祖なる龍は世界最恐 (ツーと言えばカーな私)
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プロローグ

突発的に描きたくなってしまったため、完成度が低く、プロットなんて(建てて)ないです。
正直プロローグで終わりそう。





 

 人類史においても龍の歴史においても最悪な歴史、竜大戦の時代……。

 

 その大戦の始まったきっかけはなんだったのかよく分かっていないが、龍達は平穏を望み、人々は脅威の排除を望んだだけだった……らしい。

 

 2種族の主張は合間見えず、人は龍を襲い殺し、それから剥いできた龍の皮、鱗、爪、筋肉、内臓などから人工的に龍を作った。龍はそれに対抗すべく己の力を使い人を壊し、潰し、喰らい、焼き払い、やがてその作り上げた龍を認知し、理解し…怒り狂った。

 

 永遠かとも思われていたその凄惨極まりない戦争はその怒り狂った龍によって終戦を迎えた。

 

 怒り狂った龍は瞬く間に戦争の傷跡を上書きし、人類の足跡を残さない勢いであったが……最後には人を赦し、その場をただ静かに去ったという。龍は未だに平穏な生活を望んだ。人類は焼け爛れた自分たちの故郷を見て呆然とするも、生き長らえた事にただただ歓喜した。

 

 これは闇に葬られるべき歴史であり、最も人類が戒めにすべき歴史でもある

 

 今ではその歴史が後の時代に大きく響き、理不尽に生命を奪われる事はなくなった。

 しかし、その歴史は隠蔽され世界の最上層機関でしか握られていない情報になり、今の世界がどうやって作り上げられたのか知る人は殆ど居なくなってしまった。だが、理由は忘れられたとしてもそれでも龍達は良かったのだ。別に褒め称えられたい訳でも、同情されたい訳でも無い。理不尽な死が無くなればそれで良かったのだ。

 確かに未だ争いは無くなっていないが、ただそれはどちらかが生きるか死ぬかの生命としての、生きる為の争いであり、理不尽で残酷で冒涜的な死ではなくなった。龍と人が多く命を散らした事に確かに意味はあった。

 

 

 

 そして、また。ここで命を散らそうとしている龍が一匹…。

 

 あたりは暗く、僅かながら天井の隙間から光が差し込まれ、右端に地下水が漏れ出て水溜りが出来ている。その水面は、差し込まれた光によってきらきらと乱反射を繰り返していた。

 

 その中央で白く蠢く巨大な何かがあった。

 差し込まれた光から穢れなど一切伺えない純白の鱗が見え、閉じていながらも雄大と感じさせる翼、禍々しくも神々しいと相反する印象を与える蜿蜿とした灰色の6本の角、他者を寄せ付けない紅く光る爬虫類の瞳を有した巨体が一定のリズムで呼吸を取っていた。

 

 彼女の名はミラルーツ、祖龍と謳われ恐れられた最恐最悪の古龍である。

 彼女はもうすぐ寿命を迎える事を予期していた。そしてその事について何も悲哀はない。

 

 

 ただ己は生きた。そしてやりたい事をした。ただそれだけだ。何の不安も不満もない。

 

 彼女は竜大戦以前からも生き永らえる数少ない個体であり、その生きた年月は人間が百や二百人分あっても全く足りない程だ。そして、生に執着が無くなった彼女は自分が寿命を迎えられる事に喜びを憶えている。

 

 一つの生命として、気高く戦い生き抗い、使命を果たした。捕食者として、今まで食らった生命の事を一切忘れずに生きた。親として、または種族として、自分を宿り木にした己の子を立派に育て上げ、種の存続に尽くした。そして最も正しい形で命を鎮めようとしている。これ以上私は何を望むのか。これ以上に望んで何がしたいのかさえ分からない。

 

 ただ、死後にこの洞窟周辺の環境はゆっくりとであるが豊かな食糧と自然に恵まれ、新たな生命が息吹くだろう。後にそこを住居とする新しい生命がどんな営みを繰り広げるのか興味は湧かないでもないが、自分が死んだ後に起こる環境の変化に思いを馳せても意味はない。

 

 そろそろ終わりを迎えるのだろうと瞳を閉じた。

 

 今まで多くの同族が死んだ、子も失った時もある。人間の恨みも忘れないが、感謝も忘れない。龍であろうと友として接してくれる人間もいれば、思い人として愛を与えてくれる人間がいた事を忘れない。ただの幼き少女が迷い込み世話をした事も、そして目の前でその人間達が死んだ事も…全ての自分との関わりを持った生命を忘れない……それは己の最後まで続く責務だ。

 

 先程まで感じていなかった身体の重みが増す、本当に死の寸前なのだろう。

 段々と身体の感覚が失われて…先程まで響いていた水の流れる音も聞こえなくなり、地面に触れているという触感すらも消え、視界も段々と暗くなっていく…自分が宙に吊られているような新しい感覚が生まれた。

 

 あぁ……これが、死か…。何も感じず、何も得ず、死だけに己が傾いて行く…。そうか…そうか…このような気持ちなのだな、やはり未練など私には、拭いきれなかったか……。

 

 

 ……先程まで洞窟を仄かに照らしていた鱗が、輝くことは…もうない。

 

 

 

 

 

 かくして、祖龍は目覚めた。

 目を開き、入ってきた突然の光に眉を寄せ、目の前の光景に目を丸くさせる。

 人がいたのだ。それも女体の。

 いや、女である事に驚いているのではない。

 なぜ小さき人の腕の中に己は居るのか、死んだと思っていたら生きていた?事についても驚いたが、まだそこまで思考は働いていなかった為、先にその疑問の方が来てしまった。

 

 頭の中が少し混乱し、死後の世界というものはこういうものなのかと納得しそうになるが、それにしたってなぜ人の姿をした者に?とまた新たな疑問が湧く。

 

 暫く状況の整理に戸惑っていると、また自然と瞼が重くなってきた。

 これは一種の夢か何かで本当は今から死ぬのではないか?と考えたが今度は眠気によるものだと理解する。先程『死ぬ』という感覚を経験した所為か睡眠との区別がついた。

 

 そして眠気を感じるということは『生きている』という事に他ならない。

 つまり自分は生きているという事になる。だとするのなら、何故生きている?

 自分は死んだ。それは紛れも無い事実だ。まさか祖龍である自分が己の死期をも間違う程に耄碌したというのか?…いや有り得ない。

 

  しかし…いや……だが、現実に起こっている事だ…私は…本当に私は人間に転生したとでもいうのか?

 

 己の眼下に映る赤子の手を見ながら、祖龍……改め南雲 美羅は再び深い眠りに着いた。

 

 

 




ミラルーツを日本人の名前で表すなら『みら→美羅』かなぁ…とか思ってたんですけど、既に他の方が使われていてどうしようってなってます。でも他の名前やるとミラルーツにした意味は?とかなっちゃうんで…やっぱりどっかでミラ要素入れたいって事でそのまんまにしました。不快に思われた方は誠に申し訳ございません。


あと、本当にこの作品読んでくれてありがとうございます。
ぶっちゃけミラルーツさんのキャラも我っ子で行こうか、私っ子で行こうかとか、命尊重ウーメン(何もかも生かすとかそんなんじゃないよ)で行こうか、何処らへんで力覚醒させようかとか決まってないです。もう最初っから力覚醒でも良いかなぁ…なんて思ってたりして、全然この先が定まっていないんですよね。
あと口調も所々男っぽくなってます。それは私が今まで男のオリ主しか書かなかったからですかね…女子キャラ書いてもTSものでしたし…もっとオリジナル作品書いとけば良かったと後悔してます。




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第0.5話

 

 僕には不思議な姉さんがいる。

 髪も肌も嘘みたいに白くて、それに反する様な紅い瞳をした美人な姉さんが。正直言って家族の誰に似たんだろう?ってぐらいの美人で、美の女神が見たら裸足で逃げ出すんじゃないかって思ってる。

 

 それに比べて僕は平凡だ。多分、小説とかの物語だとモブAって立ち位置だと思う。

 この世界が物語としてあるなら姉さんは主人公か、そのヒロインなんだろう。…そう考えるとモブAではないか…。なんかちょっと安心しちゃった。

 

 姉さんはその容姿から小さい頃から人気者で、基本的に誰にでも分け隔てなく会話するから、上級生にも下級生にも人気だった。……まあ、だからこそ当時の僕は大変だったんだけどね、姉さんはなんでか知らないけれど僕にめちゃくちゃ構ってくるから。

 過保護って言われるぐらいには僕に構ってきた。授業が終わって、休み時間になると当たり前のように僕の教室に来るし、必ず隣に座る。僕が体育で怪我をした時には、真っ先に駆けつけてくれるし、ただなんとなく一緒に歩いている時には姉さんの方から手を繋いでくる。

 あと、姉さんと全然似てない平凡な容姿が災いしてか一時期は恋人同士だと思われていたらしい。というか、こんな行動をほぼ毎日していればそう思われるのは当然だったんだろう。

 姉さんとそういう関係だと思われていた時期は、男子からも女子からも目の敵にされていて、いついじめが始まってもおかしくなかった。

 結局、それに気づいた姉さんが率先して誤解を解いて姉弟って事が広まったから治ったんだけど……。

 

 その後も厄介事は続いた。姉さんと繋がりを得ようとしてか、男子たちが変に僕に絡んでくる様になったり、女子からは姉さんにラブレターを渡してくれと頼まれる様になったのだ。

 姉さんが大人の女性の様な落ち着きを小さい頃から持っていたから、それに感化されて憧れの気持ちとか、高身長でイケメン美女な所が合わさって恋愛の感情になったんだと今ならわかるけど…当時は本当に女子同士で恋愛ってあるんだ…と、その時にそういう道の片鱗を味わってなんか戦慄していた。

 因みに普通に仲良くしたいから仲介役をしてくれない?とかの頼みもあった。それが一番楽な頼み事だったなぁ…姉さんは基本的に友達という存在になる事自体は拒まないから。

 

 まあ姉さんはその関係以外興味なかった?様で、ラブレターとか告白関連は全部断っていた。僕が断られた事を一々報告するんじゃなくて、姉さんが直々に断りに行っていたからまだいいものの、断られたマイナスの感情を僕にぶつけてくる人も居たから本当に辛かった…結局はそういう人も姉さんがなんとかしてくれたんだけどね。姉さんのバブみの様な王に仕える騎士の様なカリスマ性があったから成せた事だと思う。

 

 って、なんか姉さんの愚痴みたいになっちゃったな…。

 僕とは不釣り合いなくらい凄い姉なのに…。

 まあ、今から紹介していこう。僕の姉さんは基本的に物事や自分から得た知識を忘れない。所謂完全記憶能力とかいうとんでも体質を有しているのだが…本人からは『昔からそういう習慣をしていただけで、いつのまにか身についてしまったもの』と言っていて、本人曰くそういう体質とかじゃないと言っていた。聞いたのが小学生の時だったので、おねぇちゃんって凄いんだね!くらいの感想しか出てこなかったと思う。

 

 因みにその時は姉さんが常に満点のテストしか取らなかったので何か勉強のコツを聞き出そうとした時に聞いて分かった。考えてみれば習慣づけしたとしても小学一年生の時からそれが身についているのはおかしい。

 一度はやっぱりそういう体質なんじゃないの?と思ったけれど特に嘘を吐く必要もないし、姉さんはそもそも嘘は吐かない性格なのでそれはないと思った。本当にそういう習慣づけでなったんだと考えたたんけど…一体それなら姉さんが物心を持ったのはいつなんだろう?少なくとも0歳の時からって事になる…とは思うんだけど…姉さんが教えてくれないから分からない。

 

 次に凄いのは姉さんの身体能力だ。運動神経が抜群とかそういうレベルじゃない。鬼滅の刃の甘露寺さんばりに細い腕をしているのに、甘露寺さんばりに力が強い…いやそれ以上かもしれないけど。上級生の男子にも運動面で負けた事がなかったから薄々は感じてたけど、本格的に感じたのは僕が家に忘れものをして姉さんが取ってきてくれた時のことだったと思う。

 

 あの時は先生に怒られたらどうしよう…間に合わなかったらどうしよう…姉さんに迷惑をかけてしまった…とか色々と焦っていたから気づかなかったけど、当時は小学生の足だったとはいえ片道30分の道のりを走って往復10分で済ませるってどういう事よ…。オリンピック選手を軽く超えてない?あの時姉さんも必死だったのか、息を荒くしていたけど…それでも充分に凄いと思う。

 

 後、酔っ払い相手だったけど大人の男の人にも腕相撲で圧勝していたんだから脚力だけじゃなくて多分腕の力も相当なものだと思う…小学生に圧勝されたせいかその大人の人酔いが冷めて、顔も冷めてたけどね…。あっちからふっかけてきたとはいえ可哀想になった…。大の男が小学生の女子に負けたんだから相当落ち込んだんだろうなぁ……。

 

 姉さんが凄いところはまだまだある。

 これは最初から言ってる事なんだけど姉さんは凄く顔がいい上にプロポーションが抜群だ。黄金比と言っても過言じゃない。その年々(としどし)の完成形の身体をしてるんじゃないかといつも思う…。姉さんは神にでも愛されたんだろうか?

 

 まあ…学校のこと然り、それが原因で困ってることもあるんだけどね。それは、姉さんが躊躇なくお風呂に入ってくること。家族に対してとことん甘い姉さんはとりわけ僕にとても甘かった。弟というよりかは多分子供の様に思われていたんだと思う。その意識を姉さんは持ってるから「今日は2人で一緒に入らないか?」とか頻繁に言ってくるんだと思う。事前にそういう事を言ってくる日もあれば、突然入ってくる日もあるから本当に心臓に悪い…。僕はいつからToLOVEっていたのか。何度見ても姉さんの裸は見慣れない…それぐらい見飽きない体なんだ…ちょっと気持ち悪い表現だけどね……。

 

 それにあのチート生徒会長らしく、自分の体や生き様に恥ずかしい所が無いっていう理由から見られても恥ずかしく無い様で基本的に姉さんは自分の胸とか秘部とかを隠さない。

 …僕だって最初は気にしなかったよ?そりゃ小さい頃は何も感じずに無邪気に洗いっこしたりしてたけど…段々と大きくなるにつれ自然とそっちに目がいく様になってしまった。これは男としてしょうがない思う…それに姉さんはその視線に気づいているのに、何も咎めないから僕はさらに見てしまった…今じゃあんまり見ない様にしている…筈……。姉さんは気遣って欲しい…男子中学生に姉さんの裸なんて見せたら毒という事を。

 

 あぁ、また愚痴見たくなっちゃった。

 でもまあ、姉さんに色々と迷惑をかけられてるのは事実だからなぁ。

 …それでもまあ、姉さんの事は好きなんだけど…。

 姉さんは同い年という括りの中なら僕の唯一の理解者でもあるから。

 

 姉さんは知識欲旺盛とでも言えば良いのか、ノゲノラのジブリールみたいな感じで、色んなことに興味があった。 それに加えて完全記憶能力なんて物もあるのだから、必然的に知識を集める為に本を読むことが多かった。

 小さい頃はあまり物欲がなかったから誕生日のプレゼントの時はどうしようかと悩んでいた両親も本を求め始めた姉にやっとプレゼントを渡す事が出来て嬉しかったのか、望む本を大量に買ってしまって、今の姉さんの部屋は工藤新一かなぞなぞ博士の私室を一瞬想起させる様な部屋になっている。…というかいくらお金が余っていたとは言え、部屋の改造に使うだろうか普通。今更ながら親の愛が深い…うん。

 

 あ、いや、それでね?姉さんが本を読む様になった時に僕も丁度ラノベとかに手を出し始めてたんだよね。姉さんが僕の部屋に来た時にそれに興味を示したのか、一度貸したんだけど……まさか一時間で読み終わるとは思っていなかった。それ程ハマったって事なんだと思う。あれ、一応400ページくらいあった長いやつだったんだけど…それから姉さんもラノベを読む様になって、どんどんアニメとかゲームとかハマってしまった。今じゃ姉さんも立派なオタクになっている。だから、そういう立場は有り難かった。

 

 僕はその当時まだ共通の趣味を持っている友達がいなかった。同じ趣味を持っている人と話したい欲求のあった僕はその状況を窮屈に感じていたんだけれど…姉さんがハマった事によってそれが無くなった。少し前は月に2回くらいあるかどうかの頻度だったんだけど、段々と増えていって、今ではほぼ毎日読んだことのあるラノベやゲーム、アニメや映画の感想を言い合っていてその時間がとても好きになった。

これだけは親にも邪魔されたくない時間で、多分人生の中で一番心が落ち着いてる時だと思う。

 

 まあ、そんな顔も体も頭も性格も完璧な姉がいるものだから…僕も頑張った。

 何とかして姉さんの弟として誇れる様に努力した。この決意をしたのが、確か中学一年の最初の期末テストの結果からだったと思う。

 その時の姉さんは当然のように全ての教科で満点を取っていてトップに立っていたんだけれど、僕はそこまで良くはなかった。半分より下は取っていなかったけど、高い点数を取れているものは何一つなかった。

 その時は多分…落ち込んでいたんだと思う。そんな僕を見てか姉さんは「勉強を教えようか?」と提案してきたけれど、僕は断った。今までの自分から考えつかない様な冷たい声で…。

 情けなかったんだと思う。今まで、小学生のテストや中学生の中間までならまだ高い点数を取れていて、姉さんと釣り合っていると思っていた。けれど……期末で思い知らされた。

 

 思い知らされて…本当に姉弟なのか?とクラスや他クラスの人からも口々に馬鹿にされた。そう言われ、本当に僕も姉弟なのか?と思ってしまった。性別も、性能も、容姿も何もかも似ている部分がない自分たちは本当に家族なのか?と。

 不意に、姉さんにそう質問してしまった僕はどうかしていたんだろう。

 

「私たちは家族であり、そして姉弟だ。ハジメは私の可愛い弟で、いつだって自慢している私だけの弟だ。容姿に似ていない部分が無かろうが、能力に差があろうが、そんなのは関係ないだろう?かけがえのない大切な私の弟なんだ。そう悲しい事を言わないでくれ………頼む……」

 

 悲しそうな顔をしながらも姉さんはそう言ってくれた。あの時、僕は姉さんの胸の中で泣いてしまった。我ながら恥ずかしい…。 甘えに甘え尽くされてまだ精神の成長が遅かったのもあるけれど、中学生が姉の胸の中で泣くって…ちょっと…どころじゃないけど、絶対に友達とかにはバラされたくない。

 嗚咽をしている僕に姉さんは優しく話しかけた。

 

「ハジメ、落ち着いた時でいい…ハジメを馬鹿にした連中の名前を教えてくれないか?何、心配する事はない。家族が受けた仇は絶対に覚えている様にしているんだ。そして、仇を絶対に返すのが私の中での鉄則だ。安心してくれ…」

 

 何を安心すればいいのか分からなかったけど…取り敢えず、姉さんは容赦がなかった。という事だけは言っておく。まさか、学校一の人気者の優等生が暴力沙汰を平気で起こそうとするんだから僕も流石に止めた。僕のせいで姉さんの評判が下がるのだけは嫌だったからね。

 あの時僕が抑えなかったら多分、先生でも姉さんを止められなかったと思う。それ程姉さんの力は強かった。もう、本当にその力のまんま直進すれば壁とか平気で突き破るんじゃないかと思った。

 

「ハジメの好意からお前達を殴るのはやめておく、だがもう二度と私の友だと名乗るな」

 

 そう言ってから、姉さんは本人達が泣くまで口撃し続けた。さながら大人が本気でブチ切れた様な雰囲気を纏っていたから周りの誰も何も言えず、ただただ姉さんの意外な姿を見て、驚いたり、畏怖していた。僕もこんな姿を見る姉さんは初めてで正直怖かったけど…それ程僕の事を思ってくれてると思うと自然と嬉しいと思ってしまっていた。

 

 だから、そんな姉に少しでも近づくように勉強をした。元々、地頭は良い方だったんだと思う。勉強時間を増やすだけで点数は飛躍的に伸びていって、今では姉さんと僕は常にトップ争いをしていることが多い。運動面は一度努力してみたけど、姉さんは何もしなくてもあの成長率なのだから多分追いつく事は出来ないと悟った。一応、努力自体は続けているけどね?

