()()()。そして()()()()()()()()()。たったそれだけの事なのだから。

 

 

「あなたもリリをっ!リリをバカにするのですか!()()()()だと!殺す価値すらないとそうおっしゃるのですか!」

 

 

彼女は今、失う訳にはいかない。

 

 

「違うな。戦う意思のないやつをいたぶる趣味は持ち合わせてない。それだけだ。分かったなら早く立ち去れ!」

 

 

リリは歯ぎしりしたまま離れようとしない。

 

 

「お前にもいづれ分かるさ。」

 

 

これ以上構っている訳にもいかず、立ち去ることにした。

 

 

・・・

 

 

正直全てがどうでもよかった。『金を集めてこい』と言っていた両親が死んだと聞いたとしても何も変わらなかった。

それでも、()()()()()()()()()がくれた温もりが生かしてくれた。それでもザニスが団長に就任してから全てが変わってしまった。

 

 

生きたいとも思わなかった。でも、モンスターに殺されるのだけは嫌だった。何度か目にしてきた冒険者たちの死に様を思い出すだけで足がすくんでしまう。

 

 

だからこそ、目の前に彼が出てきたのはある意味運命なんじゃないかと思ったくらいだった。

 

 

死ぬことに後悔はないが、死んででもあの人たちから嘲笑れることだけは耐えられなかった。

リリ自身の無力さは嫌でも自覚してる。Lv1のそれもサポーター専門のナイフなんてたかが知れてる。それに、何かの間違いで傷をつけたとて、ザニス達は歯牙にもかけないだろう。

 

 

言ってしまえば単なる自己満足だった。どうせ死ぬなら何なやり遂げてやろう。そして、向こうでザニスや両親に唾を吐けるような事をしてやりたかった。それだけだったのに。

 

 

「お前にもいづれ分かるさ。」

 

 

なぜ、リリは生かされたのでしょうか。

 

 

・・・

 

 

「リューさんが治療院を飛び出したァ!?」

 

 

【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院にアミッドの悲鳴がまた木霊する。

 

 

「あぁ、私達も朝気がついたんだ。アイツの事だ、そこら辺の闇派閥(イヴィルス)の連中に引けはとらねえだろうが・・・」

 

 

「リオンは妖精(エルフ)の中でも繊細すぎる。下手すりゃ二度と戻らないかもな。」

 

 

「一番傷が浅かったので大丈夫だとは思いますが、精神的にまだ癒えきれない部分がありますので心配ですね・・・」

 

 

「心配することはねぇよ。あたしらが探し出して連れ戻してくりゃいいんだろ?」

 

 

「迷子探しはワタシらの仕事だ。」

 

 

・・・

 

 

バベルの塔の最上階、そこで女神はオラリオを見下ろしていた。

 

 

「今まで見たことがないような透明で美しい魂。でも、そんな魂もどこか薄いような気がするわ・・・」

 

 

ワイングラスを傾けながら口端を釣り上げる女神。

 

 

「凄く美しいわ。例え敵でも私のものにしたいほどに・・・」

 

 

少し何かを考えるような素振りを見せ、再び口を開く。

 

 

「そうね、このままやられっぱなしってのもあれだから。ちょっとだけ悪戯、しちゃおうかしら。」

 

 

 



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正義問答

「がっっ!?」

 

 

荒れ果てた場所で少女はただ1人、敵を斬り伏せていく。彼女の顔はどこか怒りと困惑が入り交じったような顔をしていた。

 

 

「(黙って抜け出してきてしまった。どこに向かう訳でもなく、1人都市をさまよって。「義務」のように、闇派閥を斬り続け・・・)」

 

 

明け方、療養所を抜け出したリューは今に至るまでずっとオラリオをさまよっていた。何を目的とする訳でもない、どこに行きたい訳でもない。

ただただ、()()が目的であるかのように闇派閥を斬り続けてきた。

 

 

「(私はいったい、何をここまで迷っているのだろう。敵の性格が何であろうと、()であるのなら斬り伏せる。今までもそうしてきたでは無いか。何をそんなに焦っているのだろう。)」

 

 

『今まで何をしてたんだ!俺達が大変なこんな時に!』

 

 

『私達を守ってくれるんじゃなかったの!?』

 

 

『肝心な時に使えねーんだから!もう『正義の眷属』なんて辞めちまえ!』

 

 

「(怒りと非難。今日で何度も目や耳にしてきた。すれ違いざまならまだしも、闇派閥から守ったはずの彼らからさえ言われる始末。どんなに身を粉にして力を尽くしても、苦しむことからは逃れられない怨嗟の声は絶えることはない。)」

 

 

信頼とは築くことは難しいが、壊す時は一瞬だ。今までどんなに積み上げてきた過程があろうと、壊れる時は一瞬にして全てを失ってしまう。例え、それがどんな理由であったとて、知らぬ存ぜぬで失ってしまうのだ。

 

「(あの男神(かみ)の言葉は心を蝕む毒のようだ。ずっとついて離れず、今だってついて離れず、今だってこうも胸の内をかき乱す!そして私は、段々とそれを否定できなくなっている・・・)」

 

 

「リオン!」

 

 

「アンドロメダ?」

 