 今、僕は姉に相応しい弟でいられているのか分からない。ただ、努力する姿だけは認められて欲しいな…とは切に願う。

 ……まあ、姉さんは相応しいとか相応しくないとかそんなの関係なく僕が弟だという事を肯定してはいるんだけどね。そりゃそうだろうけど…僕の気持ちの問題でもあるし、姉さんを輝かせたいっていう僕の我儘でもあるから…。

 

 




今回の話は3回ぐらい書き直しました。
1回目は祖龍様視点、2回目はハジメ視点、3回目は2回目の文を全体的に改竄した感じ。

因みに、ミラさんは前世基本的に鱗に覆われてましたけどほぼ全裸でしたし、人の文化を遠くから眺めて服というものをなんとなく分かっていたのですが、つける意味は全く分かっておらず、取り敢えず親しい者以外の前では服を着る。みたいな認識です。最近ではやっとオシャレって事が分かってきたけど、本人は全然気にしてない模様。それに、ハジメがそういう反応を示しても、雄としては子孫を残せるのは良い事だな!という事なので何も咎めはしないです。

書いてないけど誰も見てない所だとほぼ裸族。偶にハジメが姉の部屋に入るとカーテンから差し込まれた光と共に幻想的なまでに美しい少女の裸体が見れるという。そして、本人は特に気にもせず「どうした?」と言ってくる。ここまでエロいミラはいただろうか。

ミラさんの友の定義だけど…ぶっちゃけそこまで友達と認識してない、言っちゃえばそういう関係になっただけで特に何をしてやる訳でもないぞ?的な。少し意識を向けてるだけの他人みたいな感じ。親友になると家族ばりに甘やかしてくる。でも、真の友達である前世の人間の友人はそういう感じではなく。マジでくだらない会話を楽しむフレンドオブザフレンド。ミラさんの心救済係ともいう。寿命で死んだのでミラさんは最も敬意を示しながら弔った。そしてその夜に静かに泣いていた。


作者が悪人キャラ描くの慣れなすぎて、ただの狂人しか書けない……。(お陰で生徒たちの悪口シーン何度も書き直す羽目になって、結局は文面だけの出演になった)

あと、中盤から終盤までは夜更かしして書いちゃったから文が安定してなくて、後々編集されてるかもしれない。(という報告)


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第0.75話

弟がゴジラマニアで自分もまあ興味あったんでゴジラvsコング観に行きました。
…オープニングで人は涙を流せるんだなって思いました。
ゴジラ×ありふれの二次創作を読んでいたり、弟がゴジラ映画を勧めていたのもあってにわか並みの情報量でしたが、にわかなりに感動しました。
帰りの時に弟がずっと感想言ってくるんで若干うざったいとは思ってましたが共感性あって聞いてて楽しかったです。

あと、第1話を先延ばしにしてすみません。
この話はどうしてもって訳でも無いですが描きたかったので。


 意識が覚醒するのを感じ、ゆっくりと身体を起き上がらせる。

 何度か瞬きをして、ぼやけた目をこすって状態の確認を始めた。

 

 少しずつ視界が晴れて、床に散らばっている自分の下着や、大量に本が敷き詰められた本棚、ハンガーにかけられた学校の制服などが視界に写ってくる。下に目を動かせばいつも通りの自分の身体があって、少しばかり盛り上がりがある胸部と引き締まりながらも女性らしい膨らみのある四肢があって、あぁ…そういえばまた裸で寝ていたなと寝る直前の事を思い出す。

 

 ベッドから離れ、カーテンの近くに行ったところで「んーっ!」と身体を伸ばす。身体のあちこちで骨が鳴って意識が少し覚醒してきた。

 カーテンを開けて光が急に入ってきた事に目を細める。

 その光から目を逸らして時計を見てみれば、まだ学校へ行くまでに1時間以上もあり少し早めに起きた事を認識した。今日は父も母も仕事で朝早くから居ないので、朝食を作るのは自分の役目だ。なので、ちょうどいい頃合いに起きたなぁ…と呑気な事を考えながら床に散らばっている自分の下着を着て台所へと向かった。

 

 幼い頃から両親への恩返しの一環として、調理を含めた家事の手伝いをしていたので料理はそこそこ出来る。まあ、調理の楽しさを知ったと言えばいいのか、味の楽しみ方を知ったからとでも言えばいいのか、料理には中々に力を入れている。栄養の摂取量のみ比べれば前の世界の方が上だが、今の私にはそんなエネルギーは多すぎる。

 

 とはいえ、今日の材料を見てみたが買い物を碌にしていなかったせいか作れるのは精々がベーコンエッグぐらいで、昨日の残りのお米と食パンが一袋あるくらいだ。

 焦がすか、焦がさないかの時間調整ぐらいしか気をつけることがないのでベーコンエッグはさっさと作り、その間に焼いていたパンを2枚取り出して皿に乗せた。食い盛りのハジメではこれくらいでは足りないと思うので、もう一枚程焼き、余っていたベーコンを乗せた。卵は2個しかなかったので仕方ない事だろう。

 簡易的だが、朝の食事としては良い方なんじゃないだろうか、アニメとかでも良くべーコンエッグパンは朝に食べられているし。

 

「ん〜…姉さん、おはよう〜」

「あぁ、おはよう。どうした?今日は早いじゃないか、大丈夫か?」

「うん…大丈夫…昨日、少し早めに寝たからだと思う……」

「そうか、ご飯はもう出来上がっているから顔を洗ってから一緒に食べようか」

 

 丁度いいタイミングでハジメが降りて来て、一瞬また無理して起きたんじゃないかと思ったが普通に今日は早めに起きた事を聞かされた。寝ぼけた姿が少し可愛らしいと思うも、直ぐに顔を洗ってくるように促す。

 それから目が覚めた様子のハジメが戻ってきて、2人でたわいもない会話をしながら食事をし始めた。

 

「最近、学校でまたいじめられたりはしてないか?」

「いいや、去年以来一度もないよ。というか姉さん毎日のようにそれ聞いてくるね…」

「可愛い弟が虐められていると知ってから心配でな…今もされてるんじゃないかとひやひやするんだ…しつこいようだったらすまない」

「大丈夫だって…それに、もしまたそういう事が起きたら真っ先に姉さんに相談するよ」

「そうか…姉としてその言葉を聞けて嬉しいよ。あ、それで、彼女は出来たのか?」

「ぶっ!?ゲホッ…ゲホッ!………な、なんで急に?」

 

 そんな、あ、コンビニ行かない?みたいなノリで、ハジメ視点からすれば割と気にしている重大な事を聞かれたので思わず吹き出してしまった。同時に姉の発言に冷や汗をかく。

 

「私たちの様な年代はそろそろ恋をするものだとサツキちゃんが言っていたからな。それにハジメは良い子だ。1人や2人ぐらいは番が居てもおかしくないんじゃないかと思ってな」

「いやいや、僕みたいな平凡な見た目している人と一緒になる人なんていないよ!というか番って…それもう夫婦みたいなもんじゃん!」

「んー…やはり最初は見た目からなのか?……だが、ハジメは少しめいく?をすればイケメンになれっぞとサツキちゃんが…例えば私と同じ様に白い髪に染めて少し髪型をその状態から精神が疲弊した感じに乱してからかなり目付きをキツくすれば……」

「いやいやいや、ないって。絶対ないと思うよ。というか不愛想な人って思われるだけだって」

「そうか?私の場合…姉弟で髪の毛をお揃いにしたかったのだがなぁ…いや。私が黒く染めればいいのか?」

「やめとこ!?姉さんは白のままが一番似合ってるよ!!というかサツキちゃんって誰!?」

「私のクラスに居る騒がしい子だ。ああいう元気な所は好感持てるが、私は流行について何も知らないからあまり話が通じないので困っている…最近はサツキちゃん星に帰って親と7億年ぶりに会ったらしい…親孝行しないとダメだぞとは一応言っておいた」

「本当に居たっけそんな人!?というかそれ多分嘘だよ!」

 

 食事に集中出来ない様で、未だにサツキちゃんの存在を疑っているハジメだが、実在しているのだからしょうがない。ただハジメが周りを見ていなかっただけの事だろう。私の場合あそこまで奇抜な行動をしている存在を見ないようにする方が苦労すると思うが……まあ事実は事実だ。

 食事を済ませた後は私が食器を洗い、ハジメは未だにブツブツしながら歯を磨きに洗面所へ行った。シャカシャカと歯を磨く音と、私が洗っている食器がかちゃかちゃとぶつかり合っている音しか聞こえず、なんとなくだがこの雰囲気が熟年夫婦の朝の一幕の様に感じる。私とハジメは姉弟だが、背丈的には少し…ハジメが小さいぐらいで、見た目的には若年夫婦と言っても過言ではないのでそう言ってもいいだろう。熟年の雰囲気なのに若年とは一体……。

 

 食器を洗い終えたところで時間を見てみたがやはり登校までの時間に余裕があり、その間に私も歯磨きや他の事をしてしまおうと考える。

 他の事と言っても、洗濯したり、乾いた服をたたむだけなんだが、意外と時間がかかるので朝の時間潰しには丁度良いだろう。両親の負担も減らせるので一石二鳥だ。

 

 

 ……何もかも終わりそろそろ登校の時刻になってきた。

 制服に着替え、持ち物の確認も二度くらいしたので忘れ物の心配はなく、後はハジメを待つだけとなった。

 …未だに何故学校に行くのに制服とやらが必要なのかは分からないが、動き辛いので私的には着たくない部類の服だ。まあ、そもそも服もあまり着たくは無いのだが…。母に止められてからは我慢しているつもりでいる。

 

「ごめん。少し遅れた」

「いいや、大丈夫だぞ。それじゃあ、行こうか」

 

そう言って、私は玄関の扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 それからは変わらずの1日を過ごした。

 いつもの登校道を歩き、授業の際は既に学んでいる内容を反芻しながらまた脳に取り入れ、休み時間にはハジメと一緒に他愛もない話をし、サツキちゃんが何かしら問題を起こしているのでそれを遠くから眺め、時折介入しては状況の変動に楽しむ…。人としての楽しみ方を覚えてきた私にとってはありふれた日常だ。不満はなく、いつも充足感に満ちて楽しい日々を過ごしていると思っている。

 

 

 いやそうだな…今日は少し変わったところがあったな。

 部活も終えてハジメと一緒に帰ろうとした時にまた後輩の男子に告白されたのだ。これに至っては特に変わらないが、今回は妙に相手が粘ったので大分時間がかかり、ハジメと一緒に帰ろうという計画がパーになってしまった。走ればまだ間に合うだろうか?と走って下校道を進んでいると、ハジメが柄の悪そうな高校生たちに土下座をしているところ目撃した。しかも、殴る蹴るなど暴行もされて、聞こえはしないが高校生たちの口元はよく動いて何か言っている事がわかる。その光景に眉を寄せ不機嫌になるのが自分でもわかる。すぐにでも高校生たちの顎目掛けて右ストレートをぶちかましたくなったが…話だけでも聞いてやろうと今の自分が出来る最大限の威圧を込めながら連中に近づいた。

 

「おい、そこのお前たち何をしている?」

「あぁあ!?なんだ……よ……」

 

 一般に不良というレッテルを貼られている高校生たちは一斉に振り向き、最初は威勢良く振り返っものの、即座に弱々しい言葉になってしまう。振り向けばそれは絶世の美女が立っていたのもそうだが、こちらを睨んでいる瞳が原因だった。

 

 さっきはどこともしれないクソガキに服を汚され気が立って何かとタカろうとしていたが、よくわからない中坊のガキが子供と老婆の代わりに土下座しに来たのだ。一瞬呆気にとられたが、良いおもちゃを見つけ、それで苛立ちを発散するかのように当たっていたのだが…今度は絶対零度の目で見てくる美女ときた。一瞬だけ劣情が不良達の中で湧くが、直ぐに消え去る。あの瞳に睨みつけられたら何をどう逆らえば良いものか…完全に萎縮してしまったのだ。言うならそれは王の威光であり、不良高校生にそれを当てるのだとしたらオーバーキルも良いところだった。

 

「え、姉さん!?どうして…」

「ハジメ、まずお前に聞こう。遠目から見ていたがお前はこの高校生たちに土下座をし殴り蹴られとされていたが…何かしたのか?」

「え、あ、いや。ただなんかあっちのお婆ちゃんとその孫らしい子が絡まれていたから助けないとなって…でもあんまり喧嘩とかしてないし…というか人のこと殴りたくも無いし…」

「特に怒らせるような事はしていないと…そういう事だな?」

「うん」

「そうか」

 

 その言葉を噛みしめるように頷くと今度は高校生達を目先に見据える。

 

「お前たちは何故この男を殴り蹴っていた?何かお前達を不快にさせるような事を言ったか、それともしたのか?」

「い、いや…」

「ならば何故土下座までしているこの男を殴った。それ相応の理由があるんだろう?」

「……」

 

 嘘を吐こうとしたが…この女の前ではそれが無理感じてくる。まるで全てを見透かしてくるような目で、何を言っても悪い方向にしか転がらないと本能が告げていた。

 

「どうした?理由を言ってみろ」

「……」

「それとも……大した理由も無く殴っていたのか?」

「!」

「ふぅん…。まあ、その前に聞こうか、真ん中のお前。服が汚れているが…後ろにいるご老人…もしくは子供に関係があるのか?」

「ッス…」

「そうか……そうか。……つまり、最初はこの2人のどちらかに服を汚され気が立ち、何かしら文句を言っていたところを私の弟のハジメに介入され、その苛立ちを都合のいい的にぶつけていた…という事だろうか?」

「………」

 

 不良たちは何も答えないがその無言が肯定という事を表していた。それを理解した美羅は「はぁ~」と溜息をつく。

 

「ゥグッ!?」

「エゲッ!?」

「ごきゅ?!」

 

 少しの間を空けて、心が落ち着いたのか、それとも美羅の意識がハジメや老人と子供の方へ行き圧が薄れたお陰か…美羅の身体を見る余裕ができた不良たちに突然胸に痛みが走る。恐ろしいことに3人が知覚できない速度で鳩尾を狙って叩いたようだ。情けない声を上げながら蹲ってしまう程に衝撃を受けた高校生達を見下しながら美羅は告げる。

 

「ハジメに殴らせるべきなんだろうが…本人がそうしたくないと言っているので私が代わりに殴らせてもらった。本当ならもっとやってやりたいところだが…ハジメがそれを望まないだろう。ハジメに感謝するんだな。……ただし、次はないからな?

 

 不良達は一刻も早く離れるべく息を荒くしながら立ち上がり、若干過呼吸で涙目になりながらも走り去っていった。それを特に眺めるでもなくハジメの方に向き直った。

 

「全く…お前は優しすぎるぞハジメ。それがお前の良いところだが…度が過ぎると厄介な種しか生み出さない」

「…うん」

「ご老人と子供の方は無事なのか?」

「あ、は、はい…あのありがとうございました…」

「お姉ちゃん。ありがとう!」

「私に礼を言うな。多分、私だったら見かけても助けはしない。ハジメが関わったからお前達を助けたに過ぎないからな。礼を言うならハジメだ」

「はい…すみません。……先程はどうも…」

「あ、いや。別にお礼をしてもらいたくて助けたんじゃないですし…」

「いえ、本当にありがとうございました…」

「お兄ちゃん、少しかっこ悪かったけど…かっこよかったよ!」

「まあ、うん…そうだよね。でもありがとう。今度は気を付けてね」

「うん!」

 

「それでは失礼します…。ほら、行くわよ」

「うん、じゃあね!黒いお兄ちゃんと白いお姉ちゃん!」

 

 老人と子供に軽く手を振って見送る。

 やがて興味を無くしたのか美羅はハジメの方へ向き直した。

 

「怪我はないのか?」

「うーん…どうだろ。家で見てみなきゃ少し分かんないかな…」

「そうか…」

 

 美羅がそう呟いたかと思うと突然ハジメを自分の胸に抱き寄せた。柔らかい感触がハジメの頭を埋め始め、いい香りがしてくる。それを理解した時には既に頭を撫でられていた。

 

「え、ちょ、姉さん!?」

「すまない…少しの間だけこうさせてくれ」

「…う、うん」

 

 突然の事で感じきれていなかったが、少し時間が経ったからか、ちゃんと女性特有の柔らかさと姉の心臓の音が感じ取れてくる。それを自覚すると外で姉に抱きしめられるという羞恥か、 女性の柔らかい身体を感じで興奮してしまったせいか頭に熱を帯びていくのを自覚した。

 

「あ、あの姉さん…」

「あぁ、すまない。もうやめるよ…姉としてみっともない姿を見せたな…」

「いや、そんな事ないよ!」

 

 そろそろ限界という所で離れるよう頼もうとしたら、姉の方から離れたので少し拍子抜けしていたハジメは突然らしくない事を言う姉に驚いていた。先程不良高校生に向けていた覇気は感じられなく、弱々しいただの女性へと変貌していて…一瞬弟であるのに誰なのか分からなくなってしまった。

 少しだけ、自分の中で何か感情が湧き上がる。弱々しい姿を見たことによって生まれた失望……ではないだろう。もっと別の何かだ。それが何かは理解出来ないが…あまり持って良い感情ではないことは確かだ。それを忘れる様にハジメは姉と一緒に帰るために声をかけた。

 

「あの、それじゃあ……帰ろっか」

「ああ…」

 

 いよいよ2人揃って歩き始めようとしたところで不意に美羅が止まった。

 

「ん?」

「どうしたの姉さん?」

「いや、周りと比べてやけに強い視線を感じた…あの子だな」

 

 なんか急に戦闘漫画のキャラみたいな事を言った姉に、え?と思いつつも、姉の指を指している方向へと目を向ければ中々お目にかかれない自分達と同い年ぐらいと思える美少女がこちらを見ていた。もう他の野次馬だった人達は自分達から興味を無くしたように視線を外しているのに対し未だ彼女だけこちらを見つめているのは確かに不思議だ。まさか自分に気が?と一瞬だけど思春期脳になるも、話したことすらないのにそれは無い。いくらなんでも自信過剰すぎる。と自分に言い聞かせる。

 

「あの高校生たちの誰かの彼女だったんだろうか…」

「いや、多分それは無いんじゃないかな。それならもうちょっと睨んでくるような感じだろうけど、あの人睨むって言うよりか見つめてるって感じだし」

「…少し聞いてくる」

「え、本当に?」

 

 何がそんなに気になったのか分からないが、姉はあの美少女が気になるようだ。あの弱々しい姿を見た後からはあまり想像のつかない程綺麗な足取りで美少女に向けて足を進める姉を見て、切り替え早いな~と少しだけ呆れてしまった。

 

 姉が近づくにつれ、美少女な子が自分に近づいてきてる事に気づいたのか、あたふたし始めてなんだか少し笑ってしまった。

 姉さんが話しかけたかと思うと、美少女の子は慌てながら何か言ってそのまま走って去って行ってしまったけど……本当になんだったんだろうか。ただ、可愛い印象を与える美少女とカッコいい印象が強い姉さんが並ぶと美にも色んな意味合いがあるんだなぁ…と再認識させられて、良い光景を見た…と心の中で合掌した。

 

 姉さんはその相手の態度に特に不満は無いようで、少しニヤつきながら戻ってきて、え?どうしたの?と聞こうとしたら…

 

「ハジメ、どうやらお前はあの子に好かれたようだぞ!」

「……ふぇ?」

「成る程な…やはり人は見た目からでは無いという事だな。あの子は目の付け所が良い。一度見て確認したが良い()だ…いつ会えるか分からないが…その時まで忘れないようにしておいたほうが良いと私は思うぞ」

 

 なんかとんでも無い事を聞いて脳が止まってしまったんだけど……これ何処からツッコメばいいの?というか遠回しに姉さん僕の見た目が良い方じゃないって言ってるよねそれ!?まあ、自覚はしてたし、朝も平凡な見た目って自分から言ってたけどさぁ!!

 というか、さっきの土下座の一連に何処に惚れる要素があったの!?それに姉さんは一瞬しか話してないのに…ていうかあの子がすぐ逃げちゃったから会話ですら無かったけど、どうしてあの子が僕に惚れてるって絶対的な自信持ってるの!?

 いやそりゃあんな美少女と付き合えるなら僕だって凄く嬉しいけどさ!なんか急展開すぎて訳わかんないよ!

 

「何故そんなのが分かるかというと、眼だな…アレはコイスルオトメノメ?とサツキちゃんから教わった。私的に解釈すれば、雌の眼だが…」

「姉さんのそういう表現って大分動物寄りだよね…というか思考読んだ!?」

 




 あ、今更ですが、キャラ崩壊注意です。



 IF もしも、ウチのミラさんがゴジラと対峙したら。
(ゴジラがこれから出演するとかではないぞ!(作者の妄想にお付き合いください))

「なんなんだその力は?龍の力…ではないな…もっと本質的な物のように感じる……一体貴様は何者なんだ?」
「お前に名乗ってなんか得でもあんのか?」
「…そうだな。急に名を聞いて悪かった。王よ」
「なんだてめぇ、急に?気色悪りぃな」
「その力は我ら龍の源流に近い…いやそのものなんだろう。なればこそ星の王に違いないと勝手に推測させてもらった。すまないな」
「星の王ではねぇよ…」
「少しはこちらに興味を持ってくれたことに感謝する…だが貴殿の力は王と呼ばれるにしてもおかしくはない。何の王であるのだ?」
「勝手に決めつけんなよ…お前めんどくせぇな」
「む、すまない…しつこいようなら今日は下がろう」
「明日も来んのかよ…」
「それではまた会おう。王よ」
「二度と来んな」

ウザがられて終わりそう……。

 まだまだ全然ゴジラ映画は見てませんので、何処の映画が何処で繋がってるとか弟の様に知り尽くしていないので詳しい設定とか分かっていませんが、とりあえずキングオブモンスターズ産のゴジラには多分、一瞬で敵わない事を悟るでしょうね。自分はモンハンの古龍達って自然の莫大な力の概念が肉体を得た姿という解釈しているので、そもそもその自然生み出してる星のエネルギー?を使ってる??(っていう自己解釈入れました違ったらごめんなさい)ゴジラにはひれ伏すと思うんですよ。
 祖龍様ファンの方申し訳ないですが、私の予想だとそうなるだろうなあ…と思いました。すみません。


というか、ここの祖龍様って後書きでどんどん属性追加されてるような気がする。
あ、次回は確実に第1話出します。


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第1話

スッゴイ今更になるのですけど赤バー+お気に入り136ありがとうございます!!


 この状況はなんなのか?と声を大にして言いたいハジメは今自分の隣にいる白崎香織という人物を見る。

 自分には人生の全てを賭けても釣り合わないであろう美少女と一緒に歩いているこの状況。何がどうしてこうなったのか。自分の土下座から惚れたという彼女に未だからかわれてるんじゃないか?という疑問は消えないが、やけに紅潮させた頰や、時折見せる幸せそうな顔などを見ていると本当に自分なんかに惚れているのだと自覚させられる。

 

「ハ、ハジメくんどうしたの?」

「え?あ、いや。その。何でこうなってるんだろうなぁ…って」

「え…もしかして、嫌だった?」

「嫌ではないよ。ただなんか実感がないというか…本当に今現実なのかなって…」

 

「ん?じゃあ今私はハジメの夢の中の住人ということか?」

「姉さん。違う。そうじゃない」

「聞いたことあるぞ。その曲」

「いや、何も歌ってないから!」

 

 はぁ〜ッ…とハジメは溜息を吐いた。姉の存在で色々と厄介ごとには慣れてきたつもりだったが、こういうやり取りとなるとあまり慣れないものだ。いや、香織さんがいることで緊張しているからかもしれない。というか、最近姉さんのガチ天然発言率が増しているような気がする。そう心の中で愚痴を吐いた所で姉さんが止まった。

 

「ハジメと香織はこの後デートなんだろう?」

「うん、そうだよ。ミラちゃんは確かお友達の家で遊んでくるんだよね?」

「あぁ、サツキちゃんが全員集合と言ってな…用件は聞いていないが多分また面白い事をやるんだろう。私は左に行く。サツキちゃんの家がこっちなんだ。ハジメ達は?」

「私たちは右の方だよ」

「そうか、それじゃあ今日はハジメをよろしく頼む」

「うん!任せて!」

 

 そう言って、各々の道へと別れていった。

 

 ……本当になんでこんな状況になったんだろうか。

 

 

 事の顛末はあの土下座事件からそう日数が経っていない時まで遡る。

 

 あの事件から、常に読書をしていた姉が外に出かける事が多くなった。

 やはり煮え切らないところでもあったのか、あの高校生達を探しているのだと最初は思っていたが、見当違いだった様で、姉さんが探していたのは最後に気にかけていた美少女だった。下校道が近くだったからこの町に住んでいる筈…と本気で見つけようとしていたから聞いた時は少し驚いた。

 

 住所も名前も分からないが、姿だけでその子を発見しようとしている姉のその行動力は大物Youtuberのそれに似ている気がする。アニメだとこういう時、中々見つけられずそろそろ意気消沈しそう…という所でバッタリ会うケースが多いのだが、やはり現実とアニメは違う様で、普通に姉が見つけてしまった。確か休日や平日の空き時間を使って3日間くらい探していたんじゃないだろうか。道中ナンパしてきた男達がいたそうで、しつこかったからのしてやったと言っていて、姉の心配よりも、男の人の方を心配してしまうのはテンプレだろうか。因みに5人いたらしい。

 

 何が姉をそんなに動かしているのかは知らないが、正直僕はそんなに乗り気ではなかった。

 姉の惚れているという発言を信じていない訳じゃないが、どうしても自分と彼女が釣り合っている姿が見えないのだ。見た目は若干童顔が入った程度でそこらの男子と変わらず、顔がイケメンな人の背後にでもいたら背景モブに最適なのが僕だろう。あまりの平凡さに彼女の美少女具合についていけな過ぎてネガティプな方向で思考が進む。

 

 姉さんは見つけたといってもすぐに家に連れ込む訳ではなく、連絡先を交換しただけらしい。後から聞いてわかった事だが、彼女は最初、姉さんのことを僕の彼女だと思っていたらしい。まあ、姉さんは家族の誰にも似ていないからそう感じるのは無理もない。距離感的にも家族を理由に近いから何も知らない人からしたら確かに恋人の様に見える。…学校でも最初の頃はそう思われていたし。

 

 連絡先を交換した後はそれなりの頻度で連絡しあっていて、それなりに良好な仲になったと姉は言っていた。あと実際に何度か会い、彼女の親友とも話したことがあるとも。確か名前は八重樫雫さんというらしい。

 『2人ともいい女だが、やはり若いな。実り時が楽しみだ』と姉さんは言っていたが…同い年じゃないのだろうか。というか姉さんは何を望んでいるんだろう。僕たちまだ14年くらいしか生きてなかった筈なんだけど……。

 

 それからまた一年経たない内に…香織さんが来た。家に。インターフォンが鳴ったはいいものの親は仕事、姉もちょうどトイレでその場居にいなかったから仕方なく僕が出て、玄関の扉を開けたら目が合った。あの時はお互い蛇に睨まれた蛙の様に固まってしまっていたなぁ…。

 何分かそのまま一言も発さずに目が合った状態で固まっていると、香織さんから先に限界を迎えたのか凄い分かりやすく顔を紅くして、裏返しながら声を掛けてきたのは結構最近の出来事だったりする。あの時仕草が可愛かったのもよく覚えている。

 

 そこからトイレから戻ってきた姉さんが「何してるんだ?」と声を掛けてリビングに連れ込み…気づいたらデートに行く話になっていた…。

 なにそれホワーイ?

 

 今思い出してみても、あの時思考放棄していた自分が悪いですねこれ。はい。対戦ありがとうございました。

………じゃない!

 

 

 え?こういう時って手を握ればいいのかな?

 いやでもまだ彼氏って正式に決まった訳じゃないですし…それに急にやると気持ち悪いって思われませんか?というか手汗大丈夫かな!?びっしょりしててやばくなってない!?

 え、というか今どこ向かってんだっけ?遊園地?ゲーセン?そもそも、初デートで行くところって何?ボウリングとかカラオケ?いや歌唱力の自信もスペアすら取れる自信もないんですけど!?

 

 え、ちょ、本気で姉さんあっち行っちゃうの!?

 いや、そうなんだろうけどさぁ!少し整理する時間くれよ!頼む!!

 というか、香織さん凄い笑顔ですね!お人形さんみたいで可愛いぃ!…じゃないよ!本当に待って、あの時考えるのをやめていたカーズ様みたいな状態になっててごめんなさい!少しでもいいから行く場所のヒント教えてくださりませんか!?

 

ちょっと、待ってぇぇぇぇぇ!!

 

 

♦︎

 

 

 ハジメと香織に手を振って見送り、やっと成功したな…と少しだけ頰を緩ませる。

 暫く香織や香織と親友である雫とも行動を共にして分かったが、やはり彼女らは良い()だ。

 判断基準は龍の感覚と人の感覚を混ぜた曖昧なものだが…それでも良いと感じたものは良い。

 

 押し付ける訳ではない。ハジメが女として気に入らなければそれはそれで仕方の無いことだ。私とハジメとでは求めている理想形が違うだけの話。

 まあ、なるべく人間の雄の視点に合わせてみるようにも頑張ってみたので、結び合わなかった時はそれなりに寂しいが…こうも心配事ばかり言っても仕方ないだろう。

 

 思考を切り替えて、サツキちゃんの事を考える。

 サツキちゃんが今日はどんな事をしでかすのか楽しみだ。確か前回はドラム缶や空き缶、お菓子の箱などでドラムの様な演奏は出来るのか試したんだっけ…今回は何だろうか?パターン的には…将棋か?

 

 辿り着いたサツキちゃんの家の玄関の前に立つ。私の家庭もそこそこに裕福な部類だと思えるのだが、サツキちゃんを見てるとそうでもなくなる。彼女は曲がり何にもお嬢様と呼ばれるぐらいにはお金持ちである。彼女の祖母が築き上げた会社は世界でも有数な大企業であり、富や社会の影響力を考えると凄いことなんだろうが、私も彼女も金やら権威やらに一切興味が無いせいかその凄さを十分に分かっていない。だから惹かれあうんだろうか?

 インターフォンを押し、騒がしい足音がこちらに近づいてくるのが聞こえてくる。

 

ガチャ

 

「お!やっと来やがったな美羅!今日は剣先から醤油が出てくる木刀をつくんぞ!醤油は持ってきたかぁ!?」

「いや、今日は丁度持ってないな…いつもは持っているんだがなぁ。すまない」

「しゃあねぇ、そんじゃサツキ様が特別にキッコーマンを渡してやろう!木刀は一足先の修学旅行で10本ぐらい買ってきたから心配すんな!先ずはコス○コで買った海外の水鉄砲の仕組みの理解から始めっぞ!」

 

 いっちょやってみっか!と自分の部屋に走り出していったサツキちゃんを少しの間眺めて、靴を脱ぎ上がらせてもらう。

 

(今回の予想もハズレか…にしてもまさかの銀魂とはなぁ)

 

 銀髪天然パーマのマダオ侍が何勝手に改造してんだテメェー!と自分の愛用していた木刀をぶん投げている姿が簡単に思い浮かぶ。アニメや漫画、ファンタジー小説などをハジメが読んでいたのを期に私も読んだり見始めたせいで、すっかりハマっていた為そういうネタが分かる様になってしまった。前世の世界ではあり得ないことだったな…どうせなら…私の子供達にもああいうなんの理由もなく笑えるものを見て欲しかった…。

 

 あの時、あの竜騎兵と呼ばれる悍ましい兵器を作った人間にただ純粋な激しい怒りと恐怖しかなかったな。力にではなく、その貪欲なまでに殺戮を求めたその思考に。…今世の人も龍が居なかっただけで戦車や地雷、銃器などの火器、他にも様々あるが兵器を生み出したことに変わりはない。やはりどの世界でも人は変わらなかった…それで見捨てるというわけでは無いが。やはり呆れはした。

 

 私は未だ人間が常に上の存在に行こうとする思考性は理解できていない。群れを纏めるリーダーが必要なのは分かる。だが、他の素質あるものを蹴落としてまで成り上がろうとする精神は分からない。龍の中にその様な者を生きていた中では見たことがない。種を長く持たせる為には優秀な群れの長が必要なのは誰もが理解していたが為に必然的に長く生きぬいてきた知恵者だけが選ばれた。そして、長はその知恵を子や同族に伝え種を存続させる。そうして生き抜いてきたが為に人に理解しがたいものが多い。だが、それを拒絶するのではなく受け入れ新たな知恵にするのも大切なのだ。

 

 ……こんな所で何を考えているんだろうか。全ての人間がそうではない事は知っているのに…。

 今は、サツキちゃんとの遊ぶ時間だ。

 醤油が出てくる木刀を作るという発想は意味不明だが、意味不明故に面白い。

 なにぶん記憶力の良い体だ。水鉄砲の構造自体はすぐに覚えられる……が…既に作られた木刀の中にどうやって醤油を入れるんだろうか?1日くらいずっと浸すのか?

 

「おい?何やってんだ?グダグダしてるとおいてっちまうぞ?」

「…あぁ、いや。弟が今日はデートをしているからな。今どうなってるか少し想像してたんだ」

 

 不意に話しかけられて変な言い訳にハジメを使ってしまった。…前世が龍だなんて突拍子もない事は言えないからな。サツキちゃんなら信じそう、と理由のない安心感があるが。

 

「な、何っ!?ハジメのやつ遂に女作ったのか!?」

「まだ、恋人と呼べるか本人は戸惑っていた様子だがな」

「くぅーっ!!こうしちゃいられねぇ!今日の醤油が出る木刀作りはやめだ!ハジメとその彼女を尾行して徹底調査してやるぜ!!」

 

 ばびゅーん、と効果音が付きそうなくらい早足でまた部屋に戻っていったサツキちゃんを眺めながら、「ハジメ、香織…すまない」と心の中で謝る。とっさの言い訳とはいえ初デートをひっちゃかめっちゃかに狂わしそうな人物を送ることになってしまった。正直、私もドラマではよく見るが実際の男と女のデートの様子は気になるので行ってみたいから止められそうにない。

 

「うっし!サツキ様探偵団出発だぜ!」

 

 何処から用意したのだろうか、そのトンビコートの探偵のコスプレ……というか服は全く違うのに何故名探偵コナンに出てくる少年探偵団から名前をとったんだ?仮に少年探偵団だとして、私はどういうポジションなんだ?