 

「もう傷は癒えたのですか?ヘルメス様からはあと1日は様子を見ると聞いてましたが。」

 

 

アスフィが戦闘衣(バトルクロス)を着て外を歩くリューに疑問を投げかけた。見た感じでは外傷は消えている。それでも、見えない部分は聞かなければ探ることも出来ない。

 

 

「問題なければ力を貸してください!神エレボス及び、敵の所在を掴みたい!市壁周りに陣取り、自分達の存在を主張していますが、敵幹部がひそんでいるのは恐らくは地下!きっと下水道を利用していると思うのでそこを叩きます!」

 

 

「・・・」

 

 

アスフィの提案にリューが応えることは無い。目も合わせられず、肯定も否定さえも彼女の口からは紡がれない。

 

 

「・・・戦えないのであれば今すぐ戻りなさい。リオン、貴方は腐ってはいけません。顔をあげてください。あなた達【アストレア・ファミリア】が絶望に染まってはいけない!」

 

 

希望を失ってしまえば、人はいずれ壊れてしまう。【アストレア・ファミリア】を非難する事もまた、彼らが希望を抱いているからこその裏返しだからこそ。

そんな希望が失われてしまえばオラリオがたどり着く道など破滅しかない。

 

 

「・・・アンドロメダ。すまない、私はもう・・・」

 

 

どんな状況下でも、アスフィは彼女を信じ続けていた。親友であるリオンはちゃんと戻ってくると。

 

 

ドガァンッ!

 

 

そんな2人を狙った魔法が放たれる。駆けつけてくるは闇派閥(イヴィルス)

 

 

「我等に仇なす上級冒険者の首級を挙げよ!かかれぇー!」

 

 

「リオンはここから早急に離れてください!ここは私ひとりで対応します!」

 

 

「わ、私も加勢します!」

 

 

「今の貴方では足でまといにしかなりません!見たところ死兵しかいませんが、万が一幹部でも現れれば間違いなく守りきれません!貴方が死んではならないのです!」

 

 

「・・・っ!!必ず、戻ります!」

 

 

・・・

 

 

「やぁ、リオン・・・と思ったら、別の眷属を引き当ててしまったか。まぁ、いい。」

 

 

「てめぇ・・・!」

 

 

「邪神エレボス・・・!」

 

 

「今俺はリオンを探している。知っていたら教えてくれないか?迷える正義の使徒よ。」

 

 

「リオンの居場所?知らねーな。アタシ達が聞きてえくらいだ。」

 

 

「たとえ知っていたとしても、答えるわけが無い。よくも騙ってくれたな。神エレン。」

 

 

「ヘルメスの真似事をしていただけだ。しかし、あれはあれで疲れる。ヘルメスもそうだが、初めて()を見直したよ。あそこまで自分を殺してまで道化になりさがる子供は初めてだ。我が眷属にも見習って欲しいくらいだ。それとも、君たちも仮面(エレン)の方が好みだったか?」

 

 

「「ッ!!」」

 

 

エレボスは神エレンとして何度か【アストレア・ファミリア】・・・否、リュー・リオンに接近していた。だからこそ彼女達はエレボスを警戒し、より困惑する。

 

 

「おい、神サマよ。どうしてリオンを付け狙う?大抗争(たたかい)をおっ始める前から、やたらと付きまとってたよな?」

 

 

「神々の言う『すとーかー』というものでございますか?嗚呼、全くいいご趣味で反吐が出てしまいそう・・・この変態め。」

 

 

「猫の如くじゃれるなよ。極東美人(ヒューマン)。男など漏れなく(ケモノ)で、倒錯している。生娘でいる間に覚えておけ。」

 

 

「・・・こいつ!!」

 

 

「それに、()()()に比べたら俺なんてまだ可愛いものだ。改めて子供の行動力には目を見張る。」

 

 

おどけたように怖がる素振りをしながらもその笑みは崩さない。

 

 

「そして、悪童(パルゥム)。なぜリオンを付け狙うか、だが・・・」

 

 

神は返ってくる言葉も待たずにライラに目を向けて答えを紡ぐ。

 

 

「・・・だって、アレが1番純粋だろう?潔癖で無垢。お前達の中でも紛れもない、『正義の卵』だ。『絶対の悪』を提示され、あの娘がいかなる答えを出すのか。後学のためにも俺はそれを知りたい。今後の約束の地(オラリオ)を行く末を見る、『占星術』のようなものだ。女も好きだろう?呪いの類は。」

 

 

「ふふふっ・・・我が主神ながら、本当に趣味が悪い。都市の代弁者を、年端もいかない妖精に押し付けようなど。」

 

 

「本当なら、お前達が俺の問いに答え、満足させてくれるなら、リオンを玩具にするのはよそう・・・と思っていたんだが。」

 

 

「・・・だが?」

 

 

「気が変わった。やはりリオンに聞かない限りは満足してくれないらしい。最後だ、優しい優しい神様からの忠告してやろう。俺がここにいる間に早くお家に帰った方がいい。そして母親(アストレア)に泣きついてこい。本当の星乙女になりたくなければ・・・な。」

 

 

「自分で言うかよ、くそ神様っ。」

 