 

「行くぞ!小五郎のおっちゃん!事件はまだ解決してねぇぜ!」

「ちょび髭がないんだが…」

 

 小五郎のおっちゃんと来たか…フフフ、訳の分からないそのチョイス、やっぱりサツキちゃんは面白いな。

もし…我が子がこの世界に生きていたら会わせてやりたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、アタシが生まれたってわけ」

 

「「「はぁああああああああ!!?」」」

 

「いや!おかしいだろうがよぉ!!?その後ハジメと白崎がどんな結末を迎えたんだ!?いや、今を見りゃ大体分かるけど、お前ら一体何をしたんだ!?つか今の美羅の回想だろ!?」

「そりゃないよさっつん!2人はその後どうなったのさ!?」

「気になるから教えてくれ!てえてえを聞かせてくれよ!!」

「うっせぇーなぁ、しつけぇ男と女はアタシから嫌われっぞ?」

「お前に嫌われても別に良いわ!どうせお前から絡んでくるし!というかお前と南雲が何をしたかすげぇ気になんだよぉ!頼む!」

「この通り!土下座でも何でもするから!」

「いや、別にお前の土下座求めてた訳じゃねーし」

「じゃ、靴か!?靴を舐めればいいのか!?」

「変態かおめぇー!?おいだれかコイツを連れ出せ!」

「おーけー!」

「あ、おい。ちょ、待て!せめて内容を聞かせてくれ!それか足舐めさせ…!」

 

バンッ!

 

「うし、これで平和になったな」

「あいつ…色々な意味ですげぇな」

「流石にちょっと…気持ち悪かったね」

「色欲の罪に囚われてんじゃね?」

「キュピーン☆」

「おい、やめろ。なんかお前がやるといい歳した叔母さんがコスプレした現場を覗いてしまった気持ちになる」

「あ''ぁ''ん''!!?アタシがババアだって言ってんのかぁ''ーー!?」

「いや、そういう訳じゃなく!!」

「こちとら現役JK様だぞ!!」

「イダダダダダ!!!」

「あぁ!?きこえねぇぞ!デュラララ!!つったのかぁ!?」

「ああ!もう、めちゃくちゃだよ…!」

 

 

 教室のど真ん中で大きなグループが騒いでいるのがよく聞こえる。顔ぶれは知っている、話の中心に居るのは私の親友であるサツキちゃん、私が何をしたのか気になっているのは檜山大介、てえてえ?を聞きたいらしいのが中野信治、何故かサツキちゃんの足を舐めたがっているのが斎藤良樹、それを教室の外に締め出したのが近藤礼一、色欲の罪ゴウセルの話題を出したのが清水幸利…そしてサツキちゃんからプロレス技を受けてるのも清水幸利…さっつんと呼んでいるのが谷口鈴、最後にめちゃくちゃだよ!と言ったのが中村恵理だ。他にも色々な男女がサツキちゃんを中心に集っている。

 

 今回は親友よりも弟の方を優先させてしまったので話に加わる事はないと思っていたが…少し参加したくなってきた。

 サツキちゃんが話している事は2年前のことか。

 

 香織とハジメが初デートしている最中に遠目から見守っていただけの話なんだが…確か最初に行っていた場所は映画館、その時私もサツキちゃんもお金を持っていなかったから大急ぎで取りに戻ったものの間に合わず、どうなっていたかは知らない。だが暫くして出て来た時にはいい感じに2人が会話を弾ませていたので成功した事は確かだった。そのまま飲食店に入り、何を話しているかは聞こえなかったのでサツキちゃんがお抱えの執事に連絡して盗聴器を持ってくるよう言い出し、本当に盗聴しだした。

 

 映画の感想を言い合っていたようで登場人物の整理が無理だった…というよりかめんどくさくなったサツキちゃんが早々に聞くのをやめ、「何か話題が変わったら教えてくれ」と料理を注文し始めた。私は特にお腹も空いていなかったのでそのまま盗聴を続けて、サツキちゃんが丁度半分を食い終わった辺りでハジメが「何で僕なんかを好きになったの?」と聞いたところで流れが変わった。

 正直、龍として羞恥はほぼないと思っていたが…こういう恥ずかしさもあるのだと理解し、あまりこの話のことは言いたくはない。

 

 ……その後お金を払って店から出た後は2人の雰囲気は異様な程に変化していて、時たまに肌が触れ合うとお互いにびっくりして体が跳ね上がったり、そうすると顔を赤くさせてあたふたしたと思ったら同時に謝ったり…まともにお互いの顔が見られず話が噛み合わず更に赤面を晒したり…とベストカップルの様な甘い時を過ごしていた。サツキちゃんが「こりゃ、アタシが手を貸すまでもねぇな…」と探偵服をそこらに脱ぎ捨てて、くれる夕陽に向かって「アタシが絶対消費税を5%に戻してみせるぜぇーー!!」と走り出していったのは珍しく腹を抱えて笑ったので他の記憶よりも思い出しやすい。

 

 

「姉さんもあっちの方に行きたいの?」

「ん?まあ、そうだな。ハジメと香織の馴れ初めの話は私としても面白かったからな」

「流石にみんなに教えるのは恥ずかしい…かな」

 

 内心、毎日昼休みになると「はい、あーん」を人目につく場所なのに繰り返している方が恥ずかしくないのだろうかと思ったが、それとはベクトルが違うのだろうと発音はしないでおく。

 

「そうか…香織が言うなら仕方ない。あまり()()()()()()()話さないでおく」

「ん?待って。美羅、あんたそれって一人一人の前じゃ言うって事じゃない?」

「え?そう言う事じゃないのか?」

「違うわよ。香織は誰にも知られたくないって言ってんのよ」

「そうか。なら絶対に他言はしない。約束する」

「うん!ありがとうミラちゃん!雫もありがとう!」

「気にしないで。こう言うのには慣れてるわ」

 

 あんた達のお陰でね。…とは付けないでおく。

 ハジメは『姉のフォローをしてくれてありがとう』と視線で雫に礼をする。

 意図を読み取った雫はハジメにも『気にしないで』と視線で送り、『お互い苦労してるわね…』と美羅と香織を交互に見てからハジメを見る。

 少しだけ苦笑いをして、また弁当に手をつけた2人だった。

 因みに時計回りにハジメ、美羅、雫、香織と4人の席がくっついた形で食事をとっていて、サツキのグループと比べるとやけに小さいが、女子のメンツは三大女神が全員と豪華だ。

 

 高等学校に入り、ハジメが望んだ高校と香織が望んだ高校が偶然合致し、美羅は正直どこでも良かったのでハジメと香織につく形で入学して来た。恐らく雫も幼馴染たちが入るからしかたなくといった風だったんだろう。雫とハジメはその時初めて会ったにも関わらずお互い苦労人気質の波長を読み取ったのかすぐに打ち解けていた。1人その様子に気にくわない人物が1人いたが…まあ弟に明確な敵意を示す相手に容赦のない美羅から圧で止められていた。

 

 因みに、入学当初の頃にハジメはいじめの対象にされていた。

 白崎香織という美少女と付き合っていて、美羅と姉弟関係という事が知られて居ない状況の中、八重樫雫とも仲が良く昼休みの時には常にその4人で固まって居た為、男子からは憎悪の対象だったのだ。他3人から見えない所で陰口を囁かれたり、一度囲まれて暴力を振るわれたこともあった。

 まあ、少し上でも語っている通り、弟に対して明確な敵意を持っている相手には容赦の無い美羅と、その親友でありそんな雰囲気が気に入らないサツキが盛大にぶち壊しに行き、早くも問題児扱いされたのはもう一年も前のことだ。単純な暴行事件ではなかった事だけは言っておく。

 

 今ではもう問題児というレッテルは無くなっており、同年代と先輩後輩からの声明を含めた超絶人気者になっているのだ。香織と雫を含んだ彼女達の人気は凄まじく、当たり前のように毎日告白されているが、当たり前のように断って、告白した側は沈んでいく。サツキ…の場合は残念美人として扱われているため友人としての人気率の方が高く、恋人にしたいと思っている生徒は少ない。その為彼女は女神に入り得るほどの美人だが「黙ってろよ美人」と言われるぐらいの親しまれ方なので美羅や香織達の様に崇められてはいない。そんな人たちと濃い結びつきがあるハジメは最近肩の荷が重いと感じて居たりする。

 

 因みに、原作と違い普段の生活習慣を見直し、勉強と運動が出来る系男子になったハジメは、クラスメイト達に心の底から憎まれてはおらず、あいつちょっと羨ましいな!ぐらいに思われている。一度オタクである事もバレてそこからまたハジメを貶めようと檜山の策略があったが、美羅もハジメと同じくらいオタクだったので使い物にならなくなり、更には美羅が見ているし…という理由でアニメやら漫画やらを見始めた結果どハマりしてしまったのが今作のクラスメイトたちである。

 

 

 

 天之河光輝…?

 

『アニメ?そんな物を見る暇があったら勉強をしたらどうなんだ?』

『アニメを見ているが常に私はお前より上だぞ?』

『……』

『最近、ハジメにテストの成績抜かされたそうだな。アニメを見ているハジメに』

 

 因みにこの時美羅は明らかに悪意を持って言ったのは確かである。

 

 

 

 弁当も食べ終わり、先ほどの様に雑談を繰り広げているサツキちゃん達と未だ惚気話(恋人版)(弟版)を聞かされ、正直恥ずかしくてしょうがないハジメは雫に助けを求めてちらちらと視線を送って居たが、雫もこればかりは止められないと首を振って諦めている。す、救いはないのですかぁー!と天に願いたいハジメであったが、天よりも先に地面の方が反応した。

 

 

 

「ッ!?」

 

ガタッ!

 

 まず美羅がソレに対し反応し、すぐさま立ち上がったせいか椅子が倒れ大きな音が鳴る。ソレに反応するように皆が美羅を見るが、美羅は既にそこに居らず、サツキの元へと駆けていた。誰の目にも止まらぬ速さでサツキの元へ駆けつけると、直ぐにサツキを拾い上げてまた離脱しハジメたちの元へ戻る。

 

 この時美羅の瞳にはしっかりと光輝の足元にある魔法陣が映っていて、アレが広がったらヤバイ!という事だけは理解した。

 一瞬、()()()()()?と選択肢が浮き上がったものの、未だこの身体では完全に龍に成ろうとするのは無理だ。間に合ったとしても、そこまでスピードとパワーが出る自信も無い。

 

 ……あの魔法陣?の様なものがどんな効果なのか分からないが、今までの日常を逸脱することが起きるのは確かだ。

 ここにいる全員が死ぬのかもしれないし、何処かに転移されるのかもしれない。……ここで一瞬、美羅の集中力が途切れた。

 

 

「皆!すぐに教室から出て!」

 

 次の授業の為、早めに来ていた畑山先生もすぐに反応できた一人で、生徒たちに避難を呼びかけるが…人の反応速度では無理があった。

 美羅もこれ以上は庇うことしか出来ないと、ハジメとサツキちゃんを自分の内側に寄せ肉壁になろうとした瞬間、魔法陣は大きく光り輝き教室全体へとその紋様は広がる。 今更気づいたのか何名かの生徒は悲鳴をあげるが、特に何を出来るわけでもなく…。

 

 更に光が増したかと思うと……誰一人として消えて無くなっていた。

 

 光の後に残るのは無造作に散らかった机や生徒達が持っていたものが落ち、乾いたプラスチックが地面にぶつかる音が聞こえるだけで、賑わった雰囲気であった先ほどと比べると閑散とし過ぎていた。

 

 この事件を白昼の高校で起きた集団神隠し事件とし世間を大きく賑わせるのだが…それはまた別の話になる。

 




ふぅ……サツキちゃんはトータスに入らせない予定だったけど…入る様にしちまったぜ。
代わりに美羅さんがトータス入り出来なくなる流れだったんだけど、書きたい描写があるのでそっち優先にしました。
先に考えていた方のネタバレすると、ミラさんがトータス入り出来なかったのはエヒトがミラルーツの存在を恐れた条件反射的なアレで拒否ってしまった所為。半日くらいミラさん魂抜けた様に正気が無くなる(子供を失ったトラウマ蘇った為)んだけど、あの魔法陣描けばまだいけるんじゃないかとほんの僅かに残っていた龍の力と人の血で魔法陣を描きトータス入り。その時点では既にハジメが奈落入りしていてまたミラさんの精神が病むんだけど……ってなります。番外編にでも描こうかな…IFみたいな感じで。


今回光輝くん全然喋らなかったから次回は喋らせてやりたいけど、あの子の喋り方と思考を完全把握しきれてないからちょい動かしづらい。漫画と小説しか見てなかったから知らなかったけど光輝くんの声優さんあの魔道士ギルドの火竜だったんだ…。(CV柿原徹也さん)
あと、色々と話詰めすぎて読みづらかったかなぁ……と後悔してます。視点の転換と場面の転換の描写がいまだに慣れない。


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第2話

投稿遅れてすまない……。


 

 瞼の裏までも貫通するような強烈な閃光も終わり、いつも入ってくる光の量に変化した。しかし、未だ明度の変化に目が慣れていないのか多少チカチカする。そんな中でも目を開け、よりつぶさな情報を手に入れようと周囲の様子を確認すると、明らかに教室の中ではなくなっており、なにやら自分たちは人に囲われているということが分かった。

 

 どうやら自分たちは無傷らしい。自分の背で庇った4人は怪我一つもしていないし、自身にも怪我をしたという感覚も痛みもない。自分のクラスメイト達も何ともないようで、ただただ先程までとは変わった景色に困惑している様子だった。

 

 自分たちを囲っている…というか跪いている白い法衣を着た者たちの1人が前に出る。匂い的に70を超えた老人だろうか。その他の特徴として外装が他と比べ煌びやかであり、位が上という事がありありと見て取れるということだ。どうも、こういう相手には嫌悪を示してしまうのは前世の愚王達を思い出してしまうからであろうか……。

 

 「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は聖教協会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、よろしくお願いいたしますぞ」

 

 ああ、いや…自分が感じていたものは正しかった。

 本当にいつ振りだろうか…ここまで嫌悪する()()()

 

 

 

 

 

 

 

 一度イシュタルと名乗った老人の一声から周囲への気を配る事に余裕が出来たクラスメイト達。

 サツキちゃんもあれこれと周囲を見渡し、煌びやかな額縁に飾られた壁画を眺めては、『成る程…分からん』と、呟く程度には余裕が出来たらしい。私もこういった芸術の感性というのはさっぱりだ。正直専門家しかわからないような芸術よりも、一般の人が美しいとか、かわいいとかカッコいいなど思う作品の方が個人的にも好ましいと思う。つまりpixivは良い物という事だ。

 

 ハジメの方へと目を向けると香織と手を繋いでいるハジメがいた。おそらく無意識のうちなのだろう。極々自然体のように寄り添っていて、なんとなくだが…結婚したての若夫婦の様にも熟年夫婦の様にも見える。雫がその様子を見て何処となく忙しないのは、やはりハジメの事を好いているからだろうか…まあ、私がそう意識するよう仕向けていた訳だが……今では逆効果だろうな。

 

 いつもの日常の風景が急激に変わり、不安にならない人は居ない。雫も例外ではないだろう。

 誰でもその様な状況誰か信頼のある人、または己の思い人に頼りたくなるだろう。だが、そうは思ってもその相手には既に自分の親友がいて、縋るに縋れない状況を作ってしまった。

 普段から頼られている彼女は今まで以上に頼られるだろう…皆支えが欲しいから。幾ら慣れ親しんだ歳上の教師がいたとしても…頼るのは身近にいる方なのだ。…彼女の心がこの様なことで簡単に折れる程柔じゃないと心得ているが、苦しむ様に仕向けてしまったのは私だ。責任を取らねばならないだろう。心の中でだが惜しまない助力をしようと決意した。

 

 何か彼女の支えになる様な案を考えていると、イシュタルにこんな所で落ち着かないだろうと長テーブルと椅子がいくつも置かれた広間に案内された。

 移動している最中に早速サツキちゃんが、『ここ探検しようぜ!』と言い出して足早に走っていったが、敢え無く教会のシスターらしき人物に捕まっていた。仮にも陸上部で他の追随を許さぬほどに健脚な彼女の脚を捕まえるとは…その動きにくそうな修道女の服でよく…ん?…いや、単なるシスターではない?……なんだ此奴は?なぜこの様な奴がここに混じっている?

 

 完全に力を取り戻せていない今では正体までは分からないが……人ではないな?

 一度最大限まで警戒を寄せるが、相手は特に何をしてくる様子も無く、ただ傍観に務めているようだった。私も変にこちらに意識を向けぬ様に警戒の気配を解くことにした。

 

 他のシスターや神官、私たちにそれぞれ付けられた侍女や執事達を見ても先程まで見ていたシスター程の強者は居ない。さらに言って仕舞えば、学生の身である私たちよりも弱いというのが分かった。…流石に5人がかりだとキツイだろうが。

 それ以外で特徴をあげるとすれば顔だろうか…どれも顔の造形が一般的に好ましく思われる形であり、顔の左右対称率が高い。もっと簡単に言ってしまえば美男美女ばかりという事だ。

 あとは…立っている姿勢からブレがないのが少ない。付け焼き刃程度の身のこなしでここに居るのが、付け焼き刃程度の知識から分かる……ソースは小林さんさんちのメイドラゴンと黒執事。

 

 本物のメイドや執事を生業としている者も中には居るが…ごく少数だ。これもまた、美男美女ばかり……ハニートラップか何かでもするつもりだろうか?