 

「そそるだろう?抱いてやろうか?」

 

 

「・・・蛆と寝た方がマシでございますねぇ。」

 

 

「やはり口が減らないな、正義の眷属。しかし、そろそろ飽きた。予定通り『正義の卵』を食すとしよう。」

 

 

「敵の頭っつう、ごちそうが目の前にあんだ。たとえ糞不味かろうと、見逃すわけはねぇな。」

 

 

「神を屠る禁忌は犯せずとも、捕縛程度は我々にも可能だ。・・・貴様をアストレア様の手土産に、この戦いを終わらせてやる。」

 

 

「悪の慈悲を無駄にする。それもまた正義か。否、アイツに言わせてみれば『他人の正義の冒涜(自己正当化)』・・・か。じゃあ、我が眷属よ。俺が安全になるまで相手をしてやれ。」

 

 

「嗚呼、何度目の溜息でしょうか・・・眷属こそ神の保護者なのではと、考えさせられますねぇ。私は彼のように従順では無いのですけど。さて・・・18階層以来ですね、お嬢さん方、神に頭を痛めさせられる者同士、再び踊りましょうか?」

 

 

2人とエレボスの間にヴィトーが割って入る。

 

 

「抜かしやがれ!今度こそ仕留めてやる!」

 

 

こうして2vs1の決闘のゴングが鳴らされる。

 

 

レベル4の中でも上位の実力を持つヴィトー相手、アリーゼ込の3人かけて拮抗していた程なのだ、1人欠けた2人では難しいものがある。

 

 

「ははははははは!そんなものですか!?前回の戦いから一人欠けたとはちえ、2人がかりでこの程度ー」

 

 

それでも、力で劣るといえど戦術次第ではいくらでもやりようはある。なによりこちらは2人だった。

 

 

「阿呆。」

 

 

()()()()()()。調子乗った馬鹿に、『必殺』を叩き込むためのな。」

 

 

力及ばずとも、人が多ければその分手は多くなってくる。それこそ、『必殺』を叩き込むほどの『時間』を稼ぐ時間は作れる。

 

 

「居合の・・・チっ!」

 

 

【居合の太刀】。壮絶な研磨に裏付けされた、高速の抜き打ち。そうとある武神は語る。鞘に収めた状態から抜き放つ動作による一撃を加える技。

極東生まれの輝夜だからこその必殺の一撃。意識外からの反撃、回避する時間などない・・・が、一撃が繰り出されることは無かった。

 

 

「全く・・・まだ貴方の出る幕じゃないでしょう?」

 

 

ヴィトーと、輝夜が立っている間に1本の太刀が差し込まれる。

 

 

「交代だヴィトー、お前はあの男神のお守りでもしておいてくれ。」

 

 

「おやおや、突然現れて獲物を横取りとは感心しませんねぇ。」

 

 

「どの口が言うか。」

 

 

「とはいえ、()()()()()()()()()、という約束でしたので。私がお相手するのはここまでです。」

 

 

この場を立ち去るヴィトーと入れ替わりにイアンが立ちはだかる。

 

 

「さてと・・・2日ぶりだなお前達。」

 

 

「相変わらず()()()()()。【静寂】や【暴食】とはまた違った圧倒的な存在感。無名であるのにレベル7という規格外さ・・・是非ともお目にかかりたい。」

 

 

「御託はいい。巻き込まれたくないなら立ち去れ。」

 

 

「それではご注告に預かりまして、私は立ち去るとしましょう。それでは皆さん、ごきげんよう。」

 

 

「輝夜・・・逃げんぞ・・・こんな化物と、やり合ってられるか・・・!」

 

 

「時として逃げることもまたいいでしょう。それもまた冒険者。見逃してあげることにしましょう。ですが、それでも立ち向かうというのであれば、一つだけご褒美をあげましょう。」

 

 

「褒美だァ?ふざけんじゃねぇ!おい輝夜、聞くだけ無駄だ!早く行くぞ!」

 

 

「あんたのお仲間・・・リューだったか?そいつの居場所を知っていると言ったならどうする?」

 

 

「・・・っ!?」

 

 

・・・

 

 

「己が信仰を築く場所で再会するとは・・・神ながら運命を感じずにはいられない。」

 

 

爆発音を聞きつけたリューが廃教会を見つけ、中に入るとそこでエレボスと鉢合わせる。

 

 

「邪神、エレボス・・・!?なぜここに!」

 

 

「お前を探していたからだ、リオン。お前に会いに来てやったからだ、『正義の卵』。」

 

 

「ふざけるな!エレンなどと名を偽り、私達を騙しておきながら!」

 

 

「その件は既に、お仲間のヒューマンと小人族(パルゥム)の間で済ませた。省略させてもらう。」

 

 

「ヒューマンに、小人族・・・?まさか輝夜とライラ!?二人に何をした!」

 

 

「少しつついただけだ。安心しろ、見逃してやった。・・・と言っても、今アイツらがどうなってるかは俺は知らないがな。それに、妙な気は起こすな。仲間と同じように、痛い目に遭うぞ?」

 

 

「・・・!【ヘラ・ファミリア】・・・」

 

 

「戦いに来たわけじゃない。俺達も、そしてあいつらの方もだ。何、安心しろ、アイツは俺達の中の中でも1番平和な奴だ。美品に傷をつけるような事はしないだろうさ。だからという訳じゃないがまた神の酔狂に付き合ってくれ。」

 

 

「・・・何が目的だっ。」

 

 

「いつかの問いの答えを、もう一度聞きに来た。」

 

 

リューの足は、少しだけ距離をとったが逃げようとする意思は見せなかった。

 

 

「リオン、お前の『正義』とは?」

 

 

「・・・なぜ、私に問う?どうして『悪』が『正義』を問おうとする?」

 

 

「神聖な儀式だからだ。公平な問答でもある。何より、おれが下界の行く末を占っておきたい。今のオラリオは世界の『縮図』だ。男神と女神が『黒龍』に敗れ、下界そのものに混沌が渦巻いている。絶望による自暴自棄、快楽のための暴力、欲望による略奪・・・これらのことが今も、どこかで、必ず起こっている。光に照らされるか、闇に染まるか。世界こそが二者択一に問われている。そして俺は断然、闇に染まる方を支持している訳だが・・・」

 

 

エレボスはここで一度言葉を斬り、リオンに改めて見向く。彼女の目はまだ死んでいない。それを確認した後、また語り出す。

 

 

「そうなると気になるのは、『正義』の動向だ。この暗黒の時代でなお、『正義』は真なる答えを持ち、反逆の剣を掲げてくるのか、否かーそれを確かめておきたい。」

 

 

エレボスは1つ大きいため息を吐いて仕切り直す。

 

 

「かの『英雄』はこう言った『【悪】とは1つの【正義】であり、対になる【正義】が生まれて初めて自分を突き通す為に【正義】は【悪】になる。』と。だが、俺はちょっと違うと思っている。『正義』も『悪』も己のみで成立はする。が、対立する(つがい)があった方が、()()()()()。と。」

 

 

「・・・何を言っている。」

 

 

「お前も言った、『巨正』と『巨悪』の理と同じだ。『正義』と『悪』は衝突するからこそ肥大化し、強大になる。やがて育まれた暁に、『絶対の正義』と『絶対の悪』が生まれ、正義の決戦が始まる。そして、勝ち残った方が、世界を統べるーあるいは、滅ぼす。エルフの聖書の一節にも綴られていそうな、単純な話だろう?」

 

 

「ならば!貴方の言う『悪』とは!『正義』を嘲笑う『邪悪』の正体とは、いったいなんだ!?」

 

 

「『気持ちのいいもの』。」

 

 

「なっ・・・!?」

 

 

「『悪』を追求するのは簡単だぞ?極論、『気持ちいい』を突き詰めればいい。それは利己的で、他者にとっては不利益であり、同時に憎まれるものだ。そして行き過ぎれば、決して許されざるものとなる。人はそれを『悪』と呼ぶようになる。言い方を変えると、そういうものが『悪』と呼ばれやすい。お前達が今まで斬ってきた『悪』は本当に万人にとっての『悪』だと言いきれるか?」

 

 

「・・・」

 

 

「俺の掲げる『絶対悪』とは弁明のしようもなく醜悪なものが『絶対悪』と化す。『悪』を一括りに否定しようとするなよ。ものによっては『必要悪』だって存在するのだ。」

 

 

「では何故、貴方は『絶対悪』を掲げる!オラリオを崩壊させて、何を望む!?」

 

 

「俺の権能は『原初の幽冥』。名の意味は『地下世界の神』。オラリオが崩壊することと、下界が冥府と化すのは同義。そして、それが全て。俺は『絶対悪』になるべくしてなっている。お前達にとって滅びであってもー俺にとっては楽園。こればかりは人智の及ぶところではない。邪神とは、そういうものだ。」

 

 

「狂っている・・・!理解できる筈がない!」

 

 

「理解されないこともまた、『悪』の側面だ。さて、俺は答えた。そろそろ『正義』の答えを聞こう。」

 

 

「ッ・・・!?」

 

 

「『無償に基づく善行』。『いついかなる時も、揺るがない唯一無二の価値』

。【そして悪を斬り、悪を討つ】。・・・以前、お前が告げた答えだ。俺は一言一句覚えている。お前は今も、同じ答えを言えるか?」

 

 

「・・・っ!」

 

 

「お前は、今日まで感謝されたか?『悪』が猛威を振るう日々の中で、見返りはあったか?裏切られる理不尽を嘆かず、理解されない『孤独』を恐れず、少しでも『正義』を疑わなかったと、神に誓って言えるか?」

 

 

「それはっ!」

 

 

「ならば質問を変えよう娘。お前が初めてイアンという少年に出会った時、お前はアイツをどう思った?その時の印象を捨ててお前はあの日、敵として対峙するイアンに向けて『悪』としてなんも疑いもせずに斬れたか?」

 

 

「私は!」

 

 

「お前が言う『正義』が正しければイアンはお前にとっての『悪』でしかない。その前の過程がどうであれ、お前にとってイアンは『悪』であり、『討つべき対象』でしかない。何をそこまで迷う必要がある?」

 

 

「うるさいっ!」

 