 

 「では皆様方さぞ混乱していることでしょう。事情を一から説明する故、まずは私の話を最後まで聞いてくだされ」

 

 全員が席に着いたのを確認したのかイシュタルがそう言ってくる。因みに私の隣はサツキちゃんと弟であるハジメだ。そのハジメの隣には香織が居る。……なんだ光輝、その意外そうな顔は。

 

 イシュタルが話をしているうちに、ふと思う。

 俗世間に染まった私が言うのもなんだが、どうせだったらイシュタル(豊穣の女神)の名の通り、Fから始まる聖杯戦争物語の方に出てくるイシュタルが良かったな……と。まあ、ここまで神を信仰して純粋な腐れ外道になった此奴(イシュタル)とあの女神(イシュタル)を一緒にしたくはないな…うむ。普通に考えて失礼だったのでこの思考は消す事にする。

 

 少し脱線していたが、耳から通っていた音は全て覚えているので後は文にするだけだ。要約するとイシュタルの言っていることはこうなる。

 人間族と魔人族とで長年に渡り戦争を行っており、個が優秀な魔人族に数の有利を取り拮抗してきた人間族だが、それも最近魔物を扱い始めた魔人族に数の有利を取られ、互いの均衡が無くなり人間族は滅びの道が確定された。なので、自分らの信仰している神…もとい、この世界をも作ったと言うエヒトなる者がそれを嘆いて、人間族を滅ぼさなぬよう救いを送るといい、私たちが召喚されたと言う事だ。

 

 ……誰かに頼り、生存を図ると言う手段自体には否定はしない。共依存しあい、全く別の種族でありながらお互い相手が居なければ存続できない様な生物もいるし、竜大戦時代の我等龍も人間側の被害を抑えつつ勝利をする為に生き方の違う龍達とも徒党を組んだ。

 

 しかしまあ、イシュタルたちがしようとしている方法は共通の敵、共通の目的があるから成り立つのであって、そもそも世界が違う私たちに任せるのは全くのお門違いなのである。それに加え、少なくとも其れ相応の対価が必要であるのにも関わらず、こちらの命に釣り合うほどの対価は提示されてないときた。全く話にならない。

 

 「あなた方の世界はこの世界よりも上位の世界にあり、例外なく強力な力をお持ちなのです。是非その力を発揮し、エヒト様のご意思の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救っていただきたい」

 

 何処か恍惚とした表情でそれを言うイシュタル。神託を貰った時のことでも思い出しているのであろうか…私の言葉を聞いて狂喜乱舞する輩も中には居たが、余韻に浸る姿はこんな感じなのだな…っと昔の事を思い出す。世界滅ぼしてくれ!とか急に言ってきた時には私は道具か…と怒りを通り越して呆れていたが…懐かしいものだ。

 

 「ふざけないでください!結局はこの子達を戦争の道具にするってことでしょう!そんなの許しません!ええ先生は絶対許しませ──「あぁん!?オメェらさっきから好き勝手にいいやがって!アタシらを戦争に使うたぁ!良い度胸じゃねぇか!」え、ちょ、サツキさん!!?」

 

 「せっかく異世界転移させたんなら戦争じゃなく観光させろい!」

 

 そこ?と誰もが思ったであろうサツキちゃんの意見。その証拠にクラスの皆が目を丸くさせてサツキちゃんの方を見ている。かくいう私もそこかぁ!と思いクスクス笑っていたりするのだが。そのせいか皆の緊張の糸が少しほつれた。

 

 「勿論、勇者様とそのご同胞の皆様には戦いに明け暮れるだけでなく最上級の持て成しをさせて頂き、休暇も設けさせて頂きます。その際にこの世界の事に慣れていただくよう街を出歩いていただいても構いませんが、それでも駄目でしょうか?」

 「おっちゃん。ジュピターだっけか?バカ言っちゃいけねぇ。アタシらは戦争なんぞ一回もしたことないド素人だぞ?そんなもんこっちの世界の戦争屋にでも任せておけばいいものを、なんで多少の武道の心得のある奴らがちらほらと居る程度のアタシらを頼ったんだよ。そいつらもう一回呼んでアタシら帰らせた方がこの世界のためだぞ?つーわけで拉致った謝罪として異世界観光させろ」

 

 最後は結構…いやかなり無理矢理な要求だが言っていること自体は正しい。

 学生の身分である私たちよりも日々訓練し戦術なども心得ている軍人の方が戦争には最適だろう。他の生徒もそれに助長して、「そうだ!専門家に任せれば良い!」「それなのに何で私たちが!」と抗議を上げてくる。

 

 「私に申されましても、ここにあなた方を喚んだのはエヒト様のご意思。貴方達はエヒト様に選ばれたのです」

 「あぁ!?んじゃ何か?アタシらを帰せるのは実際そのエヒト様っていう奴しかいねぇって事か?」

 「その通りです」

 

 イシュタルの肯定の意を表す言葉に、波紋の波が終わったように静かになってしまった。笑いで少し誤魔化されていたが、私たちが帰還不可な可能性に気づいたらしい。

 

 「時に聞くが、イシュタルとやら」

 「はい。なんでしょう?」

 「エヒトとやらに話しかけ、帰還を願う事は可能か?」

 「エヒト()です。それに、私めにその様な事は簡単に出来ません。そもそも、主が語りかけてくるのは、主からであり、私め等の呼び掛けで反応するような方ではありません。神託は奇跡に等しいのです」

 「そうか…つまり、本当に帰れないわけだ」

 

 何処からかそんな…という言葉が聞こえてきた。それを皮切りに皆が不満を言う。

 

 「うそだろ?帰れないってなんだよ!!ふっざけんな!!」

 「いやよ!なんでもいいから帰してよ!こんな所に居られるわけがないじゃない!!!」

 「戦争なんて冗談じゃねぇ!野垂れ死ぬなんて…そんな…そんな…!」

 「なんで、なんで、なんで……帰し…かえしてよぉおおお!!」

 

 クラスの列になぞって悲鳴がこだまする。やはり、帰れないというのは誰にとっても怖いことのようだ。というか、この世界自体が恐怖なのだろう。自分たちの当たり前が変化して、何があるかも、何がいるかも分からないのだから。未知は人間において最も強く最も歪な恐怖だ。モンスター物のパニック映画なんかでも、未知の恐怖というのはよく使われる。物語の序盤や中盤はモンスターの正体が分からずに進む要領だ。

 

 私が発端として起こったパニックを利用し、事態の整理や今後の展開予想など、身近な者と共有する為に私はサツキちゃんとハジメの肩を揺する。サツキちゃんはもとよりそのつもりだったらしく耳を傾けた。それとハジメが反応したからか、香織も小会議に参加した。

 

 「ハジメ、香織、サツキちゃん。今回のこの場面…どう見ている?」

 「まだマシかなぁ…って。帰れないのはテンプレだし。一番酷いのは奴隷化だから、それされてない分だけ…ね」

 「まあ、今んところ優遇されてっしな。つっても流石にこれはサツキ様でもお手上げだぜ…何かの拍子に立場逆転とかあり得るからなこういうの…迂闊に手が出せねぇ…さっきのも結構な博打だったんだぜ?」

 「私は…出来るなら戦争には参加したくないな……ハジメくんが傷つく所見るの嫌だもん」

 「私もそれは同意見だ。戦争なぞ…あまり見たくもないし関わりたくもない。当事者同士で周りに被害を出さなければ勝手にやってれば良いものを…何故私たちを巻き込んだんだか……エヒトとやらは何を考えている?」

 「あ、それ、僕なりの考察建てたんだけどいい?」

 「もう建てたのか…流石だなハジメ」

 「一体どんな事?」

 

 「なあ、何話してんだ?」

 

 ハジメの考察を言い出すところで清水が割り込んできた。意外な来訪者なので少し眼を見張る。皆が慌ててる時だというのに…案外彼の肝は座っているのかもしれない。

 

 「お、清水(きよみず)。お前案外慌ててないんだな」

 「清水(しみず)だ。……まあ、俺もよく読んでいるからな()()()()()、大体想像ついた…」

 「え!?清水くんもラノベ読んでるの!?」

 「……意外か?」

 「いや、なんか雰囲気からオタククセェなぁ…とは思ってたぞ。ていうか定期的に漫画ネタとかラノベネタ言うじゃねぇか」

 「お前には言ってねぇよ!」

 「僕は個人的に仲間が増えて嬉しいなぁって」

 「そうか…。んで、話戻るが何話してたんだ?」

 「あ、うん。この世界のエヒトっていう神様の事なんだけどさ。この世界を作った創造神な訳でしょ?それなら人間族とか魔人族とかも作ったのエヒトって事じゃない?で、今この状況を言ってしまえば、自分の子供たちが長年殺し合いしているのに、それを止めようともしないで逆に僕たち召喚して更に戦い激化させようとしてるのおかしいなっ…て思ったんだよ。本当の意図は分からないけど、考えられるなら…ただその殺し合ってる様子を見て面白がっているのか、神様が何者かに操られてそうなってしまっているだけなのか…単に人間族を贔屓しているのか…」

 「ふむ…」

 「んー、アタシからは…それって完全に愉快犯じゃね?って事だけ言っとくぞ。異世界まで焚き付けて戦争の巻き添えにするとか、んなもん愉悦するためだろ。つかあのイシュタルっておっさん自体胡散クセェ」

 「癪だがサツキに同意だ…ていうかハジメ、お前よくそんな発想に行き着いたな。俺も結構胸糞物の読んでるがそういう発想はすぐに浮かばなかったぞ」

 「あぁん!?癪とはどういう事だこの野郎!」

 「それじゃあ、もしハジメくんが最初に言った神様の意図が正しかったら……」

 「私たちは異世界というサーカスに招かれた哀れな娯楽動物と言えるな。観客者は神1人というなんとも喜ばせ甲斐のない特大ステージだが……娯楽動物というより、古代ローマの剣奴と言った方が正しいか?」

 

 でも一応考察だからね!サツキさんの言っている通りかもしれないけど、他の可能性だってあるし…例えば、単に魔人族には魔人族だけの神様がいて、そこでもこっちの神様と同じようなこと言ってて、ただの宗教戦争なのかもしれないし…とハジメが補足を加えた直後。

 

 バンッ!

 

 「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ」

 

 突然机を叩き立ち上がったのもあり、注目が集まった。こういう時に皆を纏めようとする精神だけは感心する。そして、なまじカリスマもあるので皆も静まり返って光輝の方を見ていた。

 

 「……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない!それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 「そうですな。エヒト様も救世主様の願いを無碍にはしますまい」

 「俺たちに大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 「えぇ、そうですな。この世界のものと比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょう」

 「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように俺が世界も皆も救って見せる!!」

 

 先程まで世界恐慌でも起きたかのような騒ぎだったのに、一瞬で喜色の表情が見えるようになる。やはり、こういう時に頼れる人物がいると言うのは大切なんだろう。先程も言ったが急な異世界転移と言うのはただ拉致された時の心情とそう変わらない。突然自分たちが救世主と言われ、それ相応の力を持ってたとしても、精神自体に何ら変化はなく依然高校生のままだ。持て囃され、力を持ってると言われてもただ不信感やら懐疑心やらと不安が募るだけだ。その点、それを和らぐようにした先ほどのサツキちゃんの手腕は素晴らしい。自身がどういった立場で認識をされているのかよく分かって実行できている事だ。本人はかなりの博打を踏んだらしいが…それでも私にとっては思いつかないような…いや思いついたとしても出来ないことだ。

 

 光輝も光輝で相手に好印象を与えながら自分たちの精神を安定させ、前向きに異世界への転移に取り組むよう纏め上げる手腕は、彼のこれまでの日常生活により培われた外面的評価となまじあるカリスマのお陰だ。

 しかし、今回の場合それが正解だとは限らない。いや、()示されているこの状況()()においては一番堅実なんだろうがな……光輝の様子から彼は微塵もそう思って居ないのだろう。

 

 「アイツ人を殺すってマジで思ってねぇのか?」

 

 私たちは今から大量虐殺へと駆り出される事が決定してしまったという事に。

 

 「だろうな。イシュタルの印象操作によるものだが、多分彼は魔人族をモンスターか何かだと思っているのではないか?」

 「うーん……これちょっとヤバくない?」

 「ヤベェだろうな…というか今ので光輝のイメージがガタ落ちしたの俺だけ?」

 「私は常日頃から落ちてると思うが」

 「アタシもああいう手合いは苦手だったな」

 「え、お前が?」

 「おいおい、アタシだって人の苦手はあるぜ?」

 「マジd…?」

 「待ってサツキちゃん!人殺しってどういう事!?」

 「え?いや、魔()族だろ?すこし魔力のどーたらこーたらと姿形が違うだけで『人』には変わりねぇじゃねぇか。それを今自分から戦うって言ったんだぞアイツ」

 「そもそも、数が不利にも関わらず長期間に渡って人類と戦争をしていた奴らだ。恐らく人と同じく知恵を持ち、文明を持ち、感情を持っている」

 「なあ香織、戦争の終わり方って知ってっか?相手が白旗あげた時か、お互いやめね?って言った時か、どっちかが滅びた時の三択だぞ?……魔人族と人間族がそんな長くやってんのに降伏も和平も結んでないじゃ、お互い滅びるまでやるつもりなんだろ。それに加担するって言ったのアイツだ。……現実的な話すっと、私達が人殺ししなきゃ、私達が死ぬ状況にアイツのお陰でなっちまった」

 「そんな……」

 

 非常に面倒な事になりそうだ…この世界の事などそもそも、サツキちゃんとハジメを拉致った事で特に何とも思っていないが……クラスメイトには死んでほしくないというのが本音だ。

 

 ここは一つ皆の士気を下げる事になってしまうが、現実を叩きつける必要があるだろう。

 私たちや雫、他にも聡明で先の事を見据えた極少数の者以外の顔は、今から自分たちは英雄になるという淡い妄想に浸っていた。

 しかし、私たちは英雄ではない。

 私は龍である魂を受け継ぎ人間の暮らしを享受している1つの生命に過ぎないし、他の皆は齢20も未だ迎えていない青二才だ。人1人殺したこともなければ、他人を傷つける事にも正義感という捻くれた後ろ盾が無ければ出来ない輩が大勢いる。

 

 貪欲なまでの知識で竜騎兵を作り上げたあの人間の英雄でもなければ、戦争で名誉ある死を遂げた人間でもない。

 皆が切望しているのはより多くの屍を築いた方の英雄だ。その屍が何であるか彼らは理解していない…故にその様な姿に憧れる。

 決して…あの完全に人の発展と大自然の恵みを調和させたハンターであったり、種族が違えているのにも関わらず大型の獣から弱き種族守りきった少女の様な小英雄ではないのだ。

 私は椅子から立ち上がり、光輝に向けて言葉を放った。

 

 「光輝よ。戦争に参加すると言ったその度胸は褒めてやる……があまり理想は見ない方が良いと助言しておく」

 「美羅さんか…理想を見ない方が良いってどういうことかな?」

 「そのままの意味だ。お前は今、この戦争に参加すると言ったな?」

 「そうしなきゃ、この世界の人々を救えないし、皆も救えないじゃないか!」

 「うむ。確かにな『今』示されてるやり方としては最善だろう。しかしな…相手は動物ではない。長年人間族と戦えるだけの知力と力を持った『人』だ。…お前に皆を守り切れるか?お前に人が殺せるか?」

 「当たり前だ!俺がみんなを絶対に死なせない!!それに、君は一体何を言ってるんだ!?誰もそんなこと言ってないだろう!!俺が人殺しをするなんて…!!」

 「いや、確認はしたぞ?とある種族を滅ぼすと…お前は言ったではないか」

 「一体何の事を言っているんだ!俺は…!!」

 「戦争に参加すると言ったではないか。戦争をするとはそういうことなんだよ。それに……イシュタルとやら、爾が望むのは魔人族の滅亡か?」

 「当然でしょう。我らが創造神…エヒト様が神敵と認定した者など…生きていること自体が罪です。勇者様には是非魔人族を滅ぼしていただきたい」

 「なっ!?イシュタルさん何をっ!?」

 「光輝、お前が承諾したのは()()()()()戦争に参加するという旨と、教会の総意であるソレだ。魔人族を()()()()()という使命だ……

 

 もう一度問おうか。天之河光輝、お前に、皆を守れるか?お前に、人が殺せるか?