 

「耳を塞ぐな、娘。俺が酷いやつに見えるじゃないか。別に俺はお前の行動を否定したい訳じゃない。迷ったのだろう?彼を真の『絶対悪』だと捨てきれない自分の真意に。ならば、お前の『正しき選択』を提示してみせろ。今一度問おう。お前達の『正義』とは、一体なんだ?」

 

 

・・・

 

 

「私はっ・・・わたしはっ・・・!」

 

 

「どうした、言ってみろ?答えられないのか?ーはははははははははははっ!これが『正義』!絶望の淵では叫ぶこともできないのか!がっかりだ星乙女(アストレア)の眷属!そして痛快だ!お前が『正義』を信じられないなら、このオラリオも、『正義』の夢から目を覚ますだろう!この地には『悪』が『混沌』をもたらす!」

 

 

神は静かに嗤う。

 

 

「そんなお前に、再びこの言葉を贈ろう。『脆き者よ、汝の名は『正義』なり。そして、愚かなる者の名もまた、『正義』』。」

 

 

リューから返ってくる言葉はなかった。

 

 

『正義』の所在もわからぬ雛鳥は、『悪』の悪意に押し潰されていく。

 

 

「『正義の卵』、あるいは雛鳥は答えを出せず・・・期待外れだったな。こうなると、もう1人の娘の答えを聞いてみたくなったな・・・アリーゼ。」

 

 

・・・

 

 

「・・・」

 

 

目を覚ませば、見覚えのある天井だった。滅多に来るような場所じゃないけど、私たちにとって欠かせない場所。

 

 

「・・・団長!起きたのか!」

 

 

起きたばかりでまだ視界のぼやけている中、声の主を探して頭を振る。

 

 

「・・・私、何日寝てた?」

 

 

「・・・3日さ。」

 

 

「・・・そう。」

 

 

言葉が続かなかった。話題が無いわけじゃなくて、ただ寝起きによる体の不調と、しばらく動いてなかった反動の重さであまり口が回らなかったから。

 

 

「ところで、皆は?」

 

 

「・・・外でも歩いてるんじゃないか?」

 

 

「・・・そっか。」

 

 

ネーゼが嘘をついているのは明白だった。これでも長い間彼女たちをまとめてきた団長なんだから!これくらい分かってとうぜんよ!ふふん!

 

 

と口にする気力もないのが現状。自分の無力さを呪うだけで精一杯だった。

 

 

「大丈夫、みんな命に別状はないって。団長が元気無かったらみんな暗くなっちゃうんだから!ほら!」

 

 

「そうよね!ありがとう!私頑張るわ!」

 

 

「・・・ありがとう。」

 

 

 



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英雄

「そこをどきやがれ!」

 

 

 

「どいたらお前たちはリュー達を助けに行くだろ。だから通さん。」

 

 

「言っていることがよく分かりませんね。リオンを追わせたくないのは分かりますが。それならどうして私たちを殺そうとしないのでしょう?」

 

 

 

「お前たちを殺すだけならそんなことはいつだって出来る。だが今はそんなことには微塵とて興味はない。貴様らとて一方的な殺戮になんも興味などわかないだろう?」

 

 

 

「それならば貴方の目的は何でございますの?()()()から凄く疑問に思っていました。貴方の行動の真理が見えません。」

 

 

 

『大抗争』が起こったあの夜、闇派閥(イヴィルス)拠点襲撃を見事に返され、なし崩し的に【アストレア・ファミリア】と対峙することとなったあの夜、彼女達はイアン一人に手も足も出せなかった。

 

 

 

最後にアリーゼに重傷を与えるまで、他のメンバーには意識を刈り取る程度の傷しか負わせていなかった。やつがその気になれば彼女達の命など風前の灯でしかない。

 

 

 

「恨むならお前らの弱さを恨むんだな。目の前の力を押しのけられぬ貴様らの弱さを…な。」

 

 

 

「へっ、アタシらは生かしといても支障はないってか!」

 

 

 

「自惚れるなよ小娘風情が、お前らは『殺す価値』にも値しないと言っているんだ。」

 

 

 

低すぎる堤防では襲い来る波を防ぎ止めることは叶わないように、弱すぎる力では襲い来る理不尽な暴力を止めることすら叶わない

 

 

彼らを生かそうが殺そうが、彼の行く道を阻むことすら出来ないのだと暗に彼は諭しているのだった

 

 

 

「俺はお前らとの決闘を楽しみたいんだ。どうせ終焉までの刹那の暇つぶしにしかならんが、お前らのような何度でも挑んでくる奴は実にいい。」

 

 

 

「ちっ、言い回しがいちいちウザってえが事実なのが余計頭にくるぜ!」

 

 

 

「ならばここでしっぽを巻いて逃げ出すか?それもよかろう。ここで逃げたとて誰も責めまい。」

 

 

 

「けっ、敵を目の前にしておめおめと逃げ帰れるかってんだ。」

 

 

 

「ホント、憎たらしいくらいの減らず口。縫い付けて差し上げたくらい。」

 

 

 

今までとは一変、輝夜たちの雰囲気が急に暗くなり始める

 

 

 