 

 

 それを聞いた途端、何の言葉も発さなくなった光輝。それに合わせ先程まで騒いでいた皆が静まり返り私に視線が集まる。というかサツキちゃんやハジメ達もドン引きしているような気がする。…まあ、元よりこういう雰囲気になるよう発言した。皆が人を殺すという現実を見るように…。又は、殺されるという可能性を見るように……。

 

 畑山先生はサツキちゃんに阻まれていたとはいえそれを気づかれることなく防ごうとしていたんだろう。何せ、最も早く戦争への参加を拒否したのは畑山先生であり、光輝が戦争の参加を宣言し皆が盛り上がっていた時も必死で止めようとしていたのは畑山先生だ。まあ、普段の抜けているところや身体的特徴からマスコットキャラクターに位置付けし、良い意味でも悪い意味でも親しまれているので真剣に話を聞いてくれる生徒などほぼ皆無であったが……。

 と、ここで光輝に動きがあった。

 

 「俺は…俺は必ずみんなを守りきって、元の世界に返してみせる!!そんな意地悪を言われたって俺は屈しない!この世界の人々だって救ってみせるさ!!」

 「そうか……難儀だな」

 

 殺すと言った相手を救うか…。

 

 それ以降の話は無駄だと感じたのか美羅が座る。

 そして美羅は天之河光輝という子供を前に慈愛の満ちた眼差しを送るのだ。哀れに見えて仕方ない…と言った風に。彼の精神は一見、肉体と共に成長しているようでしていない。物事を多角面に見ることが出来ず、己の不利は覚えていないのかすぐに無かったことにする…そして、自分の方が正しいと思うことに愚直に突き進み皆を巻き込む…例えそれが間違ったことだとしても……あぁ、まるで我儘な子供のようじゃないかと…。自身の筋書き通りの人生を送らないと満足できないとは…なんて不自由な男なんだと。

 

 しかしそれとは裏腹に話は進んでいく。

 私の助言とも取れない言葉の羅列はあまり意味をなさずに結局戦争には参加するという方向のまま皆戦うことになってしまった。まあ、複雑な表情の者が多く居てくれたので、そういう心構えを持ってくれるだけで嬉しい。

 




清水くんはサツキちゃんが関わった事によってだいぶ変わってるよ!
正直お前誰だよって言うぐらいには変化したんじゃないかな。

…にしても光輝くんの言い訳みたいなやつ考えるのクソムズイ。あの子本当に一体どうしたらそう解釈するの?って奴本当に多いから……。ちゃんと書けているか不安……。

2022年3月13日 追記

ちょーっとばかし文章を脚色し直しました。


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第3話

ある日、ツーカーさんは気付きました。
………段々文章能力衰えてね?…と。

リハビリがてら書きました。正直に言って……書いた時の違和感が酷かったですが…それでも自分の出来る最大限はこれだなぁ…と3ヶ月ぶりに投稿しました。お許しください…。


 

 一度話を終え、次に向かった場所ははたまた豪華絢爛な城であった。王城の名は紹介されなかったが、国名がハイリヒ王国なので、ハイリヒ王城とかそんなのだろう。

 そんなハイリヒ王城の中に入って早々、サツキちゃんと美羅は飾られてある美しい絵画や彫刻品などに悪態…というか、呆れの念を言の葉に乗せて伝えていた。

 

 「なんか、王様とか貴族とかってやたら絵を飾りたがるよな。あと高そうな壺とか。一般市民には理解できない美的感覚ぅ〜とかそんな理由で見下すためか?」

 「さぁな。己が裕福だという事を誇示するためのものかと思っていた。そんなものは己の肥え太った脂肪だけで充分わかると思うのだが……まあ、それもあるのか?」

 「いや、姉さん。貴族の中にもちゃんと痩せてて善良なのちゃんと居るからね。確かにこういう異世界モノってなんかでっぷり太った悪徳貴族多いけど…ほら『このすば』のダスティネス家みたいな人達も必ず居るから…」

 「それは分かっているが、どうも私は王族や貴族というものは毛嫌いしてしまうタチでな。まあ、『このすば』の貴族はアルダープ以外はかなり好んでいるつもりだ。アイリスも勿論好きだぞ。あの娘はきっと良き王になる」

 「なぁ、今ここでそれ話す必要あるか?」

 

 清水君から差し込まれた一言に少しだけ苦笑いをする。

 うん、絶対に必要じゃなかった。というか王城の内部で思いっきり貴族や王族に喧嘩売るような事言ってたよ僕たち。不敬罪で早速死刑なんてこともあり得るのに…さっき僕たちが…というより姉さんとサツキちゃんがしでかした事も含めて絶対イシュタルさんに良い印象抱かれてないよ。

 

 その一言は至極真っ当だったのか、サツキちゃんも姉さんも黙ることにしたようだ。正直、心の中でホッとしている。というか姉さんって、上級階級に住む人達や軍事的なことと関係することになると負の感情が大きくなるの何でだろ?いやまあ、確かにラノベとかのサブカルチャーが要因で貴族=悪人みたいなイメージ抱きやすいし、軍=戦争みたいな悪い偏見持ってしまうのは仕方ないけど…姉さんのソレってまたちょっと違ったような気がする……というか、ラノベに触れる以前から嫌っている節がある。

 まあ、心の底から憎んでる訳じゃなくて、毛嫌いしてるだけで、理解をしようとその人の立場になって考えること多いから…これからやる王様との謁見も大丈夫だろう。……流石に……きっと……うん多分…大丈夫だよね?

 

 そのまま姉さんたちの動向を探りながらも移動していると、どうやら目的地に着いたようで、これ以上に豪華な扉はあるか?という感想を抱くほど絢爛な扉をくぐり、謁見の間へとやってきたらしい。正直言って、さっきの姉さん達の会話を聞いたからか、あの扉が悪趣味なように感じるのは僕だけじゃないはず…とチラッと横目に見てみれば清水くんもなんとなくだが…扉を気にしている風に見えた。

 

 少しの間、意識を違う方へ飛ばしていて気づかなかったが、恐らくこの国の王様である人物がイシュタルさんの手の甲に触れない程度のキスをしているのが見えた。諸にこの国が宗教国家である事がわかり、本当に古代ローマみたいな国だなっと思えてしょうがない。

 

 「ぶっちゃけ、おっさんが爺さんの手の甲にキスしてるシーン見て誰得なんだ?王得と書いてお得?」

 「お前何言ってんの?つか今言うことじゃねぇだろそれ!?いや、少し俺もウエッとしたけどさぁ…」

 「清水くんも静かにね!?ちょっと周りの衛兵っぽい人たちから攻撃的な視線感じるよ!?」

 「なあ、私達がみんなの立場をさらに悪くしてないか?」

 「それは否定しねぇ。アタシ元々この国の奴ら嫌いだし」

 「だから黙れよ!!?お前だろ最初に迂闊に動けねぇつったの!?迂闊に動きまくるんじゃねぇよ!?前回のお前なんだったの!?」

 「明日は明日の風が吹くんだよ」

 「意味ワカンねぇよ!?それに、その言葉の意味と今のお前全然関連性ないぞ!?」

 「中々ボケとツッコミが鋭いな…良いコンビだ」

 「姉さん、多分これお笑いじゃないよ…」

 「多分じゃなくてもお笑いじゃねえ!というか今する場でもねぇ!!」

 

 「そこの方々!静かにしていただけますか!勇者の仲間といえど、ここは王の間ですぞ!」

 

 流石に煩すぎたのか初老の貴族が声を上げて注意をしてきた。流石にこちらに非があり…というより侮辱罪とかも加算されそうな勢いで無礼を働いているので当然である。逆に注意してきただけで終えたので、その男性の懐の広さが伺える。

 

 『はい!すいませんでした!!』

 「うむ。すまなかった。些か此方が五月蝿すぎたようだ」

 

 即座に反応し、頭と腰を下げるハジメと清水。その横で美羅も失礼した、と頭を下げる。正直、そんな彼らを見てクラスメイトの大半や畑山先生は同情的な視線を向ける。本当は畑山先生も止める側の人間の筈なのだが……サツキが相手となると、先程のイシュタルへの抗議をする際に遮られて話の主導権を握られた経験もあり、どう切り出せば良いかと言葉を頭の中で巡らせていたところ、間に合わなかったのである。

 

 「この通り、こいつらも謝ってるから許してくんねぇか?」

 「お前どこのクレヨンしんちゃんだ!?あともうマジで黙っとけ!!」

 

 なんとなく清水君とサツキちゃんの関係性がわかった気がするハジメであった。

 

 (清水君すごいな……。あ、また姉さんが吹いてる…。なんかサツキちゃんが絡むと姉さんって笑いのツボ浅いよなぁ…)

 

 

 一波乱あり、少々というか…やっぱりというか…『黙ってろよ美人』とはよく言ったものだと全員が痛感した。サツキが発端となると、普段は冷静沈着というレッテルを貼られてる筈の美羅まで騒ぎに加わるのだから、余計に対処しにくくなるので、是非サツキには黙っていて欲しいところだ。じゃないとこの収集がそもそもついていない状況が更に収集つかなくなる。

 

 檜山含めた男子の数人は、純粋にハジメと清水に尊敬の意を示した。正直自分では全くこの場を抑えきれそうにないからだ。かつて白崎や美羅に恋慕の念を抱いていた各々は、最初こそハジメは男子全員の不倶戴天の敵であると思い込み、排他していたものだが、今となってはあのような胃が痛くなる場面を何度も味わってきたのだと思うと苦労が窺いしれる…ハジメ、お前は良く頑張ってきた。これからも頑張ってくれ…。清水…お前もよく対等にサツキとボケ漫才を繰り広げてるよ…本当に。それと…あんまりこっちにソレ近づけんなよ?

 そんな感じに、知らず識らずハジメと清水の男子達からの株価は上がる。あ、一部の頭勇者くん(笑)を除いて。

 

 そんな密かな想いを紡いでいるとは露とも知らず、げっそりとしたハジメと清水は、互いに励まし合い、香織から激励の言葉を頂き、奮起していた。因みに、現在は国王や王妃、王子などなどの自己紹介が終わり、歓迎の晩餐会が開かれているのだが、その横でサツキと美羅は雫や畑山先生から説教を受けていた。

 

 その姿を見て、なんとはなしにクラスメイト達はまだ高校に入ったばかりの頃を思い出した。高校一年生の時代はよくこういった風景が日常だったのだ。特に男子達が恋慕の情熱を間違った方向に注いでいた時には。

 

 と言ってもまあ、男子達からすれば自分達がハジメにした虐めの応酬を喰らい、思い出したくもない事を思い出させ、女子達からすれば「そういえば最初の美羅ちゃんとサツキちゃんこんな感じだったよねぇ〜」くらいの感動だ。思わず身震いが走った男子達はこの教室の大半を占め、その様子を見ていた女子達は首を傾げている。

 

 

 

 

 

 人間の三大欲求である食欲を満たしたからか、それとも少し昔のことを思い出し郷愁を感じたからか、一部のクラスメイト達は思考に余裕が出来つつあった。そして、先程美羅が言っていたことを思い出す。

 

 『戦争への参加』

 『魔人族を殺し尽くす使命』

 『人を殺せるか?』

 

 この言葉が鉄の鎖できつく結び付いたかのように離れない。美羅が言う前から仄かに感じ取っていたもので、正直あまり考えたくないことだ。蚊やハエ、蟻ならまだしも、動物を殺せと言われて、途端に動けなくなる自分達に何が出来る?

 力は確かにあるかもしれない。光輝が言っていた通り、漲る力は不思議と感じられているからだ。

 しかし、それがあったところで、ソレを人に向けるとどうなるか?など考えたくもなかった。

 

 今、自分は拳銃()を持っている。相手も拳銃()を持ち、此方を殺す意思がある。自分にはない。撃たなきゃ…死ぬ。

 

 そんな状況に今、居る。しかもそんな一対一ではなく、多対多の戦争だ。目の前の相手をやったからとて、次が来る。

 

 

『あぁ、いやだ。この先なんて考えたくない……。殺されるのも嫌だし、殺すのも嫌だ』

 

『なんで…どうして、こんな目に自分は遭っているんだ?』

 

『アイツには死んでほしくないなぁ……』

 

『もう死に(逃げ)たい…らくになりたい』

 

 

 そんな思考がぐるぐる回っている人達がいる。

 

 

 

 

 食事が終わった後は、各自の部屋へと案内された。

 やはり、勇者御一行という事で待遇は良いのか、少しお高いビジネスホテルみたいだと感想を抱く。

 

 部屋にあった鏡を覗き自分の姿をなんとなく見てみる。

 そこには、ほんの少し後悔が滲んだ自分の顔だ。

 

 (あの場では言うには早過ぎただろうか?)

 

 何の後悔かはきっと、この世界にやってきて早々に行われた状況説明の場で自分が口出しした事だろう。

 

 (時期尚早だった……認識させるのは、もう少し彼等が力をつけた上で…やるべきだった)

 

 彼等は高校生だ。未だ不安定な精神を更にぐらつかせてどうする。せめて、少しでも自信取り戻してからも遅くはなかった。

 光輝のやり方もやり方だが、皆の事を考えると正しいかもしれない。まあ、戦争にすぐ参加する。と言ったのはなんとかして欲しいところなのだが…彼の歪で純粋な正義感がそうさせているのだろう。…せめて、この世界の情勢について調べる期間を設けて欲しい所だったが、それは私や畑山先生の役割か…。

 

 自分の悪感情を先走りにさせて、行動に移したのが悪かった。

 私も、完全な生命ではなくなった。…龍の時代の人を憎む心は未だ浄化しきれず、来世に至ってもそれは周りを汚染する。……あぁ、呪術廻戦の『愛ほど歪んだ呪いはない』とはこの事か。子への親愛が消えていないのだな…。

 

 子か……。

 

 ゆっくりと自分の腹回りを撫でる。今も欲しくないと言えば嘘になる。龍であった子らと人である今の子ら…種族は違えども愛したいという気持ちは変わらないが…失った悲しみを知った今では…産むのが怖い。更にいうなら、人は脆弱だ。弟のハジメもこの世界に来てしまい、いつ死ぬか分からない状況に巻き込まれている…。怖い…失った時の哀しみがとてつもなく怖い。私は正常なままで居られる自信がない…。

 正に神にも等しかったあの頃の私でも、自分の子らは守れなかった。……それが今では龍とも人とも言えない半端者になっている自分に成せようか…。

 

 ここで成してみせると大見得を切ることの出来ない私は随分と臆病になった…。自身のトラウマは…やはりトラウマのまま。あの人間と出会っていなければ今よりも酷かった可能性がある….…というよりも確信がある。龍であった私の唯一無二の親友…モンパ…。今は、そいつに逢いたい。

 

 コンコン。

 

 「おーい。ミラいっか?」

 

 親友と頭の中で考えたからであろうか。人としての私の親友が部屋に来た。

 

 ガチャ

 

 「お、居るんなら返事してくれよ。寂しいじゃねぇか…って何しけた面してんだ?」

 

 やはり、私は顔に良く感情の色が出るらしい。観念して事情を伝える事にした。

 

 「ん…いや、何。少し…後悔していたんだ。ほら、光輝が戦争への参加を表明した際のな」

 「んだよ。そんな事か。どうせ、アイツらが暗い気持ちになって、明日からの訓練にも参加しねぇんじゃねぇかって心配してんだろ?」

 

 「ん?訓練?」

 

 「あり?聞いてねぇのか?アタシの所には来たけどよ。明日から戦争に参加するための訓練と、一般知識を身につけるための座学があるんだとよ。アタシの専属執事が口説き文句添えながら伝えてきたぜ?」

 

 「そうか。……今聞くと、それもあるな。より深く掘り下げれば…私の言葉が原因で、戦争への参加を反対する者が増え、光輝やそれに付随する皆は好待遇のまま生活できるかもしれないが。戦争への参加を反対する者たちは見放されるか…最悪奴隷となってしまうのか…不安になってしまったんだ。この訳も分からない状況で、まだ言うべきではなかったことを言ってしまった。皆の状況を引っ掻き回してしまった…と」

 

 「なんかいつものミラらしくねぇとは思ったけど…こりゃ想像以上だわ。お前な、いつも場を引っ掻き回してんのはアタシの方だぞ?アレを引っ掻き回すとは言わねぇ。ありゃ警告って言うんだよ。それに、今回お前が言おうが言わまいが、いつか全員覚悟する事になんだよ。なんも支障はねぇ。あの馬鹿がああ言わなきゃそもそも、その必要も無かったし。その尻拭いをしたのはミラだ。別に誰もお前を責めなんかしねぇよ。というかアタシがゆるさねぇ。逆にクラスの奴らの心の整理がつくまでの時間を設けたんだし万々歳だろ。それに、ぶっちゃけ言えばそこまで深く考える奴らはこのクラスにあんまいねぇ。アタシらグループ除いても本当に極少数だ。安心しろ。つか、どうせあの頭勇者野郎がどうにかすんだろ。どこぞのジャイアンよりはカリスマ性あるし。クラスの奴らの大半はアイツの言葉を鵜呑みにするし」

 

 彼女の言葉に、だいぶ心のざわめきが落ち着いた気がする。彼女は本当に…彼みたいに私の心を救ってくれる。その感覚が本当に心地好い…。彼女には私の全てを知ってもらいたいと私が言う。…しかし、まだその時じゃない…ただ今は、この幸福を噛み締めていたいと思う。

 

 「…ふふっ。アハハ!そうか、そうだな!そこまで気負う必要もなかったか!つまらない話をしてしまったな!流石は私の親友だ!明日は明日の風が吹く、だな!」

 「よっしゃ!その粋だぜ!……そんで、元気になったついでに私がここに来た要件言うけどいいか?」

 「ん?あぁ、私の愚痴に付き合わせてしまったな。すまなかった。何の用だったんだ?」

 

 「アタシ、枕が変わると寝られない主義だからさ。いつもみたいに、腹貸してくれね?」

 「なんだ、そんな事ならお安い御用だ。今日は私もサツキちゃんと一緒に寝たい気分だしな…」

 

 

 

 

 

 同時刻。ハジメの部屋には香織が入り、二人はそのまま幸せなキスをして就寝。

 

 香織がハジメの部屋へ入るのを檜山が目撃し、グループ仲間とともに、どんな行為を行われているか予想したところ。どう頑張ってもキスで終わりと結論をつけ、皆が寝静まった頃に確認(覗き見)したところマジで何もやってない事が発覚し、「ハジメ、お前はもうちょっと肉食系でもいい」と、後日訳の分からないアドバイスを貰ったハジメであった。

 

 後に、覗き見がバレた檜山は語る。『推しの幸せを願うのが俺らの役目だるぉ!?』

 

 勿論、ハジメから制裁を食らった。『俺の女の裸ワンチャン見れるかもとか思っただろ』

 

 




打ち間違えて『肝が冷や冷や』を『肝がHear! Hear!』と変換されて、吹き出した作者は液晶画面をティッシュで拭いた。きたねぇ。

正直な話すると、今回の話はごちゃごちゃ過ぎて、後で消すかもしんないです。
後、投稿遅れてすいません。そして、全然話進まなくてすいません。

3月14日 追記

今日気付きましたが、大幅にアップデートまでの時間計算をミスってました。(35万4百分→893万5千2百分)
ここに来てお詫び申し上げます。


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第4話

前回の消さずに続行することにしました。
あらすじにあるアップデートまでの残り時間……ぶっちゃけ書く意味なくね?と思っているツーカーさんです。

一応載せとくと、あとアップデートまで19836分前です。(約2週間前)


 

 朝、この世界では二度目の太陽との再会であるが、何も嬉しくはなかった。

 元よりこの世界に好意など持ち得てないないので当たり前だが。

 

 薄眼を開けて空を見れば、太陽の傾きからそこまで遅いという訳でもないらしい。

 時間的に余裕があるのに加え、理由のわからない怠さが身体を襲ったので、今はあまり起きたくない気分だ。

 