「死に急ぐなよ小娘共。いくら抗ったところで貴様らの死の運命が変わることなどありえない。ならば残り短い人生、仲間内でワイワイ最期のときを過ごしたいだろう?俺は優しいからな、背を向けた敵には追い打ちをかけるほど非道では無い。」

 

 

 

どんなに優しい言葉を紡ごうとも、そこに含まれるのは彼女たちへの侮蔑

お前たちの力では訪れる終末は変えられぬと、そう告げているのだ

 

 

 

「それでもまだくらい足りぬと言うか。ならばお望み通り食らわせてやる。せいぜい見にくく足掻けよ。」

 

 

 

イアンが右手を掲げると、その右手が光り始める

さらにはどこからともなく鳴り響く大鐘楼

あの夜の光景が彼女らを突き動かす

 

 

 

「あの時は気づくのに遅れちまったが、2度目は喰らわねえよ!」

 

 

 

「この鳴り響く鐘の音と異様に光るその右腕、連発しない【超短文詠唱】の魔法。恐らくその発光はトリガー。なればやることはただ1つ。切り落としてでも止めるだけ。」

 

 

 

「ほぉ、あのたった一撃でボロボロになった身でよく観察できていたな。褒めてやる。・・・ただな。」

 

 

 

2人の猛攻を涼しい顔で交わしていく

 

 

 

「不正解だ。」

 

 

 

2人を最大まで引き寄せた上でイアンは右腕を彼女らの眼前に突き出す

高速で飛び交う戦闘。それも最大限まで引き寄せられたゼロ距離での砲撃

予測可能、回避不可の最大火力

 

 

 

「【ファイアボルト】。」

 

 

 

白昼の市街地に、雷が落とされた

雷鳴はとどろき、閃光は瓦礫を砕き突き進む

炎は辺りを焼き付くさんと燃え広がる

 

 

 

「やはりこの程度か・・・」

 

 

 

ピクリとも動かなくなった彼女らから目を離し、燃え盛る炎の中を歩き始める

 

 

 

イアンの足がライラの横を通過しようとした刹那。ライラの唇が、ほんの僅かに、つり上がった

 

 

 

「やっぱ輝夜の言った通りだな。こいつは穢れをしらなすぎる。」

 

 

 

ライラが顔を上げ、イアンの両足首を掴む

 

 

 

「アタシはよぉ・・・チビで弱っちいから・・・死んだ振りだって、爆弾なんかも作るがよぉ。」

 

 

 

ライラはほのかにほくそ笑んでいた

 

 

 

「仲間の足を引っ張らないためには『囮』だってやってやるが、ここまでハマりやすかったやつは初めてだな。」

 

 

 

イアンのLv7の感覚が真横で起きた動きを鮮明に捉える

 

 

 

しかし、それでも。背後に迫った『影』の方が僅かに速かった

 

 

 

「居合の太刀ー『双葉』」

 

 

 

ほぼ意識外からの一撃、完全に懐を取ったその刃はイアンの脇腹を確実に撃つはず・・・だった

 

 

 

「やはりお前らは若すぎる。俺を穢れを知らないと言ったが、お前らは『理不尽』を知らなすぎる。。」

 

 

 

輝夜の太刀が確実にイアンを捉えようとしたその刹那、彼の体は残像だけを残すように消え失せる

彼を捉えるはずだった一太刀はそのまま空を切る

 

 

 

「なっ・・・」

 

 

 

「ぐぅっ・・・」

 

 

 

イアンを掴んでいたはずのライラの両腕は斬り取られ、掴んでいたはずの両足は姿形も無くなっていた

 

 

 

「どこを見ている小娘共。そんな所に俺はいないぞ?い中の面影でも思い出していたか?」

 

 

 

「てめぇ、今どうやって抜け出した!」

 

 

 

「どうやっても何も、地を蹴れば後ろに飛べる。赤子でも知っている常識だろ?」

 

 

 

イアンは何も特別なことなどしていない。至極単純、邪魔な枷をとっぱらってそのまま太刀の射程距離から外れただけ

 

 

 

「ハハッ、バケモンかよ・・・」

 

 

 

「まぁいい、お前らとの茶番もほとほと愛想が尽きた。リオンの場所は教えてやる。アストレアの所にでもかえって迎えに行ってやるんだな。」

 

 

 

「待ちやがれ!」

 

 

 

「言ったはずだ、俺はお前らを殺すつもりは無い。無論リオンもそうだ。これ以上続けて貴様らの無様を晒し続けるだけの茶番をなぜ続けなければいけない。それとも何か、『これ以上恥は晒したくないのでいっその事一思いに殺してくださーい』とでも懇願するか?」

 

 

 

彼は嘲笑いながら立ち去っていく。それをライラ達は歯ぎしりしながら見つめることしか叶わなかった

 

 

 

「あぁそうだ、言い忘れていたな。リオンは『第7区画』の教会にいる。早めに手を貸してやることだな。早くしないと死体が2つ増えてしまうぞ?まぁ、生きていたらまた会おう。正義の使者よ。」

 

 

 

・・・

 

 

 

「許サナイ!許サナイ!許サナイ!」

 

 

 

風が吹いていた

 

 

 