 胸の方に違和感を感じ、薄眼を開けてみるとサツキちゃんが私の胸の間で安らかに眠っているのが見えた。

 裸同士…朝チュンみたいな光景だな~。と、頭をぼーっとさせながら昨夜の事を思い出した。

 

 確か昨日はいつも通り脱いで寝ようとして…サツキちゃんに少し引かれたんだっけ。

 『こんな所にまで来てまだそれ実行すんのか…大分度胸あるな』と、そんな風に。

 そう言っていたサツキちゃんもなにか吹っ切れたのか、『全裸で寝るってどんな感じなんだ?』と服を脱いで一緒に寝たんだった。

 サツキちゃんもサツキちゃんで異世界っていう所に来てテンションが変に上がってたのかなぁ~と、しみじみと彼女の思考回路を考える。

 

 

 

 重い瞼に抵抗しながらサツキちゃんの顔を見る。

 まつ毛長いなぁ…顔の造形が綺麗だなぁ…可愛いなぁ…とありふれた感想しか出てこないが、いつもの変顔や奇行がない分、ギャップ萌えが酷い。同性ながら惚れ惚れしてしまうのが彼女の魅力だろうか。起きている時の快活とした様相も好きだが、この寝ている際の静謐とした感じがなんとも言えず、思わず撫でたくなってしまう。

 

 欲望に抗えずにゆっくりと優しく頭を撫で、髪を少しだけ解く。彼女の髪はサラサラしていて…ふわっと良い香りが広がる。至福とはこのことだったのかもしれない。

 

 私の腹を枕にして寝ていたというのに…随分と上にせり上がってきたものだなぁ…やはり枕は柔らかい方が良いのかなぁ…などと、胸を枕にした彼女を見ながらほのぼのと考える。

 

 スゥ…スゥ…と、サツキちゃんの寝息の音も聞こえてきて、普段の彼女とは思えない優しい声質なので耳が癒される。至福とはこの(ry。

 

 私に覆い被さるような感じで寝ているせいか、私の腹の所に丁度サツキちゃんの乳房部分が当たって、呼吸するたびに柔らかい感触が広がってこそばゆくなる。それと同時に肌のきめ細かさを感じるのだが…サツキちゃんの肌は随分と綺麗だと思う。シルクの様に触り心地が良い。

 

 サツキちゃんを起こさない程度に何度も何度も優しく丁寧に頭を撫でるのが今の暇つぶしだ。サツキちゃんを撫でることはとても心地が良く、気が休まる。今のゆったりとした朝の雰囲気に丁度良い。

 

 撫でていくうちにサツキちゃんの本能を刺激したのか、「ンゥ~……」と寝言を呟きながら、私の脚と自分の脚を絡ませてきた。何とも言えない優しい暖かさで、正直に言ってしまえば更に絡み合いたいと思ってしまう。

 

 「このまま、時が流れるというのも…良いな…」

 

 まあ、そう言った呟きはあまり遵守されないものだ。

 

 

 ガチャ!

 

 「ラミラミー。さっつんが部屋にいないんだけど知ら…わぁーーーー!!!?お邪魔しましたぁ!!」

 

 「え、何!?どうしたの鈴!?何か見ちゃいけないものでも見たの!?」

 「ら、ラミラミとさっつんがは、はは裸で抱き合ってて!!ラミラミが、さっつんの頭をいい子いい子してて…!?」

 「え?本当に?あの2人が?…何それ超見たいんだけど!」

 「だ、駄目!邪魔しちゃ駄目だよ!!これは多分禁断の恋って奴だよ!!」

 「尚更見ないと駄目じゃないか!?あの美羅とサツキだよ!?」

 

 あぁ…そういえば座学の時間か…もう、そんな時間になったのか?

 

 「んぅ?なんだぁ…?やけに朝のクラシックが効いてんなぁ…」

 「起きたか。おはようサツキちゃん。一応言っとくと、この音はクラシックではなく、鈴と恵里の声だぞ」

 「…おぉ…そうなのか。ふぁあ……おはよう……鈴と恵里か…アイツら良い声してっけど、朝からちっとばかし音量がデカすぎねぇ?」

 「確かにな…まあ、こんな格好なら仕方ないではないか?」

 「あ、そういや全裸で寝てたな…」

 「今日の朝起きたら少し驚いたぞ。腹の上で眠っていた筈が胸の間で眠っていたんだからな」

 「ぁ~。仕方ねぇだろ。お前の胸が気持ち良すぎんだよ。ったく、どうなってんだよ…私の頭専用の吸着機能でも搭載されてんのか?すっかり魅了されちまったぜ…」

 

 「わわわわ!やっぱりそうだ!昨日ヤッたんだよきっと!!」

 「は、離して鈴!今行かなきゃ一生そんな場面に立ち会えない気がする!というか聞き耳は立てるのに覗こうとはしないなんて駄目だから!覗いてなんぼだからねこういうの!」

 「そんな、なんぼなんて鈴知らない!」

 「ちょ、待っ。首!そこ首!流石に首はダメ!」

 

 盛大な勘違いと小競り合いが起こっているが…まぁ、これは放っておいていいだろう。誤解は解くとして。

 二人の声が目覚ましがわりとなったので、起き上がる。サツキちゃんは未だ私の肌を抱き枕として使いたいのか抱きついてくるが、流石にこの世界を少しでも知れる座学の時間なので、無駄にはしておきたくない。何とか説得して離れて貰い、いつのまにか置いてあった着替えを着ることにした。

 

 「そういえば、裸で寝た気分はどうだ?気持ち良かったか?」

 「んー、確かに開放的になれたってのは良かったけどよ…。異世界来て早々に真っ裸で寝るってのは流石のサツキ様でも緊張したぜ…。ま、それを差し引いてもミラと寝るなら悪くねぇな」

 「そうか!それは良かった。サツキちゃんにだったらいくらでも身体を貸そう」

 「……あんまアタシ以外の奴にそういう事言うなよ」

 「ふふっ。心配してくれているのか?嬉しいな」

 「アタシにしちゃ真面目に言ってんだからな!?」

 

 部屋から出ると、まだ小競り合いが続いていたのか、鈴と恵里が組み合っていた。押され気味な様で、鈴が「ろ、ロープ!ロープ!」と、虚空に手を伸ばしていたのをサツキちゃんが受け取り、「お前の気持ちは受け取ったぜ!エントリーNo.2番!サツキ!いっくぜぇー!!」と、そのまま恵里とプロレス?を続行。スタミナを失っていたのか、サツキちゃんの身体能力に勝てなかったのか分からないが、すぐに組み伏せられて決着がついた…と思えば、続いてのエントリーはサツキちゃんvs私になった様で、いつのまにか解説席と実況席に着いていた鈴と恵里の目の前でサツキちゃんとプロレスをすることになった。……これどこのギャグアニメ?

 

 前のお泊り会は、確か朝起きてすぐに、三味線とエレキギターでデュオやったんだっけ…と昔の事を思い出しながらも、何とか勝利…朝からやるべきものじゃあないが楽しかった。

 

 そのまま四人で座学を行う場所へ移動する際に、 私とサツキちゃんの『昨日はお楽しみでしたね』の誤解を解いていた。その際、私が寝る時には全裸になる習慣を知られてしまったが、別に隠す事でもないので気にしない。

 

 「へー、ラミラミって寝るときは裸になるんだー」

 「あぁ、裸でいた方が落ち着くのもあるが、基本的に服は好かないからな。寝るときぐらいは気分の良い状態でいたい」

 「なんか、私たちの知らない世界って感じ…」

 「アタシも裸になって寝てみたけど、案外気持ちいいもんだぞ。こういう特殊な状況じゃなかったら試してみりゃどうだ?」

 「私は遠慮しておこうかな…ど、どちらかと言えばそれを眺めて、イラストに…」

 「んー。無理かなぁー。寝てる間に誰かが入ってきたら…ってなっちゃうと嫌だもん。でもすごく気になるなぁ…お風呂入る時とはやっぱり違う感じ?」

 「あぁ、全然ちげえぞ。まあ、アタシはミラを抱き枕がわりにしてたからまた違う感覚だろうけど」

 「んー、どうしよかっなぁ…」

 「鈴も私と一緒に寝てみるか?2人なら大丈夫だろう?」

 「え?いいの!?」

 「オイ、コラ待てコラミラコラ。さっき言ったじゃねぇかよ!アタシ以外にはあんまり言うなって!」

 「鈴は仲も良いし。信用している。そこまで問題か?」

 「大問題だわ。動く点P並みに嫌だぞ。アタシは」

 「やっぱり2人ってそう言う仲なの!?」

 「『ミラサツ』キマシタワー!」

 「だからちげぇ!あと、恵里!俺ガイルの海老名みたいなモノマネすんな!!」

 「お、着いたぞ」

 「オメェーなぁ!」

 

 扉を開けると大体のクラスメイトたちが集まっていた。どうやら私達はかなり遅く来た方らしい。…なんだかこちらに向けられている視線が多い気がするのは、多分気のせいじゃない。

 

 

 

 

 

 座学の微妙な空気も無事終わり、訓練の時間となった。

 

 メルド・ロギンスという、この国きっての最強の戦士が講師相手となるので、勇者一行がどれほど重宝されているのか分かると同時に、人類側がどれだけ危機に瀕しているかも感じ取れる。

 

 流石につきっきりはマズイのでは?と生徒たちが不安がったが、半端者にこの国の未来を託すなどあり得ん…という事らしい。それならあのシスターでも連れてくれば良いのでは?と思ってしまうが…この国の国教では聖職者は戦闘に関係する事はしてはいけない戒律でもあるんだろうか。力だけ見れば、私が今の世で出会ってきた中で最も強い者だと思うのだが…まあ、余計な口出しをする必要はないか。メルド団長自身も「副団長の人に雑事を押し付ける理由が出来て助かったわ!」と、豪快に笑っていたので本当に問題ないのだろう。おそらく、彼の部下を除いて。

 

 「よぉーし!全員に配り終わったな? このプレートはステータスプレートと呼ばれているモンだ。文字通り、自分のステータスを客観的に数値化して示してくれるものであると同時に、最も信頼の置ける身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、絶対失くすんじゃねぇぞ!」

 

 これ、諸にこのすばのステータスプレートではないだろうか。いや、ステータスプレートなんだから機能は大体似ていて当然だが…先に知ってしまったのはそっちなので、なんだかパチモンな様な気がしてならない。

 

 「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろ? そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。あとは 〝ステータスオープン〟って言えば自分のステータスが表示されるはずだ。……ああ、原理とかは聞くなよ? そんなもん知らんし、説明もつかんからな。神代のアーティファクトの類だ」

 

 「アーティファクト?」

 

 質問した光輝に対し、メルド団長は丁寧に答えた。

 

 「アーティファクトっつーのはな、現代じゃ再現のできない、強大な力を持った魔道具のことだ。 まだ神やその眷属達が地上にいたとされる神代に創られたとも言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に昔っからこの世界に普及している唯一のアーティファクトだ。普通はアーティファクトって言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」

 

 ステータスプレートの使い道といえば大体そんなものだが…本当にこのすばと似ている気がしてならない。とりあえず、自身の血を一滴垂らし「ステータスオープン」と唱える。この感覚がなんだか「リンクスタート!」と、某仮装世界にログインする際と非常に酷似していて、少し気分が上気する。

 無色だったプレートが純白に変わり始める。それと共にステータスも浮き上がってきた。このプレートの色の変わり様は本人の魔力の性質らしく、人によって違うらしい。私は真っ白ということになるが…はて?

 

 


 

南雲 美羅 17歳 女 レベル:1

天職:■■

筋力:200

体力:200

耐性:130

敏捷:300

魔力:1000

魔耐:120

技能:龍化[+部分龍化]・言語理解

 


 

 おぅ…………上気した気分も一気に下がる事はあるのだな。

 文字化けして見えない天職に、溜息を吐く。 何を示されているか、全く見えないが…明らかに塗り潰されている二文字の想像がつく。…『祖龍』それが、私の天職なんだと(本能)が言う。

 

 ……どうして私の前世がここで影響する?…このステータスプレートの情報収入源は、南雲美羅としての血だ。祖龍だった頃の私の血も投与したら納得はいくのだが…一体なんなんだ?

 まあ、ステータスプレートの構造自体、この世界の人間には原理不明とされているのなら、私が考えても仕方ない…か。非常に不満だが…今は納得するしかない。

 

 ステータスの欄は、一般人が平均10だと教えてもらったのでかなり破格なのが分かる。これが俗に言うステータスチートと言う奴だろうが……これでか…。祖龍としての力など、絞りカス程度の状態でこれならば、本当にこの世界は、私が居た世界よりも、下位に属しているのだな。……前世のハンター達が一体どんなステータスをしているのか気になるな…。何しろ今の状態では、あの世界の下位ハンターよりも弱い自負があるからな…。

 と、思いふけっていた私にサツキちゃんが話しかけてきた。

 

 「よっ!ミラはどんなステータスだったんだ?」

 「所謂、ステータスチートという奴だな。随分と破格な値をしている」

 

 早速サツキちゃんが私のステータスを聞いてきた。予想していた事なので、そのまま渡す。周りを見てみると他の皆もお互いのステータスを見せ合って一喜一憂している様子だった。

 

 「うげっ…ガチもんのチーターじゃねぇか。…アタシよりも上のステなんて。ミラの癖に生意気だぞ!」(某国民的青ダヌキ産前髪三分割少年の声真似)

 「意外と似てるな…」

 「へへっ、だろ?結構練習したんだよなぁ…まだ完璧とは言えねぇが……あ、これアタシのステな。…つか、マジでミラのステどうなってんだ?アタシの最大ステより5倍もあるだと?」

 


 

サツキ様 17歳 女 レベル:1

天職:狂走者

筋力:80

体力:180

耐性:40

敏捷:200

魔力:60

魔耐:40

技能:下校上手・暇潰し上手・視覚範囲拡大・加速・言語理解

 


 

 名前はサツキちゃんだから…まあ、無視して。

 サツキちゃんのステータスもなかなか物ものだ。自分の値を見てからだと、小さいと誤認してしまうが、本来だったら他の皆もこれぐらいが普通なんだろう…最低値のステータスでも、一般人の4倍は魔力耐性があるのだし。敏捷性に至っては20倍だ。

 私と違って技能も豊富だ。…下校上手と、暇潰し上手が一体どんなものかは知らないが…言葉通りの意味だろうか?

 

 「元々ミラの身体能力はバグってるとは思ってたから良いけどよ…一番最初も誰にも負けたことのねぇ駆けっこで負けたし…だけど、魔法使い系のステ振りなんだよなぁ…コレ。あ、つか龍化とかいうカッコいい技能持ってんのなお前!ひょっとして、翼で空とか飛べんのか!?」

 「飛べるさ。きっとな」

 「うぉおお!!いいじゃねぇかソレ!もう、リアルタケコプター作る必要もねぇな!」

 「まだ、アレを作ろうとしていたのか…N○N STY○Eの言っていた通り頭皮が剥がれるような思いをしたのに…」

 「あったりめぇよ!このサツキ様は常にロマンと少年心を持って生きてるんだぜ!」

 「フフ…それもサツキちゃんの魅力の一つか」

 

 「話変わっけど、なんで天職が塗りつぶされてんだ?」

 「んー…理由は分からないが、なんの天職かは分かっているぞ」

 「ミラにだけ見えるとかそんな状態なのかこのプレート?」

 「いや、私にだって見えないが…直感で分かるんだよ」

 「その心は?」

 「…こればっかりは今は言えないな。申し訳ない」

 「んだよー。勿体ぶんなよなぁ」

 「今日の夜、また私の部屋に来たら教えよう…それまで待っていてくれ」

 「ちぇっ。夜までお預けかー」

 

 不貞腐れているサツキちゃんに謝りつつ、ハジメたちを探す。

 人もそこまで密集していないので、すぐ見つかった。どうやら香織と一緒のようで、お互いのステータスを見ているようだ。

 

 「転生したら異常に低いステータスだった件について……香織さんは凄いね」

 「そ、そんな事ないよ!ハジメくんだって、一般の人に比べれば凄いステータスだよ!それに、ステータスだけじゃないよ!もしかしたらこの錬成師が、凄いレアな天職かもしれないよ!」

 「いやぁ…どうだろう」

 

 「おいおい、折角彼女がお膳立てしてんだから、そこは乗ってやれよハジメェ」

 「あ、サツキちゃんとミラちゃん!」

 「異様にハジメが落ち込んでるが…どうしたんだ?」

 「それがね…」

 「これを見たほうが早いと思うよ。姉さん」

 

 ハジメから渡されたプレートをサツキちゃんと一緒に見る。すると、私たちもその結果に眉を顰めた。

 


 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1

天職:錬成師

筋力:30

体力:30

耐性:30

敏捷:30

魔力:30

魔耐:30

技能:錬成・言語理解

 


 

 「ひっっく」

 「し、心臓に刺さった…!」

 「いやまあ、一般人よりも3倍強いって考えりゃつえぇが…」

 「特出したステータスが…ない?」

 「気にしている事をザクザク言うね!2人は!」

 「えっと、サツキちゃん達のステータスは何だったのかな?かな?」

 

 …話題を逸らすために言ったんだろうが、多分逆効果になるぞ香織。

 

 「アタシらはこんな感じ。因みにミラは……もうバグだと思っとけ」

 

 そう言いながら、私もサツキちゃんのと一緒に2人に提示する。

 

 「うわっ!凄い!殆ど3桁!しかも魔力に至っては1000もある!」

 「サツキさんのはスピード特化…分かってはいたけど、見せつけられると余計に…」

 「ご、ごめんなさいハジメくん!見たくもないもの見せて!」

 「…その言い方はどうかと思うぞ香織」

 「え?」

 「香織ってハジメが関わると、すげぇ周りが見えなくなって発言が危なくなるよな」

 

 私もそう思う。

 

 少し離れているが、メルド団長が光輝のステータスを褒め称えているのが聞こえた。なんでも、ステータスがオール100と優秀で、技能もまさに勇者と言えるものらしい。

 