「待つんだアイズ!一体どこに向かおうとしているのだ!」

 

 

 

おぞましいほどの黒で染められた暴風を撒き散らしながらアイズはオラリオを突き進む

 

 

 

「許サナイ、絶対ニ倒ス!」

 

 

 

立ちはだかる闇派閥を一方的に蹂躙しながらも、その風は留まることを知ろうとしない。彼女を突き動かすのは怨嗟の炎

 

 

 

そして彼女の脳裏に浮かんだのは今は亡き両親の面影

 

 

 

「この街から出ていって!今すぐ!」

 

 

 

「あぁ、やはりこの風はきらいだ。ただただ壊すだけの弱い風。そんなそよ風では何かをどかすなど到底不可能。そんなもんでは無いでしょう?」

 

 

 

「うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!今すぐ私の、ここから出て行け!」

 

 

 

少女は、ただ彼に、昔の『英雄』の姿を映し出していた

 

 

 




見えてきた、ようやく見えてきた最終決戦がぁぁぁ


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懐かしい風

アイズがイアンを見た時に覚えたのは『懐かしさ』だった

惨劇の跡地でイアンと出会った時、アイズは彼に遥か昔日の『英雄』を見ていた

 

 

 

対峙しただけでひしひしと感じ取れる程の存在感

 

 

 

その中でも隠しきれていなかった彼の優しい雰囲気から少女はイアンに自身の過去と無意識に重ねていた

 

 

 

『いつか、お前だけの英雄に会えるといいな。』

 

 

 

懐かしき(あの日)『風』(思い出)

 

 

 

誰にでも笑顔を運ぶ優しい風のような人

母にアイズは憧憬を抱いていた、母に憧れ、2人について行こうと必死だった

 

 

 

だからこそ、イアンを初めて見た時、彼女の心は初恋に気づいた少女のような清純さを取り戻しかけていた

 

 

 

「やっと・・・やっと現れたと思ったのに!」

 

 

 

アイズは激怒した、イアンが【ロキ・ファミリア】の、オラリオの敵として暴虐の限りを尽くしたと知った時、少女は必ずイアンを除かねばならぬと決意した

懐かしい風の匂いと、父親のような圧倒的な強さを持つ彼に少女は今まで抱くことのなかった知らない気持ちを抱いていた

 

 

 

だからこそ許せなかった。汚したくない遠い記憶を鮮血と、どす黒い悪意で塗りつぶされるようなそんな感覚をアイズは感じていた

そしてアイズは、イアンを何よりも恨み始めた

 

 

 

フィンたちの敵として、そして何より遠い記憶を汚されるような、悪意の塊として

いつしか、イアンへの感情は全て憎しみと怒りへと変化して行ったのだ

 

 

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!」

 

 

 

アイズを中心に風が渦巻いていく

アイズがつかう風属性の付与効果(エンチャント)魔法

 

 

 

「見つけた、このまま・・・突っ込む!」

 

 

 

直線距離にして約200メドル。半壊した家屋が立ち並ぶ道を歩いているところをアイズは見留めた

 

 

 

「最大出力!」

 

 

 

風がさらに激しさを増していく

 

 

 

道に散らばった瓦礫は粉々に砕かれ、更に風によって吹き飛ばされる

 

 

 

もう彼女を止められるものは誰もいない。親代わりのリヴェリアでさえ今のアイズには追いつくことは叶わない。

 

 

 

「【私の前から消えて(リル・ラファーガ)!】」

 

 

 

緑色の風はいつの間にか黒く変色していき、エアリアルを纏ったアイズは更に加速していく

主神からの助言?から叫ぶことにしている技名とともにアイズはイアンに高速の突きを繰り出した

 

 

 

「・・・!?アイズs・・・ちぃっ!」

 

 

激突まで約100メドル。アイズの突撃に一瞬驚くも、直ぐにいつもの顔に戻すも、すぐにいらだちが見え、回避体制に移る

 

 

 

ギリギリで躱されたアイズはそのまま壁に激突して停止する

 

 

 

「私が・・・あなたを倒す!」

 

 

 

激突の反動で多少ふらつきながらも立ち上がり、すぐさま剣をかまえる

 

 

 

「おいおい、既にフラフラじゃねえか。それにお前は・・・廃工場で出会った。アイズ・・・と言ったか?」

 

 

 

イアンもまた状況把握の後に、ロングナイフを抜き、臨戦態勢に入る

 

 

 

「【吹き荒れろ(テンペスト)】!」

 

 

 

対話など必要ないと言わんばかりに強引に風をまといながら連続でイアンをきりつけていくアイズ

それをイアンは何処吹く風とでも言わんばかりにアイズのエアリアルをものともせずに淡々と弾いていく

 

 

 

「私の前から消えて!」

 

 

 

怒りと憎しみに任せたただけの『技』も『駆け引き』も存在しない剣戟はイアンにはかすりもしない

それでもアイズは我武者羅に剣を振り続ける

 

 

 

「お前の風は確かに便利だ、付与効果(エンチャント)にして出来過ぎなくらいだ。」

 

 

 

独り言のように呟き始めたイアンの言葉に半分耳を傾けながらも攻撃の手を休めないアイズ

 