 「あっちはあっちで盛り上がってんな。まあ、アイツは自己信念と言動以外は優秀だからな。アタシに代わって、勇者になっただけはあるぜ」

 「正義感だけは異常なまでに高かったからな…それが左右したのかもしれん…」

 「人を疑う事を知らないけどな…アイツ」

 「自分が信じたものを決して疑わないって、良い事なんだろうけど…天之河くんのはちょっと度が過ぎるというか…」

 「度が過ぎる程度じゃねぇだろアイツ。思い込みも激し過ぎるぞ」

 「光輝くんがここまでボロボロに言われてるの、サツキちゃんとミラちゃんあってだよね…」

 「一応、幼馴染である光輝の悪口を言っているのに、香織はよく嫌にならないな」

 「うーん…私も偶に光輝くんの行き過ぎた思想っていうのかな?それに振り回される事はあったの。いつも雫ちゃんが頑張って止めてたんだけどね。だから、私も思うところはあるの」

 「そうか…。幼馴染故というか…あの男だからこその悩みだな…雫はよく頑張っている…」

 

 因みに、その雫の悩みの種にミラとサツキが新しく入荷している事は誰も知らない。

 

 

 

 「お前達で最後だな」

 

 私たちのお喋りの合間に全ての生徒たちのステータスを見たようだ。皆の視線が集まって、期待というよりか、好奇の眼差しを向けている。まぁ、クラスの中でもかなり目立つ…というか、お馴染みのメンツだからな…気になるのだろう。

 

 「ほう!サツキは敏捷値が高いな!狂走者という天職は今まで見たこともないが、ステータスもかなり高い。前衛…それも遊撃兵で間違いないだろう。白崎は…お!治癒師か!これはかなり有難い希少な天職だ!回復は頼んだぞ!さて…南雲姉弟は…おぉ!!?……おぉ?」

 

 私とハジメのプレートを交互に見て困惑する様子のメルド団長…まあ、確かに高低差はあり過ぎると私も思う。ハジメも光輝程とはいかないが、バランスの良いステータスだと思ったのだがなぁ…。不思議だ。この世界の強制力でも働いたかのように低い…。

 

 「美羅の方は、申し分ないというか、勇者以上のステータスとは驚いたぞ。4桁代のステータスは、記録にはあるが初めて生で見る。しかも、レベル1の状態でこれとはな…天職は分からんが、それを差し引いても余りあるほどだ。ハジメは……一体どういうことなんだ?確かに高いには高いが…他の奴ら比べるとどうも見劣りが激しいな…天職も錬成師とは…」

 

 反応から見るに、錬成師とはそこまで珍しい天職ではないらしい。それを察したのか、ハジメが若干気落ちしたのが感じ取れた。心の何処かで期待はしていたんだろう。

 ざわざわと囃し立てる声が増した気する。私とハジメを対比しているのだろう。…あまり良い気分はしない。こんなのは本当のハジメの実力ではない。私の弟はこんなに努力しているんだぞ!と自慢したいというのに……。全く…このステータスプレートが嫌いになりそうだ…というか、もう嫌いになっているのだろう。

 

 私の純白のステータスプレートにほんの少しだけ亀裂が入る。

 

 

 

 

 その後、明日から本格的な訓練が始まると言った旨が通達され、今日はお開きとなった。

 

 当たり前の如く香織や雫、美羅とサツキに元気付けられているハジメが目撃されたが…意外にも檜山のグループやその他男子、清水にも励まされ、奮起しているハジメ姿が見えた。

 

 

 




原作と違い、かなり努力しているのにステータスや天職がショボくて自分に幻滅しているハジメくん…ごめんな…ちゃんと奈落に落としてあげるからな…(鬼畜)

実は、この小説にガールズラブ要素が出てくるなんて最初は思っていませんでした。
あと、美羅さんをサツキちゃん大好きっ子にし過ぎて、どっちが主人公だか偶にわからなくなる。ダブル主人公でもいい気がしてきた。

あと、散りばめてきたつもりだけど、クラスの面々の変わり様よ…!
クラスの面々(というよりか、檜山達や中山さんなどの裏切り組)の雰囲気が原作とはかけ離れている事は皆さんご存知でしょうね…というか伝わってなかったら、それはもう作者の力不足。
後々、番外編でクラスメイト達に何があったのか?とか書くと思いますけど……大分後になりそうだなあ…。

おまけのオマケ↓(作者の心理)

1話投稿した後に30分くらいずっと1時間間近のアクセス解析をチラ見する心…分かります?
あと、感想くるかな(期待)…来ないかな(期待)…ピャーッ!!(絶望)キタァァァ!!?(歓喜)って心の中でなるぐらいには、感想が欲しいのにビクついてる未だチキンハートな作者。(そろそろ五年が経過しようとしている小説家人生)

『雑種犬』様、誤字報告ありがとうございますぅぅ!!!


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第5話

改めて見ても、プロローグの出来が悪いので改訂版を考えているツーカーさんです。
というか、もうプロローグ自体いらないんじゃね?と思っている今日この頃。


 

 この世界の星々は初めて見る。

 昨日は見ていられる余裕はそこまでなく、興味も薄かったというのが見ていない理由だ。

 『星座』というシンプルなタイトルの本に記された星図と空の星座を見比べて、綺麗だな…と安直な感想が漏れ出る。読んでいくうちに、名前はエヒトにちなんだものが多いことに気づき、エヒトの絶対神性が色濃く現れているのがよく分かった。

 

 先程、星に興味が薄いと言ったが、それは優先順位が低かったからであって、元々星はかなり好きだ。

 ただ単に綺麗だから…というのもあるが、手が届かない美しさがあるからという理由もある。

 それこそアメコミヴィランの様な存在さえ居なければ、彼らの輝きは失われる事なく、輝き続ける。生命の神秘…とはもう違うのかもしれない。理科として言うなら、星…つまり恒星の発光というのは、重水素によるD-D反応と、三重水素と重水素によるD-T反応の並行反応、つまり核融合からなる熱と共に生じる光のエネルギーだ。こう言うと、生命の神秘っぽさがなくなってしまうが…まあ、それでも、その事さえ知らなかった龍の私は本当に憧れたのだ。その輝きと、不変を保つその姿に。

 何を根拠に、と聞かれればもう答えられない。無意識に好きになった物の一つだ。特にこれらしい理由といえばこれくらいだ。

 

 暫くそうやって時間を潰していると、廊下の方で木の軋む音が聞こえた。

 その音が扉の前で止まると、何不自由なく扉が開いた。

 ……案外遅かったな。

 

 「おっすー、美羅。お前の言った通り来てやったぞ〜」

 「少し遅かったが、何かあったのか?」

 「んまぁ、ちょっとな。遅めの風呂に入ってただけの話だ」

 

 確かに、彼女の髪は未だ湿っていて、心なしか頰が赤い。風呂から上がってからそこまで時間が経ってない様だ。

 取り敢えず、立ち話をする訳にもいかないので私のベッドに招き、お互いに腰を下ろした。

 すると、早速サツキちゃんが話を切り出してきた。

 

 「そんで、今夜はミラの天職について聞かせてくれんだろ?」

 「あぁ…そのつもりだ。ただちょっと待ってくれ…この話を何処からしようか考えていなかった」

 「なんだよ。そんな長い話するつもりなのか?」

 「この際、私の全てを知ってもらおうと思ってな。親友のサツキちゃんだからこそ知ってもらいたいんだ」

 「っ…な〜んか、その言い方されると照れんなー」

 「サツキちゃんが照れるとは珍しい」

 「うっせ。……因みに聞くけどよ。ハジメには…」

 

 私は首を横に振った。

 サツキちゃんはそうか、とぼそりと呟いた。

 少しの間、沈黙が続く。

 

 何の言葉を切り出そうかと、目を配る場所もなく、また同じ星空を眺めていると…サツキちゃんが問いかけてきた。

 

 「なぁ、それ本当に私が聴いていいもんか?」

 「あぁ。こう、迷っているが、私は本当にサツキちゃんに知ってもらいたいんだ…こういう時ばかり口下手ですまない」

 「なら、いくらでも待つけどよ…」

 

 優しいな。サツキちゃんは……既に知っている事だが…。

 サツキちゃんを長く待たせるわけにもいかず、迷いの気持ちを切り捨てて話し始めた。

 

 「サツキちゃんは……前世というものを信じているか?」

 

 …ぽつりと呟き始めると、あれだけ動かなかった唇が徐々に動くようになっていった。

 

 私には前世の記憶がある事、前世の世界で自分は龍であった事、『祖まりの龍』と言われ恐れられていた事、竜大戦という戦争に参加していた事、戦いの最中子を失った事、その出来事から人を憎んで数え切れない程殺した事、それから数億年以上も隠居しながら生きていた事、その最中様々な人間に出会って…考えを変えさせられた事、その力は今でもほんのちょびっと使える事…等と淡々と話していった。

 

 サツキちゃんはこちらを見ながら、ただ話を聴いてくれていた。驚いて話を止める事なく、時折相槌を打って納得している様だった。なんというか…それが嬉しかった。受け入れられている様で…それが温かく感じたんだ。

 

 「これが、祖龍として生きた私の一部だ。流石に数億年以上もの物語をここで語る訳にも行かんのでな。色々と端折らせて貰ったが」

 「……こういう時のコメントは流石のアタシも持ってないけどよ…言う事は、まずこれだな。……ミラ、お前……やっぱり……婆さん、だったんだな…」

 「あ、あぁ。そうだが…そ、そこか?サツキちゃんなら、『祖龍』とかw厨二病の奴が考えたあだ名みてぇww。と言われると思ったぞ」

 「アタシにとっちゃソコだ。いっつも思ってたんだよ。なんか婆ちゃん家の畳の匂いがすんなぁ…って。だからかもしんねぇが、お前と居るとアタシは安心した。まぁ、今じゃ匂いだけじゃなくて、ミラだから安心できる何か、があるけどよ。…悪りぃがその何かはアタシでも言葉が思いつかねぇが、多分、信頼って奴だと思う」

 「そ、そうか…こういう時、私もなんて言えばいいのか私も分からないが…そうだな……ありがとう」

 「おう。…つか、ミラの中のアタシの評価ってどうなってんだ?」

 「端的に言ってしまえば…人間の中での奇行種。独創的な観点と誰にもない発想力を携えた優秀で優しい人」

 「それ褒めてんのか?貶してんのか?」

 「褒めてるつもりだぞ?」

 「前半の奇行種褒めてるように聞こえねー…」

 「む。そうか…すまない」

 「まぁそれは自他共に認めるからいいけどよ!」

 「自他共に認めているならいいじゃないか…」

 「拗ねんなよ婆ちゃん!」

 「拗ねてなんかないぞ。私は」

 

 アハハ!と笑っているサツキちゃんを見ながら安堵した。拒絶は流石にないだろうが、少しでもこの関係が変わってしまうというのは、私からすればとてつもなく恐ろしいことだからな。……億単位も生きた婆さんなのに、精神的余裕もないなんて…なんて婆さん()だ。

 

 「んま、これでミラが祖龍っていう凄え龍なのは分かったけどよ。ハジメにはどう伝えるつもりだ?」

 「まあ、サツキちゃんと同じく、部屋に連れ込んで2人っきりになったら伝えるつもりだが…」

 「香織とか雫には伝えるつもりあるか?」

 「むぅ…今のところないが…」

 「それだったらもう香織と雫にも伝えた方がいいんじゃねぇか?元々、お前の思惑でアイツら相思相愛になったし、雫もハジメを好きになってんだからよ」

 「…2人の人生を操ったのは私だしな。いつまでも隠し事をしてる訳にもいかないか…でも、彼女らはこんな突拍子も無い話信じてくれるだろうか?」

 「お前のそのバグった身体能力とか、逸脱した記憶能力の由来伝えたらなんとかなんだろ。アタシは…なんつうの?もう、ミラだからなぁ。みたいな感じで納得しちまったけど。つか、龍化なんてスキルあんだろ?それ見せりゃ一発だろ。……あ!!そういや、アタシまだミラの龍化見てねぇ!」

 「見たいのか?」

 「そりゃ勿論見てぇに決まってんだろ!昼も言ったが、このサツキ様は常にロマンと少年心に情熱を燃やしながら生きてんだからよ!」

 「なら、脱ぐか」

 「脱ぐ必要あんのか?」

 「地球にいた頃に一度翼を出したら服を突き破った」

 「そーか、なら仕方ねぇな」

 

 スルリと上着を脱ぎ、ベットに放り投げる。そのまま下着も脱いで真っ裸の状態になった。

 サツキちゃんの方に目を向けると、今か今かと龍に成る瞬間を子供の様に目を輝かせて待っていた。

 その様子に微笑みながら、意識を龍に向ける。

 

 腕と脚に白い鱗が纏わりつき、尾てい骨あたりから尻尾がちょこんと生えてきた。背中に意識を向ければ小さな翼が出現し…頭に漆黒の角も生えた。その角以外は全てが白く、穢れは無い。

 しかし、どれも不完全だ。腕と脚の裏には鱗が行き渡っていないし、中途半端に人の皮膚と龍の皮膚が分けられている。翼も正直に言えば赤子同然。尻尾なんて…取ってつけたようにコスプレ染みてる。角も一対か……本当なら三対なんだが…。これが今の私の限界か…分かってはいたが、拙いな。

 そんな、不完全な姿でもサツキちゃんにはお気に召した様だ。

 

 「おぉ!!これが祖龍の鱗ってやつか!かてぇ!」

 「もう全盛期の力にはとてもじゃないが及ばないがな…」

 「ドラゴンの本物の尻尾も小せえけど可愛いな!」

 「まぁ、完全な龍化は今の私では不可能なんだ。これで勘弁してくれ」

 「アタシはこれでも結構満足してるぜ!生のドラゴン娘なんて初めて見たからな!」

 「そうか。なら良いんだ」

 

 そのまま暫くサツキちゃんは私の角や翼、鱗を触り続けていた。この状態で自分に触れることもなかった為、妙にくすぐったく感じる。

 そのせいか「んっ…」と、変な声が出てしまい、丁度際どい所に触れていたサツキちゃんに変な勘違いをされてしまった…誤解はすぐに解いたが…それでも妙な空気は続いて、心なしかサツキちゃんの顔がさっきよりも赤く染まり、手つきも慎重になった気がする。

 

 

 

 

 

 

 そのまま少し経つと、満足しきったのか触るのを終えて、少し目を背けながら「ありがとな」と言ってきた。

 私も「気にするな」とだけ応えたが…何故か妙に目を合わせづらく、そのまま龍化を解除した。

 

 「……取り敢えず、もう遅いし…寝るか」

 「…あぁ」

 

 彼女の提案に頷いて、布団に横たわり、目を閉じた。

 不思議と身体が熱い…。今は、ひんやりとした布団の温度がとても心地良かった。

 

 妙にサツキちゃんが布団に入ってくるのが遅い…そう思って目を開ければ、彼女は服を脱ぎ捨ていて、その穢れのない肢体を全て曝け出していた。

 少し驚き、ニヒリと笑ったサツキちゃんの顔が目に入る。すると、彼女は布団の中に素早く潜り込んできた。彼女の足が蛇のようにまとわりつき、滑らかな肌と肉付きの良いふんわりとした肉感が私の肌を刺激してくる。

 

 「…意外だな。昨日限りだと思っていた」

 「アタシもこの感覚にハマっちまったのかもな…妙にクセになるんだよ。…あと、ミラの体温を直に感じるのもなんか良いんだ」

 

 足から温度が共有される。それだけで、少し…いやかなりの多幸感が湧いてくる。いったいこの気持ちは何なのだろう…。

 より近づいたせいか…サツキちゃんの吐息が私の耳にかかってくすぐったい…思わず身を震わせてしまった。

 身を震わせた原因である彼女の口元を、つい凝視してしまう。彼女の唇はぷるっとしていて瑞々しく、健康的なピンク色が月明かりに照らされて妖艶に光っていた。思わず、魅入る…可笑しい。可笑しいぞ私…。

 

 「やってることがいやらしいぞ…」

 「へへっ、そうか?まぁ、そうかもな…でもいいんじゃね。アタシら…こんな感じだろ?」

 

 更に顔を寄せてきて、少しでも動けば互いの唇が触れ合う距離に来てしまった。

 そのせいか、サツキちゃんの乳房も私の乳房と当たって柔らかい感触が広がり、心臓の熱が伝わってくる。

 互いに息の音が聞こえ…妙に艶めかしい。

 

 その状態が何秒か続いて…私は思ってしまった。いや、欲してしまった。

 彼女の唇を。彼女の乳房を。彼女の肉体を…。その全てを……。

 

 ふつふつと湧き上がってくる情欲を抑えられず…私の中での枷が外れた。

 

 「サツキちゃん……さっき言ってなかった事が一つある」

 「ん?なんだよ?」

 

 「龍は独占欲がかなり強いんだ」

 

 サツキちゃんに覆い被さり、そのまま唇を近づける…。

 ふっくらとした感触も抵抗されて一瞬だけだったが、感覚的には1分間以上もしていたような気がする。

 顔を真っ赤に染め、手の甲で口元を覆っているサツキちゃんを見てニヤリと破顔した。

 億年以上の婆さんでも、結構な性欲はあるんだ。この湧き上がる情欲…トリガーを引いたのは君なんだからな…。

 

 「サツキちゃんは…これから誰にも渡さない。渡すものか…。龍に気に入られてしまったんだ。覚悟しておけよ…。(祖龍)の愛は…かなり重いぞ」

 

 もう、逃がさない。

 

 

 




昔から感じ取っていたミラさんの異常性(秘密)に気付いていたサツキさんは、若干心の内でモヤモヤしながらミラさんと付き合っていました。今宵においてようやく秘密を白日の元に晒したので大変満足。より親密な関係になりました。
元々、サツキさんからすれば早くに出会った変わり者である自分の同年代の理解者で、協力者。
そんな人と人生の大半を過ごして、ただの親友で終わるはずもなく……

…とか言いつつ、ガールズラブ路線に入ってしまったので、更に拍車がかかってしまったの巻。
ミラさんにヤンデレ属性を持たせるのは間違ってない筈。
初めて夜伽描写書いたけど、やっぱり『初めて』というのはとても難しい試みでした。正直語彙力の無さに絶望してました。それでも、描きたかったとこ書いたので満足。


 


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