 

 

「だが、お前の技はその剣だろ。その技を鍛えないでどうする。」

 

 

 

「・・・???」

 

 

まさか敵に塩を送られるとは思わなかったのかアイズは突如ピタリと停止する。しかし、いまいち理解出来ていないのか頭上に疑問符が浮いている

 

 

 

「いいか、その風はあくまでお前を強化するための風だ。どんなにその風が強くたって敵は倒せない。そこまでは分かるな?」

 

 

 

「おー。確かに!」

 

 

 

ただの独り言から始まったイアンの指導にアイズは恨みも忘れてすっかり聴き入ってしまう

 

 

 

「どんなに最強の防具や武器を持ってたって中身がポンコツだと宝の持ち腐れってもんだ。分かるか?」

 

 

 

「ふむふむ。」

 

 

 

この時点でアイズの敵意は完全に消えていた。元々互いをよく知らぬ上での対立。剣を混じえた事でアイズの中で何かが変化したのかもしれない

 

 

 

「だからお前は剣を磨くんだな。そしたらその風もより使いこなせるようになる。」

 

 

 

「ありがとうございました?」

 

 

 

いつの間にかレッスンへと変わっていた戦闘に、アイズの謝礼で区切りが着く

 

 

 

「・・・はっ!違う。私はあいつを倒しに来たんだ。このまま敵の策略にのせられる所だった・・・」

 

 

 

落ち着いたことで冷静になれたのか、本来の目的を思い出したアイズも最初のような憎悪は消えていた

 

 

 

「お兄さん、よくわかんないけど多分良い人。闇派閥の人達とは全然違う。」

 

 

 

「何を言っている?俺はイアン、お前らの敵だぞ?」

 

 

 

「うん。それは知ってる、でも全然違う。」

 

 

 

「うーん、やりずれぇなぁ。」

 

 

 

先程までドンパチやり合っていたふたりとは思えないほどの空気の変わりようにイアンはたじろぐ

 

 

 

「で、どうする?やり直す?」

 

 

 

「やる。・・・でも一つ聞いてもいーい?」

 

 

 

「なんだ。」

 

 

 

「どうして闇派閥にいるの?」

 

 

 

「・・・いや、誤魔化しても無駄だな。そうだな、お前が俺に一太刀入れられたら教えてやらんこともない。」

 

 

 

「約束。破ったら針千本だからね。」

 

 

 

「誰から教わったんだ・・・」

 

 

 

「リヴェリアから。」

 

 

 

「そっか。・・・でもごめんな。」

 

 

 

「あぐっ。」

 

 

 

イアンがアイズの隙をつき、背後に回って手刀を当てることで気絶させる

 

 

 

「これで良し・・・と。保護者は子供から目を離すなよ。」

 

 

 

「アイズから離れろ。」

 

 

 

疾風のごとき速さで飛び出して行ったアイズを追いかけてきたリヴェリアがようやく追いついてきた

 

 

 

「安心しろ、幼子に手を上げるほど落ちぶれちゃいねぇよ。」

 

 

 

「分からんな、お前たちは闇派閥の仲間なのだろう?それなのに不可解な行動が多すぎる。今のアイズにしろ、【アストレア・ファミリア】にしろ。お前の目的は一体なんだ。」

 

 

 

「それを聞いてどうするつもりだ?たとえ何を返したところでお前たちと俺の関係など変わらないだろう?」

 

 

 

「深い意味は無い。アイズがあそこまで人に入れ込むのは初めてなのでな、少し気になっただけだ。」

 

 

 

「俺の目的なんて知る必要は無い。もし、俺の真意に気づくような日が来るとしたらそれは、俺の目的が失敗した時だけだ、」

 

 

 

「ますます訳が分からん。」

 

 

「さっきお前は俺を闇派閥の仲間だと言ったが、少し語弊がある。確かに俺は闇派閥側の人間だが、仲間では無い。あくまで協力しているだけだ。仲間などと一括りにされるのは心外だな。」

 

 

 

「お前たちは闇派閥ではないのか?」

 

 

 

「おっと、お喋りはここまでのようだ。」

 

 

 

「おい待て、話はまだ!」

 

 

 

「なんだ、既に貴様がいたのか。私が向かうまでもなかったな。それはそれとして・・・何度目だエルフ。」

 

 

 

奥の通路からアルフィアが姿を現す

 

 

 

「今回に関しては貴様から来たのだろう!」

 

 

 

「そう雑音を立てるなよエルフ。それと、何人たりとも立ち入らせるなと、神の達しだ。しばらく神の『娯楽』に付き合ってもらうぞ。」

 

 

 

「それは構わないがさすがに過剰では?」

 

 

 

「ならばどこかへ立ち去れ、私は今目の前の雑音を無くさねば気が済まない。」

 

 

 

「ハイハイ、わかりましたよ。」

 

 

「おい待て話は終わってない!」

 

 

 

「これ以上余計な雑音を立てるなエルフ。」

 

 

 

二人の間を抜け、イアンは1人、アイズが飛んできた道を1人、駆け抜けて行った

 

 

 

 




アルフィア、ザルドと闇派閥とイアンとはそれぞれで目的は違います





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